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クリフトとアリーナへの想いは Vol.1

1管理人★:2015/04/05(日) 00:08:03 ID:???
クリアリの話題を扱うための待避所です。
ほのぼのから悲恋物まで、あらゆるクリアリの行く末を語り合っていきましょう!
職人さんによるSS投稿、常時募集!

【投稿内容に関するお願い】
・原作や投下された作品など他人の作品を悪く言うのは控えてください。小説版も含めて。
・趣向の合わない作品やレスはスルーしましょう。
・個人のサイトやサークルなどを特定する投稿(画像などへのリンク含む)はご遠慮下さい。
・読む人を選ぶ作品(死ネタ、悲恋、鬱ネタ等)を投下する時には、先に注意書きをお願いします。
・性描写を含むもの、あるいはグロネタ801ネタ百合ネタ等は、相応の場所でお願いします。


    ,. --、
    | |田|| 姫様、お気をつけて
     |__,|_||     __△__ 
     L..、_,i    ヽ___/
 . 。ぐ/|.゚.ー゚ノゝ   / ,ノノハ)) クリフトがいるから
   `K~キチス  (9ノ ノ(,゚.ヮ゚ノi. 大丈夫よ!
    ∪i÷-|j @〃とヾ二)つ
    Li_,_/」   ん'vく/___iゝ
     し'`J      じ'i_ノ

クリフトとアリーナへの想いは@wiki(携帯可)
ttp://www13.atwiki.jp/kuriari/
 ※wikiに掲載されたくない場合は、作品を投下する際にお申し出ください。

152従者の心主知らず ナイト 16/16:2016/04/25(月) 00:11:39 ID:haR8raCM
じいもうなずいてくれた。ソロも小さくうなずいた。

「いえ、どうか行って下さい。サントハイムの皆さまのことは、私からアドンに聞いておきます。
ピサロさまの配下にはアドンと同じか、それ以上に強い方々がたくさんいるのです。どうか万全の態勢でのぞんでください。
私は大丈夫です。アドンの手当ても私がしますから。どうか、ご無事で、またここにお立ち寄りください」
「ロザリー…」
「ぷるぷるっ!ロザリーちゃんはぼくが守るよ!」
「ふふ、ありがとう。スラちゃん」

スライムに笑顔を向けた後、ロザリーは私たちをまっすぐ見つめた。

「どうか、行ってください…」

優しい目をしてるのに、まるで戦いに行くときみたいな決意をした目に見えた。

「……すまない……」

ソロが再び頭を下げる。クリフトとじいも……。

「ロザリー……ありがとう……」

私たちはロザリーの言葉に甘えて少しでも早くデスピサロに会うことに決めた。

「ねえねえ。いいこと教えてあげる。エンドールの南西の岬の王家の墓にはへんげの杖があるらしいよ。
その杖を使えば魔物たちのお城にも入りこめるんじゃないかなあ」
「へんげの杖?」
「うん。いろんな生きものに変身できるんだよっ」

スライムの突然の助け舟に私はなぜか言葉がつまった。

「……あんたは私たちとデスピサロ、どっちの味方なの?」
「?ピサロさまにもロザリーちゃんにも幸せになってほしいよ?」

「スライムってどこにいるのも変に事情通ね」
「エンドールの南西の岬……。そこはたしかにサントハイムの王家の墓がある場所です。
そのスライムの話は信じるに値すると考えてもよいでしょう」
「ふむ。わがサントハイムの王家の墓に財宝があるというのはたしかな話ですぞ。
しかし……あのスライムなにゆえそのことを知っていたのですかな……」

私たちはひとまずスライムの言うままにエンドールの南西の岬、サントハイム王家の墓を目指すことにした。

153従者:2016/04/25(月) 00:19:12 ID:haR8raCM
短編集「知られざる伝説」より、ピサロナイトの名前はアドンでピサロとは旧友であり直属の騎士、
一度ロザリーを人間から救ったことがありその際に一目惚れするも
ピサロに想い人の護衛を頼まれた際その相手が当のロザリーだったことを知り、
顔と名を隠しピサロナイトとして二人に尽力することを決意、
という設定を入れています。戦闘に関しては小説版の流れも取り入れさせていただきました。
本編ではピサロナイトはこの戦闘で死んでいます。けっこうあっさりです。
ただ、ロザリーから依頼を受けるこのイベントは任意という点と
このイベントで倒さなかった場合その後死んだのかどうかが確定できない点
(特にDS版はロザリーがさらわれた後もしばらくはロザリーヒルにいるためますます確定できなくなっています)、
何よりピサロナイト関連でクリアリを思いついたものでして、
この従者シリーズではイベントをこなしつつもピサロナイトを倒さない、というクリアリルートでお届けしていきたく……
本編には直接影響しない範囲ですのでどうかお付き合いいただけると嬉しいです。

それからコナンベリーへ向かう途中の砂漠から教会での蘇生を扱ったクリアリ(ざっくりとは文章化済み)と
バルザックとマーニャミネアを絡めてのクリアリ(まだ構想のみ)は後ほど投下……できたらいいなあ。
この度は長文にお付き合いいただきありがとうございました。

154名無しさん:2016/04/25(月) 00:56:52 ID:FgPX6Cx6
>>135-136
スレ立ての話が必要ならまた誰かが話すのだから遮っても問題なしですよぅ
従者さんは対話スタイルが同人サイト寄りっぽいので2chよりこちらの方が快適に書けそうな気が
2chでそういう密な対話を気に入らないとか言う人が現れて変な感じになったこともありますし

ともあれ長編乙でございます
こういう作品はwikiでしか読めなかっただけに懐かしさがこみ上げてきますよぅ
現役のスレでこんな作品を読める日が来るとは誰が想像したでしょうか

前から続いてきて先にも続く流れですね
まさしく一連の長編の1シーンといった感じで全体の流れを想像させてくれます
順番通りにフルで書いてたらすごいボリュームになることでしょう
所々切り出して発表してあとは想像で補わせるスタイルはベストな選択に違いありません

ピサロナイト存命という暖かい展開に暖かさが垣間見えて安心感があります
場の空気を行間からにじませながらテンポを崩さず進行する安定感が心地良いです
続編でも別の作品でも、今後の作品に期待が膨らんでしまうというものです
スレから目が離せなくなってしまいましたよぅ

155名無しさん:2016/04/27(水) 02:46:28 ID:R1Yzbmf6
2chは集客力があるのかも知れない。
でも心地良い場所でなければ人は離れていくよね。
書き手を叩き、子供が暴れ、火を注ぐ人までいたら無理。
だから2chでは失敗続きで、人が離れてしまったね。

対するしたらば。
集客力の低さは否めない。
平和だから離れる人は少ないんだろう。
でもあまり増えもしない。
加えて、書き手がいなかった。
書き手が離れてから立った避難所だからね。

そんな中で従者さんに絶大な乙。

書き手がいればスレに魅力が加わるよね。
wikiが更新されればwikiの集客力も上がるはず。
これをきっかけにして人が増えたらいいな。

156従者:2016/04/27(水) 03:22:08 ID:Zdi4sfmE
>>154
対話スタイルも切り出しての発表も力量的気力的に精一杯だからなのですがプラスにとらえていただき恐縮です。
同人サイト寄りとは前にも言われたような気が……もしや154さんは5年前当時もそのように教えてくださった方でしょうか。
お心遣いありがとうございます。本当に居場所があるだけで感謝ですのでご提供いただいたスレと皆さんについていきます。

感想もありがとうございます。さえずりの塔編もそうですが本編に直接影響しない範囲ではけっこう好き勝手やっています。
本編をもとにはしていますがかといって何もかもただ忠実になぞるだけでは物足りなすですよ。
クリアリにつながるならたとえピサロナイトだろうとピサロだろうとエビルプリーストだろうとエスタークだろうと
利用させていただく次第です。そそそその分礼儀は尽くしますとも!
書き込みの度に投下できるわけではないのですが遠く空けすぎることだけはないようにしますのでよろしくお願いします。


お恥ずかしながらヒーローズ関連の知識が浅く情報収集中です。(いただきストリートとDS版もです;)
既出ですがギガンテスを前にした二人のやりとりがぐっときますね。相変わらずのお二人にほっとします。

クリフト「ひ、姫さま、またそんな無茶を!相手はギガンテスですよ!?」
アリーナ「ただでっかいだけじゃない!それともクリフトは私があれにやられちゃうくらい弱いって言いたいの?」
クリフト「そ、そういう事ではありません。姫さまのお力は重々承知しております。おりますが、しかし…」

157名無しさん:2016/04/27(水) 09:04:56 ID:P0etH8SM
従者さん長編乙です

いたストは、最初のSPはアリーナが「クリフトなんか最初から相手にしてないのよね〜(笑顔)」とか、ひどかった記憶が
その次のポータブルなんか、クリフトがいないところで堂々とバカにしながら男プレイヤーをちやほやしてて、最悪でした
DSは前2作とは別人か?ってくらいに微笑ましくて、おすすめできます。メダパニにかかったアリーナがかわいい

ヒーローズはムービーシーンはもちろん、戦闘ステージ中の細かい会話なんかも楽しめるので、実際にプレイしてほしい所ですね
個人的に、ムービーでクリフトがアクトに高所恐怖症の克服法として「好きな女の子と手をつないで幸せな気分で行けば…」と言われた後
世界樹ステージ中にアリーナが突然「一緒に世界樹でバンジーやろう」ってクリフトを誘い始めるのが、深読みできて萌えたなあ

158従者:2016/04/28(木) 09:04:13 ID:n/DILxyc
今さらながらふと思ったのですが、wiki管さんがお任せくださいといってくださったのは
もしや投下順ではなく時系列順に保管してくださるという意味だったのでしょうか。

>>157
貴重な情報をありがとうございます。
クリフトを堂々バカにしながら男プレイヤーをちやほや……ちょっとすぐイメージできないすね;
DS版はPS版とさほど変わりないと思っていたらとんでもないことに気がつきまして。
メダパニにかかったアリーナ……どんななのでしょうか。FC版のアリーナしか知らんですよ。

アリーナ「えーん!おうちに帰りたーい!」

ヒーローズは確かに奥が深そうですね。バンジーてwあの世界観でやるバンジーてどんなw
新規キャラクターとの掛け合いがあるのでは4に取り入れるの難しそうですが
手をつなぐのなどさえずりの塔でさっそくやっちまってますし
またおもしろい情報が入り次第それとなく取り入れてみますね。本当にありがとうございました!

159従者:2016/04/28(木) 09:12:17 ID:n/DILxyc
PS版をもとにはしていますがイラストはFC版の目がくりくりしたアリーナと肩幅の広いクリフトが好きです。
(実はこの従者シリーズもそちらのイメージで描いています)
PS版から入られた方はイメージが違うかと思いますがFC版イラストに当てはめてみてもおもしろいと思いますよ。

先日いつまた書けなくなるかわからないと書いてしまいましたが次書けるのがいつになるかと書いたほうが
聞こえ的によかったですね。たとえおなじ意味だったとしても言い方大事。
教会の夜とピサロナイトでクリアリの続き、今しばらくお時間いただきそうなのでつなぎで恐縮ですが小ネタをどうぞ。
長編も書くようになった私ですが本当は1、2カキコで終わるような単純な話が好きです。

160従者の心主知らず:2016/04/28(木) 09:17:05 ID:n/DILxyc
「ねえクリフトー」
「はい姫さま」
「クリフトってぼうしを外すとふんいき変わるわよね」
「え?」

私は砂漠のバザーに行った夜にクリフトと外でお話しした日のことを思い出して言った。

「こないだの砂漠の夜では男の子の秘密が聞けて楽しかったわ。
クリフトはいっつも難しいことばっか言うと思ってたから、さいしょなに言ってるのかわからなかったもの」
「ひ、姫さま…」
「ねえねえ、また外してみて」
「な、なにをおっしゃるのですかっ」
「えー」

クリフトは私から目をそらした。

「この神官帽は私が私であるための象徴です。言わば私の最後の砦なのです。
これを外されてしまったら私はまた、何を口走るか…」
「砦ってなによ。じゃあじゃあ、そこを攻めおとせばクリフトに勝てるのね?クリフトしゃがんでしゃがんで」
「そ、そんな、姫さま…っ」
「ねえしゃがんでよー」
「姫さまおやめくださいっ」
「ちょっとー」
「お願いですっ」

必死にていこうするクリフト。私はぼうしに手を伸ばすんだけどクリフトは背が高いからなかなか届かない。

「あーもうじれったいわね。えいっ」
「ああっ」

私はクリフトを押したおしてぼうしをひったくった。

「あ、あなたがそんなだからわたしがおかしくなるのですっっ」

161名無しさん:2016/04/29(金) 23:13:28 ID:lfXFZJaA
乙です
漢字で書くところを所々ひらがなで書くのが意味深ですね

162従者:2016/04/30(土) 11:24:41 ID:gxwZAjnU
5年がかりのあの教会の夜の続き、やっと仕上がりました。皆さんに心から感謝です。
初めてご覧になる方もいるかと思いますので簡単にあらすじとご説明を。

私はPS版のセリフをなぞったSS(続き物)を書く者です。(合間になぞらないSSを書くときもあります)
王の病気をさえずりの蜜で治しこれからエンドールの武術大会へ向かうという前夜、
お城の教会に泊まりクリフトや神父といろいろな話をして眠りについたという場面から始まります。
前の内容を知っていなければ読み込めないという話にはならぬようなるべく気をつけますが、
wiki管理者さんが>>1のサイトにて保管してくれていますのでもし読んでいただけたら嬉しいです。

では今回はセリフをなぞらないSSアリーナ視点(一部第三者視点)、「旅立ち」10シーク分投下します。
予告するほどご期待に添える仕上がりになったかは不明ですが、どうぞご覧ください。

163旅立ち 1/10:2016/04/30(土) 11:28:53 ID:gxwZAjnU
――また姫さまと旅ができるだなんて……――
――このクリフト、世界中どこへなりとお供をさせていただきます!――
――嬉しいんです。とても嬉しいんです…!姫さまとこんなに近くにいられることが、私には…っ!――

――クリフトも……いつでも姫さまのお側にいることを望んでいた――
――クリフトを選んでくださったということ、クリフトと過ごしてくださった……――
――クリフトもいずれは……いえ、もうすでに……――

クリフトと神父さまの言葉がやけに耳に残ってる。ふたりとも、あれは本気で言ってたのよね。
きっと本気で言ってた……。

クリフトは私のそばにいることを本気で望んでたんだ。でも、どうして?どうしてそこまで?
わかんない。そんなふうに思われる私ってなんなんだろう。わかんない。
ちょっとだけこわい…。
だって、私がクリフトのそばにいたいなんて思ったことあったかな。
……ああ、そうか。
ひとりで旅に出るのは寂しいからクリフトを連れていきたいって思ったことはあったわ。
もしかしたらクリフトも、ひとりが寂しいから私といっしょに旅に出たかったのかなあ。

「姫さま、神父様、朝ですよ」
「んー」
「姫さま」

クリフトの声がする。うっすら目を開けてみるとすぐ目の前に神父さまがおふとんを頭までかぶってた。
その向こうにクリフトが立ってるのが見える。

「んークリフトおはよー」
「おはようございます、姫さま」
「神父さまー朝だってー」
「あと5分、いえ、3分、時間をください」
「えー」
「朝の二度寝とまどろみは最高だと思いませんか?」
「思うー」
「神父様!」

「朝ですねー。起きますかー」
「ふぁーい」

寝ぼけ顔をこすりながら私は大きく伸びをした。夢を見てた気がするんだけどなんだか思い出せない。

164旅立ち 2/10:2016/04/30(土) 11:32:41 ID:gxwZAjnU
「おはようクリフト。あなたはいつも早起きですね」
「おはようございます神父様、いえそんな」
「姫さまも、おはようございます。夕べはよく眠れましたか?」
「おはようございますー。んー眠れたー」
「それはよかった」
「あ、神父さま寝ぐせー」
「え、どこですか?」
「ここー」
「ああ、本当ですね。恥ずかしいです見ないでください」
「ふふ」
「姫さま。姫さまも、髪が少々乱れておりますよ」
「え、うそっ」

