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鏡の国、偽りの唄。
1
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2011/06/14(火) 21:31:05 HOST:softbank221085012010.bbtec.net
初めまして。月峰夜凪と申します。小説を投稿させていただくのは今回が初めてなので、はっきり言ってかなりの初心者です。もしかしたら基礎から駄目駄目かもしれません;
ジャンルは恋愛中心だと思いますが、もしかしたら物語が進むにつれて、戦闘等が増えていく可能性があります。
ちなみに視点は変わる事が多く、色々な人物が主人公と言う立場になる予定です。
注意事項を幾つか書かせて頂きます。
注意事項
・感想やアドバイス等はお気軽にどうぞ! しかし、荒らしや中傷、暴言等は一切禁止です。
・グロテスクな描写はなるべく控えますが、もしかすると時々出てくるかもしれません。苦手な方はUターンをお勧めします。
・更新は非常に亀です。むしろ亀より遅いです(( その上、かなりの駄文ですのでご了承ください。
他にも幾つかあるかもしれませんが、最低限の掲示板のマナーは守って下さるよう、ご協力お願いします。
それでは始めに、物語に少しでも馴染んでいただけるように、ちょっとしたプロローグです。プロローグ、と言うより説明と言った方が正しいかもしれません。
舞台はクローン技術が優れている、通称『鏡の街』。その街は、その優れた技術は世界でもトップクラスだった。しかし、正体不明の胎児のみが発症する病気が流行りだした事によって街には新しい命がが生まれなくなり、その上、世界からも隔離されるようになった。
行き場所をなくした街の住人は街から人が絶える事は無いようにと、街のクローン技術を使い、自分達のクローンを生み出した。
こうして街からは住人達が絶えることは無く、その上病気は胎児以外には害が無いとされているため、今でも平和に過ごしている。
これは、そんな街に住む人々による物語。
2
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2011/06/16(木) 21:11:29 HOST:softbank221085012010.bbtec.net
序章 嫌いなもの
病気が街全体に広がりはや幾年。クローンが存在することによって成り立っている街を学校の屋上から見下ろす一人の少年。彼の名は霧崎碧(キリサキ アオイ)。しかし、これは彼の名前ではなく、数十年前にこの世を去った元(オリジナル)の少年の名前だった。そう、彼は霧崎碧という少年の三体目のクローンなのである。
彼は、この街を嫌っている。
人が一人死んでも、何事も無かったかのように代用品(代わり)が生み出される。元が生まれて、死に、彼の代用品が生まれ、死に、また彼の代用品が生まれ、また死に――そして、自分が生まれる。まるで、自分の前のクローンの存在を、さらに言えば元の存在さえも新しいクローンを作ることによって否定しているみたいだ。そうして、やっと成り立つ街。
――これが、霧崎碧から見た自分の大嫌いな街。
しかし、彼は自分の考えを正しいとも、誰かに肯定して貰いたいとも思っておらず、あくまで自分が持っている価値観としか受け取っていない。その上、他のクローンや元の存在を一番否定しているのは自分なのではないか、とすら思えてくる始末。そんな誰かの代わりでしかない自分も、こんな考えしか出来ない自分も、この街と同じくらい大嫌いだった。
「俺の前の二体目も……こんな考え方をしてたのかな」
自虐的に笑うと、碧は溜息混じりに呟く。最近髪を切っていなかったため、伸び放題になった前髪が深海を思わせるディープブルーの目に入る。闇を思わせる漆黒の髪は肩よりも長く伸びており、正直かなり鬱陶しい。さっさと切れば良いだけの話なのだが。
碧は、そっと手で自分の首筋に触れる。丁度触れた先にあるのは、『A.K 03』と刻まれた刺青。
元の名前(イニシャル)と、彼の名前(ナンバー)。
二人の名前。同じなのに、全く違う二人と名前。
クローンには共通して首に元のイニシャルとナンバーが刻まれている。まぁ、この街の人間なら誰にでもあるものなのだから、別に目立つだの珍しいだのは全く無いのだが。
そうして彼は再び溜息をつくと、全てを見下しているような、それでいて自分を何よりも劣っていると考えているような瞳で、大嫌いな街を見下ろす。
皮肉な事に、街は彼の気持ちとは全く関係が無く、今日も平和に時間が過ぎていく。
3
:
名無し
◆sM2Akus1VA
:2011/06/18(土) 07:24:55 HOST:222.70.128.252
初めまして、タイトルに惹かれて小説拝見させて頂きました。名無しと言う者です。
文章力も勿論ですが、先ず初見で世界観や設定の素敵さに惚れ惚れとしてしまいました。
この先、一体どの様な展開になるのか楽しみです。
次の更新を心待ちにしております、頑張って下さい。ではでは短いですがこれにて。
4
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2011/06/18(土) 10:40:57 HOST:softbank221085012010.bbtec.net
>>3
名無し様
素敵な感想ありがとうございます!
正直タイトルを考えるのは時間をかけてしまいました。時間をかけた結果がこんな駄目駄目なものですが^^;
素敵さに惚れ惚れなんて、私などには勿体無いほどのお言葉です><
それに小説を書くのも慣れていないので、文章力はまだまだ初心者ですよ。
まだまだ人物が沢山登場する予定ですので、またお暇がありましたら覗いてもらえると嬉しいです。
5
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2011/06/18(土) 18:43:36 HOST:softbank221085012010.bbtec.net
「よー、アオイ。始業式早々サボりかぁ?」
屋上の入り口から聞こえる、今の碧とは対照的なおどけたような調子の声。
「あー、ジャージか。大体、ここにいる時点でお前もサボりだろ」
振り返る、と言うより首の角度を若干変え、そう答える碧。屋上の入り口の前には一人の男子生徒が立っていた。
金髪にピアスの『不良』と言うものをそのまま絵に描いたような風貌の少年。しかし、不良と付く者にはお決まりである筈の短ランや、着崩したブレザーと言ったものは着ておらず、かわりに中学生時代の鶯色のジャージといった奇妙な格好をしている。ジャージを着ている者に奇妙、と言うのも失礼な話だが。
秋寺敦也(アキデラ アツヤ)。それが彼の名前だ。強いて言うなら、彼もまた秋寺敦也という一人の少年のクローンなのだが。しかし、彼が名前で呼ばれる事は殆ど無く、主な服装である『ジャージ』がもはやあだ名となっている。ちなみに、そのあだ名は不良云々の間ではかなり有名らしい。
「まーなぁ。つーか、校長の長ったらしい話なんざ聞いてられっかよ」
「お前の場合校長に限定しないだろ。単に長話が嫌ってだけじゃないのか」
フッ、と僅かに碧の表情が緩み、笑みがこぼれる。それは、今日初めて彼が見せた笑みにも思えた。
「…………あー」
携帯の時計を見ると、そろそろ始業式が終わる時間になる。フェンス越しに講堂を見下ろすと、そこから次々と人が出て行くのがよく見える。なにせ屋上なのだから。
「じゃ、俺帰るわ。お前はどーすんだ?」
確かに今日は新学期だから教科書は入っていないかもしれないが、それでもペンケース程度は持っている筈なのに、それすらも入っていないような薄っぺらい鞄を片手に持つと、秋寺は碧に問い掛ける。
「俺は残る。今日は本格的な授業がある訳でもないし」
ひらり、と右手を軽く振ると碧はそう答える。それに対し秋寺は「おー、んじゃーな」と明るく言い、屋上から出て行く。
数分経つと、碧も屋上の入り口扉を開け、階段を下りようとするが――
「……え?」
女子生徒が目の前にいた。正しくは、女子生徒が屋上へ上がろうとしていた所を碧が下の階へ行こうと扉を開けたため目が合った、といった所だろうが。
その女子生徒を見て、一瞬、彼は息がつまりそうになった。
すらりとした白くて華奢な手足。
太もも辺りまで伸びるふわふわとした桜色の髪にはオレンジ色の夕陽が当たり、神秘的な色合いを映し出している。
アメジスト色に輝く二重のおっとりとした優しげな瞳。
それを、一言で表すならば――『天使』そのものだった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
主人公や視点が変わる事が多い、と書いていましたが、暫くは主人公は碧で固定かもしれません;
早く主要人物を揃えたいです((
6
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2011/06/20(月) 19:20:33 HOST:softbank221085012010.bbtec.net
その天使のような女子生徒は、クラスメイトに全く興味を持っていなかった碧が唯一名前を覚えていた――いや、知っていたと言った方が正しいだろう。一日一回は必ず聞く名前。彼女はこの街の中でも特に有名な存在だった。
彼女の名は、祀木華魅(マツリギ ハナミ)。スポーツ万能・頭脳明晰・容姿端麗・品行方正な学級委員長で、クラスどころか学校の殆どの生徒から慕われている……と、超人という言葉がもはや安っぽく聞こえてしまう程完璧な人間だった。
そして、彼女はこの街で初めて生まれた『原点』と呼ばれるクローンだった。
数秒間ぼんやりと立ち尽くしていた碧は、ハッと我に返る。
確かに祀木華魅は冗談みたいな程完璧な存在で、前から顔や名前は知っていた筈なのに……何で今更俺は見入ってるんだ、そんな事を考えている自分に呆れているかのように頭に手を当てる。そんな彼を華魅は不思議そうに見つめる。
そもそも何故、こんな真面目な奴がこんな所にいるのだろうか? 今から授業が始まろうとしているというのに――長々と考える事に嫌気が差したのか、碧は頭に当てていた手を下ろし、いつもの冷めた口調で相手に問い掛けてみようとする。
「あ……アンタ、何で此処にいんの? もう授業始まってるだろ?」
しかし、上手く言葉を紡ぐ事が出来なかった。相手が醸し出している神秘的な雰囲気が、無意識のうちに彼を緊張させていたのかもしれない。しかし、そんな彼の様子にまるで気付いていないような華魅は、当たり前のように言う
「それを言うならあなたもだよ? うーん、強いて言うなら……夕陽が見たいなーって」
「…………はぁ?」
授業より夕陽の方が大切なのかよ、とつい間が抜けた声が出てしまう。そう考えているうちに徐々に笑いがこみ上げ、碧は「……プッ」と吹き出してしまった。――珍しかった。夕陽のために授業をサボる完璧超人まではいかないかもしれないが、彼が親しいわけでも無い相手の前で笑う事は。
「ほ、本当に綺麗なんだよ! 嘘だと思うならあなたも付いてきてよ!」
碧が夕陽を見ることを馬鹿にして笑っていると思ったのか、華魅は幼い子供のように頬を膨らませながら彼の手を引き歩き出す。勿論、歩いている先は、彼の向きとは反対の方向……つまり屋上だ。
「って、何で俺まで! 俺はさっきまでここにいたってのに……つーか、付いて来いとか言いながら100%強制だろこれっ……!」
などと言ってみるが、彼としてはそこまで嫌という訳ではなかった。寧ろ、春の日差しのように暖かい彼女手が、何だか心地良い気がした。
夕陽のために授業をサボる相手にも当然驚いたが、何より自分はまだ『心地良い』などと人間らしい事を思えた事に、碧は驚いていた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
今回と次回はちょっと甘めです^^;
もともと恋愛中心の予定だったのに、いつも以上にグダグダ……と言っても、いつもグダグダですが((
7
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2011/06/23(木) 19:31:22 HOST:softbank221085012010.bbtec.net
「ほら、こっちこっち!」
まるで、親に自分の欲しい玩具を見せようとする子供のような……そんな無邪気なかわいらしい様子で碧の手を握って走る華魅。
そして、目的の場所に着いたのか、彼女は足を止める。――そこは、屋上の中でも、先ほど碧がいた場所と全く同じ場所だった。
彼が、自分の大嫌いな街を見下ろしていた場所。しかし、今度はそこは華魅が大好きであろう夕陽を見る場所に変わる。
またここかよ、と心の中だけで碧は愚痴を零してみるが、すぐにそれは、
「…………すげぇ」
という感嘆の声に変わった。
情熱的だが、どこか切なさを感じる、赤、オレンジ、紫が入り混じる夕陽。幾ら数分の差があるとはいえ、先ほど自分が見ていたというのに。その時瞳に映していた世界とは全く別物なのでは、と感じさせるほど見事な夕陽だった。
先ほどの『嫌い』で満ちた碧のネガティブな思考も、どこか遠くに吹き飛ばされた――と言うと都合良く聞こえるかもしれないが、彼にとってはまんざらでもなかった。
「――ね、すっごく綺麗でしょう? 私、ここから見る夕陽、大好きなの」
そう言って、華魅は笑った。
夕陽に負けない程の綺麗な笑顔は、碧の鼓動を自然と速めた。
彼女は「桜は明日ぐらいが満開かな」などと独り言のように呟くと繋いでいた碧の手を離す。俺の手を握っていた事は無意識だったのだろうか、と考えると彼は何となく複雑な気分になった。
「……フゥ、俺先帰るわ」
緊張していたのか、彼は軽く深呼吸をすると言葉を吐き出す。もう少しここにいようか迷ったが、自分が彼女と一緒にいて良いものか――考えた結果、彼は屋上の入り口の扉へと歩き出した。学校をサボって帰る、と言う意味で言ったのだが、華魅は気付いていなかったらしく、特に引き止めるような事は言わなかった。代わりに彼女は、次のような言葉を紡ぎ出した。
「霧崎くん、また明日ね」
まるで、明日もまたサボるかもしれないというのに、再び碧に会えると確信しているような、そんな風に彼には聞こえた。全く、自意識過剰もいい所だ、とでも言うように碧は華魅に背中を向けたまま自虐的に笑う。そして何も言わずに軽く右手を振り、背中越しに別れを告げる。
少々ペースを乱された上、かなり変わった少女だったが、碧に悪い気はしなかった。
ただ、人間の代用品としか思っていなかったクローンでも、あんなに綺麗に笑う事が出来るのか――と彼は思ったのだった。
8
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2011/06/24(金) 23:01:00 HOST:softbank221085012010.bbtec.net
第一章 寮長戦争
双ヶ谷高校学生寮(フタガヤコウコウガクセイリョウ)。碧達が生活している(勿論男女別々の)学生寮である。しかし、学生寮というのは表向きで、実際はクローンのための研究施設と呼ばれるものである。と言っても、研究室は地下にあるため、学生達に支障などは殆ど無く、悠々と過ごすことが出来るのだ。
現在二年生である碧の部屋は208号室。ちなみに秋寺と同室だ。
碧は学生寮の長い廊下を歩く。こんなに長くする必要があるのだろうか、と彼はここを歩く度思う。
「――――――ぁァァああぁアアあぁアアアアアああッ!!」
刹那、凄まじい轟音と共に、寮全体に響いているであろう怒りと憎しみに満ちた叫び声が響く。それも、ここは男子寮でもあるにも拘らず、その叫び声は甲高い女性の声だった。
今はまだ学生達も帰っておらず、学校にいるというのに何故か聞こえる声。しかも女性。
――ああ、またあの人たちか、と碧は明らかに慣れているかのような反応をした。取り合えず彼は、部屋に戻ってさっさと寝てしまおうと廊下の角を曲がる。
「ッ!」
――ふと、碧の頬に風を切る音と同時に、僅かな痛みが走る。それより一瞬後に壁の方からカッ、とダーツ板に矢でも刺さったような音が聞こえた。そこを見てみると、綺麗に刺さったカッターナイフが一本。頬に走った痛みは、カッターナイフが頬を掠めたときのものだった。
「運悪かったら目に入って失明だぞ、これ……」
碧は手の甲で頬から僅かに流れている血を拭う。たいした怪我はしなかったとはいえ、普通の人間なら驚いて悲鳴を上げたりしてもおかしくない状況だが、彼は違った。むしろ、彼がここまで冷静なのも、傍から見ればかなり異常なのかもしれない。何事も無かったかのように無言で壁に刺さったカッターナイフを引き抜く。
「――寮長」
碧はカッターナイフが飛んできた方向を見ながら言う。返事の変わりに再び凶器や危険物が飛んでくるかもしれないが……まぁ、その時はその時だ、と彼は刃をしまったカッターナイフを床に放り投げた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
甘めかと思ったら今度は戦闘…なんとも忙しい小説((
戦争やら戦闘などと言っても、そこまで本格的にはならないかもしれませんが;
9
:
霧月 蓮_〆
◆REN/KP3zUk
:2011/06/24(金) 23:15:54 HOST:i121-113-56-162.s04.a001.ap.plala.or.jp
こちらの小説にコメントをいただきながら、感想を書きに来るのが遅れた事、申し訳なく思います。
描写や世界観等がしっかりしていて、とても読みやすかったです。呼んでいくうちにどんどん引き込まれて一気に読んでしまいました。
胎児だけに発症する病気……実に恐ろしいです。実際そんなことがあったら……なんて言う風に想像してしまいました。
これからどうなるのか、楽しみにしながら読ませていただきます。無理をなさらない程度に頑張ってくださいね
10
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2011/06/24(金) 23:29:02 HOST:softbank221085012010.bbtec.net
>>9
霧月 蓮様
感想ありがとうございます^^
いえいえ、感想を頂けるだけで光栄ですよ…!
世界観や描写はまだまだ自己満レベルなので随分と堕クォリティですが、そう言って貰えるととても嬉しいです。
ただ、クローンばかりにこだわってしまって、病気という設定がちゃんと生かしきれるかどうか心配だったりしてます;
期待に応えられるよう頑張りますので、またお暇がありましたら覗いて見てください^^ お互い頑張りましょう^^
11
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2011/06/25(土) 10:10:12 HOST:softbank221085012010.bbtec.net
「やー、おかえり、アオイくん。早かったねぇ」
カッターナイフが飛んできた方向から、一人の背の高い細身の男子生徒がこちらへ歩いてくる。
陽の光を思わせるオレンジ色の髪に、まるで全てを見透かされているような――そんな錯覚を覚えてしまう切れ長の深緑色の瞳。彼の名は晴間輝(ハレマ テル)。学年は碧より一つ上で、ここ男子寮の寮長である。
ちなみに彼の元は、天気が『晴れ』である日にちや時間帯を正確に予測出来るという特異体質の持ち主で、クローンである彼もその体質を引き継いでいるらしい。いわゆる、『晴れ』のみ予測出来る気象レーダーのようなものだ、と彼は称している。
碧が「気象レーダーは湿度や風向やらも観測できるらしいですよ」と指摘した時、軽く流されたというのは余談だが。
「そういうあなたも随分早いじゃないっすか、晴間さん」
「いやぁ、『彼女』がずっと僕に会いたがっていたみたいで――」
と、輝の言葉はそこで途切れた。
何故なら、彼が歩いてきた方向から、今度はカッターナイフではなく、掃除用のモップが飛んできたからだ。モップは輝の脇腹に命中すると、彼は向こうの壁まで吹き飛ばされていった。
「寝言は寝て言え。それか二度と寝言を言えないように、その口にタワシでも突っ込んでやってもいいんだぞ?」
先程の叫び声と同じ女性の声。そこには金色のジト目に、あまり髪型にこだわっていないような散切りボブカットの少女。彼女の両手に握られている、従来の物より長めに作られたデッキブラシがやたらと目を引く。
輝は服に付いた埃を手で払うと、何事も無かったかのように立ち上がる。脇腹にモップが飛んできたというのに。
「それは困るなぁ……結構痛そうだし」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
あ、ちなみ舞台が『鏡の街』だというのに、題名が『鏡の国』となっているのは誤字ではありません。
恐らく疑問を持った方も少なからずおられると思ったので。これ最初に言うべきでしたね;
12
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/06/26(日) 03:52:20 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
一気に読まさせてもらいました!
設定や、文章力が高く、続きがとても気になります!
これからも頑張ってくださいね!
>>月峰 夜凪さん
13
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2011/06/26(日) 09:37:02 HOST:softbank221085012010.bbtec.net
>>12
竜野翔太様
はわわ、感想ありがとうございます!
