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【場】『 大通り ―星見街道― 』

362夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/11/27(月) 02:58:26
>>361

「――近い、かな」

「間違いじゃない、かも」

今、こうして世界が見えるということ。
それは、以前の自分にとっては夢のようなものだった。
だから、夢という答えも、あながち外れているとも言えない。
そもそも、問題からして唐突なものだ。
付き合ってくれた彼女には感謝しなければならないだろう。

「答えはね――」

「『光の国』だよ」

片手でサングラスを外し、ウィンクしてみせる。
強い光を遮るレンズがなくなったせいで、視界がぼやける。
すぐにサングラスをかけ直すと、少しずつ視界はクリアに戻っていった。

「私、生まれつき目が見えなかったんだ。
 でも、最近になって見えるようになったの」

「初めて見えるようになって、色んなものが新鮮に感じた。
 まるで別世界に迷い込んだアリスみたいに」

「だから、私は『光の国のアリス』ってコト」

「でも――『夢の国のアリス』っていうのも素敵かもね」

そう言って、また笑う。
今度は悪戯っぽさはなく、純粋で屈託のない笑いだ。

363小角 宝梦『イル・ソン・パティ』:2017/11/27(月) 17:00:54
>>362

「近いのか! じゃあ眠りの国か、ううむ、それとも――――」

                   「光?」

光と、夢。明るいイメージの言葉だと思った。
それ以外になにか、近いものがあるのだろうかとも。
それ以上は小角には推理できていなかった。材料はあった。
サングラス。昼間とはいえ、眩いと思うほどの太陽でもない。

――――はっとさせられたのは、想像が及んでなかったから。

「なっ…………そうなのか」

目。思わず絶句した。どういう顔をすればいいのか分からない。
それでも、夢見ヶ崎の笑みを見て、少しは言葉が喉にのぼって来た。

「それは……おめでとう、と言わせてもらうよ。
 わたしが軽々しく言ってしまっていいのか、わからないが」

              スッ

「きみの顔を見れば、祝うべきなのは間違いないと分かった」

「おめでとう、夢見ヶ崎さん――いや、『光の国のアリス』さん」

いつの間にか、やや俯きがちになっていた顔を上げて、そう言うしかなかった。
おめでとう。ともっと心の底から言いたかったけど、今はまだ言葉だけが精一杯だった。

364夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/11/27(月) 20:46:51
>>363

「ありがとう――オヅノちゃん」

一点の曇りもない笑顔で、お礼を言った。
出会ったばかりなのに、やや馴れ馴れしい感はある。
それでも、素直に感謝しているのは本当のことだ。
文字通り光が溢れんばかりの表情が、それを証明している。

そして――。

「ヘイヘイヘイッ――」

「お願いだから、そんな暗い顔しないでくれよ、スイートハート。
 キュートな君には、明るい顔が一番よく似合ってるよ。
 そのコートがキミに似合ってるのと同じくらいにさぁ〜〜〜」

「――ところで、今ヒマかい?
 良かったら、オレと一緒にショピングでもどう?
 この辺じゃあ一番の店を紹介するからさ」

また悪ノリが始まった。
どこかの映画か何かで見た『プレイボーイ』の影響らしい。
しかし、ただふざけているわけではない。
雰囲気が暗くなりかけたのを察してのことだ。

――私は、いつだって明るい方が好き。
   だって、私は『光の国のアリス』なんだから――

365小角 宝梦『イル・ソン・パティ』:2017/11/27(月) 21:21:29
>>364

「れ――礼を言われることはしていないさ」

             「……」

思わず沈黙してしまったから、続く悪ノリは助かった。
小角宝梦はノせられやすい。ゆえに、答えは決まっている。

「……ふふん、言っただろう?
 わたしを褒めても何も出ないと!
 しかし、暗い顔をすべきじゃないのは同感だ」

              フ

微笑を浮かべて、小角はいつもの顔に戻る。
せっかくのお誘いなのだ。今日は、もう用もないし。

(わたしが暗くなってどうする!
 気を使わせてしまったじゃないか)

         (平常心、だ)

「それに……良い推理だね、ひまなんだ。
 どうせなら、きみのおすすめを聞いてみようか」

           ザッ
                  トコ トコ

「一体――どんなところに連れて行ってくれるのかね?」

案内役を買って出たアリスに、白梟のような探偵が着いて行く。
聞いた事も無い物語だが、それが今確かにここにあり――楽しい時間なのだ。

366夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/11/27(月) 22:16:46
>>365

「なぁに――」

「最高にクールでイケてる店だよ、ハニー。
 コレも、そこで買ったのさ」

自分の頭を飾るリボン代わりのスカーフを指差す。
探偵のようなシックな装いとは異なる、様々な色が使われたカラフルな布地。
行き先となるのは、そういった商品を扱っている店のようだ。

「もっとも――」

  ワンダーランド
「『不思議の国』ってワケじゃあないけどね」

普段の自分に戻り、クスッと笑う。
そして、アリスは歩く。

  トッ

時計を持った白ウサギではなく、探偵姿の白梟と共に。

     トッ トッ

奇妙で不思議な取り合わせ。

          トッ トッ トッ

だが――それも一つの物語だ。

367冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』:2017/12/27(水) 23:46:27
「え? うん、分かった。後でそっち行くね」

「何食べたいって? うーん……あ」

「夜は焼肉っかなぁー」

ある日の大通り。
一人の少年が歩いている。手には通話中のスマホ。
上着のポケットから何か落ちた。
手袋だ。
右手の手袋がポロリと落ちた。

368夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/12/31(日) 20:37:23
>>367

ブルーのサングラスをかけた少女が歩いている。
格好はパンキッシュなアレンジを加えたアリス風ファッションといったところ。

「お」

歩いている少年を見かけた。
夏に海で会ったことを覚えている。

「ん?」

電話の内容が耳に入った。
そして、手袋が落ちるのが見えた。

「よし」

横から近寄っていく。
何事かを企むような薄笑いの表情で。

「や、レイゼイくん」

「久しぶりだね。ところで今、誰と喋ってたの?」

「さあ、教えてもらおうか!こいつは人質だ!」

言いながら、少年の前に手袋を出してみせる。
もちろん本気ではない。

369冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』:2017/12/31(日) 22:05:45
>>368

「あれ、明日見」

「わわわ。手袋なんで?」

「あー違うの。違う違う」

スマホの会話に集中していたため突然の登場に驚いてしまった。
それから手袋に気付いて二度目の驚き。

「お姉さん。前に話したっけ」

「お世話になってる人」

スマホを耳から離して、囁くように言う。
スマホの画面には通話中であることを示す画面が浮かぶ。

370夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/12/31(日) 22:39:59
>>369

「聞いた聞いた。マッドサイエンティストのお姉さんでしょ」

「あ、これ返すよ。そこに落ちてた」

手袋はあっさりと返した。
それはいいとして、このお姉さんとやらには興味がある。
前に聞いた限りでは、色々と実験とかしてるらしい。

「私もちょっと挨拶したいな、そのお姉さんに」

「いい?」

そう言って片手を差し出す。
直接話をすることができれば、謎の片鱗が見えるかもしれない。

371冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』:2017/12/31(日) 23:21:22
>>370

「マッド? いや、そこまで危なくはないと思うけど……?」

「あぁありがと」

手袋を受け取り上着のポケットに押し込んだ。
先程同じようにして落としたのは忘れているのか、覚えているがそうしているのか。

「挨拶? 僕はいいけど」

「もしもし? うん、ごめんね。えっと、明日美が話がしたいって」

「え? いや、違うよ。トモダチ? うん、そんな感じ」

「……はい」

スマホを差し出した。

372夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/01/01(月) 00:07:37
>>371

「センキュー!」

お礼を言ってスマホを受け取る。
さて、どう切り出そうかな。
相手はかなり変わった人みたいだし。
でも、今は情報が少ないからなぁ。

――ま、普通にすればいいか。

「もしもし?はじめまして」

「私、レイゼイくんの友達で、夢見ヶ崎明日美っていいます」

「前にレイゼイくんからお姉さんの話を聞いてたので、ご挨拶させてもらいましたぁ」

こんな感じでいいかな?

373冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』:2018/01/01(月) 00:48:22
>>372

『ああ! どうもどうもー』

『自分はツクモってゆーのねー?』

聞こえてきたのはまったりとしていて微妙に元気な声だ。
騒ぎはしないものの声のトーンは明るい。

『咲ちゃんの友達? ホントホント?』

『あーでも明日美ちゃんって聞いたことあるかもー?』

『海で遊んでくれた子?』

374夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/01/01(月) 01:10:16
>>373

「そーです、そーです」

「一緒にビーチバレーやってましたぁ」

もっとトッピな人かと思った。
でも、意外と普通の対応で、少し驚いた。

「あの時は楽しかったなぁ」

「レイゼイくん、私のことなんて言ってました?」

喋りながら、ちらっと横目で少年の顔を窺う。
特に深い意味はないが。

375冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』:2018/01/01(月) 01:35:25
>>374

『ふーん。そうなんだー』

おかしな反応はない。
さすがにおかしな人がすぎると冷泉咲も懐かないという事なのだろうか。

『咲ちゃんはねぇ、初対面なのに話しやすい人だったって言ってたよー』

『だーけーどー自分ちょっとジェラシー。ジェラっちゃったんだよねぇ』

咲が君を見ている。
特に何か意味のある視線でもないが。
目が合っている。

『自分は咲ちゃんの変化を求めたー』

『だけど考えたの。あの子がどう変化するは興味深い』

『でもでも変わっちゃった彼の中にある魂はどうなんだろう』

『実験で得られる成果が常にプラスではないのと同じように人間関係もプラスだけを生まない』

『もちろん、マイナスが悪いという訳でもないけど』

『はっきりと言って自分は嫉妬を感じるよ。自分は彼の変化に立ち会えない』

『同時に彼が自分以外の色を飲み込んでいく様は喜びと悲しみを教えてくれるおかしな教師なーんーだー』

少し、興奮しているようだ。

「?」

『変化や成長は破壊と創造に等しく、自分との会話によって君や咲ちゃんも破壊と創造を繰り返してる……』

『……あーちょっと待って興奮し過ぎちゃった』

『えっと、とにかくとにかく咲ちゃんは明日美ちゃんを気に入ってるってわけ!』

376夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/01/01(月) 01:58:23
>>375

「?????」

頭上に大量の疑問符が浮かぶ。
自分が馬鹿だとは思わない。
だけど、言われて即座に理解するにはツクモの言葉は難解すぎた。

しかし、彼女が複雑な感情を抱いていることは分かった。
そして、彼女が自分の期待していた通りの人間であることも。

「あー、そーなんですかぁ」

「良かったなぁ良かった、うんうん」

謎に包まれたツクモの一端を知ることができた。
もっと深く突っ込んでもいいけど、さらに嫉妬が強くなって嫌われると話しにくくなる。
話題を変えよう。

「そういえば、ツクモさんは実験するのがお好きなんですよねぇ?」

「最近はどんなことをしてるんですかぁ?」

377冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』:2018/01/01(月) 02:21:06
>>376

矢継ぎ早に出る言葉は相手が理解できるかというコミュニケーションとしての性質を少々欠いているのだろう。

『ごめんねーほんとー』

『どうにも気まぐれな割にはガーッと言っちゃうんだよねぇ』

『実験? 最近は過冷却水とかブタンガスとか?』

378夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/01/01(月) 18:36:15
>>377

「あははは、いいですって。私も時々そんなことあるしぃ」

「カレイキャクスイ……豚、ガス……?」

何か分からないが、科学とかそういう専門的な言葉らしい。
聞いたら説明してくれるだろうか。
いや、説明されても余計分からなくなるだけかもしれない。
聞くのはやめよう。

「へぇぇぇ〜、興味あるなぁ」

「いつか私も見せてもらいたいな、なぁんて」

意味は分からなくとも、実験という響きには興味をそそられる。
未知の世界の匂いを感じる言葉だ。
それに、ツクモに対しても興味はある。

379冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』:2018/01/01(月) 20:08:54
>>378

『そー。過冷却水にブタンガスねぇ』


相手が理解しているのかいないのかあまり気にしている雰囲気でもない。
ただどういうものかの質問がなされなかったので特にそれ以上説明することもなかった。

『別にうち来てくれたらやるやるー』

『咲ちゃんの連絡先とか聞いといたらー?』

『でも今日はダメだよーまたジェラっちゃっうかーらー』

けらけら笑ってツクモは答えた。
実験を見に行く分には大丈夫なようだ。
タイミングというのはあるが。
話はひと段落といったところだ。
咲に電話を戻してもいいしもう少し話しても大丈夫だろう。

380夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/01/01(月) 20:37:12
>>379

「オコトバに甘えて、そのウチ行かせてもらいますねー。そのウチ」

言葉で説明されるより、自分の目で実際に見る方がいい。
頭でアレコレ考えるのではなく、五感を通して体験し、感じること。
それが自分の望みだ。

「んじゃ、この辺でレイゼイくんに代わりますね。ありがとうございましたぁ」

ツクモに挨拶し、咲にスマホを渡す。
こうして話ができたし、次は実際に会うこともできるかもしれない。
収穫としては十分だ。
上出来、上出来。

「――面白い人だね、お姉さん」

電話口にいるツクモに聞こえないような小さな声で、咲に感想を漏らす。
一言で表現するとしたら、そういった印象を受けた。

381冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』:2018/01/01(月) 20:43:28
>>380

『はーい。ばいばーい』

頭で理解して見るか、目で見て理解するか。
進み方は人それぞれだ。

「ね? 言ったでしょ? もう、そういうんじゃないって」

「じゃあね」

スマホを受け取り咲が通話を終了した。

「でしょ? 楽しい人」

382夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/01/01(月) 21:17:15
>>381

「うんうん。少なく見積もっても、私と同じくらい面白いね」

咲の言葉に何度か頷いて納得の意思を示す。
それに、咲には強く執着している様子だった。
今は咲が説明してくれたから、友達以外の関係かどうかという疑いは晴れたらしい。

けど、もし彼女に会う機会があったなら、目の前ではあまり咲に近付きすぎない方が良さそうだ。
面と向かってジェラシー入っちゃうと、さっきよりもヤバくなりそう。
こえー、こえー。

「あっ、そうだ。連絡先教えてくれない?」

「また今度、私も実験とか見てみたいから」

「ついでに私のも教えとく。なんか変わったこととか珍しいこととかあったら教えて」

ツクモに言われた通り、連絡先を交換しよう。
それが終わったら、自分の当初の目的地へ向かうことにする。
ネイルの新しいのが欲しいんだよね。

383冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』:2018/01/01(月) 22:47:37
>>382

「そうだね!」

自分と同じくらい面白いという言葉に頷いて同意した。

「連絡先? いいよ。えっとね、これ」

スマホを君の方に向けた。
連絡先の交換を拒むことは無かった。
これで元の目的地に行けるだろう。

「じゃ、また今度とか」

384夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/01/01(月) 23:18:15
>>383

「あっはっはっ、照れるなぁ〜〜〜!」

同意されてしまった。
これをどう受け取るかは人によると思う。
とりあえず私は喜んだ。
面白いというのは、私にとっては褒め言葉だから。

「ありがとありがと。これでまた一つ入り口ができた」

入り口――それは未知の世界への扉だ。
人の数だけそれがある。
そして、それは多ければ多いほど良いのだ。

「うんうん、また今度ね」

「今日は焼肉だっけ?ウチは何かなぁ?」

「ま、いいや!これからネイルチップ買いに行くんだ。新しいの作りたいからさ!」

「――じゃ、レイゼイくん、またね!」

一通りの挨拶と軽い身の上話を終えてから、手を振って立ち去っていく。
その姿は徐々に遠ざかり、やがて見えなくなった。

385宗像征爾『アヴィーチー』:2018/02/04(日) 16:59:33

カーキ色の作業服を着た肉体労働者風の男が、大通りを歩いている。
四十台半ばの年齢だが、その屈強な体格には身体的な衰えは見えない。
鋭い視線には虚無的な光があった。

「この辺りも、随分と変わったものだ」

自分が刑務所にいた二十年の間に、色々なものが新しくなった。
街も、物も、人も、時代と共に移り変わっていく。
この場所も例外ではないようだ。

「ここは――」

「この店が生き残っていたとは驚いたな」

商店街の片隅にある一軒の雑貨屋の前で立ち止まり、思わずそう零した。
自分が幼い頃からあった店だ。
てっきり、とっくに潰れているものと思っていた。

「おやおや」

「誰かと思えば坊主かい。ようやく戻ってきたようだねえ」

中に入っていくと、奥にいた顔なじみの老婆に声を掛けられた。
この婆さんには、成人を過ぎてからも小僧扱いされてきた。
どうやら、それは今も変わらないらしい。

「婆さん、あんたもまだ生きていたのか。ますます驚いた」

「あたしは生涯現役なんだよ。まったく、いい若いもんがそんな元気のない顔をしてんじゃあないよ。シャキッとおし、シャキッと」

「俺はもう若くはないぞ」

「年上に口答えするんじゃないよ。あたしから見れば、まだまだガキさね」

腰の曲がった老婆は、ブツブツ言いながら、また奥へ引っ込んでいった。
俺はそれを見送り、何気なく店内を見て回る。
様々な品物を雑多に扱う昔ながらの雑貨屋といった感じで、基本的には俺が入所する前から変わっていない。

「――変わらないものもあるということか」

この店と、店主の老婆を思い出し、ポツリと呟いた。

386硯 研一郎『RXオーバードライブ』:2018/02/04(日) 20:23:46
>>885
「こう言った、オブラートに包んだ表現をすれば
”昔ながらの”商店が、
どうやって生計を立ててるか気にならないかい。
火曜日の9時くらいにやっている人情ドラマでは、
こんなひなびた商店街に巨大なショッピングモールが出来て、
彼らを悪と決めつけて追い出すために躍起になる。
だが、地元の客が来る事に胡座をかいて経営努力を行なう商店なんて、
滅びて当然じゃあないか、って俺の母さんが言っていたよ」


気が付けば真後ろに、鼻ピアスに、髪を派手に金色に染めた
シュプリームのダウンを着たヤンキー風の男子高校生がいた。


「俺は、明日学校で書道の授業があるから墨汁を買いに来たんだが
あなたは何を買いに来たんですか」

387宗像征爾『アヴィーチー』:2018/02/04(日) 21:17:28
>>386

「大いに関心があると言いたいところだが、生憎そうでもない。
 この店がなくなろうと俺にさしたる影響は与えないし、その逆も同じだろう。
 実際、ここに来るのも二十年ぶりだ」

振り向いて相手の姿を一瞥する。
学生か。
スタイルは違えど、こういったタイプの生徒がいるのも変わらないようだな。

「俺は散歩の途中で立ち寄っただけだ。
 客観的に見れば冷やかしだな」

「だが、歩いて少し喉が渇いた。
 飲み物でも買うことにしよう」

冷蔵ケースから缶入りのお茶を取り出し、会計を済ませる。
そして、再び歩いてきて棚の一角を指差す。

「墨汁ならそこにある。最近でも習字の授業があるのか。
 変わらないものというのも案外あるものだ」

老婆はレジの前にいた。
買うのであれば、問題なく買えるだろう。

388硯 研一郎『RXオーバードライブ』:2018/02/04(日) 21:38:29
>>387
「20年」

思わず声を上げる。

「俺は生まれていないが、20年前は今世間を騒がせてる小室哲哉の、
隆盛期だったらしい。
友達の家のパソコンの『YouTube』って奴で、
小室哲哉の『globe』ってバンドの、楽曲を聴かせてもらったが」

グイッ


「とてもとても良かった。
特に『Joy to the Love』って奴が彼氏と付き合いたての、
女性の気持ちを上手く描いていて、とてもとてもよかった。
勿論、俺は女の子と付き合った経験なんてないんだが」

墨汁と一緒にショーケースに入ったコーラを手に取り、
レジへと運んでいく。

「俺は近所の『玩具屋』の小倅なんだが、久しぶりに近所の商店街で買ったよ。
俺は字が汚い事にコンプレックスを抱いてるし、
まだまだ若輩者だから変わらない美しさって言う文化もよく分からないし、
マジな話、書道なんてこれっぽちもやりたくないんだが。
お婆さん、これください」

389宗像征爾『アヴィーチー』:2018/02/04(日) 22:39:34
>>388

「なるほど」

「俺は音楽に造詣が深い方ではないので曲は知らないが、その人名くらいは耳にした覚えがある。
 俺の知人は、昔よく聴いていたような気がする。
 確かに流行っていたようだ」

軽く頷いて同意の意思を示す。
この手の話題は、俺よりもあいつの方が得意だったか。
こんなところで、あいつのことを思い出すとは思わなかった。

「過去というのは過去でしかないが、同時に事実でもある。
 一時期でも栄えたのなら、それはそれで立派なことなのだろうな。
 栄えたことのない人間から見ると、そう思える」

店内の隅の方へ行って、買った緑茶を開けて飲み始める。

「ほう、君は商店街の関係者だったのか。それは意外だ」

「字が綺麗であることに悪いことはないだろうな。
 だが、書道をしたからといって字が綺麗になるという保証はできないが。
 幸い、字が綺麗でなくとも生きていくことに大きな支障はない」

レジの前に座った老婆は、年季を感じさせる無駄のない動きで手際よく会計を行う。
墨汁とコーラ合わせて税込み300円のようだ。
老婆は、袋が必要かどうかを尋ねている。

390硯 研一郎『RXオーバードライブ』:2018/02/04(日) 23:07:28
>>389
「俺が商店の息子なのが、意外なのかい。
俺はあなたみたいな強面がこんな所で冷やかしをしてる方が意外だ。
袋は結構だ。エコだよエコ。
ーーだが。俺がレジ袋や割り箸を断った所で
石油や木の伐採量が変わるとは思わないが、
やらない悪よりやる偽善なのかい」

カラージーンズのポケットから小銭を取り出し老婆に渡すと、
墨汁とコーラを受け取り、作業服の男に続く。

プシュ!

「地球温暖化で生態系はどんどん崩れていくが、
恐らくコーラは20年前から美味いんだろうな。
俺は酒も飲まないしタバコも吸わない不良だ。
俺はコーラを裏切らないし、コーラは俺を裏切らない。
貴方と話してる今これを飲めば変わらないものの美しさを実感できるかもしれない。
ーーいただき『グビリ』ます」

コーラと間違えて墨汁の封を開け、
それに気づかないまま口元へと運び

「『ビューーーーー!!!!』」

派手に吹き出した。鄙びた文房具店、
墨汁の匂いが宗像の鼻腔を刺激する。

391宗像征爾『アヴィーチー』:2018/02/05(月) 00:34:01
>>390

「川や池にアザラシが紛れ込むことは確かに珍しいが、決して有り得なくはない。
 今ここに俺がいるのも、それと似たようなものだ。
 街中にアザラシが現れるよりは、二十年間現れなかった男が姿を見せる方が確立は高いだろう」

事も無げに淡々と答え、目の前の光景を黙って見つめる。
少年が開封したのがコーラではないことには気付いていた。
だが、おそらく冗談か何かだろうと思っていたため、特に止めることはしなかった。
よって、少年が墨汁を吹き出したところで、ようやく間違いであったことを察した。
しばらく無言のまま表情を変えず、両目だけをやや見開く。

「俺に言えることは――」

「君を裏切ったのは墨汁であってコーラではない。
 コーラは今でも君の味方だ。
 そのことは、君が片手に持っているコーラで口の中を洗い流せば実感できるだろう」

鼻に付く墨汁の匂いに、軽く眉を顰める。
懐かしい匂いと言えなくもないが、だからといって心地良い香りでもない。
体から墨汁の匂いを追い出すように、自身も緑茶を呷る。

392硯 研一郎『RXオーバードライブ』:2018/02/05(月) 06:19:28
>>391
「エフッ、エフッ。
鼻まで行かなくて、エフッ、よかった」

口内に拡がる墨の味に思わず咳き込むながら、
文房具屋の商品に付着していないかよく確認する。
そして落ち着いた所でコーラを流し込む。

「ーー貴方の言ってる事は俺にはよくわからないが、
とにかくコーラは美味いという事はわかったよ。
一流の左官屋の手よって塗られた壁土のような汚れのない美味さだ。
なぁ、どうでもいいけれど今の言い回し『村上春樹』ぽくないかい?
無人島か刑務所か宇宙ステーションか、どこにいたかはわからないが、
20年前にも村上春樹は居ただろう?」


ゴシッ ゴシッ ゴシッ


老婆に店を汚したことを謝罪し、
申し訳ないついでにモップと水を張ったバケツを貸してもらうと、床掃除を始める。

「汚したついでだ。綺麗にしないとな」

393宗像征爾『アヴィーチー』:2018/02/05(月) 17:26:26
>>392

「君がいたと言うなら、多分いたのだろうな。
 俺は教養のある人間ではないので、それについては何とも言えないが」

そこまで言って、缶入りの緑茶を最後まで飲み干す。
そして、外に設置されているゴミ箱に空き缶を放り込んだ。
投げ込まれた缶が、軽く乾いた音を立てる。

「二十年間を無人島で過ごした男が帰ってきたとしたら、ちょっとしたニュースになりそうだ。
 宇宙飛行士が二十年ぶりに地球に帰還というのも世間の話題になるだろう。
 刑務所に二十年いた男が出所したとしても、それがニュースになることは少ないだろうな」

幸いなことに、墨汁で汚れたのは店の床だけだった。
老婆も特に文句を言うことはなく、寛容に対応する。
バケツとモップも問題なく貸して貰えた。

「床が汚れたのは、目の前にいながら止めなかった俺にも幾らかの責任がある。手伝おう。
 ちょうど仕事が休みですることがなくて困っていたところだ」

そう言って、自身もモップを借りて床を磨き始める。
実際のところ、することがなかったからこそ、自分は今この場所にいた。
何かしらの仕事ができたというのは有り難いことだ。

394硯 研一郎『RXオーバードライブ』:2018/02/05(月) 19:15:33
>>393
「果たしてそうかな。
20年も刑務所にブチこまれるなんて、よほどの事だ。
殺人、それにプラスって所じゃあないか。
この間、総合の授業の課外活動で地方裁判所にお邪魔した時に、
地方裁判所の偉い人が教えてくれた。
20年も刑務所に居た人間なんて、『実話ナックル』が放っておくわけがない」


ーーゴシゴシッ

床掃除をしながら、冗談交じりに下世話な週刊誌の名前を挙げる。

「本当に申ッし訳ない。
どう考えても俺が悪いのに嫌な顔一つせずに手伝ってくれるなんて、
貴方はとても良い人なんだな。ありがとうございます。
感謝、感激、カンブリア宮殿ッてヤツだな」

「俺は『硯 研一郎(スズリ ケンイチロウ)』。見ての通り男子高校生だ。
ーー君は誰で、何の仕事をしているんだい?」

395宗像征爾『アヴィーチー』:2018/02/05(月) 22:11:26
>>394

「ああ、少なくともまともな人間ではないだろう。
 相応の悪人であることは間違いない。
 よほど手口が残虐だったのかもしれないな」

何気ない口調で答えながら、ふと考える。
そう言われてみれば、ゴシップ誌の片隅にでも載っていないとも限らないか。
もっとも、それを自分の目で確かめてみようという気は起こらないが。

「宗像征爾だ。職業は建築業をやっている。
 より正確に言えば、配管工だな。
 ガス管や水道管に関する工事が主な仕事だ」

『良い人』という言葉を聞いて、表情の乏しい顔に、薄っすらと笑いらしきものが浮かぶ。
自分に対して、そんな言葉が向けられるとは思わなかった。
そのことが、純粋におかしかった。

「どうやら大方片付いたようだ。手伝った代わりといっては何だが、硯――君に頼みがある。
 君の家は玩具屋だったな。俺をそこまで案内してくれないか?
 ここでの冷やかしは、もう十分したからな」

モップを老婆に返しながら、不意に提案を口にした。
掃除の甲斐あって、床はすっかり綺麗になっている。
墨汁が零れる前よりも綺麗になっているように見える程だ。

「玩具で遊ぶような年でもなく、子供もいない俺が行ったところで買うものがあるかどうかは分からないが、
 同僚の子供に何か買うのも悪くないだろう。
 君の所がどんな店なのか、多少の興味もある」

396硯 研一郎『RXオーバードライブ』:2018/02/05(月) 22:47:04
>>395
「『配管工』って事は。
征爾さん、君はひょっとしてスーパーマリオなのかい。

俺は姫様を助けたと思ったら、レーサーになったり、またある時はお医者さんになったり、エトセトラ。
俺はそんな真っ赤な配管工のおじさんの事を、心底『リスペクト』しているんだ。
彼と同じ仕事に就いてる君もまた『ドープ』だ。ヤバイ。
ーーもっとも『緑色』の弟にはあまり興味がないがね」

老婆に掃除用具を返却するついでに騒いだ事を詫び、
墨汁とコーラを片手に店を出る。


「『オモチャとゲームのすずり』はそれなりに経営努力をしている個人商店だからな。
『switch』から『竹トンボ』まで幅広く、雑多に揃えている。
それなりに、楽しめるんじゃあないか。喜んで案内するよ。
俺の家の隣には友人の外国人が経営する、
ちょっと小粋な『喫茶店』があるんだ。
征爾さん、せっかくだし後でそこでお茶でもしようか。では行こうか」

397宗像征爾『アヴィーチー』:2018/02/05(月) 23:35:51
>>396

「組み立てと取り付け、点検と修理、掘削と埋め込み。
 配管工事と一口に言ってもやることは色々とあるが、大抵は地味な仕事だ。
 水を差すようで悪いが、君の言うような華々しさは俺にはないな」

硯に続いて、自分も店の入り口に向かう。
その直前、知り合いである老婆に向き直り、声を掛ける。

「――そういう訳だ、婆さん。邪魔したな」

「あいよ、またおいで。そっちの坊やもね。
 ……さっきよりはましな顔になったじゃないかい」

俺は老婆の言葉を最後まで聞かずに、そのまま店を出て行った。
次に来た時も、まだこの店は残っているのだろうか。
俺には分からない。
変わるものは変わるし、変わらないものは変わらないのだ。
結局のところ、全ては自然の成り行き次第という奴だろう。

「『スイッチ』を売っているのか?変わっているな」

頭の中には、電気のスイッチのようなものが浮かんでいた。
出所してから、世間の情報は一通り仕入れたが、まだ知らないことも多い。
まあ、行ってみれば分かるだろう。

「喫茶店か。それは楽しみだ。
 ちょうど濃いコーヒーが飲みたいと思っていた。
 『すずり』共々、期待させてもらおう」

398須々木 遠都『スモールタウン・ヒーロー』:2018/02/13(火) 00:35:36

「コロッケをひとつ」

 商店街の肉屋で買うコロッケというのはどうしてああも美味いのだろう。

 そもコロッケという惣菜自体が罪だ。
 買ってくるともそもそして不味い割に、自分で作るとなれば存外と手間になる。
 しかし肉屋で売られている揚げたてのものとなれば話は別。
 面倒な手間は全て店側で負担してくれる。
 出来たてのそれに手間賃を求められるようなことも少なく、相場はだいたい150円前後か。

「からしも塗ってください」

 特に、冬場はうまい。そういえば、星見町に雪は降るのだろうか。

399鈴元 涼『ザ・ギャザリング』:2018/02/14(水) 23:47:10
>>398

カラコロカラコロ

                  カラコロカラコ

下駄が鳴る。
歩いて来たのは和服を着た少年。
癖のある黒髪をしており、首筋の辺りで織物のミサンガを髪紐がわりにして結んでいる。
首筋や肩にかかるはずだった髪がまとめられ小さな尻尾のようになっていた。

「……」

肉の棚をよく見ている。
品定めをしているのかもしれない。
手には買い物袋。ここも彼の買い物のルートなのだろう。

「ん……なにがええか……」

400須々木 遠都『スモールタウン・ヒーロー』:2018/02/15(木) 22:57:10
>>399

 軽やかな音につられて視線を向ける。
 和服。

「……」

 下駄に着物とは風情があるが、この時期に寒くはないのだろうか。
 思いはすれど、口には出さぬ。
 エネルギーの浪費は避ける主義だ。

(目立つだろうに。気にしない人なのだろうか)

 それでも、視線は外さない。

                    「はいよ、コロッケお待ち!」>

 同じ年ほどの少年をじろじろ見ながら、会計を済ませる。

401鈴元 涼『ザ・ギャザリング』:2018/02/16(金) 00:00:08
>>400

「合挽きミンチを800」

「あとコロッケ……は、あぁ。ないんやね」

視線を感じてぷいと顔を向ける。

「ん?」

目が合って、鈴元がぺこりと頭を下げた。

402須々木 遠都『スモールタウン・ヒーロー』:2018/02/16(金) 00:08:45
>>401

 コロッケはもう売り切れたのだろうか。
 となると、自分が受け取ったこの1つが最後ということになる。

「……」

 まあ、視線が合って会釈を返すくらいは労とは思わない。
 視線はそのまま、手に持ったコロッケへ。

「……」

 押し割ると、芳しい油の香りとともに、湯気が立ち上る。
 それを一口。
 揚げものの美味さの正体は、熱だ。今この一秒ごとに、美味しさは失われていく。

   ザク     モソモソモソ……

403鈴元 涼『ザ・ギャザリング』:2018/02/16(金) 00:25:17
>>402

「……」

本来コロッケが置いてあるであろう場所にコロッケの姿はない。
間違えようのない売り切れだ。

「……どうもおおきに」

会計を済ませれば買い物袋の数が増える。

「……」

じぃっとそちらを見つめている。

404須々木 遠都『スモールタウン・ヒーロー』:2018/02/16(金) 00:37:51
>>403

「……」

 コロッケを買えなかった少年が、コロッケを食べる自分を、じっと見つめている。

 そこに宿る意味は、果たして何だろうか。
 思考や推察は、たいして労力を伴わない。
 腰を据えて、存分に考えてみよう。
 或いは、向こうから糸口をもらえるだろうか。

「……はっ、ほふ、ほっ……」

 揚げたてのコロッケは熱々だ。
 当然口の中に冷たい空気を入れて、冷まさないといけない。
 必要な行為だ。

 そろそろ、半分を食べ終わる。

405鈴元 涼『ザ・ギャザリング』:2018/02/16(金) 00:51:32
>>405

人生にこういった場面があるとしよう。
自身の欲したものをすぐ近くの誰かが持っている。
タッチの差。誰も悪くない。ただ運が悪かっただけ。
そういう状況は生きている間、ないでもない。

「……」

だがそんな時、その人物に譲ってもらうように頼めるだろうか。
天が味方をしなかったのだと諦めた方が賢明ではないか。
さらに言えば今回の対象はコロッケ。
食べ物だしすでに咀嚼されているものだ。
それを譲ってくれなど言えるだろか。

(……)

(美味しそう……いや、あかん。人のもんやし……食い意地はって、はしたないわぁ……)

言えるはずもない。

406須々木 遠都『スモールタウン・ヒーロー』:2018/02/16(金) 01:23:09
>>405

 ……まあ、意地の悪い呆けは趣味ではない。
 根負けして視線を逸らす。

「……、……」

 しかし、困った。
 彼はコロッケを食べたかったのだ。
 それは、不可逆の真実。
 知ってしまったからには、目の前で残り半欠けを平らげるような真似は、もう出来ない。
 きっと莫大な労力を要することだろう。心の労力を。

 さりとて、施すというのもあり得ない。
 無償! 奉仕! なんと邪悪な言葉だ……。
 損失を許容するというのは、須々木遠都の信条に反する行為。

 食べることは出来ない。
 施すことも出来ない。
 考える一秒ごとに、揚げたてのコロッケはその価値を失っていく……。


                       じゅわわわわ……。>
                           ゴロン ガロン ゴロン>


「……!!」

 惣菜の棚を凝視する。
 少年が、自分が何を見ているかに気付くように。

 何もこちらは、どうしてもこの『最後のコロッケの半欠け』でなくてもよいのだ。
 味わいは、最初の一口で十分。
 極端な話、あとは体が温まればそれでいい。
 そして、肉屋で売られている総菜はコロッケのみではないだろう。

407鈴元 涼『ザ・ギャザリング』:2018/02/16(金) 23:04:21
>>406

「?」

振り返り惣菜の棚を見る。
棚と相手を交互に見て、また小首をかしげる。

「あ」

はっとした顔をして頷く。
これでもいいのかというようにハムカツを指さした。

408須々木 遠都『スモールタウン・ヒーロー』:2018/02/16(金) 23:36:39
>>406

 少年の指したハムカツに目をやる。
 塩漬けして加工した豚肉を薄切りにして、シンプルに衣のみをつけた一品。
 腹の具合からしてもちょうど良いだろう。

 ……このまま横着を極めて無言の交渉を進めてもいいのだが。
 意味の取り違いがあれば、それが更なる徒労に繋がるのは目に見えている。

「こちらは、もう既に半分ですが」

 発話はこちらから。特に競っていたわけでもない。

「ハムカツの一枚を、まるごと譲ってもらえるんですか」
「僕は、それでもいいんですが」

 掠れた、覇気の欠片も感じない声音。
 こちらが声を出すのも億劫に聞こえるだろう。

409<削除>:<削除>
<削除>

410鈴元 涼『ザ・ギャザリング』:2018/02/17(土) 23:05:56
>>408

「ええん?」

一言そう言った後にハムカツを購入する。
暖かいハムカツを相手に差し出した。

「はい」

411須々木 遠都『スモールタウン・ヒーロー』:2018/02/17(土) 23:44:08
>>410

「はあ、どうも」
(関西弁だ)

 公平な取引には思えないが、まあこちらが得をする分には良い。
 それかきっと、ハムカツがそこまで高くなかったのかもしれない。お安かったのかもしれない。

「そこまでして食べたいものなんですか」
「此処のコロッケ」

 毒気が抜かれてしまった。
 袖振り合うも多生の縁というし、一言二言は交わしていこう。

412鈴元 涼『ザ・ギャザリング』:2018/02/18(日) 23:08:53
>>411

「ん? 好きなんよ。ここの味が」

そういって鈴元がふにゃっと笑った。

「僕引っ越してきたんよ」

「それでここの道やらお店やら、はよ覚えようおもて」

「ほんなら、恥ずかしい話やけど迷子になってな。お腹空いたなぁって時にここでコロッケを食べたんよ」

413須々木 遠都『スモールタウン・ヒーロー』:2018/02/20(火) 00:25:49
>>412

「……まあ、空き腹には染みるでしょうね」

 苦悩とともにパンを食べたものにしか、……はてその続きはなんだったか。
 いずれにせよ、彼には思い出の味というわけだ。

「この町は広いですから」
「……お気をつけて」

 そう言って、去ろう。
 間食は手短に限る。
 有意義な取引もできた。今日は良い日だったと言えるだろう。

414鈴元 涼『ザ・ギャザリング』:2018/02/20(火) 01:08:12
>>413

「この街に来てもう一年くらい経つんやろか」

「思えば遠くまで来たもんやね」

去る相手を見送る。
コロッケを食べてふぅと息を吐く。

「さて、買い物も終わったしどうしよかな」

415美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/04/20(金) 21:29:23

「――これじゃない。これでもなし」

ショッピングセンター内に設置されているベンチに座ってスマホを弄りながら、つい独り言を零してしまう。
中々いい感じの新しいスニーカーを買ってテンションが上がっていたのが少し前のこと。
今は、少々厄介な問題に突き当たっていた。

「いくつだったかしら?ド忘れしちゃった」

思い出せないのは、スマホのロックナンバーだ。
普段はロックなんて掛けてないのに、なんとなく試してみたのが失敗だった。
ショッピングに夢中になっていたせいで、設定したナンバーをすっかり忘れてしまっていた。

「あ、分かったわ――」

「『直接』聞けば手っ取り早いんじゃない」

スタジャンの肩に、『機械仕掛けの駒鳥』が現れる。
マイクとスピーカーを備えた私の小さな相棒――『プラン9・チャンネル7』だ。
ロックされているスマホを耳に当て、通話をしているかのように声を発する。

「ハロー、調子はどう?ちょっと教えて欲しいことがあるの。いい?」

呼びかける相手は電話の向こうの人間ではなく、手に持っている『スマホ自体』だ。
私の声は、『プラン9・チャンネル7』のマイクを通じて、私のスマホに意思を持たせる。
そして、意思を持ったスマホは私の『支持者』に変わる。

「実はね、ロックのナンバーを忘れて困ってるのよ。あなたなら分かるでしょう。教えて?」

こんな風に喋っていると、なんだかアイドルだった頃を思い出す。
別に、そこまで鼻につくようなキャラ作りはしてなかったつもりだけど。
ラジオDJの今でもね。

《ワカリマシタ、クルミサン。ナンバーハ、『135790』デス。
 スコシデモ、アナタノオヤクニタテルコトヲ、ウレシクオモイマス》

「――ありがと」

『プラン9・チャンネル7』のスピーカーから出力されたスタンド音声の通りに、ナンバーを入力する。
無事にロックが解除された。
『機械の小鳥』を肩に乗せたまま、ほっと安堵のため息をつく。

416鈴元 涼『ザ・ギャザリング』:2018/04/23(月) 01:28:21
>>415

「その、お取込み中すいません」

「隣、ええやろか?」

墨色の着物を着た少年が声をかけた。
どうやらベンチの空いている場所に座りたいようだ。
肩ほどまで伸びた黒い癖毛。それを首筋の辺りで髪紐がわりの織物のミサンガで結んでいる。
背の低い少年だった。

417美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/04/23(月) 15:10:38
>>416

「――んっ?ええ、どうぞ」

少年に気付き、少し横に動いて場所を空ける。
同時に、何か聞いたような声だなと思った。
記憶力は良い方なのだ。
しかし、電話というのは幾らか声が違って聞こえる。
だから、本当に聞き覚えがあるかどうか確信は持てなかった。

(聞いたことがある気がしたんだけど……。気のせいかしら?)

こういうのは、一度気になりだすと確かめたくなる。
だけど、いきなり聞くのも失礼だろう。
その間も、『機械仕掛けの小鳥』は、まだ肩の上に乗っている。
少年の声に気を取られていて、解除するのを忘れていた。
動くことも鳴くこともないので、見ようによってはアクセサリーか何かにも見えるかもしれない。

「素敵なお召し物ね」

少年の着物を見て、感想を漏らす。
正月でもない今の時期に着物姿というのは珍しく、純粋に目を引く。
キャップにスタジャン、ジーンズにスニーカーというラフなアメリカンカジュアルスタイルの自分とは対照的だ。

418鈴元 涼『ザ・ギャザリング』:2018/04/23(月) 23:26:08
>>417

「おおきに」

服を褒められ頭を下げる。
それに合わせるように結ばれた髪が尻尾のように揺れる。

「あんさんもきれぇな服やねぇ」

「……美作さん」

ぼそりとそう呟いた。
伏し目がちにそちらを見ている。

(……お休みの日やんね……よかったやろか)

419美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/04/24(火) 00:06:24
>>418

思い返してみると、やはり聞き覚えがある。
それに、この特徴的な話し方にも覚えがあった。
滅多にない偶然だと思うが、それでも有り得ないことじゃない。

「ありがとう」

「――鈴元さん」

少年に向けて、朗らかに笑う。
彼が私のことが分かったのは、声だろうか。
もっとも、私の顔は番組サイトに掲載されてるから、知られていたとしても特に不思議はない。
だからといって、アイドルだった時代と比べて、呼び掛けられることはあまりない。
今は姿が露出しない仕事だから、当然といえば当然なんだろうけど。

「あの時は、どうもありがとう。久しぶりっていうのも少し変だけど――」
 
「こういう場合は、はじめましてって言うべきかな?」

人との出会いは一期一会というが、やはり再会できると嬉しいと感じる。
再会と呼んでいいのかは分からないけど、全くの初対面とも違う。
いずれにせよ、リスナーと直接顔を合わせられる機会が貴重なのは間違いない。

420鈴元 涼『ザ・ギャザリング』:2018/04/24(火) 00:14:53
>>419

「……覚えてくれてはったんやね」

まさか覚えらているとは思わなかったのだろう照れているのか頬を赤くして目を伏せる。
膝の上で両の手がもぞもぞと動いていた。

「は、初めましてやないやろか」

「変な感じやけど多分、そうやと思います」

そう言って少年が笑う。

「そういえば、それはその……さっき話してはったんよね?」

少年の目は肩の方に向いている。
機械仕掛けの小鳥に向けられている。

「あ、すんません……それは個人の事やし、それに今日お休みかなんかなんよね?」

「やのに、声かけてもうて……」

421美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/04/24(火) 00:48:13
>>420

「私は、これでも記憶力はいい方だから」

「それに、鈴元さんって個性的だから、印象に残ってたの」

驚いたというのは、こちらも同じだった。
こんな具合に呼び掛けられるとは思っていなかったのだから。
ただ、こちらには照れはなく、純粋に嬉しいという思いがあった。

「えっ?ああ、これね」

「うん、話してたわ。ちょっと困ったことがあったから」

「でも、それは解決したから、もう大丈夫よ」

彼は『プラン9・チャンネル7』が見えている。
ということは、彼も私と同じような力を持っているのだろう。
だからどうということもないのだが、不思議な縁のようなものは感じていた。

「私の前に放送してる番組が、今ちょうど時間延長の拡大版をやってるのよ。
 だから、その間、私は少しお休みをもらえたっていうわけなの」

「でも、次は私の番組が拡大版をやることになってるんだけどね」

「それで、今日は買い物しにきたんだけど、声を掛けてもらえて嬉しかったわ」

笑顔のまま言葉を続ける。
アイドルだった昔は呼び掛けられることも多かったから、その時の気持ちを思い出さないと言えば嘘になる。
だが、今はそれとは関係なく喜びを感じていた。

「鈴元さんは、今日は何か用事?」

「粋な格好だし、この近くで催しでも――」

「あ、それとも普段着なのかしら?着慣れてるようだし……」

422鈴元 涼『ザ・ギャザリング』:2018/04/24(火) 01:32:03
>>421

「個性的……」

(そやろか?)

思わず小首をかしげる。
他人が自分をどう思っているのかいまいち疎い。

「解決したんやったらそれでええんやけど」

それ以上それが何かを聞きはしなかった。
触れるべきでないというよりは、そこに触れるよりももっと別のことを話したかったのだろう。

「……僕も会えてよかったわぁ」

また顔が少し赤くなった。

「ちょっと買いモンの手伝いで来てて……」

「あぁ、これは普段着。子供の頃からずっとなんよ」

423美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/04/24(火) 21:34:59
>>422

「ええ、一度出会ったら忘れないくらいにね。少なくとも、私はそう思ってるかな」

彼の周りの人にも、同じことを思っている人は多いのではないだろうか。
実際、彼が街中にいれば、とても目立つだろう。
もし人混みの中で見かけたとしても、見落とすことはないと思う。

「一時はどうなるかことかと思ったけど、この子のお陰で助かったわ」

役目を終えた『プラン9・チャンネル7』を解除する。
これからは、パスワードが分からなくなった時は『本人』に聞くことにしよう。
これで、ロック関連のトラブルとは永遠にサヨナラできる。

「私も買い物に来てるの。新しい靴を買いに、ね」

そう言って、ショップの名前とロゴが入った袋を軽く持ち上げて見せた。
中には、少し前に発売された新作スニーカーの入った箱が入っている。
といっても、中身までは見えないと思うけど。

「――ところで、よく私のことが分かったのね。
 声で?それとも顔でかしら?」

知られていたとしても不思議はないとはいえ、気になるといえば気になる。
アイドル時代の過去の栄光にすがろうとする悪い癖なのかもしれない。
ただ、それを捨て切れない自分がいるのも否定できなかった。

「私の番組、以前から聴いていてくれてた?もしそうだったら嬉しいな。
 もちろん、一度でも聴いてもらえたなら、それだけで十分ありがたいことなんだけどね」

424鈴元 涼『ザ・ギャザリング』:2018/04/24(火) 23:28:38
>>423

「おおきに」

何だかそう返してしまう。
人の心に咲く桜の花のような人間を目指しているからだろうか。
人に認識されるのは嫌な事じゃない。
むしろ、嬉しい事だった。

「そうなんや」

(僕のとは違うんやなぁ……当然やけど)

これまでの人生でスタンド使いという人間に多く出会った。
どれも個性的だった。
……少なくとも自分以上に。
何となく俯くと自分の履いている下駄が視界に入った。

「前から聞いてて、それで……えっと、うっとこは姉と兄がおるんやけど」

「お兄ちゃんがアイドル好きなんよ。ご当地アイドル? とかいうんも好きやったり、いろんな人の事知っとって」

「僕がラジオ聞いてる時に教えてくれて……やから、知っとったんよ」

小さなきっかけだった。
だがそれが今こうして縁になった。

「そやから、顔も声も両方知っとるんよ?」

425美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/04/25(水) 00:25:09
>>424

「へええ――」

思わず声が漏れた。
感嘆のような、あるいは驚きのような声色だった。
もしかすると、その両方だったのかもしれない。

「それを知ってる人に出会えるなんて、いつ振りだろう。
 なんていうか――ちょっと恥ずかしいわね」

「ほとんどの人からは、もう忘れられちゃってるみたいだから」

はにかんだように笑いながら、少しだけ寂しげな表情になる。
瞬間的に、過去の映像が立て続けに頭に浮かんでは消えていった。
照明に彩られた煌びやかなステージ。
美しく飾られた華やかな衣装。
そして、舞台の上で光り輝いている私。
世間の記憶から消えても、私にとっては忘れられない記憶だ。

「私は今の仕事が好きだし、ラジオを聴いてくれる人がいることは、何よりも嬉しいことだと思ってるわ。
 でも、こうして昔のことを覚えててくれる人がいるのも、嬉しいものね」

「どうもありがとう」

そう言って、先程までとは少し感じの違う笑みを浮かべる。
どこか哀愁を感じさせるような微笑みだった。
ただ、それは決して暗いものではなかった。

「昔話をするようになると、老けた証拠だなんていう言葉もあるけどね」

そう言うと、今度は砕けた調子で笑う。

「お兄さんにお礼を言っておいてくれるかしら?
 覚えていてくれてありがとう、ってね」

「それから、もしよかったらこれからもよろしくって伝えて欲しいの」

「もちろん鈴元さんも、これからも応援よろしくね」

「そのお返しに、私も鈴元さんを応援するから」

そう言って、また明るく笑う。

426鈴元 涼『ザ・ギャザリング』:2018/04/25(水) 01:18:52
>>425

「忘れられへんよ。ほんまに輝いとる人の事は」

まっすぐな目でそう言った。
それから恥ずかしそうに笑った。
眉がハの字になってしまう。

「ありがとうやなんてそんな……僕はなんもしてへんから……」

「まだ若いやろ?」

冗談に軽い突っ込みもいれつつ。

「うん。もちろん、伝えとく」

それから次の言葉を聞いてはっとした顔になる。

「あ、いや、そんな、あかんよ。応援やなんて……」

「や、多分応援してる色んな人の事美作さん、応援してはると思うんやけど」

わたわたと慌ててる。
目を白黒させて手を動かしている。

「そんな目ぇ見て言われたら、なんかズルしてるみたいや……」

「ほんまに応援してもらいたくなるし、ほんまに嬉しゅうなってまうやんか……」

427美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/04/25(水) 01:48:53
>>426

「あはは、ごめんね」

慌てる様子を見て、朗らかに笑う。
この少年の反応を見ていると、微笑ましい気分になる。
こんな可愛らしい弟がいる兄と姉は、きっと幸せなのだろう。
そのことが、少し羨ましく思えた。

「そうね、私はみんなに支えてもらってると思うわ。
 そして、私が支えてもらった分だけ、みんなのことを支えたいと思ってるの」

「だから鈴元さんに応援してもらえると嬉しいし、私も鈴元さんのことを応援したいな」

正面から見つめながら、穏やかに問いかける。
自分には弟はいない。
でも、もし自分に弟がいたとしたら、こんな風に接していたかもしれない。
頭の中で、そんなことを考えていた。

「――ダメかしら?」

428鈴元 涼『ザ・ギャザリング』:2018/04/25(水) 02:04:20
>>427

「……あかんこと、ないよ」

「そんなん、あかんなんて言われへん」

一つ一つ確認するように言葉を紡ぐ。
それが今の精一杯。
だけどそれでよかった。
それでも思いを伝えられるのだから。

「……僕なんかほんまに支えられてるか分からんけど」

「美作さんみたいな素敵な人とお互い支えあって応援しあってっちゅつのは、ええ事やから」

「なんていうたらええんやろ。あんじょうよろしゅうお願いします」

と言って、目をそらす。

「それから、その、あんまり見つめられたら照れてまうわぁ……」

ゆでダコのような顔でそう告げた。

429美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/04/25(水) 02:37:04
>>428

「面と向かって素敵だなんて言われると――さすがに照れるわね……。
 でも、嬉しいわ」

言いながら、人差し指で自分の頬を軽く撫でる。
その仕草が、照れた時によくやる癖だった。
ただ、どちらかというと、褒められたことに対する嬉しさの方が強かった。

「ご丁寧にありがとう。こちらこそ、よろしくね」

今の自分は、かつての自分とは違う。
眩いステージに立つことはない。
華やかな衣装を着ることもない。
舞台上で脚光を浴びることもない。
だけど、一つだけ、あの頃と変わらないものがある。

(そう――今の私だって、捨てたもんじゃないわよね)

人に支えられ、そして支えるということ。
それは、アイドルだった頃も、ラジオパーソナリティーである今も変わらない。
そのことを、改めて教えられたような気がした。

「あはは、ごめんなさい。悪気があったわけじゃないの」

「だから許してね」

そう言って、口元に微笑を浮かべたまま、両方の手の平を胸の前で合わせた。
それから、ポケットから名刺入れを取り出し、その中から二枚の名刺を手に取る。
そして、その名刺をそっと差し出した。
パーソナリティーである自分の紹介や、所属するラジオ局と、担当する番組のことなどが記載されている。

「お詫びっていうわけじゃないんだけど、よかったらどうぞ」

「一枚は鈴元さんに。もう一枚はお兄さんに渡して欲しいの」

430鈴元 涼『ザ・ギャザリング』:2018/04/25(水) 22:31:31
>>429

名刺を受け取って何が書いてあるか確認する。
それからにっこりと笑う。

「……おおきに」

それからそれを懐から取り出した財布にしまう。

「お礼になるかはわからんけど……」

自分も財布から名刺を取り出す。
そこには『御菓子司 鈴眼』と書かれている。
住所と電話番号が記されている。
派手さのない静かな印象の名刺だ。

「うっとこ和菓子屋なんよ」

「元は京都のお店なんやけどよかったら」

431美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/04/25(水) 23:42:55
>>430

こちらの名刺は色鮮やかで、インパクトのある見栄えを重視したデザインだった。
個人の名刺ではあるが、番組の宣伝用でもあるから、当然といえば当然なのだが。
『パーソナリティー』の隣に表記された『美作くるみ』の名前は、丸みのある手書き文字で書かれている。
その傍らには、小鳥のイラストが小さく描かれていた。
これも手書きのものらしい。

「へえ、和菓子屋さんなのね。道理で、雅な佇まいだと思ったわ」

「私も甘いものが好きだから、近い内にお邪魔しようかな?」

受け取った名刺をしげしげと眺めてから、ひとまず名刺入れにしまっておく。
応援してくれる人と交流できて、新しいお店も見つけられた。
言うことなし、ありがたいことだ。
明るい笑顔を返し、それからスマホの時計を確認する。

「さて――楽しくお喋りしてリフレッシュできたし、ショッピング再開ね」

「私は小物を見てくるわ。スクーターの鍵に付けるキーホルダーが欲しいの」

そう言って、手に袋を持ってベンチから立ち上がる。

「……今日は本当にありがとうね、鈴元さん。
 あなたのお陰で、また明日からの仕事も頑張れそう」

「それじゃ、またどこかでお会いしましょう!
 ラジオの方も、引き続きよろしくね」

別れの挨拶と共に、軽く手を振る。
引き留められなければ、そのまま次の店に向かおう。
気分は上々だった。
今日は、とてもいい日だ。
心の中で、改めてそう感じていた。

432今泉『コール・イット・ラヴ』:2018/05/22(火) 23:37:22

         カリカリカリカリカリ

              カリカリカリカリカリ

「う〜〜〜ん」

喫茶店を一人で勉強に使うのって大学部のセンパイっぽい感じ。
そんな立派な勉強じゃなくて、今日出し忘れた宿題なんだけど。

なんで出し忘れたかって言うとページ数が多すぎたから。
1日寝かしても減るわけない。"先生"が勉強も教えてくれたらいいんだけど。

席はそんなに混んでないから、まだ帰れとは言われない。
窓際の席って客がいる方がツゴーが良いとか聞いた事あるし。
もし外を通りかかった知り合いがいたら見られるのは……別にいいかな。悪い事してないし。

433夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/05/24(木) 00:18:41
>>432

      ピコンッ

その時、ラインの通知が届いた。
送信元は――『ユメミン』だ。
内容は以下の通り。

「わたしは、予知のうりょくにめざめた!
 むむむ……みえてきたぞ!
 ずばり、いまイズミンは喫茶店でひとりでべんきょうしている!」

……顔を上げれば、窓の外に誰かがいるのが見えるだろう。
パンキッシュなアレンジを加えたアリス風ファッションの少女。
今さっき届いたラインの送り主だ。

434今泉『コール・イット・ラヴ』:2018/05/24(木) 07:20:55
>>433

              『ピコン』

「ん」

勉強中だけどスマホは机の上に置いている。
だから、画面にポップした通知もすぐに見えた。ユメミンだ。

      キョロキョロ

予知能力、なんてフツーありえない。けどユメミンには『ドクター』がいる。
フツーじゃないことがフツーな人っていうのがこの町にはいる。
もしかしたら本当なのかな。だとしたらテストの答えとか教えてほしいかも。
・・・なんて思いつつ周りを見回したら、窓の外と目が合った。

「あ」「ユメミンじゃないですか!」

声に出しちゃったけど、窓の外にいるんだし聞こえないかな?
小さく手を振ったのは見えたと思うし、窓際にいてよかった。
でもどっちにしても窓越しに話すなんて『ロミジュリ』みたいなのはどうかと思う。

       『ピコン』

だからユメミンにラインを送った。

『奇遇ですね、私もたった今催眠術に目覚めました!
 あなたはだんだんお店に入って来たくな〜〜〜る』

それからシャーペンをページに挟んで、広げていたノートとかを自分の前にちょっとだけコンパクトにまとめた。

435夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/05/24(木) 20:13:57
>>434

    ズッ……
          ズズズ……

「こ、これは……!!足がかってに……!!
 わたしのかんがえとは、むかんけいに動いている……!!」

   カランカラン  
          イラッシャイマセー

――などということはなく、普通に入店した。
元々この店に入るつもりで近くまで来ていたのだ。
そこに友達がいたから、というのも勿論ある。

「さすがはイズミン……よくぞ、このスーパートリックをみやぶった……。
 くそ、イズミンじゃなければだましとおせたのに……!
 でも一秒か二秒くらいはしんじただろう!!こんかいは引き分けだな!!」

「――あ、これとこれとこれください。のみものLサイズで」

とりあえず注文しよう。
そしてイズミンに向き直り、身を乗り出す。
ブルーのサングラス越しの視線は、ノートの方に向いている。

「ふむふむ、かんしんかんしん。
 なんの勉強してるのかな??おしえてあげようか??」

自分に教えられるかどうかなど全く気にせず、そんなことを言う。
自分の成績は、下から数えた方が早い。
特に、『漢字』に弱いのだ。

436今泉『コール・イット・ラヴ』:2018/05/24(木) 22:02:27
>>435

「あとちょっとでユメミンの超能力だと納得するところでした!」
「フツーじゃないですけど、そういうのもありえそうだし」「特に私達ならねえ」

「あ、私はアイスミルクティーおかわりで」

飲み物が無くなってたし、ついでに注文しちゃおう。
席を使わせてもらってるお代がわり、っていうのもあるけど。

「これ。現文の宿題です。趣味とその理由を述べよって」
「趣味の理由って難しくないです?」「適当に決めちゃおうかな」

            ジャララッ

シャーペンとスマホを紙の上からどけて、原稿用紙をユメミンに見せてみる。

まだほとんど白紙だし、見せて恥ずかしいものじゃない。
まあ、白紙なのが恥ずかしいっていうのはあるかもしれないけど・・・

437夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/05/24(木) 22:59:56
>>436

「ふむふむ――これ、このままで出すっていうのはどう??」

「シュミというのは、アレコレとリユウを問うものじゃないんじゃないでしょうか??
 ヒトのシュミは、コトバではヒョウゲンできないモノなんです。
 だから、このハクシこそが、シュミというものをイチバンよくあらしていると思いました!!」

「――って感じでテイシュツするとか。
 イズミン、清月の『レジェンド』になっちゃうかも??
 ただし、セキニンはもてない!!」

あたらしいデンセツの誕生だ!!
そのぶん、セイセキがギセイになることになるけど。
あと、センセイにマークされて、ヒョウバンとか諸々もあぶないかもしれない!!

「ふっふっふっ、誰も『チョウノウリョク』じゃないとは言ってないけど??」

   ズギュンッ

不適に笑い、傍らに『ドクター』を発現させた。
少し目を閉じてから、片方の目だけをウィンクするように開く。

「――もうすぐ若い男女が入ってくる。
 女の方はミュール、男の方は新しい革靴を履いてる。
 女は身長160cm前後、男は175cm辺り。多分カップル」

いい加減な『予知』――ではない。
その言葉の後に、今さっき言った通りの二人が入店した。

「金ないから、あんまり頼むなよ」 「兄貴、奢ってくれるって言ったじゃん」

兄妹らしい二人は、言葉を交わしながら離れた席に着いた。

「あ〜〜〜『カップル』じゃなかったかぁ〜〜〜。
 もうちょびっとよく確かめてから言うんだったなぁ〜〜〜。
 あとすこしで花丸満点だったのにぃ〜〜〜。ざんねんざんねん」

そんなことを言いながら、大げさに肩をすくめる。
隣では、『ドクター』も同じポーズをとっている。

438今泉『コール・イット・ラヴ』:2018/05/24(木) 23:35:38
>>437

「友達のセンパイが似たような事したらしいんです」
「ハクシで出して『これが俺の答えです』って」
「そしたら大学の推薦も白紙になったらしいですけど」

「ある意味カッコいいですけど、フツーの成績は欲しいんですよねえ」

            クルクルクル

ほとんど空になったグラスの中でストローを回す。
フツーじゃないのはちょっと憧れるけど、なさすぎるのは困るし。
というより、フツーでいいこととだめなことがある? みたいな?

「そういえばドクターの『能力』はまだ知らないんですよね」
「もしかしてほんとに『予知』なんですか?」「だとしたら憧れるかも」

「私も占いとか好きで――――」

なんて言っていたら、ユメミンは言い当てて見せた。
兄妹っぽい二人の客を目で追っていたのに、気づいたら振り向いていた。

「えっ・・・すごいじゃないですか!?」
「今こっち向いてましたよね、ユメミンもドクターも」
「うわーっ、フシギですね・・・ほんとに見てなかったですよね、今?」

                   『ソレハ〝先生〟ガ保証シマス』

「あっ先生。先生が言うならトリックとかじゃないですよね、これ」
                      
                   『今泉サン、夢見ヶ崎サン、コンニチハ』
                   『〝答エ合ワセ〟ヲ 期待シテモ?』

先生は嘘とかはつかない。正直というか、たぶん先生だからだと思う。
まあ見間違えたりはするし、ユメミンの『未来予知』はこのままじゃ謎のまま!

439夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/05/25(金) 00:10:56
>>438

「うまい!!イズミンにザブトンいちまい!!」

こんど使おう、と心の中で思った。
あ、『チョサクケン』とかはらわなきゃダメかな??
まぁ、それはそれとして――。

「ふっふっふっ……。
 それをしったら、きっとイズミンもセンセーもびっくりすることまちがいなし。
 私の『ドクター・ブラインド』は――」

自信満々に笑いながら、もったいぶってタメを作る。
もちろん『予知能力』なんかじゃない。

「――『耳が超いい』!!」

……いざ声に出してみると、なんだか間抜けだった。
しかし、事実は事実だ。
そして、『ドクター』の真髄は、それだけではない。

「じゃ、わかりやすく。ちょっとだけ『チクッ』とするよ」

『ドクター』が腕を伸ばし、『手術用メス』を思わせる爪で、イズミンの肌に軽く触れる。
ほんの少しだけチクリとするが、持ち前の精密さで傷はほとんど付いていない。
厳密には、ごく薄い引っかき傷ができることになるが、目にはほぼ見えない程度だ。

「――どう???」

イズミンは、すぐに気付くだろう。
普段よりも、周りの『音』や『声』がよく聴こえていることに。
それは、単に聴こえやすくなったというレベルではない。
席に座っていながら、店内に存在するありとあらゆる『音』や『声』が聴き取れるのだ。
一言で言うなら、『超人的』と呼んでもいいだろう。

「ユメミンの『未来予知』の秘密――わかったかな??」

440今泉『コール・イット・ラヴ』:2018/05/25(金) 00:44:39
>>439

「私じゃなくて私の友達のネタですけどね」
「あ、でもネタ元はセンパイで」「推薦を白紙にしたのは先生、うーん」

「この場合著作者が謎ですし、座布団は私が預かっておきますか!」

               『チャント "返ス" ツモリデスカ?』

「そこはフツーに冗談の一環なのでノーコメントで」
「それにしても、耳ですか?」「それで話の内容を聞いたとか――」

        チクッ

「いっ!」

            『・・・"補修"ヲ 開始シマス』

      シュルルルルルル

ちく、っとした次の瞬間には先生が私の腕にテープを巻いていた。
先生の目線はドクターに向いてる。怒ってるのかな、それとも本能とかなのかな。

「たくは無かったですけど、びっくりしちゃった」
「それで、これが『ドクター』の耳の良さとどう・・・」「んっ!」

「なんだか音がよく聞こえるというか、聞こえすぎるというか」

耳に思わず手を当てた。
周りのボリュームが大きくなったんじゃなくて、自分の耳が良くなったとすぐ分かった。

「プチ手術、ってところですか。予防接種の方が近いのかな」

            『今泉サン、大丈夫デスカ?』
            『傷ハ トテモ浅イデスガ。耳ニ何カ?』

「腕は大丈夫です大丈夫、ちょっと痒かったくらいで〜」
「耳は・・・よく聞こえますねえ、さっきの二人が話してる事とかも」
「あっ、キッチンの会話まで聞こえる?」「面白いですねえ、これ」

「そういうわけで。ばっちり分かっちゃいました、秘密!」

ユメミンの未来予知の正体見たり。いや、聞いたりかな。
私の先生の秘密は前に見せたし、今も見せてるし、これでおあいこって感じがする。

・・・そうこうしているとウエイトレスさんが頼んだものを持ってきたみたい。まだ厨房を出たところだけど。耳が良いって便利。

441夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/05/25(金) 06:26:17
>>440

「ゴメンゴメン、センセーおこんないで??さわっただけだとできないんだもん。
 ちょっとチクッとしないとダメだからさ〜〜〜。ゆるして??」

センセーの反応に若干ヤバげなものを感じながらも、そのリアクションに興味も抱いた。
本体の意思とは無関係に動くスタンドが、どんな行動を取るのか。
その先を見てみたい気もするけど、さすがにちょっとキケンがあぶない。

「そう――ちょっとした『手術』ってやつ。
 わたしの『ドクター』は『移植シュジュチュ』ができる!!
 
 ……『移植手術』ができる!!」

肝心なところでうっかり噛んでしまい、微妙な間を置いてから言い直した。
新人シャンソン歌手の新春シャンソンショー!!
舌の動きを滑らかにするためにボイストレーニングが必要かもしれない。

「で――いま『ドクター』の『耳の良さ』をイズミンに『移植』してみた。
 そのあいだ『ドクター』は耳が聞こえなくなって、かわりにイズミンの耳が『超よくなった』ってこと」

「いまは『お店の中』だからこれくらいだけど、
 外でやったら、それはもう、ものスゴイことに……!!
 そこらじゅう『音だらけ』になるから、なれないと大変にタイヘンだけど……」

大量の音の中から必要な音だけを聴き取るというのは、多少のコツがいる。
自分も初めてやってみた時は、あやうく耳がぶっこわれそうになった。
今は、その辺の感覚みたいなものが、なんとなく掴めるようになっている。

「そうそう、わたしなんて、たまに人のないしょばなしをコッソリと……。
 『ちょびっと』だけね、ホントに『ちょびっと』だけ。
 なんていうか『たまたま耳に入っちゃった』っていうかぁ……。
 だけど、これがまたおもしろいのなんの……。
 いやぁ〜〜〜、ヒトとヒトのカンケイってのはフクザツですなぁ〜〜〜」

ベツに積極的にアクヨウしてるわけじゃないよ??
いや、ふつうのアクヨウだってベツにしてないけど。
うん、してない。ぜんぜんまったくしてない。
すくなくとも、わたしが『アクヨウだとおもってること』はしてないんだから。
このジュンスイなヒトミをみれば、それがつたわるはず……!!

「――あ、きてるね。うんうん、きてるきてる」

イズミンの意識が厨房に向いた瞬間、これ幸いとばかりにすかさず便乗する。
そして、少し意識を集中して、もう一つ『予言』をしてみる。
さっきはちょっとだけ外してしまったからだ。

「私達から見て、トレイの右手前にイズミンの『アイスミルクティー』、
 左手前に私の『ホワイトショコラストロベリーラテ』。
 左奥に『クラブハウスサンド』、右奥に『ほうじ茶プリン』」

ウエイトレスが運んできたトレイには、そのように品物が並んでいるはずだ。
といっても、『ドクター』の『超聴覚』はイズミンに移植中なので、音で聴いたわけじゃない。
『ドクター』は『聴覚』だけじゃなく、『嗅覚』も同じくらいに『超人的』だ。
それを頼りにして、『匂い』の漂う方向と距離から計算した結果だった。
それはともかく、おなか空いてるから早く食べたい。

442今泉『コール・イット・ラヴ』:2018/05/26(土) 00:28:35
>>441

         『怒ッテハ イマセンヨ』
         
「先生が何考えてるのかは私も分からないんですよね〜」
「でも私は怒ってないし」「先生にも文句は言わせませんよ!」

         『何モ 無イノナラ 文句ナンテ言イマセンヨ』
         『夢見ヶ崎サン、怖ガラセテ シマッタナラ スミマセン』

「との事ですし、大丈夫ですよユメミン」
「それにしても『移植しゅず……手術』ですか」
「やっぱ言いにくっ」「ともかく本格的にドクターな感じですねえ」

そういえば前に会った時も手術って言ってた。
それで、あの時も言いにくかったのも覚えてる。
初めて会った時のことだし、忘れるわけない。

「フツーに手慣れてるんですねえ」「流石本家本元」
「私も話は聞こえるけど、テレビを何個も同時に見てる感じで」

話からするにユメミンはこの能力を上手く使ってる、みたい。
もしかしたら、それは『盗み聞き』とかなのかもしれない。
ちょっとフツーじゃないけど、そんなに目くじら立てる事でもない。

「どうにも、細かい内容は頭に・・・って」

「え、音だけでメニューまで分かるんですか!?」
「ん、あれ、でも聴覚は今私が持ってるんですよね」

「・・・??」「もしや、ドクターには第二の能力が」
「いや、でも能力が二つも三つもあるのは変ですよねえ」「先生は一つだし」

               コト

ウエイトレスさんがテーブルにユメミンの予知通りのトレイを置いた。

よく分からなくなってきたし、甘い物でも飲んで思考力を研ぎすまそう。
今思ったら、ロイヤルミルクティーにすればよかったかも。

「ユメミン、この問題の答え合わせもお願い出来ます?」
「それとももうちょっと自分で考えなさい!ってタイプの問題?」

443夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/05/26(土) 15:13:30
>>442

「あ〜〜〜、ハラへったハラへった。
 きょうは、あちこちイッパイあるいてみてまわったから、チョーおなかすいた。
 うむうむ、ウマいウマい。ガス欠のおなかにしみわたるぜ〜〜〜」

とりあえず注文したクラブハウスサンドにかじりついた。
グリルしたチキンとアボカド、卵、チーズ、トマトが挟んであり、なかなかに分厚い。
付け合せにフライドポテトも乗っている。
軽食ではあるが、割とガッツリ系だ。
今日は――というか今日も、新しい発見を求めて町中を歩き回っていた。
そのせいで、エネルギーが足りなくなっていたところだ。

「『ドクター』も『ノーリョク』は一つだよ。『ノーリョク』はね。
 なんていうかぁ、ちょっと『ヒミツ』があるんだよねぇ」

フライドポテトをつまみつつ、いたずらっぽく笑う。
実際、『ドクター』の能力は『センセー』と同じく一つしかない。
だから、これは能力ではなく特性のようなものだ。

「ふっふっ、そういわれると、なんかジラしたくなっちゃうなぁ〜〜〜。
 まぁ、そんなにひっぱるようなことでもないし、サクッとこたえあわせしちゃおっかなぁ。
 でも、そのまんまおしえるっていうのもツマンナイしぃ。
 んじゃ、かぁるく『ヒント』をだしてっと――」

「あ、センセー、『おてあて』ヨロシク」

     スゥッ

『ドクター』の爪で、イズミンの肌に軽く触れる。
爪の先で薄くなぞるようにしているので、できる傷は極小になるはずだ。
同時に、イズミンに移植した『超聴覚』を解除した。

「――ババーン!!!ってね」

    ド ド ド ド ド ド ド ド ド

アイスミルクティーを口に含んだ瞬間、『それ』が分かるだろう。
先程まで飲んでいたものと比べて、明らかに『違う』のだ。
飲み物の『味』が、目が覚めるように『鮮烈』に感じられる。
そればかりか、ミルクティーを構成する材料や、それら一つ一つが全体の何割くらいかまで把握でき、
全体の一割にも満たない隠し味の存在にも鋭く気付けるほどだ。
たとえるなら、『何十年間も世界中の料理を食べ歩いたグルメ評論家』以上に舌が肥えたという感じだった。

だけど、飲み物に変化があったわけじゃない。
『聴覚』の代わりにイズミンに移植したのは、『ドクター』の『超味覚』だ。
『超人的な味覚』の影響で、イズミンの舌が一瞬で一気に肥えたというわけだ。

「3、2、1……せいげんじかんしゅうりょう!!
 さてさて、シュツジョウシャのみなさんのカイトウをみてみましょう。
 それではイズミンせんしゅ!!おこたえをどうぞ!!」

444今泉『コール・イット・ラヴ』:2018/05/26(土) 19:21:24
>>443

「どこか遊びに行ってたんですか?」
「あ、先生『補修』お願いします」

          『・・・オ願イサレナクテモ、補修ハシマスガ』
          『ホドホドニ シテ下サイ』『ワザト傷ツクヨウナコトハ』

「分かってますよ、でも気になるじゃないですか」
「フツーじゃないとは思いますけど、痛くもないですし」
「痛かったり痕が残るならフツーにやらないですよ」

             チク

          『・・・』

机の上に伸ばした左腕に一瞬だけ違和感があった。
その次の瞬間には先生が手を伸ばして、テープを巻いていた。

「先生、ありがとうございます」
「それで、今度は何を・・・」

                   ゴク

「んん!?」

ミルクティーが舌に触れた。それがはっきりわかった。
それだけじゃなくて、普段なんとなく流し込んでた味がわかった。
わかったっていうのは甘いとか渋いとかじゃなくて、もっと『言葉』だ。

・・・私がそれを言葉に出来たら、作文も楽なんだろうけど。

          『今泉サン、ドウナサイマシタカ』

「分かった! 分かりましたよ、ドクターの能力の正体」
「耳がいいだけじゃなくて、舌も・・・いえ」「鼻とか目も」
「そう、えーと、『五感』というのが鋭い!」
「そしてそれを移植できる・・・これなら一つでしょう」

いつのまにか耳はふつうになっていた。
移植した感覚はすぐに戻せるって事なのかな。

「今の予知は・・・匂い、それかガラスに反射したのを見たとか?」

この味覚からすると、どっちも出来なくはなさそうな気はする。
テストとかでもあるんだよね、こういう『これ!』って答案。
それが絶対あってるとは限らないんだけど、期待はしていい、はず。

「どうです、私の回答。ユメミン的には100点中何点ですかね」
「あ、マルかバツかだけでもいいですよ」「『部分点』があれば嬉しいですけど」

445夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/05/26(土) 21:51:25
>>444

「いやー、ちょっとしたぼうけんってとこ。
 なんか『オモシロソーなみせ』とかないかなぁって。
 ここはたまによるんだけど、なかなかいいよねー」

   ムッシャムッシャムッシャ
              ズズスズ゙ーーーー

喋っている間に、クラブハウスサンドとフライドポテトを平らげる。
その次にホワイトショコラストロベリーラテを飲んで口直しだ。
うむうむ、これもイケる。

「そーそー、『ワルいアソビ』はホドホドにしとかないとセンセーにおこられちゃうから。
 リョーカイしました、センセー!!
 でも、ふたりともなんにでもキョーミをしめすトシゴロなんだし、ちょっとくらいは、ね??ね??」

あまり固い感じではないが、一応の弁解を済ませる。
もちろん、言われなくても痛いこととか傷跡が残るようなことはしない。
『ドクター』の外科手術のような精密さなら、そうならないように繊細な微調整が可能だ。

「――う〜〜〜ん……『90点』!!
 おしい!!もうちょいで満点花丸だったのに!!」

「さっきのは『匂い』であてたっていうのは……だいせいかい!!
 いまは、イズミンに『ドクター』の『舌の良さ』を移植してる。
 だから、『ドクター』は『耳も鼻も舌も超イイ』」

「だいたいあってるんだけど……『イッコ』だけちがうんだよねぇ。
 よ〜〜〜くみてみたら、ひょっとするとわかっちゃうかもぉ??」

そう言いながら、自分の傍らに佇む分身――『ドクター』に視線を向ける。
その両目は、相変わらず固く閉じられていた。
目が存在しないというわけではなく、目そのものは確かに備わっている。
ただ、それがずっと閉じっぱなしなのだ。
考えてみれば、今まで一度も目が開いた所を見ていないことに気付くだろう。

  ……『L(エル)』 『I(アイ)』 『G(ジー)』 『H(エイチ)』 『T(ティー)』……

ふと、『ドクター』が、前に聞いたのと同じ言葉を呟いた。
以前と同様に、男とも女ともつかない無機質で淡々とした口調だ。
その五つのアルファベットを順番に並べれば、一つの単語が出来上がることになる。

「ジャジャン!!さいしゅうもんだい――あとの『イッコ』はなんでしょうか??
 これがとけたらポイントが2ばいだ!!」

446今泉『コール・イット・ラヴ』:2018/05/26(土) 23:28:43
>>445

「前は『爬虫類カフェ』でしたっけ」「ヘビの写真を送ってきたやつ」
「私はフツーな店しか知らないから、ああいうのを教えたりは出来ないですが」
「こういう感じのカフェなら、そこそこ知ってるんですけども」

放課後とか、よく喫茶店に行ったりするし。
友達に教えてもらった店とかもあるし。
まあ、喫茶めぐりが趣味ってほどじゃないけど。

            『〝社会経験〟ノ一環デアレバ 止メハシマセン』
            『・・・壊レテシマワナイ 限リハ デスガ』
            『デスガ、先生モ不安ニナリマスカラ。ソレハ オ忘レナク』

「フツーに大丈夫ですって。無茶なことはしませんよ」
「安心してくださいよ先生。私はフツーが好きなので」

フツーじゃないのも、そんなに嫌いじゃないけど。
でもそれはフツーがあるから、ってところはある。

「う〜ん、惜しいですね。赤点は免れてよかったですが」
「イッコ・・・そうですね、耳、鼻、舌・・・と来れば」

「あ、『眼』ですか? なんか、ずっと閉じてますし」
「『エルアイジーエイチティー』って、光の方の『ライト』ですよね」
「というわけで、最終問題の回答は・・・ドクターに『視覚』はない!でどうです?」

            『・・・・・・・・・』

それにしても、なんでそんな制限があるんだろう?
そう思ったところで、ユメミンはいつもサングラスを掛けている事に気づいた。

ユメミンはフツーじゃない恰好をしていてオシャレだから、その中じゃフツーだった。
サングラスは、フツー室内じゃ掛けない。あー、私、今フツーの顔でユメミンを見れてるかな。

447夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/05/27(日) 05:39:08
>>446

「そうそう、『シャカイケンガク』ってやつ。
 ジンセーなにごともケイケンがだいじ!!
 『アリス』だって『ウサギ穴』にとびこんだんだし、
 わたしも『アリス』だから、ふしぎなセカイがあったら、そこにとびこんでいかなきゃ。
 なんてったって、わたしは『この世の全部』をみなきゃならないんだから!!」

別に危険に遭いたいわけじゃない。
だけど、その先に見たことのない未知の世界が待っているとしたら、躊躇う理由はない。
だって、私は『アリス』だから。

「ドドン!!イズミンせんしゅ、せいかいです!!
 『ドクター』は『耳や鼻や舌』はバツグンだけど、『目』はみえないんだよね〜〜〜。
 あ、あと『指先の感覚』とかも超イイから、肩コリとかで『どこがこってるか』とか、
 すぐわかっちゃってベンリ!!
 わたしのマッサージは、そのスジではけっこうひょうばんあったりなかったり」

  スッ

そこで唐突に笑うのを止める。
その顔には、いつになく真面目な表情が浮かんでいた。
おもむろに席から立ち上がると、静かに口を開く。

「私の『ドクター』には『視覚』がない。だけど、『ドクター』に『死角』はない。
 何故なら、存在しない『視覚』を補う『力』があるから」

  トスッ

やや抑えた声色で精一杯カッコつけた台詞と共に、やたらと気取ったポーズを決める。
少しの間そうした後、また着席した。

「――っていうのかっこよくない??いま、おもいついた。
 こんど、どこかでつかおっかな。ちゃんとメモっとかなきゃ」

スマホを取り出すと、メモ帳アプリを立ち上げてメモをとり始めた。
どうやら、いつか使う気らしい。

「ん??あれあれ??イズミン、かおになんかついてるよ??
 ここ、ここ。ほら、このあたりにさぁ〜〜〜」

スマホを元通りしまうと、声を掛けつつ自分の顔の中央付近を指差す。
イズミンの様子を何となく察したからだ。
湿っぽいのは、あんまり好きじゃない。

「――ね?『鼻』がついてるでしょ?わたしといっしょ。『お揃い』だね」

ふふっと笑う。
さっきまでの屈託のない笑い方とは少し違う、穏やかな笑い。
私は普通じゃない世界に目を向けることが多いし、実際そういう風に行動してる。
だから、イズミンとお喋りしてると、なんだか一休みできてるって気がしてホッとする。
それは、イズミンから感じられる『普通のオーラ』みたいなものに触れてるせいかもしれない。
『普通って何か』って聞かれたら、上手く答える自信はないけど。
でも、今の私が、この時間は充実した時間だって感じてることは間違いないと思う。

「あ、これウマい。イズミンも食べる?」

ややあって、食べていたほうじ茶プリンを差し出す。
しかし、『味覚』を移植したままなのを忘れていた。
食べたら、ビビッと電気が走ったみたいに、物凄く鮮明に味を感じられることだろう。

448今泉『コール・イット・ラヴ』:2018/05/27(日) 23:53:16
>>447

「やっぱり、夢が大きいですねぇ、ユメミンは」
「ユメミンだけに」「なんて言ったら私は泉が大きい事になりますけど」

「・・・」

笑顔を浮かべてみる。多分ちゃんと笑顔だろう。
別に、今はもう大丈夫って感じなんだろうし。
あんまり気にしてる方がユメミンも気まずいはず。

「やった! 正解いただいちゃいました」
「便利ですねえドクター」「まさに死角なし・・・」
「っと、顔? どこですかね、ストローから跳ね――」

指先を顔の上で滑らせていると、次の答えを貰った。

「・・・・・・鼻、ですか」「そうですね! お揃いです」
「手も、脚も、カタワレも」「まあ見た目は違いますが」

             ヘヘ

「いただきます、実は食べたかったんですよそれ」
「晩御飯買っちゃったし、注文しなかったんですけど」
「断るのは悪いから仕方ない! という自分への言い訳で」

差し出されたプリンを受け取って一口食べる。
この甘いのくらい柔らかく気持ちをほどければいいんだけど。

「やっぱりおいしいですね〜、ほうじ茶スイーツ!」
「『移植』のおかげで、『和!』みたいな、後味?感じますし」
「抹茶派から陥落しそうです」「あ、ユメミンはほうじ茶派?」

私はフツーに、一晩寝でもしないとちょっと遠慮してしまう。
でも表には出さない。ユメミンはそういうの、好きじゃないだろうし。

私はフツーに、フツーを演じる事くらいできる。それくらいフツーだけどね。

449夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/05/28(月) 00:58:29
>>448

「すべてをやさしくつつみこむ、めがみのようなホーヨーリョク。
 それは、まるできれいなみずをたたえた、おおきなイズミのよう。
 あなたがおとしたのはキンのオノですか??ギンのオノですか??
 ことし、だいちゅうもくの、じつりょくはしんじんアイドル、イズミン。
 みんな、おうえんヨロシク!!」

イズミンの笑顔。
それに対して冗談を飛ばしながら、こちらも笑顔を返す。
その顔は、また賑やかな感じの笑いに戻っていた。
もう大丈夫だって伝えたかったから。
だから、普段通りの表情に戻ることにしたのだ。

「そう、同じ!!どうし、あいぼう、マブダチだ!!
 『カタワレ』だって――あ、これセケンでは『スタンド』っていうらしいよ。
 ユメミンの、あしたつかえるまめちしき№4!!」

そう、手だって脚だって――『目』だって同じだ。
昔は見えなかったけど、今は見えている。
光除けのサングラスは手放せないけど、それでも見えていることに変わりはない。
だから、私とイズミンは『同じ』なのだ。
そんなことを心の中でちょっとだけ思ったけど、顔には出さなかった。
せっかく明るくなったのに、またナイーブでセンチメンタルな雰囲気になってしまう。

「んー??まー、たぶんそんなかんじかもしれない。
 『今は』、だけど。ユメミンのこのみは、ていきてきにかわるのだ!!
 2しゅうかんくらいまえは『抹茶派』だった!!あしたは『紅茶派』になってるかもしれない!!」

「うんうん、いまなら食レポもできるぞ!!アイドルには、それもひつようだ!!
 ことばがなくても、おいしそうにたべてるだけでつたわるさ!!
 だって、いまイズミンがたべてるやつ、すげーおいしそうだもん。
 イズミンのせんでんこうかで、ここもあしたからおきゃくさんがばいぞうだ!!」

どうしてアイドルデビューする話になったのだろうか??
そんなことは私も知らない。永遠の謎だ!!
きっと、海に沈んだアトランティス大陸よりも深い謎が隠されているに違いない!!
そういえば、『味覚』を解除するの忘れてたな。
でも、イズミンがおいしそうに食べてる最中だし、もう少しこのまんまでもいいか。

「あ、こんどイズミンのオススメのみせとかおしえてくれない??
 かわったとこじゃなくてもいいよ。イズミンとおしゃべりしてるのって、ケッコーたのしいし」

「わたしは、めずらしいモノとかフシギなのがスキなんだけど、
 なんていうかさ――イズミンといっしょにいると『フツー』なのもいいよねってかんじ」

しみじみと言いながら、イズミンに笑いかける。
自分は、『普通じゃないこと』に惹かれることが多い。
でも、『普通のこと』だって改めて見直してみれば、今まで気付かなかった良さに気付くこともある。
『普通』があるから『普通じゃない』もあるのかもしれない。
イズミンと話していると、ふとそんなことを感じた。

450夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/05/28(月) 01:34:12
>>449

なんかモジバケしてたので、さりげなくテイセイだ!!

