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MAGIC MASTER

23竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/08/14(日) 16:49:03 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 『ジン』という男が近づいているという情報に『クライシス』中がざわめく。
 何で皆がざわめいているのか分からないカンナは首をかしげて近くに居るスィーナに訊ねてみる。
「あの…『ジン』って一体誰なんですか?」
 えっと、とスィーナはちょっと言いよどむ。
 コウヤは柄を握り締める手に力をより強く込めて扉の方を睨みつけると、
「……ぶっ殺す」
 と小さく呟いた。
 途端にガゴォン!!という轟音が響き、『クライシス』の中に何かが突っ込んできた。
 その突っ込んできた何かはコウヤに激しくぶつかる。
「うわっ?何!?」
 巻き上がる砂埃にその場に居たカンナ達は両腕で顔を覆う。
 顔を覆う腕を退けると、砂埃の中心でコウヤと灰色の髪をしたカンナと同じくらいの年の男がつばぜり合いの状態で立っていた。
 突っ込んできた男は耳が隠れるくらいの灰色の髪に、目つきはかなり鋭い。
「……よォ、今更何しに戻ってきやがったァ?コウヤよォ!」
「相変わらず口と目つきと俺に対する態度は悪いままだな、ジン」
 ジンと呼ばれた彼はぴょん、と軽く飛んでコウヤと距離を取る。
 ジンは二本の剣を使って、コウヤに襲い掛かっていた。二人は睨み合いながら刀を構えている。
「……えー、と…ホントにあの二人ってどういう関係なんですかぁぁ!?」
「んー、まあ腐れ縁…かな?小さい頃からよく喧嘩してて……たまに仲良くなることがあるけど…ああやって喧嘩してることを見るのが多いわ」
 スィーナはあはは、と苦笑いを浮かべながら説明する。
 それにしても二人の目からかなり本気が伝わってくるあたり、本当に喧嘩のレベルなのだろうか。そもそもコウヤは『ぶっ殺す』とか言ってましたけど?とカンナの中で色々な思考が渦巻く。
 コウヤとジンが再び激突しようと突っ込むそこへ、

「暴れてんじゃねぇよ、ガキどもがぁ!!」

 ガゴン!!と二人の頭に酒が入っていた空の瓶が叩きつけられる。
 二人はそのまま地面へとうつぶせに倒れこむ。
「……まったく」
 二人を止めたのは露出が高く、地面につくほど長い茶色が混じった黒髪を持ったスタイルのいい美女だった。
「そーそー。コウヤ君を見るたび、喧嘩するのはよしなさいって」
 玄関から呆れたような声と共に背中くらいまでの黒髪の少女が入ってくる。
 やはり彼女もカンナ達と同じくらいの年齢に見える。
「………スィーナさん……。ここって、まともな人いないんですか……?」
「………………アハハハハ………いるわけないじゃん…………」

24竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/08/19(金) 19:03:26 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第9話「クライシス」

