- 1 :名無しさん :2014/04/21(月) 22:13:58 ID:FM0uhBto0
- 規制にあって代理投下を依頼したい場合や
問題ありそうな作品を試験的に投下する場所ですよ―。
- 154 :エンドロールは流れない -混沌と英雄達の輪舞曲-2 :2017/11/16(木) 13:43:03 ID:XoqtS/Ro0
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(運が無かったね。悪いけど諦めて―――)
ミトスがそう思考しかけた時、ティアも男の咆哮に気付き、同時にその姿を捉えたのか 目を瞠り、一瞬どうすべきか逡巡を見せたが、如何やらミトスとは真逆の結論に至ったのか、 何とか片手でカイルを押さえつつ、もう片方の手で男に手を伸ばそうとする。
『―――ヴェイグ!あの手を! 手を取れ!!』
その男が持つカトラスから聞こえた切迫した声に、ミトスはその思考を極限まで回転させた。
(ハロルドの情報だと、それはソーディアンの内の1本) (指示こそ無かったがディムロス以外に可能な限り回収をしておきたい物の1つ) (このまま放置して瓦礫の中に消えたとしても、何かの偶然で掘りだされる可能性はある) (それがミクトランや、それ以外の劣悪種共の手に渡ればまた厄介事の種になりかねない) (ならば回収必須)(だが如何する?)(さすがに今のティアの状況ではあの男の腕は掴めまい) (僕の“手”も塞がっている――ならば)
極限且つ刹那の瞬間に解を叩きだしたミトスは 男の傍まで一挙に飛行を加速し、言葉を紡ぐ。
「――特別だ。今なら神に掴まる許可をくれてやろう」
打算が絡んだとはいえ、甘くなったものだと、僅かに自嘲する。 救いの手を差し伸べてやる程の慈悲は、きっと生前は無かった筈だ。 …念の為言っておくが、昔から“手”以外なら差し伸べて来たという戯言では無いぞ。
「――未だ死にたくないなら、この“足”を掴め」
そう言い、差し出された“足”に、男は迷う事無く唸りながら手を伸ばし、 (省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 155 :エンドロールは流れない -混沌と英雄達の輪舞曲-3 :2017/11/16(木) 13:43:50 ID:XoqtS/Ro0
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『イクティノス、大丈夫かい?』 『ああ…残念ながらミクトランも、だがな』
今現在ミトスの手に握られているシャルティエは、 イクティノスと会話してその位置を割り出しつつ、よくもまああの状況下で カイルとヴェイグの両方を救えたものだと感心していた。確かにアッシュを救えなかったのは 残念ではあったが、正直あの傷では塔の崩落が無かったとしても間に合わなかったであろう。 取り乱すカイルや、精神力枯渇で半ば放心状態のヴェイグが気掛かりではあったが、 先ず1番気になる点を質問した。
『今ミクトランは?』 『俺の力を使い辛くも脱出した。重傷だが未だ――』 『――儂の声が聞こえるかの?』
そんなイクティノスとの会話に、突如音声が割って入る。 聞き間違える筈が無い。その声の主は―――。
『クレメンテ老!?』 『クレメンテ!?』 『イクティノス、シャルティエ……久し振りじゃのう。こっちにはアトワイトとディムロスもおるよ』
突然のクレメンテからの連絡に僕達は驚いたが、それ以上に ここにアトワイトとディムロス――ベルセリオス以外の全てのソーディアンが揃った事に驚いた。 塔の崩落と同時の邂逅――こんな偶然が起こり得るのだろうか?
