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少女漫画キャラバトルロワイアル 第二巻

1名無しさん:2013/05/30(木) 21:45:38 ID:eKlMnmjk0
このスレは少女漫画のキャラクターによるリレーSS企画、少女漫画キャラバトルロワイアルの本スレです。
クオリティは特に求めません。話に矛盾、間違いがなければOK。
SSを書くのが初めての方も気軽にご参加ください。

企画の性質上残酷な内容を含みますので、閲覧の際には十分ご注意ください。
また、原作のネタバレが多々存在しますのでこちらもご注意ください。

前スレ
少女漫画キャラバトルロワイアル
ttp://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1284816080/

【避難所】ttp://jbbs.livedoor.jp/comic/5978/
【まとめWiki】ttp://w.livedoor.jp/girlcomic/
【参加者名簿】ttp://w.livedoor.jp/girlcomic/d/%bb%b2%b2%c3%bc%d4%cc%be%ca%ed
【ルール(書き手ルール含む)】ttp://w.livedoor.jp/girlcomic/d/%a5%eb%a1%bc%a5%eb

2 ◆F9bPzQUFL.:2013/05/30(木) 21:46:55 ID:eKlMnmjk0
仮投下スレにて投下した自作の投下、及び◆o.l氏の代理投下を行います。

3リアリストは現実が見えない ◆F9bPzQUFL.:2013/05/30(木) 21:47:32 ID:eKlMnmjk0
「ふう……ひとまず、動きやすい服装になったか」
若者らしい衣服に身を包み、鏡夜はため息を一つつく。
遊園地から脱出し、たどり着いた先の市街地で、宣言通りに別の服へ着替えていた。
制服では機動性に欠け、身分が公になりやすい――――というのは建前。
本音は鏡を通して自身に着けられている首輪の形状を知るため。
そして仕掛けられているであろう小型カメラを覆うため。
今、鏡夜の首には流浪のヒーローのような、真っ赤なスカーフが巻き付けられている。
「ふにゃー」
「……お前はいいな、緊張感がなくて」
特に何かにおびえるわけでもなく、毛繕いを繰り返す猫を見てぽつりという。
実際、ここまで用心に用心は重ねてみた。
だが誰かに出会うということはなく、すんなりと市街地に来ることが出来た。
殺し合いに招かれている人間は40人、経っている時間はそう長くはない。
これは、幸運と捉えるべきか。

ともかく、当初の目的だった首輪の隠蔽及び形状の確認を行うことは出来た。
キャーの着けている首輪とはまた少し違った、凹凸のないツルツルとした首輪。
手触りと外観だけでは、工具が立ち入れそうな隙間は無いように感じる。
そして何より強力な爆発と、主催の一存による高速応答を可能にするだけの部品が、このサイズに詰め込まれているとは考えにくい。
カメラや盗聴を考えれば、それだけ通信に使う部品も増える。
爆薬が占める領域は、自然に少なくなっていく。
出来る以上のことは無理をしない、下手に手を入れて爆発でもすれば、それこそ終わりだ。
生憎とこんなところで死ぬわけにはいかない。

ならば、隅々まで調べられるような首輪サンプルがあればいいのだが――――

ザッ、と足が止まる。
感じ取ったのは一人分の気配。
初めての人間との遭遇に、鏡夜は気を引き締めていく。
正直者か、熱血漢か、殺戮者か、嘘つきか。
考えられる可能性を全て頭に入れながら、ゆっくりと気配へ近づいていく。

「あっ……」

そうして道の先で出会ったのは、小さな少女だった。
声をかけようと、鏡夜が口を開く。
その瞬間、少女はドサッと倒れ込んでしまった。
緊張の糸が切れたのか、はたまた別の要因か。
ともかく状況を見極める必要がある。
鏡夜は急いで少女に駆け寄り、声をかける。

「大丈夫か!?」

少女の返事は弱く、微かに聞こえる声もうまく聞き取れない。
……これだけ弱っているなら、見捨てるべきか?
邪な考えがよぎるのを、振り払う。
人として正しい道を踏み外すわけには、いかない。
少女の額に手を当て、熱を確かめていく。
表面に浮かんだ汗の先からは、普通の人間の体温が伝わってくる。
手首を掴んで脈を確かめ、流れるように呼吸を確かめていく。

「あ……」

小さな口から漏れ出す弱々しい声が、鏡夜の耳を撫でる。
続く弱々しい吐息が、彼女が生きているという事を示してくれる。

「大丈夫か、おい!」

軽く頬を叩き、少女の気を取り戻そうとしていく。
それだけでは戻らないとみた鏡夜は、支給されていたハンドタオルに水をしみこませ、少女の顔を拭っていく。

4リアリストは現実が見えない ◆F9bPzQUFL.:2013/05/30(木) 21:47:54 ID:eKlMnmjk0
 
「ん……?」
「気がついたか」

ようやく気を取り戻したのか、弱い声と共に少女は目覚めていく。
鏡夜は思わずホッとした表情を浮かべてしまう。

「しかし、君のような少女まで参加させられているとはな……よっぽど悪趣味な催しが好きらしい」

少女は首輪を着けている、それ即ちこの殺し合いの参加者であるという事。
こんな少女でも、巫女の対象にしようとしているのか……?

「あ、あの……」
「ん、ああ。すまない」

考え込みそうになったところに、少女の声が鏡夜を止める。
はっきりと気を取り戻したようで、もじもじと恥ずかしがりながら鏡夜を見つめている。

「私は鳳鏡夜、君の名前は?」

にこやかな表情で、少女の緊張をほぐそうと挨拶していく。

「月……小泉月です」

珍しい名前だな、と感嘆しながらも、鏡夜はさくさくと本題に切り込んでいく。

「君、この殺し合いが始まってから、誰かに出会ったか?」
「いえ、特に……」
「そうか……」

一つ質問を投げかけただけで、月の声は再び震えていく。
本当は首輪についてなど、もっと深い話題に入りたかったが、この様子だとろくに情報は得られないだろう。
尤も、こんな少女に情報を期待する方もどうかしているのかもしれない。
いくら情報がほしいからといって、少し焦りすぎたか……?
ここは一度頭を冷やし、考え直す必要がある。

「あの、よかったら一緒に行きませんか……? 一人は、寂しくて……」

一人で考え込んでいた鏡夜を、月の声が引き戻す。
それは、同行を求める申し出だった。
この殺し合いには幾多もの人間がいる、殺しに躊躇いのない人間も少なくはない。
そんな中で、か弱い少女が誰かに助けを求めるのは当然の行動だろう。

「子供にこんな事を聞くのは酷かも知れないが、自分の身は自分で守れるかい?」
「えっ?」
「生憎、超怪力もないし、超能力も持ってない。
 未知の技術が蔓延している中で、どんな力を持った人間が来るかはわからない。
 君をいざというときに守りきれる自信は、正直言って無い」

そんな彼女に、鏡夜は事実を突きつける。
鳳鏡夜という一人の人間は、見てくれの通り只の人間だ。
人を守る、だとかいう芸当ができる能力など持っているわけがない。
そんな中で、少女を守りながら生き残ることができるか……?
答えは、限りなくノーだ。
そして何より、鏡夜も生き残りたい。
自分が生き残るのに精一杯なのに、他人に割いてやれる余裕など持っている訳がない。
同情や哀れみで身を動かすのは、死に近づくのに等しい。

「安全な場所、があるとは思えないが……ともかく、安全な場所を探して身を隠しておいた方がいいだろう。
 これはいざというときの道具くらいにはなるさ、持っていくといい」

5リアリストは現実が見えない ◆F9bPzQUFL.:2013/05/30(木) 21:48:36 ID:eKlMnmjk0
 
だが、このまま突き飛ばすのもあまりに非情すぎる。
使える道具を何も持っていなそうな少女に、自分の使わない道具を渡す。
拡散型催涙スプレー、大の大人から隙を作るぐらいは出来るだろう。
問題は、彼女がこれを使う余裕があるかどうかだが。
今の鏡夜には、そこまで気にしてやれる余裕も無い。

「あの……ありがとうございます」
「気にしなくていいさ」

月は感謝の言葉を述べ、鏡夜はフフっと笑ってその場を立ち去っていく。
立ち止まっている時間はない、この殺し合いを転覆させるにはまだまだ情報が必要なのだから。

「行くぞ、キャー」
「ふにゃー」

呼びかけられた獣が、のしのしと鏡夜の後を歩いていく。
鏡夜は知らない、気づいていない。
その獣が、自分に降り懸かっていた災厄を振り払ってくれていたことなど。



「クソッ!!」

鏡夜が遠く見えなくなってから、月は市街地の一角のバーで暴れていた。
理由は勿論、鏡夜に自身のアリスが効かなかったから。
誰かを釣るために瞬間移動のアリスストーンで適当に移動し、そこで男の気配を察知したまでは良かった。
出会い頭に気絶したふりをし、体を傍に寄せて首に噛みつくまでは上手く行ったというのに。
そこからいくら力を使っても、鏡夜を操ることが出来なかった。
噛みつくことすら出来なかった浅葱の時とは違い、しっかりと首元に噛みついたというのに。
どれだけ念じようと、どれだけ力を使おうと、鏡夜を思い通りにすることは出来なかった。

正直、その時点でかなり狼狽えていた。
だが、迂闊に不利になる情報を伝えるわけにもいかない。
だから、問いかけには「誰にも会っていない」と答えた。
正直に「浅葱に会った」と言えば、変な状況になるのはわかっているからだ。
「とっても強い頼りになる男の人」と言えば、なぜその元から離れたのか?
「いけ好かない人殺し野郎」と言えば、どうやってそこから逃れることができたのか?
どう伝えようと、怪しい状況になるのは見えている。
ましてや、自分が人殺しに乗っているということを悟られてはいけないのだ。

