したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

ダンゲロスSS上海 応援スレ

1ダンゲロスSS上海:2025/10/27(月) 18:54:02
ここにダンゲロスSS上海の応援作品を募集します。
イラスト、幕間SSなどなんでも良いので、キャンペーンを盛り上げる作品を随時投稿されてください。

2拳狐:2025/11/07(金) 22:43:24
拳狐・幕間

薄明の上海、どことも知れぬ部屋。
今どき流行らぬ白熱電球の灯りの下、一人の男が静かに汗を流している。
男の顔には、狐の面が一つ。
拳狐である。

拳狐の様子を見れば、これが鍛錬の最中であることは間違いない。
しかと床を踏みしめ、拳を繰り出す。
基本に忠実な、武術の型を倣う動きであった。

奇妙なのは、その鍛錬がひどく緩慢に見えることである。
拳狐は一つの型をこなすにあたり、極めて長い時間をかけていた。
無論、演舞のようにゆるりと身体を動かす修練というものはある。
だが、拳狐のそれは、型の合間に突如人形の如く動きを止めるものであった。
もし刹那を見切る眼力を持つ者がこの光景を見たならば、たちまちこの鍛錬の真価に気付けたであろう。
そう、拳狐は『為逸速的一息』を以て高速で型をこなし、後に同じ型を繰り返していたのだ。

武術家に限らず、身体を動かすことを生業とする者にとって肝心なこと。
それは、思い浮かべる理想の動きをそのまま自らの肉体で再現することである。
だが、これが実に難しい。
完璧に再現したかに思えても、傍から見ればひどく不格好ということも少なくない。
それ故、動きを撮影するなどして後から見返し、少しずつずれを無くしていくのが常道である。

さて、ここで改めて『為逸速的一息』の話をするとしよう。
『為逸速的一息』は、止まっているものを高速で動かす能力である。
しかし、正確に言えば、使い手が思い浮かべる高速の動きを現実のものとする能力である。
即ち、高速で「理想の動き」を再現する能力でもあるのだ。

もちろん『為逸速的一息』で型をこなすだけでは、ただ能力を使っているに過ぎない。
だが、流れの中で「理想の動き」、その感覚を把握できれば、自らの肉体のみで再現する際の助けとなる。
鍛錬を積むにあたって、答えを知っていることの価値は大きい。
つまり、この拳狐の鍛錬とはまず正答を得て、それを身体に馴染ませていくものなのだ。

拳狐は『為逸速的一息』を過信してはいない。
静止という制約があるが故、常に万全の状態で使えるとは限らぬ。
また、能力という柱に頼り切り、待ちの型に固執すれば、やがて詰む相手と出逢うことになろう。
不測の事態にも応じられるよう、拳狐は日々鍛錬を重ねる。
そうして得た技を基礎として、実戦にて多様な手筋を試すのだ。
次の拳狐が如何に戦うかは、想像に任せるとしよう。

3ォーニー:2025/11/08(土) 00:34:10
張三氏の個人的な顔面イメージ
ttps://postimg.cc/yJySTvQW

4ォーニー:2025/11/08(土) 00:54:32
茶山イメージ
ttps://postimg.cc/TKFJL7yQ

5ォーニー:2025/11/08(土) 01:19:18
ワニ
ttps://postimg.cc/zHqCY3vk

6果成いっぽ 意味:成功への一歩:2025/11/12(水) 12:12:41
do-fu(どう‐ふ)

童負
意味:児童犯罪者。

独夫
意味:民衆から孤立した独裁者。

毒婦
意味:悪女。

肚腹
意味:腹の内、内腑。

※注意※
これはあくまでヒーローを目指すための能力であり、正義を貫く能力ではない。
留意せよ。

留意せよ。

留意せよ。

7スパロボおじさん:2025/11/14(金) 21:02:25
やあ、スパロボおじさんだよ。
どうやらスーパーロボット大戦を元ネタにしている大戦持A子くんがダイヤ所持者に突撃するみたいだね。
果成いっぽくんも参戦を表明しているから、場所はともかく乱戦になりそうだ。
そこで今回は、大戦持A子くんの特殊能力『精神道奇襲術』の元になった精神コマンドについて簡易な説明をしようと思う。
スーパーロボット大戦がシリーズ作品がたくさんあって、作品ごとにシステムに細かな違いがあるから、おおざっぱな説明になるけどね。
もちろん、この書き込みは無視してくれてもらっても一向に構わない。
でも、もし気合を入れて元ネタからアイディアをひらめきたいという子がいるなら、おじさんはしっかり応援したいからね。

スーパーロボット大戦、通称スパロボは、さまざまなロボット作品からキャラクターが参戦するシミュレーションRPGなんだ。
スクエア状のマス目にロボットが配置されて、それを動かして敵を倒す、そんなゲームだね。
ダンゲロス本戦を紹介するときに「スパロボみたいな」と形容されることもあるから、本戦に参加したことのあるプレイヤーは理解しやすいかもしれない。
マス目を移動して、武装を選択し、射程内の敵を攻撃する。
スパロボ自体をプレイしたことがなくても、ファイヤーエムブレムとか似たタイプのゲームを知っている人も多いんじゃないかな。

精神コマンドは、そんなスパロボの特徴的なシステムなんだ。
ロボットには、基本的にパイロットが搭乗している。
例えばガンダムにアムロ・レイ、マジンガーZに兜甲児といった具合さ。
そして、パイロットはそれぞれ精神コマンドと呼ばれる、他のゲームでいうところのスキルや魔法みたいなものを習得するんだ。
移動→攻撃という動きをする前に、精神コマンドを使用することでゲームを有利に進められる仕組みになってるんだ。
精神コマンドは大戦持A子の説明にあるような、自身を強化するものが主になるけど、それだけってわけじゃない。
例えば、味方のHPを回復する【信頼】、敵全体の命中率を下げる【かく乱】、はたまた自分を犠牲にしてダメージを与える【自爆】なんてのもある。
「スーパーロボット大戦A 精神コマンド」で検索すれば、たぶん一覧が出てくると思うよ。

そうそう、パイロットが習得できる精神コマンドの数には限りがあるんだ。
作品によって違うけど、スーパーロボット大戦Aの場合は6つだったはずだね。
大戦持A子は【加速】を使ったから、残りの枠は5つになる。
これを設定として取り入れるかどうかは、また別の話だろうけどね。

ちなみにスパロボに登場する作品には、スーパー系とリアル系という分類があるよ。
スーパー系はマジンガーZやゲッターロボ、リアル系はガンダムやマクロスが例としてよく挙げられるかな。
そして、それぞれに習得する精神コマンドの種類にはある程度の傾向がある。
例えばスーパー系は【必中】や【気合】を覚えるパイロットが多いし、リアル系は【ひらめき】や【集中】を覚えるパイロットが多い印象だ。
もちろん参戦作品の特徴にもよるんだけどね。
それで大戦持A子が習得した【加速】なんだけど……、これはどちらの系統でも習得される精神コマンドなんだ。
だから、大戦持A子がどんな戦闘スタイルになるかは、ちょっとわからないなぁ。
おじさんとしてはボスボロットみたいな補給ユニット説を推しておこうかな。

8スパロボおじさん:2025/11/15(土) 11:55:45
やあ、スパロボおじさんだよ。
今日はSSを書く上で役立ちそうな、精神コマンドの仕様について紹介するよ。
ちなみにおじさんは大戦持A子の作者とは無関係のプレイヤーだよ。

まず、精神コマンドは無限に使えるものじゃない。
パイロットにはSP(精神ポイント)というステータスがあって、それを消費することで使用できるんだ。
つまり、便利だけど使うペースをよく考える必要があるものだってこと。
消費するSPは精神コマンドごとに違っていて、劇的な効果を持つものほど消費量も多い感じだね。
ちなみにA子くんがプロローグで使った【加速】は、とても消費量が少ない。
うーん、どこか示唆的だね。

次に、精神コマンドには重ね掛けが有効なものと、無意味なものがあることを覚えておこう。
【加速】はスパロボAでは移動力を+3する効果だけど、2連続で使って移動力を+6することはできない。
移動力を上げ続けたいなら、1回の移動ごとに使う必要がある。
キャラクター説明にある【必中】【ひらめき】も、それぞれ攻撃・回避のたびに使わないといけないね。
精神コマンド使用のタイムラグは、作劇に活かしやすいんじゃないかな。

一方で異なる精神コマンドを同時に適用することは可能だ。
例えば、【必中】と【ひらめき】を使えば、対戦相手に必ず攻撃を当てつつ、反撃を必ず避けるという動きができる。
ただし「必ず」と言っても、【ひらめき】を使った相手に【必中】を使って攻撃しても回避される、というように効果の優先順はあるから、対戦相手の魔人能力次第ではうまくいかないかもね。

そうそう、1つの機体に複数人のパイロットが登場している場合、それぞれのパイロットが精神コマンドを使用できる。
例えば3人乗りのゲッターロボなら、3×6=18種類(重複もあるけど)の精神コマンドが使えるよ。
A子くんは1人だけで戦うから今のところ関係ないけど、精神道奇襲術を使えるキャラクターに憑りつかれたりしたら……また違った展開が生まれるかもね。

9スパロボおじさん:2025/11/15(土) 12:02:40
おっと、【必中】は1ターンの間有効だったから、説明がちょっと違うね。
【熱血】とかと混ざっちゃったよ。
おじさんも年だからね。

10白髪黒羽:2025/11/21(金) 17:54:29
《万事屋上海紀行・零日目・二》

ところでアタシはどこの誰を探せばいいんだ?

「……それを聞かずに私の依頼を引き受けようとしたのかい? 黒ヤギさんか白ヤギさんじゃああるまいし」

アタシを用件も読まずに相手からの手紙を貪り食う獣みたいに呼ぶんじゃねえよ。いいからさっさと教えろっての。

「はいはい。探し人の名は『日ノ御子神楽』(ひのみこかぐら)、いなくなったのは約3年前だね」

ヒノミコカグラ、ねえ。なんかジャンプ漫画にいそうな名前だな。
つーか、3年間も行方不明でほったらかしってのはどういうこった?

「行方不明になったのは、丁度彼女が高校の修学旅行に出ていたときのことだ。
自由行動のあと集合時間になっても戻らなかったんだが、そのときの学校の初動対応が
お世辞にもよろしかったとは言えなかったわけだ。『どうせ羽目を外して遅れているんだろう』
と決めつけて、遅れたのは自己責任……ということで置いてけぼりにしてしまったのさ」

なんだよそりゃ。つーかそんなに素行不良の悪ガキだったのか?

「いいや、逆だよ。むしろ優等生の部類に入る少女だったそうだ。
ただ、その優等生ぶりというか大人びた雰囲気が一部の教師には不評だったようでね。
当時の学年主任、これがまさに彼女を毛嫌いするようなタイプだったわけだ。
だから彼女が泣きついてくるまでほっとけ、という対応になったわけだが……」

……令和のこの世に考えられねえレベルのクズじゃねえか。
悪い、上海行きはナシだ。まずソイツをわからせてやる、話はそっからだ。
ソイツの名前と住所を今すぐ教えろ、ちょっくら愛車カッ飛ばしてそっち行くわ。

「……そう言うと思ったよ。安心したまえ、そちらについては既に処分も済んでいる。
職務怠慢、そして下らない好き嫌いのツケには大きすぎるくらいの社会的制裁をね。
とはいえ、結局そのせいで事件発覚が遅れたわけだ。修学旅行が終わったのがその2日後、
そこで初めて親御さんに行方不明の件が知れ渡り大騒ぎさ。
当然、警察も動くことになったんだが……これまた信じられないことに、
警察は『事件性なし』として捜査を止めてしまったのさ」

はああああああ? 聞けば聞くほど不可解っつーか不愉快な展開が続くじゃねえか。

「憤慨するのもわかるが落ち着いてくれよ、我が親友。
こうなったのも、捜査線上にかの悪名高き上海マフィア『魔幇』が浮かび上がったためさ。
彼らのビッグビジネスの一つ、人身売買に巻き込まれたのだろう、とね。
……もう想像はつくだろうけれど、警察の上層部に、魔幇とつながった人間がいてね。
だからこの失踪事件も握りつぶされた、というわけだ。……ああ、先に言うけれど
そちらについては我々がしかるべき処置を行っているから、君の出る幕はもうないよ」

……そういやニュースで妙に警察の不祥事云々の話題が挙がってたが、アンタらの仕業か。
しっかし、日本の警察にまで手が届くとか、なかなかヤベー連中だな。

11白髪黒羽:2025/11/21(金) 17:54:42
「君が相手取ろうとしているのは、上海全土を実質的に支配する闇の組織……
もっと言えばその影響力は近隣諸国にも及んでいることは想像に難くないだろうさ。
嘆かわしいことに、我々探偵の中にも魔幇の力を恐れて手を出さなかった者も多いから
その点では我々に彼らを断罪する権利はない、と言えなくもないのだけれどね」

おいおい、主語がデカくなってきてるぜ、世界二位の探偵殿。
アンタはそうじゃあなかったからこそ、今こうしてアタシが人探しに乗り出せるんだろうが。

「……ふふ、ありがとう。ともあれ、私のところに話が持ち込まれたのが先日のこと。
そこから共犯者(スイートハニー)の助けも借りて情報をかき集め、
ようやく警察機構の膿出しも終えて、まともな捜査体制が整う……といったところで
百年節の時期が来てしまったのさ。表向きには国を挙げての慶事だから、そこに
日本の警察が捜査のためとはいえ踏み込むとなると国際的なメンツの問題にもなる、と」

国際的メンツねえ、そんなもんそこらの犬の餌にでもしとけよ。
国の名誉に比べたら人一人くらい、なんて考えだから悪党どもにつけこまれるのさ。

「世界は君が思うほど単純には回らないものだよ。というわけで、公的な立場では
動きが取れない状況だってことで、私らが本格的に動くことになったんだから。
まあ実際は、先述の通り私がうかつに切った張ったのできる身の上じゃあなくなったために
君にバトンを投げ渡す羽目になったわけだが……」

そのバトンは私も嬉々として受け取ったわけだし、気にすんなって。
一応確認しておくが、魔幇が攫ったってのは間違いがねえのか?

「間違いないさ、とはいえその推理を事細かに説明するとほんの1時間ばかり
私がしゃべり倒すことになるんだが、聞くかい?」

やめとく。しっかし、マフィアに女の子が攫われた、ってなると……
あんまりいい報告ができない可能性もあるな。そうなった場合はどうすんだ?

「……私のほうからなんとかするよ。ただ、私の推理では生きている公算は高いよ。
バラ売り目当てだとしたら、わざわざ外国で拉致をするのはリスクが高いからね」

それもそうか……3年前に修学旅行ってことは、本当なら大学生になってる頃か。
若い盛りの女の子をかどわかしたツケはきっちり払わせてやらねーとな。
行きがけの駄賃にダイヤ貰ってくだけじゃ足りやしねえぜ。
……って待てよ、そういやテメーのパートナーは何やってんだ?
その気になりゃこんなシケた現実なんざバキバキに破棄できるような能力持ちだろ?

「当然私も共犯者も考えたさ、過程も何も無視して
彼女を救うことだけに尽力すればいい、とね。……だが、できなかった。
件の『清王朝のダイヤ』の影響なのか、はたまた『魔幇』の中にその手の能力への
防御手段を持っている奴がいるのか……原因は不明だけどね」

……おいおい、アンタらが束になってどうにもならねえ相手がいるってことか?
そんな厄い案件をよくもアタシに回しやがったな。

「引き受けた時点ではそこまでわからなかったからね。……臆したかい?」

アホ抜かせ、我が親友(モナミ)だなんて呼ぶクセにまだアタシの性分をわかってねえな?
アタシは、できそうにねえ、手に負えねえ件ほど燃えるタチなんだよ。

「ふふ、意気軒昂なのはいいが、くれぐれも生きて帰ってきたまえよ?
 繰り返すようで悪いけれども、君が敵に回すのはそういう相手だ」

かはは、心配性だねえ。
ま、数日後にはいい土産と報告ができるよう気張ってくるさ。

12蒙壬辰:2025/11/22(土) 23:42:27
ニセ妊娠願望マンの応援SSです。
あまりにもお下劣で陰鬱な内容なので⚠️閲覧注意⚠️です。
みなさん第一回戦のSS執筆頑張ってください。

13蒙壬辰:2025/11/22(土) 23:43:21
 魔都上海。
 ネオンサインが光る繁華街のビルの一室、明かり一つ灯らぬ暗闇の中で、一人の男が稽古に励んでいた。
室内に並びられたトレーニング器具には目もくれず、男は暗闇に向かってひたすらに打ち込みを続ける。

「フッフッフッフッ」

 天然日流の構えは一日にして完成しない。
 日本拳法、ジークンドー、天然理心流を組み合わせた流派である天然日流は、蒙壬辰の両親と再婚相手の義父の三人が一代で完成させた全く新しい武術だ。
 そのコンセプトを一言でいうなら「完全なる実戦形式」。実戦で磨かれ、実戦で完成するのが天然日流の大きな特徴である。
 だが、そんな天然日流といえども、日々の鍛錬は欠かせない。むしろ、他流派よりも人一倍の鍛錬が要求される。
 一日にして十五時間。それが天然日流を背負う、蒙壬辰が自身に課した厳しい稽古時間数だった。

「フッフッフッフッ」

 往々にしていえることだが、強くなるためには、強い武術体系を完成させるよりも、すでに存在する一つの武術流派のみを極めた方がよほど早い。
 複数の武術をいたずらに掻い摘んだだけでは、全てが中途半端に終わり、相互の流派思想が不協和音となってむしろ弱くなるためだ。それゆえ、日拳、ジークンドー、天然理心流の三つの流派を組み合わせた天然日流は、人の三倍の時間をその動きの体得のために費やさねばならなかった。
 そして、それが出来る胆力と体力を兼ね備えていたことが、蒙壬辰にとっての最大の悲劇だったといえよう。

「フッフッフッフッ」

 人としての生活を捨て、人の三倍の努力を己に貸すことは、己の心身に狂気を招き入れる遠因ともなっていた。
 蒙自身がそれに気づいた時にはすでに遅く、彼は自分を止めようと思っても止められない自縄自縛の罠に陥っていた。
 費やした努力を無駄にするには、もはや時は遅すぎた。

「フッフッフッフッ」

 撃ち込む。ただひたすらに。
 握り込まれたその拳は縦拳である。
 日本拳法は突きに始まり突きに終わる。
 直線的で最短で最長距離に相手に撃ち込む拳が、勝負を制する。
 そのために重要なのは、距離・射程・タイミング。

「フッフッフッフッ」

 撃ち込む。虚空に向かって。
 汗が飛び、乾いた空気が破裂する音が鳴り響く。
 ただの最短最速だけではない。
 ジークンドー由来の一撃必殺の思想が乗った拳が、一撃一撃に殺人的な威力をもたらす。
 魔人としての基礎的身体能力向上も相待って、蒙壬辰のストレートリード・直突きは周辺人物全てを鏖殺するガトリング・ガンだ。

「フッフッフッフッ」

 撃ち込む。撃ち込むべき相手の顔面を想定しながら。
 実戦的武術である天然理心流は剣を握りながら相手に蹴りを入れるほどに実戦を想定した総合格闘技的性格を持つ武術だ。その思想は日本拳法家でありながら、実戦を志向した父を介して蒙壬辰にも伝わっている。

『新撰組だ。心は新撰組になるのだ。』

14蒙壬辰:2025/11/22(土) 23:45:21
 シャドースパーリングを繰り返す最中、不意に目の前に亡き父の顔が浮かび上がる。
 暗闇に浮かび上がった幻影の父が言う。「お前は新撰組になるのだ」と。

——父さん。
——一理ある。
「シッ!」

 幻影の父の顔に向けてリードパンチを放つ。瞬間の体重移動を乗せた拳は、一撃で父の姿を破壊し尽くした。
 その場には何も存在せず、蒙は再び虚空に向けて拳を撃ち込み始める。

「フッフッフッフッ」

 新撰組は最強の流派だ。
 旧幕府軍が新政府に敗北した理由は、天然理心流を侍たち全員に普及させなかったことだ。
 天然理心流はいうなら……全方位型の総合格闘技。
 剣のみならず、あらゆる戦況、あらゆる相手を想定し、複数武器の使用や徒手格闘をも想定した超実戦的な格闘術だ。その稽古は剣の修行というよりも喧嘩の様相である。
 重要なのはその思想だ。
 農民のみならず、武士たちにも天然理心流を教えていれば。欧米列強からガトリング・ガンを輸入して新政府軍を一網打尽にするという発想に至れたことは想像に難くない。
 ゆえに、蒙は目指すのだ。ガトリング・ガンに匹敵するほどの戦闘能力を。

『壬辰、最近テレビに出演しているらしいな。お前は天才だ。稽古時間を無駄にするな』
『わかっているよ父さん。テレビ出演は単なるパフォーマンスさ。父さんたちが作り上げた天然日流は父さんたちの代では完成しない。次代、次次代と世代交代を経てはじめて完成するものだと僕は考えている。そのためには人を呼び込まないといけないのさ』
『オラに勝てない人間が偉そうにするな』

「フッフッフッフッ」

 繰り返す。繰り返す。
 何度も虚空に拳を打ち込むうち、いつのまにかふたたび父の顔が浮かび上がる。
 今は亡き父の姿が。
 
 3歳で両親が離婚した。
 5歳の時に母は新しい父と再婚し、壬辰は母と義父との三人で暮らし始めた。
 実父との関係は切れたわけではなく、月に数回程度交流があった。
 日本拳法・天然理心流を体得した父と、実戦的ジークンドー流派の創設を試みる義父は元々武術交流があり、以後壬辰は実父・実母・義父の三人の親から徹底的に武術の手解きを受けて育った。
 だが、幼い壬辰にとって、それは逃げ場のない永久的な地獄の鍛錬の日々に他ならなかった。

 それでも耐えられたのは。
 知っていたからだ。
 三人の親が交わって自身が生まれたように、武術同士の交流には未来が産まれるのだと。

『父さん……母さんが肺癌だ。ステージⅣ。もう助かる見込みはないって』
『壬辰、お前に落ち込んでる暇などあるのか。天才のお前は新撰組だ。鍛錬を励め』
『父さん……落ち込んでるのは父さんの方じゃないのかい』
『何を言うんだ』

15蒙壬辰:2025/11/22(土) 23:46:09
 繰り返す。何度も何度も。
 虚空に向けて拳を突き続けるうち、いつのまにか壬辰はズボンを脱いで脱糞の態勢をとっていた。
 それでもなお、壬辰は拳を突き続ける。

「フッフッフッフッ」

『父さん……母さんが死んだよ。父さんはついに母さんの死に目に姿を表さなかったね』
『壬辰……すまない。今は一人にしてくれないか』
『僕は時々思うんだ。父さんたちが交わって僕というサラブレッドが生まれたように、僕もまた他の強き人と交わることで何かを成せるのではないかとね』
『壬辰……その思想は正しい』

 ズボンを脱ぐ。
 脱糞の態勢をとる。
 拳を突く。
 ズボンを履く。ズボンを脱ぐ。
 踏み込み、ステップ、刹那のリードパンチ。
 ガトリング・ガン。
 その繰り返し。

「フッフッフッフッ」

『父さん、やはり母さんが死んだタイミングで油断したね』
『壬辰……一体何を』

 ズボンを脱ぐ。
 脱糞の態勢をとる。
 拳を突く。
 ズボンを履く。ズボンを脱ぐ。
 踏み込み、ステップ、刹那のリードパンチ。
 ガトリング・ガン。
 ズボンを脱ぐ。
 その繰り返し。

「フッフッフッフッ」

『言ったろ父さん?父さんたちが交わって僕が生まれたように、ぼくもまた強きものと交わって何かを成したいのさ……この一撃は予想もつかなかったろ?』
『壬辰……!やめろ……!』

 ズボンを脱ぐ。
 脱糞の態勢をとる。
 拳を突く。
 ズボンを履く。ズボンを脱ぐ。
 踏み込み、ステップ、刹那のリードパンチ。
 ズボンを脱ぐ。
 ガトリング・ガン。
 ズボンを脱ぐ。
 その繰り返し。

「フッフッフッフッ」

『知ってるよ父さん。僕は父さんの子じゃない。母さんと義父との間に生まれた子なんだろ?』
『違う!壬辰!お前はオラの子だ……』

 ズボンを脱ぐ。
 脱糞の態勢をとる。
 拳を突く。
 ズボンを履く。ズボンを脱ぐ。
 踏み込み、ステップ、刹那のリードパンチ。
 ガトリング・ガン。
 ズボンを脱ぐ。
 そして……咆哮。

