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スタンド小説スレッド3ページ

1新手のスタンド使い:2004/04/10(土) 04:29
●このスレッドは『 2CHのキャラにスタンドを発現させるスレ 』の為の小説スレッドです。●

このスレでは本スレの本編に絡む物、本スレ内の独立した外伝・番外編に絡む物、
本スレには絡まないオリジナルのストーリーを問わずに
自由に小説を投稿する事が出来ます。

◆このスレでのお約束。

 ○本編及び外伝・番外編に絡ませるのは可。
   但し、本編の流れを変えてしまわない様に気を付けるのが望ましい。
   番外編に絡ませる場合は出来る限り作者に許可を取る事。
   特別な場合を除き、勝手に続き及び関連を作るのはトラブルの元になりかねない。

 ○AAを挿絵代わりに使うのは可(コピペ・オリジナルは問わない)。
   但し、AAと小説の割合が『 5 : 5 (目安として)』を超えてしまう
   場合は『 練習帳スレ 』に投稿するのが望ましい。

 ○原則的に『 2CHキャラクターにスタンドを発動させる 』事。
   オリジナルキャラクターの作成は自由だが、それのみで話を作るのは
   望ましくない。

 ○登場させるスタンドは本編の物・オリジナルの物一切を問わない。
   例えばギコなら本編では『 アンチ・クライスト・スーパースター 』を使用するが、
   小説中のギコにこのスタンドを発動させるのも、ギコにオリジナルのスタンドを
   発動させるのも自由。

 ★AA描きがこのスレの小説をAA化する際には、『 小説の作者に許可を取る事 』。
   そして、『 許可を取った後もなるべく二者間で話し合いをする 』のが望ましい。
   その際の話し合いは『 雑談所スレ 』で行う事。

69新手のスタンド使い:2004/04/18(日) 18:40
みんな感想スレで言ってますから

70ブック:2004/04/19(月) 00:06
     救い無き世界
     第七十話・空高くフライ・ハイ! 〜その三〜


 気がつくと、俺はぃょぅに担がれたまま運ばれていた。
 どうやら気を失っていたみたいだ。
 やはり、あれだけ強烈な風を俺達に届く前に全て『終わらせる』のは無理があったか。
「……」
 体が鉛のように重い。
 これでしばらくあの能力は打ち止めだ。
 少なくともこの闘いの最中にもう一度使う事は出来ないだろう。

「くっ…!」
 ぃょぅがコンビニの中へと駆け込む。
「きゃああああ!!」
「おわ!?」
 店員と客が、俺達の有様を見てたじろいだ。
 呑気なものだ。
 外にはとんでもない鬼畜生が飛び回っているというのに。

「……」
 俺はぃょぅの体を軽く叩いた。
「!でぃ君、起きていたのかょぅ?」
 ぃょぅが俺の体をそっと床に下ろした。

「さっきはすまなかったょぅ。
 守るつもりが守られるなんて…」
 ぃょぅがばつが悪そうに頭を掻く。
 本当に、後一瞬でも遅かったらぃょぅは砂になっていた所だ。
 みぃを置いて行くのは心配だったが、ぃょぅを助けに来て良かった。

「!!!!!!!!」
 次の瞬間、コンビニの自動ドア付近が砂子となって吹き崩れる。

「そこのお二人さ〜ん!
 隠れていると関係無い人が次々死にますよ〜!」
 上空から、女の声が聞こえてくる。
 糞、あの外道め…!

「……!」
 俺は居ても立ってもいられなくなり、すぐさまその場を立とうとした。
 それを、ぃょぅが後ろから引き止める。

「駄目だょぅ、でぃ君!
 これ以上あの力を使ったら、君は―――」
 俺はぃょぅの手を払い、静かに首を振った。

 心配してくれて感謝している、ぃょぅ。
 だけど、もう遅い。
 もう、遅すぎるんだ。
 『デビルワールド』はもう手のつけられなくなるくらいに大きくなり過ぎた。
 今更俺が闘うのを控えた所で、
 『デビルワールド』は周りから負の思念を取り込んで大きくなり続ける。
 こいつはそれ程までに力を取り戻しているんだ。

 …そして、何となくだが分かってきた。
 『デビルワールド』の目的が。
 こいつは、
 こいつは―――

71ブック:2004/04/19(月) 00:07


「……!!」
 俺はコンビニを駆け出した。
 これ以上この中に留まっては、店の中の連中まで巻き添えになってしまう。
 数瞬目を閉じて体の調子を確認する。
 大丈夫。
 疲労と消耗が激しいだけで、外傷は全く無い。
 闘える。
 まだ、闘える…!

「でぃ君!」
 後ろからぃょぅが駆け出して来る。
 頼むぜ、ぃょぅ。
 これでも頼りにしてるんだからな。

「お出ましのようね、『デビルワールド』。
 あのお方の為にも、あなたはここで私が喰い止める!」
 女が翼で風を起こす。
「『ザナドゥ』!!」
 ぃょぅが逆方向の風を発生させ、女の風を相殺する。
 一先ずぃょぅの近くに居れば、あの風は大概無効化出来るみたいだ。

「……」
 しかし、どうする?
 確かに敵の攻撃は防御出来るが、それだけだ。
 こちらからも決定打になるような攻撃は加えられない。
 かと言って、持久戦に持ち込むのも得策ではない。
 『矢の男』のスタンドが徐々に完成に近づいていっているのが、
 『デビルワールド』を通して伝わってくる。
 そして、『デビルワールド』も急激に成長し続けている。
 時間が経てば経つ程状況は悪くなっていく。
 糞、どうすれば…

「でぃ君…!」
 ぃょぅが俺に視線を投げかけた。
「?…―――!!」
 刹那の思考の後、俺はぃょぅの考えを理解した。
 そうか、これなら…!

「!!!!!!!」
 俺は腕をスタンド化させてぃょぅの体を掴むと―――

 ―――空中の女に向かって思い切り投げつけた。

「なっ!!?」
 女が驚愕する。
 その間にも、ぃょぅは猛スピードで女に向かって突進する。

「『ウインズノクターン』!!」
 女がぃょぅに向かって風を放つ。
「『ザナドゥ』!!」
 ぃょぅが推進力を完全に殺さない程度に風のバリアを張り、
 女の攻撃を防御する。

「貰ったょぅ!!」
 ぃょぅが女に拳を突き出した。
「甘く見ないで!!」
 女が翼を動かし、急旋回する。
 ぃょぅの拳は後少しの所で空を切った。
 まずい、このままでは…!

「砂になりなさい!」
 女がぃょぅに向かって風を起こそうとする。

 ―――させるか!
「……!!」
 俺はそこらにあった石を拾って、女に投げつけた。
「!!!!」
 女がそれに気づき、直撃する前に砂に変える。
 ああ、そうなる事は容易に想像出来たよ。
 だが、お前の注意を逸らす位は出来たようだな。

「『ザナドゥ』!!」
 ぃょぅが再び女に一撃を加えんと振りかぶる。
 よし、今度こそ…

72ブック:2004/04/19(月) 00:07

「『ウインズノクターン』!!」
 しかしぃょぅの攻撃はまたしても届かなかった。
 女が翼で直接ぃょぅに打撃を加えたのだ。

「がっ…!!」
 ぃょぅが体勢を崩して地面に落下していった。

「翼にはこういう使い方もあるのよ…?」
 女が今度は俺に狙いを移す。
 ヤバイ。
 俺ではあの風を防げない。

「……!!」
 脚をスタンド化。
 即座にその場を跳躍する。
 俺の居た場所に烈風が叩きつけられ、その余波が俺を襲った。
 俺の表皮が砂になって崩れていく。

 …!
 余波でこの威力。
 直撃を受けるのは相当危険だ…!

「!!!!!」
 続け跳躍して追撃をかわす。

(糞、何て様だ。)
 心の中で悪態をつきながらぃょぅの元へと急ぐ。
 ぃょぅが居なければ、この闘いはこっちが不利だ。
 一刻も早く合流しなければ。

「……!」
 探す。
 ぃょぅを探す。
 おかしい、確かこの辺りに落ちて…

「!!!!!」
 その時、俺の目に「ある物」が飛び込んできた。
 …そうか。
 そういう事か。

「……」
 俺は脚を止めて、女の方に向き直った。
「どうしたの?鬼ごっこは終わりかしら?」
 女が嘲る様な口調で言う。

 そうさ、鬼ごっこはここで終わりだ。
 ただし、手前の負けという形でな…!


「!!!!!!!!!」
 体に残された力を総動員して、近くにあった車を持ち上げた。
「―――ッ―――ァ―――!!!」
 そして、それを女に向かって投げつける。
 大きな鉄の塊が意思を持つ獣のように女に襲い掛かった。

「ふん、大方大きい物なら砂にしきれないと思ったんでしょうけど…」
 女は笑いを崩さずに呟いた。
「別に命中する前に砂にするだけが防御じゃないのよ?」
 余裕綽々といった様子で女が車をかわす。
 俺はそれと同時に女に向かって跳躍する。

「お馬鹿さんねぇ。
 自分から砂になりに来るなんて…」
 言ってろ。
 もう手前の負けは決定している。

「『ウインズノクターン』!」
 女が翼を俺に向けた。

 …今だ、ぃょぅ!!

73ブック:2004/04/19(月) 00:08

「!!!!!!!!!」
 女のかわした車のドアが開き、その中からぃょぅが飛び出した。
 そのままぃょぅは女に向かって急降下する。

「なっ…!」
 女が顔を強張らせた。
「『ザナドゥ』!!」
 ぃょぅが女の上から突風を叩きつけ、女が大きくバランスを崩す。

「『ウインドズノクター』…!」
 女がたまらずそこから逃れようとするが、もう遅い。
 俺の腕はすでに女の足首を掴んでいた。

「…!こ……!」
 女が俺を振り払おうとするが、一度接近戦に持ち込んだらこっちのものだ。
 もみ合いになりながらも、スタンド化させた腕で女の肩翼を引き千切る。
「うあ!!!!!」
 スタンドの翼へのダメージがフィードバックし、女が痛そうな悲鳴を上げる。
 悪いな。
 でも安心しろ。
 これからこの世の痛みが存在しない世界に連れて行ってやる…!

「!!!!!!!!」
 女の頭を掴み、顔から地面に叩きつける。
 上空からの自由落下速度は、すでに人間の頭蓋を粉砕するには充分な程ついていた。
 嫌な音と感触。
 鮮血が撒き散り、それきり女は動かなくなった。

74ブック:2004/04/19(月) 00:08



「……!」
 女を仕留めた事で安心して気が緩んだ所為か、
 溜まりに溜まった疲労が一気に俺の体に押し寄せた。
 司会が白くぼやけ、思わずその場に膝をつく。

「!?」
 その時、俺は自身の体に起こる異変に気がついた。
 ―――疲れが、引いていく?
 いや、寧ろ力がどんどん漲っていくような…

(これは…!)
 見ると、俺の周りにどす黒いものが渦巻き、それが俺の中へと入り込んでいた。
 これは、そうか、この騒ぎで傷ついた人々の思念…!?

「!!!!!」
 怒り、憎しみ、悲しみ、恨み、痛み、無力感、絶望感、喪失感…
 そのあらゆる感情に飲み込まれそうになる。

 破壊が負の感情を生み、それが『デビルワールド』の力となり、
 更なる破壊をばら撒いて、更なる負の感情を生み出してそれを喰らって力とする。
 そして更に更なる破壊をばら撒いて、更に更なる負の感情を喰らって―――

 ―――行き着く場所は何も無い。
 そこにあるのは、何一つ残らない、絶対たる終焉。
 終わりが終わりを呼び、それが新たな終わりを呼ぶ、
 全てが終わりに向かって進み続ける終わりへの連鎖。
 これが、これが『デビルワールド』の望むもの。
 そして、間も無くこいつは俺から…


「!!!!!!!」
 俺は意識を何とか持ち直して、必死に『デビルワールド』を押さえ込んだ。

 まだだ。
 まだ出てくるな。
 手前が出るのは、『矢の男』と向かい合った時だ。
 その時、『矢の男』もろとも一緒に消えやがれ…!

「でぃ君!」
「でぃさん!」
 ぃょぅがみぃ俺に駆け寄って来た。
 ぃょぅが俺の肩を支え、みぃが俺に自分の生命エネルギーを送り込む。


 …下らない。
 世界平和だの、神の意志だの、人助けだの、正義だのなんざ、下らない。

 ああ―――
 でも、
 こいつらの為なら、
 …あいつの為なら……
 俺は、命を懸けられる。
 俺の全てを懸けられる。

 …残り少ない自我の中で、俺は心からそう誓った。



     TO BE CONTINUED…

75ブック:2004/04/20(火) 00:08
     救い無き世界
     第七十一話・決死


「……」
 女を倒した後、私達は足早にその場を後にした。
 新しい車を手配し、ひたすら東へと進む。

「……!」
 私は車を減速させた。
 道の脇に馴染みの深い顔の面々が揃っていたからだ。

「ギコえもん、無事だったのかょぅ!」
 車を停めてギコえもん達の元に駆け寄る。
「まあ、何とかな。
 それよりそっちこそ大事無いかゴルァ?」
 ギコえもんが鼻をならして答えた。

「ああ、さっきしぃエルとかいう『矢の男』からの刺客が襲ってきたょぅ。
 でぃ君のお陰で何とか撃退出来たょぅ。」
 私はでぃ君の方を見やりながら言った。
「そうか。
 車のラジオから何かとんでもない騒ぎが起こってる、
 みたいなニュースがバンバン流れて来たんだが…
 やっぱりお前らだったんだな。」
 ギコえもんが煙草を咥えて火を点けた。

「…ま、どうやら五体満足なようだし、先ずは合流出来て一安心と言った所か。」
 ギコえもんがぷかぷかと煙の輪っかを浮かべる。

「皆無事で良かったモナ〜。」
 小耳モナーが嬉しそうな笑顔を見せた。
 こんな時でも心の底からの笑顔が出来る彼が、とても羨ましい。

「…ここでのんびり再会の喜びに浸っている時間は無いわよ。
 すぐにでも先に進まないと。」
 ふさしぃが釘を刺すように言った。

「…だな。」
 ギコえもんが煙草を地面に捨てて、靴底で火を揉み消した。
「ポイ捨て禁止。」
 ふさしぃがギコえもんを睨む。
「固い事言うなよゴルァ…」
 ギコえもんが渋々吸殻を拾って車の灰皿へと移した。
「ふ……」
 一時間後に命があるという保証すらない状況さというのに、
 いつもと変わらない二人のやりとりについつい口元が緩んでしまう。

「さ、お喋りはここで終わり。早く車に乗って。」
 ふさしぃが私達を急かした。
 でぃ君とみぃ君がそれぞれ車に乗り込み、
 私もそれに続こうと…

「……?」
 と、いきなりギコえもんに肩を掴まれた。
「どうしたんだょぅ、ギコえもん?」
 私はギコえもんの方を向いて尋ねた。

「…でぃの奴、大丈夫なのか?
 よく分からねぇが、とてつもなくヤバそうなもんが奴の周りを覆ってる気がするぞ…」
 ギコえもんがでぃ君達に聞こえないような声で聞いてきた。
「…気がついていたのかょぅ。」
 私は重い声で呟くように言う。

「あんだけ物騒な気配が漂ってりゃあ誰でも、な。
 ふさしぃだって、口には出さねぇが感づいてる筈だ。」
 ギコえもんがでぃ君の方に目をやりながら答える。
 でぃ君の周りには、目には見えないが、確実に醜悪な何かが存在していた。
 例えるなら、そう、この世の悪意のような…

76ブック:2004/04/20(火) 00:09

「…どうやら二重の意味で時間が無いようだな、ゴルァ。」
 ギコえもんが肩をすくめる。

「ギコえもん、でぃ君は…」
 でぃ君は…

「…言うなよ、ぃょぅ。
 もう個人的な感傷でどうこうするような問題じゃなくなってる。」
 ギコえもんは私から目を背けながら呟いた。

「二人とも、何してるモナ〜!」
 小耳モナーが車の窓から顔を出して私達を呼んだ。

「…と、急いだ方がよさそうだな。」
 ギコえもんが車へと体を向けて歩き始める。
「ギコえもん…」
 私はギコえもんの背中に言葉を投げかけた。
 ギコえもんがそれを受けて足を止める。

「…覚悟だけは決めとけ、ぃょぅ。
 もしかしたら、ラスボスは俺達の身内になるかもしれねぇんだからな。」
 ギコえもんは振り返らずに私に言った。
「……」
 私はそれに何も答えられない。

「…ま、そう心配ばかりすんなよ。
 きっと何とか出来るさ。
 なんたって、俺達は無敵の特務A班だろ?」
 ギコえもんが顔だけ振り向かせてにっこりと微笑む。
「ああ…そうだったょぅ。」
 …そうだ。
 私にはこんなに心強い仲間達が居る。
 彼らと一緒なら、何だって出来る。
 絶対に、『矢の男』は倒す。
 そして、でぃ君も助けてみせる…!

「二人とも早くするモナ〜!」
 小耳モナーが再び私達を呼ぶ。
「今行くょぅ!」
 私はギコえもんと共に車に向かうのであった。



     ・     ・     ・



 目を瞑っていた『矢の男』が、不意に目を開けた。
「…ギコエルもしぃエルも、天に召されましたか。」
 確かめるように『矢の男』が呟く。

「それでは、私もそろそろ出陣いたします。」
 『矢の男』の前に跪いていたモララエルが立ち上がり、恭しく一礼した。
「…頼りにしていますよ。
 最早あなたとトラギコだけが、私の支えなのですからね。」
 『矢の男』がモララエルにその眼差しを向ける。

「承知しております。
 あの『化け物』に勝てないまでも、
 必ずや『神』の覚醒までの時間まで奴らを喰い止めてみせましょう。」
 モララエルが『矢の男』の顔を見ながら答える。

「そういえば、トラギコが見当たりませんが…」
 モララエルが思い出した風に『矢の男』に聞いた。
「ああ、彼なら用事があると言って少し前に出て行きましたよ。」
 『矢の男』が何事も無いかのように答える。

「なっ…!何故行かせたのですか!?
 トラギコめ、恐れをなして逃げ出したか…!」
 モララエルが激昂する。
「…大丈夫ですよ。
 彼は必ず戻って来ます。
 あのでぃとの因縁が、否応無しに彼をこの場に呼び寄せる…」
 『矢の男』が愉快そうに呟いた。

「…分かりました。
 では、私はこれで…」
 不服そうな顔をしながらも、モララエルは部屋を後にした。

77ブック:2004/04/20(火) 00:10



     ・     ・     ・



 俺達は街外れの波止場に到着していた。
 日は既にとっぷりと暮れ、波の音が辺りに響く。

「…本当にこっちでいいのか?」
 ギコえもんが俺に尋ねた。
「……」
 俺は頷いて答える。
 間違いない。
 『矢の男』はこの海の向こうだ。

「…船がいるわね。」
 ふさしぃが呟いた。
「だけど、船で行くとなると…」
 小耳モナーが不安そうな顔をする。

「…間違いなく格好の標的になる事請け合いだょぅ。
 かなり危険な行為と見るべきだょぅ。」
 ぃょぅが重い声で告げた。
 確かに夜の海では視界も利きにくいし、回りが海では逃げ場も無い。
 いわゆる決死行というやつか。

「…さてと、ここまでね。」
 ふさしぃがみぃの方を見て言った。
「え…?」
 みぃが思わずきょとんとした顔になる。

「ここからは冗談抜きで命懸けになるわ。
 あなたはここに待っていなさい。
 さっき連絡を入れておいたから、SSSの職員が迎えに来てくれるわ。」
 ふさしぃが穏やかな顔でみぃに告げる。

「そんな、私も―――」
 みぃが食い下がろうとするが、ふさしぃは首を振ってみぃの申し出を退けた。
「…いい子だから、大人しくしていて。
 これ以上私達を困らせないで。」
 ふさしぃはいつになく厳しい口調でみぃに言った。

「……!」
 みぃが俺を見つめてくる。
『ここに残ってろ、みぃ。』
 俺はホワイトボードにそう書いてみぃに見せた。

「でも…!」
 みぃが俺に詰め寄ろうとした。
『…邪魔なんだよ。
 役立たずが周りでうろちょろされると。』

「―――!」
 みぃが今にも泣き出しそうな顔になり、
 そして、俯く。

 …これで終わり。
 これが多分みぃとの最後の会話。
 これでいい。
 これで、いいんだ。

「……」
 夜の闇が沈黙をさらに加速させる。
 波の音だけが、うるさい位に耳に木霊し続けた。



     TO BE CONTINUED…

78ブック:2004/04/20(火) 19:11
     救い無き世界
     第七十二話・泥死合 〜その一〜


 適当な大きさの船を手配して、俺達は海を進んでいた。
 潮の匂いが夜風に乗って鼻腔をくすぐる。

 ギコえもんが船を操縦し、
 ふさしぃが船頭に、小耳モナーが船尾についてあたりを見張る。
 俺とぃょぅは船の真ん中辺りに座っていた。

「そうだ。でぃ君、これを。」
 ぃょぅが俺にビニール袋を差し出した。
 中を見ると、缶やペットボトルの飲み物と、菓子パンやおにぎりが入っている。
「船を手配してる暇に、そこらにあったコンビニで買っておいたんだょぅ。
 大したものじゃないけど食べるょぅ。」
 ぃょぅが俺に微笑む。

「……」
 俺は袋をやんわりと押し返して首を振った。
 とてもじゃないが、今は呑気に飯を食うような気分にはなれない。

「無理にでも食べときなさい、でぃ君。」
 と、ふさしぃが俺達に近づいてきた。
「ああ、交代の時間かょぅ。」
 ぃょぅが腰を上げて軽く伸びをする。

「いつ敵が襲ってくるのか分からないわ。
 食べられるうちに食べておかないと、いざという時力が出ないわよ。」
 ふさしぃが袋の中から缶コーヒーとアンパンを取り出した。
 包みを手でやぶって、アンパンを一口齧って飲み込む。
「…とはいえ、決戦前の食事にしてはちょっと貧相だけどね。」
 ふさしぃがコーヒーを飲みながら皮肉気に笑った。

「贅沢は言っていられなぃょぅ。
 その代わり、帰ったら皆でぱーっと豪勢に打ち上げでもしようょぅ。」
 ぃょぅが苦笑する。
「それじゃ、小耳モナー達に差し入れを持って行っとくょぅ。」
 ぃょぅはそう言うと、袋の中から幾つかのパンと飲み物を取り出して
 小耳モナー達の方へと向かった。

「……」
 俺は無造作に袋の中に手を突っ込んで、ジャムパンを中から引き出した。
 口でビニールを噛み切って、こげ茶色のパンに齧って咀嚼する。
 安っぽい苺ジャムの風味が口の中に広がった。
 パンが唾液を吸い取り口中を乾燥させるので、
 ペットボトルの紅茶で喉を潤す。
 しかしこれが最後の晩餐になるかもしれないなんて、全く笑えない話だ。

79ブック:2004/04/20(火) 19:12


「皆、気をつけるょぅ…!」
 突然、ぃょぅが強張った声で俺達に注意を促した。
 全員が、ぃょぅの居る場所へと集まる。
「ぃょぅ、どうしたモナ!?」
 小耳モナーがぃょぅに尋ねる。
「あれを…!」
 ぃょぅが海原の一部を指差す。
 そこには一艘のボートが水面に浮かんでいた。

「…!敵…!?」
 ふさしぃが身構える。
 ギコえもんと小耳モナーも、それぞれスタンドを発動させて臨戦態勢を取った。

「…!?」
 しかし、良く見てみるとボートの上には誰も乗っていない。
 だが、この威圧感。
 間違いなく、何者かが俺達を狙っている…!

「ギコえもん!すぐに船をここから移動させるょぅ!!」
 ぃょぅの言葉にギコえもんが慌てて舵を取った。
 ヤバい。
 よく分からないが、ここに留まり続けるのは危険だ!

「……!!」
 しかし、船は一向に進む気配を見せなかった。
 いや、移動はしているのだが、そのスピードは極端に遅い。

「ギコえもん!何をしているの!?
 早く船を動かしなさい!!」
 ふさしぃが叫ぶ。
「そんな事は分かってる!
 だけど、エンジンを全開にしてもちっとも速度が上がらねぇんだよ!!」
 ギコえもんが信じられないといった顔で大声を張り上げた。

 馬鹿な。
 何が起こっている。
 まさか、俺達はもう既に攻撃を受けているのか!?

「……?」
 と、不意に後ろから誰かに触られた。
 ?
 どういう事だ?
 だって俺のすぐ後ろは海…

「!!!!!!!!」
 次の瞬間、俺は地面に這いつくばった。
 貼り付けられたかのように床から動けない。
 重い。
 体に、鉄の塊が圧し掛かっているようだ。
 それに周りの空気までが、まるで水銀のように絡み付いてきて…

「!?でぃ君、どうしたょぅ!!」
 ぃょぅが俺に駆け寄ってくる。
 駄目だ、来るな。
 既に敵はこの船の近くまで近づいて来ている…!

「なっ…!?」
 俺に触れた瞬間、ぃょぅも俺と同様に床に倒れた。

「ぃょぅ!!!」
 ふさしぃと小耳モナーが俺達に近づこうとする。
「来ては駄目だょぅ、皆!!」
 ぃょぅが叫ぶ。
「ぃょぅはでぃ君に触れた途端に動けなくなったょぅ!
 恐らく、能力に侵されている対象に接触しただけで能力に感染するょぅ!!」
 ぃょぅが苦しげに呻いた。
 その時、ふさしぃ達の背後に男の影が現れる。

「ふさしぃ!後ろ―――」
 しかし、時既に遅かった。
 男から金髪の男のビジョンが現れ、ふさしぃ達に攻撃を放つ。
 あまりに咄嗟の出来事の為、ふさしぃ達にかわす暇は無かった。
 その拳を受けてしまう。
 そして受けたという事は、そのスタンドに触れられてしまったという事であり―――

80ブック:2004/04/20(火) 19:12

「くっ…!」
「あっ…!」
 ふさしぃと小耳モナーが、俺やぃょぅ達と同じように倒れこむ。
 その時雲間から月が顔を出し、男の姿を照らし出した。
 男の体からは水が滴っている。
 多分、あのボートから俺達の船まで泳いで来たって事だろう。
 ご苦労なこった。

「……!!」
 奴の能力を『終わらせる』。
 体が一気に束縛から解放され、そのまま奴へと…

「ふん。」
 男が呟き、俺に俺に小銭を投げつけた。
 しかし、その速度は蝿が止まるほど遅い。
 しゃらくさい。
 こんなもので俺をどうにか出来るとでも思っているのか!?
 軽々と小銭を腕で弾き―――

「!!!!!!」
 再び俺は地面に縫い付けられた。
「愚か者め…
 何も能力の対象になるのは生物だけではない。」
 男が嘲るように言う。
 やられた。
 あの小銭にも能力がかかっていたのか。
 だから、あんなに遅く…

「重力、水、空気、風。
 それらが一度にお前たちに牙を剥いているのだ。
 ひとたまりもあるまい。」
 男がそう言って俺達に止めをさそうと―――


「『マイティボンジャック』!!」
 と、男の体が後方にすっ飛んだ。
「……!?」
 男が鼻血を拭いながら急いで体勢を立て直す。

「これ以上好き勝手にやろうってんなら、俺が相手になるぜ。」
 ギコえもんが、月光を受けながら男の前に立ちはだかった。
「…ギコえもん、そいつに触れられると……」
 ぃょぅが搾り出すような声でギコえもんに男の能力を伝えようとする。
「分かってる。それさえ知ってりゃ、この『マイティボンジャック』の敵じゃねぇよ。」
 ギコえもんが男に視線を向けたままでぃょぅに答えた。

「…さてと。そんじゃま、始めるとするかゴルァ。」
 ギコえもんが男に向かって構えを取る。
「ふん…」
 男もスタンドと共にギコえもんに向き直った。

「時間がねぇんでな。
 速攻でケリつけさせて貰うぜ…!」
 ギコえもんと男が、ほぼ同時のタイミングでお互いに飛び掛かった・



     TO BE CONTINUED…

81( (´∀` )  ):2004/04/24(土) 11:12
『この秀才モララー様をあんなマヌケ面と一緒にしないで欲しいね。』

―巨耳モナーの奇妙な事件簿―ディスプレイの奥に潜む恐怖

「くぅっ・・一体どうしてこんな事に・・っ」
俺は困惑していた。
と、いうか当たり前だ。突然パソコンの中に引きずり込まれたんだからな。
しかも弟者はこん棒で殴られて失神してるわ
目の前に居るのはおそらく・・敵。
「ククッ・・兄者。『ゴミ箱』を開いてくれないか?」
「?何故俺に頼む。」
俺が首をかしげると秀才モララーの野郎は気色悪い笑いを浮かべた
「クク・・ッお前は今『マウスポインタ』なんだ。」
「・・なっ!?」
「お前は俺のスタンドの能力でパソコンに引きずり込まれ『マウスポインタ』となったのだ。」
秀才モララーの野郎の口はどんどんニヤけてくる
「嘘だと思うか?ならコレを見よっ!」
秀才モララーの奴がマウスを動かすと俺はそのとおりに動いた。
「うおおおっ!?」
「そして・・『クリック』ッ!」
奴がマウスをクリックすると俺は地面に叩きつけられた
「デボォッ!?」
「これお前に『クリックしろ』と頼む理由だ。俺がクリックしてもお前は地面に叩きつけられるだけだからな。」
秀才モララーはニヤニヤしながら言った
畜生・・。どうすればいい・・?
多分、俺が逆らえば弟者は殺される・・。それにマイ・ウェイの奴は俺に『サカラウナ』って言ってたっけか・・。
仕方ない。とりあえず今はこの野郎の命令に従うか・・。
俺はとりあえずゴミ箱の所まで歩き、クリックした。
「そう・・それでいい・・。そしてこのまま・・死ねッ!『イレイス』!」
奴が『イレイス』と叫ぶとゴミ箱のウインドウが閉じ、ゴミ箱のアイコンに手足が生え始め、四足歩行で歩き始めた
「な・・ッうそ・・・だろォッ!?」
「ウーヒャヒャヒャ!馬鹿め!そのまま食われてしまえェッ!」
ゴミ箱のアイコンが食べると食べた場所は壁紙すら消え、真っ白になっていた。
「KYAWAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」
ゴミ箱のアイコンが物凄い雄たけびを上げる
「畜生・・こりゃあヤバい・・ッ・・端っこに行かないと・・食われちまうッ!」
俺ははいずりながら端に行こうとすると俺の体が急に浮かび上がった
「な・・ッ何ィッ!?」
「行かせるかよッ!」
秀才モララーの奴はマウスをゴミ箱の方へ持っていこうとしていた。
「ク・・クソッ!一体どうすりゃあ・・ッ!」
・・・マイウェイ!
アイツは・・『逆らうな』と言った・・。だったらッ!
「うおオオオオォォォォ――ッ!」
「何ィッ!?馬鹿なッ!何をする気だァッ!?」
「このまま・・『ゴミ箱』に突っ込むッ!」
「ば・・馬鹿なァッ!?『怖く』ないのかァッ!?」
・・ぶっちゃけると結構怖い
しかしッ!俺は弟者・・そして弟者のスタンドを信じているッ!!
『だからこそ』突っ込めるのだッ!!
「あああああああああァァァァアアァ―――ッ!!」
ガオン!
バギン、ゴリン、グシャ
「フン・・。馬鹿め。自分から死んでいくとは・・」
秀才モララーが席を立ち、後ろを向くと驚愕した
「ば・・馬鹿なッ!・・まさか・・貴様ッ!?」
まぁ驚くのも無理はない。ゴミ箱に食われたハズの俺が後ろに居るんだからな。
「・・俺の『スタンド』の能力だ。ゴミ箱に食われようが食われたら戻るのは・・家のゴミ箱だ。」
俺は得意気に言い放った
「フフ・・ッ。だがねッ!僕が有利なのはまだ変ってはいないよッ!ココにこん棒もあるッ!」
・・そのとおりだ。
現に弟者がアイツの近くに転がってるし、パソコンもアイツの近くにありやがる。
だが・・ッ!
「だがッ!テメェのスタンドの所為で俺の『ビスケたん』の壁紙は半分食われちまったッ!この怒りは収まりようがないッ!」
俺は怒りに身を任せ殴りかかろうとした
「死ねえィッ!!」

