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投稿スレ

1名無しさん:2009/11/08(日) 21:20:23
作品を投稿するスレです。

46書き手 ◆W4g5HNoLOg:2009/11/19(木) 05:58:41
FINAL FANTASY IV #0584 7章 2節 「罪の在処」(10)

「教えてやろう」
どれくらいの時間が経ったか? どうすればいいと思考するときの時間は無限とすら思えた。
だが、時間としてみればそれほどの時間は経ってないだろう。
牙を刺された三人は未だに苦しんでいる。だがそれはまだ苦しむだけの命が残されているということだ。
「私がクリスタルを集める目的を」
「何故だ?」
急に口数の増えたゴルベーザに疑問の声をぶつけた。
「お前は僕たち始末するつもりだろう。だからなのか?」
「まあそんなところだ」
簡単な答えを言った後ゴルベーザは続けた。
「地底と地上の二つの世界のクリスタル。光と闇あわせて八つのクリスタル。それらが
揃う時、封印されたバブイルの塔の真の力が復活する」
バブイルの塔――ゾットと同じ、謎に包まれた機械巨塔。
「あそこは地底と地上を結ぶだけではないのか……?」
「ゾットの内部を見たであろう?」
質問に対し質問を返すゴルベーザ。
「ああ、とてもじゃないが常識では考えられない場所だった」
「ゾットはこの世界の表と裏を結ぶだけではない。遥か空に浮かぶ月とこの世界を結ぶ場所でもあるのだ」
それがゾットの本来の力。だが驚くよりも先に、会話の中で出てきた月という言葉がセシルを脳裏を強く支配した。
「これは私の推測なのだが……?」
月――子供のころから何故かセシルは月に強く引かれてた。夜空を見上げれば自然と月へと手を伸ばし、しばらくの間、夜の
闇の中ぽっかりと描かれた金色の円を見続けていた。
時にはそのまますいこまれてしまうのではないかと思う程であり、バロン王を心配させた事もある。
いつしか月に対し強い思い入れを抱くようになっていた。
「お前も思った通り、ゾットとバブイルの両者ともその内装は現在のこの世界では考えられない程の技術で造られている。
ならばあれは誰が作ったのか? そこで私は考えた。あれは月からもたらされたのではないかと」
感傷に浸るセシルをゴルベーザの言葉が現実へと引きもどす。
「それはつまり月にも人が存在するという事か?」
荒唐無稽だなどど完全に否定できる気はしなかった。この地底にも人類が存在していたのだ。それならば月にも人が
存在してもおかしくないのではないか。
「そしてあの塔から察するに月には――月の民とでもよぶべき存在には我々の常識を超えた技術を有しているはずだ」
「それをどうするつもりだ?」
セシルにはその仮説を否定する気はなかった。むしろいつも惹かれていた月にも誰か人が住んでいるというのは、色々な意味で
興味深かった。
「決まっているだろう。この手に収めるだけだ」
「やはりか」
眼前にいる野望の秘めたる黒騎士が見逃すとは思えなかった。地上のクリスタルを奪い、各国を蹂躙し世界を驚異に陥れた
ゴルベーザ。その手は地底まで伸びた。月の存在を知った今、みすみすと逃しておくほど奴の目は甘くはない。
「ならば僕はお前を逃がすわけにはいかない!」
「その体で何が出来る」
指摘の通りだった。
その一言以降、ゴルベーザは何も言わなくなった。呪縛の冷気により動けない体での長い時間が再びやってきた。

47書き手 ◆W4g5HNoLOg:2009/11/20(金) 01:51:50
FINAL FANTASY IV #0585 7章 2節 「罪の在処」(11)

(しかし、おかしい)
ゴルベーザとの会話の中からセシルには新たな疑問が生じた。正確には以前からもやもやとしていた気持ちが、疑問と言う名の
形に変わっただけなのだが。
(何故、僕に牙を打ち込まない?)
(どうして僕だけには……何もしない)
仲間の苦しむ所をじっくりと見届けさせたいのか? 確かにゴルベーザはそう言っていた。
考えれば自分にとってローザが大切な人だと気づいた瞬間にローザをさらった。
しかし、それならば新たな疑問が生じる。
(それならば今度は何故僕にだけそのような仕打ちをする?)
自分が不幸だとか、一方的に相手に嫌われるような人間だとか自虐するつもりは一切ない。
だが今までのゴルベーザのやり方を見ると手段を選ばず、目標のためになら何でも犠牲にする冷酷無比なものであった
ダムシアンではクリスタルを奪還した後、国自体を一斉砲撃した。ファブールも抵抗するものに対して容赦なしであり
つまるところ敵に対して特別な感情を抱かないやり方なのだ。
だとしたらセシルに対する行いに対してだけは違和感を感じざるを得ない。まるでセシルにだけは何か特別な恨みが
あるかのような素振りではないか?
ゴルベーザの目的は先の通り、クリスタルを手に入れて月すらも手中に入れるというものだ。そこにセシルに何が関係
するのか? すぐには思いつかなかった。
違和感といえばもう一つの考えがセシルの中でまとまりつつあった。
これは一番目の疑問と似ている。ゾットでゴルベーザは自分に止めをさせる時があったのにしなかった。
更によくよく考えれば、今までの自分に止めをさせる時はあったのではないかと思う。第一、これほどまでに後手に回った
セシルが今まで危機に陥らなかったのも偶然ではないかのような気がした。
(ゴルベーザが僕を避けている)
馬鹿げている。自分でもそう思った。だが実際に今自分だけが黒い牙を喰らっていないのだ。
(まさかそんな事は――)
あるわけがない。頭ですぐに否定する。
それよりも今はこの状況を打破する事を考えなければ! しかし、一つの考えが纏まらぬうちに別の事を考えても
良い考えが浮かぶ訳がない。
そんな最中であっただろうか。辺りを覆い尽くす黒き波動が薄れたのは――

48書き手 ◆W4g5HNoLOg:2009/12/06(日) 05:33:34
FINAL FANTASY IV #0586 7章 2節 「罪の在処」(12)

視界の黒が一瞬のうちに白に入れ替わる。
「これは……」
辺りの空気を支配する雪のような白は次第にその勢力を増し、前を見ることすら困難なほどになった。
この感覚には見覚えがある。
「霧」
セシルが旅立ち最初に立ち寄った場所。ミストへと続く場所。長い旅の始まりの場所。
しかし何故、急にこのような事態が? 霧の先からかすかに見えるゴルベーザの姿にも動揺がうかがえる。
つまりこの状況はゴルベーザにとっても誤算だという事だ。
お互い何がおこったのかすぐには理解できずに立ち尽くしていると、霧が一つに集まり始めた。
黒き波動が黒龍を生みだしたように、白き霧も今何かの形を生み出そうとしている。
輪郭を描いたそれは見覚えのあるものだった。
「これは霧の龍」
そんなはずはない。頭によぎった可能性を否定した。
霧の龍――過程がどうであれ結果的にセシルはあのミストへと続く洞窟で霧の龍を傷つけ退けた。
それは故意でないにしろ術者の命を奪ってしまうことになった……
更には王の偽物、カイナッツォの策略で召還士と呼ばれる者が集まる村を壊滅状態にしてしまった。
つまりこの霧の龍を呼び出した者以外の他の召還士すらも根絶やしにしてしまったのだ。
もはやあの龍を呼び出せるような力を持ったものはいないはず。
いないはずだ……

――たった一つ小さな可能性を除いては――

49書き手 ◆W4g5HNoLOg:2009/12/06(日) 05:35:01
FINAL FANTASY IV #0587 7章 2節 「罪の在処」(13)

残された幼き命。
だが、その儚き夢もあの大津波が全てさらっていってしまった。
セシルはそう思っていた。そう思わざるを得なかった。
暗黒騎士からパラディンへ。そして数多くの出会いと別れを経て、世界を駆けこうしてもう一つの
世界に来た今になってさえ、彼女の所存はつかめずにいた。
ましてや成長した大人ならばともかくとして、あのような幼き子供がどこかで生き延びてるなど到底考えられる
事ではなかった。
きっと生きているはず。
心の中ではそう思い、仲間達との会話の中でもそう言ってきた。
しかしいつの間にか心の何処かには諦めの考えが浮かんでいたのだろう。いつしか彼女の無事を祈りながらも
既に世界に彼女は存在しない。そう思いこんでいたのだ。

今目の前で起きているこの状況はそのような諦めと思い込みの思考を打ち破るには十分すぎる内容であった。
万一彼女ならば?
新たな疑問がセシルを支配する。
言い方は悪いが、彼女が召還士と呼ばれる特別な血を引いているとしてもやはり子供だ。胸に宿る強大な力を完全に上手く扱える訳ではなかった。
実際、母を失った悲しみが彼女を暴走させた時もあった。あの時は大地の巨人を呼び出し辺り一体に甚大な被害をもたらした。
だが逆にそれ以降の彼女は温厚なチョコボを呼び出す程度にしかその力を発揮していない。
最初、黒魔法や白魔法の基礎魔法でさえ彼女は上手く扱えなかった。恐怖によって炎魔法の行使を拒否した時もあった。
その点は今は亡き偉大な賢者の指導や仲間達との交流で、段々と腕を上げてはいったのだが。
良くも悪くもセシルの彼女の召還士としての一面での印象は<幼い>ものであった。素質は十分にあれど激しい感情の揺れ幅が
大幅に力を不安定にしている。

霧の龍が首をしならせ、大きな口から白き息を吹き出す。粒状の白玉を大量に含んだそれは一点の迷いも無くゴルベーザと
黒龍へと向かっていく。
粒状の息は粉雪の如く黒き意志へと容赦なく降りかかった。黒龍は既に体の大部分を白で埋め尽くされている。
やがて身をよじらせたと思ったら、黒龍は生み出された時とは逆に、段々とその形を元の黒き煙へと姿を変えていく。
煙となったそれはやがてはあちこちへと拡散しついには、龍の形を確認する事はできなくなった。同時に辺りを覆い尽くす黒き闇は
ひっそりとなりをひそめ、クリスタルルームを彩る黒はゴルベーザの姿一つであった。
代わりに辺り一体には霧が立ちこめる事となった。
やはりだ
一部終始を見てセシルは確信した。
霧の龍は力を暴走させる事なく安定した力で闇を退けた。それはあの時、彼女の母親が操った時の龍と同じく、一点の狂いも無く。
だが<彼女>は……自分の記憶にある<彼女>は……体に負担のかかるエーテルを無茶して飲んで傷を嫌そうとする頑固だけど
曇りのない意志を持つ<彼女>……
その面影を霧の龍から感じ取ることは出来なかった。

50書き手 ◆W4g5HNoLOg:2009/12/06(日) 06:28:37
FINAL FANTASY IV #0588 7章 2節 「罪の在処」(14)

「ゴルベーザ。これまでよ」
背中越しから声が一つ聞こえる。
「いや、ゴルベーザの<意志>よ……」
その声には聞き覚えがあった。否、完全に同じではない。だが聞いた事のあるものだ。
振り返る事はしなかったがそれは間違いない。
「<本体>でない貴方に用はないわ。さっさと消えなさい」
硬直するセシルを追い抜きゴルベーザの前へと立ちはだかる声の主。
寸分先を見渡す事も容易でないその場所でも彼女を見間違う事は無かった。
エメラルドグリーンの髪は色はそのままではあるが、肩越しの部分まで伸びている。
小さかった背丈は充分に伸び、前に立たれると頼もしさを感じた。とはいえ男であるセシルの身長には到底達してはいないのだが。
「くっ……だがクリスタルだけでも」
ゴルベーザはよろめいていた。先程の霧の一撃は黒龍だけでなく彼にも相当な聞いたのであろう。
やがてゴルベーザは黒龍と同じく煙へと姿を変える。だがその煙は拡散せずに一つの場所へと集まっていく。
「いただいていくぞ」
微かな声と共にクリスタルを包んだ黒い煙はその場で急に薄くなり、やがては消えた。クリスタルと共に。
ゴルベーザに止めを刺さなくて良かったのか? 結局クリスタルを奪われてしまった。
いつもならばそう思っていたところだろう。
だが今は目の前にいる人物に対して釘付けになる他は無かった。
「逃したか」
その人物――彼女が少しだけ上を見上げてそういった。
「まあいいか。どうせ全部揃わないと意味がないんだし。<本体>が弱っている今の内ならこっちにも充分打って出る手はある」
自分の記憶とはかけ離れた容姿に声色。だが、喋りの片鱗からあの頃の無邪気さを察する事ができるような気がした。
彼女は間違いなく――
「……もう大丈夫だよ」
突如彼女が――今まで背を見せていただけの彼女がこちらへと振り返った。
髪と同じ色の瞳と目があった時には既に驚きは無かった。ただ確信が現実となっただけで。
「あっ! 心配しないでヤン達は大丈夫。最初に霧を張った時点で私が牙の方を抜いておいたし。そもそも黒龍がいなくなったし」
思った反応を得られなかったのだろうか。それとも黙り込んで自分を見るセシルが無愛想に感じたのか。リディアは明るい声で明るい話題を降った。
「だからみんなの事は心配しないで……しなくていいんだよ」
「リディア……」
セシルは静かに記憶の中にある<彼女>の名前を呼んだ。
「そうだよセシル」
別にセシルは無愛想にしていたのではない。驚きのあまりになんの反応を返す事が出来無かったわけでもない。
ただ、心の何処かで諦めていた確信がこうして現実になった事が嬉しかったのだ。夢でも幻でも無い。彼女は確かに、今この場所に存在している。
「私だよリディアだよ」
エメラルドグリーンの瞳から透明な粒が流れ落ちる。
「もっと驚くと思ってたのに……ちょっと悔しいよ」
冗談めかして笑いながら、リディアは頬を伝わる涙を拭いた。
「正直、拒絶されるかもって怖い気持ちもあったんだよ」
どんな姿になろうがリディアはリディアだ。否定する箇所など見つからない。
「おかえり」
ただ嬉しさだけが心にあった。言葉はそれだけで充分だった。
「ただいまセシル。十年待ったよ」

どうしてこうなったのか? 彼女の言葉一つ一つの意味も完全に把握してはいなかった。
だが、今この瞬間に於いてはそのような事は全て置き去りにして、この嬉しみと喜びを彼女と分かち合いたかった。

51書き手 ◆W4g5HNoLOg:2009/12/08(火) 05:08:35
FINAL FANTASY IV #0589 7章 2節 「罪の在処」(15)

ゴルベーザは去り、辺りの黒の気配は微塵も感じられなくなった。
新たに周囲を覆っていた霧もいつの間にか消えていた。霧に関してはリディアが張ったものだ。
おそらくは彼女自身が霧の展開を止めたのだろう。元々黒龍の驚異を退ける為のもの。それが
なくなったという事はこの場所での戦いは終わりを迎えたと言うことだ。
ひんやりとしたクリスタルルームに穏やかな雰囲気と共に視界が戻ってきていた。
一連の喧噪が嘘のように静まりかえったその場所には、一つだけ変化があった。中央に設置された台座、
そこに本来置かれるべきである光り輝くクリスタルが消え去っていたのだ。
主役とも言えるべきものを失ったこの場所は静けさと同時に寂しさが同居しているかのようだ。
「リディアなのか」
そんな音の無い世界でヤンの驚愕の声は大きく響き渡った。
「信じられない……」
ローザも同意見のようだ。
黒龍から受けた一撃から幸いにも助かったヤン達は、セシルと同じく驚きの再会を体験する事となった。
「それにしてもリディア」
驚愕する彼らを尻目にセシルは一人別の話を切り出した。
「説明、いや話してくれるかい?」
無感量の感動の後にやって来るのは、理屈めいた疑問だ。
彼女の登場からゴルベーザとのやりとりの中には、セシル達の知らない言葉がいくつも混ざっていた。
それにしっかりと言葉には出してはいないが、彼女の外見の変化も当然の事ながら気になった。
記憶の中の彼女はあどけない幼子であった。それが今は逞しく何処か美しさを感じさせる姿だ。
十年――彼女の言葉によるとそれだけの時間が経過しているのだろう。以前のリディアが七つか八つ位の年齢で
あろうから、今は十代後半と推測される。とすればローザよりも一歳か二歳年下という事になる。
「大人」と言うのはまだ早いかもしれないが「少女」断定するのもおかしい。判断の難しい年頃だ。
何にしても、その様な急速な成長はセシル達の常識――否、地底世界からみても非常識な事態であった。
バロンへの船で彼女は離れてからまだ一月程度しか経っていない。現に再会を果たした他の仲間達は誰一人として
彼女の様な成長を遂げていない。
考えても分かることではない。ならば直接聞くしか手段はないであろう。

52書き手 ◆W4g5HNoLOg:2009/12/08(火) 05:09:21
FINAL FANTASY IV #0590 7章 2節 「罪の在処」(16)

「うんいいよ」
拒否されるかもしれない。そう思っていたが、リディアはあっけらかんとした様子で悪びれることなく了承した。
ミストを滅ぼしたという自責の念は未だにセシルの想いに強く残っていた。その事で一緒に旅をしていた時も
申し訳無い気持ちで完全に距離を接することが出来なかった。
考えすぎだったのかもしれない。セシルは心の中で自分を責めた。
「……あいつ、今襲ってきたゴルベーザはね、正確に言えば今までセシル達が戦ってきた奴ではないの。だから私は<意志>と呼んだ」
一刻置いて、リディアが話し始める。これは確か……最初の発言、ゴルベーザを<意志>と<本体>二つの名で呼んでいた事であろう。
「今回ゴルベーザは自らの肉体から発信した<意志>を送り込んできただけだったの。だから戦い方も今までの直接手を下してきたけど、召還
なんて手段に頼ったのもその為。あいつはゴルベーザの一欠片にしか過ぎないから大した実力はないの」
そこまで言って今度はセシル達に向き直る。
「で、ここで質問。なぜそんな事をしたと思う? 別に今まで通り<本体>がやってくればいいのに?」
「<本体>になにか問題があった?」
出題に答えたのはカインだ。
「正解。<本体>自体が弱まっているのよ……ある事をきっかけにね」
最後の方は声の調子が悪い。それで分かった。
「メテオか……?」
今度はセシルが口を開いた。
「そう、あの日放たれたメテオは結果的にゴルベーザを倒す事が出来なかった……でもあいつも決して無傷という訳にはいかなかった。肉体はかなりの
傷ついて、回復するまでは大して動けない状況なの。それでも、自分の<意志>を送り込める辺りは大したものなんだけどね……」
その声は所々悲しみを感じさせた。
「知っていたのか?」
「ごめん……」
それだけで分かった。別にメテオの事ではない。テラの事だ。彼女もまた老賢者を知る者の一人であるのだから。
「とにかく! 今ゴルベーザ本人は動くことが出来ないって事! 私達からみたらこれは大きく有利な状況って事!」
もうその話は終わりだとばかりに早口で捲し立てるリディア。
「クリスタルは結局もってかれちゃったけど……あれが全て揃わないと意味がないのは既に知ってるよね?」
セシルは頷いた。ゴルベーザが自ら言っていた。その目的も。
全て揃えば奴の底なしの欲望は更に拡大していくだろう。それだけは阻止しなければならなかった。
「分かっているリディア……でもこれで終わりでは……」
まだ聞きたい事があった。だが、ここから先は彼女の内面に踏み込むことだ。
聞いて良いのかどうか悩んでいたが彼女の方から切り出してきた。
「うん……説明しないとね私の事」
今までの元気な声とは一転。少しばかり静かな口調でゆっくりと話始めた。
「あの日の出来事の真相……それからの出来事。そして幻獣界の話……」

53書き手 ◆W4g5HNoLOg:2009/12/08(火) 06:27:44
FINAL FANTASY IV #0591 7章 2節 「罪の在処」(17)

クリスタルルームにいる誰もが黙って彼女の言葉を聞いていた。
「まずはあの時の事を話さなきゃ……覚えている?」
セシルとヤンはすぐさま頷いた。カインとローザは黙ったままだ。
「セシル説明を?」
「ああ、ローザが捕らわれた後に僕たちはすぐさまバロンへと向かった。シドの協力を借りる事、そしてローザを
助ける為、だが途中で謎の海龍に襲われて離ればなれになった……」
リディアに促されセシルは二人に簡潔に説明する。
「そうだったの……」
ローザが口元に手を当て嘆くような口ぶりで答える。カインの方も無言ではあるが考え込んでいる表情だ。
お互いに色々あった時期だ……その裏でこのような事があったのは思うところがあるのだろう。
「あの時の原因は全て私にあるの……」
「!」
その言葉はセシルを凍りつかせるには充分であった
「そんな訳はない!」
ヤンが慌てて否定する。セシルも同じ気持ちだ。だがどこに根拠がある?
「いいの……優しくしてくれないで。本当の事なんだから……」
「…………」
ヤンの擁護も穏やかにはねのけられた。もはや黙って言葉を待つしかなさそうであった。
「あの時、あの場所に現れた海龍。あれは幻獣、いえ幻獣王のリヴァイアサンなの……幻獣は地上には生息せず
別の場所に住んでいるの。それがあのようにして地上に現れる手段は一つしかない」
段々とセシルにも分かってきた。耳を塞ぎたくなった。だがそれはリディアが許さないだろう。また自分が許せなく
なるだろう。
「別の世界の存在に触れそれを呼び出す存在。それが召還士なの……」
「ならばあれはリディアが呼んだというのですか!」
ヤンが声を荒げる。怒っているわけではない。ただ信じられない事を聞いて動揺しているのだ。
「でもそんな事が出来るのか……だって」
セシルは語られた事実を思わず否定した。今度は根拠があった。
「あの時の私にそんな力は無かったって言いたいんでしょ?」
「……ああ」
内容が内容なので言い淀んでいるとリディアが変わりに答えた。
肯定するしかなかった。リディアは特に怒っていなかった。むしろこれからが本題とばかりに続けた。
「セシルの言う通り。子供だった頃の未熟な私に幻獣王様を呼び出す事なんて無理だった。いや、こんな体になった今でも
出来ないのよ。普通に考えたらあり得ないのよそんな事……」
その声はまるで誰かに詫びているかのようであった。

54書き手 ◆W4g5HNoLOg:2009/12/08(火) 06:28:22
FINAL FANTASY IV #0592 7章 2節 「罪の在処」(18)

「でもあの時の私には一つだけ凄い力があった。それは怒りと憎しみ……」
リディアはセシルを見た。
「セシルには守ってもらった。だから私は一緒について行く事にした。でも……やっぱり時々思い出したのミストが燃えさかる光景を……
それでやっぱり憎しみの心を思い出したの。表では許そうと思っても、裏の心では憎しみを捨てきれずにいた」
「ミストか……やはりあの幼子だったのだな」
その言葉はカインにも響いたようだ。
「許してくれと言うつもりはない。俺はセシルと違ってあの後もゴルベーザに付き従ったのだからな……」
何か言わないとカインも気が済まないのか。謝罪の言葉を述べた。
「いいの」
それだけ言って彼女は再び本題へと戻った。
「それでゴルベーザがローザお姉ちゃんをさらっていった時も当然の用にゴルベーザを憎んだの、そしてその想いは焦りを生んだ……」
もはや誰も何も言わなかった。
「全てが無くなっちゃえばいい。巨大な力が現れて全て壊れてしまえ。憎しみが加速して私はそんな事まで考えてしまった。でもその憎しみ
は力としてみれば凄いものだったらしいの。その力が幻獣王様を呼び出す事になった……」
詫びる言葉から自分を責める言葉の調子へと変わっていく。
「でもそれは言っちゃえば負の思考なの。元来幻獣ってのは程度の差はあれど穏やかな生き物なの……ましてや幻獣王様ほどの御方になれば
非常に聡明であるはず。でもそれはあくまで幻獣世界での話……向こうの世界から地上に現れた時、幻獣達は余所者に過ぎない。そしてその
存在は召還士によって行使されるモノ。気性や性格などは召還士の状態によって大きく異なってくる……」
声色は涙混じりになってきた。
「私は悲しみによる怒りと憎しみの力で幻獣王様を呼んだの。王と呼ばれるだけあってその力は強大……そんなものが間違った力で地上にやって来ると
どうなると思う? ああなるのよ……」
セシルは身震いせざるを得なかった。恐怖に? あの場所で彼女を制止できなかった自分に?
思えばエーテルを大量に口に含み、回復魔法を一心不乱に唱えていたのも焦りの表れであったのだろう。
何かがきっかけで彼女を変える事が出来たのなら、あのような悲劇は回避できたのか? だが、あの時の自分は暗黒騎士の自分は己に迷い、周りに惑わされ続けていた
彼女の事にまで手は回らなかったであろう。

55書き手 ◆W4g5HNoLOg:2009/12/08(火) 07:31:57
FINAL FANTASY IV #0593 7章 2節 「罪の在処」(19)

「この事はあちらの世界でも話題になったわ」
ここからは、リディアが最初に言ったその後の出来事になるのだろう。
「あの津波には私自身も巻き込まれた、だけど流れ着いた先は地上ではなかった。幻獣界だったの」
どうりでリディアは世界中の何処を巡ってもいない訳だ。
「なんで其処にたどり着けたのかは私にも分からない。幻獣王様を呼んだ召還士が現れた事、結果的にそれが王様の暴走を招いてしまった事は
幻獣界でも深刻な問題として扱われたの」
「ちょっとした騒ぎになったって事?」
「ちっとどころじゃなかった。もの凄い騒ぎで事の発端となった人物――私の処理については大きく議論される事になったわ。危険だからこの世界に
閉じこめておこうとか、記憶を全て消して地上世界に返すべきだとか。どれも厳しいものだった」
向こうの世界を統べる王の力を意のままに操ったのだ。幻獣達がリディアを危険視するのも無理はないだろう。
「でも、そんな最中の事だった。幻獣王様が一つの提案をくれたの……その力を負に使うな、より正しき方向へ――私に私の力を見直すだけの時間を
くれたの……」
段々と話が繋がってきた。散らばった断片が纏まっていくようであった。
「幻獣界の時間の流れはこの地上や地底とは違うの――」
「だからか」
そこまで言ったのを確認してセシルは彼女に関する真実を述べた。
「幻獣界の十年は僕たちの世界ではほんの僅かな時間に過ぎない。つまり、僕たちの世界に比べて圧倒的に時間の進みが早いって事か」
「うん――でもおかげで私は自分の罪を見つめ直して改めるだけの時間を手に入れた。普通の世界だったら恨んで、悲しんでいると時間という絶対的な
ものが過ぎ去っていく。それは個人の恨みを始めとした感情をいつの間にか流し去ってしまう。あらゆる者が通り過ぎていく中、どこかでその感情を
有耶無耶のまま起き去ってしまう。でも幻獣界での暮らしは私に考えるだけの時間をくれた。冷静になって物事を見て考えて、戦えるようになる為の
時間を与えてくれた。あの世界で私は凄く強くなれたの」
彼女が再会に言った台詞である「ただいまセシル。十年待ったよ」
その言葉の違和感がようやく説けた。ただいまなのに待ったというのは幻獣界での修行期間の事を言っていたのだ。あそこで、あの時間の流れが違う世界で
リディアは自分を抑制し、どんな理不尽な物事でも受け入れるだけの覚悟を手に入れたのだ。
「そしてこれは罰でもあるの……自分の焦りや怒りで回りに多大な被害を与えた自分に対する……」
話はまだ終わらないようであった。
「こっちの世界の事は大体が幻獣界にも情報が入ってきた。その中にはテラお爺ちゃんの事も……」
やはりメテオとそれと運命を共にしたテラの事は知っているようだ。
「丁度三年位前だったかな……」
「!」
その言葉はセシルを驚かせた。
あのメテオの日以来、まだ二週間程度しか経っていない。だが彼女の時間でそれは既に三年も前という事なのだ。
「本当はね……あの時、お爺ちゃんが危機に陥った際に助けに行きたかったの。でもまだあの時の私には、三年前の私にはまだ今程の力は無かった。
助けに行くなんて到底出来なかった。でもあの時の一部始終は知っていたし見ていた……見殺しにしたようなものだよ……」
テラの死をただ黙って一人で見てきたのか、そしてその悲しみを三年も一人で誰とも共有する事なく心に持ち続けたというのか。
それが彼女の罰――だというのか。
「ごめんね……セシル、お爺ちゃん」
彼女が先程ごめんと言ったのはこういう事なのか? だが、これでいいのか?
「いいんだよセシル」
セシルの思考を呼んだのか涙声の彼女は言った。
「もう私は全てを赦そうと思うの。世界には大きな意志が蠢いて大きな運命が存在するの。アンナだってそれがわかっていたから――」
彼女は上を見上げる。そしてそれ以降は何も言わずに手を差し伸べてきた。
「だから私も戦う。冷静になって、全てを受け入れて」
セシルは彼女の細い手をしっかりと掴んだ。
「ああよろしく頼むよ――」

56書き手 ◆W4g5HNoLOg:2010/01/03(日) 18:50:06
FINAL FANTASY IV #0594 7章 3節 「去りゆくもの 残されるもの」(1)

リディアとの再会、そして彼女の口から語られたゴルベーザの現状は刻一刻と進みつつ
ある作戦をより後押しする事になった。
ただでさえ城内のクリスタルは奪われてしまったのだ。もはや迷っている時間は無い。
躊躇する気持ちもなくなり、こちらが有利だと思えるような情報も掴んでいる。
バブイル奇襲作戦はゴルベーザを退けた後、それほど間をおくことなくして実行に
移されることになった。
作戦の具体例として、まず残存の戦車部隊がバブイルを攻撃する。クリスタルを奪還されて
以降、ドワーフ城内を攻撃するゴルベーザ部隊は日に日に少なくなっていた。
これはクリスタルを奪還するという第一目標を達したからであろう。ゴルベーザ達は何よりクリスタル
を目標にしていた。手段を選ばないとはいえ目的を果たしたのならその場所には全く興味が無くなる。
それが彼らの考え方なのは、地上の時から大体想像がついた。
とにかく防衛に戦車部隊を多数割く必要がなくなった為、バブイル攻撃に回す戦車部隊を確保出来た。
だが、その戦車部隊でバブイルを陥落させる事は不可能であるというのは、誰の目から見ても明らかだ。
無論、ドワーフの民の誰もがその事は重々承知している。戦車部隊の攻撃はあくまで作戦の一環であり
最終目標ではない。いうならば戦車隊は囮の役割なのだ。
彼らが攻撃をしている間に少数の人数でバブイルに忍び込む、そして奪われたクリスタルを奪還する。
同時に城を狙い打つ巨大砲の破壊。そして願わくばゴルベーザ<本体>を打倒す事。
それが今作戦の第一目標であり、最終目標なのだ。
この少数精鋭に選ばれたのはセシルであった。別の場所であったとはいえ、ゾットという未知なる機械
塔に足を踏み込んでいる。それがドワーフ達の当てに繋がったようだ。最も、一番最初に潜入に志願した
のがセシルであったというのが一番大きな理由であった。セシル自体、ゴルベーザについてまだ気がかりな
事が沢山あった。それにゴルベーザの野望は地上の災いがこの地底にまで拡張してきたようなものなのだ。
地上の人間が責任を取るべきだと思ったのだ。
セシルの他に同行することになった面子は、カイン、ローザ、リディア、ヤン。の四人。
結局、先ほどのクリスタル攻防の時と変わらない顔ぶれとなった。
ここでもシドとは一緒に行動を共にする事はできなかった。それどころか、地底に来て以降顔を合わせたことは一度もない。
別に色々あって仲が険悪になったとかそういうものでなく、シドは地上の技師として様々な役割があり非常に多忙なのだ。
本来なら、再会したリディアを紹介したいところなのだが、中々、時間をとってゆっくり話すことができなかった。
ギルバートに関しても未だ病床に伏したままであった。そのせいもあって地底でその姿を見たこともない。
担当の医師達に向かうと段々と快報に向かっているようなので心配する必要はないのだが、回復を待っている程の時間も
残されていなかった。