『クレメンテ老は今誰と―――』 『イクティノス?如何した?』
イクティノスが何かを訊ねようとした瞬間、突如音声が途絶え、 (省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 156 :エンドロールは流れない -混沌と英雄達の輪舞曲-4 :2017/11/16(木) 13:44:46 ID:XoqtS/Ro0
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やはり馬鹿は頭が軽いからか、よく飛ぶ―――。 瓦礫に猛烈な速度で叩きつけられたカイルを冷めた目で眺めつつ、ミトスは殴った方の手をひらひらさせた。 ティアとシャルティエから驚きの声や批判の声が飛ぶが知った事では無い。 あくまで“プレセアとの約束”通り全力で殴ってやっただけだ。 それでも拳をあえて振り抜かず、直撃と同時に止めるという 天使の慈悲付きと来たのだ。寧ろ有り難いと思えとミトスは思う。
「…殴ったな?父さんにも殴られたことないのに…!」
そんなミトスの心境など知る由も無く、ティアの手を借り鼻血を拭いつつ立ち上がり 睨みつけて来たが、ミトスにとっては欠片も恐怖も威圧感も覚える物では無い。
「――だったら如何する?リアラの英雄でも辞めるつもりか?」
“リアラ”肩を竦めつつ紡がれた言葉に、カイルの表情がハッとなる。 ――そうだ。俺は決めたんだ。今度こそ、今度こそリアラを守ると―――。
「………辞める訳無いだろ。今度こそ、俺が…俺が必ずリアラを守ると誓ったんだから」 「――なら、いい加減その耳障りな餓鬼の癇癪を止めろ」
未だ何も終わっていないのだ。ミクトランも生きている。砲撃の意図が何処にあるにせよ、 南西の方でも事態は急転しつつある事を、時折感じる魔力の余波から察する事が出来る。 そして塔の周りにも、崩落や轟音に紛れて近づいて来る者、戦いとなる音も天使の聴覚に届いて来る。 エンドロールは流れない。寧ろ此処からが悲劇の始まりだと道化は哂う。
「お前達をハロルド=ベルセリオスとルーク=フォン=ファブレの元に連れて行く。だがその前に――」
そう言うとミトスはシャルティエを手に、翼を煌めかせ宙を舞う。 何も事情を知らぬ者が見れば、その神々しいまでの姿に目を奪われていたか、 (省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 157 :エンドロールは流れない -混沌と英雄達の輪舞曲-5 :2017/11/16(木) 13:45:28 ID:XoqtS/Ro0
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(…結局伝え損ねたけど、まあ仕方無いか)
ミトスをイクティノスの反応が在る場所に案内しつつ、シャルティエは思う。 カイルがあのまま落ち着かなければ是が非でも伝えていただろうが、 あの場でリアラの存在を伝えていれば、間違い無くミトスの指示を無視して 探しに飛び出していた未来は想像に難くない。尤も、リアラの存在に気付かなくても あのカイルが大人しく待っているとは思えないのだが…。
「…おい劣悪種、何時まで呆けている。お前はあの馬鹿の傍にいて勝手な真似をしないか見張っていろ」 『……………………はい、分かり、ました』
如何やらミトスも同じ事を考えていたらしい。プレセアにどうやってかは分からないが 指示を出している声が聞こえる(恐らく自分達の様な遠距離回線とは思うが) それに応えるプレセアの声には涙が混じっているようだが、それに対して幽霊でも涙が出るものなのかと 場違いな感想を抱く自分の神経はきっと恐らくまともではない。先程のクレメンテの会話で得られた情報、 その後に起こったリアラやディムロスの離脱、アトワイトの置かれた状況、スタンとイレーヌの凶行、 そしてロニにより奪われたクレメンテ――事態は余りに悪い方向に加速しつつあるにも拘らずだ。 だが今此処で取り乱したり不安に駆られても始まらないのだ。今はとにかく、イクティノスの居場所を特定し ミクトランを討たねばならない………だけど。
(イクティノスの話を信じるなら重傷を負っているらしいけど…それでも討てるのか?)
相手はかつて天地戦争時代、開発がギリギリでソーディアンによる実戦が少なかったとはいえ、 オリジナル達がソーディアン6体を用いて挑み、それでも互角の戦いだったミクトランなのだ。 しかもカーレルが刺し違える形で落命するという多大な犠牲を払った上でだ。 この目でミトスの戦いを目にしていない以上、討ちとれるかどうか正直不安が―――。
(…ッ!?な、何だこの力の反応は……ッ!?)
