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タブンネ刑務所14

1名無しさん:2017/05/06(土) 00:36:57 ID:v4JFFnrY0
ここはタブンネさんをいじめたり殺したりするスレです
ルールを守って楽しくタブンネをいじめましょう。

342カンムリ雪原のタブンネ 三つまたヶ原編:2021/01/18(月) 18:37:28 ID:nYTuWa.60
カンムリ雪原の投稿遅れてゴメンネ
今月末には投稿できそう
一つ相談なんだけどサザンドラの鳴き声って文字にしたらどんな感じになるんだろう

>>341
乙ンネ
やっぱり追い立てられて食べられるタブンネさんはいいね
タブンネさんの悲鳴からしか摂取できない特別な栄養素ってあると思う

343名無しさん:2021/01/18(月) 19:11:50 ID:YAKJbo020
>>342

後編期待してますぞ。

正直
「サッザーンドラー」以外の音に聞こえた事ないです

344ガラルタブンネ牧場:2021/01/20(水) 15:56:39 ID:ueEbvqjc0

 そんな経緯を経て、このカンムリ雪原に根を下ろしたガラルタブンネ牧場。今では飼育員、(完全にタブンネの餌用と化した)木の実栽培の担当者、常駐される医師やトリマー、事務員などを含め、従業員200以上、事業発足当初の予定を大幅に上回る官民連携の一大産業として、今日もまた沢山のタブンネが産まれては連れ去られ、この僻地に利益がもたらされていく。

 現在の牧場の様子を少し覗いてみる。屋舎から少し距離を隔てたその敷地は拡充を重ね、今や10haにまで届くだろうか。
 ある広場では人間の投げたポケボールを嬉しそうに追いかけるチビンネ兄弟。
 広場に設置された人間の子供も遊べそうなほど立派な遊具で戯れる子タブンネ達。その末端の滑り台をチィチィ楽しそうに滑り降りるチビ。その先で待ち構えた人間が乱れた毛並みをブラシで整えてやり、傍らで見つめるママンネも幸せそうな笑顔。
 別の広場ではではサッカーのミニゴールの様な物が設置されたコートに人タブ入り乱れ、小さなゴムボールを蹴った子タブのシュートがころころと転がりゴールに吸い込まれると、ミィー!と嬉しそうな雄叫びと共に万歳の様な姿勢を見せ、人間や親タブらしき個体が笑顔でその子の頭を撫でている。
 随所に植えられた木の一つに凭れては、
ミヒー...。チビィー...。気持ちよさそうに寝息を立てる親子ンネ。野生時だったら日向ぼっこすら頃合いを見計らい、親は常に耳をそば立る命懸けの行為だっただろう。巣から離れ無防備に昼寝をする姿は平和の象徴そのものだ。
 ある巣では人間がチビンネを3匹回収している。親も子も目に涙を浮かべるが、我が子や自身の幸せな未来を想像しているのであろう、その顔は寂しそうながら屈託のない笑顔だ。
 朝昼晩には人間の運んで来る新鮮で美味しい木の実をおなか一杯に食べ、おやつの時間にはほっぺたが落ちそうな程甘いきのみジュースを味わう。夜になれば各巣で家族身を寄せ合って幸せな眠りにつく・・・

345ガラルタブンネ牧場:2021/01/20(水) 16:01:03 ID:ueEbvqjc0

 優しい飼育員やタブンネ達の笑顔や笑い声の絶えない牧場。しかし細かくその姿を観察すると、親個体を中心に野生での、辛い過去が随所に垣間見える。
 あるタブは原型こそ留めているが片目の焦点があっておらず、完全に光を失っている。或いは隻腕の者、歴戦の古豪の如く背中一面に痛々しい切り傷を負う者、またあるタブは脚の骨が完全に変形し、真っ直ぐ歩くことができない者...。

 ある巣穴に甲斐甲斐しく2つの卵を暖めているつがいが居る。旦那の方は片耳が完全に切れており、もう片耳は半分だけ残り、そこから伸びる触角は干からびたミミズのように巻かずに垂れていて、もう感覚器官として機能していないだろう。半ダルマンネの様な姿だ。雌の方はホイップクリームの尻尾が完全に落ち去り、臀部は火傷跡の様に爛れ変色した地肌を晒している。
 いずれも野生時に捕食種に襲われた際負った傷で、重要な異性へのアピールポイントを失ったショックから半ば結婚も諦め、それぞれ単体で巣食って過ごしていたのだが、ある日偶然にこの場を見つけ辿り着き、ここで出会った2匹は互いの良く似た心と身体の傷跡からすぐに意気投合し、やがて寝床を共にし待望の産卵を迎えたのだ。
「ママ、卵の様子はどうミィ?もうすぐベビちゃんと会えるミィ?」
 最低限の音しか聞けなくなった雄の方が最愛の妻に尋ねる。
「慌てないでミィ。まだ産まれて2日目なんだミィから。命の音はしっかり聞こえて来るミィ。産まれてくるベビちゃん達には私達みたいな苦労はさせたくないミィ。愛情たっぷり育てるミィよ!パパ!」
タブ1倍の苦労も一入、我が子と向き合うときの喜びやきっと想像以上だろう。

346ガラルタブンネ牧場:2021/01/20(水) 16:03:56 ID:ueEbvqjc0

 「ミィーー!ミッミッ!」
 ところ変わってあるバリケード付近、敷地の外をさしながら、必死に何かを人間に訴えるタブンネ親子が居る。

ガシャガシャ... 「ミィ...、ミビィ...。」
敷地の外側から、酷く汚れて痩せ細った1匹のタブンネが金網にしがみつき、弱った鳴き声をあげている。

「大変だ!凄く弱ってるじゃないか!」
 すぐに飼育員数名が現場に駆けつけ、タブンネを保護すると医務室へと運び、治療を施し一通り回復すると、農場を案内してやる。      
逃げ出すような態度を示すならば解放してやるのだが、今までそのような素振りを見せた個体は1匹も居ない。この保護ンネも第一発見タブとなった親子を見つけると、ミィミィ嬉しそうに語りかけ、すっかり打ち解けたようである。
 早速また新たな巣穴をセッティングし新たな商品候補、または商品増産器候補が牧場の仲間入りする。
 
 今回同様に野生のマニューラやタチフサグマがここを見つけ、中に居る獲物を威嚇したり脅かしたりすることもあるのだが、相当頑丈な金網に参っては踵を返していく。賢い個体ほど無駄な再来も無い。
 ここに来て間もないタブ程そういった襲来を騒ぎ立てるが、古参タブになってくると段々意に介さなくなる。自分達を守るバリケードの優秀さを理解し出すのだ。

347ガラルタブンネ牧場:2021/01/20(水) 16:07:22 ID:ueEbvqjc0

 新参タブンネの馴染んだ様子に胸を撫で下ろす飼育員達。ここの従業員は皆打算的な意思でタブンネを見ていない。黎明期より働く者達は当初「生き餌用」という飼育に抵抗があったが、今では割り切って、より愛情深くその仕事にあたっている。元は駆除の可能性もあったここのタブンネ達。ただ人間都合で殺処分されるより、命の役目があるだけ幾分かマシである。せめてここに暮す間だけでも幸せに、というのが大方の思いのようだ。


 今この時を生きる全てのポケモン達は、トレーナー飼いの者は皆日々激しいバトルに繰り出されるかその鍛錬に明け暮れ、そうでなくともポケジョブと称し人間の仕事に貢献する。また野生の者は常に生きるか死ぬかの過酷な環境を過ごしている。
 対してここのタブンネ達は食糧も住処も安泰、果ては糞尿の始末すら人間に任せっきりの状態で、何ら生産性も無い、側から見れば怠惰そのものに写るかもしれない。
 しかし彼らもまた元は野生の底辺で泥水を啜り続け、やっと手にした安住の生活。しかも地方が変われば彼らの同族は経験値狩りと称される理不尽な暴力に見舞われ、または謂れの無い虐待の限りを尽くされ非情な最期を迎える個体も多く存在するのだ。
 

 ここでも生き餌として連れ去られ、予想もしない死を迎える個体も多く居る反面、歴史が進めば最後まで売れ残っては、ここで家族や沢山の仲間、優しい人間達に見送られながら、幸せにタブ生の最期を迎える個体も今後多く現れるだろう。
 世界にたった一カ所でも、そんなタブンネ達の理想郷が存在したってきっと神もお許しになるだろう・・・

 
 はずは無いのだ...!

348名無しさん:2021/01/20(水) 23:55:59 ID:IrG1Djr.0
神「もちろん許さぬ!」

ですよねーw

349名無しさん:2021/01/22(金) 08:09:30 ID:gUVh/xWU0
発見タブとかタブ一倍って表現、良いですね。
最後の手のひら返しも最高!売れ残りのタブたちはどんな目に遭うのかな〜

350ガラルタブンネ牧場_殱滅編:2021/01/22(金) 19:11:35 ID:Trqk4oRs0

 破滅は唐突に訪れる。

 ある日の夕方、農場では木の実栽培の作業も終わり、そのお手伝いをしていた数匹のタブンネ達も自分の住処へと戻っていた。また牧場内でタブンネの世話をしていた飼育員達も徐々に屋舎へと戻って行き、退勤の準備を始め夜勤の者に引き継ぎの準備をしていた頃であった。

〜♪♪♪
受付の電話が鳴る。
「はい、こちら雪原タブンネ牧j....」
「こちらマックスダイ巣穴研究所です!緊急事態なんです!施設内で時空乱入が起きて何かでっかいの...!とにかく、とにかく避難して下さい!未確認の巨大生物が出てきて、森を焼きながらそちらに向かってます!にげて」ブツッ

 電話が一方的に切られると、事務員は血の気の引いた顔をする。明らかにパニックを起こし要領を得ない電話だったが、その様子からイタズラ電話の類いではないこと、何か不吉を孕む危機が迫っていることを伝えるに十分な電話だった。

 「どうしたの?イタ電?」横に座る事務員が小声で話し掛けると、電話を受けた者は受話器を投げ出し、ガバッと立ち上がると、
「マックスダイ巣穴研究所から緊急連絡です!みんなここから出ないで!窓もドアも閉めれるだけ閉めて!ヤバい生き物がここに向かってるみたいです!」

「ヤバい生き物?」
「なんちゃら研究所って?」
「あの駅の近くの洞穴で科学者みたいな連中が何か怪しげな研究してたとこじゃない?」

 困惑する周りの従業員達だったが、その剣幕や顔つきから、ひとまず指示に従い各戸締りを確認していくと、外の異変に気付いた者からその危機に顔を青ざめる。氷点雪原の各所の木々が燃え山火事を起こし、その上空に高さ10メートルはあるだろうか、巨大な生き物が両腕から火を吐き出し、こちらに近づいてくる。

 後にうちあげポケモンと分類されることになる、テッカグヤである。

351ガラルタブンネ牧場_殱滅編:2021/01/22(金) 19:26:37 ID:Trqk4oRs0

 まだ3〜4名程の飼育員が牧場に残っていた筈だし、しかもそこには沢山のタブンネ達も居る。すぐさま緊急無線が流される。

「緊急連絡です!危険な未確認生物が現れこちらへ向かっています。牧場内に居る作業員は直ちに屋舎内に避難して下さい。急いでください!」

 牧場内に居た幾名の飼育員もその放送を聞き、北の方から焦げ臭い風が流れてくること、またまだ離れてはいるが上空に見たことのない飛行物体が浮かんでいることを確認すると、
「おーいみんな建物まで逃げろ!急げ!早く!」
 周りに散らばるタブンネ達を大声で捲し立てながら、自身も全速力で避難をする。
 約1分半後、一番遠方に居た飼育員も屋舎に辿り着き、全員の避難終了にひとまず安堵する人間一同。幸いこの屋舎は厳しい気候災害、または大型の野生ポケモンの群に総攻撃を受けようが無事な程の頑丈な設計で、ここに居れば大きな被害を受けるとはそう考えにくい。   
 しかし外に居た飼育員はここで大きな誤算に気付く。振り返ると、タブンネがただの一匹もここに辿りつかない、どころか殆どこちらへ向かってすらいないのだ。

352ガラルタブンネ牧場_殱滅編:2021/01/22(金) 19:39:38 ID:WnymyG7k0

 牧場に取り残されたタブンネ達、特にここで産まれたチビ達の危機意識の低さは顕著であった。
 緊急無線を流したいくつかのスピーカー、以前よりその存在を視認していたが、始めて音声を発したことに驚いたあるチビ兄妹は、それを括り付ける鉄柱をペシペシ叩きながら
「このボッコもオモチャだったのチィ?」
「でも一回しゃべっただけでまただまっちゃったミィ」
 またある広場では笑顔でかけっこをするチビ。サッカーに興じるチビ。健やかな顔をして巣穴で毛布に包まり、寝息を立てるチビ....。皆人間の様子や突如鳴り響いた電子的な音声に一瞬反応はしたが、またそれぞれの遊びや昼寝に戻り、呑気に過ごしている。

 しかし一部の親ンネ達は
「何だか焦げくさいミィ?」
「あっち見てミィ!森がいっぱい燃えてるミィ!」
「何か飛んでるミィ!アイツが森を燃やしたミィ?」
 ようやく危機を察し、徐々に焦り始めるピンクの仲間たち。
 ただ多くの個体が野生を離れて久しいこと、ニンゲンさんの様子が変なことは察したが「にげろ」「ひなん」とか「いそげ」といった初めて聞く言葉の細かい意味を理解し得なかった事などが、致命的な避難の遅れを生む。

 屋舎側に住むタブ達を中心に、建物から必死の形相で手招きする人間達に気付き、そこへ逃げ始めようとするが中々足が進まない。安全な環境で調子に乗って作りまくった子供達が足枷となったのだ。
 急いで散らばる子供達を巣に集め、比較的育っている子達にベビや卵を抱かせ、避難の段取りを進める家族。また野生時のような危機意識を取り戻したのか、卵やベビに見切りをつけ、夫婦と自力で走れる子たちだけで逃げ出そうとする家族...。

 活発に動き出したタブンネ達だったが、その数分の遅れを悪魔は見逃してくれなかった。

353ガラルタブンネ牧場_殱滅編:2021/01/24(日) 20:12:51 ID:cF5n9EJc0

 人間の避難が完了してしばらく、それぞれが家族で纏まり、ゾロゾロと動き始めたピンクの軍団。その先頭を行くのは先に紹介した、あの半ダルマンネと尾無しンネ夫婦。
 彼等は屋舎からはさほど近くない位置の巣に住んでいるが、呑気なタブ達の中でもいち早く人間の様子から危機を察し、また大所帯でもないため直ぐに人間の建物を目指し始め、その距離をあと30メートル、20メートルと縮めた時、その上空に巨大な影が迫る。

 産後間もなく、少し体力的に厳しい尾無しの妻が先に居て、それを1,2メートル後ろから、必死に励ましながら片耳の夫が追随している。
「ママ、あと少しだミィ!ニンゲンさんの建物でバケモノからベビちゃん達を守るミィ!」
「ブミィ...。足が重いミィ。あと少し...!ベビちゃ......」
 それぞれはその両腕で一つずつ、中から命の鼓動が伝わる、綺麗な卵を力強く抱えている。他の一部のタブとは違い、この2つの命を守る絶対的な意思がある。おそらく彼等は、この雪原のつがいの中でも一番と言っていい、自身の子供への、揺るぎない強固な愛情を持っている。

 しかし夫の視点、目の前の最愛の妻の身体が突然暗い影に飲み込まれると次の瞬間

 ブチャッ! バリッ!
絶対に聞こえてはならない音と共に、視界が光沢を帯びた緑で埋め尽くされる。

354ガラルタブンネ牧場_殱滅編:2021/01/24(日) 20:17:12 ID:cF5n9EJc0

 決して戦闘に秀でる訳ではないタブンネを思って堅牢な檻で囲われたその牧場。しかし空が一面開けていた事がここへ来て仇となった。

 丁度屋舎の人間からタブンネ達の姿を遮るように着地したテッカグヤ。
 片耳の夫はその圧倒的風圧に後のめりに転倒し、見上げたその先、その巨躯の割に小さな顔の口元はやや笑みを浮かべている。見た事も聞いた事もないバケモノが徐にその巨体を持ち上げると、夫ンネはハッと我に帰る。

(ママは!?ベビちゃんは...!?)

 恐る恐るその巨体の下を見ると、粉々になった卵が血塗られた芝生の上に散らばり、その手前にペシャンコになったピンクに赤黒さが混じった肉塊。その付近には無造作に飛び散った心臓なのか腎臓なのかもはやわからない物体がピクピクと蠢いている。
 不運にも、誰よりも愛情深かった尾無しの妻は、突如襲来した悪魔の下敷きになってしまった....
 いや、違う。テッカグヤはおそらく狙ってこれをやっている。今のはバトルで言うところの、ヘビーボンバーという技であった。

「ミッ・・・、ミッ・・・。」

 最愛の妻と愛しい我が子の残骸を見つめる夫ンネ。口を僅かに開けてブルーの瞳を大きく見開いては、静かに鳴き声をあげる。
 今、彼の心を支配するのは恐怖でも悲しみでもない、完全なる「無」である。目の前の現実を受け入れる事を脳が拒否しているのだ。

355ガラルタブンネ牧場_殱滅編:2021/01/24(日) 20:21:05 ID:cF5n9EJc0

 思った程の動きを見せないことに、少し口元を歪めたテッカグヤ。しかし目の前で硬直するピンクダルマの姿を見やると、再び口元に冷笑を浮かべる。現実を受け入れずとも最後までしっかりと抱えていた卵の存在に気づいたのだ。
 巨大な両腕を少し持ち上げると、無数の真空の刃がそれに命中する。

 バリッ!  「チィ-....」
 ぶち撒けられた生暖かい粘液と共に、小さな身体が胴体をまっぷたつにしながら夫ンネの目の前に現れ落下する。あまりにも小さな音で、今生最後の言葉となる愛しい産声を、聴覚の大半を失ったパパが認知できなかった事は幸か不幸か。

「ミ....ミヒャヒャヒャヒャ!ミバアーッヒャッヒャッ....!」
 仰向けに寝転び、両手両脚を大きくバタつかせ、全身を激しくくねらせる夫ンネ。精神の限界を超えるに充分な攻撃だったようだ。完全に狂ってしまった。
 想像を超えるリアクションに大満足のテッカグヤ。ここへ降り立って初めて、不気味で甲高い声を上げる。

「ミッ...、ミィーーー!」
「ミ゛ミ゛ーーッ!」
「ギャミーーー!」・・・

 足が竦み、一部始終を黙って見ていた周りンネ達の恐怖を煽るに効果抜群の雄叫びだったようだ。屋舎を目指し固まっていた大行列は一目散に散らばり、大声で喚き散らしながらドタドタと短い脚で四方八方逃げ出していく。

 この愉快な光景は、テッカグヤの嗜虐心を大いに煽っていく。

356カンムリ雪原のタブンネ 三つまたヶ原編:2021/01/24(日) 22:02:19 ID:.pjsQMZQ0
長女タブンネから完全に反応が消えた事を確認したジヘッドはトレーナーの元へと駆け寄る。
トレーナーが「満足したか?」と優しく尋ねると、ジヘッドは満足気な表情で「ガウッ」と吠え返事をした。
すると突然ジヘッドの体が輝き始め、その姿に変化が生じ始めた。先ほどの戦闘で成長したジヘッドが進化しようとしているのだ。
緩やかにフォルムを変えていくジヘッド、光が消えるとそこには三つ首の妖龍、サザンドラが存在していた。
サザンドラはふわりと空中を一回転してからトレーナーの元へと駆け寄る。
二人にとって念願だったサザンドラへの進化。トレーナーとサザンドラは互いに抱き合い喜びを分かち合った。

ジヘッドがサザンドラに進化したことにより当初の目的は達成することができた。
だがタブンネを入れ食いすることができるこの奇跡的な状況を逃すという手はトレーナーにはなかった。
トレーナーはサザンドラと目を見合わせ「進化祝いだ、タブンネと一緒に派手にパーティをしようか」と発言する。
サザンドラも思いは同じで、悪い笑みを浮かべながらこくりとうなずいた。

357カンムリ雪原のタブンネ 三つまたヶ原編:2021/01/24(日) 22:03:03 ID:.pjsQMZQ0
一方、ここは海鳴りの洞窟と三つまたヶ原の境にある小さな洞窟。
長女タブンネ扮するメタモンは野生ポケモンの目を掻い潜りこの場所へとたどり着いた。
あたかも命からがら逃げだしてきたかのような演技をし、洞窟の中へと入っていくメタモン。
洞窟内部には少数のタブンネ達が火を囲んで暖を取り、待機していた。
突如入ってきた傷だらけのタブンネに周囲は戸惑いの反応を見せる。
すると一番奥で鎮座していたリーダー格と思わしきタブンネとその傍らで控えていた番いのタブンネがメタモンの元に駆け寄ってきた。
怪我を見た番いタブンネはいやしのはどうを放ち、メタモンの傷を治していく。

 ─ 大丈夫か、何があった? ─

リーダータブンネはメタモンに肩を貸してゆっくりと火の近くまで運びながら訪ねる。
火の近くで少しだけ温まり、落ち着いたように振舞ったメタモンはゆっくりと語り始めた。

 ─ 見つけたんです……タブンネ達が暮らせる安全な場所を!! ─

その発言を聞いた瞬間、その場にいたタブンネ達は皆一様に期待に胸を膨らませるような反応をした。
メタモンは続けてタブンネ達に説明を続ける。
野生のポケモンに襲われている途中、扉が開いている遺跡がありその中に避難した事。
野生ポケモンはその遺跡に入った段階で踵を返し、追ってこなくなった事。
遺跡の中を少し調べたが他のポケモンの気配は感じられなかった事。
メタモンの虚実を織り交ぜた報告に、タブンネ達は皆真剣な面持ちで耳を傾けた。
報告が一通り終わり、あたりはしんと静まり返る。
反応が薄いのは恐らく自分たちが救われることに対する実感が湧かないからだろう。

358カンムリ雪原のタブンネ 三つまたヶ原編:2021/01/24(日) 22:04:16 ID:.pjsQMZQ0

 ─ これでやっと……やっとバンギラスから解放されるのね…… ─

一匹のタブンネはすすり泣きながらそう発言する。
その言葉を聞いたタブンネ達は徐々に歓声を上げ始めた。そうだ。自分たちはこの地獄から解放されるのだ。
浮足立つタブンネ達にリーダータブンネが「静かに」と声をかける。するとあたりは再び静寂を取り戻した。