57書き手 ◆W4g5HNoLOg:2010/01/03(日) 18:51:14
FINAL FANTASY IV #0595 7章 3節 「去りゆくもの 残されるもの」(2)

作戦は当初予想されていた以上にうまく事が運んでいた。
戦車隊の攻撃はバブイル側には効果絶大であったようである。応戦するだけで手一杯という様子で
あった。
これはゴルベーザが未だに回復する為に眠りつ続けている為であろうか? いずれにせよバブイル側
の指揮系統が大幅に乱れているようであった。
陽動の方が大成功した事もあり、セシル達は何の苦労もなくバブイルの塔へと潜入する事に成功した
のであった。
バブイルの内装の印象はゾットと全く持って同じであった。
ガードロボットの存在が気がかりであったが、まったくもってその姿を見かける事は無かった。
バブイルには配置されていないのか? はたまた先の陽動作戦の影響なのか?
いずれにせよ目的地まで無駄な戦闘をする事はしなくて済みそうであった。
しかし、歩き続けるたびに何度もゾットの既視感に襲われる。あの迷い込んだ果てしない迷宮の事を――
だが違う。潜入部隊の先頭を進むセシルは後ろを振り返り、改めて確信する。
後ろを進む仲間達の中にはローザがそしてカインがいる。既に自分達三人はあの迷宮を抜け出したのだ。
再び困難や迷路が立ちはだかる時もあるかもしれないが、少なくとも今はその時ではない。
そしてもし再び、自分たちを試すような状況に置かれたときも、以前のようには迷わない。セシルはそう決心したのだ。

潜入は容易であったが、目的の達成は決して楽だという訳ではなかった。
ゾットで慣れているとはいえ、あの時はゴルベーザが上へと昇るように案内していたのだ。いうなればただ上を目指すだけであった。
それに比べると今度の登頂は未知なる場所を探索しつつ、目的地を見出さなければならない。
どうやらこのバブイルの塔はゾットに比べて、全体の面積は広いようだ。その事がさらに目標をより遠いものにしていた。
幸いにもガードロボットの妨害は全く存在していなかった。根気よく塔内部を散策するのは地力さえあれば、さほど困難な事では
なかった。
とはいっても闇雲に探すのでは時間がいくらあっても足りなくなってしまう。ある程度怪しそうな場所に目星をつけて、要所要所を
探索していくことにした。
無論警戒は怠らない。いくら警備が手薄になっているとはいえ、目的のクリスタルと巨大砲の場所には何かしか警備の目が行き届いている
であろう。
散策をある程度繰り返していた時であろうか、その場所を見つけたのは――

58書き手 ◆W4g5HNoLOg:2010/01/03(日) 18:52:23
FINAL FANTASY IV #0596 7章 3節 「去りゆくもの 残されるもの」(3)

その場所の入り口は他の扉と一見すると全く一緒であった。
だが、外部からでも分かるほどの異様な雰囲気が部屋の中からあふれ出ていた。
「ここは?」
おそらく巨大砲の制御室ではないであろう。ましてやクリスタルをいくつも保管している場所であるとは思えない。
そこからあふれ出ていいる空気はどこか禍々しく近寄りがたいものであった。
「……いってみるか」
誰も拒否しなかった。その場所が発する空気は誰もが感じていたのだろう。
後から思えば無視して通り過ぎるという事も出来たはずなのに、何故か素通りする事は出来なかった。
部屋の中は塔内部の他の個室と違って、明かりがついていなかった。詳しく中を確認する為には、目を慣らす時間を要した。
「!」
暗がりに慣れ、おぼろげながら見えてきた光景に目を疑った。
「……にこれ」
部屋中に並べられた大型の培養管。その中に詰められたものは――
「人間……?」
言葉にしたくない台詞を口にする。
間違いない。それはセシル達となんら変わらない人間。培養管の中、濁った水の様な液体に詰められている。
その者達の表情は誰もが無表情であり、感情を伺いしる事は出来ない。焦点の合わない目は虚ろな様子で空を眺めている。
「まだ生きているぞ……!」
誰もが口を開きたくなかった状況を打ち破ったのはカインだ。
目を逸らしたい気持ちを抑えてじっくりと観察してみると、培養管の人々は体を微動していた。
「でも酷い……」
良かったと手放しに喜べるわけではないが、生きているという事実が眼前の光景を直視する余裕を与えた。
リディアが非難する。
「どうしてこんな事を……!」
それはセシルも同感であった。ゴルベーザ達は各国からクリスタルを奪い、多くの抵抗する民の命も奪ってきた。
だが……このような事をしているとまでは想像する事が出来なかった。

59書き手 ◆W4g5HNoLOg:2010/01/03(日) 18:53:10
FINAL FANTASY IV #0597 7章 3節 「去りゆくもの 残されるもの」(4)

「奴ら……許せん!」
ヤンが怒りを露にする。
「人を操るだけでは満足しないという事か!!」
カインが激昂する。
かつての操られた怒りが他の者以上の怒りを増幅する。
「いえ違うね〜」
皆、ありとあらゆる意見が飛び交った。そのどれもが批判的であった。
その言葉に割り込む声が一つ。
感傷的なその場に於いてはあまりに陽気でひょうひょうとした声……
「あなたは……?」
薄汚れた白衣を着て、白髪の髪を伸ばし放題にした老人。出で立ちからして科学者の類である事は間違いない。
そして、今この場所に入ってきたという事は目先の非人道的光景に関わっている可能性は非常に高い。
「私ですか〜ゴルベーザ様のブレインことルゲイエ博士ですよ〜あなた方はゴルベーザ達と闘っていると噂の方々ですね〜」
この状況であるというのにルゲイエと呼ばれた老人は依然ひょうひょうとした語り口で話し続けている。
「ルゲイエ! 貴様! 許されると思ってるのか!」
カインが当事者を前にして更に怒りを増した声を上げる。
「おや〜カイン君じゃないですか〜なんですか〜? いつの間に私達を裏切ったのですか〜」
会話の流れを見るかぎりどうやらカインはルゲイエと呼ばれる人物と面識があるようだ。おそらくは操られゾットにいた時の事であろう。
「違う! 正気に戻ったのだ! それより言え、何故こんな事を!?」
「なんのことですか〜」
それは突きつけられた事実にとぼけているわけではない。むしろ問いただされている内容に対し悪意を感じていないようだ。
「悪いと思ってないのか?」
ルゲイエの意図に気づき質問の内容を変える。
「だから〜なにがですか〜」
「くっ!」
「おじちゃんはなにも思わないの?」
平行線をたどる押し問うにリディアが口を挟む。
「おんや〜今度は子供ですか〜一体なんです〜?」
「だから……こんな……」
ルゲイエの狂気じみた形相がリディアをまじまじと見つめる。
「一体なんです〜」
「えっと、だから……人をこんな所にとじ……こめて……酷いことを……して」
そこまで言うのがやっとだった。

60書き手 ◆W4g5HNoLOg:2010/01/03(日) 18:53:51
FINAL FANTASY IV #0598 7章 3節 「去りゆくもの 残されるもの」(5)

「え……ぐ」
「リディア! もういい!」
今にも泣き出しそうなリディアを慌てて宥め、その口を閉じさせる。
ここで何が行われていたのかを想像するのは容易い。それをわかってルゲイエはリディアに尋ねたのだ。
「あなたって人はっ!」
セシルも怒ったような言葉を向ける。
「あなたもわたしに説教ですか〜? やはり私の考えを理解するのは一般人共には無理があるということですかね〜」
相次ぐ非難が頭に来たのかどうか知らないが、ルゲイエは急に多弁になった。
「この人たちの事か……これがあなたの結果なのか。ならば教えるんだ。一体ここで何をやっているんだ」
正直、あまり聞きたくはなかったが。これが奴の、ゴルベーザのやりくちなのか確認したかった。
「ふん、それはゴルベーザ様の計画の手助けとしてやったものだ。人と魔物を融合させて、より一層強力で命令に忠実な
手駒をつくるのだ。人間の知恵と魔物の力を兼ね揃えた最強の兵士となるだろう」
「命令されたからやったのか? なら誰がそれを提唱した?」
怒りの気持ちを抑えつつ、疑問点を口に出す。下手に出て怒らせてしまったら、聞き出せなくなる。
それにこのルゲイエという男、怒らせてしまうと何をするのか分からない気がした。
「ああ、考えついたのは私ですね。それをあの御方、ゴルベーザ様に進言したところ、特に止められる事も無かったから勝手に
実行に移させてもらったのですよ」
「やはりあなた自身が……」
間違いない。この男が興味を持ってやった所業だという事だ。
「くそっ! まさかルゲイエ。お前がこんな奴だったとは思わなかったぞ!」
カインが怒りの言葉を再度口にする。
「目的の為には手段を選ばないとでも? それは残念。カイン君、あなたとは似たもの同士と思っていたのですけどね〜」
「黙れ! この狂人め!」
「うへへへへーーーーああ〜〜有難う、アリガトウ!!! 最高の褒め言葉だよ!!!!」
激昂したカインの非難はルゲイエを怒らせるどころか逆に喜ばせているようであった。
「お前は生かしておけん! ここで打ち倒させてもらう!」
「おおっと! 力にものを言わせるのですか!? 悪いとは言いませんが、今のところ私はあなた方と戦うつもりは毛頭ありません
やるべき事がありますからね、それでは――」
踵を返し、部屋から退出しようとするルゲイエ。カインは慌てて追いかけようとした、セシルも同じだ。逃がすつもりはなかった。
だが、その前にルゲイエを引きとめる声が一つ。
「どうしてですか……」
それは怒りも悲しみも含まない声であった。
「どうしてあなたがここにいるんですか?」
消え入りそうな声は必死に音量を絞り出していた。
「おや〜やっぱりいたんですか〜無視されてるのかと思いましたよ〜ローザ君?」
ルゲイエも足を止めて、セシル達の方向へと振り返り直した。
「久し振りです、ルゲイエせんせい」

61書き手 ◆W4g5HNoLOg:2010/01/16(土) 08:13:42
FINAL FANTASY IV #0599 7章 3節 「去りゆくもの 残されるもの」(6)

「!」
今にも消え入りそうな声の正体は、今までの間ずっと口を詰むんでいたローザであった。
それだけでも充分に驚くべきことであったが、発せられた言葉の内容はセシル達を更なる驚きへと誘った。
「どういうことだ?」
「私じゃなくて彼女に聞けばどうかのう〜?」
別に誰かに質問するつもりで口を開いたわけではないが、最初に疑問への返答をしたのはルゲイエであった。
「ローザ……」
振り返った先に見えた彼女はすっかりと意気消沈し、今にも消えてしまいそうに小さくなっていた。
「そこにいる人――ルゲイエ先生は私の恩師なのよ」
視線が答えを求めている事が分かったのだろう。彼女は少しの間を経て口を開いた。
「まだ私がバロンの学校で白魔道士を目指していた頃だった。そこで私はルゲイエ先生に出会った」
「学校?」
今一事情が呑み込めないのか、リディアが尋ねる。
「私達――セシルやカインはバロンの学校に通っていたのよ」
「だから学校ってのは?」
「共通の目的を持った人達が皆で集まってお互いに交流を交わしたり、共に教養を深めていくところよ」
リディアの質問は、ローザの過去の詳細でなく学校という機関そのものに対しての疑問だったのであろう。
「ふ〜ん。じゃあ先生ってのは?」
「そうね、あなたにとっての幻獣王様みたいなものよ」
「幻獣王様?」
唐突に聞きなれた言葉が出て驚いたような口を上げる。
「教える者と教え合うものの間柄って事かな? だったらおかしくない? 学校ってのはお互いが高め合う場所なんでしょ?
例えばミストの村ではかあさ――召喚士達は皆で集まってお互いに修練し合うことはあったよ。でもそれは皆が教えあう雰囲気
だったし。わざわざその先生っての――この場合は幻獣王様のような存在はいなかった」
説明はリディアに相次ぐ疑問を与えるばかりである。
「人生の先輩とでもいうのかしら。学校という場所はあらゆる人が集まるの。嘘をついたようになるけどさっき学校は共通の
目的を持った人が集まるっていったけどね。正しくはそうではないの」
悩める彼女にローザは少し考えてから言った。
「中には名誉の為、中には人生の模索の為、もしかしたら、他にも様々な目的があるかもしれない。それに共通の目的を
持った者と言っても、必ずしも相容れるものではない。ましてや学校には多種多様な人間がいるのよ。人間関係が必ずしも
円滑に進むとは限らない……」
セシルにも苦い記憶が呼び起こされた。
王に拾われ身寄りのない孤児だった。自分に対し、学校という場所は決して居心地のいい空間ではなかった。
カインやローザに出会わなければ自分はどうなっていただろう? 考えたくもないし、思いつきもしなかった。

62書き手 ◆W4g5HNoLOg:2010/01/16(土) 08:14:14
FINAL FANTASY IV #0600 7章 3節 「去りゆくもの 残されるもの」(7)

「なんで仲良くできないの? みんなお互いを高める為に集まってるんでしょ?」
その十年を人間という存在はただ一人といえる空間で過ごしてきたリディアは、温室育ちで世間の常識に疎いお嬢様の
ようであった。複雑な空間である学校への疑問はつきない。
「……不安だからよ」
そんなリディアに対し、言っていいのかどうか悩んだような表情でローザは言葉を続けた。
「いくら自分に自信がある人だって、一つの道ならば誰にも負けないと自負してる人だって多くの中に交われば、自分が井の中の蛙
であった事を知る。そこからその人はどういう答えを導き出すか? 私が思うに答えは二つ。自分の才能と相手の才能を冷静に比較し、
それを否定する事なく受け入れる。もう一つは他人を否定する事によって自分を肯定する事」
「…………」
「そのどちらが正しいのかは私には分らない。多分頻度の問題ね。前者を白、後者を黒としましょうか。白だったら自分を認めて
より一層己を高めることができる。でも完全に白に染まった人はただ自分に自信を無くし相手に迎行しているだけ、自分を失った
といえるわ。だったら後者はどうか。相手を認めないで否定すれば、新たな道が見えてくる可能性がある。たとえ遠回りだとしてもね……
でもその考えが行き過ぎると、他人を否定するだけして己を止めてしまう」
「例外があると思うがな」
カインが口を挟む、
「己の道とその場所が合わなかったもの。そいつは別の場所で上手くやるかもしれない。また、学校というものが枠内に収められた空間だとすれば、
当然その枠内に収まりはしないものもいる。ある意味道を示されずとも自らで歩きだせる。天才とでもいえる存在なのかもしれん」
そこまで言ってルゲイエを見た。
「たとえばコリオのようにな……」
「ほう〜その者の名には聞き覚えがある〜ああ〜懐かしいですね〜」
「そしてお前もコリオと同類といえるだろう」
「どういうことですかな〜」
ルゲイエは答えが分かっているのに態々質問しているかのようであった。
「目の前の事態に絶望し、新たなる道を模索する為にその場所を去ったということでだ」
「ほほう、やはりあの若者もですか。まあ当然ですね。彼も決められた枠内で終わる程の人材ではないと思ってましたからね」
コリオとは地底に行く前に出会ったあの若者の事だ。彼もバロンの学校にいたことがあった。
事実を聞いたルゲイエは妙に納得し得心がいったようであった。
「ルゲイエ……せんせい。教えてください何故あなたはこのような事を……何故此処にいるのかを……」
真実を尋ねるローザの口調は所々たどたどしかった。まだ先生と呼ぶことが自分にとっても相手にとっても許されるのか?
見知った者が人の道に外れた行いとしているという事実を未だに受け入れ切る事が出来ない迷いのせいなのか。
「ああ構わんよ」
かつての教え子に対するルゲイエの言葉はそこだけ聞けば穏やかなものに聞こえた。

63書き手 ◆W4g5HNoLOg:2010/01/16(土) 08:14:47
FINAL FANTASY IV #0601 7章 3節 「去りゆくもの 残されるもの」(8)

「絶望したのだよ……魔法というものにねぇ……」
しかし続く言葉は最前までの狂気の陰りを充分に感じられるものであった。
「白魔法とは傷ついた人を癒す魔法である。だが、所詮はそれだけなのだよ……ほんの少しの痛みしか和らげる事の出来ぬ
気休め程度の魔法。失われてしまったものを完全に再生することなど到底かなわない、出来そこないで不完全なものなんだよ」
答えとは程遠いルゲイエの絶望の叫びが辺りに響き渡った。
「私は可能性を感じていたのだ! 魔法に! 人が新たなる段階に進めるのではないかと!! だから探し求めたのだよ!!!
魔法を使うことで、新しい世界がやってくるのではないか? 全ての人間に幸せを!! 人の誰もが理想通りに生きることが
できる万能な世界。素晴らしき世界がやってくるはずだ。 しかし、魔法には限界があった。所詮は昔に生まれた古臭い概念
でしかなかったよ!!」
演説気味に喋るルゲイエに狂気は消えていた。
「知っているかね魔法の起源を? 昔この世界に突如現れた一人の人間によってもたらされたもの
「…………」
ローザは既に言葉を持たない。顔は蒼白気味だ。
「正直に言うとね、ローザ君。君たちに魔法を教えるのは悪い気分ではなかった。しかし、私自身の方に限界が近づいていたのだよ。
魔法という、底の見えたものにしがみつくなど……」
何処か遠い目で過去の感傷に浸るルゲイエ。だが、その時間はほんのわずかであった。
「だから私は求めた新しき力を、科学という力を。機械という未知なる力を。正直、ゴルベーザ様が何を考えているのか、何を成そうと
しているのか私には分らない。でもあの御方は私に科学に触れる機会と研究する力をくれた。それだけで十分なのだよ……」
「そんな……」
力を振り絞ってローザはやっと悲観の一声を捻り出した。しかしそれ以上は何も言えない。
「それだけで、あなたは――世界がこんなになっているというのに!」
セシルがローザの気持ちを代弁して言葉を引き継ぐ。
「傲慢極まりないなルゲイエ。魔法で万全たる世界を作り出せると信じていたようだが……その考え自体が
「なんとでもいうがいい……私はもはや何事にも動じる気持ちはない。既に計画は動きだしているのですからね〜」
けたたましく笑うルゲイエは激昂した様子をひそめ、元の狂気じみた笑いを浮かべていた。
その顔にはこのような状況にも関らず勝ち誇った様子が伺える。
「何を企んでいる?」
「教えるわけないでしょう。まあいずれは嫌でもわかる事ですよ……」
何か含みがあるのは間違いない。訪ねてみるがルゲイエはセシルの疑問を一蹴して踵を返す。
「待て!」
部屋から退出しようとするルゲイエをヤンが引き留めようとする。しかし、白衣の老人は全く聞く耳を持たぬままに歩みを続ける。
「逃げる気か」
そう言ってヤンが後を追いかける。セシル達も続いて後を追いかける。

64書き手 ◆W4g5HNoLOg:2010/01/16(土) 08:16:17
FINAL FANTASY IV #0602 7章 3節 「去りゆくもの 残されるもの」(9)

「逃げるだと……」
追いかけてからどれくらいたったのだろうか。いつの間にか塔のもっと上層まで来ていたらしい。
辺りの様子はいつの間にか迷路のような場所から、中央に空洞を備え、周りに足場を備えたような場所へと変化していた。
中央から下の階が覗きこめるが、何階層も同じような構成が続いてるようで、空洞部分の底を見ることはできない。
その場所でルゲイエはようやく立ち止まり、セシル達の方へと振り返った。
「違うね〜今この場所で君たちと戦うのは無意味なだけですよ」
「負け惜しみを!」
「そう思いたいのなら勝手に思っておきなさい、真なる勝利の為に一時の敗北を喫すのはなんら恥じるべきものではありませんからね」
「ぐっ……こいつ……」
ひょうひょうとした態度を崩す様子がないルゲイエに苛立ちを隠せないヤンであったが、謎めく言動の連続に今度は不気味さを感じていた。
「さてと、もうあなた達と話す事はありませんね。そしてこの体にも――」
ルゲイエの視線はセシル達を向いてはいなかった。狂気に満ちた眼は階層の中央部分から見渡すことのできる遥か眼下の闇を見ていた。
「何をする……?」
ゆっくりと闇へと近付くルゲイエにセシルが言葉をかける。
「まさか、飛び降りるつもりか?」
今の状況からしてそう考えるしかなかった。今が塔の何階層かは分からない。だがかなり高いところまで来てるのは確かだ。
その場所から飛び下りれば無事ではすまないだろう。
何故? 咄嗟に疑問を浮かべるがわからない。否、例え彼の口から直接聞きただしても分からないだろう。
「待て巨大砲は何処だ?」
理由を聞くことも、その行為を止める事も出来ないまま見守るしかないと思ったところでヤンが口を挟む。
「我々はこの塔に設置された巨大砲を止めに来た。あれもお前が開発したものなのだろ? ならば言えっ! どこにある」
無視されるものと思ったが、その言葉聞いたルゲイエはぴたっと足を止めて懐から何かを取り出した。
「あれならばもう少し階層を登ったところにある……」
取り出したものは鍵束であった。ルゲイエは振り返る事はせず背を向けたままにそれをセシル達へと放り投げた。
「その鍵を使えば巨大砲の制御室には辿りつけますよ……あとは好きにしなさい。あんなもの作った時点で興味はなくなりましたからね」
「待って――」
用は済んだとばかりに再び歩き出したルゲイエに今度はローザが口を開く。
しかし、その声は消え入るほどに小さいものであり、続くルゲイエの声にかき消されてしまった。
「もう発射の準備は殆ど終わっていますからね〜急がないととんでもないことになりますよ〜くくくくーーー」
言い終わらぬうちにルゲイエはその体を跳躍しその身を空中へと委ねる。
あっという間にその体は重力に引かれ遥か奈落の底へと姿を消していった。

65書き手 ◆W4g5HNoLOg:2010/01/16(土) 08:16:48
FINAL FANTASY IV #0603 7章 3節 「去りゆくもの 残されるもの」(10)

「急がねば!」
一部始終を見終わらない内にヤンはルゲイエから受け取った鍵束を持ち走り出した。
「先にゆく――」
簡潔にそれだけ言ってヤンは姿を消した。
巨大砲を止めねば、地底も地上の国々と同じように甚大な被害をだしてしまう。それだけは断固として阻止をしたいのだろう。
セシルも同じ意見ではあるが、ましてや国を焼かれたことのあるヤンならばなおもその想いは強いのであろう。
本来ならばすぐにでもヤンの後を追うべきであるのだが、まだセシルにはやることがあった。
「…………」
「ローザ」
がっくりと膝をつき顔を項垂れている彼女にセシルは優しく声をかける。
彼女にとっては狂気にとりつかれ今この場所から飛び降りた人物は昔からの恩師なのである。
数多くの非人道的な行為やゴルベーザへの加担があってもその事実は変わらない。
だからこそ、余計に今の状況はつらいのであろう。良心との板挟みにあっている部分もあるのだろう。
「もう少しここに……」
「……行こう。ゆっくりでいいから……」
それだけ言い残してセシルも歩き出した。
しばらくは感傷に浸りたいであろうローザを強引に連れて行くことはしない。
彼女ならばこの困難すらも自らの手で乗り越えてくれるから……そして今の彼女に何か言葉をかけても
無責任な気休めにしかならないから……
親しい間柄でも、時には一人で思い悩むことがあるのは当然だから……

66書き手 ◆W4g5HNoLOg:2010/01/16(土) 08:18:02
FINAL FANTASY IV #0604 7章 3節 「去りゆくもの 残されるもの」(11)

順当にバブイルの階層を登っていくと、ルゲイエの言った通り制御室らしき場所が設置されたと思わしき場所へとたどり着いた。
「あれだ……!」
目標とする場所を確認し、セシルは歩を速めた。
急がねばならない――先程からどうにも嫌な予感が頭をよぎっていた。
ヤンが先を急いだ。セシル達に一言言い残して。
それは本当にただ先を急ぐ主を伝えただけなのであるか? セシルはヤンの言葉に表面上の言葉以上のものを感じていた。
(今は……深く考えるのは止めだ!)
おこってほしくない悪い考えを想像するのは、本当にその考えが実現してしまう可能性を高めてしまう。
今までセシルが度々に思ってきた事だ。勿論、根拠はない。
だが先の見えぬ未来には期待だけを馳せるようにしたい。
とにかく自分に今出来る事はこうして先を急ぐことだけだ。閉ざされている道でも進めば何かが見えてくる。
一瞬だけ後ろを振り返ると後に続くカイン達が見えた。
その中にはローザもいた。顔を見るとまだ表情は暗い。しかしゆっくりとした足取りは前向きに歩きだしている。
「大丈夫だ――」
彼女はだ。確認すると更にセシルは移動を強める。
「ヤン――!」
目の先まで迫った制御室の扉に向けてセシルは叫ぶ。
ヤンは大丈夫なのか? 頭に浮かぶ心配の二文字を必死に払いのけようとするがなかなか上手くいかない。
「――――!」
一見すると何事もない制御室の鉄扉であったが、近づいてみると異常があることに気づいた。
(熱い……!?)
扉に触れるとおとずれたその感触。それは部屋の中でただならぬ事がおきている証拠だ。
ふっと冷静になってみると熱風が肌に触れる。目の前の制御室からであることは明らかだ。
「ヤン!」
すぐさま扉を蹴破った。熱を持った扉を普通に開けるのは難しいと判断したからだ。幸い、鉄扉といえど、一般的な扉と同じ
薄いものであったので難なく開くことができた。
「!!!」
扉の内部、制御室の光景が目に入ってくる。
塔の個室にしては広めなその場所には、制御室としての役割を果たす為か、所狭しに制御系の機械が立ち並んでいた。
しかしその場所には一目で分かるほどの異変があった。
おそらく巨大砲の各種制御に使うであろう機械類、それらすべてが破損していた。
部屋中に電流と火花が飛び交い、黒煙が辺りを支配している。
「ヤン! 大丈夫か!}
荒廃しきった制御室からは、ゾットの時を嫌でも思い出させた。
いてもたってもいられなくなったセシルは制御室へと踏み込み、ヤンの姿を探した。

67書き手 ◆W4g5HNoLOg:2010/01/16(土) 08:18:32
FINAL FANTASY IV #0605 7章 3節 「去りゆくもの 残されるもの」(12)

「セシル殿」
ほどなくしてヤンの返答が返ってきた。黒煙が視界を邪魔するこの場所で、現れたヤンは先程セシルの前から
姿を消した時となんら変わった様子はない。
「良かった」
どうやら心配は杞憂に終わったようだ。見たところ大した怪我もしてない。
「いえそれがあまり良くない状況なのです……」
しかし安堵の息を漏らすセシルに比べ、ヤンの表情は暗い。
「どういうこと?」
「ご覧の通りです」
そう言って回りへと視界を促すヤン。
「私がやってきた時には既にこの状態でした……」
つまりあらかじめ制御室は何者かの手によって壊されていたという事か。
それはどういう事を意味するのか?
「どうやら既に巨大砲の発射準備は完了してしまったようです……」
考えを張り巡らしている途中にヤンが口を開いた。
「だったらそれを止めないと――」
台詞の途中で自ら気づく。
「発射準備さえしておけばあとは放置しておけばいい。万が一それを阻止する者がやってきても、制御機械を壊しておけば
止めようがない。そういう事です」
セシルの様子を見てヤンが結論を述べた。
「あのルゲイエという男がここまで計算に入れていたのかは分かりません。しかしこれで我々が巨大砲を止める手段は
無くなった……」
冷静に語るヤンであるが拳は震えていた。打つ手なしといった状況が悔しいのだろう。

68書き手 ◆W4g5HNoLOg:2010/01/16(土) 08:19:05
FINAL FANTASY IV #0606 7章 3節 「去りゆくもの 残されるもの」(13)

「なんとかして制御系を直せないかな?」
刻一刻と迫る時間の中、セシルは何か打開策はないかと考える。
「これを作ったものならば可能ではないでしょうか? あのルゲイエという奴ならば不可能ではないかもしれませんが……」
それが不可能だということセシルにもわかったし、説明するまでもないことだ。
「最も残された時間の少ないこの状況では、開発者でもどうにもならないかもしれませんが」
「だったら巨大砲の発射は阻止できなくても、なんとかして軌道をずらしさえすれば……被害は軽くなる」
「それも考えました。それらしきものを探してみましたが何処にあるのかすら……」
即席で思いつくことはヤンも同じであったらしい。既にヤンは色々と思考錯誤したのだろう。その結果、打つ手なしと判断したのだ。
「ならどうにかドワーフの人達に連絡をとってみんなを避難させる事は――」
自分で言っておいて無理難題だとセシルは思った。
「可能だとしても作戦失敗の事実と本拠地を失う事はこれからの士気に大きく影響がでるでしょう。巨大砲を破壊する根本的な目的
は達せられない。またいつ修理して巨大砲を撃ってくるかわかりますまい」
それでもヤンは懇切丁寧に批判と否定をしてくれた。そこには馬鹿げた考えだと笑う気持ち以上に自虐的な気持ちが感じられた。
「くそっ! どうすればいいんだ!」
もはや何も頭に浮かばなかった。セシルは半ば怒り気味に床を叩いた。
「こうなったら、せめて二度と巨大砲が打てないように徹底的に破壊する!! それだけじゃない、このバブイル自体を徹底的に
破壊しつくしてやる!」
セシルとしては失意と怒りから出た自暴自棄気味の発言だと思っていた。
だがそれを聞いたヤンは――
「それだ!」
「え?」
予想外の反応に驚くセシル。
「徹底的に破壊する。それはいい考えかもしれませんぞ!」
「ヤン……」
最初は自分の後先考えない言葉に、ヤンが感化されたものかと思った。
しかし、続く言葉は真面目なものであった。
「やつらは巨大砲の発射の止めさせない為に制御機械を破壊した。しかし、本当に破壊したのならそもそも巨大砲を発射する
事すら困難になるという事です。つまり奴らは、巨大砲を一発発射できる程度には制御機能を残しているという事です」
聞きながら自分で言葉を整理する。つまりは――
「制御機械を更に壊せば、そもそも発射すら困難になる!」
盲点だった。既に壊れた制御機械を見て、止める事は不可能だと錯覚してしまっていた。
適度に壊しておく事はカモフラージュも兼ねていたのかもしれない。

