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( ^ω^)ヴィップワースのようです

1以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/07(火) 00:59:11 ID:iULO39J.0

タイトル変更しました(過去ログ元:( ^ω^)達は冒険者のようです)
http://jbbs.livedoor.jp/sports/37256/storage/1297974150.html

無駄に壮大っぽくてよく分からない内に消えていきそうな作品だよ!
最新話の投下の目処は立ったけど、0話(2)〜(5)手直しがまだまだ。
すいこー的ななにがしかが終わり次第順次投下しやす

747以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/17(水) 07:50:22 ID:70BeQz7U0


748以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/17(水) 09:14:54 ID:e/5jtq5Eo

いいねぇ

749以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/17(水) 09:32:15 ID:3VDthKcU0




   ( ^ω^)ヴィップワースのようです

             幕間

          「月を抱く獣」

750以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/17(水) 09:33:29 ID:3VDthKcU0
─────大陸のとある場所、ある森にて─────


(;゚д゚ )「ハァッ……ハァッ……」

男は両の拳を血で染め上げ、眼下に横たわる巨大な狼に視線を奪われていた。

一撃で致命傷に及ぶでであろうその狼の牙や爪から繰り出される脅威を、幾度となく回避した。
そして幾度となく己の持ち得る最高の技を叩きつけ、ついにはこの狼を倒す事が出来たのだ。

手に何も武器を持つ事なく、徒手空拳のみだ。

並の人間が知れば、驚嘆を露にする出来事であろうが、ただ一点を己の肉体のみに絞り、
たゆまぬ鍛錬によって磨き上げられてきた彼の肉体と精神、技こそがそれを可能にした。

山から山へと旅歩き、ある日その山中深くで彼と狼は対峙したのだ。

─────今宵は、満月だった。

月には魔が潜むと言われてはいるが、その魔がもっとも活発となるとされるのが、今日の月だ。

751以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/17(水) 09:34:00 ID:3VDthKcU0

いつか、誰かが言った”山の守神”と呼ばれた、大いなる獣。
それは今日という日にだけ山へと現れ、いつものように夜空に浮かぶこの月へと遠吠えするはずだった。

それが彼という男を見つけ、獲物として見定めてしまったばかりに、今、息絶えようとしている。

獣の名は”ムーンロア”

20年以上を生きながらえ、山のふもとの村人にも恐れられていた狼だった。
これまで討伐に向かってきた誰しもが生きて戻る事は適わず、そのあまりの強さに、
もはや魔力すら秘めた獣なのではないかと噂されていた。

そして────確かに獣の眼は、魔的な魅力を秘めた瞳をしていた。
どこか吸い込まれそうになるような、そんな恐ろしい力を感じる。

(;゚д゚ )「よく……勝った……俺は、よく生き残った……」

肩で息をしながら、後から後から溢れ出て来る冷や汗をせき止めようと、自分を鼓舞する。

正しく本心だった。

752以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/17(水) 09:34:46 ID:3VDthKcU0

一撃で意識を断絶され、そして恐らくは一撃で四肢を持っていかれていたであろう、獣の爪牙。
それらから実にかすり傷程度で勝利を収める事が出来たのは、神に祈っても足らないぐらいの奇跡だと思えた。

だが────そんな事を考えながらも、なぜか獣の瞳から眼を逸らせずにいた。

もうすぐ閉じられようとしている、その虚ろな瞳。
その中には自分の姿と重なって、その背後に浮かぶ満月が映っているのが見て取れた。

─────不意に、この獣に対して哀れみを覚える。

誰に頼るでもなく、たった一匹で今まで生きてきた”獣”

とても強く、とても気高く。
とても孤高な存在だった。

その姿が何かに似ていると思い、それが自分自身なのだという事にすぐに思い至ると、
何故だか少しだけ笑みが零れた。

(;゚д゚ )「ふふ……俺も、同じかも知れんな」

753以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/17(水) 09:35:12 ID:3VDthKcU0

孤高に生き、そして孤高に果ててゆく。
それが、今歩む自分自身の生き方なのだ。

─────自分とこの狼は、似た物同志。

それゆえ哀れみを覚えて、瞳を逸らす事が出来ないのかも知れない。
尚も血が滴る両手を左右に、じっとその場で立ち尽くしていた。


(;゚д゚ )「いつの間にか、俺も人としての道から外れ───お前と似たような道を歩んできた」

(ドクン)

その時、胸が大きく高鳴った気がした。
思わず手で確かめてから視線を戻すと、狼の瞳は、大きく見開かれていた。

それに────心なしか先ほどよりも近くに自分を映し出しているかのように感じた。

754以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/17(水) 09:35:52 ID:3VDthKcU0

(;゚д゚ )「俺もいつか、獣のようになってしまうのかもな」

そう言って、自嘲気味に笑みを零す。
だが、仮にそうであっても悔いなどないだけの人生を送ってはずだ。

いや─────一つだけあったか。

(;゚д゚ )(あるいは自分でも気付かない内に、他人から映る自分はもはや獣と同じなのかも知れん)

それでもまだ、人としての悔いは残っている。
あの時の選択が、彼女を突き放した事への後悔が。

そんな気持ちがまだ自分の中にあった事に安心し、ふっと笑みを漏らした。
先ほど大きく見開かれようとしていた獣の瞳は、最後に満月を焼き付けておきたかったのだろうか。

今ではもう完全に閉じられようと、薄く閉じたり、開いたりされている。

そこでようやく血で染め上げられた両手をだらりと投げ出し、彼もまた背後の月を仰ぎ見た。
やはり、これには魔力が秘められているのではないか。

狼の瞳同様に吸い込まれそうになった景色に、そんな事を思い浮かべる。

755以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/17(水) 09:36:23 ID:3VDthKcU0


(ドクン)


( ゚д゚ )「………?」


再び、大きく自分の心臓が高鳴った。
解せない、とばかりに自分の胸を触りながら、感触を確かめる。

だが、やはり何の変化も感じられないのだ。

自分の身に起きている異変に関して何も答えを掴み取る事が出来ないまま、
この静かな山中深くでは、彼と、獣と、月だけの────ただただ不思議に時間が流れていた。

「獣はもう息絶えただろうか」
ふと、そんな事を考えながら何気なく振り向いた時、再び心臓が高鳴った。

先ほど閉じかけられていた獣の瞳が─────自分に向けて、また大きく見開かれているのだ。

756以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/17(水) 09:37:05 ID:3VDthKcU0

( ゚д゚ )「………」

その瞳が映し出すのは、この自分自身の姿。

いや─────違う。

よくよく見てみればそこに映っていた顔は、先ほどから倒れているはずの狼のものだったかも知れない。

定かではないが、そんなような気もする。
違ったような気もするが、やはり解せない。

また月を見る。

(ドクン)



心臓が高鳴った。

(ドクン)

757以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/17(水) 09:37:39 ID:3VDthKcU0


また獣の瞳を見た。そこには自分が?映っている。

(ドクン)




解せない。

( д )(これは……錯覚か?)


その時頭をよぎったのは、あの言葉。


”満月─────今宵の月には、魔力が秘められている”

758以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/17(水) 09:38:17 ID:3VDthKcU0

( д )(山を………下りよう)


もう、獣の瞳を見ている事は出来なかった。
最後に見たその瞳が、閉じていたかも開いていたかも解らない。


ただ、そこに映し出されていたのが狼だった事は覚えている────いや、違う。自分自身の筈だ。


月はやはり、吸い込まれそうなほどに丸く、綺麗だった。

759以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/17(水) 09:40:44 ID:3VDthKcU0


   ( ^ω^)ヴィップワースのようです

             幕間

          「月を抱く獣」


            ―了―

760以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/17(水) 09:48:27 ID:3VDthKcU0
資料作りの合間の息抜きで幕間投下したとこで、次回は5話頑張ります!

761以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/17(水) 10:11:25 ID:J/7Vh.CoO
お疲れです!
楽しみだ!

762以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/17(水) 10:21:58 ID:1m4uspkYO
長丁場の投下お疲れ、今回も面白かったよ 
全然蛇足なんかじゃなかったと思った 
この先の展開楽しみ、(´・ω・`)の復活が嬉しい 
モララーを倒す迄は完全復活ではないけど

763以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/17(水) 11:46:17 ID:r5RitjEE0
はやくクーが合流したとこみたいなー


764以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/17(水) 14:43:00 ID:Z2eU2ca.0
乙乙
クーゲルシュライバーで笑ってしまうwwww

765以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/17(水) 14:55:38 ID:4mFemkAEO

一件落着して次は何かなーとかwktkしてたらミルナに変なフラグが立っとる…

766以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/17(水) 19:49:16 ID:3VDthKcU0
>>762-765
次回はクーが出てくる「薬草取りの依頼」です。
今回も短編のつもりが思いがけず自分的にわりと長編になってしまったので、多分次も……

767以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/21(日) 02:27:09 ID:cha3GTAo0
よぅし、書き溜めが10kbしかないぞ。
今日の内に頑張って投下を目標に……ちと原作やってこよ。

768以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/21(日) 09:55:54 ID:GJoK0iHIO
ペロッ……これはそっちに夢中になって結局投下できなくなるフラグ!

