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没作品供養スレ

1名無しさん@マッカいっぱい:2006/06/29(木) 01:06:18
ネタが思いついたものの、既に予約or投下され済みだった等
何らかの事情で本スレに投下できなかった作品を投下するスレです。

・使用上の注意
このスレの作品は本編とは全く無関係です
本編の書き手さんの気分を害しないため、本スレや議論スレに投下された作品の
話題を持ち込むのはやめましょう。

2名無しさん@マッカいっぱい:2006/07/04(火) 12:22:38
バレスレ下げるためage

3第二の、或いは最悪の再会(別ver.)  ◆F2LGKiIMTM:2006/07/05(水) 02:44:14
ヒロコが死んだのが初回放送後で、
アレフがヒロコの死を知らないままゾンビヒロコと遭遇していた場合の展開です。

-------------------------------------------------------------------------------------

双眼鏡を覗き込んでしばらくは、レンズ越しに見える風景の中に動くものは何もなかった。
レーダーの範囲が一キロなら、双眼鏡で見えたらすぐ反対側に逃げれば大丈夫だろう。
相手の速度がこちらを大幅に上回ってでもいない限り、だが。
「追ってきた奴って、車とか乗ってる……んですか?」
「いや……ただ」
ザ・ヒーローが答えたのと、視界に変化が現れたのはほとんど同時だった。
思わず双眼鏡から目を離し、息を呑む。その反応に、ケルベロスの上の二人も気付いたようだった。
「――見えたのか」
少女が硬い声で問う。答える言葉は、すぐには出てこなかった。
心臓が激しく脈打ち始める。この二人が来たのは、そちらの方向からだ。
逃げようとする者を追ってくるほど殺意を漲らせた敵がいて、人間の場所を探知しているのなら、
その同じ方向で無事に歩いている人間がいるはずはない。
だから、その人の姿がそこに見えるはずはないのだ。
しかし一瞬見えたあの姿は、紛れもなく――
「アレフ? どうしたの?」
「……ヒロコさんだ」
警戒した様子もなく、ふらふらと歩いているように見えた見覚えのある姿。
ヴァルハラで出会った、テンプルナイトだという――それより前から知っていたような気がしていた、不思議な女性。
彼女もここに呼ばれていることは名簿を見て知っていた。どうにか合流して助けたいと思っていた。
出会えたのは、嬉しいはずだった。
しかし、敵がいるはずの方向に彼女がいるという事実が疑心と不安を呼んでいた。
(……いや。二人を追ってた奴を、ヒロコさんが倒したのかもしれない)
頭に浮かんでしまう恐ろしい可能性を、希望的観測で振り払おうとする。

4第二の、或いは最悪の再会(別ver.)  ◆F2LGKiIMTM:2006/07/05(水) 02:44:51
「ヒロコというのか。あの女は」
少女の言葉に、また心拍数が跳ね上がる。
あの女、と言った。二人を追っていたのは女なのだ。
「……君達を追ってた奴と同じかどうかは、判らないが。通りを反対側に歩いて行こうとしてた」
ヒロコのことを信じていない訳ではない。彼女は無駄に命を奪うことを好むような性格ではなかった。
それでも、確かめるのが恐ろしかった。
「金髪で……肩くらいまでの、ソバージュの。レザーの服を着た……」
「間違いない。そいつだ」
冷徹な宣告を下したのは、ザ・ヒーローだった。
「まだ一キロ以内に入っていないなら、すぐ離れれば逃げ切れるかもしれない。
ここを離れよう。気付かれる恐れがあるから、双眼鏡で見るのももう駄目だ」
「ちょ、ちょっと待てよ」
頭の中が真っ白になる。目の前の人がザ・ヒーローだということも、今は隠れているところだということも忘れかけていた。
思わず上げた制止の声に、ザ・ヒーローが慌てて口の前に指を一本立てる。
はっとして、まくし立てそうになった言葉を飲み込んだ。
「……信じられない気持ちは解る。知り合いだったんだろう?」
答える言葉も見付からず、子供のようにただ頷いた。
ベスが横に歩み寄って、手を握ってくれる。その手の温もりと込められた力強さが、少し理性を取り戻させてくれた。
「彼女は敬虔なテンプルナイトです」
ベスが言うと、少女が僅かに眉を顰めた。
その変化には気付かなかったらしく、ベスはそのまま言葉を続ける。
「ただ、センターからの脱走の咎で記憶の洗浄と再教育を受けていました。その影響で、情緒が不安定になっていた可能性も」
「え……?」
また、思考が停止する。
(――記憶の洗浄? 再教育?)
確かに彼女は無断でセンターを抜け出し、脱走者として拘束されていた。それから彼女がどうなったかは聞かされていなかった。
しかし事情もあったようだし、彼女も素直に従っていたから、それほど重い罪にはならないのだろうと思っていた。
(それって……洗脳じゃないか)
ベスがあまりに淡々と語る事実に、眩暈がしそうになってくる。
「ふん。センターのやりそうなことだ」
吐き捨てるように少女が言った。見るからに違う時代の人間らしい少女がセンターのことを知っているのは意外だったが、
それよりも、自分があまりに何も知らなかったか――知らされずにいたかを悟ってしまった衝撃が今は勝っていた。
「……ごめんなさい、アレフ。あなたが知ったら悲しむと思っていたの」
ベスが悲しげに目を伏せる。その手は変わらず温かい。
「しかし、あの女が私達を追ってくる理由は恐らく違う」
少女の言葉に、ベスが意外そうに顔を挙げる。ザ・ヒーローは痛ましげな顔をして、唇を噛み締めていた。
「あの女は、もう死んでいる。何者かにネクロマの術で操られているんだ」
「死ん……で?」
ヒロコが二人を襲ったと、そして彼女がセンターで洗脳を受けていたのだと聞いて、これ以上の衝撃はないと思っていた。
しかしそれから数分も経っていない今、それを遥かに上回る衝撃的な言葉が、少女の口から語られたのだ。