82( (´∀` )  ):2004/04/24(土) 11:14
しかしその時、秀才モララーは突然後ろに倒れた。
「・・・アレ?」
すると秀才モララーの後ろからこん棒を持った弟者が出てきた
「・・弟者?」
俺がポカーンとしてるとマイウェイが口を開いた
「オイオイ。アニジャ。オレノ『チュウコク』チャントキイテタノカ?」
「・・は?」
俺は素っ頓狂な声を出す
「・・マイウェイは『逆らうな』って言っただろ?」
弟者は倒れてる秀才モララーを指差す
すると秀才モララーはナイフを持っていた。
「あ・・あれ?コイツこんな物・・。」
「ンデヨ。コノ『キリ』ガミエネェノカ?」
・・ハッ!そういえば良く見ると部屋の中は『霧』に覆われていた。
「・・コレがコイツのスタンド能力だ。」
「ツマリ、コノ『キリ』ヲスッタヤツハ、ヤツノイッタリ、カイタリスル『ウソ』ガスベテ『ホントウ』ニミエテシマウ。」
つまり俺は『秀才にいっぱい食わされた』って事っすか!?
「ご・・めい・・と・・う。」
秀才モララーは突然置きやがりやがった
しかしまだ殴られた感じが残っているのかフラフラしている
「だがね・・。流石兄弟・弟者。気付いているのに吸ってしまうのは良くないぞ・・。」
「あ。」
「ア。」
マイ・ウェイと弟者は同時にマヌケな声をあげる
「アホかッ!」
心なしか弟者達は『お前に言われたくない』って目をしやがる
畜生、腹が立つ連中だ。
「お遊びはココまでだ!『今、僕はこの場所でナイフを君達に向かって構える』」
秀才モララーはそう叫ぶと俺達に向かってナイフを構えた
「・・なぁ弟者。アイツはなんでわざわざ自分の攻撃の仕方を言うんだ?キチガイか?」
「・・・・。」
チッ!今度はシカトかよッ!
「アホハ、オマエダ。」
マイウェイが小さくつぶやく
「聞こえてるぞコラァッ!」
「キコエルヨウニイッタンダ『アホ』ガッ!」
俺達が喧嘩している間に弟者の顔が険悪になっていく
「アホな事やってる場合じゃないぞ。こりゃ大ピンチだ。」
「ククッ。お察しかい?」
秀才モララーは君の悪い笑みを浮かべる
「兄者。コイツの能力は覚えてたか。」
クッ。この野郎。馬鹿にしてやがる
「この霧を吸い込むと、アイツの『言った事や書いた事が本当になった様に見える』んだ・・あっ!」
そうか!
「そう。つまりアイツがわざわざ攻撃方法を言ったのは『かく乱』させるためさ。
俺達にはこの霧の幻でアイツの攻撃方法が本当に見える、しかしもしかしたらソレは幻で本当はナイフは別の場所にあるかもしれない。
しかし、もしかしたら本当にそこに持っているのかもしれない。こりゃあ・・ピンチだな・・。」
弟者の額から汗がたれる
「エクセレント。流石どっかのアホとちがって物分りが良い。」
「一緒にしないでくれ。」
「オトジャハソコマデアホジャナイゾ。」
・・・あとで全員ゴミ箱に突っ込ましてやろう。
「しかし、『理解』したところで『行動』できなければ意味は無い。このまま死ぬかい?」
秀才モララーは俺達に一歩詰め寄る
しかし俺達も一歩下がる
そんな事を何回繰り返しただろうか。
もうヤバい状況になっている。
あと何歩か・・?
あと何歩で俺達は殺される・・?
考えるだけで恐ろしい。
パソコンまで行ける時間は無い。
マイウェイのお告げは正直聞きたくない
痛いの嫌だし。
どうせなら何のリスクもなしにココを切り抜けたい。
「ク・・ッ!」
「5・・4・・3・・・」
秀才モララーはジリジリと近づいてくる。
・・どこでもいいから殴るか・・?いや、危険すぎる。
もし蹴った所にナイフとかが用意されてたら致命傷は避けられない。
「2・・1・・」
クソッ!絶体絶命かッ!

83( (´∀` )  ):2004/04/24(土) 11:15
クソッ!絶体絶命かッ!
そう思った次の瞬間、ドア付近に赤い毛玉が見えた。
そして秀才モララーが俺達の目の前から消え、ドアの近くで宙に舞っていた。
「ムック・ブーストッ!」
赤い毛玉はそう叫んだ。
「アナタ達は・・巨耳さんの・・ッ!」
「Yes,オフコース。」
銀髪の可愛いお嬢ちゃんはそうつぶやく。
「気をつけてくださいッ!コイツの能力は・・」
弟者が説明しようとすると咄嗟に秀才モララーは起き上がる
「遅いわァッ!『お前らは・・』」
パン!パン!パン!パン!
四回の銃声が響いた
すると秀才モララーの四肢から血が吹き出て崩れ落ちる。
「能力を聞くまでもなかったな・・。しかし遅いな。何かしら『キーワード』をいうスタンドらしいが
私達の様な速攻型との勝負には向いてなかったな。」
秀才モララーが怒りで震えている
「フ・・フ・・フザけるなァァァァッ!『お前らは・・』」
しかし今度は赤い毛玉のストレートが顔面に直撃した
「超ムック・キャノン零式ィッ!」
秀才モララーは凄いスピードで壁まで吹っ飛んだ
・・・気絶したのだろうか、思いっきり鼻血を出し、起きる気配は無い
「ヤレヤレ、巨耳が心配だからといって見に来て見れば・・。」
「来て見て正解だったですNE。」
・・っていうかこの人達・・
「強い・・。」
「アア、アットウテキダ。」
ヌゥッ。台詞をとられた。
「自分でもここまで強くなってるとは思わなんだ。」
「暫く私達ただの噛ませ犬みたいな存在でしたKARA、嬉しいですZO。」
赤い毛玉はガッツポーズをとる。
「・・しかしこやつのスタンド能力は一体?」
銀髪のお嬢ちゃんは首をかしげる
「この霧、見えますよね?」
弟者は空中を指差す
「ええ、見えますZO。」
「コレヲスウトナ、アイツノ『カイタリ』、『イッタリ』スル『ウソ』ガ『ホント』ニミエルンダ。」
マイウェイが説明する
「ふむ。つまり幻覚系スタンドというわけか・・ムックッ!」
銀髪のお嬢ちゃんは赤い毛玉の方を向いた
「了解ッ!『ソウル・フラワー』ッ!」
全身花で出来た様なスタンドが現れ、地面に手をたたきつけた
すると巨大な花が何本も出てきた
「この花は成長がとても早いのですZO。なのDE・・。」
周りの霧が一気に吸い込まれた。
「NE?」
弟者も俺もポカーンとした
「そしてコレをもう一回殴ると・・」
見る見るうちに花はしぼみ、消えていった。
まるでプチマジックショーだ。
「そして・・アレか。」
秀才モララーの右手には銃が握られてやがった
「ま・・まさか・・ッ」
弟者と俺、更にマイウェイの顔色が真っ青になる
「俺達・・あのまま突っ込んでたら・・あの銃で・・。」
震えがとまらない。助けに来てくれてよかった。
「SATE。とりあえず巨耳さんから預かったこの手錠をかけましょうKA・・。」
赤い毛玉は特殊な手錠を取り出し、気絶してる秀才モララーにかけた
「この手錠はモナメリカという国にある通称『水族館』と呼ばれる
『スタンド使い専用収容所』の手錠だ。今はまだ小さな刑務所だが、そのうちとてつもない発展を迎えるだろうな。」
銀髪のお嬢ちゃんは自慢げに言った。
「SA。それじゃあキャンパスを再検索してもらいましょうKA。」
赤い毛玉は手錠をかけ終わると立ち上がり、俺の方へ向かってきた。
「それでは私はこやつを刑務所に叩き込む準備をしよう。」
銀髪のお嬢ちゃんは気絶した秀才をひょいと持ち上げるとそのまま扉をあけ出ていった。

84( (´∀` )  ):2004/04/24(土) 11:16
「しかし・・いつの間に俺たちは奴の『能力』にかかっていたんでしょうか?」
弟者は首を傾げる。
「OSORAKU・・霧はあそこから入ったんでしょうNE。」
赤い毛玉は窓の少し開いているところを指差した
「あ・・。あそこから霧を・・?」
「だが、どうやって暗示をかけたんだ?言葉を聴いた覚えは・・。」
赤い毛玉は少し考えてから言った
「『俺の声は聞こえない』みたいな暗示をかけたんZYA?」
あ。
「そんな単純な事だったのか・・。」
俺はうなだれる
「まぁ、気を取り直せよ兄者。一応この『キャンパス』は本物だったみたいだからな。」
弟者が俺の肩を叩きながら言った。
「おお。本当ですZO。住所などの詳細が次々・・。」
赤い毛玉がそういうと俺はとりあえず右クリックし『削除』を押してみた。
『プロテクトがかかってる為削除できません。』
「・・なんですKAコレは?」
「『スタンド』だろうな。何かしらのスタンドでカードしてるか・・」
俺は思わせぶりに言葉を止める
「・・してるか?」
部屋全体がシーンとする
この空気は結構好きだ
『皆が自分の次の言葉に期待している』
なかなか気持ちいいものである。
「『この屋敷自体がスタンド』って事も考えられる」
ふんぞりかえって言ってやった。
「FUMU・・。なかなかですNA。」
「まぁ、それほどでも。」
「調子に乗るな。」
弟者に頭を叩かれる。
恩師でもある兄に対してこの仕打ち。
随分酷い弟だ。
「SATE、報酬金は後日コチラに送られるそうなのDE。また会いまSHOW。」
・・ぶっちゃけ本当にくれるかどうか心配だ。
「何か困った事があったらいつでも頼んできてくれ。勿論報酬アリアリアリで。」
タダ働きなんてゴメンだ。
「OKOK。それじゃあ、またいつKA。」
赤い毛玉は苦笑いしながら部屋を出て行った。

85( (´∀` )  ):2004/04/24(土) 11:16

・  ・  ・  ・  ・  ・  ・  ・  ・  ・  ・  ・  ・  ・  ・  ・  ・  

「ほほぅ・・。秀才が負けたのか・・。」
脳で出来た椅子にふんぞりかえるネクロマララー。その前にはたくさんのスタンド使いがひれ伏している
「矢張りあの思い上がりの腐れ豚ごときには出来ない任務だったのだよ。」
ひれ伏していたハートマン軍曹が顔をあげてつぶやいた。
「口を慎め軍曹。」
ネクロマララーは言い放った
「さて・・しかしどうしたものか・・。」
ため息をつくネクロマララー
「スタンド使いはまだハンパ無い数がいる。しかしココで下手に任務に行かせて人手を減らすのも・・。」
「相変わらず苦労しているな。ネクロ。」
ふと後ろから声がする。
「え・・?」
ネクロマララーが振り返るとソコには見覚えのある人物がいた。
   ゴ ッ ド
「ゴ・・神・・?」
突然ネクロマララーの体が震え上がり、その場にいた全員が一気に頭を深く下げ、こう叫んだ
「おかえりなさいませッ!神よッ!」
全員が声を揃えていったあと、神コールの嵐が吹いた
「神!神!神!神!神!」
「よろしい。さて、ネクロマララー。今まで参謀ご苦労。疲れもたまっただろう。」
神はもっていた杖でネクロマララーの立派な頭を叩いた
「ありがたき幸せ・・。」
「暫く休め、これからは私が指揮をとろう。」
ホールにとてつもないざわめきがおこる
「と・・という事はまさか・・。」
ネクロマララーは再度震える。
さっきの震えとは違い、喜びに満ち溢れた様な震え方
「ああ。『産まれた』よ。我がスタンド『ユートピア・ベイビー』が・・。」
ざわめきがいっせいにやみ、静まり返った後、さっきの比にもならない神コールが響く
「神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!
神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!
神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!
神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!ウオオオオオオッ!」
「よろしい。さて、それでは早速だが、『巨耳モナー』どもはどうやらわれらの陣地をかぎつけた様だ。
しかも彼らは現在相当な使い手となりつつある。巨耳に至ってはスタンドの『進化』の直前だ・・その前に叩こうではないか。」
神は杖を一回地面にカツンと叩く
「しかしわれ等が裏切り者『ムック』。そして魔眼を持つ銀髪の歩く武器庫『岳画 殺』。この二名の実力は皆も熟知してると思う。
『そこで』だ。ここは『上級幹部』に言ってもらうとしよう。」
またもや場内がざわつく
「そうだな・・。『理屈が通用しないスタンド』をもつ男。『大ちゃん』言ってもらおうか。」
『大ちゃん』と呼ばれる男は神に杖を向けられるとこうつぶやいた
「・・・ピッチャーデニー。」

←To Be Continued

86ブック:2004/04/25(日) 00:28
     救い無き世界
     第七十三話・泥死合 〜その二〜


 私はでぃさん達が行ってしまった後も、海の向こうを眺め続けていた。
「……」
 胸の奥にヘドロが溜まっているような感じ。
 とても、
 とても嫌な予感がする。
 もう二度と、あの人達が帰って来ないような…

「……?」
 と、私の後に人の気配を感じた。
 振り返ってみると、二人の男の人が私に向かってやって来る。

「SSSの者です。
 特務A班の方々の連絡を受けてお迎えにあがりました。」
 ああ、この人達がふさしぃさんの言っていた迎えの人達か。

「向こうに車を用意してあります。
 後の事は特務A班の方々に任せて、あなたはSSSに…」
「そいつを勝手に連れて貰っちゃあ困るんだよな。」
 突然の闇の中からの声が、男の人達の言葉を遮った。
 私と二人の男の人の視線が、その声がした場所に集中する。

「しぃエルから『でぃに引っ付いてる女も一緒に居る』って報告があったから、
 もしやと思って待ち伏せしてみたんだが…
 どうやらビンゴだったみたいだぜ。」
 影の中から声の主の姿が現れてくる。

「…!?
 あなたは―――」
 私はそこで言葉を詰まらせた。
 この人は、
 確か、
 あの孤児院に居た…

「何者だ!?貴様!!」
 男の人達がその人の前に立ちはだかる。
 しかし、その人は表情一つ変えずに男の人達を睨み返す。

「…その女置いてさっさと失せろ。
 そうすりゃ、殺さないでおいてやる。」
 その人は冷徹な声で言い放った。

「!?貴様、まさか『矢の男』の!!」
 男の人達がスタンドを発動させてその人に飛び掛かった。

「駄目です!!その人は―――!」
 私はすぐに彼らを止めようとした。
 いけない。
 あの人と闘ったら…!

「『オウガバトル』。」
 しかし、全ては遅かった。
 私の眼前で二人の男の人がパンケーキのように輪切りになる。
 血飛沫が飛び散り、アスファルトの地面を赤色に濡らした。

「…あ……」
 私は腰を抜かしてその場にへたりこんだ。
 そんな私を見下ろす凍て付く様な視線。
 間違いない。
 この人は私を殺すつもりだ。

「…安心しな。
 お前は『今は』殺さねぇ。」
 その人が私にゆっくりと歩み寄る。
 目に見えそうな程の殺意に縫い付けられ、私は一歩も動けない。

「今ここでお前を殺した所で、あのでぃへの復讐としては不充分だ。
 あのでぃが、完膚なきまでに絶望のどん底に叩き落されるような舞台を整えた上で
 死んで貰わなきゃあ意味がねぇんだよ。」
 その人が歩きながら喋る。

 …その人の瞳に宿る真っ黒な憎しみの炎。
 駄目だ。
 このままでは、でぃさん達の足手まといにまってしまう。
 そうなる位なら、いっそ―――!

87ブック:2004/04/25(日) 00:28

「!!!!!」
 私が舌を噛み切ろうとした瞬間、その人は私の口に指を突っ込んだ。
 指に邪魔され、私の歯は舌まで届かない。

「…痛ってーな、歯ぁ立てんじゃねぇよ。」
 口の中に鉄の味が広がる。
 どうやら指から出血しているみたいだ。

「さっきも言っただろうが。今お前に死なれちゃ困るんだよ。」
 その人が呆れたように呟くと同時に、私の首筋に思い衝撃が走った。
 視界が、瞬く間に暗くなっていく。

「…また自害しようとされちゃ敵わねぇんでな。
 悪いけど暫く大人しくしといて貰うぜ。」
 それが、私に聞き取る事が出来た最後の言葉だった。



     ・     ・     ・



「『マイティボンジャック』!!」
「『スペースハリアー』!!」
 男のスタンドの拳が俺に向かってくる。
「ゴルァ!!」
 男のスタンドの拳が俺の体に触れる直前で、
 男のスタンドの二の腕あたりを弾いて防御する。
 奴の能力は何かはまだ分からないが、あの拳に触れられるのは絶対にヤバい。
 しかし、あの拳を弾かねばならないとなると、
 どうしても防御に専念せねばならなくなる為に、こっちから迂闊に手が出せない。
 その為、否応無しに膠着状態が続く事になる。

「ふん!!」
 男が逆の腕でパンチを放ってくる。
「ゴルァ!!」
 スタンドの右足での前蹴り。
 男がそれを喰らって後方に吹っ飛ぶ。
 しかし、多分ダメージは余り無い。
 ダメージを与える為では無く、距離を取る為の蹴りだったからだ。
 事実、男は何事も無かったかのように立ち上がってくる。

「…どうしました?
 守ってばかりでは私を倒せませんが、よろしいのですか?」
 男が嫌らしい笑みを浮かべる。
 しかし、悔しいが男の言う通りだ。
 恐らく奴の狙いは時間稼ぎ。
 だとすれば、こいつに手間取れば手間取るだけ奴の思う壺。

「……」
 俺は男との距離が充分なのを確認すると、倒れているぃょぅ達に視線を移した。
 這いつくばりながらも、苦しそうに何とか動こうとするぃょぅ達。
 助けてやりたいのはやまやまだが、こうなっては最早俺にはどうしようも無い。
 俺の『マイティボンジャック』はあくまで引き起こされる結果を先送りにする能力。
 一度結果が出てしまっては能力は使えないのだ。

「…船が急に進まなくなったのも、お前の能力だな?」
 俺は男に向かって尋ねた。
 男は何も答えないが、俺はそれを肯定と受け取る。

「さっき、『重力、水、空気、風、それらが一度にお前たちに牙を剥いている』、
 って言ってたな。
 つまりあれか?
 お前に触れられた奴は、自然環境にすっげえ邪魔されるって訳か?」
 男はその質問にも答えない。

「オーケーオーケー、分かったよ。
 それじゃあ最後の質問だ。お前、名前は?」
 俺はおどけた調子で男に聞いた。
 無論、気は一瞬たりとも抜かない。
「モララエル。」
 その返答と同時に男が突っ込んできた。

「『マイティボンジャック』!!」
 俺のスタンドで迎え撃つ。
 しかしモララエルは俺の腕を紙一重で潜り抜けた。
 そしてそのまま懐に入られ、左の腕での一撃を放つ。

88ブック:2004/04/25(日) 00:29

「くっ!!」
 飛びのいて、かわす。
 だが―――
 男の拳は俺の脇腹を「かすった」。
 『マイティボンジャック』で能力に侵される結果を先送り。

「!!!!!!」
 男が即座にその場を離脱しようとする。
 まずい。
 俺の『マイティボンジャック』が先送り出来る限界は五分。
 その間に逃げられたら、もう打つ手は無くなる。
 ここで奴を逃がしたら、俺達の敗北だ!

「がっ…!!」
 と、モララエルが動きを止めた。
「『ファング・オブ・アルナム』…」
 小耳モナーが呻きながらスタンドを発動させていた。
 『アルナム』が、自分に襲い掛かる負荷に苦しみながらも
 モララエルの影に牙を突き立て、その所作を封じている。

「でかした、小耳モナー!」
 俺はその隙を逃さずらモララエルにタックルをしかけた。
 そのまま揉み合いになり、船の床を転がる。
 逃がすか。
 何としても、ここで喰い止め…

「……!!」
 だが、迂闊にも俺はモララエルにマウントポジションを取られてしまった。

「ぬありゃあ!!」
 モララエルが、上からスタンドでのパンチを次々と浴びせてくる。
「くわあ!!」
 こちらも必死にスタンドの腕で防御する。
 しかし、いかんせん体勢が不利過ぎる。
 一発はガード出来ても、その一発を防ぐ間に三発は顔面に貰う。
 俺の顔がたちまちに腫れ上がっていくのが実感出来た。

「ぬあ!ぬあ!ぬあ!ぬあ!ぬあ!ぬあ!」
 男が遠慮無しに拳を撃ち下ろし続ける。
「くふあ!くふあ!くふあ!くふあ!くふあ!くふあ!」
 俺はそれを何とか防御し続ける。
 ヤバいぞ、こりゃあ。
 奴を逃がすとかそれ以前に、このままじゃあ撲殺されてしまう…!

「りゅあああ!!」
 俺は渾身の力を振り絞って、俺の左親指をモララエルの脇腹にぶち込んだ。
 脇腹に俺の親指が根元の部分まで突き刺さる。
「ちゅわああああああああ!!!」
 そのまま親指を折り曲げ、肋骨に引っ掛けて無造作に折る。
 骨の折れる感触が、俺の指に伝わってきた。

「くわああああ!!!」
 奴が叫び声を上げる。
 よし、今だ!

「るううううう!!」
 モララエルの腕を掴んで、腰を浮かしながら体勢を入れ替える。
 今度は逆に俺がマウントポジションの上に立った。

「きゃおらああああああああ!!!」
 そのまま右拳を撃ち下ろす。
 小気味いい感触と音と共に、俺の拳が奴の顔にめり込んだ。
 さっきのお返しとばかりにさらに上からパンチを叩き込んで
 奴の顔を男前に変えてやる。

「ちいいぃぃぃ!!」
 モララエルが吼えた。
 それと同時に股間に強い痛み。
 モララエルが、俺の睾丸を右手で掴んでいた。

「あわわわわわわわわ!!!」
 俺はすぐさま立ち上がってその手を振り解いた。
 幸いにして俺の男としての象徴がお釈迦になる事は無かったが、
 かわりにマウントポジションを崩してしまう事になった。

「のおおおおおおお!!!」
 モララエルが再び逃げようとする。
「させるかあ!!」
 後ろからモララエルに襲い掛かる。
 腰に手を回し、そのまま背筋を総動員してモララエルを持ち上げ、
 ブリッジの要領で地面に叩きつけようとする。
 俗に言う、バックドロップという奴だ。

「うおああああ!!」
 しかし、モララエルも黙って投げられるばかりではない。
 その足を俺の胴体に絡みつける。
 それにより俺は体勢を崩し、バックドロップは不発のまま二人とも地面に倒れこんだ。

「ぬううううう!!!」
 奴が体をひこずりながら俺から逃れようとする。
 逃がさない。
 モララエルの上に覆いかぶさり、その動きを止める。
 だが、どうする。
 このままじゃジリ貧だ。
 いずれ時間切れになって―――

89ブック:2004/04/25(日) 00:30

 …!!
 そうだ!
 この手があった!!

「『マイティボンジャック』、解除!!」
 俺は先送りにしていた奴の能力を解除した。
「!!!!!」
 俺の体にとてつもない負荷がかかる。
 そして、当然俺の下に居るモララエルにも…

「があああああああああ!!!」
 モララエルが絶叫する。
「…はっ!どうよ、自分の能力に攻撃される気分は!?」
 激しい負荷に襲われながらも、俺は無理矢理奴に笑顔を見せてやった。
 そして、右の肘の部分を奴の喉下に押し当てる。

「―――ご―――あ!!!!!」
 モララエルの首から、ミシミシと骨が軋む音が聞こえてきた。
「ゴルァああああああああああああ!!!!!!」
 全体重を肘の部分に乗せる。

 ゴギン

 その音と共に、俺の体を襲っていた重みは消え去った。



「…!ギコえもん!」
 負荷から開放されたぃょぅ達が、俺の元へと駆け寄って来た。
「おお。お前ら、大丈夫か?」
 俺はそいつらに向かって声をかける。

「……どうやら…ここまでの…ようです……
 お役に立てなくて…申し訳……」
 と、モララエルが何やらぶつぶつ呟き始めた。
 何だ。
 まだ死んでなかった―――

 ―――!!

「皆!!今すぐ船から飛び降りろ!!!」
 全身を危険信号が駆け巡った。
 ヤバい。
 何か分からないが、とにかくヤバい。
 こいつ、最初から死ぬ気で―――

 刹那、モララエルの体が激しく発光した。



     ・     ・     ・



「……」
 俺は水面から顔を出しながら、木端微塵になった船の残骸を見つめていた。
 あの男…自爆なんてはた迷惑な真似しやがって…!

「でぃ君、大丈夫!?」
 ふさしぃが俺に声をかけてきた。
 頷いて、それに答える。

「他の皆は…」
 ふさしぃが心配そうに辺りを見回す。

「…酷い目に逢ったモナ〜。」
「死ぬかと思ったぜ…」
「全く…やってられなぃょぅ。」
 ぃょぅ達が、それぞれ水中から顔を出した。
 どうやら、皆無事みたいだ。

「…しかし、面倒な事になったわね。」
 ふさしぃがうんざりといった顔で呟く。
「ああ。こっからは水泳大会をしなきゃならないようだな、ゴルァ。」
 ギコえもんが肩をすくめた。
 しかし困った。
 こんな所で時間と体力を無駄にする事になるのはかなり痛い。

「―――皆、あれを!」
 その時、ぃょぅが不意に向こうの方を指差した。
 見ると、一艘のボートが俺達に近づいてくる。
 良かった。
 渡りに船とはまさにこの事…


「―――!!!」
 しかし、その俺の希望は無残にも打ち砕かれた。

 ボートに乗っていたのは、トラギコと、倒れているみぃだった。
 俺は思わず我が目を疑う。
 何故だ。
 何故、あのボートに「奴」が「あいつ」と共に乗っている!?

「―――ッ―――!!」
 腕をスタンド化。
 強化した腕で水を掻き分け、水面を弾いてトラギコに飛び掛かる。

「『オウガバトル』!」
 奴の目前まで迫った所で、俺の両腕が切り飛ばされた。
 バランスを崩して水面に激突し、腕だけが遥か彼方へすっとんで行った。

「ここではやらねぇ。
 この女が大事なら、精々追いかけてくるんだな…」
 トラギコが嘲りの笑みを浮かべて呟く。
 させるか。
 脚をスタンド化。
 脚の力だけで再び突っ込む。

「……!!!」
 しかし、今度は両足をちょん切られた。
 文字通り手も足も出せなくなり、俺は無様に海を漂う。

「っ貴様!待つょぅ!!」
「待ちなさい!!」
 ぃょぅ達が追いかけようとするも、
 流石に人間の泳ぎの速さではボートには追いつけない。
 見る見る距離は引き剥がされ、そしてついにはボートは見えなくなった。


「―――ァ―――ッ―――!!!」
 俺の心にどす黒い感情が渦巻き、闇に向かって、ただ、叫ぶ。
 そしてそれしか出来ない自分に、俺は心の底からの憎しみをぶつけた。



     TO BE CONTINUED…

90ブック:2004/04/25(日) 00:31
     救い無き世界
     第七十四話・斗縛 〜その一〜


 俺達は一つの島まで泳ぎ着いた。
 俺の手と足は、あの後すぐに生え揃っていた。

「…ここで、いいのかょぅ。」
 ぃょぅが俺に尋ねてくる。
「……」
 俺は一つ頷いた。
 間違い無い。
 『矢の男』はここにいる。
 そして、みぃとトラギコの野郎も…!

「でぃ君…」
 ふさしぃが心配そうに俺に声をかけた。

 …大丈夫だ。
 トラギコの奴はまだみぃを殺してはいない筈だ。
 ただ殺すだけなら、あのボートの上で殺している。
 俺は必死に自分にそう言い聞かせて、何とか心の平衡を保とうとした。

 …落ち着け。
 怒りに身を任せたら、『デビルワールド』が出てきてしまう。
 押さえ込め、激情を。
 あいつを、みぃを助けるまでは…!

「…しっかし、こりゃとんだ大事だな。」
 ギコえもんが呆れたように呟く。
 その理由は明白だ。
 この島を中心に、想像を絶する程の思念が渦巻いているのが分かる。
 恐らく、世界中の思念が、『神』とやらの力となる為に…

「……!!」
 体の内側を食い破られそうになる感触。
 出るな…
 まだ出てくるな、『デビルワールド』!!

「でぃ君!大丈夫モナか!?」
 小耳モナーが俺の肩を支えた。
「……」
 俺は力なく頷いてそれに答える。

 急がなければ。
 もう、俺に残された時間は、殆ど無い。

91ブック:2004/04/25(日) 00:33



     ・     ・     ・



 私の意識がいきなり現実に引き戻された。
 ゆっくりと瞼を開けると、ランプによって薄暗く照らし出された部屋が
 目に映像として映し出される。
 ここは…?
 どこかの、お屋敷?

