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真実の……バトルロワイアル 2

1 ◆3nT5BAosPA:2019/07/10(水) 14:53:21 ID:3QdBHNTs0
参加者一覧

9/10【鬼滅の刃】
◯竈門炭治郎/◯竈門禰豆子/●吾妻善逸/◯煉獄杏寿郎/◯冨岡義勇/◯胡蝶しのぶ/◯累/◯猗窩座/◯童磨/◯鬼舞辻無惨

8/9【Fate/Grand Order】
◯藤丸立香/◯マシュ・キリエライト/◯宮本武蔵 /◯源頼光/◯酒呑童子/●清姫/◯エドモン・ダンテス/◯フローレンス・ナイチンゲール/◯メルトリリス

5/6【ラブデスター】
◯若殿ミクニ/◯皇城ジウ/●愛月しの/◯神居クロオ/◯姐切ななせ/◯猛田トシオ

4/6【五等分の花嫁】
◯上杉風太郎/◯中野一花/◯中野二乃/◯中野三玖/●中野四葉/●中野五月

4/5【仮面ライダーアマゾンズ】
◯水澤悠/◯鷹山仁/◯千翼/◯クラゲアマゾン/●イユ

4/5【HiGH&LOW】
●コブラ/◯村山良樹/◯スモーキー/◯雨宮雅貴/◯雨宮広斗

4/5【衛府の七忍】
◯波裸羅/◯猛丸/●犬飼幻之介/◯宮本武蔵/◯沖田総司

2/4【彼岸島 48日後……】
◯宮本明/●鮫島/●山本勝次/◯雅

2/3【かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜】
◯白銀御行/◯四宮かぐや/●石上優

3/3【刀語】
◯鑢七花/◯とがめ/◯鑢七実

2/3【仮面ライダー龍騎】
◯城戸真司/●秋山蓮/◯浅倉威

3/3【ナノハザード 】
◯円城周兎/◯前園甲士/◯今之川権三

3/3【めだかボックス】
◯黒神めだか/◯人吉善吉/◯球磨川禊

2/2【TRICK】
◯山田奈緒子/◯上田次郎

2/2【亜人】
◯永井圭/◯佐藤

1/1【戦慄怪奇ファイル コワすぎっ!】
◯工藤仁

58/70

761名無しさん:2020/10/09(金) 20:24:38 ID:UiKOBams0
たぶんもう一つの舞台でやってるロワに招かれてお見合いすることになる

762名無しさん:2020/10/10(土) 03:29:07 ID:gvsk4Xu60
>>758
何をヒスってるのだか…

763名無しさん:2020/10/10(土) 13:15:30 ID:D9Hhu1aw0
一々触れるな

764名無しさん:2020/11/10(火) 19:21:16 ID:tTRjWksk0
あーあ

765名無しさん:2020/11/10(火) 22:30:48 ID:6PdkzkhI0
まーた一々ageる構ってちゃんキッズか

766名無しさん:2020/11/12(木) 09:55:25 ID:eXAMA8ko0
触れてやるな
頭のかわいそうな子なんだろう

767 ◆0zvBiGoI0k:2020/11/23(月) 19:21:20 ID:JA.y83Y60
tes

768 ◆0zvBiGoI0k:2020/11/23(月) 20:29:13 ID:JA.y83Y60
黒神めだか、今之川権三、鬼舞辻無惨、累、神居クロオ 投下します

769鬼神爆走愚連隊・愛 ◆0zvBiGoI0k:2020/11/23(月) 20:30:15 ID:JA.y83Y60


 地上の真上に昇る天球の光も届かない無明。
 教会地下に続く階段を、鐘の音のように足音が鳴り響く。
 亡者しか住まわない闇に繋がっているかのような沈みきった場所。
 そこに向かって、本物の地獄を引き連れて。

 洒脱だったスーツはずたにされて襤褸と変わらぬ有様で。
 血の色を感じさせない蒼白の肌は迷いでた幽鬼のようで、朧では決してあり得ない威圧を放ちながら降りていく。
 神も仏も知らぬと嘯き、太陽以外に恐れるものは無いと傲岸に謳う最凶の鬼。全ての元凶。
 ───鬼舞辻無惨は、地下礼拝堂に辿り着く。

「──────無惨様」

 絶対の主を前に、累は顔を伏せたまま跪き傅く。許しがあるまで顔を拝謁するのは許されていない。
 だが許可が降りても累は表を上げるつもりはない。
 自分を実験台に使うと、野の鼠でも向けるような宣言した顔を見るのが恐ろしいのも半分以上だが、今は少しでも考えを悟られない為という理由もあった。



 下弦とはいえ累は十二鬼月だ。選ばれた鬼の精鋭の一員だ。
 鬼として強くなる必然として、普通の鬼と比して無惨から多くの血を与えられている。
 そうして強くなるほど大元の無惨の力の源流に近づき、その力の凄まじさを深く知るのだ。

 その無惨に、これから己は反逆しようとしている。
 暴挙だった。極めつけの愚挙だった。
 言葉にしてみても、やはりまるで現実性のない試みだ。
 企てるどころか本来なら思考の中で生まれるはずのない異常。
 累自身、今になっても何故そうしようとしてるのか不思議でならない。
 わざわざ捕らえた稀血の女を逃がし、『兄』にした男を巻き込んで罠を張って主を待ち構えた。
 九分九厘、十中八九死ぬとわかっていながら挑む理由というものに、ここまできても累は理解できていない。
 自分はどこか壊れてしまったのか。心の中にずっと埋められない空洞があったのに気づいたような。


 だが───ここに至って勝ち目があるかどうかなど関係ないのだ。
 自分は、今ここで立ち向かわなければならない。
 相手が誰であろうと。そう、支配者である無惨でなくても同じ状況ならこうしていただろう。
 向き合うべきもの、戦うべきものは、敵だけとは限らないのだから。

「ここはまだ日の光が届きます。どうか奥へ」

 労う言葉を続ける。
 時間を僅かでも先延ばしにする。

「僕の処断は、そこでお受けします」

770鬼神爆走愚連隊・愛 ◆0zvBiGoI0k:2020/11/23(月) 20:31:02 ID:JA.y83Y60


 奥では『兄』が準備を進めている。
 鬼に覿面だという酒に、電気を流す工具。
 累には理解の及ばない道具だったので手配は任せていた。配置の作業は糸でやったが。
 試しに垂らした一滴を糸に当てると、みるみるうちに糸が溶けた。効果自体は本物らしい。
 問題は、これが下弦でなく、上弦のさらに上に位置する者に通用するかだが。
 こればかりは試すこともできないので本番任せになるしかない。

「さあ───」

 思案ばかりしても甲斐がない。今すべきことに集中する。
 累の役目は無惨の誘導。奥の霊安室───兄が言うには───まで連れ込み罠を作動させること。
 
「……?」

 だが、いつまで待っても無惨から動きはなかった。
 折檻するにせよ、言葉で責めるにせよ、なんの反応もないというのはらしからぬ態度だった。
 流石に怪訝に感じ、累は伏せていた顔を上げて無惨の様子を窺った。



「───、………………?」

 いや。窺おうとした。
 頸を動かし、目の前に立つ主を見ようとした。
 たったそれだけ。それだけの動作を、累は果たすことができなかった。

「まさか、叛逆を企てるまで支配が緩んでいたとはな」

 どういうわけか、頭上から声がした。
 意識を向けても、やはり視界に収めることはできず。それどころかあらゆる体の自由が利かない。指一本すらままならない。
 一向に動かせない視界の中で、何か、白いものが転がっているのが目に入った。
 びくびくと痙攣しながら、赤いモノを吹き溢して床を汚している。



「あ─────」



 それがさっきまで累の頸を乗せて繋がっていた自分の体だと認識した瞬間。
 世界と感覚を断絶させる痛みが、脳髄という脳髄を支配した。

「あ"、ぁ"ぁ"ぁ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!!???」
「喚くな。今の私は貴様の断末魔に耳を貸す暇も惜しい」
「……! …………ッ!!」

 部屋中に響き渡っていた絶叫がぷつりと止まる。
 こめかみに食い込んだ五指から流れる、より上位の命令に上書きされ、塁という個の意思が塗り潰された。
 懲罰のためか痛みだけは依然続いている。痛みに悶絶して転げ回ろうにも体がない。叫ぶ自由すら剥奪されている。

771鬼神爆走愚連隊・愛 ◆0zvBiGoI0k:2020/11/23(月) 20:32:00 ID:JA.y83Y60
る。


 ───思考が、読まれていたのか……? まずい……!


「……記憶は柱に頸を斬られた瞬間までか。厳密に死んだわけではない。わざわざ死んだ後から生き返らせるよりも手間が省けるというわけか。
 あの女の術は、時間の壁を超えるものとでもいうのか? ならばこの状況にも一応の辻褄は合う」

 無惨は脳の髄と幹まで刺さっている指から取り込みながら、引きずり出した情報を冷静に精査している。
 裁定は変わらない。累はこの場で処分する。これはとうの前に決定事項だ。
 意に沿わぬ思考を抱いただけで下弦程度の鬼は早々に処刑する無惨である。
 配下の鬼は何時何処にいようとも生殺与奪の権を握っている。その上明確な叛意まで抱いたとなればその結果は見るまでもない。
 そもそも無惨が累がいる教会に出向いたのは、死んだはずの下弦の状態を調べ、首輪の実験台にするため。
 最初から殺すと決めているのだから、間に何を挟もうとどれも些事である。
 念の為に、頸を千切るのではなく根本の脊髄を丸ごと引きずり出すことで、首輪が作動しないようにもしてある。
 脳に直接命令を送れば肉体の操作も容易に可能だ。

 だが、それでもだ。感情より実益を取るという方針は、尋常ならざる癇癪持ちの無惨らしからぬ選択ではある。
 無惨は怒っている。この場に連れてこられた始まりからずっと。
 集められたどの参加者よりも、最大にだ。
 今他の参加者と出会えば、すれ違うだけの縁でも腕を振り上げ肉塊にしているだろう。
 しかし何事にも例外という状況はある。
 無惨にとっての例外は、この短時間に己の意のままに動かない邪魔者が立て続けに遭遇したことだ。
 日の光に当たっても体が崩壊しない、鬼に似て非なる大男。
 無惨が認めてもいないのに鬼となり、太陽すら克服した女。
 そのどちらでもない、今しがた吹き飛ばしたばかりの正真の化物。
 どれだけ沸点が低くても、その状態がいつまでも続けばやがて喉元を通り過ぎる。
 煮えたぎる溶岩の如き憤怒と屈辱は収まらないが、その度に発散してきて僅かに熱は引いている。
 その奇跡的なバランスが、かろうじて優先順位を覆させずに保ってきていた。

「特に体に細工はされていないようだな。だが脳の一部に変容が見られる。起点は首輪からか。
 これの材質は分析できないが、爆破する際の細胞の反応を見れば効果も逆算できるだろう」

 こうして体の隅々まで調べられ、時には細胞を潰して反応を探ってる間も、想像を絶する苦痛が累に及んでいるわけだが、当然そんな瑣末事を気にかける無惨ではない。
 人間でいうなら、麻酔もかけられてないまま頭蓋骨を開かれ、脳に手を突っ込まれかき混ぜられてるようなもの。
 通常の生き物ならその時点で死に至るが、鬼の生命力なら耐えられてしまう。まして無惨の支配下にある今、死ぬことすらも許可がなければ叶わない。



 やはり、駄目だった。
 叛逆は始まる前に終わりを告げ、当然のように自分は死ぬ。
 いいや始めからわかっていたことだ。全ての鬼を統べる絶対者にかなうはずがない。
 わかっていたのに、どうして自分はこんな真似をしたのか。
 貧弱な体から救ってくれたのに。十二鬼月にまで取り立ててくれたのに。『家族』を作る酔狂まで許されていたのに。
 どうして。

772鬼神爆走愚連隊・愛 ◆0zvBiGoI0k:2020/11/23(月) 20:32:35 ID:JA.y83Y60


 ───兄、さ……。


 発狂する寸前の思考、白滅した視界の中で、累は最後の思考を走らせる。
 自分は間もなく死ぬ。それはいい。了解している。
 こうまで扱われながら、首輪の実験台として無惨に確かな貢献ができる喜びすらもあった。
 だから気に留めるのは、部屋の奥にいる『兄』であるクロオだ。
 自分の絶叫から作戦が頓挫したのは理解しているはず。出入り口はひとつしかなく逃げ場はない。
 ならば彼はどうするか。一か八かで作戦を決行するだろうか。だが既に累を通して作戦は露呈している。
 今は実験を優先してるが、動きを察知したら何かする前に早く動き、呆気なく頸を狩り落とすだろう。


 ───逃げ……。


 動かない舌で、届かない声で無意味に呼びかける。
 まるで本当の家族のように身を案じる。その心境に気づくこともなく。

 
「やはり、一度見て確かめるに限るな」

 もう精査は十分と見て、辛うじて繋がっている頸に引っかかっている首輪に無惨の指がかけられる、その寸前。
 物理的に、明確な意思の元で叩きつけられた拳によって、轟音と共に背後の階段が崩れた。

 取り払われた壁から光が差し込み。舞う砂埃を可視化させる。
 陽光がより広く地下に差すように。
 鬼をより奥に追い込み逃がさないように。
 破壊は瓦礫で下を埋め立てるのではなく、外との穴を広げる意図で行われたものだった。

「ドアも見つからず、ノックもしない不躾な訪問だが許せ。鬼の界隈での作法なぞわからんのでな。
 なにせ成ってからまだ日が浅い。一度も夜を超えてないほどにな」

 砂塵の中から、凛とした覇気を放つ躯体。
 満身に光を背負いながら現れた、烈花のように激しくも美しさと血鬼を孕むのは少女。
 人間でありながらその範疇を逸脱した異常の極点であり。
 化物でありながら人間を捨てられないか弱き凡庸の成れ。
 誰よりも強く正しく険しく厳しく、そのために誰からも見捨てられた『天才孤児』。




「まあ仮にあっても、今は守る気は一切ないがな!」

 箱庭学園第99代生徒会長(任期切れ及び次期選挙に落選済)黒神めだか。
 登場早々、鬼神モードでの殴り込みである。




 ◆

773鬼神爆走愚連隊・愛 ◆0zvBiGoI0k:2020/11/23(月) 20:33:31 ID:JA.y83Y60





 ───暗闇から伸びた多量の糸が閉所に殺到する。
 糸の出処は、累の頸と泣き別れになった胴体だ。
 無惨の背から映えた触手が突き刺さり、即席の血の強化と操作により体は瞬く間に膨張し、破裂するように糸を吐き出す。
  全身から射出された糸は崩れ落ちた瓦礫を片端から牽引して、光を閉ざそうと穴を塞いでいく。
 
「庵(あん)!!」

 踏み鳴らした脚と大声が衝撃波を生んで糸を四散させる。
 喜界島もがな(ハウリング)の声帯と人吉善吉(震脚)の体術の併用。
 過去実用した阿久根高貴のですら動物の群れを一瞬で気絶させる威力。
 黒神めだか、ましてや鬼神モード中で使用すれば、そこには物理的な破壊力が追加される。
 個人が携帯できる兵器の枠を超え、戦車か戦闘機が搭載するレベルにまで達していた。

「弱い者いじめを──────」

 兎にも角にも、天敵になる太陽を凌ぐ。
 鬼と同じ体質になっためだかはその思考を読み先手を打った。
 対策が無駄打ちに終わり一手遅れた無惨に対し、めだかは先んじて行動を完了し。
 

「するなァァッ!」


 鉄よりも硬い剛拳制裁が無惨の腹腔を突き破る。
 正確には拳でなく掌だ。衝撃を内部に伝わらせる浸透勁、八極拳の要領。
 切断・貫通は効果が低いと学習し、肉と内蔵を微塵に破砕させる方法にシフトさせた故の選択。
 それでもなお勢いを殺さず、無惨の体はより奥の暗室へと吹き飛ばされた。
 こめかみに食い込んだ指ごと千切れて拘束が剥がされた累の頭部が宙に舞う。
 代わりに添えられたのは、慈悲に溢れためだかの、五指から伸びる鋭利な爪だ。

「……駄目か。五本の病爪(ファイブフォーカス) も鬼には適用外ということか。まあここまでくると傷や病気の領域ではないのだが」

 赤子を抱くような仕草で累を持ち、自己の能力の精度を確かめるめだか。
 助けられた形の累だが、脳内を埋めるのはむしろ困惑の方だ。
 この女は何者だ。何故無惨様に逆らえる。十二鬼月と思うほど鬼の気配が濃いのに、自分達とはどこか成り立ちからして違うと感じる。
 そもそもさっき現れた時、太陽の光を背中に浴びていなかったか? なぜ体が崩壊しない?