 ─ 安全な場所を見つけられたことは喜ばしいことだがまだ確証は持てない。
   これから私を含めた数匹で対象の遺跡へ向かい、現地調査を行う事にする! ─

リーダータブンネの号令を聞いたタブンネ達は皆同様に畏まり、「ミッ!」と勢いよく返事をする。
このリーダータブンネが組織のブレイン、中核なのだろう。タブンネの癖に存外しっかりしていて少し面倒だ。
メタモンは心の中でそうぼやきながら事の成り行きを見守った。

リーダータブンネは洞窟の中にいたタブンネ達の中からさらに少数を斥候班として分配し直す。
自身と番いタブンネを含めた成体のタブンネが六匹、幼体の子タブンネが二匹。
それにメタモンを加えた計九匹で斥候へ向かうことにする。
リーダータブンネは洞窟内に残るベテランのタブンネに次の業務を引き継ぐ。

 ─ 後の事は任せたぞ ─
 ─ まぁ、どうせすぐに必要なくなりますよ。そっちでオボンでも食べながら待っててください ─

引き継ぎを受けたタブンネはリーダータブンネの言葉に軽口で返す。
二匹は互いに笑みを浮かべ固い握手をした。

 ─ それでは、行くぞ皆! ─

リーダータブンネの声掛けと共に斥候班たちは三つまたヶ原へと足を踏み入れた。

359カンムリ雪原のタブンネ 三つまたヶ原編:2021/01/24(日) 22:04:50 ID:.pjsQMZQ0
メタモンのスカウトもあり、斥候班のタブンネ達は全員遺跡の前へとたどり着いた。
リーダータブンネはメタモンを含む成タブンネ六匹を二人一組の三組に分けて周囲の哨戒を行うよう命令する。
なぜ直ぐに遺跡の中に入らないのか。それは外敵と遺跡の構造の確認のためである。
この遺跡に出入口が一つしか無い場合、階段へ踏み込んだ後に野生のポケモンから後を追われれば袋小路へ誘い込まれてしまう。
そうなった場合群れの全滅は免れないだろう
故に遺跡に入るその前に、外観からわかる範囲での構造の把握と、野生のポケモンへの警戒が必要なのである。

 ─ こっちにおいで、一緒に体を温め合おう ─

一方で周囲の哨戒に加わらなかった子タブンネ達は軒先で身を寄せ合い体を温めあっていた。
体格が大きい方の子タブンネがそういうと小さい子タブンネはその子タブンネの懐へもぐり体を預ける。

 ─ お兄ちゃん、あったかい…… ─

一番小さい子タブンネは大きい子タブンネの胸に頭をこすりつけ甘えている。
この子タブンネは大きい子タブンネの妹のようだ。
兄と呼ばれたタブンネは妹が寒い思いをしないようできるだけ全身を包み込むように抱きかかえる。
本来であればこの二匹はこの探索に加わる予定はなかった。
しかしこのタブンネ兄妹は他のタブンネが覚えない特殊なわざを覚えていたため、いざというときのキラーカードとしてリーダータブンネが同伴を許可したのである。

一寸先で吹き荒ぶ猛吹雪を見ながら兄タブンネは考える。
もしこの遺跡がタブンネにとっての安住の地になるのであれば、今まで行われてきた凄惨な営みから解放される。
そうすれば妹も、望まぬまま子を産まされることも無くなるんだ、と。
兄タブンネは先ほどの長女タブンネ同様、目の前で喰われていく兄弟たちを目にしたことがある。
あの時、兄弟たちを救えなかった屈辱から、末の妹タブンネだけは何としてでも守ってやりたいと決心したのである。
例え自分の身が犠牲になろうとも───

360カンムリ雪原のタブンネ 三つまたヶ原編:2021/01/24(日) 22:05:58 ID:.pjsQMZQ0
哨戒を終えたタブンネ達が戻ってきた。外敵の存在は確認できなった旨、出入口も一つしか見当たらなかった旨を報告する。
出入口が一つしか無い事に少しためらいを感じたリーダータブンネだが、意を決して遺跡へ入り込んだ。
一歩一歩、常に周囲を警戒しながら歩みを進めるリーダータブンネ。ふと階段を上っている途中で遺跡の中から異音を耳に捉える。
手をかざし「ミッ!」と全体に静止するように命じる。耳を澄ませると微かに聞こえる、自分たちとは異なるポケモンの息遣い。

 ─ 遺跡の中から異なるポケモンの気配を感じる! ─

リーダータブンネがそういうと周りのタブンネは一斉にどよめき始めた。
このまま引き返すか、それとも進むか。リーダータブンネは思索する。すると傍らからメタモンが語り掛けてきた。

 ─ リーダー、いったん私が先行して内部を確認してきましょうか? ─

このリーダータブンネは警戒心が強い、それ故に生き残れたという背景はあるのだろうが、自分たちとしてはこの警戒心はなかなか厄介だ。
先に内部を確認し安全であることを確認し手引きする。そうすることで警戒心を和らげる。
可能性としては五分だがリーダータブンネの答えは───

 ─ 分かった。君に託そう。危険を感じたらすぐに帰ってくるんだぞ ─

かかった! メタモンは心の中でガッツポーズを取る。
メタモンは「ミィッ!」と返事をすると階段を上がり遺跡の中央部へと向かった。
遺跡の内部はパッと見た限りではトレーナー達と共に見た時と同じ装いだった。
石造前へ向かい床を見てみるとわずかだが血痕が残っていた。これがあの厄介者に見つかってしまえば計画は破綻してしまうだろう。
軽く足でパッパッと払い、小石や砂で目立たなくする。
他に何かないか、周囲を見渡しているとふと射貫くような視線と殺気を感じる。
間違いない、ジヘッドのものだ。
どこから見ているか分からないがここで声を出すわけにも行かない。
メタモンはとりあえず自分は敵ではないことを示すため音を立てないよう細心の注意を払いながら片手だけメタモンへと戻し周囲へアピールする。
すると室内に漂っていた殺気は一気に緩和し霧散していった。
ふぅ、と一息つくと片手をタブンネに戻し、周囲の調査へと戻った。
トレーナー達が居た痕跡は目に見える範囲にはない。後はただ主賓の活動までタブンネ達がのんびりしてくれているだけでいい。
メタモンは階段中腹で待機しているタブンネ達に異常がなかったことを告げた。

361カンムリ雪原のタブンネ 三つまたヶ原編:2021/01/24(日) 22:07:11 ID:.pjsQMZQ0
リーダータブンネを先頭にタブンネ達が恐る恐る遺跡内部へと足を踏み入れる。
周囲に敵の姿が見えない事にリーダータブンネ以外のタブンネは緊張を緩める。
だがリーダータブンネは違った。そこには確かに外敵の姿は見当たらなかったが、未だポケモンの息遣いだけは聞こえていたのだ。
こいつだけは早々に何とかしないといけない。そう考えたメタモンは一芝居うつことにした。
遺跡の最奥部にそびえ立つポケモンの石造、その裏手を確認し「ここを見てください!」とリーダータブンネを呼び出したのだ。
リーダータブンネはメタモンに誘導されるまま石造の裏手を確認する。だが当然そこには何もなかった。

 ─ 何も見当たらないな。いったいここに何があるんだ? ─

リーダータブンネは怪訝そうな顔をしメタモンへと尋ねる。

 ─ いえ、ここには何もありませんよ ─

メタモンはにこやかな表情でリーダータブンネにそう返す。
すると突然遺跡の中央部に上から何かが落下してきた。バキバキと何かが砕ける音がする。
リーダータブンネが勢いよく振り返るとそこには無残にも食い荒らされた同胞の亡骸があった。
その亡骸の顔を注視する。この顔を自分は知っている。
この顔は───!!

リーダータブンネが声を出そうとした瞬間上空から何かが勢いよく降下し、タブンネを一匹掴んで階段の前へと立ちふさがった。
トレーナーのサザンドラだ。サザンドラは左頭でタブンネを捉えている。
捕まったタブンネは逃れようと必死もがいて暴れるがそのたびにサザンドラの牙が柔らかな腹肉へ食い込んでいく。
ギザギザの歯で腹肉を裂かれる痛みにか細く「ミッ、ヒッ」とうめき声をあげるがそれでも暴れる事はやめなかった。

362カンムリ雪原のタブンネ 三つまたヶ原編:2021/01/24(日) 22:08:05 ID:.pjsQMZQ0
やはり遺跡内部にはタブンネ以外のポケモンが居たのだ。
リーダータブンネはメタモンの方へ振り返る。こんな状況なのにメタモンは表情一つ崩していなかった。

 ─ お前は一体何者だ!? ─

リーダータブンネがそう吠えた傍らで、メタモンは涼しい顔をして遺跡の中央にある長女タブンネの亡骸の元へ歩いていく。
長女タブンネの頭部を持ち上げ死に顔がよく見えるようお腹のあたりまで持ってくる。
かたや苦悶に満ちた死に顔、かたや不気味な笑顔。表情こそ違うが確かにそこには同じタブンネの顔が二つ並んでいた。

 ─ さぁ? 私は誰でしょうね。 ─

リーダータブンネにそう言い放つとメタモンは持っていた長女タブンネの頭部をぽいと放り投げサザンドラの方へ駆け寄っていった。
メタモンとサザンドラは互いに見合う。するとメタモンは楽しそうに笑いながらサザンドラへ左手をあげた。

 「ミィッ♪ミィッ♪」─ 進化できたんだ! 立派になったねー、すごいじゃん! ─

メタモンのその言葉で気をよくしたサザンドラは空いている方の右頭をメタモンの左手に軽くぶつけ、ハイタッチをする。
周囲のタブンネ達は状況を飲み込めていなかった。
中央にあるタブンネの遺体は間違いなくあのサザンドラに手によるものだろう。
そして実際に自分たちの仲間の一人がそのサザンドラに捕捉され、今も苦しんでいる。
そんなサザンドラとあのタブンネはなぜ仲良く会話をしているのだろう。あのタブンネは一体何なのだ。
メタモンはタブンネ達の方へ向き直り、タブンネ特有の左手を振るポーズをとる。

 「ミッミッ!」─ それでは皆さん、ごきげんよう ─

メタモンはそれだけ言い残すと軽い足取りで階段を駆け下りていった。
それと同時にサザンドラがドラゴン族特有の腹の底まで響くような咆哮を上げる。

 「ミィ……ミイイイイィィィィィ!!!」─ ハメられた……俺たちはハメられたんだ!!! ─

リーダータブンネは自分たちが貶められたことに気付き叫ぶ。しかしそれに気づいた所で既に手遅れである。
既にこの遺跡はイッシュ地方きっての捕食者、サザンドラのコロニーだ。

363カンムリ雪原のタブンネ 三つまたヶ原編:2021/01/24(日) 22:09:10 ID:.pjsQMZQ0

 「ミィッ!ミィィィ!!!」─ 助けてぇ!誰か助けてぇ! ─

サザンドラに捕まっていたタブンネはついにたまらず周囲に助けを求める。
中央にあるタブンネの死体を見ればこのままだと自分がどういった運命を辿るのか、一目瞭然だった。
するとサザンドラはタブンネを眼前へと持ってくる。サザンドラと目が合うタブンネ、ついにタブンネは緊張感に耐えきれず泣きながら小便を漏らし始めた。
あまりにも情けない姿にサザンドラはたまらず吹き出してしまう。
そしてタブンネもそれに合わせて引きつりながら笑いだす。ともに笑い合えば見逃してもらえるかもしれない。その可能性に賭けたのだ。
しかし現実はそうはならなかった。
サザンドラはタブンネの頭部を右頭で掴み、一切の抵抗など出来ないほどの強力な力で首を回し始めた。
「ヴ……ギィ゙ィ゙」と声を上げるタブンネ。やがで首が180度ほど回転し、遺跡内部にいる他のタブンネ達と目が合った。
この時点でまだタブンネには意識があった。首がねじれる痛みで涙を流し、口をあけ舌を出し「ヒィ……ヒィ……」と掠れる声で悲鳴を上げながら周りに助けを求める。
周囲のタブンネは異様な光景に恐怖してしまい、動く事ができなかった。
やがてタブンネの首が360度、一回転する。首がぶちぶちとなりついには頭部と胴体が分割されてしまった。
サザンドラはタブンネの頭部を放り投げ、胴体から勢いよく溢れ出てくる血流をまるでシャンパンの様にあたりへぶちまける。

 ─ パーティの始まりだァ!!!! ─

サザンドラはそう吠えるとタブンネの体を放り投げリーダータブンネの方へと勢いよく向かっていく。
高速で向かってくるサザンドラに対し回避することもかなわず、リーダータブンネは掴まれてしまい空高く持ち上げられてしまった。
生まれて初めて見る高所からの光景にリーダータブンネは恐怖する。

 ─ 良い眺めだろォ…? お前ら地面を這いつくばるタブンネ達じゃ一生見れない景色だ ─

自分と同じくらい大きかったタブンネ達が遠く、小さく見える。ここから落とされたら自分はただでは済まないだろう。
いや、違う。自分は既に殺されてしまったのだ。この恐るべきポケモンに。
いまこの場において考える事は助かる事ではない、一匹でも多く同胞たちをここから逃がす事だ。

364カンムリ雪原のタブンネ 三つまたヶ原編:2021/01/24(日) 22:09:56 ID:.pjsQMZQ0

 「ミイイイィィィィ!!!」─ 皆今すぐこの場から逃げるんだ!!! ─

リーダータブンネは自分の生存を諦め仲間たちを逃がすためそう叫ぶ。

 ─ へぇ、自分の事は諦めんのかい。潔いねェ ─

他のタブンネが逃げているにも関わらずサザンドラは余裕そうな表情を浮かべている。

 ─ それじゃお望み通り……ぶち殺してやるよォ! ─

サザンドラはそういうとリーダータブンネを下方向へ勢いよく投げつけた。
重力に従いリーダータブンネは顔から落下していき硬質な床面に叩き付けられる。
顔の骨や首、肩に強い衝撃が走り骨が砕け割れる。だがリーダータブンネへの攻撃はそれだけでは終わらなかった。
空中から降下してきたサザンドラはリーダータブンネの上で一回転し、加速を乗せたしっぽをリーダータブンネに叩き付ける。
アクロバットという飛行タイプの技だ。
ミシミシという音が全身から鳴り響き、全身の骨や内臓にまでダメージを食らってしまう。
もうすでに虫の息であるリーダータブンネをサザンドラはしっぽで壁面まで叩き飛ばした。
首や四肢があらぬ方向へ折れ曲がり、目の焦点はあっていない。

 「ミィィィ!」─ あなた! ─

「アァ……ウー……」とうめき声をあげているリーダータブンネに番いであるタブンネが駆け寄る。
まだ息はある。治せるかは分からないが番いタブンネはリーダータブンネへいやしのはどうを行い始めた。
するとそこにサザンドラが現れる。サザンドラは心底楽しそうな笑顔を浮かべながら二匹のタブンネを見下ろす。
リーダータブンネはサザンドラに向かって折れ曲がった手を伸ばす。差し詰め「妻へは手を出すな」といったところだろう。
サザンドラはそれを見てニヤリと笑い去っていった。

365カンムリ雪原のタブンネ 三つまたヶ原編:2021/01/24(日) 22:11:04 ID:.pjsQMZQ0
続いての標的は階段に向かったタブンネ達だ。二匹のタブンネ階段を駆け下りている。
外の景色が見えた、もう少しで脱出できる。
先頭のタブンネが外に出ようとすると目に見えない何かに防がれ、勢いよく尻もちをつく。
何故出られないのか。何が起こったか分からないタブンネ達は一度外へ向かって駆け出すがやはり目に見えない壁のような何かに阻害されて出る事は敵わなかった。
出口にはフーディンによりリフレクターが張られていたのだ。
タブンネ達は顔を青ざめさせながらリフレクターをバンバンを叩く。

 「ミィィィィ!!ミィィィィィィィ!!!!」─ 出して! ここから出してぇ!! ─

サザンドラはそんなタブンネ達を階段上部から見下ろしている。
二匹の内後方にいた一匹がサザンドラがこちらを見ていることに気付き「ミィィ!!」と悲鳴を上げる。
先頭にいたタブンネもそれに気づきより強くリフレクターを叩き始めた。
そんなタブンネ達を見下ろしながらサザンドラは大きく息を吸い始め、巨大な火球を吐き出した
火球は空中で大の文字に変化し、階段を下りタブンネ達の方へ向かっていく。
だいもんじという炎タイプの技だ。
燃え盛る炎はじりじりとタブンネ達へとにじり寄っていく。
後方にいたタブンネは恐怖のあまりしゃがみ込む。その上をだいもんじが通過するが背面に火が移り尻尾と背中が燃え上がる。
先頭にいたタブンネはよけきる事が出来ずだいもんじが直撃し、炎に飲まれてしまった。
だいもんじが直撃したタブンネは火だるまになりながらその場に倒れ込んでしまう。
倒れた事により炎が気道へ入り込み、喉の奥を焼き尽くす。その苦しさは想像を絶するだろう。

 「ミ……ギァ……ァ……」 ─ 熱……い……苦しい…… ─

タブンネは苦しさのあまり喉を掻いてしまう。
しかし焼けただれケロイド状になった皮膚がぐちゅりと破れしまい、その中からさらに炎が入り込んでしまった。
これではもはや声を出す事すらできない。
激痛に苛まれ朦朧とする意識のなかで、タブンネは仲間が居る方へ手を伸ばした。
だがその手は誰に取られることもなく、ただ空しく空を掻く。
苦しいと叫ぶことや涙を流す事さえできない。地獄のような業火に飲まれるこの時間はタブンネにとっては永遠の様に感じられた。
やがてタブンネは体中が焼かれていく激痛と全身の水分が枯れていくのを感じながらこの世を去った。

366カンムリ雪原のタブンネ 三つまたヶ原編:2021/01/24(日) 22:11:55 ID:.pjsQMZQ0

 「ミッ!ミッ!ミィィィィィ!!!」─ 熱いぃ!誰か助けてぇ!! ─

背中に炎がついたタブンネは急いで階段を駆け上がりゴロゴロと地面を転がり消火を試みる。
必死の消火活動の甲斐あってか炎を消す事は出来たが、背中の毛は全て焼き尽くされ焼け爛れた皮膚が丸出しになっていた。
タブンネはうつ伏せになり、ぜぇぜぇと息を切らしながら痛みに必死で耐えている。
ふと、目線の先にはリーダータブンネにいやしのはどうを放っている番いタブンネの姿が見えた。
彼女に治してもらおう。そう思った火傷タブンネは這いつくばりながら番いタブンネの方へ向かっていく。
痛む体に苛まれながらタブンネは「なぜ自分はこんな苦痛を味わっているのだろう」と考える。
本当であれば今頃は安全な土地でオボンの実を食べながら仲間たちと共に笑っていたはずなのに。
火傷タブンネはかつて夢見ていた未来と現実を比較し、現実の惨めさ、苦痛さに耐えかね歯を食いしばり涙を流し始める。
それでも生き残りたい一心で進んでいると突然頭上から声をかけられた。

 ─ ちんたら這いつくばってんじゃねぇよ、すぐ追いついちまうぞ ─

声の主はサザンドラだった。サザンドラはニヤニヤと笑みを浮かべながらタブンネをからかう様に周囲を飛び回る。
火傷タブンネは恐怖で体が竦んでしまった。歯をガチガチと鳴らし体を震えさせている。

 「ミゥ……ミゥミゥ……」─ い、嫌だ……死にたくない……見逃して…… ─

恐怖に耐えかねた火傷タブンネは頭を抱え丸くなりながら、サザンドラに命乞いをする。
その姿はあまりにもみすぼらしく、みっともない。酷く滑稽でついついサザンドラは吹き出し、笑ってしまう。
自身が馬鹿にされていることは当然火傷タブンネにも分かる。だがそれ以上に自分が何もできないことも理解していた。
ただただこの場がこれで終わり、サザンドラがどこかへ行ってくれることを願う。
しかしそんな火傷タブンネの願いは脆くも崩れ去った。
「見逃すわけねェだろ」と言い放つとサザンドラは火傷タブンネの背中に両頭で思いっきり噛みついた。
神経がむき出しになった皮膚にギザギザの鋭い歯が刺さり激痛が走る。火傷タブンネは目をチカチカとさせ声にならない悲鳴を上げる。
サザンドラはそのまま脆くなったタブンネの背中を喰い破り始めた。
ぶちぶちと背中の皮膚が喰い破られる痛みで「ミギァァァァァァァァァ!!!!」と遺跡全体に響き渡る叫び声をあげるタブンネ。
気絶できればよかったのだがタブンネ特有の頑丈さがそれを許さなかった。
サザンドラも勿論それを理解していた。皮膚を喰い破る時は臓器を傷つけないよう注意を払いながら行っていた。
火傷タブンネは自身の血液でできた血だまりの中央で背中の皮膚を失い臓器をさらけ出した状態になっていた。
胸椎とあばら骨の間から弱弱しく心臓と肺が動いているのが分かる。
だが当のタブンネ自身はすでに虫の息だ。舌をだらりと垂らしながら消え入りそうな呼吸を繰り返している。

 「ミ……ミゥゥ……」─ なんで……僕たちが……こんな目に…… ─

火傷タブンネは自身の境遇を嘆きながら事切れた。

367カンムリ雪原のタブンネ 三つまたヶ原編:2021/01/24(日) 22:12:47 ID:.pjsQMZQ0
サザンドラが次の獲物を物色していると一匹、逃げ遅れたタブンネと目が合った。
恐怖で体が竦んで動けなかったのだろう。部屋の隅で胸に両手を当てながら涙目でこちらをじっと見ている。
次はあいつにしよう。思い立ったサザンドラはそのタブンネへと近寄る。
返り血にまみれたサザンドラに対し「ミヒィッ!」と悲鳴を上げへたり込むタブンネ。
目の前の存在がただただ恐ろしかった。この恐ろしいドラゴンから一刻も早く解放されたい。
タブンネはなんとかしてサザンドラから逃げられないかを考える。
サザンドラはもちろんタブンネが何か考えて行動しようとしているのを理解している。
理解しているからこそ今はまだ何もしない。タブンネ達が行うささやかな抵抗、それを踏みにじるのが楽しいから。
恐怖で追い詰められたタブンネはふと、自身のしっぽにオボンの実を隠し持っている事を思い出した。
少し前の遠征で見つけたのを有事に備えてしっぽの中に隠していたのだ。
オボンの実はタブンネ達にとっては貴重品だ。きっと目の前のサザンドラもオボンの実を欲しがるに違いない。
しかしこのオボンの実を投げたところでサザンドラからは逃げきれない。
だったら、このオボンの実を使ってサザンドラと仲良くなろう。
そうすればきっと、きっとみんな生きてここを出られるはず───
そう考えたタブンネはしっぽからオボンの実を取り出しサザンドラへ差し出した。