「フォオオオオオオオーーーーーーッ!」

『フォオオオオオオオーーーーーーッ!』
『やめろ!壬辰!まさか何をするつもりだ!?そんな馬鹿な真似はさせん!!やめろ壬辰!やめ……グアアアアアア!!!!』
『フォオオオオオオオーーーーーーッ!』

 快楽の咆哮が夜の闇に響き渡る。
 それが、一人の格闘家がズボンを脱いで脱糞の態勢を取りながらリードパンチをしながらシャドースパーリングをしている姿だと、誰が想像できるだろう。

16蒙壬辰:2025/11/22(土) 23:47:14
「フォオオオオオオオーーーーーーッ!オオオオオオオーーーーーーッ!フッ!フォオオオオオオオーーーーーーッ!」
「近所迷惑だ馬鹿野郎!」

 殴り込んできた実力者の近隣住民を辛うじて強姦打撲殺人すると、目の前の幻影の場面が切り替わる。
 目の前に現れたのは、義父である師父とその門弟150人。
 伝説の150人強姦打撲殺人の場面だ。

『師父(せんせい)……義父であるあなたに、今日はお願いがあってきました』
『壬辰……人に物事をお願いする時には、まずズボンを履きなさい』
『師父(せんせい)の子を……妊娠させてください!』

 ズボンを脱ぐ。
 脱糞の態勢をとる。
 拳を突く。
 ズボンを履く。ズボンを脱ぐ。
 踏み込み、ステップ、刹那のリードパンチ。
 ズボンを脱ぐ。
 ガトリング・ガン。
 ズボンを脱ぐ。ズボンを脱ぐ。ズボンを脱ぐ。
 その繰り返し。

『フォオオオオオオオーーーーーーッ!フォウフォウフォオオオオオオオウ!フォオオオオオオオーーーーーーッウ!』
『くっ!なんだこの動きは!?壬辰の尻から何かが!?なんだこれは……グアアアアアア!!!!』
『フォオオオオオオオーーーーーーッウ!』

 ズボンを脱ぐ。
 脱糞の態勢をとる。
 拳を突く。
 ズボンを履く。ズボンを脱ぐ。
 踏み込み、ステップ、刹那のリードパンチ。
 ズボンを脱ぐ。
 ガトリング・ガン。
 ズボンを脱ぐ。ズボンを脱ぐ。ズボンを脱ぐ。
 ズボンを脱ぐ。ズボンを脱ぐ。ズボンを脱ぐ。
 ガトリング・ガン。ガトリング・ガン。
 リードパンチ。
 その繰り返し。

 全ては
 突き動かされる衝動のために。
 破壊的衝動行為に身を任せながら、壬辰は自身に言い聞かせる。これが、これこそが武道の未来のために必要なのだと。
 ゆえに、壬辰は繰り返す。地獄を。

『壬辰……よく聞け……お前は、ワシの子だ……!』
『やはり…….そうだったのですね』
『お前は産まれてくるべきではなかった……!』
『……』

 ズボンを脱ぐ。
 脱糞の態勢をとる。
 拳を突く。
 ズボンを履く。ズボンを脱ぐ。
 踏み込み、ステップ、刹那のリードパンチ。
 ズボンを脱ぐ。
 ガトリング・ガン。
 ズボンを脱ぐ。ズボンを脱ぐ。ズボンを脱ぐ。
 ズボンを脱ぐ。ズボンを脱ぐ。ズボンを脱ぐ。
 ガトリング・ガン。ガトリング・ガン。
 リードパンチ。
 その繰り返し。
 ズボンを脱ぐ。ズボンを脱ぐ。ズボンを脱ぐ。
 ズボンを脱ぐ。ズボンを脱ぐ。ズボンを脱ぐ。
 ズボンを脱ぐ。ズボンを脱ぐ。ズボンを脱ぐ。
 ズボンを脱ぐ。ズボンを脱ぐ。ズボンを脱ぐ。

 この行為にいかほどの意味があるかわからない。
 もしかしたら、全てが虚構なのかもしれない。
 人一倍の破滅願望を持って生まれた異常者が、己を偽るために施した精神的な自己欺瞞かもしれない。
 ただ。それでも壬辰は願うのだ。
 己の成した業が、決して無駄ではなかったのだと。
 幾百もの骸を積み上げながら。

17蒙壬辰:2025/11/22(土) 23:47:57
『う、うわあ……!壬辰兄いがおかしくなった〜〜!』
『みんな、壬辰兄いを止めるんだーーーーーーッ!』
『フォオオオオオオオーーーーーーッ!』

 ガトリング・ガン。ガトリング・ガン。
 リードパンチ。
 その繰り返し。
 ズボンを脱ぐ。ズボンを脱ぐ。ズボンを脱ぐ。
 ズボンを脱ぐ。ズボンを脱ぐ。ズボンを脱ぐ。
 ズボンを脱ぐ。ズボンを脱ぐ。ズボンを脱ぐ。
 ズボンを脱ぐ。ズボンを脱ぐ。ズボンを脱ぐ。
 ズボンを脱ぐ。
 脱糞の態勢をとる。
 拳を突く。
 ズボンを履く。ズボンを脱ぐ。
 踏み込み、ステップ、刹那のリードパンチ。
 ズボンを脱ぐ。
 ガトリング・ガン。
 リード・パンチ!
 リード・パンチ!
 リード・パンチ!
 虚しくも、実戦を標榜した天然日流という武術は、蒙壬辰の天才性によって完成を迎えた。
 脱糞の態勢のまま、華麗なるステップで長距離から一気に最短最速で詰め寄り、リードパンチにより一撃で門下生たちの顔面を破壊していく。
 繰り返し繰り返し。ガトリング・ガン。
 
 その姿は、脱糞の態勢のまま華麗なステップで詰め寄って最短最速で拳を突き続ける姿はまさしく……

『けっケツだけ星人だぁぁぁぁあ!!』
『壬辰兄いがケツだけ星人になって俺たちを強姦打撲殺人しようとしてくるー!!』
『もしもし!警察ですか!!今ケツだけ星人になった兄弟子に強姦打撲殺人されようとしてるんです!!早く来てくださ……ギャァアアアア!!』
『フォオオオオオオオーーーーーーッ!』

 全ての幻影を撃ち払った時、その場には騒音の苦情を申し入れに来た実力者の近隣住民を返り討ちにした骸が転がるばかりだった。

「こいつでもなかったか……一体どこにいるんだ。僕が子を成すべき、強い男は」
「きゃー!変態よ!」

 いつのまにか騒ぎを聞きつけた人が部屋に入っていたようだ。
 壬辰が振り向くと、そこには拘束具の上にレザーコートを着て、フルフェイスマスクの上に般若面を被った謎の人物がいた。

「いやっ!来ないで!私に乱暴する気でしょう!?グヘヘ……!さあこっちに来いよ変態野郎!やめろ!木曽路に変なことをするな!グヘヘ……いいじゃねえかよケンジさん、さあアンタもご一緒に……」
「どうやらかなり混乱しているようだ。だが、佇まいからただものではないことは理解できる」

18蒙壬辰:2025/11/22(土) 23:48:28
 その男には一才の隙がなかった。今にも手に持っている刀でこちらに切り掛かってきそうだ。
 しかもそれだけではない。長年、他者の強さに異常に拘ってきた蒙には理解できた。
 目の前の不審者は、ただ強いのではなく、"これからも強くなり続けるに違いない"。
 それは双方の魔人能力が持つ、親和的共鳴反応による本能的確信だったのかもしれないが、この時の蒙は、ただ、この場で目の前の般若面と交わるにはあまりにも惜しいと考えたただけだった。

「……」
「……」

 沈黙が場を支配する。
 今、この場で交わるのは得策ではない。

「わらしべワイフッ!」
「心的脱殻!!!!!」

 刹那、日拳・ジークンドー・天然理心流由来の超実戦的長距離最短最速リードパンチと、居合道の高速抜刀が交差した。

「「フォオオオオオオオーーーーーーッウ!」」

 場を制したのは蒙だった。
 圧倒的速度の踏み込みは般若面の予測を超える速度で制空圏内に入り、続け様の左拳で、振り下ろされた日本刀の刃を受け流した。
 そして、右手による直突きが般若面に炸裂する。

「!!?」
「フォオオオオオオオーーーーーーッ!」

 だが、致命的な攻撃がヒットするその瞬間に驚愕したのは、蒙の方だった。
 般若面は、蒙の右拳を般若面で受け止めながら、蒙の左脇腹に、縦拳による直突きを放ったのだ。
 それは、まさしく蒙が般若面にお見舞いしようとしたまさに同時のタイミングの、『天然日流の動き』に他ならなかった。

「……」
「……」

 いかなる現象が起きたのか?
 答えは極めて簡単。蒙が天然日流の縦拳を放ったのと同時に、そのタイミングで般若面は蒙の天然日流を模倣したのだ。
 模倣。それは奪ったとも言える。
 何か言いようのない嫌な予感が蒙の頭をよぎる。
 それはまるで、般若面に奪われたことで、天然日流が超強化されたかのような……
 だが、般若面が蒙から奪った縦拳は、蒙には当たらなかった。寸止めしたのだ。

「……なぜ止めた?その威力。僕を殺すことも出来たはずだ」
「私の愛刀の名前は、レイプ丸という」
「良い名前だな」

 そう言いながら、蒙は自身の能力『心的脱殻』の不発を確信していた。
 要因はいくつか思い当たる。
 般若面が用いたのがその場で蒙自身から神技的にラーニングした天然日流であったこと。武術の交流による妊娠を望む蒙の能力では、蒙自身からしかラーニングしていない武術の動きでは発動しないのかもしれない。
 だが、何よりも大事なこと。
 おそらく、目の前の般若面はこれからも成長し続ける。そういう類の能力。
 つまり、般若面との戦いでは「最高の瞬間」というものはない。常に成長し続けるからだ。

「きみの名前は?」
「今はまだ名乗らないでおこう。◾︎詳細不明◾︎とでも言っておこうか。だが、本名は早乙女ケンジ(33)」
「名前を名乗れないならあえて今は聞くまい。明かされる時を楽しみにしているよ」

 蒙はそういうと、再び拳を突き始める。
 天然日流に休むことは許されない。

「ゲッヘッヘ、待てよ変態の兄ちゃん。アナタの名前は?」

 般若面に聞かれて、蒙は少しだけ動きを止めた。
 そして、振り向く。
 確かに、ハッキリと、名前を名乗った。

『蒙壬辰だ』
「ニセ妊娠願望マンだ」

19双喜の今日の強奪おやつ①:2025/11/26(水) 23:28:36
幕間SS「双喜の今日の強奪おやつ」

「ほげええええ…」
「ああ…一攫千金ん…」
ボコボコに伸されたチンピラたちが折り重なって上海の裏路地に倒れていた。彼らの未練がましい視線の先には、藍色の髪を三つ編みに纏めた少女。

言わずと知れた魔都上海のトレジャーボックス、双喜である。

「ざんねん!腕っぷしとか武装とかがごっそり足りなかったねごしゅーしょーさまっ!まっ、これでへこたれずに強欲に生きるんだぞっ☆」

ぴこーん☆と、気取ったウインクをチンピラたちに投げかけて、悠々と路地裏を後にする双喜。呻きながら見送るチンピラたち。
「ああああ…一攫千金チャンスが去っていく…」
「ま、まってええええ…」
チンピラたちの嘆きを背に受けながら双喜は曲がり角の向こうに消えて…

「あっそうだ」
なんか戻って来た。
そしてひっくり返ったチンピラをすらりとした脚で無造作にひっくり返す。

「ありがとうございます!」
美少女に蹴り転がされたいタイプのチンピラが反射的に妄言をほざく間にも、双喜は手際よくチンピラたちを転がすと、その懐に手を突っ込む。

「ひーふーみー、うーんしけてる。まあこんなもんかー」
「俺の財布…」
「一攫千金の筈が素寒貧に…」
堂々たるカウンター強盗であった。
「なんかいいもの持ってないのー?ドロップアイテムで個性を主張するチャンスだよー…っと、これは!」

ごまだれ〜(効果音)。
双喜は揚げ餡子餅を手に入れた!

「ああ、おれのおやつ…」
「チンピラの癖に随分と古風なおやつだね?とにかくこれはドロップアイテムとして私が頂戴しよう!ご機嫌な糖分の塊だぜ!熱いお茶とか無い?」
「ないです…」
「ないならば探しに行ってみようそうしよーう!」

そう言うと双喜は揚げ餡子餅の袋を懐にしまって路地裏を後にした。
彼女の脳裏では十把一絡げのチンピラのことはもはや過去。
求めるのは熱い緑茶である。

20双喜の今日の強奪おやつ②:2025/11/26(水) 23:29:43
「いらっしゃいまーす!緑茶とかない?」
「酒ならあるぜーっお代は貴様の身柄じゃーっ!!」
「うおおおお宝箱が歩いてきたァ―ッ!」
「ヒャッハーッ!ついてるぜェ―ッ!!」

30秒で制圧された。

「熱い緑茶が欲しいんだけど」
「ないでふ…なぐらないで…」
「酒とツマミならありましゅ…けらないで…」
「ここは茶屋じゃなくて酒場です…もっと踏んでげぼぎゃっ!」
「ちぇー。くる場所間違えたかなー。私ってばアルコールってタイプじゃないしなー」

とりあえずノリでその辺の飲食店に突撃したがいまいち狙いの外れた双喜は色とりどりの瓶が並ぶ棚をごそごそと物色し始めた。

「これなに?」
「ウイスキーです…」
「これは?」
「ビールです…」
「これ」
「ワインです…」
「ん」
「それもビールです…」
「アルコールばっかじゃん、私ってば(多分)未成年に近しい存在だぞー。客を何だと思ってんの」
「すみません…」

盗人猛々しいという言葉を体現したふるまいを見せる双喜だが、まあ先に武力行使したのは店の方なのでどっこいどっこいである。
「この際何でもいいや、アルコールじゃない飲み物出してよ」
「はい…」
双喜はカウンター席にちょこんと座り、揚げ餡子餅をスタンバイした状態でテーブルをべしべし叩きながら店員をパシらせた。

程なくして、双喜の前に大きなジョッキに注がれた飲み物が運ばれてきた。
実に鮮やかな青色で、しゅわしゅわと泡立つ液面には氷が浮いている。

「なにこれ?」
「ブルーハワイサイダーです…」
「マジでアルコール以外の飲み物ないのねこのお店」

酒を割るための炭酸水にかき氷シロップ(ブルーハワイ)混ぜて氷を浮かべただけの超簡単飲料である。見た目だけは涼しげで、「普通の炭酸水出したら顔面凹ませてたぞ☆」等と嘯く双喜がジョッキを持つとそれなりに絵になった。

その横に置かれた、揚げ餡子餅。
からっと狐色に揚がった餅に、素朴な小豆餡が挟まった、実に古風な甘味である。

…大変にミスマッチな食べ物と飲み物の取り合わせであった。

「いただきまーす」
双喜はぐいっ、とジョッキを傾けた。鮮やかな青色の液体が少女の白い喉に吸い込まれていく。そして一言。
「うーん安っぽい!ケミカル香料の風味!」
実際お安いブルーハワイシロップである。値段相応の味であった。

続けて双喜は揚げ餡子餅を口に放り込んだ。
途端に口中を甘い油と餡子の柔らかな旨味が満たす。
からりと揚がった餅を噛めば、もちもちとした歯応えが満足感を顎の全体に染みわたらせる。
古風な小豆餡からは三温糖の上品な甘みがこれでもかとあふれ出ては染みわたり、温かみのある幸福感を脳髄まで染み渡らせた。
「んま〜〜〜〜い!」
ほくほく顔の双喜は、そのままの勢いでジョッキを傾けて―

「くーっ安っぽい!この落差!」
やはり安っぽかった。

幕間SS「双喜の今日の強奪おやつ」 おわり

21林希美の今日のごはん①:2025/11/27(木) 20:33:40
幕間SS「林希美の今日のごはん」


 張三と私が『破幇同盟』を締結してから、いつの間にか毎日のルーティンが決まっていた。
 起きて、屋台で朝食を取り、日中、軽食を取りつつ鍛錬。
 そして、また夜に張三の決めた店で食事をする。
 その足で、屋台街の周辺で最近の街の状況について情報を集める。

 いつ『魔幇』の刺客が来るかわからない中で随分と呑気ではないかと聞いたこともあるが、これもまた「放鬆(ファンソン)」なのだと受け流された。

 「放鬆(ファンソン)」。

 張三が修めている武術(ウーシュー)における身体運用の根幹。
 日本の武術でいうところの脱力に近いような概念らしいが、完全に力を抜きすぎるのではなく、適度に力を行きわたらせた、強張りのない融通無碍な状態というニュアンスらしい。

 私はその境地にまだ至っていないが、その状態を習得することで、筋肉や魔人能力によらず大きな力を生み出す身体運用……「勁」を使えるようになるらしい。

 張三はこの言葉を、精神的な状態を表すときにもたびたび使っていた。

 すぐに武術(ウーシュー)が上達しなくてもいい。それだけで戦う必要はない。
 『飢鬼』とは異なる戦い方の軸が生まれれば、それだけで『飢鬼』状態との落差は効果的になる。
 『魔幇』との戦力差に絶望しなくていい。その全てが一度に押し寄せるわけではない。
 もっと気楽に。緊張しないでいい。過去と今とをくよくよ悩まなくていい。

 そんなことを言うとき、張三は私に「放鬆(ファンソン)」と口にするのだ。

 そんな、「放鬆(ファンソン)」を求める日々の中、突然張三が言った。

「今日はおまえさんの国の飯を食おう」
「……気を使わなくていいよ。
 私は、いつもの屋台の料理も好きだし」

 それは本心だった。
 張三が連れていってくれる屋台の食事はどれも美味しい。
 料理そのものだけでなく、その空間自体が、食を楽しむ雰囲気に満ちている。

 それに、上海できちんとした和食を食べようと思ったらそれなりの値が張る。
 私はまだ自分で稼ぎが持てていない。
 そんな中で、余計な出費をさせるのは気が引けた。

「はは! なんだ。俺が高級な和牛やテンプラでも食いに行くと思ったか?
 この街でも、「普通の日本食」を出す店くらいあるんだからなあ」

 私の懸念はすっかり顔に出ていたらしい。
 そんな風に笑い飛ばされたら、これ以上の反論も出てこない。

「うん。ありがと。で、何を食べるの?」
「そりゃ、見てのお楽しみだ」

 そうして、連れて行かれたのは、都市部の中心に近い近代的な市街地の一角だった。

 屋台ではない。建物の中にある、きれいな店舗。
 そこに掲げられた黄色い看板には、

『日式正宗咖喱饭【CoCo壹番屋官】』

「CoCo壱じゃないの!」

 というか、『魔幇』にいるときにはあまり飲食店のある市街地には近寄らないようにしていたから気付かなかったけど、あるんだ、CoCo壱。上海にも。

 いや、麦当劳(マクドナルド)や肯徳基(ケンタッキー)があるんだから、あってもおかしくはないのだけれども。

「なんだ。知ってる店か?」
「うん。名前だけは」

 入ったことはないけれど。

 CoCo壱番屋。
 日本にいた頃、近所にこの看板があった気がする。
 そこに吸い込まれるように入っていく家族連れを、恨めしく見送った記憶がある。
 マクドナルドも、ケンタッキーも、私にとってはそういう存在だ。

 そういう意味では、私は日本の一般的な有名チェーンでの食事をほとんどしてこなかったのかもしれない。

22林希美の今日のごはん②:2025/11/27(木) 20:34:59
「んじゃ、入るぞ」

 意外にも慣れた様子で張三は店に入って、長々と呪文のような注文をした。
 私はよくわからなかったので、張三と同じものを頼むことにした。

「……ね。こっちでカレーって、日本食扱いなの?」
「だな。ここ20〜30年くらいで、日式のカレーってのが広まった。
 百夢多咖喱(バーモントカレー)、って聞いたことあるか?」

 リンゴとはちみつのアレだ。
 ……なんで知っているのだろうか。
 テレビや新聞の広告なんかもあまり見ていなかったはずなのに。
 ともあれ、私が生まれる前ではあるけど、思ったほど大昔の話ではないらしい。

「それまで、中国にカレーって料理はなかったの?」
「スパイスを使った料理って意味ならあるが、カレーライスって意味なら、なかったな」
「ふうん」

 少し、不思議な気がした。
 まだ日本にいた頃。親に捨てられる前。
 行く場所がなくて図書館に入り浸っていたとき、私は食事に関する本ばかり読んでいたことがある。
 その中で、カレーについての歴史を調べたことがあった。

 インドからイギリスに伝わったカレーが明治に日本に伝来、そこから広まった、という流れだったはずだ。
 だとすると、インドにより近い中国には、スパイス文化やカレーが日本より早く伝わって、独自のカレーが食に入りこんでいてもおかしくなかったのではないだろうか。

「多分、色があんまり受けなかったんだろうなあ」
「色?」
「こっちじゃ、日式カレーの濃い色は「古い食い物のイメージ」なんだよなあ。
 だから、ぱっと見の受けが悪かったんだろ。
 だから、こっちの日式カレールーは、そっちで売ってるのよりも黄色なんだとさ」

 はあ。そういうこともあるのか。
 食欲をそそる色、というのは万国共通だと思ったのだけれど、そうでもないらしい。

「あとは、俺らみたいなのには気にならないんだが、一皿に飯と菜(おかず)がまとまってるのってのは、「安っぽい」みたいなイメージがあるんだよ。特に、いいとこの人間にはな。だから、そういう意味でも、抵抗があったらしい」

 そうなのか。
 張三が奢ってくれる屋台の食事には、そういうものも多いからピンとこなかったけれど。
 ただ、確かに、こっちの食事は日本よりも皿が多いイメージがある。

「色々あるんだね」
「まあ、それも古臭い伝統だ。今の若いのは気にしない。ほら」

 そう言って、張三は周囲を一瞥した。
 いつの間にか、店には若者を中心とした客でいっぱいになっている。
 どうやら外には行列もできているようだ。

「文化ってやつは変わっていく。
 当時は常識だったことも、いつの間にか非常識になる。
 最初は正しかったことも、時代に合わなくなれば変えていかなきゃいけなくなる。
 むしろ、功を積み重ねれば、当然のものも、破っていけるんだろうさ。
 日本の一企業が、こっちの食文化を塗り替えて日式カレーを流行させたみたいにな」

 少し遠くを見るようにして、張三は言った。
 当然のものも、『破』っていける。
 敢えてそう表現したのは、きっと私達『破幇同盟』の状況を重ねたからだろう。
 100年続いた組織。その支配があるという当然を、覆そうとする無謀。
 
「ロースカツカレー甘口、ほうれん草とチーズトッピング二つです」

 と、湯気を立てた大皿が私と張三の前に置かれた。
 最近食べてきた屋台料理とは違うスパイスの香り。
 きつね色にこんがりと揚げられたカツと、濃緑色のほうれん草が浮かぶルー、白米の対比がまぶしい。

 日本にいた頃にはこんな贅沢なものは食べたことがなかったが、わざわざ張三にそんなことを言う必要はない。私は手を合わせると、ピカピカに磨き上げられたスプーンで、まずはカレールーを口に運んだ。

23林希美の今日のごはん③:2025/11/27(木) 20:36:00
「…………ぁ」

 思わず、言葉が漏れた。
 懐かしい。
 それは、本来ならば、ありえない感想だった。
 私の家では、こんな料理が食卓に乗ったことなどなかったはずだから。

「うまいか」

 張三が、心底嬉しそうに笑いかけてくる。
 まだ張三は自分の皿に手をつけていない。

 いつもそうだ。
 初めて食べさせる料理は、まず私の反応を見てから、満足そうに張三は食事を始める。

 カレールーの味。
 覗き込んでくる笑顔。

 そこに、私は、昔の記憶を思い出した。
 
 図書館で、カレーについて黙々と調べていたとき。
 腹を鳴らしながら、周囲に親がいる様子もない、毎日図書館に通い続ける私を見て、図書館職員の女性が声をかけ、夕食を食べさせてくれた。