5第二の、或いは最悪の再会(別ver.)  ◆F2LGKiIMTM:2006/07/05(水) 02:48:16
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後は大差なし。
こっちだとアレフのセンターへの(=ベス、ザインへの)不信フラグが立ってたかも。
ってどっちにせよそんなに後のことまではまだ考えてませんが。

6練習スレの続き ◆XBbnJyWeC.:2006/07/07(金) 13:47:01
今はもう譲りましたが、実は人修羅の練習スレの続きを途中まで書いていたので、
このまま破棄するのももったいないし、もしかすると今書いてくれてる人が
活用できないかなと思ったんで、投下します。
今書いてくれてる方、ほんと、気分悪くしないでな。
ちょっと暗いからアレなんだけども…。

7狂気と渇望の果てに… ◆XBbnJyWeC.:2006/07/07(金) 13:48:11
高層ビルのそびえ立つ、臨海地区だった街。
身に布を被った少年は文明によって創られた、高い建物の上に立っていた。
限られた人間が閉じ込められたこの街に、警戒しながら歩く者がいたとしても、
ビルの上、それも道からは決して見えない場所までは警戒が届かない。
地上を歩けば誰かに遭遇する可能性も有り得る。
人目を避け、この街の情報を得るためには、上空が最も回避率の高い場所だと踏んだのだ。

この狂気の世界――いや、創世を潰した世界の方がずっと狂気の沙汰だったのかもしれないが――へ呼ばれた時、確かに声は言った。
「浮いている」と。
ならば、本当に浮いているのか確かめるのも面白い。
どれほどの規模で街が「浮いている」のかを見てみたい。
ただ、それだけだった。
何故浮いているのか、どうすれば地上に着陸するのか。
それを考える前に、まず本当に浮いているのかを確かめたかった。
いや、むしろ足が勝手にこちらに向いた…という方が正解か。

―――確かに、この大地は浮いている。
底がないと思える程に、青い空間が広がる。
土に根を降ろさず、そこには空が存在した。
――だが、だからどうした?
だからといって己の置かれる状況が変わるわけでもない。
無が支配している闇に戻れるわけでもない。
少年はその行動の無意味さに失笑し、無限の青を眺めていた。

8狂気と渇望の果てに… ◆XBbnJyWeC.:2006/07/07(金) 13:48:59
太陽は既に高く昇り、少年を鮮やかに照らす。
此れほどまで眩い光など、もうどれほど浴びていないだろう。
消えることなど想像もできなかった太陽は、カグツチとなり、
更にはそれを破壊した。
光など存在しない、ただ静かなる狂気が存在する闇。
だが此処には確かに存在する。
朝を向かえ、夜を廃し、光が雲を照らす。
「・・・綺麗だ。またこんな世界を見ることになるなんて…」
少年はポツリと口にし、微かに俯き、此処へ至る階段を囲う壁へと身を預け、
鮮やかに照らす日の光が創り上げた影へと隠れる。

―――今の僕には少し、眩し過ぎるくらいだ。

目を細め、その光を嫌うかのように、纏った布に身を深く沈めた。
太陽はまだ天頂へと達していないが、
全ての者たちを照らすに十分過ぎる光が届いていることには変わりなかった。

(このまま誰にも会わず、存在を消し続けることができるだろうか?)
(いや、この地に囚われている生贄たちの血が見たい…)
(だが、もう人の欲で面倒に巻き込まれることになるのは御免だ)
(友人をこの手で打った快感を忘れたわけではないだろ――)
交互に繰り返される問答。

――何を考えても、答えは出ない…か。

ふっと溜息をつき、天を仰ぎ見る。
抜けるような青空。
それに比べ、似つかわしくない己という存在。
普通に学校へ通い、普通に勉強し、進学や就職について人並みに悩んでいた頃なら、
気分も変わったかもしれないこの空の青さ。
――考える事すら馬鹿馬鹿しい。
もう、全て消してしまいたい。
そして自分も消してしまいたい…。
破壊と虚無への欲望に駆られながら、
少年は再び俯き、足元へ短く伸びる影を目で追った。

9狂気と渇望の果てに… ◆XBbnJyWeC.:2006/07/07(金) 13:49:30
刹那、彼の正面より、光る何かが飛来した。
それは少年のフードを掠め、背を預けていた壁へと突き刺さった。
何者かが投げた槍。
気配はずっと感じていた。その先からの攻撃。
わかっていた。
敵意ある者なら、いつか発見し、襲ってくるだろうことは。
だが、姿を現した者は、人と似ても似つかぬ者。

――悪魔…か。
誰かの従属。もしくは知恵の無い者。
そうでなければ、攻撃などしてはこないだろう。
いや、この地存在する悪魔には統一された意思など感じない。
彼の意思を示したところで従いはしないのかもしれない。