クリフトに言われてあわてて髪をととのえた。ちょっと、少々どころじゃないわ、爆発してるじゃない。

「やだもうー」

昨日ナイトキャップはお部屋に置いてきちゃったの。旅の間はしなかったからもうないのに慣れちゃってて……。

「クリフト、そこのニ段目の引き出しに使っていないブラシがあります。姫さまの髪をといてさしあげなさい」
「わ、私がですか?」
「クリフトといてー」
「そ…っ」

なんとなくつられて言っちゃったけど、クリフトに髪をといてもらうのなんて初めてだわ。
お城にいた時はいっつも侍女にといてもらってたの。お母さまがいた時はお母さまもといてきれいに結ってくれた。
でも旅に出てからは自分でとくことを覚えた。髪もお着替えも、ご飯もお洗たくも、ほんとはぜんぶ自分でやるものなのね。
旅に出て本当にいろんなことを覚えたわ。今までどれだけみんなに甘えてたのかってことも。
でも、今だけは甘えちゃってもいいわよね。これからまたすぐ旅人に戻るんだし。神父さまとクリフトだし。

「で、では姫さま、失礼いたします……」
「うん」

クリフトがブラシを持ってきたから私は反対側を向いた。
神父さまはお着替えをしてるみたい。シャラって金属の音が聞こえるのはロザリオかな。
クリフトもそうだけど、ロザリオってジャマにならないのかな。
パンチをするたびに揺れるだろうしキックをしたら外れるかよけいにからまるかしそう。
そんなことを考えてたらブラシがゆっくり髪にとおった。あ、引っかかった。
クリフトは何回か引っぱってるみたいなんだけどぜんぜんとけない。私の髪、ずいぶんからまっちゃってるみたい。
そしたらクリフトは止まっちゃって。しかもブラシを外しちゃった。さらにおんなじことをもういちど繰り返し。

165旅立ち 3/10:2016/04/30(土) 11:36:32 ID:gxwZAjnU
「ちょ、ちょっとクリフト、そんなやり方じゃぜんぜんとけないわよ。先のほうでかたまるだけじゃない」
「も、申し訳ありませ……姫さま、痛くはありませんでしたか?」
「っもう、クリフトったらまどろっこしいわね。こうやるのよ」

私は左手で髪のつけ根あたりを束にしてつかんで、右手でブラシをクリフトの手ごとつかんで何回かしっかりとおした。
からまった髪がやっとほどけてきれいにとけた。

「ひ、ひめさ…っ」
「そのまんま引っぱると痛いから、こうやって髪を押さえてブラシをとおすの。わかった?」
「…は、はい…」

クリフトは今度は覚えたみたいでちゃんとといてる。でもまだなーんか動きがのそのそしててまどろっこしい。
いつもはなんでもてきぱきやるくせに。髪をつかむ時なんかあんまりゆっくりやるからくすぐったくてむずむずしちゃった。

「…ねえ。クリフトってもしかして、不器用なの?」
「っ…女性の、それも姫さまの髪をとくなどまったくもって想定外です。触れるなどとんでもないことですっ」
「そんなにおこらなくたっていいじゃない」
「い、いえ別に怒っているわけでは…っ」
「おこってるじゃない」

神父さまがくすくす笑ってる。

「神父さまーどうして笑ってるの?」
「いえいえ、これは失礼。それにしても、おふたりは本当に仲良しですね」
「え?」
「そ…」
「な、仲良くなんかないわよっ」
「おや、そうですか?」
「そう!」
「……」
「あ……」

思わず叫んじゃったけど、クリフトがなんにもしゃべらないのが気になってきちゃった。手はゆっくり動いてるけど……。
うう、なんだか振り返れない。でもどんな顔してるかわからないのもこわい。どうしよう。

「あ、そうだクリフト。聞きたいことがたくさんあるのよ!」

166旅立ち 4/10:2016/04/30(土) 11:40:29 ID:gxwZAjnU
そういえば思い出した。
昨日クリフトに聞くことがたくさん出てきて頭の中で整理したんだわ。
でも、なんだったっけ。

「ちょっと待ってね。今思い出すから」

そう、聞きたいことが3つあったのよ。数だけは覚えてるんだけど……かんじんの内容が出てこない。

「ええと、なんだったっけ。えーと……」

いっしょうけんめい思い出してるんだけどどうしてこう思い出したいときに思い出せないのかしら。あーもう!
そしたら後ろでクリフトが笑ったような気がしたの。え、笑った?怒ってない?気まずくなってない?

「…クリフトー」
「はい、姫さま」

あ、普通に返事してくれた。よかったー。ってなんでクリフトが普通に返事するとほっとするのよ。

「あ!思い出した!」

さっきまでぜんぜん思い出せなかったのにほっとしたらなんでか一気に思い出した。

「あのねクリフト、昨日は私、途中で寝ちゃったの。だからクリフトとなに話したか覚えてないの。
それを教えてちょうだい」
「…………」
「それとそれと、どうして私のそばにいたいのかと、あと、どうして最初はいやがってたのかも教えてほしいの」
「…………」
「そうよ。前にもおんなじようなこと聞いた時あったわ。だから今度はちゃんと答えて」
「………………」

クリフトまた黙っちゃった。手も止まってるし。神父さまも黙ってる。しーん。うう、どうしよう。
でも私はクリフトがなにか言ってくれるまでじっと待った。そしたらクリフトがやっと口を開いたの。

「ひ、姫さま……」
「う、うん……」

167旅立ち 5/10:2016/04/30(土) 11:44:44 ID:gxwZAjnU
なんだろう、自分から聞いておいてなんだかドキドキしてきたわ。
これで今までの長年の謎が解けるような気がするの。

「その……そのように一気にいろいろ聞かれましても、何からお話しすればよいか…」
「あ、そっか」

私、あせって一気にいろいろ聞きすぎたのね。

「じゃあじゃあ、どうして私のそばにいたいのかを教えてちょうだい。それがいちばん知りたいの」
「………………」

また黙っちゃった。私、言いにくいこと聞いちゃってるのかなあ。

「おふたりとも、大切なお話の途中で大変申し訳ないのですが……」
「え?」

ずっと黙ってた神父さまが話しかけてきた。お着替えはもうすんだみたい。

「姫さまはいったんお部屋に戻られたほうがいいでしょう。話は旅に出てからもできますから、今は…」
「あ、そっか」

私、昨日はこっそり教会に来たんだった。確かにいちどお部屋に戻って仕切りなおしたほうがいいかも。
せっかく聞いたことがおあずけになっちゃうのは悔しいけど、クリフトとはいつでもお話しできるものね。
そしたらクリフトが小さくため息をついたような気がしたの。ため息っていうか、ほっとしたような…?
私は思わず振り返ってクリフトに言った。

「ちょっとクリフト、今聞いたことちゃんと覚えておいてよね。あとでまた答えてもらうんだから」
「あ、はい姫さま!」

ちょっとびっくりして私を見るクリフト。いつものあわてクリフト。なんでだろう、やっぱりほっとしてしまう。

「髪、もういいわ。ありがと」

私は髪をまとめる振りして目をそらしちゃった。
クリフトの行動ひとつひとつにあせったりほっとしたりするのがなんだか悔しいの。
クリフトのくせに。私よりよわっちいくせに。

168旅立ち 6/10:2016/04/30(土) 11:48:16 ID:gxwZAjnU
「神父さまも、泊めてくれてありがとうございます。お着替えをしたらまた来るわ」
「そうですか。ええ、いくらでもいらしてください」
「クリフトはここにいる?」
「あ、いえ、私も外に行く用事がありますので途中までご一緒いたします」
「うん」
「あの、姫さま、このような大きな忘れ物をされては少し戸惑ってしまうのですが……」

あ、私のまくら!

「うーん、ここに置いてっていい?お城に帰ってきたらまたここに泊まりたいの」
「そんな……こまりましたね。お帰りを待つ間抱きまくらにしてしまいそうです」
「んーいいよー」
「…………」

「何かはなむけでもできればよいのですが、こんな色気のない部屋では……」
「えーいいよー」

神父さまはタンスを開けたり閉めたりなにかさがしてたみたいだけど小ビンを持ってきた。
見たことのある青く透きとおった小ビン。

「ふむ、こんなものしかありませんねえ。持ってきます?聖水。使いかけですけど」
「え、いいの?」
「ええ、いいですとも。来るべき姫さまの門出に使いかけの聖水ではまことに締まりませんが」
「ううん、神父さまありがとう!」

私は神父さまから聖水を受けとった。出かける前にまくと虫よけになるんですって。
ちっちゃいころお出かけするとき神父さまがまいててまき方がすごーくカッコよかったの。
さっそく使おうかしら。

「王に、あなたのお父上にごあいさつしてお出かけくださいね」
「えー?」
「どうかごあいさつを」
「えー」
「姫さま」
「うー。わかったわよ、あいさつね」

169旅立ち 7/10:2016/04/30(土) 11:52:36 ID:gxwZAjnU
私はまず神父さまにあいさつしてクリフトとしずーかに教会を出た。


アリーナたちが出ていったあと、普段の静けさを取り戻した居室で神父はふと呟いた。

「姫さま……。あなたが遺伝や親譲りに嫌悪を示すのは、
あなた自身が幼いころからそのことでつらい思いをされてきたからでしょうか……。
ですが、何も心配することはありませんよ。
何者にも立ち向かっていく力強さと、何者をも愛することのできる心優しさは、亡き王妃そっくりです。
クリフト……」

――姫さまを、どうかよろしくお願いしますよ――

神父はそう言うと少し目を伏せて小さく笑った。
彼女たちがその意味を知ることになるのはもう少し先の話。


「昨日は申し訳ありませんでした」
「え?」
「結局何を申し上げたかったのかはっきりしないままで……」

クリフトがうつむきながら小声でしゃべった。あれ、なんの話だっけ。

「えーと、なんだったっけ」
「…………」
「だ、だから昨日話したこと覚えてないんだって。なんのことで謝ってるの?」
「………………」

うう。
私ってなんでかんじんなこと覚えてないのかなあ。思い出すのだって頭の中でちゃんと整理したのに時間かかったし。
そしたらクリフトがすこしだけ笑ったの。あ、また笑った。
バカにした笑いじゃなくて、おかしい笑いでもなくて、なんだろう、ほっとするような笑い。ほんとになんなんだろう。

「では、改めて申し上げます」
「う、うん」

クリフトは立ち止まった。私をまっすぐ見つめる。

170旅立ち 8/10:2016/04/30(土) 11:56:32 ID:gxwZAjnU
「私は姫さまに、感謝しているということです」

え?

――もしあの日姫さまが城の外へ出なければ、私が外で出ることも、こうしていろいろ学ぶことも、
何より姫さまのおそばにいることはなかったでしょう――

「今まで気づけなかったことや知らなかったことがあまりに多く自分の不甲斐なさに落ち込む時もありますが、
それも含めいろいろ学ばせていただけるこの機会に、おそばにいられるこの時間に、心から感謝しているのです」
「…………」
「姫さま、本当にありがとうございます」
「………………」

「……もしかして、それが答えなの?」
「え?」
「さっきどうして私のそばにいたいのか聞いたじゃない。
それは、今まで気づけなかったことや学べることが、いっぱいあるから?」
「…………」

私はなんとなく思ったまんまに聞いてみた。そしたらクリフトはすこしだけ目をそらしたの。

「それもありますが、その……」
「うん…」
「それだけではありません」

…………。

「……じゃあ、なに?」
「それは……その……」

口ごもるクリフト。でも私はまくしたてないで次の言葉を待った。待ってればクリフトは必ず返事をくれるから。

「その…」
「うん…」
「…………」
「…………」
「………………」
「…………」

171旅立ち 9/10:2016/04/30(土) 12:00:32 ID:gxwZAjnU
「私にも、わからないのです…」
「わからない?」
「っ……」

クリフトはすこしとまどった様子を見せた。なんか、いっしょうけんめい言葉をさがしてますって感じ。

「なんと申し上げればいいのか……その……」
「…………」
「ありませんか?こう、理屈では説明できないようななにか、こう、感情的な心理が……」
「…………」
「と、ともかく私は、ひ、姫さまのおそばにいたいのですっ」

クリフトが早口で言いきった。ちょっと顔が赤くなってる。
まるで思いどおりにならなくて駄々をこねるような、子どもみたいなクリフト。余裕のないクリフト。
…………ぷっ。なんでか笑っちゃった。

「もうー、クリフトったらー」
「恥ずかしい…っ」

両手で顔を隠すクリフト。きっと今真っ赤なんじゃないかな。ふふ。

私がクリフトを連れていきたいって思ったのも別に難しい理由があるからじゃなくて、
ひとりで旅に出るのはなんだか寂しいと思ったから。やっぱりクリフトもひとりが寂しいからなのかな。
でも、私はクリフトを連れていきたい理由が寂しいからなんて悔しくてぜったい言わないって決めたから、
クリフトだってはっきり答えてくれなくても文句は言えないわ。
それになんだか嬉しいの。
だからここまで教えてくれたことに感謝して私はあとのふたつを聞くのはやめた。
クリフトが私のこと嫌いなわけじゃないのはとてもよく伝わってきたしなんだか聞かなくてもよくなっちゃった。

「ありがと」
「姫さま…?」
「言いにくいこと言ってくれてありがと」
「姫さま…」

私はクリフトににっこり笑ってみせた。これからもよろしくね、クリフト。

172旅立ち 10/10:2016/04/30(土) 12:07:01 ID:gxwZAjnU
クリフトといったん別れてお着替えをしてお部屋にいるお父さまにかんたんにあいさつをすませて。
じいがそばにいてなにか話してたみたい。あとで合流するから先に正門まで行っててくれって。
私は荷物をまとめて急いで教会へ。クリフトも荷物をまとめて待ってたみたいでまたいっしょになった。
神父さまに最後のあいさつをして教会を出る。やっと堂々と正門から旅に出られるんだわ!

「あっアリーナ姫さま!ごきげんうるわしゅう!城内異常ありません!」
「うん、おはよう」

兵士があいさつしてきた。昨日会った兵士のひとりだ。どうしよう、昨日のこと謝らなくっちゃ。

「ねえ。……あのね……」
「?…はっ!」
「昨日は、ごめんなさい……」
「?…え、あ、な、何を?ひ、姫さまそのようなっ…あ、頭をお上げください!いったいどうされましたっ?」
「ん…」

私は昨日会った兵士たちに昨日はひとりで寝たくなかったのって言ってみね打ちしちゃったことを謝った。
でもだれも私を責めなくて。
最初に私を見つけた兵士は「あれからお風邪は召されませんでしたか?」って私を心配してくれて。
私がいきなりキックしちゃった兵士は「姫さまがご無事で何よりです!」って叱りもしなかった。
最後に会った兵士はすこしだけ顔が赤くて「昨夜はご無礼をどうかお許しください」ってはんたいに謝っちゃって。
だれも私があのあとどこで寝たのかは聞かなかった。どうしてみんな……。

「それはひとえに姫さまのお人柄によるもの。誰もが皆姫さまを信頼し大切に思っているのですから」
「……そうなの?」
「はい」
「…………」

クリフトの言ったこと、よくわかんない。でも私は兵士たちみんなにお礼を言うのを忘れなかった。

正門でじいとも合流する。
「このブライめの目の黒いうちは姫さまにそうそうムチャはさせませんぞ!」ですって。
お父さまのお許しが出たからもう引き止めるのはやめてちがう作戦に出たみたい。やっぱりじいだなあ。
さあ、向かうはエンドール。今度帰ってくる時は武術大会に優勝した時よ!