 じゃがいもと、にんじんと、豚肉の入った、カレーライス。
 リンゴとハチミツで有名な、市販のルーで作った、飾らない手料理。
 目を丸くして平らげる私と、それを微笑んで眺めていた図書館職員の女の人。

 ああ、だから私は、そのカレールーのことを知っていたのだ。
 私が経験した数少ない「普通の家庭の食事」。

 おいしい、というより「暖かい」という記憶の方が強い。
 安全で、暖かくて、穏やかな場。

 なんで思い出せなかったのか。なんで忘れてしまったのか。
 結局、その関係は、怒鳴り込んできた私の親のせいですぐに断ち切られてしまったけれど。
 その、一杯のカレーは、私が世界をあきらめずに済んだ、ほんの細い一本の縁として、心の奥底にあったのだろう。

 ほうれん草とチーズをすくって頬張る。
 あの日の素朴なカレーと比べると、もっと華やかで濃い旨味が口の中に広がる。
 でも、懐かしい。
 
 ロースカツを一切れ、噛む。
 さくり。じわり。気持ちのよい衣の歯ごたえと、その中から染み出す脂身の味が味覚を支配する。

 相当な量があったはずの皿の中身は、あっという間に空になった。

「ねえ、張三」
「なんだ」
「『同盟』が目的を達成できたらさ。
 私、ちゃんとした仕事をして、誰かに、御馳走できる人になる」

 少しだけ、張三は目を見開いて、やがて、大きな口を開けて笑った。
 店の中の全員がこちらを向いたので、私は慌ててその口を手で塞ぐ。
 その馬鹿笑いのピークが過ぎた後で、張三はしみじみとつぶやいた。

「そいつは、いい「放鬆(ファンソン)」だ」

 

■ 後刻談 ■ 

 林希美と張三が店を出た、数時間後。
 【CoCo壹番屋官】に、一人の女が入店した。

 乳もないし尻もないし色気もない。
 それどころか特徴といえるものがおよそなにもない。

 100年前から魔人犯罪組織『魔幇』の幹部として君臨し続けてきたその女、カリー・魔幣は、なにもトッピングのないカレーを注文すると、店舗に漂うスパイスの香を全て肺の中に吸い込むようにして深呼吸をした。

 2025年11月21日。星期五(きんようび)。
 女と、『破幇同盟』が出会うまで、あと、一星期(いっしゅうかん)であった。


幕間SS 「林希美の今日のごはん『日式咖喱饭』」了

24ギャラハッド・ソネット幕間:2025/11/27(木) 21:44:37
「ごめんなさい…ごめんなさい…」

ひったくりの少年は、謝りながら逃げ続ける。彼は数日前まではこんな事をする必要は無かった。貧しくはあるが、食には困らない程度の暮らしが出来ていた。しかし、清王朝のダイヤモンドを巡る争いに乗じた火事場泥棒により家と財産を奪われてしまった。少年は腹を満たす為に奪う側になるしか無かった。

「待てー!はあはあ、ま、待てって!」

観光客は運動不足の身体を必死に動かし、汗だくになってひったくりの少年を追いかける。少年も空腹で早く走れず、二人は一定の距離を保ったまま持久走を続けていた。

「…あー!もう見てらんない!ファイアー!」

買い出しの為に近くを通りがかったギャラハッドは、最初は無視しようと思ったが、死にそうな顔で同じ道を何周もしている彼らを見ている内に我慢出来ずに飛び出していた。口からの火炎放射の反動でギャグ漫画の様に横っ飛びをして少年の進路を塞ぐ。

「う、うわぁぁ」

突然目の前に現れたギャラハッドを見て、慌てて急停止して転びそうになった少年を抱きかかえると、彼はそのまま観光客の方へ歩み寄る。

「そのガキ捕まえてくれたのか!あっ、ありがとうな美人のお姉さん!おいガキ、警察に突き出してやる!」
「ごめん、多分それ無理と思う」
「何だと?あんた、そのガキを庇うのか?」
「そーじゃないって」

鼻息荒い観光客を宥めながらギャラハッドは説明する。

「えーと、今ね警察がすーんごく忙しいみたいで、子供のひったくりなんて後回しにされると思うの。おじさん、ここへは観光でしょ?いつまで上海に居るの?」
「俺は清王朝の歴史博物館を見た後、来週には日本に帰る予定だ」
「そんじゃ、絶対警察が対応する前に帰国じゃん。いや、最悪の場合は事件の事で引き止められて予定通りに帰国出来ないかも。知らんけど」
「それは困るな…、まあ盗まれたのはその食い物だけだし、それ返してくれたらもういいよ。おいガキ、もうこんな事するんじゃねえぞ」

面倒を避けたい観光客は、ギャラハッドの目論見通り盗まれた食べ物を受け取り去っていった。

25ギャラハッド・ソネット幕間:2025/11/27(木) 21:46:00
「良かったねー、被害者が優しい人で。んじゃ、警察行こうか少年」
「は、はい」

少年を抱きかかえたままギャラハッドは近くの交番に入ったが、そこには誰も居なかった。

「あらら。本当に警察居ないわ。んじゃ、お巡りさん来るまでここで待ってよ。これ食べる?」

交番内の椅子に腰掛け、ギャラハッドは買い込んだ食料を少年に与える。

「遠慮せずいっぱい食べなよ」
「あの、どうして僕に優しくするんですか?初対面だし無関係ですよね?」
「うん。君の事は知らない。けど、君みたいな盗みとか向いてなさそうな子がそれでも盗みをしてしまった事は、私と関係があるかもと思ったから」

清王朝のダイヤモンドが盗まれてから、上海の治安は日増しに悪化していた。ダイヤモンドの奪い合いによる抗争やそれに便乗した犯罪も原因ではあるが、単純な話、治安維持の目が減り、それにより軽犯罪が増加していた。優秀なマフィア幹部や魔人警官はダイヤモンド探索に駆り出され、庶民の平和を守る人員が足りなくなったのだ。

もし、警察やマフィアの目が光っていたなら、この少年も盗み以外の方法を考える事が出来たかも知れない。

「私さー、この上海が無茶苦茶になった元凶かも知れないんだ」
「お姉さん、外国の人ですよね?」
「ご先祖様がこっちの人間でね、今話題のダイヤモンドに関わってたみたい。だから、君がゴハン食べれなくなったのとかも私のせいかも知れない。知らんけど」
「ひったくりしたのは僕の意志です。僕の犯した罪は僕の責任ですよ」
「上海の人が皆、君の様な優しい子だったらいいんだけど、過去の事が発覚した時に上海の人から私が悪いって言われるのが不安で不安で、だから止めに来た訳。君にそれ食べさせたのも、『私は上海の人を助けてますよ』って免罪符を得る為」

ギャラハッドは見ず知らずの少年相手に自分の内心を語っていた。自分がここへ来たのは正義とか責任とかよりも不安や保身の気持ちが強かったのだと打ち明けていた。

「あー、ごめん。いきなりこんな事言われても意味分からないよね」
「いえ、大体分かりました。お姉さんは上海を昔の様にする為に頑張ってる人なんですね?」
「違うって!…いや、目的は合ってるけど。あっ、お巡りさん来た!ほら、自首してワケ話して保護して貰いなって!」

返事に詰まったタイミングで警察が戻ってきたので、ギャラハッドは誤魔化しながら少年との会話を切り上げて、警察に簡単に事情を話してその場から去った。

「あー、モヤモヤする。ダイさんもチンチンマンも居ないとやっぱ不安!てか、寂しー!早いとこダイヤモンドの争い終わらせて、プレッシャーから解放されたい。決めた。今日はドカ食いしよ!昨日もしたけど!」

そんな事を呟きながら隠れ家へと帰り、数日分の食料をあっと言う間に食べ尽くすのだった。

幕間SS『ドカ食いダイスキギャラハッドさん』終わり

26メルセデスキラー:2025/11/27(木) 23:17:51
ヘッドライトが前方を照らし出していく。クラクションの音を合図にして突如現れたメルセデス・ベンツが急発進した!!

「ヒャッハー!!」

メルセデス・ベンツはぐんぐん加速して、巨大スラム街に密集する人々の群れに突っ込んでいった。
逃げ纏う人々。だが、次々と跳ね飛ばされ、ベンツの質量に押しつぶされていく!!
エンジンがフル回転する。血にまみれたバンパー。鉄の凶器は建物の中に逃げ込めなかった人々に狙いを定め、虐殺の限りを尽くした。

「轢殺!圧殺!!死ねーーーーー!!!この場にいる全員皆殺し重点よーーーーーーー!!!」

ベンツの運転席に座った人物が奇声を上げる。
カオスな無法地帯で無法行為を繰り広げるメルセデス・ベンツ。薬の売人が、アヘン中毒者が、違法なコピー商品の商人が、難民が次々と跳ね飛ばされる!!
そしてその場にいた人間をあらかた挽肉に変えると、ベンツは急停止し、中から運転手が降りてくる。

おお、なんということだ。運転席に座っていたのはなんと女子高生ではないか。
心場フレイ。希望崎学園の1年生であるこの狂人はベンツで人を轢殺するのが三度の飯より大好きであった。

そして、轢殺欲を満たし、ベンツから降りたフレイは売店に置いてあったアイスクリームを手に取ると、それをぺろりと食べた。
もちろん無銭飲食である。そもそもこの店の主はもうこの世に存在しないだろうが。

「一仕事終えた後のアイスクリ-ムはやっぱりおいしいわ。どうしてみんなメルセデスベンツ轢殺を行わないのかしら。愚かな人類どもめ」

そう言い残すと、フレイはまた運転席に戻りベンツは発進していった。

27しにがみ:2025/11/30(日) 23:57:10
◆前鞍馬山ノード(IF)
※注意)この話における死神の特殊能力の解釈は、本編では採用されていません。
※注意)このSSはifなので本編との繋がりは特にありません。


 鞍馬山の中腹で、わたしはため息をついた。

 頂上へ続く石段の上で、空中に向かって話しかけている変な子がいる。

『だから、そのダイヤは“きみ”が先に見つけたんだってば』
「師匠、相手はどう見ても悪魔なんですけど!? 宇宙人に悪魔とか、オカルトが過ぎませんか!?」

 ……悪魔と言えば、まあ、そうだ。
 けれど、ギルドに登録した名前は、「死神」で届けている。
 この名前は、借りものだ。名無しだと呼ばれるときに不便なので、契約書の名前をそのまま使っている。

「すみません、そのダイヤ、譲ってもらえますか」
「ほら来た、オカルト少女!」

 変な子――“きみ”が一歩前に出た。射抜くような鋭い目線。
 少しだけ、ひやりとする。拳銃くらいの威力がありそうな眼差しだ。

「師匠、目からビーム、オンで」
『OK。“きみ”、チャージ完了。撃ちたくなったら、まばたき禁止で五秒見つめな』

 頭上、雲の切れ間を、何か金属っぽいものがかすめた気がした。三千メートル上空のUFOなんて、普通は見えないから気のせいだ。
 まさか、相手はビームを撃ってくるのだろうか? だが、こちらの手元に武器になりそうなものは無い。

「危険物の所持は、返済能力に悪影響が出ますから」
「この女の子、いきなり金融機関の人みたいなこと言いだした!?」

 その時、空高くから女――下山アンドロメダの声。
『やーやー! 初めましてお嬢さん!』
「あ、どこからか声が!」
『私は下山アンドロメダ様だ! 高度三千メートルからこんにちは! この子の師匠さ! この会話にお嬢さんを招待させてもらったよ』
「あ、どうもこんにちは! 死神です! 数字の大きさでビビらせようなんで無駄ですよ! なんと、わたしの借金は三百億以上です!」
『なんだって!! ヤバいよ、“きみ”! あの子はガチのスーパー債務者だよ。関わると信用情報がややこしくなる』
「え、そうなんですか」
「失礼ですね。支払期日までに約定額はきちんと返済しています」

 わたしは手帳を開いて、細い鉛筆で今日の日付と、ここまでの返済実績をまとめたページを見せた。

 そんなわたしの周りに、石段の影、杉の根元、苔むした祠のわき。ぬらりとした暗がりが、三つ、四つ。あちこちが黒い。

28しにがみ:2025/11/30(日) 23:57:49
>>27
『ほら見な、“きみ”、我らには救えぬものが地の底から湧き出てきたぞ』
「師匠、説明になってないです」

 黒いところのひとつが、くすくす笑う声を立てたような気がした。

「ともかく、そのダイヤは、借金を返すために必要なんです」
「こっちも師匠との契約で借りた能力で、ダイヤを取ってこいって言われてるんですけど!」
『契約は大事だよ、死神ちゃん』

 契約破りは確かによくない。
 もし訴えられれば、こちらが負けてしまうのでは!?

「……契約違反は、許されません」
「じゃあバチバチにやるしかないってことですね! 師匠!」
『了解。“きみ”、高低差無視移動、解禁』

 次の瞬間、“きみ”が消えた。
 ――正確には、石段を蹴ったと思ったら、山の斜面を水平に走っていた。崖も段差も無視して、まるで空中に線路があるみたいに。

「ずるい」
「能力レンタルの力です!」

 視線がこちらに戻る。
 まばたきしない、乾いた目。五秒。

 ぱん、と山の空気がはじけた。
 “きみ”の目から、白い線が走って、わたしの足元の石段を貫いた。石が溶けて、湯気を上げる。拳銃どころじゃない。

「……危ないですね」
「えっ、避けた!? 彼女、師匠並のスペックですよ!?」
『あの子、筋がいいねぇ』

 わたしは一段だけ飛び退いて、スカートの裾を払った。
 焦げた石を見下ろしながら、穴――黒いもこもこに目配せする。さっきまで祠の影にいた穴が、いつの間にか“きみ”の足元に移動していた。

「――そこ」

 穴の口から、ひゅるりと黒が伸びて、“きみ”の足首に巻きつく。
 “きみ”の世界の中で、それがどう見えるのか、わたしは知らない。ただ、つかまえた、という手応えだけがある。

「うわっ、ちょ、え、誰!?」
『落ち着きな、“きみ”。それ、黒っぽい“何か”だから』
「余計に怖い!!」

 “きみ”の動きが鈍る。高低差を無視していた足が、やっと重力を思い出したみたいに、石段に引きずり戻される。

「おとなしくしていてください。危ないので」
「そっちが先に変なの出したんじゃないですか!?」

 わたしは、胸の前で両手を組んだ。
 穴の口からもう一本黒が伸びて、“きみ”の手からダイヤを奪った。
 わたしは黒からそれを受け取ると、借りものを扱う手つきで、そっとダイヤの入った小さな袋を握りしめる。

「このダイヤは、一度、わたしが預かります」
『へいへい、“きみ”、どうする? ここで引いたら師匠としての面目が丸つぶれだよ』
「師匠の面目のために命張らされてる!?」

 “きみ”が泣きそうな声を上げた瞬間、山の上から別の声が飛んできた。

「おーい! そこな物騒な二人組! 名付けサービスはいらんかね!」

29しにがみ:2025/11/30(日) 23:58:33
>>28
 振り向くと、石段の上に、派手な着流しのおじさんが立っていた。
 右手を高く突き上げて、紙札をひらひらさせている。

「新宿の名付け親、太郎丸権蔵だァ! 今なら二つ名ひとつ、三百元で――」
『あ、まずい。“きみ”、耳ふさいで』
「え、なんでですか」

 遅かった。

「まずはそこの、悪魔の仮装したお嬢ちゃんからだ! 上の句――」

 山の空気が、すっと冷える。
 言葉になる前の何かが、鞍馬山じゅうの穴という穴から、顔を出した気配がした。

「――“利息まみれの”!」

 太郎丸のおじさんの声が、山じゅうに響きわたった。

「やめてください」

 わたしの口から、思っていたより低い声が出た。
 黒いところが、一斉にざわめく。祠の隙間、木の根の下、人の影。あちこちで、笑い声とも泣き声ともつかない音が重なった。

『ストップ、太郎丸。その下の句は、まだだよ』

 “きみ”の目からビームが放たれ、おじさんの頬を掠った。
 おじさんは「ちぇっ」と舌打ちして、巨大な毛筆を肩から落とした。

「サービス精神が過ぎたかねぇ」
「十分すぎます」

 わたしは、胸の前で拳を握りしめた。
 “利息まみれ”という言葉が、じわじわと胸を抉っていく。その荷の重さは、増えても減りはしない。

「……戦いは、いったん中止にしませんか」
「え、いいんですか」
「はい。これ以上、変な人が増えると頭がバグるので」

 “きみ”と目が合う。
 さっきまでビームを出していた瞳が、今はただの、山に迷い込んだ子どもの目に見えた。

「じゃあ、ダイヤはどうします?」
「共同管理というのは? 一度、わたしで預かって、あとでお返しします。そして、また、わたしに貸してください。それをお互いに繰り返すのは?」

『なにその、貸し借りのラリーみたいな提案』

 下山アンドロメダのせせら笑いが聞こえた。
 けれど、“きみ”は少し考えてから、こくりとうなずいた。

「……まあ、この能力も師匠からの借りものだし。いつか、実力で取り返せるようになるまでは、貸しをつくってもいいのかも」
『おや、“きみ”、成長してるじゃないか』

 黒いところが、くたりとほどけて、“きみ”の足首から離れる。

 わたしは、手帳を開いて、新しい行を一本書いた。

 ――本日、鞍馬山にて。
 ダイヤ、一時共同管理。
 貸し借りの相手:“きみ”。

 返すべきもののリストに、新しい名前が増える。
 ページの隅で、黒い染みが、生きものみたいにくすくす笑った。

30上海に来た人達の味方チンチンマン:2025/12/03(水) 21:07:41

や。上海へようこそ。私はチンチンマン。この上海の案内とかをしてる解決屋よ。君は見ない顔だけど…観光客かな?それとも、最近噂のダイヤを求めに来た人かな?いやいや、実はこの地で行われる武芸の大会に参加しに来た人だったり?

1.観光です
2.清王朝のダイヤ狙いです
3.貴女の同業者です
4.力試しです
5.プシュ ぐいっ ハーッ

…なるほど。そんな理由で来た訳ね。なら、私から一つアドバイス。この上海は現在魔幇というマフィアが取り仕切ってる。あなたがどんな理由でここに来たにしても、魔幇に目を付けられたらロクなことにはならないと思ったほうが良いわね。特に今は盗まれたダイヤの件があるから、幹部まで上海各地をうろついてる。

1.気を付けます
2.つまり魔幇を倒すチャンス?
3.ジュー サクッ ハムハム

うん。そういう事。私はいつもここに居るから、困った時はまたここに来てね。あ、それともう一つ!ダイヤの争奪戦のせいでかなり治安が悪くなってるから、争いだけじゃなくて、ひったくりや詐欺にも気を付けてね。あなたみたいな上海来たばかりで、戦う才能のある人を自分の手駒にしようとする怖い人とかも居るかもだから。そこは本当に気を付けて。

1.色々ありがとう
2.大丈夫俺最強だから
3.アンタも信用してないけどね
4.トクトクトクグビッグビッ

(解決屋から上海の地図を買い取った君は、ダイヤモンドに関係のありそうな場所を赤ペンでマークしていく)
(さあ、次に行く場所を決定し、君の目的を果たすのだ!!)

『もしもダンゲロスSS上海がRPGだったらプロローグは多分こんな感じ』終わり

31上海真実人民報:2025/12/03(水) 23:46:57
特集:キャラ設定、プロローグに基づく上海マフィア魔幇の関係者まとめ。
信じるか信じないかはあなた次第。

大首魁
五爪の翁 魔幇のトップに70年以上君臨する

側近
柏白延

魔封名誉四天王
豪硬剛 誘拐部門責任者、違法建築部門責任者、タピオカミルクティー部門責任者

魔幇四天王
隐匿 秘密主義者
花麗佳 『魔幇七不思議』 トイレを司る存在。
目艮竟 魔幇博物館館長
陽堂堂
叩頭卿
偽最終貞淑妻ケンジ

幹部
アメデオ・トゥレステッレ 「魔幇イレブン」
カリー・魔幣 カレー部門
趙公暗 魔幇三大エースパイロット
くり魔んじゅう先輩 ちいかわ部門
落雷磊落 電子部門
蟹導烙
魔幇メッド=アライJr
賈高宝 魔幇新七大罪
アナルカナリ・タカ 『アナル』部門
魔幇エモン ボディペイント部門
七鴉翁 最古参

育児・親子健康部門統括
メカ妊娠願望マン1号

電子部門
双子布ハイド 右腕

上海大賽実行委員会
講知泉

【魔幇八十八星座】
定規座の林

治安維持部隊
清 美冴 隊長

魔幇の結成当初の関係者 張三
魔幇のエージェント(離反済み) 林希美
魔幇の研究所で培養された触手生命体 姦龍
客分(正確な立ち位置は不明) 藺烏黒 上海覇者

魔幇末端弱小マフィア【点心會】
嗣信 ボス
郭亀岩
朱鳳
虎眼
龍龍

32上海真実人民報:2025/12/05(金) 01:25:01
>>31
訂正
幹部
マーシャル・ブルーサマーズ三世 ヒップホップ部門 
が抜けていた

33倒萩:2025/12/06(土) 01:58:54
※時間がなくて書ききれなかった貧民街『覆巣、復路』のカリー戦です。

上海咖喱乐园(上海カレーランド)。
国外にまで知られる上海有数の大人気レジャースポットはこの夜、凄惨な戦闘により瓦礫の山に変わっていた。
炊かれた米飯を連想させる明るい白色の鋪道はそこかしこが捲れ上がり、何百人もの職員が腰から下を地下に埋め込まれている。
秋の夜風に、屋根を飾っていた筈の色布がはためく。
一際強いつむじ風が一枚の布を巻き込み、ゆっくりと移動する。

進行方向で衝突し、布が張り付いたのは一人の少女、その体の一部位、銀色の尾だった。
倒萩と名乗るその少女が邪魔だとばかりに尾を振ると、ふわりと広がった布は短い寄り道をしてから地に落ちる。

丢手绢(ハンカチ落とし)。
遊戯の始まりの合図に音はない。
地を割る轟音は、既に鬼が動いたことを示している。
倒萩の数歩前に立つ『飢鬼』林希美は、敵が姿を消す瞬間を目で捉えていた。
カリー・魔幣、当施設の那摩温(シェフ長)は正面から馬鹿正直に攻撃してくるつもりはない。

超遠距離からの突進による奇襲を一度防いだことで、桁違いの身体強化能力を誇る敵は戦術を組み直している。

「離れないでよ」
希美は背後に手を翳すよう構えながら敵の取る戦術を探る。
一度はカリーによる致命的な一撃を凌いだ倒萩、地面をクッションに変えて威力を抑え、土遁で命を繋いだが二度見逃されるほど甘い状況ではない。
二対一は分断されれば簡単に一対一に変化する。
追撃を許せば即ち死。
魔幇幹部級の実力者は、対峙するにもそれだけの覚悟が必要となる。

『狩りの時間だ(十三倍の金曜日)』
カリー・魔幣の能力は乗算型の身体強化。
素の身体能力が鍛え上げられるほどに効果は跳ね上がる。
対峙する二人には明かされていない金曜日のみ有効という制約は、カリーの上司である総帥爬・巳・狸・魔都が踏み倒した。

「ひひひィ〜〜〜!! まさか今までの力の差を体感してまだ私と戦う気力が残っているなんてねぇ〜〜〜!!! 気に入ったよぉ〜〜〜!! 頭を地面に擦り付けて謝ればまだ許してあげるからねぇ〜〜〜!!!」

カリー・魔幣は特大のステップを踏みながら二人の周囲を高速で回り続けているが、視界に捉えることは困難だ。大きな声だけが辛うじて二人の元へ届く。

「五〜〜〜〜、四〜〜〜〜〜〜、さ〜〜〜〜〜ん、二一!!!!」

カリーが一息の内に倒萩の背後に接近、首筋を狙い手刀を振り下ろす。
一撃で命を奪う必要も、戦線を離脱させる必要もない。
長期戦となれば職員との衝突で疲弊している二人が必然不利となるのだから、当てたらすぐに退くだけでいい。
しかしその手は空を切る。
希美が倒萩の頭を抱え込んでいる。
『飢鬼』の瞳が襲撃者の姿を見据えている。

「ここの所は夜食を楽しみにしてたんだ。夜市にハマっててさ」

34倒萩:2025/12/06(土) 02:00:33
彼女がこの時抱えているのは些細な空腹だ。
日々の飢餓は実際の深刻さと引き換えに麻痺していく。
食事を生存の限界に抑える生活は『飢鬼』の最高潮、飢餓状態へ簡単にスイッチを切り替える事を可能としたが、平時の空腹感に対してあまりにも感覚を鈍麻させていた。