いえ、設定も文章力もまだまだですよ。分かり難いところがありましたらどんどん指摘しちゃってください><
はい! お互い頑張りましょう^^
14
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2011/06/26(日) 14:10:10 HOST:softbank221085012010.bbtec.net
「あんたに拒否権は無いよ。だから大人しくあたしに殺されろ」
デッキブラシを片手で器用に回しながら、少女――雨空潤(アマゾラ ウルム)は輝を睨む。ちなみに彼女は女子寮の寮長だ。
彼女は輝と同じく特異体質の持ち主だが、『晴れ』を予測できる彼とは違い、彼女の場合は『雨』を予測出来るというものだった。
自分と正反対の体質を持ち、いちいち気に障る言動を見せる輝を、彼女はずっと――ましてや彼女の元も彼の事を嫌っていた。ちなみに、他にも嫌っている理由があるらしいのだが、挙げるとキリが無いらしい。
しかし、輝からすると自分と正反対の体質を持つ潤は、何より興味深い存在で、幾ら彼女から嫌われようとも全く気にしていない。
そのため、こういった関係も彼女の腹を立たせる原因の一つだった。
「じゃあ、さっきなんで疑問系だったのさ。それに、僕は君より先に死ぬ気は無いよ」
「あんたに死ぬ気は無くても、あたしに殺す気は充分過ぎるほどあるね。……霧崎、あんたも異論は無いだろ?」
潤は碧に話を振る。今のうちに部屋に帰ろう、と思っていた彼は取り合えず「……遊ぶなら消灯の時間まででお願いしますよ」と答えておいた。
「……ハイ、霧崎からも同意あり」
潤はデッキブラシの持ち手……つまり、刷毛(はけ)とは反対の部分を、輝の首の前に突き出す。
「はは、今のって潤ちゃんの中では同意に入るのか。やっぱり君は面白いなぁ」
潤の殺意に満ちた言葉に全く動じていない上、皮肉交じりに輝は笑う。さすがにこの空気でこんな事言われたらを誰でも腹が立つだろう、と碧は呆れたような表情を浮かべるが、案の定、潤は一番腹を立てていた。
刹那、彼女はデッキブラシを握る力を強めたと思うと、それを輝の顔面めがけて叩き込む。
しかし、デッキブラシは彼に命中することは無く、フローリングに当たる音を響かせた。
野球部に行った方がいいのでは、と碧が思うほど凄まじい速さだったにもかかわらず、輝はあっさりそれを避けてみせたのだ。
チッ、と舌打ちする潤を見て彼は心底楽しそうに笑みを浮かべると、デッキブラシに対抗する武器――ブレザーの裏ポケットに付けていたヘアピンを一本引き抜く。床には先ほど碧が放り投げたカッターナイフがあるというのに、あえてそれを使わない所から、「君にはこれだけで充分だ」と言っているにも見えた。
二人の戦いの行方も気になるが、さっさとこの場から離れるというのが身のためだろう……そう考えた碧は、今更だが部屋に帰ることにした。
――――予想通り、寮長同士の戦争は消灯時間まで終わらなかった。
15
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2011/06/29(水) 22:05:14 HOST:softbank221085012010.bbtec.net
第一章の続編、と言うか1.5章ぐらいに当たると思います((
三人称なので語り手ではありませんが、今回主人公に当たるのは秋寺です。正直ストーリーには殆ど関係ない気が;
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
彼、ジャージこと秋寺は、『鏡の街』と呼ばれている自分の街をふらふらと彷徨っていた。
気が付くとそこは女子寮から十数メートル程離れた場所で、時計を見ると十一時過ぎ。とっくに消灯の時間は過ぎている。特に何も気にしていないかのように時計から視線を外すと、何気なく夜空を見上げる。一面雲が広がっていて、月どころか、星さえも見えない。いつ雨が降ってもおかしくない状況だ。
「…………アツヤ?」
聞き覚えのある少女の声。そもそも、彼の事を『ジャージ』というあだ名ではなく『アツヤ』と名前で呼ぶ者は一人しか思い当たらない。
「潤……どーした、こんな所で」
彼が後ろを振り返ると、そこには中学校時代からの旧友、雨空潤の姿があった。
中学校時代――秋寺が碧に出会った時より少し前。彼が最強の不良と謳われ、毎日喧嘩に明け暮れていた頃。そして、後悔ばかりだったあの頃。その時から彼の良き理解者だった。
「別に。男子寮から帰る途中に、あんたがいたから話しかけただけだ」
恐らく潤は、十時半の消灯の時間まで男子寮の寮長――晴間輝と戦っていたのだろう。そんな事を考えていると、彼女は「つーかなんだ、とっくに消灯の時間過ぎてるぞ。あたしは寮長だから問題無いが、あんたの場合は問題大有りだろ?」と呆れたように言った。言い方こそはぶっきら棒だが、輝と戦っていた時の荒々しい態度はまるでなく、口調も穏やかで優しいものだった。
秋寺は「寮の規則はそこまで厳しくねーよ。門限を破ったら寮長に軽く皮肉られるだけだ」と大人びた容姿でも不思議と子供っぽく見せる、そんな笑顔で答える。『皮肉られるだけ』と言っているものの、正直輝を嫌っている者からすれば耐えられない話だったりするのだが。ちなみに、秋寺も潤程ではないが、輝の事は苦手であるらしい。
「あんたも早く帰ったほうが言い。……あと三分もすれば雨が降る」
彼女は、雲で覆われた灰色の空を見上げながらそう言うと、秋寺に紺色の折り畳み傘を投げる。彼がそれを片手で受け止めると、彼女は「まぁ、そこまで大きくはないが……雨をしのぐくらいなら充分だ」と言った。要するに『使え』という事だろう。口下手な彼女らしい言い方だった。
「サンキュ。ん、送るぜ」
「いーよ、すぐそこだから。じゃああたしは行くよ」
潤は秋寺に別れの言葉を告げると、さっさと歩き出す。「おう、気付けろよ」とだけ言って秋寺は手を振ると、彼は彼女とは逆方向に歩き出す。
……明日も雨が降るのだろうか。そんな事を思いながら、彼は――――
16
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2011/07/02(土) 19:27:00 HOST:softbank221085012010.bbtec.net
二章 まちのおと
「マジかよ!?」
学校に行く途中、つまり通学路にて、秋寺は驚いたように声を上げた。驚き見開いた目で碧を凝視する秋寺に彼は「……ここでフィクション混ぜてどーすんだよ」とさりげなく突っ込みを入れる。
恐らく秋寺がこのような反応をしたのは、前日碧が華魅と屋上で会い、話をした、と言ったのが原因だろう。
「畜生……少なくともアオイなんかよりは先に彼女作りたかったぜ……」
秋寺は片手で額を押さえると、呪文でも唱えるかのように呟く。暫くその状態が続き碧も暇になってきたのか、彼は秋寺の膝の裏に軽く蹴りを入れる。蹴り、と言ってもそこまで力は込めていないため、押す、と言った方が正しいだろう。膝の裏を『押された』秋寺は「うぉあ!?」と奇妙な言葉と共に、バランスを崩し、ガクンと地面に座り込む。それは俗にヒザカックンと呼ばれるものに近いものだった。
「アオイてめぇぇッ! 何すんだよこのリア充が! お前に彼女いない奴の気持ちなんてわかんねーだろこの野郎!」
「おい駄目ジャージ、話が随分飛躍してるぞ。祀木とは少し話しただけだし、それに何が言いたいのか全然伝わってこねぇ」
地面に座り込んでいる秋寺を放置し、碧は先へ行こうとする。後ろから「駄目ジャージって何だぁぁッ!?」などと叫び声が聞こえるが、碧は完全無視。
「――そろそろ時間か」
碧は携帯の時計を見ると、そう呟く。
すると、僅かだが、どこからともなく音楽が聴こえた。
部類で言うとロックだろう。しかし、ヴァイオリンの音のせいなのか、その旋律は激しく、それでいて儚げな印象を持たせるものだった。
――――音は響き、重なり、街の一部となっていく。
17
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2011/07/09(土) 08:36:57 HOST:softbank221085012010.bbtec.net
ちょっとだけ補足です。小説の中で何度も出てくる『元』という単語は『オリジナル』と貰えればな、と思います^^;
毎回説明多いなぁ…((
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
街の中心……そこでは、いわゆる『路上ライブ』と呼ばれるものが行われていた。
『Stargazer(スターゲイザー)』という、街の中でもかなり有名なロックバンド。音楽にあまり興味が無かった碧でも、このバンドの曲には惹かれるものが多いらしい。
その中でも特に目を惹く、若干似た顔立ちのエレキギターを弾いている少年と少女。
少年の名は天照天空(アマテラス マオ)。銀色に近い薄紫色の髪は肩よりも短く、藍色の瞳からは真剣さがよく伝わってくる。とは言っても、右目は眼帯で隠れているため、左目しか見えないのだが。
もう一人の少女の名は海神深海(ワタツミ ミカ)。少年と同じ銀色に近い薄紫色の髪を腰まで伸ばしており、白いリボンでツインテールにしている。無邪気な藍色の瞳からは楽しさがよく伝わってくるが、左目に眼帯を付けているため、彼女の方は右目しか確認できない。お互いはまるで、左右非対称(アシンメトリー)を意識しているようだった。
その何とも仰々しい名前の二人は兄妹にも見えるが、元は姉弟だったらしい。と言っても、ナンバーや、彼らの前のクローンの寿命が関係するのか、この街には家族らしい家族は存在しない。有名な会社の社長だとか、特別な事をした人間以外のクローンは、元や前のクローンの記憶は共有していない。ちなみに、本来Stargazerのメンバーも記憶の共有はされないはずだったが、住民達の支持によって、元からクローンまでの記憶も経験も全て引き継いでいるらしい。
何故姉弟なのに苗字が違うのか――碧は疑問に思った事があったが、元の家族関係に関係があるとの事。詳しい事は碧は詮索しようとは思っていない。
曲が終わる。今日の演奏はここまでのようだった。
いっせいに湧き上がる拍手と歓声。気が付くと碧の周りは、先程聴きに来た時よりも倍以上の人がいた。流石に人だかりに長時間いるのは気が引けたのか、彼はさっさとその場を離れようとする。そういえばジャージはどこに行ったのだろうか、などと考えながら、周りを見回す。――ふと、彼は深海と目が合う。
「……やば」
碧は呟いた。何故なら――
「アオイせーんぱああああいっ!」
と、深海はそう叫びながら、勢い良く彼に抱きついて来たからだ。
遅かったか、と彼は頭を抱える。当然、聴衆は「ええええ!?」という表情で唖然としている。
……その中に秋寺がいた事に碧が気付いたのは、抱きつかれた後の事だった。
18
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2011/07/09(土) 14:06:12 HOST:softbank221085012010.bbtec.net
>>17
(/補足の所、少し訂正です;
小説の中で何度も出てくる『元』という単語は『オリジナル』と読んで貰えればな、と思います^^;
19
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2011/07/20(水) 16:15:03 HOST:softbank221085012006.bbtec.net
「アオイ先輩来てくれたんだね! うれしーなッ!」
碧に抱きついたまま、にぱり、と子供のように無邪気に笑ってみせる深海。彼女の身長は135センチメートルと言った所で、幾ら碧が男子の中でもそこまで背が高くない方とはいえ、30センチメートル以上の身長差がある。それを見た秋寺は、
「彼女二人作った上にロリコン……だと!?」
「ねーよ。つーかお前、何でいて欲しくない時にいるんだ」
いや、まずいて欲しいなどと思ったことなんてあっただろうか……碧は考え込むように顎に手をやる。そんな碧の考えを察したのかどうかは判らないが、秋寺は、
「うあああ! お前なんか嫌いだあああッ! つーか俺のダチにリア充がいる筈ねーんだよォォォ!」
などと、痛々しい叫びを残して走り去っていった。と言うより、発想がおかしかった。色々と。
「おいこら馬鹿ジャージ! 俺がいつお前のダチになったんだ!」
しかし、碧の反応は更におかしかった。もちろん、言っている事は本音ではない……はず。
それに、あの秋寺の事だから、余計な事を人に言いふらすかもしれない。それは碧にとって少々……いや、かなり厄介な事になる……とはいえ、全部秋寺の思い込みなのだが。
碧はまだ自分から離れていない深海に目をやる。さっさと弁解しに行きたい所だが、この状況でどうしろというのか、とでも言うように彼は溜息をついた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
長くなりそうなので区切りますね; 上手い事まとめれるようになりたい…;
20
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2011/07/23(土) 09:37:50 HOST:softbank221085012006.bbtec.net
「……姉さん、そろそろ離れときなよ」
先ほどまで黙って碧達の様子を見ていた深海の弟、天空はグイ、と姉の服の襟を引っ張り、彼女を碧から引き離した。
そして、碧に目をやると、深海に対する穏やかな口調とは180度異なる、思い切り見下したような口調で、
「もう一匹の所に行ってさっさと弁解してこい。姉さんが貴様みたいな愚民と付き合ってるとか思われたらどうする気だ」
と言った。ドスがきいた声に、180センチメートルは余裕で超えているであろう長身。おまけに、厨二じみた口調とは裏腹に、年齢は20代前半といった所で、仮にも碧より年上だ。やたら喧嘩腰になるのは気が引けたのか、碧は突っかかろうとはしない。
「……アンタに言われなくても、そうするに決まってるだろ」
腹立たしい気持ちを限界まで抑えた結果、どこか斬られ役のようなセリフになってしまった。そんな自分に対し、少しだけ情けないと感じつつも、碧はその場から去ったのだった。
「なんつーか……この街にまともな奴はいないのか?」
深海達と別れた後、碧は一人空を見上げ、溜息と共に言葉を吐く。自分が何よりも嫌ってる街にこんな事を思うのはおかしな話だ。自分だって街を嫌って、何より嫌って、歪んだ価値観を押し付けている――そんな奴がまともだと言えるのだろうか? 考えれば考えるほど、碧は自分が歪んでいくのではないか、という不安に駆り立てられた。
自分は歪んでなどいない。彼はそう信じている。元や前のクローンの存在を何より信じ、大切にしているからだ。
――碧の視界に、鶯色のジャージと鮮やかな金髪が映る。もしかしてこちらに存在を伝えているのではないか、と思うほど判りやすい。距離はあるが、少し走れば辿りつける距離だった。
……ジャージの奴、後で一発殴っておこうか、などと考えながら、碧は――――
21
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2011/07/27(水) 13:52:38 HOST:softbank221085012009.bbtec.net
第三章 満開の桜
「……で、両手に花ってのは俺の勘違いっつーことか?」
あれから数時間後、碧は秋寺に丁寧な説明と共に右ストレートをお見舞いしてやった。そして、食堂で昼食を買い屋上へ向かう途中に、秋寺は碧にムスッとした顔で最終確認でもするかのように尋ねた。何だいきなり、とでも言いたそうな表情をすると、碧は「……さっきからそう言ってるだろ?」と答えた。
「それで、お前が可哀相な奴って事はよく分かっ……あ、嘘です冗談ですよアオイさんだからその力強く握ってる拳を下ろしてくださいよおおおっ!?」
慌ててぶんぶんと手を振って弁解する秋寺。それは元最強の不良とは思えないような態度だった。碧は何事も無かったかのように握っていた拳を下ろすと、何気なく窓から中庭を見下ろす。彼の目に映ったのは――――
「……祀木?」
無意識に、碧は彼女の名前を呟いていた。優しげな笑顔で華魅は友人であろう人々の話を聞いていた。
――しかし、碧は妙な事に気付いた。
彼女は、会話というものをしていないのだ。
頷き、相槌を打っているだけで、後は周囲の人間が勝手に喋っているだけ――少なくとも、碧にはそう見えた。それでも、彼女の周りの人々は喋り続ける。そんな様子を見ながら碧は「……考え過ぎか?」と僅かに首を傾げる。
「アオイ? 何やってんだ?」
碧は無意識のうちに立ち止まっていたため、彼は秋寺より数歩後ろにいた。そんな碧を不思議そうに見ると、秋寺はそう問い掛けた。
「ああ、何でもない。外にUFO飛んでただけだ」
「ま、マジか! どこに!?」
そんな事を叫びながら窓から身を乗り出し、空に浮かんでいる(はずもない)UFOを探す秋寺。案の定、そん奇妙な行動を取っている彼に生徒達の視線が一気に集まる。しかし、彼はそんな事には全く気付いていないのか、UFOを探すことに必死である。
……いや、今時の子供でも騙される奴いねーだろ、などと碧は思いながら、秋寺をその場に放置し、一人屋上へ向かうのだった。
22
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2011/07/30(土) 15:33:35 HOST:softbank221085012009.bbtec.net
屋上の扉の前で碧は立ち止まり、振り返って秋寺が来ているか確認する。しかし、それらしい姿は無く、碧は「……いつまで探してんだか」と呆れたように呟き、屋上の扉を開く。
キィ、という音と共に扉が開いたと思うと、そこには既に先客がいた。膝まで伸びるやや紫色に近い黒髪。髪と同じ色の冷めたようにも見えるその瞳は、どこか碧と近いものがあった。
先客の少女――神樹 歌留多(コダマ カルタ)は扉の開く音に気付き、振り返る。
「一人で昼食なんて珍しいわね……ジャージの彼は?」
サラリ、と髪を風になびかせ、歌留多は碧に問い掛ける。ジャージの彼、と聞くだけで碧は秋寺と分かってしまう。いや、彼を知っている者なら誰でもそう聞けば分かるだろう。碧は彼女の隣まで行き、フェンスに背中を預けると、別に自分が一人でいる事など珍しくも何ともないだろう、靴下ではないのだから、などと思いながら、「……UFO探してると思う」と簡潔(しかし不思議な事に合っている)に答えた。
「そう、それは楽しそうね」
まるで何の疑問も抱いていないような、むしろ秋寺がそんな事をするのは当たり前とでも言うような、そんな風に彼女は言う。先ほどまでの無表情が、ほんの僅かだが笑顔に変わった気がした。
――教室にいる時の彼女は無表情だ。
これは、碧が教室にいる彼女を見る際にいつも思っていた事だ。自分やジャージと話している時は僅かながらも表情の変化が見える――理由は分からないが、彼にはそんな気がしていた。碧は歌留多の名前を呼ぶと彼女は、何かしら? と答える代わりに若干首を傾げてみせる。
「――今年のクラスは楽しめそうか?」
何とも気を使っているかのようなセリフだが、言った碧本人は自覚がない。周囲に何も興味を持っていないように見えるが実際は結構なお人よし、というのが霧崎碧という人間だった。しかし、勿論これにも自覚はない。
「去年と同じよ。何もかも」
即答。考える間などないほどの速さ。去年歌留多と同じクラスだった碧には分かった。『去年と同じ』という言葉の意味が。
23
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2011/07/31(日) 14:42:27 HOST:softbank221085012009.bbtec.net
なぜなら、今年の碧達のクラスは去年同じクラスだった女子が多いからだ。と言っても、碧が名前を覚えているのはその中でもほんの僅かなのだが。
――――歌留多の話はこうだった。
碧達のクラスの女子は、やたらと華魅の『親友』という枠を狙っている。なぜなら、完璧すぎる『祀木 華魅』の隣にいるだけで自分の価値が上がるからだ。その上、彼女は『原点』なのだから、街でもかなり有名な存在だ。彼女の『親友』である事は、大げさに言えばとある国の国民的アイドルと『親友』という関係を持っている事に殆ど等しいのだ。
しかし、あの優れた容姿の持ち主が隣にいるとなれば、彼氏を取られるだの何だの、と言った問題が起きそうなのだが、実際はそうでもないらしい。彼女は街の男性達からは手の届かない高嶺の花、という印象を持たれているのため、自然と隣にいる――いわゆる『親友』の枠にいる者に注目が集まるのだから。隣にいる事で自分の価値が上がり、彼氏を取られる事もない。しかしそれは、祀木 華魅の親友などではない、単に利用しているだけなのだ。
「……こんな馬鹿みたいな関係で成り立っている教室、嫌にならない訳がないわ」
歌留多はフェンスを握る手に力を込める。彼女の心底うんざりしたような目は、碧が街を見ている時の目と近い……と言うより同じようなものだった。碧が女子では無いとはいえ、クラスの事情を知らなかった事も事実。正直、何でもっと早く知ろうとしなかったのか――後悔が心の中に渦巻いた。ただ、それと同時に幾つか予想が頭に浮かんだ。
もし、歌留多が――祀木 華魅の次に優秀だと言われている歌留多が、この街の最初のクローン、『原点』だったなら。傍から見れば可笑しな行動をとっている秋寺が『原点』だったなら。