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 158 :エンドロールは流れない -混沌と英雄達の輪舞曲-6 :2017/11/16(木) 13:46:09 ID:XoqtS/Ro0
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天使として4000年以上の年月を過ごしたミトスにとって、時間の経過は常人とは大きくかけ離れている。 既に殆どの事象を経験し、知っている以上、既に知り尽くした内容など脳が不要な情報として排除してしまうからだ。 故に驚きという物が殆ど無い筈のミトスが目を瞠ったのは、それが余りにも非常識な光景過ぎたからと言える。
(…タイダルウェーブ――いや、最早“海”を具象化するなど次元が明らかに違う…)
そもそも水属性の筈の海から感じるのが“光”という時点で、余りにも異質。 術の威力と言い、属性と言い。一体誰が何をしたのか…――――。 僅かながら思考に耽った次の瞬間――突如銃声が鳴り響き、超音速で銃弾がミトス目掛けて襲い掛かった。 時間にして1秒にすら満たない中で、ミトスは己が失策に舌打ちし、咄嗟に回避、或いは銃弾を剣で弾く。
…この時点でミトス達には誤算が3つあった。1つはミクトランが未だにイクティノスを所持していると思い込んでいた事。 サックに入れられるとソーディアン同士の交信は出来なくなるが、居場所の特定自体は可能であった。 それ故にミトスはシャルティエを用いて追い詰めようとしたのだが、ミクトランは既に予想済み…というより 過去にソーディアンに宿っていた時に体感済みだった。だからあえてイクティノスをサックごと置き捨てた。
2つ、ミクトランが攻撃に用いたのはデザートイーグル、つまり銃だったこと。 塔崩落の混乱の最中、咄嗟に回収した武器の1つであり、本来ならばミトス相手に通じる物でも無かったが、 今回の状況に限っては最も適切な攻撃と言えた。これが術ならば発動前に魔力の流れで感知可能であったが、 銃はそこに魔力を込め無ければ物理攻撃でしかない。無論ミトスならば風を切る音、火薬が爆発する音で 気付く事は出来ただろうが、この時南西の海に意識を向け過ぎていた。 それ故に生じたほんの僅かな隙――回避や防御を誘導するように計算されて放たれた4発の弾丸の次、 最後の1発―――狙いを研ぎ澄ませた銃弾の回避と防御が間に合わなかった。 鈍い衝撃と共に左肩を銃弾が貫き、血が吹き出る。無論痛覚はシャットアウトしているため 苦痛は無いのだが、それでも衝撃で身体が僅かに硬直してしまう。
そして最後の誤算――ミクトランが回収出来た武具の中に魔杖ケイオスハートがあったこと。 斬撃、打撃としての質は落ちるが、術の触媒としてはソーディアン以上。それ故にそこから放たれる術は、 先刻までのカオスフレアやアンビバレンスとはまるで比較にならない威力―――。 (省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 159 :エンドロールは流れない -混沌と英雄達の輪舞曲-7 :2017/11/16(木) 13:49:12 ID:XoqtS/Ro0
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「なッ!?何だ今のはッ!?」
その閃光と轟音はカイル達にも十分過ぎる程認識出来た。 何が起きたか確かめるべく、手近な瓦礫を足場にして高所へと駆け上がる。 地上よりティアの制止の声が響くが、それに構わず一気に登り切り、そして絶句した。
(なッ、なんだよこれ………ッ!?)
閃光と轟音があったと思わしき場所――それもミトスが飛び去った方角から濛々と煙が上がっていたのもそうだが、 塔が崩落し、瓦礫の山と化した――否、それは山という生易しい表現では無い。トラッシュマウンテンも凄まじかったが、 それを100倍近く酷くしたような光景。若しくは母さん達が話してた第二次天地戦争の時のような惨劇―――。 無論それを実際に目にした事は無いが(第一次天地戦争の時代に飛んだ時も激戦区や砲火の爆心地でも無かった) もし目にしていたら、目の前に広がる光景こそそれに近いのでは?そう思わせるような地獄絵図がそこには広がっていた。
「カイルッ!そこは何時崩れてきても可笑しく無いのよッ!?早く戻りなさいッ!!」