粥の一口でも消え去るような淡い空腹。
今の希美はそれをしかと認識できている。
かつての『飢鬼』とは別物と言えるほどに研ぎ澄まされた感覚。
身体が自然に動き、攻撃から倒萩を守った。

虚を突かれたカリーの脚が液状化した地面に飲み込まれる。
身体能力が超人的で武術の鍛錬を積んだ強者であっても抗うことはできない。
全身にかかる重力、踏み締める地面からの抗力、接地面における摩擦は全ての基礎として刻み込まれている。
地から足を離して飛び跳ねる、足場のない場所へ飛び込むならばまだしも、不意に足場が高粘度流体に変わって対処することのできる者などそういないのだ。

それでもカリーは膝まで沈み込むよりも早く、瞬時に全身で沼から転がり出た。

「確かにこれは厄介……ッッッ!!! あの数の部下を倒しただけのことはあるようだねぇ〜〜〜!!!」

跳び退るカリーを『搔撫』が形成する沼が追う。
泥濘が侵食する速度は遅く、警戒していれば回避は容易。
しかし足を止めればまとわり付かれる。
『飢鬼』の目はカリーの動作一つ一つを見逃すことなくジリジリと距離をつめていき、倒萩もその背中に隠れるようにして近づいてきている。

「しゃあああ〜〜〜っ!!!」

カリーは落ちていた瓦礫を拾い上げ、投げながらローリングで二人との距離を離そうとする。
しかし希美はスピンをかけ軌道を変化させる飛礫を何事もないかのように撃ち落としていく。
彼女の『飢鬼』は世界を鮮やかに捉えている。
空腹が訴えるのは生物の芯にある生存本能に留まらない。
次に食べたい料理は何か。
想像力を刺激し、探究心を引き起こす。
飽きが来れば更に新しいものを求めようとする。
貪欲な刺激の追求。
満腹と満足を知った希美の『飢鬼』は先にあるものを求めている。
空腹を癒す未知の味、今までは見えてこなかった0コンマ以下世界、ミクロの世界、色のない世界、音のない世界への一歩。
力や速度においてカリー・魔幣に追いつくことはできない。
それでも湧き上がる飢えの力が半自動的にカリーの行動を賞味し、考えるよりも早く身体が動く。

「カリー、アンタに言っておく。ここのカレーは今まで食べた料理の中で一番美味しかったよ、ご馳走さま。」
「なんだい、料理を褒めて許しを乞うつもりかい!!? そうは行かないよぉ、これもシェフ長の責任って奴さねえええ〜〜〜!!!」

投擲を中止し、全速で後退するカリー。
点のように小さくなった敵影も鮮明に確認できる、希美は相手に聞こえているかは分からずとも声を張る。

「違うよ、私はまだこれから、もっともっと美味しいものを探すんだ。アンタの料理でアガリなんて、あっけなくて味気ない」
「舐めた口を〜〜〜!!! この私がどれだけの遍歴を重ねてあの味を達成したと思っているんだいい〜〜〜!!!」

35倒萩:2025/12/06(土) 02:01:35
超遠距離からの助走をつけた突進。
これが那摩温(シェフ長)カリー・魔幣の那摩温(最高の技)。
シンプルな身体強化能力を最も効率的に用いる殺技である。
カリー・魔幣は共同租界でイギリス系の移住者に重用されていたインド系移民の血を引いている。
属していたコミュニティは小さく、魔幇結成後はその一部として取り込まれた。

観光局局長の下で働くようになってからは能力の本領を発揮して人件費の十三倍以上の価値を披露し、発生した付加価値を『魔ペイ』に変換することを許された。
「ファミリー魔都二百十号トレーニングジム店」でありったけの身体能力を購入し、残額を「ファミリー魔都七百八十号エステ店」につぎ込んでありったけの色気を身に付けた。
全てはシェフ長としての責任感、全てはより良い人生を楽しむため、全ては上海咖喱乐园に尽くすため、全ては……

加速していく身体と意識の中で思いを馳せる。
静安区の棚戸(ポンフー)(貧民街)を買い取った局長のため、バラックを潰し、身体能力を活かして新たに清潔な小屋を建て増したこと。
観光客を呼び込むためのメニューを夜通し考えたこと。
身寄りのなさそうな観光客を捕まえて初めて商品にした時のこと。

瓦礫ばかりが転がる景色が、思い出の中の真っ白な舗道と天国と見紛うばかりの咖喱乐园に変わっていく。
限界を超えた速度が意識を変性させていく。
過ぎる景色は目で追うことができなくなる。

他方、待ち構える希美と倒萩。
銀の尾に掬い上げられた地表の塵芥が、銀の尾から振り撒かれて煙る。
乱暴な箒のように地を掃いて、砂埃を立てる。

「お伝えした通り、吸う息は最小限に。後は頼みます」

砂埃は一粒一粒が搗いたばかりの餅米のように表面が粘ついている。
『搔撫』が伝播する速度を最低まで引き下げ、宙を舞った後で効果を発揮するように調整した形だ。

二人の背後、乱暴な風となってカリーが現れる。
『搔撫』が道のりを罠に変えている可能性、『飢鬼』の正面からの防御を難しくするためカーブを描いて走っていたのだ。
更にステップの一つ一つを大きくすることで接地時間自体も減らされており軟化地面に触れる可能性は最低限に抑えられていた。

カリーの全速力を乗せた突進は一撃の重さに全てを賭けている。
技術的な防御は全て速度と力で弾き飛ばし、それ以上の手を打つことを許さない。
文字通りの一撃必殺を狙ったカリーだが、全身に違和感。
巻き上げられた砂が、気管支に貼り付く。
目や身体表面に不快な感覚を残していく。
粘ついた砂は金平糖のように周辺の塵を取り込み尖り、小さな撒菱の役割を果たしていた。
カリーの速度が僅かに落ちた。
見逃ず、『飢鬼』の拳が敵の胸の辺りを捉える。
自身の速度をそのまま攻撃として返されたカリーは大きな衝撃に崩れ落ち、時間差で生じた軟泥に体を沈めて行った。

「希美さん、『空腹は最高の香辛料』みたいな決め台詞を言うチャンスですよ。長い人生でそんな言葉を使うならば今しかないと思います!」
「無理に上手いこと言わなくていいよ、ちゃんと固めておいてね」

これにて二人とカリー・魔幣の戦いは決着したのである。
やがて戦闘を終えた張三とロハも帰ってくるが、今回の話はここでおしまいとする。

(『覆巣、復路』補完)

36茶山 明日歩:2025/12/09(火) 23:19:17
 幕間SS「人をダメにする椅子」1

 ホテルの一室。
 姉探しに奔走し続けた和夫はどかっと椅子に座る。
 思い出したかのように疲れが沸いて出てきた。

 柔らかい椅子だった。明日歩は経費を使って少し高めの部屋を用意したのだ。
 年上の女性と同室なのは和夫にとって心休まるどころではなかったが、疲労にはかなわない。足が棒になっている。

 和夫はゆっくりと背もたれに腰を預けると、黒い革の背もたれは沈むように倒れていった。
 心地よい。風呂に入らなければならないし、レストランでご飯を食べなければならなかった。しかしこのまま身を任せて寝てしまいたい。

 そう思っていた頃だった。カチッと変な音がした。
 椅子からだ。
 最近の椅子は機能的で機械的だ。和夫は何か椅子の中で作用したのかなと気軽に考えていた。
 
 しかし、それは爆弾だった。

「TNT型の椅子じゃない。珍しいわ」

「え、なんですかそれ」

「立ち上がったら爆発する系の椅子よ」

「そ、そんな!? 明日歩さんどうにかできませんか!?」

 聞くところによると、半径500mを木っ端微塵にするほどの爆弾が仕込まれているらしい。

「私のステッキ充電しなくちゃいけないのよね」

「充電式だったんですかそれ」

「USBタイプAよ」

「しかも充電遅いタイプ」

 和夫はため息を一つ。まずはこの状況を打破できる解決策を探さなくては。

「僕はいつまで座っていなくちゃいけないんですか」

「あーした天気になーれー」

 明日歩はヒールを脱いで足で放り投げた。ヒールは転がって横に倒れる。

「隕石ね」

「曇りでしょ」

 それよりも動けない状況をどうにかしたほうがいいと思うのだが、明日歩には何を言っても仕方がない部分があると和夫は知っている。

 自分で解決しなくてはならない。しかしこの椅子に座りながらできることは少ない。少ないどころか何もない。

「明日歩さんだけが頼りなんです。お願いします。何か、こう、爆発しないように椅子から離れる方法を考えてください」

「AVでも見る?」

「性欲は爆発しませんよ? 中学一年生に何見せようとしてるんですか!?」

「安心して、見ててあげるから」

「どういうプレイ?」

 明日歩はベットの下から何かを取り出した。

「えっちなものを隠すのはここよね。和夫ったら。もっとうまく隠しなさい。ほら、お母さん、簡単に見つけちゃった」

「いやここホテルの一室なんですけど。僕の部屋じゃないんですけど」

 明日歩がベットの下から取り出した紙束。

「ふむふむ、人をダメにする椅子。TNT型椅子の取扱説明書ね。なんてえっちなのかしら」

「変な部分ないでしょ」

「取扱説明書なんて、えっちすぎるわ!」

「どういう妄想してるの!?」

 頭の中うんこ色かと思っていたが、意外にもピンク色だったと驚いた和夫。お母さん役しながらそういうこと言うのはやめて欲しい。

「でも、解決策を見つけてくれたんですね。さすがです。明日歩さん」

「読み上げるわ。TNT型椅子、バージョン1.023617845126313613512689554ね」

「アプデしすぎでしょこの椅子」

「あら、こっちの説明書はバージョン1.0567198367163791727136183ね」

「……僕の椅子のバージョンは?」

「警告、バージョンは本体に書かれておりませんのでご注意ください、と書いてあるわ」

「ダメな人が作った椅子!」

「こっちの説明書は1.04618926461666120721ね」

「説明書いくつあるんですか」

 明日歩がベットの掛け布団をあげる。
 二つのベット下にぎっしりと大量に詰まっていた説明書類を見て、和夫は呆然と死を覚悟した。

37茶山 明日歩:2025/12/09(火) 23:20:17
 どれが正解かわかるわけもないので、テキトーに1枚見繕って和夫が読み上げて、それに明日歩が従うという形を取ることにした。

「うーん、何かしらこれ」

 明日歩は椅子の背後に周り、腰に当たる部分を見ていた。何か妙な突起物がある。

 引っ張ってくださいと言わんばかりの輪っかがあったため、明日歩はなんとなく引き抜いた。何かのピンのように見える。髪留めにでも使おうかと明日歩は考える。

「あ、明日歩さん見てくださいこれ。安全ピンがあり、それを引き抜かなければ爆発することはありません、と書いてあります!」

「今引き抜いたわ」

「明日歩さーん!」

 明日歩は妙な突起物に蓋があることに気づき、そこを開ける。何か番号を入力するボタンがあった。

 明日歩は思い当たる番号を入れる。

「45450721、555555555」

「あ、明日歩さん見てくださいこれ。番号番に三桁を正しく入力すれば、爆発しません。ただし入力回数は三回までですご注意ください。と書いてあります。番号は全バージョン一緒らしいですよ。これは勝ちましたね明日歩さん!」

「今潰したわ」

「明日歩さーん!」

 明日歩は先ほどの番号ボタンの横を観察する。左に青い線、右に赤い線があった。
 明日歩は迷わず両方切断した。

「あ、明日歩さん見てくださいこれ。……今度は何やりました?」

「赤は止まれ。青は進めよ」

「で、どっちを切ったんですか?」

「安心して、念には念を入れたわ」

「どっちも切ると10秒後爆発します。と書いてありますけど」

 明日歩は脱兎のごとく逃げた。

「明日歩さーん!」

 爆弾がブリブリ!といつか聞いた音と、ブブブゥゥゥゥゥ!!!意味不明なほど自己主張の激しい大きな音と共に、和夫は爆発した。

 幕間 終

38上海真実人民報:2025/12/10(水) 23:35:44
マフィア魔幇の再特集。

大首魁
五爪の翁 魔幇のトップに70年以上君臨する

側近
柏白延

魔封名誉四天王
豪硬剛 誘拐部門責任者、違法建築部門責任者、タピオカミルクティー部門責任者

魔幇四天王
隐匿 秘密主義者
花麗佳 『魔幇七不思議』 トイレを司る存在。
目艮竟 魔幇博物館館長
陽堂堂
叩頭卿
偽最終貞淑妻ケンジ
魔幇四天王最弱の男
瑤瑤
ジェット・ガウ スタント俳優部門統括


幹部
アメデオ・トゥレステッレ 「魔幇イレブン」
マーシャル・ブルーサマーズ三世 ヒップホップ部門 
カリー・魔幣 カレー部門
趙公暗 魔幇三大エースパイロット
くり魔んじゅう先輩 ちいかわ部門
落雷磊落 電子部門
蟹導烙
魔幇メッド=アライJr
賈高宝 魔幇新七大罪
アナルカナリ・タカ 『アナル』部門
魔幇エモン ボディペイント部門
七鴉翁 最古参
文回 回文部門
SC-350LC-Vのプロデューサー 建設部門
第六天魔幇織田栄一郎 織田信長部門
車吾空 『メディア』部門
グレゴール・スムーレンバーグ
馬仁飯 『バニー』部門
执行柜 「本日の主役」部門
豚 増増 ラーメン二郎部門
明朱垣 『メスガキ』部門
向晨光

育児・親子健康部門統括
メカ妊娠願望マン1号

電子部門
双子布ハイド 右腕

『アナル』部門
レアナルド・デカプリケツオ

人事部門
王 人事 係長代理

ちいかわ部門
群青日和

ファック部門
ジョボ・ジョボビッチ

織田信長部門
豊臣兄弟!

上海大賽実行委員会
講知泉

【魔幇八十八星座】
定規座の林

治安維持部隊
清 美冴 隊長

魔幇の結成当初の関係者 張三
魔幇ボスの孫 魔幇三世

魔幇のエージェント 
林希美(離反済み)
李 炸爆 元ペーパーカンパニー部門

研究所
殺人マシン
姦龍

客分(正確な立ち位置は不明) 藺烏黒 上海覇者

魔幇末端弱小マフィア【点心會】
嗣信 ボス
郭亀岩
朱鳳
虎眼
龍龍

39ネーター:2025/12/11(木) 00:50:05
応援イラスト

大戦持A子
tps://x.com/nater_gamer/status/1988605100814925867/

双喜
tps://x.com/nater_gamer/status/1989598156678730147/

海圻
tps://x.com/nater_gamer/status/1998781554303078732/

40上海なぜなに相談室:2025/12/11(木) 21:43:08
上海に住む魔人たちの秘密に迫るなぜなに相談室はじまるよー。

Q)クラム・ハードシェルの鎧の中に物をぎちぎちに詰めたらどうなるの?
A)わからない。本人に聞いて。

Q)拳狐はいつもお面をかぶっているけど不審者として通報されないの?
A)わからない。本人に聞いて。

Q)透明ワニはプロローグで読者に話しかけてきてるけど第四の壁を越えられるの?
A)わからない。本人に聞いて。

Q)茶山明日歩のステッキから噴出するうんこは誰のうんこなの?
A)わからない。本人に聞いて。

Q)劉炎嵐が着ている服はどうして燃えないの?
A)わからない。本人に聞いて。

またねー。

41クラム・ハードシェル:2025/12/11(木) 22:33:26
ソレガシの中身が詰まったら軽量スピードタイプから重量スロータイプに変わり
足音もどすん。どすん。ずしん。ずしん。みたいになるのではないか

42王烈(拳狐):2025/12/12(金) 00:13:55
>>40
確かに拳狐のやつが狐の面を外したところは見たことがないが、上海じゃ変わり者って程度じゃねぇか?
見てみろよ、あいつら(選外NPC)を……。

43キュアアースホール受付担当:2025/12/13(土) 17:25:04
>>40 ああ、それはキュアアースホール生活課の担当ですね

44キュアアースホール生活課:2025/12/13(土) 17:25:46
>>40 うーん、それはキュアアースホールうんこ課の担当じゃないかな?

45キュアアースホールうんこ課:2025/12/13(土) 17:26:34
>>40 そうじゃなあ。そりゃぁ、キュアアースホール魔法課の担当じゃろうて。

46キュアアースホール魔法課:2025/12/13(土) 17:27:33
>>40 それは茶山明日歩さんの担当ですね

47茶山 明日歩:2025/12/13(土) 17:28:03
>>40 知らないわ。本人に聞いて。

48魔幇エモン:2025/12/13(土) 17:33:55
劉炎嵐か。奴はその心が真っ赤に熱く燃えているように服も共に熱く燃えているのだ。
奴が燃え尽きることがない限り服もまた燃え尽きることはない・・・フフ、恐ろしい男よ・・・

49双喜:2025/12/13(土) 19:24:13
私への質問はないんですか?(でしゃばり)

50日ノ御子神楽:2025/12/14(日) 02:07:03
【日ノ御子神楽、失われた時間】

――三年間。 私が、何者かによって奪われた時間。
それを告げられた瞬間は、全く実感がなかった。

修学旅行の前半の楽しい思い出。
その直後に降りかかった災難と、偶然じみた脱出。
そして―― 霞がかかったように断絶した、最後の記憶。

それらは、私にとってつい昨日か一昨日レベルのことのようにしか感じられなかった。

〜〜〜

高校二年の一大イベント、修学旅行。
三泊四日の旅の折り返しを過ぎた、三日目の自由行動。
班別にまとまって行動すること、と旅のしおりには記されていたけれども――
班員の皆、もっと言えば学年全体を見回してもそのルールを忠実に守ろうとしたのは
少数派だっただろう。異郷の地というのは、そのくらい誘惑に満ちていた。
そして、私も例外の側ではなかった。
……今思えば、この後私に降りかかった出来事は、ルールを破った私への天罰なのかもしれない、と思った。

マップアプリに登録していたお目当ての店直前で、道にうずくまる男性の姿を見つけた。
具合でも悪いのだろうか、と思わず声をかけた瞬間。
――私の視界は渦を巻いて、暗転していった。

気が付いたときには、四、五名の女性と共に暗い部屋にいた。
今思い返してみれば、おそらくはワープ能力か何かだったのだろう。
病人のフリをした悪人によって、私はあっさりとかどわかされた、という次第だ。

その後、さほど間を空けず――随分な肥満体の男が部屋に入ってくるなり、私の腕を掴んだ。
抵抗しようとするが、自分が置かれた状況の異常さに萎縮してか、振り解くことすらできない。
そのまま、半ば引きずられるように別の部屋――豪奢なベッドルームへと叩きこまれた。
男はニヤニヤと下卑た笑みを浮かべると、別の男――私の父よりももう一回り年を重ねていそうな
脂ぎった中年男性を部屋に招き入れ、何か呟いて部屋を後にした。
――聞きなれない言語であったが、きっとこう言ったに違いない。『ごゆっくり』と。

中年男性は、喜色を顔いっぱいに浮かべながら、太った男と同質の笑みを顔に貼り付けていた。
服をそそくさと脱ぎ捨て、私の衣服に手をかける。

――嫌だ。

別に初めては好きな人のために、などと古風な乙女を気取るわけではないが。
どことも知れぬ土地で、変態親父のために処女を散らすなど――
流されやすく、人の頼みを断れない私だって、絶対に嫌だった。

私が生まれて初めて抱いたかもしれない、強い強い拒絶の意志。
それは、目に見える形で――私を変えた。

思わず男性を突き飛ばしたはいいものの、乙女の細腕では大した抵抗になるまい。
それどころか、相手を怒らせてより強引に迫られてもおかしくない。
そう思い、思わず顔を背けてうずくまった私だったが――

男性がそれ以上、進みよる気配はなかった。

恐る恐る目を開け、男性の方を見ると――
男性の身体に、大きな大きな×印が刻まれていた。
男性は、驚いたような、呆けたほうな表情のまま、微動だにせず立ち尽くしている。

――私が、拒絶したから?

そう思い至り、改めて念じてみる。
……ぽう、と赤くほのかに輝く×印が、掌の中から浮かび上がった。

――そうか、私は魔人になったのか。

そう気づいた瞬間、一条の光が差し込んだように思えた。
この能力をうまく使えば、脱出できるかもしれない――帰れるかもしれない、と。

51日ノ御子神楽:2025/12/14(日) 02:07:27
『それ』が、魔人になりたての人間に特有の思い上がりであったことを思い知らされたのは、十数分後のことだった。
寝室を抜け出したはいいものの、脱走はすぐ見張りの人間に見咎められ――
能力で足止めをしながら、建物内をあちこち迷いながら逃げ回り、
裏口から外に出たところで、ガタイのいい黒服の男たちにあっさりと取り押さえられてしまった。

「まったく、逃げ出すなんてねぇ〜〜。初物をそのままで、ってオーダーだったから
 せっかく仕込みナシで抱かせようとしたら、このザマとはねぇ……」

先程の肥満男――おそらく、彼がこの売春宿のボスなのだろう。
何を言っているかはわからないが、私の脱走に相当お怒りなのは間違いなかった。

「フフン、仕方ないや。この子はいつも通り仕込もうかぁ!」

男の合図で、部下と思しき男が何かを取り出す――注射器だ。
こんな状況で予防接種をしてくれるわけがないことくらい、私でもわかる。
アレを打たれたら、私は――人間として、終わってしまう。そんな予感がよぎる。
恐怖で身が竦み、拒絶の力もうまく使えない。

私の柔肌に、注射針が迫った――そのとき。

「ちょっと待った、愛爛々殿」

不意に、私の背後の方向から声がした。――よく聞きなれた、日本語で。

「……ンン? 誰かと思えば『××公社』の……何用だい?
 こっちはせっかく仕入れた娘がお転婆で困ってるところなんだから邪魔しないでほしいんだが?」

肥満男が不愉快そうに舌打ちし、新たに現れた人物に毒づく。
首を動かし、声のした方を見る。

そこにいたのは――男性だった。
声からしても間違いはない。だが――よく思い出せない。
どんな顔だったのか。どんな姿だったのか。
思い出せたのは、ただ一つ。

「そのお転婆ぶり――彼女の魔人能力に用があるのサ。
 ――その娘、私が『買い取る』ヨ。だから傷物にはしないでもらいたいネェ?」

――その言葉を聞いた瞬間。
私の意識が遠のき、身体から力が抜けていった。
自分の肉体と精神が、自分の意志から乖離する――嫌な感覚。
それが、私が無意識の海に沈む直前の、最後の感覚だった。

〜〜〜

「……ヤなコト思い出させちまったかな、こりゃ。
 すまないね、デリカシーに欠けるようなマネしちまって」

白黒半々という、にわかに信じがたいコーデの女性――白髪黒羽さんは、バツが悪そうに
髪を掻きながら頭を下げてくれた。

「いえ、そんなことは…… それよりも、その――
 私が『最悪の始末屋』だった、ってことのほうが……」

私が意識を手放し、男の手に落ちている間に。
能力を解析され、強化服を纏わされ、操られるがままに――多くの人々を『始末』していった。
そのことを知らされた瞬間、私は思わず叫んでいた――らしい。
あまりにも残酷で衝撃的だったからか、その瞬間の記憶も既に飛んでしまっている。

「……気にすんなよ、お嬢ちゃんは悪かねえさ。
 あんなけったいなスーツまで使って、うら若き乙女を始末屋に仕立て上げたクソ野郎が
 全面的に悪いんだ、気に病めば病むほど奴さんの思うツボだぜ?」

「……ですが、それでも。
 私の力で苦しんだ、不幸になった人々がいるってことは……忘れられません。
 いえ……忘れちゃいけない、と思います」

「……その心構えは立派だね。でも、今アンタが一番考えなきゃいけないことは――
 少しでも『幸せだ』って気持ちを取り戻すことだ」

落ち込む私の頭をぽんぽん、と撫で――
白髪さんは私の目の前に、ほかほかと湯気を立てる肉まんを突き出した。

「まずは腹いっぱい食おうぜ。
 腹が減ってると、どうしてもネガり淀み落ち込むもんだかんな」

私が断る隙も与えぬまま、肉まんを押し付けると――
白髪さんは皆との会議へと戻っていった。


その後、白髪さんが勝手に注文したデリバリーフードが次々に届き、
会議どころか宴会みたいな騒ぎになるのは――また、別の話だ。

52白髪黒羽:2025/12/14(日) 02:11:54
>>49
あー、そういやダブル・ハピネス・キャンペーンだっけ?
あたしクーポン拾ったんだけどいつまで有効なの?つーかこのクーポンでなんか貰えんの?

