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光のロザリオ

6:2011/07/08(金) 17:05:56 HOST:zaqdadc287f.zaq.ne.jp
来ました。

この小説を今から見ます。

感想は出来たら明日になるかもしれません。((ごめんなさい・・。

では。

7竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/07/09(土) 10:48:31 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 黒崎は今日も同じことがないように細心の注意を払い、学校への帰り道を歩いていた。
 昨日の出来事で衝撃的だったのは自分が霊魔に狙われてしまう存在だということ。彼には霊魔に対抗できるような武器も戦う術も持っていない。そんなに都合よく白銀が助けに来てくれるとも限らないし。自分としては情けないと思う他無い。今日こそ銃を調達しようかと本気で思っていた。
 そんな彼は途中ですれ違った男性に声をかけられる。
「ああ、そこの君。ちょっといいかい」
 黒崎に声をかけたのは肩より少し伸ばした薄紫の髪を持ち、眼鏡をかけた黒崎よりも年上の男性だ。年齢は大体二十歳前後だろうか。
 黒崎は最初、見知らぬ男性に声をかけられ、首を傾げるが、悪い人には見えなさそうだし、立ち止まって、駆け寄ってくる彼を待っていた。
「実は今この人を探してるんだけど……見てないかな」
 彼が懐から出した、写真に映ってたのは、金髪にピアスをつけたチャラい男だった。とても相手と友達だと思えない黒崎にとってはどういう関係なんだろうか、と思っていたが深くは考えないようにした。
「いや、知らない。友達か?」
 黒崎の質問に彼は少し言い淀み、
「…うーん、まあそんなとこかな。そっかしらないか」
 彼ははぁ、と溜息をついて肩を落とす。
 そして、彼は黒崎を見て数秒、僅かに目つきを変える。
「君、名前は」
 目つきが変わったと思ったらいきなりの質問に僅かに面食らう。
 黒崎は自分の名前を名乗り、苗字だけを相手は復唱した。
「君、何か災難に巻き込まれているだろう?」
 嫌な言い方だったが、確かにそうだ。霊魔に狙われているなんて災難と呼ぶ他無い。
 彼はポケットから何かを取り出して黒崎へと差し出す。
「………これは?」
 彼から渡されたのはロザリオだ。
 特になんの変哲も無い普通のロザリオ。
「それを一応気休め程度に持っておいて。何かご加護があるかも知れないから」
 じゃあ、と言って彼は去っていった。
 こんなもん持たされても困るって、という黒崎の言葉を無視して。
「……なんなんだ、あの人」
 黒崎は小さくそう呟く。
 ちなみに、眼鏡の彼は探すのを諦めて戻ると、捜し人は既に帰っていた。

8竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/07/15(金) 22:59:06 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 黒崎は午後六時くらいになると自動的に家へと戻る習性がある。
 彼はごく自然に自分の寮へと戻っていくのだ。
 彼が住んでいるのは男子寮で、女っ気が全くなくむさ苦しい場所である。そのため寮の管理人のお姉さんが彼ら男子生徒のオアシスとなっているのだ。
 黒崎の住んでいる学生寮は、基本的に一人が暮らす広さで、二人暮しとなると、寝るところに困ったりと、結構狭く感じられるが、実際の問題はそこだけで、実際は二人でも暮らせるような広さだ。
 黒崎は鞄の中から鍵を取り出し、ガチャ、という音を確認してから、ドアを開け、部屋へと入っていく。
「誰もいないけど……ただいまっと」
「おかえり」
 そこで黒崎は靴を脱ぐ動作を止めてしまう。
 おや?と黒崎は首を捻り、思考を巡らせる。
 ここは男子寮のはずで、先ほどの女性の声は絶対にありえない。そして黒崎は一人で暮らしている。なので女性の声が飛んでくるなど有り得ない。
 黒崎はうーん、と数秒考えて、
(…今のは寂しい俺のために妖精さんが用意した幻聴だな。うん、もう一回言ってみよう)
「……ただいまー」
 しかし、奥から聞こえてくるのは、
「だからおかえり」
 相変わらずの女性の声だった。
 しかも聞いたことがある。黒崎は勢いよく奥の部屋へと走っていき、そこにいる女性を見る。
 そこにいたのは、
「おかえりなさい」
 白銀流奈だった。
 何故に!?と黒崎は膝から崩れ落ちて、がっかりとしたポーズをとる。
「ねえ、女子にそんな体勢は失礼じゃない?」
 黒崎は、そんなポーズから立ち直って、
「何でお前がここにいるんだよ!?俺は女子と共同生活ー!なんてイベント起こした覚えはねーぞ!?」
「まあまあ落ち着いて」
 荒ぶる黒崎を白銀はあまり表情を変えずになだめる。
 白銀は正座のまま黒崎の正面を向いて、
「君は霊魔に狙われる身となった。守る人がいないと…気まずいでしょ?」
(女子といる方が気まずいよッ!?)
 そんな心の言葉など、白銀の耳には届かない。
 白銀はコホン、と咳払いして、
「さあ、あなた」
 あなた!?と噴き出しそうになる黒崎を他所に、白銀は続ける。
「ごはんにする?おふろにする?それとも……修行にする?」
 言いながら白銀はゆっくりと剣を引き抜く。
 黒崎は自分の前で手をブンブン振りながら、
「待て待て待て待て待ってください、白銀サン!?定番の言葉とは思えないほどドギツイ言葉がぶっこまれましたがッ!?」
「何のこと」
 白銀は引き抜いた剣を構えている。黒崎の用意を待っているようだ。
「ちょっと待って!これはマジなの?本気と書いてマジなの!?」
「マジです」
 黒崎の命がけの命乞いはコンマ単位の時間で即答された。
 白銀は引き抜いた剣を上に振り上げ、
「さーてまずはウォーミングアップー。素振りを避けるの百回」
「え……っ、ちょ……!?」
 黒崎の疑問の前に、容赦なく攻撃は繰り出された。
「いーち」
「ぎゃああああああああああ!?」
 この夜、黒崎の家からは悲鳴が消えなかった。

9竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/07/17(日) 14:28:23 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第2話「黒い少年の持つ十字架」

「………」
 黒崎は目を開ける。
 自分はどうやらベッドに寝ている、ということは把握できるが身体が異常にだるく感じ、身体を起こそうという気がまるで起きない。
 ふと、黒崎は目覚まし時計に目をやって現在の時刻を確認する。
 時刻は午前八時十五分。

 学校開始は八時三十分。つまり、遅刻まで残り三十分。

「のわああああああああああっ!?」
 この日は自分の悲鳴で幕開けとなった。

 黒崎は学校へ猛ダッシュで向かったため、何とか二十五分には学校の校舎へと入ることが出来た。
 四階にある教室へと向けて、廊下を歩いているとスッと金髪の女子をすれ違う。
 もうすぐ始まるのに何処に行くんだろうと思い、黒崎はその女子に声をかける。
「奥村。何処行くんだ?もうすぐ始まるぞ」
 奥村と呼ばれた女子はくるっと振り返って、黒崎の方へと視線を向ける。
 奥村加凛(おくむら かりん)。中学の頃は不良と呼ばれる問題児で、一緒にいる女友達を苛める生徒から彼女を守っただけで問題児扱いされてしまった、とクラスの生徒の噂が黒崎の耳にも届いていた。
 その少女がこの学校にいるらしいが、黒崎にはそれが誰だか分からないし、クラスもしらない。現在はその少女を苛める生徒もいないのか、机に足を乗せて座っている以外は成績も優秀だし、何も問題はない。
「別に。ただ倉木先生に呼ばれてるだけだ。大した内容じゃねぇよ」
 奥村の口調は男みたいで、男子としては話してても違和感がないのだが、普通の女子の格好をしてるため、どこか合ってない様な気がする。
 そっか、と黒崎は短く返すと奥村は再び歩き出す。
 黒崎が教室へ入ると、目が合った白銀がしたり顔で笑みを浮かべている。
 その顔に怒りを覚える黒崎だったが、ここは怒りを抑えて、相手に近づく。
「あら、遅かったね黒崎君」
「あらじゃねぇよ。昨日の記憶ほとんどないんだけど、結局どうなったんだ?」
 黒崎は鞄を机に置き、立ったまま白銀に問いかける。
 白銀は人差し指をピンと立てて、
「君は結局七十八回目で倒れて、私がベッドに寝かせてあげたのよ。もう夜も遅かったし、私も泊まってったけど」
 じゃあ起こしてくれよ、と黒崎は机をバン!!と叩くが白銀が黒崎の口に人差し指を当てる。
「そう叫ばないの。君の寮は男子寮でしょ?そこに私がいた、なんて知れたら私達二人揃って何されるか分からないわ」
 誰のせいだよ、と黒崎は思うが心の底にしまっておくことにした。
 白銀は鞄の中から弁当を取り出して黒崎にスッと差し出す。
「君の分も作っておきましたー。どうせお昼持ってきてないんでしょ?」
 白銀は色々と奇想天外な奴だが、こういうことをされると僅かにきゅんとしてしまうほど黒崎は軽い男だった。
 黒崎は弁当を受け取り机に座ると、ポケットから何かが落ちたのを白銀が目撃する。
「何か落ちたよ」
 白銀が身をかがめて、それを拾う。
 拾ったものは黒崎が眼鏡の男からもらったロザリオだ。黒崎に渡そうとしたところで、拾ったものを白銀が見ると、急に彼女の表情が変わる。
「……白銀?どうした?」
 白銀は信じられないものでも見るかのように、黒崎へと視線を向ける。
「こ、これ……。何処で……?」
 黒崎は首をかしげながら、貰ったときのことを思い出す。
「これは街であった眼鏡の人にもらったんだ。気休め程度にって」
「そ、そう………」
 白銀はロザリオを黒崎に渡すと、それからしばらく口を閉ざしていた。

10竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/07/18(月) 12:38:39 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 奥村加凛は職員室で椅子に座っている担任の倉木尚の話を黙って聞いていた。
 倉木は僅かに表情を曇らせ、眉を下げたまま、
「ごめんなさいね。やっぱり栗村さんとは連絡がつかなくて……」
 今、倉木が担当をしているクラスでは一人の生徒が不登校になっていた。
 その生徒の名前は栗村沙織。不登校になった理由は不明だが、奥村は中学の頃に、彼女と友達になっていた。なんでも荒れていた中学時代、彼女と知り合ったことでまともな中学生活を過ごせたらしい。そんな親友とも呼べる存在が学校に来なければ心配するのも当然だ。
「一応、今日彼女の家を訪ねるつもりだけど……奥村さんも行く?」
 奥村は僅かに考え込んで、
「いえ、いいです。自分からも時折連絡を入れてみますから。失礼しました」
 奥村は軽く頭を下げて、職員室から立ち去っていく。
 職員室を出て、廊下に佇む奥村は小さな声で、ポツリと呟いた。
「……何処にいるんだよ、沙織……!」

「今日は腕立て、背筋、腹筋をそれぞれ百回と素振り避け……」
「待て待て待て待て」
 昼休み。
 一緒に昼食をとっていた黒崎と白銀はそんな会話を教室の一角にて行っていた。
 どうやら学校から帰って来た後の練習メニューの説明らしいのだが、今日も家に来るのかと思うと流石に危ない感じがする。
「何?」
「何じゃねぇよ。何勝手にペラペラと練習メニュー発表してんだ。野球部のコーチかお前は」
 ノンノン、と白銀は人差し指を軽く左右に振って、
「どっちかって言うと私はマネージャーだし」
「そういうこっちゃねぇんだよ!」
 どうでもいいことの訂正を申し出る白銀に黒崎は思わず机を叩き、叫んでしまう。
 その声に教室の皆が一斉にこちらを見たが、とりあえず深呼吸して落ち着くことにした。
 黒崎はゴホン、と一回咳払いをして、
「とりあえず、もう寮には来るな。昨日みたいになったら嫌だし」
「………、黒崎君。忘れてると思うけど」
 緊張感が無いというか、真剣味に欠ける黒崎の言葉を聞いて、白銀は口を開く。
「君は霊魔から狙われる『光の素質』を持ってるの。これからは命を狙われることは当たり前。だから」
「………ッ!いい加減にしてくれよッ!!」
 黒崎は周りの目も気にせず叫んでしまう。
 クラスの皆がこちらを見ているが、黒崎はそんなことを気にも留めず、言葉を続ける。
「もううんざりなんだよ。霊魔に狙われるだとか、そのために強くなるだとか、俺はこんな生活からとっとと帰りたいんだよ!お前の理由で、俺をそっちの世界に引きずり込まないでくれ!!」
 その言葉に白銀は僅かにショックを受けたような顔をして、
「……わ、私はそんなつもりで言ったんじゃ…」
 白銀が訂正するように口を開くが、黒崎は教室を飛び出てしまう。
 クラスの生徒達は『何だ?』『喧嘩か?』などと出て行った黒崎を目で追っていた。
「………黒崎君………」
 白銀は相手を傷つけてしまった、と思い、しゅんとした表情になって俯いてしまう。

11竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/07/24(日) 17:33:30 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「……って、何でこんなトコまで来ちまったんだ?」
 教室を飛び出してしまった黒崎は屋上へ続く階段の前まで来ていた。
 昼休みはまだ三十分ほどある。今から教室に戻るのも気が引けるし、白銀にどう話をかけていいかも分からなかった。そのため、屋上へ続く階段を見上げて、
「風にでも当たって気分転換でもすっか」
 黒崎は屋上へ続く階段を上がって、扉を開ける。
 しかし、そこにはすでに先客が一人いた。
 フェンスの上に腕を置き、屋上から見える景色を物憂い顔で眺めている金髪の少女、奥村加凛だ。
 彼女の手にはペットボトルのお茶が握られている。昼休みに気付けばいなくなっていると思えば屋上に来ていたのか、と黒崎は納得する。
 奥村はしばらく、景色を眺めていると、扉を開けた黒崎に気付いたようで顔を黒崎へと向ける。
「……何だ、お前か」
 奥村は珍しいものでも見たかのような表情を一瞬見せるが、すぐに僅かな笑みを浮かべて、
「こっち来いよ。どーせ気分転換だろ」
 普段屋上にいるためか、気分転換しに来る生徒は多い。
 しかし、自分がいるというだけで逃げてしまう生徒も少なくは無い。挙句、上級生も逃げてしまう。
 そのため、奥村にとっては息を吐くだけでクラスメートを怖がらせてしまう教室より、一人になることが出来る屋上の方が居心地が良かったりする。
「…ここっていつもお前一人なのか?」
 黒崎は奥村は『そんな怖くない女の子』と思っているため、何の躊躇もせず、彼女の横へと歩を進める。
 奥村は学校中の生徒からは怖がられているため、敬称で呼ばれることも多いが、黒崎だけは違った。
 奥村は黒崎の対等な呼び方に僅かに表情を綻ばせると、
「外の風浴びたいなら屋上じゃなくともグラウンドがあるしな。ここに来るのなんて一日に三人か四人程度。案外一人でいれるから、俺としちゃかなり居心地がいいんだ」
 奥村はまるで三年間昼休みを屋上で過ごしてるかのような言い方だった。
 それほど、昼休みにはこの屋上に行き来している、ということだ。
「で、白銀はどうした。いっつも一緒にいるみてーだけど」
「……ああ、ちょっとな……」
 奥村の質問に対し、黒崎は少しばかり言い淀む。
 自分がここに来たとき珍しそうな顔をしたのはいつも一緒にいると思ってるからか、と黒崎は溜息をつく。
 奥村は黒崎の言葉に僅かにきょとんとすると、
「…………夫婦ゲンカか?」
「違ぇよっ!!何でそういう発想になるんだっ!?」
 奥村の脳内では、黒崎と白銀は付き合っている、という脳内処理が行われていた。
 何だ違うのか、と僅かにガッカリしたような表情をすれば、再び視線を外の景色へと移す。

12竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/07/29(金) 13:44:36 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 奥村は景色を眺めながら、ペットボトルのお茶を少し口に含み、蓋を閉めながら、
「まあお前が何も言わないなら深くは言及しねぇが……悪いと思ってるんなら早目に謝っといた方がいいぜ。取り返しがつかなくなるのヤだろ」
 ああ、と黒崎は小さく頷く。
 話す話題がなくなってしまったため、黒崎と奥村は二人黙ってしまうが、やがて黒崎は口を開く。
「お前、朝何で呼び出されてたんだ?」
 奥村は黒崎の方へと視線を向ける。
 溜息をついて、背中をフェンスに預けるようにもたれると、
「ちょっとな。友達のことだよ」
「………友達?」
 黒崎は奥村の友達がこの学校にいるということは知っている。その友達が問題を起こしたのか、それともその友達が何かされたのか。どちらにしろ、奥村が呼び出される理由にはつながりそうにない。
 奥村は目を閉じ、僅かに笑みを浮かべながら続ける。
「俺らのクラス、栗村って奴が来てないだろ?そいつのことでな」
「……、じゃあお前の友達って…」
 黒崎はその後の言葉を紡ぎ出せなかった。
 紡ぎだそうとしても、何をどう言えばいいか、それすらも分からなかった。下手に言ってしまえば奥村を傷つけてしまうかもしれない。自分にはこういうときどの言い方が正解なのか分からなかった。
 奥村はそんな黒崎を気遣うように、
「そーんな暗い顔すんなって。何を言えばいいか分からないなら黙ってりゃいい。俺とお前が別の立場なら俺もそうしただろうしな」
 奥村は困り顔の黒崎の顔の近くにお茶のペットボトルを近づけて、
「飲めよ。喉渇いてるだろ?」
 黒崎はペットボトルを受け取って、蓋を開けようとして躊躇う。
 何故か。ちょっと減ってる。つまり、これは奥村が口をつけた証拠で、このまま口をつけてしまうとそのつまり、
「どーした」
 特に気にも留めないような口調で問いかけるが、黒崎は引きつった顔で、
「奥村さん。……これはその……あなたが口をつけたんですよねそうですよねだってさっき飲んでたもの」
 奥村は首をかしげて、
「それがどーした。別に間接キスぐらいどうってことねーだろ」
 ぶはぁっ!?と奥村のベリーソフトな言葉に面食らい、噴き出してしまう。
 奥村はフフッと女の子らしく笑って、
「面白いリアクションだな。俺としてもそーやってリアクションとってくれる方が良かったよ」
 は?ともれなく目を点にする黒崎。
「お前は、そーゆー……か、間接キス、とかは……恥ずかしくねーのかよ…」
 何故か言葉がぎこちなくなっている黒崎に奥村は、笑みを浮かべていて、
「流石に何の躊躇いも無くぐびぐび飲む奴よりはマシだな。後、変な趣味持ってる奴とか」
 奥村は一拍置いて、
「俺、結構子どもっぽい奴が好きなんだよ。お前みたいに間接キス程度であわあわするようなな」
 その言葉で黒崎は顔を赤くする。
 黒崎は口をぱくぱくさせて、
「そ、そそそれって……つ、つまり……」
「別にお前が好きってわけじゃないけどな」
 ああそう、とバッサリ斬り捨てられた黒崎はずーんとうな垂れてしまう。
 奥村は溜息をつき、屋上から出て行こうとし、背中を向けたまま、黒崎に話しかける。
「喧嘩の仲直り方法ー。相手からの言葉を待つんじゃなく、まず自分から謝ってみな。嫌われたくねー相手なら尚更だ。喧嘩両成敗。どっちか片方が悪い、なんてことはねーんだからさ」
 奥村はその言葉を残し、屋上から出て行く。
 黒崎はその言葉を胸に残し、ふと、手元にあるペットボトルに視線を落とす。
「……で、どうしろってんだよこれ」
 とりあえず、飲まないのでは悪いので、頬を赤く染めながらぐいっと一口お茶を飲んだ。

13竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/07/30(土) 22:37:33 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 白銀流奈はとぼとぼと街を歩いていた。
 教室から出て行った黒崎が戻ってきたときどうすればいいのだろうと思い、迫真の演技で先生達を騙し早退したのだ。
 何処へ行こう?
 白銀の頭にそんな疑問が浮かぶ。黒崎の家にいては更に嫌われるだろうし、このまま家にいてたら何も解決しないような気がする。
(………黒崎君…)
 白銀は空を仰いで心の中でそう呟く。
 怒らせる気はなかった。鬱にさせる気も、もちろんなかった。
(私はただ、君に死んで欲しくなかった。中学の頃、誰も話しかけてくれなかった暗い印象の私に、普通に接してくれたのが嬉しかったから…。初めての友達だったから…。だから、死んでほしくなかった)
 今更後悔しても遅いと思っても、過ぎてしまったものはどうにもならない。
(…だって、だって私は…君の事……)
「ちょっといいかな?」
 考え事をしていた白銀にふと声がかけられた。
 振り返ると、茶髪の顔が整った美男だった。ホストのような格好をしている相手を見て、白銀は警戒したような目つきで相手を睨む。
 その顔に男は数歩後ろに下がって。
「怖いなぁ。こっちは君が暗い顔してるから励まそうとしたのに。どう?これからカフェでも……」
「結構です」
 白銀はこういうことはキッパリと断るタイプだ。
 無駄に騒ぎ立てずに、静かに解決した方がいいに決まっている。そう思っていたからだ。
「そんなこと言わずにさ。別に何もしやしないよ」
 無駄に粘る相手に溜息をつく白銀。
 自分としてもナンパされるのは初めてらしく慣れてないのだが、断るの自体は難しくない。
「何も……ね」
 白銀は小さく呟き、腰に挿してある刀を鞘ごと引き抜くと後ろから近づいてくる男二人の顎を鞘で打ちつける。
 話しかけた男は僅かに驚いた表情をし、すぐに笑みを浮かべなおす。
「こんなことする相手が『何もしない』わけないじゃないですか」
 そこでレナは街の不自然さに気付く。
 自分と相手以外誰もいなくなっていた。
 これは、と白銀は注意を払っていると、腹に重い衝撃が走る。
 ホスト風の男が白銀の腹に拳を叩き込んだ衝撃だ。
(……しまった…)
「大人しくしてればいいのに」
 そう言うと男はポケットからハンカチを取り出し、白銀の顔へと押し当てる。
 徐々に白銀の意識が薄れてゆく。
 朦朧とする意識の中、白銀はぼんやりとした思考で、事態を整理していく。
(………まさか……、まずい、このまま、じゃ…………)
 薄れてゆく意識の中、白銀の耳にかすかに男の声が聞こえてくる。
「さあって、お前にはアイツをおびき出す…………」
 男の声を、最後まで聞き取ることが出来なかった。

14竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/07/31(日) 20:32:59 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 黒崎は学校からの帰り道の途中、携帯を開いて白銀に電話をかけようか悩んでいた。
 早退したし、謝ることも出来なかったので、こうなったら電話越しにでも誤ってみるかと思っていたのだが、いざとなると電話をかけることが出来ない。携帯電話を閉じて、家に帰ってからかけるか、と携帯をポケットにしまう。
 すると、道の小脇からちいさなおんなのこ

15竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/07/31(日) 20:58:34 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
 
 黒崎は学校からの帰り道の途中、携帯電話を開いて白銀に電話をかけようか悩んでいた。
 早退したし、謝ることも出来なかったので、こうなったら電話越しにでも謝ってみるかと思ったのだが、いざとなると電話をかける勇気が無い。黒崎は携帯電話を閉じて、家に帰ってからかけるか、と携帯電話をポケットにしまう。
 すると、まったく注意してなかった前方から小さな女の子にぶつかってしまう。
 ぶつかった衝撃で女の子の方は、ひゃっ!?と言って思い切り転んでしまう。
「あ、悪い。大丈夫か?」
 黒崎は急いで女の子に手を差し伸べる。
「いたたぁ〜……うにゅ、大丈夫…」
 小さな女の子は小さな手を伸ばして黒崎の手を掴み、立ち上がる。
 肩くらいの金髪に、大きな瞳の十二歳程度の女の子だ。
 服は簡素なTシャツに、赤と黒のチェックのミニスカートに黒のニーハイにブーツを履いていた。
「だから走るなって言ったでしょ。ごめんなさいね」
 少女の後ろからゆっくりと歩いてきたのは着物姿の腰くらいまである黒髪をなびかせた美人な女性だった。年齢はだいたい二十歳はいってそうだった。しかも身長は黒崎より少し高めだ。
 黒崎はこの子のお姉さんかな、と思いその女性を見ている。
「ほら」
 着物の女性は小さな女の子に手を差し伸べ、少女はその手をきゅっと握る。
 それじゃ、と着物の女性は少女の手を引いて、その場から去っていく。
「うにゅぅ、わらりん!あたし、ケーキ食べたい!」
「我慢しなさいな」
 少女の健気な要望を着物女性はあっさりと拒否する。
 何となくニックネームで呼ばれていた着物女性を思って、姉妹じゃねーの?と首をかしげる黒崎。