173名無しさん:2016/05/02(月) 03:06:56 ID:WTLvu1kU
>>162-172
さらっと書いているように見せながら、心の流れを自然に中心に据えていくスタイルですね
それぞれの登場人物の人柄が見えるのは、書き手の中で全員が生きていて、全員の顔が見えているということなのでしょう
メインキャストから兵士に至るまで、書き手に愛されているんだなと思います
登場する人々を大切に思いながら描いていく優しさ、それは読んでいて心地良いです

前のストーリーを思い出しました
当時は「なんで神父さんが主役になってるんだろう?」と疑問に思ったものです
でも、神父さんも書き手に愛されていて、単なる端役と位置づけられていなかったのでしょうね
全員が等しく表情を持って生きていて、大切に扱われて描かれているのが分かります

あえて最後に言いましょう、乙です

174従者:2016/05/02(月) 12:47:41 ID:cIJ8yws6
>>173
乙ありがとうございます。あまりに冷静な分析力あなたいったい何者ですかw

>当時は「なんで神父さんが主役になってるんだろう?」と疑問に思ったものです
ああやはりそう思いましたよね。私も書いてて思いました。プラスに解釈いただき恐縮です。
実はあれはサントハイムでの失踪事件を背景にサランの神父を絡めたクリアリへとつながる伏線なんです。
ところどころ端折ったのですがそれでも長くて当時途方に暮れていました。

どうにもこの従者シリーズはクリアリを中心にストーリーが展開されるのではなく
一連のストーリーの中にクリアリが存在するというスタイルになっています。
クリアリパートを思いつく→そこに至るまでの準備パートを考える→前置きがやたら長くなってどこがメインかわからなくなる→これってクリアリなのか?→端折れず投下できず煮詰まって自信もなくなる→遠い年月→現在に至る
当時は時系列順に投下しなければという焦りもあったものでお手上げ状態でした。
今は開き直らせていただいたのでなんとか……

今投下中のピサロナイトでクリアリ、投下予定のサランの神父でクリアリでも端折りきれず
同じ疑問を持たせるかと思います。
クリアリが読みたいのにクリアリじゃないパートを読ませられるというのはまことに苦痛かと思いますが
(乙してくださる方にレスしたり個人的な好みをベラベラしゃべったりするのもマイナスだったかと感じております;)
人が集まってくるまでの間に合わせ程度になれたら嬉しいです。
(今後クリアリパートはどこという旨(7/12〜9/12など)を事前に抜き出してみます。少しでも読みやすくなれば幸い)

従者は前置きばかりでまどろっこしいから俺がクリアリ書いてやる、という方をぜひお待ちしております。

175従者の心主知らず 1/2:2016/05/02(月) 12:51:33 ID:cIJ8yws6
「お父さまのお許しも出て気分もスッキリ!さあ、はりきっていきましょう」
「侍女の入れたお茶をゆーっくりとすすってのんびりとしたかったのに。
読みかけの魔法書もたんまりたまっておったしああまったく。ぶつぶつ……」

ブライの独り言は相変わらずだから気にしない!

「エンドールでは何が私を待ってるのかしら?うふふっ楽しみね!」
「エンドールまで行けば気がすむか……いや すまない。姫さまはそんなに甘くない。
ぶつぶつ……これは王さまに特別年金をいただかねば。ぶつぶつ……」
「まずは武術大会に出て。それからエンドールのある大陸をずーっと冒険するのよ。
世界を一周してうーんと強くなって帰ったらお父さまびっくりするわ!」
「海の底でも地の果てでもどこへなりと行きましょうぞ。えーどこへでも!」

ブライがすっとんきょうな声をあげた。やっと諦めたみたい。

「うふふ。よろしくね、ブライ」
「まったく……」

私はクリフトを見た。クリフトは考えごとしてたのかな。前を向いたまま歩いてる。

「これから世界中ずっと姫さまといっしょに……」

クリフトが小声で話しはじめた。前を向いたままだからいつもの独り言ね。
私のことをいってる気がしたからいつもならなんの話?って聞くんだけど、私はいいこと考えたの。
もう無理に聞こうと思わないで今度はクリフトを観察することにしたの。
そうしたらどうして独り言を教えてくれないのか、どうして教えてくれなくなったのか、
前とはちがった答えが見つかるかもしれないって思ったから。さっそく観察よ!

「…………」
「…………っ…」

クリフトは嬉しいみたいな切ないみたいな顔して手を胸に当てたあと両手で顔を隠しちゃった。
なかなか手を離さないクリフト。私はずっとクリフトを見てた。

「はっ!」
「あ」

クリフト気づいちゃった。

176従者の心主知らず 2/2:2016/05/02(月) 12:57:41 ID:cIJ8yws6
「ひ、姫さま…」
「うん」
「い、いつから見ていらしたのですか…?」
「えーとね、クリフトが独り言をはじめたあたりから」
「…………あああ…」

クリフトはまた両手で顔を隠しちゃった。ちらっと見えた顔は真っ赤だった。

「ねえクリフト、どうしてそんなに顔が真っ赤なの?」
「そ、それは…っ」
「なに考えてたの?」
「そんなこと…っっ」

クリフトは顔を隠したまま答えない。むー。

「また難しいこと考えてたの?」
「………っ…」
「…………」
「た、たしかにこれから世界中を旅するにあたってのもろもろを考えてはいましたが…っ」
「ふーん。やっぱり難しいことなのね」

クリフトは顔を隠したまんま。こんなにいつまでも顔を隠してるの珍しいわ。
よっぽど熱が出るほど難しいことを考えてたのかしら。たしかに世界中ってうーんと広いものね。
クリフトがやっと落ち着いたみたいで手を離した。その手を胸に当てて私にからだを向ける。

「姫さま、その、申し訳ありませんでした」
「どうして謝るの?」
「いえ、その……会話が円滑に進められず、その……」
「いいわよそんなこと」
「………………」
「っもうー、クリフトったらー」

私はクリフトにいつものことじゃない気にしなくていいわよって言ってにっこり笑ってみせた。
クリフトはしばらくおどおどしてたけどやっと笑ってくれたの。いっしょに前を向いて歩く。

「エンドールとわが国は親しい間柄です。きっと歓迎してくれるでしょう」

クリフトがさらっと言ってのける。
私ではわからない難しいことを考えてくれるクリフト、本当はちょっとだけ頼りにしてるんだから。

177名無しさん:2016/05/02(月) 23:34:56 ID:WTLvu1kU
>>174
むしろ開き直って、端折らず素直に長編を書いた方が楽ではないですか?

クリアリ成分の少ない部分も多い長編でスレを独占するのは問題ですが、専用スレを用意してもらう道もあろうかと思います
冒頭から順に投稿しづらくても、最後に新規スレで手直ししながら順に再投稿できるならそれで解決という気がします
クリアリっぽい部分だけをピックアップして整えてメインスレに投下すればメインスレも潤います

読み応えのあるボリュームの長編があれば、wikiもここもバリエーションが広がって楽しみが増えるでしょう

178従者:2016/05/06(金) 22:18:12 ID:/f.Mh3yE
>>177
貴重なご提案を本当にありがとうございます。全力で考えてきました。

今どうすることが一番楽かといわれたら、今しばらくはこのままの投下を続けさせてもらえることでしょうか。
いかに端的な前置きで展開に破綻なくクリアリできるか、共感いただけるかに今はまだ力を入れてみたいのです。
何ぶん遠く空けてしまいましたので公式も様子が変わったでしょうしこのスレの需要もまだ把握できていません。
もとより次書けるのがいつになるかわからないなどと申している人間です。お心遣い痛み入ります……。

過去スレを改めて見直してきました。いろいろな苦悩があっての避難所とお察し申し上げます。
趣向の合わない作品はスルーということなので現時点ですら楽しく読んでいただけているかわかりませんが
あなた以外にも実は楽しみにしているよ、今回はスルーだけど次は期待しているよ、という方がいてくれると信じて
もう少しこのまま関わらせていただけると嬉しいです。ご提案は今後に備えありがたく控えておきます。

179従者:2016/05/06(金) 22:22:59 ID:/f.Mh3yE
今さらですが>>175‐176を一部訂正したいのです。やはり最初は両手ではなく片手で……
お手数ですが脳内補完をお願いします。失礼しました。

>>175
○ クリフトは嬉しいみたいな切ないみたいな顔して手を胸に当てたあとそのまま顔を隠しちゃった。
× クリフトは嬉しいみたいな切ないみたいな顔して手を胸に当てたあと両手で顔を隠しちゃった。

>>176
○ クリフトは今度は両手で顔を隠しちゃった。ちらっと見えた顔は真っ赤だった。
× クリフトはまた両手で顔を隠しちゃった。ちらっと見えた顔は真っ赤だった。

180名無しさん:2016/05/07(土) 02:56:42 ID:yTXuG.8M
>>178
人が多い時代の2chでも作品に反応する人はそう多くはなかったから、
過疎後に作られた避難所で反応があることが奇跡かと
同人サイトほど密に会話する場所でもないだろうし
過疎が続いてきたんだからめったに来ない人も多いはず

クリアリである限り需要を裏切るくらいでも変化があって楽しめる
悩み煮詰まるくらいなら、あれこれと振り返らずに走り抜けてほしい

見える乙以外に、声にならない乙が存在するので

181名無しさん:2016/05/09(月) 01:47:40 ID:ATmYv9ao
乙するタイミングを逃すことは多々あれど、乙の心は変わりません。

乙する女、略して乙女。
すみません。言いたくなっただけです。

182従者:2016/05/10(火) 22:05:37 ID:WmmW7.EQ
このスレをもう一度日づけから見直してみました。長くて3ヶ月も書き込みのないときがあったのですね。
ここに来たとき思いのほか多くの方に声をかけていただけたので私はまた調子に乗ってしまったようです……。
浅はかで本当に申し訳ありません。お恥ずかしい話です……。

初心に返り少しでも楽しんでいただけるよう、訂正のない作品を並べておけるようやっていきます。
ご返事や反応を本当にありがとうございます。こうしてお話しいただけたこと本当に、私は幸せ者です。


レスと同時に何か投下できたらと練っていたのですがもう少しお時間いただきそうなのですみませんレスのみで。
投下しないのならもっと早くレスすればよかったのにさっそくすみませんでした。また後日伺います。

183名無しさん:2016/05/10(火) 23:53:10 ID:xXjkDHFM
作品投下が始まったことを知らない人がまだ多数派でしょうし、避難所の存在を忘れてる人も多いんでしょうね
ふと思い出したときにwikiを見て新しい作品の存在に気づき、一部の人は避難所に来るのかな?
継続的に作品投下のある避難所であれば、いずれは人が集まるのでは
3ヶ月投稿がなかった時期は2chにスレがあった時期なので、避難所が本スレ化した今は状況が違うはずです

避難所は守られている場所なので平穏が保たれており、作品投下には適しているんじゃないでしょうか
特に従者さんの場合は、今の対話の仕方であれば2chだけは避けた方が良さそうです
無理せず負担のない範囲で、今後ともクリアリファンを楽しませていただけたら嬉しいです

184名無しさん:2016/05/13(金) 01:57:49 ID:XPdVdM/I
今やここが本スレ
ずっと2chでやってきたけど良くも悪くも悪くも2chだったからなー

185従者:2016/05/14(土) 15:07:43 ID:rymdB1q6
ああ、3ヶ月不在は2chと並行していた時期だったのですね。把握もしていなくて;
皆さまが大変だったときに離れてしまっていたことが本当に悔やまれます…

あたたかい声を本当にありがとうございます。
先日過去スレを見直したとき私が書けなくなってから2年たっても名前を呼んでくださっていた方もいました。
今その方々がここにいるかはわかりませんが、どうかご返事させてください。

従者は今ここにおります。帰ってきました。名前を呼んでくださりありがとうございます。


今回はPS版のセリフをなぞらないSSいってみます。
時期はアリーナの幼少期。
クリフトが神学校を卒業してサントハイムへ赴任してからある日のこと、アリーナ視点です。
ちょい役侍女たちとお城のニブい神父さん出てきます。
密着度やたら高いです。でも今回は幼いので微笑ましい……かな。
長くなったので前編後編に分けました。
これまで自分の見た中でクリフトがアリーナに恋をしたきっかけを描いたSSはあまり見かけた記憶がありません。
例えばこんな恋のきっかけ、いかがでしょうか。

186恋をしたのはあの日から 前編 1/14:2016/05/14(土) 15:11:46 ID:rymdB1q6
――クリフトなんかきらい、キライ、大ッキライ!!――


従者の心主知らず 〜恋をしたのはあの日から〜


あたしはずっとぶすっとしてた。クリフトったらあうたんびにお説教のあらしなんだもの。
言葉づかいだってきびしいわ。
「あたし」はお父さまやじいのまえだけ、ふだんは「わたし」、おおやけでは「わたくし」ですって。
いみがつうじれば言葉なんてなんだっていいじゃない。

いつでもあたしのあとをついてきて、おしゃべりいっぱいしてくれて、雨の日は絵本をよんでくれて。
パンチをしたらすぐ泣いちゃって、それでも姫さまぁっていってあたしのあとをついてくるの。
あのころのクリフトはもうどこにもいないんだ……。


「えー神父さまいないのー?」
「はい、今日は急ぎの用がたくさんありましてね。申し訳ありません」
「えー…」
「ですから今日のお勉強は自習です。クリフトとふたりでしていただけますか?」
「えー?」

やだな、クリフトとふたりでなんて。いちにちじゅうお説教をきかされちゃう。
そうだ。休んじゃおう。
あたしは神父さまをおみおくりしたあとクリフトがくるまえにまどをこわしてなんとかお外へはいでた。
きょうはくもひとつなくってとってもいいてんき!んー!きもちいーい!

「姫さま!なんという…!」

あ、クリフト。もう見つかっちゃった。

「やだっ!お勉強なんかしないもんっ!」
「姫さま…!」

あたしはおおいそぎでちかくにあった木にのぼった。

「姫さま危険です!おやめください!」

187恋をしたのはあの日から 前編 2/14:2016/05/14(土) 15:15:32 ID:rymdB1q6
クリフトはすぐいきますといっていなくなった。からだがおっきいからまどからはでられなかったのね。
少ししてむこうから走ってくるクリフト。

「姫さま!下りてください危険です!」

大声でさけぶクリフト。いつものうるさいお説教クリフト。
でも木の下にきたときにはあたしは手のとどかない高いとこまでのぼってた。

「姫さま!」
「やだっ!ぜったい下りないもん!」
「姫さま…!」

あたしはとおくをながめた。きょうはお空がすんでてとってもきれい。風もとってもきもちいい。
こんなきもちのいい日にかたっくるしいお勉強なんかしたくない。クリフトとふたりでなんかもっとしたくない。

――ずっとこのままでいられたらいいのに――

「姫さま!」

クリフトがまた大声でさけんだ。ふ、ふーんだ、おこったって下りたげないんだから。

「今行きます」

え?
うそ、クリフトのぼってきた?ほんとに!?
クリフトはえだに手をかけたり足をかけたりしてる。ほんとにのぼってるの!?