769以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/23(火) 06:16:34 ID:Pq8h3mBM0

ヴィップ南西部一帯を覆い包む、広大な森があった。
肥沃な大地に恵まれ、数多くの動植物が生息する”カタンの森”は、
その土地の周辺に住まう人々に様々な恩恵をもたらすものだった。

だが───────時を遡ること、2年前。

「天から落ちてくる星を見た」

森の周辺の住人は、口々にそう呟いたという。

その夜、人々に恩恵をもたらす森は火事となり、赤く燃え広がった。
周辺の人々はすぐに総出でその消化にあたったが、森に残された傷跡は深いものだった。

魔術師学連などから調査員も派遣され、この森に火災が起きた原因も、日が経つにつれ見えてきた。
2年前に空から落ちてきたのは、ようやく”隕石”として断定された。

それが地上へ墜落した時に出来たものか、地表には巨大な衝突地形を形作っていたという。

770以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/23(火) 06:16:59 ID:Pq8h3mBM0

それが地上へ墜落した時に出来たものか、地表には巨大な衝突地形を形作っていたという。

だが、今や自然はわずか2年という歳月の間に、人々も驚くほどの回復力で瞬く間に緑を取り戻しつつある。
見た目には以前と変わらぬ森だが、少しずつ、少しずつ異変の兆候は起こり始めていた。


魔術師学連らの報告によれば、衝突地形の中心部には、僅かだけ残された隕石の破片があった。
そしてその鉱物の全体には、”小さな苔のようなもの”がびっしりと覆っていたという事だ────


───────────────


──────────


─────

771以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/23(火) 06:17:37 ID:Pq8h3mBM0

ブーン一向がアルバの村から戻って、三日ほどの月日が流れた。

高額な報酬を得たばかりで、しばらく全員の旅の資金には困らないだろう。
皆の疲れも癒えた今、そろそろ次の旅に出てもよい頃だ。

( ^ω^)「マスター!鳥腿炒め、もう一丁追加だお!」

爪'ー`)y-「親父よぉ、緋桜とかさ……たまに良い酒はねぇのか?」

今日も、”失われた楽園亭”には騒がしい二人の声が響き渡る。
忙しそうにしているマスターは、そのやかましさに時折頭に青筋を立てぴくぴくさせているが。

騎士団からの依頼、不死者の討伐を終えた彼らは旅先でまた新たな仲間を引き連れて戻ってきた。
数日前にこの宿を騒がせた渦中にある人物である、マスターも見覚えのある彼女を。

(´・ω・`)「さて、僕は少し二階で読書でもしてこようかな」

ξ゚⊿゚)ξ「あの、マスター。すいません……騒がしくして」

ツン=デ=レイン。荒々しい男達の姿も多いこの盛り場にあって、彼女の存在は紅一点だ。
ふわりと巻き上げられた金髪に、清楚さをたたえる白の修道服。

772以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/23(火) 06:18:08 ID:Pq8h3mBM0

彼らと共に旅歩く事を機に、捲らずとも歩けるようにと裾の丈は少しだけ詰めているが、
その清潔感には何ら代わりがなく、かわりに健康的な活発さも見られる。
彼女の容姿に惹かれてか、話し掛けてきたりする者も後を立たず、客引きにも貢献しつつある。

(’e’)「あぁ、いいんだいいんだ……ツンちゃんのせいじゃあねぇからな」

( ^ω^)「マスター?鳥腿……」

(’e’)「だがブーンにフォックス。こやかましいてめーらは駄目だ、少しは他の二人を見習いな」

爪'ー`)y-「そんな事言ったって、ここは酒を飲ます所じゃねーか」

(’e’)「俺はここを一人でふらっと訪れた冒険者が、卓で一人静かにグラスを傾ける―──そんな店を目指してるんだ」

ζ(゚ー゚*ζ「それはお父さんの昔の夢でしょ? ───今この現状じゃ、もう無理じゃない」

と、横から姿を現したのはマスターの娘であり、また、この楽園亭の看板娘でもあるデレだ。

アルバの村から戻って来た際再びこの宿を訪れたツンは、デレと初めて挨拶を交わしたが、
名前に共通点があるという事から話が膨らみ、少しずつ親交を深めていた。

元々誰に対しても愛想の良いデレと、同姓に対しては気を使うタイプのツンだからか。
今では気の合う友人の一人になりつつあるようだ。

773以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/23(火) 06:18:58 ID:Pq8h3mBM0

ξ゚⊿゚)ξ「おかえり、買出し終わったの?デレ」

ζ(゚ー゚*ζ「あ……ツン!うん、今日はね、ちょっと遠くの市場まで足を伸ばしたんだ」

ξ゚⊿゚)ξ「そう。何か良い収穫はあった?」

ζ(゚ー゚*ζ「鮮魚が安かったんだ〜、だから今日は魚料理がオススメだよ?」

ξ^ー^)ξ「解った、夕食楽しみにしてる」

2階の寝室、窓際で飽くなき知識の研究に余念が無いショボンは、階下から伝わってくる
彼らの賑やかな声にふぅと鼻を鳴らしつつ、読書に集中しきれないで居た。

だが、そんな彼らとマスター達とのやりとりが大声で聞こえてくる度、笑みが零れる。
窓の外の眼下でヴィップの街中を歩く人たちの姿を眺めながら、ふと思った。

(´・ω・`)(自由の風に吹かれてというのも、案外悪くないものだね)

「早く、本当の自由に────」
ぽつりとそんな欲求が湧き出ては、また次の冒険への意欲も駆り立てられる。

774以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/23(火) 06:19:32 ID:Pq8h3mBM0

趣味や目的も違えど、なぜだか気の合う仲間たち一緒にいるのは、全員ともが苦には感じなかった。

彼らはきっと意識した事もないだろう。


幾度もの物語を経て、パーティーを結成したばかりの彼らブーン一行の絆。
漆黒の闇の中でこそ試されるその光が、輝きを強めていく為の道程は、まだこれからなのだ。


───────────────


──────────

─────

775以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/23(火) 06:20:00 ID:Pq8h3mBM0




   ( ^ω^)ヴィップワースのようです

             第5話

          「静寂の深緑」

776以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/23(火) 06:20:30 ID:Pq8h3mBM0
─────

──────────


───────────────


川 ゚ -゚)「………」

交易都市ヴィップの街中を颯爽と歩くのは、小剣をぶら下げるしなやかな細身の女性。
この界隈ではそれなりには顔の知られた冒険者、”クー=ルクレール”

そこいらの街娘が束になっても適わない彼女の美貌はそのままに、
街中を練り歩く彼女の表情には、陰りが見られた。

だが、それも当然といえば当然か。

完遂した依頼の裏に隠された真実を知る自分達を狙い、暗殺者の襲撃に遭ったばかり。
その最中で旅を共にした仲間とは離れ離れになり、街中を駆けずり回ったにも関わらず、今も行方知れず。

何より、彼女の目の前であっさりと人が人を殺す光景を、目の当たりにしてしまった。
初めて見る訳などではないが、やはり慣れたいなどとは思わないものだ。

777以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/23(火) 06:21:26 ID:Pq8h3mBM0

男の手口はあまりに手馴れ、そしてそこに何の感情も残さないものだった。
なぜ人はあんな事を出来るのだろうか、結果として自分を助けたのはその男だったが、
それでも有難い事だなどとは到底思わない。

”他人など、やはり信用できるものではない”

幼少の頃植えつけられた心の傷跡は、次第に周囲への疑念として、いつしか自らの心の中で強まっていた。

一応は旅の相棒であった”ギコ=ブレーメン”を探す為、あの後彼女はヴィップ各地で聞き込みを行った。
だが、どうしても行方は知れなかった彼の無事を、今は彼女自身、案じる事しか出来ないのだ。

剣技に関してはどがつく素人だったが、そう簡単に死にそうな男ではなかったと、言い聞かせた。

そうして、彼女はいつもの宿へと戻って来た。
”失われた楽園亭”だ。

この間は何事かの騒動に巻き込まれて店を閉めていたが、今日はいつも通り沢山の人の姿に溢れていた。
店の中央で卓を囲んでいた客の中には、いつもは見ない顔が4人。

778以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/23(火) 06:22:18 ID:Pq8h3mBM0

ξ゚⊿゚)ξ「そっかぁ、デレはまだヴィップから出た事ないんだ」

異彩を放つのは、修道服を纏う金髪の女性だった。
デレと仲むつまじく話しているが、「なぜこんな所に修道女が?」という疑問が掠める。


「よぉフォックス! …どうだ、今日も賭けカードとしゃれこまねぇか」

爪'ー`)y-「あぁ?またかよ……10戦10敗だってのに、お前さんも懲りないねぇ」

銀の長髪を後ろに結んだ、粗野で軽薄そうな男とも面識がない。
一見すると盗賊風の男だが、本職の彼らと比べてはまるっきり隙だらけに思える。


(´・ω・`)「そうだね。僕も魔術というものに関して造詣は深い方だと思っていたが、
       君の今の発言は、案外その真理へと踏み込んだものかも知れないな」

「わはは!冗談が過ぎらぁ、お前さんはよぉっ」

物静かで落ち着いた物腰の魔術師風の男は、知的なジョークを用いて自分とは対照的に粗野で荒々しい
冒険者の人間達を笑わせていた。数日前にどこかの街で目にした顔のような気がするが、思い出せない。