――人だけではなく、悪魔にも見放されたのか…。

少年はくつくつと笑った。
見ている者が居たなら、恐怖に凍てついただろうその声。
被りに深く隠れた瞳は緋色に染まり、輝きだす。

「いいだろう。仲魔同士喰らい合え。血を求め、互いに殺せ…」
少年は手を横へ振り、光を翻し、仲魔を実体化させた。
彼の背後から狂おしいまでの歓声。
全身に渇望が沸き起こる。
破壊衝動。
自制心が途切れ、少年は上体を反らし、咆哮を上げた。

<時刻:午前10時>
【人修羅(主人公)(真・女神転生Ⅲ-nocturne)】
状態:軽症(左肩銃創)
武器:素手(右ストレート:但し各スキル運用が想定される)
道具:煙幕弾(9個)
仲魔:アバドン(他色々)
現在位置:七姉妹学園より港南区方面へ移動開始
行動指針:最終的には元の世界へ帰る

10迷いの末に訪れる冷静 ◆XBbnJyWeC.:2006/07/07(金) 13:50:30
少年は襲い来る悪魔を執拗に砕いた。
彼の仲魔はその血を浴び、なおも狂気をもたらす。
肉が崩れ、辺り一面が赤く染まる快感。
骨が砕ける音は耳を心地好く擽り、悪魔ノ声ガ、助けてくれト聞コエル。
  (違う!)
同属同士で喰らい合う姿ヲ見ル悦ビが、俺ノ体を突き抜ケる。
  (僕の望みはこんな事じゃない!)

この悪魔たちの宴へ平然と何者かが近づく足音が響いた。
  (この人物を…)
悪魔とは別の気配。
  (僕はこの気配を知っている…)
気配が声を発スル…俺に向ケテ。

「―――へぇ。あんたもこのゲーム、乗り気だったんだ。」
誰ダ。俺ニ気安ク声ヲカケルナ!
お前モ死ニタイのなら殺シテヤロウ。
サァ、来ルガイイ!死ノ安息ヲ求メル者ヨ…

暗く闇を湛えた緋色の双眸を、その声の主へと向けた。
時刻は昼を迎えようと辺りを照らし、色彩の鮮やかさを魅せる中、
少年の周囲だけは刻を忘れたように闇の色に染まっていた。
心に巣食う闇は、なおも彼の表情へと伝わっていない。
声の主はクスリと笑うと、少年へと言葉を投げかけた。

11迷いの末に訪れる冷静 ◆XBbnJyWeC.:2006/07/07(金) 13:51:10
「――久しぶりじゃない、尚紀君。」
ダレダ。
何だこの違和感は…其ハ誰の名ダ。
ナオキ…尚紀。

  (アァ…俺ハ・・・…僕の…人としての名だ。)

そうだ。
カシマナオキ…嘉嶋尚紀。
狂気の衝動が徐々に薄れていく。
緋に染まる瞳はその色を戻し、発せられる禍々しい気は消失していく。
手を横へと振り、血を求める仲間を消し去った。
散乱する悪魔の肉と咽返るような血の臭いの中、独りの少女が立っていた。
  (そうだ。僕は…僕は彼女を知っている。)

「久しぶりだね…千晶。」

人として生きた唯一の証である己の名を知る数少ない人物。
だが、僕をそう呼んだ人は皆死んだ――。

―――ソウダ オ前ハ独リダ。 求メヨウトモ 仲間ハオラヌゾ…
違う!生きる為には仕方なかったんだ!

―――狂気ニ駆ラレ 破壊ヲ悦ビト感ジテイル 今ノオ前ガ
     何ヲ求メルノダ…ククククク…
煩い!自ら求めているものは、こんなことじゃないんだ!

心の奥底で目覚めている、何者かに干渉される影を、少年は底深くへ呑み込んだ。
歓喜の表情で少年を見つめる少女。
彼女は少年の姿をただ、邪な笑みと共に見つめ返し、彼の背後へと視線をずらした。

12迷いの末に訪れる冷静 ◆XBbnJyWeC.:2006/07/07(金) 13:52:00
「あらあらあらあら。随分とお友達の多いこと。」
「――――君も、随分と手を焼いているようだね。」
少年は千晶の腕を見つめて答えた。
肘から下が消えうせ、マガツヒが渦巻くその姿を。

「でもね、みんなつまらないわ。」
千晶は肩をすくめ、悪魔に姿を変えた少年へ言葉を紡ぎ出す。
「本気でかかってきてくれないんだもの。」
異形の腕に力を込め、ぎりりと握り、拳を少年へと浴びせかけた。
少年はその破壊力のある一撃を、軽く避けると少女へと答えた。

「そう――。でも、君は楽しそうだね。」
次々と繰り出される少女の攻撃。
その全てを上半身の動きだけで避けていく。
「ええ。とぉっても楽しいわ――」
更に力のこもった一撃が、少年へと発せられる。
「だって、もう一度あなたと出会えたんですものッ!」
手を全く使わない回避。
人との対峙を避けたかった彼の取った行動は、人を、それも最も良く知る人物との遭遇を招いた。
だが、あえて手は出していない。
ただひたすら回避行動を起こすに留まっていた。

「ふふっ。やっぱりこれくらいじゃないとね。」
己の攻撃を全て避けられながらも、彼女は一段と喜びを増していた。
少女は、はらりと舞い、距離を取るため背後へ飛び退いた。
少年の瞳に攻撃の色はない。
感情を全て廃した表情。
卑下の目を冷たく少女へと浴びせかけるだけの動き。
千晶は少年への動きをぴたりと止め、もう一度言葉を発した。