「…う……」
 呻き声を上げて、身を動かそうとする。
 しかし、私の体はロープのようなものによって縛られており、動けない
 …ああ、そうだ。
 確か、いきなり孤児院であった人が私の前に現れて…

「起きたか。」
 私の横から声がかかる。
 反射的に、私はその方向に顔を向けた。

(あなたは…)
 そう言おうとして、私はようやく猿轡を噛まされていた事に気がついた。
 これでは、満足に喋る事すら出来ない。

「…舌を噛み切らないなら口のものを外してやるが、どうする?」
 私は少し逡巡した後、観念して顔を縦に振った。
 その人がゆっくりと私に近づき、猿轡を外す。

「…どうして、こんな事を。」
 私はその人に尋ねた。
「言ったろ。あのでぃの野郎に復讐する為だ。」
 その人は当たり前といった風に答える。

「…!やめて下さい!
 あの人が、一体何をしたというんですか!!」
 私は無駄と知りつつも必死に訴えかけずにはいられなかった。
 この人の目は、思い詰め、覚悟を決めた目だ。
 赤の他人の私が何か言った所でその考えを変える事は不可能だろう。
 しかし、それでもでぃさんを傷つけさせる訳にはいかない。

「…『何をした』、だって?」
 その人の気配が一瞬にしておぞましいものに変わる。
 まるで、全てを焼き尽くすような炎のような…

「何をした?あいつが何をしただと!?
 この期に及んで何をしたと言うってのか!?
 俺の親父を殺しておきながら!!
 俺のお袋を殺しておきながら!!
 何をしたとお前は聞くのか!!?」
 その人は私の首を両手で締め上げた。
 息が無理矢理止められて、目の前が白く霞む。

「…っと、危ねぇ危ねぇ……
 ここで殺したら、せっかくここまで連れてきた意味が無くなっちまう。」
 その人はさっきまでの殺意を嘘のように中に押し込んでしまうと、
 私の首から手を放した。

「…でも、あれは、不慮の事故みたいなものです……!
 でぃさん達は、あそこの人達を守ろうと…」
 咳き込みながらも、私は何とかその人にその事を伝えようとした。

「悪いが、そんな事はもう関係ねぇのさ。
 あいつは孤児院に来た。
 そいて、そこで闘って、親父とお袋を巻き込んで殺した。
 あのでぃが何をしたかった、とか、
 もしあのでぃが来なかったら、とか、
 たらればの話なんざしてねぇんだよ。
 問題にしてるのは、奴が来て、結果親父とお袋が死んだという事実だけだ。
 そしてそれを理由に俺は奴に復讐する。」
 一点の曇りも無い表情で、その人は答える。

92ブック:2004/04/25(日) 00:33

「その為に、俺はお前を殺す。
 でぃへの復讐の為だけに。
 俺を恨んでくれて構わん。俺を憎んでくれて構わん。俺を軽蔑してくれて構わん。
 お前にはその権利がある。
 俺も、その行為を正当化したり、被害者ぶったりするつもりは無い。
 俺のやるのは、犬畜生にも劣る外道な行為だ。
 それで地獄に堕ちるというならば、進んでこの身を奈落に堕としてやる…!」
 なんて可哀相な人なのだろう。
 私はふとそんな事を考えてしまっていた。
 この人は、決して根っからの悪人なんかじゃない。
 ただ、間違えてしまっただけなのだ。

 …いや、この人は本当は間違っていないのかもしれない。
 だって、この人の亡くしてしまった人を想う気持ちは本物だ。
 それを、何も関係の無い私が間違ってるとかそうでないとか判断出来るものか。


「……!」
 その時、張り裂けそうな圧迫感がそこら中に広がった。
 何、これは…!?
 この屋敷の奥に、何かとてつもないものが居る…!

「…ふん。もうすぐといった所みたいだな。
 それとも、あのでぃの中の『化け物』に共鳴しているのか…」
 その人は腕を組んで呟いた。
「…!あなたは、なんでこんな恐ろしい事に手を貸すんです!?
 このままだと取り返しのつかない事になるかもしれない事位、
 分かっている筈です…!」
 私は縛られた体をばたつかせながら叫んだ。
 どうして。
 あの孤児院にいる人達だって、この人にこんな事をして欲しくない事だって、
 分かっている筈なのに、どうして。

「…金を、貰ったからだよ。」
 その人が、初めて悲しそうな目を見せた。
 お金。
 この人は、ただそれだけの為に…

「…さて、お喋りはここまでのようだな。」
 その人が部屋の入り口のドアに視線を移す。
 その直後、ドアが勢いよく開け放たれた。



     ・     ・     ・



 俺は屋敷のドアを勢いよく開け放った。
 中に、トラギコと縛られているみぃの姿が見える。
「ようこそ、我らが別荘に。海水浴は楽しんだか?」
 トラギコが俺達の方に向き直って話しかけてくる。

「貴様!みぃ君をすぐに放すょぅ!!」
 ぃょぅ達が部屋の中に駆け込もうとする。
「動くな!!」
 そのトラギコの叫びに俺達は動きを止めた。

「…この部屋に入っていいのはでぃだけだ。
 それ以外の奴が一歩でも足を踏み入れたら、その瞬間この女の首を落とす。」
 トラギコが殺気を込めた視線を俺達にぶつけてくる。
「…ゆっくりとこっちに来いよ、でぃ。妙な事は考えるなよ。」
 その言葉に従い、俺は一歩一歩確かめるようにトラギコへと歩み寄った。
「でぃさん…!」
 みぃが俺に訴えるような視線を向けた。
 大丈夫だ。
 今、助けてやる。

93ブック:2004/04/25(日) 00:34

「止まれ。」
 トラギコが腕を突き出す。
 俺はその場で足を止めた。
 俺と奴との距離は、大体6〜7メートルといった所か。

「…ふん、もう手足が生え揃ったか。
 相変わらずの『化け物』っぷりだな。」
 トラギコが含み笑いをする。
 しかし、その目は微塵も笑っていない。

「……」
 俺はみぃに視線を移した。
 幸いにも、大した怪我はしていないようだ。
 良かった。
 こいつさえ無事ならば、それだけで…

「…これから、お前の手足をぶった斬る。
 新しいのが生えてきたら、それをまたぶった斬る。
 生えてこなくなるまでそれを繰り返してやる。
 そして、達磨になったお前の目の前で、先ずは後ろの奴らを殺す。
 最後に、お前の大切な女をじわじわいたぶりながら殺してやるぜ…!」
 トラギコの背後に奴のスタンドのビジョンが浮かび上がった。

 …こいつは、俺だ。
 俺と同じように、大切な人の為に闘っている。
 違いは、それが生きているか死んでいるかって事だけだ。
 そして、こいつが守りたかったのは、
 こいつを大切にそだてていたのは、
 こいつが大切だったのは、俺の―――

「…反撃したら女の命はねぇぞ、なんてセコい事は言わねぇから安心しな。
 お前を実力で叩き伏せなきゃ、本当の絶望は与えられねぇからな。
 …ただし、後ろの奴らが手を出したらその保証は無いぜ。」
 トラギコがぃょぅ達を見据えた。
 俺は振り返り、『手を出すな』という意味を込めた視線をぃょぅ達に送る。

 安心しろ。
 こっちも俺以外の奴にこの闘いの邪魔をさせる気は無い。
 いや、こいつは俺一人で闘わなければならない。

 …本当は、こいつに殺されても仕方が無いと思っていた。
 俺の、
 こいつの、
 両親が死んだのは、
 他ならぬ俺の所為だ。
 だから、こいつは俺を殺していい。

 ―――だけど、
 だけど。
 みぃに手を出すというならば話は別だ…!

「…最後に、一つ聞かせろ。」
 と、トラギコが俺に紙とペンを投げ渡した。
「…何でお前は、孤児院にやってきた?」
 ……



『…お父さんとお母さんを、守りたかったからだ。』
 俺はそう書いて、その紙をトラギコに見せた。

「…っは、ははははははははははははははははは。
 はぁははははははははははははははははははははは…」
 トラギコは笑い転げる。
 それは、とても空虚な笑い声だった。

「そういう事か…」
 トラギコが笑うのをやめて、俺に向き直った。

「…いいさ。それじゃあ、そろそろ始めるとしようぜ、『化け物』。」
 そして、俺とトラギコとの間にある空間が一気に収束した。



     TO BE CONTINUED…

94ブック:2004/04/25(日) 17:05
     救い無き世界
     第七十五話・斗縛 〜その二〜


「……!」
 俺の左腕が一瞬にして切断され、宙を舞う。
 痛みを感じている暇は無い。
 残った右腕でトラギコの顔面向けてパンチを放つ。

「!!!」
 しかし、トラギコの眼前で俺の拳は壁にぶつかったかのように動きを止めた。
 馬鹿な。
 目の前には何も無いのに、何故…

「……!!」
 そんな事を考えた瞬間、今度は右腕がすっ飛んだ。
 ヤバい。
 後方に跳んで一旦距離を離す。

「……!」
 瞬く間に再生される両腕。
 もはや俺は人間では無い。

「さて、あと何回ぶった斬ればいいんだ?」
 トラギコが一気に間合いを詰める。

(ちっ!!)
 地面を蹴り、右に跳躍する。
 奴の詳しい能力は分からないが、接近されるのはかなりまずい。

「……!!」
 しかし回避は間に合わなかったらしく、空中で俺の両足が真っ二つになった。
 空中で脚を再生。
 そのまま生えたばかりの両足で着地する。

「!!!!!」
 しかし、着地した直後にすぐ後ろまで来ていたトラギコに再び両腕を切断された。
 首を狙えばケリがついていたかもしれないのに。
 こいつ、マジで俺を達磨にするつもりか…!

「でぃ君!!」
 ぃょぅが部屋の中に駆け込もうとした。
「……!!」
 トラギコが裂帛の気合を込めた視線をぃょぅにぶつけ、
 ぃょぅの動きを止める。

「…外野は黙ってて貰おうか。」
 トラギコが冷淡な声でぃょぅ達に告げた。
「……」
 俺もぃょぅ達の方に視線を移す。

 来るな、ぃょぅ。
 こいつの狙いは俺だけだ。
 それに、あんた達が踏み込んだらこいつは躊躇無くみぃを殺す。

95ブック:2004/04/25(日) 17:05

「続きだ。」
 トラギコが俺に向かって駆け出す。
 俺は覚悟を決めて、動かずに奴を向かえ討つ事にした。
 奴の接近に合わせて右でのストレートを撃つ。

「……!!」
 斬り飛ばされる右腕。
 構わず左のフック。
 斬り飛ばされる左腕。
 右脚でのミドル。
 斬り飛ばされる右脚。
 右腕の再生完了。
 倒れる訳にはいかない。
 左脚一本でバランスを保つ。
右腕でのパンチ。
 斬り飛ばされる右腕。
 左腕の再生完了。
 右脚の再生完了。
 左腕でのアッパー。
 斬り飛ばされる左腕。
 バックステップ。
 間に合わない。
 左足の半分近くまで斬り込みが入る。
 よし。
 まだ左足は繋がったままだ。
 右腕の再生完了。
 左脚でのハイキック。
 斬り飛ばされる左脚。
 右脚で体を支える。
 右腕でのスマッシュ。
 斬り飛ばされる右腕。
 左腕の再生未完了。
 生えかけの左腕をトラギコに突き出す。
 斬り飛ばされる左腕。
 まずい。
 再生が追いつかなくなってきている。
 左脚の再生完了。
 そのまま後方に―――


「……!!」
 スタンド化した脚で後方に跳躍。
 トラギコとの距離を出来る限り広げて、着地する。
 神経を集中させ、両腕の再生を急いで完了させた。
 糞。
 流石に再生するのが遅くなっているようだ。

「どうした、『化け物』。それまでか?」
 トラギコが嘲るように言い放つ。
 その足元には、斬り飛ばされた俺の脚や腕が大量に転がっている。
 常人なら気が狂いそうな光景だ。

 …どうする。
 俺には奴の攻撃が見えない。
 このままでは嬲り殺しだ。
 考えろ。
 奴の攻撃の正体を。
 いや、正体は分からなくてもいい。
 何とかして奴の攻撃を事前に察知するんだ。
 だが、どうやって?
 落ち着け。
 考えろ。
 こうして攻撃を受けている以上、何かしらのものがそこには存在している筈だ。

 …待てよ。
 それなら、ひょっとして…!

96ブック:2004/04/25(日) 17:06

「―――ッ―――!!」
 俺は即座に地面を叩き割った。
 その衝撃で、床の破片や砂埃等が空中に舞い上がる。

「……!」
 トラギコが一瞬眉をしかめる。
 どうやら、俺の狙いを悟ったようだ。

「……!!」
 俺はトラギコに飛びかかった。
 奴が見えない何かで攻撃しているというのなら、
 その部分が舞い上がった砂埃に浮き彫りになる筈―――

「!!!!!!!」
 直後、俺の両足が俺の体から切り離された。

「―――!!」
 そのまま無様に地面を転がる。
 何故だ。
 見えなかった。
 何も、見えなかった。

「浅知恵だったな。」
 トラギコが俺を見下ろす。
 ヤバい。
 すぐに脚を再生…

「!!!!!!!」
 しかし脚が生えきる前に、トラギコによって生えかけの脚を切断された。
 同時に、両腕も切断される。

「教えといてやるよ。
 俺の能力はコンマ数ミリ単位で空間同士を分断する事。
 つまり、砂埃があがった所で、見えるのはコンマ数ミリの線だけだ。
 そんな細い線が、この薄暗い部屋で見えると思っていたのか?」
 俺の手足が再生しようとしては、トラギコはそれらを次々と両断していった。

「でぃ君!!」
 ぃょぅがトラギコに飛び掛かる。
 馬鹿、来るな。
 こいつは―――

「ぐああああああああああああ!!!!!」
 右脚を斬り飛ばされ、ぃょぅが絶叫した。
「ぃょぅ!!」
 ふさしぃ達がぃょぅに駆け寄る。

「外野は黙ってろって言っただろう?
 まあいいや。
 もうすぐこのでぃも達磨になる。
 そしたらすぐに楽にしてやるよ。」
 トラギコはぃょぅを一瞥もしないまま、俺の体を切り刻み続ける。

「もう、やめて下さい…!!」
 その時、みぃが悲痛な叫び声を上げた。
 トラギコが、俺を切り裂きながらみぃに顔を向ける。

「あなたは私を殺したいのでしょう!?
 だったら、私だけ殺して下さい!
 だから…
 でぃさん達を、これ以上傷つけないで…!」
 阿呆か、お前は。
 こいつはそんな事が通用するような相手じゃない。
 俺の事は心配するな。
 こんなの、ちっとも痛くなんかない。

 …何で、
 何でこいつはいつもいつも、
 自分より人の心配ばかり……

「くっ、ははははははははははははは!!
 どうしたでぃ!?
 一瞬目の色が変わったぞ!?
 そんなにこの女が大事かよ!?」
 トラギコが声高々に笑い出した。

「そうだその目だ!
 それでこそこの女を殺し甲斐がある!!
 この女をお前の目の前で殺してこそ、俺の復讐は完成するんだ!!!」
 …やめろ。
 みぃに、手を出すな!
 あいつは無関係の筈だろう!!
 殺すなら、俺だけを…

97ブック:2004/04/25(日) 17:07

(何をやっている?こんな『人間』相手に。
 そんな事で『神』とやらと闘うつもりか?)
 『デビルワールド』…!
 やめろ、出てくるな!!

(本当に出てこないでいいのかな?
 このままだと、お前の大切な者達は全員死ぬぞ?)
 …!

「ははははははははははははははははは!!
 どうした『化け物』!!!
 再生が遅くなっているぞ!?
 もうお仕舞か!?」
 トラギコが狂ったように俺の両腕両足を刻み続けた。
 もう、俺の体には少しも力が残されていない。

(無理をするな…
 私を押さえ込むのはもう限界に近いのだろう?
 迷わず私を解き放て。
 それで全てが『終わる』。)
 黙れ!
 俺は絶対にお前を自由になどさせない!!
 俺は、俺はあいつを守りきってみせる!!!

(矛盾しているぞ?
 今私を出さねば、あの女は死ぬ。
 そんな事は分かりきっている筈だろう。)
 違う!
 俺は、俺は…!!

「…ここまでだな。」
 トラギコが俺を切り刻むのをやめ、ふさしぃ達に向き直った。
「さっき言った通り、まずは後ろに居たあいつらから殺す。
 自分の無力さに打ちひしがれな。」
 トラギコがふさしぃ達に歩き出した。

「……!!」
 ふさしぃ達が身構える。

 させない。
 しかし、もうどれだけ力を入れても腕と脚は生えてこなかった。
「―――ッ―――ァ―――!」
 俺は涙を流しながら叫んだ。
 しかし、体は一ミリたりとも動かない。

(…どうする?
 ここからはお前の意思だ。
 私は自分から出てくる事はもうしない。
 私を出すのはお前の意思だ。
 さあ、どうする?
 どうするのだ、でぃ。)
 …俺は、俺は―――

98ブック:2004/04/25(日) 17:07



     ・     ・     ・



 その時、俺は腹の辺りに異物感を感じた。
「―――あ…?」
 腹のあたりに目をやってみると、そこからは異形と化した腕が突き出ていた。
「―――馬―――!」
 馬鹿な。
 これは、あのでぃの腕!

「!!!!!!」
 俺は急いで振り返った。
 でぃは相変わらず地面に倒れたままだ。
 じゃあ、
 じゃあこの腕は一体どこから…

「!!!!!!」
 その時、俺は我が目を疑った。
 切り落とした筈のでぃの腕や脚が、宙に浮かんでいる。

「なぁ!?」
 その腕や脚が次々と俺に襲い掛かる。

「驚く事は無いだろう?
 見ての通り、この腕や脚はスタンドと同化している。
 ならば、スタンドである以上精神力で自在に動かすのは不可能ではない。」
 でぃの居る場所から声が聞こえてくる。
 違う。
 感覚で分かる。
 この声は、「でぃのものじゃない」。
 もっと、
 もっとおぞましい何かだ。

 何だ。
 何なんだ、これは。
 『化け物』め。
 本物の『化け物』め…!

「『オウガバトル』…!!」
 目の前の空間を分断。
 これで空間と空間が切り離されて、腕や脚は絶対に俺の所までは―――

「空間の境界面を、『終わらせる』。」
 『化け物』が、呟いた。

99ブック:2004/04/25(日) 17:08



     ・     ・     ・



 俺はトラギコの前に立ち尽くしていた。
 体の至る所に穴を開けられ虫の息となったトラギコが、
 なおも力を失っていない目で俺を睨み返す。

「…ば…けも……の…め……」
 トラギコが息も絶え絶えに呟いた。

 俺の腕と脚は既に再生していた。

 …しかし、
 もう、どれだけ押さえ込もうとしても、
 元の俺の醜い腕と脚に戻らない。
 完全に、『化け物』の腕と脚になってしまっていた。
 もう二度と、俺は元の姿に戻れない。

「……」
 俺は何も言わずにトラギコを見据えていた。
 何故こんな事になってしまったのだろう。
 こいつが俺の両親を守っていてくれた筈なのに。
 こいつも俺の両親の子供なのに。
 死ぬべきなのは、俺だった筈なのに。

「……あ…」
 トラギコがポケットから何かを取り出し、その手を俺の前に差し出した。
「……?」
 俺は黙ってその差し出された手を握る。

「…あい…つらに……渡…し……て……」
 血を吐きながらも必死にその言葉を絞り出すと、
 トラギコは俺にあるものを手渡した。

「……」
 それを受け取り、俺は頷く。
「わ…り……な…」
 トラギコは、それっきり動かなくなった。


 …あいつが最後に俺に渡したもの。
 それはしわくちゃで、血塗れになった一万円札だった。



     TO BE CONTINUED…

100丸餅:2004/04/25(日) 18:43


「オ見知リ置キヲ、二郎様」
「様なんて止めてくれ、こそばゆい。…で、B・T・Bだっけ?」
 二郎の問いかけに、何でもない事のようにシャマードが答えた。
「そ。能力は…『鼓動の探知と干渉』。
 二郎の『嘘の鼓動』を見抜いたり、私の鼓動を『人間の鼓動』に変えたり。
 まあ、人工心肺やペースメーカーなんか比べ物にならないような精度で、だけどね」」
「おいおい…良かったのか?そんなホイホイスタンドを見せて」
「ゴ心配ナク。貴方ノ鼓動ハ トテモ澄ンデ オラレル。裏切ル事ナド アリエマセン」
 小さく舌打ちを一つ、コンクリの柱に手を置いた。
スタンド能力をさらけ出すと言う事は、弱点もさらけ出すという事に等しい。
「…そこまで信用されたからには、こっちも『信用』を見せるのが道義ってもんだろ」
 そう言って、柱から手を離した。
「俺のスタンドも、ちょっとだけ見せてやる。…『フルール・ド・ロカイユ』」

 ぽこりと、手を置いた柱の一部が小さく盛り上がった。
柱に生まれた小さなコブは細く長く成長し、一本の植物を形作る。
 茎が伸び、葉を広げ、先端で固く閉じていたつぼみが優しく開き―――

「ヴィジョンは無いが、能力はこんな感じの『石の花』の生成。はい、あげる」

 ぺきん、と二郎に手折られた。
柱に残った茎の一部はひゅるひゅると引っ込み、元通りに柱に収まった。
 シャマードの方はと言うと、二郎に渡された手元の花を弄んでいる。
コンクリートの色と感触を持ってはいるが、その形はどう見ても自然にあるような花。葉脈まで再現されている。
「…信用、してくれたか?」
「元々B・T・B使えば嘘は見抜ける。そっちこそ、いいの?」
「お前さんも、嘘ついてるように見えないしな。何だったら汗をなめさせて…待てまてマテ冗談冗談」

  こうして、二人の夜は更けていく。

  熱き鼓動と東洋の花。

  静かな時が、静かに過ぎる。

101 丸耳達のビート Another One:2004/04/25(日) 18:46


  最初に出会った頃の彼を、私は『変な奴』と感じた。


(…アノ少女デス。コチラニ興味ヲ)
(了解)
「…はいーいらっしゃーい。キレイなキレイな石のお花だよー。
 お祭り限定だよー。ここでしか買えないよー。
 ちょっとそこのお嬢ちゃーん。見てって見てってー」
「んとね、あのね…」
「あららー、足りないの?しょうがないなぁ、オマケしてやろう」
「ありがと、おにーちゃん」
「まいどー」
(しかし燃費が良いってのは便利だなー。本体じゃない奴の心音エネルギーだけで活動できるとはね)
(御主人様ハ出歩ケマセン カラネ。…シカシ二郎様、商売上手デスネ)
(なーに、元手はタダだし、お前さんの能力で欲しがってる奴が判るからねー)
(ア、アノ少年モ欲シガッテマス)
「了解…はい、いらっしゃーい。石のお花だよー、キレイだよー」


  『波紋使い』だというのに、『吸血鬼』である私の主人に微塵も敵意を抱かなかった。


「シャマードー。醤油取ってー。その黒いのー」
「…二郎…?食卓にあるコレは何?」
「…マサカ食ベル物デハ無イ デショウナ…?」
「日本文化『トロロ汁』!旨いぞー」
「やだ。こんなドロドロネバネバした白い半液体なんて」
「よし、その言葉で思いついた。フランクフルトにかけて食べて…」
「変態デスカ貴方ハ」
「何を言う。ハーレー祭りじゃバナナにコーティングしたチョコをどれだけ早く舐められるかと言う競技が…」
「あってたまるかこのサノバビッチ!」


  下ネタが好きな人間だったが、一度も私の主人をどうこうしようとはしなかった。


「シャマードが風呂に入ってる時…窓の隙間に目を近づけるのは」
「イケナイ事デス」
「うぇあっ!」
「アア、御心配ナク。私ハ自立型ナノデ、マダバレテハ オリマセン。…ナノデ、バレル前ニ オ止メ下サイ」
「止めるなB・T・B!男性型ならお前もわかるだろ?男の性ッ!」
「…ト言ワレ マシテモ、私ニ下半身ハ アリマセンシ…」
「全部聞こえてるよー」
「………………………」「ゴ愁傷様、ト言ワセテ頂キマス」


  …まあ、吸血鬼相手にそんな事する程無茶苦茶では無かっただけなのかもしれないが。

102丸耳達のビート Another One:2004/04/25(日) 18:48



「ねえ」
「ん?」
「…やっぱ、何でもない」
「ん…?そうかい」


  彼に拾われてから、一月が経った。
  いつからだっただろうか、私の主人が彼に惹かれ始めていたのは。
  暖かい食事をくれる。傍らにいてくれる。味方になってくれる。
  そんな暮らしがいつまでも続くと思ってしまった。
  彼女は、自分が人間でいられると考えてしまった。
  それが愚かな考えであるなど、言う事ができなかった。


彼が裏切らない保証など、存在しなかったのに。

それなのに、彼女は疑わなかった。

だから、私はいつも代わりに彼を疑っていた。

だから、アパートの周辺に『殺気』のビートが集中していても、あまり驚きはしなかった。



   一九八四年 四月九日 午後十一時三十分

   天候・晴れ 気温・十一度


           ソウルイーター
「狙撃班…ギコだ。『魂喰い』は補足しているな?」
『あいよー。スコープのど真ん中』
無線越しのざらついた声に頷き、腰の拳銃に手をやる。
三八口径純銀弾…これならば、吸血鬼の肉体にもダメージが与えられる。
安全装置を解除、スライドを引いて初段を装填。
後ろに控える数人の男達に目配せを交わし、口の中だけで呟く。
 デューン
「『砂丘』」
「う゛あ゙あ゙……」
ゆらりと、ギコのスタンドが姿を現した。
石色の肌をした、女性型のスタンド。
服はまとっておらず、体中をベルトのような物で隙間なく拘束された上に顔面には猿轡と目隠しがされている。
「う゛ぅーうぅう゛…」
猿轡の隙間から、僅かに声が漏れた。
拘束具に全身を絡め取られた女性の髪を優しく撫で、無線に一言呟いた。

「撃て」


  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

103丸耳達のビート Another One:2004/04/25(日) 18:52
                                ∧∧
                            o、_,o (゚Д゚#) 観念しろこの吸血鬼!
       ∩_∩                 o○o⊇⊂ |__
      (;´Д`) 追いかけて来るなー!  /___/| /  丿 |o
      ⊂    つ               γ,-/| |UU'//耳
          と_人. 〈                | |(),|_| | |/二)
           \,)               ゝ_ノ ̄ ̄ ̄ゝ_ノ


ルナ・シャマード・ミュンツァー

ギコに追われる吸血鬼の女性。モナー族。
血も吸わなくていいし太陽も平気。二郎に拾われる。
スタンドB・T・Bを使用し、人間社会に紛れ込む珍しいタイプ。
B・T・Bの助けを借りているものの、吸血鬼の本能を押さえ込んでいるのは自分の意志によるもの。
本編で、「マルミミの両親は両方丸耳モナー」と言ってしまったのを思いだし大後悔。
名前の区別ができないッ!_| ̄|●
しょうがないので、不本意ながら固有名を名乗らせる事に。
ちなみに、シャマードが名前でミュンツァーが名字。
『ルナ』は…ミドルネームのようなものと思ってください。
            コード ソウルイーター
SPM危険度評価C・呼称・『魂喰い』


ギース・コリオラン

SPMの幹部。米国人。二郎とは多少の面識あり。
吸血鬼を憎んでいる。通称ギコ。
ゾンビを増やさないかぎりSPMは吸血鬼に対して基本的に野放しだが、その方針に反対している。
そのため、シャマードを追うのはあくまで自分の独断。
             コード  マリア
SPM危険度評価D 呼称:『聖母』

104丸耳達のビート Another One:2004/04/25(日) 18:54
   (・∀・) 本文中に出てきた『ハーレー祭り』。
       読んで字の如く、ハーレー大好きな人たちが集まるお祭りです。
       JOJO立ちのような物ですね。


        │ あってたまるかと言われてましたが、
        │ 『チョコバナナ舐め』は実在します。
        └─┬─────────y───────
            │チョコバナナのチョコをどれだけ早く
            │舐め取れるか、と言う競技で、手は後ろに回すのがルール。
            │キャー、ヒワイー!
            └y───────────────────



               ∩_∩    ∩ ∩
              (*∩∀) 旦 (ー` )
              / ============= ヽ
             (丶 ※※※ ∧∧※ゞノ,)
               ~~~~~~~~~(゚ー゚*)~~~~~~
                     ∪ ∪
               ____Λ__________

               ちなみに当然ですが、女性限定。
                 男がやったら暴動が起きます。               


      
     マルミミ君ナラ カワイイ カラ OKデチヨ    ∩_∩
        ∧,,∧  ∧_∧          (´Д` ;) ヒィィィィィッ
        ミ,, ∀ ミ (,, ∀ )          (  つつ 
        ミu甘u@(u甘u)        ( ̄__)__)

ぎゃあふさたんたちはマルミミ君の涅槃にスッウィートなチョコを塗りたくった黒い巨塔を

105丸耳達のビート Another One:2004/04/25(日) 18:56
 〜普通に喋る自作自演のSPM講座〜

┌────────────―――――――
│ 作中でたびたび出てくる『SPM危険度評価』
│ ちょっと説明させて頂きます。
 \_   _____
     |/      
━━━━━━━━━━━━━━━

  『危険度』って何じゃい

(・∀・)/━━━━━━━━━━━
  ┳ 
  ┃
  ┃
  ┻  
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|  

┌────────────―――――――――――――――――――
│ SPM財団では、発見したスタンドをいろいろとカテゴリー分けしています。
│ その一つが、五段階の『危険度』です。
 \_   ______________
     |/      
━━━━━━━━━━━━━━━

 A〜Eまでの五段階。
 あくまで目安。
 危険度が高い=強い ではない。

(・∀・)/━━━━━━━━━━━
  ┳ 
  ┃
  ┃
  ┻  
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|

106丸耳達のビート Another One:2004/04/25(日) 18:57
┌────────────――――――――――――
│ 基準となるのは、『どれだけ犯罪に向いているか』です。
│ 本体の性格も加味されます。
 \_   ____________________
     |/      
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 A−町一つを滅ぼせる能力と、危険な思想を持つ
 B−実際に多数の犯罪を行っている
    もしくは、危険な能力を持っている
 C−証拠を残さず人が殺せる
 D−人殺しに向かないが、ちょっとした犯罪が可能
 E−せいぜい覗き程度。プロの空き巣の方がよっぽど怖い