 「ミゥミゥ……ミゥゥ……」─ オボンの実を上げるので私達を見逃してもらえませんか…? ─

サザンドラはこのタブンネのあまりにも局面と違う行動に面食らってしまう。
こちらの顔色を伺うようなヘラヘラとした顔で変色したオボンの実を差し出すタブンネ。
そもそもこういった交渉事はリターンが釣り合っていない限り受け入れられることはない。
タブンネ達にとっては貴重品であるオボンの実も、サザンドラからすれば毎日好きなだけ食べれるようなものだ。
このタブンネは知ってか知らずか、タブンネから得られる経験値をそんなオボンの実一つで諦めろと言ってきたのだ。
あまりにもリターンが釣り合っていない交渉、当然サザンドラもそんな交渉を受け入れるつもりはない。
だがここで普通に断ったところでパフォーマンス的に面白くはない。
目の前の存在の生殺与奪の権を握っているのは自分だ。であればもっと面白さや楽しさを意識したい。
そう思ったサザンドラその交渉を受け入れるそぶりを見せた。

368カンムリ雪原のタブンネ 三つまたヶ原編:2021/01/24(日) 22:13:21 ID:.pjsQMZQ0

 ─ あぁ、いいぜ。それじゃ遠慮なく貰うとするかねェ… ─

その言葉を聞いたタブンネは先ほどとは打って変わりパァっと明るい表情になる。
目じりに涙をため満面の笑みでオボンの実を差し出すタブンネ。
サザンドラはゆっくりと近づきタブンネの差し出しているオボンの実に腕ごと喰らい付いた。
タブンネの笑顔が突然苦痛の表情に歪み、「ミギィッ」という悲鳴を上げる。
サザンドラは首をぶんぶんと振りタブンネを痛めつける。牙が肉を裂き、骨へと到達する。
あまりの激痛に目をつむりボロボロと大粒の涙を流しながらタブンネは振り回され続ける。
やがて骨が砕け割れブチリという音が聞こえるとタブンネは遠心力に任せ遠方へ放り投げられた。
背中から地面に叩き付けられるタブンネ、リーダータブンネ達と違いぶつけようとして投げられた訳ではないので背中へのダメージは軽い。
約束を破られた悲しみを感じつつ早く立ち上がって逃げなければと思い立つタブンネ。腕に力を入れて立ち上がろうとするがうまく立ち上がる事はできない。
それもそのはず。タブンネの両腕はサザンドラに食いちぎられ喪失していたのだ。
自分の両腕の肘から先が無くなっているのを見て絶句するタブンネ。すると今まで感じていなかった痛みが急に襲い掛かってきた。

 「ミ…ミィ……ミァァァァァァ!!!!!」─ なんで…私の腕……私の腕がぁ!!! ─

自分の腕が無くなったショックと激痛で半狂乱になるタブンネ。
すると目の前にその両腕を奪った張本人であるサザンドラが現れた。

 「ミゥ……ミッミッ……」─ どうして……見逃してくれるって言ったのに…… ─
 ─ なァに寝ぼけたこと言ってんだよ。てめぇらとの約束なんざ守るわけねェだろ ─

タブンネの問いにサザンドラがそう回答する。

 「ミ、ミゥ……」─ そ、そんな…… ─

そう呟くとタブンネはその場に倒れ込んだ。両腕があった場所からはどくどくと止めどなく血が流れ出ている。
もはやこの傷では生き残ることも無理だろう。
ぼうっと天井を見上げながらタブンネは思う。ポケモンの神様が居るならどうか、どうか教えて欲しい。
なぜタブンネばかりがこのような目に合わなければいけないのか!
私達はただ幸せを願っているだけなのに!
何かに脅える事もなく日々を暮らしたいだけなのに!
素朴な幸せを願ったタブンネの心の叫びは誰に届くこともなく、彼女の意識と共に闇へ飲まれていった。

369カンムリ雪原のタブンネ 三つまたヶ原編:2021/01/24(日) 22:14:01 ID:.pjsQMZQ0
番いタブンネの見える範囲にはリーダータブンネ、火傷タブンネ、両腕を無くしたタブンネの三匹が存在していた。
そのうち後者の二人は既に死亡、リーダータブンネも"まだ死んでいない"という状態でしかない。
次は自分の番だ、そう考えると背筋におぞけが走る。
心臓の鼓動が強く、早くなっていくのがわかる。焦りが放っているいやしのはどうに揺らぎを生じさせる。
これではいけない、精神を落ち着かせなくては。
きっと大丈夫だ。いやしのはどうでリーダータブンネを治し、二人でこの窮地を脱する事ができれば。
そう考えていると突然、ぷつりといやしのはどうが途切れて出なくなってしまった。
番いタブンネははたと出なくなってしまったいやしのはどうに驚き「ミッ!?」と声を上げてしまう。
このままではいけない、早く彼を治さないといけない。そう思ってもいやしのはどうが出てくることは無かった。
PPが尽きてしまったのだ。番いタブンネは自身の両手を見て顔を青ざめさせる。
いやしのはどうを打ち続けたリーダータブンネは、やはり完治には至らず辛うじて意識だけは保てている状態だった。
もはや希望などない、番いタブンネは打ちひしがれた。

 ─ よーうお嬢さん、そっちのタブンネの調子はどうだい? ─

サザンドラはリーダータブンネの状態が絶望的であることを知りながら番いタブンネに明るく語り掛ける。
どこまでも底抜けに明るいサザンドラの声。このポケモンは私達の命や尊厳を弄ぶ事を心の底から楽しんでいるのだ。
何故私達がこんな目に合わなければいけないのか。悔しくて涙が出てくる。溢れ出てくる気持ちを抑える事ができない。
会話になるとは思わないがどうしても問わずには居られなかった番いタブンネは、零れ落ちる涙を拭うこともなくキッとサザンドラを睨みつけながら叫んだ。

 「ミィ……ミィィィィィィ!!!!!」─ どうして……どうして貴方はそんなにも楽しそうに私達の命を奪えるのですか……!
  私達は貴方に対して恨まれる事なんて何もしていないはずです!! ─

興奮したようにミフーミフーと息を荒立てながらサザンドラを睨みつける番いタブンネ。
別段怖くもないし、ともすれば答える必要もない問いに、サザンドラは気まぐれで回答した。

 ─ てめェらを殺す理由なんて簡単な話さ。"倒せばより多くの経験値が入る"それだけだよ ─

370カンムリ雪原のタブンネ 三つまたヶ原編:2021/01/24(日) 22:15:10 ID:.pjsQMZQ0
サザンドラからの回答を聞いた番いタブンネは己の耳を疑った。
自分たちの命が、自分たちの意思が、そんな理由で奪われていたなんて。
因縁や確執があったなら、この殺戮にも何か意味はあったと思えたのかもしれない。
到底納得などできないが、それでも、それでも心のよすがくらいには出来たのかもしれない。
だが現実は非常だった。この殺戮には何の意味もなかったのだ。
この目の前のサザンドラも、自分たちを飼育していたバンギラスも、タブンネを一つの命としてカウントしていない。
いや、もしかしたらそれはサザンドラとバンギラスに限らず、この世界にある全ての生物たちもそうなのかもしれない。
恐ろしい考えが頭を巡る。頭を抱え体が震えだす。認めたくない、こんな現実認めたくない。
世界の残酷さを悟り、震えている番いタブンネの首をサザンドラが左頭で咥え、上へ浮遊する。
番いタブンネは苦しそうにサザンドラの腕を掴みながら足をばたつかせる。

 ─ 大体てめェらが誰かから恨まれるようなタマかよ ─

サザンドラは追い打ちをかけるように番いタブンネへ語り掛け、右頭のキバで番いタブンネの腹を裂く。
血があふれるよりも早く右頭を体内に侵入させ、臓器を絡ませるように腕をくねらせながら胸の方へと深く潜り込ませていく。
自分の体内に異物が入り込んでくる不快感で番いタブンネはより一層強く暴れだすが、サザンドラの力の前では何の意味もなさない。

 ─ 恨まれるヤツってェのはなァ……オレサマみたいに強くて ─

サザンドラが腕を潜り込ませているうちに内臓が傷ついたのだろう、番いタブンネは血を吐き出す。
あまりの痛みで叫ぶことが出来ず、か細く「ミィ……」と鳴き目線で命乞いをする。
もちろんサザンドラはそんなものに応じるつもりはない。

 ─ オレサマみたいにカッコよくて ─

右頭はやがて番いタブンネの心臓部分に到達する。
腹部から腕を突っ込まれ、内臓をぐちゃぐちゃにかき乱されてなお心臓は脈動している。
傷つけないように優しく、しかし力強く右頭の口が心臓を咥え込む。
番いタブンネは自分の心臓が何かに掴まれる感覚を感じる。
その先の結果を悟った番いタブンネは口元から血を流し目じりに涙をためながら首を左右に振りイヤイヤをする。

 ─ オレサマみたいに残虐なヤツのことを言うんだよ ─

ニィと笑いそう言い放つとサザンドラは内臓と共に番いタブンネの心臓を引きずり出した。
ぶちぶちと音を立て番いタブンネの"生命活動を維持していたもの"が大量の血液と共に対外へ排出される。
番いタブンネは体を弓なりにしならせる。目を大きく見開き口をパクパクとさせたあと、力なく項垂れた。
サザンドラは右頭に絡まった内臓を払い落した後、軽くなった番いタブンネの死体をリーダータブンネの前へ放り投げた。

371カンムリ雪原のタブンネ 三つまたヶ原編:2021/01/24(日) 22:16:15 ID:.pjsQMZQ0
一部始終を見ていたリーダータブンネは目前に落下してきた番いタブンネと目が合った。
美しかったサファイア色の澄んだ瞳はどこまでも深い暗黒のような色に変色しており、彼女の死を何よりも如実に物語っている。
リーダータブンネは「ァー…ゥー…」と喃語のような声を上げながら折れた両手をサザンドラに向かって伸ばす。
この凄惨な営みを見せつけられて初めて抱いた感想は"美しい"だった。
あまりにも圧倒的すぎるサザンドラの力量、上空で自身の愛する妻を惨殺したポケモンは、自分が持っていないものを全て持っていた。
心の内に芽生えた感情がなんなのか気付いたリーダータブンネは、直ちに思いなおそうとする。奴は仲間を殺し尽くした忌むべき存在だ、と。
同胞を殺し尽くした憎き邪龍への怨嗟。
ふわりふわりと空中を自由自在に空を舞うその妖艶さ。
もはや正常通り生きる事すら敵わなくされた事に対する憎悪。
タブンネとは天と地ほどの差もある生物としての格。
異なる二つの感情に苛まれたリーダータブンネは、ついに涙を流しながら射精をするという不可解な現象を起こしてしまった。
もはや生殖になど使う事のできない、不能になった男性器からトクトクとこぼれる様に精液が流れ出ている。
理性としての感情は涙として溢れ出て、本能としての感情は射精という形で表れてしまった。

その姿を見たサザンドラはあまりにも情けなさ過ぎてまたもや吹き出してしまった。
そもそも自分は雄だ。雄相手に射精する雄なんていうのはあまりに滑稽でみっともない。
思えばこの場所でパーティを始めてから、サザンドラは終始笑いっぱなしだった。
タブンネが燃え盛り死んでいく姿を見ては笑い、あまりにも無様な命乞いを晒しては笑い、的外れな非難を受けては笑い。
あまつさえ、まさか同性相手に射精をするほど情けない姿を見せてもらえるとは。
サザンドラの心にあまりにも大きな余裕と慢心が生まれる。
命を賭して、尊厳を捧げて自分に娯楽を提供してくれた彼らに対するお礼をしたいとすら思うほどに。
サザンドラはお礼も兼ねて、リーダータブンネに見せつけるように空中を飛び回る。
まだ乾ききっていない番いタブンネの返り血を飛び散らし、自身の優雅さを演出する。
その姿にリーダータブンネの目はくぎ付けになってしまった。
美しい、なぜ自分はああはなれない。あの目の前のドラゴンポケモンのように強く、美しくなりたい。
もはやリーダータブンネは理性で己の本能を律することなど出来なくなっていた。
ただただ目の前の存在を渇望することしかできなくなっていた。

だが、やがてそのサザンドラのパフォーマンスも終わりを迎える。刺し貫くような殺気を感じ取ったのだ。
殺気を放つその主は、彼らと共に入ってきた兄タブンネだった。
兄タブンネは妹タブンネを庇う様に仁王立ちし、鋭い視線を向けている。
今までのタブンネ達は皆戦う事してこなかった。以下にしてこの窮地から脱するかを念頭に置いていたのだ。
だがあの兄タブンネは違う。確実に自分を殺すつもりだ。
面白い、そう思ったサザンドラはやはりいつものように口角を上げて笑いながら兄タブンネへ語り掛けた。

 ─ 先手は譲ってやるよ。早く来い、ボウズ ─

372カンムリ雪原のタブンネ 三つまたヶ原編:2021/01/24(日) 22:18:14 ID:.pjsQMZQ0
あと3、4レスくらいで終わりそうなんだけど月末までにまとまりそうに無かったから投下しちゃった
あともう少しだけお付き合いください


>>355
乙ンネ
これからテッカグヤさんがどんな手を尽くしてタブンネさんたちを蹂躙するか楽しみ

373名無しさん:2021/01/25(月) 11:00:45 ID:.bgrawJs0
リーダータブンネがいちいちウザかった

捕食者を見てイクって顛末良いっすねw

374名無しさん:2021/01/25(月) 18:56:31 ID:vCayd4QI0
>>372
乙ンネです! 読み応えのあるお話でありました
サザンドラはやっぱり悪タイプなだけあって、ヒール役が板についてますね! 
スパイ役のメタモンとの掛け合いもかっこいい

375ガラルタブンネ牧場_殱滅編:2021/01/26(火) 16:43:02 ID:.T4VtOPE0

 テッカグヤが辺りを見回すと、バラバラに逃げ出したように思えたそのオモチャたちは、どうやら一定の集団を保っていた。
 
 家族単位で固まるタブンネが一定数。または片親、もしくは成タブ近いお兄ちゃんお姉ちゃんの周りを複数のチビが群がる集団。大タブンネは手に卵やベビを抱える者、両手でヨチヨチ歩きのチビンネの手を引く者、その様相は様々だ。
 10匹以上で固まるような集団が見受けられないのはタブ知恵から来る習性か。

 おあつらえ向きに用意された愉快なオモチャたちに逃げ切られても癪だ。
 先ずは目の前、五月蠅く抱腹絶倒している耳無しの個体の胴体を目がけ思い切り体重を乗せると

ブチャッ!

「ミバーッヒャッヒャッ!ミヒーミヒーッ...」
 ペチャンコの胴体から離脱し顔だけになって尚、涙を流し爆笑していた狂いンネだったが、約10秒後その表情のまま絶命した。

・・・彼は充分に楽しませてくれた

 テッカグヤは視線を上げると、両腕に白銀を帯びた光線を纏う。近場を逃げ惑う、ベビを抱いたママンネ、30〜50センチくらいのチビ3匹の集団に目標を定めると

ボッ!
 強力なラスターカノンが集団に命中。チビ1匹が身体の右半分を失った状態で前方10メートルくらい吹き飛んでいき、ママンネは胴体の下半分がグチャグチャになっていて、ドサリと転倒する。手に抱いていたベビは身体の輪郭は無事のようだが、舌を垂らし絶命している。残りのチビ2匹は素粒子レベルまで粉砕されたようだ。

「ミ゛・・・、ミィッ...。」
ママの発する音は助けを求める声でも、我が子の死を悲しむ声でもない。当たりどころが悪く、自身の最期を悟ったのだろう。
「ミゴブハァッ!」
壮大に吐血した後、目から光が無くなった。複数内臓が破裂していたようだ。

376ガラルタブンネ牧場_殱滅編:2021/01/26(火) 16:45:35 ID:.T4VtOPE0

 あっさりとまた一組の集団が殺され、さらに慌てふためくタブンネ達。

 テッカグヤはその場で4,5メートルほど上昇する。この敷地の全容を確認しているようだが、おそらくテッカグヤからも果てまでは把握できないだろう。
 しかしおびただしい数のオモチャが存在していること、また殆どの集団がどこかを目指している訳ではなく、唯々走り回っている事を何となく理解すると、三たび口元に不気味な笑みを浮かべ、次なる標的の目星をつけてその巨体を移動させていく。
 
 今殺したママの死体から20メートル程先の広場で、1匹のパパンネが両手に30センチ弱くらいのチビ2匹の手を掴んで走り回っている。その後方には両手チビより一回り大きいチビンネが4匹、必死にパパの背中を追いかける。
 テッカグヤ視点、自身からの距離を広げる訳ではなく、ただ円を描いて半径2〜3メートルくらいをドタドタ周回しているだけである。さぞかし滑稽に映るだろう...。
 
「パパー!!おウチのベビちゃんたちとタマゴはどうするチィ⁉︎こわいバケモノにこわされちゃうチィ」
「ベビちゃんや卵は助からないミィ!いいからチビお兄ちゃんはパパと一緒・・・、ギャミーー⁉︎チビちゃ....」

 卵やベビに見切りをつける判断力があるのなら、こわいバケモノが近づいて来ることに気づいて欲しかったものである。
 小さな弟妹を心配していた健気なチビは突如パパの右手を離れ、ピクピク動きながら後方に転倒している。
 気づけばすぐそこに大きなバケモノが居る。倒れチビは両脚が千切れ、付け根の部分からドバドバ血を流している。
 他チビは硬直し口をあんぐり開けているだけだが、パパは大量失禁している。やがてキッとした顔をすると、空いた右手で別チビ1匹の手を掴むと、今度はテッカグヤから逃げるように、またトテトテと駆け出した。
 残された3匹のチビは、痙攣する弟、ニヤニヤするバケモノ、離れていくパパを交互に見やるが、「チビィ!」と倒れた弟に声を掛けると、皆チョコチョコとパパを追いかけ始めた。つい最近までベビだった齢、動かない弟も心配だが、親から離れることが一番恐ろしいことのようだ。

 
 このオモチャたちが予想より遥かに脆いことに気づいたテッカグヤ。ジワジワと蹂躙していくつもりのようだ。
 小さいモノだけを先ずは集中して狙い、甲高い声を発し旋回しながら、適当な集団に目星をつけては、エアスラッシュを放っていく。ただでさえ短いタブ脚の、しかも幼子のそれに確実に命中させていくその技は、見事としか言いようがない。

377ガラルタブンネ牧場_殱滅編:2021/01/26(火) 16:48:47 ID:.T4VtOPE0

「ヂィーッ!いだいチィ、たてないチィー!」
「...ミチィ...」  「チ...チビィ...」
「チィのあんよが・・・あんよ・・・。」
「・・・・・・・・・・・・」
「チビェーーン!おね゛えぢゃーーん!おいてかないでビィーー!」
「じにだぐな゛いヂィー!だれかたすげチィー‼︎」
・・・・

 次々と出来上がってゆく、テッカグヤの脚なしチビンネコレクション。その数30、いや、40に登るだろうか。この牧場で一番の売れ筋は離乳後〜50センチ未満個体なのだが、改めてタブンネの繁殖力の強さが窺える。

 先のパパンネ同様、引率タブたちは手を引いていたチビが倒れても直ぐに見限ってまた別のチビの手を引き、追随チビが倒れても見向きもしない有り様。ベビや卵を度外視しても、甘え盛りでまだまだ手の掛かるチビンネはこの牧場内に五万と居るのだ。

 ありとあらゆる場所に散らばる、握り拳ほどの大きさのタブ脚。そこから覗かせるハートの肉球が実に可愛らしい。
 
 何匹かのチビンネは既に失血死してるかショック死している。微かな鳴き声を上げるチビンネも見受けられるが、じきに死ぬだろう。比較的傷が浅いか、もしくは体力に優れるチビンネが必死に叫び声を上げるが、やがて死ぬだろう。つまりみんな死ぬだろう。

378あらびきヴルスト製造工場(プロローグ):2021/01/27(水) 11:07:06 ID:AVp3Wh460

 ここは穏やかな田園風景や、近代都市、雄大な大地に険しい雪山と、様々な顔を持ち合わせる、ガラル地方。

 その中の代表的な産業都市、ナックルシティの一角に、大きな工場がある。そびえ立つ煙突から流れ出す煙は、食欲をそそるような良い匂いを含ませている。

 ガラル地方では今とあるブームがある。
「カレーライス」という料理で、今日も至る所でポケモントレーナーが自身の相棒達と共に、その料理に舌鼓を打っている。
 そんなカレーライスの具材のど定番。
「あらびきヴルスト」という食材がある。
その正式名称は
「タブンネの腸詰め」というのだが、そう読んでしまうとトレーナーが引いてしまうので、その呼び方を知っている人はあまり居ない。

 このお話ではそんなあらびきヴルストの製造過程を紹介する。

379あらびきヴルスト製造工場:2021/01/27(水) 11:08:10 ID:AVp3Wh460

 舞台をナックルシティの工場へと戻す。

 一台の大きなトラックがその敷地へと入っていく。その大きな車体の側面には、タブンネがおいしそうにあらびきヴルストを頬張るかわいい絵がプリントされている。

 そんなかわいい絵とは裏腹、コンテナの中は地獄である。
 真っ暗な中にギュウギュウに詰め込まれたタブンネ達。
 彼等の生息地であるカンムリ雪原で、突如現れた人間達に乱暴に捕まえられては無造作にコンテナに詰め込まれ、そこからはかなり長い道のり、トラックが大きく揺れる度に悲鳴が上がる。
 誰かがバランスを崩す度に、端に位置するタブンネは圧迫され、運の悪いタブンネは工場に着く前に死んでしまう。
 