×ユメミンの、あしたつかえるまめちしき?・4!!
○ユメミンの、あしたつかえるまめちしきナンバー4!!

451今泉『コール・イット・ラヴ』:2018/05/28(月) 01:47:17
>>449

「あはは、ほめ過ぎですよユメミン」
「アイドルだなんて」「・・・悪い気はしませんけど」
「ユメミンもデビューしません? 同士として」

「それにしても・・・『スタンド』ですか」

            『不思議ト 納得ノ行ク呼称 デス』
            『立チ尽クシテイル ワケデハ ナイデスガ』

「そう呼ぶのがフツーなら、私もそうしようかな」
「先生は私の『片割れ』という雰囲気でもないですし」
「今日から使える豆知識になってしまいました」「流石はユメミン」

私は笑っている。
ユメミンも笑っている。

『なかったこと』には出来ない何かを、それでも隠して笑う。
その時の笑顔は嘘だけど、気持ちは嘘じゃない。楽しい時間。
本当に楽しいから・・・だから隠そうって思えるんだ。

「紅茶スイーツもいいですよね、それからコーヒー」
「『アフォガード』がおいしいお店があるんですよ」
「今度案内します」「いつになるかは分かりませんけど」

        ニコ

「私もユメミンとお喋りしてると楽しいから」
「フツーな私でよければまた遊びましょうね」
「・・・っと、と、遊びで思い出したけど、勉強中だった」
「すみません、作文集中するんでちょっと口数減りますね」

シャーペンを手に取る。ユメミンはここにまだいるのかな。
それとも食べ終わったら帰るのかな。どっちにしても、文章を考えよう。
ユメミンと話すのは楽しい。話さなくても、友達はそこにいるだけで嬉しい。

                カリカリカリカリ

                          カリカリカリカリ

452タタラ『インスタント・カルマ』:2018/06/06(水) 01:42:36

        カコン
               カコン

一つ、また一つ。
善行という石を積み重ねる。
この世は賽の河原ではない。
積み重ねた善行が勝手に崩されはしない。

    カコン
             カコン

まあ小難しい話ではなく。
単にゴミを拾っているのだが。

(暑くなってきたせいか、空き缶が多いわね。
 今週の善行は全部これで良いんじゃないかしら)

         カコン

クラシックなメイド服の女がゴミを拾いまくる姿は、
傍目に観るとかなり小難しい状況にも見えるだろう。

453『ニュー・エクリプス』:2018/06/08(金) 19:52:36
>>452

 ――クルクル  
          シュッ
                タンッ!!

   シャキーンッッ

 「悪の組織の首領! モーニングマウンテン!!」

エッ子「おやつ幹部 エッ子(/・ω・)/ !」

ムーさん「昼寝幹部……ムー」


 『三人合わせニュー・エクリプス! (∩´∀`)∩』

 「……んっ!? むむむっ!! どうにも一人足りない気がするっス!
幹部が一人足りないっス!! これは一体どう言う事っス!?」

 エッ子「そーだ! 一人足りないのだー! (`・ω・´)」

ムーさん「のりなら、この恥ずかしい状況に耐えられなくて
少し先でゴミ拾いしてるよ」

 
 「ふーむ、幹部のりは先行してゴミ拾いっスか!
こう言うキメポーズは全員でやらないと行けないんっス!!
 ん? おー!! こちらにも悪のゴミ拾い活動をしてる
お仲間が居たっス! こんにちはっス!! 暑い中ご精が出ますっス!!」

エッ子「こんにちはー(*'▽')!!」

物凄く和気藹々とした二人と、少し疲れた一人が
悪の組織と言いつつ貴方に近寄って来る。
 どうやら、悪の集団らしい。

454タタラ『インスタント・カルマ』:2018/06/08(金) 22:27:32
>>453

(特撮好きのボランティア部か何かかしらん。
 まあこれだけたくさんゴミもあるし、
 横取りだなんだって考えるのは罪深よね)

(……とはいえ)

「ご機嫌よう、お仲間様。
 学校の課外活動か何かかしら?
 それとも、自主的にやっているの?」

      「どちらにせよ感心しますワ」

空き缶を掴むトングを一旦、背中に戻す。
そしてお辞儀。メイドらしく、規律正しい角度。

「それにしても『悪の』というのは?
 ゴミ拾いは悪ではありませんワ。
 善行、要するにボランティアですもの」

「ああ、まあ、空き缶拾いで生計を立てている方には『悪い』ですけど」

少し引っかかる言葉があった。
まあ向こうは子供だし、そんな噛み付くような調子ではなく、
純粋に疑問として聴いている。渦巻くような瞳での凝視を添えて。

455『ニュー・エクリプス』:2018/06/08(金) 22:47:20
>>454

 悪の首領を名乗る少女は、最近再ブレイクした猫娘な感じの仮面を被っている。
貴方の言葉にハキハキした口調で答える。

因みに三人は、学生服で同じくゴミ袋を各自が持っており。片手に軍手を嵌めてる

 「ふっふっふ! 我らは悪の組織ニュー・エクリプス! そんでもって
清月学園のうちゅー・とーいつ部なんっス!
 ゴミを拾って、みーんながニュー・エクリプスの活動に対して偉いんだなーと
感心する事により、我らの悪の侵略活動が水面下で起こる事を気づかせない!
 これぞ、我ら悪の秘密組織の大いなる悪の侵略活動なんっスよ!」

エッ子「あっ! 星見グレープジュース飲む?
さっき自販機で当たったんだぞー! (*'▽')」

 悪の首領が堂々と悪の活動を述べるなか、貴方へと黄色い髪の毛の高等部の女子は
冷えたてな缶ジュースを渡してくる。

ムーさん「……」

一人だけ、二人と雰囲気が異なる怠惰な目つきをした女子は。貴方の渦巻く
瞳に対し、怯んだ様子なくフゥーとシガレットチョコを加えつつ見つめるに留まる。

ムーさん「とある家から一組の男女が出て来た。
その二人が現れた瞬間、家の周りにいた群衆の反応は劇的だった。
ある者は悲鳴をあげ、ある者は泣き出し、ある者は手にあるものを投げつける
 だが、その二人は平然と笑っていた。
それは何故なのだろう?」

 いや、見つめるに留まらず謎々なのか、ウミガメのスープなのか知らぬが
問題を出してきたぞ。

456タタラ『インスタント・カルマ』:2018/06/09(土) 04:31:13
>>455

(にしても、仮面? ファッション?
 ……顔のケガとかかもしれないし、
 無暗に突っ込まないのが妥当よね)

異様な仮面少女に多少の警戒はしつつ。

「マア、悪の組織……宇宙統一部。
 侵略活動とは一大事ですワね、
 私が此処で食い止めるべきかしら?」

            フ

(要はごっこ遊びって事ね。
 エクリプスってのは気になるけど)

「――――と、思ったけれど。
 私も正義のヒーローとかでも無し。
 ワイロを受け取ってここは見逃しましょう」

       「ありがとうエッ子さん」

口元に指を添え、黙秘を示しつつ。
グレープジュースを有難く受け取る。

「……?」

「クイズ、それとも心理テストかしら。
 そうですワね――――私の答えは、
 『二人は自分達に絶対の自信があるから』」

「愛か、強さか……正義か、何かは知らないけど。
 他人から何を言われても揺らがない軸があるんでしょう」

457『ニュー・エクリプス』:2018/06/09(土) 18:48:54
>>456

タタラは悪の組織の賄賂をうけとり黙認を示す。

エッ子「ラムネうまーい!! ヽ(*゚▽゚)ノ」

 「ラムネうまーいっス!!v( ´∀` )v」

悪の首領と、おやつの幹部も一休みしつつ自賛してるラムネを
飲んで、ぷはーっと笑顔でハイタッチをしている。一人は仮面で
顔色は読み取れないが、ほぼ性格が似てるので推し量るのは容易だ。

>『二人は自分達に絶対の自信があるから』

チッチッチッ

ムーさんは、貴方の回答に軽めに人差し指を振りつつ
気怠い様子を醸しつつ否定のジェスチャーを行う。

「クイズ、ではなし。これは『ウミガメのスープ』と言う問題だね。
主観的な感想や、象徴のようにアバウトではない。
この状況は、ある場所では極めて自然に見られる光景だ……」

 「……ん? 何でいきなり、そんな問題をするのか、か……
暇つぶしだね、うん」

 どうやら、ムーさんは貴方にウミガメのスープ問題を出したくて
仕方がないようだ。はい、いいえで答えられる質問ならば
幾らでも受けてくれそうだ……。

458タタラ『インスタント・カルマ』:2018/06/09(土) 22:01:49
>>457

悪の二人に微笑みかけ、
自らもグレープジュースを開封した。

     ゴク  ゴク

「……ひまつぶし、そう。
 それはステキですわね」

(人のコトは言えないけど、フシギちゃんね。
 こっちがヒマとは一言も言ってないけど……
 まあ、そんな風に断るのは大人気ない、か)

実際、べつに忙しい訳でもない。
ほとんど余暇の時間に近い。

であれば――遊びに付き合うのも、また一善。

「良いでしょ、質問をさせてもらっても?
 そういうルールでしたワね、この遊戯は」

             「……」

    ス…

口元に手を添えて、黙考する。

「まず、『お話の舞台は2018年6月のS県でも成り立つ』?
 要は異世界とか、異文化とか、戦時下とかではなく、
 私達が生きている今日、それが起きてもおかしくないか」

「これが『創作世界』の話じゃないのは分かってるけれど、
 念のため、ですワ。走り回った末の灯台下暗しは悲しいもの」

とはいえ前提を埋めるのが先だ、と気づくのはすぐだった。
あとで脳内で起きた出来事でした、なんて言われても、困るので。

459『ニュー・エクリプス』:2018/06/09(土) 22:35:07
>>458

>『お話の舞台は2018年6月のS県でも成り立つ』?

ムーさん「YES。まず、世界中の何処で起きていても
ちっとも不思議でも何でもない。この問題の舞台は
大昔でも起きてるだろうし、何十年もの未来でも普通に起きてるだろうね
季節は特に関係ないし……」

エッ子「お(/・ω・)/ なになに!? 何か面白い話!?」

「私たちも混ぜるっスー!」

ムーさん「んー……この問題、二人も前にやったからな。
あぁ、それじゃあ。今から、回答するメイドさんの質問に
二人も答えられる権利を与えようか」


 質問できる人数が増えた。陽気な二人は、どうやら以前も
このウミガメスープ問題を、した事があるらしい。

460タタラ『インスタント・カルマ』:2018/06/09(土) 22:58:01
>>459

(持ちネタみたいなもんなのね。
 という事は、回答者の素性は関係ない)

ウミガメのスープは『脳内当て』と紙一重。
特に初対面の相手であれば警戒は必要だ。
一つ一つ、可能性は潰していく。

そうすればおのずと、答えは見えてくる。

「――そうですか、では次の質問を。
 『集まった群衆の感情はポジティブな物である』?」

渦巻く目の焦点が彷徨う事をやめていた。
射貫くべき謎を見つけた気がしたからだ。
まあ別に探偵とかではないので、気分の話だが。
 
「ああ、『喜怒哀楽』の『喜楽』をポジティブと定義しますワ。
 悲鳴も、涙も、物を投げるのも、『嬉しい時』もする事でしょう」

           「そう。結婚式、とか――ね。
            それとも、大スターの花道歩きかしらん」

黄色い悲鳴。うれし泣き。ライスシャワーや、衝動の余りの投擲。
感情は一色ではない。相反する感情の者が入り乱れる場と考えてもいいか。

いずれにせよ――――この答えにはそれなりの『善』を感じるわけだ。

461『ニュー・エクリプス』:2018/06/10(日) 19:30:05
>>460

>『集まった群衆の感情はポジティブな物である』?

「YES。群衆の感情は全体的に明るいものだ……」

ムーさんは、そう回答すると共にタタラの言葉に僅かに眉をあげる。

それは『結婚式』のワードを聞いてだった。

「――正解だ。そう、結婚式
教会。神の家から出て来た二人を待ち受けてたのは親族と友人。
 花婿と花嫁の同僚や同級生に友人は黄色い悲鳴をあげて、親族の
何人かは泣き出し、そして彼らを祝うために紙吹雪とライスシャワーを投げた。
……ある程度まえに、私の親戚の式に参加して思い付いた問題だったんだ」

エッ子「その割には、何だか顔を顰めてない(´・ω・`)?」

ムーさん「ブーケトスに巻き込まれて、もみくちゃにされたのか苦痛だった……」

彼女は、少し遠い眼をしつつ語る。
 ムーさんの、ウミガメのスープは終わる。それに反応したのは
悪の首領と、おやつ幹部だった。

エッ子「ふっふっ! (`・ω・´) 
ムーさんの問題には、この前してやられたからね! 次は私たちの問題だ!」

「そう! モーニングマウンテンと幹部の問題っスー!」

続けて悪の首領と、幹部がウミガメのスープを出すらしい。
 呆れた声で、ムーさんは呟く。

ムーさん「……ちゃんとした問題なんだろうな?」

モーニングマウンテン「モーマンタイっス! ちゃんとしたウミガメスープっス!」

自信満々の悪の首領に代わり、エッ子は前に出ると不敵な笑みで告げた。


エッ子「では、この前に実際私たちが起こした出来事だ!
 私たちは、学校の私のクラスで沢山の人をきりつけたんだ!
大体は、血の色に染まって。それに真っ青になったり、死人みたいに
真っ白になった人もいたよ! 次の日は全員ちゃんと登校したけどね!」

モーニングマウンテン「そして、続いて自分達は
私のクラスでも、同じ事をしようと思ったんスけど。
とあるふかーい事情により、断念する事になったんス!
 さぁ、こっからが問題の要っス!
ずばり、自分達の犯した事は何だっス!?」


ムーさん「……ふぬ?」

 高等部エッ子と、中等部の朝山はウミガメのスープを繰り出す!
ムーさんは、本当に初めて聞く問題らしく首を捻ってる。
 二人に一人ずつ質問が出来そうだ。

462タタラ『インスタント・カルマ』:2018/06/10(日) 21:04:55
>>461

「お気に召す回答だったかしらん。
 こういう頭の使い方は久しぶりだったから、
 中々楽しい時間を過ごせましたワ。ありがとう」

「……」

(これじゃ、ボランティア部じゃなくてクイズ部ね。
 ま、ここで断るのも可哀想だし付き合いましょうか。
 ゴミは逃げない。今日の分はもう拾ったと考えてもいいし)

(ある意味辻クイズに応じるのも善行よね)

一瞬ゴミ拾いに割く時間を危惧したが、
そこまで忙しいわけでもない。付き合おう。
ゴミばかり拾うのは善行とはいえ多少気が滅入るし。

「――マア、貴女達も問題を。
 それはステキですわ、聞きましょう」

高度と自認する作り笑いを浮かべる。
そして、静かに最後まで問題を聴き終える。

「――とても物騒というか、罪深げな問題ですワね。
 一応確認しておくけれど……首領様は今、中等部で?
 そちらの――ええ、おやつ幹部様は高等部だと、思うのだけれど」

口元に指先を当て、小さく首をかしげる。
クラス、という単語が出た以上学年が関係する可能性はある。

「今の確認が正しい、という前提で聞きますワ。
 『貴女達が"きった"ことで、その人達は流血した』?」
 
「例えばもし人体を斬ったにせよ――髪を切ったら血は出ない。
 けれど真っ赤になって怒る人も、蒼白になる人もいるでしょうものね。
 とは言え、そんな非道い事はしていないのでしょうけれど……ね?」

もちろん髪を突然切って回るような奇行は想像し難いし、
そんな事をされれば次の日は休む人がいてもおかしくない。

なので、これが答えとは考えていない。あくまで質問その1だ。

463『ニュー・エクリプス』:2018/06/10(日) 21:22:51
>>462

>首領様は今、中等部で?

「そうっスよ! このモーニングマウンテンは
中学二年っス!!」

「私は、高校二年だー!」

 元気に首領と、おやつの幹部は声をあげる。

>"きった"ことで、その人達は流血した?

エッ子「うんうーん! 全然そんな事ないよー!」

朝山「怪我は全員してないっス!」
 
 この回答で、二人のおこなった事が誰かに怪我をさせるような
ものでない事はわかった。ムーさんは暫く考えこんでいたが
合点がいった様子で聞く。

 ムーさん「この前、この前……あぁ、もしかして
あの手抜きの事か?」

 エッ子「あっ! ムーさん解ったんなら黙っててー!」

ムーさん「はいはい……と言うか、きった……か。
…………あぁ、でも間違っちゃいないか」

 ムーさんは、どうやら正解を思いついたようだ。

464タタラ『インスタント・カルマ』:2018/06/10(日) 22:43:40
>>463

「年の離れた友情、というのは素晴らしいですワね。
 そして、そう、そうね――中々難しい問題のようで。
 きりつけた、という言い回しには意味がありそうだけど」

「アラ、先を越されてしまいました。
 流石、というべきかしら、
 それともそういうのはお世辞に感じる?」

          「本心から言ってますワよ」
 
    フ

(きりつける、って言い方には恣意がある。
 同音異義か、言い換えかは分からないけど、
 『ムーさん』の反応からして『私にもわかる』範囲)

(切り付ける、霧つける、切る、着る……)

「そうですね、では、次の質問を。
 『血の色、真っ青、真っ白というのは比喩?』」

「実際にスプレーを吹き付けたとか、そういう話なのかどうかですワ」

色をわざわざ並べたことには意味があるのだろうか?
単なる言葉の飾りなら、それはそれでノイズを省けたことにもなる。

465『ニュー・エクリプス』:2018/06/10(日) 23:13:56
>>464

>『血の色、真っ青、真っ白というのは比喩?』

 エッ子「いや! 比喩ではないねっ。
ちゃーんと、その人、その人でそうなったよ!」

>スプレーを吹き付けたとか、そういう話なのか

 朝山「スプレーではないっス! それに、スプレーだと
きったっ、と言うのは可笑しな言い方になっちゃうっスからね」

ムーさん「人それぞれだと思うけどねぇ」

 人 を、そう言う色に染めた。
スプレーではない。
 
 今の質問でこれだけはわかった。

466タタラ『インスタント・カルマ』:2018/06/11(月) 00:17:09
>>465

「…………なるほど。
 では次の質問ですワ」

流血はしていない。
比喩表現としての色でもない。
塗料を吹き付けたわけでもない。
つまり『どこから色が来たのか』。

「『きりつけたのは人間である』?
 人間の一部、というのも含めますワ」

(学年によっては出来ない……
 そこのところが分からない。
 重要な情報か、ノイズの一種なのかも。
 清月よね、この子達。校則関係かしらん?)

ひとまず、情報の精度を上げる事にした。
この手のクイズは本来質問を重ねるのが前提。
1問目をスピード解決できて、柄にもなく焦っていたか。

(一つ一つ積み上げる、という意味では善行と同じ。
 欲をかいても糸が切れるだけね。……さて、この次は?)

467『ニュー・エクリプス』:2018/06/11(月) 09:00:23
>>466

>『きりつけたのは人間である』?

 エッ子「そうだよー!
もう、バッサバッサの大立ち回りで、きったのさ!」

朝山「そうっス! 人だけをきってるんっス!」

堂々と言い切る二人に、長身のムーさんは呆れた声で口を挟む。

ムーさん「だからって、何で人だけだったんだ。
 まぁ、私たち抜いて12人も相手するのは面倒だけどさ」

 そう、気になる発言を彼女は行った……。

12人……何故、そんな限定的なのだろう?

468タタラ『インスタント・カルマ』:2018/06/11(月) 22:58:13
>>467

「…………ふむ」

(12人? なんか意味があるのかしら。
 クラス全員じゃなくて、12人。
 ……『半数』か、『3分の1』くらいよね)

(清月なんて大きい学校だし3分の1が妥当かしら。
 とはいえ、『全体に占める割合』に意味があるかどうか)

「スマートなやり方ではないけど、
 思いついた事を言わせていただきますワ。
 『きりつけるのに刃物は使った』?」

答えに直接繋がる要素を見いだせていない。
どこまで質問が許されるのかは分からないが、
彼女らの気が済むまでなら、付き合わせて貰おう。

(あえて人数比で考えるなら『性別』?
 私達抜いてってことは彼女らも……
 本来含まれるカテゴリの可能性は高い)

(そうだとして、『きりつける』の正体が分からない。
 きる、じゃなくて『きりつける』なのが……何かありそうだけど)

469『ニュー・エクリプス』:2018/06/11(月) 23:47:17
>>468


エッ子「うんうーん! 刃物はつかってないよー!」

答えは、NOだ。当たり前の話だが、学校で刃物を
振り回すような事があれば、それは大きな事件だ。

朝山「フッフッフッ! (`・ω・´)
手こずってる様子っスね! やはり悪の首領と幹部の
コラボレーションは、まさに大いなる悪なんっス」

調子にのる悪の首領に、ムーさんは呆れる。

「……思うんだが、この問題文も少々意地が悪いんだよ。
きりつけたじゃ、殆どわからん人が多い。
 きり、つけたって言えば未だわかるだろうけど」

エッ子「えー? でも、それじゃあ直ぐわかっちゃうよ〜」

ムーさん「わからんわからん。大体、きりつけたが
ダジャレ見たいじゃないか」

 そんな問答を、ムーさんとエッ子は行った……。

470タタラ『インスタント・カルマ』:2018/06/12(火) 01:05:53
>>469

「ええ、手こずらされておりますワ。
 流石は悪の組織、でしょうか。
 貴女たちが悪だくみをしたら、
 私にそれは解き明かせないのか・も」

            フ

(まあ、そういう事をする子達でもなさそうだけど。
 『きり』『つけた』……ダジャレ? 想定外ね。
 ウミガメのスープでもあり言葉遊びでもあるの?)

(……そうなると、今の考えは一旦捨てた方が良いかしらん)

マジメというわけではないが、
与えられた情報そのままを考えていた。
素直に答えさせてくれるものでもない、か。

「まだ、質問を許していただけるかしら?」

(――きった、のは人。きりつけた、と聞いたのに、
 この子たちの答えは『人だけをきった』というものだった。
 じゃあつけたのは? いや、言葉のアヤかもしれないけれど)

「もし許していただけるのなら、
 こんな質問はいかがでしょうか。
 『きりつけるために、何か道具を用いた?』」

(それに高等部で出来て、中等部ではできない。
 人間にかかわる事なら、体格か年齢か、
 あるいは持ち込めない、持ち出せない物があるか。
 校則やら制服の種類なら私には答えられない。
 あとは授業の種類なんかもそうね……
 校舎の位置やら、先生の性格なんかも分からない。
 一旦、答えられないパターンは想定から外しましょう)

(そのうえで浮かぶ推論を質問で確かめる――これが善手のはず)

471『ニュー・エクリプス』:2018/06/12(火) 09:51:55
>>470

>きりつけるために、何か道具を用いた?

エッ子「YESだー! 当然だけど、道具がないと出来ないもーん」

朝山「因みに、自分はその道具を持ってないんス」

彼女達の答えはイエスだ。そして、中等部の悪の首領は
その道具を持ってないらしい。

ムーさんは、指を掲げて軽く指を横に振る仕草をする。

ムーさん「君(朝山)には、まだ早い。
……そちらのメイドさんは、当然所持してるだろうけど」

朝山「むむっ(`・ω・´) 馬鹿にしないで欲しいっス!
ただ悪の首領は必要性をあんまり感じないので持たないだけっス!!
それと、その仕草はヒントになっちゃうから止めるっス!!!」

ムーさん「自分で言ってちゃあ、世話ないだろ……」

三人はワイワイと騒いでいる。

472タタラ『インスタント・カルマ』:2018/06/12(火) 14:21:52
>>471

(化粧品――なら、中等部でも持つ子は持つわよね。
 高等部でも校則を考えて持ち込まない子はいるでしょうし)

(でも、ほかに何かある? 話し振り的にもそれっぽいし。
 ……『きり』の意味はよく分からないわけだけれど)

「では、次の質問を。
 ……『きりつけたのは人間の顔?』」

(ま、言うだけ言ってみましょうか)

確信は持てないが、可能性はある。

清月では高等部以上が化粧を許可されてるのかもしれない。
彼女らが校則を重んじるのかは謎だが、教師の目もあるだろう。

(私も持ってる、って辺り学校の物じゃないでしょうし。
 お面を被ってれば唇を塗っても意味はないものね)

473『ペイズリー・ハウス』:2018/06/12(火) 15:49:12
>>472

>きりつけたのは人間の顔?

エッ子「ふふーん! 違うんだなー、これが!
もう一回言うよー!
 私は『人』はきりつけたんだ!」

 そう、指を立ててエッ子は得意気に告げた。

不思議な事に、彼女は人間でなく『人』である事だけ
強調している……それは大きなヒントなのかも。

朝山「ムーさんは、あんまりしないっスよねぇ」

ムーさん「面倒くさいからな。付き合いなら
そりゃあするけど……する暇があるなら何か
別の事に時間使いたい」

エッ子「そんなんじゃー、モテないよー」

 新情報も追加だ。
ソレは、ムーさんは余りやらないらしい……。

474タタラ『インスタント・カルマ』:2018/06/12(火) 23:50:06
>>473

「…………『人』を」

(はっきり言って答えが見えない。
 化粧か、美容関係なのは分かる。
 私にその分野の知識が無い訳でもないのに)

(『人』を『きり』『つける』)

「駄目ですワね、どうにも頭が固くて。
 総当たりのようなやり方になってしまうわ」

「醜いようでしたら『降参』しますが」

遊びのクイズだ。
満足されるまでは付き合うが、
クイズの主旨に反する手段は歓迎されまい。

「次の質問は、こうしましょう。
 『貴女方の罪は化粧に関係する?』」

(そうでなければ……スマホとか?
 シャッターを切って加工するって話なら、
 曲解すれば無いって事もないでしょうけど)

(中学生がまだ早いって事もないでしょう。
 そう主張する人もいるでしょうけど、
 私はそうは思わないし。だって便利だもの)

475『ニュー・エクリプス』:2018/06/13(水) 10:21:10
>>474

エッ子「(*'▽') へへーん! かなり悩んでるね!
やっぱり、この問題考えて良かったねー」

朝山「(`・ω・´) くっくっ、自分の悪さに
思わず身震いするっスよ」

二人で騒ぐ幹部と首領を尻目に、ムーさんは少し呆れつつ口を挟む。

「化粧道具に関しては『YES』だよ……ちょっとオサライしようか」

「二人がやってた事の場所は高等部のクラス。
エッ子が先頭して、化粧道具を用いてやった。
 そして、12名ていどの……人、だけに対して
それを行った。そして、中等部でも同じ事を
しようとしたけど結局中断する事にした」

 軽くムーさんは片手を掲げる。
それが、大きなヒントだとばかりに。

「難しく考える必要はないと思うよ
省略してるだけで、答えは一応言ってるから」

476タタラ『インスタント・カルマ』:2018/06/13(水) 17:28:57
>>475

「ええ、悩んでおりますとも。
 ――おさらい、ですか。
 ぜひお願いいたしますワ」

片手を掲げるようなしぐさ。
先ほども似たような事をしていた。
手を横に振る動きだったか――
それにしても、『人』を強調してくるが。

(答えは言っている――『人』の前の間がそれでしょうけど)

(『人間』と『人』の何が違うのかしらん。
 哲学的な領域の話じゃないんでしょうし、
 人形とか、そういうの? 人じゃないわよね。
 生きた人間だけを『人間』と呼んでる、
 なんていうのは有り得なくもなさそうかしら)

(・・・人間の中のカテゴリとは考えたくないわね)

「でしたら、この質問はどうでしょう。
 『“人”というのは生きている人間ではない』」

「どうにも、私には人間と人との違いが分からず。
 難しく考えすぎなのかしらね、ドツボにハマる気分ですワ」

477『ニュー・エクリプス』:2018/06/13(水) 22:16:47
>>476

>人 というのは生きている人間ではない?

エッ子「イエス!」 朝山「ノーっス!」

『・・・・・・(´・ω・`)あれ?』

 この答えに対し、二人は同時に異なる答えを出した。
顔を見合わせる幹部と首領にムーさんは告げる。

「イエスでありノーと言うか・・・・・・
まぁ、ほぼ答えになっちゃうが、『人』の指すのは
『人間の部位』だな。だから生きてる人間っちゃあ
人間だし、生きてないといえば生きてない」

「・・・・・・で、だ。人間の体の部位で
『人』が頭文字につくもので連想するものって
言えば・・・・・・大体わかるね?」
 
 ムーさんは、再度強調するように指を掲げた。

478タタラ『インスタント・カルマ』:2018/06/13(水) 23:14:35
>>477

「――――ああ。
 『指』……『ネイル』ですか?
 なるほど、それは盲点でしたワ」

        フ

「あるいはまだ辿り着けていないのかも。
 だとすれば、私には正答出来ないでしょうし」

笑みを浮かべる。
メイドらしい、熟練した笑みを。

「よければ事のあらましを。
 私にも教えてくださいますか?
 それが回答にもなるでしょう」

(『人』――と言われると困るけれど、
 そう無理のある問題でもなかった、か。
 もちろん、ネイルが間違いかもしれないけど)

(どうして中等部では出来なかったのかは、
 まあ、多分、そういう校則でもあるんでしょうね)

479『ニュー・エクリプス』:2018/06/14(木) 20:20:18
>>478(お付き合い有難うございました。この辺で〆ます)

>『指』……『ネイル』ですか?

エッ子「……デン デンデンデデンン♫」

 彼女は、大袈裟にドラムロールを口ずさむ。

朝山「せーーーいーーーかーーーいっス!」

    バンッ!!  シャキーンッッ!!

そして、悪の首領は華麗なポージングと共に告げた……正解だ。

 私たちは、学校の私のクラスで沢山の人をきりつけたんだ!
 大体は、血の色に染まって。それに真っ青になったり、死人みたいに
 真っ白になった人もいたよ! 次の日は全員ちゃんと登校したけどね

 上記の問題文の回答は、こうだ……。

エッ子「先々週ぐらいにねー! 自信作のネイルアートが出来たんだー!
見たい? じゃーん、これが私の究極のアートだーー!」

 ゴミ拾いの軍手を脱いで、素手の爪に輝くのは……『桐(きり)』
桐の花のアートが、『人』差し指だけの爪表面に輝いている。

『桐』のアートを……爪に『つけた』 きりつけた……成程 ダジャレだ。

エッ子「今月一番ってぐらいの力作でねー! 見せたらクラスの
皆が、私にも描いてーってお願いするから。全部の指は無理だから
私と同じようにー描き『きった』のさ! 途中で赤色のが
無くなったから、他の色で代用したけどね!」

朝山「自分も、それを見てクラスの皆にしてあげようって思ったっスけど。
中等部は結構さいきん校則が厳しいんっス。
 一本だけの指でも、あんまり先生が良い顔しないから諦めたっス。
そう思うと、高校生は良いっスよねー」

ムーさん「風紀上、高学年につれて大体黙認するものが増えるけど。
中学生で、ネイルは少々派手に思われるだろうからなー」

 ネイルアート……お洒落が趣味の女の子が
クラスの半数、女子生徒へと行った出来事が彼女達の大きな悪事
であったと言うのが真相だったようだ。


?「ムーさん、エッ子、サッちゃん こっちー?」

エッ子「お! のりが戻って来た。じゃあ、大体この辺の
ゴミ拾いも終わりと言う事だー! 移動するぞー!」

朝山「星見街道のゴミを、根こそぎ消し去ってくれるっスー!!」

ムーさん「熱意だけは悪の貫禄だな。
……それじゃあ」

 『また(な)ねー(っス)!!!』
 
 意気揚々と彼女たちは去る。別れ際に連絡先なども
スマホがあれば交換したかも知れない。
 されど、彼女達の悪の進撃は。どこぞの空の下で今後も
賑やかに続くのだろう。

480小鍛治明『ショットガン・レボルーション』:2018/06/19(火) 23:08:06
雨が降っている。
ジメジメとした嫌な感覚が街中に広がっていく。

小鍛治明は傘を持たない。
いつでもその体で雨を受け続ける。

「……」

雨の降る街を黒髪の女性が歩いている。

481志田忠志『イヴ・オブ・サルヴェイション』:2018/06/26(火) 00:00:02
>>480

「――ん?」

雨が降る中を歩いていて、その姿を見かけた。
幸い、僕は傘を持っている。
もし彼女が困っているとすれば、この傘を渡せば、それは人助けになる。
人助けは好きだ。
だが、その前に少し考える。

(傘がなくて困ってる……って感じでもないな)

(……少し様子を見るか)

もし彼女が傘がなくて困っていないとすれば、
この傘を渡すことは逆に迷惑になるかもしれない。
それでは人助けにはならない。
それは困る。
たまたま進む方向は同じだった。
だから、とりあえずこのまま歩き続けることにした。

482小鍛治明『ショットガン・レボルーション』:2018/06/26(火) 00:51:16
>>481

彼女は真っ黒な格好をしていた。
長袖の上着から少しだけ見える白い服と彼女の白い肌でコントラストを生み出していた。
烏の濡れ羽色の髪が雨に濡れて艶やかだ。
鬱陶しそうな様子もなく髪をかきあげ耳にかけた。
それからスマートフォンを取り出し耳に当てる。

「久しぶりね。えぇ、私は元気よ」

「今日はいい天気ね……雨は好きよ」

「そう……わかったわ。それじゃあまた、後でね?」

短い通話を終える。
スマートフォンが濡れることも気にしない。
小鍛治明が歩いていく。

「それで、貴方は一体何かしら?」

突然明が立ち止まってそう言った。

483志田忠志『イヴ・オブ・サルヴェイション』:2018/06/26(火) 01:16:15
>>482

「え?ああ、いや――」

いきなり問われたことに驚き、面食らった。
それとなく気にしてはいたが、あからさまに見てはいなかった筈だ。
勘が鋭いのか、それとも当てずっぽうか。

「ちょっと珍しいなと思ってね。
 ほら、こんな日は大体みんな傘を使ってるから」

「傘を持ってない人は先を急いでるか、雨が止むのを待ってる」

「君みたいに、傘を持ってないのに平然と雨の中を歩いている人は、
 あまり見ないからね」

「気に障ったんなら謝るよ」

目に濃い隈のある若い男が答える。
雰囲気は温厚だが、やつれた顔をした不健康そうな男だ。
もう何日も眠っていない――そんな感じだった。

484小鍛治明『ショットガン・レボルーション』:2018/06/27(水) 00:19:55
>>483

「別に障ったことはないわ」

薄く微笑む。
鋭い目付きが少し和らいだ。

「私は雨が好きなのよ」

「服が体に張り付く感覚も好きだし、この気温も好きよ」

「なにより、天の恵みですものね」

485志田忠志『イヴ・オブ・サルヴェイション』:2018/06/27(水) 00:55:52
>>484

「君みたいな人は初めて見たよ」

「雨が降ってると、嫌な顔をする人が多いからさ」

雨が降る中、こちらだけが傘を使っていることに、
何とも言えない居心地の悪さを感じていた。
雨が好きだと言っているのだから、
何も気にすることはないのかもしれないが、やはり気にはなる。
だから、彼女が笑ってくれたことで少し安堵する気持ちがあった。

「天の恵み、か……」

その言葉に呼応するように、空を仰ぎ見る。
雨は降り続いている。
流れ落ちた雫が、傘を伝って零れ落ちていく。

「雨を嫌う人は多いけど、雨が降らないと作物も育たない。
 作物が育たないと、僕達も生きていられない」

「雨に助けられてるってことを忘れてるのかもしれないね。
 僕自身も含めて」

「君のお陰で、そのことを思い出せたよ」

そう言って、差していた傘を下ろして畳んだ。
灰色がかった髪に、雨粒が降り注ぐ。
畳んだ傘を片手に持ったまま、雨に打たれる。

「僕も、ちょっと体験してみることにするよ」

「君に倣ってね」

486小鍛治明『ショットガン・レボルーション』:2018/06/27(水) 01:39:53
>>485

「そうね、私にはあまり理解できる感情ではないけれど」

雨を嫌う人の心が分からない。
多分、向こうからも自分の事は分からないだろう。
そういうものだった。

「別に私に倣うのもいいとは思うけれど、風邪をひくわよ」

自分はまるで風邪を絶対に引かないという自信があるようだった。

「そういえば、貴方は誰かしら。私は小鍛治明。小さく鍛えて治めれば明るいで小鍛治明」

487志田忠志『イヴ・オブ・サルヴェイション』:2018/06/27(水) 02:09:06
>>486

「風邪を引くのは嫌だなぁ。
 熱が出たら苦しまなきゃいけなくなる」

「そう考えると、僕には向いてないのかもしれないな。
 慣れないことはするもんじゃあないね」

「本当のことを言うと、この傘を君に渡そうと思ってたんだ。
 でも、君には必要ないみたいだね」

「ただ折角だし、少しの間こうして雨を感じてみることにするよ。
 個人的な自己満足さ」

傘を渡すことは彼女を助けることにならない。
では、一緒に雨に打たれるというのはどうか。
何の気なしに思いついたことを実行してみたのだ。

「僕は志田――志田忠志。志すに田んぼ、そして忠実な志」

「小鍛冶さん、君は風邪を引いたことがないのかい?
 自分は風邪を引かないような口振りだけど。
 そうだとしたら凄いな」

湿った空気とは反対に、乾いた声で問い掛ける。

488小鍛治明『ショットガン・レボルーション』:2018/06/27(水) 23:26:37
>>487

「そう、志田さんね。お気遣いありがとう」

軽く頭を下げる。
ぺったりした髪が重々しく動いて、彼女の顔にかかった。

「風邪、そうね。ここ数年ではそんな経験してないわ」

明がそう返した。

489志田忠志『イヴ・オブ・サルヴェイション』:2018/06/27(水) 23:57:36
>>488

「丈夫なんだな、君は」

「僕はダメなんだ。不眠症でさ。
 見れば分かると思うけど」

「雨の日は、いつもこうして歩いてるのかい?
 それで風邪を引かないんだから羨ましいな」

湿った頭を軽く掻く。
雨に濡れた肌を冷たく感じる。
やはり、自分には向いてないようだ。

「――僕は近くに住んでるんだけど、小鍛冶さんは違うのかな」

「いや、深い意味はないんだ。この辺にはよく来るからね」

「もし今みたいに雨の中を歩いてる姿を見かけたら、
 今日と同じように目についただろうなと思ってさ」

490小鍛治明『ショットガン・レボルーション』:2018/06/28(木) 00:40:47
>>489

「基本的に傘は持ちあるからないから、濡れてることが多いわね」

顔についた髪をかきあげた。
鋭い目付きのその目の端を雨の雫が流れ落ちる。

「私はこの街に住んでいるわ」

「私はどこにでもいるし、どこにだって行けるわ」

491志田忠志『イヴ・オブ・サルヴェイション』:2018/06/28(木) 01:07:29
>>490

「どこにでもいてどこにでも行ける、か」

「良い言葉だ。僕がそう思っただけなんだけどね」

片手に持った傘を広げ、頭の上に持ち上げる。

「そろそろ風邪を引きそうだから、僕はここまでにしておくよ。
 あんまり向いてないみたいだ」

「慣れないことはするもんじゃないね」

その女性の鋭い目を見ながら、軽く笑った。

「同じ街に住んでるんだから、
 またどこかで出くわすこともあるかもしれないね」

「君の姿は、結構目立つ方だと思うからさ。
 特に、こんな雨の降る日はね」

「さっき小耳に挟んだけど、この後で何か予定があるんだったね?
 あんまり引き止めちゃ悪いし、僕はそろそろ行くよ」

声を掛けてから、傘を差して歩き出す。

「それじゃ小鍛冶さん、良い雨を」

雨に濡れる女性に別れを告げ、その場から立ち去っていく。
立ち去った後も、彼女の姿が頭に残っている。

(……不思議な人だったな)

そして、この出会いも、また不思議なものだと思った。

492小鍛治明『ショットガン・レボルーション』:2018/06/28(木) 01:54:23
>>491

「いい言葉? そう、ありがとう」

「私からすればひとつの事実ですけれど」

こともなげにそう返した。
そうして明は志田が行くのを静かに見届ける。
引き止める理由もないのだから。

「……」

空を見上げる。
まだまだ重たい雲は動きそうにない。
もっと雨は降るだろう。
そんな天気に薄く微笑んだ。

「待っていてね。すぐに行くわ」

493稲崎充希『ショッカー・イン・グルームタウン』:2018/07/26(木) 19:41:31
ジジジジ…

「煙草吸う為に、こんな炎天下の中表に出されるとはねぇ。
世知辛ェ世の中だよ全く。アッツ…」

暑さのせいかそれとも生来のものなのか、
虚ろな目をした長身の女が、
真横に灰皿が備え付けられたベンチに腰掛け、
何をするわけでもなしタバコを吸いながら雑踏を眺めてる。

494稲崎充希『ショッカー・イン・グルームタウン』:2018/07/26(木) 22:27:28
>>493
そのまま去って行った

495桐谷研吾『一般人』:2018/07/31(火) 22:49:48

「いくら今が夏とはいえ……。
 ここ数日の酷暑は少々しんどいな……」

夏用の制服を着た若い警官が、表通りを歩いている。
見る限りでは、巡回中のようだ。
眩しそうに手を顔の前に翳し、額に浮いた汗を拭い取って、
自動販売機の前に立つ。

      ピッ
         ガシャンッ

購入した水を一気に飲み干し、木陰のベンチに腰を下ろす。
そして、街を行き交う人々に視線を向けた。
この気温とあって、流石に歩いている人の数は少ない。

(この中にも――『いる』のだろうか……)

一見したところ、ごく普通の人間にしか見えない人々――。
その中に、超常的な力を持つ者が紛れているのだろうか。
あれから新たな手掛かりは掴めていない。
相変わらず、全くの手探り状態だ。
『超能力』――その言葉だけが、
『謎の答え』を知るための唯一の糸口と言っていいだろう。

「『超能力』――か……」

考え事の最中に、思わず『独り言』を口にする。
近くに誰かがいれば、それが聞こえたとしてもおかしくはない。
『脳が過熱している』と取られかねない台詞だが、
『力を持つ者』であればピンと来るだろう。

496斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』:2018/08/08(水) 22:30:28
>>495

――街を行き交う人々の内に、1人
 コーヒー店の紙袋を片手に、貴方の近くを通り過ぎようとした少年が
 独り言を呟いたと同時にピタリと歩みを止めて振り返る

(――……『警官』?)
(オカルトからは程遠い職業だと思ったが……この町で『超能力』と聞く場合は)
(私的に関わり合いにはなりたくない人種だが、そう考えてられないか)

首に赤いスカーフを巻いた黒いジャケット姿の少年は
乾いた足音を、熱気で歪むアスファルトに打ち付けながら貴方に近づき
およそ2Mの時点で立ち止まった、素肌には汗一つかいておらず
見つめる眼差しには氷が入ったような印象を受けるだろう

(『近距離型』ならこの射程ギリギリか…殴られても届かないか、パワー不足で済む)


「そこの、暑そうにベンチに座る警官さん」
「座ったままでいい、あんたに一つ、質問したい事が有る」

僅かに息苦しさを滲ませながら、開いた口から聞こえる声は
冷えるような声色で貴方の耳に届く

       「――『見えているか』?」

(ま、相手が解らなくても、『俺』が変人扱いで済む話だ)

497桐谷研吾『一般人』:2018/08/09(木) 19:44:27
>>496

「――……」

少年に気付いていないかのように無言でペットボトルを傾け、
渇いた喉に水を流し込む。
そして、下ろしたボトル越しに少年の姿を目視した。
手元の水を思わせる悠然たる静かさで、
少年が発した言葉の意味について思考を巡らせる。

(ごく自然に考えると……今の『見えるか?』という質問は、
 僕の『独り言』を受けてのものだろう)

(つまり、
 『普通の人間には見えないものが見えるか?』と聞いているわけだ……)

(しかし、僕には――それが『見えない』)

僕が『それ』に関して知っていることは多くはない。
分かっているのは、『それ』が『超能力』のようなものであり、
普通の人間には見えないらしいということだけだった。
それ以外の手掛かりは、全く皆無の状態だ。
だからこそ、『知る必要がある』。
いや――『知らなければならない』。

「――あぁ、すまないね……。
 恥ずかしい話だけど、ついボンヤリしてしまっていたみたいだ。
 さては、この熱気でやられたかな?」

間を隔てるボトルを退けると、軽く頭を抑えて少年と向き合う。
内心の考えを表には出さず、暑さのせいで気付くのが遅れた振りをする。
もっとも、暑さに参っているのは本当なので、
そこは演技半分本気半分というところだ。

「でも――お陰で、今の意識は明瞭だよ」

「――『見えている』。『ハッキリとね』」

まるで今の天気について話すような、
さも『当たり前じゃあないか』という口調で、力強く断言する。
これは勘だが、おそらく彼は何か『探り』を入れてきたのだろう。
僕には、まだ警官としての経験は浅い。
ただ自慢じゃないが、
警察学校時代は『直観力は悪くない』という評価を貰っていた。
あちらが探りを入れるのなら、こちらはそれを『逆手に取る』ことにしよう。

498斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』:2018/08/09(木) 22:36:41
>>497

(これが、普通の人間なら一生に伏す問だろうが……)
(スタンド使いでいいらしいな、この警官)

 「――……そうか」
 「そうか……」


(だが……だが、今一つだけ……何を『ハッキリと』見えてる?)
(俺は『スタンド』を展開していない)
(『スタンド使い』でも『展開されていないスタンド』は見えない)
(『スタンド使いだと想定した、スタンドを出していない相手からの質問の答えとしては妙だ』)

僅かに思案するように俯き、貴方の瞳を覗き込む少年の全身に
足元から鎖が巻き付いていく、一定間隔で続く足踏みからはメトロノームのような印象を受ける

(……何の根拠もない勘だが、この警官、行動と言動がチグハグだ
 本来なら、会う確率も相当に少ない使い手同士、もし警官と言う職業でこの街を見て回るなら
 全てではなく一部を知っている……つまり)

足踏みが止まり、周囲の雑踏から生まれる騒音が、水を引いたように聞こえるほどの冷たさで
少年の口から失望と諦念交じりの言葉が放たれる

(『なりたてのスタンド使い』もしくは
 スタンドと言う単語を知らないが、起された事実から何か超能力のようだとアタリをつけている)

 「つまり、貴方は『見えてもいない』し、ハッキリと『知っている』わけでもないわけだな」

(『逆に、探りを入れてきている』というのも飛躍している発想ではないな……
 確信には未だ弱いが、彼の次の行動でそれは解る)

「外したみたいだ、帰る」

そう告げると、彼は踵を返して雑踏に紛れ込もうとするだろう。

499桐谷研吾『一般人』:2018/08/10(金) 01:15:21
>>498

「ああ、よく見えているよ」

「――この太陽の下の『君の姿』はね」

最初から、『何が見えているか』は言っていない。
それは彼も同じだ。
だからこそ、この質問が『探りらしい』と察しがついた。
そして、対象が明確でないからこそ、後からどうとでも言える。
これが探りを入れる行為である以上、その点は元より織り込み済みだ。

(そして今の反応で分かったことは、
 彼は『手掛かりを握る者』だということだ。
 やはり、この『街の中』に、この『人々の中』に、
 『力を持つ者』は潜んでいる)

『鎖』は見えていない。
よって、そちらに注意を向けることもない。
だが、彼の表情と言動を見ていれば、
彼が『そうである』ことは容易に想像がつく。

「ははは、正解だよ。慣れないことはするものじゃあないね。
 ガッカリさせて悪かった。いや、申し訳ない」

「――では、『熱中症』に気を付けて」

呆気ない程にアッサリと自分の素性を明かし、
立ち去ろうとする少年に声を掛ける。
その途中で、右手の人差し指をピッと立ててみせた。
もう片方の手で、曲がった帽子の角度を直す。

「今、思い出した。
 一つ聞きそびれたことがあるんだけど、いいかな?」

「さっきは僕が君の質問に答えた。
 礼儀の押し付けをするわけじゃあないけど、良ければ、
 今度は僕の質問に答えて欲しいんだ。
 『この暑い中、これ以上警官なんて面倒な人種に関わりたくない』
 っていうのじゃあなければね」

まだ二十歳そこそこの若い警官。
その顔立ちや表情は好青年といった印象を持っている。
少年の冷たい眼差しとは対照的と呼んで差し支えない。

「――『ある人』を探してるんだ。
 かなり『特徴のある外見』だったから、
 君が見かけたことがあるかどうかを聞きたくてね。
 
「ああ、そういえば『年も』君と同じくらいだったな」

『外した』という言葉と、いかにも失望したような態度。
それらの要素から、彼は『力を持つ者』を探していると推察できる。
つまり、背景や形は違えど、目的自体は僕と同様だと言える。
ハズレを引いたとあっては、
自分が彼の立場でも同じようにガッカリしただろう。
この質問を彼に振った理由は、大体そんなところだ。

500斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』:2018/08/10(金) 01:42:03
>>499

帰ろうとする足を止め少年が独り言のように、しかし貴方に届く様にハッキリと呟く

「――『3回』だ」
「馬鹿にせず話を聞いた事、願ったとおりに椅子に座ったまま返答した事、礼節を持って俺の相手をした事」

背を向けた少年は立てた指を折りながら振り向き
貴方に再びその瞳を向ける、夏風に赤いスカーフを僅かに震わせながら

「面倒なのは認める、嘘をつかれたのも気にくわない、が、自分に応じて『3回』だけ質問に答える」
「罪悪感や後悔は精神の瑕だ、成長ではない、それを俺の心に残すのは許さない」

(ま、事情も知らないのだから、仕方ない、仕方ない
 憎むべき仇だが、憎悪というのは消耗品だ、無駄遣いする時でもない)

「散歩で出てくるのも久方ぶりだったんだが……」

「――最初の一つは『尋ね人』でいいのか?
 その『特徴』だと知らないとしか答えないぞ、警官(カラス)さん」

極めて無表情に、蒸気で歪むアスファルト上に立ちながら、膨大な見えない鎖を巻き付けた彼は貴方に問いかけている。

501桐谷研吾『一般人』:2018/08/10(金) 02:19:17
>>500

「――なるほど、『三つ』だね。ご協力に感謝するよ」

身も蓋もない表現をすれば、『餌』のつもりだった。
彼は、『力を持つ者』を探しているようだ。
そして、僕も『力を持つ者』を探している。
もし、その事実を彼が悟ったとすれば、
僕の言う『ある人物』と『力ある者』の二つを、
結び付けて考えるのではないかと予想したのだ。
だからこそ、
この『情報』に食い付いてくれれば有り難いと思っていたのだが……。

(『予想外』だけど『想定以上』――。
 どうやら、僕が思っていた以上に『出来た』人物だったようだ)

「じゃあ、まず一つ目いいかい?
 僕は、まだ『特徴』については何も言っていないよ」

「『白い長髪で赤い目を持つ黒いワンピースを着た少女』
 を見かけたことがないか教えてもらいたい。
 しばらく前に、『歓楽街』の路地裏で少し話したんだ。
 『超能力』に関する話題についてね」

実際のところ、これは聞かなくてもよかった。
これはむしろ、質問に応じてくれた少年に対する『謝礼』のようなものだ。
どう受け取ろうが少年の自由だが『情報提供』と呼んでも間違いではない。

「それから、二つ目……この『超能力』の『概要』をご教授願いたい」

『鎖』は見えていない。
少年の前にいる警官にも。
少年の周囲を歩く人間達にも。

502斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』:2018/08/10(金) 20:39:02
>>501

「――少し待て」

少年が僅かに俯き、記憶の底を漁りだす

(白髪、赤目、黒い服、女性……『スタンド使い』だというなら恐らく、展望台の彼女、『幸運を呼ぶ女』
 ……恐らく、言わなかったな、巻き込まないためかは知らないが)

少年が自らの記憶の探索から戻り
ゆっくりと顔を上げると、その瞳でしっかと貴方の顔を見、口を開く

「まず、『一つ目』に回答しよう」 

    「『俺』は知らない」

(悪いが、彼女と俺とでは思考回路が違う…他人だ)

「だが、恐らく知り合いだろう 会った事もある」
「彼女の事については話さない、あんたの質問は『知っているか』だけだからな」
「これで『一つ目』」

少年が喋り終え、指の一つを折る
顔の表情は変わらず、淡々と冷たい声で喉を震わす

(彼女には……悪い事をするな)

僅かな沈黙の後、二本目の指を指し示して貴方に告げる

「二つ目を再確認しよう」
「『概要』、概ね、様々な物事を、全体を大まかに表現するのに都合のいい言葉……」

「だからこう言う、それは『力』だ、超能力だのという名前は単なる上っ面に過ぎない」
「『引力』『傍に立つ』『立ち向かう』『物理法則を無視する、人の精神の具現』」

「……そして『力を持つ』という事は、『敵を作り増やす』という事」
「求めれば、あんたには『敵』が増えることになる、純然たる事実として、な」

……注意深く観察すれば、僅かに少年の声色に好奇の色が混じる事が解るだ

(――だから教えた、『自分の手を汚さず、死んでもらう為に教えた』……最も、俺が言わずとも
 この警官が、『真実に到達しようとする意志』を持ち続けていたら、遅かれ早かれ、死ぬには違いないが)

(喋ってしまったのは義理立てって所か…遠いな)

「――必要以上に喋ったが、これで『二つ目』
 最後の『三つ目』を聞こう、それが『ルール』、答えたら、俺は帰る
 それで、あんたとは最後だ、恐らく二度と会わない」

――少年は無機質な表情を崩さぬままに、貴方の質問を待っている。

503桐谷研吾『一般人』:2018/08/10(金) 22:30:41
>>502

第二の質問の答えを聞いて、納得したように小さく頷く。
それがどんなものであれ、情報は情報だ。
知識がない僕にとっては、有益ではある。
特に、『精神』という部分に引っかかりを覚えた。
どうやら、その力は『精神』に由来するものらしい。

(『精神』――『精神』か……)

そう考えると、別の疑問も出てくる。
『精神』というのは、何も人間だけが持ち得るものとは限らない。
たとえば犬とか猫とか、『動物も力を持ち得る』という解釈も可能だ。

「『曖昧な質問』には『曖昧な答え』しか帰ってこない。
 さっき君も同じことをやっていたね。覚えているかい?」

「君は『見えているか?』と聞き、僕は『見えている』と答えた。
 確かそうだったね。あの時、君も『要点』を言わなかったろう?
 それは単なる『偶然』かな?」

「『曖昧な質問』には『曖昧な答え』しか帰ってこない。
 これは良い教訓になるね」

この『時間稼ぎ』の意味は、少年を観察することにある。、
あの『白い髪の少女』とこの少年には、一つの『共通点』が見受けられる。
といっても、姿形が似ているという意味ではない。

話しぶりや態度から滲み出る雰囲気に、どこか近いものを感じるのだ。
たとえるなら、『奇妙な自信』と呼んでもいいだろう。
もしかすると、
それは『力を持っているという事実』から来ているのかもしれない。

ベテランの刑事の中には、初対面の相手を見ただけで、
『堅気かそうでないか』を見分けることができる者がいる。
それが可能なのは、
『その世界の人間』に『特有の雰囲気』を感じ取っているからなのだ。
僕はベテランとは言えないが、
今確かに少女と少年に共通する雰囲気を感じ取っている。

「それじゃあ、『三つ目』を言わせてもらうよ」

腕時計を一瞥する。
そろそろ交番に戻って先輩と交代しなければならない。
遅れると面倒なことになりそうだ。

「傍らに立つ――さっき、そう言ったね。
 君と同種の『力を持つ人間』を教えてくれないかな。
 『連絡先』や『住所』が分かっている人に限定してね。
 つまり、僕が会える人間を教えて欲しいんだ」

たった三つの質問で何もかも全て聞けるとは最初から考えていなかった。
そして、彼から聞けないのなら、彼以外の誰かから聞けばいい。
この少年との接触は到達地点ではない。
あくまでも『きっかけ』であり、いわば『糸の端』に過ぎない。
糸を手繰った『先』で、僕の求める『真実』を見出す。

504斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』:2018/08/10(金) 23:08:54
>>503

最後の質問を聞き、少年は
思案する素振りすら見せず、夏の空を一瞥してから貴方に向き直る
表情のない顔に、氷のような声を舌に載せて口を開く

「……もったいぶった割には、意味のない質問だったな」
「三つ目に答えよう」



「――……『言えない』」

――少年の瞳が僅かに煌めく
見えない全身の鎖を、崩れ落ちるように消し去りながら

「理由は」

「アンタが言ってる事は
『俺の知ってる限りの知人に、服、脱ぎ捨ててまっぱだかになれ』……って言うのと同じだ
 しかも、『信頼も信用できない赤の他人の言葉』で、そこまで身を切る必要は俺には無い」

(…しかしこの警官、直感と洞察力、観察力には優れていた……生き残るか?
 見えない時点で『素養』は無い、が、予想外と言うのは人生において常に発生し続ける物だしな……
 後は、どうか、俺の為に、俺の見えないところで死んでくれと願うくらいか。)

「これで、全部、答えたな…罪悪感もなくなった
 宣言通り、帰らせて貰う(……時間だ)」

言い終われば踵を返して、雑踏の中に紛れ込む
彼の首に巻かれた赤いスカーフも、まるで最初からいなかったかのように、人々の中に消えるだろう
そして帰路に向けての歩みの中で、手首に巻かれた、古い腕時計の螺子を回す

(――……ん、あれ……? そうだ、僕、コーヒー店の帰りで……早く帰らなくっちゃあな
 お祖母ちゃん、心配してないと良いのだけど。)

505小石川文子『スーサイド・ライフ』:2018/09/27(木) 00:31:45

初秋の大通り――その一角に佇む『美術館』で、
『絵画の展覧会』が開催されていた。
プロやアマチュアを問わず誰でも自由に参加できるという催しであり、
数多くの作品が館内に展示されている。
それらの中に、一枚の『油絵』が飾られていた。

  「――……」

額縁の中では、『白いウエディングドレス』を着た女が微笑んでいる。
絵の前に立っているのは、『黒い喪服』を着た陰のある女だ。
心なしか二人の顔立ちや背格好は、よく似ているようだった――。

506小鍛治明『ショットガン・レボルーション』:2018/10/01(月) 23:21:00
>>505

カツカツと靴が鳴らしながら人が近づいてくる。
黒い髪を持ち、黒い服を着ている少女だ。
ふと、白いウエディングドレスの絵の前で立ち止まった。

「……」

静かに絵を眺め、それから視線を小石川に向ける。
特に何を思っているとか、そういう情報が読み取れない瞳で。

507小石川文子『スーサイド・ライフ』:2018/10/02(火) 00:37:42
>>506

意識の大半は、目の前に飾られている絵の方に向けられていた。
そのせいで、誰かが近付いてくるのに気付くのが遅れた。
ややあって隣の少女に視線を向ける。

   ――……?

その姿を、どこかで見たような覚えがあった。
一体どこだっただろうか。
少し考えて、少女の名前を思い出す。

  「あの……失礼ですが――小鍛冶さん……ですか?」

  「私は小石川……小石川文子です」

  「――覚えておいででしょうか……?」

軽く頭を下げ、改めて自分の名前を名乗る。
美術館には、それなりの人がいるようだ。
ただ、今の時点で『白い女の絵』の前に立っているのは二人だけだった。

508小鍛治明『ショットガン・レボルーション』:2018/10/02(火) 01:17:50
>>507

「えぇ、私は小鍛治明」

「そういうあなたは小石川さん」

礼と言葉を返す。

「前に会ったのは確か、ハロウィンの時期だったかしら」

結構経つのかそれともそうでもないのか。
詳しくはよく思い出せないが。

「今日は絵を見に……来たんですよね?」

「この絵が気に入っていらして?」

509小石川文子『スーサイド・ライフ』:2018/10/02(火) 01:49:31
>>508

  「はい――私も、そのように覚えています……」

そう言ってから、再び絵に視線を向ける
絵を見つめる瞳の中には、複雑な色があった。
それから、また少女の方を見やる。

  「この絵は……ええ、そうですね……。おっしゃる通りです」

小さく頷いて、口元に静かな微笑を浮かべる。
それは、絵の中の女と同じ表情だ。
しかし、両者の雰囲気は異なっていた。

  「……これは、私の夫が描いた絵なのですが……」

  「この催しがあることを聞いて、他の方にも観ていただければと思い、
   こうして展示させていただいているのです」

  「――彼も喜んでくれるのではと……私は、そう思っています……」

510小鍛治明『ショットガン・レボルーション』:2018/10/02(火) 02:05:43
>>509

黒い髪を彼女の手の甲が弾く。
鋭い視線を絵に向け、それから小石川に戻す。
見比べる。
似ているが、違う。
そういう印象を得た。

「いい絵ですよ。ご結婚の際のものかしら」

「貴方の旦那様は画家の方?」

そう言って止まる。
手が口元に伸びて、唇に緩く握った拳の白い指が触れる。
思案、といった感じの表情だった。

「……ごめんなさい。この話は、続けていいのか分からないのだけれど」

「よろしくて?」

喪服と何かを繋げたらしい。

511小石川文子『スーサイド・ライフ』:2018/10/02(火) 02:38:42
>>510

  「――ありがとうございます……」

自分にとっては、こうして観てもらえるだけでも十分ありがたい。
それだけでなく、いい絵だと言ってもらえたことが素直に嬉しかった。
その気持ちを示すために、深いお辞儀と共に感謝の言葉を返す。

  「これは……私がドレスを試着した際のスケッチを元にして描いたものです」

当時のことを思い出しながら話す。
あれは結婚する直前のことで、その時の自分はとても幸せだった。
絵の中の自分を見ていると、まるで昨日のことのように思い出が蘇ってくる。

  「……はい、彼は絵を描くことを仕事にしていました。
   こうした油絵だけではなく、他にも色々な分野の絵を描いていましたが……」

  「この絵は一度も発表する機会がなかったもので……これを選びました」

言葉を続けながら、少女の仕草が視界に入る。
次に、その表情を見つめた。
それから、穏やかに微笑んだ。

  「ええ――どうぞ……」

512小鍛治明『ショットガン・レボルーション』:2018/10/02(火) 22:40:22
>>511

「はっきりと言ってしまうのだけれど」

「その方は亡くなられた、と解釈してもよろしいかしら」

揺らがない瞳。
変わらない声色。
刺々しくはないが鋭い言葉の色がにじむ。
すっぱりと言葉にした。

「それで貴方は今も喪に服していると。私は考えているわ」

513小石川文子『スーサイド・ライフ』:2018/10/02(火) 23:49:54
>>512

少女の真っ直ぐな視線を受け、軽く目を伏せる。
しかし、それは僅かな間のことだった。
一瞬の後には、また少女を見つめ返す。

  「……その通りです」

  「結婚して間もなく……彼は……」

無意識の内に、左手が右手に触れる。
左手の指先が、右手の薬指に嵌められている銀の指輪を撫でた。
それは、左手の薬指に見える指輪と対になっているものだ。

  「……それから、長い時間が経ちました」

  「ですが……私は、これからも喪に服し続けるつもりでいます」

普通は、一定の期間を過ぎれば、喪は明ける。
けれど、私の喪は明けることがない。
今までも、これから先も、生きている限り続いていく。

  「それが、彼に対する私からの手向けになると信じていますから……」

もしかすると、それは愚かな考えなのかもしれない。
そうだとしても、止めようという気持ちはなかった。
いつまでも想い続けることが、彼に対して自分ができることなのだから。

514小鍛治明『ショットガン・レボルーション』:2018/10/03(水) 00:27:08
>>513

「そう」

視線を切った。
一歩絵に近づく。
絵を見つめ、息を吐く。
いま目の前にあるものの持つ意味と、それに繋がる人間。
点と点。
繋がっているのか繋がっていないのか。

「貴方は素敵な人ね」

ぽつりとそう呟いた。
それは小石川に向けられたものだったのだろうか。
目も合わせずに言葉が零れている。

「思わぬ場所で思わぬ作品と出会って」

「人の思わぬ場所を知ったわね」

515小石川文子『スーサイド・ライフ』:2018/10/03(水) 01:16:41
>>514

  「――……」

何も言わず、絵に視線を向ける少女の背中を見つめる。
自分と同じ黒い装いの少女。
その色が意味するものは何なのだろうか。

  「私も、思わぬ場所で思わぬ方と出会えました……」

今日、こうして再会したのは、きっと偶然なのだろう。
だけど、もしかしたら何かの縁があったせいかもしれない。
ふと、そんな考えが心の中に思い浮かんだ。

  「そして……思わぬ言葉をいただきました」

一歩足を進め、再び少女の隣に並び立つ。
その視線は、少女と同じように絵の方に向けられていた。
壁に飾られている額縁を隔てて、絵の中にいる過去の自分と、
今ここに立つ現在の自分が向かい合う。

  「小鍛冶さん……」

  「この絵の前で足を止めてくださったことに、心から感謝します」

  「彼に代わって、改めてお礼を言わせてください」

  「本当に……ありがとうございます……」

真摯な思いを込めた言葉の後で、深々と頭を下げる。
先ほど口にした謝辞は、自分の気持ちを示すためのものだった。
これは、絵を描いた彼の言葉を代弁したものだ。

516小鍛治明『ショットガン・レボルーション』:2018/10/03(水) 01:43:41
>>515

「そう。でも、感謝をされる筋合いというのはないわ」

「いいものを見て、いいと言うのは当然のことよ」

髪を触る指。
黒い髪に白い指が潜り込んでいる。

「それじゃあ私はそろそろ行かせてもらうわ」

「用がある作品があるの。えぇ、この絵には及ばないものだけれど」

(私の作品が、ね)

517葉鳥 穂風『ヴァンパイア・エヴリウェア』:2018/12/25(火) 17:29:02

何か用事があったというわけでもなく、なんとなく町を歩いていた。
なんとなく町を歩く。小雨が髪を濡らす。良い気分だ。
            パタ
         
「…………」

           《お嬢様、じきに本降りになりましょう。
            今の内にお纏い下さいませ》

「また……勝手に出てくる……」

ただでさえその赤い髪と目、大きな黒いリボンは目立つのに、
その傍らには『蝙蝠傘』を人型に組み直したような異形の『従者』。

           《『雨具』の本懐です故、どうぞお赦しを》

「……目立つから、そこ、入るよ」

本降りの雨の中を闊歩するのも気分は良い。
気分は良いが……風邪を引くのは、いやだ。

従者の勧めに素直に従うのは少し癪だが、
屋根のある路地裏に入り込み彼の能力を使う事にする。

・・・ただでさえ目立つ格好が、そんな目立つ事をしているわけだ。

518美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/12/25(火) 22:51:39
>>517

「出掛けた矢先に降られちゃうとは、我ながらツイてないわねぇ」

思わずグチを零したくなるが、それで雨が止んでくれる訳もない。
仕方なく、ひとまず屋根のある場所に入る事にする。
そこで――――『吸血鬼』を思わせる少女と、奇怪なスタンドに遭遇した。

「………………」

その時、チラリと見てしまった。
見たというより、たまたま視界に入ってしまったという方が正しいかもしれない。
とにかく、その光景を目撃してしまったって事になる。

(自分で喋るスタンド――『コール・イット・ラヴ』と似てるわね)

自然公園で出くわした少女のスタンドを思い出す。
あの『コール・イット・ラヴ』と名乗ったスタンドは、
自分の意思を持っているようだった。
この『蝙蝠傘』のスタンドも、きっとそうなんだろうと思う。

(さて、どうしようかしら)

私は向こうのスタンドを見た。
その視線には気付かれただろう。
黙ったままというのは何となく居心地が悪いし、
かといってスタンド使いである事を指摘するというのも違う気がする

        ――シュンッ

ラフなアメカジファッションの女の肩に、『機械仕掛けの小鳥』が止まる。
ちょっとした挨拶のようなものだが、どう受け取られるかまでは分からない。
もちろん、この何処か『吸血鬼』を連想させる佇まいの少女が、
まさか『本物』ではないだろうと判断した上での行動ではあったが。

519葉鳥 穂風『ヴァンパイア・エヴリウェア』:2018/12/25(火) 23:04:08
>>518

「……」

「……? 『エヴリウェア』?」
 
              ≪――――お嬢様。面目御座いません。
                お言葉通り、『目立って』しまったようで≫

「!」

       バッ

振り返った。美作と、目が合った。

吸血鬼――――というには、
愛嬌ある顔だちの少女だった。   
冷たい美貌とはまるで違う。

だが、どこか異様――――『非現実』の風ではある。

「…………」

(どう、しよう。あれ、スタンド……だけど、
 私のを見て、びっくりして出しただけ……かも)

       (……悪い人、じゃなさそう) 

              ≪万一も御座います、故に。
                ――――警戒失礼致します、ご婦人。
                そしてお嬢様、遅ればせながら『お纏い』下さい≫

                主の考えには同意する。
                悪意は感じない、ゆえに謝罪のあと、
                あくまで念のためその身を主に委ねる。

「……ん」

            『ベキバキッ』

      『ミシ』  『ボギ』     『パタパタパタ』

そして何より異様なのは、その『従者』が『変形』し、
骨と皮膜で構成された赤黒の『レインコート』として少女に纏われたこと!

