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スタンド小説スレッド3ページ

145:2004/05/01(土) 15:58
 再び、リナーに視線を戻した。
 彼女は布団の上に座って、俺の顔を見つめている。
「…とにかく、私には問題は無い。公安五課に協力するかどうかは、君の指示に従おう」
 リナーは俺に告げた。
「分かったモナ。10時までには決めとくモナ」
 俺は頷く。
 約束の時間には、まだ半日近くあるのだ。
 そろそろ昼食の事も考えなければいけない。
 ギコたちの分も用意すべきだろうか…?

 俺は、横目でリナーを見た。
 彼女は、何事も無さげに天井を見上げている。
 だが、それは平静を装っているに過ぎない。
 俺の『アウト・オブ・エデン』は誤魔化しきれないのだ。
 体調が回復したなんて嘘だ。 
 今も、相当に苦痛を感じているはず。
 人の血さえあれば…

「まあ、元気そうで安心したモナ」
 俺は腰を上げた。
 そのまま、ドアの方向に歩く。
 今のリナーを癒せるのは、人の血以外にない。
 リナー自身は拒むだろうが…

「とにかく、今日一日は安静にしておくモナよ」
 俺はそう言ってドアを開けた。
「ああ…」
 頷くリナー。
 そのまま、俺はリナーの部屋を出た。
 彼女はかなり消耗している。
 リナーの意に逆らってでも、人の血を…

「そんな血走った目でどこへ行く気だ、ゴルァ…?」
 俺の目に、腕を組んだギコの姿が映った。
 進路を妨害するように、廊下の真ん中に立っている。
 何やら思い詰めた表情だ。
 もっとも、今の俺も同じようなものだろうが。

「…ちょっと散歩モナ」
 俺は笑顔を形作ろうとする。
 だが、上手くいかない。

「日光を浴びれば死滅する吸血鬼が、日中に散歩か…?」
 ギコは険しい表情を崩さずに言った。
 俺を睨みつける視線。
 張り詰めた空気が増す。

「人間を… 何人か捕まえてくるモナ」
 俺は、ギコの視線から目を逸らして言った。
「テメェ… 自分が何を言ってるのか分かってんのか!!」
 ギコは声を張り上げる。

 自分が何を言っているか分かっているのか、だって?
 俺の選んだ道が正しいか間違ってるのかなんて――
 そんなのは、当然分かっている。
 俺の選んだ道は、完全に間違いだ。
 だが――

「ギコ。お前にとって、しぃの命と見知らぬ10人の命、どっちが大切モナ?」
 俺はギコを見据えて訊ねた。
「…」
 ギコは、黙って俺を睨んでいる。
 彼が、どちらを選ぶかは明らかだ。

「じゃあ、しぃの命と見知らぬ人間100人の命なら?
 それでも、しぃを助けるモナ? 100人の命を優先するモナ?
 その100人は、顔も合わせた事がない人達モナよ?」
「…」
 ギコは答えない。
 彼の中で、答えが出ているにもかかわらず。
 その理由は明白。彼自身の正義に反するからだ。

「じゃあ、300人の命なら? 500人ならどうモナ? 800人なら流石に手を打つモナ?
 一体何人の命なら、自分の最も大切な人と釣り合うモナ?」
 俺は、答えないギコに向かってさらに質問を投げかけた。
 もはや自問に近い。
「それなら… 大切な人の命より、10人の命、100人の命を優先する人間が正義モナか!?
 10人の命を救うために、自分の最も愛する人を切り捨てるような人間が本当に正しいモナか!?」

「…分からねぇよ」
 ギコは口を開いた。
「普通のヤツは、そんなの選べねぇ。それ以前に、そんな状況にはならねぇよ。
 …実際に、そんな決断を迫られたお前の苦悶は分かる。
 お前が俺なら、しぃを救うために同じ事をするだろう。
 でもな… 俺だって人間なんだよ!!」
 ギコの背後に、日本刀を携えた女性のヴィジョンが浮かび上がる。

「俺も、お前がエサとして扱おうとしている人間なんだ!
 お前を、黙って行かせる訳には行かねぇな…!!」
 『レイラ』が、日本刀を正眼に構えた。
 ギコは本気だ。
 本気で、俺を斬ろうとしている。
「…仕方ないモナね」
 俺は、懐からバヨネットを取り出した。


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