69書き手 ◆W4g5HNoLOg:2010/01/16(土) 08:19:36
FINAL FANTASY IV #0607 7章 3節 「去りゆくもの 残されるもの」(14)

「だったら今すぐにでも!!」
「セシル殿……」
意気込むセシルに対してヤンは冷静であった。
「お待ちください!」
今すぐにも制御機械へと剣を振りおろそうとするセシルの前にヤンの巨大な体躯が立ちふさがる。
「ヤン……急がないといけない。君も協力するんだろ?」
「勿論そのつもりです」
「だったら!」
もしかして怖気づいたのか? だが、すぐにもそれが的外れであることを自覚する。
「ここは危険です!」
「だからとっとと終わらせて、二人で脱出しないと」
もう少しでカイン達もやってくるだろう。もしかするとすぐそこまで来ているのかもしれない。
いずれにせよカイン達を危険に巻き込みたくはなかった。あんなことがあって気を落としているローザもいるし
覚悟を決めたばかりのリディアにも無理強いはさせたくない。
ヤンと協力して巨大砲を破壊してカイン達と合流する。それがセシルの頭が描いた展開であった。
当然ながらヤンも同じ考えだと思っていたのだ。実際に提案にも賛同してくれたのだし――
「ですから……必ずしも安全だと言いきれないのです」
目の前に聳え立つヤンの剣幕は恐ろしいものであった。
そこでようやく気付いた。ヤンの真意を
「ヤン――まさか」
すぐには信じられなかった。否信じたくなかったのだ。
「もし何かあったら妻に伝えてくれ――」
しかし続く言葉はやはりセシルの予想の範疇であった。
「楽しい旅であった――」
言葉の終わりと共にモンク僧の鋼の肉体が高速に身を翻し後ろへと跳躍、そのまま片方の足で地面を蹴りあげて
もう片方の足でセシルへと蹴りかかる。
修練したモンク僧の一撃。警戒していてもその攻撃を交わす事は容易でなかったであろう。
ましてや目の前の事実を受け入れず驚愕しているセシルにとっては直撃であった。
「ごめん――」
ほんのかすかな声でヤンがそう言った気がした。もしかすると空耳だったのかもしれない。
ファブールが誇るモンク僧ヤン――彼の渾身の蹴りを直に受けたセシルが空を舞い遥か彼方へと吹き飛んで行く。
痛みはなかった。当然だ。ヤンはセシルを傷つけるつもりは毛頭ない。手加減したのだ。
何故こんな事を? 自問して愚問だと気づく。
こうでもしなければ自分はヤンの前から立ち去らなかっただろう。
視界から遠ざかる制御室の鉄扉を見ていた。黒煙に覆われここからではヤンの姿を確認できなかった。

70書き手 ◆W4g5HNoLOg:2010/03/17(水) 03:40:59
FINAL FANTASY IV #0608 7章 3節 「去りゆくもの 残されるもの」(15)
「セシル」
宙を舞うセシルの眼下に聞きなれた声がした。
カインだ。どうやら追いついたようだ。
「セシル……」
ローザの声だ。顔は蒼白としている。先ほどのルゲイエの時と違い、単純に今この場で起こっている事が
信じられない、何が起こっているのか分からないといった様子だ。
「大丈夫?」
リディアが泣きそうな顔で心配してくる。
声にはでないが。大丈夫であろう。
ヤンも自分を倒すつもりで蹴り飛ばしたのではない。できるだけ遠くへと避難させようとしたのだ。
このまま行けば適当な壁にぶつかって不時着するだろう。
当然ながら痛みはあるだろうが大した事はないだろう。少し打ち身ができるくらいだ。
すぐにでも体をひきずってこの場所を離れなければ。
そう思っていた矢先、自分の体が停止した。だが不思議と痛みはない。
「…………」
不思議に思って辺りを見回す。
「カイン……君が」
見ると壁へとぶつかって不時着する寸前にカインが自分の体を受け止めてくれたようであった。
「すまない」
目の前の友の優しさが今は急に嬉しくなった。
「気にするな。それよりどういう事だ?」
そう言って制御室を顎先で指す。
「ようやく到着したと思えば、この有様だ。いきなり制御室からお前が飛び出してきた時は驚いたぞ」
「すまない……」
「少しは自分を気遣え、お前だけの体ではないんだぞ」
「ああ……」
ローザを心配させてしまった。それに折角ヤンが一人で犠牲になろうとしたのだ。
「ねえヤンは?」
リディアが違和感を感じたのだろう口に出す。
「制御室にはヤンもいるのよね?」
そこまで言ってその言葉がおかしいことに気づいたのだろう。
「まさか……」
制御室は黒煙だけに止まらず、既に火が燃え広がっているようであった。
「もうすぐ爆発する……ここも安全ではないだろう」
「そんな……」
説明は十分のようであった。
「作戦は無事成功した……一時報告の為、陽動部隊との合流地点に向かう……」

71書き手 ◆W4g5HNoLOg:2010/03/17(水) 03:42:04
FINAL FANTASY IV #0609 7章 3節 「去りゆくもの 残されるもの」(16)


今回の作戦としては目的は二つあったのだが、巨大砲の破壊は目下に迫る大問題であった為、作戦における最重要要素であった。
クリスタル奪還は無理だとしても巨大砲だけは断固として破壊しなければならなかったのだ。
作戦の成功の暁には陽動部隊に報告、脱出の手引きをしてもらう為に合流地点を定めていた。
本来ならばクリスタルを奪還してから合流する予定であったが、ヤンを失ったセシルには続けて作戦を続行する
気力はなかった。
目下の脅威であった巨大砲は破壊したのだ。しばらくはゴルベーザ側も攻撃をしかけてくる事はないだろう。
一旦退却するという自分の判断は間違えていなかったとセシルは思った。
合流ポイント向かう道中、誰も口を開く事は無かった。皆複雑な気持ちなのだろう。
思えばヤンはここにいるメンバーとは最も長く行動を共にしたものであった……
ファブールの道中でセシル達と志を共にして、その後敵に利用され刃を交えたが、今思えばそれがより一層絆を強固にしたようにも
思えた。
ポロム、パロム、テラがその身を犠牲にした。ギルバートとシドは色々な事情があって別れなければならなかった。
しかしその中でもヤンは激しい戦いの中をずっとセシルと共にした。苦しい時にも大切な時にもいつもヤンはセシルの前に立っていてくれた
気さえした。いつの間にかヤンを拠り所とする部分もセシルの中では大きくなっていた。
そのヤンが……あの状況では生きていることを望む事は絶望的であろう。
双子の魔道士や賢者の時は悲しみや悔しみが大きく心を支配していた。しかし、今はそれら以上に恐怖と不安が大きかった。
年長者として的確な助言をくれた数少ない存在――共に前線を駆け抜けてくれた頼れる存在。
軍人時代も旅をしていた時も皆を率いる事が多かったセシルには貴重な存在であったヤン。
彼がいなくなればこれから自分はどうすればいい? もし、立ち止まってしまったら、迷ってしまったら? その時は誰が自分を助けてくれる?
危機に陥ったら? 今はカインがいる? しかし人生の年長者としてヤンはカインにはないものを持つ存在であった。
これからは粋がる若者二人でローザやリディアを守らなくてはならない。
頼れるヤンがいない。
その事実はセシルに巨大な威圧感と先の見えない恐怖と焦りを募らせていた。
しかし迷っている時間は無い。今はとにかく前に進むしかないのだ。

72名無しさん:2010/03/17(水) 03:43:08
FINAL FANTASY IV #0610 7章 3節 「去りゆくもの 残されるもの」(17)

「きましたか」
集合場所とされた地点――バブイルの塔に設置された飛空挺発着場には既に迎えと思わしきドワーフの兵士達
が何人も待っていた。
「こちらにも聞こえてきました。巨大砲の破壊、お見事でした。して――」
セシル達の存在に気づくと若きドワーフの民が威勢よく話しかけてきた。
どうやら爆発の轟音で巨大砲の破壊を確信したようだ。ドワーフの民にとっての嬉しい報告に士気は万全といった感じだ。
最も彼らはセシル達を迎え城の方へと帰還させる輸送部隊であり、実際に戦う訳ではないのだが。
「クリスタルの方は?」
若い兵士は更なる吉報の預言し、催促してきた。
セシル達に期待しているのだろう。
「それが……まだ……」
目をぎらぎらと輝かせる兵士の期待を無下にするのは申し訳ない気分であったが、事実は事実だ。
それにあんな事があったのだ……包み隠さず全て話しておきたかった。
「そうですか……」
セシル達の反応が良くないものと知り若者はがっくりと肩を落とした。予想通りの反応ではあるが
やはり居たたまれない気持ちになる。
「そうがっかりするな! 」
暗く沈黙する会話へと割り込む怒声が一つ。
「シド隊長!」
「シド」
セシルとその若者がその名を呼んだのはほぼ同時であった。
「隊長……?」
「あ、はいっ。シド技師長は今ドワーフの飛行部隊の隊長の立場も兼任しています……」
「そうなのか」
いつの間にかシドも頑張っていたようだ。否、彼がいたからこうして地底の大地を自由に動き回れるし、ゴルベーザの
飛行部隊にも対抗できたのだ。いくら感謝しても足りないくらいであろう。
「巨大砲を破壊出来ただけでも充分な成果だ! よく頑張った!!」
そう言ってセシルの肩をぽんぽんと叩いて祝福してくれた。
「うん……ありがとう」
素直に喜んでいいものだろうか。
結果的にヤンを犠牲にしてしまった。それを皆に話せば辛い思いをさせてしまう。
そんな気持ちがあった。
同時にもう一つ、シドはセシルに対しいつも労いの言葉をかけてくれた。
セシルが子供の頃、飛空挺について教えてくれた時、お世辞にもあまりよく理解できずにシドの出した質問にも上手く答えられない
時があった。
その時もシドはセシルに対して、頑張った時と同じ様に労いの言葉をかけてくれた。
要はあまりいい成果や結果がだせなかった場合でもシドはセシルに対してよく頑張ったと労いの言葉をかけてくれるのだ。
当然、その言葉を貰った中には自分で納得する結果を出せた時もあったのだが。
だから今の台詞もいつも通り結果は問わずに、とりあえず頑張った事を褒めてくれただけなのではないかと思ってしまったのだ。
無論それが煩わしいと感じたことは一度もない。セシルを育ててくれた王は国や民を思う心はあったが厳格な人物であった。
それは育て子のセシルに対しても例外ではなく、中途半端な頑張りで褒めてくれたことは無かった。
セシル自身も王の性格は充分に承知していたし、その事に対して特別な憤りや憎しみを感じたことはない。
むしろより一層自分を磨いてやろうと思った程であった。
しかし、今思えばそのような厳しい王の姿勢を素直に受け止めれたのはシドのようないつも満面の笑顔で褒めたたえてくれる者がいたからであろう。
シドがいなければ心では分かっていても体は王を拒絶したかもしれない。

73書き手 ◆W4g5HNoLOg:2010/03/17(水) 03:44:18
FINAL FANTASY IV #0611 7章 3節 「去りゆくもの 残されるもの」(18)

「ところで――」
シドが口を開く。何が聞きたいのかは考えなくても分かる。
「ヤンはどうした?」
ある程度セシル達と行動を共にした者なら誰もが疑問に思うであろう。
「そういえば奪還部隊として派遣されたのは五人だったはず……」
シドの一言で若者も、セシル達の違和感に気づいたようだ。
「まさか――!」
無配慮とも言える様子で事実を口にしようとする若者。最も詳しい事情を知らない彼を責める事は出来ないだろう。
爆煙に消え行くヤンを見た誰もが続く言葉を待った――つもりだった
「え…ぐっ…ぐすっ……うわぁあああーーーん!!!」
突如としてリディアが今まで殺していた感情を爆発させた。
若者の言葉は肉体的に成長したとはいえ、感情まで大人になりきれていないリディアには残酷すぎたのだろう。
「え……えええ……とっ」
予想外の反応に戸惑いどうしていいのか分からず言葉にならない声を捻り出す若者。
「やめろ!」
シドが助け舟を出す。とは言っても叱責という名のものではあるが。
「すいません……」
「謝るのは儂じゃなくてあの子だろ」
小さくなる若者を尻目にリディアの方へ向き直り頭を撫でる。
「すまんかったな穣ちゃん。儂がいらぬ事を尋ねたばかりに辛い思いをさせてしまって……」
「グスッ……」
リディアが泣きやんだのを確認して今度はセシルへと向く。
「セシルも」
「あ、ああ……」
シドの謝罪を聞いてもセシルは若干上の空であった。
何か言葉を返さねばと思った所で再びリディアが口を開いた。
「いいの……おじいちゃん。そんなに謝らなくても。誰も…誰も悪くはないんだから……こんな事になったのも
誰も悪くない、責めれない……」
「もう喋るな、今は何もしゃべらんで良い……」
有り触れた気休めでは効果はないと判断したのであろう。それだけ言って、シドはリディアの小さな体を優しく抱きしめた。
「ありがとおじいちゃん。でも……」
リディアが小さな声で礼を述べる。
「あまり強く抱きしめられちゃうと痛いよ……」
冗談交じりの言葉と共に、大人の姿をした少女の顔に笑顔が戻ってきた。
「おおっ!! すまんかったわ!! すまんのうお穣ちゃん、だから――」
シドも嬉しそうな声でリディアから離れる。
「せめて、おじちゃんと呼べ。お爺ちゃんはよしてくれ!」
強く、あくまで優しさを忘れない声でリディアに指示するシド。
「うんわかった。おじちゃん……」
「ははは……」
「えへへへ……」
小柄の少女に大柄な老技師のやり取りと、二つの対照的な笑いが辺りから重い雰囲気を取り去っていった。

74書き手 ◆W4g5HNoLOg:2010/03/17(水) 03:44:54
FINAL FANTASY IV #0612 7章 3節 「去りゆくもの 残されるもの」(19)

未だ敵陣のただ中であったが、誰もがほっと息を撫でおろしたその時であろうか。
急に騒がしい警報が辺りに響きわたったのは――
「何だ!?」
その場にいた誰かが疑問の声を上げた。一人、否、複数であったのかもしれない。
しかし今この場所にいる誰もが同じような疑問におそわれていたであろう。
「見つかってしまったか!!」
始めの驚きが通り過ぎた後に口を開いたのはシドであった。
そして、それは真実をついた言葉であると同時に混乱を呼び起こす言葉でもあった。
「まずいぞ」
実際にそうだと断定するにはまだ尚早であったであろう、しかし程無くして発着場と塔内部を繋ぐ場所から
幾多ものガードロボットが姿を現した。
「何故?」
このバブイルの塔に潜入した時はガードロボットの数も疎らで数えるほどしかいなかった。実際、大した妨害もなく巨大砲の
場所にまでは辿りつけた。結果はどうであってもだ。
考えるまでもなかった――いくら陽動部隊で引きつけたといっても敵がただ何も考えずに行動しているはずもない。
巨大砲を破壊した騒ぎを聞きつけて、潜入者がいることに気づいたのであろう。つまり陽動部隊に割かれていた戦力が警備に戻って
きたのだ。
「だとしたらまずいことになったな……」
陽動部隊はあくまで陽動が役割なのだ。このまま戦車隊が勢いにまかせてバブイルを攻め落とすことは不可能だ。
となれば残された選択は撤退しかない。そうなれば、更に警備は強くなってしまうだろう。
だとしたらクリスタル奪還どころか、この場所を脱出する事すら困難になってしまう。
「さっさと逃げるぞ! セシル」
作戦指揮をとる者であるからだろうか、一早くセシルと同じ結論に達したシドがそう言った。
「ああ」
その考えにセシルも同意であった。このまま躊躇していては全滅であるし、無理を通して強行突破でクリスタルを取り返そうと
してもどちらも勝率としては非常に低いものであろう。一時退却。この響きに不名誉を感じる司令官もいるであろうが、状況が
状況だ。逃げることも立派な戦術の一つだ。
(でも……)
バロンの旅立ち以来、ゴルベーザとの戦いにおいて後手に回り続けている自分が少しだけ悔しかった。自ら打って出たのは
偽物の王を倒した時くらいであろうか。
もっと状況を正確に判断してれば違った結果になっただろうか? しかし過ぎた事をいくら考えても所詮たらればの域を出るもの
ではない。今は一刻も早くこの危機を脱しなければならない。

75書き手 ◆W4g5HNoLOg:2010/03/17(水) 03:45:40
FINAL FANTASY IV #0613 7章 3節 「去りゆくもの 残されるもの」(20)

「ええいっ! 皆、落ち着かんかい!!」
脱出するという結論に達したものの、いきなりの襲撃という状況に、この大人数が遭遇したのだ。誰もが冷静になる事など
到底無理な話であった。
ましてや今、この集合場所に待機しているのは飛空艇を動かす為に搭乗員や運送部隊、シドの連れてきた技師達もいるのだ。
普段戦場などの前線に赴かない者達が突然と敵の攻撃の真っただ中に放り込まれたのだ。さぞかし恐ろしい事であろう。
先程までの穏やかな雰囲気とは一転し混乱と悲鳴が交わる場所と化していた。
「お前も落ち着くのじゃ!!!」
シドが近くで震える若者を捕まえて、怒鳴り声を鳴らす。
「ですが……」
その若者は先ほどリディアを泣かせて謝っていた若者であった。良く見ると二つ角のついたドワーフの兜をしているが
目深に見えるその顔はセシルと同じ地上人のものであった。
「それでも儂の弟子を名乗る者か!!」
「すいません……」
どうやらシドが連れてきた技師のようであった。
「船の操縦はお前に任せる出来るか?」
「え?」
叱られて小さくなっていた若者が今度はきょとんとした表情になる。
無理もないだろういきなり飛空挺を任されたのだから。
「どういう意味ですか?」
それはセシルも気になった。何故シド自身が動かさないのか。
「皆っ! 落ち着け!! 落ち着くのだ!!」
考える間もな、いきなり大きな声でガードロボットの方向へと走りだした。
シドの予想外の行動に段々と混乱が静まり返っていく。
「早く飛空挺へと逃げるのだ。ここは……」
その先は聞かなくてもわかった。
「ほれ急がんかい!!」
混乱する周囲を飛空挺へと誘導する当のシド本人もその先の言葉を出すことを拒んでいた。
口に出すのが怖いからだろうか? 最も彼の性分上、人並みの恐怖を感じる事などないように思える。
ならばこう言った方が正しいだろう。
言葉にしてしまえば決死の覚悟が揺らいでしまう――
シドの性格は熟知していた。長い付き合いだから当然だ。一度火がつけば止まらない、誰にも止めることは出来ない。
直接目にしてはいないが自分を追ってバロンを出たローザを助けた時もこうであったのだろう。
「シド……なんでなの? 何故あなたまでが? また私達を助けるために……」
「急ぐか……」
ローザもカインもセシルと同じだ。彼を知っているから止めることが出来ない。だからそれぞれが想いを口にするが、決して
シドに向けはしない。
「やめて――!! おじちゃん」
唯一リディアが出来上がりつつある流れを逆流しようとする。しかしそんな少女の響きもシドの意思を揺るがす事は出来なかった。
「よしっ! おじちゃんだ。それでいいぞ! お穣……リディア――」
こんな状況であってもシドは満面の笑顔を絶やす事はなく彼女の名前を呼んだ。
「あの老いぼれにはがつんと一喝してやりたいし、ヤンも一人では寂しいからな、これで心残りといえば……お前達の未来の姿――
可愛らしい――を拝むことが――ぐらいだ――」
「皆さんっ発進します!!」
シドの言葉の最後の方は良く聞こえなかった。入れ替わりに、ドワーフの兜を被ったシドの弟子の初々しい指令の言葉が聞こえた。
天かける船が空へと発つ。シドの残されたバブイルの発着場は段々と遠ざかりついには視界で確認することも出来なくなった。

76名無しさん:2010/04/20(火) 21:46:12
人生オワタのネット対戦ゲーム

人生オワタ\(^o^)/大乱闘
ttp://clover.45.kg/owata/

77名無しさん:2011/03/08(火) 07:43:22
FINAL FANTASY IV #0614 8章 1節 「エブラーナ」(1)

先の見えない洞窟を進むセシル達。
片手にかざした松明が無ければとうの昔に道を見失っていただろう。
まるで今の自分の心情を現しているようではないか? 先頭を歩くセシルは自虐めいて思う。
ヤンとシド。二つの別れが訪れてからどれくらいの時間が経ったのだろうか?
振り返れば一瞬であったような気がするし、遥か遠い昔の出来事だったような気もする。
しかし、現実へと目を向ければあれからさほど時間は経っていない。もしあの出来事を過去のものとして
振り返るほどの時間が経っているのなら。セシル達は生きてはいないだろう。
止まることのないゴルベーザの侵攻。既にゴルベーザの脅威を知らぬものはこの世界には存在しない。
しかし今こうして生きているという事は、それが完遂されてはいない何よりの証拠なのだ。
後ろに続くは、ローザとカインにリディア。ヤンを除けばバブイルと変わりない面子だ。
ギルバート達の行方は分からない。まだ何処かでゴルベーザ達と闘っているのは間違いない。
ヤンの奥さんとシドの娘さんには合わなければならないと思った。どう顔向けしていいのかは分からなかったが
とにかく会わねばならないと思った。しかし、未だに会いに行けていない。
二人ともあの戦いで多大な戦果をあげたのだ。セシルの口が無くとも、二人がどうなったのかは彼女達には伝わっている
だろう。そう考えると余計に会わなければならないという思いが強くなった。
色々な事が頭を巡り合っては消えていき、そしてまた同じこ事が再び戻ってきては消えていった。
考えはまとまる訳がない。前進しているのは自分の足並みだけであった。

78名無しさん:2011/03/08(火) 07:43:59
FINAL FANTASY IV #0615 8章 1節 「エブラーナ」(2)


シドの決死の決意もあって無事逃げ延びたセシル達一向はそのままドワーフ王の城に帰ることはなかった。
脱出の際、飛空挺が無傷で帰還するのは不可能であった。シドが内部の敵を引きつけていたとはいえ
陽動部隊と戦っていた塔の外の戦力もまだ残っていた。逃げるセシル達を見て、みすみす見逃してくれる
はずもない。シドの欠けた飛空挺では攻撃をさばき切ることだけで精一杯であった。
撃墜されなかっただけでも幸運であったと思うべきであろう。
何にせよ、傷ついた飛空挺でそのままドワーフ城に帰るのは危険であった。何処かで一旦着陸して安全な場所で
修理をした方がいい。
幸いにも、バブイルから少し離れた場所にはメテオによる<傷痕>があった。丁度、敵の追撃も弱まったところだ。
ここから一旦地上に行って態勢を立て直せるだろう。不慣れな地底よりも地上の方が飛空挺を自由に動かせる。
そう判断したのはあの若い技師であった。

若い技師の顔をセシルは知っていた。勿論、向こうも此方の事を知っていた。
彼の名前はヨップ。シドの弟子の技師の中でも腕が良いと評判の技師であった。
バロンで拾われ育ち、シドとは長い付き合いであったセシルは任務の時以外にも飛空挺に乗せてもらう時が
何度かあった。
実際には新しい飛空挺を飛ばす為の<実験>とやらであり、要はシドに付き合わされていたのだが。
その時、弟子としてセシルと同じく船に乗船していたのがヨップであった。
技師としてシドを尊敬しつつも、破天荒な性格に振り回されているという点で共感したのか、以来何度か顔を
合わせると会話が弾む事もあった。
バブイル脱出の際に気づかなかったのは、彼がドワーフの兜を目深く被っていたからであろう。
最も、ヨップの方はセシルを以前から知っているようであった。バロンにおかれた学校。彼もそこにいた時が
あったようだ。その時にセシルの噂は聞いていたそうだ。勿論、セシル自体は彼の存在を知っていた訳ではない。
いや……もし話しかけられたとしても、当時の自分は黙ってあしらっていたであろう。既に記憶の中に曖昧に
なりつつあるが、学校時代のセシルはローザとカイン、それも彼らだけといた時にしか口を開いた事が無かった。
そんな状況でさえ、身寄りも家柄も無い自分を場違いだと常に思い自重し続けていたのだから……

79名無しさん:2011/03/08(火) 07:45:59
FINAL FANTASY IV #0616 8章 1節 「エブラーナ」(3)

エブラーナに来ていた。
飛空挺も無事に修理できたのでこのまま地底に帰りドワーフの城に戻っても良かった。
だが、巨大砲は無事に破壊したもののクリスタルを取り返してはいない。加えてヤンやシドは犠牲になった。
結果的には目前に迫った危機は回避したものの、総合的に見れば状況は不利になってるとまではいかないものの
好転しているとは言い難い状況であった。
このまま安全策として拠点に帰り、防御を固めつつ作戦を練る。そういう決断を下すのも決して間違いでは
無かっただろう。
しかし、今のセシルには戻ってヤンやシド達の事を含め今の状況を報告する事は嫌であった。
多少危険であっても再びバブイルへと舞い戻りクリスタルを奪還する目的を果たしたかったのだ。
とはいってもその為の手段を講じる必要はあった。飛空挺を修理し、地底に戻ることは出来たとしても警戒を
強めたバブイルに再び正面からはいる事など不可能であったからだ。仮にそれが出来たとしても犠牲がつきもの
になるであろう。それでは意味がなかった。
答えは思った以上に早く出た。それも思わぬところからだ。
飛空挺を修理している待ち時間、セシル達はバブイル潜入の新たな手段を考えていた、その場にいたシドの技師達や
ドワーフの民にも意見を聞いてみた。しかし誰もが首を傾げる様子であった。
そう簡単にはいかないか――そういう思いがよぎったその時、脱出の際に乗りあわせていた一人の者がセシルに進言してきた
のだ。
その者は以前、ドワーフの城の各国の集会に居合わせた老人であった。以前聞いた通り彼はエブラーナ王国での重役――
向こうの言葉では家老という立場らしいのだが。
家老の言葉によると、エブラーナ国には地下一杯に張り巡らされた通路が備わっているらしい。それがいつできたのかは
彼も知らない、要は家老である者が知らないくらい古くから存在する場所だ。
エブラーナの民は先祖代々伝わるものだと思い、日々日頃からその場所を整備していた――結果、ゴルベーザ達の
襲撃の際にも戦いに身を投じた男達を除いて、殆どの者が地下へと逃げ延びる事ができたのだが。

そして家老が語るにはその地下通路は、<地下一杯>の名に恥じぬ程の広さであり、エブラーナの民であっても
未だに把握できていないそうなのだ。一節によるとエブラーナ国にそびえ立つ謎の巨塔バブイルへと
続いているのではないかと噂されている。
「あくまで噂ですが……それに塔へと続くと言われている道は我々ですら未知の領域。整備も行き届いておらぬ上、魔物
達がはびこっている。危険な道のりになるのは間違いないでしょう……」
老人の不吉めいた言葉はセシル達を引きとめようとしているのだろうか? それとも何か試そうとしているのだろうか?
いずれにせよ、残された道があるのならセシルは賭けてみたいと思っていた。勿論、後先考えずに突入し可能性の低い戦いを
挑むつもりもないのだが。
迷う事は無かった。それはカイン達も同じであった。
「安全なところまででいい。案内してください」
老人の会話に同行していた仲間達の了承を得てから、すぐさまセシルは切り出した。
「なんとっ……! いくというのですか……」
断ると思っていたのだろうか、あるいは少しの躊躇も無かった事に驚いたのか、老人は声を荒げた。
「いいでしょう案内しましょう……後一つお願いがあります……」
しかしそこまで言って老人は声の勢いを弱め――。
「いえ……やはりいいです。セシル殿達の手を煩わせてしまうかもしませんから……それにもう手遅れかも
しれませんし」
消沈し言葉を下げた。それは追及を許さぬ沈黙であった。

80名無しさん:2011/03/08(火) 07:47:28
FINAL FANTASY IV #0617 8章 1節 「エブラーナ」(4)

老人に案内された道をしばらく行くと、老人の言葉通り、息もつかせぬ魔物の襲撃と
一寸先すら見渡せぬほどの闇が待ち受けていた。
「本当に辿りつけるのかな?」
あらゆる考えが巡る中、無心で剣を振るうセシルと同じく仲間達はしばらくの間沈黙を貫いていた。
「ねえ……大丈夫かな?」
無言で歩を進める一同の中、少女の心を残したリディアだけは不安を直接口に出す。
誰も答えを返しはしなかった。返せなかった。
おそらく彼女も回答が返ってくる事に期待をしている訳ではないのだろう。
「リディア……」
陰鬱とした雰囲気を打破しようとしてか、ローザが答えにならない言葉をかけて慰めようとする。
しかし、その小さな声を打ち消すかのような斬撃音が暗き闇の道に響き渡った。
「これはっ!」
咄嗟にカインが、次いでセシルがその音に反応する。
「行くぞっ!」
言い終わらぬ内に駈け出していた。
その後をローザがリディアの手を取り続く。後方からセシルとカインを追う二人にはすぐさまには
状況は呑み込めなかった。しかし、何か良くない事が起きているという事ぐらいは安易に予想ができていた。

81名無しさん:2011/03/08(火) 07:48:37
FINAL FANTASY IV #0618 8章 1節「エブラーナ」(5)