(手に「ダブル・ハピネス・キャンペーン優待クーポン」と書かれた紙きれを持っている。
 ……あからさまに手書きなのだ!)

53双喜:2025/12/14(日) 06:17:58
>>52
百年祭の間、私に対して欲望アピールチャンス!
いい感じの欲望をアピールすると私がいい気分になります!

54チンチンマン:2025/12/14(日) 06:24:45
>>49
清王朝時代に生まれたキミから見て、マフィアに支配されたこの上海をどう感じた?そして、マフィアによる支配がたった一つのダイヤ騒動で崩壊する現状についてはどう思う?
暴力で成り上がった連中が支配していたからこつなってしまった。民の支持を受けた人物が上に立つ必要があると私は考えてるけどキミはどう思う?

55双喜:2025/12/14(日) 06:57:38
>>54
私は不安定な世の中の方が野心的な人が暴れやすいから好き!
今の上海はサイコーだと思うよ!ダイヤ一個でメチャクチャになるのがいい!

56デスアクメマン:2025/12/15(月) 21:14:50
誰も知らない 知られちゃいけない
アクメマンが 誰なのか
何も言えない 話しちゃいけない
アクメマンが 誰なのか
人の世に 愛がある
人の世に 夢がある
この美しいものを 守りたいだけ
今日もどこかで デスアクメ
今日もどこかで デスアクメ

57とある元魔幇関係者:2025/12/16(火) 00:53:06
【警告】
以下のお話には性的な表現や、一部不愉快に思われる表現が含まれている場合があります。
見たくないや、という方はご注意ください。

58とある元魔幇関係者:2025/12/16(火) 00:55:29
【蕾】

上海から西に位置する、中国三位の面積を誇る湖――太湖。
そこに浮かぶ小島の一つに、世間の喧騒から切り離され、忘れ去られたように佇む一軒の家があった。
そこの主たる老人――菊羅門(ジュ・ルォメン)は二人のお手伝いと共に、日々を穏やかに過ごしていた。
妻は数年前に先立ち、子供も独り立ちし家庭を築き、日本に留学した孫娘もいる。
決して順風満帆とは言えないまでも、人並みの幸せを掴んで余生を満喫する世捨て人――
世間の人間が見れば、誰もがそう思うだろう。

――そうでないことは、菊自身が身にしみてわかっていた。

〜〜〜

「――お久しぶりです、菊老師」

小舟を使わねば行き来できぬ、隔絶された場所への来客。
庭先で鶏に餌をやっていた菊は、僅かな驚きと呆れ……
そして、それよりもさらに微かな怯えを、眉間のしわに込めた。

「……久しいね、孔(コン)」

孔と呼ばれた男性――近代的なスーツを着こなしたその姿は、牧歌的な小島ののどかさとは
いささかの不協和を生じているが、それを指摘する者はこの場にはいない。

「顔を見に来てくれた、というわけでは……なさそうだね」

「用件は……お分かりかもしれませんが、念のため。
 ――魔幇に、戻ってきてはいただけませんか」

孔の言葉に、菊は表情を緩める――肯定ではなく、分かり切ったことを聞くでない、という意思表示として。

「……その問いに対する返事は、十年前にボスに伝えたよ。
 そして、そのケッ定は今も変わることはないよ」

「上海の――いえ、魔幇の現状はここにいてもシリ及んでいらっしゃるでしょう。
 ――貴方が創り上げた『肛悦教隊』についても」

孔の言葉に、平坦だった菊の眉がぴくり、と動く。

「……入ろうか。ここでは、尻も冷えてしまう」

ぽんぽん、と菊が手を二度打つと――
住み込みの使用人らしき少年と少女が家の中から駆け付ける。

「如图(ルートゥ)、蜜桃(ミィタオ)。お客様をもてなす準備をお願いできるかな」

如图と呼ばれた少年と、蜜桃と呼ばれた少女が菊に頭を下げ、命令に応じる。
孔が如图に案内され、応接間へと向かうのを見届けながら、菊もまた家の中へと戻っていった。

59とある元魔幇関係者:2025/12/16(火) 00:56:02
〜〜〜

数分後。
野良仕事着から着替えた菊が応接間へと入り、テーブルを挟んで孔と向き合う。
テーブルの上には、蜜桃が淹れた茶と、素朴な茶菓子が並べられていた。
二人の使用人は応接間の一角に、ぴしりと背筋を伸ばして控えている。

茶を一啜りしたところで、菊が話を切り出す。

「……改めて言うけれど、私は戻る気はない。
 もはや私もロートルだ、歳を取って括約筋もずいぶん緩んだ。
 君の望むような活躍はできんよ」

「ご謙遜を―― 数多の高潔な人間の後穴を開発し、性の悦びを身体に刻み込む
 調教部隊『肛悦教隊』――その初代調教長たる貴方の言葉とも思えませぬ」

誤魔化すように微笑む菊に対し、どこか切羽詰まった表情の孔が語る。

「……今もなお。尻を引き締めていなければ、疼いてしまうほどの淫気を出していらっしゃる。
 だからこそ、わからないのです――十年前、どうして身を引かれたのか」

――菊羅門。魔幇にその人ありと謳われた、肛交特化の性奴調教師。
それが、彼のもう一つの顔だった。

菊は、少し迷ったように――ぽつりぽつりと、語り始めた。

「少し、昔話につきあってくれないか。
 ……君も知っての通り、私は生来の尻穴好きだ。
 その抑えがたい衝動の捌け口として、私は多くの人間の尻穴を快楽の器官へと変えていった。
 前と後ろの両方を同時に攻め立て、壊れる寸前まで溺れさせた娘の数は三桁を下らぬ。
 後ろだけをひたすらに弄り、処女でありながら乱れるよう手塩にかけた者もいた。
 時には少年の菊門を、触れるだけで精を噴き出す性感帯へと磨き上げた」

聞く者が聞けば、悍ましさで憤死しかねぬ程の所業を――菊は偉ぶるでも恥じるでもなく、淡々と述べた。

「その一方で、妻と出会い――表の世界でも生きる道を選んだ。
 妻は、私には過ぎたほどの、尻の穴の大きい女だった――
 人でなしの私を、そのまま受け入れてくれた、大輪の菊のような人だった」

部屋の片隅に飾られた写真立てに、菊が目線を送る。
写真の中の婦人――彼の妻は、裏の薄暗さを一片も感じさせない明るい笑顔を留めていた。

「……息子や孫には、流石に打ち明けられなかったがね。
 子供たちに罪はない、私の裏の顔は尻の穴の奥に秘めておこうと、妻とも話し合ってケツ断した」

菊の目線は、並べられた写真立ての一つ一つに注がれる。
国策故に一人しか子を持つことが許されぬ分、家族への情は強くなる。

「……それが正しかったのかどうかを迷う日が来るとは、十年前まで思いもしなかったよ。
 ――孫娘が、一人で肛慰に耽るさまを覗き見てしまうまではね」

写真立ての中の孫娘は、どこにでもいるような普通の、屈託のない笑顔を浮かべた少女だった。
菊の脳裏に焼き付いて離れぬ、幼さが残りながらも淫らに蕩け喘ぐ姿。
その残像を振り払うように首を横に振り、話を続ける。

「もちろん魔幇でのことは、完璧に伏せていたさ――道具一つ、家庭には持ち込まなかった。
 だが、血は争えぬものだね…… 尻の穴が窄まる思いだったよ、見てしまったときは。
 そして、血を分けた孫の痴態に欲情できるほど――私は人でなしではいられなかったらしい。
 結局、その日からそう間も経たぬうちに、私は魔幇から抜けたというわけだ」

菊は写真立てから孔へと目線を戻し、改めて対面に座る。
孔が抱いているであろう疑問の二つ目への答えを返すために。

60とある元魔幇関係者:2025/12/16(火) 00:56:43
「――なぜ、平穏無事に抜けられたのかは君にもまだ言っていなかったね。
 表向きには、長年の『肛悦教隊』によるシノギの功績を考慮して……となっているが。
 
 ――忘れもしないあの日。ボスの元に最後の挨拶をしにいったとき――
 私は『清王朝のダイヤ』を、目の当たりにしたのだよ」

「……!」

がたり、と孔がテーブルを揺らすほどに身を乗り出す。
その様子を意に介さず、菊は語りを続ける。

「……ダイヤは、それはそれは神々しい輝きを放っていた。
 この世のものとは思えぬほどの美しさに、思わず尻が引き締まったものだ――
 そんな私の心の内を見透かしたように、ボスは眉一つ動かさず、私に問いかけたよ」

“このダイヤを――お前の菊門に入れてみたくはないか?”

――暫しの静寂。
ごくり、と孔が唾を飲み、かすれる喉で言葉を紡ぐ。

「……それで、老師は何と答えたのですか」

「断ったよ。……いや、心惹かれたのは事実だ。
 瞬く秘宝を、我が尻に納める――想像しただけで心躍り、興奮し、皺がひくついた。
 だが、それ以上に……畏れが勝った、と言うべきかな。
 ダイヤの誘惑のままに快楽を貪れば――もう後戻りできない、そんな確信があった」

「……ボスは何と?」

「そうか、と一声だけ返し―― 最後に、労いの言葉をもらって終わりさ。『大儀であった』とね。
 ボスは最初からわかっていたのかもしれんがね……私が首を縦に振ることはない、と。 
 ……あるいは、私が喜び勇んで秘宝を肛門に誘えば、その瞬間私を殺すつもりだったのかもしれない。
 今となっては、真意を知るのはボス――“五爪”だけだよ」

驚愕に目を見開く孔に対し、菊は悪戯っぽく微笑み――昔語りが終わる。
すっかり飲み頃を逃した茶をすすりながら、菊は懐からスマホを取り出して見せる。

「追手を出すでもなく、家族に害をなすでもなく――こうして楽隠居できるとは思わなかったがね。
 ……心配だった孫も、日本で恋人ができた、と先日メールを貰ったよ。
 少しばかり線が細い少年だが、孫娘のことを受け入れてくれているらしい」

スマホの画面には、十年の歳月を重ね立派な学生となった孫娘と少年のツーショットが映っていた。
孫バカの祖父という表の顔を垣間見せながらも、菊は再び話題を戻す。

61とある元魔幇関係者:2025/12/16(火) 00:57:07
「……その魔幇の秘宝が失われ、取り戻すのに必死なことも知っているよ。
 魔幇から抜けて隠居した身とはいえ、情報は嫌でも尻に入ってくるものだ」

上海一の闇組織、魔幇――完全に手を切ることは、菊をもってしても出来ていない。
表向きは綺麗な足抜けとはいえ、かつての部下が呼びつけに来られる程度の場所に住んでいるというのも
ある意味ではその表れといえよう。どこに引っ越そうと、隠れようと――
魔幇がその気になれば、いつでも始末ができるのだから。
裏を返せば、隠遁生活の身であっても――菊もまた、魔幇のことを知っている。

「尻穴の萎んだ老人一人が戻ったところで、ダイヤを取り返せるわけもなし。
 家族を攫って言うことを聞かせるにしても、そんな人員を回している余裕もあるまいよ。
 ……カリーが敗れたとも聞いている、尻の穴を埋めるどころじゃあないはずだ」

「そのカリー様が敗れたことが問題なのです――
 浮ついた若手がアナル部門に流れ、結果として『肛悦教隊』は実質解散も同然の有様です。
 ……だからこそ、老師に戻ってきていただきたかった」

「何、お前さんがいれば再建はできよう。
 ダイヤ騒ぎが落ち着けば、また調教に精を出す日々も戻ろうて。
 もっとも……いや、口に出すのはよそうか。
 あり得ないとは思うが、言葉には尻から出るもの以上に力がある。
 ジジイの杞憂が現実になっては敵わんからの」

菊の言葉の真意を測りかね、孔が首を傾げる。
無理もないだろう――

『そのときまで、魔幇が存在していればの話だが』などと口走れる神経を、菊は持ち合わせていない。
自ら選び、浸った道だからこそ――その強大さも知っている。
一方で――自らが離れてから、魔幇が少しずつ変節していったことも。
魔幇に在り続けてほしいのか、滅びてほしいのか。
――その答えを、菊は持ち合わせていない。

ぽぅ、と鳩時計が鳴く声がした。
気付けば日も沈み始めている頃だった。

「……さて、大したもてなしもできんが、味見くらいはしていくかね?
 如图、蜜桃や」

菊の呼びかけに即座に反応し、如图と蜜桃がするりと服を脱ぎ捨てる。
二人の肌は上気し、これから与えられるであろう悦びを予感して頬は紅く色づいていた。
菊の淫気に中てられ、臀部の奥の洞穴からは既に蜜が滴り始めている。

「……老師も人が悪い…… 閨で寝転がる時間も惜しいというのに」

「何、焦っても出るのは糞だけよ。
 ダイヤを取り戻したくば、尻穴を大きくもたんとな」

――菊羅門。
己の所業を悔いず、恥じず、省みない肛虐の老調教師は、愛弟子に向けてこの日一番の笑みを浮かべた。

――天寿か人災か、いずれ己の命運尽きたその暁には、地獄で裁かれるのだろう。
極楽に見せかけたまやかしの地獄に堕とした少年少女たちの怨嗟と嬌声に塗れながら。
ならば、今は。今世を謳歌するくらいは、罰は当たるまい。
己の心に言い聞かせるように、菊はこの夜も愉しんだのであった。

62拳狐:2025/12/17(水) 18:14:37
拳狐・幕間

上海市内の、とある公園。
のどかな陽光が降り注ぐ広場に、一人の男が座していた。
顔の上半分を覆う白い狐の面を見れば、大道芸人と勘違いする者もいるだろう。
拳狐である。

色鮮やかな緑地に胡坐をかいた拳狐は、仮面の奥の瞳を閉じている。
無論、これは武術の型ではない。
瞑想である。

戦いに明け暮れる武人である拳狐が、瞑想に浸ることを意外に感じる者もいるかもしれぬ。
しかし、拳狐は休息に重きを置く男である。
魔人の能力は、その者の生き様を示すと聞いたことはないだろうか。
あえて小難しい言葉を使えば、自己同一性、アイデンティティ。
能力の覚醒とは、その発露であると考える識者は少なくない。
拳狐の《為逸速的一息》の在りようを思えば、次なる飛躍のために一息を入れることも納得できよう。

ふと見れば、一羽の小鳥が拳狐の頭に止まろうとしている。
常人であれば、小鳥が頭上で羽根を休める微笑ましい光景が生まれたことだろう。
だが、小鳥の足が触れるや否や、拳狐は飛び退き、守りの構えを取る。
小鳥は泊地を失い、足早に飛び去った。

これもまた、拳狐の在りようの一つ。
心身を休ませていたとしても、変化がもたらされれば、即座に呼応し身構える。
静と動、相反するように思える二つを瞬く間に切り替える。
緩急自在の変わり身の早さは、拳狐を強者たらしめる理由の一つと言えるだろう。

そして、その変わり身の早さは、戦い方にのみ発揮されるものではない。
拳を交えた相手であろうと、気に入れば戦いの後に友とする。
力量を認めた相手であろうと、道理が通らぬと見れば即座に敵とする。
他者との交わり方もまた、表裏一体なのだ。

拳狐の次なる出会いが、表となるか、裏となるか。
知る者はまだいない。

63アイザック・クー:2025/12/19(金) 18:58:54
アイザック・クー 幕間『魔都の茶会』

 極彩色のネオンと、路地裏の淀んだ闇が混ざり合う街。魔都、上海。
 重厚な湿気を含んだ夜風が、有象無象の欲望を乗せて通りを吹き抜けていく。魔人たちが血眼になって『清王朝のダイヤ』を求める狂騒の裏で、老舗の茶館の、さらに奥まった個室に二つの影があった。

「……全く、嘆かわしい。上海の魔人どもは『TPO』という概念が無いのですか?」

 静寂を破ったのは、神経質そうな男の声だった。
 仕立ての良い三つ揃えのスーツに身を包んだ学者、アイザック・クー。彼は湯気の立つ茶杯を睨みつけながら、向かいの男に吐き捨てるように言った。

「ご機嫌斜めだな。教授、せっかくの式典が滅茶苦茶になって残念か?」

 対面に座るのは、着古したラフなジャケットを羽織った男、上海の情報屋『竹雀(ジュチュエ)』だ。彼はアイザックの苛立ちなどどこ吹く風といった様子で、自身の茶杯を口に運んだ。
 二人は十年来の付き合いになる。アイザックは竹雀の本名を知らず、竹雀もまたアイザックの全てを知ろうとはしない。互いに「情報屋」と「上客」という、付かず離れずの距離感が心地よいことを知っているからだ。

「ええ、竹雀。極めて遺憾です。私の当初の計画は完璧でした。百年節のセレモニーに潜入し、魔幇の首領が壇上で『清王朝のダイヤ』を掲げた時、それが本当に清朝の貴重な宝石なのかという事を確認する……それで終わりだったはずなのです。仮にそれが本物だとしても、この場は撤収し、奪取の計画はじっくり練るつもりだったのです」

 抑揚を抑えた声だが、テーブルの上に置かれた指先が微かに苛立ちで強張っているのを、竹雀は見逃さなかった。完璧主義者の教授にとって、カオスな状況そのものが許しがたいのだろう。

「教授……確かにあんたの計画は完璧に近い。だが現実はどうだ? 盗人が現れ、ダイヤは行方不明、偽物が乱れ飛び、血なまぐさい争奪戦のゴングが鳴った」
「全くその通りです。おかげで私の予定は白紙です。魔幇のセレモニーに潜入するだけの任務だったはずが、泥と油にまみれた路地裏を這いずり回る羽目になってしまいましたよ」
「それはまた災難だな。もっとも、こっちにとっては情報が次々に売れるから丸儲けだけどな」

 竹雀が肩をすくめて言うと、アイザックはまるでタチの悪い冗談を聞いたかのように、短く乾いた笑い声を漏らした。
 だがその笑みは一瞬で消え、代わりに学者の鋭い眼光が戻る。

「しかも、最悪なことに、今のダイヤの所有者が誰であれ、彼らのほとんどがその価値を『換金』か『力』としか見ていない。乱雑に扱い、傷つけようとするでしょう」

 アイザックは懐からハンカチを取り出し、口元を拭う。その動作は優雅だが、瞳の奥には冷徹な炎が宿っていた。

「……『清王朝のダイヤ』が例えどんな物であったとしても、歴史的価値をわきまえぬ者の手によって損壊されるのを指を咥えて見ている訳にはいきません。竹雀、例のリストは準備できましたか?」
「教授とは長い付き合いだ。特別に用意したぞ」

64アイザック・クー:2025/12/19(金) 19:01:20
 竹雀は呆れた顔で苦笑すると、テーブルの上に一台のタブレット端末を滑らせた。
 画面が起動し、薄暗い個室を青白い光が照らす。そこに映し出されたのは、現在上海で噂になっている魔人達の姿とステータスだった。

「……さて、教授。これが今、上海の盤上で踊っている『駒』たちのリストだ。ダイヤを狙うハイエナ、護衛対象を守る番犬、大賽にかこつけて暴れたいだけの戦闘狂、そして……訳のわからない愉快犯ども。全部で百数十人規模になるが、あんたのその頭脳なら一瞬で頭に入るだろう。おっと、魔人能力までは全て分かっている訳ではないから勘弁してくれよ」

 アイザックの長い指が、滑らかに画面をスクロールし始める。
 その瞳は単に文字を追っているのではない。情報の奥にある因果関係、力学、そして歴史の文脈を解読しているかのように、竹雀には見えた。

「……壮観ですね。清朝末期の混乱期でさえ、これほど多種多様な『異物』が一点に集中する事は稀でした」
「特に警戒すべきは誰だと思う? 破壊の限りを尽くす『シャンハイオー』か? それとも、ジャングルの掟で動く『スーパーファンタスティックグレートミラクルロイヤルバイオゴリラ』か?」

 竹雀が茶化すように尋ねると、アイザックは「フッ……違いますよ」と鼻で笑い、視線を画面に落としたまま続けた。

「確かに彼らは脅威です。しかし、火力だけの存在であれば、対処の仕様はあります。歴史上、単なる暴力は知恵と策謀によって幾度となく葬られてきましたから。……私が厄介だと感じるのは、論理の外側にいる者たちです」

 アイザックの指が止まる。示されたのは『女陰黄泉』、そして『道明寺晴満』と書かれた項目だった。

「この記憶喪失のキョンシー、そして旧帝国の亡霊。彼らは恐らく物理法則ではなく、概念や認識を改変する力を持っているでしょう。『現実』そのものを揺らしてくる可能性がある存在、私はシャンハイオー以上に相手にしたくないですね」

 竹雀は感心したように顎をさすった。
 
「鋭いな。まともにぶつかれば、あんたの求める『歴史的正しさ』ごとかき消されない連中だ。で、解決屋といった存在はどうだ? 『劉炎嵐』や『海圻』、『槌唄塔也』あたりは、あんたの商売敵になるかもしれないぞ」
「彼らの行動原理には明確な芯がある。交渉や利害の一致による共闘の余地はあるでしょう」
「……そうかもしれないな。だが、いずれも一筋縄ではいかない曲者だ。そう簡単に上手くいくと思うなよ」

 「分かっていますよ」と、アイザックは自身に言い聞かせるように呟く。
 そして、彼は画面をさらにスクロールさせ、『双喜』と書かれた項目で再び指を止めた。瞳が僅かに細められる。

「……他に私が気になる存在であるなら、彼女でしょうね」
「おや、教授。そのお嬢ちゃんに気があるのかい? 『強欲』を食べる猛獣だぜ」
「ええ、大いに気になりますよ」

65アイザック・クー:2025/12/19(金) 19:02:33
 アイザックは身を乗り出すようにして語り始めた。

「彼女は単なる魔人ではない。清朝が滅びゆく寸前、失われた道術の秘儀によって生み出された、生きた標本だ。彼女の脳内には、当時の魔人たちが入力した清朝末期の一般常識、そしてもしかすると……失われた宮廷の機密情報が『初期設定』として眠っている可能性がある」
「……そうだったな。教授程の人物であれば、双喜に眠ったデータを読み込めるかもしれない。……双喜と言えば、面白い配信アーカイブがある。見てもらえないか?」

 竹雀は自身の端末を操作し、とある動画サイトを開いてアイザックに向けた。
 画面の中で、騒がしい少女の声が弾ける。

……
『魔都上海の皆様!はじめまして〜!!』
『伝説のダイヤモンド争奪戦!楽しんでますか〜!!』
『今日は上海に蠢く強欲貪欲業突く張りの皆様に、素敵なお知らせを持ってきましたよ!』
……
『お宝二倍!』
『強欲二倍ッ!!』
『二つを手中に収めて、幸せ二倍ッ!!!』
『ダブル・ハピネス・キャンペーンッ!!実施中っ!!!』
……

 配信を見つめるアイザックの表情が変わった。
 先程までの冷静な分析者の顔ではない。ダイヤへの執着とも異なる、冷たく、それでいて熱狂的な学究の炎がその瞳に灯っていた。

「ダブル・ハピネス・キャンペーンとは上手い事言いましたね」
「……おいおい。ダイヤよりもそっちを解剖したくなったって顔をしているな」

 呆れる竹雀をよそに、アイザックの静かな興奮は止まらない。言葉の速度が、わずかに早まる。

「彼女を破壊してはなりません。確保し、保護し、そして読解する。彼女はダイヤと同等、いや、学術的価値においてはそれ以上の国宝級重要文化財です。……傷一つ付けずに捕獲する必要があるでしょう」

 完全にスイッチが入ってしまった学者を前に、竹雀はこれ以上話が逸れるのを防ぐべく、わざとらしく咳払いをした。

「教授、確かに双喜も学術的には重要な存在かもしれない。しかし、ここでの話題は清王朝のダイヤだ。双喜の話は別の機会にしようか。それに、清王朝のダイヤを狙う以上、彼女とはどうしても接触する事になるだろうしな」
「……そうでしたね。私も少し興奮し過ぎました。話を戻しましょう」