13迷いの末に訪れる冷静 ◆XBbnJyWeC.:2006/07/07(金) 13:52:30
「ねえ、尚紀君。」
「―――――。」
クスっと笑う千晶を、ただ見つめ、少年は言葉を待った。

「あたしと組んでみない?」
人との共闘。
それもいい。
だが、彼女を仲間と呼ぶにはあまりにも酷い仕打ちを、過去に行っていた。
「―――――また、君の好きな冗談かい?」
常人が聞けば、背筋の凍る口調で、少年は答えた。
一度、彼女を殺している。
いや、二度か…?
記憶が曖昧になるほど混沌とした世界で対立した幼馴染を今更仲間と呼べようはずもない。
彼はそう判断し、彼女へと回答した。

「そうよね。あんた、好きであたしを殺して、勇を殺して、独りになったんだもんね。」
千晶は少年の心の奥底で沸き起こる声と同じ内容を語る。
だが、冷静さを取り戻した彼には何を言われようとも動じることはない。

「悪いけど、今の僕にはそんな事、興味がないよ。」

やっぱりね。
そう言いたげに彼女は再び肩をすくめて微笑んだ。
「そんなに独りがいいなら――」
手に力を再び込める。
これまでにはない、異常なまでの覇気が彼女を包み込む。
タンッ!と地を蹴り、上空より少年へ拳と共にその身を飛び込ませる。

14迷いの末に訪れる冷静 ◆XBbnJyWeC.:2006/07/07(金) 13:53:09
「――今すぐ死んでッ!!」
少年の瞳が暗く緋色に再び輝く。
両腕を顔の前で交差させ、少女の一撃を受け止める。
二人の立つビルの屋上は、その衝撃に耐え切れず、亀裂が走り、地がへこむ。
その光景に音が追いつかず、その後ようやくドン!という音が周囲に響いた。
地に走る亀裂は徐々に広がり、少年の足元を崩していく。
少女の体は、飛び掛った姿勢のまま、人修羅へと力を移していく。
ついにビルは耐えることができなくなり、二人は隣の建物のガラスを割り、飛び込んでいった。
本来ならば、知識を求めて人々が訪れるはずの建物。
空の科学館。その場所へと。


<時刻:午前11時>
【嘉嶋尚紀(人修羅)(真・女神転生Ⅲ-nocturne)】
状態:軽症(左肩銃創)
武器:素手(右ストレート:但し各スキル運用が想定される)
道具:煙幕弾(9個)
仲魔:アバドン(他色々)
現在位置:港南区
行動指針:最終的には元の世界へ帰る

【橘千晶(真・女神転生Ⅲ-nocturne)】
状態:片腕損傷(軽微)
現在位置:港南区
行動方針:皆殺し

15 ◆XBbnJyWeC.:2006/07/07(金) 13:56:45
この流れで誰かを巻き込もうかと思いながらも、ここまでということで。
くどいようですが、
これは本編とは関係ありませんので、現状の作者さんはお気になさらず…。

16名無しさん@マッカいっぱい:2006/07/07(金) 23:30:53
あげ

17 ◆MW38f4t6VE:2006/07/23(日) 02:54:12
三人娘、「歩き出せ!」に入れようとして、断念したシーンです。
タヱは持ってるアイテム的に、特に細かく描写したくなるキャラなのですが、
タヱだけクローズアップすると主人公のようになってしまうので、カットしました…。

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きゃいきゃいと言い合う二人に笑いながら、タヱはザックの中身を整理した。
たくさんの、ここにはいない誰かの大切なもの。
返したとき、どんな顔をするだろう。喜んでくれるだろうか。
タヱはまだ見ぬ誰かを想像して、胸を熱くした。
そして、自分も映った、セピア色の写真をもう一度手に取る。
たった数時間前にはそこにいたはずの、懐かしい世界。
用もないのに足を運んでは、珈琲をねだったあの事務所が、写真には写っている。
机の後ろ、一番左に、伽耶ちゃん。
可愛いなあ。気が弱い彼女がどうしているか、とても気にかかる。いい人と巡り合っているように、今は祈るしかない。
その隣、真ん中に、ライドウ君。
口がへの字じゃないの…美男子が台無しね。今度はこそ笑顔で映ってもらおう。舞耶さんのすごいカメラで撮ってもらうのもいいかもしれない。
ライドウ君も、どうか幸運な巡り会わせをしていますように…
一番右には、私が映っている。
喋った瞬間にシャッターを押されちゃったから、間抜けに口を開いている。恥ずかしいなあ。やっぱり撮りなおし!
ちょうど私の前には、机に座ったゴウトちゃん。
ゴウトちゃんも、ここにいるのだろうか。名簿に名前がなかったけれど、いつもライドウ君と一緒にいるから、巻き込まれているかもしれないな…。
そして真ん中に、探偵さん。
…殺されても死ななさそうな顔をしてる。ふてぶてしくて、いつも余裕ぶってて。
けれど、何も言わずに突然どこかに行ってしまう人だから…今どうしているんだろう。胸が騒ぐ。
どうか、皆、無事でいて。そして、皆で帰りたい――。
タヱは写真を抱きしめ、それからそっと胸にしまった。
お守りの代わりに、いつも持っていたい。
もしザックを何かのはずみでなくしても、これさえ持っていれば、くじけない気がした。

大丈夫、私は一人じゃない。
タヱは確かめるように、小さく声に出して呟く。

「何か言った、タヱちゃん?」
「ううん、何でもないわ」
少し先を行くネミッサに追いつき、タヱは毅然と顔を上げて歩き出した。

18 ◆MW38f4t6VE:2006/07/23(日) 02:55:34
以上です…。
ちょっとしたらばが寂しいなーと思ったので、利用してみました。
こんな風な利用がNGでしたら、申し訳ありません…!