 狭いコンテナの中で皆んなが悲鳴を上げるとその声は大きく反響し、ポケモンの中でも一番耳の良いタブンネには拷問に近い状態になる。それでも喧嘩になったりしないのは、タブンネが優しいポケモンだからであろうか。そもそもみんなで悲鳴を上げるのを我慢すれば拷問から解放されるのだが、誰も気づいてないのはご愛嬌。

 耳の痛さと酸欠と仲間達のブクブク太ったお腹の圧迫、更には誰かが漏らしてしまった糞尿の激臭という生き地獄に耐えながら、タブンネ達はその牢獄からの解放を待つ。

380あらびきヴルスト製造工場:2021/01/27(水) 11:08:58 ID:AVp3Wh460

 舞台をナックルシティの工場へと戻す。

 一台の大きなトラックがその敷地へと入っていく。その大きな車体の側面には、タブンネがおいしそうにあらびきヴルストを頬張るかわいい絵がプリントされている。

 そんなかわいい絵とは裏腹、コンテナの中は地獄である。
 真っ暗な中にギュウギュウに詰め込まれたタブンネ達。
 彼等の生息地であるカンムリ雪原で、突如現れた人間達に乱暴に捕まえられては無造作にコンテナに詰め込まれ、そこからはかなり長い道のり、トラックが大きく揺れる度に悲鳴が上がる。
 誰かがバランスを崩す度に、端に位置するタブンネは圧迫され、運の悪いタブンネは工場に着く前に死んでしまう。
 
 狭いコンテナの中で皆んなが悲鳴を上げるとその声は大きく反響し、ポケモンの中でも一番耳の良いタブンネには拷問に近い状態になる。それでも喧嘩になったりしないのは、タブンネが優しいポケモンだからであろうか。そもそもみんなで悲鳴を上げるのを我慢すれば拷問から解放されるのだが、誰も気づいてないのはご愛嬌。

 耳の痛さと酸欠と仲間達のブクブク太ったお腹の圧迫、更には誰かが漏らしてしまった糞尿の激臭という生き地獄に耐えながら、タブンネ達はその牢獄からの解放を待つ。

381あらびきヴルスト製造工場:2021/01/27(水) 11:10:45 ID:AVp3Wh460

 トラックは工場の中庭のような場所に停まると、ドシャドシャと乱暴にコンテナ内のタブンネ達をぶち撒けていく。

 今回やってきたタブンネは全部で54匹。
 内2匹のタブンネは死んでいた。一匹は脇腹が破れそこから何やら臓器がはみ出している。もう一匹は身体は無事だが、白眼を剥いてだらしなく舌を垂らしている。死体は乱雑に古びたカートに積まれ、施設内の焼却所で燃やされる。

 中庭は所々錆びた古い鉄製の柵で仕切られ、タブンネ達が居るのはその片側。皆んな四つん這いになって、肩で大きく息をしている。よっぽど息苦しかったのだろう。
 大体のタブンネは大人だがその中に4匹、大人の半分くらいの大きさのタブンネが混じっている。

 やがてどこからともなく、1匹のローブシンが現れ、小さいタブンネの頭を引っ掴んでは、ポイポイと柵の反対側へと投げ込んでいく。
 その度に何匹かのタブンネがミィミィ叫び出し、ローブシンに捨て身タックルを仕掛けるが、ローブシンはへいきな顔をしている。

 小さいタブンネが投げ込まれた側にはカイリキーとドリュウズが居る。カイリキーが1匹ずつ、小さいタブンネの手足を掴んで固定すると、ドリュウズがつのドリルで丁寧に心臓を破壊していく。
 柵を掴んで何匹かのタブンネが必死に抗議の声をあげている。さっきまで捨て身タックルしていたタブンネ達のようだ。きっとこの子達の親だったのだろう。
 この工場では子供タブンネは使わないので、死んだ子供タブンネ4匹は先程の死体同様、カートに積まれて後で燃やされる。

 抗議していたタブンネは涙を流し、他のタブンネ達は子供の断末魔を聞かないように、みんな耳を押さえている。
 子供が混じった場合はこうして親の前で殺すのがこの工場のルールだ。

 今回は48匹のタブンネが、無事にあらびきヴルストになる事ができる。

 よかったね!

382あらびきヴルスト製造工場:2021/01/27(水) 11:11:58 ID:AVp3Wh460

 やがてローブシンの側にカイリキーとドリュウズも加わり、可動式の大きな鉄檻にドカドカとタブンネを投げ込んでいく。
 
 中庭から工場内に移動したタブンネ。今度は「洗浄室」という沢山のシャワーのついた小さな部屋に入れられ、その不潔な身体に高圧で塩素洗浄液を浴びせ続けられ、その後水洗いされる。塩素水が目に入ってしまったタブンネは失明する。

 適当に送風機を当てられ大雑把に身体を乾かしてもらったタブンネ達。
 1匹づつ耳に穴を開けられ番号のついたタグをつけられる。神経の集中した耳を傷つけられるのは相当痛いようで、皆ミギャーミギャー大暴れするが、ナゲツケサルやヒヒダルマといった屈強なポケモン達がしっかりと押さえつけるので、作業は滞りなく終了する。
 
 ナンバリングが済むと、今度は「保管室」という一面を真っ白な壁で覆われた無機質な部屋へとブチ込まれ、ここで1週間過ごす。
 水飲み場が設置され水は自由に飲めるが、大好きな木の実はもちろん、フーズなども一切与えられない。かわりに一日一回高栄養剤の注射を無理矢理打ち込まれる。腸内を空にし、この後の工程を楽にするためだ。
 1週間、身体は弱らないが常に付き纏う空腹感と、何の刺激もない環境に辟易するタブンネ達。ここを出る時は鳴く元気もなく、皆黙って人間に手を引かれるとそのまま身を任せる。

383あらびきヴルスト製造工場:2021/01/27(水) 11:13:49 ID:AVp3Wh460

 保管室から連れ出されたタブンネ。次に連れて来られたのは「毛刈り室」。抵抗する間もなく、鉄製の拘束器具で手足をしっかり固定される。
 人間が手に持ったバリカンで丁寧にその体毛を刈っていくと、やがて地肌が剥き出しのハゲダルマのような姿になる。
 またこの部屋は側面全体が鏡張りになっている。食品となるタブンネに自身の醜い姿を見せつける為だ。
 段々と禿げ上がっていく自身の姿を見てはミィミィと弱々しく鳴き、目に涙を浮かべるタブンネ。最後の工程で尻尾を切断され、大きな耳の接合部を半分くらい切られると大きな叫び声を上げ、やがてしゅんとして再び押し黙る。
 なるべくこの過程でタブンネが死なないよう、簡単にマルヤクデやウィンディが火炎放射で炙って止血してやると。拘束されたまま次のラインへ運ばれる。


 次なる工程では人間が鋭利な刺身包丁でタブンネの下腹部を一部切り裂いていく。腸の端が完全に露出したら完成だ。
 勿論麻酔なんかかけられず、自分の身体が斬られる激痛にヂーヂー喚き声を上げるタブンネだが、体力も気力もなく、激しく暴れたりはしない。その綺麗なサファイアアイはもはや生気を失い、さっさと殺してくれと言わんばかりの表情を浮かべている。

384あらびきヴルスト製造工場:2021/01/27(水) 11:15:18 ID:AVp3Wh460

 死んだ魚のような目をして、禿げ上がった身体を固定されたまま次の作業場に運ばれてきたタブンネ達。
 ここへ来ると皆一斉に生気を取り戻す。この作業場には沢山のタブンネが居る。
 禿げ上がった自分達とは違い、皆綺麗な毛並みをしていて、中にはかわいいリボンをつけたタブンネもいる。

 これまで登場してきたポケモン達はみんなポケジョブで集められた、いわゆる飼いポケだ。ガラルでは人間の仕事をポケモンに手伝って貰う伝統がある。
 ここに居る綺麗なタブンネ達も飼いポケで、この工場では一部の工程をこうして同胞のタブンネにやらせるのだ。

 禿げ上がった方のタブンネ達はみんなでミィミィ大合唱。
 さっきまでは早く死にたいくらいに思っていたのに、こうして綺麗な同胞達を見つけると生気が蘇る。助けてくれると期待しているのだろうか。自分達の醜い姿を恥ずかしがる余裕もない。

 しかし綺麗な方のタブンネ達は皆、禿げ上がった仲間たちの顔をなるべく見ないようにし、助けを求める声も無視して、顔を俯き落涙している。

 やがて工場員の人間が促すと、破れたお腹から腸の末端を引っ掴み、一心不乱に引き抜いていく。
 この作業をする時みんな目を固く瞑り、手はガタガタと震え大量に涙を流す。

ーごめんなさいミィ、ごめんなさいミィ

 タブンネによって引き出されたタブンネの腸は、やがて人間達が籠を持ってきて回収し、別の場所で綺麗に洗われる。

 禿げ上がった方のタブンネ達は皆
「どうして!?」という顔をして、悲しそうな目で小綺麗な同胞を見つめる。
 この状態になってもまだ生きているのが、タブンネちゃんの素晴らしい所だ。

385あらびきヴルスト製造工場:2021/01/27(水) 11:16:53 ID:AVp3Wh460

 大きな希望を与えられた後再び深い絶望に落とされた禿げタブンネ達。
 次の部屋へ運ばれると、そこにもまた1匹のタブンネが居た。

 このタブンネは今回始めてこの工場のお手伝いに駆り出されたようだ。
 四肢を固定され、滑車でガラガラと運ばれて来た生き物を見てギョッとした顔をする。
 ハゲダルマのような見てくれで、お腹が破れ骨盤が丸見えになってはいても、この生き物が自分と同じタブンネであると気づいたようだ。


 このタブンネも勿論飼いポケ。ガラル地方でタブンネが生息するのはカンムリ雪原だけであるから、ハゲダルマ達とは同郷の同胞ということになる。
 ガラルのポケモントレーナーにタブンネを持つ人が増えたのは、割と最近のことだ。
 深い雪地帯であるカンムリ雪原まで電車が延伸されると、多くのトレーナーがこぞってそこを訪れるようになった。
 カンムリ雪原にはそこにしか生息しないポケモンが数種類居て、ガブリアスやメタグロス、ニドキングにボーマンダといったポケモンを見つけてはみんな次々と捕まえていった。そんな流れでタブンネもまたトレーナーに捕まえられる。
 
 雪原から本土に還り、ジム巡りに舞い戻るとタブンネは段々とボックスの肥やしと化していく。他のポケモン達と違いバトルで使い物にならないからだ。

 そうなると皆今度はポケジョブにタブンネを送り出すようになる。その流れである日、一人のトレーナーがこの工場の依頼にタブンネを向かわせた。
 工場の人達は最初大困惑。何せここはタブンネを食品加工する工場なのだから。
 仕方なく途中の工程をタブンネに手伝わせる。するとどうだろう、タブンネが手伝った商品は今までとはまるで別物、絶品の美味しいあらびきヴルストが出来上がったのだ。

 それ以後、工場長は喜んでタブンネの依頼を募集する。
 ガラル地方ではポケモンが人間のお手伝いをするのは当たり前のことだから、普通ポケジョブの報酬はわずかばかりの金銭か、気持ち程度のアイテムが貰えるくらいである。
 しかしこの工場に、仮に一匹だけのタブンネを四時間だけ送り出しても、¥10,000もの報酬を貰うことができ、多くのトレーナーは嫌がるタブンネを何度もこの工場へ送り出しては、ニチャニチャ顔で私福を肥やしていく。

386あらびきヴルスト製造工場:2021/01/27(水) 11:18:45 ID:AVp3Wh460

 舞台を現在の工場へと戻そう。

 タブンネと同じ部屋にいる監視員がハゲダルマの千切れかかった耳を指差して
「さあ、タブンネちゃん。このお耳を思いっきり引っ張って引き千切ってね。」

 タブンネは涙を流しながら、首をブンブン横に振ってイヤイヤしている。

すると監視員
「手伝ってくれないのかなタブンネちゃん。だったら飼い主さんに言いつけてキツく叱って貰うことにするけど。」

 その言葉を聞くとタブンネはビクッと背筋を伸ばし、顔を強張らせる。
 このタブンネはつい最近まで雪原で野生として過ごし、トレーナーに捕まえられたばかりで、勿論虐待なんて受けたことはないのだが、何故かこの類の言葉は効果的面である。
 
 雪原に住むタブンネ達は何故か皆人間を極端に恐れている。
 タブンネだってポケモンなのだから、素手の人間と一対一で本気で戦えば勝てるような気もするのだが、タブンネというポケモンは何故だか人間を怖がるように、DNAレベルで刷り込まれているようだ。
 ご先祖さまになんか悲しい過去でもあったのかな?

 タブンネは重い足取りでハゲダルマに近づくと、意を決した顔をして震える手でその耳を掴む。
 ハゲダルマの方も何をされるか察したようで、ミ゛ーミ゛ー喚いて懇願の目を耳元の同胞へと向ける。希望と絶望を何度繰り返しても、耳を千切られるのだけは物凄くイヤなようだ。さすがはヒヤリングポケモン。

 タブンネは目を固く瞑り、ミィー!と気合を入れると、思いっきり仲間の大切なお耳を引き千切る。

387あらびきヴルスト製造工場:2021/01/27(水) 11:21:20 ID:AVp3Wh460

 その後次々と運ばれてくる同胞達の耳をひたすら千切り続け、ようやくお手伝いを終えたタブンネ。
 監視員はそのかわいい頭を笑顔でナデナデしているが、タブンネはヘタり込んで肩で息をし、大量のお漏らしで床を汚して涙をながしている。
 タブンネちゃんは本当に優しいポケモンさんなんだね!

 
 その後の作業は簡単。耳無し毛無し尾無しのタブンネは両手だけ拘束を解かれ、今度は逆さ吊りにされるとキリキザンが器用に頸動脈を切り刻み、血抜きをされると三十分くらいで絶命する。

 死んだら大きな機械に投げ込まれる。粗めのミンチにされ、更に別の機械でフィラのみやザロクのみといった香辛料と塗されていき、しっかりと加熱処理される。
 出来上がったミンチをゴム手袋をした人間たちが丁寧に先程の腸に詰めていくと、後はパッキングされて美味しいあらびきヴルストの出来上がり!

388あらびきヴルスト製造工場(エピローグ):2021/01/27(水) 11:22:33 ID:AVp3Wh460

 ここは長閑な田園風景が広がる街、ターフタウン。

 その外れにある4番道路という場所に、テントが張られている。
 一人の女の子トレーナーとその相棒達、エースバーン、アーマーガア、ワタシラガにシャワーズが嬉しそうに遊んでいる。彼女の自慢の相棒達だ。

 おや、よく見るとテントのそばに、一匹だけ元気が無さそうに座り込んでいるポケモンがいる。ピンクのチョッキ模様をしたヒヤリングポケモン、タブンネだ。
 シャワーズがタブンネの元に歩み寄り、一緒に遊ぼうと誘うがタブンネは静かに首を振り、その誘いを断った。

 このタブンネ、1ヶ月程前にこの女の子に捕まえられ、飼いポケとなったまではよかったものの、ここ2週間くらいは毎日のようにポケジョブと称し人間の仕事場へ駆り出され、あろう事か同胞を痛めつける仕事をさせられ、とても遊ぶ気分になんかなれないようだ。

 しかし数分後、タブンネは小さい鼻をヒクつかせると顔をあげる。
 どうやら飼い主さんがポケモン達の為に、カレーを作ってくれてるようだ。
 そういえばここ何日かなにも食べていない。カレーの美味しそうな匂いを嗅ぐと、タブンネもお腹を鳴らして飼い主さんの元へと歩き出す。

「ごめんねタブンネちゃん。ここ最近働かせてばかりで。タブンネちゃんの分を一番最初によそってあげるから、いっぱい食べてね!」

 優しい飼い主さんの気持ちに触れ、タブンネも少し元気を取り戻したようだ。他のポケモン達も、そんなタブンネの様子を優しい笑顔で見つめている。タブンネは少し照れ臭そうにはにかむと、女の子からお皿を受け取る。

「今日は辛口ヴルストのせカレーだよ!」

「ミ゛ィヤァーーーーーー!!!」

   (おしまい)

389あらびきヴルスト作者:2021/01/27(水) 11:34:58 ID:AVp3Wh460
本編1ページ目二重投稿ゴメンネ。

長編SSの更新、楽しみに待っておりやす!

390名無しさん:2021/01/27(水) 19:35:08 ID:fQe6QE5o0
>>389

やっぱりヴルストと言ったらタブンネちゃんを思い出すよね

391ガラルタブンネ牧場_殱滅編:2021/01/28(木) 16:00:28 ID:vhC4ms0g0

 テッカグヤが遊んでいる界隈、脚無しのチビを抱えながら走り回る成タブの姿がチラホラと見られるようになってきた。
 愛情から来る行動でもあるだろうが、守るべきチビが他に居なくなったことが最たる理由だろう。

「チィ...チィ...」
「チビお姉ちゃん、しっかりするミィ!必ず後でニンゲンさんがあんよ治してくれるミィ!」

「おにいちゃ、、キモチわるいチィ...」
「ごめんミィ!今はバケモノから逃げないと...!ちょっと揺れるの我慢してミ!」

「マ、マ..なにもみえな・・・」
「ミ゛ミッ⁉︎頑張るミィ、チビちゃん!今ママがいやしのはd・・」

ボンッ!    「...マ...?」    

 最後の生き残りチビを抱えていた一匹のママンネが、立ったまま絶命してしまう。背中一面が爛れ、口から僅かに白煙を吐いている。
 ひとしきりチビを虐めた悪魔は、今度は保護者の破壊を始めたようだ。

ドッ!ドッ!ドッ! ・・・・

 テッカグヤは次々と手に光の弾を作っては、手負いのチビを抱き、ただでさえ遅い脚が更に遅くなったタブンネ達に次々命中させていく。テッカグヤからすれば大分威力を落としているのだが、命中したタブンネ達は皆即死するか致命的な重傷を負っていく。

392ガラルタブンネ牧場_殱滅編:2021/01/28(木) 16:03:02 ID:vhC4ms0g0

「...ミ゛..」「ミボハァッ!」「・・・」
「チビちゃ...にげ...ミィ...」
「いだミィ...だれか、だれがたすげて...」
「ミブルルルッ」「・・・」

 盛大に吐血するタブ、息絶えたタブ、背中一面の皮膚が破れ骨や臓器が露出するタブ、横腹が千切れタブ....。様々なバリエーションで横たわるタブンネ達。

「チィ!チッ、チビッ...」
「チィ?...チィ...」   ・・・・
 介抱されていた立場一転、地面に投げ出され、すぐそばに横たわるパパママ、お兄ちゃんお姉ちゃんを虚な目で眺めるチビンネ達。牧場産まれ、お花畑思考の弱タブといえど、聴覚は優秀。いつも聴こえていたはずの心音が著しく弱っていることと凄惨な傷を見ては、本能的に両親兄姉の状態を悟ったようだ。皆さめざめと涙を流している。
 実にいじらしい光景だが、きっと大丈夫。自身の重い傷を治してくれる存在がいなくなったということは、じきに同じ所へ行き、再会できるだろう。


 広大な牧場のまだほんの一画ではあるが、一通り遊び終えたテッカグヤ。次は無防備に放り出された、一定間隔で並んでいる簡素な巣穴に目をつけたようで、不気味な笑みを浮かべながら大きな巨体を移動させていく。

393ガラルタブンネ牧場_殱滅編:2021/01/28(木) 16:06:53 ID:vhC4ms0g0

 幾多も並ぶ小さな巣穴。
 少し乱れたシーツや毛布を残すのみとなった場所。乳飲児のベビンネ達、数個の卵が放置されている場所。その数半々くらいであろうか。

ヂィッ!ヂィ--!...
 まだ産まれて間もないくらいのベビ達は、皆オシッコや軟便を垂れ流し、シーツや下腹部一帯を茶色く汚している。まだタブ語にもなっていない鳴き声で訴えるのは下腹部の不快感か、糞尿の悪臭が嫌なのか、それともおっぱいをせがんでいるのか。

「ママ、どこにいるチィ?」
「おっきなおと、コワイよ、ママ」
「おっぱいのみたいチィ、おなかすいたチィ」
 人間や両親の手を借りて歩く練習を始めた齢のベビ達は、チィチィ鳴いてはママや人間を求めて必死にハイハイして移動しようとしているが、干し草の上にシーツや毛布という不安定な足場、うまく進むことができず皆その場でモゴモゴと蠢いているだけである。

 
 テッカグヤがそこへ近づいてくる。目が見えているベビは勿論、そうでないベビも耳や触角はある程度発達しているようで、みな声を潜めてはガタガタと震え出し、小さな手で毛布やシーツを掴んだり、兄弟ベビと固く抱き合ったりしては、メソメソと涙を流し出す。

394ガラルタブンネ牧場_殱滅編:2021/01/28(木) 16:10:08 ID:vhC4ms0g0

 テッカグヤは一通り巣穴を見渡すと、生命体の存在が見受けられない箇所はスルーし、小さなオモチャが蠢く場所に大きな両手を向け、火炎放射とも呼べないような、火の粉くらいの炎を吐き出す。

 ボッ!   ・・・
バチバチバチ ゴォーーーー!
 衛生的でよく乾燥した干し草、シーツ。火を放たれると瞬く間に引火しては轟音と共にけたたましい火柱を上げる。
 テッカグヤは次々とベビ、卵の居る巣に向け火を放っていく。

パーン!パーン!...ヂィッ!ヂィ--!..
「ママ゛ァー!アツイチィ!」「た...だすけ...」「ギャヂィーー!けしチィー!」
「ニンゲンさ、、おみず...み..ッ」
 業火に飲まれ卵は次々と破裂していき、小さな身体のどこにそんなパワーがあるのか、ベビ達は大声で断末魔や助けを求める悲鳴を上げる。
 次々と火柱が増えていくが、各巣穴一定の距離を隔てていることが功を奏し、幸い牧場全体が大火事になるような惨事には至らない。