779以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/23(火) 06:23:01 ID:Pq8h3mBM0

(;^ω^)「げふぅっ……食べ過ぎて、もう動けないお」

最後に気になったのは、同じ席に着くその三人が外側の卓へ声をかけているのをよそに、
大量の食事を終えて、にやにやと満面の笑みをその顔に貼り付けている、少し体格の良い男だ。

薄汚れた格好をしているが、背に収めた剣は年季の入りようを思わせた。

ζ(゚ー゚*ζ「あっ……クー!この間はどうしてたの?」

川 ゚ -゚)「なに……ちょっとな」

ξ゚⊿゚)ξ「………?」

冒険者同士でパーティーが結成されたのなら、ましてやこのヴィップでクーが知らない訳はなかった。
だが、たまたま偶然が重なって行き違った一人と四人は、これまで面識がなかったのだ。

デレに対して少しそっけない態度で彼らの卓の横を通り過ぎると、クーは一直線にカウンターへと向かう。
一番端に腰掛けて足を組むと、手振りだけで注文。慣れ親しんだマスターは、彼女の好みも熟知しているのだ。

手練の動作でグラスに乳白色の液体を注ぐと、それを差し出すと共に切り出した。

780以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/23(火) 06:23:41 ID:Pq8h3mBM0

(’e’)「よう………デレが心配してたぞ。なんかあったんじゃないかって、な」

川 ゚ -゚)「話すと少し長くなる。また別の機会にしよう」

「それより」と前置きし、背中越しに彼らが座る卓の方へ一瞥して尋ねた。

川 ゚ -゚)「見ない顔だな、あの4人」

「……あぁ、あいつらな」
皿を荒いながら、一瞬間の抜けた表情をしたマスターが、手を拭いながら答えてくれた。

(’e’)「例のホラ……こないだ話した馬鹿があそこの二人。その仲間が、あの二人さ」

あぁ────忘れていたと、思わず手を叩いて納得した。
例の騎士団につっかかっていった、後先の事を考えない馬鹿な冒険者。

お陰でこの店もまた三日間も営業を差し止められる憂き目にあったのだった。
その事をクーがマスターに指摘するも、彼はさほど気にした風な口ぶりではなかった。

(’e’)「そう気にしちゃあいねぇさ。あれでなかなか悪い奴らじゃない」

781以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/23(火) 06:24:54 ID:Pq8h3mBM0

川 ゚ -゚)「………ふん」

横目で彼らの騒がしい様子を気にかけながら、鼻を鳴らした。

爪'ー`)y-「なぁ、デレちゃん……俺にもお酌してくれ」

ζ(゚ペ*ζ「お尻を撫で回すような人には、二度としてあげません」

爪;'ー`)y-「すまねぇ、ありゃ事故なんだ……人生最高に飲みが過ぎて、それで……」

ξ゚⊿゚)ξ「へぇ……あんたって、そんな不潔な事する人だったんだ。最低ね」

爪;'ー`)y-「そう言われると、心に来るものがあるぜ……おいブーン、何とか言ってやってくれ」

( ^ω^)「しつこい男はもっと嫌われるお?」

(´・ω・`)「違いない」

談笑をする彼らは、明るく能天気な日々を過ごしたいだけなのだろう。
ただ中身の無い冒険を繰り返し、自由を謳歌出来ればそれで─────

782以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/23(火) 06:25:49 ID:Pq8h3mBM0

時として大きな名声をもたらす職業であるだけに、目指す者は数知れず。
それでも、確たる目的や志を持たない者、蛮勇を振りかざして無謀を重ねる者など、すぐに消えていく。

もう随分といい歳の冒険者の中には、生活の糧と割り切っているものばかりだ。
彼らは自分達の身の丈を知り、引き際というものの線引きをしっかりと心得ている。
豊富な知識や経験、まだまだ自分などでは到達できない域に立つ者が多い。

だが、若く己の実力を過信する冒険者は、単なるパーティーのお荷物でしかない。
中途半端な気持ちで冒険へ勇み出るのはいいが、そういった彼らは周りを巻き込む。

だからこそ、”仲良しごっこ”のパーティーというものを、クー自身は拒んでいた。

場合によっては同じ依頼に飛びついた者を同行者として伴うが、互いに深入りはしない。
依頼を終えればそこで協力関係は終了。

そして信じるのは、自分だけ。

その彼女の姿には───いつか共に旅歩いた、一人の男が影として重なっている。
孤高の彼を探して、それを心のどこかで目標として、冒険者としてのクーは形作られている。

783以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/23(火) 06:26:36 ID:Pq8h3mBM0

川 ゚ -゚)「……どうでもいいさ」

そんな彼女だから、群れたがる冒険者達を好ましく思わなかった。
これまでずっと一人でやってきた彼女は、恐らくこれから先も自分の旅を誰かに委ねる事はないだろう。

しかし、なぜだかその彼らの姿に、様々な出来事が乖離しては上手く行かない自分の境遇とを重ねて、対比してしまう。

(’e’)「………なぁ」

普段から感情を面に出す事の少ないクーだが、彼女の態度から浮かない部分を察して、マスターが優しく声を掛けた。

(’e’)「ちっと人里を離れて、たまには雄大な大自然にでも囲まれてきちゃどうだい」

川 ゚ -゚)「?」

(’e’)「これさ」

取り出した一枚の依頼状を、マスターはクーへと手渡す。
それにざっと目を通してみると、内容は実に簡単なものだった。

”カタンの森”から採れる高級な薬草。
それがこのところ、依頼主が営む薬草屋の元へ届かないという。

784以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/23(火) 06:27:25 ID:Pq8h3mBM0

クーの記憶によれば2年前に大規模な火事が起こった森だったが、
今ではすっかり元の森の姿を取り戻しているらしい。

”薬草の採取”と、調査のために同行する”依頼者の護衛”が依頼内容だった。
もっとも、森の中での脅威と言ったら猛獣や、低級妖魔の類ぐらいのものだろうが。

川 ゚ -゚)「なぜ、私にこれを?」

(’e’)「なぁに、ずっと街に居たら息が詰まっちまうだろ。たまには緑に囲まれて新鮮な空気を吸ってきなよ」

川 ゚ -゚)(報酬50sp+出来高払い……ねぇ)

報酬額の心もとなさにしばし考え込むクーの元に、一人の少女が現れた。

从'ー'从「もしかして……依頼を受けてくれる冒険者の方ですか?」

川 ゚ -゚)「?」

気付けば、可憐でしとやかな一人の少女が、カウンターに掛けるクーの横に立っている。

785以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/23(火) 06:28:10 ID:Pq8h3mBM0

从'ー'从「あっ……初めまして、私……”サン=ワタナベ”って言います」

それを聞いて手元の依頼状の文末に目を落とすと、彼女が名乗ったのはそこにある依頼人の名だ。
珍しい名から、彼女がヒノモトの出身であろうという事を悟る。

その彼女の顔を見て、マスターは「あぁ」と思い出したように紹介してくれた。

(’e’)「昨日からウチの店に泊り込みで同行者を探しに来てるのよ。依頼者のお嬢さんだ」

川 ゚ -゚)「そうだったか。しかし……まだ決めるとは───」

そう言おうとしたクーの言葉を遮り、彼女は深々とお辞儀をしていた。
再び顔を上げた時には満面の笑みを覗かせ、白い歯を見せながらまくし立てる。

从'ー'从「ありがとうございますっ! ……私、冒険者って粗野な男の人だとばかり思ってたから、
     こんな綺麗で格好良い女性の方が同行してくれるなんて……嬉しいです」

この娘は何を言っているのだろう、と思いながら聞いていたクーだが、
最後の方の言葉に少しばかり頬を赤らめ、気を良くしてしまう。

川 ゚ -゚)「…なっ」

川*゚ -゚)「そ、そんな事もないがな……」

786以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/23(火) 06:28:52 ID:Pq8h3mBM0

从'ー'从「………それで。申し訳ないんですが、出来るだけ人数が多い方がいいんです」

川 ゚ -゚)「だから、まだ受けるとは──」

从'ー'从「でもでも! ……沢山薬草を持って帰って来られれば、それだけ報酬も多くお支払い出来るんです。
     だからあと4人ぐらい募集してから、カタンの森に向かいたいんですけど……」

川;゚ -゚)(………この娘)

このワタナベという少女はわざとはぐらかしているのか、それとも天然で人の話を聞かないタイプなのか。
会話の主導権を掴ませず、ひらりひらりと避けているという印象をクーに与えた。