恐らく、『原点』という言葉に惹かれ、クラスの女子生徒たちは歌留多や秋寺に群がるだろう。要は、『原点』という事実にしか興味が無く、それ以外はどうでもいいのだ。
「女子の事はわかんねーけどさ……そこまでするかよ、普通」
「しないわよ、普通」
あっさりと答えてみせる歌留多。彼女話をしたばかりの頃は、『変わった奴だ』と碧は思っていたのだが、恐らくこれが『普通』なのだろう。本当に変わった、と言うより異常なのはクラスの女子の方だ。
「……さて、問題よ、アオイくん」
重苦しい空気に嫌気が差したのか、歌留多は話題を変える。先ほどの暗く沈んだ表情は無く、新しい悪戯を思いついた子供のような表情になっていた。声のトーンも上がったかと思うと、右手の人差し指を碧に向けた。おいおい人を指差すなよ、と言いたくなるような空気だが、碧は気にした様子も無く「……何だ?」とだけ言う。
桜の花弁が舞う屋上で――彼女はこんな事を口にした
24
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2011/07/31(日) 14:48:08 HOST:softbank221085012009.bbtec.net
なぜなら、今年の碧達のクラスは去年同じクラスだった女子が多いからだ。と言っても、碧が名前を覚えているのはその中でもほんの僅かなのだが。
――――歌留多の話はこうだった。
碧達のクラスの女子は、やたらと華魅の『親友』という枠を狙っている。なぜなら、完璧すぎる『祀木 華魅』の隣にいるだけで自分の価値が上がるからだ。その上、彼女は『原点』なのだから、街でもかなり有名な存在だ。彼女の『親友』である事は、大げさに言えばとある国の国民的アイドルと『親友』という関係を持っている事に殆ど等しいのだ。
しかし、あの優れた容姿の持ち主が隣にいるとなれば、彼氏を取られるだの何だの、と言った問題が起きそうなのだが、実際はそうでもないらしい。彼女は街の男性達からは手の届かない高嶺の花、という印象を持たれているのため、自然と隣にいる――いわゆる『親友』の枠にいる者に注目が集まるのだから。隣にいる事で自分の価値が上がり、彼氏を取られる事もない。しかしそれは、祀木 華魅の親友などではない、単に利用しているだけなのだ。
「……こんな馬鹿みたいな関係で成り立っている教室、嫌にならない訳がないわ」
歌留多はフェンスを握る手に力を込める。彼女の心底うんざりしたような目は、碧が街を見ている時の目と近い……と言うより同じようなものだった。碧が女子では無いとはいえ、クラスの事情を知らなかった事も事実。正直、何でもっと早く知ろうとしなかったのか――後悔が心の中に渦巻いた。ただ、それと同時に幾つか予想が頭に浮かんだ。
もし、歌留多が――祀木 華魅の次に優秀だと言われている歌留多が、この街の最初のクローン、『原点』だったなら。傍から見れば可笑しな行動をとっている秋寺が『原点』だったなら。
恐らく、『原点』という言葉に惹かれ、クラスの女子生徒たちは歌留多や秋寺に群がるだろう。要は、『原点』という事実にしか興味が無く、それ以外はどうでもいいのだ。
「女子の事はわかんねーけどさ……そこまでするかよ、普通」
「しないわよ、普通」
あっさりと答えてみせる歌留多。彼女話をしたばかりの頃は、『変わった奴だ』と碧は思っていたのだが、恐らくこれが『普通』なのだろう。本当に変わった、と言うより異常なのはクラスの女子の方だ。
「……さて、問題よ、アオイくん」
重苦しい空気に嫌気が差したのか、歌留多は話題を変える。先ほどの暗く沈んだ表情は無く、新しい悪戯を思いついた子供のような表情になっていた。声のトーンも上がったかと思うと、右手の人差し指を碧に向けた。おいおい人を指差すなよ、と言いたくなるような空気だが、碧は気にした様子も無く「……何だ?」とだけ言う。
桜の花弁が舞う屋上で――彼女はこんな事を口にした
「桜はどのくらいまで咲くと、満開と言われるでしょう?」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
少しミスってしまったので投稿しなおしorz
関係ないけどジャージ来るの遅い((
25
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2011/08/05(金) 13:50:39 HOST:softbank221085012009.bbtec.net
「……いや、俺は知らんな」
服に付いた桜の花弁を取ると、碧はそう答えた。風と共に花弁は碧の指から離れ、宙へと舞う。そんな様子を見ながら歌留多は「知ってるとか知らないって言う前に予想ぐらい立ててくれてもいいんじゃないかしら。 90%とか100%とか」とどこか不服そうに言った。それなら、とでも言うように「じゃあ、100%?」と碧は首を傾げた。
「残念、不正解よ。一般的には80%……八分咲きね。つまり今日よ」
スッ、と歌留多は向こう側を指差す。碧が彼女の指差した方向を見てみると、見事なまでに咲き誇る薄紅色の桜並木が瞳に映った。――ああ、たしか昨日祀木が言っていたな、今日辺りが満開だと。そんな事を考えながら、碧は桜を見つめる。と彼は歌留多の方へ向き直ると「お前なら花言葉とかも知ってそうだよな」ひとりごとのように呟いた。そんな女子が知りたがるような事をいつも冷めている彼が言ったのが意外だったのか、彼女は驚いたように目を一瞬見開くと、クスリ、と微かに笑みを零した。実際碧はそこまで知りたい訳では無かっただろう。ただ、完全でありながらも、どこか儚げな印象を与える桜が、華魅と妙に似ているように感じたのだ。何故こんな事を思うのか彼には分からないが、昨日の彼女の優しく綺麗な笑顔が忘れられなかった。
「ええ。ただ、種類は覚えていないのだけれど、取り合えず覚えているのなら……『優れた美人』『しとやか』『清純』と言った所かしら」
驚くほど彼女に当てはまっていた。いや、碧が知っているのは彼女のほんの一部に過ぎないのだろうが、それに見事に当てはまったいた。すると歌留多が何か思い出したらしく、「ああ、後もう一つあったわね」と続けた。
「『あなたにほほえむ』、ね」
一瞬、碧は時間が止まったような錯覚を覚えた。確かに歌留多が最初に言った花言葉も当てはまっていたが、何よりこれが一番当てはまっている気がしたのだ。
目を閉じると思い浮かぶ、華魅の笑顔。俺の目はカメラか何かか? そもそも俺ストーカーじゃないですか? と誰かに聞きたくなるほどはっきりと覚えている彼女の笑顔。
「……全く、馬鹿げてるな」
碧は頭に手を当てると、はは、と自虐的に笑う。
どうやら碧は、祀木 華魅の事を――――になってしまったようだった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
理由があってPCが使えるのは今日までなので、明日から暫く更新できないかと思います。
いつになるかはわかりませんが、また使えるようになったら戻ってくる予定です。ご迷惑をお掛けして申し訳ございません。
そして、ここまで読んでくださった方々、本当にありがとうございました。
26
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2011/08/09(火) 14:36:39 HOST:softbank221085012009.bbtec.net
えっと、PCの使用許可が下りたので、今日から再び更新していこうと思います。
と言ってもPCが使用禁止になる日が延期されただけだと思うので、もしかしたら、ある日突然フッといなくなる事もあるかもしれません;
あと、ここから暫く登場人物の誰かが語り手になる事が多くなります。時々三人称に戻る事もあるかもしれませんが^^;
何から何まで自分の勝手な都合で申し訳ありませんorz それでは、引き続き『鏡の国、偽りの唄』を楽しんで頂ければ幸いです^^
27
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2011/08/10(水) 17:44:52 HOST:softbank221085012009.bbtec.net
第四章 外の景色 −霧崎 碧−
学生寮の208号室、つまり俺とジャージの部屋の扉を開け、帰宅。そこにはジャージの姿は無かった。昼飯の時、歌留多が俺と二人でさっさと食っていた事がショックだったのか、「お前なんか爆発すればいいんだよオオォォ!!」という意味不明な言葉を残して、授業も出ずにさっさと一人で帰ってしまった。
……と、思っていたのだが、まだ帰っていないらしい。あいつの事だ、ナンパにでも行ったのだろう、成功率は0%と分かりながらも。丁度良い所に睡魔も来たものだから、俺はベッド倒れこむと目を閉じ――――
「――――のわああぁぁぁあああぁぁああ!?」
廊下の方から響く大声。……目が覚めた。ジャージの声だ、間違いなく。ジャージ(仮定)の声の次は、デッキブラシがフローリングがぶつかるような音が聞こえた。これは潤さんか。という事は、いつもの戦争にジャージが巻き込まれたのだろう。まぁ、あいつは死ぬ事は無いだろうから放置でいいか。
眠気も飛んだ事だし、気晴らしにコンビニでも行くか、と俺は体を起こし部屋の扉を開けると、潤さんの怒りに満ちた叫び声やら、晴間さんの馬鹿にしたような笑い声が耳に入ってきた。
「……なんつーか、あの人達飽きないのか」
溜息を吐くと、何気なくジャージ(仮定)の叫び声が聞こえた方向を見てみる。無造作に床にばら撒かれたような物もあれば、壁に刺さっている物もある、黒く細長いヘアピン。恐らく晴間さんがいつも使っているヘアピンだろう。壁にはそれ以外にもにも鋏、カッターナイフ、コンパスなど色々な物が刺さっていた。
ふと、足元から呻き声が聞こえた。嫌と言うほどよく知っている聞き慣れた声だったが、俺は無視して寮の玄関へ向かい――
「おいこらアオイぃぃいぃ!! 何華麗にスルーしてんだよおぉおッ!?」
俺の足元で倒れている声の主(言うまでもなくジャージだが)にいきなり叫ばれたと思ったら、今度は右足首をがっしりと掴まれた。……振り解けない。恐らく俺の力が弱いという訳ではなく、単にジャージの力が強いだけだと思う。早くコンビニで週刊誌の立ち読みにをしたいというのに。そんな修羅場から生還したジャージに俺は「ああ、ジャージ。良かったな、残念ながら無事生還しやがってこの野郎」と日本語もへったくれもない棒読みで祝福してやった。
「全然嬉しくねーよ!? つーか何、俺さっきので死ぬべきだったの!?」
「いや、別に喜ばそうとしてた訳じゃなかったからな。大体お前、服汚れてるだけで怪我はしてないんだろ」
俺がそう言い終わると、ジャージはぴょこん、と立ち上がると「やっぱバレてたか〜」と悪戯が見つかった子供のようにぺろりと舌を出す。やめろ、全米が吐く。
それもそのはず、元伝説の不良と謳われていたこいつが簡単に死ぬ訳が無い。じゃあさっきの死んだフリもどきは一体何だったんだ、と聞きたいところだが、恐らく遊び心によるものだろう。全く、どこまでも子供なやつだ。身長は俺よりも随分高いというのに(単に俺が低いだけなのかもしれないが)。俺は「じゃあ俺そろそろ行くから。門限までには帰ると思う」とだけ言い残して、玄関の方へと歩いていった。
――この後、俺は傘を持っていなかった事と、潤さんに天気を聞かなかった事を後悔する事になる。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
書き方を変えても堕クォリティなのは変わらなひ。
いや、恋愛系ならこっちの方が向いてると思っただけなのですy←
28
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2011/08/12(金) 11:06:12 HOST:softbank221085012009.bbtec.net
前回誤字があったので訂正です;
×俺がそう言い終わると、ジャージはぴょこん、と立ち上がると
○俺がそう言い終わると、ジャージはぴょこん、と立ち上がり
正しくはこうですね、はい(( 誤字多いな自分orz
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
コンビニに行く途中、運悪く大雨に遭遇した。昨晩も雨が降ったが、量はあの時とは比べ物にならない位だ。雨で少し髪や服が濡れたが、放っておけば乾く程度だったから俺はそこまで気に留めなかった。
週刊誌のコーナーへ来てみると、目当てのものは残り一冊。成人向け雑誌が置いてある所で中学生くらいの男子数人が溜まっていたが、別に邪魔というわけではなかったからこれもまた気にしない。
残り一冊の週刊誌を手に取った頃から一時間ほど経過したが、雨は止むどころか勢いを増していた。すでに週刊誌を読み終えていた俺は、特に意味も無く他の漫画を読んでいた。すると、店に派手とも地味とも言えない女子数人の話し声が耳に入ってきた。
「ねぇ、さっき川にいた人って華魅様じゃなかった?」
「あ、やっぱり? でも何であんな所に華魅様が?」
「でもこんな雨の中に川の近くにいるって結構危なくない?」
彼女達の話が終わった頃には、俺は漫画を元々あった場所に置いていた。目に入った傘を一本取ると金をレジに叩きつけるように置き、勢いよく走ってコンビニから出た。コンビニから川まではそこまで遠くない、そんな事を考えていると、後ろから「お客さん!? お釣りが――」などと聞こえたが、気にしている暇など無かった。こんな大雨の中、川に行くのは危険だというのは馬鹿な俺でも分かる事だ。あいつが分からないはずが無い。今すぐあいつに――――
ふと、頭に幾つかの疑問が浮かんだ。
何故俺はこんなに馬鹿みたいに走っている? どうして彼女のためにここまでしようとする?
――知るか、それに別にここまでって事無いだろう。
昨日出会ったばかりではないか。
――出会って一日しか経っていない相手のために何かするのが悪いのかよ。
見返りを求めているのか?
――そんな訳無いだろ。
なら、何のために?
――もう、『あの時』みたいに誰かを失うのは御免なんだよ。たとえ出会って間もない奴だろうと。
迷いを吹っ切るように俺は走るスピードを上げる。水の流れる音が聞こえ、それは徐々に大きくなった。すると、俺は一人の少女が川の前で立っている事に気付いた。
「――祀木!」
俺は彼女の名を呼んだ。――ただ、初めて見た時は神秘的と感じた桜色の髪は、雨に濡れてどこか寂しげに見えた。
29
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2011/08/22(月) 10:05:43 HOST:softbank221085012009.bbtec.net
「霧崎、くん……?」
祀木は驚いたように一瞬肩を震わすと、俺の方へ振り返る。すると、腕にブルブルと震えている子猫を抱いているのが見えた。何やってるんだ、こんな所で、そう問い掛けようとしたが、彼女の肩が酷く震えている事に気付き、一瞬言葉に詰まる。
「この子、大丈夫かな……目、開けないの……」
祀木は震える声でそう呟くと、心配そうな目で子猫を見つめる。俺も祀木の腕の方、つまり子猫を見てみる。ぐったりとしていて息も浅い。生きてる、と考えればまだ良い方なのだろうが、弱っている事に変わりは無い。恐らくこの辺りに捨てられていた猫を祀木が見つけた、といった所だろう。さて、こういう時はどうするべきか、少し考えてみると、すぐに結論が出た。
「俺の知り合いに医者だった奴がいるから、取り合えずそいつの所に行ってみるか」
すると、祀木の表情がぱあっと明るくなり、「本当!? じゃあ、その人の所まで案内してもらってもいいかなっ」と希望に満ちた声を上げ、俺はそれに頷く。でも動物は専門に入っているのだろうか、まぁ入っていなかったとしても、『あいつ』なら知り合いに獣医がいるだろう。ふと俺は自分だけ傘をさしている事に気付き、「雨、濡れるだろ」と呟いて祀木に傘を渡す。祀木は一瞬迷ったようにも見えたが、傘を受け取ると「ありがとう」と綺麗に微笑みながら言う。俺は傘から指を離し、半歩下がろうとするが、
「だ、駄目だよ、霧崎くんも濡れちゃうからっ」
すぐさま止められた。別にお前が濡れなかったらそれで良いのに。客観的に考えるとかなり臭い台詞だったから、あえて言葉には出さなかったが。
祀木は俺の隣に並んで傘を少し高い位置に上げると、「これで霧崎くんも濡れないでしょ?」と言って微笑む。さすがに片手に子猫を抱えて傘をさすのは辛そうだったから、取り合えず傘は俺が持つ事にする。俗に相々傘と呼ばれるものだが、ここで何か言うのは祀木に悪い気がした。まぁ、ジャージに見られていたら散々に言われるのだろうが。
男子寮の地下の研究室の『あいつ』を尋ねるために、俺達は歩き出す。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
>>28
消し忘れ発見orz
「残り一冊の週刊誌を手に取った頃から」で始まる行の、「店に」というのは消し忘れです;
確認が甘いぜ自分←
30
:
yuri
:2011/09/01(木) 23:41:24 HOST:d219.Osa8N1FM1.vectant.ne.jp
不景気だと騒がれていますが・・・(;・ω・)。 ttp://tinyurl.k2i.me/Afjh
31
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2011/09/25(日) 11:40:38 HOST:softbank221085012009.bbtec.net
暫く放置気味で申し訳御座いません><
更新できる時にはしようと思いますが、来れる機会がかなり減るかもしれません;
何ともgdgdですが、これからもよろしくお願いします!
32
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2011/10/08(土) 12:57:42 HOST:softbank221085012009.bbtec.net
碧達は男子寮に着いた。急いだからか、時間は余りかかっていないようだったが――碧は華魅の体力と足の速さにはとにかく驚いた。
「ッアハハハハハ! 楽しいなぁ、どうして君は僕を楽しませてくれるのがこんなに上手いんだろうねえ!」
狂っている、正にそんな言葉が似合うような声。……誰なのか、そんな事を考える必要など無い。――晴間 輝以外考えられないからだ。
壁に刺さっているカッターナイフやボールペンを見て、碧の隣で華魅は、「何か男子寮って、随分とサバイバルな所なんだね」と呟く。その、驚きなど微塵も感じていないような口調に正直彼は驚いた。
「結構、冷静なんだな」
「うーん、中学の頃は潤先輩達がやんちゃしてるのは日常茶飯事だったから……慣れ、って言うのかなぁ」
と言う事は、彼女は潤達と同じ中学出身なのだろう。死者が出なかったのか、碧は少々疑問だったが、この寮でも奇跡的に死者は出ていないし、何より彼女の悠長な口調からして多分大丈夫だったのだろう、と彼は自己解決する事にした。
地下研究室に繋がる階段は陽の光があまり入らない上、電灯が壊れていて薄暗い。夕方なら尚更だ。まぁ、足元を照らす明かり程度にはなるだろう、そう考えた碧は携帯を取り出した。しかし、思いの外その明かりは頼りない。
「……足元、気をつけろよ」
彼はいつもの、少々ぶっきら棒な口調でそう言うと、華魅は「優しいね、霧崎くん」と返して微笑む。暗闇の中でも彼女の笑顔はやはり綺麗だった。すると彼女は突然、碧の腕に自分の腕を絡めてきた。
「こうすればさ、はぐれないよね」
暗いとはいえ、こんな広くも無い場所で、ましてや階段などで迷う事などあるものか――驚きと焦りと同時に碧はそう考えたが、口には出せなかった。彼女の肩が、小刻みに震えているからだ。きっと、笑顔の裏には不安が渦巻いていて――先ほどの言葉は不安を隠すためのものだろう。そんな彼女の腕を、払い除けも、優しく握り返したりもせずに、――ただ一言、
「……好きにすれば良い」
とだけ言った。
――暗闇に目が慣れてきた頃、階段の終わりが見えてきた。それと同時に、華魅が弱っている子猫に、「大丈夫、もうすぐだから」と励ましている声が碧の耳に入った。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
久々のうpです((
正直書き方は三人称の方が自分に合ってるかな、と考えたのですが、それ以前にスランプがぁぁ^p^
33
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2011/10/08(土) 13:07:00 HOST:softbank221085012009.bbtec.net
サブタイトル入れるの忘れてました;;
第五章 地下研究室の少年 −第三者視点− です;
34
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/10/08(土) 13:29:56 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
お久しぶりのコメントです^^
僕のこと覚えてるでしょうか…?
何かいいですね、こういう純愛って!
こういうの胸がキュンキュンして『早くくっつけよ!』って思っちゃいますw
碧→華魅、は大体分かってましたが、華魅←→碧になるのでしょうか?
