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【第1回放送〜】平成漫画バトル・ロワイヤル【part.2】

1名無しさん:2024/09/15(日) 12:46:35 ID:/Z9m.dHw0
─────学校をズル休みした日の朝食は、別世界の味がした。
アーサー・C・クラーク(幼年期の終わり)


※当ロワは『読んで楽しむ型のロワ』です!!テンプレ改善につき立て直しました。

※このロワは非リレーなのをいいことにやりたい放題メッチャクチャ自由に書きます。そのため、粗へのご指摘・突っ込みは重要なご意見として歓迎します。アンチコメントも大歓迎!!! (…ライン越えしない限り)要望スレへの報告はしないので遠慮なくでお書きください!!
※勿論感想も大歓迎です!!要望があれば挿絵も描くので、描いてほしい回があったら気兼ねなくお願いします!

[@wiki]
ttps://w.atwiki.jp/heiseirowa/pages/85.html

[参加者名簿]
6/6【ヒナまつり】
 〇ヒナ/〇新田義史/〇三嶋瞳/〇アンズ/〇新庄マミ/〇殺人ニワトリ

6/6【私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!】
 〇小宮山琴美/〇根元陽菜/〇田村ゆり/〇吉田茉咲/〇うっちー/〇美馬サチ

5/5【かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜】
 〇四宮かぐや/〇白銀御行/〇藤原千花/〇早坂愛/〇伊井野ミコ

5/5【中間管理録トネガワ】
 〇利根川幸雄/〇兵藤和尊/〇黒崎義裕/〇佐衛門三郎二朗/〇堂下浩次

3/4【古見さんは、コミュ症です。】
 〇古見硝子/●只野仁人/〇長名なじみ/〇山井恋

4/4【だがしかし】
 〇枝垂ほたる/〇遠藤サヤ/〇尾張ハジメ/〇鹿田ヨウ

4/4【ダンジョン飯】
 〇ライオス・トーデン/〇マルシル・ドナトー/〇チルチャック・ティムズ/〇センシ

4/4【HI SCORE GIRL】
 〇矢口ハルオ/〇大野晶/〇日高小春/〇ガイル

4/4【干物妹!うまるちゃん】
 〇うまるちゃん/〇土間タイヘイ/〇海老名菜々/〇本場切絵

3/4【ミスミソウ】
 〇野咲春花/〇相場晄/●小黒妙子/〇池川努

3/3【悪魔のメムメムちゃん】
 〇メムメム/〇小日向ひょう太/〇オルル・ルーヴィンス

3/3【空が灰色だから】
 〇璃瑚奈/〇来生/〇佐野

2/3【闇金ウシジマくん】
 ●丑嶋馨/〇肉蝮/〇鰐戸三蔵
以下省略
htps://w.atwiki.jp/heiseirowa/pages/11.html

67/70

[元ネタ『ステマ棚』]
…ステマ棚とは。
2015年頃、『なんでも実況J』の漫画スレで貼られるようになった棚。
なんjで話題になった(ステマされた)漫画ばかりをコレクターした棚になっている。
平成最末期になり更新が途絶えたため、今見れば絶妙に古くエモい漫画ばかりとなっており、そのことが当ロワタイトルの『平成漫画』の由来となっている。
ttps://img.atwiki.jp/heiseirowa/attach/1/97/sutema1.png
ttps://img.atwiki.jp/heiseirowa/attach/1/98/sutema2.png

企画を始めるにあたって実際に6万かけて全冊読んでみたが、…まぁ、『ヒナまつり』と『目玉焼き』は特に掘り出し物であった。
とどのつまり、参戦作全てが「○○(タイトル) なんj」でググれば把握できるので、比較的入門は楽なロワだと思います!!

2次回 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/15(日) 12:47:51 ID:/Z9m.dHw0
 ”空が灰色だから────、”

 ”手をつないで飛び降りよう。”


────『死にたくなるくらいしょうもなくて死ぬほど死にたくないバトロワ』

3名無しさん:2024/09/15(日) 14:16:55 ID:2r2ZMHDo0
乙!
連載読み物として楽しみにしてます

4 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/15(日) 19:18:15 ID:/Z9m.dHw0
>>3
ありがとうございます!
可能な限りご期待に応えれるよう書くので、読んで頂けたら幸いです!

5『死にたくry』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/15(日) 19:18:50 ID:/Z9m.dHw0
『死にたくなるくらいしょうもなくて死ぬほど死にたくないバトロワ』

[登場人物]  [[本場切絵]]、[[折口夏菜]]、[[チルチャック・ティムズ]]、[[璃瑚奈]]

6『死にたくry』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/15(日) 19:19:19 ID:/Z9m.dHw0
 AM.1:00。
少女二人が、閑古鳥鳴く深夜の街を練り歩く。
互いにシャワー後である為、火照る肌がツルンと潤しい。
この辺りは都内屈指の光輝街・渋谷といえど比較的暗くどんよりした街裏。
故に、パッと見は小学生の姉妹にしか見えない彼女らが、この時間帯にこの街を歩くとなれば、別の意味で危ないことだろう。
もっとも、今は殺し合い中で、そんなアブないおじさんは町中どこにもいないのだが。
…多分。


「夏菜師匠…、私…臭く…ないですよね?」


「ん? うん。まあ〜、あれだけ洗ったし。ヘドロ臭さはないよ〜?──」

「──…切絵おねいちゃん、カナはニオい取れてるよね……────、」


(──あっ!!! しまった〜!! そんなこと言ったら………!!!)



「…ふへへ……、ふひっ………!」



「ヒッ!!!!」
(や、やっぱり!! 『じらい』踏んだっ!!!)


「…そんなに気になるなら……今私が嗅いであげますよっーー!!!! 夏菜師匠の柔肌の匂いーーー!!! 夏菜師匠の乾かしたてのフワフワ髪ーー!!! ミルキーさ薫る全身……、チェックしてあげますからねーー〜〜っっ!!!!!!」


 スリスリ、
 スリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリ────────────────ッ


「ぐへえ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!!! 高速頬ずりぃ〜〜〜〜〜〜っっ」


 鼻息を荒くしながら、幼女へ頬ずりする看護婦──本場切絵は、『看護婦』と呼ぶにはかなり幼い見た目の女子生徒だ。
切絵が何故ナース服を着てるかというと、更衣室にこれ一着しかなかったから、それだけである。
汚水でうっかり制服も汚してしまい、何を着るか困り果てた矢先、見つかったこれ。
小柄な切絵にもフィットするサイズであることから、女児向けコスプレ用の服と推察できるが、それにしてもスカートの丈がやたら短く素肌はスースー露わになる。

そんな彼女にもにゅもにゅ抱き着かれる幼子──折口夏菜はさっそう白目状態。
別に、切絵の力が強すぎて悶苦しているわけではない。
単純な話、ナース姉の愛着ぶりが気持ち悪いだけだ。


「はぁ、はぁ…。…んんっ〜〜〜〜…! 可愛いですよぉ…夏菜師匠〜!! …失礼ながらこのカワイさ……、こまる師匠に匹敵しますよォーー!! うまるさァーーん!!」

「おまえが埋まれっ!!!」




……
と、そんな感じで犯罪ラインをギリギリ超えかけつつ歩く二人組。
切絵はともかく、被害者の幼女にとっては、言わば『赤ドラ』。
──切りたくても切れないそいつとタッグで心底疲労していた。


「はぁ〜あ……。パパ、ママ、…マイク……、助けに来てよォ……」

「…ハハ。夏菜師匠…、月が綺麗ですねー」

「あ? なんか言った?」

「あい・らう゛・ゆー…っ! ほんと、月が綺麗です! ねっ! 夏菜師匠…! ん〜〜っ!!」


促されるまま、夏菜は真上の星空を眺めてみた。
──もっとも視線を反らした瞬間、抱き着きキスしてくるのも要警戒しながらであるが。

7『死にたくry』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/15(日) 19:19:37 ID:/Z9m.dHw0
「そんなゆうほどキレイじゃないじゃん。欠けてるしっ」

「もう〜〜!!! 夏菜師匠ってばぁ〜〜! 夏目漱石の訳で月はきれい=あなたが好きって意味なんですよー! 月なんかどうでもいんです〜〜っ!!!」

「カナしらんがなっ!! って、あっ──────、」


「ほ〜〜んと、ちっちゃい子は可愛いなぁ〜……。人類全員幼児なら…、ひ、人と話すの苦手な私でも快適なのに……。…そう思いませ──」



…切絵が見上げるよう言わなければ、夏菜が『それ』を見つけることはなかっただろう。


「────あっ!!!! 夏菜師匠っ??!!」


電気暗転し雑居ビルの屋上にて、『そいつ』が視界に入った夏菜は、慌荒した表情に変わったかと思いきや、
────いち目散にビルへ向かって走り出した!


「ま、まま、待ってくださいよっ!!! 夏菜師匠ーー!!! どうしたんですかァーー!!!」


これまでの流れからして、さすがの切絵でも「自分から逃れるため」かと思ったが、そうではない。
屋上のフェンス際にて、風に吹かれゆらつく『そいつ』──。
眼下のアスファルトを呆然と眺める『人影』を見て、夏菜は一心に駆られたのだ。


「はぁ、はぁ……切絵おねいちゃん────っ!!!! 急いで!!! 早くっ!!!」

「え?? えー??? か、夏菜師匠?!」


「早くしないとあの人────、飛びおりちゃうよっ!!!!」

「へ?? あ、あの人???? ま、待ってください!!!」



 小麦色の太ももで、揺れるスカートに構わず走る夏菜。そして、追いかけるナース。
わけも分からないまま、切絵は雑居ビル内へと入っていった……。

8『死にたくry』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/15(日) 19:19:55 ID:/Z9m.dHw0




 十数分前。
パッと見は小学生──チルチャック・ティムズのスタート地点は屋上だった。


「ライオスに、マルシルにセンシ……。おい…、一人でも欠けたらやべぇじゃんかよぉ」


 んぐ、んぐっ


「…ぷはぁー……。おいおい頼むぜぇ…? ──特にマルシル…! 俺らン中で真っ先に死ぬの間違いなくお前だからなぁ?」


 あんぐ、もぐもぐ…

  くいっ、んぐっ、んぐ…


「つか、クソ不味ぃなぁ!? このエール!! 全然冷えてねぇし肉と全く合わねぇ!!」


 瓶ビールをついで、牛皿を口にいれる。
眺めるは、参加者名簿を。──新聞を読むように地下置きでペラリっ。
二十八歳にも関わらず『ハーフフット』という種族の為、容姿はガキそのもののチルチャックは、オヤジさながらの寛ぎをしていた。
泰然自若がモットーの彼は、この有り得ない状況下に置かれようとも、冷静さを保つ。
…頭の中で必死に言い聞かせ、平静を維持していたのだ。

そんなチルチャックの横を、ふと少女が横切る。


「…ったく、現在時刻一時……。今から九時間睡眠しても起きた時にゃあ大遅刻だぜー……。わたしの睡眠どうしてくれんだ無能主催者がっ……」


「…ぁあ……?」


ブツブツと一人、不満を漏らす少女に思わず顔が向く。
大きな黄色リボンを頭に付け、髪はややショート気味。
とにかくどんな事柄にもやる気が出なさそうな、そんな目が特徴の──推定小学生らしき少女だった。
チルチャックが今してるような、けだるい目。
そんな目と不意に合わさった。


「あーー? なんだガキか……。とりあえず、わたしからお先させてもらうぜ……」

「………っ?? 何するか知らんが勝手にしろ」

「んじゃ、さっさと自殺しますかーー」

「おう」


牛玉ねぎをつまむチルチャックを通り過ぎ、少女はフェンスへと向かう。
高い高い壁をどうにかよじ登った後、スタンッと。
遥か下の、真っ暗な地面に向かって飛び降りようとしていた…………。









「って、おいっ?!!!!!!!!!!!」


 ギョッと目が丸くなるチルチャック。
箸を投げ捨てた彼は、大慌てで少女──和田璃瑚菜に向かって急接近するのだった。


「なになになになにっ???!! なにしようとしてんの??!! お前ぇ?!!」

「うおっ! びっくりするじゃねーか!!? ……自殺するに決まってんだろ。4-3-2のジサッツーだぜ。文句あっか」

「大ありだわいっ!! 開幕即決意決めるヤツなんかいねぇよ??!!! 考え直せよっ!!!!」

9『死にたくry』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/15(日) 19:20:13 ID:/Z9m.dHw0
「あーあーうるせぇなーー…。私のボソボソ声に合わせてボリューム小さくしてくれよ。聞こえてっからよー」

「いやさすがに冷静でいられるかァ────────ッ!!!!!!!!」



 フェンス越しに対峙される一対一。
汗を流す両者。
──といっても、ダクダクに慌て汗をかくチルチャックと対象的に、りこなは軽い引き汗なのだが。

人が目の前で死ぬとこなんて見たくないチルチャック。
故に彼はフェンスを強く握りながら、説得を試みたいのだが…。
先に、『説得』に入ったのは自殺予備軍──りこなの方だった。


「…はぁ、ったく。…先天的というべきか。親も教師も友達でさえ、わたしを『常にやる気がない』ように見えるらしく。損ばかりの人生だったぜ…」

「…は?! 実際やる気ねぇだろお前??」

「……まー、その通りだ。すなわち──」


「────わたしはこの『バトル・ロワイアル』にも全くやる気がでない! だから死ぬ。それだけだぜ。じゃ、あばよ」

「いやいやいやいや!!!??? だからちょっと待てつってんだろォーー!!!!! 待て待て待て待て、待てっ!!!!」


 後ろを向いたりこなへ、大慌てでフェンスを揺らさらずを得ない。
よく考えなくても、チルチャックにとってこんな知らない女…、どうなろうが彼の人生に何の影響もなく、止めに入る必要性などありゃしない。
ただ。
三人の我が娘と、りこなで重なり合う物があるのだろう。
自分の娘くらいの歳である少女の自死となれば、おのずと止めに入らずいられない。
その為、血気果敢に声を荒げるチルチャックであったのだが………、


「し、死ぬなって!!! 現実を見ろよガキ!!!! 生きてりゃいいこと沢山あんだよ??!!! おい!!!!」

「…あー? ………現実を、見ろ…………? 生きてりゃいいこと、ある………………?」

「…あぁそうさ!!!! 死ぬなんてバカのやることだぜ…!!! だからよ──…、」

「はい、スリーアウト。チェーンジだぜ」


「………は?!!!」

「『現実を見ろ』…『生きてりゃいいことある』…『死ぬことはバカのやること』……。薄っぺらい三大屁理屈にこりゃお笑い草だぜ……」


 フフッ、と鼻笑いが癇に障る。
りこなは矢継ぎ早、口を開いた。


「いいか? 自分で言うのもあれだけどよ、この何十人もいる参加者の中で一番現実を見据えているのは…わたしなんだよ」

「自殺って一番現実逃避じゃねぇかよっ!!」

「……まぁー………聞け」

「あぁ??!!!」


「あん時、バスん中でお前は隣に誰が座ってたか覚えてっかよー?」

「…………は?? …ハゲメガネのオッサンだけどよ……それが何の関係あんだよっ!!!!!?」

「ほーほー。そいつァ恵まれたモンだぜ……。恵まれていて、そして呆れるな。おいー?」

「何が言いたいんだよっ??!!」


「いいか? わたしの隣に座ってたヤツはよー……」




……

あのときのバスの話だぜ。


──殺し合い……。ヒヒッ!! 殺しまくって、皆殺しにして………。

 『…あー?』

10『死にたくry』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/15(日) 19:20:30 ID:/Z9m.dHw0
ブツブツ何か独り言をぼやく隣客は大男だった。
熱ぃ中だっつーのに、フード付きジャンパーで厚着だ。
顔は隠れて、見えなかったが…、歯がすげーギザギザなのははっきりしてたぜ。
そいつの独り言…必然的に聞いちまうわけだが……、耳を疑ったよ。


──男はブチ殺して、チンポコを耳塚ならぬペニ塚でコレクション…!!!

 『……あっ………??!!』

──女は両穴をレイプしまくって俺の子供を作ってやらァ!!

 『……………』


 分かるか?
隣に座ってるヤローは分かりやすく殺し合いに乗ってたんだよ!!
あの時点で…、みんなが利根川ヤローと揉めてる中ニヤニヤしながら殺害宣言をぼやいたんだ!!

──ギヒヒヒッ!! …イプ、イプ………


 『………え?』


──レイプッ、レイプッ、レイプッ、レイプッ、レイプッ、レイプッ、レイプッ、レイプッ、レイプッ、レイプッ、レイプッ、レイプッ、レイプッ、レイプッ、レイプッ、レイプッ、レイプッ、レイプッ、レイプッ、レイプッ!!!!!!

 『ひ、ひぃやぁぁあぁ〜〜〜〜〜……』




あんとき、わたしは存在感を消すことで全神経使ったぜ……。

……




「つまりはだっ!! そんなやつにグチャグチャの色んな意味でメチャクチャにされるくらいなら自分で死んだほうがマシだろーっ?! そうだろーっ!!!」

「な、なな……。いや、よくねぇよ!!!?」

「わたしだって、そら死にたくねーよ!! でもあんな鬼畜に出くわして犯され続けるのと、一瞬の痛みは伴うがそれで楽になれる自殺と、…どっちがいいかって聞かれりゃ後者じゃねーーかぁ!!──」

「──その二択を判断したうえで、最適解を選んだわたし! 一方で起こり得る未来なんか考えもせず日和見主義のお前!──」

「──どっちが『現実を見ているか』明白だろー!! どっちだ?! なぁー、どっちがバカだーー!!!」



「…でっ出会わず生還するって可能性もあんだろっ!!!! 『生きる』って第三選択肢を選べばよっ!!!!?」



「…………………。」


 あっ黙った…。
と、彼女の急な衰弱っぷりにチルチャックは拍子抜けさせられる。
追撃という様に、優しい言葉をりこなへ向けて放つのだった。


「…だから、な? 戻ってこい……。悪ぃこたぁ言わねえからよ」


「…………やだ断る」
「あっ、セリフ間違った。だが断る」


「…チッ!! ぁああ?!!! お前ぇ!!!」


…優しい言葉はあっさり跳ね返されたのだが。
説得はなおも続く模様である。

11『死にたくry』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/15(日) 19:20:47 ID:/Z9m.dHw0
「………お前さっき、『生きてりゃいいことある』っつったよなー」

「…言ったけど、まだ続ける気かよっ?!!!」

「長生きは得だとか……、人生百年時代だとか…………。要するにお前はテレビメディアの陰謀に踊らされて無思考になってるだけだぜ? 気づけよ…!」

「て、てれび…………?? ともかく長生きはいいことじゃねぇかよ!!!!」

「ならば問うぜ。…これはわたしがつい最近ドライブ中に見た光景なんだがー……」

「…またなんか語りだしたしっ!!!!」
 



……

 あの日はすっげぇ炎天下で熱中症アラートの昼下がりだ。
カーエアコンでヒンヤリ貴族だったわたしだが、ンなことはどうでもいい…。
工事中の路肩にて、警備員がフラフラ棒を回してたんだがよ。
その警備員……、哀れなことに七十超えの爺さんが汗だくになってやがったんだ!!