ティアが声を張り上げるが、カイルは一向に降りて来る気配が無い。 それが益々ティアの焦燥を強くする。崩落の危険は確かにあるが、それを言うならこの場所も 全く安全と言う訳では無い。出立前にミトスがある程度の安全を把握、確認はしていったが、 何が引き金で危険地帯に姿を変えるか分からないのだ。だがそれよりも不安なのがカイルの行動である。 ティア自身、先程の閃光と轟音とミトスを結び付けるのは比較的容易な事である。 それ故にミトスの事を良く思っていなくとも、カイルの性格上何が起きたか一人確かめに飛び出しかねないと 予想は出来たし、何より崩落直前、若しくは崩落により塔の周囲にいた他の参加者達が巻き込まれたり、 この場所に近づいて来ている可能性も高いのだ。もし万が一、カイルの想い人のリアラがいたら―――。 その思考が僅かでもあれば、それこそ静止を完全に無視してしまうのは目に見えている。 勿論、その気持ちが分からない程ティアは冷酷では無い。もし自分がカイルの立場で、 この塔の崩落にルークが巻き込まれたと知ったならば、その時に冷静に対処が出来たか疑問が残る。 …いや、もっと言うならば、先程命を落としたのがアッシュで無くてルークだったとしたら、今頃私は――――――。
- 160 :エンドロールは流れない -混沌と英雄達の輪舞曲-8 :2017/11/16(木) 13:52:45 ID:XoqtS/Ro0
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そんな仄暗い思考を遮るかのように、ティアの視界に人影が映り込む。周囲への警戒が薄れていた事に我に返り、 一瞬身構えかけたが、その人影がカイルであったことに安堵の溜息を微かに洩らす。一先ずカイルが飛びだして行かなかった事に ティアは一安心し、次いで余り身勝手な行動は取らないでと窘めかけたその時、カイルの表情の変化に気付いた。
「カイル、如何したの?何か見つけたの?」 「あ、えっと…」 『カイルさんが東の方角の雪原で誰かを発見したみたいなんです』 「東?」 『はい、最初はミトスさんが飛び去った方角を見ていたのですが…』
カイルが質問に答える前に、何時の間にか傍に来ていたプレセアが代わりに答える。 短い時間の中で、とりあえずプレセアの状態は簡単に説明は受けているが…それでもアストラル体というのは 不思議なものである。視認出来る幽霊、と言ってしまえば簡単だが、恐らくそんな単純な話ではあるまい。 もう少し事情を聞いておきたい所だが、先ずは話に集中すべきだとプレセアの言葉に耳を傾ける。 曰く、暫し惨状に茫然としたカイルだったが、すぐ我に返り何が起きたか見渡そうとしたが、少し離れた場所に 瓦礫の山に出来たばかりの巨大な破壊痕を見つけ、ミトスに何か起きた可能性をすぐさま察知したらしい。 必死にその周辺を高所より見渡していたのだが、ミトスやミクトランは勿論、他の参加者も見当たらなかった。 プレセア自身もミトスと交信を試みたのだが、一向に繋がらなかった為、一先ず戻ろうとしたのだが、 その時に偶然東の方角に小さな人影を見かけたとの事らしい。
「うん、多分2人…遠過ぎて男なのか女なのかも分からないけど、1人は間違いなく倒れてるみたいで…」
そこでカイルは言葉を濁したが、その先は容易に想像できる。倒れていると言う事は、間違い無く怪我人か病人――。 最悪の場合は重症、死亡してる恐れもあるということだ。ミトスの安否も、ミクトランの行方も気掛かりだが、 確かにそのような人影を発見してしまえば気になるのも頷ける。先程までのティアの思考通り、 もしその2人の内の1人がリアラであれば…カイルの今の表情にも頷ける話である。だが相手が誰か分からないまま 迂闊に近づき、それが万が一殺し合いに乗った参加者達だった場合を考えると、迂闊に近づく事を勧める事が出来ない。 それに先程の閃光と轟音にミトスが巻き込まれたのでは無く、ミトスがミクトランを仕留めた結果という事もあるのだ。 もし迂闊に動いて行き違いになれば、今度は自分がルークと再会出来る可能性が失われる事にもなりかねない。 (省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 161 :エンドロールは流れない -混沌と英雄達の輪舞曲-9 :2017/11/16(木) 13:53:36 ID:XoqtS/Ro0
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(俺は…如何したら良いんだろう)
