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( ・∀・)モララーは隠居暮らしのようです。 双
202
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 13:26:47 ID:HcbLbdA20
――――。
(*゚∀゚)「うっほー! 楽しいなコレ!」
波に乗るように、海の中の流れにツーは身を任せていた。
体の力を抜いて、ゆらゆらと液体と同化するように泳いでいく。
( ・∀・)「やあ、ツーちゃん」
そこへ、踊るように流れてきたモララーが声をかけた。
(*゚∀゚)「おー、兄ちゃん」
( ・∀・)「楽しんでる?」
(*゚∀゚)「おう! そりゃあ、もう!」
満点の笑顔でツーが応える。
その表情が嬉しくて、モララーも顔をほころばせる。
並列して海中を漂っている最中、モララーが手を差し出した。
ツーが、その農作業で硬くなった手のひらを感じ取るとクスリと笑った。
( ・∀・)「?」
(*゚∀゚)「ごめんごめん。兄ちゃん、魔術師の癖に手がゴツイからさ」
( ・∀・)「昔はそうでもなかったんだけどね」
(*゚∀゚)「畑やってりゃ、そうもなるよな」
月明かりのシャンデリアの下、二人は踊るように流れていく。
そうして無心に体を動かすのが楽しくて。
目に映る全てが、新しくて。
ツーは思ったことを、いつも通り素直に述べた。
203
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 13:28:25 ID:HcbLbdA20
(*゚∀゚)「兄ちゃん、今回連れてきてくれてありがとな」
(*゚∀゚)「うちは父ちゃんのことがあるからさ。
旅行なんて行った経験なかったし。
学校行事のも断ってたぐらいなんだ。家空ける時間長げーからさ」
(*゚∀゚)「だから、人生初めての旅行がここで……更にみんなと来れてさ」
(*^∀^)「オレ、めっちゃ幸せだ!」
屈託のない表情を受け取って、モララーも相応の返事をする。
( ・∀・)「僕も、ツーちゃんに会えて良かった」
( ・∀・)「初めて作った野菜。
売れる保証もないのに、君は二つ返事で店に出すことを了承してくれた」
( -∀-)「戦い以外で、自分にできることが……その成果が一つ達成できて」
( ・∀・)「あの時、本当に嬉しかったんだ」
(*゚∀゚)「アッヒャッヒャ。当然だろー?」
(*゚∀゚)「だって、兄ちゃんの野菜めちゃくちゃ美味ぇんだもん。
これを売らないのは、八百屋として恥だと思ったんだ」
( ・∀・)「それは光栄だ」
(*゚∀゚)「だからよ、兄ちゃん」
204
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 13:29:32 ID:HcbLbdA20
(*^∀゚)「これからも、どうかよろしくな!」
いつの間にか二人は、地に足をつけていた。
手はつないだまま。真っすぐ向かい合って、思い思い話していたのだ。
自然と握手する姿勢になったツーは、しっかりと手を握る。
( ・∀・)「うん。こちらこそ」
モララーも、未来への期待とこれからの不安。
せめて、良く知る彼女だけでも生涯守り抜こう。
強い気持ちを込めて、手を握り返した。
205
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 13:31:35 ID:HcbLbdA20
――――。
(´・ω・`)「…………」
ショボンは海面にまであがり、体を浮かせてぼんやり夜空を眺めていた。
波で何度も視界が揺らぐ。
それによって、星の瞬きが不規則になり
まるで万華鏡を覗いているかのような気分になった。
( ・∀・)「ここ、星が良く見えるでしょ」
(´・ω・`)「モララーさん」
姿勢を変えず、目だけで確認した。
声が届く範囲に来たモララーも、同じようにあお向けになり空を仰いでいる。
( ・∀・)「山奥と違って、水が反射してるから
また景色が違って見えて良いよね」
(´・ω・`)「そうですね」
淡々とショボンは返す。
興味がないわけではない。
ただ、非常にリラックスした気持ちになっているため
自然とそうなるのだ。
( -∀-)「…………ねえ、ショボン君」
(´・ω・`)「はい」
206
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 13:33:07 ID:HcbLbdA20
しばらく漂っていると、モララーが声をかけた。
彼も気持ちと体を弛緩させて、楽なまま問う。
( ・∀・)「ショボン君は、何か夢とかある?」
(´・ω・`)「夢……ですか?」
( ・∀・)「うん。将来どういう風になりたいとか、やりたいこととか」
(´・ω・`)「そうですね……ありますよ」
( ・∀・)「おっ、何かな?」
(´・ω・`)「近衛魔術師になることです」
( ・∀・)「へー。どうして?」
(´・ω・`)「学校に入る前も、入ってからも。
僕はシャキン=ノーファルの息子でした」
(´・ω・`)「……その驕りが、僕をゆがんだ形にしていた」
( ・∀・)「……」
(´・ω・`)「ブーンに助けられ、モララーさんと出会って。
色々見ているうちに、僕思ったんです」
(´・ω・`)「負けたくないなあ、って」
207
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 13:37:49 ID:HcbLbdA20
(´・ω・`)「世の中にはもっともっと凄い人が居て。
たくさん苦労して、悩んで。それでも頑張っている人がいる」
(´・ω・`)「そんな人達に劣らない、強い人になりたい」
(´・ω・`)「だから、僕は父さんも超えて……近衛の称号を持つ魔術師を目指そう」
(´・ω・`)「そう、思ったんです」
( ・∀・)「そっか……」
初めて会った頃。
まだブーンを一方的に弄んでいた頃。
彼は、まさに自分が言うように自己欲の塊だった。
権力を笠に着て、やりたい放題やって。
人を傷つけるのも平気で行う。
なんて醜く、哀れな少年なのだ。
当時の率直な感想だ。
だが、今はどうだろう。
自分の力をちゃんと見定め、その上で更に先を目指そうとしている。
あの頃の尖った様子は完全になりを潜め、いつの間にか立派な大人へ
足を踏み込んでいる。
208
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 13:39:34 ID:HcbLbdA20
ブーンやツンの成長も目覚ましいものはあったが。
見てきた中で、一番変化のあったのはこの子かもしれない。
嬉しい感情を堪えつつ、モララーはあえて発破をかけてみた。
( ・∀・)「ショボン君、もし君が偉くなることを望んでいるなら。
もっと先が、実はあるんだけど」
(´・ω・`)「え?」
( -∀・)「……『大魔術師』を目指してみては?」
(;´・ω・`)「ちょっ……!?」
ショボンは、水しぶきを大きく立てながら慌てて体を起こした。
(;´・ω・`)「そ、それは……その……流石に……」
( ・∀・)「ふふ。考えたこともなかった?」
(;´・ω・`)「…………」
209
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 13:40:45 ID:HcbLbdA20
(;´ ω `)「…………」
( ´ ω `)
(´・ω・`)
(´・ω・`)「……モララーさん。
大魔術師って、人をたくさん殺さないとなれないんですか?」
210
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 13:41:57 ID:HcbLbdA20
余りにも愚直な質問に、一瞬だけ表情が強張る。
しかし、冗談で尋ねた様子ではない。
不躾を覚悟で問うたという、強い意志が瞳から見て取れる。
……だから、モララーも逃げずに答えた。
( ・∀・)「一応、前代未聞の称号だから何とも言えないけど」
( ・∀・)「誰にも出来ないような偉業を成し遂げたから、頂いた証だと思ってる」
( -∀-)「……形は違えど、きっと成る方法はあるはずだよ。
おじい様なら、そう言うさ」
( ・∀・)「なにせ、大魔術師は『英雄』の証でもあるらしいからね」
多くの命を奪い、人生を閉じさせた元凶。
ラウンジ大陸の人間にとっては、間違いなく『黒風』は災厄そのものだろう。
だが、VIP大陸の人間たちにとっては、彼はまぎれもない英雄だ。
かつては、そんなの偽善だと吐き捨てたこともある。
しかし、心境に変化があったのはショボンだけではない。
今は、少しだけ。
夢への道標でもあるのだと、胸を張れるようになった。
211
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 13:43:47 ID:HcbLbdA20
(´・ω・`)「…………そうですか」
言葉を聞き、ショボンは深く息を吸い、吐き出す。
そして決意を込めて、思いを告げた。
(*´・ω・`)「なら、なって見せますよ。いつか、必ず!」
( -∀・)「うん。その意気だ。頑張れ!」
モララーは手を高く伸ばした。
(*´・ω・`)「!」
その意味に気付くと、ショボンは嬉しそうに近づき。
力強く、水しぶきと共に
向けられた手のひらを叩いた。
212
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 13:45:52 ID:HcbLbdA20
――――。
ξ゚⊿゚)ξ「……アンバーかな。それともサンダイヤ……?」
海底に輝く石を眺める背中が一つ。
首を傾げながら、じっと凝らして見定める。
この美しい光を放つ物体は、一体何で出来ているのか。
周りを見ることに飽いたツンは、三日月の涙の下へ戻ってきていた。
ξ゚⊿゚)ξ「あ、これ……まさか!」
注意力を高めて見ていると、答えの一つが浮かび上がる。
( ・∀・)「ツンちゃん、何してるの?」
同時に、海面から降りてきたモララーがやってきた。
ξ゚⊿゚)ξ「モララーさん。この光ってる石
もしかして、主な構成はアブスライトですか?」
自分の疑問の解が合っているのか、期待半分不安半分聞いてみる。
その発言にモララーは驚きながら返答した。
( ・∀・)「正解。よくわかったね」
アブスライトは光や魔力を集めて反射する、特殊な性質を持つ透明な鉱石。
だがツンの前に光るそれは、他の鉱石も混じっているので
普通の感覚なら看破するのは容易ではない。
彼女の持つ観察力に、モララーはいつも感嘆していた。
213
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 13:48:13 ID:HcbLbdA20
ξ゚⊿゚)ξ「やっぱり。じゃあ、これは別に特殊な宝石ってわけじゃないんですね」
( ・∀・)「そうだね。アブスライト自体は希少だけど……ダイヤやルビーほどではないかも」
ξ゚⊿゚)ξ「じゃあ、どうして三日月の涙は『宝石』って呼ばれてるんですか?」
( ・∀・)「昔の人の伝承だからかな。
口から口へ言い伝えられたものは、いつしか事実とねじ曲がって流布される。
そんなことは世の中に、いくらでもあると思うよ」
ξ゚⊿゚)ξ「確かに……。これはこれで綺麗ですけど。
実際は、ちょっと珍しいだけの石ころなんですね」
( ・∀・)「伝説ってのは、大体そんなもんさ」
ξ゚⊿゚)ξ「……私は、モララーさんは違うと思いましたけど」
( ・∀・)「うん?」
ξ*-⊿-)ξ「聞いていた伝説より、もっと素敵で。優しくて。
本で読むより、ずっと輝いて見えます」
( -∀・)「あはは。それはどうも」
前ほど、自分の感情を隠さなくなったなぁ。
モララーは成長を喜ぶ。
あの大げさに照れ隠しをする癖は、微笑ましくて好きだったのだが。
今の、この成熟しつつある様相もまた素敵だ。
長い睫毛の横顔を見ながら、そう思った。
214
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 13:50:08 ID:HcbLbdA20
ξ゚⊿゚)ξ「……あのね、モララーさん」
( ・∀・)「なんだい」
ξ゚⊿゚)ξ「あの……洞窟での出来事なんですけど……」
( ・∀・)「うん」
声のトーンが変わったのに気付き、モララーはとある場所を指さした。
腰を下ろすのにちょうどいい高さの岩場だ。
ツンは頷き、モララーと共に移動する。
硬い岩に座ると、ツンは話を再開した。
接触部が痛くならないように、反発の魔術をモララーはかけてくれていた。
ξ゚⊿゚)ξ「私、迷っちゃったことがあって」
( ・∀・)「迷った?」
ξ゚⊿゚)ξ「はい。メディクシルを使おうとした時。
少し考えちゃったんです」
ξ ⊿ )ξ「私たちは苦労して伝説の薬草を取りに来たのに
その成果を持ち帰ることしない、なんて選択をしていいのかな、って」
ξ ⊿ )ξ「ブーンが大変なことなんて、わかってました。
あのまま放置することなんて出来ない。
でも、共に行くのは不可能。」
ξ゚⊿゚)ξ「だったら、メディクシルで回復させて、帰ればいい」
ξ ⊿ )ξ「それだけの……話だったのに……」
215
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 13:52:07 ID:HcbLbdA20
( ・∀・)「……」
ξ ⊿ )ξ「私……あの時、ブーンのことを……」
ツンの肩は震えていた。
海水の中だから、涙もどのように流れるのかすらわからない。
顔を伏せ、声を殺し。
ただただツンは、小さく鼻をすすっている。
彼女なりに、とても悩んだのだろう。
成果は欲しい。ブーンの命も大切。
そんな葛藤そのものが、許せなかった。
メディクシルが人の命より大切なものではない。
トソンが心配ではあるが、今のブーンほどではないはず。
考えるまでもなく、取るべき選択を……ツンは即断できなかった。
そのことが、彼女自身に重い枷となり心を押しつぶしている。
( -∀-)(ちょっと前までは、自分の責任を人に擦り付けてたりしたのになぁ……)
無魔法栽培の畑に、風魔法を使って横着した時のことだ。
教えられなかったから。とブーンの不手際を非難した。
子どもっぽい癇癪で、少し教育が必要だな。と彼らの親に委ねてみたりもした。
216
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 13:54:22 ID:HcbLbdA20
そんな彼女が、今。
自分の行動に責務を感じ、そして結果として過ちを犯したのでは、と嘆いている。
波音で聞こえないほどの嗚咽を、モララーは止めてあげようと
ゆっくりと、少女の金髪に手のひらを乗せた。
( ・∀・)「ツンちゃん。何かを決断する、ってのはとても難しいことなんだ」
( ・∀・)「あの時、多分ショボン君もツーちゃんも、同じように悩んでたんじゃないかな」
( ・∀・)「その中で、ツンちゃんが声をあげて決断を促したのは。
とっても素晴らしいことだと思うよ」
( ・∀・)「それに、帰り道のことだってそうだ。
ツンちゃんが気付いてくれたから自力で、出口まで帰れた。
それは立派な功績だ」
ξ,⊿,)ξ「……でも……私……確証もないのに……」
ξ,⊿,)ξ「みんなを……危険な目に……合わせちゃってたかも……」
( ・∀・)「でも結果として、全員帰ってこれた。
だったら、それでいいんだよ」
ξ,⊿,)ξ「……」
217
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 13:55:37 ID:HcbLbdA20
( ・∀・)「大丈夫だよ。
どんな人だって、常に最善の決断なんて出来るもんじゃない」
( ・∀・)「僕もかつて、たくさんのことを選んできた」
( ・∀・)「自分の力の使い方。世界の為に戦うこと。
そのあとの生き方、出来ることの決断」
( -∀-)「…………本当に、たくさんあった」
( ・∀・)「今でも、悔んだりする。本当にそれが正しかったのか」
ξ ⊿;)ξ「モララーさんも……?」
( -∀・)「当然! 僕も、君たちと同じ人間なんだから」
( ・∀・)「いくら僕でも、時間を巻き戻したり、死んだ人を蘇らせたりはできない。
失ったものを、もう選びなおすなんて出来ないんだよ」
( ・∀・)「……だからね、誓ったんだ。誰でもない、自分自身に」
( ・∀・)「その選択が正しかったって、信じて。
間違ってなかった、と証明するために」
( ・∀・)「一生懸命、生きていこうって」
218
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 13:57:24 ID:HcbLbdA20
ξ;⊿;)ξ「……モララーさん」
( ・∀・)「ツンちゃん。
君はこれから色々な事を経験していくと思う。
今日みたいな決断をしなくちゃならないことも、たくさんあるだろう」
( ・∀・)「時には、間違えたと後悔してしまうこともあるはずだ」
( -∀-)「……そうなった時は、後ろを見るんじゃなくて」
( ・∀・)「涙を拭いて、前を見よう」
( ・∀・)「そしたらきっと、新しい道が見えてくるかもしれないよ」
( -∀-)「だから、もう泣かないで」
ξ;⊿;)ξ「うぅ……モララーさぁん……!」
慰めるつもりだったのに、逆に泣かせてしまった。
詫びの気持ちをこめながら、モララーは素直に思ったことを口にする。
( ・∀・)「立派になったね、ツンちゃん」
様々な経験を重ね、一人の人間としての悩みを抱えているツンが嬉しくて
モララーはただ、微笑みながら彼女の頭を撫で続けた。
219
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 13:58:50 ID:HcbLbdA20
――。
( ^ω^)「おー、居たいた。モララーさーん! ツーン!」
未だ泣き止まぬツンを、優しく視ているとブーンがひょっこりと現れた。
状況がわかってなかったのか、不用意に近づいてくる。
そして、ツンの表情を確認した途端に冷や汗を流した。
(; ^ω^)「お? ツン? どうしたんだお?」
ξ,⊿ )ξ「なんでもないわよ」
顔を隠し、しゃがれた声でツンが返事をした。
ブーンは一度モララーを見てから、すぐにツンへ向き直る。
( ^ω^)「何でもない人が泣いたりしないお」
ξ,⊿ )ξ「うっさい! ちょっと一人にして!」
(;^ω^)「えぇー。せっかく良いもの見せてあげようとしたのにー」
肩をがっくり落とし、つま先で地面をぐりぐりといじるブーン。
さっきまでは一人の普通の少女だった、ツンの変わり具合に
モララーは思わず笑みがこぼれる。
流石に言い過ぎたことを後悔したのか
しゃっくりを数回挟んでから、絞り出した声でツンは言う。
ξ,⊿ )ξ「……あとで」
220
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 14:00:11 ID:HcbLbdA20
( ^ω^)「お?」
ξ,⊿ )ξ「あとで行くから。今は放っておいて」
( ^ω^)「……」
ブーンがその言葉を理解すると、モララーに目配せをした。
ツンも、置かれていた手をそっと頭から離す
言われた通りにしてあげよう。
お互いそう思い、モララーはブーンの案内する先へついていくことにした。
( ・∀・)「何があったの?」
泳ぎながらモララーは尋ねる。
それに対し、待ってましたと言わんばかりに目を輝かせて少年は答えた。
(* ^ω^)「でぇーっかいクジラが居たんですお!
図鑑では知ってたけど、この目で見たのは初めてですお!」
( ・∀・)「あぁ。そういえば、ホワイトマッコールの生息地だったね」
それは平均して、全長70mは超える巨躯を持つ哺乳類。
寿命も相当に長く、個体によっては数百年は生きるそうな。
221
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 14:01:58 ID:HcbLbdA20
丸い頭に、鋭利な角度の鰭。
尾は三又に分かれており、分厚い水掻きが隙間を埋めている。
一たび体を波打てば、推進力と共に海流すら操ってしまいそうな
余りにも規格外で大きな生物。
それが今まさに、二人の目の前を轟音を立てて横切って行った。
(* ^ω^)「おほー! このド迫力だおー!」
幾重にもかけられた防護魔術のおかげで、水の勢いも邪魔にならない。
地鳴りのような鳴き声も、耳をふさげば問題ない程度に抑えられている。
( -∀・)「いやぁ、凄いねこれは」
思わずモララーも手で耳を押さえながら感想を呟く。
一体の生き物が、ただ通りすがっただけだというのに。
まるで夜空に弾ける花火でも見たかのように
目から肌から受け取る感触や臨場感は、他では味わえない興奮度合いだった。
( ^ω^)「まったねーー!」
鳴き声に負けないぐらいの声で、去っていくその背へ
ブーンは手を振りながら見送る。
見えなくなるまでそうしていると、彼はゆっくり手を下ろし。
一息溜めてから、言葉を発した。
222
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 14:03:12 ID:HcbLbdA20
( ^ω^)「モララーさん」
( ・∀・)「なんだい」
( ^ω^)「ありがとうございましたお」
( ・∀・)「どういたしまして」
今回の旅行のお礼だろう。
返事をするモララーに、意図が伝わってなかったと
ブーンは、しっかりと向き合う。
( ^ω^)「今までのことですお」
( ・∀・)「……」
謙遜をして、モララーが口を開こうとする。
だが、それすら理解していたブーンは捲し立てるように続けた。
( ^ω^)「僕は、本当にダメな奴でしたお」
( ^ω^)「周りのことも見えてない。何をすればいいのかもわからない」
( ^ω^)「ただただ、耐え忍べばきっといつか終わるだろう。
そう思って生きてましたお」
それは、モララーに出会うまでのブーンの生き方。
ショボンや周囲からの攻撃に対し、彼は抵抗をしなかった。
家督に傷がつくから。貴族同士の争いを恐れて。
223
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 14:04:40 ID:HcbLbdA20
( ^ω^)「でも、モララーさんが助けてくれたから」
( ^ω^)「だから僕は、今こうして楽しく生きていけてるんですお」
( ^ω^)「だから、そのことも含めて。お礼をちゃんと言いたかったんですお」
( ^ω^)「ありがとう、って」
( ・∀・)
( -∀-)
モララーが。
彼が、伝えたかったことが。
伝えるべき相手に、先に言われてしまった。
224
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 14:06:02 ID:HcbLbdA20
言いようのない嬉しさと
寂しさを
モララーはグッと堪える。
そして、彼は少しだけズルをした。
後ろ手に、小さく魔法を唱える。
それは、感情を抑制する弱い魔術。
声の震えを抑え、涙腺の活動を止める。
大人だけが自分に使う、背伸びの魔法だ。
225
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 14:07:00 ID:HcbLbdA20
( ・∀・)「ブーンくん」
( ^ω^)「はい」
( ・∀・)「反対なんだ」
( ・∀・)「僕が君を助けたんじゃない。
君が僕を助けてくれたんだ。」
( ・∀・)「君と出会わなければ、僕はずっと山奥に一人で。
擦れた心に、野菜を売って生きていくだけの
淡々とした余生を過ごしていたと思う」
( ^ω^)「はい」
( ・∀・)「でも、君が来てくれた。
君だけの話じゃない。色々な世界の話を、人を」
( ・∀・)「他でもない、ブーンくんが連れてきてくれたんだ」
( ω )「はい」
226
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 14:09:16 ID:HcbLbdA20
( ・∀・)「おかげで、僕は楽しかった」
( ・∀・)「ツンちゃん、ツーちゃん、ショボンくん。
みんな素敵な子たちだ。
そんな子に会えたのは、ブーンくんの力なんだよ」
( ;ω;)「……はい」
( ・∀・)「無味乾燥な世界に、君が僕に色を与えてくれた。
そのことが本当に嬉しいし、感謝している」
( -∀-)「だから……僕の方こそ」
( ・∀・)「ありがとう、ブーンくん」
( ;ω;)「……」
返事もできず、ブーンは涙を流した。
これから、会うことも減るだろう。
学校の時のように、時間を作るのも難しいかもしれない。
自分だけじゃない、たくさんの責任が彼を縛り付ける。
もしかすると、今のように遊んだりすることも最後になるかもしれない。
そう思うと、涙を止めることが出来なかった。
227
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 14:11:13 ID:HcbLbdA20
嬉しいのに。
尊敬する人から、心からの感謝を述べられて
天にも昇る気分だというのに。
同時に押し寄せる、喪失感がブーンの心を揺さぶってくる。
( -∀-)「そんな泣くなよ。男の子だろう」
抗う姿、感情に葛藤する姿が愛おしく。
モララーは彼の肩を抱く。
( ;ω;)「うわぁあああん!!」
堪らずブーンは声をあげて泣き出した。
いつの間にか、自分の肩よりも低い位置になったモララーの
その大きな背へ、抱きついた。
228
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 14:12:54 ID:HcbLbdA20
( ;ω;)「モララーさん! 僕寂しいですお!!」
( ・∀・)「うん」
( ;ω;)「怖いですお! これからちゃんとやれるか、不安で仕方ないですお!!」
( -∀-)「大丈夫だよ、君なら」
( ;ω;)「でも……でも……」
( ・∀・)「うん」
( ;ω;)「モララーさんが、言ってくれたように!」
( ;ω;)「父ちゃんの名に恥じないように!!」
( ・∀・)「うん、うん」
( ;ω;)「絶対、絶対に! 立派な騎士になってみせますお!!」
229
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 14:14:13 ID:HcbLbdA20
( -∀・)「ああ。楽しみにしてるよ」
( ;ω;)「だから……だから……」
( ;ω;)「僕、頑張りますお!! モララーさん!!」
( ;ω;)「本当に本当に!!! ありがとうございましたお!!!!!」
( -∀-)「……こちらこそ、本当にありがとう」
ポンポンと、大きくなった背をモララーが叩く。
ホワイトマッコールの鳴き声に匹敵するような
悲しく、嬉しく、寂しい慟哭。
モララーは黙って、何度も何度も頷きながら
その心の声を受け止め続けた。
230
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 14:15:19 ID:HcbLbdA20
…………。
皆に、それぞれの言葉を伝え終えたモララー。
満足し、満喫した彼らの旅行はこれで終わりを告げる。
――わけではなかった。
モララーは、とあることを、どうしても。
今回、他でもないみんなに伝えたいことがあった。
それは、彼らへの言葉ではなく
モララー自身の…………。
ξ゚⊿゚)ξ「ブーン、あんた目が真っ赤よ」
( ^ω^)「それはツンもだお」
ξ;゚⊿゚)ξ「こ、これは海水のせいよ!」
(´・ω・`)「耐水魔術あるから、海水は目に沁みないよ」
ξ#゚⊿゚)ξ「うっさい!!」
(*゚∀゚)「なー兄ちゃん、どーしたんだよ。わざわざオレらを集めてさ?」
231
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 14:16:20 ID:HcbLbdA20
一通りの言葉を交わしたモララーは、時機を見て召集をかけた。
場所は、三日月の涙の前。
子供たちを横一列に並べて、何やら始める気らしい。
彼の一歩引いた位置にはトソンもいる。
( ・∀・)「うん。ちょっと渡したいものがあって」
そう言うと、モララーはゆっくりとブーンの傍に寄った。
( ^ω^)「?」
( ・∀・)「少しジッとしててね」
徐に、手を伸ばす。
その先にあるのは、ブーンが肌身離さずつけていた雫状のペンダント。
空間転移魔法そのものを圧縮している、この世に二つとない瑠璃の首飾りだ。
包み込むように握ると、それは淡く発光を始める。
しばらくし、拳を開くとそこには、翡翠色の装飾が加えられていた。
表面をなぞるように、薄い流線型をしている。
( ^ω^)「お? なんですかお、これ」
( ・∀・)「術式の組み換えを、ドラウシェイドに混ぜて乗算させたんだ。
アブスライトと掛け合わせたら、出来るかなと思って」
(;^ω^)「??」
詳しそうな友人二名に目を配せたが、同じような顔をしている。
困った様子のまま、ブーンはモララーの次の句を待つ。
( ・∀・)「要するに、ブーンくんでも、これを使えるようにしたってこと」
(;^ω^)「ええー!? 魔法が使えない僕でも!? なんでですお?」
232
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 14:17:22 ID:HcbLbdA20
( ・∀・)「まあまあ。詳しい話すると夜が明けちゃうよ。
グッと握って念じれば、使えるからね。」
(;^ω^)「ほへー。流石はモララーさんですお……」
( ・∀・)「で、これはツーちゃんにもね」
既に同じ装飾のついた瑠璃のペンダントを、ツーへ渡す。
(*゚∀゚)「おおー! オレにもくれるのか! ありがと、兄ちゃん!!」
( ・∀・)「ツンちゃんとショボン君は、今までので大丈夫だね」
(´・ω・`)「ええ。ありがとうございます」
ξ*゚⊿゚)ξ「うわぁ……私のなんだ、これ……。やった」
それぞれの子どもたちに、転移魔法の術式を発動できるペンダントを渡し終えた。
( ・∀・)「僕からの卒業祝い、ってことで」
見た目だけでも、煌びやかな装身具だ。
贈り物としては十分だろう。
素敵なプレゼントを貰って、みなが一様にに喜ぶ。
だが、どうにも解せない疑問があった。
( ^ω^)「でも、モララーさん。なんでコレを?」
233
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 14:18:23 ID:HcbLbdA20
覚悟をしていた。
この旅行が、みんなで集まれる最後の機会かもしれない。
次はいつになるのか、見当もつかない。
今後は、四人とも違う道を行くのだ。
部隊に編制された場合、同じ組になるとも限らない。
職場で言葉を交わすことすら難しいかもしれないのだ。
それなのに……何故?