 カンナはとりあえずコウヤとジンの戦いが終わったようなので落ち着き始めた『クライシス』内の皆に状況を話す。
 自分達が『光る原石(ホーリーストーン)』を探していること。その上で『ミストスモーク』という組織と戦わなければいけないということ。それでコウヤが力を貸してほしいということ。
 ジンは腕を組んで、目を閉じ、うんうんと頷いていた。
 話を聞き終わり、しばらく話の整理をしていたジンは目をくわっと開けてコウヤの胸倉を掴む。
「何で俺がテメェの部下みてーな扱いにならなきゃいけねーのかなー?コウヤちゃんよ」
「嫌ならいいんだぜ?お前だけには頼らないから」
 再びコウヤとジンは戦いを始める。
 カンナはあわあわと慌て始めるが、カンナと同じ年くらいの黒髪の少女がカンナに肩にぽん、と手を置いて、
「大丈夫よ。二人とも何だかんだで手加減してるから。私とジンとコウヤ君は8歳からここにいるわ。二人の喧嘩は何度も見てきたから分かるの」
 カンナはその少女の言葉に違和感を覚えた。
 ジンのことは呼び捨てにしていたのに、コウヤのことは君付けで呼んでいたのだ。
 ジンの彼氏なんだろうか、と思っていると少女から名乗ってくれた。
「私はリリィ。ジンとは双子の姉なの。全然似てないでしょ?」
「双子ッ!!!???」
 カンナは思わず吹き出してしまい、喧嘩を眺めていたスィーナ達も、殴り合いに発展していたコウヤとジンも一斉にカンナを見る。
 ジンは溜息をついて、
「まあ見えないわな。髪の色からして似てないしィ」
「俺も十年前からコイツらと一緒にいるが似てると思ったことはねぇな」
 『私も』『俺も』『僕も』と全員が一様に声を出す。
 髪の色、目つき、他に至るまで何も似てはいなかった。性格も真逆そうだ。
「それより、あなたの名前は?」
「あ、カンナです!」
 リリィに名前を訊ねられ、カンナは僅かに頬を赤くして答える。
 リリィはクスッと笑うと、
「あなたも『クライシス』に入る?だったら免許作らなくちゃね」
「免許?」
 カンナが首をかしげていると、顔の整った青年は、
「通常は面接と実技が必要なんだけど、カンナって言うと結構有名だからね。実力は測らなくても分かるし、コウヤの友達なら不審がる者はいない」
 男は丁寧に説明してくれた。
 ちなみに僕はアランっていうんだ、とついでに名前も名乗ってくれた。
「んじゃ、今日はコウヤの帰還祝いと新メンバー加入を祝して、皆で騒ごー!!」
 スィーナの掛け声で『クライシス』内の皆のテンションが上がっていく。
 宴を前にコウヤとジンはもう一戦殺し合いをしそうな雰囲気を放っているのを皆は見て見ぬフリをしている。

25竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/08/20(土) 15:37:46 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 『クライシス』の中はわいわいと騒がしく盛り上がっていた。
 久しぶりのコウヤの帰還。カンナという新しい仲間の誕生。彼らにとっては家族が帰ってきて、一人増えたような、そういう嬉しさがあるのだと思う。
 コウヤはジンと睨み合って、飲み物に一切手をつけようとしてないし、アランはカウンターで上品そうに一人でワイングラスを傾けている。そのほかにも中年男性が肩を組んで酒を呑んでいたり、男達が何かの議論で熱くなっていたりと、昼と変わらない風景が広がっていた。
 カンナはそんな光景を眺めていた。
 ここが自分の帰る場所で、皆が自分の家族なんだと。
「気に入ってくれた?」
 カンナの横にリリィが座る。
 何だかんだでカンナはリリィとスィーナとは仲良く出来ていた。
 スィーナは奥の部屋で免許を発行しているらしく、今はこの場所にいない。
「うん……騒がしいけど、こういうのもいいかなって」
「でも大変だよ?皆いつものように喧嘩とかするから、たまーに投げられた物が当たったり…」
 そう言った矢先、カコーンとコミカルな音を立ててリリィのつむじに空き缶がぶつけられる。
 ぶつけたと思われる人物は、昼間のコウヤとジンの喧騒を止めた露出高めの長い黒髪の女性だ。
 彼女は酒をビンで飲んでいて、ビンの中を飲み干すと、
「お高く止まってんじゃねーよ。お前だってよく暴れるじゃねぇか。この暴走女」
 ビキッ!!とリリィのこめかみに青筋が浮かぶ。
 リリィは無理矢理に引きつった笑みを浮かべ、
「アンタよりマシだっつーの。何?何なの?何なんですか?いちいち喧嘩腰でしか話せないの、あら可愛そうに」
 