「……あのっ、ええと。その。
 …………こんにちは! 見えてます、か?」

                 「その、すみません。……驚かせちゃって」

520美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/12/25(火) 23:36:35
>>519

「…………わぉ」

スタンドに生じた変化を目の当たりにし、小さな呟きが漏れた。
少女が言うように、『驚いた』というのが正直な感想だ。
『蝙蝠傘』と『レインコート』――共通点は『雨具』だろうか。

「ううん、いいのよ。私は全然気にしてないから」

「こっちこそ変な事しちゃってゴメンなさい。何かしようって訳じゃなかったんだけど」

「そこの『エヴリウェア』さんを見たもんだから、つい。ホントにゴメンね」

     アハハハ

開いた両手を軽く上げて、申し訳なさそうに笑う。
ちょっと軽率だったかもしれない。
でも、本当に危険な相手なら、こんな場所で目立つ行動は取らないだろうし。

(というより――――日頃から警戒が必要なのは私の方かもね)

自身のスタンドを考え、ひそかに胸中で思う。
『プラン9』の専門は『情報』だ。
純粋な力や速さを一切持っておらず、
あぶらとり紙の一枚さえ持ち運ぶ事ができないのだから。

「ね、『プラン9』」

『小鳥』に語りかけるが、当然答えは返ってこない。
肩の『小鳥』は囀る事もなく、ただ黙って佇んでいる。
遠目から見ると、アクセサリーか何かに見えるかもしれない。

521葉鳥 穂風『ヴァンパイア・エヴリウェア』:2018/12/25(火) 23:59:30
>>520

「いえ、その、私も大丈夫、です。
 こっちが、先に出しちゃってた、ので」

       モゴ

「その……こっちが悪い、です。……」

         チラ

             ≪ご無礼をお詫び申し上げます、
               早計が過ぎました、ご婦人。
               それに――――『プラン9』殿≫

「……もう」

やはり『半自立』のスタンド。
本体とは違う気持ちを持ち、動き回る影。

        サ
             ア 
                 ア   ・ ・ ・

小雨をBGMに、穂風は肩の鳥に視線を向けた。

「『プラン9』さん、って、言うんです……ね。
 その、『鳥さん』……スタンド、なんですよね?」

             ≪同輩の気配を感じます故≫

(そんな気配とかあるのかな……)

鳥のスタンド。穂風のスタンドも異形だが、
人型ではないスタンドは比率的には『珍しい』のかもしれない。

「えへ、でも……なんだか、かわいい感じ……ですね」

ただ、穂風にはスタンドだからとかではなく、
肩に乗る鳥、というのが珍しく、愛い物に思えた。

        (……ペット、とか。ちょっと憧れる……けど。
          でも、かわいいだけじゃない、よね。きっと)

自分のが口うるさくておせっかい焼きなだけじゃないように、だ。

522美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/12/26(水) 00:34:48
>>521

「じゃあ、『おあいこ』って事にしときましょうか。それで、この問題は解決よ」

自分の意思を持ち、言葉を話し、行動するスタンド。
やはり、『マスキングテープのスタンド』と同じだ。
当然ながら、その性格には違いが見られるのだが。

「ええ、そうよ。僭越ながら『ご同輩』ね」

「褒めてもらってありがとう。可愛いでしょう?私も気に入ってるの」

「でも、『エヴリウェア』さんもイケてるわよ。何ていうか風情がある佇まいよね。
 あなたとのコーディネートも上手くできてると思うわ」

少女と『従者』を交互に見比べる。
スタンドは本体の精神の発露。
この少女がどんな人物かは知らないが、何処となく似合っているような気がする。

「それに、お話もできるみたいだし。
 前にも一度、そんなスタンドを見かけた事があるのよ。
 私の『プラン9』はお喋りしてくれないから、ちょっと羨ましいかな」

目の前のやり取りを見ていると、実際は苦労もあるかもしれない。
ただ、自分が持たないものでもある。
ボディに『マイク』と『スピーカー』を備えた小鳥――
『プラン9』は無口であり、『従者』とは対照的だ。

「私は美作っていうの。美作くるみ」

「スタンドの自己紹介をした訳だし、せっかくだから名乗っておくわね」

まだ雨は止まないし、名前が分かった方が話はしやすい。
そう思って、名前を名乗った。
静かに佇み続ける『プラン9』は、外見と同じく機械的な雰囲気があった。

523葉鳥 穂風『ヴァンパイア・エヴリウェア』:2018/12/26(水) 01:05:50
>>522

「あ、はいっ。それでお願い、します」
 
       ペコリ

丸く収まったようで安堵する。

         ≪お褒め頂き、光栄の至り。
           お嬢様を着飾るのも、
           『雨具』としての勤めですゆえ≫

「……そうです、か?」

(見た目は、まあ、嫌じゃない、けど。
 ……性格もべつに、嫌って訳じゃないけど)  

胸を張るようなしぐさを見せる従者を、
なんとも複雑な表情で見やる穂風。

「皆さん、その、言ってくれます。
 お喋りできるの、うらやましいって」

「……私は、その鳥さんみたいに、
 その……静かでかわいいのも、羨ましいです」

            ≪……≫

「あ、う……別に、うるさいのが、
 …………嫌とかじゃ、ない……から」

            ≪ええ、存じておりますとも。
              ご信頼をいただいている以上、
              いえ、仮に頂かずとも――――
              私めは常に『従者』に御座います≫

             煙たく思われても、忠言はいつか主の為になる。
             主も、それを何処かでは理解してくれている。

「……そ、う」

穂風と従者の関係は一言で表しづらいものだ。
信頼はある。かけがえのない存在でもある。
それはそれとして、なんとなく煙たい時もある・・・

             ハトリ ホフリ
「あ、ええと、その。『葉鳥 穂風』と、いいます」

             ≪改めまして――――お嬢様の従者にして、
               『雨具』にして、スタンドで御座います。
               私めの名は、『ヴァンパイア・エヴリウェア』≫

                        ≪――――お見知りおきを≫

524美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/12/26(水) 01:35:28
>>523

「葉鳥さん、改めてこんにちは」

「そして、『ヴァンパイア・エヴリウェア』――――ね」

「やっぱりイカしてるわね。その名前も覚えておくわ」

その名前も、少女には似合っているような気がした。
少女に対して、吸血鬼っぽい風体などとは流石に言えないが。
それでも、精神の象徴なだけあって、相応しいという感じはする。

「それなら、私もちゃんと紹介しておかないとね」

「『プラン9・チャンネル7』よ。この子の代わりに、私の口から言っておくわね」

肩の『小鳥』に視線を向ける。
もう一人の自分であり、小さなパートナー。
厳密には喋る事もできなくはないが、挨拶はできない。

「この名前も気に入ってるのよね。私にピッタリだから」

「私、ラジオの仕事やってるの。いわゆるラジオパーソナリティーってヤツ」

「『Electric Canary Garden』って番組でね。私が色々お喋りする小さな『箱庭』よ」

525葉鳥 穂風『ヴァンパイア・エヴリウェア』:2018/12/26(水) 02:18:07
>>524

「はいっ、こんにちは……くるみ、さん」

         ≪それはそれは、
          身に余る光栄に御座います。
          美作様、そして――――
          『プラン9・チャンネル7』様≫

               ペコォーーーッ

礼節正しく頭を下げる従者と、
笑みを浮かべ、挨拶を返す主。

「ラジオ、ですか……!」

ラジオは知っている。
昔から聞いていたし、
『外』に憧れた理由の一つだ。

もっとも、美作の番組は知らないけれど。

「すごい、です……ラジオの、喋る人、なんて。
 とってもすごい……人、なんですね。美作さん」

            キラキラ

それでも憧れの視線を向ける。
なりたい!と言う憧れというより、
有名人に会うというのが穂風には新鮮だ。

「その、ええと。何をしゃべってるん、ですか……いつも。
 ええと、例えば……ううん、その、音楽の事……とか、ですか?」

526美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/12/26(水) 02:54:52
>>525

「アハハハ――その言葉は嬉しいけど、そんなにスゴい事もないわよ?」

羨望の視線を向けられて、笑いながら軽く片手を振ってみせた。
ここまで言われる事は少ないので、やや照れもある。

「私は、まぁ『それなり』だから。順位としては、そこそこって感じね」

まぁまぁの人気はある――と、自分は思ってる。
昔ほどではないけど。
それでも、支持してくれる人がいるのは決して悪い事じゃない。

「私が喋るのは――『楽しい事』かしら。
 流す音楽の事や、新しいお店の事や、普段のちょっとした話なんかね」
 
「聴く人が楽しい気持ちになれるような話題を提供してるってところよ」

「私の話を聴いて、少しでも皆に楽しんでもらう事が、私の目標だから」

かつては歌で、今ではトークで、それを目指す。
フィールドは変わっても、そこは変わらない部分だ。

「葉鳥さんは、ラジオは好きかしら?」

「私は好きよ――って、これは当たり前だけど、ね」

527葉鳥 穂風『ヴァンパイア・エヴリウェア』:2018/12/26(水) 04:00:54
>>526

「順位……順位が、あるんですね。
 知らなかったです、その……
 でも、どんな順位でも、あの、
 ラジオで話してるのが、すごいなって」

       モゴモゴ

「私、その、あまり話し上手でなくて。
 ラジオ聴いてると、皆さん、凄く上手で。
 お仕事だから、そういうものなのかも、
 その……しれない、ですけど。でも」

時折もごもごと言葉を濁しつつ、
穂風は己の語彙を動員して、よく話す。

「楽しい事――――ですか」

          ≪バラエティーと言った所、ですかな。
            私めも詳しい訳では御座いませんが≫

(私よりは、詳しいけど……)

「は、はいっ、好き、です。
 最近はあまり……聞けてない、ですけど」

学校に通っているから。
昔は通ってなかったから、夜長に楽しめる娯楽だった。
何を想って、与えられていた娯楽だったのかは、
今となっては――――穂風には定かではないが。

「でも、好きです。あの……『想像』出来る、から」

         「お話とか、音楽とか、聴いて。
          それがどんなに楽しいか、って」

                 「考えて、もっと……楽しめる、から」

後見人が出来てから、今風の娯楽もいろいろ知った。
スマートフォンも持ってるし、動画サイトなんてのも知っている。

けど、ラジオはそれとは別のチャンネルで、楽しい事を届けてくれる。

528美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/12/26(水) 14:35:26
>>527

「ああ、ハッキリしたランキングみたいなものがある訳じゃないのよ。
 順位っていうのは言葉のアヤってヤツでね。
 人気があるかどうかっていうのは順位に近いかもしれないけど」

「言い方が紛らわしくって悪かったわ。
 つい普段のノリで喋っちゃって。
 要するに、私の人気は『まぁまぁ』くらいだから、
 そんなにスゴくないって事が言いたかったの」

こういったタイプとはあまり接した経験がなかったために、
少しだけ戸惑いがあった。
何というか、ピュアというのだろうか。
表現しにくいが、一般的な人と比べて世俗的な匂いが薄いような気がする。

「そうね……『バラエティー』っていうのは中々いい言葉だと思うわ。
 よく分かってらっしゃるじゃない」

軽く頷いて、『ヴァンパイア・エヴリウェア』に同意を示す。
そして、穂風の話を静かに聴きながら、僅かに目を細める。

(やっぱり不思議な感じがする子ね)

彼女の生まれ育った環境がどんなものであったか。
当然それは知る由もない。
それでも、やはり普通とは違った雰囲気がある事は察せられた。

「『想像』――――ね」

「その言葉、他のパーソナリティーにも伝えておくわ。
 きっと喜ぶと思うから」

「現に、今私が喜んでるんだもの。素敵な言葉をありがとう」

       ニコリ

化粧っ気のある顔に、明るく気さくな笑みを浮かべる。
こういう時が、ラジオの仕事をしていて良かったと思う瞬間だ。
もしアイドルを続けていたとしたら――知る事はなかったかもしれない。

529葉鳥 穂風『ヴァンパイア・エヴリウェア』:2018/12/26(水) 21:44:50
>>528

「あっ、そ、そうなんですね。
 すみません、その、早とちりで」

(美作さんで、スゴくないなら、
 スゴい人ってどんななんだろう。
 こ、こっちが言う前に、分かったりするとか……?)

穂風は知らないことが多い。
いろいろな事を知れるのは美点だが、
なんとなく話がかみ合わない事もある。

          ≪本日は良くお褒め頂きますな。
            私めには、身に余る光栄で御座います≫

「……調子、乗らないでね」

          ≪とんでもございません、お嬢様≫

やはり誇らしげな従者に視線を流しつつ、
美作の笑みには、同じく明るい笑みを返す。

      ニコォ〜ッ

「あ、いえ、そんな。えと、こちらこそありがとうございます」

「あの、ラジオ、『エレクトリック……』」

             ≪……≫
                     ボソボソ

「……カナリア・ガーデン』!
 あ、と、ちゃんと、覚えておきます、から。
 またお休みの日とかに、聴いてみます」

             「その、楽しみにしてますっ」

もしかすると、『ファン』というやつが1人増えたのかもしれない。

530美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/12/27(木) 19:41:21
>>529

(何だかんだ言っても、やっぱり良い関係みたいね)

番組名を主人に伝える従者を見て、そう感じた。
そういうのを見てると微笑ましい気分になる。
自分も従者とは言わないが、そういう相手が欲しいと思えてくる。

      …………現在、『募集中』だ。

「ありがと。葉鳥さんが聴いてくれたら、私も嬉しいな」

ファンが増えるのは、何よりも喜ばしい事。
それに関しても、昔と変わらない部分と言えるのかもしれない。

 「あ、そうだ――って、名刺入れ置いてきちゃったか」

   「いや、待てよ……」

      「あ、あったわ……」

         ゴソ ゴソ

スタジャンのポケットを漁るが、目的の物は忘れてきてしまっていた。
途中、ふと思い出して財布を手に取る。
名刺入れを忘れた時のために、財布にも一部入れていたことを思い出したのだ。

「これ、良かったらどうぞ。放送局とか放送時間とか、色々書いてあるから」

鮮やかなグラデーションで彩られた名刺を差し出す。
『Electric Canary Garden』と『パーソナリティー:美作くるみ』の文字が、
細身のシャープなフォントで印刷されている。
片隅に描かれているイラストは、
『電源コード付きの丸みを帯びたデフォルメ調のカナリア』だ。

「この子はイメージキャラクターの『電気カナリア』。私がデザインしたの。
 くるみ共々よろしくね」

イラストを指差して、そう付け加えた。
それから、雨の方に視線を向ける。
話している間に、少しずつ弱まっていたようだった。

531葉鳥 穂風『ヴァンパイア・エヴリウェア』:2018/12/27(木) 21:15:02
>>530

「えへ……あっ。ありがとうございますっ」

           ゴソリ

ポケットに名刺を入れた。
これで番組を間違える事もない。

          ≪――――お嬢様。空を。
            どうやら通り雨だった模様で≫

「そう、みたい……」

「あの、私、そろそろ。
 その、行こうって、思います」

理由はとくにないけれど、
雨の切れ間だったし、
ちょうど話題の切れ間でもあった。

「今日は、ありがとうございました! それでは、また……!」

           ≪お寒い季節です故、御息災を。
             またお会いしましょう、美作様≫

そうして穂風は歩きだし、雨上がりの町へと溶け込んでいく。

532美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/12/27(木) 22:21:09
>>531

   「 『Goodbye』 」

       「 『and』―――― 」

            「 『See you again !!』 」

主人である少女と、精神の片割れの従者を見送る。
雨に降られてツイてないと思ったけど、そうでもなかったみたいだ。
神様も案外、粋な計らいするじゃない。

      キュッ

「さてと――『私達』も行きますか」

肩の上の『小鳥』に小さく声をかけ、キャップを被り直す。
歩き出し、その姿は街の中へ消えていく。

ある雨の降る日の小さな一幕だった――。

533門倉『ソウル・ダンジョン』:2019/01/01(火) 22:32:54

 「………ふゥゥ〜〜〜〜」

栗色のソフトモヒカン、ワインレッドのジャケット、20代半ばの男が、
わざとらしいほどの溜息を繰り返すのは、『駅』近くにある彼の行きつけのファミレス。
年明け早々、派手ともいえる外見に反してなにやら陰気な雰囲気を漂わせていた。

ファミレス自体はそれなりに混雑している。そしてこのファミレスは時折『相席』を求められる事もある。
あるいは近くの席に座っているならば、彼の仰々しい『溜息』は『気になるもの』として感じられるかもしれない。

534斉藤刑次『ブラック・ダイアモンド』:2019/01/02(水) 19:32:34
>>533

    「……何か『悩み事』でもあるんスかァ〜〜?」

      「いやね、“お一人様でゆっくりしたかったのに、
       相席に来たのが『カワイコちゃん』でもねえ『こんなナリ』のヤローだとは思わなかった”
       ……ッつゥのもワカランでは無ェ〜ッスけどォォ〜〜」

向かいあった席からの声。
赤と黒の入り混じった派手めの髪、ドクロのシルバーアクセをゴソゴソつけた、
ひと昔前の「信念持ってバンドやってます!近頃のJポップはクソ」とか言いそうなルックスの青年が
心配そうというか、迷惑そうというか、そんな感じの眼差しで門倉を見つめている。

   「まァ……メシぐれーは楽しく食いましょーよォ…!」

           ピンポーン

     「あ、オネーサン、俺ランチセットで」

535門倉『ソウル・ダンジョン』:2019/01/02(水) 21:16:49
>>534(斉藤)
「そういう悩みもあるにはあるがね………」

向かい合う席のバンドマン(だろう)『斉藤』を一瞥する門倉。
門倉自身もきちんとした社会人の身なりとは到底言いがたいが、
そういうのは棚にあげた視線だ。

「あ、君。俺もその…ランチセットで。飲み物はコーヒーでいい。アイスで。

 そういえばあの店員は今はいないの? ツインテールの。

   ――あ、辞めた。
                                ………そう」

結構前からちょっかいかけていたツインテールの店員も辞めてしまったようだ。
なんだかやけに時が経ってしまったような感覚を覚える門倉だった。

「………そういう君は楽しそうだね。やっぱり悩みなんてないのかい?」

眼前の青年に何の気なしに語りかけてみる。

536斉藤刑次『ブラック・ダイアモンド』:2019/01/02(水) 21:57:15
>>535

 「いやァ〜〜俺こんなッスけど、悩みまくりッスよ」

  「年末特番録画忘れたり、バイトで年下に怒られたり、
   知り合いが軒並み『インフルエンザ』に罹って連絡取れなかったり、
   親父は自営業なんスけど、最近ヒマそーだしよォォ〜〜」

気まずそうに後頭部を掻きながら小市民的な悩みを吐露する。
体が揺れるたびにチャラチャラとアクセサリーがうるさい。

  「おじ……オニーサンもパッと見、
   フツーの会社員ッつーカンジじゃねーケド芸能関連の人ッスか?
   俺、実はバンドやってんスけど、CDとか聴いてみてくんねーッスか?」

『おじさん』と言いかけてやめた青年は、黒い革のバッグからペラペラのCD-Rを取り出そうとしている。
実際の年齢は二人ともさほど変わりないのだろうが、門倉は年上認定されたようだ。

537門倉『ソウル・ダンジョン』:2019/01/02(水) 22:23:58
>>536(斉藤)
「へェ―― タイヘンそうだねェ〜〜〜」

自分から話を振ったにも関わらず、人の悩みにはあまり興味なさそうな返答の『門倉』。
あらかじめ運ばれた冷水にズズイと口をつける。

「いや、芸能関係なんてモノじゃあないよ。ただのふど………」

 何かを思い出したらしくしかめ面をする『門倉』。
   彼の悩みは仕事がらみの事なのかもしれない。

 「………まあなんであれ、せっかくの出会いだ。聴いてみよう。
  といってもさすがに今すぐは無理か。
   聴ける機器なんて今どき持ってはいないだろうからね」

 一応、CD-Rを受け取ろうとする。

538斉藤刑次『ブラック・ダイアモンド』:2019/01/02(水) 22:47:15
>>537
  「ま、仕事以外の悩みも色々ありますしねェ〜〜……
   お気に入りのファミレス店員が辞めちゃったりとか、色々ね」

最初の店員とのやり取りもちゃんと聞いていたようだ。
悪意は無いのだろうがニヤついている。

  「不動産屋ッスか?オニーサン、仕事で悩んでんスか?」

言いかけた部分を取りあえず無遠慮に拾っていく。
CDは、まあ宣伝のつもりでそのまま渡す。あまり意味はない。

539門倉『ソウル・ダンジョン』:2019/01/02(水) 23:07:18
>>538(斉藤)
「………」

 『斉藤』の意味ありげなニヤつきに少しの間、沈黙しつつも

「不動産屋……そう、だったんだがね」

 『斉藤』の問いかけに再び口を開く。

 「ちょっと店がね。
               その………『爆破』してね」

少し前に世間を騒がせた某不動産チェーン店のスプレー破裂事件。
その影に隠れるように『門倉』の不動産屋、『門倉不動産』も何者かによって爆破されていた。
(何となく心あたりがあるような気もするので『門倉』としては犯人捜しをする気はないのだが)
爆破といっても例の事件に比べるとささやかなもので、被害も軽微といえるものだった。
地方ニュースでちょこっとやった程度の事件性で怪我人すら出ていない―――
だがそれでも周辺の店舗への保障、そして何より、自身の店の補修は行わらなければならない。

「まあ、詳細は端折るがその『保障』に追われているというわけなんだ。
             だから稼がないといけない……いけないのだ」

                      ふゥ〜〜〜……

『門倉』は再度溜め息をつく。
そう言いながらもファミレスなんかでノンビリしているのだが。

540斉藤刑次『ブラック・ダイアモンド』:2019/01/02(水) 23:27:32
>>539

  「ばッ……」

    「『爆破』ァァ〜〜ッ!?」

  「そりゃ『大事件』じゃねェーッスかァァ〜〜ッ!!
   こんなトコでのんびりしてる場合じゃねェ〜〜ッスよ!!」

周りの客や店員が一瞬こちらに注目するのも構わず、大きな声で驚く青年。
少々オーバーリアクション気味ではあるが、素の反応なのだろう。
斉藤のような一小市民にとって、そういった出来事はそれこそ『ニュース』の中だけの出来事なのだ。

   店員:「あ、あのォ〜………
       『ランチセット』とアイスコーヒーお持ちしましたァ〜……」

 「あ、スンマセン……!そこ置いといてください」

店員が怪訝そうな顔で配膳に来たのに気づき、声のトーンを落とし気味で受け取る。
門倉の注文も同じタイミングで届いたようだ。

541門倉『ソウル・ダンジョン』:2019/01/02(水) 23:44:56
>>540(斉藤)
「『大事件』―――そうだな、そのとおりだ。普通ならば。
 ただこの町じゃあ『大事件』ってほどじゃあないんじゃあないか?
                    中……いや、『小事件』程度さ。

  もしかしたらあのニュースの爆破も、『能力』の仕業かも―――なんてね」

訳知り顔でよく分からない事を語りだす『門倉』。
あるいは『能力』という言い回しに何かしら感じるものがあるかもしれない。

「おっと、そんなこんなでランチタイムだ。とりあえずは食べようじゃあないか。
 ノンビリしてる場合じゃあないというが、腹は減っては戦は出来ぬというしね」

  話の途中で来たランチに早速手を出そうとする『門倉』。

542斉藤刑次『ブラック・ダイアモンド』:2019/01/02(水) 23:58:43
>>541

  「いやね、最近思うんスけど」   カチャ カチャ

  「オニーサンの言う通り『フツー』に言えば……ッスよ、
   店舗が『爆破』!ッつーたら結構な事件ですよ、フツー」

        「ところで不幸なオニーサンにはコレをあげます」

ランチセットのハンバーグを齧りながら、
そしてセットのプチトマトを門倉の皿に勝手によこしながら、一般人の立場で話をする。

  「それこそ『能力』だとか、そういうのを抜きにすれば―――の話ッスけどォォ〜〜〜……
   ――――――………ん?いまアンタ『能力』ッて言った?」

門倉の風貌から「胡散クセ〜〜〜」ぐらいは思っていたが、
そこまで警戒心を抱いてはいなかった斉藤の箸が一瞬止まる。

543門倉『ソウル・ダンジョン』:2019/01/03(木) 00:12:38
>>542(斉藤)
「君がキライなんじゃあないのかそれは……」

よこされたプチトマトに軽くツッコみながらも、素直に頬張る『門倉』。
プチっと潰れ口から軽く種が出てしまったが、まあ些細な事だ。

「ん……んん、『能力』。
               確かに。確かにそう口にしたが―――」

アイスコーヒーを飲みつつ、『門倉』はじっと『斉藤』を見ている。
不用意な事を言った、というより、その言葉に反応している
『斉藤』に興味を抱いたようだった。

            「何か気になる事でもあるのかい?」

ちょっとズレてはいるものの普通に使う日本語ではある。
ただその言葉に特殊な意味を籠めている人種も居る。

  眼前の男がそれに当てはまる男なのかどうか―――
          ・ ・

544斉藤刑次『ブラック・ダイアモンド』:2019/01/03(木) 00:28:57
>>543

   「『能力』ッてのは、いわゆる―――――――

    ――――――『スタンド能力』ッてヤツですよ!(小声)」

僅かな警戒心が言葉を遅らせようだが、『スタンド』について言及する。
あまり大声で叫ぶようなことでは無いので小声ではあるが、
まあいざとなったら逃げるなりなんなりすれば良い。

門倉の言う通り『爆破事件』なんてのは『スタンド使い』同士が話をする上では
それほど『大事件』というワケでもない、という事を斉藤は知っている。

   「アンタもそうなのか?『刺青』とかそういう類の」

545門倉『ソウル・ダンジョン』:2019/01/03(木) 00:47:55
>>544(斉藤)
「………!」

『斉藤』の言葉に『門倉』は一瞬を見開き、そして黙る。
しかしその仕草は明確に語っていた―――『門倉』が『知っている』という事を。

「驚いたな………しかも、『刺青』の事まで知っているとは。
 得る方法はいろいろあるようだが………そこまで『一緒』なのか」

              グ イ  ン
                             シュウウ……

ほんの一瞬………まるで秘密を分かち合うように
『門倉』の体から半透明の『人型』が現れ、そして消えた。
注視している『斉藤』でなければ見落としてしまうであろう刹那の出来事だ。

「………『見せる』事を嫌う者も居るだろうけどね。
  人生は短いし、出会いは貴重だ。
     語り合える『仲間』が増えるのに越した事はない」

546斉藤刑次『ブラック・ダイアモンド』:2019/01/03(木) 01:08:39
>>545

   「やっぱ『刺青』――――かァァ〜〜〜……
    いやァ、世間は狭いッスねェ〜〜〜〜〜」

                 ズズ    !

特に危険人物では無さそうなので、自身もスタンドを一瞬だけ発現させる。
箸を止めていた斉藤の腕に、やはり半透明の『腕』が現れ、消えた。

  「ま、ヤバそーな相手だったら見せねーッスけどね……」

     「うおッ……や、ヤベ〜〜〜もうこんな時間か……!
      そろそろ俺は行くッス!バイトあるんで」

時計を確認すると斉藤は慌てた様子でランチの残りを頬張って、そそくさと帰り支度を始めた。

    「オニーサンも、その『爆破』とか、何か協力できんなら手伝いますよォォ〜〜〜
     ここで会ったのも何かの縁だし、『仲間』ッつーコトで!」
                                   グッ

別れ際にサムズアップし、特に声をかけられなければそのまま立ち去るつもり(会計は済ませるが)。
ちなみに、斉藤から渡されたCD-Rには一応連絡先らしきものが書いてある。

547門倉『ソウル・ダンジョン』:2019/01/03(木) 01:19:40
>>546(斉藤)
「ほう………」

『斉藤』の『腕』に興味深そうな声をあげる『門倉』。
そして―――

「ああ、もう少し話したかったがバイトならば仕方がないな。
 世の中、稼がないといけない―――」

再び自分の置かれた惨状を思い出したのか、顔が曇る『門倉』。

 「確かに縁、『運命』というものはある。また会える時を楽しみにしているよ」

 そのまま『斉藤』を見送る『門倉』。
  そして去った後は、一人でほんやりとランチを貪ったのだった。

548鈴元 涼『ザ・ギャザリング』:2019/01/04(金) 03:03:48
相も変わらず寒い日が続いていた。
星見駅の近くのベンチに和服の少年が座っている。
若草色の長着と羽織、白い足袋と木の色の雪駄。
黒い癖毛の後ろ髪を平織りのミサンガで結んでいる。
小さな尻尾のようになった髪が、彼の動きに合わせて揺れている。

「……ふぅ」

空に向かって息を吐くと、それは白い煙のようになってあがっていく。
少年はそれをただ静かに眺めていた。
煙草の煙のように薄く細いその白い筋が天に昇って消えるのを見つめている。

「綺麗……」

雲一つない晴天だった。
何ということのない一日である。
代り映えのしない日常を彼の視界が切り取っていた。
空に雲がかかったような表情で見ていた。

549門倉『ソウル・ダンジョン』:2019/01/05(土) 21:05:46
>>548(鈴元)

「……ふゥ〜〜」

まるで『鈴元』のため息に追従するかのように少し離れた場所から溜め息が聞こえた。
『鈴元』がそちらに目をやれば、同じくベンチに座る20代半ばの男が目に入るだろう。

栗色のソフトモヒカンに、ワインレッドのジャケット、マフラーを身に着けた人物。
『門倉良次』―――しばらくぶりに目にする彼は『鈴元』には気づいていないようだ。
何やら考え事をしているのか、散漫な印象を受ける。

550鈴元 涼『ザ・ギャザリング』:2019/01/05(土) 21:47:52
>>549

「ん……」

自分以外の存在を感じて視線を向ける。
あまり見過ぎては失礼だろうからそーっと覗き見るように。
遠慮がちな視線が泳いで男性の姿を捉える。

「あ」

ダメだと思いながらも声が漏れた。
自分はこの男性を知っている。
色々と縁が重なった結果、知っている人物に変わった男性。
もちろん、勝手知ったる仲、ではないが……
それでも全く知らない人という訳でなかった。
何だか心の中でモゾモゾと動くものがある。

(休んではる……ん、よね……)

声をかけていいものか、と思ってしまう。
何か疲れているのかもしれない、仕事の待ち合わせかもしれない。
そんな思考が頭の中に浮かんでいく。
ただ、そんな中でも自分の心に従ってみることにした。

「門倉さん……やんね?」

「なんか、お悩み事でも、ありそんな感じやけど……?」

551門倉『ソウル・ダンジョン』:2019/01/05(土) 22:15:29
>>550(鈴元)
「………ん?」

『鈴元』の呼びかけに『門倉』は首をかしげる。
残念ながらというべきか、思い出すのに時間がかかっているようだ。

「あ―――ああ、その恰好と言葉遣い………
 君はアレだ。
             ……す………」

必死こいて『す』まではなんとか出てきたらしいが、それ以上はけして進めない様子だった。

「―――ステキな男だね。人が悩んでいるのをみて声をかけてくれたわけか。
 そういえば、前も何か手伝ってもらった気がするよ。

     とりあえず
                    ―――あけましておめでとう」

『門倉』は何かをごまかすかのようにやや遅めの新年のあいさつをしてきた。

552鈴元 涼『ザ・ギャザリング』:2019/01/06(日) 01:23:18
>>551

「あけましておめでとうございます」

相手の話し方に若干の違和感を感じつつも挨拶には挨拶で返す。
話し方というか、なんとなく何か考えつつという感じ。
明らかに『す』から先に進めていない言葉が引っかかる。
突っかかるほどではないけど、引っかかりはする。
それぐらいの感覚が喉につっかえた小骨のように感じる。

「……その、よかったらお話聞きますけど。僕で良かったらやけど」

「まだ子供やけど話聞くくらいは出来るから」

553門倉『ソウル・ダンジョン』:2019/01/06(日) 02:02:38
>>552(鈴元)
「ああ―――ありがとう、………す、スズ……君」

最後の方は聞き取れないほどの小声だ。
どうやら名を忘れてしまった事をごまかしている(つもり)らしい。

「まあいい―――いいんだ。それで『悩み』というのはね。

 知っての通り………いや知っていたかどうかは定かじゃあないが、
 俺は『不動産屋』をやっている。だが、不幸な事件によって『店舗』が爆破してね、
 まとまった金が必要なんだ―――

  ………………一番いいのは。

  何気なく俺の前に現れた君が
  実は札束に火をつけて遊ぶくらいの『大富豪』で、戯れついでに
  俺に数百万ほどホイッと施してくれるという結末なんだが………」

唐突にそんな厚かましいお願いをしてくる『門倉』。
さすがに冗談だろうが、妙にねちっこいその視線は、
『あわよくば』という、一縷の希望を託しているようにも思えた。

554鈴元 涼『ザ・ギャザリング』:2019/01/06(日) 02:16:49
>>553

「……」

目を閉じてにっこりと笑う。
優しい笑みだ。

「不動産屋さんっていうのは、どっかで聞いたことある気ぃするけどぉ……」

詳しくは知らなかった。

「いや、それは……大変なんやねぇ……」

爆破という言葉に少し眉が歪む。
一体どういう経緯なのかというのは気になるが、そこに触れてもいいものかとも考えてしまう。
心の迷いが指に出る。
規則的な拍子で自分の手の甲を反対の手の指が叩く。

「残念やけど、僕は大富豪ではないんよ。鈴元の家のお金も僕のお金やないし」

心苦しそうな声と表情だった。
あわよくばという意志に気づいていないのか、もしくは気づいた上でこれなのか。
それは鈴元涼だけが知っている。

「えろうすんまへん。地主さんの知り合いとかもおらんでもないねんけど……富豪……多分そない急に言うて融資してくれはるんは……」

555門倉『ソウル・ダンジョン』:2019/01/06(日) 02:33:13
>>554(鈴元)
「そうか―――
          いや、そうさッ そうだろうとも!

               そうだろうとも………」

 『門倉』は少しだけ肩を落とすが、ほどなくして再度語り出す。

「正月だからといってそんな『お年玉』が
 簡単に転がり込んでくるとは俺も思っちゃあいない。
       むしろもうあげる側の年齢だしね―――

 だから『お年玉』は自らの手にする………ッ
 そう思ってツテを使って、『お金』になりそうな話を探したんだ。
 そして一つの依頼を受けた。
 不可思議な『呪い』を解決してほしいという特殊な依頼だ。

             …………あれ、そういえば、君はどうだったっけ?」

『門倉』の話がふと止まる。
『鈴元』が『門倉』をみやると、彼の体から霊体のような『腕』が重なるように出ている。
『スタンドの腕』………これをこれみよがしにヒラヒラと動かしている。

 おそらく『鈴元』がこれが視える存在かどうか確かめようとしているのだろう。

556鈴元 涼『ザ・ギャザリング』:2019/01/06(日) 20:16:57
>>555

「……」

鈴元涼はお年玉を貰える歳だ。
姉からも、兄からも、京都からこの街に来てくれたお弟子さんやお手伝いさんからもだ。
申し訳ないという気持ちと嬉しい気持ちが半々である。
自分からお年玉を得る、ということがどういうことか、門倉が何をしたのかは予想出来ないが、大変なことがあったのだろうと考えた。

「え、あぁ、はい」

鈴元の傍に経つ霊体。
『ザ・ギャザリング』
そういう名前を付けられた存在。
儚く、消え入りそうな姿。
人の形をとったもの。

「あの、呪いってどういうことなんやろ?」

557門倉『ソウル・ダンジョン』:2019/01/06(日) 21:05:48
>>556(鈴元)

「―――ああ、やはり君も『使える』身か。やはり『刺青』?」

『君はどこ中?』みたいなノリで軽くスタンドの出自を確認しつつ、『門倉』は更に語る。

「そして『使える』のならば、話を進めよう。
 といっても俺も得ている情報は少ないんだけどね。

  依頼元は、とある『美容外科クリニック』。
  かなり評判のいいクリニックでいつも予約一杯って感じだったらしい。
  『だった』と表現したのは、今はそうではないという事だ。

  少し前から、そのクリニックの患者の『顔』が―――
                     『崩れる』というトラブルが起こっているらしい。

  それだけきくと、『手術失敗』したんじゃあないの? と思ってしまうんだがね。
  どうやらそういう事でもなく、その『症状』はしばらくすると収まるとの事らしい。

  それをそのクリニックの『院長』は『呪い』と称して解決する術を探っているというわけさ。
  『呪い』をかけられる『心当たり』があるのかないかは不明だが―――

                           ・ ・
   ともかくそれを解決するのが今回の俺たちの『仕事』というわけだね」

※ミッションの誘いとなります。危険度は高くない推理系ミッションの予定です※
※当然、断って頂いてもまったく構いません※
※開催される場合、門倉『ソウル・ダンジョン』はNPC的な参加となりますl※
※当然、このミッションによって門倉がいわゆる『リアルマネー』を得る事はありません※

558鈴元 涼『ザ・ギャザリング』:2019/01/06(日) 22:37:51
>>557

「ま、まぁ。そうです、けどぉ」

困ったように笑いながら言葉を返す。
背中にある咲いた桜の刺青。
色々困ることもあるが、後悔はない。
自分の目では見えないところにあるというのもいい。

(美容外科……)

美容外科でお金になりそうな話。

(受けに来る人を増やす、とかなんかなぁ)

顧客が増えるのは病院にとっていい事だ。
だからスカウトというか、人を集める仕事かと思っていたが、真実は違うらしい。

「顔が崩れる」

思わず復唱してしまう。
尋常ではない事だ。
そして、実際に門倉が依頼を受けたということはそれは事実なのだろう。

「呪いかぁ」

確かに、呪いと言えるだろう。

「……たち?」

たち。
たち、と言われてしまった。

「……」

少しの沈黙。
それから柔らかな笑みを浮かべて言った。

「分かりました。これもなんかの縁やし、そのお話受けさせてもらいますぅ」

「よろしゅうね」

559門倉『ソウル・ダンジョン』:2019/01/06(日) 23:04:03
>>558(鈴元)
余談になるが門倉の刺青も『背中』にある。ドアノブ。
まあ背中を見せ合う事など基本ないだろうから完全な余談である。

「フフフ―――『たち』と言ったのに少々驚いているようだね。

 無理もない無理もない。だが………

                       ――――え?」

『鈴元』が語り出す少しの沈黙の間にさらに言葉を重ねた『門倉』。
しかし、『鈴元』から帰ってきたあっさりとした返答についマヌケな返しをしてしまう。

「あれ、あれ、い、いいの!? いいのかい? そんなに即答してしまって。
 これからあの手この手で説得にあたろうと身構えていたのに………」

『門倉』の悩みというのは『依頼を受けたものの一人では心もとない』という事だった。
こんな町なので有象無象の『解決すべきこと(ミッション)』は溢れている。
しかし、『門倉』は今まで単独でそういった事案に立ち向かった事はない。
そういうわけで『どうしたものか』と悩んでいる時に、声をかけてきたのが『鈴元』だったというわけだ。

「いや――― いいんならいいんだ。問題はまるでない。
 じゃあ俺の方で依頼元と交渉してアポはとっておくから………
                    後日、君に連絡させてもらうよ」

『門倉』はそう言って『スマホ』を取り出す。『連絡先』を交換したいという事だろう。
『鈴元』に迷いがなければ、このまま『連絡先交換』を行い、『仕事』の誘いを待つ事になる。

560鈴元 涼『ザ・ギャザリング』:2019/01/07(月) 00:23:56
>>559

「ええよ。門倉さん、困ってはるんやろ?」

説得されるまでもなく鈴元の心は決まっている。
自分が求められたならそれに応えるだけだ。
そういう心持ちで動いているのだ。
それ以外の感情は大きくない。

「はい。待っときますぅ」

スマホを取り出し、連絡先を交換しておこう。

561門倉『ソウル・ダンジョン』:2019/01/07(月) 00:42:07
>>560(鈴元)
互いの連絡先を交換する二人。
その際に『門倉』は抜け目なく『鈴元』の名前を再確認した。

「ありがとう! いや、ありがとう、鈴元君。
 初夢にタカもナスビも富士山も出なかったが
   そんなもの見なくても新年早々、君に会えた―――

      俺は素でツイてる、そういう事だね?

         なんだか勇気がわいてきたな。フフフ―――」

 『門倉』がそんな事を言いつつベンチから立ち上がる。

「じゃあ、そういう事で、そろそろ俺は帰らせてもらうよ。
        機が来たら連絡するからね。くれぐれもよろしく頼むよ」

        新春の寒空の下、『門倉』は軽くスキップをしながら去っていく。
こうして『鈴元』は、新年早々よく分からない『呪い』とやらに対峙する事となったのだった。

562小角 宝梦『イル・ソン・パティ』:2019/01/10(木) 01:53:32

大通りの『オープンカフェ』に小さな『探偵』がいた。
白銀の髪、鹿撃ち帽、インバネスコートなど、
いかにもな外見だが……顔立ちに覇気は皆無。

(……うう、雰囲気で外の席にしてみたが、
 あまりに寒いぞ……よく皆平気な顔をしてるなあ)

     ポンポンポン

ポケットに入れたカイロを叩く音だ。
 
         (それにしても……)

「『不動産屋爆破事件』……だとぉ?
 こ……この町にも魔の手が迫っていたとは」
 
          パラパラ 

手帳をめくりながら、思わず声に出してしまった。

街中で聞きつけたウワサを、
勝手に『事件』とか言ってるだけだ。
不可解ではあるが……なにも『証拠』はない。
聞いたのは『不動産屋で爆発があった』事だけだ。

(まあ、スプレー缶とかが爆発したんだろうけどね……しかし、
 そんなにいっぱいスプレー缶を開けたくなるものなのかなあ)

本人的にも事故の可能性は高いと思うのだが、
こういう『ポーズ』から入るタイプ、ということなのだ。
ちなみに今はもう、ほとんどの席が埋まっていて、
それが小角が未だに外に留まっている理由でもある。

・・・『相席』という形でこいつと相まみえる理由にもなり得る。

563三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/01/10(木) 21:52:09
>>562

「お向かい、失礼します」

    ペコリ

ずっと歩いて少し疲れたので、カフェにやってきました。
探偵さんの向かいの席が空いているみたいです。
挨拶してから座りました。

     ビクッ

そのすぐ後に、『爆破事件』という言葉が聞こえました。
そういう話を聞くと『死』を連想してしまいます。
とても怖いです。

     ササッ

なので即座に目を瞑り、両手で耳を塞ぎました。
怖い話を聞くと、ついやってしまいます。
いつもの癖です。

      ……スッ

もう怖いところは終わったでしょうか?
薄く目を開けて、両手を少しだけ離してみます。
終わっていたら嬉しいです。

564小角 宝梦『イル・ソン・パティ』:2019/01/10(木) 22:29:50
>>563

「ああ、かまわないとも。
 好きに座りたまえ……ふふん」

         スイッ

「わたしのテーブルじゃないからね」

机に広げていた本を滑らせ引き寄せる。
いわゆる『推理小説』だ。ほとんど新品のように見える。

「……??」

「な、なんだい、きみは……!
 わたしの顔を見るなり、
 いきなり目を閉じたりして……」

    「あっ、それに耳まで!」  「ううむ」

謎に直面し、思わずうなる小角。
フクロウのような丸い目がやや細まる。

「むむむ……も、もういいのかね?」

爆破事件の話には思い至らないが、
その事自体は、もう口にしていない。

「きみぃ……いきなり謎めいているぞ。
 いったいどうしてわたしを怖がったりするんだ。
 自慢じゃあないが、あまり怖がられたことはないのに」

         「あ、これがメニューだよ」

    ススッ

手元のメニュー表を得意顔で滑らせて渡す。
最初の本といい、机の上を滑らせるのがマイブームなのか?

565三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/01/10(木) 23:23:18
>>564

怖い話は終わったみたいです。
ゆっくり目を開けて、両手を離しました。

「はい、もう大丈夫です」

「失礼しました」

     ペコリ

「ありがとうございま――」

     スカッ

メニューがテーブルから落ちてしまいました。
受け止めるのが少し遅かったみたいです。

     スッ

メニューを拾い上げて、軽く手で払っておきます。

「これを下さい」

店員さんを呼び止めました。
ココアを注文します。

「お姉さんは怖くないです」

「怖い話が苦手なので、ついやってしまいました」

「ごめんなさい」

    ペコリ

566小角 宝梦『イル・ソン・パティ』:2019/01/10(木) 23:50:07
>>565

「な、なに、怖い話……?
 わたし、お化けの話なんかしたかい?」

         「……ああっ!」

「つまり、わたしの推理によると……
 きみは爆破じ……お、おほんっ。
 『怪事件』の話の事を言っているのだろう!」

ややばつの悪そうなどや顔という、
器用な顔を作りつつ机の下を覗く。
落ちたメニューを目で追っていたのだ。

          ススス

そして拾われたメニューと共に顔を上げる。

(お……お姉さんかあ。
 なんだかいい感じの響きだぞ!
 わたしをそう呼ぶやつはそうそういない)

「ま、気にする事はないさ……
 誰にでも怖い物の一つくらいある。
 むろん、このわたしにだってあるとも」

         フフン

怖い物が結構ありそうな顔だが、
探偵だしそうでもないのかもしれない。

「事件の話を迂闊にしてしまった、
 わたしも悪かったよ。おあいこだね」

「……それにしてもココアか。わたしも頼んだよ。
 寒い日に外で飲むのはココアが一番だと思うんだ」

567三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/01/11(金) 00:20:49
>>566

    パッ

爆破事件という言葉が聞こえかけたので、反射的に目を閉じて耳を塞ぎました。
でも、すぐに終わったので、また目を開けて手をどけます。

「癖なので、つい」

顔を上げて、探偵さんの方を向きました。
カールした睫毛と巻き毛が軽く揺れます。

「すみません」

   ペコリ

性別の分かりにくい顔立ちですが、小さいので子供なのは確かです。
何かの発表会にでも着ていくような、キッチリしたブレザーを着ています。

「そう思います」

「お姉さんもココアを注文したんですか」

「ココア仲間ですね」

そう話す声は高い声です。
やはり性別は判断しづらいです。

「お姉さんが怖いものはお化けですか?」

「さっき、そう言われていたので」

568小角 宝梦『イル・ソン・パティ』:2019/01/11(金) 00:44:12
>>567

「か……かまわないよ。気にしなくても」

(なにか……爆破にトラウマがあるのかもしれないぞ。
 ここはお姉さんとして、冷静に触れないようにしておこう)

        (……それにしてもだ)

自分がお姉さんだとする。
この相手は『お嬢さん』なのだろうか?
『お坊ちゃん』でも不思議はない気がする。

「……」

(な、難題だぞ、これは……!
 間違えるのは失礼もいいところだが、
 なんということだ……まったくわからない!
 まつげが長いし……そんなの証拠になるもんか!)

        「ううう……む」

               「え?」

「ああ……ああ、そうだよ。
 わたしは甘い物が好きなのでね。
 知っているかね、きみ……
 甘いものは頭の働きをよくするのさ」

       フフフ

マグカップを傾ける。
漂って来る匂いは成る程確かにココアだ。

「……な、なんだ、よしたまえ。
 確かにお化けはあまり好きじゃあないが、
 べ、べつに怖いなんて一言も言っていないぞ……」

      「わたしのことを推理するのはよしたまえ……!」

怒っているという感じでもないが、どちらにせよ迫力に欠ける声だ。

569三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/01/11(金) 01:12:48
>>568

「そうでしたか」

「僕も同じです」

「お化け仲間ですね」

   ニコリ

そう言って、ほんのり笑います。
そういえば千草の『墓堀人』も、お化けに似てるかもしれません。

「お姉さんは物知りですね」

「知りませんでした」

感心した表情で軽く頷きます。
物知りな人は立派な人です。
そんな人を見習って、いつか自分も同じように立派な人になりたいです。

「お姉さんは探偵さんですか?」

改めてお姉さんの格好や手帳に視線を向けて尋ねてみます。
それから、探偵のお姉さんに期待の篭った視線を向けました。

「他にもお姉さんのお話を聞きたいです」

「――してくれませんか?」

探偵さんなら色々なことに詳しいと思いました。
千草の知らないことを教えてもらえたら嬉しいです。

570小角 宝梦『イル・ソン・パティ』:2019/01/11(金) 01:44:05
>>569

「まったく……仲間はココアだけで十分だろう」

           ズズ…

お化けはいるし、基本的にろくなものではない。

「……そう、わたしは頭脳派なのさ!
 知識なくして、謎は解けないのだからね」

(なんだかいい子だなあ。
 幾つなのかもわからないが)

人に褒められるのが好きだ。
自尊心がくすぐられるし、
気分がいい……裏も無さそうだし。

「わたしの話かい?
 ふふん……かまわないとも。
 存分に聴かせてあげよう」

       ニヤリ

ここに来て最大のドヤ顔だ。
小角は、乗せられやすい女なのだ。

       オヅノ ホウム
「まず、わたしは『小角 宝梦』というんだ。
 きみの推理通り『探偵』……の卵だよ。
 いずれは名だたる『名探偵』になる女さ」

       どさっ

「探偵が何を持ち歩いているか……気になるかい?」

         「気になるんじゃあないかい? きみ……」

テーブルの上にかばんを置いた。
こじんまりとしたかばんで、ふくろうのキャラの飾りが着いていた。

571三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/01/11(金) 02:05:19
>>570

「小角さん――ですか」

「はじめまして」

    ペコリ

「三枝千草です」

「三つの枝と千の草」

「――と書きます」

挨拶を返します。
礼儀正しく振舞うのは大事なことです。
こうして小さなことを積み重ねていけば、いつかは『夢』も叶えられると思います。

「僕も、将来は立派な人になりたいと思っています」

「小角さんを見習って頑張りたいです」

そして、視線はかばんの方に移りました。
ふくろうがお好きなんでしょうか。
そういえば、小角さんを見ていると何となくふくろうが思い浮かびます。

「とっても気になります」

「何が入ってるんでしょうか?」

興味深そうに目を軽く見開いて、かばんを見つめます。
ドキドキしてきます。

572小角 宝梦『イル・ソン・パティ』:2019/01/11(金) 02:20:55
>>571

「ちなみに私の名前は、
 小さい角で『おづの』だし、
 宝ものの夢で『ほうむ』だ」

「よろしく頼むよ、千草くん」

この『くん』は『ワトソンくん』のくんだ。
小角は今だいぶ『いい気になってる』。

「どんどん見習うといいともっ!
 ともに立派な大人になろうじゃあないか!
 わたしは毎日早寝早起きを守ってたり、
 なにかと『見習いがい』があると思うんだ」

       フフフ

小角自身、まだ自分は子供だと思う。
だがいつか大人になったときに、
見習いたい人はいる。自分もそうなりたい。

「よしよし、今見せてあげるから待ちたまえっ」

        ゴソゴソ

小角は、ふくろうのような顔の少女だった。
目は丸くぱっちり開き、顔の形も丸い。
彼女自身ふくろうに愛着でもあるのか、
幾つか『そういう柄』の小物が見て取れた。

そしてカバンから出てきたのは――――

「探偵といえばだね……『七つ道具』があるものだ!
 今は……まずはこれ、『ペンライト』だよ。
 細かいところを調べたりするのに便利だと思う。
 照らすのはスマートフォンでもいいのだが……
 強いライトのアプリは、充電の減りが早いからね」

小さいペンのようなものだ。説明通りの機能なのだろう。

             キラン

「いずれ『ペン型カメラ』とかにアップデートしたいなあ……」

夢を語りだす小角。中学生の資金力には限界があるのだ。
ともかく、どうにも胡乱さのわりに『マジの探偵道具』なのかもしれない。

573三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/01/11(金) 02:48:49
>>572

「早寝早起きは大事なことだと思います。
 毎日している小角さんは偉いです」

「僕は『考え事』をしていると時々夜更かしをしてしまいます。
 だから、まだまだです」

『理想の死に方』について考えていると、つい時間が経つのを忘れてしまいます。
昨日の夜も、いつのまにか遅い時間になっていました。
反省しないといけません。

「『ペンライト』――探偵さんらしいです」

「これがあれば調査に役立ちそうです」

「小さな手がかりも見つけられそうです」

出てきた七つ道具の一つに、じっと目を凝らします。
探偵さんのお仕事は詳しくは知らないですが、きっと立派なことだと思います。
だから、そのための道具には興味があるのです。

「ライトで照らしながら写真が撮れたら、とっても便利だと思います」

「もし新しくなったら見せてくれますか?」

夢を持つのは素敵なことです。
それが実現できるのは、もっと素敵なことだと思います。
小角さんにあやかって、千草の夢も叶えられたら嬉しいです。

574小角 宝梦『イル・ソン・パティ』:2019/01/11(金) 03:19:39
>>573

「き、きみぃ、ちょっとほめ過ぎだぞ!
 まったく……まったくだなきみは! ふふふ」

        ニコニコ

「考え事か……それは仕方ないね。
 わたしも謎を考えたりしてると、
 少し遅くまで起きてしまう事はあるよ」

夜を更かして考え事なんて、
なんだか知的な気もする。
小角はそれでも早めに寝るが。

「ふふ……いいだろう。まさにきみの言う通り、
 小さな手掛かり一つが答えになる事もある!
 きみぃ、さっきからなかなか鋭いぞ!
 もしかすると……きみも『頭脳派』なのかもね」

        「そう、写真まで撮れれば、
         もう一つの証拠も見逃さない!
         ……もちろんわたしの推理力も、
         それまでに追いつかせる予定だ!」

「わたしは、名探偵:『小角宝梦』になるのだからね」

高らかに語る小角の顔は非常にノっているが、
浮ついた夢ではない。『今考えた』事でもない。
『いつも考えている未来』を、口に出しているだけだ。

「ふふふ、当然見せてあげるとも、千草くん」

「あ! 連絡先を交換しておくかい?
 むろん、新しい探偵道具を買ったら、
 ちゃんと教えてあげるためにだが……」

千草と話すと気分がいいし、
それに……友だちになれる気がする。
友だちが多いわけじゃあないが……『欲しくない』わけじゃあない。

575三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/01/11(金) 03:54:42
>>574

「いいんですか?ありがとうございます」

    ペコリ

人との繋がりが増えるのは嬉しいです。
他の人達との関わりは、成長のきっかけになると思っています。
それを積み重ねていけば、目標に少しずつ近づいていけると信じています。

「よろしくお願いします、小角さん」

    スッ

自分のスマホを取り出します。
ケースは無地の白で、飾り気のないシンプルなデザインです。
連絡先の交換は問題なく済みました。

「僕にも叶えたい夢があります」

夢を語る小角さんの姿が、心に響きました。
それに応じるように、こちらからも夢という言葉を口にします。
『最終的な目標』と言ってもいいかもしれないです。

「いつか一緒に実現できたら嬉しいです」

苦しみや不安のない安らかな気持ちで穏やかに最期を迎える。
それが千草の『将来の夢』です。
その夢を叶えるために、まずは人から愛される立派な人物になることを目指します。

「――他には何が入ってるんですか?」

決意を新たにしたところで、またかばんの方に向き直ります。
次は何が出てくるんでしょうか。
楽しみです。

576小角 宝梦『イル・ソン・パティ』:2019/01/11(金) 04:04:34
>>575

「いいとも、いいとも。よろしくね千草くん。
 ぜひ一緒に夢を叶えようじゃあないか!」

「わたしたちは――――『夢仲間』だっ!」

        ニコニコ

小角宝梦は、まだ『名探偵』ではない。
三枝千草の、『夢を叶える』意味を推して知れない。

「よし、それでは次をお見せしよう!
 千草くん、探偵の道具といえば、
 たとえば何を思い浮かべるかね?
 ふふ……もちろん『麻酔銃』とかはちがうぞ!
 ああいうのは全部フィクションであってだね、
 知的な探偵とは少し違ってくるのだよ……」

「あ! あった」

     ゴソゴソ

          「――――じゃん! パイプだ!
           も、もちろん喫煙などしないぞ!
           なにせこれは『カカオパイプ』という、
           ちょっぴり特別なものなのでね……」

                 「甘さで知性を引き上げて……」

――――『探偵の夢』と『甘き死の夢』。

それは致命的なほど同床異夢であると気付かないまま、
それでも楽しげに、小角は夢の道具を語り明かすのだった。

577平石基『キック・イン・ザ・ドア』:2019/01/12(土) 23:20:55
歩いている。
筋肉質ではない。肥満でもない。しかし誰が見ても体は大きな男だ。
ポケットから携帯電話を取り出そうとして――

  チャラ

カラビナに纏めた鍵束がぽろりと落ちて、

「…」

   パシン

余人には見える筈も無い、『壊れた歯車をあしらった手』が、問題なく掴んで、ポケットに仕舞い直した。

578鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/01/16(水) 22:18:37
>>577

>  チャラ

『チラ』

同じく歩いている中、擦れる金属音を耳にしてそちらを向く学生服の少年。
男が携帯電話を取り出す、と同時に同じポケットから何かを落としてしまったようだ。
電話で片手が塞がっている以上、拾うのには手間がかかるだろう。
代わりに拾ってあげようかと考え、そちらへと一歩踏み出そうとして。

「──────────」

落ちる前に、人間のそれとは違うデザインの手が何かを拾い上げる。それはカラビナだった。
いや、違う。重要なのはそこではなくて、今のは確かに。

「『スタンド』…?」

呟き、急に立ち止まってしまう。もし後ろを誰かが歩いていれば、ぶつかってしまうかもしれない。

579平石基『キック・イン・ザ・ドア』:2019/01/17(木) 23:02:48
>>578
「………」

『スタンド』と声に出した彼に、無言で視線を向ける。
警戒でも親愛でもない、単なる確認だ。
それから、鍵束を仕舞った『スタンド』の『腕』で

  ちょい ちょい

と、『後ろから人が来るから危ないよ、脇へ退けた方が良い』とジェスチャー。
隠そうとかそういう気がないヤツだ…。

580鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/01/17(木) 23:26:49
>>579

「…っと」

『スタンド』の仕草に応じて、道の脇へ逸れる。
自分が急に止まったことにより驚いた主婦へと頭を下げて、道を譲った。
そして改めて、男へと向き直る。

「あなたは…『スタンド使い』なんですね?」「自分以外の人は、初めて見ましたが…」

581平石基『キック・イン・ザ・ドア』:2019/01/18(金) 00:11:50
>>580

「………」

話しかけられた大男は、暫くじっと相手を見つめる。興味。好奇。
『スタンド』も出したままだ。壊れた歯車を思わせる意匠の、人型の『スタンド』。

「お互い、『そう』だってことだな」「当然、この世で一人って自覚なんか無かったし、驚きは無い」
「でも割と早い段階だ」「一生のうちで何度、ってわけでもなさそうだな」

『スタンド使い』であることの肯定と、思っていた以上に『引かれ合う』確率は高いことへの興奮が伝わる。
四割がた『独り言』のような感じだ。

「ヒライシだ」「名前だ。平石という」

『二人称』で呼ばれるのを好まない平石は、ひとまず名乗る癖があるのだ。

582鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/01/18(金) 00:21:08
>>581

「平石さん、ですね」
「オレは鉄 夕立(くろがね ゆうだち)と言います」「よろしくお願いします」

相手が名乗られたのに応じて、こちらも名前を告げて頭を下げる。
年上への礼節は欠かせないものだ。
それにしても、いい体格をしている男性だ。以前はスポーツでもやっていたのだろうか。

「・・・・・」

そして、相手の『スタンド』へと目をやる。
自分の『スタンド』とは同じ人の形をしているが、姿はかなり別物だ。
ところどころ、欠けた歯車が見えるヴィジョン。と、そこまで見た所でふと思う。

「こういう場合は…オレも『スタンド』を見せるのが礼儀と判断しました」
「敵意はありません」

「───『シヴァルリー』」

スタンドの名を呼び、傍に立たせる。同じく人型で、騎士のような装いをしたそのヴィジョンを。

「平石さんは、『音仙』さんに聴いて頂いたのですか?」

583平石基『キック・イン・ザ・ドア』:2019/01/18(金) 00:48:48
>>582
「鉄君か。そうか、こちらこそ」

相手の『スタンド』そのものには、特に興味があったわけではないのがわかるだろう。
『シヴァルリー』を見て、単純に『驚いた』顔をしたからだ。
『礼儀ってそういうものなの?』って感じの顔だ。

「『音仙』?」「いや…違う。そういうのじゃない」

あの『部屋』を覚えている。そこで起こったことも。
だが曖昧だ。名前も声も、茫漠とした記憶でしかない。自分だけがそうなのか、他人がいないのでわからない。
ただ確実なのは、『キック・イン・ザ・ドア』がともに在ること。それだけだ。そして『何が出来るのか』。

「…鉄君」「これは純粋に、オレ個人の気の迷いで聞くんだが」

「そこを車が走ってるだろ?」「あれの一台――」「『暴走』させるって言ったら、君、オレを止めるかい?」

平石も『スタンド』も、動いてはいない。
可能かどうかも分からないことを、初対面の人に、しかし奇妙な『落ち着き』すら感じられる声色で…平然と、問う。

584鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/01/18(金) 01:16:52
>>583

「…一方的に『スタンド』を見てしまって、失礼をしたかと思いましたが」
「考え過ぎだったようで何よりです」

特に気にしていない風の平石に、ほっと胸を撫で下ろし、微かに笑う鉄。
『音仙』───あの人は『心の声』を聴くと言ったが、ならばスタンドは精神の顕在化と言えなくもない。
それを見られるのが嫌な人も、あるいはいるかもしれない。彼がそうでなくて良かった。

「………なるほど」「やはり、という所ですが」
「あの人の携わっていないところにも、『スタンド』はあるのですね」

腕を組み、独り言のように呟く。
つまり全ての『スタンド使い』をあの人が把握しているわけではない、か。
しかしそれなら─────。

>「…鉄君」「これは純粋に、オレ個人の気の迷いで聞くんだが」

>「そこを車が走ってるだろ?」「あれの一台――」「『暴走』させるって言ったら、君、オレを止めるかい?」

「…はい?」

思考を中断し、平石の問いに鉄は思わず聞き返す。ややあって、困惑したような様子で答えた。

「・・・・・・・・・・」
「あの車が『自動運転』で、平石さんの『所有物で』」
「ここが平石さんの『私道』であるなら、オレは止めません」

「ですが、そうでない場合は…できる範囲で、止めさせて頂きます」
「ただ、あなたがそんな事をしない事を、何より願っていますが」

はっきりと宣言して、唾を飲む。心臓の音がどんどんと大きくなるのが分かった。

585平石基『キック・イン・ザ・ドア』:2019/01/18(金) 01:49:44
>>585
沈黙。
荒唐無稽――と言い切れないことを鉄夕立は知っている。
『そういう能力』ならば『それが出来る』ことを、スタンド使いならば知っている。
『止める』ことも。

「……勿論」
「ここは『公道』だし、『他人の車』だし」「…『人が乗ってる』」

淡々と、一つずつ確認するように言葉を吐いて、

  ス ッ

「だから当然、『出来てもやらない』。気の迷いって言ったじゃないか」
「でもだったら、と思うんだよ。自然、『だったら』、『何で』、ってね」
「悪かった、自分でも答えられないことを聞いて、意地が悪いしマナー違反だな」

スタンドを仕舞い、からかうような真似をしたことを詫びる。

「うん、初めて『他のスタンド使い』と出会ったから、はしゃいでしまった」
「立ち話ですまなかった。もし、今度、会うことがあったら」「何かおごるよ。じゃあな。『鉄』君」

微笑んで、そのまま立ち去る平石の、しかし『大通り』をゆく車列に向けた眼差しが、いやに醒めていたのは
『ただそういう風に見えただけ』かもしれないし、『思い込み』かもしれないし、『そうではない』のかもしれない。
平石基の脳みその中身など、平石基にしか分からない。ひょっとすると、本人にもよく分かっていないのだ。

586鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/01/19(土) 00:41:17
>>585

『フゥーッ』

勿論やらない、という平石さんの言葉を聞いて胸を撫で下ろす。
一気に緊張の糸が切れていった。

「…いいえ、こちらこそ申し訳ありません」
「友人からも、あまり冗談が通じない方だと言われています」

そう、『スタンド』は平石さんの言うようなことができる。
そして何より、『スタンド使い以外には何が起きたか分からない』。
その事が、いわゆる『犯罪行為』に対してのハードルを引き下げかねないことは想像に難くない。
例えば─────見知らぬ中学生の腕を、切りつけたりすることもあるかもしれない。
もちろん、平石さんはそういった人間ではないようだ。ではない、はずだが。

>「でもだったら、と思うんだよ。自然、『だったら』、『何で』、ってね」
「・・・・・・それは・・・・」

なんとなく意味は分かるようで、分からないようで。
それは誰もが心のどこかで思っていることかもしれない。
けれどそれを認めることは、今の鉄にはできないことで。
その言葉を口にする平石さんに対して、自分は何も言う事ができない。

「…いえ、そのようにお世話になるわけには…っ。はい、またお会いしましょう平石さん」

慌てて申し出を断ろうとするも、その前に大男は去っていく。その背中に向けて、頭を下げた。
そういえば連絡先を交換するのを忘れていたな、また会えた時にしておこうと心の中で呟く。
また自分も『シヴァルリー』を消して、帰途へと着いた。

587宗像征爾『アヴィーチー』:2019/01/31(木) 17:31:25

雑踏から離れた小さな公園のベンチに、一人の男が座っていた。
カーキ色の作業服を着た中年の男だ。
その手には白いカップが見える。

「――分からないな」

手元のカップを見下ろしながら独り言のように呟く。
どうやらコンビニで買えるコーヒーのカップらしい。
人気の少ない場所だが、誰かがいたとしても特に不思議は無い。

588空織 清次『エラッタ・スティグマ』:2019/01/31(木) 22:00:58
>>587

「何がだ?」

 ベンチの背後から声。

    ガササッ

 ベンチ裏の茂み、その葉が擦れ合う音がした。

 宗像の座るベンチの背に手をつき、
 身を乗り出すようにして宗像の隣に背後から男の顔が現れる。

「悩み事ならわたしに話してみないか?
 協力できるかもしれないぞ」

「ヒック」 「心当たりがある」

 男の顔は宗像の一回り下ぐらいに見える。
 だが赤ら顔だ。そして酒臭い。「ヒック」

 彼の片編み髪はいま蜘蛛の巣やら木の葉を乗せて
 できたてのホームレス風に装飾されていた。

589宗像征爾『アヴィーチー』:2019/01/31(木) 23:01:04
>>588

現れた人物に対して軽く視線を向ける。
そこに不愉快そうな色は無い。

「さっき、近くのコンビニでコーヒーを買った」

「これを渡されたが、その先が分からない」

カップを相手の眼前に持ち上げて見せる。
中身は空のようだった。

「もし知っていたら、教えてくれないか」

世間話をするような何気ない口調で質問を投げ掛ける。
買い方の手順を知らないという事らしい。

590空織 清次『エラッタ・スティグマ』:2019/01/31(木) 23:19:04
>>589
 自宅のソファに身を投げ出すように
 ドカッと宗像の隣に座る。

「店員が外人で日本語が通じないとかだったのか?

 もしくは袖口からチラッと入れ墨だか注射痕が見えたりして
 なるべく関わり合いになりたくなかったか?」

「そうでもないなら店員に聞け」

「ヒック」 
「わたしへの対応を見る限り、
 君はそういう会話に苦するタイプとは思えんが……?」

 男は既成品でない仕立てのスーツを着ていた。
 生地はメリノウールとシルクのブレンドらしいが
 今は三時間休憩後のラブホのシーツみたいにしわくちゃだ。

「『わからない』ってのはそれか?
 それだけなのか?」 「ヒック」

591宗像征爾『アヴィーチー』:2019/01/31(木) 23:53:03
>>590

塀の中にいる間にも、世の中では新しい仕組みが増え続ける。
社会に戻ってから、分からない事というのは度々あった。

「俺の後ろに大勢が並んでいた」

そのせいで聞くタイミングを逃したというのが理由らしい。
いずれにせよ、大した悩みでは無い事は明らかだ。

「ああ――」

「それだけだ」

手の中でカップを握り潰して屑入れに放り捨てる。
それから男の方に顔を向けた。

「あんたにも何かあるようだな」

相手の風貌から、それを感じ取った。
もっとも、それが何かは知る由も無い。

「話を聞いて貰った代わりに、今度は俺が聞こう」

「余計なお世話でなければだが」

元々、暇を持て余して街を歩いていた。
今の所、他にする事も思い付かない。

592空織 清次『エラッタ・スティグマ』:2019/02/01(金) 00:14:10
>>591
「……?」

 『後ろに大勢並んでいた』ことが今の話になにか関係あるのか?
 という顔をする。眉ハの字で首を傾ける。
 どうもこの男はその辺に全く気を遣わないタイプらしかった。

「そうか。それだけか。
 それはできれば聞きたくない回答だったな」

「わたしの悩みか?
 財布をなくした」

「君の独り言を聞いて、
 もしかしたら君が見つけたんじゃないかと思って
 一縷の望みをかけて話しかけてみたってわけだ。

 『分からないな』――」

「『これはいったい誰の財布だろう』ってな」

「ヒック」

「もともとドブ底みたいな生き方していたが、
 今は完全にドブさらいの気分だ」

「知らないか? 知らないよな?
 わたしの財布」

593宗像征爾『アヴィーチー』:2019/02/01(金) 00:33:34
>>592

「――知らないな」

質問に対して、至って簡潔な答えを返す。
これといった感情の篭っていない淡白な声色だった。

「ここで無くしたのか?」

「財布を無くすまでの行動を遡れば場所が分かるかもしれない」

「それで見つかる保障は出来ないが」

時折、目の前の通りを何人かが通り過ぎる。
当然だが、彼らがこちらに注意を向ける事はなく、逆も同様だ。

「――幾ら入っていた?」

594空織 清次『エラッタ・スティグマ』:2019/02/01(金) 00:50:31
>>593
「正直言って、
 場所の心当たりがなさすぎて困ってる」

 右手を顔の横でひらひらさせる。
 巻き髪が風で揺れて、絡まってた木の葉が落ちる。

「昨日は歓楽街のバーで飲んでいた。
 そして、今朝目が覚めたらここにいたというわけだ」 「ヒック」

「だから今はこの場所に縋ってるってだけだな……
 フフフ。
 我ながらマヌケすぎて腐った笑いがこみあげてくる」

「金は5万くらい入っていたかもしれない。
 酒飲むたびに財布落とすのは『常習』だから
 手続きが面倒なカード類は
 別に入れていて無事だった」

「だが金とか財布のガワとかその辺はどうでもいい。
 『指輪』だ。
 大事なのはその中に入れちまった『指輪』なんだ」

 常時薄笑みを浮かべていた唇が糸を引くように結ばれる。
 目の奥を刺す針の痛みをこらえるみたいな表情だ。

595宗像征爾『アヴィーチー』:2019/02/01(金) 01:13:34
>>594

「指輪――か」

その指輪が何か詳しく聞く必要は無いだろうと考えた。
これぐらいの年代の男が指輪と言えば大方の察しは付く。

「この辺りに落ちている可能性も無くは無い」

「今、俺は手が空いている」

「もし探すのなら手伝おう」

無くした指輪が男にとって重要な物である事は理解出来た。
その気持ちは分からないでも無い。

「少なくとも、ここに座って嘆き続けるよりは有意義な時間の使い方だ」

「――そう思わないか?」

596空織 清次『エラッタ・スティグマ』:2019/02/01(金) 01:36:36
>>595
「君は『いいヤツ』だな」

 眉尻を下げて笑う。
 眼が目尻の皺に混じってほとんど糸みたいになった。

「そして真面目な男だな。
 そういう『着住まい』をしてる。
 短いやり取りしかしてないが、
 わたしは君を信頼する。
 君の申し出に感謝するよ。
 そしてぜひ協力を頼みたい」

 襟を正して宗像の正面に向き直り、頭を下げる。

「財布はボッテガだ。
 インテレチャートの上に
 ミントブルーのドット柄」

「まあわたしみてーな奴が
 持ちそうな趣味柄を思い浮かべれば
 だいたいそれであってる」

「わたしは裏の茂みを探す。
 一晩過ごしたベッドだからな。
 しかし、他に酔っぱらいが
 公園内で行きそうなところってどこだろうな……?」

 そういってベンチの裏に頭から緩慢な動きで潜っていった。

597宗像征爾『アヴィーチー』:2019/02/01(金) 17:20:29
>>596

着住まいとは珍しい表現だ。
この男が衣に関わる職に就いているとも考えられる。
財布の紛失と関係があるとまでは思わないが。

「――分かった」

財布の外見に関する説明は少しも理解していなかった。
そういった分野には疎い質だ。
だが問題は無いだろう。
財布は何処にでも落ちている物では無い。
他と見分ける必要は薄いと判断した。

「俺は向こうを探して来る」

立ち上がってトイレの方向に向かう。
特に根拠がある訳では無い。
敢えて言うなら酔っ払いが行きそうな場所ではある。

「ここにあれば良いが」

使用中の人間がいない事を確かめてから中に入る。
洗面台の蛇口から水滴が滴っているのを見て栓を閉め直した。
それから内部を見渡して男の財布を探す。

598空織 清次『エラッタ・スティグマ』:2019/02/01(金) 20:51:41
>>597
 ベンチを発って公衆トイレへと向かう宗像。
 道すがら、公園内の設備がいくつか視界に入った。


   公園の中央にはL字型の『水飲み場』があり、
   それとベンチを結んだ対角線上には
   寂れた『公衆電話ボックス』があった。

   また公園の入り口横に『自動販売機』があり、
   その対角線上に屋根つきの『ロの字型ベンチ』
   ――ひょっとしたら数年前までは
   『喫煙スペース』だったのかもしれないが、
   今は中央の灰皿台が撤去されている――があった。

  (※配置はあくまでこの交流内でのみ適応されるもので、
    公園の公式の設備設定ではないことをご了承ください)


 トイレに着いた宗像は中を検める。
 が――見渡したかぎり特に目立つものはない。
 管理が行き届いているのかそれなりに清潔そうには見える。


 空織は地面に膝をつき、茂みの根本を漁っている。
 特に顔や声をあげたりすることもなく、収穫はなさそうだ。

599宗像征爾『アヴィーチー』:2019/02/01(金) 21:35:39
>>598

ここに目的の品は無いらしい事を悟った。
そうなると他を探さなければならない。

「先に拾われている可能性もあるか」

わざわざ伝える必要性は感じないが。
持ち主を失望させる以外の意味は無いだろう。

「虱潰しに当たるしかなさそうだな」

手掛かりらしい物は何も無い。
目に付いた場所から順に調べていく。

「――公園外に落ちている事も考えられる」

入り口付近にも目を向ける。
真っ先に拾われるような場所だが可能性は無くは無い。

600空織 清次『エラッタ・スティグマ』:2019/02/01(金) 22:13:22
>>599
 トイレを出て水飲み場を調べる。
 排水部分ははめ込み式の格子型だが、
 財布が通り抜けられるような隙間はない。

 『誰かに拾われた』可能性について宗像は思考する。
 それは大いにありえることだった。
 公園内の人通りは少なくはない。
 トイレを見るかぎり清掃員だってきちんと職務を全うしている。
 だとしたらそこから先は警察の仕事で、
 これ以上の探索は『徒労』でしかない。

 宗像は公園外にも目を向ける。

 相手は記憶を飛ばすほど飲んだ酔っ払いだ。
 シラフでは考えられないところに取り落としている可能性もある。

 だが、もしこの公園内にあるのだとすれば――
 酔った人間が園内で『財布を落とす』としたら、
 それは一体どんな場所だろう?