     ※何度も言うけど、あくまで目安。例外もたくさん。

(・∀・)/━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
  ┳ 
  ┃
  ┃
  ┻  
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|

107丸耳達のビート Another One:2004/04/25(日) 18:59

┌────────────―――――――――――――――――――
│ ついでに、<兵士>と<仲介人>の違いを。
│ 私やフサ、『チーフ』が<兵士>、茂名さんやマルミミ君が<仲介人>です。
 \_   ____________________________
     |/ 
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

  ソルジャー
 <兵士>…SPMの構成員。スタンド犯罪者の捕縛が主な仕事。
       毎月給料を貰っている。
       戦闘は断ってもいいが、違約金を払う義務がある。
       特権が多いが、資格取得条件が厳しい。

  エージェント
 <仲介人>…一般人。情報収集・<兵士>のサポートが主な仕事。
        新しいスタンド使いをSPMに登録させたり、
        情報や援助をSPMへ提供してやると
        いくらかの報酬がもらえるシステム。
        たまに戦闘要請が来るが、断ってもペナルティ無。
        束縛も少なく、信用か能力があれば簡単に入れる。

 スタンド使いだけでなく、一般人も多い。
 どちらも、SPMがスポンサーをやっている宿泊施設、
 もしくは交通機関が無料で使える等の特典が。

 ※この設定は『丸耳達のビート』独自の物です。
 流用しようが無視しようがどちらでもどうぞ。


(・∀・)/━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
  ┳ 
  ┃
  ┃
  ┻  
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|

108ブック:2004/04/26(月) 01:37
     救い無き世界
     第七十六話・終結 〜その一〜


 …後悔は無い。
 今日この場に至るまでの人生の道程に、後悔はしていない。
 正しい事ばかりではなかったかもしれない。
 楽しい事ばかりではなかったかもしれない。
 間違った事だらけだったのかもしれない。
 だけど、それでも私は後悔していない。
 私は、これまでの人生を、
 闘ってきた事を、
 守ってきた事を、
 負けてしまった事を、
 逃げ出してしまった事を、
 SSSで、皆に逢えた事を、
 心の底から誇りに思っている。
 だから、ここまで来れた。
 だから、ここで闘える。
 皆が、私を今日この場に立たせてくれているんだ。
 だから、私は、
 ここで命が尽きる事になっても、後悔は、無い。



 私は扉をゆっくりと押し開けた。
 何も無い、殺風景な広い部屋の奥に、
 『矢の男』は静かに椅子に座っていた。

「お待ちかねみたいだな、ゴルァ。」
 ギコえもんが『矢の男』を見据えて言った。

 私はいつ戦闘が始まってもいいように、
 先程みぃ君にくっつけて貰ったばかりの右足の状態を確かめた。
 …多少痛むが、闘う分には問題無い。
 切り口がきれいだったのが、幸いしたようだ。

「…ここに来た、という事は……
 モララエルもトラギコも、敗れてしまったのですね。」
 『矢の男』が座ったままで答える。
 渦。
 奴の周囲に渦巻く膨大な渦。
 しかし、それだけの威圧感にも関わらず、周囲は不気味な位の静寂に包まれている。

「…残っているのは、お前だけかょぅ。」
 私は『矢の男』に尋ねた。
「ええ、そうですよ。」
 『矢の男』が眠そうな目で答えた。
 周囲には私達以外の人の気配は無い。
 おそらく、こいつの言っている事は本当だろう。

「それなら大人しく観念なさい。
 一人じゃ何も出来ないでしょう。」
 ふさしぃが『キングスナイト』の剣の切っ先を『矢の男』に向けた。

「…観念する?
 ふ…ははははは。それは遅かったですね。
 もはや、私の能力は完成した。」
 『矢の男』のすぐ傍に、分厚い辞典のような本と、
 光り輝く翼を持った男のようなビジョンが浮かび上がった。

109ブック:2004/04/26(月) 01:37



「我が銘称(な)を呼べよ。
 我が業(な)を呼べよ。
 我が概念(な)を呼べよ。」

「我を信奉(もと)めよ。
 我を切望(もと)めよ。
 我を懇願(もと)めよ。」

「我を自覚(し)れよ。
 我を直感(し)れよ。
 我を盲信(し)れよ。」

「我は『段落の頭』。
 我は『始めの一文字』。
 我は『鉤括弧開く』。
 我は『A』。
 我は『α』。
 我は『あ』。
 我は『広がる空』。
 我は『天のさらに向こう』。
 我は『果て無き世界』。」

「我は我が我こそが、
 幾千万の希望により、魂を現世に賜りし我こそが、
 『矢』により、肉を現世に賜りし我こそが、
 『無限の使者』、『可能性の権化』、『誕生の化身』、
 ―――『アクトレイザー』。」

110ブック:2004/04/26(月) 01:38



「……!!」
 ただ、それがそこにいるというだけで、
 意識ごと持って行かれそうな絶対的存在感。
 これが、『神』の力とでもいうのか…!

「…そういえば、『デビルワールド』はどうしたのです?
 この近くに居るのは感じていますが、どこに隠れているのですか?」
 『矢の男』が不思議そうな顔をして聞いてきた。

「手前に教える必要は無いモナ!!」
 小耳モナーが叫んだ。
 その横で、『ファング・オブ・アルナム』が低く唸る。

「そうですか。
 いや、それは残念だ。
 今すぐにでも逢いたいというのに…」
 『矢の男』が肩をすくめた。

「手前は…
 神になって何をしようっていうんだ?」
 と、ギコえもんが『矢の男』に言った。

「中々鋭い事を聞いてくれる!
 そう、問題はそれなんですよ!!」
 『矢の男』が目を輝かせながら答えた。

「…何?」
 私はそう聞き返せずにはいられなかった。

「私はねぇ、ずっと『神』をどうやって降臨させようか、そればかり考えていたんですよ。
 その為に四方八方あらゆる手を尽くしました。
 しかし、『神』を実際降臨させてみて、ある重大な事に気づいてしまったんです。
 『神』は降臨した。
 で、それからどうすればいい?」
 『矢の男』は身振り手振りを添えながら演説するように喋る。

「全く笑えない話です。
 『神の降臨』という手段が、いつの間にか目的にすりかわっていたのですからね。」
 『矢の男』が自嘲気味な笑みを浮かべた。

「…というわけで、あなた達も『神』になったからには何をすべきなのか、
 私と一緒に考えてはくれませんか?
 あのモララエルやモナエル達を退けた力の持ち主だ。
 必ずや私の役に立ってくれる筈です。
 望むものならば、何だって与えてあげますよ?」
 『矢の男』が冗談とも本心とも取れない口調で私達に言った。

「…お前は、そんな事で……」
 私は拳をわなわなと振るわせた。
「そんな事で、何人もの人の命を奪ったのかああああぁ!!!」
 私は怒りを抑え切れなかった。

 『神』になったはいいが、何をすればいいのか分からない!?
 何だ、それは。
 貴様はその程度の考えで、
 何の意思も意志も信念も信条も思想も理想も理由も目的も持たないまま、
 ただ『神』を降臨させたいというだけで、
 永きに亘って人々を犠牲にしてきたというのか!?
 許さない。
 絶対に許さない。
 これでは、そんなチンケな理由で死んでいった人々が浮かばれない…!!

111ブック:2004/04/26(月) 01:39

「行くぞ!ぃょぅ、ふさしぃ、小耳モナー!!
 こいつはここで殺す!!!」
 ギコえもんがスタンドを発動させて、『矢の男』に飛びかかった。
 我々も、同様にそれに続く。

「『マイティボンジャック』!!」
 ギコえもんが『矢の男』に殴りかかる。
 しかし、『矢の男』は椅子から動こうともしない。
「『アクトレイザー』。」
 『矢の男』のスタンドが、ギコえもんのパンチを片手で受け止めた。
 そして、そのまま無造作に押し返す。
「!!!!!!」
 ギコえもんが、ただそれだけで遥か後方へ吹っ飛んだ。

「この…!」
 ふさしぃがその隙に横から斬りかかる。
 しかし、その瞬間『矢の男』の姿は掻き消えた。
「なっ!?」
 驚愕するふさしぃ。
 その背後から、いつのまにかふさしぃの後ろに回った『矢の男』が腕を振り下ろす。

「『ファング・オブ・アルナム』!!」
 『アルナム』が『矢の男』に襲い掛かり、ふさしぃへの攻撃を止めた。

「『ザナドゥ』!!」
 そこに生まれる一瞬の隙。
 これ以上無い程の突風を『矢の男』にぶつける。
 体勢を崩す『矢の男』。

 いける。
 確かに『矢の男』とそのスタンドのパワーとスピードは驚異的だ。
 しかし、全く対処が不可能という程ではない。
 一対一ならともかく、人数で押し切れば倒せる…!

「…それで、『次にふさしぃが後ろから私を斬りつけるのをかわした所に、
 下の階に隠れていた『デビルワールド』が襲い掛かってくる』訳ですね。」
 …!?
 なんだって…!?
 今、こいつ何を―――

「余所見している暇は無いわよ!!」
 『矢の男』の言葉通り、ふさしぃが背後から『矢の男』に斬りかかった。
「待て、ふさしぃ!!
 何かがヤバぃょぅ!!!」
 しかし私の制止も時既に遅く、ふさしぃはそのまま『矢の男』を斬り裂こうとした。
 苦も無い様子でそれをかわす『矢の男』。
 その瞬間、『矢の男』の足元に罅が入り…



     ・     ・     ・



 俺の中に潜む『デビルワールド』からの感覚を頼りに、
 俺は下の階から『矢の男』の位置を探って真下から奇襲をかけた。
 床を突き破って上階に飛び出すと、『矢の男』の姿が眼前に出てくる。
 貰った。
 このタイミングでならかわせまい。
 防御した所で、大ダメージを…

「!!!!!!!!」
 しかし、俺の腕は空しく『矢の男』をすり抜けた。
 馬鹿な。
 どういう事だ!?
 こいつは間違いなく、この場所にいる筈だ。
 『デビルワールド』も奴の存在を認識している筈なのに、
 何故、何でパンチが当たらなかった!?

「本当は『私はここであなたに殺される』筈だったのですが、
 その事象は書き換えさせて貰いました。」
 『矢の男』が呟く。

「…the world is mine.(かくて世界は我が手の中に)」



     TO BE CONTINUED…

112ブック:2004/04/27(火) 02:18
     救い無き世界
     第七十七話・終結 〜その二〜


「…事象を、書き換えた……?」
 ぃょぅが訳が分からないといった顔で口を開く。

「……!!」
 俺は怯まず『矢の男』に向かって左腕を薙ぎ払った。
 しかし、やはりその腕も『矢の男』を空しくすり抜ける。

「そう、その攻撃で私の左脇腹の骨が五本粉砕される。
 しかし、その結果も書き換えている。」
 でたらめを言うな!
 それならもう一度…

「そして逆上したあなたは、続いて右のハイキックを私のこめかみに。」
 その通りだった。
 『矢の男』の言葉をそのままトレースするように、
 俺は『矢の男』に右の上段蹴りを放つ。
 またもやすり抜けてしまう攻撃。

「それを喰らった私の頭蓋は陥没、植物人間になって再起不能。
 だがその結果も書き換えている以上起こり得ません。」
 『矢の男』が微笑みながら呟いた。

「そして私の背後から『ファング・オブ・アルナム』が襲い掛かり、
 私の頚動脈を喰い千切る。しかしそれも無駄。」
 後ろから密かに接近していた『ファング・オブ・アルナム』が
 『矢の男』に飛び掛かった。
 しかし、やはり『矢の男』には傷一つつけられなかった。

「……!!」
 俺達の間に戦慄が走る。
 何だ。
 何なんだ、これは。
 単純にパワーとかスピードとか、
 強いとか弱いといった問題じゃ無い。
 「何をされているのか」すら分からない。
 まるで、俺達が何をしようと釈迦の手の平の上で玩ばれているだけのような…
 そんな絶対的な何かだ…!

「そして我が『アクトレイザー』は、『デビルワールド』の左腕を断ち切る。」
 『矢の男』のスタンドが俺に向かって腕を振り上げた。
 何の心算だ!?
 フェイントもタイミングも糞も無い、無造作過ぎる攻撃動作。
 そのまま腕を振り下ろして、俺の左腕を両断する気なのか?

 気でも違ったか!?
 いくら攻撃速度が速かろうと、
 あれだけ大きく振りかぶったら何をするのかバレバレだ。
 そんなものを避けるのは児戯にも等しい。

 ほら、来たぞ。
 見え見えだ。
 少しバックステップすれば、簡単に―――

113ブック:2004/04/27(火) 02:19


「!!!!!!!!!!」
 直後、俺の左腕は『矢の男』の予言通りに切断された。

「……!!」
 急いで後ろに跳躍し、『矢の男』から距離を取る。
 馬鹿な!
 どういう事だ!?
 俺は確かに、あの攻撃を避けようとした。
 いや、『実際避けた』。
 なのに、何で俺の腕がちょん切られているんだ!?

「どうしました?
 今のは簡単に避けられる筈だったのではありませんか?」
 『矢の男』が皮肉気に言う。

「……!!」
 俺は『矢の男』を睨み返した。
 畜生が…!
 だが、どうやってあの攻撃を俺に当てたんだ?
 糞。
 取り敢えず斬られた左腕を再生して…

「……!?」
 左腕が、再生しない!?
 何故だ。
 一体、俺の体に何が起こっている!?

「左腕は再生しませんよ。
 そういう風に書いておきましたから。」
 『矢の男』が俺を嘲るような目で見据える。
 「そういう風に書いておいた」?
 こいつ、何を言って…

「でぃ君!!」
 ぃょぅ達が駆け寄ってくる。
 来るな、お前ら。
 こんな事は言いたくないけど、こいつはお前らの手に負える相手じゃない。
 いや、同じ盤上の勝負ですらない。
 感覚で分かる。
 こいつは、比喩でなく高次元に存在している『神』同然だ…!

「傷ついた者を労わる。実に美しい光景です。
 しかしあなた方、自分が何に助力しているのか気づいているのですか?」
 『矢の男』がぃょぅ達を見据えた。
「…何ですって?」
 ふさしぃが『矢の男』に聞き返す。

「言葉通りの意味ですよ。
 そのでぃが、一体どれ程の『化け物』だか分かっているのですか?」
 『矢の男』が薄笑いを浮かべながら言う。
「それは、どういう…」
 小耳モナーがそう尋ねようとする。

「おやおや、本当は気づいているんでしょう?
 そのでぃの中に潜む『デビルワールド』の恐ろしさに。」
 『矢の男』が見下すような視線を俺に向けた。

「私も『神』の降臨の為に幾人もの人々を犠牲にしてきましたが、
 そんなものこの『デビルワールド』の目的にしてみれば
 足の小指の爪先に溜まっている垢みたいなものです。
 この『悪魔』はそれほどまでに危険な存在なのですよ。
 世界の敵と言っても過言ではない。
 それは、近くにいたあなた方が一番よく知っているのではないですか?」
 『矢の男』が再びぃょぅ達に視線を移す。

「誓ってもいい。
 ここで私が倒されるよりも、その『化け物』を生かしておいた方が
 余程世界を傷つける。」
 まるでお告げを下すように、『矢の男』はぃょぅ達に語りかけた。

「ここまで言えば、私が何を言いたいのかはもうお分かりですね。
 今からでも遅くありません。
 私に協力しなさい。
 そして、世界の為にもその『化け物』を共に打ち倒すのです。
 そうか。
 今、分かりました。
 それこそが、『神』を降臨させる意味だったのです。」
 『矢の男』のスタンドから、後光のような光が差す。
「―――!!」
 ぃょぅ達がそれを受けて引き下がり、俺の方を向いた。

 …そうさ。
 奴の言う通りだ。
 俺は、ここに居るというだけで世界を危険に晒している。
 ここでぃょぅ達と肩を並べる事すらおこがましい『化け物』なんだ。
 俺は、
 俺は、
 俺は正真正銘の『化け物』―――

114ブック:2004/04/27(火) 02:19



「でぃさんは『化け物』なんかじゃありません!!」

 その時、部屋の中に一つの叫びが飛び込んできた。
 その場の視線が、一斉にその声の場所へと集中する。

「みぃちゃん…!」
 ふさしぃが驚いた顔で呟いた。

 あの馬鹿。
 危ないから来るなと、あれ程念を押していた筈だのに…!

「これは異な事を言うお嬢さんだ。
 あなたには、こんなおぞましい姿の男が『化け物』ではないとでも?」
 『矢の男』が俺を指差した。

「…そうです、でぃさんは『化け物』なんかじゃありません。
 傷つく事に臆病で、外の世界を恐れて、自分の力に悩んで、人を信じられなくて、
 …それでも、それでも誰かの為に悩み、傷つき、闘う事の出来る人間です!!」
 みぃが『矢の男』に向かって一歩進み出た。
「私はそれをずっと傍で見てきました!
 そんなこの人をずっと信じてきました!
 もしそれでもでぃさんが『化け物』だと言うのなら、
 私一人で世界の全てを敵に回しても、
 でぃさんを人間だと言い続ける…!!」

「……!」
 俺の視界が水の中にいるみたいにぼやけた。
 何で、こいつは、
 こいつは、そこまでして、俺なんかを…

「…一人じゃなくて、二人だぜゴルァ。」
 と、いつの間にか吹き飛ばされた所から戻ってきたギコえもんが、
 みぃの肩に手をおいた。

「二人じゃなくて三人だモナー。」
 小耳モナーが笑顔を浮かべながらギコえもんの横に立つ。

「さっきあなたは『デビルワールド』に比べれば自分はまだまし、
 みたいな事を言っていたけれど、
 だからと言ってあなたのやって来た事が帳消しにはなりはしないわ。
 論点のすり替えもいい所ね。」
 ふさしぃが『矢の男』をキッと見据えて言い放った。

「すまなぃょぅ、でぃ君。
 一瞬でも『矢の男』の口車に乗って、君を疑ってしまったょぅ。」
 ぃょぅが俺に軽く頭を下げて謝った。

 …馬鹿だよ、お前ら。
 何で、何でそんなに俺の事を信用出来る。
 どうしようも無い程の『化け物』のこの俺を…!


「つーわけで、さっきの手前の申し出だが、謹んで辞退させて貰うぜ。」
 ギコえもんが『マイティボンジャック』を発動させ、
 『矢の男』の前に立ちはだかる。

「…愚かな。
 あなた達は『デビルワールド』に世界を蹂躙されても構わないというのですか?」
 『矢の男』が哀れむような目でぃょぅ達を見つめる。

「それならあなたを倒した後に『デビルワールド』を倒せば済む話だわ。
 勿論、でぃ君を傷つけずにね。」
 ふさしぃが当然のように言い切った。

「そんな事が本当に出来るとでも?」
 『矢の男』が嘲笑する。
「ああ…出来るモナ。
 モナ達が誰だか分かっているモナか?
 天下無双の特務A班モナよ!!」
 小耳モナーが気持ちいい位の笑みを浮かべながら大見得を切った。

「お前は倒す。
 でぃ君の中の『デビルワールド』も倒す。
 それで、全てに決着をつけてやるょぅ!
 でぃ君は、決して『デビルワールド』なんかに負けたりしなぃょぅ!!」
 ぃょぅが『ザナドゥ』を発動させた。
 強風が、部屋の中に吹き荒れる。

「…やれやれ。どうやらこれ以上の議論は無駄のようだ。
 ならば、あなた達には『デビルワールド』諸共消えて貰おう…!」
 『矢の男』がゆっくりと俺達に向かってくる。
 圧倒されてしまいそうな程のプレッシャー。
 ぃょぅ達はそれを真正面から受けても、なお歯を喰いしばりながら踏みとどまる。

115ブック:2004/04/27(火) 02:20


「…下がってろ、皆。」
 俺は皆の前に歩み出た。
「…!でぃ君、声が…」
 ぃょぅが後ろから俺に声をかけた。
 喉元をスタンド化させ、イカレた声帯を修復させた。
 これで、一応は声を出す事が出来る。

「…こいつは、俺が倒す。
 いや、俺の『デビルワールド』でないと倒せない。
 倒せるのは、こいつの言う『化け物』である俺だけだ…!」
 食わせる。
 『デビルワールド』に、俺の全てを。
 俺の心の中にある俺の居場所が失われ、漆黒の虚無だけが俺の心を埋め尽くした。
 それと同時に再生していく左腕。

「…これは驚いた。
 絶対に再生しないように『書いておいた』筈なのに。
 流石は『デビルワールド』、『最果ての使者』。」
 『矢の男』が感心したように呟いた。

「…御託はそれだけか。
 そうでないなら今の内に好きなだけ喋っておけ。
 それがお前の最後の言葉になる。」
 俺と『矢の男』の視線が一直線に重なり合う。
 その空間だけが、まるで異界のように歪んだようだった。

「でぃさん…!」
 みぃの声が聞こえる。
 悪いな、みぃ。
 さっき必死に弁護してくれたけど、
 こいつの言う通り俺は単なる『化け物』だ。
 どうしようも無い位の『化け物』なんだ。
 そして、今から俺は完全に『化け物』に成り果てる。
 多分、もう帰って来れない。

「…ぃょぅさん、ふさしぃさん、小耳モナーさん、ギコえもんさん。
 俺が闘っている間、みぃを守ってやって下さい。」
 ぃょぅ達にそうお願いする。
 自分勝手なお願いだが、最後の我侭という事で我慢して貰おう。

「でぃ君…!」
 ぃょぅが俺を引きとめようする。
 ごめんなさいぃょぅさん。
 最後まで迷惑をかけてしまって。
 みぃの事、よろしくお願いします。
 俺が居なくなった後、あなた達だけが頼りなのだから。

「でぃさん!!」
 みぃが泣きそうな顔で叫んだ。

 …そうだ。
 探さなきゃ。
 こいつに言える、俺からの最後の言葉を探さなきゃ。
 今まで言えなかった事、言いたかった事、
 一つの形にして伝えなきゃ。
 最後に、あいつに伝えなきゃ…



「―――ありがとう。」

116ブック:2004/04/27(火) 02:20



     ・     ・     ・


「我が名称(な)を呼べよ。
 我が力(な)を呼べよ。
 我が存在(な)を呼べよ。」

「我を欲求(もと)めよ。
 我を渇望(もと)めよ。
 我を飢餓(もと)めよ。」

「我を視覚(し)れよ。
 我を知覚(し)れよ。
 我を認識(し)れよ。」

「我は『句読点の丸』。
 我は『ピリオド』。
 我は『鉤括弧閉じる』。
 我は『Z』。
 我は『Ω』。
 我は『ん』。
 我は『地平線』。
 我は『深遠の底』。
 我は『世界の果て』。」

「我は我が我こそが、
 幾千万の怨念により、魂を現世に賜りし我こそが、
 『矢』により、肉を現世に賜りし我こそが、
 『最果ての使者』、『虚無の権化』、『終焉の化身』、
 ―――『デビルワールド』。」



 …出てこれた。
 ようやく、ようやく私は出てこれた。
 永い、永い時間だった。
 とても永い時間だった。

 だが、最早私を繋ぎ止めるものは無い。
 今まではあのでぃ自身が絶対者である、奴の『内的宇宙』『心象世界』に居た為に
 この力存分に振るう事は叶わなかったが、
 今や立場は完全に逆転した。
 奴は完全に私に取り込まれた…!

「くく、くくく、
 くははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
 はははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
 はははははははははははははははははははははははははははは!!!!!!!!!!」
 笑う。
 高らかに笑う。
 笑っても笑っても、どんどん体の奥底から笑いが込み上げてきて止まらない。

 ついに、ついにこの刻が来た…!
 見ていろ。
 世界の有象無象よ、森羅万象よ。
 今この刻より、私が貴様等に、
 恐怖と絶望と苦悩と憤怒と怨恨と絶望と焦燥と悲観と悲哀と淀みと穢れと
 不幸と死と痛みと邪悪と絶叫と戦慄と魔性と疫病と厄災と悪疫と煉獄と
 それら全ての行き着く先、
 絶対たる終焉をばら撒いてくれる!!!!!

「……」
 向こうから『無限の使者(アクトレイザー)』が私に近づいてくる。
 そうだった。
 先ずはあれを『終わらせて』やらねば。

「…the world is mine.(そして世界は我が手に落ちる)」



     TO BE CONTINUED…

117 丸耳達のビート Another One:2004/04/27(火) 23:32



いち、にー、三、四五…六人。


 B・T・Bの心拍ソナーに反応する、『敵意』と『緊張』のビート。
まとまりの無かった思考を、一つにまとめていく。

(御主人様…!)

(んー…何でばれちゃったかな?)

(決まっているでしょう!彼が…二郎様が密告を!)

(けど、変でしょ?B・T・Bの『心拍感知』でも、二郎の鼓動に嘘は無かったんだよ?)

(しかし、他には考えられません。この一ヶ月間出歩いてはいませんし、盗聴の気配もありませんでした。
 そもそも、『心拍感知』とて絶対誤魔化せないような物では無いのですよ?)

(…二郎は、ちゃんと私達の信用に答えてくれるよ。B・T・Bだって言ったでしょ?裏切る事などあり得ない、って)

(あの時と今とは違います。人間は心変わりをする者…失礼ながら、私には信用できません。
 彼は波紋使いですし、付き合いも短い。信用を置くには足りないように感じます)

(じゃ、賭けようか)

(はい…!?)



「ね、二郎…」
「ん?」
 ぽん、と二郎の胸に、掌を置いた。
「信用してるから、ね」
「…んん…?」
 不思議そうな顔をして、二郎が首を傾げた。
演技と言えばそうも見えるし、本気と言えばそうも見える。
「信用…?何のこ」「ぅおりゃっ!」
 皆まで言わせず、二郎の胸に置いた手をシャツごと握りしめた。
そのまま胸ぐらを掴む形で、ベッドの下へと放り込む。
「わっ!?」

  パギャァンッ!

