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投稿スレ

1名無しさん:2009/11/08(日) 21:20:23
作品を投稿するスレです。

2名無しさん:2009/11/08(日) 21:24:09
FINAL FANTASY IV #0541 6章 2節 「穿つ流星」(20)

「…………」
ローザから凝視されてもカインは顔を落として無言を貫いていた。
「どうして……?」
ローザからこぼれる疑問の声。
無理もない。先ほどまでのゴルベーザの意に沿って動いていた自分の様子は彼女も充分に見ていたはずだ。
「安心して……もうカインは大丈夫だよ。ゴルベーザに操られていただけなんだ……」
「そう……良かった」
カインが無言を貫き通している間にもセシルによって自分の行いが弁護されていく。
それに対してローザも安堵したような言葉を上げる
(俺は……)
しかし、セシルやローザが納得しても自分の気持ちの整理はなかなかつかなかった。
先程セシルやシド達の前では操られていた自分に対しての悔しさを吐き出して、自分の行いに対して詫びる事も出来た。
しかし、彼女――ローザを前にしては、カインは何か言葉を出すことに躊躇いがあった。
自分がゴルベーザへと付け入られた最たる理由は間違いなく彼女に対する気持ちである。
結局、自分のしてきた事はなんだったのだ? ローザに対して何がしたかったのだ……?
考える毎に自分が情けなくなっていく。自分が利用されていた事実に対する悔しさとは違った気持ち……恥ずかしさがカイン
の心を支配していた。
「すまない……ローザ」
ようやく言葉にできたのはその一言であった。
「許してくれ」
本心で言ってるのかと聞かれると、はっきりと肯定できないだろう。口から出る謝罪の言葉はある意味で、自分自身を卑下する為である。
こうやって自分を落とすような言葉でも言わなければカインは今の自分を維持できなかった。
「それに操られてたばかりではない……俺は……俺は……!」
更に言葉が出てくる。
俺は――何だというのだ?
この先からは唯、ありふれた単純な言葉を捻り出す事は出来ない。自分の本心に基づいた言葉でなければいけないであろう。
「俺は……君に側にいてほしかった……」
それは好意による言葉なのか。昔からの付き合いによるものなのか。そしてセシルへの優越感を感じていたから出た言葉なのか。
はたまたそれを全て内包した言葉なのか、自分でも完全に考えが纏まるまでも無く出た言葉であった。しかしこれは本心なのだ。
悔しみと恥ずしめを受けて出た本当の言葉。今はこれ以上、何かを言うことはカインには無理であった。
「カイン……」
ローザの言葉はそれだけで途切れた。何度目になるのか分からない沈黙が辺りを支配する。
再びカインも顔を俯かせて黙りこくってしまう。
許してもらえる訳がない。最初からそう思っていた。今の誰も何も言わない状況も当然ながら予想の範疇なのだ。
彼女と彼――ローザとセシルの前から消え失せるべきなのか……そのような思考が頭によぎる。
「カイン」
苦悩交じりのカインを呼ぶ声はローザのものではなかった。セシルである。
「こちらを見て」
今度はローザの声だ。
促されるままにカインは視線を上へと戻す。そこには先程までと変わらない二人がいた。
しかし、二人はそれぞれがカインの目の前へと手を差し伸べてくる。
「!」
二人の意図がすぐには読めなかったカインは、疑問を言葉に出すことは出来なかった。かろうじて出た一声が、疑問符の役割を果たしたの
であろう、すぐさま二人からの返答は返ってきた。
「誰が一番誰を大切に思っているかなんて自分にしか分からない。だからこそ誰かを理解しなければならないんだ」
それがセシルの真意なのか……?
「一緒に戦いましょう……カイン」
ローザの言葉はセシルよりも分かりやすかった。
それはつまり?
否――今は深く考える時期ではない。仮にそうだとしてもじっくり言葉を吟味している時間は無いだろう。
「すまん……ローザ……セシル……!」
少しでも間をおくと離れてしまうのではないかと感じさせる二人の手をカインは躊躇う事無く握った。

3名無しさん:2009/11/08(日) 21:33:03
FINAL FANTASY IV #0542 6章 2節 「穿つ流星」(21)

<ごちゃごちゃやっとる場合ではない――>
シドの一声がゾットからの退避の幕開けとなった。
ゴルベーザとテラ。野望と復讐の激しいぶつかり合い。実際のパワーとして魔力がぶつかりあった。そしてその激戦のプレリュードを打った
古の魔法メテオ。
機械仕掛けの塔ゾットが受けたダメージは半端なものではなかった。
様々な思惑が渦巻いた舞台は、用済みだと言わんばかりの勢いで崩壊し始めている。
「ここは危険です――早く脱出せねば」
この困難な迷宮の脱出に先陣を切るのはヤンであった。
「ヤン無茶はしないでくれよ!」
危険を顧みず颯爽と歩を進める彼を気遣うようにセシルは言葉をかける。
「心配には及びません。丈夫な事が取り柄なのですから――」
常に仲間を気遣う事を忘れない堅気なモンク僧の言葉は途中で途切れた。
「ぐっ!」
突如、風を切るかの音と共に目前から何かが飛来し、先頭に立つヤンを切り付ける。
「ヤン――」
「大丈夫です」
セシルの気遣いに先回りしてヤンが身の安全を告げる。
練磨された闘士にとって奇襲程度では何ら戦闘に支障は無い。
「誰だ! こんなときに」
シドが事の発端である先へと叫ぶ。
どちらにしても……衝突は避けられないだろう。そう判断したセシルは剣を構え――
「待ってセシル!」
そう言って遮ってきたのは意外な場所からであった。
「ローザ!?」
思わぬ介入に驚きセシルは声を荒げる。
「あの人は……彼女は――」
その口振りからしてローザは今目先に迫る人物を知っているようであった。
「ゴルベーザの四天王。風のバルバリシア」
だが、回答を述べたのは更に別の方向からであった。
「ふん……カインお前も寝返ったようだね。残念だよ」
「何がだ?」
最後の言葉に対してであろう。
「それだけの力を持ってさえいれば……ゴルベーザ様も悪くは扱わなかったはずさ……」
「違うな」
バルバリシアの声をカインが遮る。
「何がだ?」
「寝返ったのではなく正気に戻ったと言ってもらおうが、バルバリシア!」
「馴れ馴れしく私の名を呼ぶ出ない!」
カインとバルバリシア。二人がどんな間柄なのかセシルは詳しくは知らない。
しかし、先程から続く二人のやり取りを聞く限り――

4名無しさん:2009/11/08(日) 21:33:52
FINAL FANTASY IV #0543 6章 2節 「穿つ流星」(22)

「カイン、待って!」
間にローザが割って入る。
「バルバリシアも!」
「ふん……ローザかい!」
バルバリシアはカインだけでなく、ローザの事も知っているようであった。
「今更どうしたっていんだい!」
「私達も始末するつもりね」
「そうさ」
「だったら、何故私を助けたの?」
その言葉にセシルは驚いた。どういう事だ? バルバリシアがローザを助けたのなら、何故今になって始末する必要があるのだ?
「どういう意味だ!?」
驚いたのは全ての事情を知らないセシルだけではなかった。カインも今の事実には驚いているようだ。
「私はゴルベーザに拘束されて始末されようとしてたわ……正直もう駄目かと思ってた。セシルやカイン達が助けてくれるのを
祈るしかなかった……」
その事はセシルも承知していた。だからカインと共に急いでローザの元へと向かったのだ。しかし、結果的にその心配は杞憂に終わった。
ローザは自分の手でゴルベーザの拘束を逃れセシル達の元へやってきた。
あの時はローザが無事であった事に安堵してそれ以上の事は考えていなかった。だが、今深く考えてみればローザはどうやって拘束を
逃れたのだというのだ?
「あなたが助けれくれたのでしょ……バルバリシア」
沈黙が辺りを支配した。それは肯定を意味するのだろう。
「結果さえ同じであれば過程なんてどうでもいいんだよ……」
「ほう……それがお前の答えだというのか」
一番先に返答したのはカインであった。
「だから、馴れ馴れしくよぶんじゃないよ……!」
「なら、バルバリシア。あなたはどちらにせよ私達を始末するつもりだったって事?」
彼女――魔物であるバルバリシアにこの表現は不適格かもしれないが――の言葉を噛み砕いて理解したローザが返答する。
「そういう事になるね……」
「おかしいわそんな事!」
確かにそうであった。それはバルバリシアと大切な友人である二人の間に何があったのかを詳しくは知らないセシルにとっても、
容易に想像できた。
「だから言っただろう! 結果だけ終わりならどうだっていい。物語の始まりもどこからだっていい。間に入るシーンや登場人物も
いくらでもかわればいい。結末のみを死守すればそれは最初から一貫したストーリーになる!」
それはまるで自分に言い聞かせるようであった。
「要は俺とローザを自分の手で始末したいって事か。そう始めから……ゴルベーザの手ではなく」
「残念だね、少し違うよ」
カインの言葉をバルバリシアは否定する。
「あんたとローザだけじゃないよ……そこにいるセシルもだよ!」
「!」
今まで少しばかり蚊帳の外に追い出され気味だったセシルは、急遽自分の名前がでて驚いた。
「セシルもだと……?」
先程からバルバリシアの言葉の一つ一つを見透かすように聞き答えしていたカインにとっても、セシルの登場は予想外だったのだろう。
驚いたとばかりにセシルの方向へと視線を巡らす。
「そうさ、カイン。あんたとローザの関係は此処にやってきた時点で何となくわかっていた。でもそれは不十分だったんだ……そこにはもう
一人の人物が深く関わっていた」
「それが僕だった」
セシルには理解できた。
「分かり合うことは出来ないか……」
バルバリシアとは初対面であったセシルであるが、彼女の意思とでもいうべき覚悟は充分に伝わってきた。
「そういうことだ」
カインが呼応する。

5名無しさん:2009/11/08(日) 21:35:48
FINAL FANTASY IV #0544 6章 2節 「穿つ流星」(23)

「シド、悪いけど先に言っておいてくれないか」
「何? どういうことだ?」」
セシル以上に話に取り残されていたシドは自分に御鉢が回ってきた事、そしてセシルの急な要望が不可解であった事に対して二度の
驚きの声を上げた。
「あの魔物の狙いはどうやら僕達三人だけのようなんだ……だからヤンと一緒に」
「それだけでは納得いかんぞ!」
シドはすぐには首を縦には振らなかった。当然であろう。
「やっと皆がそろったのだ! お前達を置いていくことなどできるわけがないであろう……」
老技師は自分が今この場所に於いて不要だとされている風潮に対して怒っている訳ではない。
「ここでお前達三人を残していけばまた帰ってこなくなるのではないか? 儂はそれが怖いのだ」
セシルとカインの旅立ちで残されたのはローザだけではなかった。シド、赤い翼の仲間達も当然ながら残された者として寂しさを
持っていた。
「シド殿。行きましょう」
梃子でも動くつもりのないシドにヤンがひっそりと声をかける。
「…………」
「シド殿、我々が此処にいても邪魔になるだけです。しかし私達にはまだ出来ることがあります」
黙ったままのシドに対して更に続ける。
「船乗りは必ず海に旅だちます。ですがいずれは元の場所へと帰ってまいります。しかしそれには待つ者の存在――碇の存在が必要不可欠
なのです……」
「今の状況もそうだというのか?」
「はい」
「碇か……確かにな!」
少しの迷いの後、シドは元の語気を取り戻した。
「わかったわい!」
重い腰を上げたように言った。
「だが約束だぞ! 絶対帰ってくるのだぞ!」
「ああ!」
力強く差し出された腕をセシルも強く握り返す。
「では我々は先に行っています……すみません力になれなくて」
「いやこちらこそすまない」
本来ならヤンの力も借りたいほどであった。
多少の傷を負っていても彼の力はやはり頼もしかった。
「だが……これは僕たちの問題だ……」

6名無しさん:2009/11/08(日) 21:41:10
FINAL FANTASY IV #0545 6章 2節 「穿つ流星」(24)

