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鏡の国、偽りの唄。

89月峰 夜凪 ◆XkPVI3useA:2012/03/30(金) 13:53:48 HOST:p24060-ipngn100102matsue.shimane.ocn.ne.jp
 
 碧達が去り、輝、架神、弘川だけとなった資料室に静寂が訪れる。

 「きみは行かないの?」

 しかし、その静寂を打ち破ったのは架神だった。

 「言いたい放題の君に僕から言わせてもらうけどさぁ、玄行くん。僕はアニメや漫画の主人公(ヒーロー)じゃ、ないんだよ。……世界どころか、大切な人一人救えない、ただ逃げてるだけの臆病な偽物(クローン)、」
 だから、と輝が続けようとした時だった。
 「そんなの、知ってるよ」
 肯定の言葉。残酷すぎるほど、純粋で真っ直ぐな瞳が輝を射抜く。
 
 「きみは主人公(ヒーロー)なんかじゃないし、強いて言うなら、仮面を被った道化師だ。……でも、ひとつ間違ってるかなー」
 そう言って架神は目を伏せると、白衣のポケットに無造作に手を突っ込む。そして、彼は再び目を合わせると、こう言い放った。

 「――『救えねぇ』じゃなくて『救わねぇ』の間違いだろ、臆病者が」

 輝は思わず自分の耳と目を疑った。
 そこにはのんびりとした口調の架神も、子供らしい笑顔の架神もいなかったのだから。
 見下すような、ではない、本気で見下している彼の表情を見て、輝は思わず固唾を呑む。息をするのも辛く感じるほどだ。ましてや声など出るはずもなく、彼はただ黙っていることしかできなかった。
 ――すると、輝の後ろから「輝さん、」と凛とした中性的な声がした。
 
 「確かにあなたは潤を騙していた――でも、あなたの潤に対する想いは、本物でしょう?」
 声の主、弘川は振り返った輝の目の前まで歩み寄る。

 「なら――ぶつかってくれば、良いじゃないですか」

 率直すぎるほど、率直な言葉。これだけ抜き出せば、友人への恋愛相談とも取れるだろう。とはいえ、これが弘川の、弘川らしい素直な言葉だった。
 そんな彼女を、輝は驚いたように見つめる。すると、彼女は少し照れ臭そうに、男性顔負けの王子様スマイルを浮かべて、輝の背中をぽん、と叩いた。――行ってあげて、そう言うかのように。

 すると彼は、珍しく困ったような笑みを浮かべると、

 「当たって砕けてくるよ」

 と言って、資料室を飛び出した。



 ――――弘川と架神二人だけの資料室。

 「……架神さん、あなたも人が悪いですね。幾ら演技とはいえ、あそこまで罵らなくても良かったと思いますよ?」
 「あはは、やっぱり気づいてたんだ、演技だって。でも、あの二人は色々と吹っ飛んじゃってるんだからさ、ちょっとやりすぎたくらいが丁度良いんだよー」

 どうせ結果は似たようなものばっかりなんだからさあ、その中でも一番面白いのを選ぶのが吉でしょ? と、どこから持ってきたのか、そして何時の間に持って来たのか、涼しい顔でココアを飲みつつ架神は言う。

 「まったく、取り返しのつかないことになったら……いや、そうなったら僕が全力で防げばいいか。……で、まさかあなたはここからもどうなるのかも、全て予想がついていると?」
 「ここからは予想というより理想だね――後ははれまくんの行動しだいでハッピーエンドかバッドエンドかが決まるよ」
 「……もしかして、心配してるんですか? 輝さんの事、」
 「まさか。ぼくが心配したところで、はれまくんの肩が重くなるだけだよー」
 
 ――恐らく『片想い』と『肩重い』を掛けたのだろう。架神は得意気にしているが、弘川は苦笑いを浮かべて頬を掻いている。ここで敢えて上手くないと言わないのは彼女の優しさだろうか。
 「――まあ、大丈夫でしょ、きっと」
 ココアを飲み干し、空になったマグカップを机の上に置くと、架神はいつもどおりの子供らしい笑顔で、こう続けた。


 「道化師は――人を笑顔にする天才なんだからさ」


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