 四方八方散らばっていた残存タブ達の中に足を止め、目に大粒の涙を浮かべながら火柱を見つめる集団が現れ始める。最後の叫びを上げたベビ達の親、兄姉達のようで、耳が良いことがここでは災いし、その悲鳴を拾い聴いてしまったようだ。
 緊急事態で致し方なしの判断だったとはいえ、いざ我が子の悲鳴を聞くと強烈な罪悪感が込み上げてきたのだろう。タブンネなりの懺悔なのか、皆両手を胸の前で合わせたり、チビンネは地面にひれ伏すような体勢をとっている。皆フルフルと身体を震わせ、ミィチィ悲しい鳴き声があちこちで木霊する。

395ガラルタブンネ牧場_殱滅編:2021/01/28(木) 16:14:39 ID:vhC4ms0g0

 テッカグヤが放火遊びを始め、徐々に屋舎からの距離を広げていく間、その巨体の右後方、遊具や木々がやや密集している箇所に、2,3組のタブ集団が集まってきて、何やら企んでいるようだ。


 言葉を重ねるがこの牧場は頑丈な金網のフェンスで囲われ、それは果てまで続く。
 屋舎側の一面も同様だが、その丁度中央、幅1.5メートルくらいのゲートがあり、人間やタブンネにとって、つまりそのゲートが唯一牧場と外部の出入りを可能にする場所となる。
 普段ここは開放超厳禁。野生の捕食種が侵入すればどうなるかは目に見えているからだ。しかし今、ゲートは開いている。自分達人間が避難した後、続々とタブンネ達もついてくる未来を想像していた最後の避難飼育員が開け放してくれたからだ。
 ゲートを出て10メートル程進めば、人間の居る屋舎の扉の一つがある。そういう地理を、殆どのタブンネが理解している。


 集結タブ集団。そこにベビを抱いた1匹の成タブ、必死に走ってそれについて来た50センチくらいのチビ2匹がやって来て輪の中に加わった。
 すると別の成タブ1匹が「ミィッ!」と気合の入った掛け声を上げ、大集団で屋舎へ向けトテトテと駆け出した。

 どうやらこの集団、大所帯の一家族のようだ。パパママ、遠目から見ればわからないが、親よりほんの少し背の低い長兄長女、50センチチビが3匹、30センチ強のチビが4匹。パパママ、長女は手にベビを抱き、長兄は卵を抱いている。

 一旦はバラけた家族であったが成タブ4匹を中心とした4グループで行動し、大きなバケモノの隙を見計らい、一家この場所に再集結し、屋舎へ逃げる算段を立てていたようだ。
 中々統率の取れた家族だし、出口が一ヶ所しかない以上、テッカグヤの隙を窺いそこを目指す方法はかなりベタであると言える。
 しかし最後の過程でわざわざ一家集結するのはどう考えても悪手である。自力で走れタブだけで数えても11匹。遅い脚にピンクの体毛、目立たないワケがない。

396名無しさん:2021/01/28(木) 19:08:28 ID:9YnwpJFM0
残された赤ちゃんタブンネ達まで丁寧に描写して頂いて乙です

料理系SSだと生まれたばかりを揚げたり焼いたりは鉄板のベビンネならではですね

397ガラルタブンネ牧場_殱滅編:2021/01/29(金) 17:57:39 ID:edEWkb1g0

 家族が集結した地点からゲートまでは直線距離でおよそ40メートル。身重のタブンネやチビンネからすれば結構な距離である。
 成タブ4匹が先頭、50センチチビが少し遅れだし、30センチチビがさらに遅れだす。成タブは皆真剣な表情。チビ達は恐怖や疲労からか目が潤み、涙する者もいる。

 家族が動き出して間もなく、テッカグヤは愉快な火遊びの手を止め、家族の方へ今日一番の速度で向かい出す。視界の隅に捉えたのか、足音や荒い呼吸に気づいたのか。
 ピンクの集団を追いながら、その大きな右腕は僅かに紅潮し、ややではあるが湯気をあげている。

 テッカグヤはそれ程スピードがある訳では無いが、身重タブのそれに比べれば充分速い。やがて先頭集団に追いつくと力を溜めていた右腕を思い切り振り回す。

ゴッ!  トテトテトテ....バタッ 「ヂッ!」

 渾身のばかぢからがパパンネの顔面を吹き飛ばし、目や耳、歯茎、顔のあらゆる部位が細切れで辺りに飛び散る。
 顔なしとなったパパはその姿のままヨタヨタと数十歩前進したが、前のめりに倒れ、腕に抱いていたベビを下敷きにし殺めてしまった。

 ママ、長兄長女は足を止めず、表情も崩さない。しかしパパの亡骸に追いついたチビのうち、4匹が足を止め、チィチィ泣きだした。
 ママは顔半分だけチビの方へ振り返ると、走る速度を少し緩め(本人はそのつもり。そもそもの最高速度がおっそいので、そのスピードの変化に気づくタブンネ以外の生き物はたぶんこの世に存在しない)
「パパとベビちゃんは助からないミィィ‼︎いいからチビたちはママについて....ミミィー⁉︎ベビちゃん⁉︎」
 スピードを緩めたのはともかく、前方不注意というのはとっても良くない。エアスラッシュがママの腕ごとベビに襲いかかり、乳飲児には致命的な傷を負った。

「チヒィ...チヒィ...」
 ママは慌ててベビを芝生の上に寝かせ、両手を翳し、いやしのはどうの姿勢をとる。自身の両腕からも血飛沫が噴き出すが、お構い無しという様子だ。
 今自分がチビ達に言わんとした事と矛盾しているし、強烈な悪意と対峙している現状況を考えれば悠長な行動だ。ただ自身の腕の中で赤児が命の危機に瀕していて、母親が咄嗟に取る行動としては、正しいことのような気もする。

398ガラルタブンネ牧場_殱滅編:2021/01/29(金) 18:01:08 ID:edEWkb1g0


「ママ!!」
 一喝の叫びを上げたのは長兄ンネ。足を止め、後方に振り返る。やがてそこまで追いついた50センチチビのうちの1匹に自身の抱いていた卵を託すと、ズンズンとテッカグヤの元へ歩み出す。

 ママはキッとした顔つきに戻ると、寝かせた瀕死ベビを再び抱え、ゲートに向け走り出す。ベビはタブンネのいやしのはどうでどうにかなる容態ではない、人間の医師による本格的な治療が要る。今自分が取るべき行動は屋舎を目指し、全力で走ることだ。
 一足先、長女ンネは相変わらず足を止めず、真剣な表情を崩していないがその両眼からはボロボロと涙を流している。同じ時期に産まれ、野生生活と牧場生活、苦楽を共にしてきた片割れの兄の意図を読み取ったのだろう。何としても自分自身と胸に抱く小さな弟で逃げ切る意思を固める。

 長兄ンネはテッカグヤの正面に立った。その可愛い右腕を巨大な悪魔に向けると

「聞くミィ!バケモノ!ここはタブンネとニンゲンさんの、平和なおウチだミィ!おまえは立ち去れぇっ!ミィッ!これ以上ミィの大切な家族や仲間たちをイジメるのなら、ミィをたおs..

ドコン!

 未婚のメスタブが聞いていたとしたら惚れてまうこと確実なセリフは、最後まで聞けなかった。
 
 テッカグヤが片腕で地面を叩くような素振りをすると、鋭利な岩刃が地面から突き出し、長兄ンネのタブ肛門とタブチンチンの間からその身体を突き破り、貫通こそしなかったが先端は脳天にまで達し、串刺しになった身体は地上3メートル位の高さまで持ち上がる。
 尾を激しく左右に振り、両耳に両腕、両脚を前後にバタバタと動かし、白目を剥き、小さな鼻や口から赤やピンク、黄濁の混じった半固形の液体を激しく噴き出し、やがてそのままストーンエッジの頂点で息絶えた。

399ガラルタブンネ牧場_殱滅編:2021/01/29(金) 18:03:59 ID:edEWkb1g0

 瞬く間にやられてしまった勇敢な長兄。しかしながら彼の命を賭した戦いは決して無駄ではなかった。
かもしれない

 兄の戦いには目耳を向けず、必死に歩みを進めた残り家族ンネ達。
 ベビを抱いた長女が先頭、先程よりも距離を詰めたチビ達がその背中を追い、一悶着あって遅れを取った、瀕死のベビを抱いたママンネが最後尾につくタブフォーメーション。
 屋舎の牧場側の各窓に張りつく従業員達、また扉を半開きにし、必死にタブンネを励ましながら手招きする飼育員。

 その声援は長女の耳にも届いている。ゲートまであと2メートル、1メートルと距離を縮め、腕に抱いたベビがそこへ差し掛からんとした時、安堵なのか気合いなのか、「ミッ!」と長女が雄叫びをあげ、いよいよ第一生還タブ誕生かという刹那

ガラガラガラガラガラ・・・

 直径7,80センチはあるだろう大きな岩が大量に空中に現れ落下し、長女と追随チビ7匹全員をその下敷きにする。まるでこのタイミングを見計らったかのようだ。
 ブチャッ!ブチャッ!と肉を潰す音を響かせた後、一瞬「ミ」という短い悲鳴が聞こえた。
「ーーーーーーッ」
 落石から唯一逃れたママ。発する言葉も無く、芝生の上に短いタブヒザをつく。無意識的に触覚で確認する心音。確かにそこにあった筈のチビベビのそれは感じられず、長女のそれはみるみる弱っていく。数秒後死ぬことがママにも理解できるほどに。

ポッポッポッ ザシュ!ザシュッ!ザクッ

 ママの傍までフワフワとやって来たテッカグヤ。やどりぎの種を植え付け身動きを封じた後、完全に立つ意思を失った両脚を綺麗に切断。ワザと浅く、頚動脈へもエアスラッシュを放つ。

「ヂッ....ヂッ...」「......ミィ......」
暖かいママの胸を離れ、地面に投げ出されたベビンネ。まだ目も開いてない齢、それでも重篤な身体に鞭打って必死にママに向け何かを訴え鳴くが、ママはそれには応えない。完全に生きる意欲を失ったようだ。失血が先か宿木が先か、ママもベビもきっと後で家族と同じ所へ行けるだろう。

400ガラルタブンネ牧場_殱滅編:2021/01/31(日) 02:37:33 ID:8pzBNc/I0
 絶句するしかない屋舎の人間たち。
 人間は人間でただ黙って殺戮を見ていた訳ではなく、テッカグヤの位置を見計らって、せめてゲート付近へ来た子供だけでも救出に向かおうと機を窺っていたのだが、テッカグヤの行動範囲から、中々タブンネ達が屋舎側へ寄れなかったのだ。ゲートが大量の岩で埋められた今、もうそんなチャンスすらやって来ない。

ミギィーー! ミィャーー! ・・・・

 ゲートが塞がれたことに絶望するのは人間だけではない。実はタブンネの中にも、逃げ惑いつつも出口へ向かう機を窺っていた者は結構いたのだ。先の大家族とはゲートを挟んで逆サイド、2,30匹のタブンネがいつのまにか集まっていた。
 しかし一部始終の殺戮と塞がれた出口を見てパニックを起こし、大声で喚き散らしながらまたドタドタ走り回る。
 元々出口のことなんか頭に無く、最初からパニクってたバカンネ達はパニックの2乗といった様相で、静まり返った人間と違い牧場は非常に賑やかだ。


 集まっていたタブンネ達の大声に気づき、そちらを見やるテッカグヤ。これだけ広い敷地でありながら、偏った分布、先程の集団の行動....。
 どうやらテッカグヤ、ここの出入り口がさっき岩雪崩で塞いだあの小さな隙間一ヶ所であることを察したようだ。
 薄気味悪く、表情を歪ませる。一瞬だが意表を突かれ、せっかく遊んでやってるのに、コソコソと脱出を企てられたことに些か機嫌を損ねたようだ。

 鉄蹄光線か破壊光線かわからないが、両手に怒気を孕んだ巨大な光を集める。今までの攻撃とは比にならないすさまじいエネルギーだ。バチバチと音を立てて、周囲の芝生が落雷に撃たれたごとく真っ黒に変色している。パワーが熟したところで、ポテポテと駆け出しバラけ始めた集団に両腕を向けると

ドーーーーーーーーーーーン!!

401ガラルタブンネ牧場_殱滅編:2021/01/31(日) 02:39:37 ID:8pzBNc/I0
 轟音と共に直径4,50メートルの光がタブンネの集まっていた辺りやその周囲広域を包む。
 
 やがて光は消え去るも、濃い白煙や土埃が舞い上がり、なかなか現場を確認できない。

 さっきまでミギャーミギャー騒いでいた残りの生存ンネ達も皆押し黙り、固唾を飲んでそちらを見る。自然現象ではあり得ない程の爆音と衝撃。彼らの感情は恐怖というよりも、興味というそれに近いのかもしれない。

 徐々に煙が晴れる。辺り一面の芝生は一切捲り上がり土色を見せ、その中にちらほら、尾や耳、腕に脚、かつてタブンネだったモノの一部が散らばっている。
 
 直接光線を受けなかった者も爆風で吹き飛ばされフェンスにぶつかったのだろう。フェンス前にはコウベを垂れ、僅かに舌を出し絶命しているタブが数匹転がる。敷地の外まで吹き飛んだタブも2,3匹居るようだ。どれも毛皮の一部や身体の一部が完全に捲れるか消え去るかしている。
 それら残骸を含めても数が合わない。どうやら40匹以上のタブンネが跡形も無く消し飛んだようだ。


フゥーーー!フゥーーーーー!

 静寂に包まれた牧場の沈黙を破ったのはテッカグヤ。今日一番のボリュームで薄気味悪い雄叫びを上げ、またも不敵に笑みを浮かべる。全力の攻撃と殺戮で幾ばくか鬱憤も晴れたようだ。

「ミ、ミミ゛ィーーーーーーッ!!」
「ミヒャーー!」「ミバギャーー!!」

 静観と発狂を繰り返すのはここ数十分で何度目だろうか。圧倒的な攻撃と凄惨な残骸を見て、また喚きながらドタバタと走り散らかすタブンネ達。

 野生時の他種からの襲撃でもあり得ないような惨状。無理もないかもしれないが、今までよりも大きな混乱。ベビや卵を抱いていた親ンネはそれらを放り出し両手をバタつかせ、親子で固まっていた集団も完全にバラけ、大タブ小タブみんな涙に尿、糞を撒き散らしながらあちこちを走り回り、まさにカオスといった様相だ。

402ガラルタブンネ牧場_殱滅編:2021/01/31(日) 02:43:03 ID:8pzBNc/I0
 そんな中、何匹かのタブンネが金網のフェンスの一ヶ所に集まって来て、ガシガシとそこにしがみつき、「ここから出して!」と言わんばかりに泣き喚いている。
 今まで何度も自分達を守ってくれた金網。マニューラのしつこい辻斬りやユキノオーの本気のウッドハンマーでも傷一つ付かない代物だ。タブンネの力でどうにかなるワケないのだが、みんなここを破らんとばかりに引っ掻いている。
 やがて「ミィもミィも!」みたいなノリで他のタブ達も集まって来て、10数匹のタブが固まってガチャガチャ大きな音を立てる。

 今の状況で冷静になれというのはタブンネじゃなくても難しいだろうが、この金網にしがみつくという行為が良くなかった。

 手当たり次第、色んな技を駆使してタブ殺しを楽しんでいたテッカグヤ。この哀れな金網タブ達に気がつくと、不気味な笑い顔でそこに両腕を向け、火炎放射を撃ち放つ。

 成タブの体力を考えればテッカグヤの火炎放射自体は即死や即致命傷になるような威力ではない。
 しかしこの網、クイタランやブーバー系統を意識して作られた耐熱性。科学の力って凄いもので、摂氏2000℃の炎を数分間浴びせ続けても溶け出さない代物だ。
 集中的に火炎放射を浴び続けるとその温度はある点を境に加速度的に上昇し、手に体重を乗せていたタブンネはそこから順に身体があっという間に溶けて無くなり、断末魔を上げる間もなくこの世から消え去った。

 テッカグヤが火の手を止めると、そこには魔界の炎で焼かれたかの如く黒い影だけが残る。金網に黒い模様がつくその様はまるで何かのアート作品のようだが、よく見るとカタチがタブンネなので、悲惨なのに笑えてしまうのが非常に気の毒だ。

403ガラルタブンネ牧場_殱滅編:2021/01/31(日) 02:45:34 ID:8pzBNc/I0

 その後もあらゆる手段を尽くし、ピンクのオモチャ達を蹂躙していったテッカグヤ。

 テッカグヤ襲来時点、タブンネ達に充てがわれた巣の数は「51」に登り、居住タブはおよそ400近い数字であった。
 現在おそらく40番の巣あたりまでのタブが死亡。テッカグヤにも若干だが疲労の色が見え始める。


 時折触れて来たが、この牧場内には随所、木が植えられている。野ざらしの敷地の為、強い日照時を考えタブンネに日陰を用意してやることと景観保持が主な目的だ。
 牧場内には2ヶ所、横一列に木々が密集する箇所がある。要は防風林の役割で、20番と21番の巣穴の間と、40番と41番の間にあり、つまり牧場は上空から見ると、屋舎側・中央・いにしえの墓地側3ブロックに分かれることになる。

 これまでテッカグヤとタブンネが遊んでいた場所は全て屋舎側のブロック。避難が遅れながらも殆どのタブンネが屋舎近くまで進んでいて、強敵襲来後、引き返す事を試みタブも居たが遅い足が災いするなど、何やかんやで殺されて今に至る。


 屋舎ブロックに居たタブンネ全員と戯れ終えたテッカグヤ。中央ブロックに差し掛かる数メートル手前で、一度立ち止まった。
 20-21間の防風林から、何やらチィチィ木霊する声が聞こえてくる。木々をよく見ると、各所の木陰に身体を隠し、顔だけ出してテッカグヤを覗き込む10数匹のチビンネが居る。
 
 このチビ達は21-40、皆中央ブロックに住む家族の子供だ。
 異変に気づき、大声で帰ってくるよう促すパパママのタブボイスに耳を貸さず、いつまでも遊びに没頭していたチビ達で、痺れを切らした家族に置いていかれ、気がつくと林の向こう側で大きな音や悲鳴が鳴り響き、おウチに帰っても誰も居ない、言わば急造みなし子チビンネといった個体である。

404ガラルタブンネ牧場_殱滅編:2021/02/01(月) 15:56:36 ID:vyLKK.qA0
「チィ〜」「チィ、チビィ?」「チミィ...」
 皆小さな身体を木陰に隠しては居るがキョトンとした表情で、初めて見る大きい生き物を見つめている。怖くはあるんだけどついつい心霊番組を見てしまう人間の子供の感覚に似ているだろうか。
 タブ好きの人が見れば悶絶モノの光景なのだろうが、この状況では完全なアホである。やはり過保護というのは良くない。おそらく自分のパパママがとっくに御霊タブとなっている事もまだわかっていないだろう。

・・・まあ暇つぶしにはなるか

 テッカグヤは両腕を上げると、真空の刃を放ち端から順に木を切り倒していく。
ズシーン!ズーン!...
 大きな音を立て順に倒れて行く木々。やがて一番端側に居るチビンネの隣の木が倒れると

「チィーーッ!」   トテトテ...
 一つ内隣の木まで移動し、また身体を隠し、顔だけちょこんと出してテッカグヤを見つめるチビンネ。かくれんぼでもしている感覚なのだろうか。
 テッカグヤは逆側も同じように、端から少しずつ木を倒していった。
 やがて防風林としての機能は無くなり、中央に5本の木が残り、その陰に2,3匹ずつチビンネが隠れている、よくわからない状況が出来上がった。木に隠れることに拘る意味があるのだろうか。子供は健気である。
 チビの内訳を見ると小さいのは25センチくらい、大きいので40センチ弱、計12匹居る。巣が近いことから顔見知り、普段からの遊びタブ仲間のようだ。

・・・なんかバカらしくなってきた

 テッカグヤは右腕で地面を叩くような素振りをする。

ガタン!ガタガタガタ...

 周辺の地面が大きく揺れ、地盤がぐらぐらする。テッカグヤは何度も右手を上げ下げし、しつこくじならしを繰り返す。

405ガラルタブンネ牧場_殱滅編:2021/02/01(月) 15:58:51 ID:vyLKK.qA0
 繰り返される激しい縦横の振動にチビンネ‘sはみんなズッコケて、可愛いお腹やお尻をポヨンポヨン弾ませながら地面にバウンドする。
 やがて足場を崩した残りの木が全て倒れたところで、テッカグヤは手を止める。

「チビャー!」「チビィー!」

 大事な隠れ蓑を失ったところで、チビ達は叫びながらトコトコ駆け出し、大きな生き物から少し距離を置いた所にみんなで固まり、澄んだ瞳でその生き物を見つめる。
 うっすら涙を浮かべるチビも居るが、恐怖から来るものでは無く身体の痛みからであろう、ぶつけてしまった顔やお尻に手を当てている。なんだか楽しそうな気配を醸し出す子さえいる。とても平和な光景だ。

 テッカグヤは再び腕を振り下ろす。ガラガラと音を立てて大きな岩がチビの周りを取り囲む。
 直径3メートルくらいの空間に閉じ込められたチビ達。チィチィ叫びながらペシペシと硬い岩を叩いている。
 テッカグヤが徐にその上に現れる。大きな腕を健気なチビ達に向ける

 シュッシュッシュ...

「チヴァァーー!」「ヂミ゛ィッ!」....
 エアスラッシュという技は実に便利である。
 真空の刃がチビの両腕、両脚、両耳を次々ちぎっていき、大量の鮮血を撒き散らす。半数、6匹が芋虫の様な姿になったところで撃ち方やめ、テッカグヤは不気味な笑みを浮かべてその場に佇む。たいへん器用なテッカグヤだ。

ピィー...ピィー... ...ヂ...ヂ...
....チビッ.... ヒュー...チヒュー... .....