普通なら年金暮らしで悠々自宅に籠もるだろうに、爺さんも色々人生があったんだろな。
何時間も立たされ、車を誘導し…、
暫く経ってから一回りの年下土方から烈火の如くキレられても………「すみませんすみません」としか言えず……。
全ては、安定した給料。
お銭のため、年不相応な仕事をこなしてたんだ。

……



「これはわたしにも言えることだぜ?! ババァになってからシルバー人材でどっかの店に派遣されて、年なもんだから慣れる筈のない作業をミスり続け、怒られる……──」

「──そんな人生をして何が『長生きは良き、生きることは良きかな』だーー?! だったら、若いうちから不摂生なり自殺なりでピリオド打ったほうがマシだろーー!!!」


「…い、いや………、」

「それはまたまた殺し合いにも言えることだぜ!!!? 早いうちからの脱落は、怪我少なく逝けることの裏返しだから死ぬべきなんだよーっ!!!」


「…………………」


 今度言葉がつまったのはチルチャックの方だった。
よく考えればただの屁理屈連発であるのだが、りこなの妙な説得力というか。
間髪入れず発せられる『幸福自殺論』に、凡人であるチルチャックにはもはや甘美な響きさえ感じてしまう。

はぁ、はぁ……。と互いに激論故の体力消耗を見せたが、「もう疲れた」と言わんばかりに行動を移したのは少女・りこな。
僅かばかりの地面を蹴ると、別れも言わず。
そのまま転落へ────…、


「いやだから死ぬなっつぅの!!!!」


 ぐいっ

「ぐへっー!!!!!」


…落ちようものならこれまでの説得は何だったのだと。
チルチャックはりこなの襟袖を力いっぱい引っ張り、万有引力に逆らってみせた。


「さっきからさっきから自分のことばかり……。…お前はわかんねぇだろうがよ、死んだら親が悲しむんだよぉ!!!!! お前だけの命じゃねんだよ」


「………ぐぐぐ…。…そら……悲しむだろうさ…。──つまりは遅れてんだよなぁ〜〜、日本社会はよ!!」

「…はぁっ???!!!!」


「インドでは死は輪廻転生の過程に過ぎず、何百回も転生するわけだから一々悲しまないんだぜ??! それに、キリスト国家では死はむしろ輝かしい物として嘆くべからず、との教訓だ!!!──」

「────ってネットサーフィンしてたら知ったが…」


「…よくわかんねえが、お前ぇ自前の知識じゃないんだなっ!!」

12『死にたくry』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/15(日) 19:21:02 ID:/Z9m.dHw0
「要するに、神が『死はいいよ』つってんのに、下々の人間風情が何故勝手に『死=悪』とするっ??!! 究極の背徳行為じゃねーーか!!! 神の教えについてこいよ仏教国家ジャパニーズ!!!!」


「…あの、…くそっ……。えーと、…か、神なんかいねぇよ!!!」

「…それ禁句だろーが!!!」

「お前ぇが言い返せないからかっ??!!」

「ちげーよ!! …もういいっ、こんな奴と一緒にいられるかっ。わたしは先に死ぬとするぞ」

「死ぬ前提の死亡フラグ立ててんじゃねぇーー!!」


 蝉無き静かな夏の夜。
汗べったべたになりながらチルドレンの口論は止まりを見せなかった。
平行線に次ぐ平行線。
水掛け論がマシに見えるぐらい不毛な戦いだが、かといってチルチャックが言い負かされた場合待っているのは絶望だ。

この議論に決着をつけたい…。

そんな思いで、チルチャックはこれまでの薄っぺらい人生論を一切取り除いた『本音』を吐くこととした。



「…あぁもうっ!!!! 迷惑なんだよっ!!!! アホがっ!!!!」



「……あー………?」


「せっかく酒飲んで……、いい気持ちで一人宴したのに………。うざってぇお前ぇのせいで酔いが最悪なんだよっ!!!!」




「………ぁ…………?」


「だからさっさとこっち来いっつうの!!! 自殺とか見てて気持ち悪ぃんだよっ!!!!!」







「………………………………」


「……結局……、自分主義かよぉーー……」




「あぁっ??!!!!!」


 気持ち悪い、と言われたのが心にクリティカルヒットしたのか。
りこなのその目には、分かりやすく大粒の涙が生成され、
ひぐっ、ひぐと小さい肩を震わす中…そして、



「お前の悪酔い事情とか知るかぁぁーー!!!! うわぁぁあーーんん!!!! 死んでやるよーー!!!!」



結果、事態が余計悪化した。



「ちょ???!!! 待て!!!! 待て!!!!! お、俺が悪かったから待てよっ!!!!」

「うわぁーーん!!! 知るかぁー!!! やっぱ早死は最高だぜおーい!!!」

「頼むから!!! お前は死ぬなって!!!!! おいー!!!!!」

「やめろぉ!!! 離せぇっ!!! 死にたーい…! 死にたぁーーい!!!! 死にたいぃーー!!!!」

13『死にたくry』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/15(日) 19:21:18 ID:/Z9m.dHw0
 もはや、議論、論破、建設的な会話……糞もない。
泣き狂う自殺志願者と、それを力付くで止めるキッズの攻防へと発展したが…、もはや不毛では片付けられない事態。
口から大きく飛び出る舌に、細かな唾液が跳ねる様。…まるで葛飾北斎の『波』が如しだった。

このまま、りこなは望み通り死ぬのか──。
それに反してチルチャックは彼女を救うことはできるのか──。
結末は霧中が如く。予想などできない現状だが……、


ここで一人。──いや二人。

純真な心を持つ【エンジェル】の囁やきが、割とあっさり収束に走らせた。





「カンタンにしぬなんて言わないでよっ!!!!!!」






「「………え?」」




「ちょ……、か、夏奈師匠?! え…?? なに??? この子らは………??」

 屋上出口にて、息を切らす女児とナース。
特に女児の声が、大きく大きく、鋭く発せられた。




「…しんだら……、終わりなんだよ…………?」



「カナのパパの弟も……、一生けん命生きてたけど……、最期は病気になっちゃって……………」



「マイクも、看取った病床でたくさんないた………って言ってた…………。つらいんだよ……」





「「……………」」





「しんだらダメなんだよっ!!!!! う…、うわぁあぁぁん!!!! わぁあんんわぁぁああん!!!!!!!」




 …女児の泣き声と、それをあやす声だけが延々と木霊していく。
チルチャック、りこな共にこの突然の第三者が誰か知らなかった。
知らない上に、いきなり怒られ、泣かれるものだから思考停止に陥ったことだろう。



ただ、天使の涙というのは絶大な効果があった。



「……ったく、しょうがねーなぁ。…そこまでされて、折れないわたしじゃねーぜ…」

「うおっ! あっけな…」

14『死にたくry』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/15(日) 19:21:31 ID:/Z9m.dHw0
 フェンスをよじ登り、こちら側へ戻ってきたりこなは鼻を掻く。
汗を垂らすチルチャックをよそ目に、萌え袖越しでナデナデと。
名前も知らない女児をあやすのだった……。


「うぐっ………ぐずっ……ひっぐ……………」


「ガキンチョ。お前の言葉……、どっかのヤツと違い一発で身に沁みたぜ。すまねぇーな……」

「…お前ぇな…………………」


「ひぐっ…ひぐ…! うへぇん……ひぐっ」


「あーあー!! あ、え、えと………、う、うちの夏菜師匠が………す、すみません…………!!」

「いやいや……、むしろ有り難いもんだぜ……。だから、泣くなよー? …かな…ちゃん……!」

「いやお前ぇが泣くなって言うなよ!!!?!! 元凶じゃねぇかっ?!!! 畜生ォっ!!!」



「うぐっ……、うぐ………。…そうだよね………! しなないで、みんなで協力して助けあわなきゃね!!!──」


「────だって…、この場にいる四人全員たまたまみんな小学生なんだからっ!!!」






「「「……………………………は?」」」



「「「いや、小学生じゃねぇーーわいっ!!!!!!」」」





「……………え?? え〜〜〜〜〜????」




 と、まぁ。
なにはともあれだ。




 カン────。


 ──────│東│東│東│東│




四人グループが、ビル屋上にて結成された。

15『死にたくry』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/15(日) 19:21:44 ID:/Z9m.dHw0
【1日目/G5/雑居ビル/屋上/AM.01:27】
【しぶや防衛隊、ファイアッー】
【チルチャック・ティムズ@ダンジョン飯】
【状態】健康
【装備】???
【道具】牛皿ビールセット@牛丼ガイジ
【思考】基本:【静観】
1:小学生じゃねぇよ!!
2:ライオス一行が心配
3:りこなに憤慨

【璃瑚奈@空が灰色だから】
【状態】健康
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:小学生じゃねーし!!
2:一旦自殺は諦める
3:ガキンチョ一行と行動すっかぁー…

【本場切絵@干物妹!うまるちゃん】
【状態】健康、ナース服@うまるちゃん(3巻だか4巻でサイレントヒル風ゲームやったときのイメージ映像の服)
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【対主催】
1:小学生じゃないですよっ!!
2:夏菜師匠をお守り

【折口夏菜@弟の夫】
【状態】健康
【装備】???
【道具】???(一式ランドセルに梱包)
【思考】基本:【静観】
1:『死』だけは絶対…ダメ!!
2:小学生男児に、リボン小学生、そしておねいちゃんも高学年の小学生じゃあ…?

16次回 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/15(日) 19:25:47 ID:/Z9m.dHw0
 ”金はなぁ…………命より重いんだ!!”

 ”わかるか!1千万は大金!大金なんだ!”


 ”────だが、しかし。”


────『徘徊老人かな?』

17名無しさん:2024/09/15(日) 19:51:19 ID:WIpi0g0s0
乙です
チルチャック以外、三人纏めて一般人一人分の戦闘力さえないと思える頼りなさを感じましたw
彼も不運ですね目撃しなければ生存率が上がったかも知れないのに
璃瑚奈のトークにこれはネガティブになっても仕方ないなと思わせるノリで笑い
夏菜の静止に強迫観念的な切実さを感じそれぞれの個性が楽しめました
せめて貞操が守られる事を祈ります

18 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/16(月) 17:59:06 ID:kOdSzS8M0
>>17
ありがとうございます❗😄😄😄
細かいところまで読み取ってくださって、作者冥利につきます❗
りこなの会話シーンが(自分が空灰好きなこともあり)特に筆が乗ったので、褒めていただけて嬉しいです❗❗
夏菜の貞操…笑。一応チルチャックさんが保護者役なので彼にどうにしかしてもらいたいですね。笑
こぼれ話ですが、チルチャックは最初、だがしかしのココノツか『お取り寄せ王子飯田』の主人公でやるつもりでしたが、パーティ全員子供にした方が面白いかなと思い急遽変えました。(書く直前に見たクレしんのかすかべ防衛隊回に引っ張られた感じです笑)
改めてご感想ありがとうございました!😎

それでは、以下、『徘徊老人かな?』をお送りします!

19『徘徊老人かな?』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/16(月) 17:59:39 ID:kOdSzS8M0
[登場人物]  [[遠藤サヤ]]、[[兵藤和尊]]

20『徘徊老人かな?』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/16(月) 18:00:04 ID:kOdSzS8M0

 ヘビが来るからやめろ、と親に咎められたことがある。




「〜〜〜♪」


 覚えたての口笛でミッキーマースマウチをぴゅ〜たら吹いたあの夜。
当時小学生だったアタシは、ヘビがなにより怖くて昼ですらもぴゅ〜ぴゅ〜〜吹くのをやめてしまった。


──もっとも、表玄関に広がるは田んぼ、裏玄関からは山が立ち塞がるド田舎住みだったもので、妙なリアリティがあったんだけども。




「…これでアタシは闘え、と…? ヨーヨーで?」

 暗い森…いや、山の中で。
古びたベンチに一人座りながら、アタシはヨーヨーをギュルギュル回していた。
バトル・ロワイアルだかなんだか知らないが、どうやらこの玩具が『支給武器』とのこと。


「スケバン刑事かよッ…」


「……………」

「…殺し合いって割とマジな感じでやると思ってたんだけど…、案外ほたるちゃんクオリティなわけ??」


あのグッダグダでボンクラなオープニングセレモニーらしいっちゃらしい、ポンコツ武器とは言えるけど。
念の為、他の人に会うまで緊張感は解かないようにすべきとアタシは考えた。


「〜〜〜〜♪」

…と、思いつつも。
同じく『支給品』であるフエラムネを吹くことはやめられない。
ボンカレーだのオロナミンだのボロボロなポスターが、木造りの塀にビラビラ貼られる昭和の時代から、今でも駄菓子の重鎮として君臨しているこのフエラムネ。
アタシのデイバッグには、そいつが何十パックもぎっしり入っており、あとはおまけの玩具が如く支給武器があるのみだった。
仮に、この殺し合いが『マジ』なやつだったら、アタシは大ハズレ引いちゃってるわけで。
ダークもいいところのお先真っ暗であった。


「〜〜〜♫ …いや、ほんとに真っ暗じゃん…。今いるここも真っ暗過ぎ…」

 目の前の崖からは渋谷というメトロポリスの輝かしい光が映える。
ただ、光と影というか…。
アタシの周りは木々で囲まれてめちゃくちゃ暗い。
『とな□のトトロ』で、夜にバス停で待つシーンがあるんだけど。
あれからトトロと雨とネコバスの登場を省いた場所まんまを移してきたのが、今いるここ。つまりは、ホラーだった。
…そいえば、メイとサツキは死んでる…とかゆう怖い話あったなぁ。


「〜〜♪」

 恐怖を紛らわす為に、アタシはひたすらフエラムネを奏で続ける。
ぶーーんぶーん、と時折耳の近くを通過するベース担当がなんとも煩わしい。
カナブンか、カメムシか、…Gかは知らんけど、ただでさえ露出の多い肩とか脚には止まってほしくないものだ。
…あーー、気持ち悪いっ。
とにかく、今はアタシのソロパートなんだ。
お前ら羽虫は邪魔してくんな、と声を大にしてアタシは言いたい。言いくるめたい。


「〜〜〜♪……」


そして、とにかく今いる暗い山が怖くて仕方なかった。


 …こっえーー。
こんな時に限って、脳内ではどう森の『うたたねのゆめ』が無限リピートしてくる…。
朝、早く来ねーかなぁ。
今の季節からして日の出は四時くらい、か…。
それまでの耐久となると…、まぁ頑張れなくもない気はするけど。

21『徘徊老人かな?』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/16(月) 18:00:36 ID:kOdSzS8M0
「………………てか、今何時か分かんなくない…?」

あいにく時計台らしいもんは見当たらないので、これは随分と精神的長丁場になりそうだった。




「…〜♪」



 夜中に口笛を吹いたらヘビが来る──。

…だなんてのは、さすがに今では迷信だと分かってるし、信じちゃいないが。
調べたところによると、空き巣や泥棒仲間のコミュニケーションの一環で口笛がされるらしく、タブーになるのもそういう理由があるからと知った昨今。
か細い笛の音色が、木々に浸透する夜にて。

後々、アタシはフエラムネを吹いたことを激しく後悔させられることとなる。



ガサッ


「…ブフォッ!! ひっ、ひぎっ!!!?」

 少し離れた草むらから、パーカッションが発せられた。
アタシの情けない声とラムネが、ポンと口から飛び出る。
イノシシか、シカか、…参加者か。
どれにしろ、心臓はとんでもない勢い加速して、全身は凍りついたみたいに動けなくなってしまう。


 ガサ…
   ガサッ ガサガサ…



 ザッ、ザッ、ザ


「…………、ぁ………………。………っ」


 ギギギ、と無理やり動かすように、アタシは砂利が踏まれる音の方へ首を向けた。恐る恐るに。
街灯もない山道だ。
目が慣れなくてはっきりと確認できなかったが、人形の影がヨロヨロと徐々に大きくなってくるのが分かる。
そいつは、間違いなくこちらに近づいている…。

 もし、そいつが幽霊や妖怪だとしたら。
──泡を吹いてぶっ倒れるくらい直感的に怖い。アタシはホラーが大の苦手だ。

 もし、そいつが人間だとしても。
──殺される可能性はやっべーから怖い。

 二つの未知なる恐怖が螺旋のように絡み合って、恐怖のピークに達する寸前のとき。
そいつは、既にベンチのすぐ近くへと歩き切っていた。


「……ぁ、あ…………。ぁあ…ひっ……………………──」







「──…あ?」


 そいつは、持っている杖をピタリと止め立ち尽くす。
いかにも高級そうな気品高い和服を着たそいつは、ボリボリと人差し指で頬を掻く。
シワだらけの年季が入ったその頬。
続いて、鼻の下に伸びる三日月のヒゲは真っ白で、…というか髪の毛も何もかもが白髪染めであった。
ヨボヨボと杖を持つ手を震わすそいつと目が合ったのは、しばらく眺めて十数秒後。
ごわついた声で、なおかつ独特なトーンと間を置きながら、そいつはアタシに向かってニタニタと語りかけるのだった。

22『徘徊老人かな?』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/16(月) 18:00:48 ID:kOdSzS8M0
「…血沸き………。そして、肉躍る…………、狂宴………!!」


「ワシの細胞を活性化させるような……クズ共の生命の奪い合い……!!」

「ワシはこれが見たかった…。これが……!! 破滅…絶望…死………! これこそが、愉悦となる娯楽、と………!」



「そうは思わぬか………? …小娘……!」



────悪魔が来りて笛を吹く。
────『悪魔』を呼び込んだことを、まだ知らなかったアタシはこの時、ボソリと呟くことしかできなかった。




「…徘徊老人かな?」

23『徘徊老人かな?』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/16(月) 18:01:04 ID:kOdSzS8M0




「のぅ…、小娘…………!」
「ワシは、自分のことを『聖人』だと思っている……………!!」


「…え? …あ、何か言った? おじいちゃん」

「カカカ……っ!! 崇高たる『王』という者……。普通は下々の前には姿を現すわけにはいかん………っ。いかんわけじゃが…………っ!!」
「ワシはこうして現れとる……。貴様の眼の前に…!」

「へ? へ? は、はぁッス」

「貴様が今五臓六腑に感じているじゃろう……、ワシの圧倒的優しさ…! このワシを『聖人』と言わずして誰が聖人じゃっ…?!」


「ククク……っ」
「カーカッカッカッ!! クキキ…! カーカッカッカッカッ!!!」


 …うわぁ。
こりゃ相当症状進んでんなあジイさん。
ネタで認知症扱いしてたわけだが、もしかしてガチで介抱しなくちゃならないわけか?
カツ、カツ…と隣の杖が砂利を蹴る。
今、アタシはじいさんと話しながら、暗い山を降ってる途中だ。


「しかし、まぁ……。小娘、貴様とこうして歩くのも…、また悪くない………!」

「…んまぁー、傍から見たら孫と祖父のお散歩ですからねー」
(──…迷惑老人を連れ戻す家族とも言えるけどなッ!)

「うむ…。価値はないに等しいが…、これもまた僥倖……!」
「……ワシの息子に和也というのがおるんじゃが………。ヤツめ、親の気持ちも分からずして、未だに子供を作らん………っ!」
「とどのつまり、『孫』という幻想を追い求めて彷徨ったら…、貴様と出会った……! 小娘、ワシはそう考えとる…──」

「──のう、小娘よ……!」


 …しっかし、
ジイさん口悪いにも程があんだろ。
この全ての人間を軽蔑し見下した態度…。
うちの学校の東大卒の高圧的教師思い出して、カチンと来ちゃいそうだ。
ボケる前は皇族か財閥の長でもやってたんか?
妙に人馴れしてないというか……、小娘小娘ってうっさいつーの!


 …にしても、このじいさん。
顔を合わせるたびにどっかで見かけたような感じがあるんだがー……。
なんだっけな。


「いやつーか…、小娘呼ばわりやめてくんないですか?」

「……………あ? あ〜〜〜〜〜〜〜〜っ………?」

「アタシにも一応名前あるんでー…。なんつか、名前呼びのほうが親しみあるじゃないスか?」

 うおっ。
じいさん、眉毛の角度がジワジワ上がってってる…!
ここまですっげえ露骨に不機嫌な顔するとか有り得ね〜〜。
と、いうわけでアタシは間髪入れず『自己紹介』を差し込んだ。

「アタシ『遠藤 サヤ』っつーんで」
「続けて読んだらエンドウサヤ〜だなんつって…!」


「…………あ…?」


「まぁ遠藤とかで呼んでくれればいいですよ。…『小娘』よりは」

「……エ…、エンドウ……っ」

「あぁそう。そんな感じで。…あっ、うちにはアニキがいるんスけど、そいつの名前は『遠藤 豆』だから、」
「うちら豆兄妹じゃん…! とか…。なんつって…ハハ」

24『徘徊老人かな?』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/16(月) 18:01:33 ID:kOdSzS8M0
「………………」



「クククッ…………」



「キキキ…! グキキキ……!! カーカカカカカカカ!!! ククク……!! カーカカカカカカカ……ッ!!!!!!」


 あっ、じいさんウケた。
人が変わったかのような大爆笑っぷり……。

…おいおい…。
どんだけウケてんだよ…。


「面白い…!! 素晴らしい…!!! カーカカカカカカ…!! ギギ…! カーカカカカカカ!!!」


 おいおいやべぇーよ…。大喝采じゃんか…!
マジでどんだけ………。

ってか、今のしょーもない小ネタでこんだけウケるって…。
もしかして、アタシ…、笑いの才能が密かにあっちゃったり…?
だとかして………??

へへへ…、
へへへへへ…!!


「やはり庶民のジョークはゴミじゃな……!! つまらなさすぎて逆に傑作………!!」

いや死ねよジジイ!


「くふっ…! くふっ…! ……早くワシについてこい! 小娘…!! このグズ…っ! マヌケ…っ!!」


「…………………………………」


 ………。
…あー、こいつ早く心筋梗塞とかで死なねーかなあ。
…はぁ、やだなぁ。
本家に住んでるおばあちゃん……。
こんなボケ方だけは絶対にしてほしくないなぁー。
まだまだ現役でいてほしいんだけど、人間って加齢に弱い生き物だし。
あー、来たる未来が恐ろしくて堪らない…。


「…見ろ……っ! 小娘…」


 …おばあちゃん、あんなでっかい家に一人暮らしだから、いずれアタシらが面倒見なきゃならないんだけど。
そうなった時…、もしもそうなった時はやっぱり『駄菓子』…だよな。
糖分の積極的摂取はボケの予防に良いって、ナンタラの医学で紹介されてたの見たし。
アタシ自身駄菓子にはあんま興味ないけども、そうとなると、暫くココノツのお世話になっちゃう感じか。
……ココノツのお父さん…、駄菓子のことになると早口になってめちゃくちゃ苦手なんだけども…。我慢して通いつめる他ならないわけで。
 あっ。あと適度なカフェインは長生きの秘訣らしいから、毎朝淹れてあげるのも心掛けるか。
サヤ・ブレンドの特製珈琲〜。
取り寄せた厳選豆に、工夫されつくしたお湯の熱さと、香りを寸前まで際立たせるコーヒーカップ。
ほろ苦い薫りを楽しめる遠藤喫茶でしか飲めないあの珈琲を、毎朝手軽に家で飲むことができるなんて…。
そりゃおばあちゃんもきっと喜…、


「見ろといってるじゃろがっ…!! 制裁っ!!」

────ブンッ!


「うおわっ!!!」

だなんて考えに耽けていたら、ジジイの野郎いきなり杖をアタシに向けてぶん回してきやがった!!!
やば!!?

「…クソジジ…、おじいちゃんいきなり何すんのっ?! 危ないでしょうがぁ!!!」

 間一髪、仰け反ることで回避したけど…。
当たったら顔に傷物だったんですけどっ?!
なに制裁って?!?
デンジャラスじーさん過ぎんでしょ?!!
…これで常にジジイに意識向けて注意しなくちゃならなくなったし…。
絶体絶命しろや!!てめーー!!!

25『徘徊老人かな?』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/16(月) 18:01:53 ID:kOdSzS8M0
「チッ……。クズが…っ!」
「あれを見ろと言ってるのが分からんかっ…!! 小娘……っ!!」


あ?!
謝罪の言葉もなしに何いってんの??
…と思いつつジジイの方を見たら、杖を夜景に向けてツンツン指しながらグギギギ…歯ぎしりを鳴らしていた。

「…こ、こいつ……………」

「小娘よ……、あの一番デカいビルがあるじゃろ」

「いやどうでもいいわっ! …とにかくその杖危ないから貸し──、」

「一応説明すると……、あれは『SHIBUTANI SKYA』……!」
「確かに……、確かに…ワシの所有するビルに比べれば、豚小屋同然の……っ!! 小さき建物に過ぎん……! チャラチャラした若屑共が入る………ウドの大木………!!」

「いや話遮るなし!! てかビルがなんなわ──、」

「じゃが、…今は贅沢を言えん……っ」
「ワシはあの高い展望台から、ゴミめらが潰し合う様を眺めたい……。安全な場所から…、外界を見渡したい……っ!!」

「…聞いてねぇーーしぃ〜〜〜〜…!!」


 …。

 ん?
つかジジイ何を言いたいわけなんだ…?こりゃ。
シブヤスカイどうたら〜って……、要するにあのすっげー遠くで、一番存在感を出してるビルのことなんだろけど。

…それがどうしたって…?