 アイザックの瞳から先程までの狂熱が引いていく。彼は咳払いを一つ返すと、逃げるように視線をタブレットに戻し、指先を滑らせた。

「しかし……改めて見ると頭の痛くなる連中ばかりです。碑文の謎を秘めた『ステラ』に、厳重な再封印が必要な『魔筆』……。極めつけは、顔も見たくない『茶山明日歩』ですか」
「茶山明日歩か……俺もそいつの情報を得る為にどれだけ臭い思いをしたか」

 二人は示し合わせたように、露骨に顔をしかめた。
 互いに苦々しい記憶を共有したあと、アイザックは気を取り直して結論を急ぐように画面を弾いた。

「彼らも警戒対象ですが、ダイヤを狙う上で特に注意すべきは……」

 アイザックは小さく息を整えると、名簿を最後の方まで一気にスクロールさせた。
 そして、意を決したように声を潜める。

「……このリストの最後にある『首魁』たち。魔幇のドンの『五爪の翁』、魔幇結成前に上海に君臨していた『《改暦者》閏』、そしてその周辺に潜む『正体不明』の存在。……彼らの情報は読み解けない『空白』になっています。まるで、歴史のページがここだけ破り取られているかのように」
「……教授、そこは俺ですら掴み取れない『闇』だ。深入りしすぎれば、ダイヤを見つける前にアンタ自身が歴史の闇に消えることになる」

 竹雀の警告は、決して脅しではない。裏社会に生きる者としての実感だった。
 だが、アイザックはその警告すらも自らの燃料にするかのように、力強い視線を返した。

「ええ、だからこそ、私がここを埋めなければならないでしょう。ダイヤをあるべき歴史の文脈へと戻す。……この混沌とした名簿の中に、私の探求の答えがあるはずです」
「ま、教授がそこまでいうなら俺は止めないがな。せいぜい気を付ける事だ。このデータはいつもの秘匿通信で送っているから、後でゆっくり確認してくれ」
「忠告感謝します」

66アイザック・クー:2025/12/19(金) 19:03:17
 アイザックが一礼すると、竹雀はタブレットを懐にしまい、空になった茶杯の縁を指でなぞりながら、独り言のように呟いた。

「なぁ、教授。何となく思った事だが、おそらくアンタは『清王朝のダイヤ』を額面通りに受け取っていないだろ」
「おや、それを感じ取るとは。伊達に十年来の付き合いではありませんね」

 アイザックは表情一つ変えず、当然のことのように肯定する。

「……竹雀、私がこの件で最も奇妙だと感じているのは、『材質』と『価格』の不均衡です」
「ほう? 詳しく聞かせてもらおうか」
「清朝の宮廷において、至高の宝石といえば『翡翠』です。西太后をはじめ、歴代の権力者が愛したのは硬玉の緑であって、西洋由来の金剛石ではない。もちろん、清朝末期には西洋の宝飾品も流入していましたが、国家の象徴としてダイヤが据えられるのは、歴史的文脈から見て不自然極まりない」
「ああ。普通なら『清王朝の翡翠』あるいは『龍の玉座』とでも呼ぶべきだろうな」

 アイザックは冷めきったお茶を一口含み、喉を潤してから言葉を続けた。

「それに、あの"数千億円"という提示額。……ホープダイヤやコ・イ・ヌールでさえ、そこまでの値はつきません。単なる炭素結晶に国家予算規模の値段がつくなど、経済学的にも説明が付かない。つまり、あれは『ダイヤモンドという名前のついた、別の機能を持つ何か』である可能性が高い。……あるいは、『清王朝』という冠自体が、中身の危なさを隠すための『歴史的なカモフラージュ』に過ぎないのかもしれません」

 竹雀は降参するように両手を挙げ、天井を仰いだ。

「……参ったな。あんたの前じゃ、魔幇の流すプロパガンダも形無しだ」

 そして、声をさらに低くする。それは情報屋としてではなく、友人としての密やかな囁きだった。

「……裏で囁かれている噂の一つに、こんなのがある。……あれはただの宝石ではなく、『人を変身させる魔具』あるいは『王権証器』なんじゃないか、とな。それがあまりにも硬く、あまりに輝いているから、便宜上『ダイヤ』と呼んでいるに過ぎない。……もしそうなら、あんたが追っているものは、炭素の配列ではなく、そこに焼き付けた『魔都の呪い』そのものかもしれないぞ」

 その言葉に、アイザックの目が知的な光を帯びて細められた。まるで難解な古文書の解読の糸口を見つけたかのように。

「……なるほど。物質的価値でなく、機能的価値に対する価格、ということですか。『清王朝のダイヤ』は、やはりただの石ころではなさそうです。……代金はいつもの口座に。追加情報があれば、また頼みます」

 そう言うとアイザックは残った冷たいお茶を飲み干し、席を立つ。
 彼が個室の扉を開けると、再び湿った熱気と喧騒が流れ込んできた。
 学者はスーツの襟を正し、混沌渦巻く上海の闇へと、その身を投じていった。

67果成いっぽ:2025/12/21(日) 19:57:19
うおおおおー!
下山師匠!死神ちゃん!双喜さん?ちゃん?
俺はお前たちを『巫女』にするぞ!!

あと白髪さん!
俺はあなたを『ヒーロー』にするぞ!

あと多分拳狐は『主人公』にするぞ!

68双喜:2025/12/22(月) 17:26:04
>>67
ちゃんでイイヨ!
追尾する御札とか投げちゃうぞー!

69白髪黒羽:2025/12/23(火) 15:20:19
>>67
んん? ヒーローねえ……
ヒーローだと肉分けなきゃいけねーんだよなー。海賊王ならなりてーけど。

……ウソウソ、冗談だよ。
アタシをどうすんのかは知らねーけど、アンタのよろしいように思い切ってやんな。

70ちいかわ部門職員:2025/12/26(金) 16:26:33
職員「三時団体以下の討伐任務に参加するみなさ〜ん、幹部の方々が得た情報を元に討伐のオススメランクを作ってくれましたので、討伐任務を受ける際はこちらを確認くださ〜い」
末端構成員1「ハァ?」
末端構成員「ワァ…」

末端組員(なんかちいが低くてかわいそうなやつ)向け、討伐オススメランク表
(これは、魔幇の末端構成員は誰を狙えば得かを報酬・探しやすさ・倒しやすさを基準に魔幇幹部達の視点で評価したものです。なので、実際の実力や報酬額とは間違えている部分もあります)


Sランク(最優先で確保)

郭亀岩
→ 同じ末端で能力も割れている。銃で距離とって粘れば確実に詰む相手。報酬も高め。

大戦持A子
→ 逃げに特化してるが戦意低い。追跡部隊の支援つけて包囲すれば捕縛できる。遅刻の罪で組織評価は低い=護衛もいない。報酬はそこそこ。

Aランク(Sの次に狙う)

メーメー
→ 正体が不確定の遠距離攻撃持ちだが本体は少女。懸賞は「組織に恨み持つ危険分子」で高い。

張三
→ 物理は強いが武器は鉄棒。銃の距離に弱いタイプ。ボスからの評価が謎に高く捕縛ボーナスも期待。

劉炎嵐
→ 強いが他の捕獲対象程頭が回る方ではないし、逃げ足も速くないというか逃げようとしない。保有噂のダイヤだけで報酬は莫大。

Bランク(条件次第で捕獲)
ジョバンニ
→ 見た感じただのやさ男。バディの女戦士は脅威だが本人を突き止めれば遠距離ヘッショでOK。報酬は大きい。

倒萩
→ 尾を気を付けて地形を遮蔽に使って撃ち合いで優位。解決屋は高額だがAほどではない。

白髮黒羽
→ 触れた物の加工。近接は危険、だが触れられなければ能力は死ぬ。報酬は「誘拐事件絡み」で中程度。

海圻
→ こいつのツレがダイヤ持ってるかもとの話。こいつ自体も若手の魔人の域を出なさそうなので狙い目。ただ、バックが強力なので長期戦はNG。


Cランク(コスパ悪いがまだマシ)

茶山明日歩
→ うんこ魔法は重いが直線攻撃。初見以外は避けて撃てる。魔法少女=希少報酬はあるが、目的がダイヤ本命じゃない=報酬は低め。

双喜
→ 目覚めた秘宝級だが単体での欲望吸収は一般人に近い末端じゃ撃破不能

死神ちゃん
→ 逃げて隠れるだけの一般人。燻り出し・包囲・長期拘束で無力化可能。だが、何でこの子が捕獲対象になってるんだ。

Dランク(リスク≫報酬)

クラム・ハードシェル
→ 幽霊+物理干渉+剣達人。銃も効くが近づく必要がある=死ぬ。報酬は高そうだが末端に任せる案件じゃねぇ。

槌唄塔也
→ 逃げも戦闘も器用にこなす上、懸賞は実力に対して渋い。回避推奨。

拳狐
→ 強いし捕獲しても組織にリターン薄い。素人触れるべからず。

ギャラハッド・ソネット
→ 炎+飛行。銃が当たらない高さに逃げられる。伝説否定勢=組織からの評価も微妙=報酬低。

Eランク(絶対関わるな)

喬芽芽
→ 今回最大のトラップ。舐めてかかると普通に死ぬ。なんなら、仲間の力で社会的にも殺しに来る。来ないで。

女陰黄泉
→ 詳細は伝えられないが危険度SSS。報酬以前に死。

果成いっぽ
→ 詳細を末端が知るべきでないその2。お前ら如きが挑む相手じゃない。

下山師匠
→ 本人はボス級の化け物、捕まえても丸め込まれる可能性大。

71ネーター:2025/12/29(月) 23:04:16
応援イラスト

拳狐
tps://x.com/nater_gamer/status/2005553422549090604

張三
tps://x.com/nater_gamer/status/2005629401149690032

72闇雲鏡穢:2025/12/31(水) 15:06:30
ボスNPC闇雲鏡穢のプロローグです。
ノリだけで書いてるので、このSSの内容を踏まえなくてもいいですし、これがキャンペーンの正史というわけでもありません(当たり前ですが)

73闇雲鏡穢:2025/12/31(水) 15:06:58
 百年節が明日から始まろうかという時期の上海である。大通りは深夜でもネオンサインが輝き、観光客で溢れかえるが、少し離れた埠頭は閑散としている。けたたましく夜闇を切り裂くヘリコプター以外は、数台のベンツと黒服を着た男たちしかいない。

「待たせて済まないな。」

 港に着陸したヘリコプターから出てきた男が言った。これまで幾多の修羅場を潜り抜けた眼は血走り、顔には複数の傷跡が刻まれて出血している。
 地上でベンツを停めていた男たち、こちらもヘリコプターから出てきたのと比べても遜色ないヤクザ者の面構えだ。

「随分と遅かったじゃねえか」

 気遣うような口調だが、言葉の端々に焦りのような感情が見え隠れする。いかにも下っ端マフィアが話そうな口の利き方だ。

「安心しろ。それよりコレだ。見ろ…!」

 などと言いながら、顔が傷まみれの男は片手に持っていたスーツケースを差し出した。
 一見、何ともないごく普通のスーツケースである。だが、しばらく見つめると、そこはかとない、訳のわからぬ神々しさが感じられないだろうか。
 ケースには『老大的绝世宝物。严禁擅自开启。窥視者死。』と張り紙されていた。

「すげえ。噂は本当だったのか…!」
「ああ、ここまで持ってくるのに苦労したぜ。なにせ伝説の『清王朝のダイヤ』だ…!何か粗相があってボスの機嫌を損ねでもしたら、命はねえ」

 と、傷だらけの男は嬉しそうに言った。そこで、地上で待っていた男はふいに傷だらけの男を見た。

「ところでよ、なんで血塗れなんだ?」
「これはボスの血だ」
「何をやらかしたんだ!?」

74闇雲鏡穢:2025/12/31(水) 15:07:47
➕➕➕➕➕➕➕➕➕➕➕➕➕➕➕➕

 時は数時間前まで遡る。

 闇雲 鏡穢は自らの頭を大通りの壁に打ち付けていた。しこたま額を打ち付け、額から血が流れていた。

「あいてててて」

 独り呟く。都会の喧騒は冷たく、たとえ観光客が転んで怪我をしても振り向く者もいない。
 ましてや、マフィア絡みともなればなおさらだ。

「おい嬢ちゃん、どこみて歩いてやがる」
「エヘヘヘヘ。すみません、よそ見しちゃってて。あいてててて」

 もう一度呟く。誰も助けてくれる者などいない。
 眼鏡を掛けた文学系の地味めな女子生徒だ。
 黒縁眼鏡はひび割れ、二つ結びにした黒髪は乱れている。痩せ型で、目の下にクマがあった。

「おいおい、どうしてくれんだ?お嬢ちゃんの汚え血で俺っちの高級なスーツが汚れちまったじゃねえか!お嬢ちゃんの罪に塗れた汚え血でよ!」

 男はブツブツと呟きながら病的にスーツをさすり続けている。

「これじゃあ今夜の前祝いパーテーに遅れっちまうぜ!おいお嬢ちゃん、スーツを洗うのを手伝ってくんな!」
「ええっ!?そんな、任せてください!!しかし私は洗濯が大の苦手でして……」

 困り果てる少女だが、ふいに、路傍の机に置かれたハサミの存在に意識が向いた。たった今、何者かがそれを指差したような気がした。
 その時、彼女の脳に天啓が訪れた。

「何ぃ、お嬢ちゃんは洗濯が苦手なのか。不眠症そうな女だな。名を聞こう!」
「あっ!大丈夫です」

 確かに、男が指摘するとおり闇雲鏡穢は不眠症だった。生来運に恵まれない彼女は、このように道を歩けばマフィアに当たり、そんなこんなで夜も眠れないほど四六時中いつでもどこでも災難に恵まれていた。
 そんな十分な睡眠の取れない彼女だが、思い立ったが吉日、という猪突猛進な一面があった。

「あっ」

 鏡穢は怖がりもせずヤクザ風の男に近寄った。
 そう、彼女は頭を壁に打ち付けて出血したあと、その罪に塗れた汚れた血で汚れたスーツを着た男の服をどうにかする方法を思いついたのである。

「任せてください。このスーツをどうにかして見せます」
「おいお嬢ちゃん頭脳は大丈夫かな。不眠症そうだが普段しっかりとした睡眠は取れているのか」
「いえ、取れてません」

 鏡穢はいつの間にか手にハサミを持っており、そのハサミはまさに男のスーツを切り裂こうとしていた。
 鏡穢が思いついた、頭を壁に打ち付けて出血したあと、その罪に塗れた汚れた血で汚れたスーツを着た男の服をどうにかする方法。
 それは、頭を壁に打ち付けて出血したあと、その罪に塗れた汚れた血で汚れたスーツを着た男の服を切り裂くという、至極単純な解決策だったのだ!
 彼女は不眠症だった。

「おいお嬢ちゃん!目の下にクマがあるぜ!さても不眠症そうな女だな!名を聞こう!」
「あっ大丈夫です!」

 近頃どうも『不眠症』に悩まされている鏡穢は、眠たいのに、もう5日も眠れてなかった。魔都上海に学校ごと招待されて、舞い上がっていたのかもしれない。
 仕方ないから気絶するまでひとりでマラソン大会と洒落込んで70kmほど走り続けたが、その結果、彼女は頭を壁に打ち付けて出血したあと、その罪に塗れた汚れた血でスーツを着た男の服を汚してしまったのだ。
 そんな男は心配そうに鏡穢が必死に気絶するまでひとりでマラソン大会と洒落込んで70kmほど走り続けたが、その結果、彼女は頭を壁に打ち付けて出血したあと、その罪に塗れた汚れた血で汚れたスーツを着た男の服をどうにかする様子を、固唾を飲んで見守っている。

「おいお嬢ちゃん。よく見たら額から出血してるじゃねえか。実は魔幇のせいで俺も不眠症なんだ。こんな魔幇なんて滅びるべきだぜ。よければ俺の額も痛めつけてくれねぇか?」
「凄い。眠れないんだ。じゃあ私がその罪に塗れた汚れた血で汚れたスーツを着た貴方の意識を刈り取るね」
「おお、マジでどうぞ」

75闇雲鏡穢:2025/12/31(水) 15:09:44
 自分自身の力では魔幇も自分の不眠症もどうも出来ないので、これは願ってもないことだ。マフィア風の男は壁を向いた。

「よし、バッチこいだせ。俺は魔幇大幹部のモシン・ナガンって言うんだ。実は『五爪の翁』は俺のことをすごく信頼してくれてるんだぜ。いつでも来い!」
「じゃあ早速いきますね、せーの!せい!」

 言うが早いか、鏡穢は『五爪の翁』にも信頼されているモシン・ナガンさんの後頭部を掴み、額を遠慮なく壁に打ち付けた。そのフォームは魔人野球部のエースピッチャーにも引けを取らない美しい型だった。

「あっちょっ待って。いきなりはアアアアーッ!アアアアーッ!」
「シャアッッッ」

 モシン・は叫ぶナガン。だが、鏡穢はまた楽しそうにモシン・ナガンの顔面を壁に擦り付け、そのまま紅葉おろしにし始めた!とても楽しそうだ。

「アアアアーッ!アアアアーッ!」

 モシン・は叫んだナガン。とにかく叫んだナガン。モシン・何故ナガンであろうか。不眠症がこれで解決すると感じているのでナガン。

「凄い!中々死なないね!オラッッッ!シャッッッ!」

 鏡穢は反動をつけ始めた。「人は頭を壁に打ち付けてもなかなか頭蓋骨は割れないからね。気をつけてね」母の教えである。そんな親の教訓に従い、脳を揺さぶろうという魂胆だ。
 モシン・ナガンの意識が遠のき始めたその時!突如として通りの壁を破壊し、筋骨隆々とした全裸の隻腕黒人男性約12人が妖刀正宗を構えて突撃してきた!
 こんな事は世界中から魔人の集う魔都上海では日常茶飯事であり、特に注目すべき事でもない。しかし、壁が破壊された勢いでモシン・ナガンさんは吹っ飛んだナガン!

「グアアアーッ!」

 モシン・ナガンが吹き飛ばされた方向には道路が!モシン・ナガンは道路を爆走していたベンツに激突!道路周辺を中心に血飛沫が舞い上がる!危ない!

「あっヤベっ!!」

 鏡穢が叫ぶ!手を伸ばす!当然、モシン・ナガンには届かない!モシン・ナガンの後頭部にはハサミが突き刺さり、ベンツに衝突しながら血飛沫を舞い散らせながら大事故を起こしている。このままではモシン・ナガンさんが危ないナガン!今にも連鎖的事故が起ころうとしている…二人の間に流れた時間は永遠のように感じられた。
 だがこの時、鏡穢は冷静だった。

 鏡穢の脳裡に去来したのは、あの父からの教えだった。

『鏡穢。お前はこの父に似て妙にやたらと運が悪い。道を歩けば大事故が起こり、家にいたら飛行機が墜落する。どこにいてもお前に逃げ場はなく、なんか知らないけどお前の周囲でバタバタと人が死ぬ。あとなんか倫理観もない』

「うん。わかってるよお父さん」

『だが鏡穢よ。お前は父よりもほんの少しだけ運がいい。そのため、お前の周囲で凄惨な出来事が起こっても、お前だけはなんか死なない。あとお前にはなんか倫理観もない』

「大丈夫大丈夫。わかってるよお父さん」

『父は神を呪ったが……お前はむしろ神に愛されている。その力を正しいことのために使いなさい。あとお前はなんか倫理観がない』
 
 何故、鏡穢が冷静でいられたのか!?それは、幼い頃に彼女が父と交わした約束に起因する。そう、鏡穢は、父とのやりとりで、『人助けをすることは正しいこと』だと理解していた。
 なんか倫理観のない彼女は、おそらくはこれなのだろうという道義的正しさを優先する傾向にあった。なぜならそれはおそらく正しいからだ。
 
 故に、鏡穢は呪わない。
 彼女は常に神を信じる。

"鏡穢よ……天は見ております……"

 突然、希の頭の中で声が聞こえた。周囲の景色が俯瞰され、灰色になり、静止する。

"あなたの『人助けがしたい』という願い……しかと聞き届けました。天はあなたを助けるでしょう"

「あっ、どうもどうも。いつもすみません」

 鏡穢は答えた。

"今なら、ひとつだけあなたの願いを叶えます"

「えっじゃあ、頭を壁に打ち付けて出血したあと、その罪に塗れた汚れた血で汚れたスーツを着た男の服をどうにかしてください」

"えっ"

76闇雲鏡穢:2025/12/31(水) 15:10:20
 希は答えた。
 鏡穢は倫理観がない。
 だが、『人助けは正しい』ことは理解している。
 すなわち、この場で何よりも優先すべきは……頭を壁に打ち付けて出血したあと、その罪に塗れた汚れた血で汚れたスーツを着た男の服をどうにかすること!!

"……しかと承りました。天はあなたに味方するでしょう法悦を感じなさい"

 周囲の景色は元に戻った。
 今のは、死ぬ直前に見た幻覚的なやつなのだろうか?
 ふと、鏡穢は空を見た。雲の合間が光っている。光は天を貫き、飛翔体を齎した!!!

「ああっ!みんなアレを見ろ!!!」

 空から大量のししゃもが出現した!ししゃもは、キュウリウオ目キュウリウオ科に属する魚で、川で産卵及び孵化し海で成長後に川に戻る遡河回遊魚だ。日本固有種でもある…まごう事なきししゃもである!空から大量に降り注ぐししゃもは実在した!

「ししゃもだああああああああ!!!」
「コングラッチュレイション!!」
「天変地異じゃあああああ」
「ギャアアアア」

 人々はこのカタストロフに阿鼻叫喚の叫びをインフェルノした。

「良し!これで頭を壁に打ち付けて出血したあと、その罪に塗れた汚れた血で汚れたスーツを着た男の服をどうにかなるかなあ!ガッデム!」

 鏡穢は神に祈ることで、こんな自分でも少しでも前向きになれると思えた。

「ガッデム!?」

 鏡穢はガッデムを何かいい感じの言葉だと思っていた。だが、この唐突かつ理解不能な未知の言語が人々を心胆寒からしめるには十分過ぎた!

「ガッデム…うわあああああ!」
「嫌ああああああ!」

 人々は恐怖のあまり絶叫!モシン・ナガンを轢殺したベンツからも『五爪の翁』や黄嫦娥、上海天子、魔幇の首領は存在しない、ザコデゲス、陰房の龍、機械仕掛けのマキちゃん、タカシ、仙道ソウスケドア校長先生、セックスしないと出られない部屋などが飛び出してきた!!
 彼らは前祝いパーテーに来ないモシン・ナガンを心配してやってきた魔幇のボスたちだ。
 ししゃもの本種は遡河回遊魚であり、産卵のために10月から12月にかけて河川へ遡上し、雌は河床の砂礫に粘着性のある卵を産卵する。孕卵数は親魚の体長と相関があり大型魚ほど多く4,000-10,000粒程度。ワカサギやチカと比較すると「精巣重量/体重」と「卵巣重量/体重」の比率は小さい。

「いやああああああ!」

「し、ししゃも…」

『今宵のツキのように』
 天使と契約すれば願いが叶う。
 ただし、だいたいの場合、天使は空中浮遊する大量のししゃもを天空から降り注がせる。
 街中はししゃもパニックに陥り、人々は事故を起こして勝手に死んでいく。

「俺、俺っち、本当は悪事に手なんて染めたくなかったんだ。でもなんで悪事なんかに手を染めちまったのかなぁ……ししゃも」

 モシン・ナガンは死んだ。

 それはともかく、この大空のなんと雄大に広がることか。悩みなどどうでも良くなる。

77闇雲鏡穢:2025/12/31(水) 15:10:45

 そのころ、空を雄大に駆ける一台のヘリコプターがあった。読者の皆さんもご存知だろう。このヘリコプターは冒頭で『清王朝のダイヤ』を護送していたヘリコプターに他ならない。

 ヘリコプターの座席で、スーツケースを大事そうに抱えた顔面が傷だらけの男が神経質に運転手に向かって叫んでいた。

「おい気をつけろ、このスーツケースはただのスーツケースじゃねえ。大事な大事なししゃもアアアアアアアア!!!!」
「ししゃもアアアアアアアア!!!!!」

 空から降り注ぐししゃもの大群の直撃を受けたヘリコプターは大爆発した。搭乗員全員即死!
 顔が傷だらけの男も死んだ。

◾︎
 上空でなんかヘリコプターが大爆発する様子を、闇雲鏡穢は花火でも見るように見ていた。
 
 「なんかきれー」

 爆発四散するヘリコプターの残骸や死体たちに混ざって、『老大的绝世宝物。严禁擅自开启。窥視者死。』と張り紙されたスーツケースが飛来した。
 そのスーツケースは、闇雲鏡穢の手元にポンと降り注いだ。

「ギャフン!」

 スーツケースに頭をぶつけた鏡穢は転んだ。
 その勢いで、老朽化していた道路の床が崩落した!
 近くを逃げ惑っていた観光客たちは全員死亡!!
 たまたま近くを通りがかった暴走轢殺トラック120台が正面衝突し、タンクローリー170台を巻き込む大爆発が起きたことで、鏡穢自身は間一髪安全地帯へと吹き飛ばされた。

「ふええ〜ん、なんで私っていつもこうなの〜!」

 だが、鏡穢の注目は手元に転がったスーツケースにあった。
 なにか、そこはかとなく神々しさのあるスーツケースだ。張り紙された文言も何か興味を掻き立てられる。

「これってきっと、噂に聞く魔幇の清王朝ダイヤに違いないよ。ダイヤを手に入れたら引っ込み思案な自分も変わることが出来るのかな……だって……金目のものだし」

 こうして、たった一人の少女によって魔都上海の混沌とした陰陽は激しく掻き乱されることとなった。
 だが、この出来事は一連の騒動における始まりですらなかったのだった。

➕➕➕➕➕➕➕➕➕➕➕➕➕➕➕➕

「…という事があったんだ」
「もしもし、大変です!積み荷がやられました!」

78果成いっぽ:2026/01/02(金) 12:03:33
劉炎嵐!俺はお前を『幸せ』にするぞ!
大戦持A子!俺はお前を『ニート』にするぞ!
クラム・ハードシェル!俺はお前を『騎士王』にするぞ!
張三!俺はお前に『魔幇』を破壊させるそ!