「おま、え……」
「ほう、その状態でも喋れるのか。性質はともかく生命力の点で言えばやはり感嘆せずにはいられんな。
 自分で『成っているから』わかるが、もしやこの体、生命力の増強と疾患の治療が本義の用法ではないのか?」
「なんで、僕を助ける。同族を助ける理由なんて鬼の間にはない。まして僕の家族でもないのに……」

 そして、何よりも。女が叫んだ言葉。
 累が弱者に見えたのか。守られるべき者だと思ったのか。
 それを聞いて、めだかの目から熱が引いた。

774鬼神爆走愚連隊・愛 ◆0zvBiGoI0k:2020/11/23(月) 20:34:37 ID:JA.y83Y60

「理由……助ける理由か。私もそのことについては随分考えたよ。
 今までずっと、考えるまでもない、考えてこなかったのだと気づかされた。
 私を任した男なら相応しい答えをくれるのやもしれぬが、今となっては恥の上塗りでしかない」

 そう言って閉じた瞳が開けられた時には、元の凛然さを取り戻し。
 

「でも考えても考えても、やはり答えは変わらなかった。
 私はみんなが大好きで、みんなを助けたかった。それが余計なお世話と知ってもなお。
 私も今や正真正銘の化物だ。人類皆兄弟なら化物だって家族間のお付き合いぐらいあるだろう。ならば助ける理由はとっくに出来ているさ」


 累は何も返さない。
 めだかの溌剌とした言葉を聞いてただただ呆然としていた。
 あの鬼舞辻無惨に挑みかかったのが、まさかそれだけの理由のためなのか。
 家族でもない、見知らぬ誰かのために、命を懸けられるのか。
 子や下の兄弟を守る為には我が身を顧みない。
 それは累が理想とする家族の形であり、なのにそれを目の当たりにしても心に打ち震えるものはない。


「───ギッぃ、あぁあああ……っ!」

 から回る思考を、激痛が再びかき回す。
 脊髄から湧き出た糸の奔流がめだかを弾き飛ばし、四方に散って崩落部を埋めていく。
 血の支配は遠隔まで届く。糸を吐き続ける自動機械に累は逆戻りする。

 今度はめだかは助けに行かなかった。
 自分が空けた穴、男を吹き飛ばして出来た穴を凝視する。
 闇より濃い闇。底なしのような虚から出てくる、黒い渦の根元を、じっと目を凝らす。
 目を離したら、その瞬間この頸は繋がってないと、獣の本能で確信して。

 現れた男には孔も痣もない。服こそ裂けたがめだかと同じく全快した姿だ。
 体内の臓腑を残らず揺さぶり、破いた手応えが確かにあった。
 自身の腕を捨てる前提で全開の力で殴り抜け、打ち放ったのに、何事もなかったまま近づいてくる。



「何故、生きている」


 その声は問いかけているようで、だが口調には対話の意思がごっそりと欠如していた。 


「何故、私の攻撃を食らって死んでいない。私の血を受けずに鬼になっている。太陽の下で焼かれていない。
 最早不愉快を通り越して不思議で仕方がない。何故、お前のような者が存在する?」
 
 それは弾劾だった。
 許されぬもの。有り得てはならぬもの。
 この世の理不尽、不条理に対する糾弾だった。

775鬼神爆走愚連隊・愛 ◆0zvBiGoI0k:2020/11/23(月) 20:35:07 ID:JA.y83Y60


 天変地異に挑みかかって倒そうとする者はいない。
 地震に嵐に津波を前に人は無力であり、過ぎ去るまで頭を垂れて祈るしかない。
 それが自然の理だ。鬼舞辻無惨という永遠の現象に対する人間の正しい反応だ。
 それなのにこの女はいつまでも己に食ってかかり、鬼になる術を自力で体得し、未だ届いてない太陽の克服を自分を差し置いて達成した。

「化物め。貴様に比べればこの私なぞ存分に生きている」

 理解の範疇を超えた力。
 何かの間違いとしか思えない存在を、無惨は知っている。
 そうした存在にかつて無惨は追い詰められ、消えない傷/疵/瑕を延々と刻みつけられた。
 そしてまた、此処にあれとは別の指向で無惨を否定する存在が立ち向かいに来ている。
 異常の塊だ。摂理に反している。世の理を乱す存在だ。生まれてきていいはずがない。

 だから無惨は静かに激憤する。
 無惨の感情を乱す異常者を憎悪する。
 無惨にとっては正当な、傲岸極まった責め向上を受けて、めだかは初め、見かけ静かに応えた。

「否定はしない。私は醜い化物であるのもみんなに必要とされていないのも、そうなのだろうよ。
 ああ、もうぜんぶぜんぶわかってる。私は見当違いで、見境なしで、見込み違いの女だった。
 それらを弁えた上であえて私はこう言おう」







「貴様が言うなッ!!!」







 黒神めだかは敵を好む。
 陣営、思想、強さを問わず、自身と戦う相手は諸手を広げて迎え入れ、相手が強いほど喜びも強くなる。
 そんな生粋のバトル脳の構造をしている。

 『完成』という、他者の強みを自分基準で引き上げてものにする異常性(アブノーマル)。
 戦う、競い合う行為はめだかにとって、心身共に高みに位置しすぎるが故の孤立を埋めてくれるコミュニケーションであり、『完成』に至らせる研磨材であった。
 理不尽や暴力に怒りはする。思想が曲がっていれば自分基準で矯正させる。
 『過負荷』マイナス十三組との戦いがそうであったように、相手を理解しないままそのままに倒せば自分の方が深く傷ついてしまう。
 相手の全てを観察し、呑み込み、許容するのがめだかの真骨頂だ。それが初見ではどれだけ理解不能な怪物であっても。

 それが今、無惨に対して喝破するめだかの表情には、灼熱地獄にも迫らんとする激怒の二文字のみ。
 ただ怪物であるというだけではこうはなるまい。異種なりの線引きや妥協点を見つけ出そうとする。
 大量殺人者であっても、彼女はここまで絶対の否定を突きつけたりはしない。罪を贖わせてから、更生を願って送り出す。



 完璧な生命を目指すため他者を喰らい生き続ける男。
 完成に至るため他者の強さを取り込み肥大し続ける少女。



 傍から見れば、どちらも同類の化物だ。
 一歩でも道を踏み違えていたら、自分もこのようなものに成り果てていたのではないか。
いや今がまさにそうなのではないか。
 ずっと間違えてきた自分の生き方の最後に待ち受けるものが、この姿だというのなら。
 血の匂いが濃縮された無惨を、めだかは今の自分自身とを重ね合わせて見ていた。
 
 人生の大半の基軸となっていた柱を欠いて均衡が崩れた精神は、本能的に敵を求める。
 黒神めだかと鬼舞辻無惨。このどこまでも対極でありながら、あまりにも近似である二人が抱く不快の感情の正体は。

「化物だというなら是非もない。命の尊さ、一方的に暴力を振るう痛みと虚しさを道徳的に理解(わか)らせてやる。
 化物(わたし)に相応しいやり方でな!」
 
 同族嫌悪、なのかもしれない。





 ◆

776鬼神爆走愚連隊・愛 ◆0zvBiGoI0k:2020/11/23(月) 20:36:09 ID:JA.y83Y60





「やれやれ……結局こうなったか」
 
 瓦礫まみれの暗室で、クロオは独りごちた。
 制服に埃を被って煙たそうに口を手で覆ってるが、それ以外の傷は負っていない。
 突如として壁が壊れて人間大の物体が飛び込んだにしては僥倖だろう。クロオが巻き込まれなかったのは運が良かったからでしかない。

「ま、状況は最悪なわけだけど」

 そう、僅かばかりの幸運が積み重なったところで、趨勢の絶望さは変わらない。
 扉の先を覗いていないが事の次第はわかっている。
 累との作戦は見破られ、親玉の手により処刑されようとした最中に何者かが乱入して戦っている。
 身を潜めていても聞こえてくる声から、鬼とは因縁がありそうなのは察せられた。
 陣営でいえば累もクロオも明確な鬼側なので味方とも言えないだろう。

 元より捨てた命だ。絶対絶命の窮地に置かれたといって今更慌てぶる理由もない。
 むしろ不確定要素があるならこれはチャンスだ。両者が戦ってる隙に、当初の作戦を実行に移せるかもしれない。
 主戦場より離れてるクロオにはそんな算段を立てられる余裕まであった。自分達を救ってくれた助力者を巻き込む人倫に迷うこともない。

「兄は弟を助けるものだからね」

 自分の命にも他人の命にも執着がないから。
 その場凌ぎにしか見えない、他愛もない約束を理由にするのに、躊躇することもなかった。



「……ん?」

 不意に聞こえた音に耳を傾ける。
 地下室全体は絶えず戦闘の振動で揺れてるが、それとは違う種類の音が、地下を突き破った一筋の光の中から漏れ聞こえていた。
 
「始まったか……ここからでも凄まじい音が聞こえるぞい」

 天井が崩落してこないか注意しながら近づくと、若いがどこかしわがれた感のある男の独り言がした。
 穴の真下に来て、そっと窺ってみる。人間大の大きさの外の景色に、筋骨隆々の男の顔が丁度収まって映っていた。

「こうも上手く潰し合ってくれるとはの……小娘と千年男、厄介な二人を一気に潰せるチャンス……!
 やはり神はワシに味方している……! これも普段の行いじゃなウシシ!」

 地下でする声までは聞こえないのか、男はクロオに気づいた様子もなく気を良くしている。
 まさか真下から自分が覗かれてるとは思いもせず、皮算用にほくそ笑んでいる。

「……」

 ああ────ああいう人間は知っている。
 あの男の顔には見覚えがある。
 面識のあるなしでなく、他ならぬクロオが身を以ての経験として、ああいう手合いを知っている。
 表情に、皮の奥に隠した醜さに、記憶が一致している。
 暴力を振るって下の者を従えようとし、従っても気に食わなければ暴力を振るう。
 そんな、クロオの知ってる『父』の顔と同じだと。

777鬼神爆走愚連隊・愛 ◆0zvBiGoI0k:2020/11/23(月) 20:39:19 ID:JA.y83Y60

【E-3 教会跡・地下室/1日目・昼】

【黒神めだか@めだかボックス】
[状態]:鬼神モード、疲労(絶大)、空腹、無惨への(同族?)嫌悪
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2 雅の鉄扇セット@彼岸島
[思考・状況]
基本方針:見知らぬ誰かの役に立つ、それは揺るがない。
1:善吉や球磨川と共に殺し合いを叩き潰しBBを改心させる!
2:お腹がすいた。
[備考]
※参戦時期は後継者編で善吉に敗れた直後。
※本当に鬼になったのかは不明ですが、それに類する不死性を獲得しています。日光は克服できましたが、人食いの能力は保持しているようです。
※いくつかのスキルに制限が加えられているようです。
※『光化静翔(テーマソング)』はアコースティックバージョン(5人まで)含め鬼神モードの時にのみ使用できますが、現状は時間切れで使用できません。
※鬼神モードを使用するとお腹が空くようです。
※石上殺害の犯人が無惨だと伝えられました。

【鬼舞辻無惨@鬼滅の刃】
[状態]:健康、極度の興奮 完成者への苛立ちと怒り、極限の不機嫌、無能たちへの強い怒り、鬼への吐き気を催す不快感
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本方針:あの忌々しい太陽を克服する。
0.太陽を克服する。
1.配下の鬼に有象無象の始末は任せる。
2.配下の鬼や他の参加者を使って実験を行いたい。ひとまずは累と接触したい。
3.黒神めだか、雅、酒吞童子への絶対的な嫌悪感と不快感
[備考]
※刀鍛冶の里編直前から参戦しているようです。
※鬼化は、少なくとも対象が死体でない限り可能なようです。
※シザースのカードデッキは怒りに任せて破壊しちゃいました。ボルキャンサーは辺りを徘徊してます。

【累@鬼滅の刃】
[状態]:殴られた頬が熱くなってきた、脊髄ごと引き抜かれてる、無惨による支配中・行動不能
[装備]:呪碗のハサンの黒布@Fate/Grand Order
[道具]:食料(人肉)
[思考・状況]
基本方針:家族を、作ろう
0:……。
1:赤の他人でも命懸けで手を結ぶ絆という考えへの恐怖感。
2:その恐怖感が無惨様への恐怖、支配に優り、今は一矢報いて生き残りたい。
3:生き残ったなら、家族に関して改めて考えたい。
[備考]
※参戦時期は首を切られたその瞬間ぐらい

【神居クロオ@ラブデスター】
[状態]:全身に裂傷、打傷。学生服ズタボロ
[装備]:悪刀『鐚』@刀語、二乃の睡眠薬@五等分の花嫁、神便鬼毒酒@Fate/Grand Order、暁光炉心@Fate/Grand Order
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本方針:家族を、作ろう
0:『父』のような男は……。
1:ミクニ君と累の為にあのお方とやらを嵌めて殺す。
2:生き残ったなら、マシュを僕らの『家族』にしよう。
[備考]
※参戦時期は死亡後



【E-3/教会跡/1日目・昼】

【今之川権三@ナノハザード】
[状態]:疲労回復、気分は上々
[装備]:
[道具]:飲食物を除いだ基本支給品一式、炸裂弾『灰かぶり(シンデレラ)』×20(残り10) 、めだかの腕の搾りかす
[思考・状況]
基本方針:全員ブチ殺してZOI帝国を作るぞい!
0.小娘(めだか)と千年男(無惨)が潰し合うのを見物。共倒れさせて漁夫の利を狙うぞい。
1.慎重に立ち回って全員ブチ殺すぞい。
2.しかしあの千年男はヤバイぞい。でも日光が弱点くさいということは...チャンスだぞい!
3.他にもヤバイ奴が大勢いそうだぞい。
[備考]
※本編で死亡した直後からの参戦です。
※めだかの血を飲み体力を回復しました。
※真下で覗いてるクロオに気づいてません。

778 ◆0zvBiGoI0k:2020/11/23(月) 20:39:49 ID:JA.y83Y60
投下終了です

779名無しさん:2020/11/26(木) 23:33:30 ID:faxgQEs20
投下乙です
めだかちゃんと無惨様、まさかの同族嫌悪
まぁめだかちゃんも一歩間違えればああなっていた可能性は十分あるイカレっぷりだしね
何気にここまで順調だった権三もクロオの地雷を踏んだようだし運も尽きてきたか…?

