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【場】『 大通り ―星見街道― 』

1 『星見町案内板』 :2016/01/25(月) 00:00:31
星見駅を南北に貫く大街道。
北部街道沿いにはデパートやショッピングセンターが立ち並び、
横道に伸びる『商店街』には昔ながらの温かみを感じられる。

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                 ミ三ミz、
        ┌──┐         ミ三ミz、                   【鵺鳴川】
        │    │          ┌─┐ ミ三ミz、                 ││
        │    │    ┌──┘┌┘    ミ三三三三三三三三三【T名高速】三三
        └┐┌┘┌─┘    ┌┘                《          ││
  ┌───┘└┐│      ┌┘                   》     ☆  ││
  └──┐    └┘  ┌─┘┌┐    十         《           ││
        │        ┌┘┌─┘│                 》       ┌┘│
      ┌┘ 【H湖】 │★│┌─┘     【H城】  .///《////    │┌┘
      └─┐      │┌┘│         △       【商店街】      |│
━━━━┓└┐    └┘┌┘               ////《///.┏━━┿┿━━┓
        ┗┓└┐┌──┘    ┏━━━━━━━【星見駅】┛    ││    ┗
          ┗━┿┿━━━━━┛           .: : : :.》.: : :.   ┌┘│
             [_  _]                   【歓楽街】    │┌┘
───────┘└─────┐            .: : : :.》.: :.:   ││
                      └───┐◇      .《.      ││
                【遠州灘】            └───┐  .》       ││      ┌
                                └────┐││┌──┘
                                          └┘└┘
★:『天文台』
☆:『星見スカイモール』
◇:『アリーナ(倉庫街)』
△:『清月館』
十:『アポロン・クリニックモール』
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2 スミシー『ザ・ウィズ』 :2016/01/28(木) 17:55:46

――星見街道。

何をするでもなく道を歩く、若い男一人。
正しくはさっきラーメンを食べた帰りなのだが。

      (ラーメンで熱入れても、
        またすぐ冷えてきやがるなァ〜……)

ともかく、今は何もしていない。
緑髪と赤いカラー眼鏡が特徴的すぎる、その男。

   「……」

         ポロッ

ハンカチを落とした。
どうやら、気づいていない。

          ・・・・拾って声をかけてもいいかもしれない。

3 板踏甲賀『ウィズイン・サイレンス』 :2016/01/29(金) 00:21:28
>>2

    「ん……」

落ちたハンカチに気づく。
長身、鋭い目つき、赤みの強い茶髪のオールバック。
少々『いかつい』青年だったが、スムーズにハンカチを拾い上げ、前を歩く男に声をかけた。

   「おい!」

低いが、よく通る大きな声だった。

      「……落としたぞ」

ひらひらと、ハンカチを軽く振る。
鋭い目つきがギロリと光る。……生まれつきだ。

4 スミシー『ザ・ウィズ』 :2016/01/29(金) 00:30:03
>>3

「……ッ!?」

           ビクッ

やや大きく背中を震わせた。
この『スミシー』・・・・『喜屋武 角』は臆病な男だ。

   クル

「あぁッ……!?」

やや威圧的に振り返る、と。

        ヒラヒラ

「アッ」

            ゴソゴソ

ハンカチに気づく。
ポケットに手を突っ込むと、やはりというか、ない。

  「拾ってくれたのか……
    わ、わりぃな、ありがとよ。」

            ボリ

        (なんだその目つきはよォ〜〜……
          ガン飛ばしてるわけじゃ、なさそうだが。)

頭を掻きながら、歩み寄る。

5 板踏甲賀『ウィズイン・サイレンス』 :2016/01/29(金) 00:43:56
>>4

      「気を付けるんだな。
       なにせ街中だ。下手すると二度と戻ってこないぞ」

    「……まぁ、ハンカチ程度なら大した被害でもないかもしれんが」

小言を言いながら、ハンカチを差し出す。
……妙にエラソーというか、歯に衣着せぬ物言いだ。
皮肉を言っている、という風でもないが。

       「……しかし、喧嘩でも吹っかけられたと思ったか?」

      「期待してたなら悪かったな」

……皮肉を言っているという風でもないが。
鋭い目つきで、真顔で、そんなことを言うのであった。

6 スミシー『ザ・ウィズ』 :2016/01/29(金) 00:58:58
>>5

「コイツはヤスモンだが……
 気に入ってるからな。次から気をつけるぜ。」

     「ありがとな。」

        パシ

ハンカチを受け取る。
笑みを浮かべていたが――

     「……」

        「期待はしてねェけどよ。」

片目を細めて。

「その物言い! お節介を言うとだが……
 相手によっちゃあ、キレられてもおかしかァねえぜ?」

        「それが望みなら知らねえけどよ……」

星見町は平穏な町だ、が。
その裏には、危険も息づいている――

             ・・・・スミシーも、それを知っている。

7 板踏甲賀『ウィズイン・サイレンス』 :2016/01/29(金) 01:11:50
>>6

    「ん……そうか?」

言われて、少しキョトンとした顔を見せて。

     「……そうかもしれんな。
      感覚がマヒしたか……気をつけよう。助かる」

顎に手を当てて、眉をひそめて少しものを考える顔をしながら返答する。

   「喧嘩はもうたくさんだ。一生分はやったからな。
    そもそも、怪我でもしたら『ペット』がやれなくなる」

目をやるのは、片手に下げていた黒い楽器ケース。
しっかりとした高級品だ。中身は、本人の言葉通りなら『トランペット』。

8 スミシー『ザ・ウィズ』 :2016/01/29(金) 01:23:15
>>7

「まあ、オレも人のことは言えないが……」

フォローするように付け加えて。
それから。

「喧嘩はイテェし、怖ェから、な。
 オレも、最近めっきり、足ィ洗っちまったぜ。」

     (洗いきれてもねえが、な……)

喧嘩。学生のそれではない。
スミシーには、いつでも『敵』が思い出せる。

  「……ペット?
   あー、ってえと……」

      チラ

楽器ケースに気づき。

「あぁ!ナルホド、トランペット……だよな?
 そりゃあ、迂闊に怪我もしてられねェわな。」

得心した、という顔で言う。
もっとも、楽器の種類には自信がないが。

「オレもバンド――
 の、真似事みてーなのはしたことあるが……」

「本格的に音楽ヤれる奴は、イカすと思ってるぜ。」

    ウンウン

             ・・・・二度ほど頷くスミシー。

9 板踏甲賀『ウィズイン・サイレンス』 :2016/01/29(金) 01:33:46
>>8

    「あんなもの、やらないに越したことはないさ」

本当に、痛いし、怖いだけだ。
ロクなもんじゃない。頷きながら、そう返す。

     「ああ、『トランペット』だ。吹奏楽部でな」

言いながら楽器ケースを撫でる。
軽くでも叩きはしないのは、それほど大事にしていることの表れか。
冷静な雰囲気だが、音楽への熱意は本物らしく……

    「ほう……軽音楽か?」

           「『文化祭』辺りでやってみたクチか?」

   「パートは? ボーカルか? ドラムか? ギターかベース? それともキーボード?」

        「曲は何をやった?
         やはりJ-POPか?」

……本物らしく、すごいグイグイ来た!
ニィと笑いながら、矢継ぎ早にまくし立てて来る!

10 スミシー『ザ・ウィズ』 :2016/01/29(金) 01:39:10
>>9

「そりゃそうだ。
 んで、吹奏楽部かァー。そいつァ――」

何か他愛のないことを言おうとした。
が、そこに。

   「オッ」

       「オオオッ……!?」

(な、なんだァ〜〜こいつはッ!
 音楽の話だからか? グイグイ来すぎだぜッ……!!)

            ・・・・板踏の熱意。

「お、落ち着けっての……!」

「だいたいそれで合ってるがよォ……
 まっ、J-POPじゃなくて、カッコつけて洋楽だったがな。」

あまりウケなかったが、青春の記憶だ。

「しかし……
 よっぽど音楽好きか? おめーは。」

                ・・・・怖いもの見たさ半分、聞いてみる。

11 板踏甲賀『ウィズイン・サイレンス』 :2016/01/29(金) 01:48:39
>>10

      「ほう……」

    「文化祭でやる洋楽と言うと、やはり7〜80年代のロックか?
     あの辺りの曲は有名どころも多いしな」

        「あれを目標にバンド始めるやつらも未だに多いし、練習用の資料もいくらでも……」

と、止まらないッ!
明らかに『落ち着け』の一言が耳に入っていないッ!

  「……ん、『音楽が好きか』だと?」

が、問いは届いたようだ。
一瞬「何を言ってるんだ」ぐらいの調子でキョトンとする。

      「当たり前だろう。大好きだよ」

   「というか……音楽が嫌いな人間なんているのか?」

      「『音楽の好み』はあるだろうが……嫌いなんて奴はそうそういないだろうに」

12 スミシー『ザ・ウィズ』 :2016/01/29(金) 01:55:12
>>11

「正確な年代は忘れたが、それで合ってるぜ。
 相当、昔の曲だがよォ〜〜、
 イカスのは現代でも通じるもんだよな……」

             (なんなんだッ、こいつはァ〜〜!)

かろうじてそう返しつつも、
勢いに押し込まれそうになるスミシーだが……

(な、なんとか……止められたぜ。
 こいつ、ほっときゃ一日中音楽トークしてんじゃねえか……?)

    ホッ

            ・・・・間一髪、届いた問い。

「……だ、だよな。」

一呼吸おいて。

「オレも音楽は好きだぜ。
 にしたって、おめーの音楽への勢いは半端ねえからな……」

               「『好き度』が高ェな、って話だぜ。」

13 板踏甲賀『ウィズイン・サイレンス』 :2016/01/29(金) 02:08:54
>>12

    「良い音楽に時代は無いさ」

本当に、放っておけば壁相手でも一日中話していられそうだ。
まぁ、それも、

   「『好き度が高い』、か」

       「……かもしれんな」

それだけ音楽が好き、ということなのだろうが。

    「……しかし、そんなに勢いがあったか?」

なお、自覚は薄いらしい。

   「…………そういうお前は、なにかないのか。
    特別好きな何かとか……お前にもあるだろう?」

14 スミシー『ザ・ウィズ』 :2016/01/29(金) 02:16:01
>>13

「特別かァ……」

     (……釣りか?
       音楽聴くのか?
         いや、そこまででもねえよな。)

疑問は残るところ。
眼の前の『音楽好き』ほど、胸を張って言えるか?

              ・・・・それより。

「俺は……この町だな。」

「いくらでも語れるとか――
 何でも知ってるとか――
 そういうのじゃあ、ねえし……
 他の町に負けてるとこも、あるだろうが……」

上を見る。
星が隠れ、お天道様が、見ている今でも。

       「オレは、この町を愛してるぜ。」

                ・・・・それは自信を持って言える。

15 板踏甲賀『ウィズイン・サイレンス』 :2016/01/29(金) 02:29:08
>>14

    「……『町』、か」

言われて、なんとなしに周囲を見渡す。
するとぽつぽつと人がいて、見上げれば空がある。
なるほど、と得心が行った。

      「なるほどな。
       そりゃあ、確かに、『いい趣味』だ」

ニィと笑う。
嘲りとか、皮肉の意味は一切込めない笑み。
その時、びゅうと風が吹いた。
思えばこの寒空の下、立ち話というのも妙な話で。

     「……さて、俺は行くよ」

    「じゃあな、星見好き。
     そのハンカチ、もう落とすなよ」

ひらひらと手を振って、別れを告げる。
元より袖触れあった縁だ。惜しむ別れでもない。
白い息を吐きながら、音楽好きは去っていく。

16 スミシー『ザ・ウィズ』 :2016/01/29(金) 02:33:59
>>15

『S県H市星見町』――
この小さな町には、スミシーの好むものが、いくらでもある。

「ああ……ここは、良い町だからよ。」

       ニヤ

スミシーは笑う。
そして、ハンカチをポケットにしまって。

          クル

「おう、じゃあな『音楽好き』ッ。
 余計な野郎にケンカ売られんじゃあねえぜ。」

      「ありがとな。」

                ヒラ ヒラ

          ・・・・振り返って、手を振りながら歩き去る。

17 小角 宝梦『イル・ソン・パティ』 :2016/02/02(火) 00:57:18

「よいしょっ……」

       ギュウ

          『ニャー』

猫を抱いて歩く少女。
いやそれより特徴的なのは、その服装。

     ジャン!

インバネスコートに、鹿撃ち帽。
まるっきりフィクションの名探偵だ。

(ふふ、こういう依頼をしてこそ探偵に近付けるというものだ。)

自信満々の表情で猫を抱えているが、いつ逃げられるか分かった物ではない。

18 紫 斜六『アームチェア・トラベラーズ』 :2016/02/02(火) 02:27:37
>>17

   ニャー
          ニャー

     「はいはい、ご主人様が首を長くして待ってますからね」

トレンチコートに、ハンチング帽子。
茶色の長髪を一つ結びにしたスレンダーな女が、猫の入ったケージを持って歩いている。
仕事帰りというか、仕事中というか。
ともあれそんなところで……

        「……おや?」

ばったり、見知った顔に遭遇した。

      「おやおや」

            「まぁまぁ」

     「ごきげんよう、宝梦ちゃん」

ウィンクひとつ、ご挨拶。

          ニャー

……ケージの中の猫も、小角に対してか猫に対してか、ご挨拶。

19 小角 宝梦『イル・ソン・パティ』 :2016/02/02(火) 02:35:41
>>18

「……あっ!」

     「め、名探偵どのっ……!」

         ニャー

知人に気づき、猫を離しそうになる小角。
しかしそこはかろうじて耐え――

「……お、おほん。」

「ごきげんよう、名探偵どの。
 そちらも……猫さがしの依頼かい?」

            パチン★

ウィンクを返すが――

      ニャー ニャー

「こ、こらっ、暴れるのはよせきみ……!
   ……ううむ、わたしもケージを買うべきか。」

猫を取り押さえるのに、悪戦苦闘。

20 紫 斜六『アームチェア・トラベラーズ』 :2016/02/02(火) 02:47:37
>>19

    「ええ、ええ」

     「お察しの通り、猫探しですとも。
      わざわざお金を払って迎えを寄越すんですから、愛されてますねぇクローバーちゃん?」

         ニャー

……クローバーちゃん、と言うらしい。
ケージの中の猫がどこか誇らしげに鳴いた。

   「かく言う宝梦ちゃんも、といったところですが……」

視線を猫に。
……今にも飛び出してしまいそうだ。

      「……ケージが無いなら、可愛そうですが手足を縛ってしまうのもひとつの手ですよ?
       キツく縛ると危険ですが、少しの間なら大丈夫ですし」

     「あと、持ち運びの面で言うならリード付きの首輪をひとつ買っておくと楽なのでオススメです。
      私は今回、依頼主がケージを持参してくださったのでそれを使っていますがね」

21 小角 宝梦『イル・ソン・パティ』 :2016/02/02(火) 02:56:45
>>20

「ふふ、似た依頼とは奇遇だね。」

「この子は『ワラビ』というんだ。
 すぐ逃げるし、暴れん坊だから、いつも頼まれて――」

          ニャーーォ

        バリッ

「わぎゃあっ!
 こ、コートをひっかくんじゃあない!」

        ・・・・悪戦苦闘する。

「し……縛る、かあ。
 それはなんだか、かわいそうな気がするけれど……」

          ニャー

そもそも、縛れるのか?
小角は本当にこの猫より強いのだろうか……?

「首輪か! ふむ、そちらの方が、ケージより便利そうだね。」

      ニャー

        「あっこら」

             ギュゥ     ジタバタ

               「……じ、次回から参考にしよう。」

しゃがんで『ワラビ』を抑え込みながら、顔だけ上げて言う。
これはどうにも頼りない感じだが、まあなんとか……逃がしてはいない。

22 紫 斜六『アームチェア・トラベラーズ』 :2016/02/02(火) 03:08:56
>>21

     「……なるほど、『お得意様』でしたか」

…………その割には懐かれていなさそうだが。
まぁせっかく家出したのに連れ戻しに来る人物になど、懐きようがないような気もするが。

……しばらく悪戦苦闘を見守る。

   「…………ところで、猫は袋の中を好む習性があるのですが」

見かねてか、一度ケージを地面に置いて、懐に手を入れる。
ごそごそと取り出したのは、折り畳まれたショッピングバッグ。いわゆる『エコバッグ』という奴だ。

        「良ければお貸ししますよ、これ。
         少なくともそのまま抱えておくよりはマシかと思いますし」

23 小角 宝梦『イル・ソン・パティ』 :2016/02/02(火) 03:22:46
>>22

「これで何度目だったかなあ……」

(そういえば……
 前にもリードがなくて困ったんだったか……)

      (あのときは犬だったが……本当にリードは必要だな。)

      ニャー

        「ううむ。」

何とか小角が勝ったらしい。
再び腕の中に、『ワラビ』を捉え込んだ……と。

「袋の中?」

「そうなのかい? 流石は名探偵どの。
 わたしも、猫知識ももっとつけなくちゃあね……」

しかし肝心の袋がなくちゃあな、と思ったが。

      「あっ!」

「あ……ありがとう、名探偵どの!
 貸してもらっていいかい? ふふん、これでなんとか……出来そうだよ。」

              スッ

エコバッグを片手で受け取り、口を広げる。
そして、そこに。

        「ほうら、この中に入っていたまえ……」

                  ニャー

      スルリ

もう片手でぎりぎり保持していた『ワラビ』を、ゆっくりと入らせる・・・・
 
                 ドヤ    チラ

何か自信ありげな顔で、紫の方をチラ見する。

24 紫 斜六『アームチェア・トラベラーズ』 :2016/02/02(火) 03:40:28
>>23

        「迷い猫探しも仕事の内ですから、初歩ですよ」

     「もしものために、と持ってきていたのですが、正解でしたね」

袋を手渡し、しばらく見守る。
危うげな手つきではあったが、どうにか問題なく『ワラビ』を袋に移動させることに成功したらしい。
これで一安心、こちらが胸を撫で下ろしていてもしょうがないのだが。

           「…………」

……ほっと胸を撫で下ろしていると、小角の自信ありげな顔。
思わず苦笑、破顔する。

       「……お見事、これで一安心ですね」

        「袋はそのうち返してくだされば結構ですので。
         今度事務所に遊びに来てくださいな。その時ついでに返せばいいでしょう」

25 小角 宝梦『イル・ソン・パティ』 :2016/02/02(火) 03:52:56
>>24

「しょ、初歩か! うーむ……」

      ニャー

ややくぐもった鳴き声。
エコバッグごと、抱き上げる。

            ギュウ

「ふふん、もう逃がさないぞ。
 ……ありがとう、名探偵どの。助かった。」

少しだけ真面目な顔になり、そういって頷く。

「ぜひ……うん、ぜひ行きたい!
 名探偵どのの探偵事務所、一度行ってみたかったんだ……」

            「結局、行けてなかったもんね。」

が、すぐにいつもの表情になって、笑う。
別にいつも不真面目な顔という事ではないが。

             ・・・・そして。

「……じゃあ、今日のところはこの辺りで失礼しようかな。」

    ペコ

          「近いうちに返しに行くよ。
           ……それじゃあね、名探偵どの。」

    ニャー
          ニャー

「ふふん、暴れてももはや無駄だぞきみ……」

        ・・・・そうして。
        一礼した後、小角はその場を去ろうとする。

26 紫 斜六『アームチェア・トラベラーズ』 :2016/02/02(火) 04:03:47
>>25

     「ふふ、紅茶とスコーンでも用意してお待ちしておりますよ」

どうせ客の多い事務所でもない。
いつも暇を持て余しているのだから、来客は大歓迎だ。

   「まぁ大した事務所じゃありませんがね」

これも本当。
駅前のコンビニの上の、大して広くも無い事務所である。
まぁ、個人の探偵事務所にさほど広さも必要ないが。

      「ええ、では、お互い一刻も早く依頼人を安心させてやるとしましょうか」

            ニャー

地面に置いたケージを拾い、帽子を軽く取って礼。

    「また会いましょう、小さな名探偵さん」

涼しげにウィンクひとつ。別れを告げて、去っていく。
二人の名探偵の、ちょっとした邂逅。短編未満のクロスオーバー。

         「……なんて、ね」

                  「ふふっ」

27 稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』 :2016/02/23(火) 00:44:18

街道を歩く恋姫。帽子に眼鏡で変装済み。
この辺りは学生も多いし、バレンタインで増えたのか? カップルも多い。

「…………」

      トコ   トコ

(周りのリア充オーラヤバいな……
  爆発したらどうするかな……えひ……)

  ツルッ

       「あっ」

              ズデェ

あまり派手じゃなくこけた。
足元が濡れていたらしい。周囲に気を取られ過ぎたか?

        「…………」

(はっず……僕の方が爆発しそうだなこれ…………)

               ・・・帽子を拾いつつ、呆然とする。

28 球良 楽人『ストーン・サワー』 :2016/02/23(火) 23:12:58
>>27
ところでコケた先には浮浪者的なものがいたそうで。

「……よッ、こんちは。何コケてんの?」

ニヤニヤ

ニヤニヤ笑いながら茶化してくる『浮浪者』風の青年。
衣服はヨレヨレ、ひどく痩せこけていて、目の下には深いクマ。
どっからどう見ても『不健康』そーな風体だ。

「この辺、ちょっと濡れてっからさァ……気をつけなよ」

そういう男の周りには、『ペットボトル』が何本も置かれている。
中身が満タンに入ってるのから、空っぽのものまで色々だ。

29 稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』 :2016/02/23(火) 23:29:53
>>28

濡れた帽子を、もう一度被る気にもならない。

「…………」

   イラッ

     (何笑ってんだ……)

       (なんだこいつ……マジキチか?
         もしそうだとしたら……こわちかすぎる……)

男に敵愾心を向けかけるが・・・・
その『ヤバ気』な風貌にややひるむ恋姫。

                 ジロ ・・・

「……気をつけるよ……乙らない程度に……」

        「……」

(なんだ……?ペットボトル……
 猫避けフル装備……ねこあつめアンチ勢か……?)

       (…………えひ、なんだそれ。
        つーか……濡れてんの、こいつのせいか……?)

ペットボトルに視線を向けつつ、ゆっくり立ち上がる。
もちろんだが、再度こけないように気をつけて――だ。

30 球良 楽人『ストーン・サワー』 :2016/02/23(火) 23:42:11
>>29
『ペットボトル』を見ながらゆっくり立ち上がろうとする……と、
そのうちのいくつかに、違和感を覚えるかもしれない。

『金魚』だ。
奇妙な外見の『真っ白』な金魚が、ペットボトルの中を『回遊』している……

「立ち上がるかい?」
「じゃあそこで『バァン』だ」

青年がそう口走ると、ペットボトルのうち、
満タンに水が入った二本が――

パ  ァ  ン

――『弾け飛んだ』。
水やら破片が辺りに飛び散る。
距離があるから、恐らく『恋姫』のところまでは到達しないだろう……

ビス! ビスッ!

青年の皮膚も、飛び散った破片であちこち『切れ』ているが、
全然ちっとも気にしちゃあいない様子だ。

31 稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』 :2016/02/24(水) 00:01:29
>>30

(なにあれ……金魚……?
 何考えてんだ……金魚すくいの準備……?)

      (つーか……あの感じ……)

             イラ   イラ

「……は? 何言ってんだお――――」

パ  ァ  ン

      
   ビクッッ
 
        「ま ッ……!?」

              ステンッ

                    「う、ぐ……」

いきなりの『破裂』に尻もちをつく。
そして確信する。

           (マジキチらしいな……
             常識的に考えて……)

       (しかも……)

(刃物よりやばいの……装備してやがる、
  っていう……えひ、まじかよ最低……何それ怖い……)
 
               ベチャ

再び立ち上がろうとする。
『青年』に向ける瞳は……敵愾心より、『危機感』だ。

                      ・・・危険な目に会いたくはない。

32 球良 楽人『ストーン・サワー』 :2016/02/24(水) 00:22:33
>>31
「ははは……ははははは!『ジョーク』だよ、『ジョーク』!
まさか本当に『爆弾』なワケねーだろうがッ!」

水浸しになりながら、青年は腹を抱えて笑う。

「――――そう、爆弾なんかじゃあないんだ」

……その笑顔が、急に消える。塞ぎ込むように
『三角座り』をすると、下を向いて何かぶつぶつ言い始めた。

「こんなものをいくら作ったって、僕の求める『インパクト』は得られない……
やっぱり素材か?いやサイズか?中身の『液体』だってもっと――――」

ひどい早口でまくし立てると、不意に言葉を止め、

ギロ

顔をあげて『恋姫』に目を向けた。

「――何見てんだよ。お前もアレか……『見えて』ンのか?
だから大したことねーって、そう思ってるクチか?
なあ」

青年の側に……先ほどの『金魚』が現れる。
こいつは――『スタンド』だ。

33 稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』 :2016/02/24(水) 00:33:23
>>32

「…………!!」

      ゾ ォ ッ ・ ・ ・


(やばいやばいやばい……こいつ……
  『マジキチ』どころか……まじで厄すぎる……!)

             ジリ

反射的に身を引く。
スタンドを傍らに発現する――――

   オォォ
               『ボボ』
        『ボ』

青い焔を灯す、黒衣の烏面。人型のスタンドヴィジョン。

     フイ

目を逸らす。

「知らねえよ……こっちはこけてイライラしてんだよ……
 お前がそう思ってんならお前の中ではそうなんだろうけど……」
 
        「向こう行くから……
          お前、僕にかまうなよ……!」

    『パチ』
 
                  『ゴウ』 『ゴォ』


震える心こそがその炉であると言わんばかり、『青い焔』の火勢は強まる。
戦う気などみじんにもない……そもそも、ここは町中だ。

34 球良 楽人『ストーン・サワー』 :2016/02/24(水) 00:58:22
>>33
「ッひ」

『恋姫』が発現したスタンド――『ブルー・サンシャイン』を見て、
青年が小さく声を漏らした。

「ひィいいいいいッ……『やっぱり』かよォ!?
だよなァ――中々逃げねーし、遠巻きから見てるわけでもねーし、
そんな気はしたんだよなァ……」

青年のリアクションは、『恐怖』だ。
『ブルー・サンシャイン』に対して、恐怖している。
腰を引きながら、『フタ』の開いたペットボトルを、一本取り出す。
やはり――『金魚』が、回遊していた。

「い、行くんならサッサと行けよ……
こ、こっちに来なけりゃあ、何もしねー……そんな
『おっかねえ』のと、この距離でやり合おうなんてとんでもないからなッ」

脅すように、青年は言う。
膝がガクガク行っているが、虚勢を張ったつもりのようだ。

35 稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』 :2016/02/24(水) 01:11:31
>>34

          『ゴォォ』

     『ボ』 

               『ボシュ』

青い焔が緩まる。
ひとまずの、停戦協定。

「……回り込んだりするなよ……」

     トコ   トコ

滑らないよう遠ざかる。
烏面の奥の瞳は、青年の『金魚』を警戒する。

           ・・・遠ざかっていく。

(……何なんだこいつ……どういうあれなんだ……?
  詳しく知りたいとも、思わないが……色んな意味でヤバすぎ……)

              (ドッキリより……
                よっぽどビビるわ……)

    (マジキチこわいわー……)

                    奇妙な交差だった。
                    いずれまた、交わる日が来る……のか?

36 球良 楽人『ストーン・サワー』 :2016/02/24(水) 01:26:21
>>35
「…………」

『恋姫』が立ち去るまで、固唾を飲んでその動向を見ていた。
完全に姿が見えなくなったのを確認し、大きく息を吐く。

「ふうううう……こ、コワかった……いや違うッ!
あーいう体験が『インスピレーション』になるに違いないッ……
僕はもっと『スタンド使い』とやらを知る必要があるんだ。
こいつ――『ストーン・サワー』のこともなッ」

……

「でもやっぱ怖ェえよォ――z__ッ!」

一人で一しきり騒いだあと、住みか(家ではない)へと帰っていった。
次の遭遇があるのならば、どんな形になることやら。

37 稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』 :2016/02/29(月) 02:47:12

ゲームを買いに走った帰り。

「…………」

     パチャ

          パチャ

髪から滴り落ちる雨粒。
急に降られて、屋根のある店先で雨宿り。

       イラ
    イラ

(天気予報、かすりもしてねえ……外しすぎだろ気合玉かよ……)

     (ってもけっこうみんな……
       傘持ってるし……僕が情弱だったか……?)

          イラ

やり場のない苛立ちを抱えつつ、空を見上げる。
太陽は欠片も見えない曇り空。

               (あークソ、はよやめ……)

38 人吉 佐和子『クラウド・ボーイ』 :2016/03/01(火) 23:35:20
>>37
「・・・I'm Singin' in the Rain♪」

雨宿りをする恋姫。と……
なんだか、場違いに陽気な歌声が、
軒を打つ雨音に混じって聞こえてきた。

「・・・Just singin' in the rain♪」

水玉模様の雨傘を片手に、
見知った顔が、鼻歌交じりに歩いてくる。

39 稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』 :2016/03/01(火) 23:46:37
>>38

(誰だよ歌なんか歌ってんの……クソが……
  BGMまで空気読めねえクソゲーとか終わってんだろ……)             

         イライラ

              (……ん?)

     …イラ

苛立ちの向こうから、見覚えのある顔。
視線をそちらに向ける。

「あ……」

前に会ったのは湖畔公園だったか――
あの時の『探索行』は、残念ながらうまくはいかなかったけど。

  「……」

        「……おーい。」

   フリ
       フリ

やや抑えた声で、小さく手を動かしつつ呼びかける。
町中で大声も出す気にはならないし。

40 人吉 佐和子『クラウド・ボーイ』 :2016/03/02(水) 00:02:05
>>39
「…………what a ♪...なんだったかしらぁ」

>   フリ
>       フリ

「あら?」

 鼻歌の途中で歌詞をド忘れして、首を捻る……
と、そこで視線が恋姫を捉えた。

「あっ、また会ったわねぇ。は〜い」

 ひら
       ひら

 笑いかけながら、のんびりした様子で手を振り返す。

「今日は降られちゃったわねぇ…………
ツイてなかったわぁ」

 全然ちっとも『不運』を嘆く雰囲気ではないが、
そう言いながら屋根の下にやって来て、雨傘をたたんだ。
水玉の表面を、しとしとと水滴が滴り落ちる。

「うふふ……久しぶりねぇ。
その後、お変わりないかしら?」

41 稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』 :2016/03/02(水) 00:17:20
>>40

「えひ……よう、おひさ…………」

         ニヤ

陰気な、湿っぽい笑みを浮かべる。
ジメジメした外気で3割り増しって感じだ。
焼けるような苛立ちは、収まりつつあった。

「僕のがついてないだろ……状況的に考えて。
 昨日の天気予報……明日は晴れだ!キリッ って……えひ。」

          「釣られちゃった……
           僕ってば情弱おつ……」

今朝の天気予報では、雨に変わっていた。

    ス

少しだけ横によって、
一人分のスペースを作って。

水滴に触れないためもあるが、距離感というのも、ある。

「僕は何も……変わってないぜ。
 お前も……特に変わってない感じか……?」
  
            「あ……モールには……
              あのキャンドル、無かったよ……」

あの後も、ときどきあのキャンドルを探すが、どうも見つからないものだ。

42 人吉 佐和子『クラウド・ボーイ』 :2016/03/02(水) 00:46:24
>>41
「あらぁ……カサ、用意してなかったのねぇ。
まあ、私も、降られたから慌てて『デパート』で買っちゃったんだけどねぇ」

だから、やっぱりツイてないのよ、と笑う。

「私の方も、進展ナシって感じねぇ。
なんだかんだ、代わりのキャンドルを用意してはいるんだけど、
見劣りするのは否めないわぁ…………はぁ」

 物憂げに溜息をつく。
 いつものんびりしてる人吉にとっては、珍しいアクションだ。

「雨は嫌いじゃないんだけど……
こうやってじっと『雨宿り』してると、何だか『憂鬱』な気分に――」

「――むにゃ」

 ……『憂鬱』よりも、雨だれの音で『眠気』を覚えるほうが強かったらしい。
ちょっと首が前に垂れて、目が半開きになっているのが見て取れるだろう。

43 稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』 :2016/03/02(水) 01:11:03
>>42

「あ……買うってのも、あったな…………えひ、凡ミスだぜ。」

焦り過ぎていたか。
苛立ち過ぎていたか。

笑みにほんのり、深くはない自嘲の色が混じる。

          ・・・まあ、それより。

「星見町には……ないのかな……アレ。
 リア充っぽい店も……がんばって入ってみたんだ、けど……」

          「……ネットでも、
           もうちょい調べてみようかな……」

希望は捨てたくない――
というほど、大げさなことでもないか。

けれど、あれは見つけたいし……手に入れたいのだ。

「……僕は……雨は、微妙だ。
 じめじめした感じだし……好きじゃないかな……」

         「……」

              ユサ

傍に近付き、小さく腕をゆする。

                「……寝ちゃだめ……だぜ。」

44 人吉 佐和子『クラウド・ボーイ』 :2016/03/02(水) 19:43:44
>>43
「…………………………はっ」

パチッ

 恋姫に揺すられて、顔を上げる。
しばしポケーッとしたあと、はにかんだ笑みを浮かべた。

「あら、ごめんなさい……私ったら、ついウトウトしちゃって……」
「そうねえ…………私も方々探したけれど、手掛かり一つ無かったわあ……
こうなったら、あの『雑貨屋さん』に、どこから仕入れてたのか、直接聞いてみても良いかしら……
でもあの『店主』のおじさん、とっても口が堅いのよねぇ」

うーん、と悩む。

「まるで……探せば探すほど、逃げていくような……
お空の『雲』みたいなものよねぇ」

そう言って、空を見上げ、

「……あらぁ、あれ見て、雲が途切れそう」

と、空の一角を指し示す。
雲の切れ間が、上天の端に見え隠れしている。

45 稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』 :2016/03/02(水) 23:07:51
>>44

「そうそうないイベントだぜ……僕とさぁ……
 一つ屋根の下で……二人ぼっち。こりゃ寝落ち厳禁だ……」

             「えひ」

         ニヤ

冗談っぽく口をとがらせて、笑う。
ただの雨宿りに過ぎないけれど。

            ・・・空を。雲を見る。

「……なんか秘密あんのかもな……」

        「レアアイテム……
          素材集めが大変とか……」
 
「流通しない理由がさぁ……職人がいて……
 一個一個手作りとか……えひ、魔女の窯みたいなので混ぜて……」

     「えひ、ゲーム脳おつ……かな……?」

やや迷走したようなことをつぶやく恋姫。
もっともあれだけの効き目、マジック・アイテムでもおかしくない。

           「あ……」

「……そろそろ……雨、弱くなってくるかな。」

                ス

       パチャ  パチャ

屋根の下から手を出すと、雨粒が小さな掌を打つ。
すぐに引っ込めて、陰気な笑みを浮かべる。

46 人吉 佐和子『クラウド・ボーイ』 :2016/03/02(水) 23:36:50
>>45
「『魔女の窯』…………うふふ、何だかファンシーね。
でも、そうやって作っている、って言われても、
私は驚かないわぁ」

実感のこもった調子でそう言い、
なお降る雨に、空を仰ぐ。

「そうねぇ……もう少し待てば、
雨脚、きっと弱くなるはずだわ。
急ぐ用事がなかったら、しばらくのんびりしていれば……」

そういうのは得意だわ、と言って目を細める。
空の雲の流れ、こればっかりは『魔女』だって、
『スタンド使い』にだって、どうすることも出来ない。

47 稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』 :2016/03/02(水) 23:57:43
>>46

「…………えひひ。
 僕だって驚かないよ。
 ……あれ、魔法みたいだもんな。」

          「……」

店の壁に、背を預ける。
雨の匂いは好きではない。
早く帰ってゲームがしたい。

・・・それでも今は、苛立ちは薄い。

「まあ……えひ、この軒下は……
 なんつーか……そんなに、居心地も悪くないし……」

       「ここの店、Wi-Fi入ってるから……
        まあ……電波的にも、捗るしさ……」

             クル   クル

      「……」

濡れた毛先を小指で巻く。
少しだけ、視線を横に向けて。

            「お前も、…………急がないの?」

48 人吉 佐和子『クラウド・ボーイ』 :2016/03/03(木) 02:25:02
>>47
「…………………………うふふ」

 恋姫に倣って、店の壁にそっと寄りかかる。
水滴で壁を汚さないように、傘を離して置きながら……

「私は、いつだって急がないわよぉ………………
でも、ここに長居すると、また眠くなっちゃうかも」

 のんびりとそう言うと、目を閉じる。……眠るワケじゃないが。

「あなたと一緒にいると、何だか……落ち着くわぁ。
気分の波が無くなって……すごく『平穏』になるの」
「うふ、でも……帰るなら、傘に入っていく?
この傘、大きいから……『一人分』のスペースなら、あると思うわよぉ」

49 稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』 :2016/03/03(木) 23:04:34
>>48

「…………」

     クル ・・・

指に巻いた髪が、ゆるりとほどける。

       「……あ……」

「急がないん、だろ……じゃあ……」

    「僕、ゆっくりしながら……帰りたいからさ……
      なんつーか……全力Bダッシュで帰んのも、しんどいし……」

雨の日は好きじゃない。

       「……」

少しだけ近づいて。
一人でいるのは、べつに、嫌いじゃないけれど――

「僕も……さあ……なんつーか……
 あー…………お前といると、なんか落ち着く……し。
 お互いあれだ、ウィンウィン関係……協力プレイみたいな……」

           「えひ。……いてやんよ。
             二人ぼっちで……もうちょっと……」

そう言って。
傘の下に、入れてもらうことにする。
スキャンダルなんてのは、濡れ鼠になるよりは――それに。

            ・・・幸い今日は雨。
               見咎める通行人も、少ない、から。

50 人吉 佐和子『クラウド・ボーイ』 :2016/03/03(木) 23:39:12
>>49
「うふふ、それじゃあ――」

 ふわっ、と水玉の雨傘を広げ、楽しげな笑みを浮かべる。

「帰りましょ。のんびりしながら……
そうしたら、きっともっと楽しいわぁ」

 そう言って、傘の下に招き入れ、ゆっくりと歩き出す。
 
 言葉通り、のんびり帰ることだろう。

 雨の日は嫌いじゃないし……
気を許せる人と歩く道は、もっと素敵に映るはずだ。

51 稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』 :2016/03/03(木) 23:56:18
>>50

「…………えひ、ひ。」

       ス

雨の音は遠くに聞こえた。
ゆっくりで良い・・・

「僕と相合傘なんて……Sレア以上……
 世のロリコンどもが……えひ、黙ってない……」

         「……」

               パチャ

            「なあ……」

         パチャ

   「……キャンドルじゃなくてもさ、
     また……いっしょに………………」

             ――今はゲームのことより、
                 安心できる相手と過ごせる、この時間を。

52 牡丹『ウェイト・アンティル・ダーク』 :2016/03/06(日) 01:29:22



  バサ


      がらがらがら〜〜〜っ
                     チリンチリン

                  「らっしゃーせーっ」



 ここは行きつけの『理容室』だ。


  「……ふぅ」


 特に、何かこれといった理由があったわけではない。
 ファッションなどと言える柄じゃないし、願をかけていたわけでも。
 強いて言うなら、『心境の変化』だろう。

 結ばなければ腰ほどまであった、長い黒の髪を、短く切り揃えた。

 軽くなった頭。
 露わになった首元を擦り、首を傾げ、床に落ちた自分の髪を見つめる。


  「……切り過ぎたかな」


 このあと、『シャンプー』と『ドライヤー』がある。
 しばらくは、席に座ったままだろう。

53 人吉 佐和子『クラウド・ボーイ』 :2016/03/06(日) 23:58:44
>>52
 散髪を終えた『牡丹』の隣の席に、ふんわりした感じの若い女がやってきた。

「……そうねえ、もうすぐ春だからあ……
全体的に短くして……『ふわっ』とした感じに仕上げて欲しいかしら」

 理容師と話しながら今日のプランを決めると、
リクライニングシートの背もたれに体重を預け、
リラックスした様子で深く腰掛ける。

「あらぁ……ずいぶんばっさり切ったわねえ」

 そこで隣席の『牡丹』に目をやって、声をかける。
深い理由はない……散髪前で、手持ち無沙汰だったからだ。

54 牡丹『ウェイト・アンティル・ダーク』 :2016/03/07(月) 00:23:00
>>53

「ン……どーも」

 隣に腰掛けた人吉に会釈する。

「そうね、心機一転というか……アタシも一足先に春を感じたくって」

 軽くなった頭を軽く振り、細かな毛を落とす。

「ここ最近、良い日和が続くねえ」

 無難に、天気の話で返してみる。

55 人吉 佐和子『クラウド・ボーイ』 :2016/03/07(月) 00:38:54
>>54
「こんにちわぁ」

 ふわっとした挨拶を返す。体勢的に頭を下げられないので、
変わりに手を小さく振って応えた。

「春って良いわよねえ……身の回りの環境も
色々変わるけど……気分がワクワクするわ〜」

 あまりワクワクしてそうに感じない、肩の力の抜けた声だ。

「そうよねぇ。
ポカポカしてすっごく『お昼寝日和』だわ〜」
「でも会社でお昼寝しちゃうと課長が睨んでくるから……」

はああ、と溜め息。

「お昼寝してもいい法律があれば良いのにねぇ……」

56 牡丹『ウェイト・アンティル・ダーク』 :2016/03/07(月) 22:50:34
>>55

「あはは」

 ふわふたとやわらかい『わたあめ』のような印象を受け、力が抜けたように笑む。

「まあ確かに……昼時は眠くなっちまうね。
 けど、春って本来は『目覚め』の季節じゃないか」

「草花も芽吹くし、動物も冬眠から起きてくるし。
 アタシら人間も、負けずに頑張って起きてないと、む、……」

「……ふわぁ〜〜〜っ」

 と、言った直後に関わらず、あくび。

「……」

 少しバツの悪そうな顔をする。

57 人吉 佐和子『クラウド・ボーイ』 :2016/03/07(月) 23:01:50
>>56
「うふふ……あくびは正直ね。『春眠暁を覚えず』とも言うし、ねぇ…………ふわぁ」

つられたように、あくびを一つ。

「それにしても……髪を切ってもらう時って、
なんだか不思議と眠くならないかしら?」

気温も、暑くもなく、寒くもなく。
実に『快適』な室内環境に、既に目がトロンとしてきている……

58 牡丹『ウェイト・アンティル・ダーク』 :2016/03/07(月) 23:35:13
>>57

「むぅ……そうだね」

 あくびした後で、眠気を誤魔化すのもおかしな話だ。

「椅子も刈布も肌触りがよくて……
 はさみの音が耳に心地いいし……
 シャンプーしてもらうとスッキリするし……」

「まあ、眠くなるよなぁ……と」

                      センメンダイマエニドウゾー>

 洗髪スタッフがやってきた。
 ここからシャンプーらしい。

 少しの間、人吉と話せなくなりそうだ。

59 人吉 佐和子『クラウド・ボーイ』 :2016/03/08(火) 00:06:19
>>58
「そうねえ……あら、噂をすれば『シャンプー』。
うふふ、ごゆっくり……あら、こっちもかしら?」

と、こちらも『洗髪』→『散髪』の準備が整ったようだ。
しばし、初春の日差しの中で微睡みながら、
鋏が歌うメロディに耳を傾け……

…………………………………………………………

「……………ZzzzZ」

 ……『散髪』完了である。ほぼ『熟睡』しているようだが……

60 牡丹『ウェイト・アンティル・ダーク』 :2016/03/08(火) 00:33:02
>>59

「ふぅーっ……スッキリ!」

 あとは乾燥機で乾かすだけ、なのだが……

「……ね、寝ているッ」

「…………」

 せっかくだし会話を続けようと思っていたのだが。
 声をかけて起こしてしまうのも気が咎める。
 しかし、こうなってしまうと手持ち無沙汰だ。


(ちっとくらい、いいかな)

 『ウェイト・アンティル・ダーク』を発現!
 それを人吉の方へと向かわせ……


    ゴ   ゴ          ゴ ゴ ゴ ・ ・ ・


 掌から『蜜蝋』を出して、人吉に嗅がせるッ!


   ┌─────────────────────────┐
   │ セルフミッション:不快感を与えずに人吉を起こせ!     .│
   └─────────────────────────┘

 場所にそぐわない『蜂蜜』の香りで……
 うたた寝ている人吉の脳に違和感を起こさせて、覚醒を促す算段だ。

61 人吉 佐和子『クラウド・ボーイ』 :2016/03/08(火) 01:02:22
>>60
「……………すぅ……」

スン

 『熟睡』しつつ、漂ってきた甘い香りに、反射的に鼻をひくつかせる。

「んむ……?
…………………んぅ」

スン スンスン

 匂いを辿るように、その手がひらひらと中空を彷徨い――

パチ

「………………いい香りねえ……あら?」

 見事、『目覚め』させることに成功したッ
(報酬は出ないけど)

「……ええと……おはよう、かしら。
……あら? 『この子』は……?」

 まだ寝ぼけ眼のまま、『牡丹』に挨拶する。
と――その傍らの『像』に『気付いた』。不思議そうに、それを見つめる。

62 牡丹『ウェイト・アンティル・ダーク』 :2016/03/08(火) 01:26:15
>>61

「あ、えーと……」

 見えている、ということは、スタンド使いか。

「き、気持ちよさそうに寝てたからさ!
 『アロマキャンドル』の真似事でも、と思って」

 誤魔化すための小さなウソだ……。


「それは、『ウェイト・アンティル・ダーク』。アタシのスタンド」
「色々な『蝋』を作れるんだけど……」

 見えている相手には、説明が省けるのでイイ。

    と、

              ブ〜〜ン・・・


 『蜜』の匂いに誘われてか……
 蜜蜂が、どこから迷い込んできた。

 人吉の周りで、匂いの元を探して飛び回り始める……。

63 人吉 佐和子『クラウド・ボーイ』 :2016/03/08(火) 01:49:02
>>62
「『アロマキャンドル』……いいわねえ、わたしも大好きよ〜」

 のほほんと返事をしてから、やってきたミツバチを
寝ぼけ眼で見る。

「『蝋』……なるほど、『蜜蝋』ねえ……
でもこの子たち、なんだか迷ってるみたい」

『メヘェェェェェ』

 ポン、と、人吉の傍らに『像』が現れた。
『羊』と『枕』のあいの子のようなデザインだ。

「ええっと……どうなるのかしら……?」

64 牡丹『ウェイト・アンティル・ダーク』 :2016/03/08(火) 22:41:30
>>63

>『メヘェェェェェ』

「かっ……!」

 かわいい。

 衝撃を受けたように、ヴィジョンを見たまま少し固まっているが……



  ヴ〜〜〜ン・・・


「……まあ、そうだね。
 いきなり刺してくる! ……なんてことは、ないだろうし。
 一足早い春の報せってことで、好きに飛ばせてやればいいんじゃない」


 蜂は所在無さげに、店をうろついている。

 その様子をほほえましく眺めながら、席を立つ。

65 人吉 佐和子『クラウド・ボーイ』 :2016/03/08(火) 23:04:13
>>64
「あらぁ……そうなの?
うふふ、それじゃあねえ」

刺さないなら、まあ良いかな……と、のん気に佇み、『牡丹』を見送る。

……店内を飛ぶ『蜂』に、店員が軽くパニックになったとかならなかったとか、
その辺りは、まあ、別の話である。

『メヘェェェェェ』

66 小角 宝梦『イル・ソン・パティ』 :2016/03/30(水) 14:50:30

「…………むむむ。」

ここは街道に面する『おもちゃ屋』だ。
最新式のデジタルゲームからアナログな物まで取り揃えている。

        カチャ
             カチャ


鹿撃ち帽を被った銀髪の少女――小角は今、知恵の輪をしている。
お試し品として、いくつか開封して置いてあった物を。

           カチャ

   カチャ

         しかし一向に外れる気配がない。
         なので、このように悩んでいるわけだ。

(力づくじゃなきゃ外れないんじゃあないか……
 いや、そういう考えはあまりにも知性に欠ける……ううむ。)

67 朝山『ザ・ハイヤー』 :2016/03/30(水) 15:48:52
>>66

「うおおおおおおぉぉ!! とぉぅ!! っス!!」

 クルクルクル シュッ タン!


 例え市井の『おもちゃ屋』であろうと雨の中火の中あの子のスカートの中でも
颯爽華麗魅惑に参上!! 悪の首領モーニングマウンテンっス!!

 「悪の組織の首領モーニングマウンテン! 困っている人間を前に
ズバッと参上!!」

 シャキーン!!

 ポーズも完璧! 今日は星見町のマスコットの『ほしみまくろう』の
お面も付けているっス! 誰にもバレない完璧な変装っス!!

 「そこの少女!! どうやら、お困りのようだっス!
この悪の組織の首領のモーニングマウンテンなら、貴方の困ってる
トラブルも水道管修理よりもパパっと解決してあげるっス!
 さぁ、解決する代わりに悪の組織へ加入するっス!
今なら加入するのに特典としてシャーペン上げるっス!」

 この少女はシャーペンを結構使いそうな顔してるっス!

悪の首領としては知的なプレゼントをあげて仲間を募る!
 これぞ悪の首領の話術っス!!

68 小角 宝梦『イル・ソン・パティ』 :2016/03/30(水) 16:35:55
>>67

「うわっ!? ……な、なんだ……!」

          「あ……悪の組織!?」

   ヒキッ

やや引いて、後ずさる小角。
なにせここは――おもちゃ屋。公園とかではない。

(な、なんなんだこいつは……悪の首領!?
 このお面は『こぜにくろう』……の仲間だったろうか?)

      (と、ともかく、関わり合いになりたくないぞ……)

奇行に走る仮面の女。
小角の目にはそう映って、それはこわいことだ。

「い……いや、結構だ。
 知恵の輪は自分で解かなきゃ意味がないし……」
 
        「ほ、ほうっておいてくれたまえ……」

    プイ

                    カチャ  カチャ 

目を逸らして、知恵の輪に戻る。
これでどこかに行ってくれればいいのだが……どうか?

69 朝山『ザ・ハイヤー』 :2016/03/30(水) 17:09:36
>>68

>い……いや、結構だ。知恵の輪は自分で解かなきゃ意味がないし……

 「む……そうっスか。それならば仕方がないっス」

 と、意外や意外。悪の首領モーニングマウンテンは小角の思惑通りに
向こうへと……。


     ……ジーーーー

 い、いや行ってない!

ゲームコーナーの陳列棚から頭だけ出して伺うようにして小角の
挙動を見守っている!! まだまだ苦戦して解けないようなら
颯爽とまた華麗に参上して小角を悪の組織に加入させる気満々だ!!

  チラ チラ

 (悪の組織の首領モーニングマウンテンは一度断られたぐらいでは
諦めないっス……どこかしら勧誘ポイントが見つかる筈っス!!)

 物陰から見つからず(と本人は思ってる)小角が知恵の輪を解こうと
するのを見守る。さぁ……悪の組織の誘惑に耐えれるか! 小角!!

70 小角 宝梦『イル・ソン・パティ』 :2016/03/30(水) 17:42:18
>>69

「まったく……」

(春になると変なやつが出るというからな……)

     カチャ

            カチャ

  カチャ



(ううむ、やはり解けないな……
  だめだ、さっきから同じことばかりしている気がする。)

思考が堂々巡りする。
それになんだか、見られている、ような――

「……あ!」

        「な、何を見ているんだ!
          用がないなら向こうに行きたまえ!」

やや遅れて物陰にいる朝山に気づき、少しだけ声を荒げる。

「……おほん。」

       カチャ

       (お、落ち着かなくては。わたしは知性派だからな……)

              ・・・ジー

そして咳払いをしてから、知恵の輪に戻る。
目を細め、輪と輪のつながりをつぶさに観察する小角・・・

71 朝山『ザ・ハイヤー』 :2016/03/30(水) 18:01:48
>>70

>な、何を見ているんだ! 用がないなら向こうに行きたまえ!

 (うーむ 手強いっス!)

悪の首領モーニングマウンテンは小角の態度に頭を捻る!
 どうすれば、この少女を悪の組織に勧誘出来るのか! それを考える!

一番目に考えるのは、知恵の輪の何処らへんを弄れば解けそうなのが
教えてあげるという方法だ。
 (けど、私もよく知恵の輪の事はわかんないっス)

では二番目の方法。『ザ・ハイヤー』を発現し、『再分配』で
精度を上げてあげて知恵の輪を解かせてあげ、その助力をした
悪の組織モーニングマウンテンを彼女は尊敬し加入する。

(いや、スタンドが見えないだろうから、やっても気味悪がるだけっス)


ならば三番目は……と、言うところで朝山は 考えるのを止めた。

 (ん〜〜〜〜〜〜!!! 難しく考えるのは疲れるっス!!
こう言う場合は ――パワフルにいくっス!!)

 「ぬお〜〜〜!!!」

 クルクルクル シュッ タン!

 小角の横へダッシュして、その開封済みの置いてある『知恵の輪』
小角が持ってるのとは別のものを持つ! そして!!

 「むおおおおおおお!!! パワフルっス パワフルっス!
パワフルにいくっス〜〜〜!!!!」

 ギリギリとパワフルに『知恵の輪』を解いてみるっス!!
持ち前の力で『知恵の輪』を解く! この悪の首領の力ならば……!!


 「うおおおおおおおおおーーーーーーーーー!!!!!」



 ――数秒後。



 「ぜぇ   ぜぇ……ぜんっぜん解けないっス……!!?」


 だが、知恵の輪を前に膝をつくニュー・エクリプスの首領
モーニングマウンテン! 人並みのパワーじゃ引きちぎる力技でも
解く事は無理そうだ!!

72 小角 宝梦『イル・ソン・パティ』 :2016/03/30(水) 18:43:13
>>71

「…………」

 クルクルクル シュッ タン!

       「!? こ、こんどはなん――」

言いかけたところでパワフルさが始まった。
元から丸い目を丸くする小角。

(な、なんなんだこいつは!! 
 ま、まさか本当におかしいやつなのか……!?)

       (そ、それとも……
         わ……わからない!)

無視しようともしていたが……
思わずそちらに振り向いてしまって。

「よ、よせめちゃくちゃなことは……!
 これは『知恵の輪』なんだぞ! 知恵を使いたまえ知恵を!」

        ビシ

無理やり引かれてもびくともしない知恵の輪を指さす。
こいつは知恵でなくては倒せないのだ……それを改めて知らされる。

73 朝山『ザ・ハイヤー』 :2016/03/30(水) 19:09:10
>>72

>よ、よせめちゃくちゃなことは……!
>これは『知恵の輪』なんだぞ! 知恵を使いたまえ知恵を!

 「クッ た、確かに言う通りっス。『知恵の輪』は知恵を使い破る為の道具!
力技ではどうにも太刀打ちできないっス!!」

 立ち上がり構えるモーニングマウンテン!
だが悲しきがな! モーニングマウンテンは、はっきり言って頭を使った
ものは苦手である!! これは、生まれながらの悲しき性分である!!!

 ――カッ!!

「人間は、いや原始人は火を使い始めて『文明』というものを築き上げたっス!」


 ゴォォォォ!!!

 呼気を高め、『知恵の輪』を掲げモーニングマウンテンはじっと見つめ
ズボンのジャージのポッケに手を入れて力を込める。

 「ならば……私も先人の『知恵』に則り……こいつを倒すっス!!」


  ――うおおおおおおおおおおぉぉぉ!!




 ヒョイッ  パシ

 「このペンチを使って、思いっきりグイッ……と」 

 何故か持ってたペンチで、知恵の輪を思いっきりひんまげようとするー!!

いまにもペンチは知恵の輪の金具を切りそうである。

74 小角 宝梦『イル・ソン・パティ』 :2016/03/30(水) 20:07:25
>>73

「あ、当たり前だろう……
 さあ、分かったら向こうに行きたま――」

       「え?文明?な、何の話だい?」

                        「えっ……?」

ジャージから出された道具――
それはどう見ても『ペンチ』。なぜ? いや、分かるが。

             ・・・本気か?

「わ、わああっ! 何をしてるんだきみは!
 しょ……正気じゃあないんじゃあないのかっ!?」

(ほ、本当にまずいぞ、この女……わ、わたしでは止めようがない!)

            「て、てっ……」

この後に続く言葉は――

1.天才
2.テクニシャン
3.店員さん

         「てんっ」

どうやら2分の1確率で修羅場が待っていそうだが――『どうする』?

75 朝山『ザ・ハイヤー』 :2016/03/30(水) 20:19:01
>>74

 >てんっ

 「んん? てん……??」

 ベンチで思いっきり『知恵の輪』の金具を切ろうとしたら
何時の間にやら焦った顔で何やら言い募ろうとしてる少女『小角』

 あまりにも必死な顔だったので、ベンチを離し、その顔を見つめる。

 「てん、てん、てん……っ解ったス!! そちらの言いたい事が!」

   ビシ!!


「―ズバリ! 天津飯が食べたい!! そう言う事っスね!?」

 『ほしみまくろう』の仮面が無ければドヤ顔が目に浮かびそうな
オーラ―を纏いながら人差し指を向けて宣言する!

 そして、小角の両手を握って回る 回る 回る!!

 「やったっス! ハッピーっス!! 天津飯は私も大好きっス!!
炒飯 麻婆豆腐 肉まん 桃まん 餃子にラーメン 
中華は美味いっスーー!!」

 なに、話に整合性がない? そんなのはパワフルの前では意味ないっス!!

「天津飯仲間にこんな所で出会えるとは思わなかったっス!
 ここは感激と感謝の『エクリプス・ダンス』で共に祝うっスー!!」

 と、小角の手を取りながら店の中である事に構わず踊り出そうとする。

ノリと勢いで、言葉の中にやばいワードを混ぜたのに気づいてない。

76 小角 宝梦『イル・ソン・パティ』 :2016/03/30(水) 21:05:52
>>75

朝山はパワフルかもしれないが……
小角は『クレバー』なタイプを自認している。

          ・・・まあ、そうでなくとも。


「……は?」

              「よ、よくわからないが――!」

     タッ

手を握られる前にその場から飛び退く。

「てっ、店員さん! こっちに! 
 こっちにお、おかしな事をするやつが……」

             「うわっ!」

     ガシッ

・・・が、逃げきれずににぎられて、回る。回る、回る!
もっとも今の声で、店員がすぐにでも来てもおかしくないけれど――

「ええいっ、な、何をわけの分からないことを……
 あ、あ……頭がおかしいんじゃあないのかきみは!?」

      グルン

               「うわああ離せっ!
                 ま、回るのはよした――」
 
           グルン

      「エッ――
        エクリプ……わあっ!?」

                   ・・・今は小角も混乱している。
                       『面倒がない』最後のタイミングだ。

77 朝山『ザ・ハイヤー』 :2016/03/30(水) 21:19:59
>>76

 パッ!

回るのも、ある程度満足して手を離すモーニングマウンテン!
 パワフルっス! 全てにおいてパワフルは不可欠なんっス!

 「天津飯仲間に出会えて嬉しいっス!
けど、天津飯ばかりじゃ飽きもするんで偶にはカレーやオムライス
 鮭に御飯に色んなものを食べる事をモーニングマウンテンは勧めるっス!」

 シュパ!! シャキーン!!

 悪の組織のポーズと共に、天津飯仲間へ指導するっス!
健全なる悪の活動には、健康な食事が欠かせないっス!!

 「では! 名もなき天津飯の友よ!! 次に会う時は
他の食べ物で語らうっス!! さらばっス!!」

 タッ!!

 食べ物の話で腹もそこそこ空いたモーニングマウンテンは
はやる気持ちを抑えつけ、御飯のまつ家路へと華麗に走る!

 だが、悲しきがな!!


 彼女の帰る家で待つ食事は、恐らく彼女にとって嫌いな
ピーマンの入った料理とは、モーニングマウンテンには知る由もない……。

78 小角 宝梦『イル・ソン・パティ』 :2016/03/30(水) 23:25:41
>>77

「あっ、ど、どこに行く!?」

        ・・・

     ・・・


              ・・・

取り残された小角。
店員に事情を説明した後――


        「う……ううむ……」

「ま、まるで意味が分からなかったが……
 て、天津飯? ……エクリプス、というのは……」

           「き、聞き間違いかな。
             うん、きっとそうだろう。」

小角は呆然としたまま、ずれた帽子を直して。
知恵の輪を、容器へとしまいこみ。
 
     「……」

             「か、帰ろう。」

よく分からない気持ちになったけれども――
ともかく、家に帰ることにしたのだ。

                  ・・・ちなみに知恵の輪は買った。

79 稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』 :2016/04/21(木) 23:26:06

カチャ
  
           ピピピピ

        ピピピピ

   ピ ピ ・・・

「…………」

ゲーム筐体に向かう恋姫。


   ピコン★
 
       「えひ」

ここは星見街道に面するおもちゃ屋。
その店先には、玩具を賞品とした『ルーレットゲーム』が置かれている。
 
            ・・・それを回しているのだ。

(このインフレマシマシの当てさせる気のなさ……逆に面白いわ……)

しゃがみこんでコインを投入する。
黒いパーカーのフードを目深く被ったその姿は、やや怪しい。

80 流星 越『バングルス』 :2016/04/25(月) 23:49:35
>>79

   「………………」

その後ろで――――パンキッシュなファッションの小柄な少女が立っていた。
尾のように垂れた栗毛の三つ編み、赤ブチの眼鏡、能面のような無表情。
そんな少女が恋姫の後ろに立ち……

      シャーッ

         パシッ

      シャーッ

         パシッ

……なぜか黙々と『ヨーヨー』で遊んでいた。
視線はずっと『ルーレットゲーム』に向けられている。

      シャーッ

         パシッ

      シャーッ

         パシッ

81 稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』 :2016/04/26(火) 00:05:42
>>80

      シャーッ

         パシッ

      シャーッ

         パシッ

              デレレーン(これは悲しいSE。)

「………………」

      イラッ・・・

嫌な音に前後を挟まれた恋姫はささやかな苛立ちを覚える。
もっとも、ゲーセンのギャラリーよりは静かだが・・・

         (後ろで……何やってんだよ……)

   (この音……意味わからん……)

           ボ ボ

謎めいた――空気を切るような音?
思わず『ブルー・サンシャイン』の顔を発現し、後方を――

「…………」

         ビクッ

(な……なんだこいつ……えひ、こわ……『帰っパ』しそう……)

ヨーヨー。
能面顔。
派手な装い。

恋姫は警戒を深めつつ、手を止めて振り返る――しゃがんだままだが。

    「な……なんだよ……お前。
      ……順番待ち? 代わってくれって……?」

            「何か言いたいなら……日本語でOK……」

                        ・・・桜色の瞳を、やや逸らす。

82 流星 越『バングルス』 :2016/04/26(火) 00:20:25
>>81

   「えっ」

   「……えーっと」

……恋姫が振り向いたことか、話しかけてきたことか……別のことか。
いずれか、あるいは全てが予想外のことだったようで、少女は僅かに硬直した(表情は不動だったが)。

   「ぷ、ぷるぷる。私は悪いギャラリーじゃありませんよ」

   「陽気でお茶目で無害な妖精さんみたいなものだと思って頂ければ……」

   「その……」

   「…………」

      シャーッ

    ヒュン

         シャッ

       スッ

   「す、『ストリングプレイスパイダーベイビー』」

      バァァァァーーーン

……なんか『テクニック』を披露し始めた。
何の意味があるのだろうか……?

83 稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』 :2016/04/26(火) 00:54:49
>>82

「………………………えひ。」

     「えひ」

           「えひひ」

  エヒヒ

ひとしきり笑ってから、恋姫はヨーヨーを目で追いつつ立ち上がる。

「……『ドラクエ』好きなの……?」

        「……」

ごまかしのセリフがよかった。
恋姫は口元を薄くゆがめて。

「……こんなゲーム、見てて面白いか? えひ。
 まあ……べつに……ニフラム唱えたりは、しないけど……」

    チャリン

          「……見とくの……か?
           見物料は……タダでいいぜ。……えひ。」

またコインを入れて――ルーレットが、回り始める。
ちなみにだが、当たったとしてももらえるゲーム機はもう持っている……
                    
          ピピピピピヒ

                   ・・・当たるだろうか?

84 流星 越『バングルス』 :2016/04/26(火) 01:10:47
>>83

   「ほっ……と露骨に安堵しまして」

   「……一般教養程度にはゲームも嗜んでおりますので。
    これからの高度に電脳化が進んだ社会に適合するための淑女の嗜みです」

   「とか言い出す人がいたら淑女という言葉の意義をいちから見直さなくてはなりませんね」

『ストリングプレイスパイダーベイビー』を解き、無表情のままほっと胸を撫で下ろすジェスチャー。
そして立て板に水と言わんばかりにつらつらと言葉を紡ぎ出す。

   「……ともかく」

   「あまりこう言ったゲームに興じる人は昨今見なくなりましたが、見ていてなかなか飽きないと言いますか」

   「このあまりに渋い排出にはそそるものを感じます。
    なのでやる分にも嫌いではありません」

      「……あまりやりませんが」

   「まぁそこは賞品が無くとも『すごろく場』が楽しいみたいな話ということで。
    なので見ているだけでも十二分に」

    シャーッ

   シュッ

        ヒュン

      ヒュン

   「…………」

口は流暢に動きつつ、手は滑らかに『ヨーヨー』を操る。
その間も常に無表情。
……どことなく、言いたいことを飲み込んでいる雰囲気も感じられるような……いや、まったく感じられないような……

85 稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』 :2016/04/26(火) 01:25:46
>>84

       デレレーン

外れた。
ちなみに、一度当たっただけではだめなのだ。

            ・・・ズルい商売だ。

「…………」

「お、おう……」

(電波……ゆんゆん出てそう……
 えひ、まあ……わるい電波じゃないかもだしな……)

       「……すごろく場ってより、課金ガチャかな。
        リアルマネーで殴るゲーム……直球すぎか。えひ。」

   チャリン

想像を上回る流星のペースに面食らいつつも、コインを投入する恋姫。
別に浪費が趣味というわけではないが……

(なんとなく……もうちょい引けない感じするな……
 まあ……でも、あと500円……ワンコイン以内がリミットかな……)

       ピピピピ

「…………」

   ピピピピ

      「…………」

          デレレーン
  
             「…………なんだよ……
               僕の顔に……スライムでも付いてる……?」

     イラリ

何となく、視線に意図を感じて――恋姫はやや口をとがらせて聞いてみる。

86 流星 越『バングルス』 :2016/04/26(火) 01:42:14
>>85

   「悪名高い『ボックスガチャ』と言う奴ですね」

   「……違法ガチャこと『コンプガチャ』の方が近いかもしれませんが」

       スッ

     クルッ

         バァァァン

『ヨーヨー』を操りながら、淡々とコメントする。
いわゆる『ソーシャルゲーム』に関しては、そこまで詳しいわけでもない。

   「あ」

   「いえ」

   「その……なんと言いますか」

そして再び、咎めるような問いかけにバツの悪そうなジェスチャーを返す。
次いで思案するポーズ。……当然のように無表情。

   「……『顔』は、出てらっしゃいましたね。さっき。鳥っぽいの」

   「こんな時どんな顔をすればいいのかわからなくて……笑えばいいんでしょうか?」

   「がはは」

笑い方のチョイスが無駄に豪快だった。

87 稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』 :2016/04/26(火) 23:13:09
>>86

「……返金騒動には、ならなそうだな、こんな景品じゃ……」

     チャリン

         「射幸心をじゃぶじゃぶ……
          えひひ、煽られやしないもん……」

ダウナーな笑いをこぼしつつ、取り出したコインをさらに投入。
射幸心ではない何かを煽られているのか?

              ・・・それより。

「……」

      ボボ  ボ!

恋姫は困ったように小首を傾げて――その動きに遅れて『顔』。
ペスト医師の仮面、黒い帽子、ほんのわずかに浸み出す『青色の炎』。

「見えるんだ……伊達に『受信』してないか。
     …………えひ。こういうの、言ってみたいセリフだった。」

   「こういう時は……
    フラグ折らないように〜……」

         「選択肢は慎重に〜……」

   クル

少しだけ、髪を指で巻いて。
何となく――ほころぶ表情。

「……えひ。なんだその笑い方。
 お前のキャラ……それこそ笑えばいいのか……」

      「……えひ。」

             エヒ…

息を漏らすような――静かでくらい笑みと共に、恋姫は言った。

          ボ  ボ
 
                ・・・凶鳥の『青焔』も、笑った。

88 流星 越『バングルス』 :2016/04/26(火) 23:49:29
>>87

   「ふっ、まさかこんなところでご同輩に会うとはな。
    その力……いや、何も言うまい。いずれ語る時も来るだろう……」

   「……みたいなセリフ、確かに一回言ってみたかったところです」

顎に指を当て、思案のジェスチャー。

   「…………選択肢間違えるとバットエンド直行だったりします?」

   「『はい』でも『いいえ』でも同じ質問に戻るタイプだと気兼ねなく答えられるのですが」

   「ほら、私、せっかくなので赤い扉を選んでしまうほうなので」

そんなことを言いながら、右手をポケットに突っ込んだ。

89 稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』 :2016/04/27(水) 00:28:39
>>88

「えひ……分かり手だ…………それ。」

    グルン

『顔』が消失する。

         デレレーン

また外れたルーレットから目を逸らし。
口に緩やかな曲線を作る。

     ニタァ

「ノーセーブ、残機ゼロで死に覚えゲーとか……えひ。ねーよ。
 プラクティスモード気分で……ネタ選択肢でもいいんじゃね……」

     パチ…

俯き加減に瞬きして。

    「あ……変なフラグとか……
     立っちゃうかもだけど……えひ。」

思い出したように、そう付け加えて穏やかな笑みを深めた。
視線は、ポケットに入れた右手へ、ゆっくり。

        チラ…

「……てっててー、てっててー、てって―♪
 なんちゃって……そろそろ制限時間。時間切れしたらぁ……えひひ。」

          「おお、こわいこわい……」
    
                          ――冗談っぽく身振りする。

90 流星 越『バングルス』 :2016/04/27(水) 02:52:25
>>89

   「『遅延バッドエンド』はノーセンキュー、です」

   「……というかチュートリアルと見せかけてルート分岐に関わってくるとか、新機軸なクソゲーですね?」

   「それこそ訴訟も辞しませんが」

表情は相も変わらずの鉄面皮。
楽しんでいるのか、訝しんでいるのか。

   「……さて、ともあれこの手の選択肢は時間切れが最もマズいと相場が決まっておりますので」

   「――――そうですね。とりあえず」

          スッ

   「てってれてってってー」

ポケットの中から、『スマホ』を取り出す。
液晶がロック画面のままに光を放ち――――そして、消失する。

       ズ
        ギ
         ャ
         ン

   「一方的になんかカッコイイのを見せられて屈辱なので、ここは私も『出して』みましょう」

                            バングルス
   「『顔』はありませんが――――自慢の『 腕 輪 』を」

スマホが消え、少女の腕を鎧が覆う。
手には盾。そこから伸びる剣――――『ランタンシールド』。

   「どやっ」

……無表情だが、どことなく自慢げだ。

91 稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』 :2016/04/27(水) 23:12:40
>>90

「お前……ノリいいのな。さっきから思ってたけど……」

視線が動く。スマホを追って。
そこに何か意味があるというのは、分かるから。

「セルフSEとかうける……
 えひ、僕も嫌いじゃないぜ、『ネコどら――」

       ズ
        ギ
         ャ
         ン

      「…………!」

現れた『鎧』に、目が細まる。
恋姫は首を動かし、笑みを浮かべながらそれを観察する。

      「……」

    「おぉ……」

「……かっこいいじゃん。
 伝説の武器って感じ……レア度高そう…………」

などと、やや喜色を帯びた感想を述べる恋姫。
それから。


   「……どや声、むかつくな。……えひ。」


たいしてムカついちゃあいない顔で、そう言って笑った。

92 流星 越『バングルス』 :2016/04/27(水) 23:34:20
>>91

   「ふふん。陽気で素敵でゴキゲンな女学生、『流星越(ながれぼし・えつ)』と申します。
    どうかお気軽にエッちゃんとでもお呼びください。ぶい」

左手でピースサインを作った。
ご機嫌だ。

   「どうでもいいですけど、『女学生』っていうとちょっとフェティッシュな感じしますよね。
    『女子高生』以上に背徳的な響きが、ほのかに」

……ご機嫌だ。

   「ともあれこちらは自慢の『バングルス』。
    ええ、ええ、イカしてるでしょう、クールでしょう」

   「強くてカッコよくて、しかも光るのですから」

      「破滅の呪文をくらえっ」

表情をピクリとも動かさずに、しかしどことなく喜びのオーラを振りまきつつ。
『盾』を脇に向けた。
次の瞬間……『バングルス』が光を放ちながらボロボロと崩れていく。
内側から漏れ出すように、盾が崩れて光へと変わっていき、最後には元通りの『スマホ』が手中に戻る。

   「まぁ……ご同輩に会う機会はあまりなかったので、レアかどうかはわかりませんが」

93 稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』 :2016/04/28(木) 00:01:56
>>92

「……別に名前は聞いてないし……
  えひ、お前のフェチも聞いてないよ……」

    「……」

      「『恋姫(レンヒメ)』……稗田、恋姫。
        ……あんま変な呼び方は、NG。」

少し俯きつつ、名前を返した。
それからまた、視線を『バングルス』へと戻して――

「光るの……?
 っ! うおっ、まぶしっ……」

       キュ

目を細めて、光――もとい『破滅の呪文の光』を、睫毛越しに見る。

     「あ、いや……目がぁ、目がぁ……」

            「……えひ。」

などとやっていると、『スマホ』に戻っていて。
細めていた目を、ぱちぱちと二度ほど。

「僕も……まあ、そこまで詳しくはないけど……
 ……武器、で……しかも『物を武器に変える』のはレアなのかな……」

           ボ   ボ

    「人型のが……一番多い気がする。
      ……えひ、漫画みたいな話してるよな、ほんと。」

         背後に現れた、ヴィジョンの全身。
         青い焔を揺らめかせる黒衣、朽ちた翼――

94 流星 越『バングルス』 :2016/04/28(木) 00:21:19
>>93

   「稗田恋姫さん」

   「……くっ、名前の可愛い指数での敗北を喫しました。不覚」

なんか勝手に負けて勝手にダメージを受けた。

   「…………稗田さんも、結構色々とノリノリでいらっしゃいますね?」

ともあれ、『スマホ』をガンマンがホルスターに銃をしまうようにポケットに入れる。
本人は、こてんと小首をかしげる。

   「……ああ、それにしても」

   「やっぱりズルいですよ、稗田さん」

   「なんですかその『ダークファンタジー』の世界からやってきた感じのは。
    飾りっ気ありまくりじゃないですか。ぷんすかぷん」

腰に手を当て、怒ってますというポーズ。
もちろん、本当に怒っているわけではない。無表情なので色々とわかりづらいが。

   「もちろん私の『バングルス』がダサいとかそういう話ではありませんが。
    そこはほら、『隣の芝生は青い』という奴ですので。
    ええ、ですので私の『バングルス』の方がカッコ悪いとか、そういう話ではないのです」

95 稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』 :2016/04/28(木) 00:47:32
>>94

「…………えひ。
 別に……可愛くはなくない……」

          ェヒ

笑みの色が変わったけれど、それは『不快』ではない。

「……こういう……の、あんまり、通じないからさ。」

          「…………嫌か?」

    クイ

『流星』より少し浅く、小首をかしげる。
それから。

「……」

   チラ

後ろに立つ、『ブルー・サンシャイン』を見て。

「……えひ……嫉妬乙……」

振り向いて、そう言った。
青い焔がゆらゆら揺れる。

            ニマ…

「……えひひ。ジャンルが違うんだ。
 僕の『ブルー・サンシャイン』と……お前のは。」

          「比べても……しょうがないぜ。」

声の調子がやや上ずっているので――恋姫は喜んでいるのだ。

96 流星 越『バングルス』 :2016/04/28(木) 01:05:54
>>95

   「……私は嫌なことがあるとおなかを食い破ってエイリアンが飛び出て来る難病なのですが」

   「今日は出て来る気配がありませんね、エイリアン」

つまり、そういうことだった。

   「……まぁ、なんといいますか」

   「率直に申しまして、気分が高揚しております」

   「私も、その、普段あまり通じませんので」

ピクリとも表情を動かさず、所在なさげに手を胸の前でぎこちなく動かしながら。
視線をどこかに逸らし、淡々と。

   「ですので、ええと」

   「ええと……なんて言えばいいんでしょうか、こういう時。
    口下手なので、困ってしまいます」

   「あるいは……どうすればいいんでしょうか、こういう時。
    控えめなので、困ってしまいます」

……流星には、友達が少ない。
最近ようやく友達ができたが……それでさえ、本人からして見れば奇跡のようなもので。
だから、こういう時に伝える言葉やするべきことが思い浮かばないのだ。

   「ええと、もちろん贅沢な困り方なのですが……」

97 稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』 :2016/04/28(木) 23:12:37
>>96

      ジリ…

なん、となく。
恋姫はもどかしい気持ちになったけれど。
それは多分、必要なもどかしさだと思った。

「……」

     ジリ   ジリ

「僕、も……基本、あんまり……
 えひ、あー……ぼっち、だから……いつもは。基本……」

独りぼっち――
でいる時間は、昔よりは減ったと、そう思う。

けれど、相変わらず日々は、一人で過ごす事の方が多いから。

「言わせんなよな恥ずかしい……
 えひ、別に、いないわけじゃないけど……」

            「……なんて、言いわけ乙。えひ。」

   クシャ

服の裾をゆるくつかむ。

恋姫に近付いてきてくれたひとたちは、みんな、向こうからだ。
それにだって――そう、応えているだけだ。たいていは、曖昧に。
そういうひとたちだって、恋姫を受け入れてくれるし、それは心地いい、けど。

「えひ……控えめで口下手な……お前に代わって……」

     ジ リ・・・

お腹の辺りが熱い。たぶん自分は今顔も熱いのだろうと思った。

「……」

「…………なってみる、か……あー……うー……」

            「……友達、ってやつを、ひとつ……」

98 流星 越『バングルス』 :2016/04/28(木) 23:42:57
>>97

   「あ、う」

   「その……」

   「……ひゃ、百人ぐらいいますが。
    私には富士山のてっぺんで一緒におにぎり食べるようなマストなアレが百人ぐらいいますので。
    その、アレですが」

   「……嘘ですが」

切れ味が悪い、という自覚があった。
……普段の切れ味が鋭いかどうかという問題は、ともかくとして。
どことなく、歯切れの悪さが拭えなかった。
左右に泳がせていた視線を、恋姫に向ける。
手を胸の前に置く。
まるで敬虔なシスターが神に祈るように、手で手を包みこんで。

   「…………この通り、嘘つきで口下手で話下手で」

   「変な事ばかり言ってしまって、そのくせにこりとも笑わない私ですが」

言葉を切る。
一度、瞠目する。
深く吸って、深く吐く。
目を開ける。

   「それでもいいと、そう仰っていただけるのなら……」


      「……お友達に、なりたいです」

99 稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』 :2016/04/28(木) 23:56:45
>>98

「…………えひ。」

「そういう嘘は……いいよ。
 むしろ……えひ、好きだ。
 でも、ひとつだけ……あー……」

恋姫は、流星の顔を見上げて、少し俯きがちに。
長い髪が、影を作る。

      「……」

「『バッドエンド』には……ならないで、ほしい……」

        「……僕の事、裏切るなよな。」

少しだけ陰気な笑いが混ざった声で、そう言って。
すぐに顔を上げるけれど、どうしても見上げるのは変わらないまま。

「……えひ。なんて……」

        「じゃあ……なろうぜ。
          えひ……友達、に。」

    ニタァ

あまりからっと明るくはない、恋姫らしい笑みで、そう言った。

                   「……えひ。なったよな?」

100 流星 越『バングルス』 :2016/04/29(金) 00:19:30
>>99

   「……」

言葉をかみしめ、飲み込む数瞬。

   「…………かしこまりました」

   「そして、ご安心下さい」

誇るように胸を張って、手を当てる。
盾になり、剣になる手を。
未開の荒野を切り拓く手を。輝く光を。誇りを。

   「この流星越、タフでクールなスーパーヒロインとして巷じゃ噂の憎い奴」

   「誠実さに関しましても他社製品より67%ほど優れておりますカッコ当社比カッコトジ」

   「ですので……ええ」

   「…………少々お待ちを」

    グイッ    グイッ

      ニ   ァ
        マア 

両手の人差し指を口元に。
無理矢理口角を上げて、強引にスマイルを作った。
……流星なりの親愛の表現。

   「――――もう、『お友達』です。えへ」

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102 <削除> :<削除>
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103 稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』 :2016/04/29(金) 00:40:57
>>100

「…………えひっ、ひ、ひひひ……」

            「ひひっ……」

    ケラ
       ケラ


そのスマイルは、どうにも『フラグ』だったらしく。
恋姫は目を細くして陰気に笑う。

「……うん、なったよ。」

       ニマー

深く、深く。
はふ、と息を吐き出して。

それから、その笑みは、少し落ち着いて。

         「……えひ。」


「じゃあ……友達になったことだし……
 『協力プレイ』でもするか……つまり、あー、ゲーセンとか……」

            クルクル

髪を指で巻きつつ、この後のことを提案する。

         チラ

「それか……えひ、ご飯でも食べに行くとか……リア充っぽくさ……」

ルーレットは、もう、いい。
いい加減このゲームにも飽きているし――

・・・こーいうのは、友達と会ってまでするものでもないし。

                        「えひ。」

104 流星 越『バングルス』 :2016/04/29(金) 00:51:22
>>101

   「…………」

     パッ

口角から指を離す。
表情は――――

      ニコ

――――癖がついたのか、微笑みを携えていた。

   「おや、いいですね」

その微笑みも、次の瞬間には消え失せていて。
後に残るのはいつも通りの鉄面皮。……放つ気配は朗らかに。

   「私、アレとかやってみたいです。『エアホッケー』」

   「いかにもリア充の象徴って感じしませんか、あれ。
    バスケットゴールに延々とボール入れるゲームとかも中々ですが」

   「多人数プレイ前提と言うのが中々エッジ効いてますよね」

   「もちろん、ベターに『ガンシュー』もソーグッドですとも。
    何を隠そうこの私、『二次元上のゴルゴ13』と呼ばれた過去が別にありません。
    ……ありませんがそこそこ好きですよ、ガンシュー。
    毎度一人プレイという残酷な現実にハートをへし折られてますが……」

ペラペラと話しながら、足は近場の『ゲームセンター』に向く。
……一人でなく、二人で。

105 稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』 :2016/05/29(日) 23:20:43

「…………」

   ジャラ

コインケースから100円出した。
それをガチャガチャに入れた。

       ガチャ

   ガチャ

            ・・・コロン


「……うわっ…………」

(原作無視のキラキラカラー……
 まあ……子ども的に考えたら嬉しいのか……?)

       (……物欲センサー乙。)

黒い帽子に髪を納め、青い眼鏡を掛け、マスクをつけ。
かなり変装したつもりだが、桜色の瞳は目立つ。

・・・ゲーセンの前で座り込んでガチャガチャ回してるのも目立つ。

106 朝山『ザ・ハイヤー』 :2016/05/30(月) 23:19:35
>>105

       「―――むおぉおおおおおぉ!! ハァッッ!!!」

クルクルクル シュッ タン!   シャキーン!!

 黒き帽子と青眼鏡とマスクを付けてガチャガチャすれば!

自然と奴が来るぞ! 悪の組織の首領さッモーニングマウンテン!!

 「悪の組織の首領モーニングマウンテン!! ただいま登場!!」

 シャキーン!!

 学園ジャージーに悪っぽい水色の上着を羽織る、ウサギの仮面を
被った悪の首領は決めポーズと共に颯爽と現れた!!

 「そこの見るからに変装をしてる少女よ! ズバリ!!
そっちは何やら秘密を隠し持ってるようっス! 秘密を抱えてる
ミステリアスな人間は悪の素質が盛りだくさんっス!
 ズバリ! その素質を活かして悪の組織に入るっス!
今ならばモーニングマウンテンが手取り足取り、星見町名産の
干しブドウもおやつに付けて組織に加入してあげるっス!!」

   クル シュッ タン!   シャキーン!!

 どうやら未だ貴方が稗田 恋姫である事を悪の首領は気づいてないようだ。

107 稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』 :2016/05/30(月) 23:27:41
>>106

「うわっ出た…………」

       ヒキッ

思わず声が出てしまった。

どんな仮面を被ってても……
世界にこういうやつは一人しかいないだろう。

       ニタ

「いや……」

       「……えひ。」

「僕、ガチャ回すのに忙しいから……
 物欲センサーの方が謎深いし……悪い奴だよ……」

      チャリン

            ガチャ  ガチャ


ちょっと今はパワフルはお腹いっぱいだ。
それよりとにかくガチャを回したい……まあ、それに。

     (こいつなら多分……
       塩対応でもウザ絡みしてくるだろ。えひ。)

               ・・・・そういう期待もあるし。

108 朝山『ザ・ハイヤー』 :2016/05/30(月) 23:47:46
>>107

>僕、ガチャ回すのに忙しいから……物欲センサーの方が謎深いし……悪い奴だよ……

「むむっ? 悪の組織の首領モーニングマウンテンよりも悪い奴っスか!?
 そんなモノは恐らくながら存在する事はないと思うっスよ!
この世で最も恐ろしく世界一の悪はモーニングマウンテンっス!
私が言うんだから間違いないっス!!」

 シャキーン! と言う効果音のポーズと共に告げるっス!
悪の組織の首領にかけて自分より悪いものなんて存在させる訳にはいけないっス!

 「ん? おーー!! よく見るとガチャガチャっスか!
自分も時々やるっス。限定品が出るとパワフルに心躍るっスよねぇ〜」

 と、稗田のやってるものがガチャガチャだと気づくとチョロチョロと周りを
うろつきつつ呟く。ピョンピョン左右に跳ねつつ稗田の脇から見るその動作は
かなり気が散る行動だと思われる。

 「因みにモーニングマウンテンもガチャガチャはやるっス。
宇宙怪獣シリーズやヒーロー戦隊シリーズも見てて飽きないっスけど
やっぱり悪の怪人シリーズが一番っスねぇー」

 などなど聞いてもないのにペラペラと沢山喋る。

(何のガチャガチャをやってるっスかね?)

 そう稗田のやってるガチャガチャを見つめてみる。

109 稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』 :2016/05/30(月) 23:58:46
>>108

「じゃあお前……えひ。
 消しちゃってくれよ、物欲センサー……」

      「それか、従わせてくれ……」

半ば投げやりな口調でそう言って。

    ガチャッ

カプセルを取る。

「動きがうるさいんだよお前……
 悪のリーダーって言うか戦闘員っぽい〜……」

     キュ
        キュ

   「……」

       イラ…

そして、開けてみる。
ダメだった顔をする恋姫。

    「聞いてねえよ……
     特オタなのお前……?」

「えひ……ザコ敵でもおすそ分けしてやろうか……?」

      スッ

ガチャガチャは『日曜朝の女児向けアニメ』の物らしい。
パワフルに心躍らない口調で、今出たカプセルを差し出す。

110 朝山『ザ・ハイヤー』 :2016/05/31(火) 00:13:13
>>109

>じゃあお前……えひ。消しちゃってくれよ、物欲センサー……
>それか、従わせてくれ……

 「うぅむ。私にもビックリドッキリメカがあれば心を懐柔して
センサーを消す事も出来るっスけども。それは組織が成長した時の
楽しみにするっス。とりあえず、従うと言うのならば従わせるっスけども。
自分、そんなに投げやりな人間を身も心も操り人形にしてしまうのは
味気ないと思うっス。もう少し悪の組織の首領に! こ、こいつ!
何としても我が前に平伏せさせてやる!! って思うパワフルさを身に付けて
出直すっス! モーニングマウンテンはそちらのパワフルの成長を期待してるっスよ!!」

グっと握り拳と共にエールを送るモーニングマウンテン。それは
有難迷惑であり、そして例外除きウザい熱血さが其処にはあった。

>動きがうるさいんだよお前……悪のリーダーって言うか戦闘員っぽい〜……

「うーん、動かないと何だか無性に落ち着かなくなるっスけども。戦闘員っぽく
見られるのは屈辱っス。ならば私は大人しいポーズで我慢する事にするっス」

シャキーン……。

 と、控えめで自己主張の低いポーズを繰り出すモーニングマウンテン。
何時もより当社比1.5倍はパワフルさが著しく失われたような気がしないでもない。

>ザコ敵でもおすそ分けしてやろうか……?