 芋虫チビ達は自分の身体を傷つけられて初めて、動物的危機感を感じ始めたようだ。しかし呼吸をするのもやっとの状態になってきた。
 耳を押さえ、ガタガタと震えながらへたり込んでいた無傷チビ達であったが、攻撃が止んだことに気がつき顔を上げると
「チィッ!」「チィチィ!」みな近くで横たわるお友達や兄弟を見て、傍に座り込んで両手をかざす。ママの使ういやしのはどうを真似してるようだ。
 もちろん手から波動なんて出ないのだが皆真剣な表情、「ボクが治してあげるからね!」と言わんばかりである。
 
思いやりの強いポケモンだ。

406ガラルタブンネ牧場_殱滅編:2021/02/01(月) 16:01:27 ID:vyLKK.qA0

 必死に看病するチビ。瀕死の重傷を負いながらも辛うじて呼吸をし、なんとか生命を維持するチビ。それを傍らで見守る心優しいテッカグヤ。

 しかし段々飽きてもきたし、体力も回復して来た。テッカグヤはその巨大な両腕の先端の触手で1匹ずつ看病チビを摘み上げる。
 残った4匹の無傷チビ達は両手を伸ばし、かえしてかえして!とでも言うようにチィチィ鳴きながら、その場でピョンピョン跳ねている。
 テッカグヤは猛スピードで、そのまま上空へと飛び上がった。グングンと高度を上昇していき、1,000ftくらいの高さで止まる。地上から見れば豆粒くらいの大きさだ。
 両手チビはこのサイズでも10kgくらいはあるだろう。仮にこの高さから自由落下すれば地上に達する時の速度は...

・・・各々で計算してみてほしい

 チィッ!チィチィ! 両腕のチビンネ、触手の中でバタバタと暴れている。急激な高度変化に気絶しなかったとは大したものだ。はなしてはなして!と訴えるように鳴き声を上げる。ならば放してやるのが道理。テッカグヤはパッと触手の力を緩める。

「ヂィーーーーーーッ......ッ..........」
「チヒィーーーーーーー.................」

・・・・・・

ズドーーーーーーーーーン!×2

 地上チビ達の岩場の左右数10メートル先、何処までも深い穴が2つ出来上がった。きっと身体中の骨が粉々、速やかに土に還れることだろう。
 テッカグヤ、実は岩場の中に落とすことを狙っていたのでちょっぴり残念そうだが、ゆっくりと残りのお友達の待つ地上へと戻っていく。

407ガラルタブンネ牧場_殱滅編:2021/02/01(月) 16:03:54 ID:vyLKK.qA0
 だんだんと高度を落とし、ちっちゃなお友達の待つ岩場へと戻ってきたテッカグヤ。6匹居たチビ芋虫ンネのうち、2匹は死んでいた。残りの4匹はもう声も出さず、微かにお腹を上下して、なんとか呼吸している。
 
 まだ遊んでやってない4匹のチビは、皆頭を抱えてヘタり込んでいる。落下チビの上げた激しい轟音、それが聴覚の鋭敏なタブンネには相当効いたらしく、体力の未熟なチビ達はおそらく脳震盪に近い状態になっている。

 テッカグヤは再び触手で1つずつ、脳震チビを摘み上げる。「チッ..チビッ...」と僅かなレスポンス。それではつまらないので、両腕を思い切りグルグルと旋回させる。

「ギヒャーーー!チゴブルルッ...!」
「ヂィーーー!チゴポッ・・・・・・」

 高速でブン回されるチビ。オヤツの時間に与えられたきのみジュースを戻してしまい、小さなお口から汚い液体を撒き散らす。片方は吐瀉物を誤飲してしまい、触手の中で死亡してしまったようだ。
 テッカグヤは頃合を見て握力を緩める。メジャーリーガー顔負けの豪速球が敷地の外へ解き放たれる。

「チボファーーーーァーーッー.....」

 ガシャッ!   ベシャッ!

 猛スピードの舞空術を見せつけた2匹のチビ。その身体は金網を貫通し、敷地外に着地した。
 金網には僅かな毛皮片と血痕が2ヶ所残り、牧場の外には網目の形にトコロテン状に加工されたピンクと赤が混じったミンチが2つ転がっている。1匹は既に死んでいたが、最期にお空を飛べてさぞ楽しかったであろう。


「チィ、ヒッ。」「チィチィッ、チビッ。」
(もうヤメて) (ボクたちをイジメないで)
 
 テッカグヤが岩の中を見やると、残り2匹の五体満足チビがシクシクと涙を流している。別に遠慮する事はないのだが、テッカグヤはその言葉に応えて彼等とは遊ばないことにしたようだ。
 もはや職人技と言っていいだろう、軽いエアスラッシュを放つと2匹の首筋と大腿部の付け根、太い動脈の走る箇所に綺麗な切り込みを入れ、お別れの挨拶としてやどりぎを植え込み、その場を後にした。

「チ...チィッ!.....ブギャーー!ビガァーー!」
「チフッ、ヂフッ...。..チボァーーーーーーーッ」

 コワイ生き物が立ち去った安堵、突如絡みついてきた不快な蔦、それを振り解こうとしてもがいた途端噴き出した鮮血と激痛。
 最後まで愉快なリアクションを見せてくれた2匹のチビンネ。バタバタと動く度に血が飛び散り、元気な叫び声を上げる。暴れれば暴れるほど失血の速度が早まるが、早く苦しみから解放される意味では最善の行動かもしれない。

408ガラルタブンネ牧場_殱滅編:2021/02/01(月) 16:06:53 ID:vyLKK.qA0

 時を遡ってテッカグヤがみなし子チビンネと遊び始める少し前、中央ブロックでは大小30匹弱のタブンネ達が小さいタブ脳をフル回転させ、あたふたと思慮を巡らせていた。

 このタブンネ達は皆いにしえの墓地側に住んでいて、比較的野生を離れてからの日が浅い者達である。
 テッカグヤがマックスダイ巣穴に現れた時点でその存在を聴覚で確認し、人間が叫び声をあげるや否や、すぐさま避難を始めた。
 言葉の詳細はわからずとも、不気味な生命音が迫って来る事は察知できていたし、人間の意図が「建物へ逃げろ」というモノであると理解することができたのだ。
 慌ててチビやベビ、卵を抱いて走り始めるが、いかんせん自分の巣から屋舎までの距離が遠すぎ、2つ目の防風林を越える手前でテッカグヤが襲来、最初の犠牲タブが出る様を遠目で確認した。

 野生の知恵や危機管理能力がさほど衰えていないこの残存タブンネ達。テッカグヤが暴れ始めてもパニックを起こしたりせず、注意深く巨大な敵の能力や行動を確認していた。

 
 雪原のタブンネが他種族を認知する際まず見るのは自分との素早さ関係。ここが一番命に関わる。その上でカテゴライズを行う。

①自分達を食する種族。マニューラやドラゴン族等がこれに該当する。この分類で且つタブンネより素早い(ほぼ全種)種族は足音や鳴き声を覚え、できれば巣の位置まで把握するのが望ましい。
②タブンネを食べないが、襲うことのある種族。雪原ではユキノオーやオーロットが主。彼等がタブンネを襲う際は縄張り意識か産卵後、子育て期のナーバスな時期の場合が多く①と違い交渉の余地がある。
③アマルスやバイウールーなど自分達に友好的な種族。あんまり居ない。

 残りンネ達は自身の経験や親からの伝聞で、そのような視点で敵を把握しようと試みた。
 どうやら今回の敵は自分達よりやや足が早く、①にも②にも該当しない。ましてや③ではない事は野生産ならチビンネでもわかる。
 
 ただただタブンネの命を弄ぶ事を楽しんでる模様、野生でも経験した事も伝え聞いたこともない純粋で強烈な悪意と対峙した彼等は、ある意味強運なのかも知れない。

409ガラルタブンネ牧場_殱滅編:2021/02/01(月) 16:09:19 ID:vyLKK.qA0

 途方に暮れるタブンネ達。まだ牧場に来て間もない新参ンネの中には、建物側のゲートの他に出入り口がないかと辺りを物色する者も居たが、そんなモノは無い。人間の善意による牧場の構造が結果的に仇となった。もう遅い。

 敵は間もなく、確実にここまでやってくる。野ざらしな敷地だし、逃げ切ることは現実的ではない。まして闘うなんて死期を早めるだけだ。とんでもない攻撃力はイヤと言うほど確認できた。


 そんな中、一匹のパパンネが「ミミッ!」と声を上げると、放り出された仲間の住処の干し草を掻き分け、そこに自分の子供達とつがいのママを滑り込ませていき、自身も潜り込むと中から短い手を必死に伸ばし、シーツを被せ身を潜めた。

 最初?顔でその様子を眺める周りンネ達だったが、その意図を理解すると

そいつはナイスなアイディアだミィ!

 という表情にうって変わり、次々と空いた巣穴に潜り込んで行った。
 仲間が見限ったベビや卵まで一緒に隠してやった者も居る。タブンネとは本当に素晴らしい生き物だと思う。

(「パパ、いきくるしいチィ..」)
(「チョットの間ガマンしてミ。そのうちコワイコワイ居なくなるミィから。」)

(「他ベビちゃん、どうか泣かないでミィ。ミィがママの代わりに、守ってあげるミィからね」)

 耳を澄ますと微かにミィチィ聞こえる中央ブロックだったが、親ンネからの意図や優しさが伝わったのか、チビやベビも次第に黙り、やがてもぬけの殻の様に静かになった。

410ガラルタブンネ牧場_殱滅編:2021/02/01(月) 16:12:00 ID:vyLKK.qA0

・・・

 愉快なチビ達とのお別れを済ませ、歩みを進めてきたテッカグヤ。不思議な顔を浮かべ辺りを見回す。かなりの数ブチ殺したが、まだ少しオモチャは残っていたハズだ...。
 高度を上げ、牧場の果てまで飛び回り様子を確認していく。


(ミヒヒ、困ってるミィ、困ってるミィ...!)
(もう誰も居ないミィ。さっさとどっか飛んでけミィ!)

 息を殺し身を潜めるタブンネ達。シーツの中の暗がりで、ドヤンネ顔で鋭敏な耳をそば立てる。


 この牧場へ来てから初めて、じっくりとその全容を確認したテッカグヤ。出入り口らしきモノは見当たらないし、逃げ出した形跡も無い。自分の勘違いで、もうあのピンクの生き物は全滅させたかと考え始めた。

 やがて切り倒した林まで戻ってくると、次の行動を思案し始める。
 身を潜める存在を知っての上ではないが、石ころを蹴飛ばすような感覚でポッと火を吐くと、数個先の巣穴がけたたましく燃え上がった。

 すると炎で歪み形を変えたシーツの端が少しモゴモゴと動き出す。

・・・

「ミバババババババババババババババッ!」

本人達は必死極まりないのだろうが、ギャグみたいな声を上げながら、火ダルマが2つ、穴の端から飛び出して来た。

 もう目もロクに見えていないだろうし、触覚が焼け落ち自慢の聴覚も半減以下になっているだろう。
 それでもなんとか自分達の水飲み場、各ブロック3ヵ所ずつ設置されている人工小川の1つを探し当てると、ジュージュー音を立てながらゴロゴロと転げ回る。

411ガラルタブンネ牧場_殱滅編:2021/02/01(月) 16:14:16 ID:vyLKK.qA0
 この小川は幅1メートルくらいで、深さ10センチ程。流れも極めて緩やかで、ベビ上がりのチビンネが絶対溺れないよう作られた安全設計。成タブサイズの火ダルマを消火するには小さ過ぎる。人間の親切心はことごとくタブンネを苦しめる結果を招いた。

 本人達からすれば永遠のような時間を要したが、やがて燃え上がる全身の体毛が鎮火し、辺りに毛が焦げた時独特のイヤな臭気が漂う。

「バマ゛ァ?ぞごでぃいゔどマ゛マ゛ビィ?いぎでゔビィ?」
「ビィば、ビィばぶじだビィ。でぼヂビぢゃどベビじゃんば?や゛げじんじゃっだビィ?」

 よく燃える干し草。更に一時的ではあるが蓋の役割を果たしたシーツが仇となり、熱波や煙の籠った巣穴内は相当な地獄と化したようだ。
 気道に火傷を負っている。もう喋らない方がいい。こんな状態でも死なないのがタブンネ達の長所だ。

・・・愉快、これは愉快だ。

 テッカグヤは本日何度目か、口元に悪い笑みを浮かべると手当たり次第、次々と空いた巣穴に火を放っていく。


「ビュー...ビュー...」「ビギィー..ィ--」
ダメージを受けた喉を鳴らしなんとか呼吸をする火ダルマ夫婦ンネ。しかし貴重な水場を独占してはいけない。沢山の後続が控えている。

「ビィー!ばづびビィ!ごだいでビィー
!」
「よげでビィ!びがぎべだだらよげでビィ!ばづいビィ!じんざゔビィー!」

 よくわからないハスキーな会話がどんどん盛り上がりを見せる。

 テッカグヤはこの区画の巣穴、半分を燃やし終えると一度手を止め、ニヤニヤと楽しい会話を眺める。

412ガラルタブンネ牧場_殱滅編:2021/02/01(月) 16:17:40 ID:vyLKK.qA0

「シュー...ビー..」「ざっぎばごべんビィ...」
「ビズン...ベビぎゃんゆゔじでビィ...」
「ビィッ...ィィ-..」「ァィーーッ...ビヒィー...」

 普段はミィミィチィチィと笑顔が絶えず、チビ達の大好きな遊び場でもあった、綺麗な石畳みの小川。今は戦場の一画のようだ。

 体毛の炎が完全に鎮火したのを見計らうと、冥土の土産のヘビーボンバーが降ってくる。

ボスッ!ボシュッ!...

 半分炭と化していた黒焦げンネ達。変な音を発しながら黄泉の國へ旅立っていった。
 原型がなんだか分からない黒い肉塊と、一部無事だった真っ赤な臓器のコントラストが辺りの景色を彩る。

 テッカグヤが残った巣穴を攻めにやってくると、火を放つ前に、各所のシーツがモゴモゴ動き出した。

「ブヒーーン!ブヒィーーン!」
「ブミャーー!ブヒぇーーーン!」

 タブンネのそれとは思えない間の抜けた鳴き声を上げながら、穴から出てきてポテポテと駆け出す残りのタブンネ達。親ンネの中には他ベビや他卵を抱いている者もいる。タブンネより尊い生き物って居ないように思えてくる。

 そんな中、1匹の♂タブ(独身)がテッカグヤの前までやって来て、両膝と両手を地べたにつき、頭をガンガン打ちつける。

「お願いしますミィ!私たちを見逃して下さいミィ!どうか、どうかこれ以上イジメないでくだミィッ。」

あらゆる局面で役に立ってるの見たことないタブンネ必殺の媚び。しかし逃げてもダメ、隠れてもダメ、闘ってもダメとなると、媚びる以外の手って無い気もする。

 テッカグヤはその懇願に、得意技のエアスラッシュで返事をした。
 交渉タブの右脚が身体から離脱し、激痛に叫ぶ間もなく、テッカグヤはその身体を摘み上げる。
 種族を代表して交渉した彼の功績を讃え、最後の遊び相手に任命したようだ。先程のみなしごチビンネの居る岩場まで運ぶと、ポイっとその中に投げ込んだ。

「ミ゛ィッ。ミ、、ミギャーー!ブホッッ!」
 脚の激痛に悶えるや否や、周りの光景を見て絶叫し、嘔吐した。

 パッと見なんの生き物かわからない両耳両手足が無く失血死した子供と、蔦が絡まりミイラの様に干からびている子供。普通のタブ生を送ったタブンネは一生見ることのない物体だろう。

 テッカグヤはこのラストタブンネに暫しの別れを告げ、ゆっくりと残りの仲間達の元へ飛んで行った・・・

           殱滅編、終わり

413ガラル牧場 作者:2021/02/01(月) 16:25:28 ID:vyLKK.qA0
ダラダラと何の纏まりも無いssを投下してしまって申し訳ありません。
登場タブンネ数を増やし過ぎてしまい、取り留めがつかなくなってしまいました。

感想コメント下さった方、本当にありがとうございました。

後日、結末譚を投下して終わります。
あと数レス、ご容赦下さい。

414名無しさん:2021/02/01(月) 20:07:06 ID:3MG1zz920
乙乙
毎日更新楽しみにしてたよ
タブンネがド派手に虐殺されていく描写が凄く爽快感があってよかった
後日譚も期待してる

415名無しさん:2021/02/02(火) 07:46:43 ID:i0GK8JAo0
お疲れー
上空で放して〜ってバカですねw
タブ脳だからこんなもんなのかな?相変わらず、タブを煽るようなナレーション面白かったです!

416キルクスタウンのタブンネ:2021/02/04(木) 19:41:20 ID:gc55JBXY0

ここはガラル地方北東部に位置する街
   「キルクスタウン」

ガラルの降雪地域の中では唯一と言っていい街である。

寒冷地であり他の主要都市のような工業地帯や近代的な街並みは無いが、温泉資源に恵まれることからガラルの主要観光地の一つであり、多くのホテルやレストランが建ち並ぶ。

静かな街並みの中で一際大きな建物
 「ホテルイオニア」

そのホテルの裏手側、複数の針葉樹が植わる中庭のような場所。
厨房の裏手に当たる位置に廃棄場があり、豪華なホテルに似つかわしくないそれを隠すように、少し木々が密集している。
その廃棄場の少し外れ、木々のブラインドで敷地外から見えにくい場所に汚いダンボールが敷かれ
その上に1匹のタブンネ(♀)が力なく、座り込んでいる。

タブンネはガラル地方にも生息域があるが、この個体はイッシュ地方の産まれ。同地方からの観光客としてやって来た一人の男がこの街に捨てていった個体である。

両触覚の巻きが緩く、左目は破裂してしまったのか周りが腫れ赤紫に変色し
ホイップクリームと比喩される尾はケバ立ち右半分がドス黒く塗られており
右手は腕の半分より先がグシャグシャになっていて異臭を放つ
胸には血でも拭いたのだろうか、真っ赤なボロスポンジのような物体を抱いている。
サファイアアイとは呼び難い濁った右目の瞳でただただ一寸先の地面を眺め、微動だにせずその場に留まっている。

 このお話では一匹のタブンネの、悲壮に満ちた半生を紹介する。

417キルクスタウンのタブンネ:2021/02/04(木) 19:43:15 ID:gc55JBXY0
(以下、冒頭で紹介した個体をタブンネと呼称、その他の個体をタブンネとの続柄により呼称する)

タブンネはイッシュの大都市、ライモンシティのあるゴミ置き場付近でこの世に生を受ける。


パパンネは月並みだがタブンネが産まれる前に死亡。
 
つがいのママが身籠ったことから多くの食糧、栄養源を求め、危険と認知していたがライモンドームの廃棄場を漁りに行き、アメフトの大会日であったその日、運悪く敗戦チームの戦犯選手と鉢合わせてしまう。
腹いせに首元を掴まれ顔面をひたすら殴り続けられ、頸椎損傷、頭蓋骨陥没骨折、直接の死因は脳挫傷、脳裂傷と痛みのフルコースの末この世を去った。

イッシュは半ば公式的にタブンネを経験値の宝庫とみなしている地域柄、タブンネの遺体が街なかに転がっていようが取り立てて騒ぎも起きず、また収集も早い。

ママンネが遅すぎる帰りに不安を覚え、現場を訪れた際にはもう亡骸は回収済み。
現場に残ったわずかな毛皮と血痕。夫のそれと断定できる物は無かったが、狩場の状況と女の勘で夫の悲報を悟り、泣きながら引き返した。


夫婦はライモンドームに程近い空き地、いくつか放置されていた土管の一つにボロ布を敷き、住処としていた。
周囲に上手くカモフラージュしていた為か、ここへ来てふた月ほど襲撃も一切なく安全な住処であったが、複数の狩場から遠い欠点があった。
 
夫が居ない以上、今後自分で狩りに出なければならず、やがて産卵すれば子供を長い時間放置しなければならなくなる。

ママンネは悲しみに暮れる間もなく、思案を巡らせる。
苦労辛々辿り着いたこの住居は捨てがたいが、お腹の子供だけは何としても守り抜かなければならない。
熟考の末、パパの狩り場の一つだった、ある人間のゴミ捨て場が思い浮かんだ。
産卵が済めば、動けなくなる。意を決し、腹に子を抱えた体に鞭打ち、人間の足音に警戒しながら、必死に足を動かした。


一画に3つのアパートと1つの戸建てが建っていて、各建物が作る裏路が十字に交差し、十字の通り側4ヶ所のうち2ヶ所にゴミ捨て場が設置されていて、死角も多く、質や量はともかく比較的安定して食糧が手に入る為、パパは重宝していた狩場であった。

新居に到着して間もなく、タブンネの宿るタマゴを産卵したママ。
死産ではなかったものの、中から聞こえてくる心音が極めて小さいことに一抹の不安を抱いた。
自身初めての出産であったが、チビ時代に弟妹のタマゴを暖めていた経験から、通常の音がどれくらいのものかわかっていた。

418キルクスタウンのタブンネ:2021/02/04(木) 19:45:46 ID:gc55JBXY0

産卵してからおよそ3週間、食事と排泄の時以外は常に胸に抱え暖め続けたママンネの努力の甲斐あって、遂にタブンネ孵化の時を迎える。

最初にタマゴにヒビが入ってから赤ん坊が完全に出てくるまで実に30分。
ママの不安が的中し、低体重で低体力。身長は17cm、体重は500g程。未熟児でも特に小さい部類に入り、ましてタブンネは早産どころか通常の何倍もタマゴの中に居た。

母体の栄養不足に夫を失った強い精神的ショック。更には転居のため長い距離を走った事も乳児の発育不足を招いた。

それでも殻を自力で破り産まれてきたベビタブンネをママは抱き上げるが産声はなく、身体に付着する粘液は既に外気で乾き、至るところの体毛がガベガベに固まっていた。

ママは短い両腕を巧みに使い、左腕でタブンネを抱き、右腕で優しく背中を叩き続けると、やがて
「ヂッ」とかすかな第一声を上げ、ママはケバだった体毛を必死に舐め続け、身体がある程度綺麗になると小さな口を乳首に当てがい、授乳を試みるが一向に飲んでくれない。

抱きしめて撫でる。身体を舐める。乳首に押し当てる、の流れを小一時間繰り返すとようやく乳を飲み始め、コクコクと喉を鳴らし終えた後
「チピッ」と小さなゲップをし、そのまま眠り始めた。

涙を流しながら、眠りについた我が子を眺めるママンネ。しかしその姿に更なるショックが待っていた。
タブンネ最大のチャームポイントであり、野生では生命線でもある触覚が、注意して見なければ気づかない程短かったのだ。

狭い路地裏でゴミを漁り、日中は常に人間の存在に注意を払わなければならない不安定な生活。
弱々しい我が子を育てられるか不安なママンネだったが、大好きだった亡き夫を思いだし
「ミッ!」と短い気合を入れると、夫婦の愛の結晶を胸に抱いたまま、やがて自身も眠りについた。