「だからああいうガキは嫌いなんだよ……」

そこまで考え、ロック割りのウイスキーが注がれたグラスを手でカラン、と鳴らしてから壁に投げつける。
パリン、とガラス特有の小気味の良い音が鳴り響き、店の照明の光に反射してウイスキーが煌めいていく。
結局、いくら考えれど自身のアリスが利かなかった理由はわからなかった。
アリスの寿命が来たわけでもない、アリスの力を盗まれたわけでもない、鏡夜に無効化のアリスが宿されていたわけでもない。
なんだかわからないが、自分の力を阻害された。
その事がひどく彼女の頭に響き、苛つかせている。

「クソッ!」

テーブルをダンッと叩きながら、彼女は新たなグラスにウイスキーを注ぐ。
酔っている場合ではない、そんなことはわかっているから。
飲みもしないウイスキーをグラスに注いでは、壁に投げつけることを繰り返す。
二連続で年下にナメられた苛立ちを、解消するために。

6リアリストは現実が見えない ◆F9bPzQUFL.:2013/05/30(木) 21:49:21 ID:eKlMnmjk0
 
【F-2/北部市街地/午前】
【鳳鏡夜@桜蘭高校ホスト部】
[状態]: 腹黒メガネキャラ、首に噛まれ跡(自覚なし)
[服装]: 桜蘭高校男子制服
[装備]: 眼鏡
[道具]: 基本支給品、キャーの写真と説明書、タオル
[思考] 
基本: 青龍の力は誰にも渡さない
 1: 下記のことを行いつつ、G-4にある祭壇へ向かう。
    ・他の参加者と接触し情報を得る(相手は慎重に選ぶ)
    ・島の中に名簿に記載されていない人間がいないかどうかを調査
 2: 首輪には盗聴器と隠しカメラ、爆弾が内蔵されているという前提で、己の真意を主催に悟られないよう行動する。
 3: 首輪を解除するために、まずは盗聴器とカメラの有無をはっきりさせたい。
 4: 鬼宿、角宿、亢宿は、心宿の仲間かもしれないが、貴重な情報を持っている可能性もあると推測。
 5: ホスト部のメンバーは心配だが、捜そうにも当てが無いので今のところは上記1と並行して捜すに留める。
[備考]
※ハルヒがホスト部に入部したよりは後からの参戦。詳細は後続の書き手氏にお任せします。
※キャーがサーチェスの力を食べられることは説明書に記載されていなかったため把握していません。
※月に噛まれましたが、キャーが無効化しています。

【キャー @ぼくの地球を守って】
[状態]: 元気、鳳鏡夜の支給品
[服装]: 全裸
[道具]:
[思考] 
 1: 鏡夜についていく。
[備考]
※首輪をつけています。参加者がつけている首輪と性能や爆破の条件が同じかどうかは不明です。
※実際の大きさは数センチ程度のはずですが、このロワでは2メートル弱くらいの大きさで支給されています。
※サーチェスの力を食べます。この能力には制限がかかっているかもしれません。
※どうやらアリスの力も食べられるようです。
※キャーが地球語を理解しているかどうかは後続の書き手氏にお任せします。

【小泉月@学園アリス】
[状態]:イライラ、幼女バージョン
[装備]:瞬間移動のアリスストーン@学園アリス
[道具]:基本支給品(ランダムアイテム0〜2)、ガリバー飴(−10歳)×10個
[思考]
基本:最後の一人になる
1:最後の一人になるため行動
2:浅葱との同盟はとりあえず守るが、そのうち出し抜いてやる
3:ガリバー飴がどこかにあれば手に入れたい

7愛を謳うより笑みを与えろ!(代理) ◇o.lVkW7N.A:2013/05/30(木) 21:50:06 ID:eKlMnmjk0
 
「足手まといを抱えてたら、俺が危ないだろ?」

意識が途切れる直前に迅八の鼓膜が拾ったのは、あまりにも感情を感じさせない言葉だった。
ぷつんと目の前がブラックアウトし、視界が暗く染まるのと同時に、全身の筋肉が強張っていくのを感じる。
必死にもがいて生を繋ぎ止めようとするも、それはあまりにも無駄な努力というよりなかった。
何せ、呼吸すらろくにできないのだ。咽喉が大きく開かず、唇は弱弱しく震えて声にならない吐息を漏らすだけ。
指先は硬く緊張したまま固定されたかのように動かないし、そもそも全身がじりじりと痺れてまるで思い通りにならない。



(……ああ、また俺が最初に死ぬのかよ)



ふと頭をよぎったのは、あの時とまるで同じ己の境遇に対する、皮肉めいた想いだった。
そんな場合でないのは分かりきっていたが、あまりの不甲斐なさと運の無さに思わず笑い出したくなってしまう。
……俺は俺で、俺はアイツで、アイツは俺で、アイツはアイツ。
自分と彼はあくまでも別個の人格の筈で、けれどある意味では最も近い魂を持った存在だろう。
完全に引き離して考えることも、百パーセント同一視することも、どちらも間違っている。
けれど、よりにもよって彼と同じような最期を迎えなくてもいいではないか――――。
ふははっと、最早動かない口唇が、最後の力を振り絞るようにして自嘲の笑みを形作った。


何度夢に見たか分からない、前世での光景を今になってまた思い出す。
星間戦争によって母星が塵芥と化した後、自分達は筆舌に尽くしがたい程の激論を交わした。
「地球に降りるべきではないか」「いや、このまま己の任務を遂行すべきだ」
「帰るべき星も無いのに、正論を言うな」「いっそ、皆で手を繋いで自害でもした方がましだ――――」。
意見の違う者同士で酷くいがみ合い罵り合い、時には掴み合いの喧嘩にまで発展したこともある。
なにせあの温厚な木蓮ですら、バケツを振りかぶって繻子蘭に泥水を浴びせかける始末だったのだから。

けれどその結論を出す前に、神は彼らに罰を与えたのだ。

基地内で発生した病原体は瞬く間に数と範囲を増殖させていき、どれほど手を講じようとも対抗策は見つからなかった。
母星が消滅している状況では、限られた資源と機具のみでワクチンを精製することなど到底不可能であったし、
かといって新種の病原菌を保有した身体では、今更地球へと降下することも出来ない。
八方塞がりになった七人は、ただただ怯えと悲しみの中で、己の死を待つことしかできなかった。
一日でも長く生き延びたいという想いと、いっそ早くこの恐怖を終わらせてほしいという歪んだ欲求。
矛盾した感情を抱えながら日々を過ごす彼らは、皆一様に精神が摩耗していた。


――――そして、死者を決める悪趣味なルーレットが最初に選んだのが、玉蘭だった。

8愛を謳うより笑みを与えろ!(代理) ◇o.lVkW7N.A:2013/05/30(木) 21:51:04 ID:eKlMnmjk0
 

発病を知らされた時、酷く恐ろしかったのを覚えている。
己が死ぬことそのものよりも、愛する人を残して、一人で先に逝かねばならないことが。
彼女と自分は互いに思い合う無二の恋人同士でも何でもなく、単なるこちらの片思いでしかなかったけれど、
それでも、あの心優しい女性が共に過ごした仲間の一人を失って、平静でいられるとは到底思えなかった。
せめて、不安に苛まれる彼女の隣に、最期の瞬間まで寄り添っていてあげたかった。
「俺が君と共に居る」「ずっとそばに居るから恐がらないで」と、そう言って彼女に笑いかけたかったのに――――。
けれどそんなささやかな願いは呆気なく霧消して、現実の玉蘭は何一つ確かなものを残せないまま、
次第に弱っていく身体を寝台の上で掻き抱きながら、徐々に眼前へと差し迫る己の死に怯え苦しんでいるだけだった。

嗚呼と声も上げずに天を仰ぎ、己の星回りの悪さを嘆く。

なにせ、結局自分は、またあいつに頼らねばならないのだ。
本当ならこんなことは口がひん曲がったって言いたくないし、言われる側の当人も御同様だろう。
だがいくら腹立たしく不本意な頼み事であろうと、他にそれをお願いできる相手はいないのだ。
前世では最大のライバルで友人で、卑怯な手で彼から愛する女性を奪っていった憎むべき恋敵。
そして今生では、生意気で少しも可愛げがなくて、本性隠してこそこそ裏工作ばっかりしてやがる最低最悪なクソガキ。
けれど悔しいことに、誰かに彼女を委ねなければならないとしたら、それは一人しかいないから。



(輪……、お前が坂口さんを守るんだ)



そう心中で訴えて、それにしてもと迅八は吐息した。
こんなことになるのなら、もっと早く思いを伝えておけばよかった。
自分の中へと転生した玉蘭の恋心は、結局、実るどころか蕾にすらなることなく枯れ果ててしまったのだ。
まったく、これでは玉蘭も浮かばれないことだろう。
来世の己の駄目さ加減に、忸怩たる思いで呆れ返っているかもしれない。
玉砕覚悟で告白していれば、こんなやりきれなさを抱いたまま人生の幕を引くこともなかったのに、と。

けれどそれでも一方で、迅八には確証があった。
それは「もしかしたら」などという希望や願望ではなく、必ずやそうなるはずだという確信。



(……俺は生まれ変わっても、きっともう一度君を好きになる。
 この命が失われても、来世で君と逢えるのを待っているから――――)



玉蘭の恋が迅八の中で蘇ったように、迅八のこの感情もまた、何時か何処かで再び芽吹く。
一度目は「木蓮」、二度目は「木蓮ヲ愛ス」、そして三度目は「木蓮ヲ永遠ニ愛ス」
彼が一生を賭けて誓った恋に、俺もまた殉じよう。
彼が胸を焦がした木蓮と、自分が思いを寄せた彼女はあくまでも別の女性だけれど。
それでもきっと、この魂が朽ち果てぬ限り永遠に、俺は、俺達は、君に心を奪われる運命なのだろうから。