从'ー'从「………」

クーが「依頼を受ける」、と折れるまで言葉を覆い被せようというのか、ワタナベは彼女の
次の言葉を、じぃっと上目遣いで瞳を覗き込みながら待っているようだった。

だが、そこへクーにとっていらぬ気を回したのがマスターだ。

(’e’)「4人か……なら、丁度いいのが居るぜ」

从'ー'从「本当ですか?」

787以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/23(火) 06:29:23 ID:Pq8h3mBM0

「おぉい、ブーン!」
それぞれに卓で盛り上がる面々に向けて、マスターが声を掛ける。
その声に振り向いたのは、先ほどクーが一瞥くれた冒険者達だ。

( ^ω^)「?」

川;゚ -゚)「お……おい」

席を立つとてくてくとこちらへと歩いてくる男から視線を背けながら、マスターに小声で訴える。
御免だ。あんな連中と組まされるくらいなら、依頼は受けない。

从'ー'从「………?」

しかし、小悪魔のような少女はそんな狼狽するクーの様子に一度だけ首を傾げると、
にこやかな笑みを向けて、投げかけようとしたその言葉を思いとどまらせた。

( ^ω^)「何かお?マスター」

(’e’)「お前さんがたもそろそろサボってないで、依頼にでも行ってきな」

川;゚ -゚)(………)

気が向かないのに、なし崩し的にマスターやこの依頼者の娘に乗せられてしまっている。
静かににこにこと依頼状を読む男の方から「ふむふむ」などと声が聞こえた。

788以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/23(火) 06:29:57 ID:Pq8h3mBM0

一人当たり50sp+歩合ならば、人数の多いパーティーならば悪い話ではないだろう。
だが、クーにとってはこんな能天気な新顔の冒険者達と組むのはやはり我慢ならない。

( ^ω^)「”カタンの森”……どんな所かは知らないけど、行ってもいいお?」

从^ー^从「ありがとうございますっ!」

(’e’)「んで……今回の依頼に同行するのがこのクー────」

川;゚ -゚)「勝手に決めてくれるな! ……私は行かないからな」

从'ー'从「えっ?」

川 ゚ -゚)「えっ」

マスターがブーンらにクーを紹介しようとしたところで、彼女の言葉に沈黙が流れる。
やがて、ワタナベという少女は泣き出しそうな表情を浮かべながら行った。

从' -'从「依頼……受けてくれるんじゃなかったんですか……?」

川;゚ -゚)「いや、だからまだ一言も受けるとは……」

( ^ω^)「おっおっ。依頼ならブーン達が引き受けるから、安心してくれお」

(’e’)「そうしてやんな。実家の薬草屋は今回の件で結構な痛手らしいからな」

789以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/23(火) 06:30:34 ID:Pq8h3mBM0

从'ー'从「ありがとうございます。……でも、あとお一人くらいの手が欲しいんです」

そう言って、ちらりと視線を向けた方向にはクーの顔。
意識的にそれから目を逸らしたが、構わずブーンがワタナベをたしなめる。

( ^ω^)「依頼に対して自信が無かったり、体調が悪かったりする事だってあるお。
       ブーン達は4人のパーティーだけどお、人見知りの人は入りづらいかも知れないお」

川#゚ -゚)ブチンッ

从'ー'从「はぁ……そんなもんでしょうか」

「自信が無いだの、人見知りだの?」

それは、15の時から5年も冒険を重ねてきた自分に対して向けられた言葉か。
このヴィップに居ついてさほど日も浅いであろう新参風情のその言葉に、クーは瞬時に血が昇った。

ついぞ口から飛び出した言葉は、酒盛りしてる全員の視線を集めるのに十分な声量だった。

790以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/23(火) 06:31:27 ID:Pq8h3mBM0

川#゚ -゚)「私は一向に構わんッ!!」

(;^ω^)ビクゥッ

从'ー'从「……じゃあ、決まりですね?」

川#゚ -゚)「あぁ、どこぞのあほ面を引っさげた冒険者気取りよりかは、お役に立ってやるさ!」

そう言いながら振り返ったクーの顔には怒りの色が浮かんでおり、その鬼の形相にブーンは気圧された。
それと同時に、恐らくは自分に向けられているその怒りの理由に考えあぐねるばかりだ。

(;^ω^)(な、なんでこの人怒ってるんだお……?)

(’e’)「まぁ、仲良くやんな。気張らないようにな、クー」

从'ー'从「よろしくお願いしますっ」

川 ゚ -゚)「………あぁ」

大見得を切った手前、一度出した言葉をひっこめる訳にもいかない。
後悔の念が押し寄せてくる中、グラスを満たす乳白色の液体を一気に飲み干す。

791以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/23(火) 06:31:58 ID:Pq8h3mBM0

音を立ててカウンターにグラスを叩き付け、余計なおせっかいをしたマスターを睨むが、
静かな笑みをたたえながら、洗い終えた皿を拭いているばかりだ。

(’e’)「お天道さんの下で、ゆっくり羽根でも伸ばしてきたらいいさ」

川 ゚ -゚)(はぁ………)

「やはりこの世はうまくいかぬ事ばかりだ」

クーは己の不運を嘆いては────呪った。


───────────────


──────────


─────

792以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/23(火) 06:32:59 ID:Pq8h3mBM0

────【カタンの森 道中】────


それから二日と半日、サン=ワタナベという少女の案内の下、冒険者達はカタンの森を目指し歩いていた。

「ブーン=フリオニールだお」

「クー=ルクレールだ」

最初から必要以上に多くを語らないクーに対し、ブーンらはこれまでの道中もどこかぎこちなさを感じていた。
冒険者としては珍しく女性である彼女に歩み寄ろうとしたツンも、そっけなく突き放される。

ξ゚⊿゚)ξ「あの、クー……さん?」

川 ゚ -゚)「なんだ?」

ξ゚⊿゚)ξ「女性の冒険者って、珍しいよね?」

川 ゚ -゚)「そんなに物珍しいか、私が」

ξ;゚⊿゚)ξ「いや、そういう意味じゃなくて……」

793以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/23(火) 06:33:48 ID:Pq8h3mBM0

川 ゚ -゚)「私には、お前の方がよほど珍しく見えるがな」

下から上までツンの服装をなめ上げてから指差したのは、ツンの衣服。
少しばかり丈を畳んだとは言え、おおよそ冒険をするに相応しいとは言いがたい、動きづらい修道服だ。

ξ゚⊿゚)ξ「……これは」

川 ゚ -゚)「そんな服装で森を探索できるというのか、甚だ疑問だな」

ξ゚⊿゚)ξ「っ………!」

外敵より自分の命を守る術を知らないツンは、この中でただ一人一般人の様な存在だ。

だが、その彼女を守るという使命をフィレンクトより課せられた3人が居てくれる。
その甘えがあったのかも知れないが、それでもツンにとっては────

(´・ω・`)「彼女にとっては、それが正装なんだ」

川 ゚ -゚)「?」

794以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/23(火) 06:34:26 ID:Pq8h3mBM0

ξ-⊿-)ξ(………ふぅ)

少しばかりかっとなって言い返してしまいそうになっていたツンだったが、
それを見越してか合間に割って入ったショボンの一言に救われ、気は紛れた。

爪'ー`)y-「なぁ、そうつんけんしなさんな」

川 ゚ -゚)「………」

爪'ー`)y-「お互い、今回は仕事仲間なんだ。仲良くやろうぜ」

いつの間にか隣を歩いていたフォックスが、クーに声を掛ける。
端麗ではあるが、軽薄さを醸し出してしまう彼の容姿が気に食わなかったのか。

川 ゚ -゚)「気安い」

爪'ー`)y-「へ?」

川 ゚ -゚)「私は、お前のような手合いは好きじゃない」

爪;'ー`)y-「たはは……手厳しい事で」

あるいは単に虫の居所が悪かっただけなのかも知れないが、彼もまた冷たくあしらわれた。
また、彼女に対して気を回そうとする面々をはっきりと拒絶するように、言い放つ。

795以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/23(火) 06:35:14 ID:Pq8h3mBM0

川 ゚ -゚)「私とお前達とは仕事仲間。それ以上でも、それ以下でも無い」

(´・ω・`)「………」

ξ゚⊿゚)ξ「………」

爪'ー`)y-(けっ)

間合いに気をつけろ、そういった意味合いの言葉を彼らに掛けた。
ワタナベのすぐ後ろを歩くブーンは、時折背後でのそのやり取りを気にかけて振り向く。

( ^ω^)「………」

从'ー'从(あの、ブーンさん)

( ^ω^)「?」

从'ー'从(何だか、雰囲気悪くないですか? ……私、ちょっと責任を感じてしまって)

少し強引な態度でクーに依頼を受けさせた彼女にも、冒険者同士の空気が伝わったのだろうか。
一抹の責任を感じて、ブーンへと耳打ちする。

796以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/23(火) 06:36:06 ID:Pq8h3mBM0