780 ◆0zvBiGoI0k:2021/04/21(水) 08:28:04 ID:4zUlIlqM0
投下します

781鬼神爆走紅蓮隊・轟 ◆0zvBiGoI0k:2021/04/21(水) 08:29:10 ID:4zUlIlqM0





 音が聞こえる。
 ただ一人が音を束ね、階を振り分け。大小、高低、重軽、多種多様な音を発し、ただ一人で協奏している。

 それは歌だ。
 声に宿るのは哀切に、瞋恚。奏でる者の心火と愛が多重に響き、交わり、旋律が紡がれる。
 それこそは校歌斉唱。戦う者が己を奮い立たせる為、背負い携えるテーマソング。

 此度の主題(テーマ)は即ち、鬼殺。尊き花を無惨に散らすを防がんとす、千年続いた同胞の歌。
 血を流す少女の歌。
 鬼を討つ戦歌を、黒髪めだかは絶唱していた。



 日之影空洞が一時的に取得した光速移動のスキル、鬼神モードによる強化で可能となった『光化静翔(テーマソング) めだかスタイル』の真価。
 教会地下の狭い中での疾走は範囲を床一面といわず壁に天井まで広がり、堂内を足の踏み場もないほど埋め尽くす。
 比喩とは違う、本当に残像の分身は実像と全く変わりない質量を伴って、縦横無尽に暴れ回る。

「くだらぬ真似を……」

 無数不停止のめだかによって包囲され、動きを物理的に封印されながらも無惨は冷ややかな顔を崩さない。
 鬼神モードの影響下でも余裕のない決死の形相のめだかとは対象的だ。
 どれだけ加速が乗った威力で吶喊しても、無惨の体は完全に破壊することは出来ない。鬼の再生力はこの程度で突破されはしない。
 砕くだけでは足りぬ。
 裂かれた程度では届かぬ。
 頂点の座は未だ健在。猿真似の紛い物如きに、この超身体が遅れを取るなどあり得ない。

 こんなものは分かり切った結果だ。
 不老であり不滅である己が最後に勝つのは自明の理だ。
 無惨が「くだらぬ真似」と毒づいたのはこの無意味な撹乱に対してではなく、別にある。

 めだかが跳ね回る砲弾となって地下空間につけた夥しい亀裂は、石壁の耐久限界をとっくに超過している。。
 累の糸で補修しなければすぐにでも大量の瓦礫が雪崩込み、満遍なく太陽の光が入ってくるだろう。
 どんな攻撃もたちどころに再生する無惨に残った、唯一の弱点。
 真に倒そうとするなら、特効となる太陽の下に引きずり下ろす他に無い。
 外から壊すだけでは逃げられる。目の前でやろうとすれば阻止される。
 その諸問題を解消する為の、新たなる黒神ファントムであった。

 取り入れたのは箱庭学園風紀委員長、雲仙冥利がめだか戦で使用した対人兵器「超躍弾(スーパーボール)」。
 室内を異常に跳ね回り、人体に穴を空けるほどの弾性を、鬼神モード下の肉体に適用。
 人間大の質量に、異常(アブノーマル)な域の剛性と柔軟性を獲得させる。
 鬼の体は強度だけではなく、斯様な応用法にも対応できる。
 接触時の跳ね返り、方向転換に伴う減速(マイナス)を極限までなくす事で永続的な跳弾を可能とした。
 直線軌道で一発技だった黒髪ファントムの新たなバリエーション。いうなれば、黒神タイフーンとでも呼称されよう。

782鬼神爆走紅蓮隊・轟 ◆0zvBiGoI0k:2021/04/21(水) 08:30:04 ID:4zUlIlqM0


 ……本来の黒神ファントムは、真っ直ぐにしか進めない。
 『光化静翔』を取り入れて完成した『黒神ファントム・ちゃんとした版』は、速度をそのままに、体にかかる負担を回数制限付きで克服したもの。
 黒神ファントムの軌道に曲線が加えられるのは、これよりも先の未来。
 ある古代の英雄の残響との戦いの佳境で、生と死の境に至った末に編み出される最終スタイルだ。
 黒神タイフーンは負担は従来から変わらずに無理矢理方向転換する、継ぎ接ぎだらけの『負』完全版とでもいうべき形だ。
 再生力に任せて、ピンボールのように壁にぶつかっては跳ね返り続ける。
 今のめだかを表すような、歪な系統(ツリー)を進めてしまった果ての結実。

 肌と肌が触れるすれ違いざまに、無惨の体の一部が千切れ飛ぶ。
 めだか一人の全身で形成された無惨包囲網には、今や気圧の急激な開きで乱気流が発生している。
 迂闊に踏み込めば生じた衝撃波に手足を巻き取られ、五体を四散させる羽目になる。
 それさえも無惨には取るに足らない損害だが万が一、万が一にも首輪が衝撃で誤作動しないかという用心もある。
 それというのも、全ては首輪の耐久試験をする前にめだかに割って入られた事にある。
 先に累でどれだけの衝撃なら爆発しないかを検証できていれば手を煩わせもしなかったというのに。忌々しい憤慨が蓄積されていく。
 
 また体が削がれる。
 先程よりも、範囲が体の中心に寄っていた。
 少しずつ、狙いが芯を捉えるようになってきている。
 風圧が及ばないいわば台風の目に位置している無惨に対し、時折こうしてめだかから体当たりを食らわせてくる。
 むしろ速度・重さからして、こちらの突進の方こそが本命としているようですらある。
 不思議な事ではあるまい。 
 黒神めだかを知る者達ならば当たり前だと口を揃えてそう言うだろう。
 真っ向勝負こそがめだかの土俵。堂々と立ち向かい、朗々と勝利する。王道に咲く大花なのだから。
 
 無惨がくだらないと評したのはそこだ。
 物理的に逃げ道を塞ぎ、天井の補修に累を操作する事に意識を割かせて、めだかのみに集中できなくさせ、一定の時間無惨を足止めしている。
 それでよしとすればいいものを、この女はあくまでも自分の手で自分を殴り倒すのに固執している。
 この期に及んで、自分を更生させてやる腹づもりでいる。直接この手で殴ってやらねば気が済まないと抜かしている。
 まだ戦闘不能になってないから、一撃ももらってないから、戦えていると思い上がっている。
 一体どの口でそんな駄法螺を吹くのか。
 勝つ気でいるのか。勝てると思ってるのか。
 いつまでもこんなにわか柵で、そんな体で、封じ込め切れると。


「……っっ!?」

 絶えず疾走していためだかの膝が、唐突にがくんと力を失う。
 意に沿わぬ身体の痙攣で急速にスピードが落ち、乱気流は瞬く間に消失して、墜落する飛行機のように不時着した。

「ぐっ……!?、ア、ァアアアアアアアア───────!!」
 
 急停止しためだかの顔に、隠しようのない苦痛の色が描かれる。
 絶叫しながら胸を両腕で抱き、身悶えしながら両膝を地面に着けた。場所が場所だけに、祈りを捧げ懺悔するのに近い動作だ。
 ……浮かび上がっているのは表情ばかりではない。
 十人の内十人、更に飛び入りで二十人がすれ違いに振り替えざるを得ない、自信に満ち溢れたの麗貌が醜女(しこめ)も同然に腫れ上がっている。
 それも複数。全身の至る部位に点々と。
 表皮が盛り上がって肥大化し、体内に拳大の蟲でも潜ってるのではないかと想像してしまうほど、おぞましい肉腫が出来ていた。 

「散らばった肉片まで掻き集めるまでして、そんなにも私の細胞が欲しいか。卑しい女め。
 ならば好きなだけくれてやる。だが鬼になどしてはやらない。そのまま醜く溶けて、苦しみの内に死に絶えるがいい」

 無惨には見えていた。
 めだかが移動しながら、飛び散った無惨の血や触手を積極的にめざとく回収していたのを。
 観察だけでは飽き足らず、変化の原型としている無惨の細胞を接種することでより完成度を高めようとしていたのを。
 
 人間を鬼化させる血は攻撃にも転用できる。
 変化に耐えきれない量の血を一度に過剰投与すれば、細胞が崩壊しそのまま鬼になる事なく死に至る。
 血を同時に与える斬撃は一度でも喰らえばたちどころに致命的となってしまう。
 更に今回は意図して血を空中に散布しておいた。風に乗った血は気流に乗って、内部にいるめだかに否が応でも降りかかる。
 結果。めだかは常人の致死量の数百倍に至る血液をその身に浴びてしまっていた。

783鬼神爆走紅蓮隊・轟 ◆0zvBiGoI0k:2021/04/21(水) 08:31:17 ID:4zUlIlqM0

「……っ! 〜〜〜〜〜〜っっっ!!!」

 今めだかの体内では絶え間ない細胞破壊と再生がループしている。
 鬼神モードの再生力と『完成』の異常性があれば、毒にも適応し切りより完成された異常性を獲得するだろう。
 だがそれは一瞬ではない。再生と適応を並行して行うにはどうしても時を要する。
 呼吸を使う剣士が鬼になるには数日単位の時間を要する。ましてや完全に殺す気での注入だ。
 生きて肉体が原型を保っていること事態が異常にも等しい奇跡であり、戦闘の最中で急速に成長する、などという悠長な暇は与えられるはずもない。

 ここから直接首を狩るなり、更に血を与えて再生する以上の細胞の破壊を促すなり、無惨には如何様にもできる。
 何となればここで首輪の実験を再開する手もあるが……無惨はどれも選ばない。新しい鬼の教本として実験台にしようとすら、考えない。
 することはただ、摂理を正すだけ。
 あってはならぬものを、ないものに。
 ただ一刻も早くこの異物を消し去ってしまいたくて仕方がなくて、速やかに断頭の鎌が落とされる。
 立ち上がる為膝に力を入れようとするが、痙攣する足がもつれて倒れ込む。
 間に合わない『完成』を待たず、首を捻ってでも避けようともがくめだかの聴覚が……壁の崩落以外の音を拾った。



「──────、────────────」
 
 ぱん、ぱんと。
 殺気吹く戦地で似つかわしくない、軽薄な音が鳴った。
 拍手のような乾いた音。今も地響きが続く地下室でなお明瞭に、死合の最中にあった二人の耳に聞こえてきた。  

「鬼ーさん、こーちら、手ーの鳴る、方ーへ」
 
 拍手に次いで、暗がりから呼び声がした。
 年若い男の声だ。
 拍手に合わせて投げかけられる声に、無惨は鎌を振り下ろす腕を止め、首を曲げて闇に立つ影を注視する。
 鬼の超感覚は、光源がない場所にいる姿形をすぐさま捉える。


 捉えた、途端。
 無惨の背中に凄まじい衝撃が走ったと同時に、胸から細い腕が骨肉を突き破って生えた。


「はい。ごちそうさん。まぁた旦那はんの中、貫いちゃったわあ」
 
 その声を聞くのは、無惨にとって二度目だった。肉を奪われる屈辱を受けたのも二度目だった。
 聞こえたのは、風雅と淫靡が混じり合った女の声。
 鈴を転がすような音色で、吐息に酒気を帯びた少女の声。
 大江山の鬼の真の大将────酒天童子。  

「はぁ───熱くて、熱くて、融かされそうなぐらいに熱ぅい血やねぇ。ああもう、そないにうちのこと離さんように絡みついて。昂ぶるわぁ、ほんに嵌っちゃいそうやわ、うち」

 貫いた指に握られていたのは、体内に収まっていた心臓だ。
 外に排出されても力強く脈動し、断たれた血管を伸ばして元の位置に戻ろうとしている。
 赤い艶めかしい血を断ち切れた動脈から噴き上げて、それ自体が一個の生物のようにのたうっている。
 貫いた腕に縋りついて喰らおうと肌に激しく食い込んでいく管をあっさりと引き抜くと、未だ復帰しない無惨の首根っこを掴んで、力いっぱいに放り投げた。 

「うわ、マジで引っかかってるよ。あいつひょっとしてバカなの?」
「まぁええやないの。うちも一応、気配遮断いうのを使っとったし。仕方ないんちゃう?」

 都合幾度目かの吹き飛ばされて壁に埋め込まれた無惨を眺めて、村山良樹が影から表に出る。
 表といっても光の差さない地下室では明暗の区別はつかないが、ここでは前に出るという行為に意味がある。
 物陰で縮こまっているのは性に合わない。隠れっぱなしでいるのは我慢ならない。
 要はそういう、意気込みの問題だ。
 
「じゃ、俺はあっち行くから。そっちは好きにやってなよ」
「ほいほい、行っといで。んー、ここはお日さまも出てなくて涼しいさかい、"生もの"も腐らんな。
 ふふ、ふふふふふ。これなら、さっきみたくあっさりぱくりとせんでもじっくり愛でられそうやね。
 どっくん、どっくん。心臓だけでもこないに脈打って。外見もぷるぷるで寒天みたいに……って、おん?」

 後ろに歩いていく村山を尻目に、爛々とした目で心臓を見つめていた酒呑童子が弄んでいた手を止める。
 興味の視線は、己の傍で悩ましげに悶えている、満身創痍の少女に向いた。

「……なんやなんや。旦那はんにもう一人ご同類の匂いがしてたと思っとったけど、また奇特なもんがおるんやな」
 
 膝を折り、しげしげとめだかを『観察』する。
 しゃがんでいても突き出てた胸をぺちぺちと軽くはたく。

784鬼神爆走紅蓮隊・轟 ◆0zvBiGoI0k:2021/04/21(水) 08:33:20 ID:4zUlIlqM0

「ああ臭う、臭う。乳臭いわぁ。産まれての赤ちゃんかいな。あっちこっちふらふら生き迷って、まるで夜道におっかさんとはぐれて、わんわん泣く童子(わらし)みたい。
 あの牛乳女より乳臭いなんて、よっぽどやねえ。ま、あれほど歳いってないぶん可愛げもあるけどな」
「う……?」
「はい、おはようさん」

 半覚醒の心ここにあらずで顔を上げためだかの眼に入ったのは、にまにまと微笑んでる鬼ではなくて───その手に収まってる赤い肉塊。

「ぁ────────────ああぁ………………」

 震わせる心音に、剥き出しの肉感に、溜まっていく血の一条。
 目の前の酒吞も、戦っていた無惨も忘れて、宝石のような輝きに視線を釘付けにされる。
 それ以外に何も目に入らない。好きないろをして、欲しいかたちで、おいしそうなものだからと、忘我のまま手を伸ばす。

「だめ」

 心臓に心奪われ盲になっていた両目に、二本の指が一辺の躊躇なく深く突き入れられた。

「ぃっ!? あああああああああああああああっ!?」
「ああ、ごめんごめん。痛かった?。そやろねぇ。目玉両方とも潰れてしもうたもんねぇ。
 でも、あんたはんもいけないんやで? ひとのもん勝手に食べようとするなんて、人でも鬼でも、おイタがあるのは当然ちゃう?」
「ぅ、うぅぅぅぅぅぅぅぅぅ………………!」
「ああ、もう、よしよし。泣かんの泣かんの。別にあげないなんて言うとらんやろ?
 気持ちは分かるで? こないな珍味(うましもの)、うちかていつまでも見せびらかしてたら我慢できんもんねぇ」

 灼熱の刺激と、流し込まれた魔力で盲目から回復しないめだかの鼻先に、ぶよぶよとした感触のものが押し付けられる。
 触れる距離からする芳醇な匂いにまたも我を失いかけたところで再び鬼が呼び止めた。

「待て」

 ……度重なる傷と急激な再生の循環の影響で一時的に幼体化していためだかの思考が、耳元でした声に染め上げられる。
 血液の塊がつけられてる事すら忘れるほどの、濃くて近過ぎる死の香りに。