音がした場所はバブイルの抜け道のある方向、要するに今までの順路を道なりに進んだところであった。
前に頼もしい二人がいることに加え、今まで進んだ道を引き返すわけでもないのでリディアの手を引きつつも
迷うことも魔物に襲われることもなく女性二人で辿りつくことが出来た。
その場所は今までと同じく、薄暗い闇に閉ざされた場所である事は間違いなかった。しかし、これまで通ってきた
場所とは違って開けた広間のようになっていた。
その場所に銀の太刀筋と共に斬撃音が鳴り響く。先ほどセシル達が聞いた音の原因はこれであることは間違いないであろう。
「誰か戦ってるの?」
リディアが不安げに尋ねてくる。良い雰囲気ではないのは察したのだろう。
「ああ……」
カインが頭を縦に振る。
「だが、時間の問題だろう」
それはセシルも同感であった。
先の広場は闇で閉ざされてはいるが定期的に舞いあがる炎が明かりとなり定期的に様子を
伺う事が出来た。
うっすらとした闇の中でも目立つ白装束の男が両手にそれぞれ太刀を構え、対峙する相手へと
その矛先をむけていた。
「エブラーナの忍者というやつか」
二刀流という特殊な剣術を使いこなす他にも擬似的な魔法ともいえる忍術を操る者――
異国と呼ばれる地エブラーナの戦術はバロンにも届いていた。
今、この場を照らす炎はあの者の忍術なのであろう。
「あの男……乱れた剣筋だな……」
それはセシルも感じていた事であった。先ほどからあの忍の戦士の攻撃はひたすらに
一辺倒なのである。
「怒りに身をまかせている。あのままでは」
それはかつてのカインや自分のようであった。己の中の感情だけに捉われて回りを見据えていない。
その戦い方は相手に手の内をばらしているのと同じなのだ。
「あのままでは負けてしまうな……」
「助けましょう!」
セシルの言葉を引き継いだカインの冷静な台詞にローザが反応する。
さしづめ国を滅ぼされた恨みを込めた打倒といったところであろうか。だとすればその者が
相手をするならばゴルベーザの手の者だということになる。
どの道、目的を同じくする者だ。協力し合うのも悪くはないし、目の前で誰かがやられるのを
黙って見てるのもいい気分ではない。
「しかしどうやって助けに入る?」
一対一の戦いとはいえ、混戦を極めている。それにあのエブラーナの男の元に急に割って入れば、
誰彼構わず攻撃を仕掛けてくるかもしれない。
「その程度か――」
助けに行くといいつつ、中々その機会を見いだせずにいる。新しく響く声が一つ。
新たな人物がこの場所に現れたわけではない。先程からエブラーナの忍の攻撃を無言であしらい
続けていた対戦相手が声を上げたのだ。
「エブラーナ王直伝の技を受け継ぐ者だと聞いて期待したが……まるで話にならんな」
「ん――だと!」
相手の露骨な挑発の言葉にエブラーナの忍者も太刀をとめて怒りを口にする。
「やはりな……この程度で気を散らすなど未熟者の証拠――」
「何をぉ――!!」
感情の揺れの激しいエブラーナ忍者に比べ、相手はどこまでも冷静だ。
男が二つの太刀で相手へと斬りかかる。よけられたと思えば今度は相手の回避場所へと炎の弾速を飛ばす。
炎が対戦相手へとぶつかり爆発を上げる。
「やった!」
男が感嘆の声をあげる。しかし、それで終わりではないことは当事者以外の誰の目から見てもあきらか
であった。
「ふ、なんだこの哀れな忍術は……」
爆煙の中から相手が姿を現す。その手には炎が宿っていた。
「てめぇ……受け止めやがったのか!!」
相手の宿す炎が明りとなってその姿がセシル達にも見えてくる。
斑模様の紅色のマントを羽織った背の高い男――先程の一撃をそのマントで受け止めたようであった。
「我のマントは炎を受け止める――」
「あいつはルビカンテか!」
見知った姿なのかカインが声を上げる。
「四天王最後の男ルビカンテ――その実力は四天王最強でもある――」
「これで最後にしようかエドワード・ジェラルダイン!!!」

82名無しさん:2011/03/08(火) 07:49:20
FINAL FANTASY IV #0619 8章 1節 「エブラーナ」(6)

勝負の結果は明白だった。
「まったく見ちゃおれんな……」
カインが激戦のプレリュードを打った戦場へと足を進める。
結論からいえば勝負に勝った者――ルビカンテは相手に情けをかけた。
エブラーナ忍者からしてみれば祖国に壊滅的被害を負わせた復讐を遂げる相手だ。
相手を打つために全身全霊の想いであったはずだ。死も覚悟するつもりであっただろう。
それを見逃されたのだ。
取り残されたエブラーナ忍者は未だに対戦場所で地に伏している。
生きてはいるだろうがその場所を動かない。
一命を奪われなかったとはいえ手負いの傷を負っているのか。情けをかけられた悔しみに
伏せているのか。
「確かに自信を持てるほどの強さだ……しかし この私には、まだ及ばぬ。
腕を磨いて来い! いつでも相手になるぞ!」
先ほどのルビカンテの言葉をカインが反照する。
その言葉にはセシルも同意であった。
偶然とはいえ戦いの一部始終を見守ったセシルから見てもエブラーナ忍者の動きには
隙が多すぎた。
それに、憎しみにとらわれているのか。まるで何かに生き急いでいるかのような動きだ。
それはかつての暗黒騎士の……そして今も悩める自分をみているかのようであった。
すぐに加勢してもよかったのだが、様々な感情が渦巻き助けに入ることはできなかった。
勿論、ルビカンテがエブラーナ忍者に止めを刺すようならば、それらの感情を放り捨ててでも
助けに入っただろうが。
そして一つだけ言えることは、あの者とはここで助けて終わりになる関係ではないだろう。
何かがセシルの中で確信めいていた。

83名無しさん:2011/03/08(火) 07:50:06
FINAL FANTASY IV #0620 8章 1節 「エブラーナ」(7)

「おい大丈夫か!!」
カインがやや乱暴な声をかける。
生きているかどうかの確認だろう
「くっそ……あの野郎止めを刺さずに帰りやがった」
そう言って立ち上がろうとしてがっくりと膝をおろす。
「ならば話は早い――」
「へっ! このまま帰って傷を癒せってか。冗談じゃないね!!」
続くはずのカインの言葉を言葉になる前にかき消す。
「まだ終わりじぇねえぞ……ここから第二試合の開始だぜ……」
「だったら――」
薄暗い洞窟の中、男たちの会話に場違いな声が割り込む。
「リディア」
蚊帳の外にしていたがどうやら追いついてきたようだ。
「私達もあいつら――ルビカンテ達と戦ってるの……協力したほうが……」
「御免だね!」
少女と女性の中間点を彷徨う彼女の台詞をエブラーナ忍者の怒声がかき消す。
「手を出すな! 奴は……俺が……この手でブッ倒す!」
「その傷でか」
感情的な忍者をあくまで冷静な竜騎士の言葉が響く。
「相手は四天王最強ルビカンテだ。それにそのまま行っても同じ結果になるのが目に見えている……」
「なんだと!」
「あくまで冷静に分析して言っているんだぜ。王子様」
「なっ!」
「そうだろうエドワード・ジェラルダイン王子」
どの名前にはセシルも聞き覚えがあった。
「何故それを知っている!?」
「奴が――ルビカンテが最後に言っていただろう。それに俺もバロンに仕え、それなりの地位についていた者。
他国の事情くらいは知っている。
おそらくはローザも。ここにいる者ではリディア以外は知っていたであろう。
「王と王妃が討ち死にされた事。息子の王子がかたき討ちに燃えている。王子は行方不明と聞いていたが
こんなところにいたとはな」
そこまではセシルも知らない。カインはゴルベーザの元にいる時に知ったのだろう。
「聞くところ王子様は王位も継がずに延々と何処ぞやを放浪していたそうだな……にその様な未熟な腕前で
奴と再戦するのは無謀と思えますが」
「手前ぇ……その事とこの事は別だろうがっ!!」
おそらくは王位に関する事とだろう
「カイン! やめないか!」
エドワードの言う事は確かに間違っていない。だからと言って皆を納得させる正論でもない。
――エブラーナでは次期当主になる息子が中々王位に即位しようとしないのはセシルもバロンにいた時聞いたことがあった。
エブラーナを治めていたのは年老いた王の方であった。ついこの間までは……
何故今ここにいる王子――エドワードが王位につかないのかは向こう側のつまりはエブラーナ側の事情だ。
無理に詮索するものではない。
それにここにはリディアがいる。幻獣界で成長したとはいえ精神面ではまだ幼い。そんな彼女の前で大人の事情だる王位継承
問題の話などしたくはなかった。それにこれには複雑な家庭の事情も絡んでいるはず……なおかつリディアの前では話したくない。
「エドワードの言うとおり。今ここでする話ではない! だけど……」
カインがこの王子に突っかかり気分は分からないでもなかった。否、セシルもこの王子を前にして何を言わない事は出来なかった。
「カインの言う事にも一理ある。奴の強さを見ただろう。今のまま言っても結局、結果は一緒だ!!」
今度はエドワードへ言葉を向ける。
「第一、君の動きには無駄が多すぎる」
肉体的な面や精神的な面両方でだ。
「何……! もう一回言ってみろよ!」
この言葉にはカインの言葉以上に彼を怒らしたようだ。
「まだまだ未熟だってことだよ。君には理想ばかりで現実的な問題が何一つ考えられていない。個人の事情に顔を突っ込むつもりはない。
だが、今の戦い方は必ずしも正しいとはいえない」
「ぐっ……」
黙り込んだせいなのか、セシルは更に続ける……
「正直言って、僕は君と一緒に戦いたくはない。これから敵の本陣に乗り込む際に君に身勝手な戦い方では無駄に被害を増やすだけだ――」

84名無しさん:2011/03/08(火) 07:50:47
FINAL FANTASY IV #0621 8章 1節 「エブラーナ」(8)

「やめて!!」
悲壮の声がセシルの声をかき消す。
「これ以上誰かがいなくなるのは嫌だよぉ……テラのお爺ちゃんも、ヤンも、シドのおじちゃんもみんなみんないなくなっちゃった……」
自分を恥じた。セシルの言葉もリディアを傷つけていた。
見るとカインも伏せ目がちになっている。セシルと同じ気持ちなのだろう。
「私はもう誰にもいなくなってほしくないよぉ……」
それ以降はえぐっえぐっと泣くだけで声にならない。
「泣くなよ」
泣きじゃくる彼女に真っ先に声をかけたのは以外にもエドワードであった。
「こんな綺麗な姉ちゃんに泣かれたんじゃあ仕方がねえな。しょうがねえ……ここは一発……手を組もうじゃねーか」
同意を求めるようにセシル達に向き直る。
「あっ…ああ……」
はっきりとしない口調で今度はセシルがカインに同意を求める。王子の急な身の代わり、調子の良さに調子を狂わされたからだ。
「俺も構わん」
あくまで無表情な返答であったがセシルと同じ気持ちのようだ。
正直言って、まだ完全には賛同できないところはあった。やや無鉄砲ともいえる王子の行動は必ずしも戦闘においていい結果を出すとは限らない。
同じ王族のものであったとしてもギルバートとは全く違う系統の性格である彼と自分は必ずしも相性がいいとも思えない。
「良かったな。二人とも賛成のようだぜ」
「うん!」
だが……
「そういえば名前を聞いてなかったな」
「リディア。こっちの二人はセシルとカイン」
「そうか。俺はエドワード・ジェラルダイン。長ったらしいならエッジでいいぜ。お袋や親父、爺達もそう呼んでいるからな」
「じゃあエッジよろしくね」
「おうよ!}
こうして笑顔になって会話をしているリディアはいつ以来であろうか? 地底で再会して以降、彼女には何処か影が存在してたような
気がする。自分もカインも目の前の戦いに集中するばかりに彼女のことをないがしろにしていたのかもしれない
<すべてを許そうと思うの>
再会の言葉――それで全て抑え込むにしては彼女の身体は小さすぎた……そんな当たり前ことすら気づいてなかった。
カイポのオアシス以来であろう彼女の満面の微笑みはセシルの疑問や心配をあっさり打ち消してしまった。
「セシルにカインと言ったか。お前らもエッジでいいぜ……ぐっ!!」
言い終わらぬうちにまたしてもがっくりと膝をつく。
「無理をするな……まだ傷は完治していないんだぞ……」
そう言ってある方向を向き直る。
「おいローザ!」
リディアの後ろ、今まで会話に参加していなかったローザに声をかける。
「おいっ!」
反応が薄かったのかもう一度言うカイン。
「えっ! ああ御免なさい……回復魔法ね」
少し間があってローザが答える。
言い終わらぬうちにエッジの元へ駆け寄る。
「私はローザ。じっとしててね」
しばしの間薄暗い闇の洞窟に沈黙と温かい回復魔法の光だけが時間を支配した。
「おおっ……これが白魔法ってやつか! さっきまでの傷が嘘のようだぜ!」
そう言って完治した事を全身で表現するエッジ
「サンキュー ねえちゃん! さっきは傷のせいでよく見てなかったがあんたも可愛いぜ!」
「おいっ!」
急に馴れなれしくなったエッジにカインが制止の言葉をかける。
当然ながらセシルもいい気分がしない。
だがエッジは聞く耳を持たずローザに駆け寄り、挙句の果てには手を握る。
「これからも俺が傷ついた時はよろしく頼む――」
言い終わらぬうちに再び膝をがくりとおろすエッジ。
「まだ何処か悪いところがあったの――」
回復を務めるもののさがなのか、ローザが心配した声をかける。
「え……いやぁ足がぁ……ぐっ……!!」
またもや呻きを上げるエッジ。
「今度はもう一つの足がぐぇ……」
ローザが距離をつめればつめるほど、第三者<リディア>のエッジに対する<こうげき>が激しさを増す。
「本当に大丈夫!?」
「離れた方がいいぞローザ。逆効果だぜ。なあセシル」
カインにしては珍しく調子のいい声で同意を求めてくる。
「ああ…そうだね」
セシルも笑い交じりの返答を返す。
こんな表情をしたのは久しぶりだ。彼を仲間にしたのは間違いではなかったそう思った。
以降、薄暗い洞窟の道中で常に会話が絶えることはなかった。

85名無しさん:2011/03/08(火) 07:52:02
コンプリートコレクション発売記念に
おひさです

ひょっとしたら完結させれるかも

86名無しさん:2011/03/08(火) 23:35:33
臨時と合わせると#0631 8章 2節からですね

87名無しさん:2011/03/13(日) 03:37:14
FINAL FANTASY IV #0621 #0632 8章 2節 絆(11)

怒りの力とはセシルの予想以上のものであった。
ルビカンテを前にしてエッジは己の中に眠る忍術の素養を覚醒させたのであった。
(怒りが人を強くさせる事もあるのか……)
それはパラディンとして過去の自分を認め受け入れた自分には決して出来ることのない
力の強さであった。
今までの長い旅路の中、セシルは様々な人と出会ってきた。
その前にもバロンで育った中、カインやローザ、亡き王にシドといった様々な人と知りあってきた。
しかし、今目の前にいるエブラーナ忍者の様な人間には初めてあったであろうか。
(こういう強さもありって事なのかな?)
セシルは試練の山の光の声を思い出していた。思えばパラディンになったとはいえ、それからも
自分の中での葛藤は続いていた。
特別な事を成し遂げた自分はどのようにふるまえばいいのか。常に強くあらねばならない。誰かを守り傷つけぬためにも
半ば義務感と化したそれがセシルを苦しみ続けていた。
(なんとなく楽になった気がするよ。エッジ)
心の中で彼に礼を送る。
「エッジいけそうか!?」
「おう! 力がみなぎってくるぜ!! これなら、この力なら奴を!!」
自身たっぷりに答えるエッジ。だが、一人では到底勝つことはできないだろう。
エッジ自身がどう思っているのかまでは理解していないが、セシルの判断ではだ。
しかし、だからといって勝算が全くないわけではない。戦術と戦法次第ではこちらにも分があるだろう。
カインに目くばせする。どうやら思っていることは一緒のようだ。
(カイン……頼んだよ)
目で合図を送る。このような場面では付き合いの長い友人同士だ。言葉を交わすまでもない。
セシルの思惑を理解したのかカインは跳躍し、遥か上空の方に姿を隠す。
(こっちは首尾よくやる。頼んだよ!)
無言で鼓舞しつつ敵の様子をうかがう。幸いにもルビカンテは今のセシルとカインのやりとりは大して気にも留めていないようだ。
むしろ新たな力を引きだしたエッジの方に興味を向けている。
「ほう……怒りというものは人間を強くするのか。面白い……だがそれで私に勝てると思っているのかね」
「やってみなきゃわかんねえだろ!!」
飛びかかり攻撃に移ろうとするエッジにセシルは声をかける。
「エッジ無茶はするなよ!」
「分かっているって! お前らも当てにしてるぜ!」
その一言にセシルはほっと胸をなでおろす。どうやらセシル達の事もちゃんと考えていてくれたようだ。
そうでなくては困る。セシルの算段ではこの事は非常に重要であることだからだ。

88名無しさん:2011/06/04(土) 03:13:10
FINAL FANTASY IV #0621 #0633 8章 2節 絆(12)

ルビカンテは強きものとの正面からの戦いを生き甲斐としているだけあって実力は確かなものであった。
エッジがいくら力を増したとはいえ、正面から立ち向かっていってもその一撃の一つ一つをあっさりと
交わしていった。
無論回避するだけで手いっぱいというわけではなかった。エッジに向かって本気の一撃を下さないのも
戦いを長引かせ楽しんでいるのだろう。
しかし、だからと言って外野からの攻撃に対して無頓着なわけではない。回避行動を続けるルビカンテの隙を
ついてローザが弓による援護射撃、リディアが冷気魔法での一撃を狙う。しかしルビカンテはみすみす攻撃を喰らっては
くれない。
攻撃がくると察知すると、身にまとったマントで身体を包み。冷気魔法の直撃を受けとめる。
「効かない!?」
リディアが驚きの声を上げる。あのマントには炎をつかさどる四天王の弱点である、冷気魔法に耐えうる防御力があるのだろう。
「あれを貫くことは無理そうだ」
セシルはリディアを落胆させないように一人ごちた。
ルビカンテは防御だけにとどまらず、積極的に後方支援に徹するローザと、リディアに対し、炎魔法を打ちこんできた。
直撃させないように、二人を守るのはセシルの役目だ。
(これでいい…僕の役目はこれでいい。後はカインが首尾よくやってくれる)
勿論、相手にこちらの手の内を明かされるわけにはいかない。勘付かれないように自分が上手く立ち回らねば作戦が機能しない。
「どうした? お前たちの力はその程度なのか……」
失望からくるのか、それとも挑発なのか、ルビカンテから失意の声が届く。
「うるせぇ! まだまだこれからだぜ!」
後者と受け取ったエッジが斬撃をよりいっそう強く繰り出す。しかし、ルビカンテはひらりと攻撃をかわしていく。
「エッジ落ち着いて……!」
リディアが冷静さを促す。だが聞こえていないのか、聞く耳を持たないのか、エッジは攻撃を続けている。
「セシル……」
ローザも心配したようにセシルを見てくる。
誰の目から見ても今のエッジの攻撃は成果を上げているようには見えない。そうあくまで<エッジの攻撃>ではだ……
「大丈夫」
静かに、短く、だがはっきりとセシルは自分の成功を確信した上での声を上げる。
(僕たちは一人ではない。他人同士だ。いくら通じ合ったところで完璧な意志疎通は出来はしない。だけど……それを上手く使えば)
「いい加減やられろってんだ!!」
疲れとも苛立ち交じりで願望を口にするエッジ。だがルビカンテに攻撃が当たることはない。
「ふっ……まだまだ青いな!? それでは私に勝つことは出来ぬ、決してな……」
いっそうエッジの気を紛らわすルビカンテ。いっそうエッジへと集中するルビカンテ。
だがその光景はセシルにとっては好都合だったのだ。

89名無しさん:2011/06/04(土) 03:13:57
FINAL FANTASY IV #0621 #0634 8章 2節 絆(13)

「機は熟した」
誰にも聞こえない声で一言。
しかし、それと同じ想いの者がこの場には一人……
(カイン)
今この場所でたった一人大空を主戦場とする天架ける騎士が動きだした――
ルビカンテは力だけでなく、知略や戦術にもたけていた。決して戦場の全てを把握せずに戦うなど無策な事はしない。
むしろ常に怖いくらいの冷静を兼ね揃えているといっていい。
だから冷静さゆえにエッジのような性格の相手を甘く見てしまうのだろう。加えて相手は一度勝利した人間だ。
完璧な勝利が揺るがない。そう思っているからこそ無駄に戦いを長引かせる、戦いを楽しんでしまったのだ。
それは一人の相手に夢中になる――つまりは全体を見渡せなくなっていたということだ。
「!」
ルビカンテはすぐにでも上空からの刺客に気づいたが、すでに回避しきれる間合いではなかった。
防御するが、眼前には絶えることのないエッジの猛攻が続いていた。
「ぐっ――」
回避する際でも微動だに姿勢を崩すことがなかった炎の魔人ががくりと腰を曲げる。
「今だ!」
セシルの声が終わらぬうちに一斉に攻撃が開始される。
リディアもローザもセシルの意図を感じ取ったようだ。
ルビカンテも冷静さを失わずに防御するが、直撃を避ける事は出来ない。
(が……ぐっ)
常に平静さ装っていたその声色に呻きが混じる。
(これで決める!)
セシルも剣を抜き跳躍。ルビカンテへ距離を詰める。
既に機敏な回避ではなく、少しでも損害を減らそうと防御を主体とするルビカンテ。だが数で勝るこちらの攻撃を全て凌ぎきるのは
不可能である。戦法を切り替えた時点で勝負は決していた。
「セシル――」
誰もがルビカンテの敗北を、セシル達の勝利を確信した瞬間にエッジが一言。
「分かった」
とどめは自分で刺したいのだろう。拒否する事はない。
己の感情のまま戦ったエッジもこの戦いにおける功労者なのだ。

90名無しさん:2011/06/04(土) 03:14:56
FINAL FANTASY IV #0635 8章 2節 絆(14)

「見たかよ――! ルビカンテ。これが怒りが呼ぶ力だ!」
「ぐぅう……!」
今までで一番大きな傷を負ったルビカンテ。そこから黒い血ともとれる波動が噴き出す。
「私の負けだ……」
はっきりとそう告げた。四天王で最も強く、誰よりも力を誇示し、それを求めた者からその言葉が出たのだ。
「その手があったのか、一人ひとりの力は小さくても――弱い者でも、お互いの力を併せるという手が」
「へっ今更負け惜しみかよ!」
「エッジよ――怒りにまかせたお前の力は見事であった……この私の判断を狂わしたのは間違いなくお前の力だ。
時に危険を招くその力を上手く使うのだな」
「おっ……お前の指示なんかうけねえよ!」
エッジは単純に驚いているようだ。戦いに負けた者の身からそうような言葉が出ることに。
「そしてセシル達か……ゴルベーザ様やバルバリシア、カイナツォにスカルミリョーネ……みなが手をやかれたわけは
ある。皆、それぞれ性質は違うが立派な戦士達だ」
「ゴルベーザが!? 手を……」
その言葉に驚いたのはセシルであった。自分達は常に負ける。後手に回っていたと思ったからだ。
「我々とて一枚岩でない。四天王の誰もが己の目的で動いているし、あのルゲイエも独自の目的を持っていたように思える。
それにゴルベーザはお前に何か特別な感情を持っているようにもな」
「僕に!? どういう事だ!」
「最後のはあくまで私の個人的分析だ。だが、お前たちの存在が戦いを動かしているのは確かだ……」
「…………」
「では私は……既にこの身体は長くは持たない。しかし、いつの日か必ず蘇る。それがいつになるかは分からぬがな……
最後に面白い戦いが出きた。さらばだ……」
黒い波動を噴出すると共に、ルビカンテの身体は崩れ落ち、やがてはその姿は辺り一体から完全に消えてしまった。
しばらくの間、誰も何も言わなかった。
それは強敵との戦いに勝利した安息感と達成感からなのか、新たな戦いへの緊張感と徒労感なのかは誰にも分からなかった。

91名無しさん:2011/06/04(土) 03:15:53
FINAL FANTASY IV #0636 8章 2節 絆(15)

セシル達はルビカンテに勝った。四天王最後の一人であり、最強の存在にだ。
だがそれは一つの戦いの終わりにしかすぎない。むしろゴルベーザとの戦いはこれからが本番なのだ。
それに、敵司令官でもあったルビカンテを倒したのだ。敵側もセシル達をただで返すわけがない。
「おいっ大丈夫か!?」
走るのを止めずにエッジは隣のカインに声をかける。
「勿論だ」
ただ単調な言葉一つ返すカイン。
「そうかよ……」
初対面から変わることのない無愛想な態度には相変わらず不満があった。
しかし、今は突っ掛かったり、喧嘩をしている場合ではないのはエッジも重々に承知していた。
一刻も早くこの場を脱出すること……それが最優先事項だ
――セシル達は戦いに勝利した。しかしルビカンテの敗北は同時に自分達の存在を相手に知らせたような
ものであった。休む間もなく。敵のガードロボットや兵士が押し寄せてきた。
最初の内は迎え撃ったものの、此処バブイルは敵の本拠地であった。倒してもなおも敵の猛攻は止まること
を知らない。
「撤退だ」
誰が言い始めたのか分からないがセシル達一同の思惑は一致した。
本音ではクリスタルの奪還をしたいという当初の目的を達成したかったが、無謀だと結論づけた。
そして撤退の最中の混戦の中、エッジは気づいたらセシル達とはぐれていたのだ。
否、決して一人になったわけではない。自分の横を歩く無口な竜騎士の男も一緒なのであるが――

92名無しさん:2011/06/04(土) 03:16:32
FINAL FANTASY IV #0637 8章 2節 絆(16)

(それにしても……)
セシルとローザ、それにリディアとはぐれ、カインと二人行動する中エッジは一人ごちる。
(いつの間にかこいつらと行動を共にする事になっちまったな……)
本来ならば自分の目的はルビカンテを倒し、お袋や親父の敵を、エブラーナの無念を晴らすことであった。
勿論、お袋や親父をあんな目にあわせたのはルゲイエという男であるのだし、セシル達の口からゴルベーザという
黒幕が存在する事も聞いていた。
ルビカンテを倒した後も奴らと一緒に戦おう――心のどこかではそのような決意も存在していた。
(こうも急な形となるとな――)
格好がつかない。とまではいわないがもう少し決意を固める時間がほしかった。
それに、セシル達はここを脱出したら自分は国に帰ると思っているのかもしれない。
ならば自分はこの後は国に帰るべきか。王族として後を継がねばならないし。爺や達も心配している――
「おい……おいっ! 聞こえてるのか!?」
少し、いや……大分前から自分にカインが話しかけていたようだ。
「ああっすまねえ少し考え事を!?」
物思いにふけって相手の話を聞き逃す自分の悪い癖だ。
「まあいい、これから格納庫を探すぞ!」
「格納庫?」
「飛空艇のだ。お前も見たことはないかも知れんが聞いたことはあるだろう?」
「まあな」
バロンの天翔ける船の話はエブラーナにも届いていた。島国であるエブラーナにゴルベーザ
が侵攻する際にも用いたのも知っていた。
「どうした? 敵の兵器を使う事に不満が? それとも自国を滅ぼしたものに頼るのは嫌か?」
「へん……そんな思いは毛頭ないぜ」
エッジにとってはエブラーナは祖国であり、この国は伝統などといったものを重視する場所であった。
しかし、当のエッジは保守的な思想よりも革新的な思想の持ち主である。他国の良い部分はどんどん
取り入れるべきであるし、飛空艇に対しても興味があった。
「ならばいい。おそらく格納庫には飛空艇がある。ここから最も確実に脱出するにはそれを奪うのが
もっとも的確だ」
「なるほどな」
「それに……おそらく奴も、セシルも同じことを考えているはずだ。向こうはローザにリディアを抱えている
はずだからな。安全に脱出する方法を考えればそれしかない。ならば、俺達も格納庫を目指せばセシル達と
合流できる可能性は高いはず」
状況を的確かつ冷静に分析するカイン。反論する余地もない。
「いいぜ、それに従う……」
「決まりだな」
それだけのやりとりで再び足を速めるカインとエッジ。

93名無しさん:2011/06/04(土) 03:18:34
FINAL FANTASY IV #0638 8章 2節 絆(17)

「しかしよ……お前みたいな奴がなんでまたセシルと行動してるのかちょっと疑問だぜ」
道中にエッジがぽつりと呟く。エッジからすれば軽い一言であった。
「……!」
しかしカインは足を止めエッジに振り帰る。
「何故……そう思った……?」
「えっ……ああ……嫌よ、お前は何処か近寄り難いっていうかさ。優等生的なセシルと一緒にいるにしちゃ
影がありすぎる……プライドが高いっていうか……」
エッジからしてみればカインやセシルは初対面の相手だ。詳しい事情を知らないものが率直な言葉を述べた
だけのつもりだ。
「ふふ……面白い奴だ」
カインは苦笑する。そこには怒りの色はない。
「どうした……?」
好き放題言ったのだ。てっきり激怒するのではないかと思ったが、かえって気持ち反応だ。
「いや、本当面白い奴だ。本当に……俺とセシルとローザは幼馴染だ」
少しだけ間をおいてカイン
「何……! そいつは悪かった……」
驚きの後、すぐに謝罪の言葉が出る。何も知らなかったとはいえ、さっきの言葉はカインにとっていい気持ちでは
なかっただろう。
「いいや。気にするな。俺も面白い言葉を聞けたさ」
「嫌……本当すまねえ。それでセシルとローザとはいつ知りあったんだ?」
話題を転換しようとエッジは話を振っていく。だがその言葉がカインの顔に陰りを生んだような気がした。
「俺とローザは昔から家の付き合いがあった。あいつは……セシルは孤児だ。俺と……俺とローザが知り合ったのは
軍の学校に入学してからだ」
その言葉は真実を述べていた。だがその言葉の裏にあるカインの心理まではエッジには分からなかったであろう。
「そうかすまないな。色々話させてしまって」
「構わんさ」
その言葉には既に裏はない。
「じゃあ。もうひとつ教えてくれ。リディアは一体……」
「あの子か……詳しく話すと長くなるがあの子の住んでた村を俺とセシルが壊滅させた」
「何……」
「その事については俺達をいくらでも攻めてもらって構わん。取り返しのつかない事をした。これは俺もセシルも
同じ思いだ。<珍しく>な……」
「いや別に攻めはしないけどよ……」
「これ以上は俺にも分からん。その後セシルとはしばらく別行動をとっていたからな……いつの間にか彼女はセシル達
と行動していた。彼女はまだ俺の事を……ひょっとしたらセシルからも完全な恐怖を取り消せていないのかもしれん。
だからというわけではないが彼女に直接尋ねることはやめておいた方がいい。
「…………」
「あくまで俺の考えだがな」
最後にそう付け加える。
「そうかありがとよ。色々話してくれて」
エッジは駆け出す。
「行こうぜ。セシル達も待っているはずだ!」
エッジは心に決めたのだ。先ほどまでの迷いはもう無い。
(こいつらと一緒にゴルベーザをぶっつぶす!)
何がこの結論に心を動かしたのかはわからない。セシルかカインかローザか、それともリディアなのか。
既に悩みとは程遠き王子には理由など必要はなかった。