 こっから歩いたとして一、二時間じゃ到底着かないような場所に立っているんだけども…。
それに、今仮にも殺し合い中で不要な出歩きは控えたい場面なんだけども……。
それを踏まえた上でさ………。

どうしたいって…?


「ただ、年寄りには無理のある距離であることは事実………。これだけ歩いたら……、いわしかねん………! 腰を……!」

…だから、どうしたい、と…?


「じゃから…」

だから…?



「小娘、ワシをおぶさって連れて行け……っ!! 言うなれば人間競馬………っ、」

「…これぞまさしく、『ウマ娘』………っ!!!」




「……………」




「…ククク……っ。キキキ……!」

「あは、はは…」


「キキキッ…?」

「はっ、ははは…?」



「カーッカカカカカカカカ!!! グキキ…ッ! カカーカカカカカカカカカカ!!!!」

「はは…! あーはははははははは!!! おじいちゃんってば…! あははははは!! はは、は…」



「ふっざけんなよクソジジイ──────ッ!!! 図に乗るのも大概にしろオオォーー!!! バカにするのも程があんだろオ!!!! やんねぇーーよ!!! 死ね────!!!」

「あ? あぁあ?!? あぁーーー??!」

26『徘徊老人かな?』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/16(月) 18:02:09 ID:kOdSzS8M0
 冗談じゃねーこと言いやがったなァ!!このジジイが!!!
さっきから黙ってりゃ何様だっつーの!!
一人は怖いから、って理由で黙ってついてきたけど…、アタシはお前のお守りロボットじゃねぇーーよ!!!


「がっ……?! ど、どこに行く……!! 戻れっ、小娘………!!」

「もうっ! 限界だしっ!! 戻れってアタシゃピカ□ュウじゃないわ!!」

「なんじゃと?! ヒカシュー……?? ……制裁!! 制裁ーっ…!! 乗れ!! …焼き土下座…!! こっちに戻れ!!」


 あーあー!
『制裁』大好きっ子だなおいっ!!
どんだけ傲慢なジジイなんだよ。ったく…!
もはやこれはジジイとアタシを引き合わせたゴミ主催者にも責任があるわっ…!(…いやそいつは元から元凶だけど…)
とにかくさっさと一人で下山して、警察呼んでもう終わらせるわ。
ワガママなだけならともかく、傲慢で人間を馬鹿にしきったその目、あと特にやばすぎる暴力衝動…!
ちょっと意に沿わないぐらいで簡単に杖突いてくるとか付き合いきれんわ!!
こんなジジイに耐えられるわけないっつーの!!

「おいっ…!! 小娘……」


うるせー!
一人で山ん中埋まってろ!ボケジジイー!!

 …こんな酷い人間性のヤツ生で見るの初めてだわ。
テレビやニュース記事ではこういう腐った奴は見かけるけど、ここまで癪に障る老人ってのは唯一無二ってくらい…。
例えるなら、ワ□ミとか電□とか。
そういうブラックなやつらと同じような不快性の毒物だわ。
あとは、経営者でいったら帝愛とか、そいつらみたいな傲慢で最低な…………、






……。





『帝愛』………とか…………………?






「…わっ」

 ボスッ、と足元に何かが落ちた。


 突拍子もなく、急に。
ただ、誰がそれを投げつけたかは理解できる。…背後のジジイだろう。
サンダルの爪先に放り投げられ落ちた、その『何か』。
そいつが持つパワーは、アタシの歩を止めるのに十分すぎる力があった。

「…チッ、ゴミめが………」

「そいつをやるからさっさと戻ってこんかい…っ!! このアホが……!」


 アタシが拾い上げたその何かは──百万円の札束。
諭吉の金太郎飴がズラーーーッと並び尽くす。


正直、めちゃくちゃ悔しかった。


「ったく……。これじゃまるでお年玉だわいっ………。カスめ……っ!」


 今、思い出した。
コイツ悪名高い帝愛のトップ看板じゃん、と。
ネットでは有名なブラック会社だからアタシも知っている。
名前は確か……、『兵藤和尊』…。
クソジジイの名はそれだ。

27『徘徊老人かな?』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/16(月) 18:02:23 ID:kOdSzS8M0
 大企業の頂点に君臨する富豪だから、百万など本当にポケットマネーなんだろう。
悔しいし、イライラでいっぱいだった。


──だがしかし、ここは資本主義国家だった。



「おじいちゃ〜ん! さっきはゴメ〜ン!! あそこまででいいんでしょ? ならさっさと行こっか!! ねえ〜〜! おじいちゃん」


「フン…、早く来い……!」


 あぁ、悪ぃかよバッキャロー。
世の中金だよ!
金が全て!!

28『徘徊老人かな?』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/16(月) 18:02:41 ID:kOdSzS8M0




コクリ、コクリ…と涎を垂らし眠りこけるジジイに殺意を抱きながらアタシは草木を踏み続ける。


「はぁ…はぁあ………、はぁ……」

「チィッ…、まだ………まだなの…………」


 子泣きじじいめ。
思いっきり夢の中だろうに、手足だけはガッチリとアタシにホールドしたままだから体力的にめちゃくちゃキツイ……。


「ぐうっ……。はぁ、はぁあ…………はぁ……」


なんで…。


何でアタシがこんな目に遭ってるつーんだよ…。


 よくよく考えれば戦闘向きでもなく人も殺したこともない。
そもそも体力すら人並みではないというアタシが……。
何故こんな殺人ゲームで、しかも無駄な運動をさせられているんだ………。


「んぐっ……、きっつぅ………。はぁ……はぁはぁ、はぁ……………」


汗が目に染みて、いってぇ…。

どうせぶち込むなら…、ココノツとかアニキみたいな男にやらせりゃいいのに……。




「……いや、冗談でも……。はぁ、…そんなコト考えちゃ…だめだよな……」


 特にココノツは、ちょっぴりエロス走ってるけど、優しくて体が強くて、芯があって。
駄菓子のことになると、夢中になって歴史なり食べ方なりを教えてくれてさ。
顔はイケメンの部類ではないんだろうけども、あいつとベンチで座って食べる麩菓子が。

麩菓子の先の部分の特に甘みある部分が、夏の夕暮れ時にはなんだか甘酸っぱくて。
あの味がすごく好きだったから、軽い冗談でもそんなこと思っちゃいけないや。

…アタシは。絶対に。



「どうせぶち込むならアニキにやらせりゃいいのに………はぁ、はぁ……」


熱さでフエラムネはベッタべタになってるであろう中、闇夜の蛇道をひたすら下り続ける。
そんな十五歳の夜の話。




【1日目/D7/渋谷山/AM.00:41】
【遠藤サヤ@だがしかし】
【状態】疲労(重)
【装備】あやみのヨーヨー@古見さん
【道具】フエラムネ10個入x50、100万円札
【思考】基本:【静観】
1:金のため兵藤さま(クソジジイ)にご奉仕
2:SHIBUTANI SKYAを目指す
3:クソジジイには死んでほしいと思ってる

【兵藤和尊@中間管理録トネガワ】
【状態】熟睡
【装備】杖
【道具】???、懐にはウォンだのドルだのユーロだの山ほど
【思考】基本:【観戦】
1:展望台の頂上から愚民共の潰し合いを眺める
2:小娘(サヤ)を道具として利用


※この小説はフィクションです。実在の場所や場所、場所などとは関係ありません。

29次回 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/16(月) 18:04:52 ID:kOdSzS8M0
 ”叱られた腹いせに親の顔に唾を吐いて、またこっぴどく叱られた。”

 ”その時、おばあちゃんが自分を庇ってくれた。”


 ”そんな夢を見た。”


 ”────夢でもし会えたら、素敵な事ね。”


────『夢で逢えたなら…』

30 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/17(火) 20:32:52 ID:pdOpVO3g0
[登場人物]  [[根元陽菜]]、[[ヒナ]]

31『夢で逢えたなら…』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/17(火) 20:33:44 ID:pdOpVO3g0
無人の渋谷。
まるで終末世界に彷徨い込んだみたいで、ちょぴっとだけワクワクしながら私は歩いていた。
…あっ、『私たちは』だ。

ふと隣のヒナちゃんから話しかけられる。


「ねぇ陽菜、スマホちょっとかして」

「…いいけどー。何に使うの?」

「ガンガンアプリの更新時間だから。あとユーチューブでジョ●ョ見たい」

「…………はいっ──…、」




「──あっ!! 絶対検索履歴だけは見ちゃだめだよ?! 絶対だからねっ?!」

「?? えっちなサイトでも開いてるの?」

「……っ!! ──……い、いや開いてないけどさぁ……………。とにかく絶対だからね?! 指切りげんまん!!」

「はいはーーい。嘘つ〜いたらー、針千本&陽菜ビンタ〜〜」

「……さっきのビンタに変な技名つけるのやめて?!」



 スタ、スタスタスタ



  スタ、スタスタスタ……



   スタ、スタスタスタ


「ふんふふふ〜〜〜〜〜〜〜ん…」


「あっ、ところでヒナちゃんさっきの────…、」



 『あぁぁぁああぁぁぁあんっ!! んっ……! んじゅっ、じゅぷぷぷ……!!』

 『じゅぱっ……、じゅっぱ……! …はぁ、んんっ………! あぁ、ん…………!』

 『あはは…んっ! いっぱい出たね……! はぁ、はぁはぁん…………。じゃ、今度は、はぁ……、私の濡れちゃったところで…本番……しよっか……?』

 『あんっ……! あ、あぁん……、あんあんっ!! あぁんいやぁあんっ…! お●んぽが私のお●んこにぃやん………!! 凄く入って……こんな…ぁんっ!! こんなのオ●ニーじゃぁ…味わえないよぉっ!!』

 『んほおおおぉぉぉぉぉ♡♡♡ すごいすごぉおおおおぉおぉおぉぉおい♡♡♡♡妊娠確定っ!♡ 出産覚悟!!♡♡ 感度5000倍なんのぉぉおおおおおおおっ──────────────っっっ!!!!!!!!???????!!!!』



  『んほおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!♡♡♡♡♡♡』

 
    『んほおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!♡♡♡♡♡♡』


      『んほおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ………♡♡』








…クロから知ったえっちサイトのmp3が、山彦の如く会場全体に行き渡った。
深夜一時ちょっと過ぎの、そんなお話。

32『夢で逢えたなら…』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/17(火) 20:34:02 ID:pdOpVO3g0



✝Episode『夢で逢えたなら…』✝
──Oral sex master/Nemoto Hina Matsuri.

33『夢で逢えたなら…』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/17(火) 20:34:22 ID:pdOpVO3g0



……
「殴られるたび右目がどんどん腫れていく。ゆゆしき事態だこりゃ」

「いやヒナちゃんが九割過失だからねっ?! そらビンタやり慣れてない私も一割悪いけど…一割だけだよっ!!」


 はぁ、はぁ………。はぁ……。

──…っ! べっ別に喘いでるわけじゃないからね??! ほんとに!

…内容はともかく、大音量を流しちゃったから大慌てで走り出した私ら二人。
肺活を鍛えたいからランニングを欠かせない私だけど、結構な距離走ったからだいぶ疲れた………。
もう、なんなの………。ヒナちゃんは…。
押すなよ絶対押すなよ芸でほんとにやっちゃう人…割と初めて見た気がするよ…。


…で、

「ヒナちゃん…。さっきからなにしてんの??」

「自販機」

「…自販機…でっ!! なにしてるわけ??」


…まぁ聞かずとも何をしたいんだが一目瞭然だけどさぁー……。


「おなか空いた。でもわたしはお金がない。陽菜も(…エロサイトで金使ったから)ない。だからあさってる」

「…小声の部分だだ漏れだからね??」


はぁーあ……。
とんでもない意地汚さ。それに周りの目なんか気にしない大胆っぷり。
一年の頃、ボッチだったクロがやりそうな行動じゃん……。
この子、スクールカーストが浮き彫りになる中学高校に進学したらやっていけんのかな。


「あっ、五百円みっけ。超能力で、ほい〜〜〜〜っと」

「バカみたいな力の使い方……」


 …あっ、ちなみに。
逃げ走った先──今私達がいる場所は、なんの変哲もない横丁。
…『なんの変哲もない』…はちょっと違うか。これはあとで説明するけど。
周囲は立ち寄りやすいチェーン店やファッション店が軒を並んで、対岸沿いには噴水が存在感をアピール。
ロッテリアのすぐ近くにはダイドーの自販機があって、そこに私たちはいるって感じ。
ほんとにいつも行くような代わり映えのない町並みなんだけど、ただ一つ異物が混じってて…。

自販機の周りは、『御札』がびっしり埋め尽くしていたんだよね…。

……ごめん、変な言い回ししちゃった。
霊的な話じゃないからとりあえず安心して…みたいな。


「『みんなの願いが敵いますように。 今江』────短冊、かー…」


殺し合いショックで忘れかけてたけど、今日は七夕。
みんなが心の底からの願いを、一部の人は大喜利チックに面白い願掛けを、笹に吊るす日。
何があったかは分からないけど、とにかく地面には短冊がいっぱい落ちていた。

織姫と彦星、会えたかな?、と。
ふと夜空を見上げてみれば薄透明の青いバリアが星を覆い隠す…。
願うことなら、殺し合い脱出させてください〜!って頼みたいくらいだ。
大喜利でもなんでもなく、心の底からのマジな願いで、ね…。


「…ちょっと思ったんだけど、ヒナちゃんの超能力使えばワンチャン脱出いけるくない??」

「えー。あっ、むりむり。あくまで念動力だけだから。…ルーラつかいたいなぁ〜(ガサゴソ」

「無能力じゃん…」

「それよくいわれる」

34『夢で逢えたなら…』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/17(火) 20:34:42 ID:pdOpVO3g0

「……軽い雑談だけどさ。ヒナちゃんさー、願い事書くとしたらなににするー?」

「ねがいごと??」

「うんー。私の学校でも七夕イベントあったんだけどさー、友達がウケ狙いで恥ずかしい願掛け書いてー。しかもヤバい担任のせいで一番目立つ位置に吊るされたから顔真っ赤にしててさー。…はははー──」

「──ヒナちゃんはある意味それを超える願望ありそうだから気になるんだけど。…なんかある?」



「……………………う〜〜〜〜〜〜〜〜ん」


…ちょっと予想タイム。
……うーん。どうせ『イクラ食べたい』とかそんなのでしょ?


「いくらたべたい」


えー…、私なんかテレパシー使っちゃいましたー?<(^_^;)(なろう主人公風〜…)



「あと、とんかつ、ラーメン、おにぎり、カレー、味噌汁、コーラ、フランクフルト、ドーナツ、ぎょうざ、ハヤシライス、ガパオライス、キャベジンと〜〜」


うわっ、食欲全開だなぁっ!!
こんな感じの戦時中特攻兵の辞世の句あったなー………。
…てかどうせキャベジン食べたいならもっと食前にでしょっ。


「…やきとり、メンチカツ、すじこおにぎり………あと〜〜〜〜〜〜〜〜〜…、」




「はらが、減った………………」


「……………」



 ポン

  ポン


   ポーーン………………


って孤●のグルメかっ!!
──…クロと付き合うせいで変な作品の知識増えてくなぁ…私。



「…はぁ、じゃあご飯にしよっか…。…一応私普通にお金持ってるからね?? 普通にっ!」

「まじ? やったぁ〜やったぁ〜〜〜〜」

35『夢で逢えたなら…』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/17(火) 20:35:13 ID:pdOpVO3g0




ロッテリアでいいでしょ。
テキトーに。

…それにしても、券売機押すだけでほんとにハンバーガー出現したからちょっとビックリ。


「うまいな。うまいうまい。エビバーガーうまいな。ポテトもうまい」


 店内のテーブル席にて、私はヒナちゃんの食べっぷりをただ眺めていた。
…一応言っとくけど、お金ないから自分の分は買わなかったわけじゃないからねっ??
ほんとにエロサイトにお金注ぎ込んだりとかしてないから…!


「ズズーーッ。…うん、やっぱりハンバーガーにはスプライトだな。うまいうまい」

「…ヒナちゃん『旨い』以外に感想思いつくー?」

「……………………………? うまい、うまい」


ヒナちゃん、深刻なボキャブラリー地獄の様子だ。
まぁ何でもおいしいおいしいって食べれる人って心から幸せそうだし、いいんだけどね…。



…。
ストローにふと口づけ。
手元のアイスティーを飲みながら、私はちょっと思い吹けていた。


──……実は今結構メンタル的に重い感じでいたりする。



「…はぁ…………。──小宮山さんに吉田さん、内さんと…田村さん……」



 同じく手元の、『参加者名簿』を読んで、無意識のため息が漏れ出た。
ついさっきまで知らなかった…私の知り合い達が殺し合いに巻き込まれている、事実……。
ランダム無作為なバトロワ放り込みと考えてたから、この確信犯的な名簿は何よりしんどかった。
…これ括りとしては、私含めみんなクロの友達……なわけで。

 ──どうしてクロをスタンスにバトロワを行ったの?

とか。

 ──じゃあなんで肝心のクロは不参加なの?

とか。
色々疑問が頭を駆け抜けていく。



…その中で脳内に一番留まり続けた疑問が。



 ──この四人と、もう永遠に会えなくなるってことなの………?







「…………うまい、うまい、うまいうまい」



 一年生の頃はここまで深い関係になると思ってなかった──田村さんたち。
…ハハ。そうだった。
思えば、たった一年とちょいくらいからしか友達になって経過してないというのにさ。
ほんとに、初めて会って、あんまり月日経ってない女子たちだというのに。

36『夢で逢えたなら…』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/17(火) 20:35:28 ID:pdOpVO3g0
こんなにも悲しくて。

辛い気持ちになるなんて。


…びっくりだよ。



……ほんとに、さ。





「…え。陽菜……、………………ハンカチいる?」


……。



「えーなんで? いらないよー…ヒナちゃん……」

「だって」

「…んー…?」

「かお伏せてるけど、ばればれだよ………?」


……………。


「………なにがー………?」


「……わたしもさ、同じだから。新田に瞳にアンズ、あとマミ……………」




「………………」





「だから、ハンカチ…いる……? 陽菜……………」




……………気遣いしてきたヒナちゃん………。
顔を突っ伏して、目を腕枕で隠す私は、「いらないよ」と手振りでアクションを見せた。

視界は真っ暗瞼の内。




ふわぁあ……、と欠伸が聞こえた。
…そっか。
今超深夜だから…、ヒナちゃんにとってはそりゃ眠いよね…………。


…だから……、安心して一眠りしていいんだよヒナちゃん……。


縁もゆかりも無い私たちだけど……、護ってあげるんだから……………………。



私がお姉さんとして、ヒナちゃん…………………を……………………………………。






守りたいんだ……。

37『夢で逢えたなら…』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/17(火) 20:35:40 ID:pdOpVO3g0
私が…………………………………。




田村さん…たち……………………………………。







…バラバラになった四つのピースを………………………。







………全部…………………………………──────。

38『夢で逢えたなら…』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/17(火) 20:36:03 ID:pdOpVO3g0
……






 映写機のガガガガガガ…という音。
そしてそれが放つ光だけが目立つ。

暗い映画館にて、わずかばかりの人気を感じた。
見下ろしたら確認。並んで座る二人の女の子。
奇遇にも、彼女らは揃って黒髪のおさげヘアーだった。
…多分年はちょっとだけ離れているんだろうけど。

右に座る年上の女子。
……私の友達の、まるでアニメキャラってくらいに顔整ってて、そしてミステリアスな子──田村ゆりは、隣の知らない子の話を真顔で聞き流していた。



──絶対いると思うんだよっ!! みんながみんな、大人もクラスメイトもばかにするけど………、絶対存在してるから!!

────…ふーん。

──宇宙人は絶対いるよ!! そう思うよね? ゆりちゃん!!

──わたし、子供の頃見た映画で…。あれ以来UFOにとりこになったんだよ! …なんだっけな…。あっ、そうそう『プラン9 フロムアウタースペース』で!!!


────……………………!


──司令を受けた宇宙人が両腕をバシッバシッて自分の肩付近でやってさー! あれが「了解」ってアピールなんだよねー!


────それ私も知ってる。

──えっ?! ほんと!!

────チャリチョコのウンパ・ルンパの動きの元ネタがそれ。…私もプラン9好き。くだらなくても、内容が陳腐でも、作り手が熱意込めて作る洋画はなんでも好きだよ。

──…おおおっ!!! さすがゆりちゃん!! ね?? 宇宙人はいるよね!! ねえ!!

────…いるかどうかは何も言えないけど。…いると仮定して作った映画なら、これが一番面白いよ。



…そう言って指をさした先──スクリーンには『MARS ATTACK!!』のタイトルロールが。
UFOが飛び交い、キャストの名前を運んでいく。



──うわぁー!! UFOだ!! 火星人だ!! わーいわーい!!

────私的にチャリチョコ監督の最高傑作だと思ってる。B級だけど観て損はないから。うん、観よ。

──うんっ!!!



内弁慶な田村さんには珍しく、結構和気あいあいと話してる様子だった。
二つ結びが微風で揺れながら、楽しげに会話する二人。

私はそれをただ黙って。
黙って眺めていた。

39『夢で逢えたなら…』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/17(火) 20:36:18 ID:pdOpVO3g0
 なんでだろう。
何かを忘れている気がする。

ほんとは、一目散に階段を降りて。
そして田村さんに会って、無理矢理にでも一緒に動かなきゃいけない。
田村さんを…、なんだろ。
護らなきゃいけない…。


…だなんて、そんな気がする。


なんで? どうして?

そんな急がなくても明日学校で会えるのにさ。



どうして、今すぐにでも会わなきゃいけないって。




思うんだろ………………?




 ガガ────────ッ

  ガガ────────ッ………


………
……


40『夢で逢えたなら…』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/17(火) 20:36:33 ID:pdOpVO3g0




……
「た、田村さっ────!!!」



……あれ?


 …って、なんだ夢…か。

なんで夢の中に田村さんが……。
変な夢…。


「ってなんで私呑気に寝ちゃったの??!」


いや超やばいんだけど!!
殺し合い中だっていうのに、いつの間にやら寝ちゃってたし!!!
…目をゴシゴシ拭った私は、周りを慌てて見渡し始めた……!