これからも、楽しみです。
更新頑張ってください!グダグダでも僕は全然オッケーですから((
35
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2011/10/10(月) 15:26:28 HOST:s1111138.xgsspn.imtp.tachikawa.spmode.ne.jp
>>竜野翔太様
お久しぶりです!携帯からなので、もしかしたら酉が違うかもしれませんが、一応本物です(
勿論です^^ むしろ、私の事を覚えてもらっている事に感激です←
純愛ですか~、何だかくすぐったい響きでs((
でも、中々くっつきそうに無いですね…碧は肝心な所で奥手そうですw
うーん、何かしらのトラブルはありそうですよね。因みに鬱展開は幾つか考えていますw使われるかどうかはさておき((
ありがとうございます!そういったお言葉が何より励みになります><
これからも更新していくので、お互い頑張りましょう∧∧
36
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2011/10/24(月) 16:33:46 HOST:softbank221085012009.bbtec.net
ギィ、という重々しい音と共に扉が開く。数え切れないほどのパソコンと奇妙な色の液体が入った培養機がやたらと目を引く、漫画の中から飛び出してきたかのような研究室。そこに響くのは無機質な機械の音だけで、人の姿は見当たらない。華魅は焦ったように周りを見渡しているが、碧は至って冷静だ。何故なら――
「あれー、きりさきくんー?」
のんびりとした幼い声が聞こえたかと思うと、色素の薄い茶髪をサイドで三つ編みにした10歳前後の少年が、大量に積まれている書類の陰から顔を出した。顔自体は幼いが、羽織っている白衣は不思議と彼に馴染んでおり、違和感をあまり覚えない。
「がみ、お前動物は専門外か?」
「わぁ、唐突だねー。まぁでも、何度も診てきたから大丈夫だよー」
『がみ』と呼ばれた少年は目を擦り、あっさりとそう言った。しかし、華魅にはその言葉の意味が理解できなかった。それもそのはず、見た目10歳前後の少年が「自分は医者で、今まで診察した事がある」と取れる事を言って、そのまま鵜呑みに出来る者がいる訳が無いのだから。
「あ、おねえちゃんの方は初めましてだったよね。ぼくは玄行 架神(ゲンギョウ カガミ)。――『ぼく』の前の『僕』の研究がやっと『上の人』に認めて貰えたから、一応記憶を引き継いでいるんだ」
『上の人』。それはクローンを生み出す際に記憶を引き継ぐか否か判断したり、住人達の情報を管理している『機関』の人々の事だ。碧だけでなく、この街の住人の殆どが『機関』どういった事をするのか詳しくは知らないが、取り合えず先ほど挙げた二つの事くらいは知っているらしい。
そして、今こそは研究員だが、架神の前のクローンは医者で、彼はその知識や技術を引き継いでいるという事だ。見た目は子供で、内面は大人なんて、まるで某名探偵のようだ、と碧は彼に会うたび思う。
――数分後、診察を終えた架神は、華魅の目を見ると、
「――大丈夫、すぐに良くなるよ」
にこり、と微笑みながら告げた。その表情は幼いものだが、どこか医者としての貫禄が垣間見えた。
「良かった……ありがとうございますっ……!」
安心した華魅は力が抜けたようにその場に座り込み、アメジスト色の瞳から涙を零した。
「お礼なんて良いよー、はなみちゃん。――でも、こんなに愛されてるなんて、この子も幸せ者だなぁ……、きりさきくんが嫉妬しちゃうよー?」
寝息を立てている子猫の頭を優しく撫でると、架神はいたずらっぽく笑って碧をちらりと見る。そんな架神に碧は、「……そんな訳あるか」と小さく呟いて呆れたように彼の頭を軽く小突く。
――――その刹那、研究室の奥の扉の向こうから、何かが倒れるような音が響いた。
「……きりさきくん、はなみちゃん。診察代はいらないから、一つ頼まれてくれないかな――」
37
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2011/10/29(土) 19:06:40 HOST:softbank221085012009.bbtec.net
研究室の奥――『資料室』と書かれた札が掛かった扉を開けると、中は凄まじい事になっていた。辺りに散乱しているのは、大量の資料、本、写真、レポート――
そして、それらをせっせと集める人影。
コツ、と架神がわざとらしく鳴らした靴音に反応したのか、人影は手を止め、彼らの方へ振り返った。
首まで伸びる左右非対称(アシンメトリー)なプラチナブロンドの髪に、片方だけ隠れた、凛としていて――それでいてどこか儚げなサファイアブルーの瞳。その端整な顔立ちは、御伽話に登場する王子様を連想させた。
「あ、すいません架神さん。ちょっと資料の山を倒してしまって――って、あれ、珍しいお客さんですね」
「資料倒したのは見れば判るよ。……うーん、普段の仕事振りは立派なのに、何でこういう所でドジ踏んじゃうかなー」
架神は呆れたように溜息をつくと、散乱している資料達を拾っていき、「悪いけど、二人はそっちを拾ってくれるかな」と少し向こう側を指差してそう言った。どれだけ派手にぶち撒けたんだ一体、と碧はそんな事を考えながらも、架神の指示に従い、資料を拾っていく。
そんな時、華魅はこっそり碧に「……あの人も研究者さんの一人?」と問いかけた。
「あー、あいつは弘川 翼(ヒロカワ ツバサ)。がみの助手で……何つーか、天才だけど色々と残念な奴」
『残念』という単語に首を傾げた華魅の肩越しに、「残念って何ですか、アオイさん」と人影改め弘川の不満そうな声が聞こえてくる。
「確かに僕は時々資料の山を倒してしまったり、料理をすると大抵指は絆創膏だらけになってしまいますが、結構仕事は真面目で、架神さんの役には立ってるつもりですよ! と言うか僕のどこが残念なんです?」
「……まずその台詞の残念じゃない部分が見つから無いんだが」
自信満々、といった態度の弘川に、すかさず碧はそう言う。そして、弘川は華魅の方を見ると、数秒間黙り込む。やっと口を開いたと思うと、次に飛び出した言葉はこれだった。
「原点……!!」
「いや、気付くの遅いだろ」
「きりさきくんー! つばさー! 作業止まってるよー!」
資料室に三人の三人の声が飛び交う。そんな様子に、華魅は笑みを零した。
――結局、資料拾いが終わってからも暫く談笑が続き、碧達が研究室を後にする頃には、すでに時計は10時半過ぎを示していた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
文章と更新はいつも通りのgdgdクォリティですが
以前から出したいと思っていた研究者二人が揃ったので満足していたり←
38
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2011/10/30(日) 12:12:03 HOST:softbank221085012009.bbtec.net
結局、華魅と同室の生徒が猫アレルギーを持っていると言う事で、猫が元気になってからは碧達の部屋で飼う事になった。しかし、あいつ(秋寺)も猫は嫌いじゃないだろうし、別に飼っても構わないだろう、と事故解決したので、まだ秋寺には伝えていない。
「ヒロカワさんってさ、彼女さんとかいるのかなー」
男子寮を出ると、華魅はそんな事を言った。彼女の思いがけない一言に、碧は足を止める。
「いや、あんなにかっこよかったら、きっとモテモテなんだろーなって――」
「祀木、」
華魅の言葉を遮るように、碧は彼女の名前を呼んだ。
「言っとくけど、あいつは――ヒロカワは、女だぞ」
「……え? ……え、えぇ!?」
華魅の驚いた声が街に響く。通行人も驚いたように彼女の方を見たが、すぐさま目を逸らした。慌てて手で口を押さえる彼女に、まぁ、あの容姿なら男と間違えられるのも無理は無いだろう、とでも言うように小さく息をつく。
暫くは、ごくありふれた会話をしていたのだが、すると華魅が唐突に、
「霧崎くん、本当にありがとう」
と言った。碧はいきなりの礼に驚いた表情になるが、すぐさま表情を元に戻し、「……別に、俺は何もしてないだろ」とだけ答えた。
「そんな事無いよ、霧崎くんは私をがみくんの所まで案内してくれたし、あの子を引き取るって言ってくれた」
そんな彼のそっけない態度も気にせず、華魅はそう言った。他にも、自分に声を掛けてくれた事も、自分を傘に入れてくれた事も――全部、彼女の『ありがとう』の中には入っているのだ。
しかし、その事に碧は気付いていない。それどころか、彼女の言葉を聞いても尚、自分は特別感謝されるような事をしたとは思っていないようだった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ちょっと区切りますね;
この章やたら長くなる気が((
39
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2011/10/30(日) 12:21:52 HOST:softbank221085012009.bbtec.net
>>38
早速誤字発見;
『事故解決』ではなく『自己解決』ですね。事故ってどうするんd←
40
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2011/11/14(月) 09:19:42 HOST:softbank221085012009.bbtec.net
碧は空を見上げる。あれほど降っていた雨は止んでいて、少々曇ってはいるが、月が見えていた。街は『外』から隔離されていても、この空は『外』と繋がっているのだ。碧はそんな事を考えていると、
「……なぁ、祀木」
と、無意識に華魅の名前を呼んでいた。自分のそんな行動に彼は驚いていたが、なるべく表情に出さないようにする。彼女は彼の言葉に「? どうしたの?」と首を傾げた。ここで「何でもない」と言うのは気が引けたのか、碧は必死に何か会話の内容を考える。さっさと何か言えよ俺、と心の中で念じてみてもすぐには何も浮かばない。話す術に長けている秋寺が今だけは羨ましいと思った。
「もしこの街から……あの病が消えて、外に出る事が出来るようになったら……多分、俺達のクローンは作られなくなるんだよな」
思いついたのはそんな話題だった。自分の大嫌いな街の、『人が死んでは代用品(代わり)が生まれる』という延々と続く法則が終わって欲しい、そんな彼の気持ちからこの話題が出たのだろう。そして、祀木は自分の言葉に頷いてくれるはずだ、という希望もあったのかもしれない。
「……霧崎くんは、どうしてこの街から何十年、何百年経っても、この街の病が解明されないと思う?」
「――え?」
「たとえ病がこの街から消えて外に出られたとしても、私達クローンは――多分、逆に沢山作られるんじゃないかな。――――無限に作られるんだから、ってストレス発散に殺されちゃう個体(クローン)もいるかもしれない。……そんな事になるくらいなら、一生この街にいるほうが良いって思わない?」
華魅の答えに碧は何も言う事が出来ない。
「(――考えてみれば、確かにそうだ)」
幾ら元(オリジナル)の遺伝子から生み出されたとはいえ、所詮はクローンだ。外の世界に出る事が出来た所で、差別が起きてもおかしな話ではない。
――それは、自分が嫌うこの街で生きるよりも、何十年、何百年も同じ事が繰り返されるよりも、残酷な事ではないのか。そんな考えが碧の頭の中を駆け巡った。
「って、考えている研究者さんも少しはいる訳だから、街から病気が消えないんじゃないかな、って話」
「……へ?」
先ほどの絶望的な話は全て嘘だと言うような、明るい口調。そんな明るい華魅の言葉と口調に、碧はつい間が抜けた声を出してしまった。
「でもさ、外の世界が平和だったら、そんな事あるはずないよ。それに、むしろこの街のクローン技術を『すごい』って思うんじゃないかな」
どこか自信に満ちた口調。しかし、碧は前者だと思っていた。否、思うしかなかった。期待して裏切られるくらいなら、最初から期待しなければ良かった――そう強く思った過去が、彼にあったからだ。
「……あんたはどっちだと思うんだ?」
「え、私? 勿論外は平和だと思ってるよ?」
華魅はきょとんとした顔をするが、すぐにきっぱりこう答えた
「だって、人間はいつだって希望に向かって進んでいるもの」
そう言って、華魅は酷く綺麗に笑った。それは、碧が初めて話した時の笑顔よりも、ずっと美しいものだった。――当然だ。あの時よりも希望に満ちた笑顔なのだから。
「……やっぱり、あんたにはかなう気がしないな」
碧は呆れたようにそう言うと――――つられて笑った。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
何か打ち切りっぽい←
超亀更新ですが、一応続きます(´∀`*)ノ
41
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2011/11/16(水) 17:26:57 HOST:softbank221085012009.bbtec.net
〜戯れ言という名の独り言〜
キリが良いので作者の呟きを((
えっと、取り合えずメインとなるキャラを一通り登場させる事が出来ました! わーi((
次からはキャラ一人一人(または一組)を中心にしたストーリーと言うか過去編というか…まぁ、そういったものを書こうかなぁとか思ったりしています。えらくアバウトですg←
ちなみに次は潤と輝を中心としたストーリーか、天空と深海を中心(以下略←)のどちらかにしようと思っています。というかどちらにするか迷ってます((殴
目次
序章 嫌いなもの
>>2
、
>>5-7
第一章 寮長戦争
>>8
、
>>11
、
>>14-15
第二章 まちのおと
>>16-17
、
>>19-20
第三章 満開の桜
>>21-22
、
>>24-25
第四章 外の景色
>>27-29
第五章 地下研究室の少年
>>32
、
>>36-38
、
>>40
42
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/11/19(土) 19:57:37 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
久しぶりにコメント失礼します。
いやー、何か続きが気になりますねー。
碧と華魅の雰囲気もいい感じですし…早くくっつけよお前r((
それはひとまず置いといて。
潤と輝の話はしてほしいと思ってました!
潤さん結構好きなんでw
これからも頑張ってくださいね!
43
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2011/11/21(月) 16:33:43 HOST:softbank221085012009.bbtec.net
>>竜野翔太様
いつもコメントありがとうございます^^ノ
厨二びょ…じゃなくて恋愛下手に定評のある碧は、あれからどうアクションを起こすのだろうk((結構碧は月峰の予想を離れた行動を起こすのですよw
まさかの潤&輝編のリクエストが…! 嬉しさのあまり踊ってしまいそうだ←
作者も二人は何だかんだで気に入っていたりしますw 一番常識からかけ離れた人達ですが、不思議と動かしやすいのでw
はい、ありがとうございます! お互い頑張りましょう^^
44
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2011/11/28(月) 16:01:58 HOST:softbank221085012009.bbtec.net
第六章 はれのちあめ
雨の日は嫌いだ。
洗濯物は乾かないし、よく車に水溜りの水をかけられるから。
そして何より――空が泣いている気がするから。
『雨の仕組みを知らない子供のようだ』と言われるかもしれないけど――それでも、空の『泣き顔』を見ているようで、嫌いだ。
晴れの日も同じくらい嫌いだ。
『空が笑っている』と考えたら雨よりも良いのかもしれないけど――それでも嫌いだ。
なぜなら――『あいつ』の顔を思い出すから。
狂っている、としか思えないような『あいつ』を思い出すから。
『あいつ』はこの街(セカイ)で一番嫌いだ。
皮肉屋で、何を考えているのか全然解らなくて、いつもあたしを苛立たせて、いつもあたしに、
『愛してる』
と言う。
そして、あたしの元(オリジナル)の――否、あたしの元(オリジナル)と、あたしの今までのクローンの人生を狂わせ、めちゃくちゃにした挙句、殺した。
――今だってそうだ。あたしの人生をめちゃくちゃにしようとしている。
だから、そうされる前に、あたしが『あいつ』を――晴間 輝を消せば良い。
でも、何百回、何千回と、ずっと前のクローンから繰り返してきたのに、全て失敗に終わる。
だから、あたしは――
「また、殺せなかったよ」
失敗した回数だけ言ってきた言葉を、弱い、掠れた声で呟き、自虐的に笑った。
――――それでもまだ、空は泣く。いい加減さ、泣き止みなよ。そう呟いても、止まない事は自分が一番よく知っている。嗚呼、なんて残酷なんだろう。
◆◇◆
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
潤&輝編のプロローグ的なにか((
ちなみにここの語り手は潤です。この子暴言吐きまくりだけど大丈夫だろうか、と内心冷や冷やしていたり←
45
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2011/11/28(月) 17:30:00 HOST:softbank221085012009.bbtec.net
――あの猫の件から数週間後。GW(ゴールデンウィーク)が明け、満開だった桜は、葉桜へと変わっていた。
その、GWが明けて初めての昼休み。碧、華魅、秋寺の三人で屋上へ向かっている途中、
「っあー、腹減ったァー」
独り言のように、しかし独り言にしては少し大きすぎる声で秋寺は言う。
「今日の体育、秋寺くん大活躍だったからね」
そして、彼の独り言に答える華魅。
――彼女は少し前から昼食を碧や秋寺と共にしていた。彼女を昼食に誘う生徒は数え切れないほどいたが、秋寺が華魅を誘った途端、昼休みに彼女を嫌と言うほど取り巻いていた生徒達はすぐにいなくなった。当然、諦めた訳ではないのだろう。しかし、中学校時代に不良達の間で『最強』と謳われていた秋寺(今の彼の性格からは全く強そうには見えないが)を敵に回してまで彼女に近づこうとする者などいなかった。
「(……しかしまぁ、なんつー組み合わせだ……)」
金髪ピアスの不良と、冷めた雰囲気の男子生徒の間に挟まれている、誰もが思わず振り返ってしまうほどの美少女優等生。本当に奇妙な組み合わせだ。恐らく、そう思っていないのは、秋寺と華魅だけだろう。
屋上の扉を開くと、ふわりと風がそよいだ。外の空気を味わうように、華魅は深呼吸する。
「……じゃ、食べよっかー」
にこり、と華魅は笑うと、持っていた大きな弁当箱を、傍にあるベンチに置く。すると、すぐに「あっ!」と小さく叫んだ。
「ごめんねっ、お茶持ってくるの忘れちゃったから、買ってくる」
「あー、俺行ってく――」
屋上から出ようとする華魅に言おうとした碧の言葉は、秋寺の「じゃー、俺行ってくるから、華魅ちゃん達は先食っといてよ!」という言葉に遮られた。
でも、と華魅は遠慮がちに言うが、その前に秋寺は颯爽と屋上を飛び出して行った。
46
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/12/03(土) 10:20:01 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp
コメント失礼させてもらいますね。
潤様と輝の過去に何があったのかすっごい気になります。
てかあの二人の喧嘩はマジの殺し合いだったんですね……^^;
これからどうなるのかすっごい気になります。
まあ碧達は……秋寺は気を遣って二人にさせたのか((
そう思えないこともないんですが……どうなんでしょ?
47
:
ライナー
:2011/12/03(土) 20:04:15 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
コメント失礼します、ライナーです^^
読ませていただきました!
文章力も高く、とっても参考になるものばかりです。
特に、視点移動の書き方に惚れましたっ! 設定も面白いですし、一読者として応援させて下さい。
ではもう一つ、僕がこの小説を見て気になった点、つまりアドバイスなのですが、恐れ多くも申し上げます(笑)
1つ目は改行ですね。
改行とは、文章を見やすくし、引き立てる役目を持つことはご存じですよね?
ポイントは、最初に言いたいことを1つの段落にして、2段目をそれに関する、補足となる文章を入れるのが良いとされています。
ですので、そこが少し足りないかな? と思います。
2つ目は、文章効果の使い方です。
月峰さんの文章は、文章力が高いことで、それが仇となっている部分が存在しています。
文章力が高いイコール、文章が長くなる(大まかに言うと)と言うことです。
強調したいところに比喩などの表現を入れて、文章を強調させなければ、文章内のメリハリが少なくなって、読み味が薄れてしまいます。
3つ目はキャラクターについてです。
キャラクターにそれぞれ個性があって面白いのですが、キャラクターがあくまでキャラクターとしてだけ作用していません。
一瞬、え? と思われたかも知れませんが、小説に置いて、キャラクターは人間です。小説を読んでいる方には共感できれば出来るほど、キャラクターの良さが出てくるのです。
キャラクターの作り方には、揃って条件が入ります。
それは、欠点です。
欠点があれば、読者がそこを共感できるのは当たり前ですし、欠点ならひねりを入れない方が作りやすいので、試してみては如何でしょう?
さらに申し上げますと、ギャップというのがとても強いです。
例えば、ご存じでしょうドラえもん。
これの主人公であるのび太 (え、ドラえもんだから、ドラえもんじゃn((殴 )ですが、何をやってもダメダメですよね。
しかし、西部劇の世界に飛び込めば、そんなのは関係なし、彼はとても射撃が上手いのです。
このように、ひ弱な男子という読者に着いた弱そうなイメージを、射撃の上手さがギャップとして魅力を引き出してくれているのですね。
その代り、ギャップがある人物は最高でも2人にとどめておいた方が良いので、注意して下さい。居すぎると、リアリティーが薄れますからね。
ふざけた名前を使っていますが、今後とも宜しくお願いします。
ではではwww
48
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2011/12/04(日) 16:55:09 HOST:softbank221085012009.bbtec.net
>>竜野翔太さん
いつもコメント感謝ですノノ
潤様とはwまさかあの子に「様」を付けていただけるとは、思ってもみなかったです((
はい、いつでも潤さんは本気なのですy((輝は……うーん、どうなんでしょう。あえて秘密と言う事で←
期待に応えられるように頑張ります!
はい、実は秋寺の行動にも実はちょっとだけ意味があったりします、彼にとっては((
多分次の次くらいに書けると思います^^
>>ライナーさん
あわわ、あのライナー様からコメント&アドバイスが頂けるとは、感激です!
文章も設定も、まだまだ駆け出しなのです。というか転びまくってまs((
視点移動は「雰囲気だけで書いてる」と思われないように、自分なりに頑張ったつもりなので、そう言って頂けるととても嬉しいです!
更新はスローペースですが、完結させようと思っているので、お付き合い頂ければ幸いです^^ノ
なるほど……確かに見返してみると、改行せずにずらずらと書いていたり「何でここで改行してるんだろう?」と自分で思ったりします;
そしてラフの段階で気付けないことが多いという悲劇orz
あー……無意識に、「○○(人名)は、△△(行動)をした」などといった文章を、「これだけじゃ伝わりづらいかな」と、余計な所まで付け足してしまう癖がありますね;
直そうと心がけているのですが、直っていないのが現実です; なんて悪い癖なんだろう((
なるほど、欠点とギャップ、ですね。確かにキャラの性格ばかり見ていたので、とても参考になります! のび太くん……こうして聞くとイケメソな気がしてきた((
とりあえず、華魅には何か欠点を入れたほうが良いかな、と思っています。完璧って設定であるとはいえ、そういう面を多く入れすぎてしまったので……
アドバイスをすぐに反映できるか不安ではありますが、なるべく頑張りたいと思います!
こちらこそ宜しくお願いします! お互い頑張りましょう^^
49
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2011/12/11(日) 11:30:00 HOST:softbank221085012009.bbtec.net
「……、うまい」
ハンバーグを口に運ぶと、碧は素直にそう言った。それを聞くと華魅は嬉しそうにはにかんだ。
「良かったー、それ、自信作だったの! 他にも、これとか――」
彼女は弁当箱の中の色とりどりなおかずの一つを指差し、嬉しそうに話し出す。そんな彼女は本当に生き生きとしていて、かわいな、と碧も思うほどだ。
「――実はね、憧れだったんだ」
弁当のおかずの話が終わると、華魅は突然こう切り出した。
「友達と一緒に――こうやってお昼ご飯食べるの」
碧は言葉を詰まらせる。――歌留多から聞いた話を……華魅の歪んだ交友関係を思い出したのだ。偽者の、上辺だけの『友達』として彼女に群がってくる人間。
――その中心にいた彼女は、どんな気持ちだったのだろう。
「(辛い、……なんてもんじゃないよな)」
それはきっと、群がってくる人間が多ければ多いほど、苦しく、悲しく、孤独なのだろう。
碧の沈黙をどう読み取ったのか、華魅は申し訳なさそうな表情を浮かべ、言葉を紡ごうとする。おそらく、ごめん、とか、迷惑だったよね、などといった言葉だろう。それを打ち消し、否定するように、碧はこう言った。
「……何か辛い事あったら――俺のこと呼んで良いから」
「……え?」
碧の思いがけない言葉に、驚いたような表情を浮かべる華魅。しかし、一番驚いているのは、それを言った碧本人だ。……いや、何か微妙に会話成り立ってなくね? とか、いきなり何言ってんだよ俺? とか、そんな考えが次々と浮かぶ。
「友達、なんだろ」
それでも彼には、言い直す気などなかった。
「――うん、ありがとうっ……!」
ゴシゴシ、と手の甲で目を擦る華魅。恐らく泣きそうだったのだろう。そこまで彼女を不安にさせていたのか、と碧は少し罪悪感を覚える。しかし、手の甲で目を擦る、という行動が彼女にはあまりにも不似合いで、碧は笑えてしまった。そんな彼を見て、華魅は小さく頬を膨らませるが、すぐにつられて笑った。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
碧にデレ期到来でs((蹴
50
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2011/12/14(水) 14:41:34 HOST:softbank221085012009.bbtec.net
――その頃秋寺は、ある場所にいた。
屋上から見える中庭――そこでは、神樹 歌留多が一人で昼食をとっていた。それを見たからこそ、彼は屋上を飛び出したのだった。
「よっ、歌留多ちゃん。いやー偶然、マジ偶然。むしろ運命って言っても良いほどだぜ」
結構な距離を走ってきたと言うのに、殆ど息を乱していない秋寺。恐らく、中学校(現役)時代に鍛えた足の速さと持久力が今も尚残っているのだろう。
歌留多は一瞬驚いたような表情になるが、すぐに無表情に戻す。
「そうね……偶然ね、秋寺くん。あなたが偶然この辺りで走っていて、偶然私がここで昼食を食べているのを見つけて、偶然私の前に現れて話しかけて――全部、偶然なのよね」
「はい、全部考えて行動しましたすみません」
ぺこり、とあっさり頭を下げる秋寺。そんな秋寺に歌留多は「別にいいのよ。そもそも、あなたが何に対して頭を下げているの判らないわ」と言って、ベンチから立ち上がった。昼食を食べ終えたのだろう。
「――寂しくねーか? ここで一人でメシ食うの」
どこか真剣な声で――判りきった質問だと自分で思いながらも、彼は問い掛ける。
「寂しい、と言ったら、あなたはどうするの?」
「んー、これから一緒に屋上でメシ食おうぜ、って提案すっかな。まぁ、寂しくねぇ、って答えてもそうするけどさ」
ニカ、と秋寺は子供のような笑みを浮かべ、親指で屋上の方を指す。――要は、明日から昼食を一緒に食べないか、と誘っているのだ。
しかし、歌留多の答えは、どちらでもなかった。
「……今はもう少しだけ私の傍にいて、私の話し相手になる、という選択肢はないのかしら」
「そりゃ、俺にとっちゃ美味しい選択だな」
そう言って秋寺は自販機の前に立つ。じぃ、と目の前の自販機を数秒間見つめ、左足を踏み出す。その足を軸に体を捻らせ、
「でも、なッ!!」
『な』の部分で、軸足とは逆の足、つまり右足を自販機に叩きつける。ガッ、という音が響いたかと思うと、自販機からミルクティーの缶が一つ飛び出し、秋寺はそれを慣れているかのようにあっさりと受け止める。手加減ならぬ足加減はそれなりにしたらしく、自販機にはそこまで目立った傷はなかった(あくまで目立たない、というだけで実際によく見れば傷はあるのだが)。
「そーしたら、アオイ達は水分無しでメシ食うことになっちまうからさ――あいつらにとっちゃ、不味い選択だ」
そう言ってもう一度、彼は自販機を蹴る。すると、今度はミルクティーではなく、缶コーヒーが出てきて――それもまた、慣れた手つきで受け止めてみせる。
「まぁ、デートの誘いだったら100%断んねーからさ。それだけは覚えといてよ」
ぽん、と歌留多の頭に手を置く秋寺。――温かい、そう彼女が感じたのも束の間。彼の手はすぐに離れていった。
――それじゃ、また教室でな、という言葉を残して。
51
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/12/16(金) 23:37:22 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp
コメント失礼します!