どうして、モララーは……。
( ・∀・)
( -∀-)「んんっ」
問いをぶつけられると、モララーは後ろを振り向いた。
軽く咳ばらいをすると、視線をトソンへと向ける。
(゚、゚トソン
“(^、^トソン
彼女が微笑みながら、ゆっくり頷くと。
大きく息を吐いて、意を決するように青年は向き直った。
234
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 14:19:14 ID:HcbLbdA20
( ・∀・)「…………実はね」
(;-∀-) =3
(* -∀-)
(* ・∀・)
(* ・∀・)「トソンさんに、僕との子どもが出来ました」
235
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 14:20:37 ID:HcbLbdA20
( ^ω^)
( ^ω^)
( ω ) ゚ ゚
ξ゚⊿゚)ξ
ξ゚⊿゚)ξ !(あぁ、だからか)
(´・ω・`)
(´・ω・` )彡
(;´゚ω゚`) !?
(*゚∀゚)
(*゚∀゚)「え、マジ!?」
236
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 14:21:59 ID:HcbLbdA20
(゚、゚トソン「これが一緒に行ける、最後の旅行かもしれないから
心配かけたくなくて隠してたんだけど」
(;-∀-)「かえって、不安にさせちゃったみたいでゴメンね。
もっと早く話しておくべきだった」
(゚、゚トソン「病院に行っている間も、ずっと話してたの。
知ったら、みんなどうするかな、って」
(゚、゚トソン「心配してくれたり、会いに来てくれたりするだろうけど……
忙しい中、揃って山奥まで来るのは大変でしょう?」
( ・∀・)「だから、誰でもペンダントを使って。
いつでも来れるように出来ないかな、って思ったんだ」
つまり、とモララーは続ける。
( ・∀・)「また、あの山小屋に来てほしいんだ」
237
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 14:22:49 ID:HcbLbdA20
( -∀・)「理由なんてなくていいよ。
気晴らし程度で全然かまわない」
( -∀-)「全員一緒でなくても、ちょっとした空いた時間でも大丈夫だから」
( ・∀・)「これからも……仲良くしてくれたら嬉しいんだ」
(* -∀-)「みんな僕の、僕たちの大事な……」
238
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 14:24:00 ID:HcbLbdA20
( ・∀・)「大事な、友達だからさ」
.
239
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 14:24:53 ID:HcbLbdA20
どうだろうか。
と続ける前に、モララーの体には強い衝撃が走った。
( ;ω;)「あ、あた当たり前ですおーーーー!!!
いつでも遊びに行きますおーー!!
おめでとうございますおーーー!! うわぁあああ!!!」
ブーンの感極まった突進を、モララーは踏みとどまって耐える。
そんな幼い行動に、ツンは困ったように笑いながらも
小さく拍手をして祝う。
ξ゚⊿゚)ξ「おめでとうござます、モララーさん、トソンさん」
(*゚∀゚)「アッヒャッヒャ! 二人の子どもなんて、会いに行かない理由がねぇよな!」
(;´・ω・`)「あー、ビックリした。嬉しさで死にかけることってあるんだね」
それぞれが反応を述べ、小さな輪を作った。
一人は捲し立て、一人は祝辞を、一人は胸の鼓動を必死で押さえながら
一人は、ただただ泣きじゃくりながら。
冷たく深い海の底で、笑顔の花が咲いていく。
240
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 14:26:00 ID:HcbLbdA20
( -∀-)
大切な友達に囲まれ、モララーは思わず頬を緩ませた。
同じように喜びを分かち合っているトソンにそっと手を伸ばしす。
(-、-*トソン
愛しむように、その手を握る。
どんなことがあっても、自分はもう何も手放さない。
罪も幸せも、全てを抱いて生きていこう。
『黒風』……いや、モララー=レンデセイバーは、心から誓った。
241
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 14:26:46 ID:HcbLbdA20
涙のような三日月は、漆黒の夜空に浮かび上がり。
揺れ動く水面に照らされて、まるで微笑んでいるかのようだった。
( ・∀・)モララーは隠居暮らしのようです。
番外編 三日月の涙 完
242
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 14:29:28 ID:HcbLbdA20
以上が番外編です。
モララーのお話は双で終わってましたが、子どもたちの話が完結していないなぁ
と思いだし、構想をぼんやり考えて数年経ってました。
最近、創作らしい創作もしてなかったので筆ならしでもしようかと考えて
今回の番外編を書いてみた所存です。
もしかすると、また筆ならしとかいって、どうでもいい小話くらいは書くかもしれません。
その時はどうぞよろしくお願いします。特に何か考えているわけではないですが。
本編+番外編は、これにて完結としようとは思っています。
ご愛読ありがとうございました。
243
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 16:05:19 ID:yIT7Yo7w0
乙
楽しかったです、
244
:
名も無きAAのようです
:2020/11/28(土) 22:36:27 ID:hCi4UOe60
乙!!
わくわくするシーンばかりで読んでて楽しかった
番外編はずっと子供たちの卒業の話だったんだなぁ
245
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/21(日) 21:41:02 ID:oLCKM6Z.0
激しい雨が降っていた。
横殴りの風と、轟く雷鳴。
地に爆ぜる水滴音は、周囲の空間全てを満たすかのよう。
魔法で焼け焦げた大地が、再び湿り気を帯びるに十分な時間。
( ∀ )
一人の少年が、浅く息をしていた。
口からは赤い血が零れている。
膝から崩れたような姿勢で、彼は力なく項垂れていた。
髪の隙間からも漏れてくる雨水は、まだあどけない顔を通してゆき
ただただ、地面へ流れていく。
虚空のような双眸の見つめる先には、人の形をしたものがあった。
……もの、だ。
既にそれは生命活動を行っていない。
本来ついているはずの首と胴体が、全く違う場所に落ちているのだ。
とめどなく流れている血液は、土砂と入り混じっても尚、赤く広がる。
( ;∀;)
246
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/21(日) 21:41:43 ID:oLCKM6Z.0
気付かないうちに、少年の瞳は涙で覆われていた。
雨と錯覚するほど、感情を押し流すように零れていく。
命を絞り出すように、深く重いため息が出た。
震える拳を握り、思い切り地面に叩きつける。
心の内が何もまとまらない。
後悔か、諦念か、達成感か。
混濁する心に任せて、少年はただただ呻き声を上げ続けた。
その日。
大魔術師モララー=レンデセイバーは初めて
人を殺したのだ。
247
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/21(日) 21:42:28 ID:oLCKM6Z.0
( ・∀・)モララーは隠居暮らしのようです。
【零落の黒き風】
.
248
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/21(日) 21:44:05 ID:oLCKM6Z.0
――VIP大陸とラウンジ大陸。
お互いの資源を、技術を、我が物にするために始まった戦争。
事の起こりを覚えているものは、もう既に少なく。
いつしか、意地のようなものだけで続いていた争い。
終わりの見えない戦は、歴史的にみればある日突然、というほどあっけなく終わる。
これは、その『終わり』に至る、少し前のお話――――。
嘗九話「大魔術師の称号」
249
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/21(日) 21:44:55 ID:oLCKM6Z.0
王都NEET。
絢爛豪華な装飾と上品な石造りの土台や外壁で作られた城があった。
都の名と同じNEETという城である。
大陸間戦争の、情報すべてが集められる間接的な最前線。
今、この大陸で最も多くの演算を行っている会議室の扉を
厳しい眉をした男性が仰々しく開けて入っていった。
(`・ω・´)「スカルチノフ国王陛下。お耳に入れたい話が」
/ ,' 3「ほ? なんじゃね、シャキンよ」
初老の男性スカルチノフ国王は、近衛の位を持つ人間たちの間で指揮を執っていた。
南の戦況を、東の水際の戦いを、北の物資の動きを、西の人の増減を。
余すことなく情報を取り入れ、処理していく。
齢二十七にして、聖魔術師という現場で戦う人間として
最高位の称号を持つ青年、シャキン=ノーファルはやや慌てながら
忙しない王の傍へ跪いた。
/ ,' 3「ワシは今取り込み中でな。ナンジェの戦で圧し負けたせいで
人員が一気に足りなくなっての。急ぎ編成を組み直さねばならんのじゃ」
(`・ω・´)「であれば、ちょうど良き話かと。こちらを御覧いただけますか」
シャキンはそう言うと、立ち上がり
脇に抱えていた封筒から紙を取り出して渡した。
それは魔術の込められた用紙で『投影現像用紙』という。
一枚の中に映像や記録を、分厚い魔導書ほど内包できる優れた情報処理器具なのである。
映し出されているのは、とあるテストの結果。
国王の座す王都から、もっともっと離れた僻地で行われた
傭兵を選定するための試験の様子である。
250
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/21(日) 21:46:09 ID:oLCKM6Z.0
/ ,' 3「なんじゃ、こんなもの。ワシは時間がないと言って……」
国王は言葉を止めた。
流れている映像と、書きだされている文字。
それらを一目見て二の句を失う。
国王がやるべきことは、たくさんある。
現状の戦闘状態、陣地の把握。奪還すべき場所、陸路や海路の想定。
戦いだけでない、戦いを支える民草のための政策。
先祖代々受け継がれる業務は、国王一人で担うには余りにも多い。
傍で支える人間は少なくないが、最終的な判決をするのは王だけ。
酷く真面目な性格もあり、部下からの情報はすべて一度目に通すことを決めていた。
結果的に業務が多くなってしまうのだが……そんな王を、誰もが慕っていたため
最初の方こそ、あれこれ言われていたものの、いつの間にか彼の器に身を委ねていた。
そんな多忙な毎日。
何か、状況を打破できる策の一つでも振ってこないか。
そう神に祈りながら、精神をすり減らしつつも懸命に奮起していた時だった。
/ ,' 3「これは本物かね、シャキンよ」
(`・ω・´)「私も真贋を確かめましたが……。紛うことなく本物です」
/ ,' 3「……すぐにこの子をワシの下へ。今すぐじゃ。一時間以内に連れてくるんじゃ!」
251
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/21(日) 21:47:36 ID:oLCKM6Z.0
彼の心労を、神は見ていたのだろうか。
とてつもなく希少な宝石の巨大鉱脈を見つけたような。
まさに天からの恵みと言える存在が、用紙に映し出されていたのだ。
――数刻後。
王の一言で動き出した近衛魔術師たちが、転移魔法で帰ってきた。
その中の一人が、場に相応しくないほど幼い少年をの肩を抱いている。
先ほどの用紙に映し出されていた容貌と一致していた。
少年は、転移前に瞑っていた目を開けるとキョロキョロと辺りを伺った。
後ろで簡単に結ばれた長い髪が靡く。
怯える様子もなく、慌てる様子もなく。
ただ、今いる場所を、自分の予想と照合させているだけのようだ。
/ ,' 3「うむ、よく来てくれたの。みな、すまぬが少しだけ席を外してくれぬか」
側近の騎士や魔術師は、どよめいた。
会ったこともないうえ、話したこともない。
紙の上で見た、『事実』だけを知っているからこそ、誰もが反対した。
/ ,' 3「ええんじゃええんじゃ。何かあればすぐ声をあげよう。
ワシは、この子と話がしたいだけなんじゃ」
ここまで意固地になると、梃子でも動かない。
王をよく知る人物たちは、諦めて会議室から外へ出る。
だが魔術師達はその前に、王へ厳重で強固な防護魔術を幾重にも。
騎士は扉のすぐ裏で、いつでも駆けつけられるよう完全武装をして待機した。
252
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/21(日) 21:48:26 ID:oLCKM6Z.0
/ ,' 3「まったく、過保護な奴らじゃの。
……まあ、だからこそワシも彼らを気に入っておるんじゃがな」
/ ,' 3「さて、茶でも入れるかの。アージンは好きかね?」
少年は黙って頷いた。
/ ,' 3「そうかそうか。銘柄のこともわかるのか。君は聡(よ)い子じゃの」
言いながら王は、華美な装飾のついたポットを手に取る。
茶葉の入ったそれは、彼の手に触れると突然湯気を噴き出した。
魔法で中に水を生成し、瞬時に適温まで上昇させたのだ。
慣れた手つきで、そのままカップにアージンティーを注ぐ。
近くの椅子にスカルチノフは座るように促すと、少年は従った。
互いの前にカップを置く。
リンゴの果実のような、深い甘みのある香りが空間を満たした。
机を挟んで、二人は向かい合う。
王が勧めると、少年は小さく会釈をしてからアージンを口にした。
/ ,' 3「さて、突然呼び出したりしてすまなかったの。
何事かと、驚いたじゃろ?」
尋ねると、少年はゆっくり首を横に振った。
/ ,' 3「ほ? 想定内じゃったと?」
流石にここまで想定外ではあった、と前置きしつつも彼は続ける。
253
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/21(日) 21:49:22 ID:oLCKM6Z.0
自分は、闘技学校で恐れられていた。
自身の中にある、とてつもない魔力。
そのことに気付いてから、あえて隠すようにしていた。
それは調和を乱さないため、彼自身が望んでやっていたこと。
だが、とある日の魔術講義の時間。
彼は、つい普段よりも強い魔法を使ってしまった。
気のゆるみだった。
こうすれば、もっと効率が良いはずだ。
安易な考えで行った、何気ない詠唱。
称号を持たない、見習いの『魔術師』が使うにはあまりに強大な魔術。
上級魔法を披露してしまった時からだった。
以来、彼の周りには人が寄り付かなくなったという。
攻撃されるんじゃないのか。
心の中を読まれたりするんじゃないか。
大事なものを取られたりするんじゃないか。
実は恨まれていたりするんじゃないのか。
思ってもいないことを、周囲は勝手に想像で事実のように捉えてしまう。
悲しくて寂しかったけれど。
自分の力には、何か意味があるはずだ。
きっといつか、役に立つ時が来るはず。
254
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/21(日) 21:51:01 ID:oLCKM6Z.0
そう思って耐え忍び……来たる傭兵テストの日。
つまり、今日。
王は手元の用紙に移されていた、テストの成績を読み上げていった。
/ ,' 3「魔法力測定試験……EX(計測不可)
魔術操作試験……SS
魔術習得数実演試験……EX(測定不可)」
他にも行われた試験内容は、全て似たようなもの。
つまり、全ての成績を最高得点、またはそれ以上で叩き出していたのだ。
/ ,' 3「これだけやれば、国の偉い人が一人ぐらいは自分の力に気付くはず……。
そういう魂胆だったわけじゃな?」
肯定の仕草を見て、スカルチノフは堪えきれず笑った。
/ ,' 3「ほっほっほっ! 良かったの。
まさか、一番偉い人に見つけられるとは思いもしなかったか」
嬉しそうに皺を作った顔で、ひとしきり王は喜ぶ。
そして、決意をした。
255
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/21(日) 21:52:26 ID:oLCKM6Z.0
/ ,' 3「間違いなく、キミのその才は必要じゃ。
国……いや、世界を変える力になるはずじゃ」
/ ,' 3「これより、キミはワシの傍で仕えるがよい。
そうじゃな……無二の称号『大魔術師』を与えようかの」
/ ,' 3「受け取ってくれるかな? モララー=レンデセイバーくん」
飲み干したカップを皿の上に置き。
大魔術師の称号を授与するために伸ばされた手を、受け取りながら
少年は、嬉しそうに笑って答えた。
( ・∀・)「はい。謹んでお受けいたします。国王陛下」
256
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/21(日) 21:53:49 ID:oLCKM6Z.0
――――。
ミ;゚Д゚彡「国王、一体どういうことですか!?」
(;´・_ゝ・`)「『大魔術師』とはなんです!? 我々は何も聞いてませんよ!?」
直後の作戦会議室は、普段の会合よりもっと騒がしかった。
近衛の階級をもつ、長い付き合いの人たちは
国王が取り決めた出来事について、矢継ぎ早に問い詰める。
/ ,' 3「じゃからの、彼はとてつもない魔術師での……」
(;`_L')「実績も何もない、あんな少年をどうして突然接受するのですか!?」
/ ,' 3「成績を見ればわかるじゃろうて」
(:-@∀@)「それは飽くまで試験の結果でしょう?
王が仰ることを鵜呑みにするのであれば、彼は我々の上役になるのですか!?」
/ ,' 3「…………お主ら……ちょっと落ち着け……」
ミ;゚Д゚彡「王が良くとも、軍が認めませんよ!
誰が、あのような子どもに率いられると!?」
/ ,' 3「……はぁ」
大きくため息をつくと、スカルチノフは徐に立ち上がる。
そして、部屋の隅でちょこんと座り、出来事をただ傍観していた少年……モララーへ小さな声で尋ねた。
257
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/21(日) 21:54:54 ID:oLCKM6Z.0
/ ,' 3「レンデセイバーくん。キミの実力を皆に証明して欲しい。やれるかの?」
( ・∀・)「構いませんが……一体、何をすればいいんですか?」
/ ,' 3「そのままの意味じゃ。ここにいるのは、ワシの……いや、VIP大陸の精鋭。
大陸間戦争の主導権を握る我が国で、最も強いとされる戦士達じゃ」
/ ,' 3「最前線には『聖』の位を持つものがおるが……
その上に座す『近衛』はそれらを超えるもの。
故に手元に置き、ワシの身と国民たちを守らせておる」
( ・∀・)「つまり、彼らにぼくの魔術師としての力を見せられれば
王のご決断を納得いただけるはず……と?」
/ ,' 3「うむ。人数、場所はキミが決めてくれて構わぬ。
城や無関係の人を傷つけさえ、しなければな。
ああもちろん、殺しはならんぞ」
( ・∀・)「なるほど」
/ ,' 3「まあ、後はワシも見てみたいの。キミの実力を」
モララーは近衛の戦士達を一瞥した。
それから少し考え、できうる限りの最善を尽くせる状況を練りだす。
( ・∀・)「わかりました。お任せください」
勢いをつけて、椅子から飛び降りるモララー。
その行動を一挙手一投足余さず見ていた大人たちは、固唾を飲んで次の句を待つ。
( ・∀・)「今此処にいる皆さん、全員とお相手しましょう」
258
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/21(日) 21:56:13 ID:oLCKM6Z.0
ミ#゚Д゚彡「…………は?」
完全に舐めている。
彼らは、子どもの余りにも軽率な言葉に激昂した。
学校を卒業したばかりということは、まだ15歳になったかならないかの年齢だ。
近衛の騎士魔術師達は、戦歴だけでも彼の年齢を優に超える。
そんなまだ尻の青いガキが、一人で自分たちを相手にする?
冗談でも笑えない。
( ・∀・)「国王陛下。もう、始めても?」
/ ,' 3「うむ。許可しよう」
ニヤリと笑う国王に、モララーも同じように笑い返す。
( ・∀・)「では、ご照覧あれ」
そして二本の指を、床に突き立てた。
黒い魔法陣が発生し、辺り一帯を覆う。
ミ;゚Д゚彡「なに!?」
(;-@∀@)「次元転移魔法!?」
彼らの中でも扱えるものは多くない。
出来たとしても、不安定でまともに立っていられない状態になるだろう。
だがモララーは、その秘術を完璧に完遂させていた。
259
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/21(日) 21:57:35 ID:oLCKM6Z.0
そこは、周りの人間以外は誰もいない真っ黒な空間。
液体を垂らしたような風景の、無限に続く闇だけが満たされている場所だった。
( ・∀・)「さて。王が実力を見せろと仰った以上、ぼくも全力を惜しみません」
( ・∀・)「そうですね。まず一人ずつで来るのだけは、おすすめしませんよ」
( ・∀・)「ぼくを屈服させることが出来れば、皆さんの勝ち。
手が地に触れればそれでお終い、で良いでしょう」
( ・∀・)「皆さんが一人残らず地に伏せられれば、ぼくの勝ち。
もちろん、倒れても立ち上がれば、勝負は続きます」
( ・∀・)「そんな簡単なルールですが。どうでしょうか?」
淡々と告げる、戦いの規則。
手のひらを向けて、提案をする彼に対し、既に場は動いていた。
(;`_L')「!?」
腰につけていた剣を抜き、一足飛びで切りかかっていた近衛騎士。
返事も聞かず、先制攻撃を仕掛けていた。
260
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/21(日) 21:58:54 ID:oLCKM6Z.0
だが、刃は届かない。
モララーは差し向けていた手を、そのまま白刃に添えている。
ただ、それだけなのに動かない。
押すことも引くこともできず、騎士はただ全力を剣の柄に込める。
( ・∀・)「ふっ!」
モララーはそのまま刃を握りしめて砕くと、空いた手で腹部に手を当てた。
そして魔力を込める。
(;`_L')「ぐあっ!?」
甲高い音と、重い音が同時に空間中に鳴り響いた。
思わず漏れた呻き声は、瞬時に遠ざかる。
纏っていた鎧が砕け、はるか彼方へ体が転がっていった。
その衝撃の余波だけで、傍に居る者は体制を崩しそうなものだ。
( -∀・)「ね、一人はおすすめしないと言ったでしょう?」
余裕を見せた隙だった。
モララーの背後に黄色の魔法陣が発生する。
そこから伸びるのは、おびただしい数の薔薇の蔓。
上級魔法スペルシーラーは、対象の魔力を完全に封鎖する。
その半透明に光る蔓に触れれば、いかなものであろうと魔法が使えなくなるのだ。
261
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/21(日) 22:00:10 ID:oLCKM6Z.0
( ・∀・)=3
スペルシーラーやスペルキャンセラーなど、所謂『対抗魔法』と呼ばれるものには
打ち破る方法が二つある。
一つは純粋に、それを回避すること。
魔法に触れさえしなければ、効果は発動しない。
もう一つは、術者の魔力より、より大きな魔力をぶつけること。
網で獲物を捕らえようとも、網の強度が負ければ捕獲にはならない。
今回、モララーはどちらの方法でも回避できたのだが……彼はあえて、後者の手段を取った。
(;^^ω)「!?」
理由は、対象に反撃がしやすいから。
スペルシーラーを唱えていた近衛魔術師は、モララーに強く睨まれる。
周囲の薔薇が解けるように散り、見えない力が一直線に飛んでいく。
途端に、術者は泡を吹いて気絶してしまった。
視線を通して、そのまま脳の機能を混濁させる精神汚染魔法の効果だ。
ミ,,゚Д゚彡「シッ!!」
集中で視野が狭くなったと踏んだ、その近衛騎士は槍による刺突をしかけていた。
並の相手であれば、速度と強度に抗う暇もなく、傷を負って床に転げていることだろう。
( ・∀・)「残念でした」
ミ;゚Д゚彡「あギッ!?」
262
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/21(日) 22:02:08 ID:oLCKM6Z.0
まるで紙のように、体を旋回させてそれを躱す。
穂先から体まで、回り込むようにして接近し、鎧に触れる。
短い魔術詠唱で、近衛騎士は気絶した。
身体能力を強化させ、動体視力も超化。
今のモララーは、近衛騎士であれどまともに敵う相手ではない。
( ・∀・)「連携でもしてこないと、あっという間に終わっちゃいますよ。
まあ、ぼくはそれでも構いませんが」
余裕そうに、モララーが手をぷらぷらと振る。
彼の周囲には、既に数人の騎士と魔術師が倒れていた。
既に立っている者と伏せている者が、ほぼ同数になっている。
何度も言うが、王の側近でもある『近衛』の称号を持つ騎士と魔術師は
大陸の中においても、最強に位置する強さを持っている。
そんな彼らを相手に、息を切らすこともなく
たった一人で制圧できるモララー=レンデセイバーは、まぎれもなく異常だった。
地面から突如、激しくせり出す巨大な岩柱。
対象を高速で上昇させつつ、体を断面で傷つける土魔法が発動された。
包み込まれているのは、当然モララーだ。
263
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/21(日) 22:03:09 ID:oLCKM6Z.0
だが、聳えた岩山は次の瞬間には氷と化す。
氷の結晶をまき散らしながら砕けると、それはそのまま攻撃へと転じられた。
術者は抵抗も空しく、四肢を氷漬けにされ動けなくなっていた。
次はナイフを投擲されたので、モララーはそれを中空でせき止める。
何本も何本も重なったところで、束に電流がぶつけられた。
二重の攻撃で、一気に押し切る算段だったのだろう。
( ・∀・)「スペルカウンター。レベル10」
( ・∀・)「5倍返し!」
刃は爆ぜたように飛び交い、騎士の鎧を破壊していく。
遠くで援護していた魔術師は、反射された雷撃を防護魔法で防いだが
最終的に威力負けをして、感電と失神をしてしまった。
接近戦を騎士が、遠距離から魔術師が。
お手本のような戦いの連携に、モララーは感心する。
高度な技術、魔術を肌身で感じる。
( ・∀・)(ああ、やっぱ近衛のたちは凄いなぁ)
素直に、そう思った。
彼にとってはわからないが、魔術書や戦術書を読む限りでは
この領域に達するには相応の経験と才能が必要のはずだ。
ならば、努力には敬意を払わなくてはならない。
264
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/21(日) 22:04:05 ID:oLCKM6Z.0
( ・∀・)「国王陛下、少々失礼。」
/ ,' 3「ほ?」
安全な場所で見られるよう、遠くで離れて魔術結界を張られていた国王。
声を直接脳内に届かせる魔法で、そう言うと
モララーは、今いる次元から国王だけを返した。
( -∀-)「さて……」
攻撃の手は止まない。
回避のために空中へモララーは飛び立つが、氷の刃や火球の嵐が彼を襲う。
合間を縫うように鋭い弓矢も飛んできた。
強化された肉体で、それらを防御しつつ
彼は神経を集中させた。
( -∀-)「無音斬り裂く死の胎動。混沌へと還す静謐の刃よ……」
両の手をかぎ爪状にして力を溜める。
脇を締め、そこに魔力を込めると黒い雷がバチバチと音を立てながら発生した。
(;-@∀@)「ば、バカな……!?」
……その詠唱に聞き覚えるのある魔術師は、腰を抜かした。
騎士は、恐れずに立ち向かっていった。
止めなくては、終わってしまう。
誰もが、次の一手が最後のチャンスであることを悟っていた。
265
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/21(日) 22:04:55 ID:oLCKM6Z.0
( -∀-)「心切り裂く瘴炎と化せ」
集中のせいで、浮遊魔法を解いたからか
モララーは落下を始めていた。
着地をした、今こそが好機だ。
残り僅かな近衛騎士たちが、その千載一遇の瞬間を狙う。
(;-@∀@)「違う、そこじゃない!!」
( ・∀・)「ネインエスパルダ!」
一人の近衛魔術師が叫んだ時にはすでに遅く。
狙っていたはずのモララーの体が透けた。
攻撃が空を切る感覚は、希望を絶望へ変える。
それは自動発動される、幻影魔法を事前に使っていたため起こった現象。
彼らの目に映るより、はるか遠くにモララーはいる。
そこで、闇魔法の『大魔法』を既に放っていた。
稲光する両手を一気に握る。
黒い空間を、更に覆いつくすように広がる漆黒の波動。
包み込まれた人間は、永遠に闇の奥底へ落ちていく感覚と
全身を縦横無尽に振り回される錯覚で、一瞬にして廃人へと化してしまう。
扱えるものが多くない、最高等に位置するランクの魔法だった。
266
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/21(日) 22:05:42 ID:oLCKM6Z.0
( ・∀・)「こんなところで、どうですか」
パンと手を叩くモララー。
いくら何でも、今回は完全発動まで出来ない。
気を失ったと同時に魔法解除。
時空転移魔法も消し、既に周囲は会議室へと戻っていた。
周りに横たわる、戦意を完全に失った最強の兵士たち。
その結果を見て、スカルチノフ王は静かに涙を流した。
/ ,' 3(おお……この子が居れば……戦争は終わる。間違いなく!
『今度こそ』、天は我々を見放しはしなかったか……!)
歓喜に打ち震え手を叩く国王を見て、モララーは満足げに笑った。
つづく
267
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/21(日) 22:08:57 ID:oLCKM6Z.0
こんばんは。作者です。
本編の後の話は書かないつもりでしたが、前日譚的なのはまだ書けるな
と思って、書き始めました。
既に完結まで書き終えているので、毎週土曜日か日曜日の夜に投下しようと思っています。
よろしくお願いします。
あ、トリップも無いままだとアレなので、一応新しいのつけておきます。
268
:
名も無きAAのようです
:2021/02/21(日) 22:19:22 ID:tztj5/Vg0
え”マジですか
269
:
名も無きAAのようです
:2021/02/22(月) 00:38:42 ID:L3BGNJn.0
やったぜ
全何話とかは書き上がっててもまだ明かせないやつ?