「っ…………………」





「…………………あー、よかった……。誰もいないや…」


夢に落ちる前と変わらず、無人のロッテリア店内…。
幸いにも、私のバーディー──ヒナちゃんも全く怪我なく、ぐーすかぴーでヨダレを垂らして寝ていた。
…はぁー、よかった………。
多分疲れてたんだろな、私…。ほんとに奇跡モノじゃん、これ。


「って、ヒナちゃんそろそろ起きて!! …いや意識朦朧になってる時「寝ていいよ」とか言っちゃったかもだけど………。とにかく起きて!!」

「…むにゃむにゃ……。──んあーー?? おはよ〜……、陽菜」

「あっ、うん! おはよー。…とにかく、そろそろ出よっか!! …あーやば…。今何時くらいかな…………」


寝ぼけ眼のヒナちゃんを揺さぶりながら、私は時計の場所を目で探る…。

…あっ、今……『am.3:02』………??
やばっ、一時間くらい寝てたってわけじゃん!!
何してんだ…!! 私…っ!!!


「う〜〜〜〜〜〜〜ん…。やっぱ深夜のどか食いは眠気にくるな」

「…その節は私も悪かったよ…。とにかく店から出るよ! ヒナちゃん!!」

「…おっけ〜〜。らじゃー。──…ところで陽菜〜。私さっき面白い夢見たよ〜」


…このタイミングでしょーもない話 してこないでよっ!!
私はヒナちゃんに一応顔を向けつつも、デイバッグを肩にかけ席を立ち始めた。


「…なに? 後ででいいでしょ。その話──…、」



「不気味な映画館でさぁ、私のクラスメ〜トのマミが知らない女と話してて〜〜〜。その知らない女ってのがマミと同じおさげなんだよ。なんか変な話してて地味におもしろかった。そんだけ〜」











……え?

41『夢で逢えたなら…』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/17(火) 20:36:45 ID:pdOpVO3g0
【1日目/F3/渋谷センター街・ロッテリア店内/AM.03:03】
【根元陽菜@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!】
【状態】健康
【装備】ダーツ
【道具】???
【思考】基本:【対主催】
1:ロッテリアを出る。
2:ヒナちゃんを守る。他の参加者は基本話し合いで解決。
3:田村さんたちが心配。

【ヒナ@ヒナまつり】
【状態】額に傷(軽)
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:新田たちどうしてるかな〜。
2:陽菜はわたしの起こし係!

42次回 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/17(火) 20:38:23 ID:pdOpVO3g0
 ”ttps://youtu.be/g97La0u55_g”

 ”↑元ネタっす!よろしゃす!!”


────『悪魔のせいなら、無罪。 Just The Two Of Us』

43『悪魔のせいry』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/18(水) 20:38:31 ID:rBJ..1Aw0
**『悪魔のせいなら、無罪。/Just The Two Of Us』


[登場人物]  [[メムメム]]、[[藤原千花]]、[[マイク・フラナガン]]

44『悪魔のせいry』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/18(水) 20:39:04 ID:rBJ..1Aw0
 悪魔。
メムメムの仕事は、人の魂を狩ることだった。
──その狩り方というのが、寝ている男を淫乱で誘惑し悩殺……と、言わば『淫魔〈サキュバス〉』だ。
サキュバスといえば、顔を埋める程の豊かな胸、そして露出の多いビキニ姿…と艶麗な見た目を想像するものだが、──メムメムは淫魔要素皆無な姿。
二頭身で、露出0な黒のパジャマ姿、ぱっと見はコスプレした幼稚園児。
淫魔どころか、悪魔要素さえ背中の羽とツノくらいしかない彼女は、当然今まで魂を狩ったことなど全くない。
故に、悪魔界でのメムメムの扱いなんて蚊よりも不遇であった。
『カーストピラミッド』を上下逆さまにして直角部分(最底辺部分ともいえる)に位置するのがメムメム。
ある意味で唯一無二の彼女が、殺し合いに参加させられた時。
心に余裕がないのは分かるが、当然【対主催】として行動するはずなどあるわけなかった…────。


「…最低、二人だけでもいい…! 二人分魂を手に入れれば、先輩からご褒美をもらえるはず! …ふふふっ! ふふ…」

「あたしは殺しあいに乗るぞーーっ!! 頑張れあたしぃーーっ!!!」


…幼い見た目に騙されてはいけない。
メムメムはクズ。──精神だけは立派な悪魔だった。




……
 ぷかぷかと、闇夜に紛れて空を飛ぶメムメム。
上空から無人の街を見下ろす悪魔は、「はぁぁぁ〜〜……」と憂いていた。


「うーーん………。中々いないもんだなー……。バカそうな参加者さん」


悪魔、…といえど魔界からの注文道具がなければハムスター一匹さえ勝てないメムメム。(その注文道具を使っても有用できた試しは一度もないのだが。)
彼女もそのことは分かっているので、直接攻撃による殺害は一切視野に入れていない。
そうなると考えつく殺害方法は一つだった。
絶望的に頭の悪そうな参加者へ【マーダー】を唆し、楽に魂を手に入れるという──『殺人教唆』。
ここまでくるともはや悪魔どころかただのカスだが、メムメムには道がそれしかなかった。


「…あっ! アイツに頼もっかなー。……いやダメだぁ! 明らかにあたしより強そうだし賢そう……! もうっ、くそ!!!」

「……あ、また参加者発見…! 話しかけよう〜と……。──…って、………死んだし。くそおっ!!!!」



「……………もう、周り見ても誰一人歩いてない…。ここまで見つけた人間二十五人……。みんな揃ってあたしより頭良さそう……………。うっ、う……」


「うわぁあぁぁあ〜〜〜〜ん!!! 最初から分かってましたよぉ〜!! あたし以下のアホなんていないことくらい!! ちくしょー…、ちくしょおおお〜〜〜〜!!!! うわぁあ〜──……、」



前方注意────電柱。


 ゴツンッ

「ぐへっ!!!!!」



「…………。……うっ、ぐすん。ぎすんっ。ずずっ……。うぅ……………」



 このときぶつかった痛みは、なんだかいつもに増して身体によく染みていった。
やろうとしてる事がしてる事の為、本来なら全く同情できないクズの涙だったが、メムメムの妙な哀愁が気の毒さを醸し出す。

自分はこんなに頑張ってるのに、現状を良くしようと必死なのに……。
いつも理不尽で窮屈なこの世に、メムメムは自分が嫌で嫌で仕方なかった。
いつしか、飛ぶことも忘れフラフラよろめきながら落ちていく。
そしてハタリ…と。
嗚咽を止めるのに夢中だったメムメムは、力なく着地したことに長い事気付かなかった。


ただ、それはまるでパズルの1ピースがちょうどハマったかのように。
吸い寄せられるが如く、ポンコツ悪魔が着地した先は─────、


「あれ〜っ?! ちょっと大丈夫ですかぁ〜!! こりゃやばい…! 誰かぁーー!!! 救急車!! きゅ〜きゅ〜しゃ!!!」

45『悪魔のせいry』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/18(水) 20:39:23 ID:rBJ..1Aw0
────バカの頭の上だった。



「…ひぐっ! うぐうっ!! げしゅんっ!! …もうやだ〜〜………」

「泣かないでくださいよ〜〜〜!! 大丈夫ですから!!」

「…────ひっ! ヒ、ヒ、ヒィィッ!!?? きょ、巨乳だぁあああああああああ!!!???!! ひゃあああああぁぁぁあああ!!!!!!」

「………へ?? どうしたんですかぁ〜〜??」


何だかと何だかは惹かれ合う…とよく言うものだが、藤原千花とメムメムはこの時出逢ってしまったのだ。


………
……



「へえ〜〜っ!! 悪魔、ですかぁ〜〜〜!!!」

「…はい。とゆ〜わけで……、千花には殺しの方、おにゃしゃすっ!!」

「…分かりました! チカっとたくさん魂を集めて、メムちゃんにご奉〜仕させていただきまーすっ!!」


 おつむが悪い同士なだけあって意気投合はあっさり早い。
支給武器『護身用ペン』を回し歩く藤原書記と、追って浮遊するメムメム。──まるで新世界の神&死神さながら二人だが、彼女らに心理戦は難しいだろう。
マ〜ダ〜二人組は、居酒屋密集地の小汚い横丁を歩いていた。


「ところでメムちゃん────ッ」

「…は、はひぃ?」

「『紅生姜』ってぇ〜、あれ実は大根の千切りじゃないって知ってました?」

「……え? そりゃ、生姜じゃないすか…?」

「おっ!! さすがメムちゃん! 私最近まですっぱ辛い汁に漬けた大根だと思ってたから、発見してびっくりしたんですよー!」

「…………。──ゴニョゴニョ(…よしよし。ドン引きレベルだけど、こいつバカだ…! ひひひひっ!!)…。…そら、すごいすね……」

「……あっ、メムちゃん。言い忘れたけど、私結構地獄耳だから。小声でも悪口はやめてくれないかなあーー」

「ぎくっ!!!! いきなり目の光消えて怖っ!!! …す、すみゃしゃせん〜っ!!!」


…酷い会話であった。
──ただ、話が進むにつれ、藤原書紀がメムメムに一歩ずつ立場がリードしているように感じる。
見た目は花畑そのものの書紀ちゃんではあるが、腐っても秀知院学園生徒というわけか。
気づけば、メムメムは絞りきったかのようにしょぼくれていた。


「…つか……、『紅【生姜】』って思いっきり書いてるじゃん………」

「おお〜っ! メムちゃん選手、小声禁止令を出され、ついに堂々と毒を吐くようになりましたぁ!!」

「……ま、ともかく!!! 千花はちゃんとたくさん殺してくださいよっ!!!」

「もうメムちゃんったら〜! わざわざ釘を刺さなくても分かってますよー!」


──やたらやる気満々な藤原書記だが、二人合わせて武器がペン一つという現実を、恐らく気付いてないから自信満々なのだろう。

 羽虫がたかる自動販売機二台を通り過ぎて、歩く藤原書記一行。
自販機奥には、小さな駐車場スペースがあり、大きな看板を照らすライト以外、暗黙曇天の寂しい場所であったのだが。


「ところでところで、メムちゃん! ダチョウのステーキって──……、」

「…はぁ。なんす──……、」




「「────あっ………!」」

46『悪魔のせいry』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/18(水) 20:39:48 ID:rBJ..1Aw0
看板に寄りかかるように、そこには『参加者』が一人座っていた。──いや、うずくまっていた。
バチッ、チカチカッ…。
調子の悪いライトで、照らされては一緒陰に包まれを繰り返すその男は、震えて震えて、そして嗚咽を漏らし泣いていた。
その泣き様は、先ほどまでのメムメムを思い出させるが、奇遇にも彼女同様、男は『性格とは不相応な見た目』をしていたのだ。


「メムちゃん、敵を発見しましたー!! ただちに魂回収へ取り掛かります!!」

「えっ??!」


というのも。
座っている状態でもはっきりと分かる男の圧倒的『体格』、そして『筋肉』。
まず男の体格だが、恐らく二メートルは越えよう超巨漢。
頭の茶髪、そして時折発する英語の嘆きから、外国人であろう男。──その丸太のような腕はもはや三割三十本の助っ人レベルである。
そして、衣服越しでもはっきりと盛り上がる筋肉。肩幅は広く、屈強にも程がある肉体美。
背中はごつごつと石のようだった為、頭を抱えて微動しか動かないその姿はまさに石像だった。


「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいや!!!!! バ、バババ、バカですかぁ??!!!」


そんな怪物へ、果敢に藤原書記は挑もうと言うのだから、当然メムメムは止めにかかる。
いくら精神がすり減ってる様子の男とはいえ、無謀にも程があるだろう。


「バカすぎっすよ??! 千花絶対敵いませんって!!! 人を選びましょうよ!!!」

「大丈夫だいじょぶ〜♪ それに困ってる人がいたら声を掛けるってのが人情ってやつですよ!」

「人情も欠片もないゲーム今やらせてますがねっ??!!」


藤原書記の前でピカピカ角を光らせたり、脚を必死で食い止めたりと、妨害に全力を出すメムメムだったが、──…徒労に終わる結果だった。
大男の肩をポンポン、と叩いた藤原書記は、ペンをテクニカルに回しながら語りかけ始める。


「…あー……、ハロ〜! ウェルカム・トゥ・シブヤ! 大丈夫ですかぁ〜〜〜?」

「……Oh、what's?」

「私、藤原千花と言いますー! こっちは悪魔のメムメムちゃんでぇ〜〜、一緒に今殺し合いをしてるんです〜!」

「こ、殺し合い…デスか………」



「(…なっ?! ば、バカにも限度があるっすよ!!! こいつに話しかけるのは百歩譲るとして、なに殺すことバラしてんすか??!!)」

「(あっそうでしたね〜〜。それにしても外国人が日本で寂しく一人…という状況…。まるでロスト・イン・トランスレーションですよメムちゃん!)」

「(いや知らんがな! 何の話してん──……、)」



「うっ、あぁ、わァァァァァアアアアァァァァァァ………ッ!! ワァンアァン……!!! Ohhhhh! ァァァア………」


「「わっ??!! びっ、びっくりしだぁ!!!!」」


 何が起因となったか、大男の突然の大号泣にたじろぐ二人。
腕に顔を押し付け、頭が痛くなるぐらいに涙を放流する男。

────彼を前に、ポンコツタッグは何を思うか。二人の移した行動はまるで対照的だった。
元々戦意なんてなかったが、完全に闘う顔を失ったメムメム。
その一方で、千花は再び大男に近寄り、保育士のお姉さんのように優しく声をかけるのであった。


「……大丈夫ですよ! なにがあったか、話してください!! 私が受け止めてあげますから!」

「……ち、千花……。(コイツ…………! もう逆に尊敬するわ………!)」


「…………ズズッ……。殺し合い…………、……。…フジワラさんは自分が『何のために』参加させられたか……、分かりマスか?」

「………う〜〜〜ん? 役割、ですかぁ〜…」

「ワタシは分かりマス………。自分の『役割』が………………。トネガワさんは、力が強くて屈強なワタシに『これをしろ』と言いたいのデショウ…………」

「「……と、言うと?(…あっ、バカと被っちゃったっす! byメムメム)」」

47『悪魔のせいry』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/18(水) 20:40:21 ID:rBJ..1Aw0
「『殺し役』──をやってほしいようデス…………。ワタシに………──」

「──……だけど、ワタシは絶対に人殺しなんかしたくない……………………!!──」


「──フジワラさんとメムメムちゃん、カナちゃんに…男女問わず誰も手にかけたくないっ…!!!」



「「…………………………」」



「ダカラ、辛いんデス…………。ワタシは……………………」



大男の気持ちが痛いほど伝わる駐車場。
沈黙がしばらく独壇場を続ける。

…藤原書記がここで思い出されたのは『泣いた赤鬼』。有名な絵本だった。
見た目は凶暴な鬼だが、心はとてつもなく聖人で。怯える子どもたちとどうにかして友達になりたい優しい鬼の話だ。
あの絵本では、見かねた青鬼が彼のために一役買ってでる…というシナリオが続かれたのだが。


(……………………よしっ…)


名前も知らぬ大男を救うため、「ならば私も」と。
藤原書記もまた行動に出るのであった────。


スマホからYouTubeを開くと、お気に入り動画欄から速攻タップ。
広告をスラっとすっ飛ばしたのち、動画が始まるとなると、彼女は大男の隣に座り込む。


「えっ?? 千花、何を──…、」


静かで哀しかった駐車場にて、一つの洋楽が流れていった……────。



 …〜〜♫



────藤原書記のダッミダミな歌声とともに。YouTubeと、彼女の口。二つから奏でられる。


 ♪うぃがるみ〜〜〜〜〜〜

 ♪どろ〜〜〜んと、どぅ〜〜〜い〜〜〜……




「…は??! な、なにしてんすか!! 千花?!」


 バカの突拍子もない行動…。
メムメムは当然ながら、大男もまた意表を突かれ彼女の方を振り向いた。
一体、藤原千花という『カオス』は、何を考えているのか。
間もなく、曲はサビに突入する。


 ♪…じゃ〜すたぁ〜〜〜、とぅざあ〜〜〜す

 ♪うぃっけんうぃっきまいまいほ〜〜〜↑〜〜〜↓

 ♪じゃすたとぅざあ〜〜す…♪──


「──ジャスタートゥザアース!!!(裏声)♫」

48『悪魔のせいry』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/18(水) 20:40:41 ID:rBJ..1Aw0
お世辞にも上手いとは言えない美声が、この街を轟かせる。
エアマイク片手に、──勿論小指を立てて歌う藤原千花。
しばらくして。
曲の歌い途中ではあったが、彼女は『自身の考え』について遅ばせながら説明を始めた。


「…ふ〜んふ〜ん♪ 外国人さん! 泣かないでください!!」

「…エ?」

「悲しいときは歌えばいいんですよっ! 歌には不思議な力があります! 悩んでるときはまず歌えば、バッと気が晴れるものなんです!!」

「…エ? エ? で、ですガ……」

「まぁまぁ! ご遠慮せずに!! 私の好きな歌なんですから!! ほら!」



 〜♪


 ♪じゃぁ〜すた〜〜とぅざあ〜〜す
 
 ♪うぃっけんみっきは〜うは〜うは〜〜〜う♪



「…………………っ──」

「──♪𝙟𝙪𝙨𝙩 𝙩𝙬𝙤 𝙩𝙝𝙚 𝙤𝙛 𝙪𝙨 ♫ 𝙔𝙤𝙪 𝙖𝙣𝙙 𝙄……♫」



「おお〜〜〜っ!! ネイティブ〜〜!!!」


少女と大男の歌声。
深夜の駐車場というエモさ感じる場所と、しんみりした80'sジャズソングが妙にマッチし、心地良さが溢れてくる。

間奏──つかの間の休息タイムが始まった際、いい機会だからと。男の自己紹介が始まった。



……
「…へ〜〜! ──『マイク』さんって言うんですねーー!! カナダってすごい遠くの国じゃないですかー!」

「…ハイ! …このジャズソングも、カナダではポピュラーで、死んだリョージさんと…よく一緒に歌ったんデス……!」

「あー! だからあんなに上手かったんですねえ〜〜!! 聞き惚れちゃいますよ!」

「イエイエ…! フジワラさんもキュートな歌声デス」


大男──マイク・フラナガンと、コミュ力バグりまくり──藤原千花の和みっぷりといったら、傍から見ても微笑ましいくらいだった。
────これが殺し合い中でなければどんなに良かったことだろう。
二人は悲壮感など関係なしに、陽気に歌い続ける…。


フォン…フォン…と。
──電光に飛び交う蛾は、二人をどう見たか。

『just two of the us』の残り再生時間はまだまだ終わりを見せない様子だ。





…〜♪

49『悪魔のせいry』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/18(水) 20:40:57 ID:rBJ..1Aw0
「…バカバカしい。……呆れた」


 気づけば完全に忘れられてる自分であるが、もうそんなことはどうでもいい。
メムメムは蛾をなんとか通り越して、上空へと飛び上がっていく。
次なる獲物…もとい殺人代行者を探すために……。

──というか、メムメムってクズっちゃクズだけど、この場じゃかなりまともな部類の方ではないのか。



【1日目/E3/上空/AM.0:46】
【メムメム@悪魔のメムメムちゃん】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】???
【思考】基本:【奉仕型マーダー→魂集め】
1:アホそうな参加者をマーダーに誘導して、魂を集める。
2:バカ(藤原千花)は見切った。つか殺しのこと忘れてんじゃねーーよ!!!