碧と華魅ちゃんは、もうよそから見ればカップルですね。
さっさと付き合っちまえy((
と思ったら秋寺……いや、ジャージが歌留多を狙う(?)とは……。
隅におけませんなぁ((殴
碧達の学校生活見るのも楽しいけど、一読者としては早く潤様に出てもらいた…ゲフンゲフン((
続きも楽しみにしております^^ノ
52
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2011/12/17(土) 13:18:34 HOST:softbank221085012009.bbtec.net
>>竜野翔太さん
コメント有難うございます!
確かに学校にこんな人達がいたらカップルにしか見えないですねw
でも二人は「友達」って言っちゃってますg((
ジャージと歌留多については、三角関係を書くのが苦手で、それを回避しようとした結果なのでs((蹴
余談ですが、何だかんだで彼はは作者が一番気に入ってるキャラだったりします((
潤さんはそろそろ出そうと思いますノ 彼女がいないと物語が進まないのd←
ありがとうございます! お互い頑張りましょう^^ノ
53
:
ライナー
:2011/12/25(日) 18:58:17 HOST:222-151-086-008.jp.fiberbit.net
コメント失礼します、ライナーです^^
秋寺君が恐ろしく凄いですね^^;
じ、自販機が成されるままに……なんて蹴りだっ! 強い、強すぎます!
そして、これは欲しいものをピンポイントで捕らえているんでしょうか? だとしたら秋寺君に習いたいでs((殴
プレイボーイっぽいところも良いですね、秋寺ファンになります(笑)
それと、僕の方のコメントありがとうございました!
本当に遅れて済みません^^; これからも宜しくお願いいたします。
えー、そして、今日御覧になるか分かりませんが、メリークリスマス!
54
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2011/12/25(日) 19:14:35 HOST:softbank221085012009.bbtec.net
>>ライナーさん
コメントありがとうございます!
何だかんだでジャージはやる時はやる子でs((
ちなみに彼が自販機で普通に飲み物を買おうとすると、ほぼ必ずお金だけを持っていかれます。自販機の恨みってこわi←
いえ、多分選ぶ事は出来ないと思いますwそしてこの後甘党な碧にブラックコーヒー渡して怒られてるかと((
はい、プレイボーイです。しかし彼女いない暦=年齢なのです((
いえいえ、コメントして貰えるだけで充分嬉しいですよ!><
はい、お互い頑張りましょう^^ メリークリスマスです(*´∀`)ノ
55
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2011/12/25(日) 19:22:35 HOST:softbank221085012009.bbtec.net
◆◇◆
「(――今日は雨は降らない、と)」
ブランコとベンチとャングルジムしかない、子供が遊ぶには物足りない公園。そのため、ここに子供が集まる事は滅多に無い。
――学生なら今は学校で授業を受けているはずの時間だが、雨空 潤は一人ベンチに寝転がって空を見ていた。雲は少しあるが、晴れている事には変わりない――世間的に言えば『良い天気』だ。
しかし、潤の中には『良い天気』などという概念は存在しない。――彼女は『天気』その物を嫌っているのだから。
「あれっ、うるうるじゃん? 何してるのー?」
聞き覚えのあるアニメ声(『うるうる』というのは恐らく潤の事だろう)。面倒だと思いつつも上体を起こすと、声の主が目に入った。
腰まで伸びる銀色に近い薄紫色のツインテールに、右目を眼帯で隠した小柄な少女……海神 深海だ。
「……海神? 何してんのさ、こんな所で」
「それ、さっきミカが聞いた事だよ〜!」
びしぃ、と潤を指差し、深海は頬を膨らませる。しかし、見た目が見た目なので迫力も何も無く、小動物のようで可愛らしいだけだった。
「何もしてないよ。……あぁ、間違ってもここに住んでる訳じゃないぞ」
「今、学校の時間じゃないの?」
「学校で暴れるわけにもいかないだろ(中学の頃は暴れてたけど)」
いや、学校って勉強するための所だよね!? と思わずツッコむ深海(ちなみに深海は元(オリジナル)と今までのクローンの記憶を継いでいるため、学校に行く必要は無いらしい)。
「……あ、さっきのミカが何してるかって話だけどね、」
「あー、確かそんな話だったか」
潤は適当に相槌を打ち、軽く服や髪を整えながらベンチから降りる。もはや彼女の特長とも言えるハネハネの散切りボブは、手で整えても直らないようで、すぐに諦めていた。
「聞いて驚くがよーい! ミカちゃんは『うぉーきんぐ・あらうんど』していたのです!」
バァーン!! とわざわざ効果音を口に出す深海。『walking around=歩き回ること』だったか、と潤は中学校の英語教科書の内容を思い出しつつ「要は暇って事だろ? あたしと大差ないじゃんか」と返す。というか言ってみたかっただけじゃないのか、とすら彼女には思えてきた。
「そーんなあなたに! ミカちゃんの食い倒れツアー、もといっ!」
ぎゅっ、と深海は潤の手を握る。ちゃっかり公園から出て行こうとしていた潤を引き止めるように――逃がさないように。
そして、その手とは逆の手で天を指差すと無邪気な笑みを浮かべ、こう言い放った。
「これであなたも元気ハツラツ! な『でーと』をプレゼント、だよ!」
56
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2011/12/26(月) 10:35:27 HOST:softbank221085012009.bbtec.net
潤が『食い倒れツアーという名のでーと』に連れ出されて一時間ほど経った現在。本当は彼女もそこまで乗り気ではなかったのだが、腹が減っている事と、どちらにしろ時間を潰さなければならない事もあって付いて来たのだ。
たこ焼きを頬張って幸せそうな表情を浮かべていた深海が、「そーいえばさ、」と話を振ってきた。
「前から気になってたんだけど、うるうるが寮長やってるのって、理由とかあったりするの?」
「何だ、藪から棒に――理由じゃないけど、推薦だよ。後輩からの」
なるほど、と深海はすぐに納得した。――何故なら、潤は異様なほどに後輩(主に女子)からの人気が高いからだ。彼女は双ヶ谷高校の女子の運動部に多かった悪しき伝統……俗に言う、後輩いびりという奴を――実力主義の部なら多いであろうそれを、去年一人で全て改善したらしいのだ。
――発端は後輩からの悩み相談だった。先輩後輩の上下関係も多少は必要だと思ったが、相談内容を聞くと、もはやいじめの領域だったのだ。
「噂で聞いた事あるよ、うるうる一人で竹刀を片手に上級生に立ち向かったって! で、その悪しき伝統を見事終わらせたって!」
「どんだけ話し盛ってあるんだよ、竹刀なんて持っていく訳無いだろ――正しくはデッキブラシ。あと改善は後輩達も支えてくれたから、一人ってのも違う。……運動部の連中相手に暴れたってのは本当だけどさ」
「『次この子達に手ぇ出したら、命無いと思え』だっけ? ひゅーう! うるうるかっくい〜!」
「言った覚えはあるけど、……まぁ、ちょっとやりすぎたとは自分でも思うよ……」
解決させて大勢の生徒を救ったとはいえ、やり過ぎたという自覚はそれなりにあるらしい。しかし、これがきっかけで、女子の間では潤様ファンクラブこと『傘同盟(からかさどうめい)』が結成され、男子からは『女子寮の毘沙門天(びしゃもんてん)』と恐れられるようになったのだ(とはいえ、毎日男子寮で暴れていたのだから、元々恐れられてはいたのだが)。
……ちなみに、『傘同盟』のメンバーは現在も尚増え続けているらしい。後輩に慕われるのは悪い気はしないが、自分の行動がここまで大きな影響を与えるとは流石に予想外だった。
「幾ら助っ人だったからって、あたしが割り込むのもどーかと思ったんだけどさ」
やっぱ後輩が悩んでたらほっとけないじゃんか、と苦笑いする潤。
「ところでうるうる、『びしゃもんてん』って何?」
「確か……何かの武神、だったと思う」
「……つーか、誰だよ、毘沙門天とか言い出した奴。アツヤか?」
――ちなみに、その頃の秋寺。
「はっくしゅん!!」
「あれ、秋寺くん風邪?」
そう言って、華魅は鞄の中を探る。恐らく風邪薬を探しているのだろう。
「……誰かに惚れられたか?」
「いや、無いな」
真剣な表情でそんな事を言う秋寺に、碧は冷静にツッコミを入れた。
57
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/12/26(月) 15:34:57 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
コメントさせていただきます^^
潤様がやっと出てきた、ということで今後が楽しみです。
潤様ファンクラブ……僕も入りたいものでs((
デッキブラシ片手に立ち向かうとかw カッコよすぎですw
『女子寮の毘沙門天』……うん、カッコいいかな((
続きも楽しみにしてます^^ノ
58
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2011/12/27(火) 09:47:54 HOST:softbank221085012009.bbtec.net
>>竜野翔太さん
コメントありがとうございます^^
はい、やっと登場です。あとはあの頭の中が晴れな人だk((
最初は潤は嫌われ者にするか悩みましたが、流石にそれじゃあ踏んだり蹴ったりかな、と思ったので現在の設定がありますw
キャラの設定絵の時に、最初は木刀やら釘バットを持っていたのですが、何故かデッキブラシが一番似合うんですよこの子←
毘沙門天については、何か強そうな通り名ってないかなー、と考えた結果こうなったのでs((
はい、期待に沿えるよう頑張ります^^
59
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2012/01/04(水) 12:00:00 HOST:softbank221085012009.bbtec.net
深海はたこ焼きを食べ終えると、思いついたようにこう言い放った。
「そーだ、服を見よう!」
「どうしてそうなった。というか、食い倒れ何とかじゃないのかよ」
「でーととも言ったよ! だってうるうる、折角美人さんなのに、オシャレとか全然気使ってなさげじゃん?」
思った事をストレートに言う深海。とはいえ、嫌味という感じはなかった。
潤は今の自分の格好を振り返ってみる。『邪魔だから適当に切った』と言わんばかりの水色の散切りボブ(しかもハネハネ)に、寝不足で出来たクマ。服装は私服のパーカーに、ダボダボのズボン――パーカーは灰色一色で柄は無く、ズボンも双ヶ谷高校指定の紺色のジャージだ。どう見ても『オシャレな女の子』のイメージからはかけ離れていて、まさに『残念美人』とはこの事だ。
――ただ、毎日が殺伐としているので、変に着飾っても動きにくい上に、すぐに破れたり壊れたりしてしまうのだ。
「(……まぁ、ただの言い訳だってのは解ってるんだけどさ)」
潤が特に意味も無く――何の意識も無く振り返ったその時だった。
「(――――あ、)」
彼女はある一点を見つめたまま動かない。まるで、運命の人に出会ったとでもいうように。
「……うるうる? おーい! 起きてる〜?」
寝てるわけ無いだろ、というツッコミを深海は期待したのだが、返ってこない。彼女は首を傾げると、潤の視線を辿る。そこにあったのは、
「あっ、かっわいーっ!」
ショーウィンドウの中の一体のマネキン人形――否、そのマネキンが着ている水色のリボンやレースをあしらった、ファンシーな白いワンピースだった。
「(祀木とかなら、似合うんだろうなぁ……)」
羨ましい、そんな言葉が無意識に彼女から零れる。――『ファンシーで天使のような女の子=祀木 華魅』という等式が、彼女の中に成り立ってしまっているのだ。
「試着してみなよ、うるうる! 絶対似合うよっ!」
「なっ、……っていうか、あたしは別に着てみたいとか思ってなんかッ……」
物凄い勢いで首を左右に振る潤。実に王道すぎるツンデレだが、深海はあえて口に出さない。
潤はジト目で深海を見つめるが、深海は気にせず続ける。
「そう言えば……確か蓮樹(ハスキ)さん、だったっけ? 傘同盟立ち上げた子」
「……ハスキーがどうしたんだよ?」
蓮樹――潤に運動部の後輩いびりについて相談した生徒、蓮樹 芽依(ハスキ メイ)の事だろう。親しい友人からは『めー』と呼ばれているが、潤だけには『ハスキー』と呼ばれている後輩だ。
「いやぁ、この前『Star gazer(うちのメンバー)』の子が聞いたんだってさ――蓮樹さんが言ってた事」
一呼吸おいて、深海は言葉を紡ぐ。
「『潤お姉さまは優しすぎるが故、いつもご自分の事よりわたくし達寮生の事を優先されるのです。――最近美容室に行かずにご自分で髪を切るようになったのも、きっと寮の事でお忙しいからでしょう。ああ、お姉さまがオシャレを楽しむ時間まで奪っているなんて、わたくしは』」
「ストップ! ストップ!! もう良い、着るから! ハスキーの誤解も後でちゃんと解くから!!」
ぶんぶんと手を振り、そう叫ぶ潤。ちなみに殆どが深海の捏造(実際に蓮樹が言っていたのは『お姉さまはいつだって寮生の事を想って下さりますの』だけ)だ。そんな事には気付いていない潤は「……あの子にそんな誤解させてたなんてな……」などと呟いていた。
――そしてこの後、そのワンピースを潤が買う事になったのは言うまでも無い。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
台詞回しが巧くなりたi((
60
:
霧月 蓮_〆
◆REN/KP3zUk
:2012/01/04(水) 15:14:05 HOST:i114-183-46-33.s04.a001.ap.plala.or.jp
さて、とてつもなくお久しぶりでございます((
自分の小説で手一杯になってしまい、中々人の小説を読むことが出来なかったのですが、やっと余裕が出来たので感想の書き込みを。
なんでしょうか、ジャージ君と碧君、翼さんが可愛く見えてしまって仕方がありません。プレイボーイ(?)にツンデレ、残念な天才……ええ大好物ですとも((
そして碧君と華魅ちゃん……早くくっ付かないかなと思いながらむずむずしています。何でしょう。忘れてしまっていた綺麗なものを見せ付けられた気分です。
そして潤さん。彼女と輝君の間に何があったのか……とてもわくわくしながら読ませていただいています。
チキンであるが故、滅多にコメントはしませんが、ニヤニヤ(Σ)しながら読ませていただいております。
それでは続きを楽しみにしていますね。無理をしない程度に頑張ってください
61
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2012/01/05(木) 15:54:42 HOST:softbank221085012009.bbtec.net
>>霧月 蓮さん
コメントありがとうございます^^
あわわ、まさかあの三人を可愛いと言って貰えるとは……光栄です!(キリッ←
弘川くん……こほん、弘川さんとジャージは作者も特に気に入っていますw 残念コンビというか何と言うか(( でも碧のキャラがイマイチ安定しません、主人公なのに←
碧と華魅については、もはや入る隙間がなさそうですね。でも学校内で一緒に行動しているジャージがある意味可哀想です、隣を見ればリア充もどきがいるなんて((
潤と輝は二人がやたら動き回る(と言うより暴れ回る)ので、プロットも随分苦労してます; 幾つルートを潰した事か……((
いえいえ、読んで頂けるだけでも嬉しいですよ! そしてニヤニヤも嬉しいですw
はい、ありがとうございます! 受験生なので、更新率が上がったり下がったりですが、よろしくお願いします(*´∀`)ノ
62
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2012/01/05(木) 16:49:17 HOST:softbank221085012009.bbtec.net
「(……まんまと乗せられた)」
ファンシーなワンピース姿で街を歩きながら、潤はげんなりとした表情を浮かべる。そんな彼女とは対照的に、深海はニコニコと笑みを浮かべ満足気だ。
――街を歩く二人に、誰もが振り返った。……いや、振り返らなかった人も少しはいたかもしれないが、とにかく街を歩く者の殆どは彼女達を見るなり驚いた。
「『Star gazer』のミカ様……と、雨空 潤!?」
「マジかよ!? あの双ヶ谷高の女子寮の毘沙門天が何でミカ様と!?」
どんだけ広まってるんだよ、そのあだ名!! と思わず潤はツッコミを入れてしまいそうになる。
――とはいえ、死んで、また新しいクローンが生み出されてもずっと輝と殺し合っている潤は、この街でもかなり有名なのだ。しかし、そんな彼女が歩いていてもわざわざ振り返る者など、普段なら殆どいないだろう。
「でも、今日の雨空――めちゃくちゃ可愛くね?」
――だが、今は少し状況が違うのだ。
あれから――ハネハネだった髪を整え、寝不足によって出来ていたクマを無くし……服もだらしないものから、一気に可愛らしいものに変えたのだから。元々顔立ちもスタイルも良かった潤が、今まで魅力を半減させていたものを全て取り払ったのだ――印象が変わるのも当然だろう。
しかし、皆彼女を遠巻きに見ているだけで、声をかけようとする者はいない。まぁ、普段の彼女の暴れっぷりを知っているものからすれば、これも当然のことだ。
「ほら、皆うるうるに釘付けじゃんよ〜またファンが増えちゃうね!」
「見られてんのはあたしじゃなくてあんただろ、海神――超有名ロックバンドの一員なんだしさ」
まさかー、と深海が返したその時だった。
「やあ、奇遇だね――潤ちゃん」
潤の目つきが変わる。ナイフのように鋭く、氷のように冷たい、そんな目つきに。――前方を見据えると、潤はこう言った。
「何であんたがここにいるんだよ――――晴間 輝」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
やっと晴れの人登場((
63
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2012/01/06(金) 12:39:34 HOST:softbank221085012009.bbtec.net
「そりゃあ、僕だってこの街の住人なんだしさ、どこかで会うのが普通でしょ。――それに、君がいない学校なんて、行く意味が無いだろう?」
笑顔のまま――潤の大嫌いな笑顔を浮かべたまま、輝はそう言った。……本当、この人達何で高校入ったんだろう、と深海はつくづく思う。
「……今すぐあたしの前から消えろ」
「嫌だと言ったら?」
潤は手で深海に『下がってろ』と合図すると、一歩前に出る。
「ここで――あたしが殺す」
どこに仕舞っていたのか、コンパスやカッターナイフ、ボールペンなどを両手にズラリと並べる。勉強に使う文房具であろうと――あるいは、デッキブラシでも寮長室の鍵であろうと、彼女の前では輝を殺すための凶器に変わるのだ。もっとも、そんな事を知ればそれらの製作者は泣く事だろう、色んな意味で。
「……まぁ、消えるけどね」
ひらひらと彼は手を振る。まるで、武器どころか戦う気さえもありませんよ、と言わんばかりに。しかし、それでも潤は警戒を解かない。
「僕は好きなものは最後までとっておく主義でね。だから今遊ぶ気は無いし――君より先に死ぬ気も無いよ」
そう言って輝は潤達に背中を向け、歩き始める。一体彼が何をしに来たのか当然彼女達には解らない。
――いや、例え意味がなくても、輝は潤に声をかけるだろう。いつもマイナスな言葉が返ってくると知っていても、愛の言葉を紡ぎ続ける彼なら――
――背中を向けているというのに、まるで隙さえ感じさせない輝に、潤は嫌悪どころか不気味とさえ感じた。彼女は低く舌打ちすると、仕方なくというように持っていた物を仕舞う。すると、輝は立ち止まり、「ああ、最後に一つ」と言って振り返った。
「その服、よく似合ってるよ」
――そう言い残して、彼は再び歩き始めた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
登場と思ったら早速退散((
いつもより短いのはかなりカットしたからです;
>>62
に纏めとけば良かったな、と今更後悔←
64
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/01/06(金) 17:06:02 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
コメントさせていただきます。
碧君達の学校の話もいいですけど、こういうほのぼのしたのもいいですね^^
……と思ったらいきなり晴れの人出てきたり。んで帰ったり。
あの人は本当に何がしたいんだろうk((
にしても潤様が可愛いです!ファンが増える、と深海ちゃんが言ってましたが、既にファンになっている馬鹿がここにいます((
続きも頑張ってくださいね^^
65
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2012/01/06(金) 21:04:51 HOST:softbank221085012009.bbtec.net
>>竜野翔太さん
コメントありがとうございますノ
ありがとうございます^^さすがに潤にも休日(実際は平日ですが←)が必要かなぁ、と思ったので。毎日暴れてたら体が持たないですw((
何気なく呟いた『晴れの人』が定着……何でだろう、嬉しい←
太陽は規則正しく動いてるのに、彼は気まぐれです。そして神出鬼没((
それにしても、ここまで愛されている潤は幸せ者です>< しかし輝、君は例外d((
はい、頑張ります!いつもありがとうございます^^ノ
66
:
霧月 蓮_〆
◆REN/KP3zUk
:2012/01/08(日) 01:08:43 HOST:i114-183-46-33.s04.a001.ap.plala.or.jp
滅多にコメントすることはないといいつつ、晴れの人に釣られてコメントしに来た馬鹿です
なんでしょう、晴れの人、つかみどころがないというか……何を考えているか分からないです((
潤さんが好きなのか? なんて一人で考えてはうなっている僕がいます。 いや、何を考えているわからない人、僕は好きですよ((
そして潤さん。文房具でさえも武器にしてしまうなんてカッコイイです。
女子寮の毘沙門天……あだ名っていつの間にか広がる物ですよね!←
それでは短いですがこれで。
wktkしながら続きまってますねノシ
67
:
ライナー
:2012/01/08(日) 12:41:38 HOST:222-151-086-012.jp.fiberbit.net
コメント失礼します、ライナーです^^
ふぁ、ファンシーなワンピース……な、何も考えてないですよ〜(汗)
しかし、マネキン買いとはやりますな^^
晴間 輝さん、何か謎ですね^^;
何というか、服が似合っていることを伝えたかったんではないでs((殴
潤さん、コンパスやボールペンを武器にっ!? 差し詰め『文房武具』と言ったところでしょうか。
そう言えば、忍者なんかが身の回りにある物を武器として使用するアノ術に似てますね。前世凄腕忍者なのでh((殴
続き楽しみにしています、ではではwww
68
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2012/01/10(火) 16:31:25 HOST:softbank221085012009.bbtec.net
>>霧月 蓮さん
コメントありがとうございます!