「くれるっスか! おー有難うっス!! 初対面の人なのにこうまで
無償に親切にし貰ったのは生まれて初めてかも知れないっス!
 ……んん??」

カプセルを掲げ、有頂天に小躍りする。だが束の間立ち止まり。
 腕を組み何やら首を捻るモーニングマウンテン。
数秒考えこんだように沈黙してから、こう兎の仮面から声が出た。

「自分、以前どっかでそちらと会った事あるっスかね?」

111 稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』 :2016/05/31(火) 00:28:39
>>110

「め、めんどくせぇ〜〜〜……えひ。」

熱血というのは居るものだ――
そしてそれはあんまり良い特徴ではないのだ。

恋姫はそれらを悟った。

「…………」

    「あー……」

「えひ、それでも十分……
 パワフルって言うか、目立ってる……」

何だかパワーダウンしたのは分かる。
だが一般的に、こんなところでポーズ取るやつはいない。

「うん……まあ、僕はもう持ってるし……
 えひ、別に踊ることないだろ、常識的に考えて……」

         「……あ。」

と、珍しく沈黙した『朝山』に、恋姫は顔を上げる。
このままだとうるさくされそうな気がする。

なので。

「……答え合わせは……中でしようぜ?」

            クイ
  
指でゲーセンの中を指す。
道端で大騒ぎされるよりは店内のがマシって考えもある。

それに。

「……嫌なら別にいいけど。
 悪の首領だしな……敵前逃亡くらいするよな……えひ。」

煽っているのは――つまり、そういうことだ。恥ずかしいし、言う事ではないけど。

112 朝山『ザ・ハイヤー』 :2016/05/31(火) 00:48:17
>>111(余り次の行動の想像が膨らまないので、この辺りで宜しければ
〆させて頂きます。おつきあい有難う御座いました)

>……答え合わせは……中でしようぜ?

クイッと、親指で示されるゲーセンの中。

モーニングマウンテンは店内を見て、次にマスクをして黒い帽子と
青い眼鏡の、何処かで確かに見た気がする面影の少女を見て
そしてまたゲーセンを見て更に続けて少女を見比べた。

 そしてビビッと来た。

 「ま まさか……そちらはッ!!?」




 「――ずばりそっちは!!
悪の怪人『ブルーメンタルヘルスガール』っスね!!」

 ―説明しよう!
悪の怪人『ブルーメンタルガール』とは星見町の六年前にやっていた
戦隊ヒーローシリーズ12作目に当たる『ハートレンジャー』に出てきた
怪人の名前なのである!(※なお、本当に稗田に似てるかどうかは定かでない)

 「ズバリ! そちらも悪の組織だったとは思いもしなかったっス……。
まさか知らず知らずそちらの秘密アジトに誘い込まれていたとは!
 緻密な作戦に恐れ入ったが悪の組織の首領モーニングマウンテンも
馬鹿じゃないっス! 決してお前の手の平に乗りはしないっス!!
 ここは潔く退却を選ぶっス!! 今度会う時は覚えておくっス!!
あとガチャガチャは有難うっス!!」

 タッ!!

 悪の怪人ブルーメンタルガールと邂逅した(と思ってる)モーニングマウンテンは
悪の闘志を燃やし潔く退却する!!

 勘違いを知らぬまま、悪の進撃を今日も星見町で行うのだモーニングマウンテン!!

113 稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』 :2016/05/31(火) 00:58:30
>>112

「……」

「…………?」

退却した『朝山』の背を視線で追う。

   キョロ

         キョロ

周囲を見回す。
別に何かを探してるとか、乱数調整とかではなく。

「………………は???」

あまりの――パワフルさに驚いただけだ。

「……」

「あいつ、相当ヤバいな……えひ……」

     ソソクサ

ゲーセンの中に入ろう。
この場にいると変な目で見られそうだし。

     「……」

・・・・この気持ちは、まあ、また会った時に嫌というほど埋まるだろうし。

114 小石川文子『スーサイド・ライフ』 :2016/05/31(火) 23:09:20
ショッピングセンターの片隅に置かれたベンチに、喪服姿の女が腰掛けている。
その時、一陣の風が吹き抜けて、被っていた黒いつば広の帽子が飛ばされてしまった。

「――あっ……」

思わず声が漏れる。
咄嗟に手を伸ばしたが、わずかに届かなかった。

115 小石川文子『スーサイド・ライフ』 :2016/06/01(水) 00:21:48
>>114
帽子は風に乗り、少し離れた位置に落下する。
文子は、手を伸ばしかけた状態のままで静止し、その光景をじっと見つめていた。
手が届かなかった――その事実から、ふと過去の記憶が思い起こされたからだ。
やがて、ゆっくりと帽子に近寄り、そっと拾い上げた。
まるで慈しむように、手で埃を軽く払って、再び被り直す。
そして、黒衣の女は、雑踏の中に消えていった――。

116 稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』 :2016/06/09(木) 23:54:38

 ザ
  ァ
    ァ
      ァ ァ ァ――――――

梅雨の季節は、あんまり好きじゃない。
雨が好きじゃないし、蒸し暑いし。

「…………」

    イラ

       イラ

ちょっとした外出に、雨に打たれて、イライラする。
にわか雨みたいに突発的な苛立ち。

(あー、くそ……)

    イラ  イラ

買ったものがゲームじゃあなければ。

(水に当たったらアウトとか……
 アクションとして、クソゲーにもほどがある……)

別に、一滴ぐらいはどうってこともないだろうけど。
この場合……一滴で済むわけも、ない。

        ・・・・軒下で空を眺めて待つ。

117 白瀬 希『トンプソン・スクエア』 :2016/06/18(土) 23:58:57
>>116

「つめてぇー!」

軒下に入ってくる奴がいる。
デカい。女の声だがその声のする位置が高い。

「お。君も雨宿り?」

なれなれしく声をかけてきた。

118 稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』 :2016/06/19(日) 00:11:37
>>117

    グル
         グル

濡れた髪を指で巻いていると、声がした。
それも、かなり高いところから。

「……」

    ビクッ

(声でけえんだよ……
 音量調整ボタン壊れてんのか……)

     「……僕?」

話しかけられたと気づいて、顔を上げる。
指を抜くと、濡れ羽色の髪がくるりとカールする。

かなり見上げる形になる。

「……じゃなかったら、何に見えるよ。」

        ザ
           ァ
              ァ

雨の音は少し遠く聞こえる気がした。
遮る軒は広く、頭を濡らす雨粒は無い。

「ここは安地(アンチ)だから……
 えひ、強制スクロールがあるわけでもないし……」

      「ずっと待ってるって……
       わけにもいかないけどさ……」

119 白瀬 希『トンプソン・スクエア』 :2016/06/19(日) 00:20:01
>>118

「何に見えるって……誰か待ってるかもしんないだろ?」

こげ茶色の目がまん丸となる。
何を言っているのだろうといった感じだ。

「アンチ? 強制スクロール?」

よくわからないらしく小首をかしげる。

「わかんないけど、雨やむまで待ってるってことでしょ?」

「まぁ、アタシも待ち続けるってわけにもいかないけどさ」

着ているツナギのジッパーを開ける。
腰の辺りでそれを結ぶ。結ぶ際、少し水がツナギから落ちた。

「買い物の帰りかなんか?」

120 稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』 :2016/06/19(日) 00:32:38
>>119

「…………そういうのもあるか。
 リア充特有の考え方かなぁ……えひ。」

待つような相手もいない。
こんな雨の中だし?
言い訳しなくても、そうそういない。

祖母に迎えに来てもらうのは悪いし。

「……」

「まあ……そうだけど……」

     ザ  ァ
           ァ

雨は降り続ける。
止むまで待ってたら、時間制限が切れそうだ。

「……ゲーム、買いに行って。
 濡れたら故障するかもしれないから……」

    ス

手に持った袋を、背中に回す。

「……買ったのがスポンジとかなら、
 このまま……帰ったんだけど。えひ。」

             「……お前は? 買い物?」

121 白瀬 希『トンプソン・スクエア』 :2016/06/19(日) 00:53:57
>>120

「リア充? なにそれ」

どうやらこいつはそういう人間らしい。

「ゲームかぁ……アタシもよくするよ」

「頭使うのは苦手だけどなー」

そういって頭をかく。
ぶるぶると犬用に頭を振ると水しぶきが飛ぶ。

「そうだよなぁスポンジなら吸ってくれるもんなぁ」

「ん? アタシは買い物に行こうと思ってね」

「降られちゃった」

122 稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』 :2016/06/19(日) 01:13:37
>>121

(情弱乙……
 とか言ったら、殴られそう……
 ちょっと……DQNっぽいし……)

    (いや、そもそも通じないか……)

「えひ……専門用語ってやつ。」

どうにも文化圏が違うと察した。
暗く曖昧な笑みを浮かべる。

       パチャ

「うわっ……!
 犬かよ……ああもう……」

頭から飛んできた水に、目を瞑る。
袖で顔を軽く拭う。

          ゴシ

「天気予報って……
 なんで当たらないんだろ……」

       「逆神様かよ……」

  ゴシ

むしろ当たっていることの方が多いのは、知っている。

それよりも。
恋姫の顔に、微妙な笑みが混ざる。

「……ゲーム、するんだ。
 スマホの……パズルゲーとかぁ……?」

       「えひ……それか、格ゲとか……?」

123 白瀬 希『トンプソン・スクエア』 :2016/06/19(日) 01:22:19
>>122

「専門用語……? かっこいーな!」

元気はつらつな笑顔だ。
恋姫の笑みとは対照的である。

「ああ! ごめんなー癖なんだ。つい……」

思わず手を合わせて謝罪する。
ぺこりとお辞儀もした。
なんだか決闘前のようである。

「そうだよなあ。80%でも降らないのに20%ぐらいでも降る時あるよね」

不思議なものだ。
いや、そんな現象はなかなかないとは思うが。
あくまで確立なのだ。

「いや、格ゲーの方が多いかな。パズルとか長くなりがちだし。まぁ普通にやるけど」

「君ゲーム好き?」

124 稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』 :2016/06/19(日) 01:45:52
>>123

「………………別にぃ。」

陰気な笑み。
絶やすことは、今はない。

「いや、別に……
 謝る事でもないしぃ……」

  (こういうタイプは……
    調子、狂うんだよな……)

顔を拭いていた手を小さく動かす。
手持ち無沙汰の動きだ。

「……ゲームの命中率みたいだよな。」

     「嫌な確率の方が……
       当たりやすい、っての……」

     ニヤ

         「……」

「えひ……ゲームは大好き。
 ゲームが嫌いな僕なんていないぜ……」

      「100%いない……
        確率的に考えて……」

          ニマ…

陰気な笑みには変わりないが、少し違う色。
はにかむような色。

「格ゲーも好きだよ……
 なあ、お前も……ゲーム、好きなの……?」

           ニマ   ニマ

人形のような顔立ちに、年相応の熱が浮かぶ。
もっともテンションはローで、ダウナーのままだけど。

125 白瀬 希『トンプソン・スクエア』 :2016/06/19(日) 23:07:30
>>124

「ほんとゴメンなぁ」

しかし許してもらえたことが嬉しいのかニコニコしている。

「命中率。あぁ、確かにそうだなあ」

80%なのに外れるときとか結構ある気がするのは白瀬だけではあるまい。

「そう。いいじゃん。興味があるっていうか好きなものがあるって」

「アタシもゲーム好きだよ」

ピッとVサイン。
そしてあふれる笑顔。

「楽しいし、燃えるし。体に関係ないしね」

126 稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』 :2016/06/19(日) 23:49:30
>>125

「……謝らなくていいって。
 無限ループでも引き起こす気……?」

       「えひ……」

陰気な笑みが絶えない軒下。
実際、謝って欲しいとも、思わない。

「……」

「そっか……」

     ニマァ

笑みが深まる。
思わぬ所に接点があったから。

「えひ……分かり手だ〜……
 ゲームでなら……何でも、出来るしな……」

指先から他の世界に繋がることだって出来る。
恋姫は、液晶画面の中でならいくらでも輝けると信じてる。

    ザァ   ァァ ァ

        「……ちょっと、雨……
         弱くなってきた……かな?」

「威力120が110に…… 
 下がったくらいだけど……
 えひ。乱数で埋まるくらいの誤差……」

127 白瀬 希『トンプソン・スクエア』 :2016/06/20(月) 00:37:29
>>126

「それはヤだなぁ……」

えへへと頭をかく。
髪型が崩れる。
いや元よりセットなどされていなかっただろうか。

「そうだよ。ゲームは何でもできるし」

「なによりいろんな人と遊べるもんな」

大きく伸びをして見せる。
見上げる空はまだ雨だ。

「うーん。あんまり長引いてもヤだしなぁ」

「もういっそのこと雨の中突っ切ろうかなあ」

「どうしよう?」

128 稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』 :2016/06/20(月) 01:03:37
>>127

「ここで詰みってのは……えひ、僕もヤダ。」

     ス

           パチャ

     「冷た……」

軒下から外に出した手に雨粒が落ちる。

どうせ、芯まで濡れ烏だ。
本当に人形なら生地がダメになるくらい。

「……」

  コク

小さく頷く。

「えひ、あんないいもの……
 一日、たったの一時間なんて……」
  
「ハードすぎるだろ……常識的に考えて。
 名人の言う事も、聞いちゃられないぜ……」

       ニヤ

軒下から、少しだけ乗り出す。濡れない程度に。
ゲームの袋を抱え込むようにして。

「僕は……そろそろ、行こうかな……
 今なら……帰る難易度もハードぐらいだろ。」

           ザァ
               ァァ

        「まあ……濡れるだろうけどさ……
         そんなことより、ゲーム……したい。」

129 白瀬 希『トンプソン・スクエア』 :2016/06/20(月) 01:18:21
>>128

「ゲームは一日一時間ね」

「アタシも昔よく言われたよ。でも、気にしたことなかったなあ」

遠くを見つめる。
どこか懐かし気な瞳。

「アタシも行こうかな。帰りは迎えに来てもらえばいいし」

とんとんとつま先を地面に当てる。走る前の準備運動もしておく。

「物干しざおとか買わなきゃいけないしね」

「あ、アタシ白瀬っていうんだけど、君の名前は?」

「またなんかあったら遊ぼーよ」

130 稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』 :2016/06/20(月) 01:26:47
>>129

「…………」

「僕はあんま、言われたこと……
 ない、かな。……えひ、懐古乙……」

      ニタ

陰気に、少し俯きがちに言う。
首の動きは――恋姫の操作ではない。

昔に思いをはせても。
恋姫の太陽は、昇らない。

「……物干しざお、か。
 悲報、販売終了のお知らせぇ。
 ……って、なるもんでもないわな。えひ。」

      クス

    「んじゃ……」

と、立ち去ろうとして。
言葉が聞こえた。良い言葉が。足を止める。

「……僕は、稗田(ひえだ)。
 この辺のゲーセンか……えひ、
 ネット対戦の海で、また会おうぜ……」

         「今度こそ、おつ〜……」

   パシャ

         パシャ

雨の中に飛び出していって、今度こそその場を去った。

131 白瀬 希『トンプソン・スクエア』 :2016/06/20(月) 01:36:46
>>130

「なんかぶん回してたら折れちゃったんだよなー」

物干し竿。
折れてしまったらしい。ぶん回して折るものなのかは謎だが。

「稗田。稗田ね」

「覚えた。じゃあ、またどっかで。また今度とか!」

そういって白瀬は雨の中にかけていった。

132 葉鳥 穂風『ヴァンパイア・エヴリウェア』 :2016/06/29(水) 23:50:23

   トト

        トトト


大通りを歩く穂風。
意味もなく歩いてるんじゃなく、買い物だ。

(……夏のお洋服、欲しいなぁ。
 この辺りには、あんまり良いのがないし。)

       ピタ


ふと、道の端に寄り、足を止めた。
そして――

   グイ

(あそこに行けば……
 いっぱい、お店がある……)

       (……行ってみようかな。
         でも、なんだか緊張する。)

星見スカイモールのてっぺんを、見上げてみる。
この町に来てから、あそこには未だ踏み入っていない。

               ・・・・悩むところだ。

133 のり夫『ザ・トラッシュメン』 :2016/07/01(金) 23:54:19
>>132

「はぁはぁはぁはぁはぁはぁ」

やぁやぁ、諸君。僕だ。
今僕は呼吸を荒げているわけだが。

「はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ」

決してなにか悪い意味で興奮しているわけではないことを約束しよう。
ならなぜこのように息を荒げているか。
単純である。走っているからだ。
今の僕はメロスもかくやというほどのスピードと心で走っているわけだ。

「!」

急ブレーキは急にかけるから急ブレーキである。
ならば急でない急ブレーキは存在するのだろうか。
僕はそれをいま身をもって知った。
減速がいまいち上手くいかないということだ。

「おっと。ご無礼」

転びそうになりながらも持ち前の紳士度を落とすことなくスピードの身を落として止まった僕だ。
止まった先に人がいた。挨拶しておこう。ぶつかりそうになったし。

134 葉鳥 穂風『ヴァンパイア・エヴリウェア』 :2016/07/01(金) 23:58:51
>>133

「……?」

   「わっ」

          「わっ……」

   フラッ

       ト トト

突然迫りくる『はぁはぁ男』に驚く穂風。
ぶつかりそうだったが、間一髪。

    「と」

  「と……」

とはいえ少しバランスを崩す。
後ろにふらつき、なんとか保つ。

「あ、い、いえ。大丈夫、です。
 こちらこそ、その。すみません。」

     「ぼーっと、してまして、その。」

非現実的な赤い髪が、揺れる体に伴ってたなびく。
瞳の色も赤く、それはのり夫に向けられている。

そして。

「あの、どうしてそんなに……急いでたんです、か?」

穂風はややもごもごとした口調で、何気なく問いかけてみた。

135 のり夫『ザ・トラッシュメン』 :2016/07/02(土) 00:12:22
>>134

少し待っていただきたい。
いや、これは決してなにか引っ掛かりがあったあったわけではない。

「すーはぁ……」

呼吸が整わないだけである。
すーはーと深呼吸を繰り返しなんとか正常な呼吸に戻そうとする僕だが
心臓は相も変わらず早鐘を打っている。
先ほどはあんなにきれいに言葉が発せられたのになんということか。
責任者はどこか。恐らく僕だろう。

「いや……私が走ってきただけだよ……」

おお、なんと燃えるような瞳と髪。
不思議である。
なんとも奇妙奇天烈しかしこれが現実。
事実は小説より奇なりである。

「ん?」

「いや、いや。急いでいたわけじゃあないよ。ちょっと、ね」

思わせぶりに口元に手をやって笑う僕。
我ながらなかなかにミステリアスな感じを出せているのではなかろうか。
ははは。

「そんな君こそ、ここでなにを?」

136 葉鳥 穂風『ヴァンパイア・エヴリウェア』 :2016/07/02(土) 00:21:01
>>135

「…………」

穂風は焦らない。
呼吸を整える男を、待っている。

そして、待ち終えた。

「あ……はい。」

現実と非現実の境目があれば、穂風は後者の側に近い。
だが、間違いなく、ここにいる。現実でもがいている。

「あ……ちょっと、でしたか。
 すみません、ちょっと気になって。」

大したことではない――
あるいは、いえないことだと察した。

「ええと……」

「あそこ、を。あの、スカイモールを見てました。
 すごく大きくて……お店がいっぱいあるって、聞いて。」

       「行ってみたいな、って。」

  コク

穂風の側には、特にやましい事情もないし、隠す事もない。
考えて居た事を、そのまま言うことにした。

「行った事、ありますか? その、スカイモール……」

       (……あ……いや、ふつうはあるよね。
         失礼な聞き方、しちゃったかもしれない。)

穂風はふつうというほどふつうではない。だから行ったことがなく、行きたい。

137 のり夫『ザ・トラッシュメン』 :2016/07/02(土) 00:33:21
>>136

「気にすることはないよ」

ライフワークの話だ。
僕の趣味は人に知られてはいけない、いや知られてもいいが自己責任である。
無論、僕にとっての自己責任だが。

「スカイモール」

あぁ、確かにあったはずだ。
僕はスカイモールと呼ばれるその高くそびえたつものを見上げる。
高い。太陽の塔などよりも高い。

「あるよ。あぁ、あるさ」

「しかし、簡単に行ける場所のはずだけど?」

君にはなにか理由があるのかい?

「行けばいいんじゃあないかな。それともなにかい」

「『人間にとっては小さな一歩だが人類にとっては偉大な一歩だ』のように、とても大切な一歩なのかい?」

138 葉鳥 穂風『ヴァンパイア・エヴリウェア』 :2016/07/02(土) 00:41:49
>>137

「は、はい。気にしません。」

そうすることにした。
気にするほど、気になることもない。

   スック

背筋を伸ばして、また塔を見る。
展望台がある、と聞いた。
誰かここを見ているだろうか。

「あ……あるん、ですか。」

やっぱり、と思った。
きっとこの町のみんなは行っている。

「あの……私、行ったことがなくて。
 少し、緊張して。あんな大きな建物……」

      「ええと……」

  モゴ

何か言おうとしたが――

「あ……そ、そうですよね!
 大切な一歩、ですけど。行ってみれば……」

        「あの、ありがとうございます。」

思いがけずシンプルに背中を押されたので、決断した。
元より、行きたい気持ちは、ずっとくすぶっていたから。

139 のり夫『ザ・トラッシュメン』 :2016/07/02(土) 00:54:15
>>138

「あるさ」

思い出されるいつかの展望台。
そして思い出されるいつかの少女。
いま思い出してどうしようか。

「大きい、まぁ大きいけれど」

僕には少女が少し他の人間とは違うように思えた。
教室に蔓延る平々凡々、十把一絡げの掃いて捨てるほどいる人間とは違う
という意味では現段階ではない。
つまりは僕は今、目の前の会って間もない少女に少しの不思議を感じていた。

「お礼を言われるほどじゃあないさ」

「にしても、珍しい」

また少女を見やる。
赤い。とてもとても。僕が普段見る火などよりも赤いのではなかろうか。
僕の黒い髪と瞳とは違う。

「君ぐらいの歳の子ならああいう所にいっているのだと思った」

年齢を憶測で話しているのは少し不味いだろうか。

「友達とか……そういう人と」

恋人の話をしてまともに返されたら反応に困るので除外しよう。

140 葉鳥 穂風『ヴァンパイア・エヴリウェア』 :2016/07/02(土) 01:02:22
>>139

「…………?」

穂風にはのり夫の想起――
あるいは想像、興味を察することは出来ない。

「言いたかった、ので。
 あの、迷惑でしたら、すみません。」

     ペコ

小さく頭を下げる。
思ったことで、良い事は、素直に言いたい。

「……?」

珍しい――穂風は確かに珍しい。
見た目も、話し方も、出自も。
どこを言われたのか。怪訝な顔をしたが。

「あ……はい、クラスの子とかは。
 けっこう、その、行ってるって聞くんです、けど。」

クラスメイトとの距離は着かず離れず。
親密な相手は、むしろクラス外にいる。
その相手とも、まだ、あの場所には行っていない。

「私は……予定が合わなくて。
 お休みの日も、お仕事がありますし。」

    ニコ…

     「それに、初めは……
      その、一人で行ってみたくて。」

穂風は自立と独立を大切に思う。孤独ではなく――だ。
新たな一歩を踏み出す時、それを少し、一人で噛みしめたい――たまにそう思う。

穂風にとって、この町はまだまだ未開の宝島だ。

141 のり夫『ザ・トラッシュメン』 :2016/07/02(土) 01:11:32
>>140

「迷惑じゃあないよ」

なにも、迷惑ではない。
しかしあまり突っ込んでも謝罪やなにやらのループにはまりそうなのでこれ以上は触らないでおこう。
僕だって訂正合戦は望んでいない。

「……」

失敗しただろうか。
すこし彼女の顔が変わった気がする。
いや、しかし僕は間違えたことを聞いただろうか。
聞いていないはずである。いや、たぶんおそらく。

「ふうん。そうか、仕事までしているんだね」

「立派じゃあないかな」

勤労が偉いとは思わないけれど。
働かないよりは上等だとは思う。
働きながら働かない人間もいるけど。

「そうかそうか。つまり君はそういう奴だったんだな」

頷く僕だ。
僕にはどうにもそういう感覚が薄い。
あまり興味がない。しいてあるというならばあの巨大な建造物を焼けば誕生ケーキの蝋燭みたいだなぐらいだ。
大切なことだ。

「まぁ、いい刺激にはなると思うよ。色々あるし」

142 葉鳥 穂風『ヴァンパイア・エヴリウェア』 :2016/07/02(土) 01:22:53
>>141

「あ……はい。」

それ以上は言わないことにした。
そうしてしまうと、ずっと続く気がしたから。

「いえ、そんな……
 自分のため、なので。」

仕事は自分のため。
お客様のため――でもあるけれど。

「立派とかでは、ないです。
 あの、その、ありがとうございます。」

でも、自分が生きていくのが第一だ。
もっとも今は、保護者もいるのだけれど。

「……?」

         「え、ええと……?」

穂風は『ヘッセ』を知らないし――どういうやつかも、察せない。
けれど、考えるより早く次の言葉が来たので。

「あ、ええと、はいっ。
 色々見てみたいなって、思ってます。」

        「お洋服、だけじゃなくて。」

どんな店があるのかも、聞けばわかるかもしれない。
けれどそれは楽しみをいくらか、損なうことになるから。

    「あの、私、そろそろ行きます。」

穂風は次に行くべき場所を定める。
そこでの事に、思いをはせる。

「その、色々ありがとうございました。
 お礼……いらないかもしれないけど、その、言いたいので。」

            ペコ

けれどその前に、眼の前の男に――恐らくは望まれない礼を述べておいた。

143 のり夫『ザ・トラッシュメン』 :2016/07/02(土) 01:37:25
>>142

僕は目の前の少女に対する不思議が少し薄れたような気がした。
なるほど。そういう奴なのだと。
ほんの少しだけ、本当の本当にちょっぴりだけ彼女のことを知れた気がするわけだ。
しぼむ風船を内に秘める気分だ。

「うん。色々と見るといい」

「そうか。私は君を引き留めるつもりはない、ここでお別れだ」

礼を述べる彼女はふむ、なるほど。
いや、なんということはない。
なにもないさ。

「それじゃあね。私はのり夫。卜部のり夫」

「いつかまで、またね」

さようなら優等生。
恐らく僕と道を交えることのなかった人間よ。
またいつかまで。

144 葉鳥 穂風『ヴァンパイア・エヴリウェア』 :2016/07/02(土) 01:48:07
>>143

「はいっ、いろいろ見ます。
 あ……名前。ええと、私、
 葉鳥 穂風(ハトリ ホフリ)って、言います。」

       「それでは……その。
        卜部さん、お元気で。」


のり夫に、改めて一礼して。

「またっ!」

  トト

     トトト


やや小走りに、その場を去った。
そこからのことは、今はまだ分からない。

145 稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』 :2016/07/05(火) 23:08:05

額に玉のような汗を浮かべて恋姫は歩く。

真夏なんてまだまだのはずなのに。
もう、こんなに暑い。
暑いのは苦手だ。

(温暖化にしたって……
 数値バグってんじゃないか……
  チート使ってるやついるだろ……)


   ジリ

        ジリ

だから、帰り道にこうして涼むのも仕方ない。

    カラン
          カラン

あまり賑やかすぎない喫茶店に入って、席に座った。

     あまり賑やかすぎないので、席は空いている。
       もちろん、恋姫の隣や前も例外ではない。 
         外は暑いし、ちょっと一服の客もいるのでは?

146 溝呂木『レッドバッジ・オブ・カラッジ』 :2016/07/06(水) 23:05:59
>>145

「あっつ……」

  カランカラン

熱さに苦しみつつ、涼を取るために喫茶店に入る。
大丈夫? また7月頭なんだけど。
例年どんな感じだったっけ。
……毎年同じこと言ってる気もするよね、これ。

「……おっ」

ところで喫茶店の中で見知った顔を見つけた僕だ。
喫茶店で知り合いを見つけたら話しかける。
誰だってそーするし、僕だってそーするわけだ。

「やぁやぁ奇遇だね、お嬢ちゃん」
「相席しても?」

というわけで恋姫ちゃんの前に立って尋ねてみるよ。
断られたら? 泣いて諦めるしかないよね。

147 稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』 :2016/07/06(水) 23:29:52
>>146

    カランカラン


視線を上げる。
机の上に置いていたスマホから、だ。
 
  「げ……」

漫画のような声が出た。
来たのが知っている顔だからだ。

「まあ別に……
 僕の店じゃないし……」

「いいんじゃない……?
 えひ、事案ってほどでもないし……」

  エヒ

陰気な笑みを浮かべて。

「一緒に座ってて……
 噂とかされたらいやだけど……」

「えひ……おじさん世代向けのジョーク……」

別に拒絶はしない。
スマホを懐に戻して、小さなメニュー表を押し渡す。

148 溝呂木『レッドバッジ・オブ・カラッジ』 :2016/07/06(水) 23:48:52
>>147

「ハハ、『げ』って酷くない?」

苦笑しながら、お嬢ちゃんの向かい側の席に座ろう。

「ま、ありがと……って言っとくよ。礼儀的にね」
「事案っちゃあ事案っぽい絵面だけど、まぁともかく」

中学生の美少女と、へらっとした中年。
この二人が差し向って喫茶店で喋ってる絵面は、まぁちょっと犯罪っぽいかな?
親子兄妹と言わずとも、親戚ぐらいに見えてると嬉しいところだね。

「あー、懐かしいねぇそのゲーム」
「学生時代中古で買ってやったよ」

お嬢ちゃんのジョークに応えつつ、小さくお礼を言ってからメニューを見る。

「今のギャルゲと比べると全然違くて、『世代だなぁ』ってたまに思うよ」
「ギャルゲ自体そんなにやらないんだけどさ、僕」

シュミレーションとかRPGの方が好きだからね、と笑いつつ。
手でパタパタと自分の顔に風を送り、注文を考えようか。

149 稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』 :2016/07/06(水) 23:59:03
>>148

「えひひ……だってお前……
 わぁ! すてきなおじさまだわ!
 って言うようなキャラでもないし……」

「う、うれしくなんか……
 ないんだからね! とか……?
 そういう気分でもないじゃん……」

やや作った声は、すぐいつもの声に戻る。
少なくとも、怪しい関係には見られまい。

    コト

店員がおしぼりと水を置いた。
よく冷えている。

「僕はあんまり……ギャルゲとか、しないし……」

「言ってみただけ……
 世代かな、って思ってさ。えひ。」

プレイしたことは――たぶんなし。
あっても、頭のメモリーカードに残っちゃいない。

「……」

   グイ

「ここは……かき氷が美味しいぜ。
 僕の攻略情報……最速攻略ブックよりは役に立つよ。」

             グイ

恋姫は額や首の汗を小さな、黒いタオルで拭いながら教える。

メニューを見れば、なるほどかき氷があるようだ。
味がどんなのがあるのかは、溝呂木のみている通り。

150 溝呂木『レッドバッジ・オブ・カラッジ』 :2016/07/07(木) 00:20:26
>>149

「あはは、そりゃそうだ!」
「ちょっとどころじゃなく好感度が足りないワケだね」
「そりゃしょうがないや」

お嬢ちゃんの小芝居が面白くって、ケラケラ笑いつつ。
店員さんに軽くお礼を言って、水をひと口。
なんというか、一息ついたって感じするよね。

「……ふぅ」

「女の子はあんまりギャルゲとかやんないよねー」
「やる子もいるって聞くけどさ」

女の子って、女の子好きだからね。
いや変な意味じゃなくて、女の子って『かわいい物』が好きだからさ。

「おっ、『大丈夫、お嬢ちゃんの攻略本だよ』って?」
「んじゃ信用して……すいませーん、かき氷の『イチゴ』と『アイスティ』ひとつずつ」

店員さんに声をかけ、注文しておく。
どっちもそんなに時間のかかるもんじゃないし、すぐに来るだろう。多分ね。

「……よく来るのかい?」

それでも待ち時間はあるわけだし、お嬢ちゃんに尋ねてみようか。

151 稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』 :2016/07/07(木) 00:40:39
>>150

「そもそも僕のルートは無いぜ……」

「えひ……バグじゃなくて、
 仕様だから……諦めるしかない。」

     ゴク

よくしゃべったので、口が渇いた。
水を口に含み、ゆっくり飲みこむ。

「完全やらないわけじゃないけど……
 まあ『どきメモ』シリーズはないかな……」

「乙女ゲーとかも……
 そんなに、しないし……」

自分の注文は、席に着いた時に済ませている。
恐らく、もうすぐにでも来るだろう。

    コト

「えひ、疑問形のやつじゃん、それ……
 かき氷の味は自分の口で確かめてみよう!」

       「……ってか? えひっ。」

と、来た。
それを見てやや、語調が上がった。

シンプルな、レモンシロップのかき氷だ。
氷の質感がフワフワしているタイプのやつだ。

「ん……まあ……わりと来る方かな……
 ログインボーナスが貰えるほどじゃないけど…」

     「お昼とか……
      ランチ美味いし……」

スプーンで器からこぼれかけた氷をすくいつつ、答える。

       「あ〜」

「かき氷って時間制限あるから……
 先にいただきますしちゃっておk……?」

           ・・・・それから、そう付け加えた。

152 溝呂木『レッドバッジ・オブ・カラッジ』 :2016/07/07(木) 00:57:47
>>151

「でも『ギャルゲじゃねーか』って言いたくなるゲームはちょこちょこあるよね」
「『牧場』のアレとかさ」

複数人ヒロインがいて、好きな相手をパートナーにできる……ってゲームも増えたよね。
結婚できたり、子供まで作れちゃったりして。
でも明らかにロリロリしてる子と結婚できちゃうのはマズいと思う。
とまぁ閑話休題。

「最近はもうWikiとかあるから使わなくなったけどね、攻略本」
「ま、『購入特典でレアシロップが手に入るぞ!』って感じさ」

おっとところでお嬢ちゃんのが先に来たようだ。
当たり前だよね。だってお嬢ちゃんが先に入店してたんだし。
で、先に食べてていいかって聞かれて……

「え、ダメ」

「……なんて言う権利があるわけでもないし?」
「溶けたらただの『シロップジュース』になっちゃうしね。どうぞお先に」

そりゃダメって言う理由も特にないのである。

「ランチか……今日お昼ご飯おにぎりだけだったんだけど、かといってお腹減ってるわけでもないんだよねぇ」

視線をメニューに移してみよう。
追加注文しようかな、と考えてみるけど……

「……いやでも、もうかき氷頼んじゃったからダメだね」
「流石にかき氷の後に主食お腹に入れるのは、お腹が変になりそうだ」

153 稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』 :2016/07/07(木) 02:28:41
>>152

「えひ……わかる。
 フラグ立て難しいやつな……」

      カチャ

「いただきます……」

溶けだす前に、一口目を口に入れる。
口の中で溶ける。涼しい。

    シャリ  シャリ

          ゴクン

「……えひ、買い占めてレアシロップ30連ガチャ?
 全部Sレア『キュウリ味』とかになりそ〜……えひひ。」

      「苦情不可避ぃ……」

ダウナーな笑いを、一通りえひえひと笑った。
それから、メニュー表を見て。

「メニュー、色々あるけど……
 最強恋姫データベースwikiによると……」

     「……」

視線が移る。

       「シチューセットとか……」

少しだけ悩んだけれど、それが良いと思った。
恋姫自身の好物というだけ、ではあるのだけれど。

「氷属性からの熱属性……
 ダメージ倍点しちゃうんだ……えひ。」

      コト

溝呂木の注文が、運ばれてきた。
想像通り、イチゴのかき氷と、小さな器に分けられた練乳。
それから、ごく普通のアイスティーに、ミルクとシロップ。

    チリン

         「涼し……」

少し気の早い風鈴が、揺れた。
気づけば汗もほとんど乾いたか拭き取れて、気分も涼しい。

154 溝呂木『レッドバッジ・オブ・カラッジ』 :2016/07/07(木) 23:04:15
>>153

「ハハ、『キュウリ味』でSレアなの?」
「レアっちゃレアだけどさぁ」

シロップは実はみんな同じ味で色が違うだけって結構有名な話だけどね。
にしてもどこぞの炭酸飲料じゃないんだから、って感じだ。

「シチューかぁ」

ちょっとだけ、メニューとにらめっこする。
シチュー、シチューねぇ。
オススメってぐらいだから、そりゃおいしいんだろうけど。

「……ま、今度来た時かな」
「ちょっとダメージ大きそうだし」

苦笑する。
流石に『かき氷』とセットで食べるのは、冒険だ。
というわけで運ばれてきたかき氷に意識を移そう。
練乳をかき氷にかけて、アイスティーにミルクを入れて。

「じゃ、僕もいただきます、と」

    シャク
      シャク

イチゴのかき氷に舌つづみを打つ。
……ってほど立派な食事でもないけどさ。
ちなみにイチゴ味が好きっていうよりは、単純にカラーリングで選んでる僕だ。
赤とか、原色好きなんだよね。

「うーん、『夏』って感じだねぇ……」

甘くて冷たいかき氷、冷房の効いた店内、風鈴の音。
まだまだ七月の頭だけど、気分はすっかり夏だ。

「夏、僕にとっちゃ忙しくなってくる時期でもあるんだけどさ」

僕の職業は司書だ。
隣町で図書館の司書をやってる。
……夏、涼みに来るお客さん増えるしねー。
夏休みの学生向けに色々イベントとか企画したりしてさ。
いやぁ、めんどくさいなぁ。あはは。

「お嬢ちゃんも、結構忙しいんじゃない?」

155 稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』 :2016/07/07(木) 23:30:00
>>154

「いわゆるハズレアってやつ……
 えひ。まあキュウリも氷も水多いし……」

       シャリ

「まあ……」

「わざわざ一緒に食うことないな。
 ……シチューにせよ、キュウリにせよ。」

想像通りの、イチゴ色のシロップ味。
オススメとは言え、本格的なそれではない。

「ほとんど夏だし……実質……
 えひ、セミがスポーンしてない分ましだけど……」

それでも、時折耳にするようになってきた。
セミの鳴き声がBGMになると、いよいよって感じだ。

「夏祭りとかあるから……ハードかな。
 まあ……お声かかるか、わかんないけど……」

     ニタ

      「お前は……司書だっけ?
       えひ、騎士では無かったよな。」

            「夏の本祭りでもすんの……?」

恋姫は図書館に出入りはしても、『学生向け企画』に縁がない。
推薦図書を借りる――なんてことも、もうずいぶんしてはいないのだ。

156 溝呂木『レッドバッジ・オブ・カラッジ』 :2016/07/07(木) 23:47:21
>>155

「絶品のお菓子も、ステーキと一緒に食べる気にはならないしねぇ」

食べ合わせって大事だよね、って話さ。

「あー、夕方ぐらいになるともう『ヒグラシ』の声が聞こえてきたりするね」
「カナカナカナカナ、ってさ」
「嘘だ! ……って訳じゃないぜ?」

今の子に伝わるか微妙なネタを振りつつ。
結構長いんだよね、ヒグラシの出現時期って。
あれ聴くとノスタルジックな気分になるのはきっと僕だけじゃないと思う。

「そーそー、隣町でね」
「そりゃあ『騎士っぽい気分』になることもあるけど、流石に騎士にはなれないさ」

カラカラと笑い、アイスティをひとくち。

「ま、基本的には学生向けに『推薦図書』の選抜とか」
「あと『読書会』みたいなのやってみたり、ちっちゃい子向けに『朗読会』とかやったり」
「ウチはレクリエーションで『百人一首』やったりもするねー」

単純に利用客も増えるし、夏は一番忙しい時期なのさ。

「今度遊びに来るかい? 冷房バッチリでお迎えしますよ、『お姫さま』」
「少しは『ラノベ』とかも置いてあるしね」

157 稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』 :2016/07/08(金) 00:06:31
>>156

「えひ、そりゃそうだ……」

「……」

    シャリ

「……えひひ。そのネタは……
 ちょっと古くないかな…………かな?」

幸いにも、ここにセミの声は届かない。
今の内なら……まだ、風物詩で済む音量だけれど。

それから。

「僕は別にそこまでぇ……
 『ラノベクラスタ』でもないけど。」

     「隣町か……」

少しだけ目を伏せて、考えるそぶりを見せた。
百人一首とかは、そんなに興味もないけれど。

「まあ……えひ、招待されたなら……
 おしのびで行ってみるのがお姫さまの役目か……」

        「えひひ。」

    エヒヒヒ

やや芝居がかった調子で笑いながら、溶けだしたかき氷を混ぜる。
そろそろ、食べ終わりそうだ。頭は痛くならない。

「えひ、苦しゅうない、苦しゅうない……
 蛮族に絡まれないように……ちゃんと護衛してくれよな。」

         シャラララ…

器を口に近付けて、ゆっくりと流し込む。

   「んく……」

           プハッ

もうほとんど、香りつきの砂糖水みたいなものだ。
甘いだけの物は好きじゃないけれど、冷たいから許すのだ。

              ・・・・器が空になった。

158 溝呂木『レッドバッジ・オブ・カラッジ』 :2016/07/08(金) 00:23:41
>>157

「それでもちゃんとノってくれるお嬢ちゃんが僕は好きだよ」

苦笑して、肩を竦める。
こういうのはひとり相撲になると悲しいからね。

「はは、わざわざ姫に御足労願うのは無礼と承知ながらも、生憎図書館に足は生えていないものでして……」
「我ら一同、姫のお越しを心よりお待ちしております」

仰々しく、騎士っぽく返そう。
芝居がかったセリフ回しは得意なんだ。
得意って言うか、好きって言った方が正しいけどさ。

「……あっ、姫って『わらわ系』?
 『苦しゅうない』って一気に悪代官力上がったけど大丈夫?」

そりゃあ確かにそれは『姫口調』だけど。
でもなんとなく『金の菓子』で私腹肥やしてそうだよね、そのセリフ。

「ま、図書館で騒ぐ不良の相手も業務の内だし……」
「っと、お帰りかな」

お嬢ちゃんがかき氷を食べ終わった。
僕の方はと言えば、のろのろ食べているのでまだそこそこ残っている。
たかがかき氷だからそんなに時間はかかんないだろうけど、まぁもう少しはかかりそうな感じだ。

159 稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』 :2016/07/08(金) 00:46:28
>>158

「えひひ、そりゃどうも……
 そういう『好き』ならいつでもこい。」

        ニヤ

真似するわけじゃないが、肩をすくめた。

こういうネタは、相手が少ない。
ゲーム仲間はいても『オタク仲間』は少ない。

「ロールプレイしすぎぃ。
 えひ、ふつうにはずいぜ、それ……」

      「新ジャンル:騎士喫茶かよ……
        あーでも、もうありそうだな……」

ニッチな需要でも探せばある物だ。
この町ではあいにく見かけることはないが。

「苦しゅうないは違うか……?
 えひ、あんまりお姫さま言葉詳しくない……」

         ニコ…

「どっちかというとオタサーの姫だしぃ……えひ。」

微妙な笑みを浮かべながら、スプーンを置いた。
飲み物は頼んでいない。

        ゴッ ゴッ

水を数回に分けて飲み干す。     

「ん……そろそろな。」

「まあ……結構楽しかったよ。
 えひ、お返しに……デレをあげるぜ。」

           ニコ

      「ありがとな……んじゃ。」

この笑みは本心だ。数少ない友人に見せる程度の。
そして、支払いを済ませて――店を出る。

160 溝呂木『レッドバッジ・オブ・カラッジ』 :2016/07/08(金) 01:18:34
>>159

「ははは、こういうのは恥を捨てた奴の勝ちだよ」

その点、僕は恥を捨てるのになれきってるからね。
あんまり自慢することじゃない気もするけど、こういうのは得意だ。
友達とナンパに行った時、「おまえよくそんな歯の浮くよーなセリフ言えるな。引くわ」って言われたぐらい。
……打率は悪くないんだよ?

…………ともあれ。

「吸血鬼喫茶とかもあるらしいし、執事喫茶の親戚で普通にありそうだねぇ、騎士喫茶」

でも配膳の度に鎧がガッチャガッチャうるさそうだ。
いや、それがいいのかもしれないけどさ。

「おいおい頼むぜ、みんなのお姫さま」

軽口を叩いて笑いつつ、アイスティを手に取ってひとくち、ふたくち。
コトン、とコップをテーブルに置く。

「――――――」
「その御慈悲、誠に恐悦至極……」
「……なんつって」
「こっちこそ、オジサンに付き合ってくれてありがとねー」

へらへら笑って、ひらひら手を振って、お嬢ちゃんを見送ろう。
やれやれ、名前も知らない女の子と相席してかき氷食べて……犯罪だなぁ。
なんてことを考えながら、僕は残りのかき氷と向き合うわけだ。
少なくとも、溶けきる前に食べきらなきゃだし……なんてね。

161 稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』 :2016/07/19(火) 00:57:28

街道を歩いていると、色々な発見がある。
なんて、リア充的な考え方だ……
そう思いながら恋姫はやや俯いて歩く。

変装は、帽子と眼鏡だけで妥協している。
マスクまで着けると、流石に暑い季節だ。

       トコ

   トコ


そういうわけで、目当ての電気屋まであと少し。
目的はただ一つ、ゲームを予約する事。
わざわざスカイモールまで足を運ぶのも面倒だ。

         ポト

  「あっ……」


――と、財布が鞄から落ちてしまった。
チャックが開けっ放しになっていたらしかった。

162 遊部『フラジール・デイズ』 :2016/07/22(金) 19:48:06
>>161

ポトッ  チャリンチャリン……コロコロ

 チャックの開いた財布が落ちれば、当然 中の小銭も『転がり落ちる』

幾つかの硬貨が周囲に転がる可能性だって在り得る出来事だ。

 「ひぃっ……!?」

 稗田は、真横付近に転がった硬貨が視界に入ると共に、その視界の死角へと
消えた硬貨の先で小さな悲鳴を聞くだろう。

 「こっ  こっ  ここここ小銭……。
ぇ あ、ご、ご、ごめんなさい……ひ、悲鳴あげちゃっ……て」

 貴方は、この女性を見ると。何処かの森で見かけたような既視感が起きるかも知れない。

だが、雰囲気が『違う』 髪も、あの時はもっと長かった気がするし、あの時
出会った女性は、裸眼で物腰もある程度芯に強みがある女性だった。
 この髪の毛だけは同じピンク色で、眼鏡をかけて如何にも小心で少し震えてる少女は
あの時と全く、容姿は似てるものの全く異なる気配を漂わせてる。
 恐々と、それが毒虫であるように硬貨を1、2回一瞬手を伸ばしひっこめる動作を
してから、震える指で硬貨を掴み、稗田に一歩近づくたびに泣きそうになる表情に
なりながら、拾った硬貨を差し出した。

 「こ、こここここここここれ ど、どどどどううううぞ」

 


163 稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』 :2016/07/23(土) 04:56:20
>>162

チャリンチャリン……

「うわっ……」

           コロコロ

(乱数クソ過ぎぃ〜……)

不幸な事というのも起こる物だ。
まさか財布のチャックまで開いていたとは……

「…………」

     トコ トコ

背中に哀愁を負いつつ、拾いに行く。

不幸中の幸いがあるとすれば……
落としたのが『コインケース』でなかった事か。

          ――と。

「……?」

恋姫は湿った目を細めた。

「お、おう……ありがとな。」

(なんだこいつ……キョドり過ぎだろ、JK。
 だけど、なんだ……どっかで……見た事、ない?)

やや困惑の色を浮かべ、小銭を受け取る恋姫。

(この前……湖の方で会った、あいつ……? 
 いや、どう見てもこんなキャラじゃなかっただろ……
 双子の姉妹とか……えひ、クローン? なにそれこわい……)

どうにも――既視感がある。
少なくとも、見た目だけなら相当の既視感がある。

「……あー、ええと。
 僕の顔になんかついてる……?」

人違いだとは思うのだが――なぜこんなに怖がられているのか。

        「悪霊、とか……? えひ。
         みんなのトラウマ級のやつ……?
         もしそうだったら確かにこわちかだよね……」

164 遊部『フラジール・デイズ』 :2016/07/23(土) 22:11:41
>>163>>162の最後の あ は誤字なんて気にしないでください)

 ……あー、ええと。
 僕の顔になんかついてる……?


「ご ご、 ごご御免なさい。じ、じっと見て御免なさい、御免なさい
御免なさい御免なさい御免なさい。
で、でも、ちゃ ちゃんと見ないと小銭、こ、小銭。わ、わわ渡せないし……」

清月の制服を着てる、ピンク色の女性は何をそんなに恐れ怯えてるのか。
……いや、恐らく彼女にとって、恐ろしくないもののほうが少ないのかも知れない。
多分、いま歩いてる周りの人間、建物や空の太陽だって怖がれるぐらい臆病なのだろう。

>悪霊、とか……? えひ。
>みんなのトラウマ級のやつ……?
 >もしそうだったら確かにこわちかだよね……


 「ひ  ヒィ   ひっっ……っ」
(ど、どどどどどどどうしようどうしようどうしよう
やっぱり、こんなどもってたら嫌だよね、不愉快だよね、
あぁ、どうしようどうしようどうしよう、駄目だ。やっぱり私ってば
普通に人と喋れないんだ。前向きになろうとしてるのに、どうしよう
どうしようどうしようどうしようどうしよう)

 「ふぇ  ぇ  えぐっ  うぇ゛」

   ポロポロ ポロポロ ポロポロ。

話しかけられ、泣き出した。
 恐らくながら、かなり精神的に弱い人間であるのが 容易にわかる。
 少なくとも、あの自然公園にいる女性とは 似ても似つかないメンタルだとも。

165 稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』 :2016/07/23(土) 23:56:20
>>164

    スッ

「……こっちこそ……えひ。
 悪かったな、冗談が下手で。」

いそいそと小銭を受け取る。
そして、突然の涙に――

「……は?」

脈絡なく泣き出した女に――
あるいは、清月の制服に?

    …イラ

(なんだこいつ……意味わからん……
 感情バグってんのか……? イライラする……)

・・・・わからない。
感情は複雑で、フローチャートに出来ない。
だけれど、それはハッピーエンドを辿る線では、ない。

「……あー、僕、消えた方がいい展開?
 こわちかなのは僕でした〜……ってぇ……?」

    イラ

(僕がなんか、悪いフラグでも……踏んだのか?
 これ初見クリアしなきゃとか、人生ハードすぎる……)

              「……どうすりゃいいんだよ?」

166 遊部『フラジール・デイズ』 :2016/07/24(日) 00:17:39
>>165

>……どうすりゃいいんだよ?

そう、貴方が口にするのも無理はない。どちらが悪いと問われれば
ソレは間違いなく『こちら側』だ。
 小銭を拾って、それで見つめられる位で泣き出すような彼女は
ひゃっくりを上げつつ、手の甲で何度も何度もポロポロと落ちる涙を拭う。

 「ひっ え゛ ず ずみばせ い゛っく
お、お願い゛です。あ、あああ謝るから、お、怒らないで」

 貴方は怒ってない。余りに唐突に泣き出した彼女を見て虚をつかれてる
とは思う、だが怒るまで至らない様子にも関わらず彼女は懇願する。

 泣きながら謝罪して懇願する其の様子は、ある一定のレベルの人間は
加虐心が多少増長しそうな雰囲気が彼女から放たれてる。恐らく意図してではないと思うが。

 「御免なさいごめんなさいごめんなさい何度でもしますから
お願いだから怒らないで怒鳴らないで、許してください許してください」

 ペコペコペコペコ

 そう、口早に何度も頭を激しく上下に揺らして貴方に謝罪する、
繰り返すが、彼女は意図してイライラさせる行動を取ってるわけでない。

『ベソ子』にとって、たぶん生まれつき周囲から攻撃されたくなるオーラが
滲み出てるのだろう。それ程、彼女の様子は思わず赤の他人でも小突きたくなる
行動をしている。演技でも何でもなく 素でだ。

167 稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』 :2016/07/24(日) 10:51:24
>>166

        イラ

加虐は恋姫の好みではない……
だが、イライラはする。

    イラ


(いらいらし放題だな……この状況……
 ボーナスステージかよ……それか、無限バグか。)

明らかな『弱い者いじめ』だ。
そうみられても仕方のない状況だ。

・・・・恋姫はいらだつ。隠せるほど大人じゃない。

「怒ってねえよ……深読みやめろ。
 まだ、僕、おこじゃないから……
 大事な事だから二回言うけど……やめろ。」

少なくとも、このイライラを人にぶつけるなんてことはない。
ブロック崩しのボールのように、心の中で反射する感情。
 
「んで、今……言ったか?
 『なんでも』するって……?」

        ジト

「……まあ、常識的に考えて、
 何でもはしないんだろうけど……
 そのぺこぺこするの、やめてほしい……」

       「……ベリーイージーな依頼、だよな。」

湿った桜の花のように目を細めて、そう零す。
財布を拾われただけの関係――走って逃げても、いいのだけれど。

168 遊部『フラジール・デイズ』 :2016/07/24(日) 23:08:19
>>167

 遊部は、ぶるぶると、スライムよりも体全身を震わせ
涙目で貴方の言葉に、米つきバッタの如く頭を振っていたのを止める。

 「ひっ ひぅ す、すみません。や、止めます もう止めます」

「い、イライラさせて御免なさい。
け、けけけど、ど、どうしようも、な、なないんです。
 う、生まれつき、こ、ここうで。
な、ななんとか直そうとしてるんですけど、い、いつも泣いちゃ……
な、泣いちゃう うぇ え゛っ」

 感情が昂ぶったのだろう。ポケットティッシュを取り出して鼻をかみ
女性はまだ泣き腫らしてはいるものの少しだけ声が落ち着きを取り戻す。

「ど、どうすれば。ど、どどうすれば私。
い、いいまより、この泣き虫が直るでしょう」

 そう、貴方に顔を向けて言った。
貴方との関係性は、小銭を拾ったぐらいの関係。そんな行き成りの言葉など
拒絶して、はい、さようならと立ち去るほうが建設的かも知れない。

 ただ、彼女は貴方に助けを求めてるようなのは確かでもある。

169 稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』 :2016/07/24(日) 23:37:29
>>168


「…………」

      イラ

「生まれつき……?
 まじで……そりゃハード……」

同情――しないこともない。
だけれど、どうしてもやれない。

人生はゲームじゃあない。
選択肢一つで、人格は変えられない。

「でも、僕は……どうも出来ない。
 それは、ハードどころじゃない……
 僕はお助けNPCとかじゃない、から……」
  
今までも、きっと色んな人に、
こうして助けを求めてきたのだろう――

「変わるためのアイテムなんてのも、持ってないし……
 僕と喋ったからって、良いフラグが立つとも限らないし……」

「……ゲームオーバ―にはならないだけ、マシってくらいだぜ。」

少なくとも、自分よりは年上に見える相手。
生まれてから今まで変われなかったの、ならば。

            ・・・・助けを求められても、何が出来る?

170 遊部『フラジール・デイズ』 :2016/07/25(月) 15:42:55
>>169

助けを求めても、生来の気質であれば誰かの助言で劇的に
変われるなどある筈がない。
 当然だ。現実はそんなに並大抵の事で漫画のように変わる筈がない。

「ひ ひぐっ そ、そうですよね。わ わわ私がしっかりしないと
だ、だだだ駄目ですよね。ご、ごめんない。む、むちゃくちゃな事、いい言って」

 「も、もももう、お家、か、かか帰ります。ご、ごごご御免なさい
ご迷惑おかけして、ごめんなさい」

 遊部は頭を一度下げ、とぼとぼと貴方と反対の方向に帰っていく。小さく泣きながら

「ひっぐ ぃっぐ  やっぱり やっぱり私 な なな何も出来ないんだ。
わたし  わたし……      ――痛ッ」

 『ベソ子』は立ち止まる。また頭痛が彼女の頭を掠めたのだ

  また 『塔』が見える。 白い雲のすら突き抜け 地平線は白い靄に
かき消され、だがそれでも一つだけ突き抜けて見える『塔』が

 塔の先端に襤褸をまとった誰かがいる アレは……。


 「――ハアっ はぁっ……っ   ……ま ままままた見えた。
アレは……何? 私 な、何であんなのを…」

  『ベソ子』には何も解らない。
助けを求めても、他者には自分の弱さをどうにかする事は当然ながら出来ない。
それは、自分自身が決意を抱かねばどうしようもない事なのだから。

 夢か幻か疾患の類か。 頭に過る『塔』に怯え、彼女は家路に着く。

 ……一体、どの道を通り家に到着したのか。奇妙にも彼女の
記憶には『空白』があった。

171 稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』 :2016/07/25(月) 20:27:26
>>170

あるいは変わることも無ではないのかもしれない。
だけれど――今はその時ではないのだろう。

変化とは段階を踏むものだ。たいていは。

「おう……悪いけどな……
 あと、別に謝れとか、思ってないし。」

「……ちゃんと前見て歩けよな。」

危なっかしい物を強く感じた。
恋姫も、元の目的地へ向かった。

(なんだったんだ、あいつ……)

この日の事はそうそう忘れはしない。
けれど――何かの変化がある時では、なかった。

           ・・・・あくまで奇妙な、日常だ。

172 小石川文子『スーサイド・ライフ』 :2016/07/30(土) 22:54:14
町を包む宵闇が徐々に濃くなり始め、夕暮れ時から夜に変わろうとしている時のことだった。
一台の自販機の前に、喪服姿の女が佇んでいる。
不思議なことに、飲み物を買う気配もなく、ただひたすら立ち続けている。
その姿は、何かを待っているように思えた。
しかし、辺りには人気はなく、人待ちをしているようにも見えない。

            ガサッ
                    ガササッ

不意に、自販機と地面の間にある隙間から物音がした。
その奥で『何か』が蠢いているような音だ。
光が届かない暗がりの中で、『何か』が這いずっている。

    ザザッ!

やがて、自販機の下から『何か』が這い出してきた。
自販機の明かりが、その輪郭を映し出す。
それは――大きな『蜘蛛』のように見えた。

173 小角 宝梦『イル・ソン・パティ』 :2016/07/31(日) 00:55:57
>>172

少年探偵風に、サスペンダーで吊ったズボン――
はともかくとして、創作探偵風の鹿撃ち帽と銀髪が目立つ小角。

(推理するに……お葬式でもあったのだろうか?
 まあ、わたしにはあまり関係のないことではあるが。)

       ザッ

自販機に近付く。
べつに、お葬式と推理された女性に――ではない。

「……〜♪」

            ガサッ
                    ガササッ

(……なんだろう、物音がするぞ。)

鼻歌など歌いつつ、コインを投入――


    ザザッ!

       「わわわわッ!?」

かなり大きく驚いた。
蜘蛛だか何だかわからないが、こわそうだ。

   チャリン

           コロコロコロ

「あぁぁっ! わ、わたしとしたことが!!」

小銭まで落としてしまう始末なのだ……しかも自販機の下へ。

174 小石川文子『スーサイド・ライフ』 :2016/07/31(日) 01:32:11
>>173

「あ……。ごめんなさい。驚かせてしまったようね……」

被っている帽子の陰に隠れていた顔を上げて、穏やかな口調で小角に謝罪する。
気にする程のことでもないかもしれないが、帽子の角度は左側に傾いている。
しかし、今はそれよりも奇妙なことがある。
小角が驚いたとしても、何故この女性が謝る必要があるのだろうか?
そして、近くで見れば、這い出してきた『何か』の正体が分かるだろう。

     ゴ   ゴ   ゴ   ゴ   ゴ   ゴ   ゴ

それは蜘蛛ではなく、五本の指を持つ人間の『右手』だった。
切断された手首が、まるで生きているかのように、その指を動かして這いずっているのだ。

そして――小角が気付いたかどうかは分からないが、よく見ると、傍らに立つ女性には『右手』がない。

     ザザザッ

そして、『右手』は蜘蛛を思わせる動きで、再び自販機の下に潜っていく。
しかし、すぐに戻ってくると、糸で吊るされているかのように『浮遊』する。
『浮遊』した『右手』は、喪服の女の右腕にある『切断面』へ移動し、元通りの位置に『結合』を果たした。

     チャリッ

「――はい。どうぞ……」

右手の中に握っている小銭――自販機の下から拾ってきたそれを小角へ差し出した。
どことなく陰はあるものの、柔らかく人当たりの良さそうな微笑みを浮かべる。
少なくとも、害意はないらしい――と思える。

175 小角 宝梦『イル・ソン・パティ』 :2016/07/31(日) 01:59:13
>>174

「あっ、ひっ……手っ、手ッッ……!?」

    「こっこれは」

       「なにがどうなって」

   ブルッ

落ち着いた物腰に恐怖心を煽られた。
この前見せられたホラー映画みたいじゃないか。

「きみは……きみはいったい……」

     ザザザッ

「うわっ――」        

     チャリッ

         「あっ!」

せわしなく表情を変えリアクションする小角。
その姿はまさしく『フクロウのゆるキャラ』だ・・・・

     「お、おほん!」

もっとも、小角自身にそのような自覚は無い。
どうやら少しずつ飲み込めてきたらしく、咳払いをして。

「どうも、あ、ありがとう。どうやら悪い手ではない……
 というよりは、きみの手、なんだよね……? う、浮いていたが。」

浮いてはいたが、今はこうして繋がっている。
帽子を押さえつつ小さく頭を下げて、小銭を受け取った。

    (わ、悪い人ではないように見えるが……!
     いや、人は見かけによらないというのは鉄則!
     しかし見かけによらないなら手もノーカンでは?)

                 ・・・・内心、錯綜している。

176 小石川文子『スーサイド・ライフ』 :2016/07/31(日) 20:30:07
>>175

  「――ええ……。そうね……。ただ……何と言えばいいのかしら……」

言葉を選びながら、やや躊躇いがちに言葉を返す。
少女が来る少し前、自分も自販機の下に落し物をしていた。
それを探すために、『スーサイド・ライフ』の能力を使っていたのだ。
切り離した『パーツ』の操作に集中していたせいで、この探偵姿の少女を驚かせてしまった。
自分が彼女を怖がらせているというなら、それを取り除いてあげなければならない。
しかし――どう説明するべきなのだろうか。

     スッ

考えた末に、今までバッグの中に突っ込んでいた左手を、おもむろに外に出した。
そこには自身のスタンドである『スーサイド・ライフ』が握られている。
『パーツ』は誰にでも見えるが、『スーサイド・ライフ』は、スタンド使いにしか見えない。
これで少女が何らかの反応を示せば、説明するのは簡単になる。
ただし――仕方がないとはいえ、『抜き身のナイフ』というヴィジョンは、あまり穏やかとは言えない。
この行動が、さらに少女を怖がらせることにならなければいいのだが……。

  「もし――この左手に何も見えなかったら、この言葉は聞き流してちょうだい……。
   私は決してあなたを傷つけるつもりはないわ……。
   だから、どうか落ち着いて聞いて欲しいの……」

  「信じられないとは思うのだけど……。
   私には……他の人とは少し違う不思議な力があって……。
   今は……落し物を探していた所なの……」

できる限り不安を与えないように、少女に優しく語りかける。

177 小角 宝梦『イル・ソン・パティ』 :2016/07/31(日) 22:28:35
>>176

    ザリ

「うっ……」

小角は一歩、後ずさりをした。
しかし、逃走するには――続く言葉は理解できた。

「そ、そのナイフは――いや。
 その言い方は、それに手……つまり。
 なるほど、それならば、が、合点がいく。」

     「……わ、わかる。知っている。
      きみの言っている事はわかるぞ。」

恐る恐る、そう答えた。
自分の『力』では、攻撃されればどうしようもない。

    ジリ

だから、少し下がりながら答えた。
お返しに見せる――という事も、しない。

「す、すまないが。わたしは武闘派ではない。
 むしろ知性派……ゆえに、少しだけ警戒するぞ。」

「き……きみは、いい人そうには見えるけれども!」

小角は臆病だ。
けれど、表情に浮かぶ不安は削られる。

それは、小石川の言葉に悪意を感じなかったから。

「探し、物? それは……わたしの得意分野だ。
 しかし、きみの『手足』のほうが得意そうにも見えるね……」

先ほどまで切り離されていた『右手』に、ゆっくり視線を遣った。

178 小石川文子『スーサイド・ライフ』 :2016/07/31(日) 23:44:32
>>177

  「――そう……。これが見えるの……。では、これ以上の説明は必要ないようね……」

小角の言葉を聞いて納得した表情を浮かべる。
そして、左手を静かにバッグの中に戻した。
まだ解除する訳にはいかないが、これ以上見せておく理由はない。

  「『今も』探しているのだけど……。暗いから、なかなか見つからなくて……。いえ……あったわ」

      コロロッ……
               キラッ

何かに押し出されるようにして、自販機の下から、小さな光る物が転がり出てきた。
金属質の輝きを放つそれは、どうやら指輪のようだった。
宝石の類は付いておらず、全体的にシンプルなデザインだ。

                  コロロロロロロ・・・…

そして、その後から、もう一つ出てきたものがあった。
ピンポン玉のような球形だが、大きさはだいぶ小さい。
ガラス質の表面が、自販機の明かりを反射している。
それは――人間の『眼球』だった。
緩いカーブを描きながら、自販機の下の隙間から、指輪の後に続いて転がってきている。

  「――本当に良かった……。これが見つかって……。これからは気をつけないと……」

思わず安堵のため息が漏れた。
拾い上げた指輪を、右手の薬指にはめ直す。
そして、帽子のつばを少し持ち上げる。
そこには、普通はあるべき『左目』がなかった――。

          フワッ

先程と同じように浮遊した『眼球』が、空洞になっている左の眼窩に収まり、元通りの状態となった。

179 小角 宝梦『イル・ソン・パティ』 :2016/07/31(日) 23:59:15
>>178

「う、うむ……」

    ホッ

隠されたナイフに、内心、安らぐ。
危険はなさそうだが、断定は出来ないのだ。

「そ、そうなのかい。……しかし、そうまでして――」

一体何を、と聞きかけた。
が、それはすぐに判明して。

  「あっ、指輪」

      「……ん?」

指輪、なるほど大事そうなものだ。
そう思ったのもつかの間、後から出てきた物。

「ひっ――――」
  
    バッ

ひろわれた指輪を追うように、思わず顔を上げた。
予想通りの恐怖光景がそこにあった。

空っぽの眼孔――

「めっ、目……目まで、切り離せるのか……」

あまり意味もなく事実をただ述べ、精神の安定を図った。
あるべき場所にあるべき器官が収まると、不安も収まる。

「お、おほん……ううむ。
 どうにも見ていて不安になる能力だ。」

「けれど――み、見つかって良かったね、探し物。」

            「……」

小角は探偵のたまごだ――から、一応考える生き物だ。
だから、今考えているのは、彼女の喪服と――『指輪』の関係。

しかしそれは、迂闊に触れて良い物では、とうていないのだろう。

「もし……また、なくしたら。
 わたしに相談してみるのもいいかもね。」

「いや、もちろん、無くさないのが一番なのだが……うむ……」

勝手になんとなく気まずい気がして、そのようなことをまくしたてた。

180 小石川文子『スーサイド・ライフ』 :2016/08/01(月) 00:39:02
>>179

  「ごめんなさい。本当に不安にさせたくはないのだけど……。
   こうするのが一番探しやすかったものだから……」

深く頭を下げて、謝罪の言葉を述べる。
自分でも、あまり町中で能力を使うべきではないことは理解しているつもりだ。
それが原因で騒ぎになったり、何かのトラブルを引き起こしてしまう可能性もある。

しかし、この結婚指輪は、自分にとって命の次に大切なものだ。
その指輪が手元からなくなってしまったことで、内心では激しく動揺していた。
とにかく早く見つけなければ――頭の中が、その考えで一杯になっていた。

そのせいで、小角が傍らにやって来たことにも気付くのが遅れ、驚かせてしまった。
しかし、こうして指輪は無事に自分の下へ戻ってきてくれた。
今は、精神的にも安定を取り戻した状態にあった。

  「――あなたも探し物は得意そうね……。とても似合ってるわ……」

小角の探偵姿を改めて見つめ、素直な感想を告げる。
その両手の薬指には、おそらくは一揃いであろう同じデザインの指輪が光っている。
未来の名探偵を目指す少女探偵の慧眼ならば、彼女の相棒の力を借りずとも、
その手がかりから真実を導き出せるかもしれない。

  「でも――突然おかしなことを言うようだけど……。何だか嬉しいわ。
   この町に来て、私と同じような人に出会ったのは、初めてだから……」

そう言って、柔らかく人当たりの良い微笑みを浮かべる。
少なくとも、明確に自分と同じスタンド使いに出会えたのは初めてのことだ。

  「――私は小石川……。小石川文子。
   もし、良かったら――あなたの名前を聞かせてもらっても構わないかしら……?」

だからこそ、この出会いを、記憶の中に留めておきたかった。

181 小角 宝梦『イル・ソン・パティ』 :2016/08/01(月) 01:00:37
>>180

「いや、うむ……」

「きみがそれを大事なのは、その、分かるよ。
 だから……うん、わたしは気にしていないとも。」

  コクリ

両手の薬指の――『結婚指輪』。
あるいは、『形見の』――

「ふふん、ありがとう。
 わたしは探偵になる女だからね。
 この夏服も……とても気に入っている。」

「……きみも、ええと。お、おほん。」

何か褒め返そうとしたが、喪服に指輪。
意味を推理したいま、上手い褒め言葉が、見当たらず。

「その帽子は、とても似合っているように見えるよ。」

などと、言った。
それから、柔らかい笑みに釣られるように笑って。

「おお、そうだったのかい。
 わたしはそれなりに会っている。
 この町には、案外多いみたいだよ。」

「ああ失礼――――
 わたしの名前は小角 宝梦(おづの ほうむ)だ。」

         ニコ

丸い顔を笑顔で満たして、名前を返した。
それは、不安が一種の友好へと変わっていく証でもあった。

「……おっと、買い物に行くところだったんだ!
 それでは小石川さん、また機会があれば会おうじゃないか。」

              「では、さようなら!」

     タッ

そして、小角はその場を、やや急ぎ足で去ったのだった。
後になって、喉が渇いていたことを思い出すのだが……別の話だ。

182 小石川文子『スーサイド・ライフ』 :2016/08/01(月) 01:38:37
>>181

  「――ありがとう」

この帽子は、確かに自分でも気に入っているものだ。
しかし、それを褒められたことが嬉しいのではない。
自分の言葉を受け止め、それに応じようとしてくれた少女の心遣いが嬉しかった。

そして、また一つ繋がりを得ることができたことも、自分にとっては喜ばしいことだった。
些細なことかもしれないが、こうした小さな出会いが自分の支えになってくれる気がする。
この世界で生きる力を、彼らから分けてもらえる気がするから――。

  「ええ。またどこかで……。さようなら、小角さん……」

立ち去っていく少女の後姿が見えなくなるまで見送る。
そう――生きていれば、彼女ともまた会うことができる。

     スッ
         ドクン ドクン ドクン……

心臓の鼓動を確認するように、そっと胸に手を置く。
生きる理由の一つが、また一つ増えた。

きっと、今夜は、よく眠れるだろう。
『鎮静剤』を使う必要もなさそうだ。
小角宝梦――銀髪の少女探偵との出会いが、その代わりとなってくれたから。
そんな思いを胸に抱きながら、家路に着いた――。

183 のり夫『ザ・トラッシュメン』 :2016/08/02(火) 23:44:08
諸君。僕だ。
新しい朝が来た。希望の朝だ。
早起きは三文の徳というものの、実際の三文は非常にわずかである。
寝ていた方が幸せなこともある、ということだろう。
しかし、この僕の才覚が目覚めれば三文もあれよあれよという間に六文どころか三両に変えてしまうだろう。

早朝の散歩というのは心地がいい。
なによりも人が少ない。そして、この商店街の商店のほとんどがシャッターを下ろしている。
実に素晴らしい。この道をいま僕一人だけが歩いている。
人通りはない。何をしようとバレはしない。

ぴたりと不意に立ち止まってみる。
後ろを振り返れば暗い空。前を見れば上る太陽が見える。
我が身を包む甚平や草履は否応なく僕という存在をここに溶け込ませ
同時に僕という存在を浮き彫りにしていく。
寂しき街にただ一人、僕だけが生きている。
ふふ、まるでよき時代の文士のような知性を感じさせる僕だ。

一味違う。

184 小石川文子『スーサイド・ライフ』 :2016/08/03(水) 20:56:43
>>183

同じ時間、同じ場所――それは全くの偶然だった。
古き良き時代の文士を思わせるいでたちの少年。
彼の正面から、喪服姿の女が静かに歩いてくる。
彼と同じく、この清々しい空気を吸うために、朝の散歩に出てきたのだ。
辺りには、他に人がいる気配はない。

  「――おはようございます……」

すれ違いざまに挨拶し、軽く会釈する。
その表情は人当たりが良く、穏やかな微笑みが浮かんでいた。
しかし、決して陰のない明るさではなく、どこか物悲しさを含んだ顔でもあった。
その姿を見てどう感じるかは見る人次第だろう。
ともかく、黒衣の女は少年の横を通り過ぎていく――。

     フワリ……

白い薄布が宙を舞う。
それはハンカチのようだった。
どうやら女性が落としたものらしい。
そして、彼女は立ち止まる気配がない。
それを落としたことに気付いていないらしかった。

185 のり夫『ザ・トラッシュメン』 :2016/08/03(水) 23:37:12
>>184

おや、と僕は眉を上げる。
このような時間に人と出会うとは。
しかも美しい女性である。

「あ、ああ……お、はよう……ございます」

僕は一瞬、心臓がびくりとするのを感じた。
どこかほの暗さを感じさせるあの表情。
薄幸の令嬢、といった風情だ。
ほんの一瞬、その顔に見惚れていたのだと気付くのに時間はかからなかった。
しかし、恋に落ちたわけでは断じてない。
僕には心に決めた相手がいたはずである。

「あ」

ハンカチだ。
恐らくあの女性の落としたものだろう。

「すいません」

僕はそれを拾い上げる。
そして、彼女に声をかける。

「落とされましたよ」

186 小石川文子『スーサイド・ライフ』 :2016/08/04(木) 00:18:21
>>185

  「あ……。ご親切に、どうもありがとうございます」

柔らかい笑みと共に、おもむろに手を伸ばしてハンカチを受け取る。
その左手の薬指には指輪がはまっているのが見えたかもしれない。
恋に落ちた――という訳ではないものの、目の前に立つ少年の礼儀正しさには、素直に好感を覚えた。
そして、少年と同じく、自分にも心に決めた相手がいた。
お互いにそれを知ることはないが、奇妙な一致だった。

  「――気持ちのいい朝ね……。散歩しているの?」

なんとなく、少し話してみたい気持ちがあった。
同じ時間に同じ場所に二人きり。
それは、ただの偶然かもしれない。
でも、何かある種の繋がりようなものを感じていた。
だから、何気ない調子で話しかけた。

  「違っていたらごめんなさい。私も散歩するのが好きだから……」

     ヒュオオオオオ……

その時、一陣の風が通りを吹き抜けていく。
帽子が飛ばないように右手で押さえながら尋ねる。
その右手には、左手と同じ場所に同じ指輪がはまっていた。
それに気付くかもしれないし気付かないかもしれない。
気付いたとして、何かが分かるかもしれないし分からないかもしれない。
全ては、のり夫少年次第だろう。

187 のり夫『ザ・トラッシュメン』 :2016/08/04(木) 00:39:12
>>186

「……いえ、別に。当然のことです」

てらいなく僕は答えた。
この自然な対応、紳士性があふれてきている。
ただの知性派というだけではないのだ。

ちらりと見える指輪。
僕は心の中で何かがしぼんでいくのを感じる。
いや、これはなにかの気の迷いだ。
それに僕と彼女は今日この時初めて会った仲。
なにも気にすることはない。

「えぇ、散歩ですよ。私は」

「いえ、私もかな。ふふふ」

気持ちのいい風が吹く。
右手にも、指輪?
どういうことであろうか? 左手のそれの意味は知っている。
それぞれの指でなんらかの意味があったはずだが、そういう類ではないだろう。
洒落っ気を出すにしても、同じものをはめるのだろうか。
……僕は、考えるのをやめた。

「申し遅れました、私は卜部のり夫」

「よくこの時間に散歩を?」

188 小石川文子『スーサイド・ライフ』 :2016/08/04(木) 01:15:44
>>187

  「ご丁寧にどうも……。私は小石川文子といいます。はじめまして、卜部さん」

深々とお辞儀をしながら、お返しに自身の名前を答える。
とても爽やかな気分だった。
この少年に、どこか自分と近い陰の部分を感じたせいもあるかもしれない。
もちろん明確な根拠がある訳ではない。
あくまで、そう感じたというだけの話――単なる直感だ。

  「ええ。朝夕の静かな時間に散歩するのが好きなの。
   この辺りには、あまり来たことがなかったけれど……」

ゆっくりと周囲を見渡す。
大勢の人々がいるはずだが、今この場には誰もいない。
不思議な感覚だった。
ややあって、その視線がのり夫少年に戻ってくる。
彼の顔を正面から見据え、さらに言葉を続ける。

  「これからは、こちらの方にも来るようにしようかしら。
   できれば、また会いたいから……」

そう言って再び微笑む。
少なくとも今は、ただ散歩の途中に偶然出会っただけの関係だ。
再会したとしても、挨拶を交わすだけになるかもしれない。
けれど、それでもいい。
この礼儀正しい少年には、いつかまた会いたい。
心の中でそう思い、そのまま素直に口にした。

189 のり夫『ザ・トラッシュメン』 :2016/08/04(木) 14:49:31
>>188

「小石川さん、ですか」

深々と頭を下げる小石川さんに恐縮してしまう。
これほどの女性はそういないだろう。
年下のそれも初めてあったものに頭を下げ、丁寧に僕の名前を呼ぶ。
礼儀礼節、そういったものを身につけているということか。
やはり、教室で見かけるあれらとは大違いである。
僕は敬意を胸に頭を下げた。

「そうですか……私はたまたま早く目が覚めたので」

「しかし、こういう時間に散歩するのも、なかなか味がある」

このような出会いがまたあるのなら、早起きも悪くは無いだろう。
三文として扱っていいのかは僕には分からないが
価値があるものということは確かだ。

「うっ……」

「そうですね。しかし、また会いたいなどと軽々しく言わぬ方が良いでしょう」

「いらぬ誤解を招きかねない」

小石川さんを少なくとも今までみた感じなら、おかしな意味は無い言葉だろう。
しかし、受け手側が分別のないものならば
誤解を招くこともあるだろう。
僕はそんなことはないが。
断じてないが。
少し、どきりとしたが。

190 小石川文子『スーサイド・ライフ』 :2016/08/04(木) 18:11:43
>>189

  「――そうね……。気を付けるわ。ありがとう」

指摘されて、少し正直すぎたことに気付いた。
こうして人と関わっていると、訳もなく嬉しくなって、不必要なことまで口走ってしまう。
それは自分の悪い癖だ。
もっとも、傍から見れば、自傷行為の方がよほど悪癖に思えるかもしれない。
しかし、それは自分にとっては不可欠なことであり、むしろ薬となるものなのだ。

  「一人暮らしだと、時々寂しくなることがあって、つい……」

  「この町に来てから、まだ日が浅くて、知り合いも少ないものだから……」

右手にしている形見の指輪――左手の指先で触れて、その感触を確かめる。
亡き夫との思い出が脳裏をよぎった。
そのせいか、顔の上に落ちている影が、ほんの少しだけ濃くなったようだ。
知らず知らず暗い表情になってしまうのを隠すために、軽く俯く。
再び顔を上げた時には、表情は最初の状態を取り戻していた。

  「もし、気を悪くしたのなら、ごめんなさいね」

この町に来たのは、新たな人生を歩むと決めたからだった。
死に別れた彼の遺言に報いるために生き続ける。
そのためにも、悲痛な顔をして生きるよりは、できるだけ笑っていたいと思う。
けれど、その微笑には消せない陰が纏わりついていて、本当に明るい笑顔にはならない。
きっと――今もそんな顔をしているのだろう。
それでも構わない。
暗い影に覆い尽くされなければいい。
胸の中にある光を忘れなければいいのだから。
だからこそ、今この時は、自分にできる精一杯の笑顔を、眼前の少年に向けているのだ。

191 のり夫『ザ・トラッシュメン』 :2016/08/04(木) 21:27:15
>>190

「あなたが謝ることではありません」

あなたほどの人が謝ることではないのだ。
あなたは優しいのだろうから、それにあなたは綺麗な人だから
いらぬことが起きそうだと、僕は思っているのです。

「これは受け手側の問題。あなたに対して、よからぬ事を企むものがいないとも限らない」

「だから……いえ、む……」

なんというべきか。
僕にはわからなかった。
あなたを安心させる言葉が見当たらない。
あなたは僕の周りに蔓延したウイルスのようなよからぬ者とは違う。
違うはずなのです。


「私はおじやいとこと暮らしていますが、独り身の寂しさを知っています」

「その感情に理解はありますから、気を悪くなど」

「天地がひっくり返ってもしませんよ」

嘘だ。一人の寂しさなど、とうの昔に忘れてしまった。
父が死に母が死ぬまでの間、僕は一人だった。
友を持たず、恋を持たず、ただ帰りを待っていたのだ。
哀しいことを教えられ、覚えるまでの猶予が伸びただけだったが。

悲しいなあ。
笑う。鏡に映したように。
あなたにそういう顔をさせてしまうのは。
おねーさんがいたらなんというだろうか。

「私がその寂しさを埋めてあげられればいいのだけれど、どうしたものか」

192 小石川文子『スーサイド・ライフ』 :2016/08/04(木) 23:17:54
>>191

  「気遣ってくれて、ありがとう」

何となく――彼の言葉には、どこかしら嘘が交じっているような気がした。
でも、嬉しい気持ちに変わりはなかった。
そうしてまで自分を慰めようとしてくれたのだから。
きっと、彼はとても優しい人なのだろう。
この短い時間の中で、そんな思いを感じていた。

  「いえ、いいのよ……。そう思ってくれただけで、私には十分だから」

そう言って、小さく首を横に振る。
同じ時間を共有し、こうして言葉を交し合えた。
それだけで、自分はささやかな幸せを感じている。
現に、少なくとも今の自分は寂しさに苛まれてはいない。
だから――それで十分なのだ。

  「でも、もし……。これから町で私を見かけることがあったら――」

  「その時は、また声をかけてくれると嬉しいわ」

ただ、ほんの少しだけ我侭を言うのならば、もう一度会いたい。
それはいつになるか分からないし、もう会うことはないかもしれない。
けれど、もし会えたとしたら、それは自分にとって、とても嬉しいことだから。
人との出会いは素敵なことで、それが続いていくことは、さらに素晴らしい。
そう思ったからこそ、その気持ちを言葉にした。

     ガララララッ

少し離れた所から、シャッターの一つが開く音が聞こえた。
いつの間にか、思っていた以上に時間が経っていたようだ。
差し込む陽光によって、町を包む影は徐々に取り払われ、少しずつ明るさを増しつつある。
やがて、この通りも人々で賑わい始めるだろう。
また今日も、新しい一日が始まろうとしている――。

193 のり夫『ザ・トラッシュメン』 :2016/08/05(金) 00:17:36
>>192

「私は気遣いなど」

していない。そうであるはずだ。
きっと、きっと。

「ええ、もしまたお会い出来たら、その時はまた」

「よきことが起こることを願います」

開き始めるシャッター。
そろそろ街が動き出す。
僕の嫌いな時間が始まる。
さぁ、帰ろう。元いた場所に。

「それでは、また」

僕は歩き出す。
彼女のいない方向へ。僕が向かわなければならない場所へ。

僕はなんて惚れっぽいのだろう。

194 小石川文子『スーサイド・ライフ』 :2016/08/05(金) 00:50:23
>>193

  「――ふふ……」

否定する少年を見て、ただ黙って微笑む。
彼の温かい心遣いは伝わっている。
だから、あえて何かを言う必要はない。

  「卜部さん、あなたにも――」

  「いいことがありますように」

差し込む朝日を受けて、眩しそうに目を細める。
日が高くなってきた。
今日も天気が良さそうだ。

  「ええ。また……」

彼と同じように、自分の場所へ歩き出す。
けれど、どちらも同じ町に生きている。
だから、いつか再会することもできるだろう。
ふと立ち止まり、空を仰いだ。
澄んだ青空を入道雲が彩っている。
きっと、いい一日になる。
何となく、そんな予感が胸の中にあった。

195 小角 宝梦『イル・ソン・パティ』 :2016/09/14(水) 21:06:47

  トコ
        トコ


小角は道を歩いている。
二学期はとっくに始まり、今は下校時刻。

(うぅむ……まいったなあ。
 よりによって今日がお休みとは)

しかしここは通学路ではない。
小角は文房具屋を探しているのだ。

馴染みの店は閉まっており――コンビニは少し遠い。

       「ううむ」

   グイ

内心のうなりが口に出てしまう。消しゴムを買わねば。
このままでは帰っても宿題ができず、テスト勉強も出来ない。

       (スーパーがこの辺に、
        あったような気がするのだが)

              (見当たらないなあ・・・)

196 朝山『ザ・ハイヤー』 :2016/09/14(水) 22:34:53
>>195


 「     ――ふっ ふっ ふっふっ……」


  ドンッ!!!


 「――トゥ!!」

 クルクル シュッ タンッ シャキーン!!

「悪の組織の首領 モーニングマウンテン 電信柱の影からドンッと登場!」

 決めポーズと共に、悪の首領は真っ赤なジャンパーを着つつ
片腕に手提げ袋を掛けつつ、バイキ○マンの仮面と共に登場した!

 「何やら困ってる様子だっス 天津飯の友よ!
この天津飯大好き仲間である悪の首領が宜しければ相談にのるっス!
 そして相談が解決するんだったら悪の首領の仲間になるっス!」

 今日も今日とて悪の勧誘活動だ! ちなみに親から買い物を頼まれた帰りでもある!

197 小角 宝梦『イル・ソン・パティ』 :2016/09/14(水) 22:52:03
>>196

「むっ…………!?」

(な、なんだ、この笑い声は? どこから――)

           「うわっ!!」

     ダッ


どこかといえば、電信柱の影――
そして、誰かと思えば、あの時の『危険なやつ』だ。

(こ、こいつに関わるのはまずい!)

「い、いや……別に困ってなどいない!
 わたしのどこがどう困っているというのだ……」

     ブンブン

手を体の前で振って、徹底的に拒否の構え。
どう見ても困ってたのだが。

「む、向こうに行きたまえ、向こうに!」

        「変な目で見られるだろう!」

  ザワ

実際、今の時間この辺には人がいないわけでもない。
小角としては、この状況で踊りに巻き込まれたりするとこまるってわけ。

198 朝山『ザ・ハイヤー』 :2016/09/14(水) 23:00:50
>>197

「まぁまぁ! 遠慮なんてしなくてもいいっス!
私と天津飯の友の仲っス! そんな他人行儀にならなくていいっスよ!!」

 パワフルに小角の周りをカサカサと動くモーニングマウンテン!
常にいつも走り回ってる俊敏さは悪の首領の際にも損なわれる事はない!!!

 「お腹が空いてるとかなら、天津飯はいまないっスけど
食パンならあるっス。食べるっスか?」

 スッ。と食パンを一枚差し出すモーニングマウンテン!
確か…食パンの白い部分は消しゴムのように鉛筆の黒い部分を何とか
消す事が出来るらしいと言う知識を、小角ならもってるだろう。

199 小角 宝梦『イル・ソン・パティ』 :2016/09/14(水) 23:13:11
>>198

「よしたまえ人を勝手に……
 ヘンな仲間に入れるのは!」

    (な、なんてすばしっこいやつだ!)

  クル
         クル

なんとかこう、間を抜けたいが……
動きに翻弄される小角は、なかなか上手く行かない。

「ば、ばかいうんじゃあない。
 わたしはお腹なんて空いてないよ」

       「だから食べない」

食パンが欲しいわけではないのだ。
『消しゴム』がいるのだ!

学校で堂々と使える――鳩の寄ってこないやつが。

「良いから向こうに行きたまえきみ!
 わたしは探しものをしているんだから……」

           「あ」

    (し、しまった、言ってしまったぞ……)

小角の迂闊だが、この状況で平常心を保つのは難しいのでは・・・?

200 朝山『ザ・ハイヤー』 :2016/09/14(水) 23:20:29
>>199

 「ふーむ! 探し物っすかっ!!
天津飯の友の探し物と言うのなら放っておけないっス。
 どう言うものなのか、このモーニングマウンテンに告白すればいいっス。
もしかすれば私の近くにあるかも知れないっス」

 と、腕を組んでモーニングマウンテンは答える。
そのポケットからは、爽やかなミントの香りが漂ってる……。

201 小角 宝梦『イル・ソン・パティ』 :2016/09/14(水) 23:26:08
>>200

「そんな友になった覚えは……
 ええい、こうなっては仕方がないか」

「じゃあ単純に言うけど、
 わたしは消しゴムを探してる」

    ス

もはや隠しても仕方がないのだ。
小角は指を小さく立てて、四角を描いた。

(む……なんのにおいだこれは)

           スン

「きみが持ってるのはいらないからね。
 わたしが、自分の消しゴムを、買いたいんだ」

           「……知っているかね?
             売って良そうな場所とか」

ミントの香りにやや惑わされつつ、小角はよどみなく尋ねた。

                   ・・・何のミントだろうか?