「うおーい、少年!!」
 
 急に後ろから謎の人物が肩を組んできた。
 彼の声には見覚えが無かったが、顔には見覚えがあった。ロザリオをくれた眼鏡青年が探していた金髪ピアスのチャラ男だ。
 いきなりなんだろう、と僅かに警戒する黒崎だが、金髪のチャラ男は全く気にもせず、
「いやぁー、助かったぜ!あの時は!あの後無事に相棒と会うことができてよー!お前のお陰だ!!」
 ハハハ、と笑いながら肩を割りと強い力で叩いてくるが、自分は情報を提供した覚えは無い。どこか彼の脳内で情報が捏造されている。
 チャラ男は小さなメモ書きをこっそりと渡してくる。
 黒崎が首をかしげていると、
「(…俺の携帯の連絡先。困ったことがあれば気軽に連絡しろよ兄弟)」
 いつの間に兄弟になった、とツッコむ前にチャラ男はさっさとその場を離れてしまう。
 メモ書きを開いてみると、彼の名前が書かれていなかったため、一応『金髪チャラ男』で登録しておこうと心に決めた黒崎だった。

>>14はミスです。
気にしないでください

16竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/08/05(金) 21:12:42 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第3話「サガシビト」

 電話のコール音が耳に響き続ける。
 黒崎は街で出会った金髪チャラ男(仮名)の連絡先を携帯電話に登録して予定通り白銀に謝罪の電話をしようと電話をかけたのだが、
「………………出ねぇ」
 コール音が二分続いても出る気配がない。
 今時刻は四時半過ぎだ。よっぽどの早風呂ではない限り、すぐに出てもおかしくないのだが、と考えるが、
「…やっぱ登録してるし、出てくれないのかもな。明日面と向かって謝っとくか」
 黒崎は懈怠電話を折りたたみ、テーブルの上に置く。そして冷蔵庫の扉を開けて、晩ご飯の支度を始めた。

「え、白銀来てねぇの?」
 学校に来た黒崎は玄関の靴箱の前で奥村からそう聞いた。
 鞄も持ってないし、完全に上履きを履いている辺り既に登校していたのだろう。
 腕を組み、眉間にシワを寄せている奥村は、
「ああ。来てねぇよ。心配で玄関まで待ってるんだが……お前、昨日電話で何を言いやがった?」
「お、俺は何も言ってねぇよ!」
 胸倉を掴むような勢いで迫る奥村に黒崎は思わずたじろぐ。
 『何も言ってない』が僅かに引っかかったようで、奥村は眉をひそめる。
「昨日帰って電話しようとしたんだけど、出なくてな。それなら明日面と向かって謝ろうって思ったんだけど…」
 ふむ、と奥村は顎に手を添え考える仕草をする。
 黒崎が何か言ったのが原因でないとすれば、やはり昨日のが原因なんだろうか。だったら電話に出ないのもおかしい。自分は悪くないと思っているなら学校には来るはずだし、悪いと思っているなら電話にも出てくれるはずだ。
 奥村は、黒崎の手を掴んで、
「まだ始業には時間がある。倉木先生に聞いてみようぜ」
 奥村は黒崎の手をぐいぐいと引っ張って職員室へと向かう。
 多分、白銀に手を掴まれたら顔を赤くするだろうが、奥村に手を掴まれてもそういうセンサーが反応しないということは自分の心の中で奥村を女と認識していないのだろうか。
 そう思うと、途端に申し訳なく思ってしまう黒崎を気にも留めず、奥村は黒崎と共に職員室へと向かう。

17竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/08/06(土) 12:41:58 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 黒崎は半ば強引(というか完全に強引)に奥村によって職員室の前へと来ていた。
 奥村はドアを軽くノックして『失礼します』と言って職員室へと入っていく。黒崎もそれを真似て同じように『失礼します』と言って入る。奥村は職員室内を見回して倉木を見つけると、真っ直ぐにそちらへと歩き出す。
「倉木先生」
 奥村の呼びかけに何かの作業をしていた倉木は手を止め、顔を上げる。
「あら、奥村さん。それに黒崎君まで。どうかしたの?」
 倉木がそう問いかけると奥村は言い淀むことなく、
「白銀から、欠席や遅刻の連絡は?」
 状況がまったく読めていない倉木は首をかしげて、
「…いや、まだ入ってないけど…。白銀さん、まだ来てないの?珍しいわね」
 自分の担任のクラスの生徒が大体来る時間は把握しているようだ。
 しかし、毎朝黒崎が来ても教室にはいないし、現に今も職員室にいるのだから、どうやって知っているのかは謎だが。
 そうですか、と奥村は再び考え込むと、再び黒崎の手を掴む。
「分かりました。連絡があったら教えてください。行くぞ、黒崎」
 黒崎の慌てるような声が聞こえるが奥村は気にしていない。
 そんな二人を眺めている倉木はほっとしたような表情で、
「…良かった。奥村さんにもお友達が出来て」
 ハタから見れば強引に連れ回されている光景だが、どうやら倉木には友達に見えたらしい。