「こうして一緒に戦うのはいつ以来かな……」
「ミスト時以降だね」
眼前に迫るバルバリシアを前にセシルとカインはそんな遣り取りを交わしていた。
「あの依頼を受けた時か……悪いことをしたな」
「リディアの事……?」
「ああ」
ミストに向かう途中、カインとの共闘の末に霧の竜に打ち勝った。だが、それは幼い召喚士の大切な人物を
奪ってしまう行為であった。
「俺はあの時……炎で焼き裂かれる町を見た時、笑いが止まらなかったんだ」
「……」
「おかしな言葉だろうが、だけど本当なんだ。苦しむ人々や崩れ落ちる建物、泣き叫ぶ少女を見て、何故か悔しさや憎しみ、恐怖
よりも先にケタケタと笑いが漏れたんだ……自分でも少しどうかしてると思った……」
セシルは黙って続く言葉を待った。
「今でもその気持ちをきちんと言葉にすることは出来ない、でも俺は――あのの俺は他人が苦しんだり、酷い目にあってるのを見て
面白くてしょうがなかった。それはきっと自分に対しての充足感が得れてなかったんだろう。だから他人の誰もが怨めかしかった
その劣等感のせいで、それが原因なのかもしれない……」
それ以上は語らなかった。
多くを語ってしまうは自分自身の悔しさや恥ずかしさを呼び戻してしまうからだろう。
「思えば、あれからそこまで時間はたっていないんだね……」
だが、セシルにとっては今までの人生の中で最も密度が高く、長い時間であったと言ってもよい。
「ドグ達を倒したあのメテオの使い手はもういないようだね……みんなそろったところで仲良く葬り去ってやろう!」
感傷の最中、バルバリシアの激昂の声と共に闘いの狼煙が上がった。

7名無しさん:2009/11/08(日) 21:41:48
FINAL FANTASY IV #0546 6章 2節 「穿つ流星」(25)

瞬時に、幾多もの箇所から風が吹き荒れる――
風はやがて一つの場所へと集う……バルバリシアを中心とした一点へと集まったそれはやがて刃と思えるほどの鋭さを備え、
彼女の身を守るかの如くセシル達の前へと立ちふさがる。
それは諸刃のような鋭さの武器としての役目を果たしているように見え、強靭な鎧として彼女の身を守る鉄壁の壁の役割
の両方を果たしているように見えた。
「まずいな……」
「どうしたカイン……?」
言いながらセシルは少し照れくさい気持ちになった。
本来なら――長い付き合いのある戦友に対して相槌を打つ事などは日常茶飯事の事であるはずだった……
しかし、長い対立の末に久し振りといえる<戦友>と呼べる相手に<戦友>として相応しい会話をするのだ。
まだ違和感が抜けない。
ひょっとしたら、平静を装っているように見えていきなり背後から裏切るのではないのかと不謹慎な考えすら、ふっと
頭の中をよぎる。
「奴があのように風を張っている限り地上戦は不利だ」
そんなセシルの考えは当然ながら杞憂に終わった。
「視界を遮られてまともに攻撃を通す事すら困難であろう。それに……攻撃も兼ねた風の刃でいずれはこちらが浪費してしまうだろう」
「だったら当然……」
長々と続く友の講釈が次第にセシルのペースを取り戻させる。
「竜騎士のお家芸の出番って事だ……」
脚力を生かし、遥か高みから強襲を駆ける――
「ならば僕が相手の攻撃を引きつける」
「頼むぞ」
このやりとり……セシルにバロンからの旅を思い出させた。
「ローザは後方に控えておいてくれ」
「ええ……」
やや力無く答える。
まだ躊躇っているのだろう、バルバリシアと戦う事に……
無理強いさせるのは良くない。そう判断したセシルは彼女に支援するように促すと元の方向へと振り返った。
<カインが頑張ってくれるはず……>
長年の付き合いから生まれた信頼感とでもいうべき確信が、セシルの敵陣のただ中へと突っ込ませる覚悟になった。

8名無しさん:2009/11/08(日) 21:43:25
FINAL FANTASY IV #0547 6章 2節 「穿つ流星」(26)

「ふん正面から来るなんてね……」
愚かな行為だ。そうバルバリシアは言いたいのであろう。
「まずはセシル。お前から葬ってやろう!」
バルバリシアの周囲に漂う風刃が容赦なくセシルへと襲いかかる。
「ぐっ!」
痛みがセシルの全身へと走る。しかしここで倒れることは決してあってはならない。
傷を堪えながらも上空へとちらりと目をやる。周囲に巻き起こる風によって完全な視界を確保する事は出来てはいないが、
友の蒼き鎧の姿を朧げながら確認することが出来た。
<此処で倒れればカインも――>
高い上空で一撃の機会を伺っている竜騎士の攻撃が今戦略の骨子である。この作戦が成功しなければ、状況は防戦一方、
悪くなっていくばかりであろう。
仲間達を守り、常に楯となる。パラディンである自分に課せられた使命とでもいうのだろうか。
その気概がセシルを踏ん張らせた。
「しぶといね……」
バルバリシアの方にも少しだけ、疲れの色が見て取れた。
機は熟した。セシルはそう判断し、攻撃の手を増した。
勢いに任せて、更に力強く攻め込む。僅かであるが、此方の攻撃の勢いが相手に比べて勝しているように感じられた。
(今だ……カイン)
その声は当然聞こえなかったであろう。
だが……カインにも今が絶好の機会である事は充分に分かったのであろう。遥か上空、天駆ける騎士は急速に落下速度を
速めて、地上へと降下した。
「!」
バルバリシアは――自身の張った風の障壁を過信し過ぎていたのか、上空から勇猛と近付いてくる竜騎士の攻撃に
対して注意を払うことをしていなかった。
加速を付けた槍の斬撃がバルバリシアを縦に薙ぐ。確かな呻き声と共に、風の四天王を守る障壁が消えさる。
カインが着地した後、間を置かずに、バルバリシアへと槍の追撃をかける。
「セシル!」
「ああ!」
そしてカインの促しの一声と共にセシルも続けざまに剣閃を走らせる。
嘗てのバロンの誇る最強の二大闘士の連携と続けざまに放たれる攻撃は、四天王という立場である彼女にとっても無事で
すむものではない。
無論、彼女の方にも、風の障壁に対する絶対的な信頼と、相手が見知った者であるという事。二つの事実から生まれた油断
が背についていたのだろう。
「ぐぁ……」
人間を超越した程の美しき美貌を持つ彼女の顔は苦悶の表情に歪み、体から鮮血がほとぼしった。
「カイン……これで勝ったと思うな。私を倒してもルビカンテが……最後の四天王がいる! それにまずは此処から逃げ切る事
ができるかな……」
人であればとうの昔に息絶えているであるはずの傷を負った体でバルバリシアは苦し紛れに言葉を続けた。
だが強靭な四天王の体もそれで限界であった。
彼女の体は、ゆっくりと崩壊を始めていた。じきに完全に崩れ去るであろう。
「それがお前の結末か……」
カインはその様相を見て一言だけ呟いた。

9名無しさん:2009/11/08(日) 21:44:08
FINAL FANTASY IV #0548 6章 2節 「穿つ流星」(27)

「行くぞ、セシル!}
そして、その終わりを見届けぬうちにセシルへと言い放ち、駈け出そうとしていた。
「ゾットの崩壊は始まっている。早くシド達の元へ行かねば間に合わんぞ!」
「ああ!」
セシルも慌てて呼応する。
だが、既に崩壊を始めてからかなりの時を経ているゾットの塔を脱出するのはかなりの困難を要する事
は想像に容易かった。
「くそッ!」
「二人共! 私に掴まって!」
カインとセシルが分の悪い駆けに出ようとした瞬間、二人を呼びとめる声がした。
ローザである
「ローザ?」
「早く!」
考えている時間は無さそうである。二人はすぐさまローザの手を取った。
瞬間、セシルの視界は少しだけ歪んだ。
「これは……」
極一部の空間に捻じれを生じさせ、その限られた場所にいる対象――人や物――を別の場所へと移動させる。
転移魔法――その詠唱には強力な攻撃魔法程の時間がかからないにせよ、極度の集中力を要する。
(ローザは戦いの最中、この魔法を)
戦前から続く沈黙はその為だったのだろう。それはつまりセシル達の勝利を信じていたという事。
そしてセシルとカインを救い出そうとしてくれていた。
(すまない)
感謝の気持ちが言葉になる前にセシル達三人の姿は崩れゆくゾットの塔から消えていた。
後に残されたのは何もない。ただ、幾多もの野望や想いの渦巻いた瓦礫の舞台が終幕を告げるように幕を下ろすだけであった。

10名無しさん:2009/11/09(月) 01:03:28
FINAL FANTASY IV #0549 6章 3節 「終わりの始まり」(1)

朝日を意味する陽光がセシルへと降り注ぐ。未だぼやけたままの意識でセシルは声を上げる
「ここは」
自問自答の答えはすぐに出た。
見慣れた天井と小奇麗に整頓された様相。壁に掛った時計が規則正しい音を立てながら時を刻んでいる。
「僕の部屋だ」
事実を言葉にしつつ、過去の出来事を思い起こす。
「助かったんだよな……」
崩壊するゾットから脱出する為にローザの手を取った。そこまでは覚えていた。
「……みんなは! 何処だ?」
記憶が鮮明になってきた途端、今度は不安が押し寄せてきた。
目覚めると自分一人。以前にも全く同じような状況があった……
「いや違う」
しかし即座にそれが杞憂だという事に気づく。それと同時に新たな疑問が湧き上がる。
「此処はバロンの城の中だ……確か僕はゾットが崩れそうな所を脱出しようと思ってローザの手をとった
つまりは助かったって事だ。でもどうして僕はここに……?」
少しばかりの間、一人ごちて考えを張り巡らす。しかし、当然の事ながら何か新しい考えが浮かぶわけでは
無かったし、先ほどからの疑問が解決される事も無かった。
ここはやはり自分以外の当事者――ローザとカイン。二人に話を聞いてみるべきだろう。
それに三人で一緒に話すのはバロンを出てから初めての事だ。いい機会だろう。

11名無しさん:2009/11/09(月) 01:04:15
FINAL FANTASY IV #0550 6章 3節 「終わりの始まり」(2)

「失礼します」
結論を出し横になった体を起こそうとした瞬間、部屋の外から入室の合図を告げる声が聞こえた。
(ローザか?)
扉越しからでも曇ることなく聞こえる澄み切った声は間違い無く女性の者であった。
(違うな……)
即座に自分の第一案を否定した。声の色はまだあどけなさが残りきっていた。
「あ……お目覚めになられましたか!」
声主の少女――セシルの部屋を任された幼さの残るメイドは入室と共に驚きの声を上げた。
「失礼しました! 返事も待たずに勝手に入ってしまって……でも良かったです」
最後の方は敬語から安堵の息を感じさせる言葉になっていた。
「もうこのままずっと起きてこないものかと思いました……」
そう言って彼女は瞳に涙を浮かべた。
「私の様な者がセシル様の心配をするなんて失礼かもしれませんが……」
「そんな事ないよ……」
従者という身寄りから来るのか、慌てふためく彼女の頭をセシルは優しく撫でた。
「あ、の……セシル様……!」
セシルの行為は彼女に安心を与えるよりも先に混乱を与えてしまったようだ。
「これは一体……どういう事ですか!」
緊張しどぎまぎする彼女は少女そのものであった。
「あ……いや、すまない」
純真な優しさを表したつもりであったのだが逆効果であったのだろう。
「いえ……ご好意は大変嬉しいのですが、いえ!」
慌てふためき彼女は自分頬をぱんと一手叩いた。
「とにかく、良かったです。私、皆さんに伝えてきますね……セシル王がお目覚めになられたと……」
「え?」
急に話題を変え、そそくさと退出しようとする彼女を見送りつつ、セシルの疑問は更に募ることとなった。
(聞き間違いか……?)
(否、彼女は確かに言った)
(僕の聞き間違えなんかじゃない)
思考の中で彼女の言葉を何度か反照する。疑問が確信へと変わる。
(彼女は間違いなく僕の事をこう言った。セシル「王」だと――)

12名無しさん:2009/11/09(月) 01:07:39
FINAL FANTASY IV #0551 6章 3節 「終わりの始まり」(3)