――神父さまだって木の上まではのぼってきたことないのに!――

「クリフトこっちこっちー。ながめがとってもいいのよー?」
「姫さま!それ以上登らないでください!」
「やだもーん」

クリフトどんどんのぼってくる。なんだかわくわくしてきちゃった。

「クリフトはやく、こっちー」
「姫さま……。私は、あなたと遊ぶために登っているのではありません」

188恋をしたのはあの日から 前編 3/14:2016/05/14(土) 15:20:52 ID:rymdB1q6
けっきょくこれ以上はのぼれないってとこまでのぼりきっておいつかれちゃった。

「姫さま……は、はやく下りましょう……」

すこし下をむいてこわい顔でしゃべるクリフト。あーあ、このあといつものお説教がまってるのね。
でも今日はちょっとだけ楽しかったわ。あたしはにっこりわらってみせた。ちょっとびっくりするクリフト。

「姫さま……なにを、ひめさ……姫さま!!」
「あれ?…ちょっとー」
「姫さま!大丈夫です!すぐ持ち上げますからっ!」

木からとびおりようとしたあたしをクリフトがつかんだみたい。からだがぶらーんてなってる。

「ちょっとーはなしてよー」
「なにをいっているのですか姫さま!」
「きゃああっ!姫さま!?」

あ、侍女だ。こわれたまどからのぞきこんでる。

「誰か、誰か姫さまをっ!!」

侍女はだれかをよびにいったみたい。あーあ、お父さまやじいのお説教までまってるわ。クリフトのバカ。

「姫さま、動かないでください!」
「はーなーしーてー」
「姫さま、すぐ、すぐ持ち上げますから…っ」
「だーかーらー」

あ、侍女もむこうからやってきた。そのうしろに兵士がふたり。
あたしははやくおりたくってからだをめいっぱいゆらした。そしたらやっと自由になった。

「きゃああっ!!」
「よいしょっ!!いったあああ…!」ぇぇっ…!!」

足がじんじんする。やっぱりこんかいはちょっと高かったなあ。つぎおりるときは気をつけよっと。

「クリフト?」

189恋をしたのはあの日から 前編 4/14:2016/05/14(土) 15:25:05 ID:rymdB1q6
クリフトは顔を下にしてねてた。ぼうしがとれてる。

「クリフト…?」

もういちどよんだけどクリフトはへんじをしない。

「クリフト…??」
「姫さまご無事ですか!?」

気がついたらまわりにたくさん人があつまってておおさわぎになってた。


「ええ……首の骨にひびが……」

「ええ、命に別状はございません。二、三日ほど安静にしていれば……」

「……はい……はい…。この度は誠に申し訳ありませんでした……」

クリフトが教会にはこばれてからあたしはずっとクリフトを見てた。
クリフトはただねむってるだけだって。そのうちおきるんだって。
だいじょうぶなんだって。
お父さまやじいにいわれていちどおへやにもどる。このあとまってるのはお説教。わかってる。
でもあたしはクリフトのことばっかかんがえてた。

おへやにもどるとちゅうとなりのおへやで侍女たちがなにかしゃべってるのがきこえてきた。

「まったく、姫さまのおてんばにも困ったものだ」

…………。
いつものこと。あたしはおてんばでいうこときかなくて、みんなにめいわくかけるわるい子。
もういいの。いわれなれてるから。

「それにしてもあのお付きの神官は何をやってたんだ。姫さまといっしょに木登りしてたっていうんだろ?」
「外出の際も兵士に何の報告もしてなかったそうですわ」
「いったい何を考えてるんだ…!」

…………。
あたしはおへやにとびこんで大声でさけんだ。

190恋をしたのはあの日から 前編 5/14:2016/05/14(土) 15:29:06 ID:rymdB1q6
「ちがうわ!クリフトはあたしを木から下ろすためにのぼったのよ!クリフトのことわるくいわないで!」

おへやにいたみんながびっくりしてあたしを見る。

「姫さま……失礼いたしました……」

口をそろえてあやまるみんな。どうせうわべだけのみんな。おとなはいっつもほんとのことをいってくれないの。

「みんなみんな大ッキライ!!」

あたしはもういちど教会に走った。だれもあたしをとめなかった。


教会にとびこんできたあたしに神父さまはさいしょびっくりしたけどわらってまねきいれてくれた。
さっきとかわらずねてるクリフト。あたしはまたずっとクリフトを見てた。

「寝る時までロザリオをつけていては肌を痛めてしまいます。これは外しておきましょうね」

神父さまがクリフトのくびからロザリオをはずした。たなの上においたあとあたしの前で片ひざをつく。

「姫さま」
「……」
「あなたがこうしてクリフトを心配してくださるように、王様も、あなたのお父上もまたあなたのことを心配しています。
クリフトはもう大丈夫ですから、さあ、お部屋にお戻りなさい」

…………。

「お父さまがしんぱいなのは、あたしじゃないのっ」
「姫さま?」
「お父さまがたいせつなのは、お上品で、おしとやかで、お母さまのかわりができるだれかであって、あたしじゃないのっ」
「姫さま……そんなことは……」
「あたしじゃなければよかったの」
「…………」
「あたしじゃなくて、もっとお母さまみたいな、お上品で、おしとやかで、いっつもわらってて、
なんでもいうこときく女の子らしい子があたしだったら、お父さまもあんなにおこったりしなくていいの」
「………………」

191恋をしたのはあの日から 前編 6/14:2016/05/14(土) 15:34:12 ID:rymdB1q6
あたしはクリフトの手をぎゅってした。

「ねえ神父さま、あたしここにいちゃダメ…?クリフトといっしょにいちゃダメ…?おへやにもどりたくないの」
「姫さま……」
「だって、おへやにもどったってあたしのいばしょなんてないんだもん」

あたしは神父さまをまっすぐ見た。神父さまはこまったようなお顔をしてる。
でもあたしは目をそらさないでずっと神父さまを見てた。そしたら神父さまは手でお顔をかくしたの。

「子どもにこんなことを言わせるなど、王は……神は……!」
「神父さま…?」

神父さまはしばらくお顔をかくしてたけど手をはなしてあたしを見た。
神父さまはとってもやさしいお顔をしてた。

「ええ、姫さま、ぜひここにいてくださいますか?
先ほどは戻るよう申し上げましたが、本当は私も姫さまにここにいてほしいのです」
「…ほんとに?」
「ええ、うそをついてしまって申し訳ありませんでした。
あなたがそばにいてくだされば、クリフトもきっと安心してぐっすり眠れるでしょう」
「うん!」

「王様には私からお願いしておきますよ。クリフトをよろしくお願いしますね」
「ありがとう神父さまっ」

神父さまはおへやをでていった。あたしはクリフトに向きなおる。うれしいはずなのに、なんだかもやもやしてた。
さっきまでわらってたのに、おへやをでていくときちらっと見えた神父さまはこわいお顔をしてたの。
たけのながいぼうしをかぶりなおして、お仕事のときしかつかわないつえをもって、しずかに十字をきってでていった神父さま。
神父さま…?
あたしはクリフトの手をぎゅってした。ちょっとだけつめたい。あたしは思いきってベッドにはいってクリフトをぎゅってした。
クリフトのからだはあったかい。ちょっとだけほっとした。きっと外にだしてたから手はつめたくなってしまったのね。
あたしはもういちどクリフトの手もぎゅってした。あたしがあっためたげる。きょうはクリフトといっしょにここですごすんだもの。
クリフトはやくおきないかな。


「おかあさまぁ…」

じぶんでいってはっとした。あたし今、お母さまっていったの…?

192恋をしたのはあの日から 前編 7/14:2016/05/14(土) 15:38:22 ID:rymdB1q6
お母さまのことはもうあんまりおぼえてないの。
おぼえてるのはいっつもわらってるお母さまのお顔。となりでねむってるお母さまのお顔。

どんなに声をかけてもおきなくて。
つかれておきられないのかなっておもったけど、つぎの日になってもお母さまはおきなくなって。
いつからかまわりがあわただしくなって、お父さまやじいや大臣、神父さままでよくくるようになって。
お父さまがお母さまをおふとんの上からぎゅってしたのを見たことある。

いつだったかお母さまのお顔に白い布をかけた日があったの。
そんなことしたらいきができなくて苦しいじゃないってあたしははんたいしたのに布をとってくれなくて。
あたしはもしお母さまが苦しがってたらすぐ布をとってあげようと思っていっしょにねたの。
でもお母さまはおきなくて。ぜんぜん苦しがらなくて。

どんどんお母さまがつめたくなってくの。どんなに大きな声でよんでもおきないお母さま。
もうにどとおきてくれないお母さま……。あたしをおいてとおいお空にいっちゃうの。

お母さま…!

おぼえてないんじゃない。あたし、あたし…っ

――いっしょうけんめい思いださないようにしてたんだ!――
――おかあさま…っ!!――

「クリフトおきて。ねえおきて。あたし言葉づかいちゃんと気をつけるから。お勉強もがんばるから。
だからおきて。ねえおねがい。おきて……」

クリフトもしんじゃうの……?
クリフトもあたしをおいてとおいお空にいっちゃうの……?

「やだぁ…やだよお……クリフト……クリフトぉ…っ」

あたしはクリフトをぎゅってした。

「やだぁ…やだあぁ…っ」

やだあああ……。

193恋をしたのはあの日から 前編 8/14:2016/05/14(土) 15:42:19 ID:rymdB1q6
どれくらいじかんがたったんだろう。あたしはずっとクリフトをぎゅってしてた。
クリフトはあったかい。つめたくなってない。だからだいじょうぶ。
あたしがつめたくならないようにあっためる。ずっとあっためる。
だって、つめたくならなければクリフトはいつかおきてくれるでしょ?ここにいてくれるでしょ?
そのうちきっとおきてくれるわ。だからあたしはもっとクリフトをぎゅってしたの。

「っ…」
「クリフト?」

クリフトがすこしだけからだをうごかしたような気がした。

「クリフト…?」
「ひめ…さま…?」

とじてた目が……あいた。あいたの。クリフトがおきた……。おきた!おきたんだっ!!
クリフトはぼんやりした目であたしを見た。
あたしはたぶんなみだで顔がめちゃくちゃだったかもしれないけどいっしょうけんめいえがおでクリフトをむかえたの。

「クリフト。アリーナよ。わかる?」
「姫さま……ここは……私はいったい……はっ!姫さまっ」

クリフトはあたしからはなれようとした。あたしはとっさにクリフトの服をつかむ。
もういちどクリフトをおふとんにもどしてぎゅってした。

「やだクリフト。どこにもいかないで」
「何をおっしゃるのです。は、離してください。なんというみだらなことを…!」
「やあだ」

クリフトだ。いつものうるさいお説教クリフトだ。よかった…。よかった…っ。

「よかったああ…っ」
「姫さま…」
「クリフト、さむくない?ぐあいわるくない?あたまいたくない?」
「姫さま……」
「あたし、あたしね……クリフトがしんじゃったらどうしようって…っ」
「勝手に私を殺さないでください」
「うん、よかった……ほんとによかったぁ……っ」
「…………」

194恋をしたのはあの日から 前編 9/14:2016/05/14(土) 15:46:53 ID:rymdB1q6
あたしはクリフトをぎゅってした。

「っ…姫さま…っ」
「よかった…っ」
「………っ…」

クリフトはまだあたしからはなれようとする。

「こ、こんなことが王様に知れたら…っ」
「だいじょうぶ。神父さまがお父さまにおねがいにいってくれたの。あたしはきょうはここにとまるの」
「そんな…!」
「だからだいじょうぶ」
「そんな……」

あたしはもういちどクリフトをぎゅってした。

「っ…なぜ……なぜ神父様がそのような……」
「ここにいたかったの」
「…………」
「おへやにもどりたくなかったの」
「………………」

――クリフトといっしょにいたかったの――

あたしはクリフトをまっすぐ見てほんとのことをいった。

「そしたら神父さまがお父さまにおねがいにいってくれたの」
「………………」

クリフトはびっくりした顔であたしを見た。びっくりした顔っていうかちょっとこまった顔っていうか。
きっとまってるのはいつものお説教。でもいいの。あたしはもういちどクリフトをぎゅってした。

「あ…」
「ほんとによかった…」
「………………」

あたしはクリフトを見てお母さまみたいににこってわらった。それからまたやさしくぎゅってする。

195恋をしたのはあの日から 前編 10/14:2016/05/14(土) 15:50:54 ID:rymdB1q6
「っ…………」
「クリフトがぶじでよかった…」
「………………」

クリフトのからだはあったかい。生きてる。ちゃんとここにいる。もうだいじょうぶ。だいじょうぶ……。

「姫、さま……」
「うん、もうだいじょうぶ」
「……………………」

お花のにおい……葉っぱのにおい?クリフト、とってもいい匂いがする……。
あたしはなんどもなんどもクリフトの顔を見てクリフトのすがたをかくにんして、ぎゅってした。
クリフトをそばにかんじたかったの。手をのばしてもっとクリフトをかんじる。

「ひめ…さま…」
「うん。よかった…」
「…………姫…っ」
「んっ」

クリフトもあたしをぎゅってしてきた。ちょっとドキっとしちゃった。
でもからだがふるえてる……。クリフト、こわいんだ。いたい思いをしたから……。
あたしがいたい思いをさせちゃったから……。
それにさむいのかも。あっためなくちゃ。あたしがあっためてあげなくっちゃ。

「うん、クリフト。もうだいじょうぶだからね。だいじょうぶだから。
クリフト……ごめんなさい……」

あたしはクリフトのからだをさすった。もういちどぎゅってする。

「ち、ちが……これは…っ」

こんこんて音がした。だれかがおへやのとびらをたたいたみたい。
そしたらクリフトがぱっとあたしからはなれようとするの。あたしはクリフトの服をつかんでひっぱった。
クリフトを引きよせてもういっかいぎゅってする。あわてるクリフト。

「姫さま、神父です。入りますよ」

196恋をしたのはあの日から 前編 11/14:2016/05/14(土) 15:55:01 ID:rymdB1q6
あ、神父さまだ。

「あ、あの、姫さ…っ」
「だいじょうぶだから、クリフト」
「ちが、あの…っ」
「だいじょうぶ」

クリフトはしばらくあたふたしてたみたいだけどあたしのかたに顔をうずめてしがみついた。
うん、だいじょうぶ。

「神父さまーはいってー」

とびらがあいて神父さまがはいってきた。

「おや」
「……っ」

クリフトふるえてる。すっごくふるえてる。どうしてこんなにふるえてるんだろう。

「だいじょうぶよ。クリフト」
「っ……っ」
「…………」

「これはお取り込み中大変失礼いたしました」
「えー神父さまー」

神父さまはこっちを向いたまま下がってとびらをはんぶんしめちゃった。

「クリフト、意識が戻ったのですね。具合いはいかがですか?」

はんぶんになったとびらのむこうからお声をかける。あたしはクリフトを見た。
クリフトはしばらくあたしのかたに顔をうずめてたけどゆっくり顔を上げて神父さまのほうをむいた。
クリフトは切ないみたいな苦しいみたいな顔をしてた。クリフト…?

「神父様…っこんな……」
「…………」
「こんなこと学校では教わりませんでしたっ」

197恋をしたのはあの日から 前編 12/14:2016/05/14(土) 15:59:52 ID:rymdB1q6
え?

「こんな……こんな感情……」
「クリフト…?」
「わ、私は……わたしはいったい…っ」
「…………」
「なぜこんな……こんな……」

クリフト…?

「わたしは、アリーナ姫を……こんな…」
「…………」
「こんな……みだらな……罪…っ」
「………………」

え、なに、どうしたの?どうしてクリフトはこんなにとりみだしてるの?どうして?
神父さまはとびらのむこうでだまってる。クリフトは泣きそうな顔してて……。

「……クリフト」
「神父様っ……」
「………………」

すこしして神父さまがおへやにはいってきた。クリフトの前まできてかがむ。神父さまは……やさしいお顔をしてた。

「今あなたに生じた感情は、人間であればだれもが持ち得ているものです。もちろん私も持っている情です。
学校で教わったことがすべてではありません。何も怖れることはありませんよ」
「……っ…………っ……」
「大丈夫ですクリフト。情を持つこともそれを表に出すことも罪ではありません。
ゆっくり深呼吸をして、肩の力をお抜きなさい」
「……………………」

クリフト…。
クリフトはちからがぬけたのかな。ふっとうしろにたおれこんだの。あたしはあわててクリフトをささえてゆっくりねかす。

「………………」
「クリフト…」
「……………」

198恋をしたのはあの日から 前編 13/14:2016/05/14(土) 16:10:33 ID:rymdB1q6
クリフトはぼんやりした目であたしを見たけどすぐ目をそらしちゃった。クリフト…。
クリフトは神父さまのほうを見る。

「神父様……申し訳ありません……」
「…………」

神父さまはおふとんをととのえてクリフトの頭をそっとなでた。

「まだ体を支えるのも大変でしょう。今はゆっくりお休みなさい」
「………………」

クリフトははいっていおうとしたのかな。口をうごかそうとしてたけどそれは声にならなくて、ゆっくり目をとじちゃった。
口ももううごかそうとしなかった。

「まだ治癒をすませたばかりですからね。疲れていたのだと思います」

神父さまがもういちどクリフトの頭をやさしくなでた。クリフトはもうねむってた。クリフト…。
さっきふたりがはなしてたこと、むずかしくてよくわかんなかった。つみ……つみってなに…?

「姫さまも」
「え?」
「姫さまも、どうか中へ。今夜はずっとクリフトのそばにいてくださいますか?」
「あ、うん!」

神父さまがおふとんを上げてくれてあたしは中にもぐりこんだ。もういちどクリフトをぎゅってする。
神父さまはやさしくわらってくれた。クリフトといっしょにゆっくりおやすみくださいって。
さっきクリフトがいってたのは、あたしがあんまりちかくにいてびっくりしたのとやみあがりでつかれていたのとあって
あせっちゃっただけなんだって。あんまり気にしなくていいんだって。あしたはなせばわかるって。
あたしはまたずっとクリフトを見てたけど気がついたらうとうとしてたの。クリフトのからだがあったかいからだわ。
そう、クリフトはあったかい。ほんとうにもうだいじょうぶ。だいじょうぶなんだ……。
よかった……。ほんとうによかった……。あたしもクリフトをぎゅってしながらゆっくり目をとじた。


「姫さま……。
クリフトの母が天に召され、クリフトもサランへ戻り、ここに遊び相手がいなくなっても、あなたはよくこの教会に足を運んでくださいましたね。
あの時私が、どれだけ嬉しかったか、わかりますか?」
「んー…」

199恋をしたのはあの日から 前編 14/14:2016/05/14(土) 16:14:47 ID:rymdB1q6
神父さまがなにかしゃべってる……。あたしはうとうとしながらきいた。

「あの時あなたは懸命に否定してくださいましたが、当時私は本当に、本当に、自分でもいやになるほど役立たずだったのですよ。
神の声がまったく聞こえなかったのです。何もかも、すべてが疎かになっていて……ニブい神父と言われても仕方がなかったのですよ」
「えー神父さまはなんにもわるくないよー」

神父さまは小さくわらった。

「その言葉にどれだけ救われたことか……。姫さま……あなたのその笑顔に、どれだけ救われたことか……」

神父さまはとおくを見たみたい。

「本当に、失ったものばかりを数えていてはいけませんね……」
「んー…」

――命はこんなにもたくましい――

神父さま…?