419キルクスタウンのタブンネ:2021/02/04(木) 19:48:25 ID:gc55JBXY0

未熟児のタブンネをママは酷く心配した。
自身のことだけ考えたって将来には何の望みも無い。
低体力のこの子は生涯自分が付き添わなければならないだろうと勝手に考えていた。

しかしママの不安に反し、タブンネが先天的に弱いのは聴覚だけであった。

ママが知ることは無かったが、身体も成長が遅いだけ。知力も普通のタブンネのそれと何ら変わらない程に発達する。
サイズは最終的に90cmにしかならなかったが、体力にも何も問題はない。
ただ触覚だけ十分に伸びきらずに巻きが緩く、聴覚は人間と同じレベルまでにしか成らなかった。

ベビタブンネの成長が遅いことは、むしろママにとって好都合な面もあった。

一番は排泄だ。タブンネはママが下腹部を優しく叩き、股や肛門を舐めて促すまでは決して自力で排泄することがなかった。
ハイハイで勝手に出歩き、あちこち糞尿を撒き散らせば住処がどんどん臭くなるし、それは人間に気づかれる可能性が高くなる事も意味した。

次には食事。離乳期を迎える時期をとうに過ぎても、タブンネはママのおっぱい以外のものを口にしなかった為、必要以上にゴミを漁る必要はなかった。

あとは鳴き声が小さいことだ。ベビタブンネは時々夜泣きがあったが、それは聴覚に優れるママンネでなければ気づかぬほど小さな声で、建物間で反響してもそれほどうるさくはならなかった。


しかしいつまでも人間の住居の間近で暮らすことは得策ではないとママは思っていた。

ママパパは自分達なりによく人間という生き物を観察し、細かい情報を共有していた。

夫婦で暮らしている頃、狩りは主にパパの仕事だったが、時よりママも同行し、4,5ヵ所の狩り場の位置はママも全て把握しており、この新居にありつけたのもその為だ。

ここに来てからのママの狩り(ゴミ漁り)も秀逸だった。
やたらと手をつけず、ビニール袋の上からある程度観察して、中の残っている弁当やスナック菓子、野菜の芯などを見つけると爪で亀裂を入れ、目標物だけを綺麗に抜き去った。

あまり派手に荒らすと収集箱を頑丈なモノに変えられたり、または狩り現場を張り込まれて棒で叩かれたりする事はパパの実体験で引き出した教訓だ。
間近に住んでいるのなら尚更、自分達の存在を嗅ぎ付けられる訳にはいかない。

ママは生ゴミ以外にも時折手をつけ、潰れたダンボール、ボロ毛布に汚いタオルケットを寝床用に、また鉢型の食器2つに雨水を溜め飲料水にした。
ゴミから出たゴミは、朝方や夜中に反対側の通りまで持っていって捨てた。
決して贅沢ではないが、食住には困らずにこの場で生活を続けた。

420キルクスタウンのタブンネ:2021/02/04(木) 19:52:25 ID:gc55JBXY0

タブンネが生まれて3ヶ月が経った。身長35cm程の大きさになり、少しずつ野菜の芯を齧ったり、残飯の米粒を口にするようになった。
しかし足取りが覚束なく、時折手をついて4つ足歩きになった。元々が小さいだけでなく、この路地裏からほとんど出てない事が発育を遅らせた。

タブンネの発育不足はママの予定を狂わせた。
ここへ来ると決めた段階で、これくらいの時期にはここを離れ、夫婦で暮らしていた空き地へ舞い戻るつもりでいたのだが、タブンネが自力で走れるくらいになるまでは得策ではないと判断した。
ものの400mくらいの距離だが、大都市の街柄昼も夜も人通りのある道を抜けなければいけないのだ。


結局その後2ヶ月、タブンネが生まれて計5ヶ月が経ち、ようやく脱出の算段をママが考え出した頃、親子に悲劇が起こった。

ママの秀逸な狩りや慎重さ、常に怠らなかった人間への警戒から無事に過ごせていたが、ママは気づかない落とし穴があった。自身の体臭と口臭である。

まだ幼体で食事量も少なかったタブンネはともかく、生ゴミを主食にし、摂取水分量もかなり少ないママンネは少し話せば数メートル先まで激臭が漂い
また親子は朝方人間が活動する前、早朝の弱い朝陽を浴びる以外に日光に当たらない生活をしており、水浴びも雨水だけであって、全身にフケが浮き立つママの体は強烈な体臭を発していた。

アパートの外気口からの異臭に住人が気付き、大家に苦情が入っていた。


ある日突然、この路地裏に侵入して来た人間の足音にママは驚愕した。通りの足音はいつも警戒していたが、姿さえ見られなければ裏路内部まで入ってくることは無いと思っていたし、これまで実際に無かった。

「うわっ!クセえ!汚ねえ!野良タブンネだったかゴルァー!!ブチ殺してやる!!」

狭い路地、全力で走れば逃げ切れるかもと一瞬考えたママだったが、その場で立ち止まった。
ちょうどタブンネが通りに一歩出た場所、親子がトイレにしていた排水溝に用を足しに行ってる時の襲撃だった。
今自分が犠牲になればおそらく娘の存在に気付かれない。娘をひとりぼっちにするのは不安だが、より安全にタブンネを逃す方を優先した。

「チビちゃん!逃げて!走ってミィィーー!」

421キルクスタウンのタブンネ:2021/02/04(木) 19:55:06 ID:gc55JBXY0
その後ママンネは清掃用の火バサミや箒でひたすら殴り続けられ、10分後にこの世を去った。

タブンネはママの言葉を聞いても逃げ出す事ができず、死角に身を潜め、ガタガタと震えていた。
産まれてこの方この一画を離れた事がなく、無理もないことだった。
泣きながらママの悲鳴と殴打音を聞き続け、音が収まった後、恐る恐る住処へ戻った。

寝床だったダンボールとボロ毛布がなくなり、かわりに見慣れた毛皮の欠片、いくつかの歯、血痕が残っていた。

ママ!ママは⁉︎辺りを探し始めたタブンネ。すぐにママは見つかった。

ママがゴハンを探してくれるゴミ置き場、その中の大きなビニール袋の中に、苦痛に顔を歪ませ、全身が赤紫色になってパンパンに腫れ上がったママが居た。触覚で生命音を探る術を持たないタブンネでも、死んでいるのは一目瞭然だった。

タブンネは滝のように涙を流し、袋越しにママに抱きついたが、すぐにその場を後にした。
ママの機転のおかげでタブンネの存在は気づかれなかったのだが、慎重で警戒深いママをずっと隣で見ていた為か、ここに居たら危ないと判断したのだ。

生まれ育った一画を出て、人間の住む街中を当てもなく、ただひたすらに走った。
幼心に、ママが守ってくれた自分の命を生き抜くことを心に誓い、泣きながら走った。

422名無しさん:2021/02/05(金) 19:33:15 ID:LISjUnsY0

これからタブンネさんがどんな悲惨な生を歩んでいくか滅茶苦茶楽しみ

最近タブンネさんのSSが多くて嬉しい

423カンムリ雪原のタブンネ 三つまたヶ原編:2021/02/07(日) 04:22:58 ID:rSKwBOTM0
とりあえず文章は書き終えたぞー!あとは添削と校正だけだー!
ほんとは1か月くらいでサクっと終わらせるつもりだったのにめっちゃ難産だった……
途中で心折れかけて別の作品書き始めちゃったくらいには難産だった……

13日か14日には投稿できたらいいなぁ……

424ガラルタブンネ牧場_後談:2021/02/08(月) 18:10:33 ID:bY.ytdS.0

 テッカグヤが牧場にやって来てからおよそ1時間後、いかにも屈強なアーマーガアとリザードンが飛んできて、牧場の最深部に降り立った

 その背中から精悍な2名の男が飛び降りる。ガラルではレジェンドと言っていい、マスタード氏とダンデ氏だ。
 満を持してヒーローが登場したワケだが、タブンネ達からすれば時すでに遅しどころでは無い。
 比較的殺風景な牧場の果てのブロックで、テッカグヤは片脚を失ったラストタブンネをゴロゴロと転がし、次はどこへ行こうか考えていた頃だった。

 
 牧場と研究所からの通報を受けた政府のポケ災対策課。警察レベルで対応できる案件ではないとの判断は的確で、最小限の精鋭を向かわせるという決定までは良かったのだが、レジェンドトレーナー2名の行方を政府として把握できておらず、連絡が難航し、この時点での到着となってしまった。
あとでタブンネに謝ってほしい。


 これまでのオモチャ達とは違うポケモンの到着に気づき、遊びの手を止めそちらを見やるテッカグヤ。今までとは気色の違う笑みを浮かべる。
 このテッカグヤ、ただ弱い者イジメを楽しむだけの臆病者ではない。いかにも鍛え上げられた難敵の登場に武者震いのような感覚を覚える。自分の強さにも相当自信を持っているようだ

 両氏はウーラオス、レントラー、ギルガルドドサイドン・・・etc.
 次々と自身の手持ちの精鋭を繰り出していき総勢12vs1の闘いが始まる。
 ガラルを危機に陥れ兼ねない事態。バトルのルールもトレーナーの誇りもへったくれも無い一斉攻撃を仕掛ける。

 約10分後、テッカグヤのかなり弱った様子を見て、ダンデ氏の投げたモンスターボールにその巨体を納め、ひとまず事態は収束した。
 こんな不平等バトルであったにも関わらず、ガラルリーグ最強クラスの両氏のポケモンのうち、何匹かはかなりの深手を負った。
 一体何処の時空から現れたのか、相当強いテッカグヤだったようだ。元野生や牧場産まれのタブンネでどうにかできた筈がない。

余談だがラストタブンネの息の根を止めたのは両氏の手持ちのうちの誰かであった。

425ガラルタブンネ牧場_後談:2021/02/08(月) 18:12:22 ID:bY.ytdS.0
 再びアーマーガアとリザードンの背に乗り、屋舎へ向け飛び立った両雄。
 あちこちに散らばるかわいいピンクの手や脚、顔、顔なしの胴体、臓器。所々けたたましく燃え上がる炎。凄惨な光景に、百戦錬磨の彼らも沈痛な面持ちだ。どこかに生きてる個体が居ないかと探したが、すぐにやめた。明らかにみんな死んでる。

 どうでもいいことだが、この時リザードンだけはバツの悪そうな表情をしていた。
 さっきの闘いのさ中、なんかこんな生き物にだいもんじ当てちゃった気がする。
助けてやらなきゃいけないヤツだったのか...

 屋舎に辿り着いた両氏。常駐していたドクターに深手のポケモン達を治療して貰い、みんな元気になった。みんな無事でよかった。


 やがて署員ほぼ総出で氷点雪原の山火事消火に当たっていたガラル消防署員が牧場に到着し、牧場内随所で起こっていた火事も全て消火。
 ガラル政府の役人数名もやって来て、牧場に設置されていた幾多の照明が灯され、本災害の実況見聞が行われることになった。災害を引き起こした未確認の生き物は、仮に「ブラスター」と名付けられた。

 入り口ゲート付近を埋める岩をウーラオスがよけていくと、数々の修羅場を潜って来たマスタード氏も思わず顔を顰めた。
 小さな子供や卵が血塗られてグシャグシャに潰れ絶命していた。赤児を抱いた大人もいて、顔半分と下腹部が潰れ尻から大腸が飛び出している。

 どうでもいいことだが、この時ウーラオスだけはバツの悪そうな表情をしていた。
 さっきの闘いのさ中、なんかこんな生き物に暗黒強打当てちゃった気がする。
殴っちゃいけないヤツだったのか...

 
 みな虚な目をして、ゾロゾロと敷地へ歩みを進める従業員。災害録をつける為にやって来た役人達ですら、吐き気を催す程の光景だ。まともな死体がひとつもない。

426ガラルタブンネ牧場_後談:2021/02/08(月) 18:14:15 ID:bY.ytdS.0
 入り口付近、聳え立つ岩に刺さって絶命しているお兄ちゃんタブンネ。屋舎上階に居た従業員は、彼がブラスターに立ち向かって行く姿を見ていた。
 普段からタブンネに接している飼育員でも、目立った外傷のない個体はさすがに見た目だけで区別はできないのだが、この一家は初期からここへ住み着いていて、最後まで警戒心の強い両親に手を焼いた、有名な家族だった。
 その分心を開いてくれた時は飼育員一同も喜び一入、このお兄ちゃんは毎日のように木の実仕事を手伝ってくれていて、次期種付け用候補の筆頭だった。
 脚立を持ってきて岩から外してやると、ネチャッという嫌な音がして、岩肌に夥しい血痕が残った。
本当にタブのできたお兄ちゃんだった。

 少し歩みを進めると、首チョンパの耳無しタブンネの遺体。最初に犠牲になった夫婦。この夫婦は牧場が軌道に乗り始めた頃それぞれやって来て、ここでつがいとなったタブンネだ。
 気の毒な外傷から飼育員一同もとりわけ愛情深く接していたのだが、自身の見た目がコンプレックスだったのかタブ見知りが激しく、中々他のタブンネ達に馴染めない夫婦だった。
 やがて産卵を迎えた時は、夫婦揃って大声で号泣し、木の実を食べる時も排泄をする時も、常に卵を抱いていた。
この凄惨な墓場で唯一満面の笑みを浮かべ死んでいるのが非常にシュールで気の毒だ。
 
 その遺体の少し先、タブンネの水飲み場として最初に作られた人工川が流れているはずの場所、今はタブンネの死体で埋め尽くされている。
 黎明期から働く者には思い出深い場所だ。始めてこれが出来た時、タブンネ達は一心不乱にここに顔を突っ込み、ゴクゴクと音を立てて水を飲んでいた。野生では水すらまともに飲めなかったのかと不憫に思う中、1匹の赤ちゃんが上流でオシッコをしてしまい、下流のタブンネ達は大パニックだったのだが、そんな微笑ましい光景を見ることももうない。
 15匹並ぶタブンネの死体。他に目立った外傷は無いが、みんな両耳をちぎられ、絶望に満ちた表情で舌を半分くらい垂れている。
 ブラスターなりの遊びのつもりだったのだろうか、皆の頭から足先が綺麗に揃えられ、並んでいるのがタブンネでなければまるでクローン戦争で使われるドロイド兵のようだ。
 そしてここの遺体は全て、本来内股のはずのタブンネの脚がなぜかガニ股になっている。生物学者が見たらどうやって殺せばこんなふうになるのか興味深いことだろうが、従業員にはただただやるせない光景だ。

427ガラルタブンネ牧場_後談:2021/02/08(月) 18:15:19 ID:bY.ytdS.0
 敷地に入ってすぐ左手、辺り一面の芝生が消え去り、その中にタブンネ達の身体の一部が転がっている。従業員は間近で見ていた惨劇。ブラスターの最大火力の攻撃に、自分達の無力さを感じた瞬間だった。
 ダンデ、マスタード両雄もこの光景には目を見張った。こんな凄まじい攻撃を喰らえば、自分のポケモン達も無事では済まなかったろう。力をためる隙を与えなかった自分達の作戦が正しかったことになる。消沈する従業員達に申し訳ないが、心の中で静かにドヤ顔する。

 また歩みを進め、焼け焦げた巣穴を確認していく従業員達。ここには卵や赤ん坊がいたはずだ。火の手が強すぎ、今やどれが藁やシーツで、どれがタブンネの遺体なのかの区別すらつかない。
 そんな中、1人の飼育員が辛うじて赤ちゃんタブンネの原型を留めた焼死体を見つけ、そっと抱き上げた。自分達が産湯につける為か、この牧場の赤ちゃんタブンネは皆よく懐いてくれたものだった。そんな事を思い一粒の涙を零すと、その一滴で焼死体に穴が空き、ボロボロと砂人形のように崩れていった。

 タブンネの為に植えられた幹の太い樹。日差しの強い日はよく木陰に凭れて、親子がお昼寝していた光景が目に浮かぶ。今はそんな木々の太い枝に、沢山のタブンネが腹からブッ刺さって絶命している。直ぐには死にきれず暴れたのだろうか、生々しい血痕が飛び散っている。サイコ野郎の家に飾ってあるクリスマスツリーはこんなだろうか。許せない、ブラスター
 すぐそばには子供用の遊具。階段部分から滑り台を結ぶ吊り橋の柵ひとつひとつに、可愛いチビちゃんが腸を引っ掛け、逆さまにぶら下がっている。こうゆう遊び方をする遊具ではない。チィチィと言ういつもの笑い声も聞こえてこない。

428ガラルタブンネ牧場_後談:2021/02/08(月) 18:16:21 ID:bY.ytdS.0

 奥へ奥へと歩みを進めていく一行。時おり何かを踏んづけてしまい、ネチョネチョと靴裏に嫌な感覚を覚える。あらゆる所に落ちている、子どもの足とタブ糞がその正体だ。
 千切れた足から胴体まではどれも一定の距離があって、その間の芝生にベットリと血痕が着いている。何かを求めて必死に這いつくばったのだろう。
 糞特有の臭気が鼻をつん裂くが、従業員は不快に感じる事なく、タブンネへの憐みを一層強める。ここのタブンネは例外なく綺麗好きで、随所設置する砂場以外で用を足すことは子供でも稀だった。それが今は辺り一面が糞だらけ。よっぽど怖かったのだろう。
 その各所のトイレ砂場には、大小沢山のタブンネが頭から身体の半分くらい突っ込まれ、タブ神家の一族みたいになっている。綺麗好きのタブンネには屈辱だったろう、辛かったろう...。

 一番凄惨な屋舎側を過ぎ、中央部へ足を進めていく。それを分け隔てる防風林の木々が、全て伐採されている。タブンネの命だけでは飽き足らなかったのか。ここまでやるか、ブラスター。
 
 数組の家族から始まったこの牧場。日増しに拡充していき、やがて作られたこの防風林。
 これが出来た時子供達は大喜びで、子供に混じってよく自分達も、かくれんぼをして遊んでやったものだ。タブンネは子供でも触覚で隠れ場所を探れるので、正直何が楽しいのかわからなかったが、それでも真底楽しそうで、いつも笑い声の絶えない場所であった。

 そこを超えて中央部へ入ると、ウェルダンに焼かれたタブ頭と臓器が各水飲み場の周りに複数転がる。毎晩家族で固まり、健やかに眠っていた小さな巣穴も全てが焼き尽くされている。
 一ヶ所に岩が固まっていて、それをどかすと無惨な子供の死体。目に入るもの全てが地獄絵図であった。

429ガラルタブンネ牧場_後談:2021/02/08(月) 18:17:25 ID:bY.ytdS.0

 だいぶ周りに遺体も減ってきて最深部まで歩みを進める一行。次点の防風林は無事だったようだ。
 防風林の手前で皆一度立ち止まった。惨劇跡は終わりかと思ったが、よく見ると林の各所にもタブンネが点在していた。顔だけになって細い枝にブッ刺さるタブンネ。胴体が捻じ曲がった状態で茂みに乗っかる子供タブンネ。割れた卵を頭に被り、死んだ胎児を抱いて自分も立ったまま死んでるやつも居る。これどうやったんだろう。

 これまでの地獄と違い、最深部は非常に殺風景だった。
 ここは割と最近拡張されたエリアで、巣穴とトイレと水飲み場があるだけだった。そのうち遊び場を作ってやるからなと言い聞かせていた矢先の惨劇だった。約束を守れなくてすまない、タブンネ。

 その殺風景の中一際目立つ、中央に寂しく1匹横たわるタブンネが居る。最後の1体となって、ブラスターに弄ばれたのだろうか。
右脚がちぎれ
(エアスラッシュ)
胴体左半分は焼け焦げ
(リザードンのだいもんじ)
右脇腹が破れ臓器と肋骨が飛び出し
(ウーラオスの暗黒強打)
クルッと巻いていたかわいい触覚は爛れて変色していて
(レントラーの10万ボルト)
小さな口の周りは骨が砕けて血塗られ殆どの歯が折れるか欠けている
(ドサイドンの岩石砲)

・・・

牧場の実況見聞は終わり、翌日一日かけて全ての遺体を埋葬し、厄災は一幕を閉じた。幸い道中のフリーズ村はスルーされたようで
・森林一部消失
・死者0名
・死タブ392匹
という被害で収まった。

牧場事業経営陣、政府関係者は頭を悩ませた。せっかく根付いた新産業、沢山の雇用。商品が全滅してはどうしようもない。

でもきっと大丈夫だろう。このカンムリ雪原にタブンネがいる限り。たぶんね。
                (完)

430作者 あとがき:2021/02/08(月) 18:40:46 ID:bY.ytdS.0
特に内容のないオチですみません。

私は前スレ『チビンネ兄妹の小さなお話』が何度も読み返すくらい大好きで、自分も「馬鹿ではないけど幸せ思考の子タブンネが何も知らず生き餌にされる」SSを書いてみたくなり

またいくつか該当作品があるかと思いますが、「平和なタブンネの群れが全滅させられる」タイプの話も大好きで、2つ無理矢理纏めて本SSを書き始めたのですが、最初の段階で群れの規模を大きくし過ぎて後半偏重になってしまいました。

本SSをお読み下さった方、ありがとうございます。ほんの少しでもお楽しみいただけたら幸いです。

冠雪原のタブンネちゃん、本当に可愛いですよね。
個人的にマグマストームか根源の波動を喰らうときのエフェクトが可愛くてオススメです!