だがティアの不安とは裏腹に、カイルは俯いたまま動く気配が無い。 否、実は動けずにいたのだ。ティアの忠告を無視して安易に塔を突き進んだが故に、 ミクトランの罠にかかりティアを危険な目に遭わせた事、自分が上空から降って来る氷の剣に 気付かなかったばかりに、アッシュが自分を庇い貫かれた事。自分が大怪我を負ったが為に、 エリクシールがアッシュでなく自分に使われた事。思い返せばキリが無い程に“自分”の所為で事態が悪化している。 ミトスに対して思う所が無い訳では無いが、元を質せば自分が原因であり、それを転嫁出来るような性格では無い。 故に今ミトスに何かが起きているなら、それを確かめに行きたい、場合によれば助けに向かうべきかと思っていたのは事実であるし、 東の方角に人影を見つけた時も、その内1人が怪我をしている可能性を考えれば――そう、それがリアラやロニ、 ジューダス、父さん達であったら、是が非でも助けに行きたい。仮に違っていたとしても、怪我人は矢張り放っておけない。 ――そう思っても、それがまた事態の悪化を招くのでは?どうしてもその考えに囚われてしまうのである。
(これ以上皆を俺の所為で危険に晒す訳にはいかない…けど…)
時間は刻々と過ぎて行く。こうしている間にも事態は急転しつつある。 早く動かなければ、行動を起こさねば…―――。
(俺は)
それでも動かない。動けない。
(俺は一体)
思考の縛鎖に囚われ、答えが出ない。
(如何したら―――………)
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 162 :エンドロールは流れない -混沌と英雄達の輪舞曲-10 :2017/11/16(木) 14:04:01 ID:XoqtS/Ro0
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――嗚呼、そうだった。立ち止まっていては何も届かないんだ。 その手も、声も、何一つ。届かせる為に俺に出来る事は1つしかない。
「――ありがとう、プレセア。俺、雪原にいた人達の所へ行って来る!」 「ちょッ、カイルッ!?一体何を言っているのッ!?ここを動かないようにと―――」 「…分かってる。俺のせいでティアを危険な目に遭わせてしまったし、アッシュさんを死なせてしまった。 これ以上皆を巻き込まない為にも、本当は動くべきじゃない、此処で待つべきなんだと」
- 163 :エンドロールは流れない -混沌と英雄達の輪舞曲-11 :2017/11/16(木) 14:07:54 ID:XoqtS/Ro0
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ティアの非難に、カイルは静かに言葉を紡ぐ。それらは確かに紛れも無い事実。 でも動かなければ良かったかと言えば誰も分からない。ミクトラン側から仕掛けられ、 今以上の最悪の事態を招いた可能性もあるだろう。勿論それを口にして自分の過ちを正当化するつもりはない。 動いても動かなくても、同じ結末だった可能性もあるのだ。未来なんて神でも無ければ分かりっこない。
「だったら…」 「――でも、それでも…それでも俺は、俺に出来る事をしたい!困ってる人、苦しんでる人達がいるなら助けたいんだ!」
そう、分からないのであれば、自分の意志を、力を信じて行動するしかないのだ。 その先にある希望を信じて、その手を、声を、救いを今度こそ届ける為に―――。
「だからゴメン…ティアは此処で待っててくれて構わない。これは俺が自分で選んだ道だから…」
そう言い、カイルはティアに背を向け東へと足を向ける。 ティアの言葉が背後から聞こえてくるが、もう殆ど耳に入って来ない。 例え如何なる理由があろうと、それはあくまでカイル自身の意志。 このままいればルークさんと再会出来るであろうティアを巻き込むべきではない。 だから何と言われようと、最早退く事は無い。
「―――――行ってくる!!!」
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 164 :エンドロールは流れない -混沌と英雄達の輪舞曲-12 :2017/11/16(木) 14:08:37 ID:XoqtS/Ro0
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「…え、えっと……その………」
先程までのカイルの威勢は何処へやら…そんな何とも微妙な空気の中、 ティアは思わず嘆息した。如何やらティアに指摘されるまで本気でその事を失念していたらしい。 ルークも思慮が浅い所があったが、カイルは余裕でそれを超えている気がする。 ティアが知る由も無いが、つい先刻までカイルはシャルティエを使用してヒールを使っていた訳なので 多少は勘違いしても無理からぬ部分はあるのだが、何れにせよ今のカイルに回復手段は無い…というか武器すら持っていない。 これで東にいるのが殺し合いに乗った相手だったら如何するつもりだったのか……頭痛薬が欲しくなる程頭が痛くなる。