202 朝山『ザ・ハイヤー』 :2016/09/14(水) 23:31:46
>>201

 スンスンと鼻を動かす小角。そして出たワード『消しゴム』

 「消しゴムっスか? それなら、あそこの角で売ってるっス!
じゃ、じゃじゃーん!」

 ポケットから出したのは……『練り消し』だ!
 ミントの匂いのする練り消しを、印籠のごとく自慢気に悪の首領は出してきた!

「ガチャポンっス。より取り見取りの五十種類ある練り消しが出てくる奴っス。
外れだと、普通のMON○消しが出たと思うっス」

 ガチャポン! 普通のお店や文房具店を探してる貴方には盲点だった
かもしれないが。遊ぶ場所に意外にも売ってたらしい!

203 小角 宝梦『イル・ソン・パティ』 :2016/09/14(水) 23:40:45
>>202

「何! あそこの角だって?
 あんなところに、お店なんて――」

          「あっ!」

   バン!

練り消し。
それではよくないのだが――

「消しゴムのがちゃがちゃ……
 そ、そんなものがあったとは!」

        「も、盲点だった……」

普通の消しゴムが出るなら、話は別だ。
外れ扱いならどう考えても数回で出るだろう。

「……」

「……れ、礼を言わせていただこう。ありがとう」

         ス

やや目を逸らしつつ、小角は礼を述べた。
何となく気恥ずかしいような気がしたからだ。

          ザ

    そして、歩く向きを『ガチャポン』へと変えた。回そう。

204 朝山『ザ・ハイヤー』 :2016/09/14(水) 23:52:58
>>203


>礼を言わせていただこう。ありがとう


 「ふっふっふ! なーに、天津飯の友と私の仲っス!
また困った事があれば、直ぐにこの悪の首領の名を呼ぶっスよ!
 それと今度悪の講演会をする予定っス! それに関して
いっぱい広めてくれれば、今日の借りはチャラーっス!」

 今日も今日とてパワフルに悪の勧誘をするのだっモーニングマウンテン!

 小角の悩みが解消されたのを知るや否や、目指すは次の
悪を求める者たちのところへシュパッと参上する為に駆けだす!
 目指すは星見町の悪を求める者たちの声を全て束ねてしまうのだ!

205 小角 宝梦『イル・ソン・パティ』 :2016/09/14(水) 23:57:50
>>204

「あ、悪の手先になるつもりはない!
 まったく、よくわからないやつだきみは」

悪になる気はないが、
今までより『警戒』の気持ちは薄い。

悪を標榜していても――『悪人』じゃなさそうだから。

        「……ふん」
 
(講演会とやらに行く気はないが……
 今回は、こいつに助けられたのだからな)

「借りは別の形で返すだろう。
 ……また会おうじゃあないか」

           「では、失礼!」

    ザッ

そうして小角はガチャポンへ行き――『500円』で消しゴムを取った。  

                ・・・ついでに、練り消しも4つ手に入った。

206 草壁多聞『アンサング』 :2016/09/22(木) 22:23:16

人気のない深夜の町を彷徨う影が一つ。
背格好から見て、男のようだった。
身長は180cmといったところ。
革ジャケットにジーンズというラフな格好。
口元にスカーフを巻き、頭にはアポロキャップを目深に被り、
夜だというのにサングラスをかけている。

男はしばらく通りをうろつき、駐車場の前で足を止めた。
視線の先には、一台のセダンがあった。
いかにもスカした感じの高級車――こいつにしよう。

ズギュンッ

自身の精神の象徴たる『枯れ草が絡まった細身の人型』を発現させる。
そして、その手が車に触れた。
振れると同時に、『騒乱の種』を仕込む。

「よし」

『人型』を伴い、男が一歩ずつ後退し始めた。

「5、4、3」

車を見つめたまま、下がり続ける。

「……2、1、『0』」

カウントを終えると、体を反転させて、車に背を向けた。
その動作と同時に、セダンの内部から小さな破裂音が聞こえ、煙が吹き出る。
人目がなくなると同時に、『騒乱の種』が『発芽』したのだ。

「なんというか……。『悪いこと』って、なんでこんなに楽しいんですかねえ。
いや、まったく、やめられませんよ」

その男――清月学園教師・草壁多聞は本当に気持ち良さそうに笑っていた。

207 白瀬 希『トンプソン・スクエア』 :2016/09/23(金) 00:10:31
>>206

「なーにが楽しいんだって?」

「聞かせてもらえるかねぇ?」

赤いジャージの女が言う。
身長は女にしては高い183。
目は爛々と輝き、その手には買い物の後らしいコンビニの袋。

208 草壁多聞『アンサング』 :2016/09/23(金) 00:30:01
>>207

「いや、人に迷惑をかけずに悪いことをするのが楽しいと言ったんですよ」

白瀬が故障した車を見たなら、『騒乱の種』によって起こされた『故障』は元に戻るだろう。
見てないなら、自分が『目撃』することで元に戻す。
最初から、そうするつもりだったのだ。
実害のない悪戯こそが自分の望むものだからだ。

しかし――内心少々ヤバイとは思っていた。
相手は女性だが、体格もいいし、威圧感がある。
これで腕っ節が弱いなんてこともあるまい。
自慢じゃないが、喧嘩は売ったことも買ったこともない。
人と争うことは嫌いだからだ。
それに、もし殴り合ったとしたら、まず自分が負ける。

「ね?元通りでしょう?」

そう言いながら、さりげなく辺りに気を配り、逃げ道を探しておく。

209 白瀬 希『トンプソン・スクエア』 :2016/09/23(金) 00:58:31
>>208

「ふーん」

白瀬は目撃する。
故障した車をだ。
つまり、故障は消える。
元の車がそこに残る。

「待てよ」

「ちょっと、お話ししようや」

その眉間にはしわが寄る。
大きく一歩を踏み出して近寄る。

「なあんで、そんなこと楽しんでるのか」

「なぁ?」

「後さぁ、お話しするときは、スカーフとかサングラスとかとって、目と目を合わせてお話ししようよ」

210 草壁多聞『アンサング』 :2016/09/23(金) 01:27:13
>>209

ひとまず今は逃げない。
とりあえず、いざというときに逃げる方向だけ把握しておけばいい。
下手に逃げようとすると、かえって危ない。
そんな気がする。
『アンサング』は出したままだ。

「申し訳ないですが、これを外すことはできません。
ファッションでやっている訳ではありませんのでね」

半分はファッションですが、と心の中で付け加える。
相手が近寄るのを見て、警戒する。
『故障』が元に戻ったのを見ても全くのノーリアクション。
自分と同じスタンド使いだと確信した。
近付いてくるということは、近付く必要があるということなのだろうか。
もし、さらに踏み込んでくるようなら距離を取る。

「……ですが、人と話す時に目を合わせないというのは失礼ですね」

そう言って、サングラスを外した。
特に変わった色をしているわけでもない、ごく普通の黒い瞳。

「これで勘弁していただきますよ」

「さて……」

「『なんでそんなことを楽しんでるのか』でしたね?
少し長くなるかもしれませんが、お時間大丈夫ですか?」

211 白瀬 希『トンプソン・スクエア』 :2016/09/23(金) 01:45:15
>>210

こちらもスタンドを出しておこう。
人型のそれを

「お時間なら大丈夫だぞ」

「それと、質問に質問で返すなよ。学校で教わらなかった?」

くいと小首をかしげる。
ぱきりと首を鳴らした。
まだ近づいていく。

「まぁ、長く話したければそうしろよ」

「喋られる時間は長い方がいいだろう?」

「弁明でもなんでもよぉ?」

212 草壁多聞『アンサング』 :2016/09/23(金) 23:29:28
>>211

「いえ、そろそろ帰ろうと思っていましたのでね」

向こうが近付けば、こちらも後ろに下がる。

「手短に済むなら、私としてもありがたいです」

未知の相手を前にして、緊張が高まる。

「私には悪いことをしたいという思いがあるんです。
ですが、人に迷惑はかけたくない」

まず、こちらの能力は見られている。
そして、自分のスタンドは戦闘には向いてない。
なにより、自分には戦う意思はない。

「だから、こうして発散しているわけです」

できれば今すぐ背中を向けて走り去りたい。
だが、きっかけが見つからない。
背中を見せるのは危険だ。
距離を取りながら、いつでも防御できるようにスタンドを構える。

213 白瀬 希『トンプソン・スクエア』 :2016/09/23(金) 23:52:36
>>212

「ふーん。なるほどなぁ」

うんうんと納得した白瀬。
その眉間に先ほどまでのしわはない。

「……危険だけど、危険すぎないな」

そう呟くとその場に胡坐をかいて座り込んだ。
そして首をニ三度鳴らす。

「アタシは他人を踏みにじったり傷つけたりする人間が大嫌いだ」

「あんたはその領域に片足を突っ込んでる。ぶっ飛ばしたいが、まだ片足だ」

「その言葉が嘘だっていうなら今すぐにでも叩くけど」

今はしない。そう明言した。

「両足突っ込んだら殺す。容赦なく」

「今はまだ取り返しのつく悪事だからな」

「だがその精神が『人を害するのが楽しい』に傾いたり、今やってること以上のことをしたら」

「両足突っ込んだとみなす」

それからぎぃっとあなたを見上げる。

「帰りたいなら帰りるといい」

スタンドも解除する。
攻撃の意志はない。厳密にはあるが、今すぐに叩くつもりはない。

214 草壁多聞『アンサング』 :2016/09/24(土) 00:22:06
>>213

「……ありがとうございます」

意外な反応だった。
てっきり、攻撃を仕掛けてくるかと身構えていたが……。
分かり合えたとは言えない。
しかし、納得はしてもらえたらしい。
話はしてみるものだ。

「人を踏みにじり、傷つける人間が嫌いだというのは私も同じですよ」

そう答える目に嘘はない。

「だから、もし私がそうなったら、その時は殺して下さい」

その声にも迷いはない。

「そんな風になるくらいなら死んだ方がマシですから」

そう言って、こちらもスタンドを解除する。

「では、失礼します」

立ち去ろうとして、はたと立ち止まる。

「……おかしな言い方かもしれませんが、感謝しますよ」

そう言い残して、今度こそ立ち去っていった。

215 白瀬 希『トンプソン・スクエア』 :2016/09/24(土) 00:29:10
>>214

「あいよ」

「その首すぱっとやってやる」

からからと笑って物騒なことを言う。
それが白瀬という女性であった。
そしてその言葉は本気の言葉でもある。
容赦なく許しはしない。

「感謝……?」

立ち去る背を見つめ。
そう呟く。

「気に食わねぇ。ま、許しておいてやろう」

「その言葉信じとくぞ」

216 小石川文子『スーサイド・ライフ』 :2016/10/15(土) 22:50:21

――PM12:00――

最近見つけて時々通っている輸入雑貨店でいくつかの小物を購入し、店の外へ出た。
時間を確認すると、もう昼間だ。
そろそろ食事をしようかと、適当なレストランを探しながら、通りを歩く。

今日は休日ということもあって、平日よりも人手が多かった。
夫婦と子供の家族連れ、若い恋人たち、高校生くらいの友人同士など、様々な人々とすれ違っていく。
その時、不意に足が止まり、帽子の下の視線が一点に注がれる。
雑踏の中に、愛した相手とよく似た後ろ姿を見つけたからだ。
――もしかすると彼なのでは。
自分でも馬鹿げた考えだと思いながら、目を逸らすことができない。
しかし、まもなく振り返った顔は、当然ながら全くの別人だった。
その男性の下へ、恋人らしき女性が駆け寄ってきて、連れ立って歩き去っていく。
彼らは、とても幸せそうだ。

かつては、自分もそうだった。
当時の思い出が脳裏をよぎり、一抹の寂しさが心を掠める。
胸に生じた感慨に思わず目を伏せ、やがて再び歩き出し、雑踏の中に消えていく。

217 小石川文子『スーサイド・ライフ』 :2016/10/31(月) 22:58:12

『ハロウィン』――ヨーロッパを発祥とする民族行事で、秋の収穫を祝い、悪霊を追い出す祭りである。
近年は日本でも知名度が上がり、季節を彩る楽しみの一つとして浸透し、人気を博しているようだ。
ここ星見町も例外ではなく、通りの各所に飾り付けがなされ、
何かのイベントに参加するらしい仮装した人々も散見された。

少しだけ普段と違う町を歩きながら、ちょっとした非日常に思いを馳せていると、
突然何かに喪服の裾を掴まれたような感覚があった。
少々驚いて振り向くと、小学校に上がったばかりといった少年が、こちらの顔を見上げていた。
帽子とマントを身に着けている姿を見ると、差し詰め魔法使いの扮装といったところだろうか。
どうやら彼の母親と間違われてしまったらしい。

  「坊や――お母さんとはぐれちゃったの?」

不安にさせないよう、少年に声をかけつつ、辺りを見回す。
おそらくはぐれてからまだ時間は経っていないだろうし、向こうも捜しているはずだ。
それなら、少年の母親が近くにいる可能性は高い。
まもなくして、少し離れた所から、母親らしき人影が、少年の名前を呼びながら近付いてきた。
それは、黒尽くめの魔女の仮装に身を包んだ若い女性だった。
これでは間違えるのも無理はない。

頭を下げる母親に会釈を返し、小さく手を振る少年に手を振り返す。
それは日常の中に生じた、ほんの些細な出来事だ。
しかし、今日がハロウィンでなければ起きなかったに違いない。
ある意味では、これも一つの『非日常』と言えるのかもしれない……。
そんなことを考えながら、再び歩き出す。

218 小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』 :2016/10/31(月) 23:26:38
>>217

(嫌になるわね)

ふぅとため息をついて歩く。
何をするという訳でもないが、歩いている。
黒い服に赤いスカーフが栄える。

集団のハロウィンに浮かれた塊を避ける。
面倒くさそうに。

「はぁ」

またため息が出る。

219 小石川文子『スーサイド・ライフ』 :2016/10/31(月) 23:57:56
>>218

向こうから歩いてきた小鍛冶とほぼ同じタイミングで人並みを避ける。
人並みに遮られて、向こう側の様子は見えていなかった。
だから、相手の存在に気付いたのは、至近距離まで近付いた時だった。
さすがに避ける暇がない。
その結果、軽くぶつかってしまうことになった。

  「あっ……」

  「ごめんなさい」

頭を下げて、自身の不注意を詫びる。
洋装の喪服に黒いキャペリンハット。
帽子の下の黒髪はアップヘアだ。
この時期だと、遠くから見ると魔女の仮装に見えなくもないが――仮装ではない。

220 小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』 :2016/11/01(火) 00:00:18
>>219

「んっ……」

「いえ、こちらこそ。ごめんなさいね」

謝罪と同時に相手を見る。
その服を観察。

「喪服、かしら」

(仮装かとも思ったけれど、そうじゃあないし)

(そういうタイプでもないわね)

221 小石川文子『スーサイド・ライフ』 :2016/11/01(火) 00:21:19
>>220

ややあって、自分を見る視線に気付いた。
観察されることは初めてではない。
しかし、それが原因で動揺することはない。
自分自身、この服装が街中を歩くのに似つかわしい格好ではないということは分かる。
それでも、この習慣を止めるつもりはなかった。

  「ええ」

  「仮装ではないわ」

  「さっきは間違われてしまったけれど」

そう言って、軽く微笑む。
それは明るい笑いではなく、どこか陰のある笑顔だった。
もし、小鍛冶の視線が両手に移ったとしたら、両手の薬指に同じような指輪をしているのが見えるだろう。

222 小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』 :2016/11/01(火) 00:36:09
>>221

「そう。それは、気の毒といっていいのかしら?」

「私はあまり、こういうことは好かないから、そう思ってしまうけれど」

指輪が視界に入るがそれについて突くことはしなかった。
それをするほど子供でもなかった。

「あなたはどうかしら? ハロウィンが好きとか、あるのかしら?」

「それともイベントは苦手?」

223 小石川文子『スーサイド・ライフ』 :2016/11/01(火) 00:58:27
>>222

投げ掛けられた問い掛けに対し、頭の中で考えを巡らせながら、おもむろに口を開いた。

  「私は――静かな場所が好きね……。湖畔の近くの自然公園には、よく出かけているわ」

  「あの辺りで過ごしていると気持ちが落ち着くから……」

  「そうね……。あまり賑やかな所に入るのは苦手かもしれないわね……」

ぽつりぽつりと話しつつ、一旦言葉を切る。

  「でも、時々寂しくなることがあって……」

  「そんな時は、少し賑やかな通りに出てみようと思うこともあるわ」

  「今ここにいるのも、そんな理由かしら……」

そこまで言って、今度こそ言葉を終えた。

224 小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』 :2016/11/01(火) 23:01:14
>>223

「そう。私は騒がしいのが嫌いなの」

「まだここはマシだけど、ただバカ騒ぎしたいだけなところは好きじゃあない」

流れる様に言葉が生まれる。
彼女にとって間違いのない言葉だった。

「寂しさ、ね」

(随分と昔に忘れてしまったわね)

「なら、ほんのちょっぴりだけその隙間埋めてもよろしくて?」

225 小石川文子『スーサイド・ライフ』 :2016/11/01(火) 23:22:10
>>224

無言で目を少し見開き、少々驚いたような顔をする。

考えてみれば妙な状況だった。
彼女とは、ただぶつかっただけの関係なのだから。
普通なら、そのまま通り過ぎて終わりだろう。
しかし、こうして言葉を交わしている。
それは、彼女に対して何かの縁を感じたからかもしれない。

  「――ええ」

しばしの沈黙の後、短く返事をした。

226 小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』 :2016/11/01(火) 23:34:11
>>225

「まぁ、なんということはなく」

「少し一緒に歩きましょうかということなんだけれど」

髪をかき上げる明。

「ところで、名前を聞いていなかったわ」

「私は小鍛治明。あなたは?」

227 小石川文子『スーサイド・ライフ』 :2016/11/01(火) 23:58:10
>>226

思わず、くすりと笑う。
先程と比べると、幾分明るさの感じられる微笑みだった。
それは傍らにいる少女のお陰なのだろうと思えた。

  「ありがとう」

素直に感謝の気持ちを口にする。
彼女にとって、自分は出会ったばかりの人間だ。
そんな自分のために何かをしてくれる。
なんということはない、と彼女は言った。
しかし、自分にとっては、それはとても温かい心遣いだった。

  「小石川文子よ」

  「じゃあ……小鍛冶さんと呼ばせていただいてもいいかしら?」

気付けば、人の通りも徐々に落ち着いてきていた。
少なくとも、先程よりは歩きやすい道に見える。

228 小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』 :2016/11/02(水) 00:12:42
>>227

「別に」

「よろしくお願いするわね。小石川さん」

(気まぐれよ)

ただの気まぐれだ。
かつての自分は彼女ではなかったし、寂しさを忘れた小鍛治にとって彼女が特別な存在であったという訳でもない。
偶然だったのだ。すべて。

「トリックオアトリート」

「なんてね」

229 小石川文子『スーサイド・ライフ』 :2016/11/02(水) 00:41:46
>>228

  「ええ。よろしく……」

彼女が心の中で何を考えているのか。
勿論それは分からない。
もしかすると、彼女にとっては、本当になんということもないことなのかもしれない。
ただ、自分は少女の気遣いに感謝し、嬉しく思っていた。
仮にそれが自分だけのものだったとしても、今この時、それは自分にとっての真実だ。

  「――ハッピーハロウィン」

『トリックオアトリート』と言われたら、こう返事をすることが通例となっているらしい。
どこかで聞いた知識を思い出し、やや冗談めいた口調で返した。
その後は、小鍛冶の言った通り、肩を並べて通りを歩いていく。
そうしている間は、少しだけ寂しさを忘れられた。
自分からすれば、大きな出会い。
けれども、この町からすれば、ほんの些細な小事。

どちらにしても、二人は共に歩き、同じ一時を過ごした。
それは紛れもない事実なのだ。

230 『寝坊すけハロウィン』 :2016/11/06(日) 22:28:37


星見町  大通り


   ハロウィンの日は、この通りも幾つもの仮装行列をする
子供や大人が並び、賑わっていた。だが、ハロウィンから六日も
過ぎた今の時刻、この通りで仮装をするような人はいない。

 いない……と思われていた。


  『トリック・オア・トリート!』

 いや 『居た』

幼稚園に通う子供ぐらいの背丈の、手足は見間違いでなければ
木のような感じ。本物の南瓜らしき頭をした何ものかが叫んでる。

 『トリック・オア・トリート!
オラは恐ろしーいジャック・オー・ランタン様だぞー
 トリック・オア・トリートっ

……ぜぇ ぜぇ。何で人間達は仮装もしてないし、こんなに
恐ろしいオラに気づかないんだ???
 しかも普段より力が出ない気もする……。
いや、諦めるなジャック・オー・ランタン!
 オラがやらなきゃ誰がハロウィンを盛り上げる!
 うおー オラはハロウィン一恐ろしいジャック・オー・ランタンだ
誰が早く気づけ―! こわがれーー!』

 何やら騒いでいる……

231 小角 宝梦『イル・ソン・パティ』 :2016/11/06(日) 22:45:45
>>230

「う、うわっ……」

(なんだあいつは……もう7日だぞ。
 非常識というか、世間知らずというか)

       「……?」

探偵の卵――小角の観察眼は、
やや時季外れの『それ』に違和感を見た。

しかし違和感は違和感とまりなのが『卵』な所以。
とはいえ、向こうも聞いても無いことをしゃべってくれる。

「…………」

(ほ、ホンモノのおばけなのか……
 それとも、そう思い込んでいる何かか)

       ソソ…

     (む、無視がよさそうだな、ここは。
      超常の存在だとしても……いや、なおさら!)

小角はどちらかといえばかなり臆病だが、
こうも堂々と騒いでいては逆に怖くないものだ。

こっそりと――それを見ないように歩いていく。もうじっくり見た後だが。

232 『寝坊すけハロウィン』 :2016/11/06(日) 22:53:59
>>231

 名探偵の卵 小角にとって。その奇妙なハロウィンに
乗り遅れたお化けとの遭遇は とてもとても危ない事も考えられる。
 故に、貴方はじっと観察したあとに距離をとる。

 『トリック・オア・トリート! ぜぇ ぜぇ だーれも気づいてくれないゾ
ん?  んんん??

 あっ! お、お前。こ、このジャック・オー・ランタン様に気づいてるなっ』

 枯れ枝のような……いや、貴方を指す ゆびらしきものは本物の枝らしい。
それを振りつつ、カボチャの頭のお化けは騒ぐ。

 『うおーっ! 気づいたが百年目! お前の運の尽き!
トリック・オア・トリート! お菓子か悪戯が選ぶんだー!!』

 たったったったったっ……   がくり。


  『……ぜぇ  ぜぇ  ぜぇ』

 走り出し、約五歩ていどで。ぐったりとカボチャのお化けは
地面に伸びる。 どうやら、このお化けは体力が皆無のようだ……・

233 小角 宝梦『イル・ソン・パティ』 :2016/11/06(日) 23:12:02
>>232(GM)

「うっ」

(しまった……気づかれた。
 ま、周りにこいつは見えていない)

      (反応したらばかみたいだ!)

かといって無視しても面倒――

「えっ」

かと思ったが、想像以上に貧弱だった。
小角は丸い目をさらに丸くしたが、すぐに落ち着く。

「……」

      キョロ

  キョロ

(ど、どうすればいいというのだ。
 無視したらわたしが悪者みたいじゃないか)

「…………」

     トトトト

夢見も悪いので、近づいてみる――
倒れた理由が小角には分らないからだ。 

     「お、おーい……」

そして、小声で呼びかける……スタンド会話は、頭から抜けている。

234 『寝坊すけハロウィン』 :2016/11/06(日) 23:22:49
>>233


 「はぁ  はぁ……お オラはハロウィン1 恐ろしい
ジャック・オー・ランタン
 け、けど・・・ お オラはもう……駄目見たいだ」

 シュゥゥゥゥ…

 南瓜頭のお化けは 段々と体が消えて行こうとしている……

 「あぁ……ハロウィンを……したかった  なぁ……
トリック・オア・トリート……
 トリック・オア・トリート…………
だ、誰が……オラに……お菓子か 悪戯を……。
い、一度だけで良い、んだ。それで……オラは 満足 出来る」

 弱弱しい声で、小角のほうに力なく南瓜頭の顔部分を向けて頼み込んでいる。

235 小角 宝梦『イル・ソン・パティ』 :2016/11/06(日) 23:36:32
>>234(GM)

「い、いきなりダメと言われても……
 困るじゃあないか、こんな町中だぞ!」

       (あっ、き、消えて行く……)

  アタ

     フタ

どうしてやればいいのかもわからない。
困惑する小角だが、答えはすぐに出た。

「ハロウィンはもう……」

      「い、いや」

(何らかの理由があったに違いない。
 ここで見殺しにするのは……かわいそうだ!)

「わ、わかった。じゃあお菓子をやろう!」

         「今買ったばかりだが……」

   ゴソ
 
          ゴソ

「やむをえない……わたしの明日のおやつだが!」

         「う、受け取りたまえ!」

手に持っていた鞄から、
一枚の板チョコレートを出して渡す。

           ザワ

周囲の奇異の目は小角の視界には入っていない――今は。

236 『寝坊すけハロウィン』 :2016/11/06(日) 23:56:12
>>235(小角)

 >受け取りたまえ!

 キラーン☆

 その板チョコレートが出た瞬間 ハロウィン1おそろしいお化けの
徐々に消失していく体が一時的に、かなりくっきりと姿を戻らした。

 「うわーーーーーーーーーーーーーー!!!
チョコレートだあああああああ!!!」

 ドヨドヨドヨッ。

 板チョコを掲げ、ピョンピョンと跳ね回る南瓜のお化けを
周囲の歩く一般人達は、驚いた様子で見る。

 「有難うっ! あんたは命の恩人だよ!
けど、もうオラの残り時間も少ないみたいなんだ。
だから、また来年の。正真正銘のハロウィンのオラが
あんたをお化けの王の賓客として本格的に楽しませるよっ!」

 ジャック・オー・ランタンは。小角の片手を枝の両手で熱烈な握手を
おこないつつ、そう約束をした。

 「命の恩人の、あんたにプレゼントをやるよ!」

パイプらしきものを、ジャック・オー・ランタンは何処からか取り出して
貴方の手へ渡す。それは――『パイプ』だ。

「こいつは『カカオパイプ』!
このパイプのさきっちょに、ココアの粉とお湯を少し注ぐだけで
何時だって、まろやかな色んなチョコとかの味を咥えれば楽しむ事が出来るのさっ。
 次のハロウィンが恋しくて我慢できない時は、これを咥えてくれ!
また来年 このジャック・オー・ランタン様がやって来て、お前を
精一杯恐怖のどん底に落とすからな!   それじゃあ

 ――トリック・オア・トリート」

 ぼふんっっ!!



 ……お化けは消える。まるで嵐のような展開のままに

周囲の一般人達は、瞬く間に起きた数々の異常な出来事に目を白黒させ
結局、何かしらの幻覚か 若しくはイベントだったのだろうと決めて解散する。

けれど、貴方はその夢幻のような一時が確かだったと実感出来る。
 その手には しっかりとカカオの香りが立ち上るパイプが握られてたから……。



小角 宝梦『イル・ソン・パティ』⇒ユニークアイテム『カカオパイプ』get!

237 小角 宝梦『イル・ソン・パティ』 :2016/11/07(月) 00:07:05
>>236(GM)

「う、うわっ!! いきなり叫ぶな!」

「お、大袈裟……でもないのか。
 いやしかし、恐怖のお礼なんてまっぴら――」

> ぼふんっっ!!

       「わっ」

(な、なんだったのだろうか。
 お化けの王……来年本当に……)

        ブルッ

「……う、うう。
 ろくでもないぞ……」

背筋に寒気を感じた。
7日前の忘れもののような寒気を。

それから――手には、確かな重みを。

     「あっ」

(の、残っている……チョコのにおいだ)

「このパイプだけは……
 まあ、ありがたくもらっておくが!」

外で加えるには少し……目立ちすぎるけれど。
パイプというのは、前から欲しかったものだ。

  「ふふん」

     スッ

チョコレートを入れていたポケットにそれを納め、家に帰ろう。

238 小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』 :2017/02/12(日) 23:58:32
ある日、商店街の古本屋にて。
一人の少女がレジ係として座っていた。
ただし、椅子に座りじぃっと本を読んでいる。
業務も上の空だ。
ただ本を読んでいる。周りのことに一切気が付いていない。

「……」

彼女がページをめくる音が聞こえる。

239 薬師丸 幸『レディ・リン』 :2017/02/17(金) 00:51:50
>>238

「――――っと」

    「――ちょっと」

       「ねえ、ちょっとってば」

呼び掛けが耳に入って来だしたのは、
その主が少しずつ声を張り上げだしたから。
 
顔を上げれば、奇抜な外見の、小柄な少女がいる。
白髪赤目――肌を見るに天然のものではなさそうだ。

「これ。買いたいんだけど……
 続きの巻はここには売ってないの?」 

       「店員さんよね? あんたが」

差し出している本は『少女漫画』だ。
小鍛冶ならば、続巻のありかもわかるかもしれない。

240 小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』 :2017/02/17(金) 01:21:26
>>239

「……」

「あぁ、すみません」

しおりを挟み、本を閉じる。
黒い髪、黒い瞳、白い肌。服も白と黒。
こちらは天然もの。

「えぇ、確かに店員ですけれど」

本に視線をやる。
『少女漫画』か。
手に持っていた本をレジの置かれた机に立てる。
それからコンコンと指で机を叩いた。

「続きはありますよ」

「ただ、品質は保証しかねますけれど」

「それでもよろしくて?」

241 薬師丸 幸『レディ・リン』 :2017/02/17(金) 01:38:29
>>240

「古本屋だって分かってる。
 品質は……売り物になるんでしょ」

      「じゃあ問題ない」

品質を気にするなら新品を買いに行く。
古くても、読めればいい……安いのだし。

薬師丸はそのように考えている。
付録のミニポスターも、べつにいらない。

     「あー、でもそうねぇ」

「ページが欠けてるとか、
 そういうのはちょっと嫌だけど」

などと言いつつ、少女漫画をレジに置いた。

「そのへんも、保証できない感じ?
 ページがガムでくっついてるとかも」

口調から察するに試しているとかではなく、
この店の品質の『基準』を尋ねているだけだろう。

242 小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』 :2017/02/17(金) 01:59:31
>>241

「そう言ってもらえるとこちらもありがたいです」

「時々、わからず来る方もいますから」

微笑みながら立ち上がり、本棚に歩み寄る。

「そういう品は買取の際や仕入れるときに選別するので大丈夫ですよ」

「さすがにそんなものを売ればこんな小さなお店すぐに潰れてしまいますから」

壁際の棚を上段から順番に見ていく。
冷たく、鋭い目つきだ。

「大手の店ほどきれいではないですが、読む分には問題なし」

「それと種類はなるべく豊富に。そこがこのお店の売り、ですから」

目の動きが止まる。
そこに手を伸ばすと目当ての少女漫画がある。

「全巻はないですけど、五巻分くらいなら」

243 薬師丸 幸『レディ・リン』 :2017/02/17(金) 02:20:08
>>242

「そっか、店員さんも大変ねえ」

       ツカ
          ツカ

店員の後に続いて、
本棚の方へに歩いていく。

薬師丸は『サービス業』だ。
よくない客に関する苦労は、想像できた。

「良いお店だと思うよ。
 色々置いてあってさ……」

本棚を目で追っていたが、
本職である小鍛冶の目には敵わない。

「ああ、そこにあったのね〜ぇ。
 高くて背表紙が見えづらかったから」

「助かったよ。ありがとうね」

       グ
           グ

比較的上段に並べられたその本には、
踵を上げて手を伸ばすとギリギリ届く。

       「……」

「脚立とかあると、もっと助かるかも」    

      ニコ

小さく笑みを浮かべつつ、追加の要求をした。

244 小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』 :2017/02/17(金) 23:22:21
>>243

「えぇ、色々置いておかなければいけませんから」

「どこにでもあるものをどこにでもある値段でなんて、スカイモールがやってしまいますもの」

生々しい話であった。
客にする話ではないのかもしれないが、静かに小鍛治はそんなことを話していた。

「脚立、ですか」

「椅子ならありますけど」

そういってレジの方からさっきまで自分が座っていた椅子を引っ張り出す。
背もたれ付きのしっかりした椅子だ。
これに乗れば本も取れるだろう。

245 薬師丸 幸『レディ・リン』 :2017/02/17(金) 23:30:22
>>244

「まあね。高いなら新品でいいし」

生々しい話には、
同じく生々しい話で返す。

それが許される店だと思ったからだ。

「踏んじゃってもいいの?
 その椅子……靴は脱ぐけどさ」

         「よいしょ」

   ス
        スポ

ファーのついたブーツを脱ぐ。
靴下のまま椅子に上がって、本を取る。

「いい店だって覚えとく。サービスもね」

       ニコ

笑みをもう一度浮かべて、
まとめて取った本を手に椅子を降りた。

「それじゃ、お会計よろしく。
 ポイントカードとかはないよ」

あとは会計を済ませるだけだ。
両手で本を抱えて、レジの方へ戻る事にする。

246 小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』 :2017/02/17(金) 23:52:15
>>245

「ふふっ。その通りですね」

薄く笑う。

「えぇ、では私も店長に告げておきます」

「今日はお客様が来たと」

椅子を持ち、レジに戻る。
会計の時間だ。
だが、別段バーコードとかを通すわけでもなく。

「六百四十八円ですね」

「……ところで、お客様はオカルトとか信じるタイプでしょうか」

「不思議な出来事とか、不思議な存在を」

247 薬師丸 幸『レディ・リン』 :2017/02/18(土) 00:02:37
>>246

「流行ってないんだ。
 まあ本読んでたもんね」

「ま、貧乏暇なしともいうから、
 暇できるくらいがいいのかもね」

      ジャラ

小銭入れから3枚出した。
500円と、100円と、50円だ。

「良い買い物したよ」

漫画6冊の値段なら相当安いだろう。
商品を受け取ろうとして――

「……っと、急ねぇ〜え。
 オカルト、不思議な存在」

「そういうの好きそうに見える?」

確かに不思議な見た目ではある――
フリルのついた衣装も、やや非日常の黒色。

「ま、信じないことは無いけど……
 なんかの勧誘なら間に合ってるよ」

そう返して、清算を済ませた本を受け取ろうとする。

248 小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』 :2017/02/18(土) 00:14:10
>>247

「暇すぎても問題ですけれど」

「はい確かに」

お金を受け取りレジの中へ。
レシートは出してくれた。
必要ないならそう告げておこう。

「えぇ、ついさっき思い出したものですから」

「というか正直、お話ししたお客様にはだいたい聞いているのですけれどね」

本を袋に入れる。
薄茶色の紙袋だ。

「勧誘ではないですが、興味がなければ構いません」

「白紙の本に興味はあるか、ということなのですけれど」

紙袋を差し出した。
その眼は落ち着き、冷たく、鋭い。
口には微笑みを浮かべてはいるが柔らかそうではない。

249 薬師丸 幸『レディ・リン』 :2017/02/18(土) 00:33:54
>>248

「ほどほどが一番でしょうね。
 なんか普通な結論だけどさ」

レシートは受け取っておく。
まあ、一応のことだ。

紙袋を脇に挟んで、鞄を持ち直す。
まだ立ち去らない。判断しかねるから。

「『白紙の本』?」

ノートのことではないだろう。
聞きなれない単語に瞬きする。

     「…………」

「それさ、お金になる話?
 ……ああ、『犯罪』以外ね。
 それなら興味あるんだけど」

「ただ不思議なだけなら、いいや。
 そういうのも間に合ってるからね」

――意味深な言葉だが、
薬師丸には意味を察しかねた。

とはいえ、話しは聞いておくものだ。
寝て待てば来る果報は、それほどないのだし。

250 小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』 :2017/02/18(土) 01:03:02
>>249

「えぇ。中身はもちろん、表紙も裏表紙も背表紙も」

「何も書かれていない。製本されただけの本です」

レジの置かれた机。
その下を彼女がまさぐると何冊かの本が現れる。
どれも劣化しているのか少し茶色い色をしている。
そしてどれも共通して何も書いてはいなかった。

「お金、なるんじゃあないですかね」

「この本はここが本を仕入れているところからいただいたものですけど」

「心霊現象が起きたりしてみんな突き返してしまうのですって」

「その時、決まって本に文字が浮かび上がる、らしいです」

「普段はなにも起こさない普通の本なんですけれどね」

「仕入先の方はそれがどういうものなのか知りたいらしいですけど、あいにく私が持っていても何も起きないものですから」

「興味がある方にでもお渡ししようかと」

251 薬師丸 幸『レディ・リン』 :2017/02/18(土) 01:13:45
>>250

「それ、つまりノート……
 とは違うのよね、やっぱ」

     ジ

     「何冊もあるんだ」

赤い目を細めて、本を見る。
変哲もない・・・ように見えるけれど。

「解明すれば謝礼も出る……
 ってとこかな、悪くはないけど」

「今持って帰るのは嫌ね。
 一人暮らしでもないし……
 心霊現象ってのはちょっとね」

興味は多少ある、とはいえ。
それ自体が金になるわけでもなく、
今のところ誰の手にも負えない代物。

持って帰るには、リスクが大きい。

「どうせそうそう捌けないでしょうし、
 気が向いたら調べてみてもいいよ」

     「でも今日は漫画で十分」

白紙の本。

ひとつのめぐり合いかもしれないが、
今日の所は『日常』を大事にしたいと思った。

252 小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』 :2017/02/18(土) 01:29:25
>>251

「私も驚きましたけど」

本を手に取りぱらぱらとめくってみる。
勿論というべきか、何も書いていないが。

「そうですか、それもそうです」

「生活のある人間がそう簡単に手を出していいものでもないのかもしれませんね」

「えぇ漫画だけでもこちらとしては嬉しいものですもの」

「日常にこれは不要、かもしれないですね」

また薄く笑う。
本をまた机の中にしまい込む小鍛治。

「またのお越しをお待ちしております。それと、もしもまた興味が湧いたりすればお話しください」

「この本はずっと、待っていますから。誰かを」

ね、と優しくいって首を傾げて見せた。

253 薬師丸 幸『レディ・リン』 :2017/02/18(土) 01:40:08
>>252

「悪いね、今すぐ入用でもなくて」

富に満ちた生活でもないが、
特別困窮しているわけでもない。

・・・少なくとも今は。

「どうしても手が欲しいなら、
 呼んでくれたら手伝えるかもね」

「心霊現象が悪化したとかさ」

     スッ

懐から名刺を出して、
カウンターの上に滑らせた。

手書きの名刺に、兎の絵。

「メアドだけ教えとく」

        「んじゃ、また」

これが最後の来店ではない。
もっとも、次にどんな用で来るかは分からないが。

254 小石川文子『スーサイド・ライフ』 :2017/03/05(日) 01:02:38

洋装の喪服と黒い帽子を身に纏い、雑踏の中を一人歩く。
家族、友人、恋人。
様々な繋がりを持つ人々が通りを歩いている。
その中に見知った顔はない。
それでも、こうして人の多い場所にいると、ほんの少し寂しさが薄れるような気がした。

しばらく町を歩いた後、休憩するために一軒の喫茶店に入った。
静かで落ち着いた雰囲気の店。
店内に流れる優しい響きのピアノ曲が耳に心地いい。

しばらく窓の外を見つめていると、注文した品物が運ばれてきた。
ラベンダーを使ったハーブティーとラベンダー入りシフォンケーキのセット。
お茶を一口飲むと、芳しい香りが心を落ち着けてくれる。

カップを置き、店内を軽く見渡した。
日曜日の昼過ぎということもあって繁盛しているようだ。
新しく入店する人がいたなら、もしかしたら相席になるかもしれない。

255 ?????『??ー?・??ー?ー』 :2017/03/05(日) 23:07:07
>>254
 イラッシャ……!? イラッシャイマ…セ…? 
 「一人です」
モウシワケアリマセン、タダイマ、マンセキデ……
 「相席でも構いませんよ俺は」


ベルの鳴る音の後、店員と客のやりとりが聞こえる。
かと思えば、小石川文子のくつろぐその席の傍らに誰かが来たようだった。

    ミシ……

 「すみません」
 「ここのお席、座ってもよろしいでしょうか」

よく響く男の声である。

256 小石川文子『スーサイド・ライフ』 :2017/03/05(日) 23:59:14
>>255

店内から目を離し、ケーキの一欠片を口に運ぶ。
柔らかい甘さが口の中に広がっていく。
その直後、傍らから響いてきた男性の声。
それを聞いて我に返り、フォークを置いた。
紙ナプキンで口元を軽く拭う。

  「はい、どうぞ――」

そう言って顔を上げる。
目の前にいるであろう男性の姿が視界に入る。
それは、どんな人なのだろう。

257 ?????『??ー?・??ー?ー』 :2017/03/06(月) 00:23:11
>>256
小石川文子が顔を向けた先、どんな人間がいたのか。
―――――――姿は『異様』の一言に尽きた。

 椅子に座ろうとしているのは、珍妙な服装をした、大きめの体躯の男であった。
珍妙というのは、それが、黒いワンピースと白いフリル付きエプロン
……所謂『メイド服』、本来女性のための洋服を身に付けているためである。

 メイド服そのものは、決してコスプレ用の安い生地(サテン、とかか)でなく、
よく見れば丁寧な仕立てが施されたものであるのが分かるだろう。
一見すれば『ある種の喫茶店』の店員が着ていそうな物であるが、
それを着るのは、大きめの体躯の男なのである。


 「お邪魔してすみません」

片目に付けた眼帯(レース製だった)が、
ますます男の『異様』さを加速させていた…

 
「ああ、俺の事は気にせず、ゆっくりしていて下さい」

258 小石川文子『スーサイド・ライフ』 :2017/03/06(月) 01:12:46
>>257

一瞬――視線が固定されたように空中で止まる。
物珍しさから来る新鮮な驚き。
それが素直な感想だった。

  「――いえ、お構いなく……」

けれど、その驚きは一時のことだった。
なぜなら、自分も同じだから。
夫と死別して以来、外に出る時はいつも喪服を身に着けている。

大袈裟かもしれないが、それは自分にとっての信条のようなもの。
きっと目の前に座る彼にも、そういった理由があるのだろうと思えた。
だから、一風変わった彼の服装も何となく納得することができた。

  「とても繁盛しているみたいですから」

少し周りを見て、再び男性に視線を移す。
町へ出てきたのは、一人で過ごす寂しさを紛らわすため。
同席する相手がいてくれるのは、自分にとっては有り難いことだった。

  「素敵な洋服ですね」

けれど、驚かないことと好奇心の有無とは別の話。
彼の服装に関しての興味はある。
だから、それとなく尋ねてみることにした。

259 ?????『??ー?・??ー?ー』 :2017/03/06(月) 02:06:23
>>258
小石川が服について言及してみると、

「…!」
「ありがとうございます!」

どうやら喜んでいるようだった。
メイド服は嫌々着ているわけでは無いのだろう。

「これ、自分で作ったんですよ デザイン、型紙、縫製まで」
「裁縫が得意でして、俺!!」
「…」

そう笑いながら、男は小石川の着衣に目をやると、すぐさま固い表情になる。
どうやら『素敵な服』と言う訳にもいかないのか、言葉に詰まっている。

「……すみません、『奥様』…」
「俺としたことが、その……不躾な………」

「…店員さんすみません…この人とおんなじ物を」

260 小石川文子『スーサイド・ライフ』 :2017/03/06(月) 03:07:27
>>259

左手の薬指に光る銀色の結婚指輪。
そっと伸びた右手の指先が、それに触れる。
全く同じデザインの指輪が右手にもある。
それらは、肌身離さず実に付けているもの。
自分にとって、命の次に大切なかけがえのないものだった。

  「……いえ、いいんです」

奥様――そのような呼ばれ方をするのは久しぶりだった。
あの新婚旅行中の事故がなければ、今でもそう呼ばれていたと思う。
ふと、幸せだった頃の記憶が脳裏をよぎった。

  「気を遣って下さって、ありがとうございます」

そう言って、静かに微笑む。
どこか陰を含んだ憂いのある微笑み。
明るく朗らかな笑いとは言えない表情。
こうなったのは、一人だけ取り残された時からだった。
その時から、たとえ意識していなくても、自然とこんな笑い方になってしまう。

  「とても器用なんですね――」

  「それを生かしたお仕事をしてらっしゃるんですか?」

手元のハーブティーを一口飲んでから、男性に問い掛ける。
最初は確かに驚きもあった。
でも、こうして言葉を交わしてみて改めて分かる。
彼は、とても優しい人。
それが名も知らない彼に対して抱いた印象だった。

261 ?????『??ー?・??ー?ー』 :2017/03/06(月) 18:40:18
>>260
「…あ、『メイド』です、見ての通り」
「家政婦ともハウスキーパーとも呼ばれます
 …家事のお手伝いを、あちこちの『家庭』でするんです」

午後の日差しに照り返す、小石川の手元のそれが見えたのだろうか。
大きな肩を縮こめ、男はそう話す。

   オマタセシマシター

  「ありがとございます」
   「わあカワイイ」
    「……すみません、ちょっと写真撮ってもいいですか」

ケーキとハーブティーが運ばれてきた。
男は携帯電話(ビーズやら何やらでデコられ女々しい) を取り出している

262 小石川文子『スーサイド・ライフ』 :2017/03/06(月) 22:57:57
>>261

写真を撮る彼を黙って見守る。
無邪気な姿に微笑ましいものを感じた。
彼は優しいだけじゃなく、とても楽しい人。
きっと、彼は周りを明るくする力を持っているんだろう。
心の中で、そう思った。

  「――ラベンダーが入っているんですよ」

  「私は、この香りが好きなんです。
   気持ちが落ち着きますから……」

  「家の庭でも育てているんです」

今日も、ドライフラワーの瓶詰めを作っていた。
もしかすると、同じ匂いがするかもしれない。
運ばれてきたケーキとハーブティーと同じラベンダーの香りが。

  「今日はお休みですか?」

  「家事のお手伝い――いつか……私もお願いするかもしれませんね」

そう言って、また微笑む。

263 ?????『??ー?・??ー?ー』 :2017/03/06(月) 23:44:13
>>262
「ええ、その時はお願いします」
「ぜひ拝見したいものです、奥様のお宅のお庭……」


男はティーカップを傾け鼻を寄せる。
広い胸筋が膨らんだ。

「これは!」
「撮影は野暮ですね俺… …香りは写真に残せません」

         パクッ モグ
 

 「そういえばニオイって妙に脳とか記憶を刺激しません?
  昔から持ってたヌイグルミの香りとか、
  嗅ぐ度に胸がギュ―ゥ―――――――ッ!!として」
 
 「昔思い出して泣いちゃいますよ俺」   
 
           モグモグ
 

写真を撮るのはどうやら諦めたようだ。
男はケーキをつつきながら他愛もないような話を振る…

264 小石川文子『スーサイド・ライフ』 :2017/03/07(火) 00:24:19
>>263

  「私も、昔ぬいぐるみを持っていました
   いつも持ち歩いていて――。
   そのせいで、よく汚してしまいましたけど……」

懐かしい記憶が頭に浮かぶ。
白いウサギのぬいぐるみ。
確か名前もあったと思う。

あちこち連れ回していたから、よく目が外れたり耳が取れたりした。
その度に、母が縫ってくれていた。
今は、どこにあっただろうか。

  「そのぬいぐるみには、どんな思い出があるんですか?」

この店に入ったのは単なる偶然。
彼が入店したことも同じだろう。
けれど、その偶然の重なりは自分にとって幸運なことだったと思う。

なぜなら、こうして得がたい時間を過ごすことができたのだから。
彼の動作や言葉の一つ一つに興味を引かれる。
ケーキを食べることも忘れて、彼の話に耳を傾ける。

265 ?????『??ー?・??ー?ー』 :2017/03/07(火) 01:10:39
>>264
      カチャ

「――――――――ええと」

  「何でもない話ですよ」
  「このくらいの(手振りで大きさを示す)、妹にあげた誕生日プレゼントです」
  「思えばそれの修理が、
   今の俺の『裁縫趣味』の始まりでしたよ!! …まあそんなもんですね!」


妹とやらに渡した人形。
なぜ自らの所持品でない人形を、男は『嗅げる』のだろうか。
そもそも『何でもない話』と表すような記憶で、果たして人は涙するのか。

フォークを皿に置くとき、男の顔は光の加減で見えずに、
柔らかいケーキを噛むその歯が、大袈裟に喰い縛られるのが見えるだけであった。


 何やら事情ありげな人形への思い出、それに起因する『裁縫趣味』。
 彼が普通でない服を着るのにも、なにか理由があるのだろう
 ――――おそらく小石川文子と同じ類の…

266 小石川文子『スーサイド・ライフ』 :2017/03/07(火) 01:58:21
>>265

何気なく投げかけた質問。
それに対する彼の返答も、一見すると何気ないもののように思えた。
けれど――。

  「あ……」

心が、『それ』を感じ取った。
彼の言葉の奥に秘められた『何か』を。
自分の中にも『それ』と近いものがあるから。
だからこそ分かる。
だからこそ、伝わってくるのが感じられる。

  「――そう……ですか……」

私は、彼のことを何も知らない。
詳しい素性も経歴も名前さえ知らない。
けれど、きっと彼も自分と同じような出来事を経験したのだろうと直感した。

今この瞬間、理屈ではないシンパシーのような感覚を覚えていた。
目の前に座る彼が、ついさっき会ったばかりの見知らぬ人間とは思えなかった。
こうして偶然に相席になったことも、ある意味では運命だったのかもしれない。

  「……使って下さい」

おもむろにバッグを開き、取り出したハンカチを差し出す。
頭で考えるよりも先に身体が自然に動いていた。
そうしないでは、いられなかったから。
決して上辺だけの哀れみなどではなく、同じような境遇を経た者に対する真心。
その偽りのない想いが、この身体を動かしていた――。

267 ?????『??ー?・??ー?ー』 :2017/03/07(火) 18:05:45
>>266
「すみません」

 「親しんだひとがいなくなってしまう『苦しみ』を」
 「時間が治療してくれるとは言いますが…」


小石川のハンカチを手に取り、目のあたりを拭う男。

「流したぶん水分もとらなきゃですよ」
と、茶を啜った。


 「………はい、人形は『形見』なんですよ」

 「『苦しみ』に『立ち向かおう』と、結果、針仕事とか家事とかを始めた、
  というのが俺の正直なところです」


はにかみながら、彼はそう語る。
『苦しみ』の古傷は癒え切ることはなかったのだろう…
しかし、気丈に振る舞うその姿は演技には見えず……彼は確かに『立ち向かっている』

  「奥様は、奥様自身のことを、しっかり見てあげてください」
  「自棄にならずに…何をケアすればいいのか…」

  「それで、もし助けが必要であれば俺がお助けします」
 「―――『メイド』ですからね俺は!!!!」

268 小石川文子『スーサイド・ライフ』 :2017/03/08(水) 00:03:51
>>267

彼の言葉、そして彼の姿に光を感じる。
そこにあるのは過去の痛みに立ち向かう力強い意思。
その力が彼を支え、動かしているのだろうと思えた。

  「……軽々しく言うことではないことは分かっています。
  でも――『お気持ちは分かります』」

やはり彼は自分と同じなのだ。
形や、目に見える部分は違うかもしれない。
それでも、根本にあるものは同じ。

  「私も夫と死に別れました……。
  この心を捧げた彼が死んだ時、私も後を追うつもりでいました」

  「けれど――彼は最期に言いました。
  『自分の分も生きて欲しい』……と」

静かに口を開き、ぽつりぽつりと自身の過去を語り始める。
普通なら、出会ったばかりの相手に話すような内容ではない。
けれど、彼が自らの背負うものを話してくれたことに後押しされた。

  「だから、私は生きる道を選びました。
  彼との約束を守るために……」

  「でも……彼に会いたいという気持ちは消えなくて……。
  時々、それが抑えられなくなるんです」

そこまで言うと、軽く目を伏せる。
視線の先には膝の上に乗ったバッグがある。
バッグの口は開いている。
そして、その中には1本の果物ナイフが入っている。
自分にとっての鎮静剤であり、なくてはならないもの。

  「そんな時は――少し自分の身体を傷付けるんです。
  そうすれば溢れてしまいそうな思いを抑えられるから……」

良くないことなのは承知している。
それでも、これをやめるつもりはない。
これが自分の生き方。
自分自身で決めた進むべき道だから。
だからこそ――。

  「私は――これからも、この世界で生きていくつもりです」

顔を上げ、力強い口調で自分の意思を表明する
悲しみは消え去ることはなくとも、そこに迷いは感じられない。
それは彼と同様に、紛れもなく『立ち向かう』者の姿だった。

心の中にある死の衝動が完全に消えることはない。
けれど、愛する者が残してくれた意思が、この身体を支えてくれている。
それがある限り、生きようとする意志もまた消えることは決してない。

  「――ありがとうございます」

そう言って、柔らかく微笑む。
心なしか表情を包む陰も和らいだように見える。

  「変な言い方かもしれませんけど……ここであなたにお会いできて良かった……。
  心から、そう思います。
  
  「それに――お恥ずかしいですけど、一人でお茶を飲んでいるのは寂しかったんです」

  「あの――ええと……」

名前を呼ぼうとして言葉に詰る。
そういえば、まだ聞いていなかった。

  「私は小石川といいます……。あなたは……?」

269 常原ヤマト『ドリーム・ウィーバー』 :2017/03/08(水) 00:39:14
>>268
男は少しばかり驚いた顔をした。彼には、
"今喪服を着ているのなら『その出来事』は最近のことであろう"
という思い込みがあり、
だが眼前の女性の語り口には、近くない昔への郷愁を感じ取れたからだ。


 「それは……」
  「……いえ、俺もそれを肯定しましょう」

  (立ち向かい方は、人の数だけ在り方がありますから―――)

メイド男は『ナイフ』を咎めなかった。
一瞬目を細めたが、事実それは実際拒絶の意思の表れでなく、
小石川への在り方が彼にとっても『眩しい』ものであったからだ。


「おっと、すみません」
「これ俺の名刺ですよ!!よろしくお願いします!!!!!」
「ハンカチもお返ししますね俺!!!!!」


┌―――――――――――――――――――┐
 ☆・゚:*:゚ヽ           *:・'゚☆  
       常原 ヤマト 

       家政婦やります
 
   電話番号 XXX-XXXX-XXXX
  E-mail *******************.com
 
└―――――――――――――――――――┘

270 常原ヤマト『ドリーム・ウィーバー』 :2017/03/08(水) 00:41:14
>>269 メル欄追伸

271 小石川文子『スーサイド・ライフ』 :2017/03/08(水) 01:22:19
>>269

彼の驚いた顔が見える。
それは、自分が始めて彼――常原ヤマトの姿を目にした時と似たものだったのかもしれない。
確かに喪服というのは、喪に服す期間が過ぎれば脱ぐもの。

けれど、自分は今でも脱いでいない。
夫との死別は、過去であると同時に過去のことではない。
自分にとっては、いつまでも昨日のことのように残り続ける記憶だから。

  「常原さん――ですね」

名刺を受け取り、そこに記された文面を黙読する。
いつか依頼することもあるかもしれない。
その時のために大事にしまっておく。

  「よろしければ……もっとお話させていただきたいです」

  「たとえば――得意な『お料理』の話など……」

  「本職の家政婦さんの腕前を、私も参考にしたいので」

そう言って、くすりと笑う。
心の中で、この新しい出会いに感謝しながら。
ある晴れた日の午後のことだった――。

272 常原ヤマト『ドリーム・ウィーバー』 :2017/03/08(水) 02:15:50
>>271
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

――嗚呼、俺は彼女に嘘を吐いたのだ。


花柄のステッチのついたそれに、染みがつくことはなかった。
ラベンダーの香りのつくハンカチで、俺がほんとうに押さえたのは、『眼帯』だった。

右目は涙を流さなかった。
失った左目が痛みに疼いた。

俺が過去を思い出した時、去来したもの、

 あれは人形を破壊された怒りだった
 あれはかの憎き殺人者への怒りだった
 あれは俺の目を抉り取られた怒りだった
 あれは妹と弟と父と母を失った怒りだった
 あれは仇を取れなかった自分への怒りだった
 あれは家族を救えなかった自分への怒りだった……


メイド察知眼は伊達ではない。小石川、あの喪服の女性が、
自分を『優しい人間』だと感じたであろう事は分かっている。

 しかし、常原の中には、冷たい怒りを燃やす、また別の常原がいる。
俺はその恥ずべき自分を………塞いだ。炎が漏れ出ぬよう、新たな自分で縫い塞いだ。
メイドの服装で。レースの眼帯で。

小石川は、自らの身を傷つけながら、昏き自分と向き合っている…
俺は、果たして、本当に『立ち向かう』事が出来ているのだろうか……

       ラベンダー
はたして彼女の薫衣草の庭園に、俺は、招かれる資格があるのだろうか………
 
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

273 小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』 :2017/03/31(金) 23:37:13
雨が降っている。
ある日の昼過ぎ。空は重たい灰色。体を冷やす雨が降る。
しかし少女は傘を差さない。
ただじっと濡れながら空を見上げている。

274 小角 宝梦『イル・ソン・パティ』 :2017/04/01(土) 00:26:11
>>273

 ザ

    「わっ」
            ァ
                ァ

「おい、そこのきみっ!」
 
           ァ

        「あぶないぞっ!!」

高い声――少女の声が雨音に混ざって聞こえた。
もしそちらを見るなら、走ってくる自転車が見える。

        〜♪

だが、声の主は自転車の運転手じゃあない。
イヤホンを差した、陽気そうな装いの老婆。
どうみても、彼女の声ではないだろう。奥だ。

           ビチャ

    ビチャ

視界の奥で、自転車が水溜まりを通る『弊害』を、
まともに受けたらしい銀髪の少女が声を上げている。

           ・・・つまり、避けないと同じ目に合う。

275 小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』 :2017/04/01(土) 00:38:13
>>274

ゆらりと声の方を見た。
雨に濡れた髪がずっしりと重く感じさせる。
小角に向かって小鍛治はニコリと微笑む。
真っ白な肌。真黒な髪。黒い瞳。
しかし特に避ける様子もなく。

バシャッ

自転車の跳ねた水を喰らう。
スカートがずぶぬれだ。
元から雨に濡れていたので変わらないともいえる。

「……」

なにか口をぱくぱくと開いた後に近づいてくる。

276 小角 宝梦『イル・ソン・パティ』 :2017/04/01(土) 01:07:52
>>275

「あっ」

    ジャァァーーッ


自転車はそのまま走り去る。
小角はぼう然として、その様子を見る。

「……」

「び、びしょびしょじゃないか」

ようやくそれだけ言った。
小角自身は、大きな傘を差していた。

「いや、わたしもびしょびしょだが」

            「……」

    「な、なんだい」

近づいてくる少女を見て、
たじろいだ様子で後ろに下がった。

「な……何を。言いたそうに、 
 しているのかね……き、きみはっ」

       ジリ
                ジリ

しかし周りの水たまりに気を取られ、
下がる速度はお世辞にも速くはなかった。

277 小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』 :2017/04/01(土) 01:31:51
>>276

相変わらず小鍛治は笑っている。
顔に張り付いているのは髪の毛だけではない、その表情もだ。

「ありがとう、と言っているのよ」

水溜りを気にせず小鍛治は歩いてく。

「親切ね。あなた」

278 小角 宝梦『イル・ソン・パティ』 :2017/04/01(土) 01:58:15
>>277

張り付いたような表情――
という言葉は小角も知っている。
こういうのがそうなのか、と思った。

       ブル
 
少し震えたのは、寒いからだけじゃない。

「あ、うむ、いや……おほん」

咳払いをして、心を整えて。

「お、お礼を言われるほどではないさ。
 危なかったから、思わず声が出ただけだ」

小角はすましたような顔で言うが、
これはほとんど事実で、思わずだった。

「しかし……どうしてこんな雨の中……
 きみは、濡れてしまっても平気なのかね?」

         「まだ寒いぞ、3月とはいえ」

もっとも、親切と言われて悪い気なんかしない。
見栄っ張りな小角は、よけいな親切も焼こうとそういった。

279 小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』 :2017/04/02(日) 22:38:23
>>278

ぐっと顔に張り付いた重い髪をかき上げた。
雨が手を伝う。

「思わず、そう。それもいいわね。立派よ」

「平気よ。寒いのは寒いけれど。濡れるのは好きよ」

血の気のひいたような顔。
白い顔だがそれに拍車をかけているのは寒さなのかもしれない。

280 小角 宝梦『イル・ソン・パティ』 :2017/04/02(日) 23:30:11
>>279

「そんなに褒めても何も出ないぞ、きみ」

       「……ふふ」

……薄い笑みが浮かんだが、
何事もなかったかのように戻した。

「平気ならいいのだが、ううむ」

      「……っくしゅ!」

         ブル…

一年を四つに分けるなら、春と言える季節。
しかし小角はまだ厚着で、それでも寒いと思った。

     「……」

「……わ、わたしは寒いと思っているよ。
 見たまえ、コートもびしゃびしゃだ。うう……」

     「暖かいココアが飲みたい気分だ」

などと、情けない声で愚痴をこぼす小角。
しかし雲も冷たい風も、小角に情けをかけてくれやしないのだ・・・

281 小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』 :2017/04/02(日) 23:52:37
>>280

「あら、あなたの方が大変そうね」

くすくすと笑う小鍛治。
コートは着ていない。
黒いカーディガンと黒いスカート。そして白いシャツだ。

「じゃあ、ご馳走しようかしら?」

「まぁ必要ならだけど」

282 小角 宝梦『イル・ソン・パティ』 :2017/04/03(月) 00:04:35
>>281

「い、いや……ごちそうになる気はないぞ。
 わたしだってお小遣いは持ってるんだよきみ」

          ブン

小さく頭を振って否定する。

(……悪い人には見えないとはいえ。
 人は見かけによらないともいうからな)

       (知り合いでもないのだし……)

よく知りもしない人におごってもらう――
というのは、どうにも落ち着かない感じがするからだ。

「だが、うむ、立ち話は……っ
 あんまり続けたくは、ないね……」

            ブルル

「ど、どうだい。話すならそこのお店ででも……?」

べつに話す理由があるわけでもないのだが、
ムードに流されたのだ……指さす先はドーナツ屋チェーン。

283 小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』 :2017/04/03(月) 00:36:25
>>282

「そう。別に私はなんだっていいのだけれど」

そっ気のない返事。
機嫌を損ねたとかではなくこれが平時のものなのだろう。

「別に私は構わないわ」

「むしろ、あなたの方がいいのかしら?」

「濡れ鼠が知り合いと思われるわけだけど?」

284 小角 宝梦『イル・ソン・パティ』 :2017/04/03(月) 00:53:49
>>283

「わたしの推理だけど・・・
 こんな日にお店に入る人は、
 みんな濡れねずみに違いない」

      「……わたしもふくめて」

確かに、駐車場もない大通り沿いの店だ……
雨の日に来るのは、雨宿りくらいかもしれない。

それにしてもこの小角は、『推理』と言ったが、
なるほどコートも帽子もどこか探偵じみていた。
 
             パチャ

      パチャ

「では入ろうじゃあないか」

ドアの取っ手に手を掛けて、
小角は小鍛冶の方を振り向いた。

「ふふん、1人でティータイムもいいが、
 雨宿りだしね。話し相手がいるのも悪くはない」

などと言いつつ……あたたかい店内へと、
一足先に入って行くのだった。あまり混んではいない。

         ・・・その気なら、雨が止むまでいられるだろう。

285 小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』 :2017/04/03(月) 01:15:25
>>284

「なら私はその中でもいっとう濡れ鼠」

なにせ傘を差していない。
小角の格好に目を細めて薄く笑った。

「えぇ、お話ししましょう」

「あなたはどんな話をするのかしら」

小鍛治も店内に足を踏み入れる。
ぽたぽたと水滴を落としながら、歩いていった。

286 小鍛治 明『ショットガン・レボルーション』 :2017/05/26(金) 23:35:22
ある日のことである。露店をする者がいた。
折り畳みの椅子に座り、敷いたシートの上に箱を広げている。
箱の中には指輪が入っていた。
安っぽい見た目の者も多い。

「指輪ないかー指輪ないですかー」

浅黒い肌。右側頭部の髪を編み込み、また髪の色々な部分が赤やら青やら色々な色をつけられている。
特に目を引くのは露出した肌に刻まれているタトゥーである。
彼女が指輪を売っているらしい。

287 レオナ『ホームランド』 :2017/05/26(金) 23:51:26
>>286

288 レオナ『ホームランド』 :2017/06/04(日) 23:57:31
>>287

「来ないねー誰もこないねー」

289 夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』 :2017/06/21(水) 22:49:55

テク テク テク ……

日差しも穏やかになった夕刻の通りを一人歩く少女がいた。
清月学園の制服を着て、胸元にはサングラスが引っ掛けてある。
ストラップで首から提げたカメラが、歩く度に軽く揺れている。

       キョロ キョロ

……しきりに周囲を見回している。
『初めて来日した外国人観光客』ばりだ。
そして、ある一点で視線が止まった。

「あっ――」

   タタタ……

早足で歩いていき、『それ』の前でピタリと立ち止まる。
目を見開いて、しばし『それ』を見つめる。
『それ』の存在は知っていたし、使ったこともあったが、『見た』ことはなかった。

「『自動販売機』――初めて見た……」

     パシャッ

カメラを構え、正面から『自販機』を撮影する。

     パシャッ

横に回り込んで、更にもう一枚。

続いて後ろに回り込もうとしたが、あいにく幅が狭い。
しかし、それでも後ろ側が見たいので、なんとか身体を捻じ込もうと四苦八苦している。
客観的に見るとかなり怪しいが――今のところ人に見られていないのは幸いだった。

290 太田垣良『ザ・サードマン』 :2017/06/23(金) 22:28:18
>>289
「自動販売機に――ッ!!」
「ああ…あんなスキ間に!ほんの4センチ×20センチ(適当)の細いスキ間に自分の肉体を………」

   残念ながらばっちり見ている奴がいた。

「あんな隙だらけで」
「…………せっかくだし後ろからビックリさせちゃうッスよ」
「ついでにパンツ見てやるッス 無防備なのがいけネーと思うッスよ」

自販機にサンタナ(動詞)かまそうとしてる女子生徒に、後ろから接近する。
靴を脱ぎ、靴下で歩き足音は殺す。ヒタヒタ。
よほど『耳のいい』やつじゃない限り気づかれんだろう。
接近して、
     「わァっ!!!」
               ってする。したい。できるか?

291 夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』 :2017/06/23(金) 23:19:45
>>290

「き……キツイッ……」

「だ、だけど――もう……ちょい……!」

依然として、半ば無謀な試みを続けている女子生徒。
第三者から見ると、その姿は全くの無防備状態。
背後から忍び寄る足音に気付いた様子もない――ように思われた。

――しかし

ピク……

普通なら到底聞き取れないような、本当に僅かな物音。
しかし、生まれてからもっぱら聴覚に頼る生活をしてきた身。
そうした経験が、ほんの僅かな物音さえも、敏感に聞き取ることを可能にした。

――そして

(……はっはーん)

ニヤリと笑い、背後から近付く何者かに対し、『あえて気付かないフリ』をする。
そして、ギリギリまで引き付けてから、不意に振り返ってデカい声を出してみる。
具体的に言うと、「わァっ!!!」って感じで。

ついでに、見事に成功したあかつきには、その驚いた顔を激写してやる。
どっちが驚いてどっちが驚かされるか。
気分は荒野の決闘場に立つガンマンだ。

――果たして、結果は?

292 太田垣良『ザ・サードマン』 :2017/06/24(土) 00:10:02
>>291
「(へっへっへっ…悟られてないッスね……)」
「(そろりそろり……そろそろ……もうそろそろ…いい距離ッス)」

このイタズラ少年は気付かない。『気付かれた』事に『気付かない』。

「わ
       >「わあっ!!!」

   ああああああああああああああ!
     ああああああ石踏んだァっ痛あああああう!?」

          レンズ
振り返った夢見ヶ崎の銃口の先には、

眉を顰め、目を瞑り、歯が見えるまで口を大きく開け、声を上げる人間がいた。
その声は変声期を過ぎた、おそらくは夢見ヶ崎と同じくらいの年頃の、男性のものである。
ちなみに二つの違う『色』で染色されたシャツを着ている。

(本来は『縞模様のシャツを着た、苦悶の表情で声を上げる少年』、と表現される。
 君は『縞模様』を知っているだろうか?苦悶の表情を目にした事は?
 放課後に帰路を行く少年たちは、既に見ているだろうか?)

…とりあえず、決闘は君の勝ちだ。写真でも何でも撮ってしまえ。

293 夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』 :2017/06/24(土) 00:46:18
>>292

   バシャ バシャ バシャ バシャ

とりあえず撮った。
勝てたみたいなので、なんとなく満足した。
ありがとう、と天に感謝したくなった。

   じいっ……

カメラを下ろし、決闘場(自販機前)で悶える少年を見つめる。
彼が自分と同じ年頃の男性、つまり少年であることは分かった。
だが、『縞模様』は見たことがなかった。
『苦悶の表情』も同じく目にした経験はない。

「――へぇー……ほぉー……あぁー……」

なので――じっと見つめた。
まるで社会見学に来た幼稚園児のように、興味津々といった表情で。
本人に悪気はない。
だからこそタチが悪いと言えなくもない――かもしれない。

  ピッ ガシャンッ

二人の後ろで、一人のサラリーマンが自販機でジュースを買ったようだ。
怪訝な表情で立ち去っていく。
なんとも言えない空気が漂っている、気がした。

「あ」

「えっと――」

「ダイジョーブ?」

しばらくして、思い出したかのように少年に声を掛けた。
遠くの方でカラスが鳴いている。

294 太田垣良『ザ・サードマン』 :2017/06/24(土) 01:19:33
>>293

  カァー カァーッ 

「ふーッ ふーーッ だ、大丈夫ッス………」

とりあえず靴を履く。
なんかこうして心配されたことにより改めて完全敗北した気がする。
敗北も何も、悪戯を仕掛けたのも靴を脱いだのも自分なので、完璧に自業自得なのだが。

 「…………」 「……見世物じゃないッスよ」

写真を撮られまくって物珍し気に観察されて、

 「なんか俺に……虫でもついてるんスか?ん…?」
 体を見る。何もついていない。

295 夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』 :2017/06/24(土) 01:51:04
>>294

「ゴメン」

さすがに気まずくなって小さく頭を下げる。
『視線』というものの感覚に、まだ慣れてないことを実感した。
凝視したのが世間的に『ヤバイ相手』じゃなくてラッキーだったかもしれない。

「なんていうか、その――」

「『見たことがなかった』から、つい、ね……」

自販機に歩み寄ってお金を入れて、ボタンを押す。
出てきたのは緑茶だ。
350ml入りの一回り小さいペットボトル。
それをイタズラ少年、もとい太田垣少年に投げる。

「一杯おごるよ」

「お礼っていうかなんていうか……まあ、とにかくとっとけとっとけっ」

自分も同じものを購入し、太田垣少年の所に戻る。
そして、自販機横の植え込みの縁の所に座った。

   グビグビグビグビ

「くっはーッ!」

喉を鳴らしながら、豪快に一気飲みする。
中身は粉微塵になって消えた。
――ように見えて、実際は普通に全部飲んだだけである。

296 太田垣良『ザ・サードマン』 :2017/06/24(土) 02:21:21
>>295
「あ〜〜〜〜?」「見たことが無い」
「………フムン、何やら事情があるんスねェ」

あんま聞かん方がいいのかな。面倒な来歴を持ってそうだ。
そして施しも受けておく。真夏日で喉も渇いていた所。

  「サンキューサンキュー、頂くッス」

    ドボドボボドボドボ  プヘー


       「……ウーン」
 「空がオレンジ色になってきた」
 「湿気が強いと夕焼けがめっちゃ赤くなるんスよねェ」
        
 なんか話すことも浮かばないので天気の話題でも振っておく。

297 夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』 :2017/06/24(土) 02:47:00
>>296

「へー、そうなんだ」

無難な感じで相槌を打つ。
こっちも話題があるわけじゃなかったので助かった。
ふと無言になり、じっと夕日を見つめる。

「……夕日ってキレイだよね」

「湿気が強い時は、もっと赤くなるんだっけ?」

「今よりキレイになるんなら、それも見てみたいなぁ……」

初めて自分の目で夕日を見た時は衝撃的だった。
あまりの美しさに圧倒されてしまい、そのまま二時間くらい見続けていた。
今でも、つい見入ってしまうことがある。

「っていうかさ――」

「君、高校生だよね。学校どこ?何年生?」

「ちなみに私は清月の高一だけど」

唐突に話題を変えてきた。
周りからは、結構マイペースな性格だと言われている。
自分ではあまり分かっていないが。

298 太田垣良『ザ・サードマン』 :2017/06/24(土) 18:17:17
>>297
「…マイペースだなアンタ」
「………宇宙ステーションにでも住んでたんッスか」

自販機へ謎の行動かましたり、
たびたびの『見た事が無い口ぶり』。良いとこの生まれか?はたまた監禁でもされてたのか?
まあいきなりの話題転換は助かる。話すことが天気ぐらいしか無くて困ってたからね…。


「えーー…と…何だっけ……清月の1年………俺と同じじゃん!」
「スマンねェ〜〜他クラスの女子の顔とか正直覚えてなかッたス……」 
「俺部活にも入ってねーから他人との交流薄いッスし」

「あんたは部活動やってンの?」
「『写真部』とか?…もしや『自販機部』?」

カメラを覗き込みながら聞いてみる。これが趣味なのか?

299 夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』 :2017/06/24(土) 22:56:18
>>298

「いやぁ、見たことないのはトーゼンだと思うよ。私、少し前まで他の学校に通ってたし」

「あれよあれ、いわゆる転校生ってヤツ」

「――だから、これからよろしくッ」

かつて自分が通っていたのは特別支援学校。
視覚障害者のために設けられている学校。
清月の生徒になったのは、目が見えるようになった後だった。

「『自販機部』ゥゥゥ〜?誰が入んのよそれッ?そんなのあったら見てみたいよ!」

「部活は……そういえば私も入ってないなぁ……。転入してまだ日が浅いしさぁ」

「でも、『写真部』ってのは悪くないかも。なんかアーティスティックな感じがしてカッコイイし」

そこで、カメラを見る視線に気付く。

「あ、このカメラはお父さんの。借りてきちゃった」

「ファインダー越しに見ると、世界がまた違って見えるってウチのお父さんが言ってたから」

「ホントかどうか試してみようと思って、こっそり借りてきたの」

言うなれば、世界の見方のバリエーション。
その一つを試してみた、といったところだ。

「ん?んー……?」

不意に、手に持っている空のペットボトルを見つめて、なにやら考え込み始めた。
ラベルの一部分を凝視しているようだ。

「あのさ――これ、なんて読むんだっけ?」

  ズイッ

言いながら、またもいきなりペットボトルを突き出してきた。
ラベルには『京都産茶葉使用』と書かれている。

「ここ、ここなんだけど。ちょっとド忘れしちゃって。見覚えはあるんだけどなァ〜」

ある一部分を指差しながら、尋ねてくる。
そこには『京都』と書いてある。
まともな日本人なら『きょうと』と読むだろう。
しかし、日本語を勉強中の外国人ならまだしも、この少女は誰が見ても日本人。
いくらド忘れしたとしても、『京都』という漢字の読み方を忘れることがあるだろうか……?

300 太田垣良『ザ・サードマン』 :2017/06/25(日) 00:26:24
>>299
  キョウトサンチャバシヨウ
「『京都産茶葉使用』ッスよ」
「宇宙人かオメ―」


ほんとに宇宙ステーションかなんかに居たのかこの女…もしくは宇宙人。

「……『成績悪すぎて』転校してきたッスか?」
「忠告しとくがこっちでも成績それなりの方がいいッスよ
 でなきゃ清月の大学に『エスカレーター』できねッスし」
「成績…まあ俺も人の事言えた義理じゃないッスけど」

ウヒヒヒヒ、と笑う。

 「俺は『太田垣』ッス。理系科目は赤点スレスレ!あと古文も苦手!」
 「……あんたとは成績悪い仲間ッスね!!ようこそ補習組へ!!」

とりあえずネタっぽく仲間認定。
成績がいいヤツならここで笑いながら否定してくるだろう。
悪いヤツなら補習仲間として手厚く歓迎。

301 夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』 :2017/06/25(日) 01:14:37
>>300

「あァァァ〜。『キョート』ね、『キョート』。今思い出した」

「シツレーな。どっから見ても地球生まれで地球育ちの地球人よ」

全盲だった自分にとって、使ってきた文字というのは『点字』だった。
文字を読むようになったのは視力を得てからなので、まだ慣れていない。
今は平仮名とカタカナは読めるようになった。
……が、漢字となると小学生レベルのものすら読めないことも多い。
現に、さっきのラベルの漢字も半分以上は読めてなかったりする。

「まぁ、成績が良い方じゃないのは否定しないけどさ……」

「っていうか、マジで?」

「『エスカレーターは乗ってりゃいいから楽だわァ〜』とか思って、余裕かましてたのに」

前途を思い、クラッと軽くよろけた。
でも、目の前にいる少年も成績良くなくて笑ってられるんだから、まあ大丈夫かな、とも思った。

「私は『夢見ヶ崎』。成績は――まあ、勝手に想像してもらうとして……」

「とりあえずよろしくッ!!」

正確には補修組ではないが、片足を突っ込んでいる感はある。
言ってみれば予備軍といったところだ。
けど、友達が増えるのは嬉しいから歓迎されてみた。

「――あッ」

   「お腹空いた」

       「晩御飯食べたいから帰るね!」

           「バイバーイ!!」

               「また学校で〜!!」

いきなり立ち上がり、そんなことを言いながら手を振って帰っていく。

最後までマイペースを貫いて、宇宙ステーション出身?の女生徒は去っていったのだった。

302 名無しは星を見ていたい :2017/08/14(月) 22:49:27

「……」

夜の街の片隅の、裏通りの飲食店。

そのまた裏にあるごみバケツの隣で、『女』はゆっくりと目を開いた。

ザワ
ガヤ ウェーイ

「……」
「……」

耳に入る、少し遠くからの喧騒。
『女』は無言のまま、周囲に目線を走らせる。
しかし街灯の光があまり届かないこの場所では、
周囲どころか自分の姿すら不確かで


「……」

それと重なるかのように、
思考にも深い闇がかかっているような感覚を『女』は覚えた。

  ガヤ     ザワ

                  ワォーン

少し離れた所から音は耳に届くのに、どれこれもまるで遥か遠くにあるかのようで
『女』を少しも、動かす力にはなりえなかった。



「────……フゥッ!」


それらを振り払うように短く強く呼吸をして、空を見上げる。

綺麗な星空があった。

303 undefined :2017/08/14(月) 23:05:32
星の明かりが、『女』の姿を照らし出す。

   スーッ

『女』の身体は、女性にしては大きい。

──動かなくてはならない。

『女』は瞬時にそう思った。

──自分の役割を果たさなければならない。

             ニャオーン

遠くで、猫の鳴き声が聞こえた時、彼女の思考の闇は晴れた。
星明かりで照らされる赤みを帯びた長髪。


──猫を探して、依頼主に届けなければならない。

『動く方向』を見いだした女は、駆け出していった。

304 斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』 :2017/08/17(木) 02:46:29
「うーん……?」

黒いジャケットが夕日を照り返し
白のシャツには首元の赤い布切れが揺れている

「もう一回……試したほうが良いな。」

灰色のジーンズは精々スニーカーの引き立て役だろう
それも一昔前の奴では大分色あせていたが

「『ロスト・アイデンティティ』……!」

商店街の路地裏、自販機の影でスタンドを発動する
たちまちの内に斑鳩の全身に鎖が巻き付いた
だが目的はそれでは無い

(右腕を振ると同時に…右腕から伸びてる鎖の先端の『連結』を『解除』する!)

  キンッ

鎖の一欠けらが表街道に放り込まれ、微かな金属音を立てる
瞬間、雑踏の中で数人が視線を其方の方に向けたが 気にも留めずに歩きだす
その様子を斑鳩は路地裏から観察していく
ここで隠れながらスタンドを使うのもそれが理由だった。

(あの視線、反応……やっぱり、普通の人にも見えてるよな。)

「外したのは実体化しているのか。」

僕に変に隠す理由も無かったのもあるが慣れておく必要があった
もっとも、『右利き左利き』を『両利き』にする程度の感覚だったが。

(他の人にも見えている ……なら使いどころは考える必要が有るな。)

「それにしてもこの…『スタンド』初めて使った気はしないな」

才能っていう物はそういうものか、と自分で再確認する
先程の投てきも、狙ったところにほぼ寸分違わず着弾したのだ。

――これが補助しているのかな?
そう考え、『スタンド』を発動した自らの身体を見直してみる

『ロスト・アイデンティティ』は纏う型のスタンドだった
それは全身に幾重にも巻かれた鎖として表れている。

――前は見えるけれど、複雑だな。

『技巧に優れた鎧』なのか、それとも『枷』なのか?
斑鳩は『奇跡』を望んではいたが、それは彼にとって『身に纏う鎖と影』だ。
言葉にしたい事は山ほど有ったが、それは脳の中で渦を巻き
まさしく絡まった鎖のようになって喉から出てこない。

……そしてそんな事を延々と考えていたので、周囲にはまるで気を配っていなかった。

305 小石川文子『スーサイド・ライフ』 :2017/09/01(金) 01:01:31

洋装の喪服と黒いキャペリンハットの普段着で、人々の行き交う通りを歩く。
ここは、よく買い物に来る場所。

けれど、今日の目的は買い物じゃない。
ふと、一人きりで過ごすことに寂しさを感じた。
だから、人の大勢いる場所へ行きたくなったのだ。

  「――これをお願いします……」

一軒のオープンカフェに立ち寄り、テラス席の片隅に腰を下ろした。
そこから賑やかな通りを眺め、この町の息吹を感じ取る。
そうしていると、心の中にある寂しい気持ちが少しずつ和らいでいくような気がした。

しばらくして、テーブルの上に注文した品が置かれた。
ミントの葉とレモンの輪切りが添えられた、爽やかな香りのミントティー。

         カラン……

グラスの中で氷が軽い音を立てた。

306 <削除> :<削除>
<削除>

307 朝山『ザ・ハイヤー』 :2017/09/07(木) 19:33:47
>>305

  クルクルクル


      クルクル


           シュッ

                    タンッッ!

 「ほぉぉぉぉおおおお〜〜〜〜!! トォーーーーーッッス!!!」


   「悪の組織の首領! モーニングマウンテンただいま登場!」

308 朝山『ザ・ハイヤー』 :2017/09/07(木) 19:40:15
>>307続き  (失礼しました、途中送信です)

 赤を基調とした、熱血なジャンバーと短パンに。ホッケーマスクのようなものを被る
怪しい悪の首領は颯爽とオープンカフェの外で決めポーズを繰り出している。

 「我が名は悪の首領の組織モーニングマウンテン!!
さーさーっ! お日柄の良い日に集まってる皆さん!! 今度、悪の講演会を公園で行う
モーニングマウンテンが直にパンフレットを渡してるっスー!! 御菓子やジュース
星の味金平糖やインスタンドウナギ飯味ヌードルも、今なら半額で売ってるすー!!
 みんなジャンジャン来てほしーっス!!! 悪の首領モーニングマウンテンっス〜!!」


 ざわざわざわ……

 何処か聞き覚えのある声が、オープンカフェの近くの通りでピョンピョン跳ねるお面の人物から聞こえてくる。
色々動き回っているので、少し声掛けすれば気づく距離だ……。

309 小石川文子『スーサイド・ライフ』 :2017/09/07(木) 21:15:01
>>307-308

ザワ ザワ ザワ ……

  ――……?

物思いに耽っていた時、聞き覚えのある声が耳に届き、軽く視線を動かす。
それと同時に、明るい声と元気な動きが視界に入る。
顔は隠れていても、それが誰であるのかは、すぐに分かった。

  「朝山さん――」

だから、つい声を掛けてしまった。
もしかすると名前を呼ばない方がいいのでは、という所にまで考えが及ばなかった。
今、ちょうど物寂しい思いを感じていたところだったから。

  「――こんにちは」

軽く頭を下げて挨拶し、柔らかい微笑を投げかける。
人との出会いは、胸の中にある寂しさを埋めてくれる。
ここで思いがけず見知った人に出会えたことを、嬉しく思っていた。

310 朝山『ザ・ハイヤー』 :2017/09/07(木) 21:23:32
>>309

 >朝山さん――



「うん? どうしたっすか……   はっΣ!!!?」

 振り向き、気づく!! そうだモーニングマウンテン!!
君は悪の組織の首領であり、正体不明の謎の首領なのである!

 「いやいやいやいやっ!! そこのおねーさんっ!
私は朝山などと言う、とっても可愛いパワフルガールと同一人物ではないっス!!
 我が名は悪の組織の首領!! そう! モーニングマウンテンなんっス!!」

 シャキーンッッ!!!

すかさず決めポーズを繰り出すっス!! パワフルなポーズの衝撃は
きっと知り合いだと思ってる小石川おねーさんすらも騙せる筈なんっス!

 (しかし、不味いっス。これは、夕飯でピーマンの肉詰めが出た時ぐらい
不味い状況っス。小石川おねーさんは勘がするどそーな雰囲気をしてるっス。
このままじゃ私が悪の組織の首領である事が完全にバレてしまうっス!!)

 うーんっ!! 

頭をひねってモーニングマウンテンは考える!! そうだ、誤魔化すのだ
モーニングマウンテン! 今なら間に合うかも知れない!

 「あー、そうそう! おねーさん、このモーニングマウンテンに
話しかけてくれたのは良い機会っス!!
 よければ、悪の首領に何か質問をして見れば良いっス!
そ〜〜〜すれば!! この悪の首領が朝山と言う名前でない事がわかる筈っス!!」

 そうっス! ここは嘘をつきとおすっス!
この巧みなる悪の話術で、小石川おねーさんを騙しとおすっス!!

311 小石川文子『スーサイド・ライフ』 :2017/09/07(木) 21:59:21
>>310

  ――……。

彼女の慌て方を見て小首を傾げ、改めて考える。
名前を呼んでしまってはいけなかったのかもしれない。
そうだとすると、悪いことをしてしまったことになる。

  「そう――ごめんなさい」

  「知っている人に似ていたものだから、つい……」

彼女が知られたくないと思っているのなら、そのままにしておこう。
誰だって、一つ二つは隠しておきたいことはある。
私にも、それはあるのだから。

  「質問――そうね……」

  「じゃあ、少しお話しましょう」

  「――モーニングマウンテンさん」

ほんの少しだけ悪戯っぽくクスリと笑って、自分の隣の席の椅子を軽く引く。
せっかく会えたのだから、落ち着いて言葉を交わし合いたかった。
たとえ彼女がどんな姿でどんな名前を名乗っていたとしても、その気持ちは変わりない。

312 朝山『ザ・ハイヤー』 :2017/09/07(木) 22:33:44
>>311

>じゃあ、少しお話しましょう
> ――モーニングマウンテンさん

 「ふーーーっ!! うんっ!! お話をするっス!
楽しくお喋り!! 時が経つのを忘れ、私の正体が何者か気になる事すら
忘れるぐらいに駄弁りふけるっス!!」

 (ふーーーっ!! 第一段階成功っス!! 名付けて
たのしーお喋りで、朝山と呼ばれ振り向いた事を忘れる作戦!!!
 まず、最初に声を掛けられ振り向いたのが不味かったと思うっス!!!
ここは悪の妙技である、108式の話術で手玉にとるっス!!!!)

 「いやー、それにしても残暑が厳しいのなんの!!!
うちの権三 じゃなかった うちの犬もよく一緒に散歩にいくっスか
こー暑い日が続いてると、まいにちヘッヘッ ヘッヘッと舌を出してるっス!
 そして、悪のパンフレット配りも余り成果が伸びてないんっス。
御菓子やジュースと、目玉商品も幾つか挙げてるんっスけど……まぁ、これからっス!!」
 
 クルクル シュッ タンッ シャキーン!!

 ポーズと共に、諦めず悪の広告活動を続ける宣言をするっス!!