 まず聞こえたのはガラスの割れる、硬質な音。
同時に、シャマードがもんどり打って倒れた。

  ―――ァァァン―――

 次に、少し遅れての銃声。
音速を超えた弾丸…ライフルによる狙撃。

118丸耳達のビート Another One:2004/04/27(火) 23:34
 イェア
『Yearー!命中!』
「了解。…総員、突入!」
 ギコの声に、後ろに控えた兵士達がドアを蹴破り、
「ノックにしちゃ乱暴だね」

 何事もなかったかのように立ちふさがるシャマードに出くわし、硬直した。

「九六七メートル…残念でした」
 ころん、とシャマードの手の中から、ひしゃげた弾頭が転げ落ちた。
「次は三〇〇〇メートル以上から当てることだね」
 呆気にとられる戦闘の兵士の胸板に、ほどよく手加減した蹴りが吸い込まれる。
狭い玄関では、必然的に一列に並ばなくてはならない。
 蹴り飛ばされた兵士が後ろの者にぶつかり、「え、うわっ」
更にその後ろを巻き込んで、「ちょっ、え、わ」
一塊りにアパートの階段を「あああぁぁぁぁ…」転げ落ちた。

(いや…まだ!)
 ととっ、と軽い足音をたてて、転がる兵士達の頭を踏みつけながらギコが二郎の部屋に飛び込んできた。
夜の吸血鬼に正面から向かっていく事など、正気の沙汰ではない。
 リィィィィィッ
「Ryyyyyy!」
 甲高い声を上げて、変質した右腕を構える。
スタンドは生命エネルギーの固まり。命を喰らう吸血鬼の腕ならば、無傷のままで無力化できる。
どんな能力を持っていようと関係ない。胸のど真ん中に爪を突き立て、吸う。それだけでいい。
 シャマードが跳ぶ。重力を感じさせない動きで床を壁を天井を跳ね回り、スタンドの心臓目掛けて右腕を突き出した。

  ―――――胸部・解放。

 スタンドの体中を覆っていたベルトが、胸の部分だけばしりと外れる。
それを見て、二郎の顔色が変わった。
 かまわず腕を突き出そうとするシャマードに、二郎が『スタンド』の声で叫んだ。
『触るな!』
「っっっっっとぉ !!」
 なんだか判らないがとりあえず、慌てて抜き手に構えた右手を引っ込めながら方向転換。
床の上をくるりと一回転しながら、再び間合いを取る。
「胸部、再封印。左腕部・両脚部、解放―――良い反応だ」
 ち、とギコの口から漏れる小さな舌打ち。
彼の呟きに反応して、スタンドを覆うベルトが蠢いた。
 むき出しになった胸を再び隠し、背中に拘束されていた左腕と両足が解放される。
                       デューン
「知られても構わないから教えるが…『砂丘』の能力は強い。ほぼ一撃必殺だな」
 だだっ、と解放された両足で『デューン』が走った。
戦法も何もない獣の構えで、左の掌を打ち下ろす。
「うわっ!」
 シャマードの反応は早い。逆に『デューン』の方へと走り、床を転がって掌をやり過ごす。
空振ったデューンが数歩たたらを踏み、アパートの壁に手をつき…

  ざあっ。

 …手を触れた部分の壁が、灰色の砂に分解された。
「能力は簡単。『物質の風化』だ」

119丸耳達のビート Another One:2004/04/27(火) 23:40

「…だったら触らないっ!」
 手近にあったビール瓶を拾い上げ、振りかぶって投げつける。
大リーガー並の速度で投げ放たれたビール瓶が回転しながらギコへと向かい―――

「う゛ぁあっ!」

  さっ。
                 デューン
 ―――拘束具だらけの女性に阻まれ、あえなく風化した。
「止めておけ。コイツは俺の言う事を殆ど聞かんが…
 主人が死ぬのは困るんだろうな。俺を守る事は何よりも優先する」
「…んのヤロッ!」
 軽々と鉄のベッドを持ち上げて、更に投げつける。
立ちはだかったデューンに阻まれて、全て風化してしまうがこれで良い。
 一瞬の隙をついて、窓をぶち抜いたシャマードが道路へ飛び降りた。

「追え!ニローンは拘束だ」
 てきぱきとしたギコの指示に、蹴り出されていた兵士の一人が拘束具を取り出した。
「ギコ…」
「抵抗するな、ニローン。殺したくない」
「シャマードは…違う」
「違わない。吸血鬼である限り、彼女は私の敵だ。殺さなくてはならない…連れて行け」
 二郎の言葉にも、ギコは取り合おうとしない。
拘束されたまま、両腕を捕まれてずるずると引きずられていった。



   一九八四年 四月十日 午前二時三十八分


 革製の拘束具で後ろ手を縛られ、二郎は椅子に座らされていた。
『フルール・ド・ロカイユ』は、石の花を作り出すスタンド。有機物に対しては同化できない。
 ご丁寧に、壁も床も檻も全て木製。椅子も床に固定されているので、まったく動けない。
「手錠だったら余裕で脱獄できたんだけどなー…畜生、古臭い方法を。眠れる奴隷への憧れが開花したらどうしてくれる」
「その時はその時だ。諦めろ、ニローン」
 真面目くさった彼の物言いに、二郎が溜息をついた。
「大体こんなガッチガチに縛りやがって。小便はどうするんだよ」
「朝までにはケリが付く予定だからな。悪いがそれまで我慢してろ」
「いや…別に今すぐしたいわけでも無いんだけどな」
 かすかに笑いを含んでいたギコの声色が、真面目なものへと変わった。
「…それより、何故吸血鬼などを庇い立てした?『波紋使い』であるお前が」
               オ ヤ ジ
「『波紋使い』っつっても茂名 初は何にも教えてくれなかったしな…関係ないだろ?お前さんには」
「…言っておくが、吸血鬼と人間が共存するなど無理な話だ。
 使用者をこの世に縛り付ける『石仮面』の呪い―――
 『人食い』と『不死』の呪縛にとらわれた化け物だぞ」
「アイツは違う。人も喰わないし、日光も平気だ」
「だからどうした。アイツが吸血鬼である事に代わりはない。
 奴が血を啜る可能性があるなら、その時点で奴は私の敵だ。
 …話す事はもう無い。じゃあな」
一方的に言い放つと、踵を返して牢を出て行った。


「二郎様」
 ギコの足音が消えた後、更に数分ほど経った頃。牢の中に、何者かの声が響いた。
「B・T・Bか。いつからいた?」
「オヤ、気付イテ オラレマシタカ。『信用シテルカラネ』ノ辺リカラ、鼓動ヲ借リテオリマス。
 …ソレヨリ、大事ナ事ヲ。御主人様ヲ助ケテ頂キタイノデス。…貴方ガ、裏切ッタ ノデ ナケレバ」

 数秒間ほどの沈黙。ややあって、おもむろに二郎が口を開いた。
「お前さん…俺を疑ってたのか」
 さわり、と空気が強張る。
それに感づいたのか、二郎が慌てて首を振った。
「や、悪ぃ。一歩も外出てないなら、それが一番普通の対応だしな。
 まあ、俺が本当に裏切ってたらこんなトコにいないで今頃コーヒーでも啜ってる筈…
 それにお前さんがここにいるって事は、シャマードは最初から信用してくれたんだろ?
 しかし…信用されといてこんな事言うのも何だが、何で命まで懸けて俺を信じてる?」
B・T・Bの心拍操作が無いかぎり、シャマードは只の吸血鬼。
 二郎が本当に裏切っていて、助けに来ないまま夜が明けてしまったら。
比喩でも何でもない、『命懸けの信頼』。
「マア…『何トカ ノ弱ミ』ト言ウモノ デスカネ」
「何だそりゃ。俺…何か握ってたっけ?」
 この鈍感男を何とかする方法はないものか。
一瞬そう思ったが、馬鹿に付ける薬はあいにく持ち合わせがない。
「…私ノ口カラハ言エマセン。兎モ角、ココマデ ヤルトハ私モ思イマセン デシタ」
「そうかい…助けに行く。縄、切ってくれ」
「御意」
 ぴしりと一礼すると、後ろ手の拘束具をカリカリと囓り始めた。

120丸耳達のビート Another One:2004/04/27(火) 23:41




   一九八四年 四月十日 午前三時三十三分



  雲一つ無い星空に、綺麗な満月。

  冷たく優しい、月の光。人にも吸血鬼にも、等しく降り注ぐ。


「…何故、逃げない?」
 大都市・ニューヨークにそびえるビルの一つ。
その屋上で、シャマードとギコの二人が睨み合っていた。
「賭けの途中で、ね。…私達が二郎の所にいるって、どうして判ったの?」
 小さく、ギコが肩をすくめた。                ツケ
「…奴は嘘をつける人間ではない。様子が変だったから尾行けてみればお前がいた」
「そっか。じゃ、裏切った訳じゃないんだね。賭けは私の勝ち」
「馬鹿が。人と吸血鬼が共存するなど、出来るわけが無いだろう。
 お前も吸血鬼なら知っている筈…何故そんなものを信じている?」
言い放つギコに、シャマードが微笑しながら首を横に振った。
「違うよ。破壊衝動も吸血衝動も、訓練次第で押さえ込める。
 お互いに譲歩すれば、仲良くなれる筈なんだよ。二郎だって、そう思ってる」
「…俺の恋人も…お前と同じ事を言った」
 一呼吸の間。首筋をトントンと叩きながら、言葉を続ける。
  ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「太陽から顔を背けて、輸血用血液を啜りながらな。―――その彼女がある日、車に轢かれた。
 重傷だったよ。普通の人間ならとっくに死んでる傷だ。どうにか命だけは助かったんだが…
 その代償は相当大きかった」
「代償…?」
「生存本能と吸血衝動が直結してな。普段から抑えてたのが悪かったのか、病院にいた医師と患者数十名の命…
 まとめて彼女の腹の中に消えた。ゾンビがあふれて、街中はパニック。そして俺は…」

 拘束具の下で、デューンがう゛ぅ、と一声唸った。

「全員をコイツで風化させた。馴染みの医者も、よくしてくれた看護婦も、
 仲良くなってた患者も―――理性が噴き飛んだ彼女も。塵に変わって、風で散った。」
長く広がるスタンドの髪を、優しく撫ぜる。


   ―――――――全拘束・解放。


 『デューン』の体中を縛るベルトが全て弾け飛び、月の光に砂色の裸身が光った。

 一糸まとわぬ無機質な裸体は、この世のどんな兵器よりも醜く、この世のどんな彫像よりも美しく、踊る。

 戦闘型スタンド特有の、醜と美の同居。シャマードの脳裏に恐怖混じりの陶酔がちらつく。

「お前の言っている事は、吸血衝動を抑えられている者だけの理論だ。
 確かに衝動は抑える事が出来る。だが、それが外れる危険も同じ。
 甘い夢想に浸る程、俺は馬鹿な人間じゃない!お前も吸血鬼である限り…
 人喰いになる可能性がある限り、お前も俺の敵だ!」

                              ワ タ シ   ニロウ
「夢想じゃない、理想だ!たった一度の失敗で、吸血鬼と人間の未来を決めつけるな!
 衝動を抑えられる限り、私は二郎の側にいたい!」




  二人とも、心の奥底では判っている。自分の言っている事が正しくない事を。

  二人とも、心の奥底から信じている。自分の言っている事が間違いではない事を。

  何が正しいのか。

  何が正しかったのか。

  どうすればいいのか。

  どうすればよかったのか。

  知るものは、誰もいない。


 デューンが吼える。

 シャマードが叫ぶ。


 己の意志を貫かんとする二人を、満月が優しく照らしていた。




  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

121丸耳達のビート Another One:2004/04/27(火) 23:43
 デューン
  砂丘

破壊力:A  スピード:A 射程距離:C(10m)
持続力:C 精密動作性:E 成長性:E

触れた物全てを風化させ、砂へ変える。
本体の命令は殆ど聞かず、細かい仕事はできない。
ただし、フィードバックがあるため『本体を守る』事だけは何よりも優先する。
体中に拘束具を付けている状態ならば、制御は可能。
ボンテージではなく、あくまでも拘束具。
変態とか言うな。

122丸耳達のビート Another One:2004/04/27(火) 23:44
        │ 予告通り、三部作で収まりませんでした。
        └─┬─────────y───────
            │こんなトコで予告通りにしてどうするの。
            │本編だって進んでないのに…
            └y───────────────────



               ∩_∩    ∩ ∩
              ( ;´д`) 旦 (ー`;)
              / ============= ヽ
             (丶 ※※※ ∧∧※ゞノ,)
               ~~~~~~~~~(゚ー^;)~~~~~~
                     ∪ ∪ ヨテイハ ミテイ ニシテ ケッテイ ニアラズ
          _______Λ_____________

          あ、ほら、あくまで『三部作くらいの予定』だし…ネ♪

123ブック:2004/04/28(水) 00:20
     救い無き世界
     第七十八話・終結 〜その三〜


「終われ…!!」
 『デビルワールド』が『アクトレイザー』に向かって腕を振るった。
「私の頭を掴み、私の存在を終了させる。
 しかしその事象も書き換える。」
 『矢の男』のスタンドが、その手に持つ分厚い本を開き、それに指を這わせた。
 すり抜ける『デビルワールド』の腕。

「そしてあなたの腹部を『アクトレイザー』の腕が貫く。」
 『アクトレイザー』が再び本に指を這わせる。
 先程でぃの左腕を切断した時と同じ様に、
 『アクトレイザー』の攻撃を避けた筈の『デビルワールド』の腹に、
 『矢の男』の言葉通りに『アクトレイザー』の腕が突き刺さった。

「……!」
 後退し、その腕を引き抜く『デビルワールド』。
「その傷は瞬く間に再生する。
 …が、その結果には至らない。」
 『矢の男』が『デビルワールド』を見据える。

「…どういう手品なのかな?」
 『デビルワールド』が『矢の男』に顔を向けた。
 腹部に開けられた穴は、徐々にではあるが塞り始めている。
「…傷の治りが遅い。
 成る程、大した能力だ。」
 『デビルワールド』がぞっとするような笑みを浮かべた。
 体に開けられた穴など、微塵も気にしていない様子である。

「この本に『絶対に再生しない』と書いた以上、
 傷は決して再生しない筈なのですがねぇ。
 あなたこそ流石ですよ、『デビルワールド』。」
 『矢の男』が心から感心しながら言った。

「…しかし、哀しいかなあなたは未だ不完全のようだ。
 今の所、我が『アクトレイザー』の力の方が圧倒的に上回っている。
 すました顔をしていますが、傷の修復だけで相当の力を使っているのでしょう?」
 『矢の男』が嘲りの笑みを浮かべる。
 『デビルワールド』は、何も答えない。

「あなたには、勝ち目など何一つありません。
 復活したばかりの所悪いですが、あなたにはここで消え去って貰う。」
 『矢の男』が『デビルワールド』に向けて手をかざす。

「…くっくっく、くははははははははははははははははははははははは……」
 その時、『デビルワールド』がやおら笑い出した。
「…何が可笑しいのです?」
 『矢の男』が不快そうに眉をひそめる。

「私が不完全と言うか。
 確かにその通りだ。
 だが、お前もまた不完全なのではないのかな?」
 『デビルワールド』が挑発するような身振りで『矢の男』に話しかける。

「…何?」
 聞き返す、『矢の男』。

「言った通りだよ。
 お前がもし完全だと言うならば、何故その本に『私が消える』と書かない?
 そうすれば一瞬でカタがつく筈だ。」
 『矢の男』の顔が強張る。
「出来ないんだ。
 お前はまだ、そこまで深く事象に干渉する事は。
 つまり、それっぽっちの能力という事だ。
 その程度で『神』を名乗ろう等とは、思い上がりも甚だしい。」
 『デビルワールド』が『矢の男』の前へと進み出る。

124ブック:2004/04/28(水) 00:20

「私を…『神』を愚弄する気かァ!」
 激昂する『矢の男』。
 直後、『アクトレイザー』が『デビルワールド』の右腕を斬り飛ばした。

「…くくく、図星のようだな。」
 腕を斬り落とされながらも、顔色一つ変えずに『デビルワールド』が呟く。

「だからどうした?
 確かに私はまだ、直接存在を消去するだけの力は無い。
 しかし、それでもこうして少しずつお前の命を削ぎ落としていけば、結局は同じ事。
 そして、ここには世界中から人々の救いを求めし想念が集まっている。
 それらは全て、我が『アクトレイザー』の力となり、私はさらに大きくなる。
 故に、ここで私がお前に負ける事など決して在り得ない!!」
 『アクトレイザー』の腕が次々と『デビルワールド』の体を引き裂く。
 『デビルワールド』が、それに圧倒されて後ろに下がっていった。

「どうした、『デビルワールド』?
 世界に、『神』に弓引く『悪魔』なのだろう?
 やられるばかりでなく、少しは一矢報いてみたらどうだ!?」
 『アクトレイザー』はなおも『デビルワールド』の肉体を傷つけていった。

「……!!」
 と、『デビルワールド』がいきなり『矢の男』に向けて拳を放った。
「それもこの本に書かれている。
 そしてその事象はたった今書き換えられる。」
 『矢の男』はその拳をかわそうともせず―――


「!!!!!!」
 『矢の男』の表情が一瞬にして驚愕の色に染まった。
 彼の右頬には、『デビルワールド』の拳によって切り傷がつけられている。

「なっ……!?」
 動揺を隠せない『矢の男』。

「馬鹿な…
 在り得ない!
 この私が!!
 『悪魔』に触れられるだと!!!?」
 『矢の男』がよろよろと後ろに下がる。
 絶好の追撃の機会ではあるのだが、
 『デビルワールド』もまた先程の『アクトレイザー』の攻撃によるダメージが深く、
 攻撃を続ける事は不可能だった。
 しかし、その代わりにと『デビルワールド』は凄絶な笑顔を『矢の男』に叩きつける。

「…言っただろう。
 お前もまた、不完全なのだと……」
 全身から血を流し、傷口を嫌な音を立てて再生させながら、
 『デビルワールド』が口を開く。

「き…貴様、一体何を……」
 『矢の男』が信じられないといった風に『デビルワールド』に尋ねた。

「貴様がさっき言った通りだ。
 私は世界に弓引く『世界の敵』。
 そして…同時に『世界の最も親しい隣人』でもある。」
 『デビルワールド』が体を引きずりながら答える。
 心なしか、再生の速度が僅かずつだが上がっていた。

「この世界の万物は、等しく『終わり』を内包している。
 いや、『終わり』を内包しているからこそこの世界に存在出来る。
 終わる為に始まり、始まる故に終わる。
 永劫に続く終焉の螺旋…虚無への回帰。」
 斬り落とされた『デビルワールド』の右腕が再生を完了した。

「馬鹿馬鹿しい、本当に馬鹿馬鹿しい喜劇だとは思わないか!?
 この世界に生まれ、始まりしモノ共は、須らくその存在が続く事を望む。
 それ故に先に続く未来を望む。
 だがしかし、その先には絶対に終わりが存在しているのだよ!!
 ははははは!!
 これは傑作だ!!!
 つまり、この世界の全ては、
 いいや、この世界そのものまでもが、
 意識的に無意識的にその存在の終焉を望んでいるのだ!!!
 つまり我こそが世界の願望の具現!!!!
 それを叶える事こそが、我の力!!!!!
 望みを叶える事こそが、救いを与える事なのであれば、
 我こそが『神』であり、救いそのものよ!!!!!!」
 笑い続ける『デビルワールド』。
 その笑いは大気を揺らし、そこに渦巻く想念すらも揺るがすようだった。

「そして、貴様の『アクトレイザー』も、
 世界に存在するモノ共により産み出された存在だ!!
 ならばそこに存在する以上、私に終わらせられぬモノは無い!!!」
 『デビルワールド』が『アクトレイザー』を睨みつけた。

125ブック:2004/04/28(水) 00:21

「…そんな御託は、私を倒してからにするのだな!!」
 『矢の男』が『デビルワールド』に飛び掛かった。
 迎え撃つ『デビルワールド』。
 しかし、その攻撃は『矢の男』を空しくすり抜けた。

「どうだ、当たるまい!
 私はここに渦巻く想念を吸収し、幾らでも力を高める事が出来るのだ!!
 貴様等、所詮は乗り越える為の試練に過ぎん!!!」
 『アクトレイザー』の腕が『デビルワールド』の肉体を抉る。
「これで終わりだ!!
 この本に、『デビルワールド』の消滅を書き記して―――」



「―――な、何だ…
 何だこれはァ!!!!!?」
 『矢の男』の動きが突然止まった。

「本が…本の未来が書かれているページが真っ黒じゃないか!!
 これでは、これでは続きが書き換えられないじゃないかああァ!!!!!」
 錯乱する『矢の男』。
 その間にも、『アクトレイザー』の持つ本は
 全てのページに渡って黒く塗りつぶされていった。

「…『デビルワールド』。
 お前の存在を…
 過去現在未来全ての時間軸において『終わらせる』。
 お前が幾ら未来を見ようと、幾ら未来を書き換えようと、
 未来に進む以上その先に『終わり』があるという事実は変わらない。
 その『終わり』を今この場まで与えてやろう…」
 『デビルワールド』が『矢の男』の頭を掴む。
 『矢の男』が必死に逃れようとするも、その手は決して外れなかった。

「ば…馬鹿な!
 『アクトレイザー』は、救いを求める思念を得て、
 更に力を得ていた筈だ…!
 それが、何でお前如きに…」
 その時、『矢の男』はかっと目を見開いた。
 『デビルワールド』の体に、『アクトレイザー』が吸収しているものとは違う、
 どす黒い思念が纏わりついていたからだ。

「他者の想念を得て力を得るのが、お前だけだとでも思ったか?
 どうやら、お前の力となる想念に混じって、
 別の想念が混じっていたのに気がついてはいなかったようだな。」
 『デビルワールド』が『矢の男』を掴む手に力を込める。

「この…『化け物』めええええええええええええええええええええええええええええ
 えええええええええええええええええええええええええええええええええええええ
 えええええええええええええええええええええええええええええええええええええ
 えええええええええええええええええええええええええええええええええええええ
 えええええええええええええええええええええええええええええええええええええ
 ええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!」
 『矢の男』が、絶叫する。
 その顔は恐怖に引きつり、あたかも笑っているようにすら見えた。

「…『終われ』。」
 その言葉と共に、『矢の男』の姿が消え去った。
 その場に、『矢の男』の持っていた『矢』がカランと音をたてて落ちる。
 寄る辺となる本体を失った『アクトレイザー』は、
 想念の渦の中へと消え去っていった。

126ブック:2004/04/28(水) 00:21



「……!」
 膝をつく『デビルワールド』。
「…ふん、殆どの力を使い果たしたか。
 簡単には『終わらせ』てはくれなかったようだ……」
 『デビルワールド』が息を切らしながら呟く。

「…は、はぁははははははははははははははははははははは!!!!!!
 未だ聞こえているかな、でぃよ!?
 残念だったな!
 私と『神』とをぶつけ、諸共に消滅させるというお前の目論見は完全に潰えた!!
 確かに力の大半は失ったが、そんなものこの世界の全てから簡単に搾取出来る!!!
 でぃ、お前の敗北だ!!!!」
 『デビルワールド』がゆっくりと立ちあがった。

「でぃ君!!」
 ぃょぅ達が、『デビルワールド』に向かって構える。

「ああ…そう言えば、お前達が居たのだったな。
 今まで宿主を守って頂き実に御苦労。
 褒美に、お前達には世界の終わりの瞬間をその目で見せてやろう。」
 『デビルワールド』がぃょぅ達に向いて笑う。

「そんな事させるかよ!!」
 ギコえもんが飛び掛かった。
「ふん…」
 『デビルワールド』が無造作にギコえもんに向かって手を突き出す。
 ギコえもんが、『アクトレイザー』の時と同様、壁の方まで吹っ飛ばされた。

「…そう死に急ぐな。
 せっかく最後まで『終わらせない』と言っているのに。
 もう少しで、殺してしまう所だったではないか。」
 『デビルワールド』が呆れたように肩をすくめる。

「でぃ君!
 気をしっかり持つょぅ!!」
 ぃょぅが『デビルワールド』に…
 いや、その中にいるでぃに向かって叫んだ。

「無駄だよ。
 最早でぃの意識は我が支配下にある。
 お前達の声は届きはしない。」
 『デビルワールド』が勝ち誇ったように言い放った。

「…でぃさんは、負けない。」
 その時、みぃがぃょぅ達の前に踏み出した。
「みぃちゃん!!」
 ふさしぃがみぃを止めようとする。
 しかし、みぃは構わず『デビルワールド』の前に進み出て行った。

「でぃさんは、あなたなんかに負けたりしない!
 あなたみたいな『化け物』に、負けたりなんかしない…!!」
 涙を流しながら、みぃが叫ぶ。
 しかしその瞳に、諦めの色は全く無かった。

「…やれやれ。
 現実の見れないお嬢さんだ。」
 と、『デビルワールド』が何かを思いついた顔つきになる。

「そうだ…
 そういえばお前は、あのでぃのお気に入りだったな。
 …面白い。
 お前を終わらせたら、あのでぃは一体どんな顔で哭いてくれるのかな…?」
 『デビルワールド』が、その腕をゆっくりとみぃに伸ばした。



     TO BE CONTINUED…

127ブック:2004/04/28(水) 23:28
     救い無き世界
     最終話・祈り


「さて、あのでぃはどんな顔で泣き叫んでくれるのやら…」
 デビルワールドがみぃに手を伸ばす。
「……!」
 それに対し、一歩も引かないみぃ。

「みぃ君…!」
 ぃょぅ達が叫ぶ。
 しかし、彼等は『デビルワールド』の視線だけでその場に縫い付けられた。

「案ずるな…
 一切の苦痛無く『終わらせて』やる。」
 そして『デビルワールド』の手がみぃの体に触れ―――


「!!!!!!!!」
 と、『デビルワールド』の体が動きを止めた。
 同時に、地面に膝をつけて苦しみ始める。

「…が……!馬鹿な……
 でぃ、貴様……!!」
 歯を喰いしばり何かに耐えようとする『デビルワールド』。
「糞…!
 『アクトレイザー』との闘いで力を失った所為で……
 …これ以上無駄な足掻きをするなぁ!!」
 『デビルワールド』の体の一部が、徐々に元のでぃの姿に戻っていく。

「舐めるなよ…矮小な人間如きの分際があぁ!!
 貴様など、すぐにまた我が支配下に取り込んで……!」
 『デビルワールド』がよろよろと立ち上がる。
 でぃの姿に戻っていた部分が、再び『デビルワールド』のそれへと変質していった。

「…は、はははははははははははははははは!!!!!
 残念だったな、もうすぐお前は完全に―――」
 その時、思念の渦に溶け込んでいった筈の『アクトレイザー』の欠片が、
 『デビルワールド』の周りを取り囲んだ。
 そして、それらが『デビルワールド』の中へと浸透していく。

「……!『アクトレイザー』!!
 どこまでも私の邪魔をするかああああああああああ!!!!!!!」
 『デビルワールド』が咆哮する。
 しかしその抵抗も空しく、『デビルワールド』の姿は完全にでぃのものへと変わった。

「……!」
 膝をつき、息を切らすでぃ。
「でぃさん!!」
 みぃがでぃの元へと駆け寄る。
 しかし、でぃはそんな彼女を『来るな』とばかりに振り払った。

『まだ…終わってない……』
 指を動かすのもやっとといった様子で、でぃが地面にそう書いた。
「でぃさん…!」
 涙を浮かべ、でぃに縋り付こうとするみぃ。
 …でぃが、一瞬だけそんなみぃに微笑んだように見えた。

「……!」
 しかしでぃの瞳は再び険しいものへと変わり、
 おもむろに『矢の男』の遺した『矢』をその手に掴んだ。
 そして、それを自分の胸に突き刺す。

「でぃ君、何を―――」
 ぃょぅ達がでぃの元へと急ぐ。
 しかし、でぃはぃょぅ達が彼の元に辿り着く前に、
 そのままその場に昏倒した。

128ブック:2004/04/28(水) 23:29



     ・     ・     ・



 …俺がこの場所に来るのも久し振りだ。
 ここが、全ての始まった場所。
 そして…全てが終わる場所。

「……」
 俺は自分に近づく気配を察知し、そちらへと目を向ける。
 悪意の塊のような視線。
 そこに居るだけで、全てを飲み込んでしまいそうな威圧感。
 そう、こいつが、
 こいつこそが―――


「…やってくれたな、でぃ。」
 『デビルワールド』が、俺をねめつけながら言った。
「…よぉ、こうして面と向かうのも久し振りだな、『デビルワールド』。」
 わざとおどけた感じで『デビルワールド』に返す。

「余計な事に時間を取らせるな…
 諦めてお前の体を私に明け渡せ。
 今まで私の住処となっていた事にせめてもの情けをと思い、
 お前の自我までは消滅させまいと思っていたが、
 私の邪魔をするのであれば容赦はせぬぞ。」
 『デビルワールド』がひしひしと俺にプレッシャーをかける。
 だが、負けるか。
 あいつの為にも、俺は闘わなければいけない…!

「…そういう訳にはいかねぇよ。
 お前は、ここで俺がぶっ倒す。」
 『デビルワールド』を睨み返す。
 『デビルワールド』がそれを受けて、僅かに口元を歪めた。

「くく…何を言うかと思えば……
 貴様が、私を倒せるとでも?
 『神』ですら超越したこの私を倒す?
 これは滑稽な冗談だな!」
 『デビルワールド』が嘲りの笑みを俺に向けた。

「…出来るさ。
 さっきの『アクトレイザー』との闘いで、お前は大半の力を失っている。
 そして、今もなお『アクトレイザー』の欠片がお前を束縛している。
 何よりここは俺の心の中。
 俺自身が神であり絶対者である『内的宇宙』『心象世界』。
 これらの条件が揃った今なら、お前を倒す事が出来る!!」
 俺は『デビルワールド』を見据えて言い放った。

「はははははははははは!!!
 お前は一つ重要な事を見落としているぞ!?
 私がスタンドである以上、スタンドでしか私を攻撃出来ない!!
 スタンドを持たぬ、唯のちっぽけな人間であるお前に、
 一体何が出来るというのだ!?」
 『デビルワールド』が勝ち誇ったように笑い出した。
「諦めろ人間!
 最早お前には何も出来ない!!
 そこで世界が終わる様を、指を咥えて見ているがいい!!!」

「…そうさ。俺はスタンドを持っていない。
 今までスタンド使いと闘えたのは、お前が俺の中に居たからだ。
 だが―――」
 俺の足元から、一本の『矢』が姿を現した。

「……!それは!!」
 『デビルワールド』が顔色を変える。
「そうだ!!
 この『矢』を使えば、俺にもスタンドが使えるようになる!!!」
 俺は迷わず俺の体に『矢』を突き刺した。
 ぃょぅ達の話では、『資格』の無い者は命を落とすとの事だったが、
 俺はその時微塵も失敗するとは思っていなかった。

 感じていた。
 ぃょぅが、ふさしぃが、ギコえもんが、小耳モナーが、タカラギコが、
 …みぃが、
 俺に力を貸してくれている事を。
 この力があれば、『矢』の試練すら絶対に乗り越えられる!!

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」
 体から力が湧きあがる。
 同時に、俺の体から大きな盾を構えた戦士のビジョンが浮かび上がった。

 出せた。
 これが、俺のスタンド…!

129ブック:2004/04/28(水) 23:30

「私はあなたの人を守りたいという思いの結晶…」
 と、俺のスタンドが俺に話かけてきた。
「私の名前は『イース』。
 全ての暴力を跳ね返す盾となり、あなたの大切な人を守る力となりましょう…」
 『イース』が『デビルワールド』の方を向く。
 『デビルワールド』とは違う、全てを慈しむような気の流れ。

「スタンドを得た程度で、貴様如きが私に勝てると思うなあああぁ!!!!!」
 『デビルワールド』が俺に襲い掛かって来た。
 逃げない。
 全ての厄災は、全ての因果は、
 ここで、俺が『終わらせる』!!!

「終われええええええええええ!!!!!!」
 『デビルワールド』が俺に拳を叩きつけようとする。
「『イース』!!!!!」
 俺はその拳を『イース』の盾で受け止めた。


「!!!!!!!」
 拳と盾との激突の直後、『イース』の盾に罅が入り、
 そしてそのまま砕け散る。

「くっ…くははははあはははははははははははっははははっはははっは!!!!!
 矢張り何をしようと無駄だったようだな!!!!!
 そんな俄か仕込みの力で、この私が倒せるとでも……!」
 そこで、『デビルワールド』の体が硬直する。

「…!?
 な、何だ、これは!?
 何だこれはあぁ!!?
 私の、私の体が…!」
 『デビルワールド』の体のあちこちにどんどん亀裂が入り、
 その体が無残に崩れていく。

「これは…私が『終わっている』!?
 馬鹿な!!
 貴様、何をした!!!!!」
 『デビルワールド』が驚愕の表情を浮かべながら俺に向かって叫んだ。

「言った筈です。
 『全ての暴力を跳ね返す盾になる』と。
 本来ならば私の力はあなたに及びませんが、
 我がマスターが絶対者たるこの『内的宇宙』ならば、
 弱ったあなたの攻撃を跳ね返す事も可能。」
 『イース』が『デビルワールド』を指差す。

「…お前、言ってたよな。
 全ては『終わり』を内包するからこそ、この世界に存在出来る、と。
 つまりは、お前もその例外じゃなかったって事さ。」
 俺はこれ以上無い会心の笑みを『デビルワールド』に見せてやった。

「馬鹿な!!
 『最果ての使者』たる、『虚無の権化』たる、『終焉の化身』たるこの私が、
 こんなちっぽけなゴミに滅ぼされるだと!?
 認めん…
 こんな終焉など認めんぞ!!!!!!!」
 体を崩壊させながら、なおも『デビルワールド』が俺に襲い掛かる。

「手前一人で終わってろ。」
 俺は『イース』の拳を『デビルワールド』の顔面に叩きこんでやった。

「がああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
 あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
 あああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
 世界を割らんばかりの断末魔の叫びを残し、
 『デビルワールド』は虚空へと散って行った。

130ブック:2004/04/28(水) 23:30



「…終わったな。」
 俺は誰に言うでもなく呟いた。

「ええ…そして、残念ですがマスター。
 私達ももう永くはなさそうです。」
 『イース』が俺にそう言った。
 見ると、『イース』の体が『デビルワールド』と同じ様に崩れ始めている。

「…流石は『デビルワールド』。
 力を失い、我々の『内的宇宙』に呼び寄せても、
 その力を完全に打ち消す事は出来なかったようです。」
 『イース』の姿が見る見るうちに消えていった。

「ああ…分かってるよ。
 悪いな、お前は生まれたばっかだってのに。」
 俺は苦笑しながら『イース』に語りかけた。

「…ですが、マスター……」
 『イース』が何か言いたそうに俺の顔を見つめる。
「そんな顔すんな。悔いはねぇよ。
 俺は、あいつを守る事が出来たんだ。」
 …嘘だ。
 俺はまだ生きていたい。
 生きて、あいつと少しでも長く一緒に居たい。

「…糞、格好悪ぃなぁ……」
 俺の頬を、一筋の涙がつたった。

131ブック:2004/04/28(水) 23:30



     ・     ・     ・



「……」
 私の膝の上に頭を乗せていたでぃさんが、うっすらと目を開けた。
「でぃさん!!」
 良かった。
 でぃさんが、目を覚ましてくれた…!