「母たちよ、見ていますか。あなた方の遺した子どもたちは今、こんなに元気に育っていますよ」

神父さまはずっととおくを見てる。なにを見てるんだろう。でもすこししたらこっちをむいてわらってくれた。
あたしはほっとしていっしょにわらう。そしたら神父さまがあたしの頭もなでてくれたの。とってもおっきくて、昔のお父さまみたいなやさしい手。
あたしはあんしんしてまたゆっくり目をとじた。神父さまはあたしがねるまでずっと頭をなでてくれた。


――次代を担う子どもたちよ、健やかであれ――

200従者:2016/05/14(土) 16:20:04 ID:rymdB1q6
>>192>>193の間もう一行改行したつもりなのに反映されてなかったんだぜ。
最後の神父さんとの会話は例のごとく今後のためのただの伏線です。いつもすみません;

今回、以下より二人はこんな幼少期だったのではと推測したSSとなっております。

FC版より
・クリフトは神学校を主席で卒業

PS版より
・クリフトは幼いころサランの教会で神の道を教えてもらった
・クリフトは昔からどうも身体が弱い(ブライのセリフより)
・アリーナは小さいころサントハイム王妃の葬儀で王家の墓に行った(ことを覚えている)
・アリーナはよく家庭教師の前で居眠りしていた(ブライのセリフより)
・クリフトは玉座の間にてアリーナの命令で代わりにブライの説教を聞いていた(プロローグより)
・クリフトはブライからアリーナが一人旅に出るという情報を聞いていた(FC版と共通)

小説版より
・クリフトとアリーナは乳兄妹

クリフトとアリーナは乳兄妹としてサントハイムで育ったが
クリフトがサランの教会で神の道を教えてもらいそのまま神学校へ。
(神学校の所在はサラン近辺にあるとしてサランの神父さんも教官の一人としました。
5の学校の規模を見るに下手したらあの教会が神学校という可能性もありそうなので)
その後学校を首席で卒業、サントハイムの教会に見習い神官として赴任。
アリーナは次期女王となるべく勉学の時間があり神学のみ(アリーナの希望で)教会にて、
クリフトが赴任してからは(必然的に)クリフトも同席したとしました。
(その他命令(気まぐれ)でクリフトを玉座の間に呼び出したり遊び相手にさせたりもしており
明確な役職としてではないがクリフトに従者の役目もそこそこ果たさせているとしました)

この従者シリーズではとりあえずそんな感じの幼少期でいってみようと思います。
もしイメージと違う方がいましたらどうかご容赦ください。
公式にて詳細が判明次第そちらを優先したいと思います。(すでに抜けなどありましたら教えてください;)
この度はご覧いただきありがとうございました。後編は翌日〜その後の予定です。

201従者:2016/05/14(土) 20:02:43 ID:rymdB1q6
学校は5じゃなくて4のイムルだったorz
誤字も見つけたしもうダメだorzorz

202名無しさん:2016/05/14(土) 22:15:55 ID:S2LTRg/s
>>185
手が離せないのでSSは後で読みますが、言いそびれないうちに…乙です

気分が悪くなる時期には見ない書かないが一番
不在で良かったんじゃないでしょうか

203名無しさん:2016/05/15(日) 05:23:58 ID:2Lhxuwkg
>>201
なんだかお疲れ様です。

過去にも似た場面があったことで、同じシーンに奥行きが!
さすが、一過性のクリアリ萌えシーンでは終わらせませんね。
クリアリにもシナリオにも注目です。

神父様が絶妙な伏線を張ってくれました。
やり過ぎない程度に心に引っかかりを残す力加減がお見事。
今後への期待が高まることを避けようがありません。

204名無しさん:2016/05/20(金) 02:56:24 ID:7.6Y2vZs
コテハンのキャップ持ちだと投稿制限が緩和されるなら良かったけど、
したらばにそういう機能はなさそうだね

205名無しさん:2016/05/23(月) 02:25:16 ID:lwr.tU/w
>>201
後編の前ではあるんじゃが、ここでGJという言葉を贈ることにしようかの
なるほど、前編だけでも一旦の区切りをつけておるようじゃな
さすがの安定感じゃ

206従者:2016/05/24(火) 21:49:27 ID:fD0voP1o
従者です。少々出遅れました。
PS版のセリフをなぞらないSSアリーナ視点「恋をしたのはあの日から 後編」いきます。
お城の神父さんとサランの神父さん出てきます。密着度やっぱりちょいありです。
両神父との関係や城と教会との関係などやや疑問を残す流れかもしれませんが後ほど解消予定です。
取り急ぎクリアリには影響ないかなと思われますので何とぞご容赦を…。ではどうぞ。

207恋をしたのはあの日から 後編 1/14:2016/05/24(火) 21:55:38 ID:fD0voP1o
あったかい。あったかい。だれかがあたしをぎゅってしてくれてるの。
だあれ?あたしをぎゅってしてくれてるのはだあれ?あたまをなでてくれてるのはだあれ?
お父さま?お母さま?

――姫さま…――

神父さま?

――さようなら…――

え…?
だあれ?だれなの?

だれかがなにかはなしてるのがきこえる。でもあたしはねむくておきられなかった。
やっと目をあけたときあたしはいつもとちがうとこでねてた。
そうだ、きのうは教会にとまったんだった。
まわりを見たら神父さまがそばにいてごあいさつをしてくれた。クリフトは……

「どうしてクリフトはいないの!?」

あたしは大声でさけんだ。クリフトがいなかったの。きのういっしょにねたはずなのに。

「クリフトは……クリフトはお休みをとったのですよ。養生のためしばらくサランで過ごすそうです」
「えーあたしなんにもきいてないわ」
「そうですね……。せめて姫さまが目覚めるまで待ってはと何度も止めたのですが……」
「うー…」

「ねえ神父さまー、きょうのお勉強サランにいっちゃダメ?クリフトにあいたいの。だってなんにもおはなししてないもの」
「そうですねえ……。先日も外出しましたからねえ……。今度はどんな理由で外出しましょうか……」
「うー…」
「………………」

「ああ、視察にしましょう。サランの大聖堂に収めてある女神像の視察と歴史のお勉強。そのついでにクリフトの様子も見てくる。
今回はそんな感じでいってみましょうか」
「うん!」
「あくまでサランの大聖堂に行く理由は女神像の視察です。クリフトと話したあと視察っぽいこともしますので覚えておいてくださいね」
「はーい」

208恋をしたのはあの日から 後編 2/14:2016/05/24(火) 22:01:09 ID:fD0voP1o
あたしはもういちどおふとんにもぐった。おふとんあったかーい。神父さまはたなのそばでご本をよんでる。
あたしはおへやにもどりたくなくってお勉強のじかんまでここにいていいってきいたら
きがえて顔をあらってお祈りしてあさごはんをたべないといちにちがはじまらないからどうかおへやへっていわれた。
それさえおわればまたここにきていいからって。たしかにおなかはすいてきたけど……
それからお父さまに教会にとまるおゆるしをくれたことのお礼をいってくださいって。
お勉強をずる休みしたことも木にのぼったこともあやまらなくていいからお礼だけはしてくださいって。
やだな、お父さまにお礼なんて。

おへやにいくにはお父さまの前をとおらないといけないの。あたしははやく教会にもどりたくって走っておへやへ。
兵士たちをすりぬけてかいだんをのぼったらいつものとこにお父さまもじいもいた。
ごあいさつだけしていそいでとおろうとしたけどアリーナってよびとめられる。やっぱり。
あたしはぶすっとした顔になっちゃったけどいっしょうけんめいお礼をいったの。
そしたらきのうはよくねむれたかですって。
あたしはクリフトがあったかかったからすごーくよくねむれたわっておおげさにいってやった。
じいがちょっとだけさわいだからクリフトはなんにもわるくないわって、クリフトのことせめないでって大声でさけんだの。
そしたらお父さまは……

お父さまもじいもあたしのことおこらなかったの。クリフトのことも……ぜんぜんおこらなかったの。
神父さまといっしょにサランへいくっていってもそうかって、気をつけていってくるのだぞっていうだけだったの。
なんか……なんかへんなの。
きのうのことがうそみたいにふつうにおきがえをして侍女にかみをといてもらってお祈りをしてあさごはんをすませる。
あたしはまた教会へ。神父さまがまってくれてたみたいでさっそくサランへつれてってくれた。


サランの教会に入る。いつものとこにサランの神父さまはいなかった。クリフトは……
お城の神父さまがシスターにクリフトのことをきいてくれた。

「申し訳ありません、神父様とクリフトは別室でお話をされています」
「ああ……告解室ですか」
「あ、は、はい…」
「…………。告白するようなことなど、何もないと思うんですがねえ……」
「……」

神父さまとシスターがなにかむずかしいおはなしをしてる。なにをはなしてるんだろう。

「姫さま」

209恋をしたのはあの日から 後編 3/14:2016/05/24(火) 22:06:53 ID:fD0voP1o
神父さまがもどってきた。

「クリフトは今サランの神父様とお仕事の話をしているそうです。待っている間に例の視察でも終わらせておきましょうか」
「あ、うん!」

あたしは神父さまといっしょに女神像の前へ。のぼったらながめがよさそうなおっきな女神像。
サランの教会はとってもひろい。おいかけっこができそうなくらい。ものもいっぱいあるからかくれんぼもできそう。
でも走るとクリフトがうるさいからできないの。クリフトはいっつもうるさいの。お説教クリフトなの。
でもきょうはそのクリフトにあいにきたんだわ。

「ああ姫さま、終わったようですよ」

むこうからサランの神父さまがあるいてきた。そのうしろに……あ、クリフトだ。いつものふくとぼうしのクリフト。
ふたりともあたしにあたまを下げてごあいさつする。あたしはいっしゅんサランの神父さまににらまれたような気がした。
サランの神父さまはお城の神父さまにもごあいさつする。

「大司教殿……。またアリーナ姫様をお連れして……視察と称した散策ですか」
「ええ、視察と称した視察です」
「…………。お戯れもほどほどにしていただきたいものです」
「おや人聞きの悪い。どこをどう見ても立派な視察じゃありませんか」

ふたりはそのあともなにかはなしてたみたいだけどあたしはクリフトが気になってずっとクリフトを見てた。
クリフトもあたしに気がついたみたいでこっちにくる。あたしの前まできたらクリフトはあたまを下げたの。

「アリーナ姫さま、この度はご迷惑をおかけして誠に申し訳ございませんでした」
「なによクリフト、かしこまっちゃって」
「姫さまがご無事で、何よりでした……」
「…………」

「ねえクリフト、これからもいっしょにいられるんでしょ?」
「……はい、変わりなく」
「いっしょにあそべるんでしょ?」
「……はい」
「ん」

よかった……。

210恋をしたのはあの日から 後編 4/14:2016/05/24(火) 22:10:58 ID:fD0voP1o
「クリフト、こんどじょうずな木のとびおり方おしえてあげるからねっ」
「そ、それはまたの機会に……」

よかった。
これからもクリフトといっしょにいられる。
よかった……。

「クリフト」
「はい!」

クリフトがふりかえる。サランの神父さまがよんだみたい。

「立ち話も失礼です。アリーナ姫様を部屋へご案内してさしあげなさい」
「あ……はい」

あたしはクリフトのあんないで今までいったことのないおくのおへやにつれてってもらった。
シスターがのみものをもってきてどうぞごゆっくりっていってでてった。あたりがいっしゅんしんとなる。
あたしはさっそくのみものをのみながらきのう気になったことをきいた。あ、ジュースおいし。

「ねえクリフトー」
「…はい、姫さま」
「きのう侍女がはなしてたのをきいたの。どうしてお外にでたときあたしのこと兵士にいわなかったの?」
「は…?」
「だから、あたしをおいかけたときお外へでたでしょ。そのときどうしてあたしのこと兵士にいわなかったのかなって……」
「………………」

「なぜ、そんなことを……」
「いいじゃない、しりたいの」
「…………」

「……確かに、私らしくない対応ではありました。あなたをかばうなど」
「え?」
「あの時、静かなはずの教会からあまりに不快な音がしたもので、まさかと思えば案の定壊れた窓の先にいらっしゃったのはあなたで」

う。

211恋をしたのはあの日から 後編 5/14:2016/05/24(火) 22:15:55 ID:fD0voP1o
「ただ、神父様から本日の講義は自習と伺っていましたし、嫌気が差してのずる休みだということは一目で把握いたしました」

うう。

「というのはあなたの第一声で確信したわけですが」

ううう。

「私は今はただの神官ですがゆくゆくはサントハイムの教会を任される身になるかもわかりません。
本来ならあなたを無事連れ戻すため王様や兵士に早急にご報告しなければならない立場だったのですが、そうしなかったのは私の怠慢によるもの。
罪深きことです……」

え…?

「ただ、ご報告することは放棄しましたが、かといってあなたのずる休みや木登りを容認したわけではありません。
ですからあの時私が取れる最善の対応は……誰にも知られぬうちに教会に戻っていただくこと、あれ以外には浮かびませんでした」

…………。

「以上です。望む解答は得られましたか?」
「あ……はい……」

えっと……。あたしはいっしょうけんめいあたまの中をせいりした。
クリフトは……ほんとはあたしのことお父さまや兵士にいわなきゃいけなかったたちばで……でも、あたしのこと……かばってくれたんだ……。
きのうのことを思いだしてみる。走りながら大声でさけんでたクリフト。あたしが下りるまでまってなくて木の上までのぼってきたクリフト。
そっか……。そうだったんだ……。そうだったんだ!そう思ったらなんだかうれしくなってきた。

「ありがとうクリフト!」

クリフトのうごきがとまった。

「なぜ、礼を……」
「ありがとう!ほんとうにありがとう!」
「か、勘違いしないでください。あなたのためだけではありません。神父様にご迷惑をおかけしたくなかったからです」

なんかあわててるクリフト。

212恋をしたのはあの日から 後編 6/14:2016/05/24(火) 22:20:37 ID:fD0voP1o
「それにあなたの運動神経のよさは理解していますから、多少の木登りならそこまで危険はないと判断したためです」

あたしはずっとクリフトを見てた。なんかいっしょうけんめいしゃべってるクリフト。なんでかわらっちゃった。

「ありがとうクリフト!」
「〜……」

「今さらではありませんか。こんなこと……」
「えへへ」
「ですが、結局侍女に知られてしまいました。あなたにも危険な思いをさせてしまい……今回の判断はあまりに軽率でした…。
私が暇をいただきサランへ帰ったのは、自粛の意味も込めているのです」
「?じしゅく?」
「自らに処罰を下したのです」
「え、なんで」
「…………」
「お父さまもじいもあたしのことおこらなかったの。クリフトのこともぜんぜんおこってなかったわよ?だから、だいじょうぶよ…?」
「……まさか」
「だいじょうぶだから」
「……まさか……」

――おお、クリフトか。もう体調はよいのか?――
――クリフト、今回の件そなたへの処罰はない。神父への処罰もない。今までどおり日課に励むがよい――
――聞けばアリーナを連れ戻すために木の上まで登ったそうだな。大儀であった――
――アリーナが侍女にそういったのだそうだ――
――昨夜もあやつは教会で寝るといって聞かなかったそうだな。いつも世話になる……――
――なに、サランへ行くと申すか――
――どうしても行くというなら止めはせんが体調がよくなり次第またサントハイムへ戻ってまいれ――
――待っておるぞ――

「なぜ……」

クリフトは下をむいちゃった。なにかいっしょうけんめい考えてる。あたしは……あたしはまちきれなくってきいちゃった。

213恋をしたのはあの日から 後編 7/14:2016/05/24(火) 22:24:48 ID:fD0voP1o
「ねえクリフトー、じしゅくっていつおわるの?あしたにはこっちにこれるの?」
「あ、明日!?明日は……無理です……」
「えー…。じゃああさっては?」
「姫さま……。なぜそんな、私が戻る時期を気にされるのです」
「えーだって」
「……」
「だって、クリフトといっしょにいたいんだもん」
「…………」

クリフトはびっくりした顔であたしを見た。でもあたしはクリフトをまっすぐ見た。そしたらクリフトが目をそらしたの。
口に手をあてて……

「クリフト…?」
「…………」
「クリフトー」
「……あさって」
「え?」
「……あさってには、サイトハイムへ戻ります」
「ほんとに?」
「……はい」
「やったやった!」
「……」
「ありがとうクリフト!」
「ひ、ひめさま!?」

あたしはクリフトをぎゅってした。あれ、このかんじ……このかんじ、どこかで……。
あたしはクリフトを見た。クリフトは……かたまってた。あれ?