「えーっと、それで、こい  じゃなかった。
初対面のおねーさんは、どうやら悩みを持ってるような雰囲気を……ん? 
 こう言う、やりとりを少し前にした事がある気がするっス 忘れるっス!!
とりま、私は改めて告げるが悪の首領なーんっス!
 と〜〜〜〜っても恐ろしい存在なんっス!!!!
今なら、この悪の首領にインタビューする事も考えない事もないっス!!」

 エッヘン! と胸を張って悪の首領は小石川おねーさんに
インタビューを答える姿勢を構えている。

313 小石川文子『スーサイド・ライフ』 :2017/09/07(木) 23:21:48
>>312

  「――ええ、これから季節の変わり目で体調を崩しやすいから……。
   風邪を引かないように気を付けましょうね」

話に耳を傾けながら、その合間に軽く頷いて相槌を打つ。
こうして人と話すのは、とても楽しい。
彼女の元気な声を聞くと、こちらも元気を分けてもらえるような気がして、自然と口元が綻ぶ。

  「さっき、講演会という言葉が聞こえたのだけど――」

  「よかったら、そのパンフレットを見せてもらえないかしら……?」

彼女が名前と素顔を隠していることについては追及するつもりはない。
けれど、彼女が行っている活動には関心を引かれた。
宣伝しているのなら、尋ねても彼女を困らせることになりはしないと思う。

カラン……

  「――喉が渇いていると思ったから注文したの。
   レモネードが苦手じゃなければいいんだけど……」

ウェイターの手で、テーブルにグラスが置かれた。
縁にレモンの輪切りが飾られている、よく冷えたレモネード。
暑い中でマスクをしていれば、きっと喉も乾いているだろうと思ったため、注文したのだった。

314 朝山『ザ・ハイヤー』 :2017/09/07(木) 23:39:47
>>313

 「うんうんっ! 風邪は万病の元と言われるっス!! 油断は出来ないっスからね〜!
こいし じゃないっス そっちのおねーさんも体調には気を付けるっスよ!! パワフルっス!」

 「わあ! レモネードっス! おねーさんは親切っス! ありがとーっス!!
ウェイターさんもありがとっス!」

諸手をあげてレモネードを飲む! マスクを被ってもなんのその! ちゃんとストローでマスクを
完全に外さないように飲む術は備えているのだ!!!


 そして、パンフレットは小石川の手に一枚託された……。

 『  悪の組織の首領モーニングマウンテンの講演会!!
〇▲星見〇丁公園にて、〇月◇日に悪の講演会をするっス!

世の中には不思議な力があるっス! その不思議な力を集約して
願い事をすると、どんな願いもたちまち叶う可能性があるっス!
モーニングマウンテンは、その可能性を高める細やかな活動内容を
星見公園にて話したいと思うっス!!
 美味しい星見金平糖やジュースもいっぱい用意してるっス!
みんなたくさん来てほしいっスーーーーー!!!     』

 ちゅ〜〜〜〜!!

 「ン  まーーーいっ! いやー、暑かったから
冷たいレモネードはとても美味しいっス!!」

 ぷはー!! っと、モーニングマウンテンは人心地ついている。

315 小石川文子『スーサイド・ライフ』 :2017/09/08(金) 00:16:24
>>314

  ――不思議な力……。

その文面に目を通し、ある一ヶ所に気にかかるものを感じた。
ここに記されている不思議な力には心当たりがある。
自分も、その力を持っているのだから。

  「――モーニングマウンテンさん」

  「あの……。
   この不思議な力というのは、どんなものなのかしら……?」

目の前の少女も自分と同じような力を持っているのだろうか。
そんな考えが、ふと脳裏を掠めた。
でも、そんな偶然が……?

  「――願い事が……叶う……」

  「もし――もし、本当に叶うなら……」

おもむろに目を伏せ、思いを馳せる。
考えないようにしようとしても、無意識の内に考えてしまう。
私の願いはただ一つ。
彼の傍らで、彼と共に在りたいということだけ。
それが叶ったら、どんなに素敵なことだろうと思う。

  「いいえ……。何でもないの……」

彼が生きていてくれたら。
そんな叶うはずのない願いを考えてしまった。
そう、そんなことは叶うはずがない。
できるとすれば、私が彼の下へ行くことだけだろう。
でも、それは許されない。
静かに深呼吸し、グラスのミントティーを口にして気分を落ち着ける。

  「――美味しかったのなら、良かったわ」

隣席の少女の元気さに励まされ、気を取り直して微笑みを浮かべた。

316 朝山『ザ・ハイヤー』 :2017/09/08(金) 21:58:18
>>315

>この不思議な力というのは、どんなものなのかしら

「うんっ? あぁ、それはっスね!
『スタンドパワー』って奴なんっス!!
 人の精神力で出来ているって言うパワーで。普通の人には見えないんっス!
ものすごーいパワーだったり、ものすごい変わった力もあるんス!!」

 小石川おねーさんは友達っス! スタンドについても詳しく丁寧に教えちゃうっス!!

 >願い事が……叶う

 「そうなんっス! 願い事が叶うんっス!!
今はまだ詳しく言えないんスっけれど。すごーい人数の
スタンドパワーを持つ人が揃うと、どんな願い事も叶う事が出来る方法を
 このモーニングマウンテンは知っているんス!
まーだまだ先は長いっスけどねぇ。けど、私は星見町を征服し
宇宙統一の夢を実現する為に、日々切磋琢磨してるんっスよ!」

 チュ―――― とレモネードを飲みつつ力説するっス!!!

このドでかい野望を聞き、小石川おねーさんも震え上がる筈っス!!

317 小石川文子『スーサイド・ライフ』 :2017/09/08(金) 22:53:36
>>316

  「そう――」

  「頑張ってね」

何でも願いが叶う。
この世には、そんなスタンドも存在するのかもしれない。
もし、そんなものがあるなら、私は……。

  ――いいえ……。

本当にそんな力があったなら、きっとそれは、もっと多くの人達のために使われるべき力。
私一人のために使われるべき力じゃない。
でも……その力が目の前にあったとしたら……。

  ――この気持ちも……変化してしまうかもしれない……。

  「――スタンド……」

  「あなたも……それを持っているのかしら?」

  「……私も――それを持っているの……」

小さな声で、ぽつりと呟いた。
その声は、街の賑やかさの中に溶けて消えていく。
これが聞こえたのは、隣に座る少女だけだろう。

318 朝山『ザ・ハイヤー』 :2017/09/08(金) 23:14:43
>>317

>頑張ってね

 「うんっ! 頑張るっス!!
何てたって私は悪の組織の首領! モーニングマウンテンっスからね!!
 どんな困難が待ち受けていようと、夢を叶えるっス!!!」

 シャキーンッッ!!!

 決めポーズも華麗に素早く行う! これぞ悪の瞬足っス!!

 >「――スタンド……」
>「あなたも……それを持っているのかしら?」
>「……私も――それを持っているの……」

 「……?」

 ボスッ。

 朝山は椅子に座り直し、まじまじと小石川を見つめる。
ホッケーマスクをしてる為、表情を読み取るのは難しいが。

 「おねーさんもスタンド使いなんっスか? 
けど、なんか  嬉しくなさそうっス。寂しそうなんっス」

 スタンド使いの仲間なんっス!! と、エクリプスダンスをするような
感じじゃないっス。何だか、スタンドを持ってる事が苦しいような感じっス。

319 小石川文子『スーサイド・ライフ』 :2017/09/08(金) 23:52:19
>>318

  「私は大丈夫だから……」

  「ただ――」

  「いいえ……大丈夫よ」

私の心には、死を望んでいる部分がある。
けれど、私は生きなければいけない。
その相反する想いの狭間から、『スーサイド・ライフ』は生まれた。
だから、自分のスタンドのことを考えると、心の中にある迷いを改めて思い出してしまう。
この感覚は、いまだに消えていない。

  「だから――」

  「だから、あなたも元気なままでいてね」

  「それを見ると、私も明るい気持ちになれるから……」

胸の内に生じた迷いを押し殺し、少女に向けて微笑む。
彼女を心配させたくないから。
瞳の奥に一抹の寂しさを残しながらも、できるだけ明るい笑顔で。

320 朝山『ザ・ハイヤー』 :2017/09/09(土) 00:11:57
>>319(ここら辺で〆たいと思います。お付き合い有難う御座いました)


 「――うん わかってるっス!
私は元気なんっス パワフルなんっス!!
 みんなに元気と笑顔をいっつも分け与えるっス!」

 シャキーンッ!!

 「だから、おねーさんも悩みがあっても大丈夫っス!
私が 何時か いつか必ず夢を実現する時。
 

   おねーさんの夢を一緒に叶えてあげちゃうっス!! 


 そうっス! これは物凄く画期的で悪らしい願いっス!!
クックックッ! 他人の夢も総取りして一人占め! なーんて悪らしいっス!」

 パッ!! 悪の首領モーニングマウンテン!
喉の渇きも完全に無くなり、疲労も薄れた! 次の地区でパンフレットを配るのだ!

 「それじゃあ、また今度っス!
このモーニングマウンテン! 常に夢を叶える為に全力疾走っス!
 うおおおおおおぉぉ!!! パワフルっスぅぅううううう!!!」

 朝山、もといモーニングマウンテンは。小石川が呼び止める間もなく
人垣の中へと消えていく。テーブルにはレモネード代の5百円玉が置かれていた。

 例え、それがどんなに叶える望みがなくても。悪を名乗る朝日の少女は。

突き進むのだろう。その夢(太陽)に向かって

321 硯 研一郎『RXオーバードライブ』 :2017/09/14(木) 20:41:05


     「…」  

「営業努力もしないくせに、
 地元愛を主張して家電量販店や大型スーパーを
 目の敵にするような個人経営の店は淘汰されても当然だと思わないか」


個人経営のゲームショップ、
伸び放題の金髪に、耳にびっしりピアスを付けたヤンキーが、
店の奥に1台だけ設置された『女児向けゲーム』の筐体用の
長椅子に腰かけボケっとしている。客は誰もいない。

322 稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』 :2017/09/15(金) 00:07:16
>>321

         ガラララ

「………………」

眼鏡を掛けた黒髪の少女が入店した。
服装はボーイッシュ。学校帰りの雰囲気じゃない。

・・・こういう個人経営の店には、
たまに掘り出し物があったりする。

(うわっ……DQNだ。モンスターハウスか?
 一人っぽいけど……どっちにせよこわちか)

           トコ
              トコ

なるべく気づかれないように歩く。

まあ足音で気づかれるだろうし、
スパイゲームをするつもりもない。

(…………あんま良いのないな)

手のひらを反すのが早いけど、
まあ、最初から過度な期待はしてない。

(まあ、宝はダンジョンの奥にある……
 常識的に考えて、ボスもいるもんだけど)

店の奥を見るため、『硯』の方に否応なしに近付く。

323 硯 研一郎『RXオーバードライブ』 :2017/09/15(金) 05:09:25
>>322



「ふぁぁ」

大きな欠伸を漏らした所で、
恋姫が入店した事に気付き、立ち上がる。


「いらっしゃいませ。何をお探しなんだい。
 『Switch』が欲しいならお一人様一台までで、取り置きはなし。
 昔のゲームが欲しいならばそこのワゴン。
 武器は、装備しなきゃあ意味がないぜ」

324 稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』 :2017/09/15(金) 16:20:37
>>323

「………………店員だったんだ」

(人は見かけによらないってやつだ……)

――シンボルエンカウントのゲームで、
盗賊のグラフィックだと思って避けたら、
それが道具屋の店員だったって感じだ。

店員だと分かったら話は早い。

「マジで……switchあるんだ。
 SSRな店引き当てちゃったな……」

     「えひ……まあ、でも今日は」

そういうわけで、中古ワゴンへ。
こういうところに謎ゲーがあるのだ。

             ガサ

「なんかクソゲー欲しいんだよな、
 ドン引きするようなやつ…………」

    ゴソ

      「呪いの装備的なぁ……」

ワゴンの方に歩み寄って、古いゲームを探す。
ハードは気にしない。たいていは揃えているし。

325 硯 研一郎『RXオーバードライブ』 :2017/09/15(金) 19:27:25
>>324

「俺は店員じゃあないよ。
家の手伝いをしている玩具屋の小倅だ」

ゆら ゆら

「今日は同じ商店街の幼馴染達と一緒に、
映画を観に行った後にカラオケに行く予定だったんだが、
俺だけ貧乏くじを引かされて店番を、しているんだ」


恋姫の横に立ち、最近据え置き機からファミコンまで
ありとあらゆる『ワケあり』のゲームが詰まったワゴンの中に手を突っ込み物色する。

「これはどうだい。中々に面白かったんだが。
『モンスター・オブ・ザ・デッド3』」

硯が取り出したのは、デスメタルのアルバムのような気味の悪いイラストが描かれたセガの家庭用ソフト。
『モンスター・オブ・ザ・デッド』ーー
現在は既に倒産しているメーカーが20年近く前に発売したガンシューティングだ。

1990年代、当時ゲームセンターでは『タイムクライシス』や『HOD』等の銃型のコントローラーを画面に向けて撃ってゾンビやテロリストを倒す、
自動スクロール型の体感ゲームが大流行しており、
メガスマッシュを叩き出した同ゲームが家庭版に移植されるや否や、
同業他社が二匹目のドジョウを狙おうと粗悪なパクリゲーをこぞって出して、互いに潰しあっていた。
この『MOTD』もその内の1つである。

MOTDも粗悪なパクリゲーの例に漏れず、突貫工事で作られた為、
理不尽な難易度に加えてデバックをしたのかと疑う程のバグの多さ。
それに加え、『ゾンビ』や『テロリスト』ではなく『黒人』や『モンペのババア』や『ルンペン』を狙撃する、
という明らかに倫理的に問題がある内容にユーザーから苦情が殺到し、
メーカーが発売して1週間で自主回収した為、
現在も市場には殆ど出回っていない幻のシロモノだ。

326 稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』 :2017/09/15(金) 22:37:06
>>325

「ふうん……まあ、敵キャラじゃないなら……
 店員でもお手伝いでも僕はいいんだけど……」

(…………リア充なのは見かけ通りか)

             ガサガサ

ワゴンを探りながら、生返事気味に返した。
そして――現れた『怪物』に目を向ける。

「うっわ……」

モンスター・オブ・ザ・デッド。
ドン引きしたのはジャケットの趣味だけではない。
そのネットの海に轟く悪名と言ったら、まさに四天王だ。

しかも、これは『3』――もはや伝説の存在。

「うわ……やばぁ…………
 ガチで呪いのアイテムキタコレ」

「プレミアついてるやつだろ確か……悪い意味で伝説だぜ」

散々な評価をするが、興味はある。
倒産の原因とも囁かれるまさしく呪われた一本。
内容も凡百の『つまらないだけ』の物とは一線を画する。

べつにクソゲー愛好家というわけではないのだが・・・
名作や良作に慣れ切ったゲーム歴に刺激をくれる気がする。

327 硯 研一郎『RXオーバードライブ』 :2017/09/15(金) 23:04:53
>>326

「凄いだろう。
 何が凄いって、『モンスター・オブ・ザ・デッド3』と
 銘打っておきながら実は『1』が出ていないって所だ。
 
 いきなり『2』から出ているってのは周知だろうが、
 あまりにも出荷が少なくて誰もどんなゲームか知らないんだ。
 続編だと思わせて買わせようとしたのかな。
 ……倒産した今となっては真相は霧の中だが」


            「そうだ」 ガサゴソ


更にワゴンを漁り、中から縦長のパッケージを取り出す。
プレイステーション2のソフトだ。

「こいつは凄いぞ。
 『ライジング娘。無双』だ」


『ライジング娘。無双』――
『戦国』やら『三国』やらのシリーズでお馴染みのメーカーが、
まさかの『ライジング娘。』(※)とコラボ。
(※当時メディアを席巻していた国民的アイドルグループ)
当時、既に完成されていた『無双』のシステムを流用しているので出来は秀逸だが、
毒にも薬にもならない様な歌をBGMに、
アイドル達が画面狭しと暴れまわり『悪魔』達をなぎ倒していく様はまさに『バカゲー』。
メインターゲットであるアイドルのファンは勿論、
アイドルに毛ほども興味もないゲーマー達をも虜にし、
現在も動画サイトに『TAS』の類の動画が頻繁に投稿されている。

――もっとも発売から数年後に、
登場するアイドルの1人が『大麻取締法違反』で逮捕され、
更に別のアイドルの弟が『銅線窃盗』で逮捕されたり、
つい最近では『政治家』との『不倫』が『文春砲』されたりなど、
登場するアイドルが軒並み『悲劇』に巻き込まれたりしているが。

328 稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』 :2017/09/15(金) 23:33:30
>>327

「……伝説を始めようとしたんじゃね。
 『ドラクエ』の時系列は3から始まる的な」

恋姫は微妙な顔で適当な事を言った。
……いくら『クエスト』にしたって、
難易度が高すぎる試みだろうが。

ともかく『クソゲー』部門はこの魔物がノミネートだ。
今後も恋姫の中から消えないタイトルになるはず。

             ガサ
                  ゴソ
「……ん?」

「……うわっ 『ライ娘無双』じゃん」

プレイしたことは無いが……知っている。
コアなネットユーザーの中では語り草だ。
クソゲーではないが、バカゲーとして名高い。

仕事を選ばない姿には一種の尊敬があるが、
壮絶な『棒読み』と無個性なキャラ性能は、
彼女らの心の内の何らかの哀愁を感じさせる。

「……ある意味リアルも無双だったよな。
 記者が無双ゲー並みに集まってたし……」

「ま、そんだけ人気あったんだろうけどぉ……」

リアルじゃそのまま、ゲームオーバーというわけ。
同じ『アイドル』としては、複雑な心境だ。
もっとも無実の罪とかではないので同情は薄いが。

「……今日はその二本にしとくかな。
  ……もう無いよな? 今のでラスボス?」

       「これ以上はハードすぎるぜ……」
 
とはいえ最近のゲームというのは裏ボスが付き物。
恋姫としても怖いもの見たさでワゴンを漁る手は止めない。

329 硯 研一郎『RXオーバードライブ』 :2017/09/16(土) 00:03:22
>>328

「『ゴキマ』が弟の為に責任取って引退した時、
 近所の寿司屋の娘はこっちがヒく程泣いていたよ。
 俺は、そのゲームでしか『ライ娘』を知らなかったから、
 何の感情も湧かなかったんだが」

            
                「俺は、冷徹なのかな」


指の背で耳をびっしりと埋めたピアスに触れ、
考え込むような仕草。

「いや、ラスボスは別に居る。
 確か、まだ売れ残っていたような…
 ええと、確かこの辺に、あった気が」

             
             「あった」

取り出したのはパッケージにタイプの違う何人もの美少女が、
扇状に並んだイラストが描かれた、『君と僕に降り注ぐ愛の唄』(通称:きみうた)。

『きみうた』――そのジャケットのイメージ通り、
『恋愛シミュレーション』に分類されるゲームなのだが、
開始5分でメインヒロインが主人公の顔面目掛け『嘔吐』するシーンから始まり、
告白してきた『女教師』とのラブシーンで腸を食われ、
また別のルートでは『幼馴染』のツンデレ美少女が『ミサイル』に『変形』して、
唐突に出てきた『黒人マフィア』の基地目掛け飛んで行ったり…等、
頭が狂ったとしか思えない『イカした』展開が、ぎゅうぎゅうに詰め込まれている。

また恐ろしい事にメーカーはそれらの『超展開』の情報を
意図的に伏せており、発売当時『本スレ』は『阿鼻叫喚』。
インターネット上では『伝説』となっているゲームである。

330 稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』 :2017/09/16(土) 20:37:43
>>329

「……僕は『ライ娘』知ってたけど、泣きはしなかったしぃ。
 知らないアンドファンじゃないならそんなもんじゃね……?」

     (そんだけ泣いてもらえるなら、
      アイドル冥利には尽きるだろうな……)

考え込む様子には、それほど強い感情を持たなかった。
何の感情も沸かない――という言葉を『誇張』と捉えたから。
その寿司屋の娘に同情するとか、そういうのはあるんだろう、と。
それに冷徹だとしても、ゲームを買うのには関係ないと思ったから。

「うわぁ……いるんだ。真ラスボス…………えひ。
 ラスダンの一番奥まで来て、帰るルートは無……」

              ジロ

現れたパッケージに視線を向けて――
すぐにそれの正体に気づいた。知っている。
 
          「うおッ…………!」

例えばテレビで見た犯罪者とばったり出くわしたような。
というより、天井からいきなりゾンビが降って来たような
顔に似つかわしくない呻き声が出た。ここに演技は無い。

「『君と僕に降り注ぐ愛の唄』……………………」

           タジッ

――『公式が病気』

        ――『皆のトラウマ』

                   ――『風邪ひいたときの夢』

「プレイ動画は見たことあるぜ……パート2で投げたけど…………」

そんな安い文句は無数につけられていて、しかし形容しきれない。
恋姫も実物を手に取るのは初めてだ。手に取りたいと思わなかった。
グロテスクな表現が好きなことを偉いと思わないし。……何か禍々しいし。

「ラスボスっていうか……
 エンカしたら即死のトラップだろこれぇ」

                   ゴク

          「…………買おうかな、これも」

とはいえ、ワゴン価格で買えるなら……悪くない。気がする。『授業料』としても。

331 硯 研一郎『RXオーバードライブ』 :2017/09/17(日) 22:26:55
>>330


     「違うんだ」

     「こいつの『魔力』はプレイ動画で、
      観るだけでは伝わらないんだ」

      トン トン

パッケージに描かれた、
リボンを巻いた紫髪の美少女を刺す。

「ネットで一番有名であろう、
 この『金城沙希絵』ルート。

 登校途中の幼馴染がいきなり宇宙人にロボットに改造され、
 好感度を上げる程に増えていくヒロインの『武装』。
 主人公への愛を形で実感できる事に喜ぶ沙希絵だが、
 いつ完全に『機械』へと変質してしまうのか恐れる日々。
 
 両想いになってからも彼女の『変質』に葛藤する主人公。
 そして主人公の手元には彼女の『自爆スイッチ』。
 沙希絵が『機械』になる前に『救う』事はできる。
 だが、沙希絵を殺す事などできない。、
 ヒロインの生殺与奪を常に握りながらの薄氷の上のような学園生活」


              「外していないんだ」

              「こんな『荒唐無稽』な展開ばかりなのに、
               どのルートも『ギャルゲー』として、
               とてもとても面白いんだ。
               笑い有り、涙あり、そして心に芽吹く甘酸っぱい感情」

「特に『ィエァ・ンド・ゥ・ンーベ・モョ・ペペペペペペペペペペペ』の
 ルートは素晴らしい。
 このゲームはプレイしないと分からないんだ。

 3枚合わせて1000円で良い。
 君も、是非プレイしてみてくれ」

332 稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』 :2017/09/17(日) 23:19:34
>>331

「あ〜〜…………………すまん、我ながら、ニワカおつだった」

『きみうた』については『当然の感覚』がマヒしていた。
言うなれば単なるコンテンツ……話のネタでしかないと。

「買ってやってみなきゃ、ゲームは語れないわな。
 ……だから、ネタバレはそれ以上NG。
 僕の手で全ルート通るから…………その後語ろう。えひ」

        「…………はい、1000円な」

財布から1000円札を出して、陰気な笑みを浮かべる。

違うのだ。『ゲーム』なのだ。そして自分はゲーマーを自負している。
プレイせず語るなど『未プレイ乙』の一言で切り捨てられる塵芥。

(…………『ィエァ・ンド・ゥ・ンーベ・モョ・ペペペペペペペペペペペ』
 名前でおなかいたくなることはあったが……攻略する事になるとはな……)

                (……やってやんよ)

ひそかに決意を固めつつ、今日の買い物はこの辺にしておこう。

「……今日は掘り出し物だった……良いゲーム屋だな、ここ」

           「…………あー、ありがとな。
             選んでくれて……また来るぜ」

       ニタ

笑みの陰気さを深めつつ、店の入り口へと踵を返す。
特に止められたりしなければ、このまま店を出て家に帰ってゲームをオンだ。

333 硯 研一郎『RXオーバードライブ』 :2017/09/17(日) 23:28:05
>>332


 「プレイしたらまた来てくれ。
   俺の友達は、ゲームなんてしないから
   語れる相手が全然いないんだ」


1000円札を受け取ると、
ゲームをビニール袋に入れて手渡す。


   「俺は『硯 研一郎』。
    大抵この辺で遊んでいるから、
    いつでも来てくれ。
    今度はお茶でも出そう」

ポケットに手を突っ込み、
恋姫の背中を見送る。


「ありがとう、
 ございました、だな」

334 稗田 恋姫『ブルー・サンシャイン』 :2017/09/17(日) 23:58:03
>>333

人は見かけによらない――ゲームも同じ。
今日は改めてそう言う事を分からせられた。

まあ、人生観が変わったとか大袈裟な話じゃないけど。

「僕も……ゲームの話をする相手は、
 いくら多くても、多すぎる事はないし……」

            トコ

                 トコ

     クル

振り向いて、自己紹介に応える。

「僕は稗田……『稗田恋姫』
 この辺は……あんま来ないけど……
 これからは、行き先一個できた。えひ」
 
            「んじゃ…………また」
  
                       トコ  トコ
       
         ガララララ
                バタン

335 神『フライト800』 :2017/09/23(土) 00:32:59
「ほほぉ……いや、なるほどねぇ」

俺はストリートミュージシャンという奴を見ていた。
俺ぁ別にそういうのに深い興味ってのはあんまりないんだが。
何事も知ることが大事ってのがあらぁな。

「そろそろ寒くなってんのにご苦労さんだ」

吹く風は少し冷たい。
羽織を着なきゃあちょっと辛い季節だ。
和服を着るってのも色々季節に合わせた生地を選んだりして面倒だ。
嘘だが。

さてそろそろと帰ろうか。
にしてもこういうのを見てる奴ってのはどんなやつなんだろうな。
ストリートミュージシャンの演奏に足を止める奴っていうのは。
俺はビー玉の入った金魚鉢を小脇に抱えながら周りをぐるりと見渡した。

336 夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』 :2017/09/30(土) 21:29:08
>>335

「ふむふむ」

神が視線を向けた先――
演奏するストリートミュージシャンの近くに、少女が一人しゃがみ込んでいる。
頭にはリボンのように巻いたスカーフ、目元に薄い色のサングラス、指にはネイルアートの付け爪。
好奇心の強さを伺わせる興味津々といった眼差しで、演奏の様子を見つめている。

   パチパチパチ

笑顔で合いの手を入れているところを見ると、楽しんでいるようだ。
ふと、少女が顔を上げて、神の方を向いた。

「――へぇぇ……」

ミュージシャンに向けていたのと同じような興味深そうな視線で、神の格好を見つめる。
どうやら和服を珍しいと感じたらしい。
その割には、じっと見すぎている気もするけど。

337 神『フライト800』 :2017/09/30(土) 22:27:37
>>336

なんだあの子は。
なるほどな。今時の子って感じだな。
俺ぁ別にああいうファッションに興味があるわけじゃねえがね。

「あ?」

んだぁ?
こっち見てんのか。
何が面白くてこっちを見てんだろ。俺は見せ物じゃないんでね。

あ、もしかしてこの金魚鉢か。
まぁなんでもいいが。

「おいあんた。どうした」

声ぇかけてみるか

338 夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』 :2017/09/30(土) 22:56:59
>>337

「はっ」

声をかけられて、我に返った。
何か変わったものはないかと、町へ出かけたのが今から少し前のこと。
そしたら、ストリートミュージシャンを見かけて思わず足を止め、見入ってしまった。
耳で聞いたことはあっても、目で見たのは初めてだったから。
今に至るまでの経緯は、だいたいそんなトコです。

「いやー、別にどうしたってこともないんだけど――」

今日の私はツイてる。
なんだかまた珍しそうな人に出会えちゃった。
そこで、遅ればせながらビー玉入りの金魚鉢に気付いた。

「――それは?」

金魚鉢を指差し、不思議そうに尋ねる。
なんで金魚鉢?なんでビー玉?ついでになんで和服?
疑問が重なる度に好奇心が募り、心の奥から泉のように湧き上がって来るのを感じる。

339 神『フライト800』 :2017/09/30(土) 23:28:49
>>338

「あ?」

特に何も無いのか。
近づいて損をしたかもな。
まぁなんだって俺ぁ構わないんだがねぇ?

「ん」

「これか。金魚鉢だよ」

「師匠の無茶振りだ」

340 夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』 :2017/09/30(土) 23:58:04
>>339

「金魚鉢なのは分かるよ。金魚入れるヤツでしょ。入ってないみたいだけど」

「私が知りたいのは、なんで金魚鉢にビー玉だけ入ってるのかってこと。それ、ビー玉だよね?」

サングラスの奥の瞳が、ビー玉の群れを見つめる。
目が見えるようになってから、ビー玉を見たのは初めてだった。
知識としては知っていた。ガラスで出来た小さな球で、色んな種類がある。
だから、なんとなくそれがビー玉だと分かった。
触ったこともある。ツルツルしてた。
でも、見たことはなかった。

「透き通っててキレイだね。初めて見た」

「で――」

「あと、どうしてそれを持ち歩いてるのかっていうのもフシギな感じ」

「シショーって何の?」

口では別にどうってこともないと言いながら、表情は興味津々だ。
その証拠に、次々に質問が飛び出してくる。

341 神『フライト800』 :2017/10/01(日) 00:14:26
>>340

「あーあーあーあー」

「ちょいと待ちない」

一度に言われるとどれから答えたもんかわかんねぇな。
二度三度と手を振って待ったをかける。

「まずは手前の事からだな」

ちょっとテンションを上げねぇとならんのがしんどい話だ。
どうにもスイッチが入らねぇと飽きちまいそうで。

「あー……知らざぁ言って聞かせやしょう」

                セイサイテイ             ヒトイキ
「私はこの星見町に根付く星彩亭一門に属する星彩亭一生っていうのさ。ま、落語家さ」

「この一生ってのは師匠からもらったありがたぁい高座名でねぇ」
                                                        カミキヨイ
「私の本名が神ってかいてジン、清いって書いてキヨシでジン・キヨシ。この二つをくっつけて神清」
           ジンセイ
「読み方を変えて人生としたはいいがこれじゃあ捻りがねぇってんで、一生とかいてヒトイキと読ませた」

そこまで一息。
まぁ慣れた自己紹介っていうもんだねぇ。
神清が人生になって一生ときた。
またこっちはこっちで読み間違えられることが多くて嫌なもんさね。

「それでこの金魚鉢が星彩亭名物、『師匠の無茶振り』またの名を『精彩問答』」

「師匠がこれこれこうでなんとする・なんというと聞いたらば、我々弟子が頭を捻って答えを出す訳なのさ」

「今回のお題は『金魚鉢で泳ぐビー玉。この色味、美しさをなんという』と来たもんで」

「答えは何かと思って持ち歩いてんのよ」

342 夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』 :2017/10/01(日) 00:50:34
>>341

   パチパチパチ

その芸達者な自己紹介に思わず拍手した。
だけど、今の状況ちょっとスゴくない?
横を向けばミュージシャン、正面を見れば落語家。
そして、その二人に挟まれてる私。
街角の小さなワンダーランドって感じするもん。

           アリス
なんていうか――『私』の冒険、絶好調。
あ、ストリートミュージシャンの人からは少し離れよう。ジャマになるし。

「じゃ、ヒトイキさんって呼べばいいの?」

「なんか全然知らない世界って感じでさ――」

「すっごいキョーミあるぅ」

今までの人生で全く縁のない世界。
好奇心がツンツン刺激されてくる。
いつか見てみたいな。

「そんなのあるんだ。金魚鉢で泳ぐビー玉……。んー」

「……ダメ!難しすぎる!アタマ痛い!」

考えてみても答えは出ない。
どうにも自分には向いてないようだ。

「あ――私、明日美。夢見ヶ崎明日美」

「夢見ヶ崎家に属する普通の高校生」

「美しい明日って書いて明日美って読ませてる。
 お父さんとお母さんにもらったありがたい名前」

343 神『フライト800』 :2017/10/01(日) 01:29:14
>>342

「ははぁこれはどうも。あんたいい子だねぇ」

まぁ普段だったら絶対に話しかけやしない相手だろうけどねぇ。
……別に私、普段誰かに積極的に話しかけたりもしないんだけどね?

「そうヒトイキで結構」

「……正直言うとね、この問答に答えなんてないのさ」

師匠を納得させたり笑わせる答えが必要って事ね。
だから適当な事を答えにしてもいいわけさ。

「明日美……夢見ヶ崎明日美……んー」

「私人の名前覚えるのって苦手なのよねぇ」

「そういや、さっきは流しちまったけど、ビー玉見たことなかったのかい?」

344 夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』 :2017/10/01(日) 01:54:52
>>343

「答えがない問題かぁ……。
 そうだよね。落語ってそういうもんだもんね」

「じゃあさ――
 『こりゃあキレイな金魚だ。
  丸くて色んな色があって、まるでビー玉みたいじゃないか』なんてのでもいいのかな?」

頭を悩ませ、どうにかこうにか一つひねり出した。
これが落語になるかどうかと言われると自信はないけど。

「ふーん……じゃあ、『アリス』でもいいよ。
 私が自分で考えたニックネームだけど」

見えない世界にいた私が、ある日突然見える世界にいざなわれた。
私にとって、この世界は不思議でいっぱいのワンダーランド。
だから、私は『アリス』。

「そう――初めて見たよ」

「でも、ビー玉ってものは知ってたし、触ったことはあったんだ」

「そうだ、ヒトイキさん――問答のついでに、この問題の答え当ててみてよ」

そう言って、ほんの少しだけ悪戯っぽく笑う。

「たぶん、その問答よりは簡単だと思うから、ヒントはいらないよね?」

345 神『フライト800』 :2017/10/01(日) 02:17:39
>>344

「そ、答えがないの」

「考えてたらどうどう巡りよ」

腕を組んで首を傾げてもなんも見えては来ないのよ。
餅屋問答みたいにうまい具合に運ばないかねぇ。

「お? それでもいいねぇ。困ったらそいつを使わせてもらうかしら」

答えがないなら何言っても問題はないのさ。
いい悪いがあるだけでね。

「へぇアリスか。それでいいや。アリスちゃん」

「あら問題かい? まぁ、私は構わないけど?」

346 夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』 :2017/10/01(日) 02:39:28
>>345

「どーぞどーぞ」

候補に採用されるとは思わなかった。
言ってみるもんだね。
特に何かあるわけじゃないけど、こういうのってちょっと嬉しいよね。

「問題はね、私――アリスはビー玉を知ってたし触ったこともあったけど見たことはなかった。
 その理由を当ててみて、ってこと」

「問答じゃないから、答えは一つしかないよ」

「挙げるならいくつでもいいんだけどね」

「分からなかったらヒント出してもいいかな」

347 神『フライト800』 :2017/10/01(日) 03:05:32
>>346

「知ってたし、触ったこともあった」

「別にアリスちゃん、なぞかけの類をしているわけじゃないんだろう」

だったらその色のサングラスっていうのを見ればちょっとはピンと来るんじゃないのかい?

「あんた、目が見えなかったんじゃないかい?」

「どうだい」

348 夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』 :2017/10/02(月) 00:45:25
>>347

「あー、やっぱり簡単だったかー」

小首を傾げ、笑いながら軽く頭をかく。

「そーいうコト。見えるようになったのは最近なんだ」

「でも目が強い光に弱いから、コレが必要ってワケ」

そう言いながら、サングラスを指でつつく。

「初めて見えるようになってさ、世界が変わったって感じだったね」

「正確には世界は何も変わってなくて、ただ私が変わっただけなんだけど――」

「ホントに別世界だよ。見たことないものばっかりなんだもん。場所も人も物も、何もかもぜーんぶ」

「まるで不思議の国に迷い込んだアリスみたいに」

「だから、私は『アリス』ってワケ」

349 神『フライト800』 :2017/10/02(月) 01:15:52
>>348

「なるほどねぇ」

見えないもんが見えるようになったわけか。
私は見えてたもんが見えなくなったがね。
まぁ、わざわざアリスちゃんに言ってやることでもないが。

「アリスの由来ってのはそういうわけかい」

「じゃあ私はさしずめチェシャ猫ってところかねぇ」

くっくと笑って見せる。
もっともマッドハッターの方が私の性には合うが。

「……アリスちゃん」

「私が不思議の国に連れていってやれるよ」

350 夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』 :2017/10/02(月) 01:40:56
>>349

「いーね、それ。似合ってるかも。うん、いい感じ」

くすっと笑う。
友達に向けるような屈託のない明るい笑い。
礼儀に欠けるとも言えるけど。

「――んー?」

「どこか面白い場所でも紹介してくれるの?『チェシャ猫』さん?」

「だったら、落語に関係してるトコがいいな。見たことないし」

「ホントは知らない人についてっちゃいけないんだけど――」

「なんてったって、私は『アリス』だから」

軽く服を払って立ち上がり、もう一度笑う。
ストリートミュージシャンが奏でる曲が、辺りに響いている。

351 神『フライト800』 :2017/10/02(月) 02:07:27
>>350

「ん。ん?」

嘘だと言おうと思ったがこう返されちゃ応じるしかないねぇ。
いや我ながら墓穴を掘ったし、面倒なことになった。
掘りたくないもんってのは墓穴とオカマと相場が決まってんだ。

「しょうがないねぇ」

「ま、うちの一門の所に連れてったげるよ」

「ただで落語聞けるよ。代わりにあんたも精彩問答に加わってもらうけどね」

この金魚鉢の中のビー玉。この色味、美しさをなんという。
……透き通る美しさ。天も地もなく輝き、鉢の中に宇宙を創る。
私この宇宙に夢中でございます……なんて、イマイチ極まりないわね。

「さ、行きましょう」

352 夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』 :2017/10/02(月) 02:31:44
>>351

「やった!うん、行く行く!」

相手の心境など知る由もなく、明るい表情で大きくうなずき返す。

ショージキ断られるかなーと思ってた。
自分でも無茶振りだとは思ったし。
でも、断られなかった。
きっとヒトイキさんはいい人なんだ。

「うえー、それはキビシーなぁ。まー、タダじゃしょーがないよね」

ま、なんとかなるでしょ。
そう考えて、アリスは期待と好奇心を胸に、新しい世界に向かって歩きだしたのでした。
そのお話は、また今度――。

353 小角 宝梦『イル・ソン・パティ』 :2017/11/26(日) 22:53:36

探偵のようなコートと帽子で秋の街を歩く少女が一人。
銀の髪、茶色い瞳、ふくろうのような顔は自前だが、
コスプレ感を増す――ハロウィンはもうとうに過ぎたのに。

(やはり寒い季節はいいな、コートが自然に着られるし)

              トコ トコ

とはいえ本人は大真面目で、照れもない。
奇抜だが、ファッションの範疇にもとれる。
これが夏ならやばかったが、秋なのでセーフだ。

       「ん」

そうこうしていると、小角は立ち止まる。
――――気になる物が目に入ったから。それが>>354だ。

354 夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』 :2017/11/26(日) 23:42:19
>>353

――小角が向けた視線の先には、一人の少女がいた。

まず目に付くのは、大きめのサングラスだ。
頭にはリボン代わりの派手なスカーフが巻かれている。
服装は、上はブラウスとジャケット、下は吊りスカートにタイツ。
両手の指にはネイルアートの施されたカラフルな付け爪。

たとえるなら、『不思議の国のアリス』をパンキッシュにしたような格好だった。

「――ん〜〜〜」

その少女は、正面を向いていた。
視線の先には小角がいる。
明らかに、彼女は小角の姿を見ていた。
それも、ちらっと見ているという程度ではなく、まじまじと。
悪感情が感じられるような見方ではない。

ただ――目立つことは間違いない。

355 小角 宝梦『イル・ソン・パティ』 :2017/11/26(日) 23:55:39
>>354

「………………」

(め、珍しい恰好だな……まるで『アリス』のようだ。
 いや、それより彼女の視線。わたしを見ているのか?)

            「……お、オホン」

   スタスタ

小角は咳ばらいをしながら、やや早足で近寄った。
別人を見てました、ということもないだろうと考えて。

「わたしに、何か用かな? きみ。
 いや勘違いだとしたら申し訳ないのだが――」

         「視線を感じたので、ね」

とはいえ、まあ、そういう推理も成り立つ。
なので少しだけ予防線を張って、知性的に話しかけるのだ。

356 夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』 :2017/11/27(月) 00:27:28
>>355

「――おっ」

近付いてくるのを見て、軽く声を漏らす。

さては、尾行がバレたか!?
チッ、しくじったぜ。
このままだとマズい。
なんとか誤魔化すか?
それが無理なら、この場でやるしかねえな……!

なんてセリフが瞬間的に脳裏を駆け巡った。
昨日の夜に観た古いスパイ映画(タイトルは忘れた)の影響らしい。
まあ、当然ながら尾行なんてしていたはずもなく――。

(――珍しい格好してるなー。まるで『探偵』みたいな……)

偶然にも、小角と同じようなことを考えていたのが少し前のこと。
そして、自分としてはごく自然に小角に視線が集中し、今に至る。
つまりは、好奇心ゆえの行動だった――というワケ。

「うふふふ――」

「それを見破るとは、さすが名探偵……!」

「ならば、私の目的も暴いてみるがいい!」

「私は、アナタを見て『珍しい格好してるなー。まるで探偵みたいな……』と思っていた!」

「さあ、推理してくれたまえ!」

だけどまあ、ちょっと遊んでみるのもいいかな。
そんなこんなで、ちょこっとだけ悪ノリしてみるのだ。
ふふふふふ。

357 小角 宝梦『イル・ソン・パティ』 :2017/11/27(月) 00:49:45
>>356

「なっなにっ……だが、わたしに推理勝負を挑むとはね。
 探偵みたいなだけではなく、わたしは名探偵を目指す女!」

        「推理はお手の物、というわけだ。ふふん」

驚きつつも、自信ありげな笑みを浮かべて考えを巡らせる小角。
しかし、人の考えを読むなんていうのは難しい。

ましてや――『架空の目的』の推理。普通に考えて不可能だ。
しかし小角は『名探偵』を目指している。くわえて『ノセられやすい』のだ。

(服装を見るに、どこかに遊びに行くところだろうか……
 少なくとも部活や塾という雰囲気じゃあない気がするぞ。
 ううむ……彼女の目的はいったいなんなんだろうか?
 ここはメインストリート、彼女は見るからにお洒落好き。
 探偵を警戒してる感じでもないし、悪だくみとかではない)

              (……ならば)

「よし! 推理できたぞ……きみの今日の目的は、洋服を買うこと!
 そして、わたしを見てこういうコートが欲しくなったんじゃあないか!?」

          「どうかね! わたしの推理は当たっているかい?」

       フフン

そして推理には、あるていどは真剣みをもって挑むのだ。
ここでふざけては探偵の名折れ。小角はそのような事を、少し考えているのだ。

とはいえ、推理自体は決して優秀とは言えないかもしれないが・・・それはそれ。

358 夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』 :2017/11/27(月) 01:40:22
>>357

「それでこそ我が好敵手というもの!」

「最後に立っているのは追う者か、それとも追われる者か……!」

「さあ、長きに渡る因縁に決着をつけようではないか!」

ありもしない捏造した過去を交えつつ、対抗するかのように不適に笑う。
もちろん後先など考えていない。
頭の中にあるのは、この場を煽って盛り上げることのみ。

「――フッ」

「どうやら私の負けのようだな……」

「歴史は君を選んだということか……」

何かを悟ったような顔で、意味もなく壮大な言葉を呟く。
負けはしたが、そこに食いはない。
なぜなら、名探偵と戦ったという誇りを得たのだから。

……なんていうドラマは特にない。

しかし、洋服を買いに来たという推理は当たっていた。
だから、探偵である彼女の勝ちなのだろう、たぶん。

「ところで――そのコートいいよね。
 うんうん、カッコイイと思う」

悪ノリはやめて、普段の自分で話しかける。
確かに言われてみると、こういうのもいいかもと思えてくる。

「こう……全身から知性あふれてるっていうか……」

「なによりも――着てる人に似合ってる!!『85点』!!
 あっ、残りの15点は大人になったらもっと似合うだろうなってコトで」

いわゆる伸びしろというやつだ。

359 小角 宝梦『イル・ソン・パティ』 :2017/11/27(月) 01:57:25
>>358

(か、彼女はスパイ映画とかが好きなのだろうか?)

やや自分と異なるタイプのノリに内心疑問に思う。
まあ、はたから見たら大して変わらない気もするが。

「よし、やったっ!」

「ふふん――――如何にも、わたしは名探偵。
 しかし、えらんだのは歴史ではなく、わたしのほうさ!」

        「真実はいつもわたしが選び取る!」

「……」

「……お、おほん。失礼。
 わたしとしたことが、少し熱くなってしまった」

勢いにずれた帽子を直しながら、咳払い一つ。
冷静な感じの顔をして――それから笑みを浮かべる。

「おお、やはり分かっているね、きみ!
 探偵らしくていいだろ? お気に入りなんだ。
 着ているだけでこう、全身から知恵がわいてくる」

                バサ

身の丈に合ったサイズの、インバネスコート。
被った帽子と併せて、まるで『探偵小説』の住人。
 
「よ、よしたまえ……ほ、褒めてもなにもでないぞ」

そして自慢気にしてはいたが想定以上に褒められたので、照れた。

             「それよりっ」

「きみの衣装もなかなか似合っていると思うよ。テーマは『アリス』かい?」

何とかペースに持ち直そうと、話題を相手の服に逸らす。わりと本心だ。
自慢じゃないが、小角が着ても似合うような服ではないだろう。たぶん。

360 夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』 :2017/11/27(月) 02:25:32
>>359

「――ふっふっふっ」

目の前にいる探偵姿の少女は、自分が出会ったことのないタイプの人間だった。
姿だけでなく、その内面も。
たまたま出くわしただけだから、詳しく知っているわけじゃない。
それでも、未知の存在に触れることは自分にとって何よりの喜びだ。
サングラスの奥の瞳が好奇心で輝いていることが、その証拠だ。

「そう、『アリス』――なぜなら、私は『アリス』だから」

「もちろん名前がアリスってわけじゃないよ。
 私の名前は、夢見ヶ崎明日美」

「それでも、私はアリスなんだ」

「ただし、『不思議の国』でも『鏡の国』でもないんだな」

「じゃあ、『どこの国』のアリスかっていうと――」

そこで言葉を区切り、悪戯っぽい笑みを浮かべる。

「当ててみてよって言ってみたい気もするんだけど……」

「これは、ちょっと難しいと思うなぁ〜〜〜」

「だから、答え言っちゃった方がいいのかな?」

「――それとも名探偵さんなら解けるかな?」

やや大げさな勿体ぶった言い回しで、そう告げる。
同時に、レンズの奥に見える黒目がちの瞳が、きらりと煌いた。

361 小角 宝梦『イル・ソン・パティ』 :2017/11/27(月) 02:38:49
>>360

「わ、笑うのはよしたまえ――――アリス?
 アリスという名前……ああいや、ちがうのか」

    「あだ名と受け取らせていただこうかな」

バカにされているとは感じないが、
なんとなく不思議な笑いのように感じた。

だけどそれより――また、新たな謎が立ちはだかる。

「むっ……」

しかも、挑戦という形で。
これはノらずにはいられなかった。

            オヅノホウム
「いいだろう、この『小角 宝梦』、
 名探偵を目指す以上謎からは逃げない!」

さりげなく名を名乗り返して、挑戦を受けよう。

もちろん理由あって逃げる可能性もあるのだが、
心持ちの問題だ。戦う前から逃げる気はないのだ。

「だが・・・」
              「ううむ」

(不思議の国のアリスと、鏡の国のアリス……
 タイトルは知っているが、読んだことが無いぞ。
 そこにヒントがあるとすれば、これはまずい)

(あるいは彼女自身の過去……それもわたしは知らない!
 な、難問だ。ユメミガサキアスミ……ユメミは『夢見』か?)

          「………………ゆ、『夢の国』かい?」

さきほどよりは目に見えて自信の無さそうな声で、答えを導く。

362 夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』 :2017/11/27(月) 02:58:26
>>361

「――近い、かな」

「間違いじゃない、かも」

今、こうして世界が見えるということ。
それは、以前の自分にとっては夢のようなものだった。
だから、夢という答えも、あながち外れているとも言えない。
そもそも、問題からして唐突なものだ。
付き合ってくれた彼女には感謝しなければならないだろう。

「答えはね――」

「『光の国』だよ」

片手でサングラスを外し、ウィンクしてみせる。
強い光を遮るレンズがなくなったせいで、視界がぼやける。
すぐにサングラスをかけ直すと、少しずつ視界はクリアに戻っていった。

「私、生まれつき目が見えなかったんだ。
 でも、最近になって見えるようになったの」

「初めて見えるようになって、色んなものが新鮮に感じた。
 まるで別世界に迷い込んだアリスみたいに」

「だから、私は『光の国のアリス』ってコト」

「でも――『夢の国のアリス』っていうのも素敵かもね」

そう言って、また笑う。
今度は悪戯っぽさはなく、純粋で屈託のない笑いだ。

363 小角 宝梦『イル・ソン・パティ』 :2017/11/27(月) 17:00:54
>>362

「近いのか! じゃあ眠りの国か、ううむ、それとも――――」

                   「光?」

光と、夢。明るいイメージの言葉だと思った。
それ以外になにか、近いものがあるのだろうかとも。
それ以上は小角には推理できていなかった。材料はあった。
サングラス。昼間とはいえ、眩いと思うほどの太陽でもない。

――――はっとさせられたのは、想像が及んでなかったから。

「なっ…………そうなのか」

目。思わず絶句した。どういう顔をすればいいのか分からない。
それでも、夢見ヶ崎の笑みを見て、少しは言葉が喉にのぼって来た。

「それは……おめでとう、と言わせてもらうよ。
 わたしが軽々しく言ってしまっていいのか、わからないが」

              スッ

「きみの顔を見れば、祝うべきなのは間違いないと分かった」

「おめでとう、夢見ヶ崎さん――いや、『光の国のアリス』さん」

いつの間にか、やや俯きがちになっていた顔を上げて、そう言うしかなかった。
おめでとう。ともっと心の底から言いたかったけど、今はまだ言葉だけが精一杯だった。

364 夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』 :2017/11/27(月) 20:46:51
>>363

「ありがとう――オヅノちゃん」

一点の曇りもない笑顔で、お礼を言った。
出会ったばかりなのに、やや馴れ馴れしい感はある。
それでも、素直に感謝しているのは本当のことだ。
文字通り光が溢れんばかりの表情が、それを証明している。

そして――。

「ヘイヘイヘイッ――」

「お願いだから、そんな暗い顔しないでくれよ、スイートハート。
 キュートな君には、明るい顔が一番よく似合ってるよ。
 そのコートがキミに似合ってるのと同じくらいにさぁ〜〜〜」

「――ところで、今ヒマかい?
 良かったら、オレと一緒にショピングでもどう?
 この辺じゃあ一番の店を紹介するからさ」

また悪ノリが始まった。
どこかの映画か何かで見た『プレイボーイ』の影響らしい。
しかし、ただふざけているわけではない。
雰囲気が暗くなりかけたのを察してのことだ。

――私は、いつだって明るい方が好き。
   だって、私は『光の国のアリス』なんだから――

365 小角 宝梦『イル・ソン・パティ』 :2017/11/27(月) 21:21:29
>>364

「れ――礼を言われることはしていないさ」

             「……」

思わず沈黙してしまったから、続く悪ノリは助かった。
小角宝梦はノせられやすい。ゆえに、答えは決まっている。

「……ふふん、言っただろう?
 わたしを褒めても何も出ないと!
 しかし、暗い顔をすべきじゃないのは同感だ」

              フ

微笑を浮かべて、小角はいつもの顔に戻る。
せっかくのお誘いなのだ。今日は、もう用もないし。

(わたしが暗くなってどうする!
 気を使わせてしまったじゃないか)

         (平常心、だ)

「それに……良い推理だね、ひまなんだ。
 どうせなら、きみのおすすめを聞いてみようか」

           ザッ
                  トコ トコ

「一体――どんなところに連れて行ってくれるのかね?」

案内役を買って出たアリスに、白梟のような探偵が着いて行く。
聞いた事も無い物語だが、それが今確かにここにあり――楽しい時間なのだ。

366 夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』 :2017/11/27(月) 22:16:46
>>365

「なぁに――」

「最高にクールでイケてる店だよ、ハニー。
 コレも、そこで買ったのさ」

自分の頭を飾るリボン代わりのスカーフを指差す。
探偵のようなシックな装いとは異なる、様々な色が使われたカラフルな布地。
行き先となるのは、そういった商品を扱っている店のようだ。

「もっとも――」

  ワンダーランド
「『不思議の国』ってワケじゃあないけどね」

普段の自分に戻り、クスッと笑う。
そして、アリスは歩く。

  トッ

時計を持った白ウサギではなく、探偵姿の白梟と共に。

     トッ トッ

奇妙で不思議な取り合わせ。

          トッ トッ トッ

だが――それも一つの物語だ。

367 冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』 :2017/12/27(水) 23:46:27
「え? うん、分かった。後でそっち行くね」

「何食べたいって? うーん……あ」

「夜は焼肉っかなぁー」

ある日の大通り。
一人の少年が歩いている。手には通話中のスマホ。
上着のポケットから何か落ちた。
手袋だ。
右手の手袋がポロリと落ちた。

368 夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』 :2017/12/31(日) 20:37:23
>>367

ブルーのサングラスをかけた少女が歩いている。
格好はパンキッシュなアレンジを加えたアリス風ファッションといったところ。

「お」

歩いている少年を見かけた。
夏に海で会ったことを覚えている。

「ん?」

電話の内容が耳に入った。
そして、手袋が落ちるのが見えた。

「よし」

横から近寄っていく。
何事かを企むような薄笑いの表情で。

「や、レイゼイくん」

「久しぶりだね。ところで今、誰と喋ってたの?」

「さあ、教えてもらおうか!こいつは人質だ!」

言いながら、少年の前に手袋を出してみせる。
もちろん本気ではない。

369 冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』 :2017/12/31(日) 22:05:45
>>368

「あれ、明日見」

「わわわ。手袋なんで?」

「あー違うの。違う違う」

スマホの会話に集中していたため突然の登場に驚いてしまった。
それから手袋に気付いて二度目の驚き。

「お姉さん。前に話したっけ」

「お世話になってる人」

スマホを耳から離して、囁くように言う。
スマホの画面には通話中であることを示す画面が浮かぶ。

370 夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』 :2017/12/31(日) 22:39:59
>>369

「聞いた聞いた。マッドサイエンティストのお姉さんでしょ」

「あ、これ返すよ。そこに落ちてた」

手袋はあっさりと返した。
それはいいとして、このお姉さんとやらには興味がある。
前に聞いた限りでは、色々と実験とかしてるらしい。

「私もちょっと挨拶したいな、そのお姉さんに」

「いい?」

そう言って片手を差し出す。
直接話をすることができれば、謎の片鱗が見えるかもしれない。

371 冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』 :2017/12/31(日) 23:21:22
>>370

「マッド? いや、そこまで危なくはないと思うけど……?」

「あぁありがと」

手袋を受け取り上着のポケットに押し込んだ。
先程同じようにして落としたのは忘れているのか、覚えているがそうしているのか。

「挨拶? 僕はいいけど」

「もしもし? うん、ごめんね。えっと、明日美が話がしたいって」

「え? いや、違うよ。トモダチ? うん、そんな感じ」

「……はい」

スマホを差し出した。

372 夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』 :2018/01/01(月) 00:07:37
>>371

「センキュー!」

お礼を言ってスマホを受け取る。
さて、どう切り出そうかな。
相手はかなり変わった人みたいだし。
でも、今は情報が少ないからなぁ。

――ま、普通にすればいいか。

「もしもし?はじめまして」

「私、レイゼイくんの友達で、夢見ヶ崎明日美っていいます」

「前にレイゼイくんからお姉さんの話を聞いてたので、ご挨拶させてもらいましたぁ」

こんな感じでいいかな?

373 冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』 :2018/01/01(月) 00:48:22
>>372

『ああ! どうもどうもー』

『自分はツクモってゆーのねー?』

聞こえてきたのはまったりとしていて微妙に元気な声だ。
騒ぎはしないものの声のトーンは明るい。

『咲ちゃんの友達? ホントホント?』

『あーでも明日美ちゃんって聞いたことあるかもー?』

『海で遊んでくれた子?』

374 夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』 :2018/01/01(月) 01:10:16
>>373

「そーです、そーです」

「一緒にビーチバレーやってましたぁ」

もっとトッピな人かと思った。
でも、意外と普通の対応で、少し驚いた。

「あの時は楽しかったなぁ」

「レイゼイくん、私のことなんて言ってました?」

喋りながら、ちらっと横目で少年の顔を窺う。
特に深い意味はないが。

375 冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』 :2018/01/01(月) 01:35:25
>>374

『ふーん。そうなんだー』

おかしな反応はない。
さすがにおかしな人がすぎると冷泉咲も懐かないという事なのだろうか。

『咲ちゃんはねぇ、初対面なのに話しやすい人だったって言ってたよー』

『だーけーどー自分ちょっとジェラシー。ジェラっちゃったんだよねぇ』

咲が君を見ている。
特に何か意味のある視線でもないが。
目が合っている。

『自分は咲ちゃんの変化を求めたー』

『だけど考えたの。あの子がどう変化するは興味深い』

『でもでも変わっちゃった彼の中にある魂はどうなんだろう』

『実験で得られる成果が常にプラスではないのと同じように人間関係もプラスだけを生まない』

『もちろん、マイナスが悪いという訳でもないけど』

『はっきりと言って自分は嫉妬を感じるよ。自分は彼の変化に立ち会えない』

『同時に彼が自分以外の色を飲み込んでいく様は喜びと悲しみを教えてくれるおかしな教師なーんーだー』

少し、興奮しているようだ。

「?」

『変化や成長は破壊と創造に等しく、自分との会話によって君や咲ちゃんも破壊と創造を繰り返してる……』

『……あーちょっと待って興奮し過ぎちゃった』

『えっと、とにかくとにかく咲ちゃんは明日美ちゃんを気に入ってるってわけ!』

376 夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』 :2018/01/01(月) 01:58:23
>>375

「?????」

頭上に大量の疑問符が浮かぶ。
自分が馬鹿だとは思わない。
だけど、言われて即座に理解するにはツクモの言葉は難解すぎた。

しかし、彼女が複雑な感情を抱いていることは分かった。
そして、彼女が自分の期待していた通りの人間であることも。

「あー、そーなんですかぁ」

「良かったなぁ良かった、うんうん」

謎に包まれたツクモの一端を知ることができた。
もっと深く突っ込んでもいいけど、さらに嫉妬が強くなって嫌われると話しにくくなる。
話題を変えよう。

「そういえば、ツクモさんは実験するのがお好きなんですよねぇ?」

「最近はどんなことをしてるんですかぁ?」

377 冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』 :2018/01/01(月) 02:21:06
>>376

矢継ぎ早に出る言葉は相手が理解できるかというコミュニケーションとしての性質を少々欠いているのだろう。

『ごめんねーほんとー』

『どうにも気まぐれな割にはガーッと言っちゃうんだよねぇ』

『実験? 最近は過冷却水とかブタンガスとか?』

378 夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』 :2018/01/01(月) 18:36:15
>>377

「あははは、いいですって。私も時々そんなことあるしぃ」

「カレイキャクスイ……豚、ガス……?」

何か分からないが、科学とかそういう専門的な言葉らしい。
聞いたら説明してくれるだろうか。
いや、説明されても余計分からなくなるだけかもしれない。
聞くのはやめよう。

「へぇぇぇ〜、興味あるなぁ」

「いつか私も見せてもらいたいな、なぁんて」

意味は分からなくとも、実験という響きには興味をそそられる。
未知の世界の匂いを感じる言葉だ。
それに、ツクモに対しても興味はある。

379 冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』 :2018/01/01(月) 20:08:54
>>378

『そー。過冷却水にブタンガスねぇ』


相手が理解しているのかいないのかあまり気にしている雰囲気でもない。
ただどういうものかの質問がなされなかったので特にそれ以上説明することもなかった。

『別にうち来てくれたらやるやるー』

『咲ちゃんの連絡先とか聞いといたらー?』

『でも今日はダメだよーまたジェラっちゃっうかーらー』

けらけら笑ってツクモは答えた。
実験を見に行く分には大丈夫なようだ。
タイミングというのはあるが。
話はひと段落といったところだ。
咲に電話を戻してもいいしもう少し話しても大丈夫だろう。

380 夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』 :2018/01/01(月) 20:37:12
>>379

「オコトバに甘えて、そのウチ行かせてもらいますねー。そのウチ」

言葉で説明されるより、自分の目で実際に見る方がいい。
頭でアレコレ考えるのではなく、五感を通して体験し、感じること。
それが自分の望みだ。

「んじゃ、この辺でレイゼイくんに代わりますね。ありがとうございましたぁ」

ツクモに挨拶し、咲にスマホを渡す。
こうして話ができたし、次は実際に会うこともできるかもしれない。
収穫としては十分だ。
上出来、上出来。

「――面白い人だね、お姉さん」

電話口にいるツクモに聞こえないような小さな声で、咲に感想を漏らす。
一言で表現するとしたら、そういった印象を受けた。

381 冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』 :2018/01/01(月) 20:43:28
>>380

『はーい。ばいばーい』

頭で理解して見るか、目で見て理解するか。
進み方は人それぞれだ。

「ね? 言ったでしょ? もう、そういうんじゃないって」

「じゃあね」

スマホを受け取り咲が通話を終了した。

「でしょ? 楽しい人」

382 夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』 :2018/01/01(月) 21:17:15
>>381

「うんうん。少なく見積もっても、私と同じくらい面白いね」

咲の言葉に何度か頷いて納得の意思を示す。
それに、咲には強く執着している様子だった。
今は咲が説明してくれたから、友達以外の関係かどうかという疑いは晴れたらしい。

けど、もし彼女に会う機会があったなら、目の前ではあまり咲に近付きすぎない方が良さそうだ。
面と向かってジェラシー入っちゃうと、さっきよりもヤバくなりそう。
こえー、こえー。

「あっ、そうだ。連絡先教えてくれない?」

「また今度、私も実験とか見てみたいから」

「ついでに私のも教えとく。なんか変わったこととか珍しいこととかあったら教えて」

ツクモに言われた通り、連絡先を交換しよう。
それが終わったら、自分の当初の目的地へ向かうことにする。
ネイルの新しいのが欲しいんだよね。

383 冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』 :2018/01/01(月) 22:47:37
>>382

「そうだね!」

自分と同じくらい面白いという言葉に頷いて同意した。

「連絡先? いいよ。えっとね、これ」

スマホを君の方に向けた。
連絡先の交換を拒むことは無かった。
これで元の目的地に行けるだろう。

「じゃ、また今度とか」

384 夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』 :2018/01/01(月) 23:18:15
>>383

「あっはっはっ、照れるなぁ〜〜〜!」

同意されてしまった。
これをどう受け取るかは人によると思う。
とりあえず私は喜んだ。
面白いというのは、私にとっては褒め言葉だから。

「ありがとありがと。これでまた一つ入り口ができた」

入り口――それは未知の世界への扉だ。
人の数だけそれがある。
そして、それは多ければ多いほど良いのだ。

「うんうん、また今度ね」

「今日は焼肉だっけ?ウチは何かなぁ?」

「ま、いいや!これからネイルチップ買いに行くんだ。新しいの作りたいからさ!」

「――じゃ、レイゼイくん、またね!」

一通りの挨拶と軽い身の上話を終えてから、手を振って立ち去っていく。
その姿は徐々に遠ざかり、やがて見えなくなった。

385 宗像征爾『アヴィーチー』 :2018/02/04(日) 16:59:33

カーキ色の作業服を着た肉体労働者風の男が、大通りを歩いている。
四十台半ばの年齢だが、その屈強な体格には身体的な衰えは見えない。
鋭い視線には虚無的な光があった。

「この辺りも、随分と変わったものだ」

自分が刑務所にいた二十年の間に、色々なものが新しくなった。
街も、物も、人も、時代と共に移り変わっていく。
この場所も例外ではないようだ。

「ここは――」

「この店が生き残っていたとは驚いたな」

商店街の片隅にある一軒の雑貨屋の前で立ち止まり、思わずそう零した。
自分が幼い頃からあった店だ。
てっきり、とっくに潰れているものと思っていた。

「おやおや」

「誰かと思えば坊主かい。ようやく戻ってきたようだねえ」

中に入っていくと、奥にいた顔なじみの老婆に声を掛けられた。
この婆さんには、成人を過ぎてからも小僧扱いされてきた。
どうやら、それは今も変わらないらしい。

「婆さん、あんたもまだ生きていたのか。ますます驚いた」

「あたしは生涯現役なんだよ。まったく、いい若いもんがそんな元気のない顔をしてんじゃあないよ。シャキッとおし、シャキッと」

「俺はもう若くはないぞ」

「年上に口答えするんじゃないよ。あたしから見れば、まだまだガキさね」

腰の曲がった老婆は、ブツブツ言いながら、また奥へ引っ込んでいった。
俺はそれを見送り、何気なく店内を見て回る。
様々な品物を雑多に扱う昔ながらの雑貨屋といった感じで、基本的には俺が入所する前から変わっていない。

「――変わらないものもあるということか」

この店と、店主の老婆を思い出し、ポツリと呟いた。

386 硯 研一郎『RXオーバードライブ』 :2018/02/04(日) 20:23:46
>>885
「こう言った、オブラートに包んだ表現をすれば
”昔ながらの”商店が、
どうやって生計を立ててるか気にならないかい。
火曜日の9時くらいにやっている人情ドラマでは、
こんなひなびた商店街に巨大なショッピングモールが出来て、
彼らを悪と決めつけて追い出すために躍起になる。
だが、地元の客が来る事に胡座をかいて経営努力を行なう商店なんて、
滅びて当然じゃあないか、って俺の母さんが言っていたよ」


気が付けば真後ろに、鼻ピアスに、髪を派手に金色に染めた
シュプリームのダウンを着たヤンキー風の男子高校生がいた。


「俺は、明日学校で書道の授業があるから墨汁を買いに来たんだが
あなたは何を買いに来たんですか」

387 宗像征爾『アヴィーチー』 :2018/02/04(日) 21:17:28
>>386

「大いに関心があると言いたいところだが、生憎そうでもない。
 この店がなくなろうと俺にさしたる影響は与えないし、その逆も同じだろう。
 実際、ここに来るのも二十年ぶりだ」

振り向いて相手の姿を一瞥する。
学生か。
スタイルは違えど、こういったタイプの生徒がいるのも変わらないようだな。

「俺は散歩の途中で立ち寄っただけだ。
 客観的に見れば冷やかしだな」

「だが、歩いて少し喉が渇いた。
 飲み物でも買うことにしよう」

冷蔵ケースから缶入りのお茶を取り出し、会計を済ませる。
そして、再び歩いてきて棚の一角を指差す。

「墨汁ならそこにある。最近でも習字の授業があるのか。
 変わらないものというのも案外あるものだ」

老婆はレジの前にいた。
買うのであれば、問題なく買えるだろう。

388 硯 研一郎『RXオーバードライブ』 :2018/02/04(日) 21:38:29
>>387
「20年」

思わず声を上げる。

「俺は生まれていないが、20年前は今世間を騒がせてる小室哲哉の、
隆盛期だったらしい。
友達の家のパソコンの『YouTube』って奴で、
小室哲哉の『globe』ってバンドの、楽曲を聴かせてもらったが」

グイッ


「とてもとても良かった。
特に『Joy to the Love』って奴が彼氏と付き合いたての、
女性の気持ちを上手く描いていて、とてもとてもよかった。
勿論、俺は女の子と付き合った経験なんてないんだが」

墨汁と一緒にショーケースに入ったコーラを手に取り、
レジへと運んでいく。

「俺は近所の『玩具屋』の小倅なんだが、久しぶりに近所の商店街で買ったよ。
俺は字が汚い事にコンプレックスを抱いてるし、
まだまだ若輩者だから変わらない美しさって言う文化もよく分からないし、
マジな話、書道なんてこれっぽちもやりたくないんだが。
お婆さん、これください」

389 宗像征爾『アヴィーチー』 :2018/02/04(日) 22:39:34
>>388

「なるほど」

「俺は音楽に造詣が深い方ではないので曲は知らないが、その人名くらいは耳にした覚えがある。
 俺の知人は、昔よく聴いていたような気がする。
 確かに流行っていたようだ」

軽く頷いて同意の意思を示す。
この手の話題は、俺よりもあいつの方が得意だったか。
こんなところで、あいつのことを思い出すとは思わなかった。

「過去というのは過去でしかないが、同時に事実でもある。
 一時期でも栄えたのなら、それはそれで立派なことなのだろうな。
 栄えたことのない人間から見ると、そう思える」

店内の隅の方へ行って、買った緑茶を開けて飲み始める。

「ほう、君は商店街の関係者だったのか。それは意外だ」

「字が綺麗であることに悪いことはないだろうな。
 だが、書道をしたからといって字が綺麗になるという保証はできないが。
 幸い、字が綺麗でなくとも生きていくことに大きな支障はない」

レジの前に座った老婆は、年季を感じさせる無駄のない動きで手際よく会計を行う。
墨汁とコーラ合わせて税込み300円のようだ。
老婆は、袋が必要かどうかを尋ねている。

390 硯 研一郎『RXオーバードライブ』 :2018/02/04(日) 23:07:28
>>389
「俺が商店の息子なのが、意外なのかい。
俺はあなたみたいな強面がこんな所で冷やかしをしてる方が意外だ。
袋は結構だ。エコだよエコ。
ーーだが。俺がレジ袋や割り箸を断った所で
石油や木の伐採量が変わるとは思わないが、
やらない悪よりやる偽善なのかい」

カラージーンズのポケットから小銭を取り出し老婆に渡すと、
墨汁とコーラを受け取り、作業服の男に続く。

プシュ!

「地球温暖化で生態系はどんどん崩れていくが、
恐らくコーラは20年前から美味いんだろうな。
俺は酒も飲まないしタバコも吸わない不良だ。
俺はコーラを裏切らないし、コーラは俺を裏切らない。
貴方と話してる今これを飲めば変わらないものの美しさを実感できるかもしれない。
ーーいただき『グビリ』ます」

コーラと間違えて墨汁の封を開け、
それに気づかないまま口元へと運び

「『ビューーーーー!!!!』」

派手に吹き出した。鄙びた文房具店、
墨汁の匂いが宗像の鼻腔を刺激する。

391 宗像征爾『アヴィーチー』 :2018/02/05(月) 00:34:01
>>390

「川や池にアザラシが紛れ込むことは確かに珍しいが、決して有り得なくはない。
 今ここに俺がいるのも、それと似たようなものだ。
 街中にアザラシが現れるよりは、二十年間現れなかった男が姿を見せる方が確立は高いだろう」

事も無げに淡々と答え、目の前の光景を黙って見つめる。
少年が開封したのがコーラではないことには気付いていた。
だが、おそらく冗談か何かだろうと思っていたため、特に止めることはしなかった。
よって、少年が墨汁を吹き出したところで、ようやく間違いであったことを察した。
しばらく無言のまま表情を変えず、両目だけをやや見開く。

「俺に言えることは――」

「君を裏切ったのは墨汁であってコーラではない。
 コーラは今でも君の味方だ。
 そのことは、君が片手に持っているコーラで口の中を洗い流せば実感できるだろう」

鼻に付く墨汁の匂いに、軽く眉を顰める。
懐かしい匂いと言えなくもないが、だからといって心地良い香りでもない。
体から墨汁の匂いを追い出すように、自身も緑茶を呷る。

392 硯 研一郎『RXオーバードライブ』 :2018/02/05(月) 06:19:28
>>391
「エフッ、エフッ。
鼻まで行かなくて、エフッ、よかった」

口内に拡がる墨の味に思わず咳き込むながら、
文房具屋の商品に付着していないかよく確認する。
そして落ち着いた所でコーラを流し込む。

「ーー貴方の言ってる事は俺にはよくわからないが、
とにかくコーラは美味いという事はわかったよ。
一流の左官屋の手よって塗られた壁土のような汚れのない美味さだ。
なぁ、どうでもいいけれど今の言い回し『村上春樹』ぽくないかい?
無人島か刑務所か宇宙ステーションか、どこにいたかはわからないが、
20年前にも村上春樹は居ただろう?」


ゴシッ ゴシッ ゴシッ


老婆に店を汚したことを謝罪し、
申し訳ないついでにモップと水を張ったバケツを貸してもらうと、床掃除を始める。

「汚したついでだ。綺麗にしないとな」

393 宗像征爾『アヴィーチー』 :2018/02/05(月) 17:26:26
>>392

「君がいたと言うなら、多分いたのだろうな。
 俺は教養のある人間ではないので、それについては何とも言えないが」

そこまで言って、缶入りの緑茶を最後まで飲み干す。
そして、外に設置されているゴミ箱に空き缶を放り込んだ。
投げ込まれた缶が、軽く乾いた音を立てる。

「二十年間を無人島で過ごした男が帰ってきたとしたら、ちょっとしたニュースになりそうだ。
 宇宙飛行士が二十年ぶりに地球に帰還というのも世間の話題になるだろう。
 刑務所に二十年いた男が出所したとしても、それがニュースになることは少ないだろうな」

幸いなことに、墨汁で汚れたのは店の床だけだった。
老婆も特に文句を言うことはなく、寛容に対応する。
バケツとモップも問題なく貸して貰えた。

「床が汚れたのは、目の前にいながら止めなかった俺にも幾らかの責任がある。手伝おう。
 ちょうど仕事が休みですることがなくて困っていたところだ」

そう言って、自身もモップを借りて床を磨き始める。
実際のところ、することがなかったからこそ、自分は今この場所にいた。
何かしらの仕事ができたというのは有り難いことだ。

394 硯 研一郎『RXオーバードライブ』 :2018/02/05(月) 19:15:33
>>393
「果たしてそうかな。
20年も刑務所にブチこまれるなんて、よほどの事だ。
殺人、それにプラスって所じゃあないか。
この間、総合の授業の課外活動で地方裁判所にお邪魔した時に、
地方裁判所の偉い人が教えてくれた。
20年も刑務所に居た人間なんて、『実話ナックル』が放っておくわけがない」


ーーゴシゴシッ

床掃除をしながら、冗談交じりに下世話な週刊誌の名前を挙げる。

「本当に申ッし訳ない。
どう考えても俺が悪いのに嫌な顔一つせずに手伝ってくれるなんて、
貴方はとても良い人なんだな。ありがとうございます。
感謝、感激、カンブリア宮殿ッてヤツだな」

「俺は『硯 研一郎(スズリ ケンイチロウ)』。見ての通り男子高校生だ。
ーー君は誰で、何の仕事をしているんだい?」

395 宗像征爾『アヴィーチー』 :2018/02/05(月) 22:11:26
>>394

「ああ、少なくともまともな人間ではないだろう。
 相応の悪人であることは間違いない。
 よほど手口が残虐だったのかもしれないな」

何気ない口調で答えながら、ふと考える。
そう言われてみれば、ゴシップ誌の片隅にでも載っていないとも限らないか。
もっとも、それを自分の目で確かめてみようという気は起こらないが。

「宗像征爾だ。職業は建築業をやっている。
 より正確に言えば、配管工だな。
 ガス管や水道管に関する工事が主な仕事だ」

『良い人』という言葉を聞いて、表情の乏しい顔に、薄っすらと笑いらしきものが浮かぶ。
自分に対して、そんな言葉が向けられるとは思わなかった。
そのことが、純粋におかしかった。

「どうやら大方片付いたようだ。手伝った代わりといっては何だが、硯――君に頼みがある。
 君の家は玩具屋だったな。俺をそこまで案内してくれないか?
 ここでの冷やかしは、もう十分したからな」

モップを老婆に返しながら、不意に提案を口にした。
掃除の甲斐あって、床はすっかり綺麗になっている。
墨汁が零れる前よりも綺麗になっているように見える程だ。

「玩具で遊ぶような年でもなく、子供もいない俺が行ったところで買うものがあるかどうかは分からないが、
 同僚の子供に何か買うのも悪くないだろう。
 君の所がどんな店なのか、多少の興味もある」

396 硯 研一郎『RXオーバードライブ』 :2018/02/05(月) 22:47:04
>>395
「『配管工』って事は。
征爾さん、君はひょっとしてスーパーマリオなのかい。

俺は姫様を助けたと思ったら、レーサーになったり、またある時はお医者さんになったり、エトセトラ。
俺はそんな真っ赤な配管工のおじさんの事を、心底『リスペクト』しているんだ。
彼と同じ仕事に就いてる君もまた『ドープ』だ。ヤバイ。
ーーもっとも『緑色』の弟にはあまり興味がないがね」

老婆に掃除用具を返却するついでに騒いだ事を詫び、
墨汁とコーラを片手に店を出る。


「『オモチャとゲームのすずり』はそれなりに経営努力をしている個人商店だからな。
『switch』から『竹トンボ』まで幅広く、雑多に揃えている。
それなりに、楽しめるんじゃあないか。喜んで案内するよ。
俺の家の隣には友人の外国人が経営する、
ちょっと小粋な『喫茶店』があるんだ。
征爾さん、せっかくだし後でそこでお茶でもしようか。では行こうか」

397 宗像征爾『アヴィーチー』 :2018/02/05(月) 23:35:51
>>396

「組み立てと取り付け、点検と修理、掘削と埋め込み。
 配管工事と一口に言ってもやることは色々とあるが、大抵は地味な仕事だ。
 水を差すようで悪いが、君の言うような華々しさは俺にはないな」

硯に続いて、自分も店の入り口に向かう。
その直前、知り合いである老婆に向き直り、声を掛ける。

「――そういう訳だ、婆さん。邪魔したな」

「あいよ、またおいで。そっちの坊やもね。
 ……さっきよりはましな顔になったじゃないかい」

俺は老婆の言葉を最後まで聞かずに、そのまま店を出て行った。
次に来た時も、まだこの店は残っているのだろうか。
俺には分からない。
変わるものは変わるし、変わらないものは変わらないのだ。
結局のところ、全ては自然の成り行き次第という奴だろう。

「『スイッチ』を売っているのか?変わっているな」

頭の中には、電気のスイッチのようなものが浮かんでいた。
出所してから、世間の情報は一通り仕入れたが、まだ知らないことも多い。
まあ、行ってみれば分かるだろう。

「喫茶店か。それは楽しみだ。
 ちょうど濃いコーヒーが飲みたいと思っていた。
 『すずり』共々、期待させてもらおう」

398 須々木 遠都『スモールタウン・ヒーロー』 :2018/02/13(火) 00:35:36

「コロッケをひとつ」

 商店街の肉屋で買うコロッケというのはどうしてああも美味いのだろう。

 そもコロッケという惣菜自体が罪だ。
 買ってくるともそもそして不味い割に、自分で作るとなれば存外と手間になる。
 しかし肉屋で売られている揚げたてのものとなれば話は別。
 面倒な手間は全て店側で負担してくれる。
 出来たてのそれに手間賃を求められるようなことも少なく、相場はだいたい150円前後か。

「からしも塗ってください」

 特に、冬場はうまい。そういえば、星見町に雪は降るのだろうか。

399 鈴元 涼『ザ・ギャザリング』 :2018/02/14(水) 23:47:10
>>398

カラコロカラコロ

                  カラコロカラコ

下駄が鳴る。
歩いて来たのは和服を着た少年。
癖のある黒髪をしており、首筋の辺りで織物のミサンガを髪紐がわりにして結んでいる。
首筋や肩にかかるはずだった髪がまとめられ小さな尻尾のようになっていた。

「……」

肉の棚をよく見ている。
品定めをしているのかもしれない。
手には買い物袋。ここも彼の買い物のルートなのだろう。

「ん……なにがええか……」

400 須々木 遠都『スモールタウン・ヒーロー』 :2018/02/15(木) 22:57:10
>>399

 軽やかな音につられて視線を向ける。
 和服。

「……」

 下駄に着物とは風情があるが、この時期に寒くはないのだろうか。
 思いはすれど、口には出さぬ。
 エネルギーの浪費は避ける主義だ。

(目立つだろうに。気にしない人なのだろうか)

 それでも、視線は外さない。

                    「はいよ、コロッケお待ち!」>

 同じ年ほどの少年をじろじろ見ながら、会計を済ませる。

401 鈴元 涼『ザ・ギャザリング』 :2018/02/16(金) 00:00:08
>>400

「合挽きミンチを800」

「あとコロッケ……は、あぁ。ないんやね」

視線を感じてぷいと顔を向ける。

「ん?」

目が合って、鈴元がぺこりと頭を下げた。

402 須々木 遠都『スモールタウン・ヒーロー』 :2018/02/16(金) 00:08:45
>>401

 コロッケはもう売り切れたのだろうか。
 となると、自分が受け取ったこの1つが最後ということになる。

「……」

 まあ、視線が合って会釈を返すくらいは労とは思わない。
 視線はそのまま、手に持ったコロッケへ。

「……」

 押し割ると、芳しい油の香りとともに、湯気が立ち上る。
 それを一口。
 揚げものの美味さの正体は、熱だ。今この一秒ごとに、美味しさは失われていく。

   ザク     モソモソモソ……

403 鈴元 涼『ザ・ギャザリング』 :2018/02/16(金) 00:25:17
>>402

「……」

本来コロッケが置いてあるであろう場所にコロッケの姿はない。
間違えようのない売り切れだ。

「……どうもおおきに」

会計を済ませれば買い物袋の数が増える。

「……」

じぃっとそちらを見つめている。

404 須々木 遠都『スモールタウン・ヒーロー』 :2018/02/16(金) 00:37:51
>>403

「……」

 コロッケを買えなかった少年が、コロッケを食べる自分を、じっと見つめている。

 そこに宿る意味は、果たして何だろうか。
 思考や推察は、たいして労力を伴わない。
 腰を据えて、存分に考えてみよう。
 或いは、向こうから糸口をもらえるだろうか。

「……はっ、ほふ、ほっ……」

 揚げたてのコロッケは熱々だ。
 当然口の中に冷たい空気を入れて、冷まさないといけない。
 必要な行為だ。

 そろそろ、半分を食べ終わる。

405 鈴元 涼『ザ・ギャザリング』 :2018/02/16(金) 00:51:32
>>405

人生にこういった場面があるとしよう。
自身の欲したものをすぐ近くの誰かが持っている。
タッチの差。誰も悪くない。ただ運が悪かっただけ。
そういう状況は生きている間、ないでもない。

「……」

だがそんな時、その人物に譲ってもらうように頼めるだろうか。
天が味方をしなかったのだと諦めた方が賢明ではないか。
さらに言えば今回の対象はコロッケ。
食べ物だしすでに咀嚼されているものだ。
それを譲ってくれなど言えるだろか。

(……)

(美味しそう……いや、あかん。人のもんやし……食い意地はって、はしたないわぁ……)

言えるはずもない。

406 須々木 遠都『スモールタウン・ヒーロー』 :2018/02/16(金) 01:23:09
>>405

 ……まあ、意地の悪い呆けは趣味ではない。
 根負けして視線を逸らす。

「……、……」

 しかし、困った。
 彼はコロッケを食べたかったのだ。
 それは、不可逆の真実。
 知ってしまったからには、目の前で残り半欠けを平らげるような真似は、もう出来ない。
 きっと莫大な労力を要することだろう。心の労力を。

 さりとて、施すというのもあり得ない。
 無償! 奉仕! なんと邪悪な言葉だ……。
 損失を許容するというのは、須々木遠都の信条に反する行為。

 食べることは出来ない。
 施すことも出来ない。
 考える一秒ごとに、揚げたてのコロッケはその価値を失っていく……。


                       じゅわわわわ……。>
                           ゴロン ガロン ゴロン>


「……!!」

 惣菜の棚を凝視する。
 少年が、自分が何を見ているかに気付くように。

 何もこちらは、どうしてもこの『最後のコロッケの半欠け』でなくてもよいのだ。
 味わいは、最初の一口で十分。
 極端な話、あとは体が温まればそれでいい。
 そして、肉屋で売られている総菜はコロッケのみではないだろう。

407 鈴元 涼『ザ・ギャザリング』 :2018/02/16(金) 23:04:21
>>406

「?」

振り返り惣菜の棚を見る。
棚と相手を交互に見て、また小首をかしげる。

「あ」

はっとした顔をして頷く。
これでもいいのかというようにハムカツを指さした。

408 須々木 遠都『スモールタウン・ヒーロー』 :2018/02/16(金) 23:36:39
>>406

 少年の指したハムカツに目をやる。
 塩漬けして加工した豚肉を薄切りにして、シンプルに衣のみをつけた一品。
 腹の具合からしてもちょうど良いだろう。

 ……このまま横着を極めて無言の交渉を進めてもいいのだが。
 意味の取り違いがあれば、それが更なる徒労に繋がるのは目に見えている。

「こちらは、もう既に半分ですが」

 発話はこちらから。特に競っていたわけでもない。

「ハムカツの一枚を、まるごと譲ってもらえるんですか」
「僕は、それでもいいんですが」

 掠れた、覇気の欠片も感じない声音。
 こちらが声を出すのも億劫に聞こえるだろう。

409 <削除> :<削除>
<削除>

410 鈴元 涼『ザ・ギャザリング』 :2018/02/17(土) 23:05:56
>>408

「ええん?」

一言そう言った後にハムカツを購入する。
暖かいハムカツを相手に差し出した。

「はい」

411 須々木 遠都『スモールタウン・ヒーロー』 :2018/02/17(土) 23:44:08
>>410

「はあ、どうも」
(関西弁だ)

 公平な取引には思えないが、まあこちらが得をする分には良い。
 それかきっと、ハムカツがそこまで高くなかったのかもしれない。お安かったのかもしれない。

「そこまでして食べたいものなんですか」
「此処のコロッケ」

 毒気が抜かれてしまった。
 袖振り合うも多生の縁というし、一言二言は交わしていこう。

412 鈴元 涼『ザ・ギャザリング』 :2018/02/18(日) 23:08:53
>>411

「ん? 好きなんよ。ここの味が」

そういって鈴元がふにゃっと笑った。

「僕引っ越してきたんよ」

「それでここの道やらお店やら、はよ覚えようおもて」

「ほんなら、恥ずかしい話やけど迷子になってな。お腹空いたなぁって時にここでコロッケを食べたんよ」

413 須々木 遠都『スモールタウン・ヒーロー』 :2018/02/20(火) 00:25:49
>>412

「……まあ、空き腹には染みるでしょうね」

 苦悩とともにパンを食べたものにしか、……はてその続きはなんだったか。
 いずれにせよ、彼には思い出の味というわけだ。

「この町は広いですから」
「……お気をつけて」

 そう言って、去ろう。
 間食は手短に限る。
 有意義な取引もできた。今日は良い日だったと言えるだろう。

414 鈴元 涼『ザ・ギャザリング』 :2018/02/20(火) 01:08:12
>>413

「この街に来てもう一年くらい経つんやろか」

「思えば遠くまで来たもんやね」

去る相手を見送る。
コロッケを食べてふぅと息を吐く。

「さて、買い物も終わったしどうしよかな」

415 美作くるみ『プラン9・チャンネル7』 :2018/04/20(金) 21:29:23

「――これじゃない。これでもなし」

ショッピングセンター内に設置されているベンチに座ってスマホを弄りながら、つい独り言を零してしまう。
中々いい感じの新しいスニーカーを買ってテンションが上がっていたのが少し前のこと。
今は、少々厄介な問題に突き当たっていた。

「いくつだったかしら?ド忘れしちゃった」

思い出せないのは、スマホのロックナンバーだ。
普段はロックなんて掛けてないのに、なんとなく試してみたのが失敗だった。
ショッピングに夢中になっていたせいで、設定したナンバーをすっかり忘れてしまっていた。

「あ、分かったわ――」

「『直接』聞けば手っ取り早いんじゃない」

スタジャンの肩に、『機械仕掛けの駒鳥』が現れる。
マイクとスピーカーを備えた私の小さな相棒――『プラン9・チャンネル7』だ。
ロックされているスマホを耳に当て、通話をしているかのように声を発する。

「ハロー、調子はどう?ちょっと教えて欲しいことがあるの。いい?」

呼びかける相手は電話の向こうの人間ではなく、手に持っている『スマホ自体』だ。
私の声は、『プラン9・チャンネル7』のマイクを通じて、私のスマホに意思を持たせる。
そして、意思を持ったスマホは私の『支持者』に変わる。

「実はね、ロックのナンバーを忘れて困ってるのよ。あなたなら分かるでしょう。教えて?」

こんな風に喋っていると、なんだかアイドルだった頃を思い出す。
別に、そこまで鼻につくようなキャラ作りはしてなかったつもりだけど。
ラジオDJの今でもね。

《ワカリマシタ、クルミサン。ナンバーハ、『135790』デス。
 スコシデモ、アナタノオヤクニタテルコトヲ、ウレシクオモイマス》

「――ありがと」

『プラン9・チャンネル7』のスピーカーから出力されたスタンド音声の通りに、ナンバーを入力する。
無事にロックが解除された。
『機械の小鳥』を肩に乗せたまま、ほっと安堵のため息をつく。

416 鈴元 涼『ザ・ギャザリング』 :2018/04/23(月) 01:28:21
>>415

「その、お取込み中すいません」

「隣、ええやろか?」

墨色の着物を着た少年が声をかけた。
どうやらベンチの空いている場所に座りたいようだ。
肩ほどまで伸びた黒い癖毛。それを首筋の辺りで髪紐がわりの織物のミサンガで結んでいる。
背の低い少年だった。

417 美作くるみ『プラン9・チャンネル7』 :2018/04/23(月) 15:10:38
>>416

「――んっ?ええ、どうぞ」

少年に気付き、少し横に動いて場所を空ける。
同時に、何か聞いたような声だなと思った。
記憶力は良い方なのだ。
しかし、電話というのは幾らか声が違って聞こえる。
だから、本当に聞き覚えがあるかどうか確信は持てなかった。

(聞いたことがある気がしたんだけど……。気のせいかしら?)