一方のカイルは恥ずかしさ故か顔を赤くして視線を逸らして頭を掻いている。 威勢良く飛び出しておいて、指摘されるまで無手無策で飛び出しかけたのだから当然と言えば当然である。 それでもティアの指摘で我に返れただけでも御の字と思った方が良いかもしれないが。 だが一方で困った事になったとも思う。今この場で回復手段があるのはティアだけなのだ。 ティアの立場を考えると付いて来てとも言い難いし、かといって東にいる怪我人――かどうかはまだ不明だが 連れて再び此処に戻って来るという手段で果たして間に合うかどうか…。
「…分かったわ。私も一緒に行くわ」 「え?……………良いの?」 「…このままあなた1人行かせる方が余程心配だから」
この返答が予想外だったのか、驚きの表情を浮かべて此方を見るカイルに 内心ティアは苦笑した。無論つい先程までのティアならば、このような選択はしなかったであろう。 無論これにはティアの計算もある。ミトスの言を信じるならば、東にいるのはルークで無い事になるが、 確証がある訳でもないし、ルークでなくとも大佐がいる可能性もある。この極限の状況下で再会出来れば これ程心強いものもあるまい。また、先程の轟音がもしミトスがミクトランに敗れたものだとしたら、 この場に留まる事で再びミクトランと再戦する羽目に陥りかねない。そうなれば今度こそ命は無いだろう。 その意味では、一旦この場から離れると言うのは決して愚策ではない。
「…ティア、ありがとう!」 (省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 165 :エンドロールは流れない -混沌と英雄達の輪舞曲-13 :2017/11/16(木) 14:09:23 ID:XoqtS/Ro0
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「ヴェイグさんが持っている武器、1つ借してもらえませんか?」
ティアの元を離れ、ヴェイグの元へカイルが来たのは、今口にした理由だった。 シャルティエをミトスに渡した(というか奪われたに等しいけど)以上、今のカイルに 武器と呼べるものが無い。勿論ヴェイグにも可能ならば共に来て欲しかったが 誰がどう見ても今のヴェイグには休息が必要だった。それ故に今この場で借りる必要があった。
「…氷の銃以外ならどれを持って行っても構わない…好きに持って行くと良い…」
荒い息をしながらヴェイグはサックをカイルに投げる。 <氷の銃>――アッシュを死に至らしめた武具に、一瞬カイルは顔を歪ませたが すぐに表情を戻しヴェイグにお礼を言うと、サックの中身を確認し、やがて大きな剣を1つ取り出した。 闇属性の大剣のソウルイーターはカイルには少々大きいが、この状況下では贅沢は言ってられない。
「ありがとうございます。これ、お借りします。向こうにいる人達を助けたら必ず返しにいくから」 「…別に返す必要は無い。ただ、その代わりでは無いが…もし向こうにいる者達が回復薬を持っているなら、 それを持って来てもらえないか…?」
ヴェイグのフォルス能力は、体力と精神力を支柱としている。 それが回復しない限り、感知はおろか戦闘でも多大な支障が生じる。無論この状況下で 回復薬を易々と譲ってくれるとは思えないが、僅かでも可能性があるなら頼んでおくに越した事はない。
「分かった。もし貰えたら必ず届けるよ。プレセアは…どうする?」 『私は…ここに残ります。今ヴェイグさんは動けませんから、私が周囲を見張っています』
カイルの見張りを言い付けられてはいるが、今のこの状況下で最早実行しようとは思っていない。 それならばせめてカイルの傍にいるべきだろうが、そうなると1人残されるヴェイグが気掛かりだ。 それに、ヴェイグにはまだ伝えるべき事が残っている。ならば見張りも兼ねて残るべきだろう。 …ミトスが戻って来たら、さぞ怒るだろうが、その時はその時だろう。 (省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 166 :エンドロールは流れない -混沌と英雄達の輪舞曲-14 :2017/11/16(木) 14:10:08 ID:XoqtS/Ro0
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『――しっかりするんだ!ミトス!!!』
…五月蠅い。瓦礫に仰向けに倒れたままミトスは僅かに苛立ちの念を覚える。 確かに物の見事に御大層な一撃を被ってしまったが、あくまで回避が間に合わなかっただけで 防御自体は余裕で間に合っている。シャルティエが危惧する程ダメージはそこまで深刻では無い。
「少し黙ってろ。集中出来ないし、耳障りだ」