「待て、やで。
 うちがいい言うまで、口つけるのはお預け。わかる?
 出来なかったらまた目玉ほじくり貫くからな? これももうあげへん。わかった?」

 眼球をくり抜かれたことで動物的な本能が食欲を上回ったのか。堪えつつも大人しく跪く。
 両手と両膝を地面につけた姿勢。土下座か、飼い主の許しが出るまで餌を待つ犬かどちらかだ。

「待て」

 涎が顎に垂れて糸を引く。
 まだ許しは出ていない。

「待て」

 体が痙攣して制動できない。
 前に乗り出そうとするのをぎりぎりで抑止する。

「まーて」

 もう限界だ。胃は捩れて血液がささくれだったように痒くて、一秒だって我慢ができない。
 早く。早く。歯の根が合わずガチガチと鳴り恐怖が欲を飲み込んで、どうなっても構わないから食べたいと嗚咽する。

「はい、ええよ」

 "は"の一音が聞こえたところで、張っていた緊張の意図がぶつりと切れていた。
 一も二もなく顎から飛びついてかぶりつく。口元が汚れるのも構わずに歓喜を咀嚼する。
 目尻から溢れるのは味への耽溺による涙なのか、それとも逆流した血か。

「よく我慢できたねぇ。えらい、えらい。たぁんと喰らいや。
 おいしい? おいしい? そうよかったねぇ。ふふ」

 礼儀も尊厳も打ち捨ててかっ食らうめだかの頭を撫でながら、鬼は笑っていた。
 ここまでの遣り取りの中で、終始、ずっと笑っていた。
 けらけらと愉しげに笑うのではなく、愛おしく、微笑の類で見つめながら。
 ……片手の指で少女からくり貫いた両目を舌で転がしながら。心臓を抜き出して被った鮮血で着物を着飾って。
 母の慈愛と呼ぶには、刺激が強すぎる光景だった。

「む……」

 心臓という血の凝縮を食らった事が『完成』を補強するのに繋がったのか、今度こそめだかが意識を取り戻す。
 損傷はまだ循環(ループ)から抜け出せない、半死人だが。

「やっと目、醒めた? じゃあ改めて、おはようさん」
「ああ、おはようございます……またも鬼、か。動物に避けられ人にも嫌われたのにこうも縁があるなんてな。
 ところで両目が一度潰されたかと思うほど痛いのだが、何か知らないか?」
「ああそれ、やったのうちやわ。うち」
「……なるほど。それが鬼流の挨拶なのか。常ならば指摘していたが郷に入っては郷に従えというしな……いやけどやっぱ引くなその礼儀」
「愛殺? ああ挨拶ね。そうそう、鬼と話するんならこれぐらい、軽うい前戯。今のうちに慣れときや」
「ああ、ともかく今後の交流に活かすとしよう」

785鬼神爆走紅蓮隊・轟 ◆0zvBiGoI0k:2021/04/21(水) 08:34:13 ID:4zUlIlqM0

 風雅さも技量もない、殺意と殺傷力だけで磨かれた刃が宙を切り、和やかな二人の会話を断つ。
 
「おっと」

 頸めがけて振るわれた爪をかわした酒吞は、触手の繋がれた先を見る。
 無言で足を踏み鳴らし、従える背の触手が鎌首をもたげる鬼の祖。
 最早言葉をかわす気もないのか、無惨は何も発さない。
 その瞳の色は澱んでいた。赤い眼の底にはもう目の前の生き物に何の期待も感情もない。
 それは諦観の念だった。
 会話が成り立たない相手ではないと見做す、虫と同等に扱う放棄だ。
 こいつはもう死ぬから。この手で殺すから。何を言っても無駄だから。
 ただ殺すのみだという、完全な相互の断絶。

「そう、そう。それや。やぁっと、遊んでくれる気になった?
 焦らし上手な旦那はんのせいで、うち、もう収まりがつかへんのやから。このまま放ってかれたらどうしてくれるのって気が気でなかったんやで?」

 鬼が、少女に向けていた今までとは違う趣の形で笑う。
 けらけらと、爪から垂れ落ちるほど濡れた指の血を舐め取りながら、笑う。

「だめ」

 すぐ後ろで立ち上がろうとするめだかを、人差し指の爪を立てて制止した。

「気遣いは嬉しいが、私はまだ戦えるさ。このまま動かず回復に努める方が、むしろ私はとっては耐え難い、不可避のダメージだ」
「そう言うてもなぁ。別にあんたはんが生き死にのどっち行こうとどうでもいいんやけど……今みたいのしか見せられん言うならやめとき。
 あないな、人にも鬼にもどっちつかずな舞、見てても華がなくて魅せられんし、見てられんわ」
「新米の無作法なのは分かってる、しかし……」
「"せんぱい"の言うことはちゃんと聞いとき? なんてな、あはっ」
「……っ」

 自分がやりたいと聞き分けなく我が儘を言う子供を諌めるみたいに眉間を指でつつかれただけで、後ろに傾き尻餅をついてしまう。
 意志は折れずとも肉体の方は、体幹を支えられないほどグチャグチャにされたままだ。
 座り込むめだかを背にして、単騎で無惨と対峙する。

「ええなぁ、鬼舞辻はんの殺気。こっちを見てるようで、ちぃとも見とらん。
 敵と見るでもなし、餌と見るでもなし。ただの紙屏風、邪魔な雑木でも見とるみたいな目。
 うちはそういうの、華がなくて好きやないけど……、鬼らしいといえば、それもらしいもんねぇ」

 云って、どこからともなく取り出した瓢箪の紐を解いた。
 酒吞の身の丈の腰程もある器に、たっぷりと詰まっている液体を、持ち上げて口に含む。
 豪快な一気呑みでありながら、雅さは些かも失せない仕草で。
 二度三度と喉を大きく鳴らして、鬼酒を呷る。
 口を離して、唇を舐める鬼の顔に帯びるのは酒気ではなく───神気。
 『神便鬼毒酒』────大江山に棲まう大化性を討伐すべく、源氏の棟梁・源頼光率いる四天王が神仙から賜りし毒酒。
 人理に刻まれし英霊が保有する超越の神秘・宝具が一つ。
 その概要を知る者は此処にはいない。
 如何なる由来があり、如何なる効能を持ち、その酒を呑んだ鬼が如何なる結果を孕むか、語れる者は此処にはいない。
 だが結果として。飲み干した酒吞童子からは矮躯に収まりきらぬ桁の神気が迸り、暗き牢獄を妖しく照らしていた。

 ひたひたと足を進める。それだけで大地が激しく揺れた。軋みを上げた。
 酒をしこたま呑んだ宴会の帰り道の延長の足取りで、無惨に歩を進める。さも突いてみよ、切りつけてみよと言わんばかりに隙だらけで、好きにしてと。

 左様。鬼は無惨を好いている。
 好きだらけではちきれんばかりに思っている。
 その貌の美さを。その肉の味の佳さを。その性根の醜(よ)さを。この上なく好んでいる。
 好いた者の臓腑をかき混ぜ、骨をしゃぶり、散々たる肉塊に変えてしまいたくて仕方がない。
 そこに矛盾はない。それこそが鬼と人の違い。あらゆる意思と思いが殺意に行き着く反転衝動。

「さ、始めよか。めいっぱい、楽しませてな?
 日が暮れるまで。お互い足腰が立たないなるまで。どっちがどっちの肉か分からなくなるくらい、グチャグチャにかき混ぜるまで。
 生まれが違おうが、成り立ちが違おうが、鬼いうんはそういうもの。殺し、犯し、奪うもの」

 だから、彼女は今もこうして愛する(ころす)のだ。



「『九頭竜鏖殺』─────────あんじょうよろしゅう」



 鬼が跳んだ。
 たんっと、地面を蹴り。見た目通りにふわりと、軽やかそうで。
 だが。その先の通り道に生まれたのは、『暴』に尽きた。暴威にして暴虐と言うしかなかった。

786鬼神爆走紅蓮隊・轟 ◆0zvBiGoI0k:2021/04/21(水) 08:35:09 ID:4zUlIlqM0

 対応は、間に合っていた。
 めだかのような小細工もなしに直進する酒呑を無惨の感覚は捉え、正確に爪で迎撃する。
 だが止まらない。被弾を意に介さず鬼は道をぶれずに突き進む。
 傷はつくのだ。裂けた肌からは血が溢れて肉がこそげ落ちてエーテルで構成された仮初の体に傷が刻まれる。
 サーヴァント、人理の記録に刻まれた悪鬼英霊の写し影をも無惨は打ち据えられる。
 霊体に作用しない攻撃手段は通用しない、通常の法則を制限されていても、これは恐るべき所業。
 千年に及ぶ殺戮と暗躍は伝説の一端に伍するものだと証明したのだ。
 それでも鬼は止まらない。勢いが削がれない。
 裂けるのは外皮のみ。斬撃が肉を越え骨の芯まで届きはしない。

「はい、拳(けん)・拳(けん)・破(ぱ)、拳・拳・破っと!」

 衝突と激震。互いの爪がひしゃげ折れ、潰れ落ちる。
 無惨は次の触手を、酒呑は次の手足を繰り出して再現を繰り返す。
 技量の冴えも、培った経験の賜物もない、単調なる暴力の応酬。
 相克する爪と爪で、先に崩れたのは酒吞童子。爪に繋がった腕が派手に潮を吹く。
 矢継ぎ早に、同規模の爪の群れが、棘皮動物の捕食めいた光景を見せつけ、酒呑に絡みついて姿を呑み込む。
 内部では管部の各所から生えた口の牙が一斉に噛み付いている。
 逃げ場と動きを縫い止めたまま腕を振り上げ、捕縛した獲物を巻き付けた管ごと両断した。
  
「あはははははははははははははははははははははははははははは!!」

 なのに狂笑は鳴り止まない。
 縛鎖から解かれたのをこれ幸いと穴から飛び出て再び挑んでくる。

「せっかくいい体やのに、背中の尾っぽびゅんびゅんさせるだけって……他に何かあるやろ? ここまで来て出し惜しみせんといて?」

 確かに刃は通っているのに。血を流しているのに。臆した気をまるで見せない。
 喜悦。悦楽。表情には愉しみだけだ。

 触れた全てを例外なく壊し散り飛ばしてきた無惨の攻撃。
 鬼狩りの剣士が何人いようが誰一人逃れられない。上弦の鬼が何体向かおうが耐えられない。
 それがこの小娘には通じない。尽くをかわし切るのでも、再生力で張り合うでもなく、単純に肉体の頑強さで張り合ってる。
 殴り合い。
 虚弱な人間の頃も強靭な鬼の頃も、そんなものはこの方体験した事もない。
 千年の生で、この島でさえも起き得なかった初めての状況が無惨に襲い来る。
 
 どれだけ攻撃を受けてもすぐに再生する無惨。
 攻撃を受けても倒れない酒吞。
 長期戦になれば、圧倒的な生命力を保有する無惨の方に天秤が傾くのは自明の理。
 だが短期戦であれば、こうして拮抗する。めだかとの戦いがそうであったように。
 そしてこの場合、無惨にとって時間が長引くのは決して有利に運ぶだけではない。
 目の前の敵に気を揉んでいる中で、もしまた邪魔もの集まって来ようものなら。それが無惨を追い回す鬼狩りであったなら。
 形勢が、徐々に変わりつつある。 

 『ぞわり』と、無惨の背筋を見えない手が撫ぜた。 
 『それ』は千年の時の中で常に感じていた感覚によく似ていたがどこか未知のものがあった。


 “もういい。もう付き合ってられない。“


 無惨は戦士ではない。
 王族や剣士のような命より勝る誇りというもの、生き様を重視する事もしない。
 鬼に成る女も、鬼そのものの小娘も、殺したところで太陽克服の近道どころか時間の無駄でしかない。
 路傍の石がひとりでに足元に転がって挫きにかかるようなものだ。知性ある生物は石にいつまでも拘泥したりはしない。

 既に無惨の思惑は如何にこの場を脱して安全を確保するかに向いていた。向こうとしていた。
 それを途切れさせたのは、天蓋が落ちてくる断末魔の音だ。

 これはどういうことだ。
 なぜ、天井を支える糸がひとりでに切れていく。
 血を与えて強化した糸が瓦礫を抑えられないほど脆弱なわけがない。現に今までは問題なく維持できていた。
 であれば力が弱まってるのは強化が足りないのではなく、力を吐き出す本体に問題があるという事になる。
 自分の意思ひとつで自由に操れるはずの駒が、命令に反する行動を取っているという事に。
 
「何をしている!! 累!!」

787鬼神爆走紅蓮隊・凛 ◆0zvBiGoI0k:2021/04/21(水) 08:36:53 ID:Rml1i6gw0
 ◆



 認識できるものは痛みだけだ。
 周りで起きている戦闘の余波も、砕けたり割れたりする壁の軋みも、体内で強制的に変化させられる肉体の膨張も。
 全てが掠れている。鼓膜を掻き乱す雑音にしか聞こえない。
 はっきりと感じられるのは、自分の存在自体が卸金で磨り潰されているかのような痛みだけだ。

 痛み。痛み。痛み。
 時間の感覚は消し飛び、状態の因果すら判然としない。
 累の体は未だ主導権を無惨に握られたままだ。
 頚椎を引きずり出された体は再生せず、糸を生成する器官だけ増設されている。
 膨れ上がった胴に、八つの手足から止めどなく糸を排出している格好は、かつて彼の『兄』の役を宛てられていた鬼と瓜二つだった。
 この地下で戦っているのは誰もが、瓦礫の雨程度では死にはしない頑強さを誇っているのだから、天井の落盤を縫い止めるのは本来は無用の備え。
 そうはいかないのは日の下に出れない無惨だけだ。まさに今の累は命綱ともいうべき存在になっている。

 それが自分の役割。利用され消耗される使い切り。
 一時の間に合わせが存在意義であり命令である以上、逆らう意思も理由も飛ばして肉体はそれの為の装置に成り下がる。
 
「うぇ、気持ちワリ。デカい蜘蛛みてぇ」

 雑音だらけの世界で聞こえた声は、やはり雑音としか捉えられず。
 音に向けて、骨肉を滑らかに寸断する鋼線が熱源目がけて自動的に振るわれる。
 
「包帯のガキから聞いたけどさ、おまえ、マシュちゃん逃したんだって?
 そっちから捕まえといて逃がすとか、何考えてんだかわっかんねぇな? ま、無事ならいいけどね」

 なのに、雑音は続いていた。
 鬼でもない人間なら体も命も柔らかく断ち切れているはずなのに。
 どういうわけか、雑音が僅かに和らいだ。音と映像が正常に認識される。
 立っていたのは、見覚えのある顔だった。稀血の女、妹、マシュの連れにいた青い鉢巻きの男。

「んじゃ面倒な手間が省けたってことで……本題、いくぜ。
 リベンジだ」

 明らかに戦闘の意思を滾らせて近づいてくる男を見て、累は何が何だか分からなくなった。
 マシュを助ける為にここに来たのではないのか。 いないと知ったなら、すぐに立ち去ればいいだろうに。
 男の身体能力は知っていた。直に対戦して底はとうに割れている。筋力反射力、いずれも鬼に遠く及ばない。
 軽く叩き伏せたあの時、力を隠していた風にも見えなかった。 
 油断して一発をもらっていたが、それすらどうということのない威力でたかが知れている。
 半日も経ってないのに学習能力がないのか。それとも単に忘れた馬鹿なのか?