 奥村が黒崎を連れて来たのは、玄関だ。
 『そこでちょっと待ってろ』と言ってどこかへ行った奥村は鞄を持って戻ってくる。
 黒崎は教室に入ってもいないので鞄を持っている。この状態で玄関にいて、奥村が何を言いだすか黒崎には大体予想できた。
「………オイ、奥村。お前まさか……」
「ああ。早退するぞ。白銀の家に行ってみようぜ」
 やっぱりか、と黒崎は息を吐く。
 奥村はロッカーから外靴、つまりローファーを出して行く気マンマンだが、黒崎はふと呟く。
「…つーか、お前白銀の家知ってんの?」
 ギクッと肩を大きく揺らす奥村。
 どうやら知らなかったらしい。
 結局こっそり早退することが出来ず、奥村は黒崎と共に職員室へ行って白銀の家が何処か聞きに行った。

18竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/08/11(木) 11:57:29 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 倉木先生に訳を正直に話したところ『友情という事でオッケーなのよ!』らしいので、早退することが出来た。
 それにしても、友達の様子見だけで早退させてくれるとは頭のネジが何本か富んでいるんじゃないだろうか、と思った黒崎だったが口にしたら早退させてくれなくなりそうなので、黙っておいた。
 白銀の寮もアパートで五階の一番端っこにある部屋が白銀の部屋らしい。
 倉木先生によると白銀の他にもう一人ルームメイトがいたらしいのだが、何ヶ月か前に何処かに行ったきり帰ってきていないということだ。自分の家に来たのは寂しかったからなのかもしれない。そう思うとさらに謝らなければならないと黒崎は白銀の部屋のインターホンを押す。
 音が鳴ってから数秒、全く扉が開く気配は無い。
「……留守か?」
「どーだろうな。少なくとも扉の向こうからは音がしねぇ」
 扉に耳をつけて中の音を聞いていた奥村はそう言う。
 昨日から帰ってないというのなら、それはそれでさらに心配だ。黒崎と奥村も彼女の行きそうなところを考えてみるがやはり思い当たらない。
 奥村はそんなに話したこともないし、黒崎はつい最近知り合ったばかりだ。
 最初に見たときの事を考えれば本を読んでいた気もするが、自分が来るまで本を読んでいたわけでもなさそうなのでそこまで本が好きというわけでもなく、ただ暇つぶしに読んでいただけだろう。
 そこで黒崎は、この周辺に詳しそうな人を思い出す。
「そうだ!チャラ男さんなら知ってるかも」
「……チャラ男さん?」
 奥村は黒崎の口から出てきた奇抜なニックネームに目を点にする。
 『チャラ男さん(仮名)』は黒崎が帰宅中に紫眼鏡(仮名)が探していた人だ。貰った連絡先を書いてある紙に名前が記されていなかったので、一応『金髪チャラ男』で携帯電話に登録していたはずだ。
 黒崎は携帯電話を取り出して例の『金髪チャラ男』に電話をしてみる。
『ふぁ〜い、もしもしぃ?』
 電話から飛んできた声はかなり眠たそうだった。
 九時過ぎだから眠たいのは分かるが、もしかして寝起きなのではないだろうかと思う。
「チャラ男さん、聞きたいことがあるんだけど」
『誰がチャラ男さんだ!!俺には…ってその声あの時の少年か!いつ電話してくるのかと思って待ってたんだぞ!』
 チャラ男さんの声に元気が戻る。
 とりあえず黒崎はチャラ男さんの長くなりそうな話を遮るかのように本題に入る。
「チャラ男さんって第十地区に詳しい?」
『んあ?まあ、詳しいっちゃあ詳しいかな。可愛い子探しに行ったりしてるし、むしろ十地区に住んでんだぜ?』
 『詳しい』と『可愛い子』探しで黒崎は確信を持ったのか、単刀直入に聞く。
「じゃあ、ここ最近で長い銀髪の女子を見なかったか?」
『ああ、見た見た!ありゃあお前と一緒の高校だろ。でも、昨日いつも見かける道で待ち伏せてたけど見なかったな。帰ると仲間が『誘拐事件』について話してたけど……?』
 黒崎の眉がピクッと動く。
 誘拐事件。
 白銀と関わっているのなら何か分かるかも知れない。
「……奥村、お前は先に帰っててくれ」
「はぁ?お前はどうすんだよ?」
 黒崎はもう一度携帯電話の向かって、
「チャラ男さん!俺を、アンタの仲間のところに連れて行ってくれ!」

19竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/08/11(木) 20:46:41 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 黒崎は一人でチャラ男さんに指定された場所まで来ていた。
 着いたのは一つの廃工場のような場所。目を疑うような場所だが、ここで間違いないはずだ。
 最後まで反対していた奥村だが、渋々了承して先に帰ってもらった。あとで奥村にも謝らないとな、と黒崎は心の中で呟き廃工場の扉を開く。
「やあ、待ってたよ」
 中には奥の方でシートが引かれており、その上にテーブルや飲食物が置かれている。随分と雑な状態だが辛うじて生活は出来ているらしい。
 シートの上には紫色の髪の眼鏡をかけた青年が座っていた。
 彼は黒崎にロザリオを渡してくれたチャラ男さんを探していた人だ。
「……あら、貴方は…」
 黒崎は横合いから飛んできた呟くような声の方向に首を向ける。
 そこにいたのは着物を着た美人な女の人と、その女の人の妹のように傍らにくっついている、この前ぶつかった少女だ。
「…あんた達、この前の…」
 黒崎も彼女達のことを忘れていなかった。
 小さい女の子の方はともかく、着物を着た長い黒髪の人なんてそうそう忘れられないだろう。
 眼鏡をかけた青年が携帯電話を取り出して、黒崎に話しかける。
「話は聞いてるよ。例の誘拐犯のことだよね?情報を掴んだのは僕じゃないから、情報主に連絡するけど……一つだけ訊いてもいいかい?」
 眼鏡をかけた青年は黒崎の目を真っ直ぐに見つめてそう問いかけた。
「その誘拐犯に攫われたらしき少女は、君にとって救う価値は何かな?」
 黒崎は白銀のことを思い出す。
 第一印象は成績優秀で可愛い子。でも実際は口数が少なく、無断で人の家に上がり込んだり、修行と称していきなり剣を振り回したり、弁当を作ってきてくれたりと、見た目とは逆な奇抜な行動が残っている。
 でも、黒崎が彼女をどういう理由で救うか、どういう価値があって助けるか。そんなものは彼女がこの先何をしようが変わらない。
 黒崎は眼鏡をかけた青年を真っ直ぐに見詰め返して、
「友達だからだ」
 ただそう告げる。
「オッケー。今からネットカフェにいる仲間に連絡を取るよ」
 数回コール音が鳴ると、電話をかけた相手は抑揚の無い声で『はい』と返す。
「バルかい?君がこの前話していた誘拐犯のことだけどさぁ…場所、確定出来るかい?」
『舐めてんの?そんなモン、情報知ってから二十八秒後に見つけたさ』
 電話の相手はずっと平淡な声で、
『場所は第十七地区の潰れた娯楽施設の中にある一つのビル。ビルは一個しかないからすぐ分かるはず。分からなかったらクズ以下』
「誘拐された人の名前も特定できてる?」
 だからなめんなって、という言葉の後に返答が帰ってくる。
『最近誘拐された人は黄金高校の一年所属の白銀流奈。白い髪が特徴の可愛い子だよ』
「ありがとう。じゃあまたね」
 眼鏡をかけた男は電話を切って、折りたたみポケットにしまう。
「君だけじゃ心配だから僕も行くよ」
「んじゃ、俺も……」
「貴方はダメよ。女の子に何するか分かったもんじゃない」
 チャラ男さんの勇み足を鋭い言葉で着物美人が止める。
 着物美人は傍らにいた女の子の肩をポンと叩いて、
「代わりに行きなさい」
「おっす!」
 着物美人の声に女の子は元気よく返事をした。
「じゃあちょっと準備とかあるから、一時間後駅で会おう」
「はい!」
 黒崎が返事をして、廃工場を出ると入り口の壁に奥村が腕を組み、壁にもたれた状態で黒崎が出てくるのを待っていたかのように立っていた。

20竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/08/19(金) 19:37:28 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「……奥村……」
 奥村は黒崎が向かった場所へとこっそりついて行ったのだ。
 話の内容は大体分かった。
 詳しくは聞き取れてなかったが、白銀が攫われたことと、黒崎と廃工場にいる二人とともに白銀を助けに行く、ということは理解できた。
 奥村は力になりたい、と願っていた。
 それなのに、自分を巻き込まないとはいえ、蚊帳の外にされるのは嫌だ。
 だからこそ、奥村は悔しさを噛み砕いて黒崎に尋ねる。
「……何も、言わなくていい」
 黒崎は奥村の目を見て黙ってしまう。
 睨まれたわけでも、ガンを飛ばされたわけでもなく、ただ彼女の目力に口を開くことが出来なかった。
「お前がここで何をしていたのか、理解は出来た。お前は俺を巻き込ませないために、俺をここに連れて来なかったんだろう?」
 ああ、と黒崎は小さく頷く。
 奥村は怒らない。
 相手の気持ちを汲み取って、相手を信じているから怒らない。
「…信じて、いいんだな」
 奥村は真っ直ぐに黒崎を見つめる。
 期待や願望ではなく、ただ信じて。
「戻って来てくれるのか。お前も白銀も無事で」
 黒崎は奥村を見つめ返して、告げる。
「当たり前だ。信じてくれるか」
 奥村はフッと笑みを浮かべ、当たり前だろ、と返す。
 奥村はすれ違い様に、
「信じてるよ」
 と小さく呟いて、黒崎の頬に軽くキスをする。
 一気に黒崎の顔が赤くなり、その反応を楽しむ奥村。
 からかわれた黒崎は今にも奥村に殴りかかりそうな雰囲気だが、
「行け。戻って来ないと撃ち殺すからな」
「……撃ち殺されてたまるか。絶対に戻ってきてやる!!」
 黒崎はその場から走り去る。
 その背中を見えなくなるまで奥村は眺め、踵を返し歩き出す。
 ただ一言呟いて。

「案外、二人のこと好きなのかもな」


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