 入り口付近には『糞は飼い主があとしまつ!』みたいな注意書きの立て看板と、
 自動販売機が二つ並んでいるぐらいだ。
 その間には二穴式のゴミ箱(空き缶/ペットボトル入れ)がある。
 まばらに伸びる草丈は浅く、目立つものは見えない。


「やはり――ダメか。
 茂みの中にはなにもなかった。
 きっと、運のいい誰かが持っていっちまったんだろうな」

 茂みから足を出し、力ない微笑みを浮かべながら
 天織は宗像に近づく。

601宗像征爾『アヴィーチー』:2019/02/01(金) 22:39:19
>>600

「――有り得るな」

淡々とした口調で男の声に応じる。
どれだけ眠っていたか知らないが、目立つ場所にあれば持って行かれるだろう。

「そして、その人間が警察に届けている可能性もある」

「見込みは限りなく薄いが、ゼロでは無い」

「あんたにとって本当に必要な物なら、考えられる手は尽くすべきだ」

普通、財布というのは金を入れる為に持ち歩く。
財布を出すというのは金を取り出す時だ。

「携帯電話は落としていないか?」

この公園で金を使う場所は二箇所しかない。
携帯電話を持っていれば公衆電話には用が無い

「――俺も『そうする』」

自動販売機の周辺を調べる。
ここ以外に財布を取り出す場所は無い。

602宗像征爾『アヴィーチー』:2019/02/01(金) 22:47:36
>>600

「――有り得るな」

淡々とした口調で男の声に応じる。
どれだけ眠っていたか知らないが、目立つ場所にあれば持って行かれるだろう。

「そして、その人間が警察に届けている可能性もある」

「見込みは限りなく薄いが、ゼロでは無い」

「あんたにとって本当に必要な物なら、考えられる手は尽くすべきだ」

普通、財布というのは金を入れる為に持ち歩く。
財布を出すというのは金を取り出す時だ。

「携帯電話は落としていないか?」

この公園で金を使う場所は二箇所しかない。
携帯電話を持っていれば公衆電話には用が無い

「――俺も手は尽くす」

自動販売機の周辺を調べる。
ここ以外に財布を取り出す場所は無い。

603空織 清次『エラッタ・スティグマ』:2019/02/01(金) 23:29:25
>>601

「スマホならちゃんと持っているが――
 (さすがのわたしもそこまで粗忽者じゃないぞ)
 だが、それが一体なんだって言うんだ?
 警察には一応、それで連絡をしてある」

 眉根を寄せ、訝しみながら宗像についていく空織。
 自販機に近づいたとき、ふむ、と顎に手を当てる。

「自販機……自販機か!
 そういえば、あれだけ酒を飲んだ翌朝だというのに
 起きた時わたしは水をそれほど必要としてなかった」

「しかし、自販機の周りならわたしもざっと見てはいるぞ。
 妙なものはないと思っていたが……」

 
 宗像は自販機の周囲や底部の隙間を探す。
 だが――財布らしきものは見当たらない。
 空き缶やペットボトルの殻が、
 そこそこ清潔そうな空き缶入れの前に二・三転がっているだけだ。


 宗像の背中を見守りながら、空織はスマホを取りだす。

「……警察にもういちど連絡を入れてみよう。
 もしかしたら財布だけ届けられてるってことがあるかもしれない……」


 宗像は、自販機に挟まれた二穴式の空き缶入れの上蓋が、
 少しだけズレていることに気づく。

604宗像征爾『アヴィーチー』:2019/02/01(金) 23:56:42
>>603

「――ああ」

背中を向けたまま男に答える。
警察に届けられていれば解決だろうが望みは薄い。

「ドブ底のような生き方をしていたと言ったな」

言葉を告げながら空き缶入れの上蓋を取り外す。
ここで見つからなければ俺に出来る事は無くなる。

「そこから何かが見つかるかもしれない」

ゴミの山に視線を向ける。
ドブ程ではないが汚い場所には変わりない。

「見つからないかもしれないが」

605空織 清次『エラッタ・スティグマ』:2019/02/02(土) 00:14:33
>>604

「……な、んだと」

 スマホを耳元から下ろし、
 宗像の言葉の意味を反芻するように
 目を見開いて彼の背中を見つめる。

 宗像は上蓋に手をかける。

    ガポッ


 蓋はきちんと嵌められていなかったらしく、
 取りはずすというよりも持ち上げる程度の力で
 簡単に取りのぞくことができた。

 空き缶とペットボトル殻が雑多に詰め込まれた、
 雑食性のゴミ山が宗像の目の前に現れる。

 その色彩過剰の山を注意深く見つめて、宗像は気づく。
 山の隅に、どこか隠されるようにして――
 財布の編み込み革の一辺が顔を覗かせていた。


「…………あった、のか?」
 吐息のような声が空織から漏れ、宗像の背中に触れる。


 財布の口はどこか乱暴に開かれていた。

606宗像征爾『アヴィーチー』:2019/02/02(土) 00:41:00
>>605

「何も見つからない場合は少なくない」

「だが、今は見つかったようだ」

ゴミの山から財布を引っ張り出した。
革手袋を嵌めている手で軽く汚れを払う。

「――これで合っているか?」

蓋を元に戻し、男に財布を渡す。
だが問題は中身だ。

「あんたの扱いが雑なだけなら良いが」

中身だけ抜いて残りは捨てたか、あるいは持ち主が乱雑に扱っただけか。
前者の場合、取られたのが金だけなら悪くない結末と言えるだろう。

「指輪は入っているか?」

声を掛けながら、ゴミ箱に視線を向ける。
財布の中に指輪がなければ、次に探すべき場所は一つしか無い。

「見当たらなければ、今からドブさらいをやる事になる」

607空織 清次『エラッタ・スティグマ』:2019/02/02(土) 01:03:39
>>606

「……ない、な」

 そう発した言葉の意味と同じくらい、
 空織の声は空虚だった。

「何もない。空っぽだ。」
「――指輪もだ」

 無意味な記号を眺めるように、
 手の中で意味の失われた財布をぼんやりと眺める。
 目を伏せて黙思の淀みに沈む。だがその耳に――


>「見当たらなければ、今からドブさらいをやる事になる」

 「!」

 宗像の一言が届く。
 空織は顔を上げ、前に立つ作業着の背中を見る。


「…………フ」
「フフフ、ハハハハ」
「ドブさらい、か。任せてくれ、それなら得意だ。
 わたしよりドブさらいがうまいヤツはそうはいないだろう」

 しわだらけのジャケットを脱ぎ、シャツの袖をまくって前に進む。
 ゴミ箱の前に立つ宗像の横に並ぶ。
 その横顔に向けてつぶやく。

「だが――いったい君は、
 なんだってこんなことをする?」

「知り合ったばかりのわたしに、
 どうしてそこまで……」

608宗像征爾『アヴィーチー』:2019/02/02(土) 01:30:23
>>607

最悪に近い結果だが、まだ可能性はある。
見込みが残っているなら、出来る限りの手を打つべきだ。

「そうか――」

「なら良かった」

空き缶入れの蓋を取り外し、地面に置く。
それから空き缶入れを逆さにして、中身を全てブチ撒ける。

「ドブさらいは俺も得意な方だ」

「あんた程ではないかもしれないが」

地面に屈み込んでゴミの海を漁る。
同時に、一つずつ空き缶入れに戻していく。

「今、丁度暇を持て余していた」

「あるいは、あんたに少し共感を覚えたせいかもしれない」

「――どちらにしても、大した理由は無い」

答えながら、作業を続ける。
目立った感情の篭らない声だったが、何処か『残り火』のような響きがあった。

609空織 清次『エラッタ・スティグマ』:2019/02/02(土) 01:55:56
>>608

「そうか……
 ならわたしの見立てが間違ってなかったってことだな」

「君は『いいヤツ』だ」

 隣に並ぶ宗像に、空織は歯を見せて笑った。


    ガッシャァアア――――――ン


 沼湖に沈泥していた澱を掻き出すみたいに、
 ひっくり返されたゴミ箱から色鮮やかな残骸が逆流する。

 溢れでた缶がいくつか二人の足先にぶつかって跳ねる。
 そうして弾かれるペットボトルや缶の波にまぎれて、
 宗像の足元へゆっくりと転がる銀円のきらめきがあった。

      コンッ

 ペットボトルの蓋ほどの大きさの環は、宗像の爪先にぶつかり、
 ちいさく跳ね返って、ぱたりと二人の間に倒れた。

 それは飾り気のない銀色の指輪。
 結婚指輪だった。


「…………あった」

610宗像征爾『アヴィーチー』:2019/02/02(土) 02:14:45
>>609

「こんな事もある――」

「運が良かったな」

男の方に視線を向けて拾うように促す。
それは持ち主の手で拾い上げるべき物だ。

「――だが、生憎まだ仕事が残っている」

告げながら、散らかったゴミを元に戻す。
少しばかり骨が折れるが、後始末はしなければならない。

「二度と無くさない事だ」

どうやら最悪は避けられたようだ。
最良に近いと呼んでも差し支えないだろう。

「ドブさらいをしたいなら別だが」

611空織 清次『エラッタ・スティグマ』:2019/02/02(土) 14:55:25
>>610

「……ああ。
 わたしは本当に運がいい」

 光の糸を摘み上げるみたいに、
 足元に転がる銀の指輪を拾い上げた。

 未練と恩顧を解いて織り編んだような瞳で
 手の中の光を眺める。

 それは見つけられて良かった、という安堵のようでもあり、
 結局見つけてしまうのか、という諦念のようでもあった。


「わたしの前のベンチに君が座ったこと。
 それが今日一番の『幸運』だったな」


 宗像の隣に屈んで手伝う。
 ゴミをひとつひとつ拾い上げてゴミ箱へと返していく。
 あるべきものが、あるべき場所に戻る。
 指輪を薬指にはめ直す――


「そうだな……これからは気をつけるよ。
 一人でやるならドブさらいもどうぞご勝手にって感じだろうが、
 誰かを巻き込んでまでやるもんじゃあない。
 さすがに酔っぱらいでも心が痛んだ」

 眉尻を下げて苦笑しつつ、ジャケットを羽織りなおした。
 皺だらけだが、今は卸したてより気分が良い。

「本当にありがとう。
 君にはなにかお礼をしなくちゃあいけないな。
 ええっと、君は――?」

 ジャケットの内ポケットに手を入れつつ、宗像の名を訊ねる。

612宗像征爾『アヴィーチー』:2019/02/02(土) 17:35:51
>>611

「好き好んで手を汚したがる人間は少ないだろうな」

男が抱える心中の深部まで察する事は出来ない。
少なくとも、それは俺が手伝うような事ではないのは確かだ。

「俺にとっても有意義な時間だ」

「――良い退屈凌ぎになった」

ゴミ箱を置き直して、両手に付いた汚れを手袋越しに払い落とす。
指輪もゴミも、今は全てが元の位置に戻っている。

「『宗像征爾』――」

年齢によっては、この名前に聞き覚えがあるかもしれない。
聞いた事が無いかもしれないし、忘れていたとしても何ら不思議は無いだろう。

「そういう名だ」

613空織 清次『エラッタ・スティグマ』:2019/02/02(土) 22:41:29
>>612

「『宗像』――」

   微笑み、彼の名前を反復しかけたとき、
   鋸刃のような光が視界の隅を掠めた。
   記憶の扉から漏れ出すみたいな細く鋭い光。
   警告音にも似た閃き。

 (……なんだ?
  初めて聞く名前のハズだぞ。
  だが『宗像』、『ムナカタ セイジ』……?
  この名前、どこかで――)


「――『征爾』さんか。覚えておく」

 直感から芽吹いた疑念を飲み込み、
 空織は内ポケットから名刺を取りだして宗像に渡す。

「わたしは『空織 清次 (くおり きよつぐ)』だ。
 すまないな、今は古い名刺しかないんだが――」

┌───────────────┐
│      Tailor  Blank Whale       │
│                        │
│        仕立物師        │
│        空織 清次.          │
│                        │
│      Phone: XX-XXXX.       │
│                        │
└───────────────┘


「……『上半分』は今や無意味な記号でしかないが、
 わたしの携帯番号はそのままだ。
 いつでも連絡してくれ」

 ふと、出会いのきっかけが頭をよぎった。

「……それと、なんだ。
 もし君にこれから時間があるのなら、
 なにか一杯ご馳走でもできればと思うんだが」

「なにか飲みたいものはないか?」
 微笑を浮かべながら、宗像に訊ねる。

614宗像征爾『アヴィーチー』:2019/02/02(土) 23:18:06
>>613

「空織か――覚えておこう」

二十年前は、『宗像征爾』という名前がニュースや新聞で報じられていた。
それは殺人事件の犯人の名前だった。
今では、この街における過去の一つとして埋もれている。

「――仕立て屋か」

名刺を受け取ってポケットに仕舞い込んだ。
代わりに、少し前に立ち寄ったコンビニのレシートを手渡す。
裏側に電話番号が書き込んであった。

「俺は配管工事を扱っている」

「見積もりは無料だ」

それから、不意に空を仰ぎ見る。
特に意味の無い行動だ。
ただ何の気なしに、意識が向いたというだけの事に過ぎない。

「さっきも言ったように俺は暇だ」

「ゴミをバラ撒いて片付ける時間がある程だからな」

おもむろに視線を空織に戻す。
そこにあるのは虚無的な瞳だ。
愛想が良いとは言えないが、冷たさは無かった。

「そういえば、コーヒーを飲み損ねた事を思い出した」

「その代わりを貰いたいが、構わないか?」

615空織 清次『エラッタ・スティグマ』:2019/02/03(日) 00:05:21
>>614

「正しくは、『元』仕立て屋……だな。
 今は店もなければ伝手もない。
 だが――」

  番号の書かれたレシートを宗像から受けとる。
  空っぽになった財布に最初に収めるものとして、
  それは今一番ふさわしいものかもしれないと空織は思った。

「もしこの街に店を出せる時が来たなら、
 その時は君に工事を手伝ってもらうことにしよう」

 冬晴れが強張りをほぐすように、
 自然と口角が緩んで笑みを作る。


「――そうか、それは良かった。
 わたしもこの街には越してきたばかりで、
 いい店はそれほど知らないんだ」

「だがうまいコーヒーを出す店だけは
 知っていてね」

  すべての過去が電子的にアーカイブされるこの時代に、
  いったい誰が『精算した過去を忘れられる権利』を持ちえるだろう?

「すこし歩くが構わないか?
 ――よし、なら案内しよう。
 ところで君、甘いものは好きか?」

  いつか、彼の犯した罪を空織が知る時が来るのだろう。
  だが――少なくともそれは今じゃない。


 宗像を連れ、空織は冬晴れの街路を歩きはじめる。
 薄雲を脱ぎ捨てた空は、しばらくのあいだ
 二人に穏やかな暖かさを運んでくれるはずだ――。

616硯研一郎『RXオーバードライブ」:2019/02/05(火) 21:50:44

「鬼は外。福は内、というが。まさかマジモンのガチで追い出されるとは。
それもかれこれ丸2日もだ。
『硯旭(スズリアキラ)』、我が母ながら中々にクレイジーだ」


ダンボールで作ったであろう『棍棒』を手に持ち、
履き古した便所サンダルに虎柄のジーンズ、
更に上半身裸の男子高校生が大通りで途方に暮れている。

617今泉『コール・イット・ラヴ』:2019/02/07(木) 22:25:41
>>616

「うわっ、『鬼が外』にいるっ!?」

思わず声に出ちゃったけど、節分は終わってる。
だって売れ残りの恵方巻も昨日食べたくらいだし。

「あのー」

「なにしてるんですかっ?」
「っていうのは独り言で聞いちゃったけど」
「えーっと」「フツーに寒くないですか、それ?」

明らかにフツーじゃないし、イジメとかかもしれない。
だから話しかけるのはちょっとどうかと思った。

けどなんとなく、見たことがある顔な気がして、気になったんだ。

―――――――――――――――――――――――――――

硯に話しかけたのは茶色のツインテールが特徴の『女子高校生』だ。
もし硯が『清月学園の1年生』なら、この少女の事を多少なり知っているかもしれない。

618硯研一郎『RXオーバードライブ」:2019/02/07(木) 23:35:29
>>617

『硯研一郎』は『清月学園』ではなく『私立獄楽高校』の生徒だ。
なので『硯』は『今泉』の事を認識していないが、
友人と遊ぶために『清明』には頻繁に出入りしているので、
もしかしたら『今泉』は『硯』の事を見たことがあるかもしれない。
(『獄楽高校』ーー比較的自由な校風で生徒の自主性を重んじた隣町の『私立高校』。
不良漫画よろしくのヤンキーや、国立大学にストレートで入学する優等生が卓を並べたりする光景が当たり前で、
学生間の偏差値の開きはおそらく県内屈指である)


「親戚の『キラミちゃん』が遊びに来ていてね」


話し掛けられたので振り向く。
特に寒そうにしている素ぶりはなく淡々とした語調で話を続ける。

「せっかく『節分』の時期に遊びに来たのだから、俺は『鬼役』を引き受けたんだ。
それで『鬼』のお面を被って、キラミちゃんに豆を投げられた。

キラミちゃんもお父さんがいないからな。こーいうイベントは初めてだったらしいし、
キャッキャと喜びながら俺に豆を投げてくれた」

「そこまでは良かったんだ」


「俺の『お母さん』が中々に『本格派』でね。
まだ5歳のキラミちゃんは、鬼の正体が俺だなんてわからないんだ。
彼女の事を溺愛してる俺のお母さんは、キラミちゃんの夢を壊したくないから、
おばさんとキラミちゃんが東京に帰るまで、家に戻ってくるなって言い放ったんだ。全くのマジの真顔で。


ーーそれが2日前の話だ。オーケー?」

619今泉『コール・イット・ラヴ』:2019/02/08(金) 00:04:25
>>618

思い出した。この人確か獄校の人だ。
他校にも知り合いはいるといえばいる。
けど、そうじゃなくて『うちに遊びに来てた』人だ。
多分友達に会いに来てた、のかな。

「それは、フツーじゃあないですね」
「いい話かなって途中までは思ってたんですけど」

『も』っていうことは、そういうことなんだろうな。
そうしたらそれは、すごく綺麗な話なんだろうな。

って思ってたんだけど。

「いや、いい話なのかもしれませんけど」

フツーじゃない。話の半分くらいが。
いや、獄校ではフツーだったりするのかな。

でも、他にも知り合いいるけど。
こんなレベルの話、聞いた事ないけど。
やっぱり『本格派』だから、なのかもしれない。

「ええと、うん」

「そこまではオッケーです」
「それで!」

「――――その、親戚の人たちはいつまでいるんですかっ?」

620硯研一郎『RXオーバードライブ」:2019/02/08(金) 18:23:25
>>619

「お母さんは中々変わり者だけど、多分悪い人じゃあないんだ。
息子を片親で苦労させまいと色々と頑張ってるみたいだし、
おかげで俺も今の所お酒やタバコに手を出さない真っ当な男子高校生だ」


無表情のまま淡々と語る。
感情を読み取らせるのを妨げている要素の一つである薄い下唇には、
『在来線』の意匠の『リップピアス』が蛇のように巻きついている。


「明日の朝には帰るとの事なんだ。
俺のお母さんも『鬼』ではないし、
追い出される時にこっそりと数日分の『生活費』を渡されたんだが」

自身の左手に持っている『家電屋』かなにかの『紙袋』に目を向ける…。

621今泉『コール・イット・ラヴ』:2019/02/08(金) 21:26:33
>>620

「なるほどですね、良いと思います」
「お酒飲んでた友達とかいましたけど」
「バレて停学になってましたし!」

ピアスは、流石に珍しいけど怖くは無い。
きっと怖い所もある人なんだとは、思うけど。

「明日の朝ですか〜。今夜冷えるそうですね」
「『寒波』が、来るとかどうとか」
「カイロあげましょうか?」「素肌だと熱すぎるかな」

かばんから貼らないカイロを出す。
カラオケとかで寝る事になるのかな。
でも、半分はだかで入れてもらえるのかな。

「へえ、生活費を……?」「あれっ」

さすがにそれはそうだよね。
追い出すならお金を渡すのはフツーだ。

お金の使い道は何がフツーだろう。
とりあえず私なら『服』から買うけど。
食べ物とか、寝床の方が先かな?

「それ、『電気屋さん』の袋じゃないですか」

『家電屋』で買うもの、あるかな?

「えーと、『電気毛布』でも買ったんですか?」

「それとも、まさか……」

私も思わず、紙袋を見た。中身はいったいなんだろう。

622硯研一郎『RXオーバードライブ」:2019/02/08(金) 22:47:11
>>621

「カイロか。それは、とてもありがたい。
せっかくの好意だ。ならばお言葉に甘えようかな」

「『電気毛布』ッ!惜しい。
駅前にでっかい家電屋があるだろう?
ホラ、あの一番上にゴルフの練習場があって、
キャンプ用品やらも売ってる『なんとかカメラ』。

そこで、着込むものを買おうと思ったんだ。
流石に裸では風邪をひいてしまうからね。
この格好でビルの中に入れたのには驚きだが、
おそらく気の狂った『ユーチューバー』かなにかと勘違いされたんだろう」


ガサゴソ


ダンボール製の棍棒を小脇に抱えて、空いた手を家電屋の紙袋に入れると、
中から巨大な長方形の分厚い『プラモデルの箱』を取り出し今泉に見せる。

「『キャンプ用品コーナー』に向かう途中にある『オモチャコーナー』で見つけて、
一目惚れして衝動買いした『定価3万円』の『1/350スケールの名古屋城』のプラモデルだ。
ーーどうだ?カッコいいだろう?」

「もう一度言う」

「格好良いだろうーー?」

623今泉『コール・イット・ラヴ』:2019/02/08(金) 23:08:46
>>622

「どーぞ、フツーにあったかいですよ」

カイロは、一枚あげた。

「ああ、ありますねえ〜っ。大きいですよねあれ」
「『名前通り』っていうか」
「カメラの売ってる面積ほとんどないっていうか」

「確かにあそこなら、アウトドア用品?みたいな」
「あっ、『キャンプ用品』でしたね!」
「そういうコーナーに防寒着とか、置いてたかも」

「それで――――」

納得しようと思ったのに・・・箱が服じゃない。

「それで」「えっ、プラモデル買っちゃって……」

この人。

「え……」「そ」「そうですね」

フツーじゃない。相当フツーじゃないよ。

「カッコいい、ですね」「さすが3万円というかっ」
「あ」「お城のプラモデルなんて、あるんですねえ!」

心が、ちゃんとできなくなってるかもしれない。
ユメミンとか芽足さんとかも『フツーじゃない』けど、この人はまた違う感じだ。

624硯研一郎『RXオーバードライブ」:2019/02/08(金) 23:33:58
>>623
貰ったカイロをぺたりと腹部に貼り付ける。
これでお腹が冷えるのを防げる。

「メルシー、グラッツェ、シェイシェイ、
サンキュー、グラシアス、ダンケ、スパシーバ。
兎にも角にもありがとうって感じだ」


取り出したプラモデルの箱をまるで野良猫を愛でるようかのように、ゆっくりと撫でる。
表情は相変わらず崩れないが、その挙動は何処か自慢気に見える。


「俺は正直言って『城』になんて全然興味がないんだが、
この『名古屋城』ってのは凄くいいな。
特にこの上に乗ってる『鯱鉾』ってのがカッコいい。
おもちゃコーナーでこいつを見た時は、
『ブランキージェットシティ』を聴いた時以来の衝撃が走ったよ。
全くマジの一目惚れだ。参ったよ」

「でも一つちょっとした『問題』が起きてしまってね」

625今泉『コール・イット・ラヴ』:2019/02/09(土) 00:16:54
>>624

「どういたしまして。ユアウェルカム」
「イッツマイプレジャーでしたっけ?」

英語と日本語以外は、ちょっとわからないかな。
意外と国際的なのかな。

「シャチホコ……しゃちほこですかあ」
「そうですね、たしかに『誇らしげ』っていうかっ」
「堂々としてて、かっこいいかも」

私はプラモデルとかはあんまり知らない。
けど、そう考えて見たら、いいものなのかも。

ブランキー、っていうのは洋楽かな?
これが休み時間ならそこを聞くべきなんだろうな。
でも、今は『問題』っていうのを聞いた方がよさそうだ。

「ここまで来たらどんな問題でもフツーに聞きますけど」
「いったい、なにが起きちゃったんですか?」

「あ、もしかして!」「組み立て用の道具がない!とか!」

いつもプラモデル組んでますって感じじゃないし。
もしかしたら趣味なのかもしれないけどお城って珍しそうだし。

「あはは」 「……いやー」 「『生活費』って、何円だったんです?」

フツーじゃない。けど、いや、そうだ。フツーじゃないんだった。

626硯研一郎『RXオーバードライブ」:2019/02/09(土) 00:39:28
>>625

「お母さんから貰ったお金は『3万円』だが?
『プラモデル』というのは組み立てるには、
ニッパーやらの『工具』が必要なんだな。
いやはや完全にーー『想定外』だったよ」

バリッ!ボリッ!ボリッ!

ジーンズのポケットから『節分』の『豆』を取り出し、齧り始める。
おそらく家を追い出されてる間はこれで飢えを凌いでいたのだろう。

「つかぬ事をお伺いするが、
君『ニッパー』と『スプレー』と『接着剤』を持っていないかい?」

627<削除>:<削除>
<削除>

628今泉『コール・イット・ラヴ』:2019/02/09(土) 09:15:08
>>626

「えっ…………」「思い切りがよすぎません?」
「ごはんとか寝るところとか、どうするんですかっ」

きっと何か考え……あるのかな。
友達の家に行くとか? 野宿に慣れてるとか?
こういうフツーじゃなさは初めてだ。
不思議ちゃんとか、そういうのとも違う感じだ。

「うーん」「ニッパーとスプレーは無いですけど」
「あ、接着剤もプラモデル用じゃない」
「ちょっと強いのりみたいなやつだし」
「お城の組み立てには弱いですよねえ」

「えーと」「あ! 『マスキングテープ』じゃだめですよね」
 
         ゴソソ

「こういう、無地のやつもありますけど」
「色塗りと接着兼用って感じにならないかな」

プラモデル、ちゃんと作った事ないかも。

「見た目の『3万円』感は薄れちゃいそうですけど」

かばんからいくつかテープを出す。
レンガっぽい柄なら、辛うじて雰囲気は壊さない……かな?

「あとは、ニッパー」「うーん」
「確か……ハサミみたいなやつですよね?」

「こういう、テープを切る用のハサミならありますけど」

テープと一緒に小さいハサミも出しておく。
プラスチックが切れる気はあんまりしない。

629硯研一郎『RXオーバードライブ」:2019/02/09(土) 22:52:35
>>628
「ご飯はーー『豆』だ(ボリボリ)。
まだまだ(ガリッ)あるんだ(ボリッ)
よかったら(ボソ)君も食べるかい(ボリボリ)」


取り出した『節分用』の『豆』を咀嚼しながら話を続ける。
丸2日間家に帰っていないにしては不潔な感じはしない。


「それに昨日は『夜叉丸先輩』の(ボリ)の家にお邪魔したんだ(ボリ)

『夜叉丸先輩』は俺の学校の『番長』ってやつで、優しい人なんだ。
恥を忍んで『服』も借りようかと思ったんだか、
夜叉丸先輩の『ファッションセンス』は『壊滅的』でねーー」

差し出された『それっぽい柄』のマスキングテープを受け取り、
感謝の気持ちを伝える為に深々と頭を下げる。


「ありがとう。本当にありがとう。
どんな名古屋城になるかはわからないが大事に使わせてもらう」

630今泉『コール・イット・ラヴ』:2019/02/10(日) 00:16:44
>>629

「豆はこの前沢山食べたんで、遠慮しときます」
「気持ちだけもらっておきますね!」

たくさんというか16個だけど。
17個食べちゃった気がするんだよね。

「いやあそんな」「頭下げる程の事してないですよ」
「ほんとは服とかあげられたらいいんだけど」
「フツーに女物の服しかないですし」

今持ってる買い物袋には『春服』が入ってる。
というかほんとうにマスキングテープで作るのかな。

「あ!」「お城出来たら見せてくれません?」
「なんていうのかな」「『スポンサー』みたいなものですし」
「プラモデルって、どんななのか見てみたいですし」

見届けた方が、良い気がしてきた。
スマートフォンを出す。

「今夜も、番長の人の家に泊まるんでしょ?」
「それか他の友達の家?」「そこで組み立てて〜」

「出来上がったら、ラインで写真送ってくれません?」

631硯研一郎『RXオーバードライブ」:2019/02/10(日) 00:33:45
>>630

「うん、今日も夜叉丸先輩の家にお邪魔しようかな。
そこでセコセコとやってみるつもりだ。
是非君にも完成した『名古屋城』を見てもらいたい」

「ーー見てもらいたい気持ちは、
『名古屋城』よりも大きいのだが」


貰ったマスキングテープとプラモデルの箱を紙袋に入れると、
指を揃えてピンと伸ばし、直ぐに折り曲げる。


「ぱかぱか」

「今は携帯を持っていないし、
俺の携帯は『ガラケー』なんだ。ぱかぱか。
なので俺は『ライン』ってヤツは使えないから、
是非『ショートメール』でお願いしたい」

632今泉『コール・イット・ラヴ』:2019/02/10(日) 01:00:13
>>631

「えーっと」

指のジェスチャーに一瞬迷ったけど。

「あ、ガラケー派なんですね!」
「友だちにもいますよ」「たまに」

  pi pi

「それじゃあメールアドレス教えるんで!」
「ぜひ写メってきてください」

夜叉丸先輩は番長らしいし、家に『接着剤』とかあるかも。
あるかもしれないけど、『テープ』だらけになるかも。
どちらにしてもフツーに続報が気になるから、連絡先を教えた。

「それじゃあ、私はそろそろ行きますね」「あっ」
「カイロ、ずっと直接だと火傷するかもしれないんで」
「そこのところ、気を付けてくださいね!」

「それじゃあまた〜」

そして買い物の続きのために、ここから去った。
この後どうするのかとか、そういえば名前とか……気になる事は多い。

けど、連絡先は交換したし、多分お城といっしょに知る事になるんだろうな。

633芦田『ウェア・ディド・ウィ・ゴー・ライト』:2019/02/16(土) 21:57:51

通りを、少々危ない雰囲気の男が闊歩している。隣には男より少し小柄な
スタンドが2〜3m離れつつ一緒に歩いている。

「さあ てな訳でだ 冷風吹きすさぶ中でウィゴーちゃんとの初めての外出さぁな。
因みに俺は20代である目的に人生を模索していて、それは『納得』って言う
まぁ哲学的で答えるとしちゃあ難しいものを見つけてる最中なのよ。
 んでもって趣味は大麻育てんのと、相手が最大限に傷つく事を考える事かねぇ。
んっ、あぁジョーク ジョークだって、六割位は さ。はっはっ ここ笑う所
好きな食い物は甘味よりはサラミとか胡椒利いた酒にあうツマミが好きなのよ。
んでウィゴーちゃんの趣味は? 人生楽しんでるかい? 好きな食べ物は?」

『……控え目な言葉を選びますけど。芦田様は頭のネジがちょっと
ブッ飛んでるんじゃないですか? 普通、自分のスタンドに趣味とか
好きな食べ物とか聞く事ないと思いますよ。
 あと、私はウィゴーでも、ウィゴーちゃんでも有りません。
ウェア・ディド・ウィ・ゴー・ライト 妖甘様から頂いた正式な名があります
例え、本体だとしても略称を好き勝手に呼ばれたくありません』

    ヒュー♬

「おぉっ、こりゃ雪風よりも粘っこい風味が利く皮肉じゃねぇか。
ウィゴーちゃん ウィゴーちゃん ウィゴーちゃんよぉぉ
 俺は正直よ、ウィゴーちゃんを俺の中から引っ張り出したのか
それとも、あのスーツのぼんぼんちゃんのオリジナルかぁどうかぁ
知らないが。それでもよ、俺の糞溜め見たいな中に、ウィゴーちゃん見てぇな
ものが出てくるなんぞ夢のまた夢って奴だったんだぜぇ?」

  ひっひっひひ♪

「・・・あぁヤベェな ウィゴーちゃん、ちょいと
目ぇ瞑って顔近づけてくんね?」

『おい 寄るな 近づくな それと 私はウィゴーちゃんじゃない
ウェア・ディド・ウィ・ゴー・ライトです
……ちょっと! 誰がお近くに正義のスタンド使いはおりませんか!?
不審者が居ます!』

不気味に笑う男と、それに後ずさるスタンドと言う奇妙な構図が出来上がっている。

634御徒町『ホワイト・ワイルドネス』【16】:2019/02/16(土) 22:49:28
>>633
「あ゙ 、 あ゙ぁぁ〜〜〜〜ッッ!?」

     「なんじゃぁぁ〜〜〜〜ッッ こりゃあぁ〜〜〜〜ッッ」


    ガゴッ  ゴホッ
                      ペッ

大通りを歩いていたら、スタンドと共に独り相撲をしてる若者を見かける。
思わず大声を上げ、周囲の奇矯な視線を集めながらも、
喉に溜まった『痰』を吐き出し、『芦田』の傍に大股で歩み寄る。

     「あ、アンタぁ、何してるんですかァ!?

      ちょっとねェ、それッ  しまいなさいよ、みっともない!」

黄ばんだ歯を剥き出しにしながら、『芦田』に唾泡を飛ばしながら、怒鳴りつける。

635芦田『ウェア・ディド・ウィ・ゴー・ライト』:2019/02/16(土) 23:10:23
>>634

      パチ  パチクリ

        ニヒィ

「おいおい、おいおい おいジィさん。しまっておくれって何かい?
怒張した腰のモンって言うんなら、そりゃ生理現象ってもんだろぉ、おい
 それとよ、おりゃあジィさんの唾でRight-Onのシャツをデコレーション
する趣味はねぇんだぜぇ?
 あぁ、でもよ。ウィゴーちゃん ウィゴーちゃん ウィゴーちゃあぁん
俺ぁ ウィゴーちゃんのよ 可愛いチロチロした活かしたニップで
ベトベトになるんなら 吝かでもねぇんだが どうだい?」

『すいません 何が どうだい? なのか全く意味不明 理解不能ですし
それと、繰り返しますけどウィゴーちゃん じゃありません
ウェア・ディド・ウィ・ゴー・ライト それが私であり 存在の名称です』

「つれないねぇ。あぁ、ジィさん そんでもって 此処ら辺で
小洒落た ちょいと人気が殆どねぇ活かしたスイーツ店でもねぇかな?
 ウィゴーちゃんとのデートする場所として探してんのよ」

『ちょっと本当待て 何なんだこの本体っ どう説明すれば
まともになるんだ!? あと私の名はウェア・ディド・ウィ・ゴー・ライト!』

「ん? あぁウィゴーちゃんはスイーツより自炊派かい?
そんなら八百屋でもいくか ちょいと精のつくもんでも買おう」

『あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!!』

大様に自分のペースで話しをする本体に、金切り声を上げる始末のスタンド。
だが、殴ると自分にもダメージが来るのでフラストレーションは堪りに溜る。

636御徒町『ホワイト・ワイルドネス』【16】:2019/02/16(土) 23:20:34
>>635
「その、スタンドを『しまえ』と言うとるんですよ!

 何が『スイーツ』じゃあ、このアホンダラぁ!
 アンタみたいに人の話を聞かないノータリンがねェ、
 店の商品を勝手にイジって台無しにするんですよォ!」

一人で勝手に喋っている(ように周囲には見える)『芦田』、
その『芦田』目掛け、ヒステリックに怒鳴りつける『御徒町』。
周囲の目を引くのは間違いないが、『御徒町』の怒声は止まらない。

     「アンタねェ、道の往来で恥ずかしくないんですかァ!?

      そのフザけた一人芝居を止めて、
      畳の上でマスでもかいてろ、と言うべきでしょう!」

     「無線のイヤホン繋いでバカ話してる『中国人』だって、
      私はブキミでしょーがないんですよぉ、ええっ!?」

637芦田『ウェア・ディド・ウィ・ゴー・ライト』:2019/02/16(土) 23:33:50
>>636

>その、スタンドを『しまえ』と言うとるんですよ!

『そうですっ。そう常識を教えて下さい ご年配の方っ
この男には、そう言った当たり前の情操教育の大事な部分が欠落してます!』

赤の他人にもスタンドは味方につく。だが、芦田は悪びれる事なく笑う。

>店の商品を勝手にイジって台無しにするんですよォ!

「おぉ! よく、俺の過去を知ってんなぁ? 
確かにジィさんの言う通り。おりゃあ高校時代は万引き・器物破損
色々と悪もやったよ。殺し以外は殆どやってた感じだなぁ
 んでもよぉ。そりゃあ全部『納得』する為の模索だったしなぁ。けど
これがさっぱり、イマイチ心から、あぁそうだったなあ! って実感を
今まで得た事が無いんだなぁ、これが!」

>畳の上でマスでもかいてろ

「あぁ、そうそう……これ一番肝心なんだけどよ、ジィさん。
俺がウィゴーちゃんを組み敷いて、まぁゴールデンじゃ放送出来ない事
やるとするじゃん。けどよ、ウィゴーちゃんは俺の半身だろ? 
でもウィゴーちゃんと俺ってば結構思考に嗜好も違うしさ。この場合
強姦になんの? それとも高度なマスターベーションなのかねぇ?
 あんた結構歳食って色々経験してそうだし、答えも知ってそうだよな」

『知るわけねぇだろ 脳味噌パープリンなのか異常性癖者』

本当に不思議そうに御徒町い実入りが全く無い質問を投げかける。
スタンドは既に本体を罵倒しかしなくなった。

638御徒町『ホワイト・ワイルドネス』【16】:2019/02/16(土) 23:49:32
>>637
>この場合強姦になんの? それとも高度なマスターベーションなのかねぇ?

    「『高度』なワケがないでしょうがッ!

     私はねェ、アンタみたいな『常識』のない小僧が、
     世間様にツバ吐いて鼻高々にしてるのに、
     ガマンならないんですよォ!  ええッ!?」

既に禿げ上がった額に『青筋』を浮かべ、
落ち窪んだ両目をカッと見開き、怒気を隠そうともしない。

    「ふざけやがって、青二才が……。

     おい、アンタらもねェ! 何をニヤニヤしてるんですかぁ!?
     カメラ止めろォッ! こちとら見世物小屋じゃないんだよッ!」

遠巻きに様子を見ている群衆に怒鳴り付け、因縁に近い罵声を浴びせる。

    「クソ共が、渋谷のハロウィンみてェなバカ騒ぎを、
     まだ続けようっていうんですかァ、上等ですよ!」

    「アンタらもねェ、私の『ゲーム』に出演させてやりますよぉ!」

『御徒町』は全てに苛立っていた。
すっかり様変わりした『業界事情』や、己を無下にする『学生』共、
一応の『名声』を利用して、授業料を巻き上げるための『客寄せパンダ』に仕立て上げた『経営者』、
無論、目の前でわめきたてる『小僧』も遠因ではあるが、……あくまでも『切欠』に過ぎないのだ。

639芦田『ウェア・ディド・ウィ・ゴー・ライト』:2019/02/17(日) 00:05:33
>>638(次あたりで〆させて頂ければと)

>アンタらもねェ、私の『ゲーム』に出演させてやりますよぉ!
   
         ピクッ

『……ご尊老  ゲーム  とはどのようなものです?』

 只ならぬものを感じたのか。芦田の飄々とした戯言に癇癪起こした態度から
一転して生真面目な雰囲気になり御徒町を見定める。

    ゴ  ゴ  ゴ  ゴ  ゴ……

『ご尊老 貴方のその気迫 そして怒り。
ただ単純な世界への単純な反抗心以外の【何か】を感じ取りましたが……
【過去】に何かを宿しておいてで?』

「……ウィゴーちゃん ウィゴーちゃん そう虐めてやんなさんな。
過去に何かあったかも ってぇ? そりゃあ、こんな淡も黄色くて
骨出張った体つきなんさ。色々と辛酸もある過去だろうさぁ。
 疑わしきは罰せず だろう? ウィゴーちゃあん。それより俺達の
未来の愛についてでも語り合おうぜぇ。なぁ、おい」

『喧しい ハウス』

『……えぇ そうですね。疑わしきは 罰せず。
ご尊老 このような青二才に余り構う事はありませんよ。所詮は
クソ共の一人ですので』

「酷いねぇ けどツンツンしてるのも可愛いぜぇ ウィゴーちゃん」

『ウェア・ディド・ウィ・ゴー・ライト です』

スタンドが穏やかに別れを告げる……秘めたる力は開示しない。
このままなら、頭のネジが外れた若者と それに侮蔑する奇妙な自我ありの
スタンドと変な絡みをしただけで済む

640御徒町『ホワイト・ワイルドネス』【16】:2019/02/17(日) 00:19:18
>>639
>『喧しい ハウス』

    「お前がハウスだバカヤロー!
     さっさと本体に戻らんかァァ〜〜〜〜ッッ!!」

『御徒町』の激昂はスタンドにも見境がない。
無論、干渉できるわけはないのだが、ネバっこいツバ飛沫も、
相当『ウェア・ディド・ウィ・ゴー・ライト』へ飛んでいる。

>『……ご尊老  ゲーム  とはどのようなものです?』

    「あ゙ぁ゙ぁ〜〜〜〜〜ッッ!?

     私もねェ、この業界で『35年』はやってますよッ
     『新機軸』と称した産廃物なんか下の下であっても当たり前ッ

     ワールドワイドを言い訳に金を集める手法ばかり磨いて、
     真に『頭脳』や『技巧』でのみ筆頭となれる、理想郷としての『市場』は、
     いまやすっかり過去のモノですよ! 私の『玉座』だけを残してねェ!」

別段、『芦田』は『TVチャンピオンのラスト・インタビュー』のニュアンスで訊いたはずはないのだが、
それを逆手に取って長々しい『自分語り』にすり替える、老獪な手腕を『天然』でやってのける。
骨の髄まで『自己主張』に満ちた下劣な『老骨』の真骨頂ともいえる、がなり声が大通りに響き渡る。

    「ええっ、やったことねぇんでしょう!? 『おかしのマーチ』をッ!?

     おい、そのスマホをすぐに捨ててねェ、中古屋にダッシュでッ!
     古い方のDSにも移植してある、『おかしのマーチ』を買いなさいよォ!」

    「私の『過去』にねェ、やましいことなんて何一つありませんからねェ!
     勝手に理解した気になるんじゃありませんよ、『第九局面』もクリアしてないひよっこがぁ!」

既に野次馬達もドン引きして散り散りになっているのだが、その背中に向けて怒鳴り声をかます。
好奇心で首を突っ込んだ通行人達もまた、『変な絡み』で済んで何よりといったところだろう。

641芦田『ウェア・ディド・ウィ・ゴー・ライト』:2019/02/17(日) 00:36:52
>>640(お付き合い有難う御座いました)

「おいおい 唾を飛ばすんじゃねぇよ ジィさん
俺はいいが ウィゴーちゃんの可愛い顔が、あんたの唾でマーキングされたって
ちっともおっ勃ちもしねぇよ…………あん、待てよ?
ウィゴーちゃんの唾液で」

『ウェア・ディド・ウィ・ゴー・ライトです
いやいい 本当いい ろくでもない事しか話さないから
そこで黙りなさい 会話が進まないんですよ 貴方が口挟むと』

御徒町の話を、右から左へと芦田は聞き流してる様子で
ウェア・ディド・ウィ・ゴー・ライトは真摯に耳を傾ける。

『35年 ゲーム会社……嘘をついてる様子は無さそうでした。
だが、ゲームに参加させると言った時の鬼気迫る表情……』

「あんまり深く悩むこたぁねぇよウィゴーちゃん。
『おかしのマーチ』
お菓子で可笑しな犯しのま ぁ ち〜♪
みんながみんなイきたいのよ♫ 侵したいのよ あなたの……♩」

『すいません エチケット袋を近くの店で買ってくれませんか?』

「ついでにスイーツ食べない? 予定通りにさ?」

『……あの 本当どうでも良いですけど、何で私を女性扱いで
話を進めてるんです?』

「そりゃあ、ウィゴーちゃん。片方眼鏡の老紳士風味か
片方眼鏡の司書っ娘、どっちが見栄え良いかって言やあ
断然的に後者じゃねぇか。そりゃ、世の皆さん全員がそう思うぜ?
こりゃ『納得』とかそう言う範疇以前の『常識』だろ?」

『何で私は貴方の目覚めから出て来たのか、理解に苦しみますよ。
切り取りたい過去は、本当起源からですよ』

「つれないねぇ けど、あの淡吐きジィさん なかなか愉快じゃねぇか。
また道中揶揄ってやろうぜぇ ウィゴーちゃあん」

 道すがら雑談しつつ、過去を掘り下げるスタンドと若者は
裏ゲーム主催者と別の道を行く。
 ウェア・ディド・ウィ・ゴー・ライトの力が、何時か御徒町の過去を
引き出すのかは 未だ誰にもわからない。

642御徒町『ホワイト・ワイルドネス』【16】:2019/02/17(日) 01:02:23
>>641

      「ハァ……  ハァ……

       クソどもが、ようやく消えましたね――――」

      「『GEO』の方角じゃあないのは気になりますが、

       ゴホッ  グェ、ッ……まぁ、いいでしょう」

いつの間にかいなくなった『芦田』を尻目に、
三々五々に散っていった群衆達に恨み言を零す。

冷や汗が、身体の震えが止まらない。
喉を擦る『異物感』、『痰』であればどんなにいいことか。

>過去に何かあったかも ってぇ? そりゃあ、こんな淡も黄色くて
>骨出張った体つきなんさ。色々と辛酸もある過去だろうさぁ。

       「わ、だしに、ゴホッ

        目を背ける『過去』など、ない――――」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

       「『御徒町』君ねェ、我が『嵯峨野研究室』は、

        『最新鋭』なんだよ。『優秀』とか、そーいう意味じゃあない」

       「『最新』ってのは、『一番』ということであってねェ、
        『未開拓』である、君みたいに誰でも出来る、誰かがやってる、
        そーいう『成果』はねェ、『成果』とは言わないんだよ、そうだろぉ?」

       「これからの『産業形態』を大きく変える、
        『相互補完アルゴリズム』、ハッキリ言って『荒野』に等しい。

        我が大学の『門』を潜った学士であっても、
        君のような『凡才』では、全くお話にならない、ということだよ」

       「これでも君程度に解るように話のグレードを下げに下げたのだがねェ、
        何も解っとらんらしいなぁ。ん? そうだろぉ? 君は『0』から作れないんだろぉ?」

       「なぁ、そうだろぉ? ん? どうした?
        『理論』は理解できるんだろーが、
        だからってエラそーに出来る話じゃあないだろぉ?
        そーいうのは『市場』に出す時に、民間がやってりゃあいいんだ」

       「まあ君も後数ヶ月でおサラバだから、どーこーは言わんがねぇ、
        全くの『お荷物』だったよ、君が余所でひけらかす借り物の説明は聞き飽きた。

       「これからはそーいうのは止めてくれな、我々『研究者』の評判まで下がってしまう。
        コピーペーストは学生論文のレベルでやってればいい、じゃあ達者でな」

                バタンッ!

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

       「何も、ない……」  ガホッ



.

643日沼 流月『サグ・パッション』:2019/02/24(日) 01:42:45

         ザッザッ

「もしもし〜ッ、え、今ですか?
 今星見街道の〜、あの、お店多い通りですケド」

      「え」 「ウソっ」

「あ、びっくりしたぁ〜〜〜ッ
  今日かと思いましたですってェ〜〜〜」

名前通りファンシーな品を扱う店から、
スマホ片手に通話しつつ……前を見ず、
金とも銀とも言えない髪の少女が出て来た。

肩に掛けた買い物袋はそれなりに大きなもので、
近くを通る人がいればぶつかるかもしれないし、
あるいは単に『同好の士』の目に入るかもしれない。

「え? 今日じゃダメかって、ダメですよ〜。
 流月(ルナ) 今日は買い物日和なんです。
 今日逃すと買えないものがありましてェ〜っ」

ともかく日沼は今不注意だ。何が起きてもおかしくない。

644日沼 流月『サグ・パッション』:2019/02/27(水) 01:14:08
>>643(撤退)
運よく何事も無かったので、そのまま立ち去った。

645三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/03/01(金) 02:07:46

こんにちは、千草です。
今日は一人で喫茶店に来ています。
以前は小角さんにお会いしましたが、今は一人です。

「ふう――」

テーブルの上にはノートが広げられています。
生徒会会議の議事録です。
それを見やすくまとめる作業中なのです。

「すみません。注文をしたいのですが」

ボールペンを置いて、ウエイトレスさんを呼びました。
少し疲れたので、一休みです。
ところで店内は満席のようなので、誰かと相席になるかもしれません。

646鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/03/01(金) 21:43:14
>>645

チリーン

『申し訳ありませんお客様。ただいま満席となっておりまして、相席となりますが…』

「えっ」ビクッ

チラッ

「ああ、大丈夫です」

『ありがとうございます。それではこちらへどうぞ』



「こんにちは、三枝さん」「お邪魔させてもらってもいいか?」

長身の学生服、ザックリと斜めに切られた前髪が特徴的な青年が、笑顔で声をかけてきた。
トレードマークのような、背負った竹刀袋も以前と一緒だ。

647三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/03/01(金) 22:58:37
>>646

「あっ、鉄先輩――」

      パァッ

「こんにちは」

      ペコリ

「どうぞ、またお会いできて嬉しいです」

知っている顔を見かけて、自然と表情が綻びました。
それから、背中の竹刀袋に視線を向けます。
先輩は、やっぱり剣道部の帰りでしょうか。

「そういえば――」

「鉄先輩は高等部二年の日沼流月先輩を知っていますか?」

少し前のことを思い出しました。
一緒にお話してくれた先輩です。
確か、鉄先輩と同学年だったと思います。

648鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/03/01(金) 23:09:54
>>647

「ありがとう」ペコリ

幼くも礼儀正しい三枝さんに合わせて、こちらも礼をして椅子に座る。
竹刀袋は邪魔にならないように、椅子の背もたれに引っ掛けておいた。

「・・・日沼さん?」「一応知ってる、かな」「話したことはないけれど」

ただその名字は聞いたことがあるし、恐らく遠巻きながら姿も見たことがあるはずだ。
なかなか派手な髪色をしていて、いわゆる『不良』的なグループの1人らしい、と耳にした。
そのグループに関して根も葉もない噂はいくつかあるが、そこまでは言わなくていいだろう。

「三枝さんこそ、どうして日沼さんを知っているんだ?」

『メニュー』を開きながら、訊ねる。
三枝さんとは学年も違うが、何よりあまりに『タイプ』が違う。接点はないように思えてしまう。

649三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/03/01(金) 23:32:16
>>648

「そうですか――」

「日沼先輩にも、同じような事を言われました」

やっぱり、なかなか深い親交というのは見当たらないようです。
生徒数の多い学校だからでしょうか。
でも、それは構いません。

「『超能力』です」

鉄先輩の質問に、真面目な顔つきで返しました。
そして、すぐに口元を緩めます。
本当は違うからです。

「――――だったらビックリしますか?」

          クスクス

「『冗談』です」

普段よりも子供っぽい笑顔で、そう言いました。
目指す『立派な人』になるためには、ユーモアも理解していないといけません。
『本当の本当』は、少しだけ『本当』ですけど。

「この前、学校で少しお話したからです」

「鉄先輩のことを話したら、千草が感謝していることを伝えてくれると言ってくれました」

「日沼先輩は親しみやすくて、良い先輩だと思いました」

650鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/03/01(金) 23:52:19
>>649

>「日沼先輩にも、同じような事を言われました」

「…だろうなぁ」

その言葉に深く頷く。
今泉さんのように顔が広い子ならともかく、ましてや自分はさほど知り合いは多くない。
同じ学年といえど、同じ部活や同じクラス、あるいはそうだった過去があるか、
または友人の友人という繋がりでもない限り、なかなか知り合いになることはない。
それこそ、自分にとっての鳥舟さんや平石さんのように。

>「『超能力』です」

「─────」

『スタンド使い』という共通点がなければ。
そう思っていた矢先に投げかけられた言葉に、『メニュー』を読んでいた手が止まり、
バッと三枝さんを見上げる。だが、その真意を問おうとするよりも早く。

>「――――だったらビックリしますか?」

>          クスクス

>「『冗談』です」

「・・・いや、中々『冗談』が上手いな、三枝さんは」

応じるように、こちらも口角を上げる。
子供は時々、驚くほど本質を見抜くことがあるという。一瞬だけ、その笑みも、全てを知った上での事のように思えてしまった。
が、流石にそれは妄想に過ぎないだろう。ただ最近自分の知り合いに『スタンド使い』が多かったので、過敏になっているだけだ。

「…そうか」「日沼さんはいい人なんだな」「今度、オレからも話しかけてみるよ」

正直、三枝さんの言葉はあまりに意外だったが、確かに自分とて日沼さんと直接話したことがあるわけではない。
ならば、実際に言葉を交わしたこの少女の言葉を信じるべきだ。それに、いい人ならそれに越したことはない。

「オレは『黒蜜ときなこのプリン』にしようかな」「三枝さんは?」

651三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/03/02(土) 00:12:45
>>650

「はい――」

そう答える表情は、心なしか少し誇らしげに見えました。
何だか、自分が二人の先輩の架け橋になれたように感じたからです。
少しだけ――ほんの少しだけ、『立派な人』に近付けた気がして嬉しく思いました。

「千草は『フルーツあんみつ』にします」

言いながら、メニューの一点を指差します。
あんみつは好きなのですが、今日はフルーツあんみつの気分です。
それから、出しっぱなしになっていたノートを脇に片付けましょう。

「鉄先輩は部活動の帰りですか?」

「ご苦労様です」

       ペコリ

鉄先輩は立派な人です。
それを少しでも見習っていきたいです。
千草は、まだまだ未熟者ですから。

652鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/03/02(土) 00:27:09
>>651

「お、いいセンスだ」
「すみません、注文をお願いします」

いいセンスと言ったのは、実際自分も『あんみつ』にするか迷ったからなのだが。
とにかく、運良く男性のウェイターが通りがかったので、2人分の品を注文する。
そのままメニューも持っていってもらった。

「そうだよ。もう少しで『大会』もあるから、頑張らなきゃな」
「三枝さんは?ここでテスト勉強とか?」

カバンからファイルを取り出しながら、こちらからも訊ねる。

653三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/03/02(土) 00:50:23
>>652

「剣道の大会――ですか」

テレビか何かで見かけたような覚えはあります。
でも、実際に見たことはありませんし、詳しい内容までは分かりません。
ただ、きっと凄いものなんだろうという想像くらいは千草にもできます。

「千草には何もできませんが」

「でも、鉄先輩のことを応援しています」

「先輩も千草のことを応援してくれましたから」

        ニコリ

以前に神社の近くで出会った時のことを思い出しました。
その時、鉄先輩は千草が立候補したら応援してくれると言ってくれました。
だから、千草も先輩を応援したいのです。

「生徒会会議の『議事録』の整理です」

「書記として、正式に生徒会に加わることになったので」

       ペコリ

「鉄先輩が応援して下さったおかげです」

でも、まだまだです。
千草は、もっともっと成長したいのです。
そのためには常に上を、常に先を見つめなければいけません。

654鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/03/02(土) 01:07:42
>>653

>「千草には何もできませんが」

>「でも、鉄先輩のことを応援しています」

>「先輩も千草のことを応援してくれましたから」

「・・・いや」「そう言ってくれる人がいる事が、オレにとっては何より力になる」
「ありがとう、三枝さん」ペコリ

両手に膝を置き、頭を下げて感謝を示す。
『団体戦』のレギュラーは、あと一歩のところで。…本当に、僅かな差で落としてしまったが。
『個人戦』のレギュラーは、まだ確定していない。ここからの挽回次第では、チャンスはある。
自分の心が抱える問題さえクリアできれば、だが。

しかし、その次に聞いた報告は、そんな憂いを吹き飛ばすように喜ばしいものだった。

「そうか、三枝さんは『生徒会』に入れたのか!」「おめでとう」「目標が1つ、叶ったな」

あの神社でこの少女が口にした望み。
それが叶ったかどうかはずっと気になっていたが、これはとても嬉しい事実だ。

「偉いなぁ、三枝さんは」「ここでも『お仕事』をしてたんだな」

素直に感動しながらも、自分もファイルからこの街の地図を取り出して、スマホを隣に並べた。
こちらもお仕事というほどではないが、私用を片付けておこう。

655三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/03/02(土) 01:35:24
>>654

「えへ……」

「――ありがとうございます」

     ペコリ

今日一番の嬉しそうな表情で、頭を下げました。
本当に嬉しかったからです。
生徒会に入れたことでも、それを祝ってもらえたからでもありません。
その二つも嬉しいことですが、
それよりもお互いに応援しあえる関係を築けていることが嬉しいのです。
それは、得た結果よりも尊いものだと千草は思っています。

「他に『雑用』も幾つかやらせてもらっています」

「いつか『生徒会長』になるのが、次の目標です」

「そのために、今は与えられた仕事を精一杯やっていきます」

一つ一つの言葉を噛み締めるように、実現させたい展望を語ります。
いつかは叶えたい目標です。
でも、そこで終わりではありません。
もし、そこに辿り着けたら、さらに先を目指したいのです。
千草の『最終目標』は、その向こう側にあるのですから。

「鉄先輩――どこかにお出かけの予定ですか?」

先輩が取り出した地図を眺めながら尋ねます。
この街ということは、それほど遠くではなさそうですが。
どこか地図に印などがしてあるのでしょうか?

656鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/03/02(土) 22:15:45
>>655

「『生徒会長』か…更に大きく出たな」

『生徒会』に入ることそれ自体も容易いことではないと思うが、
更に『生徒会長』となれば、尚更だ。学園の中で、生徒代表とも言える立場にあるからだ。
それに相応しい人望と能力が求められる。

「でも、きっと三枝さんなら大丈夫だ」「真面目で勤勉なキミなら」

そう言えるくらい、自分はこの少女に好感を覚えている。
重ね合わせるのは彼女に失礼かもしれないが、自分も器用に色々とこなすというより
地道に少しずつ努力を重ねていくタイプだ。だから三枝さんの成功も、我が事のように嬉しいのかもしれない。

「あぁ…出かけるわけじゃあないんだ」「ちょっと、この街の危ない所をマークしておきたくてな」


鉄が広げた地図の中には、幾つかの印がしてある。
緑色の丸は、『ホームセンター』『大型ディスカウントストア』『骨董品店』などに記されている。
また赤色の丸は、時刻の他に『通り魔』『暴行事件』など備考が記されていた。
スマホを見ながら、鉄は更に地図の上に赤色の丸を書き記していく。


「三枝さんも、気をつけて」「生徒会で遅くなった時は、2人以上で帰ったりとか」

「…お、来たな」

『お待たせいたしました』

注文の品が届き、店員が『フルーツあんみつ』と『黒蜜ときなこのプリン』をテーブルの上に置いた。

657三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/03/03(日) 00:09:29
>>656

千草は何よりも『死』を恐れています。
だから、それを連想させる言葉も怖いのです。
普段は、目に入れないように意識しているのですが――。

「 あ 」

      プイッ

赤丸に書かれた言葉を見て、一段階高い声を上げて反射的に顔を逸らしました。
『通り魔』や『暴行』――そういう単語を見ると千草は『死』を連想します。
だから、無意識に反応してしまったのです。

         スゥー……

こういう時は、まず深呼吸です。
どうにか気持ちが落ち着いてきました。
予想していなかったので、少し驚きましたが。

「――――はい、ありがとうございます」

     ニコリ

「鉄先輩も気を付けてください」

「でも、先輩なら大丈夫かもしれませんけど――――」

その時、ちょうど品物が運ばれてきました。
話すのを途中で止めて、あんみつを一口食べます。
鉄先輩が大丈夫だと思う理由は、もちろん『アレ』です。

「だって鉄先輩は、8年も『剣道』を続けてらっしゃるんですから」

竹刀袋の方に視線を向け、そう言いました。
だけど、不思議なことだと思います。
どうして先輩は、こんなに熱心なのでしょうか。

「……朝陽先輩のお加減はどうですか?」

神社から帰る途中で鉄先輩から聞いた話を思い出します。
朝陽先輩はピアノが上手で、今は腕を怪我しているとのことでした。
あの時も、つい千草は少し耳を塞いでしまいましたが……。

658鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/03/03(日) 00:35:20
>>657

「!」

「・・・すまない」「無神経だった」

地図を見て目を逸らす三枝さんに、深く頭を下げる。
家での作業を当事者の妹に見られる訳にはいかないと思ってここでやる予定だったが、
そもそも並んでいる字面だけで、女の子にとって気分の良いものではなかったのだろう。
こういった気遣いが欠けている己の無神経さを悔やみ、反省する。
地図を折り畳み、再びファイルへとしまった。
妹が寝静まった後や、あるいは学校の図書室など、他にできる場所はある。焦る必要はない。

「ありがとうございます」

店員へ礼を言い、プリンを自分の前へと置いた。
せっかく喜ばしい出来事があったのだ、気分を切り替えていこう。

「どうかな、こういう場合は『剣道』より『空手』や『柔道』の方が強そうだけど───」ハハハ
「まぁでも、そういう状況になったとしても負けるつもりはない」
「だから安心して、頼ってくれ」

『剣道』で勝てる相手ならそれでいい。そうでなかった時のために、手にした『シヴァルリー』だ。

「・・・・・ほとんど完治したよ」「以前のように動かすには、少しリハビリが必要だけどな」

「そういえば、あの時の三枝さんの『お願い』は叶ったのかい?」

妹、朝陽のことを話したあの帰り道を思い出して、訊ねる。
カラメルの代わりに黒糖が乗った、きなこ混じりのプリンを食べる。とても美味しい。

659三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/03/03(日) 01:04:57
>>658

「謝らないでください」

「鉄先輩は悪くありませんから」

先輩は何も悪いことはしていません。
悪いのは千草の方です。
でも、この習慣は多分なくせないと思います。

「分かりました、先輩」

「その時はお願いします」

『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』――千草の『墓堀人』は役に立ってくれるでしょうか。
何度か練習してみましたが、まだ分かりません。
そもそも、危ないことにならないのが一番だと思いますけど。

「――そうですか……」

「あの――朝陽先輩の演奏……いつか聴いてみたいです」

千草にできることは多くありません。
千草は未熟で弱い人間です。
できることは、ここにも朝陽先輩を待っている後輩がいることを伝えることくらいです。

「いえ、『まだ』です」

「まだまだ、ずっとずっと先のことですから」

あの時に祈ったのは、『素晴らしい最期を迎えること』でした。
それが訪れるのは、きっと何十年も先のことになるでしょう。
きっと、そうであって欲しいと思います。

「鉄先輩の『お願い』はどうですか?」

「――プリンもおいしそうですね……」

鉄先輩のお願い事は叶ったのでしょうか?
先輩のプリンをチラリと見ながら聞き返しました。
行儀が悪いですが、いわゆる隣の芝生は青いというやつです。

660鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/03/03(日) 01:51:51
>>659

>「あの――朝陽先輩の演奏……いつか聴いてみたいです」

「…ありがとう」「本人に…朝陽に伝えておくよ」

やはり優しい子だなぁ、と思いつつ。
多分に気遣いの含まれたその言葉を受け取った。
朝陽は、そういう言葉を力にできる人間だから。かけ値なしに喜ぶだろう。

>「いえ、『まだ』です」
>「まだまだ、ずっとずっと先のことですから」

「そうなのか…てっきり『書記』や『生徒会長』になることかと思っていたけど」
「三枝さんの『夢』は、それ以上に壮大ってことなんだな」

予想が外れたな、と小さく口にする。とはいえ願い事の内容を聞いたりはしないが。
例えば、素敵なお嫁さんとかだったりするかもしれない。あまり女の子のプライバシーに立ち入るべきではない、よく妹が口にしていた。

>「鉄先輩の『お願い』はどうですか?」

「うっ」「いや、オレもまだでね…オレの努力が足りてないんだろうからしょうがない」モグモグ

頭を書きながら、答える。結局仲直りはまだできていない。
何が悪かったのか、自分自身がそれを把握しないといけない。謝るには、誤りを知らなければ。

「今度、知り合いの人が勤めている『烏兎ヶ池神社』にでも行って、またお祈りしようかな」
「他の場所なら効くってわけじゃあないだろうけど」

「…ん?」

プリンを物欲しそうに見る三枝さんに、年相応の微笑ましいものを感じて。
思わず小さく吹き出してしまう。

「いいよ、少し食べてみな」

そう言って、『黒蜜ときなこのプリン』を彼女の方へと差し出す。

661三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/03/03(日) 03:31:51
>>660

「壮大だなんて、そんな――」

苦しむことなく安らかに旅立ち、看取ってくれる人の心にも良い影響だけを残すこと。
それが千草の『夢』で、『人生の目標』です。
何か大きなことを成し遂げようというお願いではありません。
ただ、それでも叶えるのは難しいと思います。
生徒会に入ったり生徒会長を目指すのは、その一歩です。

「千草の夢は、ほんのささやかなものですから」

本音を言うと、『死にたくない』という思いがあります。
でも、それが無理なことくらい未熟者の千草にも分かります。
だから、せめて『素敵な最期』を迎えたいと思うのです。

「『烏兎ヶ池神社』――初めて聞きました」

「それは、この街にあるんですか?」

「千草も一度行ってみたいです」

神頼みだけで夢が叶えられるとは思っていません。
だけど、自分の気持ちを新たにすることはできると思います。
それに、少なくとも損をすることはないですから。

「鉄先輩、今笑いましたね?」

「千草のことを子供だと思いましたか?」

少しだけすねたような表情をしてみせます。
でも、プリンを差し出されると、そちらに視線が向きました。
自然と、少しずつ口元が緩んできます。

「……ありがとうございます」

         ニコ

「でも、いただくだけじゃ不公平です」

「お返しに、鉄先輩も千草の分を食べていいですよ」

「――『パイナップル以外』ですけど……」

控えめに付け加えながら、フルーツあんみつを先輩の方に差し出します。
それから、先輩が分けてくれたプリンを一さじすくって口に運びました。
初めて食べましたが、優しい甘さがとてもおいしく感じられます。

「これもおいしいですね」

「先輩は、こういうお菓子がお好きなんですか?」

662鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/03/03(日) 21:53:49
>>661

「ここにあるらしいぞ」
「友人の友人が言っていたんだけど、『パワースポット』とかなんとか」

今度は紙の地図ではなく、スマホの『地図アプリ』で指し示す。
【ttps://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/comic/7023/1549033452/1】
とはいっても、場所と少しの情報だけで、自分も詳しくは知らない。
烏と兎に池、その変わった名前にも何らかの由来があるのだろうか。

「あぁ、いや別に、そんなわけじゃあ…」
「…すまん。ちょっと思った」「いや、年相応に可愛らしくていいんじゃあないか?」
「朝陽も以前はもっと可愛げがあったんだけどなぁ…」

ちょっぴりふてくされた様子を見せる三枝さんに慌てて首を振るが、
どうせウソをついてもバレると思い、観念して両手を挙げ正直に言う。
妹も、これくらいの時は…いや、もう少し以前、小学生くらいの時は、よく懐いてくれたものだ。
何にせよ、差し出したプリンに彼女が頬を緩めるのを見て、安心する。

「え、オレも頂いていいのか?」
「実はちょっと気になってたんだ、『フルーツあんみつ』」「ありがとう」

感謝の言葉を述べながら、餡と白玉をスプーンに乗せ、口に運ぶ。
和菓子ならではの、ほんのりとした甘さが口の中に広がった。

「…あぁ、美味しいな」「よし、今度来た時はこちらを頼もう」

>「先輩は、こういうお菓子がお好きなんですか?」

「そうだな、どちらかというと洋菓子より和菓子系統が好きだ」
「生クリームやバターたっぷり、とかはあまり得意じゃなくて…」
「でも『バターどら焼き』は以前食べてみたけど、アレは新しい美味しさだったな」
「『和スイーツ』?とか言うらしいが、ああいう菓子も新鮮で良かった」

自分は男子だが、甘いものは好きだ。

663三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/03/04(月) 00:08:48
>>662

「『バターどら焼き』ですか――それもおいしそうです」

「違うもの同士が合わさると、今までとは違う素敵なものができることがあるんですね」

「時には、それが失敗することもあると思いますけど」

「でも、千草と先輩は『バターどら焼き』になれそうな気がします」

「――ね、鉄先輩」

          ニコリ

「先輩、連絡先を交換しませんか?」

「鉄先輩とは、またお話してみたいです」

「先輩が嫌じゃなければ、ですけど……」

手帳型のケースに入ったスマートフォンを取り出します。
先輩は『立派な人』ですから、この繋がりは大事にしたいのです。
そういう関わりは、千草が成長する上でも大切だと思っています。

「もし何かあった時は、先輩を頼りにさせていただきます」

「その代わり――先輩も千草のことを頼ってもいいですよ?」

「『一方通行』じゃ不公平ですから」

千草には大したことはできないでしょう。
でも、もしかすると何かの役に立てるかもしれません。
千草の目指す『立派な人』になるためには、それも必要なことです。

「何だか、たくさんお喋りしちゃいましたね」

「それで、あの――早速なんですが……」

「先輩に一つお願いしてもいいですか?」

664鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/03/04(月) 00:38:14
>>663

「詩的だな」ハハッ
「でも確かに、それには同意する」「年は5コも下だけど、オレはキミを『尊敬』してるからな」

三枝さんの言葉に頷き、自分もスマホを取り出す。市松模様の、ハードケースだ。
好感を覚えている彼女に対して、連絡先の交換を拒む理由などなく。
むしろ、『通り魔』のような人間がいるかもしれないこの街で。
いざという時に、連絡はすぐに取れた方がいい。

「もちろん、こちらこそよろしく」
「ああ、その時は頼りにさせてもらうよ」「何せ、未来の『生徒会長』だからな」

もちろん冗談だ。
彼女が『生徒会長』になったとしても、例えば別に剣道部に対してどうこうしてもらうつもりはない。
この子の直向きさ、勤勉さは、きっと自分の心の支えになる。そういう頼り方もあるだろう。

>「それで、あの――早速なんですが……」

>「先輩に一つお願いしてもいいですか?」

「ん、なんだ?」「忌憚なく言ってくれ」

665三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/03/04(月) 01:08:37
>>664

「――ありがとうございます」

       ペコリ

「千草も鉄先輩を尊敬しています」

「だから、これからも先輩のことを見習わせていただきます」

連絡先の交換を終えて、スマートフォンをしまいます。
こういう出会いの積み重ねも、『夢』の実現に繋がると思います。
身の回りにある全てを、その一つにしていきたいです。

「えへ……」

「大げさですよ、先輩」

「でも――それを叶えるために、これからも頑張ります」

軽い否定を含んでいましたが、表情は嬉しそうでした。
期待に答えるのも『立派な人』の条件です。
冗談まじりであっても、今から期待されるのは喜ばしいことです。

「今日、一緒に帰ってくれませんか?」

「さっき、先輩も『二人以上で帰った方がいい』と言われていたので」

「これを食べて、残りの議事録を整理してからになりますけど……」

「後は見直しをするだけなので、そんなにかからないと思います」

「……お願いできますか?」

上目遣いで鉄先輩の顔を見つめます。
一緒に帰れたら、その分だけ先輩と長くお話ができます。
少しズルいですが、それがこのお願いの『本当の理由』です。

666鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/03/04(月) 01:44:37
>>665

「もちろんだ」

三枝さんの言葉に、笑顔で頷く。急いで家に帰る用事があるわけでもない。
もっともあったとしても、彼女の安全の方が優先だ。
もし、万が一。朝陽に続いて、この少女にまでも凶刃が振りかざされてしまったなら。
…そんな想像したくもないような事を防ぐためなら、何でもしよう。

「ゆっくり食べるといい」
「それと、今回の会計はオレに出させてもらっていいかな」
「祝『会計』就任ということで」

恐らく三枝さんは断ろうとするかもしれないが、この点に関しては甘んじて受け取ってもらおう。
自分は年頃の少女への贈り物などには全く疎い。こういった形でしか、祝いを形にできないのだから。

「…本当に、おめでとう」

微笑みながら、小さく、呟く。
自分が守りたいものは、確かにこれなんだという実感がある。
自分には朝陽や三枝さんのような大きな『夢』はないけれど。
そういった話を聞いて、そして努力している彼女たちが、理不尽なものに脅かされないように。
そういったものへと『立ち向かう』。それが自分の『士道』だ。


結局、この日も無事に三枝さんを家へと送り届けて、幸い『通り魔』は現れなかった。
代わりに幾つかの楽しい話をして、満たされた気持ちで己もまた、自宅へと帰った。

667鳥舟 学文『ヴィルドジャルタ』:2019/03/07(木) 03:00:05

                 ブロロロ・・・

バスから降りて、大通りを歩く。
アンティーク雑貨を買って、
本屋で欲しい新刊を買って、
ランチを食べて、それから。

(ああ、まいったなあ。やる事がたくさんあって、
 しかもそれが全部楽しい事なんて、たまんないなあ)

特別な日というわけでもないのだが、
浮かれてしまっているのは事実だろう。

そういう気分が、ポケットから落ちた『小銭入れ』に気づかせなかった。

668高宮『リプレイサブル・パーツ』:2019/03/07(木) 22:01:05
>>667

(前のミニライブは上手くいったな……)

(でも、ずっとああやって頼るのはな……)

(……今日は成功のお祝いなんだからもっと前を向かないと)

伸びた背筋のまま俯いて歩く女性がいる。
緩く結んだ黒髪。
それと同じように黒いカーディガンはセーラー服のようなシルエットをしていた。

(あ)

俯いているから、見えるものがある。

「落としたよ」

一旦拾わずに声をかける。
昔それで窃盗犯と間違えられたから。

669鳥舟 学文『ヴィルドジャルタ』:2019/03/07(木) 23:42:42
>>668

「あっ、え、ああっ小銭入れ!
 いつの間に落としてたのかな、いえ、
 ありがとうございます、助かりました」

           クルッ

「っと」

金色の瞳と、左右で長さを変えた黒髪。
振り向いた女は、そういう姿をしていた。

「すいませんね、ちょっと浮かれてたみたいで」

一瞬高宮の『手』を見たが、
拾った訳ではないと気付いて、
しゃがんで『鳩』柄の小銭入れを拾う。

「気付いてくれて、どうもありがとう。
 ソレがなかったらボク、大変な事になってたよ」

「えーっと。何かお礼とかした方がいいかな。
 あ、新手のナンパじゃあないからね?
 女同士だしさ……そうだ、缶ジュースとか飲む?」

特に他意はなく、自販機を軽く指さす。
口頭のお礼だけでも良かったが、今日はやはり浮かれていた。

670高宮『リプレイサブル・パーツ』:2019/03/07(木) 23:52:26
>>669

「別に、そんなつもりで声をかけたんじゃあないから」

目を逸らして言葉を返す。
浮かれた相手に比べて、少し沈んだところがある。

「それに君が自分で財布を拾ったからね」

自分は何もしていないと言外に含ませる。
それが相手に伝わるかはわからないけど。

671鳥舟 学文『ヴィルドジャルタ』:2019/03/08(金) 00:01:24
>>670

「そう、そっか、それならいいんだ。
 キミを誤解してしまってたみたいで、
 なんだか申し訳ないけど――」

        ニコ…

小銭入れをおとなしく、ポケットにしまう。
気持ちいつもより深めに入れておいた。

「ま、ありがたいのは事実だからさ。
 ジュースはともかく気持ちは受け取ってね」

笑みを浮かべて、立ち去ろうとして、
また振り返る前に高宮の表情に気づく。

「……深入りはしないけど、
 なんか嫌な事でもあったの?
 ごめんね、こういうの気になる方なんだ」

鬱陶しがられるかもしれないが、
顔のイイ人間が暗い顔をしているのは、
なんだか、もったいないことのような気がするから。

672高宮『リプレイサブル・パーツ』:2019/03/08(金) 00:34:20
>>671

「……」

俯き気味に小さくうなづいた。
おずおずと、様子を見るように。

「気持ちくらいなら……荷物にはならないから」

重さの無い気持ちなら自分でも持てる。
そうでないものは気が重くなってしまうから。

「嫌なこと、か……」

(そんなにぼくが嫌なことまみれに見えるのか……? くそう……)

「この顔は生まれつきなんだ……」

「いや、気にかけてもらって申し訳ないね」

「あぁでも悩みといえばあるにはあるけど」

673鳥舟 学文『ヴィルドジャルタ』:2019/03/08(金) 00:58:47
>>672

「なら、よかったよ」

       「……?」

頷く高宮に笑みを魅せながら、
内心の憤慨には気付かない。

「ああ、そうだったんだねえ、
 ごめんね、誤解が多くってさ」

「ま、深入りはしないって言ったから」

         スッ

「話し辛い悩みなら聞かないけどさ」

足を一歩引いた。
流石に対話を求められていないと察したし、
地雷原でタップダンスをする気もなかった。

「ボクにあずけて軽くなる荷物なら、
 あずけてみてくれてもかまわないよ」

  「投げつけるのは、やめてほしいけどね」

674高宮『リプレイサブル・パーツ』:2019/03/08(金) 01:28:04
>>673

「……今日の楽しみ方がわからないんだ」

そう言った。
高宮は今日の楽しみ方がわからない。

「つい最近いいことがあってね」

「そのお祝いじゃないけど、今日はいい日にしようと思ったんだけど」

どう一日を楽しめばいいのかわからない。

「君は今日何をしてたのかな。言いたくないのなら、いいんだけど」

「その様子だと多分、楽しい一日を謳歌してたんじゃないかな」

675鳥舟 学文『ヴィルドジャルタ』:2019/03/08(金) 02:14:00
>>674

「楽しみ方、楽しみ方かあ。ボクは方法は考えたことないけど」

「今日は雑貨を買ったり本を買ったり、
 ランチでサラダバーを食べたりしたねえ」

       「でも」

「ボクは今からまだまだ謳歌するところなんだ。
 わざわざバスで着たのにお昼過ぎじゃ終われない。
 もっと、やりたい放題してから帰りたいんだよ」

視線の先は、東の方角。
ここから東に行けば――――川に突き当たる。

それから、視線は高宮をいったん経由して、
この町で一番高い、ここからでも見える塔へ。

「だから今から、スカイモールの劇場に劇を見に行くんだ」

「一緒にどうだい? 楽しみ方が分からないならボクに預けてみなよ。
 予約チケットは一枚しかないけどさ、どうせガラガラだから、
 さすがに、お代までは出してあげられはしないけどさあ」

          クルッ

     「楽しくなくってもボクのせいに出来るし、
      それに、ボクはいつも一人で見るんだけどねえ、
      たまには他人と感想を言い合ったりしたいんだよね」

676高宮『リプレイサブル・パーツ』:2019/03/08(金) 22:30:00
>>675

「さ、サラダバー……?」

(健康志向なのかな……いや、まぁ、最近野菜高いしな……)

少しだけ予想外の答えだった。
寿司や酒を嗜むのとは少し趣が違う。

「劇か」

あまり悩まなかった。
その先のことは。

「行こう」

「こう見えても無駄なものを集めるのが得意でね」

「財布の中はそういうので詰まってるんだ」

少し厚い長財布が上着のポケットからのぞいていた。

「一緒に楽しませてもらおうかな」

677鳥舟 学文『ヴィルドジャルタ』:2019/03/08(金) 22:42:57
>>676

「野菜をね、たくさん食べるとさあ。
 いい気分になるんだ。
 ボクは肉とか魚も全然食べるし、
 今日がそう言う気分なだけなんだけど」

「たまにない? 野菜を食べたい日」

この店なんだけどね、と、
スマホの画面を見せる。
自然派レストランとのことだった。結構高い。

         ニコ

「よし、決まりだ。
 きみ、車で来てるなら載せてってくれない?
 歩きで来たなら、バスの時間は15分後だね」

「どっちにしても……今日は、想像以上に楽しくなりそうだ!」

笑みを浮かべたまま、いずれにせよ、歩きはじめるのだった。

なお、劇は鳥舟がファンをしている男優が出るらしく、その事をしきりに語られた。

678鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/03/26(火) 22:49:20
人通りの多い交差点。そこの近くにある、待ち合わせによく使われるスポット。
その壁によりかかりながら、鋭い目線で行き交う人々を眺めている青年がいた。
白のインナーに黒いライダース、デニムという格好で、腰には小さめのポーチを付けている。

「・・・・・・・・・・」

近くにベンチが空いているが、そこに座るつもりはないようだ。
何かを、あるいは誰かを探すように、切れ長の瞳を動かしている。

679音無ピエール『ジュリエット・アンド・ザ・リックス』:2019/03/26(火) 23:50:31
>>678

     カツカツカツカツ・・・

気取ったスーツを着た『ケツアゴ』の男が、
『鉄』の眼前を通り過ぎ、『ベンチ』へ腰掛けようとする。


       スゥゥ...

                     スクッ


   「――――ああ、ひょっとしたら、
    この『ベンチ』で待ち合わせてるのかね?」

半ば中腰の姿勢にまで至ったところで、
『鉄』が視線を巡らせているのに気が付き、腰を上げる。

   「別に、この『ベンチ』は座ってしまって、構わんのだろう?
    私もちょうど、ここで待ち合わせをしていてね。

    少々長くなりそうなんだ。――――いいだろうか?」

『待ち人』を探す『鉄』の視線を遮らぬよう、
彼の脇に立ったまま、話しかける。

680鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/03/26(火) 23:59:30
>>679

「ああ、いえ。お気になさらず」

声をかけられ、青年は男性の方を見て首を振った。
幾分か、その鋭い視線が和らいだ様に見える。

「オレはあなたと違って、特定の人を待っているわけではないんです」
「ですので、そのベンチは『待ち人』を待つあなたのような方が使うべきだと思います」
「どうぞ」

許可を求めるピエールの言葉に頷き、ベンチへ座ってもらうように手で示す。

681音無ピエール『ジュリエット・アンド・ザ・リックス』:2019/03/27(水) 00:10:20
>>680

   「どれ、それじゃあ遠慮なく」

座面に付いたゴミや埃を、パッパと手で払ってから、
その頑強な肉体を折り畳むように、ベンチへと腰掛ける。

   「ところで、『特定』の人を待ってないとは、
    随分と妙な話に聴こえるな。

    見たところ、まだ若そうだから、
    『交通量』の調査ってわけでもあるまい」

訝しむように問い詰める声色でもなく、
唯々、不思議そうに問い掛ける。

   「ちょうどここに、空いてる目玉が『2つ』あるのだが、
    ここは一つ、君の『待ち人』を一緒に探してみようじゃあないか」

暇に空いてか、要らぬおせっかいを焼き始める。

682鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/03/27(水) 00:20:17
>>681

「ああ、いえ…」

自分で口にして思う。特定の誰かを待っているわけではないとは、妙な話だ。
例えばナンパです、なんてうまく嘘でもつければよかったのだが。
自分はそういうのは得意ではない。だが、かといってこの人の善意を無下にするのも心苦しい。

「・・・・・・・・・・」

10秒にも満たぬ沈黙を間に置いて、結局口を開く。

「怪しい人間を探している、なんて言ったら」
「いや、そんな事を言い出す人間が一番怪しいだろ、と思われるかもしれませんが」

683音無ピエール『ジュリエット・アンド・ザ・リックス』:2019/03/27(水) 00:29:48
>>682
「そうだな。……君が一番怪しいぞ」

重たげな沈黙に応えるかのように、
真面目くさった語調で言葉を返し、


     フフッ

          「フフッ、クッ、」

          「ああ、いや、冗談だよ。失敬、失敬」

含み笑いを浮かべては、傍に立つ少年を見上げた。

「疚しいことを隠せるような人間なら、
 もっと平然として、常人の振りが出来るさ」

「まあ、怪しい人間を探してることと、
 君がそんなに、悪そうに見えないのは解ったよ。

 ――――で、怪しい人間ってのは、どんなのだい?
 ほっかむり被って、唐草模様の風呂敷包みでも担いでいれば、
 私も出ることに出て突き出せるような人間だと解るのだがねェ……」

そう、簡単なものではないだろう、と前置きを入れて、問い掛ける。

684鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/03/27(水) 00:43:13
>>683

>「そうだな。……君が一番怪しいぞ」

「・・・道理です」

いきなりこんな事を言い出すなど、何を企んでいるのか分かったものではないだろう。
だからそう言われても仕方ない。目を瞑り、自省する。
今日は諦めて、帰るべきかと考えたところで。

>          「フフッ、クッ、」

>          「ああ、いや、冗談だよ。失敬、失敬」

>「疚しいことを隠せるような人間なら、
> もっと平然として、常人の振りが出来るさ」

>「まあ、怪しい人間を探してることと、
> 君がそんなに、悪そうに見えないのは解ったよ。

「・・・・・」「ありがとう、ございます」

彼の言葉に、微笑みながら深く頭を下げる。
この男性が自分のことを悪い人間だと思わなかったように、自分もまた、彼が良い人間であるように思えた。
しかしその次の問いを訊ねられては、表情を曇らせてしまう。

「…いえ、容姿に関しては何も分かっていません」「男性が女性か、若者か老人か、日本人かそうでないのかさえ」
「ただ、恐らく何らかの『凶器』…それも『刃物』を扱っている可能性はあります」

「…それだけです。現れない可能性の方が、かなり多いと思います」

それでも、自分は人の流れを見続ける。可能性は低いが、ゼロではないのだから。

685音無ピエール『ジュリエット・アンド・ザ・リックス』:2019/03/27(水) 01:04:22
>>684
「刃物、か。

 少なくとも、『持ち歩く』にしても、
 目立つような装いにはしないだろうな……」

『凶器』、とは人を傷つける『道具』に用いる言葉だ。
増してや『刃物』、神妙な面持ちになって、『鉄』の言葉を聞く。

「まるで、……そうだな。

 『邪推』をするようだが、
 君は『待ち人』が来ると思っているのかね」

                   ラウンド・アバウト
老若男女、さまざまな人種が 『 交 差 点 』 を過ぎ去っていく。
目の前を横切っては、背後へと抜け、何百人もの人影が現れては消える。

その光景を目の当たりにしながら、『ピエール』はすっと立ち上がった。

    「『待ち人』が来ないという『結果』を得て、
     
              安心するために見張ってはないか?」


       ズ ア ッ!