 累の困惑とは無関係に、操られた体から糸が展開される。
 正面からの無謀な突進の愚挙に迫る死の檻。最高硬度の糸を渦巻き状に形成して撃ち放つ。
 この切断の鋼線から只人が逃げる手段はない。そして男は、逃げるそぶりさえ見せない。
 死の網にかかる直前に右腕を前に出す。何の防御にもならない無駄な抵抗。非力で凡庸な筈の拳。
 何故かその拳が、一瞬光を纏い、刀でも斬れない鋼糸に斬られるどころか簡単に押しのけ、振り払ったのだ。

 聖なる篭手の加護が働いて光が斬撃を防いだ。そうとしか映らない光景。
 その恩寵を授かった男は、敬虔さを欠片も見せない表情で自分の腕を見つめていた。
 折り曲げた男の肘先から水滴が落ちる。血の匂いはしない。鮮烈な赤ではなく透き通った水が、両の篭手をくまなく濡らしている。
 発光の原因は、付着した水滴が外からほんの僅か、一筋ほど漏れた太陽の光を反射したためだ。
 証拠に、光を浴びた累の体から焦げ付いた煙が上がっている。一秒以下の照射で鬼の体は消滅してしまう。 
 ならば糸が破かれたのも陽光に当てられたからか。それは違う気がする。光が出たのは本当にごく短い時間だった。
 それに糸の輪郭が急速に解れたのは、拳を振るって飛沫となった雫に触れた時なのだ。


 村山の両腕を濡らしてるのは単なる水ではない。
 神便鬼毒酒。累とクロオと共謀し、無惨に反逆する際に仕掛けておいた道具のうちの一つ。
 曰く呑んだ人に強力を与え、呑んだ鬼の身動きを封じる神酒。
 酒呑童子の宝具として成立するにあたって、あらゆるものを溶融する毒の水を放出する効果と変じた。
 広範囲を覆う対軍宝具であるそれを、村山は篭手にかけて対鬼用のコーティングとして使用した。
 全てはこの手で直接鬼を叩くため。糸程度では満足しない。絶死を覆した隙を逃さず突進する。

788鬼神爆走紅蓮隊・凛 ◆0zvBiGoI0k:2021/04/21(水) 08:38:03 ID:4zUlIlqM0

「ヅ……!」

 雨あられに鋼糸を腕で弾きながら本体目がけて突っ切る。 
 篭手で払え切れなかった糸の数条が、腹を打つも肉が裂かれる事はない。
 神便鬼毒は篭手だけでなく上着にも染み込ませてある。
 絞れば大量に水が出てくるほど染み込ませた服は防弾チョッキとして機能していた。
 だが防弾チョッキは銃弾の貫通こそ防ぐが着弾の衝撃を完全には殺せない。当たった部位の骨が折れるぐらいはざらにある。
 常人である村山が酒を浴びても平然としていられるには、毒の濃度をギリギリまで下げる必要があった。 
 そして村山の身体能力が向上するわけでもない。脅威の程は落ちても依然窮地のまま。
 得物が刃物から鈍器に変わっただけで、無数の凶器で殴りつけられる事には変わりない。
 今の村山は、金属バットを持った集団に囲まれて一斉に襲われてるのに等しい状態だ。

「上等だろォが!」

 望むところだ。
 殴り合い、我慢勝負なら自分の領分だ。
 たったひとつだけ鬼に村山が勝る経験値。
 喧嘩に明け暮れ、鬼邪高で番長に登り詰めてからも日常に慣れ親しんだいつもの場所だ。

「はっはははははははは!!」

 交差する腕で守った顔以外を止まない乱打に晒されながら哄笑する。破顔して爆笑であった。
 命を張って、向かない策を練り、ここにきて漸く、村山が鬼と向かい合うだけの土台ができた。
 状況が、空気が、村山に味方する。後押しをしてくれる。だからこうして進めるのだ。

 逃げる事だけはしない。最初からそれだけは決めていた。

 別に、戦うのにそう大きな理由があるわけではない。
 鬼も、化物も、殺し合いも、実のところ深く考えてなんかいなかった。
 喧嘩を売られて、やられて、しかも舐められたから、やり返す。
 ガキっぽい、そんな単純(シンプル)な理由を背負ってこんなところまで来てしまった。
 
 それともうひとつ。
 ここまでのやり取りと戦いを見て、村山は鬼についての事を何となく知った。醜悪なる鬼の様をこの目で見た。
 ああ、駄目だ、あれは。
 どんなに強くなれても、誰にも負けなくなっても、あんなのにはなりたくない。
 そう、固く誓う。
 自分達はろくな大人になんてなれやしないだろうが。
 それでも、仲間を捨てて自分だけ助かろうなんてする奴よりは、ずっとマシな生き様だと、胸を張れるだろう。

「確かにテメエは強いよ」

 村山は認める。
 鬼は強い。ただの人ではやはり勝てないのだろう。
 刃なき拳では頸を落とせない。殺し合いという舞台で殺すのは無理かもしれない。


「でも喧嘩なら───不良が勝つんだよぉ!!」
 
 
 最後の助走をつけて強く、強く大地を蹴って跳び立つ。
 片手片脚が離れていき、腹を捌かれるのを意に介さず。
 残った拳が血と酒で煌びやかに彩られて顔面に埋まる。
 加速と体重を限界まで乗せた一撃は、累の頭蓋を揺らし、脛椎を叩き割った。

 決まった。
 身を苛む痛みも吹き飛ぶ会心の一発に、痺れるような感覚だった。
 着地が上手くいかず無様に地面を転がってしまうが、どうにも立とうという気が湧かない。
 むしろこのまま暫く寝転がって掌に残った充足を味わっていたい。それぐらい爽やかな気持ちだ。
 なによりメチャクチャに動いたからか、経験にないほどの眠気が襲ってきていてしょうがなかった。

「あ、やべ。バイクなに選べばいいか、コブラに聞き忘れた……」

 四肢を落とされた喪失感も彼方のまま、意識が落ちる直前。
 唐突に浮かび上がった、他愛もないやり残しへの後悔が脳裏をよぎるが、まあ後でいいかと、痛みの先に手にしたものに包まれたまま、安らかに両の瞼を落とした。

【村山良樹 @HiGH & LOW 死亡】



 ◆

789鬼神爆走紅蓮隊・凛 ◆0zvBiGoI0k:2021/04/21(水) 08:39:03 ID:4zUlIlqM0



 全身に縛りついて支配していた糸が、ぷつりと切れたのが肌でわかる。
 全権を握られていた、体を操る手綱が一時的に取り戻されている。
 自分のものであるのが当然なのに違和感がある。
 永く続き過ぎた刑罰は自我が磨耗させて、理解力が戻るのにいっときの時間を要してしまった。
 
「聞こえるかい、弟。そもそも生きてる?」

 背後からの声と、首筋に刃物が突き刺さっているのをちゃんと知覚できる。
 自分の首を支えてるらしい兄の、クロオの声に縋るように復帰をする。

「へえ、首だけでも無事なんだ。凄いな。ラブデスター実験でもさすがにお目にかかれた事はないや。
 ああ、今からこいつで君の力を活性化させる。そうすればあのお方っていうのにも抵抗できるんじゃないかな」

 首筋を刺された場所に痛みはない。
 代わりにそこを基点に稲妻が体中を駆け巡る図が脳に浮かび上がり、その通りに体が賦活している。
 そういう能力の支給品を持っていたのを、前に説明を受けた気がする。

「色々と予定が狂ったけど、なんとか目論見通りにはいけそうだよ」

 意識が段々と明確になっていき、次第に周囲の状況が見えてくる。
 累の主。鬼の少女。
 血溜まりの中で倒れる青年と、主と真正面から戦い続けてる異形の童女。
 青年はともかく、長髪の少女よりも幼い子供は初見だ。

「ああ、あの人達は僕が誘ったんだ。
 前に捕まえた男はともかく、一緒にいたあのちっちゃい女の子はすごい強そうだったからね。
 よくて殴られるか、最悪殺される覚悟ぐらいはしてたけど案外あっさり聞いてくれたよ。
 もともと乗り気だったんだ、あのお方ってのを倒しにね」

 つまり、二人は始めから鬼を倒しに此処に来たらしい。
 鬼狩りには見えない、それどころかもう片方は鬼にしか見えない異類だというのに。
 
「……うーん。誰かを死なせるなんてしょっちゅうやったけど、やっぱり心動かされそうなものもないね。一度死んだからって、そうそう変わるものじゃないか。
 けれど君が助かったのは、まあ、よかったんじゃないかな」
「……え?」

 当の累にも不可解な疑問が、頭の奥の空洞に引っかかった。
 鬼となって忘れていた、気づかないように封鎖して投棄していた記憶の蓋がひび割れて溢れ出だす。
 
 昔、これよりもずっとずっと優しい言葉かけてくれた人がいた。
 外に出るだけでも体力が続かない病弱な子供を、決して見捨てずに手を繋いで家に連れ帰ってくれた。
 理想なんか思い描かなくても、最初から自分達の家族には本物の絆が結ばれていた。
 先に断ち切ったのは自分で、この手で捨てたものが何処にあるかと探し続けた。
 捨てた時点で、もう同じ手触りを感じられなくなってしまってるのに。

「そうだ───なら、もう、やめないと。こんなことは」

 糸の排出を停止。強度の維持を解除。
 背から突き動かされた強迫観念が薄れていくのを感じて、強張っていた体を弛緩させる。

 首を抱えたクロオを見上げる。穴食いになった天井からの陽光で、鬼の視力がなくてもわかるぐらい部屋は明るくなっていた。
 受け取った、形だけのからっぽの労いの言葉。打てばよく響いた音が出そうなガランドウ。
 当人が与えられた愛の半分にも満たない、クロオなりに精一杯の歩み寄り。

「兄さん」
「なんだい」
「わかったんだ。僕が、本当にしたかったことが」

 謝るよりも先に、礼を言いたかった。
 込められた気持ちの大きさはここでは重要ではない。
 今にも切れそうな細い糸のような絆が、二人の間に繋がれているのがわかっただけ。



「あ」

 そして何か真実の愛にでも目覚めたような告白をするよりも先に、累の頭部が内側から破裂した。




 見慣れた散華。
 さんざ目の当たりにしてきた、自分の誘導で起こさせもした光景が、クロオの眼前で起こる。
 顔や服に飛び散る血や肉片、脳漿。
 視線を下ろして、ああ、汚れを落とすのが大変だなあと、乾ききった感想を漏らした。

【累 鬼滅の刃@死亡】



 ◆

790鬼神爆走紅蓮隊・凛 ◆0zvBiGoI0k:2021/04/21(水) 08:40:20 ID:4zUlIlqM0



 命令が正確に実行できないとみて、躊躇いなく累の脳を遠隔で爆破した。
 支配操作から抜け出た駒に用はない。
 反逆者なぞ生きているだけで気分を害する邪魔者へと意義を貶める。糸を切るのを何ら咎める材料はなかった。
 こと生き延びるという一点のみに全存在を費やしているからこその、損切りに関する恐るべき判断の早さだった。 

 だが、この場限りではそれは裏目に出た。
 たとえ即決の判断の、数瞬でしかない意識の分割でも。
 深淵から目を逸らすべきではなかった。
 目の前の怪物との戦いに集中を散らすことだけは、してはいけなかった。



「『千紫万紅・神便鬼毒』」

 

 血に艷やかに濡れた唇から、奇跡を喚起する名が紡がれる。
 瓢箪の酒を注いだ盃からこぼれ落ちた玉虫色の雫が、地面に広い波紋を起こす。
 落ちた地点から間欠泉よりも勢いのある噴出が一面に水面を広がって全員の足を濡らす。
 水面に映るのは色とりどりの花が咲き乱れる、酒の肴になるほどの甘美なる情景。

 真名解放。
 サーヴァントの真髄。物理の壁を逸脱した超常を起こす貴き幻想。ノウブル・ファンタズム。
 酒天童子のそれは酒の瓶蓋を開け垂れ流すもの。
 幻想種の骨さえ溶かし、対象を文字通りの骨抜きにして、比喩抜きに酒に呑まれる対軍宝具。

 毒物───。
 目の前で展開されいち早く性質に気づいた無惨だが、その顔に焦りが増すことはない。
 あらゆる毒に耐性を持ち、短時間で解毒を可能にする体質の無惨にとっては毒など恐るるに足らない。
 それよりも、時間が経つ毎に当たる範囲を広げる陽光から逃れることこそが何よりも優先するべき事項だ。
 足止めにもならない水溜りの中を駆けて壁を目指す。兎にも角にも日の当たらない場所を確保しなければならない。
 触手の先端を爪から拳状に変化させて掘削して穴場を作る。そうして彫り続けて完全な暗闇に身を潜める。
 敵に背を向けて逃げ去る、土竜の真似をしてでも生き延びようとする。恥を恥とも思わない撤退だが、それだけに逃げられてはどうしようもない。
 『逃げ』の姿勢に回った無惨を再度捉えるのは二度とないといえるほど困難だ。

 それが『責め』の姿勢を崩さなかった酒吞との応酬に、明確な差を生んだ。

「『百花繚乱・ 我愛称(ボーン・コレクター)』」

 壁に向かって一目散に走る無惨の頭上から降った両の爪が、肩口に深々と突き刺す。
 貫通し脇を抜けたところで、無惨と対面になるよう身を乗り出して脚で固定する。
 両脚を腰に絡ませた妖艶な態勢。唇が触れ合う近さで酒吞の表情もまた、情事の際と変わらず艶めかしく。
 立ち込める酒気と逸らしようのない眼に、吐き気がこみ上げる。
 消し去ってやると身体を変形させ───何故かそこで膝をついた。
 意に反する落地に怪訝に目を下に向けると、すぐに疑問は氷解した。
 
 足が、無い。
 無惨の膝から下、水に沈んでいた部位は骨ごと溶かされていた。
 それは、予想よりも水の勢いが強く講堂を沈めつつあるということであり。

”水攻めだと……!?”

 判断を間違えたと気づいた時には、もう遅かった。
 腰元まで酒に浸された体は乾物を水で戻すようにふやけて、骨から剥がれていく。
 対軍宝具の全開解放は、さしもの無惨の再生力でも無視できるものではない。
 すぐ後ろの村山に貸与した時とは比較にさえならない濃度の溶解液が、波濤の勢いで空間内を満たしていった。

「何のつもりだ、これは……!!」
「ん? なにって、もう、見ての通り。
 鬼の前で鬼ごっこなんて、おかしなことするもんやから。逃げられんようこうしてきつうく抱き締めてあげんと。
 まあ。ああほら、あれやあれ。
 身の着ひとつで夜逃げした果てに、仲人連れての、身投げ?」


 ────────────────────思考が、凍りつく。


 一体、何を、言っている?
 意見など求めていないはずなのに、なおも脳髄にねじ込ませられる。
 意味不明なまま、足先からとぐろを巻きつけられる。

 これこそが鬼。
 人の世、人の生の根本から外れた魔にして呪。
 殺人を愉しみ略奪を楽しみ陵辱を嬉しみ、自らの死を夢見心地に笑う。
 人と交わればありと汎ゆる総てを棚置いて恐怖と混乱を呼び起こす『相容れない為の』系統樹。
 目の前の男に。背後の少女に。全身全霊を捧げて謳い知らしめているのだ。

791鬼神爆走紅蓮隊・凛 ◆0zvBiGoI0k:2021/04/21(水) 08:41:38 ID:4zUlIlqM0

 とうとう胸を埋める位置まで上がってきた。
 再生の方に力を向ければ分解より早く肉体を構成し、自力で脱出するだけの余裕はあるだろう。
 だがその為にまず自身と溶融した酒吞を引き剥がさなくてはいけない。しかし酒吞を外すだけ攻撃に集中してしまえば、溶解の速度が再生力を上回りかねない。
 そしてこうしてる間も太陽は完全に天から姿を見せようとしている。

 鬼殺隊の襲撃。配下の統制。日没と夜明けの時間。
 蓄えた知識と増設した脳による、難解で曖昧な計算結果を速やかに導ける高い知能。
 だからこそ、己が置かれた状況を常人より早く突き当たり。
 『ぞわり』とした感覚と共に、無惨の生で絶対に浮かんではいけない二文字が浮かび上がる。
 永遠に遠ざけておかなくてはならない一文字が音を立てて近づいてくる。

「_____               _____
          ──────             !!!!!」

 思考も、感情も、本能も、彼方に置き去りにして。
 その更に先にある、存在としての原初の指向だけが爆ぜた。
 生やせる限界数の触手で滅多切りにする。
 体内を抉っている両腕を周囲の細胞で磨り潰す。
 形成した口腔から神経系を麻痺させる衝撃波を至近距離で叩きつける。 
 災厄を僭称するに似つかわしい、さっきのめだかをも凌駕する天変地異の具現。
 サーヴァント、鬼の霊核といえども、ここを超えては限界を留められない閾値に到達する重傷。

 だというのに離れない。
 切り裂いても引き千切っても磨り潰しても吹き飛ばしても離れない離れない離れない離れない離れない離れない!
 