     ○     ○     ○

9愛を謳うより笑みを与えろ!(代理) ◇o.lVkW7N.A:2013/05/30(木) 21:51:25 ID:eKlMnmjk0
 


「……っ!?」

頭の奥底の辺りが、冷たい刃のような痛みをキィンと訴える。
それと同時に誰かの言葉が脳裏を走り去った気がして、その薄気味の悪い感覚に吐き出したくなった。
槐を前世に持つ一成がいるのならば、テレパスを送信された可能性もあるだろうが、
少なくとも名簿を見る限り、彼はこの場には存在していない。
恐らく、単に気を張りすぎて少々過敏になっているだけなのだろう。
そう己に言い聞かせ平静を保とうと努めるも、輪の精神は既に限界を超える間際寸前にまで追い込まれていた。
当たり前だ。輪は、この殺し合いの中で自分が勝者になることに対して、絶対的な自信を持っていた。
自身のサーチェスならばよほどのことがない限り敵は無いと、ある意味では楽観視さえしていたと言える。
それでも決して慢心するというわけではなく、アリス能力者とやらには最大限の警戒を怠らないつもりだった。
少女に知っている限りの情報を引き出させ、それをもとに今後の計画を練り直そうと想定していた。
けれど唐突に訪れたのは、あまりにも予測不可能な現実で――――。

「……守る?」

今しがた輪の中を駆け抜けていった言葉の残骸が、折れた矢のように突き刺さる。
ただの幻聴でしかないはずのそれは、しかし輪の心を抉り取るには十分に足るものだった。

「……、そんな、そんなことが出来るわけないだろう!!?」

叫ぶ己の声すら憎い。細く甲高い声は完全に子供のそれで、声変わりすらまだなことを指し示している。
小さすぎる両掌を見つめ、細すぎる脚で狂ったように地団太を踏む。
成人男性の手にかかれば簡単に捻り潰せてしまいそうな小さな体躯は、孤独に過ごした九年間の体現だ。

「この身体で……! サーチェスもない状況で!! 
 こんな……、何もできない子供の身体で……、オレにどうしろっていうんだよ!!!」

自問自答するも答えなど出るわけがなく、頭がおかしくなりそうだった。
己が絶対的な強者であるという自信の源であった彼の武器、サーチェス。
それを強奪された今、輪には最早、何も残っていないといっても過言ではなかった。
あくまで平均的な小学生レベルの体力しかないこの身体で正面から大人とやりあっても、勝てるわけがないのだ。
かといって、従順でいたいけな子供の振りをして隙を狙うにしても、リスクは大きい。
どんな方法を使ったかは分からないが、先程の男は輪の目的も能力も、ムーンネームすら把握していた。
次に出会った参加者が、また輪の正体を見抜いていないとは限らないだろう。

茫然と見開かれた瞳から、涙がぽたりと一雫だけ零れ落ちた。
泣いている暇など無いというのに、一度崩れ落ちかけた膝には力が入らないままで、無為に時間ばかりが過ぎていく。
立ち上らなければいけない、歩き出さなければいけないと、頭では理解している。
けれど「今の自分が闇雲に動いたところで、一体何ができるのか」と、一度そう考え始めてしまうともう駄目なのだ。
底無し沼のように深い思考の泥に足を取られたまま、諦めとしか言えない感情が全身を黒く支配する。
怯えが四肢へと蔦のように絡みつき、輪から冷静さと戦う気力を少し、また少しと確実に掠め取っていく。

「ありす、オレは一体どうすればいい? どうすれば君を……」

10愛を謳うより笑みを与えろ!(代理) ◇o.lVkW7N.A:2013/05/30(木) 21:51:36 ID:eKlMnmjk0
虚空へ問いかけたところで、小枝を踏み折るようなか細い音が鳴り響いたのを耳聡く聞き留めた。
彼女の笑顔を思い出し、狂気に染め抜かれそうな精神を必死にこちら側へ繋ぎ止める。
痙攣しかけるほどに震える指先でデイパックへと手を伸ばし、武骨な金属の塊をそっと取り出した。
サーチェスに万全の信頼を置いていた最前まで、支給された慣れない武器などまるで使うつもりは無かった。
しかし今の自分にとっては、掌中のこれが唯一ともいえる生命線だ。
子供の手に余る大きさのそれはずっしりとした重量感で、人の命を刈り取る道具としての重みを感じさせてくれる。
手にしたそれを眼前に構えると、ガサガサと揺れ動いている茂みの辺りへ躊躇なく照準を合わせた。
誰かがこちらに接近しているのは明白で、少なくとも体格から、それが亜梨子でないことだけは確定的だった。

「…………っ、くぁっ……っ!!」

引き金に掛けられた指先を何の感慨もなく引けば、肩が千切れそうなほどの凄まじい衝撃が自分にまで襲い掛かる。
予想を遥かに超えた激痛に苦悶の表情を作りながらも、手にした武器を離すことだけはしない。
掌に握られているのは、44マグナム。
映画「ダーティーハリー」で使われたことでも有名なこの大型拳銃は、
本来、大型獣を狩猟する際に、ライフルの代わりとして用いられるほどの、凶悪な殺傷力を持つ銃器である。
ガンマニアなら垂涎ものの一品ではあるが、生憎、現在の持ち主にその手の趣味は無い。
そして残念なことに、輪には銃に対しての興味も執着もなければ、知識すら全くと言っていいほどに無かった。
44マグナムは、確かに標的に当たりさえすればその破壊力は物凄い。
しかし一方でその高すぎる威力が災いし、慣れない射手が撃てば、それこそ上体が仰け反るほどの反動を受けてしまう。
子供の輪であれば、下手すれば細腕がねじ切れてもおかしくないだろう。
そのうえ一度撃てば、体勢を立て直し、次弾を照準・発射するまでに、かなりの時間的なロスも生じる代物だ。
少なくとも、獲物の全貌すら見えていない状態で無闇やたらな威嚇射撃に使うような銃では決してない。

だが、肩口ごと吹っ飛びそうな痛みすらも、今の輪を止める障害にはなりえなかった。
脳内を占めるのはただ一つ、亜梨子を守らねばという想いだけで、それ以外の一切が消え失せていた。


「ありすを守るんだ……! オレが……、今度こそオレが!!!」



     ○     ○     ○



轟音と同時に、突然、真横に茂っていた枝葉が弾け飛んだ。
飛び散った木々の破片が肩へと強かにぶつかり、唐突な痛みに眉を顰める。

(な……っ、何だ一体!?)

予想だにしなかったいきなりの攻撃に驚きながら、姿勢を低くして生い茂った下草へ身を隠す。
硝煙と土埃が薄く立ち込める草原は視界が悪く、こちらからは敵の姿を確認できない。
とはいえそれは、恐らく相手についても同じことだろう。
もしも自分が視認できているのなら、もっと的確に狙いを定めたうえでの射撃が行なえたはずだ。
環はそう判断すると、向こうに気取られない様じりじりと歩を後ろへ戻した。
敵前逃亡など恥ずべきことではあるが、しかし問答無用で拳銃を撃ってくる相手などどうしようもない。
このまま草叢伝いにこの場を離れなければ、ホスト部の皆と再会することすら出来ずにお陀仏だ。
僅かずつながらも確実に左右の足を動かして、一歩、また一歩と相手から距離をとる。
出来るだけ音を立てないように、相手に位置を気取られないよう慎重に、との思考とは裏腹に、
混乱と焦燥でぐるぐると回り続ける心の方は、早く早くと全身を急いて、すぐにでも全力で駆け出させようとする。
大声を上げて走り出したくなる欲求を押し殺し、震える身体に鞭打って、冷静になれと己に言い聞かせた。

11愛を謳うより笑みを与えろ!(代理) ◇o.lVkW7N.A:2013/05/30(木) 21:51:49 ID:eKlMnmjk0
 
――――――けれど。

環の推測は決してそう外れていなかった。選択した戦略も、さほど悪いものではなかったはずだ。
相手が自分の正確な居場所を把握できていなかったのは明白だったし、
だからこそ、無理に戦闘を考えず逃げに徹しさえすれば、茂みの中に居るこちらに勝算があったのだ。
予想外だったのは、相手が環の思う以上に冷静さを失しており、無茶を覚悟で強引に草の中へ飛び込んできたこと。
そして何より、眼前に現れたのが、環が思い描いていた殺人者とは百八十度正反対の外見だったことだ。

「…………なっ、子供!?」

環の前に佇む彼は、まだ小学校低学年くらいであろう小柄な少年だった。

「まさか……」
「子供は人を殺さないって思ってるの?」

くすりと何処か自嘲的な笑みを唇の端に浮かべると、少年は環に銃口を向けた。
見ていて馬鹿馬鹿しくなるくらい、現実味のない光景だ。
年端もいかない幼い少年に拳銃を突きつけられているなど、冗談にもなりはしない。

「待て!なぜこんなことをする!あんな主催者の言うことを鵜呑みにするのか!?
 仮にこの場の全員を殺したからといって、本当に君一人が生き残り助けてもらえる根拠など――――」
「…………は?」

投げつけたのは、説得とさえ言えないただ感情が発露されただけの言葉だった。
しかしそれは意外なことに、環が想像した以上に相手を揺るがせた結果となったらしい。
射抜かれるほどの鋭利さを湛えた双眸がこちらを睨みつけると共に、血反吐を吐くような言葉が空を裂く。

「生き残る? 助けてもらう!? ……っ、は、ははははははははは!!!!!!!
 こんな命なんてどうでもいいさ。そんなもの、いくらでも犠牲に出来る。 
 だからありす、代わりに君を……、オレは今度こそ君を……っ、ありす!!」