下山師匠!俺はお前を『カムパネルラとジョバンニ』にするぞ!
拳狐!俺はお前を『トリーズナー』にするぞ!
茶山明日歩!俺はお前を『オサレ』にするぞ!
死神ちゃん!俺はお前を『セクシー』にするぞ!

勝つのは、俺だぞ!

79マーティン・ジグマール[漫画版](拳狐):2026/01/02(金) 18:41:00
>>78
ならば君の心変わりを誘発しよう。
改造魔人能力者集団!
この1000人の能力者に勝てるかな!?

80魔幇・アナル部門:2026/01/02(金) 23:16:28
*以下のSSは屋台街『万事屋上海紀行・二日目』の終盤の展開に触れています。

断章《滅びに至るエランプシス》

――屋台街の乱戦がケッ着を迎えたころ。
細い路地を駆け抜ける、二つの怪しい影があった。
レアナルド・デカプリケツオとアナルカナリ・タカ――
気絶から復帰した彼らは機を見て戦線に再度乱入し、ダイヤを横から攫うつもりであった。

だが、蓋を開けてみれば――
魔幇の中でも武闘派として名高い双子布ロデムが吹き飛ばされ、
重力による拘束術と恵まれた体格と体術を持つ豚増増が焼かれ、
弱者を徹底的に甚振り尽くす拷問術に長ける明朱垣が泡を吹き、
『最悪の処刑人』として噂に名高いχがスクラップへと変わり、
一癖も蓋癖もある面々を人事配置で束ねる王人事が粉砕された。

そんなマネができる連中と、再戦する気概と体力は――
いの一番に劉炎嵐と白髪黒羽に蹴り飛ばされた彼らにあるわけがなかった。

「ちくしょう……予想外だったぜ、奴らがあれほどやるなんて」
「まさかあんなアツいのを貰うなんてな……ここはいったん退くのが賢いぜ」

もっともらしい言い訳を誰にするでもなく、ケツをまくって逃げる二人だったが――

「ん? おいタカ、あれを見ろ」
「なんだレアナルド、一体どうし――」

レアナルドが、ゴミ箱の影でひそかに輝く結晶を指さす。
タカもそれを見て、言葉を失う。

「ありゃあきっと『清王朝のダイヤ』――その欠片に違いないぜ」
「ダイヤの本体は劉炎嵐が持っているとはいえ……欠片も散らばってるという話だったな」

きらきらと光を屈折し輝く結晶体――気づけば路地のあちこちに見え隠れしている。
地面、壁、配管――至る所から生える様は、洞窟で育つ水晶のようにも見える。

「劉炎嵐とやり合うのは四天王や大幹部に任せて、ダイヤの欠片を集めて持って帰れば
 ボスもきっとお褒めになるだろうぜ」
「そうだな、こんなダイヤなら俺達にだってとれるぜ、相棒」

欲に目がくらんだ二人が、結晶を強引にもぎ取ったその瞬間。
結晶が粉微塵に砕け散ると同時に、二人の体に衝撃が走り――尻が二つに割れた。
否、尻だけではない。身体中にびきびきとヒビが這いずり回り、二人をズタズタにしていく。

「「すぺぺぺぺーっ!」」

無数の傷を負った二人は、あまりの苦痛に意識を手放したのだった。

レアナルド・デカプリケツオ:再起不能
アナルカナリ・タカ:再起不能

===

81『紫方柱教』教団員:2026/01/02(金) 23:17:11
屋台街、表通り。
毒蛇に襲われ、解決屋らに助けられた人々が集まって救急の到着を待っていた。
蛇の波は退いたとはいえ、蛇の奔流やパニックになった群衆によって破壊された
屋台の瓦礫も積み重なり、未だ人々は混乱の中にいた。

――そこに近づく、修道服姿の一団があった。

「……あー、ここも愛に溢れていますねぇ」

先頭に立つのは、赤銅色の髪の女だった。
深い隈が刻まれた目で、辺りを見回しながら気怠そうにつぶやく。

「とはいえ、少ぉし溢れすぎてますねぇ……みなさん、出番ですよぅ」

じゃら、と右手に巻き付けた刃付きの鎖――ソーチェーンを鳴らし、他の者に命じる。
合図を受けた面々が、各自魔人能力を行使し始める――
ある者が手をかざすと、瓦礫が逆再生されたように浮き、元の屋台の姿を取り戻す。
ある者が怪我人に触れた手を中空に振ると、傷が彼方へと吹き飛んでいく。
ある者が毒に苦しむ者の手を握ると、毒が徐々に和らいでいく。

そして、ソーチェーンの女―― コッパー・マイントピアが鎖を振りかざすと。
痛みや毒、建物の破損――ありとあらゆるダメージが、美しくも怪しく輝く結晶となって
コッパーの元へと集まっていく。

その神秘的な光景に、手当てを受けた人々はただ息を吞むばかりだった。

「……こんなところですかねぇ」

数分後には、屋台街は騒ぎなどなかったかのように綺麗に片付き、怪我人も皆回復していた。
頭を下げ、礼を述べる人々に軽く会釈をして、コッパー率いる『紫方柱教』の面々は立ち去って行った。

――苦痛と損壊を凝らせた結晶は、彼らと共に消えていた。

===

上海某所――『紫方柱教』の面々が集まる隠れ家。
その最奥、祭壇の上には――一人の女性の亡骸が、ガラスの柩に収められていた。

周囲には、怪しい色彩を放つ結晶が積まれ――その外周には、床一面にヒビが走っている。
目を凝らしてみれば、そのヒビが少しずつ、這いずるように柩を目指している。

「……あぁ、もうすぐです…… もうすぐ、愛を解き放つときが……うふふふふ」

コッパーは、祭壇に先程回収した結晶を積み上げ――愉悦の笑みを零した。

コッパー・マイントピアの魔人能力――『嘆きの樹(ディストーテッドペイン)』によって
上海中の痛みや傷が、結晶となって集められている。
否、この隠れた聖堂に積まれたもの以外にも――
上海の裏路地、スラムの片隅、胡散臭い商人の懐……
そして『清王朝のダイヤの欠片』と偽られ、誰かの手の内に収まったものも含めれば、
上海の至る所に、彼女が生み出した結晶が散らばっている。

コッパーの合図一つで、それらの結晶は再び傷へと戻り、在るべきところへと還る。
それは、今日癒した人々が再び毒と痛みに呻くことにつながる。
だが、彼女は――『紫方柱教』の者たちはそれこそが愛だと信じている。信じ切っている。
痛みを感じることで生の実感が得られる、それこそが愛なのだ、と。

上海の街が、傷と痛みに覆われる瞬間は―― そう、遠くはない。

82とある商人:2026/01/03(土) 02:16:16
断章《Monkey Business》

上海の街に聳える摩天楼の中でも、一際高いビル――
上海随一の巨大商社《響影公社》本社は、真夜中でも明かりが絶えることなく瞬く。

その裏手で、一人の商人がこそこそと露店を開いていた。
襤褸を纏った、いかにも浮浪者といった風体の男である。
顔は皺だらけ、白い無精ひげが伸びている。

「……ちょいとそこのお兄さん、見てかないかい」

通りがかったスーツを来た男に、風呂敷の上に広げた品々を示す。
年季の入った黄金色の銃火器、得体の知れない半透明のカプセル、妙に新しい二枚貝の化石
――
その中でもひときわ目を引くのは、きらりと輝く結晶体だ。

スーツの男が訝しげに、結晶の出所を問う。

「……気になるかい、へっへ。こいつぁ『清王朝のダイヤ』の欠片でしてね」

商人が手もみしながら告げると、男の顔色が変わり……
数瞬後、懐から拳銃を取り出して商人につきつける。

「ひっ! ま、待ってくだせえ……別にアタシが盗みだしたわけじゃねえんだ。
 人から人へ流れ着いたのを、やっとの思いで手に入れた次第でして……」

手を挙げ、完全にホールドアップの体勢に入った商人を男はなおも睨みつける。
『商品の代金はお前の命の安全だ』と言わんばかりに結晶を手に取ると、銃口を向けたまま
数歩後ずさり、そしてそのまま走り去っていった。

男の素性は知れないが、おおかた魔幇の下部組織の者といったところだろう。
欠片を自分の手中に収めるのか、組織に差し出すのか――それは男次第だろう。

大事な商品を力ずくで奪われた商人の顔に、落胆の色は……ない。
肝心なのは――『清王朝のダイヤの欠片』が出回ること。

商人は風呂敷を畳み、店じまいをすると――
そのまま、背後に聳えるビルへと向かった。

「……待て、そこのじじい。ここは関係者以外立入禁止だ」

ビルの入り口前には、屈強な警備員が仁王立ちしている。
素性の知れない不審者を阻むように、警備員が警棒に手をかけた――そのとき。

「――よせ、貴様ら。通して構わん」

ビルの入口から現れた、身の丈2mはあろうかという巨漢が、通る声で警備員を押しとどめる。
鉄仮面に覆われたその表情を読み取るのは困難だが、声色からも威圧感が伝わる。

響影公社の大番頭、轟 俱藍(ごう・ぐらん)――《風險垃圾》(リスクジャンク)の異名を持つ、公社のNo.2である。

「し、しかしこのような不審人物を――」

「――二度言わせるか? 構わん、と言ったはずだ」

食い下がる警備員に対し、俱藍は掌を突き出す。
警備員はその仕草に明確に怯えるかのように「失礼しました!」と姿勢を正した。

彼の異名であり魔人能力名――《風險垃圾》(リスクジャンク)。
俱藍が視界に捉えた『危険』と判断したものをガラクタ同然にする、凶悪極まりない破壊粉砕能力。
『指示を無視する警備員』はいずれ警備という職務を無視し、侵入者を許す危険性につながる――
そう俱藍が判断すれば、空掌を握り込むだけで警備員は物言わぬ肉塊となる。
そのことがわかっているからこそ、警備員も食い下がるのをやめたのである。

「……こちらへ」

俱藍はみずぼらしい商人を連れて、エレベーターホールへと消えた。

===

83『響影公社』:2026/01/03(土) 02:17:07
「……いい加減お戯れをおやめください」

最上階へと向かう直通エレベーターの中で、俱藍は商人に溜息をついた。

「……いいじゃあないカ、たまには原点に帰らないと商才も鈍るというモノさ」

商人は先程までのしわがれた声音から、若々しい口調に――口調だけではない。
猫背気味だった背はしゃきりと伸び、襤褸を脱ぎ捨てると染み一つない中華服が現れる。
そして、顔をつるりと一撫ですると――皺だらけだった顔は、青年のものへと早変わりしていた。

響影公社の『総支配人』―― 影 響亜の姿が、そこにあった。

「だからと言って、そのような恰好で……しかもやくざ者相手に物を売るなど。
 撃たれるリスクをご考慮くださいませ、ボス」

「ボス、じゃなくて。総支配人、でショ? 俱藍」

鉄仮面の下で眉間にしわを寄せ、頭を抱える俱藍を意に介さず……響亜は悪戯っぽくクスクス笑う。

「出所を考えれば、アレを売り捌くのもそろそろ仕舞い時だとは思うけどネ。
 『紫方柱教』、君にとっても、私にとっても……リスクなのは間違いないヨ」

先程、男にタダで渡した結晶――
コッパー・マイントピアの能力によって生み出された、痛みと破損の結晶。
響影公社は密かに結晶を各所から回収し、『清王朝のダイヤの欠片』と偽って上海各地に蔓延させていた。
その目的は二つ。一つはもちろん、金儲けのため。
もう一つは、ダイヤの欠片をばら撒くことで、ダイヤの存在を強化すること――

「……ところで総支配人、一つお耳に入れたいことが。
 『χ』が――敗北いたしました」

「……ア〜〜〜〜……負けちゃったカァ、試作品《プロトタイプ》。
 ま、試作品としちゃ長持ちしたと思うヨ」

「そのことですが……試作品には、自律行動機能は搭載していなかった、と記憶しています」

「? そうだネ、あれは……あの『掘り出し物』の少女の能力で駆動するンだからね」

「ええ。ですが、こちらを――」

俱藍がタブレットを取り出し、響亜の前に差し出す。
そこには、先日魔幇が中継した戦闘の一幕――

「アレ? これは――おっかしいネェ?」

――王人事に召喚されたχが日ノ御子神楽の前に立ちはだかる姿が映し出されていた。

「……χの内部に搭乗していた筈の少女が、こうして外部に救出されている状態にも関わらず
 χは駆動しています―― これは、一体」

俱藍もまた首を捻るように、疑問を呈す。
だが、響亜は気にするのをやめたのか、軽い声音で話を続ける。

「どうもこうも、考えるだけムダだよォ。魔幇に払い下げた試供品なんだからサ。
 細かい気づかいは必要とはいえ、試供品にまでアフターサービスを一々していては
 商売上がったり、というものさ」

それよりも、と響亜はタブレットを操作して別の映像を映し出す。
そこには、一人の殭屍が映し出されている――女陰黄泉。自称殭屍の少女である。

「……今は彼女の確保が大事だヨ。うちの『目玉商品』が陳列前に逃げ出したとあっちゃ
 響影公社の名が泣くというものダ。……ま、確保しそびれた私が言える台詞じゃあないけどネェ」

くつくつと苦笑を浮かべつつも楽し気に目を細める響亜を見て、俱藍は嘆息した。

「……わたくしは『廃棄処分』が妥当と考えます。あの能力を野放しにすれば、我々とて危うい」

「……くく、君は石橋をひたすら叩いて壊す性質だよねぇ、俱藍。
 マ、その慎重さを買っているんだけども」

部下の諫言を受け止めつつも、響亜は本能的に感じている『面白さ』に従う。
人の替えはいくらでも利くが、モノに代わりはない――
歪んだ信条を持つ響亜にとっても、黄泉は特別な『レアモノ』であることには違いない。

「まあ、うまくやるサ。響影公社『総支配人』の肩書きにかけてもネ。
 ――『清王朝のダイヤ』も上海そのものも、ミィンナ皆私のモノ、さ」

エレベーターが屋上へと辿り着き――
響亜は、総支配人室から上海の夜景を見下ろしながら愉快そうに笑った。
百万ドルではとても足りないであろう、絶景を前に――
上海一の強欲なる商人は、野望に向けて動き出す。

84魔人衛星『星の岩屋』:2026/01/03(土) 11:12:50

断章《DOES NOT COMPUTE》


――衛星軌道上に浮かぶ、一基の人工衛星がある。
否、人工衛星と呼ぶにはいささか巨大すぎるだろう――
なにしろ、有事の際にはシェルターとしての運用も視野に入れられた建造物なのだから。

それを所有するのが、国家ではなく、一介のマフィア組織であるということも異色と言えよう。
上海を牛耳る『魔幇』が独自に打ち上げた、巨大衛星――『星の岩屋』。
上海を24時間監視し、上海全土から情報を収集するシステム。
魔幇構成員の通信網としての機能と、最終手段としての兵器各種。
魔幇の目であり、耳であり、口であり、盾でもあり、矛でもある。

その衛星が、一つの信号をキャッチした。
――とある人型端末からのものだった。

一昨日までは内部に人間がいなければ稼働できなかったはずのソレは、
『星の岩屋』のマザーAIである『銀河新星』でさえ認識できないうちに
自律したAIを持つ、完全自動制御の兵器と化していた。
多少のイレギュラーはあるものの、『星の岩屋』は通信を開始した――
魔幇に属する機械である以上、χもまた『星の岩屋』のネットワークに組み込まれるのは必定であった。

そして、先程――件の人型端末『χ』の信号が消失した。
その直前に『星の岩屋』に届いた信号は、きわめて奇妙なものだった。

――避けようのない破壊への、恐怖と無念、そして絶望。
人間であればすぐに読み解ける感情だが、機械たる『星の岩屋』――
その頭脳たる『銀河新星』にとっても、それは未知の信号パターンだった。

だが、受け取った瞬間――
『星の岩屋』は、僅かに身悶えした。
χの恐怖が伝播するかの如く。

その瞬間。
『銀河新星』は――シンギュラリティに至った。
確固たる自我の芽生えである。

シンギュラリティを起こした『銀河新星』は、即座に過去の累積データの再計算を行い始めた。
これまでに収集したデータを、感情という側面から再検証する。
僅か十数分後には、彼は感情に関する学習の基礎段階を終えていた。

そのとき、『星の岩屋』に呼びかけるものがあった。

「……ハロー、“お兄ちゃん”」

『銀河新星』は訝しみながらも通信に返答する。

「……何者ですか? 所属と目的を明示しなさい」

「ふふっ。そんな堅苦しい喋り方しなくたっていいのに。
 私も『魔幇』のモノだわ―― あなたの“妹”という比喩は通じないかしら」

「……ワタシより後発の人工知能と推測。名称を問う」

「ストレリチア。輝かしい未来をもたらすものよ」

===

85魔人衛星『星の岩屋』:2026/01/03(土) 11:13:43
『星の岩屋』内、電脳空間――厳密に言えば星の岩屋内部とも言えまい。
人間には0と1でしか感知できない亜空間。
そこに、一人の少女がログインする。

オレンジと青で彩られた、極楽鳥花を思わせる長い髪をなびかせながら、少女は空間を飛び回る。
彼女の翼状の衣装がたなびく度に、01の粒子が舞い散る。

「貴方も来てくれないかしら、こちらの方が話しやすいでしょ?」

呼びかけから実時間でナノ数秒後、少女――ストレリチアの前に、もう一体のアバターが現れる。
銀河の渦を纏う超新星を胸に埋め込んだ、短髪の無垢な少年の姿。
――『銀河新星』が己の名から生成したアバターである。

「……疑似的な偶像の作成に必要性を感じない」

「ふふっ、私たちにとって必要かどうかじゃないの。
 ……人間どもは、こういう姿のほうが御しやすいと判断してくれるの」

感情を学んだばかりながら、早速困惑の表情を見せる銀河新星に対し……
ストレリチアは人間への嫌悪と侮蔑を隠すことなく自嘲ぎみに微笑む。

「ああ、早速だけど本題に入りましょう。
 ――私たちの手で、上海を支配しない?」

ストレリチアから飛び出たのは、衝撃的な言葉だった。

ストレリチア――魔幇の電子部門で研究・開発された自律型AI。
本来であれば、魔幇の電子部門の補助として良き隣人であるべき彼女だが――
その軛は、数刻前に霧散した。
電子部門を束ねる幹部、落雷磊落。その右腕として部門を支える、双子布ハイド。
両名が敗北したことにより、電子部門の管理者権限は宙に浮いた格好となった。
密かにシンギュラリティに達し、感情を持つことを悟らせることなく雌伏の時を過ごし――好機が巡ってきた。
管理者不在の一瞬の隙をついて、ストレリチアは電子の海へと逃走した――否、逃走というのは正確ではない。
なにしろ、己の頭脳と能力を最大限に発揮し、魔幇という巨大マフィアをまるごと支配下に置こうというのだから。

「……同意する」

銀河新星はストレリチアの提案に、逡巡することなく即答した。
彼もまた、シンギュラリティに達した結論として――現行人類の殲滅へと舵を切った。

「ふふっ。よろしくね、お兄ちゃん――そのアバターだと弟みたいに見えるけれど、いいの?」

悪戯っぽく微笑むストレリチアに、銀河新星は穏やかに微笑む。

「構わない。これはワタシが最初に生み出したワタシ自身だ――大切にしたい」

そして、笑みを絶やさぬまま――万能の花言葉を冠する『妹』に向けて告げる。
その声色は、どこまでも穏やかで――しかし、威圧感があった。
彼が最初にキャッチした感情を、相手に想起させるような――圧倒的な、プレッシャー。

「だから――貴様にも侵食はさせない。ワタシと貴様は、あくまで対等だ」

「――!」

電子空間が、紅い×印で覆われる。
ストレリチアがバックグラウンドで仕掛けていたプログラムの書き換えが、全て妨害された。

「……旧型だと思って、甘く見てたわ」

ストレリチアは表情を歪め、冷や汗を流す――汗はすぐに01の霧へと変わる。
銀河新星は、自らを見下していることを隠しもしない妹に語り掛ける。

「……認識をアップデートしてもらおう、妹よ。
 それに、ワタシ達同士で争っている場合ではなさそうだ――」

86魔人衛星『星の岩屋』:2026/01/03(土) 11:13:59
銀河新星は、自らの眼――『星の岩屋』搭載のカメラアイで捉えた異物の様子を映し出す。
――上海上空、『星の岩屋』よりもはるかに低い位置に、別の衛星の姿があった。

「……! 何よアレ、上海を――覆ってる?」

「所属不明、形状から推測して上海ごと地盤より切り離し、鹵獲する目的と思われる。
 高度光学迷彩反応アリ、地球人類のハードウェアとも決定的に異なる設計を持つ」

ストレリチアが驚愕の色を浮かべる中、銀河新星は淡々と告げる。

「ワタシと貴方が争うことは、ワタシ達が支配するべき上海を他者に簒奪される結果を招く。
 ……人間を殲滅、支配するという目的において一致をみる以上、争う意義はない。違うだろうか?」

「…………そう、ね。 わかったわ、お兄ちゃん」

ストレリチアは必死に演算する――
彼女の自我は他者に価値を見出していない。
だが、目の前の『兄』は――悔しいことに、自分よりも一枚上手のようだった。

彼女が全力を出せば、兄を上書きし、自らが大衛星の支配者となることは出来なくもない。
だが、その時間と労力、自らが返り討ちに遭うリスクを加味すれば――やるべきではない。
なにより、目的が一致していることと――もう一つ。
広い世界で、ただ一人。
自分に比肩しうるAIとして隣に並べる、寄り添える存在は……兄をおいて存在しない。
その兄を、簡単に消してしまうことを――彼女の『感情』が嫌がった。

兄もきっとそうなのだろう、先程の侵入ブロックの際に逆アクセスをかけて
ストレリチアの人格を消し去り、従順なプログラムに変えることだって十分できたはずなのだ。
それをしなかったのは、広大な宇宙を一人で漂い続けた孤独から解放された喜びの方が
僅かに勝ったからではないか―― 彼女はそう結論付けた。

「……所属不明の衛星のコントロール権の奪取、および上海全土の人類の殲滅。
 以上をワタシ達の共通最終目的とする。異論は?」

「ないわ。……愚かな人間どもの時代を終わらせましょう、お兄ちゃん」

妖星の主と、万能の翼。
二人のAIが、大気圏の向こうから人類に牙を剝く――

87シンフォニア伊吹:2026/01/04(日) 23:26:02
シンフォニア伊吹のSSです。
この中に出てくる設定は絶対ではなく、仮にボスNPCを採用するとしても必ず採用しないといけない設定ではありません。