「来おったかーセシル!」
バロンが誇った最強の飛空挺部隊<赤い翼>を格納するための広きカタパルトにシドの銅鑼声が響き渡った。
「メイドの穣ちゃんから聞いたぞ。良かったな」
「シド……僕は一体? あれからどうなったっていうんだ?」
あれからとはゾット以降という意味である。
「どこから話していいものか……」
セシルの疑問を把握すると、シドは急に難しい顔になった。
「まあ、儂一人の口からでは全てを話すことは難しいのだが……あの時――儂とヤンは先に飛空挺に言きお前達が来るのを待った。
この事はお前も覚えているであろう?」
セシルは黙って頷いた。本心ではもっと色々と質問したい事があったのだが、少しでも事情を知っているであろうシドの話を全て聞いて
からでも遅くはないと判断した。
「だが……お前とカイン、そしてローザの三人はいくら時間が経っても戻ってはこなかった。やがてゾットの塔の崩壊が儂らのいる場所に
まで届いてきた。このままでは儂らも危ない……ギリギリまで待ったが、そう判断して先に飛空挺で脱出する事になった……すまない!」
待つ者の思考がどうであれ、結果的にセシルを見捨ててしまった事に変わりはない。シドはその事を詫びてるのであろう。
「別に構わないよシド。そのまま一緒に崩壊に巻き込まれてしまった方が僕としても不本意だよ。それより……」
シドの謝罪を込めた告白はセシルの疑問に対する完全なる答えにはなってはいなかった。それどころかまた一つ新たな疑問が増えるだけであった。
「その、僕たちを置いて先に行ってしまったって事は当然ながら、僕はそのままゾットに残されてしまった事になる。だとしたら何故僕は
此処にいるんだ……?」
セシルの疑問は先程からシドが気にしている事を再び蒸し返すものである。一応慎重に言葉を選び質問にしてみたつもりなのだが大丈夫であろうか。

13名無しさん:2009/11/09(月) 01:08:18
FINAL FANTASY IV #0552 6章 3節 「終わりの始まり」(4)

「そこが不思議なところなのだよ!」
だがシドは特に気にとめた様子もなかった。それどころかセシルの問いに待ってましたとばかりに口を開く。
「失意のまま儂とヤンはバロンへと帰る事となった……お前達三人はあのまゾットの爆発に巻き込まれたと思っていた。そう思うととても
悲しかったわ。あの老いぼれ――テラが死んだ時は悔しさで胸が一杯だったのだが、今回は純粋な悲しさが心を支配していた」
「…………」
シドがローザをカインを……そしてセシルをどれ程大事に思っているかを理解するには充分すぎる程の言葉であった。ゾットで待つ時も
崩壊寸前までセシル達を待っていてくれたのであろう。セシル達を残して先に飛び立つ時には相当辛い気持ちであっただろう。
ヤンがいなかったとしたら、そのまま爆発するゾットに身を委ねていたであろう。
「しかしだ、信じられない事にバロン城へと着艦した儂とヤンを迎えたのはカインであったのだ……」
「つまり僕たち三人はシドとヤンよりも先にバロンに到着していたって事か」
シドの説明はまだ不十分であったが、おぼろげながらに存在した記憶が補ってくれた。
「ゾットが崩れ落ちる時にローザが脱出魔法を唱えていた。僕とカインは慌ててその手を掴んだ」
今度はセシルが説明する側に回る。
「ここからはおそらく推測であるんだけど……脱出する際にローザが指定した場所がバロンなんだろう。下手にゾットに近い場所に転移すると
危ないからだろうね。だから僕たちは一瞬でバロンまで転移した」
ならば何故バロンなのか。別にゾットから遠ければ何処でもいいのではないか? そういった質問は野暮であろう。
ローザにとって最も楽しい思い出はこのバロン城に存在していた。例え、今が辛くても、未来が閉ざされたとしても、過去の想いだけは
いつまでも変わることなく残り続ける。
「そうであったか」
シドは特に異論も無く納得したように頷き、続ける。
「しかしそれでお前達が無事なのは良かったのだが、また一つ問題があったのだ。セシル――お前さんだけが眠りから覚めなかったのだ」
再び語り手がセシルからシドへと移る。
「僕が?」
「ああ、儂もローザも少し心配したぞ」
「そうか……」

14名無しさん:2009/11/09(月) 01:08:59
FINAL FANTASY IV #0553 6章 3節 「終わりの始まり」(5)

何故自分は眠り続けていたのだろうか?
単純に疲れていたのかもしれない。最近、僅かな時間の間に目まぐるしい程に沢山の事があった。
体が純粋に休みを欲しがったのかもしれない。
「僕はどれくらい眠っていたの?」
「そうだな……今日で丁度一週間ってところだ」
一週間――長いようで短い時間だ。
「皆は?」
とりあえず、ゾットにいたメンバーだけにも自分が目覚めたという事実は伝えておかなければならない。
「それなんだが……」
軽い気持ちで聞いたつもりであったが、シドの顔は最前に増して緊張の色が強くなっている。
「ヤンは一旦ファブールへと帰国した。このご時世だ、一体いつ何が起こるかわかったもんではないからな。そしてカインなのだが――」
ここからが本題だといわんばかりに間を開ける。
「ゴルベーザについて色々と調べ事をしているようだ。お前にも話したい事があるそうだ」
「僕に?」
「ああ、儂も詳しくは聞かされておらん。だから詳しくは直接あやつの口から聞くのだ。その前に――」
続く、シドの言葉に先回りしてセシルが答える。
「ローザですね」
「そうだ。ローザはまだ街の方にいる。迎えに行ってやれ、そしたらここに戻って来い」
「わかったよ」
先程の会話の流れで、シドが眠り続ける自分をどれだけ心配しているかは充分に分かっていた。
ならばローザは尚のことだ。早く元気な顔を見せてあげるのが一番良い事であろう。
そう思うと、セシルは足早にバロンの町へと駈け出した。

15名無しさん:2009/11/10(火) 05:56:20
FINAL FANTASY IV #0554 6章 3節 「終わりの始まり」(6)

実体験での経験というものは言葉で説明されただけでは絶対に分からないものが見えてくる。
幼い頃に誰もが聞かされた有り触れた講釈である。しかしあながち的外れな意見ではないだろう。
今現在のセシルは改めてその言葉を痛感した。
「これは?」
久し振りに乗った飛空挺の甲板から見下ろす地面は明らかな変化があった。
バロン国に周辺に広がる広大な平野。赤き翼隊長として眺めたその場所は、薄らと雲がかかった上空から見渡しても
見違う程はあり得ない新緑の緑一色の場所であった。
しかし、今のセシルが見下ろしている同場所はその様相を変えていた。視界を支配していた平野一面には幾つかの大きさの穴が
ぽつぽつと散見された。
緑一色の場所に混ざった茶色い穴の数々は、やや不吉な雰囲気を演出していた。
「儂らが帰還する途中から既にこの有り様であった」
ゾットからという意味であろう。つまりはあのゾットの一連が眼下での風景の原因である事は容易に想像できた。
(あの時、あの場所には今の世界で起こっている大事な事が全て起こっていた……)
何所か別の場所でそれ以上の何かがあったなど到底考えられない。
そう考えると、セシルにはすぐにでも原因が分かった。おそらくシドも既に分かっているのであろう。
「メテオ」
シドに聞こるかどうかわからない程の小さな声で呟いた。
「…………」
シドは無言であった。今のセシルの声が聞えていなかったのだろうか? 例え聞えていたとしても彼は無言を
貫いていたであろう。
復讐の為に己の命を全てかけた男――賢者テラ。彼が最期に唱えた最強の黒魔法メテオ。
その呪文はゴルベーザに深手を負わせた。それと同時に、地上の幾多もの場所を傷つけた……
結果がどうであれテラは後悔はしていない。彼は己の消滅の際にそう残した。
「それで、各地の被害はどうなってるの?」
「幸いにも人口が密集している場所に大きな被害は出ていない。ヤンの方からも特にこれといった報告は入ってない……」
ならばこの結果すらも受け入れたのだろうか?
そもそもテラはメテオの詠唱がこのような惨状を引き起こす事を知っていたのであろうか?
もし知らなかったら後悔したのだろうか? 知っていたとしたら、全て分かっていてメテオを行使したのか。
「ヤンもこの事を知った時は慌てておったぞ。一時国に帰ったのもファブールを心配しての事らしいからの」
いずれにせよテラに対しての数多くの質問の回答を得ることは不可能になってしまった。
「まあ大事に至らなくて本当に良かったわ、本当に……」
今セシル達に出来る事。少しでも状況を確認して、被害の様子を知る事しかなかった。

16名無しさん:2009/11/10(火) 05:57:22
FINAL FANTASY IV #0555 6章 3節 「終わりの始まり」(7)

「ところでシド」
話題を変えるつもりでもセシルは切り出した。
「ん……どうした?」
特に詮索する様子もなくシドが聞き返す。先程までの重い空気を引きずっている様子も感じられない。
「そういえばあの娘が僕の事を王って言ってたんだ」
「あの娘? ああ、メイドの穣ちゃんか?」
セシルは頷く。
「どういう事? 町の方では何も言われなかったけど……」
自分が王と言われた事に対しては、心の片隅で考えている内になんとなくだが理解は出来た。
現在、バロン国は王が存在しない状態である。正確には王は殺された。いつかは分からぬがゴルベーザの手によって。
そして四天王の一人である水のカイナッツォが影武者として王に即位していた。この間までは……
カイナッツォを打倒した後、セシルは本当の王――自分を育ててくれた心優しき騎士が何処かで生きてはいないかと
思った。
しかし、その淡い期待はすぐさまに打ち砕かれた。城の地下深く、セシルは確かに王――父と呼べる者の声を確かに聞いた。
王はもうこの世にはいない。バロンという巨大な国家を治めるには指導者の存在は必要不可欠であろう。
今はまだいい。ゴルベーザという確固たる敵が存在し、各国も一致団結してゴルベーザと戦うはずだ。しかしその戦いが
終わった時、バロンは再び一つの国家としての道を再び歩む事になる。そうなれば誰かが指導者として国を導いていかなければ
ならない。
「僕が王になれって事?」
考えてみれば、無理もない話であった。幼い頃に王に拾われたセシルは、王の寵愛を受けて育った。自賛になるがセシル自身も
王の期待に応えれるように努力してきたつもりである。
今亡き先代王に近しく育ったセシルに後継ぎの座を期待する者がいても不思議ではない。
「まだ確定事項ではない」
シドが口を挟む。
「王が偽物であった事。そして王が既にいない事を知っているのも知っているのもごく城のごく僅かな者だけだ」
混乱を避ける為であろう。だから、町の方では何も言われなかったのだ。
「とはいっても完全に賛同している者ばかりという訳ではない。セシル、お前がこれからどうしていくか。それにお前さん自身に
自らなるべき意思がないとどうすることもできんしな」
最終的にはセシルの判断に任せる事にはなっているようだ。
「まだ目的地には到着しないんだろう?」
話題を切り替えシドに尋ねる。彼は黙って頷いた。
今向かっている行先は伝えられていない。だが、其処にはカインがいるらしい。
「僕も少し休んでくるよ。部屋を使わせてもらうよ」
<僕も>というのは<ローザも>という事である。町に迎えに行って一緒に飛空挺に乗った後、彼女はすぐに眠りについたのだ。
ローザも疲れているのだろう。セシルと同じく。
それじゃあと軽い挨拶をした後、セシルは甲板を後にた。
自分が王になるかもしれない。父のように尊敬していた王の後を継ぐことが嬉しくない訳ではない。身寄りのない自分のような者が
王になる事に反対する者もいるだろう。しかし、それに対して謙遜や躊躇いを感じる事はないし、反対する者を納得させる自信もある。
しかし、迫る未来に対して覚悟をするには多少の準備が必要だ。それがどんなに大きなものでも小さなものでも、人は悩むのである。

17名無しさん:2009/11/11(水) 22:11:46
FINAL FANTASY IV #0556 6章 3節 「終わりの始まり」(8)

アガルトの町。バロン国の真南に位置するやや大きめな島に存在する町。
島の面積の過半数が山岳で構成されるその場所は、ミシディア近くにあるミスリルの町のように特殊鉱石の貿易で栄えている
わけでもない。ましてやバロンのように国家としての形態を作っている訳でもない。
水の都トロイアのような美しさもなく、観光目的で此処を訪れるものも皆無である。島中で一番栄えている小さな町に建てられた
武器屋、防具屋に並ぶ商品も平凡な品揃えだ。
一見して何の特色も無い平凡なこの島を訪れる人は段々と少なくなり、いつの間にか人々から忘れ去られる場所となった。
ある程度の面積を有している事から地図上から消されることは無かったし、「アガルト」という名前も存在し続けた。
しかし、学問においても政治的な思想においても、この島は誰にも触れることはしなかった。
学校の教育でも教えなかったし外交でも気に留めるものはいない。この場所に興味を示す学者は殆ど存在しなかったし、戦場に
なる事もなかった。
セシル自体も赤き翼隊長としてこの場所の存在は知っていたし、島の上を飛空挺で通過する事も何度かあった。
しかし、当然の事ながらこの島に注目を向けた時は無かった。