晴れの(ryは、とにかく行動&心が読めない奴にしたかったので、嬉しいです!そしてそれに加えてヤンデレ気味……少なくとも、私は関わろうとしないでs((
はい、潤(この場合「雨の人」になるのでしょうか?w)が好きなんででしょう。ライクではなくラヴの方で((
でも、ある意味危険ですよね。日常生活の必需品も彼女にとっては武器になるので…((
はい、噂と共にどんどん広がっていきますw 余談ですが、月峰も殆ど面識のない人にあだ名で呼ばれる事がたまにありまs((
はい、ありがとうございます!
期待に応えられるよう頑張りますね^^
>>ライナーさん
コメントありがとうございます^^
ファンシーなワンピースって、ある意味凶器だと思うのは私だけでしょうk(( でも最近寒いのでワンピース着ている人はあまり見れないと言う罠((作中ではまだ五月くらいなのにw
とにかくビビッ!!と来たのでしょうw 普段ファッションに気を遣う子じゃないので((蹴
はい、でも後々晴れn(ryが潤に執着する理由も書いていこうかな、と思います。というか書きます←
何だかそれだけ聞くと可愛い奴ですねw でも潤の事を褒めるためだけに学校サボるってどんな人d((
文房武具って凄くかっこいいですね! 作中で使おうかな((
わお、そんな術があるんですか!? 今度調べてみますw もしかしたら本当に前世は凄腕忍者なのかも((
あと、まだまだ最初の方ですが『係争の異能力者(アビリター)』読ませて貰ってます^^
月峰は小説を書くのが遅い上に読むのも遅かったりするのですが、読み終わり次第感想を書かせて頂きますね(*´∀`)ノ
それでは、お互い頑張りましょう^^
69
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2012/01/15(日) 11:34:15 HOST:softbank221085012009.bbtec.net
◆◇◆
「(――帰るにはまだ早いか)」
携帯で時刻を確認すると、碧は心の中で呟く。液晶に映し出されている時刻は18時46分。――深い意味も当てもなく街をフラフラして、帰る時間を遅らせたいと思うのは、いわゆる『お年頃』という奴だろう、と以前架神がそう言っていたのは余談だ。
ふと、向こうから携帯を弄りながら(というより悪戦苦闘しながら)歩いてくる少女が碧の目に入る。細身でスタイルの良い――しかし胸は控えめな、白いワンピースを着た美少女だ。
――それが雨空 潤だと理解するまで、碧には時間がかかった。
「雨空……さん?」
「ん? あぁ、霧崎か」
携帯から顔を上げて、潤はそう言う。携帯を弄るのは諦めたのか、パタン、と閉じるとポケットへ滑り込ませる。携帯に付いていたストラップが可愛らしい兎なのは意外だった。
「……人違いかと思った」
「何言ってんだ、あたしは正真正銘、雨空 潤……の、12体目のクローンだよ」
呆れた様に笑う潤。何故彼女の格好がいつもと違うのか気になったが――碧には他にも気になることがあった。
「12体目?」
――現在(いま)の碧は、『霧崎 碧』の3体目のクローンだ。そして、この街に病気が流行る前からクローンが作られていた『原点』の祀木 華魅でさえ、まだ7体目だ。12体目、という数が多すぎるのは明らかだった。
「……殺されてるんだと。あたしのクローンは全員すぐに――晴間 輝に」
心底腹立たしそうに――悲しそうに、潤は言った。
「全員すぐに……って、」
あの人は……晴間 輝は――確か頭の螺子が多少外れているような人だとは思っていたが――まさかそこまで狂っていたのか、と碧は驚き、言葉を失う。しかし、どこか『やっぱりか』と思っている自分もいて、妙な気分だ。
「でも、あたしは殺されない。殺されてたまるかよ。だからそのために――そうなるために、あたしがあいつを殺す」
「殺された全ての『雨空 潤』と、あたしの元(オリジナル)の恋人の復讐のために」
70
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2012/01/15(日) 12:57:26 HOST:softbank221085012009.bbtec.net
「元(オリジナル)の……恋人?」
「ああ。名前は知らないけど、あたしの元(オリジナル)にとって大事な人だ――そいつも殺されたんだよ。雨空 潤と付き合ってた、ってだけで」
潤は拳を強く握る。掌に爪が食い込んで僅かに痛みを感じるが――そうでもしないと、泣き出してしまいそうな程、悔しくて辛いのだ。
嫉妬で人を殺すのはドロドロとした恋愛物ではよくある話だが、それを実行した人間が身近にいる、となると当然客観的には見られなくなる。――大抵の事では動じないつもりの碧でも流石にこればかりは無理だった。
愛した人を殺し、その人が愛した人もまた殺す――そんな人間を異常(おか)しくないと言える者などいるだろうか。
――しかし、輝はいつもこう言っている。彼女とこうして殺し合っている――遊んでいる時間が何より楽しい、と。全ての雨空 潤を殺している、となると、何故その『楽しみ』をわざわざ自分から終わらせるような事をするのか、そもそも何故こんなにも彼女に執着するのか……碧はますます輝の事が解らなくなる。
「あいつを理解しようとする事自体無駄ってもんだ」
碧の考えを悟って言ったのか、自分に言い聞かせるために言ったのかは判らない。すると、潤は「――前々から気になってたんだけどさ、」と無理矢理話を逸らす。
「あんた――祀木と付き合ってるのか?」
「…………はい?」
思いもよらなかった質問に碧は驚く。しかし、その表情は『驚き』より『疑問』と言った方がよく当てはまった。
「……そういう風に見えますか?」
「そういう風にしか見えないんだよ」
即答だった。確かに二人の様子を見てると付き合ってると思うのが普通だろう。
碧の反応から、潤は『二人は付き合っていない』と言う事を悟る。
「で、それがどうかしたんすか?」
「いや、どうもしてないよ――まぁ、どっちにしろ一つ忠告」
そう言うと、潤は碧のネクタイを引っ張り――自分の目の前に、彼の顔を引き寄せた。
「――――!?」
目の前――僅か10センチ程先の美しい金色の瞳に、碧は思わず息を呑む。傍から見れば、口付けを交わす5秒前のカップルにも見えるだろう。
しかし、当の彼自身からすれば、そんなムードもへったくれもない。ネクタイを掴む手には結構な力が込められている上、綺麗だと感じた瞳は、まるで獲物を狙う狩人のようだから。――そんな状況で、潤は言葉を紡いだ。
「あの子を泣かせるような事があったら――幾らお前でも『怒る』からな」
低く、ドスの聞いた声。聞き方によっては忠告と言うより脅迫と言ったほうが正しいだろう。
「……悪いけど雨空さん、それ、俺には必要ない忠告っすよ」
しかし、碧は臆する事もなく、自分のネクタイを掴んでいる潤の手を掴む。
「あいつを泣かせる奴は俺が許さない。あいつは俺の、」
――友達だから。
それを聞いた潤は呆然としていたが、すぐに嬉しそうに笑みを浮かべ、ネクタイを掴んでいた手を離す。そして、その手を碧の頭の上に置きわしわしと撫でる。まるで、母親が子供を褒めるように。
「変わったな、霧崎。……ったく、マセてんなぁ、ちょっと前まで無愛想なお子様だったのにさ」
「……俺が変わったとかどーかは置いといて、一歳しか違わないじゃないっすか……」
嬉しそうな潤とは対照的に、碧は複雑な心境だ。幾ら相手が年上であるとはいえ、思い切り子ども扱いされているのだから。……まぁ、傘同盟の人間からは、物凄く羨ましがられるのだろうが。
とはいえ、こうして見ると、あまり身長差が無い事を碧はつくづく実感させられる。潤の身長は彼より2〜3センチ程低い――大体165センチ位だろう。
「それじゃ、あたしは一旦帰るとするよ。まぁ、また後で会うだろうけどな」
そう言って潤は碧に背中を向け、歩き出した。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
偶然とはいえ、碧一回華魅泣かせてた気が((
にしても、このレスだけ異常に長かったorz
71
:
ライナー
:2012/01/15(日) 15:04:56 HOST:222-151-086-008.jp.fiberbit.net
コメント失礼します、ライナーです^^
携帯に苦戦する……な、何という機械音痴なんでしょう。そう言う自分も機械音痴ですが^^;
そして、少し飛びますが、ネクタイ掴んで一言バシッ!っと言ってやるのは、格好いいですね! 自分も出来ることならやってみたい思いです(笑)
続きも楽しみにしております! ではではwww
72
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2012/01/15(日) 15:15:38 HOST:softbank221085012009.bbtec.net
>>ライナーさん
コメントありがとうございます^^
潤は何だかんだで不器用なんですwそして性格も不器用でs(( 月峰もかなりの機会音痴だったりしますwそして携帯でメールを打つのが異常なほど遅いです(これは慣れの問題ですが((
ちなみに最初はネクタイではなく胸倉を掴む、にするか迷いましたが、胸倉ryはジャージがいつかやってくれるかなぁ、と思ったので((どんな変え方w
ありがとうございます!お互い頑張りましょう^^
73
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/01/15(日) 21:18:10 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
コメント失礼します。
潤様がカッコよすぎて、いつしか潤様の台詞を、沢城みゆきさんで再生してましt((
そして潤様と晴れの人の間に何があったのか、ますます気になってきました!
もー、碧君もとっとと華魅に告れよ(( きっと今ならオッケーをもらえるはずさ((
僕は応援してるぜw
続き頑張ってくださいw
74
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2012/01/16(月) 17:16:10 HOST:softbank221085012009.bbtec.net
>>竜野翔太さん
コメントありがとうございます^^
みゆきちさんですか!月峰も大好きですよw 確か某一族の復讐に燃える子の役もやってたn(( 余談ですが、作者の頭の中では弘川さんは勝手に斎賀さんの声で再生されておりまs((
はい、期待に応えられるような話作り、頑張ります!!でも流石に引っ張りすぎかなぁ、という自覚はあります;
碧と華魅は多分『潤&輝編』が終わる頃には……ごほんごほn← あの二人はまずお互い名前で呼び合う所から始めないとw
ありがとうございます^^ これからも頑張りますね!!
75
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2012/02/09(木) 17:21:16 HOST:softbank221085012009.bbtec.net
第六章 未だ雨は止まず
男子寮の寮長室。――その部屋は、生活や仕事に必要なものしか置いていない、といった様で、今時の学生らしいものなど殆ど置いていなかった。
不気味なほど静まりかえったその部屋は、まるでそこだけ別世界になっているような、そんな印象さえ受ける。ただ、そこに存在する音といえば19時丁度を指す時計の音ぐらいだ。
殺風景としか言いようのないそんな部屋の主を特定するのは困難だ。しかし、そこには『寮長室』という肩書きがあるため、部屋の主を特定するのは実に容易くなる。
「まったく……どうやったらこんな壊れ方するんだろうねぇ」
男子寮の寮長、もといこの部屋の主の晴間 輝は、机の上に無造作にばら撒かれた『それら』を眺めながら呟く。
『それら』の中には、二つに分解された鋏、200°以上は開いているであろうコンパス、割れて先が尖った定規、奇妙に折れ曲がった、というより捻れた鍵と500円玉――他にも、色々なものがあった。
「……今日は何を使ってくるのかなぁ」
ガラクタとも言える『それら』の中から、輝は刃が赤黒く錆び付いたカッターナイフを手に取り、彼は再び呟く。まるで、デートの約束をしている恋人が、一体どんな服で来るのだろう、と期待しているかのように。
そして、手に取ったそれを眺めて、彼は愛おしそうな――寂しそうな表情を浮かべた。
そう、『それら』は今までに潤が使った武器、もとい凶器の一部なのだ。
「……いつになったら、僕は――」
コン、コン、と。
輝の言葉を遮るように、ドアを叩く音が静かな部屋に響いた。そして、続いて聞こえてくる「はれまくんー、いるー?」というのんびりとした幼い声。
「うーん、残念だったね。今はオトモダチとお出かけ中だよ」
「えー、嘘だよ! だってきみ友達いないじゃんー!」
ズレたツッコミとともにドアが勢いよく開く。現れたのは、ぱっちりとした若草色の瞳が印象的な、ぶかぶかの白衣を羽織った少年、玄行 架神だった。
「ツッコミむ所がズレてないかい、玄行くん――それに、まだ入っていいなんて言ったつもりは無いけどなぁ」
「ズレてなんか無いよー! だってきみに友達がいたら、街を揺るがす大事件になっちゃうでしょー?」
随分と酷い言いようだが、恐らく輝に関わった人間なら、架神の言葉を否定する者は殆どいないだろう。しかし、輝は気を損ねる事無く、それどころか「ハハ、それは褒め言葉だね」と笑う。
そして、大げさに手を開いてみせると、こう言い放った。
「この街(セカイ)を揺るがす事ができるなんて――まるで神様のようじゃないか」
その言葉を聞くなり、架神はドン引きしたように表情を引きつらせる。まぁ、実際ドン引きしているのだが。
「はれまくんのそういう『ぽじてぃぶ』な所、笑えるくらい笑えないよねえ……折角持ってきた『つばさ特製パンケーキ』が駄目になっちゃうよ」
そう言って架神は持ってきた白い袋を掲げてみせる。恐らく、これを渡すために来たのだろう。――弘川が不器用なりに頑張って作っている様子が輝の頭に浮かぶ。
「笑えるくらい――って、物凄い矛盾だけど、君なら仕方ないか。……あ、ケーキは有難く貰っとくよ」
ケーキの入った袋を輝が受け取ったのを確認すると、架神は役目は終えたと言わんばかりに、くるりと背中を向け、部屋の外へ歩き出す。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
受験やら何やらが重なり、更新が遅れてしまいました;
読んで下さっている方々、大変申し訳ないです;;
これからも更新の頻度は上がったり下がったりですが、きちんと完結させるつもりなので、どうか温かい目で見守っていただけたら嬉しいです(・ω・`)
ちなみに分割したので、次のはすぐに上げるかt←
76
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2012/02/09(木) 17:23:57 HOST:softbank221085012009.bbtec.net
「そーだ、はれまくん。きみのその『目』を見る度思うんだけどさー、」
ドアに手を置くと、架神は振り返り輝の深緑色の瞳を見つめる。
「――――いつまでうるむちゃんを、騙すつもりなの?」
厳しく問い詰める訳でもなく、ただ純粋に疑問を投げかけるような架神から目を逸らすと、「……何の事、かなあ」と曖昧な返事をした。
「その目、『からこん』でしょ? うるむちゃんの元(オリジナル)と同じ色の」
輝の瞳を指差しながら、架神は淡々と言葉を紡いでいく。
「ぼく、知ってるんだよー。うるむちゃんの元(オリジナル)は事故で両目を失くした事。――その目の代用品(代わり)が、はれまくんの目のコピーだって事。それを悟られないために、きみは自分の目……今のうるむちゃんと同じ色の目を、『からこん』で隠してる事。それから、」
止めてくれよ、と輝が呟くのをスルーして、さらに架神はこう続けた。
「本当はきみは――晴間 輝は、雨空 潤を殺していない事」
その言葉が紡がれた刹那、架神の細い首筋に、カッターナイフが当てられる。赤黒く錆び付いたそれは、先ほど輝が眺めていた――そして、以前に潤が使っていた物だ。
「止めろ、って言ってるだろ?」
いつものへらへらしている様子からは想像出来ないような余裕の無い表情を浮かべた輝は、今すぐにでもカッターナイフを引いて、架神の喉を切り裂いてしまいそうだ。
しかし、当の架神は動揺する事も無く、むしろ「『おどし』だったらさー、もっと良い凶器(もの)使いなよー」なんて言い出す始末。身長差があるため、輝を見上げる形にはなっているのだが、表情や態度はどこか見下しているようにも見えた。
「……まあ、はっきり言っちゃうと、ぼくにとってはどうでもいいことなんだよねえ」
ぼくはあくまで中立な立場だから、と続けると架神は輝の手を退(の)け、輝に背中を向けると廊下の向こうへ消えていった。それに対して輝は何もせずに、ただ辛く、悲しそうな表情を浮かべ、俯く。
――その表情は、いつかの潤と、どこか共通するものがあった。
77
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/02/10(金) 20:42:32 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
コメント失礼いたします!
久々の更新、待ってました!受験などで忙しいとは思いますが、頑張ってください^^
にしても架神くんの言葉の真実が気になりますね。
ますます晴れの人と雨の人の過去が気になってきました!早くも続きが楽しみです!