270
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/22(月) 06:53:35 ID:xn4bgDv.0
>>269
話数については、作品の中にヒントがあるので探してみてください。
来週の更新で、まずわかるかと
271
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/27(土) 21:12:02 ID:CwhOLy0A0
嘗八話「モララーの役目」
国王が、側近に僅か15歳の少年を置いたという達しが出てから一週間が経った。
王の目的はただ一つ。
長きにわたる戦争を終結させるため。
その切り札として、モララー=レンデセイバーを手中に収めた。
当然、彼のやるべきことは決まっている。
溢れる魔力、強大な魔術。
多彩な攻撃魔法を行使して、敵軍を瞬時に蹂躙。
別動部隊の為の支援魔法をかけ、進軍速度を急上昇させる。
若さゆえ、魔力の回復は早い。
彼は止まることなく、ラウンジ大陸の部隊を
まさに獅子奮迅の活躍で突破していく。
血の海を、死体の山を、魔術の空を。
決して常人では作り出せない、悪夢のような風景を
虚静恬淡と背後に置いていく。
272
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/27(土) 21:13:32 ID:CwhOLy0A0
ミ,,゚Д゚彡「こぉら、レンデセイバー。何度言わせる。
スープを掬う時は手前から奥だ」
(`_L')「食べる際に、いちいちフォークを持ち替えるんじゃない」
(;-∀-)「ぐ……。はい」
――――わけではなかった。
何かしらの策があるのか、モララーは戦場へ出ることなくNEET城で生活をしていた。
庶民の出自ゆえ、特に厳しい教育もなく。
自分には余りにも関係のない世界のことだから、知りもしなかった
基本的な会食でのマナーについて、近衛の役職の方々から教授されていたのだ。
_、_
( ,_ノ` )「お、来たね。今日も頼むよ」
(;・∀・)「はい。頑張ります」
食事が終われば、次は厨房で皿洗いの手伝い。
庶民の者ならまだしも、王族貴族の使う食器類だ。
身体に害が出る可能性のある魔法は使えない。
よって、王宮内の食器類は手洗いのみとされていた。
防水魔法も使えないので、手が荒れる。
モララーは傷に良く効くクレスト草の軟膏が手放せなかった。
273
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/27(土) 21:15:30 ID:CwhOLy0A0
|゚ノ ^∀^)「それにしても、あなたも大変ね。こんな雑用ばかり任されちゃって。
よく知らないけど、凄い魔術師なんでしょう?」
( ・∀・)「いえいえ。新参者ですから、これぐらいはしないと」
城の傍にある大きな大きな庭。
兵士達の洗濯物を、モララーと雑用係の女性で手分けして干していた。
干す場合は魔法を使っても問題ないので、モララーは素早く手際よく
紐にシャツを通したり、タオルの皺を完璧に伸ばしながらスタンドへ掛けていく。
量が量なので、二人がかりで魔法を使っても、それなりの時間を要する重労働だ。
慣れている女性は、鼻歌交じりで次々に干し紐へ服を通していく。
モララーと遜色ない速度なのは、熟練の業ゆえだろう。
( ・∀・)「しかし、流石は王宮ですね。外で洗濯物を干せるだなんて」
仕事を終え、出来上がった色取り取りの衣類による虹を前に、腕組をしながらモララーは感嘆する。
|゚ノ ^∀^)「確かにね。普通は家の中だし」
( -∀-)「食事に作法……何もかも、ぼくが知らない生活ばかりだ」
|゚ノ ^∀^)「辛い?」
( ・∀・)「いえ、全く」
モララーは嘘偽りなく、笑顔で答えた。
/ ,' 3『おぅい、レンデセイバーくん』
274
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/27(土) 21:17:03 ID:CwhOLy0A0
夜も更けた頃合いだった。
モララーが額に流れる汗を拭っていると、頭の中に声が響いた。
対象とのみ、会話が出来る中級ランクの音信魔法。
魔術師といえ、王がそんな魔法を使えることに驚きつつ
モララーは返事をする。
(;・∀・)『はい、なんでしょうか』
/ ,' 3『少しこっちに来てくれんかの』
魔力の発信源を探る。
モララーが居る場所から、はるか遠く。
王都の上方……城の頭頂部からだった。
(;・∀・)『今すぐですか?』
/ ,' 3『出来る限りの』
(;-∀-)『かしこまりました。では、急ぎで』
モララーが、音信魔法を切ったと同時に念じる。
275
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/27(土) 21:18:31 ID:CwhOLy0A0
上部から勢いよく滝のような水が降り注いだ。
全身を洗い流すと、頭を揺さぶり水滴を軽く弾く。
そして、風の魔術と火炎魔術を同時に使用。
温風で肌と衣服の湿り気を、瞬時に無くす。
遠くに生えている、香りの良いシルムの葉をちぎって引き寄せ
手の中に取ると、ぎゅっと握りしめた。
液体に変化したそれを霧状にし、モララーは体に振りまいてから
別の魔術詠唱をする。
( ・∀・)「時の間で空成る間へ。我が描きし時空へ飛ばせ」
青い魔法陣を足元に発生させると、光の球に体が変化する。
空間転移魔法。
彼が、この城に連れてこられた時に近衛魔術師が使ってた上級魔法だ。
( ・∀・)「お待たせしました」
/ ,' 3「ほー。本当にキミはなんでも使えるんじゃの」
276
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/27(土) 21:19:43 ID:CwhOLy0A0
そこは、国王の部屋。
王位を脱ぎ、肌触りの良いガウン一枚で過ごせる快適な空間。
夜風が気持ちの良いバルコニーで、王は待っていた。
手には中身の減ったワイングラスを握っている。
普段から肌身離さずつけているという、金色のブレスレットが月光に反射し
少しだけモララーは目を細める。
/ ,' 3「どうじゃね、一週間過ごしてみて」
( ・∀・)「ええ、とても楽しいことばかりです」
/ ,' 3「ほっほっほ。そうかそうか。それは良かった」
( ・∀・)「国王陛下こそ。気は休まっていますか?」
/ ,' 3「ほ?」
( ・∀・)「お部屋の外……後は屋上の方も。
見張りの者が居るみたいですが。普段から、そうなんですか?」
/ ,' 3「おお、それか。
いやな、普段はそこまで厳しくしてはないんじゃよ。
ただ、君が近くに来る場合はどうしても、とな」
( ・∀・)「気配探知魔法は気にならないので?」
/ ,' 3「慣れたもんじゃよ。まったく。みな、過保護すぎるんじゃ」
( ・∀・)「そうですか……」
277
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/27(土) 21:21:30 ID:CwhOLy0A0
過保護、と王は言うが。
モララーは、きっとその行為が
ただの善意で成り立っているのだろうと気付いていた。
会って、話して。改めてわかる。
自由そうだけれど、いつも民や国の為を思って
ただひたすらに邁進して生きていることを、肌で感じる。
そんな人に仕えられて、幸せ以外のものはない。
だからこそ、損得勘定なしにこの人を守らなくてはならない、と思うのだろう。
きっと、得体のしれない人物が急に傍に現れたから
みんな普段より、強く緊張しているに違いない。
ましてや、認否はさておき……自分たちより実力は上の存在。
忠義があるのであれば、警戒しない方がおかしい。
/ ,' 3「ところで、今日の訓練はどうじゃった?」
( ・∀・)「そうですね。捗ったんじゃないでしょうか。
みなさん、流石ですよ、昨日より、三十分も長く掛かりました」
/ ,' 3「ほっほっほっ。相変わらず、無茶苦茶なことを言うのキミは。
あれでも、我が大陸随一の精鋭なんじゃがのぅ……」
278
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/27(土) 21:23:07 ID:CwhOLy0A0
モララーが先ほどまで行っていたのは
最上級の兵士に与えられる称号『近衛』達との模擬戦。
街から遠く遠く離れた、訓練専用の荒野で毎晩執り行われている。
近衛の兵士たちは、訓練こそすれ戦いの最前線には居ない。
故に、実践の感覚が薄れてしまう。
かといって、まともに相手を出来るのは同じ称号帯の人間のみ。
時間や相手を考えると、実戦形式の訓練をする機会は非常に少なくなってしまう。
そこで抜擢されたのがモララーだった。
それなりにプライドを持っていた彼らだが。
あの日、モララーに完膚なきまでに屈服させられてから
反発するように、挑み続けている。
未だ、誰も彼に土をつけることは適わないが
それでも、着実に距離が縮まりつつある実感はあるそうだ。
( ・∀・)「ところで、国王。ぼくから一つお伺いしても?」
/ ,' 3「おお、なんじゃね。なんでも聞くが良いぞ」
( ・∀・)「初陣はいつ頃になるのですか?」
/ ,' 3「ほっほっほっ。それか」
279
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/27(土) 21:25:26 ID:CwhOLy0A0
不満があるわけではなく、純粋なる疑問だった。
スカルチノフは、モララーを戦争を終わらせる最強の手札として引き入れた。
だが、一週間経ってもやっていることは雑務や訓練のみ。
早く戦場に出せば、戦況は一変するはずだ。
なのに、どうして……?
ずっと思っていた疑問であった。
/ ,' 3「キミ一人の力で軍を押し進めるには、まだ信頼がなくての」
/ ,' 3「戦場に出て、場を制圧するまでは良い。
その後どうするか、じゃ。戦場は何も、原っぱだけではない。
野営地、市街地。それらも戦場になりうる」
/ ,' 3「敵とはいえ、非戦闘員をむやみに殺生するのは悪でしかない。
それではいけない。戦争が悪だと、怨恨しか生まぬ。
怨恨は終わりのない戦いを増長しかせん。
ゆえに、残された敵の『民』を保護する義務がワシらにもある」
/ ,' 3「たとえ、彼らが望まなくともの」
/ ,' 3「そこまでのケア、キミ一人で出来るかな?」
( ・∀・)「……いいえ」
280
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/27(土) 21:26:57 ID:CwhOLy0A0
/ ,' 3「となれば、人を頼るしかないの。
じゃが、国を離れればワシの庇護も薄くなる。
ただただ、力ばかり強いキミの後ろを、不平不満無く任せられるようになるには
もう少しだけ時間が必要なんじゃよ」
( ・∀・)「なるほど。それでお城中の世話を……」
/ ,' 3「嫌かもしれんが、キミ自身の為に。
我慢して続けてくれぬかの。
時を見て、ワシはキミを使う予定じゃ」
/ ,' 3「その時は頼むぞ。大魔術師よ」
スカルチノフは、心の底からモララーのことを考えてくれていた。
ただの戦闘兵器では、軍の士気を維持するのは難しい。
特に、内戦と違い大陸間の戦争の場合は海も渡るほど長距離だ。
一日二日で終わる戦ではない。
士気が下がれば、質も下がる。
そこまで考慮して、スカルチノフはVIP大陸の一戦士として
モララーを馴染ませようとしていたのだ。
/ ,' 3(……心配しているのは、それだけじゃないんじゃがな)
今までの戦い方、訓練での動き。
スカルチノフは余さず見ていた。
そして、一つだけ気付いたことがある。
281
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/27(土) 21:29:27 ID:CwhOLy0A0
それは、戦争においては致命的な弱点。
一人の戦士として、究極の欠陥。
だから、いつかどこかで克服してもらいたい。
しかし、それは本当にモララー自身が許せるだろうか。
堕ちゆく自分を受け入れられるだろうか。
この長い戦争を終わらせるためとはいえ
たった15の少年へ、重い十字架を背負わせるのに
無責任であってはならない。
スカルチノフ国王も、本当はどこかで迷いがあったのだろう。
そのために、少しでも平穏の場を作ってあげたくて
彼を城中作業員として兼任させていたのだ。
( -∀-)「はい。精一杯頑張ります……!」
モララー自身にも覚えのある『弱点』。
それを押し込めるように、強く拳を胸に当てて返事をした。
つづく
282
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/27(土) 21:30:53 ID:CwhOLy0A0
おまけ
/ ,' 3「ところで、レンデセイバーくんよ」
( ・∀・)「?」
/ ,' 3「お主、近しい家族がおらんと言っておったの」
( ・∀・)「ええ。親戚は居ましたが……別段仲良くは。」
/ ,' 3「ワシも、妻に先立たれてからもう長くてな。
子供もおらんうちに、いつの間にか年ばかり食ってしまった」
/ ,' 3「ちょうど、息子や孫が居ればのぅと思っておったのじゃよ」
( ・∀・)(まさか……)
/ ,' 3「と、いうわけで。これからは、ワシの事を『お爺ちゃん』と呼んでも良いぞ」
(;・∀・) て「いやいやいや。仮にも国王様が何を仰っているんですか」
/ ,' 3「国王じゃが、一人の老人でもあるんじゃ。人恋しくなって、何が悪い!」
#
(;-∀-)「それはそうでしょうが……」
283
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/27(土) 21:31:47 ID:CwhOLy0A0
/ ,' 3「別に、皆の前でそう呼べと言うわけではない。
ただ、少しでもお主にも
王都へ来て、安らかに思える場所があれば、と思ったんじゃが」
/ ,' 3「……ワシのことなんて、そんな風に思いたくないわけかの……」
(;・∀・)(うわあ! わかりやすく落ち込んでるぅ!)
/ ,' 3「寂しいのぅ……寂しいのぅ……」
チラチラ
(;・∀・)
(;-∀-)
(;-∀-)=3
(;・∀・)「わかりましたから。顔をあげてください、おじい様」
284
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/27(土) 21:33:00 ID:CwhOLy0A0
/ ,' 3「ほ? 今なんと?」
( ・∀・)「おじい様、です。それじゃダメですか?」
/ ,' 3「よい、良いぞ! それじゃ! おじい様!
* 良い響きじゃのう……」
(;-∀-)(全く、本当に道楽好きな御人だなぁ……)
/ ,' 3「また暇な夜には呼ぶからの。
* その時はちゃんと来るんじゃよ、モララーくん」
( -∀-)「……ええ、わかりました」
王の威厳を下ろした時の、無邪気な老人の笑顔。
この人の為なら、頑張っても良いかもしれない。
そう思いながら、モララーは静かに夜風に当たりつつ
楽し気に話す、老人との会話を楽しむこととしたのであった。
285
:
◆mGwfd747EA
:2021/02/27(土) 21:36:02 ID:CwhOLy0A0
今回はちょっと短めでした。
基本的には土曜日のこれぐらいの時間更新になりそうです。
そんなことより、聖剣伝説LOMのリマスター発売が発表されましたね。
この作品を作る際に、発想の元となった作品なので興奮が止まりませんでした。
良かったらみなさんも、ホームタウンドミナを聞いてみてください。
モララー君の山小屋モデルは、「マイホーム」だったりします。
286
:
名も無きAAのようです
:2021/02/28(日) 06:55:35 ID:CdpBQlSs0
乙です
287
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 21:29:43 ID:xNGrs6b20
嘗七話「初陣」
( ・∀・)(おや……?)
城に来てから、二週間が経った頃。
テーブルマナーに怒られることもなくなり
皿洗いの速度や精度も格段に上昇した頃。
洗濯物を取り込み、城の倉庫へ戻る途中のことだった。
仰々しい鎧を着た軍隊。
破れたローブを纏う集団。
意気揚々としながら、上部の謁見室へ向かおうとする兵士たちが居た。
それ自体は別に珍しいことはない。
どこかで戦いがあって、戦果の報告に来たのだろう。
だが、今日は違っていた。
その集団から、一人だけ。
分厚い金属の鎧をガシャガシャと鳴らしながら
大股でモララーの所へ向かってくる男性が居たのだ。
288
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 21:31:19 ID:xNGrs6b20
( ゚д゚ )「……」
(;・∀・)「な、何か……?」
普段誰かに話しかける部位より、かなり上。
意識しないと見えないほど高くにある顔へ、頑張って首を向けながら問う。
だが男性は何も言わず、品定めするようにただただ少年を見つめている。
時折、何かを感じ取ったのか大きく息を吸い込むのだが
その動作が、捕食前の獣のようで強く恐怖心を煽る。
敵兵ではないし、何か粗相をした覚えもない。
どうしたものかと、ピタッと合ってから逸れない鋭い眼光に、脂汗を流している時だった。
ζ(゚ー゚*ζ「こら、怖がってるでしょ!」
( ゚д゚ )「おっ!? お、おお。そうか! こいつは失礼した」
気持ちの良い高い音がパシーンと、モララーの上方から鳴り響く。
杖の先から延びた薄い布が、男性の頭部で叩かれたことが原因である。
音の割に痛みのない小道具を魔法でしまうと
男性の後方から、ゆるりと巻いた髪の小柄な女性が出てきた。
ζ(゚ー゚*ζ「ごめんねぇ。この人、初対面の相手を無言で見つめる癖があって」
( ゚д゚ )「力量を測っているんだ。戦士として必要な行為なんだよ」
ζ(゚ー゚*ζ「だからって、誰も彼もやって言いわけじゃないでしょー?
そんなんだから、ロマネ君に抜かされるんだよ」
(; ゚д゚ )「そ、それは今関係ないだろう!」
289
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 21:33:19 ID:xNGrs6b20
(;・∀・)「……あの?」
ζ(゚ー゚*ζ「あっと。ごめんごめん。いきなりビックリしたね」
親し気に話す二人の空気と、今の状況がわからず
モララーは中身が山になった洗濯籠を脇に浮かせたまま、動けずにいた。
それを見て、女性は『白魔術師』の証である
戦闘用純白ローブの埃を叩きながら向き合う。
ζ(゚ー゚*ζ「私はレイ=デ=ジェレイド。デレでいいよ。
こっちは私の夫のミラン。みんなからは、ミルナって呼ばれてるんだ。
あなたは、モララー=レンデセイバー君でしょう?」
( ゚д゚ )「君のことが、戦線でも噂になっていてな。
それで気になっていた所、姿を目にしたからつい見入ってしまった。
無礼をしてすまないね」
大男は厳しい顔を緩ませて、握手を求めた。
鎧の胸元に刻まれた白い獅子は、彼が『白騎士』の階級であること示している。
おずおずとモララーも、勢いに飲まれながら大きな手を握り返す。
( ゚д゚ )「しかし、話を聞いた時は何かの間違いかと思ったが……」
ζ(゚ー゚*ζ「ええ、物凄い魔力ね。見たことないわ、こんな膨大な量」
(;・∀・)「ど、どうも……」
近衛の階級の人たちですら、一見ではモララーの強さを看破できなかった。
前情報があったからとはいえ、それを直に見て判断できるとは。
290
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 21:34:43 ID:xNGrs6b20
( ゚д゚ )「それほどの力量があれば、本当に終わりは遠くないのかもしれんな」
ζ(゚ー゚*ζ「出撃命令とか出ているの?」
( ゚д゚ )「おお、そうだ。戦利品なのだが、綺麗な小刀が手に入ってな。
お近づきの印だ、君にあげよう」
ζ(゚ー゚*ζ「やだ、そんな小汚いもの渡しちゃ失礼でしょ。
モララー君、今度もっとマシなもの持ってくるから。
そんなの受け取らなくていいよ」
(;-∀-)「あー……えーっと……」
似たもの夫婦という言葉があるが、その通りだ。
ペースがわからない。
デレが手綱を握っているように見えるが、デレもデレで
割と相手の様子を伺わずに、話したいことを述べてくるタイプだ。
モララーの周囲で見たことない人種ゆえ、困惑してしまう。
( ФωФ)「二人とも」
そんな二人の背後から、声がかけられた。
ミルナに劣らない、巨大な体躯。
佇まいだけで、モララーも一目でわかった。
かなり強い人だ、と。
291
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 21:36:49 ID:xNGrs6b20
身の丈ほどもある、大剣を背負った姿。
その階級にのみ着用が許可されている、金細工で魔術加工をされた輝く白銀の鎧。
彼ら、白騎士を従える部隊の総隊長……『聖騎士』だ。
( ゚д゚ )「ロマネスク」
( ФωФ)「寄り道する暇はないのである。
戦果の報告は速やかに行うように、と常に言っているのである」
ζ(゚ー゚*ζ「そうだったね。
ごめんなさい、ロマネく……団長。
じゃあ、レンデセイバー君。またね」
( ゚д゚ )「好きな食べ物とかあれば、教えてくれ。また持っていくよ」
手を振りあい、二人は集団へ戻っていった。
その背を追うように、ロマネスクと呼ばれた軍団長も歩みを進める。
が、歩みを止めて背中越しにモララーへ話しかける。
( ФωФ)「……お主が『大魔術師』であるか」
(;・∀・)「え? あ、はい」
ちらりと、その風貌を見る。
王都での出来事は、ロマネスクの耳にも当然入っていた。
言うように、凄まじい魔力だ。嘘でも誇張でもない。
292
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 21:38:35 ID:xNGrs6b20
誰かが、その強さを持ってすれば戦争の終結も夢ではないと吹聴していた。
確かに、そうだろう。
……だが。
( ФωФ)(まだ、ほんの子供なのである……)
少しだけ失望のため息をつくと、ロマネスクはそのまま王の下へと歩いて行った。
一人残ったモララーは、無駄に流してしまった汗もそのまま
呆然と立ち尽くす。
(;・∀・)(なんか、嵐みたいだったなぁ……)
同時に思ったこともある。
ここに来て、初対面で。
モララーを恐れなかった人たちに、初めて出会った。
兵士以外の人たちですら、彼を受け入れるのに少しの時間を要した。
にも拘らず、まるで最初から恐怖なんて持たず
純粋にモララー=レンデセイバーという個人を見てきた人は
国王を除いて、居なかった。
( -∀-)(……ああいう人達も居るんだ……)
世の中、知らないこと。まだ出会ったことのない人が、本当にたくさん居るんだ。
改めて、世界の広さを身に染みて感じるモララーなのであった。
293
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 21:40:37 ID:xNGrs6b20
――――。
/ ,' 3『モララーくん、今からこっちまで来てくれるかの』
またしばらくしてからの事。
普段よりやや緊張気味の声で、王はモララーを呼び出した。
遠隔対話魔法の発信源を辿ると、どうやら『こっち』とは作戦会議室のことらしい。
それだけで、これから告げられるであろう出来事を理解した。
手に汗を握り、短く返事をする。
あてがわれていた自室から遠くないので、その高鳴る気持ちを抑える時間を作るため
モララーは歩いて、現場へ向かった。
/ ,' 3「よく来たの。ま、座りなさい」
( ・∀・)「はい」
既に、王と謁見するのに緊張は無くなっている。
城内の、日常と戦争が入り混じる独特な雰囲気にもとっくに慣れた。
だが、今日だけは違う。
今までにない、新しい出来事がこれから起こる。
その確信で、モララーの額はしっとりと汗ばんでいた。
294
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 21:42:37 ID:xNGrs6b20
/ ,' 3「この地図を見てくれるかね」
投影魔法で鮮明に映し出された、大陸の地図が部屋の真ん中にある。
スカルチノフが指をさすと、魔力に反応して赤い点が浮かび上がった。
王都から離れた土地。
戦線の激戦区というわけではないが、決して安全ではない地域だ。
/ ,' 3「今さっき入った情報での。
このシャトー方面に、ラウンジ軍の補給地があるそうなんじゃ」
/ ,' 3「隠蔽『呪文』で隠されておったせいで、なかなか見つけられんでな
ようやくしっぽを掴んだのじゃが……」
/ ,' 3「今、近隣で動ける部隊がなくての。
あるにはあるんじゃが……戦闘後で消耗が激しい」
/ ,' 3「じゃが、この機会を逃せば、また拠点を移動してしまうじゃろう。
ゆえに、早く叩く必要がある」
( ・∀・)「そこで、ぼくの出番……というわけですか?」
興奮を押さえながら、静かにモララーが告げる。
スカルチノフ王は、それに対してゆっくり頷いた。
/ ,' 3「聖魔術師シャキンの部隊が、近くで待機しておる。
彼らと合流し、速やかに敵拠点を潰して欲しいんじゃ」
/ ,' 3「出来るかの?」
295
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 21:44:44 ID:xNGrs6b20
返答は決まっていた。
モララーはゆっくり息を吐くと、覚悟を決めるように力強く答える。
( ・∀・)「はい、出来ます」
少年のやや強張った表情。
その覚悟と……一抹の不安を抱きながら。
スカルチノフは、遠くにいるシャキンへ魔法でやり取りを始めた。
が、その前に何かを思い出した王が、作戦机の傍にあった箱に手をかける。
/ ,' 3「おお、そうじゃ。初陣を飾るキミにプレゼントがあるんじゃった」
( ・∀・)「?」
――――。
(`・ω・´)「……む」
( ・∀・)「お待たせしました。モララー=レンデセイバー、ただいまより作戦に合流致します」
半刻後。
浮遊魔法を使って急行していたモララーが、地へ降り立つ。
長髪と共に、黒い外套がふわりと浮かび上がった。
296
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 21:47:16 ID:xNGrs6b20
(`・ω・´)「なんだ、そのマントは。黒魔術師の戦闘服とは違うようだが」
( ・∀・)「スカルチノフ国王からの戴物です。初陣祝いだそうで」
(`・ω・´)「……ふん。随分と可愛がられて。良い気分なものだな」
( ・∀・)「はあ……」
(`・ω・´)「いいか。お前を見つけ、そして王に推薦したのは私だ。
つまり、私が居なければ今のお前はここに居ない。
それを肝に銘じておけ」
( ・∀・)「それはどうも。ありがとうございます」
(`・ω・´)「……ちっ。作戦を伝える。こっちへ来い」
いまいち子供らしくない反応が気に食わないのか
シャキンは苛立ちながら、部隊を収集させた。
モララーは彼の態度に、苛立ちを覚えないわけではなかったが
何かを言い返しても、きっとこういう類の人には無意味だろう。
そう思って、グッと堪えることにしていた。
はたして、どちらが大人と言えるのだろうか。
(`・ω・´)「今我々が居る場所がここだ。
敵の拠点は、ここにある。
斥候によると、今動いているのは補給調達部隊のみ。
本隊はそれが戻り次第、活動を開始するそうだ。」
投影魔法で地図を使いつつ、シャキンが状況を説明する。
聞いている人数はかなり少ない。
動ける者だけ集められたようだが、下手すると両手で数えられるぐらいだ。
297
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 21:48:52 ID:xNGrs6b20
敵の拠点の規模を考えると、明らかに劣勢。
まともな戦闘行為であれば、逃げに徹する状況だが……。
(`・ω・´)「そこで補給部隊を我々が制圧し、その間に……レンデセイバー。
お前が拠点の本隊を潰せ」
( ・∀・)「ぼく一人で、ですか?」
(`・ω・´)「こちらは戦闘行動後なのだ。
逃げているわけでもないのに、連戦はかなり厳しい」
(`・ω・´)「だから、万全のお前一人でやるんだ。
出来るんだろう? 『大魔術師』であれば」
……この人は、多分ぼくの心配なんて微塵もしていないのだろう。
何かしら場をかき乱し、そしてあわよくば漁夫の利で功績をあげておく。
ダメならば、状況を鑑みて撤退を選んだ。そう報告すれば納得が行くから問題はない。
そんな魂胆が、嫌味ったらしい物言いから聞いてとれる。
棘のある言葉から汲み取った裏側に対し、思考を巡らせるモララー。
( ・∀・)「ええ、わかりました」
だからこそ、あえて胸を張って答えた。
内なる感情を押し殺し、何食わぬ顔で返事をすると
ショボンは、やはり不機嫌そうな顔で戦闘の準備を始めた。
( ・∀・)(…………ずるい人間だな)
298
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 21:49:52 ID:xNGrs6b20
ただ戦争の道具として。
自分の利益のためだけに、他人を利用する。
近衛の階級の人間は、もう上を見ることがない。
それぞれが国王に信頼を置かれているため、降格の心配もないだろう。
だから、権威の割には優しい人が多かった。
初見こそ、様々な軋轢があったにせよ、今ではモララーと不仲とは言えない。
王に呼び出されて、雑談をする夜の時間においても
既に見張りとして警戒する兵士は誰一人居なかった。
逆に、モララーが傍に居るならむしろ安全だろう。
そういう態度が見て取れるほど。
( ・∀・)「覚悟してなかったわけじゃないけど……」
実際に、悪意と悪態をつかれると癪に障るものだ。
このまま感情に身を任せると、自我のコントロールも難しくなりそう。
( -∀-)
国王から受け取った黒外套を、ギュッと握りしめる。
魔法繊維で編まれた特殊な素材のそれは、全ての光を吸収する闇のよう。
静謐を司るような、その様相と
自分を信頼して送り出した王の想い。
それぞれを胸に抱き、飽和させ、怒りを追い出す。
( ・∀・)=3「ふぅ」
一息ついて、顔を軽く叩いた。
開始の合図もないまま、いつの間にかシャキンの部隊は動き始めている。
299
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 21:52:06 ID:xNGrs6b20
自分が動いても問題ないだろう。
理解したモララーは、期待と不安が入り混じった複雑な感情のまま。
敵の陣営へと単身乗り込んでいった。
そんな背中を見ながら、一人の部下がシャキンに尋ねる。
( ><)「ノーファル団長。
本当に、あのような子供一人に任せて良いのですか?」
問いに対し、シャキンは移動用の馬に乗馬しつつ
鼻で笑いながら答えた。
(`・ω・´)「任せるも何も、奴はやると言った。
その結果を待つだけだ」
( ><)「僕も話は聞いています。
ですが……あの拠点の人数を制圧できるとは、とても……」
そもそもの前情報も少ない。
どんな兵士が居て、どんな武装がしてあるのか。
人数だけは、概算で把握している。消耗したシャキン部隊の5倍は居るそうだ。
(`・ω・´)「新兵が、己の力を過信して戦場で散る。
別に珍しい話でもあるまい。どうであれ、我々には関係ないこと」
(`・ω・´)「補給部隊の殲滅後、報告を待つ。
あの小僧へ手出しの必要はない。帰ってこなければ、我々も帰還すればいい。
これ以上、無駄な戦闘は避けるべきだ」
300
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 21:55:25 ID:xNGrs6b20
(`・ω・´)「まったく、王の道楽に付き合わされる身にもなってほしいものだ……。
気まぐれで、手駒に出来そうな優れた魔術師を見つけたというのに
まさか、王自らの側近……ましてや、特権階級を授けるとはな」
( ><)「……お気持ち、察します」
遠くで爆発音が鳴り響いた。
方角は、ラウンジの拠点方面。
どうやら、始まったらしい。
シャキンの部隊は、既に街道から逸れた高台の方で待機していた。
遠視、拡大の魔法と気配察知の魔法。
それらを行使して、好機を待つ、
自分たちの根城が攻撃を受けたのでは。
そう判断した、異国の装いをした集団が
案の定、慌てたように走っている姿を部隊の一人が捉えた。
(`・ω・´)「よし、行くぞ!」
数の不利もない。
立地も完璧。
これならば、問題なく勝てる戦。手柄になる。
運が良ければ、自らの招いた誤算の排除も可能。
どう転ぼうが、自分には利しかない。
ニヤリと笑ったシャキンは、馬から跳躍し
風魔術による上空からの奇襲を実施した。
301
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 21:56:27 ID:xNGrs6b20
(`・ω・´)「これで全部か?」
周囲に出来上がった、死体の山を見ながら聖魔術師が問う。
( ><)「はい。生存者なしです」
( ^^)「こちらも、制圧完了です」
泥が跳ねた頬を拭い、シャキンは遠くに待機させていた自分の馬を呼び寄せた。
軽くまたがり、さらなる追手が来ないか、しばし備える。
(`・ω・´)(思ったよりは時間がかかってしまったな)
いくら有利であったとはいえ、シャキン達は別の地域で戦闘行動をした後だ。
疲労もあったし、体力魔力共に消耗している。
自分たちの拠点を出てから、帰らぬ者になった兵も居る。
それでも、勝利を掴み取ったことには小さな誇りを感じていた。
( ><)「……そういえば団長。本拠点の方はどうなったのでしょう?」
(`・ω・´)「……報告もない。戦闘行為らしき音や魔力も感じない」
(`・ω・´)「この様子じゃ、どうせ死ん( ・∀・)「生きてますよ」
302
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 21:57:38 ID:xNGrs6b20
(;><)「な!?」
(;^^)「いつの間に!?」
突然、馬の前にモララーが立ちはだかった。
着地音すらしなかったので、本当にいきなり目の前に出現したように見える。
(`・ω・´)(転移魔法ではない……。ならば、風魔法か?)