【1日目/E3/小さな駐車場/AM.0:46】
【藤原千花@かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜】
【状態】健康
【装備】護身用ペン@ウシジマ
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:マイクさんと歌う。

【マイク・フラナガン@弟の夫】
【状態】軽い心労(回復傾向)
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【対主催】
1:フジワラさんを守る。
2:殺しは絶対にしたくない。

50次回 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/18(水) 20:44:07 ID:rBJ..1Aw0
 ”岡田「監督…おかしいですよ」”
 ”伊東「おかしいのはお前の打率だよ。しゃぶれって言ってるんだよ俺はさあ。誰も言葉分からない?」”
 ”細谷「(やっぱり結構でかいなこの人…)」”
 ”伊東「え、何なの?しゃぶらないならここ出られないよ。部屋の鍵ここだから。鍵は口入れちゃうからほらほらもう誰も出られない。しゃぶらないと出られない」”
 ”福浦「監督…しゃぶればいいんですね?俺がやりますから」”
 ”伊東「そういう力んだ顔はどうでもいいからしゃぶれって」”

 ”あ、鍵今飲んじゃったごめん”

──こみさんは、ロッテファンです。

────『コーミックナイト』

51『コーミックナイト』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/19(木) 20:02:19 ID:Smv9usBo0
[登場人物]  [[小宮山琴美]]、[[古見硝子]]

52『コーミックナイト』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/19(木) 20:02:41 ID:Smv9usBo0
「♬らら〜ら〜〜らら〜〜、ら〜らら〜らら〜、ら〜〜ら〜〜らら〜〜、ら〜↓ら〜〜〜↑」


 空は青く澄み、雲は強風で流れていく…。
風に全身をコーディネートされる乙女──小宮山琴美は、飛びゆく花と共に乱舞を飾どる。


「朝起きて〜〜、『あーあ今日も憂鬱…』…そんなのダメでしょう〜〜?♬ 楽しい毎日〜! 素晴らしい人生を遊ばなきゃ〜〜〜♬」


黄色、白、桃色……、色とりどりの花畑にて、彼女は踊った。歌った。微笑んだ。
奥には滝が水しぶきをあげ、下流へと川が愉快にせせらぐ。
水の流れる音と共にやってきたのは「ちゅんちゅんっ」── 一羽のオオルリ〈幸せの蒼い鳥〉。
陽気に羽ばたく鳥は少女にこう問い掛けた。


『やぁお嬢さん〜♫ なにやら楽しげな雰囲気だね!』

「! …ふふふっ! やっぱり〜分かるかな〜♬」

『どんな幸運が迎えてくれたのか、わたしに教えてくれないかね〜♫』

「ちょ〜〜っと!! それはダメ♫ だって恥ずかしいのよ〜〜〜〜♬」


「…?」といった様子で首を傾げるオオルリ。
鳥は用事を思い出したのか、遠く羽ばたいていったが、彼の青い羽が琴美の頭にフワリ乗っかる。──置き土産代わりといったところだろう。
歌う天使、小宮山琴美。
赤く染まった頬を両手で挟む彼女は、幸福に包まれた『理由』を言わなかった。

いや、言えなかった。


〝恋が叶いそうだから、舞っちゃった。〟──なんて、恥ずかしくて言えやしなかった。



「夢が叶う瞬間〜〜〜、きれいな空〜〜、明るい太陽〜〜〜♪」

「かけぬけろ〜ホームまで〜〜〜…」


「おぎ〜〜〜〜の〜〜〜たか〜〜〜しぃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜↑↑↑♬」


くるりっと一回転し、天を仰ぐ琴美。
ピアノの伴奏が止まる中、恋する乙女はキラキラキラ…と一人スポットライトを浴びるのだった。





────否。この場にはもう一人いる。


「…………………………!!!(ガタガタガタガタ…」


「……あっ…」



躍る琴美を前にして、震えるしかできずにいたのは絶世の美女──古見硝子。
暗い夜。無人のスターバックス店内にて。
二人の『こみさん』はこうして対面した────。


「…うわっ。恥ずかし……! ごめんね…っ!! 今の全部見なかったことにして!!」



「…………………っ…!(スラスラスラ」
{{こ、こちらこそ一人ミュージカルを邪魔してすみません……。}}

53『コーミックナイト』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/19(木) 20:03:16 ID:Smv9usBo0



 古見さんは、コミュ症です──。
声一つ発するのさえ苦手な古見さんは、いつもノートを持ち歩いている。
要は筆談が彼女唯一のコミュニケーションツールなのだ。


{{…只野くん、なじみさん、山井さんの三人……。}}
{{私の大切な友達がここのどこかにいるんです。}}

「ふーん。ふんふん…。只野くん、ねぇ。待って、今メモするからさ」


──故に、スラスラスラーッと名前をメモする琴美の行動は意味があるのか。
自己紹介を軽く済ませた二人は、カウンターテーブルに座り、暫し『見』に回っていた。
グランドホテル三階に位置するこのスタバな為、目の前のガラスからはネオンの夜景が一望できる。
古見、そして琴美。
互いに言葉は交わさずとも、『とりあえず今は待機』という共通認識はシンパシーしているようで、今は特に動かずいる。
変に動いて殺される…だなんてたまったものじゃないだろう──と。
珈琲の湯気が立ち昇る中、二人は談笑のみをするのだった。…談笑と言っても、声は一つしか聞こえないのだが。


{{…そういえば、小宮山さん。一つ質問いいですか?}}

「あっ? ん、なに?」

{{……正直、今…、楽しい気分なんですか?}}

「…えー? そんなわけないじゃん! 今殺し合い中だよ? やばい気持ちしかないって!」


琴美は軽く笑いながらそう答えた。
……ならば何故?、と。
なぜさっき一人で物凄く幸せそうに歌っていたのか??
あれはハッピー過ぎて有頂天な様子に見えたのだが………、と内心、古見さんは疑問で膨らんでいた。
琴美本人から「タブーにして!」と言われていたので、これ以上掘り下げることはできないのだが…。
これも何かの伏線として後々回収されるものだろうか。
…今はまだ、見 に回るだけでいる。


『ちょっと! ねえ、コト。さっきから誰と話してるの…?』

「…………………っ!!!!(びくっ」


 そんな折、なんの前触れもなくして第三者の声がこの場に響いた。
二重の意味で人と会いたくない古見さんは、電気ショックを受けたかのように怯え散らす。
彼女に走る、戦慄。一閃。
支給武器であるコルク入りバットを慌てて掴みキョロキョロ…と。手汗が滲んでパニック寸前だった。

要警戒を高める彼女とは対照的に、琴美は随分と落ち着いた様子。
いや、むしろ笑顔を見せて楽しんでいる様子だった。
彼女のメガネが視線を飛ばす先には、第三者の顔……。
────おさげで、琴美らと同い年くらいの少女が、『四角い薄板』に映っていた。


「あはははー。ごめんごめん! 伊藤さんと通話中なの忘れてたよ」

『…ねえコト。もう切っていい? 明日学校だし……、私眠いよ…』

「いや?! 切らないで?!!!! 私を一人にしないで伊藤さん!!! 一人じゃ心細いからビデオ通話にしたんだからさ!!!」

『…よくわかんないけど、誰かが近くにいるようだし、一人ではないんじゃない?』

「いや………。これは、また別腹みたいなものだし…………」


琴美とライン通話を交わす──伊藤さん…と呼ばれた少女はアクビ混じりのため息を漏らした。
改めて振り返るが今現在はド深夜。
伊藤さんの表情から察するに、熟睡している途中いきなり琴美から電話がかかった、的な様子だが、…なんと傍迷惑なことだろう。
ただ、基本和気藹々と会話する様子や、文句を漏らしつつも通話を切らないところから、琴美と伊藤さんの仲の深さが見受けられる。
琴美のスマホをチラっと覗き見し、ようやく安静に至った古見さん。
「あぁ、よかった。参加者じゃなかった…」と、そっと胸を撫で下ろすのだった。


『…えっ?! 今の誰?? もしかしてさっきまで話してた人……今の美人さん??』

「あぁ、紹介遅れたね。彼女は古見さん。いい人だよ」

54『コーミックナイト』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/19(木) 20:03:36 ID:Smv9usBo0
──絶世の美女を前に、伊藤さんは分かりやすく驚きを隠せなかった。
『美しい花には棘がある』…と言ったら多少ズレてる感はあるが、コミュ症とはいえ古見さんは千年に一度クラスの整った容姿。
顔、体型なにもかもが完璧で、男女問わず虜にする奇跡の産物だ。
ゆえに、地味ーズの一人である伊藤さんはその輝きを前に、ヒソヒソ…と琴美に不安を上げるのだった。


『(…コト。なにで知り合ったのか知らないけど、さすがにこの人相手なら……私も緊張する…)』

「(…大丈夫だよ! 確かに見た目は派手ーズだけど……、中身は結構私ら寄りだからさ)」

『(…私ら寄り……?)』

「(うん、私ら寄りだから)」


「ねえ! 古見さーん、これ私の友達の伊藤さん。古見さんも自己紹介してよ!」


ビクッ。
急に話しかけられた上に、スマホを顔近くまで押しつけられ古見さんは一瞬狼狽えた。
が、落ち着きをさっさと戻した彼女は、琴美の指示通り自己紹介を始めるのだった。

…ペンを手に取り、ノートにサササーッと書いてゆく。


『えっ?? なに?? え??』


二秒ほどして、スマホに向かって書いたノートを見せつけ始めた。──割と速筆な様子だ。
彼女が何をしてるのか全く理解できない伊藤さんはこのとき、新元号発表するのかな?と思考がショートしていた。


「……………………!」
{{私は古見硝子です。小宮山さんとはさっき出会いました。伊藤さん、よろしくお願いします。}}



『………………………えーー…』


四十七秒以来、二回目のヒソヒソが始まる。


『(……私ら寄りって…、そういうこと??)』

「そう! はははっ、面白い子だよね古見さんは!」

『(…ちょっとコト、声大きいって!)』

「…これはー、あれだね。映画のさ…『●の形』みたいな? あの映画もしょうこちゃんだったしね」

『……それそうやってネタにしていい映画じゃなくない??』


…伊藤さんの背後に集中線のような物が見えたのは気のせいか。
表情オンリーワンといった様子の伊藤さんだが、その顔はどこか軽く引いてるようだった。──琴美に対して。

 数十秒ほどのヒソヒソ声の後。
少々苦笑いつつも、「まっ受け入れるか」、との様子で伊藤さんはノートの彼女に話しかけた。


『…とりあえず。古見さん、コトをよろしくね』

{{…! は、はい!}}

『会ったばかりだから分かんないと思うけど……。コトってさ、悪い人じゃないけど…ヤバい人ではあるから、変なことしたら遠慮なく注意していいよ』

「ちょっと伊藤さん!!!? 私悪くもヤバくもないんだけどっ!!!!」

『…あっ、こっちの話だからコトは気にしなくていいよ』

「するよっ!!!?! スマホに映る少女は毒舌ドSキャラで、そんな相棒と共に苦難に立ち向かう私……。──私らはカゲロ●デイズかっ!!!! 伊藤さんはエネかっ??!!!」


『…ね? ヤバイでしょ? 古見さん遠慮なくドン引いていいからね。私が許可するよ』

「………………………〜〜っ…」
{{…反応に、困ります…………。}}

55『コーミックナイト』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/19(木) 20:03:53 ID:Smv9usBo0
伊藤さんの軽い微笑みに、古見さんは言葉を失うまでだった。
いや元から喋ってなんかないけども。



……
………


 あれから暫く時間が経る。
カフェインと緊張感のお陰で、夜更けになっても眠気は来なかったが。
頬杖をついて窓からの景色を眺める古見さん。
カフェ内にて響く音は小さなピアノジャズと、──それとコト&伊藤の話し声のみ。
…正直、この時間まで通話を続ける伊藤さんもちょっとヤバい奴に感じた。



(………はあ…………………)





(只野くん…………)


(…どこにいますか……? 只野くん………………)


古見さんが想いに耽るは友人・只野仁人。
バス内にてたまたま隣の席だった彼は、震える自分へひっそり声をかけてくれた。

〝僕が探しに行きますから…! 待っててください……! 古見さん……!〟

と。
思い返せば、彼との初めて出逢った時も『隣』。
隣の席にいた至って普通の男子生徒が、期待していなかった自分の高校ライフを変えてくれたのだ。


彼なら。
只野くんなら、また私を救ってくれるはず。
只野くんとなら、グッドエンドで殺し合いを終えれるはず。
だから…、


(今、どこにいますか………。私はここですよ……!)


(只野くん………………)


この思いが……。どうか伝わりますように──、と。
古見さんは真っ暗な夜空をただ、ただ眺めていた。



ちょうどその時、願いの女神『流れ星』が一つ。夜空を駆け抜ける。



「あっ!! 流れ星だ! 見た? 古見さん」

{{あっ、はい! …きれいでしたね。}}

『ちょっとコト! 急に話題変えないでよー…。コトがロッテの勝率調べろって言ったから今検索したのに』

「はは…。まぁまぁ、伊藤さんそれはあとで……!」


 ところでさー、と琴美は口を開く。
テーブルに肘を付け、顎を掌に乗せて、ふと古見さんの隣。
スマホ片手に彼女は古見さんに他愛もない疑問を投げかけた。

56『コーミックナイト』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/19(木) 20:04:15 ID:Smv9usBo0
「古見さんって願い事…なににした?」

{{……え? あっ、はい。『みんなが幸せになりますように』…みたいな、です。}}

「…ぶはっ!!! ちょっと何それ〜!!」

『…何それ、はないでしょ……。普通に優しくて良い願い事だと思うよ』

「いやいや〜!! 確かに優しくてココロ温まるけど……すっごい無欲じゃん!! それが面白くてさ〜〜」


何が面白いのかさっぱり分からなかった。
無欲と言うが、たかが流れ星一つにどんだけの願欲を託すつもりなんだ、と。
古見さんら二人はこのとき思った。

このとき、は。


「私ならさ、まず『叶える願いを五つにしろ!!』って言うね」

『えっ、まだこの話 続けるの?』

「まぁ、聞いて。それでー、一つ目はやっぱり『ロッテシーズン優勝』…かな! あれだけ補強して五位ばかりなんだから、もう他力本願でしか優勝できないよ!!」


ロッテ……?
あぁ、野球の話か、と。
自身の支給武器『金属バット』を軽く一振りした琴美を見て、古見さんは察した。


「二つ目はやっぱり角中の若返りを頼むね! 独立選手初の二千本安打を見たいんだな〜私は! あっ、あと鈴木大地のFA阻止もお願いしよっかな」

「三つ目は〜〜、………(伊藤さん、恥ずかしいから……伊藤さんだけに教えるよ……)」

『(…えっ、なに)』

「(…胸を、さ……。やっぱり、おっきくしたいよね……。でも、自分で言うの嫌だから伊藤さん代わりにそれお願いしてよ……!)」

『…言っとくけどコトのヒソヒソ声結構大きいよ? (…あっ、声『だけ』は大きいね……)』

「ちょっ!!! 伊藤さん、しーっ!!!」


 …気づけば完全に蚊帳の外にいた古見さん。
というか、伊藤さんも琴美が何を言いたいのか全く読めずにいたのだが、とにかく古見さん彼女はポツンとしていた。
ブンッブン、とバットを振り回す琴美の、伝えたい思い…。
全く察せない上に、ロッテが何だ〜とかついてけない話題を挙げるので何も話せずにいる。
ゆえに琴美をただ見つめるしかできなくなっていたのだが、


────そんな彼女と、ふと目がガッチリ合った。

五つ目は〜〜〜…、と琴美は続ける。



彼女の目を、瞳孔を、眼の奥の魂を見て、古見さんはようやく『何が起きそうか』察した。




『…いや四つ目飛ばしてるよ? なんで蒸発させたの?』

「五つ目の願い……。やっぱり、これがとっておきかな」


 立ったはいい。
立つまではよかった。
ただ、それ以降古見さんは急に足がすくんで動けなくなってしまった。
ニコリ、と琴美は微笑む。
そのスマイルはまるで天使。邪悪を知らず、天然水よりも澄み切った心の、なんと美しい笑みだった。


「私の好きな……、智貴くん好みの女の子に、さ……。私を変えてほしいんだ………」


『…??』

57『コーミックナイト』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/19(木) 20:04:38 ID:Smv9usBo0
「それが一番の願い、だね…………! 私は、智貴くんが隣なら、それだけでいいんだ………!」

『いやロッテがどうとか煩悩まみれだったじゃん』



どういう幻覚か。
オーラが見えたというのか。
琴美の周りにきれいな花が舞い散る幻覚が、一瞬見えた。
──それは、古見さんにのみ。はっきりと確認できる。

ここで思い出されるは、一番最初。バトル・ロワイアル開幕直後、琴美と出会った瞬間だ。
あのときも彼女はるんるんと楽しそうで、まるで花畑を走り回るかのような華麗さだった。


 ────何故、琴美はバトル・ロワイアル中にも関わらずお花畑いっぱいだったのか。


 ────そして、何故、琴美はグダグダと願い事の話を今しているのか。



さっきから渦を巻いていた二つの疑問が、貫通されたかのように一片に『理解』したとき。



「だから、私はこれをチャンスだと思ってるんだよ……!」

『え?』



古見さんは、一目散に逃げ出した────────。
────震える体を必死にこらえながら、彼女は走る。



「…伊藤さん、ロッテの勝率.485ってさっき言ったよね」

『えっ、うん…』


「────なら『私のゲーム優勝確率』はほぼ五割ってことだ────────ッ」



『…え?』



鬼に金棒。なんちゃらに刃物。
琴美も金属バットを振り回して、古見さんを追いかけていった……………。

58『コーミックナイト』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/19(木) 20:05:10 ID:Smv9usBo0



「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜……………っっっっっ!!!!!!!!!!!!」


「待てェええ────────────エエッ!!!!!!!!!!! 古見さぁーーん!!!!! 絶対追いつくからなぁあ────────────!!!!!!!!」


 ホテルのカーペットを、古見さんは全力疾走で駆け抜ける。
顔中真っ青で、汗もだっらだらだが堪えて彼女は逃走し続けた。
背後には言わば本物の鬼……。


突然豹変した殺人鬼との鬼ごっこが今繰り広げる……!

──いや、果たして琴美は『突然』豹変した、のだろうか……?
思い返せば、「この人やばくね…?」感全開だった琴美。
普段日常生活では、やばい人と出くわしたらまるで幽霊を見てしまったかのように、見ないふりをするものだが、古見さんはそれをしなかった。やらなかった。

しなかったからこそ、ピンチは必然的にやってきた。


『古見さんほんとごめんなさい。後で私がキツく注意するから…』

『だから今はとにかく逃げて。ほんとにうちのコトがすみません…。やばい上に悪い人でほんとごめんなさい……』


「おおぉおおお────────────!!!!!!!!!! 燃え上がれッ、燃え上がれッ、優勝掴み取れ──────!!!!!!!!!」



「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!!!!!!!!」



 声にならない叫びが響いた。
優勝に目がくらんだ変人と、喋らない美人。女達は汗水たらして、この夏夜を懸命に走り続けた…。
そう。今日は─────、七月七日の夜。
二十年も前に、フランク・ボーリックか逆転満塁サヨナラホームランを打った。七夕のナイター。


(只野くんなじみちゃん山井さん誰か誰か誰か誰か助けて〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!!!!!!!!)



ボーリックが駆け抜けたあの夏が、またやって来る────。



【1日目/G7/ホテル・3F/AM.1:41】
【古見硝子@古見さんは、コミュ症です。】
【状態】疲労(大)
【装備】コルク入りバット
【道具】古見友人帳@古見さん
【思考】基本:【静観】
1:小宮山琴美から逃げる。
2:只野君たちに会いたい…。

【小宮山琴美@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!】
【状態】疲労(大)
【装備】イチローのバット@トネガワ
【道具】スマホ
【思考】基本:【マーダー】
1:古見さんを追い駆けて殺す。
2:優勝の願い事でロッテを優勝させる。自分を黒木智樹くんが惚れるような女にさせる。
3:伊藤さんと通話しながら行動。


【外部介入】
【伊藤光@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!】
【状態】眠気
【装備】なし
【道具】なし
【思考】基本:【対危険人物→小宮山琴美】
1:コト(小宮山琴美)の暴走を止める。

※小宮山琴美と通話している是での参戦なので、渋谷にはいません。

59次回 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/19(木) 20:06:28 ID:Smv9usBo0
 ”ああ、僕の大声が”

 ”闇を照らし、みんなに笑顔を届けますように”


────『新田さんにあこがれて〜マジヤベーゼ!!』

60『新田さんに憧れて〜マジヤベーぜ!!』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/20(金) 20:41:51 ID:sqOBXRAQ0
[登場人物]  [[殺人ニワトリ]]

61『新田さんに憧れて〜マジヤベーぜ!!』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/20(金) 20:42:14 ID:sqOBXRAQ0

鶏冠頭のツンツン金髪。
常にメンチを切り続けるその目はギョロギョロと。
何よりも特徴的なのは彼の口を覆い隠すマスク。
そのマスクにはでかでかと『殺』の文字が刻印されており、町中で出逢うものなら絶対目を合わせちゃいけない、そんな凶暴さの格好であった。


その男、凶暴につき────。



 殺人ニワトリ(本名:山中 藤次郎)は、怖いもの知らずのヤンキー。
例え、相手がスジ者だろうとおまわりだろうと、気に食わない相手には容赦なく鉄拳を突きつける男。それが彼だ。
停学三回、補導歴無数……、後先考えず喧嘩に明け暮れる殺人ニワトリは狂犬と評すべきか、バカと評すべきか。
どちらにせよ、関わるべきでない人間であることは間違いない。

ただ、そんな彼にも一人。
心の底から畏怖する『男』が存在する。


「やっべー……。やべぇーぜ……、まじやべぇって………。マジ…!!!」


 ──毒蛇、鷹を前にして肉と化す。
圧倒的力の序列ゆえに、不良の殺人ニワトリでも臆することしかできないそんな男が、今。

「やべぇ……。何がやべぇって……、…とにかくやばすぎるんだよっ!!! ゴラァッ!!!」


 この殺し合いに参加していることを、手元の紙でニワトリは確認した。
その『名前』を見た瞬間、全身を襲う寒気と震え。そして、殺気…。
ニワトリが顔中汗びっしょりに濡れ果てるのは、決して夏夜の熱さからではない。
理由づけとして、彼は今震えて震えて全身ガタガタと身震いしている。
名前──たった四文字のみだが、そいつが出す絶望的パワー、死のエナジーに屈して、恐怖に包まれたのだ。


「やべえ…………」


「な……、なぜあなた様が…………。ここに………」



「────新田義史……さんっ…………………っっ!!!」


 異名『血と金と暴力に飢えた男』。新田義史。
人を殺すことなど耳糞を掘り出す感覚でしかなく、大金と女をゴミのように扱い、そして数々の『外道伝説』を噂される…──もはやカリスマの域に達した……闇の帝王。
名前を呼ぶことすら恐れ入る悪魔に、殺し合いをさせるとは。
どんな惨劇になるかなんて殺人ニワトリには、想像もできない。

「…まじやべえ。やばすぎるぜ……。こいつぁアよおっ!!!!」


 従って、殺人ニワトリは注意喚起をすることとした。
渋谷の街にいる全参加者に向かって、注意を。
彼の右手に握られるは、支給品である拡声器────…。



ニワトリは恐かった。

「………新田さん……。許してくだせい…………」


行動に移したくなかった。

「……でも、このまま犠せい者が増える様を黙って見ることなんか………。俺のポリシーに反する………ッ!!!」


だが、自分がやらなきゃいけなかった。

「…俺はやるぞ…………。俺は、やるんだッ……………!!」


新田の魔の手から、参加者たちを逃がすために。


 風吹き荒れるビルの屋上。
ふとバランスを崩せばそのまま転落死するくらいの風圧だったが、殺人ニワトリの『正義燃ゆる炎』はそれくらいじゃ消えなかった。
カチッ、と起動させた彼は、見上げりゃ広がるドーム状のバリアーへ、──いや、突き抜けて更に遥か上空の星空へ飛ばす勢いで。
拡声器の元、ニワトリの咆哮をあげるのだった────。

62『新田さんに憧れて〜マジヤベーぜ!!』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/20(金) 20:42:29 ID:sqOBXRAQ0
「みんなアァァァ────────!!!!!! 俺は殺人ニワトリだッ、聞いてくれエェェェェ────────ッッッ!!!!!!」



「『新田義史』って男に気をつけろ──────────────────ッッッッ!!!!!!!!!!!!」



「ヤツは間違いなくころしあいに乗っているッッ────……、いやそれどころか、殺人よりももっとやべぇことをするぞオオォ────────!!!!!!??」


「何をしでかすかは俺もわかんねぇー……。ただ、外患誘致罪以外のすべての犯罪をコンプリートした伝説のヤローだアァァァ────────!!!!!! 絶対に出くわすなアァァァ────────!!!!!!」


「今新田さんに会ってるやつは逃げろッッ!!!! 逃げろって!! マジで逃げろ、逃げろォ────────ッッ!!!!!!」


「ヤツと出くわしても闘うなッ!!! 家族ともども酷ぇ目に遭うぞッ??!!! …自分のためじゃねェー……、親や大切な仲間のために絶対に逃げろ!!!!!!!」




「…に、にに、新田さん……。無礼な真似を許してください…………。ただ……──、」




「この俺、山中藤次郎は……、絶対にアンタの好き勝手にはさせねェーぜ!!!!!! 分かったかァアアアアア───────ッッッ!!!!!!!!」



「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」



…カチンッ。



「よし……っ! これで安心だぜ!!」


「さーて、俺もボチボチころしあいするとすっかぁ!!! 優勝して母ちゃんに1000兆円プレゼントするぜ!!!! 超やべぇぜ!!!」


「ラリホオオォ────────!!!!!!」



 ズダダダダダダダダダダダダダダダダ、ダダダダダダダダダダダンッ

…と。
サブマシンガンを無駄撃ちしながら、殺人ニワトリは屋上から飛び出ていく。





 馬鹿の戯言とはいえ。
疑心暗鬼…、末には裏切りまでもある殺し合いにて、一ミリでも信用性の欠ける印象の人間は、捨牌を切るように簡単に追放される。
自分がいかに善人であるかを信用させ、仲間と強い結束を組み、そして理不尽を打破する。

それが、『バトル・ロワイアル』生還の鍵だ─────────。




【1日目/F2/雑居ビル/屋上/AM.01:36】
【殺人ニワトリ(山中藤次郎)@ヒナまつり】
【状態】健康
【装備】サブマシンガン
【道具】拡声器
【思考】基本:【マーダー】
1:優勝する
2:新田さん…すみませんん……!!