こういうのは、一度気になりだすと確かめたくなる。
だけど、いきなり聞くのも失礼だろう。
その間も、『機械仕掛けの小鳥』は、まだ肩の上に乗っている。
少年の声に気を取られていて、解除するのを忘れていた。
動くことも鳴くこともないので、見ようによってはアクセサリーか何かにも見えるかもしれない。

「素敵なお召し物ね」

少年の着物を見て、感想を漏らす。
正月でもない今の時期に着物姿というのは珍しく、純粋に目を引く。
キャップにスタジャン、ジーンズにスニーカーというラフなアメリカンカジュアルスタイルの自分とは対照的だ。

418 鈴元 涼『ザ・ギャザリング』 :2018/04/23(月) 23:26:08
>>417

「おおきに」

服を褒められ頭を下げる。
それに合わせるように結ばれた髪が尻尾のように揺れる。

「あんさんもきれぇな服やねぇ」

「……美作さん」

ぼそりとそう呟いた。
伏し目がちにそちらを見ている。

(……お休みの日やんね……よかったやろか)

419 美作くるみ『プラン9・チャンネル7』 :2018/04/24(火) 00:06:24
>>418

思い返してみると、やはり聞き覚えがある。
それに、この特徴的な話し方にも覚えがあった。
滅多にない偶然だと思うが、それでも有り得ないことじゃない。

「ありがとう」

「――鈴元さん」

少年に向けて、朗らかに笑う。
彼が私のことが分かったのは、声だろうか。
もっとも、私の顔は番組サイトに掲載されてるから、知られていたとしても特に不思議はない。
だからといって、アイドルだった時代と比べて、呼び掛けられることはあまりない。
今は姿が露出しない仕事だから、当然といえば当然なんだろうけど。

「あの時は、どうもありがとう。久しぶりっていうのも少し変だけど――」
 
「こういう場合は、はじめましてって言うべきかな?」

人との出会いは一期一会というが、やはり再会できると嬉しいと感じる。
再会と呼んでいいのかは分からないけど、全くの初対面とも違う。
いずれにせよ、リスナーと直接顔を合わせられる機会が貴重なのは間違いない。

420 鈴元 涼『ザ・ギャザリング』 :2018/04/24(火) 00:14:53
>>419

「……覚えてくれてはったんやね」

まさか覚えらているとは思わなかったのだろう照れているのか頬を赤くして目を伏せる。
膝の上で両の手がもぞもぞと動いていた。

「は、初めましてやないやろか」

「変な感じやけど多分、そうやと思います」

そう言って少年が笑う。

「そういえば、それはその……さっき話してはったんよね?」

少年の目は肩の方に向いている。
機械仕掛けの小鳥に向けられている。

「あ、すんません……それは個人の事やし、それに今日お休みかなんかなんよね?」

「やのに、声かけてもうて……」

421 美作くるみ『プラン9・チャンネル7』 :2018/04/24(火) 00:48:13
>>420

「私は、これでも記憶力はいい方だから」

「それに、鈴元さんって個性的だから、印象に残ってたの」

驚いたというのは、こちらも同じだった。
こんな具合に呼び掛けられるとは思っていなかったのだから。
ただ、こちらには照れはなく、純粋に嬉しいという思いがあった。

「えっ?ああ、これね」

「うん、話してたわ。ちょっと困ったことがあったから」

「でも、それは解決したから、もう大丈夫よ」

彼は『プラン9・チャンネル7』が見えている。
ということは、彼も私と同じような力を持っているのだろう。
だからどうということもないのだが、不思議な縁のようなものは感じていた。

「私の前に放送してる番組が、今ちょうど時間延長の拡大版をやってるのよ。
 だから、その間、私は少しお休みをもらえたっていうわけなの」

「でも、次は私の番組が拡大版をやることになってるんだけどね」

「それで、今日は買い物しにきたんだけど、声を掛けてもらえて嬉しかったわ」

笑顔のまま言葉を続ける。
アイドルだった昔は呼び掛けられることも多かったから、その時の気持ちを思い出さないと言えば嘘になる。
だが、今はそれとは関係なく喜びを感じていた。

「鈴元さんは、今日は何か用事?」

「粋な格好だし、この近くで催しでも――」

「あ、それとも普段着なのかしら?着慣れてるようだし……」

422 鈴元 涼『ザ・ギャザリング』 :2018/04/24(火) 01:32:03
>>421

「個性的……」

(そやろか?)

思わず小首をかしげる。
他人が自分をどう思っているのかいまいち疎い。

「解決したんやったらそれでええんやけど」

それ以上それが何かを聞きはしなかった。
触れるべきでないというよりは、そこに触れるよりももっと別のことを話したかったのだろう。

「……僕も会えてよかったわぁ」

また顔が少し赤くなった。

「ちょっと買いモンの手伝いで来てて……」

「あぁ、これは普段着。子供の頃からずっとなんよ」

423 美作くるみ『プラン9・チャンネル7』 :2018/04/24(火) 21:34:59
>>422

「ええ、一度出会ったら忘れないくらいにね。少なくとも、私はそう思ってるかな」

彼の周りの人にも、同じことを思っている人は多いのではないだろうか。
実際、彼が街中にいれば、とても目立つだろう。
もし人混みの中で見かけたとしても、見落とすことはないと思う。

「一時はどうなるかことかと思ったけど、この子のお陰で助かったわ」

役目を終えた『プラン9・チャンネル7』を解除する。
これからは、パスワードが分からなくなった時は『本人』に聞くことにしよう。
これで、ロック関連のトラブルとは永遠にサヨナラできる。

「私も買い物に来てるの。新しい靴を買いに、ね」

そう言って、ショップの名前とロゴが入った袋を軽く持ち上げて見せた。
中には、少し前に発売された新作スニーカーの入った箱が入っている。
といっても、中身までは見えないと思うけど。

「――ところで、よく私のことが分かったのね。
 声で?それとも顔でかしら?」

知られていたとしても不思議はないとはいえ、気になるといえば気になる。
アイドル時代の過去の栄光にすがろうとする悪い癖なのかもしれない。
ただ、それを捨て切れない自分がいるのも否定できなかった。

「私の番組、以前から聴いていてくれてた?もしそうだったら嬉しいな。
 もちろん、一度でも聴いてもらえたなら、それだけで十分ありがたいことなんだけどね」

424 鈴元 涼『ザ・ギャザリング』 :2018/04/24(火) 23:28:38
>>423

「おおきに」

何だかそう返してしまう。
人の心に咲く桜の花のような人間を目指しているからだろうか。
人に認識されるのは嫌な事じゃない。
むしろ、嬉しい事だった。

「そうなんや」

(僕のとは違うんやなぁ……当然やけど)

これまでの人生でスタンド使いという人間に多く出会った。
どれも個性的だった。
……少なくとも自分以上に。
何となく俯くと自分の履いている下駄が視界に入った。

「前から聞いてて、それで……えっと、うっとこは姉と兄がおるんやけど」

「お兄ちゃんがアイドル好きなんよ。ご当地アイドル? とかいうんも好きやったり、いろんな人の事知っとって」

「僕がラジオ聞いてる時に教えてくれて……やから、知っとったんよ」

小さなきっかけだった。
だがそれが今こうして縁になった。

「そやから、顔も声も両方知っとるんよ?」

425 美作くるみ『プラン9・チャンネル7』 :2018/04/25(水) 00:25:09
>>424

「へええ――」

思わず声が漏れた。
感嘆のような、あるいは驚きのような声色だった。
もしかすると、その両方だったのかもしれない。

「それを知ってる人に出会えるなんて、いつ振りだろう。
 なんていうか――ちょっと恥ずかしいわね」

「ほとんどの人からは、もう忘れられちゃってるみたいだから」

はにかんだように笑いながら、少しだけ寂しげな表情になる。
瞬間的に、過去の映像が立て続けに頭に浮かんでは消えていった。
照明に彩られた煌びやかなステージ。
美しく飾られた華やかな衣装。
そして、舞台の上で光り輝いている私。
世間の記憶から消えても、私にとっては忘れられない記憶だ。

「私は今の仕事が好きだし、ラジオを聴いてくれる人がいることは、何よりも嬉しいことだと思ってるわ。
 でも、こうして昔のことを覚えててくれる人がいるのも、嬉しいものね」

「どうもありがとう」

そう言って、先程までとは少し感じの違う笑みを浮かべる。
どこか哀愁を感じさせるような微笑みだった。
ただ、それは決して暗いものではなかった。

「昔話をするようになると、老けた証拠だなんていう言葉もあるけどね」

そう言うと、今度は砕けた調子で笑う。

「お兄さんにお礼を言っておいてくれるかしら?
 覚えていてくれてありがとう、ってね」

「それから、もしよかったらこれからもよろしくって伝えて欲しいの」

「もちろん鈴元さんも、これからも応援よろしくね」

「そのお返しに、私も鈴元さんを応援するから」

そう言って、また明るく笑う。

426 鈴元 涼『ザ・ギャザリング』 :2018/04/25(水) 01:18:52
>>425

「忘れられへんよ。ほんまに輝いとる人の事は」

まっすぐな目でそう言った。
それから恥ずかしそうに笑った。
眉がハの字になってしまう。

「ありがとうやなんてそんな……僕はなんもしてへんから……」

「まだ若いやろ?」

冗談に軽い突っ込みもいれつつ。

「うん。もちろん、伝えとく」

それから次の言葉を聞いてはっとした顔になる。

「あ、いや、そんな、あかんよ。応援やなんて……」

「や、多分応援してる色んな人の事美作さん、応援してはると思うんやけど」

わたわたと慌ててる。
目を白黒させて手を動かしている。

「そんな目ぇ見て言われたら、なんかズルしてるみたいや……」

「ほんまに応援してもらいたくなるし、ほんまに嬉しゅうなってまうやんか……」

427 美作くるみ『プラン9・チャンネル7』 :2018/04/25(水) 01:48:53
>>426

「あはは、ごめんね」

慌てる様子を見て、朗らかに笑う。
この少年の反応を見ていると、微笑ましい気分になる。
こんな可愛らしい弟がいる兄と姉は、きっと幸せなのだろう。
そのことが、少し羨ましく思えた。

「そうね、私はみんなに支えてもらってると思うわ。
 そして、私が支えてもらった分だけ、みんなのことを支えたいと思ってるの」

「だから鈴元さんに応援してもらえると嬉しいし、私も鈴元さんのことを応援したいな」

正面から見つめながら、穏やかに問いかける。
自分には弟はいない。
でも、もし自分に弟がいたとしたら、こんな風に接していたかもしれない。
頭の中で、そんなことを考えていた。

「――ダメかしら?」

428 鈴元 涼『ザ・ギャザリング』 :2018/04/25(水) 02:04:20
>>427

「……あかんこと、ないよ」

「そんなん、あかんなんて言われへん」

一つ一つ確認するように言葉を紡ぐ。
それが今の精一杯。
だけどそれでよかった。
それでも思いを伝えられるのだから。

「……僕なんかほんまに支えられてるか分からんけど」

「美作さんみたいな素敵な人とお互い支えあって応援しあってっちゅつのは、ええ事やから」

「なんていうたらええんやろ。あんじょうよろしゅうお願いします」

と言って、目をそらす。

「それから、その、あんまり見つめられたら照れてまうわぁ……」

ゆでダコのような顔でそう告げた。

429 美作くるみ『プラン9・チャンネル7』 :2018/04/25(水) 02:37:04
>>428

「面と向かって素敵だなんて言われると――さすがに照れるわね……。
 でも、嬉しいわ」

言いながら、人差し指で自分の頬を軽く撫でる。
その仕草が、照れた時によくやる癖だった。
ただ、どちらかというと、褒められたことに対する嬉しさの方が強かった。

「ご丁寧にありがとう。こちらこそ、よろしくね」

今の自分は、かつての自分とは違う。
眩いステージに立つことはない。
華やかな衣装を着ることもない。
舞台上で脚光を浴びることもない。
だけど、一つだけ、あの頃と変わらないものがある。

(そう――今の私だって、捨てたもんじゃないわよね)

人に支えられ、そして支えるということ。
それは、アイドルだった頃も、ラジオパーソナリティーである今も変わらない。
そのことを、改めて教えられたような気がした。

「あはは、ごめんなさい。悪気があったわけじゃないの」

「だから許してね」

そう言って、口元に微笑を浮かべたまま、両方の手の平を胸の前で合わせた。
それから、ポケットから名刺入れを取り出し、その中から二枚の名刺を手に取る。
そして、その名刺をそっと差し出した。
パーソナリティーである自分の紹介や、所属するラジオ局と、担当する番組のことなどが記載されている。

「お詫びっていうわけじゃないんだけど、よかったらどうぞ」

「一枚は鈴元さんに。もう一枚はお兄さんに渡して欲しいの」

430 鈴元 涼『ザ・ギャザリング』 :2018/04/25(水) 22:31:31
>>429

名刺を受け取って何が書いてあるか確認する。
それからにっこりと笑う。

「……おおきに」

それからそれを懐から取り出した財布にしまう。

「お礼になるかはわからんけど……」

自分も財布から名刺を取り出す。
そこには『御菓子司 鈴眼』と書かれている。
住所と電話番号が記されている。
派手さのない静かな印象の名刺だ。

「うっとこ和菓子屋なんよ」

「元は京都のお店なんやけどよかったら」

431 美作くるみ『プラン9・チャンネル7』 :2018/04/25(水) 23:42:55
>>430

こちらの名刺は色鮮やかで、インパクトのある見栄えを重視したデザインだった。
個人の名刺ではあるが、番組の宣伝用でもあるから、当然といえば当然なのだが。
『パーソナリティー』の隣に表記された『美作くるみ』の名前は、丸みのある手書き文字で書かれている。
その傍らには、小鳥のイラストが小さく描かれていた。
これも手書きのものらしい。

「へえ、和菓子屋さんなのね。道理で、雅な佇まいだと思ったわ」

「私も甘いものが好きだから、近い内にお邪魔しようかな?」

受け取った名刺をしげしげと眺めてから、ひとまず名刺入れにしまっておく。
応援してくれる人と交流できて、新しいお店も見つけられた。
言うことなし、ありがたいことだ。
明るい笑顔を返し、それからスマホの時計を確認する。

「さて――楽しくお喋りしてリフレッシュできたし、ショッピング再開ね」

「私は小物を見てくるわ。スクーターの鍵に付けるキーホルダーが欲しいの」

そう言って、手に袋を持ってベンチから立ち上がる。

「……今日は本当にありがとうね、鈴元さん。
 あなたのお陰で、また明日からの仕事も頑張れそう」

「それじゃ、またどこかでお会いしましょう!
 ラジオの方も、引き続きよろしくね」

別れの挨拶と共に、軽く手を振る。
引き留められなければ、そのまま次の店に向かおう。
気分は上々だった。
今日は、とてもいい日だ。
心の中で、改めてそう感じていた。

432 今泉『コール・イット・ラヴ』 :2018/05/22(火) 23:37:22

         カリカリカリカリカリ

              カリカリカリカリカリ

「う〜〜〜ん」

喫茶店を一人で勉強に使うのって大学部のセンパイっぽい感じ。
そんな立派な勉強じゃなくて、今日出し忘れた宿題なんだけど。

なんで出し忘れたかって言うとページ数が多すぎたから。
1日寝かしても減るわけない。"先生"が勉強も教えてくれたらいいんだけど。

席はそんなに混んでないから、まだ帰れとは言われない。
窓際の席って客がいる方がツゴーが良いとか聞いた事あるし。
もし外を通りかかった知り合いがいたら見られるのは……別にいいかな。悪い事してないし。

433 夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』 :2018/05/24(木) 00:18:41
>>432

      ピコンッ

その時、ラインの通知が届いた。
送信元は――『ユメミン』だ。
内容は以下の通り。

「わたしは、予知のうりょくにめざめた!
 むむむ……みえてきたぞ!
 ずばり、いまイズミンは喫茶店でひとりでべんきょうしている!」

……顔を上げれば、窓の外に誰かがいるのが見えるだろう。
パンキッシュなアレンジを加えたアリス風ファッションの少女。
今さっき届いたラインの送り主だ。

434 今泉『コール・イット・ラヴ』 :2018/05/24(木) 07:20:55
>>433

              『ピコン』

「ん」

勉強中だけどスマホは机の上に置いている。
だから、画面にポップした通知もすぐに見えた。ユメミンだ。

      キョロキョロ

予知能力、なんてフツーありえない。けどユメミンには『ドクター』がいる。
フツーじゃないことがフツーな人っていうのがこの町にはいる。
もしかしたら本当なのかな。だとしたらテストの答えとか教えてほしいかも。
・・・なんて思いつつ周りを見回したら、窓の外と目が合った。

「あ」「ユメミンじゃないですか!」

声に出しちゃったけど、窓の外にいるんだし聞こえないかな?
小さく手を振ったのは見えたと思うし、窓際にいてよかった。
でもどっちにしても窓越しに話すなんて『ロミジュリ』みたいなのはどうかと思う。

       『ピコン』

だからユメミンにラインを送った。

『奇遇ですね、私もたった今催眠術に目覚めました!
 あなたはだんだんお店に入って来たくな〜〜〜る』

それからシャーペンをページに挟んで、広げていたノートとかを自分の前にちょっとだけコンパクトにまとめた。

435 夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』 :2018/05/24(木) 20:13:57
>>434

    ズッ……
          ズズズ……

「こ、これは……!!足がかってに……!!
 わたしのかんがえとは、むかんけいに動いている……!!」

   カランカラン  
          イラッシャイマセー

――などということはなく、普通に入店した。
元々この店に入るつもりで近くまで来ていたのだ。
そこに友達がいたから、というのも勿論ある。

「さすがはイズミン……よくぞ、このスーパートリックをみやぶった……。
 くそ、イズミンじゃなければだましとおせたのに……!
 でも一秒か二秒くらいはしんじただろう!!こんかいは引き分けだな!!」

「――あ、これとこれとこれください。のみものLサイズで」

とりあえず注文しよう。
そしてイズミンに向き直り、身を乗り出す。
ブルーのサングラス越しの視線は、ノートの方に向いている。

「ふむふむ、かんしんかんしん。
 なんの勉強してるのかな??おしえてあげようか??」

自分に教えられるかどうかなど全く気にせず、そんなことを言う。
自分の成績は、下から数えた方が早い。
特に、『漢字』に弱いのだ。

436 今泉『コール・イット・ラヴ』 :2018/05/24(木) 22:02:27
>>435

「あとちょっとでユメミンの超能力だと納得するところでした!」
「フツーじゃないですけど、そういうのもありえそうだし」「特に私達ならねえ」

「あ、私はアイスミルクティーおかわりで」

飲み物が無くなってたし、ついでに注文しちゃおう。
席を使わせてもらってるお代がわり、っていうのもあるけど。

「これ。現文の宿題です。趣味とその理由を述べよって」
「趣味の理由って難しくないです?」「適当に決めちゃおうかな」

            ジャララッ

シャーペンとスマホを紙の上からどけて、原稿用紙をユメミンに見せてみる。

まだほとんど白紙だし、見せて恥ずかしいものじゃない。
まあ、白紙なのが恥ずかしいっていうのはあるかもしれないけど・・・

437 夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』 :2018/05/24(木) 22:59:56
>>436

「ふむふむ――これ、このままで出すっていうのはどう??」

「シュミというのは、アレコレとリユウを問うものじゃないんじゃないでしょうか??
 ヒトのシュミは、コトバではヒョウゲンできないモノなんです。
 だから、このハクシこそが、シュミというものをイチバンよくあらしていると思いました!!」

「――って感じでテイシュツするとか。
 イズミン、清月の『レジェンド』になっちゃうかも??
 ただし、セキニンはもてない!!」

あたらしいデンセツの誕生だ!!
そのぶん、セイセキがギセイになることになるけど。
あと、センセイにマークされて、ヒョウバンとか諸々もあぶないかもしれない!!

「ふっふっふっ、誰も『チョウノウリョク』じゃないとは言ってないけど??」

   ズギュンッ

不適に笑い、傍らに『ドクター』を発現させた。
少し目を閉じてから、片方の目だけをウィンクするように開く。

「――もうすぐ若い男女が入ってくる。
 女の方はミュール、男の方は新しい革靴を履いてる。
 女は身長160cm前後、男は175cm辺り。多分カップル」

いい加減な『予知』――ではない。
その言葉の後に、今さっき言った通りの二人が入店した。

「金ないから、あんまり頼むなよ」 「兄貴、奢ってくれるって言ったじゃん」

兄妹らしい二人は、言葉を交わしながら離れた席に着いた。

「あ〜〜〜『カップル』じゃなかったかぁ〜〜〜。
 もうちょびっとよく確かめてから言うんだったなぁ〜〜〜。
 あとすこしで花丸満点だったのにぃ〜〜〜。ざんねんざんねん」

そんなことを言いながら、大げさに肩をすくめる。
隣では、『ドクター』も同じポーズをとっている。

438 今泉『コール・イット・ラヴ』 :2018/05/24(木) 23:35:38
>>437

「友達のセンパイが似たような事したらしいんです」
「ハクシで出して『これが俺の答えです』って」
「そしたら大学の推薦も白紙になったらしいですけど」

「ある意味カッコいいですけど、フツーの成績は欲しいんですよねえ」

            クルクルクル

ほとんど空になったグラスの中でストローを回す。
フツーじゃないのはちょっと憧れるけど、なさすぎるのは困るし。
というより、フツーでいいこととだめなことがある? みたいな?

「そういえばドクターの『能力』はまだ知らないんですよね」
「もしかしてほんとに『予知』なんですか?」「だとしたら憧れるかも」

「私も占いとか好きで――――」

なんて言っていたら、ユメミンは言い当てて見せた。
兄妹っぽい二人の客を目で追っていたのに、気づいたら振り向いていた。

「えっ・・・すごいじゃないですか!?」
「今こっち向いてましたよね、ユメミンもドクターも」
「うわーっ、フシギですね・・・ほんとに見てなかったですよね、今?」

                   『ソレハ〝先生〟ガ保証シマス』

「あっ先生。先生が言うならトリックとかじゃないですよね、これ」
                      
                   『今泉サン、夢見ヶ崎サン、コンニチハ』
                   『〝答エ合ワセ〟ヲ 期待シテモ?』

先生は嘘とかはつかない。正直というか、たぶん先生だからだと思う。
まあ見間違えたりはするし、ユメミンの『未来予知』はこのままじゃ謎のまま!

439 夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』 :2018/05/25(金) 00:10:56
>>438

「うまい!!イズミンにザブトンいちまい!!」

こんど使おう、と心の中で思った。
あ、『チョサクケン』とかはらわなきゃダメかな??
まぁ、それはそれとして――。

「ふっふっふっ……。
 それをしったら、きっとイズミンもセンセーもびっくりすることまちがいなし。
 私の『ドクター・ブラインド』は――」

自信満々に笑いながら、もったいぶってタメを作る。
もちろん『予知能力』なんかじゃない。

「――『耳が超いい』!!」

……いざ声に出してみると、なんだか間抜けだった。
しかし、事実は事実だ。
そして、『ドクター』の真髄は、それだけではない。

「じゃ、わかりやすく。ちょっとだけ『チクッ』とするよ」

『ドクター』が腕を伸ばし、『手術用メス』を思わせる爪で、イズミンの肌に軽く触れる。
ほんの少しだけチクリとするが、持ち前の精密さで傷はほとんど付いていない。
厳密には、ごく薄い引っかき傷ができることになるが、目にはほぼ見えない程度だ。

「――どう???」

イズミンは、すぐに気付くだろう。
普段よりも、周りの『音』や『声』がよく聴こえていることに。
それは、単に聴こえやすくなったというレベルではない。
席に座っていながら、店内に存在するありとあらゆる『音』や『声』が聴き取れるのだ。
一言で言うなら、『超人的』と呼んでもいいだろう。

「ユメミンの『未来予知』の秘密――わかったかな??」

440 今泉『コール・イット・ラヴ』 :2018/05/25(金) 00:44:39
>>439

「私じゃなくて私の友達のネタですけどね」
「あ、でもネタ元はセンパイで」「推薦を白紙にしたのは先生、うーん」

「この場合著作者が謎ですし、座布団は私が預かっておきますか!」

               『チャント "返ス" ツモリデスカ?』

「そこはフツーに冗談の一環なのでノーコメントで」
「それにしても、耳ですか?」「それで話の内容を聞いたとか――」

        チクッ

「いっ!」

            『・・・"補修"ヲ 開始シマス』

      シュルルルルルル

ちく、っとした次の瞬間には先生が私の腕にテープを巻いていた。
先生の目線はドクターに向いてる。怒ってるのかな、それとも本能とかなのかな。

「たくは無かったですけど、びっくりしちゃった」
「それで、これが『ドクター』の耳の良さとどう・・・」「んっ!」

「なんだか音がよく聞こえるというか、聞こえすぎるというか」

耳に思わず手を当てた。
周りのボリュームが大きくなったんじゃなくて、自分の耳が良くなったとすぐ分かった。

「プチ手術、ってところですか。予防接種の方が近いのかな」

            『今泉サン、大丈夫デスカ?』
            『傷ハ トテモ浅イデスガ。耳ニ何カ?』

「腕は大丈夫です大丈夫、ちょっと痒かったくらいで〜」
「耳は・・・よく聞こえますねえ、さっきの二人が話してる事とかも」
「あっ、キッチンの会話まで聞こえる?」「面白いですねえ、これ」

「そういうわけで。ばっちり分かっちゃいました、秘密!」

ユメミンの未来予知の正体見たり。いや、聞いたりかな。
私の先生の秘密は前に見せたし、今も見せてるし、これでおあいこって感じがする。

・・・そうこうしているとウエイトレスさんが頼んだものを持ってきたみたい。まだ厨房を出たところだけど。耳が良いって便利。

441 夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』 :2018/05/25(金) 06:26:17
>>440

「ゴメンゴメン、センセーおこんないで??さわっただけだとできないんだもん。
 ちょっとチクッとしないとダメだからさ〜〜〜。ゆるして??」

センセーの反応に若干ヤバげなものを感じながらも、そのリアクションに興味も抱いた。
本体の意思とは無関係に動くスタンドが、どんな行動を取るのか。
その先を見てみたい気もするけど、さすがにちょっとキケンがあぶない。

「そう――ちょっとした『手術』ってやつ。
 わたしの『ドクター』は『移植シュジュチュ』ができる!!
 
 ……『移植手術』ができる!!」

肝心なところでうっかり噛んでしまい、微妙な間を置いてから言い直した。
新人シャンソン歌手の新春シャンソンショー!!
舌の動きを滑らかにするためにボイストレーニングが必要かもしれない。

「で――いま『ドクター』の『耳の良さ』をイズミンに『移植』してみた。
 そのあいだ『ドクター』は耳が聞こえなくなって、かわりにイズミンの耳が『超よくなった』ってこと」

「いまは『お店の中』だからこれくらいだけど、
 外でやったら、それはもう、ものスゴイことに……!!
 そこらじゅう『音だらけ』になるから、なれないと大変にタイヘンだけど……」

大量の音の中から必要な音だけを聴き取るというのは、多少のコツがいる。
自分も初めてやってみた時は、あやうく耳がぶっこわれそうになった。
今は、その辺の感覚みたいなものが、なんとなく掴めるようになっている。

「そうそう、わたしなんて、たまに人のないしょばなしをコッソリと……。
 『ちょびっと』だけね、ホントに『ちょびっと』だけ。
 なんていうか『たまたま耳に入っちゃった』っていうかぁ……。
 だけど、これがまたおもしろいのなんの……。
 いやぁ〜〜〜、ヒトとヒトのカンケイってのはフクザツですなぁ〜〜〜」

ベツに積極的にアクヨウしてるわけじゃないよ??
いや、ふつうのアクヨウだってベツにしてないけど。
うん、してない。ぜんぜんまったくしてない。
すくなくとも、わたしが『アクヨウだとおもってること』はしてないんだから。
このジュンスイなヒトミをみれば、それがつたわるはず……!!

「――あ、きてるね。うんうん、きてるきてる」

イズミンの意識が厨房に向いた瞬間、これ幸いとばかりにすかさず便乗する。
そして、少し意識を集中して、もう一つ『予言』をしてみる。
さっきはちょっとだけ外してしまったからだ。

「私達から見て、トレイの右手前にイズミンの『アイスミルクティー』、
 左手前に私の『ホワイトショコラストロベリーラテ』。
 左奥に『クラブハウスサンド』、右奥に『ほうじ茶プリン』」

ウエイトレスが運んできたトレイには、そのように品物が並んでいるはずだ。
といっても、『ドクター』の『超聴覚』はイズミンに移植中なので、音で聴いたわけじゃない。
『ドクター』は『聴覚』だけじゃなく、『嗅覚』も同じくらいに『超人的』だ。
それを頼りにして、『匂い』の漂う方向と距離から計算した結果だった。
それはともかく、おなか空いてるから早く食べたい。

442 今泉『コール・イット・ラヴ』 :2018/05/26(土) 00:28:35
>>441

         『怒ッテハ イマセンヨ』
         
「先生が何考えてるのかは私も分からないんですよね〜」
「でも私は怒ってないし」「先生にも文句は言わせませんよ!」

         『何モ 無イノナラ 文句ナンテ言イマセンヨ』
         『夢見ヶ崎サン、怖ガラセテ シマッタナラ スミマセン』

「との事ですし、大丈夫ですよユメミン」
「それにしても『移植しゅず……手術』ですか」
「やっぱ言いにくっ」「ともかく本格的にドクターな感じですねえ」

そういえば前に会った時も手術って言ってた。
それで、あの時も言いにくかったのも覚えてる。
初めて会った時のことだし、忘れるわけない。

「フツーに手慣れてるんですねえ」「流石本家本元」
「私も話は聞こえるけど、テレビを何個も同時に見てる感じで」

話からするにユメミンはこの能力を上手く使ってる、みたい。
もしかしたら、それは『盗み聞き』とかなのかもしれない。
ちょっとフツーじゃないけど、そんなに目くじら立てる事でもない。

「どうにも、細かい内容は頭に・・・って」

「え、音だけでメニューまで分かるんですか!?」
「ん、あれ、でも聴覚は今私が持ってるんですよね」

「・・・??」「もしや、ドクターには第二の能力が」
「いや、でも能力が二つも三つもあるのは変ですよねえ」「先生は一つだし」

               コト

ウエイトレスさんがテーブルにユメミンの予知通りのトレイを置いた。

よく分からなくなってきたし、甘い物でも飲んで思考力を研ぎすまそう。
今思ったら、ロイヤルミルクティーにすればよかったかも。

「ユメミン、この問題の答え合わせもお願い出来ます?」
「それとももうちょっと自分で考えなさい!ってタイプの問題?」

443 夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』 :2018/05/26(土) 15:13:30
>>442

「あ〜〜〜、ハラへったハラへった。
 きょうは、あちこちイッパイあるいてみてまわったから、チョーおなかすいた。
 うむうむ、ウマいウマい。ガス欠のおなかにしみわたるぜ〜〜〜」

とりあえず注文したクラブハウスサンドにかじりついた。
グリルしたチキンとアボカド、卵、チーズ、トマトが挟んであり、なかなかに分厚い。
付け合せにフライドポテトも乗っている。
軽食ではあるが、割とガッツリ系だ。
今日は――というか今日も、新しい発見を求めて町中を歩き回っていた。
そのせいで、エネルギーが足りなくなっていたところだ。

「『ドクター』も『ノーリョク』は一つだよ。『ノーリョク』はね。
 なんていうかぁ、ちょっと『ヒミツ』があるんだよねぇ」

フライドポテトをつまみつつ、いたずらっぽく笑う。
実際、『ドクター』の能力は『センセー』と同じく一つしかない。
だから、これは能力ではなく特性のようなものだ。

「ふっふっ、そういわれると、なんかジラしたくなっちゃうなぁ〜〜〜。
 まぁ、そんなにひっぱるようなことでもないし、サクッとこたえあわせしちゃおっかなぁ。
 でも、そのまんまおしえるっていうのもツマンナイしぃ。
 んじゃ、かぁるく『ヒント』をだしてっと――」

「あ、センセー、『おてあて』ヨロシク」

     スゥッ

『ドクター』の爪で、イズミンの肌に軽く触れる。
爪の先で薄くなぞるようにしているので、できる傷は極小になるはずだ。
同時に、イズミンに移植した『超聴覚』を解除した。

「――ババーン!!!ってね」

    ド ド ド ド ド ド ド ド ド

アイスミルクティーを口に含んだ瞬間、『それ』が分かるだろう。
先程まで飲んでいたものと比べて、明らかに『違う』のだ。
飲み物の『味』が、目が覚めるように『鮮烈』に感じられる。
そればかりか、ミルクティーを構成する材料や、それら一つ一つが全体の何割くらいかまで把握でき、
全体の一割にも満たない隠し味の存在にも鋭く気付けるほどだ。
たとえるなら、『何十年間も世界中の料理を食べ歩いたグルメ評論家』以上に舌が肥えたという感じだった。

だけど、飲み物に変化があったわけじゃない。
『聴覚』の代わりにイズミンに移植したのは、『ドクター』の『超味覚』だ。
『超人的な味覚』の影響で、イズミンの舌が一瞬で一気に肥えたというわけだ。

「3、2、1……せいげんじかんしゅうりょう!!
 さてさて、シュツジョウシャのみなさんのカイトウをみてみましょう。
 それではイズミンせんしゅ!!おこたえをどうぞ!!」

444 今泉『コール・イット・ラヴ』 :2018/05/26(土) 19:21:24
>>443

「どこか遊びに行ってたんですか?」
「あ、先生『補修』お願いします」

          『・・・オ願イサレナクテモ、補修ハシマスガ』
          『ホドホドニ シテ下サイ』『ワザト傷ツクヨウナコトハ』

「分かってますよ、でも気になるじゃないですか」
「フツーじゃないとは思いますけど、痛くもないですし」
「痛かったり痕が残るならフツーにやらないですよ」

             チク

          『・・・』

机の上に伸ばした左腕に一瞬だけ違和感があった。
その次の瞬間には先生が手を伸ばして、テープを巻いていた。

「先生、ありがとうございます」
「それで、今度は何を・・・」

                   ゴク

「んん!?」

ミルクティーが舌に触れた。それがはっきりわかった。
それだけじゃなくて、普段なんとなく流し込んでた味がわかった。
わかったっていうのは甘いとか渋いとかじゃなくて、もっと『言葉』だ。

・・・私がそれを言葉に出来たら、作文も楽なんだろうけど。

          『今泉サン、ドウナサイマシタカ』

「分かった! 分かりましたよ、ドクターの能力の正体」
「耳がいいだけじゃなくて、舌も・・・いえ」「鼻とか目も」
「そう、えーと、『五感』というのが鋭い!」
「そしてそれを移植できる・・・これなら一つでしょう」

いつのまにか耳はふつうになっていた。
移植した感覚はすぐに戻せるって事なのかな。

「今の予知は・・・匂い、それかガラスに反射したのを見たとか?」

この味覚からすると、どっちも出来なくはなさそうな気はする。
テストとかでもあるんだよね、こういう『これ!』って答案。
それが絶対あってるとは限らないんだけど、期待はしていい、はず。

「どうです、私の回答。ユメミン的には100点中何点ですかね」
「あ、マルかバツかだけでもいいですよ」「『部分点』があれば嬉しいですけど」

445 夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』 :2018/05/26(土) 21:51:25
>>444

「いやー、ちょっとしたぼうけんってとこ。
 なんか『オモシロソーなみせ』とかないかなぁって。
 ここはたまによるんだけど、なかなかいいよねー」

   ムッシャムッシャムッシャ
              ズズスズ゙ーーーー

喋っている間に、クラブハウスサンドとフライドポテトを平らげる。
その次にホワイトショコラストロベリーラテを飲んで口直しだ。
うむうむ、これもイケる。

「そーそー、『ワルいアソビ』はホドホドにしとかないとセンセーにおこられちゃうから。
 リョーカイしました、センセー!!
 でも、ふたりともなんにでもキョーミをしめすトシゴロなんだし、ちょっとくらいは、ね??ね??」

あまり固い感じではないが、一応の弁解を済ませる。
もちろん、言われなくても痛いこととか傷跡が残るようなことはしない。
『ドクター』の外科手術のような精密さなら、そうならないように繊細な微調整が可能だ。

「――う〜〜〜ん……『90点』!!
 おしい!!もうちょいで満点花丸だったのに!!」

「さっきのは『匂い』であてたっていうのは……だいせいかい!!
 いまは、イズミンに『ドクター』の『舌の良さ』を移植してる。
 だから、『ドクター』は『耳も鼻も舌も超イイ』」

「だいたいあってるんだけど……『イッコ』だけちがうんだよねぇ。
 よ〜〜〜くみてみたら、ひょっとするとわかっちゃうかもぉ??」

そう言いながら、自分の傍らに佇む分身――『ドクター』に視線を向ける。
その両目は、相変わらず固く閉じられていた。
目が存在しないというわけではなく、目そのものは確かに備わっている。
ただ、それがずっと閉じっぱなしなのだ。
考えてみれば、今まで一度も目が開いた所を見ていないことに気付くだろう。

  ……『L(エル)』 『I(アイ)』 『G(ジー)』 『H(エイチ)』 『T(ティー)』……

ふと、『ドクター』が、前に聞いたのと同じ言葉を呟いた。
以前と同様に、男とも女ともつかない無機質で淡々とした口調だ。
その五つのアルファベットを順番に並べれば、一つの単語が出来上がることになる。

「ジャジャン!!さいしゅうもんだい――あとの『イッコ』はなんでしょうか??
 これがとけたらポイントが2ばいだ!!」

446 今泉『コール・イット・ラヴ』 :2018/05/26(土) 23:28:43
>>445

「前は『爬虫類カフェ』でしたっけ」「ヘビの写真を送ってきたやつ」
「私はフツーな店しか知らないから、ああいうのを教えたりは出来ないですが」
「こういう感じのカフェなら、そこそこ知ってるんですけども」

放課後とか、よく喫茶店に行ったりするし。
友達に教えてもらった店とかもあるし。
まあ、喫茶めぐりが趣味ってほどじゃないけど。

            『〝社会経験〟ノ一環デアレバ 止メハシマセン』
            『・・・壊レテシマワナイ 限リハ デスガ』
            『デスガ、先生モ不安ニナリマスカラ。ソレハ オ忘レナク』

「フツーに大丈夫ですって。無茶なことはしませんよ」
「安心してくださいよ先生。私はフツーが好きなので」

フツーじゃないのも、そんなに嫌いじゃないけど。
でもそれはフツーがあるから、ってところはある。

「う〜ん、惜しいですね。赤点は免れてよかったですが」
「イッコ・・・そうですね、耳、鼻、舌・・・と来れば」

「あ、『眼』ですか? なんか、ずっと閉じてますし」
「『エルアイジーエイチティー』って、光の方の『ライト』ですよね」
「というわけで、最終問題の回答は・・・ドクターに『視覚』はない!でどうです?」

            『・・・・・・・・・』

それにしても、なんでそんな制限があるんだろう?
そう思ったところで、ユメミンはいつもサングラスを掛けている事に気づいた。

ユメミンはフツーじゃない恰好をしていてオシャレだから、その中じゃフツーだった。
サングラスは、フツー室内じゃ掛けない。あー、私、今フツーの顔でユメミンを見れてるかな。

447 夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』 :2018/05/27(日) 05:39:08
>>446

「そうそう、『シャカイケンガク』ってやつ。
 ジンセーなにごともケイケンがだいじ!!
 『アリス』だって『ウサギ穴』にとびこんだんだし、
 わたしも『アリス』だから、ふしぎなセカイがあったら、そこにとびこんでいかなきゃ。
 なんてったって、わたしは『この世の全部』をみなきゃならないんだから!!」

別に危険に遭いたいわけじゃない。
だけど、その先に見たことのない未知の世界が待っているとしたら、躊躇う理由はない。
だって、私は『アリス』だから。

「ドドン!!イズミンせんしゅ、せいかいです!!
 『ドクター』は『耳や鼻や舌』はバツグンだけど、『目』はみえないんだよね〜〜〜。
 あ、あと『指先の感覚』とかも超イイから、肩コリとかで『どこがこってるか』とか、
 すぐわかっちゃってベンリ!!
 わたしのマッサージは、そのスジではけっこうひょうばんあったりなかったり」

  スッ

そこで唐突に笑うのを止める。
その顔には、いつになく真面目な表情が浮かんでいた。
おもむろに席から立ち上がると、静かに口を開く。

「私の『ドクター』には『視覚』がない。だけど、『ドクター』に『死角』はない。
 何故なら、存在しない『視覚』を補う『力』があるから」

  トスッ

やや抑えた声色で精一杯カッコつけた台詞と共に、やたらと気取ったポーズを決める。
少しの間そうした後、また着席した。

「――っていうのかっこよくない??いま、おもいついた。
 こんど、どこかでつかおっかな。ちゃんとメモっとかなきゃ」

スマホを取り出すと、メモ帳アプリを立ち上げてメモをとり始めた。
どうやら、いつか使う気らしい。

「ん??あれあれ??イズミン、かおになんかついてるよ??
 ここ、ここ。ほら、このあたりにさぁ〜〜〜」

スマホを元通りしまうと、声を掛けつつ自分の顔の中央付近を指差す。
イズミンの様子を何となく察したからだ。
湿っぽいのは、あんまり好きじゃない。

「――ね?『鼻』がついてるでしょ?わたしといっしょ。『お揃い』だね」

ふふっと笑う。
さっきまでの屈託のない笑い方とは少し違う、穏やかな笑い。
私は普通じゃない世界に目を向けることが多いし、実際そういう風に行動してる。
だから、イズミンとお喋りしてると、なんだか一休みできてるって気がしてホッとする。
それは、イズミンから感じられる『普通のオーラ』みたいなものに触れてるせいかもしれない。
『普通って何か』って聞かれたら、上手く答える自信はないけど。
でも、今の私が、この時間は充実した時間だって感じてることは間違いないと思う。

「あ、これウマい。イズミンも食べる?」

ややあって、食べていたほうじ茶プリンを差し出す。
しかし、『味覚』を移植したままなのを忘れていた。
食べたら、ビビッと電気が走ったみたいに、物凄く鮮明に味を感じられることだろう。

448 今泉『コール・イット・ラヴ』 :2018/05/27(日) 23:53:16
>>447

「やっぱり、夢が大きいですねぇ、ユメミンは」
「ユメミンだけに」「なんて言ったら私は泉が大きい事になりますけど」

「・・・」

笑顔を浮かべてみる。多分ちゃんと笑顔だろう。
別に、今はもう大丈夫って感じなんだろうし。
あんまり気にしてる方がユメミンも気まずいはず。

「やった! 正解いただいちゃいました」
「便利ですねえドクター」「まさに死角なし・・・」
「っと、顔? どこですかね、ストローから跳ね――」

指先を顔の上で滑らせていると、次の答えを貰った。

「・・・・・・鼻、ですか」「そうですね! お揃いです」
「手も、脚も、カタワレも」「まあ見た目は違いますが」

             ヘヘ

「いただきます、実は食べたかったんですよそれ」
「晩御飯買っちゃったし、注文しなかったんですけど」
「断るのは悪いから仕方ない! という自分への言い訳で」

差し出されたプリンを受け取って一口食べる。
この甘いのくらい柔らかく気持ちをほどければいいんだけど。

「やっぱりおいしいですね〜、ほうじ茶スイーツ!」
「『移植』のおかげで、『和!』みたいな、後味?感じますし」
「抹茶派から陥落しそうです」「あ、ユメミンはほうじ茶派?」

私はフツーに、一晩寝でもしないとちょっと遠慮してしまう。
でも表には出さない。ユメミンはそういうの、好きじゃないだろうし。

私はフツーに、フツーを演じる事くらいできる。それくらいフツーだけどね。

449 夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』 :2018/05/28(月) 00:58:29
>>448

「すべてをやさしくつつみこむ、めがみのようなホーヨーリョク。
 それは、まるできれいなみずをたたえた、おおきなイズミのよう。
 あなたがおとしたのはキンのオノですか??ギンのオノですか??
 ことし、だいちゅうもくの、じつりょくはしんじんアイドル、イズミン。
 みんな、おうえんヨロシク!!」

イズミンの笑顔。
それに対して冗談を飛ばしながら、こちらも笑顔を返す。
その顔は、また賑やかな感じの笑いに戻っていた。
もう大丈夫だって伝えたかったから。
だから、普段通りの表情に戻ることにしたのだ。

「そう、同じ!!どうし、あいぼう、マブダチだ!!
 『カタワレ』だって――あ、これセケンでは『スタンド』っていうらしいよ。
 ユメミンの、あしたつかえるまめちしき№4!!」

そう、手だって脚だって――『目』だって同じだ。
昔は見えなかったけど、今は見えている。
光除けのサングラスは手放せないけど、それでも見えていることに変わりはない。
だから、私とイズミンは『同じ』なのだ。
そんなことを心の中でちょっとだけ思ったけど、顔には出さなかった。
せっかく明るくなったのに、またナイーブでセンチメンタルな雰囲気になってしまう。

「んー??まー、たぶんそんなかんじかもしれない。
 『今は』、だけど。ユメミンのこのみは、ていきてきにかわるのだ!!
 2しゅうかんくらいまえは『抹茶派』だった!!あしたは『紅茶派』になってるかもしれない!!」

「うんうん、いまなら食レポもできるぞ!!アイドルには、それもひつようだ!!
 ことばがなくても、おいしそうにたべてるだけでつたわるさ!!
 だって、いまイズミンがたべてるやつ、すげーおいしそうだもん。
 イズミンのせんでんこうかで、ここもあしたからおきゃくさんがばいぞうだ!!」

どうしてアイドルデビューする話になったのだろうか??
そんなことは私も知らない。永遠の謎だ!!
きっと、海に沈んだアトランティス大陸よりも深い謎が隠されているに違いない!!
そういえば、『味覚』を解除するの忘れてたな。
でも、イズミンがおいしそうに食べてる最中だし、もう少しこのまんまでもいいか。

「あ、こんどイズミンのオススメのみせとかおしえてくれない??
 かわったとこじゃなくてもいいよ。イズミンとおしゃべりしてるのって、ケッコーたのしいし」

「わたしは、めずらしいモノとかフシギなのがスキなんだけど、
 なんていうかさ――イズミンといっしょにいると『フツー』なのもいいよねってかんじ」

しみじみと言いながら、イズミンに笑いかける。
自分は、『普通じゃないこと』に惹かれることが多い。
でも、『普通のこと』だって改めて見直してみれば、今まで気付かなかった良さに気付くこともある。
『普通』があるから『普通じゃない』もあるのかもしれない。
イズミンと話していると、ふとそんなことを感じた。

450 夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』 :2018/05/28(月) 01:34:12
>>449

なんかモジバケしてたので、さりげなくテイセイだ!!

×ユメミンの、あしたつかえるまめちしき?・4!!
○ユメミンの、あしたつかえるまめちしきナンバー4!!

451 今泉『コール・イット・ラヴ』 :2018/05/28(月) 01:47:17
>>449

「あはは、ほめ過ぎですよユメミン」
「アイドルだなんて」「・・・悪い気はしませんけど」
「ユメミンもデビューしません? 同士として」

「それにしても・・・『スタンド』ですか」

            『不思議ト 納得ノ行ク呼称 デス』
            『立チ尽クシテイル ワケデハ ナイデスガ』

「そう呼ぶのがフツーなら、私もそうしようかな」
「先生は私の『片割れ』という雰囲気でもないですし」
「今日から使える豆知識になってしまいました」「流石はユメミン」

私は笑っている。
ユメミンも笑っている。

『なかったこと』には出来ない何かを、それでも隠して笑う。
その時の笑顔は嘘だけど、気持ちは嘘じゃない。楽しい時間。
本当に楽しいから・・・だから隠そうって思えるんだ。

「紅茶スイーツもいいですよね、それからコーヒー」
「『アフォガード』がおいしいお店があるんですよ」
「今度案内します」「いつになるかは分かりませんけど」

        ニコ

「私もユメミンとお喋りしてると楽しいから」
「フツーな私でよければまた遊びましょうね」
「・・・っと、と、遊びで思い出したけど、勉強中だった」
「すみません、作文集中するんでちょっと口数減りますね」

シャーペンを手に取る。ユメミンはここにまだいるのかな。
それとも食べ終わったら帰るのかな。どっちにしても、文章を考えよう。
ユメミンと話すのは楽しい。話さなくても、友達はそこにいるだけで嬉しい。

                カリカリカリカリ

                          カリカリカリカリ

452 タタラ『インスタント・カルマ』 :2018/06/06(水) 01:42:36

        カコン
               カコン

一つ、また一つ。
善行という石を積み重ねる。
この世は賽の河原ではない。
積み重ねた善行が勝手に崩されはしない。

    カコン
             カコン

まあ小難しい話ではなく。
単にゴミを拾っているのだが。

(暑くなってきたせいか、空き缶が多いわね。
 今週の善行は全部これで良いんじゃないかしら)

         カコン

クラシックなメイド服の女がゴミを拾いまくる姿は、
傍目に観るとかなり小難しい状況にも見えるだろう。

453 『ニュー・エクリプス』 :2018/06/08(金) 19:52:36
>>452

 ――クルクル  
          シュッ
                タンッ!!

   シャキーンッッ

 「悪の組織の首領! モーニングマウンテン!!」

エッ子「おやつ幹部 エッ子(/・ω・)/ !」

ムーさん「昼寝幹部……ムー」


 『三人合わせニュー・エクリプス! (∩´∀`)∩』

 「……んっ!? むむむっ!! どうにも一人足りない気がするっス!
幹部が一人足りないっス!! これは一体どう言う事っス!?」

 エッ子「そーだ! 一人足りないのだー! (`・ω・´)」

ムーさん「のりなら、この恥ずかしい状況に耐えられなくて
少し先でゴミ拾いしてるよ」

 
 「ふーむ、幹部のりは先行してゴミ拾いっスか!
こう言うキメポーズは全員でやらないと行けないんっス!!
 ん? おー!! こちらにも悪のゴミ拾い活動をしてる
お仲間が居たっス! こんにちはっス!! 暑い中ご精が出ますっス!!」

エッ子「こんにちはー(*'▽')!!」

物凄く和気藹々とした二人と、少し疲れた一人が
悪の組織と言いつつ貴方に近寄って来る。
 どうやら、悪の集団らしい。

454 タタラ『インスタント・カルマ』 :2018/06/08(金) 22:27:32
>>453

(特撮好きのボランティア部か何かかしらん。
 まあこれだけたくさんゴミもあるし、
 横取りだなんだって考えるのは罪深よね)

(……とはいえ)

「ご機嫌よう、お仲間様。
 学校の課外活動か何かかしら?
 それとも、自主的にやっているの?」

      「どちらにせよ感心しますワ」

空き缶を掴むトングを一旦、背中に戻す。
そしてお辞儀。メイドらしく、規律正しい角度。

「それにしても『悪の』というのは?
 ゴミ拾いは悪ではありませんワ。
 善行、要するにボランティアですもの」

「ああ、まあ、空き缶拾いで生計を立てている方には『悪い』ですけど」

少し引っかかる言葉があった。
まあ向こうは子供だし、そんな噛み付くような調子ではなく、
純粋に疑問として聴いている。渦巻くような瞳での凝視を添えて。

455 『ニュー・エクリプス』 :2018/06/08(金) 22:47:20
>>454

 悪の首領を名乗る少女は、最近再ブレイクした猫娘な感じの仮面を被っている。
貴方の言葉にハキハキした口調で答える。

因みに三人は、学生服で同じくゴミ袋を各自が持っており。片手に軍手を嵌めてる

 「ふっふっふ! 我らは悪の組織ニュー・エクリプス! そんでもって
清月学園のうちゅー・とーいつ部なんっス!
 ゴミを拾って、みーんながニュー・エクリプスの活動に対して偉いんだなーと
感心する事により、我らの悪の侵略活動が水面下で起こる事を気づかせない!
 これぞ、我ら悪の秘密組織の大いなる悪の侵略活動なんっスよ!」

エッ子「あっ! 星見グレープジュース飲む?
さっき自販機で当たったんだぞー! (*'▽')」

 悪の首領が堂々と悪の活動を述べるなか、貴方へと黄色い髪の毛の高等部の女子は
冷えたてな缶ジュースを渡してくる。

ムーさん「……」

一人だけ、二人と雰囲気が異なる怠惰な目つきをした女子は。貴方の渦巻く
瞳に対し、怯んだ様子なくフゥーとシガレットチョコを加えつつ見つめるに留まる。

ムーさん「とある家から一組の男女が出て来た。
その二人が現れた瞬間、家の周りにいた群衆の反応は劇的だった。
ある者は悲鳴をあげ、ある者は泣き出し、ある者は手にあるものを投げつける
 だが、その二人は平然と笑っていた。
それは何故なのだろう?」

 いや、見つめるに留まらず謎々なのか、ウミガメのスープなのか知らぬが
問題を出してきたぞ。

456 タタラ『インスタント・カルマ』 :2018/06/09(土) 04:31:13
>>455

(にしても、仮面? ファッション?
 ……顔のケガとかかもしれないし、
 無暗に突っ込まないのが妥当よね)

異様な仮面少女に多少の警戒はしつつ。

「マア、悪の組織……宇宙統一部。
 侵略活動とは一大事ですワね、
 私が此処で食い止めるべきかしら?」

            フ

(要はごっこ遊びって事ね。
 エクリプスってのは気になるけど)

「――――と、思ったけれど。
 私も正義のヒーローとかでも無し。
 ワイロを受け取ってここは見逃しましょう」

       「ありがとうエッ子さん」

口元に指を添え、黙秘を示しつつ。
グレープジュースを有難く受け取る。

「……?」

「クイズ、それとも心理テストかしら。
 そうですワね――――私の答えは、
 『二人は自分達に絶対の自信があるから』」

「愛か、強さか……正義か、何かは知らないけど。
 他人から何を言われても揺らがない軸があるんでしょう」

457 『ニュー・エクリプス』 :2018/06/09(土) 18:48:54
>>456

タタラは悪の組織の賄賂をうけとり黙認を示す。

エッ子「ラムネうまーい!! ヽ(*゚▽゚)ノ」

 「ラムネうまーいっス!!v( ´∀` )v」

悪の首領と、おやつの幹部も一休みしつつ自賛してるラムネを
飲んで、ぷはーっと笑顔でハイタッチをしている。一人は仮面で
顔色は読み取れないが、ほぼ性格が似てるので推し量るのは容易だ。

>『二人は自分達に絶対の自信があるから』

チッチッチッ

ムーさんは、貴方の回答に軽めに人差し指を振りつつ
気怠い様子を醸しつつ否定のジェスチャーを行う。

「クイズ、ではなし。これは『ウミガメのスープ』と言う問題だね。
主観的な感想や、象徴のようにアバウトではない。
この状況は、ある場所では極めて自然に見られる光景だ……」

 「……ん? 何でいきなり、そんな問題をするのか、か……
暇つぶしだね、うん」

 どうやら、ムーさんは貴方にウミガメのスープ問題を出したくて
仕方がないようだ。はい、いいえで答えられる質問ならば
幾らでも受けてくれそうだ……。

458 タタラ『インスタント・カルマ』 :2018/06/09(土) 22:01:49
>>457

悪の二人に微笑みかけ、
自らもグレープジュースを開封した。

     ゴク  ゴク

「……ひまつぶし、そう。
 それはステキですわね」

(人のコトは言えないけど、フシギちゃんね。
 こっちがヒマとは一言も言ってないけど……
 まあ、そんな風に断るのは大人気ない、か)

実際、べつに忙しい訳でもない。
ほとんど余暇の時間に近い。

であれば――遊びに付き合うのも、また一善。

「良いでしょ、質問をさせてもらっても?
 そういうルールでしたワね、この遊戯は」

             「……」

    ス…

口元に手を添えて、黙考する。

「まず、『お話の舞台は2018年6月のS県でも成り立つ』?
 要は異世界とか、異文化とか、戦時下とかではなく、
 私達が生きている今日、それが起きてもおかしくないか」

「これが『創作世界』の話じゃないのは分かってるけれど、
 念のため、ですワ。走り回った末の灯台下暗しは悲しいもの」

とはいえ前提を埋めるのが先だ、と気づくのはすぐだった。
あとで脳内で起きた出来事でした、なんて言われても、困るので。

459 『ニュー・エクリプス』 :2018/06/09(土) 22:35:07
>>458

>『お話の舞台は2018年6月のS県でも成り立つ』?

ムーさん「YES。まず、世界中の何処で起きていても
ちっとも不思議でも何でもない。この問題の舞台は
大昔でも起きてるだろうし、何十年もの未来でも普通に起きてるだろうね
季節は特に関係ないし……」

エッ子「お(/・ω・)/ なになに!? 何か面白い話!?」

「私たちも混ぜるっスー!」

ムーさん「んー……この問題、二人も前にやったからな。
あぁ、それじゃあ。今から、回答するメイドさんの質問に
二人も答えられる権利を与えようか」


 質問できる人数が増えた。陽気な二人は、どうやら以前も
このウミガメスープ問題を、した事があるらしい。

460 タタラ『インスタント・カルマ』 :2018/06/09(土) 22:58:01
>>459

(持ちネタみたいなもんなのね。
 という事は、回答者の素性は関係ない)

ウミガメのスープは『脳内当て』と紙一重。
特に初対面の相手であれば警戒は必要だ。
一つ一つ、可能性は潰していく。

そうすればおのずと、答えは見えてくる。

「――そうですか、では次の質問を。
 『集まった群衆の感情はポジティブな物である』?」

渦巻く目の焦点が彷徨う事をやめていた。
射貫くべき謎を見つけた気がしたからだ。
まあ別に探偵とかではないので、気分の話だが。
 
「ああ、『喜怒哀楽』の『喜楽』をポジティブと定義しますワ。
 悲鳴も、涙も、物を投げるのも、『嬉しい時』もする事でしょう」

           「そう。結婚式、とか――ね。
            それとも、大スターの花道歩きかしらん」

黄色い悲鳴。うれし泣き。ライスシャワーや、衝動の余りの投擲。
感情は一色ではない。相反する感情の者が入り乱れる場と考えてもいいか。

いずれにせよ――――この答えにはそれなりの『善』を感じるわけだ。

461 『ニュー・エクリプス』 :2018/06/10(日) 19:30:05
>>460

>『集まった群衆の感情はポジティブな物である』?

「YES。群衆の感情は全体的に明るいものだ……」

ムーさんは、そう回答すると共にタタラの言葉に僅かに眉をあげる。

それは『結婚式』のワードを聞いてだった。

「――正解だ。そう、結婚式
教会。神の家から出て来た二人を待ち受けてたのは親族と友人。
 花婿と花嫁の同僚や同級生に友人は黄色い悲鳴をあげて、親族の
何人かは泣き出し、そして彼らを祝うために紙吹雪とライスシャワーを投げた。
……ある程度まえに、私の親戚の式に参加して思い付いた問題だったんだ」

エッ子「その割には、何だか顔を顰めてない(´・ω・`)?」

ムーさん「ブーケトスに巻き込まれて、もみくちゃにされたのか苦痛だった……」

彼女は、少し遠い眼をしつつ語る。
 ムーさんの、ウミガメのスープは終わる。それに反応したのは
悪の首領と、おやつ幹部だった。

エッ子「ふっふっ! (`・ω・´) 
ムーさんの問題には、この前してやられたからね! 次は私たちの問題だ!」

「そう! モーニングマウンテンと幹部の問題っスー!」

続けて悪の首領と、幹部がウミガメのスープを出すらしい。
 呆れた声で、ムーさんは呟く。

ムーさん「……ちゃんとした問題なんだろうな?」

モーニングマウンテン「モーマンタイっス! ちゃんとしたウミガメスープっス!」

自信満々の悪の首領に代わり、エッ子は前に出ると不敵な笑みで告げた。


エッ子「では、この前に実際私たちが起こした出来事だ!
 私たちは、学校の私のクラスで沢山の人をきりつけたんだ!
大体は、血の色に染まって。それに真っ青になったり、死人みたいに
真っ白になった人もいたよ! 次の日は全員ちゃんと登校したけどね!」

モーニングマウンテン「そして、続いて自分達は
私のクラスでも、同じ事をしようと思ったんスけど。
とあるふかーい事情により、断念する事になったんス!
 さぁ、こっからが問題の要っス!
ずばり、自分達の犯した事は何だっス!?」


ムーさん「……ふぬ?」

 高等部エッ子と、中等部の朝山はウミガメのスープを繰り出す!
ムーさんは、本当に初めて聞く問題らしく首を捻ってる。
 二人に一人ずつ質問が出来そうだ。

462 タタラ『インスタント・カルマ』 :2018/06/10(日) 21:04:55
>>461

「お気に召す回答だったかしらん。
 こういう頭の使い方は久しぶりだったから、
 中々楽しい時間を過ごせましたワ。ありがとう」

「……」

(これじゃ、ボランティア部じゃなくてクイズ部ね。
 ま、ここで断るのも可哀想だし付き合いましょうか。
 ゴミは逃げない。今日の分はもう拾ったと考えてもいいし)

(ある意味辻クイズに応じるのも善行よね)

一瞬ゴミ拾いに割く時間を危惧したが、
そこまで忙しいわけでもない。付き合おう。
ゴミばかり拾うのは善行とはいえ多少気が滅入るし。

「――マア、貴女達も問題を。
 それはステキですわ、聞きましょう」

高度と自認する作り笑いを浮かべる。
そして、静かに最後まで問題を聴き終える。

「――とても物騒というか、罪深げな問題ですワね。
 一応確認しておくけれど……首領様は今、中等部で?
 そちらの――ええ、おやつ幹部様は高等部だと、思うのだけれど」

口元に指先を当て、小さく首をかしげる。
クラス、という単語が出た以上学年が関係する可能性はある。

「今の確認が正しい、という前提で聞きますワ。
 『貴女達が"きった"ことで、その人達は流血した』?」
 
「例えばもし人体を斬ったにせよ――髪を切ったら血は出ない。
 けれど真っ赤になって怒る人も、蒼白になる人もいるでしょうものね。
 とは言え、そんな非道い事はしていないのでしょうけれど……ね?」

もちろん髪を突然切って回るような奇行は想像し難いし、
そんな事をされれば次の日は休む人がいてもおかしくない。

なので、これが答えとは考えていない。あくまで質問その1だ。

463 『ニュー・エクリプス』 :2018/06/10(日) 21:22:51
>>462

>首領様は今、中等部で?

「そうっスよ! このモーニングマウンテンは
中学二年っス!!」

「私は、高校二年だー!」

 元気に首領と、おやつの幹部は声をあげる。

>"きった"ことで、その人達は流血した?

エッ子「うんうーん! 全然そんな事ないよー!」

朝山「怪我は全員してないっス!」
 
 この回答で、二人のおこなった事が誰かに怪我をさせるような
ものでない事はわかった。ムーさんは暫く考えこんでいたが
合点がいった様子で聞く。

 ムーさん「この前、この前……あぁ、もしかして
あの手抜きの事か?」

 エッ子「あっ! ムーさん解ったんなら黙っててー!」

ムーさん「はいはい……と言うか、きった……か。
…………あぁ、でも間違っちゃいないか」

 ムーさんは、どうやら正解を思いついたようだ。

464 タタラ『インスタント・カルマ』 :2018/06/10(日) 22:43:40
>>463

「年の離れた友情、というのは素晴らしいですワね。
 そして、そう、そうね――中々難しい問題のようで。
 きりつけた、という言い回しには意味がありそうだけど」

「アラ、先を越されてしまいました。
 流石、というべきかしら、
 それともそういうのはお世辞に感じる?」

          「本心から言ってますワよ」
 
    フ

(きりつける、って言い方には恣意がある。
 同音異義か、言い換えかは分からないけど、
 『ムーさん』の反応からして『私にもわかる』範囲)

(切り付ける、霧つける、切る、着る……)

「そうですね、では、次の質問を。
 『血の色、真っ青、真っ白というのは比喩?』」

「実際にスプレーを吹き付けたとか、そういう話なのかどうかですワ」

色をわざわざ並べたことには意味があるのだろうか?
単なる言葉の飾りなら、それはそれでノイズを省けたことにもなる。

465 『ニュー・エクリプス』 :2018/06/10(日) 23:13:56
>>464

>『血の色、真っ青、真っ白というのは比喩?』

 エッ子「いや! 比喩ではないねっ。
ちゃーんと、その人、その人でそうなったよ!」

>スプレーを吹き付けたとか、そういう話なのか

 朝山「スプレーではないっス! それに、スプレーだと
きったっ、と言うのは可笑しな言い方になっちゃうっスからね」

ムーさん「人それぞれだと思うけどねぇ」

 人 を、そう言う色に染めた。
スプレーではない。
 
 今の質問でこれだけはわかった。

466 タタラ『インスタント・カルマ』 :2018/06/11(月) 00:17:09
>>465

「…………なるほど。
 では次の質問ですワ」

流血はしていない。
比喩表現としての色でもない。
塗料を吹き付けたわけでもない。
つまり『どこから色が来たのか』。

「『きりつけたのは人間である』?
 人間の一部、というのも含めますワ」

(学年によっては出来ない……
 そこのところが分からない。
 重要な情報か、ノイズの一種なのかも。
 清月よね、この子達。校則関係かしらん?)

ひとまず、情報の精度を上げる事にした。
この手のクイズは本来質問を重ねるのが前提。
1問目をスピード解決できて、柄にもなく焦っていたか。

(一つ一つ積み上げる、という意味では善行と同じ。
 欲をかいても糸が切れるだけね。……さて、この次は?)

467 『ニュー・エクリプス』 :2018/06/11(月) 09:00:23
>>466

>『きりつけたのは人間である』?

 エッ子「そうだよー!
もう、バッサバッサの大立ち回りで、きったのさ!」

朝山「そうっス! 人だけをきってるんっス!」

堂々と言い切る二人に、長身のムーさんは呆れた声で口を挟む。

ムーさん「だからって、何で人だけだったんだ。
 まぁ、私たち抜いて12人も相手するのは面倒だけどさ」

 そう、気になる発言を彼女は行った……。

12人……何故、そんな限定的なのだろう?

468 タタラ『インスタント・カルマ』 :2018/06/11(月) 22:58:13
>>467

「…………ふむ」

(12人? なんか意味があるのかしら。
 クラス全員じゃなくて、12人。
 ……『半数』か、『3分の1』くらいよね)

(清月なんて大きい学校だし3分の1が妥当かしら。
 とはいえ、『全体に占める割合』に意味があるかどうか)

「スマートなやり方ではないけど、
 思いついた事を言わせていただきますワ。
 『きりつけるのに刃物は使った』?」

答えに直接繋がる要素を見いだせていない。
どこまで質問が許されるのかは分からないが、
彼女らの気が済むまでなら、付き合わせて貰おう。

(あえて人数比で考えるなら『性別』?
 私達抜いてってことは彼女らも……
 本来含まれるカテゴリの可能性は高い)

(そうだとして、『きりつける』の正体が分からない。
 きる、じゃなくて『きりつける』なのが……何かありそうだけど)

469 『ニュー・エクリプス』 :2018/06/11(月) 23:47:17
>>468


エッ子「うんうーん! 刃物はつかってないよー!」

答えは、NOだ。当たり前の話だが、学校で刃物を
振り回すような事があれば、それは大きな事件だ。

朝山「フッフッフッ! (`・ω・´)
手こずってる様子っスね! やはり悪の首領と幹部の
コラボレーションは、まさに大いなる悪なんっス」

調子にのる悪の首領に、ムーさんは呆れる。

「……思うんだが、この問題文も少々意地が悪いんだよ。
きりつけたじゃ、殆どわからん人が多い。
 きり、つけたって言えば未だわかるだろうけど」

エッ子「えー? でも、それじゃあ直ぐわかっちゃうよ〜」

ムーさん「わからんわからん。大体、きりつけたが
ダジャレ見たいじゃないか」

 そんな問答を、ムーさんとエッ子は行った……。

470 タタラ『インスタント・カルマ』 :2018/06/12(火) 01:05:53
>>469

「ええ、手こずらされておりますワ。
 流石は悪の組織、でしょうか。
 貴女たちが悪だくみをしたら、
 私にそれは解き明かせないのか・も」

            フ

(まあ、そういう事をする子達でもなさそうだけど。
 『きり』『つけた』……ダジャレ? 想定外ね。
 ウミガメのスープでもあり言葉遊びでもあるの?)

(……そうなると、今の考えは一旦捨てた方が良いかしらん)

マジメというわけではないが、
与えられた情報そのままを考えていた。
素直に答えさせてくれるものでもない、か。

「まだ、質問を許していただけるかしら?」

(――きった、のは人。きりつけた、と聞いたのに、
 この子たちの答えは『人だけをきった』というものだった。
 じゃあつけたのは? いや、言葉のアヤかもしれないけれど)

「もし許していただけるのなら、
 こんな質問はいかがでしょうか。
 『きりつけるために、何か道具を用いた?』」

(それに高等部で出来て、中等部ではできない。
 人間にかかわる事なら、体格か年齢か、
 あるいは持ち込めない、持ち出せない物があるか。
 校則やら制服の種類なら私には答えられない。
 あとは授業の種類なんかもそうね……
 校舎の位置やら、先生の性格なんかも分からない。
 一旦、答えられないパターンは想定から外しましょう)

(そのうえで浮かぶ推論を質問で確かめる――これが善手のはず)

471 『ニュー・エクリプス』 :2018/06/12(火) 09:51:55
>>470

>きりつけるために、何か道具を用いた?

エッ子「YESだー! 当然だけど、道具がないと出来ないもーん」

朝山「因みに、自分はその道具を持ってないんス」

彼女達の答えはイエスだ。そして、中等部の悪の首領は
その道具を持ってないらしい。

ムーさんは、指を掲げて軽く指を横に振る仕草をする。

ムーさん「君(朝山)には、まだ早い。
……そちらのメイドさんは、当然所持してるだろうけど」

朝山「むむっ(`・ω・´) 馬鹿にしないで欲しいっス!
ただ悪の首領は必要性をあんまり感じないので持たないだけっス!!
それと、その仕草はヒントになっちゃうから止めるっス!!!」

ムーさん「自分で言ってちゃあ、世話ないだろ……」

三人はワイワイと騒いでいる。

472 タタラ『インスタント・カルマ』 :2018/06/12(火) 14:21:52
>>471

(化粧品――なら、中等部でも持つ子は持つわよね。
 高等部でも校則を考えて持ち込まない子はいるでしょうし)

(でも、ほかに何かある? 話し振り的にもそれっぽいし。
 ……『きり』の意味はよく分からないわけだけれど)

「では、次の質問を。
 ……『きりつけたのは人間の顔?』」

(ま、言うだけ言ってみましょうか)

確信は持てないが、可能性はある。

清月では高等部以上が化粧を許可されてるのかもしれない。
彼女らが校則を重んじるのかは謎だが、教師の目もあるだろう。

(私も持ってる、って辺り学校の物じゃないでしょうし。
 お面を被ってれば唇を塗っても意味はないものね)

473 『ペイズリー・ハウス』 :2018/06/12(火) 15:49:12
>>472

>きりつけたのは人間の顔?

エッ子「ふふーん! 違うんだなー、これが!
もう一回言うよー!
 私は『人』はきりつけたんだ!」

 そう、指を立ててエッ子は得意気に告げた。

不思議な事に、彼女は人間でなく『人』である事だけ
強調している……それは大きなヒントなのかも。

朝山「ムーさんは、あんまりしないっスよねぇ」

ムーさん「面倒くさいからな。付き合いなら
そりゃあするけど……する暇があるなら何か
別の事に時間使いたい」

エッ子「そんなんじゃー、モテないよー」

 新情報も追加だ。
ソレは、ムーさんは余りやらないらしい……。

474 タタラ『インスタント・カルマ』 :2018/06/12(火) 23:50:06
>>473

「…………『人』を」

(はっきり言って答えが見えない。
 化粧か、美容関係なのは分かる。
 私にその分野の知識が無い訳でもないのに)

(『人』を『きり』『つける』)

「駄目ですワね、どうにも頭が固くて。
 総当たりのようなやり方になってしまうわ」

「醜いようでしたら『降参』しますが」

遊びのクイズだ。
満足されるまでは付き合うが、
クイズの主旨に反する手段は歓迎されまい。

「次の質問は、こうしましょう。
 『貴女方の罪は化粧に関係する?』」

(そうでなければ……スマホとか?
 シャッターを切って加工するって話なら、
 曲解すれば無いって事もないでしょうけど)

(中学生がまだ早いって事もないでしょう。
 そう主張する人もいるでしょうけど、
 私はそうは思わないし。だって便利だもの)

475 『ニュー・エクリプス』 :2018/06/13(水) 10:21:10
>>474

エッ子「(*'▽') へへーん! かなり悩んでるね!
やっぱり、この問題考えて良かったねー」

朝山「(`・ω・´) くっくっ、自分の悪さに
思わず身震いするっスよ」

二人で騒ぐ幹部と首領を尻目に、ムーさんは少し呆れつつ口を挟む。

「化粧道具に関しては『YES』だよ……ちょっとオサライしようか」

「二人がやってた事の場所は高等部のクラス。
エッ子が先頭して、化粧道具を用いてやった。
 そして、12名ていどの……人、だけに対して
それを行った。そして、中等部でも同じ事を
しようとしたけど結局中断する事にした」

 軽くムーさんは片手を掲げる。
それが、大きなヒントだとばかりに。

「難しく考える必要はないと思うよ
省略してるだけで、答えは一応言ってるから」

476 タタラ『インスタント・カルマ』 :2018/06/13(水) 17:28:57
>>475

「ええ、悩んでおりますとも。
 ――おさらい、ですか。
 ぜひお願いいたしますワ」

片手を掲げるようなしぐさ。
先ほども似たような事をしていた。
手を横に振る動きだったか――
それにしても、『人』を強調してくるが。

(答えは言っている――『人』の前の間がそれでしょうけど)

(『人間』と『人』の何が違うのかしらん。
 哲学的な領域の話じゃないんでしょうし、
 人形とか、そういうの? 人じゃないわよね。
 生きた人間だけを『人間』と呼んでる、
 なんていうのは有り得なくもなさそうかしら)

(・・・人間の中のカテゴリとは考えたくないわね)

「でしたら、この質問はどうでしょう。
 『“人”というのは生きている人間ではない』」

「どうにも、私には人間と人との違いが分からず。
 難しく考えすぎなのかしらね、ドツボにハマる気分ですワ」

477 『ニュー・エクリプス』 :2018/06/13(水) 22:16:47
>>476

>人 というのは生きている人間ではない?

エッ子「イエス!」 朝山「ノーっス!」

『・・・・・・(´・ω・`)あれ?』

 この答えに対し、二人は同時に異なる答えを出した。
顔を見合わせる幹部と首領にムーさんは告げる。

「イエスでありノーと言うか・・・・・・
まぁ、ほぼ答えになっちゃうが、『人』の指すのは
『人間の部位』だな。だから生きてる人間っちゃあ
人間だし、生きてないといえば生きてない」

「・・・・・・で、だ。人間の体の部位で
『人』が頭文字につくもので連想するものって
言えば・・・・・・大体わかるね?」
 
 ムーさんは、再度強調するように指を掲げた。

478 タタラ『インスタント・カルマ』 :2018/06/13(水) 23:14:35
>>477

「――――ああ。
 『指』……『ネイル』ですか?
 なるほど、それは盲点でしたワ」

        フ

「あるいはまだ辿り着けていないのかも。
 だとすれば、私には正答出来ないでしょうし」

笑みを浮かべる。
メイドらしい、熟練した笑みを。

「よければ事のあらましを。
 私にも教えてくださいますか?
 それが回答にもなるでしょう」

(『人』――と言われると困るけれど、
 そう無理のある問題でもなかった、か。
 もちろん、ネイルが間違いかもしれないけど)

(どうして中等部では出来なかったのかは、
 まあ、多分、そういう校則でもあるんでしょうね)

479 『ニュー・エクリプス』 :2018/06/14(木) 20:20:18
>>478(お付き合い有難うございました。この辺で〆ます)

>『指』……『ネイル』ですか?

エッ子「……デン デンデンデデンン♫」

 彼女は、大袈裟にドラムロールを口ずさむ。

朝山「せーーーいーーーかーーーいっス!」

    バンッ!!  シャキーンッッ!!