僅かに足元に残る魔力を感じ、シャキンは憶測した。
物理的に移動してきたにしては、あまりに遠い距離の移動だが……。
それをここまで隠密状態で出来るものなのか?
(;`・ω・´)「……拠点はどうした」
冷や汗を垂らしながら、唾を飲み込み
意を決するように、一つの疑問を尋ねた。
( ・∀・)「とっくに制圧済みですよ。
皆さんの邪魔になってはいけないと思って、待っていたんです」
(;`・ω・´)「なに?」
( ・∀・)「戦果報告をしたいのですが。構いませんか?」
(;`・ω・´)「……」
その素っ頓狂な言葉に、部下と顔を見合わせる。
終わった? 既に?
あり得ない。
あの数を、自分たちの戦闘より早く終わらせた?
疑問は尽きることがないが、一つだけそれを解決する方法があった。
そもそも、それをするためにモララーはわざわざ彼らの前に来たのだから。
303
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 21:59:38 ID:xNGrs6b20
馬を走らせ、急いで現場へ。
目の前に映る光景は、信じがたいことだが……
モララーの言葉通りの、事実だった。
草は焦げ、家は凍り。
不自然なほど鋭利に切り裂かれた家屋。
無数の光弾痕や、呻き声をあげて横たわるラウンジの武士。
一個師団が近づいても、迎撃の気配がしない時点でわかっていた。
本当に、拠点一つを短時間で潰してしまったのだ。
(;><)「す……凄い……」
(; ^^)「これほどとは……」
倒れている敵兵を見る。
気を失い、浅い呼吸をしているその人物の装いは上位の呪術師だ。
VIP大陸で言うなら、聖魔術師級である。
(`・ω・´)「……」
爆破魔法で消し飛んだ家屋を、シャキンは覗き込んだ。
武装をしていない人間たちも、もちろん存在している。
衛生兵や給仕係だろう。
彼らも余さず、気を失って倒れている。
304
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 22:00:48 ID:xNGrs6b20
―――――聖魔術師は、既に違和感に気付いていた。
それは、戦闘を行ったのであれば、一つや二つはあっておかしくないもの。
戦士ならば、軍人ならば、誰であろうと作れるもの。
しかし、ここには一つもない。
繊細な動作、気遣いをすれば不可能ではない。
だが、それは……戦争においては、あまりに『無駄』な行為。
(`・ω・´)「!」
(;=゚д゚) 「ッ!!」
息を潜め、気配を殺し。
僅かな呪力で、音を消し。
一切の迷いなく、冷たい刃が首筋を襲う。
部屋の死角に隠れていた、敵兵の一人がシャキンへ奇襲を仕掛けてきたのだ。
305
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 22:02:09 ID:xNGrs6b20
並の戦士ならばやられていただろう。
だが、そこは聖魔術師。
動きに出る前の、微細な殺気を探知し迎撃行動に入っていた。
瞬時に繰り出せる得意の氷魔法。
動きを予測し、回避のために一歩だけ下がり。
凍てついた刃をもって、確実にその頸動脈を切り裂く!
(;=゚д゚)「がっ!?」
次の瞬間、敵兵は意識を失い泡を吹いて倒れた。
手に持っていた武器は、凄まじい力で掴まれたせいで
骨の砕けた腕と共に、重力に引かれる。
(`・ω・´)「なんのつもりだ」
(;-∀-)「……」
氷の刃は、斜めに敷かれたスペルカウンターで弾かれ、天井に突き刺さっていた。
問いに対し、焦りながらも間に割り入っていたモララーが答える。
(;・∀・)「そこまでする必要はないでしょう」
(`・ω・´)「……こいつは私を殺す気だったぞ」
306
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 22:03:36 ID:xNGrs6b20
(;・∀・)「ですから、ぼくが制しました。ぼくの不始末です」
(`・ω・´)「……」
その怯えるような、まだ光を秘めた純粋な瞳。
シャキンの邪魔をしたことを叱責されると、恐れているのではない。
原因はもっと別の……。
(`・ω・´)「お前は先ほど、拠点を制したと言ったな」
(;・∀・)「ええ、その通りだったでしょう。
多少、詰めが甘かったのは認めます」
(`・ω・´)「お前が言う『制する』とはなんだ?」
(;・∀・)「敵兵を屈服させ、再度戦闘行動を起させない状態にすることです」
(`・ω・´)「……」
(`・ω・´)「…………クク。はっはっはっ!!
なんだ、所詮はガキだったか!!」
モララーの答えに、シャキンは大きな口を開いて笑った。
周囲の人間も、堪らずその言葉に失笑する。
307
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 22:04:36 ID:xNGrs6b20
(;・∀・)「な、何が……!」
味方のはずの人間たちが、まるで途端に敵になったかのよう。
自分がおかしいはずもないのに、咎められる理不尽な感覚。
四面楚歌の状況が呑み込めないモララーの胸元を、シャキンは思い切り掴み引き寄せた。
(`・ω・´)「いいか、小僧。ここは戦場だ。
私たちは、戦争をやっているんだ。子どもの遊びではない!」
(`・ω・´)「お前の戦闘能力の高さには驚かされたよ。
残った魔力を見ても、間違いなくお前は我々の誰より手練れの魔術師だ」
(`・ω・´)「だが……この場において、お前を『強い』とは言わん。
何故だかわかるか?」
(;・∀・)「……」
(`・ω・´)「お前……『一人も殺していない』だろう?」
(;・∀・)「……!」
308
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 22:05:43 ID:xNGrs6b20
シャキンが言う前に、モララーは既に予感していた。
その核心を突かれることを。
彼の使った強力な火炎魔術も、激しい雷撃も、鋭い風の刃も。
全て、致命傷には至っていない。
気を失わせたり、腕を折ったり足を折ったりしただけだ。
確かに、即座に戦闘行動をすることは難しいかもしれない。
だが、確実な『とどめ』は一人として実行していなかった。
(`・ω・´)「そんな甘っちょろい心構えで戦場に出てくるとはな。
国王も盲目になったものよ。訓練のつもりだったか? えぇ?」
(;・∀・)「お……国王陛下は関係ない!」
(`・ω・´)「ある。王が気付いていなかったわけあるまい。
それでも、淡い期待を込めて送り出したのだろう。責任が伴う行為だ」
(`・ω・´)「だが、結果はどうだ? 私は今、殺されたかもしれないのだぞ?」
(`・ω・´)「私ではなく、別の人間であったなら死んでいたかもしれない。
そうなれば大きな喪失だ。鍛えた戦士を失うのだからな」
(`・ω・´)「わかるか? お前の言う『制圧』が招く結果がこれなのだ!
こんなものが、制圧行動になるわけがあるまい!」
(`・ω・´)「最も簡素でわかりやすい制圧とは、『敵の息の根を止めること』だ。
何故そんな簡単なことができん!?」
309
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 22:07:15 ID:xNGrs6b20
(;-∀-)「………………ぼくは」
(`・ω・´)「なんだ?」
(;・∀・)「…………」
言葉が出なかった。
何を言っても、きっと返される。
それは、モララー自身が誰よりわかっている。
(`・ω・´)「聞いてやる。言え。何故なんだ? あ?」
(;-∀-)「…………」
詰め寄られた顔をそっと押しのけ。
懸命の魔力で、掴まれた胸元の手を解く。
(`・ω・´)「はっ、言い返せもしないか。臆病者め!」
感情による反論をぐっとこらえ、モララーはマントを翻して歩き出す。
(`・ω・´)「このことは王にも報告するぞ。さぞや残念な顔をするだろうがな」
(`・ω・´)「はっはっはっはっ!」
(; ∀ )(…………くっ!)
モララーは逃げるように、青い色の魔法陣を発動させた。
光に体が消えていくその間も
周囲からの嘲笑だけは、ずっと耳に残っていた。
つづく
310
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/06(土) 22:08:00 ID:xNGrs6b20
中々、こいつマジでむかつくな……っていうキャラクターが作れなくて四苦八苦してます。
次回も予定通りに投下しますので、よろしくお願いします。
311
:
名も無きAAのようです
:2021/03/06(土) 22:40:41 ID:oNBg8PhE0
otu
312
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:26:01 ID:2vfxdqwE0
( ・∀・)「……」
その夜。
モララーは星の煌めく空を眺めていた。
風が強く、空気も薄い。
誰にも邪魔されることのない、自分だけしか居ないと思える空間。
そこは、城の最上部である、見張り台の更に上部。
屋根の上で風ではためく、NEET国の旗が飾られたポールの先に少年の姿はあった。
浮遊と足場固定の魔法を上手に使い、横なぎの激しい気流を物ともせず
ただただ座って虚空を眺めている。
彼の頭に反芻されるのは、戦場での出来事。
自分の甘さが招いた結果と、それを咎められたこと。
シャキンの態度に腹を立てたわけではない。
あの時、あの場においては彼の言動は正しかったと言えよう。
なのに、何故こんなにもやもやするのだろう。
お腹を摩ってみても、答えは見つからない。
( -∀-)=3「……はぁ」
悩んだところで、意味はない。
それを解消する手立てはあるのだが、踏み切れないのは自分の弱さ。
313
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:27:35 ID:2vfxdqwE0
沈む気持ちをため息に出してみたものの、わだかまりは解けない。
頭を思い切りかきむしり、髪がぼさぼさになるまで力を籠め続けた。
自傷行為で少しだけ落ち着いた心を取り戻すと、モララーは立ち上がる。
そして気配の遮断魔術を自分にかけた。
トンッとポールを蹴ると、甲高い金属音が空に溶ける。
見張りの人へ無駄な心配をかけぬように、真っすぐ急降下。
地面に向いていた頭をぐるんと回転させ、足を伸ばし
風魔法で重力と落下速度を相殺させ、ゆっくり着地した。
場所は、自室の窓枠。
施錠せずに出かけたので、そのまま楽に開けられた。
身体を屈ませて、柔らかなカーペットに足を落とす。
埃一つ立てずに受け入れた高級絨毯は、未だに彼の足には馴染まない。
モララーの自室は、城の一角に与えられた。
古い客室を、彼専用に仕立ててもらったのだ。
唯一の身内である親戚は、別に裕福ではなかった。
最低限の生活は保障されていたが、余裕とは無縁の世界。
だからこそ、落ち着かない。
無駄に装飾のされた部屋の照明も、艶やかに磨き上げられたテーブルも。
全身が溶けていってしまいそうなほど、ふかふかのベッドで眠ったことはまだない。
頭から肩まで覆える大きな羽毛枕と、薄いシーツを被って地面で眠るのがいつもの彼の就寝スタイル。
少しでも混乱した脳をすっきりさせようと、煩雑に置かれた寝具に手を伸ばした時だった。
314
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:28:41 ID:2vfxdqwE0
( ・∀・)(ん……?)
部屋の外に、誰かの気配がある。
それも二つ。
こんな夜更けに来る人物には、心当たりがない。
国王ならば『呼び出し』をするはず。
他にあるとすれば、清掃係の人だが……。
どうにも妙だ。
扉を跨いだ先に、じっと佇んでいる。
待ちくたびれているのか、爪先で地を叩く音も聞こえる。
何だろう、と思いつつ、敵意がないことだけは理解できる。
襲ってくるのであれば、もう少し上手に隠れるはずだから。
( ・∀・)(あ、そうだった)
忘れていた気配遮断の魔法を解いてみる。
すると、すぐにリアクションがあった。
「あれ? もしかして、もう部屋に居るのかな?」
「む? しかし、誰も通らなかったであるぞ?」
315
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:30:12 ID:2vfxdqwE0
「そうだけど……。うーん……。いや。やっぱり居るよ」
「おーい、レンデセイバーくーん! いるー?」
高い声と低い声。軽く戸をノックで叩く音もする。
障害物を挟んでいるため、くぐもって聞こえるそれには聞き覚えがあった。
( ・∀・)「どうしたんですか、こんな夜更けに」
ζ(゚ー゚*ζ「おお、やっぱり居た。
やあやあ、こんばんは。いつの間に帰ってきてたの?」
( ФωФ)「……こんばんは、である」
そこに居たのは、白魔術師のデレと聖騎士のロマネスクだった。
嘗六話「戦う理由」
316
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:31:15 ID:2vfxdqwE0
ζ(゚ー゚*ζ「はい、これ。お茶が好きって聞いたから。私と旦那からね。
初陣お疲れ様の労いの品です!」
( ФωФ)「……こっちは、衣類である。あまり替えを持っていないと聞いたので」
( ・∀・)「はあ、ご丁寧にどうも……」
香りの高い茶葉の詰め合わせと、仕立ての良いシャツを受け取りながら
モララーは戸惑いつつも、二人を迎え入れる。
何度か声をかけてもらったことがあるが、こうして面と向かって話すのは初めてだ。
部屋に客なんて招くこともなかったので、モララーは魔法で簡易ソファーを作った。
普段は使わない羽毛布団に、防水の魔術をかけて、水球を中に閉じ込める。
座れるように形成したそれは、柔らかく二人の腰を受け止めていた。
ζ(゚ー゚*ζ「あれ、何か飲んでたの?」
テーブルの上に置かれた、飲みかけの飲料物を見てデレが問う。
( ・∀・)「ああ、すみません。これは今朝のもので……。片付け忘れていました」
ζ(゚ー゚*ζ「そうなんだ。何を飲んでたの?」
317
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:32:54 ID:2vfxdqwE0
( ・∀・)「クレスト草の薬茶です」
( ФωФ)「クレスト草?」
( ・∀・)「はい、そうです」
ζ(゚ー゚*ζ「塗るのは聞いたことあるけど……飲むのは初めて聞いたなぁ」
( ・∀・)「すり潰して、高い温度で煎ずれば飲めるんですよ。
一種の着付け薬ですね」
ζ(゚ー゚*ζ「そうなんだぁ。今度試してみようかなぁ」
( ・∀・)「ええ。ちょっとコツが要りますけど、簡単ですよ」
( ФωФ)「……」
( ・∀・)「……」
ζ(゚ー゚*ζ「……」
( ・∀・)「……おっと。おもてなしもせず失礼。
頂いたお茶、煎れますね」
ζ(゚ー゚*ζ「あら、どうも」
( ФωФ)「かたじけないのである」
ポットを瞬時に洗い、お湯で満たす。
統一感のないカップを人数分揃え、お茶を濾す。
318
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:33:52 ID:2vfxdqwE0
ピーベリーという、柔らかく甘い桃のような香りの茶葉だった。
舌に触れれば、踊るような甘味が口全体に広がる。
( ・∀・)「……」
( ФωФ)「……」
ζ(゚ー゚*ζ「……」
普段口にしない茶に舌鼓を打っているが、会話は弾まない。
再び沈黙が訪れる。
薄暗い部屋の中で、時計の音だけがただ規則的に鳴り続けていた。
他愛もない会話をしに来たわけではあるまい。
遅い時間。
初陣の後。
報告内容は既に、城内へ知れ渡っていることだろう。
『期待の大魔術師』の戦果だ。誰もが興味を持ったに違いない。
普段では起こりえない、普通じゃない出来事。
関連付けるには、充分な理由だ。
ζ(-ー-*ζ「……ふぅ」
319
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:35:03 ID:2vfxdqwE0
デレが小さくため息をつく。
この均衡状態に、意味がないことはわかっていた。
最初から変な探りを入れる必要もあるまい。
目の前に座る少年の、何かを伺うような目線に観念したのだ。
ζ(゚ー゚*ζ「ねえ、レンデセイバーくん」
( ・∀・)「はい」
ζ(゚ー゚*ζ「今日、初めての実戦だったよね」
カップを両手で抱えるように持ちながら、優しい口調で話す。
( ・∀・)「……はい」
ζ(゚ー゚*ζ「どうだった?」
( ・∀・)「どう、とは?」
ζ(゚ー゚*ζ「そのまんまの意味だよ。
人生の初体験だもん、何も感じなかったわけじゃないでしょう?」
( ・∀・)「……」
ζ(゚ー゚*ζ「よかったら、聞いてみたいな」
( ФωФ)「……」
聖騎士の団長も、表情を変えずに聞きに徹している。
320
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:36:51 ID:2vfxdqwE0
( ・∀・)「……そうですね」
予想から遠くない内容の質問が出てきたので、モララーは動揺していなかった。
適当な嘘を述べることもできる。
大げさに話を盛って、落胆させることもできるだろう。
でも、何故だろう。
この人たちの前で、そんなことをするのは間違っている。
特別親しい間柄でもないはずなのに。
どうしてか、モララーは取り繕わずに口を開くことが出来た。
( ・∀・)「はじめ、国王陛下に命を下された時は、胸が躍りました」
( -∀-)「ああ、ぼくも遂に戦いの役に立てる時が来た、って」
( ・∀・)「学校での訓練とは違う。自分の意思、行動で全てが左右される戦の場。
そんな所に、自分も足を踏み入れるんだと思うと……」
( -∀-)「……なんだろう。ワクワク……うぅん……。ドキドキしていたのかな」
ζ(゚ー゚*ζ「うんうん。それで?」
( ・∀・)「一人で、拠点を制圧するように言われた時は、ちょっと驚きました。
そこまで任せてもらって、いいのだろうかって」
321
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:38:18 ID:2vfxdqwE0
( ФωФ)「それはシャキンの独断なのである。
力量があれど、新兵を一人で戦場に送り出すなんて、あってはならないのである」
( ・∀・)「ですよね。……でも、ぼくは抗議をしなかった」
( ・∀・)「だって、出来ると思ってしまったから」
ζ(゚ー゚*ζ「……」
( ・∀・)「敵の拠点を見つけ、どう攻め入ろうか考えました。
奇襲するのか、正面突破なのか」
( ・∀・)「探知魔術で、敵の数が思ったより多くないことがわかったので
結局、正面突破で行こうと決めました」
( ФωФ)(……報告書の通りなら
普通はあの人数を、多くないとは言わないのである)
( ・∀・)「相手が何をしてこようと、勝てる自信がありました」
( ・∀・)「見たことない剣術だったけど。知らない武器だったけど。
魔法……いえ、呪文ですら、ぼくより何もかも劣る連中だった。
だから、怖くなかったんです」
( -∀-)「……でも」
モララーは思い出す。
それは、初めて相まみえた『敵』の姿。
322
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:39:45 ID:2vfxdqwE0
必死の形相で、自分を殺しに来る異国の人間。
気が遠くなるほど積んだ研鑽の時間。いや、毎日サボってたかもしれない。
若い男性だけど、故郷には誰か好い人でも居るのだろうか。
そうでなくても、大事な家族が居たりするかもしれない。
共に汗を流し、涙を飲んだ盟友達と晩酌を交わす約束もしただろう。
ああ、何でもいいから早く戦いが終わらないかな。
何もかも面倒くさい、逃げてしまうか。
一人ひとり、背負う人生がそこにはある。
ぼくは今から、そんな『人間』たちの今日を終わらせるんだ。
( ・∀・)「そんな権利が、ぼくにあるのだろうか」
( ・∀・)「たかだか15の子供が、他人の人生を左右しても良いのか」
( -∀-)「覚悟をしてきたつもりだったけれど……」
( ・∀・)「そう思ったら、魔力を強く込められませんでした」
323
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:41:26 ID:2vfxdqwE0
( ・∀・)「結局、ぼくに出来るのは、敵を地に伏せることだけだったんです」
( ・∀・)「情けない話ですよね。
やろうと思えば、出来るはずのことをしないで。勝手にやり遂げた気になってたのに。
結果的に……誰も殺すことは出来なかった」
( -∀-)「殺すことが……怖かった」
それ以上の言葉を紡げなかった。
何を言っても、もう自分を庇護することしかできない。
( ФωФ)「なんとも、甘えた思想であるな」
だから、そう言われても納得しかできなかった。、
数多の戦を勝ち抜き、首を切り落としてきた聖騎士は続ける。
( ФωФ)「情けが仇。自分の逃した敵兵は、いずれ力をもって反逆してくるかもしれない」
( ФωФ)「戦場では死ななかった者が強者である。
運よく生き延び、それを繰り返すうちに強大な力を蓄えるやもしれないのである」
( ФωФ)「だから、反逆の機会を与えぬよう、敵意を持った戦士は余さず殲滅すべし」
( ФωФ)「闘技学校の出自ならば、当然習ってきたはずである」
( ・∀・)「……ええ、もちろん。習いました」
324
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:42:48 ID:2vfxdqwE0
拳を握りしめる。
当たり前のことだ。
我々は戦争をしている。
幼稚な陣取り合戦ではない。
殺せば勝てるし、殺さねば負ける。
戦場に身を置くものならば、誰もがわきまえている心構え。
けど……それでも。
( ・∀・)「学生時代に疎まれている時でも。
こうして皆さんに受け入れてもらえて、お城で暮らしている時でも」
( ・∀・)「ぼくは不思議と、誰かの姿を目で追ってしまう」
( ・∀・)「楽しそうにしている姿、泣いている顔。怒っている背中。楽しそうな足取り。
どんな背景があるのか、いつだって興味がわいてしまう」
( ・∀・)「……人間が、どうしても大好きなんです」
325
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:43:51 ID:2vfxdqwE0
( ∀ )「だから……」
人間一人だけで、どれほどの歴史があるのだろう。
誰と会って、誰と別れたのだろう。
何が好きで、何がきっかけでそれに興味を持ったんだろう。
色んな人の、色んな人生を考えるのが好きだ。
そんな色づく明日を止めてしまうような自分は……堪らなく嫌だ。
ζ(-ー-*ζ「……なぁんだ、そんなこと悩んでたんだね」
( ・∀・)
相槌を打って、子供をあやすように聞いていたデレが鋭い言葉を放った。
少年が抱える、一つの、大きな悩み。
『そんなこと』なんて片付けられるなんて、酷く失望する。
真剣に悩んでいることを、大人は馬鹿にしたがるかもしれない。
幼稚な問題なら、なおさらだ。
それでも、決定的な何かに踏み出せない障壁に変わりはない。
簡単にあしらわれるのは、いくらなんでも。
326
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:45:27 ID:2vfxdqwE0
ζ(゚ー゚*ζ「私だって、誰かを殺すことは今でも怖いよ」
( ・∀・)「え?」
( ФωФ)「吾輩もである」
(;・∀・)「え? え?」
予想しなかった言葉に、モララーは挙動不審になる。
そのまま、正論で言いくるめられるものだと思っていたから。
まさか、肯定されるとは思わなかった。
白魔術師のデレでも、武勲のある勇士ロマネスクでも。
殺人には抵抗がある……?
ζ(゚ー゚*ζ「いくら敵でも、殺す行為に何も感じないなんて。
そんな人は、滅多に居ないよ」
( ФωФ)「いるとすれば、頭のねじが外れた戦闘狂か。
もしくは、大義名分で感情を押し殺せる大英雄ぐらいなものである」
ζ(゚ー゚*ζ「多少の慣れはあるけどさ。何も感じないって言えば嘘になっちゃうかな」
(;・∀・)「……そう……なんですか」
ζ(゚ー゚*ζ「私ね、今年で3歳になる娘がいるの」
( ФωФ)「吾輩は息子が」
327
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:47:12 ID:2vfxdqwE0
それぞれが、大事そうに持っていたロケットペンダントを見せてくれる。
ぷっくりとした顔の幼児、無邪気に笑う女の子。
二人とも、どこか親の面影がある。
ζ(゚ー゚*ζ「戦いがつらくなった時は、いつもこの子のこと思い出すの。
私がここで踏ん張らなきゃ、この子たちの未来が無くなってしまう、って」
( ФωФ)「相手も、同じことを抱えているかもしれないのである。
けれど、それを考え始めてしまえばキリがないのである」
( ФωФ)「そうなると、もう後に残るのは己が掲げる『正義』のみ」
( ФωФ)「生き残った方が、正しいと証明する」
( ФωФ)「誰かの為ではなく、自分自身の為に。我々は戦うのである」
( ФωФ)「自分たちの未来は、そうやって築いていくしかないのであるよ」
ζ(-ー゚*ζ「ま、うちの旦那みたいに、難しく考えるのをやめる人も居るけどね〜」
( ФωФ)「ミルナは、先ほど言った戦闘狂に片足を突っ込んでいるのである」
ζ(゚ー゚*ζ「でしょうね。だから不用意に敵陣へ突っ込んでケガしちゃったんだけど」
( ФωФ)「間抜けなのである。この場に居ないことを後悔すべきなのである」
328
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:48:46 ID:2vfxdqwE0
( ・∀・)「……」
( ∀ )
ああ、凄いな。この人たちは。
きっと、本当にたくさんの死体の山を作ってきたんだろう。
その度に、悩んだに違いない。
でも、守るべきものがあって、
それを失いたくない。
だから、戦う。
強い信念を持って生きている、本物の『戦士』なんだ。
モララーの視界が薄く滲む。
感銘を受けただけではない。
……悔しい。
自分も、その領域に入れるだろうか。
不安だらけだ。
今でも相手のことを考えないなんて、出来る気がしない。
理性の箍を外す器用な真似も出来るはずもない。
329
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:50:20 ID:2vfxdqwE0
けど。
それでも。
誰かのためじゃない。
自分の為に……!
( ∀ )「……ぼくも」
ζ(゚ー゚*ζ「ん?」
( ФωФ)「なんであるか?」
( ・∀・)「ぼくも、あなた達みたいな……立派な戦士になれるでしょうか?」
月明かりが部屋を照らす。
深く沈んだ気持ちを払拭するように、瞳に光が灯る。
330
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:51:32 ID:2vfxdqwE0
まだ年若い少年。
背負うには重すぎるかもしれない。
いつか重責に潰されるかもしれない。
しかし、それでも大人たちはあえて言う。
ζ(^ー^*ζ( ФωФ)「もちろん(である)」
少しでも先達の威厳を、若者の未来を明るく照らすため。
大きく頷きながら、返事をしてくれた。
つづく
331
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:52:51 ID:2vfxdqwE0
おまけ
ζ(゚ー゚*ζ「というか、モララーくんなら私たちより、ずっと凄い魔術師になるよ」
( ФωФ)「間違いないのである。
現時点でモララー殿の魔術は、近衛階位の人たちですら恐れているのである」
(* ・∀・)「そ……そうです……か?」
ζ(^ー^*ζ「やだー、照れちゃって。可愛い!