63次回 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/20(金) 20:45:49 ID:sqOBXRAQ0
 ”バイバイ、新田さん。”


────『新田さんは捨牌だゾ』

64『新田さんは捨て牌だゾ』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/20(金) 20:46:26 ID:sqOBXRAQ0
[登場人物]  [[新田義史]]、[[野原ひろし]]、[[海老名菜々]]

65『新田さんは捨て牌だゾ』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/20(金) 20:46:48 ID:sqOBXRAQ0
────あの日。



 「新田ー、射手座だよね?」

 『あ? それがどうしたよ。つか飯食いながらテレビ見るなつったろうがヒナ』

 「まぁまぁー…。…いや〜、すごいよこりゃ。ほら、見なよ」

 『…あ?』


 「今週の星座ランキング、一位はなんと…!! 七日連続の射手座です!! しかも今日はいいことづくしでしょう! 黙っててもラッキーが訪れる貴方…ラッキーカラーは黄色です」


 「前からずっと射手座一位だよ。素直にやばくね?(笑)」

 『手抜きしてるだけじゃねぇか。くっだらねぇ……』


 ピンポーン

 「お届け物でーす」


 『あっ、はーい』

 「新田義史様…でよろしいですね?」

 『え、まぁそうですけど…』



────このところ、俺はあまりにも。


 「…おめでとうございます!」

 『…え? なにが?』


 「新田様が応募した一億円の壺の抽選………お届けに参りました!」



────『ラッキー』な人生だった。

66『新田さんは捨て牌だゾ』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/20(金) 20:47:12 ID:sqOBXRAQ0
 …
 ……
 『…え? なんで事務所誰も出勤してないの??』

 「おう新田にサブ」

 「あっ」

 『おはようございますカシラ!! ──…で、このガランガランっぷりはどういったわけで?』

 「ったく……、全員が全員風邪だとよ! …ふざけやがって」

 「え? 何スカそれ?」

 「困ったことにな? 全員の自宅かちこんでみたらマジな感じで寝込んでて……。こんな偶然あっかよ?」

 『………とりあえずなにその俺だけハブられてる感?』

 「っつーわけで今日は休みだ。さぁ帰れ帰れ」

 「うそ?! マジスか?!!」

 「あっ、もちろん……。風邪対策したテメェらには、たーんと給料はずんでやっからよ…! …さぁ帰れ!」

 『…え? …………えっ?!』


────あまりにも幸運な一日だった。


 …
 ……
 「…いやあにぃ! それマジ運来てますって!! ばかにできないッスね〜! 運勢占いも!!」

 「ばーか。こんなんたまたまだよ。壺も、臨時休暇に臨時収入も。…運勢とか…くだらねぇ〜…」

 「いやいやマジあにぃついてますから!! …そうだ、今日の有馬記念ぶち込んじゃいましょうよ!! 適当な数字で!(つーか、この人の壺愛…統●信者に匹敵モンっすわ)」

 『…しょーもねぇ……。んじゃ、1-2-3の三連単で買っとけ。アンズの誕生日が12月3日だからよ』

 「(うっす! 分かりました!!)うわ…、なんでアンズちゃんのバースデー知ってんだよ。つか1-2-3って誕生日ホームゲッツーじゃねーか…。ぶふっ…!」

 『いや本心と建前逆になってない? ──まぁ、とりあえず朝から酒とすっか。詩子さんのバー行くぞ』

 「うっす!!」


 …
 ……
 カラン、カランカラン

 『詩子さん朝だけどいるよね────…、』

 ガチャッ、バン

 「ぐえっぎゃああああぁぁぁぁ!!!!!!!!」

 バタリッ


 『え?! え??!!』

 「えー?! 退店客にドアぶち当たっちゃったすよ?! なんで確認しなかったんスカ!!」

 『バ、馬鹿野郎!!! 確認なんかできっかよ??! 俺エスパーじゃねーんだから?!』

 「あっ、新田さん……」

 『ひ、う、歌子さん……。こ、これは不運な事故で────…、』

 「あ…ありがとう!!!」


 『………ん?』「え??」

67『新田さんは捨て牌だゾ』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/20(金) 20:47:31 ID:sqOBXRAQ0
 「そいつ…強盗野郎なのよ…! 助けに来てくれたのよね………? 新田さん…!」


 『え???』



 「お礼に今日は財布入らないわよ? た〜っぷりサービスしてあげる…から♡」


────努力も才能もいらねぇ。息をするだけで幸運が訪れるんだ。


 …
 ……

 ブゥゥゥゥゥゥーーン………


 『サブー、今日叙々苑まで付き合えよ。全部俺がごちそうしてやるわ』

 「うひょ!! マジっすか?! (うっしゃあ、アンズの糞ラーメン屋回避〜〜〜)…ははは〜、心なしかあにぃドライブ楽しそうっすねー」

 『…アホ。こんなことで舞い上がってるようじゃヤクザ者は勤めれねーよ。切り替えろ』

 「またまた〜〜〜!! ほんとはめちゃくちゃハッピーなくせに!」

 『それに、いつまた悲惨な運命が来るかも分かんねえんだ。そんときに浮かれてた時のことを思い出したら余計惨めな気持ちになる。だからあんま調子に乗らないのが自分の為になんだよ』

 「へー、新田さん流人生哲学…ためになるっス!!(調子乗ってなかったら肉なんか行かねーっしょ)」

 『常に用心。常に警戒。嬉しいときも苦しかった思い出を過ぎらせて心を中性に保つ。これをやらなきゃ極────…、』


 「あ、あにぃ!!! 前見て!!!!」

 BAaaaaaaaaaannn…!!!



 『』

 「な、な、…なにやってんスカ??!! 思いっきり前の車のカマ掘っちゃったスよ!!!」

 『……いや運尽きるの即落ちすぎない??』

 「…マジどうすんスか!! やべーっスよ!!!」


 ガチャッ……バタン


 「うわ!! 運転手出てきた!!! マジ俺寝たふりするスからね??!」

 『…………ったく……。んだよーーもう〜〜〜っ!!!』

 コン、コン

 『…は、はい……。す、すみま────…、』

 「すいやせぇん!!!! あっし、無免許なので…警察呼ばれるとアウトなんです…!!! だから、『コレ』で事故は無かった…ということで!!! つ、次からは気をつけてくださいね〜〜!!!」


 「……え???」『…え???』


────運転手から俺の手に渡されたのは壱万円の束だった。
────そいつは逃げるようにワゴンを走らせていく。


 「………え…………???」

68『新田さんは捨て牌だゾ』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/20(金) 20:48:03 ID:sqOBXRAQ0
 『………………これはー、……あれだな』

 「え??」

 『サブ、叙々苑は中止だ』

 「…あ、あにぃ?!」

 『…食わせてやんよ。銀座一流店……本物の『牛肉』ってやつを……なっ?』

 「…!! あにぃいいい!!!」


 [──…ザザーッ…………はすごいっ!! これは大波乱!! マックロサキー一着!!! 1-2-3フィニッシュですから倍率はなんと1580倍で……ザザーッ………]



────あまりにも、薔薇色だった。
────運がとことん味方してくれたから、俺も舞い上がらざるを得なかった。


────が。今思えば、あまりにもラッキー『過ぎた』…………のだ。



to be continued…

69『新田さんは捨て牌だゾ』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/21(土) 22:25:56 ID:7yIiiBDk0




「ひっ……ぐっ……、うっ、うぅ……………──」


「──うまるちゃん、タイヘイさん……。ひぐっ…………、わたし、怖ぇべよ…〜〜……ひぐっ………」


 プラットフォームを過ぎて、改札口。
待合室にてすすり泣く女の子を俺達二人は見つけた。
……間違いねぇ。
ド無能トネガワに見せしめにされた…あの子だ。…そら色んな意味で泣けるわな。


「…で、どうするよ?」

「どうするもこうするもねぇ〜だろ! オレ達で助けてあげないとかわいそうじゃね〜か!!」

「…おいおい……。あの子の視点からだとよ、一人さみしいところをチンピラと筋者二人組に囲まれるわけだぜ? 恐怖でしかねぇだろうが」

「あんなぁ〜〜……。いい加減オレを殺し屋扱いしね〜でくれよ?! …見たことないぞ、新田さん以外でオレを怖がるやつ…」

「…………………うんっ、……すまねぇ…」


……やっぱ俺疲れてんのかな。
野原ひろしさん……なんだかなぁーつうか。
口調は穏やか……ていうか情けないリーマン全開だが、どうにも隠し切れてない『殺』のオーラ…みたいなもんが見えて仕方ねんだよな。
………はぁ。的はずれな邪推を何故かやめられずにいれねぇわ。


「んじゃ、声掛けにいこうぜ〜。……新田さん、…恫喝だけはやめてくれよ? いや、一応忠告だからな……?」

「…分かってるよそれくらい………」


透明な自動ドアをくぐり抜け、座り泣く彼女の近くへ寄る俺達。
…あー、この子なんつったっけ。えびなちゃん…だっけな。
…ま、どうでもいいか。
基本会話担当は自称善良市民の野原さんがやるんだしな。


「やぁ! こんばんは〜〜…!」

「──ひっ!!! ひ、ひ、ひ、ひぃっ!!!!」

「わっ!! とと……。怖がらなくてもいいぜ〜!? オレ達は殺し合いに乗ってないんだからな!!」

「い、いやぁあぁぁぁあぁあぁ!!!!!」

「………え、え〜〜〜〜〜と…。だ、大丈夫だか────…、」


「すいっ…すいませえええええええん…………!!! ほ、本当に抵抗は、しっしませええええん………!! だ、だから…わっ私を殺さないでくださいいいいいいぃぃぃぃっ…!!!!!」


…やっぱり……、野原さん見た目怖いんじゃんかよ……。
えびなちゃん、めちゃくちゃ怯えてるし。
……いや、俺を見てビビりまくってるって可能性は否定しねぇよ?
でも、なら尚更「ほら言わんこっちゃない」って言いたくなるわけだよ。
俺ら二人じゃガキの御守りなんて難しいんだっつうの……。


「おっかねよ……! じっ、ひぐっ………!! 死にだぐねよ………!! ひぐっ、誰が助げで……よ……。いやぁぁぁぁぁ……………、ぁぁぁ……」


ベンチの隅で丸まりこむえびなちゃん。
これじゃまるで死を覚悟した小動物……悪ガキを前にしたダンゴムシだよ。
余計追い込ませちゃってどうすんだ…。
俺はそっと野原さんの肩を叩いた。
「もう…行こうぜ……?」とその合図を示す、無言のアピールだ……────。


「…その方言………。もしかしてきみ、秋田出身か〜?!」

「…あ?」「……ぇ?」

「オレも秋田出身だんておっかながるごどはねぜ〜〜〜!! ほら、ササニシキ…他県のお米ど違ってしったげ旨ぇよな!!!」

70『新田さんは捨て牌だゾ』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/21(土) 22:26:16 ID:7yIiiBDk0
あ??何いってんだ野原さん??


「おめ、末廣ラーメンって行ったごどあるが? ほら〜!」

「…………え?? 末廣ラーメン……ですか………?」

「んだ。あの黒ぇスープにしわしわのラーメン絡まってでな────…、」

「……それでチャーシューはギザギザに切られていて、お麩が入ってる……あのラーメンですよね……!」

「おっ!! そうそう!! あのチャーシュー…東京じゃ炙ってるのが大半なんだが〜、やっぱり特に焼かずそれでいて薄い秋田の末廣ラーメンがさぁ〜〜」

「………………は、はい!!」

「「うんめぇ〜〜〜〜〜だよなぁ〜〜〜〜〜〜!!」」


「…………ぷっ!!! あはははは〜〜…! 息合っちゃい…ましたね……!」

「ハハハハ! 同じ秋田の人間だから阿吽の呼吸ってわけだぜ〜〜!」



 ……意味分かんねぇけど、えびなちゃんなんか泣き止んだし…、まっいっか。
野原さんが秋田出身という割と衝撃的でもない事実はさておき、…えびなちゃん同郷ってだけであっさり心許すんだな…。
いるだろ………。
秋田にも悪い奴とか…、簡単に信頼しちゃって大丈夫ではねぇだろ…………。

──あっ、今野原さん「どうだ見たか?」みたいなしたり顔でチラ見しやがった。
若干ムカついたわ……。


「あっ、わ…私海老名菜々って…いいます……。ど、どうかよろしくお願いします………。──えっと、のはらさん…? ですよね………?」

「おう! オレは野原ひろし。世界一を目指すビッグサラリーマンだぜ〜。…で、こっちは新田さんだ」

「…どうも。海老名ちゃん」

「ひ、ひっ!!! …あっ、あわわ………。は、はじめまして…………」

「……まぁ〜〜、この新田さん…柄は悪いが根はいい人だから安心してくれ。な!」

「あ、あ、あ、…はいっ!」


……おいおい海老名ちゃん、そんな怯え切った目で見てくんなよ…。
いやつーか。つーかよ‥。
俺、このパーティで一人めちゃくちゃ浮いてね……?
秋田なんか行ったこともねぇし、二人と違って真っ当な人間でもない。…末なんちゃらラーメンなんて知らねぇし……。
二人が会話盛り上がったら入る余地ねぇわけで、すげえ居心地悪いんだけど…。
…なに?? 俺どうすりゃいいわけ…???



…ま、とりあえず。
今は先導切って、それなりの存在アピールするとすっか。



「……野原さんに海老名ちゃん。とりあえずここ出ないか? …いや、行き先は決まってないけどよ、俺も知り合い巻き込まれてるし…探すのを第一にしねえかな」

「…あっ、はい…! そ、そうですね……! 私もうまるちゃんを…みっ見つけなきゃいけないですから……………」

「おっそりゃまずいな〜…! じゃあ、新田さん行こうか!」

「…あぁ」



俺は後ろを振り返り出口へ。
野原さんも続いて身体をターン。
海老名ちゃんはよいこらせ、と立ち上がった。


──────────その時だった。

71『新田さんは捨て牌だゾ』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/21(土) 22:26:28 ID:7yIiiBDk0
「え??」

「は?」



「…あぁ??」



ガガガガガガガ──ッと。


地鳴りのようなノイズがやかましい。



『ニワトリの咆哮』が響き渡った。






「──…あっ??!!!」

72『新田さんは捨て牌だゾ』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/21(土) 22:26:42 ID:7yIiiBDk0




……
その声は山へと響き、

『みんなアァァァ────────!!!!!! 俺は殺人ニワトリだッ、聞いてくれエェェェェ────────ッッッ!!!!!!』


「うおっ??!! な、なに?!!」

「…あーー?? なんじゃこのバカ騒ぎは………っ!! 制裁……っ!!」



……
湖に波紋を立て、

『新田義史って男に気をつけろ──────────────────ッッッッ!!!!!!!!!!!!』


「うっさ!!! なんなのこれ?! きりえおねいちゃん!!!」

「…え?? え? に、新田……………? 」




……
都市を揺らし切る。大爆音。
魂の叫び。

『ヤツは間違いなくころしあいに乗っているッッ────……、いやそれどころか、殺人よりももっとやべぇことをするぞオオォ────────!!!!!!??』


「…新田、やべーことになっててうける。ワロス」

「え? ヒナちゃん知り合い??」



……
渋谷という街すべてを、馬鹿の戯言2500dB(デシベル)で埋め尽くした。

『何をしでかすかは俺もわかんねぇー……。ただ、外患誘致罪以外のすべての犯罪をコンプリートした伝説のヤローだアァァァ────────!!!!!! 絶対に出くわすなアァァァ────────!!!!!!』


「……野咲…………。新田から今救ってやるからな………!」




……
聞き逃した者は一人もいない。──否、既に死亡した三名を除いて。
全ての参加者たちが、この叫びを深く深く耳に通し、意識付けられた。


『今新田さんに会ってるやつは逃げろッッ!!!! 逃げろって!! マジで逃げろ、逃げろォ────────ッッ!!!!!!』


────血と金と暴力に飢えた男の、存在を。

73『新田さんは捨て牌だゾ』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/21(土) 22:26:58 ID:7yIiiBDk0





 …いや、いや。
いやいやいやいやいやいやいや、…いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや?!
いやっ!!?



…なにこれ……………?



「……………………………」


「……………………………え? …えっ………」




野原…さん……?
海老名…ちゃ………ん???
な、なんで……、そんな……、
変な目で……見てくるのかなぁ……………………?

お、俺が…………。


俺が、なにか、しちゃい、ました、か…………………………?



「…新田さん……──…、」

「いや俺は殺し合いに乗ってねぇエよっ??!!」

「ひ、ヒィッ!!!!」

「ちょ!! ビビらないでよ海老名ちゃん??! いやマジな方で…これは罠っていうか…。違ぇ…! これは娘の同級生のバカチンピラが勝手に騒いだだけでっ!!!! 事実無根の馬鹿騒ぎなんだよ!!!!」


…汗が、止まんねぇ……。

ンだよこれ………?!
意味わかんねぇよ??!!

…あっ、これ別に冷や汗ってわけじゃねぇよ??!


「に、ニワトリだ!! 殺人ニワトリって自称してるバカがいて…。ほら、馬鹿丸だしだろ??! そいつがこいた大嘘なんだよ!!! あれは!!?? だ、だから──……、」

「…すまねぇ、新田さん」


…はぁっ??!!


「これはアンタを信じきれないオレたちが悪いんだ…。たしかにアンタの言うことは真実かもしれないし、…オレたちだって新田さんと行動したい………」

「…な、ななな、ならっ──……、」

「だけどオレも、海老名ちゃんも…、…死にたくない…」

「……………………………に、新田…さん……」


やめろ………。

やめてくれ………。


そんな目で見ないでくれ。

74『新田さんは捨て牌だゾ』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/21(土) 22:27:16 ID:7yIiiBDk0

「…本当にすまねぇ…新田さん……」


そんな熊を前にしたような目で見ないでくれ。



「は、は………………。に、新田さん……………」


そんな囚われの羊みたいな哀愁の目で見ナイデクレ………。



ヤメロ…。
手ヲ……。
手ヲ振ッテクルナ…。

疑心暗鬼ニナルノハ理解デキルガ。
俺ノ気持チニモナッテクレ。
ナァ、頼ム。

俺 ヲ 信 ジ テ ク レ…。




「すまねぇ…。出てってくれ、新田さん」




…………………。
…モウ、ナニヲ言っても無駄だった。









……
「…………………に、新田さ──…、」


「俺に近寄んじゃねぇエッ!!!!!」

「ひっ!!!」

「ぃっ……………!! に、新田…………………」




「──────闘争本能に火がついちまってな。…引きちぎられたいなら来いよ。おい」



「「…………………………っ…」」



 …海老名ちゃんをガードする野原さん。
二人をチラリと見た後、俺は静かに階段を降りていった。
背中に突き刺さる敵意&恐怖の眼差し。
…ははっ。
バカの雄叫び一つでここまで状況が変わるとは。恐れ入るぜ……。

漆黒のスーツを揺らし、同じくどす黒い革靴を鳴らしながら、悪魔と名付けられし俺は行き先もなく彷徨い歩いた。






頬を伝うひと粒の涙。
──すっげぇ泣きたい気分なのに、こんなときに限って涙腺は謎の断水ぶりだった。

75『新田さんは捨て牌だゾ』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/21(土) 22:27:27 ID:7yIiiBDk0
【1日目/E1/渋谷駅/AM.01:43】
【新田義史@ヒナまつり】
【状態】放心
【装備】AT拳銃
【道具】???
【思考】基本:【???】
1:。


【野原ひろし@野原ひろし 昼飯の流儀】
【状態】健康
【装備】???
【道具】キンッキンに冷えた5000ペリカの缶ビール@トネガワ
【思考】基本:【対主催】
1:海老名ちゃんを守る。
2:新田を警戒。

【海老名菜々@干物妹!うまるちゃん】
【状態】健康
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【対主催】
1:新田さんを警戒。
2:野原さんと動く。
3:うまるちゃんたちと合流したい。







────『蝮』は笑った。

「新田ァあ〜〜? …ざけやがって、顔面をグチャグチャにぶち殺してやるっ!!!」



────『復讐の鬼』は願った。

「…新田………。うぅ…タエちゃん…、お願い……。私に優勝する力を…、貸して……………」



────『冥土』は警戒した。

「………信憑性はともかくとして…。新田という輩、マーダーであろうとなかろうと会ったら即殺のみでしょう。…協力なんて絶対不可能ですから」




巡り巡る、参加者たちの心情。

新田という男の存在が、殺し合いを大きくかき混ぜることとなる────……!