何故か晴れの人の声が神谷浩史さんで再生されr((
若干焦っている晴れの人が珍しいですw
続きも楽しみにしておりますので、頑張ってくださいね^^ノ
78
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2012/02/18(土) 10:49:08 HOST:softbank221085012009.bbtec.net
>>竜野翔太さん
コメントありがとうございます!そのお言葉だけで志望校に受かる気すらしてきまs((蹴
合法ショt……ごほん、架神は事情を知っていても、自分から行動に移そうとはしない奴です。
某CMの『知っているけど、していない』とは、まさにこの事ですね((
みゆきちさんに神谷さん……何とも豪華な声優陣ですねw
ちなみに晴れの人は某愉快な情報屋さんと頭の中でダブる、と友人にも度々指摘されました((
確かにいつでも余裕ですからね、晴れの人w 多分その余裕を崩せるのも結構限られてくると思いますw
はい、ありがとうございます^^ お互い頑張りましょうノ
79
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2012/02/21(火) 15:10:08 HOST:softbank221085012009.bbtec.net
◆◇◆
「霧崎ィー、その資料はこっちだってよ」
翌日、午後14時半。本来なら碧達は学校で授業を受けている時間だ。しかし、今日はいつもと違い、街に大雨警報がでているので、授業は午前中だけだった。生徒達が喜びそうなそんな状況の中、碧、秋寺、華魅、潤の4人は弘川と共に、地下研究室のさらに奥の資料室で資料の整理をしていた。
――事の発端は、「午後から暇なんだったら、ちょっと掃除につきあってほしいなあー」という架神の一言。日頃から彼には世話になっているため、半ば仕方ないと思いつつ皆手伝っていた。
「いやー、翼ちゃんの頼みってなると、ここはやるしかねーよなあ!」
袖を捲くって、やる気満々の様子の秋寺(実際は架神からの頼みなのだが、彼の頭の中では都合よく『弘川からの頼み』と変更されてしまっているらしい)。何気にこの5人の中で一番力が強い彼は、皆より明らかに多い数の資料を軽々と運んでいく。
「つーかヒロカワ、お前の部屋を汚す能力は尋常じゃないな」
資料の一つを棚にしまうと、碧は呆れたように呟く。数週間前にもこんな事があったっけな、などと考えながら碧は資料やら何やらが散乱した部屋を改めて見渡した。
「いえ、それほどでも、」
「ちょっと待て、褒めてない」
若干照れたように頬をかく弘川に、碧はすかさずツッコむ。
ちなみに、碧は今前髪が伸びて邪魔だという事で、華魅が持っていたヘアピンで留めているが――ここまで視界がクリアなのも新鮮だとすら彼には思えてくる。そして、深い意味も無く「……そろそろ髪、切ろうかな」と呟いてみた。
「霧崎くん、初めて会ったときより伸びたもんね」
ヒロカワさんより長いんじゃない? とクスリと笑う華魅。大量の資料を抱えているため、足取りが覚束なく、歩くたびに桜色の髪がふわふわと揺れる。
「つーか、大丈夫か? そんなに持って、」
「う、うん。全然大丈――って、わわっ!」
その刹那だった。小さな悲鳴と共に、バランスを崩した華魅の身体が傾く。しかし、傾くだけで倒れてはいない。何故なら――
「……言った傍から、かよ」
偶然何も持っていなかった碧がすぐ傍にいて、華魅を受け止めたからだ。いや、例え彼なら、何かを持っていた所で――それを放り投げてでも同じ行動をとるだろう。
もっとも、体勢的には『抱きしめている』と言った方が正しいのだろうが。
「……あ、ありがとう……」
碧の腕の中の華魅は、若干頬を赤らめて言う。しかし、彼女はすぐに軽くなった両手に気づくと足元に目をやる。
――案の定、足元には先ほど華魅が持っていた資料が散乱していた。
「ごっごごごめんなさいっ!!」
盛大に噛みながら、慌てて資料を拾い集める華魅。そして、一緒になって拾い始める碧。
「……別に、いーよ」
――お前が無事だったんだし。
「拾えば良いことだし」
弘川と潤がニヤニヤしながらこちらを見ている事に気づき、出掛かっていた言葉は声になったときには別のものへと変わっていた。
ふと、華魅は資料を拾う手を止めた。
「……これ、」
そこにあったのは、オレンジ色の髪の少年の写真が写った資料だった。
「晴間先輩……だよね?」
写真に写る少年の顔を見て、華魅は呟く。顔立ちは幼く、髪型は今とは違うが、醸し出す独特の雰囲気が晴間 輝だという事を悟らせた。
「はい――輝さんの特異体質についての研究資料なんです」
特異体質――天気が『晴れ』の日にち、時間帯を正確に予測する、輝の特別、そして異様とも言える能力の事だ。
まぁ、珍しい体質だから、研究者達が興味を持つのも、研究資料を作ろうとするのも別におかしな話ではないだろう――などと、碧が納得した矢先だった。
「ちょっと、待てよ」
しかし、そう納得しなかったのが――自己解決しなかったのが、一人いた。
輝と対の――しかし同等の能力を持つ、雨空 潤だった。
「じゃあ、何であたしは研究資料にされない?」
似てる事は似てるけど、仕組みとかは違うかもしれないじゃんか、と潤。それに対して弘川は、失言だったと言わんばかりに口を噤む。
「あーあ、駄目じゃんつばさ――はれまくんに口止めされてるんだからさー」
資料室の入り口の方から、のんびりとした声が響く。誰というまでも無い――架神の声だ。
そして彼は、実にわざとらしく、聞こえよがしに「とくにうるむちゃんには、って」と付け足した。
80
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2012/02/22(水) 17:10:43 HOST:softbank221085012009.bbtec.net
「どういう事だよ、ヒロカワ」
一歩、潤は弘川の方へと詰め寄る。彼女の金色の瞳は、10センチ近く身長差があるため、見上げる形になってはいるが、しっかり弘川を捕らえて離さない。弘川は思わず目を逸らして、一歩後ずさろうとするが、潤はそれを見逃さず、両手で彼女の胸倉を掴む。
「どういう事かって訊いてんだよ! あんた何か知ってんだろッ!!」
「ちょっ、落ち着けよ潤ッ!」
秋寺は猛々しく吼える潤を、弘川から引き離して押さえる。秋寺と自分の力の差を解っているのか、彼を振りほどこうとはしないが、威嚇するような目つきは変わらない。
「……すみません、潤――」
「まーいいよ、つばさ、言っちゃっても。よく考えたら、ぼくらがはれまくんの約束守っても、なんにも『めりっと』はないんだし」
バツの悪そうに俯いていた弘川に対し、架神は当たり前の事のように言う。
「まあ、これからはれまくんに命狙われる事になるかもしれないけどさ――そんなの、『でめりっと』の内に入らないでしょー?」
あっさりと先ほど言った事を覆す架神を、弘川は驚きと呆れが入り混じったような表情で見つめる。どんな掌の返し方ですか、と言わんばかりに。
そんな彼女の視線をスルーすると、架神は潤の目の前まで歩み寄る。
「それじゃあ、うるむちゃん……最初のきみの疑問に答えておこうかな」
最初の疑問――『何故、晴間 輝が研究資料にされているのに、自分はされなかったのか』という所だろう。
――簡単だよ、と架神。
「はれまくんが……いや、はれまくんの元(オリジナル)が断ったんだよ。きみを研究資料にしないのを条件に、はれまくんは資料になったんだ」
「……はぁ? 何であいつが、わざわざそんな事を……」
「あれ? 解らないって、うるむちゃん……それは『ばか』としか言いようが無いよー。はれまくんが毎日毎日、飽きもしないで言ってるのにさあー」
毎日毎日。
輝が飽きもしないで言っている事。
「はれまくんが――きみの事を、誰よりも愛しているからだよ」
パチン、とクリップで留めた資料の束を架神は背の低い棚の上に置く。
「取りあえず、ぼくが知っている全てを教えてあげるよ。……もっとも、この話が終わった後、きみがどう動くかは、大体予想できているけどね」
潤は催促する事も無く、ただ黙って架神を見つめる。先ほどより幾分落ち着いているように見えるが、目つきは真剣そのものだ。そんな彼女を見ては、架神は幼い顔に子供らしくない笑みを浮かべ(実際中身は子供ではないのだが)、言葉を紡ぎ始めた。
「――むかーしむかし、ある所に、一人の男の子がいました。……その男の子には好きな子がいました。とっても可愛い女の子です。
しかし、その女の子は、事故で両目を失いました」
不慮の事故、って奴だよね、可哀想に。そう架神は言う。それは他人事と言うより、絵本の中の出来事のように。
「それを知った男の子は、お医者さんに迷わず言いました」
そう、架神が言ったところで、
「僕の目を、彼女の目の代わりにしてください、と」
架神の声ではない、別の誰かの声が響いた。
――いや、誰かではない。ここにいる誰もが知っている声だ。
「晴間 輝……!」
資料室の出入り口のドアにもたれ掛かっている少年の――先ほどの声の主の名を潤は呼んだ。
フッ、と笑ってみせる輝に、架神は頬を膨らませて「ぼくの事『きょーはく』しておきながら、今更『かみんぐあうと』かよぉー」と言う。
「それを言うなら、君だって僕がせっかく脅迫したのに、あっさりバラしてるじゃないか」
……まぁ、折角だから後で玄行くんを解体(バラ)す、ってのもありかなぁ、と。あっさりそんな事を言ってのける輝に、碧は本気で思った。
――やっぱり、この人は『不気味』だ、と。
「君にバラされるくらいなら、僕の口から話した方が良いと思った――ってのは、さすがに言い訳だね」
一歩一歩、輝は潤の元へ歩み寄る。そして、真っ直ぐ彼女の目を見てこう言い放った。
「僕から、全て話すよ」
――輝は両目のカラーコンタクトを外す。表れたのは、潤と同じ、金色の瞳だ。
「もう、君を騙すのは、終わりにしようと思う」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
流石に詰め込みすぎかなぁ、とか思ったり思わなかったり((
次回は晴れの人のマシンガントークになるかと(・ω・`)
81
:
霧月 蓮_〆
◆REN/KP3zUk
:2012/02/27(月) 22:56:14 HOST:i121-114-186-133.s04.a001.ap.plala.or.jp
晴れの人、俺だ、結婚してくr(ry
さて、少々やかましいのがやってきましたが大丈夫でしょうか?((
なんでしょうか、晴れの人が妙にかっこよく見えます。
潤さんと晴れの人の関係、だんだんと目が離せなくなってきました。きっと晴れの人にも後ろめたさ(?)があったのかなぁ、と思いながら読ませていただいています
それにしても架神君……。可愛いです(オイ
言い回しもかっこよくて素直に尊敬です。
どうやったらそんなに綺麗な文章がかけるのでしょうか?
そして、部屋を汚す能力は尋常じゃない、その言葉に対する翼さんの答え……何処までも天然なようで安心しました((
それでは今回はこの辺にして。
続き、楽しみにしています
82
:
名無しさん
:2012/02/27(月) 23:03:06 HOST:wb92proxy03.ezweb.ne.jp
生きてて楽しいことある?(笑)
83
:
館脇 燎
◆SgMmRiSMrY
:2012/03/04(日) 16:12:51 HOST:222-151-086-008.jp.fiberbit.net
コメント失礼致します。
こちらの小説にコメントを頂いておいて、返すのが遅れてしまいました(汗) 申し訳ありません。
まず最初に。とても文章力が高く、比喩などの表現が参考になるものばかりでした!
キャラクターの関係線も面白くて、心の葛藤が良く伝わります。
ですが、小説の部分で一番大切な動機、抑圧、目的の達成が欠けているかと……
この小説は、何を伝えたいのかというのが、これによって大幅に欠けてしまっています。
代表的な「桃太郎」を例に挙げてみても、鬼退治をして人々を救うという動機がありますよね。
つまり、「主人公が目的に向かって行動し、それを妨害する敵(環境)と戦って、最終的に目的を達成する」というのが必要なのです。
一見、バトルファンタジーに限ったもののように見えますが、恋愛物だったら好きな異性の気を引く(目的)、恋敵が存在する(敵)、好きな異性と付き合う(目的の達成)。推理物なら正義感から事件を解こうとする(目的)、事件に奥に潜む犯人(敵)、事件をズバリと解き明かす(目的の達成)。などなど、これが応用されていますよね。
僕が読んだ参考書だと、これがないと「駄作になる」とまで書き綴ってあります。
何だか素人が生意気な口聞いちゃいましたが、僕は小説においてこの部分は一番大切だと思ったので、書かせて頂きました。
それでは、コメント失礼致しました。
84
:
◆XkPVI3useA
:2012/03/16(金) 16:27:57 HOST:p24060-ipngn100102matsue.shimane.ocn.ne.jp
受験と卒業式を終えて戻ってきました。
暫く日にちが開いてしまいましたが、また更新を再開しようと思います(´・ω・)ノ
まず、コメントをしてくださった方々、返信が遅くなってしまい、大変申し訳ありません><
>>霧月 蓮さん
コメントありがとうございます!
はい、あんな奴でよろしければどうz((
やかましいだなんてとんでもないです、むしろコメントを頂けることに大感激ですよ!
何故でしょう、月峰は「晴れの人うぜぇw」という感想が来ると思っていたのですが、まさかかっこいいとまで言って貰えるとは……!←
ちなみに現時点ではヤンデレ担当っぽくなっていますが、私も晴れの人は結構気に入っていますw
でも彼、一番曲がってるようでいて実は一番真っ直ぐな奴なんじゃないかなぁ、と書きながら思ったりしてます。しかし彼は一途過ぎて愛が重i((
ありがとうございます!でも、プロットの段階で架神が若干悪っぽいポジションなので、これから先そう言ってもらえるか不安ですw
言い回しですか!?かっこいいと思っていただけるにはまだまだ遠いですよ!
でも、これじゃあ答えになっていないので、強いて言うなら「この言い回しかっこいいなぁ」と思った本をガンガン読むことでしょうか?
私は料理本を読んだだけで料理がうまくなった気がして満足するようなタイプなのでw(あれ、あんまり関係ない気が←
とにかく弘川の部屋を汚すスキルは半端じゃないです。某都市に行けばレベル5までいけるかt((
はい、ありがとうございます!お互い頑張りましょう^^
>>館脇 燎さん
コメントありがとうございます^^
いえいえそんな、コメントを頂けるだけで嬉しいですよ!
ありがとうございます!まだまだ修行中とはいえ、比喩は以前指摘を受けたことがあって力を入れたので、評価して貰えて嬉しいです><
キャラ同士の関係については、「こういう関係って面白いかなぁ」などと思いながら繋いでます。はっきりいって私の趣味と妄想が入り混じったものですg←
動機、抑圧、目的、ですか……たしかにお伽話や昔話に例えてみても共通していますね。
それを踏まえて読み返してみると「結局の所、この子はなにがしたかったんだろう?」や「障害物少ないなぁ」と思う所が多々ありました。そもそも今の章からしてそうですね((
とりあえず、この章が終わり次第、主人公達の恋路を妨害するものをまず入れていこうと思います。
アドバイスをすぐに、尚且つちゃんと反映できるかどうかは不安ですが、少しでもいい作品に出来るように頑張ります!
いえ、生意気だなんてとんでもないですよ! 貴重なアドアイス、そして大切なことに気づかせて頂き、本当にありがとうございます!
それでは、お互い頑張りましょう^^
85
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2012/03/20(火) 15:19:48 HOST:p24060-ipngn100102matsue.shimane.ocn.ne.jp
「それじゃあ、さっきの続きから話そうか。……いや、それより先にこれを言わないとね。
大方解っていたと思うけどさ――僕は『元(オリジナル)』と今までの全ての『僕(クローン)』の記憶を継いでいるんだよ。僕のこの特異体質の研究資料になる事と引き換えにね。
さて、それじゃあ話を戻そうか。
――――それで、その男の子は、ある女の子を誰よりも愛していたんだ。
だってその子は、いつだって内気で何もできなかった自分を、暖かい日の当たる場所へと連れ出してくれたんだから。
そんな彼女のためなら、何だってできる。男の子はそう考えていたんだ。
だから、両目を失った女の子に、自分の目を――自分の目のコピーを、彼女に差し出した。
いやあ、クローン技術って便利だよねぇ。……とりあえず、ここまでだったら女の子の視力が戻ってめでたしめでたし、だったんだけど、そうはいかなかったよ。
本当、運命って酷いよねぇ。何食わぬ顔で僕らを裏切るんだからさ。
――――女の子に、恋人が出来たんだ。
それは、その男の子とは全然違うし、面識も無い。確か二人より三歳くらい上だったっけか。
……辛かったけど、男の子は祝福したよ。おめでとう、って。彼女の幸せのためだ、と自分に言い聞かせながら。
でも、それは全然祝うべき事じゃなかったんだよ。むしろ呪うべき事だった。
最低だったんだよ、そいつは――女の子の恋人は。
特異体質を持つの彼女を解体(バラ)して、闇市や研究者に高値で売りつけようと企んでいた――言葉じゃ言い表せないくらい、どうしようもない奴だった。
だから、男の子は。
僕は、そいつを殺してやった。
彼女にしようとしていた事を、やってやった。流石に幾つに解体(バラ)したかは覚えていないけど――まあ、ざまあみろってか。
女の子は……何も知らなかった潤ちゃんは、泣いたよ。ひたすら泣いて、恋人の名前を叫んで――――僕を罵った。
その時、僕は気付いた。気付いてしまったんだ。
今まで僕が彼女のためにしてきた事は――――結局は全て自分のためだったんだと。
彼女に自分の目を差し出したのも、あいつを殺したのも、全部。彼女が自分だけを見るためにと……見返りを求めて、していた事を。
結局潤ちゃんは自殺した。あいつの後でも追うように。
だから僕は、その潤ちゃんを追って、自殺した。
自分の首に包丁刺すの、思った以上に痛かったよ。……痛みははっきり覚えているのに、その痕跡(あと)が残っていないなんて、変な話だよね。
……でも、僕は死んでもすぐに作られる。次の『晴間 輝(クローン)』として、生き返る。生まれ変わる。継ぎたくもない、でも継がなければならない記憶を、全て継いで。
だからこそ、僕は。今度こそ潤ちゃんを幸せにしようとした。
元(オリジナル)に出来なかった事を、しようと思った。
でも、駄目だったよ。
潤ちゃんのクローンは、元(オリジナル)からメッセージを預かってたらしいんだよ。『晴間 輝を殺せ』って。まぁ、何も知らない彼女からしたら当然の事だろうさ。
でも、僕は死ぬ気なんて……殺される気なんて、さらさら無かったよ。
潤ちゃんを幸せにしないと、いけないんだから。
でも、駄目だった。彼女はまた自殺した。
多分、『今の雨空 潤では晴間 輝に勝てないから、全てを次のクローンに託す』っていう所じゃないかな。
でも、潤ちゃんは僕に勝てない。……考えてもみてよ。僕の何十年、何百年分の記憶は『君(雨空 潤)』で占められているんだからさ――君の行動、仕草、癖なんてものは、何でも解るよ。次、どんな攻撃が来るか……どんな攻撃に潤ちゃんは対処できないのかも当然、ね。
それが、無意味だと知らずに、何度も繰り返されて。
彼女は、何度も僕を殺そうとして、失敗して。
僕は、何度も彼女を救おうとして、失敗して。
その、繰り返し。エンドレス。それが何十回、何百回と、気が遠くなるくらい何度も、繰り返されて」
そして、今の僕らがある訳――――と、輝は締めくくった。
誰も相槌を打つ暇が無かった言葉は締めくくっても尚、誰も返事を返すことが出来なかった。
ただ、唇を震わせる潤に、ずっと黙っていた架神は言った。とどめを刺すように。
「ま、要するに――――『雨空 潤』の人生を狂わせていたのは、他の誰でもない、きみ自身だったって事だよ」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
久しぶりの更新です(`・ω・)ノ
そして予告通りマシンガントークな晴れの人。滑舌が悪い私には到底できない芸当でs((
86
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/03/23(金) 18:23:39 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
コメント失礼いたします。
では、まず一言。ご卒業おめでとうございます!
最近自分の事より他人の事に感嘆の声を上げてしまう、自分の事を全く意に介していない老人みたいな思考になってしまいました((
さてさて、晴れの人のマシンガントーク!
常にへらへらと、軽い感じの彼でしたがそんな事があったとは……結構晴れの人好きになったかも((
だが、潤様を愛してるのには変わりないんだZE☆((殴
架神くんの何とも言えん立場もいいですねw まさか、晴れの人と架神くんは共謀していたのk((
この事実を知った潤様がどう動くか楽しみですね!
続きも楽しみに待っておりますので、頑張ってください^^ノ
87
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2012/03/25(日) 12:05:14 HOST:p24060-ipngn100102matsue.shimane.ocn.ne.jp
>>竜野翔太さん
ありがとうございます!志望校にも合格できたので、ひとまず安堵している月峰ですw
いえいえ、それは竜野さんが人の良い所を見つけるのが上手い、という事だと思いますよ!
それにしても、あれって結構喉渇くと思うんですよね。しかし水分補給など出来ない空気((
おお!本当ですか!相変わらずジャージ推しの作者ですが、嬉しい限りです!!