「ちょっとクリフト、どうしたの?」
「あ、あなたがどうしたのです!い、いきなり抱きつくなど…っ」
「だってクリフトあったかいんだもん」
「そっ……お、おやめください…」
「えー」

あたしはクリフトにやさしくひきはなされちゃった。っもう、きのうみたいにぎゅってかえしてくれたっていいじゃない。

214恋をしたのはあの日から 後編 8/14:2016/05/24(火) 22:32:28 ID:fD0voP1o
「姫さまこそ、なぜ侍女に、私があなたを木から下ろすためにのぼったと言ってくださったのですか?」
「え?」
「王様から伺いました。姫さまが侍女にそう言ってくださったと……。なぜわざわざそのような……」

クリフトがちらっとこっちを見る。侍女が…?
侍女……あたしがいったことお父さまにはなしてくれたんだ……。
お父さまも、それをクリフトに……。

「一緒に木登りをして自分を危険な目にあわせたと話していれば、私を教会から、ひいてはこのサントハイムから追い出すこともたやすかったでしょうに」
「え、なんでそんなことしなくちゃいけないのよ」
「…………。私を、疎ましく思っていらっしゃったのではないのですか…?」

え…?
クリフトはあたしをじっと見る。すこしだけさみしそうな顔。なにかをつたえたいみたいな顔……。

「……」
「……」
「…………」
「……うーん。たしかにクリフトはうるさいけど……」
「……」
「けど、やだ。いっしょにいないのはいやなの」
「姫さま……」
「だからこれからもいっしょなのっ」

クリフトがあたしを見てる。ずっと見てる。あんまり見てるからこんどはあたしが目をそらしちゃった。

「クリフトは、あたしといっしょにいるのいやだった…?」
「なにを……そんなことあるはずが……とんでもないことです」
「ん…」
「身に余る、光栄です……」

あたしはもういちどクリフトを見た。クリフトは……すこしだけわらってあたしにまたあたまを下げたの。

――おそばに置いてくださり、ありがとうございます――

215恋をしたのはあの日から 後編 9/14:2016/05/24(火) 22:38:46 ID:fD0voP1o
「アリーナ姫さま……申し訳ありません」
「え?」
「その、昨夜はあなたを……その……抱きしめてしまいました……」
「……え?」
「私からあのように触れたのは、その……初めてだったもので……なんとお詫びを申し上げればいいか……」
「え?クリフトぎゅってするのはじめてなの!?」

あたしはクリフトの言葉をさえぎっちゃった。

「っ…そんなに何回もあっては困りますっ」
「でもでも、きのうあたしをぎゅってしたじゃない」
「?……」
「ほらあの、あたしが木からとびおりたとき」
「…………」

「あ、あれは非常事態ではありませんか…っ」
「え?ひじょーじ隊?…ってなに?」
「………………」

「と、ともかく、その……」
「…………」
「申し訳、ありませんでした…」

とっても小さな声であやまるクリフト。あたしはなんだかうれしくなってきた。
クリフトったらあやまることないのに。クリフトにぎゅってしてもらえてうれしかったのに。
あ。そういえば。

「ねえクリフトー」
「…はい、姫さま」
「あれ、クリフトだったの?」
「?…」
「あたしがねてたときだれかがあたしをぎゅってしてくれてたの。あたまもなでてくれてたの。
神父さまかなって思ったんだけど、クリフトだったの?さっきぎゅってしたときなんかかんじがにてたのよね」
「…………」

クリフトはびっくりした顔であたしを見た。びっくりした顔っていうかちょっとこまった顔っていうか。

216恋をしたのはあの日から 後編 10/14:2016/05/24(火) 22:42:57 ID:fD0voP1o
「あ、あれは……。起きていらしたのですか……」
「あ、やっぱりクリフトだったのね」
「……もうし、わけ……」
「とってもきもちよかったわ」
「!……」
「あったかくってとってもきもちよかったの。ありがとうクリフト!」

クリフトはまたびっくりした顔であたしを見た。なんかクリフトびっくりしてばっかりね。
あ。そういえば。

「ねえクリフトー」
「は…はい、姫さま」
「きょうはいつもみたいに言葉づかいっていわないのね」
「え、あ……」
「いつもなら、さいしょにいっかい、とちゅうでいっかい、さいごにいっかい、さんかいはいうのに」
「…………」

クリフトはこんどはへんな顔してあたしを見てる。なにかをいおうとしていわないみたいな。

「い、言わないからといって直さなくていいというわけではありません。…お気をつけください」
「……はーい」

あ、そうだ。あたし言葉づかい気をつけるっていったんだった。そしたらクリフトがおきてくれたのよね。
気をつけなくっちゃ。これからはちゃんとしなくっちゃ。あたしはクリフトににっこりわらっていった。

「はい。こんどこそ気をつけるわ。わたし気をつけます!」
「…………」

クリフトはまたへんな顔した。こっちを見たり下を見たりするの。それにちょっと顔が赤いような?

「ねえクリフトー」
「は…はい…姫さま」
「きょうのクリフトなんかへん」
「は…」
「なんか、しずかだし、あんまりお説教しないし、へんなかおしてるし、赤いし」
「っ……」

217恋をしたのはあの日から 後編 11/14:2016/05/24(火) 22:48:25 ID:fD0voP1o
「ま、まだ体調が万全ではありませんので…」
「ふーん。へんなの」
「っ…いきなりいらしておいてそれはあんまりです」

あ。やっぱりいつものうるさいお説教クリフト?

「クリフトこそいきなりサランにかえっちゃうなんてひどいわ」
「っ……それは……。そもそもなぜこちらにいらしたのです。私に用事だったのですか?」
「あ、そうだ。あたしお勉強しなくちゃいけないんだった」
「…………。姫さま、言葉づかい」
「あ。わたしわたし」

クリフトがすこしだけわらっていったの。やっぱりきょうのクリフトはどこかへん。
言葉づかいっていわれるのほんとにいやだったのに、きょうはそんなにいやじゃなかったの。
クリフトはあさっては10時ごろもどりますって。もしよろしければごあいさつにうかがいますって。
あさってにはクリフトがもどってくる。あさって……よし!
あたしはクリフトにまたあさってねっていっておわかれした。クリフトもはい姫さまってわらってくれた。
なんだかきもちがすっとした。足がとってもかるいの。今ならなんだってできそう。
きょうはずる休みしないでちゃんとお勉強してからかえろうって、心からそう思えたの。

――ありがとう、クリフト――


「これはおいしそうですね。チョコレートケーキですか?」
「ううん、ふつうのケーキなんだけど、ちょっとこげちゃったの」
「そうですか。んー香ばしい匂いですね」
「あたしだってやればできるんだから!あ、またあたしっていっちゃった」

そう、きょうはクリフトがサントハイムへかえってくる日。
わたしはクリフトをびっくりさせようと思ってケーキをつくったの。ちゃんとつくりかたしらべたんだから。
クリフトはお父さまと神父さまにごあいさつにいかないといけないからこっちにこられるのはそのあとなんですって。
だからごあいさつがおわったら食堂にくるようにいってってお父さまにおねがいしておいたの。
神父さまはこっちによんどいたの。さんにんでいっしょにたべようと思って。クリフトはやくこないかな。

「アリーナ姫さま、遅くなり申し訳ありません」

きた!

218恋をしたのはあの日から 後編 12/14:2016/05/24(火) 22:54:39 ID:fD0voP1o
「クリフトー!」
「ひ、ひめさま…っ」

わたしはクリフトにぎゅってした。クリフトはあったかい。ふくの上からでもわかるの。あったかくってきもちいいの。

「クリフトおかえりー!」
「姫さまっあの…っ」
「クリフトクリフト!わたしね、ケーキを作ったのよ!」

わたしはクリフトを見上げながらにっこりわらっていった。びっくりするクリフト。

「ケーキ…?」
「そう!」
「姫さまの、手作り…」
「そうよ!わたしがつくったのよ!」

わたしはテーブルまで走ってふりかえる。手をさしだしてクリフトをあんないした。

「クリフト、こちらへどうぞ」
「…………」

クリフトはしばらくびっくりしてこっちを見てたけどふっとわらっていったの。

――あまりにもったいないことです――

クリフトが神父さまにもごあいさつをはじめたけど神父さまはまずはいただきませんかってケーキをさしてくれた。
さんにんでおせきにつく。テーブルにはケーキと紅茶。わたしたちはいただきますしてさっそくケーキをたべた。

「ごめんなさい……」

あたしはひと口でたべるのをやめた。

「…なぜ謝るのですか?」
「だってぜんぜんおいしくないんだもの。にがいしボロボロするし……」
「そんなことはありませんよ」

クリフトがもうひと口たべてくれた。

219恋をしたのはあの日から 後編 13/14:2016/05/24(火) 22:59:04 ID:fD0voP1o
「姫さまが心を込めて作ってくださったケーキなのですから……」

クリフト…。

「そうですねえ……。やはり、少し焦げてしまったのがもったいなかったのでしょうね」

あ。神父さまも食べてくれた。

「ケーキもクッキーもそうですが、低い温度でじっくりと。なかなか時間と手間のかかる料理のようです。
一気に焼いてしまいたい気持ちをぐっとこらえて、今度作る時はのんびり気長に待ってみましょう」

あ。また食べた。

「それから、味つけにはもしやあのあたりを使われましたか?」
「あ、うん。じゃなくてはい!」
「……そうですか。
ではこれらも、今度作る時は蜂蜜やシナモン、バニラエッセンスなど甘くて香りのよいものを選んでみましょう。
ソースや砂糖醤油の味もとてもおいしいのですが、甘いものを作るときには適さないのかもしれません」

あ。また食べた。クリフトも食べてる。

「最初から何もかもうまくいってしまったら料理人の立つ瀬がありません。
どんなにおいしいものを作る料理人も、最初は不満足から始めるものです。不満足でいいんです。
次への参考にすることで、どんどん満足のいくものが作れるようになるのですよ」

いつのまにかふたりに出したケーキはきれいになってた。

「……神父さまもしっぱいしたことあるの?」
「おや、これは痛いことを聞かれてしまいました」

「失敗したことがあるというより、成功したことがない、といったほうがいいですかねえ。
野外で初めて作ったカレー、ご飯は白くふっくら仕上げるつもりがふたを開けたら上から下まで真っ黒、
食べられるところなんかどこにもありませんでした。
サランの神父様に涙目で訴えてご飯を半分めぐんでもらったのは今ではいい思い出ですねえ」
「…………」
「そんな私も今では何とか白いご飯が炊けるようになりましたよ」
「そうなんだ。しっぱいしてもいいんだ」

220恋をしたのはあの日から 後編 14/14:2016/05/24(火) 23:04:17 ID:fD0voP1o
神父さまはにこにこしてあたしにいったの。

――大切なのは、どう仕上げればいいかではなく、自分がどう仕上げたいかですよ――


「悔しいです……」
「?…」
「私も、もっと……もっと何か言えることがあったはずなのに……」
「…………」

「クリフト」
「…………」
「あなたが最初に「そんなことはありません」と言ってケーキを口に運んでくれた、その気持ちこそが大事なのです。
何事も経験です。姫さまを大切に思うその気持ちがあれば、話術など自然と身につくものですよ」
「……」

あたし……わたしがおかたづけをしてるあいだ神父さまとクリフトがなにかお話ししてた。
なにを話してたのか気になったけどおかたづけもひとりでやるっていっちゃったからすぐにそっちにはいけないの。
わたしはいそいでおかたづけをすませておせきにもどった。
神父さまとクリフトがねぎらいの言葉をかけてくれたけどあたしはさっきのことであたまがいっぱい。

「ねえねえ、さっきなんのお話をしていたの?」

神父さまはにこにこしてわたしを見たけどクリフトはすこしかたい顔してあたしを見てた。

「姫さまの笑顔はとても素敵ですねと話していたのですよ」
「えー?」
「姫さまは本当に素敵な笑顔をなさいます。思わずドキドキしてしまいますから」
「神父様…」
「えーそんなことないよ」
「鏡でご覧になったことはありませんか?」
「だってかがみを見るときは侍女がかみをとくときだもの。はやくおわってほしくってぶすっとしてるわ」

わたしはわざとぶすっとした顔をしてみせた。そしたらさっきまでかたい顔してたクリフトがすこしだけわらってくれたの。
神父さまもくすっとわらってあたしにいった。

――では姫さま、あなたのその素敵な笑顔、鏡を使わずしてお見せいたしましょう――

221従者:2016/05/24(火) 23:08:58 ID:fD0voP1o
無駄に伏線回収の好きな従者です。今回のPS版のセリフをなぞらないSSは
「クリフトがアリーナに恋をしたワケ」から始まり
「クリフトが高所恐怖症になったワケ」
「クリフトがアリーナの手作りケーキの味を知っているワケ」
「アリーナが私といったりあたしといったりするワケ」と、今後への伏線にまぎれて
「お城の神父がニブい神父と呼ばれるようになったワケ」が入りました。
最後にまた一つ伏線を入れていますが後ほど回収予定です。
今のところこれらは公式では詳細不明と記憶していますが判明次第修正いたします。
この度はご覧いただき本当にありがとうございました。

222従者:2016/05/24(火) 23:14:27 ID:fD0voP1o
>>202-203
さっそくの感想を本当に本当にありがとうございます!あの、あなたこそお疲れさまです。
過去を悔やんだところで変えられるわけではありませんしね……。お心遣い痛み入ります…。
こうしてまた投下のできるこのスレに、反応を下さるあなた方に、心から感謝です。

>>205
ちょwどちらさまw
ここに来て初めてのGJ……本当にありがとうございます!


かつて私がまだ従者と呼ばれる前、私を「原作沿いの人」と呼んでくれた方がいまして。
その響きがとても嬉しくてですね、なおのこと原作沿いをきわめたいと思ったんです。
なにぶん公式ではアリーナがクリフトの想いに気づいたとはっきりわかる描写がないため
この従者シリーズでも付かず離れずの二人を描き続けるわけですが
続き物のメリットは>>203さんもおっしゃるように一過性でなく徐々に関係を進展させられる点ですので
イベントをこなすごとに原作に支障のない範囲で関係が(主に密着度が)進展いたします。
前置きの長いSSもあり本当に申し訳ないのですが、長い目で見ていただけると救われます。
今後とも原作沿いの人をよろしくお願いいたします。

223名無しさん:2016/05/29(日) 00:32:46 ID:UIgMxrDI
>>221
Good Job!