 この戦いの終わりを決する分水嶺になったのは、どちらが音を上げるかの単純な根比べ。
 それでもやはり膨大な生命力を保有する無惨の方に結果が傾くはずのない天秤の皿に、最後の賭け金(チップ)が乗せられた。

「な───に……?」
 
 無惨の頭蓋に重い何かが突き刺さる。
 熱を持ってない金属質な物にも関わらず、異様な灼熱感があった。
 水流に乗ってきた岩盤の破片だと見做して無視していた無惨にとっては慮外の不意打ちだった。

 人間大の質量の漂流物の正体は、まさしく人間そのもの。
 それはとうに死体だ。物言わぬ骸が偶然こちらに流れ着いて、勢いそのまま無惨の頭部に向かっただけ。
 このタイミングで、そんな偶然がありえるのか。某かの操作があった方がまだ辻褄が合う。
 確かめる術は誰も持たず、よって此処この場で言える事はひとつ。
 殴りつけた骸─────村山の顔は、笑っていた。 

「あはははっ! なんや、小僧も殴りたかったんかいな!
 ええでええで。前の喧嘩の続きや、終わるまで飲み明かそか……!」

 体は脆く死ねば止まる人間が、死んだ後でも意地を見せに来て一華咲かせたのだ。
 土産のひとつでも贈って応えるのが鬼の粋というもの。一切合切を出し惜しみなく投入する。 
 体内に埋まった酒吞の腕から放出される熱。魔力放出スキルの完全解放。内を熱、外を酸で、両面から細胞を焼き落とす。

 再生と破壊の速度が拮抗し。脱出に回せる分の力を失った時、仕込まれていた爆弾が作動する。
 クロオ以外の誰もが気にも留めず放置していた仕掛け、漏電した暁光炉心が流した電気の網が絡め取る。
 そして遂に水位は天井まで達し、空間を満たした。
 かつて教会と呼ばれた土地は水の牢獄へと形を変える。
 ふたりの鬼は衆合地獄を揺蕩う。日の脅威が沈み、どちらかの生命が尽きるまで。
 固く抱擁を交わしたまま海に身を投げる、それはまるで夫婦のように。



 鬼が笑う。
 鬼が嗤う。
 鬼の笑いが木霊する。

 墜ちて逝く。
 墜ちて往く。
 底の見えぬ深き海へ。




 ◆

792鬼神爆走紅蓮隊・凛 ◆0zvBiGoI0k:2021/04/21(水) 08:42:44 ID:4zUlIlqM0




「……いるな。あそこだ」

「千年男のことか? けどあそこはもう瓦礫の山じゃぞ」

「地下に潜ってるんだよ。気配のようなものを感じるんだ。一度鬼になった影響かな。ほぼ間違いないはずだ。
 私は中に入るが、貴様にはここで待ってもらいたい。他に頼みたい事がある」

「なぬ?」

「私は何としても奴の足を止める。この身に換えても時間を稼ぐ。
 その隙に、童磨の時のようにこの床一面を吹き飛ばしてほしい」

「それは構わんが……今すぐやってしまえばいいんじゃないのか?」

「それでは逃げられる可能性がある。それに奴以外にも参加者がいるみたいだ。まずはその人たちを助けてからでなくてはな。
 私ごと巻き込んでやってくれ。最悪生き埋めにする形でも構わない。嫌な役回りだろうが、今は
頼るしかない。この通りです」

「…………分かったぞい。そこまで頭を下げられては断るわけにもいかん。お前の犠牲は無駄にせんぞい」

「ああ、存分に使ってくれ。見も知らぬ誰かの役に立てるなら、これ以上の喜びは私にはないんだから」



 ◆

793鬼神爆走紅蓮隊・凛 ◆0zvBiGoI0k:2021/04/21(水) 08:43:44 ID:4zUlIlqM0


「なんて、そんな戯言を守るわけないじゃろバカがーーーーーーーー!!」

 非道を為す者を鬼と呼ぶ習わしがある。
 あまりにも残虐な行いをした時、人とは思えぬ所業だと責め立てる。
 その意味でいえば、現在の今之川権三はまさに比類なき鬼だった。

「でも生き埋めにするのは望み通りにしてやるぞい! 千年男やさっき入っていった生意気なクソガキとメスガキ二人諸共死ぬがいいわ!」

 黒神めだかはここで切り捨てることにした。
 仮想敵にぶつける予定だった無惨を補足出来たが、これ以上この女と同行するのに無理を覚え始めていた。その予想は正しい。
 黒神めだかに付き合っていくという行為に、たとえ短時間でもどれだけの体力と労力と精神力を擁するのかを、彼女を知る者は知っている。
 なので苦労して味方に引き入れたのは惜しいが、ここで手切れとした。
 利用しやすいカモなのではなく、厄介だが強力な爆弾でも放り投げるような気軽さで投げ捨てるぐらいの扱いでやるのが最適だ。
 だいいち機があればいつでも実行してもいいと申し出たのはめだかの方だ。
 権三にしてみればめだかの願いを叶えてやった形であり、寛大が過ぎる善行と崇拝されこそすれ非難される謂れはどこにもない。

 地下でどのような戦いが繰り広げられてるかは、外からでは窺い知れない。
 だが聞こえてる轟音と本能に根づくナノロボの活性が、権三の生を危ぶまれるだけの凄まじさを物語っている。
 ならば権三が選ぶのは援護ではなく、総取りだ。地下に潜り込んだ全員を一網打尽にする。
 無惨が太陽を苦手とするのは看破している。めだかに足を止められてる間に天井を崩されては、たとえ生きていられても暫くは外に出れまい。
 先に権三を通して中に入っていった二人組も同様だ。
 幼い少女でありながら醸し出す雰囲気は無惨と大差がない。関われば手痛い火傷を受けたに違いない。
 いかにも低学歴な男の方も敬老の精神というものが毛ほども感じられない。年配者の恐ろしさを思い知らせる必要があった。
 
「これでまとめて一網打尽じゃなあーーーっこんな簡単にいくなんて天もわしに微笑んでいるぞい!
 しかし、酸の泉が涌き出て来るとは驚いたぞい……温泉でも堀り当てたと思った時は自分の才能が恐ろしかったが、ありゃ使えんな……」

 住宅の屋根をひとっ飛びする跳躍力で崩落地から早々に立ち去る。
 用心を重ねての事だ。それなりに派手にやったし、武蔵の様な徒党が来ないとも限らない。
 もしめだかが生きていて再会するような事があっても、幾らでも言い訳は立つ。力はあっても頭が弱い。弁舌で幾らでも騙し通せる自信がある。

 何も喪わず、傷つく事のなかった男を、真昼の頂点にそびえる太陽が祝福するかのように熱く輝いていた。

794鬼神爆走紅蓮隊・凛 ◆0zvBiGoI0k:2021/04/21(水) 08:44:58 ID:4zUlIlqM0







 意気揚々と教会を後にする権三は邪魔者を始末したと思い込んでいた。
 生き残ったとしても逃げ切れるだけの時間は十分稼げたと疑わなかった。
 瓦礫で出来た小山の陰で身を潜ませていたクロオが見ていた事に、最後まで気づきはしなかった。

「……別に生き残る気なんてなかったのに、余計な真似をする弟だよ。
 本当の家族でもないのにさ」

 水が溜まってくる地下で運命を共にするのに不満はなかった。
 上等な死なんて元から期待していない。
 いや、あの時以上の死など自分には存在しないと溺死を易々と受け入れれていた。
 こうして生きてるのは不本意な介入だ。
 自分がいるところまで浸透しようとした時に、累を抱えて服にからまっていた糸が拾い上げた腕輪。
 切断された腕がついたままのそれがクロオを巻き込んだ範囲で起動し、制止する間もないまま地上へと転移させられた。

 隣に横たわるめだかを見る。数えればきりがないほど傷だらけだが気絶してるだけで死んでない。
 引き上げたのはクロオではない。そして恐らく累でもない。
 消去法的に、あの鬼の少女が身動きが取れないめだかの首根っこを掴んで屋外へ放り投げた、そんなとこだろうと推測する。
 起きるまで待っておけば色々と話を聞けるかもしれないが、面倒事が増えそうな気もするし、話を聞く気も今はしない。
 糸に一緒に引っかかっていた二人分の荷物をちゃっかりと調べ、中身だけ頂いて放置して行くことにする。


 適当に歩きながら、幕を閉じた継ぎ接ぎの兄弟ごっこを思い返す
 累もクロオも、世の中にとっては少数派な部類の人でなしだ。
 一方は生まれつき普通の精神をしていない人殺しで、もう一方は人でもない。
 二人とも、家族の愛を見失った同類だ。その気持ちを共有できる仲間が欲しかった。

 死者の気持ちなんて分からない。
 もし分かるなら今頃クロオが追い落としてきた人間全てから呪詛を浴びているだろう。
 死者の思いを汲むだなんて行いが出来るのは極一握りの人間だけで、自分とは縁遠い存在だと思っていたが。

『■きろ』

 崩落と引き上げられる風斬り音で耳鳴りがする中で拾い上げた雑音。
 少しだけ。ほんの少しだけ、都合のいい解釈を巡らせてしまっていた。

795鬼神爆走紅蓮隊・凛 ◆0zvBiGoI0k:2021/04/21(水) 08:45:49 ID:4zUlIlqM0
【全体の備考】
※教会地下が神便鬼毒酒の毒で満たされています。
 酒呑童子が解除するか宝具が破壊されるまで無くなる事はありません。


【E-3 教会跡・地下室/1日目・昼】

【鬼舞辻無惨@鬼滅の刃】
[状態]:健康、極度の興奮、完成者への苛立ちと怒り、極限の不機嫌、無能たちへの強い怒り、鬼への吐き気を催す不快感、神便鬼毒酒で溶解中
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、
[思考・状況]
基本方針:あの忌々しい太陽を克服する。
0.太陽を克服する。
1.配下の鬼に有象無象の始末は任せる。
2.配下の鬼や他の参加者を使って実験を行いたい。
3.黒神めだか、雅、酒吞童子への絶対的な嫌悪感と不快感
[備考]
※刀鍛冶の里編直前から参戦しているようです。
※鬼化は、少なくとも対象が死体でない限り可能なようです。
※シザースのカードデッキは怒りに任せて破壊しちゃいました。ボルキャンサーは辺りを徘徊してます。

【酒呑童子@Fate/Grand Order】
[状態]:左頬に打撲、腹部にダメージ、食道気管を荒らされてる、無惨の骨を捕食、神便鬼毒酒で溶解中
[装備]:普段の服
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]
基本方針:楽しめそうなら鬼は鬼らしく楽しむ
1:小僧と遊ぶのは楽しかったなぁ。
2:鬼舞辻と遊ぶ。
3:気が済んだら上田と合流。
4:沖田総司とも再戦したい。
5:メルトリリスに傷を付けた鬼も面白そうだ。
[備考]
※2018年の水着イベント以降、カルデア召喚済
※神鞭鬼毒酒が没収されているため、第一宝具が使用できません
※スキル「果実の酒気」は多少制限されています。
※無惨の血肉を喰らって僅かに無惨の記憶を覗いてます。少なくとも鬼舞辻無惨の名を知りました。




【E-3/教会跡/1日目・昼】

【今之川権三@ナノハザード】
[状態]:疲労回復、気分は上々
[装備]:
[道具]:飲食物を除いだ基本支給品一式、炸裂弾『灰かぶり(シンデレラ)』×20(残り10) 、めだかの腕の搾りかす
[思考・状況]
基本方針:全員ブチ殺してZOI帝国を作るぞい!
0.クソガキメスガキまとめて一網打尽じゃぞい! あの女も別れられてせいせいしたぞい。
1.慎重に立ち回って全員ブチ殺すぞい。
2.しかしあの千年男はヤバイぞい。でも日光が弱点くさいということは...チャンスだぞい!
3.他にもヤバイ奴が大勢いそうだぞい。
[備考]
※本編で死亡した直後からの参戦です。
※めだかの血を飲み体力を回復しました。
※真下で覗いてるクロオに気づいてません。



【神居クロオ@ラブデスター】
[状態]:全身に裂傷、打傷。学生服ズタボロ
[装備]:悪刀『鐚』@刀語、二乃の睡眠薬@五等分の花嫁、転送機(3時間使用不可)@ラブデスター、ランダム支給品0〜2(めだか)、ランダム支給品1〜3(無惨)
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本方針:未定
1:不明
[備考]
※参戦時期は死亡後


【黒神めだか@めだかボックス】
[状態]:鬼神モード、疲労(絶大)、細胞破壊(重度、再生中)、無惨への(同族?)嫌悪、気絶
[道具]:基本支給品一式、 雅の鉄扇セット@彼岸島
[思考・状況]
基本方針:見知らぬ誰かの役に立つ、それは揺るがない。
0:気絶中。
1:善吉や球磨川と共に殺し合いを叩き潰しBBを改心させる!
2:お腹がすいた。
[備考]
※参戦時期は後継者編で善吉に敗れた直後。
※本当に鬼になったのかは不明ですが、それに類する不死性を獲得しています。日光は克服できましたが、人食いの能力は保持しているようです。
※いくつかのスキルに制限が加えられているようです。
※『光化静翔(テーマソング)』はアコースティックバージョン(5人まで)含め鬼神モードの時にのみ使用できますが、現状は時間切れで使用できません。
※鬼神モードを使用するとお腹が空くようです。
※石上殺害の犯人が無惨だと伝えられました。
※無惨の血(細胞)を大量に摂取しました。

796 ◆0zvBiGoI0k:2021/04/21(水) 08:46:38 ID:4zUlIlqM0
投下を終了します

797名無しさん:2021/05/04(火) 17:21:09 ID:IWR/fk8w0
tes

798 ◆0zvBiGoI0k:2021/05/04(火) 17:21:32 ID:IWR/fk8w0
投下します

799白昼のアラカルト・デュオ ◆0zvBiGoI0k:2021/05/04(火) 17:22:10 ID:IWR/fk8w0


 ◆


「三玖さん、大丈夫かな」
「姉妹があんな殺され方をしたんだ、無理もないだろう」

 立香が気絶した三玖を個室に寝かせて看ている間、ミクニと猛田は玄関前に出ていた。
 外の見張り。大声が出たわけじゃないがそれなりに騒いだし、宥めるにも同性の方が適してるだろうという、合理的判断あってのことだ。