19ライドウの人  ◆VzerzldrGs:2006/07/23(日) 20:26:52
いつか書こうと思っていたたまきと神代のエピソード…。
書いている内に長くてグダグダになってしまったので没にします。

20ある『外道』と『救世主』?  ◆VzerzldrGs:2006/07/23(日) 20:28:03
平坂区カメヤ横丁を駆け抜け、大通りに出た所でたまきは初めて後ろを振り返った。
さっきの男は追ってきてはいない。そして追撃の気配も無かった。
だからと言ってこんな見晴らしのいい所でのんびりとはしていられない。
ガーディアンで強化されているとは言え、急な戦闘でさすがに息が上がってきていた。
息を整え、再び走り出す。
(さっきのあいつ…何なの? すごくヤバイ。)
あの男、悪魔召還プログラムをこちらが銃撃する直前になって一瞬で召還コマンドを変更した。
それはプログラムのことを知り尽くしているからこそ出来る芸当だ。それだけでもかなりの使い手だということが考えられる。
いや、それよりも恐ろしいのは、あの男――悪魔とは言え仲魔をあっさりと盾にして見殺しにしたのだ。
何と冷血で容赦の無い人間なのだろう。たまきの知っている悪魔よりもよっぽど冷血で悪意に満ちている。
兎も角、奴は完全にこのゲームに「乗った」人間だということだ。
先ほど、無防備な振りをしてたまきに話しかけてきたのは何かの気まぐれだったのか。だが次に会ったときはおそらく容赦してはくれないだろう。
万全の準備を整え、悪魔も、ヌエなんかよりよっぽど強い者を用意してくるに違い無い。
そうなる前に何とかして遠くに逃げるか、こちらもそれ相応の力を付けるしかない。
だがどうやって?
まだ自分がこれからどうするかすら考えていないのに、どうやって?
知っている誰かに会いたい。由美が死んでしまったのは残念だけど、それを悲しんでいる暇なんて自分には無いのだ。
これが終わったら泣いてあげればいい。
終わる?
他の人間たち…自分の見知った顔を含めた数十人の死体の山の上に立ってユミのために泣く?
それとも、自分の方が死体の山の一部となって?
遣る瀬無い。自分たちをいきなりこんな街に放り込んだ誰かが憎い。憎くて憎くて、狂ってしまいそうだ。
いや、いっそのこと狂ってしまえればどんなに楽か。
もう既に見知らぬ一人を殺している。いきなり銃を向けて来たのだから仕方が無い。それはもう一晩中自分に言い聞かせてきたことだ。
だから無理にでも納得した。
自分が生きるためには誰かを殺さなければいけない。これが今自分に課せられたルールなのだから。
だけど、今度は自分が殺されかかって初めて気付いた。
結局、自分とさっきの男は同じなのだ。いざとなったら冷静に人を殺し、その屍を踏み台に出来るということに。
気付いた瞬間、それが恐ろしくて何度も足が竦みそうになった。
何度も思う。狂ってしまえれば、どんなにいいだろう。
頭を抱えて唸る。自分からこんなに低い声が出るとは思えなかった。しかも走りながらだ。
いや、今はそんなことどうだっていい。足を速めた。
「あっ!」
急に歩幅を広めたからだろうか、足がもつれてバランスを崩してしまった。
このままではこけてしまう。そう思って硬く眼を瞑ったが、訪れるべき衝撃はなかなかやって来なかった。
その代わりに胴体へやってきたのは優しく受け止めてくれる感覚だった。
「おい、大丈夫か?」
「え…?」
それは男の声だった。ただし、先ほど遭遇したあいつのように冷酷なそれではなく、あくまでも優しく、自分を労わってくれるような――。
たまきはおそるおそる眼を開き、数回瞬きをするとゆっくりと顔を上げた。
顔を上げた瞬間、息を呑んで受け止めてくれた男を突き放し、スカートのベルトに差し込んだ銃を抜いた。
(何でよりによってコイツ――!)
たまきを受け止めた男は。彼は彼女と同じく軽子坂高校に在籍する神代浩次だったのだ。