『鉄』に近づき、肩を叩く。
その刹那、両刃剣の『ジュリエット』を発現し、
分厚い『刀身』を、少年の肩口にそっと押し当てる。

686鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/03/27(水) 01:16:12
>>685

>    「『待ち人』が来ないという『結果』を得て、
>     
>              安心するために見張ってはないか?」

「…『通り魔』などいないのであれば、それに越したことは───」

ないだろうが、事実として傷付けられた人間がいる以上、そうでない可能性は限りなく低いだろう。
それはここで『通り魔』が見つかる可能性より、もっと有り得ないものだ。
そう説明しようとした言葉が、全て頭の中から消え去った。
肩口へと押し当てられた、『スタンド』の刃によって。

「『シヴァルリー』ッ!!」

名を叫びながら、己のスタンドを彼が剣を持つ側の方に発現する。
同時に可能であれば、その『切れ味』を奪い取り吸収する。
とっさに剣を持つ側の手に発現したのは、吸収する際の軌道で彼を傷付けないためだ。…今のところは。

「『刃物』を持った…『スタンド使い』ッ!」

687音無ピエール『ジュリエット・アンド・ザ・リックス』:2019/03/27(水) 01:33:25
>>686

>「…『通り魔』などいないのであれば、それに越したことは───」

      . .
     「いる……」

     「朗らかに話しかけ、あたかも常人のように振る舞い、
                                   . .
      ――――平然と『力』を振るう人間は、この世にいる」


憮然として、しかし真剣味を帯びた眼差しで、『鉄』に告げる。

それは、決して『普遍的』な事実としてではなく。
明確に『存在』すると知っているからこそ、
それと比較した『鉄』を『善人』と評した。

         ビュワッ!

『シヴァルリー』の視認によって、瞬く間に『ジュリエット』は鈍磨する。
己のスタンドであっても、その効果は認識できない。

     「私は、君の言う『待ち人』ではないが、

      ……とまぁ、スタンドを出した以上、
      そう言っても『信用』ならない、かも知れないが、ね」

穏やかに、押し殺すような低い声で、
念を押すように話しながら、『ジュリエット』を解除する。

     「いないのに、越したことはない。同感だ。

      ――――だが、そーいう『人種』がいるかどうかなら、
      間違いなく存在し、振るう刃に『前触れ』はない―――」

     「今の『一刀』は、そうした『警告』のためだ。
      ……正直言って、街中でじっと見てるだけでは、
      努力が実を結ぶ可能性は、低いと見えるがねェ……」

688鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/03/27(水) 01:42:56
>>687

>     「いる……」

>     「朗らかに話しかけ、あたかも常人のように振る舞い、
>                                   . .
>      ――――平然と『力』を振るう人間は、この世にいる」

「・・・・・ッ!」

息を飲む。そして理解する。
この人は、そういう人間を知っている人だと。実際に目で見て、会ったからこそ、言葉の重みが違う。
そしてここからは想像でしかないが。この人は、そういった人間と、刃を交えた言葉もあるのではないか?

逞しい青年が『スタンド』を解除したことにより、『切れ味』も戻る。
その行動を警戒しつつも、数秒の逡巡の後に、自分も『シヴァルリー』を解除した。

「いいえ、信じますよ」
「以前にも、『スタンド使い』はそういうことができる人間だと教えてくれた人がいましたから」

それに、もし『通り魔』なら絶好の間合いでスタンドを解除する理由がない。
自分が警戒して『シヴァルリー』を出すより早く、斬ることも可能だったかもしれない。

>      ……正直言って、街中でじっと見てるだけでは、
>      努力が実を結ぶ可能性は、低いと見えるがねェ……」

「・・・・・」「何か、手段をご存知なのですか?」

訊ねる。蛇の道は蛇、とは少し違うが。
彼なら、あるいは荒事に関する知識が、あるいはその心当たりがあるのだろうか?

689音無ピエール『ジュリエット・アンド・ザ・リックス』:2019/03/27(水) 01:58:53
>>688
>「・・・・・」「何か、手段をご存知なのですか?」

  「私も、望んでそういう『人種』に会ったわけじゃあない。

   ――――だが、もしもそうした『人探し』をするのであれば、 
   『仲介人』を名乗る男に、『名刺』を貰ったことはあるぞ」


     スゥ...

                                         バ
『ピエール』は尻ポケットから、二つ折りの『財布』を取り出し、    サ
それをペラペラと捲り、もう一回ポケットにしまってから、                ガサ
胸ポケットから『カードケース』を取り出し、それを数度捲り、                   ゴソ
ポロッと落としたクリーニング屋のポイントカードを拾い上げ、    ペ
カードケースに仕舞い込むと上着のポケットを数度叩き、       ラ     ポロッ    
もう一度財布を取り出しては紙幣入れに指を入れてから、      ラ
ふと思い出したかのように上着のチーフポケットに手を入れ、              パ
一枚の『名刺』を取り出すと、それを『鉄』へと差し出した。                 サ

   「『曳舟』という男は、『需要』と『供給』を操るとか、
    ……少なくとも、そのスタンド能力を利用して、
   スタンド使いの斡旋や、仕事の紹介をしているぞ」

『曳舟利和』。
その名前を確かに見せると、その名刺をカードケースにしまう。

   「――――まぁ、私も正直に言うと、『信用』しているわけじゃあない。
    ちょっと、まぁ、『胡散臭い』ところもあるからな……。

    これをどーするかは、君次第、になるわけだ」

   「おっと、人の名前を出しておいて、
    私の名乗りもないとは、無礼もいいところだったな」

スッと視線を彼方に向けてから、少年へと向き直る。

   「『音無ピエール』だ。
    この町で『柔道整復師』をやっている」

690鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/03/27(水) 02:13:52
>>689

「・・・」

「・・・・・」

「・・・・・・・・・・」

青年の動きを待っている間、やはりこの人は『通り魔』ではないんだろうな、と確信を抱きつつ。
家に帰ったら財布の中や、部屋の掃除もまたしておくか、などと思っていた。
そして差し出された名刺。しっかりと、その名前を記憶する。
正直スマホで写真を撮っておくべきかと思ったが、流石にそれは無礼だろう。

「『曳舟』さん、ですか」

代わりにその名前をしっかりと覚えておく。
しかし、思ったよりも『スタンド使い』というのは体系化されているようだ。
『スタンド』に目覚めさせる人間の存在は知っていたが、ひょっとしてスタンド使いの『組織』などもあるのだろうか?
そしてその『曳舟』さんとやらと関わり合うことで、『通り魔』の情報や
それを知ることができる『スタンド使い』と出会うことができるのだろうか?

「『柔道整復師』の方でしたか。もし骨折などしまきたら、お世話になろうと思います、音無さん」
「オレは鉄 夕立(くろがね ゆうだち)。『清月学園高等部二年生』、『剣道部』です」

こちらも同じく名乗り返し、一礼をする。

691音無ピエール『ジュリエット・アンド・ザ・リックス』:2019/03/27(水) 02:25:48
>>690
「よろしく。

 ――――見つかるといいな」

『ピエール』はそう言い終えると、立ち上がる。
視界の端からゆっくりと歩いてくる『老婆』に、
軽く片手を上げて、自らの存在をアピールする。

   「私の『待ち人』は、やっと現れたよ。

    ……では、『夕立』。
    機会があれば、また会おう」

そう言って、老婆を出迎えるように歩み寄れば、
二言、三言話した後、ゆっくりと人混みに紛れていった。

692鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/03/27(水) 02:36:59
>>691

現れた老婆を出迎えた音無さん、恐らくお客様だろうか。
彼には待ち人が現れたが、自分には現れなかったようだ。もう既に一時間が経過している。流石に潮時か。

「…ありがとうございました。またお会いしましょう、音無さん」

去り行く彼に対して、再度頭を下げる。
手荒い行動ではあったが、彼は自分に対して道を示してくれた。
『スタンド使い』の危険性を教えてくれた平石さんに、『悪意』を持つ人間は必ずいると警告してくれた音無さん。
大人の方からは、学ぶべきことは多い。

「あとは、進むべきか否か、か…」

帰途へと着きながら考える。そもそも、考えたところで詮無きことではあるのだが。
仮に進むことを選んだとして、こちらから『曳舟』さんとやらに接触できるのか?
電話番号でもあれば、話は違うのだろうが。
だが、どちらにせよ覚悟は決めておくべきだろう。もし進むことを選ぶのであれば。
『試合』とは違う、命懸けの争いになる覚悟を。

693サリヱ『ミー・アンド・マイ・シャドウ』:2019/05/10(金) 23:30:15

オープンカフェの一人席に座り、何もない時間をつぶしていた。
布のマスクで隠れた口元も、長いまつ毛の猫のような目も、風景に溶けていた。

     カチッ カチッ カチッ カチッ

人生は『いつかその時』が来るまで、全部暇つぶしだと思うわけで。
暇つぶしなら無難に、サリヱ一人で完結するものを選んできたわけで。
暇つぶしのための暇つぶしのための暇つぶしをする気はしなかったわけで。
そんな風に考えてきたサリヱの人生に『本物』なんてのは何もないわけで。

         カチッ カチッ カチッ カチッ

だけど掌で転がす『フィジェットキューブ』の響きは、今日は意味がある気がした。

「…………」
  
    ミー・アンド・マイ・シャドウ
(『サリヱとサリヱの影法師』だなんて……他人から貰ったものにも、自分しかない)

           『チカッ』

見つめた影は消えて、向かいのビルの壁面に『影法師』が生まれていた。

「ひええ、なんだこりゃほんと……」

そういうありえない光景に思わず声が漏れるのは、暇つぶしの人生としては有意義な気がするからだ。

694彩木ミサオ『レインボウ』:2019/05/12(日) 00:12:35

          『シュワォウ』
                    『シュワオォウ』

サリヱの視界右端から『色彩』が割り込んできた。
道路向かいの灰色のビル壁に、ビビッドカラーのラインが、長く、長く、引かれる。

額にゴーグルを引っかけたパンクなファッションの少女が、手にしたスプレーを巧みに操り、
ビル壁の端っこからストリートアートを仕上げている所らしい。
……絵のモチーフは、騙し絵の巨匠・エッシャーの「メタモルフォーゼ」を意識したようなデザイン。
人間のシルエットが変化していく過程を、目の覚めるような鮮やかな色遣いで仕上げてゆく。

「こいつが思いっきりの一筆(ストローク)だ」

ガンマンが二丁拳銃を持ち替えるように、スプレー缶を手の中でクルクルと弄ぶ。
腰のホルスターから「クロムイエロー」を引き抜くと、スプレーを噴出しながら、
ビルの左端を目指して、ラインを伸ばして――――

「――――っととと。先客か!?」

ビル壁に刻まれた『影法師』に気づき、慌ててブレーキをかけた。

「さっき下見した時はなかったのに、いつの間に描いたんだ?コレェ」

695サリヱ『ミー・アンド・マイ・シャドウ』:2019/05/12(日) 22:04:45
>>694

「ひえ…………!」

視界に入ってきた『目立つやつ』に思わず声が出た。

(絶対やばいやつじゃん……皆見てるんだぞ……)
(……と、とりあえず、知らん顔しておくけどな)
(目立つのに巻き込まれたくないし)

       ポチポチポチポチ

(あと知らん影もしておく……)

手の中の『ボタン』を連打して気を取り直す。

影法師は・・・そのままにしておく。
『座っている人間の影』・・・『形』はない。影だけ。

回収したら秒でバレる。

        ・・・

             ・・・

                  ・・・

今日はいい天気だ。
オープンテラス席は道路に影を描き出す。

確かにそこに座っているが、『影がない人間』は・・・知らん顔でコーヒーを一口飲む。

696彩木ミサオ『レインボウ』:2019/05/12(日) 22:25:30
>>695
そんなサリヱの気も知らず、彩木ミサオは『影法師』を眺めながら首をひねっている。

「しまったな……迷惑はかけないと約束したばかりなのに、
 さっそく他人のキャンパスに踏み込んでしまったぞ……?
 あまりに目立たなかったから、ギリギリまで気が付かなかったけど」

……もし、『コレ』のアーティストが「灰色のビルという背景に溶け込むように」という、
コンセプトで描き残していったのなら、誰かの作品に勝手に筆を足してしまったことになる。
これはいけない!

(★ 「そもビル壁にアートを描く時点で領域侵害ではないのか?」という意見もあるだろうが、
ミサオにとってこの飾り気のないビル壁は「白紙である」と判断されたので、問題はなかった)

「塗料っぽい匂いは全然しない……墨?灰?チョーク?(クンクン)
……そうだ!描かれたばかりなら、近くに作者がいるかもしれない」キョロキョロ

あたりを見回していると、この『影法師』のシルエットとそっくりな子を向かいのカフェに見つけた。
なるほど、アレがきっとこの絵のモデルに違いない――――まさしく影写し!

「おーい、そこのマスクのカノジョ!ココに絵を描いていった人をさァ〜」

道路を渡ってサリヱの方にまっすぐやってくる。

697サリヱ『ミー・アンド・マイ・シャドウ』:2019/05/12(日) 23:34:54
>>696

(あいつ何言ってんだ……? 『影』を『絵』と勘違いしてんの?)

芸術家のことはよくわからない。
何を考えているのか……どういう哲学があるのか。
わかるのは、明らかに自分と違う価値観ってことだけだ。

(……マスク?)

「ひえ……」

(や、やばい……こっちに来る……)
(『描いたヤツ』だって思われたんだ……やばい……)

(なんとか目立たないように……やり過ごさなくっちゃあ)

「なっなんだよぅ……絵なんか『描いてない』っての……」

             チラッチラッ

『影法師』を横目に見つつ、誤魔化しに走るサリヱ。

               カチャカチャ

「か、壁のシミじゃないのか?」
「あるだろ……ほらぁ、『ホラー番組』とかでさ……!」
「そういうのじゃないのぉ〜〜〜っ……」

「私はずっとここ座ってたからな、そんな絵なんて知らないよ……ほんとだよ」

698彩木ミサオ『レインボウ』:2019/05/12(日) 23:57:35

「キミをモデルに描いてたヤツがいたんじゃないかなって。
 違う?ホント?あそこの壁の絵とそっくりだと思うけどなァ」

                    チラリ

「そうかァ?」

サリヱに何か妙な違和感を覚えつつも、その正体が『影』だというところまでは気づいていない。

「ホラーなシミ!なるほど、ここは大通りだからな。 ・ ・ ・ ・
 車も多いし、夜にバイクを飛ばす奴もいる………そういうこともあるカモ」
「(店員を呼んで)すいません、お水もらえます?あとカプチーノを1つ」

サリヱのテーブルの空いてる席に腰掛けた。

「それだったらそれで困ったな。
 こんなカフェの近くに、なんて縁起が悪い……でも死んだ人間が描いたカタチならそれも『作品』だ。
 先人が思いを残していったのなら『敬意』を払わなきゃいけない。悩むぜ」

「美術館だって365日同じ作品を展示し続けている訳じゃあないだろう?
 季節・時代によって展示品を変えてゆく必要がある。
 上から塗りつぶしたものかな?いっそ避けるカタチで同居する構図という手もあるけど」

すごく……しゃべる!

699彩木ミサオ『レインボウ』:2019/05/12(日) 23:59:37
>>697 また安価忘れちゃってた、ごめんネ

700サリヱ『ミー・アンド・マイ・シャドウ』:2019/05/13(月) 00:48:04
>>698

「ひええ、モデルとか……そんな目立つことしないっての」
「こういうシルエットのやつ、他にもいるってぇ絶対ぃ……」

(ウッ、こいつ今足元見なかったか……!)(実はバレてる?)
(っていつの間に座ってんだ! なんだこいつヤバ〜〜〜……)

          カチカチカチカチ

思わずフィジェットキューブのスイッチ面を連打する。
この距離の詰め方……いや詰めているのとも違う気がする。
独特の距離感、芸術家タイプを感じる……苦手なタイプだ。

「か、勝手に描いてるだけなら勝手に塗り潰しちゃっていいだろぉ……」
「いや、描いてるとは限らないけど」「シミを推すけど……」
「ともかく勝手にそうなってるだけだろぉ……?」
「ビルの持ち主が描いたなら別だけどさ……」

『所有権』があるからだ。
『所有権』――――『持ち主』には、権利がある。
持ち物を好きにする権利……あらゆる意味でそれがある。

(なんか話題変えないとこいつのペースに飲み込まれる……)

「あ、そう、カプチーノ頼んだよな」
「ここカプチーノに絵描いてくれるけど」
「あんまり難しいの注文したらすごい雑に出てくるぞぉ……」

「……」

(あっやばい……また『絵』の話にしてしまった…………!)

701彩木ミサオ『レインボウ』:2019/05/13(月) 01:26:22

「そうだな。ストリートアートは自分の家の塀に描くんでもなければ、
 少なからず誰かのキャンパスにはみ出してしまう行為だ。
 しかし、市役所や所有者に問い合わせて『描いていいですか?』でOKとは、なかなかいかない」

「ただボクが描かなかったからビルの壁は白紙(ブランク)のままだろう?
 こんな人目につく大通りに面していながら、只の灰色なんて逆に失礼とも思うけど……」
「周囲との調和、アートが受け入れられる場か……場所と空気は選んでるつもりだけど……」

サリヱの指摘に思うところがあるのか、少し静かになったが――――


「ラテアート!向こうの『絵』を気にしてたからお任せで適当に頼んでしまったな。
 『ハーツ』と『リーフ』の簡単なアレンジならボクも描けるよ。
 色々な絵の画材を試していたとき、パンケーキアートとかその手のものにも挑戦してみたね」
「なくなることを前提とした、コーヒー一杯を飲み終わる間までのアート。
 一筆分の失敗で脆くも崩れてしまう繊細な芸術!刹那的だ!
 得るものは多かったよ――(店員が運んできたカプチーノの絵柄を見て)――『ネコちゃん』だ。そう見える」

カプチーノを一口すする。

「うん、ストリートアートも“ソレでいい”と思うな。今のところは。 
 この大通りを通った人の記憶の端に残って、描いて数日後には市の清掃が消してしまう。
 掃除する人には手間だろうけど、この『殺風景なビル壁やシミ?をどうにかしよう』と考えるきっかけにはなるかも。
 偉そうに語ったけど、絵柄のテーマをあーだこーだいうほどのこだわりは実はまだないんだ!」



「で、やっぱりキミが作者なんだろ。アレ」

702彩木ミサオ『レインボウ』:2019/05/13(月) 01:36:58
>>700
「いや、恥じらう気持ちはわかるさ。公の場に絵を晒すのは勇気がいる。
 作者であることを隠して、クリーンな反応を見たかったとかかな。
 かの有名なストリートアーティストの某も、描いたあと近くでこっそり反応を見るのはやってると思う」

「ふぅ、一方的に語ってしまったな!普段同好の士がいない絵描きはこれだからいけない。
 さぁキミの順番だ。その思いのたけををブチまけてくれ!
 あの地味で目立たなく周囲に溶け込み見向きもされないような影の作品の意図をぜひ聞きたい!野暮かもしれないが素直な感想だ!」

703サリヱ『ミー・アンド・マイ・シャドウ』:2019/05/13(月) 02:09:31
>>702

「『影』だ。『影』に『意図』はない。『消えるまであるだけ』」

と、口が動いていた。

>>701

「…………」
「あ、いや」

それから、反論とか否定とかの言葉が頭をよぎった。
もう遅い気がした。

「ち、違うんだよお……じ、事故っていうかさあ……」

    アセッ

「認めるよ、無関係ってわけじゃないんだけど」
「でも違くてぇ〜ッ」「別に発表したかったわけじゃなくって」
「そういう目立つの嫌だしぃ……ただ、『試した』だけで」

             キョロッ
                  キョロッ

「そういう『芸術論』みたいなの、ないし……」

消えた影を一瞥して、それから影法師を見た。

「ちょ……ちょっと一服」

        ゴッゴッ

「私もカプチーノにしとけばよかった……」
「あとそれ私には『ネズミ』に見えた」

コーヒーを飲む。一口では足りない。
覗き込んだカプチーノの人為的な『模様』に、何を占うわけでもない。

「それで、だからそんな、芸術とかアートとかじゃないんだよぉ……ほんと偶然」
「テーマとかも、ないし」「『影』なのはそうだけど……作品とかそういうのじゃないんだよ」

「それこそ、その、『巡り合わせ』っていうかぁ……『あるからそこにある』だけ……みたいな」

704彩木ミサオ『レインボウ』:2019/05/13(月) 22:02:27
>>703
「…………?」

一寸遅れてビル壁の方を振り向く。
ミサオのアートの色彩にかき消されそうに薄い『影』だが、
呼びかけてくるような存在感を一瞬感じてしまったのだ。


「手癖とか、偶然で付けちゃった模様?」

「なるほど……本当に『意図』はナシ。
 ボクは第一印象であのシルエットが『キミ』そっくりなように受け取った。
 偏見と前提知識次第……受け手は、見たいように見るってことか……」

                ウン  ウン

「あそこの描きかけアートも同じだね。
 新鮮さを覚える人もいれば、古典の安っぽいパロディと受け取る人もいる。
 突き詰めれば、キミの『影』やラテアートのネコちゃんと同じ――――」

       コトバ          カタロ
「どれだけ『色』を尽くして饒舌に描こうとも、真の共感とは幻想のようなもの。
 アーティストは有名・無名・どのジャンルでも本質的に孤独な存在ってワケだ!」

「なら、みんな好きなように描けばいい!『ただ試した』で『あるからそこにある』
 結構なことじゃあないか……それで1%でも波長の合う、
 『巡り合わせ』があれば儲けものだ!(ズズーッ)――うん、カプチーノで正解」

「泡はちょっと足りなかったけど」

                      ブジューッ

手品のように右手に『ホイップクリームのスプレー缶』を出現させると、
泡を吸いきったカプチーノの上にクリームを足した。即席ウィンナーコーヒーだ。

「キミも足すかい?『同じ味』は『共感』だ」

705サリヱ『ミー・アンド・マイ・シャドウ』:2019/05/13(月) 22:58:11
>>204

「手癖というか影癖というか……」
「とにかくそう、ほんとに意図はないからな」
「『攻撃』とかじゃあない」
「受け取り方までは……私が決める事じゃないが」

「『意味がないなら、自分で意味を考えれば良い』」
「『他人の中にこそ意味が生まれる』」
「……嫌いじゃない考え方だ。芸術的に前向きで」

意図はない、意味もない。
そこから勝手にプラスを読み取られるのは、嫌ではない。
他人の感じた中こそ『意味』が生まれる、というのは。

「ヒェッ……今それどこから出したぁ!?」

         カチャッカチャッ

「アーティストか手品師かどっちかにしろよぉ……」
「濃すぎるぅっ」「私がかえって目立つぅ……!」

などと考えていたら突然現れたスプレー缶に目を見開く。

「あっ……いや……まあ」
「なんとなく、分かるけど………………」「うん」

が、すぐにその正体には思い至る。
・・・突然現れた『影』が彼女を呼んだのだから。

「説明すると変に目立ちそうだし……」「嫌だし……」
「食べるには得体知れなすぎるし……悪いけど遠慮しとく」

ただ、タネがなんとなく察せてもいきなり出たものをいきなり食う勇気はなかった。

「…………その『道具』、好きなだけ出せるのか?」
「良いなぁ……」「食費がほとんど浮きそうだ…………」

「あ、いや、探るわけじゃないぞ……答えなくてもいいからな」

706彩木ミサオ『レインボウ』:2019/05/13(月) 23:24:53
>>705
「いらない?ならいいか」

「受け手の気持ちを考えつつ、自分のエゴも押しつつ……。
 今はただ広いキャンパスに描いてるだけで楽しいから、細かいことは気にしないけど!」

ガンマンが拳銃でやるように、スプレー缶を手の上でクルクル弄ぶ。

「最近、“聴かせてもらって”自覚した才能だよ」

チラリと『影法師』の方に目をやり、次にサリヱに視線を移す。
明言はしないが察している態度。

「色々挑戦した中で自分の手に一番なじむ筆さ。
 七色(レインボウ)の絵筆――――『どんな色でも持ってくることができる』」
「多すぎも少なすぎもない、一度に『七色分』まで置いておくことにしている」

ホイップクリームのスプレーが手の影に隠れた次の瞬間、アロマオイルのスプレーに代わっている。

「製品のロットナンバーとかまでちゃんと書いてある本物……生産元の会社が迷惑してなきゃいいけど」

「『影(アレ)』と同じで何となく偶然でできちゃうモノらしいね」
「キミのも、試しててそんなカンジしない?」

707サリヱ『ミー・アンド・マイ・シャドウ』:2019/05/13(月) 23:52:57
>>706

「あっ、いや、お前個人が嫌とかじゃなくてだな」
「まだ『こういうの』を信じ切れてないだけだ」
「私は細かいこと気にする方だからぁ……一応言っとく」

        コロッ

テーブルの上にキューブを置いて、コーヒーを取る。

「……"聴かせて"?」「"描いて"じゃないのか?」
「いや……詮索はしないが……」
「気にはなるが……」

「…………『ソレ』と『アレ』はだいぶ違うがな」
「説明はしない……のはさっきも言ったけど」
「たしかに『理屈』とかそういうのじゃない」

影法師は今も、壁の側を歩く人々の会話を聴いている。
あるいは、そのアクセサリーの真珠の数を数えている。

「なんとなく、出来る」「なぜか『知ってる』」
「……手と足のほかにもう一つ増えた感覚で」

        ズズ…

「…………与えられた物だけど、『自分』なのは間違いない」

それが違和感なく『伝わってくる』。
歩き方を今更説明出来ないように、直感的な認識として。

「お前のも自分……」「……え、『ロットナンバー』!?」
「ヒェッ、それどっかの倉庫から飛んで来たりしてんじゃないのかぁ……!?」

「怖ぁ〜っ……まあ、そういうのとは違うって"聴かされて"? るんだろうがな……」

708彩木ミサオ『レインボウ』:2019/05/14(火) 00:16:43
>>707
「そうだね。鳥やヘビに『手足があるってどんな感じ?』と聞かれても説明には困る。
 最初から体の一部としてあったみたいに、見えるし動かせる……そういうモノ」

あの『影』もミサオのレインボウと同じく、遠くまで見えてるし動かせるモノなのだろう。

「……でも、『スプレー』は違うなぁ。考えて創ってるわけじゃない。
 このメーカーの製品使ったことないし、売り場で見かけても成分表までは気にしてないよ。
 とにかく、想像の及ぶ範囲で『一番ちょうどいい色』を手にする」

「数量限定の貴重品とか出しまくったら、真相がわかるかも(やんないけど)」

                  ズ ズ…
                               カチャ

少し納得いった表情で頷きながら、一息にコーヒーを飲み終えた。

「この感覚の話は、さっきも言った『貴重な共感』だったね。
 いい『巡り逢い』だったよ――――それじゃあ残りを仕上げようかな。ごちそう様」

そう言って支払いを済ませると、ミサオは再び道路向かいに戻ってゆく。
描きかけのアートの仕上げ作業に移るのだ。

709サリヱ『ミー・アンド・マイ・シャドウ』:2019/05/14(火) 00:39:49
>>708

「私のソレは『自分』でしかないからな……」
「既製品」「……にそっくりなもの? 実物?」
「とにかく既製品っぽいのを出せるのは怖い……」

悪用とかそういう話ではない。……少しはあるが。
この奇妙な力は『自己完結』するだけの力ではない。
無限の可能性があるということ……無限の危険性もだ。

(……私のが目立たない部類だと分かったのは良いがな)
(…………こいつのが派手なだけかもしれないが)

「私にも……悪い話じゃなかった。『価値』はあった」
「……って、あ、あれ続き描くのかぁ……!?」
「警察とか呼ばれるんじゃ……いや」

        キョロキョロ

「……誰もそんな事してなさそうか」

「まあ、私は止めないし……」「勧めもしないが……」
「好きに描けばいいさ。言われなくても描くだろうが」

去る姿を目で追っていたが、周囲の視線に気付いた。
あのアーティストの関係者だと思われるのは、まずい。

・・・それは、目立つからだ。

「………………………………………ちょっと目立ち過ぎた」

        『パン』

(場所を変えよう…………暇つぶしの場所を…………)

絵に集中し始めたのを見計らい、影を拾って店を出る。

710彩木ミサオ『レインボウ』:2019/05/14(火) 01:05:24
>>709
「『価値』のある体験、そう思ってもらえるならよかった!」
「モチロン描くよ。このまま尻切れトンボにはしておけないし」

          『 シュワォウ 』
                          『 シュワァォウ 』

そうして、サリヱの視界の端へとフェードアウトしビル壁の左端の方から、
人間が鳥へと変身(メタモルフォーゼ)してゆく図を完成させてゆく。
しばらく後、カフェ向かいのところまで描き進めたところで『影』がいなくなっているのに気づく。

「…………フム」
                 シュワォ      シュワォ

「よし!」

サリヱが去った後のカフェテラスと交互に見比べ、満足そうに頷くとその場を立ち去る。
空白だったビル壁には、クロムブラックの塗料で先ほどの『影法師』がそっくりに再現されていた。
これは……目立つ!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
★星見町新名物・その〇 → 『駅前カフェのストリートアート』
後日、街の清掃がやってきて消してしまった。『影』に気づいた人は多分いない。

711竜胆『ブラックシープ・シンドローム』:2019/05/16(木) 22:45:53
「平和だなぁ……」

プラプラとあてもなく歩く。
何も無いことは平和でいい事だが、同時に退屈でもある。
事実、女は退屈していた。
追うものも追われるものもない。
なんと平坦で、平凡なことか。
……日々の支払いには追われているが。

「……」

あたりをみまわす。
何かないだろうか。

712小石川文子『スーサイド・ライフ』:2019/05/17(金) 00:54:59
>>711

その時、近くにいたのは『喪服』を着た女だった。
そこまで突飛な服装ではないが、珍しいと言えば珍しいかもしれない。
女は立ち止まり、何かを見ているようだ。

視線の先にあるのは、通りに設置されている花壇だった。
そこに植えられている花を見ているらしい。
今の所、辺りに他の人間は見当たらない。

713竜胆『ブラックシープ・シンドローム』:2019/05/17(金) 01:44:23
>>712

「……」

誰かの葬式でもあったのだろうか。
だとしたらご苦労なことだ。
死は誰にでも訪れるが、身近なものが死んだら式を挙げねばならない。
喪に服さないとならない。
多くの人間がどこかで死んでいるが、それを無視して身近なものや尊敬するものを弔わねばならない。
生きた人間のエゴだ。

「やぁ、どうも」

「何かありましたか、お嬢さん?」

「そこのお花が欲しいのかい?」

714小石川文子『スーサイド・ライフ』:2019/05/17(金) 02:28:18
>>713

呼び掛けられて、ゆっくりと顔を上げて静かに振り返る。
相手の姿を確認し、それから丁寧に頭を下げた。

  「――こんにちは」

  「いえ、ただ……」

また、花壇に視線を向ける。
咲いているのは、鈴の形をした小さな白い花々だ。

  「以前に通りかかった時には、まだ花が咲いていませんでした」

  「今、ちょうどスズランが咲いているのを見かけたもので……」

花壇に植えられているのはスズランの花だった。
君影草や谷間の姫百合といった別名もある。

715竜胆『ブラックシープ・シンドローム』:2019/05/17(金) 18:59:32
>>714

頭を下げた相手にへらへらと笑う。

「ご丁寧にどーもね、どーも」

自分は片手をあげるだけで応じる。
それでいい。
女にとってはこれぐらいのお返しが限界だ。

「鈴蘭の花ねぇ……」

「花言葉とか詳しそー」

そんなことを言いつつも、考えは別の方向。

(毒性の花……)

鈴蘭のことはよく知らないが、それは知っている。

716<削除>:<削除>
<削除>

717小石川文子『スーサイド・ライフ』:2019/05/17(金) 20:30:13
>>716

鈴蘭は、結婚式のブーケに使われることが多い。
慰めの意味も持つため、葬儀の供花としても使われる。
この小さな花を見ていると、自身が経験した出来事が頭をよぎる。

  「花言葉――ですか……」

  「純粋、純潔……謙遜、再び訪れる幸せ……」

  「――そういったものだと聞いたことがあります……」

思い出しながら、鈴蘭の花言葉を口にする。
その時、緩やかな風が吹いた。
空気の流れに乗って、爽やかな香りが辺りに漂う。

  「それから――」

  「鈴蘭の花は香りも素敵ですね……」

鈴蘭の花は、バラやジャスミンと並んで香水として用いられる。
同時に、外見とは裏腹に強い毒を持つ植物でもある。
芳香と有毒――相反する二つの側面を持つ花だ。

718竜胆『ブラックシープ・シンドローム』:2019/05/17(金) 23:06:00
>>717

「詳しいんじゃん。ちょっと尊敬しちゃうぜ」

「お姉さん的にはね」

クスクスと笑う。
それから鈴蘭のくすぐったそうに体を揺らす。
出来れば何の匂いも嗅いでいたくない気分だった。

「うん、そうね。そう思う」

「この花の香りに包まれてみたいなー」

薄っぺらなことを吐く。
そんなこと、微塵も思ってない。

「お嬢さんもそう思うかい? どうどう?」

719小石川文子『スーサイド・ライフ』:2019/05/18(土) 00:16:39
>>718

  「……そうですね」

穏やかに微笑する。
相手の思惑には気付かなかった。
気付くことはない。

  「それも素敵だと思います……」

  「私はラベンダーの花が好きなので……
   その香りに包まれていると気持ちが落ち着きます」

私の傍には、常に死の誘惑がある。
その足音が近付いて心が乱れた時、ラベンダーの香りが鎮めてくれる。
それでも足りない時には、『鎮静剤』に頼るのだ。

  「――お花はお好きですか?」

720竜胆『ブラックシープ・シンドローム』:2019/05/18(土) 20:38:25
>>719

「ひゃぁ〜お嬢様みたいだねぇ」

(私トイレの芳香剤ぐらいでしか聞かないなぁ)

失礼なことを思い浮かべながら言葉を返す。
おどけてみせて、心ではそれになんとも思わない。
心と言葉の乖離が平時。

「いんや、ぜーんぜん……ウソウソ、花の匂いは好きだよ。お姉さんが好きなのはねぇ、もっとキツい匂いなんだよなぁ」

「アルコール? 甘いタバコの匂い? そういうのが好き」

今度は乖離しなかった。
気まぐれな距離感で言葉と心が動き続ける。

721小石川文子『スーサイド・ライフ』:2019/05/19(日) 00:05:23
>>720

アルコールと煙草――自分にとっては、どちらも縁が薄いものだった。
『彼』と死に別れた時、そういったものに頼る道もあったかもしれない。
実際にはそうはならず、今の私は別のものに頼っている。

  「私も……お酒は時々いただきます」

  「嗜む程度ですが……」

言葉を交わしながら、不思議な感じのする人だと思っていた。
飄々としているというのとは少し違う気がする。
ただ、捉えどころがないという意味では近いものがあるようにも感じられた。

  「――この辺りには、よく来られるのですか?」

  「もしかすると……またお会いすることがあるかもしれませんね」

奇妙な親近感のようなものを感じたのだろうか。
あるいは、心の中に何かを持っているというような。
だから私は、こんな言葉を言ったのかもしれない。

722竜胆『ブラックシープ・シンドローム』:2019/05/19(日) 20:05:19
>>721

「まぁ、ここに住んでるし来るには来るよ」

「自分の街だしね」

生活圏内ではあるらしい。

「また会うかもねお嬢さん」

「会わないかもしれないけど」

723小石川文子『スーサイド・ライフ』:2019/05/19(日) 22:48:22
>>722

返ってくる言葉を聞いて、口元に微笑を浮かべる。
やんわりとした柔らかい微笑みだった。

  「――はい」

  「もしお会いすることがあれば……またお話をさせて頂きたいです」

おもむろに背筋を伸ばし、姿勢を正す。
そして、出会った時と同じように深く頭を下げた。

  「声を掛けて下さって、ありがとうございました」

  「――それでは失礼します……」

別れの挨拶を告げると、背中を向けて静かに歩いていく。
先ほど感じた不思議な感覚を、心の片隅に残して。

724門倉『ソウル・ダンジョン』:2019/06/07(金) 22:24:08

「―――とりあえず、これでいいか」

栗色のソフトモヒカン、ワインレッドのジャケットの男が
駅から少し離れた古ぼけたビルの前に立っていた。
一階にあるテナントには『門倉不動産』とかかれている。

                ………『手書きの張り紙』で。

725日下部『アット・セブンティーン』:2019/06/09(日) 23:57:40
>>724

           ズイッ

「お兄さん、なぁにコレ?」
「おっ『不動産屋』――――へ〜、儲かるんでしょ?」

「家売るんだもんねぇ」

それを覗き込むのは、学生服の少女。
ビターチョコのような色の髪に、兎の耳のようにリボンを立てていた。

「なのにぃ、『張り紙』? これ、手書き?」
「あんまり景気良くないってやつなのかな」
「ニュースでそういう話してるよねぇ」

      スイッ

            「実際どお? 景気ど〜お?」

後ろに手を組んだ姿勢で、張り紙から『門倉』の顔に視線を向けなおす。

726門倉『ソウル・ダンジョン』:2019/06/10(月) 00:22:48
>>725(日下部)

声をかけられた『門倉』は、少女に視線をやる。

「ああ―――うん、そうだな。
 景気はけしてよくはないが、
  それより別の問題が俺とこの『不動産屋』を襲っていてね。
   その結果が、この紙の張り紙というわけだ」

『門倉』は大げさにため息をつく。

「『金が足りない』という事だね―――つまりは。
 目の前にいる少女が『お客』になってくれれば少しは改善されるんだが………
  その学生服を見るに、その可能性も薄そうだ」

よくは分からないが『貧乏不動産屋』という事らしい。
もっとも、およそ真っ当な社会人と思えない『門倉』の格好と、
『紙の張り紙』での社名提示をみるに、儲かっていないのは当然とも思える。

727日下部『アット・セブンティーン』:2019/06/10(月) 01:08:53
>>726

   スタスタ

笑みを浮かべて、回り込むように動く『日下部』。

「んふふ、正直なんだね〜。
 悪いけど『家』買う予定はないかな。
 おカネ、私も持ってないしな〜」

           スタスタ

「お金持ちそうだからお茶の一杯くらい奢ってもらえるかな〜〜〜って」

          「私も『正直』に言うとそう思ったん、だけどさぁ」

張り紙を見ながら、勝手なことを言っていたが・・・

「……ん〜?」

「なんか思い出してきたかも、もしかしてだけど」
「ここって、ちょい前に『爆破事件』があった不動産屋さ〜ん?」

頭のリボンを揺らしながら、再び門倉の顔に視線を向けなおす。

728門倉『ソウル・ダンジョン』:2019/06/10(月) 20:11:09
>>727(日下部)

「………知っているのなら話は早い。
 つまりはそのせいでこのありさま、というわけさ」

 『門倉』は観念したかのように肩をすくめる。
 星見駅周辺の不動産屋で『爆破事件』があったというのはちょっとしたニュースになった。
 警察は『事故』と断定したらしいが、真実がどうだかは分からない―――

「一応それなりの蓄えもあったし『副業』したりして
 ある程度の修繕は出来たし周囲への補償もしている。
 だが、まだ『ある程度』にしか過ぎない。節約できるところは節約しないとね」

 『門倉』は二度目のため息をつく。

「さて―――どうせ客も来ないだろうし店に寄っていくかい?
        『お茶の一杯』くらいなら用意してあげられるよ」

 いかにも怪しい男、『門倉』が誘ってくる。

中に入ればねちっこく長話をしてきそうな予感もするし、
それ以上の事だってあるかもしれない。
それがイヤなら外でのライトなコミュニケーションで満足しておくべきか――

729日下部『アット・セブンティーン』:2019/06/11(火) 04:13:00
>>728

「なぁるほどね。それで……このありさまってわけだ」

得心して張り紙に頷く。
『爆破事件』――――ないしは、『事故』。
『全国ニュース』になった類似の事故の関係で、覚えていた。

「副業、節約。意外と世知辛いけど〜」
「『命あっての物種』……とも言うもんね」
「少なくとも大けがとかはしてないみたいでよかったじゃん?」

     ニヤ

「……なんて優しいとこを見せてみたりして」
「感動したら一番良いお茶飲ませてね」

           スッ

「家の話とかされても、わかんないし」
「お茶の美味しさでそこをカバーするから」

「ま〜私、お茶の良しあしもあんまし……わかんないけど〜」

ナチュラルに上がりこんで茶をタカる動きを見せる『日下部』。
門倉もいかにも怪しげな雰囲気だが、この少女も価値観が怪しいのかもしれない。

730門倉『ソウル・ダンジョン』:2019/06/11(火) 08:04:32
>>729(日下部)

「―――たまたま店に居なかったからね。
     怪我とかはしていないんだよ」

『主(あるじ)のいない状況での事故』………
まあ、そういう事もあるかもしれないが余計に怪しい話ではある。

 それはさておき、

「なァに、『良し悪し』なんて分からない方がいいんだよ。
 なんでも『良し』と思える方が人生は幸せに進む。

 ああ、そうだ。自己紹介しておこう。
    『門倉 良次(かどくら りょうじ)』、一応、不動産屋をしている。

                          ―――さあ、中へどうぞ」

勧められるままに『門倉不動産(手書き)』へと入る事になる『日下部』。

 ………

『不動産』内は控えめに言ってもひどいありさまだった。
壁紙はある程度張り直してあるのだが完全ではなく、
黒こげの壁面がところどころ見えている。

接客用のカウンターはまだ修繕できていない様子で、
申し訳程度に学習塾のような『長机』とパイプ椅子が置いてあった。
何かの間違いでここに入ってきてもマトモな感覚の客ならば、
適当な理由をつけて踵を返す………そんなふうに思わせる風景だ。

731日下部『アット・セブンティーン』:2019/06/11(火) 22:42:58
>>730

「『気の持ちよう』でモノの『価値』は変わんないけどさあ」
「ま〜でも、『価値観』が違えば、変わってくるとこもあるか」
「良いこと言うね良次さん。あ、私は『日下部 虹子(クサカベ ニジコ)』」

「虹の子供って書いて虹子」
「不吉な名前でしょ〜」

              ザッ

                 ザッ

「不動産屋って入るの初めて……んふふ」

屋内に入ると、再び手を後ろで組んで辺りを見渡す。
焦げた壁とか……中途半端な壁紙とか、カウンターとかを。

「これ〜っ。ここで『家』の相談する席?」
「『大学部』の席みたいで風情がある。ここ座ってもい〜い?」

           ゴソッ

「お菓子でも出そうかな、私も……ね〜。良次さんってチョコレート好き?」
「あ。お茶って『お茶』? それとも〜、『コーヒー』のこと、お茶って言ってる?」

片手をカバンに手を入れて漁りながら、パイプ椅子の背もたれに手をかけた。

732門倉『ソウル・ダンジョン』:2019/06/12(水) 01:19:29
>>731(日下部)

「『虹子』―――不吉なのかい?
          いい名前だと思うけれど」

 この『ありさま』にもさほど退かない『日下部』に
 『門倉』はそんな言葉を投げかける。

「そして―――だ。座るのはちょっと待ってほしいな。
  さすがにここじゃあ『おもてなし』するには、殺伐すぎる」

             ガ  チ   ャ   リ

       そう言いつつ、『門倉』が『ドア』を開けた。

 ………

 『日下部』がしっかり室内を確認していたのなら、
  その場所に『ドア』などなかった事に気づいただろう。

 『日下部』が外観からここの間取りを考察できていれば、
  位置的にそこに『ドア』があっても、『部屋』などないと分かっただろう。

 『日下部』がカバンに気をとられすぎていなければ、
  『門倉』の腕に重なるように一瞬だけ発現した『スタンドの腕』が見えただろう。

   しかし、たとえ全ての項目で『NO』だったとしても、
    『日下部』にはその『奇妙さ』が理解できるはずだ。

      『ドア』を開けたその奥には―――

 『不動産屋』の風景とはまるで違う、
  狭いビル内にあるような『数席しかないカウンターの店』があったのだから。


          ドド   ドド   ド  ド    ドド ド ド


                     「―――いらっしゃいませ」

薄暗い雰囲気のその店はどうやら『喫茶店』のような場所らしい。
『カウンター内』に居る長身の男の『店員』が『門倉』と『日下部』にそう声をかける。

 至って普通の対応―――ここが普通の『喫茶店』であればの話だが。

733日下部『アット・セブンティーン』:2019/06/12(水) 14:19:45
>>732

「『虹』って『雨』の後にしか出ないしさ〜。すぐ消えちゃうじゃん」
「残るのは綺麗だったって感想だけだよ」「あとスマホの写真」

           ニタ ニタ

「『一瞬のために生きろ』って言われてるみたいでしょ?」

           「だから、私は不吉だと思うよ」
 
門倉の言葉に笑みを浮かべる日下部。
真意は、表情からは読み取れない。

「んん? ……?」

                  「あれっ」

日下部は『目に見えるもの』を信じている。
だから『目に見えたもの』はしっかり覚えている。

・・・そんな扉はなかった。
・・・それにこの建物に、その方向に部屋はないはず。

「んんん? なんだこれ」

   キョロッ

「良次さん、なにここ〜。……実はカフェに間借りしてるとか?」

         「ねェ〜、メニューとかって置いてある?」

                  キョロッ

しきりに視界をめぐらせながら、今度こそ席に着こうと動き出す。

734門倉『ソウル・ダンジョン』:2019/06/12(水) 20:29:08
>>733(日下部)

『日下部』は唐突な『ドア』に疑問を覚えつつ、
物怖じもせず、キョロキョロしながら『カフェ内』へと侵入していく。

 「フフフ………なんだろうね?
  とりあえず好きなところに座るといいよ」

そんな『日下部』の小動物のような動きが面白いのか、
『門倉』は不気味な笑みを浮かべながら、答えになっていない答えを返す。

L字型になったカウンターの等間隔に椅子は置かれている。
用心のため入口間近に座るもよし、
好奇心を満たす為、奥の席まで行ってみるのもよし―――

 「メニューはそちらにございます」

『長身の店員』が手で示したとおり、カウンターの上に『メニュー』が差し込んである。
表紙を見るに『メニュー』は『フード』『サラダ』『サイドメニュー』
『ドリンク』『デザート』などに分かれているようだ。

『門倉』がそのメニューをヒョイととり、
『ドリンク』のページを『日下部』に向けて開く。

「すぐに出てくる『ドリンク』を頼んだ方がいいと思うよ。

   ………いや、ケチっているとかじゃあないんだ。
        『お茶の一杯』って話だったし、
        なにより、『そう長くはいられないからね』―――」

含みのある言い方で『門倉』はドリンクを薦めてくる。
『ドリンクメニュー』は以下のとおり。

<COLD>
・ミネラルウォーター
・ウーロン茶
・アイスティー
・レモンティー
・コーヒー
・オレンジジュース
・アップルジュース
・グレープフルーツジュース
・コーラ
・ジンジャーエール
・クリームソーダ
・タピオカミルクティー

<HOT>
・ホットティー
・ミルクティー
・レモンティー
・コーヒー
・カフェラテ
・ココア

735日下部『アット・セブンティーン』:2019/06/12(水) 22:54:02
>>734

        スタスタ

「ん〜? 含みがある。じゃあ、ここにしとこうかな」

   ストン

「入り口側って慌ただしいしさぁ」
「他にお客さんとか、来るのか知らないけど」

最奥の席まで歩いて、そこに座った。
用心などしていない――――ということだろうか。

「ども、ども〜」

「注文は・・・『タピオカミルクティー』」
「タピオカミルクティーってさ〜、良次さん好き?」
「みんな好きだよねえ」「私も好きだけど〜」

「でも、なんでどこも『ミルク』なんだろうねぇ」

メニューを指さしながら、カバンを机の下に置く。

「まそれはいいや、何? なんか『用事』とかあるの?」
「あーいや、それはあるよね。事務所があの状態なんだし〜」

長くはいられない――――という言葉の真意は、さすがに読み取れない。
が、納得のいく予想は出来たので、それ以上特に追及する気もなかった。

736門倉『ソウル・ダンジョン』:2019/06/13(木) 08:24:12
>>735(日下部)

『タピオカミルクティー』を頼む『日下部』。

 「あ――― 俺もそれで」

『門倉』がそれに便乗する。
『長身の店員』は『分かりました』と頷く。
『タピオカミルクティー』ふたつがほどなく、用意されるだろう。

「俺も好きだよ―――『タピオカ』。
 最近は流行っているみたいだから色んな味があるみたいだけどね。
 でもまあ『ミルク』が『定番』ってヤツなんだろうな。『定番』は強いよね、やっぱり」

『門倉』も『日下部』の隣に座る。

「いやいや、『事務所』があんな状態だって
 かわいい娘とお茶の一杯くらい飲みたいさ。

 むしろあんな状態だからこそ、君のような娘と何にも考えず語っていたい。
 『虹』の話とか、『タピオカ』がなんの卵かとかそーゆー話をね。
 だから『用事』なんて大それたものは特にはないんだよ」

 『門倉』はそう語る。その言葉にのって
  この場で愚にもつかない『四方山話』に興じるのもアリか。

「ただまあ、たとえば君が『オイシい副業』に
 興味があると言うのならそれを紹介してはあげられるけど―――」

 『オイシい副業』………完全無欠に怪しいワードだ。
 うら若い乙女な『日下部』が気軽にのると酷い目に遭うヤツかもしれない。

737日下部『アット・セブンティーン』:2019/06/13(木) 20:35:58
>>736

「『タピオカティー』って呼ばれるようにはならないんだろうね〜」
「『タピオカドリンク』って言い方は、聞く気もするけど」

「まあ」

「なんだかんだミルクが一番美味しい気はするかなぁ〜っ」

          クルッ

腰を軸に体を回し向き直る。
頭を飾るリボンが、クラゲの足のように揺れる。

「かわいい? 私かわいい?」
「よく言われるよ〜」

     ニヤ…

「んふふ、『用』がないならいいんだけど」
「長居できないみたいなこと言うもんだから気になってね」

水のコップを手に取り、水滴を拭いとるように掌で回す。

「それで〜? 副業って? 『おカネ』に特別困ってはないけど〜」

    「私みたいなかわいい娘にできる仕事って……なぁに?」

              ズイッ

上体を乗り出すようにして、門倉の話を――――『聞く』ことにした。

738門倉『ソウル・ダンジョン』:2019/06/14(金) 08:19:42
>>737(日下部)

「『お金』に困っていないのはいい事だね。
 それなら、そんなに興味はないかもしれないが―――」

                    ピコーン

『門倉』が持っていた『タブレットPC』を起動させ、画面を指でスライドしていく。

「あった、これだ。

    『ひきこもり男子をどうにかして外に出してほしい』。

 ひきこもりの心境というのは正直、俺にはよく分からないんだよね。
 だから断ろうかなと思ってたんだけど。
 でもまあ、男子ってのはかわいい女の子に呼びかけられれば、
 すぐに飛びつくものだろう?

   かわいい女の子―――

               つまり、君にうってつけな仕事というわけだ」

             『門倉』はそう断言する。

『ひきこもり男子』はむしろ女子に
何かしらの苦手意識がありそうだが………
あくまで『門倉感覚』での『オススメ』という事らしい。

 ………

                  「………『タピオカミルクティー』です」

そうこうしているうちに『タピオカミルクティー』が運ばれてきた。

739日下部『アット・セブンティーン』:2019/06/14(金) 23:44:05
>>738

「『10万』とかもらえるなら話は変わるけどねぇ」
「流石に、普通のバイトじゃそんなに儲かんないし」

「どれどれ〜」

          ズイッ


「――――『引きこもり』ぃ?」

「引きこもりってあの、家にこもって出ないやつのことでしょ?」
「ふうん……まあ、私は可愛いけどね〜。引きこもりかぁ〜」

           カチャッ

     クルックルッ

「話は聞いてもいいけどね。『引きこもり男子』か〜……」

       「あんま変なヤツだと嫌だなあ〜」

ストローを回して、タピオカをかき混ぜる。
別に意味があるわけでもないが……

「とゆーか……良次さんって、『不動産屋』だよねえ? 『斡旋業者』もしてるの?」

740門倉『ソウル・ダンジョン』:2019/06/15(土) 00:13:55
>>739(日下部)

「まあ、断るつもりだったからあんまり詳しい情報もないし、
 無理にとは言わないけどね。

   ―――成功すれば『10万円』くらいはあげられるかもだけど」

『門倉』はさらっとそう告げ、ズズイとタピオカをすする。
タピオカが宇宙エレベーターのように高速で上へ上と吸い込まれる。

「そして、俺に様々な『依頼』が舞い込んでくるのは
 何を隠そう、この俺が『超能力者』だからなんだ。
 だから、みんな、俺を頼って来るんだよ―――

     ………

               なァんて言ったら信じるかい?」

『門倉』は冗談めかした口調でそんな事を宣う。

741日下部『アット・セブンティーン』:2019/06/15(土) 02:00:46
>>740

「ほんと? ほんとに言ってる? ……10万だよぉ?」
「10万円ってさァ〜」「大きいんだよ?」「だって6桁だもん」
「良次さんみたいな『オトナ』にはそうでもないのかなあ?」

「私は、『17歳』だからさ〜……『10万』は魅力的だよぉ」

       クルックルッ

「ただね、友達がちょっとヤバいお仕事して『3万』稼いでた」
「その『3.3倍』ヤバいって認識も〜、できちゃうよね」

           ズズーーーーッ

そこまで言い終えてからタピオカを吸う。
動きはおとなしくなる……タピオカの魔力だろうか?

「……」

「でっ」「超能力者ね。ふぅ〜〜〜ん」「なるほどだね」

            キョロッキョロッ

即座に魔力が切れたのか、周囲を見渡す『日下部 虹子』。

「どうしよっかな、信じてほしい?」
「信じてもいいけどね。信じる『根拠』とかあったほうがい〜い?」

742門倉『ソウル・ダンジョン』:2019/06/15(土) 08:52:29
>>741(日下部)

「へえ、『17歳』か―――未成年。

  ふふ………

               ………

 いやまあ、年齢は関係なく、しかるべき『仕事』をこなせば、
  しかるべき報酬を受け取るべきだと俺は思うね。
  『3万の仕事より3.3倍ヤバい』と考えるより、
  『3.3倍』、君が活躍するのだと思ってくれればいい。
  そうすれば『しかるべき報酬』は君のもの、というわけだ。

  あ、そうだ―――この前も、とある事件を解決してね、
             未成年の『パートナー』に『10万円』、ちゃんと渡したよ」

『門倉』は誇らしげに実績を主張するが、
税金なんかはどうなっているのだろう。
(これが噂の『闇営業』というヤツか?)

「そして、『超能力』を信じる『根拠』……だって?
      出せるのかい? そんなもの―――」

『門倉』は首を傾げる。

「あッ!
     ひょっとして君は………

            俺に『一目惚れ』しちゃったとか?

 『愛する者の言葉は無条件で信じる』

                 つまりはそういう事なのか―――?」

『門倉』がどこまで『本気』なのかは窺いしれない。

743日下部『アット・セブンティーン』:2019/06/16(日) 09:07:00
>>742

「未成年だけど……? なに〜今の笑顔? いかがわし〜」

「まーでも、私のがその子より『3.3倍』……いやもっと可愛いし」
「仕事もね、それくらい出来るって自信はあるから……大丈夫かな〜」

        ニヤ…

「とゆーか、そんな頻繁に『仕事』抱えてるんだ」
「不動産屋っていうか〜、何でも屋さんみたいだねえ」
「その言い方だと、人を斡旋するだけじゃないみたいだし」

高額な『ギャラ』のためなら『闇営業』も仕方ないという気風らしい。
倫理観とかは『取っ払って』しまったのだろうか……これが今風なのか?

「私に惚れられたら、良次さんは嬉しい? ふふふふふ」
「でもね、残念だけど、そういうのじゃないな〜」
「100万円くれたらそういうことにしてもいいけど」

「『好き』も『信頼』も目に見えないんだからさあ」

        キョロ キョロ

「え〜と」「もう、これでいいかな…………」

視界を彷徨わせて……おもむろに食器入れに手を伸ばす。

「根拠はちゃんとあるんだけどね〜」
「ここで出しちゃっていい?」

「汚れちゃうからさ……掃除とか、誰か困らないかなあ?」

そして・・・フードメニュー用の物なのだろう。

            スッ

フォークを手に取り、袖をまくり、切っ先を肌に建てる。

744門倉『ソウル・ダンジョン』:2019/06/16(日) 21:57:54
>>743(日下部)

「そりゃあ君のような可愛い娘が好きになってくれるならそれは最良だよ」

 『門倉』はそんな事を言いながら、

「―――?

       何を………何をしようとしているんだ!?」

 フォークを肌にたてる『日下部』に血相を変える。

「こ、『根拠』ってアレか?
  ヤクザの『指詰め』みたいな行為をもって示そうってのかい!?
        いや……病んだ少女の『リストカット』が近いか………?

    いやいや、譬えなんてどうでもいい!
    当たり前のことだが、俺はそんな事を望んじゃあいないよ!」

 『門倉』は『日下部』の行為を止めようとする。

745日下部『アット・セブンティーン』:2019/06/16(日) 23:19:51
>>744

「『オトナ』も手を焼く『ひきこもり』の『連れ出し』」
「『若くてかわいい』だけの『17歳』を連れてくのも」

「んふふふ、まあね」

        プツッ

止めるよりも・・・手を動かす方が、少しだけ早い。
目を細めて、肌に鋭い先端が突き刺さる。

「それはそれでいいんだろうけどね」
「でも……『仕事相手』はお金払うわけだし」

           『ポコ』 『ポコ』

「良次さんは、私のこと『頼れるパートナー』って紹介するんだよ」
「だから、その辺で捕まえた『17歳』じゃなくって〜」

                ・・・?

今確かに、『フォーク』は突き立てられた。
肌に銀の切っ先が刺さり・・・赤い血が・・・出たはずなのだが。

      ペロッ

「こういう『目に見える』証があった方がねぇ、お互いのためだと思うの」

いたずらな笑みを浮かべ、フォークを口にくわえるその手は、傷一つなく、白い。

746門倉『ソウル・ダンジョン』:2019/06/17(月) 00:53:10
>>745(日下部)

「ああッ!」

 『門倉』の眼前でフォークが『日下部』の柔肌に侵入していく。
 思わず軽い悲鳴のような声を出してしまう『門倉』だったが―――


                    「―――ん? んんん?」

 無傷の手………消えた『傷口』。その事実に目を見開く『門倉』。

 ………

「君―――その傷は……『奇術』か『マジック』で………?

 ………

  いや、止めよう。この現象が『超能力を信じる根拠』だというのなら」

              グ  オ  ン

       『門倉』の傍らに『人型のスタンド』が現れる。

  ・ ・ ・
「『視える』方の人間だという事だね―――虹子ちゃん、君は」

747日下部『アット・セブンティーン』:2019/06/17(月) 01:40:27
>>746

日下部は――自分の手に視線を落とし、笑みを浮かべる。
それから、顔を上げて。

「うわ。なるほどだね、そういう『形』があるものなんだ?」
「私のは、そういうのないみたいだからね〜」「乱暴しちゃったけど」

「でも、どうしてもね、『見せたかった』の」
「『信頼』なんて見えないもの、担保もナシに出来ないから」

「だからねえ、よろしくね良次さ〜ん」

人型のスタンドをまっすぐと見据える。
この『世界』に立ち入るパスポートは、すでに、持っていた。

「で、よろしくなんだけどね」

「出来れば『日下部ちゃん』って呼んでほしいな〜、」
「『虹子』って呼ばれるのね、あんまり得意じゃなくって」

「こっちも対等に『門倉さん』に変えてもいいからさ〜あ・・・どう?」

748門倉『ソウル・ダンジョン』:2019/06/17(月) 02:08:37
>>747(日下部)

「形(ヴィジョン)がないタイプか―――
  というか、君はそんなに、この超能力、
   『スタンド』については知らないみたいだね。

  呼び方については分かったよ。『日下部ちゃん』。
         ………ああ、俺の方は『良次さん』で構わないよ」

『門倉』は『日下部』にそう告げる。

「それで、『見せてもらった』俺としては改めて訊きたいんだけど、
 『引きこもり男子を連れ出す』ミッション、引き受けてくれるかな?

  イエスにしろノーにしろ、とりあえず連絡先はきいておきたいわけだけど」

749日下部『アット・セブンティーン』:2019/06/17(月) 02:22:33
>>748

「んふふ、それじゃあ、良次さんって呼んだままにしとく」

「え〜と、ねえ。『スタンド』っていう言葉と……」
「これが『アット・セブンティーン』って名前なのは聞いたけど」
「詳しいって言えるような事は、何も知らないかな〜っ」

「その言い方だと良次さんは詳しそうだし、今度教えてよ」
 
    「あっ今度っていうのはねえ」

        「またいつかとかはっきりしない話じゃなくって」

板チョコを模したケースに収めた、スマートフォンを取り出す。

           ミッション
「――――その『お仕事』の時にでも、ね?」

見せた画面には、『QRコード』。
それから、はっとしたような顔でそれをテーブルに置きつつ。

「あ、良次さんは『ラ●ン』、分かるよね〜? でも私ね、別にメールでも使えるから」
「不便ならメールでもいいよ。オトナの人だと、たまにいるからさあ、そういう人も……」

年より扱い……ではないのだろうが、『世代間の隔たり』を感じなくもない配慮を見せた。

750門倉『ソウル・ダンジョン』:2019/06/17(月) 02:43:38
>>749(日下部)

「ああ引き受けてくれるのか!

             ―――じゃあ、また今度」

『門倉』はスマホを取り出し、『QRコード』を読み取る。
そしてその場で、「門倉だよ」とメッセージを送ってくる。

     「手取り足取り教えてあげよう、色々ね」

 そんな事を言っていると、

   突如―――

     ス ウ ウ ウ ウ ウ ………

              一瞬で、『視界』が変わる。

 ………

今までいた『喫茶店』がまるで夢だったかのように、
『日下部』と『門倉』は、焦げが残る『門倉不動産』に居た。

            「ああ――― もう、『時間』か」

 『門倉』が名残惜しそうに言う。

奇妙な『部屋』、『超能力』、『タイムリミット』―――
『門倉』という男が『日下部』と同じ超能力者、
『スタンド使い』なのだとしたら、
その能力を類推するのはそう難しい事ではないだろう。

751日下部『アット・セブンティーン』:2019/06/17(月) 03:30:03
>>750

「はい、登録」「っと〜」

      スゥッ

「や〜ん、言い方がいかがわしい〜」
「良次さんたまにそういうとこあるねえ」「なぁい?」

メッセージに『スタンプ』を返し、スマホを懐にしまう。
そして飲み終えた飲み物のストローを回していると・・・

>     ス ウ ウ ウ ウ ウ ………       

          「……んんん」

「なるほど、なるほどだね〜」
「こういうのも『アリ』な世界ってことか」
 
         キョロッ

「タピオカ……『飲んだ気』は残ってる気がする」
「カロリーもあの部屋みたいに、なかった事にならないかな〜」

              キョロッ

来た時と同じように、後ろ手を組んで、『来たままの部屋』を見渡す。
が――――少なくとも今日は、それをいつまでも続けてはいなかった。

「ま〜こうやって見てても原理はわかんないか」
「原理なんか、ないのが『能力』なんだろうし」

「それにねえ、私、そろそろ行こうかなって思うんだ」
「『10万円』貰えるなら、いろいろ買いたいものとかあるしぃ」

        ザッ

          「それじゃあ行くね。また仕事でね〜、良次さん」

そのまま、『門倉不動産』を発つ――――次に会うのはおそらく、仕事の席で、だろう。

752門倉『ソウル・ダンジョン』:2019/06/17(月) 03:50:22
>>751(日下部)

「いかがわしいつもりはないんだけれど………
               よく言われはするね。

 そして、残念ながら『飲食』は血肉となる。
       あの部屋が『思い出』の彼方に消えてもね」

 『タピオカ』も『ミルクティー』も高カロリー。
  流行りには文字どおり甘い罠があるという事だ………

「それじゃあね―――
   詳しい日程の調整が出来たら『連絡』するから」

 去りゆく『日下部』の背に『門倉』は手を振る。
  残されたのは彼自身と、まだ完全に修復しきらない彼の『仕事場』。
   『門倉』の次なる仕事は
    自らの傷を癒せる『17歳』の女の子と一緒に、という事になりそうだ。


                                      TO BE CONTINUED…

753エマ『ソルトフラット・エピック』:2019/06/22(土) 21:09:37
古ぼけたキャリーバックを転がし、キョロキョロと見渡しながら商店街を歩いている。
中東系の女性で、服装も少々年季が入っている……端的に言えばボロい。
端から見れば、バックパッカーか何かに見えるかもしれない。

754エマ『ソルトフラット・エピック』:2019/06/24(月) 00:59:25
>>753
立ち去った

755夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2019/07/19(金) 00:26:00

趣味の町歩きの途中、オープンカフェで一休み。
少しして、テーブルの上に泡立つジンジャーエールが置かれた。
グラスを持ち上げて、ショウガの利いた炭酸を喉に流し込む。

       グビッ グビッ グビッ

「――――ッかぁ〜〜〜!!」

やっぱ、ジンジャーエールは『カラクチ』だな!!
ベロにガツンとくる、シゲキテキでクセになるようなオトナのあじわい。
ナツいアツはコレにかぎるぜ!!

    《L(エル)》
                     《I(アイ)》
            《G(ジー)》
      
     《H(エイチ)》
               《T(ティー)》

そのまま休憩しつつ、何か面白そうな情報を求めて『町の声』に耳を傾ける。
『ドクター・ブラインド』の『超聴覚』――――それを使って客やら通行人の声を拾う。
なんかミミよりなハナシとかない??

756???『???・????????』:2019/07/19(金) 21:23:18
>>755

夢見ヶ先明日美、そのスタンド、傍に立つ『ドクター・ブラインド』の超感覚が
周囲の喧騒を拾い続ける。

 ガヤガヤ                  「……学校で猫が……」
                  ジャー
   「……幽霊だって!ほんと……」      ワイワイ
                       レロレロ       「……キャー!私のサンドイッチ!……」
コツコツ       「……肝試し?それは……」
                               ジャリンジャリン


その無数の音は絡み合いながら、本来なら雑踏の騒音として私達の耳に入るだろう
だが、彼女のスタンドはそれを確かに聞き分け続ける。

        ……コツコツコツコツ

その中から一つの靴音が方向を変え、貴方の背後からだんだんと近づいてくると
急にサングラスの目の前に、ハンカチで覆い隠された

 「さあ、僕は誰でしょう?」

唐突に背後から質問を投げ掛けられる。
同じくらいの年頃の少年の声だ。
どこかで聞いたことがあるような気がする。

757夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2019/07/19(金) 22:19:51
>>756

誰かが背後から近付いているのは『聞こえていた』。
だが、いきなりの目隠しまでは予想していなかった。
ナニモノだキサマ!!
さてはソシキのエージェントか……!!
このミセで『マッケンジー』にうけわたすよていの『ブツ』がねらいだな!!

「ほうほう――」

どこかで聞いたような声を聞き、思案する。
このまま普通に当てるのもいいだろう。
しかし、それじゃあ『ツマらない』とおもわないかね??

「じゃあ――――『あてて』みよっかな」

      シュバッ

『ドクター』を動かし、ハンカチを持っている手に爪で『チクッと』する。
ほんのちょっとでいい。
それだけで十分。
『ドクター』の能力の一つ――『視覚移植』を行うためには。
本来は盲目である『ドクター』だが、それによって一時的に『視覚』を得る事が出来る。

「えっとね〜〜〜」

『ドクター』を振り返らせ、その人物を目視する。
                  ブースト          ブラックアウト
そういえば、前に会った時に『鋭敏化』は見せたけど『盲目化』は伏せていた気がする。
ま、ベツにいっか。

「――『イカルガのショウさん』ににてるっていわれないッスかぁ〜〜〜??」

本人は相変わらず目隠しされたままで答える。 ブラックアウト
ちなみに、『視覚移植』が成功しているなら、彼は『盲目化』しているだろう。
つまり、イマのわたしと『おなじジョウタイ』ってコトになるな!!

758斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティー』:2019/07/19(金) 22:38:27
>>757

「ーーあたり。」
「君みたいには上手くいかないな。」

ハンカチが取り除かれ、視界が開ける
彼が貴方の背後から現れた、夏風に色褪せたスカーフを揺らし、笑みを湛えた少年
斑鳩 翔。

その腕に鎖が巻かれたかと思うと、即座にボロボロと崩れ落ち、ずるり、と影のような腕が現れた
腕が夢見ヶ埼の肩を叩き、そしてテーブルの縁を触りながら、少年を向かいの席へと誘導する。

「やるもんじゃあないなあ、キャラじゃない事は
 今度は僕からからかおうと思ったんだけど、逆にやられてしまった。」

「椅子、椅子……何処だっけな。」

たどたどしい様子でテーブルの周りを回る
肩を竦めつつも、しばらくするとお手上げのようで『4本の腕で降参』しつつ口を開いた。

「……よければ助けて頂けると、嬉しいんだけど。」

759夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2019/07/19(金) 23:24:53
>>758

『視覚移植』の持続時間は『10秒』だ。
解除しなくても自動的に元に戻るが、それまでの間に『事故』が起きるかもしれない。
たとえば、テーブルにぶつかった拍子にグラスが倒れるとか。

「ほうほう、ソレはいちだいじですな。よし、すぐ『シュジュチュ』しよう!!」

だから、『持続時間切れ』になる前に能力を解除する。
ただし、そうなると別の問題が出てくる。
いわゆる『ささいなモンダイ』ってヤツだけど。

「――――『アリス』のワンポイントアドバ〜〜〜イス!!」

「さいしょはさぁ、ハッキリあけとかないほうがイイとおもうよ??」

人間の目は、暗い所から急に明るい場所に出ると『眩しさ』を感じる。
しかも、今の季節は『夏』だ。
視力が戻る際に感じる眩しさは、相応に強いものになるだろうから。

「あせらなくてもイイのよ??さぁ、カラダのチカラをぬいてリラックスして……。
 おちついたキブンで、ゆっく〜〜〜りとあけていきましょうね〜〜〜」

さながら保健の先生か何かを思わせるような作り声で語りかける。
テーブルの上のグラスは手に持っている。
眩しさが事故の原因になるとも限らないからだ。

760斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』:2019/07/20(土) 00:13:18
>>759

急激に戻った夏の日差しに目を細めつつも、どうにか椅子に座って一呼吸入れる
視界に明瞭な世界が入ると同時に、夏の暑さと喧騒が同時に戻る気がした

「ご親切にどうも、アリス。」

涼し気な声と微笑みを返して彼女と対面する
前と会った時と別段違いはなく、何時ものように陽気にすら思えた

「気分はさながらジブリの大佐だったよ」
「最後にめがぁって言いながら彷徨う感じの。」

(影の頭で視界を確保すれば良かった気もするが、まあ気づかなかった事にしておこう
 事実、見えたかは怪しいし……。)

「で、其方は暑い夏に冷えたジンジャーエール?いいね。すいません、そこの可愛い緑のエプロンした店員さん、アイスティーを」

少年は彼女の手に持った結露したグラスを見て
呼ばれてやってきた店員と二言三言かわすと、店員が二人を見てから斑鳩に話しかけた。


「え?キャンペーン?ストロー2本のカップル用の大きいサイズがある?じゃあそれで。」

店員を何でもないように見送った後、目の前の彼女に向き直る
いつも通りの笑顔で。

「それで、夢見ヶ埼ちゃんはどうしたの?散歩の休憩?鏡の世界探し?」

761夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2019/07/20(土) 00:42:13
>>760

「わたしぃ〜〜〜??いつもどおり、この『フシギのセカイ』をボウケンしてる。
 なんかユカイなコトとかないかな〜〜〜って」

「そしたら、ホラ――――ちょうど『みつかった』トコ」

両手でテーブルに頬杖をついて、正面の相手を見つめる。
まるで恋人と語らっているかのように。
そんなワケねーけどな!!カンチガイすんなよ。

「――で、どうよサイキン??あの、アレだアレ。なんかあった??
 こう、かわったコトとか。モグラがサカダチしながらスキップしてるようなカンジの」

「つーかさ、ショウくんはナニしに……いやまて、あぁ〜〜〜。うんうん――わかった」

一人で何事か納得して、何度か大きく頷く。
アリスのカンサツリョクとスイリリョクは、ヒトツのケツロンをみちびきだしたのだ。
ほかのヤツならいざしらず、このアリスのめはごまかせない。

「さては、さっきのウェイトレスをマークするためだな!!やるねぇ〜〜〜」

「ナツはこれからだからな〜〜〜。『アツイよる』をすごすのは、まだまだまにあうぞ!!」

762斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』:2019/07/20(土) 02:04:13
>>761

彼女にとっては不思議な世界
例え僕にとっては深海の底でも。

生まれた時から、さっきスタンドが見せた光景で、急に光が戻るなら
確かに彼女にとって色に溢れるここは不思議な世界なのだろう

(感受性が豊かというか…一緒にいて退屈だけはしないで済むタイプだな)

そう考えつつも、店員が持ってきたグラスを受け取る
……想像以上にでかい、おまけにハートマークの意匠で作られた
これまたでかい二口ストローが刺さっている。

(安いし興味本位で頼んでみたけど、成程 向かい合わせで飲むんだな
 そうでないと一人では吸えず、飲めない仕組みか。)

「モグラが逆立ちはないなあ、チェシャ猫のようなのなら海で一匹。」

そう言いかけた所で夢見ヶ先……もとい、アリスが自信満々に間違った推理を披露しだした
とりあえず断じておこう、ターゲットが違う、フラミンゴではボールが打てないのと同じだ。

「いや?マークは僕の目の前の、素敵な女の子だけど」

自分でも驚くくらいに、その台詞はあっさりと舌から滑り出した
夏の暑さのせいだろう、きっと たぶん メイビー。

「『アツいよる』に、一緒に夏祭りを見て回るの、どうかなって」 「駄目?」

視線を合わせ、はにかんで言っては見るが、まあ断られたら諦めよう
此方としては散々からかわれた記憶が有るので、目指せ赤面ではある。

(……おかしいな、僕は何やってるんだろう。)
(スタンド使いを探して…いや、夏祭り会場なら人も多いし、スタンド使いも集まるのでは?)
(つまりこれは両親のためにも合理的なお誘い、うん!そう!よし!)

言った後に今更鎖まみれの脳みそが回転を始める。
夏の風景を移すグラスの氷が、ほどけて子気味良い音を立てた。

763夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2019/07/20(土) 03:03:07
>>762

「なるほど??それが『いつものテ』ってワケですな〜〜〜。
 アマいコトバで『ソノき』にさせて、アソんであきたらポイしてツギのエモノを……。
 そうやって、イマまでナンニンなかしてきたんだ??おおん??
 もうショウコはあがってるんだ。ジハクしたらツミがかるくなるぞ!!
 さぁ!!さぁさぁさぁ!!」

やや早口で、テキトーなコトをベラベラ喋る。
そうこうしている間に、目の前にクソでかいドリンクが置かれた。
まぁフタリぶんだし、ナットクだな!!
1ぷんでのみきったら、5マンエンとかない??
たぶんショウくんがチョウセンしてくれるハズだ!!
わたしは『5マンエンをもらうカカリ』をやろう!!
これぞ『チームプレイ』だ!!

「あのさ、いちおういっとくんだけど――」

「『いっていいコトとワルいコト』があるぞ」

「もし、それが『シャレだったら』のハナシで」

「マジだってんならイイよ。イマのトコよていないし」

「――タノシソーじゃん??」

アスファルトから照り返された太陽光を、サングラスのレンズが反射している。
そのせいか、表情は今一つ分からなかった。
しかし、少なくとも声色は普段と同じだ。
ただ平時と比べると、多少静かな感もある。
ほんの少しだけマジメになったような、
あるいは『マジメになったフリ』をしているような――そんな雰囲気だった。

「まぁソレはソレとして――――」

改めて『ドリンク』に視線を移す。
今まで見たコトがない代物だ。
コレはコレでヒジョーに興味がある。

「コイツはスゲーのがきやがったな……!!
 まったく、こんなのチュウモンするヒトのカオがみてみたいぜ。
 ミヂカなバショにも、こんな『フシギ』があったとは……!!イイねぇ〜〜〜」

サングラスの奥の瞳を輝かせ、ストローに口をつける。
しかし、ドリンクが上がってこない。
『同時に吸わなければ飲めない』というコトを知らないようだ。

764斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』:2019/07/20(土) 04:35:44
>>763

「あ、バレたぁ〜?」

少女の怒涛の追求に、舌先から出た言葉は悪びれも無く軽かった。

「お祖父ちゃんが『女を口説く時はこう口説けって』うるさいんだよ、
まあ顔の方はイケメンに生んでくれた両親に大感謝だけど
僕より上手のアリスには通用しないしなー!参っちゃうよな!」

「ちなみに今は君が初めて使う相手だから、失敗もあるよね!精進します。」

そう言うと肩を竦め、苦笑いで誤魔化そうとした

(ま、それも『今こうなった原因』の一つなんだから複雑と言えば複雑だが……。
 『そのいかした顔がイラつく』だって?まったく、あいつらどうかしているよ。)

「でも、約束の方は『マジ』さ女に礼を失するなって言うのが、僕の家の教えだ。
 それに、僕が約束を破ったのは ……1回だけだからな。」



(もっとも、タイムリミットが先に作動しない限りは、だが。)

タイムリミットとは結局のところ、彼の複雑な人格に終始する
1番目は僕達の生死に興味がない

問題は2番目だ、怒り狂った2番目の人格が『スタンド』で、そこらのチンピラを殺す手段を確保したとたん
まず間違いなく殺して回るのが見えている、そして善人のスタンド使いなら、
『あまりにも証拠が残らない殺人』は見逃さないだろう……そうなると

(最悪なのは、『善人』が『徒党を組んで』襲いかかってくる事だ……
 そうなったら、僕はもう、両親を助ける機会すらなくなる。)

(その前に人格を統合か分離か……やれやれだ、
 何方にせよ『僕が主人格になる保証は無い』、断頭台に向かって歩いているような物だ)

(感謝はしているが、あの人も無茶を言うな『人類そのものを憎んでいる人格』が『熱愛』なんて、できるわけがない)
(だが他の二つは『死線』と『悲劇』……成長できても僕が死んだら意味がない、結局全部困難という事か。)

(『ロスト・アイデンティティ』…これ以上何を無くせと言うんだろうな。)

「ま、それはそれとしてデートの約束ゲット 浴衣姿とか楽しみだな。」

悪い予想を振り払うように首を振って思考を現実に戻す
見ると、丁度夢見ヶ崎がカップル用ドリンクに、(サングラス越しに)瞳を輝かせている所だ
だが、頑張っても吸い出せていない、仕組みを知らないのだろう

しばらく苦戦するのを見ているのもいいと考えたが
流石に少年が見かねたので

「……ノックせずにもしもぉ〜し」
「それ、1人じゃ、飲めない奴 ほら、こうやって……」

もう片方のストローを銜えて、一緒に吸おうとした。

765夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2019/07/20(土) 13:14:22
>>764

「ナニこれ??このストローこわれてる。だってゼンゼンのめないし。
 ストローってのは、のむためにあるんじゃねーのかよ??
 すえないストローなんて、もちてがサカサマについてるヤカンみたいなモンだ。
 つかえねーヤツだな〜〜〜カネかえせ!!」

この『アリス』をコンワクさせるとは、イガイにガッツあるじゃあねーか。
だが……『そのていど』でとめたきになってるんならナメすぎだぜ!!
『アリス』のじゅうなんな『ハッソウリョク』をアマくみるんじゃあねー。
『ストローをつかわなきゃならない』なんてダレがいった??
ストローがつかえないんならよぉ〜〜〜

      ガシッ

「『ちょくせつのめば』すむハナシだぁ――――ッ!!」

役に立たないストローを完全に無視して、グラスを持って直接飲もうとする。
しかし、飲み方を教えようとしているのを見て、ギリギリで手を止めた。
同じように、再び自分もストローに口をつける。

「あ、のめたわ」

ごく自然にドリンクが吸い上がる光景を見て、納得した。
だけど、すこぶるメンドくせーな。
これ、ヒトリでリョウホウくわえてもイケるのかね??