ミトスはそう言い放つと、身体を起こし、意識を研ぎ澄ませる。 どうやら今のところ周囲に人の気配は無い。奇襲の後、深追いを避けたか それとも…―――何れにせよ今のところ危険は無いか。 そう判断すると、ミトスは次に素早く自分の身体を診断する。 とりあえず魔術による火傷裂傷及び吹き飛ばされ、瓦礫に叩きつけられた打撲は それなりではあるが戦闘に支障は無い。問題は銃弾を受けた左肩か。 骨がやられたらしく、上手く動かせそうに無い。
(少しばかり戦闘に支障が出そうだね。まあこの程度のハンデならどうとでもなるか)
そう結論付けると、ミトスはシャルティエにイクティノスの位置を再び探らせた。 無論ミクトランがイクティノスを回収していなければ動きは無いだろうが…。
『…ゆっくりとだけど西に移動してるね。多分―――』 「――ミクトラン、か」
シャルティエの言葉を遮り、ミトスは呟く。勿論ミクトラン以外の誰かの手に イクティノスが渡った可能性もあるが、さすがにそんな馬鹿な失態は起こすまい。 無論、向こうもあの一撃で死んだとは楽観していないだろうし、イクティノスを手にした事で 再び此方に探知されるのは承知の上だろうが、それでもこうして動きだした事を見ても ある程度の勝算や目的があると見ていいだろう。 (省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 167 :名無しさん :2017/11/16(木) 14:10:44 ID:XoqtS/Ro0
- 投下終了します
- 168 :名無しさん :2017/11/27(月) 11:21:23 ID:3Yadmbz20
- 短いですが投下させて頂きます
- 169 :エンドロールは流れない【第三章・愛をその手に】 -Run through- 1 :2017/11/27(月) 11:22:27 ID:3Yadmbz20
- 晶霊砲による黎明の塔の崩壊。
バトルロワイヤル開幕以降最大の事件により 嘗て無い乱戦、激戦が繰り広げられる中 その激震地から離れるように東に走る男女がいた。 男――少年の名はカイル=デュナミス。女の名はティア=グランツ。 目的は避難で無く、先刻偶然カイルが東の雪原で見かけた2人の救助。 尤も、その2人がカイルとティアの知人なのか、赤の他人かは分からない。 味方かもしれない、敵なのかもしれない。それでもカイルとティアは、 自身の出来る事を信じて東へと走る。
「この丘を登った先ね?」 「ああ、間違い無いよ!」
少し小高い雪丘を2人は登る。そしてついに2人は目的の人物を見つけた。 如何やら2人の知人では無いようだが、1人―カイルと年の近い少年はやはり怪我人。それも意識不明の重体のようだ。 もう1人―此方は青年で、同じく重傷は負っているが、怪我を押して少年を治癒術で回復している。 だが治癒術をかけつつも片手は斧をカイル達に向けて構え、鋭い眼光を向けている。 この状況下で敵に襲われればひとたまりも無いのは一目了然。それ故にその態度は無理も無いと言える。 カイルは手にしていたソウルイーターを近くの雪原に投げると、青年に話しかけた。
「俺達は敵じゃ無いです。塔から貴方達がいるのを見かけて助けに来たんです」 「……………………」
カイルの言葉にも青年は回復の手を緩めず、また返答する事無く鋭い視線を向けたままだ。 それでも構う事無くカイルは青年達の傍に近づく。
ヒュン
次の瞬間、空を裂くようにカイルの首元に斧が突きつけられる。ティアが慌てて身構えそうになるが、それを片手で制する。 少し力を込めれば、その細首など容易く刎ね飛びそうな状況でも、カイルは動じることなく語りかける。 (省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 170 :エンドロールは流れない【第三章・愛をその手に】 -Run through- 2 :2017/11/27(月) 11:23:11 ID:3Yadmbz20
-
(此処は………僕は一体………?) 「―――気が付いたか、エミル」
意識を取り戻したエミルの視界に入ったのは、 安堵の表情を浮かべるリヒターと、見知らぬ男女2人。 それでもその表情には同じく安堵の色が窺えた。
「リ、ヒター…さん?僕は………ッ、く、うう…!」 「あ、まだ動かない方が良いよ!」 「私とリヒターの回復術で一命は取り留めたけど、重傷には変わりないわ。今は未だ動かないで」
身体を起こそうとして走った激痛に顔を顰めたエミルに、男女が言葉を掛ける。 回復術――そういえば僕は如何してこんな重傷を負っているのか。