( ^ω^)「君が気にする事じゃないお………大丈夫、きっとその内仲良く慣れるお」

从'ー'从(そう……だといいんですけど)

ブーン自身にとっても、こうあって欲しいと願っての言葉。
共に旅を歩く以上、誰であろうとその仲間の事を少しずつでも知っていきたい。

経験においては自分達よりも勝るであろうクーだが、有事の際に自分達の事を
信頼してくれないようでは、対処できるものも出来なくなってしまう。

今は頑なに自分以外を拒絶するような彼女だが、帰りの道程の時には互いに笑い会えるような───
そうあれば良いという、ブーンによる希望的な観測だ。

从'ー'从「あっ───見えて来ましたよ」

( ^ω^)「おっおっ、着いたのかお?」

なだらかな上り坂の頂点を折り返すと、眼下には広く深い森が姿を現した。
聞いていた話では2年前に一度延焼してしまったという事だが、見る限りでは緑深く、
そんな事があったとは思わせない程の自然が群生している。

この分なら、野生の動物なども多く生息しているだろう。

797以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/23(火) 06:36:36 ID:Pq8h3mBM0

从'ー'从「森の近くに私の叔父の山小屋があるんです。まずはそこで休みませんか?」

ξ゚⊿゚)ξ「賛成……ちょっと、疲れちゃった」


───────────────


──────────


─────

798以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/23(火) 06:37:20 ID:Pq8h3mBM0

─────【カタンの森前 山小屋】─────


从'ー'从「こんにちは」

「おぉ、サン!」

入るなり、久しぶりに出会う姪っ子の姿に喜びを露にするのは、彼女の叔父だ。
ぞろぞろと続いてくるブーン達冒険者の姿には驚いたようだったが。

( ^ω^)「お邪魔しますお」

「あんたたちは………?」

从'ー'从「叔父さん。私達、カタンの森の薬草を採りに来たんです」

彼女がそう告げると、「そうかそうか」と言いながら全員を奥へと招き入れてくれた。
全員が用意されていた椅子へと腰掛けると、空いていた一脚へ彼もまた腰を下ろす。

799以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/23(火) 06:38:03 ID:Pq8h3mBM0

「折角ここまで来たのにこんな事は言いたくないんだが……止した方がいい」

从'ー'从「え?」

その彼が姪へと告げたのは、意外な一言だった。

これまでの道中の労を労って「気をつけてな」と、心配の言葉でも掛けてから
送り出してくれるものだとばかり思っていたワタナベと同様に、冒険者らも一寸顔をしかめる。

「ここ数ヶ月、森に入った人間が立て続けに失踪してるんだ……あの森には、行かない方がいい」

( ^ω^)「………どういう、事ですかお?」

そう尋ねるブーンに対し、叔父はぽつりぽつり、神妙な面持ちで語ってくれた。
聞けば、あの森には今何らかの異変が起きているというのだ。

”森に入って失踪する”などといった事は、普通でもそう珍しい事ではない。

同じような景色ばかりが続く森の中で帰り道を見失い、遭難して彷徨う者は各地でいるだろう。
だが、その遭難者がここ数ヶ月、群を抜いてこの森で頻発しているというのだ。

例年と比べても、それは異様なほどの数だという。

800以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/23(火) 06:39:19 ID:Pq8h3mBM0

爪'ー`)y-「何か獣でも住み着いたんじゃねえか?」

「それは、森周辺に住む我々も考えたよ……」

実際に森の周辺の住人達の中から力のある者を選りすぐって、カタンの森内を捜索したのだという。
だが、野生動物が生息しているような痕跡は見られなかったらしい。

その数週間前には、魔術師学連の調査員達が再度この森を訪れている。
2年前に森へ墜落した隕石の調査を行っていた先遣隊、それからの伝書が途絶えた為に訪れたらしい。

(´・ω・`)「で───その調査員達とやらは?」

「………」

ショボンの問いかけに、ワタナベの叔父はゆっくりと首を左右に振った。
”見つからなかった”か”死んでいた”のどちらかであろうが、語る気力も無いと言った風だった。

恐らくは、この森周辺の住人達はそれに預かる恩恵によって暮らしている。
森へ立ち入る事が難しくなった事により、彼ら自身日々の生活にも頭を悩ましている事だろう。

801以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/23(火) 06:40:02 ID:Pq8h3mBM0

川 ゚ -゚)「やれやれ……では、依頼はどうなる?」

「わざわざ冒険者であるあんたらを雇ってここまで来たんだ……サンので足りない分は、私も出すよ」

从'ー'从「そんな……」

実家で薬草屋を営む彼女にとっては、実に痛烈な事実だ。

利益にも大きく関わってくるここの薬草を採れないのであれば、ここまで来た意味が無い。
大きく肩を落とす彼女の姿を冒険者達が見守る中、叔父が優しく声を掛けた。

「今夜一晩はウチに泊まって行ったらいい、勿論、冒険者さん達もな」

( ^ω^)「………お言葉に甘えさせてもらいますお」

気落ちする彼女には申し訳なかったが、どうやらそうするしかないらしい。
ブーン自身、森に生じている異変が果たしてどういうものなのか気にはなるが。

从'ー'从「すいませんでした……皆さん」

802以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/23(火) 06:40:34 ID:Pq8h3mBM0

ξ゚⊿゚)ξ「気にしないで。危険な目に遭うかも知れないなら、しょうがないわよ」

叔父の話を聞く内、気落ちするワタナベには悪いが、森へは行かないという事に合意した。
今日一日はここに泊めてもらい、明日一番でヴィップへと発とう。

そう決めてからは、面々は荷物を下ろして思い思いの時間を過ごした。

その日の晩は─────ワタナベと、その叔父が作ってくれた取れたての山菜料理に舌鼓を打った。

───────────────

──────────


─────


早朝、ブーン達の寝静まる部屋の扉を叩く音があった。

803以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/23(火) 06:41:44 ID:Pq8h3mBM0

その音にいち早く気付いたのは、昨晩全員の中で誰よりも早く睡眠をとったブーンだ。
寝ぼけた眼を擦りながら扉の向こうに声を掛けると、どうやらワタナベだ。

( ^ω^)「ん……どうしたお?こんな朝早くに」

从'ー'从「すいません、だけど……どうしても頼みたい事があって」

( ^ω^)「………」

ブーンのものと比べてはとても小さなその顔は、真剣そのものだった。
この時、その頼みごとというものに対し、恐らくは───と察しがついていたのだが。

从'ー'从「私、やっぱりあの森に行ってみたいんです。お願いします……報酬はきちんと────」

( ^ω^)「やっぱり、そうかお」

从'ー'从「え?」

804以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/23(火) 06:46:36 ID:Pq8h3mBM0

( ^ω^)「実は、ブーン達も森で何が起きているのか気にはなっていたんだお。
       だから、これはブーン達の為でもあるお」

从'ー'从「……っていう事は」

( ^ω^)「叔父さんには内緒にしておいた方がいいお。だけど、ブーン達には妖魔なんかから
       身を守る術もある……だから、森の中での君の安全は保障させてもらうお」

从'ー'从「ありがとうございますっ!」

( ^ω^)「皆が起きたら、ブーンから話しておくお」

結局の所、己の知的好奇心と、肩を落とす薬草屋の少女の姿に流されてしまった。
クーがどう言うかは解らなかったが、再び日が昇ったらカタンの森へ行く事を決めたのだった。

この緑深き場所にあって────やがて朝を告げる鳥達の歌は、何故だか聞こえなかった。

───────────────


──────────

─────

805以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/23(火) 06:59:33 ID:Pq8h3mBM0
時間はあるのにノッてこない時期に入ったので、導入部だけ投下してまた次回。

806以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/23(火) 07:29:51 ID:prOoDYvI0

待ってます。

807以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/25(木) 03:51:58 ID:Ji5tnWc6O
投下きてたああ今から読むよ

基本sageで投下されるから見落としてしまう
創作板にきてくれればなぁと思うけど、スレ埋まるまでは移住は特にしない感じなのかな

808以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/25(木) 12:23:18 ID:2V6ZejtMO
スレ埋まったら移住しようかと思います
5話→幕間→6話後ぐらいかと。

809以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/29(月) 11:15:24 ID:XXZlfxEsO

隕石がらみで何が立ちはだかるかwktk

810kokoro:2011/09/01(木) 12:07:17 ID:6sBqxzR.0
>>楽に稼げるアルバイトの件。情報載せておきます(*・ω・)! http://tinyurl.k2i.me/Xxso

811以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/05(月) 00:47:58 ID:H29snMao0
気長に投下を待つんだな

812以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/10(土) 09:37:50 ID:CbFV5xnw0
今回結構長いけど創作板でやるとか言わないよな…?