よーし、元気出てきたなら、もうちょっとお話しようか!」
( ФωФ)「では、今後のことを考えて海上決戦の戦術理論でも……」
ζ(゚ー゚*ζ「ロマネ君、そんなクソつまんない話で夜を更けさせるつもり?」
(;ФωФ)「クソつまんないとは失礼である! 大事な知識なのであるぞ!?」
( ・∀・)「……そういえば、お二人はやけに仲が良いですよね」
ζ(゚ー゚*ζ「ああ、うん。幼馴染だからね」
( ФωФ)「実家は共にVIP街なのである」
( ・∀・)「へー……どの辺ですか?」
ζ(゚ー゚*ζ「うわ、地図も投影できるんだ? キミ、本当に凄いね」
( ФωФ)「吾輩の家は……ああ、そこ。その家である」
332
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:53:49 ID:2vfxdqwE0
ζ(゚ー゚*ζ「私の家はそっちの方。ね、結構近いでしょう?」
( ・∀・)「凄いなぁ、お二人とも一等地じゃないですか」
ζ(゚ー゚*ζ「でしょう? 頑張ってるんだよ、これでもね。
そうだ。モララーくんのおうちはどこなの?」
(;-∀-)「……あぁ……ぼくは……えー……」
( ФωФ)「……デレ」
ζ(゚ー゚*ζ「ごめんごめん。ね、ね。
ロマネ君の奥さんって、どんな人だと思う?」
( ・∀・)「え? うーん…………何となくでいいですか?」
( ФωФ)「言ってみるのである」
( ・∀・)「背が高くて……髪が長くて……ちょっと冷たい感じの綺麗な人……?」
ζ(゚ー゚;ζ「え、もしかしてモララーくんてば、読心魔法使えるの?」
( ・∀・)「あはは、まさか」(今は使ってないですけどね)
( ФωФ)「まさに、そのまんまの人である」
ζ(゚ー゚*ζ「今は休暇を取って、お子さんの世話してるんだって。
いずれは、どこかで会えるかもね」
( ФωФ)「……いずれ、であるか」
ζ(゚ー゚*ζ「どうしたの、ロマネ君」
333
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:54:53 ID:2vfxdqwE0
( ФωФ)「いずれの話であれば。このまま戦争が長引けば
いつか吾輩たちの息子たちも、戦に出なくてはならないのかもしれない」
( ФωФ)「そんな時……吾輩たちは何が出来るのか……少し不安である」
ζ(-ー-*ζ「……そうだね。まともでいられるか、自信がないね」
( ・∀・)「……ぼく、お二人のお子さんたちと、いつか話をしてみたいです」
( ・∀・)「お二人の住む、VIP街で」
( ФωФ)「!」
ζ(゚ー゚*ζ「!」
ζ(^ー^*ζ「そうね。あなたみたいな子なら、ぜひ友達になってあげて欲しいな」
( ФωФ)「吾輩も同じ気持ちである」
( ・∀・)「ええ、楽しみにしてます」
( -∀-)(……そのために。ぼくは、もっと頑張ろう)
冷めたお茶を一気に飲み干したモララーは、心の中で強く誓った。
334
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/13(土) 21:56:00 ID:2vfxdqwE0
以上です。
花粉と忙しさで最近は時間がとりにくいので、書き溜めしておいてよかったと心の底から思いました。
次回もまた土曜日を目途に投下します。
335
:
名も無きAAのようです
:2021/03/14(日) 00:50:25 ID:UxSEJL/U0
乙です
336
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/20(土) 20:57:47 ID:eAJ/Jxuk0
嘗五話「城の地下深く」
(;-∀-)「……ッ!」
手が止まる。
高速で突き付けた貫き手。
魔力による硬度の上昇、鋭利さの増幅。
一たび触れれば、絶命は免れない必殺の一撃。
あと少し肘を伸ばせば。あと少し膝を踏み込めば。
その絶対的破壊力を持つ複合魔術攻撃は意味を成すはずだった。
だが……出来ない。
あるの夜、デレやロマネスク達から、戦士の本当の声を聞いた。
誰だって、悩んで、苦しんで、それでも尚歩んでいる。
自分も、そうなりたい。そうありたいと望んだ。
踏ん切りのつかない覚悟は、一瞬の隙を生み出す。
ラウンジ大陸の戦士は、生への諦念を瞬時に切り替える。
握っていた刀の柄をより一層強く持ち、敵呪術師の首を撥ねるため
決死の形相で挑んだ。
しかし、そこで意識は途絶える。
貫き手から、掌底へ変化していたモララーの手。
胴に突き付けられた途端、圧縮された風の魔法が背まで貫通するほど
激しく穿たれたのだ。
337
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/20(土) 20:58:45 ID:eAJ/Jxuk0
(;・∀・)「はぁ……はぁ……」
いつもそうだ。
もう今日で、何度目の前線だろう。
季節は既に夏を迎えていた。
戦闘力の高さだけは、間違いなく認められている。
故に、彼が拠点や敵の急襲を防ぐ場合、常に一人で実行していた。
実際、他の魔術師が居たところで連携が取れるわけでもない。
モララーに協調性がないわけではなく、比肩する人間が居ないからだ。
合わせようとすれば、それだけ能力を落とさなくてはならない。
モララー=レンデセイバーという、唯一無二の切り札を十分に使うにはそれしかなかった。
/ ,' 3「ふぅむ……」
戦果報告を聞いていたスカルチノフ国王は、小さく唸った。
これ以上は、もう危険だ。
そう判断しかけている。
338
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/20(土) 20:59:46 ID:eAJ/Jxuk0
初陣後から今まで、それなりの時間が経った。
しかし、戦況は変わっていない。
迎撃ばかりで、水際の戦いを制しているだけ。
攻めの一手を、決めあぐねている。
もうそろそろ、ラウンジ側も気付いているだろう。
敵大陸に、異様なほど強力な呪術師が居る、と。
戦後処理を行ってはいるが、モララーの現状であれば
生き残りが居てもおかしくはない。
大陸中に知れ渡っている可能性もある。
/ ,' 3(彼が後れを取るとは思えぬが……)
力を持たない蜂が、強大な敵に向かって群れで襲い掛かることがある。
たった一匹の害虫を倒すためだけに、無数の命を賭して勝利をつかむ。
これは飽くまで昆虫の話だが。
ラウンジ大陸の人間たちに、似たきらいがあるのは良く知っていた。
もしかすると、もしかするかもしれない。
339
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/20(土) 21:00:58 ID:eAJ/Jxuk0
モララーを、ただ処分するためだけに想像を絶する軍を率いるかもしれない。
絡め手の可能性もある。
打開する方法としては、ただ一つ。
モララーを主軸に、一点突破でラウンジ大陸の中枢を目指す。
迎撃部隊をすべて殲滅し、戦力を大幅に低下。
そして、大陸の中心人物であるラウンジ王を降伏させる。
それだけだ。
/ ,' 3(しかし、今のモララーくんでは絶対に出来ぬ作戦じゃな)
一点突破までは良い。
だが、問題はその後だ。
彼の進む先進む先で、兵をいちいち捕縛していてはキリがない。
反逆でもされれば、懐から痛手を受けてしまう。
340
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/20(土) 21:02:15 ID:eAJ/Jxuk0
また、消耗の多さも問題だ。
敵を殺さないというのは、繊細な手加減が必要な行為。
若さゆえの回復力をもってしても、連戦の期間はどうしても長くなってしまう。
/ ,' 3(…………)
出来るならモララーの意思を尊重したい。
まだ大人になれていない少年の、白いキャンバスを汚す行為を
大人たちが勝手にしていいわけがない。
だが、このままでは意味がなくなる可能性もある。
せっかく掴んだ好機を、いつ再来するかわからないこの時を
手放して良いものなのか。
(;`_L')「国王陛下!」
自室に慌てた様子で、近衛騎士フィレンクトが入ってきた。
/ ,' 3「どうした」
ノックすらせず入ってきたことで、火急の用であることがわかる。
無礼を咎めもせず王は先を促す。
(;`_L')「ニメア地区が陥落しました」
/ ,' 3「なに?」
341
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/20(土) 21:03:39 ID:eAJ/Jxuk0
それは、大陸の海岸部の一つ。
攻め入られれば、敵側にとってかなりの優位を取れる拠点。
だからこそ、過剰なほど強力な部隊を編制していた。
白や黒の階位は当然、聖の階位級の騎士と魔術師を
通常の部隊の数倍は揃えていた、強固な守りの最前線が。
/ ,' 3「……生き残りは?」
(;`_L')「小隊の被害は未だ完全に把握できていません。
推定では六割ほど死傷者がいるそうです」
/ ,' 3「六……!?」
部隊の全滅を優に超える数だ。
そこまでしてでも食らいついた彼らを褒めてやりたい。
逆に、そこまでするほど恐ろしく強い敵がいる証明にもなっている。
/ ,' 3「聖騎士と聖魔術師は誰が残った?」
(`_L')「ロマネスク団長のみです。
ただ、彼も重傷を負っていまして……」
/ ,' 3「ふぅむ……参ったのう」
次から次へと問題ばかり。
スカルチノフ国王は頭を抱えて、目を閉じた。
342
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/20(土) 21:05:00 ID:eAJ/Jxuk0
/ ,' 3(……やはり……荒療治しかないかの)
やりたくない、やらせたくない、奥の手。
望まないことだろう。
だが誰かが手ほどきをするのであれば、責任を擦り付けられるかもしれない。
それで、彼の心が少しでも軽くなるのであれば僥倖だ。
/ ,' 3「フィレンクトよ」
(`_L')「はっ」
/ ,' 3「近衛の者たちを集めてくれ。完全武装をさせてな。
準備が整ったら……『常闇の間』へ行くぞ」
(;`_L')「は? な、なぜ今……?」
/ ,' 3「理由は追って話す。
あまり時間がなさそうじゃ。やるしかない時が来たんじゃよ」
(;`_L')「……かしこまりました。通達致します」
343
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/20(土) 21:06:00 ID:eAJ/Jxuk0
反論しようとした近衛騎士フィレンクトは、それを黙って飲んだ。
国王がここまで決意をもって命を下すのだ。
よほどの理由がなければしない。
信頼と不安の入り混じった感情を抱え、騎士は部屋を足早に立ち去った。
――。
(;メω-)「……」
(;・∀・)「ロマネスクさん……」
医務室。
激しく負傷した聖騎士団長が、ベッドで浅い息をしたまま眠っている。
いつもは巨大な体も、小さく見えてしまう。
無数の切り傷は包帯とクレスト草の薬液で手当てされているが
癒えるのには時間を要するだろう。
ここまで酷い状態だと、回復魔法を使う方が危険だ。
あれは飽くまで、自身の代謝を促進させて行うもの。
低下した体力の相手に使えば、生命そのものを脅かしかねない。
344
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/20(土) 21:07:07 ID:eAJ/Jxuk0
何も出来ないことに、モララーは歯がゆさを覚えながらも
にじみ出ているロマネスクの脂汗を拭った。
たまに、うわ言のように何かを呟いている。
直前の戦闘の状況が、フラッシュバックしているのだろうか。
(;メω-)「ぶすだ……どく……お……ヤツは……吾輩が……」
(;・∀・)「ぶすだドクオ……?」
ζ(゚ー゚*ζ「聞いたことあるよ。『悪鬼』って呼ばれているラウンジの武士だね」
武士とは、VIP大陸で言う騎士の階級。
少し前から話題になっていた、『悪鬼』の通称。
一振りで幾人もの人間を切り伏せる、恐ろしい腕力と技術。
血の海と死体の山を、怯みもせず歩み続ける恐ろしい形相と姿から
そんな通り名で呼ばれるようになったそうだ。
( ・∀・)「そんな危険な敵が……」
看病に来ていたデレが、額に被せていた濡れタオルを取り換える。
ラウンジ側にも、恐ろしい殲滅能力を持った戦士がいるのか。
モララーは少し恐怖を覚えた。
345
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/20(土) 21:08:03 ID:eAJ/Jxuk0
/ ,' 3「モララーくん」
ζ(゚ー゚*ζ「国王陛下!」
医務室に突如現れたスカルチノフに、周囲の人間は驚く。
後ろには護衛の近衛騎士と魔術師が、仰々しく武装して立っていた。
( ・∀・)「どこかへ向かうのですか?」
/ ,' 3「うむ。城の地下へ行くんじゃ。キミもな」
( ・∀・)「ぼくも?」
言っていることがさっぱりわからない。
状況を鑑みても答えが出ないが、敬愛する王の命令だ。
モララーはおずおずと、強張っている王の顔を見て頷いた。
―――――NEET城の地下。
城の地下には、食糧の保管庫や訓練所、牢獄などがある。
暴徒が拘留されている危険地域を除き、誰もが行き来できる場所。
大陸最大の規模を誇る、NEETであっても特に他所との変わりはない。
346
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/20(土) 21:09:18 ID:eAJ/Jxuk0
/ ,' 3「というのは、建前じゃ」
近衛騎士の鎧が擦れる金属音の響く地下階段を下りながら
スカルチノフは続ける。
灯りを持たなければ、足元も覚束ない螺旋状の階段の先には何があるのか。
/ ,' 3「キミが生まれる前のことじゃ。
王都に、一人の魔術師が現れた」
/ ,' 3「その男は、あらゆる魔術を使いこなし
誰にも負けないほど強大な魔力を内包していた」
/ ,' 3「まるで、誰かさんのようじゃな」
( ・∀・)「……」
/ ,' 3「じゃがの……キミとの大きな違いが一つあったんじゃ」
/ ,' 3「その男は、『禁術』に狂っておったんじゃ」
( ・∀・)「禁術……?」
魔術師ならば知らないわけがなかった。
禁術とは、過去の偉人たちが生み出し、そして封印した特殊な魔術のこと。
347
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/20(土) 21:10:40 ID:eAJ/Jxuk0
何故そんなことをしたかと言えば、それは世界の均衡を崩しかねない力を持つから。
また、他でもない術者本人に多大な影響を及ぼすものが大半なのだ。
/ ,' 3「魔力増幅、精神操作。まさに、何でも有りじゃった」
たまたま、スカルチノフがその脅威を看破できた。
周りの人間には、その狂気が何も見えていない状態だったらしい。
放置すれば、国家そのものが転覆していた可能性すらある。
/ ,' 3「ワシらは処刑を試みたんじゃが……結局できたのは、捕縛のみ。
殺すことすら適わぬほど、ヤツはあまりに強大で……狂気に満ちておった」
( ・∀・)「……つまり」
地下牢の更に奥。
封印魔術で隠蔽された扉の先。
誰もが知っている場所の、誰も知らない場所。
今歩いている、この階段の先にあるもの……いや、居る人物。
/ ,' 3「そやつの名は、ハインリッヒ=ボンデリンク。『白炎(ばくえん)』とも呼ばれておった」
/ ,' 3「長いVIPの歴史の中でも、おそらく最大にして最恐の魔術師じゃ」
348
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/20(土) 21:12:49 ID:eAJ/Jxuk0
スカルチノフの魔力にのみ反応する、重く硬い鉄の扉が開く。
大声を発しても吸い込まれそうなほど、広大な空間が目の前に飛び込んできた。
淡く黄色い魔法陣が、石畳の上に描かれている。
光源はそれだけ。
天井は暗くて何も見えない闇だ。
『常闇の間』と呼ばれる所以だろう。
そんな無駄ともいえるほど広い部屋に一つ。
ぽつんと、一つだけおいてある椅子があった。
从三//从
座っているのは、やけに細身の男性。
全身を包帯のようなもので捕縛されていて、顔どころか足の指すら見えない。
衣服を纏っているが、経年劣化でボロボロになっていた。
( ・∀・)「この人が……ハインリッヒ=ボンデリンク」
/ ,' 3「第零式帯状封印装具で押さえつけておるが……。
この数十年、水すら与えておらぬのに、こやつはまだ生きておる」
349
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/20(土) 21:14:07 ID:eAJ/Jxuk0
第零式帯状封印装具とは
ありとあらゆる魔力や魔法を封じ込める帯の形をした、魔術装具だ。
通常の魔術師ならば、何も出来なくなる。
魔法を使うどころか、魔力そのものを吸い上げるので、戦うことすらままならなくなる。
そのはずなのだが……。
/ ,' 3「何かしらの禁術を使っておるんじゃろう」
呼吸をしている様子もない。
だが、その体に触れるとわずかに温かみがある。
このまま処刑をしようにも、第零式帯状封印装具は魔法を受け付けない。
かといって、物理的に攻撃し、装具が損傷すれば封印効力が無くなってしまう。
その隙に、何かしらの手段で逃げ出すかもしれない。
結局のところ、捉えたまま寿命で死ぬのを待つしかなかった。
それがいつになるのか、皆目見当もつかぬまま、今日を迎えているわけである。
( ・∀・)「国王陛下」
モララーがスカルチノフに向き合う。
( ・∀・)「ぼくを連れてきた理由を教えてください」
わかっている。
予測は出来ている。
それでも、口にしてもらうまでは、逃げたかった。
350
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/20(土) 21:15:27 ID:eAJ/Jxuk0
/ ,' 3「うむ」
/ ,' 3「大魔術師、モララー=レンデセイバーよ」
国王はモララーの目を見た。
恐怖と不安、けれど希望を忘れていない純粋な瞳。
この真っすぐな少年の顔を、自分が曇らせることになる。
負い目と申し訳なさと。
やらなくてはならない責任を込めて、告げる。
/ ,' 3「ハインリッヒ=ボンデリンクの『処刑』をお主に命ずる」
モララーの胸に、鉛のような重さが圧し掛かった。
つづく
351
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/20(土) 21:16:53 ID:eAJ/Jxuk0
思ったより短くなってしまいましたが
ここらへんがちょうど区切りが良かったので今週はここまです。
また来週も忘れず更新したいです。モンハンの誘惑に負けないように
352
:
名も無きAAのようです
:2021/03/20(土) 21:52:03 ID:/NdRoR5I0
おつでさ
353
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:01:52 ID:24JaPgZA0
(;-∀-)「……処刑、というのは」
脂汗を流しながらモララーが聞く。
/ ,' 3「殺すんじゃ。キミの手で」
逃げの口実を作らないため、スカルチノフは強く答えた。
(;・∀・)「ぼくでなければ、ダメなんですか?」
/ ,' 3「キミでなくては出来ぬことじゃ」
ハインリッヒに対し、後れを取ることなく戦えそうな魔術師には
今まで出会ったことがない。
実力を目で見ているスカルチノフも、
護衛に来ていた近衛級戦士達も、みなが同じ答えだった。
他に出来る人はいない。だから、一任する、と。
(;・∀・)「なぜ、今ここで?」
/ ,' 3「戦況を考えてのことじゃ」
/ ,' 3「キミは、殺人を異様なほど恐れておる」
354
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:03:39 ID:24JaPgZA0
/ ,' 3「立派な志じゃ。その生き方を否定はせぬ。
じゃが人を愛しむが故、結果的に大きな足枷になってしまっておる」
/ ,' 3「このままでは、キミの戦術的価値が無くなってしまう」
/ ,' 3「そうなる前に、命を手にかけることを覚え
戦場でその経験を発揮してほしい。そう思ったんじゃ」
/ ,' 3「さすれば、キミは世界を薙ぐ大いなる『風』になれるじゃろう」
(;-∀-)
モララーの心境については、とっくに聞いていた。
直接相談を受けたことはなかったが、何かしらの方法で力になろうと尽力していたのだ。
結果的に、どうしようもなかった。
ただただ時間と戦況だけが流れていく一方。
戦争を終わらせるきっかけには、到底なりえない状態。
/ ,' 3「命に優劣などないと思っておるが……。
こやつは特別じゃ。この世にあってはならぬ存在。
災厄をまき散らす、悪夢ような男なのじゃ」
/ ,' 3「ゆえに、遠慮は無用。気おくれもする必要はない。
ワシの命もある。何も考えず、ただ刑を執行してくれれば良い」
/ ,' 3「出来るな?」
355
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:05:01 ID:24JaPgZA0
スカルチノフは、震えるモララーの肩に手を置く。
黒いマントの上からではわかりにくかったが、その手はじっとり濡れていた。
優しく、諭すように語り掛ける国王自身も。それが本心ではないことが伝わる。
でも、それでも。
一国の王は、一人の将は部下に対し、非常な命令を下さなくてはならない。
わかってる。
ならば、応えることこそが、今の自分の存在意義。
重く深くため息をつき、モララーは目を伏せながら短く答えた。
(; ∀ )「はい」
――――。
部屋には、モララーと死刑囚のみが残された。
重たい封印扉の先には、スカルチノフが待機している。
356
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:06:39 ID:24JaPgZA0
/ ,' 3『準備は良いかね、モララーくん』
( ∀ )『……いつでも』
戦いが始まれば、こうした壁越しの魔術会話もできなくなる。
部屋の一帯に、近衛魔術師達が強力なスペルキャンセラーの結界を幾重にも貼るからだ。
城へ被害を出さないための策である。
それでも、彼ら二人が本気でぶつかり合えば、無事で済むかの保証はない。
もし、戦の気配が収まり出てくるのがモララーでなかったら?
想定したくない未来のことを、懸命に振り切りスカルチノフは命令を出す。
/ ,' 3『では、始めよ!』
部屋全体が、無色の魔法陣で覆われた。
同時に、足元に発していた黄色い光が失われる。
( ・∀・)「……!」
遅れて起こった変化は、上空からだった。
何かが落下してきている。
鈍い色を放つ、刃のように薄い金属がハインリッヒに目掛けて落ちてきたのだ。
それはけたたましい音を立てて椅子を破壊する。
木屑が舞い、石に硬い物質が到達した鋭い衝撃音が空間に満ちていった。
357
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:08:10 ID:24JaPgZA0
(;・∀・)
モララーは構える。
何が起こったのかはわからない。
ただ、その金属物質が零式封印装具を解いたことだけは、本能で理解できた。
異常は既に始まっている。
椅子を失ったはずのハインリッヒは、変わらぬ姿勢で宙に浮いているのだ。
ミシミシという軋んだような音が、今度は鳴り出した。
从三//从
从 ゚//从「…………あ?」
(;・∀・)「ッ!!!」
スペルキャンセラー、レベル10.
最大出力のそれを、モララーは瞬時に放つ。
目の前のそれは、次の瞬間にはガラスが砕けるように消え去っていた。
从 ゚//从「おーおー。なんだァ……今のを防げるんかよ……?」
358
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:09:16 ID:24JaPgZA0
男は、ゆっくりと立ち上がった。
放ったのは、高速で強固な精神汚染魔術『ペルドローレ』。
対象を傀儡と化し、意のままに操る闇の禁術だ。
かつて自分と対峙し、正面からまともにかき消せる者は居なかった。
驚きながらも、楽しそうにハインリッヒは肩を揺らす。
从 ゚∀从「どーやら、面白そうなヤツが居るみてェだな……おい」
口元に残った封印装具を取ると、『白炎』は鋭い歯を見せて不気味に笑った。
/ ,' 3「始まったか……」
近衛魔術師達が、足を踏ん張る。
結界に何かしらの魔法がぶつかったのだろう。
常時スペルキャンセラーを使用するのは、並大抵のことではない。
それでも、他の手段がないという王の命と自分の力量を信じた。
359
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:10:45 ID:24JaPgZA0
時折、地面が激しく揺れる。
完全にかき消せなかった魔法のせいか、はたまた何かの衝突か。
中の様子はわからない。
不測の事態に備えて、近衛騎士達も万全の準備をしてある。
どう転ぶか、予想は誰にもできなかった。
楽観的に考えても、モララーが完全勝利できるかは五分五分だ。
魔術師としては、モララーに分があるかもしれない。
しかし、それ以上に危うさを持っているのがハインリッヒ。
下手をすれば国が傾く危険な賭け。
成功すれば、得る物は大きい。
ここで天を味方に出来ずして、長年の戦に終止符を打つことなどできやしないだろう。
スカルチノフ国王は胸に手を当て、ただただ孫の生還を待つこととした。
从 ゚∀从「ギガブラスト! ブラックフォトン!」
( >∀・)「ぐっ!?」
無属性魔法の巨大な爆破力を生む魔術、ギガブラスト。
通常は魔法陣が発生し、それを起点に爆発を巻き起こすもの。
だが、ハインリッヒは小さな光球に変化させて、それを黒い波動魔法で起爆。
目の前で黒煙と共に強い衝撃波が巻き起こる。
360
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:12:09 ID:24JaPgZA0
( -∀・)「エルメス(脚力強化)、ヘラクレス(身体強化)……」
( ・∀・)「プロミネンス!」
高速で距離を取る。
石畳がへこむほどの脚力で後退すると、同時に火炎の上位魔術を放った。
从 ゚∀从「ふゥむ」
ハインリッヒは避けようともせず、迫りくる巨大な火球に手を差し伸べる。
普通なら炸裂し、火柱があがる魔術なのだが
まるで鳥が木に止まるように、ふわりと空中で停止する。
从 ゚∀从「良く練られた魔力量だ。お前……相当な使い手だな?」
(;・∀・)「……」
从 ゚∀从「見たとこ、ガキみてェだが……。末恐ろしい魔術師が出てきたもんだよ」
(;・∀・)「……な!?」
言いながらハインリッヒは空いた手で火球を挟み込む。
すると、見る見るうちにそれは小さく縮んでいった。
从 ゚∀从「『圧縮(コンプレス)』ってんだ。ちょいと力のいじり方を間違えると
一瞬でドカーン! な、おっそろしい魔術だよ。教科書には載ってなかったろ?」
クハハ、と楽し気に笑う。
从 ゚∀从「そーら、おめえのモンだよ。返すぜ!」
361
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:13:45 ID:24JaPgZA0
(;・∀・)「うわっ!?」
振りかぶって返された火炎魔術は、足元で炸裂すると
黄色の薔薇が高速で伸びてきた。
火炎魔術として返したはずなのに、それは封印魔術スペルシーラーとして発動したのだ。
(;・∀・)(なんだ……どうして、そんなことが?」
空中で切り返し、何度も跳躍して躱す。
モララーは防戦一方だった。
今までの魔術師と、何もかもが違う。
敵の呪術師の中にも、こんな理屈を超えた魔法が使える人は居なかった。
从 ゚∀从「気になるか? 気になるよなァ。禁術ってのは、そういうことなんだよ」
从 ゚∀从「お前ら魔術師達はお行儀よく、伝わってきた魔法しか使わない。
だから、攻め方もワンパターンなんだ。
つっても、オレだって新しい属性魔法を編み出せるわけもねえ。
そんなもんが出来たら、それこそ神様だからな」
( ・∀・)「!」
いつの間にか周りを氷の刃で囲まれていた。
モララーは即、スペルキャンセラーを発動してその猛攻を防ぐ。
从 ゚∀从「だが、悪魔になることは出来る。
理を超えた術式で、新しい一手を組むんだよ。
そうすりゃ勝手に道は開けるんだぜ」
362
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:15:07 ID:24JaPgZA0
二重詠唱を始める。
土魔法のガイアクエイクで、辺り一帯の地面を隆起させる。
視界を奪うと同時に、浮き上がった石の塊を凍結。
しばらくは動けないはずだ。
魔法とのリンクを立ち、更に追撃。
片手を大きく上に掲げ、魔力を込めた。
( ・∀・)「彼方より召還せし 無垢にして強固なる破壊神」
足元に橙色の魔法陣が発生した。
力強い気流が発生し、モララーの外套を激しくはためかせる。
( ・∀・)「響かせよ無の螺旋律!」
掲げた手を握りこみ、もう一つの広げた手のひらへ
目の前で激しく打ち付けた。
( ・∀・)「グランドエクスプロード!!」
発声と同時に、前方に七つの魔法陣が高速で浮かび上がる。
激しく発光すると、それは瞬間的に強大な爆発を生み出した。
爆破は連鎖すると、ねじれる様に一つの塊となり
激しい破壊のエネルギーフィールドを生み出す。
これが無属性の大魔法、グランドエクスプロードだ。
あらゆる大魔法の中で、殲滅力ならば随一。
確実に相手の命を奪う強烈な攻撃魔法だ。
炸裂すれば、塵一つ残らない。
363
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:16:53 ID:24JaPgZA0
从 ゚∀从「……ふぅ〜〜。やァれやれ……」
はずなのに。
(;・∀・)「な……!?」
めんどくさそうに、耳に小指を突っ込みながらその男は出てきた。
囚人用の簡素な衣服。
魔術防護もされていない粗末な着物に、焦げ一つつけず。
何も受けなかったかのように、涼し気な顔で歩いているのだ。
(;・∀・)「グランドエクスプロードを……防ぐなんて……」
从 ゚∀从「あァ。悪いな。手ェ抜いてるもんだから、無効化させてもらったわ」
( ・∀・)「なんだって……?」
指先に付いた耳垢を吹き飛ばしながら、ハインリッヒは続ける。
从 ゚∀从「さっきも言ったが、お前の魔力は凄ェよ。滅多にみられるもんじゃねえ」
从 ゚∀从「だが、決定的に足りねえもんがある。そこら辺の雑魚ですら持ってそうなもんだ」
(;・∀・)「!」
从 ゚∀从「『殺気』がねェんだよ。殺す気が無えから、魔法の威力も自然と落ちる」
从 ゚∀从「いやー、全く困ったもんだね。こんなルーキーをオレに差し向けるたァ
スカルチノフは、イカれちまってんのか?」
364
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:18:36 ID:24JaPgZA0
(;・∀・)「違う! おじい様はいつも正しい判断をしてる!」
語気を強くする少年の言葉がおかしくて、死刑囚の男はゲラゲラ笑う。
从 ゚∀从「なんじゃそりゃ。じゃーなんでオレは殺されねェ?