その叫びに、環は理解する。
少年が殺し合いに乗ったのは、彼自身が最後の一人になるためではないのだと。
彼の言う『ありす』という女性が、何者なのかは分からない。
母親か姉や妹か友人か、或いはちょっとマセてはいるが恋人なのかもしれない。
だが少なくとも彼女が、少年にとって何よりも大切な存在なのだということだけは分かる。
それは、彼にあの小さな手で銃を取り、人殺しの禁忌に手を染める事を誓わせるほどに。


――――だが、それは間違った決意以外の何物でもない。


「……少年、君の言うありす姫とやらは、君がこんなことをして喜ぶような人なのか?」
「…………っ」
「君が人を殺せば、きっと彼女は泣く。女性を泣かせるのは男として最低の行いだ」

環にとって、女性はすべからず笑わせるべく存在だ。
須王の家へ引き取られ日本に移住することが決定した後、母は泣いてばかりいた。
「離れ離れになるなんて」と涙を流して環を抱きしめる母親の顔は、今でも鮮明に覚えている。
だから環は、女性の涙が嫌いだった。全ての女性には、いつも笑顔でいてほしかった。

桜蘭高校所属、須王環。ホスト部創設者兼部長にして自称キング。仇名は「殿」。
彼の掲げる最大の理想にして、部の運営方針は――――――――。



「女性には、常に笑っていて貰わねばならない。それが男(ホスト)の役目だ!!!」

12愛を謳うより笑みを与えろ!(代理) ◇o.lVkW7N.A:2013/05/30(木) 21:52:06 ID:eKlMnmjk0
「…………っ、うるさい!! お前に何が分かるっ!!!」

激昂と同時に引き金へと掛けられた指先が一息に引かれ、耳をつんざく爆音が再び辺りを占めた。
瞬間、左肩に感じた肉を焦がすような熱のあまりの熱さに、すぐさま意識を奪われそうになる。
しかし、ここで倒れるわけにはいかない。唇を血が出るほど噛みしめて、痛みで強制的に思考を覚醒させる。
スタングレネード――――。激しい音と光を撒き散らし、周囲の人間の聴覚や視覚を麻痺させる品だ。
相手が銃を撃つのとほぼ同じ瞬間を狙って、環もまた、懐から取り出した支給品を相手へと投げつけていた。
まだ明るいこの時間、それも屋外ではさほどの効力はないだろうが、一瞬ひるませ隙を作ることくらいはできる。
……そうだ。このチャンスを無駄にしてはいけない。子供相手に少々情けないが、今度こそ完全に逃げ延びねば。
痛む肩を掌で抑え、だくだくと溢れる鮮血に眩暈を憶えながら、草原を抜けるためただただ走り去る。
このまま逃げ切って建物の多い市街地まで辿り着くことが出来れば、と決死の思いで願いながら。



……だが撃たれた箇所から止め処なく血が溢れだしている現状で、全速力での疾走をそんなにも続けられるはずがない。
目は霞んで前すらろくに見えないし、足は疲労と痛みでふらつき始めた。体力も限界に近い。

「うぉおっ!」
「きゃぁ!?」

角を曲がり、スピードを緩めかけようとしたところで、出会い頭に誰かとぶつかってしまう。
そのままバランスを崩して二人まとめて倒れ込むが、そこは流石の須王環である。
こんな場面であってすら、一瞬で相手の背中側へと回りこんで自分がクッション代わりになる始末。
そして勿論、指名率7割を誇る部内一の人気ホストは、いつも通りの営業も欠かさない。

「申し訳ないね、姫。少々慌てていたもので……。
 おっと、それにしても、もしかして俺は、気づかないうちに天国へと召されてしまったのかな」
「は?」


「いや。まさか天使が実在するとは、思わなかったものだから」

13愛を謳うより笑みを与えろ!(代理) ◇o.lVkW7N.A:2013/05/30(木) 21:52:20 ID:eKlMnmjk0
【C-3/市街地/午前】

 【須王環@桜蘭高校ホスト部】
 [状態]: 左肩に銃創
 [服装]:桜蘭高校制服
 [装備]:
 [道具]:基本支給品、スタングレネード×2(デイバックの中)、不明支給品(0〜2、未確認?)
 [基本行動方針]: 主催屋の居場所を突き止め、説得(接客)して殺し合いを止める。 
 [思考]おお、お客様第一号発見だ!
  0: 仲間を集める、ホスト部員を優先して探す。
1:少年(輪)から距離をとる。肩の手当て
  2: 殺し合いに対する恐怖。特にホスト部員が死んでしまったりしたら、どうしたらいいかわからないほどの恐怖。
 
 [備考]
  ※参戦時期はハルヒ入部より後です。その他の細かな時期は、のちの書き手さんにお任せします。


【本郷唯@ふしぎ遊戯】
[状態]:健康
[装備]:モンキーレンチ、しんさんのMTB@ハチミツとクローバー
[道具]:基本支給品
[思考]……え?何これ、ギャグ?
基本:惑わない、殺し合いを止める
  1:とりあえず環と会話?
[備考]
※本編終了後より参戦



【C-3/草原/午前】

【小林輪@ぼくの地球を守って】
[状態]: 通常、サーチェスなし(?)、擦り傷
[装備]:44マグナム、弾薬
[道具]:基本支給品(ランダム支給品0〜2個)
[思考]
基本:亜梨子のために、他の参加者を殺害する
1:例えサーチェスが無くても、別の方法で他の参加者を殺害する。
2:亜梨子のために、他の参加者を殺害する(?)
3:能力者の存在にもっと注意し、情報収集を怠らないようにする
[備考]
※盗みのアリスによってサーチェスが抜き取られました。
 柚香のアリスのように完全に抜き去られたどうかは、不明です。

14名無しさん:2013/05/30(木) 21:54:27 ID:eKlMnmjk0
以上で投下、及び代理投下終了です。

>愛を謳うより笑みを与えろ!
死に際のテレパシー、それを受け取った輪には既に力は無く……
環、かっこいいなあ。マイペースなんだけど、それがいい。

15名無しさん:2013/05/31(金) 22:16:05 ID:e7Q1yt3E0
投下乙です

鏡夜は命拾いしたなあ
キャーがアリスの力も喰えるのが今後どう転ぶかあ…

最初と比べて輪の心に綻びが生れた…かな?
環はぶれないなあ。いい対主催として今後に期待

16矛盾とパラドックス ◆F9bPzQUFL.:2013/06/21(金) 00:05:12 ID:5ansCEog0

「ふぃ〜、食った食った……」
爪楊枝を器用に扱い、げふりと一息をつく。
一応、花も恥じらう現役女子高校生ではあるのだが、今の彼女を見ても恥じる花など無いだろう。
しかし彼女は、目の前にあった料理を全て平らげて、満足そうな表情を浮かべている。
その姿に軽くどころか思いっきり引いている男には、目もくれず。
そして、さも当然かのように欠伸を一つこぼし、衝撃的な言葉を吐く。
「食べたら眠たくなっちゃったな……」
この台詞からわずか数秒、そこには机に突っ伏して寝ている夕城美朱の姿があった。
「……大したお嬢ちゃんだ」
終始その姿を見ていた田村は、食事が終われば話しかけることができるだろうか等と考えていた。
けれど、そんな考えなどとうに失せ、美朱の堂々たる姿と立ち回りに、ただ感嘆することしかできなかった。



「……うにゃ」
目を擦り、起きあがる。
見慣れないテーブル、整った内装に派手なシャンデリア。
あまり賢くない美朱でも、ここが自分の家ではないということぐらいは分かる。
ようやく警戒心を抱き、あたりを見渡す彼女の鼻に、またもやいい匂いが届く。
こんがりと焼けた生地の匂い、間違いなくホットケーキのもの。
とろっ、と溶けているであろうバターの香りが、美朱の腹を鳴らしてしまう。
「おおっ、起きたかい」
すると、その香りを運んでくるように一人の男が現れた。
兄や魏に負けないほどの背丈、ビシっと決まった角刈り、そして柔和な顔。
現れた男を見て、美朱は。
「……誰?」
当然の反応を返し、男をズッコけさせた。

「ええ〜っ!? 殺し合い!?」
美朱は口いっぱいにホットケーキを頬張りながら、田村から聞いた話に驚愕の表情を浮かべる。
ようやく目覚めた、ということで自己紹介をするという念願が叶った田村は、まず予測していた事態へと対応していた。
予測していた事態、それは"美朱が何も把握していない"という事。
ものの見事にそれはドンピシャで、さっきのさっきまで寝ていて何も覚えていないというのだ。
あの食べっぷりも、寝ぼけの一環なのだろうか。
ちょっとゾッとしながらも、田村はわかりやすく美朱に現状を砕いて説明していたのだ。
「心宿……」
事情を語る田村の口から出た一つの名に、美朱は表情を強ばらせる。
かつての敵、そして討ち取ったはずの敵。
それが蘇り、このような悪趣味極まりない催しを開いている。
理解できない気持ちでいっぱいだが、今美朱が悩んでもどうとなるわけではない。
特に、唯も巻き込まれていることに関しては。
「知っているのかい?」
ようやくそれらしいリアクションを見せた美朱に、田村は静かに問いかけていく。
「まあ……」
「教えてくれるかい、心宿とかいう奴のことを」
つらつらと記憶の糸を辿り、美朱は田村に伝えていく。
その一つ一つが思い出を蘇らせ、美朱の心に光と闇を落としていく。
辛いことが沢山あった、けれども楽しい、今でも心の支えになっている旅の話を。
ゆっくりと掻い摘むように、一つずつ喋っていく。