813以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/10(土) 22:10:32 ID:w0zkm9t.o
どこ読んだんだよ…

814以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/11(日) 00:28:51 ID:FZbE04O.0
待ってるぞ

815以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/18(日) 13:21:27 ID:DU3LSUdk0
急かしはしない 作者のペースでやってください
でもこの作品に逃亡されたら本当にショックだ
ゆっくりでいいから、待ってます

816以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/20(火) 08:08:05 ID:BRUoDW4w0
嬉しい事言ってくれるぜ!
すいません、リアルに忙しいものでなかなか。
まだ逃亡する予定はないので、もうしばしお待ちを。

817以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/20(火) 13:12:22 ID:YaePvKyM0
トリップがない作者は本人じゃないかもしれない
ぬか喜びはしたくないから信用しないことにする

818以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/20(火) 13:40:11 ID:sppzEDrsO
まだっていずれ逃亡すりみたいな…

作者のペースで進めていいから逃亡だけはしないでください;;

819以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/20(火) 22:44:58 ID:Ktf4hUCMO
ソードワールド思い出すなぁ

820以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/25(日) 04:53:27 ID:pifhZI1g0
最初から酉付けてないんですが、作者です。

もう一ヶ月は経ってしまいましたが、昨日ようやく続きを書き始めて今8000字ぐらい。
恐らくあと12000字ちょいちょいぐらいで5話を投下しきれるかと思いますので、
気長〜に見たって下さい。

最速で書けても明後日はハードなセックスしてくる予定なんで、投下できないかも…

821以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/25(日) 05:46:40 ID:tbB/YvbA0
あはは
待ってますよ

822以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/25(日) 07:42:32 ID:FRO0HXZoO
久々に原作やりながら待ってるよー

823以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/30(金) 00:29:51 ID:xwPbV.xE0

ワタナベとの約束通り、ブーンは部屋に戻ると陽も登らない内に、すでに目を覚ましていた面々を伝えた。
森に起きている異変には危険が潜んでいる事は間違いないが、自分もまた好奇心が勝ってしまっていると。

川 ゚ -゚)「私はどちらでもかまわん。元々乗り気ではなかった依頼だからな」

( ^ω^)「そうかお」

意外にも、今回同行したクーの方が調査に対して乗り気のように思われた。
三日近くの道程を経て仕事が頓挫するよりかは、多少の危険を承知で満額の報酬を受け取る事を選んだのだろう。

川 ゚ -゚)「だが、森に危険が潜んでいると解った以上、予定通り行うならば成功報酬についての交渉は行うべきだ」

( ^ω^)「交渉……吊り上げるって事かお?」

川 ゚ -゚)「当然だ。お前達だって、善意や施しのつもりで依頼をこなしている訳でもないだろう?
     予期せぬ危険が待ち受けているのならば、相応の報酬を受け取る権利がある」

( ^ω^)「なるほど、そういうものなのかお」

爪'ー`)y-「先輩冒険者の意見にも一理あるぜ。盗賊だって、伊達や酔狂だけでやっていける程甘くはねぇ」

824以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/30(金) 00:30:19 ID:xwPbV.xE0

仲間たちもまた彼女の言葉を聞きながら頷き、納得している様子だ。
手引書には載ってなかった事柄だが、一人前の冒険者からすれば場面場面で臨機応変に立ち回り、
ある意味では”ずるさ”のようなものも身に着けていかねばいけないものらしい。

彼女自身の態度からは自分達を快く思っていないのを感じるブーンだったが、
こうした細かな配慮からは彼女には自分が見習うべき点が多いのだと感じていた。

ξ゚⊿゚)ξ「私は、皆の判断に従うわ」

(´・ω・`)「僕自身、学連の調査団が訪れたという事から、個人的な興味もある」

爪'ー`)y-「俺が居れば森で道に迷う事は……まぁないだろうさ。その点だけは保障する」

仲間にするならば、心強い面々が目の前にいる。
ゴブリン洞窟で孤独な戦いを強いられた初依頼の時には精神的にも追い詰められていたが、
彼らが一緒ならばゆとりを持って依頼に臨む事が出来るだろう。

気がつけば、いつの間にかブーンに主導権は委ねられていたようだった。

( ^ω^)「依頼者たっての希望でもあるからお、ね」

全員が起床して各員の出立の準備が整ったのを見計ったか、コンコンと部屋のドアが叩かれる。
ドアの向こうで、幼さを残した透き通るような声が響いた。

825以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/30(金) 00:31:00 ID:xwPbV.xE0

「おはようございます」

ブーンが扉を開けると、変わらず穏やかな表情のワタナベがそこに居た。
その姿を目にするや、腕を組んで椅子に腰掛けていたクーがブーンと彼女との間に割って入る。

川 ゚ -゚)「異変が起きていると解っている森に入る以上、報酬には色を付けてくれるんだろうな?」

从'ー'从「あ……」

まだ10代も中頃といった少女に、クーはぐっと詰め寄る。
女性ながら、彼女に強く当たられれば、並の男でもたじろぐかも知れない。

そう危惧したブーンだったが、ワタナベはそのクーに言葉を返す。

从'ー'从「……という事は、皆さん薬草採りに付き合って下さるという事ですか?」

川 ゚ -゚)「報酬次第ではな」

从'ー'从「それなら、一人頭100sp……そうですね、計500spでどうでしょうか」

川 ゚ -゚)「………ふむ」

从'ー'从「どうでしょう……?」

826以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/30(金) 00:31:50 ID:xwPbV.xE0

たかだか薬草採りの依頼で500sp、普通に考えるならば破格だ。
勿論それも頭数が居る分、より多くの採取が望めるからであろうが。

おずおずと室内の冒険者達の顔を見渡すワタナベだが、当初の倍額となった報酬には皆納得の様子だ。

爪'ー`)y-「異論はねぇ、ブーン。お前はどうだ?」

( ^ω^)「悪くないと思うお?」

川 ゚ -゚)「決まりだな。世話になったお前の叔父には、なんて告げるつもりだ?」

从'ー'从「……街へと帰る素振りを見せて、黙っていきましょう」

ξ゚⊿゚)ξ「いいの……?あなたの親戚の方、すごく心配してたけど」

从'ー'从「私だって背に腹は代えられません。ここまで来た以上、意地でもカタンの薬草を摘んで帰らないと」

どうやら、ワタナベの意思は固いようだ。
もしブーン達がワタナベとともに森へ向かうと知れば、引き止められるかも知れない。
その事実を隠してまで向かうという事は、実家の薬草屋もなかなかに逼迫した台所事情なのであろう。

827以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/30(金) 00:32:16 ID:xwPbV.xE0

年端もいかぬ少女の口からいらぬ多くを語らせる前に、ブーンが皆に告げた。

( ^ω^)「今の森には何が起きてるかわからないお……十分に用心するお、皆?」

これにて、森行きの話は───────まとまった。


──────────────────

────────────


──────


从'ー'从「叔父さん、ありがとうございました」

「サン……それに皆さんも、気をつけてな!」

森と街への分岐路、そこへ行くまでに見送ってくれていたワタナベの叔父の姿は見えなくなった。
自分の身を案じる叔父に嘘をつきながらも、少女がそれを重荷にしている風でもなかった。

あと四半刻もこの道を進めば、カタンの森だ。
そして、冒険者達の仕事はここからようやく本番を迎える。

828以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/30(金) 00:32:58 ID:xwPbV.xE0

(´・ω・`)「この広大な森だ……獣の一匹や二匹、歩いていても簡単に出くわすとも思えない」

ショボンの言葉に、ほぼ全員が頷いた。
獣や妖魔の類、そういったものとはまた異質な何かが、この森にはあるのだろうか。

自身の気を引き締める意味もあるのだろう、ブーンがワタナベに声を掛ける。

( ^ω^)「ブーン達は君に危険が及びそうな時、出来る限り守るつもりだけど……
       もしかしたら、それでも守りきれない時もあるかも知れないお」

从'ー'从「はい」

( ^ω^)「だから、もしそんな時が来たら依頼者の君だけでも……逃げるんだお?」

そんな会話を交わしているうち、森を飾り立てる木々は一段と多さを増していった。
─────どうやらこの辺りが唯一、人の手の入った入り口のような場所らしい。

そこで一旦は立ち止まった一同だったが、またすぐに何事も無い風に歩き始めた。

爪'ー`)y-「……ふぅん」

下を向いて歩きながら、そこらの地面を見渡しているフォックス。
ツンが怪訝な視線を投げかけていたのに気付き、彼女に説明する。

829以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/30(金) 00:33:21 ID:xwPbV.xE0

爪'ー`)y-「どうやらここ一日二日の間に、先客が来てるようだぜ?」

川 ゚ -゚)「……分かるのか?」

爪'ー`)y-「あぁ、恐らくは二人組ぐらいだろうよ。僅かだが、足跡が森の中に続いてる」

(;^ω^)「ブーンには見えないお?」

爪'ー`)y-「まぁな、固い土だ。すぐに風にさらされて、見た目にはまっさらになっちまう……だが、間違いねぇ」

ξ゚⊿゚)ξ「へぇ、なんかアンタが言うと疑わしいけど……森の中でその人達に出くわしたら、
      注意を呼びかけてあげたほうが良いわね」

(´・ω・`)「その彼らが、生きていてくれればいいんだけどね」

ぞっとしない話だ。少し戻れば人里だというのに、自ら望んで森に入りわざわざ野宿をする人間も珍しい。
まして、フォックスが足跡を辿った感じでは帰り道にはそれが向いていないというのだ。