自分と同レベルの魔術師相手を前に、なんであくび混じりなんだよ?」
(; ∀ )「それは……!!」
呼吸が浅くなる。
ハインリッヒに反論しようとするが、上手く言葉が出てこなかった。
从 ゚∀从「殺すのが怖ェくせに、『敵』の前に立つんじゃねえよ!」
片手で闇の波動魔術を放つ。
モララーもカウンターで、同じ魔術を使って反発させた。
从 ゚∀从「よォやく封印が解けて、また暴れられると思ったのによォ!
おめーみてェな甘ちゃんが相手じゃ、食いごたえがねえってもんだ!!」
更に重ねて、両手で相手を押しつぶしにかかる。
負けじとモララーが、足を踏ん張り同じ格好で耐える。
从 ゚∀从「なァ! 名前も知らない坊主! お前、何がしてーんだよ!?」
从 ゚∀从「死刑囚の処刑も出来ないほど、腰の抜けたおめーに何が出来るんだ!?」
(;・∀・)「ぐぅうう……!!」
モララーは押され始めていた。
ハインリッヒが言うように、彼の魔力は決して劣っていない。
こうして、足を踏ん張り腰を入れて魔術を放たないと、撃ち負けるそうになるなど
あり得ないはず。
365
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:20:00 ID:24JaPgZA0
だが、それでも彼は押されていた。
理由はただ一つ。
この目の前にある、黒光粒子砲魔術ブラックフォトンが直撃すれば
命を奪ってしまうかもしれないからだ。
当然、ハインリッヒはそのつもりで撃っている。
だが、モララーは違った。
手繰る魔力を繊細に調整し、死に至るほどの威力にならぬよう加減をしているのだ。
何故、今になっても尚そうするのか。
相手が傍若無人の犯罪者と知っても、不殺を貫くのか。
(; ∀ )(そんなこと……もう、ぼくにはわからない……)
幾度も出た戦場の最中。
敵も味方も、本当に必死で戦っていた。
力の弱い、強いは関係ない。
ただ、己が命を果たそうと命を懸けて散り、また、武勲を立てていた。
366
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:21:12 ID:24JaPgZA0
何故、自分には出来ないのだろう。
何度も自問した。
回を重ねるにつれ、それはもうしがらみのように心を縛り。
いつしか、どこかで彼の『当たり前』になってしまっていた。
習慣のように、人を殺せない。
小さな光線魔術で、額を打ち抜くという動作を試みたとして
きっと今のモララーは、ちゃんと狙ったはずなのに虚空を焦がすことだろう。
怖くて怖くて。
自分の身に迫る責任に耐えられそうにないから。
そんなことしなくていいよ、と身体がもう出来上がってしまっていた。
でも、誰かを殺してしまうよりは良い。
言い訳しながら、何度も戦地に赴いては自己嫌悪に陥っていた。
理想と現実とに挟まれて、潰れそうになりながら。
時折聞こえてくる、仲間のため息にも耐えながら。
ずっと。
(;・∀・)「うあぁあッ!!」
思い切り両手を振りあげた。
進行方向を無理やり上空に持っていき、魔術を雲散させる。
黒い粒子が弾け、雪のように一帯へと降り注いだ。
367
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:22:52 ID:24JaPgZA0
从 ゚∀从
从 ゚∀从=3「はー……萎えるなァ」
飽くまで信念を貫くつもりか。
そうまでして勝てる自信もない癖に。
从 ゚∀从「しょうがねえ。年長者として、下の者には教育したらねェとな」
从 -∀从
从 ゚∀从「バーンプロミネンス」
(;・∀・)「は!?」
片手をちょいと翳しただけだった。
そこに放たれるは、火の大魔法『バーンプロミネンス』
上空に生み出された巨大な火球が、相手を骨すら残さぬほど焼き尽くす超威力の魔法。
瞬間的な威力だけなら、グランドエクスプロードすら凌ぐほどだ。
368
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:24:54 ID:24JaPgZA0
(;・∀・)「スペルカウンター!」
不可解だった。
大魔法の発動には、必ず要るものをハインリッヒは無視して放ったのだから。
まずは詠唱。
大魔法は、自身の魔力と大気中の魔力をリンクさせ増幅して放つ。
ゆえに、詠唱をして周囲の魔力を自身のモノへ隷属化しなくてはならない。
そのコントロールを行う際、片手では抱えきれない魔力量になるため
絶対に両手で撃たないとまともな発動は出来ないはず。
どちらかを怠れば、普通であれば威力が落ちたり唱えることすら叶わない。
それなのに……!
(;・∀・)(威力が、全く衰えていない……!?)
スペルカウンターの防護壁を作り出すが、とっさに放ったためレベルは7。
それでは大魔法は返せない。
魔法陣はひび割れて、今にも壊れそうになっていた。
(;・∀・)「だったら……スペルキャンセラー!!」
落ちてくる速度が下がった所で、スペルキャンセラー。
先ほどより余裕があったので、二重詠唱であれどレベルは10。
十分、バーンプロミネンスに対抗できる。
从 ∀从「そこだよ」
369
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:26:48 ID:24JaPgZA0
(;・∀・)「!?」
ハインリッヒの声だけが聞こえた。
モララーは辺りを伺う。
どこにも居ない。
……否。
どこにも居ないのではない。
何も見えなくなっている。
バーンプロミネンスを、確実に消し飛ばしたのを見たと同時だ。
灯りが途端に消えたように、視界が真っ暗になっていたのだ。
从 ∀从「どうして、スペルキャンセラーにするかね。
スペルカウンターを重ねれば、オレに反撃の一手を浴びせられたはずなのによ」
(;・∀・)「どこだ!」
从 ∀从「能力はピカ一だが……。どうにも、そこんところが足りてねェな。
お前さんは」
370
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:28:06 ID:24JaPgZA0
声のする方向がわからない。
前からも後ろからもするし、真横に居るようにも思える。
スペルキャンセラーを放つが、虚を掴むようにすり抜けていく。
从 ∀从「お前に足りてないものを、このオレ様が与えてやる。
目が覚めたら、オレを追ってきな。居る場所はすぐわかるはずだぜ」
(;・∀・)「ハインリッヒ!!」
膝ががくんと抜ける。
糸の切れた人形のように、モララーは地面に崩れ落ちる。
伏せる彼の意識は既になかった。
从 ゚∀从「……ったく、本当にガキんちょかよ」
モララーすら知覚できないほど、微細な魔力で放たれた幻影魔術。
意識がバーンプロミネンスに向いている最中にそれは、既に命中していた。
本気を出せば、こんな魔法防げないわけがなかろうに。
少し対峙しただけで、理解していた。
甘いのもあるが、性根から優しい人間なのだろう。
人を殺しを、極端に怯えている。、
無意識のうちに、魔法をセーブして放ってしまうのは、そのためだ。
目の前で浅い呼吸のまま、汗を流しつつ眠る少年を見下ろしながら
ハインリッヒはそう思っていた。
371
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:29:16 ID:24JaPgZA0
せっかく面白そうな奴が出てきたのだ。
ここで命を絶ってしまっては、あまりに勿体ない。
从 ゚∀从「さァて。そんじゃまあ、たっぷり教え込んでやろうかね」
从 ゚∀从「人を殺すために、いっちばん大事なもの」
从 ゚∀从「怒り、ってヤツをな!」
高笑いしながら、ハインリッヒはモララーを残して歩いていく。
そして、頑強な封印魔術が施された扉の前に立ち。
まるで当たり前のように、施錠を破壊した。
嘗四話「その扉を開く者」
372
:
◆mGwfd747EA
:2021/03/27(土) 22:30:25 ID:24JaPgZA0
あ。「つづく」を忘れてました。これで今週分は終わりです。
モンハンやりたくてウズウズしてるので、やってきます
373
:
名も無きAAのようです
:2021/03/28(日) 01:45:11 ID:nuaWUJlU0
乙
374
:
名も無きAAのようです
:2021/03/31(水) 21:24:26 ID:o5ygQfm60
乙乙
本編以上に未熟なレンデセイバーさんいいね
375
:
名も無きAAのようです
:2021/03/31(水) 21:25:43 ID:o5ygQfm60
乙乙
本編以上に未熟なレンデセイバーさんいいね
376
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/03(土) 20:45:48 ID:N8bnHeqQ0
こんばんは。
今週はちょっと予定があって、更新は明日になります。
午前中には投下しますので、お待ちください
377
:
名も無きAAのようです
:2021/04/03(土) 22:57:18 ID:nX7ahJxI0
おk
378
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 09:54:09 ID:HLPKJgY.0
嘗三話「決意」
(;-∀-)
(;-∀・)
(;・∀・)
(;・∀・)「!!」
急いで起き上がった。
脳が覚醒すると同時に、仰向けになっていたことを理解する。
見慣れた天井、室内の風景。
そこは自室だった。
379
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 09:56:20 ID:HLPKJgY.0
身体を持ち上げた時点で、居場所は理解できた。
だからこそ焦る。
何故、自室に……!?
モララーは急いで窓を開けた。
気圧差により、激しい気流が部屋の中に入ってくる。
大粒の雨が、部屋の衣類や書物を濡らしていくが関係ない。
外は、近年でも稀にみる大嵐だった。
気にも留めず、モララーは窓枠に足をかけ、風魔術で飛翔。
いつも彼が居る、城の一番高い場所へと瞬時に到達した。
(;・∀・)「……はぁ……はぁ……」
肺が押しつぶされそうだった。
呼吸がしにくいのは、大雨と雷を降らす雨雲のせいだけではない。
380
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 09:57:40 ID:HLPKJgY.0
彼が今ここに、こうして居ること。
何もなしえてないのに、意識を失っていたこと。
それこそが最も大きな原因。
探知魔術を、一帯に張り巡らせた。
城を、城下町を覆いつくせるほど広く、速く。
もしかすると、悪い夢を見ていただけなのかもしれない。
天候不順だから、嫌なイメージばかり沸いてしまうのだ。
そうに違いない。
そう思いたい、
(;-∀-)
(; ∀ )「……………………あぁ。」
381
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 09:59:13 ID:HLPKJgY.0
小さく呻き声が漏れた。
本来は人が乗る場所でないポールの上から、体が落ちそうになる。
済んでのところで手を伸ばし、落下は避けられた。
風の魔術で姿勢を制御することすら難しい。
それほどまでに、モララーの心は乱れ切ってしまった。
探知魔術で返ってきた結果は、想像通り……いや、想像以上に悪いものだったから。
城下町が焼かれている。
雨のおかげで燃え広がることは免がれたが、家屋が倒壊した事実に変わりはない。
意識を失って倒れている店主。
隣で泥に膝をつき、ただ泣き崩れるその妻。
辛そうな顔で遺体の処理をしている門番が居る。
顔なじみだったのか、知らない人だったのか。
何にせよ、不可抗力で処分せざるを得なかった大事な市民だ。
悲しくないわけがない。
医者達が、魔術師の手を借りて東奔西走していた。
全く手が足りていないことがわかる。
消えゆく少年の命を、救えずに空を仰ぐ中年男性がそこには居た。
不自然なくらい巨大な赤い水の池。
胴体しかない、やけに綺麗な石造。
ねじれて反転した石造家屋や、腐敗した大地。
何をどうすれば、ここまで酷いことが出来るのだ。
382
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 10:00:37 ID:HLPKJgY.0
(;・∀・)「……! おじい様は!?」
動揺している暇などない。
あの場で、すぐ外に国王が居たはずだ。
捕縛した恨みを持っているに違いない。
危害の状況を確かめなくては。
(;-∀-)「……」
とはいえ、どこにいるかわからない。
気配を探ろうとしたが、城全体に強力なスペルキャンセラーが張ってあった。
壊すのはたやすいが、過剰な防衛措置の理由には心当たりがある。
それはできない。
混濁する脳内を必死で動きまわして、モララーは考える。
思いつく場所を一つ一つ探すか? いや、時間がかかりすぎる。
場所がわからなくても……目印になるものがあれば……。
それを空間転移魔術と繋ぎ合わせてしまえば、きっと……。
口を半開きにしながら、術式を展開しだす。
震える手で、魔力を懸命に操って完遂を目指した。
383
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 10:01:37 ID:HLPKJgY.0
(;-∀-)(そう……だ。ブレスレット……!)
いつも身に着けているという、代々伝わってきた王家の宝の一つ。
きっと持っているに違いない。
それを手繰れば……!!
切り、貼り、伸ばし、繋げる。
空間転移魔法が放つ青色の魔法陣は、緑色に変色した。
(;・∀・)「……ここだ!」
魔力を込めて、術を起動させる。
光の球に体が変化すると、別の空間へと飛翔を始めた。
予想よりも短い時間で、モララーが発動した新しい魔法は発揮をし終えた。
/ ,' 3「待て」
(;・∀・)「国王陛下!」
手をあげて、降伏の仕草をするモララー。
いち早く察知した国王は、敵ではないとわかっていたから
周囲の近衛兵士達の攻撃態勢を制した。
384
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 10:03:02 ID:HLPKJgY.0
/ ,' 3「やはりキミじゃったか」
(;・∀・)「ご無事ですか!?」
場所は作戦会議室だった。
国王は普段通りの格好で、いつものように指揮を執っていた。
だが、決定的な違和感がある。
/ ,' 3「ああ、ワシは無事じゃよ」
(;・∀・)
(;-∀-)
言葉だけで、その意図は伝わった。
モララーは歯を食いしばり、血が滲むほど拳を握りしめた。
肩を震わせ、瞼を閉じて、その罪の重さを痛感する。
385
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 10:04:18 ID:HLPKJgY.0
近衛の階級を持つ、大陸屈指の猛者。
数名、減っていた。
いつも傍に居た近衛騎士も。
自分にテーブルマナーを教えてくれた、あの人も。
そこに居ない。
収集されている人選からすれば、居ないのはおかしい。
状況と、結果。
照らし合わせれば、おのずと答えは出てきた。
出てしまっていた。
彼らは、王を庇い殉職したのだと。
/ ,' 3「モララーくん」
(; ∀ )
386
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 10:05:51 ID:HLPKJgY.0
/ ,' 3「……」
(; ∀ )
/ ,' 3「モララー=レンデセイバー!」
(;・∀・)「は、はい!」
気持ちが地の淵に陥る前に。
スカルチノフは、あえて厳しい口調で続けた。
/ ,' 3「お主に今一度、命を与える」
/ ,' 3「ハインリッヒ=ボンデリンクの死体を、ワシの下へ持ってくるのじゃ」
/ ,' 3「それまで、この城に入ることは許さん」
/ ,' 3「……良いな?」
387
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 10:07:02 ID:HLPKJgY.0
(;-∀-)
(;・∀・)「かしこまりました、国王陛下」
顔を叩き、モララーは作戦会議室の外へと歩き出した。
残された部屋で、国王は思う。
未熟な彼に、過度な期待をした自分が愚かだった。
死刑囚であるなら、きっと心の壁を破ってくれると思った。
けれど、やはりまだ少年なのだ。
怖かったはず。
辛かったはず。
ハインリッヒが城から脱走し、城下町を襲い、それからどこへ行ったのか。
見当はつかない。
だが、それでも、これ以上被害を増やすことはできない。
頼れるのは彼だけだ。
自らの判断の甘さを、まだ15の少年一人に背負わせることに
重く深い後悔と自責の念を抱きながら、国王はため息をついた。
388
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 10:08:27 ID:HLPKJgY.0
街の復興、ラウンジ大陸への対処。
することは、山ほどある。
それを少しでも進めることで、償いとしよう。
願わくば、一日でも早くモララーが戻ってきてくれることを願いつつ
心の内を必死に押し隠したまま、業務を再開するのだった。
( ・∀・)「……」
暗い部屋にモララーは戻った。
開けっ放しの窓から、雨水が絶え間なく流れ込んできている。
手をかざしガラス戸を閉めると、そのまま速乾魔法で部屋の余分な水気を取り払った。
俯いたまま、壁にかかっている黒いマントの下へ歩いていく。
初陣祝いで頂戴した、戦闘用の外套。
今まで返り血を浴びたことがあっただろうか。
綺麗なままの繊維を、そっと撫でる。
何のために、国王は黒い衣類を寄越したのか。
意図を理解できていなかった。
389
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 10:09:37 ID:HLPKJgY.0
聞いたことはないけれど。
多分、たくさんの赤を浴びても、汚れが目立たないようにと
配慮してくれたのだろう。
『黒』の階級の戦士達の兵具が、その名の通り暗い色で揃えられているのは
泥まみれになろうと、血みどろになろうと構わないようにするため。
ああ。
結局、そんな決意も覚悟もなく。
ずっと、自分は浮ついた気持ちで戦場に立っていたのか。
( ∀ )「……ごめんなさい」
謝罪を伝えたい人たちは、もう聞くことすら出来ないだろう。
苦しい思いを、悔しい思いをさせてしまった。
どれだけ頭を下げても、許しを請うことすら叶わない。
深い深い後悔の念で、心が潰れてしまいそうだった。
自分だけなら、まだ良かった。
390
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 10:11:11 ID:HLPKJgY.0
いや、違う。
そもそも、その考え方が間違っている。
自分だけじゃないんだ。
ここにきて、世話になった人たち。
関わった以上、もう他人ではない。
そんな当たり前のことすら気付かず。
自分は強いのだから、高潔な志のままで進んでいけると思っていた。
心底、腹が立つ。
甘い。甘すぎる。甘っちょろい。
何度も言われていた気がする。思われていた気がする。
見て見ぬふりをしたのは、他でもない自分自身だ。
( ∀ )「……はぁぁ……」
震える手でマントを掴んだ。
重い溜息は、体内の余分な感情を流してくれる。
391
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 10:12:29 ID:HLPKJgY.0
もう、自分を責めるのはやめよう。
下を向いている暇があれば、一秒でも早く状況を好転させなくては。
冷静になってきた頭は、徐々に徐々に闘争本能を呼び覚ます。
こうなったのは、誰のせいだ。
自分だ。
……だが、やったのは誰だ。
あいつだ。
あいつが居なくなれば、怖い目にあった人たちも少しは救われるんじゃないか?
心臓が高鳴る。
今までの、緊張とは違う。
熱くて浅い呼吸が全身に思いを巡らせる。
392
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 10:13:17 ID:HLPKJgY.0
そうだ。
そうだ。
あいつを世に放ったのが自分の責任なら。
自分自身で、始末をつけなくてはならない。
国王の命令だけじゃない。
今、モララー=レンデセイバー自身が思っていること。
――――憎い。
この思いの、諸悪の根源を絶つために……!!
手に取った黒いマントを、モララーは勢いよく引き寄せて羽織った。
再び顔を上げた彼の瞳は、外套のように。
闇を飲み込むかのように、黒く深く染まっていた。
393
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 10:14:45 ID:HLPKJgY.0
从 ゚∀从「ハッハー! 良い眼になったじゃねーか、モララーよォ!」
そこは、街から遠く離れた平野。
相変わらず大荒れの天気を、障害物なく流し続ける広い大地。
どこで名を聞いたのか、嬉しそうにハインリッヒはモララーを迎え入れた。
被害の状況を追った先。
乱雑に散っている、VIP大陸の兵士たちの死体の海で、白炎は笑っていた。
( ・∀・)「……ハインリッヒ=ボンデリンク」
( ・∀・)「一つだけ、お前に聞きたい」
从 ゚∀从「おォ、なんだ?」
394
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 10:16:38 ID:HLPKJgY.0
低い声で質問をするモララーに対し、余りに軽い言葉が返ってくる。
苛立ちを覚えつつも、少年は続けた。
( ・∀・)「お前は、どうしてそんな簡単に人を殺せるんだ?」
从 ゚∀从「は? な、なんじゃそら! ハッハッハッ!!」
彼にとっては余りにも荒唐無稽な質問だったのか。
ハインリッヒは笑い出す。
お腹を抱えて、涙を流し、呼吸を整えてから、じっと待っているモララーに返答をした。
从 ゚∀从「んなもん、理由なんてあるかよ」
从 ゚∀从「オレは強い。強いから何をしてもいい」
从 ゚∀从「弱い奴はかわいそうだろォ?
生きてても意味がねェんだ。だから殺す」
从 ゚∀从「そんだけじゃねーか。他に思うことなんてあるのかよ?」
395
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 10:17:55 ID:HLPKJgY.0
( ・∀・)
( -∀-)
( ・∀・)「……ああ、良かった」
( ・∀・)「お前が、狂ってしまってたり。
悲しい過去があって殺戮を繰り返しているのなら
ぼくは少しは躊躇したかもしれない」
( ・∀・)「でも、違うんだな」
( ・∀・)「正しく、理性と理由を持って人を殺せるんだな」
从 ゚∀从「……ああ、そうだよ。悪いか?」
( -∀-)「いいや、助かった。
おかげで、今度こそ。何も後ろめたさもなく」
396
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 10:19:24 ID:HLPKJgY.0
( ・∀・)「……ボクは、お前を殺せる」
.
397
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 10:20:57 ID:HLPKJgY.0
どす黒い感情で、強い言葉が自然と口に出た。
鋭い目つきは、嘘偽りない真実を語っている。
从 ゚∀从(……そうそう。それだよ! それを待っていたんだ!!)
凄まじい力の魔術師と、今から殺しあえる。
全力を賭して、気兼ねなく殺せる。
最高だ。
その為に、自分は強くなった。
弱い奴らを蹂躙し、強い奴を超えて優越感に浸る。
それこそが、自分自身の生きている意味。
おあつらえ向きの相手が、今目の前に立っている。
それも極上の殺気と、怒りを兼ね備えて。
ハインリッヒは、舌なめずりをして歓喜に打ち震えていた。
从 ゚∀从「さあ、やろうぜ……大魔術師サマよォ!!」
つづく
398
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/04(日) 10:22:14 ID:HLPKJgY.0
更新日ズレちゃってすみません。
土日のどちらかではでは、必ず更新しますのでお待ちいただければ幸いです。
399
:
名も無きAAのようです
:2021/04/04(日) 23:22:07 ID:/fYsMNHc0
乙カレー
400
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:09:16 ID:OsElsdq60
嘗二話「沛雨に溶けゆく仄暗き心」
ハインリッヒ=ボンデリンクは生まれながらの天才だった。
物心がついたころには、既に中級魔法を十全に使いこなせており
青年の頃には、同年代の敵は居なかった。
凄まじい成長性は、絶対の自信を持たせる。
闘技学校に通う必要すらないと自負し、傭兵試験に強引に参加。
通常の課題とは違う、難易度の高いテストを難なく突破し
晴れて、彼は国の抱える魔術師となった。
当然、彼のやるべきことは決まっていた。
溢れる魔力、強大な魔術。
多彩な攻撃魔法を行使して、敵軍を瞬時に蹂躙。
別動部隊へ支援魔術をかけ、進軍速度を急上昇させる。
若さゆえ、魔法力の回復は早い。
彼は止まることなく、ラウンジ大陸の部隊を
まさに獅子奮迅の活躍で突破していく。
血の海を、死体の山を、魔術の空を。
決して常人では作り出せない、悪夢のような風景を
虚静恬淡と背後に置いていく。
401
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:10:54 ID:OsElsdq60
从 ゚∀从(つまんねェな)
死体の山をハインリッヒは不満げに蹴り飛ばす。
風の刃で首を切り、炎の柱で体を焼く。
閃光で大軍を薙ぎ払い、土の塊で圧殺する。
从 ゚∀从(なんで、誰も彼も同じことしかできないのかねぇ)
魔法の歴史を紐解いていけば、理由はわかる。
使えないもの、危険なもの。自然の摂理を崩すもの。
それらは淘汰され、忘れ去られた。
今では、最適化された魔術として応用され
万人が速く、正確に繰り出せるものに組み上げられている。
从 ゚∀从(……ああ、なんだ。簡単なことじゃんよ)
封印された『禁術』。
彼はあっさりと使えてしまった。
人を操る魔術、致死の傷を癒す魔術、生態系を崩すような魔術。
どれも簡単だ。
从 ゚∀从(これがあれば、もっともっと楽しめる……!)
402
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:12:18 ID:OsElsdq60
目の前で無残に倒れていくラウンジ兵。
他人の命を奪うのが、ハインリッヒはたまらなく好きだった。
研鑽した力が届かず、絶望の淵に落ちていく顔。
縁者の死を怒りに、復讐者として挑み散っていく者。
圧倒的な力で、圧倒的な他者を蹂躙する。
その征服感が、最高に生を実感させていた。
……いつの間にか、目の前の死体がラウンジ兵だけでなく。
VIP大陸の者にまで及ぶほどの凶行に走ってしまったことだけが
彼にとって、唯一の失敗だった。
不自然な自軍の被害は、完璧には情報封鎖もできず
怪しんだ憲兵が、禁術の使用現場を確認。
激しい応酬と多大な犠牲の伴う戦いが繰り広げられた。
最終的に、彼は虚を突かれ捕縛。
専用の地下牢に投獄されることとなった。
本来なら万物の魔法を封じる護布の中で
その効力を掻い潜る術式を混ぜた、生体活動を極度に遅延させる禁術を使い
いつしかまた、自由に人を殺せる明日を願って。
403
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:13:23 ID:OsElsdq60
从 ゚∀从(さーて、このガキはどう打って出るんだろうなァ?)
激しい雨の中、二人は距離を置いて対峙していた。
防水の魔術もかけず、髪に服に雨が滑り落ちていく。
前傾姿勢で、出方を待つハインリッヒ。
人を殺すことに怯えていた少年が、一体どんな手段で自分を殺めようとするのか
興味しかなかった。
( ・∀・)「……」
望み通り、モララーが先に動いた。
黒衣に隠れた手をゆっくり前に突き出す。
从 ゚∀从「!」
瞬間、前方の雨粒が道を開ける様に弾けていった。
魔力を込め、空気を高速で打ち出したのだろう。
圧縮(コンプレス)で強化したスペルカウンターで、ハインリッヒは受け流す。
着弾した後方の草原が、水飛沫と土砂を巻き上げて爆発した。
404
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:15:04 ID:OsElsdq60
从 ゚∀从「おっとォ!」
大地を両側に隆起させる。
直後に風の刃が衝突し、岩壁が崩れ落ちていった。
ハインリッヒは嬉しそうに笑うと、すぐさま迎撃を行う。
从 ゚∀从「フォーレンスタイン!!」
手に込めた魔力が青く光り、球体を生成する。
禁術の魔法名を叫ぶと、それは一直線にモララーに飛んで行った。
( ・∀・)「……プロミネンス!」
スペルキャンセラーを構えたモララーだったが、すぐに詠唱を変更する。
彼の洞察通り、それはかき消すことの出来ない魔法。
触れれば、永久的に凍結を繰り返し広がっていく恐ろしい氷魔法なのだ。
だから、モララーは火炎弾の連発で対抗する。
目にも止まらぬ速さで射出された、上級火炎魔法は十を超えた辺りで爆発を巻き起こした。
温度差による水蒸気爆発で巻きあがった煙。二人の視界は遮られる。
从 ゚∀从「アクアレーザー、ツヴァイ!」
指先から、細い水を圧縮させて放つのがアクアレーザーだ。
ハインリッヒは、圧縮(コンプレス)で累乗させ威力を増加。
眼前の煙ごと、一直線に切り裂いて確実に生命を奪いにかかる。
だが、その一閃は途中で角度を変える。
上空のあらぬ方向へ向かう原因は、モララーのスペルカウンターによるものだった。
405
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:16:59 ID:OsElsdq60
( ・∀・)「ハイライトニング」
塞がっていない方の手で、別の魔法を放つ。
上空に、雷による帯のようなものが形成された。
それは一つに収束すると、ハインリッヒに目掛けて無数の矢のように飛んでいく。
从 ゚∀从「マジックスカルヴ!」
連射される雷の刃は、途中で速度を失った。
ピタリと止まると、次に方向を変える。矛先はモララーの身体だ。
放った魔法を、意のままに操る禁術の効果である。
( ・∀・)「いちいち、面倒な魔法を……」
スペルキャンセラーを発動して、自身の魔法を相殺していく。
見たことのない魔術の連発に、モララーはやや苛立ちを覚えていた。
从 ゚∀从「ハッハッハッ! どうだよ、面白いだろォ!? 禁術はよォ!」
( ・∀・)「微塵も面白くなんかない」
高らかに笑うハインリッヒに、モララーは即答する。
从 ゚∀从「ちまちまやってたって、何も進まねェぜ!?