21ある『外道』と『救世主』?  ◆VzerzldrGs:2006/07/23(日) 20:29:24
神代浩次と内田たまきは同じ学年だがクラスは違っていた。だが、この男に関する悪い噂はたまきの耳にいくらでも届いていた。
とは言え、学校での生活態度に問題があるわけではないらしい。
むしろ成績は常に上位に食い込み、一見人当たりも良いものだから教師からの評判は上々。
運動神経も素晴らしい。二年生にも関わらずいまだに運動部からの勧誘は後を絶たないとか何とか。
ルックスも悪くないから何も知らない女子、主に後輩からの人気も大したものだ。
だが、こいつに関してたまきが下した評価は唯一つ。
『外道』である。
こいつ、涼しい顔しておきながらたまきの友人の女の子を何人泣かしたことか。
いや女の子だけではない。男子だって何もしていないのにこいつに酷い眼に遭わされた者を何人も知っている。
誰がどんなことをされて苦しんだかは、並べ始めるときりが無いが、兎に角殺人以外は何でもしていると思われるような奴だ。
いや、今はこういう状況でこの外道のことだ。嬉々としてもう何人も殺しているかもしれない。
半分狂い掛けた自分は、誰でもいいから傍にいて欲しいとか思わないでも無かったが、こいつはダントツで嫌なタイプだった。
こいつの最低さに比べたらさっきの男も、あの狭間も見劣りするだろう。それくらいたまきの中での印象は悪かった。
「いきなりそんな物騒な物構えるなよ、な?」
神代はたまきをなだめすかせるように曖昧な笑顔を見せた。だがたまきはきっと睨んで銃口をしっかりと定めた。
「いやぁ、何なのこの状況? 
俺かーなりびびっちゃってさ、お前のこと探してたわけよ。お前、フェンシング部だったっけ? けっこう強いんだろ?」
「あんたには関係無いでしょ!?」
「まぁまぁ、折角会えたんだからさ、ちょっとお話しようや。どの道俺もお前ももうすぐ死ぬんだから、な?」
「だから? そうやって笑って私を懐柔させてどうするつもり? 私は他の女の子のように甘く無いわよ。」
「そんなぁ〜。顔見知りに会えてちょっとほっとしてたのにそりゃ無いよたまきちゃん。」
「気安く名前を呼ばないで! このクズ!」
「クズって…俺君に何か悪いことした? 言ってよ、何かあったら俺直す努力するから。」
「私の機嫌を取りたいなら今すぐ目の前から消えて頂戴!」
「おいおい、ふつーそこまで言うかなぁ。」
「もっと言って欲しい? 私が今思ってることって圧倒的に放送禁止用語なんだけど!」
「それはある意味聞きたいんだけど…」
「あんたに聞かせるくらいなら穴掘って叫んでおくわよ!」
いかにも残念そうに舌を出して肩を竦める神代をたまきはもう一度睨んだ。
「酷いや。俺、泣いちゃうよ…」
この男を間近に見るのは初めてだったが、確かに顔は悪くない。うるうるした瞳なんてまるで子犬のようだ。
もしもたまきが何も知らなかったら、危なかったかもしれない。
だけどこいつはこの小動物の瞳で何人もの女の子を騙しているような奴なのだ。
「勝手に泣いてなさい。私はもう行くから。」
吐き捨てて、じりじりと後退した。銃口を向けたままである。ここで下ろしたらおそらく、一秒後には生きていられないだろう。
「待てよ!」
今度は凄みのある声だった。ほぅら、もう本性表した。
「…い、いや、待ってくれよ。」
今更言い直したって遅いわよ! そう怒鳴ってやりたかったが喉まで出掛かったところで飲み込んだ。
これ以上刺激するのは良く無い。
だがたまきのイライラは既に限界を迎えていた。
我ながら短気だとは思うが、こいつの顔を見ているだけで吐き気が止められないのも事実だ。
(あーもう最悪!)
今すぐこのトリガーを引いてこいつの顔面にぶちこんでやりたい!
だけど、たまきには見えていた。神代の背後にいるガーディアン、龍神ラハブの姿が。
かなり上位に位置する悪魔である。
力が圧倒的に強く、まさに戦闘において本領を発揮する悪魔。本気で掛かって来られたら危険極まりない。
対する自分のガーディアンは大天使ガブリエル。
こちらも上位には違いないが、能力的に見てこう言ったタイマン勝負に向いているタイプとは言い難かった。
それに銃を向けられている神代のこの余裕の態度も気に掛かる。
何か強力な武器を隠し持っているのか、近くに強い仲魔が控えているのか。
咄嗟のことだったとは言え、先に自分の唯一の武器である銃を抜いてしまったのは正直迂闊だった。
他に今手元にある物と言えば何に使うのか解らない鉄製の試験管みたいな筒が八本だけだ。
投げれば意表を付くことくらいは出来るかもしれないが、こいつが相手なら怒りを増長させるのがオチだろう。
ようするに、自分は今不利な状況にいるのである。
だからこそ、頭を巡らせて突破口を見つけなくては…。

22ライドウの人  ◆VzerzldrGs:2006/07/23(日) 20:31:23
以上です。
主人公二人を会わせる話は書いてて楽しかったのですが、私の手に余りました…。
では失礼します。