17矛盾とパラドックス ◆F9bPzQUFL.:2013/06/21(金) 00:05:56 ID:5ansCEog0

「……するってーと、その青竜の巫女を生け贄にして青竜を呼んで、なんでも願いを叶えようって言うんだな?」
「うん、でも……」
「青竜の巫女は、死ぬ」
田村は聞いた話をしっかりと理解し、美朱に確認を取っていく。
その問いかけに答える美朱の表情は、明らかに曇っていた。
「……きっと、唯ちゃんとあたしに仕返ししようと思ってるんだよ」
唯は土壇場で心宿の事を裏切ったと言っても良く、そして心宿本人を美朱が殺した。
厳密に言えば違う、とはいえざっくりと言ってしまえばそうだ。
この殺し合いに鬼宿がいるのも、仕返しの一環に違いない。
亢宿はともかく、角宿は間違いなく心宿からの刺客だろう。
心宿は自分たちに絶望を与え、苦しめようとしているのだ。
「……でも、おかしいよな。美朱ちゃんの話の通りなら、青竜の巫女はもう決まってるじゃないか。
 なんで心宿はわざわざ"青竜の巫女を選ぶ"なんて言ったんだ?
 それに単なる仕返しなら、隣にいたアキトって子が何のためにいるのかが全くわからない」
深く落ち込みそうになっていた美朱の心を、田村の言葉が呼び止める。
そう、美朱の考え通りだったとしても、心宿の行動には不可解な点がある。
蘇ったのならば自分一人で復讐をすればいいのに、協力者を募る理由が読めない。
そもそも、無関係な人間を巻き込んでいるということも不可解だ。
青竜の巫女を新たに選出するとしても、男性をなぜ巻き込んでいるのか?
「謎だらけ、か……」
柄にもなくシリアスモードで思考を繰り広げてみたが、さっぱり分かる気配はない。
何にせよ、手がかりが少なすぎる。
「……偽物? まさか」
ふと思いついた突拍子もない考え。
それをアリにしてしまうのならば、本当に何でもアリになってしまう。
考えても考えても不可解な点ばかり浮き上がり、何も進展しない。
「……今はそれを考えるべきじゃないか」
頭を振るい、考えを落としていく。
ものを考えられる余裕には限りがあるのだから、余計なものを入れるわけには行かない。
「ところで、田村さんはどうするんですか?」
そして、美朱は田村に"これから"を問う。
眠りこけていたらしい自分のせいで足止めされていたと言っても過言ではない田村には、何か別の目的があったはずだ。
美朱は、それを正直に問いかけていく。
「俺は……探したい子がいるから、その子を探しに行くよ」
「じゃあ、あたしも連れてってくれませんか?」
偶然にも、美朱と同じ事を考えていた。
会いたい人がいる、探すべき人がいる。
だから、その人に会いに行く。単純かつシンプルな理由だ。
「……大丈夫かい?」
「こう見えても現役朱雀の巫女! そんじょそこらの修羅場には負けませんよ!」
パッと見は普通の女子高生、特に運動などをやっていたわけでもない。
けれど、美朱は普通の女子高生とは違う。
どれだけ辛いことも、どれだけ痛いことも、自分で乗り越えてきた。
時には死の淵に立たされても、めげることなく前を向いてきた。
だから、今回だって大丈夫。
そんな自信が、彼女にはある。
「じゃ、行きましょ!」
万が一のためのトンカチを片手に握り、美朱は前を向く。

18矛盾とパラドックス ◆F9bPzQUFL.:2013/06/21(金) 00:06:07 ID:5ansCEog0



――――名簿に載っていた名前は「宿南 魏」ではなく「鬼宿」だった。    それは、つまりどう言うことか。
      考えれば分かる、けれど考えたくはない。

      夕城美朱の愛する魏は、ここにはいない。
      そんな真実を、名簿はただ一方的に告げている。
      巻き込まれなくて良かったと考えるべきなのだろう。

      けれど、美朱はそう考えることができなかった。

      人が人を殺すかもしれない、殺し合いという場所。

      悪夢のような場所で、一番頼りたい人が、一番大好きな人がいないなんて。

      ……耐えられるかどうか、分からないから。



だから今のうちに明るく振る舞っておこう。
どうしようもなく寂しくなる前に。
どうしようもなく泣きたくなる前に。

ああ、隠そうとしているのかもしれない。
分かっている、そんなことぐらい。
けれど――――

寂しいという気持ちは、ごまかせない。

【G-8/ホテル、食堂/昼】
【夕城美朱@ふしぎ遊戯】
[状態]:健康
[装備]:トンカチ
[道具]:基本支給品(食料なし)、不明支給品(0〜2)
[思考]
基本:打倒心宿
1:唯と合流
2:鬼宿に会う……?
[備考]
※参戦時期は二部以降です

【田村一登@ぼくの地球を守って】
[状態]:健康
[装備]:出刃包丁(現地調達品)
[道具]:基本支給品、不明支給品(1〜3)
[思考]
基本:一刻も早く笠間春彦と合流、護衛
[備考]
※参戦時期は蓮妙寺爆発後、輪の見舞いに行く前です。

19 ◆F9bPzQUFL.:2013/06/21(金) 00:06:20 ID:5ansCEog0
投下終了です

20名無しさん:2013/06/21(金) 20:19:34 ID:MK7Z/cec0
投下乙です!
美朱があいかわらずすぎるwww
喰って寝てまた喰ってとか、もう少し緊張感を持ってくれwww
名簿の名前が転生後でなく鬼宿なのに反応したのは、なるほど!と思いました。
深く考えてなかったけど、確かに美朱からしたらあくまでも別人なんだよなぁ。目から鱗。
でもあいつ、鬼宿どころか洗脳時期での参戦という…。
春ちゃんも既に死んでるし、今は良コンビになりそうな感じだけど、前途多難だ…。

21口ずさむのは白の呪文 ◆F9bPzQUFL.:2013/07/02(火) 21:33:23 ID:Qtfoc0EA0
ごうごうとおとをたてて、もりがもえる。
けれど、おんなのこはうみをみていました。
うみはあおくて、きれいで、すんでいました。

「いつかみんなでうみにいこうね」

それをいったのはだれだったでしょうか。
けっきょく、みんなでうみをみることはかなわなくなりました。
それぞれが、それぞれのみちを、あゆんだから。

そして、これからも。
それはかなうことはないでしょう。
だって、おんなのこは。

いまからひとを、ともだちを「  」のだから。



どれだけ泣いていただろうか、気がつけばこの砂浜で横になってしまうくらいには、疲れていたのか。
いや、疲れていたのではない。
あくまで疲れていたのは心で、体力的に疲れていたのではない。
分かってはいるが、体はどっしりと重い。
服に付いた砂を払い、すっと立ち上がる。
後ろを向けば、森が燃えている。

「……そっか」

あゆみは、その火事から感じ取る。
空は火事が起きるほどの晴天ではないし、空気もそこまで乾燥しているわけではない。
つまり、自然発生した火災ではなく、人間の手で火がつけられた火事なのだと分かる。
なぜ、わざわざ火をつけるのか。
それは簡単な話で、人を「  」ためだ。
人を殺そうとしている、誰かがいる。
誰かが、人を殺そうとしている。
ここは人を殺さないといけない、殺さないと生き残れない場所。
悪いことでも何でもなく、生きるためにはそれしかないというだけ。
誰もがやっている、当たり前のこと。

怖くはない、だって私もこれから人を「  」んだから。

決意と共に、振り向く。
手に握りしめた鉄の塊が、少しだけ重みを増したような気がするのを、必死にごまかしていく。
これから、これを使って人を「  」。
もう戻れない、戻らない。

決めたことだから、もう決めたことだから。

そのためには、"みんな"だって――――

22口ずさむのは白の呪文 ◆F9bPzQUFL.:2013/07/02(火) 21:34:02 ID:Qtfoc0EA0
 
「よっ」

そのとき、誰かに声をかけられる。
びくり、と体を振るわせながら声のした方を向く。
その瞬間、声が出なくなる。
全身が震え、嫌な汗が滲み出し、熱という熱が逃げていく。
頭が真っ白になる、なにも考えたくない、なにも考えたくない。

目の前に、真山巧が居るなんて。

ふと気づけば、"いつものように"蹴りを繰り出していた。

真山は、それを避けることはしない。
肩に振り下ろされるギロチンのような踵を、まっすぐと受け止める。

「落ち着け、あゆみ」

真山の声があゆみの頭の中に響く。
なぜだろう、今決めたのに、どんな姿になっても「  」って決めたのに。
揺れる、揺れる、柱がぐらぐらと揺れて、折れてしまいそうになる。
やっぱり、こんな姿は見られたくない。
真山の中の私は、人殺しというヴィジョンであってほしくないから。

もう一度、逃げよう。

そう決めて、脱兎の如く駆け出そうとしたあゆみの足を、真山の言葉が縫い止める。

「俺もだ、あゆみ」

ぴたり、足に五寸釘が刺さったかのように、ぴくりとも動かなくなる。
見られたくない、逃げ出したい、消え去りたい。
けれど、その言葉の続きが気になってしまう。

真山が自分に告げようとしていることを、聞きたい。

「俺も、人殺しだ」
「え――――」

再び、言葉を失う。
言われてから、気づく。
先ほど隣にいたはずの、心優しそうな少年の姿が、無い。
お世辞にも頭が良い方とは言いにくいあゆみでも、それがどういうこと課ぐらいは分かる。
ぐっと涙をこらえ、真山の方に向き直る。
彼がこれから、何を言おうとしているのか。
わかっているけれど、それに正面から向き合いたいから。

「俺、決めたんだ」

真山の口が動く。
分かり切っている言葉を、放つために。

「……俺が戻らないと、ダメなんだ」

予想通りの言葉が真山の口から零れる。
知っている、もうずっとずっと知っている。
彼が見ているのは"わたし"じゃなくて、"あの人"だと言うことを。
そんなことぐらい、分かっていた。
けれど、やっぱり改めて口に出して突きつけられると。
弱い自分には、何も出来ない。