76次回 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/21(土) 22:28:47 ID:7yIiiBDk0
 “食うか食われるか。”

 “そこには上も下もなく、ただひたすらに食は生の特権であった。”

 “格ゲーブーム全盛の1994年から早二十年の今。”

 “異様で不気味な闘志が蔓延るゲーセンで生きた男・矢口ハルオと一行のもとに、ヤツは再び舞い降りた………。”




 “ハイスコアガール。あぁ、ハイスコアガール…。”


────『魔界村の騎士は両手に花』

77 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/21(土) 23:06:58 ID:7yIiiBDk0
お知らせです。
平成漫画ロワを始めてもうすぐ1か月が経とうとなりましたが、実際執筆に至り自分の中で「何かが違う」と思い悩んでいました。
その「何か」について今日不意に気づかされたのですが、当ロワは周りロワにおける『殺し合い』の緊張感・疑心暗鬼感が足りていませんでした。
私は従来のアンチテーゼをモットーに好き放題な展開で書いていましたが、皮肉にも、好き勝手書いた結果自分の心が満たされないことを悟ったのです。

つまり何が言いたいかというと、今からwikiに掲載されている回一部の内容の変更・訂正を行います。
さらにつまるところ、毒吐き別館にて指摘された当ロワの問題点をすべて改善しようと思っています。(例によっては、ダン飯関連です。正直原作は一回しか完読してませんでした。)
毒吐きの皆様の意見を取り入れ、従来のパロロワらしい展開をするパロロワが、自分にとっての『平成漫画ロワ』と判断したので、誠勝手ながらご理解の方お願い申し上げます。
「三拍子揃った」という表現がありますが果たして何拍子なのかと思うぐらい大量の訂正箇所があるロワで、書き直すことは大きな作業となりますが、コツコツながら最良に近づけていきますので、
当ロワを読んでくださる方も「このキャラこんなん言わんやろ…」と疑問に思う箇所があれば、箇条書きでOKですのでコメントの方お願いします。

最後に、これは本筋から離れますが、二週間ほど前パロロワ交流雑談所にて当ロワの論争で大きく荒れたことに関して、お詫びします。大変申し訳ございませんでした。
私は毒吐きでは完全にROM勢でしたが、要望スレにて報告される程の荒れ具合の引き金となったことを、平成漫画ロワ責任者としてお詫び申しました。

長々となりましたが、責任者としてこのロワを完結まで執筆しますので、皆様どうか平成漫画ロワ。いや、ヘマンロワはこれからもどうかよろしくお願いします。

78『魔界村の騎士は両手に花』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/22(日) 20:09:37 ID:dWhhbUZc0
[登場人物]  [[矢口ハルオ]]、[[オルル・ルーヴィンス]]、[[来生]]、[[ライオス・トーデン]]

79『魔界村の騎士は両手に花』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/22(日) 20:09:54 ID:dWhhbUZc0

 凶悪難易度ゲーム『魔界村』をプレイした男子なら誰もが妄想することだった。

知らんやつ宛に説明すると、このゲームの主人公はダメージを受けると鎧が壊れてパンツ一丁になるわけよ。
それを目の当たりにしたら、…必然的に思っちまうんだわ。
こいつが美少女だったらなぁー…。
主人公がおっさんじゃなくて女騎士版の魔界村作ってくんねぇーかなぁ……、とすけべ心が欲動しちまう訳だ。
……俺も男だから、そんな下衆な妄想すんのも仕方ねぇよな?…一応……。
初代魔界村が稼働し、十年が経つ今。
スト2はZEROへと進化を遂げバンバン女ファイターが活躍する一方で、魔界村は未だおっさんのままだ。
『いつまでも変わらない味』ってのは確かに大切なことだが、そろそろ女キャラ導入してもいいとは思うぞ?
あくまで、俺の個人的な意見だがな。

 …あぁ、そうだよな。
確かに、以上は今行われてる殺し合いとは全く関係ないゲーヲタの独り語りよ。
どうでもいいっちゃこの上はねぇー…。

だが、だぜ。
目の前にいる『コイツ』を見て、俺が真っ先に連想したのは魔界村だったんだ。
俺にとって、この『異常者』=アーサー…。
やつの格好は衝撃的過ぎてな…、思考停止した俺は魔界村という感想しか思いつかなかったんだよ。
……普通の非ゲーマーなら、めちゃくちゃ叫んで怯えまくるんだろうがな。
この、オルルみてぇーに……。


「な、なななんだ………、き、貴様ぁぁぁ……?!! ひぃ、やぁぁ……あぁ………ぁぁあぁぁ……………───────────っっっ!!!?????」

「…あぁ、すまない。俺は服装には構わない方だから。今下の鎧を取ってく──…、」


「『服装に構わない〜』はまず服を着てるやつのセリフだわいっ!!! この…変態野郎がぁァァ───────ッ!!!!!!!」


 ゴスッ

「…があッ」


ソイツが喋りだした瞬間、やっと我を戻した俺は顔面めがけてダルシムパンチを一突き。
『下半身丸出し』の鎧野郎へ、まるで牛のケツに拳突っ込む酪農家ばりに顔面をぶん殴ってやった……。


「な、な、…なんだよこいつはぁっ??!!!」


…とりあえず一旦話を数十分前に戻すぞ。

80『魔界村の騎士は両手に花』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/22(日) 20:10:11 ID:dWhhbUZc0



「プル………、パパ……………、私…、辛いよ……苦しいよ…………………。ごめん、なさい…ごめ…うーん……………──」


「────ハッ!!!」

「うひっ?!! 起きやがった!!!」


「…あ」 「………あー…」


 …おうおう、地獄の始まりだぜ……。──源平討魔伝のババアが手招きしてらぁ。
俺を襲撃したガキ──オルルが目を覚ましたのは空が微妙に青くなってきた時間帯。
それまでは近くのケータイショップにて、ソファに寝かしつけといたんだが、十数分経てとうとう覚醒しやがったよ…。
…オルルが寝てる間に逃げれば良いじゃん、とか突っ込まないでな。
ガイルのおっさんに託された以上…、俺も義理堅い性格ではあるからなぁ…。


「……………………」

「………………はぁーぁー………、参っちまうぜ…」


目が合って数秒経ったが、さてどう話すべきか…。
ガイルの言った通り、確かにこいつは寝てりゃただのガキンチョで。
うーん…、とうなされつつもむにゃむにゃ夢見心地の可愛げある奴だった。
──…だけどんなの関係ねぇーーしぃっ!!!
こいつは何の面識もねぇ俺を切りにかかった野郎、…何よりさっきの激闘でKOされて憎んでるわけだぜ??
一応バカデカ剣は奪ったから悪・即・斬は封じといたが、それでもこいつと穏便に接するなんて無理ある話だわっ!!
…あっ、何か忘れてた頬の痛みがまたジワジワ湿りだしてきたし……。
ほんと…、どう話せばいいわけよ………?


 ピタッ…


「いっ??! いっでぇえええ!!!!!」


痛っ!!! 畜生!!
オルルのガキ、そっと俺の傷跡に手を添えてきやがった!!!
…あっ、反対の頬にも手当ててきたし。
な、なんなんじゃこいつ!!


「……………やっぱり、なんも『反応』がない………。『呪い』が…、発動しない………」

「はぁあっ??!! 意味分かんねーよ!!」


ポツリ…と小声を漏らしたオルル。
ガキの小さな手がゆっくりと頬から離れていった。


「……ごめん………なさい」

「……あ???」

「…貴方を悪魔だと勘違いして……、私…憔悴してたから………、殺しにかかっちゃって……………」

「あ、あくま??」

「本当に………ごめんなさい…」


正直、謝れるだなんて一ミリも予想してなかったから…虚を突かれちまって俺は固まった。
……えーと………。
クソッ……、割と穏便に済んだら済んだで困っちまうもんだぜ……。


「……………」


んまぁー、…とりあえずだ。
深々と頭を下げるオルルの、今にも溢れだしそうな目の潤いがなんとも気の毒だから、俺もそれなりの返しをしてやるか……。

81『魔界村の騎士は両手に花』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/22(日) 20:10:30 ID:dWhhbUZc0
「…お、おう……! 気にすんな…──って言うとなんかムカつくけど…まぁいいよ。…お前もガキだし仕方ねぇってもんだからな」

「…………許して…くれるの………?」

「そーしとくよ。…プロ殴られ屋の俺だ。頬の傷なんかどうってこたぁねえぜ」

「………ごめんなさい。…そして……ありがとう…………──」



「──……ねえ、キミ……名前はなんていうの?」

「…あー? 俺矢口ハルオ。──おっと、お前は名乗んなくていいぜ? オルル…だろ…?」

「…うん。矢口……ね」


…呼び捨てしちゃうッスかー?
オルルパイセンよ〜〜?


「矢口……、ちょっと私試したいことがあるから………。他の参加者に会いに…、外出たいんだけど」

「………げっ!! ゲヘェ〜〜〜〜っ………。外に出るー? 参加者に会いにー?? 俺襲われたばっかなんだぜ?? おい〜……」


「………………そのことはごめんなさい」


「…あっ、いや俺が悪ぃ……」



「…でもほんとに…、私の『呪い』について確かめたいことがあるのよ………。──あっ、嫌なら…別に私一人で………いくけど。………うん。無理、だよね…………」


…露骨に悲しげな顔しよって。
これだから女のガキンチョは………、あー苦手だよ。
やるかやらないかで言えば絶対やりたくねぇーし、無理と判を押し付けたいくらいだぜ。──そのガキガキ顔にギューーッと判をよぉ?
………けどもだぜ。


 ──ハルオ……っ! ファイナルファイトで過ごしたあの時…を。隣に大野がいたあの時を思い出すんだ……っ!!

 ──2P同時プレイでの協力プレイ……。今すべきはまさに『ファイナルファイト』なんじゃないのか…? ハルオ……!!


…そうだ、しゃーねぇよな。


「…やべぇことになったら俺逃げるからな??」

「………えっ??」

「ほら、行くぞ。オルル……。なに試すのか知らねぇーけど…」

「……あっ…あ、ありがとう…!」


オルルのデイバッグを肩にかけ、俺はガキの手を引いてやった。
…あっ、そうだそうだ。


「言っとくけど、さっきみてぇーに手当たり次第「悪魔がぁ〜」って襲うなよっ??! 保護者役の俺にも責任降りかかるんだからな!!? 分かったか?!」

「……それは勿論心得てるわ………。うんっ」

「ほんじゃ行くぞ。しっかり掴まってろ」

「…え? つかまるって…ど、どういうことよ?」



…どういうこと、か。
一から説明すんの面倒臭ぇーから……。ま、とりあえずノリよ。ノリ。

82『魔界村の騎士は両手に花』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/22(日) 20:10:43 ID:dWhhbUZc0
 (→↓+Pボタンx3)
──────『ヨガテレポート』


「わっ──…!!!!」


 ビシュンッ……


ダルシムの技テレポートで適当な場所へと向かっていった。





────んで、ワープした先っつうーのが………。

83『魔界村の騎士は両手に花』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/22(日) 20:10:59 ID:dWhhbUZc0



「な、ななななな、なにをしてるんだぁ───────っっ???!!!! きさまぁぁ───────っ!!!!」


 BAN!BAN!BAN!BAN!BAN!BAN!BAN!BAN!

 BAN!BAN!BAN!BAN!BAN!BAN!BAN!BAN!



────車をバンバンぶん殴る鎧ロシュツキョウジャーの前だったわけよ…。
いぃやテメェはスト2のボーナスゲーム中かっ!!!!


「ひぃいいいぃぃぃぃっ!!!!!」

「…あっ!!」


よく見りゃ車内には涙目の女子がうずくまっていたし……。
このクズ野郎!!!


「…あっ、やあ!!」

「「やぁ、じゃないわいっ!!!!」」


「俺はライオス。妹を助けに魔物食でダンジョンを進む冒険家さ。…あっ、俺は決して殺し合いには乗ってないから安心──…、」

「この悪魔が…成敗してくれるわぁあぁぁぁ──────っっ!!!!!!」


にこやかな狂人目掛けて、オルルは剣引きづらせ果敢に飛び込んだ…!!
さっきは、「襲いかかるなよ」と注意した俺だが………、いいぞっ!! やれやれ!!!


「わっ。は、話を聞いてくれ!! 俺は主催者を倒したいんだ!! これは本当なん──…、」

「オルル!! やっちまえぇえ!! 誰も文句は言わねぇーぜ!!!」

「うんっ!! 承諾済み…! うおおおおぉぉぉぉおおおぁあああああああああああああぁぁぁぁぁ──────っっ!!!!!!」


ったく、テレポート早々不埒な野郎に出くわしたもんだぜ…!
ふっざけんなよ!!! ゴラッ!!!


 スタタタタタタターーッッ


と、無駄のない華麗な動きで一気に距離を詰めたオルルは、あの重たい剣を天高く突き刺す。
…露出野郎も剣を持っていたが、差は爪楊枝と割り箸同然。オルルの鉄板のような剣に敵うわけがなかった。
月明かりに照らされ、一瞬輝きが走る剣先。
剣先が再び暗闇に鋼鉄した時、オルルは


 ビュン──────っ


と。
最低野郎の頭目掛けて、一気に振り下ろした。





 ────バリンッ


  バラ、バラバラバラ、バラバラ……





「……………はぁ、や…やっぱり……………………」


「…え? な、なんて??」

84『魔界村の騎士は両手に花』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/22(日) 20:11:19 ID:dWhhbUZc0
──剣を振り抜いたオルルが「やっぱり…」とため息をついた理由……、それが分かったのは割と後だったぜ……………。


「…えっ??!!」


 鋭い刃面がやつの頭に直撃した瞬間、大きく響いた粉々に割れる音。
…そいつは決して、異常者野郎の頭が砕ける音じゃねぇってのは分かるよな……。
バラバラに砕け散ったのはオルルのバカでかい剣の方。
異常者には大してダメージを与えることができず…、


「こ、これは…。きみっ!! 一体どうしたんだい!!」


──というか全く外傷つけることなく、剣はその役目を終えてしまった……。
いや、なんでっ??!!
どうしてっ?!!!
物理的におかしいだろ?!! チョキがグーを羊羹切るみたいにスーって切断したようなもんだぞ??!!


「…やっぱり……だ………。もしかしたら……、呪いが消えたかと思ったのに……………。思ってたのにっ!!! …うぐっ、えぇん………、ええんっっ…!!」

「うわっ!! 大丈夫かい?! どこか怪我をしたんじゃないのかっ!! き、きみ!!!」


ポン…と奴はオルルの肩に手を置いた。
……それだけ、だったのに…──刹那だ。


「ぐわぁああぁぁぁぁああああああぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜───────っ!!!!!!!!!」

「えっ??! オ、オルル!!!!」


突如、オルルの身体全身は…電撃で包まれ、ビガビガビリビリビリ────と稲妻を発し始めた…!!
言うまでもねぇーが、少女は悶絶と超絶痺れで表情を強張らせ、カクッ、カクッと首を動かす…。

 ビリビリビリビリビリビリビリビリ────────ッッ

雷鳴は…異常者が触れた手を話した途端に。


「…ぐっへっへぇえええええええええええあ…………………………!!!」


パタリと止まった……。
──あぁそうバタリッ、ともだ。…これはオルルが倒れた音。


「………き、きみ…。こ、これは……あれだな」

「………………………」



 痺れてビクンビクンッと、リハビリ患者みたいに死物狂いで体を動かすオルル…。
ボッコボコの車、内部にて鼻水を垂らしながらなにか叫ぶ女…。
そして、狂人。

これはー………。
俺の固い頭が導き出した現状把握は…こうだぜ。
…よく知らねぇが狂人野郎もスト2…いや、なんかのマイナーゲームの技をラーニングされていて。
そのマイナーゲームというのが電撃使いなわけだから、剣も簡単に折れたし触れるだけで感電もさせた…。
奴が車を物理的に攻撃したのは、車には電気が効かない作りになっているから、か……。
的外れなら許せ…。あくまで俺のバカ脳がひねり出した考察なんだからな……。


「…あぁ、すまない。俺は服装には構わない方だから。今下の鎧を取ってく──…、」


…まっ、んなこたぁ、どうだっていいが…。
とりあえず。


「『服装に構わない〜』は…以下略っ!!! この…変態野郎がぁァァ───────ッ!!!!!!!」

85『魔界村の騎士は両手に花』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/22(日) 20:11:30 ID:dWhhbUZc0
 ゴスッ───────



俺は拳をヤツの顔面にビョーンっと一発。
ジャイアンに殴られたのび太並にめり込ませた…。
おーっ、セーフ……。感電なし〜………。



 バタリっ…──

 ──ガチャリッ


「怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!!!! うっうぅわぁあぁぁああぁぁああああああああ〜ん!!!!! 怖かったよ〜!!! 助けてぇええ!!!!!!」

「うおわいっ!!!!!??」


やべーやつを倒したとほぼ同時、待ってましたかというように車から女が飛び出してきた。
ギュッ…と抱きしめられる俺……。
あー、このままエンディングロールとなれば締まりがいいんだけどよぉ〜〜……。

86『魔界村の騎士は両手に花』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/22(日) 20:11:47 ID:dWhhbUZc0




……
「…ふーん、矢口くんね……。私は来生。優勝狙う気だったけど…もうやる気滅入ったわ……。で、あなたがー………」


「私はルーヴィンス家の末裔…。悪魔ハンターのオルル。──…ごめん、矢口。試して分かったけど…、『悪魔の呪い』……。まだ継続中だったわ………」


「あーはいはい…。つまりオメーは悪魔的な奴に触れると痺れちまう呪いがあるわけね? …はぁーあ…おいおいだぜー……」


「うん…。その証拠に矢口も。あと…、ほら」


 ポンッ


「来生さんに触れても何ともないわ…」

「…なによ、その………(…いや私も十分悪魔的異常者なんだけどっ?! 腹立つわね……)」

「厳密に言えば、今までは魔界の…本物の悪魔に触れたときだけ呪いが発動したけど……。見た目は人間でも悪魔同然の奴もアウト……みたい。……ぐっ、うぐ………」


「また泣いたし〜……。つーか、それじゃあ全然役に立たないじゃねえ────っか!!!!!」


「うぇえ〜〜〜〜ん!!! そうだよ〜〜〜!! だから、だから私…悔しいんだよ〜〜〜〜〜〜〜!!!!!! うわぁあ〜〜〜ん!!!」

「ちょっと矢口くん!! こんな小さい子相手に言い過ぎじゃない!!? 謝りなさいよー!!」

「いや…………、だって…、あれだけ力あるくせにこんな呪いで……。…役に立たないのは事実じゃねぇーかよ」

「まぁまぁ!! …オルル、君は立派だよ。このメンバーに不要な人なんかいないさ。ハルオは格闘担当、オルルは悪魔判定機、来生も……医療担当…。決して外れちゃいけないピースだからなっ!!」

「………………………」

「ひぐっ………………、ひぐぅっ!!!」



「…おうおう、それはそうとなぁ……────」







「なんで変態鎧野郎がこの場にいるんだよ────ッッ!!!!!!??? 馴染んでんじゃねぇえええ!!!!!!」



ホテルの個室、ベッドを囲んで右回りから俺、オルル、来生とかいう女、そして…コイツ………。


「そ、そうよおおぉおおっ!!??!!! …ひ、ひぃやぁぁあああああああああああああああああああっ!!!!!!!」

「うわぁぁああぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜んんん!!!!!!!!」


 俺のツッコミが終わると同時に、悲鳴が二重奏で展開された。
なんでテメェまでノコノコついてきやがんだよ……。

…って………、


「なにテメェ困った顔してんのじゃいっ!!!! アホかお前?!!!!!」

「い…いや、だって。話が違うじゃないか!!!」

「矢口くんコイツ追い出してぇええええ!!!!! 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖いひぃいいぃぃいもういやぁあああ〜〜!!!!!」

「…ちゃ、ちゃんと下を穿いてきたんだぞ、俺は…。それなのに、この対応はおかしいじゃないか?!」

「黙れ悪魔っ!!!」

「そうよそうよ!!! ひぐっ…悪魔は消えろっ!!!」

87『魔界村の騎士は両手に花』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/22(日) 20:12:03 ID:dWhhbUZc0
「…悪魔って…………。君たち………、そりゃないだろう………」


…だから、テメェが落ち込んだ顔してんじゃねぇえっ!!!!!