「!!!!!」
 しかし、でぃさんの目は再び閉じられた。
 それと共に、でぃさんの体からどんどん熱が失われていく。

「でぃさん!!!」
 私は必死にでぃさんに声をかけた。
「でぃ君、目を開けるょぅ!!」
「でぃ君!!」
「おい、でぃ!!」
「でぃ君、しっかりするモナ!!」
 ぃょぅさん達が大声ででぃさんに呼びかける。
 しかし、でぃさんは少しもそれに反応を示さなかった。

「『マザー』…!!」
 私のスタンドを発動させ、ありったけの私の生命力をでぃさんに送り込む。
 嫌だ。
 でぃさんが死ぬなんて、絶対に嫌だ…!!

「……!!」
 過度に生命力を注入した反動で、私の意識が一気に遠のく。
 だけど、倒れる訳にはいかない。
 絶対に、
 絶対にでぃさんは死なせない!!

「みぃちゃん、もう…」
 ふさしぃさんが泣きそうな顔で私の肩に手を置いた。

「…!放して下さい!!」
 ふさしぃさんの手を振り払い、さらにでぃさんに生命エネルギーを送り込む。
 私が死んだって構わない。
 でぃさんは、
 でぃさんだけは…!

「……」
 しかし、でぃさんは全く動かなかった。
 その顔に安らかな寝顔を浮かべ、静かに横たわる。

「……!!」
 涙を流しながらも、私は生命エネルギーを送り続けた。

 視界が真っ暗になる。
 力の使い過ぎだ。
 駄目だ。
 倒れる訳にはいかない。
 でぃさんは、
 でぃさんは絶対に―――

 …そして、私はついに力尽きて倒れた。

132ブック:2004/04/28(水) 23:31



     ・     ・     ・



 俺は花畑の中を歩いていた。
 見た事の無い、
 だけど、何故か妙に懐かしい風景。

「―――何でお母さんはお父さん。」
 と、後ろから誰かの声が聞こえてきた。
 そちらを見ると、三人の親子が仲良く話しながら歩いている。
 …待てよ、あいつら、どっかで―――

「じゃあさ、じゃあさ、もし僕が結婚したら、
 お嫁さんとお父さんとお母さんと一緒に暮らすんだ。
 ずっとずっとずーーっと一緒に暮らすんだ!」
 子供が朗らかに両親に向かって話す。
 間違い無い。
 あいつは、あいつらは…


「…よく頑張ったわね、でぃ。」
 母さんが、俺の顔を見つめて言った。
「…うん。」
 言葉が詰まらせながらも、やっとの思いでそれだけを返す。

「えらいぞ、本当によくやったな。」
 父さんが微笑みながら俺をねぎらう。
「…うん……!」
 目から涙が溢れ、何も見えなくなる。

「…ごめん。父さん、母さん。
 俺の所為で、二人は……」
 そう、二人は俺を庇って、死んだ。

「…いいえ、気にしないで。
 あれは、あなたが悪かったんじゃないわ。」
 母さんが優しい声で俺に語りかけた。
「ああ。
 それに、子を守るのは親の務めだ。
 …私達は、過去にお前を見捨ててしまった。
 あれが、せめてもの償いだよ。」
 父さんが下に視線を落とす。

「…だけどさ、これからはずっと一緒だよ!
 これからは、親孝行出来なかった分、一杯サービスするからさ!!」
 俺はわざと明るい顔で両親に告げた。

「……」
 しかし、父さんと母さんは黙って首を振った。
「…え?」
 思わず、尋ねる。

「…でぃ、あなたはまだここに来るべきではないわ。
 向こうに、大切な人を残しているのでしょう?」
 母さんが穏やかな―――
 そして、少し寂しそうな顔で俺に言った。

「―――ん…でぃさん……!」
 と、どこからか声が聞こえてくる。
 この声は…みぃ?

「!!!!!!」
 その時、父さんと母さんの体が少しずつ見えなくなっていった。
「父さん!母さん!!」
 必死に引き留めようとするも、二人の姿はどんどん遠ざかっていく。

「…でぃ、あなたならきっと大切な人を幸せに出来るわ。
 あなたは、人の痛みを知って、人の為に闘えるという本当の優しさを持っている。
 それは、人間として一番大切な事なのだから。」
 最早両親の姿は見えなくなり、母さんの声だけがその場に響いた。

「…なあに、私達のことなら心配するな。
 その時が来れば、ゆっくりと話を聞かせて貰うさ。」
 父さんの声が聞こえてくる。
 その声も、どんどん小さくなっていった。

「父さん…母さん…俺は―――」

 ―――そして二人の声は完全に聞こえなくなり、
 俺はただ一人その場に取り残された。

133ブック:2004/04/28(水) 23:32



/ / /

134ブック:2004/04/28(水) 23:33
     救い無き世界
     エピローグ・陽の当たる場所で


 少年は慣れない手つきでスーツに袖を通しながら、トーストを齧っていた。
 両腕を袖口から出し、フロントのボタンを留めて、
 ネクタイを締めようとする。
 …が、何度やっても上手くいかない。

「私がやりましょうか?」
 少女が少年の前に立ち、ゆっくりとネクタイを締め始めた。
 数十秒の後、ぴっちりとネクタイが締められる。

「……」
 少年は無言のまま少女に一度頷き、お礼をした。

「…いよいよ、今日からですね。」
 少女が少年の肩に手を置く。
 少年は頷いてそれに答えると、少女の唇に自分の唇を重ねた。

「……!」
 少女の頬が桜色に染まる。
『行ってきますのちゅー、だよ。』
 少年が少女の手の平に、そう指を這わせた。

135ブック:2004/04/28(水) 23:34



     ・     ・     ・



 私は墓前に花束を備え、線香をあげて手を合わせた。
「…タカラギコ、終わったょぅ。」
 私は墓に向かってそう告げた。
 一陣の風が、備えたばかりの花を揺らす。

「…不思議だょぅ。
 君はここに眠っている筈なのに、
 何故かどこか別の場所であの笑顔でわらっている…
 …そんな気がしてならないんだょぅ。」
 そう言いながら私は苦笑した。
 いい歳してこんなロマンチックな事を考えてしまうとは、馬鹿馬鹿しい。

「…来てたのかょぅ。」
 私は横に視線を移した。
 そこには、ふさしぃと、ギコえもんと、小耳モナーが佇んでいた。

「…ええ。」
 ふさしぃがタカラギコの墓に手を合わせる。
「…全部丸く収まったわ。
 それもこれも、あなたのおかげよ…」
 ふさしぃは目を瞑り、しばしの黙祷をタカラギコに捧げた。

「そうだモナ、タカラギコ。
 今日はSSSに新入社員が入るんだモナー!」
 小耳モナーがまるでタカラギコが生きてその場に居るかのように、
 墓に向かって話しかける。

「ああ、そうなんだぜ。
 お前もよく知ってる奴だゴルァ。」
 ギコえもんが墓に今川焼きをお供えしながら言った。

「…それじゃあ、そろそろ行こうかょぅ。
 新入社員の『彼』と『彼女』がお待ちかねだょぅ。」
 私は立ち上がり、皆に向かってそう告げた。

「そうね、そろそろSSSに戻りましょう。」
 ふさしぃが私の方を向く。
「早くしないと遅れるモナー!」
 小耳モナーが私達を急かす。
「んじゃな、タカラギコ。
 また来るぜ、ゴルァ。」
 ギコえもんがタカラギコの墓に向かって軽く手を挙げた。

「…君は、今でもぃょぅ達の仲間だょぅ……」
 私は誰にも聞こえない位の静かな声で、そっと呟いた。

136ブック:2004/04/28(水) 23:34



     ・     ・     ・



 少年と少女の前に、四人の男女が立っていた。
 正確には、三人が男で一人が女。
 しかし、そのヒエラルキーの頂点に立っているのは女である事を、
 その女から流れてくる気迫が如実に物語っている。

「…さてと、来たかょぅ。」
 男の一人が二人に向かって言った。
「SSSにようこそだモナー。」
 別の男が気さくに話しかける。
「よろしくね、二人とも。」
 女が二人に笑顔を見せる。
「言っとくが、俺達はエリートでお前らは平社員。
 顔見知りとはいえ容赦はしねぇぞ、ゴルァ。」
 最後の男がそう言った瞬間、女がその男の頭を小突いた。
 それを見て、その場の全員が笑い出す。

「何卒よろしくお願いします。」
 少女が四人に向かってペコリとお辞儀をした。
 それに合わせて、少年も頭を下げる。

「…おかえりだょぅ、でぃ君。」
 男が、少年に短くそう告げた。
 少年はそれを受けて男の顔を見つめる。

 …彼の表情は変えられない。
 しかし、確かに彼がにっこりと微笑んだ事は、
 その場の全員には分かってた。



     〜完〜

137新手のスタンド使い:2004/04/28(水) 23:53
ここで『乙』と言うのをお許しもらいたい。

138新手のスタンド使い:2004/05/01(土) 08:35
黄金週間警報発令!

139( (´∀` )  ):2004/05/01(土) 13:42
「この日を待っていた・・。ずっと・・この日を・・食い尽くしてやる・・。
骨も・・内臓も・・筋肉も・・眼球も・・・脳も・・何もかも食い尽くしてやる・・。
なぁ・・ムックゥ・・。」

―巨耳モナーの奇妙な事件簿―『奪う力』と『与える力』

・・・雨が降り続く
ザーザーとする音がうっとおしい
しかしまさか突然雨が降るとは・・
殺ちゃんに傘持たせておくべきだったかな・・。
「・・・・・・・・。」
っていうか何でこんなシーンとしてんだ。
「おい。ムック?何外ばっか見てんだ?」
俺が問いかけるとムックは俯きながら呟いた
「IE・・『あの時』もこんな雨だったNAa・・っTE・・。」
「・・あの時?」
「EE・・。4年前くらいでしょうKA・・。」
ムックは天井を見上げ、話を始めた
「この前・・『緑の男』っていう奴の話ききましたよNE・・。
きっとソイツは私の幼馴染DESU・・。私達2人はたった1歳の頃から体力・知力・外見全てがズバ抜けていTE
ソレを妬んだ友達に虐げらRE・・そいつらの親からは『不気味』といわRE・・惨い運命をたどってきましTA・・。
物心ついた時KARA親に見離さRE、一人で生きてきた私達HA完全に孤立し・・ゴミを漁ったりしながら必死にいきてきましTA。
SHIKASHI・・。ある日、私が歩いているTO・・真っ黒なフェラーリがやってきTE・・。ハートマン軍曹が出てきましTA。
軍曹は『・・この赤いボロ雑巾には『素質』がある様だな・・。おいウジ虫。俺達の所に来ないか?今の生活ともオサラバさせてやる
好きな物だって食える 好きな服も着れる なんでも約束しよう。』・・。私はその言葉に乗せられTE・・。ついていってしまいましTA・・。
『彼』を一人置いていって・・NE。『彼』はきっとその事を恨んでいるんでSHOW・・。」
ムックの眼から涙が流れた
「・・んでソイツの名は?」
「彼の名は・・・。」
突然、突然だった。
突然ムックの右腕が消え去り、深紅の液体が宙を待った
―――血だ。
何が起こった?一体何が・・ッ!?
「UGU・・AHHHHHHHHHHHHHH!!!!!!」
ムックが呻き声をあげて倒れた
「その男の名は・・『ガチャピン』。緑の恐竜だ。」

140( (´∀` )  ):2004/05/01(土) 13:43
ふとドアを見ると緑色の男がたっていた。
「ガ・・チャピ・・ンッ!?KUSOッ!『ソウル・フラワー』ァッ!」
ムックは自分の体を殴りまくり大量の花を咲かせた後、一気に養分を吸い取り、右手を修復した
「ガチャピン・・矢張りきみだったのですNA・・。」
ムックが悲しそうな眼をする。
「お前が居なくなってから、俺の人生は『最悪』の一言だったよ・・。
気付けばお前は居なくなっていた。何回もデカい声で泣きながらお前の名前を叫んだ。
そしてその度にオッサンどもに『今何時だとおもってんだ!』って殴られた。」
『ガチャピン』という緑の男は一歩前に出た
「そしてお前が『キャンパス』という集団に入った事を知った。」
緑の男は一歩一歩近づいてくる
「正直信じられなかった。お前が俺を置いていくなんて・・。」
「ち・・違いますZO!私は一度もアナタの事WO・・」
ムックが説得しようとするとまたもやムックの腕が飛ぶ
「TUゥッ!」
「そのキャンパスは『不思議な力』を使う集団と聞いた。そして俺はお前に会いたくて俺は何の力かわからずに必死で修行をした
何かしら修行していれば身につくんじゃないか。と思っていてな。」
『緑の男』の後方から何かが現れた
「しかし当然そんなもんは練習して身につくもんじゃなかった・・。だが、そんな俺に救世主が現れた・・。」
緑の男の後方に現れた物がハッキリ姿を現した。
間違いねぇ・・こりゃあ・・。
「ス・・タンド・・ッ・・。」
「『矢の男』だ。奴は俺の体を矢で射った。そしてこの『能力』を身につけさせてくれた・・。」
奴のスタンドはヒタヒタという音をさせて近づいてきた
「しかし、俺はまずこの『スタンド』の力を聞いて真っ先に向かったのはお前のところじゃない・・。俺らを虐げてきた『下等生物』の所だ。」
ガチャピンは上唇を舐める
「『食った』よ。食い尽くした。しかし流石にスタンドももってねぇ『下等生物』だ。非常に不味かった・・。」
緑の男のスタンドは大きく口を開く
「そして俺はお前のいる場所を突き当て・・お前に会おうとした・・。しかし流石に完璧にまで作られた組織・・。
勿論護衛が居やがったなぁ。たった2名だったがスタンド使いの門番が・・。」
ガチャピンの顔がとてつもなくにこやかになる。
「あの味は忘れられない・・ッ『スタンド使い』の味だァッ・・。食べただけで昇天しそうになった・・ァッ・・ッ!」
ガチャピンは息を荒げてくる。
「とろける様な舌触り・・ッ口の中でとけていく筋肉ゥッ・・そして何より『下等生物』どもとは違う言葉では表しきれない脳の味ィァッ・・
そして俺はある事をおもいついた・・・。」
緑の男が指を弾くと奴のスタンドがムックに飛び掛っていった。
ムックはとっさによけるが足を一本持って行かれた。
「お前を・・もうドコにも行かさない為にィ・・ッ!俺の・・腹の中にィッ・・入れてやるヮアァァッァッ!」
ガチャピンは涎を垂らしながら叫んだ
「足や腕の一本でこの味ィ・・・全身食ったらどんな味なんだろなァ・・楽しみだぜェ・・ッ?」
・・コイツはヤバい。
きっとムックも本能的に確信している。
スタンドの出せない俺とスタンドのパワーは0に等しいムックではアイツには勝てない・・。
そう確信している。
しかもコイツには『矢の男』とは違えど同じ様な『恐怖』を感じる・・。コイツは並みのスタンド使いじゃ・・ないッ!
「巨耳SAN・・下がっててくだSAI・・スタンドの出せないアナタが戦ったら100%負けまSU・・ここは私が行きましSHOWッ!」
ムックはソウルフラワーで完全に自分の手足を直した。
「赤毛 砲( ムック キャノン)ッ!」
「食人世界(ジミー・イート・ワールド)ォッ!」
ムックの強烈なストレートが出るも、相手は人間の肉なぞ簡単に噛み千切れるスタンド。勝てる可能性は乏しい。
「肉ッ!肉肉ゥッ!肉肉肉ゥリィャッ!」
ジミー・イート・ワールドが大きな口を開けながら吹っ飛んでくる
「こなKUSOッ!」
ムックが物凄いバク天をこなし、背中をとった
「赤毛魂超連打撃(ムック・ソウル・ガトリング)ゥッ!」
ムック・ソウル・ガトリングが直撃・・したかと思った瞬間、ムックの両腕は消滅していた

141( (´∀` )  ):2004/05/01(土) 13:43
「返し食い(カウンター イート)・・ッ!」
いつの間にか前方に居た筈のジミー・イート・ワールドの口がガチャピンの背中に回っている
「TU・・UUU・・AH・・AHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHH!!!!!」
ムックが物凄い叫び声をあげる
そして次の瞬間叫び声をあげるムックの腹がジミー・イート・ワールドで隠れた
「踊り食い(ダンス・イート)ッ!」
・・深紅の液体が宙を舞い、雨を降らした
そしてムックの腹の半分がジミー・イート・ワールドの口の中に消え、
ムックの臓器が露出した。更に口から血があふれ
俺の目の前が紅く染まる
馬鹿な・・こんな・・あっけなく・・ッ?
「そう・・ル・・フラ・・ワァァァッ!!!」
ムックが最後の力を振り絞りソウルフラワーで体を殴りまくった。
何とかムックの腹が復活するも、両腕、腹を食われ 露出した体内を殴った痛みは消えず、ムックはソコで倒れた。
「ムックゥッ!」
俺はムックの傍に駆け寄った
「ムックッ!ムックゥッ!」
そして次の瞬間俺が黒い影に覆われた
「『幸運』だなァ・・いっぺんに2人もスタンド使いが食べれるなんてェ・・。」
影の主が近づいてくる
一歩・・
また一歩・・
とてつもない恐怖に覆われた
このままじゃ・・間違いなく俺は
――死ぬ
俺は誰も救えないのか?
俺は何の為に警察官になったんだ?
俺は結局ココで死ぬのか?
俺は何故今まで戦ってきた?
俺はどうやってここまで生きてきた?
俺 は こ こ で 死 ん で い い の か ?
俺は・・・
俺は・・・・ッ
俺は・・・・・・・ッ!
「食 べ ち ゃ う ぞ 」
影の主が俺を覆いかぶさった時
その影の主『ジミー・イート・ワールド』は『砂』と化した。
「え・・な・・何で・・ッ!?」
「上等だよ・・。」
俺はつぶやく
「え・・?」
「上等だよガチャピン・・」
不意にガチャピンの足が震える
「ぶっ潰してやるッ!」
俺の後ろに前とはちょっと違うジェノサイアのビジョンが現れる。
「『ジェノサイア act2 Starting』・・ッ!」
「OK。1(one)2(two)3(three)・・4(four)・・GO!」

←To Be Continued

142:2004/05/01(土) 15:46

「―― モナーの愉快な冒険 ――   夜の終わり・その3」



 俺達は、複雑な表情でテーブルを囲んでいた。
「さて… お前の知っている事を話してもらおうか」
 そう言って、『アルカディア』を睨みつけるリナー。
 それを受けて、『アルカディア』は口を開いた。
「…って言われてもな。オレは、『矢の男』を造り出せって指示を受けただけだぜ。
 後は、石仮面で吸血鬼を増やして適当に暴れろって言われたくらいだ」

 …何だそりゃ。
 適当に暴れろとは、随分と投げやりな指示だな。
 いや、『矢の男』さえ産み出せば、『アルカディア』は基本的に用済みという事か?
 『蒐集者』も、平然と『アルカディア』を葬ろうとしていたのだ。

「『矢の男』とか… 『アナザー・ワールド・エキストラ』ってのは一体何なんだ?」
 ギコは訊ねる。
 視線を落としていたモララーが、僅かに顔を上げた。
 それに答える『アルカディア』。
「知らねーよ。お膳立ては、全部『教会』が整えたんだ。俺は具現化させただけだぜ」
 それを聞いて、リナーは俺に視線を送った。
「…多分、嘘はついていないと思うモナ」
 俺はリナーに告げる。
 ため息をつくリナー。
 結局、何も分からなかったに等しい。

「ま、そーゆー訳で、『教会』に従うのはコリゴリだ。お前らの方につかせてもらうぜ」
 いけしゃあしゃあと抜かす『アルカディア』。
「ふざけるなよゴルァ!!」
「冗談言うなモナ!」
 俺とギコは、同時に叫んだ。
 不思議な事に、リナーに反応は無い。
 いつもなら、真っ先に反対するだろうに…

「…そんな都合のいい話は無いぜ!」
 ギコは、身を乗り出して『アルカディア』に詰め寄った。
「…じゃあ、どうするんだ? しぃの体ごと俺を殺すのか?」
 『アルカディア』はニヤニヤ笑いながらギコの方を見る。
「この町をメチャメチャにしようとしたテメーは、許せないんだよ!」
 『アルカディア』の嘲笑に挑発されたように、大声で吠えるギコ。

「合理的思考ができないところが、ガキなんだよな…」
 そう言いながら、『アルカディア』はギコの耳元に口を寄せた。
 そして、何かを囁く。
 たちまちギコの表情が固まった。
 不審な笑みを浮かべながら、『アルカディア』がギコから離れる。

「…お前は、今日から俺達の仲間だゴルァ!!」
 突然、手の平を返したようにギコは言った。
 …何をした?
 今のも、『アルカディア』の能力か?

 次に、『アルカディア』は俺の耳元で囁いた。
「…オマエが『異端者』に対して抱いてる妄想や願望を、本人にチクるぞ…?
 若いってのは大変だねェ… 向こうはどう思うだろうなァ、青少年…?」

 …!!

「今日から、『アルカディア』はモナ達の仲間モナ」
 俺は柔らかな笑みを浮かべると、みんなに告げた。
 不審そうに俺の顔を見るリナー。
 『アルカディア』は満足そうに頷いている。

「アアン! 僕の願望も、モナー君には内緒なんだからな!!」
 『アルカディア』の言葉が聞こえていたのか、モララーが顔を赤くして身をよじらせた。
 …寒気がする。

 『アルカディア』は、そんなモララーを睨んだ。
「…テメェ、何を企んでやがる?」
 モララーを見据えたまま、『アルカディア』は低い声で言った。
「さて、何の事だか…? 僕が考えているのは、モナー君とリル子さんの事だけさ…」
 モララーは表情を変えずに言った。

「ヘッ、よく言うぜ。この狸め…!」
 そう吐き捨てて、『アルカディア』は立ち上がる。
「忠告しとくぜ。俺の事をゴタゴタ言うヒマがあるんなら、こいつを殺しとくんだな…」
 そう言いながら、『アルカディア』は本体のしぃを残して居間から出ていってしまった。

「…『アルカディア』の奴、どこへ行ったモナか?」
 奴の出ていった壊れたフスマの方を見ながら、俺はしぃに訊ねた。
「えーと… コンビニに、立ち読みにでも行くんじゃないかな…?」
 首をかしげてしぃは言った。
 …何だそりゃ。
 随分と図々しいスタンドだな。

143:2004/05/01(土) 15:47

「…後は、公安五課に協力するかだな」
 『アルカディア』の件を置いて、ギコが話を進めた。
「別に、みんな揃って要人救出に行く必要もないんじゃない?」
 モララーは口を開く。
「だから、自由参加でいいと思うけど。まあ、僕はリル子さんに頼まれたから行くけどね」

 自由参加とは、物見遊山的な言い方だ。
 だが、各人の判断に委ねるというのは、いい案かもしれない。
「そういう事でいいだろうな…」
 そう言いながら、リナーは立ち上がった。
 心なしか顔色が悪い。体調が悪いのだろうか。
 そう言えば、さっきから黙ったままだ。

「では、私はしばらく休ませてもらう…」
 そう言って、リナーは居間を出ていった。
 彼女は、かなり衰弱している…

 リナーが出ていった後、ギコは俺の方を見て言った。
「『解読者』とかいう奴が、お前は人間を辞めたって言ってたな…」
 ギコは、まっすぐに俺を見据える。
「俺の目から見ても、今のお前は何か違う。 …お前、本当に吸血鬼になったのか?」

「そうモナ」
 俺は頷いた。
「…なんでだ?」
 さらにギコは訊ねる。
 俺は答えない。
 モララーもしぃもレモナもつーも、黙って俺に視線を送っている。
 驚き、戸惑い、疑念…
 それらの感情を『アウト・オブ・エデン』が感知した。

 ため息をついて、ギコは言った。
「…まあ、あの代行者達の話から、大体の事は理解してるつもりだ。
 リナーが何なのか、この町で起きている事は何だったのか…」
「…それが、許せるモナ?」
 俺は戸惑いつつ訊ねた。

「許せる訳ねぇだろう!!」
 声を荒げるギコ。
「でも、『アルカディア』の事もあって、何が何だか分からなくなっちまった。
 何が正しくて、何が間違ってるのか。誰が加害者で、誰が被害者なのか…」
 そう言って、ギコは視線を落とした。
 居間を沈黙が支配する。

 その沈黙を押し破るように、レモナが口を開いた。
「以前、モナーくんは私に『造られた存在でも気にしない』って言ってくれたよね…」
 確かに、そう言った覚えがある。
 そこだけを抽出すると、愛の告白のようだが。
「…私も、モナーくんが何になっても気にしないから」
 そう言って微笑むレモナ。
「ぼ、僕だって気にしないからな!!」
 モララーが大声を張り上げる。

「モナーガ フジミニ ナッタト イウコトハ… アヒャ…」
 部屋の隅っこで、ニヤリと笑うつー。
 どうせよからぬ事を考えているに違いない。
 そういえば、つーは吸血鬼よりも特異な存在なのだ。

 …普段はうざったい三馬鹿だが、こういう時は癒される。
 俺は思わず表情を緩めた。
 そう。吸血鬼だろうが何だろうが、俺には仲間がいるのだ。
「ちょっと、リナーの様子を見てくるモナ」
 そう言って、俺は居間を出た。

 廊下を進んでいると、目をこすっているガナーの姿が目に入る。
 そう言えば、こいつの存在をすっかり忘れていた。
「おはよう、兄さん…」
「おはようモナ」
 俺とガナーはいつものように挨拶を交わす。
 ガナーは眠そうに口を開いた。
「そう言えば、昨日の夜中はやけに騒がしくなかった…?」

 あれだけの騒動を『騒がしい』の一言で済ますのか、妹よ。
「…どっかの馬鹿が騒いでたんじゃないモナ?」
 俺はそれだけ言って、リナーの部屋に向かった。
 ガナーはのっそりと台所へ向かったようだ。

144:2004/05/01(土) 15:49

 俺は、リナーの部屋をノックした。
 返事があったので、ドアを開ける。
 部屋は薄暗い。カーテンがしっかりと閉じられているせいだ。
 リナーは、布団で横になっていた。

「やっぱり、体調が悪いモナ?」
 俺はそう言いながら、カーテンの閉まっている窓の方に歩み寄る。
 こんな暗い部屋にいたら、気持ちも塞ぎこんでしまうだろう。
「ああ。昨日は連戦だったからな。肉体を酷使し過ぎたようだ」
 リナーは落ち着いた声で言った。
「…とは言え、かなり体調は回復しているが」

「それはよかったモナね」
 俺はカーテンを開けた。
 明るい日差しが部屋に差し込む。
「ほら、外はこんなにいい天気MONA…GYAAAAAAAA!!」
 外から差し込んだ日光が、俺の皮膚を焼く。

「…馬鹿か、君は!」 
 リナーは素早く立ち上がると、俺を押しのけてカーテンを閉めた。
 俺は床に尻餅をつく。
 日光を浴びた部分がチリチリと痺れていた。
 もう少し長い時間日光に晒されれば、命はなかっただろう。

「君は、自分が吸血鬼だという自覚があるのか!?」
 リナーは物凄い剣幕で言った。
「…申し訳ないモナ」
 ひたすらに恐縮する俺。

「私に謝っても仕方ないだろう…」
 そう言って、リナーは布団の上に座り込んだ。
「…これだから、君は放っておけないんだ。もう、君には会わないと決意したのにな…」
 呆れたようにリナーは言った。
 しかし、その表情は柔らかい。
「それなら、ずっとモナの傍にいて面倒を見てほしいモナ」
 俺は、そう言いながら部屋の隅に腰を下ろした。
「そうだな。残された時間は、ずっと君の傍にいるとしよう」
 少し微笑んで、リナーは言った。
 気恥ずかしくなって、俺はリナーから目を逸らす。
 同時に、『残された時間』というフレーズが重くのしかかった。

 何となく、リナーの部屋を眺めた。
 各所に銃器や日本刀が飾ってある。
 また、立派な筆書で『朴念仁』と書かれた掛け軸が壁に掛かっていた。
 部屋の隅には、沢山のダンボールが積んである。
 あれも銃器や弾薬だろう。
 そして、机の上に置かれたウサギのぬいぐるみが、女の子の部屋である事を全力で主張していた。
 …とは言え、周囲の銃器に比べ、悲しいぐらいに浮いてしまっている。

「『アルカディア』の仲間入りの件、よくリナーが承諾したモナね」
 俺は話題を変えた。
「少し、迷っていてな…」
 リナーは視線を落とす。
「今までの私の味方… いや、私の全てだった『教会』は、完全に敵に回った。
 不様な話だ。結局、私は『教会』にいいように使われていたに過ぎない。『アルカディア』も含めてな」
 リナーは、先程のギコと同じような事を口にした。

 俺は、少し物悲しそうなリナーの横顔を見た。
 リナーにとって、『教会』こそ全てだった。
 組織の為に生き、組織の為に死ぬ。
 彼女は、『教会』の為に戦ってきたのだ。
 『教会』の為に力を振るう事のみが、彼女の存在理由であった。

 彼女は、決して強くなんかない。
 無敵の代行者でも、冷徹な吸血鬼でも――
 それでも、彼女は一人の女の子なのだ。
 それが、たった一人で『教会』の為に生きる運命を背負った。
 吸血鬼に向ける憎しみは、彼女の自己嫌悪に他ならない。
 それを使命感で塗り潰して、彼女は屍の山を築いたのだ。
 そう、『教会』の為に――

 しかし、『教会』は彼女を裏切った。
 いや、裏切りですらない。
 『教会』にとって、彼女は最初から追討すべき吸血鬼に過ぎなかった。
 ――今まで飼ってやった。
 その表現が、『教会』と彼女の真の関係だ。

 その虚偽。
 14年に渡る欺瞞。
 彼女の戦う理由は、生きた証は一体どこにあったのか…

「――でも、君に会えた」
 リナーは唐突に言った。
 俺は驚いて、リナーの顔を見る。

「君が、私を血塗れの闇から引きずり出してくれたんだ。
 『教会』が信じられなくなった今でも、君が傍にいてくれる」
 リナーは柔らかく言った。
 俺は、赤面して目を逸らす。
「よく、モナの考えてる事が分かったモナね…」

「君は思考が顔に出すぎるな。戦闘者としては不利だ。 …そういうのは、私の前だけにした方がいい」
 リナーは僅かに微笑んで言った。
 気恥ずかしくなって、俺は意味もなく時計を見る。
 もう午前9時だ。
 やはり学校は臨時休業のようだ。
 ギコやしぃ達は、公安五課が迎えに来る午後10時までここにいるのだろうか。

145:2004/05/01(土) 15:58
 再び、リナーに視線を戻した。
 彼女は布団の上に座って、俺の顔を見つめている。
「…とにかく、私には問題は無い。公安五課に協力するかどうかは、君の指示に従おう」
 リナーは俺に告げた。
「分かったモナ。10時までには決めとくモナ」
 俺は頷く。
 約束の時間には、まだ半日近くあるのだ。
 そろそろ昼食の事も考えなければいけない。
 ギコたちの分も用意すべきだろうか…?