「さすがによくしってるじゃん??
 こうやってオンナつれこんで、いつもおなじようなチュウモンしてるワケだ。
 ついにうごかぬショーコをおさえてやったぜ!!」

「――――で、ナンのハナシだっけ??『ユカタ』がどうとかって??」

「わたしは『ユカタをきる』なんてヒトコトもいったオボエはありませんね。
 イカルガさんが、そういうカッコウをおこのみだというなら、ヤブサカではありませんが。
 ただ、そういうカッコウがスキならスキと、『ハッキリ』おっしゃっていただきませんと」

「――どうなのですか??」

感情を抑えた声色と口調で、容赦なく追及を続ける。
そう、まるで男性社員からデートに誘われた『高嶺の花のエリートOL』のように!!
さぁ、おもいのままにジブンの『シュミ』をぶちまけるがいい!!フハハッ!!

766斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』:2019/07/20(土) 17:22:25
>>765

「フッ、僕のクラスメイトの知識を甘く見るなよ…年がら年中『彼女欲しい』とか言いながら
 学生服の第2ボタンを仮縫いして取られやすいようにしている奴だ…!流石の僕も戦慄する。」

別名:色ボケした馬鹿とも言う。
だが健全な男子生徒とかそんなもんである。

(まあアイツには後で自慢するとして)

悔しがる顔が目に浮かぶが
今度は浴衣が好みなのか等と問われてしまった
声色が抑えられて、真夏のクーラーのような印象を受ける


(話しぶりがころころ変わるなあ、夢見ヶ崎ちゃんは
 とはいえ……)


「そうだなあ。」
「好きと言うよりは、夏の祭りを更に楽しむための装いだと思ってるけど。」


やぶさかではないと言われ、今一度目の前の少女を見直す

セミロングの金糸が夏の日差しを反射して煌めき
ネイルアートの施されたカラフルな付け爪が指先を彩り、
黒目がちの大きな瞳を、ブルーレンズのサングラスが覆う


「元がいいから何着ても似合うとは思うし
 頼んだら着てくれる辺り優しいよね、アリスは。」

本心からそう言うと、アイスティーを更に飲む
冷えた液体が喉を流れ落ちていく

(白地に紫陽花辺りもいいと思うけど、白は汚れが目立つからなぁ。)



「それとも、夏用の特別な装いはお気に召さない?
 他の時期だと着れない物だけど。」

彼女の好奇心をくすぐるように囁く
事実、興味が無いわけでは無いのだ。

「ところでさらっと飲んでるそれ、僕のドリンクなんですけどー!
 資本主義に乗っ取り代金を要求するー!」

767夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2019/07/20(土) 18:19:25
>>766

「あー、うん、まぁね、そりゃそうだ、うんうん」

こうもストレートに褒められると、何だかミョーに照れくさい気分になる。
だから曖昧な相槌を打って、この話題を切り上げてしまおう。
だけど考えてみれば、これも『未知』の経験の一つだ。
『全ての未知』を網羅する予定の『アリス』としては、体験しておくべくなのかもしれない。
そう考えていた所に、『ダメ押しの一手』が放たれる。

「くッ…………!!『トクベツ』か…………!!」

心が揺らいだ。
その手の誘いには弱い。
なぜなら『アリス』だからだ。
アリスは『フシギ』を追い求めるモノであり、私は『アリス』である。
つまり、私は『フシギ』を追い求めなければならないのだ。

「――――『のった』ッ!!『きて』やろうじゃないか!!
 わたしを『ソノき』にさせやがって……。コウカイすんじゃねーぞ!!」

    ズズズズー

さりげなくドリンクの量を減らしながら、ビシッと宣言する。
それから顔を上げて、不意にニヤリと笑ってみせる。
何事か企んでいるような――そんな不適な顔だった。

「ヘイヘイヘイヘイッ!!ショウくんさぁ〜〜〜、ヒトツだいじなコトわすれてるよ??
 『わたしといっしょにカフェでくつろぎのヒトトキをすごしてる』ってコトをさぁ〜〜〜。
 『モトがイイからナニきてもにあうアリス』とイッショに。
 ソレが『ドリンクだい』にならないのは、ちょっとシツレーすぎるとおもわないかい??」

            ニヤッ

「ショウくんはわたしとヒトトキをすごす。わたしはドリンクをいただく。
 コレで『つりあい』はとれてるワケだよねぇ〜〜〜??
 ココでわたしがオカネだしたらさぁ〜〜〜
 『ワリ』にあわなくなるんじゃないのぉ〜〜〜??」

「しかもさぁ〜〜〜『デート』のさそいまでオーケーしたよねぇ〜〜〜??
 さらにオカネまでとろうなんて、ソレこそ『シホンシュギイハン』じゃないのぉ〜〜〜??」

ニヤニヤしつつ、ドでかいグラスを挟んで向かい側に座る相手の顔を眺める。
『シホンシュギ』っていうのがナニか、よくしらないけどな!!
さぁ、どうでる??イカルガショウ!!

768斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』:2019/07/21(日) 02:20:39
>>767

「グッド!」

口角が嫌でも吊り上がる
彼女…アリス相手にまず一勝と言う所だろう
好奇心をくすぐるのは成功だったらしい

「そうだね、後悔するのは隣に誰もいないクラスメイトだろうけど。」

動揺して話題を斬り上げられた、
ポイント1-0。
ただし、彼女はただで倒れる相手では無かった
不敵な笑みと共に、即座に反撃の手を刺し始めたのだ

「女生とカフェのひと時での支払い?」

そう言われると困った事になった
なにせ、確かに僕が褒めているのは事実だし
これに下手なNOを突き付けるのは、今までの言葉を嘘にする事になる

(そう言いつつ更にドリンクを減らすあたり抜け目ないなあ。)
(が、どうかな……)

資本主義と言うのは適当にはなった言葉だが
このまま彼女に言わせておくのは男がすたる、気がする。
よろしいこの斑鳩、受けて立つ、ならば『ふたつの』頭をフル回転すべし。

うんうんと唸りながらも、ドリンクが半分を切った頃に、は何とか影の頭共々ひねり出し
説明の為に指を一本ずつ立て、順に折っていく

「……一つ、デートの誘いが無ければ浴衣を着ようなんて『特別』考えてなかったんじゃない?
 つまり僕から君に『教えてる』という体で『デートは双方に利益が有る』、よって、チャラ。」


要は自分は『デートの機会を得る』、彼女は『浴衣を着る機会を得る』
という事で相殺しようという論理だった、彼はそのまま続けて口を開く


「二つ、確かに君は美人だ、それは認めていて、覆えさない
 だが、僕だってそれに負けているとは思っていない、僕は斑鳩家の一人息子で…この顔に生んでくれた両親に感謝しているから」

彼は自分が整っているとは考えていたし、事実その通りではあった
ただ、彼の自信は鏡を見た主観的評価では無く、単に両親への愛で自分も美形だと信じているのだ



      「それに」



「君のような女の子が、たったのドリンク一杯で『デートに誘われた』、なんて自分を安売りしていいわけがない」
「友人にはこう言えばいい、清月学園一のイケメンをタダで『デートさせてやった』…のほうがいいんじゃないか?」

(……我ながら結構苦しいかもしれない!)

斑鳩は言い終えると、こう考えた
世の中の女を口説くのが礼儀だと思っている男性は、皆、同じような苦労をしているのか……と

769夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2019/07/21(日) 07:01:30
>>768

「『イケメン』だったの??」

今初めて気付いたような口調だった。
客観的に見て自分のルックスがいいのかどうかも、正直な所よく分かっていないのだ。
そう言われたから、深く考えずに同意しただけで。

「まぁ、そういわれてみればそーかもね」

生まれつき視力が働かなかった自分は、顔に対する『優劣の感覚』が薄かった。
それぞれが違っていて、その違いが面白いとは思っているのは事実だ。
しかし、『そこに優劣を感じるか』と言われると、あまりピンとこない。

「うんうん、そのトオリだ。やっぱりイカルガくんはかしこいなぁ!!
 ハンサムでスマートでおまけにアタマもいい!!
 よっ、プレイボーイ!!イロオトコ!!ジェームズ・ボンド!!」

あまりにもアッサリと、ほぼ全面的に同意する。
特に反論してくる様子もない。
ソレはナゼか??

           (――――ニヤリ)

表情には出さず、内心でほくそ笑む。
こちらの目的は最初から、『勝手に飲んだドリンク代の支払いを回避する』ことのみ……。
そのために!!論点を『ウヤムヤ』にして忘れさせるッ!!

「ユカタの『ガラ』は、どんなのがイイとおもう??『トリガラ』いがいで」

さらにダメ押しにッ!!ごく自然な流れで『話題』を転換する!!
もし思い出したとしても、あれだけ力説した後で『カネを出せ』とは言いにくかろうッ!!
『いつまでもコゼニにこだわるミミっちいオトコ』という『ちいさくないマイナスイメージ』が、
『ウワサずきのジョシたち』のあいだでフイチョウされるコトになるぜぇ〜〜〜??

「やっぱ『ブルーけい』か??そこはかとなく『アリス』っぽい。
 コーディーネートがジューヨーだからな。ネイルもあわせないといけないし」

ソレはソレとして、ユカタはタノシミなのだ。
むしろジブンのほうが、それまでのハナシをわすれつつある。
あれ??さっきまでナニはなしてたっけ??モグラのハナシか??

「よし!!これからみにいこうよ!!
 おもいついたら、すぐコウドウしなきゃ!!
 はやくしないとユカタがにげるぞ!!アイツらケッコーはえーからな!!」

「――――イイよね??」

さも当たり前のように提案を持ち出す。
まぁ断られたら一人で行くだけなんだけど。
どうよ??

770斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』:2019/07/21(日) 18:08:45
>>769

「……有難う!」

彼女に感謝をしつつも脳内でゴングが鳴り響く
苦笑しつつも今回の舌先に置いて敗北を喫した

(くっ、これ以上の追求は無理か…!
 すまない、男子生徒諸君、僕が男であるが故の敗北だった…!)

自身の見目を女性に褒められた以上
これ以上の金銭への追求は、男としても『みっともない行為』にしかならないのだ
男のプライドにより始まった戦いは、漢のプライドにより敗北したのであった――

「まあ、(僕以外の男子生徒の尊厳とか、別にどうでも)いいや
 それで?浴衣を見に行くんだったらお祖母ちゃんの贔屓の店を紹介するけど。」

席を立ち、レシートを持って彼女の傍に立つ
夢見ヶ崎を誘うように手を振ると、口を開いた

「何せ、夏の時間は有限だからねアリス?
 お茶会の時間は終わり、お店で君に似合う帯を探す時間だよ。」

意地の悪そうな笑顔と共に、歩きだす。

(――そう、時間は有限だ。僕達にとっても。)

結露したグラスが、夏の風に吹かれて、残されたテーブルを濡らしていた。

771夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2019/07/21(日) 23:23:12
>>770

「ナニそれキョーミあるぅ〜〜〜。
 まさか、そんなバショをしってるとはな…………ナカナカやるじゃないか!!」

目の前に出されたのは、新しい世界への招待状。
答えは決まってる。
なぜなら、私は『アリス』だから。

「そうね、ジカンはたちどまらないもの」

      ガタッ

「だから――――わたしたちはあるいていくのよ」

椅子から立ち上がり、芝居がかった口調で応じる。
『アリス』は立ち止まらない。
世界から世界へ、常に新たな『未知』を求めて渡り歩いていく。

「では、『ウサギ』さん――『アリス』をあんないしてくださる??
 あたらしい『フシギのくに』のいりぐちへ」

      ニコッ

一片の曇りもない晴れやかな笑顔で語りかける。
その表情は、二人の頭上に広がる夏の空のようだった。
今日もまた、『アリス』は新たな冒険へ赴くのだ――――。

772宗像征爾『アヴィーチー』:2019/08/07(水) 21:34:04

小さな公園の隅に設置された自販機の前に作業服を着た男が立っている。
硬貨を入れてコーヒーのボタンを押す。
反応は無い。
少し待ってから緑茶のボタンを押す。
やはり反応は無い。

「この暑さだ」

続いて返却レバーを操作する。
反応は無い。

「機械も狂う」

踵を返して自販機に背を向ける。
歩き出しかけた時に背後から音が聞こえた。
コーヒーと緑茶が一本ずつ出て来た音だ。
自販機に近付いて二つの冷えたスチール缶を取り出す。
頭の中では余る一本を片付ける方法を考えていた。

773芦田『ウェア・ディド・ウィ・ゴー・ライト』:2019/08/07(水) 23:59:36
>>772

「あぁぁぁ〜〜〜〜暑っっちぃなぁ たぁぁくよぉ

蒸して蒸して蒸し蒸し蒸し……嫌気差す中でも、ウィゴーちゃんの
体臭が咽るぐらいに漂う事が、地獄みてぇな環境の中での天国だよな」

『ウェア・ディド・ウィ・ゴー・ライト です。だぁぁれの体臭が
漂ってくるだ、コラッッ゛!! こちとら無臭だわっ!!!』

「安心してくれ この世で一番の香りだ」

『くっそ! 30℃超える熱でも、こいつのイカレ脳味噌を正すのは無理かっ!』

貴方の横を平然と通り過ぎる、ヤバイ雰囲気の男と ある程度まともな調子の
スタンドが堂々と会話しつつ自販機へ立つ。

「どんれぇにすんの?」

『慣れ慣れしく肩に手を置こうとすんな。んじゃ 午後ティーで』

「はいよぉー」  カチ   カチャン

『まったく、何時になれば猛暑は過ぎるんでしょうか』 ゴクゴク プハー!

そして、缶へとスタンドが手を翳す。

キィィン スラッ   ギュンッ

缶から『フィルム』が抜き出され、スタンドが手を弄ると蓋を開ける前の
状態へと戻っていく。それを男が平然とした様子で頂いた。

ゴキュ ゴキュ プハーッッ!

「んっめぇぇぇ〜〜 やっぱウィゴーちゃんとの間接キッスは最高だぜぇぇ〜え!」

『……駄目だ 抑えろ 自分。いずれ妖甘様か成長するにしても、自立型になり
こいつを思う存分ぶっ倒すその日まで、抑えるんだ……っ!』

こんな奇妙な光景が、貴方の眼前で繰り広げられている。

774宗像征爾『アヴィーチー』:2019/08/08(木) 00:21:57
>>773

「ああ――」

スタンドと男を見た。
コーヒーの缶を開けて中身を飲み干す。

「この暑さだ」

空になった缶をゴミ箱に捨てる。
やはり自分で始末するべきだという考えに至った。

「人間も狂う」

緑茶の缶を開けて一息に呷る。
空になった缶を無造作に捨てた。

775芦田『ウェア・ディド・ウィ・ゴー・ライト』:2019/08/08(木) 19:56:57
>>774(レス遅れ失礼しました)

男の奇行に対し狂気を垣間見る。だが、この男の場合は正気も狂気も
見てくれはどちらも変わり映えはしないものなのだろう。

空き缶がゴミ箱に入る音に、狂気を纏う芦田は緩慢な動作で首を向ける。

「あっっついよなぁ本当によぉ、なぁ? 年々気温が上昇しててよぉ
南極だが北極の氷も溶け切ってなぁ」

やってられねぇよなーと、空き缶を逆さにしつつ残る雫を舌で受け止める。

「苛々が堪らねぇ。なぁ、あんたも偶には暑さ以外でも何でも
ストレス発散したくならねぇか?」

自販機を指しつつ、男は嘯く。

「俺の嫁さんは器物破損するとブチ切れんのよ。おたく、一丁派手に
ぶっ壊してみね? 見るだけでも、こちとらちょいとは胸がスカッとすると思うし」

『誰が嫁だコラ』

貴方(宗像)へ自販機を破壊する誘惑を薦める・・・。

776宗像征爾『アヴィーチー』:2019/08/08(木) 21:45:01
>>775

「自販機に八つ当たりしても俺の気分は変わらない」

「つまり俺には一つの得も無い」

男とスタンドから視線を外して自販機から離れる。

「どうしてもと言うなら自分でやれば良い」

近くのベンチに腰を下ろして再び男とスタンドに視線を向ける。

「その後で起こる全ての問題に責任が持てるなら――だが」

「自分の行いの後始末が出来ないなら止めるべきだ」

777芦田『ウェア・ディド・ウィ・ゴー・ライト』:2019/08/08(木) 21:54:48
>>776

>自分の行いの後始末が出来ないなら止めるべき

「出来るぜ?」

さも当たり前の顔を男(芦田)はする。そして、自分のスタンドにも
目線を向けた事も何となく勘付いたようだ。

「うちの嫁さんは最高だからなー。完全にぶっ壊れて原型留めずとも
多少パーツあれば直ぐに元通りなのよ。凄くね? 凄くね?」

『嫁呼ばわり、止めてくださいよ』

そして軽い能力自慢と共に、不平不満もうぶつけてきた。

「けど、俺一人で自販機ぶっ壊しやろうにも、無駄に運動して
余計に上着と股間に汗がだらっだらになるだけで不快度マッハでよぉ。
ウィゴーちゃんも女の子で細身だから、自販機壊すような悪い事なんて
しないし、俺にもさせませんだとよ」

そう言う部分に惚れてんだけどよ、と零す男を。スタンドは
ウィゴーじゃなくウェア・ディド・ウィ・ゴー・ライトだと返しつつ
惚れたとか呟くなと本体を、まったく仕方がない奴だとばかりに睨んでる。

「なぁ、能力説明したんだしよぉ。あんたの知り合いか、あんた自身
喋れるスタンドの知り合いっている? 
教えてくんねえかな。ウィゴーちゃんの友達増やしたいのよね 俺。
それか、ウィゴーちゃんでも着れるスタンドの服作れる人とかいたら
あんたのなんか貴重品壊れた時とか、無償で直すけど」

ウィゴーちゃん任せだけど、と。スタンドに改めて正式名称を言い返されつつ
男はマイペースに告げた。

778宗像征爾『アヴィーチー』:2019/08/08(木) 22:11:00
>>777

「俺は能力を教えてくれと言った覚えは無い」

「能力を聞く代わりに情報を提供する取り決めをした覚えも無い」

他人に能力を教える事は大きな危険性を孕んでいる。
その相手と敵同士になった時に不利になる可能性があるからだ。

「だが敢えて答えるなら――」

「知らない」

男の言うようなスタンドと出くわした経験は無かった。
もし知っていたとしても教えるかどうかとは別の問題だ。

「それだけだ」

779芦田『ウェア・ディド・ウィ・ゴー・ライト』:2019/08/08(木) 22:43:35
>>778

「ふぅん まっ、知らねぇなら仕方がねーな」

所詮この世は納得出来ない理不尽の連続。そう上手い具合に答えが
転がりこんでくる事など無いのはわかっている手前。芦田はパタパタと
手うちわで生ぬるい風を顔に運びつつ了解した意を唱える。

「んじゃまー、またどっかで出会えた時に。もし知り合ってたら
教えてくれーな」

あー暑い暑い。海にでもいっかウィゴーちゃん。

ウェア・ディド・ウィ・ゴー・ライトですよと訂正を告げられつつ
足の向きは宗像と真逆のほうへと進んでいく。

(あー、暑いし面白い事も転がってこねぇなぁ)

(なんか一発、どでかい事が町で起きれば良いんだが)

780宗像征爾『アヴィーチー』:2019/08/08(木) 23:02:53
>>779

「――確約は出来ない」

立ち去る男の背中に投げ掛ける。
そのまま遠ざかる男とスタンドを見送った。

「妙な奴だ」

それが男に対して抱いた感想の全てだった。
客観的に見て正常とは言い難い。

「暑さのせいなら良いが――」

781ディーン『ワン・フォー・ホープ』&ヨシエ『一般人』:2019/08/16(金) 22:24:12

少し前から、一部の人々の間で『奇妙な噂話』が囁かれるようになっていた。
それは、『高速で走り去る少女』の噂だ。
リュックを背負った七歳ぐらいの少女が、常識では考えられないスピードで駆け抜けていくのだという。
ある目撃者によると、自転車を追い抜いてバイクと並走していたらしい。
そして、その少女は主に『夕暮れ時』に現れるという事だ――――。

  タタタタタタタタタタタタタタタタタタタタッ

「――――早くッ」

「帰らなきゃッ」

「はぁッ――――」

「『永添さん』がッ」

「心配しちゃうからッ」

俺とヨシエは――正確には『リュックに入った俺を背負ったヨシエ』は、夕方の通りを走り抜けていた。
俺の『ワン・フォー・ホープ』の能力は、人間に『超人的なスピード』を与える。
今は、遊びに夢中になって帰るのが遅くなったヨシエのために使っているワケだ。

               バッ
                        ババッ
                   バッ

だが、この姿は少々――いや、かなり目立つ。
一応、出来るだけ人目につきにくいような狭い道を選んではいた。
ヨシエに与えた『達人的な精密性』で、障害物の多い場所でも速度を落とさず突っ切る事が出来る。

                           タタタタタタタタタタタタタタタタタタタタッ

しかし、だからって透明になれるワケじゃないからな。
完全に姿を見られなくするなんていうのは、まぁ無理な話だろう。
どこかで、『変な噂』にでもなってなきゃいいが。

782成田 静也『モノディ』:2019/08/19(月) 23:42:34
>>781

「大分遅くなってしまったな・・・」

この街の学校に転入して数か月、前の学校より今の学校の方が先に進んでいる科目がいくつかあり、
それのために放課後過ぎまで居残りしていたのだ。

「早く帰って夕食の準備しないとな・・・っ!?」

後方から尋常じゃない速度でこちらに来る足音(?)が迫ってくるのを『モノディ』が聞き取った。

いきなりの接近で驚いたのもあり振り返って反射的に『モノディ』で防御の構えをとった。

が、振り返って目にしたのは小さな子供の姿であった。

「子供!?しかしこの速度、とてもこの年の子供に出せる速度では…まさかまたスタンド使いか!?」

783ディーン『ワン・フォー・ホープ』&ヨシエ『一般人』:2019/08/20(火) 00:29:46
>>782

 タタタタタタタタタタタタタタタタ

遠方から接近してくる足音を、『モノディ』の鋭い聴覚が聴き取った。
『モノディ』程ではないが、その速度は『高速』と呼んでいい速さだ。
『短距離走専門のプロアスリート』でさえ、到底不可能なスピードで近付いてくる。

            タタタタタタタタタタタタタタタタタタ

いや、これは『陸上選手』どころではない。
その子供は、『バイク』に匹敵するスピードで走っている。
どう考えても普通では有り得ない――――『スタンド使い』だ。

「――わわッ!?」
                ズザッ

驚いた様子の少女が、急ブレーキをかけて立ち止まった。
明らかに『モノディ』が見えている。
それは間違いない。

(『スタンド使い』らしいな……)

ヨシエのリュックの中で、俺はどうするか考えていた。
見られたのは仕方ない。
しかし、スタンド使いに見られたとなると面倒な事になるかもしれない。

(……ひとまず様子を見るか)

相手がまともな奴なら、大きなトラブルにはならないだろう。
だが、そうでない可能性がないとは言い切れない。
その場合は、何か手を考えなければならなくなる。

784成田 静也『モノディ』:2019/08/20(火) 23:02:43
>>783

・・・今のところはまだ様子見だが敵意とかは目の前の少女からは感じられないな。

ならば・・・

「驚かしちゃってゴメン、いきなりすごいスピードで走ってきたもんでついとっさにスタンドを出してしまった。」

「一応聞くけど、キミはスタンド使いかな?オレの『モノディ』も見えている(?)みたいだし。」

警戒やいらない敵対心を持たれないように優しめの声色で聞いてみる。

785ディーン『ワン・フォー・ホープ』&ヨシエ『一般人』:2019/08/20(火) 23:29:17
>>784

「――――『スタンド使い』?」

少女はキョトンとした表情だった。
単に、スタンド使いという言葉を知らないだけかもしれない。
それとも何か『別の理由』があるとも考えられる。

「あッ、こっちこそゴメンなさい。でも、ぶつからなくて良かったね!」

   スッ

少女が手を伸ばし――――『モノディ』に触れた。
本来なら触れないはずのスタンドに『素手』で触っている。
触れられている感触が、『モノディ』を通して確かに伝わってくる。

「ケガしてないですかー?大丈夫みたいですねー」

看護師のマネでもしているのか、少女はそう言って『モノディ』から手を離した。
その様子から、少女が警戒していない事が分かる。
触られた場所も、別に何の変化もない。

       ニコッ

少女は笑っている。
裏のない子供らしい笑みだ。
子供らしいからこそ分かりにくいとも言えるかもしれないが…………。

786成田 静也『モノディ』:2019/08/21(水) 00:00:56
>>785

『モノディ』に触れた上にこの少女はスタンドを知らない?
オレはスタンドに目覚めた時に一通りの説明は『心音』さんから聞いた。

この子は聞かなかった?それとも説明されなかった?何か違和感があるな・・・

少し『モノディ』の聴覚で周りを探ってみるか。

「ありがとう、でもちょっとスピードの出し過ぎかな。」
「オレはモノディ・・・このそばに立つコイツがいるから大丈夫だけど他の人ならもっと驚いてしまうし、
キミ自身も車とかにぶつかると危ないから今度からはほどほどの速度でね?」

諭すように話していると。モノディが二つ目の心音を捕らえた。少女のものと比べると小さいが確かに聞こえる。

「キミ・・・えっと名前を聞いてもいいかな?オレは成田、ナリタシズナリっていうんだ。」

「キミは今、一人じゃなくてそばにだれかもう一人いるのかな?」

少女に聞いてみる。

787ディーン『ワン・フォー・ホープ』&ヨシエ『一般人』:2019/08/21(水) 00:31:57
>>786

よく見ると、少女の手の甲に『光の紐』が繋がっていた。
その先にあるのは、少女が背負っているリュックだ。
そこに向かって『光の紐』は伸びている。

「はーい!ヨシエは嬉野(うれしの)ヨシエっていいまーす!」

ヨシエは元気よく返事を返した。
そして、『モノディ』の優れた聴覚は第二の心音を捉える。
その位置は『ヨシエの背後』だ。

「いるよー。ねっ?」

       シュルルルルルルルッ

その時、『光の紐』が少女から離れ、リュックの中に戻っていった。
中に何かがいるように、リュックが小さく揺れ動く。
次の瞬間、『黒い何か』がリュックから顔を出した。

       ヒョコッ

一匹の『チワワ』だ。
一般にスムースコートと呼ばれる短毛種で、毛の色は黒い。
こうした黒単色の種類は『ソリッドブラック』という名で知られている。

「『ディーン』っていうんだよー」

黒いチワワは、『DEAN』と名前が入った首輪を付けている。
首輪には、革紐の『リボンタイ』が結んであった。
チワワは愛嬌を振りまくでも吠えるでもなく、じっと成田の方を見つめている。

788成田 静也『モノディ』:2019/08/21(水) 01:48:38
>>787

「なるほど・・・そういうことだったのか。」

おそらくこのスタンドの本体はこのディーンなのだろう。
『モノや生物と一体となるスタンド』少しだけ聞いたことがある。多分それなのだろう。
だからヨシエにはスタンドの知識が欠けているのだろう。

「心強いボディガードがいるんだね、これなら夕暮れ時でも大丈夫そうだ。」

ディーンの方を見て感慨にふける。

かつてオレも幼い時に犬を飼っていた。まだ家族が仕事でバラバラになる前の事だ。

犬種は覚えていないがフレッドという名前でとても可愛がっていたことと幸せだったことは覚えている。

結局、親の仕事の都合で引っ越す羽目となり引っ越し先のアパートはペット禁止で
近所の犬好きの人に引き取ってもらうことになったがとても悲しかったのも覚えている。

「オレさ昔犬を飼っていて動物が好きなんだ。だからもしよければディーンを少し撫でさせてくれないかな?」

ヨシエとディーンに頼んでみる。

789ディーン『ワン・フォー・ホープ』&ヨシエ『一般人』:2019/08/21(水) 02:15:52
>>788

動物のスタンド使い。
ヨシエやディーンは知る由もないが、成田は既に出会った事がある。
ここでまた遭遇したのも、何かの縁かもしれない。

「だってー。いいかなー?」

ヨシエの問いかけに対して、ディーンは成田からヨシエに視線を移した。
『アイコンタクト』――――視線による無言の会話が交わされる。
それは、この一人と一匹だからこそ通じるものだ。

「『いい』って言ってますよー。成田のお兄さん!」

ヨシエが成田に背中を向ける。
同時に、ディーンも向きを変えて、ヨシエとは逆の方向を向く。
つまり、成田と向き合うような形になる。

    ジッ

ディーンは無言だが、態度は落ち着いている。
過剰な警戒や敵意は見られない。
ヨシエの言葉通り、撫でても問題ないはずだ。

      ポウッ

不意に、ディーンの『リボンタイ』が淡い光を発した。
先程の『光の紐』と同じ光だ。
おそらく、これがスタンドなのだろう。

《『ガラス細工』のように扱えとは言わないが――――『程々』にな》

『声』が聞こえた。
これは『スタンド会話』だ。
目の前のチワワが、そのスタンドを通して言葉を発している。

790成田 静也『モノディ』:2019/08/21(水) 03:02:35
>>789

「ありがとうヨシエちゃん、ディーン。」

そういうとディーンの頭を毛並みに沿う形で指の腹を使って優しくなでる。

・・・昔の幸せの思い出とついこの間まで一緒に戦った仲間たちの事を思い出す。彼らは元気にしているだろうか?

「うん、昔一緒にいた犬のフレッドを思い出して少し懐かしい気分になったよありがとう。」

撫でるのを終えて、ヨシエとディーンに感謝する。

「さてと、ヨシエちゃんもそろそろ帰らなきゃなパパとママが心配してるよ?」

もうすぐ完全に陽が落ちる頃だ、オレも残業で帰れない母の代わりにスーパーで夕飯を買わなければならない。

791ディーン『ワン・フォー・ホープ』&ヨシエ『一般人』:2019/08/21(水) 04:10:35
>>790

「うん!よかったねー!静也のお兄さん!」

ヨシエはクルリと体の向きを変えて、再び成田に向き直った。
うまり、それに合わせて俺も体の向きを変えなくちゃならない。
そうじゃなきゃ、俺は成田に背を向ける事になる。
生憎、背中に目や口は付いてないからな。
別にスタンドを通して喋ればいいんだろうが、その間ずっと背中を見せているのは『本能的』に嫌な気分だ。

《その代わりと言っちゃなんだが、今日ここで見た事は内密にしておいてくれ。
 『普通じゃ有り得ないスピードで子供が走ってた』って事を、な。
 昔の思い出の代金だと思えば安いもんだろう?》

実の所、撫でられるのを了承したのは『口止め』しておきたかったという理由も多少あった。
まぁ誰かに喋られたとしても俺には分からないだろうから、さほど期待はしていない。
だが、この成田という男(オス)の人柄を推し量る参考にはなるだろう。

「あっ…………うん…………そう…………だね…………」

『パパとママ』という言葉に対して、ヨシエはあからさまに表情を曇らせた。
家に帰っても、ヨシエの両親は待ってはいない。
二人は仕事で常に色んな場所を飛び回っていて、滅多に帰ってくることがないからだ。
実際、ここ数ヶ月は顔を見ていない。
家で待っているのは、両親が雇った家政婦の『永添』だけだ。

      ワンッ

ヨシエの様子を見て、俺は小さく鳴いた。
『永添』が待ってる。
それに俺もいる。
そういう意味を込めた鳴き声を発した。
『言葉が通じなくても伝わるもの』がある事は、つい最近思い出す機会もあった。

「うん、そうだね。大丈夫。ヨシエは一人じゃないから」

           ニコッ

「――――ありがと!静也のお兄さん!」

                 タッ

「『モノディ』さんも!バイバイ!」

                     トトトトトッ

成田の親切な注意が効いたらしく、ごく普通の速度で少女が駆けていく。
その後姿は夕日の中に溶けるようにして消えていった。

792成田 静也『モノディ』:2019/08/21(水) 23:44:59
>>791

ヨシエとディーンを見送った後、我ながら無神経だったと思った。

あの子も自分と同じで家族がバラバラになってしまい寂しい思いをしていたのかもしれない。

・・・ただ、あの子はオレとは違っていつもそばに寄り添ってくれるディーンがいる。
他にも寄り添ってくれる人もいる様子だった。だから多分大丈夫だろう。

「ただ、もしもああいう子とかがスタンドの事件に巻き込まれるのは嫌な気分だな・・・」

この間の戦いの物騒な連中を思い出し、強くなるという目標を遂げるだけではなくこの街で知り合った人を
守れるようになるのも悪くないかもしれないな。

そう思いにふける中、改めて夕食を買いにスーパーへと歩き出した。

793斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』【高2】:2019/09/21(土) 00:36:30

 「――だってさ、ありえないじゃあないか そんなの。」

9月、夕暮れ時の日差しが柔らかに差し込む大通り
その喧騒から離れた場所に、1人の少年が歩いていた

 「バイクが最低時速50㎞、ウサイン・ボルトが時速45㎞」

ライダーズジャケットに赤いスカーフを首に巻いた少年は
耳にスマートフォンをあてて、喋りながら路地の先へと歩いている

歩み方に迷いはないが、その姿は何処かうんざりとした雰囲気を纏っていて
手にしたスマートフォンで電話越しの相手と会話しているようだった。

 「『バイクと並走』っていうのはつまり、ワールドレコードを追い抜いて、壁に向けて走れば自殺できるって事なんだぜ?」
 「ターボばばあみたいな都市伝説だろ?」

――正直、それ以外に思いつかない というわけではない
『都市伝説』以外に、僕達にはもう一つだけ可能性が有る。

そして、その可能性が有る限り、僕達は無視するわけにはいかないのだ。

 「そりゃあ……噂の出所を辿って確認には来たけどさ」
 「あのチンピラ、ホントにここで見たと言っていたのか?」

だが、お陰で僕は酷く疲れていた
顔も知らない相手、その姉、その親戚のお婆さん、その御婆さんの友人、etc、etc、etc……

おまけに聞きまわった中の一人にギャングボーイズが混ざっていたせいで
要らないトラブルに巻き込まれ、朝方から歩き回ってもう昼頃になっている

……スタンドも、僕も、くたくただった。
そうして辿り着いた場所を見回せば『大通り ―星見街道―』 その路地裏だ。


 (人目につかない路地裏、これじゃあ障害物競争になるじゃあないか、足跡なんて何処に残っている物なんだろうか。)


溜息を一つつき、スマートフォンを懐に仕舞うと少年は
ジャケットの襟を正して、せめて今日の労力に、何か納得できるものが無いかと目を皿のようにして探し始めた。

794ディーン『ワン・フォー・ホープ』&ヨシエ『一般人』:2019/09/21(土) 07:03:21
>>793

『バイクと並走する少女』――まさしく眉唾物の噂だった。
ごく常識的に考えれば、まず存在するはずがない。
枚挙に暇がない『都市伝説』の一種だと思うのが普通だ。
しかし、斑鳩翔は『知っている』。
それが、決して『絶対に有り得ない話』ではない事を――――。

         シィィィィィ――――ン…………

賑やかな表通りとは裏腹に、この場所は至って静かだ。
人もいなければ動物もいない。
そして、『噂』に繋がるような何かも見当たらない。

                      タッ タッ タッ
               トンッ
    タッ タッ タッ

ふと、曲がり角の向こうから軽い足音が聞こえてきた。
やがて、一人の『少女』が姿を見せる。
花柄のワンピースを着た七歳くらいの小さな少女だ。
花モチーフの髪留めで纏められた髪が、軽く走る度に揺れている。
『噂の少女』と同じように、背中に『リュック』を背負っていた。

795斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2019/09/21(土) 13:05:45
>>794

 「……。」

数分程探した後に、膝を伸ばし
懐に借り物の小型のルーペを仕舞い込む。

 「やっぱり、何も無さそうだな」

失意に額を抑えながら空を仰ぐ
いままでの苦労とはいったい……3割程は自分のせいだった気がしなくもないが

 (靴跡の一つでも残っていれば、そこから年齢くらい解るんだが……。)

何もない物は仕方がない、かの高名な山高帽を被った男でも
靴に土がついていなければ、推理のしようがないではないか

 (そうと決まれば、さっさと帰ってロッ〇マンDASH3でも…… うん?)


顔を上げると、ふいに耳にその靴音を捉えた、視線を向けると
物音ひとつしない路地裏の奥に、靴音の発生源……1人の少女の姿を捉える。


 (『スタンド』の類は見えない、ただの女の子か? しかし、都合のいい事には違いない。)

 「――さて、アレが僕の幻覚じゃあなければ、話の一つでも聞くべきなんだが。」

自身に呼びかけるように呟くと、少女の方に向き直った
人気のない路地裏を、此方に向かってくる姿に呼びかける。

 (リュックを背負って走り回る、遊び盛りって感じだな)

 「――そこの、花飾りの素敵なお嬢さん」
 「そんなに急いで何処に行くんだい、転んでしまうよ?」

796ディーン『ワン・フォー・ホープ』&ヨシエ『一般人』:2019/09/21(土) 16:16:47
>>795

――――ピタッ

「こんにちはー!」

立ち止まった少女が、元気よく頭を下げて挨拶してきた。
よく見ると、年齢や外見も『噂の少女』と似ているように思える。
もちろん、ただ単に『似ているだけ』かもしれない。

「えっとねー」

「――――『あっち』!」

       ピッ

少女は、路地から『表通り』に向かう道を指差した。
かなりアバウトな答え方だが、とにかく通りに出るつもりのようだ。
現状、本当に『単なる少女』にしか見えない。

「お兄さんは、どこに行くんですかー?」

何ら他意の感じられない様子で、そう尋ね返してくる。
やはり、どこからどう見ても『普通の少女』だ。
ただ――『似ている』のも事実ではある。

797斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2019/09/21(土) 20:21:38
>>796

少女の挨拶につられて頭を下げる

 「ん、こんにちは」

礼儀正しい子だ、親の教育が良かったんだろう
――良い事だ こういう子供は巻き込まれるべきではない。

ちらっ……と靴のサイズを目算してみる
『鎖』のお陰と言うべきか、見るだけで大体の長さを推定できた

 (目算の靴のサイズは約20cm、靴のサイズからの推定年齢は、7〜8歳……とても、似ているな)

しかし、この子か?と言われるとまるでそうとは思えない
単なる礼儀のいい子が、たまたまここを通っただけかもしれない



何処に行くのか、と聞かれて返答に詰まった
哲学的な問いではないだろう、恐らく、ただ行き先を聞いているだけだ。

 「そうだなぁ――」

……返答に詰まるのは、自身の後ろめたさのような物だ
自身の為に、無関係の人間を巻き込む事への。

 「僕は、ここが終点みたいなものでね、知ってるかい?」

 「最近の噂話。」

笑顔を崩さず、話し続ける。

 「この辺りでね、とても奇妙な事が有ったと言うんだ」

 「なんでも、自転車より早く走る女の子だとか、あの自転車だぜ?」

肩を竦め、おどけたように首を振る
そして、問わなければならない。

 「――聞いた事、あるかい?」

798ディーン『ワン・フォー・ホープ』&ヨシエ『一般人』:2019/09/21(土) 22:43:23
>>797

「そうなんだー。ヨシエも会ってみたいなー」

事も無げに、少女は言う。
『とぼけている』という感じはない。
そして――ここからは『俺』しか知らない事だ。
彼女には『噂になっている自覚』がない。
ゆえに、それは『自分ではない』か、
あるいは『自分以外にもいる』と思っているのだ。

    スタ スタ スタ
              ピタッ

「あのー」

「『公園』って、こっちで合ってますかー?」

再び歩き始めた少女が、途中で足を止めて質問してくる。
この近くにある公園に行きたいらしい。
出る前に調べたはずだが、『ド忘れ』したのか。

「それとも向こうですかー?」

               ニコニコ

本人は笑っているが、何だか頼りない雰囲気だ。
このまま放っておいたら迷子になるかもしれない。
もし斑鳩が知っていたら、そこまで付いて行った方がいい気もする。

799斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2019/09/21(土) 23:48:51
>>798

 (知らない、か……)

その態度は、隠しているという事でもないようだった
やはりあのチンピラにはガセを掴ませられたのだろう

 「ああ、会えたらいいな 夢が有る。」

とはいえ、この辺りに目撃情報が集中しているのは間違いない事だ
録画機器等の何かしらを設置するべきか……

そんな事を考えていると、不意に
公園の場所を問われた、どうやら少女の目的地らしいが

 (名乗りもしない見知らぬ奴をあまり信用するなと言うべきか)

 (でもブーメラン帰ってくるしなあ、それ。)

ボーラは飛んでも帰っては来ないが、自分の行いは帰ってくる
笑顔の裏で苦虫を噛み潰しながら、自分の為にどう断ろうかと考えて、口を開いた。

 「それじゃあ、案内しようか?」

 「迷うと、こんな所に来てしまうからね。」

――正反対の言葉が飛び出してきたので、自身に閉口した

無意識に1人で頼りないと考えたか、放っておけないと考えたかは解らないが
まあ既に散々時間を無駄にしているのだ、少しくらいいいだろう

 「それで、公園の方? エスコートさせて貰おうかな。」

徒歩でスカーフを揺らしながら
そう無理やり自分を納得させた。

800ディーン『ワン・フォー・ホープ』&ヨシエ『一般人』:2019/09/22(日) 00:18:02
>>799

斑鳩の苦悩に気付く事もなく、少女は無邪気に笑っている。
もし彼女が『スタンド使い』だったとしたら、相当な食わせ者だろう。
この年齢で、そこまでの手練れというのも、
有り得なくはないかもしれないが、やはり考えにくい。

「うん!」

「あ――」

「ありがとーございますー」

    ペコッ

一度返事をしてから、改めて少女は頭を下げる。
やはり、育ちは良いようだ。
オーダーメイドとまではいかないが、身なりも『高級な既製品』らしい。

          スタ スタ スタ

そして、二人は路地から表通りに出た。
斑鳩の案内もあって迷う事もなく歩き続けると、横断歩道の前に着く。
これを渡れば、目指す公園は『すぐそこ』のはずだ。

                   チカッ チカッ

青信号が点滅し始めている。
それを見て、ヨシエと名乗る少女は立ち止まった。
まだ車は来ていない。

「――――え?」

「うん」

不意に、少女が『独り言』を呟いた。
ちょうど会話は途切れていた時だったし、近くには他に誰もいない。
まるで、『イマジナリーフレンド』か何かと喋っているかのようだ。

801斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2019/09/22(日) 02:24:02
>>800


 「――どういたしまして。」


……公園のすぐ手前で、点滅する青信号を見て、隣に止まる、並んで立つ姿は
周りから見れば年の離れた兄弟にでも見えるのだろうかと、ふと考えた

一人っ子の自分にはそういうのとは無縁ではあったが
自分に上や下の兄弟がいれば、今の境遇も少しでも変わったのだろうか?

たられば、等と言う疑問に答えが出る筈もなかった
頭を振り、疑問を散らす。

9月の風に、涼やかな物が混ざっている事に
夏は去り、秋が近いという事を連想したほうが、幾分かマシな生き方という物だろう

落ち葉が散って積もった頃には、芋でも焼いてみようか等と考えながら
傍にいる少女の方を眺めた

改めてみるその姿は、頭髪をきちんとポニーテールに纏め
衣服などもブランド物の既製品のように見える、いい家の出なのだろう

ふいに、独り言のように彼女が呟いた時も
ほとんど疑問には思わなかった、ただ、

『誰かに対しての返答』のようだったのが気になった。

自分かと思ったが、それは違う、目線は自分には向いていない
スタンドとの会話ではない、それなら自分にも見える筈である

他を考えれば、携帯電話などと思い浮かんだが、そういう物を手に持っている様子もない
――では、誰に?

自分の心当たりは3つくらいであった

1つ、イマジナリーフレンド これは幼少期によくある『自分にしか見えないお友達』を作り出す物で
年齢を重ねれば自然と無くなる物だ (このうちの何割が『スタンド使い』なのだろうか?という疑問は有るが今は無視する)

1つ、多重人格者、ただし人格が互いに会話する例はかなり少ない

1つ、……自分には見えていない場所に『もう一人いる』

斑鳩に断定は不可能であった。

ただ、歩く時に少女がふらついて見えたのなら、
それは彼女とは別の「重心をずらすように動くような物」がリュックサック内に入っているだろう、という推理だけの想像であり

(まあ、UFOだの幽霊だの、無いと断言するよりは、有る方が面白い)

という考えであった。


故に、斑鳩はこの交差点で、ヨシエと名乗る小女が、次に何をしようとも、それを傍観する事に決めた
彼女が何をしだすのか、むしろ楽しみになっていて、中身の見えないおもちゃ箱を見ている気分になっていたのだ。

802ディーン『ワン・フォー・ホープ』&ヨシエ『一般人』:2019/09/22(日) 08:37:27
>>801

「あー、『もうすぐ』だったんだねー。そうだったんだー」

「もうヨシエは大丈夫なのでー。あっち行ってきまーす」

「――――ありがとーございましたー」

    タタタッ――――

ヨシエが斑鳩に向き直り、笑顔で感謝の言葉を告げる。
そして次の瞬間、横断歩道を渡ろうと走り出した。
『時速60km』程のスピードで。

        タタタタタタタタタタ
                 タタタタタタタタタタッ

あっという間に横断歩道を渡り切ったヨシエは、
そのまま斑鳩から離れていく。
たまたま人通りが少なかったため、
その光景を目撃できたのは斑鳩だけだ。
それを見た人間が他にもいたとすれば、
おそらく『高速で走り去る少女』と表現するだろう。
いつの間にか、ヨシエの手の甲には『光の紐』が繋がっている。
『例の噂』の中には、そういう話もあった。

(…………よし)

行儀良く足を止めていたヨシエを『説得』する事には成功したようだ。
リュックの中にいた俺は、他の人間には気付かれないように伝えた。
『もう近くだから早く行こう』――――と。
だが、本当の目的は違う。
『道案内してくれた同行者』を、ヨシエから引き離すためだ。
今は、ちょうど信号が変わるタイミングだった。
こっちにとっては、それも都合がいい。

(さっき、コイツはヨシエに対して『探り』を入れてきた。
 狙いは知らないが、この手の人間には関わらせたくないんでね)

    チカッ チカッ チカッ

青信号の点滅が終わろうとしている。
車も近付いてきているようだ。
今から飛び出すと、車と衝突する可能性があるかもしれない。

803斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2019/09/22(日) 14:17:04
>>802

此方に笑顔で向き直った少女に、返礼をしようとして

 「ああ、どういたしまし……」

その少女が急にすさまじい速度で走り出した時の、僕の表情は傑作だったろう
鏡が有れば自分も見れたのだけれど、惜しい事をした。

 「て?」

変に上ずった声まで出て、ぽかんとしたが
同時に、『もう一つの頭』が周囲を見渡すと状況が見えてきた。


 (成程、成程……高速移動の話から、能力でなければ『器物』か『纏う』タイプだと思っていたんだが)

 (青信号は点滅状態、無理に渡ろうとすれば僕は車にひかれる)

 (つまり、そういう状況まで持っていく『知能』まである。)

 (しかし女の子の方ではない、別のスタンド使い……動物という前例が無いわけではない、リュックサックの中、か?)


 「さて、どうした物かな 送って終わりとしたいが」

 「こうも目の前で使われると、リュックサックの中身が知りたくなった」

ふたつの脳みそが、青信号の点滅が途切れるまでに考え込んだ後に、一つの結論を出した。

 「走るか。」

――ウサイン・ボルトの叩きだしたレコードは『時速45㎞』
ただし、それは彼に脚が二本しかなかったからだ。

 「――『ロスト・アイデンティティ』」

両足に鎖が巻き付き、砂のように崩れ去ると
重ね合わせるように発現する『影の脚』

それは、斑鳩の脚に、影で出来たもう二つの脚を生やし
二倍の脚力を得ることを可能にする、斑鳩の『スタンド』の一部だった

クラウチングスタートの態勢を取ると、四本の脚が互い違いに地を踏みしめ……

 (追いつけるか試してみよう、目的地は知っている)

常人の二倍の速度で地を滑るように駆けだした。

804ディーン『ワン・フォー・ホープ』&ヨシエ『一般人』:2019/09/22(日) 16:31:22
>>803

『鎖』を解除した事によって発現する『影の脚』は、
常人の『二倍』に相当する『脚力』を生み出す。
それがもたらすのは、通常の人間には不可能な初速と加速だ。
信号が青から赤に変わる直前に、斑鳩は見事に横断歩道を渡り切った。

(こうして『能力』を見せた以上、このまま終わりとは思えない……。
 『噂』について、妙に興味を持っているようだったからな。
 何より――アイツは『行き先』を知っている)

単純なスピードだけなら、やはりヨシエの方が速い。
しかし、『一歩で進める距離』という点では明らかに斑鳩の方が上だ。
その『歩幅の違い』が、『スピードの差』を縮めていた。

(だが、俺の目的は『振り切る事』じゃあなく『引き離す』事だ。
 アイツを『ヨシエに近付かせない策』は既に考えてある。
 そのための時間さえ稼げれば……)

『スタンド』の発現には『一呼吸分』の時間を要する。
『鎖』の解除にしても、僅かな間が生じるだろう。
それらは決して長い時間ではないが、
その短い間にヨシエは数メートルの距離を稼いでいる。
最初に走り出した時点から、二人の間には小さくない差が開いていた。
『二人分の脚力』を以ってしても、即座に追いつく事は難しそうだ。

    タタタタタタタタタタ
             タタタタタタタタタタ――――ッ

ほとんど減速する事なく、ヨシエは角を曲がった。
彼女の進行方向には、多数の『車止め』が並んでいたが、
ヨシエは、その狭い隙間を一度もぶつかる事なく通り抜けていく。
その動きは、『ロスト・アイデンティティ』と同等の『精密性』を思わせた。

                       タタタタタタタタタタ…………

そして――ヨシエの姿が斑鳩の視界から消えた。
『公園』の中に入ったために見えなくなったのだ。
少なくとも、その『敷地内』にいる事は間違いない。

805斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2019/09/22(日) 20:19:10
>>804

 (見失った ……か?)

数メートル遅れで到着した公園に、彼女らの姿を認識できなかった斑鳩は
公園内に姿が見えない事に驚きを覚えた。

 (そこまで遠くには行っていない筈だが、鬼ごっこの次はかくれんぼと来たか。)

 (『ロスト・アイデンティティ』に『探知』の能力は無い 対して向こうは……)
 (少なくとも此方と同等以上の精密動作が有ると見ていい。視界外から忍び足で去られるのは随分と困る。)

 (だが、少なくとも能力が『他者への譲渡』ならば)
 (それ以外の『透明化』『隠蔽』等の能力は持っていないだろう)

 (移動能力も、走る以上は無いと考えてよさそうだ。)

 (そう考えれば、発見するにはあくまで聴覚及び視覚で捉えればいい)
 (……攻撃が許されるなら、ボーラの投擲で捕まえられたんだが。)

『影の頭』からの提案を振り払うように首を振ると、斑鳩の全身を『鎖』が覆った
銀色の鎖が、夕日を浴びて鈍く輝く。

 (怖いほうが出てこない内に、手段を選ばないと)

向こうが『能力を見せて』逃走を選択した以上、取れる手段はそう多くはない
対話を不可能と判断した斑鳩は、スタンドの使用を良心の許す範囲内で選択した。

 (……やはり、これが一番かな)

 (これが戦闘なら、自分も身を隠す所なんだが。)

頭部の鎖が砂のように解け、もう一つの『頭』が出現する
影のような黒い頭部は、不機嫌そうに被りを振った後に、少年の視界外を確保する様に周囲を見渡し始めた

同時に、両腕の『鎖』が伸び始め、約2m程に達すると、それを振り回し始める
高速で回転し始める銀の鎖は、まるで円盤のようにも見えた。

 (距離は離されていない、それは事実だ、視界内に捉えることを最優先に視界外には聴覚で対応する)
 (離れたのは数メートル前後 ……ならば射程内だ)

――夕暮れの空から銀色の雨が降り注いだ、遠心力で回転している鎖が分離して千切れ飛び、空から降り注いでいるのだ
スタンドで出来た鎖の破片、その雨が半径20m以内に降り注ぐ

 (視聴覚の確保という点では、これが一番だろう、『鎖を踏めば音が出る』『降り注ぐ鎖に当たればその音で居場所を探知できる』『下手に物陰から移動すれば僕の視界内に入る』)
 (……さて、お次は何を見せてくれるんだろうな?)

806ディーン『ワン・フォー・ホープ』&ヨシエ『一般人』:2019/09/22(日) 21:25:28
>>805

公園内で隠れられそうな場所は多くはない。
遊具の後ろ、自販機の陰、あるいは茂みの中……。
ヨシエがいたのは、その『どれでもなかった』。

(――――…………)

自ら砕け散った『鎖の破片』が、公園内の『ほぼ全周囲』に降り注ぐ。
『鎖のヴィジョン』と『切り離しの能力』を駆使した、
『銀色の雨』による『広範囲探知』だ。
しかし、それらしき『反応』が見られない。

(つい『策』なんて言葉を使っちまったが……
 何というか、それは少し『言い過ぎ』だった。
 実際、そう大したものじゃない事は認めざるを得ないな。
 『工夫』や『応用』って意味じゃあ、向こうの方がよっぽど上等だろうさ)

『鎖の雨』が降り注ぐ音は、こちらにも聞こえている。
だから、相手が『何かしている』事は分かった。
どうやら、かなり大掛かりなトリックを仕掛けているらしい。

(俺は、ただヨシエに伝えただけだ。
 天気が悪くなりそうだから少し『雨宿り』しないか?――ってさ。
 それが出来そうな場所は、ここじゃあ『一つ』しかない)

そこは、ごく小さな場所だった。
屋根があり、床があり、壁がある。
その中の様子を、外から窺い知る事は出来ない。

(人間は『オス』と『メス』で『場所』が分かれてるよな?
 最初は妙だと思ったんだが、すぐに納得できたよ。
 『二ヶ所』に分けた方が混雑しなくて済むからな)

ヨシエと俺は『公園のトイレ』の中にいた。
これは当然だが、『メス』が入る方だ。
人間の言う『女子トイレ』ってヤツさ。
まともな『メス』なら『オス』の方には入らない。
もちろん、その逆も同じだ。
もしかすると、『ここにいるんじゃないか?』と思われるかもしれないな。
だが、それを実際に『確かめる』のは容易じゃあない。

807斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2019/09/23(月) 19:40:52
>>806

 (反応がない、か)

その公園には銀の破片が散らばり
ある種の童話のような光景と化していた

実際には全てがこの場より逃げだそうとする者を探知する『罠』なのだが。

 (しかしこの場合、『反応がない』という事が判断材料になるわけだな。)

遊具の後ろ、自販機の陰、茂みの中、樹木の根元、鎖の落ちない箇所はそう多くないと判断し
数か所に視線を同時に向けるが、動くような姿は無い ――当然だ、そこには誰もいないのだから

 (参ったな、僕の見間違いで 既に公園の外に逃げたか?)

猜疑を振り払うように頭を振る

 (……いや、その為わざわざ視界まで増やした 絶対にまだこの公園内にいる。)

斑鳩は情報を整理する事にした
鎖を踏む音は聞こえず、視界にも捉えていない……

 (つまり、『動く必要性がなく』、『僕の視界外』で『鎖を防ぐ屋根が有る』場所……)

ぐるりと公園内を再び見渡せば、鎖のばら撒かれた光景の中に
条件に当てはまる個所の中で、『自分ではいけない場所』が有る事に気づいた

 「……まいったな、そこか?」

斑鳩は苦々しげな表情でぼそりと呟いた――『公衆トイレ』、屋根には無数の破片が乗ってはいるが
視界は通らず、自分のスタンドから隠れるに絶好の場所

 (相手は、僕のスタンドを必要最低限の動きで無効化したわけだな)

『スタンド』の鎖を振りかぶり ――力無く元に戻した

 (駄目か、敗北だな 僕のスタンドは能力の射程はあれど、僕自身からは1mmたりとも離れる事は出来ない)

 (……これ以上は『僕』には無理だ。)







公園のトイレの中

一度はやんだ『雨音』が、再び鳴り始めた

――未だに外からは『雨』の降る音が聞こえてくる

808ディーン『ワン・フォー・ホープ』&ヨシエ『一般人』:2019/09/23(月) 20:52:37
>>807

「降ってきたねー……」

《…………ああ》

「どうしよー?傘もってきてないよー」

《諦めて止むまで待つしかないな》

「うん……分かったー」

ひとまずは『凌いだ』と考えていいだろうか?
『雨』ではなく『アイツ』を――だ。
何者かは知らないが、明確な『目的』を持っているらしいヤツだった。

(わざわざ『能力』を使う事もなかったか?いや……)

並んで歩いている途中に、俺はアイツから『良くない臭い』を感じ取った。
それが何に由来するのかまでは分かりはしない。
だが、何処か『暴力的なもの』を嗅ぎ取った事は事実だ。
そして、俺は『そういう人間』を警戒する。
得体の知れない人間の近くにヨシエがいる事が、気に食わなかった。

(……しばらくは、この辺りには来させない方が良いかもしれないな)

雨音を聞きながら、俺は今後の事を考えていた。
雨が上がったら『窓』から出るか?
その理由をヨシエに説明する事を考えると、今から頭痛がしてくる。

(全く――――面倒な事になった)

809斑鳩 翔 『ロスト・アイデンティティ』:2019/09/23(月) 22:24:59
>>808

酷い頭痛に頭を抱えながら、『それ』は晴れた空から降り注ぐ雨のささやきの中を歩いていた

それは人目につかない路地裏に入り込むと獣じみた唸り声をあげ、額をコンクリートの壁面に叩きつける

鈍い音がして、赤い筋が目尻を通り頬をなぞって顎から滴り落ちる

爪が掌に食い込み、赤い跡を残すのも構わず唇を千切れんばかりに噛みつぶす

 「馬鹿な事をしたなあ、俺に任せておけばいい事を」

路地裏に男の声が響いた、路地裏の外を通るサラリーマンは、その声に気づかずに鞄を傘代わりに走り抜けていく

 (――――)

 「何故そんな良心なぞを気にする?それは死にかけの老人を態々延命させている事に他ならないではないか」

それは反応を見せない、或いは答えられない。

男の声は氷のような冷ややかさを持って続けられる

 「リュックサックの中身が何であれ、アレは俺達よりよほどうまくやっているよ。」

それの影は苦笑した、泣いている理由なぞとうに解っているが、馬鹿らしいプライドで認められないのをよく知っているからだ

 「みじめだなぁ?俺達がどれほど『努力』しても出来ない事をやってのけ、あるじを『守り』、無事『危機』を切り抜けた」

 「拍手と称賛を送ってやれよ、よくやったってな。」

それが顔をあげた、額の血は赤い涙のように流れていく

その顔は何の表情も浮かんではいなかったが、はたから見れば泣いている事を押し殺しているように見えた

 「次にアレと少女を見る時は、俺達が鉄格子付きの病院の窓からである事を祈ろうじゃあないか」

 「そして幸福な人生を送る事をな、イカレ野郎。」

天気雨が上がり始め、パイプから滴る雨粒が、空の虹を写しながら地面に吸い込まれていく

 「知っているか?天気雨は涙雨とも言うそうだ そして性質上よく虹が観察できる。」

石のように動かない本体を尻目に『ロスト・アイデンティティ』はしゃべり続ける

 「――今頃、公園の空には虹がかかっているだろうよ。」

810ディーン『ワン・フォー・ホープ』&ヨシエ『一般人』:2019/09/24(火) 19:31:19
>>809

あの時――『ボーラ』の使用を躊躇しなければ、少女を捕まえられただろう。
しかし、少年は『それ』をしなかった。
彼の行動を『優しさ』と呼ぶ者がいれば、
その一方で『甘さ』と呼ぶ者もいるかもしれない。

だが、客観的に見れば正しい判断だったはずだ。
もし『ボーラ』を使っていれば、少女に傷を負わせてしまった可能性もある。
『影の腕』の精密性なら無傷で済んだかもしれないが、
絶対に有り得ないとは言い切れない。

そうなった場合、謎めいた『リュックの中身』は、
斑鳩の存在を本格的に『敵』と見なしていただろう。
だが、そうはならなかった。
少年の――斑鳩の『良心』が、それを選ばなかったからだ。

        ――――トッ

しばらくして、俺はヨシエと共に外へ出た。
雨上がりの空には、虹が掛かっているらしい。
不意に『何か』を思いかけたが、その正体は掴めなかった。

俺はヨシエを守らなければならない。
ヨシエを傷付ける可能性のある全てのものから。
もし俺に『生き甲斐』というものがあるとしたら、多分それなんだろう。

811黒羽 灯世『インク』:2019/09/25(水) 01:40:16


クロバネ トモヨ
『黒羽 灯世』という、少女がいる。
清月学園に通い、『報道部』に属している。

「コーヒーを。……ええ、ええ、そうよ。ブラックで!」

猛禽類のような印象を抱かせる三白眼と、
袖だけを飛膜――――『振袖』のように改造した制服が目立つ。

             スタ  スタ

それ以上を知る人間は少ない。
なぜならば、彼女は『友達』が少ないからだ。

      ストン

「…………」

だからこうして、買ったコーヒーを手にベンチに座るのも一人で、だし。
彼女が手にしている『筆』について知る者は――――『一人もいない』。

812ディーン『ワン・フォー・ホープ』:2019/09/26(木) 00:46:57
>>811

    トッ トッ トッ

ちょうど同じ頃、一匹のチワワが歩いてきた。
何かの偶然か、手元のコーヒーと同じように全身が真っ黒だ。
『DEAN』と刻まれた首輪をしている。
そこには『リボンタイ』が結んであった。
近くに飼い主らしき人間はいない。

(流石にいないか……。まぁ、それならそれでいい)

その日、俺は一匹で公園を訪れていた。
一言で言うなら『確認』のためだ。
俺とヨシエは、この近くでスタンド使いらしいヤツに遭遇した。
その時は回避できたが、まだ安心はできない。
だから、こうして確かめに来たってワケさ。

           チラ…………

(おい、待てよ……。
 この辺はスタンド使いの溜り場じゃあないだろうな?)

何かを探すように動いていたチワワが、ふと少女の方を向いた。
一瞬、『筆』の方を見ていたような気もする。
たまたま視線が向いただけかもしれないが。

813黒羽 灯世『インク』:2019/09/26(木) 02:19:30
>>812

             ……チラッ

「……」

       フイッ

一瞬だけ、目が合った。
が、黒羽灯世は特に『犬好き』とかではない。
すました様子で、すぐに視線を戻したが・・・

            スゥ―――

手にした『筆』を、軽く上げる。

「…………………………」

そして、これ見よがしに『消す』。

     サッ

代わりに取り出したのは・・・『スマートフォン』だ。
無言で、カメラを『ディーン』に向けているのが、ディーンの動物的直観で分かる。

814ディーン『ワン・フォー・ホープ』:2019/09/26(木) 12:03:45
>>813

(…………?)

正直、少女の意図は今一つ読み取れなかった。
まぁ当然と言えば当然だろう。
初対面だし、何より『人』と『犬』だ。
向こうだって、俺が何を考えてるかなんて分かりはしない。
『会話』すれば多少は理解し合えるだろうが、その必要も今はない。

(あぁ、『アレ』だな)

それが『スマートフォン』と呼ばれる道具である事は知っている。
人間がいる場所では、必ず一つか二つは見かけるヤツだ。
ヨシエも持っている。
『犬も歩けば棒に当たる』という言葉があるらしいが、
今は『スマートフォンに出くわす』事の方が多いのかもな。
そして、それに『カメラ』が付いている事も知っていた。

(別に、このまま撮られてもいいんだが……)

撮られる事は始めてではなかった。
ヨシエが撮ることもあるし、たまに他の人間にも撮られる。
それ自体は、特に何とも思わない。

(――――ちょっと試してみるか)

     トッ トッ トッ

カメラから外れるように、自然な動きで少し横に『ズレる』。
少女のリアクションを確かめるためだ。
『どういう人間か』を推し量る参考にさせてもらうとするか。

815黒羽 灯世『インク』:2019/09/26(木) 19:30:00
>>814

「……………………………………」

     ・・
(…………杞憂、のようね。
 いえ、杞憂というのはこの場合だと逆。
 ゆか喜び……そう、それなら間違ってない)

消えた筆に反応することは特になく、
『スマートフォン』には反応した。
黒羽の考え方では、こういう事になる。
筆を見ていたのではなく、『手元を見ていた』……と。

『インク』――『それ』が見える者を、探していた。

(もっとも、犬が『インク』を見られたところで、
 話を聞けるわけじゃあないのだから…………
 これくらいは、特に落ち込むようなことでもないけど)

何気なくシャッターを切ろうとした……が。
被写体がいつの間にか、ズレている事に気づく。

「…………」

      ムッ

(カメラを『避けた』……!? これって偶然?
 それともつまり、私に『勝った』つもりでいるの?
 つまり……私が、犬に、負けてるってこと……!?)

「……………………………………!」

      カシャッカシャッ

ズレた先に素早くカメラを動かし、動く前に撮ってやる。
特に意味は、ない。が、『負けたまま』なのはシャクだ。

816ディーン『ワン・フォー・ホープ』:2019/09/26(木) 22:13:56
>>815

(気のせいか?今のは妙に熱が篭っていたような……)

少女のリアクションを見て、そのように解釈した。
今度は動かなかったので、写真は綺麗に撮れている。
やがて少女に背を向けたチワワは、そのまま少しずつ離れ始めた。

                     トッ トッ トッ

(『スタンド使い』――――か。
 後々のために、もう少し『勉強』させてもらうのも悪くないな)

世の中や人間に対する知識は、多ければ多いほどいい。
それが『スタンド使い』なら尚更だ。
今、ヨシエはいない。
だから、多少は大胆な行動を選ぶ事も出来る。
つまり、スタンド使いの人間に自分から『接近』するという事だ。

                 タタタタタッ
           ヒョイッ
    ポスッ

距離を離したのは『助走』のためだった。
駆けてきた勢いのまま、四本の足で地面を蹴り、ベンチに飛び乗る。
そして――――少女との間にスペースを空けて座った。

(普通に近付いても良かったんだが……。
 何となく、どんな反応があるか見たくなった)

横にズレてみせた時の反応は、俺の興味を引いた。
『人間観察』は趣味の一つでもある。
知識を得るためもあるが、言ってみれば『趣味と実益』を兼ねたって所さ。

817黒羽 灯世『インク』:2019/09/26(木) 23:17:32
>>816

「………………フッ」

         スゥー

スマートフォンを懐にしまい直す。
それから、離れていく犬を見ていた。
犬そのものに、特別な興味はないのだ。

「……!?!?」

だけれど急に戻ってきた犬には、もともと鋭い目が引き絞られる。
反応と言うほどの反応も出来ず、コーヒーを落とすことだけは、
それは『弱すぎる』と思ったから――――しないように、手の力は無くさない。

「……」

そして犬を見つめる。
フェイントのような行動。『付かず離れず』な位置取り。

遊んでほしい犬とは思えない。
黒羽の『記者』としての観察が、そう告げる。

(こ、この犬……やっぱり『杞憂じゃない』。
 普通の犬とは思えない……私に、挑戦している。
 『観察』して『分析』する……『上から私を見ようとしてる』)

    『シャラッ』

    (気にくわないわ! ……『上の方』に立つのは、いつでもっ、いつでも私!
      それにもしかすると……勝ち負け以上の意味もあるんじゃないの!)

だから立ち上がって、『ディーン』を見下ろす。
傍から見れば『急に犬が来たから立った』用にも見えるだろう。

そして利き手を逆の袖に入れ、『居合』のように、しかし緩慢に抜き出す――――『インク』を持った手を。

818ディーン『ワン・フォー・ホープ』:2019/09/26(木) 23:47:14
>>817

表情を変えず、少女を見上げる。
相手が何を考えているかは分からない。
しかし、『何か』をしようとしている事は察せられた。

(さて、どうするか…………)

      チラ

『筆』が出てきたのを一瞥し、考えを巡らす。
未知のスタンド使い相手なら、『警戒』はしておくべきだろう。
いつでも飛び降りられるように、密かに四肢に力を込める。

(少なくとも外見は『ただの犬』の俺に対して『スタンド』を出した。
 そこが問題だな)
 
(――次の行動で、コイツが『危険なヤツ』なのかどうか計れる)

少女を見つめたまま、その動きを見逃さないように観察する。
もし危害を加えられそうなら、すぐに離れるつもりだった。
『ワン・フォー・ホープ』は――――まだ出さない。

819黒羽 灯世『インク』:2019/09/27(金) 00:59:38
>>818

「………………」

          シャッ

                シャッ
    
    シャッ

黒羽がしたことは『危害』ではなかった。
彼女のスタンドは――――『剣』ではない。
武器は、『ペン』だ。少し古風な形ではあるが。

            シャッ

ペンの用途は、『書くこと』。文字列は――――――――

           目の前の 犬 が インク を 見た

「――――――――『ゴースト・ストーリーズ』」

                      『ヒタッ』

「ペンは剣より強い……フフッ! 今の私には事実!
 真実のみを暴き出す私のペンは、特に強いのだから」

             「さあ、さあ、今に『真実』は……あれ?」

   「……? あっ」

ディーンの目には、相当に意味不明な行動に見えるだろう。

文字列は――――空気に貼り付いたように、黒羽が触れようと何も起きない。
『ゴースト・ストーリーズ』……『人間の行動』を再現する力が『犬に効かない』のは道理だ。

                     ……それを行動より早く導くには、経験が不足している。

820ディーン『ワン・フォー・ホープ』:2019/09/27(金) 14:09:02
>>819

     カァー 
            カァー

(……)

(…………)

(…………ん?)

数秒間の間、何ら関わりを持たない犬と少女が見つめ合った。
何とも言えない『微妙な空気』が流れる。
誰かが通りかかったとすれば、それは『奇妙な光景』に見えただろう。

(『何もない』……のか?いや、何もないワケはないな。
 『何かをやろうとした』のは間違いない……)

少女の様子を見て、さらに考える。
何かをやろうとしたが、何もない。
そこから考えられる結論は、おそらく一つだろう。

(ひょっとして――――『ミスった』のか?
 何故かは知らないが……とにかく上手くいかなかったんだろう)

目の前の犬が『インク』を見た。
それは確かに『事実』だ。
しかし、『人のみに作用する能力』であるため、再現されない。
奇しくも、それは『犬のスタンド』と同じ特徴だった。
その事を、『目の前の犬』が知る由もないが。

(しかし……何というか『困る雰囲気』だな。
 まさか、こんな事になるとは思わなかった……。
 こういう時にヨシエがいてくれたら、場を和ませられるんだが……)

(だがまぁ、少なくとも――――『危険なヤツ』ではなさそうだ)

             シュルルルルル

首輪に結んだ『リボンタイ』が独りでに解け、一本の『光の紐』に変わる。
その紐が、空中で蛇のように動く。
すぐに出来上がったのは、簡単な『記号』だった。

        クルッ

現れたのは『マル』だ。
『光の紐』で形作られたため、『ネオンサイン』のように発光している。
『目の前の犬がインクを見た』という文字列に対する『返し』なのだろうか?

821黒羽 灯世『インク』:2019/09/27(金) 22:48:41
>>820

「んなっ……」

          「…………!?」

(な、なにこの「〇」は……どういう意味!
 私が文字を書いているのを『真似した』ってコト!?
 犬にそんな知能が……!? いや、それより……)

「見つけた。私以外の『スタンド使い』……やっぱり『いた』!」

               シャッ   シャシャシャッ

確信はなかった。いるのが『自然』だと思ってはいたが、確信が欲しかった。

『光の紐』に筆先を向け――――
それに重なるような位置に『二重丸』を描く。

「ねえねえ、私の言葉……それにマークの意味が分かるなら!
 これより『上』のマークを作れる? あなたの『スタンド』で……」

もちろん、二重丸は一重の丸よりも――――『上』だ。

「負けを認めるのでもいいけど。フフッ!
 どちらにしても……『貴方が話せるのか』教えて。
 私ね。自分以外の『スタンド使い』に話を聞いてみたかったの。
 その『マル』だけなら『偶然』かもしれない……確信が持てない。だから」

背筋を伸ばし、目の高さは合わせないまま見下ろすような形で、『ディーン』の目を見る。

822ディーン『ワン・フォー・ホープ』:2019/09/27(金) 23:57:56
>>821

潔く負けを認めても良かった。
元々、勝負を挑んだつもりはなかったのだ。
ただ、もう少し『ゲーム』を楽しみたい気分だった。
これも、スタンドの訓練になるだろうという考えもある。
だから、この勝負を受ける気になった。

(なら――――俺は『こうする』)

      シュルルルルル…………

犬が少女を見上げ、『光の紐』が再び動き出す。
そして、別の形を作り始めた。
やがて出来上がったのは『二つの丸』だ。
ただし、少女が描いたような『二重丸』とは違う。
それは、二つの丸が横に繋がったような形の記号だった。

         クルッ 
             クルッ

空中に描かれたのは――――『∞』だ。
人間の間では『無限』を意味する記号として知られているらしい。

《――こんな感じでどうだ?》

そして、同時に『スタンド会話』を少女に飛ばした。
あまりやらない事だが、向こうが話したがっているなら、
まぁ乗ってみてもいい。

823黒羽 灯世『インク』:2019/09/28(土) 00:58:56
>>822

「うッ……!!! それは……!?」

一筆書きで『三重丸』は書けない。
戯れに勝てる勝負を仕掛けたつもりだったのだ。

         「い……」

(犬なのに賢い……だけじゃない!?
 人間の『記号』をちゃんと理解していて、
 それを自分の能力で応用できている!?
 こ、この犬……たぶんスタンド使いでも、『上の方』!)

『∞』――――それを信じられない物を見る目で見る。

「……………………言っておくけど。
 私が負けだと認めない限り、私の負けじゃない。
 だけど…………『私の勝ちとも言い切れない』」

「それは、フフッ。認めざるを得ない」

              スンッ

すました顔を作り出す。『気持ち』で負けないのは大事なのだ。

「あなたもなかなか『上等』なようだわ。
 それに日本語も喋れるようだし……えっ? !?」

「…………喋れるの!? なんで! ……それも『スタンド』の力!?」

824ディーン『ワン・フォー・ホープ』:2019/09/28(土) 01:38:51
>>823

発せられた『声』は男性的なものだった。
おそらくは『二十台前半から半ば』ほどの年齢を思わせる声だ。

《なかなか楽しいゲームだった。俺は、それで十分だ》

    シュルルル

『光の紐』が元通り『リボンタイ』の形に結ばれていく。
しかし、放たれる淡い光は消えていない。
解除してしまうと、会話が出来なくなるからだ。

《『話がしたい』と聞いたのは俺の空耳だったか?
 俺だって、『犬と会話が出来る人間』を見たら驚く》

《だけど『俺達』は別だ。スタンドを通して意思をやり取りするのさ。
 スタンド同士の『糸電話』みたいにな》

四肢に込めていた力を緩め、やや落ち着いた姿勢で座り直す。
目に見える危険はないと判断したからだ。
少なくとも、今の時点では。

《で――――何を話すんだ?
 俺が知ってる『人間向きの話題』と合うかは保障できないが》

今までの様子から、スタンド使いになって間もない事は分かる。
もっとも、俺も似たようなものだ。
スタンドについて、それほど中身のある話が出来るワケじゃあない。

825黒羽 灯世『インク』:2019/09/28(土) 02:56:29
>>824

「『話はしたい』けど……まさかそういう風に話せるなんて。
 その『ひも』で『〇』を作って質問に答えるくらいかなって」

「――――そう、まずは、これも収穫。フフッ!」

             スッ

先ほどしまったばかりのスマホをせわしなく取り出す。
ディーンには見えない角度だが、『メモ』を取るためだ。

「それで、それでね。あなたの言い方だと『スタンド使い』……」

       キョロ …

と、言いかけて周囲を一瞥する。
犬と話す女というのを見られたくないが、あいにく人も皆無ではない。

数度考えて、自分の中に今までにない『出力』があることを自覚した。

≪……こう。こうね。『覚えた』……『スタンドの会話』。
  それで……あなた、スタンド使いに会ったのは初めてじゃなさそう。
  まずはこれを聴きたい。単刀直入――――シンプルに言うから答えてね≫

             ≪……スタンド使いに関わる、集団とかは、ある?≫

気にかけているのは『スタンドそのもの』ではない。
その力が生み出す、取り巻く世界だ。それを知ることが『必要』だと考えている。

826ディーン『ワン・フォー・ホープ』:2019/09/28(土) 11:50:31
>>825

《……いや、知らないな。聞いた事もない》

その話題は初耳だった。
しかし、言われてみれば十分に有り得る話だ。
むしろ、そういうグループが全く存在しない方が妙な話だろう。

《だけど、そういうものがあったとしても俺は驚かない。
 同じ生き物同士が『群れ』を作るのは自然な事だ》

肉食動物なら効率的に狩りをするため。
草食動物なら生存の確率を上げるため。
その他にも色々な事情で動物は群れを作る。

《『人間』も同じだし、『スタンド使い』も例外じゃない。
 俺は――そう思う》

少女に向けていた視線を、しばし遠くに見える『高層ビル』に移す。
人間も集まる事で、一人では出来ない事を成し遂げられる。
『スタンド使い』なら、もっと大きな変化を世界に与える事も出来る筈だ。

《俺みたいなのも当然いるだろうしな。
 まぁ、もしもの話だが猫とか鳥とか魚とか……》

《……話が逸れたな。とにかく俺は知らない。
 だが、『スタンド使いの集団の有無』という話は俺も興味が湧いてきた》

《もしアンタが何か掴んだら、俺も知りたいね。
 それよりも……何かするなら、その時は『手』を貸してもいい》

『大きな変化』――それは良し悪しに関わらない。
それがヨシエにも影響を及ぼすものであるなら、俺は知る必要がある。
いや、知らなければならないだろう。

827黒羽 灯世『インク』:2019/09/29(日) 00:17:22
>>826

《そう…………なら少なくとも『知ってるのが普通』、
 知らないと『情報弱者』……そうではないようね。
 それだったら、別に何も、問題はないと言えるわ》

組織力ほど大きな力はない。
一人一人が違う能力を持つスタンド使いの組織が、
誰もが知るほどに勢力を拡大しているのであれば、
それは今後の身の振り方にも関わる……『強者』としての。

《とはいえ……そうね、あなたは犬だものね。
 頭は中々いいようだけれど、知れる情報には偏りがありそうだわ。
 人間で頭がいい私なら、また違った答えを知れるかもしれない》

      「フフッ!」

《……笑いをスタンドでやるのは、ちょっと難しいのだわ。
 これもひとつ勉強ね。とにかく、そう、違った答えよ。
 あなたと私では視点が違う、それにきっと考え方も。
 何をする気もないけど、手の『貸し借り』は賛成だわ》

と、そこまで言い終えて『手』を見る。
振袖に半ば隠れた自分の手ではなく、ディーンのを。

・・・『手』?