そして、悪の首領は華麗なポージングと共に告げた……正解だ。

 私たちは、学校の私のクラスで沢山の人をきりつけたんだ!
 大体は、血の色に染まって。それに真っ青になったり、死人みたいに
 真っ白になった人もいたよ! 次の日は全員ちゃんと登校したけどね

 上記の問題文の回答は、こうだ……。

エッ子「先々週ぐらいにねー! 自信作のネイルアートが出来たんだー!
見たい? じゃーん、これが私の究極のアートだーー!」

 ゴミ拾いの軍手を脱いで、素手の爪に輝くのは……『桐(きり)』
桐の花のアートが、『人』差し指だけの爪表面に輝いている。

『桐』のアートを……爪に『つけた』 きりつけた……成程 ダジャレだ。

エッ子「今月一番ってぐらいの力作でねー! 見せたらクラスの
皆が、私にも描いてーってお願いするから。全部の指は無理だから
私と同じようにー描き『きった』のさ! 途中で赤色のが
無くなったから、他の色で代用したけどね!」

朝山「自分も、それを見てクラスの皆にしてあげようって思ったっスけど。
中等部は結構さいきん校則が厳しいんっス。
 一本だけの指でも、あんまり先生が良い顔しないから諦めたっス。
そう思うと、高校生は良いっスよねー」

ムーさん「風紀上、高学年につれて大体黙認するものが増えるけど。
中学生で、ネイルは少々派手に思われるだろうからなー」

 ネイルアート……お洒落が趣味の女の子が
クラスの半数、女子生徒へと行った出来事が彼女達の大きな悪事
であったと言うのが真相だったようだ。


?「ムーさん、エッ子、サッちゃん こっちー?」

エッ子「お! のりが戻って来た。じゃあ、大体この辺の
ゴミ拾いも終わりと言う事だー! 移動するぞー!」

朝山「星見街道のゴミを、根こそぎ消し去ってくれるっスー!!」

ムーさん「熱意だけは悪の貫禄だな。
……それじゃあ」

 『また(な)ねー(っス)!!!』
 
 意気揚々と彼女たちは去る。別れ際に連絡先なども
スマホがあれば交換したかも知れない。
 されど、彼女達の悪の進撃は。どこぞの空の下で今後も
賑やかに続くのだろう。

480 小鍛治明『ショットガン・レボルーション』 :2018/06/19(火) 23:08:06
雨が降っている。
ジメジメとした嫌な感覚が街中に広がっていく。

小鍛治明は傘を持たない。
いつでもその体で雨を受け続ける。

「……」

雨の降る街を黒髪の女性が歩いている。

481 志田忠志『イヴ・オブ・サルヴェイション』 :2018/06/26(火) 00:00:02
>>480

「――ん?」

雨が降る中を歩いていて、その姿を見かけた。
幸い、僕は傘を持っている。
もし彼女が困っているとすれば、この傘を渡せば、それは人助けになる。
人助けは好きだ。
だが、その前に少し考える。

(傘がなくて困ってる……って感じでもないな)

(……少し様子を見るか)

もし彼女が傘がなくて困っていないとすれば、
この傘を渡すことは逆に迷惑になるかもしれない。
それでは人助けにはならない。
それは困る。
たまたま進む方向は同じだった。
だから、とりあえずこのまま歩き続けることにした。

482 小鍛治明『ショットガン・レボルーション』 :2018/06/26(火) 00:51:16
>>481

彼女は真っ黒な格好をしていた。
長袖の上着から少しだけ見える白い服と彼女の白い肌でコントラストを生み出していた。
烏の濡れ羽色の髪が雨に濡れて艶やかだ。
鬱陶しそうな様子もなく髪をかきあげ耳にかけた。
それからスマートフォンを取り出し耳に当てる。

「久しぶりね。えぇ、私は元気よ」

「今日はいい天気ね……雨は好きよ」

「そう……わかったわ。それじゃあまた、後でね?」

短い通話を終える。
スマートフォンが濡れることも気にしない。
小鍛治明が歩いていく。

「それで、貴方は一体何かしら?」

突然明が立ち止まってそう言った。

483 志田忠志『イヴ・オブ・サルヴェイション』 :2018/06/26(火) 01:16:15
>>482

「え?ああ、いや――」

いきなり問われたことに驚き、面食らった。
それとなく気にしてはいたが、あからさまに見てはいなかった筈だ。
勘が鋭いのか、それとも当てずっぽうか。

「ちょっと珍しいなと思ってね。
 ほら、こんな日は大体みんな傘を使ってるから」

「傘を持ってない人は先を急いでるか、雨が止むのを待ってる」

「君みたいに、傘を持ってないのに平然と雨の中を歩いている人は、
 あまり見ないからね」

「気に障ったんなら謝るよ」

目に濃い隈のある若い男が答える。
雰囲気は温厚だが、やつれた顔をした不健康そうな男だ。
もう何日も眠っていない――そんな感じだった。

484 小鍛治明『ショットガン・レボルーション』 :2018/06/27(水) 00:19:55
>>483

「別に障ったことはないわ」

薄く微笑む。
鋭い目付きが少し和らいだ。

「私は雨が好きなのよ」

「服が体に張り付く感覚も好きだし、この気温も好きよ」

「なにより、天の恵みですものね」

485 志田忠志『イヴ・オブ・サルヴェイション』 :2018/06/27(水) 00:55:52
>>484

「君みたいな人は初めて見たよ」

「雨が降ってると、嫌な顔をする人が多いからさ」

雨が降る中、こちらだけが傘を使っていることに、
何とも言えない居心地の悪さを感じていた。
雨が好きだと言っているのだから、
何も気にすることはないのかもしれないが、やはり気にはなる。
だから、彼女が笑ってくれたことで少し安堵する気持ちがあった。

「天の恵み、か……」

その言葉に呼応するように、空を仰ぎ見る。
雨は降り続いている。
流れ落ちた雫が、傘を伝って零れ落ちていく。

「雨を嫌う人は多いけど、雨が降らないと作物も育たない。
 作物が育たないと、僕達も生きていられない」

「雨に助けられてるってことを忘れてるのかもしれないね。
 僕自身も含めて」

「君のお陰で、そのことを思い出せたよ」

そう言って、差していた傘を下ろして畳んだ。
灰色がかった髪に、雨粒が降り注ぐ。
畳んだ傘を片手に持ったまま、雨に打たれる。

「僕も、ちょっと体験してみることにするよ」

「君に倣ってね」

486 小鍛治明『ショットガン・レボルーション』 :2018/06/27(水) 01:39:53
>>485

「そうね、私にはあまり理解できる感情ではないけれど」

雨を嫌う人の心が分からない。
多分、向こうからも自分の事は分からないだろう。
そういうものだった。

「別に私に倣うのもいいとは思うけれど、風邪をひくわよ」

自分はまるで風邪を絶対に引かないという自信があるようだった。

「そういえば、貴方は誰かしら。私は小鍛治明。小さく鍛えて治めれば明るいで小鍛治明」

487 志田忠志『イヴ・オブ・サルヴェイション』 :2018/06/27(水) 02:09:06
>>486

「風邪を引くのは嫌だなぁ。
 熱が出たら苦しまなきゃいけなくなる」

「そう考えると、僕には向いてないのかもしれないな。
 慣れないことはするもんじゃあないね」

「本当のことを言うと、この傘を君に渡そうと思ってたんだ。
 でも、君には必要ないみたいだね」

「ただ折角だし、少しの間こうして雨を感じてみることにするよ。
 個人的な自己満足さ」

傘を渡すことは彼女を助けることにならない。
では、一緒に雨に打たれるというのはどうか。
何の気なしに思いついたことを実行してみたのだ。

「僕は志田――志田忠志。志すに田んぼ、そして忠実な志」

「小鍛冶さん、君は風邪を引いたことがないのかい?
 自分は風邪を引かないような口振りだけど。
 そうだとしたら凄いな」

湿った空気とは反対に、乾いた声で問い掛ける。

488 小鍛治明『ショットガン・レボルーション』 :2018/06/27(水) 23:26:37
>>487

「そう、志田さんね。お気遣いありがとう」

軽く頭を下げる。
ぺったりした髪が重々しく動いて、彼女の顔にかかった。

「風邪、そうね。ここ数年ではそんな経験してないわ」

明がそう返した。

489 志田忠志『イヴ・オブ・サルヴェイション』 :2018/06/27(水) 23:57:36
>>488

「丈夫なんだな、君は」

「僕はダメなんだ。不眠症でさ。
 見れば分かると思うけど」

「雨の日は、いつもこうして歩いてるのかい?
 それで風邪を引かないんだから羨ましいな」

湿った頭を軽く掻く。
雨に濡れた肌を冷たく感じる。
やはり、自分には向いてないようだ。

「――僕は近くに住んでるんだけど、小鍛冶さんは違うのかな」

「いや、深い意味はないんだ。この辺にはよく来るからね」

「もし今みたいに雨の中を歩いてる姿を見かけたら、
 今日と同じように目についただろうなと思ってさ」

490 小鍛治明『ショットガン・レボルーション』 :2018/06/28(木) 00:40:47
>>489

「基本的に傘は持ちあるからないから、濡れてることが多いわね」

顔についた髪をかきあげた。
鋭い目付きのその目の端を雨の雫が流れ落ちる。

「私はこの街に住んでいるわ」

「私はどこにでもいるし、どこにだって行けるわ」

491 志田忠志『イヴ・オブ・サルヴェイション』 :2018/06/28(木) 01:07:29
>>490

「どこにでもいてどこにでも行ける、か」

「良い言葉だ。僕がそう思っただけなんだけどね」

片手に持った傘を広げ、頭の上に持ち上げる。

「そろそろ風邪を引きそうだから、僕はここまでにしておくよ。
 あんまり向いてないみたいだ」

「慣れないことはするもんじゃないね」

その女性の鋭い目を見ながら、軽く笑った。

「同じ街に住んでるんだから、
 またどこかで出くわすこともあるかもしれないね」

「君の姿は、結構目立つ方だと思うからさ。
 特に、こんな雨の降る日はね」

「さっき小耳に挟んだけど、この後で何か予定があるんだったね?
 あんまり引き止めちゃ悪いし、僕はそろそろ行くよ」

声を掛けてから、傘を差して歩き出す。

「それじゃ小鍛冶さん、良い雨を」

雨に濡れる女性に別れを告げ、その場から立ち去っていく。
立ち去った後も、彼女の姿が頭に残っている。

(……不思議な人だったな)

そして、この出会いも、また不思議なものだと思った。

492 小鍛治明『ショットガン・レボルーション』 :2018/06/28(木) 01:54:23
>>491

「いい言葉? そう、ありがとう」

「私からすればひとつの事実ですけれど」

こともなげにそう返した。
そうして明は志田が行くのを静かに見届ける。
引き止める理由もないのだから。

「……」

空を見上げる。
まだまだ重たい雲は動きそうにない。
もっと雨は降るだろう。
そんな天気に薄く微笑んだ。

「待っていてね。すぐに行くわ」

493 稲崎充希『ショッカー・イン・グルームタウン』 :2018/07/26(木) 19:41:31
ジジジジ…

「煙草吸う為に、こんな炎天下の中表に出されるとはねぇ。
世知辛ェ世の中だよ全く。アッツ…」

暑さのせいかそれとも生来のものなのか、
虚ろな目をした長身の女が、
真横に灰皿が備え付けられたベンチに腰掛け、
何をするわけでもなしタバコを吸いながら雑踏を眺めてる。

494 稲崎充希『ショッカー・イン・グルームタウン』 :2018/07/26(木) 22:27:28
>>493
そのまま去って行った

495 桐谷研吾『一般人』 :2018/07/31(火) 22:49:48

「いくら今が夏とはいえ……。
 ここ数日の酷暑は少々しんどいな……」

夏用の制服を着た若い警官が、表通りを歩いている。
見る限りでは、巡回中のようだ。
眩しそうに手を顔の前に翳し、額に浮いた汗を拭い取って、
自動販売機の前に立つ。

      ピッ
         ガシャンッ

購入した水を一気に飲み干し、木陰のベンチに腰を下ろす。
そして、街を行き交う人々に視線を向けた。
この気温とあって、流石に歩いている人の数は少ない。

(この中にも――『いる』のだろうか……)

一見したところ、ごく普通の人間にしか見えない人々――。
その中に、超常的な力を持つ者が紛れているのだろうか。
あれから新たな手掛かりは掴めていない。
相変わらず、全くの手探り状態だ。
『超能力』――その言葉だけが、
『謎の答え』を知るための唯一の糸口と言っていいだろう。

「『超能力』――か……」

考え事の最中に、思わず『独り言』を口にする。
近くに誰かがいれば、それが聞こえたとしてもおかしくはない。
『脳が過熱している』と取られかねない台詞だが、
『力を持つ者』であればピンと来るだろう。

496 斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』 :2018/08/08(水) 22:30:28
>>495

――街を行き交う人々の内に、1人
 コーヒー店の紙袋を片手に、貴方の近くを通り過ぎようとした少年が
 独り言を呟いたと同時にピタリと歩みを止めて振り返る

(――……『警官』?)
(オカルトからは程遠い職業だと思ったが……この町で『超能力』と聞く場合は)
(私的に関わり合いにはなりたくない人種だが、そう考えてられないか)

首に赤いスカーフを巻いた黒いジャケット姿の少年は
乾いた足音を、熱気で歪むアスファルトに打ち付けながら貴方に近づき
およそ2Mの時点で立ち止まった、素肌には汗一つかいておらず
見つめる眼差しには氷が入ったような印象を受けるだろう

(『近距離型』ならこの射程ギリギリか…殴られても届かないか、パワー不足で済む)


「そこの、暑そうにベンチに座る警官さん」
「座ったままでいい、あんたに一つ、質問したい事が有る」

僅かに息苦しさを滲ませながら、開いた口から聞こえる声は
冷えるような声色で貴方の耳に届く

       「――『見えているか』?」

(ま、相手が解らなくても、『俺』が変人扱いで済む話だ)

497 桐谷研吾『一般人』 :2018/08/09(木) 19:44:27
>>496

「――……」

少年に気付いていないかのように無言でペットボトルを傾け、
渇いた喉に水を流し込む。
そして、下ろしたボトル越しに少年の姿を目視した。
手元の水を思わせる悠然たる静かさで、
少年が発した言葉の意味について思考を巡らせる。

(ごく自然に考えると……今の『見えるか?』という質問は、
 僕の『独り言』を受けてのものだろう)

(つまり、
 『普通の人間には見えないものが見えるか?』と聞いているわけだ……)

(しかし、僕には――それが『見えない』)

僕が『それ』に関して知っていることは多くはない。
分かっているのは、『それ』が『超能力』のようなものであり、
普通の人間には見えないらしいということだけだった。
それ以外の手掛かりは、全く皆無の状態だ。
だからこそ、『知る必要がある』。
いや――『知らなければならない』。

「――あぁ、すまないね……。
 恥ずかしい話だけど、ついボンヤリしてしまっていたみたいだ。
 さては、この熱気でやられたかな?」

間を隔てるボトルを退けると、軽く頭を抑えて少年と向き合う。
内心の考えを表には出さず、暑さのせいで気付くのが遅れた振りをする。
もっとも、暑さに参っているのは本当なので、
そこは演技半分本気半分というところだ。

「でも――お陰で、今の意識は明瞭だよ」

「――『見えている』。『ハッキリとね』」

まるで今の天気について話すような、
さも『当たり前じゃあないか』という口調で、力強く断言する。
これは勘だが、おそらく彼は何か『探り』を入れてきたのだろう。
僕には、まだ警官としての経験は浅い。
ただ自慢じゃないが、
警察学校時代は『直観力は悪くない』という評価を貰っていた。
あちらが探りを入れるのなら、こちらはそれを『逆手に取る』ことにしよう。

498 斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』 :2018/08/09(木) 22:36:41
>>497

(これが、普通の人間なら一生に伏す問だろうが……)
(スタンド使いでいいらしいな、この警官)

 「――……そうか」
 「そうか……」


(だが……だが、今一つだけ……何を『ハッキリと』見えてる?)
(俺は『スタンド』を展開していない)
(『スタンド使い』でも『展開されていないスタンド』は見えない)
(『スタンド使いだと想定した、スタンドを出していない相手からの質問の答えとしては妙だ』)

僅かに思案するように俯き、貴方の瞳を覗き込む少年の全身に
足元から鎖が巻き付いていく、一定間隔で続く足踏みからはメトロノームのような印象を受ける

(……何の根拠もない勘だが、この警官、行動と言動がチグハグだ
 本来なら、会う確率も相当に少ない使い手同士、もし警官と言う職業でこの街を見て回るなら
 全てではなく一部を知っている……つまり)

足踏みが止まり、周囲の雑踏から生まれる騒音が、水を引いたように聞こえるほどの冷たさで
少年の口から失望と諦念交じりの言葉が放たれる

(『なりたてのスタンド使い』もしくは
 スタンドと言う単語を知らないが、起された事実から何か超能力のようだとアタリをつけている)

 「つまり、貴方は『見えてもいない』し、ハッキリと『知っている』わけでもないわけだな」

(『逆に、探りを入れてきている』というのも飛躍している発想ではないな……
 確信には未だ弱いが、彼の次の行動でそれは解る)

「外したみたいだ、帰る」

そう告げると、彼は踵を返して雑踏に紛れ込もうとするだろう。

499 桐谷研吾『一般人』 :2018/08/10(金) 01:15:21
>>498

「ああ、よく見えているよ」

「――この太陽の下の『君の姿』はね」

最初から、『何が見えているか』は言っていない。
それは彼も同じだ。
だからこそ、この質問が『探りらしい』と察しがついた。
そして、対象が明確でないからこそ、後からどうとでも言える。
これが探りを入れる行為である以上、その点は元より織り込み済みだ。

(そして今の反応で分かったことは、
 彼は『手掛かりを握る者』だということだ。
 やはり、この『街の中』に、この『人々の中』に、
 『力を持つ者』は潜んでいる)

『鎖』は見えていない。
よって、そちらに注意を向けることもない。
だが、彼の表情と言動を見ていれば、
彼が『そうである』ことは容易に想像がつく。

「ははは、正解だよ。慣れないことはするものじゃあないね。
 ガッカリさせて悪かった。いや、申し訳ない」

「――では、『熱中症』に気を付けて」

呆気ない程にアッサリと自分の素性を明かし、
立ち去ろうとする少年に声を掛ける。
その途中で、右手の人差し指をピッと立ててみせた。
もう片方の手で、曲がった帽子の角度を直す。

「今、思い出した。
 一つ聞きそびれたことがあるんだけど、いいかな?」

「さっきは僕が君の質問に答えた。
 礼儀の押し付けをするわけじゃあないけど、良ければ、
 今度は僕の質問に答えて欲しいんだ。
 『この暑い中、これ以上警官なんて面倒な人種に関わりたくない』
 っていうのじゃあなければね」

まだ二十歳そこそこの若い警官。
その顔立ちや表情は好青年といった印象を持っている。
少年の冷たい眼差しとは対照的と呼んで差し支えない。

「――『ある人』を探してるんだ。
 かなり『特徴のある外見』だったから、
 君が見かけたことがあるかどうかを聞きたくてね。
 
「ああ、そういえば『年も』君と同じくらいだったな」

『外した』という言葉と、いかにも失望したような態度。
それらの要素から、彼は『力を持つ者』を探していると推察できる。
つまり、背景や形は違えど、目的自体は僕と同様だと言える。
ハズレを引いたとあっては、
自分が彼の立場でも同じようにガッカリしただろう。
この質問を彼に振った理由は、大体そんなところだ。

500 斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』 :2018/08/10(金) 01:42:03
>>499

帰ろうとする足を止め少年が独り言のように、しかし貴方に届く様にハッキリと呟く

「――『3回』だ」
「馬鹿にせず話を聞いた事、願ったとおりに椅子に座ったまま返答した事、礼節を持って俺の相手をした事」

背を向けた少年は立てた指を折りながら振り向き
貴方に再びその瞳を向ける、夏風に赤いスカーフを僅かに震わせながら

「面倒なのは認める、嘘をつかれたのも気にくわない、が、自分に応じて『3回』だけ質問に答える」
「罪悪感や後悔は精神の瑕だ、成長ではない、それを俺の心に残すのは許さない」

(ま、事情も知らないのだから、仕方ない、仕方ない
 憎むべき仇だが、憎悪というのは消耗品だ、無駄遣いする時でもない)

「散歩で出てくるのも久方ぶりだったんだが……」

「――最初の一つは『尋ね人』でいいのか?
 その『特徴』だと知らないとしか答えないぞ、警官(カラス)さん」

極めて無表情に、蒸気で歪むアスファルト上に立ちながら、膨大な見えない鎖を巻き付けた彼は貴方に問いかけている。

501 桐谷研吾『一般人』 :2018/08/10(金) 02:19:17
>>500

「――なるほど、『三つ』だね。ご協力に感謝するよ」

身も蓋もない表現をすれば、『餌』のつもりだった。
彼は、『力を持つ者』を探しているようだ。
そして、僕も『力を持つ者』を探している。
もし、その事実を彼が悟ったとすれば、
僕の言う『ある人物』と『力ある者』の二つを、
結び付けて考えるのではないかと予想したのだ。
だからこそ、
この『情報』に食い付いてくれれば有り難いと思っていたのだが……。

(『予想外』だけど『想定以上』――。
 どうやら、僕が思っていた以上に『出来た』人物だったようだ)

「じゃあ、まず一つ目いいかい?
 僕は、まだ『特徴』については何も言っていないよ」

「『白い長髪で赤い目を持つ黒いワンピースを着た少女』
 を見かけたことがないか教えてもらいたい。
 しばらく前に、『歓楽街』の路地裏で少し話したんだ。
 『超能力』に関する話題についてね」

実際のところ、これは聞かなくてもよかった。
これはむしろ、質問に応じてくれた少年に対する『謝礼』のようなものだ。
どう受け取ろうが少年の自由だが『情報提供』と呼んでも間違いではない。

「それから、二つ目……この『超能力』の『概要』をご教授願いたい」

『鎖』は見えていない。
少年の前にいる警官にも。
少年の周囲を歩く人間達にも。

502 斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』 :2018/08/10(金) 20:39:02
>>501

「――少し待て」

少年が僅かに俯き、記憶の底を漁りだす

(白髪、赤目、黒い服、女性……『スタンド使い』だというなら恐らく、展望台の彼女、『幸運を呼ぶ女』
 ……恐らく、言わなかったな、巻き込まないためかは知らないが)

少年が自らの記憶の探索から戻り
ゆっくりと顔を上げると、その瞳でしっかと貴方の顔を見、口を開く

「まず、『一つ目』に回答しよう」 

    「『俺』は知らない」

(悪いが、彼女と俺とでは思考回路が違う…他人だ)

「だが、恐らく知り合いだろう 会った事もある」
「彼女の事については話さない、あんたの質問は『知っているか』だけだからな」
「これで『一つ目』」

少年が喋り終え、指の一つを折る
顔の表情は変わらず、淡々と冷たい声で喉を震わす

(彼女には……悪い事をするな)

僅かな沈黙の後、二本目の指を指し示して貴方に告げる

「二つ目を再確認しよう」
「『概要』、概ね、様々な物事を、全体を大まかに表現するのに都合のいい言葉……」

「だからこう言う、それは『力』だ、超能力だのという名前は単なる上っ面に過ぎない」
「『引力』『傍に立つ』『立ち向かう』『物理法則を無視する、人の精神の具現』」

「……そして『力を持つ』という事は、『敵を作り増やす』という事」
「求めれば、あんたには『敵』が増えることになる、純然たる事実として、な」

……注意深く観察すれば、僅かに少年の声色に好奇の色が混じる事が解るだ

(――だから教えた、『自分の手を汚さず、死んでもらう為に教えた』……最も、俺が言わずとも
 この警官が、『真実に到達しようとする意志』を持ち続けていたら、遅かれ早かれ、死ぬには違いないが)

(喋ってしまったのは義理立てって所か…遠いな)

「――必要以上に喋ったが、これで『二つ目』
 最後の『三つ目』を聞こう、それが『ルール』、答えたら、俺は帰る
 それで、あんたとは最後だ、恐らく二度と会わない」

――少年は無機質な表情を崩さぬままに、貴方の質問を待っている。

503 桐谷研吾『一般人』 :2018/08/10(金) 22:30:41
>>502

第二の質問の答えを聞いて、納得したように小さく頷く。
それがどんなものであれ、情報は情報だ。
知識がない僕にとっては、有益ではある。
特に、『精神』という部分に引っかかりを覚えた。
どうやら、その力は『精神』に由来するものらしい。

(『精神』――『精神』か……)

そう考えると、別の疑問も出てくる。
『精神』というのは、何も人間だけが持ち得るものとは限らない。
たとえば犬とか猫とか、『動物も力を持ち得る』という解釈も可能だ。

「『曖昧な質問』には『曖昧な答え』しか帰ってこない。
 さっき君も同じことをやっていたね。覚えているかい?」

「君は『見えているか?』と聞き、僕は『見えている』と答えた。
 確かそうだったね。あの時、君も『要点』を言わなかったろう?
 それは単なる『偶然』かな?」

「『曖昧な質問』には『曖昧な答え』しか帰ってこない。
 これは良い教訓になるね」

この『時間稼ぎ』の意味は、少年を観察することにある。、
あの『白い髪の少女』とこの少年には、一つの『共通点』が見受けられる。
といっても、姿形が似ているという意味ではない。

話しぶりや態度から滲み出る雰囲気に、どこか近いものを感じるのだ。
たとえるなら、『奇妙な自信』と呼んでもいいだろう。
もしかすると、
それは『力を持っているという事実』から来ているのかもしれない。

ベテランの刑事の中には、初対面の相手を見ただけで、
『堅気かそうでないか』を見分けることができる者がいる。
それが可能なのは、
『その世界の人間』に『特有の雰囲気』を感じ取っているからなのだ。
僕はベテランとは言えないが、
今確かに少女と少年に共通する雰囲気を感じ取っている。

「それじゃあ、『三つ目』を言わせてもらうよ」

腕時計を一瞥する。
そろそろ交番に戻って先輩と交代しなければならない。
遅れると面倒なことになりそうだ。

「傍らに立つ――さっき、そう言ったね。
 君と同種の『力を持つ人間』を教えてくれないかな。
 『連絡先』や『住所』が分かっている人に限定してね。
 つまり、僕が会える人間を教えて欲しいんだ」

たった三つの質問で何もかも全て聞けるとは最初から考えていなかった。
そして、彼から聞けないのなら、彼以外の誰かから聞けばいい。
この少年との接触は到達地点ではない。
あくまでも『きっかけ』であり、いわば『糸の端』に過ぎない。
糸を手繰った『先』で、僕の求める『真実』を見出す。

504 斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』 :2018/08/10(金) 23:08:54
>>503

最後の質問を聞き、少年は
思案する素振りすら見せず、夏の空を一瞥してから貴方に向き直る
表情のない顔に、氷のような声を舌に載せて口を開く

「……もったいぶった割には、意味のない質問だったな」
「三つ目に答えよう」



「――……『言えない』」

――少年の瞳が僅かに煌めく
見えない全身の鎖を、崩れ落ちるように消し去りながら

「理由は」

「アンタが言ってる事は
『俺の知ってる限りの知人に、服、脱ぎ捨ててまっぱだかになれ』……って言うのと同じだ
 しかも、『信頼も信用できない赤の他人の言葉』で、そこまで身を切る必要は俺には無い」

(…しかしこの警官、直感と洞察力、観察力には優れていた……生き残るか?
 見えない時点で『素養』は無い、が、予想外と言うのは人生において常に発生し続ける物だしな……
 後は、どうか、俺の為に、俺の見えないところで死んでくれと願うくらいか。)

「これで、全部、答えたな…罪悪感もなくなった
 宣言通り、帰らせて貰う(……時間だ)」

言い終われば踵を返して、雑踏の中に紛れ込む
彼の首に巻かれた赤いスカーフも、まるで最初からいなかったかのように、人々の中に消えるだろう
そして帰路に向けての歩みの中で、手首に巻かれた、古い腕時計の螺子を回す

(――……ん、あれ……? そうだ、僕、コーヒー店の帰りで……早く帰らなくっちゃあな
 お祖母ちゃん、心配してないと良いのだけど。)

505 小石川文子『スーサイド・ライフ』 :2018/09/27(木) 00:31:45

初秋の大通り――その一角に佇む『美術館』で、
『絵画の展覧会』が開催されていた。
プロやアマチュアを問わず誰でも自由に参加できるという催しであり、
数多くの作品が館内に展示されている。
それらの中に、一枚の『油絵』が飾られていた。

  「――……」

額縁の中では、『白いウエディングドレス』を着た女が微笑んでいる。
絵の前に立っているのは、『黒い喪服』を着た陰のある女だ。
心なしか二人の顔立ちや背格好は、よく似ているようだった――。

506 小鍛治明『ショットガン・レボルーション』 :2018/10/01(月) 23:21:00
>>505

カツカツと靴が鳴らしながら人が近づいてくる。
黒い髪を持ち、黒い服を着ている少女だ。
ふと、白いウエディングドレスの絵の前で立ち止まった。

「……」

静かに絵を眺め、それから視線を小石川に向ける。
特に何を思っているとか、そういう情報が読み取れない瞳で。

507 小石川文子『スーサイド・ライフ』 :2018/10/02(火) 00:37:42
>>506

意識の大半は、目の前に飾られている絵の方に向けられていた。
そのせいで、誰かが近付いてくるのに気付くのが遅れた。
ややあって隣の少女に視線を向ける。

   ――……?

その姿を、どこかで見たような覚えがあった。
一体どこだっただろうか。
少し考えて、少女の名前を思い出す。

  「あの……失礼ですが――小鍛冶さん……ですか?」

  「私は小石川……小石川文子です」

  「――覚えておいででしょうか……?」

軽く頭を下げ、改めて自分の名前を名乗る。
美術館には、それなりの人がいるようだ。
ただ、今の時点で『白い女の絵』の前に立っているのは二人だけだった。

508 小鍛治明『ショットガン・レボルーション』 :2018/10/02(火) 01:17:50
>>507

「えぇ、私は小鍛治明」

「そういうあなたは小石川さん」

礼と言葉を返す。

「前に会ったのは確か、ハロウィンの時期だったかしら」

結構経つのかそれともそうでもないのか。
詳しくはよく思い出せないが。

「今日は絵を見に……来たんですよね?」

「この絵が気に入っていらして?」

509 小石川文子『スーサイド・ライフ』 :2018/10/02(火) 01:49:31
>>508

  「はい――私も、そのように覚えています……」

そう言ってから、再び絵に視線を向ける
絵を見つめる瞳の中には、複雑な色があった。
それから、また少女の方を見やる。

  「この絵は……ええ、そうですね……。おっしゃる通りです」

小さく頷いて、口元に静かな微笑を浮かべる。
それは、絵の中の女と同じ表情だ。
しかし、両者の雰囲気は異なっていた。

  「……これは、私の夫が描いた絵なのですが……」

  「この催しがあることを聞いて、他の方にも観ていただければと思い、
   こうして展示させていただいているのです」

  「――彼も喜んでくれるのではと……私は、そう思っています……」

510 小鍛治明『ショットガン・レボルーション』 :2018/10/02(火) 02:05:43
>>509

黒い髪を彼女の手の甲が弾く。
鋭い視線を絵に向け、それから小石川に戻す。
見比べる。
似ているが、違う。
そういう印象を得た。

「いい絵ですよ。ご結婚の際のものかしら」

「貴方の旦那様は画家の方?」

そう言って止まる。
手が口元に伸びて、唇に緩く握った拳の白い指が触れる。
思案、といった感じの表情だった。

「……ごめんなさい。この話は、続けていいのか分からないのだけれど」

「よろしくて?」

喪服と何かを繋げたらしい。

511 小石川文子『スーサイド・ライフ』 :2018/10/02(火) 02:38:42
>>510

  「――ありがとうございます……」

自分にとっては、こうして観てもらえるだけでも十分ありがたい。
それだけでなく、いい絵だと言ってもらえたことが素直に嬉しかった。
その気持ちを示すために、深いお辞儀と共に感謝の言葉を返す。

  「これは……私がドレスを試着した際のスケッチを元にして描いたものです」

当時のことを思い出しながら話す。
あれは結婚する直前のことで、その時の自分はとても幸せだった。
絵の中の自分を見ていると、まるで昨日のことのように思い出が蘇ってくる。

  「……はい、彼は絵を描くことを仕事にしていました。
   こうした油絵だけではなく、他にも色々な分野の絵を描いていましたが……」

  「この絵は一度も発表する機会がなかったもので……これを選びました」

言葉を続けながら、少女の仕草が視界に入る。
次に、その表情を見つめた。
それから、穏やかに微笑んだ。

  「ええ――どうぞ……」

512 小鍛治明『ショットガン・レボルーション』 :2018/10/02(火) 22:40:22
>>511

「はっきりと言ってしまうのだけれど」

「その方は亡くなられた、と解釈してもよろしいかしら」

揺らがない瞳。
変わらない声色。
刺々しくはないが鋭い言葉の色がにじむ。
すっぱりと言葉にした。

「それで貴方は今も喪に服していると。私は考えているわ」

513 小石川文子『スーサイド・ライフ』 :2018/10/02(火) 23:49:54
>>512

少女の真っ直ぐな視線を受け、軽く目を伏せる。
しかし、それは僅かな間のことだった。
一瞬の後には、また少女を見つめ返す。

  「……その通りです」

  「結婚して間もなく……彼は……」

無意識の内に、左手が右手に触れる。
左手の指先が、右手の薬指に嵌められている銀の指輪を撫でた。
それは、左手の薬指に見える指輪と対になっているものだ。

  「……それから、長い時間が経ちました」

  「ですが……私は、これからも喪に服し続けるつもりでいます」

普通は、一定の期間を過ぎれば、喪は明ける。
けれど、私の喪は明けることがない。
今までも、これから先も、生きている限り続いていく。

  「それが、彼に対する私からの手向けになると信じていますから……」

もしかすると、それは愚かな考えなのかもしれない。
そうだとしても、止めようという気持ちはなかった。
いつまでも想い続けることが、彼に対して自分ができることなのだから。

514 小鍛治明『ショットガン・レボルーション』 :2018/10/03(水) 00:27:08
>>513

「そう」

視線を切った。
一歩絵に近づく。
絵を見つめ、息を吐く。
いま目の前にあるものの持つ意味と、それに繋がる人間。
点と点。
繋がっているのか繋がっていないのか。

「貴方は素敵な人ね」

ぽつりとそう呟いた。
それは小石川に向けられたものだったのだろうか。
目も合わせずに言葉が零れている。

「思わぬ場所で思わぬ作品と出会って」

「人の思わぬ場所を知ったわね」

515 小石川文子『スーサイド・ライフ』 :2018/10/03(水) 01:16:41
>>514

  「――……」

何も言わず、絵に視線を向ける少女の背中を見つめる。
自分と同じ黒い装いの少女。
その色が意味するものは何なのだろうか。

  「私も、思わぬ場所で思わぬ方と出会えました……」

今日、こうして再会したのは、きっと偶然なのだろう。
だけど、もしかしたら何かの縁があったせいかもしれない。
ふと、そんな考えが心の中に思い浮かんだ。

  「そして……思わぬ言葉をいただきました」

一歩足を進め、再び少女の隣に並び立つ。
その視線は、少女と同じように絵の方に向けられていた。
壁に飾られている額縁を隔てて、絵の中にいる過去の自分と、
今ここに立つ現在の自分が向かい合う。

  「小鍛冶さん……」

  「この絵の前で足を止めてくださったことに、心から感謝します」

  「彼に代わって、改めてお礼を言わせてください」

  「本当に……ありがとうございます……」

真摯な思いを込めた言葉の後で、深々と頭を下げる。
先ほど口にした謝辞は、自分の気持ちを示すためのものだった。
これは、絵を描いた彼の言葉を代弁したものだ。

516 小鍛治明『ショットガン・レボルーション』 :2018/10/03(水) 01:43:41
>>515

「そう。でも、感謝をされる筋合いというのはないわ」

「いいものを見て、いいと言うのは当然のことよ」

髪を触る指。
黒い髪に白い指が潜り込んでいる。

「それじゃあ私はそろそろ行かせてもらうわ」

「用がある作品があるの。えぇ、この絵には及ばないものだけれど」

(私の作品が、ね)

517 葉鳥 穂風『ヴァンパイア・エヴリウェア』 :2018/12/25(火) 17:29:02

何か用事があったというわけでもなく、なんとなく町を歩いていた。
なんとなく町を歩く。小雨が髪を濡らす。良い気分だ。
            パタ
         
「…………」

           《お嬢様、じきに本降りになりましょう。
            今の内にお纏い下さいませ》

「また……勝手に出てくる……」

ただでさえその赤い髪と目、大きな黒いリボンは目立つのに、
その傍らには『蝙蝠傘』を人型に組み直したような異形の『従者』。

           《『雨具』の本懐です故、どうぞお赦しを》

「……目立つから、そこ、入るよ」

本降りの雨の中を闊歩するのも気分は良い。
気分は良いが……風邪を引くのは、いやだ。

従者の勧めに素直に従うのは少し癪だが、
屋根のある路地裏に入り込み彼の能力を使う事にする。

・・・ただでさえ目立つ格好が、そんな目立つ事をしているわけだ。

518 美作くるみ『プラン9・チャンネル7』 :2018/12/25(火) 22:51:39
>>517

「出掛けた矢先に降られちゃうとは、我ながらツイてないわねぇ」

思わずグチを零したくなるが、それで雨が止んでくれる訳もない。
仕方なく、ひとまず屋根のある場所に入る事にする。
そこで――――『吸血鬼』を思わせる少女と、奇怪なスタンドに遭遇した。

「………………」

その時、チラリと見てしまった。
見たというより、たまたま視界に入ってしまったという方が正しいかもしれない。
とにかく、その光景を目撃してしまったって事になる。

(自分で喋るスタンド――『コール・イット・ラヴ』と似てるわね)

自然公園で出くわした少女のスタンドを思い出す。
あの『コール・イット・ラヴ』と名乗ったスタンドは、
自分の意思を持っているようだった。
この『蝙蝠傘』のスタンドも、きっとそうなんだろうと思う。

(さて、どうしようかしら)

私は向こうのスタンドを見た。
その視線には気付かれただろう。
黙ったままというのは何となく居心地が悪いし、
かといってスタンド使いである事を指摘するというのも違う気がする

        ――シュンッ

ラフなアメカジファッションの女の肩に、『機械仕掛けの小鳥』が止まる。
ちょっとした挨拶のようなものだが、どう受け取られるかまでは分からない。
もちろん、この何処か『吸血鬼』を連想させる佇まいの少女が、
まさか『本物』ではないだろうと判断した上での行動ではあったが。

519 葉鳥 穂風『ヴァンパイア・エヴリウェア』 :2018/12/25(火) 23:04:08
>>518

「……」

「……? 『エヴリウェア』?」
 
              ≪――――お嬢様。面目御座いません。
                お言葉通り、『目立って』しまったようで≫

「!」

       バッ

振り返った。美作と、目が合った。

吸血鬼――――というには、
愛嬌ある顔だちの少女だった。   
冷たい美貌とはまるで違う。

だが、どこか異様――――『非現実』の風ではある。

「…………」

(どう、しよう。あれ、スタンド……だけど、
 私のを見て、びっくりして出しただけ……かも)

       (……悪い人、じゃなさそう) 

              ≪万一も御座います、故に。
                ――――警戒失礼致します、ご婦人。
                そしてお嬢様、遅ればせながら『お纏い』下さい≫

                主の考えには同意する。
                悪意は感じない、ゆえに謝罪のあと、
                あくまで念のためその身を主に委ねる。

「……ん」

            『ベキバキッ』

      『ミシ』  『ボギ』     『パタパタパタ』

そして何より異様なのは、その『従者』が『変形』し、
骨と皮膜で構成された赤黒の『レインコート』として少女に纏われたこと!

「……あのっ、ええと。その。
 …………こんにちは! 見えてます、か?」

                 「その、すみません。……驚かせちゃって」

520 美作くるみ『プラン9・チャンネル7』 :2018/12/25(火) 23:36:35
>>519

「…………わぉ」

スタンドに生じた変化を目の当たりにし、小さな呟きが漏れた。
少女が言うように、『驚いた』というのが正直な感想だ。
『蝙蝠傘』と『レインコート』――共通点は『雨具』だろうか。

「ううん、いいのよ。私は全然気にしてないから」

「こっちこそ変な事しちゃってゴメンなさい。何かしようって訳じゃなかったんだけど」

「そこの『エヴリウェア』さんを見たもんだから、つい。ホントにゴメンね」

     アハハハ

開いた両手を軽く上げて、申し訳なさそうに笑う。
ちょっと軽率だったかもしれない。
でも、本当に危険な相手なら、こんな場所で目立つ行動は取らないだろうし。

(というより――――日頃から警戒が必要なのは私の方かもね)

自身のスタンドを考え、ひそかに胸中で思う。
『プラン9』の専門は『情報』だ。
純粋な力や速さを一切持っておらず、
あぶらとり紙の一枚さえ持ち運ぶ事ができないのだから。

「ね、『プラン9』」

『小鳥』に語りかけるが、当然答えは返ってこない。
肩の『小鳥』は囀る事もなく、ただ黙って佇んでいる。
遠目から見ると、アクセサリーか何かに見えるかもしれない。

521 葉鳥 穂風『ヴァンパイア・エヴリウェア』 :2018/12/25(火) 23:59:30
>>520

「いえ、その、私も大丈夫、です。
 こっちが、先に出しちゃってた、ので」

       モゴ

「その……こっちが悪い、です。……」

         チラ

             ≪ご無礼をお詫び申し上げます、
               早計が過ぎました、ご婦人。
               それに――――『プラン9』殿≫

「……もう」

やはり『半自立』のスタンド。
本体とは違う気持ちを持ち、動き回る影。

        サ
             ア 
                 ア   ・ ・ ・

小雨をBGMに、穂風は肩の鳥に視線を向けた。

「『プラン9』さん、って、言うんです……ね。
 その、『鳥さん』……スタンド、なんですよね?」

             ≪同輩の気配を感じます故≫

(そんな気配とかあるのかな……)

鳥のスタンド。穂風のスタンドも異形だが、
人型ではないスタンドは比率的には『珍しい』のかもしれない。

「えへ、でも……なんだか、かわいい感じ……ですね」

ただ、穂風にはスタンドだからとかではなく、
肩に乗る鳥、というのが珍しく、愛い物に思えた。

        (……ペット、とか。ちょっと憧れる……けど。
          でも、かわいいだけじゃない、よね。きっと)

自分のが口うるさくておせっかい焼きなだけじゃないように、だ。

522 美作くるみ『プラン9・チャンネル7』 :2018/12/26(水) 00:34:48
>>521

「じゃあ、『おあいこ』って事にしときましょうか。それで、この問題は解決よ」

自分の意思を持ち、言葉を話し、行動するスタンド。
やはり、『マスキングテープのスタンド』と同じだ。
当然ながら、その性格には違いが見られるのだが。

「ええ、そうよ。僭越ながら『ご同輩』ね」

「褒めてもらってありがとう。可愛いでしょう?私も気に入ってるの」

「でも、『エヴリウェア』さんもイケてるわよ。何ていうか風情がある佇まいよね。
 あなたとのコーディネートも上手くできてると思うわ」

少女と『従者』を交互に見比べる。
スタンドは本体の精神の発露。
この少女がどんな人物かは知らないが、何処となく似合っているような気がする。

「それに、お話もできるみたいだし。
 前にも一度、そんなスタンドを見かけた事があるのよ。
 私の『プラン9』はお喋りしてくれないから、ちょっと羨ましいかな」

目の前のやり取りを見ていると、実際は苦労もあるかもしれない。
ただ、自分が持たないものでもある。
ボディに『マイク』と『スピーカー』を備えた小鳥――
『プラン9』は無口であり、『従者』とは対照的だ。

「私は美作っていうの。美作くるみ」

「スタンドの自己紹介をした訳だし、せっかくだから名乗っておくわね」

まだ雨は止まないし、名前が分かった方が話はしやすい。
そう思って、名前を名乗った。
静かに佇み続ける『プラン9』は、外見と同じく機械的な雰囲気があった。

523 葉鳥 穂風『ヴァンパイア・エヴリウェア』 :2018/12/26(水) 01:05:50
>>522

「あ、はいっ。それでお願い、します」
 
       ペコリ

丸く収まったようで安堵する。

         ≪お褒め頂き、光栄の至り。
           お嬢様を着飾るのも、
           『雨具』としての勤めですゆえ≫

「……そうです、か?」

(見た目は、まあ、嫌じゃない、けど。
 ……性格もべつに、嫌って訳じゃないけど)  

胸を張るようなしぐさを見せる従者を、
なんとも複雑な表情で見やる穂風。

「皆さん、その、言ってくれます。
 お喋りできるの、うらやましいって」

「……私は、その鳥さんみたいに、
 その……静かでかわいいのも、羨ましいです」

            ≪……≫

「あ、う……別に、うるさいのが、
 …………嫌とかじゃ、ない……から」

            ≪ええ、存じておりますとも。
              ご信頼をいただいている以上、
              いえ、仮に頂かずとも――――
              私めは常に『従者』に御座います≫

             煙たく思われても、忠言はいつか主の為になる。
             主も、それを何処かでは理解してくれている。

「……そ、う」

穂風と従者の関係は一言で表しづらいものだ。
信頼はある。かけがえのない存在でもある。
それはそれとして、なんとなく煙たい時もある・・・

             ハトリ ホフリ
「あ、ええと、その。『葉鳥 穂風』と、いいます」

             ≪改めまして――――お嬢様の従者にして、
               『雨具』にして、スタンドで御座います。
               私めの名は、『ヴァンパイア・エヴリウェア』≫

                        ≪――――お見知りおきを≫

524 美作くるみ『プラン9・チャンネル7』 :2018/12/26(水) 01:35:28
>>523

「葉鳥さん、改めてこんにちは」

「そして、『ヴァンパイア・エヴリウェア』――――ね」

「やっぱりイカしてるわね。その名前も覚えておくわ」

その名前も、少女には似合っているような気がした。
少女に対して、吸血鬼っぽい風体などとは流石に言えないが。
それでも、精神の象徴なだけあって、相応しいという感じはする。

「それなら、私もちゃんと紹介しておかないとね」

「『プラン9・チャンネル7』よ。この子の代わりに、私の口から言っておくわね」

肩の『小鳥』に視線を向ける。
もう一人の自分であり、小さなパートナー。
厳密には喋る事もできなくはないが、挨拶はできない。

「この名前も気に入ってるのよね。私にピッタリだから」

「私、ラジオの仕事やってるの。いわゆるラジオパーソナリティーってヤツ」

「『Electric Canary Garden』って番組でね。私が色々お喋りする小さな『箱庭』よ」

525 葉鳥 穂風『ヴァンパイア・エヴリウェア』 :2018/12/26(水) 02:18:07
>>524

「はいっ、こんにちは……くるみ、さん」

         ≪それはそれは、
          身に余る光栄に御座います。
          美作様、そして――――
          『プラン9・チャンネル7』様≫

               ペコォーーーッ

礼節正しく頭を下げる従者と、
笑みを浮かべ、挨拶を返す主。

「ラジオ、ですか……!」

ラジオは知っている。
昔から聞いていたし、
『外』に憧れた理由の一つだ。

もっとも、美作の番組は知らないけれど。

「すごい、です……ラジオの、喋る人、なんて。
 とってもすごい……人、なんですね。美作さん」

            キラキラ

それでも憧れの視線を向ける。
なりたい!と言う憧れというより、
有名人に会うというのが穂風には新鮮だ。

「その、ええと。何をしゃべってるん、ですか……いつも。
 ええと、例えば……ううん、その、音楽の事……とか、ですか?」

526 美作くるみ『プラン9・チャンネル7』 :2018/12/26(水) 02:54:52
>>525

「アハハハ――その言葉は嬉しいけど、そんなにスゴい事もないわよ?」

羨望の視線を向けられて、笑いながら軽く片手を振ってみせた。
ここまで言われる事は少ないので、やや照れもある。

「私は、まぁ『それなり』だから。順位としては、そこそこって感じね」

まぁまぁの人気はある――と、自分は思ってる。
昔ほどではないけど。
それでも、支持してくれる人がいるのは決して悪い事じゃない。

「私が喋るのは――『楽しい事』かしら。
 流す音楽の事や、新しいお店の事や、普段のちょっとした話なんかね」
 
「聴く人が楽しい気持ちになれるような話題を提供してるってところよ」

「私の話を聴いて、少しでも皆に楽しんでもらう事が、私の目標だから」

かつては歌で、今ではトークで、それを目指す。
フィールドは変わっても、そこは変わらない部分だ。

「葉鳥さんは、ラジオは好きかしら?」

「私は好きよ――って、これは当たり前だけど、ね」

527 葉鳥 穂風『ヴァンパイア・エヴリウェア』 :2018/12/26(水) 04:00:54
>>526

「順位……順位が、あるんですね。
 知らなかったです、その……
 でも、どんな順位でも、あの、
 ラジオで話してるのが、すごいなって」

       モゴモゴ

「私、その、あまり話し上手でなくて。
 ラジオ聴いてると、皆さん、凄く上手で。
 お仕事だから、そういうものなのかも、
 その……しれない、ですけど。でも」

時折もごもごと言葉を濁しつつ、
穂風は己の語彙を動員して、よく話す。

「楽しい事――――ですか」

          ≪バラエティーと言った所、ですかな。
            私めも詳しい訳では御座いませんが≫

(私よりは、詳しいけど……)

「は、はいっ、好き、です。
 最近はあまり……聞けてない、ですけど」

学校に通っているから。
昔は通ってなかったから、夜長に楽しめる娯楽だった。
何を想って、与えられていた娯楽だったのかは、
今となっては――――穂風には定かではないが。

「でも、好きです。あの……『想像』出来る、から」

         「お話とか、音楽とか、聴いて。
          それがどんなに楽しいか、って」

                 「考えて、もっと……楽しめる、から」

後見人が出来てから、今風の娯楽もいろいろ知った。
スマートフォンも持ってるし、動画サイトなんてのも知っている。

けど、ラジオはそれとは別のチャンネルで、楽しい事を届けてくれる。

528 美作くるみ『プラン9・チャンネル7』 :2018/12/26(水) 14:35:26
>>527

「ああ、ハッキリしたランキングみたいなものがある訳じゃないのよ。
 順位っていうのは言葉のアヤってヤツでね。
 人気があるかどうかっていうのは順位に近いかもしれないけど」

「言い方が紛らわしくって悪かったわ。
 つい普段のノリで喋っちゃって。
 要するに、私の人気は『まぁまぁ』くらいだから、
 そんなにスゴくないって事が言いたかったの」

こういったタイプとはあまり接した経験がなかったために、
少しだけ戸惑いがあった。
何というか、ピュアというのだろうか。
表現しにくいが、一般的な人と比べて世俗的な匂いが薄いような気がする。

「そうね……『バラエティー』っていうのは中々いい言葉だと思うわ。
 よく分かってらっしゃるじゃない」

軽く頷いて、『ヴァンパイア・エヴリウェア』に同意を示す。
そして、穂風の話を静かに聴きながら、僅かに目を細める。

(やっぱり不思議な感じがする子ね)

彼女の生まれ育った環境がどんなものであったか。
当然それは知る由もない。
それでも、やはり普通とは違った雰囲気がある事は察せられた。

「『想像』――――ね」

「その言葉、他のパーソナリティーにも伝えておくわ。
 きっと喜ぶと思うから」

「現に、今私が喜んでるんだもの。素敵な言葉をありがとう」

       ニコリ

化粧っ気のある顔に、明るく気さくな笑みを浮かべる。
こういう時が、ラジオの仕事をしていて良かったと思う瞬間だ。
もしアイドルを続けていたとしたら――知る事はなかったかもしれない。

529 葉鳥 穂風『ヴァンパイア・エヴリウェア』 :2018/12/26(水) 21:44:50
>>528

「あっ、そ、そうなんですね。
 すみません、その、早とちりで」

(美作さんで、スゴくないなら、
 スゴい人ってどんななんだろう。
 こ、こっちが言う前に、分かったりするとか……?)

穂風は知らないことが多い。
いろいろな事を知れるのは美点だが、
なんとなく話がかみ合わない事もある。

          ≪本日は良くお褒め頂きますな。
            私めには、身に余る光栄で御座います≫

「……調子、乗らないでね」

          ≪とんでもございません、お嬢様≫

やはり誇らしげな従者に視線を流しつつ、
美作の笑みには、同じく明るい笑みを返す。

      ニコォ〜ッ

「あ、いえ、そんな。えと、こちらこそありがとうございます」

「あの、ラジオ、『エレクトリック……』」

             ≪……≫
                     ボソボソ

「……カナリア・ガーデン』!
 あ、と、ちゃんと、覚えておきます、から。
 またお休みの日とかに、聴いてみます」

             「その、楽しみにしてますっ」

もしかすると、『ファン』というやつが1人増えたのかもしれない。

530 美作くるみ『プラン9・チャンネル7』 :2018/12/27(木) 19:41:21
>>529

(何だかんだ言っても、やっぱり良い関係みたいね)

番組名を主人に伝える従者を見て、そう感じた。
そういうのを見てると微笑ましい気分になる。
自分も従者とは言わないが、そういう相手が欲しいと思えてくる。

      …………現在、『募集中』だ。

「ありがと。葉鳥さんが聴いてくれたら、私も嬉しいな」

ファンが増えるのは、何よりも喜ばしい事。
それに関しても、昔と変わらない部分と言えるのかもしれない。

 「あ、そうだ――って、名刺入れ置いてきちゃったか」

   「いや、待てよ……」

      「あ、あったわ……」

         ゴソ ゴソ

スタジャンのポケットを漁るが、目的の物は忘れてきてしまっていた。
途中、ふと思い出して財布を手に取る。
名刺入れを忘れた時のために、財布にも一部入れていたことを思い出したのだ。

「これ、良かったらどうぞ。放送局とか放送時間とか、色々書いてあるから」

鮮やかなグラデーションで彩られた名刺を差し出す。
『Electric Canary Garden』と『パーソナリティー:美作くるみ』の文字が、
細身のシャープなフォントで印刷されている。
片隅に描かれているイラストは、
『電源コード付きの丸みを帯びたデフォルメ調のカナリア』だ。

「この子はイメージキャラクターの『電気カナリア』。私がデザインしたの。
 くるみ共々よろしくね」

イラストを指差して、そう付け加えた。
それから、雨の方に視線を向ける。
話している間に、少しずつ弱まっていたようだった。

531 葉鳥 穂風『ヴァンパイア・エヴリウェア』 :2018/12/27(木) 21:15:02
>>530

「えへ……あっ。ありがとうございますっ」

           ゴソリ

ポケットに名刺を入れた。
これで番組を間違える事もない。

          ≪――――お嬢様。空を。
            どうやら通り雨だった模様で≫

「そう、みたい……」

「あの、私、そろそろ。
 その、行こうって、思います」

理由はとくにないけれど、
雨の切れ間だったし、
ちょうど話題の切れ間でもあった。

「今日は、ありがとうございました! それでは、また……!」

           ≪お寒い季節です故、御息災を。
             またお会いしましょう、美作様≫

そうして穂風は歩きだし、雨上がりの町へと溶け込んでいく。

532 美作くるみ『プラン9・チャンネル7』 :2018/12/27(木) 22:21:09
>>531

   「 『Goodbye』 」

       「 『and』―――― 」

            「 『See you again !!』 」

主人である少女と、精神の片割れの従者を見送る。
雨に降られてツイてないと思ったけど、そうでもなかったみたいだ。
神様も案外、粋な計らいするじゃない。

      キュッ

「さてと――『私達』も行きますか」

肩の上の『小鳥』に小さく声をかけ、キャップを被り直す。
歩き出し、その姿は街の中へ消えていく。

ある雨の降る日の小さな一幕だった――。

533 門倉『ソウル・ダンジョン』 :2019/01/01(火) 22:32:54

 「………ふゥゥ〜〜〜〜」

栗色のソフトモヒカン、ワインレッドのジャケット、20代半ばの男が、
わざとらしいほどの溜息を繰り返すのは、『駅』近くにある彼の行きつけのファミレス。
年明け早々、派手ともいえる外見に反してなにやら陰気な雰囲気を漂わせていた。

ファミレス自体はそれなりに混雑している。そしてこのファミレスは時折『相席』を求められる事もある。
あるいは近くの席に座っているならば、彼の仰々しい『溜息』は『気になるもの』として感じられるかもしれない。

534 斉藤刑次『ブラック・ダイアモンド』 :2019/01/02(水) 19:32:34
>>533

    「……何か『悩み事』でもあるんスかァ〜〜?」

      「いやね、“お一人様でゆっくりしたかったのに、
       相席に来たのが『カワイコちゃん』でもねえ『こんなナリ』のヤローだとは思わなかった”
       ……ッつゥのもワカランでは無ェ〜ッスけどォォ〜〜」

向かいあった席からの声。
赤と黒の入り混じった派手めの髪、ドクロのシルバーアクセをゴソゴソつけた、
ひと昔前の「信念持ってバンドやってます!近頃のJポップはクソ」とか言いそうなルックスの青年が
心配そうというか、迷惑そうというか、そんな感じの眼差しで門倉を見つめている。

   「まァ……メシぐれーは楽しく食いましょーよォ…!」

           ピンポーン

     「あ、オネーサン、俺ランチセットで」

535 門倉『ソウル・ダンジョン』 :2019/01/02(水) 21:16:49
>>534(斉藤)
「そういう悩みもあるにはあるがね………」

向かい合う席のバンドマン(だろう)『斉藤』を一瞥する門倉。
門倉自身もきちんとした社会人の身なりとは到底言いがたいが、
そういうのは棚にあげた視線だ。

「あ、君。俺もその…ランチセットで。飲み物はコーヒーでいい。アイスで。

 そういえばあの店員は今はいないの? ツインテールの。

   ――あ、辞めた。
                                ………そう」

結構前からちょっかいかけていたツインテールの店員も辞めてしまったようだ。
なんだかやけに時が経ってしまったような感覚を覚える門倉だった。

「………そういう君は楽しそうだね。やっぱり悩みなんてないのかい?」

眼前の青年に何の気なしに語りかけてみる。

536 斉藤刑次『ブラック・ダイアモンド』 :2019/01/02(水) 21:57:15
>>535

 「いやァ〜〜俺こんなッスけど、悩みまくりッスよ」

  「年末特番録画忘れたり、バイトで年下に怒られたり、
   知り合いが軒並み『インフルエンザ』に罹って連絡取れなかったり、
   親父は自営業なんスけど、最近ヒマそーだしよォォ〜〜」

気まずそうに後頭部を掻きながら小市民的な悩みを吐露する。
体が揺れるたびにチャラチャラとアクセサリーがうるさい。

  「おじ……オニーサンもパッと見、
   フツーの会社員ッつーカンジじゃねーケド芸能関連の人ッスか?
   俺、実はバンドやってんスけど、CDとか聴いてみてくんねーッスか?」

『おじさん』と言いかけてやめた青年は、黒い革のバッグからペラペラのCD-Rを取り出そうとしている。
実際の年齢は二人ともさほど変わりないのだろうが、門倉は年上認定されたようだ。

537 門倉『ソウル・ダンジョン』 :2019/01/02(水) 22:23:58
>>536(斉藤)
「へェ―― タイヘンそうだねェ〜〜〜」

自分から話を振ったにも関わらず、人の悩みにはあまり興味なさそうな返答の『門倉』。
あらかじめ運ばれた冷水にズズイと口をつける。

「いや、芸能関係なんてモノじゃあないよ。ただのふど………」

 何かを思い出したらしくしかめ面をする『門倉』。
   彼の悩みは仕事がらみの事なのかもしれない。

 「………まあなんであれ、せっかくの出会いだ。聴いてみよう。
  といってもさすがに今すぐは無理か。
   聴ける機器なんて今どき持ってはいないだろうからね」

 一応、CD-Rを受け取ろうとする。

538 斉藤刑次『ブラック・ダイアモンド』 :2019/01/02(水) 22:47:15
>>537
  「ま、仕事以外の悩みも色々ありますしねェ〜〜……
   お気に入りのファミレス店員が辞めちゃったりとか、色々ね」

最初の店員とのやり取りもちゃんと聞いていたようだ。
悪意は無いのだろうがニヤついている。

  「不動産屋ッスか?オニーサン、仕事で悩んでんスか?」

言いかけた部分を取りあえず無遠慮に拾っていく。
CDは、まあ宣伝のつもりでそのまま渡す。あまり意味はない。

539 門倉『ソウル・ダンジョン』 :2019/01/02(水) 23:07:18
>>538(斉藤)
「………」

 『斉藤』の意味ありげなニヤつきに少しの間、沈黙しつつも

「不動産屋……そう、だったんだがね」

 『斉藤』の問いかけに再び口を開く。

 「ちょっと店がね。
               その………『爆破』してね」

少し前に世間を騒がせた某不動産チェーン店のスプレー破裂事件。
その影に隠れるように『門倉』の不動産屋、『門倉不動産』も何者かによって爆破されていた。
(何となく心あたりがあるような気もするので『門倉』としては犯人捜しをする気はないのだが)
爆破といっても例の事件に比べるとささやかなもので、被害も軽微といえるものだった。
地方ニュースでちょこっとやった程度の事件性で怪我人すら出ていない―――
だがそれでも周辺の店舗への保障、そして何より、自身の店の補修は行わらなければならない。

「まあ、詳細は端折るがその『保障』に追われているというわけなんだ。
             だから稼がないといけない……いけないのだ」

                      ふゥ〜〜〜……

『門倉』は再度溜め息をつく。
そう言いながらもファミレスなんかでノンビリしているのだが。

540 斉藤刑次『ブラック・ダイアモンド』 :2019/01/02(水) 23:27:32
>>539

  「ばッ……」

    「『爆破』ァァ〜〜ッ!?」

  「そりゃ『大事件』じゃねェーッスかァァ〜〜ッ!!
   こんなトコでのんびりしてる場合じゃねェ〜〜ッスよ!!」

周りの客や店員が一瞬こちらに注目するのも構わず、大きな声で驚く青年。
少々オーバーリアクション気味ではあるが、素の反応なのだろう。
斉藤のような一小市民にとって、そういった出来事はそれこそ『ニュース』の中だけの出来事なのだ。

   店員:「あ、あのォ〜………
       『ランチセット』とアイスコーヒーお持ちしましたァ〜……」

 「あ、スンマセン……!そこ置いといてください」

店員が怪訝そうな顔で配膳に来たのに気づき、声のトーンを落とし気味で受け取る。
門倉の注文も同じタイミングで届いたようだ。

541 門倉『ソウル・ダンジョン』 :2019/01/02(水) 23:44:56
>>540(斉藤)
「『大事件』―――そうだな、そのとおりだ。普通ならば。
 ただこの町じゃあ『大事件』ってほどじゃあないんじゃあないか?
                    中……いや、『小事件』程度さ。

  もしかしたらあのニュースの爆破も、『能力』の仕業かも―――なんてね」

訳知り顔でよく分からない事を語りだす『門倉』。
あるいは『能力』という言い回しに何かしら感じるものがあるかもしれない。

「おっと、そんなこんなでランチタイムだ。とりあえずは食べようじゃあないか。
 ノンビリしてる場合じゃあないというが、腹は減っては戦は出来ぬというしね」

  話の途中で来たランチに早速手を出そうとする『門倉』。

542 斉藤刑次『ブラック・ダイアモンド』 :2019/01/02(水) 23:58:43
>>541

  「いやね、最近思うんスけど」   カチャ カチャ

  「オニーサンの言う通り『フツー』に言えば……ッスよ、
   店舗が『爆破』!ッつーたら結構な事件ですよ、フツー」

        「ところで不幸なオニーサンにはコレをあげます」

ランチセットのハンバーグを齧りながら、
そしてセットのプチトマトを門倉の皿に勝手によこしながら、一般人の立場で話をする。

  「それこそ『能力』だとか、そういうのを抜きにすれば―――の話ッスけどォォ〜〜〜……
   ――――――………ん?いまアンタ『能力』ッて言った?」

門倉の風貌から「胡散クセ〜〜〜」ぐらいは思っていたが、
そこまで警戒心を抱いてはいなかった斉藤の箸が一瞬止まる。

543 門倉『ソウル・ダンジョン』 :2019/01/03(木) 00:12:38
>>542(斉藤)
「君がキライなんじゃあないのかそれは……」

よこされたプチトマトに軽くツッコみながらも、素直に頬張る『門倉』。
プチっと潰れ口から軽く種が出てしまったが、まあ些細な事だ。

「ん……んん、『能力』。
               確かに。確かにそう口にしたが―――」

アイスコーヒーを飲みつつ、『門倉』はじっと『斉藤』を見ている。
不用意な事を言った、というより、その言葉に反応している
『斉藤』に興味を抱いたようだった。

            「何か気になる事でもあるのかい?」

ちょっとズレてはいるものの普通に使う日本語ではある。
ただその言葉に特殊な意味を籠めている人種も居る。

  眼前の男がそれに当てはまる男なのかどうか―――
          ・ ・

544 斉藤刑次『ブラック・ダイアモンド』 :2019/01/03(木) 00:28:57
>>543

   「『能力』ッてのは、いわゆる―――――――

    ――――――『スタンド能力』ッてヤツですよ!(小声)」

僅かな警戒心が言葉を遅らせようだが、『スタンド』について言及する。
あまり大声で叫ぶようなことでは無いので小声ではあるが、
まあいざとなったら逃げるなりなんなりすれば良い。

門倉の言う通り『爆破事件』なんてのは『スタンド使い』同士が話をする上では
それほど『大事件』というワケでもない、という事を斉藤は知っている。

   「アンタもそうなのか?『刺青』とかそういう類の」

545 門倉『ソウル・ダンジョン』 :2019/01/03(木) 00:47:55
>>544(斉藤)
「………!」

『斉藤』の言葉に『門倉』は一瞬を見開き、そして黙る。
しかしその仕草は明確に語っていた―――『門倉』が『知っている』という事を。

「驚いたな………しかも、『刺青』の事まで知っているとは。
 得る方法はいろいろあるようだが………そこまで『一緒』なのか」

              グ イ  ン
                             シュウウ……

ほんの一瞬………まるで秘密を分かち合うように
『門倉』の体から半透明の『人型』が現れ、そして消えた。
注視している『斉藤』でなければ見落としてしまうであろう刹那の出来事だ。

「………『見せる』事を嫌う者も居るだろうけどね。
  人生は短いし、出会いは貴重だ。
     語り合える『仲間』が増えるのに越した事はない」

546 斉藤刑次『ブラック・ダイアモンド』 :2019/01/03(木) 01:08:39
>>545

   「やっぱ『刺青』――――かァァ〜〜〜……
    いやァ、世間は狭いッスねェ〜〜〜〜〜」

                 ズズ    !

特に危険人物では無さそうなので、自身もスタンドを一瞬だけ発現させる。
箸を止めていた斉藤の腕に、やはり半透明の『腕』が現れ、消えた。

  「ま、ヤバそーな相手だったら見せねーッスけどね……」

     「うおッ……や、ヤベ〜〜〜もうこんな時間か……!
      そろそろ俺は行くッス!バイトあるんで」

時計を確認すると斉藤は慌てた様子でランチの残りを頬張って、そそくさと帰り支度を始めた。

    「オニーサンも、その『爆破』とか、何か協力できんなら手伝いますよォォ〜〜〜
     ここで会ったのも何かの縁だし、『仲間』ッつーコトで!」
                                   グッ

別れ際にサムズアップし、特に声をかけられなければそのまま立ち去るつもり(会計は済ませるが)。
ちなみに、斉藤から渡されたCD-Rには一応連絡先らしきものが書いてある。

547 門倉『ソウル・ダンジョン』 :2019/01/03(木) 01:19:40
>>546(斉藤)
「ほう………」

『斉藤』の『腕』に興味深そうな声をあげる『門倉』。
そして―――

「ああ、もう少し話したかったがバイトならば仕方がないな。
 世の中、稼がないといけない―――」

再び自分の置かれた惨状を思い出したのか、顔が曇る『門倉』。

 「確かに縁、『運命』というものはある。また会える時を楽しみにしているよ」

 そのまま『斉藤』を見送る『門倉』。
  そして去った後は、一人でほんやりとランチを貪ったのだった。

548 鈴元 涼『ザ・ギャザリング』 :2019/01/04(金) 03:03:48
相も変わらず寒い日が続いていた。
星見駅の近くのベンチに和服の少年が座っている。
若草色の長着と羽織、白い足袋と木の色の雪駄。
黒い癖毛の後ろ髪を平織りのミサンガで結んでいる。
小さな尻尾のようになった髪が、彼の動きに合わせて揺れている。

「……ふぅ」

空に向かって息を吐くと、それは白い煙のようになってあがっていく。
少年はそれをただ静かに眺めていた。
煙草の煙のように薄く細いその白い筋が天に昇って消えるのを見つめている。

「綺麗……」

雲一つない晴天だった。
何ということのない一日である。
代り映えのしない日常を彼の視界が切り取っていた。
空に雲がかかったような表情で見ていた。

549 門倉『ソウル・ダンジョン』 :2019/01/05(土) 21:05:46
>>548(鈴元)

「……ふゥ〜〜」

まるで『鈴元』のため息に追従するかのように少し離れた場所から溜め息が聞こえた。
『鈴元』がそちらに目をやれば、同じくベンチに座る20代半ばの男が目に入るだろう。

栗色のソフトモヒカンに、ワインレッドのジャケット、マフラーを身に着けた人物。
『門倉良次』―――しばらくぶりに目にする彼は『鈴元』には気づいていないようだ。
何やら考え事をしているのか、散漫な印象を受ける。

550 鈴元 涼『ザ・ギャザリング』 :2019/01/05(土) 21:47:52
>>549

「ん……」

自分以外の存在を感じて視線を向ける。
あまり見過ぎては失礼だろうからそーっと覗き見るように。
遠慮がちな視線が泳いで男性の姿を捉える。

「あ」

ダメだと思いながらも声が漏れた。
自分はこの男性を知っている。
色々と縁が重なった結果、知っている人物に変わった男性。
もちろん、勝手知ったる仲、ではないが……
それでも全く知らない人という訳でなかった。
何だか心の中でモゾモゾと動くものがある。

(休んではる……ん、よね……)

声をかけていいものか、と思ってしまう。
何か疲れているのかもしれない、仕事の待ち合わせかもしれない。
そんな思考が頭の中に浮かんでいく。
ただ、そんな中でも自分の心に従ってみることにした。

「門倉さん……やんね?」

「なんか、お悩み事でも、ありそんな感じやけど……?」

551 門倉『ソウル・ダンジョン』 :2019/01/05(土) 22:15:29
>>550(鈴元)
「………ん?」

『鈴元』の呼びかけに『門倉』は首をかしげる。
残念ながらというべきか、思い出すのに時間がかかっているようだ。

「あ―――ああ、その恰好と言葉遣い………
 君はアレだ。
             ……す………」

必死こいて『す』まではなんとか出てきたらしいが、それ以上はけして進めない様子だった。

「―――ステキな男だね。人が悩んでいるのをみて声をかけてくれたわけか。
 そういえば、前も何か手伝ってもらった気がするよ。

     とりあえず
                    ―――あけましておめでとう」

『門倉』は何かをごまかすかのようにやや遅めの新年のあいさつをしてきた。

552 鈴元 涼『ザ・ギャザリング』 :2019/01/06(日) 01:23:18
>>551

「あけましておめでとうございます」

相手の話し方に若干の違和感を感じつつも挨拶には挨拶で返す。
話し方というか、なんとなく何か考えつつという感じ。
明らかに『す』から先に進めていない言葉が引っかかる。
突っかかるほどではないけど、引っかかりはする。
それぐらいの感覚が喉につっかえた小骨のように感じる。

「……その、よかったらお話聞きますけど。僕で良かったらやけど」

「まだ子供やけど話聞くくらいは出来るから」

553 門倉『ソウル・ダンジョン』 :2019/01/06(日) 02:02:38
>>552(鈴元)
「ああ―――ありがとう、………す、スズ……君」

最後の方は聞き取れないほどの小声だ。
どうやら名を忘れてしまった事をごまかしている(つもり)らしい。

「まあいい―――いいんだ。それで『悩み』というのはね。

 知っての通り………いや知っていたかどうかは定かじゃあないが、
 俺は『不動産屋』をやっている。だが、不幸な事件によって『店舗』が爆破してね、
 まとまった金が必要なんだ―――

  ………………一番いいのは。

  何気なく俺の前に現れた君が
  実は札束に火をつけて遊ぶくらいの『大富豪』で、戯れついでに
  俺に数百万ほどホイッと施してくれるという結末なんだが………」

唐突にそんな厚かましいお願いをしてくる『門倉』。
さすがに冗談だろうが、妙にねちっこいその視線は、
『あわよくば』という、一縷の希望を託しているようにも思えた。

554 鈴元 涼『ザ・ギャザリング』 :2019/01/06(日) 02:16:49
>>553

「……」

目を閉じてにっこりと笑う。
優しい笑みだ。

「不動産屋さんっていうのは、どっかで聞いたことある気ぃするけどぉ……」

詳しくは知らなかった。

「いや、それは……大変なんやねぇ……」

爆破という言葉に少し眉が歪む。
一体どういう経緯なのかというのは気になるが、そこに触れてもいいものかとも考えてしまう。
心の迷いが指に出る。
規則的な拍子で自分の手の甲を反対の手の指が叩く。

「残念やけど、僕は大富豪ではないんよ。鈴元の家のお金も僕のお金やないし」

心苦しそうな声と表情だった。
あわよくばという意志に気づいていないのか、もしくは気づいた上でこれなのか。
それは鈴元涼だけが知っている。

「えろうすんまへん。地主さんの知り合いとかもおらんでもないねんけど……富豪……多分そない急に言うて融資してくれはるんは……」

555 門倉『ソウル・ダンジョン』 :2019/01/06(日) 02:33:13
>>554(鈴元)
「そうか―――
          いや、そうさッ そうだろうとも!

               そうだろうとも………」

 『門倉』は少しだけ肩を落とすが、ほどなくして再度語り出す。

「正月だからといってそんな『お年玉』が
 簡単に転がり込んでくるとは俺も思っちゃあいない。
       むしろもうあげる側の年齢だしね―――

 だから『お年玉』は自らの手にする………ッ
 そう思ってツテを使って、『お金』になりそうな話を探したんだ。
 そして一つの依頼を受けた。
 不可思議な『呪い』を解決してほしいという特殊な依頼だ。

             …………あれ、そういえば、君はどうだったっけ?」

『門倉』の話がふと止まる。
『鈴元』が『門倉』をみやると、彼の体から霊体のような『腕』が重なるように出ている。
『スタンドの腕』………これをこれみよがしにヒラヒラと動かしている。

 おそらく『鈴元』がこれが視える存在かどうか確かめようとしているのだろう。

556 鈴元 涼『ザ・ギャザリング』 :2019/01/06(日) 20:16:57
>>555

「……」

鈴元涼はお年玉を貰える歳だ。
姉からも、兄からも、京都からこの街に来てくれたお弟子さんやお手伝いさんからもだ。
申し訳ないという気持ちと嬉しい気持ちが半々である。
自分からお年玉を得る、ということがどういうことか、門倉が何をしたのかは予想出来ないが、大変なことがあったのだろうと考えた。

「え、あぁ、はい」

鈴元の傍に経つ霊体。
『ザ・ギャザリング』
そういう名前を付けられた存在。
儚く、消え入りそうな姿。
人の形をとったもの。

「あの、呪いってどういうことなんやろ?」

557 門倉『ソウル・ダンジョン』 :2019/01/06(日) 21:05:48
>>556(鈴元)

「―――ああ、やはり君も『使える』身か。やはり『刺青』?」

『君はどこ中?』みたいなノリで軽くスタンドの出自を確認しつつ、『門倉』は更に語る。

「そして『使える』のならば、話を進めよう。
 といっても俺も得ている情報は少ないんだけどね。

  依頼元は、とある『美容外科クリニック』。
  かなり評判のいいクリニックでいつも予約一杯って感じだったらしい。
  『だった』と表現したのは、今はそうではないという事だ。

  少し前から、そのクリニックの患者の『顔』が―――
                     『崩れる』というトラブルが起こっているらしい。

  それだけきくと、『手術失敗』したんじゃあないの? と思ってしまうんだがね。
  どうやらそういう事でもなく、その『症状』はしばらくすると収まるとの事らしい。

  それをそのクリニックの『院長』は『呪い』と称して解決する術を探っているというわけさ。
  『呪い』をかけられる『心当たり』があるのかないかは不明だが―――

                           ・ ・
   ともかくそれを解決するのが今回の俺たちの『仕事』というわけだね」

※ミッションの誘いとなります。危険度は高くない推理系ミッションの予定です※
※当然、断って頂いてもまったく構いません※
※開催される場合、門倉『ソウル・ダンジョン』はNPC的な参加となりますl※
※当然、このミッションによって門倉がいわゆる『リアルマネー』を得る事はありません※

558 鈴元 涼『ザ・ギャザリング』 :2019/01/06(日) 22:37:51
>>557

「ま、まぁ。そうです、けどぉ」

困ったように笑いながら言葉を返す。
背中にある咲いた桜の刺青。
色々困ることもあるが、後悔はない。
自分の目では見えないところにあるというのもいい。

(美容外科……)

美容外科でお金になりそうな話。

(受けに来る人を増やす、とかなんかなぁ)

顧客が増えるのは病院にとっていい事だ。
だからスカウトというか、人を集める仕事かと思っていたが、真実は違うらしい。

「顔が崩れる」

思わず復唱してしまう。
尋常ではない事だ。
そして、実際に門倉が依頼を受けたということはそれは事実なのだろう。

「呪いかぁ」

確かに、呪いと言えるだろう。

「……たち?」

たち。
たち、と言われてしまった。

「……」

少しの沈黙。
それから柔らかな笑みを浮かべて言った。

「分かりました。これもなんかの縁やし、そのお話受けさせてもらいますぅ」

「よろしゅうね」

559 門倉『ソウル・ダンジョン』 :2019/01/06(日) 23:04:03
>>558(鈴元)
余談になるが門倉の刺青も『背中』にある。ドアノブ。
まあ背中を見せ合う事など基本ないだろうから完全な余談である。

「フフフ―――『たち』と言ったのに少々驚いているようだね。

 無理もない無理もない。だが………

                       ――――え?」

『鈴元』が語り出す少しの沈黙の間にさらに言葉を重ねた『門倉』。
しかし、『鈴元』から帰ってきたあっさりとした返答についマヌケな返しをしてしまう。

「あれ、あれ、い、いいの!? いいのかい? そんなに即答してしまって。
 これからあの手この手で説得にあたろうと身構えていたのに………」

『門倉』の悩みというのは『依頼を受けたものの一人では心もとない』という事だった。
こんな町なので有象無象の『解決すべきこと(ミッション)』は溢れている。
しかし、『門倉』は今まで単独でそういった事案に立ち向かった事はない。
そういうわけで『どうしたものか』と悩んでいる時に、声をかけてきたのが『鈴元』だったというわけだ。

「いや――― いいんならいいんだ。問題はまるでない。
 じゃあ俺の方で依頼元と交渉してアポはとっておくから………
                    後日、君に連絡させてもらうよ」

『門倉』はそう言って『スマホ』を取り出す。『連絡先』を交換したいという事だろう。
『鈴元』に迷いがなければ、このまま『連絡先交換』を行い、『仕事』の誘いを待つ事になる。

560 鈴元 涼『ザ・ギャザリング』 :2019/01/07(月) 00:23:56
>>559

「ええよ。門倉さん、困ってはるんやろ?」

説得されるまでもなく鈴元の心は決まっている。
自分が求められたならそれに応えるだけだ。
そういう心持ちで動いているのだ。
それ以外の感情は大きくない。

「はい。待っときますぅ」

スマホを取り出し、連絡先を交換しておこう。

561 門倉『ソウル・ダンジョン』 :2019/01/07(月) 00:42:07
>>560(鈴元)
互いの連絡先を交換する二人。
その際に『門倉』は抜け目なく『鈴元』の名前を再確認した。

「ありがとう! いや、ありがとう、鈴元君。
 初夢にタカもナスビも富士山も出なかったが
   そんなもの見なくても新年早々、君に会えた―――

      俺は素でツイてる、そういう事だね?

         なんだか勇気がわいてきたな。フフフ―――」

 『門倉』がそんな事を言いつつベンチから立ち上がる。

「じゃあ、そういう事で、そろそろ俺は帰らせてもらうよ。
        機が来たら連絡するからね。くれぐれもよろしく頼むよ」

        新春の寒空の下、『門倉』は軽くスキップをしながら去っていく。
こうして『鈴元』は、新年早々よく分からない『呪い』とやらに対峙する事となったのだった。

562 小角 宝梦『イル・ソン・パティ』 :2019/01/10(木) 01:53:32

大通りの『オープンカフェ』に小さな『探偵』がいた。
白銀の髪、鹿撃ち帽、インバネスコートなど、
いかにもな外見だが……顔立ちに覇気は皆無。

(……うう、雰囲気で外の席にしてみたが、
 あまりに寒いぞ……よく皆平気な顔をしてるなあ)

     ポンポンポン

ポケットに入れたカイロを叩く音だ。
 
         (それにしても……)

「『不動産屋爆破事件』……だとぉ?
 こ……この町にも魔の手が迫っていたとは」
 
          パラパラ 

手帳をめくりながら、思わず声に出してしまった。

街中で聞きつけたウワサを、
勝手に『事件』とか言ってるだけだ。
不可解ではあるが……なにも『証拠』はない。
聞いたのは『不動産屋で爆発があった』事だけだ。

(まあ、スプレー缶とかが爆発したんだろうけどね……しかし、
 そんなにいっぱいスプレー缶を開けたくなるものなのかなあ)

本人的にも事故の可能性は高いと思うのだが、
こういう『ポーズ』から入るタイプ、ということなのだ。
ちなみに今はもう、ほとんどの席が埋まっていて、
それが小角が未だに外に留まっている理由でもある。

・・・『相席』という形でこいつと相まみえる理由にもなり得る。

563 三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』 :2019/01/10(木) 21:52:09
>>562

「お向かい、失礼します」

    ペコリ

ずっと歩いて少し疲れたので、カフェにやってきました。
探偵さんの向かいの席が空いているみたいです。
挨拶してから座りました。

     ビクッ

そのすぐ後に、『爆破事件』という言葉が聞こえました。
そういう話を聞くと『死』を連想してしまいます。
とても怖いです。

     ササッ

なので即座に目を瞑り、両手で耳を塞ぎました。
怖い話を聞くと、ついやってしまいます。
いつもの癖です。

      ……スッ

もう怖いところは終わったでしょうか?
薄く目を開けて、両手を少しだけ離してみます。
終わっていたら嬉しいです。

564 小角 宝梦『イル・ソン・パティ』 :2019/01/10(木) 22:29:50
>>563

「ああ、かまわないとも。
 好きに座りたまえ……ふふん」

         スイッ

「わたしのテーブルじゃないからね」

机に広げていた本を滑らせ引き寄せる。
いわゆる『推理小説』だ。ほとんど新品のように見える。

「……??」

「な、なんだい、きみは……!
 わたしの顔を見るなり、
 いきなり目を閉じたりして……」

    「あっ、それに耳まで!」  「ううむ」

謎に直面し、思わずうなる小角。
フクロウのような丸い目がやや細まる。

「むむむ……も、もういいのかね?」

爆破事件の話には思い至らないが、
その事自体は、もう口にしていない。

「きみぃ……いきなり謎めいているぞ。
 いったいどうしてわたしを怖がったりするんだ。
 自慢じゃあないが、あまり怖がられたことはないのに」

         「あ、これがメニューだよ」

    ススッ

手元のメニュー表を得意顔で滑らせて渡す。
最初の本といい、机の上を滑らせるのがマイブームなのか?

565 三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』 :2019/01/10(木) 23:23:18
>>564

怖い話は終わったみたいです。
ゆっくり目を開けて、両手を離しました。

「はい、もう大丈夫です」

「失礼しました」

     ペコリ

「ありがとうございま――」

     スカッ

メニューがテーブルから落ちてしまいました。
受け止めるのが少し遅かったみたいです。

     スッ

メニューを拾い上げて、軽く手で払っておきます。

「これを下さい」

店員さんを呼び止めました。
ココアを注文します。

「お姉さんは怖くないです」

「怖い話が苦手なので、ついやってしまいました」

「ごめんなさい」

    ペコリ

566 小角 宝梦『イル・ソン・パティ』 :2019/01/10(木) 23:50:07
>>565

「な、なに、怖い話……?
 わたし、お化けの話なんかしたかい?」

         「……ああっ!」

「つまり、わたしの推理によると……
 きみは爆破じ……お、おほんっ。
 『怪事件』の話の事を言っているのだろう!」

ややばつの悪そうなどや顔という、
器用な顔を作りつつ机の下を覗く。
落ちたメニューを目で追っていたのだ。

          ススス

そして拾われたメニューと共に顔を上げる。

(お……お姉さんかあ。
 なんだかいい感じの響きだぞ!
 わたしをそう呼ぶやつはそうそういない)

「ま、気にする事はないさ……
 誰にでも怖い物の一つくらいある。
 むろん、このわたしにだってあるとも」

         フフン

怖い物が結構ありそうな顔だが、
探偵だしそうでもないのかもしれない。

「事件の話を迂闊にしてしまった、
 わたしも悪かったよ。おあいこだね」

「……それにしてもココアか。わたしも頼んだよ。
 寒い日に外で飲むのはココアが一番だと思うんだ」

567 三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』 :2019/01/11(金) 00:20:49
>>566

    パッ

爆破事件という言葉が聞こえかけたので、反射的に目を閉じて耳を塞ぎました。
でも、すぐに終わったので、また目を開けて手をどけます。

「癖なので、つい」

顔を上げて、探偵さんの方を向きました。
カールした睫毛と巻き毛が軽く揺れます。

「すみません」

   ペコリ

性別の分かりにくい顔立ちですが、小さいので子供なのは確かです。
何かの発表会にでも着ていくような、キッチリしたブレザーを着ています。

「そう思います」

「お姉さんもココアを注文したんですか」

「ココア仲間ですね」

そう話す声は高い声です。
やはり性別は判断しづらいです。

「お姉さんが怖いものはお化けですか?」

「さっき、そう言われていたので」

568 小角 宝梦『イル・ソン・パティ』 :2019/01/11(金) 00:44:12
>>567

「か……かまわないよ。気にしなくても」

(なにか……爆破にトラウマがあるのかもしれないぞ。
 ここはお姉さんとして、冷静に触れないようにしておこう)

        (……それにしてもだ)

自分がお姉さんだとする。
この相手は『お嬢さん』なのだろうか?
『お坊ちゃん』でも不思議はない気がする。

「……」

(な、難題だぞ、これは……!
 間違えるのは失礼もいいところだが、
 なんということだ……まったくわからない!
 まつげが長いし……そんなの証拠になるもんか!)

        「ううう……む」

               「え?」

「ああ……ああ、そうだよ。
 わたしは甘い物が好きなのでね。
 知っているかね、きみ……
 甘いものは頭の働きをよくするのさ」

       フフフ

マグカップを傾ける。
漂って来る匂いは成る程確かにココアだ。

「……な、なんだ、よしたまえ。
 確かにお化けはあまり好きじゃあないが、
 べ、べつに怖いなんて一言も言っていないぞ……」

      「わたしのことを推理するのはよしたまえ……!」

怒っているという感じでもないが、どちらにせよ迫力に欠ける声だ。

569 三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』 :2019/01/11(金) 01:12:48
>>568

「そうでしたか」

「僕も同じです」

「お化け仲間ですね」

   ニコリ

そう言って、ほんのり笑います。
そういえば千草の『墓堀人』も、お化けに似てるかもしれません。

「お姉さんは物知りですね」

「知りませんでした」

感心した表情で軽く頷きます。
物知りな人は立派な人です。
そんな人を見習って、いつか自分も同じように立派な人になりたいです。

「お姉さんは探偵さんですか?」

改めてお姉さんの格好や手帳に視線を向けて尋ねてみます。
それから、探偵のお姉さんに期待の篭った視線を向けました。

「他にもお姉さんのお話を聞きたいです」

「――してくれませんか?」

探偵さんなら色々なことに詳しいと思いました。
千草の知らないことを教えてもらえたら嬉しいです。

570 小角 宝梦『イル・ソン・パティ』 :2019/01/11(金) 01:44:05
>>569

「まったく……仲間はココアだけで十分だろう」

           ズズ…

お化けはいるし、基本的にろくなものではない。

「……そう、わたしは頭脳派なのさ!
 知識なくして、謎は解けないのだからね」

(なんだかいい子だなあ。
 幾つなのかもわからないが)

人に褒められるのが好きだ。
自尊心がくすぐられるし、
気分がいい……裏も無さそうだし。

「わたしの話かい?
 ふふん……かまわないとも。
 存分に聴かせてあげよう」

       ニヤリ

ここに来て最大のドヤ顔だ。
小角は、乗せられやすい女なのだ。

       オヅノ ホウム
「まず、わたしは『小角 宝梦』というんだ。
 きみの推理通り『探偵』……の卵だよ。
 いずれは名だたる『名探偵』になる女さ」

       どさっ

「探偵が何を持ち歩いているか……気になるかい?」

         「気になるんじゃあないかい? きみ……」

テーブルの上にかばんを置いた。
こじんまりとしたかばんで、ふくろうのキャラの飾りが着いていた。

571 三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』 :2019/01/11(金) 02:05:19
>>570

「小角さん――ですか」

「はじめまして」

    ペコリ

「三枝千草です」

「三つの枝と千の草」

「――と書きます」

挨拶を返します。
礼儀正しく振舞うのは大事なことです。
こうして小さなことを積み重ねていけば、いつかは『夢』も叶えられると思います。

「僕も、将来は立派な人になりたいと思っています」

「小角さんを見習って頑張りたいです」

そして、視線はかばんの方に移りました。
ふくろうがお好きなんでしょうか。
そういえば、小角さんを見ていると何となくふくろうが思い浮かびます。

「とっても気になります」

「何が入ってるんでしょうか?」

興味深そうに目を軽く見開いて、かばんを見つめます。
ドキドキしてきます。

572 小角 宝梦『イル・ソン・パティ』 :2019/01/11(金) 02:20:55
>>571

「ちなみに私の名前は、
 小さい角で『おづの』だし、
 宝ものの夢で『ほうむ』だ」

「よろしく頼むよ、千草くん」

この『くん』は『ワトソンくん』のくんだ。
小角は今だいぶ『いい気になってる』。

「どんどん見習うといいともっ!
 ともに立派な大人になろうじゃあないか!
 わたしは毎日早寝早起きを守ってたり、
 なにかと『見習いがい』があると思うんだ」

       フフフ

小角自身、まだ自分は子供だと思う。
だがいつか大人になったときに、
見習いたい人はいる。自分もそうなりたい。

「よしよし、今見せてあげるから待ちたまえっ」

        ゴソゴソ

小角は、ふくろうのような顔の少女だった。
目は丸くぱっちり開き、顔の形も丸い。
彼女自身ふくろうに愛着でもあるのか、
幾つか『そういう柄』の小物が見て取れた。

そしてカバンから出てきたのは――――

「探偵といえばだね……『七つ道具』があるものだ!
 今は……まずはこれ、『ペンライト』だよ。
 細かいところを調べたりするのに便利だと思う。
 照らすのはスマートフォンでもいいのだが……
 強いライトのアプリは、充電の減りが早いからね」

小さいペンのようなものだ。説明通りの機能なのだろう。

             キラン

「いずれ『ペン型カメラ』とかにアップデートしたいなあ……」

夢を語りだす小角。中学生の資金力には限界があるのだ。
ともかく、どうにも胡乱さのわりに『マジの探偵道具』なのかもしれない。

573 三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』 :2019/01/11(金) 02:48:49
>>572

「早寝早起きは大事なことだと思います。
 毎日している小角さんは偉いです」

「僕は『考え事』をしていると時々夜更かしをしてしまいます。
 だから、まだまだです」

『理想の死に方』について考えていると、つい時間が経つのを忘れてしまいます。
昨日の夜も、いつのまにか遅い時間になっていました。
反省しないといけません。

「『ペンライト』――探偵さんらしいです」

「これがあれば調査に役立ちそうです」

「小さな手がかりも見つけられそうです」

出てきた七つ道具の一つに、じっと目を凝らします。
探偵さんのお仕事は詳しくは知らないですが、きっと立派なことだと思います。
だから、そのための道具には興味があるのです。

「ライトで照らしながら写真が撮れたら、とっても便利だと思います」

「もし新しくなったら見せてくれますか?」

夢を持つのは素敵なことです。
それが実現できるのは、もっと素敵なことだと思います。
小角さんにあやかって、千草の夢も叶えられたら嬉しいです。

574 小角 宝梦『イル・ソン・パティ』 :2019/01/11(金) 03:19:39
>>573

「き、きみぃ、ちょっとほめ過ぎだぞ!
 まったく……まったくだなきみは! ふふふ」

        ニコニコ

「考え事か……それは仕方ないね。
 わたしも謎を考えたりしてると、
 少し遅くまで起きてしまう事はあるよ」

夜を更かして考え事なんて、
なんだか知的な気もする。
小角はそれでも早めに寝るが。

「ふふ……いいだろう。まさにきみの言う通り、
 小さな手掛かり一つが答えになる事もある!
 きみぃ、さっきからなかなか鋭いぞ!
 もしかすると……きみも『頭脳派』なのかもね」

        「そう、写真まで撮れれば、
         もう一つの証拠も見逃さない!
         ……もちろんわたしの推理力も、
         それまでに追いつかせる予定だ!」

「わたしは、名探偵:『小角宝梦』になるのだからね」

高らかに語る小角の顔は非常にノっているが、
浮ついた夢ではない。『今考えた』事でもない。
『いつも考えている未来』を、口に出しているだけだ。

「ふふふ、当然見せてあげるとも、千草くん」

「あ! 連絡先を交換しておくかい?
 むろん、新しい探偵道具を買ったら、
 ちゃんと教えてあげるためにだが……」

千草と話すと気分がいいし、
それに……友だちになれる気がする。
友だちが多いわけじゃあないが……『欲しくない』わけじゃあない。

575 三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』 :2019/01/11(金) 03:54:42
>>574

「いいんですか?ありがとうございます」

    ペコリ

人との繋がりが増えるのは嬉しいです。
他の人達との関わりは、成長のきっかけになると思っています。
それを積み重ねていけば、目標に少しずつ近づいていけると信じています。

「よろしくお願いします、小角さん」

    スッ

自分のスマホを取り出します。
ケースは無地の白で、飾り気のないシンプルなデザインです。
連絡先の交換は問題なく済みました。

「僕にも叶えたい夢があります」

夢を語る小角さんの姿が、心に響きました。
それに応じるように、こちらからも夢という言葉を口にします。
『最終的な目標』と言ってもいいかもしれないです。

「いつか一緒に実現できたら嬉しいです」

苦しみや不安のない安らかな気持ちで穏やかに最期を迎える。
それが千草の『将来の夢』です。
その夢を叶えるために、まずは人から愛される立派な人物になることを目指します。

「――他には何が入ってるんですか?」

決意を新たにしたところで、またかばんの方に向き直ります。
次は何が出てくるんでしょうか。
楽しみです。

576 小角 宝梦『イル・ソン・パティ』 :2019/01/11(金) 04:04:34
>>575

「いいとも、いいとも。よろしくね千草くん。
 ぜひ一緒に夢を叶えようじゃあないか!」

「わたしたちは――――『夢仲間』だっ!」

        ニコニコ

小角宝梦は、まだ『名探偵』ではない。
三枝千草の、『夢を叶える』意味を推して知れない。

「よし、それでは次をお見せしよう!
 千草くん、探偵の道具といえば、
 たとえば何を思い浮かべるかね?
 ふふ……もちろん『麻酔銃』とかはちがうぞ!
 ああいうのは全部フィクションであってだね、
 知的な探偵とは少し違ってくるのだよ……」

「あ! あった」

     ゴソゴソ

          「――――じゃん! パイプだ!
           も、もちろん喫煙などしないぞ!
           なにせこれは『カカオパイプ』という、
           ちょっぴり特別なものなのでね……」

                 「甘さで知性を引き上げて……」

――――『探偵の夢』と『甘き死の夢』。

それは致命的なほど同床異夢であると気付かないまま、
それでも楽しげに、小角は夢の道具を語り明かすのだった。

577 平石基『キック・イン・ザ・ドア』 :2019/01/12(土) 23:20:55
歩いている。
筋肉質ではない。肥満でもない。しかし誰が見ても体は大きな男だ。
ポケットから携帯電話を取り出そうとして――

  チャラ

カラビナに纏めた鍵束がぽろりと落ちて、

「…」

   パシン

余人には見える筈も無い、『壊れた歯車をあしらった手』が、問題なく掴んで、ポケットに仕舞い直した。

578 鉄 夕立『シヴァルリー』 :2019/01/16(水) 22:18:37
>>577

>  チャラ

『チラ』

同じく歩いている中、擦れる金属音を耳にしてそちらを向く学生服の少年。
男が携帯電話を取り出す、と同時に同じポケットから何かを落としてしまったようだ。
電話で片手が塞がっている以上、拾うのには手間がかかるだろう。
代わりに拾ってあげようかと考え、そちらへと一歩踏み出そうとして。

「──────────」

落ちる前に、人間のそれとは違うデザインの手が何かを拾い上げる。それはカラビナだった。
いや、違う。重要なのはそこではなくて、今のは確かに。

「『スタンド』…?」

呟き、急に立ち止まってしまう。もし後ろを誰かが歩いていれば、ぶつかってしまうかもしれない。

579 平石基『キック・イン・ザ・ドア』 :2019/01/17(木) 23:02:48
>>578
「………」

『スタンド』と声に出した彼に、無言で視線を向ける。
警戒でも親愛でもない、単なる確認だ。
それから、鍵束を仕舞った『スタンド』の『腕』で

  ちょい ちょい

と、『後ろから人が来るから危ないよ、脇へ退けた方が良い』とジェスチャー。
隠そうとかそういう気がないヤツだ…。

580 鉄 夕立『シヴァルリー』 :2019/01/17(木) 23:26:49
>>579

「…っと」

『スタンド』の仕草に応じて、道の脇へ逸れる。
自分が急に止まったことにより驚いた主婦へと頭を下げて、道を譲った。
そして改めて、男へと向き直る。

「あなたは…『スタンド使い』なんですね?」「自分以外の人は、初めて見ましたが…」

581 平石基『キック・イン・ザ・ドア』 :2019/01/18(金) 00:11:50
>>580

「………」

話しかけられた大男は、暫くじっと相手を見つめる。興味。好奇。
『スタンド』も出したままだ。壊れた歯車を思わせる意匠の、人型の『スタンド』。

「お互い、『そう』だってことだな」「当然、この世で一人って自覚なんか無かったし、驚きは無い」
「でも割と早い段階だ」「一生のうちで何度、ってわけでもなさそうだな」

『スタンド使い』であることの肯定と、思っていた以上に『引かれ合う』確率は高いことへの興奮が伝わる。
四割がた『独り言』のような感じだ。

「ヒライシだ」「名前だ。平石という」

『二人称』で呼ばれるのを好まない平石は、ひとまず名乗る癖があるのだ。

582 鉄 夕立『シヴァルリー』 :2019/01/18(金) 00:21:08
>>581

「平石さん、ですね」
「オレは鉄 夕立(くろがね ゆうだち)と言います」「よろしくお願いします」

相手が名乗られたのに応じて、こちらも名前を告げて頭を下げる。
年上への礼節は欠かせないものだ。
それにしても、いい体格をしている男性だ。以前はスポーツでもやっていたのだろうか。

「・・・・・」

そして、相手の『スタンド』へと目をやる。
自分の『スタンド』とは同じ人の形をしているが、姿はかなり別物だ。
ところどころ、欠けた歯車が見えるヴィジョン。と、そこまで見た所でふと思う。

「こういう場合は…オレも『スタンド』を見せるのが礼儀と判断しました」
「敵意はありません」

「───『シヴァルリー』」

スタンドの名を呼び、傍に立たせる。同じく人型で、騎士のような装いをしたそのヴィジョンを。

「平石さんは、『音仙』さんに聴いて頂いたのですか?」

583 平石基『キック・イン・ザ・ドア』 :2019/01/18(金) 00:48:48
>>582
「鉄君か。そうか、こちらこそ」

相手の『スタンド』そのものには、特に興味があったわけではないのがわかるだろう。
『シヴァルリー』を見て、単純に『驚いた』顔をしたからだ。
『礼儀ってそういうものなの?』って感じの顔だ。

「『音仙』?」「いや…違う。そういうのじゃない」

あの『部屋』を覚えている。そこで起こったことも。
だが曖昧だ。名前も声も、茫漠とした記憶でしかない。自分だけがそうなのか、他人がいないのでわからない。
ただ確実なのは、『キック・イン・ザ・ドア』がともに在ること。それだけだ。そして『何が出来るのか』。

「…鉄君」「これは純粋に、オレ個人の気の迷いで聞くんだが」

「そこを車が走ってるだろ?」「あれの一台――」「『暴走』させるって言ったら、君、オレを止めるかい?」

平石も『スタンド』も、動いてはいない。
可能かどうかも分からないことを、初対面の人に、しかし奇妙な『落ち着き』すら感じられる声色で…平然と、問う。

584 鉄 夕立『シヴァルリー』 :2019/01/18(金) 01:16:52
>>583

「…一方的に『スタンド』を見てしまって、失礼をしたかと思いましたが」
「考え過ぎだったようで何よりです」

特に気にしていない風の平石に、ほっと胸を撫で下ろし、微かに笑う鉄。
『音仙』───あの人は『心の声』を聴くと言ったが、ならばスタンドは精神の顕在化と言えなくもない。
それを見られるのが嫌な人も、あるいはいるかもしれない。彼がそうでなくて良かった。

「………なるほど」「やはり、という所ですが」
「あの人の携わっていないところにも、『スタンド』はあるのですね」

腕を組み、独り言のように呟く。
つまり全ての『スタンド使い』をあの人が把握しているわけではない、か。
しかしそれなら─────。

>「…鉄君」「これは純粋に、オレ個人の気の迷いで聞くんだが」

>「そこを車が走ってるだろ?」「あれの一台――」「『暴走』させるって言ったら、君、オレを止めるかい?」

「…はい?」

思考を中断し、平石の問いに鉄は思わず聞き返す。ややあって、困惑したような様子で答えた。

「・・・・・・・・・・」
「あの車が『自動運転』で、平石さんの『所有物で』」
「ここが平石さんの『私道』であるなら、オレは止めません」

「ですが、そうでない場合は…できる範囲で、止めさせて頂きます」
「ただ、あなたがそんな事をしない事を、何より願っていますが」

はっきりと宣言して、唾を飲む。心臓の音がどんどんと大きくなるのが分かった。

585 平石基『キック・イン・ザ・ドア』 :2019/01/18(金) 01:49:44
>>585
沈黙。
荒唐無稽――と言い切れないことを鉄夕立は知っている。
『そういう能力』ならば『それが出来る』ことを、スタンド使いならば知っている。
『止める』ことも。

「……勿論」
「ここは『公道』だし、『他人の車』だし」「…『人が乗ってる』」

淡々と、一つずつ確認するように言葉を吐いて、

  ス ッ

「だから当然、『出来てもやらない』。気の迷いって言ったじゃないか」
「でもだったら、と思うんだよ。自然、『だったら』、『何で』、ってね」
「悪かった、自分でも答えられないことを聞いて、意地が悪いしマナー違反だな」

スタンドを仕舞い、からかうような真似をしたことを詫びる。

「うん、初めて『他のスタンド使い』と出会ったから、はしゃいでしまった」
「立ち話ですまなかった。もし、今度、会うことがあったら」「何かおごるよ。じゃあな。『鉄』君」

微笑んで、そのまま立ち去る平石の、しかし『大通り』をゆく車列に向けた眼差しが、いやに醒めていたのは
『ただそういう風に見えただけ』かもしれないし、『思い込み』かもしれないし、『そうではない』のかもしれない。
平石基の脳みその中身など、平石基にしか分からない。ひょっとすると、本人にもよく分かっていないのだ。

586 鉄 夕立『シヴァルリー』 :2019/01/19(土) 00:41:17
>>585

『フゥーッ』

勿論やらない、という平石さんの言葉を聞いて胸を撫で下ろす。
一気に緊張の糸が切れていった。

「…いいえ、こちらこそ申し訳ありません」
「友人からも、あまり冗談が通じない方だと言われています」

そう、『スタンド』は平石さんの言うようなことができる。
そして何より、『スタンド使い以外には何が起きたか分からない』。
その事が、いわゆる『犯罪行為』に対してのハードルを引き下げかねないことは想像に難くない。
例えば─────見知らぬ中学生の腕を、切りつけたりすることもあるかもしれない。
もちろん、平石さんはそういった人間ではないようだ。ではない、はずだが。

>「でもだったら、と思うんだよ。自然、『だったら』、『何で』、ってね」
「・・・・・・それは・・・・」

なんとなく意味は分かるようで、分からないようで。
それは誰もが心のどこかで思っていることかもしれない。
けれどそれを認めることは、今の鉄にはできないことで。
その言葉を口にする平石さんに対して、自分は何も言う事ができない。

「…いえ、そのようにお世話になるわけには…っ。はい、またお会いしましょう平石さん」

慌てて申し出を断ろうとするも、その前に大男は去っていく。その背中に向けて、頭を下げた。
そういえば連絡先を交換するのを忘れていたな、また会えた時にしておこうと心の中で呟く。
また自分も『シヴァルリー』を消して、帰途へと着いた。

587 宗像征爾『アヴィーチー』 :2019/01/31(木) 17:31:25

雑踏から離れた小さな公園のベンチに、一人の男が座っていた。
カーキ色の作業服を着た中年の男だ。
その手には白いカップが見える。

「――分からないな」

手元のカップを見下ろしながら独り言のように呟く。
どうやらコンビニで買えるコーヒーのカップらしい。
人気の少ない場所だが、誰かがいたとしても特に不思議は無い。

588 空織 清次『エラッタ・スティグマ』 :2019/01/31(木) 22:00:58
>>587

「何がだ?」

 ベンチの背後から声。

    ガササッ

 ベンチ裏の茂み、その葉が擦れ合う音がした。

 宗像の座るベンチの背に手をつき、
 身を乗り出すようにして宗像の隣に背後から男の顔が現れる。

「悩み事ならわたしに話してみないか?
 協力できるかもしれないぞ」

「ヒック」 「心当たりがある」

 男の顔は宗像の一回り下ぐらいに見える。
 だが赤ら顔だ。そして酒臭い。「ヒック」

 彼の片編み髪はいま蜘蛛の巣やら木の葉を乗せて
 できたてのホームレス風に装飾されていた。

589 宗像征爾『アヴィーチー』 :2019/01/31(木) 23:01:04
>>588

現れた人物に対して軽く視線を向ける。
そこに不愉快そうな色は無い。

「さっき、近くのコンビニでコーヒーを買った」

「これを渡されたが、その先が分からない」

カップを相手の眼前に持ち上げて見せる。
中身は空のようだった。

「もし知っていたら、教えてくれないか」

世間話をするような何気ない口調で質問を投げ掛ける。
買い方の手順を知らないという事らしい。

590 空織 清次『エラッタ・スティグマ』 :2019/01/31(木) 23:19:04
>>589
 自宅のソファに身を投げ出すように
 ドカッと宗像の隣に座る。

「店員が外人で日本語が通じないとかだったのか?