94名無しさん:2011/06/08(水) 01:06:47
FINAL FANTASY IV #0639 8章 2節 絆(18)

セシル達と無事合流したカインとエッジはその目的通り格納庫へと向かっていた。
「これは」
たどり着いたその場所は機械塔の内部にしてはわずかながらの明りに照らされるだけの
場所であり、薄暗いその場所に慣れるには多少の時間を有した。
「敵の飛空艇かっ!」
飛び込んできた光景に最初に口を開いたのはセシルだ。
「それも見たこともない形……おそらくは新型だろうね」
シドに教えられたのか、はたまた元飛空艇隊の隊長であったからか、冷静に分析した結果を口にする。
「どうやら、俺の読みは当たっていたようだな」
「それじゃ早速こいつを使って脱出だな!」
カインとエッジも勝ち誇ったような口調で続ける。
「でも敵の飛空艇なんだよ!」
強気な態度の男性陣に待ったとばかりに口を挟むのはリディア
「都合が良すぎると思わない?」
「そうよ罠じゃないかしら……」
ローザもリディアの考えに同意する。
「ねえ……セシル。あなたは――」
それまで冷静な分析だけを口調にしていたセシルに対し、意見を求めようとするローザ。
だがそこに割り込む言葉が一つ。
「罠だろうと構うものかよ!」
「でも……」
いつになく強気な忍者にローザは小さな声で抗議する。
「いいんだよ! 俺達が使った方がこいつの為だろ!」
「それは……」
確かに飛空艇を戦いの道具として使うのは本来の開発者であるシドの本意ではなかった事だ
それに反論の余地はない。
しかし、今この場においての状況判断としては正しいのだろうか?
「心配いらねえって! もしもの時は俺が何とかするさ!」
不安の表情を消さないローザに対しエッジは半ば強引とまでいえる励ましの言葉をかける。
「そうだろ! セシル、カイン……」
ローザとの関係の深い、二人に話を振る。
「確かに迷っている時間はない、こうしている間にも敵の追撃は迫っている。急いで脱出した方が安全だ!」
それは先ほどのローザからの意見に対する答えでもあるのだろう。
「俺は元から賛成だ。それに万一の時は全力で対処するさ」
カインの静かな解答が終わるとすぐさまエッジは呼応する。
「よっしゃ決まりだな! じゃあこいつに名をつけるか!! そうだなファルコンってのはどうだ!?」
それはエブラーナ地方に生息する鳥の名前であった。子供のころから憧れていた。
反論する声も上がらない。名前に対する異議はないようだ。
「ファルコン発信!」
飛空艇が舞い上がり眼前へと迫る地底の空へと躍動する。どうやら追手も迫らないところを見ると
罠ではなかったようだ。
「まったく調子がいいの」
舵を握るエッジの側にリディアが立っていた。安全だと分かったからだろう。
「でも良かった……こうして無事に脱出できて」
その言葉が妙に大人びて見えたのははエッジの思い込みであろうか。
カインから彼女の事情は聞いていた。外見はローザと変わらぬ歳に見える彼女がまだ少女と変わらぬ精神であることも
おぼろげながら聞いていた。
彼女に秘められた事情を知った自分の思い込みなのだろうか――ふとそんなことを考えると前までは当たり前のように
出ていた軽口が声に出る前に止まっていた。
「ちょっと……! どうしたの?」
いつもと違う反応に対して、少し驚いた表情のリディア。
「いや、なんでもねえよ……それよりこれから何処に行けばいいんだ」
「あっ! エッジはこっちにくるのは初めてだったね」
こっちとは地底の事だろう。そういえばその存在知っていたが来たのは初めてであった。
「ここから南にいったところにあるドワーフさん達のお城に向かって」
「分かったぜ」
舵をとり南へと進行方向を向ける。
(今はよしておくか)
リディアに対してより詳しい事情を聞きたいなら本人に聞けばいい。カインもそう言っていたし、自分も
それが一番手っ取り早いと思っていた。
しかし、彼女の大人びて淋しそうな顔を見るとそんな考えは引っ込んでしまった。
(でも俺は決めた。こいつらと一緒に戦う。爺や……それまではエブラーナを)
絆とでもいうのだろうか、初めて感じていたのだエッジはセシル達に。
それはこれから続く戦いの覚悟をエッジに強めさせていた。

95名無しさん:2011/06/08(水) 01:08:23
FINAL FANTASY IV #0640 9章 2節 月へ(1)

地底に閉ざされた世界には地上と違い昼夜の概念は存在しない。
しかし、生活の規則は存在し、そこに住む人々――主にドワーフと呼ばれるものは地上で言う朝がくれば
活動を開始し、夜がくれば帰路につきゆっくりと休む。
地上から来たものにとって朝と夜をすぐに見分けるのは困難ではあるが、皆が寝静まると家や通路の
明りは最低限なものとなる。そうなってくると自然と人影は少なくなり人通りからも活気は薄れる。
空に太陽や月が存在しなくとも、雰囲気という面において朝と夜の概念は存在するのだ。

96名無しさん:2011/06/08(水) 01:08:57
FINAL FANTASY IV #0641 9章 1節 月へ(2)

薄闇の中動く人影が一つ。地上でいう夜という時間においてひっそりと行動を開始する者がいた……
「待ってくれカイン!」
騒ぎを起こさぬよう、それでいて相手に聞こえるような声で影を引きとめる声が一つ。
「一体どうしたというんだ」
無視を決め込む影に対し声を強めていく。
「しつこいぞセシル」
「今ならまだ引き返せる!」
「言いたいことはそれだけか」
「カイン!」
平行線を辿る二人の会話に割り込む女性の声が一つ。
「お願い……正気に戻って。あなたはまた操られているだけなのよ!」
「違うな」
何を言われても動じない淡々とした声。
「おれは正気に戻った」
全てを突き放すような冷徹な声は地底のマグマすらも凍りつかせるほどに冷たい。
「これが本来の俺だ。今までの俺の方がおかしかったのだ。セシル、お前がパラディンになったようにな」
「カイン! クリスタルを返すんだ!」
視線をセシルに向け、挑発気味に話すカインにセシルも多少声を荒げる。
「取り返したいのなら力づくでくることだな。だがこのクリスタルを守っていた衛兵達のように手加減はしてやらんぞ
全力で痛めつけてやるさ」
口元を歪めて笑うカイン。邪悪さすら感じられる。
「カイン。まだ戻れるというのに!」
カイン自身が言ったように、この逃走の中カインは相手を痛めつけることはしていない。ましてや闇打ちだったのだ。上手く誤魔化せば
誰もカインの仕業とは思わないはずだ。
今ならまだ戻れる――そう今なら
「怖気づいたか」
忠告交じりの説得も意味をなさない。
「仕方ない、カイン!」
セシルも覚悟を決めて剣を抜く。だが……
「やめて! 二人とも――!」
夜の存在しない地底で静かな戦闘は叫びともとれるローザの声で制止された。
「セシル――それにカイン――何故二人が戦うの? カイン、目を覚まして!」
「ふん……興が削がれた」
カインはセシルから背を向け歩きだす。
「これで全てのクリスタルが揃った。月への道が開かれる」
最後にそう言い残して。
「カイン」
セシルは友人の――親友の――カインの名を呼ぶ。そこに意味はない。彼と戦う意思も制止する力も。

97名無しさん:2011/06/08(水) 01:09:33
FINAL FANTASY IV #0641 9章 1節 月へ(3)


「あの野郎っ! なんてことをしやがる!」
夜の静けさはあっという間にかき消された。一大事なのだ。ジオットはすぐさま緊急招集をかけて会議室へと
皆を集めた。
「エッジ落ち着いて」
怒りを露わにするエッジをリディアがなだめる。
「でもよっ! 折角一緒に戦う仲間だったのによ……一体どうして」
「だからって……でも……セシル……」
段々を返答に困りセシルに助け舟を出すリディア。
「カインは最初から僕達の敵だったのかもしれない……」
「セシル!」
リディアがセシルを叱咤する。当然だろう。
他人事とはいえ親友にそんな酷い事をいうのは怒って当然だ。
「御免なさいリディア。セシルもショックなのよ」
「分かってるわ、でも……」
ローザが助け舟を出してくれて、リディアも食い下がる。
(ごめんリディア)
声にする力がないので心でリディアに謝罪する。
ローザの言っている事は本当だ。ショックを受けているという事。
しかし、それ以上に他の考えがセシルを支配していた。
おそらくカインはまたゴルベーザに操られたのだ。それはカインの心の何処かに未練があったからではないか?
そして、ゾットでカインが言った言葉。意識はあったのだ――
さっきカインが立ち去る時に言った言葉。俺は正気に戻った――
ゾットでの自分はあくまでカインを助けるつもりで剣を交えた。だが、今回はカインを倒すつもりで剣を交えないと
いけないのかもしれない。

98名無しさん:2011/06/13(月) 20:27:06
FINAL FANTASY IV #0642 9章 1節 月へ(4)

「あんた達は怒ってないのかよ!」
沈黙が支配する会議室に再びエッジの怒りの声が飛び交う。
しかし、それに反応する声が一つもない。
カインに最後のクリスタルを奪われた一同の顔は怒りではなく放心といった感じであった。
もはや打つ手がなくなったのだ。無理もないだろう。
「なあジオットさん。どうなんだよ」
「だがのう……」
名指しされジオット王が静かに口を開く。
「もうどうしていいのか私にはわからんのだよ。出来ることといえば最悪の状況を想定して軍の増強と整備くらいでは。
しかし、兵達の士気も低下しているしのう」
「…………」
反論する余地がなく黙り込んでしまうエッジ。
時間だけが過ぎていった――時々事務的なやり取りが交わされるがそれ以外は何も誰もしゃべることのない静かな時間が。
「あのミシディアの伝説が本当ならな……」
ふとジオットがつぶやいた。本人からしてみればそれは現実逃避する為に呟いた夢みたいな事であった。
「今なんて……!」
セシルはその言葉を見逃さなかった。
「え……いや、ミシディアに伝わる魔導船の伝説がある。あの噂が本当なら……」
「ミシディアだって!」
会議室から驚きの声が次々と上がる。
ここにはセシル達と同じく地上から来た者も少なくない。その名前に聞き覚えのある者は沢山いた。
「まさか……ミシディアは……」
周囲のただならぬ反応から希望の光を見だすジオット。
「実在したのか!」
力強く断定を言葉にする。
「ええ」
地上の者を代表してセシルが返答する。誰も否定しない。
「ミシディアに一体何があるというんです?」
はやる気持ちを抑えつつ、今度はセシルが質問する。
「魔導船の伝説……」
「魔導船?」
「遥か昔、ミシディアという場所に存在したという巨大な船の事だ」
ジオットの言葉は少しばかりセシルを落胆させた。
ミシディアという場所を知っている者にとって、その噂はすぐには信じれないものであったからだ。
(確かにミシディアは魔法大国。しかし飛空艇を越える程の大きな船が存在するなんて話は聞いたことがない)
「こんな伝説がある。竜の口より生まれしもの――」
「!」
しかし、すぐにそのような一時的な疑惑は打ち消された。
「それはミシディアの!」
忘れもしない。パラディンとしての資質として与えられた剣に刻まれた言葉。同時に古くよりミシディアに伝えられた伝説。
地上のミシディアに地底の王国。この二つに何故共通した言い伝えが残っているのかは分からない。しかしセシルには一つの考えが浮かんでいた。
「長老は……ミシディアの長老は今は祈りの神殿に入り、ずっと祈り続けています」
ポロムとパロムの事を報告しようとした時も長老は自分に会いはしなかった。テラがその身を犠牲にした事も
知っているはずだ。だが彼は一行に姿を現そうとしなかった。
不信感すら抱くほどの長老の行動には何か意味があったのだろう。今ならそう解釈する事が出来る。
「もしや、そのお方は……」
どうやら長老もセシルと似た考えに行きついている。そしておそらくはここにいる多くの者たちが――
「魔導船を復活させるつもりか! いやそう信じるしか道はない!」
深く考えている時間がないという事にはセシルも同意であった。
「僕達はすぐにでもミシディアに向かいます!」
仲間達の顔を見る。皆反対する理由はないといった感じだ。
「頼む。全てはお主らにかかっとる」
「分かりました!」
既にセシルの中では全ての考えがまとまりつつあった。
長老、カイン、ゴルベーザ、そしてローザ。自分の周りをとりまく者達にどう向かい合えばいいのか。
(ありがとう。みんな……今なら僕は迷う事なくその道を進めそうだ)
道なき迷路は終わりをつげて到着点が見えたような気がした。やるべきことと自分のやりたいことが迷いなく一致したのだ。
今度こそ自分は本当の意味でパラディンになれた。そう思った。
(行こう……)
自分の中の暗黒騎士に――パラディンに心でもう一回言葉を告げた。

99名無しさん:2011/06/15(水) 04:24:29
FINAL FANTASY IV #0643 9章 1節 月へ(5)




セシル達がミシディアにたどり着いた時、その場所は今まで見知った街と違って見えた。
それは気のせいではないのは一緒にやってきたローザ達の反応から見ても明らかであった。
「変ね……静かすぎるわ」
ミシディアにやってきたのはセシルを除けばエッジ、リディアも初めてであった。
だが、白き螺旋を描くこの街の静けさは誰もが思うところであった。
(確かにおかしい。最初……暗黒騎士の僕が受けた手荒い歓迎の時は置いとくとしても、以降この街の入口を潜る際には
早朝であろうが見張り程度の人間はいたはずだ。それが……)
今回は門番すらいない。試しに武器屋、道具屋などの建物を窓から除いてみたが人がいる気配もない。
(この武器屋の人は最初えらく冷たかったけ……でも僕がここを旅立つ際には餞別として鎧を授けてくれたかな)
懐かしい思い出を感傷しつつ、続けて街で最も栄える場所である酒場を訪れてみた。しかし、ここにも人一人確認できなかった。
「そっちはどうだった?」
散策を終え、街の中心部でローザ達と落ち合う。
「いえ……誰もいないわ」
エッジとリディアの顔色も窺う。此方もローザ達と同じ反応のようだ。
「……セシル」
「とりあえず――」
長老に会おう。セシルはそう結論づけた。おそらくこの街の静けさもセシル達の目的も長老の口から全て語られるであろう。
「待っておったぞ」
ローザ達にそう伝えようとした矢先であった。目の前にそびえる街一番の高さの場所――祈りの塔の方向よりこちらへと歩いてくる
人影と声が聞こえたのは。
「長老!」
声だけで振りかえらずとも分かったその人物はセシルが探し求めていた人物である。
「祈りの塔へ」
久しぶりの対面であったが長老は静かに自分の道程を指さすだけであった。
「お話したいことが……」
報告したい事、個人的に話したいこと、感謝。長老への言葉は尽きるわけがない。
「わかっておる。だが今は急ぐのだ。祈りの塔へ参られい」」
しかし長老はセシルの言葉を強引に打ち切って再び、祈りの塔へ向かう事を促す。
「……はい」
その言葉の力に負けたのだろうか? セシルは長老の指示に従った。ローザ達も特に異論はなくセシルに付き従う。
確かに今はゆっくり話している暇はない。それはセシルも同じ考えであった。
地底から感じていた何かが動く前触れのような確信。長老も似たようなものを感じ取ったのだろう。

100名無しさん:2011/06/15(水) 04:25:48
FINAL FANTASY IV #0644 9章 1節 月へ(6)

竜の口より生まれしもの
天高く舞い上がり
闇と光をかかげ
眠りの地に更なる約束を持たらさん
月は果てしなき光に包まれ
母なる大地に大いなる恵みと
慈悲を与えん

ミシディアに広まる言葉。
地底に伝わる伝説。
伝説の剣に刻まれた文字。

三種に共通したそれが何を意味するのかは今まで誰も知らなかった。
今現在も知る者はいない。
だが今目の前に現実として再現されようとしているのだ。
先にあるのは何なのか――

それはこれから始まる運命の氷解が教えてくれる――

101名無しさん:2011/06/18(土) 03:12:58
FINAL FANTASY IV #0645 9章 1節 月へ(7)

祈り塔の最上階には数えきれないほどの人が集まっていた。
おそらくは街中の、ひょっとしたらミシディア外からもしれない多くの人物がここに集っていた。
その中にいる誰しもが賑わいもせずに黙り込み、じっくりと祈りをささげている。
魔導士の街の中でも群を抜いた高さである塔からは街全体を見渡せるだけでなく、街の先にある入り江やその先に広がる無限とも
思える海原ものぞくことができる。
バロンへの帰国際にセシルが無事に流れついたのもあの辺りだろうか?
少し苦い思い出と共にじっくりと観察をしているとふとある事に気づく。丁度セシルが漂着したその入り江は二つの部分が突出している。
それはまるで大きく開かれた口のようである。
「竜の口より生まれしもの――」
ふとあの伝説の事がよぎった。セシルは思わずその言葉を口走ってしまった。勿論、回りの人の祈りの集中を見ださぬような小声でだ。
「良く分かっているようだな」
長老がセシルと同じく小声で呟く。そして歩きだし祈りを続ける者達の先頭へと出る。
「皆の者! 祈るのじゃ!  伝説が真の光となる時は、今において他に無い!」
鼓舞するかのような声を上げ長老は再び祈りを始める。
「私達も……」
小さく、だがはっきりとした意志で述べたのはリディアだ。じっくりと瞳を閉じて静かに祈りを始める。
ローザもそれに続く。エッジも普段からは想像できないような様子で大人しく祈っていた。
当然ながらセシルも祈る。その心の中には今祈りの塔にいる誰もが抱える気持ちとは別の者が芽生え始めていた。
(この懐かしい気持ちは――)
言葉にして表現出来たのはそれが最低限であった。
何故なのだろう? セシルは時々今の状況と似たような気持ちにつつまれる時があった。
試練の山の頂上であの声を聞いてパラディンになったあの日もそうであった。
「竜の口より生れしもの……」
自然とあふれる言葉は今のセシル達の希望ちなっている伝説――
何度も詠唱した事もないのに何故か一文字も間違えることなく口から出てくる。
「天高く舞い上がり……」
祈りの塔の眼下、海原がうねりを上げる。

102名無しさん:2011/06/18(土) 03:13:32
FINAL FANTASY IV #0646 9章 1節 月へ(8)

海の底から姿を現したそれはかつての船旅で遭遇した幻獣神リヴァイアサンを越える大きさであろうか。
それはやがて海を離陸し、その巨体を大空へと浮かべ上げる。
一見して巨大な鯨とでも形容できるそれはリヴァイアサンとは違い、完全に無機質で生物的なものからかけ離れていた。
疲れることなく空中停滞する非現実的な光景がより一層機械的であり、落ち着いて観察すれば飛空艇を大きくした天翔ける船に
見えてきた。
「あれこそ正しく……大いなる呟きの船……魔導船!」
巨大な箱舟を一同はただ黙って見続けるしかなかったが、最初に口を開いたのは長老であった。
「あれが……」
沈黙は破られ皆から声が上がる。
やがてそれは疑問や不安から感嘆へと変わった。
「ついにやったぞ……」
感動を口にする者、隣の者と喜びを分かち合う者と様々だ。
ローザやリディア、エッジからも笑顔が宿る。
「闇と光をかかげ眠りの地に更なる約束を持たらさん……」
緊張の解けとた空間でセシルは誰にも聞こえない言葉で伝説の続きを呟いた。
闇と光とは――自分の手のひらをまじまじ眺めながら考える。
もしそうだとしたら眠りの地とは――おそらくは――
今だに浮かぶ魔導船よりも遥か高くの空を見上げる。夕刻に近づきつつある今の時間では
その姿を確認する事は出来ない。
「長老」
皆と同じく感傷に浸る長老にセシルが話しかける。
「僕達は今から月へと向かいます」
「月じゃと!」
「ええ」
驚きの声の長老に対して、はっきりと述べるセシル。
「でも、どうやって?」
二人の会話を聞いていたリディアが疑問を割り込ませてくる。
「あれは……あの魔導船という船なら可能なはずだ」
「確かに聞いたことがある」
長老もセシルの言葉で何かを思い出したようだ。
「この街、ミシディアの記録によれば月よりこの地へと来訪した船があると――」
驚きはしなかった。
やはりあの言い伝えはセシルの解釈通りであっていたのだ。
「ローザ、リディア、エッジ。ついてきてくれるか」
「勿論だぜ!」
悪びれる様子もなくエッジが言う、二人も似たような意志だ。
「では行こう!」
月へと向かうセシルには一つの言葉が渦巻いていた。
約束。
伝説の中の言葉。そしてそれと似た言葉をあの声からも聞いた。
(あの声はひょっとしたら――)
だがすぐにでも頭の隅にその考えを押しこめる。
今考えなくても、それはすぐにでも判るであろう。全ては月という大地が教えてくれるであろうから――

103名無しさん:2011/12/07(水) 16:16:51
FINAL FANTASY IV #0647 9章 2節 明かされる想い、目覚める力(1)

月までの航海は穏やかなものであった。
海での旅と違って日は見えなかった為、どれだけの日数が経過しているか
は正確には把握できなかったが。
しかし、そこから先は一転して激しい道中となった。
月世界の様相はセシル達のいた青き星とは全くの別物であった。
踏みしめる大地はどこまでも荒れ地が続き、草木一本すらない。おまけに地面の所々には
クレーターと呼ぶべき窪みが散見し、歩行を妨げた。
空に日は昇らず、朝と夜の変化もない。
そんな今までとは違う困難な状況に更なる追い打ちをかけたのが、月の世界に生息する
魔物達の襲来であった。
セシル達のいた星に比べても、月の厳しい環境を生きるその物達は地上や地底の魔物達に
比べても桁違いの生命力と力を持っていた。
加えて知能も卓越しており、セシル達を外部からの侵入者だと判断するやいなや、群れをなして
襲いかかってきたのだ。
月の魔物達の思惑が見知らぬ物達の威嚇や迎撃行動なのか、または魔物の本能が形振り構わずに敵を
認識して襲いかかってきているのかは判別できない。
だが、真っ向からぶつかって戦うにはいささか分が悪いものであった
ゆっくりと月を探索している暇はないな…
ただでさえ馴れない月の大地を歩くのは体力を消耗する。
セシル達は目的地を定めて早々に目的地へと向かうことにしたのだ。

何処へ行くべきなのか?
幸いにしてその問題に関して言えば、さほど悩むことなく結論を出すことが出来た。
白銀とも呼べる白さが続く月世界の中で唯一目に付く場所が一つ。
透き通るほどの薄い結晶で造られた巨大な塔。月の大地よりも更に輝かしい透明なその建物はこの世界のどこからでも見渡せるほどの
輝きと大きさであった。
セシル達の乗ってきた魔導船が着陸した場所からさほど距離が離れていないのも幸運であった。
だが、早々に出た答えとは裏腹にその場所までの道は楽とはいえなかった。
塔への道のりは平坦な大地だけで構成されてはいなかった。道中にはセシル達の星でいう山岳や洞窟といった場所が散在しており
思った以上の時間と消耗がかかった。

104名無しさん:2011/12/07(水) 16:17:45
FINAL FANTASY IV #0648 9章 2節 明かされる想い、目覚める力(2)

どれくらいの時間がかかっただろうか。
おそらくはそれほどの時間がかかっていないはずのなのであるが、セシルの体感では途方もない時間がかかったようであった。
「ねえセシル……」
輝く塔――まるで巨大なクリスタルのような建物を前にしてリディアが心配の声を一つ。
「中に一体何があるのかな? それに大丈夫かな?」
不安をそのまま口に出したような抽象的な問い。そこに文句を言うのは難しいだろう。
見るとローザも同じような心配の顔をしていた。
普段は常に強気なエッジも未知の大地の未知な建物に静観を決め込んでいた。
ましてや先ほどのリディアの心配を否定しきるのは並大抵の度胸では出来ないであろう。
「大丈夫だ」
しかし、セシルはそれだけ一言言って塔の内部へと歩き出そうとした。
「僕についてくるだけでいい。だから大丈夫だ……リディア」
ゆっくりと歩を進めながら少しだけ仲間達を振り返る。
「ローザもエッジも一緒に」
皆驚きはしたが拒否はしなかった。否が応にも従わせる力が今のセシルにはあった。
(ここには何か重要な事が眠っている。それも自分にとって……)
月へ近づくにつれてセシルの中に何か予兆めいた確信が動き出していた。
(僕にとって重大な何かがこの先待ち受けている)
何故急にこんな気持ちが? 否、前々から似たような気持ちが自分を駆け抜けた事があった。
いつ? それは確か……
何度か駆け巡ったモヤモヤとした気持ち。何かを掴めそうでいて掴めなかった。
だが月の――それもこの場所に近づくにつれて何かが晴れていくような気がしていた。
(ここに来てくれたローザ……リディアやエッジににも知ってもらわなければいけないだろう。きっと……)
幾度もの出会いと別れ……そして再会を経験した自分の仲間……そして生まれ育ったあの場所を代表する人達として
(それに、カイン)
今ここにいない者――未だに互いに譲り合う事の出来ない関係の者の名を呼ぶ。
(君ともまた……まだ……)
そっと目を閉じて想いを張り巡らす。
(そしてゴルベーザ)
あの星を脅威に陥れている者――
(おそらくはまた剣を交えねばならない。その為にも……この先に進む必要がある)
塔の内部、短い距離の静かな道程でセシルは想いを馳せた……

105名無しさん:2011/12/07(水) 16:18:23
FINAL FANTASY IV #0649 9章 2節 明かされる想い、目覚める力(3)

「よくぞきた……」
塔の内部を進んだセシル達を一つの声が迎えた。
「ここは?」
この建物の中で一番開けた場所その場所の中央にはクリスタルを安置するためのものと同じ形をした台座がおかれていた。
その台座の先――本来ならばクリスタルがおかれるその場所に声の主はいた。
「ここは我々の同士が眠る場所……」
「何者だ! お前!!」
神秘的な空間で少し勘が鈍ったのか、エッジがその者の声の終わりとともに戦いの構えをとる。
未知の場所への侵入なのだ。警戒するのはむしろ自然な反応だ。ローザもリディアも思わず足をとめる。
「エッジ、大丈夫だ……」
セシルは静かな口調で警戒を解くように促す。
「この人には敵対する意思はないよ……」
確かな判断材料はなかったが確信があった。
「失礼しました」
セシルは声の主を振り返る。
見ると台座の立つのは一人の老人であった。
「良いのだ。むしろ自然な反応……我らとて似たような者…」
口調は穏やかであった。だがそこには何かを悔やむような感情があるようにとれた。
「それで……おま……あんたは何者なんだ?」
「私は月の民。フースーヤ」

106名無しさん:2011/12/07(水) 16:19:07
FINAL FANTASY IV #0650 9章 2節 明かされる想い、目覚める力(4)

「月の民? 月に住んでるやつがいたのかよ!?」
質問に次いで驚きの声をあげるエッジ。
「今はの」
「今は? どういう事だ?」
少しだけ老人――フースーヤの顔が曇った……セシルにはそう感じ取れた。
「私は――我々は元々別の星のものであった」
「じゃあ私たちの住んでいた所?」
今度はリディアが尋ねる。
「青き星か、いや違う。同じようなものといえばそうだが」
青き星……フースーヤ達、月の民はセシル達の星をそう呼ぶのだろう。
「それじゃあ……私達の住んでいる所、青き星以外にも人が住んでいたのね」
「聡明だのお穣ちゃん、その通りだ。我々は元々は火星と木星の間に存在する小さな星に住んでいたのだ。
しかし、ある時その星は絶滅の危機に瀕した――」
何処か遠くを見るようなフースーヤの声。
「どうして絶滅したの?」
子供の心を忘れない無邪気なリディアだからこそできる質問だ。
「いい質問だ、実にな……結論から言えば星の環境が大幅に悪化して人が住めなくなってしまった。
どうにかして生き残った人々は脱出して新天地を探すべく旅を続ける放浪の民となったのだ……」
「環境が悪化って……大きな天災か何かが星を襲ったのかよ?」
「いや」
フースーヤの声が少し淀んだ。
「この際だから話しておこう……我々の星の中にはいくつもの国が存在していた。だがある時……一つの国が
他国を侵攻した。それが切っ掛けで他国をも巻き込む大きな戦争へと発展していったのだ」
誰もが口を閉じ黙って聞いていた。
「その戦争は一行に終わる気配がせずに拡大だけを続けていった。十年が過ぎ……二十年が過ぎた。そして百年が
過ぎた。それでも戦いは終わらなかった……」
「そもそも戦いは何故おきたの?」
「時間がたちすぎて誰も原因が判らなくなっていた、だが戦いは終わる気配は一行になかった……」

107名無しさん:2011/12/07(水) 16:19:49
FINAL FANTASY IV #0651 9章 2節 明かされる想い、目覚める力(5)

遠い回想にふけるフースーヤの話は続く。
「不毛な戦いに決着はつかなかった。戦いは拡大しそれに使われる兵器もどんどん進化していった。
強力になった兵器はやがては星を傷つけるものまでの力になった」
フースーヤの言葉に熱がこもる。
「しかし! それでもなお人々は戦いをやめようとはしなかった。そして一部の戦いに疲れた者は決断した。
この星を脱出し、別の惑星に移り住む計画を……」
「それで皆で月まで来たの?」
ローザが恐る恐るといった感じで尋ねる。
「計画はすぐには実行されなかった。惑星脱出計画は大多数の反対を受けた、戦いを続ける者達に……
しかし密かに計画は進められていた。そして遂にはその計画は実行される時がきたのだ……」
「良かった!」
リディアが幸せな終わりを迎えた昔話を聞く見たいに喜んだ。しかし、フースーヤの話は終わらない。
「その計画は意外な形で迎える事になった。相次ぐ戦いに傷ついた星が遂に悲鳴を上げた。もはやこの星は人が住める
場所ではなくなっていたのだ。そこでようやく気付いたのだ、自分達の戦いが不毛であったことに!」
「…………」
「焦った人々は半ば強行的に惑星を脱出する準備を始めた、しかし、惑星脱出計画はまだ万全な状況ではなかった。
我々は星から追い出されるような形で惑星を脱出した……」
これで最初の話――生き残った者たちが放浪の民となったところへ繋がった。
しかしこれで終わりでないことは誰もが分かっていた。この話には続きがあると。

108名無しさん:2011/12/07(水) 16:20:28
FINAL FANTASY IV #0652 9章 2節 明かされる想い、目覚める力(6)