23疵 ソロネの変異ネタ:2009/04/20(月) 17:58:10
 影。そして、激しい痛みと、真っ白に消える視界。衝撃が身体を揺らす。耳鳴りと眩暈が世界を曇らせる。
 なにが起こったのか、ソロネにはまったく理解できなかった。理解する暇もないまま、ドアを開けた次の瞬間に、
衝撃によって意識も認識もなにもかもを吹き飛ばされてしまった。今はただ、全身に走る痛みだけがある。
 身を任せた車輪が砕け、足や腕が歪み千切れた姿で、なんとか首だけを上に向ける。影が奔るたび赤い瞳が軌跡を
描き、天使が躯へと変わっていく。影が腕を振るうたび赤い闘気がうなりを上げ、天使を切り刻んでいく。
 目の前で行なわれているそれは、虐殺と呼ぶことすらおこがましいようにソロネには思えた。卵を空中で離せば、
地面に落ちて割れる。川に物を投げれば、水に飲まれ流される。それと同じように、影は天使を殺していく。それは
さも当然、まるで天の摂理であるかのような錯覚すら覚える光景だった。
「……あれは、なんだ?」
 かすれる声でソロネはつぶやく。その声はもはや死に強く彩られており、清浄なるものではなくなっていた。
 あれは人間ではない。断じてない。人間は薄汚れた泥人形に過ぎないが、しかしそれゆえに不純が混じることこそ
あれ真になにかになることはできないはずだ。あれは人間では生り得ない、悪意と敵意の純粋な塊だ。
 だが、あれは悪魔なのだろうか。悪魔は人の念が生むものゆえに純でありえる。しかしそれは同時に単純化されて
しか存在し得ないという弱点にもなる。それゆえにあの世界の卵と化したボルテクスではいずれかのコトワリに追従
するしか己の意志を示す道がなかったのだ。だが、あの影を殺戮へと衝き動かしているものは、なんだ? 腕を失い、
正気を失い、それでも血を求める姿は、煌天の衝動に身を任せた悪魔に似てはいるが、まるで違うものだ。狂気では
あるが、悪魔の本能からなるものとは違った、本能と理性とそれぞれを狂わすものとが入り混じったもの。いったい
なんと呼ぶのかはわからない、そもそも名づけられているのかもわからない、狂気より狂ったなにか、悪魔では持ち
得ぬ、人間にしか持ちえぬ恐るべきなにかだ。
「人でも、悪魔でもない者」
 ソロネはまたつぶやく。その声には、畏怖と、そして怒りがこもっていた。
(許せぬな)
 心の中で、別の気高き声が響いた。聞き覚えのある声だったが、その主のことは思い出せない。思い出したくても、
もう散漫になりつつある意識では不可能で、ソロネはただそれに強く同意した。
(このような者の存在も、このような場の存在も、このような不穏な企みも……すべて認めてはならない)
 炎のように、暖かく、激しく、力強く、透明な声が続けて、冷たくなっていくソロネの身体を内から突き上げる。
力が、わいてくるのを感じた。しかし自分の身体と意識が、その力に耐えられそうにないこともまたわかった。
(神罰を与えねばならん。私が、"神の炎"が、粛清に赴こう。体を貸せ、兄弟。我が"力"をその箱庭に顕すために)
 声が言い終えると同時に、力が爆発するのをソロネは感じた。光が体からあふれる。流れ込んできた"力"が自分を
飲み込み、作り変えていく。
 ソロネの意識が、これが死なのか再生なのか、よくわからぬまま、ただ、消えた。

24疵 ソロネの変異ネタ:2009/04/20(月) 17:58:46
 何事か叫んだ天使のはらわたを、大きく振りかぶった右腕の指先で引っ掻くようにしてもぎ取る。飛び散る液体が
暖かく心地よい。そのすぐあとに流れ出る光の粒子が、乾いた心を満たしてくれる。"それ"はそのわずかなふたつの
快楽をむさぼるために、目の前に現れた天使の軍勢を次々と屠っていった。
 最後の、一匹。腰に構えた拳から、光の剣を一閃させた。一瞬遅れて、奇怪な鉄塊のごとき天使の肉体がふたつに
割れる。さらにしばしの沈黙の後、魂を失った肉体が原始的な力へと還元される衝撃で、光の粉が四散した。それを
角で吸い取る。甘美な感覚が全身を駆け抜け、恍惚が"それ"を満たした。
 だがそれも仮初の悦び。満ち足りた感覚はするりと身体から逃げ去っていき、またたまらない餓えが身体を焦がす。
も っ と だ !  も っ と 喰 わ せ ろ !  も っ と 殺 さ せ ろ !  も っ と 強 い や つ を 寄 越 せ !
 "それ"に言語を明瞭に発する能力が残っていたら、そう叫んでいたであろう雄叫びを、二度、三度と繰り返した。
それは勝利の雄叫びのようでもあり、歓喜の嬌声のようでもあり、悲劇の慟哭のようでもあり……
 瞬間、気配を感じて、"それ"は後ろを振り返る。確かに最初の一撃で殺したはずの"モノ"から、すさまじい"力"と
殺気とを感じ取った。それは瞬く間に光に変わり、斃れた"モノ"を包み込み、そのまま形を変えていく。
「我、参れり。我が名はウリエル。堕ちし六翼の企みを滅する"神の炎"なり」
 光が名乗る。翼が、腕が、頭が、光の中から姿を現す。そこには、力強く剣を構えた、天使が、いた。
「滅びよ、人でも悪魔でもなき者よ。その穢らわしい存在のすべてを、我が炎にて焼き尽ぐぶぇああッ!?」
 天使が言い終えるのも待たずに、"それ"は勢いよく飛び掛った。固めた拳を、跳躍からの重力もあわせて、たたき
つける。ただそれだけ、もはや技でもなんでもない、単なる鉄槌。それが、天使の顔面を大きく変形させる。
「つぶぁ……バカ、ながぁっ!?」
 痛みにあえぐヒマもなく、胸元に押し付けられた掌からの光弾に射抜かれ、吹き飛ぶ。"それ"は天使の名にも目的
にも興味などなかった。本来ならばこの箱庭に介入ができないはずのイレギュラーな存在であること、ソロネの体を
媒介にすることで半ば反則的な方法で介入を行ってきたことなどにもまったく興味がなかった。
 相手が何であれ、ただ、引き裂き、喰らう対象というだけに過ぎなかった。
「貴様ァッ、滅ッ……」
 振りかぶった剣を振り下ろすが、敵の額を唐竹割りに斬り裂くはずのそれは降りてこない。背後にドサリとなにか
落ちるのが聞こえた。それが自分の腕と剣だということに気づいたのは、目の前の"それ"が構えた光の剣が返す刀で
腹部を無残に抉り取ったあとだった。
「……馬鹿な……」
 ウリエルは、自分が先ほど言った言葉を思い出した。人でも悪魔でもなき者。だとすれば、"これ"はなんと呼べば
いい? 人でも悪魔でもない、人も悪魔も超えた存在……それはもうもはや……"神"ではないのか?
 死が、近づいてきた。全身に刻まれた赤い文様が点滅するのが、まるで喜びの表現のように見えた。ひときわ激しく
緋色に輝く双眸が、いっそく赤く、禍々しく光る。
「認めん、認めんぞぉッ!」
 ウリエルは無駄と知りつつ残った左腕を前に構える。影が、死が、奔ってくるのが見えた。