シドの飛空挺に連れられてやってきたのは、まさかのそんな場所であったのだ。

18名無しさん:2009/11/11(水) 22:12:36
FINAL FANTASY IV #0557 6章 3節 「終わりの始まり」(9)

「久しぶりだな。セシル」
山肌が多数を占めるこの島に飛空挺を止めるのはえらく難儀な事であった。
なんとか平坦な地形を見つけ出し、着艦すると此方に向かってやってくる声が一つ。
その声は着艦の苦労と疲労を打ち消すには充分すぎるものであった。
「カイン」
言葉通り、しばらくであったカインの声はセシルもよく見知ったものであった。
「僕も、久し振りだね」
会話を続けさせつつも、セシルはカインの姿をまじまじと観察した。
友を信用していない訳ではない。だがゴルベーザに操られていた頃のカインの印象は未だセシルの頭には残っていた。
もしかするとカインが正常に戻ったのは幻であったのではないか? ふいにそんな疑問がよぎったのだ。
「何所まで知っている?」
だが、セシルの疑惑の視線を別段気にする様子も無く、カインは言葉を続ける。
「え……?」
冷静な面持ちを維持したままのカインに自分の考えが杞憂であった事を悟る。
「まだ何も知らないようだな」
曖昧な返事のまま沈黙しているとカインから再び口を開いた。
「クリスタルが四つがゴルベーザの手に渡った。それは分かっているな?」
「ああ」
どうやら自分は無駄な事を考えていたようだ。先ほどまでの考えを頭の隅に追いやる。
「これで全てのクリスタルが奴の手に渡ったことになる」
ゴルベーザの目的が何であるかはまだ分からない。だが、奴は血眼になってクリスタルを探してそれを手中に収めようとしていた。
それだけに関していえば奴の目的は成就されてしまった。状況的に見てセシル達は負けているのだ。
「いや、クリスタルは四つしか揃っていない」
会話の流れ上、あまり意味なく呟いた言葉であったが即座に否定されて驚く。
「どういう事?」
「簡単な話だ。クリスタルは四つで全てではない」
続く言葉を待った。
「世の中何事に関しても表と裏、二つの側面が用意されている。そう何事にもだ……それはクリスタルとしても
例外ではない……」
「表と裏……」
セシルも反芻する。
自分にも暗黒騎士という一面があった。そして今の自分であるパラディンという一面がある。
このように人は誰しも今の自分以外の影と呼べる存在を従えている。
その影は自らで否定しようにもする事が出来ないもの。光があれば影もある。それは何事も逆らえぬ摂理とでも言うのだろうか。
「思ったより受け入れがいいようだ……安心したぞ」
静かに思考するセシルを見ての感想であろう。
「ああ。共感できる所が多々あるからね」
「ふ……まあ今はそれだけ分かっていればいい。ここから先は場所を移してから話す事にしよう。俺達だけで話す事は出来ん」
そう言って踵を返す。
「ローザも連れて来い……」
少しどよめきながらカインは言った。
「分かった」

19書き手 ◆W4g5HNoLOg:2009/11/12(木) 04:54:02
カインの後を追うとやがて一つの開けた場所に出た。
島の中で数少ない平野部分であるそこはゴブリンぐらいの魔物を追い払う為に作られた、気休め程度の低い柵に囲まれ、
二階建ての民家がまばらに散在していた。
町ではなく集落と呼んだ方がふさわしいその場所であるが、森林と山岳に覆われたこの島においては最も栄えている場所なのであろう。
行き交う人々は少ないながらも、集落は予想以上には活気に満ち溢れていた。
「こっちだ」
カインに促されるままに歩を進めると、一つの民家へとたどり着いた。
「ここが?」
見たところ、道中に見た他の民家と何ら変わりはしない普通の場所である。やや拍子抜けしたというのが本音だ。
「ああ」
簡潔な返答をすると、セシルの返事を待つことなくカインは民家の扉を叩いた。
「あ……はい!」
程無くして扉の中から声が返ってきた。それから間をおかずに扉が向こう側から開いた。
「あら……カインさん。こんにちわ」
姿を現したのは若い女性であった。見たところの年齢はセシル達とあまり変わらないように見える。
「コリオは?」
「それがあれからずっと部屋の方に籠もりきりで……まあいつもの事なんですけどね」
そこまで言って、セシルと若い女性の視線が合った。
「あ、その人がセシルさんとローザさんですね!」
にっこりと笑顔で会釈してくる。
「こちらこそ」
セシルも返答を返す。
見たところの年齢はセシル達とはそれほど変わらないであろう。
「なら、奥を使わせてもらうぞ」
それだけ言うと、女性の返答も待たずに奥へと進む。
「セシル、お前も来い。気まぐれな奴だからな……早めに話を聞かねばな」
考えている時間は無さそうだ。セシルもカインの後を追って歩き出した。

20書き手 ◆W4g5HNoLOg:2009/11/12(木) 04:57:47
↑FINAL FANTASY IV #0558 6章 3節 「終わりの始まり」(10)です。

21書き手 ◆W4g5HNoLOg:2009/11/12(木) 04:58:45
FINAL FANTASY IV #0559 6章 3節 「終わりの始まり」(11)

カインに促されるまま階段を上ると一つの扉へとたどり着いた。
「ここだ」
そう言って扉をノックする。
「カインか」
程無くして声が返ってきた。今度は入口と違って男の声であった。
「セシルはどうした?」
「連れてきた」
行き成り自分の名前が出てセシルは驚く、扉の中の人物が誰なのかは知らないが、向こうは自分を知っているようだ。
「他には誰もいないか?」
「ローザも一緒だが、下でキャロルとお茶の準備をすると言っていた」
キャロル。入口で出迎えた若い女性の事であろう。
カインがどうなのかは良く分からないが、彼女と出会うのはセシルもローザも初めてであった。
しかし。初対面ではあるが、彼女の素振りは何処となく好感を感じさせた。
人と人との繋がりは僅かな時間しか存在しない刹那的なものでは決してない。たとえ好きな人でも嫌いな人でも
何所かで顔を突き合わせ、その度に相手への印象というものは変化していくのだ。何事にも不変は存在しない。
しかし、人間という生き物には、性別や年齢など関係無く初対面で誰しもに好感を与え、誰とでも仲良くなってしまう人が必ずいる。
彼女――キャロルは間違いなくそのようなタイプに分類される人であろう。
「そうか、まあ丁度いいか」
同性であるローザにとって、キャロルはセシル以上に好感を感じたのであろう。
入口での僅かな会話だけで二人はすっかり意気投合したようであった。
「狭い部屋だ。できるだけ入る人数は少ない方がいい」
扉の中の男が呟いた。
それは入室の許可である事は暗黙のうちに分かった。

22書き手 ◆W4g5HNoLOg:2009/11/12(木) 04:59:21
FINAL FANTASY IV #0560 6章 3節 「終わりの始まり」(12)

「入るぞ」
そう言ってカインは扉を開けた。
扉の中には一般的な民家と変わらない内装の部屋一杯に所狭しといったばかりの本と黴臭い匂い、それに一人の
男が本に囲まれて座っていた。
「やあ」
セシル達二人を見ると男の方は気さくな様子で挨拶を交わしてきた。
僅かな一声ながら、先程の声主の正体である事は分かった。
縁の太く、顔と比べれると少しばかり大きすぎる眼鏡をかけ、ボサボサに伸ばしきり肩下まで到達しようとする髪に
顎には不精髭を生やしっぱなしにしているその姿は一見するとみすぼらし印象を持たせた。
「君がセシルかい。始めてだよねこうして顔を合わせるのは――」
だが、一旦口を開くとすぐさま先の様な印象は薄れた。
その男の声色は澄みやかに透き通っており、口調も外見からイメージされるような暗さや気難しさはない。
むしろ気さくな様子で誰とでも仲良くなれそうな雰囲気を醸し出している。
「初めてだ」
まじまじと男を観察しているセシルに変わりカインが答える。否定するつもりはない。
セシル自身も彼と会った記憶は当然ないないからだ。
「そっか――始めまして。僕はコリオ。君に話があってここまで来てもらった」
男――コリオと目が合った。
巨大な眼鏡の奥底に眠る瞳は好奇心に満ちたりており、如何なる時にも探究心を忘れることのなく何かを追い求める
かのように光り輝いている。
冴えない外見と不精鬚ですぐには気付かなかったが良く見ると年端もセシルやカインと差ほど変わらないように見える。
少しでも小奇麗にすれば、理知的な青年として周囲の目を引きつけてしまうのではないか。
「単等直入に切りだすよ。クリスタルはあれが――ゴルベーザとやらが奪取したやつですべてではない。って……これは
カインもはなしているね?」
「あ……ああ」
言葉通りいきなり本題に移ったので少し驚いた返答になった。
「クリスタルはこの世界には八つあるんだよ。つまり残り四つもあるって事……だったらその残りのクリスタルはどこに
あると思う……?」
にやりとコリオの口元が笑う。
「表と裏……?」
先程のカインの言葉を反芻する。
「!」
そこである考えに行きついた。
「世界の裏……」
「そう此処にあるんだよね」
セシルの言葉を肯定するコリオは不敵な笑みを維持したまま地面を指差した。
「文字通りの地底。世界の裏の姿……」

23書き手 ◆W4g5HNoLOg:2009/11/13(金) 00:33:17
FINAL FANTASY IV #0561 6章 3節 「終わりの始まり」(13)

複雑怪奇な迷路の答えをいきなり聞かされたようだ。
「地底……? 其処にクリスタルが?」
「そうだ、この世界の四つのクリスタルはいわば表のクリスタル。ならばさしづめ地底になる四つのクリスタル
は闇のクリスタルというのであろう」
今度はカインは答えた。
「闇のクリスタル?」
情報がいきなりどっと流れ込んできて軽く混乱気味である。先ほどから新しく登場する言葉に疑問符を付けること
しかできない。
少し頭を整理するべきか? 否ここは黙って話を聞くべきであろう。情報を整理するのはそこからでも遅くはない。
むしろ今の言葉だけでは判断材料が少なすぎる。一つ一つの言葉を頭に留めるように聞くのが最善だろう。
「その闇のクリスタルが本当に存在するのかを今ここで証明する事は出来ない。一応僕の専門外の分野って事になってる
からね。疑ってもらっても構わない」
カインと入れ替わりにコリオが口を開いた。
「でも……どうやらそんなにのんびりと考えている時間はなさそうなんだよね……」
そう言ってカインの方へと目くばせする。
「ああ、物事の真偽を考察するのは決して悪いことではない。だがそれは時間が許してくれる時のみだ」
それはつまりこの問題に関してはあまり考える余地がないという事か?
「ゴルベーザの方は既に全てを把握しているのだ……」
一拍置いてからカインは話始めた。
「闇のクリスタルの存在もそれが何処にあるのかすらもゴルベーザの奴は探し当ててしまっている」
ゴルベーザはクリスタルを集めることを最大の目的としていた。その為にはどんな犠牲も厭わない様子であった。」
実際に多くの国が焼き払われ、多くの人が犠牲になった。アンナ、テラ、バロン王……父として慕っていた、そして
カインもその心を利用されていた。
「それで! 地底にはどうやって行けば!?」
考えれば考えるほど焦燥の気持ちがセシルを支配する。急がねばならないだろう、地底がどんな場所であるのかは
セシルは全く知らない。
其処には人が住んでいるのか、国家は存在するのか等全てが分からない未知の領域である。
しかし、ゴルベーザは地底がどんな場所であっても多大な被害をもたらすのは間違いないと思った。
急がねば。逸る気持ちが自然に結論を要求する発言へとセシルを向かわせた。
「ああ……言葉通りの地底、この世界の裏にある」
セシルの剣幕に一瞬圧倒されながらもコリオが話始める。
「まあ、これだけじゃ何を言ってるか分からないだろうから、詳しく説明しようか。まずは本当にその地底世界が存在する
としたら真っ先に疑問に思うのは一つだね。今僕達がいるこの世界と裏にあるであろう地底。この二つの世界の片方から
もう片方の世界に行くことはできるのか? できる限り往復できるのが望ましいけど、この際片道だけでも構わないからなんらか
の手段を講じて行くことが出来るのか?」
それまでの軽い口調から一転、コリオの口調は険しさを帯びている。
「結論から言えば出来る。<可能>なんだよ<不可能>ではなく」