431名無しさん:2021/02/08(月) 23:39:23 ID:bdgGlmHs0
乙です。
無辜のタブンネ達が突然降って湧いてきた災いに為すすべなく命を奪われていく描写が素敵でした。
あと今まであんまりなかった後談で今までタブンネ達がどんな目にあってきたのかを振り返っていく展開が個人的にすごくそそられて良かったです。

432名無しさん:2021/02/09(火) 08:09:16 ID:QG/0B7n60
お疲れ様です。滑り台の遊び方と無意識の内に攻撃してたリザードンとウーラオスw
テッカグヤの目的は何だったんでしょう?タブの殲滅?
何はともあれタブ以外の死者が出なくて良かったです。
タブたちは、あっちの世界で「助けに来るの遅いミイ」とか言ってるんでしょうね。
多分ね。

433カンムリ雪原のタブンネ 三つまたヶ原編:2021/02/09(火) 18:47:57 ID:cGUalhbk0
サザンドラの言葉を皮切りに兄タブンネは駆け出した。
肩を突き出しすてみタックルの構えを取り、サザンドラへ激突する。サザンドラはそれをボディで受け止めた。
ノーマルタイプの中では比較的強力な技だ。使った相手がタブンネであったとしてもダメージはそう低くない。
兄タブンネのすてみタックルを受け僅かに後退したサザンドラは、反動を利用し反対方向に着地した兄タブンネを鋭い眼光で見据える。
先手は譲ってやった。次はこちらの番だ。
接触物理のアクロバットでは距離が開きすぎている上にタイプ不一致で威力も見込めない。ここは手堅くりゅうのはどうで攻めることを選択する。
大きく口を開け波動を放つ準備をしていると、兄タブンネは地面に手を当て精神を集中させ始めた。
サザンドラは兄タブンネの次の一手を考える。
この距離でタブンネが行える攻撃手段はない。この辺り一帯のタブンネは遠距離の攻撃を基本的に覚えなかったはずだ。
であれば、まずは攻撃を優先することを選択する。
所詮はタブンネだ。できる事は限られている。
サザンドラがりゅうのはどうを口から放つ直前、兄タブンネは地面につけていた手を高くかざし「ミィッ!」と一声上げた。
その途端、遺跡内部に不思議な霧が滞留し始めた。
ミストフィールドと呼ばれる領域を兄タブンネは展開したのだ。そしてその効果は状態異常の無効化とドラゴン技の軽減。
兄タブンネはサザンドラのタイプを推察し、その主砲に併せてフィールドを展開したのだ。
放たれたりゅうのはどうはたちまち勢力を衰えさせる。兄タブンネの計算通りだ。
りゅうのはどうを正面から受け切った後、サザンドラに駆け寄り距離を詰めた。
両者共、近接戦闘の間合いで睨み合いをする。
次はアクロバットで迎撃を───そう考えていたサザンドラの目の前で兄タブンネは大きなあくびをした。
それを目にしたサザンドラは途端に強烈なねむけに襲われる。
サザンドラは目を抑え頭を振るい、眠気を堪えながら後退する。
次の一手はどうする。りゅうのはどうは威力が軽減されてしまう。
次の一手はどうする。だいもんじを放ったとしても火傷が見込めない現状では有効打にはならない。
次の一手を考えようにも眠気で頭が回らない。まずは眠気を何とかしなくては───
サザンドラが見せた大きな隙を兄タブンネは見逃さなかった。
強く拳を握る。助走をつけ飛びあがり、サザンドラに向かって最大出力で殴り掛かった。

 「ミイイイイィィィィィ!!!!!!」─ 喰らええええぇぇぇ!!!!! ─

それはタブンネが覚える最強の物理技。兄タブンネはとっておきを繰り出した。
その拳はサザンドラの前頭部にクリーンヒットする。
額から血を吹き出し、大きな雄叫びを上げながら仰向けに倒れこんだ。

434カンムリ雪原のタブンネ 三つまたヶ原編:2021/02/09(火) 18:48:43 ID:cGUalhbk0
兄タブンネは肩で呼吸をしながらもまだサザンドラから視線を外さない。
瀕死になったかはここからでは分からない。だが瀕死でなくてもあくびの効果が効いていればサザンドラは眠っているはずだ。
ここで追撃を緩める手はない。
兄タブンネは乱れた呼吸を少しだけ整え、倒れ込んだサザンドラに向かって再び駆け出した。
サザンドラは目前。あとはとっておきを振るうだけとなった瞬間、突然兄タブンネの見ていた景色が切り替わった。
目線の先は遺跡の天井。何故自分は天井を向いているのだろう。
僅かにだが顎の下に痛みが走る。そうか、自分は尻尾か何かで顎下を叩かれ顔を押し上げられたのだ。
兄タブンネは視界の切り替わりに気付き、目線を地上に戻す。
それは時間にして数秒の出来事だった。
だがサザンドラが形勢を逆転させるには十分な時間だった。
視線の先に先ほどまで倒れていたサザンドラが存在しない。一瞬の事で兄タブンネは困惑する。
ヤツはどこにいる。
ヤツは───サザンドラは───上にいる!

そう気づいた瞬間、兄タブンネにサザンドラのアクロバットが放たれた。
空中で一回転し加速をつけた尻尾をサザンドラは兄タブンネの背面に打ち当てる。
兄タブンネは地面へと倒れ込みミシミシと背骨が軋む痛みが走る。
だが攻撃はそれだけでは終わらなかった。
サザンドラは倒れている兄タブンネを持ち上げ、力任せに地面へと叩きつけた。顔面を酷く強打してしまい右瞼がぽっこりと腫れあがり鼻から血がだらだらと流れ出ている。
サザンドラは左頭で兄タブンネの首根っこを掴み持ち上げ、眼前へと持ってくる。
とっておきを食らった額からは血が流れ出ており、右目を閉じたままサザンドラは不敵な笑みを浮かべていた。

435カンムリ雪原のタブンネ 三つまたヶ原編:2021/02/09(火) 18:49:46 ID:cGUalhbk0

 ─ やるじゃねぇかクソガキィ! ミストフィールドでドラゴン技を軽減して突っ込んでくるなんざ思いもしなかったぜ! ─

兄タブンネは理解できなかった。倒せなかったことそのものもそうだが、何故こいつは眠っていないのだ。
兄タブンネが困惑顔をしているとサザンドラは嬉々として語り始めた。

 ─ だがあのミストフィールド、アレは悪手だったなァ。フィールドを展開するときは相手も利用できるって事を念頭に置かねぇとな ─

その言葉で兄タブンネはハッとする。
そうか、このサザンドラはあの時わざととっておきを喰らったのだ。
回避できないはずの眠りを回避するために、大仰な演技で倒れ込みミストフィールドを利用したのだ。
サザンドラが眠っていないからくりを理解した兄タブンネは、悔しそうに歯を食いしばる。
だが、まだだ。まだ終わっていない。
例えここで刺し違える事になったとしてもこいつはここで倒さないといけない。
妹のためにも。惨殺された仲間たちの為にも。そしてタブンネの誇りのためにも。
兄タブンネはこの絶望的な状況下で覚悟を決め、自身の命をも視野に入れた逆転のプランを考え始める。
その様子を見てまだ兄タブンネに諦めがないことを理解したサザンドラは次の一手に出た。

サザンドラはゆっくりと右頭を近づけると、持ち上げていた兄タブンネを地面に下ろし解放する。
あまりに突然の事で足に力が入っておらず、解放された一瞬だけよろけてしまう。
そんな兄タブンネをサザンドラは優しく正し、付着した砂ぼこりを払い始めた。
兄タブンネにはその意図が理解できなかった。先ほどまで殺し合いをしていた相手にするような行動ではない。
どういった思惑で自分を解放したのか、兄タブンネが警戒しながら睨みつけてる。
するとサザンドラ額の傷を弄りながらゆっくりと語り始めた。

 ─ それにしてもまさかここまで手酷い傷を負う事になるとは思ってもみなかったぜ。
   てめぇらタブンネにここまでしてやられるなんざ本来ありえないことなんだが……まぁ相手が何であれ慢心はするべきではないってことだな ─

相変わらずの上から目線ではあるが、兄タブンネ自身それを否定するつもりはなかった。
確かにサザンドラには油断や慢心と言った弱点があったことを理解していたからだ。
そしてそれらが無ければ今こうして一矢報いることすらできなかっただろうということも。
サザンドラは少し気恥しそうにしながらも言葉を続ける。

 ─ まァ……アレだ。今回はてめぇに勝ちを譲ってやるよ、ボウズ。どこへなりとも好きなところに行きな ─

436カンムリ雪原のタブンネ 三つまたヶ原編:2021/02/09(火) 18:50:57 ID:cGUalhbk0
サザンドラの言葉を聞いた兄タブンネは耳を疑った。
そもそもこいつは平気で約束を違えるヤツだ。いざ逃げる段階になって後ろから襲ってくるに違いない。
兄タブンネの不信の目を見てサザンドラは言葉を続ける。

 ─ もちろん続きをやるってんならそれもいい。その時は全力で相手をしてやる ─

兄タブンネはその言葉を聞いて戦慄する。
放たれている気や言葉の抑揚で今の言葉に嘘がないことが分かる。
このまま続けたら確実に自分は殺されるだろう。
目の前に君臨する確実な死の象徴は、穏やかに、時折言葉を詰まらせながらも話を続けた。

 ─ だがまァ……何度でも言ってやるが今回は俺の負けだ。俺は強いヤツには敬意を払う主義なんだぜ ─

サザンドラはそういうと兄タブンネの頭を左頭でやさしく撫で始めた。
その言葉と行動で張り詰めていた戦意が優しく解かれていく。
自分よりはるかに強い強者からの賞賛と、生きて帰れるという安堵。
本当ならこんなことを思っていいはずがない。仲間たちの為にも最後まで戦うべきだ。
だが兄タブンネは心を満たす喜びの感情に抗いきれず、零れ落ちる涙を止める事ができなかった。

ふと周囲を見渡すと殺された仲間たちの亡骸が転がっている。
彼らの事を思うとやはり胸が痛む。彼らを残して帰還することにも強い後ろめたさを感じる。
だが、かつてリーダータブンネが言っていた。誰かひとりでも帰還すればそれが成果だ、と。
きっと自分が帰還しなければこの遺跡の危険性を誰も知らないまま、また同じように仲間たちが犠牲になるのだろう。
それだけは避けなければならない。既に亡くなった彼らの家族を同じような目に合わせないようにするんだ。
兄タブンネはそう心に言い聞かせ、サザンドラの横を通った。
目的は部屋の隅で震えながら自分の生還を待っていた妹タブンネ。
彼女は先ほどの戦闘を見ていた。だけどもう脅える必要もない。兄タブンネの笑顔を見て妹タブンネも顔を綻ばせる。
二匹の間に安堵の、穏やかな空気が流れる。その瞬間、兄タブンネの横を高速で何かが駆け抜けた。
それは目にも止まらないスピードで妹タブンネを掴み高く持ち上げる。

 ─ さぁそれじゃパーティの再開といこうかァ!!! ─

妹タブンネを掴んだサザンドラは高らかにパーティの再開を宣言した。

437カンムリ雪原のタブンネ 三つまたヶ原編:2021/02/09(火) 18:53:01 ID:cGUalhbk0
あまりに突然の事で呆気に取られる兄タブンネ。
しかしすぐに意識を切り替え、サザンドラに向かって吠えた。

 「ミッミィ!ミィミィ!!」─ 見逃してくれるって言ったじゃないか!あれは嘘だったのか!! ─

そう叫ぶ兄タブンネに対し、サザンドラはとぼけたような素振りを見せながら返答する。

 ─ お前は見逃してやるって言ったがお前の妹まで見逃してやるって言った覚えはカケラもねェなァ…… ─

どこまでも卑劣な詭弁を……! やはりあんなヤツの言葉なんて信用するんじゃなかった。
兄タブンネは怒りのあまり強く拳を握り、唇を噛みしめる。
サザンドラに向かって駆け出す兄タブンネ。とっておきを放とうと拳を構える。
そんな兄タブンネに対しサザンドラは巨大な叫び声をあげ強く威嚇した。
それはなんてことの無い、ドラゴン族が戦闘前に行う威圧、気当たりのような行動。
死を覚悟していた兄タブンネにはそんなものは通用しない───はずだった。

眼前にある死への恐怖に対し兄タブンネ目をつむり防御の姿勢を取ってしまう。
勢いを急激に殺したものだからついにはバランスを崩しその場に尻もちをついてしまった。
目を開き、前を向く。見上げた先にあるサザンドラは先ほどに比べてあまりにも巨大で、凶悪で、絶望的な力の差を感じてしまう。
恐怖で体が竦んでしまう。妹を助けるために動かなければいけないのに体が動かない。
脈打つ心臓の鼓動が、流れている血潮が、自分を構成している全てが目の前の存在から今すぐ逃げろと警鐘を鳴らす。
だけどここで逃げてしまえば妹は仲間たちと同様に惨たらしく殺されてしまうだろう。
サザンドラは今にも泣きだしそうな顔でこちらを見つめる兄タブンネにもう一度威嚇する。
再び目を閉じ両手で頭を庇い防御姿勢に入る兄タブンネ。
目の前で放たれた強烈な殺気に耐えきれず失禁をしてしまった。
貧相な男性器からチョロチョロと流れ出た黄色い液体は、股の間で小さな水たまりを作り湯気を放っている。

 ─ お漏らしとはなっさけねぇな! さっきまでの威勢はどうしたァ? えぇ、おい!! ─

サザンドラは兄タブンネを煽り、嘲り、彼のプライドを傷つけていく。
妹を人質に取られた上にあまりにも情けない失態。恥ずかしくてしかたなかった。
兄タブンネは顔をかぁっと赤らみ、熱くなっていくのを感じる。
目頭がじんわりと熱くなって、喉の奥が突き刺すように痛い。
敵前であるにも関わらずとうとう兄タブンネは泣き出してしまった。

438カンムリ雪原のタブンネ 三つまたヶ原編:2021/02/09(火) 18:55:20 ID:cGUalhbk0
サザンドラはわざと大げさに笑い声をあげ、目の前の兄タブンネを嘲笑する。
その姿を見てサザンドラは目論見通り事が成ったことを確信していた。

先ほどの戦闘で、兄タブンネの闘志を支えていた要素は三つあった。
一つ目は妹タブンネを守らなければいけないという意思。
二つ目は仲間たちを惨殺したサザンドラに対する憎悪。
三つ目は決死の覚悟、"ここで死んでもいい"という前提で兄タブンネは戦っていた。
では、この三つの要素の内二つを崩したらどうなるだろうか。
決死の覚悟に対し、"死なずとも生き残れる道はある"と示したら。
標的への憎悪に対し、その標的から強者と認められ褒められればどうなるだろうか。

答えは明白だ。
自分が抱いていた闘志を維持できなくなる。
瓦解してしまうのだ。

今の兄タブンネには妹タブンネを守らなければという意思だけしかない。
元々後付けの覚悟しかない兄タブンネではそれだけで立ち向かう事なんて出来やしない。
サザンドラは自分に一発くれたクソガキに対しての意趣返しを行ったのだ。

 「ミィィィィ!!ミイイイイィィィィィ!!!」─ いや!!助けて!!お兄ちゃん助けてぇ!! ─

そして最後の残り一つの要素である妹タブンネ、こいつを目の前で惨殺する事で兄タブンネの全てが終わる。
手の内でもがき、助けを求める妹タブンネ。じたばたとかわいらしく揺らしているその左足をサザンドラは右頭で根元から咥え込んだ。
鋭いキバが肉を裂き骨まで到達する。強烈な痛みにたまらず妹タブンネは「ミイイイイイイイイイィィィィ!!!!」と悲鳴を上げた。
その悲鳴を聞いて兄タブンネは我に返った。そうだ、妹を助けなければいけない。
ゆっくりと立ち上がりサザンドラに対して手を差し出す兄タブンネ。
もはや戦う事ができないのは自分でも分かりきっていた。
だがそれでも妹タブンネを諦める事など出来なかった。

439カンムリ雪原のタブンネ 三つまたヶ原編:2021/02/09(火) 18:59:06 ID:cGUalhbk0

 「ミッ……ミッミィ……」─ お願いします……妹を……妹を解放してください…… ─

兄タブンネは藁にも縋る思いでサザンドラに懇願する。だがサザンドラはもちろん妹タブンネを返すつもりなんてない。
サザンドラはしっぽで軽く兄タブンネの体を押し返す。
腰の入っていなかった兄タブンネはその勢いに流されるまま後ろに下がり、躓いて小便だまりの上に尻もちをついてしまった。
綺麗な白色をしていたしっぽの下側が小便を吸い黄色く染まっていく。
サザンドラは再び妹タブンネに集中する。
キバで太ももの肉を裂きつつぐりぐりと動かして股関節を外そうと試みる。
ぶちぶちと自分の肉や繊維が断ち切られる度「ミヒッ!ミィッ!」と痛みにあえぐ妹タブンネ。
ついにはボキッという少々乱暴な音が鳴り、妹タブンネの左足と体が分離した。

 「ビヤアアアアアアアァァァァァァァ!!!!!!!!!!!」

気が狂いそうになるほどの激痛。
妹タブンネは目を見開き肺にたまった空気を全て出すかの如く大きな叫び声をあげた。
悲鳴を叫び終えた後は肩で息をしながらぐったりとしている。
左足のあったところからはドバドバと血が流れ出ていた。
サザンドラは切り離した妹タブンネの左足を兄タブンネの目の前で揺らして見せつける。
可愛らしいハート型の肉球が鮮血を滴らせながら兄タブンネの前でプラプラと揺れ動いている。
兄タブンネは「ミゥ……ミゥゥ……」と悲しみの声を漏らしながら絶望顔でそれを見つめる。
妹タブンネを守れなかった今、彼の心を支える最後の一つが崩れ落ちようとしているのが分かる。
続いてサザンドラはその左足を妹タブンネの目の前まで持ってくる。
妹タブンネは歯を食いしばり首を横に振る。
左足があったところから感じる耐えがたい痛みがそれを現実であると証明しているが、認める事なんて到底できない。
サザンドラは一通り見せつけて満足した後、妹タブンネの新鮮な左足を口へと運んだ。
まずは足裏、ハート型の肉球に付いた血液を啜った後、おもむろにかじり取る。
タブンネのチャームポイントであるハート型の肉球はえぐり取られ、グロテスクな足裏の肉が露見してしまった。
その様子を見せる事でタブンネ達の心を痛めつけたのち、左足全部を口の中に放り込む。
あえて大仰に骨を砕き、二匹に咀嚼音をしっかりと聞かせる。
やがて咀嚼し終えるとそれを飲み込み、次は残りの右足へと手をかけた。
再び妹タブンネを激痛が襲う。度重なる痛みで感覚がマヒしていたのか、先ほどのような大声を上げる事はなかった。

 「ミゥ……ミゥミゥ……」─ お願いします……これ以上はもう…… ─

兄タブンネは再び立ち上がりサザンドラの足を掴んで揺らす。
このまま蹴って振りほどくこともできたが、もはや戦士として不能になった兄タブンネなんぞ脅威ではないのでこのまま揺らさせておくことにする。
再び股関節を外して妹タブンネの右足を切り離した。サザンドラは切り離した右足を小便だまりの上に放り投げる。
黄色一色だったそれに右足から血が流れ、赤のコントラストで彩られた。
妹タブンネは体を小刻みに痙攣させ、顔を上にあげながら「ミヒィ……ミヒィ……」と浅く、短く呼吸をする。
痛みと失血により消耗が激しく、少しでも少量の力で大量の酸素を供給しようとしているのだろう。

440カンムリ雪原のタブンネ 三つまたヶ原編:2021/02/09(火) 19:00:04 ID:cGUalhbk0
続いてサザンドラは妹タブンネを顔の前に持ってきた。
互いに目が合うと妹タブンネは声をふり絞り助けを乞う。

 「ミゥゥ……」─ お願い……もうやめてよぉ…… ─

サザンドラはその言葉を聞いてニヤリと笑みを浮かべた後、「ゲェップ」と下品な音を立て口から猛烈な臭いのする毒ガスを放った。
ゲップという毒タイプの技である。
目をぎゅっとつむり呼吸をしないようにしながら手でパタパタと仰いでいた妹タブンネだが、ついにはその毒ガスを吸い込んでしまった。
鼻孔を刺激する不快なにおいと、焼け爛れているのではないかと錯覚するほどの強烈な胸焼け。
妹タブンネはたまらず嘔吐してしまった。彼女の口から胃液と共に未消化の木の実がベチャベチャと地面に降り注ぐ。

 「ミゥ……ミ゙ァ゙ァ゙ァ゙……」─苦しい……ぐる゙じぃ゙よ゙ぉ゙……─

血の涙を流し胸を掻きながら言葉を絞り出す妹タブンネ。
両足を失った上に毒タイプの技まで食らったのだ。限界が近い事は誰の目から見ても明らかだった。
兄タブンネはさらに力を込めてサザンドラの足を揺らし始める。

 「ミィィ……ミイイイィィィィィ!!!」─ 妹が……妹が死んじゃうよぉ!!! ─

441カンムリ雪原のタブンネ 三つまたヶ原編:2021/02/09(火) 19:01:38 ID:cGUalhbk0
その言葉を聞いてサザンドラは妹タブンネをゆっくりと地面へ下ろす。
両足がないのでそのまま倒れ込んだ妹タブンネの元に、兄タブンネはすぐさま駆け寄った。

 「ミィミィ!?ミィミィ!!」─ 大丈夫か!? しっかりしろ!! ─

肩を掴んで体を揺らし声をかけるが様子がおかしい。呼吸はしているが視線が遠方を見据えたまま動かない。

 「ヒゥ……ヒィィィィ……」─ お兄ちゃん……クル……シ…… ─

掠れた声で返事をしだすと妹タブンネはおもむろに胸を掻き始めた。
ガリガリと、毛が毟られ皮膚が裂けるほど力強く胸を掻く妹タブンネ。
ただでさえ傷ついているのだ、どれだけ苦しくてもこんなことが体にいいはずがない。
兄タブンネは妹タブンネの両手を掴んで固定する。すると今度は引きつけのような症状を起こし始めた。
全身が痙攣をおこし呼吸できているかも怪しいような浅さで「ヒィッ!ヒィッ!」と呼吸をする。泡を吹き目をぎょろぎょろと不規則に動かしながら何度も瞬きをする。
妹の体内で何か異常が起きているのはわかっていた。
だが兄タブンネにはそれが何なのか分からず、ただただ困惑することしかできなかった。
やがて妹タブンネの喉が大きく膨れ上がると、口から赤黒いゼラチン状の何かが吐き出された。
兄タブンネはそれを手に取り顔の近くに持ってくる。
漂ってくる強烈な鉄臭さ。これは───妹タブンネの血だ!

ゲップという技は名前こそ生理現象と同じであるが、れっきとした毒タイプの技である。
体内で生成されたガスに僅かな毒素を混ぜ込み放出するそれは、ごくごく健康的なポケモンに対しては中毒症状を引き起こさないだろう。
だが衰弱しきっている幼体のポケモンに対してはどうだろうか。
微量であっても毒は毒。その性質に変わりはない。
妹タブンネはゲップによるサザンドラの毒素にその身を侵されていたのだ。




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