こっちは『レナトス』を発動してんだ。
そう簡単には魔力切れをおこさねェぞ!」
406
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:18:35 ID:OsElsdq60
通常、魔力を回復させるには休息を取る他ない。
時間経過以外には、薬などを使うしかないが
大気中の魔力を強制的に吸引し、自分のモノとする禁術がある。
それが『レナトス』だった。
植生や動物の生態に、悪い影響が出るので封じられた魔法である。
从 ゚∀从「オレを止めに来たんだろ!? だったらすることは一つじゃねェか!」
从 ゚∀从「取りにこいよ、オレの命をよ!」
( ・∀・)「最初からそのつもりだ」
手を向けると、魔力に引かれて数多の石礫が浮かび上がる。
土の上級魔法、ストーンレインだ。
从 ゚∀从「しょっぺえなァ、オイ!」
ハインリッヒが両手をかざす。
当たればケガではすまない速度や大きさの飛礫が、磁力のようにビタリと止まっていく。
从 ゚∀从「シュラムベディーネン」
徐々に徐々にそれは、形を成していく。
巨大な腕が、大きな腹が、太い足が。
全て岩石で形成された人形が、モララーの前に立ちはだかる。
石と石がぶつかり、軋む音を立てながら腕を振り上げてきた。
407
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:22:06 ID:OsElsdq60
( ・∀・)「ギガブラスト!」
それよりも早く、モララーが無属性魔法を胸元に叩き込んだ。
動力源である核を完璧にとらえたその一撃は、轟音を立てながら活動を停止させる。
石と雨水の隙間から、鋭い視線が飛んでくることに、ハインリッヒは思わず笑みを浮かべた。
从 ゚∀从「……ハッハッハッ。いいねェ、いいぜ。モララーよォ」
从 ゚∀从「その暴力的な魔術、破壊的な魔力! オメーは、戦いの為に生まれてきたんだな!」
( ・∀・)「違う」
戦うことが、殺し合うことが楽しくてたまらないハインリッヒ。
あざ笑うような挑発に、モララーは間髪入れずに否定する。
从 ゚∀从「違うもんか! そんだけの超人的な能力を、何故正しい方向に使おうとしない!?」
( ∀ )「違う!!」
鳴り響く雷にかき消されぬよう、声を荒げて拒絶する。
( ∀ )「そんな……そんな悲しい生き方をするために、ボクは生まれてきたんじゃない!」
(#・∀・)「人を殺すことが! その為だけの力なんてものが、正しいわけがない!」
408
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:25:01 ID:OsElsdq60
从 ゚∀从「綺麗事を言うんじゃねェよ……。じゃあ、オメーの大好きな国王陛下を
オメーは否定すんのか?」
( ・∀・)「なに……?」
从 ゚∀从「国に仕えている戦士は皆、人を殺すために日々鍛錬している。
そして鍛えられた奴らを、正しく利用するのが統率者。つまり国王だろう」
从 ゚∀从「国王は、戦うことを。戦争の為の力を、正しく使ってると思うが?
オメーは、それを拒むんだな?
間接的な殺人鬼である、国王陛下を否定するんだな!?」
( ∀ )「…………それは……!!」
从 ゚∀从「いいか、モララー!
命を与えられ、戦場に立っている駒が出来ることは二つ!
敵を殺すか、敵に殺されるかだ。それ以上も以下もねえ!」
从 ゚∀从「ごちゃごちゃ難しいこと考える必要なんざねーんだよ。
好きなように、好きなだけ暴れる。
その先にある景色は、死体の山か真っ暗な空か、どっちかだ!」
从 ゚∀从「人を殺す力が、正しくないだァ……? 笑わせるぜ。
その台詞、騎士や魔術師の連中に言えるか?」
(;・∀・)「!」
从 ゚∀从「オメーは自分自身で、戦士としての『仲間』をバカにしてんだよ」
409
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:26:48 ID:OsElsdq60
( ∀ )「違う……違う……!!」
从 ゚∀从「ハッハッハッ! そーかいそーかい。それでも『違う』んかよ」
从 ゚∀从「だったら、することは一つだよなァ……?」
从 ゚∀从「……お前が、真の戦士であることを」
从 ゚∀从「大事な大事なオトモダチに! 国王サマに!
自分の存在価値がまだあることを!
人を殺せるんだ って、証明してみせろや!」
( ∀ )「……さっきも言ったはずだ」
( ・∀・)「最初から、そのつもりだ、と」
410
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:28:03 ID:OsElsdq60
从 -∀从「クク……いいねェ」
まだ迷っていた幼い瞳が、更に深淵を増していく。
もっともっと。
強い殺意を、激しい恨みを!
怒りは力を引き出してくれる。
そんな極上の相手を、自分の培った力で真っ当に殺す。
これ以上の快楽は世に二つと無い。
堪えきれない笑みを浮かべ、ハインリッヒは再びモララーへ猛攻を仕掛けるのだった。
――――。
(;メω-)「む……う……」
遠く離れたNEET城の医務室。
ロマネスク団長が、呻き声を開けながら目を覚ました。
411
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:29:35 ID:OsElsdq60
(;メωФ)「ここ……は……?」
ζ(゚ー゚*ζ「ロマネ君。よかった、起きたんだ」
川 ゚ -゚)「まだ熱が引いていない。寝てると良い」
天井までの視界を遮るのは、幼馴染と妻の姿。
育児のため一時的に戦線から離れていたはずだが……。
(;メωФ)「クー、どうしてココに?」
川 ゚ -゚)「聞いたこともないくらいの重傷と聞いてな。
居てもたってもいられなくて来たんだ」
摩擦を感じさせない長い髪を、キラキラと反射させながらかき分ける。
ロマネスクの妻のクーレ=ホライゾネルは、不安と安心の入り混じった顔で
疲労の溜まった ため息をついた。
(;メωФ)「ブーンは?」
川 ゚ -゚)「母さんが見てくれてるよ」
(;メωФ)「そうであるか……」
ζ(゚ー゚*ζ「それにしても傷だけで良かったね。
五体満足なのは、幸運だったとしか言いようがないよ」
(;メωФ)「……うむ。ブスダドクオ……恐ろしい男だったのである」
川 ゚ -゚)「……ロマネは知らないだろうが。
実は今の王都は、もっと危険な状態なんだ」
412
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:31:57 ID:OsElsdq60
(;メωФ)「? どういう……」
言いかけたロマネスクが、とある異変に気付く。
痛む身体を無理やり持ち上げ、窓でもないあらぬ方向の壁を見た。
(;メωФ)「……なんであるか、この強烈な魔力の波動は……?」
ζ(゚ー゚*ζ「ああ、ロマネ君でもわかるんだ。凄いね、騎士なのに」
川 ゚ -゚)「私はさっぱりだが……デレもわかるんだな」
ζ(゚ー゚*ζ「まあね。これだけの魔力、魔術師なら誰でもわかるよ」
(;メωФ)「何が起こっているのである……?」
デレは今の城の状況を説明した。
ドクオに敗れて、ニメア地区が陥落した件。
それに伴い、国王がモララーと『白炎』ハインリッヒを対峙させたこと。
目的は、モララーに殺生の経験をさせて、戦力として扱えるようにすること。
だが、モララーは敗れハインリッヒは逃亡。
街を半壊させて、大きな被害を生み出した。
その後始末として、再びモララーがハインリッヒを追い
今現在、戦っているであろうこと。
413
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:34:03 ID:OsElsdq60
(;メωФ)「そんな……。モララー殿に加勢は向かってないのであるか?」
ζ(゚ー゚*ζ「わかるでしょ? 巻き込まれるだけだよ」
(;メωФ)「しかし……一度は敗れた相手なのである。
そもそも、モララー殿は強くとも、まだ少年なのである。
いくらなんでも、何もかも背負わせすぎでは……?」
川 ゚ -゚)「……それはきっと、誰でも思っていることだ。
戦線に居なかった私ですら、聞き及んだ情報だけでも
十分に無理させすぎていると感じるよ」
(;メωФ)「だったら……」
ζ(゚ー゚*ζ「それでも、信じるしかないんじゃないかな。
モララーくんなら、きっと出来るって。
この終わりの見えない戦いを、終わらせる光になってくれる、って」
ζ(゚ー゚*ζ「その為に……殻を破るためには必要なことなんだと思う」
(;メω-)「…………残酷であるな」
川 ゚ -゚)「だがロマネも、薄々同じことを思っているんだろう?」
(;メω-)「……だから、言ったのである」
(;メωФ)「残酷であるな、と」
ロマネスクもデレも、直接モララーの人となりを知ってきた身だ。
今、どんな気持ちで戦っているのか。
想像に難くない。
414
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:35:20 ID:OsElsdq60
だけど、それを止めることはきっともう出来ない。
止めてしまえば、彼はもう戦士になることはないから。
取り返しのつかない現実と、向き合う強さを手に入れなくてはならないのだ。
掛けられたシーツを力一杯ロマネスクは握りしめた。
遠く壁の向こうを見つめているデレも、同じような心境だろう。
座して待つしか出来ない、この歯がゆさは激しい雨音の中に溶けていった。
从 ゚∀从「チィッ!」
手で地面を抉り、吹き飛ぶ勢いを殺しながら、ハインリッヒが舌打ちをする。
相変わらずの殺気と鋭い目で、モララーはひたすらに攻撃を続けていた。
いつの間にか、周囲は殺風景になっていた。
何度も何度も強力な魔法が叩きつけられたせいで、岩肌がいくつも露出している。
415
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:36:56 ID:OsElsdq60
豪雨に揺れる草も、雷で焼かれた木々も既に何もない。
モララーの足元、彼の半径数センチのみ自然が残っているだけ。
そう、それは余りにも奇妙で不愉快な状態。
ハインリッヒはとっくに気付いており、苛立ちを覚えていた。
从 ゚∀从(このガキ……さっきから一歩も動いてやがらねェ!!)
圧倒的な差を見せつける為なのか。
手を抜いているのか。
真意はわからないが、一つだけ受け取れる意思がある。
从#゚∀从「てめェ……オレをナメてんのか!?」
( ・∀・)「バカを言うな。手を抜いているつもりはない」
冗談ではないトーンで返事をする。
すっかりモララーは落ち着きを取り戻していた。
その異様な静けさに、ハインリッヒは焦燥感を覚える。
じゃあ、一体なんのつもりなのだ。
殺す気なのはわかっている。
だが、出し惜しみをされるのは、腹が立つ以外のなにものでもない。
ハインリッヒは青筋を立てながら、あえてその意向を砕こうと魔法を放った。
416
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:38:45 ID:OsElsdq60
从 ゚∀从「ガイアクラッシャー!!」
大地にひびが入る。
数舜後、地面が割れて万物を飲み込む岩壁となる。
再び閉じると圧迫し潰し、対象ごと土へと還す『大魔法』だ。
以前と同様、詠唱を破棄しての発動。
普通なら生まれる隙も無く、それは発揮される。
( ・∀・)「もう少しなんだ。大人しくしていろ」
モララーが不機嫌そうに足を踏み込んだ。
破裂する音が鳴り響き、ガイアクラッシャーが打ち消される。
从;゚∀从「なッ……!?」
容易ではないはずだ。
詠唱破棄は工程を飛ばす分、威力が落ちる。安定性も非常に悪い。
だが、ハインリッヒはその問題を禁術の行使で解決していた。
なのに、かき消された?
当然だが、モララーは禁術など使えない。
破った方法は一つ。
スペルキャンセラーだろう。
つまり、純粋な力の差で覆したわけとなる。
从;゚∀从(……まさか……そんなわけが……!!)
417
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:40:56 ID:OsElsdq60
その才に、ようやく畏怖の念を抱き始めたハインリッヒ。
先ほどから、禁術を用いても動かない戦況に、焦りを感じなかったわけではない。
だが、認めたくなかった。
自分の方が、上のはずだ。
経験も知識も、こんな小僧より勝っているはず。
理解できない。したくもない。
だって、だって。
オレ様は、世界一の魔術師だったんじゃないのか?
大魔法も、禁術も使いこなした。
誰にも負けない、絶対無二の存在なんじゃないのか。
もしかして……。
この小僧は……そんな領域の更に外にいる……
正真正銘の『真っ当な怪物』だって言うのか……!?
理性がようやく、その危険性を理解した。
だが、全て遅かった。
418
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:43:59 ID:OsElsdq60
モララーの準備は既に整ってしまっていたから。
( ・∀・)「……よし、これならいける」
モララーが、小さく頷き魔力を高めた。
足元には、虹色に輝く魔法陣が浮かび上がっている。
動かないのではなく、動けなかったのはすべてこの行為のため。
力を、魔力を溜め、集中するにはその場に留まるしかなかった。
吹き荒れる暴風と雨に晒される黒いマント。
ちぎれそうなほど、長い髪がはためく。
( ・∀・)「行くぞ、ハインリッヒ。覚悟しろ」
キッと目の前にいるハインリッヒを睨みつける。
光を宿さない、吸い込むような暗い双眸が、動揺する禁術使いの眼を捉えた。
( ・∀・)「……八重連唱(エイツスペル)」
419
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:45:34 ID:OsElsdq60
从;゚∀从「は……!?」
何を言ったのか、何も理解できなかった。
二重詠唱(デュアルスペル)ですら、習得は容易ではない。
だが、この若き大魔術師はまさかの『八重』と口にした。
ハッタリだ。そんなこと、出来るわけがない。
何をしてくるのか、身構えるハインリッヒ。
そこから先の行動は、例え彼が世の理から外れた魔術師であろうと
到底理解できず、到達できない領域の神業だった。
( ・∀・)「プロファウンドバスター!」
突き出し開いた右腕を、左手で支える。
紺碧の魔法陣から解き放たれるは、水の『大魔法』。
しかもハインリッヒがやってみせたのを、見よう見まねで覚えた詠唱破棄で、だ。
从;゚∀从「ぐォおおおお!?」
瞬時に発射されるのは、超高圧縮された水の収束砲。
圧縮されたとはいえ、その半径は数メートルに及ぶ。
噴出の勢いで、粉々にするか
そのまま流されて、何かに衝突して死ぬか。
何にせよ、まともに直撃すれば命の保証はない強力な魔術だ。
420
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:47:13 ID:OsElsdq60
ハインリッヒはとっさに、前方に禁術のバリアを張って防いでいた。
カウンターもキャンセルも、間に合わないと判断したためだ。
しかし、それが悪手であることは気付いている。
押さえつけている間に、すぐさま反撃に出ないと危険なのだ。
从;゚∀从「これは……アブソリュートゼロか!」
周囲の水が、みるみるうちに凍結していく。
激流の隙間からわずかに見える景色も、既に氷の壁になっていた。
対象を挟むようにして、氷山を形成。
その合間を、凄まじい速度で氷柱が往復して着弾と共に芯まで凍結させる。
それが氷の大魔法、アブソリュートゼロだ。
从;゚∀从(連続詠唱……しかも『大魔法』のだと……?)
出来るわけがない。
大魔法はそもそも、手練れの魔術師以外は発動することすら
まともに出来ない最高等魔法だ。
ハインリッヒが禁術を用いたとして、どのように組み込めば実現できるのか。
見当もつかない。
从;゚∀从(とにかく、この状況を抜け出さねえと!)
気温が下がり、息が白くなってきた。
足元にひびが入る。
魔力により氷が溶けているわけではない。
これは、土の大魔法ガイアクラッシャーが発動する予兆だ。
421
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:48:40 ID:OsElsdq60
防護壁を保ったまま、ハインリッヒは別の魔法を急いで唱える。
青色の魔法陣を足元に発動させ、空間転移魔法で脱出を試みた。
意識が消える直前、空が白んでいたのが視界の端に映る
遠くにかすかに輝いていたのは、金色の魔法陣。
上空から降り注ぐ強烈な雷の大魔法『ルーミナスブリッツ』は、寸でのところで回避できたようだ。
从;゚∀从「くそっ!」
普段の空間転移魔法であれば、遠く遥か彼方まで飛べただろう。
だが、それは叶わない。
中空に浮かび上がり、ある程度の距離を稼いだと思ったときだった。
より強力な魔法によって足止めされてしまったのだ。
光球になった身体が、人体へ強制変換される。
原因は、竜巻による乱気流だ。
天候が突然悪化したわけではない。
モララーが放った風の大魔法、アイオロスストームによるもの。
大地を抉り空を裂くほどの威力を持つ、巨大な旋風を放つ魔法。
422
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:49:59 ID:OsElsdq60
空中に放り出されたハインリッヒは、すぐさま態勢を整える。
从;゚∀从「!!」
その動作すら既に遅い。
竜巻を横断するように、無数のオレンジ色の光が空を覆う。
円形の陣を描くそれは、途端に爆発の連鎖を巻き起こし巨大な破壊空間へと変貌した。
( ・∀・)「……」
爆風で激しくはためく、外套と長髪。
強い発光と放射熱の降り注ぐ中、モララーは目を細めず
じっと、無属性大魔法の発生源を見据える。
そして気配を感じ取ると、息を一つ強く吸った。
( ・∀・)「「バーンプロミネンス!!」」从∀゚#从
巨大な火の玉が、太陽のような輝きで強烈に拮抗する。
降り注ぐ雨すら、近づく前に蒸発して消え去るほどの高熱空間が生まれ
燃ゆるべきはずの草木すら既に無い。
枯れた大地も、熱せられた鉄のようにゆっくり軟化してゆく。
从#゚∀从(んなわけがあるか……!!)
ハインリッヒが憤ったのは、彼が完全詠唱でバーンプロミネンスを放ったからだ。
詠唱破棄の場合と違い、安定性も魔力量も増大する。
そのはずなのに……なぜ、互角になる……?
423
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:51:48 ID:OsElsdq60
押しても押しても、込められる限界の魔力を撃っても
手順を省き、なおかつ連続で詠唱している最中という不安定な状態の!
片手間のような大魔法相手に、なぜ勝負がつかない!?
これが、本気の大魔術師の力だというのか……!?
从#゚∀从「だったらァ!!」
使うのは禁術。
ハインリッヒは自らの身体へ、過剰に回復する魔法を使った。
通常なら、すぐに組織が壊死してしまう危険な治癒魔法。
だが、それを上回る破壊が起これば話は別。
从#゚∀从「グランツプロメテウス!!」
両手を掲げ、魔力を込める。
深紅の魔法陣が浮かび上がり、その先に生まれたのは太陽だった。
正しくは、太陽のような火炎球。
バーンプロミネンスをも超える、赤を超え白く輝く光の塊。
触れるどころか、近づくだけで骨も焼け散るほどの熱量と
一帯を焦土にするには容易い範囲を持つ、危険な魔法。
下手な術者であれば、コントロールすら出来ずに燃え尽きてしまうほど。
禁術を使い、強制的に魔力を隷属化し、肉体を再生し続けなくては使えない、まさに秘術だ。
424
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:53:10 ID:OsElsdq60
从#゚∀从「こいつで終わりだァああッッッ!!」
まだ消えていない、目の前の熱エネルギーフィールドに向かって
ハインリッヒは、思い切り投げつけた。
从;゚∀从「!?」
はずだった。
竜巻の乱気流は、グランドエクスプロードで晴れていた。
姿勢を保つための魔術は、空中浮遊と無反動化のみで良かったはずだ。
それなのに、なぜ自分は未だに遠くに向かうような『流れ』に抗っている?
从;゚∀从「ネインエスパルダかよ……!」
周りを見渡すと、真っ黒な空間に居るようだった。
悪天候を上手く利用されたみたいで、気付くのに遅れてしまったのだ。
一体いつから?
グランツプロメテウスは、発動すら出来なかったのか?
考える暇もない。
居るだけで、精神が摩耗する場所な上に
次、いつ追撃が来るかわからないのだから。
今は急いで、この空間から脱出を……。
从 ゚∀从「……待てよ」
425
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:55:14 ID:OsElsdq60
スペルキャンセラーを倍加して放とうとしたハインリッヒは、魔力の発生を止める。
猛攻撃が始まる前、モララーが口にしていた言葉。
八重連唱(エイツスペル)
何を連続詠唱するのか、気にする隙もなかったが。
何故、八つなのだ?
大魔法の連発を全属性行うなら、『九つ』のはず。
炎、水、氷、風、雷、土、光、闇。
この世に存在している属性はこれだけ。
無属性の魔法形態もあるので、加えれば九個あるはずなのだ。
モララーは既に、八つ使っている。無属性を使用したのならば、残りの属性は一つだ。
从 ゚∀从「こいつァ、都合が良いじゃねーか」
度重なる禁術と攻撃のせいで、既に心身ともに限界が近いハインリッヒ。
だが、それでも彼は笑った。
殺し合いの最中、勝てる算段が見つけられた快楽。
自分より上位の存在を、自らの術で殺せる喜び。
今、これからやる方法を使えば実現が出来る。
光明に希望を賭したハインリッヒは、手をかざし魔力を込めた。
426
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:56:41 ID:OsElsdq60
( ・∀・)「我は刻もう汝の名を」
真っ黒な半円状の空間が目の前にあった。
発動と同時に地表に降り立った闇の大魔法の中には、ハインリッヒが居るはず。
火炎の禁術は既に相殺し終えており、その場にはもうない。
モララーは最後の止めを刺すために大魔法の詠唱を行っていた。
( ・∀・)「神は下そう聖なる裁き」
左手を広げて、前に突き出し言葉を繋ぐ。
足元には銀色の魔法陣が。
そして周囲には、地面からいくつもの光の柱がそびえたっている。
( ・∀・)「根源へ還れ」
( ・∀・)「シャイニースティングレイ……!」
一帯に発生していた光が、帯となりモララーの左手へ収束する。
凝縮され小さな球になると、モララーはそれを握りしめた。
それは、光の弓に変化する。
激しくエネルギーの噴出する弓弭。
右手で弓柄を握ると、同じような波動の矢が形成された。
427
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:58:14 ID:OsElsdq60
水の大魔法、プロファウンドバスターほどの範囲はないが
逆に収斂されたことで、破壊力を増大させた光の大魔法。
最後の決め手だけは、詠唱を行い完全な威力で放とうと決めていた。
だから、モララーはわかっていたのだ。
ネインエスパルダでは、ハインリッヒが死にはしないことを。
次に姿が見えた時、その時こそ全力全霊の魔法で殺す。
決意を込めて、出方を待った。
( ・∀・)「……!」
どれだけの時間を待っただろうか。
息を吸って、吐いて。
次の一撃で、確実に仕留める。
決意を持つには十分な時間。
突如、ネインエスパルダが破られた。
紙を引き裂くように、大きく手を振りかぶり漆黒を消し飛ばしていく。
428
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 21:59:42 ID:OsElsdq60
从 ∀从
禁術使いは、まだ頭の中が安定しないのか。
その行動だけで手いっぱいなのか。
あまりにも、隙だらけだった。
( -∀-)「……」
( ・∀・)「終わりだ!」
少しだけ震える手を、矢に番えた指を。
覚悟を持って振り切った。
光の弓矢が、一直線に飛んでいく。
衝撃でモララーの足元に唯一残っていた、最後の草原が土に還る。
雨水を寄せ付けることなく、何にも阻まれることなく真っすぐに。
ハインリッヒの、項垂れた脳天に飛んでいき
強い衝撃波を放ちながら、激突した。
429
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 22:01:25 ID:OsElsdq60
(;・∀・)「!?」
すぐに異変に気付く。
……衝撃波が出るわけがない。
命中すれば、抵抗もなく彼方へ光矢は飛んでいく。
武器では決して作りえないほどの、鋭利な痕を残すだけのはず。
ハインリッヒは、手を突き出して受け止めたのだ。
異変はもう一つある。
ネインエスパルダを破り裂いた手に、暗黒の球体が握られていたのだ。
从 ∀从「クク……ハッハッハッ!」
430
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 22:03:06 ID:OsElsdq60
从 ゚∀从「なァ、モララー。お前、疑問に思ったことァねえか?」
从 ゚∀从「なんで、この圧縮(コンプレス)なんて、単純な魔法が
禁術に指定されているのか、ってよォ……?」
停止したシャイニースティングレイが、徐々に丸みを帯びていく。
あっという間にそれは、反対の手に握った黒球と同じサイズに変貌する。
高らかに笑うハインリッヒは、興奮しっぱなしだった。
こんなこと、普通はできるはずがない。
出来るわけもない禁術だと思っていた。
从 ゚∀从「コンプレス自体は、なんてこたァねえ魔法だ。
当然だよな。これは、ある魔法の一過程にすぎねえんだからよ」
高純度で、高密度の魔力。
それが生み出す、ハインリッヒすら目で見るのは初めての大禁術が
今完成しようとしていた。
从 ゚∀从「こいつは、魔力同士を合成するためにある禁術でなァ……」
両手に込めた、大魔法の圧縮体をハインリッヒは合わせていく。
从 ゚∀从「相反する属性を重ねると出来る、とんでもねェ破滅魔法が、この……!!」
从 ゚∀从「ディアブロニューケルンだ!」
431
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 22:04:58 ID:OsElsdq60
発動してしまえば、それはまさに悪魔(ディアブロ)の如き効果をもたらす。
小さな村一つなら、容易に消し飛ばせる殲滅力。
それだけなら、グランドエクスプロードでも事足りるだろう。
この禁術の恐ろしい所は、凄惨な爪痕を残すこと。
余波だけでも、皮膚は焼けおち治癒魔法すら受け付けなくなる。
少しずつ身体を蝕み、やがて確実に死に至る。
植物や土壌も同じだ。
魔力残滓がある限り、育つことも植えることもない。
『死』という概念そのものを顕現するような、恐ろしい禁術。
使おうと考える者もほとんどおらず
実現に至る威力を生み出せるほど強い魔力を持つ者も、過去に居なかった。
それが今、ここにある。
从 ゚∀从「さあ、覚悟しろよモララー……!!
てめェの魔法で、この大地もろとも!」
从#゚∀从「消えてなくなれェーーーー!!」
432
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 22:06:41 ID:OsElsdq60
次の瞬間。
ハインリッヒは無手になっていた。
433
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 22:08:05 ID:OsElsdq60
从;゚∀从(……な……に……?)
さっきまで抱えていた、モララーの大魔法。
圧縮されたそれは、既にない。
どこにも、ない。
空の手を見てみるが、わずかな魔力があるだけ。
逆にそれが、本当に消失したことを実感させる。
从;゚∀从「!」
焦ったハインリッヒは、次に目の前にいるモララーを見た。
何かをしたはずだ。
そう思い視線を動かす。
从;゚∀从(ちげェ!)
視界に捉えた場所に、モララーの姿はあった。
だが、そこには居ない。
見えているのは幻影。
ずっとその場を動こうとしなかったモララーが、どこにも居ないのだ。
一体どこへ……!?
434
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 22:10:00 ID:OsElsdq60
脳内をフル稼働させてハインリッヒは魔法で探る。
そして見つけた。
从;゚∀从(後ろか!!)
ハインリッヒは振り返ることは出来なかった。
風景が傾く。
全く力の入らない首へ、懸命に力を込める。
ダメだ。
無理なのだ。
彼の、その首は既に…………。
435
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 22:11:46 ID:OsElsdq60
( ∀ )
ハインリッヒが、自分の事態に気付く数舜前。
スペルカウンターを微小に放ち、ディアブロニューケルンを阻止した。
融合する魔力が均等でなければ発動できない魔法。
モララーは瞬時に見切り、対処した。
均衡の崩れた魔法は、目論見通り雲散したようだ。
そして、必殺の一撃を放つ時こそが最大の隙が生まれる。
今まで動かずに、八重連唱の為に蓄えた力はもう必要ない。
得意の幻影魔法で、最後の一手を打ち。
得意の移動魔法で、足音もなく背後に回り込む。
モララーの手には、光の刃が伸びていた。
残り少ない魔力で使える、絶対致死の攻撃魔法。
手刀の形で、全力を込めて交差するように構える。
436
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 22:12:48 ID:OsElsdq60
この手を振りぬけば。
ハインリッヒは確実に死ぬだろう。
細い首を、撫でる様に水平に薙ぐことで、生命を奪える。
だが。
それは……殺すということは。
モララーにとっては、重く深く根強い障壁。
でも……!