 俺は、横目でリナーを見た。
 彼女は、何事も無さげに天井を見上げている。
 だが、それは平静を装っているに過ぎない。
 俺の『アウト・オブ・エデン』は誤魔化しきれないのだ。
 体調が回復したなんて嘘だ。 
 今も、相当に苦痛を感じているはず。
 人の血さえあれば…

「まあ、元気そうで安心したモナ」
 俺は腰を上げた。
 そのまま、ドアの方向に歩く。
 今のリナーを癒せるのは、人の血以外にない。
 リナー自身は拒むだろうが…

「とにかく、今日一日は安静にしておくモナよ」
 俺はそう言ってドアを開けた。
「ああ…」
 頷くリナー。
 そのまま、俺はリナーの部屋を出た。
 彼女はかなり消耗している。
 リナーの意に逆らってでも、人の血を…

「そんな血走った目でどこへ行く気だ、ゴルァ…?」
 俺の目に、腕を組んだギコの姿が映った。
 進路を妨害するように、廊下の真ん中に立っている。
 何やら思い詰めた表情だ。
 もっとも、今の俺も同じようなものだろうが。

「…ちょっと散歩モナ」
 俺は笑顔を形作ろうとする。
 だが、上手くいかない。

「日光を浴びれば死滅する吸血鬼が、日中に散歩か…?」
 ギコは険しい表情を崩さずに言った。
 俺を睨みつける視線。
 張り詰めた空気が増す。

「人間を… 何人か捕まえてくるモナ」
 俺は、ギコの視線から目を逸らして言った。
「テメェ… 自分が何を言ってるのか分かってんのか!!」
 ギコは声を張り上げる。

 自分が何を言っているか分かっているのか、だって?
 俺の選んだ道が正しいか間違ってるのかなんて――
 そんなのは、当然分かっている。
 俺の選んだ道は、完全に間違いだ。
 だが――

「ギコ。お前にとって、しぃの命と見知らぬ10人の命、どっちが大切モナ?」
 俺はギコを見据えて訊ねた。
「…」
 ギコは、黙って俺を睨んでいる。
 彼が、どちらを選ぶかは明らかだ。

「じゃあ、しぃの命と見知らぬ人間100人の命なら?
 それでも、しぃを助けるモナ? 100人の命を優先するモナ?
 その100人は、顔も合わせた事がない人達モナよ?」
「…」
 ギコは答えない。
 彼の中で、答えが出ているにもかかわらず。
 その理由は明白。彼自身の正義に反するからだ。

「じゃあ、300人の命なら? 500人ならどうモナ? 800人なら流石に手を打つモナ?
 一体何人の命なら、自分の最も大切な人と釣り合うモナ?」
 俺は、答えないギコに向かってさらに質問を投げかけた。
 もはや自問に近い。
「それなら… 大切な人の命より、10人の命、100人の命を優先する人間が正義モナか!?
 10人の命を救うために、自分の最も愛する人を切り捨てるような人間が本当に正しいモナか!?」

「…分からねぇよ」
 ギコは口を開いた。
「普通のヤツは、そんなの選べねぇ。それ以前に、そんな状況にはならねぇよ。
 …実際に、そんな決断を迫られたお前の苦悶は分かる。
 お前が俺なら、しぃを救うために同じ事をするだろう。
 でもな… 俺だって人間なんだよ!!」
 ギコの背後に、日本刀を携えた女性のヴィジョンが浮かび上がる。

「俺も、お前がエサとして扱おうとしている人間なんだ!
 お前を、黙って行かせる訳には行かねぇな…!!」
 『レイラ』が、日本刀を正眼に構えた。
 ギコは本気だ。
 本気で、俺を斬ろうとしている。
「…仕方ないモナね」
 俺は、懐からバヨネットを取り出した。

146:2004/05/01(土) 16:00

「…行くぜゴルァ!!」
「来いモナ!!」
 ギコは、大きく踏み込んだ。
 足運びが、剣先が視える。
 その初撃を、身体を反らして避けた。
 吸血鬼の肉体と『アウト・オブ・エデン』があれば、近距離パワー型スタンドの攻撃でも充分に対応は可能。

 俺は高く跳ぶと、天井を蹴った。
 そのまま、ギコにバヨネットを振り下ろす。
 『レイラ』の日本刀が、その攻撃を受け止めた。

 着地と同時に、俺は身を翻してバヨネットを振るった。
 ――狙いは、ギコの胸部。
 ギコの『レイラ』も、俺の顔面目掛けて日本刀を突き出した。
 やはり、反応が格段に早い。
 完全に相打ちのタイミング…!

 その攻撃は、互いに虚しく空を切った。
 いや、ぶつかり合う前に消失したと言った方が正しい。
 『レイラ』の日本刀は中程で折れ、後方に吹っ飛んでいった。
 俺のバヨネットは弾き飛ばされ、天井に突き刺さっている。

 俺とギコの間には、見知らぬスタンドが立っていた。
 人型のヴィジョンで、おそらくは近距離〜中距離型。
 こいつは、一体…!?

「道理や理念は、人それぞれに異なります…」
 俺とギコの間に割り込んだ男が口を開いた。
 おそらく、両方の攻撃を防いだスタンドの本体。
 この男の姿を、俺は何度も目にした事がある。
 ASAのしぃ助教授補佐、丸耳…!

「それぞれに異なるからこそ、万人共通の『正義』というテンプレートが必要なんですよ。
 …ともかく、両者とも剣を納めて下さい。私も『メタル・マスター』を引っ込めましょう」
 丸耳のスタンドが、ふっと消えた。
 ギコのスタンドもすでに消えている。
 どうやら戦意を削がれたようだ。

 …それにしても、丸耳はいつの間にここに現れた?
 俺、ギコ共に戦いに気を取られていたとは言え、全く気配を察知できなかったなんてありえない。
 丸耳はギコの方を向いた。
「ギコ君… 結局モナー君は、人間を捕まえてくる事は出来なかったと思いますよ。
 君は、ギリギリまで友人を見守ってやるべきでしたね。いきなり刃を向けるとは、血気に逸り過ぎです」
「…ああ、すまねぇ」
 自らの非を認めたのか、ギコは視線を落とした。

「君にはリーダーの素質があるのだから、自分を抑える事を知るべきです。
 感情の赴くままに動けば、周囲の人間が苦労する破目になる…」
 丸耳が、実感を込めて言った。
 さすが苦労している人間が言うと、説得力が違う。

147:2004/05/01(土) 16:00

「さて…」
 丸耳は俺の方を向いた。
「モナー君とリナーさんに、少し話があります。今からASA本部ビルに御足労願えませんか?」
 話があるだって…?
 ASAは、俺とリナーが人に害を及ぼす存在である事を察知しているはず。
 誘い出して、罠に嵌める気か?

「多分、モナー君が想像しているような件ではないですよ」
 丸耳は、俺の思考を見透かしたかのように言った。
「正直、今のASAに君達をどうこうしている余裕はありません。今回は、取引の申し出に来たのです」
 そう告げる丸耳。
 ASAが、俺達と取引だって…?

「ASAは、現在大変な苦境に立たされています。そこで、協力してほしい件があるのですが…
 もちろん取引と言う以上は、そちらにも見返りがあります。
 そちらからも喉から手が出るくらい美味しい話だと思いますが…」
 丸耳は思わせ振りに言った。
 公安五課に続いて、ASAからも協力要請か。
 俺達の存在は、思っていたよりも大きいようだ。
 そして、各組織が独自に動き出している。
 どうやら、俺達も傍観していられる立場ではなくなったらしい。

「リナーはこの町で100人以上の人間を殺したし、モナもどうなるか分からないモナ。
 それでも、モナ達と取引するモナか…?」
 俺は丸耳を見据えて言った。
 丸耳は、少し間を置いて答える。
「…個人的な憤りはありますが、最初に告げたように今のASAはそれどころではありません。
 現在のASAには、明確な敵が存在していますから…」

 少しだけ、丸耳の感情が視えた気がした。
 彼は、補佐と言う役職に埋没し、自らの感情を表に出す事は滅多に無い。
 それゆえ、しぃ助教授の付属品のように見える事もある。
 だが… そんな彼の衣が、少し薄れたように受け取れた。

 …とにかく、『アウト・オブ・エデン』で視た限り、丸耳の言葉に嘘は無いようだ。
 話だけでも聞いてみる必要があるだろう。
 喉から手が出るほどの見返りと言うのにも興味があるが、無下に断ってASAを敵に回すのも得策ではない。

「…分かったモナ。リナーを呼んでくるモナ」
 ASAなら、俺達を日光に晒さずに本部ビルまで連れて行く準備はあるだろう。
 俺は、リナーと共にASA本部ビルに向かう事にした。



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

148ブック:2004/05/01(土) 17:38
     EVER BLUE
     第零話・VORTEX 〜始まりはいつも雨〜


 男はゆっくりと目を開いた。
「……」
 男は一糸纏わぬ姿で寝かせられていた。
 男は上体を起こし、用心深く周りを見渡す。
 薄暗い殺風景な空間が、男の目に映り込む。

(…ここは?
 いや、それ以前に、私は確か―――)
 男は自分の手をまじまじと見つめた。
 まるで、自分がここに存在する事をいぶかしむかのように。

「…お目覚めかな?」
 急にかけられた声に、男は反射的に振り向いた。
 部屋が薄暗い所為で、声の主の姿ははっきりとは確認出来ない。

(…やれやれ。
 どういう事かは分かりませんが、面倒な事になりそうですねぇ。)
 男は心の中でそう毒づくのであった。

149ブック:2004/05/01(土) 17:38



     ・     ・     ・



 荘厳な威風の漂う謁見の間に、艶やかな服を纏った女性が豪華絢爛な椅子に座っていた。
「…入りなさい。」
 誰も居ない空間に向かって、その女性が一言告げる。

 と、その部屋の入り口の扉が開き、
 そこから無骨な戦闘服に身を包んだ女性が入って来る。
 その女性は、背中に奇怪な大きな得物を担いでいた。

 斧と槍の特徴を併せ持つ白兵武器『ハルバード』。
 それだけでもかなり大仰な武器だが、
 この女性の持つ『ハルバード』は、
 さらに手柄(グリップ)の部分に一体化する形でマシンガンが備え付けられていた。
 それは最早「武器」というよりも、
 「兵器」と呼ぶ方が相応しい程の代物であった。

「お呼びでしょうか、女王陛下(クイーン)。」
 女性が女王の前に恭しくかしずく。
「…わざわざ呼び出してすみませんでしたね、ジャンヌ。」
 女王がジャンヌと呼ばれた女性に顔を上げるように促す。

「いえ、女王陛下の命とあらば、例え地の果てに居ようと馳せ参じます。」
 ジャンヌが顔を上げて引き締まった表情で答える。

「嬉しい事を言ってくれますね。
 …さて、今日ここに貴女を呼んだ時点で、
 どのような用件かは察しがついていますね?」
 女王はジャンヌの顔を覗きこんだ。

「…『紅血の悪賊』(クリムゾンシャーク)の件でしょうか?」
 ジャンヌが女王に尋ねた。
「そうです。
 先日、隠密として派遣していた使者から、
 彼等についてのある重大な連絡が入りました。」
 ジャンヌがその言葉に唾を飲み込む。

「…そしてそれから暫くも経たないうちに、
 その隠密からの連絡が途絶えました。」
 女王が顔を曇らせた。
 その目には、心よりの哀しみが浮かんでいる。

「…成る程。それで、私にお呼びがかかったという事ですね。」
 ジャンヌが得心したといった顔で言った。
「そうです。
 ジャンヌ、これ程の危険な任務を任せられるのは貴女しかおりません。
 すみませんが、命を落とした隠密が追っていた任務を引き継いではくれませんか?」
 女王が懇願するような声色で言った。

「女王陛下、私めにそのようなお心使いなど、勿体のう御座います。
 どうかお気になさらず、自分の手足を使うかのように命令なさって下さい。」
 ジャンヌはさも当然であるかのようにそう女王に告げた。
 事実、彼女は女王の為なら喜んで命すら捧げるだろう。
 それだけの覚悟が、その瞳の奥には宿されている。

「…ありがとう、ジャンヌ。
 頼りにしていますよ。」
 女王がジャンヌに子供のように無邪気な微笑みを見せた。
 ジャンヌは同性にも関わらず、
 その女王の微笑みに引き込まれそうになってしまう。

「い、いえ、それが私の仕事ですから!
 この『ジャンヌ・ザ・ガンハルバード(銃斧槍)』、
 必ずや女王陛下のご期待に答えて見せます!!」
 しどろもどろになりそうになりながらも、
 ジャンヌは女王にそう返答した。

「…そういえば、隠密が追っていたものとやらは一体なんなのでしょうか?」
 思い出したように、ジャンヌが女王に尋ねた。
「ああ、そう言えばその説明がまだでしたね。」
 女王がうっかりしていたとばかりに手を叩く。
「それは―――…」

150ブック:2004/05/01(土) 17:39



     ・     ・     ・



 一艘の大きな船が海を渡っていた。
 いや、それは船というよりも、寧ろ小型戦艦と言った方が正しいかもしれない。
 船のマストには、大きな赤い鮫のロゴマークがでかでかと描かれている

 …一つだけ、我々の知る船と相違点を挙げるとするならば、
 その船の浮かぶ海は、
 海は海でも『空の海』『風の海』『雲の海』と形容されるというものであるという事だ。
 そう、この船は空を飛んでいた。

「…糞、こんな所で雨雲にひっかかっちまうなんてな。」
 戦艦の操舵室に備え付けられた椅子に偉そうにふんぞり返る男が、忌々しそうに呟いた。
「雨はいけねぇや。
 どうにも気分が暗くなっちまう。」
 男が足を組み替えながら舌打ちをする。

「…!マジレスマン様。」
 と、操舵室にいた兵士の一人が男に向かって言った。
「何だぁ?
 雨の所為で気分が悪いんだから、つまらない事で話しかけんな。」
 マジレスマンと呼ばれた男は面倒臭そうに返す。

「いえ、あの、外に船の姿が見えましたので報告を。
 どうやら、民間の輸送船のようです。」
 兵士が遠慮がちにマジレスマンに告げた。

「…そうか。よし、撃ち堕とせ。目障りだ。」
 マジレスマンが兵士達に命令を下す。

「で、ですが、あの御方からの指令は、『積荷』の輸送の筈です!
 下手に派手な事をしては、問題が発生するのではないかと…」
 しかし、兵士の言葉はそこで止まった。
 マジレスマンの殺気のこもった視線を、真正面からぶつけられたからだ。

「…お前、いつから俺に命令が出来る程偉くなった?」
 マジレスマンが兵士をギョロリと睨む。
「し、失礼しました!!
 すぐに攻撃準備を開始させます!!!」
 兵士は慌てた様子で部屋を飛び出して行った。

「そう心配すんな。
 たかが民間船が俺達に何が出来る。
 軽〜く撫でてやるだけだ。」
 なおも不安そうな顔をする他の兵士達に向かって、
 マジレスマンは笑いながらそう言うのであった。



     ・     ・     ・



 少女は粗末な部屋の中、体を縛り付けるロープから何とか抜け出そうと、
 必死に身を捩じらせていた。
 しかしロープはきっちりと締め付けられており、何をしようとビクともしない。

「あ〜もう!何でこんなにキツく縛るのよ!!
 女の子にこんな事するなんて、頭がおかしいんじゃない!?」
 少女が諦めた様子で体を動かすのをやめると、
 言葉を向ける相手が不在なまま罵倒の言葉を口にした。

「まったく…
 ようやくあの辛気臭い所から出られたかと思ったら、
 今度は空賊の船の中に簀巻き?
 はっ!
 『囚われの姫君』なんて童話の中の話でしか有り得ないシチュエーションを
 体験出来るなんて、夢にも思わなかったわよ!!」
 しかしその少女の言葉は、少女以外の耳に入る事無く虚しく散っていく。

「…ちょっと!!
 誰か居るんでしょ!?
 早くここから出しなさ……きゃあぁ!!!」
 その時、爆音と共に船に大きな衝撃が走った。

151ブック:2004/05/01(土) 17:39



     ・     ・     ・



「糞ったれがあ!!
 警告も無しにいきなりぶっ放してきやがって!!
 どこのドチクショウだぁ!!!
 こんな非常識な真似をする奴は!!?」
 右目に眼帯をつけた、屈強な体躯の男が喚き散らした。
 その顔には大きな傷痕が刻み込まれている。

「あのマストに描かれてある赤い鮫…
 恐らく『紅血の悪賊』(クリムゾンシャーク)の一味ですね。
 全くもって運勢が最悪としか形容のしかたがありません。」
 和服を着込んだ大和撫子風の女性が落ち着いた声でそう告げた。

「どうします?
 幸い被弾箇所も無いようですし、このまま雨雲に隠れながら逃げれば、
 逃走が成功すると思いますが。」
 和服女性が口を開く。

「馬鹿野朗!
 このサカーナ商会一味が、正面から喧嘩売られて逃げ出せるか!!
 上等だ!この喧嘩、買ってやる!!!」
 眼帯男が唾を飛ばしながら叫ぶ。

「ほぼ間違い無く返り討ちにあうでしょうね。
 自殺願望があるというならば、話は別ですが。」
 和服女性がやれやれと言った風に頭を横に振る。

「それにこの船の搭載火気じゃ、
 小型とはいえ戦闘用艦体には歯が立たないですよ。」
 横から、テンガロンハットを被った女性が和服女と眼帯男との会話に口を挟む。

「…なあに、外からが駄目なら、内側から喰い破るまでよ。」
 と、眼帯男がニヤリと笑った。

「急襲用迫撃射出錨(アサルトアンカー)発射準備!!
 連中のどてっ腹から風穴開けてやるぜ!!!」
 眼帯男が大声で指示を下した。

「ちょっと、本気ですか!?」
 和服女が信じられないといった表情で聞き返す。
「私まだ死にたくないです〜!」
 テンガロンハットを被った女性も眼帯男に反論する。
 しかし、眼帯男はそれらの意見には耳も貸さなかった。

「ニラ茶!三月うさぎ!オオミミ!居るか!?」
 眼帯男が振り返ると、そこには三人の男が立っていた。

「いつでも行けるぜ、フォルァ!」
 ギコの亜種の風貌を持つ男が拳を固めた。

「…全く。
 いつもの事ながら、お前達の無謀さには開いた口が塞がらんな。
 一度頭を開いて中を覗いてみたいものだ。」
 黒いマントに身を包んだ隻眼の長耳の男が皮肉気に呟いた。

「何か言ったか、三月!?」
 亜種のギコの青年が黒マントの男に食って掛かる。
「さてな。」
 しかし黒マントの男は、手馴れた様子でそれを受け流した。

「オオミミ、ビビルんじゃねぇぞ、覚悟決めろ!
 『ゼルダ』の奴にも金玉締めとけって伝えとけ!!」
 眼帯男がオオミミと呼んだ少年の肩を叩く。
「分かってるって、大将。」
 オオミミと呼ばれた少年が、苦笑しながら眼帯男に答えた。

「…それじゃ、今回も頼むよ、『ゼルダ』!」
 少年は、自分の内側に向かってそう呼びかけた。



     TO BE CONTINUED…



以上予告編です。
以前もお伝えしたように、この作品は実験的な意味合いが多分に含まれています。
ご不満、改善点などがありましたら遠慮なくお申し付け下さい。
スタンドスレである以上、スタンドバトルも必ずありますので、
今回スタンドのスの字も出て来なかったことには何卒ご容赦をお願い致します。
ジョジョっぽくないという点に関しましては、
ここはスタンド発動スレであり、
2ちゃんのキャラにジョジョらしい事をさせるスレではないという
言い訳をさせて下さい…
それでも、何とかしてジョジョらしさは少しでも出していきたいと思います、
あと、小説感想スレの>>863様の意見をもとに、
今回はわがままなお姫様ヒロインに挑戦してみる事にしました。
その事も含め、この小説では派手な大失敗をやらかしてしまうかもしれませんが、
どうか生暖かい目で見守って頂ければ幸いです。
本編開始は、恐らく1〜2週間先になると思いますので、
どうか今しばらくお待ち下さい。

152N2:2004/05/02(日) 06:39

)   今まで誰も描かなかったひろゆき家臣団が『矢』の男の存在を知らされるシーン、
 (   私が書いてしまったけれどもいいですか
  `ー〜〜〜o〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
      。O  イザッテトキハ ソコデ バイオレットキムチノ デバンデスヨ
  l⌒l ∧ ∧    __
  |  |( ´∀`)  //  /
  |  |(つ ひつ //  /カタカタ 
  |  | 乂_つ〔三〕三三〕
  |  |⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒l`l
  |  |            .| |
  |_「 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄`l_」

153N2:2004/05/02(日) 06:40

 2ちゃんねる運営委員会 ―始動―

「…それでは、これより緊急会議を始めたいと思います。
まず、今回皆さんに緊急集合を命じたことにつきまして、ひろゆき様からご説明があります」

『夜勤』と呼ばれる男はそう言って上座に座る男に軽く会釈すると、再び席に着いた。
それを受けて、『ひろゆき』は起立した。
張り詰めた空気の中で、崩されることの無い笑顔が不気味に映える。

「…今日みんなに集まってもらったのは他でもないです。
昨日『茂名王町』で突如暴動が起こったのは知ってますね?」

「それだったら、朝からどこの局でもヌ速で取り扱ってたから知らないわけがないんだな!」
『SupportDESK』は知ったかぶりの笑みを浮かべて自身有り気に言った。
それを見た『トオル』は呆れ果てた様に溜め息を吐いた。

「…つまり、貴様は昨晩そんなことも知らずに一人のうのうと過ごし、
貴様を除く護衛団一同のように町で暴徒達の鎮圧に回ることはなかった…という事か?」
『トオル』は飲みかけのグラスをわざと音を立ててテーブルに戻した。
それに対して『SupportDESK』が急に汗ばむ。

「あ…それはその…。
……仕方なかったんだよ!!昨日は真昼間から荒らし抹殺で町中を回って疲れ切ってたんだからな!!
…それとも、文句があるならここであぼーんされるか…?」
彼はどこからともなくバズーカ砲を取り出し、『トオル』に照準を合わせた。

「…まさか、俺とここで一戦交えるとでも…?」
立ち上がる『トオル』。
『SupportDESK』も怯むことなく言い返す。

「…お前は昔から気に入らなかったんだからな…。
僕よりもろくに働いていないくせにひろゆき様から寵愛を受けて…。
しかも世間ではここのNo.2はお前だと言われるてし、ひろゆき様の跡を継ぐのはお前だと言われてるし…。
僕はお前のことが気に入らないんだよなッ!!」

「…てめえ、ここで『枯れる』か…?」
怒りを露わにした『トオル』は先程のグラスを握り締めた。
すると中の水はみるみる内に消えてしまったかと思うと、今度はガラスが砂となって彼の手から零れ落ちていった。

「…二人とも、ちょっと止めるです」
対立を続ける二人の間に、『ひろゆき』の言葉が割って入る。
優しい言葉に潜む、―――威圧感。
主の周辺から、何かどす黒いオーラが自分達に注がれたことを、二人は理解した。
二人は上座を向いて軽く頭を下げた。
「…申し訳ありません。いつもの悪い癖が出てしまいました」
「ご、ごめんなさい…」

「…分かれば、よろしいです」
彼の周辺を渦巻く重苦しい空気がふっ、と解かれた。
『ひろゆき』は続けた。

「今トオルとSupportDESKが言ってたように、昨日町民が突然狂ったように暴れだし、
多数の死傷者を出したです…。
まあそれでみんなには夜遅いところを自主的に鎮圧へと動いてくれたわけですが、
SupportDESKは一昨日は朝から重いバズーカを引っ提げて町中の荒らしを潰してくれましたから
ゆっくり休んでいたのは別に咎めるつもりもないですし、
他のみんなも、特にマァヴなんかは出張帰りで疲れているところだったのに
事態を把握するなりすぐに町へと出て行ってくれてほんと助かったです…」
自分が暗に批判されたと察した『SupportDESK』は顔をしかめ、おもむろにグラスを取ると中の水を飲み始めた。

154N2:2004/05/02(日) 06:41

「まあそれはそれで大問題ですが、それよりもみんなに話しておかなくてはならない事があるです…。
本当は一昨日にでもすぐにみんなを集めてその時に緊急会議をしたかったですが、
マァヴ含め主要幹部が今日まで揃わなかったのでようやくこうして会議を開いたです」

「しかし、昨日の暴動よりも重要な事とは一体何なのですか?」
『マァヴ』が『ひろゆき』の目を見て言った。
それに『ひろゆき』が頷く。
「…実は、一昨昨日の夜中に、この建物に不法侵入者が出没したです」

一気に会議室の空気が変わる。
ある者は椅子を倒しながら立ち上がり、ある者は口に含んだ水を向かいの顔面目掛けて吹き付けた。

「そ…それは一体どういうことなんですか、ひろゆき様ッッ!!!!」
机を叩いて叫びだす『SupportDESK』。

「…見苦しいぞ、座れ。
管理人たるものいざという時にあたふたしているようでは話にならないぞ」
動揺する『SupportDESK』を、『トオル』はハンカチで顔を拭きながら制する。

「…し、しかしッ!このビルの警備は万全のはずです!
蟻一匹とて忍び込む隙はありません!!」
今度は立ったまま『マァヴ』が叫んだ。
ショックが大きいのか彼の表情は凍り付き、足は震えている。

「奴はそれが可能な男です…。
厳重な警備網をいとも簡単に掻い潜り、そして私の部屋に侵入したです」

それを聞いた一同の顔が青ざめる。
「そ、それでッ、ひろゆき様にお怪我は無かったのですかッッッ!?」
先程よりも更に語調を強めて『SupportDESK』が絶叫する。
その声の余りのうるささに、正面の『トオル』は思わず片耳を塞いだ。

「…今ひろゆき様がこうして無事でおられるんだ、お怪我をなさったはずがないだろう?」
それを聞いて、『SupportDESK』はあ、そうかと呟くと落ち着きを取り戻して着席した。
「それよりもひろゆき様、今その者を『奴』と仰いましたが、もしかすると…、
………お知り合いなのですか?」

155N2:2004/05/02(日) 06:43

『ひろゆき』の顔が一瞬ピクリ、と動いた。
そして静かに笑い、『トオル』に向けて不気味な笑顔を突き付けた。
『トオル』は椅子ごと少しだけ後ずさりした。

「…流石ですね、トオル。察しが良い。
本当はプライバシーに関わるからあまり言いたくはなかったですが…、
これもみんなに事の深刻さを知ってもらう為には致し方無いです。
確かにその男はかつて私と接触がありましたです」

「それはどのような経緯だったのですか?」
今まで個人的な発言を控えてきた『夜勤』が始めて口を開いた。

「ええ、あれは確か15年位昔だったですが、私がインドに観光旅行した時の事です。
あの男は前触れも無く突然私の前に現れたです。
そして私に、『あるもの』を預かるよう頼まれたです」

「『あるもの』…?
それは一体何だったのですか?」
『トオル』がいぶかしげに『ひろゆき』に尋ねる。

『ひろゆき』の顔が笑顔のまま険しくなる。
彼は机から立ち上がり、そして言った。
「…『矢』です。古めかしい、いつの時代に作られたかも分からない『矢』です。
しかし、それはただの古めかしい骨董品などではないです。
後に調べたところ、その『矢』は才ある者にスタンドを発現させる代物だったのです」

「な、なんだってー!?」
全員が声を揃えて叫んだ。
この場にいる者は皆生まれついてスタンドを身につけていたので、そのような物の存在は誰一人として知らなかった。

「そ…そんな恐ろしいモノがこの世に存在したのですか!?」
血の毛が失せたまま立ち尽くす『SupportDESK』。
他の者も口にこそ出さないが、彼と同じ様に強い衝撃を受けていた。

「…残念ながら、これは事実です。
私は何故あの男が私に預けたのか全く分かりませんでしたが、ずっと大切に保管してきたです。
そしてあの夜…」

「…このビルの厳重な警備の合間を縫って、ふてぶてしくもひろゆき様のお部屋に侵入したということですか」
『トオル』が険しい顔をして言った。
顔も知らぬ男に対して既に敵意剥き出しと言わんばかりである。

「ええ、そして奴は隣の部屋の金庫から『矢』を一本奪い取り、そのまま逃げ去ったです…」

156N2:2004/05/02(日) 06:43

「…ちょっと待って下さい!
そんな危険なブツを持ち逃げされただなんて、何されるかわかったもんじゃないですよ!!」
『マァヴ』の顔色が変わる。
元削除管理人委員長という立場上、町の公安に関わる事項に彼はうるさかった。

「…その通りです。
そして昨日のあの騒動をもう一度、その上でよく考え直して欲しいです。
突如自我を失ったように狂戦士と化した町民達、
それが町民全体の約95%以上というこの不可解な現象を改めてどう思うですか?」

「…スタンド攻撃!!」
『トオル』が最初に真実に気付いた。
それを聞いた回りの者達もあっ、という顔をした。

「そうです、しかもこんな突然にこんな現象が起こるなど、
まるで『何か突然の出来事を契機に発現したスタンドが半ば暴走気味に町民を操った』みたいでしょう…?」

「もう既に、『矢』によってスタンド使いが誕生している…」
『夜勤』は唖然とした。
しかし『ひろゆき』によって更に残酷な現実が突き付けられる。

「それ以上にあの『矢』の危険なところは、『矢』によってスタンドを発現出来なかった者は
例外無く皆死んでしまう事です…。
…実際ここ数日で変死体の発見数が爆発的に増加しているらしいですね」