ただ、これからの展開で潤(それより架神ですね←)の好感度が下がってしまうのでは、と心配していますw
いえ、架神は独断かつマイペースです。しかしそろそろROM専卒業しまs((
彼は何もかも『中立だから』と割り切って、輝の約束をあっさり破ったり、刺のある言葉をガンガン言い放ったり……うーむ、作者がひねくれているせいか、キャラがどうもひねくれてきています((
はい、今までの事は全て無駄だった、となると結構精神的にきますからね。……あれ、自分で潤発狂フラグ立てちゃってr((
ありがとうございます!そろそろこの編の完結も近いところですが、お付き合い頂けると嬉しいです^^ノ
88
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2012/03/30(金) 13:48:41 HOST:p24060-ipngn100102matsue.shimane.ocn.ne.jp
「…………嘘だ」
震える声で、潤は呟く。
「嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ! そんなの、嘘だァッ!!」
潤は頭を抱えて、同じ言葉を吐き出す。何度も、何度も、壊れたレコードのように。
そんな彼女に、碧達は声をかけることが出来なかった。
彼女を、不器用ながら良き先輩として慕っていた碧も、
彼女の、中学の頃からの後輩の華魅も、
彼女と、中学校時代を共にしてきた秋寺も、
彼女が、怪我をする度手当をしていた弘川も、
何も――虚しいほど何もできなかった。
「じゃあ……あたしが今までしてきた事は、一体……」
「無駄だったんじゃない?」
――――ただ一人、玄行 架神を除いて。
「だって、はれまくんはずっときみを助けようとして、今までの人生を全て費やしてきたんだよ? それをきみは容赦なく裏切った。無駄にした――全く、恩知らずも良いところだよねえ」
その言葉が決定打だったのだろう――潤は資料室を飛び出した。
「雨空さんッ……!」
真っ先に彼女の名を名を呼んだのは、碧だった。しかし、結局彼女は立ち止まるどころか、振り返ることもなかった。
「ねえ、つばさ。うるむちゃんの好きな場所って、あの無駄に高い廃ビルの屋上だったよねえ」
あそこは星がよく見えるから、と。
まるで先ほどまで何も無かったかのような――何も無かったら、世間話になっていそうな、架神の言葉。その馬鹿馬鹿しいほどいつも通りな調子の彼の言葉を聞いた刹那だった。
先ほどまで何も言えなかった――もとい、何も出来なかった秋寺は架神の胸倉を掴みかかった。
「テメェ、さっきからいい加減にしろよッ!! 大体、こんな状況作っといて何呑気に――――」
「のんき? ぼくはのんきな事なんて、一言も言った覚え無いよー?」
胸倉を掴まれて宙に浮いた状態の架神は、首を傾げながら「最初に言ったじゃん、ぼく。『この話が終わった後、うるむちゃんがどう動くかは、大体予想できてる』って」と続ける。
そして、彼は秋寺を見下すように見上げると、こう言い放った。
「ぼくは、自殺志願者がこの街(セカイ)で何より嫌いなんだよ」
あんな自分から命捨てるような奴ら、一人残らず死んじゃえばいいのに、と。
相変わらず矛盾した言葉だが、秋寺にはそれだけで充分だった。秋寺は架神を突き飛ばすと、資料室を飛び出し――親友の後を追った。
「霧崎くんっ……!」
私たちも追いかけよう、と。華魅は碧の服の裾を引っ張る。
そして碧は無言で頷くと、資料室を後にした。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
分割したので、続きは数分後に上げると思いますノ
89
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2012/03/30(金) 13:53:48 HOST:p24060-ipngn100102matsue.shimane.ocn.ne.jp
碧達が去り、輝、架神、弘川だけとなった資料室に静寂が訪れる。
「きみは行かないの?」
しかし、その静寂を打ち破ったのは架神だった。
「言いたい放題の君に僕から言わせてもらうけどさぁ、玄行くん。僕はアニメや漫画の主人公(ヒーロー)じゃ、ないんだよ。……世界どころか、大切な人一人救えない、ただ逃げてるだけの臆病な偽物(クローン)、」
だから、と輝が続けようとした時だった。
「そんなの、知ってるよ」
肯定の言葉。残酷すぎるほど、純粋で真っ直ぐな瞳が輝を射抜く。
「きみは主人公(ヒーロー)なんかじゃないし、強いて言うなら、仮面を被った道化師だ。……でも、ひとつ間違ってるかなー」
そう言って架神は目を伏せると、白衣のポケットに無造作に手を突っ込む。そして、彼は再び目を合わせると、こう言い放った。
「――『救えねぇ』じゃなくて『救わねぇ』の間違いだろ、臆病者が」
輝は思わず自分の耳と目を疑った。
そこにはのんびりとした口調の架神も、子供らしい笑顔の架神もいなかったのだから。
見下すような、ではない、本気で見下している彼の表情を見て、輝は思わず固唾を呑む。息をするのも辛く感じるほどだ。ましてや声など出るはずもなく、彼はただ黙っていることしかできなかった。
――すると、輝の後ろから「輝さん、」と凛とした中性的な声がした。
「確かにあなたは潤を騙していた――でも、あなたの潤に対する想いは、本物でしょう?」
声の主、弘川は振り返った輝の目の前まで歩み寄る。
「なら――ぶつかってくれば、良いじゃないですか」
率直すぎるほど、率直な言葉。これだけ抜き出せば、友人への恋愛相談とも取れるだろう。とはいえ、これが弘川の、弘川らしい素直な言葉だった。
そんな彼女を、輝は驚いたように見つめる。すると、彼女は少し照れ臭そうに、男性顔負けの王子様スマイルを浮かべて、輝の背中をぽん、と叩いた。――行ってあげて、そう言うかのように。
すると彼は、珍しく困ったような笑みを浮かべると、
「当たって砕けてくるよ」
と言って、資料室を飛び出した。
――――弘川と架神二人だけの資料室。
「……架神さん、あなたも人が悪いですね。幾ら演技とはいえ、あそこまで罵らなくても良かったと思いますよ?」
「あはは、やっぱり気づいてたんだ、演技だって。でも、あの二人は色々と吹っ飛んじゃってるんだからさ、ちょっとやりすぎたくらいが丁度良いんだよー」
どうせ結果は似たようなものばっかりなんだからさあ、その中でも一番面白いのを選ぶのが吉でしょ? と、どこから持ってきたのか、そして何時の間に持って来たのか、涼しい顔でココアを飲みつつ架神は言う。
「まったく、取り返しのつかないことになったら……いや、そうなったら僕が全力で防げばいいか。……で、まさかあなたはここからもどうなるのかも、全て予想がついていると?」
「ここからは予想というより理想だね――後ははれまくんの行動しだいでハッピーエンドかバッドエンドかが決まるよ」
「……もしかして、心配してるんですか? 輝さんの事、」
「まさか。ぼくが心配したところで、はれまくんの肩が重くなるだけだよー」
――恐らく『片想い』と『肩重い』を掛けたのだろう。架神は得意気にしているが、弘川は苦笑いを浮かべて頬を掻いている。ここで敢えて上手くないと言わないのは彼女の優しさだろうか。
「――まあ、大丈夫でしょ、きっと」
ココアを飲み干し、空になったマグカップを机の上に置くと、架神はいつもどおりの子供らしい笑顔で、こう続けた。
「道化師は――人を笑顔にする天才なんだからさ」
90
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/03/30(金) 17:13:35 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
コメント失礼します。
最近僕のコメントが多いから、なるべく間を空けようと思ったのですが、今回はそんな言葉を無視してしまうほど良い展開だったので、無意識に手がキーボードを叩いております((
最初の『嘘だ』の連呼は某作品の竜宮○ナさんを彷彿させるような感覚がしましt((
しっかし、架神くん容赦ないっすな……。僕が潤様の立場なら、その場で泣き崩れてます。
しかし碧くん台詞なし……。秋寺や弘川が久しぶりに喋ったのに……。まあ僕の場合も似たようなもんですがw
今までは断トツで潤様好きだったのですが、今回の章で晴れの人と弘川さんも好きになりそうですw
いやぁ、魅力的なキャラが作れて羨ましい限りです!僕も見習わねば((
続きがすっごく楽しみです!物語も佳境(でいいのか?)なので、是非頑張ってください^^ノ
91
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2012/04/02(月) 10:48:09 HOST:p24060-ipngn100102matsue.shimane.ocn.ne.jp
>>竜野翔太さん
いえいえ、竜野さんのコメントはいつも私の励みになってますよ^^
それにしても、回が増すごとに展開がカオスになっていきます((
やっぱりですかw 流石にあれはマズかったかなぁ、とちょっと反省中です((
架神は基本他人には容赦ないです(とはいえ、あれは演技なのですが←)。ちなみに潤を資料室から出したのは単に場所を変えたかったからとかそういう理由では決して(ry
はい、潤の名前呼んだだけですからね、主人公なのに……やっぱり人数が増えるとどうしても喋る人と喋らない人がはっきりしてしまいますorz
本当ですか!嬉しい限りです>< 晴れの人に関しては、最初はとことん嫌な奴にして、後から実は悪い奴じゃなかった、って感じにしたかったのですが、果たして上手くいったのでしょうk←
いえいえ、私はまだまだですよ!よく見ると王道ツンデレが一人もいないですし……いつか登場させたいです((
むしろ竜野さんから学ばせて貰ってるくらいです!あの迫力&疾走感溢れる戦闘シーンから、日常的なキャラのコミカルな掛け合いまでも、凄く上手くて尊敬してます!
ありがとうございます! 期待に沿えられるよう、頑張ります^^ 碧のセリフが増えることを祈りつつ……←
92
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2012/04/07(土) 12:33:44 HOST:p24060-ipngn100102matsue.shimane.ocn.ne.jp
――――空が、泣いている。
廃ビルの屋上。一歩踏み出せば、すぐにでも落下するような場所。そんな危険な場所に立った潤が、ここに来て真っ先に思った事だ。
いや、雨自体は彼女が外に飛び出した時には既に降っていた。ただ、彼女はそれすら気に掛ける余裕も無いほどに、無我夢中で走っていたのだ。
(――ああ、そうか。そういえば。この瞳(め)も、あたしのじゃあ、なかったんだよな)
そんな事を思いつつ、彼女は目を手で覆い、雨に打たれながら指の隙間越しに街を見下ろす――もとい、見下す。
皮肉なまでに『平和』で、『いつも通り』な街も、風景も、日常も、全て潤には霞んで見えた。
それは、潤の瞳に溜まった雫(ナミダ)のせいなのか、
或いは、空から降りしきる雨(ナミダ)のせいなのか。
――そんな事は、潤には知る由もない。
「――――潤ッ!!」
その刹那、雨音に紛れて彼女を呼ぶ声が響いた。聞き慣れた声に、無意識の内に潤は振り返る。そこにいたのは、息を切らしている、金髪ピアスの親友――秋寺 敦也だった。
「お前っ……ぜぇ、危ねぇ、ぞ……ぜぇ、だから早く……、こっちに、」
「人生にはさ、リセットボタンなんて無い、ってよく言うじゃんか」
秋寺の言葉など聞いていなかったかのように、潤は言葉を紡いでいく。
「とんだ思い違いだよな――この街の住人にとっては。あたしが死んだところで、あたしの代わりなんて幾らでも作れるんだからさ」
空いた穴を埋めるように。
空いた穴なんて、元々無かったかのように、と。潤は唄うように続けた。
「――雨空、せんぱいっ……!!」
と、そこに碧と華魅が到着する。秋寺と同じように、息を切らせながら。
「だからあたしは、この復讐劇に……いや、この無駄だった時間に、終止符(ピリオド)を打つことにしたよ。最期に最も憎むべき奴を殺して」
そして、潤は右手の親指と人差し指でピストルを作ると、自らの頭部に当てる。
「これがあたしなりの――後始末(リセットボタン)の方法(押し方)だよ」
そう言って、潤は――笑った。
それは、息を呑むほど美しく、そして悲しい笑顔だった。
「そんなの……勝手すぎる」
碧はしっかりと潤の目を見つめ、強い口調で言い放つ。
「結局はそんなの……あなたの、自己満足だ」
碧の言葉に潤は俯く。
「……なんでだよ、」
潤はぽつりと呟くと、顔を上げ声を荒げた。
「雨空 潤(あたし)の人生を狂わせていたのは、紛れもない自分(あたし)自身だったんだよッ! 晴間 輝じゃない! むしろあいつの人生までも狂わせていたんだッ! だから……だから……ッ!!」
雨に紛れて金色の瞳から大粒の雫を流しながら、潤は強く、強く拳を握った。
爪が手のひらに食い込み、そこから流れた紅い雫は雨粒と混ざり、廃れたコンクリートへと落ちていく。
「そんなあたしを殺したって、構わないだろッ……?」
そう言って、潤は一歩足を踏み出した。
――――文字通り、その先に道がないことを知って。
93
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2012/04/07(土) 12:36:58 HOST:p24060-ipngn100102matsue.shimane.ocn.ne.jp
墜落。転落。落下。急降下……そう、なるはずだった。
「良いわけ、ないだろ」
晴間 輝が、潤の手を握っていなければ。
なんで、あんたが。そう驚いた表情の潤が言おうとしたのを遮って、輝はこう言った。
「君がいない街(セカイ)なんて、僕にとって何の意味も無い」
――君がいない学校なんて、行く意味が無い。
以前輝が口にした言葉と似たものだった。冗談としか聞こえなかったあの時の言葉だが、彼からすれば真面目な、そして素直なだったのだろう。
「なんでそこまで……あたしはッ! あんたの人生まで狂わせてたってのに!! それなのに、なんでッ……、」
「なんで、って?……決まってるじゃないか」
輝は握っていた潤の手を引き、彼女の震える身体を引き寄せ、抱きしめる。強く、壊れないように。
「君を――誰よりも愛しているからさ」
そして、輝は何百回、何千回と紡いできた愛の言葉を唄った。
潤は何も言わない。ただ、彼女の息を吸う音だけが彼の耳に入った。
「僕が憎ければ、今すぐここから突き落としてくれて構わないよ――それで君が幸せになれるなら、僕は本望だからさ」
同時に、
僕の役目も終わる、と。そう言って輝は、潤から離れ、手を広げる。笑顔のまま――金色の瞳から、一筋の涙を流しながら。
「……なれない、」
潤の口から、微かな声が漏れる。
「あたしはあんたから何もかもを奪った。それをあんたに全部返さないと、あたしは幸せになんかなれない。なっちゃいけないんだよ。――あんたを殺すなんて、もっての外(ほか)だ」
だからあたしは、と続けようとした潤に、輝は「いらないよ」と言った。
「僕の今までの人生なんていらない。奪ったとか、返そうとか君はそんなこと考えなくていい。……僕は充分幸せだよ。君が生きていれば、それで」
冷えきった潤の頬に輝は自身の手を当てると、優しく微笑んだ。
「ただ、一つ欲しいものがあるんだ」
そして、輝は。
最愛の人に、最初にして最大の『願い』を言った。
「明日、僕の隣にいてほしい。明後日も、明明後日も、その次の日も――そんな、君の隣で過ごす『日常(これから)』が、僕は欲しい」
――潤は驚き、目を見開く。さらにこみ上げてきた涙に耐えるように、目元を手の甲で擦ると、右手を差し出した。
「……カラコン、」
こっちに渡せ、という意味なのだろう。予想外の言葉に輝は目を丸くしつつも、カラーコンタクトを彼女に渡す。
「――――!?」
びゅん、と。
彼女は振りかぶり――それを、街の方へと投げ捨てた。
「――それなら、輝。あたしに嘘は絶対つくな。明日も、明後日も、明明後日も、その次の日も。ありのままの『晴間 輝(あんた)』でいろ」
屋上から落ちていく彼の『嘘』。そして、それが見えなくなった所で、潤は輝に向き直った。
「それが――あたしの答えだ」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
結論で言うと、潤さんは不器用なんでs((
ちなみに次は『潤&輝編 後日談(エピローグ)』です。
94
:
白鳥夕
:2012/04/08(日) 14:51:34 HOST:248.237.accsnet.ne.jp
はじめまして。月峰 夜凪さん 月峰 夜凪さんの鏡の国、偽りの唄。とっても熱く情熱的とっても素敵でした。 とっても熱く,情熱的
95
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2012/04/14(土) 13:23:06 HOST:p24060-ipngn100102matsue.shimane.ocn.ne.jp
>>白鳥夕さん
遅くなって申し訳ありません、コメントありがとうございます。
情熱的、ですか……初めて言われましたw
これからも頑張りますね^^
96
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/04/14(土) 21:49:17 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
コメント失礼します。
輝さんイケメソ!あんなカッコいい告白なんて同年代の男子で出来る奴いませんよ!碧くんにも台詞があって良かったでs((
今までの輝さんの印象は『潤様に近づくんじゃねぇ、この変態!』だったのですが、今回の話で『潤様と末永くお幸せに、輝さん』に変わりましたw
輝さん最高。潤様最高。弘川さん最高((
続きに期待しております、頑張ってください^^
97
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2012/04/21(土) 13:37:19 HOST:p13045-ipngn100102matsue.shimane.ocn.ne.jp
>>竜野翔太さん
コメントありがとうございます!
ありがとうございます!告白のセリフはなるべく彼らしいものにしたつもりだったのですが、そう言って頂けると凄く嬉しいです!
ちょっとキザにしすぎたかなぁ、という気持ちも正直あったのですが、それも輝らしいと言う事d((
おおw実はそれが月峰の真の(?)狙いだったりしますw 「何あいつ→実は優しい?」というのは少女漫画でよくあるのですg((
いつか輝と弘川で『残念コンビ』を結成しちゃおうと思っていたのですが、輝が残念キャラを徐々に卒業していってるので少し迷っていたりしますw
ありがとうございます^^次ぐらいで『潤&輝編』が終わると思うので、もう少しお付き合い頂けると嬉しいです!
98
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2012/04/30(月) 15:23:49 HOST:p13045-ipngn100102matsue.shimane.ocn.ne.jp
Epilogue. 虹
あれから数日後。
輝と潤の長きに渡った戦争が終結したのは、当然街の住人に物凄い衝撃を与えた。街の住人の誰もが『何かの前兆なのでは』と騒ぎ、それが原因でギャングが一つ潰れた、なんてとんでもない噂もあるほどだ。
「……どこに行ってもあの二人の話ばっかだな」
昼休みの屋上で、碧はぽつりと呟く。そんな彼の隣で、華魅はクスリと笑った。
「そりゃあもう、この学校が廃校になるくらいの大事だもん」
「どんな例えだよ――つーか、なったことないだろ」
「もちろんだよ、なったら大変じゃない」
どこか噛み合っていない日常会話ならぬ超常会話。――しかし、碧にとっては、恐らく話の噛み合っている、噛み合っていないよりも、『今、祀木 華魅と話している』という事実の方が大切なのだろう。とはいえ、華魅は勿論、本人もそれに気づいているのか定かではないが。
ふと、碧は空を見上げる。特に意味もなく、そして何気なく。
偶然目に映った、『それ』を呆然と眺めると、顔を華魅の方に向け、「祀木、」と彼女の名を呼んだ。
「?」
きょとんとした顔で首を傾げる華魅に、あえて何も言わず――ただ微笑んで空を指さした。
――同時刻、廃ビルの屋上にて。
そこでは、どこかクールな印象の水色の髪の少女と、楽しそうに笑みを浮かべているオレンジ色の髪の少年が背中を合わせて座っていた。
その光景は、一言で表すなら『奇妙』だ。
正反対の印象の二人は、あまりにも不釣り合いで、あまりにも不自然すぎて――むしろ、それらの概念を通り越して、『普通』、そして『自然』となっていた
まるで、初めからこうであったかのように。
まるで、初めからこうでなくてはいけなかったかのように。
そう取れるこの光景に、『奇妙』以外に――それ以上に当てはまる言葉は、果たして存在するのだろうか。
「――あんた、晴れの日は好きか?」
唐突に少年に向けて紡がれた少女の言葉。しかし、彼は驚くことなく、猫のように体を伸ばすと、振り返らず遠方を見据えたまま「もちろん、」と返す。
「何だか、空が笑ってるみたいで良いじゃない」
「……だから、あんたはいつも笑ってるのか」
「ハハ、逆だよ逆――僕が笑うから、空も笑うのさ」
サラリと紡がれた少年の言葉に、少女は「どんなブッ飛んだ理論だよ」と呆れるが、その金色の瞳は穏やかに笑っていた。
「じゃあ、雨の日は好きか?」
「好きだよ? 君の事思い出すからね」
「やめろ、気色悪い」
少女は少年の言葉をバッサリと斬り捨てる。――しかし、正反対の意味であるとはいえ、以前は自分も同じような事を思っていたのだ。彼女もそれ以上追い打ちをかけなかった。
でも、と少年は続けた。
「それ以上に僕が愛しているのは――――」
「――――わぁっ、綺麗!」
華魅は碧が指さした方向を――空を見上げるや否や、子供のように無邪気な声を上げた。
二人の見上げるその空には、見事なまでの美しい虹が架かっていた。
それはまるで、雨と晴れの『ナカナオリ』を象徴しているかのように。
――――たとえ、自分が元(オリジナル)の代わりに作られた偽りの存在でも、それでも彼らは、ただ愛を唄い続ける。それが生きている証であるように――――
99
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2012/04/30(月) 15:27:41 HOST:p13045-ipngn100102matsue.shimane.ocn.ne.jp
あとがき。
どうも、恐らくここで初めましてになるチャレンジャーさんはいないと思うのでこんにちは、月峰 夜凪です。気軽に『ナギー』と呼んでいただけるとマジで喜びまs……ごほんごほん((
さて、読者様の支えもあり、『潤&輝編』を無事完結させることができました!ありがとうございます!
とはいえ、作者は非常に飽きっぽいので、ここまで私の小説が続いたのは正直驚きです。もうすぐレスが100に達するなんて、夢みたいです!……マジで夢だったらどうしよう((
それにしても、今回は潤と輝が中心……もとい、当事者だったのですが、何度もプロットを練り直して大変だったのをよく覚えています。なんかもう、好き放題動き回るんですよ、当事者二人。
ちなみに、この二人の関係は、私が覚えているだけで二回は変わっています。
最初は、潤に『一番』に愛されることは無いと悟った輝は、わざと嫌われることで彼女の『一番』になろうとした、という設定だったのですが、話が進むにつれて輝が救いようもないヤンデレになってしまったので没。
もう一つは、潤が自分の前からいなくならないように、輝は彼女の元(オリジナル)を含めたクローンと恋人を殺したという嘘で、あえて嫌われるように仕向けた、というものです。こっちは、いざ書いてみるとインパクトが皆無だったので没。……輝が嫌われたがりのドMになるところでしたね((
それ以外の変更点は、潤と深海の食い倒れツアーが無かったりだとか、碧が死にかけたりだとか、輝とジャージのバトルシーンが消えたこととか……でも、バトルシーン書きたかったなぁ、と今更ながら思います(´・ω・`)
あと、バッドエンドにする、って考えもあったのですが、それも無くなりました。折角だから、二人とも救ってやろうと思ったので。
さて、あとがきだけで長くなってしまいましたが、次は碧と華魅の恋路に障害物でも置いていこうと思います。何事もスムーズに行く恋など無いのだよ、お二方。
そして、それに加えて、碧の過去なども明らかにしていこうと思います。
それでは引き続き、「鏡の国、偽りの唄。」をお楽しみください!
……いつかジャージが主人公の話も書いてみたいなぁ((
100
:
森間 登助#
:2012/04/30(月) 17:07:25 HOST:222-151-086-004.jp.fiberbit.net
せっかくの100レスですが、コメントさせて下さい、元ライナーこと森間登(もりま とうすけ)です。あ、HNは気にしないで下さいw
最近は自分未熟さを見極め、世界観から生活水準まで新作で書き直そうとしているのですが、と、そんなことはどうでも良いとして。
『潤&輝編』完結、おめでとうございます!
個人的には主人公の碧が中心でなかったのが「ん?」となってしまいましたが、とても面白かったです! 自分には全然出来ない分野で、ウラヤマのシイタケです((
全体的にしっかり纏められていて、ストーリーのシンプルさが後味の悪さを残さず、料理だったら四つ星でしょうか。
やはりもう一つの星は、主人公が関係なかったことですかね…… 結果、あまり冒頭と関係せず、後付けのように見えてしまったのが少々残念に思えました。
最後の方アドバイスになって、何だか自分が後味悪い書き方にしてしまいましたが、新編楽しみにしております!
頑張れ、ナギーw((
ではではwww
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