一日も二日も森に篭るなど、武芸の修行に身を置く者でもなければあり得ない話だろう。

830以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/30(金) 00:33:50 ID:xwPbV.xE0

少女に先導されるまま、面々はその背後で常に気を張りながら森道を歩み続ける。
左右に木々が立ち並ぶだけの景色を抜けると、やがて彼らの視界には鮮やかな青が飛び込んで来た。

从'ー'从「この森は、中央にとても大きな湖があるんです」

そう話す彼女が指差した先には、陽光を浴びて煌く広大な湖が確かに見える。
緑に囲まれた森の中央、対岸にかすかに見える小屋の近くには、木船が浮かんでいるようだ。

この光景だけを見れば、とても穏やかな時間が流れているようなこの場所。
冒険者らにも、森の中に危険が潜んでいるかも知れないなどという様子は、微塵も感じられなかった。

森は─────とても静かだった。
そこらに寝転がって目を閉じれば、風にさらされてざわめく木々の音に、まどろんでしまいそうになる。

( ^ω^)「ここらで昼寝したら、気持ち良さそうだお」

ξ゚⊿゚)ξ「緊張感に欠けるわね……」

( ^ω^)「余裕があると言って欲しいお」

ブーンにそう苦言を漏らすツンの表情も、心なしか森に立ち入る以前より弛緩したように見える。

831以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/30(金) 00:34:25 ID:xwPbV.xE0

実際に森に立ち入ってみて、全員が肩透かしを食らった印象だ。
この視界の開けた森の中で遭難者が続出しているという理由に、全く思い当たらないのだ。

从'ー'从「なんだか、気が抜けちゃいましたね?」

ワタナベの言葉通りかも知れない。
特に障害が立ちふさがるでもなく、一同の前には何の障害も現れず、どんどんと森の奥へと進んでゆく。

ふとクーは、”たまには自然に囲まれて新鮮な空気を吸って来い”などと言って自分を今回の依頼に
送り出したマスターの言葉を思い出すと共に、肩をすくめていた。

子供のお使いのような依頼ではあるが、都会育ちの彼女には確かにマスターの言うように良い気分転換になっていた。
最近自分の前で起きた嫌な出来事が少しばかり薄らいで行くのを感じ、言葉を口にする。

川 ゚ -゚)「どうやら、杞憂だったな」

そう呟く彼女の後ろでは、フォックスが周囲をつぶさに見渡している。

爪'ー`)y-(どうかねぇ……)

目印となる木などの自然物の配置や造形を眺めては、周囲の景色を頭に叩き込んでいるのだ。

832以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/30(金) 00:34:48 ID:xwPbV.xE0

昼前で陽光が差し込む今ならば道に迷い遭難の憂き目に遭う事はおよそ縁遠い事ではあるが、
これが夕刻となれば、周辺の景色はがらりと色を変える。

何の事は無い岐路であっても、緑深い場所にあっては人の身の感覚などそれほど頼りにならないのだ。
それは暗さを増すにつれ、あるいは森の意思であるかのように旅人の感覚をミスリードへと誘う。

万が一の時が訪れないように。はたまたそれがやってきた時にも対応出来るよう、フォックスは
盗賊としての目利きを生かしてリスクブレイカーとしての役割を人知れず務めていた。

从'ー'从「なんだか、すんなり過ぎて怖いですね」

( ^ω^)「いつ何が起こるか解らないお、警戒だけは……」

川 ゚ -゚)「………ッ」

”がさっ”

言葉を言い掛けたブーンの左手の茂みが、一瞬ざわめいた気がした。
そしてそれは、決して彼だけの思い過ごしではなかったようだ。

从;'ー'从「えっ?」

爪'ー`)(………)

833以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/30(金) 00:35:16 ID:xwPbV.xE0

ワタナベが突然歩みを止めた彼らの様子に振り返ると、全員が既に茂みの方へと身構えていた。
フォックスが口元を指で押さえて「声を出すな」と全員に合図する。

( ^ω^)(………何が、出るかお)

背の剣の柄に手をかけながら、茂みの奥からこちらへ近づいてこようとする気配に神経を研ぎ澄ます。
最初、風にさざめく程度だった音は次第に大きくなり、奥の方の木々を揺らしながら向かって来ているのだ。

ξ;゚⊿゚)ξ「な、何なのよ……?」

(´・ω・`)「僕らの背後へ」

从;'ー'从「は、はいっ」

こちらの声が聞こえたか、音の主の動きは一段と激しくなったようだ。

どうやら、それも複数。

(;^ω^)(────来るっ!)

鞘から刀身の七分程を抜き出していたブーンは、それを完全に抜き去ると上段に構えた。
茂みを抜けて飛び掛ってきたそこに、一瞬で振り下ろせるように。

834以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/30(金) 00:36:40 ID:xwPbV.xE0

やがて、その"何か"が勢い良くこちら側へ飛び出してきたのをしっかりと確認する余裕も無く、
そのまま剣を振り下ろす──────そう、思った瞬間だった。

皿のようにひん剥かれた眼と、視線が合った。
それとほぼ同時に、ブーンの背後でクーが大声で叫んでくれたお陰であったかも知れない。

川#゚ -゚)「─────止せッ!!」

(; °ω°)「お……おぉッ!?」

「な、な、なんでぇッ!?」

どうにか、すんでの所で振り下ろしかけた剣の勢いを止める事が出来た。
ブーン自身もそうだが、相手の"人間"の驚き方たるや、凄まじい狼狽ぶりだった。

なにしろ、人の声を聞きつけて急ぎ茂みを抜けたところに、長剣を振り下ろそうとした男が
大上段で自分の頭を狙い済ましていたのだから。

爪'ー`)「どうやら、あんたらか」

森の入り口付近でフォックスが観察していた足跡の主は、どうやら見つかった。
この───目の前で尻餅を付いて驚きに竦んでいる、二人組の冒険者風の男達のようだ。

835以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/30(金) 00:37:12 ID:xwPbV.xE0

───────────────


──────────


─────


「俺が、ラッツ。んで、こっちがボアードってんだ」

(;^ω^)「ブーンだお。さっきはその……すまなかったお」

互いに冒険者だと分かると、そこからはこれまでのいきさつを説明した。

ブーン達が薬草採りにこの場所を訪れたように、木こりの傍ら冒険者をしているボアードは、
盗賊風の男ラッツを引き連れて、カタンの森の質の良い木材を採取に来たのだという。

「いやぁ、参ったぜ。昨晩はこの物寂しい森で野宿する事になってよ、俺が焚き火をしようと
 したら……”山火事になったら大変だからやめとけ”なんてこいつに止められたのさ」

「俺は暗所が落ち着くのさ……昨日ここに着いた時には、もう夕刻でな。
 丈夫な樫の木の群生地を確認するだけにして、仕事は翌日の今日やる事にしたのさ」

爪'ー`)y-「んで、成果とやらは?」

836以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/30(金) 00:37:53 ID:xwPbV.xE0

「それがな……俺とした事が、何度も来た森だってぇのに道に迷っちまったんだ」

「俺だって、迷うはずはねぇと思ったさ」

体格の良いボアードに同行する、蛇のように鋭い目をした男も言った。
そのラッツを見て、フォックスは一目で盗賊家業だという事が分かる。

洞察力などに長けていなければ務まらない職業だというのに、あろう事か森の出口すら見失ったというのだ。

「んで、お前さんがたはどっちから来たんだ?」

川 ゚ -゚)「一目で分かるほどの一本道だと思うのだがな……あっちだ」

そう言って、今しがた自分達が歩いて来た道を指差すクー。
だが、ボアードは困惑の表情を浮かべながら、首を傾げる。

「……っかしいな、さっきもこの辺りを通ったと思ったんだが、こんなに拓けた道じゃなかったはずだけどな……」

「………」

傍らで沈黙を守るラッツの表情にも、どうやらボアードと同じ疑問が浮かんでいるようだった。

837以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/30(金) 00:39:04 ID:xwPbV.xE0

川 ゚ -゚)「ふぅ……」

( ^ω^)「じゃあ、そろそろブーン達は行くお」

彼らの様子に肩をすくめたクーの仕草を合図に、二人の冒険者に別れを告げる事にした。

「おう、色々すまんな。出口の場所も分かった事だし……俺たちも昨日確認した樫を切って帰るさ」

ξ゚ー゚)ξ「気をつけてね」

挨拶も程ほどに、きょとんとしていたワタナベに声を掛け、再び先導を頼んだ。

从'ー'从「私、突然何が起きたのかとびっくりしました……」

(;^ω^)「ブーンも驚いたお」

ξ゚⊿゚)ξ「ホント早とちりなのよ……大体あんたは────」

先ほどの出来事をツンに突っ込まれながら、ブーンがばつが悪そうに後ろ頭をさすっていた。

一端の冒険者でも無い修道女が、同じ稼業に身を置く者を罵倒している光景───
彼女にとっては、それが恐らく自分の事のように感じられたのだ。

それは、かつてから今に置いても憧れている人物がただ単に冒険者だったから、という理由なのかも知れないが。

838以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/30(金) 00:39:56 ID:xwPbV.xE0