 もしくは袖口からチラッと入れ墨だか注射痕が見えたりして
 なるべく関わり合いになりたくなかったか?」

「そうでもないなら店員に聞け」

「ヒック」 
「わたしへの対応を見る限り、
 君はそういう会話に苦するタイプとは思えんが……?」

 男は既成品でない仕立てのスーツを着ていた。
 生地はメリノウールとシルクのブレンドらしいが
 今は三時間休憩後のラブホのシーツみたいにしわくちゃだ。

「『わからない』ってのはそれか?
 それだけなのか?」 「ヒック」

591 宗像征爾『アヴィーチー』 :2019/01/31(木) 23:53:03
>>590

塀の中にいる間にも、世の中では新しい仕組みが増え続ける。
社会に戻ってから、分からない事というのは度々あった。

「俺の後ろに大勢が並んでいた」

そのせいで聞くタイミングを逃したというのが理由らしい。
いずれにせよ、大した悩みでは無い事は明らかだ。

「ああ――」

「それだけだ」

手の中でカップを握り潰して屑入れに放り捨てる。
それから男の方に顔を向けた。

「あんたにも何かあるようだな」

相手の風貌から、それを感じ取った。
もっとも、それが何かは知る由も無い。

「話を聞いて貰った代わりに、今度は俺が聞こう」

「余計なお世話でなければだが」

元々、暇を持て余して街を歩いていた。
今の所、他にする事も思い付かない。

592 空織 清次『エラッタ・スティグマ』 :2019/02/01(金) 00:14:10
>>591
「……?」

 『後ろに大勢並んでいた』ことが今の話になにか関係あるのか?
 という顔をする。眉ハの字で首を傾ける。
 どうもこの男はその辺に全く気を遣わないタイプらしかった。

「そうか。それだけか。
 それはできれば聞きたくない回答だったな」

「わたしの悩みか?
 財布をなくした」

「君の独り言を聞いて、
 もしかしたら君が見つけたんじゃないかと思って
 一縷の望みをかけて話しかけてみたってわけだ。

 『分からないな』――」

「『これはいったい誰の財布だろう』ってな」

「ヒック」

「もともとドブ底みたいな生き方していたが、
 今は完全にドブさらいの気分だ」

「知らないか? 知らないよな?
 わたしの財布」

593 宗像征爾『アヴィーチー』 :2019/02/01(金) 00:33:34
>>592

「――知らないな」

質問に対して、至って簡潔な答えを返す。
これといった感情の篭っていない淡白な声色だった。

「ここで無くしたのか?」

「財布を無くすまでの行動を遡れば場所が分かるかもしれない」

「それで見つかる保障は出来ないが」

時折、目の前の通りを何人かが通り過ぎる。
当然だが、彼らがこちらに注意を向ける事はなく、逆も同様だ。

「――幾ら入っていた?」

594 空織 清次『エラッタ・スティグマ』 :2019/02/01(金) 00:50:31
>>593
「正直言って、
 場所の心当たりがなさすぎて困ってる」

 右手を顔の横でひらひらさせる。
 巻き髪が風で揺れて、絡まってた木の葉が落ちる。

「昨日は歓楽街のバーで飲んでいた。
 そして、今朝目が覚めたらここにいたというわけだ」 「ヒック」

「だから今はこの場所に縋ってるってだけだな……
 フフフ。
 我ながらマヌケすぎて腐った笑いがこみあげてくる」

「金は5万くらい入っていたかもしれない。
 酒飲むたびに財布落とすのは『常習』だから
 手続きが面倒なカード類は
 別に入れていて無事だった」

「だが金とか財布のガワとかその辺はどうでもいい。
 『指輪』だ。
 大事なのはその中に入れちまった『指輪』なんだ」

 常時薄笑みを浮かべていた唇が糸を引くように結ばれる。
 目の奥を刺す針の痛みをこらえるみたいな表情だ。

595 宗像征爾『アヴィーチー』 :2019/02/01(金) 01:13:34
>>594

「指輪――か」

その指輪が何か詳しく聞く必要は無いだろうと考えた。
これぐらいの年代の男が指輪と言えば大方の察しは付く。

「この辺りに落ちている可能性も無くは無い」

「今、俺は手が空いている」

「もし探すのなら手伝おう」

無くした指輪が男にとって重要な物である事は理解出来た。
その気持ちは分からないでも無い。

「少なくとも、ここに座って嘆き続けるよりは有意義な時間の使い方だ」

「――そう思わないか?」

596 空織 清次『エラッタ・スティグマ』 :2019/02/01(金) 01:36:36
>>595
「君は『いいヤツ』だな」

 眉尻を下げて笑う。
 眼が目尻の皺に混じってほとんど糸みたいになった。

「そして真面目な男だな。
 そういう『着住まい』をしてる。
 短いやり取りしかしてないが、
 わたしは君を信頼する。
 君の申し出に感謝するよ。
 そしてぜひ協力を頼みたい」

 襟を正して宗像の正面に向き直り、頭を下げる。

「財布はボッテガだ。
 インテレチャートの上に
 ミントブルーのドット柄」

「まあわたしみてーな奴が
 持ちそうな趣味柄を思い浮かべれば
 だいたいそれであってる」

「わたしは裏の茂みを探す。
 一晩過ごしたベッドだからな。
 しかし、他に酔っぱらいが
 公園内で行きそうなところってどこだろうな……?」

 そういってベンチの裏に頭から緩慢な動きで潜っていった。

597 宗像征爾『アヴィーチー』 :2019/02/01(金) 17:20:29
>>596

着住まいとは珍しい表現だ。
この男が衣に関わる職に就いているとも考えられる。
財布の紛失と関係があるとまでは思わないが。

「――分かった」

財布の外見に関する説明は少しも理解していなかった。
そういった分野には疎い質だ。
だが問題は無いだろう。
財布は何処にでも落ちている物では無い。
他と見分ける必要は薄いと判断した。

「俺は向こうを探して来る」

立ち上がってトイレの方向に向かう。
特に根拠がある訳では無い。
敢えて言うなら酔っ払いが行きそうな場所ではある。

「ここにあれば良いが」

使用中の人間がいない事を確かめてから中に入る。
洗面台の蛇口から水滴が滴っているのを見て栓を閉め直した。
それから内部を見渡して男の財布を探す。

598 空織 清次『エラッタ・スティグマ』 :2019/02/01(金) 20:51:41
>>597
 ベンチを発って公衆トイレへと向かう宗像。
 道すがら、公園内の設備がいくつか視界に入った。


   公園の中央にはL字型の『水飲み場』があり、
   それとベンチを結んだ対角線上には
   寂れた『公衆電話ボックス』があった。

   また公園の入り口横に『自動販売機』があり、
   その対角線上に屋根つきの『ロの字型ベンチ』
   ――ひょっとしたら数年前までは
   『喫煙スペース』だったのかもしれないが、
   今は中央の灰皿台が撤去されている――があった。

  (※配置はあくまでこの交流内でのみ適応されるもので、
    公園の公式の設備設定ではないことをご了承ください)


 トイレに着いた宗像は中を検める。
 が――見渡したかぎり特に目立つものはない。
 管理が行き届いているのかそれなりに清潔そうには見える。


 空織は地面に膝をつき、茂みの根本を漁っている。
 特に顔や声をあげたりすることもなく、収穫はなさそうだ。

599 宗像征爾『アヴィーチー』 :2019/02/01(金) 21:35:39
>>598

ここに目的の品は無いらしい事を悟った。
そうなると他を探さなければならない。

「先に拾われている可能性もあるか」

わざわざ伝える必要性は感じないが。
持ち主を失望させる以外の意味は無いだろう。

「虱潰しに当たるしかなさそうだな」

手掛かりらしい物は何も無い。
目に付いた場所から順に調べていく。

「――公園外に落ちている事も考えられる」

入り口付近にも目を向ける。
真っ先に拾われるような場所だが可能性は無くは無い。

600 空織 清次『エラッタ・スティグマ』 :2019/02/01(金) 22:13:22
>>599
 トイレを出て水飲み場を調べる。
 排水部分ははめ込み式の格子型だが、
 財布が通り抜けられるような隙間はない。

 『誰かに拾われた』可能性について宗像は思考する。
 それは大いにありえることだった。
 公園内の人通りは少なくはない。
 トイレを見るかぎり清掃員だってきちんと職務を全うしている。
 だとしたらそこから先は警察の仕事で、
 これ以上の探索は『徒労』でしかない。

 宗像は公園外にも目を向ける。

 相手は記憶を飛ばすほど飲んだ酔っ払いだ。
 シラフでは考えられないところに取り落としている可能性もある。

 だが、もしこの公園内にあるのだとすれば――
 酔った人間が園内で『財布を落とす』としたら、
 それは一体どんな場所だろう?

 入り口付近には『糞は飼い主があとしまつ!』みたいな注意書きの立て看板と、
 自動販売機が二つ並んでいるぐらいだ。
 その間には二穴式のゴミ箱(空き缶/ペットボトル入れ)がある。
 まばらに伸びる草丈は浅く、目立つものは見えない。


「やはり――ダメか。
 茂みの中にはなにもなかった。
 きっと、運のいい誰かが持っていっちまったんだろうな」

 茂みから足を出し、力ない微笑みを浮かべながら
 天織は宗像に近づく。

601 宗像征爾『アヴィーチー』 :2019/02/01(金) 22:39:19
>>600

「――有り得るな」

淡々とした口調で男の声に応じる。
どれだけ眠っていたか知らないが、目立つ場所にあれば持って行かれるだろう。

「そして、その人間が警察に届けている可能性もある」

「見込みは限りなく薄いが、ゼロでは無い」

「あんたにとって本当に必要な物なら、考えられる手は尽くすべきだ」

普通、財布というのは金を入れる為に持ち歩く。
財布を出すというのは金を取り出す時だ。

「携帯電話は落としていないか?」

この公園で金を使う場所は二箇所しかない。
携帯電話を持っていれば公衆電話には用が無い

「――俺も『そうする』」

自動販売機の周辺を調べる。
ここ以外に財布を取り出す場所は無い。

602 宗像征爾『アヴィーチー』 :2019/02/01(金) 22:47:36
>>600

「――有り得るな」

淡々とした口調で男の声に応じる。
どれだけ眠っていたか知らないが、目立つ場所にあれば持って行かれるだろう。

「そして、その人間が警察に届けている可能性もある」

「見込みは限りなく薄いが、ゼロでは無い」

「あんたにとって本当に必要な物なら、考えられる手は尽くすべきだ」

普通、財布というのは金を入れる為に持ち歩く。
財布を出すというのは金を取り出す時だ。

「携帯電話は落としていないか?」

この公園で金を使う場所は二箇所しかない。
携帯電話を持っていれば公衆電話には用が無い

「――俺も手は尽くす」

自動販売機の周辺を調べる。
ここ以外に財布を取り出す場所は無い。

603 空織 清次『エラッタ・スティグマ』 :2019/02/01(金) 23:29:25
>>601

「スマホならちゃんと持っているが――
 (さすがのわたしもそこまで粗忽者じゃないぞ)
 だが、それが一体なんだって言うんだ?
 警察には一応、それで連絡をしてある」

 眉根を寄せ、訝しみながら宗像についていく空織。
 自販機に近づいたとき、ふむ、と顎に手を当てる。

「自販機……自販機か!
 そういえば、あれだけ酒を飲んだ翌朝だというのに
 起きた時わたしは水をそれほど必要としてなかった」

「しかし、自販機の周りならわたしもざっと見てはいるぞ。
 妙なものはないと思っていたが……」

 
 宗像は自販機の周囲や底部の隙間を探す。
 だが――財布らしきものは見当たらない。
 空き缶やペットボトルの殻が、
 そこそこ清潔そうな空き缶入れの前に二・三転がっているだけだ。


 宗像の背中を見守りながら、空織はスマホを取りだす。

「……警察にもういちど連絡を入れてみよう。
 もしかしたら財布だけ届けられてるってことがあるかもしれない……」


 宗像は、自販機に挟まれた二穴式の空き缶入れの上蓋が、
 少しだけズレていることに気づく。

604 宗像征爾『アヴィーチー』 :2019/02/01(金) 23:56:42
>>603

「――ああ」

背中を向けたまま男に答える。
警察に届けられていれば解決だろうが望みは薄い。

「ドブ底のような生き方をしていたと言ったな」

言葉を告げながら空き缶入れの上蓋を取り外す。
ここで見つからなければ俺に出来る事は無くなる。

「そこから何かが見つかるかもしれない」

ゴミの山に視線を向ける。
ドブ程ではないが汚い場所には変わりない。

「見つからないかもしれないが」

605 空織 清次『エラッタ・スティグマ』 :2019/02/02(土) 00:14:33
>>604

「……な、んだと」

 スマホを耳元から下ろし、
 宗像の言葉の意味を反芻するように
 目を見開いて彼の背中を見つめる。

 宗像は上蓋に手をかける。

    ガポッ


 蓋はきちんと嵌められていなかったらしく、
 取りはずすというよりも持ち上げる程度の力で
 簡単に取りのぞくことができた。

 空き缶とペットボトル殻が雑多に詰め込まれた、
 雑食性のゴミ山が宗像の目の前に現れる。

 その色彩過剰の山を注意深く見つめて、宗像は気づく。
 山の隅に、どこか隠されるようにして――
 財布の編み込み革の一辺が顔を覗かせていた。


「…………あった、のか?」
 吐息のような声が空織から漏れ、宗像の背中に触れる。


 財布の口はどこか乱暴に開かれていた。

606 宗像征爾『アヴィーチー』 :2019/02/02(土) 00:41:00
>>605

「何も見つからない場合は少なくない」

「だが、今は見つかったようだ」

ゴミの山から財布を引っ張り出した。
革手袋を嵌めている手で軽く汚れを払う。

「――これで合っているか?」

蓋を元に戻し、男に財布を渡す。
だが問題は中身だ。

「あんたの扱いが雑なだけなら良いが」

中身だけ抜いて残りは捨てたか、あるいは持ち主が乱雑に扱っただけか。
前者の場合、取られたのが金だけなら悪くない結末と言えるだろう。

「指輪は入っているか?」

声を掛けながら、ゴミ箱に視線を向ける。
財布の中に指輪がなければ、次に探すべき場所は一つしか無い。

「見当たらなければ、今からドブさらいをやる事になる」

607 空織 清次『エラッタ・スティグマ』 :2019/02/02(土) 01:03:39
>>606

「……ない、な」

 そう発した言葉の意味と同じくらい、
 空織の声は空虚だった。

「何もない。空っぽだ。」
「――指輪もだ」

 無意味な記号を眺めるように、
 手の中で意味の失われた財布をぼんやりと眺める。
 目を伏せて黙思の淀みに沈む。だがその耳に――


>「見当たらなければ、今からドブさらいをやる事になる」

 「!」

 宗像の一言が届く。
 空織は顔を上げ、前に立つ作業着の背中を見る。


「…………フ」
「フフフ、ハハハハ」
「ドブさらい、か。任せてくれ、それなら得意だ。
 わたしよりドブさらいがうまいヤツはそうはいないだろう」

 しわだらけのジャケットを脱ぎ、シャツの袖をまくって前に進む。
 ゴミ箱の前に立つ宗像の横に並ぶ。
 その横顔に向けてつぶやく。

「だが――いったい君は、
 なんだってこんなことをする?」

「知り合ったばかりのわたしに、
 どうしてそこまで……」

608 宗像征爾『アヴィーチー』 :2019/02/02(土) 01:30:23
>>607

最悪に近い結果だが、まだ可能性はある。
見込みが残っているなら、出来る限りの手を打つべきだ。

「そうか――」

「なら良かった」

空き缶入れの蓋を取り外し、地面に置く。
それから空き缶入れを逆さにして、中身を全てブチ撒ける。

「ドブさらいは俺も得意な方だ」

「あんた程ではないかもしれないが」

地面に屈み込んでゴミの海を漁る。
同時に、一つずつ空き缶入れに戻していく。

「今、丁度暇を持て余していた」

「あるいは、あんたに少し共感を覚えたせいかもしれない」

「――どちらにしても、大した理由は無い」

答えながら、作業を続ける。
目立った感情の篭らない声だったが、何処か『残り火』のような響きがあった。

609 空織 清次『エラッタ・スティグマ』 :2019/02/02(土) 01:55:56
>>608

「そうか……
 ならわたしの見立てが間違ってなかったってことだな」

「君は『いいヤツ』だ」

 隣に並ぶ宗像に、空織は歯を見せて笑った。


    ガッシャァアア――――――ン


 沼湖に沈泥していた澱を掻き出すみたいに、
 ひっくり返されたゴミ箱から色鮮やかな残骸が逆流する。

 溢れでた缶がいくつか二人の足先にぶつかって跳ねる。
 そうして弾かれるペットボトルや缶の波にまぎれて、
 宗像の足元へゆっくりと転がる銀円のきらめきがあった。

      コンッ

 ペットボトルの蓋ほどの大きさの環は、宗像の爪先にぶつかり、
 ちいさく跳ね返って、ぱたりと二人の間に倒れた。

 それは飾り気のない銀色の指輪。
 結婚指輪だった。


「…………あった」

610 宗像征爾『アヴィーチー』 :2019/02/02(土) 02:14:45
>>609

「こんな事もある――」

「運が良かったな」

男の方に視線を向けて拾うように促す。
それは持ち主の手で拾い上げるべき物だ。

「――だが、生憎まだ仕事が残っている」

告げながら、散らかったゴミを元に戻す。
少しばかり骨が折れるが、後始末はしなければならない。

「二度と無くさない事だ」

どうやら最悪は避けられたようだ。
最良に近いと呼んでも差し支えないだろう。

「ドブさらいをしたいなら別だが」

611 空織 清次『エラッタ・スティグマ』 :2019/02/02(土) 14:55:25
>>610

「……ああ。
 わたしは本当に運がいい」

 光の糸を摘み上げるみたいに、
 足元に転がる銀の指輪を拾い上げた。

 未練と恩顧を解いて織り編んだような瞳で
 手の中の光を眺める。

 それは見つけられて良かった、という安堵のようでもあり、
 結局見つけてしまうのか、という諦念のようでもあった。


「わたしの前のベンチに君が座ったこと。
 それが今日一番の『幸運』だったな」


 宗像の隣に屈んで手伝う。
 ゴミをひとつひとつ拾い上げてゴミ箱へと返していく。
 あるべきものが、あるべき場所に戻る。
 指輪を薬指にはめ直す――


「そうだな……これからは気をつけるよ。
 一人でやるならドブさらいもどうぞご勝手にって感じだろうが、
 誰かを巻き込んでまでやるもんじゃあない。
 さすがに酔っぱらいでも心が痛んだ」

 眉尻を下げて苦笑しつつ、ジャケットを羽織りなおした。
 皺だらけだが、今は卸したてより気分が良い。

「本当にありがとう。
 君にはなにかお礼をしなくちゃあいけないな。
 ええっと、君は――?」

 ジャケットの内ポケットに手を入れつつ、宗像の名を訊ねる。

612 宗像征爾『アヴィーチー』 :2019/02/02(土) 17:35:51
>>611

「好き好んで手を汚したがる人間は少ないだろうな」

男が抱える心中の深部まで察する事は出来ない。
少なくとも、それは俺が手伝うような事ではないのは確かだ。

「俺にとっても有意義な時間だ」

「――良い退屈凌ぎになった」

ゴミ箱を置き直して、両手に付いた汚れを手袋越しに払い落とす。
指輪もゴミも、今は全てが元の位置に戻っている。

「『宗像征爾』――」

年齢によっては、この名前に聞き覚えがあるかもしれない。
聞いた事が無いかもしれないし、忘れていたとしても何ら不思議は無いだろう。

「そういう名だ」

613 空織 清次『エラッタ・スティグマ』 :2019/02/02(土) 22:41:29
>>612

「『宗像』――」

   微笑み、彼の名前を反復しかけたとき、
   鋸刃のような光が視界の隅を掠めた。
   記憶の扉から漏れ出すみたいな細く鋭い光。
   警告音にも似た閃き。

 (……なんだ?
  初めて聞く名前のハズだぞ。
  だが『宗像』、『ムナカタ セイジ』……?
  この名前、どこかで――)


「――『征爾』さんか。覚えておく」

 直感から芽吹いた疑念を飲み込み、
 空織は内ポケットから名刺を取りだして宗像に渡す。

「わたしは『空織 清次 (くおり きよつぐ)』だ。
 すまないな、今は古い名刺しかないんだが――」

┌───────────────┐
│      Tailor  Blank Whale       │
│                        │
│        仕立物師        │
│        空織 清次.          │
│                        │
│      Phone: XX-XXXX.       │
│                        │
└───────────────┘


「……『上半分』は今や無意味な記号でしかないが、
 わたしの携帯番号はそのままだ。
 いつでも連絡してくれ」

 ふと、出会いのきっかけが頭をよぎった。

「……それと、なんだ。
 もし君にこれから時間があるのなら、
 なにか一杯ご馳走でもできればと思うんだが」

「なにか飲みたいものはないか?」
 微笑を浮かべながら、宗像に訊ねる。

614 宗像征爾『アヴィーチー』 :2019/02/02(土) 23:18:06
>>613

「空織か――覚えておこう」

二十年前は、『宗像征爾』という名前がニュースや新聞で報じられていた。
それは殺人事件の犯人の名前だった。
今では、この街における過去の一つとして埋もれている。

「――仕立て屋か」

名刺を受け取ってポケットに仕舞い込んだ。
代わりに、少し前に立ち寄ったコンビニのレシートを手渡す。
裏側に電話番号が書き込んであった。

「俺は配管工事を扱っている」

「見積もりは無料だ」

それから、不意に空を仰ぎ見る。
特に意味の無い行動だ。
ただ何の気なしに、意識が向いたというだけの事に過ぎない。

「さっきも言ったように俺は暇だ」

「ゴミをバラ撒いて片付ける時間がある程だからな」

おもむろに視線を空織に戻す。
そこにあるのは虚無的な瞳だ。
愛想が良いとは言えないが、冷たさは無かった。

「そういえば、コーヒーを飲み損ねた事を思い出した」

「その代わりを貰いたいが、構わないか?」

615 空織 清次『エラッタ・スティグマ』 :2019/02/03(日) 00:05:21
>>614

「正しくは、『元』仕立て屋……だな。
 今は店もなければ伝手もない。
 だが――」

  番号の書かれたレシートを宗像から受けとる。
  空っぽになった財布に最初に収めるものとして、
  それは今一番ふさわしいものかもしれないと空織は思った。

「もしこの街に店を出せる時が来たなら、
 その時は君に工事を手伝ってもらうことにしよう」

 冬晴れが強張りをほぐすように、
 自然と口角が緩んで笑みを作る。


「――そうか、それは良かった。
 わたしもこの街には越してきたばかりで、
 いい店はそれほど知らないんだ」

「だがうまいコーヒーを出す店だけは
 知っていてね」

  すべての過去が電子的にアーカイブされるこの時代に、
  いったい誰が『精算した過去を忘れられる権利』を持ちえるだろう?

「すこし歩くが構わないか?
 ――よし、なら案内しよう。
 ところで君、甘いものは好きか?」

  いつか、彼の犯した罪を空織が知る時が来るのだろう。
  だが――少なくともそれは今じゃない。


 宗像を連れ、空織は冬晴れの街路を歩きはじめる。
 薄雲を脱ぎ捨てた空は、しばらくのあいだ
 二人に穏やかな暖かさを運んでくれるはずだ――。

616 硯研一郎『RXオーバードライブ」 :2019/02/05(火) 21:50:44

「鬼は外。福は内、というが。まさかマジモンのガチで追い出されるとは。
それもかれこれ丸2日もだ。
『硯旭(スズリアキラ)』、我が母ながら中々にクレイジーだ」


ダンボールで作ったであろう『棍棒』を手に持ち、
履き古した便所サンダルに虎柄のジーンズ、
更に上半身裸の男子高校生が大通りで途方に暮れている。

617 今泉『コール・イット・ラヴ』 :2019/02/07(木) 22:25:41
>>616

「うわっ、『鬼が外』にいるっ!?」

思わず声に出ちゃったけど、節分は終わってる。
だって売れ残りの恵方巻も昨日食べたくらいだし。

「あのー」

「なにしてるんですかっ?」
「っていうのは独り言で聞いちゃったけど」
「えーっと」「フツーに寒くないですか、それ?」

明らかにフツーじゃないし、イジメとかかもしれない。
だから話しかけるのはちょっとどうかと思った。

けどなんとなく、見たことがある顔な気がして、気になったんだ。

―――――――――――――――――――――――――――

硯に話しかけたのは茶色のツインテールが特徴の『女子高校生』だ。
もし硯が『清月学園の1年生』なら、この少女の事を多少なり知っているかもしれない。

618 硯研一郎『RXオーバードライブ」 :2019/02/07(木) 23:35:29
>>617

『硯研一郎』は『清月学園』ではなく『私立獄楽高校』の生徒だ。
なので『硯』は『今泉』の事を認識していないが、
友人と遊ぶために『清明』には頻繁に出入りしているので、
もしかしたら『今泉』は『硯』の事を見たことがあるかもしれない。
(『獄楽高校』ーー比較的自由な校風で生徒の自主性を重んじた隣町の『私立高校』。
不良漫画よろしくのヤンキーや、国立大学にストレートで入学する優等生が卓を並べたりする光景が当たり前で、
学生間の偏差値の開きはおそらく県内屈指である)


「親戚の『キラミちゃん』が遊びに来ていてね」


話し掛けられたので振り向く。
特に寒そうにしている素ぶりはなく淡々とした語調で話を続ける。

「せっかく『節分』の時期に遊びに来たのだから、俺は『鬼役』を引き受けたんだ。
それで『鬼』のお面を被って、キラミちゃんに豆を投げられた。

キラミちゃんもお父さんがいないからな。こーいうイベントは初めてだったらしいし、
キャッキャと喜びながら俺に豆を投げてくれた」

「そこまでは良かったんだ」


「俺の『お母さん』が中々に『本格派』でね。
まだ5歳のキラミちゃんは、鬼の正体が俺だなんてわからないんだ。
彼女の事を溺愛してる俺のお母さんは、キラミちゃんの夢を壊したくないから、
おばさんとキラミちゃんが東京に帰るまで、家に戻ってくるなって言い放ったんだ。全くのマジの真顔で。


ーーそれが2日前の話だ。オーケー?」

619 今泉『コール・イット・ラヴ』 :2019/02/08(金) 00:04:25
>>618

思い出した。この人確か獄校の人だ。
他校にも知り合いはいるといえばいる。
けど、そうじゃなくて『うちに遊びに来てた』人だ。
多分友達に会いに来てた、のかな。

「それは、フツーじゃあないですね」
「いい話かなって途中までは思ってたんですけど」

『も』っていうことは、そういうことなんだろうな。
そうしたらそれは、すごく綺麗な話なんだろうな。

って思ってたんだけど。

「いや、いい話なのかもしれませんけど」

フツーじゃない。話の半分くらいが。
いや、獄校ではフツーだったりするのかな。

でも、他にも知り合いいるけど。
こんなレベルの話、聞いた事ないけど。
やっぱり『本格派』だから、なのかもしれない。

「ええと、うん」

「そこまではオッケーです」
「それで!」

「――――その、親戚の人たちはいつまでいるんですかっ?」

620 硯研一郎『RXオーバードライブ」 :2019/02/08(金) 18:23:25
>>619

「お母さんは中々変わり者だけど、多分悪い人じゃあないんだ。
息子を片親で苦労させまいと色々と頑張ってるみたいだし、
おかげで俺も今の所お酒やタバコに手を出さない真っ当な男子高校生だ」


無表情のまま淡々と語る。
感情を読み取らせるのを妨げている要素の一つである薄い下唇には、
『在来線』の意匠の『リップピアス』が蛇のように巻きついている。


「明日の朝には帰るとの事なんだ。
俺のお母さんも『鬼』ではないし、
追い出される時にこっそりと数日分の『生活費』を渡されたんだが」

自身の左手に持っている『家電屋』かなにかの『紙袋』に目を向ける…。

621 今泉『コール・イット・ラヴ』 :2019/02/08(金) 21:26:33
>>620

「なるほどですね、良いと思います」
「お酒飲んでた友達とかいましたけど」
「バレて停学になってましたし!」

ピアスは、流石に珍しいけど怖くは無い。
きっと怖い所もある人なんだとは、思うけど。

「明日の朝ですか〜。今夜冷えるそうですね」
「『寒波』が、来るとかどうとか」
「カイロあげましょうか?」「素肌だと熱すぎるかな」

かばんから貼らないカイロを出す。
カラオケとかで寝る事になるのかな。
でも、半分はだかで入れてもらえるのかな。

「へえ、生活費を……?」「あれっ」

さすがにそれはそうだよね。
追い出すならお金を渡すのはフツーだ。

お金の使い道は何がフツーだろう。
とりあえず私なら『服』から買うけど。
食べ物とか、寝床の方が先かな?

「それ、『電気屋さん』の袋じゃないですか」

『家電屋』で買うもの、あるかな?

「えーと、『電気毛布』でも買ったんですか?」

「それとも、まさか……」

私も思わず、紙袋を見た。中身はいったいなんだろう。

622 硯研一郎『RXオーバードライブ」 :2019/02/08(金) 22:47:11
>>621

「カイロか。それは、とてもありがたい。
せっかくの好意だ。ならばお言葉に甘えようかな」

「『電気毛布』ッ!惜しい。
駅前にでっかい家電屋があるだろう?
ホラ、あの一番上にゴルフの練習場があって、
キャンプ用品やらも売ってる『なんとかカメラ』。

そこで、着込むものを買おうと思ったんだ。
流石に裸では風邪をひいてしまうからね。
この格好でビルの中に入れたのには驚きだが、
おそらく気の狂った『ユーチューバー』かなにかと勘違いされたんだろう」


ガサゴソ


ダンボール製の棍棒を小脇に抱えて、空いた手を家電屋の紙袋に入れると、
中から巨大な長方形の分厚い『プラモデルの箱』を取り出し今泉に見せる。

「『キャンプ用品コーナー』に向かう途中にある『オモチャコーナー』で見つけて、
一目惚れして衝動買いした『定価3万円』の『1/350スケールの名古屋城』のプラモデルだ。
ーーどうだ?カッコいいだろう?」

「もう一度言う」

「格好良いだろうーー?」

623 今泉『コール・イット・ラヴ』 :2019/02/08(金) 23:08:46
>>622

「どーぞ、フツーにあったかいですよ」

カイロは、一枚あげた。

「ああ、ありますねえ〜っ。大きいですよねあれ」
「『名前通り』っていうか」
「カメラの売ってる面積ほとんどないっていうか」

「確かにあそこなら、アウトドア用品?みたいな」
「あっ、『キャンプ用品』でしたね!」
「そういうコーナーに防寒着とか、置いてたかも」

「それで――――」

納得しようと思ったのに・・・箱が服じゃない。

「それで」「えっ、プラモデル買っちゃって……」

この人。

「え……」「そ」「そうですね」

フツーじゃない。相当フツーじゃないよ。

「カッコいい、ですね」「さすが3万円というかっ」
「あ」「お城のプラモデルなんて、あるんですねえ!」

心が、ちゃんとできなくなってるかもしれない。
ユメミンとか芽足さんとかも『フツーじゃない』けど、この人はまた違う感じだ。

624 硯研一郎『RXオーバードライブ」 :2019/02/08(金) 23:33:58
>>623
貰ったカイロをぺたりと腹部に貼り付ける。
これでお腹が冷えるのを防げる。

「メルシー、グラッツェ、シェイシェイ、
サンキュー、グラシアス、ダンケ、スパシーバ。
兎にも角にもありがとうって感じだ」


取り出したプラモデルの箱をまるで野良猫を愛でるようかのように、ゆっくりと撫でる。
表情は相変わらず崩れないが、その挙動は何処か自慢気に見える。


「俺は正直言って『城』になんて全然興味がないんだが、
この『名古屋城』ってのは凄くいいな。
特にこの上に乗ってる『鯱鉾』ってのがカッコいい。
おもちゃコーナーでこいつを見た時は、
『ブランキージェットシティ』を聴いた時以来の衝撃が走ったよ。
全くマジの一目惚れだ。参ったよ」

「でも一つちょっとした『問題』が起きてしまってね」

625 今泉『コール・イット・ラヴ』 :2019/02/09(土) 00:16:54
>>624

「どういたしまして。ユアウェルカム」
「イッツマイプレジャーでしたっけ?」

英語と日本語以外は、ちょっとわからないかな。
意外と国際的なのかな。

「シャチホコ……しゃちほこですかあ」
「そうですね、たしかに『誇らしげ』っていうかっ」
「堂々としてて、かっこいいかも」

私はプラモデルとかはあんまり知らない。
けど、そう考えて見たら、いいものなのかも。

ブランキー、っていうのは洋楽かな?
これが休み時間ならそこを聞くべきなんだろうな。
でも、今は『問題』っていうのを聞いた方がよさそうだ。

「ここまで来たらどんな問題でもフツーに聞きますけど」
「いったい、なにが起きちゃったんですか?」

「あ、もしかして!」「組み立て用の道具がない!とか!」

いつもプラモデル組んでますって感じじゃないし。
もしかしたら趣味なのかもしれないけどお城って珍しそうだし。

「あはは」 「……いやー」 「『生活費』って、何円だったんです?」

フツーじゃない。けど、いや、そうだ。フツーじゃないんだった。

626 硯研一郎『RXオーバードライブ」 :2019/02/09(土) 00:39:28
>>625

「お母さんから貰ったお金は『3万円』だが?
『プラモデル』というのは組み立てるには、
ニッパーやらの『工具』が必要なんだな。
いやはや完全にーー『想定外』だったよ」

バリッ!ボリッ!ボリッ!

ジーンズのポケットから『節分』の『豆』を取り出し、齧り始める。
おそらく家を追い出されてる間はこれで飢えを凌いでいたのだろう。

「つかぬ事をお伺いするが、
君『ニッパー』と『スプレー』と『接着剤』を持っていないかい?」

627 <削除> :<削除>
<削除>

628 今泉『コール・イット・ラヴ』 :2019/02/09(土) 09:15:08
>>626

「えっ…………」「思い切りがよすぎません?」
「ごはんとか寝るところとか、どうするんですかっ」

きっと何か考え……あるのかな。
友達の家に行くとか? 野宿に慣れてるとか?
こういうフツーじゃなさは初めてだ。
不思議ちゃんとか、そういうのとも違う感じだ。

「うーん」「ニッパーとスプレーは無いですけど」
「あ、接着剤もプラモデル用じゃない」
「ちょっと強いのりみたいなやつだし」
「お城の組み立てには弱いですよねえ」

「えーと」「あ! 『マスキングテープ』じゃだめですよね」
 
         ゴソソ

「こういう、無地のやつもありますけど」
「色塗りと接着兼用って感じにならないかな」

プラモデル、ちゃんと作った事ないかも。

「見た目の『3万円』感は薄れちゃいそうですけど」

かばんからいくつかテープを出す。
レンガっぽい柄なら、辛うじて雰囲気は壊さない……かな?

「あとは、ニッパー」「うーん」
「確か……ハサミみたいなやつですよね?」

「こういう、テープを切る用のハサミならありますけど」

テープと一緒に小さいハサミも出しておく。
プラスチックが切れる気はあんまりしない。

629 硯研一郎『RXオーバードライブ」 :2019/02/09(土) 22:52:35
>>628
「ご飯はーー『豆』だ(ボリボリ)。
まだまだ(ガリッ)あるんだ(ボリッ)
よかったら(ボソ)君も食べるかい(ボリボリ)」


取り出した『節分用』の『豆』を咀嚼しながら話を続ける。
丸2日間家に帰っていないにしては不潔な感じはしない。


「それに昨日は『夜叉丸先輩』の(ボリ)の家にお邪魔したんだ(ボリ)

『夜叉丸先輩』は俺の学校の『番長』ってやつで、優しい人なんだ。
恥を忍んで『服』も借りようかと思ったんだか、
夜叉丸先輩の『ファッションセンス』は『壊滅的』でねーー」

差し出された『それっぽい柄』のマスキングテープを受け取り、
感謝の気持ちを伝える為に深々と頭を下げる。


「ありがとう。本当にありがとう。
どんな名古屋城になるかはわからないが大事に使わせてもらう」

630 今泉『コール・イット・ラヴ』 :2019/02/10(日) 00:16:44
>>629

「豆はこの前沢山食べたんで、遠慮しときます」
「気持ちだけもらっておきますね!」

たくさんというか16個だけど。
17個食べちゃった気がするんだよね。

「いやあそんな」「頭下げる程の事してないですよ」
「ほんとは服とかあげられたらいいんだけど」
「フツーに女物の服しかないですし」

今持ってる買い物袋には『春服』が入ってる。
というかほんとうにマスキングテープで作るのかな。

「あ!」「お城出来たら見せてくれません?」
「なんていうのかな」「『スポンサー』みたいなものですし」
「プラモデルって、どんななのか見てみたいですし」

見届けた方が、良い気がしてきた。
スマートフォンを出す。

「今夜も、番長の人の家に泊まるんでしょ?」
「それか他の友達の家?」「そこで組み立てて〜」

「出来上がったら、ラインで写真送ってくれません?」

631 硯研一郎『RXオーバードライブ」 :2019/02/10(日) 00:33:45
>>630

「うん、今日も夜叉丸先輩の家にお邪魔しようかな。
そこでセコセコとやってみるつもりだ。
是非君にも完成した『名古屋城』を見てもらいたい」

「ーー見てもらいたい気持ちは、
『名古屋城』よりも大きいのだが」


貰ったマスキングテープとプラモデルの箱を紙袋に入れると、
指を揃えてピンと伸ばし、直ぐに折り曲げる。


「ぱかぱか」

「今は携帯を持っていないし、
俺の携帯は『ガラケー』なんだ。ぱかぱか。
なので俺は『ライン』ってヤツは使えないから、
是非『ショートメール』でお願いしたい」

632 今泉『コール・イット・ラヴ』 :2019/02/10(日) 01:00:13
>>631

「えーっと」

指のジェスチャーに一瞬迷ったけど。

「あ、ガラケー派なんですね!」
「友だちにもいますよ」「たまに」

  pi pi

「それじゃあメールアドレス教えるんで!」
「ぜひ写メってきてください」

夜叉丸先輩は番長らしいし、家に『接着剤』とかあるかも。
あるかもしれないけど、『テープ』だらけになるかも。
どちらにしてもフツーに続報が気になるから、連絡先を教えた。

「それじゃあ、私はそろそろ行きますね」「あっ」
「カイロ、ずっと直接だと火傷するかもしれないんで」
「そこのところ、気を付けてくださいね!」

「それじゃあまた〜」

そして買い物の続きのために、ここから去った。
この後どうするのかとか、そういえば名前とか……気になる事は多い。

けど、連絡先は交換したし、多分お城といっしょに知る事になるんだろうな。

633 芦田『ウェア・ディド・ウィ・ゴー・ライト』 :2019/02/16(土) 21:57:51

通りを、少々危ない雰囲気の男が闊歩している。隣には男より少し小柄な
スタンドが2〜3m離れつつ一緒に歩いている。

「さあ てな訳でだ 冷風吹きすさぶ中でウィゴーちゃんとの初めての外出さぁな。
因みに俺は20代である目的に人生を模索していて、それは『納得』って言う
まぁ哲学的で答えるとしちゃあ難しいものを見つけてる最中なのよ。
 んでもって趣味は大麻育てんのと、相手が最大限に傷つく事を考える事かねぇ。
んっ、あぁジョーク ジョークだって、六割位は さ。はっはっ ここ笑う所
好きな食い物は甘味よりはサラミとか胡椒利いた酒にあうツマミが好きなのよ。
んでウィゴーちゃんの趣味は? 人生楽しんでるかい? 好きな食べ物は?」

『……控え目な言葉を選びますけど。芦田様は頭のネジがちょっと
ブッ飛んでるんじゃないですか? 普通、自分のスタンドに趣味とか
好きな食べ物とか聞く事ないと思いますよ。
 あと、私はウィゴーでも、ウィゴーちゃんでも有りません。
ウェア・ディド・ウィ・ゴー・ライト 妖甘様から頂いた正式な名があります
例え、本体だとしても略称を好き勝手に呼ばれたくありません』

    ヒュー♬

「おぉっ、こりゃ雪風よりも粘っこい風味が利く皮肉じゃねぇか。
ウィゴーちゃん ウィゴーちゃん ウィゴーちゃんよぉぉ
 俺は正直よ、ウィゴーちゃんを俺の中から引っ張り出したのか
それとも、あのスーツのぼんぼんちゃんのオリジナルかぁどうかぁ
知らないが。それでもよ、俺の糞溜め見たいな中に、ウィゴーちゃん見てぇな
ものが出てくるなんぞ夢のまた夢って奴だったんだぜぇ?」

  ひっひっひひ♪

「・・・あぁヤベェな ウィゴーちゃん、ちょいと
目ぇ瞑って顔近づけてくんね?」

『おい 寄るな 近づくな それと 私はウィゴーちゃんじゃない
ウェア・ディド・ウィ・ゴー・ライトです
……ちょっと! 誰がお近くに正義のスタンド使いはおりませんか!?
不審者が居ます!』

不気味に笑う男と、それに後ずさるスタンドと言う奇妙な構図が出来上がっている。

634 御徒町『ホワイト・ワイルドネス』【16】 :2019/02/16(土) 22:49:28
>>633
「あ゙ 、 あ゙ぁぁ〜〜〜〜ッッ!?」

     「なんじゃぁぁ〜〜〜〜ッッ こりゃあぁ〜〜〜〜ッッ」


    ガゴッ  ゴホッ
                      ペッ

大通りを歩いていたら、スタンドと共に独り相撲をしてる若者を見かける。
思わず大声を上げ、周囲の奇矯な視線を集めながらも、
喉に溜まった『痰』を吐き出し、『芦田』の傍に大股で歩み寄る。

     「あ、アンタぁ、何してるんですかァ!?

      ちょっとねェ、それッ  しまいなさいよ、みっともない!」

黄ばんだ歯を剥き出しにしながら、『芦田』に唾泡を飛ばしながら、怒鳴りつける。

635 芦田『ウェア・ディド・ウィ・ゴー・ライト』 :2019/02/16(土) 23:10:23
>>634

      パチ  パチクリ

        ニヒィ

「おいおい、おいおい おいジィさん。しまっておくれって何かい?
怒張した腰のモンって言うんなら、そりゃ生理現象ってもんだろぉ、おい
 それとよ、おりゃあジィさんの唾でRight-Onのシャツをデコレーション
する趣味はねぇんだぜぇ?
 あぁ、でもよ。ウィゴーちゃん ウィゴーちゃん ウィゴーちゃあぁん
俺ぁ ウィゴーちゃんのよ 可愛いチロチロした活かしたニップで
ベトベトになるんなら 吝かでもねぇんだが どうだい?」

『すいません 何が どうだい? なのか全く意味不明 理解不能ですし
それと、繰り返しますけどウィゴーちゃん じゃありません
ウェア・ディド・ウィ・ゴー・ライト それが私であり 存在の名称です』

「つれないねぇ。あぁ、ジィさん そんでもって 此処ら辺で
小洒落た ちょいと人気が殆どねぇ活かしたスイーツ店でもねぇかな?
 ウィゴーちゃんとのデートする場所として探してんのよ」

『ちょっと本当待て 何なんだこの本体っ どう説明すれば
まともになるんだ!? あと私の名はウェア・ディド・ウィ・ゴー・ライト!』

「ん? あぁウィゴーちゃんはスイーツより自炊派かい?
そんなら八百屋でもいくか ちょいと精のつくもんでも買おう」

『あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!!』

大様に自分のペースで話しをする本体に、金切り声を上げる始末のスタンド。
だが、殴ると自分にもダメージが来るのでフラストレーションは堪りに溜る。

636 御徒町『ホワイト・ワイルドネス』【16】 :2019/02/16(土) 23:20:34
>>635
「その、スタンドを『しまえ』と言うとるんですよ!

 何が『スイーツ』じゃあ、このアホンダラぁ!
 アンタみたいに人の話を聞かないノータリンがねェ、
 店の商品を勝手にイジって台無しにするんですよォ!」

一人で勝手に喋っている(ように周囲には見える)『芦田』、
その『芦田』目掛け、ヒステリックに怒鳴りつける『御徒町』。
周囲の目を引くのは間違いないが、『御徒町』の怒声は止まらない。

     「アンタねェ、道の往来で恥ずかしくないんですかァ!?

      そのフザけた一人芝居を止めて、
      畳の上でマスでもかいてろ、と言うべきでしょう!」

     「無線のイヤホン繋いでバカ話してる『中国人』だって、
      私はブキミでしょーがないんですよぉ、ええっ!?」

637 芦田『ウェア・ディド・ウィ・ゴー・ライト』 :2019/02/16(土) 23:33:50
>>636

>その、スタンドを『しまえ』と言うとるんですよ!

『そうですっ。そう常識を教えて下さい ご年配の方っ
この男には、そう言った当たり前の情操教育の大事な部分が欠落してます!』

赤の他人にもスタンドは味方につく。だが、芦田は悪びれる事なく笑う。

>店の商品を勝手にイジって台無しにするんですよォ!

「おぉ! よく、俺の過去を知ってんなぁ? 
確かにジィさんの言う通り。おりゃあ高校時代は万引き・器物破損
色々と悪もやったよ。殺し以外は殆どやってた感じだなぁ
 んでもよぉ。そりゃあ全部『納得』する為の模索だったしなぁ。けど
これがさっぱり、イマイチ心から、あぁそうだったなあ! って実感を
今まで得た事が無いんだなぁ、これが!」

>畳の上でマスでもかいてろ

「あぁ、そうそう……これ一番肝心なんだけどよ、ジィさん。
俺がウィゴーちゃんを組み敷いて、まぁゴールデンじゃ放送出来ない事
やるとするじゃん。けどよ、ウィゴーちゃんは俺の半身だろ? 
でもウィゴーちゃんと俺ってば結構思考に嗜好も違うしさ。この場合
強姦になんの? それとも高度なマスターベーションなのかねぇ?
 あんた結構歳食って色々経験してそうだし、答えも知ってそうだよな」

『知るわけねぇだろ 脳味噌パープリンなのか異常性癖者』

本当に不思議そうに御徒町い実入りが全く無い質問を投げかける。
スタンドは既に本体を罵倒しかしなくなった。

638 御徒町『ホワイト・ワイルドネス』【16】 :2019/02/16(土) 23:49:32
>>637
>この場合強姦になんの? それとも高度なマスターベーションなのかねぇ?

    「『高度』なワケがないでしょうがッ!

     私はねェ、アンタみたいな『常識』のない小僧が、
     世間様にツバ吐いて鼻高々にしてるのに、
     ガマンならないんですよォ!  ええッ!?」

既に禿げ上がった額に『青筋』を浮かべ、
落ち窪んだ両目をカッと見開き、怒気を隠そうともしない。

    「ふざけやがって、青二才が……。

     おい、アンタらもねェ! 何をニヤニヤしてるんですかぁ!?
     カメラ止めろォッ! こちとら見世物小屋じゃないんだよッ!」

遠巻きに様子を見ている群衆に怒鳴り付け、因縁に近い罵声を浴びせる。

    「クソ共が、渋谷のハロウィンみてェなバカ騒ぎを、
     まだ続けようっていうんですかァ、上等ですよ!」

    「アンタらもねェ、私の『ゲーム』に出演させてやりますよぉ!」

『御徒町』は全てに苛立っていた。
すっかり様変わりした『業界事情』や、己を無下にする『学生』共、
一応の『名声』を利用して、授業料を巻き上げるための『客寄せパンダ』に仕立て上げた『経営者』、
無論、目の前でわめきたてる『小僧』も遠因ではあるが、……あくまでも『切欠』に過ぎないのだ。

639 芦田『ウェア・ディド・ウィ・ゴー・ライト』 :2019/02/17(日) 00:05:33
>>638(次あたりで〆させて頂ければと)

>アンタらもねェ、私の『ゲーム』に出演させてやりますよぉ!
   
         ピクッ

『……ご尊老  ゲーム  とはどのようなものです?』

 只ならぬものを感じたのか。芦田の飄々とした戯言に癇癪起こした態度から
一転して生真面目な雰囲気になり御徒町を見定める。

    ゴ  ゴ  ゴ  ゴ  ゴ……

『ご尊老 貴方のその気迫 そして怒り。
ただ単純な世界への単純な反抗心以外の【何か】を感じ取りましたが……
【過去】に何かを宿しておいてで?』

「……ウィゴーちゃん ウィゴーちゃん そう虐めてやんなさんな。
過去に何かあったかも ってぇ? そりゃあ、こんな淡も黄色くて
骨出張った体つきなんさ。色々と辛酸もある過去だろうさぁ。
 疑わしきは罰せず だろう? ウィゴーちゃあん。それより俺達の
未来の愛についてでも語り合おうぜぇ。なぁ、おい」

『喧しい ハウス』

『……えぇ そうですね。疑わしきは 罰せず。
ご尊老 このような青二才に余り構う事はありませんよ。所詮は
クソ共の一人ですので』

「酷いねぇ けどツンツンしてるのも可愛いぜぇ ウィゴーちゃん」

『ウェア・ディド・ウィ・ゴー・ライト です』

スタンドが穏やかに別れを告げる……秘めたる力は開示しない。
このままなら、頭のネジが外れた若者と それに侮蔑する奇妙な自我ありの
スタンドと変な絡みをしただけで済む

640 御徒町『ホワイト・ワイルドネス』【16】 :2019/02/17(日) 00:19:18
>>639
>『喧しい ハウス』

    「お前がハウスだバカヤロー!
     さっさと本体に戻らんかァァ〜〜〜〜ッッ!!」

『御徒町』の激昂はスタンドにも見境がない。
無論、干渉できるわけはないのだが、ネバっこいツバ飛沫も、
相当『ウェア・ディド・ウィ・ゴー・ライト』へ飛んでいる。

>『……ご尊老  ゲーム  とはどのようなものです?』

    「あ゙ぁ゙ぁ〜〜〜〜〜ッッ!?

     私もねェ、この業界で『35年』はやってますよッ
     『新機軸』と称した産廃物なんか下の下であっても当たり前ッ

     ワールドワイドを言い訳に金を集める手法ばかり磨いて、
     真に『頭脳』や『技巧』でのみ筆頭となれる、理想郷としての『市場』は、
     いまやすっかり過去のモノですよ! 私の『玉座』だけを残してねェ!」

別段、『芦田』は『TVチャンピオンのラスト・インタビュー』のニュアンスで訊いたはずはないのだが、
それを逆手に取って長々しい『自分語り』にすり替える、老獪な手腕を『天然』でやってのける。
骨の髄まで『自己主張』に満ちた下劣な『老骨』の真骨頂ともいえる、がなり声が大通りに響き渡る。

    「ええっ、やったことねぇんでしょう!? 『おかしのマーチ』をッ!?

     おい、そのスマホをすぐに捨ててねェ、中古屋にダッシュでッ!
     古い方のDSにも移植してある、『おかしのマーチ』を買いなさいよォ!」

    「私の『過去』にねェ、やましいことなんて何一つありませんからねェ!
     勝手に理解した気になるんじゃありませんよ、『第九局面』もクリアしてないひよっこがぁ!」

既に野次馬達もドン引きして散り散りになっているのだが、その背中に向けて怒鳴り声をかます。
好奇心で首を突っ込んだ通行人達もまた、『変な絡み』で済んで何よりといったところだろう。

641 芦田『ウェア・ディド・ウィ・ゴー・ライト』 :2019/02/17(日) 00:36:52
>>640(お付き合い有難う御座いました)

「おいおい 唾を飛ばすんじゃねぇよ ジィさん
俺はいいが ウィゴーちゃんの可愛い顔が、あんたの唾でマーキングされたって
ちっともおっ勃ちもしねぇよ…………あん、待てよ?
ウィゴーちゃんの唾液で」

『ウェア・ディド・ウィ・ゴー・ライトです
いやいい 本当いい ろくでもない事しか話さないから
そこで黙りなさい 会話が進まないんですよ 貴方が口挟むと』

御徒町の話を、右から左へと芦田は聞き流してる様子で
ウェア・ディド・ウィ・ゴー・ライトは真摯に耳を傾ける。

『35年 ゲーム会社……嘘をついてる様子は無さそうでした。
だが、ゲームに参加させると言った時の鬼気迫る表情……』

「あんまり深く悩むこたぁねぇよウィゴーちゃん。
『おかしのマーチ』
お菓子で可笑しな犯しのま ぁ ち〜♪
みんながみんなイきたいのよ♫ 侵したいのよ あなたの……♩」

『すいません エチケット袋を近くの店で買ってくれませんか?』

「ついでにスイーツ食べない? 予定通りにさ?」

『……あの 本当どうでも良いですけど、何で私を女性扱いで
話を進めてるんです?』

「そりゃあ、ウィゴーちゃん。片方眼鏡の老紳士風味か
片方眼鏡の司書っ娘、どっちが見栄え良いかって言やあ
断然的に後者じゃねぇか。そりゃ、世の皆さん全員がそう思うぜ?
こりゃ『納得』とかそう言う範疇以前の『常識』だろ?」

『何で私は貴方の目覚めから出て来たのか、理解に苦しみますよ。
切り取りたい過去は、本当起源からですよ』

「つれないねぇ けど、あの淡吐きジィさん なかなか愉快じゃねぇか。
また道中揶揄ってやろうぜぇ ウィゴーちゃあん」

 道すがら雑談しつつ、過去を掘り下げるスタンドと若者は
裏ゲーム主催者と別の道を行く。
 ウェア・ディド・ウィ・ゴー・ライトの力が、何時か御徒町の過去を
引き出すのかは 未だ誰にもわからない。

642 御徒町『ホワイト・ワイルドネス』【16】 :2019/02/17(日) 01:02:23
>>641

      「ハァ……  ハァ……

       クソどもが、ようやく消えましたね――――」

      「『GEO』の方角じゃあないのは気になりますが、

       ゴホッ  グェ、ッ……まぁ、いいでしょう」

いつの間にかいなくなった『芦田』を尻目に、
三々五々に散っていった群衆達に恨み言を零す。

冷や汗が、身体の震えが止まらない。
喉を擦る『異物感』、『痰』であればどんなにいいことか。

>過去に何かあったかも ってぇ? そりゃあ、こんな淡も黄色くて
>骨出張った体つきなんさ。色々と辛酸もある過去だろうさぁ。

       「わ、だしに、ゴホッ

        目を背ける『過去』など、ない――――」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

       「『御徒町』君ねェ、我が『嵯峨野研究室』は、

        『最新鋭』なんだよ。『優秀』とか、そーいう意味じゃあない」

       「『最新』ってのは、『一番』ということであってねェ、
        『未開拓』である、君みたいに誰でも出来る、誰かがやってる、
        そーいう『成果』はねェ、『成果』とは言わないんだよ、そうだろぉ?」

       「これからの『産業形態』を大きく変える、
        『相互補完アルゴリズム』、ハッキリ言って『荒野』に等しい。

        我が大学の『門』を潜った学士であっても、
        君のような『凡才』では、全くお話にならない、ということだよ」

       「これでも君程度に解るように話のグレードを下げに下げたのだがねェ、
        何も解っとらんらしいなぁ。ん? そうだろぉ? 君は『0』から作れないんだろぉ?」

       「なぁ、そうだろぉ? ん? どうした?
        『理論』は理解できるんだろーが、
        だからってエラそーに出来る話じゃあないだろぉ?
        そーいうのは『市場』に出す時に、民間がやってりゃあいいんだ」

       「まあ君も後数ヶ月でおサラバだから、どーこーは言わんがねぇ、
        全くの『お荷物』だったよ、君が余所でひけらかす借り物の説明は聞き飽きた。

       「これからはそーいうのは止めてくれな、我々『研究者』の評判まで下がってしまう。
        コピーペーストは学生論文のレベルでやってればいい、じゃあ達者でな」

                バタンッ!

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

       「何も、ない……」  ガホッ



.

643 日沼 流月『サグ・パッション』 :2019/02/24(日) 01:42:45

         ザッザッ

「もしもし〜ッ、え、今ですか?
 今星見街道の〜、あの、お店多い通りですケド」

      「え」 「ウソっ」

「あ、びっくりしたぁ〜〜〜ッ
  今日かと思いましたですってェ〜〜〜」

名前通りファンシーな品を扱う店から、
スマホ片手に通話しつつ……前を見ず、
金とも銀とも言えない髪の少女が出て来た。

肩に掛けた買い物袋はそれなりに大きなもので、
近くを通る人がいればぶつかるかもしれないし、
あるいは単に『同好の士』の目に入るかもしれない。

「え? 今日じゃダメかって、ダメですよ〜。
 流月(ルナ) 今日は買い物日和なんです。
 今日逃すと買えないものがありましてェ〜っ」

ともかく日沼は今不注意だ。何が起きてもおかしくない。

644 日沼 流月『サグ・パッション』 :2019/02/27(水) 01:14:08
>>643(撤退)
運よく何事も無かったので、そのまま立ち去った。

645 三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』 :2019/03/01(金) 02:07:46

こんにちは、千草です。
今日は一人で喫茶店に来ています。
以前は小角さんにお会いしましたが、今は一人です。

「ふう――」

テーブルの上にはノートが広げられています。
生徒会会議の議事録です。
それを見やすくまとめる作業中なのです。

「すみません。注文をしたいのですが」

ボールペンを置いて、ウエイトレスさんを呼びました。
少し疲れたので、一休みです。
ところで店内は満席のようなので、誰かと相席になるかもしれません。

646 鉄 夕立『シヴァルリー』 :2019/03/01(金) 21:43:14
>>645

チリーン

『申し訳ありませんお客様。ただいま満席となっておりまして、相席となりますが…』

「えっ」ビクッ

チラッ

「ああ、大丈夫です」

『ありがとうございます。それではこちらへどうぞ』



「こんにちは、三枝さん」「お邪魔させてもらってもいいか?」

長身の学生服、ザックリと斜めに切られた前髪が特徴的な青年が、笑顔で声をかけてきた。
トレードマークのような、背負った竹刀袋も以前と一緒だ。

647 三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』 :2019/03/01(金) 22:58:37
>>646

「あっ、鉄先輩――」

      パァッ

「こんにちは」

      ペコリ

「どうぞ、またお会いできて嬉しいです」

知っている顔を見かけて、自然と表情が綻びました。
それから、背中の竹刀袋に視線を向けます。
先輩は、やっぱり剣道部の帰りでしょうか。

「そういえば――」

「鉄先輩は高等部二年の日沼流月先輩を知っていますか?」

少し前のことを思い出しました。
一緒にお話してくれた先輩です。
確か、鉄先輩と同学年だったと思います。

648 鉄 夕立『シヴァルリー』 :2019/03/01(金) 23:09:54
>>647

「ありがとう」ペコリ

幼くも礼儀正しい三枝さんに合わせて、こちらも礼をして椅子に座る。
竹刀袋は邪魔にならないように、椅子の背もたれに引っ掛けておいた。

「・・・日沼さん?」「一応知ってる、かな」「話したことはないけれど」

ただその名字は聞いたことがあるし、恐らく遠巻きながら姿も見たことがあるはずだ。
なかなか派手な髪色をしていて、いわゆる『不良』的なグループの1人らしい、と耳にした。
そのグループに関して根も葉もない噂はいくつかあるが、そこまでは言わなくていいだろう。

「三枝さんこそ、どうして日沼さんを知っているんだ?」

『メニュー』を開きながら、訊ねる。
三枝さんとは学年も違うが、何よりあまりに『タイプ』が違う。接点はないように思えてしまう。

649 三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』 :2019/03/01(金) 23:32:16
>>648

「そうですか――」

「日沼先輩にも、同じような事を言われました」

やっぱり、なかなか深い親交というのは見当たらないようです。
生徒数の多い学校だからでしょうか。
でも、それは構いません。

「『超能力』です」

鉄先輩の質問に、真面目な顔つきで返しました。
そして、すぐに口元を緩めます。
本当は違うからです。

「――――だったらビックリしますか?」

          クスクス

「『冗談』です」

普段よりも子供っぽい笑顔で、そう言いました。
目指す『立派な人』になるためには、ユーモアも理解していないといけません。
『本当の本当』は、少しだけ『本当』ですけど。

「この前、学校で少しお話したからです」

「鉄先輩のことを話したら、千草が感謝していることを伝えてくれると言ってくれました」

「日沼先輩は親しみやすくて、良い先輩だと思いました」

650 鉄 夕立『シヴァルリー』 :2019/03/01(金) 23:52:19
>>649

>「日沼先輩にも、同じような事を言われました」

「…だろうなぁ」

その言葉に深く頷く。
今泉さんのように顔が広い子ならともかく、ましてや自分はさほど知り合いは多くない。
同じ学年といえど、同じ部活や同じクラス、あるいはそうだった過去があるか、
または友人の友人という繋がりでもない限り、なかなか知り合いになることはない。
それこそ、自分にとっての鳥舟さんや平石さんのように。

>「『超能力』です」

「─────」

『スタンド使い』という共通点がなければ。
そう思っていた矢先に投げかけられた言葉に、『メニュー』を読んでいた手が止まり、
バッと三枝さんを見上げる。だが、その真意を問おうとするよりも早く。

>「――――だったらビックリしますか?」

>          クスクス

>「『冗談』です」

「・・・いや、中々『冗談』が上手いな、三枝さんは」

応じるように、こちらも口角を上げる。
子供は時々、驚くほど本質を見抜くことがあるという。一瞬だけ、その笑みも、全てを知った上での事のように思えてしまった。
が、流石にそれは妄想に過ぎないだろう。ただ最近自分の知り合いに『スタンド使い』が多かったので、過敏になっているだけだ。

「…そうか」「日沼さんはいい人なんだな」「今度、オレからも話しかけてみるよ」

正直、三枝さんの言葉はあまりに意外だったが、確かに自分とて日沼さんと直接話したことがあるわけではない。
ならば、実際に言葉を交わしたこの少女の言葉を信じるべきだ。それに、いい人ならそれに越したことはない。

「オレは『黒蜜ときなこのプリン』にしようかな」「三枝さんは?」

651 三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』 :2019/03/02(土) 00:12:45
>>650

「はい――」

そう答える表情は、心なしか少し誇らしげに見えました。
何だか、自分が二人の先輩の架け橋になれたように感じたからです。
少しだけ――ほんの少しだけ、『立派な人』に近付けた気がして嬉しく思いました。

「千草は『フルーツあんみつ』にします」

言いながら、メニューの一点を指差します。
あんみつは好きなのですが、今日はフルーツあんみつの気分です。
それから、出しっぱなしになっていたノートを脇に片付けましょう。

「鉄先輩は部活動の帰りですか?」

「ご苦労様です」

       ペコリ

鉄先輩は立派な人です。
それを少しでも見習っていきたいです。
千草は、まだまだ未熟者ですから。

652 鉄 夕立『シヴァルリー』 :2019/03/02(土) 00:27:09
>>651

「お、いいセンスだ」
「すみません、注文をお願いします」

いいセンスと言ったのは、実際自分も『あんみつ』にするか迷ったからなのだが。
とにかく、運良く男性のウェイターが通りがかったので、2人分の品を注文する。
そのままメニューも持っていってもらった。

「そうだよ。もう少しで『大会』もあるから、頑張らなきゃな」
「三枝さんは?ここでテスト勉強とか?」

カバンからファイルを取り出しながら、こちらからも訊ねる。

653 三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』 :2019/03/02(土) 00:50:23
>>652

「剣道の大会――ですか」

テレビか何かで見かけたような覚えはあります。
でも、実際に見たことはありませんし、詳しい内容までは分かりません。
ただ、きっと凄いものなんだろうという想像くらいは千草にもできます。

「千草には何もできませんが」

「でも、鉄先輩のことを応援しています」

「先輩も千草のことを応援してくれましたから」

        ニコリ

以前に神社の近くで出会った時のことを思い出しました。
その時、鉄先輩は千草が立候補したら応援してくれると言ってくれました。
だから、千草も先輩を応援したいのです。

「生徒会会議の『議事録』の整理です」

「書記として、正式に生徒会に加わることになったので」

       ペコリ

「鉄先輩が応援して下さったおかげです」

でも、まだまだです。
千草は、もっともっと成長したいのです。
そのためには常に上を、常に先を見つめなければいけません。

654 鉄 夕立『シヴァルリー』 :2019/03/02(土) 01:07:42
>>653

>「千草には何もできませんが」

>「でも、鉄先輩のことを応援しています」

>「先輩も千草のことを応援してくれましたから」

「・・・いや」「そう言ってくれる人がいる事が、オレにとっては何より力になる」
「ありがとう、三枝さん」ペコリ

両手に膝を置き、頭を下げて感謝を示す。
『団体戦』のレギュラーは、あと一歩のところで。…本当に、僅かな差で落としてしまったが。
『個人戦』のレギュラーは、まだ確定していない。ここからの挽回次第では、チャンスはある。
自分の心が抱える問題さえクリアできれば、だが。

しかし、その次に聞いた報告は、そんな憂いを吹き飛ばすように喜ばしいものだった。

「そうか、三枝さんは『生徒会』に入れたのか!」「おめでとう」「目標が1つ、叶ったな」

あの神社でこの少女が口にした望み。
それが叶ったかどうかはずっと気になっていたが、これはとても嬉しい事実だ。

「偉いなぁ、三枝さんは」「ここでも『お仕事』をしてたんだな」

素直に感動しながらも、自分もファイルからこの街の地図を取り出して、スマホを隣に並べた。
こちらもお仕事というほどではないが、私用を片付けておこう。

655 三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』 :2019/03/02(土) 01:35:24
>>654

「えへ……」

「――ありがとうございます」

     ペコリ

今日一番の嬉しそうな表情で、頭を下げました。
本当に嬉しかったからです。
生徒会に入れたことでも、それを祝ってもらえたからでもありません。
その二つも嬉しいことですが、
それよりもお互いに応援しあえる関係を築けていることが嬉しいのです。
それは、得た結果よりも尊いものだと千草は思っています。

「他に『雑用』も幾つかやらせてもらっています」

「いつか『生徒会長』になるのが、次の目標です」

「そのために、今は与えられた仕事を精一杯やっていきます」

一つ一つの言葉を噛み締めるように、実現させたい展望を語ります。
いつかは叶えたい目標です。
でも、そこで終わりではありません。
もし、そこに辿り着けたら、さらに先を目指したいのです。
千草の『最終目標』は、その向こう側にあるのですから。

「鉄先輩――どこかにお出かけの予定ですか?」

先輩が取り出した地図を眺めながら尋ねます。
この街ということは、それほど遠くではなさそうですが。
どこか地図に印などがしてあるのでしょうか?

656 鉄 夕立『シヴァルリー』 :2019/03/02(土) 22:15:45
>>655

「『生徒会長』か…更に大きく出たな」

『生徒会』に入ることそれ自体も容易いことではないと思うが、
更に『生徒会長』となれば、尚更だ。学園の中で、生徒代表とも言える立場にあるからだ。
それに相応しい人望と能力が求められる。

「でも、きっと三枝さんなら大丈夫だ」「真面目で勤勉なキミなら」

そう言えるくらい、自分はこの少女に好感を覚えている。
重ね合わせるのは彼女に失礼かもしれないが、自分も器用に色々とこなすというより
地道に少しずつ努力を重ねていくタイプだ。だから三枝さんの成功も、我が事のように嬉しいのかもしれない。

「あぁ…出かけるわけじゃあないんだ」「ちょっと、この街の危ない所をマークしておきたくてな」


鉄が広げた地図の中には、幾つかの印がしてある。
緑色の丸は、『ホームセンター』『大型ディスカウントストア』『骨董品店』などに記されている。
また赤色の丸は、時刻の他に『通り魔』『暴行事件』など備考が記されていた。
スマホを見ながら、鉄は更に地図の上に赤色の丸を書き記していく。


「三枝さんも、気をつけて」「生徒会で遅くなった時は、2人以上で帰ったりとか」

「…お、来たな」

『お待たせいたしました』

注文の品が届き、店員が『フルーツあんみつ』と『黒蜜ときなこのプリン』をテーブルの上に置いた。

657 三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』 :2019/03/03(日) 00:09:29
>>656

千草は何よりも『死』を恐れています。
だから、それを連想させる言葉も怖いのです。
普段は、目に入れないように意識しているのですが――。

「 あ 」

      プイッ

赤丸に書かれた言葉を見て、一段階高い声を上げて反射的に顔を逸らしました。
『通り魔』や『暴行』――そういう単語を見ると千草は『死』を連想します。
だから、無意識に反応してしまったのです。

         スゥー……

こういう時は、まず深呼吸です。
どうにか気持ちが落ち着いてきました。
予想していなかったので、少し驚きましたが。

「――――はい、ありがとうございます」

     ニコリ

「鉄先輩も気を付けてください」

「でも、先輩なら大丈夫かもしれませんけど――――」

その時、ちょうど品物が運ばれてきました。
話すのを途中で止めて、あんみつを一口食べます。
鉄先輩が大丈夫だと思う理由は、もちろん『アレ』です。

「だって鉄先輩は、8年も『剣道』を続けてらっしゃるんですから」

竹刀袋の方に視線を向け、そう言いました。
だけど、不思議なことだと思います。
どうして先輩は、こんなに熱心なのでしょうか。

「……朝陽先輩のお加減はどうですか?」

神社から帰る途中で鉄先輩から聞いた話を思い出します。
朝陽先輩はピアノが上手で、今は腕を怪我しているとのことでした。
あの時も、つい千草は少し耳を塞いでしまいましたが……。

658 鉄 夕立『シヴァルリー』 :2019/03/03(日) 00:35:20
>>657

「!」

「・・・すまない」「無神経だった」

地図を見て目を逸らす三枝さんに、深く頭を下げる。
家での作業を当事者の妹に見られる訳にはいかないと思ってここでやる予定だったが、
そもそも並んでいる字面だけで、女の子にとって気分の良いものではなかったのだろう。
こういった気遣いが欠けている己の無神経さを悔やみ、反省する。
地図を折り畳み、再びファイルへとしまった。
妹が寝静まった後や、あるいは学校の図書室など、他にできる場所はある。焦る必要はない。

「ありがとうございます」

店員へ礼を言い、プリンを自分の前へと置いた。
せっかく喜ばしい出来事があったのだ、気分を切り替えていこう。

「どうかな、こういう場合は『剣道』より『空手』や『柔道』の方が強そうだけど───」ハハハ
「まぁでも、そういう状況になったとしても負けるつもりはない」
「だから安心して、頼ってくれ」

『剣道』で勝てる相手ならそれでいい。そうでなかった時のために、手にした『シヴァルリー』だ。

「・・・・・ほとんど完治したよ」「以前のように動かすには、少しリハビリが必要だけどな」

「そういえば、あの時の三枝さんの『お願い』は叶ったのかい?」

妹、朝陽のことを話したあの帰り道を思い出して、訊ねる。
カラメルの代わりに黒糖が乗った、きなこ混じりのプリンを食べる。とても美味しい。

659 三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』 :2019/03/03(日) 01:04:57
>>658

「謝らないでください」

「鉄先輩は悪くありませんから」

先輩は何も悪いことはしていません。
悪いのは千草の方です。
でも、この習慣は多分なくせないと思います。

「分かりました、先輩」

「その時はお願いします」

『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』――千草の『墓堀人』は役に立ってくれるでしょうか。
何度か練習してみましたが、まだ分かりません。
そもそも、危ないことにならないのが一番だと思いますけど。

「――そうですか……」

「あの――朝陽先輩の演奏……いつか聴いてみたいです」

千草にできることは多くありません。
千草は未熟で弱い人間です。
できることは、ここにも朝陽先輩を待っている後輩がいることを伝えることくらいです。

「いえ、『まだ』です」

「まだまだ、ずっとずっと先のことですから」

あの時に祈ったのは、『素晴らしい最期を迎えること』でした。
それが訪れるのは、きっと何十年も先のことになるでしょう。
きっと、そうであって欲しいと思います。

「鉄先輩の『お願い』はどうですか?」

「――プリンもおいしそうですね……」

鉄先輩のお願い事は叶ったのでしょうか?
先輩のプリンをチラリと見ながら聞き返しました。
行儀が悪いですが、いわゆる隣の芝生は青いというやつです。

660 鉄 夕立『シヴァルリー』 :2019/03/03(日) 01:51:51
>>659

>「あの――朝陽先輩の演奏……いつか聴いてみたいです」

「…ありがとう」「本人に…朝陽に伝えておくよ」

やはり優しい子だなぁ、と思いつつ。
多分に気遣いの含まれたその言葉を受け取った。
朝陽は、そういう言葉を力にできる人間だから。かけ値なしに喜ぶだろう。

>「いえ、『まだ』です」
>「まだまだ、ずっとずっと先のことですから」

「そうなのか…てっきり『書記』や『生徒会長』になることかと思っていたけど」
「三枝さんの『夢』は、それ以上に壮大ってことなんだな」

予想が外れたな、と小さく口にする。とはいえ願い事の内容を聞いたりはしないが。
例えば、素敵なお嫁さんとかだったりするかもしれない。あまり女の子のプライバシーに立ち入るべきではない、よく妹が口にしていた。

>「鉄先輩の『お願い』はどうですか?」

「うっ」「いや、オレもまだでね…オレの努力が足りてないんだろうからしょうがない」モグモグ

頭を書きながら、答える。結局仲直りはまだできていない。
何が悪かったのか、自分自身がそれを把握しないといけない。謝るには、誤りを知らなければ。

「今度、知り合いの人が勤めている『烏兎ヶ池神社』にでも行って、またお祈りしようかな」
「他の場所なら効くってわけじゃあないだろうけど」

「…ん?」

プリンを物欲しそうに見る三枝さんに、年相応の微笑ましいものを感じて。
思わず小さく吹き出してしまう。

「いいよ、少し食べてみな」

そう言って、『黒蜜ときなこのプリン』を彼女の方へと差し出す。

661 三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』 :2019/03/03(日) 03:31:51
>>660

「壮大だなんて、そんな――」

苦しむことなく安らかに旅立ち、看取ってくれる人の心にも良い影響だけを残すこと。
それが千草の『夢』で、『人生の目標』です。
何か大きなことを成し遂げようというお願いではありません。
ただ、それでも叶えるのは難しいと思います。
生徒会に入ったり生徒会長を目指すのは、その一歩です。

「千草の夢は、ほんのささやかなものですから」

本音を言うと、『死にたくない』という思いがあります。
でも、それが無理なことくらい未熟者の千草にも分かります。
だから、せめて『素敵な最期』を迎えたいと思うのです。

「『烏兎ヶ池神社』――初めて聞きました」

「それは、この街にあるんですか?」

「千草も一度行ってみたいです」

神頼みだけで夢が叶えられるとは思っていません。
だけど、自分の気持ちを新たにすることはできると思います。
それに、少なくとも損をすることはないですから。

「鉄先輩、今笑いましたね?」

「千草のことを子供だと思いましたか?」

少しだけすねたような表情をしてみせます。
でも、プリンを差し出されると、そちらに視線が向きました。
自然と、少しずつ口元が緩んできます。

「……ありがとうございます」

         ニコ

「でも、いただくだけじゃ不公平です」

「お返しに、鉄先輩も千草の分を食べていいですよ」

「――『パイナップル以外』ですけど……」

控えめに付け加えながら、フルーツあんみつを先輩の方に差し出します。
それから、先輩が分けてくれたプリンを一さじすくって口に運びました。
初めて食べましたが、優しい甘さがとてもおいしく感じられます。

「これもおいしいですね」

「先輩は、こういうお菓子がお好きなんですか?」

662 鉄 夕立『シヴァルリー』 :2019/03/03(日) 21:53:49
>>661

「ここにあるらしいぞ」
「友人の友人が言っていたんだけど、『パワースポット』とかなんとか」

今度は紙の地図ではなく、スマホの『地図アプリ』で指し示す。
【ttps://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/comic/7023/1549033452/1】
とはいっても、場所と少しの情報だけで、自分も詳しくは知らない。
烏と兎に池、その変わった名前にも何らかの由来があるのだろうか。

「あぁ、いや別に、そんなわけじゃあ…」
「…すまん。ちょっと思った」「いや、年相応に可愛らしくていいんじゃあないか?」
「朝陽も以前はもっと可愛げがあったんだけどなぁ…」

ちょっぴりふてくされた様子を見せる三枝さんに慌てて首を振るが、
どうせウソをついてもバレると思い、観念して両手を挙げ正直に言う。
妹も、これくらいの時は…いや、もう少し以前、小学生くらいの時は、よく懐いてくれたものだ。
何にせよ、差し出したプリンに彼女が頬を緩めるのを見て、安心する。

「え、オレも頂いていいのか?」
「実はちょっと気になってたんだ、『フルーツあんみつ』」「ありがとう」

感謝の言葉を述べながら、餡と白玉をスプーンに乗せ、口に運ぶ。
和菓子ならではの、ほんのりとした甘さが口の中に広がった。

「…あぁ、美味しいな」「よし、今度来た時はこちらを頼もう」

>「先輩は、こういうお菓子がお好きなんですか?」

「そうだな、どちらかというと洋菓子より和菓子系統が好きだ」
「生クリームやバターたっぷり、とかはあまり得意じゃなくて…」
「でも『バターどら焼き』は以前食べてみたけど、アレは新しい美味しさだったな」
「『和スイーツ』?とか言うらしいが、ああいう菓子も新鮮で良かった」

自分は男子だが、甘いものは好きだ。

663 三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』 :2019/03/04(月) 00:08:48
>>662

「『バターどら焼き』ですか――それもおいしそうです」

「違うもの同士が合わさると、今までとは違う素敵なものができることがあるんですね」

「時には、それが失敗することもあると思いますけど」

「でも、千草と先輩は『バターどら焼き』になれそうな気がします」

「――ね、鉄先輩」

          ニコリ

「先輩、連絡先を交換しませんか?」

「鉄先輩とは、またお話してみたいです」

「先輩が嫌じゃなければ、ですけど……」

手帳型のケースに入ったスマートフォンを取り出します。
先輩は『立派な人』ですから、この繋がりは大事にしたいのです。
そういう関わりは、千草が成長する上でも大切だと思っています。

「もし何かあった時は、先輩を頼りにさせていただきます」

「その代わり――先輩も千草のことを頼ってもいいですよ?」

「『一方通行』じゃ不公平ですから」

千草には大したことはできないでしょう。
でも、もしかすると何かの役に立てるかもしれません。
千草の目指す『立派な人』になるためには、それも必要なことです。

「何だか、たくさんお喋りしちゃいましたね」

「それで、あの――早速なんですが……」

「先輩に一つお願いしてもいいですか?」

664 鉄 夕立『シヴァルリー』 :2019/03/04(月) 00:38:14
>>663

「詩的だな」ハハッ
「でも確かに、それには同意する」「年は5コも下だけど、オレはキミを『尊敬』してるからな」

三枝さんの言葉に頷き、自分もスマホを取り出す。市松模様の、ハードケースだ。
好感を覚えている彼女に対して、連絡先の交換を拒む理由などなく。
むしろ、『通り魔』のような人間がいるかもしれないこの街で。
いざという時に、連絡はすぐに取れた方がいい。

「もちろん、こちらこそよろしく」
「ああ、その時は頼りにさせてもらうよ」「何せ、未来の『生徒会長』だからな」

もちろん冗談だ。
彼女が『生徒会長』になったとしても、例えば別に剣道部に対してどうこうしてもらうつもりはない。
この子の直向きさ、勤勉さは、きっと自分の心の支えになる。そういう頼り方もあるだろう。

>「それで、あの――早速なんですが……」

>「先輩に一つお願いしてもいいですか?」

「ん、なんだ?」「忌憚なく言ってくれ」

665 三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』 :2019/03/04(月) 01:08:37
>>664

「――ありがとうございます」

       ペコリ

「千草も鉄先輩を尊敬しています」

「だから、これからも先輩のことを見習わせていただきます」

連絡先の交換を終えて、スマートフォンをしまいます。
こういう出会いの積み重ねも、『夢』の実現に繋がると思います。
身の回りにある全てを、その一つにしていきたいです。

「えへ……」

「大げさですよ、先輩」

「でも――それを叶えるために、これからも頑張ります」

軽い否定を含んでいましたが、表情は嬉しそうでした。
期待に答えるのも『立派な人』の条件です。
冗談まじりであっても、今から期待されるのは喜ばしいことです。

「今日、一緒に帰ってくれませんか?」

「さっき、先輩も『二人以上で帰った方がいい』と言われていたので」

「これを食べて、残りの議事録を整理してからになりますけど……」

「後は見直しをするだけなので、そんなにかからないと思います」

「……お願いできますか?」

上目遣いで鉄先輩の顔を見つめます。
一緒に帰れたら、その分だけ先輩と長くお話ができます。
少しズルいですが、それがこのお願いの『本当の理由』です。

666 鉄 夕立『シヴァルリー』 :2019/03/04(月) 01:44:37
>>665

「もちろんだ」

三枝さんの言葉に、笑顔で頷く。急いで家に帰る用事があるわけでもない。
もっともあったとしても、彼女の安全の方が優先だ。
もし、万が一。朝陽に続いて、この少女にまでも凶刃が振りかざされてしまったなら。
…そんな想像したくもないような事を防ぐためなら、何でもしよう。

「ゆっくり食べるといい」
「それと、今回の会計はオレに出させてもらっていいかな」
「祝『会計』就任ということで」

恐らく三枝さんは断ろうとするかもしれないが、この点に関しては甘んじて受け取ってもらおう。
自分は年頃の少女への贈り物などには全く疎い。こういった形でしか、祝いを形にできないのだから。

「…本当に、おめでとう」

微笑みながら、小さく、呟く。
自分が守りたいものは、確かにこれなんだという実感がある。
自分には朝陽や三枝さんのような大きな『夢』はないけれど。
そういった話を聞いて、そして努力している彼女たちが、理不尽なものに脅かされないように。
そういったものへと『立ち向かう』。それが自分の『士道』だ。


結局、この日も無事に三枝さんを家へと送り届けて、幸い『通り魔』は現れなかった。
代わりに幾つかの楽しい話をして、満たされた気持ちで己もまた、自宅へと帰った。

667 鳥舟 学文『ヴィルドジャルタ』 :2019/03/07(木) 03:00:05

                 ブロロロ・・・

バスから降りて、大通りを歩く。
アンティーク雑貨を買って、
本屋で欲しい新刊を買って、
ランチを食べて、それから。

(ああ、まいったなあ。やる事がたくさんあって、
 しかもそれが全部楽しい事なんて、たまんないなあ)

特別な日というわけでもないのだが、
浮かれてしまっているのは事実だろう。

そういう気分が、ポケットから落ちた『小銭入れ』に気づかせなかった。

668 高宮『リプレイサブル・パーツ』 :2019/03/07(木) 22:01:05
>>667

(前のミニライブは上手くいったな……)

(でも、ずっとああやって頼るのはな……)

(……今日は成功のお祝いなんだからもっと前を向かないと)

伸びた背筋のまま俯いて歩く女性がいる。
緩く結んだ黒髪。
それと同じように黒いカーディガンはセーラー服のようなシルエットをしていた。

(あ)

俯いているから、見えるものがある。

「落としたよ」

一旦拾わずに声をかける。
昔それで窃盗犯と間違えられたから。

669 鳥舟 学文『ヴィルドジャルタ』 :2019/03/07(木) 23:42:42
>>668

「あっ、え、ああっ小銭入れ!
 いつの間に落としてたのかな、いえ、
 ありがとうございます、助かりました」

           クルッ

「っと」

金色の瞳と、左右で長さを変えた黒髪。
振り向いた女は、そういう姿をしていた。

「すいませんね、ちょっと浮かれてたみたいで」

一瞬高宮の『手』を見たが、
拾った訳ではないと気付いて、
しゃがんで『鳩』柄の小銭入れを拾う。

「気付いてくれて、どうもありがとう。
 ソレがなかったらボク、大変な事になってたよ」

「えーっと。何かお礼とかした方がいいかな。
 あ、新手のナンパじゃあないからね?
 女同士だしさ……そうだ、缶ジュースとか飲む?」

特に他意はなく、自販機を軽く指さす。
口頭のお礼だけでも良かったが、今日はやはり浮かれていた。

670 高宮『リプレイサブル・パーツ』 :2019/03/07(木) 23:52:26
>>669

「別に、そんなつもりで声をかけたんじゃあないから」

目を逸らして言葉を返す。
浮かれた相手に比べて、少し沈んだところがある。

「それに君が自分で財布を拾ったからね」

自分は何もしていないと言外に含ませる。
それが相手に伝わるかはわからないけど。

671 鳥舟 学文『ヴィルドジャルタ』 :2019/03/08(金) 00:01:24
>>670

「そう、そっか、それならいいんだ。
 キミを誤解してしまってたみたいで、
 なんだか申し訳ないけど――」

        ニコ…

小銭入れをおとなしく、ポケットにしまう。
気持ちいつもより深めに入れておいた。

「ま、ありがたいのは事実だからさ。
 ジュースはともかく気持ちは受け取ってね」

笑みを浮かべて、立ち去ろうとして、
また振り返る前に高宮の表情に気づく。

「……深入りはしないけど、
 なんか嫌な事でもあったの?
 ごめんね、こういうの気になる方なんだ」

鬱陶しがられるかもしれないが、
顔のイイ人間が暗い顔をしているのは、
なんだか、もったいないことのような気がするから。

672 高宮『リプレイサブル・パーツ』 :2019/03/08(金) 00:34:20
>>671

「……」

俯き気味に小さくうなづいた。
おずおずと、様子を見るように。

「気持ちくらいなら……荷物にはならないから」

重さの無い気持ちなら自分でも持てる。
そうでないものは気が重くなってしまうから。

「嫌なこと、か……」

(そんなにぼくが嫌なことまみれに見えるのか……? くそう……)

「この顔は生まれつきなんだ……」

「いや、気にかけてもらって申し訳ないね」

「あぁでも悩みといえばあるにはあるけど」

673 鳥舟 学文『ヴィルドジャルタ』 :2019/03/08(金) 00:58:47
>>672

「なら、よかったよ」

       「……?」

頷く高宮に笑みを魅せながら、
内心の憤慨には気付かない。

「ああ、そうだったんだねえ、
 ごめんね、誤解が多くってさ」

「ま、深入りはしないって言ったから」

         スッ

「話し辛い悩みなら聞かないけどさ」

足を一歩引いた。
流石に対話を求められていないと察したし、
地雷原でタップダンスをする気もなかった。

「ボクにあずけて軽くなる荷物なら、
 あずけてみてくれてもかまわないよ」

  「投げつけるのは、やめてほしいけどね」

674 高宮『リプレイサブル・パーツ』 :2019/03/08(金) 01:28:04
>>673

「……今日の楽しみ方がわからないんだ」

そう言った。
高宮は今日の楽しみ方がわからない。

「つい最近いいことがあってね」

「そのお祝いじゃないけど、今日はいい日にしようと思ったんだけど」

どう一日を楽しめばいいのかわからない。

「君は今日何をしてたのかな。言いたくないのなら、いいんだけど」

「その様子だと多分、楽しい一日を謳歌してたんじゃないかな」

675 鳥舟 学文『ヴィルドジャルタ』 :2019/03/08(金) 02:14:00
>>674

「楽しみ方、楽しみ方かあ。ボクは方法は考えたことないけど」

「今日は雑貨を買ったり本を買ったり、
 ランチでサラダバーを食べたりしたねえ」

       「でも」

「ボクは今からまだまだ謳歌するところなんだ。
 わざわざバスで着たのにお昼過ぎじゃ終われない。
 もっと、やりたい放題してから帰りたいんだよ」

視線の先は、東の方角。
ここから東に行けば――――川に突き当たる。

それから、視線は高宮をいったん経由して、
この町で一番高い、ここからでも見える塔へ。

「だから今から、スカイモールの劇場に劇を見に行くんだ」

「一緒にどうだい? 楽しみ方が分からないならボクに預けてみなよ。
 予約チケットは一枚しかないけどさ、どうせガラガラだから、
 さすがに、お代までは出してあげられはしないけどさあ」

          クルッ

     「楽しくなくってもボクのせいに出来るし、
      それに、ボクはいつも一人で見るんだけどねえ、
      たまには他人と感想を言い合ったりしたいんだよね」

676 高宮『リプレイサブル・パーツ』 :2019/03/08(金) 22:30:00
>>675

「さ、サラダバー……?」

(健康志向なのかな……いや、まぁ、最近野菜高いしな……)

少しだけ予想外の答えだった。
寿司や酒を嗜むのとは少し趣が違う。

「劇か」

あまり悩まなかった。
その先のことは。

「行こう」

「こう見えても無駄なものを集めるのが得意でね」

「財布の中はそういうので詰まってるんだ」

少し厚い長財布が上着のポケットからのぞいていた。

「一緒に楽しませてもらおうかな」

677 鳥舟 学文『ヴィルドジャルタ』 :2019/03/08(金) 22:42:57
>>676

「野菜をね、たくさん食べるとさあ。
 いい気分になるんだ。
 ボクは肉とか魚も全然食べるし、
 今日がそう言う気分なだけなんだけど」

「たまにない? 野菜を食べたい日」

この店なんだけどね、と、
スマホの画面を見せる。
自然派レストランとのことだった。結構高い。

         ニコ

「よし、決まりだ。
 きみ、車で来てるなら載せてってくれない?
 歩きで来たなら、バスの時間は15分後だね」

「どっちにしても……今日は、想像以上に楽しくなりそうだ!」

笑みを浮かべたまま、いずれにせよ、歩きはじめるのだった。

なお、劇は鳥舟がファンをしている男優が出るらしく、その事をしきりに語られた。

678 鉄 夕立『シヴァルリー』 :2019/03/26(火) 22:49:20
人通りの多い交差点。そこの近くにある、待ち合わせによく使われるスポット。
その壁によりかかりながら、鋭い目線で行き交う人々を眺めている青年がいた。
白のインナーに黒いライダース、デニムという格好で、腰には小さめのポーチを付けている。

「・・・・・・・・・・」

近くにベンチが空いているが、そこに座るつもりはないようだ。
何かを、あるいは誰かを探すように、切れ長の瞳を動かしている。

679 音無ピエール『ジュリエット・アンド・ザ・リックス』 :2019/03/26(火) 23:50:31
>>678

     カツカツカツカツ・・・

気取ったスーツを着た『ケツアゴ』の男が、
『鉄』の眼前を通り過ぎ、『ベンチ』へ腰掛けようとする。


       スゥゥ...