《でも、あなたのそれは『足』と言うんじゃないの?
 あなたの自認では『手』? 気になる……とても、とても気になるわ》

828ディーン『ワン・フォー・ホープ』:2019/09/29(日) 00:50:50
>>827

《賛成できる意見だ。視点が増えれば、それだけ考えの幅も広がる。
 考えの幅が広がれば、行動の選択肢も増やせる》

《世の中には『動物お断り』の場所も多い。
 そういう場所だと、俺が入るには苦労するからな》

《その代わり、『鼻』なら俺の方が利くだろう……。
 『頭』は、アンタの方がいいかもしれないが》

現状、この少女からは『危険な匂い』を感じ取れなかった。
まぁ、信用してもいいだろう。
少なくとも、『仕事をする上での協力者』としては問題ない。

《――『足』?ああ、これは『前足』だ。『手』じゃあないな。
 人間みたいに何かを持ったりするようには出来てない》

教えるべきかどうか。
それについては迷いがあった。
しかし、今後『同じ仕事』をするなら知らせておく必要がある。

《……まぁ、いい。教えておこう。俺の『能力』を。
 ただし、『アンタの』も教えてくれるのが条件だ》

         シュルルルルル

《――――それでどうだ?》

『光の紐』が再び解けていく。
その先端が、握り拳を開くように展開していく。
よく見れば、人間の『手』のような形をしている事が分かるだろう。

829黒羽 灯世『インク』:2019/09/29(日) 02:23:39
>>828

《そう、人間だから入れる所の方が多いと思うけれど、
 逆に、人間じゃあ入れない所も多いのだわ。
 私は『記者』だけど……探偵やら警察やら、
 謎解きが仕事の人達の相棒は、『動物』が多いの。
 私とあなたは……相棒というほどではないと思うけど》

     スゥーー ・・・

《種族は違えど『上位』に立つ存在同士ではある》

《つまり、手を取り合うことは出来そうだわ!
 それと、少しずつくらい、秘密も共有できる。
 あなたなら、大多数の人間には『言いふらせない』し》

『筆』を手に浮かべ、それをかざす。
その筆先には文字通りの『墨(インク)』が滲み、
空間に残す。極めて儚く、しかし明確な『筆跡』を。

《フフフ……私の『インク』は、見ての通り。
 空間に文字を書く……それも、とても、とても速くね》

         シャシャシャシャッ

《あなたの走る足より、私の筆の方が速いくらいでしょう》

勝ち誇る笑みを浮かべ、意味のない筆跡は消える。
残ったのは筆……それに最初に書いた『文字列』のみ。

《それと……『筆法』という、特別な技も使えるそうだわ。
 もちろん、与えられた技が全てじゃあないけれどね。
 私が編み出した『筆術』も、フフッ。大いに『強さ』になる!》

《…………とまあ、こんな所かしら? 教える情報のレベルは? どうかしら?》

830ディーン『ワン・フォー・ホープ』:2019/09/29(日) 11:15:49
>>829

《――――オーケー、問題なしだ。見た事のないタイプだな。
 俺も他のスタンドに出くわした経験は少ないが……》

『筆』というのは、あまり目にする機会がない。
前にテレビか何かで見たので、それが『筆記用具』なのは知っていた。
おそらく、概ねは『その通り』なのだろう。

《確かに『速い』な。『俺が走る』よりも速そうだ。
 その『筆法』とかいうのも――何か底知れない『強さ』を感じる》

だが、『それだけ』ではなさそうだ。
現に、さっきも何かしようとしていた。
もっとも、それを見る事は出来なかったが。

《次は俺の番か。名は『ワン・フォー・ホープ』。
 見ての通り『光の紐』だ》

        シュバババッ

《こうして、アンタの『手』みたいに動かせる……。
 そして『俺が走るよりも速い』》

空中に伸ばした『ワン・フォー・ホープ』を柔軟に動かしてみせる。
そのスピードは、『インク』の筆記スピードと同等だ。
もっとも、指先から『墨』が出てくるワケじゃあないが。

《俺の能力は、この『手』と『人間の手』が合わさった時に使える。
 つまり、『人間』がいてこそ役に立つ能力なのさ。
 『その人間』は基本的には強くなって、
 アンタや俺の『手の動き』と同じくらい速く動けるようになる》

《俺から教えるのは、これくらいだな。満足してもらえたか?》

831黒羽 灯世『インク』:2019/09/29(日) 19:40:52
>>830

《ふうん? 筆は珍しいのかしら……まあ納得だわ。
 普通に筆記具は『ペン』の方が主流だものね。
 私だって、紙にものを書くときはペンだけれど……》

《ああいえ、私のことはいい、あなたのその『紐』。
 能力からしても『リード』のスタンドって事よね。
 面白いわ。きっと人間には目覚めない力でしょうね。
 それに…………あなたの『ユーモア』も。それから……》

動く『光の紐』を目で追い、笑みを浮かべる。
人間がリードを付けないとも限らないとはいえ、
それを『力』として発現するのは……相当のものだろう。

《……名前も面白いわ。『犬だけに』……フフッ!》

(『ワン・フォー・ホープ』も『彼』が名付けたのかしら?
 なんだかイメージとは違うわね……何度も話したわけじゃないけど)

力を与える存在であった『道具屋』に、力を与えた人間もいるだろう。
そう考えればディーンと自分の力の出所は違ってもおかしくはない、と考えてはいた。

《面白くって……ええ、ええ。満足出来たのだわ。
 私たちが今回明かした『強さ』がほんとに等価なのかは分からないけど……
 同じ価値観のはずもないものね。大事なのはお互い満足できたこと》

         フフフ……

《もう一つだけ教えてくれる? その首輪に書いてる……
 で、で…………アルファベット四文字。それがあなたの名前?》

832ディーン『ワン・フォー・ホープ』:2019/09/29(日) 21:09:25
>>831

《『名前』か…………。ああ、そういう事になるだろうな。
 少なくとも、そう呼ばれている》

『首輪』と『リボンタイ』は、見た目の年数が一致していなかった。
『リボンタイ』の方は真新しく、ごく最近の品だと分かる。
『首輪』の方は、それよりは使い込まれたものらしい。

《『ディーン』――――それが俺の名前だ。
 まぁ呼び方はアンタに任せるが……》

自分でも無意識の内に、『あの女』の事を思い出す。
俺に名前を与えた女だ。
それは『ヨシエ』じゃないし、『ヨシエの身内』でもない。

《ただ、『チワワ』や『犬』って呼ぶのはオススメしない。
 他のヤツと区別がつかなくて、お互いに困る事になるからな》

しかし、考えるのは一瞬だけだ。
おそらく二度と会う事はない。
俺自身、会いたいと思ってるワケでもない。

《これは、『ついで』に話すんだが……。
 俺が出くわしたスタンド使いは、アンタで五人目だ。
 その中で『人型』じゃなかったのは、アンタと『鎖の男』だけ》

    グッ グッ グッ グッ グッ
                     ピッ ピッ
   
『ワン・フォー・ホープ』を軽く持ち上げる。
そこにある『五本の指』が、順番に折り曲げられていく。
そして、『二本の指』だけが元通りに伸ばされた。

《年は、アンタとそう変わらない――――ように見えた。
 とはいえ、この点はアテにはならんかもしれないが……》

《ソイツも『スタンド』について調べている様子だったな。
 『何かに駆り立てられている』というか…………。
 とにかく、大きな『動機』のようなものがありそうに見えた》

《俺からの『情報提供』は以上だ。
 その代わりといっちゃあなんだが、
 次に会った時に何か『新しいネタ』でも仕入れていたら教えてくれ》

《――――おっと、うっかり忘れる所だった。
 出会いの記念に、アンタの名前も聞いておこうか。
 『女』や『人間』じゃあ他のヤツと区別が出来なくて困るからな》

833黒羽 灯世『インク』:2019/09/30(月) 15:31:01
>>832

≪ディーン。なるほどね、私もそう読むって思ってたところだわ!
  フフッ! あえてあだ名を理由もないし、名前で呼ぶことにする≫

もちろん読めてなかったのだが、
それを確かめるすべはどこにもないのだ。

≪スタンドの形の統計は置いておいて……『鎖の男』?
  ふうん――――『学生』で、スタンドを探してるなら、
  いずれ会うかもしれないわね。ありがと、貴重な情報だわ≫

実際の所、役に立つ情報と言える。
鎖の男がどういう動機を持ってるのかは謎だが、
知っていることは、基本的にそれだけで意味がある。

                     クロバネトモヨ
≪私のことは『筆の女』じゃなく、『黒羽灯世』……
  区切りは『クロバネ』と『トモヨ』の二つだから、
  好きな方で呼んでくれていいわ、『ディーン』≫

             キョロ   ・・・

≪それで……そういえば、あなたの『飼い主』はどこにいるのかしら?≫

首輪や人間風の名前の存在からも存在しているのは明らかだが、
彼の『帰る場所』はどこなのだろう。周囲を見渡して、それらしき人間を探す。

834ディーン『ワン・フォー・ホープ』:2019/09/30(月) 19:19:29
>>833

あの『鎖の男』から、俺は『良くない匂い』を感じた。
しかし、それは言わなかった。
『先入観』を与えたくなかったからだ。
『別の視点で見る』事を重視するなら、その方がいい。
もしかすると、『別の何か』が見えてくるかもしれない。

《分かった。『トモヨ』――そう呼ぶ事にしておく。
 これで、お互いに平等だ》

俺は、物心ついた時から『檻の中』にいた。
ドライな表現をすると、『商品になるために生まれてきた』とも呼べるな。
だからどうってワケじゃあないんだ。
それについて、たまに少しだけ考える事はある。
だが、それだけさ。

《それで、俺の『飼い主』だが……『ここ』にはいない》

ある日、一人の女が俺を買った。
だけど、その女は『今の飼い主』じゃない。
なぜなら、俺を捨てたからだ。
理由は知らないが――まぁ『何か』あったんだろうな。
訳もなく捨てたんじゃないと、俺が思いたいのかもしれないが。

《今は『家』にいるからな。
 眠ってたから、俺だけで出掛けたんだ。
 次に会った時にでも紹介するさ》

《まぁ、そろそろ起きる頃だろう……。
 俺がいないと心配するだろうから、ぼちぼち帰らなきゃならないな》

近くには、『飼い主らしき人間』は見当たらない。
遠くには数人の人が見えるが、通り過ぎていくだけだ。
言葉通り、『家』にいるのだろう。

835黒羽 灯世『インク』:2019/09/30(月) 23:54:51
>>834

≪『平等』――――そうね、それで構わないのだわ。
  現にあなたは私に比肩する知性を見せてくれた。
  少なくとも、今は……『どちらが上か』決められない≫

≪それに、必ずしもはっきりさせる必要もないのだわ≫

犬に――――いや、『ディーン』に負けているとは思わない。
だが、すぐには勝ち負けを決められない。『どちらも上』だ。
犬ながらにして自身を驚かせたという、その時点から、今まで。

自分が『強者』で『上の方にいる』――――
確信があれば、他の、並び立つ強者の存在は問題ない。

≪あら、そうなのね……
  飼い主を心配させるのは、すごく良くないわね。
  次いつ会えるかは分からないけれど、約束は守るわ。
  なにか『新しいネタ』があれば教えてあげる!≫

             コト

コーヒーの容器をベンチに置いた。
いつの間にか氷が解け始めていた。話に夢中だった。

≪さあ、さあ……お行きなさい。出来たらまた会いましょう。
  この出会いはとても、とても実りがあるものだったのだわ!≫

836ディーン『ワン・フォー・ホープ』:2019/10/01(火) 01:18:13
>>835

捨てられた時は、
その事実を受け入れるのに時間が必要だった事を覚えている。
それを受け入れた頃には俺は衰弱し、
死という泥沼に半分ほど浸かった状態だった。
あまり気持ちのいい思い出とは呼べないな。
だが、それがヨシエと出会うためのプロセスだったとすれば、
そう悪くないと思えてくるんだ。
今の俺は、そう考えている。

《アンタの話は興味深かった。いつかまた聞かせてくれ。
 それに、『ゲーム』も嫌いじゃない》

    ヒョイッ

《それじゃあ、またな――――『トモヨ』》

          シュルルルルル

ベンチから飛び降り、『光の紐』が『リボンタイ』に結び直される
そして、『リボンタイ』から光が消えた。
『ワン・フォー・ホープ』が解除されたのだ。

               ――――ワォンッ

別れの挨拶代わりに、俺は一声の鳴き声を発した。
意味は伝わらないだろうが、別に大した意味はない。
人間が『別れ際に手を振る』程度のものだ。

                    トッ トッ トッ…………

背中を向け、トモヨの前から立ち去っていく。
今度は、『急に戻ってくる』というような事はない。
『帰る場所』――ヨシエの傍に戻らなければならないからだ。

837黒羽 灯世『インク』:2019/10/01(火) 11:17:10
>>836

《私の話は、いつだって興味深いわ。
 国語の作文とかもいつも点数が高い方だし……フフッ》

去っていく犬の背中に、振袖の中で小さく手を振る。
……初めて出会うスタンド使いが犬とは思わなかった。
ディーンの言葉から察するに、犬が多いわけでもないだろう。

(なかなか『上等』な体験だったと言わざるをえない。
 ああ、さっそくメモに残しておかなきゃいけないのだわ)

スマートフォンを取り出し、今日あったことを記す。
記事にするのは無理のある話だ……事実ではあるが、
大多数が受け入れられない事実は、そうは扱われない。
不満こそあるが、いまはまだ、その時では無いだろう。

(何より次につながる話も聞けた…………『鎖の男』。
 ……とりあえず、学内で鎖をジャラジャラさせてる不良とかは、
 いつも以上に気をつけておくに越したことはなさそうだわ。
 …………しまった。ほかの四人についても聞いておくべきだった!?)

全てがうまくいったわけではないが、意味はあった。
色の薄れてきたコーヒーの残りを喉に通しながら、機嫌よくメモを残す・・・

838美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2019/10/03(木) 22:42:03

          ――――キキッ

駅前にある広場。
停車したスクーターのシートに腰を下ろし、視線を落とす。
眺めているのは、
駅構内のマガジンラックに置かれていた『フリーペーパー』だ。

「大抵の事は『デジタル』が解決してくれる時代とはいえ、
 やっぱり『アナログ』も大事よね」

そのフリーペーパーはラジオ局が定期的に発行しているもので、
出演者の紹介や番組情報などが記載されている。
公式サイトやSNSアカウントもあるが、気付かれなければ意味がない。
人目につく場所に置くことで、存在を知ってもらう事が出来る。
表紙に写っているのは、パーソナリティーの一人だった。
化粧っ気のある整った顔立ちに、ラフなアメカジファッションの女だ。

「今はスマホでも手軽にラジオが聴けるし、もっと身近になるといいんだけど」

手にしたフリーペーパーを眺めているのは、
表紙の人物と『同じ顔と姿の女』だった。

839釘宮『ミュオソティス』:2019/10/03(木) 23:29:55
>>838

「……おっと」

襟のない白シャツを着た男がいた。
自然石のネックレスが胸元にあった。
フリーペーパーに手を伸ばす。

「参ったな。美作さんだ」

どうやらそちらを知っているらしい。

840美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2019/10/04(金) 00:01:26
>>839

「――――はい?」

不意に名前を呼ばれて、そちらの方を向いた。
相手の姿を見て、記憶を辿る。
顔見知りの人物だっただろうか?

(思い出せない……。同じ業界の人だったかしら?
 違う局の人なら、流石に全部は分からないし……)

目の前の相手について、しばし思考する。
顔と声を、自分の知っている人物と当てはめていく。
その中に該当する人物が、一人いた。

「釘宮さん――ですよね?」

841釘宮『ミュオソティス』:2019/10/04(金) 00:42:42
>>840

「そう、釘宮さんだよ」

「……流石ですね、よく覚えてらっしゃる」

そう言って淡く微笑んだ。
その背後にぴったりと何かがくっついている。
半透明なそれはスタンドらしい。
女性的な幽鬼がそちらを見ていた。

「お綺麗ですね。まぁ、写真よりやっばり実物ですが」

彼は自分の背後にいるものに無頓着だ。

842美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2019/10/04(金) 01:11:38
>>841

「これでもアンテナは広く持ってますからね」

「私と同じ業界の方ですよね?
 こんな場所で出会うなんて、ビックリしましたよ」

    ニコリ

「ありがとうございます。釘宮さんもステキですよ。
 ネックレスが、よくお似合いで――――」

その時、それが見えた。
まるで背後霊のような幽鬼のヴィジョン。
見た瞬間に、『スタンド』だと直感した。

「…………えっと、何のお話でしたっけ?
 ああ、そうそう。『凄く偶然ですね』っていう話で……」

「いえ、違いました。ネックレスの話でしたよね?
 その石は、どういった種類のものなんでしょうか?」

予想外だったせいで、内心は少々動揺していた。
理由は他にもある。
そのスタンドの視線に、どこか『嫉妬』めいたものを感じたからだ。

(危険は……ないわよね。
 彼は、そんな人には見えないし……)

そう思ってはいるが、不安もないではなかった。
大抵の人間は、嫉妬する相手の事を良くは思わない。
もちろん、これは人間の場合だが、
もしかすると、そういうスタンドもいるのかもしれない。

843釘宮『ミュオソティス』:2019/10/04(金) 01:43:07
>>842

「最近は同じ局で番組もしてますよ」

「……言っても曜日が違うから会うこともないですけど」

そう呟いてフリーペーパーを開く。
途中で閉じてしまったが。

「なんだったけっなこの石、ガーネット? とか、そういうのだったかな」

ネックレスを指で押し上げながら言う。
小くてゴツゴツとした石が連なっていた。

「……?」

「大丈夫ですか? なんだか、間があったような……」

不思議と男は目線を合わせずに話している。

844美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2019/10/04(金) 02:26:39
>>843

「ああ、そうなんですね?失礼しました。
 私ったら、ついウッカリしちゃって」

「まさに『灯台下暗し』とは、この事ですねえ。
 視野を広げすぎると、却って近くが見えにくくなる。
 うん、結びの言葉としては上々。
 この話、いつか使わせて頂いても構いませんか?」

同じ局なら把握してると思ってたけど、私もポカやらかしたものね。
まぁ、最近はチョット忙しかったから……。
何てのは言い訳にならないわね、反省反省。
でも、それも『ただの失敗』にはしない。
これもトークのネタになると思えば、むしろ収穫なんだから。

「いえ、少し考え事をしていたもので……。
 『ガーネット』ですか。私も、もう少し宝石の勉強をしなくちゃ。
 普段、あんまりアクセサリーらしいアクセサリーを付けない方なので」

会話を続けながら、スタンドの様子を窺う。
これが、彼のスタンドなのは間違いない。
彼が何故か目線を合わせようとしないのは、
何かスタンドに関係しているのだろうか?
そもそも、彼がスタンドを出している理由は何なのか?
そこまで考えた時、何となく『試してみたくなった』。

「まぁ、私に似合うものがあれば――――ですけどね」

不意に、肩の上に『機械仕掛けの小鳥』が現れる。
『プラン9』を発現した。
彼の反応を見たくなったのだ。

845釘宮『ミュオソティス』:2019/10/04(金) 02:39:13
>>844

「構わないですよ。私も使わせてもらおうかな」

「……いや、嫉妬されるかな?」

微笑み。
よく笑う人だった。
だがどこか遠くを見ている。

「意外ですね、結構オシャレさんなんだと思ってた」

「まぁでも、美作さんはあんまりゴテゴテ装飾品をつけるイメージもない、か……」

「素材がいいと、シンプルな方がよく映える」

褒めていても相手を見ていないのだ。

「必要なら馴染みの店を……おっと」

「……なるほど、理解した。そういうことか、パズルのピースが埋まった気持ちだ、ほんのちょっぴりだけど」

肩の上に視線を送るが一瞬で目を逸らした。
忙しなく目が動くが焦っている訳では無いらしい。

「見えるんですね、僕の『ミュオソティス』が」

846美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2019/10/04(金) 03:03:30
>>845

「ご覧の通り、普段はカジュアルなファッションが多いので。
 でも、必要があればアクセサリーも付けますよ。
 『TPO』みたいなものですね。
 たとえば、ステキな男性とロマンチックな時間を楽しむ時なんかには、
 それなりの格好じゃないとサマになりませんし」

「――『素材が良いと』というお言葉は、ありがたく受け取らせて頂きます」

    ニコリ

「ええ、そちらの彼女が見えてますよ。
 私の事は、あまりお気に召して頂けてないようですけど……」

「『恋人』が別の女性に近付くのは、確かに気になりますからねえ。
 私も、その気持ちは分かりますよ」

「あなたも私の『プラン9・チャンネル7』が見えてらっしゃるようで。
 同じ業界で同じ力を持っているなんて、随分と奇遇ですよねえ。
 そう思われません?」

(また視線が逸れた。逸らそうとしているのは確かみたいだけど)

「――――私は、そう思いますねぇ」

スクーターのシートから降りる。
そして、何気なく彼の視界に入るように歩み寄る。
別に困らせたい訳じゃない。
恋人同士の間に割り込むような趣味はないから。
ただ、何となく気になるのよね。

847釘宮『ミュオソティス』:2019/10/04(金) 13:40:37
>>846

「はは、なるほど。理解した」

「そういうものですね、確かに」

笑みには笑みで返す。

「『ミュオソティス』はちょっとばかり、私を守る意志が強い」

「この奇遇は呪いみたいなものだけど」

視界に入るように美作が近寄る。
視界内への侵入。
同時に釘宮と美作の視線の交差。
目が合った。
黒い目がそちらを見ている。

「おっと……好奇心は猫を殺す」

「分かってて近寄りましたね?」

苦笑いを浮かべながら言葉を発する。

「私の視線は太陽光線よりも危険です」

848美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2019/10/04(金) 17:12:54
>>847

「お分かりでした?アハハハ……。どうか、ご勘弁を」

悪戯っぽく笑い、キャップを取って軽く頭を下げる。
あからさまに視線を逸らされた事に対する、
ちょっとした『お返し』みたいなものだ。
大きく踏み込むつもりはない。

「私は視線を合わせてお喋りするのが好きなんです。
 よく言うでしょう?『目は口ほどに物を言う』って。
 目を逸らされてると、『嫌われてるのかな?』と思っちゃいますし」

「私も『日焼け』はしたくないですからねえ。
 肌が痛む前に身を引く事にします。
 『火遊び』は程々にしておかないと、女の『嫉妬』は怖いですから」

危険に飛び込む気はないので、彼の視界から外れる。
それからジーンズのポケットに手をやり、スマホを取り出す。
明るい黄色――『カナリアイエロー』のケースに入っている。

「――――釘宮さん、今『スマホ』はお持ちですか?
 私のは、こんな感じですねえ。『カナリア色』ってヤツです。
 ほら、そこに停めてる『愛車』とお揃いですよ」

そう言って、自分のスクーターを指差す。
スマホケースと同じような色だ。
お気に入りの色なのかもしれない。

「釘宮さんのスマホは、どんな感じなんでしょうか?
 見せて頂けません?」

849釘宮『ミュオソティス』:2019/10/04(金) 22:49:05
>>848

「私の場合は、沈黙は金なんだ。視線に関してはね」

「この仕事は黙れない仕事だけど」

視線を再び外した。
そちらを見ているようで微妙に見ていない。
焦点を外している。

「スマホなら持ってるけど」

ポケットから取り出したのは鮮やかな緑色のスマートフォン。

「ずいぶん急じゃないですか」

850美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2019/10/04(金) 23:38:15
>>849

「センスの良いお色ですねえ。
 自然を感じる色合いは、私も好きですから。
 『ビタミンカラー』なんかが特に…………」

「おっとっとっ、話題が逸れちゃいましたね。
 ほら、お互いにまだ『番号の交換』をしていないでしょう?
 忘れない内に、やっておきませんと」

『プラン9』の背中にある『マイク』を通して、
その『声』を『自分のスマホ』に送る。
同じ事を彼のスマホに対して行う事も出来た。
でも、それは『モラル』に反する行動だ。

「ハロー?あなたの『電話番号』を教えてくれる?」

《ハイ、クルミサン。『×××‐××××‐××××』デス》

本体の質問を受けて、『機械仕掛けの小鳥』が歌うように喋りだす。
ヴィジョンの口に内蔵された『スピーカー』から、言葉が発せられているのだ。
それは、『美作くるみの電話番号』だった。

「――――覚えて頂けました?」

わざわざこんな事をせずとも、普通に教えれば済む話だろう。
ただ、それでは『パフォーマー』として納得できない。
たとえプライベートな時であっても『エンターテインメント』を忘れないのが、
美作くるみの『ポリシー』なのだ。

851釘宮『ミュオソティス』:2019/10/05(土) 00:34:15
>>850

「黒とか白とか面白みがないですから」

そういう理由らしい。
案外、普通を避けるタイプなのかもしれない。

「おっと……自分から個人情報漏洩……でも、私にしか聞こえないか」

「えぇ、覚えましたよ」

自分のスマートフォンに入力し、ワンコール。
これで、着信履歴から番号が登録できるわけだ。

「僕の『ミュオソティス』はそういうのは得意じゃないから、ちょっとおもしろいですね」

852美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2019/10/05(土) 01:00:30
>>851

「もし勝手に話し出したら、それこそ大変ですけどねえ。
 プライバシーが筒抜けになっちゃいますよ。
 でも『私が聞いた事』しか喋りませんので、ご安心を」

    ニコリ

自分は『放送関係』の職業に就いている。
だからこそ、人一倍『モラル』を大事にする気持ちは強い。
『もしそうでなかったら』と考えると、ほんの少し怖い気持ちになる。

「面白がって頂けたなら『エンターテイナー』として本望ですよ。
 釘宮さんの『恋人』は……
 確かに私の『アシスタント』とは随分雰囲気が違いますからねえ」

『ミュオソティス』――『プラン9』とは明らかに異なるスタンド。
ヴィジョンが全く違うのだから、おそらくは能力もそうなのだろう。
『視線』と何かしらの関わりがあるとは思うけど。

「気になる所ですけど、深く聞くのは止めておきますよ。
 『個人情報』に当たりますから」

「それに、『後ろの彼女』の嫉妬を買うのも避けたいですし――――ね」

853釘宮『ミュオソティス』:2019/10/05(土) 01:38:04
>>852

「アンコントローラブルなものじゃなくてよかった」

心の底からそう思う。
情報社会においてそれは強すぎる。

「はは、お気遣いどうも」

「『ミュオソティス』も喜びますよ、多分ね」

自分は彼女がどんな姿をしているのかもわからない。
後ろにぴったりと張り付いているから。

「そのアシスタントも素敵ですけどね」

854美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2019/10/05(土) 02:13:00
>>853

「そう言ってもらえて『プラン9』も喜んでると思います。きっと」

    フッ

肩の上から『小鳥』の姿が消える。
そして、スマホをポケットにしまった。
着信履歴から、釘宮の番号は登録済みだ。

「ちょっと挨拶のつもりが、長い立ち話になっちゃいましたねえ。
 この辺りでお開きにしましょうか。
 お話できて楽しかったですよ」

            ザッ

そう言って、愛車であるスクーターの下に歩いていく。
イタリア製の『ヴェスパ』だ。
シートに腰を下ろし、キックレバーを軽やかに蹴り付ける。
カナリアイエローの車体にエンジンが掛かった。
ハンドルを握り、もう一度振り返る。

「それじゃあ、また――――『お二人さん』」

別れの言葉を告げて、アクセルを開ける。
軽快なエンジン音と共に、歓談の場となった駅前を後にした。
その途中で、『よく故障する愛車』がヘソを曲げたのは別の話だ。

855釘宮『ミュオソティス』:2019/10/05(土) 12:52:29
>>854

「私も楽しかったですよ、今度は仕事で会えるといいですけど」

そう言って焦点をずらしたまま美作を見送った。
他人には一人、見える者には二人。

「おっと……僕も写真を載せてもらえるくらいにならないとな」

「……その時は君には隠れていてもらおうかな」

856比留間彦夫『オルタネイティヴ4』:2019/10/05(土) 21:20:19

    ザッ ザッ ザッ

午後の通りを、人々が行き交う。
何の変哲もない日常の光景。
その風景に溶け込むようにして、『何か』が佇んでいた。

        ――――スッ

白い鎧を身に着けた一人の『兵士』だ。
胸にトランプのような『スート』が刻まれている。
見る人間が見れば、『スタンド』だと分かるだろう。

『兵士』の向こう側にはオープンカフェがあり、数人の客が座っている。
その中に、モノトーンのストライプスーツを着た男がいた。
フェドーラ帽を被っているため、表情は見えにくい。

857ラフィーノ石繭『ミスティカル・ガイド』:2019/10/06(日) 19:19:08
>>856
まゆです。変哲もない午後にいつものように通りを歩いていたら変な『兵士』を発見。
ああいうのには気づかないふりをして…

  「きゃっ」

あっ『兵士』の近くでつまづくっ。
鞄の中を地面にこぼす。『バイト誌』『パワーストーン的なブレスレット』『化粧用品』とかがこぼれちゃう。
あと、誰も反応しなけらばあたし転んじゃう。たすけてー!

858比留間彦夫『オルタネイティヴ4』:2019/10/06(日) 20:57:52
>>857

その時試していたのは『軽いテスト』だった。
オルタネイティヴ4は『実体化』している。
ゆえに、一般人にも見えてしまう。
その特性を逆に利用して、
一般人とスタンド使いの『反応の違い』を調べていたのだ。
少し待っていると、『気付かれたような気がした』。

(――――さて、彼女は『どちら』でしょうか?)

しかし、ここで予期せぬトラブルに見舞われた。
観察していた相手が倒れ掛かってきたのだ。
『兵士』は、彼女の近くにいた。
そして、そのサイズは『トランプ』程度しかない。
さらに言えば、『実体化』している。

    グォォォォォ――――

(…………このままでは潰されますね)

            ガシッ

彼女の体は、地面にぶつかる寸前の所で止まる。
地面と彼女の間に、『兵士』が立っていたからだ。
巨石の如く倒れ込む体を、両手で受け止めている。
見かけは小さいが、それなりのパワーはありそうだ。
しかし、そう長く持つようにも見えない。

(お願いですから、早めに立ち上がって下さいよ……)

椅子に腰を下ろしたまま、静かにコーヒーカップを傾ける。
だが、心の中では願わずにはいられなかった。
そうでなければ潰されてしまうのだから。

859ラフィーノ石繭『ミスティカル・ガイド』:2019/10/06(日) 22:36:22
>>858
こいつ動いた気がしたわ。気のせいかしら。
そして、あたしを支えてみせるとは見上げた根性。
よく出来たフィギュアね、気に入ったわ。

「あっ落としてしまいました…」

落としたものを拾い集める。

 ガシッ

ついでに『兵士』も掴む。掴もうとする。
 
   「『ミスティカル・ガイド』」

目に重ね合わせる形で『スタンド発現』。
『スタンド使い』から見たあたしは『目が水晶のように』なって見えるはず。
ま、『スタンド使い』がいればの話だけど。

『トランプ兵士』を鞄に入れようとしながら、周囲を見渡す。

少しでも『ストレス』を感じている人間は、今のあたしには『赤く見える』。
そういう、『スタンド能力』。
『ストレス』を感じている奴がいたら…そいつが『持ち主』かな。
そいつがこっちを見てたら、あたしと目が合うかもしれない。

そんな奴がいないなら、この『兵士』はあたしが大事に持ち帰って事務所に飾る!

860比留間彦夫『オルタネイティヴ4』:2019/10/06(日) 23:17:04
>>859

素早い動きで、有無を言わさず『兵士』を捕まえる。
掴んでみて分かったが、小さい割に力は『同等』だ。
抵抗されたら少々手を焼いたかもしれないが、それもない。

(『スタンド使い』でしたか。
 しかし、未知の相手に対して大胆というか図太いというか……)

『兵士』には視聴覚共有が存在するため、本体の目で見る必要はない。
よって、『兵士の視界』で相手の一挙手一投足を見ていた。
本体が向いているのは別の方向だ。

(何をする気か知りませんが……
 人様の『鞄の中身』を覗き見る趣味はありませんので)

    ――――シュンッ

鞄に入れようとした時、唐突に『兵士』の姿が掻き消える。
周囲を見ると、他の人間と比べて『やや赤い』人間がいた。
8〜9mほど先のオープンカフェに座っているストライプスーツの男だ。
生憎、そちらを向いてはいなかったが。
『ストレス』――その原因は『捕まった事』ではなく、
『潰されかけた』からだが、それは男自身しか知らないだろう。

861ラフィーノ石繭『ミスティカル・ガイド』:2019/10/07(月) 00:37:41
>>860
>    ――――シュンッ

えっフィギュアが消えた どういう事?ナンデ?

そして発見する『やや赤い』男。離れた場所で優雅にお茶してる。『フィギュアを落とした人』には見えない。
あれ、『兵士のフィギュア』と関係ある人間?ただ『コーヒーがマズくて苛立ってるだけの人』なんじゃあないかしら。

  「……『カード』が無いですわね」
  「どこかに飛んで行ったのかしら」
   
鞄の中を見ながら、ちょっと意味深なことを言ってみる。
言いながら、オープンカフェの方角に向かい歩く。
…チラ、とストライプスーツの男を見てみる。
スタンドは発現しっぱなしなので、目は『水晶』のまま。
 
(この女は『スタンド使い』になりたてなので、
 『トランプの兵士』=『スタンド』だとか、
 周囲に『スタンド使いがいる』という考えに至っていないのだ。
 それは比留間から見れば『大胆…というか迂闊』に見えるかもしれない。)

862比留間彦夫『オルタネイティヴ4』:2019/10/07(月) 01:14:20
>>861

(彼女は『スタンド使い』……。
 ここから『どう動くか』――気にならないと言えば『嘘』になりますね)

『兵士』は解除してしまった。
元々『三分間』しか維持できないので、
そのまま放っておいても消えたのだが……。
『視覚共有』がなくなった今、
確認するには自分の目を使わなければならない。

    スッ

上着のポケットに手を入れ、鎖付きの『懐中時計』を取り出す。
だが、目的は別にある。
ポケットから手を抜く時、同時に『ハンカチ』を落とすためだ。

          ハラリ…………

「――おっと……」

落とした『ハンカチ』を拾うために身を屈める。
その際、一瞬『兵士』がいた場所に視線を向ける。
それによって、先程の彼女の様子を確かめる。

(『クリスタル』の目ですか……。
 おそらく『能力』の一部と考えて良さそうですが……)

ハンカチを拾った時、『水晶の両目』を見た。
タイミング的に、『目が合った』かもしれない。
男は帽子を被っているため、多少の分かりにくさはあったが。

863ラフィーノ石繭『ミスティカル・ガイド』:2019/10/07(月) 01:48:55
>>862
>「――おっと……」

「あら」

『目が合った』。気がした。

「―――喉が渇いてしまいましたわ」
「少し、お茶でも―――」

先手必勝!この男を探ってみる。
道端に置いてあった『兵士』は、怪しげではあったが、『危険』には見えなかった。
『ストライプスーツの彼』にしても…ここ、日中の大通りよ?彼が『危険分子』とは思えないのよね。

オープンカフェ、『ストライプスーツの彼』の座席に向かう。隣の席に座ろうとする。
その間、『水晶の目』で彼を注視しておく。

864比留間彦夫『オルタネイティヴ4』:2019/10/07(月) 02:26:14
>>863

(『ここ』に来ましたか。『偶然』という可能性も有り得ますが……)

距離が近付いたため、男の顔がハッキリ見えた。
年齢は同じくらいで、顔立ちは優男風だ。
スーツの仕立ては良く、『堅い職業』を連想させる。

「――――こんにちは」

隣の席に座った『彼女』に対し、至って穏やかな表情で挨拶する。
同じ店に来ただけでなく、近くの席を選んだのも『偶然』だろうか?
それは気になる点ではあった。

(『何をするか』――拝見させて頂きましょう)

『水晶の目』を通して見る男の色は、『紫』に変化していた。
先程までは何かしらの『ストレス』があったらしいが、
それは解消されたようだ。
『兵士』の本体である自分に接近される事は、
『ストレス』と成り得る可能性はある。
だが、彼は『本体である事を知られた』とは考えていない。
ゆえに、現時点では、それを『ストレス』とは認識していないのだ。

865ラフィーノ石繭『ミスティカル・ガイド』:2019/10/07(月) 03:16:17
>>864
(女は、民族衣装風のロングカーディガン、色白、30過ぎくらい、といった風体だった。
 他の外見的特徴は…PLがこれから決めてくのでお付き合いよろしくお願いします…)

「ええ、こんにちは」
「お隣、失礼します」

彼の隣の席に座る。
そして顔を見て挨拶。そして彼の『温度の変化』を見る。
『知らない女』にいきなり相席されて、彼はちょっとでも『ストレス』『興奮』があるかしら。
私の人型スタンド、『ミスティカル・ガイド』の顔を、ちょっと自分からズレた位置に置く。
『スタンド』でジロジロ対象を観察。本体は、カフェのメニューでも見る。

「『ちょっとした冒険』」

   「………」

   不自然でない程度に間を置く。ストライプの彼の反応を見る。
ちなみにこの言葉に深い意味はないわ。
  状況に当てはまりそうで、どうとでもとれる言葉を適当に言っただけ。

「………………の気配を感じまして」

ここでメニューから彼に目を移し、我が顔面を彼の顔面にズイっと近づける。彼の『体温』はどうだろう。
童貞くんとかならここで顔をメチャ赤らめるんだけど。この男はそこまで反応しないかもね。モテそうだし。

「わたしのことは  『La・fino(ラ フィーノ) 石繭』とお呼びください」
「呼びにくければ、『まゆ』さん、などでも構いませんわ」

866比留間彦夫『オルタネイティヴ4』:2019/10/07(月) 03:47:09
>>865

「『まゆ』さん――その名前は、よくお似合いですよ」

(どうやら随分と『特徴的な個性』をお持ちの方のようですね……)

「『比留間』と申します。
 『見知らぬ相手と同じテーブルに着く』というのは、
 確かに『小さな冒険』と呼べるでしょうね」

(『未知のスタンド使いと相席』……確かに『冒険』でしょう)

今の所、男の『表情』にも『体温』にも変化はない。
相席された事を良いとも悪いとも思っていないようだ。
だが、先程『赤かった』事は確認している。

(さて――まずは『簡単な質問』から始めましょうか)

「『ラフィーノ』……失礼ですが、『芸名』か何かでしょうか?
 どこかで耳にしたような記憶がありますね」

『嘘』だった。
少なくとも、自分は一度も聞いた事のない名前だ。
狙いは、相手の反応から『情報』を引き出す事にある。

867ラフィーノ石繭『ミスティカル・ガイド』:2019/10/07(月) 20:28:06
>>866
こいつあたしの名前知ってんの?普通の成人男性が占い師に興味持つ?
怪しいわね、『同業者』とかかしら

 「…そのようなものです」
 「『まことの名』とも言えます」

 「『運命』に耳を傾けることを生業としていまして」

うりゃ!これで伝わるか!
要するに『アヤシイ占い師』よ!
ちなみにこの芸名は中学生のころ考えたやつを徹夜のノリで採用したやつ。
数多くあるやりなおしたい過去のひとつね。!


  「あ、いいですか」
  「アイスコーヒー、ホットコーヒー、一つずつ」
  「ミルクもつけてください」

今のうちにカフェの店員捕まえて注文もしとくわ。

868比留間彦夫『オルタネイティヴ4』:2019/10/07(月) 21:10:49
>>867

少なくとも、男の外見は『占い師』には見えない。
何かしら『事務的な仕事』に従事しているような雰囲気だ。
しかし、会社員風とは違う。

「興味深いですね。
 差し支えなければ、もう少し詳しく教えて頂けますか?」

(『運命に耳を傾ける』……ですか。
 あまり一般的な職業ではなさそうですね……)

話を聞く職業といえば、まず『カウンセラー』辺りが思い浮かぶ。
しかし、『運命』と付くと途端に胡散臭く見えてくるから不思議だ。
もっとも、だからこそ関心を引かれるとも言えるが。

「どこで名前を聞いたか思い出せるかもしれません。
 こういう事を放っておくのは、気になる性分でして」

(もう少し喋って頂きましょうか……。
 私が考えていた以上に面白い方のようですからね)

聞けなければ聞けないで構わない。
会話が続けられたなら、それで十分だ。
言葉を交わす内に、『何か』が分かるかもしれない。

869ラフィーノ石繭『ミスティカル・ガイド』:2019/10/08(火) 00:15:50
>>868
「そうですね……『カード』」
「『タロットカード』『トランプ』、『☆戯王』とかでも」


「お好きなカードで、あなたの運命、『占います』わ?」


『タロット』『トランプ』『遊☆王』の札を鞄から出して見せる。
どれも、古より神との交信に使われてきた由緒正しきカードよ!


 「わたしは、分かりやすく言うところの『占い師』です」
 「比留間さん、お好みのカードはありまして?」


ちなみにあたしの雑感だけど、
『タロット』を選ぶ奴は、頭は回るが、『占い』に呑まれやすいこともある気質。
『遊戯☆王』を選ぶ奴は…性根が小学生男児。
『トランプ』……は、『呪術的なかんじ』に欠けるんで不人気。選ぶ人はちょっと変わった拘りがある人ね。

870比留間彦夫『オルタネイティヴ4』:2019/10/08(火) 00:55:52
>>869

「――――では、『トランプ』を選ばせて頂きましょう」

確たる理由はない。
強いて言えば、自分のスタンドとの共通点からだ。
そして、占ってもらう前に確認する事が一つある。

「『見料』は如何ほどでしょうか?
 あまり現金を持ち歩かない主義ですので……」

「『カード』は使えないでしょうね?」

大抵の買い物は『クレジットカード』で済ませる事にしている。
それは別として、彼女が詐欺師か何かでない保証はないのだ。
べらぼうな値段を請求される前に、確かめておく必要がある。

(『占い』……『能力』に関わるものでしょうか?)

本体とスタンドは密接に繋がっている。
言われてみれば、『水晶』というのは『占い師』らしくもある。
その職業も、『能力』との関係がないとは言い切れない。

871ラフィーノ石繭『ミスティカル・ガイド』:2019/10/08(火) 01:30:50
>>870
この男丁寧ね。『占い?ちょっとやってみせてよ』とかいうタイプじゃないのは好感が持てる。

「お代は結構ですわ」
「わたしが勝手にやっている事ですし」
「どうしてもというなら、ここのお勘定を払っていただく、などでも」

ま、代金はいらないわ。今日のこれは『スタンド』の試運転も兼ねてやってるのよね。
トランプの束をテーブルに置く。

  「比留間さん、『お悩み』などはおありですか?」

店員から受け取ったホットコーヒーを片手に、話を促してみる。

(ちなみにこの女は、店員が持ってきた『ホットコーヒー』『アイスコーヒー』を両方自分の前に置かせた。
 店員は不思議そうにしていた。)

872比留間彦夫『オルタネイティヴ4』:2019/10/08(火) 01:58:02
>>871

「それを聞いて安心しました。
 プロの方に対して『無料で』というのも失礼ですし、
 ここの支払いは私が持ちますよ」

(『それに見合うだけのもの』を見せてもらえるなら、
 払う価値はありますからね)

「『悩み』ですか……」

(なるほど――『占い』の『常套句』という所ですね)

基本的には、悩みの全くない人間はいないだろう。
探せば一つや二つは出てくるものだ。
最初の言葉として、これほど相応しいものはそうそうない。

「……そうですね。幾つかあるのですが――」

考え込む素振りを見せる。
これといって思い浮かぶようなものはなかった。
しかし、だからといって『何もない』と言ってしまってはつまらない。

「ここ最近、両親に『結婚の話題』を出される事が多くなりまして。
 生憎まだ予定がないもので」

「――――今の一番の悩みといえば、それでしょうか?」

実の所、結婚を急かされているというような事実はない。
つまり、これも『嘘』だ。
だが、その真偽を確かめる術はないだろうと考えた。

873ラフィーノ石繭『ミスティカル・ガイド』:2019/10/08(火) 02:14:55
>>872
(PLより:すみません、差し支えなければ、『悩み』の話をしているときの比留間PCの『体温の上昇』具合を観察していたことにできないでしょうか…?)

874比留間彦夫『オルタネイティヴ4』:2019/10/08(火) 02:26:38
>>873

『水晶の目』で男――比留間の『体温』を観察する。
その状態は、依然として『紫』のままだ。
『悩み』の話をしていれば、
少しは『変化』があっても不思議はないかもしれない。
しかし、全く『変化』が見られない。
単に、実際は『些細な悩み』だとも解釈できるが……。

875ラフィーノ石繭『ミスティカル・ガイド』:2019/10/08(火) 03:06:23
>>874
おかしくない?この年代の男が結婚の話をそんな平然とできるものかしらね。
ちなみあたしに『婚活』の話をさせたらきっとストレスで顔真っ赤っかね。アラサー独身の悲哀なめんなよ。

 「なるほど、では、簡単な『恋愛』の占いをいたしましょうか」

コーヒーカップを右手に強く持ち、コーヒーをすこし飲む。

    「…では、始めましょう」

トランプの札を表にし、テーブルに広げる。
左手で『ハートのカード13枚』右手で『ジョーカー1枚』を取り出し、比留間に見せる。
計十四枚を、混ぜ合わせ、手早くシャッフル。そして、『いちばん熱いカード』がてっぺんに来たら、シャッフルを止める。
私の『ミスティカル・ガイド』は、一度にも満たない温度差を判別することができる!

ふふふ…この状況で、いちばん温度を持ったカード……それは、
『ホットコーヒーのカップを持っていた右手』で触れたカード!

  「数字が大きいほど、『ラッキー』です。」
  「では、カードを引いてみてください」

比留間が引くカードは――――――『ジョーカー』よ!

(ちなみにこの間、『水晶の目のスタンド』がトランプの束を食い入るように凝視していのが、
 比留間には見えている。明らかにこの女アヤシイ、と気づくことができる…。)

876比留間彦夫『オルタネイティヴ4』:2019/10/08(火) 03:29:21
>>875

「――――…………」

(『スタンド』で何か仕込んでいる……という訳ですか)

当然、それが『何なのか』までは分からない。
だが、『スタンドの目』で見ている事は確かだ。
そして、彼女のスタンドは『水晶の目』を持つ。

(事実を考え合わせれば、その辺りに秘密がありそうですが……)

「では――――」

    スッ

現れたのは『ジョーカー』だった。
ゲームによっては『最高のカード』にも『最悪のカード』にもなる。
ゆえに、解釈が難しいが……。

「……『ジョーカー』には『数字』がありませんね。
 申し訳ありませんが、『解説』をお願いしても宜しいでしょうか?」

(『仕込み』なのは明らか――もう少し突っ込んでみますか……)

カードをテーブルに置いて、『ラフィーノ』に問い掛ける。
どのような返答を返してくるか。
それも一つの『参考』にはなるだろう。

877ラフィーノ石繭『ミスティカル・ガイド』:2019/10/09(水) 00:38:38
>>876
目論見通り、『ジョーカー』が出た。

 「わあ、特別な札が出ました。ラッキーてすね」
 「………と言えば、あなたは喜びますか?」

ここで、比留間とまた目を合わせ、顔を近づける。

 「恋愛運なんて、比留間さんには『重要ではない』、そういう事です」
 「あなたには、『本当の想い』がある」「違いますか?」

この職業で大事なのは、『私は貴方を見通している』、というアピールだ。
さあ、どう反応するかしら?あたしは性格が悪いので、こういう会話でマウントをとるのが好きなのだ。

878比留間彦夫『オルタネイティヴ4』:2019/10/09(水) 01:09:34
>>877

「なるほど――そういった解釈は思い付きませんでしたよ」

(『占い師』としての腕前は定かではありませんが、
 少なくとも『話し相手』としては優れた方のようですね)

「さすがに『プロ』の方の言葉は含蓄がありますね。
 まるで全てを見通されているようです。
 不思議なものですね」

(では――『これ』はどうでしょうか?)

現在、会話のイニシアチブは彼女に傾いている。
上を取る気はない。
むしろ、その『逆』をやる。
こちらが選ぶのは『更に持ち上げる』事だ。
そうする事で、『次の質問』に答えざるを得ない状況を作り上げる。

「確かにおっしゃる通りかもしれません。
 自分自身でも、まだよく分かっていないのですが……。
 言われてみれば、
 心の中に『何か特別なもの』があるような気がします」

「――――『それ』が何か、お分かりになるのですね?」

あたかも、
『彼女には全て分かっている』という前提で質問を投げ掛ける。
表面的には、相手の力量に感心しているように装う。
それは、相手の出方を窺うための手段だ。

(『分からない』と言うか、
 それとも『曖昧な言葉』ではぐらかすか……。
 お手並み拝見といきますか……)

879ラフィーノ石繭『ミスティカル・ガイド』:2019/10/09(水) 01:45:43
>>878
反応が来たわね。ここからは『占い師』特有の『それっぽい事を言う』段階よ

 「あなたは…ええ」
 「非常に冷静です。人から一歩離れた位置にいようと心がけている。」
 「世間というものにそこまで乗り気ではない。恋愛にしたって、そうでしょう?」

 「その一方で、好奇心が強い一面があり、あなたはその目でしっかり人を見ている。」

いかが?

 「『遊び心』ですわね、あなたには、それがある」
 「現にこうして、私で『遊んで』いる。違いまして?」

成人男性の『占い』にたいする心情など、だいたいこんなモノだ。
昼間からシャレオツに決めて一人で茶をしばく、知的な雰囲気の男性。
いきなりやってきた占い師に対しては嫌な顔をせず、会話を楽しむ。
人から距離を置くが、人間嫌いではない。『比留間』は、こういう人ね。エリートタイプ。


  「―――世界というのは、一種の『ゲーム』だ」
  「はい、私に続いて言ってみてください」
  「世界というのは、一種の『ゲーム』だ」

  「 『世界というのは、一種の『ゲーム』だ』 」

とりあえずそれっぽい事を言わせてみる。言わせて、比留間の反応を見る。
これは、彼がこの言葉を肯定的に反応するか、嫌悪感を示すか、それを測る『リトマス紙』のような言葉だ。

この間も、『ミスティカル・ガイド』は観察を続ける。大きな水晶の瞳で、比留間の顔を覗き込む。

880比留間彦夫『オルタネイティヴ4』:2019/10/09(水) 02:17:32
>>879

「『世界というのは一種のゲームだ』」

表情を変える事なく、言われた通りの言葉を繰り返す。
比留間彦夫の何よりの楽しみは『嘘を吐く事』だ。
見方を変えれば、『遊び心』と言えなくもない。
そのせいか、『体温』は若干上がっていた。
無論『ミスティカル・ガイド』にしか分からない程度の違いだが……。

「いや、参りましたよ。
 確かに、そんな気質があるのかもしれません」

「私の完敗です。あなたは大した方だ」

    ニコリ

こちらが取るのは――『負けを認める』事だ。
たとえば、自分が『殺人犯』で相手が『刑事』なら、こうはいかないだろう。
相手に腹の内を知られないように隠し通す必要がある。
しかし、この『ゲーム』には負わなければならない『リスク』などないのだ。
ゆえに、一本取られたとしても痛くも痒くもない。
それに、『本当の部分』が知られる筈もないのだから。
だからこそ、こうして『やり取り』を楽しんでいられる。

「おっと――そろそろ『事務所』に戻りませんと。
 まだ片付けなければならない書類が残っているもので」

「支払いは私が済ませておきますので、どうぞごゆっくり。
 お蔭様で、非常に『有意義な時間』を過ごせましたよ」

    ガタッ

穏やかな表情で一礼し、椅子から立ち上がる。
その『体温』は、今は『紫』に戻っていた。
ふと、レジの方へ向かいかけていた足が、途中で止まる。

「そうそう……『どこで名前を聞いたか思い出せるかもしれない』と言ったでしょう?」

「――――今、思い出しましたよ」

881ラフィーノ石繭『ミスティカル・ガイド』:2019/10/09(水) 02:31:04
>>880
む、体温上がってる。ストレスかしら、興奮かしら。
このへんは『ミスティカル・ガイド』じゃあわからないから、私の技量を磨いていく必要があるわね。
この男、表情から本心が読みにくい雰囲気なのよね。

 「そう言っていただけると何よりです。」
 「私としても、この出会いは…あなたの言葉を借りるなら、『有意義』でした」

『スタンド』の試運用ができたしね。本業にいきなり投入ってわけにはいかないもの。
道行く人間で試せたのはラッキーだったわ。
彼、今後『占い』に来る性格とも思えないし、後腐れなくテストができたってわけよ。

 「ご馳走になりますわ」
 「この出会いに感謝を。
  そして、あなたの『遊び心』に幸が有ることを、私が約束いたします」

コーヒーを口元に運ぶ。いやあ、無辜の市民を弄ぶのは楽しいわねーーーッ!

882比留間彦夫『オルタネイティヴ4』:2019/10/09(水) 02:46:45
>>881

「数日前、うちの事務所の女性が何人か、
 あなたの事を話していましてね。
 あなたの名前を出して、
 『インチキ』だの『イカサマ』だのと罵っていたんですよ。
 全く『酷い誤解』ですよね」

「彼女達には、私の方からハッキリと伝えておきますよ。
 『ラフィーノ石繭は決してインチキやイカサマなんかじゃない』とね」

当然、そんな話など聞いてはいない。
そう思っているのは、他ならぬ『比留間自身』なのだから。
だが、『本当の部分』を知る術はないのだ。

「それでは――――『良い午後』を」

    ニコリ

優男風の顔に穏やかな微笑を浮かべて、彼女の前から立ち去っていく。
『ノーリスク』とはいえ、ただ負けを認めるのもつまらない。
だからこそ、最後に置き土産を残していく事にしたのだった。

883ラフィーノ石繭『ミスティカル・ガイド』:2019/10/09(水) 03:02:59
>>882
「ぶーーーッ!?」「熱っ あっっつ !!」

コーヒーを口から噴き出す。
目を白黒させながら比留間を見る。
マジか。こいつ。
 
   「マジか」
   「あ、いえ…えっと、ごきげんよう」

良い性格してるわ。人生楽しんでる系男子ね。
…二度と会いたくないわ。

  「(ま、敗けた…)」

去り行く優男の背中を見ながらそんなことを思うまゆでした。ごきげんよう。

884ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2019/10/27(日) 23:44:24

夕刻の大通りに『一人の女』がいた。
背中に『天使の羽』を思わせる羽衣が備わり、
両腕は『羽毛』で覆われている。
踵の辺りには『蹴爪』が生えていた。

「お集まりの皆様――その目と耳で、ご覧下さいませ。
 どうぞ『瞬き』は控えめに」

    「♪♪♪」

         バササッ

       「♪♪♪♪♪」

              バササササッ

             「♪♪♪♪♪♪♪」

                     バササササササッ

女が『鳥のような声』を発すると、付近の『野鳥』が集まってきた。
ハトやカラスなど、種類は多種多様だ。
その鳥達が、女の指示に応じて周囲を飛び回って見せる。
まるで、巧みに飼い慣らされているかのような動きだった。
これが、この『ビジネス』のメインなのだ。

「――――本日はここまでです。またお会い致しましょう」

「それでは皆様、ごきげんよう」

観客の『人間達』に挨拶し、撤収の準備を始める。
といっても、今日の分の『稼ぎ』をしまうだけなのだが。
小銭ではあるが、それなりの額が集まった。

(『人間社会』に溶け込んで『知識』と同時に『食い扶持』も得られる。
 我ながら優れたアイディアですわ)

彼女は『ハーピー』と名乗っている。
『鳥人を模したコスチューム』に身を包み、
『鳥とコミュニケーションする技能』を駆使して、
街頭で『ショービジネス』を行っているという話だ。
メディアからの取材依頼もあるものの、それらは全て断っており、
素性やプライベートは一切が謎に包まれている。

(まさしく『一石二鳥』ですわね。
 この言葉の『字面』は、少々不愉快ですけれど)

その正体は『ハゴロモセキセイインコ』である。
彼女の名は『ブリタニカ』。
『自由』と『知識の追求』のためにブリーダーの下から脱走し、
野生化して今に至る。

885日沼 流月『サグ・パッション』:2019/10/30(水) 03:46:42
>>884

「超ウケる! この辺こんないっぱい『鳥』いたんだ!」

『野鳥』達と『ビジネス』を見せていた時、
そこから少し離れた『コンビニ』の前で、
たむろしていた人間の一人が声を上げていた。

「ちょいちょい、待って! にへへ……そんな時間取らないからさ」

・・・そして芸を終えた今、立ち上がって寄ってきた。
何か話していた彼女らの中で、代表するように。

「『ハロウィン』の人かと思ってみてたんだけど!
 お姉さんさァ〜〜〜、『何者』!?
 もしかして…………『大道芸人』ってやつ!?」

これは、どういう人間なのだろうか?

「てゆーかさ! その衣装すごいね。なんかのマンガのキャラ?
 衣装ってか『本物』みたいなクオリティ……ぷぷっ、それはないか」

           イヒヒッ

金とも銀とも言えない、流れに逆らう束が幾つもある長髪。
そして鳥にとっては吉兆とは言えなさそうな、猫系の顔立ち・・・

とにかく、そのような人間がブリタニカに、軽い調子で話しかけたのだった。

886ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2019/10/30(水) 07:08:13
>>885

「茜色の秋空を彩る『翼のショー』はお楽しみ頂けましたか?
 それは何よりでした」

やや芝居がかった口調で、丁重に挨拶する。
観客に対しては平等に応対する事にしている。
『見物料』とは関係ない。
払うかどうかは、あくまで個人の自由なのだ。
もっとも、『収益』によっては『場所』を変える事はあるが。

「『ハーピー』とお呼び下さい。
 ご覧頂いた通り『パフォーマー』を生業としております」

「――――『パフォーマー』」

実際の所は、別にどちらでもいいのだ。
ただ単に『響き』の問題でしかないのだから。
だが、『ビジネス』において『言葉の響き』は重要な要素となる。
何より、この『ブリタニカ』は『言葉のチョイス』にはうるさい方なのだ。
平均的な『人間』と同じか、それ以上には。

「ええ、もちろん『本物』ですわ。私は『ハーピー』ですからね」

            フフ

どこかミステリアスな笑みを口元に浮かべ、平然と答える。
『人間社会に溶け込む方法』を考えた時、
最終的に行き着いたのは『目立つ事』だった。
普通の状況であれば、この格好は『非常に目立つ』。
下手に隠そうとすればするほど、却って周囲から浮いてしまうのだ。
それならば、いっそ自分から目立ってしまえば良い。

「だからこそ、こうして鳥達と『コミュニケーション』を取れるのですよ」

『パフォーマー』であれば、注目を集めるような格好をしていても、
何ら不思議はない。
むしろ、『そうするのが当然』と言っても良いだろう。
だからこそ、目立つ格好をしていても『逆に目立たない』。
あえて『本物』と答えるのも『誤魔化すより良い』と思っているからだ。
大抵の人間なら、それも『演出の一環』だと受け取ってくれる。

887日沼 流月『サグ・パッション』:2019/10/31(木) 09:24:49
>>886

「ん、超ウケた。タネとか全然分かんなかったし!
 まぁタネが分かったら分かったで『逆に』ウケるけど」

「てかハーピーってさァ〜、『外国の妖怪』でしょ?
 ヤバ、流月『妖怪』って初めて見たかも! ぷぷっ……」

演出に本気で騙されているのか?
そうなってもおかしくはないだろう。
なぜなら、演出は『本物』なのだから。

それともそういう『ノリ』なのか?
真剣味に欠けているのか、これで真剣なのか……

「でも妖怪でも『お金』は使うよね?
 『パフォーマー』としてお仕事してるワケだし!
 でさ。流月らさァ〜、さっきからあそこで」

      スッ

指差す先は、コンビニ前の集団だ。

「見てたんだケドさ。タダ見みたいになってるじゃん?
 それはどうなのかな〜〜〜〜って思ったんだよね。
 だからコレ。流月が代表して払いに来たってワケよ」

「にへ、どれくらい渡すモンなのか分かんないけど……ホラッ」

       ジャラジャラ

ポケットから取り出したのは、百円硬貨が六枚ほど。
数えてみればあの集団+彼女の人数も六人。一人百円だ。

888ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2019/10/31(木) 18:26:07
>>887

『人間界』に溶け込む上で解決すべき問題は色々とあるが、
その中でも『食料』が占める割合は大きい。
この『ビジネス』を軌道に乗せるまでには、多くの苦労を重ねてきた。
『人間』について研究して『方法』を模索し、
『出演料』を交換条件にして『同族達』の協力を取り付け、
こうして一定の評価を得るまでには手間と時間が必要だった。

「ええ、仰る通りですわね。
 たとえ『人外』の身でも、
 『人の世』で生きるには『対価』が必要ですもの」

観客の内の何割かが払ってくれれば、この商売は十分に成り立つ。
しかし、出されたものを拒む理由もない。
羽毛に覆われた両手で、足元に置かれたアタッシェケースを開く。
ちなみに、これは『拾い物』だった。
まだ使えるというのに勿体無い事をするものだ。

「その『お気持ち』――ありがたく頂戴致しましょう」

少女の前に、ケースを差し出す。
六枚の小銭を見て、反射的に考えた。
最も安い『シード』ならギリギリ二袋、
一段階ほどグレードが上がれば一袋といった所だろう。

「『♪♪♪』」

「『鳥の言葉』で『ありがとう』という意味ですわ。
 お仲間の皆様にも感謝を申し上げます」

正確にいうと少し違うのだが。
何しろ全くの『異種族語』なのだ。
いかに『バイリンガル』であっても、完全に訳し切るのは難しい。

889日沼 流月『サグ・パッション』:2019/10/31(木) 23:55:32
>>888

そんなブリタニカの努力など知るよしもなく、
食費となるコインをケースに収めていく少女。

「みんなにも伝えとくわ!
 鳥もありがとうって言ってたって……ぷぷ。
 てゆーかさ、今の声喉のどっから出てきてんの!?」

      「ピピッ!」  「出ないし!」

「その声出せたら流月も鳥呼べるのかなァ〜ッ。
 別に呼んで何がしたいってワケでもないケド。
 でもむしろ、何かしたいって思って呼ぼうとしたら、
 邪念! みたいなの伝わって『逆に』来なさそうだし?」

などと言いつつ、六枚目を入れ終えた。
六百円。彼女らには『大きな金額』ではないが、
それなりの食糧が買える額だ。鳥ならば、なおさら。

「んじゃ……流月あっち戻るね。
 ハーピーさんはいつもこの辺で芸やってんの?
 流月らはいつもこの辺にいるわけじゃないけどさ」

「また見かけた時のために『おひねり』用意しとくわ」

特に止められないなら、そのまま集団の方に戻る。
元よりソレを渡しに来ただけで、深い用事はなかったのだ。

890ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2019/11/01(金) 01:08:57
>>889

「『鳴管』からです。『声帯』と同じような器官ですわ」

インコが『人語』を発話できる理由は、
体内構造に人と共通する部分を持つためだ。
鳥類共通の発声器官である『鳴管』に加えて、
インコの舌は分厚く発達し、先端が丸くなっている。
これは人間の舌と似通っており、
それによって巧みな発声を可能にしているのだ。
もっとも、それは『一般的なインコ』の話。
『ハロー・ストレンジャー』の能力は、『更に先』を行っているのだから。

「そうですね。
 そのような声を上げられますと――――
 『ピッ!』という声が返ってくるのではないでしょうか?」

「『細切れに鳴く』のは『対象に注意を向けている時』ですの。
 『警戒』という程ではないですが、『緊張』している状態ですわ。
 それでも近付いてくるというのは、かなりの『反逆児』ですわね」

短く『鳥の声』を発声してみせる。
そして、ケースをパタンと閉じた。
いつもの店で『鳥用フード』を買って、
『出演者達』に『出演料』を配らなければならない。

「ここ以外にも色々な場所で披露しております。
 もし見かけた際は、是非お立ち寄り下さい」

「それでは失礼致しますわ。
 流月さん――――また何処かでお会い致しましょう」

謎めいた微笑と共に『礼』をする。
人間の文化や習慣を覚える必要がある。
単なる模倣ではなく、真に理解しなければならない。
それこそが知識の収集であり、知性の追求なのだ。
そのような事を考えながら、演技の場を後にした――――。

891日沼 流月『サグ・パッション』:2019/11/01(金) 01:42:51
>>890

「『鳴菅』! かァ〜、流月にはそれ無いわ。
 カラオケとかで『声真似』するのは、
 得意ってほどでもないけど出来るんだけどな〜ッ。
 んで、ハーピーさんはソレを持ってるってワケね!
 やば! それほとんど『鳥の仲間』ってことじゃん!」

       ケラケラ

仲間というか、『鳥』だ。
が、当然それを知るはずもない日沼は笑っていた。

「しかも鳥にめっちゃ詳しいし!
 ウケるね、鳥にも『反逆児』とかあるんだ。
 までも、群れとか作ったりするならあって普通かも」

「逆らいたくなるってのはさ」

日沼は、空をなんとなく見上げていた。
本当になんとなく……そこに鳥はいない。
いることを期待していたが、外れて良かった気もした。
期待通りばかりが良いことではないのだ。

「んじゃ、またねハーピーさん!
 今度はできれば、最初っから近くで見とくね!」

手を振って、同じくその場を離れて『群れ』へと戻る。
日沼もまた、『桜裏悲鳴』という群れの中にある。
そして……群れそのものが『反逆児』の集合であり、
その中でさえ、気に入らない『流れ』には『反抗』する。

ある意味では、人間社会の模倣には向かない。
ある意味では、人間の真の模倣には近付ける。
そうした存在との邂逅だった…………の、かも? しれない?

892日沼 流月:2019/11/01(金) 02:26:21
>>891(メール欄抜けてました)

893エマ『ソルトフラット・エピック』:2019/11/23(土) 23:47:03
古ぼけたキャリーバックを転がし、キョロキョロと見渡しながら商店街を歩いている。
中東系の女性で、服装も少々年季が入っている……端的に言えばボロい。おまけに半袖だ。
端から見れば、バックパッカー……以前に、ホームレスと見間違えるかもしれない。

「……クシュンッ!」

「……寒い」

894ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2019/11/24(日) 00:17:18
>>893

(あれが、いわゆるホームレスと呼ばれる人間でしょうか。
 初めてお目に掛かりましたわね)

鳥のような格好をした女が、そちらを見ていた。
詳しく言うと、背中には『羽』が備わり、両腕は『羽毛』で覆われ、
踵に『蹴爪』が生えている。
前髪をポンパドールにした長髪は、白と青と紫のトリコロールだ。
肩には、一羽の鳥が留まっていた。
ハトのようだ。

「その話は、また後で――」

「……あら、違いました」

「 『♪』 『♪』 『♪』 」

女が鳥のような声を発すると、ハトは飛び去っていった。
言葉が通じるのだろうか。
ともかく、女は引き続きエマを眺めている。

895エマ『ソルトフラット・エピック』:2019/11/24(日) 00:38:38
>>894
              バサッ バサバサッ

「鳩 だ……」

羽ばたく音に気が付いて、鳩のほうへと目を向けた。
そしてそのまま、偶然に目線を落としていき…ブリタニカの方へ意識が向かった。

 ・・・・・・・・?

   パチパチパチ
           クルッ パッ クルッ…パッ

         グググ・・・・・・グイッ 

その姿を見て少し動きが止まり……瞬きを数回、一度目をそらして再度元に戻すこと2回。
鳩が飛んで行った方を見て、再度視線をブリタニカへ向けること1回。
こちらを優雅に眺めるブリタニカは、この浮浪者のような女と目と目が合うことだろう、
そしてこう口走っていることは理解が行くはずだ。

「鳥 だ……」

896ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2019/11/24(日) 00:54:40
>>895

「あら――――」

実の所、『鳥だ』という言葉は真実を指していた。
自らのスタンドを駆使して人間に化けているが、

   ストレンジャー
この『妙な女』の正体は『ハゴロモセキセイインコ』である。
だが、ブリタニカは動揺しない。

    スタスタスタ

軽やかな足取りでエマの方へ歩いていく。
ほどほどに近い距離まで。
そして立ち止まる。

「失礼、私は『ハーピー』と申します」

「そう、『ご覧の通り』です」

正体を知られたとは考えない。
正体の秘匿には細心の注意を払っているのだから。
だから、『鳥だ』と言われても落ち着いていた。

「先程くしゃみの音が聞こえたもので、
 そちらに目を向けてしまいました。
 お気に障ったのなら謝りましょう」

897エマ『ソルトフラット・エピック』:2019/11/24(日) 01:20:12
>>896
「あ …ごめんなさい ハーピーさん」

  ペコォ

口元を手で抑えて、まずはブリタニカへ謝罪の言葉を口にした。
当然といえば当然だが、まさか目の前の『人の女性の形をしたもの』が人間ではない、だなんて
露ほども思っている様子はない。

「実は 最近この街にやってきた ばかりで
 服もあまり持っていなくて 住む場所とかも……」

近づいたブリタニカには解るだろうが、浮浪者……というには小奇麗である。
野良犬を干したような『エグみ』のある体臭もなく、服も着古したものではあるものの、
汚れなどが目立った様子はなかった……どうにも、チグハグとしている、と思うかもしれない。


「…… くしゅん!」

「… うう」

また1つ、抑え目ながらもくしゃみをして見せている。

898ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2019/11/24(日) 01:47:15
>>897

一方のブリタニカからは、『独特の香り』が漂っていた。
ナッツを齧った時に立ち上る香ばしい香りのような、
あるいは焼きたてのパンやバターのような、
もしくは天日干しされた洗い物に付いた太陽の匂いのような……。
このインコ特有の香りは、一部の人間達から『インコ臭』と呼ばれ、
こよなく愛好する者も数多いらしい。

「それはそれは…………」

「大変なお気持ちは、よく分かりますわ」

住処がないのは大きな問題だろう。
ブリーダーの下から出奔したブリタニカには、
その気持ちが何となく分かるような気がした。
家や食料を得るまで、自分も苦労してきた。
その甲斐あって、現在のブリタニカは複数の『隠れ家』を所有している。
街のあちこちに、密かに『巣箱』を設置しているという意味だ。

「いかがでしょうか?『お茶』でもご一緒に」

「丁度あちらに店があるようですし」

指差す方向には一軒のカフェがあった。
少なくとも、ここよりは暖かい。
本体である自分は、外気から隔絶された最適な環境にいるのだが。

(これも『知性』を深める経験になるかもしれませんわね)

相手は珍しい種類の人間のようだ。
このまま別れてしまうのは惜しい。
それに、何となく親近感を覚えてもいた。

899エマ『ソルトフラット・エピック』:2019/11/24(日) 02:08:30
>>898

 スンスン……

小さく、失礼にならない程度に鼻を鳴らす……変わった臭いだ、と思った。
鳥のような匂いと聞かされれば納得するだろう。
尤もそれは、目の前の人の正体が鳥である!という事実への理解というわけでなく、
羽をふんだんにあしらった衣服によるものだという認識によるものだが。

「クシュン! はい ぜひ……!
 ……カフェが あるんですね この街にも」

ブリタニアの誘いに、エマはクシャミと笑顔で頷いた。
そしてそれはもう、食いつかんばかりに頷いている。
半袖なのは暑がりなのではなく、本当にそれしか服の手持ちがないのだろう。と、察することが出来る。

「いろいろと 街のことを 教えていただけませんか?
 人と話すのは久しぶりで …ハーピーさんさえ よかったら ぜひ」

900ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2019/11/24(日) 02:33:51
>>899

「ええ、勿論。
 よろしければ、あなたの事も聞かせて頂きたいですわ」

生憎ブリタニカは『人』ではなかったが、それは今は問題ではない。
『コミュニケーション』として、こちらも笑い返す。
飛行のために『表情筋』の退化した本来の自分には出来ない芸当だ。

「私も他所から来た者ですの。
 最初は住む場所もありませんでしたが…………。
 今は何とかやっております」

「そうそう――まだ名前を伺っておりませんでしたね。
 何とお呼びすれば宜しいでしょう?」

先に立って歩き出し、ほどなくしてカフェの扉を開いて店内に入った。
ブリタニカの風貌を見ても、店員や客は特に驚いた様子を見せない。
この辺りは稼ぎが良いため、よく『仕事』で来ている。
だから、彼らも見慣れてしまっているのだ。
慣れというのは恐ろしい。

「――――『カプチーノ』を一つ」

メニューを一瞥し、オーダーを出す。
鳥の身では飲めないが、『ハーピー』なら別だ。
そして、改めてエマに向き直った。

「街について……でしたわね。何をお話しましょうか?」

901エマ『ソルトフラット・エピック』:2019/11/24(日) 02:52:47
>>900
     キョロ
          キョロ・・・
ブリタニカと共に入店し、そして……店員が驚かないことに軽く驚愕した。
軽く周囲を見渡す。ともすれば挙動不審とさえ見受けられかねないが……
やはり、ブリタニカの姿を見て驚く人はいなかった。

               ジリッ・・・

「ひょっとして 私の認識の方が間違ってる?
 この街ではこれが普通? 
 食屍鬼街にも似たような格好の人はいたけど……案外これは ポピュラー?」

    グッ

頭を少し抱えたそうな素振りを見せたが、さすがにそこは我慢してブリタニカと共に席に着いた。
メニューを広げ……目を丸くする。

    パララ・・・・
          パラララララ・・・・
                          ・・・・パタ・・・・・

「み 見たこともないようなものが……
 たくさん種類がある……! 
 え えーと ……お 同じものを」

数分程度メニューを眺めていた……が、端から見ても解るだろう。
どんな品物が出てくるのかが解らない様子だ。
何の知識もない人間が、薬剤師の免許がないと処方できないような薬のリストを見せられたときのような反応といえるだろう。
結果、エマはブリタニカに合わせることにした。

   パタン・・・

「あ ごめんなさい 名前をまだ…
 私は エマです エマ・ティファニー 
 最近 この街にやってきたんです ……移住というか 引っ越しのために」

それで、と小さく前置きをして

「働く場所とか 住む場所とかを探していて……
 でも どうやって探せばいいのか 解らなくて
 なかなか人に 声もかけられなくて…… ハーピーさんと こうやって話をしたのも
 それこそ 数年ぶりくらいかも……」

902エマ『ソルトフラット・エピック』:2019/11/24(日) 03:10:30
>>901

903ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2019/11/24(日) 03:18:44
>>901

『食屍鬼街』――――何やら不穏な名前が聞こえてきた。
どんな場所かは知らないが、そこからやって来たのだろうか。
ともかく、人と人の姿をした鳥との会話は続いていく。

「エマさんとおっしゃるのですか。
 失礼ですが、他所の国からいらっしゃったようですわね」

鳥から見ても、この国の人間でないのは察せられた。
人間の中には、髪の色や目の色を変える人間もいる。
だが、そういった人間とは雰囲気が違う。
そのエキゾチックな印象のせいか、エマを意識する者もいるようだ。
普通なら、むしろブリタニカの方こそ目立つ筈なのだが。

「『数年ぶり』とは随分と長いようで……。
 色々とご苦労がおありだったようですね」

「住む場所や食い扶持に関しては、私も苦労して参りました。
 ご参考になるかは分かりませんが、
 私の『仕事』についてお話致しましょう」

「私は『ストリートパフォーマンス』で生計を立てております。
 具体的には『鳥とのコミュニケーション』ですわ」

    ズズ

「鳥と対話をして、
 道行く人々に『パフォーマンス』を披露していますの」

運ばれてきたカプチーノに口をつけながら、自身の仕事を語る。
より正確な表現をするなら、
『同族』である野鳥達の協力を得ているのだ。
無論タダではなく、収益の一部で『鳥用フード』を購入し、
報酬として現物支給するというシステムを構築している。

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906エマ『ソルトフラット・エピック』:2019/11/24(日) 18:17:47
>>903
あまり見ない外見なのは間違いがない……
少なくとも、星見の外からやってきた人間であることは間違いがなかった。
その容姿や服装からしても、ブリタニカの言う通りそれなりに人の目を集めているのだが、
幸か不幸か、エマはそのことをあまり意識はしていなかった。
……いや、気が付いているのだが、自分がそう見られているとは思っていない、といった具合か。

   スッ……   ペチペチ
               ・・・・…ズズ……

運ばれて来たカプチーノを口に含みながら――
―― ひとしきり、そのカプチーノの外見を物珍しそうに観察し、
初めて見る昆虫に触れるような手つきでカップに触れて温度を確かめ、
確かめるようにしてゆっくりと―― ブリタニカの話を聞き、ふんふん、と頷く。

「鳥とのコミュニケーション…… 『パフォーマンス』 ですか!
 なるほど だから そんな鳥みたいな格好をしているんですね」


   ポン      

合点がいった、と手と手を合わせて軽く音をたてた。

「この街の 流行の服だったりするのかなとか 思ったんですけれど
 私の前に居た場所…… そこでも いろいろな格好をした人が いたんですが」

907ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2019/11/24(日) 20:17:04
>>906

(彼女のリアクションは『普通の人間』とは思えない)

(『まさか』とは思うけれど――――)

(いえ、少なくとも『可能性』はある…………)

カプチーノに対するエマの反応を見て、一つの疑念が浮かぶ。
もしかすると、自分と同じく『人外』なのではないか?
人間に成りすましているが、
本当は『人以外の何か』なのではないだろうか?
自分も最初の内は、無意識に不審な行動を取ってしまっていた。
だからこそ、『擬態』の可能性を考えたのだ。

「お口に合いますでしょうか?」

「――――『初めて』のようですが」

そうだとしても、『同族』ではあるまい。
それは、あまりにも偶然が過ぎる。
では何だろうか。
『哺乳類』か、それとも『爬虫類』か?
知性のレベルを考えると、やはり『哺乳類』が妥当か?