 瞬間、リリィと相手の女がつかみ合いになって女の恐ろしい喧嘩が始まる。

「おうおう、お前だって一緒じゃねーか。いつものように酒呑んで早々に酔いつぶれろっての」
「今日は気分じゃないのよ。つーか私もアンタも未成年しょうが、私は昨日のうちにお酒やめましたー!」
 女特有の陰湿な戦いだ。
 この喧嘩に今まで騒いでいた男達はさらに盛り上がり、姉の怖さにジンはうな垂れる。
 コウヤはいつものことのように飲み物を飲んでいる。
「り、リリィちゃんってこんな怖いの?」
「まあ、リリィちゃんはイヴと仲が悪いからね。コウヤとジン程じゃないけど、たまにああなるのよ」
 スィーナが苦笑いを浮かべて戻ってきた。
 何故かリリィとイヴの戦いから他のところまで喧嘩が移っており『クライシス』内はバトル・ロワイヤル状態となっていた。
「カンナちゃん、免許できたよ。どうぞ」
 カンナはスィーナから免許を受け取る。
 顔写真などはなく、名前と性別と『クライシス』に入った日付が記載されていた。一番下には『ナンバー』が書かれている。これはカンナが何番目に入ったかを表していた。
 カンナは免許をぎゅっと握り締めて、
「ありがとうございます、スィーナさん!!」
「どういたしまして。こっちとしても家族が増えたみたいで嬉しいよ」
 カンナの頭にゴン!!と小さな樽がぶつけられる。
 場が静まり返る。
 カンナは俯き、指をコキコキと鳴らしてから、
「全ッ員ッ!!ぶち殺したらァァ!!」
 拳に氷を纏い、喧嘩の輪に入っていった。
 結局、この喧嘩に参加しなかったのはコウヤとジンとスィーナの三人だけだった。

26竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/08/28(日) 13:25:23 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 『クライシス』の前でカンナとコウヤは『クライシス』内の人間に見送られている。
 ここに寄ったのは休憩のようなもので、帰ってきたわけじゃない。そもそも今二人は旅の真っ最中なのだから。
「やっぱり、行くんだね」
 スィーナは悲しそうな顔をしている。
 きっとカンナとコウヤじゃなくても、こんな顔をしたはずだ。
 彼女は『クライシス』の人間を愛している。家族が去っていくのは、辛いことだ。きっとスィーナだけじゃなく、全員そのはずだ。
「まあな。『光る原石(ホーリーストーン)』を見つけなきゃいけねーし」
「一日程度だったけど、私は楽しかったよ!」
 『ホントすぐだったな』『でも家族が増えて嬉しいよ』などという言葉が聞こえる。
 すると中年の男が、
「まあ今度帰ってくる時は二人の子どもでも見せてくれや」
 カンナは顔を真っ赤にして、
「ち、違う違う!!私とこ、コウヤは…その…そんな関係じゃないもん!ただの友達なんだからっ!!」
 『クライシス』の皆はからかわれてムキになるカンナを見て笑っている。
 カンナは顔を赤くしたまま、頬を膨らませてむすっとしている。
「出来れば、この中から二人ぐらい来てくれたら心強いんだがな。まあ、お前らはこの酒場にいるのが似合ってるぜ」
 コウヤはそう言う。
 休憩がてら彼らに協力を申し出ていたのだが、『ミストスモーク』の奴らに手を貸さないだけでも充分だ。

「その二人は俺達じゃダメか」

 カンナとコウヤの後ろから声が飛んでくる。
 振り返るとそこにいたのはジンとリリィ。
「……ジン、リリィ……」
 ジンはキッとコウヤを睨みつけて、ずかずかとコウヤに近づいて行く。
 彼の目の前で立ち止まるとコウヤの胸倉を掴み、
「喧嘩、だろ?だったら俺も混ぜろよ。だが、俺はお前の下にゃつかねぇぞ」
「そのつもりだ。俺もお前みたいな奴を部下にする気はねぇ」
 リリィは溜息をついて、
「なーんであんな言い方しか出来ないのかしら。安心してカンナちゃん。いざとなったら二人は私が止めるから」
「お前に止められるのか」
 イヴの言葉にリリィは青筋を立てるが、ここは喧嘩しないでおこうと思う。
 深呼吸して、冷静さを取り戻す。
「さて、行くぞ」
「命令すんじゃねーよ」
 コウヤの促しにカンナとリリィも答える。ジンだけはやっぱり反抗的だ。
「また帰ってきてねー!!」
 スィーナは大きく手を振って、四人を見送る。
(あ、コウヤとスィーナさんの関係聞きそびれた…。まあいっか。今度聞けば)
 カンナの中に一つの疑問が残るが、急ぎでもないし、気にしないことにした。
 カンナ達はジンとリリィの二人を加えて、再び旅を始めた。

27竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/02(金) 23:57:14 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「私さぁ、昨日変な夢見たんだけど」
 カンナが唐突にそんなことを言い出す。
「お、それなら俺も見たぜ」
「そういえば私も」
「奇遇だな。俺もだ」
 ジン、リリィ、コウヤの三人も意見が一致していた。
 おや?と全員思考が硬直すると同時、前へ進む足も止まってしまう。
 カンナは三人を見回して、
「ねーねー、皆見たの?」
 うん、と全員頷く。
 カンナは腰に手を当てて、状況の整理に取り掛かる。
「……私が見たのは金髪の人だったんだけど」
「俺は金髪に眼帯してたぞ」
「あー、してたしてた。確か左目だよね?」
「そういえば銃持ってなかったか?」
 ここまでは奇跡的に全員合っているらしい。
 ということは全員同じ夢を見たのだろうか、不安になったカンナは、
「じゃあさ、夢の中で最後に言われた台詞を一斉に繰り返そう」
 いっせーので、とカンナが皆と呼吸を合わせると四人は同時に、

「「「「近いうちにまた逢いましょう」」」」

 一致した。
 いや、一致してしまった。
 仲がいいからか悪いからか分からないが、全員偶然にも同じ夢を見ていた。
「……皆も見てたんだね……」
「何だよこの気味ワリーシンクロ率」
「参っちゃうなー」
「……」
 そんな時、彼らの耳にドン!!という爆発音が耳に、震動が肌に伝わる。
 カンナ達が見回すと少し離れた所から煙が上がっている。
「あそこだよ!」
「今の震動は焚き火なんかじゃ起こらないな」
 カンナははっとしたように顔を上げる。
「もしかしてどっかの盗賊……もしくは『ミストスモーク』かも!」
「どっちでもないにしろ、行かなきゃ!」
 カンナとリリィは慌しく煙の上がっている方向へと走っていく。
 その背中を眺めていたコウヤとジンはお互いに顔を見合わせる。
 この時ばかりは喧嘩に発展しなかったようだ。
「……何つーか、お前の旅先で会った奴は、忙しい奴だな」
「お前の姉も似たようなモンだ。アレだと毎日お祭り騒ぎだろ」
 二人はお互いに翻弄される女に溜息をついて、彼女達を追いかける。

28竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/09(金) 21:08:32 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 ジャイロット村。
 小さいながら活気のある村で、いつもは人々が行き交い、がやがやとしたイメージがある。
 が、今はそれが逆転し、家はほとんどが焼かれ、村にいる全員が一箇所に集められている。その村人達を見張るように四人の人物が立っていた。
 この村を襲撃した『ミストスモーク』の魔法使いである。
「ケケーッケケッ!!ナァ、コイツらドォする?やっぱ一人ずつ殺ってくかァ?」
 大きな鎌を背負った細身の男が甲高い声で笑いながら他のメンバーに訊く。
 男の声に不快そうに顔をゆがめた、濃いピンクの長い髪を持った、キセルを吸っている女は、
「おばか。殺してどーするの。そいつらはあくまで人質でしょ?有効活用しなくちゃ」
 ふぅー、と煙を吹きながらそう返す。
 刀を腰に差した、侍のような出で立ちをした黒髪の男は、
「だな。それに、我らの命令はこの村の殲滅、および反乱分子を消すことだ。無闇に血を流すべきではない」
「……本当にこれでいいのだろうか」
 男の言葉に大男は俯いて、そう呟く。
「ちょっと!ここに来てビビるのだけはやめてよね!アンタはリーダーなんだからしっかりしなさいよ!」
「そうではない。私が恐れているのは、これが自分の正しい道なのだろうか。それだけだ」
 鎌を持った男は全然考えてないような早さで言葉を返す。
「ケケケッ!正しいに決まってんだろ!俺達は『ミストスモーク』なんだぜ?」
「そうだな。余計な雑念は捨てた方が身のためだぞ」
 だが、と大男はまだ迷っている。
 それに苛立ったのか侍男は刀を抜き、男の首筋へと持っていく。
「いい加減にしろ。お前がここで臆してどうする。無益なことを続けたくなければ、反乱分子を潰せ!!」
「分かっているのだが……」
 唐突に、大男が黒い影にぶつかられ、横方向に飛んでいく。
「「「!?」」」
 その場に居た三人全員がいきなりのことに驚きをあらわにしていた。
 そして、他の三人に襲い掛かる黒い影。
 その四つの黒い影は、横一列に並ぶ。
「ありゃ。結局二人とも来たんだ」
「一人で突っ走りすぎなんだよ、ボケ」
「この人達『ミストスモーク』でしょ?」
「だったら、俺らも喧嘩に混ぜろってんだ」
 カンナ、コウヤ、リリィ、ジンの四人が村に到着した。
「桃色の髪の女に……」
「黒コートの男、ねぇ」
「ケケケッ!聞いてたとおりじゃねぇか」
「主らか」
 大男は立ち上がってそう言う。
 そう、彼らが『ミストスモーク』のいう反乱分子である。

29竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/11(日) 21:49:23 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

「こっちも四人、敵も四人。よっしゃ、互角!」
「互角なもんか、アホ」
 カンナの勇んだ言葉をコウヤは一言で斬り捨てる。
 コウヤはカンナが殴り飛ばしても全然ダメージを負っていない大男を見ている。
「お前が殴ったアイツ。他の三人と比べて明らかに格が違う。恐らくこの四人のリーダーだ」
 上等じゃない、とカンナは指を鳴らす。
 そして大男を指差して、
「アンタの相手は私よっ!!」
 そう宣言する。
「おい。あの女、人の話聞いてねーのか」
「強いと聞いたら興奮すんだよ。アイツ」
 ジンとコウヤは頼りになるのか、ただの馬鹿なのか分からないカンナを見て溜息をつく。
 リリィは他の三人を見回して、コウヤとジンに問いかける。
「で、私達はどうするの?」
「ああ、そうだな。あのリーダーっぽいは冷蔵庫に任せるとして……」
 冷蔵庫って私のこと!?とカンナが反応する。
 おそらく『クライシス』内で勃発した喧嘩で氷を使う様子を見て、そういうニックネームを命名したのだろう。
「俺達はそれぞれ攻撃を仕掛けた相手でいいだろ」
 コウヤがそう呟く。
 だとすると、コウヤは侍風の男で、ジンは大鎌を持った細身の男で、リリィはキセルを吸っている女性になる。が、
「嫌だッ!!」
 ジンだけは納得しなかった。
「何でだよ」
「だって!あの鎌ヤロー、明らかに一番弱いじゃねぇか!」
「あァ!?」
 ジンの言葉に鎌男の顔は不快に染まる。
 ジンのワガママにリリィは溜息をつく。
 姉としてなのか、それともこれ以上面倒にならないようにか、場をなだめようと言葉を発する。
「じゃあ私の相手揺するから。それでいいでしょ?」
 だが、リリィの顔のすぐ横を何かが通り抜ける。
 反応できないほどの速さだったが、飛んできた方向だけは分かった。
 キセルの女だ。
 女は煙を吐きながら、
「人を物みたいに扱わないでくれる?小娘」
「……あーあ、完全に目をつけられちゃった……」
 リリィは引きつった笑みを浮かべる。
「だ、そうだ。俺もさっきからあの男に睨まれてるんでな。相手の変更は不可能だ」
 ジンは小さく舌打ちをして鎌男を見つめる。
 男は激しい怒りに満ちた表情をしていた。
「だな。さっさと終わらせてやるぜ」
 大男は戦いが始まりそうな空気を感じていた。
 そして、目の前にいるカンナを見て、
「……まず、主の名を聞こうか。私はヴィゾー」
 カンナはフッと笑みを浮かべて、拳に氷を纏わせる。
「『氷の女帝カンナ』。よろしくぅ!!」
 カンナ達にとって、『ミストスモーク』との初戦が始まる。

30竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/19(月) 10:56:56 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第10話「初戦」

 ジンは欠伸をする。
 相手と数メートルしか離れていない距離で、悠長にも大きな欠伸だ。
「テメェ、馬鹿にしてんのか」
 鎌を持った男は眉間にしわを寄せてジンに問いかける。
 ジンは声に気付き、
「あ?何言ってんだよ。その通りだ」
 鎌の男のイライラは蓄積していくばかりだ。
 それもそうだ。
 コウヤとジンの仲の悪さの原因の大半はジンにある。
 それは、かなり性格が悪いことだ。
 今のようにふざけることもあれば、他人事のように無視することもある。
「大体、お前相手に本気になれってか。そりゃ無理だぜ。お前は蟻を捕まえるのに100%の力を出すのか」
 鎌男は激昂して、鎌で斬りかかる。
 しかし、その攻撃はジンの二つの刀に防がれる。
 鎌男は距離を取って、再びジンに斬りかかる。
 ジンは身体を横に逸らしてかわす。が、相手が狙っていたのはジンではない。
 彼の数メートル後ろにいた捕らえられた民間人だ。
「……の、野郎!!」
「これで本気になるだろォ!?」
 男の非情の鎌が振り下ろされるが、突如地面から現れた氷の壁によって防がれる。
 見るとカンナが地面に手をつき、氷の壁を出していた。
「冷蔵庫!」
「人質の心配はいらない!私が絶対に守るから」
「恩に着るぜ!」
 だが、カンナもあまり余裕をかましてはいられない。
 カンナはこの四人のリーダーと戦っている。襲われたからといって、カンナに頼ることもそうそう出来ない。
「へへ」
 鎌男はジンを睨みつける。
 男は鎌の刃を不気味に舐めながら、狂気の目を向けている。
「んな薄汚れた目で見んじゃねぇよ。俺の身体が腐ったらどうすんだ」
 ジンの刀の一本に炎が、もう片方に雷が纏う。
 ?と鎌男は眉をひそめている。
「俺だってAランクの端くれだ。見せてやるよ、俺の二つなの由来の象徴をなぁ」

31竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/10/01(土) 22:05:08 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 コウヤと交戦しているジークという男は、鍔迫り合いになりながら、ジンと鎌男のジョーカの戦いを見ていた。
 よそ見している相手に僅かに苛立ちを覚えるコウヤ。
「……結構余裕あるんだな、アンタ」
「そうじゃない」
 ジークは否定した。
「見ておきたいのだ、ジンといったか。彼の、二つ名の由来の象徴を」
「心配すんな」
 コウヤは相手を押し返し、刀を握る手に力を込める。
「俺のも見せてやる」