「愚かな事に惑星を無事に脱出した我々は一枚岩ではなかった……脱出した宇宙船の中でも抗争は続いたのだ」
「そんな……!」
「脱出した人々の二つの派閥が存在した。一つは脱出推進派、戦いに疲れ果て星から逃げ出そうと計画を発足したもの……
その代表が私、フースーヤとその弟クルーヤであった」
「フースーヤとクルーヤ……」
その響きにまたセシルの想いは揺らいだ。やはり自分は……
「そしてもう一つの派閥は戦いを続けていた者達、いわば戦いの果てに仕方なく星を追われたものだ。こちらの代表と呼べた者
がゼムスと呼ばれる男であった」
「ゼムス……」
「星が存在していた頃から対立していた我々は生き残り脱出した後も対立を止めることはできなかった。ましてや強引に進められ不安定
な状態の脱出であった。舞台を星から狭い宇宙船に変え戦いはより一層醜くなっていっていた」
「な……んだよ……」
「戦いが激化し人々の疲弊は深刻なものになっていた。積極的に戦いを推進していたゼムスにすらも疲れの顔が見えていた。焦った我々は
早く新天地を見つけようとしていたが中々上手くいかずにいた……」
「なんでそこまで行っても争いよ止める事が出来なかったんだよ!」
フースーヤの話が一段落したところでエッジが怒りを口にする。
「そこまでして争うなんておかしい話だぜ!」
「いえ違うわ……」
口をはさんだのはローザだ。
「私達だって……私達の住んでいた青き星だって似たようなものだわ」
否定の声は上がらない。
「原因があったとはいえ、バロンは軍事大国として各国へ侵攻した……反対の声も多かったけど、賛同した人達がいなかったわけでは
ないわ。そうじゃなくても私達は各国に分れて時に国同士で争い、時に人同士で憎しみあう時があったわ……フースーヤさん達の星と
全く同じわけではないけど、その星の人達を批判できるほどではないわ」
「そりゃ……そうだけどさ」
反論できずに口ごもるエッジ。
「でも……」
「でも私達は! お互いに許しあう事が出来る」
ローザが言おうとしていた事を引き継いだのはリディアだ。
「セシルだって。自分の運命を受け入れて変わることが出来た。ただ憎しみ合うだけでない、たがいに受け入れる事だって出来る。
その星の人達だって何か切っ掛けさえあれば……許し会う事ができた……かも……ね、セシル」
最後の方は少し自身が揺らいだのか、セシルに話を振る。
「そうだね」
無垢な少女の問いに淀みの無い返答を返すセシル。
「ふふ……」
フースヤの声に明りがともる。
「良い仲間を持ったなセシル。お主らの様なものがもっと我々の仲間にいれば、我々の星の運命は変わっていたのかもしれんな」
「はい」
「今となっては過ぎ去ってしまった事だがな……さて」
口調が再び厳しくなる、話の続きを始めるのだろう。

109名無しさん:2011/12/07(水) 16:21:09
FINAL FANTASY IV #0653 9章 2節 明かされる想い、目覚める力(7)

「星を脱出し、放浪の民となった。しかし中々新たな移住先は見つからずにいた。ここまでは話したな?」
皆黙ってうなづく。
「そこで我々は最後の手段に出ることにしたのだ……新たな星に移住するのではなく、既に生物の住む星に移住する事にな」
段々と話が繋がってきた。点が線になる感じだ。
「目を付けたのは青き星。つまりはお主達の住んでいる星だ」
「!」
セシル達四人。誰もが多かれ少なかれの衝撃を受けた。そしてこの先の展開を想像するだけで身も凍る思いになった。
「それで、俺達の星を乗っ取ろうとしたのかよ」
「否定はせん。だが聞いてくれ、話に続きがある。言い訳と思ってくれても構わん」
「分かったよ」
「我々放浪の民……月の民はまず、青き星の近くにある衛星――つまりは月に腰をおろした。当然ながら環境の厳しいこの場所で暮らしていくのは難しかった。
月での生活は我々により青き星の憧れを強くしていった。しかし、その時の青き星にはまだ新たな生命が芽生えたばかり、進化の途中であった。我々……いや
私とクルーヤは青き星の民との来るべき対話の為に眠りにつき時を待つ事を決めた……」
歯切れの悪い口調は、話がこれで終わりでないこと、この先に悪い展開が待っていることを示唆していた。
「ある者は眠りにつくこと嫌った。私と対立していた強行派、それを代表する者ゼムスだ。ゼムスは青き星の民を滅ぼし、自分達が代わりに住みつくことを
提唱したのだ」
「ひどい!」
リディアが非難と恐怖の二つの悲鳴を上げる。
「我々は決議を行った。数では強行派のものが多かったが、ゼムスの計画には躊躇した者も多かったのか五分の支持であった。結局のところ議論は平行線
を辿り決着がつかぬままであった。しかしゼムスは滅びた星でも戦いを指導した者、その統率力で兵力を形成し、強引に自分の意見を実行しようとしていた」
言葉を待った。
「当然、黙って見過ごすわけにはいかなかった。私とクルーヤはすぐさまゼムスを討伐するための力を集めた」
「結局、戦いになるのかよ……同胞同士で」
「そうなるな……その時の我々には他に方法が思いつかなかったのだ。戦いは熾烈を極めたが……勝ったのは我々であった。勝利を収めた私とクルーヤは
すぐさまゼムスを月に造った我々の拠点に封印したのだ」
「それがこの場所……」
「そうだ。そして今、封印したゼムスとは別に多くの月の民がこの場所に眠っている。青き星の者たちが対等に話し合えるだけの進化を遂げるのを、見守っているのだ……
皆……その日が来るのを夢見て」
「それで全てか?」
「我ら放浪の民――月の民の軌跡としてはな」
フースーヤの言葉はまだ何かを隠しているようであった。

110名無しさん:2011/12/07(水) 16:22:12
FINAL FANTASY IV #0654 9章 2節 明かされる想い、目覚める力(8)

「少し……気に入らないな」
先ほどの質問の主、エッジが不満を口にする。
「さしずめあんたは月の民の封印を守る者といいたところなのか。結局のところ青き星の人間を監視しているんじゃねーか」
「不満はもっともだ……幾らでも聞こう。既に沢山の者たちを犠牲にしてきた。いまさら責められることが不本意だとも思わぬ」
「もし今、青き星に月の民がやってきても共存なんてできると思っているのか? 俺は完全には出来ないと思うぜ。
それだったらなんだあんた達のいう対等という存在に俺達がなっていないとでもいうのか?」
誰もエッジを止めない。彼のいう事が完全に間違っていない、青き星に生きる者の一意見だからというのもあるが、フースーヤ
が黙って批判を受け入れる姿勢だからだ。
「それに、ゼムスって奴との対立も結局は力で押し込めただけじゃないか。それに今もそいつはこの場所に眠っているって?
もし俺がゼムスだったらあんた達を恨んでなんとか脱出して、お前達に復讐すると思うね!」
「良い意見だ!」
「なっ! なんだよ!」
さすがに言い過ぎだと思った自分の発言に思わぬ返答が返ってきて驚くエッジ。
「ゼムスはまだ諦めておらぬ! 封印されてもなお、否封印される事によって更に憎しみの力を強めているのだ」
「それがどうしたんだよ? まだゼムスは封印されてるんだろ? だったら……」
大丈夫だと続ける言葉を遮るのはフースーヤの言葉だ。
「ゼムスの体は未だにこの地に封印されている。だが、増幅されし憎しみの力は既に我々の制御できるレベルを越えているのだ!」
「じゃあ、なんだって? 既にゼムスの封印は機能してないって事か?」
「ここから先はお前達青き星の民の方がよく知っているだろう……増幅されし憎しみの力でゼムスは自分と似た者を利用し目的を達成しようとしている」
「!」
「じゃあ……」
一番最初に声を上げたのはローザだ。
「ゴルベーザ。奴がゼムスの力によって利用されてるのか…」
答えを導き出したセシル。
「ゴルベーザは青き星のクリスタル。地上と地底の全てのクリスタルを使い月への扉を開くといっていた……」
「クリスタルとは我々のエネルギー源。 おそらく、バブイルの塔の次元エレベータを作動させる為、クリスタルを集めたのだろう。
次元エレベータで、バブイルの巨人をそなたらの星に降し、全てを焼き払おうとしている……」

111名無しさん:2011/12/07(水) 16:22:52
FINAL FANTASY IV #0655 9章 2節 明かされる想い、目覚める力(9)

「バブイルの巨人!? なんだそりゃ!?」
「先ほど我々の滅びた星の戦争、その時の最後に使われた兵器だ。戦火に投入されたバブイルの巨人は全てを薙ぎ払った……我々の星が
滅びた直接的な理由となった……そこまで戦争をエスカレートさせ強力な兵器を投入した我々なのだが」
「なんでそんなものが残ってるんだよ!」
「星の脱出の際にゼムスが持ち込んだのだ……思えば最初からゼムスはこのような事を考えていたのかもしれんな」
「じゃあなんで、そのゼムスを封印した際に壊してしまわなかったんだよ!」
「もっともだ。だが、巨人の力は我々の星が滅亡した直接的な理由。多くの者が触れる事すら恐れ、そのままにしておいたのだ。強大な力を
もってはいても所詮は無人兵器。動かさなければ問題はないと思ってな」
「結局、残った穏健派の連中も力を捨て切れなったってことじゃねえか!」
「そう取られても仕方がない。事実、巨人の力を青き民との交渉に仕えると思ったものも眠っている同胞達にもいなかった事は否定できん」
「いつもいつも力を誇示して上から目線で優位に立つ! それで本当に共存なんかできるのかよ! 俺達だけじゃなく、あんた達月の民の方にも
反省して進化するべきところが山ほどあるんじゃないのか!」
「エッジ! 気持ちは分からないでもないけど」
ローザの叱咤は怒りつける訳でもなく咎めるわけでもなかった。
「今は争っている場合でないわ! ゼムスの目的が本当ならば、彼と操られているゴルベーザの目的は既に達成されている事になるわ。つまり・・・…」
「巨人が既に青き星に向かっている!」
「そんな……」
リディアががくりと膝をつく。
「こうしちゃいられないぜ! 急いで青き星に戻らねぇと!」
「待て!」
脱兎のごとく外へ向かうエッジをフースーヤが呼びとめる。
「私も付いていこう!  青き星とそして月の民の為に!」
「エッジ……」
リディアもローザも反対する素振りは無い。だとすると異論があるのは月の民の行動に異論を付けていたエッジだけだ。
「仕方ねえな……あの竜騎士がいなくなって今は一人でも戦力がほしいしな。それにあんた達のやってきた事は否定したが、目指そうとした事は
間違っているとは思えねえ。そのやり方が問題だっただけでな」
「あり難い……バブイルの巨人を青き星に降ろしてはならぬ! 私と共に行こう……!」

112名無しさん:2011/12/07(水) 16:23:51
FINAL FANTASY IV #0656 9章 2節 明かされる想い、目覚める力(10)

「フースーヤ、一つだけ聞きたい事があるんだ」
想いも一致し、青き星へと戻ろうとした皆の足をセシルが止める。
「月の民はどれくらいの寿命なの?」
ローザ達三人は疑問の顔だ。当然だろう、何故そのような疑問が出るのか? それ自体もよくわからないといった
感じだ。
「月の民は青き星の民に比べると遥か……とまではいかないが永く生きる」
「だったらフースーヤ。あなたはずっとここで月の民の眠りを、青き星を監視しているのですね」
「そうだ……」
皆が驚きの顔と同時に様々な反応をする。
思った通りだった。だが、セシルにとって重要なのはここからだ。
「では先ほどの話に出てきたあなたの弟……クルーヤはどうなったのですか? 他の者と同じく眠りについたのか、それとも……」
「やはりか」
フースーヤはセシルの顔を少しの間、見つめ納得したのか口を開く。
「クルーヤは青き星に憧れを抱き、一人旅立っていった。表向きの理由は青き星の調査・監視を兼ねた任務として……しかし、私には
分かった。あやつは戻るつもりはない。あの地で一生暮らすのだとな」
「月の民である事を捨てたのですか?」
「あいつにそんな気持ちがあったかどうか分からぬが、結果的にはそうなるな。クルーヤは始めて青き星を見た瞬間、魅入られてしまったのだ。
そこにはゼムスや私と違って単純な憧憬だったのだろう」
「そうですかそれで今クルーヤは?」
聞かなくてもいい質問だったかもしれない。
「青き星を監視していたあなたならば、彼の動向は全てとまではいわないでも知っているでしょう?」
「クルーヤは青き星で出会った娘と恋に落ち、子供を何人か設けた。私が知っているのはそれだけだ。おそらく今はもう生きていないだろう。
愛する青き星で今起こっている事を知って何もしない奴ではないからな……」
「その子供というのは?」
既に聞かなくても答えは分かっていた
「分かっているのだろう? そなただ、セシル」
「やはり」
自覚はあった。月に近づくにつれて強くなる想いに今納得がいった。
「なるほど……若い頃のクルーヤに良く似てる」

113名無しさん:2011/12/07(水) 16:24:31
FINAL FANTASY IV #0657 9章 2節 明かされる想い、目覚める力(11)

「皆はどう思ってるの?」
クルーヤが自分の父親であった。それは自分が月の民と青き星の人間の間で生まれたという事を意味している。
勿論、驚きはしたのだがそれ以上に気になったのは仲間達の反応だ。
「セシル」
ローザが静かに口を開く。
「セシル……バロンの赤い翼のセシル……暗黒騎士であったセシル。試練を乗り越えて力を手に入れたセシル。そして青き星と月
二つの異なる者達との間で生まれた者。そのどれもがセシルだわ」
「ローザ……」
「私は……私の好きなのは今目の前にいるセシルだけだわ、例えどんな事があろうとそれは変わらない。
「そうだぜ!」
今度はエッジだ。
「確かに月の民の事はまだ完全には受けれたわけじゃない。どうにも好きになれない連中だってのもある。だがな……だからってセシル
が悪い訳じゃない。お前はお前だぜ!」
「うん」
リディアがゆっくりと首肯する。
「私はも何があっても嫌いにだけはならないよ。セシル!」
「みんな……ありがとう」
仲間達から送られた言葉一つ一つを噛みしめ、皆に感謝の言葉を一つ。
「そうこなくっちゃな! それより急ごうぜ! 早くバブイルの巨人を止めなければ!」
「良い仲間を持ったな、セシル」
先を急ぐ三人を尻目にフースーヤがごちる。
「はい」
「我ら月の民もお前達のように信じあい、互いを少しでも譲り合えたなら行く末は変わっていたかもしれんな」
「そういってもらえると嬉しいです。青き星の民としても月の民としても……」

114名無しさん:2011/12/07(水) 16:25:10
FINAL FANTASY IV #0658 9章 2節 明かされる想い、目覚める力(12)

「最後に一つ聞いていいですか?」
「何だ?」
一呼吸おいて尋ねる。
「あなたの弟……そして僕の父であるクルーヤは地球で恋に落ちて子供をもうけた。その内の<一人>が僕であるのは
間違いないですね……?」
「うむ……」
フースーヤにも質問の意図が分かったようだ
「クルーヤは地球で僕以外にも子供をもうけた……そうですよね?」
「否定はせん」
「では……」
続く質問をセシルは止めた。
フースーヤの口調にはその先を言う事を拒むような雰囲気があったからだ。
(今はまだいいだろう……すぐにでも分かるだろう)
自分で得心して質問を変える。
「試練の山で聞こえた声は……あれはやはり」
「間違いない。クルーヤの声だ」
「やはり」
セシルの中で考えがまとまりつつあった。
(あの時、声は言った。自分に力を与える事によって更なる悲しみにつつまれると……しかしそれは必要な事だと……だとすれば)
「急ぎましょう……」
今なら何故、父がクルーヤがこの力を与えてくれたのかが分かったような気がした。

115名無しさん:2011/12/07(水) 17:18:36
FINAL FANTASY IV #0658 9章 3節 地上を救う者達(1)

地上へ帰還したセシル達を待っていたのは休むことのない戦いであった。
バブイル塔のある場所――つまりはエブラーナ国がある島。
天を突くほどの巨大な塔の近くにまた一つ、常識外の大きな存在が生れようとしていたのだ。
正確には生まれるという表現はおかしいだろう。<それ>は既に何処かにあったものだ。<それ>がとある場所から
やってきたのだから…
<それ>がやってきたはずであろう天を突く巨大な塔――バブイルの塔は虹色の発光を常に続けていた。
現れたのはバブイルの地上部分と同じ大きさほどの人型の生物……否、人の形をしているとはいえそれの表面は機械的な
もので構成されていた。
バブイルを守護していた機械兵士達。あれを巨大化させたものと感じられた。
人間型の巨大な機械人形――それはフースーヤの口から語られたゼムスの秘密兵器<バブイルの巨人>である事は簡単に判断できた。

116名無しさん:2011/12/07(水) 17:19:15
FINAL FANTASY IV #0659 9章 3節 地上を救う者達(2)

「あれが……バブイルの巨人!」
月面船制御室。中央部の制御クリスタルの全面にある操縦部分上方に備え付けられた大型ディスプレイは、たった今地上に降臨した
バブイルの巨人を映し出していた。
「でけえってもんじゃねえな……」
画面に克明に表現されたその光景に皆それぞれの感想や意見をこぼす。
普段は常に強気は姿勢や言動を崩さないエッジですらも若干委縮した様子でひとりごちる。
「どうする?」
おそらくは誰もが驚きの次に考え付く言葉を皆を代表してリディアが言う。
あれがバブイルの巨人であることは疑う余地はない。そしてフースーヤの言うとおり、あれがゼムスがゴルベーザを利用して地球におろしたのなら
その目的も一つ……
考えたくもない悪夢のような光景が一同の頭をよぎる。
「ねえ? セシル?」
話しを振られて回答に困っていたメンバーの視線がやがて一つの人物へと集中する。
セシルだ。
月の民と青き星。二つの血を受け継ぎ、誰よりも争いや戦いを嫌い、それを止める為に奮闘し続けた者。
「当然、このまま放っておくわけにはいかない! なんとかあの巨人を止めなければ!」
そんなセシルの言葉にエッジがリディアがそしてローザがほっと胸をなでおろす。
やはり考えることは一緒だ。それに目の前の半ば絶望的な状況を前にしてもセシルは全く諦めた様子はない。
本人には自覚はないのかもしれないが、その態度が今まで行動を共にした三人に妙な安息感を与えていた。

117名無しさん:2011/12/07(水) 17:19:56
FINAL FANTASY IV #0660 9章 3節 地上を救う者達(3)

(セシルは変わった……)
誰よりも彼を見てきて、いつも一緒にいたローザから見てもそれは明らかであった。
(暗黒騎士としての自分を捨てて、パラディンになった。この事はセシルを変えた。けど……)
ゾットでの再会。パラディンとしてのセシルとの初対面。だが今ローザはセシルに対して更に新たな一面を感じとっていた。
(月へ行って帰ってきてからのセシルはまた一段と変わった……)
正確には月へ行くときからだ。セシルは自分へと強いられた運命を感じ取っていたのだろうか?
人としての迷いを捨てて世界の全てを救ってしまうほどの大きな何かを今のセシルは抱えている。
ローザにはそう思えた。
(勿論、それだけの事を受け入れるほどの覚悟と決意を内包させたのはパラディンの力だと思うけれど……)
彼女自体は直接その目で見たわけではないが、あの力をセシルに与えたのは月の民である彼の父親であったという。
(だとすれば。全て運命だというの……?)
どこまでが本当か分からない。ローザはセシルではないのだ。しかし、今の彼ならばこの混乱を全て収め、目の前に
迫る危機、そして今この地上の混乱を救えるだろう。
(後はあの人か……)
地上に残る前に分れたもう一人の大切な人。おそらくは彼は今――
その先の光景はまだ考えたくはなかった。しかしいずれはやってくる決着に対してローザはどう向き合えばいいのか?
(どちらも大切……どちらも裏切れない……この苦悩は二人には分からない。分かってもらっちゃいけない)

118書き手 ◆5qsDKhCTIQ:2011/12/07(水) 20:00:05
FINAL FANTASY IV #0660 9章 3節 地上を救う者達(4)

「フースーヤ」
月で出会い、一緒に同行する事になった老人に訪ねる。
「あの巨人を破壊するにはどうしたらいい?」
「動いてしまった以上、この青き星の技術で完全に破壊するのは到底無理だろう」
「そうか……」
「じゃあどうするんだよ!」
状況とは裏腹に冷静なやり取りをする月の民とその血を継ぐ者。
そこに青き星の代表とばかりにエッジが口を挟む。
「だったらこのままやられるのを見てるだけってのかっ」
「エッジ落ち着いてくれ」
今にも外に飛び出しそうなエッジの足をひとまず止める。
「何ももう打つ手が何もない。そう言いたいわけではない。そうだよねフースーヤ」
「それはそうじゃがな……」
諦めた様子ではない二人。だが、その顔は少しばかり対照的であった。
「あの巨人を止めるにはやはり内部から破壊するしかない……そうでしょう?」
「いかにも」
先読み気味に回答を答えるセシルに期待通りの反応のフースーヤ。
「巨人内部にはあれだけの巨大兵器を動かす為の専用の稼働システムが存在している。それさえ破壊してしまえば。
もう動く事はないだろう」
この言葉にはエッジ達も少し驚いていた。
「そんな簡単な事でいいのかよ!」
「言葉だけでは簡単だ。だが……あの巨人にどうやって潜入するのは結構な困難を要するであろう」
「それで、あの巨人へは何処から潜入すれば?」
難色を示すフースーヤに対し、セシルは顔色一つ変えずに質問する。
「言っただろ……困難を要すると。まずは少し作戦を立てる事から――」
「それじゃあなんだって! あんたはこのまま奴が地上を焼き払うのを待てっていうのかよ!」
あくまで冷静な作戦を展開しようとするフースーヤに対してエッジの怒りが爆発する。
「このまま何も考えずに無駄に特攻するよりかはましであろう」
「だったらこのまま青き星が! 俺達の星が破壊されるのはを黙って指をくわえて見てろっていうのかよ!」
何も言い返さないフースーヤ。そこにエッジは更に一言。
「やっぱり月の民にとって青き星の運命なんて大して重要じゃないんだな……!」
「エッジ、そこまでだ」
続く二人のやりとりを制止する声が一つ。セシルだ。
「フースーヤ。エッジが怒るのは最もだ。この状況をすぐに打破しないなんてのは僕達青き星の者から見たら
とても耐えられるようなものじゃない」
そう言って他の二人も見やる。
「そうよ! 私だってこの星の人や幻獣達の住む場所が破壊されるなんて思ったら、黙っておけない!」
話しを振られて答えたのはリディアだ。ローザも黙って頷く。
「そういう事だ。すまないフースーヤ。このまま黙ってむざむざやられて犠牲を増やすことは僕たちには出来ない。
だからさっき言った作戦を実行させてほしい」
作戦というのは巨人の内部に潜入し、システムを破壊する事だ。
「だけど、フースーヤ。あなたの言った事も分かる。確かに危険だ。成功する保証なんてこれっぽちもない。
でも信じてくれ僕たちを。そして力を貸してくれ。この作戦の成功には月の民であるあなたの力は必要だ」
「ふ……」
老人は口元を緩くゆがませて微笑した。
「ふふふ……やはり父親に似ているなセシルよ」
「え?」
「お前の父親クルーヤも似たような事を良く言っていた。自分を信じてくれ、そして力を貸してくれと」
「そうなのですか……」
顔も知らなかった父親の一面を話され嬉しくなると共に照れくさくなった。
「思えば我ら月の民は永きに渡る眠りにつくことを選んでから随分と保守的になっていたのかもしれんな
クルーヤが月から出て行ったのもそういう我々を嫌ってなのかもしれん……」
永き追想と共にフースーヤが語る。最後にこう付け加えた。
「月の民にも青き星の者たちから学びとる事は沢山あるな……」
「それでは……」
「分かっておる力を貸そう。そしてあの巨人を一刻も早く破壊するぞ!」

119書き手 ◆uU5P6tGueQ:2011/12/07(水) 20:00:35
とり間違え

120書き手 ◆uU5P6tGueQ:2011/12/07(水) 20:01:12
FINAL FANTASY IV #0662 9章 3節 地上を救う者達(5)

巨人破壊の突破口は内部への潜入へと決まった。
しかし、フースーヤ言うとおり、言葉で表すことと作戦を実行する事には大きな差異が存在した。
なにせ相手は一つの星を滅ぼすほどの兵器なのだ。並はずれた巨体はただ足を使って歩いたり、拳を突き動かす
だけが脳の相手であるわけがない。
「奴にはいくつもの武装が用意されている」
言い終わらぬうちに操縦機器に備え付けられたキーボードを操作するフースーヤ。
すぐさま外を映しこんでいたディスプレイの画面が切り替わる。
「外部カメラOFF――内部データ呼び出し……バブイルの巨人」
そこにいる誰とでもない声。おそらくはこの船に録音された自動音声と共に巨人の立体映像が映し出される。
「奴の武装――両腕に備え付けられた拡散レーザ、手甲の実弾型巨大砲。頭部につけられた大型ビームレーザ。
そして近づく者を追い払う小型機銃が体中に備え付けられている」
次々と画面に映し出される文字列を丁寧に説明するフースーヤ。
「それで、特に警戒するのはどれだい?」
いまいち説明を飲み込めないセシル達は少しでも理解できるようにと噛み砕いた説明を要求する。
「この月面船の装甲なら多少の機銃掃射なら耐えることができるだろう。クルーヤが月でとれる特殊鉱石を用いて補強されたこの
船ならばな――」
まだ何か問題を残している発言であった。
「だが、他のレーザー群の攻撃はそう何度も耐えられるものではあるまい。特に大型ビームの方は喰らったらひとたまりもない」
「だったらどうするんだよ?」
エッジが焦ったように訪ねる。
「うむ。最悪何度かのダメージは覚悟せねば。ビームを回避するのはこの月面船の大きさでは中々難しいものがある」
「状況は厳しいな……」
今のままでは近づく前にやられてしまう可能性が高い。説明を聞く限りでセシルはそう判断した。
やはり何か作戦を練り直すべきであろうか?