パズルのピースをバラ売りするかのような発表スタイル
分冊百科のような期待感があります
完成に近づいていくたびに楽しみが膨らみそうです

初回で買ったら逃れられない
そんな分冊百科の魔力がこのスレを襲うとは・・・
無料で良かったです

224名無しさん:2016/05/30(月) 02:42:06 ID:85M36lTw
>>221
前編と後編が揃ったことで、今こそ乙と言うタイミングのようじゃな
謹んで乙という言葉をお贈りいたそう

不味いものを食べたときにそんな優しい言い回しがあるとは
それがにじみ出る人柄というものじゃな
そういう台詞の積み重ねによってじっくりと人柄を描き出すのですな
腰を据えた長距離走型のお方とお見受けしましたぞ

225名無しさん:2016/06/01(水) 00:54:17 ID:tbY6wrSU
やっぱアリーナ姫って料理が下手なイメージですよね。
姫が料理する機会なんてないだろうから当然ですけどね。

226名無しさん:2016/06/01(水) 08:10:40 ID:MU/9sIC2
>>225
イメージというか、クリフトが仲間会話で姫の手作りケーキがパデキア味(すごく不味い)だったと言うしね

227名無しさん:2016/06/02(木) 04:01:41 ID:CRh/iF32
逆に「これだけは下手じゃない」っていう料理があったりするのも、設定としては良いのかもね
以前にクリフトに教えてもらったとか

ぶっちゃけ、料理って味付けせずに炒めちゃえば、初心者でも大きな失敗にはならないよね
食べるときにお好みで調味料をかければいいんで
最初から完璧な料理をマネしようとするから収拾がつかなくなるんだと思う

228従者:2016/06/02(木) 09:00:39 ID:5h2uhey.
従者です。PS版のセリフをなぞったSSアリーナ視点、デスパレス編いきます。
今回クリフトのあやしげなセリフはないのですがクリアリを思いついたので書いてみました。
実際にセリフをなぞっているのは1/5のみです。マーニャ(ミネア)さん出てきます。
一部さらっとですが流血、残酷描写がありますのでご覧の際にはお気をつけください。
今はまだもどかしいクリアリですが少しでも楽しんでいただけたら嬉しく思います。

229従者の心主知らず デスパレス編 1/5:2016/06/02(木) 09:05:00 ID:5h2uhey.
「アリーナ、クリフト、あんたたちはそっちの牢屋をお願い!」
「わかったわ!クリフト!」
「はい!姫さま!」

「おお神よ!ほかの人はどうなってもかまいません!
なにとぞなにとぞわたしの命だけはお救いください。アーメン」
「神父さま…?」
「……」

私たちは今魔物たちの城デスパレスにいる。
地下の牢屋に捕まってる人たちを助けようと思ってクリフト、マーニャ、ミネアと回っていたの。
けどその先で見たのは床によこたわって命乞いをしていた神父さまの姿……
私は足が止まってしまった。

「神の教えのなんたるかをひとつも理解していないとは……」

クリフトがぽつりとつぶやく。

「まったくなんと情けない神父でしょう。おなじ教えを説く者として私は…っ」

クリフトは震えてた。クリフト…。
私はよこたわった神父さまをぼんやり見る。見て、思わずクリフトの服をつかんだの。

「待って、クリフト……。ちがう……ちがうよ……」
「姫さま…?」
「ちがう…」

――違和感――

どうして……
他の人たちはみんな連れてこられたばっかみたいにきれいな服を着て普通に動いてたのに、
この人の服はボロボロで、血まみれで、傷だらけで、うつろな目……

――この人はいつからここにいるの…?――

230従者の心主知らず デスパレス編 2/5:2016/06/02(木) 09:09:37 ID:5h2uhey.
「神父さま!」

私は思わず声をかけた。こっちに気づいてもらえるくらい大きな声で。

「あぁぁあああっ…!」
「神父さま?」
「わ、わたしはあなたを救えません…っ」

神父さまはおびえた目をしてあとずさった。救えませんって……

「もう、もう、救えません…っっ」
「神父さまっ」
「あ…っ」

私は神父さまの手を両手でぎゅってした。神父さま震えてる…。すっごく震えてる…っ

「大丈夫……助けに来たの……私があなたを助けに来たのよ。だからもう大丈夫……」
「…っ………」

「神、さま…?」
「私は神さまじゃないよ」
「女神さま!!」

神父さまも私の手を両手でぎゅってした。震えながらその手に顔を寄せる。まるでお祈りするみたいに。
私ももういちどやさしくぎゅって返した。

「うん、もう大丈夫だからね」
「っ……っ」
「姫さま…」

クリフトが後ろは引きうけますっていってくれて、私たちは無事うら口から脱出した。
日の光がまぶしい。今日はとってもいい天気!

231従者の心主知らず デスパレス編 3/5:2016/06/02(木) 09:14:11 ID:5h2uhey.
「女神さま、まだ……まだ牢に捕われた者がおります。男性が二人と女性が一人……。
魔物たちは今夜女性から先に食べようなどと言っているのです。どうか…どうか彼らを…っ」

神父さまは泣きそうなお顔をして私にお願いしてきた。ああ、ほら、やっぱり。やっぱり神父さまなのよ。

「大丈夫。私たちの仲間が助けに行ってるから大丈夫よ。もう大丈夫だから」

私は神父さまににっこり笑ってみせた。
神父さまはおどろいたお顔をしたけどぽろぽろと涙を流してその場にくずれおちたの。

「ああぁぁあ…っっ」
「うん、もう大丈夫だからね」
「姫さま……」

私は神父さまをそっと包んだ。
マーニャとミネアも他に捕まってる人たちを無事連れだせたようで作戦は大成功だった。
よかった……。


「姫さま……申し訳ありません……」
「ん?なに?クリフト」
「私はまだまだ修行が足りません…っ」
「クリフト…?」

捕まった人たちを無事おうちに送りとどけてひと安心!と思ったらクリフトがとても落ちこんでるように見えた。
なんで…。クリフトもいっしょにみんなを助けだしてくれたのに。

「どうしたの?どうして謝るの…?」
「…………」

顔を上げたクリフトはとても寂しそうだった。クリフト…?私はクリフトがなにかいってくれるまでじっと待つ。
そしたらしばらくしてやっとしゃべってくれた。クリフトはさっきの神父さまとすこしお話ししたんだって。

232従者の心主知らず デスパレス編 4/5:2016/06/02(木) 09:19:04 ID:5h2uhey.
神父さまも捕われた人たちを助けだそうとした。でも力が足りなかった。助けられなかった。救えなかった…。
目の前でたくさんの人たちが自分に助けを求めながら死んでいく。死んだ後も恨めしそうにずっとこっちを見てて……
魔物たちはおもしろがって神父を食べるのは最後、なまいきな態度がなくなったらにしたんだって。
何人も何人も次から次へと捕われて死んでいく。無力な自分、募る罪悪感、待ちうける罰、絶望、恐怖、孤独……
逃避。
神父さまがあんなふうになってしまったのはそんないきさつがあったからなんだって。クリフトは静かにお話ししていった。

「私は、あの方の事情を知ろうともせず一方的に批判してしまいました……あまりに情けないことです……っ。
せめて私は、何を失っても変わらない自分でいられるよう、いつでも神の教えを説ける自分でいられるよう」
「……」
「いられるよう、強く……強く…」

いいながらクリフトはゆっくりと私を見た。

――たとえあなたを、……としても……――

クリフト…?
クリフトがとても思いつめた顔してるように見えるの。どうして……

――あなたは今なにを思っているの…?――

「大丈夫よ」

けど私は迷わずすぐ返事ができたの。だって

「だってクリフトは強いもの」
「……」
「失うことも取りみだすこともないわ」
「姫さま…」

あれ。私さらっとなにいってるのかしら。でもクリフトが強くなったのはほんとのことだし。そうよ、ほんとのことよ。
私はクリフトににっこり笑ってみせた。そしたらクリフトはびっくりしたみたいだけどふと下を向いちゃったの。あれ?

「ひ、姫さま…」
「うん」
「その……」
「う、うん」
「………………」

233従者の心主知らず デスパレス編 5/5:2016/06/02(木) 09:25:05 ID:5h2uhey.
あ、クリフト笑った?クリフトはそのままゆっくり頭を下げていったの。

――あまりに、もったいないお言葉です…――

もういちど私を見たクリフトはやっぱり笑ってた。
その笑顔がなんだかまぶしく見えて、私は思わずクリフトから目をそらしちゃった。なんだか顔が熱いの。なんで?
そしたらクリフトも私から目をそらしたみたいなの。なんだかもじもじしてるようなかんじ。それもなんで?
ふたりして下を見てる。
……なんなのこの状況。なんか……なんかへんなの。

「ほらほらそこふたり、なーに青春してるのよ」
「あ、マーニャ。ミネアも」
「マーニャさんっ」
「野次馬してあげてもいいんだけど今はちょっと状況が状況だからねえ、一段落した後にしてくれない?」
「姉さん、そんな言い方……」
「も、申し訳ありません!」
「え?」

なんかマーニャとミネアとクリフトがわかりあったみたいにお話ししてるのに私は話の展開がはやすぎてよくわからなかった。
クリフトが私に向きなおる。

「姫さま、今は一刻を争う時です。ソロさんたちはまだ城を調べているでしょうから急いで合流しましょう」
「あ、そっか。わかったわ!」

私たちはマーニャのルーラでふたたびデスパレスへ。
なんだか悔しいな。さっきさんにんが話してたのはつまりそういうことだったのよね。クリフトにいわれるまでわからなかった。
くやしいな……。
でも今はそれどころじゃないわよね。はやくソロたちと合流しなくっちゃ。
このもやもやはみーんな魔物たちにぶつけることにするわ。

私たちは入り口でソロたちと合流した。
今日は2階で会議があるんですって。牢屋のことはまだ気づかれてないみたい。
とりあえずまた変化の杖で魔物の姿になってその会議にこっそり出てみようってことになった。
私はもういちど名乗りでる。そしたらクリフトもいっしょに行くっていってくれてソロもいいぜ、頼むっていってくれた。
さあ、今度こそデスパレスの中へ!

234従者:2016/06/02(木) 09:29:16 ID:5h2uhey.
>>223
Good Jobありがとうございます!なんだか大げさですよぅ
思いつきで状況が変わることもあるのでいつかどこかで破綻しそうです;
もしおかしな展開がありましたら何とぞ何とぞ教えてくだしあ

>>224
なんという見事な乙。謹んでお受けいたします。ありがとうございます。
私自身が台詞や人柄、言い回しの勉強中でして。。
投下の流れ的にも長距離走になりそうです、今しばらくお世話になります。

料理の話の続きですがクリフトの仲間会話とはこちらですね。

クリフト「パデキアの味ですか?
  そうですねえ たとえるなら
  姫さま手作りのケーキのような……
クリフト「い いえそのっ
  別に まずいとか 苦いとか
  そういうつもりでは!!

まずいとか苦いとかそういうつもりではないのならどういうつもりで言ったのか。
実は意味深な言葉でもあるのかと思うと本当にいろいろな背景が浮かびそうです。

235名無しさん:2016/06/03(金) 02:46:29 ID:45P5YSG6
人の心を中心に描き、人を浮き彫りにしていく。
だからクリアリ成分にも深みが出てくるのでしょう。
ただの萌えネタに留まらない本格派のクリアリ。
いやはや乙です。

236名無しさん:2016/06/04(土) 04:32:00 ID:i97sPjrI
「おお神よ!ほかの人はどうなってもかまいません!」って、そこに至るまでの経緯は垣間見えて
それなりに深い台詞なんですけど、それだけを見るととんでもない台詞ではあるので
ファミコン版で気に留めなかった人も多かったんだろうなと思います
説明過多にならずに考えさせる余地を残しているのが良さではあるんですけどね

>>229-233
God Job!
牢屋から出た人々が神の祝福を得て、あの島から脱出できますように
脱獄しても、城内より城外の敵の方が強いから絶望しかない島なんですよね

237従者:2016/06/04(土) 12:38:09 ID:QS3H3Q5k
従者です。さっそくすみません。
前回のデスパレス編、6章では牢に捕われていた人たちが反対に牢の番をしていたんでしたね。
さっそく設定破綻しました;(せっかくのリメイク版なので6章ルートで進めたいと考えていまして)
また同じ人が捕まったのでは切ないので6章では同グラフィックの別人が牢の番をしたとしといてください;
それと微々たる訂正ですがクリフトのセリフ
「まったくなんと情けない神父でしょう。おなじ教えを説く者として私は…っ」

「まったくなんと情けない神父でしょう。同じ聖職者として私は…っ」
にて脳内補完をお願いします。同じ言い回しがガーデンブルグにあったものでできる限り取り入れたく……
後から訂正箇所が見つかったときの落胆半端ないです。いつも申し訳ないです;

>>235
本格派……まぢですか!乙ありがとうございます。

>>236
God Job!て、うまいですね。そんなあなたがGod Job!です。

あ、あ、SS内では一応マーニャのルーラで脱出したとしています。わかりにくくてすみません;
絶望しかない島……確かに。
もともと商人が脱獄?していましたがそこかしこに移民がうろうろする世界観ですし(どうやってそこまで行ったのかと)
外の敵との関係ってゲーム内ではどうなってるんでしょうね。
ドラクエのそういういい加減なところが残念なようで気が楽でもあって実はけっこう好きです。

238従者:2016/06/04(土) 12:45:05 ID:QS3H3Q5k
PS版のセリフをなぞったSSアリーナ視点、ロザリーヒル編「男」21シーク分投下します。
ピサロナイト「アドン」存命ルートで>>137-152の続きのようなものです。(理由詳細は>>153にあります)
クリアリパートは12/21以降です。それ以前には流血描写がありますのでご覧の際にはお気をつけください。
その節はクリアリ要素のない前置きパートを置き逃げしてしまい大変失礼しました;
今後ピサロナイト関連にはクリアリパートがありますのでどうかお付き合いいただけると嬉しいです。

239従者の心主知らず 男 1/21:2016/06/04(土) 12:49:21 ID:QS3H3Q5k
――詳しいことはわしが聞いておく。お前たちは早く塔へ!――

私たちは今ロザリーヒルに戻ってきてる。デスピサロたちの話が気になって。
エルフのロザリーがどうのこうのって言ってたの。もしかしたらロザリーの身になにかあったんじゃ……。
ブライがよろず屋のおじいさんから話を聞いてくれるっていうから私たちは塔に走った。

「ねえ、ねえあれ、コンドルじゃない!?」

塔に近づいてきたら外れに青い生きものがよこたわってたの。あれはきっとコンドル…!

「もしやけがを……。早く治療をしなければ」

クリフトも気づいたみたいでいっしょに走ってくれた。

「コンドル大丈夫!?」
「……ギャア!」
「きゃっ」
「姫さま!」

コンドルはくちばしで私を振りはらった。でも私は気にせずコンドルをぎゅってする。

「大丈夫よコンドル!私たちは敵じゃないの!」
「ギァアアッ!!」
「お願いだから言うこと聞いてっ…」

コンドルはさわいで私から離れようとする。私はいっしょうけんめいコンドルをぎゅってした。

「クリフト!」
「姫さま!どうかそのままで!」
「うん!」

クリフトはもう準備してくれてたみたいですぐベホイミをかけてくれた。さわいでたコンドルがすこしだけ静かになる。
ケガを治したことで敵じゃないってわかってくれたのかな、やっと落ちついたみたい。ちからが抜けたのがわかった。

「キイキイ…」
「あ、こら」

コンドルは私の腕をなめた。よく見ると血がにじんでる。私、いつの間にかすりむいちゃってたみたい。

240従者の心主知らず 男 2/21:2016/06/04(土) 12:54:20 ID:QS3H3Q5k
「もう大丈夫だからね」
「キイ…」
「姫さま」

クリフトが手をかざしてた。手当てしますの合図。さっそく私にホイミしてくれた。腕がほわっとあったかくなる。

「ありがとう、クリフト」
「……いえ」

クリフトは下を向いて返事した。そのまま塔のほうを見る。

「……急いだほうがよさそうですね」

またこっちを向いたクリフトはすっごく真剣な顔してた。

「コンドルも連れていきましょう。ここに置いていくのは危険です」
「うん。私が連れてく」
「姫さま」
「私が連れてきたいの。コンドルおいで」
「キイッ」

コンドルを抱えようとしたらコンドルのほうがこっちに寄ってきた。私の前まで来ておしりをついて座る。
もしかして、私の言ったことわかったのかな。

「クリフト、アリーナ」

ソロがこっちに走ってきた。あれ、さっきまでどこにいたの?

「もう一匹のコンドルは近くにいなかった。もしかしたらまだ塔にいるかもしれない」

あ、もう一匹のコンドルをさがしてくれてたんだ。ソロもすこしだけ塔を見たあとすっごく真剣な顔して私たちを見た。

「……ふたりとも……覚悟、しとけよ……」

低い声でいうソロ。覚悟…?