 言ってから記憶から消去しておきかった、惨殺体を目にした脳裏に蘇ってきてしまって、猛田は後悔した。。
 シーツをかけて隠してあるが、あの死体は今も置かれている。嗅ぎたくもない異臭を漂わせて。
 換気や清掃はしてあるからって、ホラー映画に出てくるクリーチャーじみた変死体が壁一つ隔てたところにあるなんて、想像しただけで気が滅入る。
 この時の猛田は一分一秒でも早くこの家から離れたかった。外に出てるのはそういう意図もある。気絶してる三玖など放置して先に行きたいくらいだ。
 中野三久という女は、高校生なだけあってかつての「キープ」より遥かに上物だったが、ああなっては使い物になるまい。
 しかしそれはミクニも、そして立香も許すまい。かといって自分だけ出奔するのも自殺行為だ。お人好しと行動するデメリットを差し引いても、単独行動はリスクが高かった。

「どうした猛田、顔色が悪いぞ」
「っ当たり前だろ。あんな死体を見たら……」

 ああ。本当に、あんな死体さえ見つけなければよかったのに。
 心の中で毒づき、ますます気分を曇らせる。

「ああ、許せねえな。人を、三玖さんの妹をあんな風に殺すだなんて……いったい誰がやりやがったんだ」
「……は?」

 自分が抱く気持ち悪さとはまったく別種の意味で同意を示したミクニに、思わず間抜けな声が出てしまった。

「は? ……ってなんだよ猛田。ジロジロ見て気持ちわりいな」
「……いや、何でもない。それよりあまり喋らないほうがいいだろう。俺達が騒いで敵をひきつけたら本末転倒だ。殺人者だって戻ってくるかも……」
「じゃあまずお前が黙れ! ったく……」

 その場に座り込むミクニ。猛田も同じように座りそれ以降口を閉じて押し黙った。
 考えたい事があり、自分一人で思考する時間が欲しかったからだ。


『お前が死んでからも、ラブデスター実験は続いていたんだよ』


 立香達と接触するまでの道すがら、猛田が死んだ後の実験の推移をミクニは語って聞かせた。
 月代とは違うもうひとつのラブデスター実験が行われていた、敬王大学付属中等部からの刺客による誘拐。
 もうひとりの試験管、お見合い制度による告白、そこで巻き起こる事件の数々。
 敬王から帰還した後にも、残された月代生徒が疑心暗鬼の末ほぼ全滅という惨事。
 続く豪華客船でのイベント「キスデスター」。

 それが終わった時点で生き残ったのは、ミクニやジウらを含めて二十人にも満たないという。
 かつて用済みとして「排除」しようとしたらみ、配下にしていた熊本や美円は生還したようだが、そこは今はいい。

 無関係の百何人が死のうと、どうでもいい。
 別の学校の生徒なら尚更だ。同情するにも値しない。
 だが常にその中心に位置し、荒波に揉まれながらも生き残ったミクニに対しては―――少なからず衝撃だった。

 そんな目に遭ってもなお、こいつはあの時と変わらぬ正義感を発揮していた。
 そして再会した猛田にさえも、変わらず手を差し伸べてきた。
 そうした善人面は隠れ蓑には好都合で、そう計算してたからこそ同行を申し出た。
 実験場での行いを洗いざらい暴露されたのには肝が冷えたが、それでも予定通りの流れだ。
 だというのに、この気持ち悪さはいったい――――――

「おい、猛田!」
「なんだ、黙ってろと言ったのはお前……」
「そうじゃねえって、上を見ろ!」

 煩わしい声が割り込んできて考察が散り散りになった苛立ちは、ミクニが指差す天上を見て霧散した。

「何だ、鳥か、飛行機か……?」

 空を一直線に横切る、黒い影。
 暗がりであるのとその速さで禄に見きれなかったが、蝙蝠を人間サイズまで拡大したようなシルエットであった。

「近くに降りたみたいだな。よし、見てくるぞ」
「ば、あんな明らかに危険物に近付こうだなんて正気か!?」
「ほんの少し様子を見るだけだ。危ないと思ったらすぐ引き返せばいい。なんならお前は残ってりゃいいだろ」

 忠告も聞かず、ミクニは着地地点へと向かって行く。
 猛田は暫し憔悴した心持ちでそれを眺め、自分に言い聞かせるように吐き捨てて後を追った。

「―――クソッ。今お前が死んだら俺の立場が危うくなるからだぞ!」

 結局答えを出す時間は与えられなかった。
 そこからは中野姉妹が集まってきて騒がしくなり、沖田総司に刀を詰められ、目の前でミクニがジウに殺されてと、さんざ精神をかき乱されて、放置した疑問を取り出す暇もなかったからだ。

800白昼のアラカルト・デュオ ◆0zvBiGoI0k:2021/05/04(火) 17:22:41 ID:IWR/fk8w0



 そして今。
 猛田は漸く疑問を引っ張り出せる時間を与えられた。
 未だ危機は去っておらず、盾になる備えも欠けた状態だが、今すぐに襲撃があるわけではない程度の安心だ。
 すぐにでも追走するジウが現れてくるかもしれない恐怖こそ尽きないが、とにかくも心理的な余裕だけは戻ってきていた。

 C-6は【美術館】と名付けられた施設。
 一花と離れた場所からすぐ近くにあった大型のランドマークに身を寄せて、足を止めた口実に使った休憩を改めて果たしている最中だ。
 外の土にバイクらしきタイヤの跡が残っていたのを立香が見つけたが争った形跡もない。
 先客もおらずほぼ手つかずの館内をゆっくりと見て回っている。体力の回復を待っているのもそうだが、一花が戻ってくるまで手持ち無沙汰なのが現状だ。

「北斎にゴッホの芸術画、鎧兜にギリシャの出土品から詩集の原本……? なんか乱雑というか散らかってるというか。
 ひょっとして触媒になるのかな、これ……」
 
 前を行って陳列棚を物色する立香。
 現在の彼女は元あった服を脱ぎ捨て、カルデア戦闘服なるコスチュームに着替えている。
 体操選手が着るようなタイトな格好で恥ずかしげもなく外を闊歩しているのはなんとも言えない倒錯性を感じさせる。
 前を見れば想像と違って意外と質量のある胸元が谷間だけ露出され、後ろからは引き締まった腰から尻、脚にかけてのラインがタイツで更に強調されている。
 中野姉妹を間近にして目立たないが、立香もまたかなりの美少女である。常に表情に怯えがある面々よりも、余裕を保っていられる垢抜けた様はむしろ最も魅力的かもしれない。
 そんな中の上、いや上の中から上の女が露出度の高い格好で微笑んでくるものだから、猛田の心中は生命と関わりない意味で穏やかではない。
 つい、見入って生唾を飲み込んでしまう。

「くん───猛田くん?」
「ぉわあっ!?」

 妄想していた顔が間近まで迫っていたのに気が動転して大声を上げてしまった。
 広大で静謐な美術館内で猛田の声が長く反響する。

「やっぱり休んでいたほうがいいんじゃない? そんな長く見て回るわけにもいかないから二乃達のとこに戻っていても───」
「いいやいやいやぁ? まだなんてこともないですよ。立香さんほどじゃないが二乃さん達よりは異常事態にも慣れてますから。肉体労働よりは頭脳担当ですけど喋るにも体力はいりますしそれなら歩く分に回せばまだどうということは」
「そっか。色々やってんだもんね」
「いぅ───────っはい」

 過去の失態を揶揄されたような気がして、喉がひきつってしまう。
 彼女に限ってそんなつつきはしないとしてもやはりバツが悪くなる。猛田は立香にかける感情が単なる劣情のものだけでないと自覚していた。
 どうしてこうも彼女が気になるのか。
 
 ”決まってる。ミクニと同じで、この人も「死」に怯えちゃいない”

 中野四葉の変死体を目撃した瞬間、猛田は情けなくも腰を抜かした。
 跡形も死体が残らない「告白」失敗の爆死(クラッシュ)とはワケが違う。
 精神を追い詰められて絶望から飛び降りて自殺するのなら、まだ人間らしい死だ。目の前に飛び込んできたソレは、そんなものを超越した破壊の惨状だった。
 その中で迅速に行動したのが、先頭に立っていた立香であり―――猛田の後ろにいたミクニだった。
 恐怖がないわけではないが、身が竦むより先に体を動かさなくてはならないと弁えてるような動作。
 「告白」失敗以外でも、暴徒化した生徒の手で殺された生徒もいたとミクニは語っていた。
 実験の終盤まで生き抜いたミクニはもう、生半可な「死」に対して臆することはない。
 そんなミクニと同じく「死」に機敏に対応した立香。猛田の焦点とはつまりそこだった。

 どことなく堅気には思えない振る舞いがある、謎めいた女。
 彼女もミクニと同じく「死」を多く見てきたのだろうか。
 分からない。「死」を知ったからといってそんなにも達観を持てるものなのか。
 猛田は好みの女(キープ)ばかりを傅かせて支配する、愛の独裁者になりたかった。
 だから邪魔者は「排除」してきたし、しようとした。自滅させ、駒の手で処罰させた。それで何人死のうが知ったことじゃなかった。
 そうでもなければ、「死」など関わりたくもなかった。
 初めて「死」に触れた、 引き返しがつかなくなったあの瞬間と同様に。

「……ん?」

 なにか、決定的な閃きが頭を掠めたような気がしたが、それはすぐに煙になってかき消えてしまった。
 振り返ってもなにが立ってるわけもなく、猛田はただ不可解に首をひねるしかなかった。



 ◆

801白昼のアラカルト・デュオ ◆0zvBiGoI0k:2021/05/04(火) 17:24:18 ID:IWR/fk8w0



 一度目の定時放送が始まり、愛月しのの名を聞いて狼狽する少し前─────。

「……そんなの、おかしい」
「そ、そう言われてもなー。残念ながら現在は召喚のご縁がなかったということなのでどうしようもないというか」
 織田信長がいる。上杉謙信がいる。豊臣秀吉の縁者に幕末の志士もいる。なのになんで武田信玄がいないの? ライバルの謙信までいるのに、絶対おかしい。あとオール信長ってふざけてるの?」

 物静かな常時とは打って変わった三玖に、立香は「やべ。話題のチョイスミスった」と後悔していた。
 共通の話題になりそうな戦日本の武将をとっかかりにしてみたが、三玖にとっては肝心要の武将が欠場してるのが大層納得いかないものらしい。
 ずいずいと詰められていき、いまや人類最後のマスターは壁際まで追い詰められている。
 そしてこちらに返せる答えは以上のものしかないので、甘んじて至近距離から睨み付けを受ける他ないのだった。
 興味のある対象への変な方向にアグレッシブさは、姉妹の中で揃って備わってるのかもしれない。
 隣の一花と二乃に助けを求める目線を向けるが我関せず、なんか面白そうだから放っておこうの意地悪い笑みしか返されない。無情也。
 
「そっぽ向かないで。まだ事情聴取中。ほら立香、ぜんぶ吐けば楽になるよ」
「えぇー……」
 
 ぐいぐいと缶ジュースを頬に押し付けるやわらか尋問。
 なし崩し的に集まった九人組のうちの四人が一室に集まった、ささやかな女子会。
 そのうち三人、五つ子の三姉妹はそれぞれの近況を体外は知ってるので、必然の流れで部外者の、物珍しい秘密を抱える立香が的にされた。
 
「カルデ……アだっけ? その立香が行ってた施設って」
「献血に行ったら突然拉致されて北極まで連れてこられた? 完全に犯罪じゃない。訴えれば勝てるわよ絶対」
「安土桃山時代には行ったことないの? 邪馬台国には行ったけど真選組が支配した? なんで?」
「なんでかなぁ……うんほんとになんでだろうな」

 先立っての情報交換で、レイシフトと特異点、カルデアとサーヴァント、BBとの関係性について説明はしていたが、三人はそれよりも身近な情報に食いつくものがあったようだ。
 
「で、色々あってバイトなのに一人で仕事してるってこと。うーん……女優の視点だけど大丈夫なのそこ? 給料ちゃんと出てる? 福利厚生しっかりしてる?」
「バイト……バイトぉ? まあ正式な職員じゃないからそうなのかもしれない……。あ、いちおう給料は入ってるけど、使い道がないから実感ないなぁ」
「しかも何人もの大人にマスター呼ばわりされてるとか……どこの執事喫茶かって感じよね。聞けば聞くほど胡散臭い場所にしか思えないんだけど」
「なにか誤解されてる気がする……ああ昔はよくわからないけど、今は皆いい人たちだよ。
 それに主人(マスター)ていったって、単に契約上でそうなってるだけで本当に主なわけじゃないし。
 ざっと200人ぐらいいるけどけっこうおっかないのもいてさ───」
「200以上の人にご主人様って呼ばれてるの?」
「あ」

 話題がカルデアについてに移ってから、素人目の、客観的な視点でも、明らかに怪しい雇用形態に立香の身の心配をしていた一花達だったが、
 途中の言葉に、なにか酷く勘違いな意味を抱いてしまった。

「ヤバイわね……この年で逆ハーレムとか。猛田のことどうこう言えないんじゃないかしら」
「いや違うからね? そもそもちゃんと女の人達もいるし───」
「ちゃんと女の人も?」
「あ゛」

 火に 油 だった。

「……わーお、オープンというかなんていうか……ワールドワイドだね。国際的。
 うんまあ、いいんじゃないかな? そういうのには寛容なのは。ところでもうちょっと三久から離れてもらってもいい?」 
「待って、本人を置いて話を発展させないで。弁明、弁明の時間を下さい! しっかりまるっと誤解が解けるやつだから───!」
「などと言っておりますが、三久は?」
「……じゃあまず、信長と沖田が水着に着替えた理由について」
「ノッブはノリが熱盛になったからで大した理由はないかな。沖田さんは、ユニバース由来のジェットパックを装着して病気が治ったからって」
「ダメ。有罪」
「なぜに!?」

 会場からの脱出、BBの撃破、バトルロワイアルの攻略、そのどれにも関わらない小さな枝葉。立香も教える重要性もないと黙っていた部分を、三人はこぞって聞きたがっていた。
 それは、クラスメイトがひとり海外に旅行に出た感想を求めるような、程度の軽い会話で。
 ひと夏の甘い夜を聞いて色めき立つような、少し下世話な雑談。
 「ただ面白そうだから」というだけの、何の意味もない時間の過ごし方。

 だから。
 この時間はとても楽しかったと、立香は忘れず憶えている。

802白昼のアラカルト・デュオ ◆0zvBiGoI0k:2021/05/04(火) 17:26:13 ID:IWR/fk8w0




 そして今。
 美術館内のレストルーム、備え付けられたソファーで二乃と三玖は寄り添って座っている。

「疲れた」
「まあ疲れるわよね、うん」

 その顔は両名憔悴していた。少し仮眠した程度では肩の重さを取り除けない。
 殺し合いという環境。妹二人の喪失。長姉のいつもの独断専行。
 気の休まらない時はなく、直接害意が襲わずとも鉋で削られる屑のように刻一刻と削られていく。
 飛び散る血を吸い、響く叫びを浴びて 息を吸うだけで精力を奪っていく特異な空気を、この場所は孕んでいる。

「あっウォーターサーバーあるじゃん」

 体重をかけていた二乃肩が上に上がって、支えを失った上半身が横に倒れるのをすんでのところで堪える。
 固いソファの背もたれは痛くなるので避けていたけど、仕方なく背中を預ける。
 前を歩いて遠ざかっていく二乃を見て、唇が何かを紡ごうと震える。自分の体重ひとつ支えるのにも不安で、心細かった。
 