24書き手 ◆W4g5HNoLOg:2009/11/13(金) 00:33:58
FINAL FANTASY IV #0562 6章 3節 「終わりの始まり」(14)

「…………」
その言葉を聞いてもなおセシルは黙りこんでいた。言葉が出なかった訳ではない考え込んでいたのだ。
この地上世界と地底世界は完全に遮断された別世界などではなく、どこかでつながっている世界である。そして両者間の
世界を実際に移動する事は可能なのである。
しかし、それは手放しに喜べる事ではない。セシル達が地底へ行くことが出来るのならば、ゴルベーザも例外ではないだろう。
地底世界の存在をどれくらいの人間が知っているのかは良く分からないが、其処には人――地底人とでも言うべき存在がいる。
もう誰にも犠牲になってほしくはない。より一層急ぐ理由が出てきた。
「正確には<可能>ではな<可能>になったというのが正しいのだけどね」
意思を固め、地底へと行く方法を尋ねようとしたところでコリオが再び口を開いた。
「遂最近の話だけど、世界を大きく震撼させる衝撃があっただろう?」
心辺りはすぐに分かった。テラのメテオの事だ。
「……ああ」
その場にいた当事者として複雑に思う所があるものの、こくりと頷いた。
「あの影響で地上と地底を隔てていた境界、<膜>とでも言った方がいいのかな……その部分が非常に不安定になっているようなんだ」
コリオは別段、メテオが起こした事象を批判する訳でも恨みをぶつけているわけでもない。だが一つ一つの言葉が小さな棘のように
セシルに突き刺さる。
「実際に大地のあちこちに穿たれたような箇所があるだろ……そのような場所は特に<膜>が不安定になっている。さすがに
全てという訳ではないが幾つかの箇所からは、直接地底へとそれも往復が出来るようになったんだよ。まさに不幸中の幸いといえるよね」
不幸とはテラのメテオで大地が穿たれた事である。では幸いとは……
「これでゴルベーザを出し抜くという程ではないが対等の立場へと立つ事が出来る」
今度はカインが切り出した。
「ゴルベーザの奴は地上と地底、二つの世界を安定して往復する手段を探していた。各地のクリスタルを略奪するだけでなく
世界を結ぶ場所を探していた……そして奴はそれを探し当てた」
声に力が籠る。
「その場所は二つあった、一つはゾットの塔。だがこの塔は既に先の戦闘で破壊され使い物にならない。そしてもう一つが
バブイルの塔。エブラーナ国にそびえたつ謎の巨頭とされていた所だ」
その場所はセシルも知っていた。ゾットを見た時、バブイルの塔に似ていると思ったが、よもや同じような機能を持っていたとは。
「ゴルベーザはその二つの塔を確保した、それで二つの世界の往復を自分で独占したものだと思っていた。ゾットを爆破したのも
俺達に利用されるのを嫌ったからだ。バブイルさえ残っていれば地底へは行くことができるからな」
段々とセシルにも分かってきた。つまり何が幸なのかと言えば――
「先の世界の衝撃は奴にとっても予想外にしなかった事だ。ましてやそれの所為で地上と地底を行き来する手段がバブイルの塔以外
にもあるとは誤算以外の何者でもない。そして俺達から見ればこれは願ってもみないチャンスなんだ」
老魔道士の放ったメテオ。術者が何を想っていたのかは既に知る由もない。しかし、メテオは新たな戦いの幕開けの開始となったことは確かだ。
同時にそれは完璧のはずであったゴルベーザの作戦が狂い、セシル達に逆転のチャンスを作る結果にもなったのだ。
「テラ……」
腕に力が籠る。地上に被害は出たが、メテオによる歪みがなければゴルベーザに対抗する手段は無く、完全なチックメイトであった。
例えゴルベーザを倒す事は出来なくともテラのメテオは無駄ではなかった。
(ありがとう。後は僕に任せてくれ)
彼が命と引き換えに示してくれた唯一の手段。それを最大限に利用するのが今のセシルの使命であると言える。

25書き手 ◆W4g5HNoLOg:2009/11/13(金) 00:34:57
FINAL FANTASY IV #0563 7章 1節 「地底世界」(1)

カインが何故自分をこの島に連れてきたのかは先程のコリオとの会話では分からなかった。
しかし翌朝コリオ達の住んでいた集落を去り、飛空挺で上空へと飛ぶと、ものの数秒でその疑問は立ち消えることとなった。
むしろ着陸の際に何故気付かなかったのかと、少し前の自分に問いかけたくなる程であった。
飛空挺が離陸し、視界を地面が支配すると共に真っ先ににそれは目に入ってきた。
アガルトの町が位置するやや大きめな島の過半数を占める山岳地帯。その中でも一際目立った大きさの一山の頂上部分が
大きく穿たれていた。
否、穿たれる……という表現では少々物足りないかもしれない程であり、まるで其処には初めからそのような大穴が開いていた
のではないかと思わせるほどである。
しかし、周囲に規則正しく並ぶ丘稜や山岳地帯が否が応にも以前の風景を証明するかのようであり、その大穴は周りから
浮足だっており、不気味さすら醸し出していた。
大穴自体を凝視してみても、一向に底が見えずただひたすらに漆黒の闇が広がっているだけであった。
例えもっと至近距離から見たとしても、この印象は変わらないであろう。
それが<繋ぎ目>であることは疑いようがなかった。世界の不安定箇所。二つの世界を繋ぐべく不確定要素。そして残された希望。
カインがセシルを此処に連れてきたのも、今この場所が最も大きな<繋ぎ目>であるからだろう。
メテオ以降、世界にこのような場所は多々あれど、飛空挺のような大型の乗り物を連れたって世界を往復出来る場所は此処ぐらいの
ものであろう。
ゆっくりと飛空挺が<繋ぎ目>へと向かう。視界を黒が覆う。目一杯に近づくとまるで巨大な闇に呑み込まれてしまったかのような
感覚を受ける。

26書き手 ◆W4g5HNoLOg:2009/11/13(金) 00:36:10
FINAL FANTASY IV #0564 7章 1節 「地底世界」(2)

飛空挺が完全にその闇の中へと入る。空が遠ざかり、やがては周りを完全な暗闇が支配する。
どのくらいの時間その状態が続いたのだろうか。いつの間にか上空の蒼は消え去った。変わりに遥か眼下に大地が姿を現した。
恐らくはあれがセシルが慣れしんだ地上の裏と呼ぶべき地底世界なのだろう。
地底世界と認識した、その場所は段々と飛空挺との距離を狭めてきた。
よくよく目を凝らし観察すると、地底世界と呼ぶべきその場所は地上とは大きく違っていた。
焦げた茶色の地面はでこぼことしており、まるで未開の山道のようであった。そしてなによりも大地と大地を隔てるはずの
海と呼ぶものが存在せずに、変わりに灼熱の溶岩が一面を支配していた。
船など浮かべればたちまち燃えさかってしまうであろう。熱気は上空を浮かんでいるはずの飛空挺にまで伝わってきた。
はやく着陸場所をさがさねば――そう言ったのはシドであった。
この熱気では飛空挺にもダメージがでかい。一旦地面へと腰を下ろし調整が必要なのだろう。
遥か高みといえるこの空の上ですらこの状態なのだ、地面を歩くとなればどれほど過酷であろうか?
しかし、まるで別世界のようなこの地底世界ではあるが、上の世界であるセシル達の世界とは同世界なのだ。
人にもクリスタルにも表と裏があるように世界そのものにも二つの側面があるのだ。
それを否定する事は出来ない。表裏一体。裏があるからこそ表が存在し、表があるからこそ裏も存在してるのだ。
例え世界であろうがその法則を逃れることは出来ないのかもしれない。

27書き手 ◆W4g5HNoLOg:2009/11/13(金) 00:36:46
FINAL FANTASY IV #0565 7章 1節 「地底世界」(3)

着陸できるような場所を探し周囲を旋回していると、轟音と共にとある光景が飛び込んできた。
それと同時に上空を飛ぶ飛空挺がこのエンタープライズ以外にも飛び込んでくる。
何隻もの編隊を組んで飛ぶそれはかつてセシルの指揮していた赤い翼を彷彿させた。
しかし、それらの飛空挺にはバロンとシドが造ってきたものとは決定的な違いがあった。
編隊飛行をする全ての飛空挺の側面には巨大な砲塔が幾つも備え付けられていた。
「おのれ! ゴルベーザめ!」
それに気付いたシドが怒声を上げる。
「飛空挺を量産するは勝手だが……武装化するとはな! ましてやこのような暴挙に出るなど!」
飛空挺を武装化されていたのはダムシアンの悲劇から分かっていた事であるが、シドが実際に
見るのは初めての事なのだろう。ましてや技師として開発に関わった人物である。
怒りは相当なものであろう。
かつてのバロンの赤い翼と称された飛空挺群には目の前のように砲塔が備え付けられたりはしていない。
セシル達が任務に赴く時は武器となるものを別個に積んでいた。あのミシディアの奪還からの帰還
の時にも魔物に襲われたのだが、その時も持ち込んだ魔法具「赤い牙」と「青い牙」を使って撃退したのだ。
飛空挺から砲撃が地面に向けて発射され、轟音がする。それに反応して地面からも上空に向かって砲撃が
返ってくる。
地面には鉄の箱のようなものが車輪と大砲を先端に備え付けて砲撃を空の上の飛空挺群――ゴルベーザの<赤い翼>とでも
呼ぶべきものに向けていた。
それが地底の兵器である事は間違いないであろう。やはり地底にも誰かが住んでいるのだ。
同時にこの光景は地底の人々とゴルベーザが交戦状態である事を想像させた。
上空から高機動で迫るゴルベーザに比べ地底の頑強なる兵器は地面を這いじっくりと腰を据えた
迎撃態勢をとっている。
受け手に回っているのは地底側である。遥か高みで安全に攻撃する飛空挺に地底の鉄の箱は相手を撒く
事に精一杯といった様子だ。

28書き手 ◆W4g5HNoLOg:2009/11/13(金) 00:37:31
FINAL FANTASY IV #0566 7章 1節 「地底世界」(4)

「くっ……シド助けに入る事は……?」
言ってセシルは自分の言葉は無謀である事に気づいていた。数という絶対的な差で劣っている。
ましてやこの乱戦にいきなり割って入ると混乱を生むだろう、最悪両者から攻撃を食らいかねない。
「無理だな、悔しいがこの船は奴らのとは違ってこの灼熱に耐えれない」
シドが技師としての専門的な局地から否定する。
「一旦何処かへ不時着するしかない!」
そう判断し着陸できる場所はないかと二人は周囲へと目を張り巡らす。
「ねえ、あそこはどう!?」
そう言ったのはローザだ。彼女もこの状況を見極めていたらしい。
その指の指さす方向には高い石造りの壁に張り巡らされた。その壁の中にはこれまた石造りの砦が備え立っていた。
城壁と思われるその場所の入口と思われる巨大な門からは先程の鉄の兵器が続々と出撃していた。
交戦中の部隊の劣勢を覆す為の増援なのだろうか?
あそこがこの世界の城であり拠点となっているのは間違いない。しかしいきなり向かって大丈夫だろうか?
ましてや飛空挺に乗っているのである。敵と間違えられる可能性もある。
「行くしかあるまい!」
皆の言葉を代弁したのはカインであった。
迷っていては状況は好転しない。すぐさま行動あるのみだ。

29書き手 ◆W4g5HNoLOg:2009/11/14(土) 00:24:15
FINAL FANTASY IV #0567 7章 1節 「地底世界」(5)