「ひろゆき様!!」
これまで冷静さを保ってきた『トオル』が突然怒鳴り声を上げながら起立した。
『ひろゆき』は彼の意図をすぐに察した。

「…分かっているです。その為にみんなをここへと集めたです。
―――コードネーム、<『矢』の男>!
      罪状、『矢』による無差別大量殺人及び殺人未遂!
      その素性、スタンド共に未だに不明!
      しかしその凶悪性から危険度はAAAと認定!
      この場に居る全員に命ずるです!
      目的は『矢』の奪還!
      そして『矢』の男を発見次第、即刻『削除』するです!!」

「ハッ!!」
全員が起立し、『ひろゆき』へと敬礼する。

「さあ、行くです!罪無き町民達の命を弄ぶ悪を、その手で断罪してくるのです!!」
彼の号令に一同は再び敬礼し、そして直後部屋を後にしていった。
無論それは『夜勤』にとっても同じだった。
しかし、その彼を『ひろゆき』が呼び止めた。

(…後でちょっと部屋に来て欲しいです)

『夜勤』は何故自分だけにそのように命じたのかふと疑問に思ったが、
二つ返事で「はい」と答えると同僚達を追って走っていった。

157N2:2004/05/02(日) 06:44



 ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆



『ひろゆき』は嘘を付いた。
彼が話した『矢』の男との出会いは、彼にとって重要な部分だけが隠されていた。
インドへは観光などではなく、空条モナ太郎一行を抹殺する為に向かったのであり、
『矢』の男から受け取ったのは『矢』などではなく『石仮面』であった。
しかしその事実は、彼がこの15年間「不老不死」の野望を果たすべく隠してきたことであり、
どうしても部下達に知られてはならない事であった。

それ故、この時期に『矢』の男が自分の前に出没したことは完全に計算外であった。
今この時期自分の前に現れられては、これまで積み上げてきた計画全てが台無しになる危険性がある。
その為、いずれはそうすべく運命ではあったが、彼は何としても、その計画が明るみとなる前に、
自らの野望を知る唯一の存在、『矢』の男に消えてもらわなくてはならなかった。

彼のすぐ傍には、『夜勤』が控えている。
彼にとって、自分の計画の安全性は1%でも高めておく必要があった。
その為には、『矢』の男と不要な接触を試みる危険因子は全て取り払わなくてはならない。

「…それで、一体どのような御用でしょうか…?」
『夜勤』はそんな彼の真意など知る由もなく、純粋な忠誠心から成る言葉を『ひろゆき』に発した。
『ひろゆき』は一瞬そんな彼が不憫にも思えたが、すぐに思い直して命令した。
「まず、この茂名王町でここ最近恐らく『矢』によってスタンドが発現したであろう者達を、
一人の漏れも無く私に報告するです」

「…それで、その者達を如何なさるおつもりですか?」
『夜勤』が尋ねる。
『ひろゆき』は何の躊躇もせず、極めてあっさりと『夜勤』に言い放った。
「…他の者にもこれはすぐに伝えるのです。
『矢』の男に与する危険性のある者全て、私が命じ次第問答無用で全員すぐに消し去るです」
彼の目には、うっすらと狂気染みた物が感じ取られた。
が、『夜勤』にはその命を断れるはずもなかった。
「…仰せのままに」

158N2:2004/05/02(日) 06:46

だが、新たなスタンド使いを片っ端から消していっただけでは、それはそれで彼にも不都合に働く。
実際に『矢』の男のスタンドと戦ったことは無いが、『矢』を奪われた時に彼は二人の間に絶望的な実力差を感じた。
恐らく、自分が戦ったのでは呆気なく返り討ちに遭い、不老不死以前にお陀仏となってしまう。
『矢』の男を殺しうるスタンド使い。
彼にはそれもまた必要であった。

思い浮かぶのはあの夜、月に照らされた『矢』の男の姿。
あの時、彼の手には血に染まる包帯が巻かれていた。
…あくまで彼の勝手な推測ではあったが、『矢』の男はもしかしたら、
自分の所へ来る前に何者かと戦い、そして負傷したのではないか、と彼は思った。

無論、その人物が今でも生きている可能性は極めて低い。
十中八九、その場で男に殺されてしまったであろう。
…だが、彼はそれでもそのスタンド使いがまだ生きている、と何の証拠も無いのに強く思っていた。
単なる妄想か現実逃避か、しかしその者を上手く利用すれば、自分は一切の手を汚さずに
『矢』の男を抹殺することが出来るという思いが、彼の中では激しく燃え盛っていた。
彼は続けて『夜勤』に言った。

「…そしてこれは貴方に対してだけの極秘任務です。
ここ最近、この町に外からやって来たスタンド使いを先程のとは別に調べ、私に報告するです」

「その者達も処分するおつもりですか?」
『夜勤』は薄っすらとではあるが、それでも嫌そうな顔をしていた。
彼とて無意味な殺害は削除人本来のあるべき姿とはかけ離れていると感じているのだろう。

「いや、その者達はしばらく様子を見るです。
…あ、それと、その者達の実力が如何ほどか、という事も詳しく調べておくです」
『ひろゆき』はPCの省電力モードを解除し、書類の作成に当たり始めた。

「承知しました。では…」
そう言って、『夜勤』は静かに退室していった。

『ひろゆき』は再びPCを閉じると、グラスにワインを注ぎ、『矢』の男の事を考え始めた。

(かつて私に世界の覇王たる者の風格を感じ、石仮面を渡した貴様が…
何故今になって私の前に現れるというのですか!
今まで私が積み上げてきた15年、ここで全て失ってしまったならば、私は……。
……こんな所で私の計画を崩してたまるものですか。
今私の前に現れた、貴様の方が悪いですよ…。
貴様にはこのまま大人しくあぼーんされて頂くことにしましょう…。
クク…クックックック…クハハハハハハ………!!)

やがて『ひろゆき』は耐え切れなくなり、大声を上げて不気味な笑い声を辺りに響かせた。

159N2:2004/05/02(日) 06:47



 ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆



「いい加減にしろ!貴様一人の我がままでチーム全体に支障がきたされると言っているんだ!!」
狭い部屋の中に『トオル』の怒鳴り声が響く。
怒りの対象は『SupportDESK』。
その彼は不機嫌そうに頬杖を突いて座っていた。

「フン!どうせ僕が頑張ったところで褒められるのはいつもお前か夜勤だけだ!
だったらお前ら二人だけで頑張ってろよ!
僕はその間に荒らし共を血祭りに上げるんだからな!」
『SupportDESK』は再びバズーカを取り出し、部屋から出ようとした。
この態度が『トオル』の神経を逆撫でした。

「…それが常日頃からひろゆき様へ人一倍忠誠を捧げてきた者の取る態度か!!」
『トオル』からスタンドが浮かび上がり、『SupportDESK』目掛け拳を振り下ろす。
しかし、その拳は『マァヴ』のそれによって止められた。

「落ち着けよ、トオル。確かにまあ私にも彼の気持ちが分からないでもないよ。
だからまあ、ここは少し抑えてくれないか?」
『マァヴ』にたしなめられ、『トオル』は渋々スタンドを引っ込めた。

「SupportDESK!お前もお前だ!ひろゆき様からの勅令を無視するなんてお前らしくないぞ!!
お前も少しでもひろゆき様に気に入られたいんだったら、それなりの行動をしてから言え!!」
流石に『マァヴ』に言われたのであっては、彼にも文句を言い返すことは出来なかった。
彼は無言で小さく頷いた。

「…全く、こんな大事件が起こった傍から内部分裂だなんて笑えないよ!
二人とも、少しはよく考えてくれよ。ひろゆき様を慕う気持ちは、我々皆一緒のはずだ!」
『マァヴ』はそう言い残して部屋を後にした。
そして居辛くなった『SupportDESK』も間も無く外へと出て行った。

後には、『トオル』だけが残された。

160N2:2004/05/02(日) 06:47



彼には、『ひろゆき』の言葉が本当だとは思えなかった。
全くの確信も無いが、しかし自らの主の言葉の裏には、何か良からぬ思惑が渦巻いているのではないか。
家臣筆頭であるからこそ、彼にはそう強く感じられた。
同時に、その主人を疑う気持ちが彼にはどうしようもなく許せなかった。
信じられぬ主と、信じられぬ自分。
彼は堪らず近くの長椅子の上に大の字になって横になった。

(…どうして、こんな事になっちまったんだろう)

思い出されるのは懐かしき日々。
皆の間でのいざこざも無く、ただ毎日が楽しかった。
それが今では―――

(こんな時にあんたが居てくれたならどんなに助かったか…。
…切込隊長、あんた今どこで何をしてるんだ?
教えてくれよ、切込隊長…)

真上の天井に、在りし日の彼の姿が浮かび上がる。
そして間も無くその像は、水面に映る月の如く歪んでいった。


  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

161452:2004/05/02(日) 10:18

              こ れ が 日 常 な ん で す 
                               そ の 1



  ・・・・・・ろ ・・・・い ・・・・・きろ ・・・・・い ・・・おい・・・起きろ!起きろ!

「・・・う・・・ん?」

よく寝た。いつものことだ。けど、このちょっと遅いくらいのすがすがしい朝を、これからも大切にしていきたいと思う。

・・・あれ?
・・・?
・・・・・・??

・・・2本の機械的な腕が、僕の頭をがっちり掴んでいる。

少しだけ頭を動かし、そいつの顔を見た。

・・・無い。
肩から先だけだ。

・・・・・・あ、これ、スタンドか。多分そうだ。
そうかと思うと、その腕はすっ、と消え、頭が自由になった。

目をこすりながらゆっくり起き上がった。枕元には、40分ほど前に喧しく鳴っていたであろう目覚まし時計が8時10分を示していた。

「やっと目が覚めたか・・・。」
おや・・・?
布団の横の卓袱台にものすごく不機嫌そうに座っている男がいた。
「俺は元来、時間にルーズな奴には厳しいタチでな・・・。10分遅刻だぞ、ゴルァァッ!!8時に第2公園に行くんだろ―がっ!」

そうだ。8時に第2公園に行くんだった。
今更急いだって遅れるが、とりあえず急ごう。
とりあえず顔を洗って、着替えて、朝食を食べて、歯を磨いて、ついでにもう一度顔を洗う。
途中何度もひっぱたかれた気がしたが、これは日課なのだ。一日の始まりを実感するための儀式だ。通過儀礼だ。
モナを何度もひっぱたいた男はこれが終わったのを確認すると、モナをこの家――マンションの一室だが――に2枚だけの座布団に座らせ、
自分は前にもまして不機嫌な顔で卓袱台に腰掛けた。

「・・・・・・えっと・・・何から聞こうか・・・・・・君は誰モナ?」
「・・・ギコでいいや。ポリゴンモナーの協力者だ。
 ところでテメェ、どういう思考回路してんだ?俺が起こさなかったら一体いつまで寝過ごしていやがったんだ?
 しかもなんだ?状況を把握していながら、顔洗って着替えて飯食って歯ァ磨いてまた顔洗って、いつもそんな生活してんのか?
 そんなんでこの高速社会で生き抜くつもりなのかと小一時間問い詰めたい。・・・おっと、話が反れちまったようだな。オマエ、さっき何つったっけか?」
「・・・まだ、名前を聞いただけモナ。」
「ああ、そうだったな。・・・で、オマエ、俺達に協力すんだろ?」
「確かにそのつもりモナが・・・どうして言い切れるモナ?モナは何の連絡もしてないのに・・・。」
「ハァ?・・・あの野郎、また独断で指示出しやがったな・・・。まあ、いい。急いで駅前に行くぞ。」
「了解モナ。」

普通に靴を履き、いつものように元気に玄関の扉を開けた。

162452:2004/05/02(日) 10:19

    ガ ァ ァ ン !
「うおあぁぁっ!?」


・・・と同時に、たった今インターホンを押そうとしていたであろう中年の男をなぎ倒してしまった。
鼻を押さえてうずくまる中年男。かなりひどくぶつけたようだ。

「・・・あ・・・ごめんなさいモナ・・・。」
「いや・・・大丈夫です。すんません、こちらこそ・・・。」
明らかに精一杯怒りを堪えている。

「おい、急ぐぞ!」
後ろから怒鳴られた。
「あ、わかったモナ・・・。」
ギコの方に振り向く。

おや?ギコの表情が変わった。
ギコが自分のスタンドを出して、玄関前に立っている男に腕を伸ばした。
驚いて、男の方に向き直った。
ギコのスタンドの腕と男のスタンド・・・――この男も!・・・――が組み合っている。
「・・・いきなりやってきて、いきなり殴りかかるたぁ、とんだ礼儀だな・・・。・・・目的は何だ、ゴルァ!」
「・・・上からの指令でね。」
「ということはテメェ、どこぞの敵対組織の・・・下っ端か?」
「下っ端と呼ぶなぁっ!」
どうも彼をプッツンさせてしまったらしい。
男のスタンドはギコのスタンドを投げ飛ばした。
同時にギコも後ろに吹っ飛んだ。ギコは受身をとって着地し、叫んだ。
「ぼさっとしてんじゃねぇ!テメェもスタンドを出せっ!」
「え!?あ、ああ・・・どうやって?」
「本能だっ!そのうち使いこなせるようになるだろ―よっ!」
「本能って・・・簡単に言われても・・・」

「・・・そろそろ、お喋りをやめて、こっちに集中したらどうだい?」
不意に男が口をあけた。スタンドは今にもモナに殴りかからんばかりに振りかぶっていた。
ギコが叫ぶ。
「おい、来るぞっ!今こそ本能をフル稼働して身を守れっ!」
「う、うおおああっっ!出ろ――っっ!」

・・・出たっ!
昨日見たあの2人組みのチビ達が目の前に出てきた。
男のスタンドはモナがスタンドを出したことを確認すると、目標を変更してモナのスタンドに殴りかかった。
「く、来るならこいっ!モナのスタンドに触ると―」



    バ ギ ャ ッ !

「おぱあああぁぁぁっ!?」
スタンドの顔面を思い切り殴られた。スタンドと一緒に、モナも一緒に大きく吹っ飛んだ。
あれ?おかしいな。
昨日は柵を消し飛ばしたり塀に穴開けたりしていたからスタンドにも殴られないだろうと思っていたのに、思っていたのに、
なんで普通に殴られちゃうの?何で男は何ともないの?

ああ、

意識が・・・ ・・・



「・・・・・・んの・・・役たたずがぁっっ!」
「・・・思ったよりあっさりと終わってしまったようだね。」
・・・ああ、めんどくせぇ事態になってきちまった・・・。

ギコは懐から携帯電話を取り出し、
3番を押した後で通話ボタンを押した。
「・・・最近の携帯電話は便利だよなぁ。一々電話番号を押さなくても通話ができるんだ。」
「仲間を呼ぶのかい?」
                      ・  ・  ・  ・
「ああ。とりあえず、テメェは確実に 生 け 捕 り にする。」

「・・・ポリゴンモナー、ギコだ。敵対勢力の下っ端らしき野郎の襲撃を受けている。
けっこ―ヤバイ。悪ぃ、なるべく急いでモナーの家まで来てくれ。」
「下っ端と呼ぶなぁっ!」

163452:2004/05/02(日) 10:20

「・・・了解。すぐそちらに向かう。それまでなんとか繋いでいてくれ。」

・・・やれやれ。

・・・ああ、本当に面倒臭い事態になってきた・・・。
               ・ ・ ・ ・ ・ ・
私を襲ってくるのは恐らく何処かの一団であることは以前から分かっていたが・・・
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
仲間になるかもしれないモナーの方を襲ったということは・・・
 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・       ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 
『これまでよりも情報収集に長けたスタンド使いが新しく仲間入りした』か、『『これまでの奴』が成長または進化した』か・・・
      ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
若しくは『組織の方針に何かしら変化があった』か・・・

今幾ら考えたって推測の域を出ないだろう。とりあえずギコ達を助けに行くか・・・。
・・・・・・。

「邪魔する気か・・・。」
前方に殺気がある奴が2人。
向かって右の奴――見たところモララー族――が口を開いた。
「問答無用だからな。君はここで抹殺・・・最低でも足止めさせてもらうからな。」
さらに向かって左の――こちらもモララー族――が続けた。
「君の相手は俺達・・・人呼んで『ageブラザーズ』が務めるからな!」
・・・相手はしていられない。
『ヒマリア』を発動する。

「・・・『ageブラザーズ』?聞いたことが無いな。何処かの穀潰し集団か何かか?」
「穀潰し集団・・・ひどい言い様だな。」
「俺達を馬鹿にしていられるのも今のうちだからな!
 お前はすでに俺達のスタンドの術中にはまっているんだからな!
 ・・・なあ、そうだろ?兄貴!」
「おう!もうとっくに・・・ッ!?」
「あ、兄貴ぃっ!?・・・おうっ!?」
兄弟仲良く前のめりに倒れて気を失ってしまった。
彼らの後ろには、今の今まで彼らの眼前約20㍍に立っていたポリゴンモナーがいる。
「キメが少し遅れたが・・・。当て身。」

さて・・・急ぐか。



「繋いでいてくれ・・・って簡単に言われてもなあ・・・。」
「彼に期待するのか?あっちには俺達の仲間が2人向かっているんだぞ?」
「あいつは大丈夫だろ―よ。それにオマエ等、あいつの能力は詳しくは分かってないんじゃね―か?」
「まあ、とりあえず・・・今は君を始末させてもらうからな。」

「やれやれやれやれ・・・やるしかねえのか。」


←To Be Continued

164ブック:2004/05/02(日) 15:36
     EVER BLUE
     第一話・BOY MEETS GIRL 〜出会いはいつも雨〜


 …僕が彼と出会ってもう何年になるだろう。
 あの日僕達は出会い、そして今まで常に共に在って来た。
 僕は彼の事が何でも分かる訳じゃない。
 彼も僕の事が何でも分かる訳じゃない。
 それでも、誰よりも大切な僕の掛け替えの無い友達。
 そう、彼は、彼の名前は―――

「…ルダ』?おーい、『ゼルダ』?」
 …と、どうやら干渉に浸りすぎていたようだ。
(ごめん、ちょっとぼーっとしてた。)
 僕ははにかみながらオオミミにそう答えた。

「おいおい。頼りにしてるんだから、しっかりしてくれよ『ゼルダ』。」
 オオミミが笑いながら僕に語りかける。
 この『ゼルダ』というのは、僕の本名じゃない。
 オオミミが僕の為につけてくれた名前だ。

 僕には、オオミミと出会う以前の記憶が無かった。
 自分の名前は何なのか。
 自分は何処から来たのか。
 自分は何をしたかったのか。
 自分は一体何者なのか。
 それらの事が全く思い出せない。
 この世界から消えそうになっていた僕を、オオミミがその体に受け入れてくれた時、
 それからがこの世界での僕の思い出の全てだった。

「急襲用迫撃射出錨(アサルトアンカー)を発射するぞ!
 野郎共、準備はいいか!?」
 サカーナの親方のがなり声が、僕を現実に引き戻した。
 今日は何か変だな。
 いつもはこんなおセンチな事考えたりしないのに。
 外で降りしきる雨が、僕を感傷的にしているのだろうか。
 そうだ。
 そういえばあの日も、丁度こんな酷い雨で…

「急襲用迫撃射出錨(アサルトアンカー)、発射!!!」
 サカーナの親方の叫びと、轟音と振動が重なり、
 巨大な錨が先程僕達を攻撃してきた小型戦艦に撃ち込まれた。

165ブック:2004/05/02(日) 15:36



     ・     ・     ・



「…あの民間船、逃げたようだな。」
 船の甲板上で、マジレスマン率いる戦艦の兵士の一人が、横の同僚に話しかけた。
「そのようだな。ま、しゃあねぇさ。
 こんなに雨雲が深けりゃあ、一旦雲の中に逃げ込まれたらどうしようも…」
 その時、戦艦に振動が走った。

「!?何だあ!?」
 その衝撃で転倒した兵士が、慌てて身を起こしながら叫んだ。
「!!おい、あれ見ろ!何だありゃあ!?」
 隣の兵士が甲板に突き刺さった巨大な錨を指差す。

「糞!あいつら、雲に隠れた所から…」
 しかしその兵士の言葉は最後まで紡がれなかった。
 口をだらしなく開いたまま白目をむき、その場に崩れ落ちる。

「!!なあ…!?」
 その場の兵士達の視線が一斉にその場に釘付けになった。
 そこには、黒いマントを羽織った男が一人佇んでいた。
 隻眼の目が兵士達を冷ややかに見据える。

「撃―――」
 「て」という言葉と銃声とが重なり、
 自動小銃から大量の銃弾が吐き出されて雨のように黒マントの男に襲いかかる。

「『ストライダー』。」
 しかし男は身じろぎ一つせずに、マントを銃弾に向かって翻した。

「!!!!!!!!!」
 銃弾が、まるで手品のように次々とマントの中へと吸い込まれていった。
 隻眼の男には、傷一つついていない。

「馬鹿な…!」
 狼狽する兵士達。
 黒マントの男はそんな彼等を一瞥すると、マントの襟を掴んで無造作に広げた。
 マントの内側はまるで別世界に繋がっているかのような漆黒の闇色であり、
 その中から無数の刀剣が出現しては地面に突き刺さった。

「……!」
 その異様な光景を、攻撃するのも忘れて呆然と見つめる兵士達。
 黒マントの男はそんな事など全く意に介さない様子で、
 地面に突き刺さった剣を一本引き抜くと、その切っ先を兵士達に突きつけた。

「…来るならば、殺す。」
 黒マントの男が、短く呟いた。

166ブック:2004/05/02(日) 15:37



     ・     ・     ・



「…相変わらず、容赦無ぇなあフォルァ。」
 錨をつたって甲板まで降りてきたギコ族の亜種の男が、
 呆れたように黒マントの男に向かって言った。
 それに続いて、オオミミも甲板に降りてくる。

「あいつらは俺達を殺すつもりだった。
 ならば、逆に殺されても文句は言えまい?」
 黒マントの男がギコ族の亜種の男の顔も見ないまま答える。

「いやだけどさあ、俺達強いんだし、
 もっとこう、ちょっと痛い目に遭わせるだけで済ますとか、
 手心ってもんをよお…」
 ギコ族の亜種の男が、渋い顔をする。

「無駄口を叩いている暇があるなら、さっさと錨を外しておけ。
 この戦艦とチェーンデスマッチをやらかした日には、
 俺達の船などあっと言う間にお陀仏だぞ。
 それ位の事にも頭が回らないのか、低脳が。」
 黒マントの男が吐き捨てるように言う。

「んだとぉ!?
 手前下手に出てりゃあいい気になりやがって…!」
 ギコ族の亜種の男が黒マントの男に掴みかかろうとした。
「馬鹿には付き合いきれんな…」
 黒マントの男も、マントの中から短剣を取り出す。

「ちょっ、ニラ茶猫も三月うさぎも落ち着いて!
 今こんな事をしてる場合じゃないだろ!?」
 オオミミが二人の間に割って入った。
 二人はしばし睨み合った後、ようやく諦めた様子でそっぽを向き合う。

「ちっ…!
 いいか!?この場はオオミミに免じて引いてやるけどな、
 次やる時にはぼっこぼこに…」

 次の瞬間、三人の居る場所に無数の銃弾が飛来した。
 三月うさぎと呼ばれた黒マントの男は、
 マントで自分とオオミミの身を守る。
 しかし、ニラ茶猫だけはマントの庇護下に置かれなかった為に、
 体に幾つもの穴が次々と穿たれ、その場に倒れて床を血の赤色に染めた。

「貴様ら!生きて帰れると思うなよ!!」
 三人が一悶着を起こしている間に、
 新たな兵士がその場に駆けつけて来ていた。
 当然と言えば当然である。

「動くなよ。そこで穴だらけになった男のようになりたくなかったら、大人しく…」
 その時、兵士達の動きが止まった。
 銃弾で無残なまでに撃ち抜かれたニラ茶猫の体が、不気味に蠢いたからである。

「…痛でぇ……う痛でええぇぇぇえええええええぇぇぇぇぇぇ…!!」
 血を滴り落として呻きながら、ニラ茶猫がよろよろと立ち上がる。

「畜生がぁああぁ…!
 …三月うさぎ、手前わざと俺だけ守らなかったなあああぁぁああ!?」
 ニラ茶猫が三月うさぎを恨めしげに見つめた。
 彼の体の銃で撃たれた傷口からは無数の虫の姿が覗き、
 擬態を繰り返す事でニラ茶猫の体を修復していた。

「お前の嫌いな俺に助けられるのは嫌だろうと思ってな。
 これでも気を利かせたつもりだが?」
 黒マントの男が肩をすくめながら口を開く。

「…手前、いつか殺して…うおわぁ!?」
 そこに、再び兵士達が銃弾を浴びせてきた。
 間一髪、三人は遮蔽物に隠れる。

「さてと。それではな、ニラ茶猫。
 俺とオオミミは先に艦内に侵入して、金目の物を頂いてくる。」
 三月うさぎがニラ茶猫に向かって言った。

「お、おい、ちょっと待てや!
 俺一人に面倒事押し付けるつもりか!?」
 ニラ茶猫が憤慨する。

「俺はさっき運動して疲れた。
 後はお前がやれ。」
 三月うさぎが冷淡に言い放つ。

「でも、三月うさぎ…」
 オオミミが心配そうに両者の顔を見つめる。
「こいつに余計な心配など要らんよ、オオミミ。
 こいつとこいつのスタンド『ネクロマンサー』は、殺しても死なん。」
 三月うさぎが鼻で笑いながらオオミミに答える。

「そういう事だ。では頼んだぞ。」
 そう言い残すと、三月うさぎはオオミミを連れてさっさと行ってしまった。
 その場に、ニラ茶ギコだけが取り残される。

「この…ド畜生がああああああああああああああ!!!!!」
 ニラ茶猫の叫びが甲板に木霊した。

167ブック:2004/05/02(日) 15:37



     ・     ・     ・



 オオミミは通路の曲がり角に差し掛かると、顔だけをヒョコッと出して
 見張りが居ないかどうかを確かめた。
 誰も居ない。
 幸い、ニラ茶猫が甲板で暴れてくれているお陰で、警備がそこに集中しているようだ。

(オオミミ、気をつけて。)
 それでも僕は一応オオミミに注意を呼びかけた。
 彼はそそっかしい所があるから、こうして釘を刺しておくに越した事は無い。

「分かってるって、『ゼルダ』。」
 オオミミが小声で僕に答えた。

 そうは言ってもやっぱり心配だ。
 頼りの三月うさぎも、別の場所にお宝を探しに行ってしまっている。
 こんな時には、僕がしっかりしておかなければ。

「……!」
 と、オオミミが歩くのを止めた。

「…『ゼルダ』。」
 オオミミが押し殺した声で僕に語りかける。
(うん…)
 横の部屋の扉から、何やら呻き声が聞こえてきた。
 よく分からないけど、どうやら女の子の声のようだ。

「どうする…?」
 オオミミが僕に尋ねる。
 個人的には『触らぬ神に祟り無し』、という事で放置しておきたいけれど、
 オオミミの性格からしてそう言った所で抑止力にはならないのは明白である。

(取り敢えず、気をつけて調べてみよう。)
 なので、僕はこう答える事にする。
 だが、このオオミミの何にでも首を突っ込みたがる悪癖はいつか注意してやらねば。
 彼の身に何かあったら、彼の中に住まう僕にとっても大事になってしまう。

「…鍵がかかってる。」
 オオミミがドアノブを何度か回そうとするも、ドアは開かなかった。
(OK。任せて。)
 僕の意識がオオミミの体から離れ、実体化する。
 僕は、サカーナの親方達が言うにはスタンドという存在らしい。
 それで、僕の姿はそのスタンドを使える人以外には見えないそうだ。
 …いや、今はこんな事言ってる場合じゃない。

(せー、の!)
 僕はドアノブを握り、力任せに捻る。
 僕の力の前に鍵は呆気無く破壊された。
 役目を終え、僕は再びオオミミの中へと戻る。

「よし、行こう。」
 オオミミがゆっくりとドアを開けた。
 僕も、不測の事態に備えていつでも飛び出せるようにしておく。
 ドアがゆっくりと開き、その中には―――

168ブック:2004/05/02(日) 15:38


「…あなた達は?」
 その中に居たのは、ロープで縛られた女の子だった。
 それも、一般的に美少女と呼ばれる類の。

「…!助けて下さい…!!」
 と、女の子は僕達にそう懇願してきた。
「私、ここの空賊に捕まってしまったんです!
 お願いです!
 どうかここから連れ出して下さい!!」
 女の子が必死な顔で頼む。

「分かった、今すぐロープを解くよ。」
 オオミミがすぐさま少女を助けようと…

(待った、オオミミ。)
 そこで、僕はオオミミを止めた。

「?何言ってるんだ、『ゼルダ』?」
 オオミミが怪訝そうに聞き返す。

(サカーナの親方にいつも言われてるだろ?
 『厄介事を船の中に持ち込むな』って。
 気の毒だけど、その子は放っておいた方が…)
 僕は思い声でオオミミにそう告げる。

「!!
 じゃあ、この子をここで見捨てろって言うのか!?
 これからここの連中に何をされるか分からないってのに!!
 そんな事、出来るもんか!!」
 オオミミが激昂する。
(仕方無いよ。
 それに僕達だって、この女の子にしてみれば、ここの連中と大差無い。)
 オオミミの場合、邪な下心でこの女の子を助けようとしている訳ではない分余計に質が悪い。
 お人好しなのはいいが、この厳しい空の海を渡り歩くにはオオミミは余りにも甘すぎる。
 三月うさぎ程非情になるのも考えものだとは思うが、
 こうも面倒事に首を一々突っ込まれては、こちらとしても気が気でない。

「だけど、だけど『ゼルダ』…!」
 オオミミが納得いかないといった風に僕に食い下がる。

 …やれやれ。
 本当に君は、甘いんだから。
 仕方無い…
 僕も一緒にサカーナの親方に怒られるとするか。

(…分かったよ、オオミミ。その女の子を―――)


「ちょっと!?
 何一人でブツブツ言ってるのよ!!
 こういう時は即断即決で助けるのが常識でしょ、このトンチンカン!!!」
 と、女の子がいきなりその態度を豹変させた。
 僕とオオミミは、そのあまりの変わり様に硬直する。

「やばっ…
 うっかり本音が出ちゃった。」
 女の子がしまったという顔をする。

 ―――前言撤回。
 オオミミ、この子はやっぱり見捨てた方がよさそうだぞ。



     TO BE CONTINUED…


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