モララーは歯を食いしばる。
したくない。できれば穏便に済ませたい。
しかし、それは出来ない。
この人間は、たくさんの人を殺してきた。
これからも、ずっとそうあり続けるだろう。
437
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 22:14:25 ID:OsElsdq60
いつか、シャキンに言われたことが脳裏に浮かぶ。
このまま野放しにすれば、自分の大好きな人たちを失うことになるだろう。
それだけは、嫌だ。
( ∀ )(ボクは……!!)
足を踏み込む。
ぬかるんだ土砂に負けないよう、懸命に力を込めた。
( ∀ )(もう、大好きな人たちを失わないように……)
( ∀ )(大好きな人たちを守るために……!!)
( ∀ )(大好きな『人間』を……!!)
438
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 22:16:22 ID:OsElsdq60
――――――殺す!!!
.
439
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 22:18:08 ID:OsElsdq60
甲高い音が鳴り響いた。
寸分狂わずに放たれた一閃。
衝撃で一帯の雨が瞬間的に晴れる。
遅れて起こった現実から。
モララーは懸命に目をそらさず、見続けた。
从 ゚∀从「…………ア?」
ハインリッヒの景色が傾いた。
何事かと抗うが、どうしようもない。
視界がぐるりと回転していく。
見えるのは、自分の身体。
首だけがない、自身の胴体。
440
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 22:20:05 ID:OsElsdq60
从 ゚∀从(あァ……なんだ……やられちまったのかよ……)
やけに冷静な自分に驚きつつも、意識が薄れていくことを実感する。
再生魔法を唱えようとしたが、もうそれすら追いつかない。
色々と思うことがあった。
負けた悔しさ、勝てなかった怒り、抗えなかった恐怖。
ハインリッヒの人生の始まりから、今のこの時までが一瞬にして脳裏に駆け巡った。
その思考も、徐々に霞んでいく。
从 ∀从(これでようやく、お前も……オレ達の『仲間』だな……)
死にゆく瞬間。
ハインリッヒはニヤリとしながら、最期の言葉を口にした。
从 ゚∀从「地獄で、待ってるぜ」
441
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 22:21:50 ID:OsElsdq60
( ・∀・)
( ∀ )
( ∀ )「……ああ。またな」
442
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 22:23:37 ID:OsElsdq60
重たい着地音が鳴る。
余波で晴れていた周囲に豪雨が再び降り注いだ。
同時に、ハインリッヒだったものから重力に逆らうように
多量の赤い液体が噴出される。
立ったまま動かないモララーは、その血と雨を一身に浴び続ける。
力が抜けて、死体が地面へ。泥を打ち上げながら倒れこんだ。
遅れて、モララーも膝から崩れ落ちる。
(; ∀ )「はぁ……はぁ……」
呼吸が浅い。
懸命に息を吸っているのに、肺の奥まで酸素が届かない。
こみ上げてくるものがあり、我慢できず吐き出す。
血だった。
大魔法を連発した反動だろう。
せき込みながら溢れてくる体液を、手で抑え込む。
443
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 22:27:22 ID:OsElsdq60
咳き終え、ガンガンと痛む頭と朦朧とする視界。
そこに映るのは、雨に流れていく二人の赤い液体。
現実に起こった、自分自身の決着を痛感する。
拳を握りしめると、モララーは天を仰いだ。
( ;∀;)
もう雨なのか、涙なのかわからない。
思わず作った握りこぶしを、モララーは地面にたたきつけた。
444
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 22:29:29 ID:OsElsdq60
砂利で皮が裂けようと
その行為に何の意味が無いと知りつつも
何度も
何度も。
入り混じった複雑な感情を
ぶつけようのない心の内を
流れる雨と血に身を任せるように
ただただ、頭を垂れたまま大地にぶつけながら
仄暗い心に溶かしていくのであった。
つづく
445
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/10(土) 22:31:12 ID:OsElsdq60
次回で最終回です。
結構かかるなぁ、と思ってたのですが意外とあっという間でしたね。
最後までお楽しみいただけたら、幸いです。
446
:
名も無きAAのようです
:2021/04/10(土) 22:45:56 ID:L4zEoQWc0
乙です!モララーくんついにあちら側の住人になっちゃったか
447
:
名も無きAAのようです
:2021/04/11(日) 00:36:10 ID:3oQQM0P60
ハイン出てきてからの展開特に熱い
448
:
名も無きAAのようです
:2021/04/11(日) 10:24:33 ID:cRjnxFDA0
otsu
449
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:01:28 ID:f.Pjzmts0
/ ,' 3「……む?」
遠くで鳴り響く轟雷が止まった。
作戦室の窓を開き、外を見る。
降り続いていた雨は止み、空からは幾筋もの光が差し込んでいた。
窓の淵からしたたり落ちる水滴を見ていると、国王は何かに気付いた。
/ ,' 3「……まさか」
その原因と理由はすぐに理解できることとなる。
彼の背後が、緑色に輝いたからだ。
この魔法を使える人間を、スカルチノフは一人しか知らない。
事の顛末を見守りながら、深く唾を嚥下すると
次の瞬間には、想像通りの景色が目の前に広がった。
( ∀ )
びしょ濡れの少年が立っていた。
身体をなぞる雨粒すら気にも止めず、俯いたまま。
結んだ長い髪は、絞れそうなほど水分を含んでいる。
/ ,' 3「モララーくん……」
少年の名を呼びかけると、彼は徐に、後ろに手にしたものを見せてきた。
450
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:05:12 ID:f.Pjzmts0
从 ∀从
それは、白炎ハインリッヒ=ボンデリンクの首だった。
背後には、繋がれるべき胴体もある。
/ ,' 3「よくやった。よくやったな、大魔術師よ……!」
孫にも等しい子の肩を抱こうと、スカルチノフは近寄った。
だが、その行為は果たされることはなく。
ゆっくり髪を手放すと、一礼をしてからモララーは作戦室を黙って出ていった。
/ ,' 3「……」
言いようのない感情で、スカルチノフは涙を流してしまいそうだった。
歯を食いしばり、まだ作戦会議中であったことを糧に気を取り直し
遺体の処理を迅速に命令した後、国王は仕事へ身を費やすこととした。
――――。
次の日の朝であった。
スカルチノフは隈の出来た顔で、朝食を取りに食堂へ向かっていた。
次々に舞い起こる問題の数々。
最重要地区のニメアが陥落したことで、敵陣営の動きが活発になっていた。
451
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:06:49 ID:f.Pjzmts0
ここで、最善の手を打たないと下手をすれば王都にまで被害が及ぶ。
どうにか出来ないかと策を張り巡らせていたら、いつの間にか朝だったというわけだ。
大きなあくびをし、重たい身体で窓から除く日光を浴びる。
/ ,' 3(……あの子が、早く元気を出してくれればよいが)
戻ってきてから、一度も会話をしていない。
部屋に戻ったことだけは知っているが、何かを話せば
そのガラスのような心を割ってしまいそうで。
本人には伝えていないが、落ち着くまで休暇を与えるように通達していた。
不満を漏らすものも当然いたが、大半は納得してくれたようだ。
部下たちの心遣いに甘え、この問題は一旦保留。
( ・∀・)「国王陛下」
にする、はずだった。
落ちそうな目玉を瞬きでなんとかひっこめ、スカルチノフは狼狽しつつ問う。
/ ,' 3「も、モララーくん。……もう平気なのかの……?」
( ・∀・)「ええ。ご心配おかけました。魔力もすっかり元通りです」
452
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:08:22 ID:f.Pjzmts0
国王と同じような目元で、無理にニコリと笑う。
不健康そうな姿を見て、スカルチノフは改めて彼に静養を薦めた。
だが、その命令にモララーは首を横に振る。
( ・∀・)「陛下。ボクはもう、決めたんです」
( ・∀・)「戦いに身を置く戦士として、突き進むことを」
震える手のひらを見つめながら、強く拳を握る。
( -∀-)「ここで止まっていたら。きっとボクはまた、決意を鈍らせることになる」
( ・∀・)「一度でも手を血で染めてしまったのなら。もう引き返すことはできないんです」
( ・∀・)「だから、ボクを使ってください。どんな戦場でも、戦況でも。
必ず、勝利を約束します。そして一日でも早い勝利と平和をもたらします」
( ・∀・)「それが大魔術師モララー=レンデセイバーの、戦う意味ですから」
453
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:10:11 ID:f.Pjzmts0
/ ,' 3「……モララーくん」
悩んだのだろう。
悔やんだのだろう。
人殺しを、あれほど拒んでいた以上
最初の感覚は、きっと忘れない。
もう少し時間が掛かると思っていた。
だが、想像する以上に彼は強靭な精神を培っていたのだ。
初めて見せてくれた、自ら戦場へ出るという意志。
それがどういうことを意味するのか。
スカルチノフは頷くと、まだ震えている少年の肩に手を置き。
/ ,' 3「精一杯、頑張りなさい。我らがVIPの為に」
激励の言葉をかけることで、その背中を押した。
――――。
( ´_ゝ`)「なあ、弟者」
(´<_` )「なんだ兄者」
454
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:11:33 ID:f.Pjzmts0
騎士と魔術師の兄弟が馬を率いて、戦場へ駆けていた。
数名の戦士達と共に向かう先は、シャトワという地域。
激戦区であり、陥落してしまったニメア地区から遠く離れた戦場だ。
VIP大陸にある数少ないラウンジ側の拠点なのだが
奪還しても、大きなアドバンテージにはならないと放置されていた箇所。
場所も王都から遠く、兵を出そうにも中々出しにくいので
ニメア地区陥落からは、完全に後回しにされていたのだが……。
( ´_ゝ`)「俺達、今から戦後処理に行く……んだよな?」
(´<_` )「そうだな」
( ´_ゝ`)「何やら先行部隊が居るそうだが……。
戦闘開始から、まだ1時間ぐらいだと思うが」
(´<_` )「ああ、そう聞いている」
( ´_ゝ`)「いくらなんでも、早すぎやしないか?
増援じゃなく、戦後処理だろ?」
(´<_` )「ああ、そうだな。だが、間違いはないぞ」
( ´_ゝ`)「本当か?」
(´<_` )「本当だ。おれにとっては、ようやくなのかとしか思えないが……」
(´<_` )「どうやら、噂の『大魔術師』さんが本気になってくれたらしいからな」
455
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:13:10 ID:f.Pjzmts0
( ´_ゝ`)「近衛魔術師を片手で捻るという、あの噂の……?」
(´<_` )「城で見かけたことがあるが、普通の少年に見えたがな」
( ´_ゝ`)「……いや、なるほど。確かに、本物だ」
(´<_` )「うん?」
( ´_ゝ`)「見えてきたぞ、弟者」
黒煙が空にあがっていた。
強大な魔力の余波を感じながら、戦士たちは戦場へ到達する。
( ・∀・)「ああ、お待ちしてましたよ。ご苦労様です」
出迎えたのは、黒衣から埃を叩き落とす少年。
優し気な笑顔の後ろに広がる光景を見て、戦士たちは青ざめた。
(´<_`;)(何をどうしたら……)
(;´_ゝ`)(これほどの魔術師がこの世に存在するとは……)
居合わせた数名の戦士は、皆が同じような感想を抱いていた。
456
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:14:20 ID:f.Pjzmts0
少年の背後にあるのは、恐ろしいまでの殺風景。
家屋も、木々も、草花も。
人間も。
等しく同じように、消し飛ばされている。
僅かに見え残る、武具や家屋の破片を見て
ようやく、ここには生き物が居たのだろうと理解できるぐらいだ。
( ・∀・)「少し手間取りましたが。これで問題ないでしょう。
逃げ遅れた敵は居ないと思いますが。念のため、索敵をお願いします」
( ´_ゝ`)「……かしこまりました」
戦後処理など必要ないぐらい。
完璧なまでの『制圧行動』
大魔術師モララー=レンデセイバーの、真の初陣はここから始まる。
/ ,' 3「……次はモーケン。その次は、トゲンネ……。その次は……」
会議室で、まるで盤上遊戯のように
スカルチノフは地図の上で駒を動かしていく。
457
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:15:23 ID:f.Pjzmts0
駒の能力は、ゲームにおいては揺らぐことはない。
真っすぐ進む駒は、必ず真っすぐ。
縦横無尽に動ける駒は、どこまでも。
しかし、スカルチノフが今動かしているのは実際の地図。
そこに駒を動かしたとて、普通は実現しない。
何かの理由があって進行が止まったり
そもそも、相手側の『駒』が自分の動かした駒より
優れているため奪えない、など。局面は思うようにいかない。
いかないはず……なのだが。
スカルチノフが手に持っている、最強の駒。
それが授けてくれる情報は、いつだって遊戯のように正確だった。
真っすぐ進めば、必ず進む。
斜めに動かしても、絶対に留まることはない。
/ ,' 3「まるで……風が地を薙ぐようじゃな」
大魔術師を模した黒い駒を眺めながら、スカルチノフは思う。
彼の黒衣と、恐ろしく、神がかった制圧能力。
いつしか、モララーは『黒風』という異名で呼ばれるようになっていた。
458
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:16:55 ID:f.Pjzmts0
ζ(゚ー゚*ζ「……あれ?」
それはとある日の野営だった。
VIP大陸の沿岸部に位置する土地で、ラウンジ大陸へ強制的に乗り込むための
準備をしていた時のこと。
衛生兵として来ていたデレが、モララーの姿を見つけた。
( ∀ )
他を寄せ付けない圧倒的な雰囲気。
まるで触れることを拒むかのように、何か内から威圧的な闘気を発している。
今は戦後処理も終わり、小休憩中だ。
何もそこまで構える必要はあるまい。
声をかけようとしたが、手いっぱいで中々話しにいけず。
ようやく時間が作れたのは、夜も更けてからだった。
459
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:18:42 ID:f.Pjzmts0
ζ(゚ー゚*ζ(モララーくん、どこ行ったんだろう?)
本来いるはずのテントに姿はなかった。
知っていそうな人に声をかけたが、首を振るばかり。
最近、よく戦場を共にするという魔術師の一人曰く
夜になると、決まってふらりと外へ出て、朝には戻ってきているとのこと。
移動時はせず、戦闘行動の後にのみ、そういう不思議な行動をするらしい。
階級的には彼は国王に匹敵するうえ、作戦行動には支障がないため
いつしか誰も口出しすることはなくなったのだが……。
ζ(゚ー゚*ζ(大活躍してるし、何か一言声かけてあげたいんだけどな〜)
あの一件以来、モララーが出る戦場は負けなしだ。
ラウンジ側も流石に気付いたのだが、打つ手がないらしい。
というのも、一個師団レベルの能力を個人が有しているというのが
対策を無理にさせているのだ。
そこまで凄まじい制圧力を持つのであれば、一点集中してでも壊滅しに向かうだろう。
だが、ほぼすべての戦場を覆しているのはモララー単身の力。
機動力が常軌を逸しているため、造兵や精鋭を送ろうにも既にモララーは居ない。
地図上の地域の話のはずなのに、まるで闇討ちをされるように
次々に、自分たちの進行や拠点にしていた場所が落とされる。
ラウンジ側からすれば、考えたくもないほどの脅威だ。
着実に戦況が悪化している。懐に攻め込まれるのも時間の問題だろう。
460
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:20:24 ID:f.Pjzmts0
そんな『黒風』は、果たして夜な夜な何をしているのだろうか。
デレは持ち前の探知能力を駆使し、モララーの痕跡を探す。
僅かに残る、魔力の残り香を探して着いた場所は川辺だった。
月夜に照らされる清流の前に、黒衣を纏ったままの少年の姿がある。
顔でも洗っているのだろうか。屈んだ姿勢で水面を見つめているようだ。
ζ(゚ー゚*ζ「モララーく……」
声をかけようとしたデレは、言葉を詰まらせる。
秋の虫が鳴いているせいで、運よくかき消されて良かった。
( ∀ )「……う……うぅっ……」
461
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:21:27 ID:f.Pjzmts0
夜闇に響くのは、少年の嗚咽。
具合が悪いわけではない。
辛そうに、ただただ咽び泣く子どもの声。
ζ(---*ζ(あぁ……私、なんて馬鹿なんだろう)
元々強かった少年。
誰よりも優しかった少年。
死刑囚を手にかけたことで、気持ちが吹っ切れて
そこから快進撃を生み出した少年。
でも、変わったわけじゃない。
彼は、優しい彼のまま。
心を押し殺して、ここまで来たのだろう。
人を殺すことが、辛くないわけがない。
人を殺すことが、悲しくないわけがない。
それでも。
462
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:22:33 ID:f.Pjzmts0
彼は、ただの欠陥品にならないように。
一度踏み出したその道から逸れないように。
懸命に懸命に、戦っているのだ。
普段から放っている、あの無駄にすら思える闘気は
そんな心の内を守るための虚勢なのだろう。
気張ってばかりでは、いずれは疲れ果ててしまう。
だから、時折こうして弱い自分を曝け出しているのだ。
ζ(゚ー゚*ζ(ごめんね、モララーくん。
戦いが終わったら、たくさんお話しようね)
彼のその姿勢に、決意に、水を差すわけにはいかない。
ここで優しくしてしまっては、油断が生まれてしまうことだろう。
最大限に心の内をくみ取るならば
見なかったことにして、明日も同じようにふるまってもらうだけ。
何もできない、してやれない歯がゆさに唇をかみしめつつ
デレは、自分の持ち場へ戻っていった。
463
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:23:53 ID:f.Pjzmts0
( ・∀・)「……ふぅ」
鼻をすすり、川の水で顔を洗う。
精神のリセットを行ったモララーは、頬をぴしゃりと両手で挟んだ。
( -∀-)(もうすぐ……もうすぐなんだ……)
まだ日差しの厳しい時期から続けている進軍。
秋になり、目の前に広がるのは敵の本拠地。
ラウンジ王国のラウンジ城。
ラウンジ城に攻め入り、総大将……つまり国王に降伏宣言をさせれば我々の勝利だ。
最大の軍事国家が白旗をあげてしまえば、終戦は揺るぎない。
( ・∀・)(その為に……ボクはここまで来たんだ)
黒衣をぎゅっと握る。
何度も洗っているはずなのに、決して消えない血の匂い。
464
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:25:10 ID:f.Pjzmts0
この外套を羽織っている以上、自分は戦士でなくてはならない。
戦果をあげるたび、モララーはいつしか大陸中で人気者になっていた。
余りにも驚異的な力は、戦時中のみ畏怖から敬愛へと変わる。
誰もが彼のことを、英雄と呼び、はやし立てた。
モララー自身も、プロパガンダとなることを厭わなかった。
それで安心できる人が、奮い立たせる心があるなら、と。
使いもしない杖を持ってみたり、適当な情報を伝えて記事を書かせたり。
いつしか、名実ともに『大魔術師』となったモララー。
( ・∀・)(そうだ。これでいいんだ)
ラウンジの大群が目の前に広がっている。
呪術師達の呪文を、さらなる圧倒的な破壊力で押し潰す。
武士の長に対し、あえて剣戟で挑み、技を見切った末に首を斬る。
止まることなく進んでくる、魔神のような男に敵兵たちは恐怖した。
465
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:26:30 ID:f.Pjzmts0
( ・∀・)(これこそ、ボクの存在意義)
ラウンジ城までの道を、必死に止めようと武士が突貫してくる。
雷で焼き払い、飛んでくる大岩の群れを指先で破砕する。
( ・∀・)(これこそが、ボクの使命)
真っ赤に染まった袖で、顔を拭う。
数多の先鋭をそろえたはずの、ラウンジ城の最上部。
四散した武士、最強のはずだった呪術師の死体。
それらの先に居る、ラウンジ王国の最高責任者へモララーは歩み寄る。
( -∀-)(そう……ぼくは……ボクこそが)
ガタガタと震える初老の男。
殺せばすべてが終わる。
だが、それだけでは意味がない。
必要なのは、VIPの勝利。得る物が必要だ。
怯える総大将に対し、モララーはあえて
ラウンジ大陸の流儀、戦闘前に名を名乗る
というものに倣い、冷たい声で告げた。
466
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:28:17 ID:f.Pjzmts0
( ・∀・)「『黒風』モララー=レンデセイバーだ」
.
467
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:29:59 ID:f.Pjzmts0
( ・∀・)「武器を捨てろ。さもなくば殺す」
歯を打ち鳴らし、戦う術を何もかも失った国王は
涙を流し、失禁しながら何度も何度も首を縦に振る。
長きに渡る戦争は、そこで終わりを告げた。
嘗壱話「零落の黒き風」
468
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:31:00 ID:f.Pjzmts0
つづく
469
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:32:49 ID:f.Pjzmts0
第零話「モララー=レンデセイバー」
.
470
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:33:52 ID:f.Pjzmts0
白い息を吐いて、少年は歩いていた。
厚手の服と、背に負った荷物。
背後に流れていくのは、雪化粧をした王都だ。
道行く人たちはみんな笑顔で、子どもも大人も楽し気に歩いている。
それこそ、彼の最大の功績。
身を削り、心を削り。
何度も挫けそうな思いを、何度も奮い立たせ。
ようやくつかんだ、終戦の証。
赤い鼻をしたモララーは、これが最後になるのだろう、と
その明るい風景を横目に焼き付けていた。
ラウンジ王国が堕ちてから数日後のこと。
難しい政は、全て大人たちに任せると
大魔術師モララー=レンデセイバーは、部屋の片づけを始めた。
彼を懇意にしていた者たちは、必死で止める。
(;ФωФ)「何故であるか、モララー殿!」
471
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:34:58 ID:f.Pjzmts0
荷造りをするモララーに、聖騎士ロマネスクは凄まじい剣幕で詰め寄る。
対するモララーは、淡々とした様子で返してきた。
( ・∀・)「ボクの役目は終わりましたから。
これ以上、城に居ても邪魔なだけでしょう」
(;ФωФ)「そんなことはないのである!
お主程の功労者、誰も咎めないのである」
( ・∀・)「……そうでしょうか。
世の中、良い人ばっかりじゃないですからね。」
( ・∀・)「自分だって、武勲を上げたのに。
自分だって、仲間を家族を殺されたのに。
自分だって……なんて、恨み言を連ねられるのはゴメンですから」
(;ФωФ)「そっ……!」
否定できず、ロマネスクは言葉を詰まらせた。
特にモララーは年も若い。
大きな目で見れば、みなが称賛しているが
気に食わないと思う人間も、少なからずいるだろう。
特に、王都なんて権力に近い場所では。
(;ФωФ)「国王陛下は、なんと仰っていたのであるか?」
472
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:36:05 ID:f.Pjzmts0
( ・∀・)「好きにしなさい、と」
(;ФωФ)「……」
突き放したわけではないだろう。
言葉通りの意味なのだ。
大事な大事な、孫のような存在。
彼が望むことは何でもしてあげたい。
心からそう思っている。
だからこそ、戦争という軛から解放されたのなら
後は、一人の少年として。自由に生かせてあげたい。
それが、国王のできる唯一の償いなのだろう。
モララー自身も、その意図をくみ取り
あえて遠慮することなく、丁重に文言通りの対応をしたわけだ。
その時の、悲しそうな、寂しそうな表情だけは。
モララーは生涯忘れることはないだろう。
473
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:37:01 ID:f.Pjzmts0
( ФωФ)「……キミはもっと、子供らしくして良いのであるぞ」
( ・∀・)「はは。確かに、そうですね」
ロマネスクの抱いた、親心のような言葉に渇いた笑いが漏れる。
元々少なかった荷物を、鞄にしまい込んで留め具を付けた。
( ФωФ)「いつ、出るつもりなのであるか?」
( ・∀・)「部屋の掃除をしてからなので。あと1時間もしたら」
( ФωФ)「……デレが会いたがってたのであるぞ。
キミと話したいことがたくさんある、と」
( -∀-)「会うと、別れるのがつらくなりますから。
ロマネスクさんから、ぼくがお礼を言ってたと伝えてください」
( ФωФ)「……モララー殿」
( ФωФ)「我々は、キミに感謝してもしきれないほどの恩を受けたのである」
( ФωФ)「いつかどこかで、恩返しをさせて欲しいのである」
( ФωФ)「だから……それまで、お元気で」
引き留めることは叶わないと感じたロマネスクは、諭すように言い切ると
大きな手をモララーへ差し出した。
474
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:38:06 ID:f.Pjzmts0
( ・∀・)「ええ。ロマネスクさんも、お元気で」
覇気のなくなった、柔和な笑顔で手を取り握るモララー。
上着を着こみ、荷物を背にすると
ロマネスクに一瞥し、部屋を出ていった。
( ФωФ)「……」
残された聖騎士団長は、主の居ない部屋を検めた。
そして部屋に残された茶器の数々を見つけると
少し目を細めてから、その場を退いていった。
( ・∀・)(さて。ぼくは、これからどうしようかな)
475
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:39:08 ID:f.Pjzmts0
冷える鼻を擦りながら、モララーは街道を歩いていく。
王都はすっかり見えなくなっていた。
野垂れ死ぬわけにはいかないので、食糧だけはたくさん積んである。
行き先を考えた時、元々居た家に帰る選択肢は最初から無かった。
戻ったところで、ろくなことにはなるまい。
生き方もそうだが、住むところも考えないと、まともに暮らしていくことは難しいだろう。
モララーの戦う役目は終わったわけだが、自分自身の罪は残っている。
いくつもの人生を終わらせた自分は、簡単に死ぬことすら許されない。
だから、一生懸命生きなくては。
――――でも、何のために?
罪を償うって、どうすればいいのだろう。
476
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:40:07 ID:f.Pjzmts0
血の涙を流し、存命を請う敵兵を殺した自分が
何をすれば許されるのだろう。
新雪を踏みしめながら、モララーは自問する。
考えても考えてもわからないが、一つだけ。
旅立つ前に買い物をしていて、思ったことがある。
( ・∀・)(そういえば、魔法で育てられた野菜は体に悪いって言うなぁ)
戦いの最中、死体の山を積み上げていくうちに
肉類を体がすっかり受け付けなくなってしまった。
その為、野菜を主に食しているわけだが……。
それでは、もしかすると長生きできないかもしれない。
いくら稀代の魔術師といえ、死の病は回避できない。
( ・∀・)(どこかで、無魔法の野菜でも作ってみるのも良いかもしれないな)
477
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:41:06 ID:f.Pjzmts0
歩き始めて、どれぐらい経っただろう。
地図も持たずに出てきたので、今どこに居るのかわからない。
ふと、来た道を振り返ってみた。
足跡すら、降りしきる雪でもう無くなっている。
視界の悪い中では、馬を走らせるものすらいない。
まるで、世界に自分ひとりだけが取り残されたようだった。
( ・∀・)
( ・∀・) !
478
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:42:07 ID:f.Pjzmts0
ふと、モララーは思い立った。
そして防寒具の帽子を一度外すと
長く伸びた後ろ髪を、しっかりと掴む。
逆手で魔力を込め、光の刃を作り出したが
何かを決意すると。
魔法を消し、腰に下げているナイフを引き抜き
刃を束ねた髪先にあてがうと
一思いに、根元から切った。
479
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:43:06 ID:f.Pjzmts0
手を離すと、さらさらと風に乗って髪が流れていく。
すぐに白い景色に溶けていく、自分の片割れを見届けると
モララーは短くなった髪へ、帽子をしっかりと被り直し
前を向いて、再び歩き出すのだった。
どこへ行くのか、どこへ着くのか。
彼自身も、まだ知りもしないままに。
480
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:44:08 ID:f.Pjzmts0
( ・∀・)モララーは隠居暮らしのようです。
【零落の黒き風】
おわり
481
:
◆mGwfd747EA
:2021/04/17(土) 21:49:04 ID:f.Pjzmts0
以上になります。
番外編の時には、もう書かない的なことを言った舌の根も乾かないうちに
こんなものを書いてしまいました。
本編の時間軸に対し、過去と未来をもうやったのでこれで出し切った感はあります。
書こうと考えはしましたが、蛇足になりそうだったのでもうやらないと思います。
本編の最初にノリと勢いで書いた設定を、どうにか壊さないように四苦八苦するのが大変でした。
連載当初の尖った物言いと、連載終盤の優しいモララーのイメージを損なわないようにしてみたつもりです。
思い付きで始めたお話を、まさか元号変わるまで書いているとは思ってもいませんでした。
それほど、自分にとっては思い入れのある作品です。
それではここまで読んでいただいた皆様、ありがとうございました。
482
:
名も無きAAのようです
:2021/04/17(土) 22:41:12 ID:.ayZ7wCk0
隠居暮らしという物語、モララーの人生を追ったお話もこれでついにおしまいか……
寂しくなるけども、番外編と合わせてとてもよい作品でした
作者さん、最後まで書ききってくれてありがとう。乙!
483
:
名も無きAAのようです
:2021/04/17(土) 23:08:53 ID:/wEHwtXQ0
乙!!!
484
:
名も無きAAのようです
:2021/04/22(木) 14:09:20 ID:b5FvTPps0
重たい内容なのに、最後は晴れやかに感じて良い
またここから本編を読み返したい、乙でした
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