「……そっか」

黙って、受け入れる。
分かっていた事実(まやまのきもち)と、知らなかった事実(まやまのこと)を。
同時に心の整理がついた気がして、あゆみは吹っ切れた表情を浮かべる。

「そ、だよね」

そして、涙を拭って笑う。
悩まなくて良い、今まで通りでいいんだから。
こんな簡単なことに、どうしてもっと早く気づけなかったのか。
気づいてしまえば、何もかもが簡単なことに変わる。
だから、真山に言おう。

私の真実(きもち)を。

「ねえ真山、聞いて。私はね」

23口ずさむのは白の呪文 ◆F9bPzQUFL.:2013/07/02(火) 21:34:28 ID:Qtfoc0EA0



ばんっ。



どんっ、と何かに突き飛ばされた。
誰に? と問うまでもない。
それが出来るのはたった一人しかいないのだから。
そして、それが出来るたった一人の人間は。
自分の目の前で、豊満な胸のあたりから綺麗な赤い花を咲かせて。
自分が地面に倒れ込むのとほぼ同時に、後ろに倒れた。

「あゆみ!!」

急いで駆け寄る。
助からないということは分かっているのに。
いや、助ける気など無いというのに。
大きなあゆみの体を、真山はゆっくりと持ち上げる。

「あ……」

目が、合う。
今にも何処かへ行ってしまいそうな弱々しい声を出しながら、あゆみは真山を見つめる。
その表情はぼんやりとしていて、よく分からない。

「まや、ま」

名前を、呼ぶ。

「よかっ……た」

それから、にっこりと笑う。
なぜかなんて、考えなくても痛いほどに分かる。
彼女が考えることは、いつも透けて見えて。
それ故に、真山は突き放すことしか出来なかったのだから。

「あた、し。ま、やま、に」

知っている、続く言葉が何なのか。
けれど、止める声も、手も、何もない。
止めたところで、どうしようもない。

何も、変わらない。

「いき、てて、ほしい、んだ」

言わなくても分かる、と怒鳴ってやりたかった。
でなければ、あの時"撃つ"なんて選択肢を取らなかったはずだ。
知っているからこそ、ここに来たというのに。

「まや、ま、は、りかさ、んのところ、いくから」

彼女自身が一番よく知っていて、それでも受け止めたくはないとずっと拒んでいた現実。
それが、彼女の口からゆっくりと語られていく。
真山巧は、山田あゆみのことを見てくれない。
だから――――

「いきてて、くれるよ、ね?」

だからこそ、真山巧は生きてくれるのだろう。
どうやっても、どんな手段に躍り出ても、生き残ろうとするのだろう。
だから、伝えたいことがある。

「だか、ら……やまだ、あゆみは。
 まやま、たく、みのなか、の、あゆみは。
 きれいな、まま、で、いたい、な」

真山巧に生きていてほしいと願った。
だからこそ、山田あゆみは道を踏み外した。
真山巧に生きていてほしいから、人を殺そうと思った。

けれど、現実は少し違って。
真山巧にとって一番大切な人のために、真山巧も道を踏み外していた。
その思いは、どんな何よりも強い。
それは、山田あゆみという一人の人間が一番よく知っている。
真山巧は、どんな手を使っても生き残るだろう。
山田あゆみが、手を汚そうが汚すまいが、関係なく。

それに気づいてから、わき上がったのは。
真山巧の中の山田あゆみという人物像だった。
自分が死ぬとしても、彼の思いでの中で"人殺し"として生き続けるのは耐えられないから。

わがままかもしれない、けれど一生で最後のわがままだから聞いてほしい。
山田あゆみは、一人の平凡な女学生であったと、思っていてほしい。

「あーっ……」

そして、最後にきもちをぶつける。

「うれしか、った。まやま、きてく、れて。
 はじめて、だった、から、とって、も、うれし、か」

今まで理香に向き続けていた気持ちが、初めてあゆみに向けられたのだから。
中身や、真山の考えなんてものは、別にどうでもよくて。
真山が自分を見てくれた、ということが何よりもうれしかった。

「まやま?」

だから、彼女は告げる。

「好きだよ」

まっすぐと真山巧の目を見て、ふふっと笑って。

そのまま、眠りについた。

24口ずさむのは白の呪文 ◆F9bPzQUFL.:2013/07/02(火) 21:37:11 ID:Qtfoc0EA0



「勝者の余裕……ですか?」
あゆみが息を引き取ったとほぼ同時に、真山は静かに告げる。
言葉の向く先は、真山の後頭部に銃を突きつけている男。
あゆみが撃たれた時点で遠距離に強い武器を持っていなかった真山は、おとなしくする事を決めた。
下手に刃向かって命を落としてはいけないからだ。
「……若者には、青春くらい満喫させたいからね」
「随分と言ってくれるじゃないですか」
銃を突きつける男が、真山に淡々と告げる。
けれど、当の真山は違うことを考えている。
読みが当たっているなら、この状況は"生き延びたも同然"なのだから。
「誰か、守りたい人でもいるんですか?」
「――――ッ」
突きつけられていた銃口が、真山の髪を少しだけ撫でる。
その反応に当たりを確信した真山は、自分の話に男を持ち込んでいく。
「人殺しを満喫する狂人なら、とっくのとうに死んでいるはずの人間が生きている。
 つまり、殺人に躊躇いがあって、でも殺人をしなきゃいけない、そんなところでしょ?」
「……君には関係ないだろう」
「ええ、関係ないです。けれどそれによる貴方の行動が、俺に関係してくる」
ここまで来れば、勝ったも同然だ。
なぜなら、真山巧が今からするのは命乞いではなく――――

「……俺と組みませんか」

同行の提案だから。

疑問を示すかのように、もう一度銃口が揺れたのと同時に、真山は立て続けに喋り続ける。

「超能力とか平気で使ってくる連中がいるこの中で、一人で全員殺すのは骨が折れると思うんです。
 だから、二人で組んで、それで人間を減らしましょうよ」

仲間、といえば聞こえは良い。
要するに徒党を組んで人を減らす、そういった提案を持ちかける。

「……最後は?」
「男らしく決闘でもしましょう」

人が減りきったら、最後は二人で戦う。
思いの強い方が勝ち、単純な話だ。

「……なるほど、よし、その話乗ったよ。
 僕もどうしても守りたいものがある」
「話が分かる人で助かりました」

頭に当てられていた銃口が引いたのを確認し、真山はハハッとわらう。
自分とほぼ同じ考え、誰かを守りたい、誰かのところに行きたい。
けれど、自分一人に超常的な力があるわけでもない。
そんな人間がほしいのは、何であれ力だ。
それを蹴るわけがない、といった真山の予想は見事に的中した。

こうして、真山巧は"生き残るための手札"を切った。
人殺しとして振る舞うことになろうと、別にかまわない。
それはそれで、最後の一人になればいいのだから。

「俺、真山巧って言います」
「相模玲、だよ」

差し出された真山の手に反応して、玲も手を差し出す。
そして、互いに放つ一言。

「よろしく」

その手は、偽りの誓い。
その顔は、偽りの仮面。
その心は――――

互いに、ただ一人を想う。

【山田あゆみ@ハチミツとクローバー 死亡】
【残り33人】

【E-8/砂浜/昼】
【真山巧@ハチミツとクローバー】
[状態]:健康
[装備]:グロック26@現実、予備弾薬(9mmパラベラム弾)
[道具]:基本支給品一式、毒薬、ランダムアイテム1〜5個
[基本行動方針]:どんな手を使ってでも生き残る方法を探す
[思考]原田理花の所に戻る、なんとしてでも。
1:相模玲と協力、人を減らす。
2:自身の命が危なくない範囲で脱出が可能ならば、それに乗る。

【相模玲@こどものおもちゃ】
[状態]:健康
[装備]:ワルサーPP@現実
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜2)
[思考]
基本:倉田紗南の護衛、最終的には優勝させる。
1:真山と協力し、人を減らす。
2:できれば積極的に殺していく。が、深追いはしない。
3:紗南の友達は一先ず保留。

----
以上で投下終了です。
ここ、けっこう行数書けるンですね……

25名無しさん:2013/07/02(火) 21:56:19 ID:SQwxZ3z20
投下乙です!
ああああ山田が、山田が真山を庇って……orz
死ぬ瞬間まで好きな人の無事を願う山田が、健気天使過ぎて胸が痛い;;
でも、最後に自分の気持ちを伝えられて、好きな人に看取られて逝けただけ幸せなのかもしれません
そして、そんな山田の想いを背負って最後の一人を目指す真山と、
同じく大切な人のために殺し合いに乗る玲君のコンビも今後が気になる…。
真っ直ぐな中高生の若造たちとは違う、酸いも甘いも知った社会人だからこそ非道になれる二人という感じ。

あああしかしとにもかくにも山田……orz

26名無しさん:2013/07/02(火) 22:14:45 ID:JtFjvRb.0
乙ですー

あゆぅぅぅ!!!
真山の本当の想い人は理香さんで自分じゃない、
でも最期に少しでも自分を見てもらえた、というあゆのまっすぐな片思いが悲しい
真山は自分の力で生きてくれると吹っ切れてからのあゆの心理変化が丁寧だった
そして真山&玲、と似た所のある同士でコンビ結成…!
真山の言う通り能力者が多い中では不利だけどこの組み合わせは手強そう

27 ◆F9bPzQUFL.:2013/07/05(金) 00:18:39 ID:BduNxm8I0
すいません、>>22のあゆみ呼びは改めて読み返すとしっくりこないので、「山田」に変更させていただきます。
>>23はそのままで。