                     スクッ


   「――――ああ、ひょっとしたら、
    この『ベンチ』で待ち合わせてるのかね?」

半ば中腰の姿勢にまで至ったところで、
『鉄』が視線を巡らせているのに気が付き、腰を上げる。

   「別に、この『ベンチ』は座ってしまって、構わんのだろう?
    私もちょうど、ここで待ち合わせをしていてね。

    少々長くなりそうなんだ。――――いいだろうか?」

『待ち人』を探す『鉄』の視線を遮らぬよう、
彼の脇に立ったまま、話しかける。

680 鉄 夕立『シヴァルリー』 :2019/03/26(火) 23:59:30
>>679

「ああ、いえ。お気になさらず」

声をかけられ、青年は男性の方を見て首を振った。
幾分か、その鋭い視線が和らいだ様に見える。

「オレはあなたと違って、特定の人を待っているわけではないんです」
「ですので、そのベンチは『待ち人』を待つあなたのような方が使うべきだと思います」
「どうぞ」

許可を求めるピエールの言葉に頷き、ベンチへ座ってもらうように手で示す。

681 音無ピエール『ジュリエット・アンド・ザ・リックス』 :2019/03/27(水) 00:10:20
>>680

   「どれ、それじゃあ遠慮なく」

座面に付いたゴミや埃を、パッパと手で払ってから、
その頑強な肉体を折り畳むように、ベンチへと腰掛ける。

   「ところで、『特定』の人を待ってないとは、
    随分と妙な話に聴こえるな。

    見たところ、まだ若そうだから、
    『交通量』の調査ってわけでもあるまい」

訝しむように問い詰める声色でもなく、
唯々、不思議そうに問い掛ける。

   「ちょうどここに、空いてる目玉が『2つ』あるのだが、
    ここは一つ、君の『待ち人』を一緒に探してみようじゃあないか」

暇に空いてか、要らぬおせっかいを焼き始める。

682 鉄 夕立『シヴァルリー』 :2019/03/27(水) 00:20:17
>>681

「ああ、いえ…」

自分で口にして思う。特定の誰かを待っているわけではないとは、妙な話だ。
例えばナンパです、なんてうまく嘘でもつければよかったのだが。
自分はそういうのは得意ではない。だが、かといってこの人の善意を無下にするのも心苦しい。

「・・・・・・・・・・」

10秒にも満たぬ沈黙を間に置いて、結局口を開く。

「怪しい人間を探している、なんて言ったら」
「いや、そんな事を言い出す人間が一番怪しいだろ、と思われるかもしれませんが」

683 音無ピエール『ジュリエット・アンド・ザ・リックス』 :2019/03/27(水) 00:29:48
>>682
「そうだな。……君が一番怪しいぞ」

重たげな沈黙に応えるかのように、
真面目くさった語調で言葉を返し、


     フフッ

          「フフッ、クッ、」

          「ああ、いや、冗談だよ。失敬、失敬」

含み笑いを浮かべては、傍に立つ少年を見上げた。

「疚しいことを隠せるような人間なら、
 もっと平然として、常人の振りが出来るさ」

「まあ、怪しい人間を探してることと、
 君がそんなに、悪そうに見えないのは解ったよ。

 ――――で、怪しい人間ってのは、どんなのだい?
 ほっかむり被って、唐草模様の風呂敷包みでも担いでいれば、
 私も出ることに出て突き出せるような人間だと解るのだがねェ……」

そう、簡単なものではないだろう、と前置きを入れて、問い掛ける。

684 鉄 夕立『シヴァルリー』 :2019/03/27(水) 00:43:13
>>683

>「そうだな。……君が一番怪しいぞ」

「・・・道理です」

いきなりこんな事を言い出すなど、何を企んでいるのか分かったものではないだろう。
だからそう言われても仕方ない。目を瞑り、自省する。
今日は諦めて、帰るべきかと考えたところで。

>          「フフッ、クッ、」

>          「ああ、いや、冗談だよ。失敬、失敬」

>「疚しいことを隠せるような人間なら、
> もっと平然として、常人の振りが出来るさ」

>「まあ、怪しい人間を探してることと、
> 君がそんなに、悪そうに見えないのは解ったよ。

「・・・・・」「ありがとう、ございます」

彼の言葉に、微笑みながら深く頭を下げる。
この男性が自分のことを悪い人間だと思わなかったように、自分もまた、彼が良い人間であるように思えた。
しかしその次の問いを訊ねられては、表情を曇らせてしまう。

「…いえ、容姿に関しては何も分かっていません」「男性が女性か、若者か老人か、日本人かそうでないのかさえ」
「ただ、恐らく何らかの『凶器』…それも『刃物』を扱っている可能性はあります」

「…それだけです。現れない可能性の方が、かなり多いと思います」

それでも、自分は人の流れを見続ける。可能性は低いが、ゼロではないのだから。

685 音無ピエール『ジュリエット・アンド・ザ・リックス』 :2019/03/27(水) 01:04:22
>>684
「刃物、か。

 少なくとも、『持ち歩く』にしても、
 目立つような装いにはしないだろうな……」

『凶器』、とは人を傷つける『道具』に用いる言葉だ。
増してや『刃物』、神妙な面持ちになって、『鉄』の言葉を聞く。

「まるで、……そうだな。

 『邪推』をするようだが、
 君は『待ち人』が来ると思っているのかね」

                   ラウンド・アバウト
老若男女、さまざまな人種が 『 交 差 点 』 を過ぎ去っていく。
目の前を横切っては、背後へと抜け、何百人もの人影が現れては消える。

その光景を目の当たりにしながら、『ピエール』はすっと立ち上がった。

    「『待ち人』が来ないという『結果』を得て、
     
              安心するために見張ってはないか?」


       ズ ア ッ!


『鉄』に近づき、肩を叩く。
その刹那、両刃剣の『ジュリエット』を発現し、
分厚い『刀身』を、少年の肩口にそっと押し当てる。

686 鉄 夕立『シヴァルリー』 :2019/03/27(水) 01:16:12
>>685

>    「『待ち人』が来ないという『結果』を得て、
>     
>              安心するために見張ってはないか?」

「…『通り魔』などいないのであれば、それに越したことは───」

ないだろうが、事実として傷付けられた人間がいる以上、そうでない可能性は限りなく低いだろう。
それはここで『通り魔』が見つかる可能性より、もっと有り得ないものだ。
そう説明しようとした言葉が、全て頭の中から消え去った。
肩口へと押し当てられた、『スタンド』の刃によって。

「『シヴァルリー』ッ!!」

名を叫びながら、己のスタンドを彼が剣を持つ側の方に発現する。
同時に可能であれば、その『切れ味』を奪い取り吸収する。
とっさに剣を持つ側の手に発現したのは、吸収する際の軌道で彼を傷付けないためだ。…今のところは。

「『刃物』を持った…『スタンド使い』ッ!」

687 音無ピエール『ジュリエット・アンド・ザ・リックス』 :2019/03/27(水) 01:33:25
>>686

>「…『通り魔』などいないのであれば、それに越したことは───」

      . .
     「いる……」

     「朗らかに話しかけ、あたかも常人のように振る舞い、
                                   . .
      ――――平然と『力』を振るう人間は、この世にいる」


憮然として、しかし真剣味を帯びた眼差しで、『鉄』に告げる。

それは、決して『普遍的』な事実としてではなく。
明確に『存在』すると知っているからこそ、
それと比較した『鉄』を『善人』と評した。

         ビュワッ!

『シヴァルリー』の視認によって、瞬く間に『ジュリエット』は鈍磨する。
己のスタンドであっても、その効果は認識できない。

     「私は、君の言う『待ち人』ではないが、

      ……とまぁ、スタンドを出した以上、
      そう言っても『信用』ならない、かも知れないが、ね」

穏やかに、押し殺すような低い声で、
念を押すように話しながら、『ジュリエット』を解除する。

     「いないのに、越したことはない。同感だ。

      ――――だが、そーいう『人種』がいるかどうかなら、
      間違いなく存在し、振るう刃に『前触れ』はない―――」

     「今の『一刀』は、そうした『警告』のためだ。
      ……正直言って、街中でじっと見てるだけでは、
      努力が実を結ぶ可能性は、低いと見えるがねェ……」

688 鉄 夕立『シヴァルリー』 :2019/03/27(水) 01:42:56
>>687

>     「いる……」

>     「朗らかに話しかけ、あたかも常人のように振る舞い、
>                                   . .
>      ――――平然と『力』を振るう人間は、この世にいる」

「・・・・・ッ!」

息を飲む。そして理解する。
この人は、そういう人間を知っている人だと。実際に目で見て、会ったからこそ、言葉の重みが違う。
そしてここからは想像でしかないが。この人は、そういった人間と、刃を交えた言葉もあるのではないか?

逞しい青年が『スタンド』を解除したことにより、『切れ味』も戻る。
その行動を警戒しつつも、数秒の逡巡の後に、自分も『シヴァルリー』を解除した。

「いいえ、信じますよ」
「以前にも、『スタンド使い』はそういうことができる人間だと教えてくれた人がいましたから」

それに、もし『通り魔』なら絶好の間合いでスタンドを解除する理由がない。
自分が警戒して『シヴァルリー』を出すより早く、斬ることも可能だったかもしれない。

>      ……正直言って、街中でじっと見てるだけでは、
>      努力が実を結ぶ可能性は、低いと見えるがねェ……」

「・・・・・」「何か、手段をご存知なのですか?」

訊ねる。蛇の道は蛇、とは少し違うが。
彼なら、あるいは荒事に関する知識が、あるいはその心当たりがあるのだろうか?

689 音無ピエール『ジュリエット・アンド・ザ・リックス』 :2019/03/27(水) 01:58:53
>>688
>「・・・・・」「何か、手段をご存知なのですか?」

  「私も、望んでそういう『人種』に会ったわけじゃあない。

   ――――だが、もしもそうした『人探し』をするのであれば、 
   『仲介人』を名乗る男に、『名刺』を貰ったことはあるぞ」


     スゥ...

                                         バ
『ピエール』は尻ポケットから、二つ折りの『財布』を取り出し、    サ
それをペラペラと捲り、もう一回ポケットにしまってから、                ガサ
胸ポケットから『カードケース』を取り出し、それを数度捲り、                   ゴソ
ポロッと落としたクリーニング屋のポイントカードを拾い上げ、    ペ
カードケースに仕舞い込むと上着のポケットを数度叩き、       ラ     ポロッ    
もう一度財布を取り出しては紙幣入れに指を入れてから、      ラ
ふと思い出したかのように上着のチーフポケットに手を入れ、              パ
一枚の『名刺』を取り出すと、それを『鉄』へと差し出した。                 サ

   「『曳舟』という男は、『需要』と『供給』を操るとか、
    ……少なくとも、そのスタンド能力を利用して、
   スタンド使いの斡旋や、仕事の紹介をしているぞ」

『曳舟利和』。
その名前を確かに見せると、その名刺をカードケースにしまう。

   「――――まぁ、私も正直に言うと、『信用』しているわけじゃあない。
    ちょっと、まぁ、『胡散臭い』ところもあるからな……。

    これをどーするかは、君次第、になるわけだ」

   「おっと、人の名前を出しておいて、
    私の名乗りもないとは、無礼もいいところだったな」

スッと視線を彼方に向けてから、少年へと向き直る。

   「『音無ピエール』だ。
    この町で『柔道整復師』をやっている」

690 鉄 夕立『シヴァルリー』 :2019/03/27(水) 02:13:52
>>689

「・・・」

「・・・・・」

「・・・・・・・・・・」

青年の動きを待っている間、やはりこの人は『通り魔』ではないんだろうな、と確信を抱きつつ。
家に帰ったら財布の中や、部屋の掃除もまたしておくか、などと思っていた。
そして差し出された名刺。しっかりと、その名前を記憶する。
正直スマホで写真を撮っておくべきかと思ったが、流石にそれは無礼だろう。

「『曳舟』さん、ですか」

代わりにその名前をしっかりと覚えておく。
しかし、思ったよりも『スタンド使い』というのは体系化されているようだ。
『スタンド』に目覚めさせる人間の存在は知っていたが、ひょっとしてスタンド使いの『組織』などもあるのだろうか?
そしてその『曳舟』さんとやらと関わり合うことで、『通り魔』の情報や
それを知ることができる『スタンド使い』と出会うことができるのだろうか?

「『柔道整復師』の方でしたか。もし骨折などしまきたら、お世話になろうと思います、音無さん」
「オレは鉄 夕立(くろがね ゆうだち)。『清月学園高等部二年生』、『剣道部』です」

こちらも同じく名乗り返し、一礼をする。

691 音無ピエール『ジュリエット・アンド・ザ・リックス』 :2019/03/27(水) 02:25:48
>>690
「よろしく。

 ――――見つかるといいな」

『ピエール』はそう言い終えると、立ち上がる。
視界の端からゆっくりと歩いてくる『老婆』に、
軽く片手を上げて、自らの存在をアピールする。

   「私の『待ち人』は、やっと現れたよ。

    ……では、『夕立』。
    機会があれば、また会おう」

そう言って、老婆を出迎えるように歩み寄れば、
二言、三言話した後、ゆっくりと人混みに紛れていった。

692 鉄 夕立『シヴァルリー』 :2019/03/27(水) 02:36:59
>>691

現れた老婆を出迎えた音無さん、恐らくお客様だろうか。
彼には待ち人が現れたが、自分には現れなかったようだ。もう既に一時間が経過している。流石に潮時か。

「…ありがとうございました。またお会いしましょう、音無さん」

去り行く彼に対して、再度頭を下げる。
手荒い行動ではあったが、彼は自分に対して道を示してくれた。
『スタンド使い』の危険性を教えてくれた平石さんに、『悪意』を持つ人間は必ずいると警告してくれた音無さん。
大人の方からは、学ぶべきことは多い。

「あとは、進むべきか否か、か…」

帰途へと着きながら考える。そもそも、考えたところで詮無きことではあるのだが。
仮に進むことを選んだとして、こちらから『曳舟』さんとやらに接触できるのか?
電話番号でもあれば、話は違うのだろうが。
だが、どちらにせよ覚悟は決めておくべきだろう。もし進むことを選ぶのであれば。
『試合』とは違う、命懸けの争いになる覚悟を。

693 サリヱ『ミー・アンド・マイ・シャドウ』 :2019/05/10(金) 23:30:15

オープンカフェの一人席に座り、何もない時間をつぶしていた。
布のマスクで隠れた口元も、長いまつ毛の猫のような目も、風景に溶けていた。

     カチッ カチッ カチッ カチッ

人生は『いつかその時』が来るまで、全部暇つぶしだと思うわけで。
暇つぶしなら無難に、サリヱ一人で完結するものを選んできたわけで。
暇つぶしのための暇つぶしのための暇つぶしをする気はしなかったわけで。
そんな風に考えてきたサリヱの人生に『本物』なんてのは何もないわけで。

         カチッ カチッ カチッ カチッ

だけど掌で転がす『フィジェットキューブ』の響きは、今日は意味がある気がした。

「…………」
  
    ミー・アンド・マイ・シャドウ
(『サリヱとサリヱの影法師』だなんて……他人から貰ったものにも、自分しかない)

           『チカッ』

見つめた影は消えて、向かいのビルの壁面に『影法師』が生まれていた。

「ひええ、なんだこりゃほんと……」

そういうありえない光景に思わず声が漏れるのは、暇つぶしの人生としては有意義な気がするからだ。

694 彩木ミサオ『レインボウ』 :2019/05/12(日) 00:12:35

          『シュワォウ』
                    『シュワオォウ』

サリヱの視界右端から『色彩』が割り込んできた。
道路向かいの灰色のビル壁に、ビビッドカラーのラインが、長く、長く、引かれる。

額にゴーグルを引っかけたパンクなファッションの少女が、手にしたスプレーを巧みに操り、
ビル壁の端っこからストリートアートを仕上げている所らしい。
……絵のモチーフは、騙し絵の巨匠・エッシャーの「メタモルフォーゼ」を意識したようなデザイン。
人間のシルエットが変化していく過程を、目の覚めるような鮮やかな色遣いで仕上げてゆく。

「こいつが思いっきりの一筆(ストローク)だ」

ガンマンが二丁拳銃を持ち替えるように、スプレー缶を手の中でクルクルと弄ぶ。
腰のホルスターから「クロムイエロー」を引き抜くと、スプレーを噴出しながら、
ビルの左端を目指して、ラインを伸ばして――――

「――――っととと。先客か!?」

ビル壁に刻まれた『影法師』に気づき、慌ててブレーキをかけた。

「さっき下見した時はなかったのに、いつの間に描いたんだ?コレェ」

695 サリヱ『ミー・アンド・マイ・シャドウ』 :2019/05/12(日) 22:04:45
>>694

「ひえ…………!」

視界に入ってきた『目立つやつ』に思わず声が出た。

(絶対やばいやつじゃん……皆見てるんだぞ……)
(……と、とりあえず、知らん顔しておくけどな)
(目立つのに巻き込まれたくないし)

       ポチポチポチポチ

(あと知らん影もしておく……)

手の中の『ボタン』を連打して気を取り直す。

影法師は・・・そのままにしておく。
『座っている人間の影』・・・『形』はない。影だけ。

回収したら秒でバレる。

        ・・・

             ・・・

                  ・・・

今日はいい天気だ。
オープンテラス席は道路に影を描き出す。

確かにそこに座っているが、『影がない人間』は・・・知らん顔でコーヒーを一口飲む。

696 彩木ミサオ『レインボウ』 :2019/05/12(日) 22:25:30
>>695
そんなサリヱの気も知らず、彩木ミサオは『影法師』を眺めながら首をひねっている。

「しまったな……迷惑はかけないと約束したばかりなのに、
 さっそく他人のキャンパスに踏み込んでしまったぞ……?
 あまりに目立たなかったから、ギリギリまで気が付かなかったけど」

……もし、『コレ』のアーティストが「灰色のビルという背景に溶け込むように」という、
コンセプトで描き残していったのなら、誰かの作品に勝手に筆を足してしまったことになる。
これはいけない!

(★ 「そもビル壁にアートを描く時点で領域侵害ではないのか?」という意見もあるだろうが、
ミサオにとってこの飾り気のないビル壁は「白紙である」と判断されたので、問題はなかった)

「塗料っぽい匂いは全然しない……墨?灰?チョーク?(クンクン)
……そうだ!描かれたばかりなら、近くに作者がいるかもしれない」キョロキョロ

あたりを見回していると、この『影法師』のシルエットとそっくりな子を向かいのカフェに見つけた。
なるほど、アレがきっとこの絵のモデルに違いない――――まさしく影写し!

「おーい、そこのマスクのカノジョ!ココに絵を描いていった人をさァ〜」

道路を渡ってサリヱの方にまっすぐやってくる。

697 サリヱ『ミー・アンド・マイ・シャドウ』 :2019/05/12(日) 23:34:54
>>696

(あいつ何言ってんだ……? 『影』を『絵』と勘違いしてんの?)

芸術家のことはよくわからない。
何を考えているのか……どういう哲学があるのか。
わかるのは、明らかに自分と違う価値観ってことだけだ。

(……マスク?)

「ひえ……」

(や、やばい……こっちに来る……)
(『描いたヤツ』だって思われたんだ……やばい……)

(なんとか目立たないように……やり過ごさなくっちゃあ)

「なっなんだよぅ……絵なんか『描いてない』っての……」

             チラッチラッ

『影法師』を横目に見つつ、誤魔化しに走るサリヱ。

               カチャカチャ

「か、壁のシミじゃないのか?」
「あるだろ……ほらぁ、『ホラー番組』とかでさ……!」
「そういうのじゃないのぉ〜〜〜っ……」

「私はずっとここ座ってたからな、そんな絵なんて知らないよ……ほんとだよ」

698 彩木ミサオ『レインボウ』 :2019/05/12(日) 23:57:35

「キミをモデルに描いてたヤツがいたんじゃないかなって。
 違う?ホント?あそこの壁の絵とそっくりだと思うけどなァ」

                    チラリ

「そうかァ?」

サリヱに何か妙な違和感を覚えつつも、その正体が『影』だというところまでは気づいていない。

「ホラーなシミ!なるほど、ここは大通りだからな。 ・ ・ ・ ・
 車も多いし、夜にバイクを飛ばす奴もいる………そういうこともあるカモ」
「(店員を呼んで)すいません、お水もらえます?あとカプチーノを1つ」

サリヱのテーブルの空いてる席に腰掛けた。

「それだったらそれで困ったな。
 こんなカフェの近くに、なんて縁起が悪い……でも死んだ人間が描いたカタチならそれも『作品』だ。
 先人が思いを残していったのなら『敬意』を払わなきゃいけない。悩むぜ」

「美術館だって365日同じ作品を展示し続けている訳じゃあないだろう?
 季節・時代によって展示品を変えてゆく必要がある。
 上から塗りつぶしたものかな?いっそ避けるカタチで同居する構図という手もあるけど」

すごく……しゃべる!

699 彩木ミサオ『レインボウ』 :2019/05/12(日) 23:59:37
>>697 また安価忘れちゃってた、ごめんネ

700 サリヱ『ミー・アンド・マイ・シャドウ』 :2019/05/13(月) 00:48:04
>>698

「ひええ、モデルとか……そんな目立つことしないっての」
「こういうシルエットのやつ、他にもいるってぇ絶対ぃ……」

(ウッ、こいつ今足元見なかったか……!)(実はバレてる?)
(っていつの間に座ってんだ! なんだこいつヤバ〜〜〜……)

          カチカチカチカチ

思わずフィジェットキューブのスイッチ面を連打する。
この距離の詰め方……いや詰めているのとも違う気がする。
独特の距離感、芸術家タイプを感じる……苦手なタイプだ。

「か、勝手に描いてるだけなら勝手に塗り潰しちゃっていいだろぉ……」
「いや、描いてるとは限らないけど」「シミを推すけど……」
「ともかく勝手にそうなってるだけだろぉ……?」
「ビルの持ち主が描いたなら別だけどさ……」

『所有権』があるからだ。
『所有権』――――『持ち主』には、権利がある。
持ち物を好きにする権利……あらゆる意味でそれがある。

(なんか話題変えないとこいつのペースに飲み込まれる……)

「あ、そう、カプチーノ頼んだよな」
「ここカプチーノに絵描いてくれるけど」
「あんまり難しいの注文したらすごい雑に出てくるぞぉ……」

「……」

(あっやばい……また『絵』の話にしてしまった…………!)

701 彩木ミサオ『レインボウ』 :2019/05/13(月) 01:26:22

「そうだな。ストリートアートは自分の家の塀に描くんでもなければ、
 少なからず誰かのキャンパスにはみ出してしまう行為だ。
 しかし、市役所や所有者に問い合わせて『描いていいですか?』でOKとは、なかなかいかない」

「ただボクが描かなかったからビルの壁は白紙(ブランク)のままだろう?
 こんな人目につく大通りに面していながら、只の灰色なんて逆に失礼とも思うけど……」
「周囲との調和、アートが受け入れられる場か……場所と空気は選んでるつもりだけど……」

サリヱの指摘に思うところがあるのか、少し静かになったが――――


「ラテアート!向こうの『絵』を気にしてたからお任せで適当に頼んでしまったな。
 『ハーツ』と『リーフ』の簡単なアレンジならボクも描けるよ。
 色々な絵の画材を試していたとき、パンケーキアートとかその手のものにも挑戦してみたね」
「なくなることを前提とした、コーヒー一杯を飲み終わる間までのアート。
 一筆分の失敗で脆くも崩れてしまう繊細な芸術!刹那的だ!
 得るものは多かったよ――(店員が運んできたカプチーノの絵柄を見て)――『ネコちゃん』だ。そう見える」

カプチーノを一口すする。

「うん、ストリートアートも“ソレでいい”と思うな。今のところは。 
 この大通りを通った人の記憶の端に残って、描いて数日後には市の清掃が消してしまう。
 掃除する人には手間だろうけど、この『殺風景なビル壁やシミ?をどうにかしよう』と考えるきっかけにはなるかも。
 偉そうに語ったけど、絵柄のテーマをあーだこーだいうほどのこだわりは実はまだないんだ!」



「で、やっぱりキミが作者なんだろ。アレ」

702 彩木ミサオ『レインボウ』 :2019/05/13(月) 01:36:58
>>700
「いや、恥じらう気持ちはわかるさ。公の場に絵を晒すのは勇気がいる。
 作者であることを隠して、クリーンな反応を見たかったとかかな。
 かの有名なストリートアーティストの某も、描いたあと近くでこっそり反応を見るのはやってると思う」

「ふぅ、一方的に語ってしまったな!普段同好の士がいない絵描きはこれだからいけない。
 さぁキミの順番だ。その思いのたけををブチまけてくれ!
 あの地味で目立たなく周囲に溶け込み見向きもされないような影の作品の意図をぜひ聞きたい!野暮かもしれないが素直な感想だ!」

703 サリヱ『ミー・アンド・マイ・シャドウ』 :2019/05/13(月) 02:09:31
>>702

「『影』だ。『影』に『意図』はない。『消えるまであるだけ』」

と、口が動いていた。

>>701

「…………」
「あ、いや」

それから、反論とか否定とかの言葉が頭をよぎった。
もう遅い気がした。

「ち、違うんだよお……じ、事故っていうかさあ……」

    アセッ

「認めるよ、無関係ってわけじゃないんだけど」
「でも違くてぇ〜ッ」「別に発表したかったわけじゃなくって」
「そういう目立つの嫌だしぃ……ただ、『試した』だけで」

             キョロッ
                  キョロッ

「そういう『芸術論』みたいなの、ないし……」

消えた影を一瞥して、それから影法師を見た。

「ちょ……ちょっと一服」

        ゴッゴッ

「私もカプチーノにしとけばよかった……」
「あとそれ私には『ネズミ』に見えた」

コーヒーを飲む。一口では足りない。
覗き込んだカプチーノの人為的な『模様』に、何を占うわけでもない。

「それで、だからそんな、芸術とかアートとかじゃないんだよぉ……ほんと偶然」
「テーマとかも、ないし」「『影』なのはそうだけど……作品とかそういうのじゃないんだよ」

「それこそ、その、『巡り合わせ』っていうかぁ……『あるからそこにある』だけ……みたいな」

704 彩木ミサオ『レインボウ』 :2019/05/13(月) 22:02:27
>>703
「…………?」

一寸遅れてビル壁の方を振り向く。
ミサオのアートの色彩にかき消されそうに薄い『影』だが、
呼びかけてくるような存在感を一瞬感じてしまったのだ。


「手癖とか、偶然で付けちゃった模様?」

「なるほど……本当に『意図』はナシ。
 ボクは第一印象であのシルエットが『キミ』そっくりなように受け取った。
 偏見と前提知識次第……受け手は、見たいように見るってことか……」

                ウン  ウン

「あそこの描きかけアートも同じだね。
 新鮮さを覚える人もいれば、古典の安っぽいパロディと受け取る人もいる。
 突き詰めれば、キミの『影』やラテアートのネコちゃんと同じ――――」

       コトバ          カタロ
「どれだけ『色』を尽くして饒舌に描こうとも、真の共感とは幻想のようなもの。
 アーティストは有名・無名・どのジャンルでも本質的に孤独な存在ってワケだ!」

「なら、みんな好きなように描けばいい!『ただ試した』で『あるからそこにある』
 結構なことじゃあないか……それで1%でも波長の合う、
 『巡り合わせ』があれば儲けものだ!(ズズーッ)――うん、カプチーノで正解」

「泡はちょっと足りなかったけど」

                      ブジューッ

手品のように右手に『ホイップクリームのスプレー缶』を出現させると、
泡を吸いきったカプチーノの上にクリームを足した。即席ウィンナーコーヒーだ。

「キミも足すかい?『同じ味』は『共感』だ」

705 サリヱ『ミー・アンド・マイ・シャドウ』 :2019/05/13(月) 22:58:11
>>204

「手癖というか影癖というか……」
「とにかくそう、ほんとに意図はないからな」
「『攻撃』とかじゃあない」
「受け取り方までは……私が決める事じゃないが」

「『意味がないなら、自分で意味を考えれば良い』」
「『他人の中にこそ意味が生まれる』」
「……嫌いじゃない考え方だ。芸術的に前向きで」

意図はない、意味もない。
そこから勝手にプラスを読み取られるのは、嫌ではない。
他人の感じた中こそ『意味』が生まれる、というのは。

「ヒェッ……今それどこから出したぁ!?」

         カチャッカチャッ

「アーティストか手品師かどっちかにしろよぉ……」
「濃すぎるぅっ」「私がかえって目立つぅ……!」

などと考えていたら突然現れたスプレー缶に目を見開く。

「あっ……いや……まあ」
「なんとなく、分かるけど………………」「うん」

が、すぐにその正体には思い至る。
・・・突然現れた『影』が彼女を呼んだのだから。

「説明すると変に目立ちそうだし……」「嫌だし……」
「食べるには得体知れなすぎるし……悪いけど遠慮しとく」

ただ、タネがなんとなく察せてもいきなり出たものをいきなり食う勇気はなかった。

「…………その『道具』、好きなだけ出せるのか?」
「良いなぁ……」「食費がほとんど浮きそうだ…………」

「あ、いや、探るわけじゃないぞ……答えなくてもいいからな」

706 彩木ミサオ『レインボウ』 :2019/05/13(月) 23:24:53
>>705
「いらない?ならいいか」

「受け手の気持ちを考えつつ、自分のエゴも押しつつ……。
 今はただ広いキャンパスに描いてるだけで楽しいから、細かいことは気にしないけど!」

ガンマンが拳銃でやるように、スプレー缶を手の上でクルクル弄ぶ。

「最近、“聴かせてもらって”自覚した才能だよ」

チラリと『影法師』の方に目をやり、次にサリヱに視線を移す。
明言はしないが察している態度。

「色々挑戦した中で自分の手に一番なじむ筆さ。
 七色(レインボウ)の絵筆――――『どんな色でも持ってくることができる』」
「多すぎも少なすぎもない、一度に『七色分』まで置いておくことにしている」

ホイップクリームのスプレーが手の影に隠れた次の瞬間、アロマオイルのスプレーに代わっている。

「製品のロットナンバーとかまでちゃんと書いてある本物……生産元の会社が迷惑してなきゃいいけど」

「『影(アレ)』と同じで何となく偶然でできちゃうモノらしいね」
「キミのも、試しててそんなカンジしない?」

707 サリヱ『ミー・アンド・マイ・シャドウ』 :2019/05/13(月) 23:52:57
>>706

「あっ、いや、お前個人が嫌とかじゃなくてだな」
「まだ『こういうの』を信じ切れてないだけだ」
「私は細かいこと気にする方だからぁ……一応言っとく」

        コロッ

テーブルの上にキューブを置いて、コーヒーを取る。

「……"聴かせて"?」「"描いて"じゃないのか?」
「いや……詮索はしないが……」
「気にはなるが……」

「…………『ソレ』と『アレ』はだいぶ違うがな」
「説明はしない……のはさっきも言ったけど」
「たしかに『理屈』とかそういうのじゃない」

影法師は今も、壁の側を歩く人々の会話を聴いている。
あるいは、そのアクセサリーの真珠の数を数えている。

「なんとなく、出来る」「なぜか『知ってる』」
「……手と足のほかにもう一つ増えた感覚で」

        ズズ…

「…………与えられた物だけど、『自分』なのは間違いない」

それが違和感なく『伝わってくる』。
歩き方を今更説明出来ないように、直感的な認識として。

「お前のも自分……」「……え、『ロットナンバー』!?」
「ヒェッ、それどっかの倉庫から飛んで来たりしてんじゃないのかぁ……!?」

「怖ぁ〜っ……まあ、そういうのとは違うって"聴かされて"? るんだろうがな……」

708 彩木ミサオ『レインボウ』 :2019/05/14(火) 00:16:43
>>707
「そうだね。鳥やヘビに『手足があるってどんな感じ?』と聞かれても説明には困る。
 最初から体の一部としてあったみたいに、見えるし動かせる……そういうモノ」

あの『影』もミサオのレインボウと同じく、遠くまで見えてるし動かせるモノなのだろう。

「……でも、『スプレー』は違うなぁ。考えて創ってるわけじゃない。
 このメーカーの製品使ったことないし、売り場で見かけても成分表までは気にしてないよ。
 とにかく、想像の及ぶ範囲で『一番ちょうどいい色』を手にする」

「数量限定の貴重品とか出しまくったら、真相がわかるかも(やんないけど)」

                  ズ ズ…
                               カチャ

少し納得いった表情で頷きながら、一息にコーヒーを飲み終えた。

「この感覚の話は、さっきも言った『貴重な共感』だったね。
 いい『巡り逢い』だったよ――――それじゃあ残りを仕上げようかな。ごちそう様」

そう言って支払いを済ませると、ミサオは再び道路向かいに戻ってゆく。
描きかけのアートの仕上げ作業に移るのだ。

709 サリヱ『ミー・アンド・マイ・シャドウ』 :2019/05/14(火) 00:39:49
>>708

「私のソレは『自分』でしかないからな……」
「既製品」「……にそっくりなもの? 実物?」
「とにかく既製品っぽいのを出せるのは怖い……」

悪用とかそういう話ではない。……少しはあるが。
この奇妙な力は『自己完結』するだけの力ではない。
無限の可能性があるということ……無限の危険性もだ。

(……私のが目立たない部類だと分かったのは良いがな)
(…………こいつのが派手なだけかもしれないが)

「私にも……悪い話じゃなかった。『価値』はあった」
「……って、あ、あれ続き描くのかぁ……!?」
「警察とか呼ばれるんじゃ……いや」

        キョロキョロ

「……誰もそんな事してなさそうか」

「まあ、私は止めないし……」「勧めもしないが……」
「好きに描けばいいさ。言われなくても描くだろうが」

去る姿を目で追っていたが、周囲の視線に気付いた。
あのアーティストの関係者だと思われるのは、まずい。

・・・それは、目立つからだ。

「………………………………………ちょっと目立ち過ぎた」

        『パン』

(場所を変えよう…………暇つぶしの場所を…………)

絵に集中し始めたのを見計らい、影を拾って店を出る。

710 彩木ミサオ『レインボウ』 :2019/05/14(火) 01:05:24
>>709
「『価値』のある体験、そう思ってもらえるならよかった!」
「モチロン描くよ。このまま尻切れトンボにはしておけないし」

          『 シュワォウ 』
                          『 シュワァォウ 』

そうして、サリヱの視界の端へとフェードアウトしビル壁の左端の方から、
人間が鳥へと変身(メタモルフォーゼ)してゆく図を完成させてゆく。
しばらく後、カフェ向かいのところまで描き進めたところで『影』がいなくなっているのに気づく。

「…………フム」
                 シュワォ      シュワォ

「よし!」

サリヱが去った後のカフェテラスと交互に見比べ、満足そうに頷くとその場を立ち去る。
空白だったビル壁には、クロムブラックの塗料で先ほどの『影法師』がそっくりに再現されていた。
これは……目立つ!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
★星見町新名物・その〇 → 『駅前カフェのストリートアート』
後日、街の清掃がやってきて消してしまった。『影』に気づいた人は多分いない。

711 竜胆『ブラックシープ・シンドローム』 :2019/05/16(木) 22:45:53
「平和だなぁ……」

プラプラとあてもなく歩く。
何も無いことは平和でいい事だが、同時に退屈でもある。
事実、女は退屈していた。
追うものも追われるものもない。
なんと平坦で、平凡なことか。
……日々の支払いには追われているが。

「……」

あたりをみまわす。
何かないだろうか。

712 小石川文子『スーサイド・ライフ』 :2019/05/17(金) 00:54:59
>>711

その時、近くにいたのは『喪服』を着た女だった。
そこまで突飛な服装ではないが、珍しいと言えば珍しいかもしれない。
女は立ち止まり、何かを見ているようだ。

視線の先にあるのは、通りに設置されている花壇だった。
そこに植えられている花を見ているらしい。
今の所、辺りに他の人間は見当たらない。

713 竜胆『ブラックシープ・シンドローム』 :2019/05/17(金) 01:44:23
>>712

「……」

誰かの葬式でもあったのだろうか。
だとしたらご苦労なことだ。
死は誰にでも訪れるが、身近なものが死んだら式を挙げねばならない。
喪に服さないとならない。
多くの人間がどこかで死んでいるが、それを無視して身近なものや尊敬するものを弔わねばならない。
生きた人間のエゴだ。

「やぁ、どうも」

「何かありましたか、お嬢さん?」

「そこのお花が欲しいのかい?」

714 小石川文子『スーサイド・ライフ』 :2019/05/17(金) 02:28:18
>>713

呼び掛けられて、ゆっくりと顔を上げて静かに振り返る。
相手の姿を確認し、それから丁寧に頭を下げた。

  「――こんにちは」

  「いえ、ただ……」

また、花壇に視線を向ける。
咲いているのは、鈴の形をした小さな白い花々だ。

  「以前に通りかかった時には、まだ花が咲いていませんでした」

  「今、ちょうどスズランが咲いているのを見かけたもので……」

花壇に植えられているのはスズランの花だった。
君影草や谷間の姫百合といった別名もある。

715 竜胆『ブラックシープ・シンドローム』 :2019/05/17(金) 18:59:32
>>714

頭を下げた相手にへらへらと笑う。

「ご丁寧にどーもね、どーも」

自分は片手をあげるだけで応じる。
それでいい。
女にとってはこれぐらいのお返しが限界だ。

「鈴蘭の花ねぇ……」

「花言葉とか詳しそー」

そんなことを言いつつも、考えは別の方向。

(毒性の花……)

鈴蘭のことはよく知らないが、それは知っている。

716 <削除> :<削除>
<削除>

717 小石川文子『スーサイド・ライフ』 :2019/05/17(金) 20:30:13
>>716

鈴蘭は、結婚式のブーケに使われることが多い。
慰めの意味も持つため、葬儀の供花としても使われる。
この小さな花を見ていると、自身が経験した出来事が頭をよぎる。

  「花言葉――ですか……」

  「純粋、純潔……謙遜、再び訪れる幸せ……」

  「――そういったものだと聞いたことがあります……」

思い出しながら、鈴蘭の花言葉を口にする。
その時、緩やかな風が吹いた。
空気の流れに乗って、爽やかな香りが辺りに漂う。

  「それから――」

  「鈴蘭の花は香りも素敵ですね……」

鈴蘭の花は、バラやジャスミンと並んで香水として用いられる。
同時に、外見とは裏腹に強い毒を持つ植物でもある。
芳香と有毒――相反する二つの側面を持つ花だ。

718 竜胆『ブラックシープ・シンドローム』 :2019/05/17(金) 23:06:00
>>717

「詳しいんじゃん。ちょっと尊敬しちゃうぜ」

「お姉さん的にはね」

クスクスと笑う。
それから鈴蘭のくすぐったそうに体を揺らす。
出来れば何の匂いも嗅いでいたくない気分だった。

「うん、そうね。そう思う」

「この花の香りに包まれてみたいなー」

薄っぺらなことを吐く。
そんなこと、微塵も思ってない。

「お嬢さんもそう思うかい? どうどう?」

719 小石川文子『スーサイド・ライフ』 :2019/05/18(土) 00:16:39
>>718

  「……そうですね」

穏やかに微笑する。
相手の思惑には気付かなかった。
気付くことはない。

  「それも素敵だと思います……」

  「私はラベンダーの花が好きなので……
   その香りに包まれていると気持ちが落ち着きます」

私の傍には、常に死の誘惑がある。
その足音が近付いて心が乱れた時、ラベンダーの香りが鎮めてくれる。
それでも足りない時には、『鎮静剤』に頼るのだ。

  「――お花はお好きですか?」

720 竜胆『ブラックシープ・シンドローム』 :2019/05/18(土) 20:38:25
>>719

「ひゃぁ〜お嬢様みたいだねぇ」

(私トイレの芳香剤ぐらいでしか聞かないなぁ)

失礼なことを思い浮かべながら言葉を返す。
おどけてみせて、心ではそれになんとも思わない。
心と言葉の乖離が平時。

「いんや、ぜーんぜん……ウソウソ、花の匂いは好きだよ。お姉さんが好きなのはねぇ、もっとキツい匂いなんだよなぁ」

「アルコール? 甘いタバコの匂い? そういうのが好き」

今度は乖離しなかった。
気まぐれな距離感で言葉と心が動き続ける。

721 小石川文子『スーサイド・ライフ』 :2019/05/19(日) 00:05:23
>>720

アルコールと煙草――自分にとっては、どちらも縁が薄いものだった。
『彼』と死に別れた時、そういったものに頼る道もあったかもしれない。
実際にはそうはならず、今の私は別のものに頼っている。

  「私も……お酒は時々いただきます」

  「嗜む程度ですが……」

言葉を交わしながら、不思議な感じのする人だと思っていた。
飄々としているというのとは少し違う気がする。
ただ、捉えどころがないという意味では近いものがあるようにも感じられた。

  「――この辺りには、よく来られるのですか?」

  「もしかすると……またお会いすることがあるかもしれませんね」

奇妙な親近感のようなものを感じたのだろうか。
あるいは、心の中に何かを持っているというような。
だから私は、こんな言葉を言ったのかもしれない。

722 竜胆『ブラックシープ・シンドローム』 :2019/05/19(日) 20:05:19
>>721

「まぁ、ここに住んでるし来るには来るよ」

「自分の街だしね」

生活圏内ではあるらしい。

「また会うかもねお嬢さん」

「会わないかもしれないけど」

723 小石川文子『スーサイド・ライフ』 :2019/05/19(日) 22:48:22
>>722

返ってくる言葉を聞いて、口元に微笑を浮かべる。
やんわりとした柔らかい微笑みだった。

  「――はい」

  「もしお会いすることがあれば……またお話をさせて頂きたいです」

おもむろに背筋を伸ばし、姿勢を正す。
そして、出会った時と同じように深く頭を下げた。

  「声を掛けて下さって、ありがとうございました」

  「――それでは失礼します……」

別れの挨拶を告げると、背中を向けて静かに歩いていく。
先ほど感じた不思議な感覚を、心の片隅に残して。

724 門倉『ソウル・ダンジョン』 :2019/06/07(金) 22:24:08

「―――とりあえず、これでいいか」

栗色のソフトモヒカン、ワインレッドのジャケットの男が
駅から少し離れた古ぼけたビルの前に立っていた。
一階にあるテナントには『門倉不動産』とかかれている。

                ………『手書きの張り紙』で。

725 日下部『アット・セブンティーン』 :2019/06/09(日) 23:57:40
>>724

           ズイッ

「お兄さん、なぁにコレ?」
「おっ『不動産屋』――――へ〜、儲かるんでしょ?」

「家売るんだもんねぇ」

それを覗き込むのは、学生服の少女。
ビターチョコのような色の髪に、兎の耳のようにリボンを立てていた。

「なのにぃ、『張り紙』? これ、手書き?」
「あんまり景気良くないってやつなのかな」
「ニュースでそういう話してるよねぇ」

      スイッ

            「実際どお? 景気ど〜お?」

後ろに手を組んだ姿勢で、張り紙から『門倉』の顔に視線を向けなおす。

726 門倉『ソウル・ダンジョン』 :2019/06/10(月) 00:22:48
>>725(日下部)

声をかけられた『門倉』は、少女に視線をやる。

「ああ―――うん、そうだな。
 景気はけしてよくはないが、
  それより別の問題が俺とこの『不動産屋』を襲っていてね。
   その結果が、この紙の張り紙というわけだ」

『門倉』は大げさにため息をつく。

「『金が足りない』という事だね―――つまりは。
 目の前にいる少女が『お客』になってくれれば少しは改善されるんだが………
  その学生服を見るに、その可能性も薄そうだ」

よくは分からないが『貧乏不動産屋』という事らしい。
もっとも、およそ真っ当な社会人と思えない『門倉』の格好と、
『紙の張り紙』での社名提示をみるに、儲かっていないのは当然とも思える。

727 日下部『アット・セブンティーン』 :2019/06/10(月) 01:08:53
>>726

   スタスタ

笑みを浮かべて、回り込むように動く『日下部』。

「んふふ、正直なんだね〜。
 悪いけど『家』買う予定はないかな。
 おカネ、私も持ってないしな〜」

           スタスタ

「お金持ちそうだからお茶の一杯くらい奢ってもらえるかな〜〜〜って」

          「私も『正直』に言うとそう思ったん、だけどさぁ」

張り紙を見ながら、勝手なことを言っていたが・・・

「……ん〜?」

「なんか思い出してきたかも、もしかしてだけど」
「ここって、ちょい前に『爆破事件』があった不動産屋さ〜ん?」

頭のリボンを揺らしながら、再び門倉の顔に視線を向けなおす。

728 門倉『ソウル・ダンジョン』 :2019/06/10(月) 20:11:09
>>727(日下部)

「………知っているのなら話は早い。
 つまりはそのせいでこのありさま、というわけさ」

 『門倉』は観念したかのように肩をすくめる。
 星見駅周辺の不動産屋で『爆破事件』があったというのはちょっとしたニュースになった。
 警察は『事故』と断定したらしいが、真実がどうだかは分からない―――

「一応それなりの蓄えもあったし『副業』したりして
 ある程度の修繕は出来たし周囲への補償もしている。
 だが、まだ『ある程度』にしか過ぎない。節約できるところは節約しないとね」

 『門倉』は二度目のため息をつく。

「さて―――どうせ客も来ないだろうし店に寄っていくかい?
        『お茶の一杯』くらいなら用意してあげられるよ」

 いかにも怪しい男、『門倉』が誘ってくる。

中に入ればねちっこく長話をしてきそうな予感もするし、
それ以上の事だってあるかもしれない。
それがイヤなら外でのライトなコミュニケーションで満足しておくべきか――

729 日下部『アット・セブンティーン』 :2019/06/11(火) 04:13:00
>>728

「なぁるほどね。それで……このありさまってわけだ」

得心して張り紙に頷く。
『爆破事件』――――ないしは、『事故』。
『全国ニュース』になった類似の事故の関係で、覚えていた。

「副業、節約。意外と世知辛いけど〜」
「『命あっての物種』……とも言うもんね」
「少なくとも大けがとかはしてないみたいでよかったじゃん?」

     ニヤ

「……なんて優しいとこを見せてみたりして」
「感動したら一番良いお茶飲ませてね」

           スッ

「家の話とかされても、わかんないし」
「お茶の美味しさでそこをカバーするから」

「ま〜私、お茶の良しあしもあんまし……わかんないけど〜」

ナチュラルに上がりこんで茶をタカる動きを見せる『日下部』。
門倉もいかにも怪しげな雰囲気だが、この少女も価値観が怪しいのかもしれない。

730 門倉『ソウル・ダンジョン』 :2019/06/11(火) 08:04:32
>>729(日下部)

「―――たまたま店に居なかったからね。
     怪我とかはしていないんだよ」

『主(あるじ)のいない状況での事故』………
まあ、そういう事もあるかもしれないが余計に怪しい話ではある。

 それはさておき、

「なァに、『良し悪し』なんて分からない方がいいんだよ。
 なんでも『良し』と思える方が人生は幸せに進む。

 ああ、そうだ。自己紹介しておこう。
    『門倉 良次(かどくら りょうじ)』、一応、不動産屋をしている。

                          ―――さあ、中へどうぞ」

勧められるままに『門倉不動産(手書き)』へと入る事になる『日下部』。

 ………

『不動産』内は控えめに言ってもひどいありさまだった。
壁紙はある程度張り直してあるのだが完全ではなく、
黒こげの壁面がところどころ見えている。

接客用のカウンターはまだ修繕できていない様子で、
申し訳程度に学習塾のような『長机』とパイプ椅子が置いてあった。
何かの間違いでここに入ってきてもマトモな感覚の客ならば、
適当な理由をつけて踵を返す………そんなふうに思わせる風景だ。

731 日下部『アット・セブンティーン』 :2019/06/11(火) 22:42:58
>>730

「『気の持ちよう』でモノの『価値』は変わんないけどさあ」
「ま〜でも、『価値観』が違えば、変わってくるとこもあるか」
「良いこと言うね良次さん。あ、私は『日下部 虹子(クサカベ ニジコ)』」

「虹の子供って書いて虹子」
「不吉な名前でしょ〜」

              ザッ

                 ザッ

「不動産屋って入るの初めて……んふふ」

屋内に入ると、再び手を後ろで組んで辺りを見渡す。
焦げた壁とか……中途半端な壁紙とか、カウンターとかを。

「これ〜っ。ここで『家』の相談する席?」
「『大学部』の席みたいで風情がある。ここ座ってもい〜い?」

           ゴソッ

「お菓子でも出そうかな、私も……ね〜。良次さんってチョコレート好き?」
「あ。お茶って『お茶』? それとも〜、『コーヒー』のこと、お茶って言ってる?」

片手をカバンに手を入れて漁りながら、パイプ椅子の背もたれに手をかけた。

732 門倉『ソウル・ダンジョン』 :2019/06/12(水) 01:19:29
>>731(日下部)

「『虹子』―――不吉なのかい?
          いい名前だと思うけれど」

 この『ありさま』にもさほど退かない『日下部』に
 『門倉』はそんな言葉を投げかける。

「そして―――だ。座るのはちょっと待ってほしいな。
  さすがにここじゃあ『おもてなし』するには、殺伐すぎる」

             ガ  チ   ャ   リ

       そう言いつつ、『門倉』が『ドア』を開けた。

 ………

 『日下部』がしっかり室内を確認していたのなら、
  その場所に『ドア』などなかった事に気づいただろう。

 『日下部』が外観からここの間取りを考察できていれば、
  位置的にそこに『ドア』があっても、『部屋』などないと分かっただろう。

 『日下部』がカバンに気をとられすぎていなければ、
  『門倉』の腕に重なるように一瞬だけ発現した『スタンドの腕』が見えただろう。

   しかし、たとえ全ての項目で『NO』だったとしても、
    『日下部』にはその『奇妙さ』が理解できるはずだ。

      『ドア』を開けたその奥には―――

 『不動産屋』の風景とはまるで違う、
  狭いビル内にあるような『数席しかないカウンターの店』があったのだから。


          ドド   ドド   ド  ド    ドド ド ド


                     「―――いらっしゃいませ」

薄暗い雰囲気のその店はどうやら『喫茶店』のような場所らしい。
『カウンター内』に居る長身の男の『店員』が『門倉』と『日下部』にそう声をかける。

 至って普通の対応―――ここが普通の『喫茶店』であればの話だが。

733 日下部『アット・セブンティーン』 :2019/06/12(水) 14:19:45
>>732

「『虹』って『雨』の後にしか出ないしさ〜。すぐ消えちゃうじゃん」
「残るのは綺麗だったって感想だけだよ」「あとスマホの写真」

           ニタ ニタ

「『一瞬のために生きろ』って言われてるみたいでしょ?」

           「だから、私は不吉だと思うよ」
 
門倉の言葉に笑みを浮かべる日下部。
真意は、表情からは読み取れない。

「んん? ……?」

                  「あれっ」

日下部は『目に見えるもの』を信じている。
だから『目に見えたもの』はしっかり覚えている。

・・・そんな扉はなかった。
・・・それにこの建物に、その方向に部屋はないはず。

「んんん? なんだこれ」

   キョロッ

「良次さん、なにここ〜。……実はカフェに間借りしてるとか?」

         「ねェ〜、メニューとかって置いてある?」

                  キョロッ

しきりに視界をめぐらせながら、今度こそ席に着こうと動き出す。

734 門倉『ソウル・ダンジョン』 :2019/06/12(水) 20:29:08
>>733(日下部)

『日下部』は唐突な『ドア』に疑問を覚えつつ、
物怖じもせず、キョロキョロしながら『カフェ内』へと侵入していく。

 「フフフ………なんだろうね?
  とりあえず好きなところに座るといいよ」

そんな『日下部』の小動物のような動きが面白いのか、
『門倉』は不気味な笑みを浮かべながら、答えになっていない答えを返す。

L字型になったカウンターの等間隔に椅子は置かれている。
用心のため入口間近に座るもよし、
好奇心を満たす為、奥の席まで行ってみるのもよし―――

 「メニューはそちらにございます」

『長身の店員』が手で示したとおり、カウンターの上に『メニュー』が差し込んである。
表紙を見るに『メニュー』は『フード』『サラダ』『サイドメニュー』
『ドリンク』『デザート』などに分かれているようだ。

『門倉』がそのメニューをヒョイととり、
『ドリンク』のページを『日下部』に向けて開く。

「すぐに出てくる『ドリンク』を頼んだ方がいいと思うよ。

   ………いや、ケチっているとかじゃあないんだ。
        『お茶の一杯』って話だったし、
        なにより、『そう長くはいられないからね』―――」

含みのある言い方で『門倉』はドリンクを薦めてくる。
『ドリンクメニュー』は以下のとおり。

<COLD>
・ミネラルウォーター
・ウーロン茶
・アイスティー
・レモンティー
・コーヒー
・オレンジジュース
・アップルジュース
・グレープフルーツジュース
・コーラ
・ジンジャーエール
・クリームソーダ
・タピオカミルクティー

<HOT>
・ホットティー
・ミルクティー
・レモンティー
・コーヒー
・カフェラテ
・ココア

735 日下部『アット・セブンティーン』 :2019/06/12(水) 22:54:02
>>734

        スタスタ

「ん〜? 含みがある。じゃあ、ここにしとこうかな」

   ストン

「入り口側って慌ただしいしさぁ」
「他にお客さんとか、来るのか知らないけど」

最奥の席まで歩いて、そこに座った。
用心などしていない――――ということだろうか。

「ども、ども〜」

「注文は・・・『タピオカミルクティー』」
「タピオカミルクティーってさ〜、良次さん好き?」
「みんな好きだよねえ」「私も好きだけど〜」

「でも、なんでどこも『ミルク』なんだろうねぇ」

メニューを指さしながら、カバンを机の下に置く。

「まそれはいいや、何? なんか『用事』とかあるの?」
「あーいや、それはあるよね。事務所があの状態なんだし〜」

長くはいられない――――という言葉の真意は、さすがに読み取れない。
が、納得のいく予想は出来たので、それ以上特に追及する気もなかった。

736 門倉『ソウル・ダンジョン』 :2019/06/13(木) 08:24:12
>>735(日下部)

『タピオカミルクティー』を頼む『日下部』。

 「あ――― 俺もそれで」

『門倉』がそれに便乗する。
『長身の店員』は『分かりました』と頷く。
『タピオカミルクティー』ふたつがほどなく、用意されるだろう。

「俺も好きだよ―――『タピオカ』。
 最近は流行っているみたいだから色んな味があるみたいだけどね。
 でもまあ『ミルク』が『定番』ってヤツなんだろうな。『定番』は強いよね、やっぱり」

『門倉』も『日下部』の隣に座る。

「いやいや、『事務所』があんな状態だって
 かわいい娘とお茶の一杯くらい飲みたいさ。

 むしろあんな状態だからこそ、君のような娘と何にも考えず語っていたい。
 『虹』の話とか、『タピオカ』がなんの卵かとかそーゆー話をね。
 だから『用事』なんて大それたものは特にはないんだよ」

 『門倉』はそう語る。その言葉にのって
  この場で愚にもつかない『四方山話』に興じるのもアリか。

「ただまあ、たとえば君が『オイシい副業』に
 興味があると言うのならそれを紹介してはあげられるけど―――」

 『オイシい副業』………完全無欠に怪しいワードだ。
 うら若い乙女な『日下部』が気軽にのると酷い目に遭うヤツかもしれない。

737 日下部『アット・セブンティーン』 :2019/06/13(木) 20:35:58
>>736

「『タピオカティー』って呼ばれるようにはならないんだろうね〜」
「『タピオカドリンク』って言い方は、聞く気もするけど」

「まあ」

「なんだかんだミルクが一番美味しい気はするかなぁ〜っ」

          クルッ

腰を軸に体を回し向き直る。
頭を飾るリボンが、クラゲの足のように揺れる。

「かわいい? 私かわいい?」
「よく言われるよ〜」

     ニヤ…

「んふふ、『用』がないならいいんだけど」
「長居できないみたいなこと言うもんだから気になってね」

水のコップを手に取り、水滴を拭いとるように掌で回す。

「それで〜? 副業って? 『おカネ』に特別困ってはないけど〜」

    「私みたいなかわいい娘にできる仕事って……なぁに?」

              ズイッ

上体を乗り出すようにして、門倉の話を――――『聞く』ことにした。

738 門倉『ソウル・ダンジョン』 :2019/06/14(金) 08:19:42
>>737(日下部)

「『お金』に困っていないのはいい事だね。
 それなら、そんなに興味はないかもしれないが―――」

                    ピコーン

『門倉』が持っていた『タブレットPC』を起動させ、画面を指でスライドしていく。

「あった、これだ。

    『ひきこもり男子をどうにかして外に出してほしい』。

 ひきこもりの心境というのは正直、俺にはよく分からないんだよね。
 だから断ろうかなと思ってたんだけど。
 でもまあ、男子ってのはかわいい女の子に呼びかけられれば、
 すぐに飛びつくものだろう?

   かわいい女の子―――

               つまり、君にうってつけな仕事というわけだ」

             『門倉』はそう断言する。

『ひきこもり男子』はむしろ女子に
何かしらの苦手意識がありそうだが………
あくまで『門倉感覚』での『オススメ』という事らしい。

 ………

                  「………『タピオカミルクティー』です」

そうこうしているうちに『タピオカミルクティー』が運ばれてきた。

739 日下部『アット・セブンティーン』 :2019/06/14(金) 23:44:05
>>738

「『10万』とかもらえるなら話は変わるけどねぇ」
「流石に、普通のバイトじゃそんなに儲かんないし」

「どれどれ〜」

          ズイッ


「――――『引きこもり』ぃ?」

「引きこもりってあの、家にこもって出ないやつのことでしょ?」
「ふうん……まあ、私は可愛いけどね〜。引きこもりかぁ〜」

           カチャッ

     クルックルッ

「話は聞いてもいいけどね。『引きこもり男子』か〜……」

       「あんま変なヤツだと嫌だなあ〜」

ストローを回して、タピオカをかき混ぜる。
別に意味があるわけでもないが……

「とゆーか……良次さんって、『不動産屋』だよねえ? 『斡旋業者』もしてるの?」

740 門倉『ソウル・ダンジョン』 :2019/06/15(土) 00:13:55
>>739(日下部)

「まあ、断るつもりだったからあんまり詳しい情報もないし、
 無理にとは言わないけどね。

   ―――成功すれば『10万円』くらいはあげられるかもだけど」

『門倉』はさらっとそう告げ、ズズイとタピオカをすする。
タピオカが宇宙エレベーターのように高速で上へ上と吸い込まれる。

「そして、俺に様々な『依頼』が舞い込んでくるのは
 何を隠そう、この俺が『超能力者』だからなんだ。
 だから、みんな、俺を頼って来るんだよ―――

     ………

               なァんて言ったら信じるかい?」

『門倉』は冗談めかした口調でそんな事を宣う。

741 日下部『アット・セブンティーン』 :2019/06/15(土) 02:00:46
>>740

「ほんと? ほんとに言ってる? ……10万だよぉ?」
「10万円ってさァ〜」「大きいんだよ?」「だって6桁だもん」
「良次さんみたいな『オトナ』にはそうでもないのかなあ?」

「私は、『17歳』だからさ〜……『10万』は魅力的だよぉ」

       クルックルッ

「ただね、友達がちょっとヤバいお仕事して『3万』稼いでた」
「その『3.3倍』ヤバいって認識も〜、できちゃうよね」

           ズズーーーーッ

そこまで言い終えてからタピオカを吸う。
動きはおとなしくなる……タピオカの魔力だろうか?

「……」

「でっ」「超能力者ね。ふぅ〜〜〜ん」「なるほどだね」

            キョロッキョロッ

即座に魔力が切れたのか、周囲を見渡す『日下部 虹子』。

「どうしよっかな、信じてほしい?」
「信じてもいいけどね。信じる『根拠』とかあったほうがい〜い?」

742 門倉『ソウル・ダンジョン』 :2019/06/15(土) 08:52:29
>>741(日下部)

「へえ、『17歳』か―――未成年。

  ふふ………

               ………

 いやまあ、年齢は関係なく、しかるべき『仕事』をこなせば、
  しかるべき報酬を受け取るべきだと俺は思うね。
  『3万の仕事より3.3倍ヤバい』と考えるより、
  『3.3倍』、君が活躍するのだと思ってくれればいい。
  そうすれば『しかるべき報酬』は君のもの、というわけだ。

  あ、そうだ―――この前も、とある事件を解決してね、
             未成年の『パートナー』に『10万円』、ちゃんと渡したよ」

『門倉』は誇らしげに実績を主張するが、
税金なんかはどうなっているのだろう。
(これが噂の『闇営業』というヤツか?)

「そして、『超能力』を信じる『根拠』……だって?
      出せるのかい? そんなもの―――」

『門倉』は首を傾げる。

「あッ!
     ひょっとして君は………

            俺に『一目惚れ』しちゃったとか?

 『愛する者の言葉は無条件で信じる』

                 つまりはそういう事なのか―――?」

『門倉』がどこまで『本気』なのかは窺いしれない。

743 日下部『アット・セブンティーン』 :2019/06/16(日) 09:07:00
>>742

「未成年だけど……? なに〜今の笑顔? いかがわし〜」

「まーでも、私のがその子より『3.3倍』……いやもっと可愛いし」
「仕事もね、それくらい出来るって自信はあるから……大丈夫かな〜」

        ニヤ…

「とゆーか、そんな頻繁に『仕事』抱えてるんだ」
「不動産屋っていうか〜、何でも屋さんみたいだねえ」
「その言い方だと、人を斡旋するだけじゃないみたいだし」

高額な『ギャラ』のためなら『闇営業』も仕方ないという気風らしい。
倫理観とかは『取っ払って』しまったのだろうか……これが今風なのか?

「私に惚れられたら、良次さんは嬉しい? ふふふふふ」
「でもね、残念だけど、そういうのじゃないな〜」
「100万円くれたらそういうことにしてもいいけど」

「『好き』も『信頼』も目に見えないんだからさあ」

        キョロ キョロ

「え〜と」「もう、これでいいかな…………」

視界を彷徨わせて……おもむろに食器入れに手を伸ばす。

「根拠はちゃんとあるんだけどね〜」
「ここで出しちゃっていい?」

「汚れちゃうからさ……掃除とか、誰か困らないかなあ?」

そして・・・フードメニュー用の物なのだろう。

            スッ

フォークを手に取り、袖をまくり、切っ先を肌に建てる。

744 門倉『ソウル・ダンジョン』 :2019/06/16(日) 21:57:54
>>743(日下部)

「そりゃあ君のような可愛い娘が好きになってくれるならそれは最良だよ」

 『門倉』はそんな事を言いながら、

「―――?

       何を………何をしようとしているんだ!?」

 フォークを肌にたてる『日下部』に血相を変える。

「こ、『根拠』ってアレか?
  ヤクザの『指詰め』みたいな行為をもって示そうってのかい!?
        いや……病んだ少女の『リストカット』が近いか………?

    いやいや、譬えなんてどうでもいい!
    当たり前のことだが、俺はそんな事を望んじゃあいないよ!」

 『門倉』は『日下部』の行為を止めようとする。

745 日下部『アット・セブンティーン』 :2019/06/16(日) 23:19:51
>>744

「『オトナ』も手を焼く『ひきこもり』の『連れ出し』」
「『若くてかわいい』だけの『17歳』を連れてくのも」

「んふふふ、まあね」

        プツッ

止めるよりも・・・手を動かす方が、少しだけ早い。
目を細めて、肌に鋭い先端が突き刺さる。

「それはそれでいいんだろうけどね」
「でも……『仕事相手』はお金払うわけだし」

           『ポコ』 『ポコ』

「良次さんは、私のこと『頼れるパートナー』って紹介するんだよ」
「だから、その辺で捕まえた『17歳』じゃなくって〜」

                ・・・?

今確かに、『フォーク』は突き立てられた。
肌に銀の切っ先が刺さり・・・赤い血が・・・出たはずなのだが。

      ペロッ

「こういう『目に見える』証があった方がねぇ、お互いのためだと思うの」

いたずらな笑みを浮かべ、フォークを口にくわえるその手は、傷一つなく、白い。

746 門倉『ソウル・ダンジョン』 :2019/06/17(月) 00:53:10
>>745(日下部)

「ああッ!」

 『門倉』の眼前でフォークが『日下部』の柔肌に侵入していく。
 思わず軽い悲鳴のような声を出してしまう『門倉』だったが―――


                    「―――ん? んんん?」

 無傷の手………消えた『傷口』。その事実に目を見開く『門倉』。

 ………

「君―――その傷は……『奇術』か『マジック』で………?

 ………

  いや、止めよう。この現象が『超能力を信じる根拠』だというのなら」

              グ  オ  ン

       『門倉』の傍らに『人型のスタンド』が現れる。

  ・ ・ ・
「『視える』方の人間だという事だね―――虹子ちゃん、君は」

747 日下部『アット・セブンティーン』 :2019/06/17(月) 01:40:27
>>746

日下部は――自分の手に視線を落とし、笑みを浮かべる。
それから、顔を上げて。

「うわ。なるほどだね、そういう『形』があるものなんだ?」
「私のは、そういうのないみたいだからね〜」「乱暴しちゃったけど」

「でも、どうしてもね、『見せたかった』の」
「『信頼』なんて見えないもの、担保もナシに出来ないから」

「だからねえ、よろしくね良次さ〜ん」

人型のスタンドをまっすぐと見据える。
この『世界』に立ち入るパスポートは、すでに、持っていた。

「で、よろしくなんだけどね」

「出来れば『日下部ちゃん』って呼んでほしいな〜、」
「『虹子』って呼ばれるのね、あんまり得意じゃなくって」

「こっちも対等に『門倉さん』に変えてもいいからさ〜あ・・・どう?」

748 門倉『ソウル・ダンジョン』 :2019/06/17(月) 02:08:37
>>747(日下部)

「形(ヴィジョン)がないタイプか―――
  というか、君はそんなに、この超能力、
   『スタンド』については知らないみたいだね。

  呼び方については分かったよ。『日下部ちゃん』。
         ………ああ、俺の方は『良次さん』で構わないよ」

『門倉』は『日下部』にそう告げる。

「それで、『見せてもらった』俺としては改めて訊きたいんだけど、
 『引きこもり男子を連れ出す』ミッション、引き受けてくれるかな?

  イエスにしろノーにしろ、とりあえず連絡先はきいておきたいわけだけど」

749 日下部『アット・セブンティーン』 :2019/06/17(月) 02:22:33
>>748

「んふふ、それじゃあ、良次さんって呼んだままにしとく」

「え〜と、ねえ。『スタンド』っていう言葉と……」
「これが『アット・セブンティーン』って名前なのは聞いたけど」
「詳しいって言えるような事は、何も知らないかな〜っ」

「その言い方だと良次さんは詳しそうだし、今度教えてよ」
 
    「あっ今度っていうのはねえ」

        「またいつかとかはっきりしない話じゃなくって」

板チョコを模したケースに収めた、スマートフォンを取り出す。

           ミッション
「――――その『お仕事』の時にでも、ね?」

見せた画面には、『QRコード』。
それから、はっとしたような顔でそれをテーブルに置きつつ。

「あ、良次さんは『ラ●ン』、分かるよね〜? でも私ね、別にメールでも使えるから」
「不便ならメールでもいいよ。オトナの人だと、たまにいるからさあ、そういう人も……」

年より扱い……ではないのだろうが、『世代間の隔たり』を感じなくもない配慮を見せた。

750 門倉『ソウル・ダンジョン』 :2019/06/17(月) 02:43:38
>>749(日下部)

「ああ引き受けてくれるのか!

             ―――じゃあ、また今度」

『門倉』はスマホを取り出し、『QRコード』を読み取る。
そしてその場で、「門倉だよ」とメッセージを送ってくる。

     「手取り足取り教えてあげよう、色々ね」

 そんな事を言っていると、

   突如―――

     ス ウ ウ ウ ウ ウ ………

              一瞬で、『視界』が変わる。

 ………

今までいた『喫茶店』がまるで夢だったかのように、
『日下部』と『門倉』は、焦げが残る『門倉不動産』に居た。

            「ああ――― もう、『時間』か」

 『門倉』が名残惜しそうに言う。

奇妙な『部屋』、『超能力』、『タイムリミット』―――
『門倉』という男が『日下部』と同じ超能力者、
『スタンド使い』なのだとしたら、
その能力を類推するのはそう難しい事ではないだろう。

751 日下部『アット・セブンティーン』 :2019/06/17(月) 03:30:03
>>750

「はい、登録」「っと〜」

      スゥッ

「や〜ん、言い方がいかがわしい〜」
「良次さんたまにそういうとこあるねえ」「なぁい?」

メッセージに『スタンプ』を返し、スマホを懐にしまう。
そして飲み終えた飲み物のストローを回していると・・・

>     ス ウ ウ ウ ウ ウ ………       

          「……んんん」

「なるほど、なるほどだね〜」
「こういうのも『アリ』な世界ってことか」
 
         キョロッ

「タピオカ……『飲んだ気』は残ってる気がする」
「カロリーもあの部屋みたいに、なかった事にならないかな〜」

              キョロッ

来た時と同じように、後ろ手を組んで、『来たままの部屋』を見渡す。
が――――少なくとも今日は、それをいつまでも続けてはいなかった。

「ま〜こうやって見てても原理はわかんないか」
「原理なんか、ないのが『能力』なんだろうし」

「それにねえ、私、そろそろ行こうかなって思うんだ」
「『10万円』貰えるなら、いろいろ買いたいものとかあるしぃ」

        ザッ

          「それじゃあ行くね。また仕事でね〜、良次さん」

そのまま、『門倉不動産』を発つ――――次に会うのはおそらく、仕事の席で、だろう。

752 門倉『ソウル・ダンジョン』 :2019/06/17(月) 03:50:22
>>751(日下部)

「いかがわしいつもりはないんだけれど………
               よく言われはするね。

 そして、残念ながら『飲食』は血肉となる。
       あの部屋が『思い出』の彼方に消えてもね」

 『タピオカ』も『ミルクティー』も高カロリー。
  流行りには文字どおり甘い罠があるという事だ………

「それじゃあね―――
   詳しい日程の調整が出来たら『連絡』するから」

 去りゆく『日下部』の背に『門倉』は手を振る。
  残されたのは彼自身と、まだ完全に修復しきらない彼の『仕事場』。
   『門倉』の次なる仕事は
    自らの傷を癒せる『17歳』の女の子と一緒に、という事になりそうだ。


                                      TO BE CONTINUED…

753 エマ『ソルトフラット・エピック』 :2019/06/22(土) 21:09:37
古ぼけたキャリーバックを転がし、キョロキョロと見渡しながら商店街を歩いている。
中東系の女性で、服装も少々年季が入っている……端的に言えばボロい。
端から見れば、バックパッカーか何かに見えるかもしれない。

754 エマ『ソルトフラット・エピック』 :2019/06/24(月) 00:59:25
>>753
立ち去った

755 夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』 :2019/07/19(金) 00:26:00

趣味の町歩きの途中、オープンカフェで一休み。
少しして、テーブルの上に泡立つジンジャーエールが置かれた。
グラスを持ち上げて、ショウガの利いた炭酸を喉に流し込む。

       グビッ グビッ グビッ

「――――ッかぁ〜〜〜!!」

やっぱ、ジンジャーエールは『カラクチ』だな!!
ベロにガツンとくる、シゲキテキでクセになるようなオトナのあじわい。
ナツいアツはコレにかぎるぜ!!

    《L(エル)》
                     《I(アイ)》
            《G(ジー)》
      
     《H(エイチ)》
               《T(ティー)》

そのまま休憩しつつ、何か面白そうな情報を求めて『町の声』に耳を傾ける。
『ドクター・ブラインド』の『超聴覚』――――それを使って客やら通行人の声を拾う。
なんかミミよりなハナシとかない??

756 ???『???・????????』 :2019/07/19(金) 21:23:18
>>755

夢見ヶ先明日美、そのスタンド、傍に立つ『ドクター・ブラインド』の超感覚が
周囲の喧騒を拾い続ける。

 ガヤガヤ                  「……学校で猫が……」
                  ジャー
   「……幽霊だって!ほんと……」      ワイワイ
                       レロレロ       「……キャー!私のサンドイッチ!……」
コツコツ       「……肝試し?それは……」
                               ジャリンジャリン


その無数の音は絡み合いながら、本来なら雑踏の騒音として私達の耳に入るだろう
だが、彼女のスタンドはそれを確かに聞き分け続ける。

        ……コツコツコツコツ

その中から一つの靴音が方向を変え、貴方の背後からだんだんと近づいてくると
急にサングラスの目の前に、ハンカチで覆い隠された

 「さあ、僕は誰でしょう?」

唐突に背後から質問を投げ掛けられる。
同じくらいの年頃の少年の声だ。
どこかで聞いたことがあるような気がする。

757 夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』 :2019/07/19(金) 22:19:51
>>756

誰かが背後から近付いているのは『聞こえていた』。
だが、いきなりの目隠しまでは予想していなかった。
ナニモノだキサマ!!
さてはソシキのエージェントか……!!
このミセで『マッケンジー』にうけわたすよていの『ブツ』がねらいだな!!

「ほうほう――」

どこかで聞いたような声を聞き、思案する。
このまま普通に当てるのもいいだろう。
しかし、それじゃあ『ツマらない』とおもわないかね??

「じゃあ――――『あてて』みよっかな」

      シュバッ

『ドクター』を動かし、ハンカチを持っている手に爪で『チクッと』する。
ほんのちょっとでいい。
それだけで十分。
『ドクター』の能力の一つ――『視覚移植』を行うためには。
本来は盲目である『ドクター』だが、それによって一時的に『視覚』を得る事が出来る。

「えっとね〜〜〜」

『ドクター』を振り返らせ、その人物を目視する。
                  ブースト          ブラックアウト
そういえば、前に会った時に『鋭敏化』は見せたけど『盲目化』は伏せていた気がする。
ま、ベツにいっか。

「――『イカルガのショウさん』ににてるっていわれないッスかぁ〜〜〜??」

本人は相変わらず目隠しされたままで答える。 ブラックアウト
ちなみに、『視覚移植』が成功しているなら、彼は『盲目化』しているだろう。
つまり、イマのわたしと『おなじジョウタイ』ってコトになるな!!

758 斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティー』 :2019/07/19(金) 22:38:27
>>757

「ーーあたり。」
「君みたいには上手くいかないな。」

ハンカチが取り除かれ、視界が開ける
彼が貴方の背後から現れた、夏風に色褪せたスカーフを揺らし、笑みを湛えた少年
斑鳩 翔。

その腕に鎖が巻かれたかと思うと、即座にボロボロと崩れ落ち、ずるり、と影のような腕が現れた
腕が夢見ヶ埼の肩を叩き、そしてテーブルの縁を触りながら、少年を向かいの席へと誘導する。

「やるもんじゃあないなあ、キャラじゃない事は
 今度は僕からからかおうと思ったんだけど、逆にやられてしまった。」

「椅子、椅子……何処だっけな。」

たどたどしい様子でテーブルの周りを回る
肩を竦めつつも、しばらくするとお手上げのようで『4本の腕で降参』しつつ口を開いた。

「……よければ助けて頂けると、嬉しいんだけど。」

759 夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』 :2019/07/19(金) 23:24:53
>>758

『視覚移植』の持続時間は『10秒』だ。
解除しなくても自動的に元に戻るが、それまでの間に『事故』が起きるかもしれない。
たとえば、テーブルにぶつかった拍子にグラスが倒れるとか。

「ほうほう、ソレはいちだいじですな。よし、すぐ『シュジュチュ』しよう!!」

だから、『持続時間切れ』になる前に能力を解除する。
ただし、そうなると別の問題が出てくる。
いわゆる『ささいなモンダイ』ってヤツだけど。

「――――『アリス』のワンポイントアドバ〜〜〜イス!!」

「さいしょはさぁ、ハッキリあけとかないほうがイイとおもうよ??」

人間の目は、暗い所から急に明るい場所に出ると『眩しさ』を感じる。
しかも、今の季節は『夏』だ。
視力が戻る際に感じる眩しさは、相応に強いものになるだろうから。

「あせらなくてもイイのよ??さぁ、カラダのチカラをぬいてリラックスして……。
 おちついたキブンで、ゆっく〜〜〜りとあけていきましょうね〜〜〜」

さながら保健の先生か何かを思わせるような作り声で語りかける。
テーブルの上のグラスは手に持っている。
眩しさが事故の原因になるとも限らないからだ。

760 斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』 :2019/07/20(土) 00:13:18
>>759

急激に戻った夏の日差しに目を細めつつも、どうにか椅子に座って一呼吸入れる
視界に明瞭な世界が入ると同時に、夏の暑さと喧騒が同時に戻る気がした

「ご親切にどうも、アリス。」

涼し気な声と微笑みを返して彼女と対面する
前と会った時と別段違いはなく、何時ものように陽気にすら思えた

「気分はさながらジブリの大佐だったよ」
「最後にめがぁって言いながら彷徨う感じの。」

(影の頭で視界を確保すれば良かった気もするが、まあ気づかなかった事にしておこう
 事実、見えたかは怪しいし……。)

「で、其方は暑い夏に冷えたジンジャーエール?いいね。すいません、そこの可愛い緑のエプロンした店員さん、アイスティーを」

少年は彼女の手に持った結露したグラスを見て
呼ばれてやってきた店員と二言三言かわすと、店員が二人を見てから斑鳩に話しかけた。


「え?キャンペーン?ストロー2本のカップル用の大きいサイズがある?じゃあそれで。」

店員を何でもないように見送った後、目の前の彼女に向き直る
いつも通りの笑顔で。

「それで、夢見ヶ埼ちゃんはどうしたの?散歩の休憩?鏡の世界探し?」

761 夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』 :2019/07/20(土) 00:42:13
>>760

「わたしぃ〜〜〜??いつもどおり、この『フシギのセカイ』をボウケンしてる。
 なんかユカイなコトとかないかな〜〜〜って」

「そしたら、ホラ――――ちょうど『みつかった』トコ」

両手でテーブルに頬杖をついて、正面の相手を見つめる。
まるで恋人と語らっているかのように。
そんなワケねーけどな!!カンチガイすんなよ。

「――で、どうよサイキン??あの、アレだアレ。なんかあった??
 こう、かわったコトとか。モグラがサカダチしながらスキップしてるようなカンジの」

「つーかさ、ショウくんはナニしに……いやまて、あぁ〜〜〜。うんうん――わかった」

一人で何事か納得して、何度か大きく頷く。
アリスのカンサツリョクとスイリリョクは、ヒトツのケツロンをみちびきだしたのだ。
ほかのヤツならいざしらず、このアリスのめはごまかせない。

「さては、さっきのウェイトレスをマークするためだな!!やるねぇ〜〜〜」

「ナツはこれからだからな〜〜〜。『アツイよる』をすごすのは、まだまだまにあうぞ!!」

762 斑鳩 翔『ロスト・アイデンティティ』 :2019/07/20(土) 02:04:13
>>761

彼女にとっては不思議な世界
例え僕にとっては深海の底でも。

生まれた時から、さっきスタンドが見せた光景で、急に光が戻るなら
確かに彼女にとって色に溢れるここは不思議な世界なのだろう

(感受性が豊かというか…一緒にいて退屈だけはしないで済むタイプだな)

そう考えつつも、店員が持ってきたグラスを受け取る
……想像以上にでかい、おまけにハートマークの意匠で作られた
これまたでかい二口ストローが刺さっている。

(安いし興味本位で頼んでみたけど、成程 向かい合わせで飲むんだな
 そうでないと一人では吸えず、飲めない仕組みか。)

「モグラが逆立ちはないなあ、チェシャ猫の