「キィ…」
「ん…」

241従者の心主知らず 男 3/21:2016/06/04(土) 12:59:36 ID:QS3H3Q5k
コンドルが私に頬ずりした。まるで大丈夫だよって言ってくれてるような気がした。


重い足どりで階段を上がる。ソロもクリフトも何も言わなかった。私もだまったままただ奥へと進んだ。

「…ねえ、声が聞こえない?」

階段の向こうでだれかの話し声が聞こえた気がするの。

「お願いだよお…」

やっぱりだれかしゃべってる。この声は……

「ねえあれ、スライムの声じゃない?」
「ぷるぷるっ!お願いだよお。薬湯だけでも飲んでよお。死んじゃうよお…」
「スライム!いるのか!?」

階段を上がって廊下を見わたす。ずっと先、部屋の前の片すみにスライムとアドンの姿が見えた気がした。
無事……なの……?

「あっソロ!」

スライムは私たちに気づいてこっちにとんできた。私たちも急いで駆けつける。

「ぷるぷるっ!ロザリーちゃんが欲深い人間につかまっちゃったよお!
ロザリーちゃんのルビーの涙は人間たちにはさわることもできないってのに……」
「お前……よく無事で……っ」

ソロがひざをついてスライムをそっとなでた。スライムの目がじわって涙ぐんだように見えた。

「うん……ロザリーちゃんが守ってくれたんだ……」
「ロザリーが…」
「うん…」

――あなたたちの目当ては私でしょう!――
――これ以上彼らを傷つけることは許しません!!――
――連れていくなら早く連れていきなさい!!――

「…………」
「ぷるぷるっ!ぼくがんばったんだけど…っ」

242従者の心主知らず 男 4/21:2016/06/04(土) 13:04:24 ID:QS3H3Q5k
今にも泣きだしそうなスライムに私は思わず声をかけた。

「ええ、あなたはよくがんばってくれたわ。見なくてもわかるもの」
「うぅ…」
「お前、けがは?…大丈夫か?」
「うん、ちょっとぶつかっただけだから大丈夫。
ぼくよりもアドンのほうが心配だよ!ぼくをかばって……血が止まらないんだ……っ」
「アドン!!」

スライムが言い終わるか終わらないかのうちにソロはアドンのほうに走ってた。

「念のため治療しますよ」
「うん……ありがとう……」

クリフトもすぐスライムの手当てを始めてくれた。ふたりとも、すごくてきぱき動いてる……。
私はどうすれば……私もアドンのほうに走った。

アドンは壁に寄りかかってうつむいてた。手当てした姿のまんま。武装する時間が、なかったんだ……。
剣だけがすこし向こうに転がってる。布切れやグラスも……。
胸からおなかにかけて巻いた包帯は血まみれだった。おなかには黒い布が巻きつけてある。
ソロがもういちど名前を呼んでゆっくり近づいた。アドンは機械みたいにすっごくゆっくりこっちを向く。
血にまみれた顔。こっちを見てるのに見てないみたいなうつろな目……。床にも壁にも血がついてて……
近づけば近づくほど血のあとがはっきりしてくる。からだをひきずってここまで来たことがわかる血のあと……
私は背筋がぞっとした。
こっちを向いたんだから生きてるはずなのに、私はもうアドンが死んでるんじゃないかって思った。

「ニン、ゲン…」

でも私たちに気づいたら立ち上がろうとして……ふらついてひざをついた。

「何やってんだよ。…大丈夫か?…俺が、わかるか…?」
「……ソロ…っ」

抱きおこそうとする手を振りはらってアドンはソロにつかみかかった。血がぱたたっと飛びちる。

「アドンやめてっ」
「ぷるぷるっ!この人たちは悪い人たちじゃないよ!」
「キイキイッ!」

私と後ろに来てたスライムと抱えてたコンドルがいっせいに叫んだ。

243従者の心主知らず 男 5/21:2016/06/04(土) 13:09:13 ID:QS3H3Q5k
「ぐっ……っ…」
「っ…………」

アドンの顔がくずれてく。苦しそうな顔……。ソロも泣きそうな顔してて……

「………っ…」
「…………」

ソロをつかんでた手がゆっくり離れる。そのまま手はちからなく下に落ちた。
壁にどさっと背をあずけアドンはまたうつむく。ソロもだまったまま立ちつくしてた。

「…………」
「…………」
「…………」
「……すまなかった……」

ソロがぽつりとつぶやいた。ソロ…。

「……問答無用と斬りかかったのは俺だ。そして敗れた。お前たちに罪はない……」

アドンはうつむいたままちからなく答える。

「だが、戦いに来たんじゃないって言っときながら応戦したのは俺だ。お前が悪いわけでもない。
お前と最初に剣を交えたとき、それでも戦いに来たんじゃないって言ってたら、お前だって少しは考えただろ?」
「…………」
「それに、やっぱり誰か代わりの護衛を置いていくべきだったんだ。すまない…っ」
「………………」

アドンはゆっくり顔をあげてソロをぼんやりと見つめた。それから私を見る。私はドキッとした。

「キイキイッ」
「お前たちが、コンドルを……」

あ、コンドルを見たのね。

「……無事でよかったわ」

私はいっしょうけんめい笑顔で答える。アドンはすこしだけ泣きそうな顔したように見えた。

244従者の心主知らず 男 6/21:2016/06/04(土) 13:14:19 ID:QS3H3Q5k
「……とにかく、手当てすんぞ」
「いらん」
「ふざけんなっ」

ソロが荷物から布や消毒液、薬草を取りだしてアドンの手当てを始めた。
クリフトもスライムといっしょに奥のお部屋から水をくんできたり救急道具を集めてきたりする。
よかった……これで助かるんだ……。

「キィッ」
「ん」

コンドルが私に頬ずりした。まるで大丈夫だったでしょって言われてる気がして私はなんでか笑っちゃった。
本当によかった……。
応急処置がすんだところでコンドルがアドンに向かってキイキイ鳴きはじめた。そういえばもう一匹のコンドルは……

「キイ、キイキイ…」
「……」
「キイ…」
「そうか、見失ったか…」
「キィ…」
「アドン、お前…」
「ギァァアアアアッ…!!」

いきなりコンドルが大きな声を出した。え?あれ?ちがう。アドンは上を向いてる。ソロも。

「ギァアアア…!!!」

声は天井から聞こえてくる。別のコンドルが鳴いてたんだ。もう一匹のコンドル?
ふと口笛のような音も聞こえた。前にも聞いたことあるような音。あっと思ってアドンを見たら指をくわえてた。
指を離したら口笛もやむ。この口笛はやっぱりアドンが吹いてたのね。

「ギァアアッ!!」

バサバサと大きく羽ばたく音がしてコンドルが天窓から下りてきた。そのまま床へ墜落、いきおいで壁に激突。

「ちょ、ちょっと…」
「どうした。なぜ飛んできた?ピサロ様は…」
「キイ!キイキイキキイッ…!!」
「…………」

245従者の心主知らず 男 7/21:2016/06/04(土) 13:19:18 ID:QS3H3Q5k
コンドルは倒れたままいっしょうけんめいキイキイ鳴く。アドンもそれにこたえるみたいにコンドルを真剣に見てる。
クリフトがけがしていますって言って手当てを始めてくれた。私も思わずちからが入って抱えてるコンドルをぎゅってしちゃった。

「キイ、キイ、キイキイ…」
「ミニデーモンが?アームライオンやライノソルジャーではなくか?」
「キィ…」
「………………」

アドンは難しそうな顔してしばらくだまってた。アドンてコンドルの言葉がわかるのかしら。クリフトはずっとささやき続けてる。

「コンドル」
「「キイッ!」」
「わっ」
「きゃっ」

手当てをしてるクリフトを翼で押しのけてコンドルはアドンの前までからだをひきずって床にべたーってなった。
私が抱えてたコンドルもおんなじようにアドンの前に下りて床にふせる。
アドンは立ち上がってコンドルに近づいた。でも足もとがふらついて私が抱えてたほうのコンドルに倒れこんだ。

「キイッ」
「お前、どこ行くんだよ」

ソロがアドンの肩をささえる。でもアドンは答えない。なおもコンドルに足をかける。乗るつもりなんだ。

「お前、今の自分の状況がわかってるか?」
「…………」
「腹の傷が開いちまってんだぞ!!」

私ははっとした。止血のつもりかおなかに強引に巻きつけてあった黒い布。
ソロが手当てをするとき外してて、そのときはあんまり気にしなかったけど、今あらためて見たらぐしょぐしょに濡れてた。
床にまで黒っぽい液体がしみだしてて……もしかして、これもみんな、血なの……?
私は全身がぞくっとした。アドン…!アドンもすこしだけ自分のおなかを見たけどまたコンドルに向きなおる。

「関係ない」
「お前…!」
「アドン…っ」
「死ぬつもりか…?」
「俺が死ぬことであの方を守れるのなら、いつでもこの命…」
「ばかやろう!!」

246従者の心主知らず 男 8/21:2016/06/04(土) 13:24:37 ID:QS3H3Q5k
ソロはアドンをコンドルから引きはなした。今度はソロがアドンにつかみかかる。

「死ぬことは守ることじゃねえぞっ!!!」

ソロが大声で叫んだ。アドンはおどろいてソロを見る。

「そんなつもりで守ってほしいんじゃねえ…っ!!」
「………………」

ソロ…。

「本気で守り抜くつもりなら…っ」
「…………」
「生きて…っ」
「…………」
「ソロ…っ」
「生きて……一緒に……っ」
「………………」
「…………」
「っ……っ…」

そこから言葉が続かない。ソロはアドンの肩にゆっくり顔をしずめた。まるで隠すみたいに……。アドンもずっとだまってる。
ソロ……泣いてるの……?ソロ……っ

――村のみんなのこと、考えてたの…っ?――

ソロはアドンをゆっくり床に座らせた。アドンはもう自分をささえるちからもないみたいでソロに寄りかかる。
ふたりともしばらく目を合わせないでだまってた。苦しいのかな、アドンの息がやけに乱れてる。ソロもすこし…。

「…………」
「…………」
「…………」
「……お前、コンドルの言葉がわかるんだろ?」
「………………」

「……だったら、なんだ」
「教えてくれ」
「…?」
「ロザリーをさらったやつらはどこへ行ったのか」

247従者の心主知らず 男 9/21:2016/06/04(土) 13:29:10 ID:QS3H3Q5k
アドンがおどろいたようにソロを見た。

「……なぜ…?」
「助けに行くから」
「………………」

――俺たちが助けに行くから……――

アドンはもっとおどろいた顔をした。

「なぜ…」
「なぜって」
「お前たちに、何の関係が…?」
「……んなこと当たり前だろ。いちいち聞くんじゃねえよ」

私はすぐ思いつく言葉があってアドンに言った。

「ロザリーは、私たちのお友だちなの。お友だちの危機には駆けつけるのが当たり前でしょ?」
「…………」
「アリーナお前、いいこと言うな」
「え、そう?」

こっちを向いたソロはもう普通の顔してた。すこしだけほっとした。でもアドンはまだびっくりしてる。

「とも…だち…?」
「そう!」
「………………」
「頼む。教えてくれ」
「どうか、お願いします」

クリフトも話に加わった。あれ、さっきまでどこにいたの?思わずコンドルを見たらもうからだをひきずってなくてこっちを見てた。
もしかして、ずっとコンドルの手当てをしてくれてたの…?クリフトは今はまっすぐアドンを見てる。
クリフト…。
クリフトって、いつもてきぱきしててすごいな……。助けられてばっかり。なんだかくやしいな……。私もしっかりしなくっちゃ。
私もアドンに向きなおった。

「………………」

アドンはまだびっくりしてこっちを見てたけど、視線をゆっくり下に落とした。
しばらく床をぼんやり見てたけど、ひとりごとのようにつぶやいたの。

248従者の心主知らず 男 10/21:2016/06/04(土) 13:34:23 ID:QS3H3Q5k
「……ここより北西」

「さらったのは三人。
青いフルプレートの戦士と腰巻に鉄火面をつけた武闘家、白いシャツに赤いバンダナを巻いた盗賊、こいつは確実に人間だった」
「青いフルプレート……恐らくこの村でかぎ回っていたあの戦士ですね……」

クリフトが手をぎゅってした。クリフト…。

「キメラの翼で砂漠と山脈を越えた先まではコンドルが目撃している。
軌道から追えばバトランド地方だが、あるいはブランカか、ボンモール地方北部か……それ以上はわからない」
「それだけわかればじゅうぶんだ」

さがしに行こう。私たちの意見がひとつになった。


クリフトが飛んできたほうのコンドルを奥へ連れてく。私もさっき抱えてたコンドルをもういちど抱えてクリフトの後に続いた。

「申し訳ありません、姫さま」
「ううん、いいのよクリフト」
「姫さま…」

そういえば前もこんな会話をしたの覚えてる。あのときはコンドルを休ませることにいっしょうけんめいで返事しかできなかったけど。
でも、今はなんだか胸を張ってコンドルを抱えていられるの。もしかしたら、私もあれからすこしはクリフトみたいにやさしくなれたのかな。

「あなたたちも無理しないでね…」

コンドルたちを敷布に寝かせると二匹ともくるりとうずくまる。大きなからだなのに今はなんだか小さく見えた。

「お前も部屋で休んでろ。血流しすぎだ」

私はアドンを見た。
アドン……口調も変わらないし平気そうにしてるけど、ほんとうはアドンがいちばんひどいケガしてたのね……。
でも肩を貸そうとするソロの手をアドンははらった。

「俺はいい」
「いいわけないだろう」

ソロがアドンを抱き上げてこっちに来る。

249名無しさん:2016/06/04(土) 13:38:08 ID:kEILwRP6
ネタばれはまだ控えますがヒーローズ2でもクリアリ的に美味しい会話や設定などが出てくるのでおすすめですよ!

250従者の心主知らず 男 11/21:2016/06/04(土) 13:39:12 ID:QS3H3Q5k
「腹の傷は治すのに時間かかるし後にもひびくから厄介なんだ」
「待て、頼む。ダメだ!そこはダメだ…っ」
「何が」

アドンはソロの首に腕を回してしがみついてる。下ろされたくないみたい。

「そこは……その……」
「?」
「ロザリー様の、寝台だから…………その……」
「…………」

私は話の内容がよくわからなくてふたりをじっと見てた。心なしかアドンの顔が赤いような気がするの。なんでだろう。

「知るかそんなこと」
「あっ…」

ソロはアドンをベッドに寝かせておふとんをととのえた。

「ロザリーがここに寝かすように言ってくれたんだ」
「ロザリー様が…?いや、だがっしかしっ」

起きようとするアドンをソロが手で押さえる。

「必ず連れて帰る……」
「………………」

「頼む…」

ソロがアドンのおなかに手を当ててもう一度かけるぞって言って何かささやいた。アドンは腕で顔を隠す。向こうを向いてすこしだけうめいた。
ソロはまだささやいてる。聞こえてきたのはべホイミ。……そっか。ソロも魔法が使えるんだもんね。魔法ってすごいな。魔法っていいな。

「……っ」
「?」

泣いてる…?手で顔を隠してるから見えないけど、アドン、泣いてるんだ……。
ロザリーを守れなかったから……?

251従者の心主知らず 男 12/21:2016/06/04(土) 13:45:03 ID:QS3H3Q5k
「絶対に連れて帰るからな…」
「…………」
「だからお前も、体あっためて安静にしとけよ。少し落ち着いたら薬湯飲め。せっかくスライムが用意したんだ。
いざ帰ってきたら死んでましたとか許さねえからな」
「………………」

アドンは腕で顔を隠したまま無言でうなずいた。


手当ても終わって出かける準備もととのって、お部屋を出るとき私はふと思い立って。
すぐ下りてくから先に行ってるようクリフトにお願いして私はアドンに声をかけたの。

「ねえ、アドン…」

アドンがびっくりしてこっちを見た。

「あ、ごめん。私アリーナっていうの。よろしく」

そうだ、私も謝らなきゃ……。

「あの、ごめんなさい……。最初に会ったときコンドルにケガさせたの私なの。
ごめんなさい……」
「…………」

私はコンドルたちにもごめんなさいって頭を下げた。コンドルたちはだまってこっちを見てる。
さっき私が抱えてたほうがすこしだけキイキイって鳴いた。なんて言ったのかな。わかんないや。

「なぜ……」
「え…?」

――なぜ、お前たちは……――

アドン…?
アドンはゆっくり天井を向いた。


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