「…デクスの秘奥義の直撃を受け意識を失ったお前達の回復をしていた時に、丁度この2人が来てくれて 回復の手伝いをしてくれたのだ」 「そう、だったんだ………助けてくれて本当にありがとうございます………」 「気にしないで。私達は出来る事をしたまでよ」 「それでも、助力が無ければエミルは助けられなかっただろう…私からもまた礼を言わせて欲しい」
事実、助力が無ければエミルは助からなかったに違いない。 それ程までにデクスの秘奥義は余りに強力過ぎた。無論助かったとはいえ、 (省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 171 :エンドロールは流れない【第三章・愛をその手に】 -Run through- 3 :2017/11/27(月) 11:26:08 ID:3Yadmbz20
-
告げられた事実の重さに、エミルは自分の世界が崩れるような感覚を覚えた。 それが意味する事実――それはこのカイルの母を、自分の所為で死なせてしまったという事。 仲間を、友を失うよりも遥かに重く深い心の傷を負わせてしまったという事だ。
「…エミル?如何したの?」
カイルの言葉にもエミルは茫然としたまま座り込んでいる。 リヒターは予期せぬ邂逅と事実に内心舌打ちをしながらも、気になった事を問い質す。
「カイル。お前の両親がスタンとルーティという事だが…それは事実か?」 「うん。と言っても俺は父さん達のいた時代から18年後の世界から来たんだ」
スタンにせよルーティにせよ、20代前半か10代後半だ。このカイルが10代後半位ならば、 年齢の辻褄が合わない。そう思ったのだが、カイルの回答により一瞬で辻褄が合ってしまった。 無論未来からなど突拍子も無い言葉、以前のリヒターならば一蹴していたかもしれないが、 死んで間もない人間のアリス、デクス所か、ミトス=ユグドラシルまで蘇り、 且つ此処に呼ばれている時点で十二分にあり得る事である。だがそれはそれで不味いとも思う。 この状況下で事実を知ったエミルが取る手が容易に想像出来たからだ。
「エミル!?まだ動いちゃ――」 「…行かなくちゃ、いけないんです」
事実、カイルの言葉に首を振り、エミルは痛みを堪えて立ち上がっていた。 (省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 172 :エンドロールは流れない【第三章・愛をその手に】 -Run through- 4 :2017/11/27(月) 11:26:43 ID:3Yadmbz20
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「…状況が状況だ。此方が危険と判断したら力付くでも撤退させる。それだけは覚えておけ」 「…はい!ありがとうございます、リヒターさん!」
後は急ぎデクスを追跡してスタン達を助けるだけ―――。 その時、カイルがふと何かを思い出し、エミル達に訊ねた。
「あ、そうだ。これは出来ればで良いんだけど…グミとか回復薬って余って無いかな? 塔の近くで仲間が弱ってるから、回復させてあげたいんだ」 「うん、勿論だよ」
勿論この状況下だから無理ならそれでも大丈夫と付け加えたカイルに対して、 エミルは快諾する。正直余ってるというには程遠い状況であり、リヒターはきっと 内心温存させておきたいだろうが、命の恩人でもあるし、カイルの仲間というならばきっと信頼出来る筈だ。 そう判断し、パイングミをカイルに手渡す。カイルは礼を言って受け取ると、それをティアに渡した。
「ティア、悪いんだけどこれをヴェイグさんに届けてもらえないかな?」 「…私も行かなくて大丈夫なの?」 「うん、エミルは助けられたし、こうして回復薬も手に入った。ティアが付いて来てくれたお陰だよ」
カイルも2人の止血処置をきちんと行い、応急手当は行ったが、 やはりティアの治癒術の存在が大きかったのは言うまでも無い。 仮に自分1人だけでは、先程のアッシュの二の舞になっていても可笑しく無かったのだから。
「でもこれ以上俺と一緒に来たら、今度こそ戻れないかもしれない。折角ルークさんと再会出来るチャンスを 俺の所為で失わせたくない」
そのデクスがどんな化物かは実物を目にしていない以上分からないが、 この2人をここまで負傷させる程である。ティアの助力があれば本当は心強い所だが、 此処に来るまでに無理を言って付き合わせてしまったのだ。ヴェイグの依頼品を (省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 173 :名無しさん :2017/11/27(月) 11:27:16 ID:3Yadmbz20
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