121名無しさん:2012/01/02(月) 02:24:12
FINAL FANTASY IV #0663 9章 3節 地上を救う者達(6)

「確かに現状ではこちらが不利だ。しかし……あちらの巨人が我々滅びた星の産物ならば。この月面船も同じだ」
しかしフースーヤはまだ奥の手を残しているようであった。
「どういう事……?」
期待交じりにリディアのエメラルドグリーンの瞳が老人に向かう。
「この月面船がただの移動用の船ではないという事じゃよ……」
幼き様相を残す少女に見つめられさすがの月の民も少し照れた様子だ。
「仮にも大いなる宇宙の船旅を経験してきた船。万一の自体を考慮して様々な仕掛けが用意されておる」
馴れた手つきで操縦機器に用意されたパネルをいじっていくフースーヤ。
「実行者――フースーヤ……本人と認定。承認完了――」
再び、あの録音された音声が聞こえてきた。
「月面船。戦闘モードに移行。準備に移ります。各種武装ロック解除。以下――操縦権をフースーヤへ委ねる」
淡々とした声で次々と読み上げられる言葉はセシルにも理解できるものであった。
「戦闘モード。この船にも武器がついているのか?」
「さっきも言っただろう。万一の自体を考慮して様々な仕掛けがあると……最もクルーヤにとっては不本意なものであっただろうがな……」
月の民の老人の顔が少しばかり曇る。
ただ単純に青き星へと憧れ、この地へと赴き一生をまっとうした男。セシルの父クルーヤ……この星に対しての愛は月の民であっても
青き星に住む者と同じかそれ以上であっただろう。
「こんな形で我々の兵器が青き星の地で戦いを繰り広げるなど、あやつは決して望んではおらぬであろう……」
「…………」
「しかしだ」
感傷に浸る一行の会話を再開させたのはやはりフースーヤの一声だ。
「例えこの船が武装を装備していようが状況は悪ままだ。所詮、月面船は脱出船。破壊も目的として造られたバブイルの巨人相手に
まともにやって敵うわけもない」
「やっぱり駄目なのかよ」
「それどころかあの巨人の目的――ゼムスの目的はあくまでこの地上の破壊。あいつの事だ……巨人を手に入れた今、初めから我らなど敵ではないと
思っているはず。近づく我らを迎撃すると同時に地上への攻撃も開始するであろう」
落胆するエッジに更に追い打ちをかけるフースーヤ。
誰も抗議の声を上げない。エッジでさえも、フースーヤの冷静な分析に反論する余地がないのもあるが、目の前に訪れた危機に大して
絶望的な想いを抱えているからだ。

122 ◆KSL.Z2QebY:2012/01/30(月) 20:32:19
FINAL FANTASY IV #0664 9章 3節 地上を救う者達(7)

「いや、まだこの船には隠された秘密がある。あの巨人にすらない月面船だけの武器と呼べるものが」
(やはり)
皆が絶望にくれる中セシルはまだ希望を捨ててなかった。
(それはおそらく――)
鍵を握るのは自分とフースーヤ。つまりは月の民であろう。
「じゃあ……」
仲間たちの眼にも光が復活する。
「意地がわるいぜ! じいさん!」
エッジの口にも軽口が叩けるほどの勢いが戻ってくる。
「それで、この船にだけ用意された武器ってのはなんなんだ?」
(おそらくはこの船にだけあるもの――)
会話の最中にセシルの視線は一つの場所にたどり着いていた。
「あれだ」
フースーヤがエッジの回答に答える。それは先ほどからセシルが視線を移した場所――
月面船の中枢部。
「クリスタル?」
中央台座に備え付けられた一点の曇りなく輝きを放つ水晶。一連の騒動に常に関わってきた存在。
フースーヤの指先は微塵のぶれも無く、そこを指定していた。勿論、セシルの視線もだ。
「これがなんだっていうんだよ?」
エッジが当然といったばかりに質問を返す。今のフースーヤの説明だけ理解するのは無理な話だ。
「このクリスタルは月のクリスタル。月の民の血を引く者の力ならばその力をこの船へと注ぎこむことができる」
「だったらどうなるんだよ……」
エッジを含めた三人は未だ説明不足といった感じだ。
「この船全体に巨大なバリアを張る…あの巨人の最大威力のビームの直撃にも耐えれるほどの。それがこのクリスタルを用いれば
できるということだ」
時間がないというばかりに簡潔に結果だけを説明するフースーヤ。
「それじゃあ」
皆の眼に希望の光が宿る。
「ああ……いくら巨人とて最大攻撃の後にすぐさま同じ攻撃をすることはできんはずだ、そのバリアで耐えつつ巨人の攻撃の手が
緩んだ時に一気に奴に侵入する……中々良い作戦であるはずだ……」
そう言いながら月の民である老人の言葉の歯切れは悪い。
(それは、おそらく……)
バブイルの巨人と比べれば、のみの様な小ささの月面船であるが、その船体は青き星の飛空艇に比べると遥かに巨大なものである。
その装甲全てを覆い尽くすほどの防壁結界を張るのは並々ならぬ力が必要なはずだ…
先ほどのフースーヤの言葉から察するに、作戦を確実に成功させるだけのバリアを張れるのは彼一人では難しいのだろう。
セシルはそう判断した。

123 ◆1p6lZ8FdLQ:2012/01/30(月) 20:33:05
FINAL FANTASY IV #0665 9章 3節 地上を救う者達(8)

「フースーヤ」
折角、先へ進む道に光明が差したのだ。皆の眼に再び絶望の色を灯させたくはない。
そう思ったセシルは作戦を開始する直前、ローザ達に気づかれるようにこっそりとフースーヤへと語りかけた。
「何だ……」
言葉では疑問を発してはいるが、月の民である老人は全てを悟っているようであった。
「あなただけの力では作戦を成功させるだけのバリアを張ることはできない……そうですよね??」
「…………」
無言は肯定を意味していた。
「だったら僕も手伝います! 僕にも月の民の血が流れているだったら力になれるはずだ」
「しかし……」
フースーヤの言葉が続かない。
セシルに協力を頼むことに引けを感じているわけではないのだろうが……
「フースーヤ!」
「すまない、頼む」
協力を拒み続けるフースーヤであったが、セシルの強めの叱咤に決断を強いられた。
「ありがとう」
それだけ言って、すぐにクリスタルへと手を触れる。
(こうすればいいんだな……こうやって力を注げば……)
「あまり力を使いすぎるな……お前はまだやるべきことが残っているはずだ」
「わかっています」
フースーヤの忠告に耳を貸しつつも、セシルは一人で想いを馳せていた。
(おそらくはこれが最後の戦いになる……否、仮にそうならなかったとしても僕にとって重要な戦いとなるはずだ
巨人の中へはカインがいる、そしておそらくにい……ゴルベーザも、二人とも決着をつけなければならない……)
特にカインとは何があってもだ。
(エッジ、リディア……ローザ。ここにこれなかったみんな……ギルバート、ヤン、シド、そしてポロムにパロム。
戦いで命を散らしたテラ……みんなの力があったからここにここまで来れた……だから最後にもう一度力を貸してくれ
そして見守ってくれ……)
想いの力がクリスタルへと注がれる。
(行こう……もうすぐだ、カイン)

124 ◆W4g5HNoLOg:2012/01/30(月) 20:34:30
FINAL FANTASY IV #0666 9章 3節 地上を救う者達(9)

(巨人への侵入口は奴の頭部。人間でいう口の部分だ)
フースーヤの一声が作戦の全てであり、最終目標を示していた。
侵入口まで行って巨人を内部から叩く。それだけである。
そして目標を達成するための手段もひどく簡潔なものである、月の民の力で生み出した障壁で
巨人の猛攻を耐えて、一気に近づく……要は強行突破だ。
単純すぎる計画には考えるだけの時間を必要としないだけあって動き出すのも早かった、だが同時に考えられていない
側面があるのも事実だ。
セシル達が選んだ手段はいわば見切り発車的な要素が含んでいるのは間違いない。そして、成功する確率も決して高くない
それどころか失敗のリターンの方が高い――
「耐えれるのかっ……!」
相次ぐ巨人の迎撃行動によって月面船内部は激しい震動に見舞われていた。
幸いにもその猛攻がセシル達のいる場所に及んでいないのはバリアのお陰なのだが、無理にでも進むもうとするのならば
バリアを破られてもおかしくない状況だ。
巨人の攻撃が思った以上に激しかったのか? はたまたバリアの力が不足しているのか?
どちらにせよ、作戦の脆さが露呈してきたのだ。
「もう少しだっ! なんとか持ちこたえてくれ……」
セシルの不安と疑念に、言葉を帰すフースーヤ。
しかし、老人から出てきたのは確信ではなく願望であった。セシルだけでなく、フースーヤも危機を感じているのだろう。
見るとローザ達の顔にも不安の色が浮かび上がっている。
どうやら皆、同じ考えなのだろう。
(しかし……ここでひるむ訳には…終わるわけにはいかないんだ僕は……)
他の者に不安をかくさんさせないようにひとりごちる。
目の前のモニターはひるむことなく攻撃を続ける巨人の姿をただ鮮明に映し続けている。
(…………)
その光景を見ると弱い考えに浸食されそうに思いセシルが顔を伏せる。
(しかしこれは逃げだ……何か考えないと……ん――)
その時であっただろうか、先ほど目をそらしたモニターに写る巨人に対して何かが横切ったのは……

125 ◆W4g5HNoLOg:2012/01/30(月) 20:35:25
まちがえ

126書き手 ◆uU5P6tGueQ:2012/01/30(月) 20:36:22
まくりですね…トリップ
もう名無しでかきます

127書き手 ◆uU5P6tGueQ:2012/01/30(月) 20:37:10
とおもったらこれであってた

128ピクセルリマスター記念:2021/09/17(金) 21:47:09
FINAL FANTASY IV #0667 9章 3節 地上を救う者達(10)
地上を疾走するいくつもの鉄塊、それには見覚えがあった。
「戦車、ドワーフのみんな!?」
リディアが疑問と断定交じりの言葉を発する。
どうやらセシルと同じ考えにいたったようだ
「ドワーフ戦車隊見参! 母なる大地の為、我々も戦う!」
地底に技術の結集である兵器から拡声器に乗ってジオット王が勢いよく名乗る
その声は地上に響き、月面船の中にいるセシル達にもモニター越しに聞こえてくる。
「へへ、王様自ら出陣とはな! やっぱそうでなくっちゃな」
エブラーナの王子であるエッジが呼応する。
「頼もしいぜ!」
エッジの声に鼓舞されるように戦車は次々と地上を疾走し増えていく。
やがて地上をうめつくすかの如く戦車は増えていく。
「セシル殿!」
各々名乗りを上げたり、戦いの意気込みを見せるドワーフ戦車隊。
その中の一つにセシルの名を呼ぶ見覚えのある声が聞こえてきた。
「ヤン!!」
その声に気が付き、真っ先に喜びの声をあげたのはリディアだ。
「おいおい、怪我人はちゃんと寝てないと……」
無邪気に喜ぶリディアとは対照に少しばつが悪そうなエッジ。
「この大地の危機なんですぞ! 私だけ寝ているわけにはいくまい!」
月へと旅立つ少し前の事――セシル達は地底のシルフ達の洞窟を訪れた。
人間を嫌う妖精たちがなぜセシル達に姿を見せたのかそれはわからなかった。
しかしそこには死んだはずのヤンをシルフ達は介抱していたのだ。
「私たちもいるよ!」
無邪気で元気な少女のような声、それはあのシルフ達のものだ
「シルフのみんな!」
シルフに呼応するかの如く、リディアが無垢な声で喜ぶ。
「私たちも力を貸すから! 頑張って」
「うん!」
この状況にいささか不釣り合いといえるやりとりをしながらリディアはそっと胸に手を当てる。
召喚士であるリディアはセシルとの旅路でシルフだけでなく沢山の力を手に入れた。
(新たな故郷では幻獣王であるリバイアサンと女王アスラの力、月面では幻獣神バハムートの力…)
セシルはひとりごちる。
(そして父上――オーディンの力)
バロン王は命尽きてもセシル達の力となるべくその力を召喚獣へと変えてここにいる。
(みんなが僕たちの戦いを助けてくれる)
「わしもいるぞ!! セシル!!」
感傷に浸る間もなく聞こえてきたその声を間違えることはない。
幼少の頃から父と同じく聞いてきたその声は――
「シド!」
セシルに先んじてローザが涙交じりの声でその名を呼ぶ。
彼女にとってもセシルと同じだけの時間をすごしてきたのだ。
「ワシが来たからにゃ、心配要らんぞ! セシル、ローザ!」
モニターの戦車隊から視線をあげると、上空にも幾多もの飛空艇が巨人へと向かって空を駆けている。
全体モニターとは別に拡大モニターがより鮮明に移す。密閉された戦車と違い、飛空艇のブリッジにははっきりとその人物をうつしている。
(それに…)
「久しぶりだな! あんちゃん!」
駆け付けた飛空艇の一つに他にも見慣れた顔を見かけたのと同時に声が伝わってくる
「パロム」
「へへっ……うっ!」
セシルが気づいたのを察知したのかモニター越しにポーズをとるパロムを制して割り込む
「セシルさん! 私も……ポロムも長老さまに助けてもらったのですわ。ほらこの通り!」
幼き双子の魔道士はその身体を自らの魔法で石としてセシル達を救った。テラや自分達の救済すらも受け入れない強い意志で。
しかしセシルの心配をはねのける意味なのか、石化を解除されたといった意味を伝えるなのか。
元気一杯な様子を身振り手振りで伝えてくる。
「おいらもだぜ」
蚊帳の外にはならないというばかりにポロムも会話に混ざろうとする。
「ギルバートだ!」
双子に負けない元気のよい声が近くから聞こえる。リディアだ。
「セシル、ギルバートも来てくれたんだよ!」
モニターからこちらは見えているのだろうか? そんな疑問もよそに全力てリディアは手を振っている
リディアと同じ方向のモニターに目を向ける。
飛空艇のブリッジにはいささか不釣り合いな女官達の中には華やかな装飾と端正な顔立ちの青年、吟遊詩人であるギルバートで間違いない。
「セシル」
静かな声がこちらに響く。体の方はまだ完治していないのか、風の強いブリッジでその細身はやや所在なさげに見える。
近くにはトロイアでの彼の医師も同伴し、やや心配そうな顔をしている。
ギルバートの手が静かに上がる。
近くの医師や女官に向けたものか、それともセシルの気持ちを読み取ってのものなのかはわからない。
それは心配はいらないという意味なのだろう。
「君たちに教わった勇気を見てくれ」
静かだが確かにセシルに向けた言葉だった。
「そしてアンナ……テラさんも」
微かにそう付け加えた。

129ピクセルリマスター記念:2021/09/17(金) 21:48:18
FINAL FANTASY IV #0668 9章 3節 地上を救う者達(11)

「セシル、みんなが……みんなきてくれた!」
近くにいたローザがぎゅっとセシルの手を握ってくる。
「ああ」
見るとローザの目には涙が浮かんでいた。きっとセシルも似たような表情であっただろう。
(みんなが)
心の中でセシルの決意が固まる。
「フースーヤ」
出来事の一部終始を黙ってみていた月の民へと声をかける
「みんなと話がしたい。できるかな?」
「クリスタルを使えば可能であろう」
そう言って視線を船内の中央に鎮座するクリスタルへと向ける。
「しかしバリアは展開中じゃ、あまり長い時間は無理だ」
「わかった」
自分の提案を受け入れてくれたフースーヤに感謝をしてセシルはクリスタルへと手を触れる。
「ローザ、リディア、エッジ。君たちも来てくれ」
仲間たちを自分の後方へと案内する。
(みんなに届け)
クリスタルがわずから煌めきと共に一筋の光を船外へと射出する。その光は上空で広がり外部モニターからでもわかる大きさへとなっていく。
やがてそれは船内のセシル達を映し出すホログラム映像へと変わった。
「おおっ! セシル!」
シドの声が自分の提案が上手くいったのだとわかる。
「みんなありがとう」
船内から外の皆へ感謝の言葉を伝える。
「そしてこれから大変な戦いになるかもしれない。苦しいかもしれない。身勝手なお願いかもしれない。でも僕と一緒に戦ってほしい」
今の自分にできる精一杯の声をひねり出した。そのつもりでセシルは喋っている。
「そなたたちだけではない!」
聞こえてきたのはミシディアからの船だ。
「この大地に生きとし生けるもの全ての 命の戦いじゃ!」
パロム、ポロムを左右に従えて立つのはミシディアの長老だ。
(長老!)
あの日ミシディアから一つのクリスタルを奪取した暗黒騎士がいた。そこから贖罪の旅は始まったのだ。
「ありがとうございます」
軽く会釈。はっきりと前を向きセシルは言葉を続ける。
「みんな、もう少しだけ力を貸してください。きっと最後の戦いになる。だから僕にもう少しだけつきあってほしい」
ミシディアから始まった旅、パラディンとなり歩いてきた道、それらの足跡は今――長き旅路は着実に終わりに向かっている。
(まだ終われない)
軽く心でひとりつぶやいた。

130ピクセルリマスター記念:2021/09/17(金) 21:49:35
FINAL FANTASY IV #0669 9章 3節 地上を救う者達(12)

セシルの言葉が戦いの狼煙であった。
ジオットを始めとしたドワーフ戦車隊。シドが用意した飛空艇部隊。
それぞれが攻撃を開始した
「これが最後なんじゃ! これが終わればもう戦車はいらん。だからどんどんうちまくれ!」
「そうじゃこっちも武器にはせんわい!」
地底と地上二つの世界の技術の枠がバブイルの巨人の進行を食い止める。
すでに戦闘が始まって小一時間は立っているだろうか
巨大な敵を相手にここまで戦闘を継続するシド達には頭が下がる思いだ。
だがそんな気持ちとは裏腹に巨人がダメージを受けた様子はなかった
「巨人がひるんでいる!?」
最初に驚くのはローザ。
確実に巨人の接近を拒む攻撃の動きが鈍くなっているのに気付いたのだ。
「時間稼ぎにしかならんと思っていたが――」
最初から地上の攻撃を当てにしていなかったと思われるフースーヤもこの変化には驚いている。
「今の内に内部に入る!」
「最初から言っていたやつの心臓を叩くってわけか!」
作戦を後方で聞いていたエッジが腕をかち合わせ意気込む。
「だったら機動性のある飛空艇で一気に接近する!」
セシルは提案した。
巨人の手がとまった以上小回りの利く飛空艇で一気に接近してしまえばいい
「うむ」
フースーヤも承諾した
「シドに頼もう!」
「時間がない クリスタルを使って一気に行く!」
踵を返し月面船を着陸させようとした矢先、今度はフースーヤが提案する。
「中央のクリスタルを使って、シドとやらのところまでいく。わたしも一緒にいくぞ」
既に集まっていたローザ達の元に歩き出すフースーヤとセシル。
「月面船は大丈夫なのか」
「安心しろある程度はオートで動いてくれる、私たちがいなくなった後はいったん戦線を離脱して着陸させるように指示している」
後方席の休憩室の方へ眼をやりながら話すフースーヤ。
台座中央に到着してセシルは再びクリスタルへと触れる。
「セシル、シドの飛空艇の元へ行きたいと念じるのだ」
ゾットでの戦いの後、ローザの転移魔法テレポが脱出魔法以上の力をもってバロンまでセシルを導いた。
あの時と似た使い方なのだろう。
想いの力とでもいうのだろうか
時には強い力にもなる。時には嫉妬から醜い感情になる。時には心配から恐怖や不安に駆られる。
そのどれもが人が誰かを大切に感じ何かを大事に想う気持ちからくるのだ。
(その力を無駄にはしない)
確かな思いを込めてセシルはクリスタルへと念じた。

131ピクセルリマスター記念:2021/09/17(金) 21:50:05
FINAL FANTASY IV #0670 9章 3節 地上を救う者達(13)


視界がぼやける
見えるものがすべて白。
そういった時間が数秒あっただろうか。
段々と目の前の風景がはっきりとしたものになる
「……シル」
聞き覚えのある声がはっきりするまでの時間はわずかであった。
「おおっ! きおったかーセシル」
驚いたというよりも、半ば予想していたといった感じのリアクション。
セシルが自分を頼ると思っていたのだろうか。
「シド!」
自分の知る元気のよいシドに対して安心と信頼の笑みを返すセシル。
「大丈夫なの」
少し心配といった表情のローザが質問する。その心配はもっともだ。
シドは地底世界からセシル達を逃がすためにその身を挺した。
その時はセシルもローザもシドはその時に死んだものだと思っていた。
しかしエッジと行動を共にしファルコンで地底、ドワーフの根城へと帰還した際に見たのは、
重傷を負いながらも生還した父親同然の老技師の姿であった。
セシル達の姿を見るや怪我などなんのその敵の本拠地から乗ってきた新たな飛空艇を改造し
地底での移動をより容易くしてくれた。
あの時も怪我を看病していたドワーフ達を抑えて整備に没頭していた。
「あんときは世話になったぜ……」
苦虫を噛みしめるようなエッジ。
「エッジとリディアも巨人へいくのだな」
エッジはファルコンの改造の時に半ば強引にシドの手伝いをした。
最後の方は割と楽しんでいたのだが……
「やつの口から内部へと侵入する、口に近づくのだ!」
あくまで冷静な指示を出すフースーヤ
「誰じゃ?」
「月の民、フースーヤ」
シドの疑問にも単刀直入に名前だけを名乗る。
「月の民ー?」
淡々と名乗るフースーヤにシドは疑問をぶつける。しかし特に怒っているわけでもなさそうだ。
「出来るか?」
結果だけを尋ねる。
「わしを誰だと思っとるんじゃ! 飛空艇のシドじゃぞ! 任しとかんかい!」
言い終わらぬうちにブリッジの部下たちへと指示を出していくシド。
しばらくもたたぬうちに飛空艇ブリッジはあわただしくなった。
「隊長!」
巨人へと向かう飛空艇
人の行きかいが激しくなる中でセシルを呼ぶ声が聞こえる。
「みんな!」
忘れもしない、過去にセシルが隊長を務めていた赤い翼の隊員達だ。
「立派になられて!」
パラディンとなって彼らに会うのは初めてだ
それでもかつての部下は自分を見間違うことはなかった。
「飛空艇さえあれば我々も隊長の力になれますよ!」
「みんなありがとう!」
「セシル準備ができたぞ巨人まで一気に行くぞ!」
飛空艇発進を促すシドの声。
「振り落とされないようにしっかりつかまってろ」
ブリッジの強風が強くなる。
瞬くように空の景色が速くなり、前方へと立ちはだかる巨人が視界を支配していく。
「飛空艇が接近できるのは僅かな時間だけじゃ! その間に一気に飛びうつれよ」
攻撃の手が緩んだとはいえ巨人はいまだに健在だ。
のんびり近くを旋回していては撃ち落されるだけだ。
「よし今だ!」
柄にもなく熱い叫びをあげるフースーヤ。
「着地の衝撃は私がやわらげる」
その言葉が作戦開始の合図となった。
「先に行くぜ」
エブラーナ忍者のエッジが先陣を切る
続くセシルはわずかな時間後ろを振り返り敬礼する。
いってくるバロンの赤い翼としての敬礼を部下へとする。
視線を前へと戻す一瞬の間、部下たちの敬礼も見えた。

132ピクセルリマスター記念:2021/09/17(金) 21:50:54
FINAL FANTASY IV #0671 9章 4節 悪夢の崩壊(1)

作戦は無事成功
巨人内部の心臓部分である。制御システムを叩くという新たな段階へと突入した。
月の技術で作られた想像を絶す大きさのバブイルの巨人。
その内部も非常に精巧な機械の迷宮であった。
こやつの心臓部は腹部の方だ。
フースーヤの言葉。それは外部から見た巨人の外観からも想像できた
外から見えた中央のコア部分そこが心臓で間違いないだろう。
とにかく下へ向かう
それがセシル達の共通認識だったのだ。
巨人の口・巨人の首・巨人の胸。
人間の体に例えるとそういった部分をセシル達は降りて行ってるのだろう
当然道中にはバブイルと同じく、ガードロボットといった類の侵入者撃退する
今は腹部辺りだろうか
道中のガードロボット達以外にもこのバブイルの巨人を小型化したような兵器が現れた。
巨人兵
フースーヤが言った
警備が強くなっているのは目標が近いということの表れだろう。
「時間がない」
先ほどからずっと上空を巨大な目を携えた飛行物体が徘徊している
バブイルなどでもあったその兵器はサーチャーといってセシル達をとらえると
すぐさま警報をならしてガードロボットや巨人兵を呼びつける。
「こりゃあキリがないぜ」
エッジが破壊したサーチャーの残骸を漁りながらもいう。
その手にはサーチャーに内蔵されていた機械だろうか小型のアラームが握られていた。
「これがずっと援軍を呼んでくる」
「最低限の敵を倒して奥まで行く」
セシルの意図を理解したのか、同じ意見だったのかフースーヤが呪文を詠唱する
目前巨人兵に対して一陣の風がふく
トルネド、一見して巨人兵達にダメージはない。しかし剣で切りつけなくとも、リディアが魔法増幅のために携帯しているロッドで小突いても
巨人兵は崩れ去ったり、静かに機能を停止する。
トルネドでおこされた風は関節部などから巨人兵の内部へと入りダメージを与えたのだ。見てくれからは想像できないダメージを与えている。
「すまない」
戦闘の緩急の中で感謝を口にして奥へと進む。
最低限の消耗で最深部へと進めるのはありがたかった。

133ピクセルリマスター記念:2021/09/18(土) 00:24:36

FINAL FANTASY IV #0672 9章 4節 悪夢の崩壊(2)

巨人の腹部を抜けた後は以前までの巨大な通路から段々の狭まった道へとなっていく。
やがて巨人内部ふきぬけとでもいうべき小道へとたどり着く。
一直線に伸びる道はこの先が目的地だということを嫌でも感じさせてくれるものであった。
先ほどまでの大型の巨人兵から小型の機銃や小規模勢力が邪魔をするだけであり、その道のりは最前までの戦いに比べて楽なものであった。
(制御システムは近い)
しかしセシルにはまだ一つの気がかりがあった。
(おそらくは最深部にはゴルベーザがいる)
そしてそこにはもう一人
「あれは」
誰が放った言葉だろう。ほぼ同時に何人かが放ったのかもしれない。
吹き抜けの中間地点。
今までの細道から一転し広めの踊り場が見える。その中心部に微動だにしない人物が一人立つ。
「カイン」
皆を代表してセシルがその名前を呼ぶ。
「通せんぼか」
エッジが挑発気味のせりふを放つ。土壇場で裏切りクリスタルを奪還されたのだいい思いはしないのだろう。
「セシル」
その言葉が聞こえないのか無視しているのかカインはセシルの名を呼んだ。
「抜け」
「!」
予想はしていた言葉だ。
鞘から聖剣を抜き、戦闘態勢をとる。
「どういうことだ?」
「カインは……僕が引き受ける」
その言葉をカインは否定しない
「一騎打ちだ
パラディンと竜騎士の同時の言葉
それが結論であった。
「先を急ぐぞ」
困惑気味の中切り出すフースーヤ
それが合図にエッジとリディアも制御システムの待つ奥へと急ぐ。
しかしその中で今だ二人の後ろに立つ姿が一つ――
「ローザ」
ちょっとだけ驚いてセシルが声をかける
「お願い、ここにいさせて」
はっきりとそれだけ言ってローザは黙り込んでしまった
「わかった」
セシルはそれだけ言ってカインに向き直る。どうやらカインもその選択を咎めることはしない。
「存分に振るえそうだな」
挑戦的なカインの意図はわからない。
操られた行動なのか、自分の意思なのか。はたまたその間で苦しんでいるのか。
しかし自分はこの挑戦を受けて立つと決めた。それならば手加減はしない。
「闇も光も……僕の力だ」
お互いの総力戦が始まろうとしていた。

134ピクセルリマスター記念:2021/09/18(土) 00:25:11
FINAL FANTASY IV #0673 9章 4節 悪夢の崩壊(3)

制御室へと向かうエッジ一行の旅路は無口なものであった。
もともと必要最低限なことだけをいうフースーヤはまだしも、リディアも何も言わなかった。
「ここが巨人の心臓部、制御システムだ!」
沈黙を打ち破ったのはフースーヤだ。
「でけえ!」
想像を超えたものに対してさすがのエッジも声を荒げた
中央部に黒い球体。このサイズは大型モンスターやドラゴンのそれを遥かに超えたものであった。
(あの封印の洞窟の扉のモンスターが出してきたやつよりもでかいな)
地底最後のクリスタルそれの封印を解きに向かった洞窟。侵入者を排除する数多くの扉の罠を搔い潜りやっとの思いで
手に入れたクリスタルをカインによって奪われてしまった苦い記憶もよみがえる。
「くっ……」
そのことはセシルに任せた。そう思いぐっとその気持ちをひっこめた。
周りの小型球体は一体?
「防衛システム、迎撃システム。制御システム本体より先ず防衛システムを叩かねば、修復されてしまうぞ!」
新たに芽生えた疑問に巨人に精通した月の民が答える。
「迎撃と防衛の二つは絶えず補充されてくるだろう」
「つまりは」
二つの補助システムをいなしつつもいつかは本体を破壊しないといけない。
「誰かをが制御システムへの攻撃の集中役とする」
後は補助に回り、<迎撃>と<防衛>を破壊、それが作戦か。
「では誰が……」
フースーヤの提案を飲み込もうとしたその時であった
目の前の黒い球体から声が聞こえてきたのは。
「久しぶりだねエッジ君」
「!」
その声は忘れもしない。
「ルゲイエ」
エッジの心に静かに怒りが灯る。
「生きていたんだな」
「ふんようやく巨人の力を手に入れたのだ。まさかこの期に及んでまで邪魔をしてくれるとはね」
どうやら肉体を捨ててでもこの月の力が欲しかったようだ。
「へへちょうどよかったぜ」
両親を亡き者にしたルゲイエを逃したことはエッジにとっては気がかりであったのだ。
「この巨人をぶっ壊せば、おめーも倒すことができるって事だろ。フースーヤ!」
覚悟を決めたエッジはフースーヤに視線をめぐらす。
「さっきの制御システムへの攻撃役、俺にやらせてくれ!」
「何を言うのかと思ったら――」
「私からもお願い!」
助け船を出したのはリディアだ。
「それにあの制御システムはおそらく魔法に対してリフレクをはってるわ。直接攻撃するか、私が幻獣の力を借りた方が
いいと思うの」
「ふむ確かにな」
その言葉に説得力を感じたのかフースーヤはエッジの提案を受け入れた。
「でもそうなると、ひきつけ役をフースーヤひとりが」
「私を誰だと思っている」
心配するリディアをよそにフースーヤは珍しく熱く語る。
「いいだろうお前たちの賭けにのってみよう! ところであのルゲイエというやつは」
「ゴルベーザ達に味方してる科学者みたい。ローザの昔の先生でもあったみたいで」
「ありふれた悪党だ」
フースーヤはそれ以上興味を示さなかった。
「どのみち巨人を破壊せねば月も蒼き星も未来はない。この戦いお前たち二人にかけてみよう」
「ありがとよ」
意気込んで切り込むエッジとそれを追うリディア。
「クルーヤよ」
それを見送るフースーヤは誰にも聞こえない声量で語る。
「お前が何故、蒼き星の民に惹かれたのか、そして二人の子供を残したのか。少しだけわかったような気がする」

135ピクセルリマスター記念:2021/09/18(土) 00:25:44
FINAL FANTASY IV #0674 9章 4節 悪夢の崩壊(4)

竜騎士の脚力を生かした空中からの強襲
さきほどからそれが幾度となく繰り返されている
「やはり強い」
正気ではないのかもしれないが、その強さはカインのものだ。
まったく鈍ってはいない。
(素早さと空中戦はあちらに分がある)
「ゆくぞ」
空中から神速の一撃が放たれる。
防御態勢を取りながらセシルは剣と盾を駆使して受け止める。
(下手に回避はできない)
カインはすぐさま離脱、またもや上空からの攻撃を仕掛けようとする
「誓いの槍よ!」
上空から加速し、槍を投擲。
「くっ!」
その攻撃にセシルは怯み、大きく突き飛ばされた。
「今の一撃、もう一度くらうと立ち直れないな」
防戦一方だ。
「終わりか?」
その言葉にはまだやれるだろうの意味。
「何度でも立ち上がってみせる!」
「そうでなくてはな」
当然だとばかりにカインは再び跳躍、空中からの攻撃に移行しようとする。
「竜騎士の誇りに懸けて!」
今までで最大の高度から出される一撃
「決める!」
それが決着をつけるというカインの意思なのだろう。
セシルも覚悟を決めた。
「光と共に!」
防御はこちらが上だ。
真向から相手の技を受け止めてカウンターをする。
それがセシルの戦法だ。
「僕の全てを!」
「ぐっ!」
カインのジャンプ攻撃を聖剣は受け止めて反撃に生じる。
「ここまでだと……」
カインが大勢を崩し床に肘をつく
「この力と共に……」
それはセシルも同じで大きく体制を崩していた。
「僕は進むんだ!」
わずかな体力差であったがセシルは立ち上がった。

それからどれだけの時間が流れたのか……
「セシル」
「ああ、いこうか」
言葉はそれだけであった。
「行くがいい」
カインもそれだけしか言わなかった。
カインを後目にセシルはローザと歩き出す。
(今回は僕が勝った?)
勝利の確信はいまだにない。
(いや戦うことに意味があった)
セシルはそう思った。
(カイン。決着はいずれ)
次は本当に勝負をしよう。セシルは心にその気持ちをしまい込んだ。

136ピクセルリマスター記念:2021/09/18(土) 00:26:14
FINAL FANTASY IV #0675 9章 4節 悪夢の崩壊(5)


制御室を緊急警報が支配する。
制御システムが本格作動したのだ。
防衛システムは絶えず迎撃レーザーを侵入者のエッジ達に向け、回復システムは各種破損を直す
道中のサーチャーもだがおそらくは巨人内部で製造され絶えず補充されていく。
フースーヤの頑張りは説明されるまでもなくエッジに伝わった。
既に防衛システムの猛攻はなりをひそめ、制御システムにもダメージが蓄積していっているのは明らかだった。
「恩にきるぜ」
黒い球体から発せられるルゲイエの声は小さい
「おのれ」
かろうじて声をひねりだしたルゲイエの声は劣勢だと表現していた。
「ルゲイエ、お前は許さねえぞ」
両親やエブラーナの事を思うとその気持ちは揺るがない。
「かくなるうえは」
「エッジ離れて」
ルゲイエとリディアの声と同時に制御システムが爆風を上げる。
「よっと」
瞬間、忍者の身のこなしで後方へと下がるエッジ
「自爆したのか?」
わからない。しかし今までのルゲイエのしつこさに比べると物足りなさを感じた。
しかし見るところ制御システムは小規模な爆発を繰り返し、あちこちから煙を上げている。
補助システムも停止しているようで、修復不能であることはエッジにもわかった。
「おやじ、おふくろ……敵はとった」
ルビカンテ、ルゲイエ。自分の怒りを任せて倒した相手を思い出す
「人間の怒りの力」
「エッジ!」
リディアが慌てて駆け寄ってくる。
「この通りシステムは停止したぜっ……って」
エッジが驚いたのはリディアが泣きそうな表情をしていたからだ。
「よかった」
元気なエッジを見て今にも泣きだしそうなエッジ
「し……心配すんなよ」
思った以上のリアクションに戸惑いながらかえすも
「よかった…でもこれからは……あまり怒りにまかせて戦わないでね」
怒りは一歩間違えれば憎しみとなる。それはエッジもわかっていた。
「ああ。だから心配すんな」
「うん」
(おお……)
いつもと違うリディアの表情に心の中で喜びをかみしめていると――
「片付いたようじゃな」
フースーヤが駆け付ける
「フースーヤ」
少しばかり落胆したエッジの声。リディアはどんな表情をしているのか
気になってみる
「セシル、ローザ」
さっきの表情はすでになくいつもの無邪気さが戻っていた。
見れば制御室に駆け付けるセシル達に手を振っている
(進展なし……か)
しかしこれで終わりではない
「まだゴルベーザがいる」
戦いは続くのだ。