川 ゚ -゚)「どうだかな」

ξ゚⊿゚)ξ「────え?」

尚も言葉でブーンを攻め立てようとしたツンの言葉は、クーに遮られる。

川 ゚ -゚)「さっきは私が瞬時に相手が人だと見抜いて止めさせる事が出来た」

ξ゚⊿゚)ξ「……ええ」

川 ゚ -゚)「だが、もし仮にあの時飛び出してきたのが強力な妖魔だったら、お前はどうしていた?」

ξ゚⊿゚)ξ「どうって……何が?」

川 ゚ -゚)「そいつが剣を振り切れなかった時、お前の中に……勢いのままに襲い掛かってくる
     強力な妖魔と対峙するような覚悟はあったか?」

ξ;゚⊿゚)ξ「な、無いわよ!私には戦う力なんて……」

川 ゚ -゚)「なら、お飾りはお飾りらしくしていればいい」

ξ#゚⊿゚)ξ(………かっちーん)

839以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/30(金) 00:40:41 ID:xwPbV.xE0

川 ゚ -゚)「制止が間に合わず、あのまま冒険者の男の一人を斬り殺してしまっていたとしても、
     私には仕方の無い───合理的な判断だと思えるんだがな」

ξ゚⊿゚)ξ

川 ゚ -゚)「仲間を危険に晒すぐらいならば、時としてそういった切り捨ての判断も必要なのさ。
     ――――ま、所詮男の庇護を頼りにするだけのお嬢さんには、わからんだろうがな」

ξ゚⊿゚)ξ「何よ……あんたの言い方」

川 ゚ -゚)「………」

にらみ合う、女が二人。
猛獣をも怖気づかせてしまいそうなほどの雰囲気が二人の間を取り巻き、足を止めて睨み合いを始めた。

どうやら、クーのきつい言葉にさしものツンも相当頭に来ているようだ。
自分よりも頭一つ近くは身長も体格も良いクーに対し、一歩も引く様子を見せない。

爪;'ー`)y-(お、おいブーン……このままじゃ進めねぇ。後ろの二人なんとかしろ)

(;^ω^)(……それだけは、無理な相談だお)

(´・ω・`)(危うきには近寄らず……それが最善だと思うけどね)

840以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/30(金) 00:41:21 ID:xwPbV.xE0

男どもは震えているか気配を殺してやり過ごすばかりで、二人の間に介入する勇気など毛頭無かった。
だが、そこへ天からの助け舟を出してくれたのが、先頭を歩く少女の一声だ。

从'ー'从「あった……あの断崖の前に咲いているのが、"カタンの薬草"です!」

そこで初めてワタナベは年頃に合ったような明るい笑みを浮かべたかと思えば、小さく飛び跳ねる。
走っていく彼女の背中を追いかけるべく、背後でにらみ合う女性陣にブーンが消え入りそうな声で小さく促した。

(;^ω^)「ふ、二人共?や、薬草も見つかったみたいだし、その辺にしとくお……」

ξ゚⊿゚)ξ「はんッ………ほら、見つかったってさ?」

川 ゚ -゚)「………ふんッ」

辛うじて届いたブーンの声に応じて、二人はあからさまに不機嫌な表情で鼻を鳴らし、
互いに勢い良く視線を背けると、面倒臭そうにゆっくりと歩き出した。

いつの時代も女というものは強く、怖いものだ。
それを改めて実感しながら、一同はほっと胸を撫で下ろす。

841以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/30(金) 00:41:51 ID:xwPbV.xE0

爪;'ー`)(……相性最悪だな、あの二人)

(´・ω・`)(あまり刺激しない方が身の為だよ?)

(;^ω^)(本当、心臓に悪いお………)

──────────────────


────────────

──────


从'ー'从「皆さん、ありがとうございますっ!」

一通り採取を終えた頃には、全員の麻袋には一杯に薬草が詰まっていた。
一般に出回る際には高級な薬草であるこれを加工すれば、様々な病にも効力のある薬も取り出せるのだ。
これほどの採取が出来れば、恐らくは困窮しているであろう彼女の家業には大助かりだ。

( ^ω^)「礼には及ばないお、当初の予定通りの依頼だからおね」

842以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/30(金) 00:42:42 ID:xwPbV.xE0

喜びを露にするワタナベだが、街に帰るまでは気が抜けない。
同行する依頼人をしっかりと護衛してやることも、今回の依頼には含まれているようなものだ。

爪'ー`)y-「随分と楽な依頼だったな」

ξ゚⊿゚)ξ「………まぁね」

川 ゚ -゚)「お前は居るだけだし、な」

ξ゚⊿゚)ξ「はぁ?……あんただって、別に大して仕事してる訳でもないじゃない」

(;^ω^)「ちょ、ツン……落ち着いて!ストップ、ストップ!」

依頼を終えたばかりだというのに敵意の篭った眼差しを向け合い、再び小競り合いを始める二人。
制止するブーンも神経をすり減らし、次第に手を揉みながらごまをするような格好になっていた。

そこへ、極力刺激しないようにと発言を控えていたショボンが言葉を発した。

843以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/30(金) 00:43:12 ID:xwPbV.xE0

(´・ω・`)「お嬢さん、あの小船が停泊している小屋には、誰かが滞在していたのかい?」

両手一杯に薬草を抱えて、それを嬉々として麻袋に詰めている少女の後姿に言葉を投げかけた。
そのショボンの指先が向く方向には、確かに木造の小屋の屋根が遠くに見える。

从'ー'从「あ、はい。何でも以前この森に調査に訪れた人達が使っていたみたいで」

(´・ω・`)「確かに滞在を続けて調査するならば、船で湖を対岸に渡った方が早いか……」

魔術師学連の調査団が訪れたというこの森には、何があるのか。
そして、その調査結果は上がっているのか、ショボンにはその点が気になっていた。

一度好奇心が沸けば、それを自分の目で見るまでは気になってしようがないという性分、
それはどうやらブーン達とも同じで、冒険者としてよくあるタイプの性格なのだろう。

(´・ω・`)「ちょっと確認してみたい事があるんだ。あの小屋に行ってきて構わないかな?」

( ^ω^)「まぁ採るものも採ったし、ブーン達はかまわないけどお……」

844以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/30(金) 00:43:38 ID:xwPbV.xE0

そう言って、クーの方へと振り向くブーン。
彼から向けられていた視線から言わんとしていた事を察知すると、短くクーが言い放った。

川 ゚ -゚)「私は構わん。だが、手短に頼むぞ」

(´・ω・`)「すまない、すぐに戻るよ」

爪'ー`)y-「それまで俺たちは、のどかな緑に囲まれて一服とでも洒落込みますか」

ブーン達に踵を返すと、盛り中央の湖のほとりにひっそりと佇む小屋へ、ショボンは一人消えていった。


───────────────

──────────


─────

845以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/30(金) 00:44:23 ID:xwPbV.xE0

さほど古びてもいない小屋だ。恐らくつい最近まで人の出入りが多かったのだろう。

そこら中一面には書物や羊皮紙が投げ出され、乱雑な印象を受けた。
それも、何らかの聞きから逃れるために泡を食って飛び出した、というのなら頷けるが。

(´・ω・`)(これか……)

数冊の書物にまぎれて、そっけない室内の卓上に置かれた調査報告書らしきものを手に取る。
どうやら、この森に留まり何らかの経過を観察していた学連の諜報員の、手記だ。

ぱらぱらとページをめくっては、近い日付のものを探した。

(´・ω・`)(○月×日……これが、半年前か)

速読などお手のもののショボンにとっては、ただなんとなくページを捲っているだけで、
調査員が何の目的でこのカタンの森へ来訪し、調査していた事柄は何かまで、その全貌がすぐに読み取れた。

(´・ω・`)「数週間前は、これだね」

846以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/09/30(金) 00:45:15 ID:xwPbV.xE0

『△月▲日 やはりこの森は静かで居心地が良い。温暖な気候で眠る時も快適だし、何より仲間たちと呑む
      夜のエールが一番の楽しみで、まるで調査が遊びみたいなものだ。

      しばらくここに滞在するのは、私個人まるで苦ではない』


(´・ω・`)「おやおや……」


数週間前まではまるで日記のような内容だったが、日付が最近に近づくにつれて、その内容は
だんだんと調査員としての本分を果たしているものになっていった。

ショボンも予想していた通り、このカタンの森へ2年前に降り注いだという隕石について調査報告だ。

「△月×日 隕石が落下した事が影響しているのか、この開けた視界の森で何故か道に迷う事例が増えた。
      どうやら磁場に何かしらの影響を及ぼし、それが感覚を狂わせているのだとは思うが……」




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