25疵 別オチ:2009/04/20(月) 18:00:29
「あら、失礼。お食事中だったかしら」
 その空間に充満する死のにおいに微塵も動ぜず、女神像のように美しく冷たい少女は"それ"に親しげに話しかけた。
赤い光が渦巻く中心で恍惚とした表情でうずくまる"それ"は、まるで羽化直前のサナギのようでもあり、そしてまた
導火線に火がついた爆弾のようでもある。左右に立つ赤鎧の天使が怖気づきながらも退くこともできずに立ち尽くす
なか、彼女はするりと深き闇の中へ、その赤き渦を割りながら踏み出していく。
「お行儀が悪いのは相変わらずね。少しは綺麗に食べようとは思わないの?」
 金色の瞳を細めながら、黒き力に半身を預けた少女――"魔丞"千晶は言う。つまらないことがわかっている冗談を
白けるとわかっていて言うときに特有の醒めた口調は、この状況と彼女自身に漲る禍々しさにより底冷えするような
寒さと恐ろしさを与えるものになっていたが、しかし"それ"は意にも介さず、散らかった天使の死体の中央で黙々と
"食事"を続けていた。
 人語を解する能力すら失ったのか、それとも千晶なぞより今はこのマガツヒのほうが大事なのか。
(たぶん、両方ね)
 千晶は薄く笑い、右手(らしき黒い塊)を無造作に前に突き出した。"それ"の頚部の角を中心にしていた光の渦に、
新しい別の中心が生まれる。黒き触手が光を吸って、力を得たように少し膨らんだ。
「ぐ、アァァァァ……ッ!」
 "それ"が、動いた。赤い双眸を千晶に向けた。視線が向けられた、ただそれだけで赤き天使たちは突き飛ばされた
かのように一歩後ずさってたたらを踏んだ。
「ようやく見てくれたわね。久しぶり」
 今度は楽しげな口調で千晶は言う。この言葉が通じているのかどうかは怪しいものだったが、そんなことは彼女には
関係のないことだった。誰かに聞かせたくて喋っているわけではない。これは彼女なりの儀式なのだ。
「エサをとられてトサカに来たってところかしら? 獣同然、いや、それ以下ね。醜いわ」
 歯を剥き出してうなり声を上げる"それ"に少しも臆せず、彼女は続ける。
「強い者は美しい。あなたもあんなに美しかったのに……今はこんなに醜い。残念だわ」
 千晶は抑揚のない声で言った。それは悲しみに沈んだような口調であったが、それが本心なのかどうかはもう彼女
自身にすらわからないことだった。
 わかる必要もない。
「ガァッ!」
 怒りの声とともに、影が動いた。千晶は冷静に一歩下がる。反応が遅れた鎧の天使のうちの一人が腰の部分で上下
ふたつに割れ、赤と緑の光となって消えた。
「満腹で体力は十分、というところかしら? なら、私も」
 言いながら、千晶は右腕の黒き触手をもう一人の護衛の首筋へと伸ばす。巻きつき、へし折り、千切り、包み込み、
噛み砕き、飲み込む。天使の武器と鎧がコンクリートの床で跳ねる無機質な音が響いた。
「……あら、腕、どうかしたの?」
 いま気づいた、というように彼女は"それ"の失われた左腕を指差した。聞きようによっては嫌味な挑発のようにも
聞こえたかも知れないが、彼女にはそういう意図は一切なく、本当にいま初めて気づいたのだった。彼女も"それ"も、
すでに腕の欠損程度はその程度の出来事に過ぎない世界の住人であった。
「奇遇ね」
 言って、先のない左腕を誇示するように振る。その表情は場違いなほどに穏やかで、なにより、狂気的だった。
「礼を失するかと思ったけど、杞憂だったみたい」
 うっとりと嬉しそうに目を細めながら、彼女は言った。彼女の中にある、暴力の中にに様式美を見出す性癖(彼女
自身のものというよりは、むしろ彼女に宿ったゴズテンノウのものに近かった)が唯一抱えていた不安が解消された
ことによる、喜びの声だった。相手がもはや礼を尽くすに値する存在ではなかったとしても、やはりそれは彼女には
大きな気がかりだったのだ。彼女は、強く美しい、ヨスガの体現者にふさわしい存在であり続けねばならない。
 だが、それを証明するにはもうひとつ、大きな障害が残っている。
「さ……再会を喜び合いましょうか?」
 うっとりとした口調で千晶が言った。それを待っていたかのように、"それ"はコンクリートの床を蹴った。


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