「……へへ、随分と余裕だなァ。お前。俺には人質がいるんだよ。向こうばっか狙われちゃ、向こうの氷女に負担がかかっちまう」
「そーだな。これ以上冷蔵庫に貸し作るのも嫌だし。とっととお前を潰しちまうか」
 ジンの刀に纏っている炎が、メラメラと音を立てて燃え盛っている。電撃の方も、バチバチといいながら迸っている。
 ジョーカは口の端を歪ませながら、
(馬鹿が。何がAランクの端くれだ。どーせ、おまけでなったような奴だろ。そんなホラ吹きを何人ぶち殺してきたと思ってんだ)
 鎖に繋がれた鎌をブンブンと振り回し、鎌を投げる。
 ジンに向かってではなく、人質に向かってだ。
「アイツ……!」
「心配いらねぇ」
 動こうとするカンナをコウヤの言葉が止める。
 コウヤはジークと刃を交えながら、
「ジンは強ぇからな」
 カンナが言葉の意味を理解するよりも早く、投げられた鎖鎌の鎖が断ち切られる。
「……ッ!?」
 ジョーカは何故こうなったのか分からず、首を傾げている。
 カンナ、コウヤ、リリィ。誰も何かしたようには見えない。だったら誰がやったかもう確定している。
 ジンだ。
 ジョーカは前方を見るが、そこにジンの姿はなかった。
 切羽詰るジョーカは言葉が出ない。
 彼は気付かない。自分の後ろにジンがいることに。
「よぉ。汗すごいぞ。タオルいるか?」
 ジョーカはジンの声に大きく動揺し、一気に後ろへ下がる。
 ジンの刀により一層炎と雷が纏う。
「……言ったよな、俺の二つ名の由来を見せてやるって。ついでに名乗っといてやるよ」
 気付くと、ジンは一気にジョーカとの距離を詰めていた。
「ッ!?」
 最早、ジョーカの口から言葉は出ない。
「『炎雷の走者(えんらいのそうしゃ)』だ。覚えとけ、三流が」
 ジンの二つの刃がジョーカの身体に、バツ印の傷を刻み込んだ。

32竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/10/08(土) 13:27:10 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 ジンに倒され、仰向けに情けなく倒れてるジョーカを見て、キセルの女は溜息をつく。
「まあ、一番最初にやられるとは思ってたけど……人質有効活用しないで負けないでよ」
 リリィは槍を構えながら相手の出方を窺っていた。
 そもそも、相手はキセルを吸ったまま戦おうという素振りを全く見せない。戦う気があるのかと思ってしまうが、リリィが言う前に女が言葉を発する。
「ふー、さてと。じゃあ私達も始めましょうよ」
「……随分とのんびりしてたね。充分吸えた?」
 フッと女は笑みを浮かべて、
「まあね。充分に―――、撒けたわ」
 すると、空気に紛れたと思われた煙が灰色の姿を再び現す。
 その煙は気体の自由な形ではなく、人の形へと変わっていく。煙の人が五人出来上がってしまった。
 その光景にリリィは冷や汗を流して、
「……まさか、今まで何もしなかったのはこのため?」
「そーよ。これの準備に時間が掛かっちゃうから、私は一人では戦わないの」
 煙の人は個性がなく、色も形も大きさも、全てが統一されていた。
 寸胴のようなボディに、180くらいの背、そして、太い腕と脚に、大きな顔。目や鼻や口もない。色鉛筆でただただ灰色を人型に塗っただけのようなものだ。
「これが私の魔法『煙人(スモークパーソン)』。さあ、倒してみなさいな」
 灰色の男は一斉にリリィに襲い掛かる。
 リリィは槍を構え、灰色の人に切りかかるが、刃は無常にも煙を裂いただけで、灰色の人自体にダメージは無い。
(……気体だから意味が無いのか。だったら、私がダメージを受けても大丈夫なんじゃ……?)
 灰色の人がリリィに殴りかかる。
 リリィはダメージは無いだろうと思い、かわさずに、腕に襲い掛かる腕をそのまま受けた。が、
 ぞりぞり、と煙の腕に当たると、身を鋭い刃物で削られたように、痛みが走る。
「……ッ!?」
 リリィは腕を押さえて、灰色の男達から距離を取る。
「アハハハハハ!気体だから、とかって油断した?彼らは攻撃を受けるときは気体に、攻撃するときは身体を気体の刃物に換えるのよ。こーゆーの、煙を有効活用してるのよ」
「……だろーね、デメリットだらけの魔法なんか使わないもんね」
 リリィは深呼吸をする。
 それから、手の中で器用に槍を回す。
 くるくるくるくる、と槍を回しながらリリィは目を閉じ、頃を落ち着かせていた。
「……?」
 キセルの女は眉をひそめ、その光景を眺めていた。
 そして、リリィの槍に僅かに風が渦巻く。
「……貴女、Aランク以上?もしそうなら、二つ名を教えてもらえる?」
「……残念だけど、違うわよ。一人じゃ上手く使えないし」
「だよね」
 リリィが回すたび、渦巻く風が大きくなっていき、槍の風が竜巻を起こしていた。
 女はその光景に絶句し、さらに絶望が彼女を襲う。
 煙の男達が竜巻に吸い込まれるように引き寄せられていった。
「な……!?」
「煙だって気体よ。そりゃ、風に煽られるのも分かるわよね。貴女の口癖で返してあげるわ」
 リリィは跳んで、巨大な竜巻を纏った振り上げる。
「これが、有効活用よ!!」
 そのまま。槍を振り下ろす。
 巨大な竜巻は、キセルの女を叩き潰す。

33竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/10/09(日) 02:55:06 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 コウヤとジークの二人は小手調べ、とでも言うような軽さで刀を交えていた。
 コウヤのは自身の思念魔法(しねんまほう)で生み出した刀、相手のは正真正銘の真剣だ。
 ジークは視界の端に、リリィに敗れたキセルの女を捕らえる。彼女は風圧に圧され、地面にめり込んで動かなくなっている。
 コウヤはフッと笑みを浮かべて、
「いいのかよ」
 言葉にジークは反応する。
 何がだ、と聞き返す前にコウヤが言葉を続ける。
「あの女、名前名乗る前に負けたぞ?」
「……構わんよ。知りたいなら俺が教える」
 そうかい、とコウヤは軽く息を吐く。
 ジークはいつまでも本気を出さないコウヤに苛立ったのか、
「早く本気を出してほしいものだな。それとも、今までが全力などと言わんだろう?」
「まあな。でも、出来るだけ出したくねーんだよなー」
 何故だ、とジークは聞く。
 コウヤは、刀の峰で自分の肩を軽く叩きながら答える。
「まー、あれだ。あまりにも一瞬で倒しちゃうから、かな」
「ほう」
 ジークは眼光を鋭くする。
 淡い光がジークを包み、彼の身体に魔力がみなぎる。
「面白い!そのセリフ、このジークの前でも吐けると言うのか!!」
 眩い光がジークを包む。
 光がはれると、立っていたのは、女だった。
 腰より長めの黒髪に、胸が大きめの侍風の出で立ちの女は、女版ジークと言ったところだった。
 その女をコウヤは見つめて、
「……変化能力(メタモルフォーゼ)か」
「その通り。通常は元の姿の口調になるんだけど、どうやら私は例外みたいなの。どう?貴方に女が斬れるのかしら」
 はー、とコウヤは疲れ果てた溜息を吐く。
 彼は首をある程度鳴らした後、刀の切っ先を女ジークに向ける。
「偽物の女の身体で興奮してんじゃねーぞ、カマ野郎が。要はお前を男と思えばいいだけだ」
「出来るの?今の、私を見て!」
「出来るさ」
 コウヤは笑みを浮かべる。
 女ジークは刀を構えて、走り出す。
「言っておくけど、女のジークは通常より力も、速さも、全てが上なの!アンタがどの程度まで持つか―――」
「ふぅん。じゃあ俺も言っておく」

 次の瞬間、居合いのような速さでコウヤはジークを数箇所斬りつけ、峰でジークを地面に叩きつけていた。

「……ッ!?」
 あまりの速さにジークは自分が何をされたか理解するのに時間が必要だった。
 コウヤは刀を鞘に納めながら、先程の言葉の続きを呟く。
「それがどうした?」


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