「その通りですわ。私は『ハーピー』ですもの」

    フフ

「この格好が流行するとしたら、
 私の『ビジネス』が大いに成功した時になるでしょうね」

この格好は否応なしに目立つ。
そう、普通なら。
しかし、『パフォーマー』なら話は別だ。
人目を引く格好をしていても、決して不自然には見えない。
だからこそ、こうして人間社会に溶け込む事を可能にしている。

「失礼ですが、エマさんは何か『特技』などをお持ちですか?」

「私も『特技』で生計を立てる身。
 それを仕事に活かすのも一つの方法かと存じますわ」

908エマ『ソルトフラット・エピック』:2019/11/24(日) 20:56:17
>>907

   ズズ・・・・    

「ええ こういう飲み物は 『私』は 『初めて』で……
 『特技』 ですか?」

尋ねられて、カプチーノを飲む手をふと止めた。
…まさか目の前の人物(いや、鳥物というのが正しいのか?)が、
自分のことを人類ではないのかと疑っているとは思ってはいない。
しかしブリタニカの質問の内容は、少し答えに困る内容のものだったようだ。

   クルッ クルクルクル・・・

「うーん」

     クルクルクル

人差し指をくるくると空中で回し、虚空を見上げる。
答えられない……というよりかは、何かしっかりした特技なりなんなりがあるのだが、
それを伝えるための言葉を選んでいるような様子だと思えた。


 クルッ・・・

「うーん そうですね……
 『占い師』……というか あるいは 『カウンセラー』のようなことを していました
 人と話をして その人の将来をこう 指し示すというか……」

指を止めて、一番しっくりきたらしい言葉をつかってそれを表現する。
どうにも歯切れが悪そうだが……

「……でも それはもう 廃業してしまっていて
 この街では何か もっと別の仕事ができればいいかなあ と」

909ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2019/11/24(日) 21:22:57
>>908

人か『それ以外』か。
それ以上の追求はしない。
ブリタニカも『正体』は秘密にしているのだ。
必要な理由がない限り、他者の秘密を暴こうとは思わない。
心の中で、密かにそのような事を考えていた。

「なるほど――さしづめ『新しい出発』とでもお呼びしましょうか」

『占い師』あるいは『カウンセラー』。
最初に浮かんだのは『音仙』の存在だ。
彼女も、それと似たようなものだと考えている。
では、エマも同じような仕事をしていたのか?
それこそ、『まさか』とは思うが。

「では、ひとまず『アルバイト』から始められてはいかがでしょう?
 何事にも先立つものは必要ですし……」

    スッ――――

「仕事をしながら『行く末』を模索するのも悪い話ではないかと」

話しながら、店の一角を指差す。
そこには一枚のポスターが貼られていた。
『スタッフ急募』と書かれているようだ。

910エマ『ソルトフラット・エピック』:2019/11/24(日) 21:59:35
>>909
「え 本当に?」

   ジーッ
                コクコク……

思慮を巡らせるブリタニカの考えに至れるわけもなく……
それよりも『スタッフ急募』のポスターに目を奪われた。
書いてあることを読み、うんうんと頷く。


「こういうところで 仕事を見つけるんですね… なるほど 解りました
 ありがとうございます!ハーピーさん お願いしてみようと思います」

笑顔を浮かべて頷く。
その表情はブリタニカが思う『音仙』に近しいものか……
あるいは、かけ離れているのかは、ブリタニカにしか解らないだろう。

911ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2019/11/24(日) 22:36:20
>>910

表面的な情報だけでは、内面までは分からない。
事実、自分も『人に成りすました鳥』なのだから。
しかし、エマの表情が形だけのものとも思えなかった。
それに、自分と彼女は偶然出会っただけ。
深い部分を知る必要などないのだ――――『お互い』に。

「いえ、お役に立てれば私としても幸いですわ」

    フフ

一通りの話が終わる頃には、カップは空になっていた。
カップをテーブルに置いて、窓の外に視線を向ける。
街路樹の枝には、一羽の『鳩』が留まっていた。
それは、先程ブリタニカの肩にいた鳩だ。
といっても、『同族』でもなければ区別はつかないだろう。

「私も『仕事』に戻る事にしましょう。
 そろそろ人通りの多くなる時間帯ですから」

「もし宜しければ、少し見物していかれませんか?
 『ギャラリー』が多くて困る事はありませんもの」

備え付けのナプキンで口元を軽く拭い、誘いの言葉を掛ける。
見物料の事は考えていない。
足を止めて見ている人間がいるだけで、宣伝効果は得られるのだ。

912エマ『ソルトフラット・エピック』:2019/11/24(日) 23:04:25
>>911
「本当ですか ぜひ見てみたいです」

   ガタッ

頷いて席を立つ、その顔には笑顔をたたえて。
これは偶然の出会いだ。たまたま私が大通りを歩いていて……
そこをたまたまブリタニカが歩いていた。
たまたまブリタニカが私に興味を持っていて、
たまたま、私がそれに気が付いた……これは単なる偶然の出会いだ。だが。


「あと その できれば…… 
 まだ いろいろとお聞きしたいこととか あって……
 それに 何かお礼とかもしたいですから その……
 お友達になっていただけますか? ハーピーさん」


               グッ

この街ならきっと、新しい人生が始められそうだ。
そう思いながら、ブリタニカのショーを見学していった……帰りにバイトの申し込みをするのを忘れないように。

913ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2019/11/24(日) 23:38:12
>>912

「『お友達』…………」

「――――ええ、喜んで」

    フッ

『友達』という言葉の意味は知っている。
人種が違っても、人は友人になれるらしい。
では、『種族』が違っても友人になれるのだろうか?
改めて考えると、なかなか興味深いテーマだった。
それに、こうした繋がりが増える事は純粋に良い事だ。

「生憎、適当な『連絡先』の持ち合わせはありませんが、
 街のあちこちで『仕事』をしておりますので」

「見かけた時に声を掛けて下されば結構ですわ。
 この姿を見間違える事は、まずないでしょうし」

「では、行きましょう。特等席でお見せ致しますわ」

エマと共に店を出て、街道に向かう。
ブリタニカが目配せすると、肩の上に先程の鳩が舞い降りた。
彼は新入りで、色々と説明する必要があったのだ。

「――――お集まりの皆様、私の名は『ハーピー』。
 人と鳥の間を繋ぐ者でございます。
 この一時の間、暫し現実という地面から離陸し、
 大空のキャンバスを鮮やかに彩る『翼の芸術』をご堪能下さいませ」

「 『♪』 『♪』 『♪』 『♪』 『♪』 」

    バササッ
            バササササッ
                      バササッ

『ハーピー』ことブリタニカの『呼び掛け』に応じて、
多数の野鳥達が空を舞う。
人と鳥を繋ぐ。
確かにその日は、
鳥であるブリタニカと人であるエマが繋がりを得た日であった。

914ディーン『ワン・フォー・ホープ』&ヨシエ『一般人』:2019/12/14(土) 18:05:19

「んー……」

冬の大通りを、リュックを背負った小さな少女が歩いている。
時折立ち止まり、目を閉じて鼻をひくつかせる。
まるで『動物』か何かのように。

「――こっち!」

分かれ道に来る度に、そう言って先に進んでいく。
それを繰り返し、やがて少女は立ち止まった。
目の前には、オレンジ色のキッチンカーが停まっている。

「一つ下さい!」

まもなく、店員から湯気の立つ『スイートポテト』が手渡された。
それを手にして、少女は適当な場所に腰を下ろす。
研ぎ澄まされた嗅覚で感じる匂いは、普段よりも強烈だ。

「『ディーン』も食べるー?」

少女が独り言を言っている。
『イマジナリー・フレンド』という奴かもしれない。
少なくとも、周囲にはそれらしき人間はいないようだ。

915ディーン『ワン・フォー・ホープ』&ヨシエ『一般人』:2019/12/20(金) 18:00:33
>>914

《いや、いい。
 たっぷり入った砂糖やらクリームやらは、
 俺達には刺激が強すぎるんだ》

「うーん、そっかー」

    パクッ
           パクッ

「寒かったけどあったかくなってきたー」

「じゃあー、遊びいこー!」

    ――――ヒュバッ

韋駄天のようなスピードで少女が駆け抜ける。
『高速で走る少女の噂』が、また一つ増えたのだった。

916ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2020/01/11(土) 17:26:19

ある日の大通り。
その一角に、ちょっとした人だかりが出来ていた。
中央に立つのは、
『鳥人』を思わせるコスチュームに身を包んだ女だ。
彼女の周囲には、多種多様な野鳥が群れを成して飛んでいる。
まるで訓練されているかのように統率された軌道だ。

「お集まりの皆々様、
 私『ハーピー』のショーはお楽しみ頂けましたでしょうか?」

「――――それでは、またの機会にお会い致しましょう」

    バサササササササササ
               ササササササササササァ――――ッ

両肩に野鳥を留まらせたまま、恭しく礼をする。
それを合図に、鳥達が一斉に飛び立った。
『仕事』を終えて、各々の場所に帰っていくのだ。

「ふう」

    パタン

やがて、見物客達も同じように立ち去り始めた。
人間達の様子を見届けてから、
足元に置いていたアタッシェケースを閉じる。
その中には、今日の稼ぎが収められていた。

「さて」

          スタスタスタ

片手にケースを下げて、緩やかな足取りで歩いていく。
これも『宣伝活動』の一つだった。
一人でも多くの人間に、この姿を認知してもらう事が利益に繋がる。
それは食い扶持を得るためだけではなく、
人間という生物を観察して研究するためでもある。
さらに『正体』を隠蔽する役にも立つのだから『一石三鳥』だ。

917ブリタニカ『ハロー・ストレンジャー』:2020/01/18(土) 16:41:50
>>916

    ピタッ

やがて、その歩みが止まる。
視線の先には、鳥のイラストが描かれた看板。
そこには、こう書かれていた。

【種類に合わせたフード、止まり木、ケージ、おもちゃなど、充実の品揃え!!】

         スタスタスタ
               ――――ガチャ
                      
                      「いらっしゃいませェ〜」

918鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/01/20(月) 22:38:59
商店街を一人歩む、学生服姿の男子高校生。肩には竹刀袋をかけている。
ぶつからないように左端を歩きながらも、時折行き交う人の顔を見るようにチラリと目線を走らせる。
それをしばらく繰り返しながら進み、一つのお店の前で足を止めた。

「『バターどら焼き』四つ下さい」

『和菓子屋』だった。

919三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2020/01/20(月) 23:40:23
>>918

「――――あ、鉄先輩」

「こんにちは」

    ペコ

先輩を見かけたので挨拶しましょう。
この店には、少し前から来ていました。
でも、こんな所でお会いするとは思いませんでした。

「先輩は『バターどら焼き』ですか?」

「千草は『クリーム大福』です」

    ス

片手に持った袋を持ち上げます。
それから竹刀袋に目線を合わせました。
先輩は、やはり部活動の帰りなのでしょうか。

920鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/01/20(月) 23:56:43
>>919

「ん?」

名前を呼ばれ、振り向く。視界の先、ではなく下。
見知った可愛らしい顔がそこにあった。

「おや。こんにちは、三枝さん」ニコリ


>「先輩は『バターどら焼き』ですか?」

>「千草は『クリーム大福』です」


「そうだよ。家族からも頼まれてね」
「しかし『クリーム大福』?そんなのもあるのか、チェックしてなかったな…」

ううむと唸り、お品書きを改めて見る。『クリーム大福』、冷やしても美味しそうだ。
と、そこで三枝さんの視線に気付いた。

「そうだよ、今日も部活帰りさ」「三枝さんは、最近『生徒会』はどうだい?」

921三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2020/01/21(火) 00:15:43
>>920

「ご苦労様です」

    ペコリ

「――はい。
 お陰様で生徒会の仕事にも随分慣れたような気がします。
 『気がする』だけかもしれませんが……。
 まだまだ学ぶ事は多いので」

「最近は、『他にも何か出来る事がないか』と考えています。
 何か――何か千草に出来る事があればと……」

学校の屋上で日沼先輩と会った時のこと。
それから、教室で斑鳩先輩と出会った時のこと。
頭の中に、その二つが思い浮かびました。

「でも、なかなか上手くいかなくて……」

千草は『墓堀人』を使って、学校から『ゴミ』を減らそうとしました。
でも、ちょっと空回りしてしまったみたいです。
新しい事を始めるのは難しいです。

「――――先輩は如何ですか?」

922鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/01/21(火) 00:39:13
>>921

>「最近は、『他にも何か出来る事がないか』と考えています。
> 何か――何か千草に出来る事があればと……」
>「でも、なかなか上手くいかなくて……」

少女の語る言葉に相槌を打ちながら、内容に耳を傾ける。
実に善良な、彼女らしい悩みだ。聞いていて、何とも微笑ましくなる。
とはいえ三枝さんは真剣に悩んでいるのだ。それを表面に出すことはしない。

「何事も最初はそんなものだ。オレも『剣道』で、上手く一本が決まらない時期があった」
「所謂『スランプ』というやつだな。焦れば焦るほど、心と竹刀が先走って有効打にならないんだ」
「ただ、そんな時は一度冷静になって。自分の課題をしっかり見て、どうすればいいのかを考え、そして解決策に向けて努力する」
「オレは正直、器用な方じゃないからな。一つ一つ、ゆっくりと確実にやっていくしかできないって気付いたんだ」

と、そこで店主が『バターどら焼き』を袋に入れて持ってきてくれた。
お礼を言いつつ代金を支払い、それを受け取った。

「何かの参考になれば幸いだ」


>「――――先輩は如何ですか?」

「今度、『団体戦』でもレギュラーに選ばれてね。近くの高校、何校かと総当たり戦をやるんだ」
「良い結果を残せるように頑張ってくるよ」

923三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2020/01/21(火) 01:04:49
>>922

「一つ一つ――ですか……」

言われてみれば、千草は少し焦っていたのかもしれません。
何かをしようとしても、いきなり成功するのは難しいでしょう。
失敗したからといって、そこで止めてしまえば終わってしまいます。

「今日の失敗は明日の成功に繋がる一歩――」

「そんな風に考えてみる事にします」

    ニコリ

「ありがとうございます、鉄先輩。
 先輩のお陰で、また頑張ろうという気持ちになれました」

「試合も応援しています。
 『先輩が頑張っているから千草も頑張る』。
 そういう気持ちになれますので……」

「あの――もしよろしければ、少し歩きませんか?」

先輩が袋を受け取ったのを見て、視線を通りに向けました。
道にはゴミ一つありません。
もしゴミが落ちていたら『片付ける』事が出来たので、
少しだけ残念に思いました。
でも、ゴミがないのは良い事です。
だから、ゴミがあった方が良いと思うのは良くない事です。

「そういえば、鉄先輩は『斑鳩先輩』の事をご存知でしょうか?
 この前お会いしたのですが、先輩と同学年だったようなので」

「何だかこの所、
 『高等部二年生』の方にお会いする機会が多いのです。
 『日沼先輩』、『斑鳩先輩』、『猿渡先輩』……」

指を折って数えます。
そしてもちろん、『鉄先輩』も入っています。
何かの縁があるのでしょうか?

924鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/01/21(火) 01:37:12
>>923

「そうか。なら良かった」
「三枝さんは、『生徒会』に入りたいという夢をしっかり叶えた人だからな」
「キミならば、諦めなければきっと大丈夫だとオレは信じている」

三枝千草。彼女とは、互いの頑張りを感じてより目標に向けて邁進できる関係だ。
断る理由もない、共に歩こうという申し出に頷く。

「『斑鳩』くん…ああ、珍しい名字の人だな。聞いたことはあるが会った事はない」
「どんな人だったんだい?」

「ちなみに猿渡くんは会ったことがあるよ」「中性的で、大人びた雰囲気の人だったな」
「色々と面白い話をしてくれたんだ」

925三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2020/01/21(火) 01:57:52
>>924

「あっ、猿渡先輩とお知り合いでしたか。
 千草は『学生寮』に住んでいるのですが、
 わざわざ訪ねて来て下さいました」

「カップケーキをご馳走になって……」

そこで思い出しました。
千草は『寮生』になったのです。
鉄先輩にお伝えしていたでしょうか?

「その、鉄先輩にお話していたでしょうか?
 千草が『学生寮』に入居したことですが……」

「少しでも自分を成長させたいと――そう思ったのです」

「斑鳩先輩は…………不思議な感じがする人でした。
 詳しくは分かりませんが、
 鉄先輩のように何か『目標』があるように見えました」

あの時、千草は窓から突き落とされて、
いつの間にか気を失っていたようです。
そのせいでよく覚えていませんが、
きっと斑鳩先輩が助けてくれたのでしょう。
次に会ったら、お礼を言わないといけません。

「猿渡先輩とは、どんなお話をされたのですか?」

926鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/01/21(火) 20:57:28
>>925

「そうなのか。カップケーキを…流石猿渡くん、おしゃれだな」
「ん?…いや、それよりも」

>「その、鉄先輩にお話していたでしょうか?
> 千草が『学生寮』に入居したことですが……」

>「少しでも自分を成長させたいと――そう思ったのです」

「・・・・・そうなのか」

腕を組み、三枝さんの言葉に対して思案する。
もちろん、彼女に対して信頼はある。三枝さんと世間一般の中学一年生には、隔たりがあると自分は思う。
主に、責任感や実行力などにおいてだ。
だがしかし、それでも彼女はまだ、ついこの前までランドセルを背負っていたのだ。
友人とはいえ、あまりこういった事に口を出すべきではないのだろうが。

「…『学生寮』の中には、優しい人はいるか?」「生活に関しても、特に困った事はないか?」

つい心配してしまう。
自分は『学生寮』の仕組みについて詳しくはないが、彼女は家を離れることに不安はなかったのだろうか。

「…斑鳩くんが、か」「ありがとう、今度少し話しかけてみるよ」

『目標』というのは少し気になる話だ。それが学生のスケールの話ならば、そこまで関係はないが。
自分と同じように、命を懸けても成したいことがあるのか。
それならば、もしかしたら『スタンド使い』絡みか?

「猿渡くんとは『図書室』で出会ってね。彼が借りた本とか、後は…」
「…そうだな、男同士の会話は少し」

彼に気になる女性がいる云々の話は、ここで話すべきではないだろう。適当な言葉で濁しておく。

927三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2020/01/21(火) 22:08:26
>>926

「――――?」

猿渡先輩と鉄先輩。
何だか曖昧にされた気がしますが、
こういう時は聞かないのが礼儀です。
だから、そのままにしておく事にしました。

「はい、今は大丈夫です。
 分からない事がある時もありますが、
 周りの人達に助けて頂いていますので……」

「中等部三年の『黒羽先輩』も、同じ寮生です。
 幾つも賞状を貰っていて、とても凄い人です」

「以前、黒羽先輩の部屋でお茶とお菓子をご馳走になりました。
 その時に、鉄先輩についても少しお話しました」

「ですから――大丈夫です。ただ、少しだけ…………」

「少しだけ寂しい時はありますが……」

家を離れる前から、ある程度は考えていたつもりでした。
それから実際に家を出て、改めて思いました。
千草の家族も、似たような気持ちを感じているのでしょうか。

「――――いえ、大丈夫です」

       ニコ

「千草は、もっと『成長』したいですから。
 家に帰るのは、成長した姿を見せる時にしたいのです」

寂しくても、家に戻ろうとは思いません。
千草は、『立派な人物』になりたいのです。
誰からも尊敬されるような人になって、
『素晴らしい最期』を迎えたいのです。
それが千草の叶えたい『目標』です。
そのために、千草は『成長』したいのです。

928鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/01/21(火) 22:32:17
>>927

>「はい、今は大丈夫です。
> 分からない事がある時もありますが、
> 周りの人達に助けて頂いていますので……」

「…ああ、それならいいんだ」

食事なども、『寮母』が用意してくれるのだろうか?
学業と生徒会活動に加えて、帰宅後に『家事』までするのは流石に負担が多いだろう。そうだと思いたい。
何にせよ、周りに協力してくれる人がいるならば、少し安心できる。

「『黒羽』さん?…いや、名前を妹から少し聞いたことがあるような」
「確か、広報系の人材だったと記憶しているな。その賞状は、それに関したものなのかい?」

自分の事を話したとは、一体何だろうか。
猿渡くんの時も思ったが、正直自分はあまり目立たない方だと感じている。
人に話して面白い男だとは認識していないだけに、少し意外だ。

>「ですから――大丈夫です。ただ、少しだけ…………」

>「少しだけ寂しい時はありますが……」

「・・・・・・・・・・」

「なぁ、三枝さん」

袋を持っていない方の手で、少女の頭をゆっくり撫でる。妹が同じぐらいの年の頃、そうしたように。

「キミはまだ中学一年生だ。目標は立派だと思うし、オレも応援してるが、あまり無理をしないようにな」
「人間の心には限界がある。オレだって、必要なら自分を追い込むことに躊躇はないが、それでも限界を迎える前に一旦身を引く」
「いつでも帰りたい時は帰っていい。頑張る為には、そういうのも必要だ」
「そうしてまた、戻ってくればいいんだ」

929三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2020/01/21(火) 23:02:44
>>928

「…………はい」

ただ黙って頭を撫でられました。
何か言おうかとも思いましたが、何も出てきませんでした。
鉄先輩の言葉が『正しい』と感じていたからです。

「無理をして失敗したら元の木阿弥ですね」

          ニコ

「だから、無理はしません。
 無理はしませんから――『出来るだけ』頑張ります」

千草は、『自分の限界』が、まだ分かりません。
だから、それを知りたいと思っています。
そのためにも、『出来るだけ』頑張ろうと思います。

「黒羽先輩は『新聞部』の方です。
 部屋には『新聞大会』の表彰状がありました。
 それから、『書道コンクール』なども……」

「運動部の取材を考えていらっしゃったようなので、
 それで鉄先輩の事をお話したのです」

「生徒会の事も幾つかお答えしました。
 仕事の内容など……」

そこで思い出しました。
鉄先輩の妹さんも、中等部三年だったと思います。
黒羽先輩と同じ学年です。

「先輩の妹さん――『朝陽さん』も黒羽先輩と同じ学年ですね。
 朝陽さんの具合はいかがですか?
 その……『怪我をしてピアノが弾けない』とお聞きしていたので」

930鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/01/21(火) 23:18:51
>>929

三枝さんの返事に頷き、手を頭から離す。
妹からは、中学生をあまり子供扱いするなと言われてはいる。
しかし親元を離れて暮らすなど、高校生ですら中々できない事だろう。
立派な事だが、それはつまり同じくらい大変という事だ。
彼女は少し、焦っているようにも見受けられる。できれば、無理はしないで欲しい。

「ああ、成る程…運動部への取材か」
「しかし『書道』でも表彰される程の腕前とは…自ら記す内容に対して、誠実であるという印象を受ける」
「了解した。もし彼女からそういった申し出があれば、喜んで受けさせてもらうよ」

とはいえ、自分はあまり面白い記事に繋がりそうな事など言えないが。
しかしそういったのを人が見たがる記事にするのも、書き手の実力なのかもしれない。
何にせよ、三枝さんの紹介ならば断る理由もない。

「…ケガ自体はそう重いものじゃあないんだ。既に治って、リハビリもこの前終わった」
「ピアノの腕も戻ったように聴こえる。まぁ本人は、『友達に差を付けられてる、もっと頑張らなきゃ!』って言っていたけどな」

そういって、少し苦笑する。
そう問題なく傷は治っている。身体の傷は、だが。
しかしそれ以外の話は彼女に伝えるべきじゃない。この子は、そういったのを苦手としている。

931三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2020/01/21(火) 23:46:40
>>930

「そうですか。それは……良かったと思います」

「あの――――本当に……」

もっと気の利いた言葉が言えれば良かったのですが。
でも、上手く出てきませんでした。
デリケートな話題です。
そして、千草が『苦手な話題』でもあります。
ただ、それでも具合を聞いておきたいという気持ちがありました。

「その、朝陽さんに伝えて頂けないでしょうか?
 『もし良かったら一緒に頑張りましょう』――と」

「千草に何か出来る訳ではないですが、
 頑張り合っている人がいれば、少しは支えになれるかと……」

「千草も、さっき鉄先輩が頑張っているのを聞いて、
 『頑張ろう』と思えたので……」

千草に出来る事は少ないです。
でも、少しでも何か出来る事があるなら、
誰かの力になりたいと思っています。
大げさかもしれませんが、
その積み重ねが大事なのではないでしょうか。
鉄先輩も言われました。
『一つ一つ確実に』――――と。

932鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/01/22(水) 00:04:36
>>931

>「あの――――本当に……」

「ん?」

顔を横へ向け、少女の方を見る。

>「その、朝陽さんに伝えて頂けないでしょうか?
> 『もし良かったら一緒に頑張りましょう』――と」

>「千草に何か出来る訳ではないですが、
> 頑張り合っている人がいれば、少しは支えになれるかと……」


「…キミは、本当に優しい子だな」「ありがとう。しっかりと、朝陽に伝えておくよ」
「まぁそれで張り切り過ぎて、『わたしも寮生活する!』なんて言い出したりしないか心配だが…」
「そうなったら兄として、全力で止めさせてもらおう」

少し笑いながら、三枝さんの言葉に頷く。
自分より二歳も年下なのに、実家を離れて頑張っている少女の言葉は、きっと妹に届くだろう。
そうして、心の傷もやがては癒えてくれていったならと、切実に思う。
現代社会で人混みを常に避けて生きていくのは、大変で、辛いことだ。

「─────と、それじゃあオレはこちらの道だから」
「まだ日は落ちてないが、それでも気をつけて。何かあったら、すぐに呼んでくれよ」

今回は休日の部活帰りともあって、冬といえどまだ夕暮れだ。もちろん警戒するに越したことはないが。
寮には他に同じ学生もいるだろう。いざという時は、その人達も頼りになるはずだ。
その中に『スタンド使い』がいれば、なおさら安心だ。

「今日はありがとう、三枝さん」「さようなら、また今度」

そう言って手を振り、十字路の別れ道を進んでいく。
…もし、三枝さんの言葉などで朝陽の心の傷が完全に癒えたら。そしてこれ以上、『通り魔事件』が発生しなかったら。
一旦、区切りは付けるべきかもしれない。犯人は探したいが、何も起きなければ、それに越した事はないのだろうから。

933三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2020/01/22(水) 00:42:19
>>932

「いえ、こちらこそありがとうございました」

     ニコ

こんな千草でも、誰かの役に立てるのでしょうか。
そうだとしたら、とても嬉しい事だと思います。
『小さな一歩』を踏み出す事が出来たと思えるからです。

「はい、またお会いしましょう、鉄先輩。
 朝陽さんにも、よろしくお願いします」

     ペコリ

先輩と別れ、『清月館』に向かって歩き出します。
足元からは影が伸びていました。
細く黒い影が――――。

       スタスタスタ

「『It’s now or never』」

934比留間彦夫『オルタネイティヴ4』:2020/02/20(木) 22:23:24

午後の時間帯――オープンカフェに一人の男が座っていた。
ストライプスーツを着て、フェドーラ帽を被った男だ。
テーブルの上には、コーヒーカップと共に小さな石が置かれている。

「『ラピスラズリ』――
 確かに神秘的な力を秘めているように見えますね」

少し前に、ある『占い師』から購入した品だ。
深い青色に黄色の斑点が浮かんでいる。
その色や模様は、夜空に輝く星々を思わせた。

「もちろん本当にパワーがあるかどうかは別として、ですが」

石から視線を外し、コーヒーカップを傾ける。
その時、9mほど離れた植え込みの中で何かが動いた。
白い鎧を身に纏った小さな『兵士』だ。
別に何かをしようという訳ではない。
ちょっとした『実地テスト』の一環だ。

935日下部『アット・セブンティーン』:2020/02/26(水) 23:09:00
>>934

「『パワー』がほんとにあるかは分かんないけど〜」

               カチャ…

隣のテーブルに座ったのは、白い女だ。
服も、髪も、肌さえ新雪のように白い。

「『価値』はあるよねえ。お隣失礼しまあ〜す」

一般的には失礼なほどの距離ではない。
が、人のパーソナルスペースは目に見えないものだ。

「その石、お兄さんの? 私ね、パワーストーンに最近凝ってるんだ〜」
「『神秘』とかは分かんないけど、『見た目が綺麗』だから。……んふふ」

首から提げた、『ゴールドルチルクォーツ』を使ったネックレスを手に取っていた。
それが白に染まった女の、目に見えてもっとも映える『色』なのは言うまでもない。

・・・彼女に実地テストに気付いている様子はない。少なくとも、『目に見える範囲』では。

936比留間彦夫『オルタネイティヴ4』:2020/02/27(木) 05:48:11
>>935

「あるいは『見た目の美しさ』こそが、
 こうした石の持つ大きな力なのかもしれません。
 古くから、『何かがある』と思わせる魅力に引かれる人間は、
 数多いと聞きます。
 そのために大枚を叩く方も後を絶たないとか」

「――私も詳しくはありませんが、ね」

    ニコ

優男風の顔立ちに穏やかな微笑を作り、『白い女』に言葉を返す。
あたかも色素が欠落しているかのような容姿に、
少々の驚きを感じた。
しかし、それを表情には出さず、首の宝石に目を留める。

「そちらの『石』も素敵ですよ。
 生憎と種類は分かりませんが、
 知識のない人間にも『美しさ』は理解出来ます」

「失礼ですが、どちらでお求めに?
 私は『ある占い師』から買いましてね」
 
「『ラフィーノ石繭』――ご存知ですか?
 よく当たると評判の占い師ですよ。
 私も占って頂きましたが、なかなか鋭い方のようでして。
 まさに『的中』といった所です」

実際、当てられたのは確かだ。
『嘘をつくのが楽しみ』であるという自分の本質を言い当てられた。
占い師としてはイカサマだが、人を見る目はあるのだろう。

「もし機会があれば、一度占って貰う事を勧めますよ」

『兵士』は動かしていない。
もし見える人間がいれば、
その反応を確かめようという意図もあった。
だが、何も自分から積極的に姿を見せる必要も無いのだ。

937日下部『アット・セブンティーン』:2020/02/27(木) 22:47:22
>>936

「『ゴールドルチルクォーツ』だよ」
「『お金を呼び込む石』」「呼び込むかは分かんないけど」
「これ一つで『10万円』也〜」

     キラ…

「これはね、『友だちに貰った』んだ〜。んふふ」
「今の説明もね、全部教えてもらっただけで、私も詳しくはない」

10万円の石をくれる友だちとは、『猫』だ。
あえてそれを口に出さないくらいの『社会性』はある。

「『ラフィーノ』? 聞いたこと……あったような〜」
「私ね、占いってあんまり興味ないんだよねえ」
「未来ってねえ、変わるときはすぐ変わっちゃうし」

「私はあんまり信じないな〜」

目に見えないことを重視していない。
占いは『統計』や『心理学』の観点もあるらしい。
そういう意味で、全く何もないものではないのだろうけど。

「ちなみに、お兄さんはどんなこと占ってもらったの〜?」

それでも未来はいつでも不確定だ。『的中』刺せたというのは気になった。

938比留間彦夫『オルタネイティヴ4』:2020/02/27(木) 23:54:08
>>937

「ははあ、なるほど。
 いえ、そこまで値打ちのある物とは思わなかったものですから。
 見た所お若いようですが、
 結構な品をお持ちでいらっしゃるようで」

「ちなみに、これは『ラピスラズリ』という石だそうです。
 『誠実さ』や『思いやり』、『高潔さ』を象徴するのだとか」

「ここだけの話ですがね。私のは『五百円』でして。
 いや、お恥ずかしい」

           フフ

人の良さそうな微笑と共に、ラピスラズリを胸ポケットにしまう。
金額が全てとは言わないが、これは少し差が大きすぎる。
それにしても十万円の宝石をくれる友達とは、
一体どのような人物なのだろうか。
気にはなったが、突っ込むつもりは無かった。
曖昧な言い方から見て、恐らく聞いても答えてはくれまい。

「そうですね。
 『自分自身を見つめ直す手助け』をして貰った――
 とでも言いましょうか。
 自分の事というのは案外分からないものですから。
 客観的な視点からアドバイスをして頂いたのですよ」

「私も占いに傾倒している訳ではありませんが、
 彼女の『観察力』や『洞察力』は優れていると感じました。
 少なくとも、そういった『実践的な方面』の実力は本物ですよ」

比留間は、彼女の占いは『インチキ』だと思っている。
『運命が視える』などという謳い文句は、
客寄せの為の口八丁に過ぎないと。
しかし、『確固たる土台を備えたイカサマ』でもあると考えている。
単なる口からの出任せではなく、
それに信憑性を持たせるだけの『根拠』が伴っている。
その点において、ラフィーノには一種の『敬意』を抱いていた。

「『運命』や『未来』といった神秘的な分野に関しては、
 私からは何も言えませんが。
 何しろ『素人』ですので」

同時に、非常に興味ある『遊び相手』だとも思っている。
だからこそ、こうしてラフィーノを持ち上げているのだ。
彼女の所に一人でも多くの客が行くように仕向けたい。
そうする事で、
もっと彼女のイカサマを引き出してみたいという意図がある。
そんな事をする理由は、それが『面白そうだから』だ。

「――貴女は『神秘的な力』は信じない主義で?」

この世界には、不可思議な力が実在する。
『スタンド』という力。
自身の『オルタネイティヴ4』も、その一つだ。

939日下部『アット・セブンティーン』:2020/02/28(金) 00:22:57
>>938

「『500円』でそれだけ綺麗なら良いよね〜」
「私の石と、『99500円分』も綺麗さは変わんない気がするし」
「お買い物上手なんだよ〜、お兄さん」

笑みを浮かべて、自分の石から手を離した。
そして自分の席に着き、自分のコーヒーを手に取る。

「なるほど〜〜〜」
「『人生相談』ってコトなんだ。それなら『ホンモノ』かも、しれない」
「だって人生は本物だから!」

ラフィーノ石繭。
覚えておく名前ではあるが・・・『興味』はそんなに、無い。
人生について特別に、他人に見てもらいたいわけでもない。

そして続く問いかけには・・・目を細める。

「んん、未来予知とかはね、わかんないじゃ〜ん」
「『第六感』とかもわかんないよね〜」
「証拠の出しようがないもん」

「目に見えない、説明も出来ないものが『神秘』なら、信じないよ〜」

940比留間彦夫『オルタネイティヴ4』:2020/02/28(金) 00:55:08
>>939

「いや、ごもっともです。
 根拠のないものが信じられないのは当然の事ですからね。
 私も全く同感ですよ」

「そうですね――『神秘』とまではいきませんが、
 ちょっとした『手品』をお見せしましょうか。
 最近、少し練習していましてね。
 本来なら披露する程のものではありませんが、
 少々お付き合い頂ければ幸いです」

    スッ

人知れず発現していた『兵士』を解除する。
懐に入れた手を抜き出すと、そこには五枚の『カード』があった。
実体化スタンドである『それ』は、
質感もサイズも実物のプラスチック製トランプと同様だ。
もう片方の手にはハンカチが握られている。
ブランド品のようだが、特に何の変哲もない品物のようだ。

「今から、この『カード』を消してご覧にいれましょう。
 私がハンカチを被せてから三つ数えます。
 ハンカチを取り払ったら、『カード』は消えている筈ですよ」

           パサッ

「何分まだ練習中ですので、上手くいくかは分かりませんがね。
 もし失敗しても、お許し願いますよ」

「――『1』……『2』……『3』……」

            バッ

ハンカチを取り除くと、そこには確かに『カード』は無かった。
最初から存在していなかったかのように消えている。
『解除』したのだから当然ではあるが。

「おっと……どうにか消えてくれたようですね。
 失敗するのではないかと思って、内心は冷や冷やしましたよ」

「もっとも、これは単なる『手品』ですので、
 『神秘』でも何でもありませんが――ね」

941日下部『アット・セブンティーン』:2020/02/28(金) 01:32:46
>>940

「根拠が無くても信じたい気持ちも、分かるけどねえ」

「ん、手品? お兄さぁん、『マジシャン』っぽいもんね」
「『人は見かけによる』んだねえ」「んふふ」

          カタ…

椅子を動かし、身を乗り出して『手品』を見る。
手品。『タネがある』という宣言だ。

「それ、トランプ〜?」「いや、ちょっと違うかな〜?」
「わあ、良いハンカチ持ってるねえ」

品々に寸評を入れつつ、目を細めて見守る。
そして――――その視界は『騙される』。

「わあ〜すごい、すごぉい」

           パチッ  パチッ

「上手いねえ、全然分かんなかったよ」
「机の下に隠すとか、袖に入れるとかだと思ったけど」
「『何処に』『いつ』やったかわかんなかった」
「お兄さ〜ん、器用なんだねえ」

「ねえ、それでトランプはどこ行ったの?」
「そこんとこ知りたいなあ、んふふ。どうなんです〜?」

942比留間彦夫『オルタネイティヴ4』:2020/02/28(金) 02:09:27
>>941

「どうも恐縮です。
 趣味でやっているだけですので、
 そうバリエーションがある訳ではありませんが」

『手品』にはタネがある。
しかし、『これ』にタネは無い。
何故なら、手品というのは『嘘』だからだ。
実際は『神秘的な能力』の産物。
だから説明のしようがない。

「『どこに行ったか』ですか?
 そうですね。『ここ』か、それとも『こちら』か……」

「いえ――恐らくは『この辺り』ではないでしょうか?」

    スッ

何かを探しているかのように、
ジャケットのポケットを上から軽く叩く。
そして、おもむろに片手を首の後ろに回した。
手を引き戻すと、そこには再び『カード』が現れていた。

「いや、見つかって安心しました。
 もし消えたままになっていたら困る所でしたよ」

           シャッ

『カード』を扇状に広げて見せる。
四隅に四つの『スート』が配され、
中央に『道化師』の顔が描かれたデザインだ。
その裏面は、『トランプ』に酷似していた。

「今は、この辺りが限界といった所でしょうか。
 お付き合い頂き、感謝致しますよ」

そう言って『カード』を懐に収め、同時に『解除』してしまう。
あまり突っ込まれると、誤魔化し切れなくなるからだ。
だから、更に追求される前に切り上げる事にしておいた。

943日下部『アット・セブンティーン』:2020/02/28(金) 02:50:47
>>942

「わ〜ッ、すごいねえ、すごいよお〜」

感心した表情で再び手を打つ。

「どうやってそんなところに入れてたんだろう」
「さっきのとは別のカードだったりとか〜?」
「んふ、『タネ』があるってわかってても凄ぉ〜い」
「むしろ、わかってるからすごいって思うのかな〜?」

などと褒めたおしていたが、やがてカードの絵柄に視線を移す。
それが懐に収められると、顔を上げた。

「『ジョーカー』がメインみたいな絵柄だったよねえ〜。今のカード」
「なんだか珍しいなって」「トランプ自体が『マジック用』だったりとか?」

「んふふ、まあいいやなんでも〜」

引っ掛かりはしても不思議ではない。
そして、別に不思議でもかまわない。
目に見えるものを信じるだけだ。目に見えないものを暴きたい気持ちはない。
目に見えないものは、嫌いとかイヤとかじゃあなく、どうでもいいのだ。

「だって楽しかったもんね、私が〜。んふふ……」
「相手してくれてありがとね、手品が得意なお兄さ〜ん」

そして自分の席に戻る。自分の感情は、はっきりそこにある・・・コーヒーを飲んだ。
彼女の方から、これ以上深く何かを追及したり、話しこんだりする様子は無さそうだった。

944比留間彦夫『オルタネイティヴ4』:2020/02/28(金) 03:22:09
>>943

「こちらこそ『楽しい時間』を有り難うございました。さて――」

    ガタッ

「仕事が残っていますので、一足お先に失礼します。
 この店のコーヒーは、値段の割には中々質が良いですからね。
 私も時々、立ち寄っているんですよ」

「もしお会いする事があれば、また何かお話が出来ればと。
 ご都合が宜しければ、ですが」

「――――では、これで」

椅子から立ち上がると、会釈して会計に向かう。
心の中には、小さな満足感があった。
『嘘をつく事』が、自分にとって何よりの楽しみだからだ。

(もっとも『同じかどうか』までは分かりませんが――)

            ザッ

(――今日の所は良いでしょう)

『力を持つ者の反応を見る』というのが当初の意図だった。
それは果たせなかったが、別に構わない。
いずれにしても、『価値ある時間』であった事は確かなのだ。

945日下部『アット・セブンティーン』:2020/02/28(金) 03:52:35
>>944

「わかるよお。私もたまに来るからね、ここには」
「待ち合わせとかにもちょうどいいし〜」

騙されている。
それが事実――――だが『分からない』。
実感がないし、気付くことも今は無い。
実害がないし、引きずる理由も無い。

だから、日下部虹子には問題にならないのだった。

「んん、また会ったらね」
「次は私も何か、面白いハナシ考えとこうかな」

        ヒラ…

小さく手を振った。

「じゃあね、ばいば〜い」

会わなければそれはそれでいい・・・会いたくなれば探せばいい。

946三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2020/03/09(月) 21:32:24

    トッ 
        トッ
            トッ
                トッ
                    トッ

その日、千草は『歩道橋』を上っていました。
両手には、大きめの手提げ鞄を持っています。
中には、図書館から借りてきた本が詰まっていました。
将来のために、今から色々と勉強しておきたいのです。
でも今回は、『それ』が悪かったようです。

    ガ ッ

        「あッ――――」

                 ド シ ャ ァ ッ

気付いた時には、最上段の段差に躓いて転んでいました。
両手が塞がっていたので、そのまま倒れてしまいました。
そのまま階段を転がり落ちていかなくて幸いでした。

        「ッ…………!」

少し体を打ったようですが、『死ぬ程』ではないです。
でも、一歩間違えたら死んだかもしれません。
『九死に一生を得る』というやつでしょうか。
とにかく立ち上がりましょう。
いつまでも倒れていると、他の人の迷惑になってしまいます。

     「――――痛い…………」

ただ、もう少しだけ時間が掛かるかもしれません。
思ったよりも『痛かった』からです。
あと、ほんの少々待って頂けますでしょうか。

947ラフィーノ石繭『ミスティカル・ガイド』:2020/03/15(日) 19:25:33
>>946
 「……………(ムカッ)」

だれも助けへんのかい。
なんかあるでしょ、声かけるとかさ。

「……はぁぁぁ〜〜〜っ……」
「この町は糞糞の糞ねッ 地獄に落ちるわよッ!」


どうも。末石まゆです。
職業:占い師(偽)です。
ラフィーノうんとかとかいう芸名もありますが
今はオフなので、ただの末石まゆです。

 「オチビさん 立てます?」
 「おぶってさしあげましょうか?」

 「痛いでしょう…大丈夫、大丈夫ですから」
 
チビっこの前にしゃがんで目を合わせ。
周りに落ちてるものとかあったら拾ったりとかしちゃう。

948三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2020/03/15(日) 21:01:05
>>947

  「はっ――――いえ、あの」

            「大丈夫……ですから……」

      …………ザッ

声を掛けられて、何とか起き上がりました。
この方は、見ず知らずの千草を気遣ってくれています。
なかなか出来る事ではないでしょう。
とても『立派』です。
こういう良い部分は、どんどん見習っていきたいです。

「お気遣いありがとうございます」

         ペコリ

きちんと姿勢を正して、お礼を言いましょう。
両手に持っていた鞄は落としてしまっていました。
中に入っていた本が散らかっています。
これでは通行の迷惑になります。
早く片付けないといけませんが、
お礼を疎かにしていては『立派な人』にはなれません。

949ラフィーノ石繭『ミスティカル・ガイド』:2020/03/15(日) 22:08:49
>>948
「ほんとうに大丈夫です?膝とかすりむいていない?」
「絆創膏あるから 貸してあげますよ 貸すだけですけれど」

そんな感じに声を掛けながら、チビっこが落とした物を拾う。

「…いろいろ読んでンのね」
「立派ね」

本か。
私の事務所にもいっぱいあるわね。
風水とか星とか心理学とかFXとか漫画とか。

こんなにたくさん、この子は何を読んでるのかしら。
お勉強の本とかかしらね。

950三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2020/03/15(日) 22:33:18
>>949

散らばった本には、色々なジャンルのものがありました。
特に多いのは、『社会勉強』に関係した本です。
『社会の仕組み』や『職業の解説』や『資格の取り方』などですね。

「あっ、ありがとうございます」

拾っていただきながら、自分でも本を集めます。
二人だったので、すぐに片付きました。
お陰様で、とても助かりました。

「いえ、とんでもないです。
 知らない相手を気遣える方こそ立派だと思いますから」

「――――『膝』、ですか?」

見下ろして気が付きました。
言われた通り、擦り剥いていたようです。
少しだけですが、そこから『血』が出ていました。

       グラリ…………

『それ』を見た瞬間、体が大きく傾きました。
血を見たせいで、意識が『飛んでしまった』ようです。
気絶したまま、ゆっくりと後ろに倒れていきます。

951ラフィーノ石繭『ミスティカル・ガイド』:2020/03/15(日) 23:13:18
>>950
年相応ではないものを読んでいてびっくりした。
このコ、まだ小学生くらいでしょ。

「立派… そんなことないと思うけど 実際、気まぐれよ。」

 >グラリ…………

 「エッ うわっマジ?  『ミスティカル・ガイド』!」

両手に本を抱えている状態なので、
仕方なく『人型スタンド』で素早く受け止め、ゆっくり倒してやる。
こういう時も周りの連中は遠巻きに眺めてるだけなのよね
くそッ 腹立つ。

 「オーーーイ  聞こえる?大丈夫ですよ」
 
 「『怪我』が怖かったのですか? 」
 「…とりあえず絆創膏貸しますよ 貸しですからね」

自分の鞄から水玉模様の絆創膏を取り出し、チビッ子の膝に張っておく。

 「大丈夫 もう怖い事はありませんから」
 「……生きてる?救急車呼びますよ?」

952三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2020/03/15(日) 23:37:31
>>951

遠くの方から、誰かが呼んでいる声が聞こえました。
どなたでしょうか。
そんな事を考えていると、
少しずつ目の前が明るくなってきたようです。

「――――う…………」

まだ頭がぼんやりしています。
でも、生きているようですね。
一安心です。

「大丈夫……です。ちゃんと生きてます……」

「だから……救急車は結構ですので……」

最初に見えたのは、先程の親切な方でした。
そして、『絆創膏』が目に留まりました。
血が見えなくなったので、もう意識が飛ぶ事もないと思います。

「……絆創膏、『お借りします』。ありがとうございます」

「この御恩は、いつか必ずお返ししますね」

         ペコリ

             「あっ――」

お辞儀をして、また頭を上げた時に気が付きました。
その人の近くに、見慣れない姿の『スタンド』がいる事に。
だから、そちらに視線が向く事は避けられませんでした。

953ラフィーノ石繭『ミスティカル・ガイド』:2020/03/16(月) 00:04:16
>>952
「生きていてよかった。安心ですね。」


>  「あっ――」

「んっ」

職業柄、人の視線とかよく見ちゃうから。
…その視線移動。わかっちゃったわ。
正体が子供にバレた。これはよくない

 「……『御恩』……そうね、恩ですね」
 「絆創膏……あげるから」

チビっ子の肩をつかんでグイっと迫る

 「『内緒』にしていただけませんか……」

顔面を近づけ小さな声で喋る。

「『スタンド使い』ってのは知恵が回る
 …ズル賢い。裏をかく。油断ならない。
 さらにオカルトに耐性がある。 
 そういうわけで、わたしの商売にはちょっぴり厄介なのです」

「しかし、自身の心情、ルールに逆らうことはしない」
「そういう傾向がある。『奇妙』な人々です。」

「あなたもそうなのでしょう」

「でも……立派な人間なら『恩返し』、できますよね?」
「あなたはしっかりした子だから」
「『内緒』に。ね?できますよ、あなたなら」

954三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2020/03/16(月) 00:25:32
>>953

「ひッ――――」

後ずさる暇もなく、瞬く間に肩を捕まれました。
その素早い動きに、圧倒されるような『迫力』を感じます。
喉の奥から悲鳴に近い声が漏れてしまったのは、
そのせいかもしれません。

「は、はい。誰にも言いません。『絶対』に」

「『内緒』にします。約束します」

スタンド使いは知恵が回るというのは本当でしょうか。
千草は自分の事を賢いとは思いません。
でも、きっとこの方は賢い人なのでしょう。
態度や言葉の節々から、
『強さ』が滲み出ているような気がします。
そういう部分は、是非とも見習いたい所です。

「千草は『立派な人間』ではないですけど、
 『そうなりたい』と思っています」

「だから――『約束』は守ります。
 『恩返し』しますから……」

     コクッ

小さく頷いて、ハッキリと宣言します。
恐いからではなく、
そうする事が『立派な人』になるために必要だからです。
『立派な人間』なら、恩返しをしなければいけません。

955ラフィーノ石繭『ミスティカル・ガイド』:2020/03/16(月) 00:54:55
>>954
『あの占い師さん!知ってる人です!スタンド使いです!』
などと他のスタンド使いに言いふらされれば『神秘』の『格が落ちる』。
そういうわけでちょっと圧を掛けてみたのだ。

 「………『約束』ですからね」

最後に、眼が水晶となった、岩のような体を持つスタンドで睨みを利かせ、
チビッ子から離れてあげる。

 「…ふふ、……怖がらせ過ぎてしまいました ごめんなさい」

 「別に『地獄に落ちろ』とか『死ね』とかではなくて…
  ただ、『オカルト』というのは厄介なものだな、という、」

 「それだけの話です。とって食べたりなんてしませんから 安心して」

 「もう怖い事はありません 絆創膏もあります」

ちょっと怖がり過ぎじゃないこのチビっこ。
この臆病さで『スタンド使い』か。逆に怖いやつね。
かわいい子だけど要注意。
とはいえ可哀そうなものは可哀そうなのでちょっとフォローはしておいた。

956三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2020/03/16(月) 01:17:50
>>955

『水晶の眼』を見ていると、
何だか考えを見抜かれているような気がしてきます。
もしかすると、本当にそうなのかもしれません。
『人の心を読み取る能力』――
『スタンド』には、そんな力もあるのでしょうか。

「は、はい。よく分かりました」

「――『約束』です」

千草は誰からも尊敬されるような『立派な人間』になりたいです。
立派な人間になって、『素晴らしい最期』を迎えたいのです。
そのためにも、この秘密は『墓穴』まで持っていく覚悟です。

「あの……『勉強』があるので、これで失礼します」

「色々と親切にして頂いて、ありがとうございました」

       ペコッ

最後に、もう一度だけ頭を下げて、歩き出します。
いつか、あんな風に『賢くて強いスタンド使い』になれるでしょうか。
それは分かりませんが、
この『出会い』も、きっと『肥やし』になってくれると信じます。

957ディーン『ワン・フォー・ホープ』:2020/03/20(金) 18:29:43
>>853

時々、こう考える事がある。
俺が『人間』だったなら、
ずっとヨシエの傍にいてやれたのかもしれないと。
だが、俺が犬じゃなければ、ヨシエと出会う事はなかっただろう。

(――『発想』を変えてみるか)

もしヨシエが『犬』だったらどうだ?
そうしたら、俺はヨシエを支え続ける事が出来たかもしれない。
そこまで考えて、俺は軽く頭を振った。

(いや……我ながら馬鹿な思い付きだったな)

こうして自分だけで歩いていると、
どうでもいいような事が思い浮かんでしまう。
もっとマシな時間の使い方がある筈だ。
そう思って、俺は周りを見回した。

  クゥーン

ここは『公園』だ。
コンビニが近いせいか、『人間』は程々にいる。
『犬』は俺だけだ。

今頃ヨシエは、『人間の友達』と遊んでいる。
ヨシエは『人間』であって『犬』じゃあない。
だから、『犬』ばかりではなく、
『人間』との付き合いも大事にするべきだ。

958ディーン『ワン・フォー・ホープ』:2020/03/28(土) 19:11:28
>>957

     トッ トッ トッ

しばらくして、俺は歩き出した。
こういう時には、場所を変えてみるのも『一つの手』だろう。
俺にあるのは『前足』であって、『手』じゃあないが。

             トッ トッ トッ

959美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2020/03/28(土) 21:34:48

  バァァァァァ――――ッ

軽快な走りで颯爽と通りを駆け抜けるスクーター。
その上に乗っているのが私。
風を切って進む感覚が心地良い。

                   プスンッ

       「――――あら?」

徐々にスピードが鈍り、ついには路肩で停車した。
また『ご機嫌』を損ねてしまったのだろうか。
そう思い、シートから降りて各部を点検する。

「しょうがない子ね」

           カチャッ

これくらいのトラブルなら、少し構ってあげれば直るだろう。
シート下のスペースには車載工具が入っている。
その中から六角レンチを取り出して、車体を弄り始めた。

960<削除>:<削除>
<削除>

961名無しは星を見ていたい:2020/03/31(火) 00:46:05
>>959

『コツコツコツ』

そこへ、小さな靴音が近づいて来た。年齢は中学生くらいだろうか。髪は背中まで届くセミロングだ。
華奢な身体に、所々和装の趣が入った黒いドレスを身に纏い、足元には厳つめのブーツを履いている。

「ねえ、ねえ」「これは何をしているの?」

訊ねながら、美作の隣で座り込んだ。興味深そうに、二輪と六角レンチを眺めている。

962美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2020/03/31(火) 01:16:12
>>961

「――――ん?」

『足音』が聞こえてくる。
てっきり、そのまま通り過ぎるのだろうと思っていた。
しかし、どうやら違ったらしい。

「これはね、ちょっとした『トラブル』っていうか――」

    カチャ

「まあ、そんな大変なものでもないんだけど――」

                     カチャ

「たまに調子が悪くなっちゃうのよね。今みたいな感じで――」

            カチャ

「――でも、慣れてるから大丈夫よ」

作業を続けながら、隣に言葉を返す。
一段落してから、相手の方に視線を向けた。
そして、その服装を軽く観察する。

「なかなか個性的なファッションね。
 『和洋折衷』って言うのかしら?」

こちらの格好は、ラフなアメカジスタイルだ。
化粧っ気のある二十台半ば程の女。
対照的という程でもないが、イメージはだいぶ異なる。

963名無しは星を見ていたい:2020/03/31(火) 01:46:22
>>962

「『トラブル』」「ああ、この『二輪車』、動かなくなっちゃったのね」

美作の言葉を反芻しながら、うんうんと頷く。
慣れている、と言った彼女の言に偽りなく、会話をしながらでもその動きに淀みはない。

「お姉さんは、普段からこういったお仕事をされているの?」
「それとも、この子がちょっと『問題児』なのかしら?」

首を傾げながら、スクーターを指差した。
そして美作の視線に気付き、肯定する。やや広がったデザインの袖口に手を隠し、自分でもそのドレスを眺める。

「『和ゴス』って言われているらしいわ。あたし、よく知らないのだけれど」
「それでも、似合っていると言ってくれたから。ねえ、お姉さんからは、どう?」

白い肌に対照的な、黒いドレス───和ゴスの子は立ち上がり、くるりと回った。
裾の長いスカートがふんわりと舞い、一回転すると、笑顔で美作に問いかける。

964美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2020/03/31(火) 02:19:30
>>963

「あはは、『仕事』って訳じゃあないかな。
 これは何というか――趣味みたいなものかしら?」

「本当にどうしようもない時は、
 修理屋さんに出さなくちゃいけないんだけどね。
 ちょっとした故障くらいで持っていくのも考え物だから。
 それで『応急処置』の仕方を覚えたの」

「まあでも、『問題児』なのは確かね。
 でも、それなりに長く乗っていて愛着があるから」

    ポンッ

「それに、『手が掛かる子ほど可愛い』とも言うし――ね。
 私が『親バカ』なだけかもしれないんだけど」

鮮やかなイエローの車体を軽く叩き、明るく笑う。
その目に映るのは、白と黒のコントラスト。
あまり見かけない珍しいファッションなだけに、
自然と興味を引かれた。

「そうね……うん、『綺麗』だと思うわ。
 『可愛い』って言うべきかもしれないけど、
 どちらかというと『綺麗』の方がしっくり来る感じ。
 ブーツがアクセントとして効いてるわね」

「――なぁんて、何だか偉そうな事を言っちゃった。ごめんね。
 でも、感想の方は本当だから」

そう言いながら、少しだけ昔の事を思い出した。
『ステージ衣装』を着ていた頃の事を。
ただ、『和ゴス』ではなかったが。

965名無しは星を見ていたい:2020/03/31(火) 02:33:58
>>964

>「それに、『手が掛かる子ほど可愛い』とも言うし――ね。
> 私が『親バカ』なだけかもしれないんだけど」


「──────────」

それは、数秒にも満たないほんの僅かな間。
笑顔を浮かべる少女が、まるで一時停止ボタンを押されたかのようにフリーズした。
が、すぐに動き出し、袖で口元を抑える仕草をする。

「うふふ。お姉さんって、モノをとても大切にする人なのね」「いい人ね」
「あたし、そういう人は、好きよ」「要らないからって、すぐに手放したりしない人って」

美作の衣服に対する感想に、少女はとても嬉しそうだ。ドレスの裾をつまむと、軽く広げて頭を下げた。

「ありがとう」
「あたしはお姉さんを信じるけれど。これが仮にお世辞だとしても、嬉しいわ。あたしもこのドレス、とても気に入っているの」
「お姉さんも、そのスポーティなファッション、とても似合っているわ。活動的な大人の女性って感じで、カッコいいもの」

手を後ろに回して、上体を曲げながら美作の衣服を眺める。

「お姉さん、今日は『オフ』なの?それとも、お仕事の時もそういう格好なの?」

966美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2020/03/31(火) 03:00:55
>>965

(『何か』――――あるみたいね)

唐突に固まる少女を見て、内心は驚いていた。
しかし、それを表には出さない。
かつて『アイドル』だった時代に、
自分自身の『舵取り』をする訓練を積んで来ているからだ。

「ありがとう、お嬢さん。そう言ってもらえると、とっても嬉しいわ。
 自分でも気に入ってるの」

        フフッ

少女の言葉に笑顔を見せる。
褒められるのは嬉しいものだ。
それは『立場』が変化しても変わらない。

「そうね、こういう服装でいる事が多いかしら。
 やっぱり動きやすいのが大きいから」

「しっとりした雰囲気なのも、
 たまには良いかなとは思うんだけど……」

「だけど、あなたみたいなファッションは、
 さすがに似合う年は過ぎちゃってるわね」

           クスッ

ドレスを見つめる視線の奥に、
一瞬だけ『憧憬』のような色が現れた。
過去の栄光を懐かしむ気持ちが、心の中を過ぎった。
それを隠すために、悪戯っぽく微笑んだ。

「今日はお休み――だから『オフ』の日よ。
 ちょっと軽く街を走ってみようかと思ってね」

「――あなたは?」

967名無しは星を見ていたい:2020/03/31(火) 03:15:22
>>966

「あら、あたしの見立てなら、お姉さんは今でもお似合いになると思うわ」
「元がいい人はね、化粧とファッションでどんな風にでも変身できると思うの。あたしがそうだもの」
「いつでも気が向いた時は相談してね。お姉さんに似合うお洋服、探してあげるわ」

過去を思い出し懐かしむ美作に対して、それを知ってか知らずか
少女はつかつかと歩み寄り、首を傾げてみせた。どうやら割と頭が動くクセがあるらしい。

「そうなの。うふふ、きっとその子もお姉さんとお出かけできて、喜んでいるわね」
「張り切り過ぎて、ちょっと失敗しちゃったみたいだけれど」
「あたし?あたしはね、『お仕事』の前に散歩をしているの。宣伝も兼ねているのだけれど」

968美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2020/03/31(火) 03:29:54
>>967

「あはは、ありがとう。もし必要な時はお願いするわね。
 お嬢さんなら、安心して任せられそうだから」

この少女はセンスが良い。
だから、もし本当に相談する事になっても信頼出来そうだ。
もっとも、その機会はすぐには巡って来ないとは思うけど。

「喜んでる――そうね、きっとそうだと思うわ。
 元気が良すぎるのも問題なのかもね」

     フフ

スクーターを人のように表現する言い回しに、思わず表情が緩む。
実際、自分もそういう風に愛車を扱う事がある。
だから、彼女の言い方に共感を覚えたのだろう。

「『宣伝』?どういうお仕事をしているのか聞いてもいいかしら?」

彼女の言葉が気になった。
見た所は中学生くらいだが、
その年でする仕事というのは何だろう。
とはいえ自分も少女と同じくらいの年頃から『仕事』はしていたが。

969名無しは星を見ていたい:2020/03/31(火) 03:47:30
>>968

「ええ、もちろんよ。あたしね、『名刺』を持っているのよ。『名刺』」
「なんだか大人みたいじゃない?カッコいいわよね、ふふ」

美作の問いに二つ返事で頷いた少女は、袖の中から一枚の名刺を取り出した。
彼女の洋服にもよく似た和柄の背景、そして大きな文字で『Bar 黒猫堂』、その下に『林檎』と記されている。
その名刺を両手で持ち直すと、賞状でも手渡すかのように、そっと美作に差し出した。

「あたしね、『林檎』って言うの。もちろん本名じゃないけど。これを言うってことは、本名は言えないってことなの」
「でも、お姉さんみたいな人はあまり来ないわね。やっぱり男の人がほとんどよ。あたしはそういう人とお喋りするの」
「だから、お姉さんの知り合いの人で、そういう所に行きたい人がいれば渡してあげて。お姉さんの紹介なら、少しサービスしてあげる」

唇に指を当て、じっと目の前の美作の顔を見上げた。

「お姉さんのお名前は?」
「ああ、もちろん本名でなくてもいいのよ。あたしが違うもの。フェアじゃあないものね」

970美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2020/03/31(火) 04:11:33
>>969

「――――『名刺』?これは、ご丁寧に」

表情の上では平静を保ちながら、両手で名刺を受け取る。
しかし、心中では少しばかりの戸惑いもあった。
予想もしていなかった答えだったからだ。

(……もしかすると、見た目よりも大人なのかしら。
 世の中には童顔の子もいるし……。だけど……)

(いえ……きっと考え過ぎね)

まさか中学生がバーで働いているとは思わない。
労働基準法とか風営法というものがある。
だから、そういう場で働ける年齢なのだろうと解釈した。

「ありがとう。じゃあ、せっかくだから『名刺交換』しましょうか」

ジーンズのポケットから名刺入れを取り出す。
その中から一枚を抜き出し、少女に差し出した。
『<Electric Canary Garden> パーソナリティー・美作くるみ』――
名刺には、そのように記載されている。
他に、ラジオの放送局名や番組放送時間、
問い合わせ先などが書いてあった。
『電気コードが付いた小鳥』のイラストが、隅の方に添えてある。

「私は、こういう者よ。
 詳しくはそこに書いてあるけど、『ラジオ』をやってるの。
 『パーソナリティー』っていうやつね」

「お暇な時にでも聴いてくれると嬉しいわ。
 リスナーとお喋りするコーナーもあるから、
 もし良かったら気軽に電話してきてね」

971名無しは星を見ていたい:2020/03/31(火) 04:30:17
>>970

「─────『名刺交換』!」
「とっても素敵ね、それって。うふふ、大切にさせて頂くわ、お姉さんの名刺」

手を胸の前で合わせ、林檎はきらきらと目を輝かせた。
両手で名刺を受け取ると、まじまじと興味深そうに眺める。意味もなく、日に透かしてみたりしている。

「可愛らしいデザインね。特にこの小鳥さんが可愛いわ。くるみさんというお名前なのね」
「…ラジオ?」「確か、おばあちゃんが持っていたかしら」
「ねえ、これはスマートフォンとかでも聴いたりできるの?」

まだ幼い少女にはあまり馴染みのないもののようだ。しかし興味はあるらしい。

「トーク番組の司会を務めてる、みたいなものよね?すごいわ、くるみさん」
「ぜひお邪魔させて頂くわ。でも、それってあたしたちのお話が他の人にも聞こえてしまうのよね?」
「なんだか少し緊張してしまうかも」

972美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2020/03/31(火) 04:54:31
>>971

「実は、この小鳥は私が描いたのよ。
 番組のイメージキャラクターなの。
 名前は『電気カナリア』ね」

       フフ

「大丈夫よ。最近はラジオが聴けるアプリもあるから。
 今はラジオを聴く機会も少なくなってるから、
 きっかけが増えるのは、関係者としてもありがたい事ね」

「そうね――最初は緊張するかもしれないけど、
 話し始めると落ち着いてくる事も多いから。
 もちろん、話しやすいような雰囲気作りには、
 私も気を遣っているしね」

「だから、林檎さんも気が向いたら掛けてきて。
 いつでも待ってるわ」

        ザッ

「――さてと……調子はどうかしら?」

シートに腰を下ろし、慣れた動きでキックレバーを蹴る。
三回目のキックで、無事にエンジンが始動した。
一安心し、小さくため息を漏らす。

「何とか元気になってくれたみたいね。
 次は張り切り過ぎないように言っておかないと」

「でも、この子が失敗したお陰で林檎さんと出会えたんだけど」

         クスッ

スクーターに乗ったまま、少女に笑い掛ける。
故障がなければ、会う事はなかっただろう。
だから、ある意味では幸運だったのかもしれない。

973猫柳 柚子『カーマ・カメレオン』:2020/03/31(火) 05:21:04
>>972

「『カナリア』って、あの美しい声で唄うっていう鳥の?いいえ、直接聞いた事はないのだけれど」
「くるみさんは電気のカナリアで、その声を電波に乗せて届けるのね!なんだかロマンティックだわ」

『カッ』『カツッ』

自分の推理が当たっていると思い込んだのか、感極まったかのように林檎はくるくると回った。
ブーツの底がアスファルトの地面にぶつかり、音を立てる。

「そうなのね、それはとてもありがたいわ。今度お家で聴かせてもらうわね」
「他の人と話しているところを聴けば、どんな雰囲気かも分かりやすいでしょうし」
「うふっ。くるみさんにリードして頂けるなんて、とても光栄だわ、あたし」

美作がスクーターの上に乗り、レバーを蹴る様をまた興味深そうに見つめる林檎。
そしてエンジンが点火したのに驚き、一歩後ろに下がった。

「そうね、あたしはその子に感謝したいけれど。その子がやきもちを妬いてないといいわ」
「それじゃあね、ばいばい。くるみさんとのドライブ、楽しんできてね」

スクーターのヘッドライトの辺りを覗き込み、小さく手を振る。
そして改めて美作へと向き直り、ドレスの裾をつまんで一礼をした。

「ありがとう、くるみさん。また今度、その時は電波でお会いしましょうね」

そうして林檎は背中を向けると、靴音を鳴らしながら去っていった。
その小さな姿も、やがて人の中に紛れ込んでいく。




「…あの人は、いい大人だったなぁ」「できれば『ボク』の時に会いたかったかも」
「うーん、でも『ラジオ』でお店を宣伝させてもらうのはいいアイディアかな?」
「でもでも、目立ち過ぎるとボクは働けなくなっちゃうしなぁ」

誰もいない所でセミロングのウィッグを外し、『少年』に戻った少女は一人呟く。
自分が歩いてきた道を振り返り、あの優しいラジオパーソナリティの人を思い出していた。
はぁ、とため息を吐くと、ウィッグをかぶり直し、『少女』へとなった少年は、己の戦場である夜の街へと歩いていく。

974鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/04/12(日) 21:36:59
商店街の中にある、スポーツ用品店。そこから買い物袋を手にした一人の少年が出てきた。
竹刀の手入れ用品を買い足した彼は、そのままの足で和菓子屋さんへと向かう。
今日は何を買って行こうか、そんな事を考えながら、時折反対側の歩行者へチラリと視線を送る。
何の変哲もない、平和な通りだ。そうあるべきな、望み通りの光景だ。

「・・・・・」

考え事をしながら、横を見て歩く少年は前方に注意を向けていない。誰かにぶつかってしまうかもしれない。

975石動 織夏『パイオニアーズ・オーバーC』:2020/04/13(月) 18:53:06
>>974
>誰かにぶつかってしまうかもしれない。

どん! ばらばらっ!
……案の定、誰かとぶつかってしまった。同時に、なにかが散らばる音が響く。

「おっと、ごめんよ」
ぶつかったのは、白黒の髪に黒の清月学園中等部制服、シャチのような風貌をした少年だ。
身長178cmの鉄よりいくらか低い(172cm)が、がっしりとした体格をしている。

「すまねぇ、よそ見してた。どっか汚れなかったか?」
地面には『携行補給食』の『スポーツ羊羹』が散らばっている。

976鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/04/13(月) 20:17:10
>>975

「ッ?!」

「いや、申し訳ない。こちらこそ、ぼうっとしていて…」

ぶつかってまず思ったのは、しっかりとした体幹だ。何らかのスポーツをやっているのだろうか。
制服からすると中学生らしいが、かなり恵まれた体格をしている。
筋肉量次第では、こちらよりウェイトは上かもしれない。

「こちらは大丈夫だ。拾う手伝いをさせてくれ」

頭を下げ、彼が床に落としてしまったものを拾おうとする。
その内の一つを手に取ったところで、思わずしげしげと眺めてしまった。

「これは…?『羊羹』か?」

977石動 織夏『パイオニアーズ・オーバーC』:2020/04/13(月) 20:59:42
>>976
「いやいや、こちらこそすまない。」(ペコォー
少年は頭を下げる。

「拾わせちゃって更にすまない。助かる。」
落ちた『羊羹』を自らも拾う。

「ああ、『羊羹』さ。
『男が和菓子なんて!』と思うかもしれないが、コイツは『スポーツ羊羹』ってヤツだ。
小サイズで高カロリーだから、競技中の栄養補給にピッタリなのさ。
まぁ、競技抜きにしても好きなんだけどな。」
喋りながらヒョイヒョイと拾っていく。

978鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/04/13(月) 21:09:55
>>977

『ピクッ』

「このサイズで、高カロリー…?しかも、『羊羹』で?」

何という高機能食品だろう。携帯しやすいサイズでありながら、手軽にエネルギーを補給できる。
しかも、美味しい和菓子の羊羹で。
自分も拾えるだけ集めて、二人で一通り拾った所でわ改めて少年へと向き直る。

「すまないが君、この羊羹はどちらで売っているんだ?」
「ああ、申し遅れた。俺は高等部二年生、鉄 夕立(くろがね ゆうだち)だ」
「『剣道部』に所属している」

979石動 織夏『パイオニアーズ・オーバーC』:2020/04/14(火) 05:35:17
>>978
「拾ってくれて、ありがとうさん」
拾ってもらった羊羹を受け取る。

「んん?『スポーツ羊羹』に興味あるのかい?
すぐそこの和菓子屋で売ってるが……一緒に行ってみるかい?」
聞いてみる。

「ご紹介ありがとう、先輩だったのか。
俺は清月学園の中等部3年、石動織夏(いするぎおるか)だ。」
「『水泳部』に所属している。」

980鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/04/14(火) 16:45:46
>>979

「是非、頼みたい」
「それと…『和菓子』を好きな男がいても、何らおかしくはないさ」
「美味しいものを好きな気持ちに、男女は関係ないのだから」

自己擁護も含めつつ、彼の提案に頷く。自分も『洋菓子』より『和菓子』の方が好きだ。
総じて甘いものが好きな方だ。その点に関して、男なのに、と誰かに言われようとも嗜好に関しては仕方あるまい。

「織夏(おるか)、いい名前だ」
「しかし『水泳部』か…何かスポーツをやっているのでは、と思っていたが、
 それなら納得だ。良い鍛え方をしているな、石動くんは」

自分も勿論鍛錬は怠ってはいないが、剣道部の中ではやや細い方になる。
肉が付きづらい体質なので、剣筋は力で押すよりも速さで攻めるタイプだ。

981石動 織夏『パイオニアーズ・オーバーC』:2020/04/14(火) 18:37:39
>>980
「おう!喜んで案内するぜ!
 和菓子好きが増えるのはいいことだからな!」
案内するように、てくてくと歩いていく。

「鉄さんは剣道部か。なるほど『らしい』や。
 水泳は冷えるし、鍛えなきゃ泳げないからな、適切な食事が必須なのさ。」

「しかし、『くろがね』ってことは『鉄』って字か。
 『いするぎ』が『石動』って字だから、アレだな。
 お互い『鉱物』に関する名字ってワケだ。アイアンとストーンだな。」
軽口を叩く。

「……さて、着いたぞ。」
そんなこんなで和菓子屋さんの前に着いた。『御菓子司 鈴○』 と書いてある。

※和菓子屋さん役のNPCはこちらが演じる、ということでいいでしょうか?

982鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/04/14(火) 19:14:52
>>981

「確かに、冷える環境というのはそれだけでカロリーを消費する」
「他のスポーツよりも、その点に関してより気を付けなければならないのか。
 …しかし、『水泳』は周囲の環境に影響される所が多くて大変だな」

冬場などは、やはりそのまま泳ぐことは難しく、陸上部のように身体を鍛える事もあるのだとか。
温水プールなどが近くにあれば、練習場所としてはいいのだろうが、他の利用者との兼ね合いもあるのだろう。
…いや、『清月学園』にはひょっとしてあるのか?あの学園は大きい、自分の知らない施設があってもおかしくない。

「ふむ、着眼点が素晴らしい。気がつかなかったな」
「鉱物として同じ、好物の同じコンビとしてキミとは仲良くしたいものだ」

石動くんの言葉に、小さく微笑む。
肉体も素晴らしいものを持っているが、機転も効くタイプのようだ。

「ここにも『和菓子屋』が。気がつかなかったな」「『場所』をしっかり覚えておかなくては」


※ありがとうございます、よろしくお願いします。

983石動 織夏『パイオニアーズ・オーバーC』:2020/04/14(火) 19:56:22
>>982
石動「……褒めすぎだ。照れるぜ。」
鉄の言葉に石動が照れた。

石動「和菓子屋さーん、また来たぜ〜。」

ガラガラガラ……と戸を開けて、店に入る。

京風の和菓子屋だ。バイトの女の子が店番をしている。

和菓子屋のバイトさん「あら、石動さん、いらっしゃい。さっきも来た所ですのにどうしました。」

石動「新しいお客さん連れてきたんだ。ちょっと店内見せてよ。」

店内には……

・七味せんべい
・葛饅頭
・若鮎
・羊羹

……などが並んでいる。

984鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/04/14(火) 20:23:24
>>983

「こんにちは」
「石動くんの友人の、鉄です。お邪魔させて頂きます」

店員さんへと一礼をする。
成る程、顔を覚えられる程に石動くんはこの『和菓子屋』を訪れているようだ。
そんな事をするつもりは毛頭ないが、万に一つも失礼がないようにしよう。
陳列されている『商品』を眺めていく。

「『若あゆ』…珍しいな」「確か元々は京都の方で作られた和菓子だとか」

この『若あゆ』と、石動くん愛用の『スポーツ羊羹』は2つずつ買っておこう。
何故2つかと言うと、羊羹はともかく、若あゆを1人だけで食べていると妹に見つかった時に怒られるからだ。
後は『団子』、それと『安倍川餅』あるいは『信玄餅』があったら買っておこう。やはり2つ。

「…そういえば、あるいは既に知っているかもしれないが」
「石動くんと同じ学年に、妹がいるんだ。鉄 朝陽(くろがね あさひ)と言う」
「もし何か関わる機会があれば、よろしく頼む」

石動くんの方を見て、言う。

985石動 織夏『パイオニアーズ・オーバーC』:2020/04/14(火) 20:53:20
>>984
和菓子屋のバイトさん「鉄さんですね。よろしくお願いしますー。」

和菓子屋のバイトさん「石動さんは部活の帰りによく寄られるので覚えちゃったんですよー。」

和菓子屋のバイトさん「はいはい、若鮎とスポーツ羊羹ですねー。」

和菓子屋のバイトさん「あと、『お団子』と『安倍川餅』もー。」

和菓子屋のバイトさん「全部おふたつですね。」
てきぱきと包んでいく。

和菓子屋のバイトさん「税込1600円になりますー。」
商品8つで、お値段は1600円。そこそこ安い方にあたるのだろうか。

石動「おっと、妹さんがいるのかい。実は俺のとこにも喧しい妹がいるんだが……。」

石動「おう。関わる機会があったらよろしくされるぜ。」
よろしくされた。

986鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/04/14(火) 20:59:56
>>985

「ありがとうございます」

財布からお金を出して、無事購入を済ませる。買い物袋が二つになった。
家に帰って、味を確かめるのが待ち遠しい。『スポーツ羊羹』は部活動の時に持っていくとしよう。

「そうか、キミも兄だったのか」「やはり共通点が多いみたいだ」
「それで妹さんは、どんな子なんだ?石動くんと同じ『水泳部』なのか?」

お店を出ながら、訊ねる。

987石動 織夏『パイオニアーズ・オーバーC』:2020/04/14(火) 21:30:01
>>986
和菓子屋のバイトさん「毎度ありがとうございますー。」

ちりんちりーん……お店を出た。

石動「妹かい、玲緒(れお)って言うんだが、変わっててさ。」

石動「カンフーが大好きなんだが、色んな部活動を転々としてるから、さながら『応援部員』って感じだなぁ。」

石動「まぁ、うちの家族は変わり者が多いから、なんとも言えねぇや。」

988鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/04/14(火) 21:45:42
>>987

「レオ、か。勇ましい名前だな」
「名に似て活発そうな妹さんだ。まだまだ、色々な事を経験するのも良い歳だな」
「しかし、カンフー…と言うと中国拳法かな?」「女性でありながら『武』を志すというのは、恐れ入る」

兄のオルカ、というのはシャチの別名だったはずだ。妹のレオ共々、強い子になってほしいという親の想いを感じる。
自分も妹と対になる名前だが、意味は考えずに響きで決めたらしい。…何か願いとかなかったのだろうか。

「世話になったな、石動くん」「この借りは何らかの形で返したい」

店を出た所で、改めてお礼を言う。新しい『和菓子屋』さんを知る事ができたのは、大きな収穫だ。

989石動 織夏『パイオニアーズ・オーバーC』:2020/04/14(火) 21:53:08
>>988
「うん、勇ましすぎて、女の子らしさが足りねぇんだよなぁ……。」

「借りとか、そういうこと言わなくていいって。鉄さんはマメだなぁ……。」

「この店お気に入りだから常連さんが増えたら面白いな、ってだけの話だからさ。」

「それじゃあな!妹さんにもヨロシクー!」
よろしくを言って、去っていく。

990鉄 夕立『シヴァルリー』:2020/04/14(火) 22:22:44
>>989

「オレの妹も、『ピアノ』を習い始めるまでは似たようなものだったよ…」
「もっとも、それでようやく少し変わったかな、ってところが」

女の子らしくないことがいけない事ではない、と個人的には思うが。
ただ、それで要らぬ諍いを呼んでしまうのではないかと、少し心配になってしまう気持ちもある。

「これはオレの個人的な感覚だ、キミは気にしなくていいさ」
「それじゃあまた、石動くん。キミとキミの妹さんも、お元気で」

そう言って自分も帰途につく。
なお、この後剣道部でちょっとした『スポーツ羊羹』のブームがあったとか。

991『星見町案内板』:2020/04/15(水) 13:17:40

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