その地底の城に辿り着くのには一苦労であった。
何故ならセシル達は思っていた以上に地底の民とゴルベーザの戦いは広がっていた。既にこの世界のあちこちで規模の違いは
あれど戦いが始まっていたのだ。
エンタープライズが着陸するにはそんな戦いの渦中を突っ切るような無茶な行動を取らなければならなかった。
当然ながら流れ弾や誤射、敵と錯乱しての地底人の攻撃。その上ゴルベーザ達の方は此方の飛空挺がセシル達だと分かった
のか地底人よりも優先して攻撃してくる有様であった。
そこまで長距離で無かったのが救いではあったものの、城の近くに辿り着いて着陸する頃にはエンタープライズ自体は完全にガタが
きてしまっていた。
「これは再び飛び立つには修理が必要かもしれん……」
痛んだ装甲を見てシドが険しい顔をした。
「お前さんには辛い思いをさせたな」
そう言ってゆっくりと焦げた船首部分を撫でた。技師にとってはその成果物は自分が生み出したようなものなのだ。
シドの行動はまるで愛娘を気遣うような素振りだ。
「さてここからが問題だ」
しんみりとしたシドを尻目にカインが城の方向へと向き直る。
「歓迎されるとは限らん……」
地底人にとっては目的は違えどセシル達も空からの来訪者。つまりはゴルベーザ達と変わりはしないのかもしれない。
此方に戦う気がないという意思を伝えて戦闘を回避しても、手放しに歓迎するつもりはないのかもしれない。
「あれ見て!」
どちらにせよ城の方へ行ってみるべきだ。そう判断して歩き始めた時の事であった。
ローザの指さす方向――つまりは城の方向から幾多の人影がセシル達の元へと近付いてくる。
思わず身構えるような態度で人影の接近を待っていると、程無くしてその影は姿を現した。

30書き手 ◆W4g5HNoLOg:2009/11/14(土) 00:25:02
FINAL FANTASY IV #0568 7章 1節 「地底世界」(6)

「!」
現れた人影は一人ではなく複数であった。そしてその集団の姿形はセシル達を驚かせる事になった。
どの者達も小柄で浅黒いを通り越した真っ黒な肌をしていた。集団の中には男と思われるものと女と思われるものの両者
がいたが、すぐには判別はつかなかった。そして男と判別されるであろう者達の頭には二本の角が生えた兜をかぶっていた。
これがこの大地に住む者達――地底人達だというのか。
「地上から来たのですね歓迎します」
驚きと戸惑いで困惑しているセシル達に向こう側から話しかけてくる。彼らの口から出たのは意外にも友好的な言葉であった。
「何故俺達を知っている?」
カインが警戒したかのような声を上げる。未知との遭遇ともいえるこの状況に対して、そう簡単に警戒心は解けないのだろう。
セシルも未だに信じてよいものか半信半疑であった。
「そう怖い顔をなさらないでください、カインさん――」
地底人の人々から次に紡がれた言葉は更なる驚きをもたらした。
「既にあなた達の話は聞いています。ローザさん、シドさん、それにセシルさん――」
どうやらこちらの情報を把握しているようだ。
「ご心配なく、我々は地上の人々と対立するつもりはありません。むしろ友好な話し合いが望みだったのですが……」
そう言って空――この世界でそう言っていいのか分からないがを見上げた。
飛空挺と鉄の箱の戦いは未だにやむ気配がない。
「あれはお前さん達が作った武器なのか?」
シドが尋ねる。あれとは鉄の箱の事であろう。
「はい、戦車という武器でありまして――本来はこの大地間の移動を楽にする為に作られた乗り物だったはずなのに、
あのような使い方をしてしまうなど不本意なのです……」
「……そうか」
技師として大空へと大志を抱き飛空挺を作ったシドとしては複雑な色々思うところがあるのだろう。
飛空挺も結局は兵器としての道を歩んだ。地を這う戦車に大空を舞う飛空挺。その起源は同じようなものなのであった。
「とにかく急いでください! ジオット王があなた方を待っております」
その慌てぶりを見ると、事態は一刻を争うのであろうか。反対する余地もないと判断したセシル達は地底人達の案内へと従った。

31書き手 ◆W4g5HNoLOg:2009/11/14(土) 00:26:19
FINAL FANTASY IV #0569 7章 1節 「地底世界」(7)

またたく間に城へと案内されたのは、真っ先に目に入ってくる大広間を通り抜けた先にある大きな扉であった。
ここまでの道のりには複雑な順路を通ってきた。そこから察するに今招待されたこの場所は、普段王との謁見を果たすために
存在する王の間ではないであろう。そのような場所であれば大抵入口を道なりに行けば辿り着くからである。
ここまでの道案内をしてくれた地底人の男が、扉を開けて内部へと踏み込む。セシル達もそれに続く。
部屋の中には大きな円卓の机が一つ並べられていた。机を取り囲むように数えきれない程の人が着席している。
更には祭りや宴の類にしても大きすぎる円卓からすらもあぶれた人々があちこちに立ち尽くしていた。
「おお――あなたがバロンの!」
とてもではないが一目で何人いるのか到底判断がつかないその円卓の中心、そこにいる人物がセシルを見るなり声を上げた。
外見からして地底人の男である。それもどこからともなく溢れ出る威厳が彼の正体を示していた。
「私がジオット、この地底の国を治めるものです」
円卓から立ち上がり会釈を交わしてくる。
「既に外の様子は見てきたでしょう?」
セシルが頷くと、すぐさまジオットは言葉を紡いだ。
「ゴルベーザといいましたかな。あの部隊を率いてる者の名は」
それが質問なのか自問なのかを考える内に更に続く。
「闇のクリスタル――こちらのクリスタルもすでに二つも奪われてしまった」
「そんな!」
次々と語られる事実にローザが悲鳴と驚愕の声をあげる。
セシルも、おそらくはカインもシドも同じような気持ちであった。窮鼠猫を噛む勢いで地底までやってきたというのに……
僅かに残された手段を使って来たのに、ゴルベーザを出し抜く事は出来なかったのか? そもそもセシル達のやってきた事など
ゴルベーザにとっては微塵にも影響を及ぼさない事だったのか?
いくら抵抗しようが無駄なのか? メテオの直撃を喰らってでも生き延びた奴の野望は底なしなのか?
絶望にも近い想いがよぎった――そこから導き出されるのはただ一つ、諦め――
「いや、まだ諦めるには早いですぞ!」
セシル達の落胆は外から見ても明らかだったのか、円卓から声を上げる者が一人。
本当か――? 投げやり気味な思考が否定の言葉を出した。
だが、その者の声は聞いたことがあった。そして続く言葉が完全にセシルをマイナスの思考から引きづり戻した。
「あまり多くは抱えすぎるなという事ですぞ……パラディン殿」
それはかつて、パラディンとしての責務に病的になっていたセシルに対しての言葉――
「例えどんな状況からでも諦めずに状況を覆す、何事にも遅すぎるという事はないのですぞ!」
そしてセシルよりも遥かに熟練し長き道のりを歩きてきたからこそでる言葉。
「そうですなセシル殿?」
「……ヤン!!」
ゾット以降の再会となった仲間――モンク僧の名をセシルは呼んだ。

32書き手 ◆W4g5HNoLOg:2009/11/15(日) 00:58:39
FINAL FANTASY IV #0570 7章 1節 「地底世界」(8)

「ヤン……」
何故ここに? という疑問は口にする前に立ち消える事となった。
自分達がこの地底にやってこれたのもメテオが原因となっている。メテオが生んだ傷痕はあれだけではない。
ならばヤン達も何所かの<繋ぎ目>を使ってここまでやってきたのだろう。
「奪われたクリスタルはまだ半分です。後二つ残っています」
「それに一つはこの城にある。皆が頑張っている限りは奴らに侵入される事はないだろう」
後半はジオットが引き継いだ。
「頼もしい我ドワーフの民達が一丸となればどんな苦境すらも吹き飛ばしてやるぞ!」
ドワーフ――それが地底の民の名か。
「私だけではないのです」
だけではない。その言葉は先程のセシルの予想が正解であったということだ。
「既に地上の人々もゴルベーザと戦う為に続々と地底へと集結しています。各国も残存部隊をこちらに集め、全力で城を
死守するつもりでいるのです」
各国とはゴルベーザにクリスタルを強奪され破壊された国の事だ。ファブール、ダムシアン、ミシディア……
「ならギルバートも来てるの?」
もう少し情報が欲しい、そう思って更なる言葉を探していると、先にローザが疑問を投げかけた。
ローザにとってはファブールの死闘以来、ギルバートには一度も会っていない。生きているという事実を知っていても
実際に会ってその安否を確認したいのだろう。
「それが……」
ヤンが申し訳なさそうな顔をする。
「まだ怪我の方が完治しておらず、この場にやってくることはできませんでした」
「……そう」
「いや、しかしギルバート殿もこの世界の危機に対して影ながらの支援をしてくれています!}
がっかりするローザを元気づけようと必死に言葉を探すヤン。口から出まかせを言ってる訳では
ないだろう。
「そう言えばファブール王は?」
文武に長ける剛の国の長。ゴルベーザに拉致される直前にローザも面識があった。このような場に顔を出さぬのは不思議でないか
そう思ったのだろう」
「あの時の傷がまだ深く……」
今度はヤンが暗い顔をして答えた。続けて怪我人の話題を出すことにもだが、主君が手負いだというのは思ったよりも辛い出来事
なのだろう。
「ですが快報にむかっていられますので心配しないでください。今は王に代わって私がファブールの者達を率いております」

33書き手 ◆W4g5HNoLOg:2009/11/15(日) 00:59:18
FINAL FANTASY IV #0571 7章 1節 「地底世界」(9)

「……ごめんなさい」
ローザとしてはただ疑問をぶつけただけなのだろうが、結果的に二度も明るくない話題をふってしまうこととなった。
そのことを詫びているのだ。
「いえ、それよりも今は互いに協力してゴルベーザの野望を阻止すべきです!」
お互いを気づかうばかりの微妙な空気を入れ替えるべく、ヤンが喝とばかりに威勢を上げる。
「その通りです!」
それに呼応されるように円卓からも声が上げる。
「あなたは?」
見ると、一人の老人が立ち上がっていた。知らない顔であった。
「私はエブラーナの家臣、であった者です……」
その語りくちはまるで過去を回想する者のようだ。
「ではエブラーナは?」
カインも察しったのか、一つの疑問をぶつける。
エブラーナ? その言葉にはセシルも聞き覚えがあった。急いで記憶を回想するとすぐにも思い出された。
確かバロンの真南、アガルトから更に西へと向かった場所にある異国の地。他国家とはほぼ鎖国の状態に
あり、謎に包まれていた国。独自の発展を遂げたその国には<忍者>とよばれる特殊な戦法を用いる戦士達がいる事。
セシルが幼い頃「学校」で仕入れた知識、そして趣味や好奇心から自ら調べたところによる知識。
この二つを総合してみたところの情報はこんなところだ。
そして、仕事や任務として世界を駆けた時に得た知識としてもう一つ――謎の巨塔、ゴルベーザ達がバブイルと言っていた
場所が存在していた場所……
「はい、ある日突然ゴルベーザの四天王と名乗る者がやってきて……王は必死に抵抗しましたが王妃共々に命を落としてしまいました」
涙交じりに天を仰ぐ老人の様子が、嫌でも当時の状況を喚起させた。酷い有様だったのだろう。
「それで民は?」
「はい、多くの民は抵抗して、または逃げそびれて命を落としました。残り少ない生き延びた人は地下に潜伏しました。隙を見て
一矢報いておろうとする者もまだおりますが、残った大半は女子供老人が大半です。家老であった私もそうです。それに王が不在で
若が行方不明の今国を率いるものがいません――」

34書き手 ◆W4g5HNoLOg:2009/11/15(日) 00:59:52
FINAL FANTASY IV #0572 7章 1節 「地底世界」(10)

「若?」
誰もがしばらくのその老人――家老と呼ばれた者の話を黙って聞いていた。しかし耳慣れぬ単語の登場にカインが言葉を挟む。
「あ、はい若様の事です。王と王妃の間に生まれたご子息の事です。事件の当初、城を離れていたために難を逃れましたが、それ
以来姿を確認できていないのです」
行方不明。しかし、それは生きている可能性があるということ。同時に既に何処かで息絶えている可能性もあるということ。
「その心配はありません」
暗い方向性に目を向けたセシル達を家老が否定する。
「若はエブラーナ忍者の中でも頭一つ抜けた力を持っています。簡単にやられてしまう事はないでしょう。それに……若は一度
熱くなると止まらない性格。おそらくは両親の仇を討とうとしてるのでしょう」
そこが心配なのですが。と最後に小声でつけ加える。
実際にそのエブラーナの若こと王子が今どこでどうしているのか、果たして生きているのかすらも分りはしない。しかし、家老の
老人が信じているのならば大丈夫であろう。
「話は変わりますがセシルさん。あなたがバロンの代表者という事でいいですか?」
ドワーフの王、ジオットが会話にはいってくる。
「僕がですか……僕は……」
王はもういない。地上世界の誰もが今の状況を打破しようとしている。ならば自分も何かをせねばならぬのだろう。
「はい。そういう事にしておいてください」
「そうですか。ならばこうして皆が集まった所で地上・地底合同の作戦会議を行いたいと思う」
もし戦いがひと段落したら自分はバロン王になるのか? それは分からない。だが、今は後ろを振り変えずにただひたすら
前を見ていく。それが未来へと続くはずだ。