では投下します。

28正面衝突 ◆F9bPzQUFL.:2013/07/05(金) 00:19:34 ID:BduNxm8I0
「……まあ、今までの話はあくまで仮説。深く考えないでくれ」
話を一通り終えた後、綾女は少し疲れた表情で一息つく。
男が巫女である、なんてぶっ飛ぶにもぶっ飛びすぎた仮説。
耳を貸す価値すらない、そう思っていたのに。
そこから続いた"草摩"の話は、更紗の心を捕まえて離さなかった。
血の呪い、宿命、それを統べるもの。
宿命、モノはちがえど更紗を狂わせ、導いたもの。
宿命で出会った人もいるし、宿命のせいで心をボロボロにしてしまったこともある。
綾女たちも、そんな宿命と戦っていたんだろうか。
「慊人は……」
ひとつ、綾女の話を聞いて引っかかるところを、問う。
「慊人は、由希くんを恨んでいるんですか?」
「……それは違う、と断言したいけれどね。
 タイム・パラドクスとアナザーワールドクロスなんて夢物語が現実に起こっている以上、
 あの慊人が大変な時期から連れて来られている可能性がある」
過去を語る綾女の表情に、先ほどと同じような"影"が出来る。
由希、弟、一人の肉親。
それを無視し続けてきたと微かに語った彼は、今となってもそれを後悔している。
今、取り繕って弟と関わりを持っても、過去の断絶、知っていての無視を忘れることは出来ない。
弟(ほんにん)が気にしていないと幾ら言っても、兄(じぶん)には深く深く傷跡が残っているのだ。
そんな"影"を顔に写しながら、綾女は当主のことを語る。
「慊人は由希を独り占めにしていた、由希の自由も、選択も、すべて慊人が握っていたんだ。
 由希が黙って従っている内は、慊人も上機嫌だった。
 けれど……あれは、由希が手から離れ始めた頃の慊人にそっくりだ」
宿命による自由の喪失。
それを一番に受けていたのが、綾女の弟である由希だという。
……束縛する者は、それが手に入らないと分かると途端に弱くなる。
傷つけて、傷つけて、自分のモノにしようとする。
既に自分の手からは離れていて、もう手に入らないと分かっているのに。
束縛する者は、それに気づかない。
だから、無理にでも手に入れようとした……?
「……あれはボクが知っている"彼"だけど、ボクが知っている"彼女"ではない」
綾女は遠くを見つめ、静かに呟く。
草摩慊人という一人の人間は、劇的に変わったのだという。
宿命の終結、それによる解放と喪失、その先の未来と人生。
それに向き合うことで、"彼"から"彼女"へと変わった。
けれど、この場所にいるのは、"彼"だと綾女は言う。
わからない、わからない、思考が闇の迷宮へと入り込んでいく……。

29正面衝突 ◆F9bPzQUFL.:2013/07/05(金) 00:20:10 ID:BduNxm8I0
 


「っと、それより更紗君」
「はい」
更紗が思考に耽りかけたとき、綾女の言葉が現実に引き戻してくる。
考えても仕方がないということを、暗に示してくれているのか。
更紗は軽い返事とともに、綾女の方を向き直る。
「ボクは君にお願いがある……それは」
返事を待たず、鞄から飛び出す"何か"。



「この虎娘(こむすめ)スーツを着てくれないか!!」



それは、綾女が来ている服に勝らずとも劣らないほどの強烈なインパクトを持った、全身を覆う白の虎をあしらった着ぐるみだった。
ぽかん、と再び口を開いている更紗を横に綾女は一人の世界を進める。
「言っただろう? ボクは仕事中に眠りこけてしまった、とね。
 そう、ボクは時代の最先端を行くこのスーツの制作にも携わっていたのだよ。
 偶然にも手に握りしめていたこの商品を持ったまま、この場所に呼ばれたらしくてね。
 初めの時から、実はずっと握っていたんだ。
 大事な商品を傷つけるわけにも行かないから、更紗君に会う前に用心深くしまっていたわけだけれども。
 でも、こうして目の前には偶然にも注文を受けた服のサイズとぴったりの女の子が現れた!
 これを運命と言わずして、なんと言うべきか!!
 ボクの目測に誤りはない、なぜならこの綾女の両目こそが世界の物差しであり、判断基準であるから!
 さあ更紗君! おびえることはない! 向こうの部屋で着替えて来給え!!」
顎がはずれそうなくらい口を開けたまま、綾女のマシンガントークを右から左へ受け流していく。
いや、なんだろう、このオンとオフというか、ねえ、だって、ほら、ねえ?
「……沈黙は肯定と受け取ってもよいのかな?」
「大・否・定・ですっ!!」
顔を真っ赤にしながら地面を踏む更紗に、綾女はふわりとしたステップを踏んでから更紗の顎に手を添えて囁く。
「大丈夫だ更紗君、人間は何事も気合いと気合いと気合いの三つのKで乗り越えられる。
 それに、こんなにかわいいキミをそのままにしておくのはボクの美的センスに反するからね。
 さぁ、怯えることはない、踏み越えてしまえば一瞬さ! ボクと一緒にこの美装坂を登ろう!」
「だ・か・ら!!」
照れ隠しの叫びと共に、居ても立ってもいられなくなった更紗は駆け出して行った。
特に行き先も決めず、まるで弾丸のように飛び出していく。
「まーってくれー、さぁ〜らぁ〜さぁ〜くぅ〜ん」
そんな彼女を、綾女はメイド服を着込んだまま、虎の着ぐるみを片手に追いかけていく。
傍から見れば「こんな所でバカップルが追いかけっこに勤しんでいる」とも写りがちな光景だ。
しかし、みなさんには是非覚えておいていただきたい。

得体の知れない存在から全力で走って逃げる更紗の顔が、人生で一番真剣な表情だったことを。

30正面衝突 ◆F9bPzQUFL.:2013/07/05(金) 00:20:37 ID:BduNxm8I0
 


「ヒューッ、やるねぇ」
金属バットを担ぐように持ち、鬼宿は口笛を鳴らす。
反対に、揚羽の顔には数多の汗が浮かんでいる。
十手という道具の利点は、金属バット相手では生かすことができない。
ただでさえリーチ差で相当な苦戦を強いられているというのに、旨味まで封じられているのだ。
出来ることと言えば、金属バットの力の先をずらすことぐらい。
それも一点を正確に突いてようやく出来る芸当。
間合いの外から一方的に攻めれる鬼宿に対し、揚羽はその一撃一撃に神経を尖らせなくてはいけない。
バットが切る風の音から分かるが、失敗すれば致命傷は免れないからだ。
こうしている内にも、鬼宿は一方的にバットを振るってくる。
踏み込みすぎず、かつ離れすぎず、絶妙な間合いを保ったまま。
戦い慣れしている、というのは今更言うまでもない。
いつまでもこうしている訳にもいかないが、先ほどのように道具で撒くことも出来ない。
決定的な何かから、脱出の糸口を見つけるしかなさそうだ。
「テメぇになら、試しても良さそうだな」
揚羽が動きを変えようと思ったとき、鬼宿が意味深な一言を呟き、金属バットを投げ捨てる。
それとほぼ同時、鬼宿が"二人"になった。
さすがの揚羽も、狐に抓まれたような表情を浮かべてしまう。
「ほぉ、"ありすすとおん"ってのは便利だな。ちょいと念じるだけで力を発揮しやがる」
その一言ともに、鬼宿が"三人"になる。
どの鬼宿も外見は一緒だし、それぞれがそれぞれの動きをしている。
妖術の類は眉唾だと思っている揚羽でも、さすがに信じざるを得ない。
こんな殺し合いを開ける力を持っているのだから、人に力を与える道具も作れるのだろうか。
「一対三……」
部は悪いが、勝てない戦ではないと笑う。
「四だぜ」
それに応じるように、四人に増えたの鬼宿全員が笑い、揚羽へとそれぞれの道で向かっていく。
前方三方向から飛来する三つの拳に対し、しっかりと低姿勢を作る。
だが、その低姿勢を読んで背後に回っていた鬼宿が、揚羽の守りの姿勢を崩す。
足下を払われ、ふわりと体が宙に浮く。
腹部に深く突き刺さる拳に、揚羽は空気を吐き出してしまう。
だが、転んでもタダでは起きない。
姿勢を崩されたときの勢いを生かし、右から来ていた鬼宿の首を蹴る。
それを利用して巻き込むように後二人を吹き飛ばし、体勢を整える。
「ちっ……」
突き刺さった拳から受けたダメージを噛みしめ、揚羽は悪態をつく。
向こうは崩しを持っている上、自分は四方からくる攻撃を防ぐ手段を持っているわけでもない。
守りに回ればたちまち状況は悪化すると言える。
瞬間的に頭の中で戦術を組み立てていく。
優勢に立つ人間というのは、油断が生まれるもの。
今、相手は分身の術のおかげで優位に立っている。
どこかに、付け入る隙がある筈。
揚羽は、"視"る。
片目が見えないからこそ見える、と言っても良い"気配"を。
再び、男が飛びかかってくる。
今度は揚羽の前後左右を覆うように飛び込んでくる。
十手を振るうも、そのどれにも当たらず、四発の拳を食らってしまう。
やわらかい砂の上を転がり、頬に貯まった血を吐いて体勢を立て直す。
今度は四人が縦に並び、揚羽に立て続けに連撃を加えようとする。
一発一発の重い拳をうまく捌いていくが、その一発一発を捌くのにもまた神経を尖らせている。
しかも今度は、先ほどとは違って間が無い。
立て続けに飛んでくる拳を、瞬間的に判断して捌かなくてはいけない。
一、二、三、四、五、六、七、休むことなく拳は飛んでくる。
「がっ……!!」
八発目、ついに捌く場所を間違え、揚羽は拳を食らってしまう。
腹から浮かび上がらされるような、痛い一撃。
ふわりと浮遊間を覚えた後、もう一度突き刺さるような蹴りが揚羽を吹き飛ばす。
二転、三転、柔らかい砂の上を再び転がり、口に貯まった砂を血で固めて吐き出していく。
即座に立ち上がろうとするが、体に力がうまく入らない。
体力の限界、それによる姿勢の崩れ。
「貰ったッ!!」
鬼宿は、もちろんそれを見逃さない。
四人分の鬼宿の跳び蹴りが、一直線に揚羽へと向かう。
捌くことも、受け止めることも、立ち向かうことも出来ない。
この一撃からは逃げられない。