137ピクセルリマスター記念:2021/09/18(土) 00:26:45
FINAL FANTASY IV #0676 9章 4節 悪夢の崩壊(6)

フースーヤ達に追いつき制御室へとやってきたセシルとローザに
真っ先に眼に入ってきたのは煙を上げ機能停止した制御システムであった。
「みんながやってくれたのか」
うれしみの気持ちを抱きながらも、ぎゅっと身が引き締まる想いが駆け抜ける。
「システムは破壊した。だとすればおそらくはゴルベーザが」
制御システムの奥、そこから人影が一つ。
鎧の音とともに、そのシルエットが浮かびあがる
「やはり……」
その姿はまぎれもなくこの戦いの中心にいる人物ゴルベーザだ。
「おのれええーーーーーよくも巨人を!!」
しかし現れたゴルベーザはセシルが今まで抱いていた印象とは違った。
(動揺している)
これまでもゴルベーザと戦ってきた中でここまで動揺した姿を見たことはない
巨人が破壊されたからかだとしてもあまりにもいつもとは違う。
(これではまるで別人……)
「おぬしは!」
セシルが疑問を抱いていると隣にいるフースーヤが声を荒げた。
これまで冷静な判断を下してきた、月の民である彼がここまで声色を強くするも珍しい
「なんだ貴様は!」
フースーヤはゴルベーザの元へと駆け寄る
当然それを黒衣の男は振り払おうとするのだが……
「お主! 自分が誰かわかっておるのか!?」
「お前など知らん! 離すのだ!」
必死なゴルベーザを見てフースーヤの考えは確信に変わったようだ。
「やはりお前かゼムス! 思念が強くなっている。いい加減、その体を返してもらおう!」
「やめろおお!」
「目を覚ますのだ」
フースーヤは手のひらをゴルベーザに向けて念を放つ。
瞬間、激しい暗転と衝撃がセシル達を襲う。
一瞬の出来事が終わり、目を開ける。
そこにはゴルベーザが立ち尽くし、フースーヤは後ろに倒れこんでいた。
「おいっ、じーさん!」
その光景はゴルベーザがフースーヤを倒したものだと最初はだれもが思った。
エッジとリディアは月の民の老人へとかけよる
「私は何故、あんな憎しみに駆られていたのだろう……?」
ゴルベーザの言葉。それは今まで戦ってきた人物とは思えないものだった。
「自分を取り戻したか。」
エッジ達の心配とはよそにフースーヤは立ち上がりはせずとも、ゴルベーザを見ていた。
「お主、父の名を覚えているか?」
「父……クルーヤか……」
「なんだって!!」
セシルと同じ父の名を呼ぶゴルベーザ。その言葉は嘘偽りを感じる事などは到底できない声であった。
「それじゃ、セシルの……」
「兄貴かよお!?」
「ゴルベーザが!?」
仲間たちの各々の反応も驚きだけであった。セシルとゴルベーザを交互に視線を移し、未だに信じられないといった感じだ。
「ゴルベーザよ。お主はゼムスのテレパシーで利用されていたのだ」
この状況を詳しく話すのは月の民であるフースーヤ
「クルーヤの月の民に血が、よりそれを増幅していたのだ……兄弟で戦うなど……」
フースーヤにとってもクルーヤは弟であったのだ。その子供達が争っていたという事実に対して衝撃はあるのだろう。
「僕は兄を憎み、戦って……」
セシルの目線は自然に、先ほどまでの宿敵、兄である存在へと向かっている。
「お前が私の……」
「でも……もしかしたら、逆の立場かもしれなかったんだ……僕がゼムスのテレパシーを受けていれば……」
どちらが悪い訳でもない。それは間違いないはずだ。しかしもし自分が操られていれば一方的な謝罪で終わる。
そちらの方が楽かもしれなかった。
「しかし、それが私に届いたということは……少なからず、私が悪しき心を持っていたから……」
ゴルベーザが自分の拳を強く握る。
「ゼムス!!」
この戦いの元凶たる人物の名を口にした彼はそのままセシルとは逆方向を向いた。
「どこへ!?」
兄さん……そう呼ぶべきか? 心ではそう思っていてもなかなか声にはでなかった。
「この戦い、私自身が決着をつける!!」
「待て」
フースーヤが立ち上がる。
「ゼムスも月の民! 私も共に行こう……!」
「さらばだセシル!?」
フースーヤとゴルベーザは去っていく。一度もセシルを振り返ることなく。
セシルはただ黙ってその姿を見送る事しかできなかった。

138ピクセルリマスター記念:2021/09/18(土) 00:27:18
FINAL FANTASY IV #0677 9章 4節 悪夢の崩壊(7)

何も声をかけれなかった。セシルは黙ってうつむいていた。
(これでよかったのか?)
「いーのかよセシル」
自分を納得させようとする心を先読みするかの如く否定したのはエッジだ。
「ゴルベーザ……あの人は、死ぬつもりよ……」
見ると近くでローザが心配そうにセシルを見つめていた。
間違いない。ゴルベーザが蒼き星にしてきた事は簡単に償いきれるものではない。
今更この星で仲良く暮らすことはできない。
刺し違えてでもゼムスを倒すつもりだ。覚悟を決めたその時から
セシルの事を一切振り返らなかったのも死を覚悟しているからだろう。
「…………」
「お兄さんなんでしょ?」
ようやく事実を受け止めたのか、当然の事実を口にするリディア。
「兄さん……」
「そうよ!」
ゴルベーザは兄である。
だったらせめてあの時の別れの時に兄と呼ぶべきだったのではないか?
おそらくゴルベーザと再び会うことはもう――
その時であった
既に崩壊を始めていたであろう、バブイルの巨人の内部の轟音が一気に大きくなった。
「やべーぜ」
それがこの時間の解散を告げるようであった。
「逃げないと」
リディアの一声
「脱出魔法を……間に合うかしら」
近くのローザも脱出の準備を始める。脱出魔法には転移先のイメージを捻出したり、自分以外の仲間たちも一緒に運ぶ
ための過程を踏む為に、高い集中力を必要とする。
脱出魔法テレポ。この魔法はセシルも行使することができるのだが、今の状態では成功率が低いとローザ判断したのだろう。
高位の白魔法を使いこなす彼女の判断は迅速であった。
「時間が……」
だが目前に迫る崩壊の速さはローザの判断を上回る勢いであった。
「こっちだ!」
上空に舞う一つの影。あの高度を跳躍できるものは少ない
「カイン!」
ローザとセシルの目前に着地した竜騎士は先ほどゴルベーザ達が去っていった方向を指す
「あの先に俺とゴルベーザが乗ってきた小型飛空艇がある。それで脱出するぞ」
「その手にゃ乗んねーぜ!」
エッジからしてみるとすぐには受け入れがたい提案だったようだ。
「話は後だ! 死にたいのか!」
そういって後ろへを顎を指す。既にここまで来た道は崩壊を始めているようだ。
退路は断たれたそういいたいのだろう。
「早く!」
迷う暇はない。ローザはセシルの手を引き走り出した。
リディアもそれに続く、エッジもやや不満はあるが駆け出した。

139ピクセルリマスター記念:2021/09/18(土) 00:55:19
FINAL FANTASY IV #0678 9章 4節 悪夢の崩壊(8)

無事小型飛空艇で脱出したセシル達は一直線に月面船へと帰還した。
巨人までに助けてくれた仲間達の感謝の気持ちを述べたい気持ちもあったが
カインを皆の前につれていくことは難しいと思ったからだ。
「やっと自分の心を取り戻すことが出来た……今更許してくれとは言わんが……」
月面船にはセシルとローザ、リディア、そしてエッジと巨人突入メンバーしかいない。
「当たりめーだ! てめえのせいで巨人が現れたも同然だ!」
四人とは対面に立つカインに喰ってかかるのはエッジだ。
彼の言うことはもっともでありそれはカインも否定しないだろう。
またこの反応が普通であることもわかった
(やはり皆のところにカインを連れて行かなくてよかった……)
真っ先に月面船に向かった判断は間違いでなかったようだ。
「やめて!」
そんなエッジを窘めるのはローザだ。
「ローザ……」
エッジからかばうようにカインの前に立つその姿にはカイン自身も驚いているようだ。
「ゴルベーザも正気に戻ったので、術が解けたのよ! カインのせいじゃないわ!」
ここにいるメンバーは巨人内部、ゴルベーザの豹変っぷりをみていた。
ローザの言葉はカイン自体が正気に戻った事への説得力をもたせるには十分であった。
「やはり、ゴルベーザも操られていたのか?」
今度はカインが質問をする。
「カイン知っていたのか?」
「巨人内部のお前たちの会話を聞かせてもらった……聞くつもりはなかったのだが……」
「ゼムスという月の民がゴルベーザの月の民の血を利用していたらしいの……」
「それでゴルベーザはゼムスを倒しに、フースーヤと月に向かったの」
リディアが視線を上向きに挙げる。もっともここからは月を見る事のできないが。
「黒幕はゼムスか……ならば俺もそのゼムスとやらにかりをかえさねばならんようだな」
「カイン!」
その言葉がかつての自分の知るカインである事への確信に変わったのだろう
ローザの表情は明るくなる。
「ゴルベーザはバブイルの次元エレベータを使ったのだろう。この船は月とやらには行けるのか?」
「まーた操られたりしなきけりゃいいんだがな。」
既にゼムスとの闘いへの準備の算段を始めるカインにエッジが皮肉交じりの一言をかえす。
「その時は遠慮なく 俺を斬るがいい!」
そんなエッジのまえに立ち覚悟を見せる。
「なら俺も行くぜ! そいつに、ゼムスに一太刀浴びせなきゃ、気が済まねえ!」
その態度にエッジもカインを認めたのか、共闘の意思を見せる。
「エッジ……」
「行こう……」
二人のやりとりを見てセシル自体にも一つの決意が固まっていく。
「僕も……」
もう一度ゴルベーザに会いに行く。すべての決着をつけにいく。
「カイン、エッジ。僕も……僕も月に行く!」

140ピクセルリマスター記念:2021/09/19(日) 17:28:16
FINAL FANTASY IV #0679 最終章 決戦(1)

ミシディアの魔道士の朝は早い。
「ふああぁぁ……」
寝ぼけ眼をこすり、欠伸をしながらパロムが朝のミシディアを歩く。
「ポロムのやつはもう修行を始めてんだろうな……」
もやっと思考で考える少年
巨人との闘いは終わり、そして世界は平和をとりもどした。
そして戻ってくる日常……
「いつもと変わらない修行の日々……」
ミシディアの長老の元行われている魔法修行。
石化が解けるや否やすぐさま再開されたのだ。
(とはいえだいぶ休んでいたからな……)
ミシディアの魔道士としての修行を怠る気持ちはパロムには当然存在しない。
生真面目なポロムや長老の方針がパロムの性格上、合致しないときがあるだけだ。
「あんちゃん達は今日、出発するんだろうか……おいらも行きたかったんだがな」
戦いは終わった。多くの人間はそう思っていた。
「実際みんなもうあの巨人の後始末を始めてるくらいだしな」
半壊し機能を停止したバブイルの巨人は未だにエブラーナ近辺にたたずんでいる。
しかし、いつまでもそんなものを置いておくほどこの星の人々は悪趣味でない。
各国が躍起になって後始末を始めている。
「本当に戦いは終わった。でも……」
空を見る。既に夜明けを迎えたこの朝日に月は見えない。
「セシルのあんちゃん達は戦いにいくんだ」
月にこの戦いの黒幕のゼムスが眠っている。
この話は多くの人には内密になっていた。実際にパロムも最初は教えてもらえなかった。
偶然にも長老とセシルの会話を聞いてしまったから、知ることができた。
「しっかし本当に行くのかな……」
最初はパロムも自分もいくと我儘を言った、しかしセシルの話を聞いて残ることににした。
「でも……たった3人で……」
いつもなら自分も反対して食い下がっただろう。だがその時のセシルの鬼気迫る表情がパロムの引き下がらせた。
「ローザ、早く早くっ!」
子供であるポロムに負けない無邪気な声。それが一気にパロムを眠気を吹っ飛ばした。
「リディア。そんなに急がなくても」
「駄目駄目っ! そんなんじゃみつかっちゃう!」
まだ活動を完全に始めていない街を勢いよく走る緑髪の少女、それを追いかける一人の女性。
「あれはローザだよな?」
もう一人は――
「パロム!」
先頭を走る少女がポロムの名を呼ぶ
「この事は誰にも内緒だからね!」
念を押すリディアをポロムはただ黙って見送った。

141ピクセルリマスター記念:2021/09/19(日) 17:30:14

FINAL FANTASY IV #0680 最終章 決戦(2)

一時間後――
ミシディア近くの山脈に隠れるように停泊していた魔導船が飛び立った。
「これでよかったのか?」
月面船に乗り込むのはセシル、カイン、エッジの三人だけだ。
この中では一番の寡黙であるはずのカインが二人に問いかけた。
「ああ……」
ゴルベーザ達を追いかけて月のゼムスの決戦へと赴く。そのためにはここにいる三人だけで十分である。
あの日――カインと再び一緒に戦うと決めた日にそう判断したのはセシルだ。
(ローザとリディアは残るんだ)
月へ向かうと決意したセシルはその後すぐにそう決断した。その時の言葉が頭で反芻される。
(僕ら三人だけで行く。 今度ばかりは生きて帰れる保証は無い!)
兄さんはゴルベーザは死を覚悟して月へ行った。それは贖罪のつもりであるのは間違いない。
しかしそれ以上にゼムスの力が強いのもあるだろうみすみす殺されに行くゴルベーザではないだろう。
戦いは今以上に激しくなる――
カインもこの事に異を唱えなかった。セシルとは同意見だったのだろう。
「そんな!」とセシルの判断にリディアはすぐに頬を膨らませた。ローザも不安と驚き交じりでセシルを見つめていた。
それは完全に納得はしていないという表情であった。
(さ、ガキはいい子で お留守番だ。)
(バカっ!!)
そんなリディアを言い聞かせたのはエッジであった。
子供扱いし、半ば強引に突き放すような言葉。この言葉にリディアは拗ねてしまい、そのまま月面船から駆け出してしまった。
理解してくれとセシルも無言でローザの顔を見つめた。ローザは何も言わずにゆっくりと立ち去ってしまった。
消え入るような儚さの背中は段々と小さくなり、セシルの視界から消滅した。
お別れだ――
ふいにセシルにそんな気持ちがよぎった。
「ほかのやつらにはあまり話さず来てしまったな」
未だに心に鮮明に残っているローザとの別れの記憶。
脳裏に何度もよみがえらせているセシルを現実へ引き戻すのはエッジの声。
飛び立つ魔導船のモニターは離れていく大地を画面に映している。それを眺めながらの一言。
この旅立ちの時、セシル達はミシディア長老へと一言伝えただけであった。
「ヤンもギルバートもシドもまだ完全に回復していないんだ」
「シドならこの事を話すと強引にでもついてきそうだけどな」
エッジが苦笑する
「なんでワシを連れて行かんのじゃ!」
いつも軽快な話口のエッジが珍しくドスの利いた低い声でシドの声を真似ている。
「なんていいそうだなあのじいさんなら」
笑いながらセシルとカインに話を振る。それがいつもの元気とは違うのはセシルだけではなく、カインにもわかっていただろう。
「頑張ろうぜ! セシル! カイン!」
セシル達を鼓舞するというより、自分に喝を入れるようだ。
先ほどからエッジはいつになく早口だ。
リディア達を置いてきた判断に未だに心の整理がついていないのだろう。
ましてやお互いに手を振って笑顔での別れといった感じではないのだ。

142ピクセルリマスター記念:2021/09/19(日) 17:31:04
FINAL FANTASY IV #0681 最終章 決戦(3)

自分も似たような気持ちだ。しかし――
腰に掛けた聖剣の鞘にそっと手をかけセシルは一人思考する。
この判断は間違っていない……なんとか自分に言い聞かせる
この期に及んで自分はまだ嘘をついているのだろうか?
「セシル、エッジ」
三人旅の悩みが支配する空間を打破したのは竜騎士の言葉。
「俺が言うのもおかしな話かもしれない……しかしお前達の判断は間違っていると俺は思わない」
寡黙なカインがいつになく饒舌な台詞を吐く。普段とは状況が逆転してるようだ。
「悩みは今後の戦いの士気にもかかわる」
「まさかお前に……カインに説教されるとはな――」
先ほどから落ち着かない風に船内のあちこちに所在を置いていたエッジがカインを向く。
「確かにその通りだな! それにあの時が別れになるわけじゃねえ。俺達が生きて帰れば、またリディア達には会えるわけだしな!」
「その通りだ」
少し元気を取り戻し、いつもの調子が戻ってきたエッジの意見をカインは肯定する。
「その為には万全の態勢で戦いに挑む必要がある。月まではまだまだ到着に時間がかかる、少しでも
休んで体を回復するべきだろう」
その言葉に同意をするようにエッジは船内の後方に備え付けられた休憩室へと足を進める。
「お前も休んだ方がいい、セシル」
その様子を見送った後、旧知の親友であるセシルにも言葉を向ける。
「カインはどうする」
「俺は所持品の確認をしておく、ローザもリディアもいないのだ。回復薬もアイテムもたくさん必要だろう」
準備は俺に任せて後は休め。カインの気遣いは旅立ちの前のバロンの言葉を思いださせた。
「ありがとうカイン」
今は彼の善意に甘えることにしよう。セシルも休憩室へ向かって歩き出した。
(今度こそ本当に最後の戦いになる)
地上での戦いとは違い、月には正真正銘の最後の決戦が待っている。
その為には体調を整える事も立派な戦術であろう。ましてや今は静かな宇宙の航海の真っただ中なのだ。
(こんなにゆっくりできるのはこれが最後かもしれない)
道中にテントやコテージを使用できる場所はあるかもしれないが確実ではない。
たとえ存在していたとしても敵襲の警戒はしなければならない。
休憩室の扉をくぐると、エッジの様子も確認せずに、開いていた機械のベッドへともぐりこむ。
あなたにもしものことがあったら、私……
眼を閉じて眠りへといざなわれるセシル。ミストへの旅立ちの前夜、長い夜の彼女の台詞がセシルの頭に再生される。
(ローザ……)

143ピクセルリマスター記念:2021/09/19(日) 20:07:55
FINAL FANTASY IV #0682 最終章 決戦(4)

セシルが目を覚ますと魔導船は目的地である月へと到着していた。
休憩室へも中継されている外部モニターは薄暗い闇の宇宙ではなく乾いた銀色の大地を一面に映している。
既にこの部屋にはセシルしかいない。エッジも先に向かったのだろう。
「行くぞ!」
自動扉を開け放ちクリスタルの鎮座するメインブリッジへと向かう、エッジの姿を確認するやいなや、セシルは一言強く言い放った。
そのままエッジを追い越し、魔導船の乗降口へと向かう。既に月の大地への着陸は完了し、この船と月を結ぶタラップは展開されていた。
「!」
出口へと向かうタラップ付近にはカインが静かに腕組みをして待っていた。
しかしその後に起こった出来事はセシルを驚かせた。
外のタラップから静かに歩いてくる一つの影、その人物の事をセシルは見間違う事はなかった。
「ローザ!」
その息使いや表情などは間違いなく幻覚や化けて出たものではない。蒼き星で別れた彼女そのもので間違いない。
「…………」
思ったよりも早く再会した彼女はただ静かに無言を貫き、セシルの事を微動だにせずに見つめている。
「そこを退くんだ……」
一度決めたこと、今更撤回などするわけがない。即座にその考えを言葉にしてローザへと突きつけるセシル。
「いやよ」
彼女の口が開いた。
「いやよ! 私も連れて行ってくれなき、ここを退かないわ」
「何を……」
地上で静かに別れた彼女からは予想もつかなかった反論の声。それはいつもと違う、セシルの知らない彼女の反応であった。
「あなたの側にいられるなら、どうなっても……」
少し俯き、手のひらを胸にもっていき小さな声で話す。ローザはさらに続ける。
「いいえ、あなたと一緒にならどんな危険なことだって……!」
今度は前を向き、セシルへと向かって歩き出すローザ。
「ローザ……」
彼女はいつも自分を想っていてくれた、そして自分の役に立ちたいと思い白魔道士として魔法を極めた。
いつだって危険を顧みずに自分のところにかけつけてくれた。
(あの程度の事で彼女は引き下がらないんだな)
静かに何も言わなかったのはローザも同じく悩んでいたのだろう、彼女も足手まといになるのではないかと。
「私がいなければ回復はどうするの」
しかし今は自分の役割でセシルの役に立ちたいとはっきりと言葉を向けてくる。
なんで黙って去ったのか? そこに違和感を感じなかったセシルではない。ローザは、彼女はいつもセシルを想い迷いながらも言葉を
くれた。そこに惹かれたのは間違いない。
(僕はパラディンになった)
パラディンは誰かを守るもの。この力を手に入れたのはなんの為だ?
「仕方ないな……セシル」
困ったような言葉のカイン。しかしその声は笑っている。
「羨ましいねえ」
エッジもそれだけだ。セシルの判断を待っているのだろう。
「分かったローザ……ローザ、僕が君を守ってもみせる!」
誰かを守るパラディンの力。そしてカインを始めとした仲間達。その力があれば必ずこの戦いからも生きて帰ってこれる。
もうセシルに迷いはなかった。
ローザを受け入れ静かに抱きしめる。
「うまくいったね!」
感傷に包まれたその場所に割り込む声、タラップからもう一つの影が現れる。
「おめーーリディア」
ここにいて当然とばかりに主張するリディア
「いつか言ったでしょ、これはみんなの戦いだって」
セシルもローザから腕を離し、彼女を肩に回し、リディアを見る。
「それに幻獣たちを呼べるのは、私だけよ!」
「やっぱり隠れてたのかよ!」
少し怒り気味なエッジ、しかしどこか嬉しそうである。セシルにはそう感じられた。
「リディア……わかった」
そういって彼女の小さな手をとる
「行こう! 僕らの戦いに!!」
この戦いは――激戦となるだろう
しかしローザ、カイン、リディア、エッジ。誰一人欠ける事なく蒼き星へと帰るのだ。
仲間達とタラップを降り決戦の大地へと足を踏みしめながら、セシルは一人で胸に誓った。

144ピクセルリマスター記念:2021/09/20(月) 02:53:52
FINAL FANTASY IV #0683 最終章 決戦(5)

月世界の洞窟や山岳、クレーターを超えてたどり着いた、月の民の館は以前となんら変わらぬ静けさを保っていた。
「誰もいない」
以前フースーヤと出会った台座もがらんどうであった。
「フースーヤ達もここへきたのかな?」
「間違いないと思う」
静かすぎるこの場所にいささか拍子抜けしたのかリディアが疑問を振る。
月の中心にそびえたつ水晶造りの巨大な塔、ここには遥か昔に帰る星を失った月の民が眠っている。
そして蒼き星の混乱を招いたゼムス自身も彼ら月の民によって封印されている。
フースーヤ達がここからゼムスのもとにいったのだ。セシルは確信していた。
「奥は行ったのか?」
台座の奥を見ると水晶状でつくられた幅の広い階段が伸びている。
「行ってみよう」
敵の気配は感じなかったのだろう、戦闘時の隊列を考えず先頭を切って階段を上っていく。
これは!
階段を上った上の階には、下の階と同じクリスタルを並べる台座がいくつも鎮座していた。
「月のクリスタルか」
台座の数は丁度八つ。青き星の地上と地底、それぞれのクリスタルを合わせた数と同じ数存在している。
(我々は月のクリスタル)
部屋に入った途端、セシルの頭に何者かの声が語り掛けてくる。
「!」
「なんだぁこの声は」
エッジが耳に手を当て叫ぶ。どうやら仲間達も同じ声が聞こえているらしく各々が不思議な表情をしている。
(青き星に置かれた八つのクリスタルとのバランスで、この月は維持されている)
(月の民たちは、この大地の中で深い眠りについている)
(我ら八つのクリスタルがゼムスを封じ込めている)
性別も年齢もわからないといった感じの不思議な声が各々のクリスタルから聞こえてくる。
敵意はない。むしろセシル達を歓迎しているといった様子だ。
「フースーヤはどこに?」
その様子を見て、今度はこちらから質問をする。
(バブイルの巨人が破壊されフースーヤとクルーヤの息子が中に入っていきました)
「やはり」
バブイルの次元エレベータはこの月の民の館に直結していたのだろう。
既にフースーヤは大分、先に向かったようだ。
(ゼムスの封印が弱くなっています。じきに完全に力を取り戻すでしょう。そうなれば我々クリスタルも、この館で眠る月の民
達もただではすまないでしょう)
フースーヤ達の安否としても月や青き星のためにも急ぐ必要がありそうであった。クリスタルの声は続く――
(こうなった以上、我々はこの場所……内側からゼムスの力の干渉、思念波を中和するのが精一杯です)
(そしてセシルよ……もう一人のクルーヤの息子よ)
月のクリスタルの言葉は眠っている月の民の代弁とでもいえるだろう。
どうやら先ほどのゴルベーザの時と同じくセシルが月の民であることもお見通しのようだ。
(フースーヤ達がゼムスの元へ向かって、もう、ずいぶん経っています)
その言葉はまだゼムスが健在ということを示している
(セシルよ、恥ずかしい話ですが青き星で育ったあなた達にも頼ることになりそうです。あなたたちを中心核にゼムスの場所へ導きましょう)
(中央へ――月の中心核を目指すのです)
この部屋の台座は時計周りに配置されていた。見ると台座が取り囲むように中心部には他とは違う色の水晶で構成された
床が一面に広がっている。
促されるままにセシルも仲間達もそこへ歩き出す。
「……」
中央部に到達したセシルには覚悟が生まれていた
「みんな」
聖剣――エクスカリバーを鞘から抜き天に掲げた。
「仲間を――みんなを傷つけさせはしない。このパラディンの力にかけて」
だから……
「みんなの命を僕にあずけてくれ!」
一呼吸おいて、あらためて自分の決意を皆に伝える。
「ふっ」
一瞬の沈黙。カインが持っている槍―グングニルを掲げる
「カイン、お前だけずるいぞ」エッジも忍刀を掲げる
「私も、セシルあてにしてるよ!」リディアも鞭を掲げる。
「セシル」
最後にセシルの一番近くにやってきたローザが杖を掲げる。
「かならず全員で青き星のみんなの元へ帰ってこよう」
月のクリスタルからの導きの光がセシル達を包むこみ、ゼムスの――フースーヤの――兄であるゴルベーザの待つ
中心核へと誘う。

145ピクセルリマスター記念:2021/09/23(木) 23:25:01
FINAL FANTASY IV #0684 最終章 決戦(6)
ゼムスへと続く道は月の民の作った人造的な水晶宮から一転、ここまでに通ってきた
月の洞窟や山岳に近い、洞窟状の場所であった。
しかし地下深く続くその道のりは果てしなく長い、下へ下へ進む最中に覗いてみたところ底知れぬ闇が広がっているだけであった。
作戦は一刻をあらそうが消耗も激しい、幸運にも道中に身体を休める結界が張られている小部屋を見つけることができた。
結界内部にコテージを二つ張った。一つはセシル達男性陣、もう一つはローザとリディアのためのものだ。
片方のコテージからリディアが小さな姿を現す。
「リディアか。ローザはもう眠った?」
「あっ……うん」
月のクリスタルに道行かれたどり着いた中心核への道は、やはり激戦が待ち構えていた。
魔物の数も強さもこれまでとは比較にならないものであった。その中でメンバーの傷をいやすのは白魔道士であるローザである。
(ローザについてきてもらってよかった)
改めて彼女に感謝した。
(疲れているだろう……そっとしておこう)
彼女の眠るであろうコテージを一瞥しつつ、労いの言葉を心の中に留めておいた。
「カインは?」
コテージを張るやいなや、すぐさま眠ってしまったエッジの事は知っているのだろう。セシルのほかにもう一人、ここにいない人物の名を呼ぶリディア。
「この先まで行って見回りしてくるって言ってたよ……」
結界の小部屋の出口へ顔を向ける。結界の外、黒い深淵の先は数多くの魔物が闊歩する。
「そうなんだ」
相槌をうつリディア。セシルとローザの所にカインはなるべくここにはいたくないのだろう。リディアの頭はそんな考えがよふぎっていた。
もちろん、ここまでの道中は一緒に戦ってきたし、何か裏があるとも思わなかった。しかし今のセシルとローザの二人に対して
素直に一緒にいる事はできないのか。セシルは気づいているのだろうか?
「そういえばセシル。その剣は――?」
重い空気を打ち消そうとしてリディアは話題をかえる。セシルの腰の剣に眼をとめる。
「ああ、これはエクスカリバー。鍛冶屋ククロが僕の剣を鍛えてくれたんだ」
セシルがパラディンとしての道を歩み始めた時、父の声と共に自らに降ってきた聖なる剣。ミシディアに伝わる言い伝えを残した伝説の剣。
やや古ぼけたその剣が随分と立派な装飾と眩しい輝きを強くしていた。
「腕のいい鍛冶屋でね、この戦いに向けて剣を鍛えなおしてくれたんだよ」
巨人が破壊され、魔導船を最後の戦いにへと向かうわずかな間、ククロは寝る間も惜しんでこの剣を鍛えていたのだ。
「リディアにも感謝しなくちゃ」
「え」
静かにセシルの話を聞いていたが、予想外に自分の名前が出てきた事に驚きの声を上げる。感謝の心当たりを探したが、すぐには思い浮かばない


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