中国が「トリウム原発」の開発を本格化している。現在の軽水炉が天然ウランを濃縮したウラン235を燃やす(核分裂させる)のに対し、トリウム原子炉は天然にあるトリウムを核反応でウラン233に転換して燃やす。中国は世界の希土類(レアアース)の大半を産出しているが、希土類を多く含むモナザイトはトリウムも多く含んでおり、トリウムは希土類を精製する際の副産物として出てくる。中国は、使い道のなかったトリウムをウランに代わる燃料にしようと、昨年から、トリウム溶融塩炉など2種類のトリウム炉の開発を進めている。今年11月には、上海で「トリウムエネルギー会議」が開かれ、世界からトリウム炉の開発者たちが集まった。 (Thorium offers energy independence to China. Helps produce hydrogen too)
現在の世界の主流であるウラン炉は、燃料を作る際のウラン濃縮工程が、核兵器を作る工程と同じだ。ウラン235を3%以上まで濃縮すると原発の燃料に、90%以上まで濃縮すると核兵器になる。ウラン炉は、燃料を核反応した後の使用済み核燃料の中に、核兵器に転用しやすい危険なプルトニウムを生成する点でも、核兵器と縁の深い技術だ。対照的にトリウム炉は、発生するウラン233の兵器転用が難しく、プルトニウムもほとんど生成されない。燃料をトリウムに代えると、核兵器が作りにくくなる。 (Thorium To Be Tested in a Working Nuclear Reactor)
中国のトリウム炉開発が注目に値するのは、米国政府に支援されている点だ。中国のトリウム炉開発は、政府の中国科学院が推進しているが、その主導役は中国科学院の上海分院長で、江沢民元主席の息子の江綿恒(Jiang Mianheng)である。江綿恒が率いる専門家の集団が昨年末、トリウム炉の研究が最も進んでいる米国のエネルギー省傘下の国立オークリッジ研究所を訪問した。 (U.S. partners with China on new nuclear)
来年から中国の最高指導者になる習近平は元上海市党書記で「上海閥」として江沢民の子分だ。江綿恒は昨年、株取引をめぐるスキャンダルで、それまでつとめていた中国科学院の副院長を辞任し、上海分院の院長に転出せざるを得なくなったが、それでも江沢民の息子が推進の主導役をつとめることは、中国政府がトリウム炉の開発に本気で取り組むつもりであることを示している(江綿恒は以前から、中国科学院で新エネルギー開発の主導役の一人だった)。 (Jiang Mianheng From Wikipedia)
米国自身は、政界やマスコミで軍産複合体の影響が強いので、ウラン炉からの脱却は難しい。日本も、国是の対米従属が本質的に軍産複合体への従属であるため、同じ状況にある。半面、今後長期的に世界のエネルギー需要の中心になっていく中国は、むしろ軍産複合体に敵視されている上、国際政治上の影響力が急拡大しており、新型炉を開発して世界に普及させる主導役になりうる。 (Thorium Power The Future Of Energy?)
中国はこれまでに15機のウラン炉(軽水炉)を建設稼働させるとともに、26機が建設中、51機が計画中、120機が構想中となっている。世界で建設・計画中の原発の4割が中国に集中している。すべてウラン炉だ。中国政府は今年に入り、昨年の日本の福島原発事故から1年間凍結していた原発の建設を再開すると発表した。だが、2015年までに建設を再開する原発は数カ所のみで、残りは新型炉が実用化できるか見極めつつ計画を再検討する。 (China to restart nuclear programme)
中国は、新型炉が実用化できるか、ウラン炉をこのまま増やすかの分岐点にいる。トリウム炉の開発も順調でなく、中国科学院は最近、実験炉の完成目標を2017年から20年に先延ばしすると発表した。 (Completion date slips for China's thorium molten salt reactor)
中国と並んで韓国も、ウラン炉の新規建設がさかんで、福島原発事故後1年ほど建設を止めたものの、今年になって建設を再開した。だが最近になって韓国では、原発の千種類以上の部品の安全性に関する重要文書の偽造が発覚し、不正部品の損傷で原発が止まるなど、原発の安全性の根幹を揺るがす大きなスキャンダルになっている。韓国も中国も、このままウラン炉を急増させず、いずれ新型炉に転換していくかもしれない。 (South Korea to investigate nuclear plants)
欧州ではノルウェー政府が、これまでウランを燃料にしていた既存原発の燃料を試験的にトリウムに替えることを計画している。原発から出る危険物質のプルトニウムを消費するため、既存原発でウランとプルトニウムを混ぜたMOX燃料を使う試みが世界各地で行われているが、ノルウェーではウランに替えてトリウムをプルトニウムと混ぜた「トリウムMOX」を既存原発の燃料にしようとしている。 (Norway ringing in thorium nuclear New Year with Westinghouse at the party)