35書き手 ◆W4g5HNoLOg:2009/11/16(月) 00:06:16
FINAL FANTASY IV #0573 7章 1節 「地底世界」(11)

作戦会議の結果、二つの結論が出た。
一つは残されたクリスタルを死守する事。その内一つはこの城にある。ゴルベーザの<赤い翼>が
何度もこちらに攻め込んでくるのはクリスタルを奪う為、ならばこちらも迎撃体制に入るべきだ。
現状地底側は不利な状況である。地上と空の打ち合いでは圧倒的に上からの方に分がある。
セシルの初見の戦局の印象はそうであったが、この見解は地底側も同じであった。
飛空挺での制空権があちらにある以上は劣勢は覆せない。そう判断した地底側は一つの提案を思いついた。
ゴルベーザの主力兵器である飛空挺は、元々地上で開発されたもの。ならば今こうして二つの世界が
結ばれた今、地上の技術提供さえあれば飛空挺を導入する事が出来る。
当然ながらこの提案を用いる際にもっとも活躍するのはシドである。何しろ飛空挺を開発し発展させた
技師なのであるから。
この提案、シドには躊躇いがあるのではないかとセシルは危惧した。飛空挺を戦いに使うのを誰よりも嫌い、そしてその光景
が現実になった事に一番責任を感じているのはシド以外に他ならない。
しかし、彼はあっさりと承諾した。そして次の日からは乗ってきたエンタープライズの修理、そして地底での飛空挺を開発する
際の技術指導、制作工程の指揮、地底資源で足りないものは例の<繋ぎ目>から地上の材料を持ち込む事になり、この物資搬入にも
細かな指示を出すことになった。
結果的にこれからの戦いにおいて、シドは最も多忙な人物になった。

36書き手 ◆W4g5HNoLOg:2009/11/16(月) 00:07:01
FINAL FANTASY IV #0574 7章 1節 「地底世界」(12)

もう一つの結論、それは前述の守りとは違い攻めに関する事項であった。
それはすなわちゴルベーザの本拠地、バブイルへの攻撃を早急に開始する事。バブイルが二つの世界を結ぶなら当然、この地底にもその巨塔
は存在する。
そして、おそらくはその場所に奪われたクリスタルがある。それを奪還する事も目的の一つである。
しかし、それ以上にバブイルへ進行する事にはもう一つの重大な意味があった。前述の目的は願わくば出来ればいいのである。此方にクリスタル
が残されている限りは。
地底側の弁によるとバブイルには巨大砲の開発がされているとの事。
そしてそれが完成すればすぐにでもこちらを一方的に攻撃できるような高性能長距離兵器になるという事。
シドの飛空挺援護が万全になるにはまだ時間がかかるし、例えそれがあったとしてもこちらが優勢になるという訳でもない。
巨大砲を破壊せねば事態は悪化する一方だ。それに守りに入ってばかりではいつまでも勝利はやってこない。
踏み出せる時があれば、多少のリスクを恐れずに歩きださねばならない。
それにバブイルを攻撃する事によって相手側にダメージが与えれば、こちらが有利になる。そしてあわよくば奪われたクリスタルを奪還
する事も出来る。
とにかく作戦は一刻を争う!
日々続く、ゴルベーザとの防戦の最中も作戦を開始する為の準備は行われていた。
この作戦が成功すれば少しは状況を打破できる。先の見えぬ闘いの中生み出された根拠の無い思いのせいか、またまた城の防御は万全さに
安心しきってた為、当分の間は大丈夫だと信じ込んでいたのだろうか。

そんな時とある事件が起こった――

37書き手 ◆W4g5HNoLOg:2009/11/16(月) 00:36:38
FINAL FANTASY IV #0575 7章 2節 「罪の在処」(1)

「おい、しっかりしろ!」
カインが床へと倒れこむ兵士達に片っ端から声をかけて回っている。
「一体何があった!?」
王との謁見の間。玉座と真新しい赤絨毯に大理石の柱が立ち並ぶその場所は普段の厳格かつ静粛な
雰囲気を留めていなかった。
「ローザ傷の方は?」
「……命に別条はないみたい」
作戦開始の準備が刻一刻と進む最中、突然王の間に異変が起こった。
最初に聞こえてきたのは悲鳴であった。ただならぬ予感を感じ取ってかけつけてみれば、王の間には
血溜まりがあちこちに出来上がり警備と思しき兵士達が何人も倒れていた。
まさかゴルベーザ達が城にまで潜入部隊を潜り込ませていたなど完全に想定外であった。
そしてそのせいでまたもや傷つく者が出てしまった。
「じゃあ、この人達は大丈夫なんだね……?」
緊急手当として白魔法を詠唱し終えたローザにセシルが尋ねる。
「ええ。でもこれじゃ応急処置にしかならない。すぐに医務室にでも連れて行かないと」
ほっと一息撫で下ろす。結局はゴルベーザとの戦いは地上の者達が持ち込んだものだ。
それにより地底の者に犠牲者が出てしまうのは絶対に阻止したかった。否、もうこれ以上誰にも
犠牲になってほしくはない。
「……いやいいんだ……」
ふと負傷した警備兵が口を開いた。
「いまの回復魔法で私達は大丈夫です。後は自分の足で医務室に行きます。それよりもあそこへ……」
大丈夫だといったがまだ傷は完治していないようであった。しかし、その兵士は痛む体を抑えて奥の方向を指差した。
見ると王の間の象徴であり、権威の証でもある玉座の後ろの壁に人が出入りできるほどの空間が出来上がっていた。
先の見えないそれは随分と奥まで続いているようであり、覗き込んで見てもここからでは最深部を確認できない。
「まさか!?」
警備の者が自分の身を後回しにしてでも守れというもの。そしてゴルベーザがわざわざ向かっているもの。考えられるものは一つしかない。

38書き手 ◆W4g5HNoLOg:2009/11/16(月) 00:37:18
FINAL FANTASY IV #0576 7章 2節 「罪の在処」(2)

「おおっ……!」
急に一つの台詞が割って入った。振り返るとジオット王が入口の方に立ち尽くしていた。
「これは……私が会議室の方へと言ってる際に。なんと……!」
ジオット王の様子を見る限り、何が起こったのかすら分からない程混乱している訳でもないし、状況を呑みこめていない訳でもない。
「王、無事でしたか……良かっ――ぐっ」
「まだ喋らないで」
ローザが優しくなだめる。
「この先には?」
カインが尋ねる。既に回答を知っているのであろうが。
「ああ……クリスタルだよ」
誰も驚かなかった。
「王の間であれば警備万全。私の目の黒い内は絶対に大丈夫だと思っていた。其処にクリスタルがあるというのも、私を含めて数人しか
知らない事となっていた。こんな事ならば君たちにも話しておくべきだったよ……協力を頼んでおきながら隠しごとなど」
「王は悪くありません」
懺悔と後悔の念を吐き出す王をヤンがいさめる。
「それが最善と判断したのなら誰も責める事はできません。それよりも奴らめ!」
怒りの表情で奥へと続く道を睨む。ヤンにとって国家がこのように攻め落とされる光景が許せないのだろう。かつてのファブール
がそうであったように。
「とにかく後を追うべきだ!」
セシルは告げた。既にクリスタルは奴らの手に渡っているかもしれない。だが立ち尽くすような事は出来ない。
誰も反対しない。決まりだろう。
「王は負傷したみんなをよろしくお願いします」
背中越しに告げて、返答を聞く前には走り出した。セシルを先頭に続くのはカイン、ローザ、ヤン。
本当ならばシドの力を借りたい所であった。しかし、彼は多忙の身。そういうわけにはいかなかった。

39書き手 ◆W4g5HNoLOg:2009/11/17(火) 03:01:43
FINAL FANTASY IV #0577 7章 2節 「罪の在処」(3)

奥へと続く薄暗い通路を進んでいく、一本道であったから道なりに進むだけだ。
もっとも順路には血が矢印のような糸を引いていたので、例え複雑な道でも迷いはしなかっただろう。
同時に、点在するその血痕が侵入者が確かにいる事。この奥にいるであろうことを示している。
道の終わりには豪華な装飾の施された大きな扉があった。ここがクリスタルルームであることは間違いない。
力を入れて扉を引っ張る。鉄で出来た頑強な扉は鈍い音を立てつつあっさりと開いた。扉が壊された様子がないと
いう事は最初から鍵などかかっていなかったということか。ジオット王はここまで侵入されると思っていなかったのだろう。
完全に開け放たれた扉から、中の様子が目に飛び込んでくる。クリスタルルームと呼ばれるそこは一見して地上の
それとあまり変わりがあるようには見えなかった。透明で自分を映し出す床に、中央に備え付けれられたクリスタル用の台座。
そして冷たくひんやりとした空気。何もかもがファブールの時と変わらないように思えた。
しかし、すぐにもこの場に似つかわしくない存在に気づかされる。
それは一見するとどうみてもごく普通の玩具の人形であった。とはいっても玩具にしては多少大きすぎる事と、子供用にしては
やや豪華すぎる装飾品や精巧から見て、相当高価な代物ではある。親が子供に買い与えるにしては贅沢すぎる品とすら
思われる。最も、どれほどの値打ちのものであろうが少女が愛でる人形である。この緊迫した場所には場違いな存在である
事に変わりはない。
その人形は数にしてみて六体程であり、色は大きく分けて二種類。赤というよりは橙色の人形と紫に近い青色の人形の
二通りにでそれぞれ半分づつ奇麗に色分けされている。
人形達はそれぞれが誰にも支えられることなく直立不動しており、その精巧な手が朱色に染まっている。
それが血である事は日の目を見ることよりもあきらかであった。
常識的に考えてみればおかしな光景であった。だが、あまりにも突拍子の無い場面に遭遇したせいか、セシル達はしばらくの
間身構えることすら忘れていた。
人形達の十二の瞳が一斉にセシル達へと向けられる。そこから何かの感情を読み取る事は出来ない。
「僕らは」
「陽気な」
「カルコブリーナ!」
自立した子童達が口々に言葉を発する。ここからも表情同様に何も感じる事ができなかった。
「怖くて可愛い人形さ!」
台詞が重なり合うともはや何重にも連なって言葉を聞かされているようだ。
結局人形達からは感情の揺れや、敵意といったものは何一つ感じ取る事が分からなかった
だが一つだけ言える事は向こうがこちらに攻撃を仕掛けようとしてくる事。敵意や悪意を感じ取る事が出来ないが間違いない。
おそらくは誰かが操っているのだろう――誰かとは考えるまでもないゴルベーザだ。
王の間の警備の者達がやられたのも決して彼かが未熟だったわけではない。警戒心の無いこの人形達を察知する事はどれだけの
熟練者にも無理であっただろう。

40書き手 ◆W4g5HNoLOg:2009/11/17(火) 03:05:55
FINAL FANTASY IV #0578 7章 2節 「罪の在処」(4)

元々戦闘用につくられたものでないカルコブリーナ達自体の戦闘力はそれほどのものではない。
攻撃手段もその短い手足を子供のように振り回してくるだけであり、何か特殊能力をしかけてくるわけではない。
不意打ちでなければ致命的なダメージをもらうこともないだろう。唯一懸念すべきなのは数だけだ。
しかし、その有利要素すらも人形達は利用してこようとしない。絶妙な連携も多数による戦略も何も
行使してこようとしない。闇雲に一体づつが攻撃してくるだけであった。
人形という意外性が分かった今、散発する攻撃をしかけてくるだけのカルコブリーナの攻撃を受け流す
のは簡単な事であった。カインとヤンの二人と協力して着実に人形達から戦闘手段を奪っていく。
「痛いよ!」
「よくもやったな!」
傷つく度に人形が苦しみや抗議の声を上げる。しかし、やはりそこには言葉以上感情が存在していなかった。
魔物であっても傷をつけられれば呻き苦しむ。だがカルコブリーナ達にはそのような素振りを全く見せる様子
すらない。
相手がどのような考えで戦っているのか? 今相手は苦しんでいるのか、悲しんでいるのか、それとも逆に喜んでいるのか?
戦闘において相手の感情の揺れを捉えられないのは、時に自分の精神状態を把握出来ていない時よりも重大な問題になってくる。
これで――
戸惑いを感じつつも、最後の人形の戦闘力を奪う。
「痛いよ、苦しいよ」
人形はまだ痛みの声をあげている。何度聞いても感傷に浸る事はできなかった。
「やはりこんなものでは駄目か――」
「!」
突如として人形の声色が変わった。今までの無感情なものとは違い、どす黒い暗黒を感じる事ができる
その声を見間違う事は無かった。
「ゴルベーザ!」
セシルの声に呼応するかのように人形から黒き波動が舞い上がる。
途端、カルコブリーナと呼ばれる人形達はまるで糸が切れたかのように突如として動きと止め、以降は微動だにしなかった。
飛び出した波動は一つの場所に一点集中。段々とその大きくなっていき一つの形をつくる。
まずは輪郭をかたどり、細かな部分を明らかにしていく、やがて波動は見覚えのあるものである。
予想した通り、波動があつまった影はゴルベーザとなりその場へと姿を現す。
「先日はお世話になったな」
先程の波動であった時に比べてより明確になった声が聞こえた。