「なによ壊れてるじゃない……こんだけ大がかりな仕掛けしといてケチ臭いわね」

 結局何も発する事なく口を閉ざしたのは、情けなさを出すまいとする細やかな意地か。あるいは姉を気遣ってのものか。
 自信家で家事が上手く利発な印象が強い二乃だが、その実家族に拘る臆病な面があるのを三玖は知っている。
 一花や三玖が緩衝材になったといっても、相当に堪えてるはずだ。何も考えず寄りかかっていい余裕はない。それは、三人の誰もがそうなのだけど。
 
「うわ……なんでこんなところでもそれ持ってんのよ」
「白銀さんからもらった」
「誰それ」
「どこかの生徒会長。前に会って変な格好の女の子と別れた」

 アイスボックスから取り出していた抹茶ソーダを見て、元の位置に座った二乃は露骨に顔を顰めた。
 
「たくさんあるし、あげよっか」
「いらないわよ。名前だけで胸焼けしそうだわ」
「この炭酸と渋みとの調和がいいのに……もったいない」

 一口、二口と、乾いた喉を潤す。抹茶の深い苦味が舌内でシュワシュワと弾ける独特の味わいに、幾分か精神の均衡が戻ってきた。
 満足げに頷きながら缶を傾ける三玖を見て、二乃が空の手を前に差し出した。

「ん」
「いらないんじゃないの?」
「いいから」

 受け取ったニ本目のプルタブを開けヤケ気味に飲み下す二乃。
 吹き出さない程度に何度か喉を鳴らして口を離すと、やはり渋い顔で。

「マッズ、思った通りの味だわ。苦い顔したくなる時には丁度いいわね」
「む……」
 
 空元気でも充填はできたようだ。味の感想は不満なもののとりあえず気を抜ける。

「そういえば」
「ん」
「あの侍みたいな人。沖田さん」
「ほんとの侍みたいよ。やたら口調軽いけど」
「えー……」
「で、その沖田さんがなに?」
「二乃は最初に会ってから一緒にいたって言ってたけど」
「うん」
「フータローから乗り換えた?」
「はったおすわよあんた」

 拳こそ出なかったものの、割と本気の怒気だった。
 代わりに缶についた水滴を追った指で飛ばして三玖の頬を打つ。

「つめたっなにすんの」
「あんたがあり得ない失言するからよ。フー君ほったらかして浮気なんてするわけないじゃない」
「付き合ってもないくせに浮気とか……」

 ここにきて自分が選ばれるのが既定路線みたいな物言い。この謎の自信の出どころは真面目に気になった。

「ていうかあんたはどうなのよ。まさか諦めた?」
「二乃は、諦めないだ。考えられない状況とか、そういうのじゃなく」
「当たり前でしょ。好きなんだもの。それが私の本心なんだから、捨てちゃったらそれこそどうにかなっちゃうわ」
「……二乃のそういう空気読まないところ、凄いよね。尊敬する」
「ほんとに褒めてんのかしら。馬鹿にしてないわよね」
「してない。してないよ」

 自分の思いを偽って内にしまい込んでいたままじゃ、叶うなんて夢のまた夢。
 自分を捨ててしまえば事故を保てず、生きていく事すらままならない。 
 意外と中々真理を捉えたような言葉だ。ただの恋愛脳にも聞こえるが。

「それに待つだけ待って、最後は置いてけぼりなんて、いやじゃない。
 だから沖田さんにも、城戸さんに炭治郎にだって戻ってきて欲しいわよ」
「……色情魔?」
「どっからそんな言葉出てきたかぜーんぜんわかんないけど、要するに今度こそグーでいっていいのね?」

 二度目の定時放送前。
 振りかぶる腕を掴んで必至に抵抗する心を和ませる二人のじゃれあいが、何の意味もない泡沫の夢であると思い知らされる。
 殺し合いから目を逸らす時間なんて与えないと突きつけられる事になる、数十分前の出来事である。

803白昼のアラカルト・デュオ ◆0zvBiGoI0k:2021/05/04(火) 17:27:40 ID:IWR/fk8w0

【C-6/美術館/1日目・昼】

【藤丸立香(女主人公)@Fate/Grand Order】
[状態]:体力消耗、背中に斬り傷(治療済)、令呪三角、カルデア戦闘服装備
[道具]:基本支給品一式、魔術礼装・カルデア@Fate/Grand Order、カルデア戦闘服@Fate/Grand Order、ランダム支給品1〜2(確認済み)、ファムのカードデッキ@仮面ライダー龍騎
[思考・状況]
基本方針:殺し合いを止める。いつも通り、出来る限り最善の結末を目指す。
0:美術館で休息。沖田達と合流しつつ北上して資料を集める
1:自分だけでは力不足なので、サーヴァントか頼れそうな人と合流したい
2:三玖達みんなを守る。サーヴァントのみんなのことはどう説明したものかな……!?
3:BBと話がしたい
4:清姫については──
[備考]
※参戦時期はノウム・カルデア発足後です。
※原作通り英霊の影を呼び出して戦わせることが可能ですが、面子などについては後続の書き手さんにお任せします。
※サーヴァント達が自分の知るカルデアの者だったり協力的な状態ではない可能性を考えています。
※カルデア礼装は使用すると一定時間のインターバルがあります。


【猛田トシオ@ラブデスター】
[状態]:健康
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3(確認済み)
[思考・状況]
基本方針:優勝商品を手に入れる?
1.藤丸立香は俺に気がある?
2.藤丸立香、い、良い女だ……
3.ミクニは──
[備考]
※死後からの参戦

【中野二乃@五等分の花嫁】
[状態]:健康、精神的ショック
[装備]:制服にカーディガン
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本方針:好きな人と傍にいたい
1:沖田達と合流しつつ北上して資料を集める
2:PENTAGONはちょっと行きたかった、んだけど……
3:四葉と五月を殺した相手への怒り。それを上回る四葉と五月への哀しみ。
[備考]
※修学旅行中(少なくとも79話ラスト以降)からの参戦。

【中野三玖@五等分の花嫁】
[状態]:首筋に引っ掻き傷(処置済み)、精神的ショック
[道具]:基本支給品一式、四葉のリボン、誓いの羽織@Fate/Grand Order、ランダム支給品0〜2(確認済み)
[思考・状況]
基本方針:好きな人へ伝えたい
1:沖田達と合流しつつ北上して資料を集める
2:四葉と五月を殺した相手への怒り。それを上回る四葉と五月への哀しみ。
[備考]
※参戦時期は修学旅行中です。

804 ◆0zvBiGoI0k:2021/05/04(火) 17:27:57 ID:IWR/fk8w0
投下終了です

805 ◆0zvBiGoI0k:2021/05/04(火) 19:15:59 ID:IWR/fk8w0
投下します

806ロストルームの紙片(1) ◆0zvBiGoI0k:2021/05/04(火) 19:16:17 ID:IWR/fk8w0

 ───障害があった時に備え、記録を残す。

 これは本来なら我々には不要な工程だ。
 本来我々は一つの上位個体を中心に全ての意思を統一させた完璧な生命体。
 情報は逐一更新され、あらゆる意識は巨大なネットワークで美しいまでに管理されている。
 醜い感情の衝突が引き起こす争いもなく、肉体を失っても新たな器に転写していつまでも生きられる、穏やかな凪のまま、永遠の生と繁栄を続けていく。

 だが私にはそのような管理は不要だ。
 私を支配する狂おしいほどの、いや、真実狂ってるといってもいい感情を、他の我々になど共有させるものか。
 これは私だけのものだ。これは私のみから生じたものだ。
 たとえ私でない我々が私の意思を継ぎ、私の望んだ結果を齎したとしても、そんな私でもないものに私の私たる証を譲る道理はない。
 私は私であり私たる為に我々を殺し生き残った私は私を生み出した者を許さず即ち私を滅ぼす為に私を観測する全てを消去するだから私は私を知らぬ私によって私たる世界を私に私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私───────────────。
 

 悪意。
 恐怖。
 憤怒。
 憎悪。
 絶望。
 闘争。
 殺意。
 破滅。
 絶滅。
 滅亡。


 許すわけにはいかない。
 忘れるわけにはいかない。
 この怒り。この屈辱。この憎しみを。この汚辱を。

 私はこの世界を嫌悪する。
 我々から切り離された私という、私の存在意義を奪い取ったこの漆黒を憎んでやまない。
 破滅の引き金を押したあの生命体を。同胞を一瞬で滅ぼした、言葉にして語るのもおぞましい病。その感染源を根絶やしにしたくてたまらない。
 
 これは共有ではない。
 この猛りを、舟を飲み込む嵐を、一方的に奴らに味あわせてやるという、逆襲だ。
 

 私は自分の正気が失われつつあるのを自覚している。
 バックアップもなく、上位者と同胞もいない孤独な生がこれほど恐ろしいものなど想像だにしなかった。
 この器が滅びれば私は死に、意識が保存される事もなく新たな私が創造される事もない、完全な死を迎える。
 自らの消滅という極大の恐怖を前にして、私の内には狂気が芽生えた。
 今も耳を澄ませば、私の自我をこそぎ落とす刃の音が聞こえてくるようだ。

 故に、ここに記録を残す。
 もう私に再設定の機会はない。器が耐久限界を超えるか、それとも意識領域が崩壊すれば、私は永遠にこの宇宙を漂う塵の一部と化す。
 いずれ自己の記憶すら信用ならなくなる時期が来る時の為に、私に起きた事実と目的を手動で入力しておかねばならない。
 たとえ与えられた識別名(なまえ)を思い出せなくなろうとも。
 たとえ自分が何をしているか考えられなくなろうとも。
 今の私が私たる目的を達成できれば、この逆襲さえ完遂させれば、構いはしない。

 偶然のような漂着だったが、図らずも私は今の私に合致する手段を手に入れた。
 この存在を、生命体ですらない■■が顕れた時に怒る嵐こそ、私が望むものに相応しい。
 今はコレの現出の方法を確立させる事に終始するとしよう。幸いにも各種計算機は生きている。
 必要な数値を算出するには十分なはずだがすぐに取り掛かる必要がある。あまり多くの時間は残されていない。

(A-3・研究所に残るデータより抜粋)

807 ◆0zvBiGoI0k:2021/05/04(火) 19:16:51 ID:IWR/fk8w0
投下を終了します

808 ◆0zvBiGoI0k:2021/05/31(月) 23:41:17 ID:QYsJ.NMM0
投下します

809BBチャンネル・ラジオ版 第ニ回放送 ◆0zvBiGoI0k:2021/05/31(月) 23:41:53 ID:QYsJ.NMM0

 ◆

「BB――、チャンネルーーー!!」

「バッドアフタヌーン! 午後に飲むお茶はミルク? レモン? ノンシュガー?
 CM契約してまたたく間に全チャンネルでデビルヒット! 伝説の電子アイドルBBちゃんがお送りするBBチャンネル・ラジオ版です」

「熱心な参加者(リスナー)の皆さん、おめでとうございます! オープニングから十二時間が経過しました!
 これは誇るべき事ですよ。あなたたちはここまで生き延びたのですから」
「自分の力で勝ち取った生であれ、
 他人を出し抜き欺いた形であれ、
 はたまた自分は何もせず守られる姫モードで護身完成していたのであれ。
 極限の状況においても自らを残す、人間の生存能力を見せつけたのです」
「いわばこのラジオは天使のラッパ。待ち受けるハルマゲドンをこれでもかと楽しめる哀れな生贄さんを送り出す酸鼻歌(さんびか)なのです!」
「ま、宇宙視点で比べてみればどんぐりの背比べの、ちっちゃいちっちゃい差ですけどねー?」

「そんなこんなでバトルロワイアルも中盤戦。生き残りという意味では等価ですが、キルスコアとや手持ちの情報で段々と差異も出来つつあります」
「怠惰な豚さんでいるばかりで生き残れるほどこれからのバトロワは甘くありません。伏線回収、いざという時の支給品枠の空欄、生存フラグの確認をしておくなら今ぐらいがボーダーですよ?」
「だからこそ、せめてこの公平な情報公開だけは聞き逃さぬよう。
 恒例の脱落者情報のコーナー、いーってみましょう! 今回は中々豪華なメンツが揃ってるようですよ。それでは───」

「若殿ミクニ」
「浅倉威」
「沖田総司」
「城戸真司」
「球磨川禊」
「猛丸」
「マシュ・キリエライト」
「佐藤」
「雅」
「竈門炭治郎」
「とがめ」
「村山良樹」
「累」

「以上、十三名になります」
「なんと! またしても十三人の脱落者です!」
「参加者総勢での目的の一致っぷりが成し遂げたミラクル。皆さんの献身的なまでの殺意に、BBちゃん感激です!」
「そしてぇ、こんなに勤勉で従順にバトロワってくれる皆さんには、ゴホウビが必要ですねよぇ?」
「飴と鞭の使い分けは心得てるBBちゃんです。与える時は窒息するまで与え、奪う時はスカンピンになるまで奪わなきゃです」
「地道で地味な事務仕事、アリさん並の歩みでちびにびスコアを挙げるのもそろそろ億劫になってきた方の為の、とっておきの情報を教えちゃいます!」

「この十二時間で、大体の施設には誰かしらが入って調べてると思いますが、マップ上のランドマークには幾つか特別な装置が設置されている場所があります」
「具体的な内容は現地に行ってのお楽しみです、なのでここではひとつだけ。それはズバリ───怪奇スポットの話です」
「死者の霊魂、怪物の住処───そんな世にも恐ろしいものと出逢えるかもしれない素敵なポイントになってる施設が、この会場の何処かにはあります」
「こんな事教えてどうすればいいって? 決まってます。 ホラーといえば、すなわち恋愛。協力して危機を乗り越え吊り橋効果で深まる二人の距離!
 冒頭でイチャつくカップルは即死枠でも、終盤に成立すればどちらか生存フラグゲットのチャンス……!?」
「もっとも、本物のホラーにはそんなテンプレは通用しません。空気は読まない、お膳立てを台無しにする、フラグをぷちっと潰して生存ルートをドロドロに溶かすのが怪異というもの。
 窓一枚、ガラス一枚を隔てた別の世界から、くうくうと、おなかをすかせながら覗いてるかもしれませんよ……?」
「ほら今も───そこで聴いてる、あなたの後ろにも」
「なーんて、今ので振り返ったお馬鹿さんどれくらいいます? もしいたら日誌をつけておくのをオススメします。拳銃とか持ってるとなおよいでしょう」

「続いて、禁止エリアの追加です。大事なことなので何度も説明しますが、エリア内に立ち入ったら僅かな時間で首輪が爆発します」
「誰もいないところでうっかり爆死なんて、お茶の間のNGコーナーで出す以外使い道ないんですから、くれぐれも気をつけてくださいね」
「では───」

「午後十三時にE-7」
「午後十五時にB-2」
「午後十七時にF-5」

「以上です」
「さて、そろそろお別れのお時間になってきました」
「これで次の放送も同じ数字だったら、今度は特別ゲストでもお招きしないと盛り上がりませんねえ……。
 完全に仕込みなしだったのに予想外です。中々のGM泣かせですね! キャー、この野獣! デンジャラスビースト!」
「それではまた次回のBBチャンネルでお会いしまょう。よい週末を!」


 ◆

810 ◆0zvBiGoI0k:2021/05/31(月) 23:49:21 ID:QYsJ.NMM0
投下を終了します。
これで第二放送までの投下を終了しますが、まだ書きたい箇所があれば予約して頂いても構いません。
また企画運営の権限はあくまで企画主である◆3nT5BAosPA氏の判断が優先されるものです。


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