奴は相当堪えたのか、しょんぼりしながらトボトボと歩き出す。
…そのわざとらしさ感じるガッカリっぷりに得体の知れぬ狂気を覚えたがどうでもいい。
そのままアイツは扉を開けて、スタスタ部屋から消えていった。
 …──かと思えばさにあらずっ!!
出口付近の冷蔵庫をガチャリ…。
なんだか神妙な顔でゴソゴソ漁りだすと中にあった謎の機械??をヴィイイイーンと作動させて……、
遊んでいやがった……。


「や、やや、矢口くんあいつ殺しましょ?! ねっ、今がチャンスだから!!! 早くっ!!!」

「馬鹿野郎??!! 返り討ちに遭うだろうが?! 聞いてたかよ?! あいつ剣士だかなんだかつっただろうがよーーっ!!!!」

「矢口…、じゃあ一旦は逃げよう!! あの…ヨガテレポート(?)で!! それならいいわよね!!」

「あっ…、そ、そうだな!!」

「…な、なによテレポートって…」

「説明はあとですっから…とりあえず来生俺に掴まれ!!!」

「えっ? 分かったわよ……」


…両肩に高嶺の花……。
小さい手の感触が二つ、感じたところで俺は頭の中を念じ始めた。
ヨガテレポート………いけっ………! と。
適当な場所を始点にワープを開始したぜ…。


──あっ、ちなみにだが……。
…いやこれわざわざ紹介する必要ねぇーかな…。

 あのイカれた剣士の名前はライオス・トーデンだとかなんとか。
龍に妹を捕食されたから、救うためエルフ、ハーフフット、ドワーフの四人でRPGをしてるという……。
あぁ、説明だけでも完全にイカれてるよな。現に、あいつは「魔物が云々〜」とめちゃくちゃ早口で喋ってて…マジ戦慄させられたしよ。
ダンジョンがどうの〜だのと、連想させられるのはウィザードリィやドラクエとかだが生憎俺はアーケードゲーマーなんでね。
家庭用ゲーム機はほぼほぼ対象外だから、ヤツの話は興味をそそられなかった。
…まぁゲームの趣旨は抜きにしても、ライオスの話なんか聞いてたまっかよ……。




────そんなヤツの手が、


「あっ、来生。迷惑をかけたお詫びといったらなんだが…………」



────いや、ヤツが持つ電気マッサージが、


 ぶいぃぃぃぃぃん…


  …ぶぶぶぶっ


「…ぎゃっ──」



────ワープ寸前だった俺達の、──来生の肩にチョン…と乗っかり………。



「「「あっ」」」




 ピシュンッ

88『魔界村の騎士は両手に花』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/22(日) 20:12:16 ID:dWhhbUZc0



「おおっ!! ここはホテルのロビー…。瞬時に五階から一回までワープするとは……魔術………!? き、きみ…もしかしてマルシルを知ってるか?!」


────俺達『四人』は、一階までテレポートしていった。




「…やっ、やだぁあああぁぉぁぁぁぁぁっ!!!!!! お母さんお母さんお母さんお母さんお母さんお父さんお父さんお父さんお父さんおまわりさんおまわりさんおまわりさん!!!!!!」

「うっわぁあ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!!!!!!!」


「なぁハルオ。人は食わなきゃ生きていけない。それが掟なんだ。だからここいらで一つ。俺の魔物飯を──…、」

「いやお前は死なんかいっ!!!!!」


 ゴシュッ


「ぐへがっ」







 …
 ……
 “食うか食われるか。”


 “そこには上も下もなく、ただひたすらに食は生の特権であった。”


 “格ゲーブーム全盛の1994年から早二十年の今。”


 “異様で不気味な闘志が蔓延るゲーセンで生きた男・矢口ハルオと一行のもとに、ヤツは再び舞い降りた………。”




 “ハイスコアガール。あぁ、ハイスコアガール…。”




【1日目/B2/ラブホテル/1F/AM.01:35】
【ライオスさん隊】
【矢口ハルオ@HI SCORE GIRL】
【状態】頬に切り傷(軽)、ダルシム@スト2技ラーニング
【装備】なし
【道具】なし
【思考】基本:【静観】
1:ライオスをどうにかしねぇと…。
2:ガイルの委託に従い、オルル(と来生)を守る。

【オルル・ルーヴィンス@悪魔のメムメムちゃん】
【状態】号泣
【装備】なし
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:矢口らと行動。
2:ただしライオスはくんなっ!!

【来生@空が灰色だから】
【状態】精神状態:恐怖(大)
【装備】アーミーナイフ@牛丼ガイジ
【道具】なし
【思考】基本:【静観】
1:矢口くんらと一応行動。
2:ただしライオスはくんな!! 普通じゃない普通じゃない普通じゃない普通じゃない!!
3:助けて助けて助けて助けて!!

【ライオス・トーデン@ダンジョン飯】
【状態】健康
【装備】鋼の剣『ケン助』@ダンジョン飯
【道具】クリスマスプレゼント・電マ@わたモテ
【思考】基本:【対主催】
1:来生、ハルオ、オルルを守る。
2:一旦は食事だ。
3:主催者を倒し、ゲームを終わらせる。
4:パンツがあるから恥ずかしくないよ!

89次回 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/22(日) 20:13:17 ID:dWhhbUZc0
 ”ぬんっ”


────『しかだがのこのこだがしかしたたん』

90『しかだがのこのこだがしかしたたん』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/25(水) 21:28:17 ID:J4hzjdvo0
[登場人物]  [[佐野]]、[[鹿田ヨウ]]

91『しかだがのこのこだがしかしたたん』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/25(水) 21:28:46 ID:J4hzjdvo0
 ただ一人でもいい、私は仲間が欲しかった。
バスの中にあんなにも多くの人間がいたから、私の『仲間』が紛れているんじゃないかと。
そんな淡い期待を、正直抱いていた。


「…隣りに座っていた……来生さん」

「私に気づいた途端、大袈裟なくらいに怯えちゃって……」


「やっぱり…来生さんも自分を開放できなかった普通の人間なんだね…………。……寂しいよ、…辛いよ」




河川敷の橋の下。
真っ暗な影に覆われ透過されそうな中、私は衣服を脱いだ。


 ベチャッ、ベチャッ


そして同じくらい真っ黒な『蛍光液』を、体全身に塗りたくる。


 バサッ……


…普段被っている『髪』。
塗るのに邪魔だったからそれを無造作に投げ捨てる。
露になったスキンヘッドにも蛍光液をたっぷり染み込ませた。


 ガサゴソ……


 ペタッ、
  ペタ、ペタ…


袋から一つ、一つ取り出していく。
山で見つけた動物たちから拝借した、大小さまざまな『目玉』。
濡れ切ってベタベタになった身体へ、吸い付くように貼っていく。
脚、手、胴、頭、後ろ、裏側、──付け爪を剥がし、十本指全部にもつけていって、


  ブゥン…
   ブゥン、ブゥンブゥン
 ブゥーン……


羽虫たちが嗅ぎつけて周りを飛び交ってくる。
全身ギョロ目で埋め尽くされるこの姿が──────、『本当の私』。
これが皆に見てもらいたい私の姿だった。


「緑の色の毒の電波が走っているのを見つけたのはクリスマスだったな…。12月25日。キリストもメシアとして知ってた…。だから血を流したり、腹を裂いて黄色い脂肪の玉を取り出したりしたからねー…」


「まるで蛙の解剖みたいに。…うふふっ! ──あっ、いたたた……。痛みはやっぱり鉄の足枷ねー……」





「……来生さぁん…。ほんとは私を試してるんでしょ? 普通の人間のフリして私が『本物の仲間』か試してるんだよね? 分かってるんだよ?? …ねえ、だから教えてよ」


「──今、渋谷のどこにいるか教えて。脳内電磁波を飛ばしてさ………。お願い、来生さん………」



 私のこの姿を見た、自分を『解放』できない人々は皆逃げていく。
大声を出して、泣きながら、いろんな汁を飛ばしつつ、山から走り去る。
私は別に襲いかかろうとか、そんなアクションを一ミリも取っていないのに、みんなみんな逃げるしかしない。してくれない。

その人たちの背中を見るたびに、私はいつも決まった思考をしてしまう。
──特に、カップル連れとか、二人組の人を見たら。その思考が顕著に激しくなる。

92『しかだがのこのこだがしかしたたん』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/25(水) 21:29:10 ID:J4hzjdvo0
 “私も、あぁやって一緒に逃げてくれる『仲間』が、ほしい。”………って。



「えっ??! うおっ、はぅあぁあっ!!!!??!!!」


………。
ふと、後ろからの声に振り向かされた。
…この男の人もまた、一言も会話してないのに、私を見ただけで既に立ち去る体勢でいる。


「ひっ、ひっ!!! うおわぁぁあああああぁぁぁぁぁぁぁああああああああああっ!!!!!!!!!!!!!!!」


そして、予想通り物凄い勢いで逃げていった。
…いつも、こう。
もしかしたら、この渋谷なら違った反応になるかなと期待したけど。…いつも、いつも、いつも、いつも、いつも、こう。
皆そろってマニュアルみたいに同じ行動して、私はいつも一人残される。


 もしかしてこの星には、自分を『開放』し自由になろうって考えの人はもういないのかな。

 この星のあらゆる海、あらゆる土地を探しても私と同じ考えの人は見つからないのかな。
 だとしたら、もう地球には用はないから宇宙外にいきたいけど、……私にロケットとか所有していない。

 つまり、私はこれからもずっと……、本当の自分を誰にも理解されず。
 ずっとずっと、偽の姿のまま生きなきゃいけない。


 そういうこと、なんだね。



…目玉から、ドロドロと汁があふれてきた。
多分、熱帯夜だから腐るのも早いんだろう。蛾やアブにたっぷり目の汁がかかる。
足先の目、肩につけた目、額につけた目、顎につけた目────あと、元からついてる目から。…液体が止まりを見せなかった。




「──うおぉぉおおおおおおぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!!」


……………え?
背後から急に大声が迫ってくる。正直、意表を私は突かれちゃった。
振り向いた先にいたのは、さっき逃げ出したあの男の人。

 ズザザザザ────ッと。
私の横で急ブレーキをかけたそのおじさん。
息を荒くしながら、彼は私の肩をポン、と叩き……、そして物凄くフレンドリーに話しかけてきた。


「ハァハァ…! …君の全身についてる『それ』…。これって、まさしく──…!!」

「…………え? な……」


「────『ヤングドーナツ』だよねっ!!!!! ハァハァ…ハハハー…、ハーハッハッハッハッハッ!!!!!!!!──」



「──貼りたりないようだから急いで買ってきたぜっ!!!! ほら、喜んで受け取りなっ!!!!!!」



……………。
私の手には、よく見る駄菓子が握らされていた。

93『しかだがのこのこだがしかしたたん』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/25(水) 21:29:24 ID:J4hzjdvo0



「ここで、お勉強ターイムと行こうかっ!!!!!!!」


 そういって、目の前のおじさんはメガネをかけだした。
…メガネといってもマーブルチョコたちが「8」型に包装された駄菓子のあれだけど。
それをスチャっとかける素振りをして、おじさんは講釈を始める。


「ヤングドーナツは今から二十年前に宮田製菓から発売された新人駄菓子なんだぜ!!!!! …あっ、宮田製菓さんいつもありがとうございます〜〜!!!!!!」

「ルーツはみんな大好き揚げパンだ!! それもアンコが入ってるやつねっ!!!!! 普段その製造をしていた下請け会社から宮田製菓さんに「揚げパンの材料があまったからあげるよ〜」的な委託をされたんだ!!!!!」

「これをどうにかうちの製品に作れないか…? と悩む宮田製菓さん……。そこで、この駄菓子が閃いたというわけなんだっ!!!!!!」

「あのヤングドーナツ…牛乳、小麦粉、たまごにお砂糖の素朴な味ではあるが、アクセントになってるのは降り掛かった粉末砂糖だろうっ!!!! あれはこの歴史が由来となっていたんだよ!!!!」


………私は何を聞かせれているんだろ。
そもそもにして目玉をドーナツと見間違える視力もスゴいけど、さっきからわけ分からない話の勢いが凄まじい。
ほんとに、このおじさんは何が言いたいのかな?


「…しかしだなっ……。噂には聞いていた全身ヤングドーナツ人間だが……。まさかこんな場所で出会えるとは………!!!」


なんか全身ヤング云々とかいう意味のわからない変人と勘違いされてしまった。


「俺…、実は『世界一駄菓子を愛してる人間って自分じゃないのか? いふふふっ!!! 』…って思ってたんだが自惚れだったぜ…。──ヤングドーナツ人間くん!!! 君を超えるヤングドーナツ愛の人間は、この世にいないっ!!!!!!!」


…駄菓子は別に好きでも嫌いでもない…かな。
というか、「いふふふっ!!」ってどういう笑い方なの?


「そこで、俺は考えた。…どうにかして、君に対抗できない…か、をねっ!!!!!」


ライバルにされてしまった。


「…君の模倣になるようだが許してくれ………! そして刮目してくれっ!!!!!──」

「────これが…、俺の…!! 『駄菓子愛』なんだァァァア────────────ッッ!!!!!!!!!!」


なんだか急にテンションMAXになり、叫びだしたおじさん。
明らかに普通ではないおじさんは、自分の着物をバッと脱ぎ出すと、自分の肉体美をさらけ出してきた…。
フンドシ一丁の体は、全身にマーブルチョコがべったりと貼り付いていて……、カラフルこの上なくデコレーションされている。
……この匂い、はちみつ…?
よく見たらおじさんの足元にはアリたちが羨ましそうに眺めていた。

…そもそもこの行動。
普通に考えればセクハラとか…それ以上の公然猥褻では??



「ハァハァ……。いい闘いだったな…! 俺達……!!!」


知らない間に闘わされてたらしかった。


「……激闘のあとは共闘だ…!!!! 駄菓子好きな俺達で渋谷に広めてやろうぜっ………!!」


…繰り返すけど私は駄菓子が好きじゃなかった。


「────まさしくヤングドーナツレボリューションをなっ!!!!! この殺し合いのルールに『穴』をあけてやろうぜ!!!!!! うおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!!」


……『穴』って。
そんな上手いこと言ってるようには聞こえなかった。

94『しかだがのこのこだがしかしたたん』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/25(水) 21:29:36 ID:J4hzjdvo0
ただ、一つ。
──ひとつだけ分かったことがある。

このおじさんが完全に普通ではないこと────言うなれば自分の『解放』に成功しきった人間なのだということが。
つまり、長きに求めていた同人種──『仲間』とついに出会ったのだ。
……私は、思わず息を飲んだ。


目玉を袋に全部戻し、全身を濡れタオルで拭いてから、カツラを被りスカート等を穿く。
制服に袖を通して、おじさんに一礼。
ついに『本物』と遭遇した私は、なんだか安堵な気持ちで満たされていた………。


「私、佐野といいます…。別にお菓子は好きじゃないです……。…それでは……!」

「……──えっ??!!!!! ちょ、ちょっと待って??!!! え???!!! お、おじさんは鹿田ヨウだよ!!!!!! …だからなんだって話だけど……。…と、とにかく待って!!!!!」



…でも、さすがにこの人と同類とは思われたくない…かな。


【1日目/C2/河川敷/AM.0:06】
【佐野@空が灰色だから】
【状態】健康(普通の姿)
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:『仲間』を探したい。

【鹿田ヨウ@だがしかし】
【状態】健康(フンドシ一丁に全身マーブルチョコ)
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【対主催】
1:駄菓子同盟・佐野ちゃんと駄菓子レボリューションを起こす。
2:──はずだったんだが……、ちょっとどこ行くの!??

95 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/25(水) 21:32:50 ID:J4hzjdvo0
 ”俺はただ飯をまともに食いたい、それだけだった────。”


 ”迷いし参加者が、悪鬼に襲われたその時。”

 ”ヒーローは颯爽と、月光の元現れた。”


 ”ヒーローはみな、素顔を現さない。”


────『世界一やさしい殺人鬼』

96『世界一やさしい殺人鬼』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/26(木) 22:05:05 ID:gM9aIOe.0
[登場人物]  [[田宮丸二郎]]、[[尾張ハジメ]]、[[黒崎義裕]]

97『世界一やさしい殺人鬼』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/26(木) 22:05:36 ID:gM9aIOe.0

美味しくウィダーインゼリーを食いたい────。

それだけだったはずなのに、俺は──────。

98『世界一やさしい殺人鬼』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/26(木) 22:06:00 ID:gM9aIOe.0



「うわくっせっ!!!!」


 支給物品である弁当箱。
タッパーを開いたらプゥ〜〜〜〜〜ン……と凄まじい腐敗臭が広がった。
──奇妙な手紙と共に。



 {{畠山くんへ。}}

 {{せっかく僕が朝早起きして君のためにお弁当を作ってあげたのに一口も食べないとは人としてどうかと思う。}}
 {{君に良心があるのならどうかこれを全部食べてほしい。}}

 {{僕をあまり怒らせないでくれ。 ──N}}



「……は?」

「…畠山? 誰だよ…。このNってのは主催者の名前か? …訳が分からない」


ネッチョリ…と納豆のような粘つきを見せる弁当箱。
…こんなモンを食えと? この俺に?
ふざけるなよっ?!


「まぁ…俺、畠山じゃないし……。別に放置でもいいよな…。これ」


弁当にそっと蓋を閉じて、とりあえず今座ってるベンチの横に置くこととした。
──……いや、やっぱ臭いがヤバすぎるから投げ捨てた。

 俺の名前は田宮丸二郎。
周りからはジローちゃんと呼ばれており、特に婚約者のみふゆからのモーニングコール──「ジローちゃん、朝よ〜!!」はこの上ない幸せだった。……だなんて、まぁどうでもいいわな。
明日に備えて早寝をした昨夜、目を覚ましたら「殺し合いをしてください…!」とは。
キャンペーングッズの抽選をコツコツ応募するのが趣味な俺であるが、人生初の当選がまさかのバトロワ参加権……。
いらんっ、いらんぞ。
犬にでもくれてやれっ。ンなもん。
…ため息は嫌いだからつかぬようしてきたものだが、さすがに許してくれ。


「…はぁあぁーー…………」


ンだよこれ……。
ワケわかんねぇし…、こういう時どんな顔すりゃいいか途方に暮れるわ…、これ。
…そうそう。
一番訳わからんのが、俺の支給武器だ。
バスから転送され目を覚ましたとき、まっさきに目に入ったのが横に座る『こいつ』。──……こいつ、はおかしいか。人間じゃないもんな……。
顔はバカでかく、鼻水を垂らし目はギョロギョロ。
おまけに寸胴で一見全く頼りになさそうなこいつ。
──そいつの名は正義のヒーロー『どくフラワー』だ。
…言ってしまえば、スーツアクターが職業の俺が着る 着ぐるみというわけだ。
ご丁寧にも値札のように、『田宮丸様専用武器』と貼り付けてあるのだから、これを着て戦えと申すのだろう。


「…きったねぇ弁当誤支給した割には律儀によこしやがってなぁっ!!!」


…全く参った話である。
確かにどくフラワーは毒の力で敵を倒す正義の味方だ。
相手を一発で戦意喪失させるパンチに、とんでもないキック……、いざバトルとなれば彼に敵うやつなんかいないだろう。


「…がっ!!! あくまで、それは設定のはなし…」


こいつを着ていざ殺し合いとなってみろ?
ノー装備時に比べて動きづらい、視界も狭い、暑苦しさが半端じゃない……。パワーダウンもいいところだろうが。
なにが田宮丸様専用だ?! なにが俺専用武器だ?!! シャアかよっ?!!
……どうせ殺し合いをするんだったら、せめて有能な主催者の元やりたかったよ。うん。


「……で、俺はこれからどうすべきか…という話だが………」

99『世界一やさしい殺人鬼』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/26(木) 22:06:16 ID:gM9aIOe.0
…早い話、弁当ぶん投げた時点でもう俺の支給品はゼロなわけだ。
他の参加者みなさんもこんな感じのカス支給っぷりに困り果ててるだろう……と思ったが、あの主催者のことだし意味不明な支給格差がついてる可能性は大だ。

…なぁ?
俺はどうすりゃいい??
死亡率が凄まじく高い気がするんだが、ほんとに何をすれば助かるんだ。俺は……。
それとも諦めてさっさと自サツをしろという神の思し召しなのか??


「いや死にたくねえよ…。こんなバカげたことで……」


…とりあえず、

とりあえずだ。



俺は支給武器であるどくフラワーの中に入り、でっかい頭を被ってみることとする。





──とりあえず、
ここが一番の隠れ場所だから、な……。

100『世界一やさしい殺人鬼』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/26(木) 22:06:35 ID:gM9aIOe.0



 川のせせらぐ音。
屋根のない車修理場にて、一人の女性が歩いているのを確認した。
辺りは小休止中の大きな歯車、鉄片の数々に、事務所へ続く扉、至る所落ちている吸殻たちに、そして着ぐるみ。いずれも月明かりに辛うじて照らされるのみ。
一見して、OL風といったメガネの彼女。
バカか、否か。…恐らくバカであろう。
今がどういう状況かは分かってるだろうに、メガネ女は大声で周囲を見渡していた。


「おーー〜〜〜い! ココノツ店長いるスかぁ〜〜〜〜? ほたるさんは〜〜〜?」

「…いない、か……。お〜〜〜〜い! ハジメは自動車工場にいるっスよ〜〜〜〜〜〜!!」


大胆、と評せば聞こえはいいが、『ハジメ』と名乗った女性は大声を出して暫く経っても、この場に残り続ける。
ナンタラ店長だか、ほたるさんだかと早く出逢いたい──そんな思いは理解できるが、彼等よりも先に違う参加者と鉢合わす可能性の方が高いだろう。
ましてや、そうドでかい声を上げたら、絶対に出会いたくなんかない──ゲームに乗った参加者に会う確率の方が……。


 ザッ……

「あっ! ココノツ店長ッスか────…、」


「…って、違ったしー…………」


…即落ちにも程があるだろう。
ハジメの声を聞きつけ、足音を立ててきた男が一人……。
シワ一つないスーツを着た…なんだか権力者、重役と思える男が工場入口に立っていたのだ。
ハジメとヤツとの距離は推定十メートルほど距離が離れている。
そのためか彼女は声を届けたいと大声で、しかもこれといった緊張感皆無で男に接し始めた。
フレンドリーにメガネを光らす彼女…。やはりバカだった。


「すいませーーん!! 私、尾張ハジメって申しまーーす!!! …あっ、殺し合いには乗ってないんでーー、まぁ仲良くやらないスか〜〜?」

「……………………………」


尾張ハジメ。──…おわりはじめ……とは何たる因果な名前だろう。
ニコやかに叫ぶ彼女へ、男は無言で返す。──といっても、軽く微笑み手を振るといったアクションも含めて返事を返したのだが。
カッ、カッ、カッ、カッ────とハイヒールを鳴らし、彼へと近づくハジメ。
警戒心ゼロで歩み寄る彼女は、会話一つさえしていない男を完全に信頼しきっている面持ちだった。


「ところで〜〜、おじさん…名前なんて呼べばいいスカ? あっ、私は適当にハジメでいいんスけどーー……」


…例えば、ペットボトルがあるとしよう。
『ペットボトルの形はなんですか?』と聴かれた時、そら『?? ボトル状でしょう』と答えるはず。
ただし、ペットボトルの向きを回転させたとき。すなわち奥底を見せつければ、『いいえ、丸です』と答えることができる。
…つまりは、だ。


「あれーー? おじさん無視しちゃいますかぁ〜〜〜〜? まー、別にいいっスけどー……」


──視点を変えた時見えてくるものがある。
男と対面しているハジメは決して気付かないだろう。
彼が右手に隠し持っている『バズーカ砲』が────。



刹那。

 ──ボンッ、ドガァァァアアアアアアアアッッッッ


「……………………え?」


ハジメのすぐ背後が焼け野原で覆い尽くされる。
燃ゆる地面、一瞬にして湧き立つ煙、そして揺れる足元。
爆発音が静まった後、バズーカ男は口を開いた。


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