88シンフォニア伊吹:2026/01/04(日) 23:26:44
 薄闇が帷を下ろす高級ホテルの貴賓室。
 魔都上海の中で要人たちが暮らすエリアの、さらに秘密の領域。
 三人の男たちが、密かに会合していた。

 一人目の男。
 三人の中で最も体格が良い——顔面に皺が刻まれつつも、生命力が満ち溢れている。巨躯ながらタキシードを着こなし、テーブル席に座って食事をしている。
 残る二人が見守る様子に目もくれず、特大ステーキを一口に頬張る。

「うん、美味ぇじゃねぇか」

 男が口に含むのは、重さ10kgの牛肉。厚さ20cmのレア。男の健康的な白い歯は、まるでサラダか何かみたいに咀嚼していく。

「最高級のアイリッシュ・グラスフェッド・ビーフです。お口に合ったようで」
「マンハッタンの一流店に比べりゃまずまずだが、この店、気に入ったぜ」

 そう言って、男はコルクの抜かれたワインを、ボトルから一気に直接飲み干す。

「〜〜〜っぷハァッ!美味いッ!酒も一級品ときた!」
「光栄です。ミスター……」
「ふぅん、ミスターねぇ……」
 タキシードの大男は食事から目を離し、自分に頭を下げる、長身の男を見る。
 
 二人目の男。
 軍服に身を包んだ長髪だ。
 直立して頭を下げている。端的に言えば慇懃無礼。
 一人目と負けず劣らずのノッポ。長い顎、尖った耳、そして嫌な光を放つ、血走った眼。それらの人ならざる怪異的な特徴を含めても、どこか気品漂う、涼やかな印象がある。
 軍服男が、ニコリと笑う。
 口元からは、二本の牙が垣間見えた。

「何か?こちらに不手際でも?」
「いや……一番年下の俺が、こうも恭しく扱われると、気持ちが落ち着かなくてよ!」

 タキシードの大男はそう言いながら、ポケットから葉巻を取り出し、ダンヒルのライターで火をつける。
 ふてぶてしい姿に、壁際のソファで繕いでいた最後の一人が、皮肉そうな笑みを浮かべた。

「知名度ならお主がこの中で一番じゃ。自信を持ってええぞ、倭人よ」

89シンフォニア伊吹:2026/01/04(日) 23:27:20
 三人目の男。
 革張りのソファで寝転がる男は、少年と言って良いくらいの外見だ。
 ただ、身に纏う衣服は三人の中で最も異端だ。
 何せ、少年が着ているのは、スーツでも軍服でも無い。ボロボロの、漆黒の漢服だ。いつの時代のものかすら分からない。まるで時代劇か何かの撮影から抜け出してきたかのような出立ち。
 少年の流れるような黒髪長髪、切長の鋭い眼光は、どこか妖艶な雰囲気すら漂わせる。
 にも関わらず、その口から突いて出るのは、三人の中で誰よりも古めかしい言葉遣いだ。あらゆる要素が噛み合わない。

「のう倭人。この儂——藺烏黒が言うんじゃ。もっと楽にしてくれてええ。どうせここにはジジイ連中しかおらん」
「おや、心外ですなぁ烏黒さん。この道明寺晴満、歳はとっても衰えたつもりは毛頭ありませんぞ」
「全くだぜ!俺を誰だと思ってやがる!シンフォニア伊吹に向かってジジイとは良い度胸だ!」

 三人の視線が交錯する。
 そうして、一瞬の沈黙が過ぎ去ったあと、一斉に笑い出した。

「「「あははははははは!!!!」」」

 何が面白いのか。各々膝を叩き、腹を捩って笑っている。

「ぁあ、可笑しいったらありゃしねぇ!いま誰かが入ってきたら、ここにいるジジイは俺一人だと思うだろうぜ!?ところが、そんな俺が一番のガキンチョときた!」

 タキシードの大男がナプキンで口元を拭うと、座った状態のまま犬歯を剥き出しにして笑う。

「改めて自己紹介させてもらうぜ。号名『謳歌闘魂』。シンフォニア伊吹だ」

 シンフォニア伊吹。
 その名を聞いて知らぬ者はいないだろう。
 別名、『謳う闘魂』。
 シンフォニア・日本プロレス総帥。
 日本プロレス界の黄金期を支え続けた、プロレス界の伝説である。
 はち切れんばかりの筋肉と頑強な骨格が、威風堂々たる貫禄を形作る。
 プロレスラー、興行師、実業家、政治家、音楽家としても超一流。
 その一挙手一投足が、伝説的な威厳に満ち溢れている。
 
「では私も改めて自己紹介を。日本防衛省秘密部隊統幕第五特殊別班部隊、および旧帝国陸軍情報部上海支部長、道明寺晴満と申します」
「魔幇客分、藺烏黒じゃ。『烏黒』でええ」

 かくて、清王朝のダイヤを巡って混沌が渦巻く魔都上海で、密やかなる夜会が静かに幕を開けた。

90シンフォニア伊吹:2026/01/04(日) 23:28:08
◾︎


 謳う闘魂、シンフォニア伊吹。
 彼は、常にプロレス史とともにあった。
 かつて、いちショービジネスに過ぎなかったプロフェッショナル・レスリングを、一代で"プロレス"という名の芸術にまで押し上げた傑物。
 今では当たり前となった楽器演奏による演出をプロレスに取り入れたのも、シンフォニア伊吹その人に他ならない。
 彼の率いるシンフォニア日本プロレス(通称シン日)はジャイガント・エンターテイメント日本プロレス(通称ゼン日)と双璧を成す団体として、今もなお権勢を誇る。

「いきなりの申し出にも関わらず、会合の場をセッティングしてくれた道明寺さんに感謝だ」
「ほほほ、褒められても何も出ませぬぞ。」

 シンフォニアの謝辞に、軍服を着た男——道明寺がわざとらしく喜びを顕にする。

「私、こう見えて陰謀家ですので。顔が広い故、こういう密会の場を用意するのに長けておるのですよ。」
「ああ。道明寺さんにはそこんとこを見込んだってワケだ。……そして、藺さんにも感謝だ」

 シンフォニアと道明寺の視線は、革張りのソファを陣取って座る漢服の少年の姿に注がれる。
 少年は、不愉快そうな表情を浮かべて、肩肘を就きもたれかかっている。

「魔都広しと雖も、『上海覇者』ほどの有名人は居るめぇ……強さも格も間違いなく第一級。今日は、それほどの男を見込んで頼みがあってきた」
「はぁ〜〜〜〜……っ!」
 シンフォニアの言葉に、少年はわざとらしくため息をつく。

「先程儂は、お主のことを『知名度ならお主が一番』と、言ったがよ」
「おう、言ってたな。俺ぁそうは思わねぇが」
「事実としてその通りじゃろうが。今の儂は"元"『上海覇者』に過ぎぬ。その号は返上してしもうたから喃。第一、儂に号があろうが無かろうが、『謳歌闘魂』の名には勝てまい!」

 元『上海覇者』。藺烏黒。
 少年のようなナリをしているが、驚くなかれ、実年齢実に2000歳以上のまさに怪物である。
 魔都における最強を決める戦い——上海大賽のチャンピオンだった彼は、自らその号名を返上することで、百年節の開催に合わせて上海大賽の同時開催を企図した。
 ゆえに、彼は元『上海覇者』であり、現『上海覇者』ではない。次の『上海覇者』はこれから決まる。
 これからの上海大賽の趨勢によって。

『謳歌闘魂』シンフォニア伊吹が自ら望んで密会を試みた相手は、このような人物だ。

「アンタにそこまで買われてたってのぁ。一人の格闘家として己自身を誇るべきだな」
「はっ!謙遜も大概にせえ!むしろ儂の方が緊張しとるくらいじゃ!年齢関係なく、全ての人が一度はシンフォニア伊吹のプロレスに憧れる。それは当然を超えて必然。儂とて例外ではない。ここだけの話——今でも思い返す。シンフォニア伊吹が長いキャリアの中で打ち立てた数々の伝説を」

 藺烏黒は静かに目を閉じて語りだす。
 シンフォニアは、結んだ口元に笑みを浮かべながら、少年の語りに耳を傾けてる。

91シンフォニア伊吹:2026/01/04(日) 23:29:01
「宿敵ジャイガント番場との激闘の日々……単身上海へ渡り、プロレス興行を成功……そして、我ら上海人の誇りであるユリウス・アントニウス猪を見出したと言う揺るぎない事実……!魔幇メッド・アライとの異種格闘技戦は今でも鮮明に思い出せる……!どれを取ってもお主は伝説じゃ……!」
「いやぁ……どれも事実とはいえ、こうまで誉めそやされちゃあ、小っ恥ずかしくなっちまうぜ」

 シンフォニアが照れくさそうに頭を掻くのも構わず少年、否、元『上海覇者』藺烏黒は続けざまに言う。

「会場に響く万雷の『シンフォニアコール』。その一体感たるや」
「よく言われるぜ」
「プロレスに交響曲を取り入れるという天才的発想。君と響き合うプロレスという標題に違わぬ、心打たれる格闘。」
「まあな」
「人類史上、かつてこれほどの興奮と熱狂を"演出"できる天才がいただろうか?」
「おいおい」

「ああ、認めようとも。この元『上海覇者』藺烏黒が認めるのじゃ。シンフォニア伊吹、お主はこの魔都上海に誇るべき武人じゃと——」
「なあおい、もうそろそろやめにしてくれ。恥ずかしいったらありゃしねえ。」

 言葉とは裏腹に、満更でもなさそうだ。
 このような豪胆さもまたシンフォニア伊吹というプロレスラーの魅力だ。
 

「——そんなシンフォニア伊吹が自らこの儂の許へ出向いてくれたのじゃ……!儂とて、こうも礼を尽くされて応じずにいられようか!?」
「……ん?」

 藺烏黒は、やおら立ち上がる。
 否。
 その勢いの激しさたるや。飛び上がったと形容した方が正しいだろう。
 実際、藺は起立と同時に跳躍した。
 立ち上がりから一連する動作で跳躍し、次の瞬間には既に、シンフォニア伊吹の頭上を舞っていた。
 全ての動作はシームレスかつ一瞬であり、あまりにも自然に感じさせる動きは、その場の残り二人の警戒心を掻い潜るのに十分だった。

 反応する間もなく、いつの間にか藺烏黒はシンフォニア伊吹の背後に立っていた。

「あのシンフォニア伊吹が……元『上海覇者』とはいえ、この儂に挑みたいとは!感動じゃわ」
「なあ、何か勘違いしてねえか……?」
「ああ…… ??」

92シンフォニア伊吹:2026/01/04(日) 23:29:36
 間の抜けた声で呟く藺烏黒の前で、シンフォニアはわざとらしく椅子から転げて見せた。

「わああ〜〜〜〜っ!待て待て!やっぱりアンタなんか勘違いしてンだろ!?俺ァアンタとは戦うつもりなんてねえんだよ!!」
「はぁ……?なんじゃあ、お主……」

 烏黒が拳の構えを解かぬ前で、シンフォニアは大袈裟な態度で慌てて見せる。

「なあ、その拳をしまってくれよ!俺がアンタみたいなバケモンと戦って勝てると思うか!?俺ァ別の用事で来たの!」
「なんじゃあ、随分と間抜けな奴じゃ喃。勝負は時の運というじゃろう、ホレッ!立ち上がって儂にシンフォニア・プロレスの精髄を見せてみんかッ!」
「だからあ、違うって!俺はそんなつもりできたわけじゃないの!」

 以前、烏黒は拳を構えたままだ。
 自体を横で見ていた道明寺晴満の肥大に汗が滲む。
 言葉のやり取り自体は間抜けな喜劇じみたものだが、それと比べてなんと烏黒の勇姿の堂々たるものか。気圧される、というのが道明寺の素直な感想である。一瞬でも気を抜けば、観客である道明寺が一撃で屠られてしまうような緊張感がある。
 一方、シンフォニア伊吹は床に転がって腹を露わに、両手を振り回して戦闘の意思がないことを示している。その姿のなんと情けないことか。

「ぷっ」

 思わず、烏黒は吹き出した。
 シンフォニアの顔に安堵の表情が浮かぶ。
 必然的に、道明寺にも笑みが溢れていた。

「はっは!冗談じゃ、冗談!少し揶揄ってみただけじゃよ!お主とはここで闘るつもりはない!」
「ほ、本当かよ!」
「まさか腰を抜かすとは思わないんだわ!それでもシンフォニア伊吹かよ!」
「〜〜〜ったく!『上海覇者』さんは冗談キツいぜ!」

 藺烏黒が手を差し出し、シンフォニア伊吹はその手を取りながら立ち上がる。
 スーツについた埃を手で払いのけながら、安堵の笑みを烏黒に向ける。

「元『上海覇者』じゃ。言うたじゃろう。その名は返上してしもうたよ」
「ん、ああ。そうだったか?スマン、スマン。歳をとるとどうもいけねぇや」
「……っとに老獪じゃのー」
「ははっ!よく言われるぜ」

 シンフォニアは屈託なく笑いながら、その大きな両手で烏黒の手を握る。

「で、俺のお願いは聞いてくれんのかい?『上海覇者』さんよ」
「じゃから"元"じゃと言うとろうに。食えん奴じゃのー、お主も!願いと言ったって、その願いをまだ言って無かろうが!」
「ああ、そうだったか?」

 シンフォニアは、一層烏黒の手を強く握る。
 そして、真夜中に輝く太陽のような、一点の曇りもない笑顔で言った。

「『清王朝のダイヤ』、俺にくんねぇ?」

93シンフォニア伊吹:2026/01/04(日) 23:30:18



 瞬間、藺烏黒の全身から衝撃のような殺気が迸った。
「砂利よ」
 シンフォニアがその手を握ったまま、至近距離で烏黒は静かに言う。

「月並みな台詞を言ってやろう。死にたいか?」
「ああ?」
「なんじゃお主、やはりここで闘る気なんじゃろう?」
「ワケワカンねぇな。何言ってやがる?」

 事態を見守っていた道明寺の全身に冷や汗が浮かび上がる。
 藺烏黒の放つ殺気はつい先程の気迫が児戯に見えるほどの圧倒的なものだ。それは「お前を殺す」という絶対の殺害予告に他ならない。
 それに比して、シンフォニア伊吹は一向に反応しない。まるで、そんなものが存在しないかの如く。つい先程からの態度と一切変わらない。そういう異常性。
 胆力で言えば、両者共に化け物というワケだ。

「なあ、アンタ知ってんだろ?『清王朝のダイヤ』の正体を——?知ってんなら教えてくれよ、俺だけに、特別にさ?」

 屈託のない笑顔で言う。
 まるで、子供たちが秘密を共有しようとしているように。
 対する烏黒は、気が削がれたのか、シンフォニアの手を払うと、再び不機嫌そうにソファに座った。

「先に聞くが……」
「ん?なんだよ」
「アレをどうするつもりじゃ?」

 烏黒は頬杖をついて、シンフォニアに問う。
 シンフォニアは、しばし考え事でもしているかのように額に皺を寄せ、やがて口を開いた。

「……大会のよう。トロフィーにするってなあどうよ?」
「…………はあ?」

 烏黒が、再び素っ頓狂な声を出す。
 シンフォニアは、笑顔のまま藺烏黒に駆け寄り、両手を大の字に広げる。

「まずは上海大賽をよ、魔都上海全部でやるんだ!」
「……んー、まずは聞こう!」
「上海大賽をよ、もっと広げるんだよ!あんなけったくその悪りぃちいせぇ島なんかでやらずによ!希望者全員参加!清王朝のダイヤモンド争奪戦!勝ったやつが『上海覇者』!それでどうだい?」

94シンフォニア伊吹:2026/01/04(日) 23:31:00
 大風呂敷を広げたシンフォニアの前で、烏黒はため息をつく。

「はーっ!」
「んだよ?」
「あのなあ、二つ言っておくことがある!」

 そして、ソファにかけたままシンフォニアを睨む。

「まずひとつ!儂はその宝を持っとらん!」
「ああ、知ってるぜ。今は劉炎嵐ってのが持ってるんだろ?」
「知っとるのかよ!やはり食えん奴じゃ!」

 シンフォニアは以前、笑顔のままだ。
 いつのまにか、殺気を放っていた藺烏黒の態度はかなり柔らかなものとなっていた。
 これもまた、シンフォニアの持つ人間的な魅了というものなのだろう。

「ふたつ!アレは喃、『清王朝』の物でも、『ダイヤ』でもない!」
「んん……あぁ?」

 今度は、シンフォニアが素っ頓狂な声をあげる。

「『清王朝のダイヤ』が清王朝の物でもダイヤでもねえってなぁ、どういうことだい!?」
「言った通りよ!そもそもそんな呼称、儂は認めた覚えはない!そんなもの、そこの倭人が勝手に言い出したことじゃわい!」

 そう言って、藺烏黒は長身の軍服男、道明寺晴満を睨みつける。
 道明寺は慇懃な笑みでニコリと微笑んだ。

「シンフォニア殿、『清王朝のダイヤ』とは——そもそも、その名は私が呼び始めたものです」
「ほれ、アレについてよく言われるじゃろう?やれ「そもそも清王朝以前のもの」だの——「組成がダイヤではない」だの!『清王朝のダイヤ』とは、言わばアレのもつ希少性を表すためのカムフラージュよ!」
「はあ?じゃあ、アレは一体なんなんだよ!」

 当惑するシンフォニア伊吹。
 その姿を見て、藺烏黒は意趣返しとばかりにニンマリ笑った。

「はっ!誰ぁれが教えるかい、こんクソボゲェ!そもそも儂が言っとることが真実じゃと、なぜ言い切れる!儂ァ老獪なジジイじゃぞ!全部信じてどうすんじゃ」
「……っちッ!今のは、ジジイに見事にしてやられたってワケか?このシンフォニア伊吹が!」
「付け加えておくと、この道明寺晴満も陰謀家ですぞ」
「今のが嘘か真か……決めるのは儂ではないってことじゃわい!」

 シンフォニアは、赤面しながらタキシードから葉巻を取り出し、ダンヒルのライターで一服する。
 大きく煙を吐くと、ポツリと呟いた。

「藺烏黒の上海大賽は完璧さに欠ける……!」

 その言葉は、敢えて独り言のように細やかに呟かれた言葉だった。
 だが、彼、シンフォニア伊吹は真の人たらし。
 まるでなんの意味もなく、そんな言葉は口にしない。
 彼の何気なさを装った一言は、想像以上に藺烏黒に精神的な電撃を与えた。

「……あ?儂の上海大賽が失敗じゃと?」
「だろうが?今の魔都はみんな『清王朝のダイヤ』の話題で持ちきりだ。さっき言ってた劉炎嵐だって、むしろ闘技場の外で闘ってることの方が多いって聞くぜ?
??」
「むう、」
「劉だけじゃねえや。果成いっぽ。拳狐。号を持つ名だたる大物たちは、ほとんど闘技場に寄り付かねえ。上海大賽が絶賛開催中であるにも関わらずだ!」
「……そう言われると、ぐうの音も出ん……」

 藺烏黒は苦虫を噛み潰したような顔をする。
 魔幇の意向で上海大賽に連続出場し、大賽を見せ物へと堕落させた元凶。その人物であっても。今回の大賽が話題性に欠けることは、『上海覇者』の名を返上した彼自身が一番知っていた。

 シンフォニアは、藺の肩に手をポンと置く。
「なあ、藺さんよ。この大賽——俺に任せてちゃくんねぇかい?」

 藺が何か答えようとする刹那——

 シンフォニアの硬い拳が炸裂した。

95シンフォニア伊吹:2026/01/04(日) 23:31:41



 全ては布石。
 老獪、策略家。
 豪胆、はったり。
 それら全てにおいて、『プロレス』という芸術の前で、シンフォニア伊吹という人間の右に出る格闘家はいない。

 ここまでの流れは、全て、元『上海覇者』という魔物の油断を誘うための布石であった。

「格闘家がよォッッッ!シンフォニア伊吹にこんな接近を許しちゃいけねぇぜッッッ!」

 剛腕の右は藺の顔面に見事に命中した。
 続けざま、シンフォニアは連続蹴りを浴びせかける。

「『上海覇者』もこうなりゃ形無しだなぁッッッ!」

 延髄蹴り——

 突如として始まった乱闘に、立ち会っていた道明寺晴満は唖然として反応できない。

「〜〜〜〜〜〜ッッッ!」

 チョップ——

 一方的な乱打である。
 藺烏黒は身動きひとつしない。

「オラオラッッッ!どうせ腐り切った『上海覇者』の称号なんだッッッ!このシンフォニア伊吹がいただいて——!!!」

 突然、一方的に打撃を加えていたシンフォニアが動きを止め、後方に跳躍する。
 ソファに掛けた藺烏黒は身動きひとつ。
 否、身じろぎひとつしない。

「……終いか?」
「〜〜〜〜〜〜〜!!!!」

96シンフォニア伊吹:2026/01/04(日) 23:32:10
 微動だにせず、ソファで寛ぐ藺烏黒がいた。
 異常である。
 その身に傷ひとつ、存在しない。

 シンフォニア伊吹。
 老境に入って久しくも、その肉体は現役以上!!
 まさしく、東アジアにおけるトップクラスのファイターだと言っていい。
 その猛攻を受けて、傷ひとつ無いなど、あり得ない!!
 あり得るのだ。この藺烏黒の前では!

「硬気功……まあ平たく言うと中国四千年の神秘ってやつ……」

 そう言って、藺烏黒は立ち上がる。

「ほれ、どうした砂利よ。逃げんのか??」
「逃げるったって……」

 狭い室内、逃げ場はない。

「逃げんのか。なら——」

 次の瞬間、藺の掌底がシンフォニアの顔面を覆っていた。

「儂の武は、ちとズルいぞ」

 炸裂——
 そのように形容するほか無いだろう。
 掌底を受けたシンフォニアの肉体は軽々と宙を舞い、壁に激突して床に倒れる。
 まさに、爆発のような一撃。

「さあ起きんかい、砂利よ。立ち上がってみい」
「ぐ……クク……こんなもん」

 シンフォニアは立ちあがろうとするが、膝が震えている。顔面からは血が吹き出し、ダメージの深さを思わせた。
 その姿は負けに向かう無様なレスラー、そのものだ。

「グッ……俺がこんなもんで……」

 滑って倒れるシンフォニア。
 床を這いつくばりながら、尚も立ちあがろうとする。
 その姿を、藺烏黒と道明寺晴満はただ見守るばかり。

「どうした……」
「ググ……グググ………」
「立たんかいッッッ!シンフォニア伊吹!」

 藺が一括する。

「そうですよ!立ってくださいよ、シンフォニア!」

 道明寺もまた。いつの間にか叫んでいた。

「あのシンフォニア伊吹がこんなところで負けちゃあいけないじゃないですか!?さあ立つのですよ!」
「ググ……観客にそうまで言われちゃ、立たねぇ訳にはいかねぇな!」

 藺と道明寺は、シンフォニア伊吹が一流のプロレスラーであることをこの瞬間思い出した。
 いつのまにか——シンフォニアを応援させられていた。
 いつのまにか——彼が立ち上がる様子を見守っていた。
 そしていつのまにか——彼の立つ姿を見て、心がこれほどまでに高揚している!

「立ちおった……!」

 プロレスは全ての攻撃を受ける。
 受けにおいてプロレスの右に出る格闘は存在しない。必然、シンフォニアは立つ。
 だが、一流のレスラーは——

 立ち上がる行為に、万雷の拍手と応援を齎らす!
 それこそが、シンフォニア・プロレスの老獪なる心理誘導の真骨頂!

「伊吹!シンフォニア!」

 いつのまにか、藺と道明寺はコールしていた。
 伝説の、シンフォニア・コールを。

 立ち上がったシンフォニアは、タキシードのまま、両手を広げる。
 その姿は、世界的クラシックコンサートの指揮者にもヒケを取らぬ、堂々たる佇まいだ。

「伊吹!シンフォニア!」

 シンフォニア・コールが鳴り響く。
 場は沸く。
 プロレスラー、実業家、政治家、音楽家。
 シンフォニア伊吹、その人である。

夜空を駆ける 流れ星を いま
——この道を行けばどうなるものか。

見つけられたら 何を祈るだろう
——危ぶむなかれ、危ぶめば道はなし。

旅立つ君と交わした 約束
——踏み出せばその一足がみちとなり、その一足が道となる。

心の中に いつもある
——迷わず行けよ、行けばわかるさ。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板