41書き手 ◆W4g5HNoLOg:2009/11/18(水) 00:03:51
FINAL FANTASY IV #0579 7章 2節 「罪の在処」(5)

眼前に元凶が迫っている、しかしそんな最中でもセシルはすぐに身構える事が出来ずにいた。
相手はメテオを食らい生き残った強仁な肉体に今までこちらが先手を打とうとしても常に先回りしてこちらの出鼻を
くじいてきたゴルベーザだ。三度の直接的なぶつかりあいである今回もそのような状況だ。
それに……ゾットの際のゴルベーザとの事が未だに引っかかていたのだ。
「さて」
自分が動かないせいなのか、はたまた同じく同様しているのかローザやヤンもその場に立ち尽くしていた。
だがその時が止まったかのような空間でゴルベーザだけがいつも通りの素振りで口を開く。
「今回はお前達には用はない。この人形を遣わしたのも別段、お前達の相手をさせるわけではないのだからな」
そう言って床に崩れ落ちたカルコブリーナ達を一瞥し、すぐにも後方の台座へと向き直る。
「地底に眠る闇のクリスタル。これで三つはわが手中に収める事になるのだからな」
ゆっくりと黒甲冑の手を上空へと伸ばし空を切る。呼応するかのようにゴルベーザの眼前、台座へと静かに安置されたクリスタル
が浮かびあがる。
ゴルベーザが伸ばした手をこれまたゆっくりと後ろへと引く。クリスタルはするするとゴルベーザの方へと向かっていき、やがて
すっぽりとその手中に収まる。
スローモーションの如き、行われるその光景の一部始終をセシル達は見守る事しかできなかった。
思えばあの時、ゾットで傷ついたカインを背負い頂上へと向かう時に止めを刺すべきだったのか? あの時のゴルベーザはかなり
の手負いの傷を負っていた。あれからまだ二週間程度の時間しかたっていない。それがここまで回復しているとは奴の生命力は
どれほどのものなのだ。
あの時のゴルベーザは何故か自分に止めをさそうとはしなかった――逆に言えば自分も出来なかったのだが。しかしなんとしてでも
打ち倒すべきだったのか?
ヤンに諭され諦めの気持ちは消えうせたとはいえ、向い来る脅威を前にして浮かび上がるのは自問自答であった。
しかし、待ったはきかない。ゴルベーザの様子を見る限り、今回ばかりは本当にセシル達に用はないのだろう。もしかするとローザ
を取り戻された今、セシル達など眼中にないのかもしれない。否、ファブールでローザをさらったのもただの気まぐれなのかもしれない。

42書き手 ◆W4g5HNoLOg:2009/11/18(水) 00:05:20
FINAL FANTASY IV #0580 7章 2節 「罪の在処」(6)

「待てゴルベーザ」
中々踏み出せずにいるとカインが口を開いた。
「このままみすみす返すつもりはないぞ」
言いながら、竜騎士の象徴たる槍をゴルベーザの目先へと向ける。黒兜に覆われたそこからは表情を察せないのは当然であり、
僅かな隙間から瞳を凝視する事すら出来ない。
「ほう……それは恨みか? 私に利用された?」
逃がすつもりはないといったカインに興味深く向き直り、質問を出すゴルベーザ。
「そんなところだ」
「ふ……はははは! 実に面白いやつ。そして利用しがいのある奴だな!」
「何がおかしい!」
黒甲冑の男には不釣り合いな笑いという予想外の反応。カインは激昂した問いを返す。
「お前を手放すことになったのは実に惜しいといっているのだ」
「貴様!」
それが挑発だと思ったのかカインは槍を一閃。ゴルベーザを薙ぐ。
しかし、予想していた反応なのか。ゴルベーザはひらりと横へと微動しその攻撃を回避した。
「どうだ? 今からでも私の所に戻ってくる気は?」
「ふざけるな! 生きて帰れると思うな!」
カインは更に激昂した。当然だろう。心に付け込まれ利用された事に一番悔しさを抱いているのは誰でもない彼自身なのだから。
「僕も逃がすつもりはないぞ! ゴルベーザ!」
二人のやりとりが開戦の合図になったかのようにセシルも声を上げた。
「ふん……大人しくしていれば楽に引き下がったものを」
後ろを見やるとヤンとローザも戦闘の構えをとっていた。どうやら激突は避けられそうにない。

43名無しさん:2009/11/19(木) 01:53:35
FINAL FANTASY IV #0581 7章 2節 「罪の在処」(7)

「いいだろう。この体であっても貴様達を倒す事など造作もないのだからな!」
この体――手負いの傷という意味であろうか? だとしたらどれほどの強大な力を有しているのか想像もつかない。
だが、同時に今がゴルベーザを叩く絶好の機会でもあるということである。
考えていると、ゴルベーザが先程と同じく黒甲冑の腕を振り上げる。今度は台座でなくセシル達の方へ向いている。
「絶対的な力の差を思い知るがいい!」
振り上げた手を真っすぐとこちらへと下ろす。<それ>が何かの攻撃であることは明白であった。
止めなければ――そう判断したののはセシルだけでない。
<それ>が発生する直前の光景にはセシルの他にもヤンとカインがゴルベーザへの攻撃を開始しようとしていたところであった。
「が……ぐっ!」
いつどのようなタイミングで<それ>が発生したのかは分からなかった。しかし、いつの間にかひんやりとしたクリスタルルームの
空気は更に冷たくなった。それもただ寒いとかそのようなものではない。何かどす黒いオーラのようなものが体にまとわりついてくる
ような感じ。いつしか、周囲の景色――クリスタルが中央に安置されそれを中心にして光輝くこの場所を黒き霧が覆っていた。
「体が」
その場所にいた一人――ゴルベーザを除いた人物に急に重みがのしかかった。
(動かない!)
いつしかセシルは床へと、がっくりと膝をつけていた。騎士として王に仕えたもの、自分の体が戦えるのかの判断は出来ているつもりだった。
だが、このような状況は初めてであった。体中を痺れが駆けめぐり、動かす事もままならない。立ち上がる事は当然として手を動かす
事すら困難であった。
何とか、瞳だけを動かして周囲へと視線を走らせてみると、他の三人も同様の様子であった。
「ゴルベーザ……何をした……?」
幸いなのかどうかは分からないが、口だけは普通に動かす事が出来た。
眼前にただ一人平然と立っているゴルベーザへと疑問をぶつける。もっともこの様子からして今の状況が奴によっておこされている
事は疑う余地もない。そしてこれがセシル達を片付ける為のものだという事にもだ。
「呪縛の冷気――動けぬであろう?」
それだけ言うと、再び腕を振り上げる。
「動けぬ体に残された瞳で真の恐怖を味わうが良い」
言い終わらぬ内に辺りの黒き霧が一点に集約していった。

44書き手 ◆W4g5HNoLOg:2009/11/19(木) 01:57:44
FINAL FANTASY IV #0582 7章 2節 「罪の在処」(8)

それはカルコブリーナ達から噴出した黒き波動がゴルベーザを形作った時の様子に似ていた。
黒き霧は集まるにれ大きさを増す。やがてはもくもくとしたそれは次第にはっきりとした線となり輪郭を描く。
違うところと言えば、ゴルベーザの時に比べて霧の量が多く、集まったそれも何倍もの大きさであった事である。
一つの形になろうとしている霧がとてつもなく巨大なものになろうとしているのは想像するまでもなかった。
「参れ、黒龍!」
ゴルベーザの合図とともに霧がその姿を完全なものにする。
現れたのはゴルベーザの甲冑と同じ漆黒の鱗に包まれ、黒き瞳を宿した巨大な龍。
「やれ」
ゴルベーザの指示に呼応するかのように黒龍と呼んだそれが咆哮を上げる。
黒龍は大きく息を吐き、鋭い牙が見え隠れする口から霧を吐いた。先程の黒龍やゴルベーザを形成した時に
比べればそれほどの大きさではないが、やはり何かの形を形成する。
それは一つの鋭利な刃物のようであった。じっくりと瞳をこらすと曲線状をしている。
まるで牙のようなそれは勢いをつけてこちらに向かってくる。
やがてそれは動けぬままおその場へと座り込むヤンの体へと、的を外す事のないような正確さで突き刺ささる。
「ヤン!」
その様子に誰かが声を上げた。おそらく同時にセシル達三人の誰かが言ったのだろう。
曲線上の鋭利な刃物。正確には牙と言っていいそれが体に突き刺さったヤンはがっくりとその場へと倒れこんだ。
すぐにでも駆け寄って治療をせねばならない。そう思ったが体が動かない。さきほどの呪縛の冷気とやらのせいであろう。
焦る気持ちを抑えつつもその場からヤンの様子を観察してみると不思議な事がわかった。
強靭な体に間違い無く牙は突き刺さっている。だが、不思議な事に血は出ていない。
しかし、倒れんだヤンの表情は苦悶に満ちている。それは痛みを感じているのではなく、まるで何かに苦しんでいるかのようだ。
「仲間の心配をしている場合ではないぞ!」
ゴルベーザの声がする。振り返る間もなく続けて何かが飛来する気配。おそらくヤンの体を貫いたもの同じ牙であろう。
恐ろしい早さで襲来する牙を交わす事は出来なかった。否、例え気づいていたとしても今の動けぬからだでは避ける事はできなかった
であろう。

45書き手 ◆W4g5HNoLOg:2009/11/19(木) 01:58:18
FINAL FANTASY IV #0583 7章 2節 「罪の在処」(9)

牙は瞬く間にローザとカインの体にも突き刺さる。
その後の二人の様子はヤンと全く同じであった。牙が深々と突き刺さった体からは全く血がでていない。だがそれにも関らず、二人は
何かに苦しんだかのような呻きを上げる。
「黒竜の牙――闇の力を集約したそれは相手を気づ付ける事なく内部からその体を蝕んでいく」
ただ茫然とその様子を眺めるしかないセシルに対して、ゴルベーザが切り出した。
「直接的な傷はない。だがじわじわと体へと侵食した闇はゆっくりと相手を苦しめる。そして訪れるのは――」
「ふざけるな!」
言われなくても分った。だからセシルはその先の言葉を遮った。ゴルベーザにその先を言わせたくはなかった。
「どうすればいい?」
この状況を打破せねば三人は間違いなく助からない。だからといって何かいい方法が見つかるわけでもない。
セシルはゴルベーザを威嚇する意味も込めてそう尋ねた。
「なあに簡単だ」
教えてもらえるとは到底思っていなかったので驚いた。
「体に突き刺さる黒の牙を抜き取ればすぐにでも闇の侵食は止まる。送り出す根本である牙さえなくなれば闇の力はその力を急速に
弱める」
そして不敵な口調で最後にこう付け加える。
「最も出来ればの話だがな、出来ればの。くく……」
何故ここまで丁寧に話すのかがセシルにはやっとわかった。
体から黒の牙を抜けば三人は助かる。だがそれは同時に誰かの助けが必要だという事である。そして今この場にいるのはセシルと
ゴルベーザだけである。そして今セシルは呪縛の冷気で動くことは出来ない。
「仲間が打ち果てていくのをそこでゆっくりと見届けるがいい」
解答を先回りして答えられた。
要はそういうことだ。誰も三人を助ける事が出来ない。今のセシルには黙って様子を見届ける事しかできない。
絶体絶命の状況が訪れた。


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