31正面衝突 ◆F9bPzQUFL.:2013/07/05(金) 00:20:47 ID:BduNxm8I0

「……バーカ」

だというのに、揚羽はニヤリと笑い。
飛んでくる四人分の蹴りへと、十手を弾丸のように"投げつけた"。
「何っ!!」
そう、揚羽は鬼宿が"四人同時に宙を舞う攻撃"を仕掛けてくるのをずっと待っていた。
宙を舞う攻撃、確かにそれは強力だ。
だが、同時に攻めてから"逃げ場"も失わせることが出来る。
今、鬼宿は四人とも宙にいる。
最初に金属バットを投げ捨てた鬼宿を、揚羽はずっと目で追っていた。
故に、どれが本物なのかは分かる。
故に、どこを狙えばいいのかは、分かる!!
「うおおおっ!!」
自分の胸をめがけて飛んでくる十手を防ごうと、何とか身を捩らせていく。
分身が幾らあろうと、本体がやられてしまえば元も子もない。
自身はもちろん、分身をも使ってその十手を防ごうとする。
けれど、超速で飛び来るそれには間に合わない。
自分の体の勢いを出来るだけ殺し、体を捩り、十手を防ごうとする。
けれども間に合わなくて、十手は鬼宿の胸部に正面からぶつかっていった。
どさり、と鬼宿の体が落ち、ふっと分身が消える。
片方の肺を突かれ、苦しそうにもだえる鬼宿。
そんな鬼宿には目もくれず、揚羽は立ち上がる。
傷だらけの体は、これ以上うまく動いてくれそうにもない。
逃げ出すか、それともあの男に完全にトドメを刺すか。
揚羽が選んだのは、後者。
そしてそれが出来る道具、鬼宿が初めに持っていた金属バットを探す。
だが、一面に広がる砂漠のどこを見渡してもない。
初めに投げ捨てた場所、交戦で足を踏み交わした場所、そのどこにもバットの姿は無いのだ。
「ッ!」
「おおう、よく避けたな」
背後の気配を感じ、即座に飛び退く。
バットが風を切る音、そこに立っている一人の男。
それは、うずくまって居たはずの鬼宿の姿だった。
「俺が動けねーなら、俺の分身に力を注げばいい。
 アレが無い今、あんたに俺の攻撃を防ぐ手段は存在しない」
そう、鬼宿が動けないのならば。
新たに分身を作り、その動きに集中すればいいのだ。
着地と同時に分身を生み出し、即座にバットを回収し、揚羽に殴りかかる。
初撃は避けられても、十手がない以上傷ついた揚羽にバットを防ぐ手段はない。
揚羽が追いつめたはずが、揚羽が追いつめられていたのだ。
走って十手を回収しようにも、体はうまく動かない。
傷だらけの体では、バットを避け続けることも捌くことも出来ない。
「チッ……」
手詰まりを自覚せざるを得ず、揚羽は憎らしげに舌を打つ。
「じゃあ、死ね」
無慈悲にも振り下ろされるバットが、揚羽の頭をかち割る。
一つの命が失われて、この戦いは幕を閉じる。

32正面衝突 ◆F9bPzQUFL.:2013/07/05(金) 00:21:05 ID:BduNxm8I0
 


「揚羽!!」



幕が閉じるなら、燃やせばいい。
そう言わんばかりに、突然二人の間に"雷"が走った。
現れた一人の少女は、鬼宿に武器のような何かを突きつけながら、揚羽を抱きかかえて鬼宿を睨む。
「けっ、どこの誰だか知らねーけど、わざわざ殺されにきたのか?」
更紗の威圧感をモノともせず、鬼宿は再びバットを担ぐ。
相手はただの少女、しかも怪我人を庇いながら戦うのだという。
負ける要素は、無い。
鬼宿は一気に距離を詰め、更紗の頭を真っ直ぐに殴り抜こうとする。
「おおっと! 待ちたまえ!」
その足を止める、第三者の声。
ふわりとなびく白銀の髪と、フリルのついたかわいらしいメイド服。
その奇抜な格好に、さすがに驚かずいられる人間は少数だろう。
すっかり立ち止まってしまった鬼宿に、第二の乱入者である綾女は口を開く。
「まあまあ落ち着くといい、この寛大なるジャッジ・オブ・リベリオン様が見逃してやろうと言っているのだぞ?」
見逃す、という単語に鬼宿は眉を顰める。
だが、先ほどの雷のこともある。
慎重になりつつも、男の話に耳を傾ける。
「さっき、ボクの従者であるサーラ・W・ティガが雷を放ったのは見ただろう?
 我らセブンシーズと呼ばれる種族の末裔は、今みたいに自然と会話することが出来、彼らの力を借りて戦うことが出来る。
 そして、ボクの力は――――」
すうっと息を吸い、両手を横に広げ、上を向く。
「大地の力を借りることが出来るッ!! つまりその気になればこの砂漠の砂全てがボクの武器になるのさ!!」
空に響きわたるほどの大声で、この上なく誇らしげに綾女は語る。
その姿はまるで、魔王のようだ。
こんな魔王が居たら、人類は破滅するしかないだろう、いろんな意味で。
半信半疑の表情を浮かべる鬼宿に、口元に艶っぽく指を当てながら綾女は警告を重ねる。
「それでも戦うというのなら、ボクは止めないけどね」
その警告を受け、あたりをクル、クルと見渡す。
雷を放つ女、傷だらけの男、得体の知れない生き物。
少なくとも彼らは全員、自分の敵だ。
得体の知れない生き物が本当に砂を操れるのならば、この上なく不利な状況である。
「……"ありすすとおん"の力を使い切っちまう訳にはいかねえからな、ご忠告通りここは退かせて貰うぜ」
鬼宿が取ったのは戦力の温存だった。
ここで全力を出してしまっては、これからの戦いに備えられない。
性能と使い方を理解した以上、無用な戦いは避けるに限る。
そしてくるりと背を向けて、鬼宿は砂漠を駆け出していった。

33正面衝突 ◆F9bPzQUFL.:2013/07/05(金) 00:21:20 ID:BduNxm8I0
 


「揚羽!!」
鬼宿が遠くに行ってから、人目もはばからずに更紗は揚羽に抱きついていく。
京都、あの日、自分を導いていくれた筈の揚羽。
けれど、外に出たのは自分だけで。
その日以来、誰も揚羽の姿を見ていなかった。
けれど、更紗は信じていたのだ。
きっと何処かで、揚羽はひょうひょうと生きているのだろうと。
そして今、それは不思議な形で叶ったと言える。
「おいおい更紗、痛ェっつの」
痛みに少し顔をゆがめながらも、予想外に早く再会できた喜びを分かち合う。
だが、いつまでもこうしているわけにもいかない。
揚羽には、更紗に伝えねばならぬことがあるのだ。
「それより、お前に京都の石榴計画について喋らなくちゃいけねえ」
口を開いた瞬間、更紗の表情が変わる。
驚いているような、落ち込んでいるような、微妙な表情。
揚羽はその真意をくみ取れないまま、更紗の口から衝撃の一言を受ける。
「……揚羽、石榴計画はもう壊滅したんだよ」
「何だと!?」
「……どうやら、ボクの出番のようだね」
動揺する揚羽に、颯爽と現れた綾女が話の舵を握っていく。
「タイム・パラドクスの説明、そして更紗君がタダの石だと思っていた石の力。話すことは山ほどあるようだ。
 キミの怪我の治療もある、まずは南の村を目指さないかい?」
傷ついた身体を抱えた揚羽、更紗がただの石だと思っていたものが輝き、雷を放ったこと。
そして、タイム・パラドクス。山ほどしゃべる事はあるものの、こんな砂漠のど真ん中で喋ることではない。
どこかで腰を落ち着かせ、ゆっくりと喋ることを綾女は提案する。
「南は……まあ、いいか」
南、初めに揚羽が少年と交戦した場所でもある。
此方に向かっていない、となると少年は町に留まっている可能性が高い。
だが、揚羽は彼が居ようがいまいが別に構わなかった。
自分が持っている情報を更紗に流せば、遅れを取る事はまず無いだろうと確信していたからだ。
「更紗、使え」
同時に、こっそり拾っていた十手を更紗に渡す。
「いいの?」
「どうせ今のオレじゃあ使えねえよ」
この中では今、唯一まともに動ける少女に、唯一の武器を渡していく。
悔しいが、現状で襲撃者に対抗できるのは彼女しか居ないのだ。
「では行くとしようかラブロマンサーズ達よ!」
そう、この良くわからない生命体は、戦力にはならない。
初対面の揚羽が数秒で見抜くほど、非力さに溢れていた。
「おい」
「何かね?」
そんな綾女に、揚羽は一つの事を問いかける。
「怪我人を担ぐとか、そういうのはねえのか」
「生憎、ボクは縫い針より重いモノは持てなくてね」
分かりきっていた答えと同時に、綾女は意気揚々と南に歩き出す。
その後姿を見つめ、溜息を一つ零してから今度は更紗に問いかける。
「更紗」
「何?」
「あいつ、何だ?」
長い、沈黙。
「……私に聞かないでよ」

"草摩綾女"という存在が理解できる人間は、そう多くない。

34正面衝突 ◆F9bPzQUFL.:2013/07/05(金) 00:21:37 ID:BduNxm8I0

【F-4/砂漠南西部/昼】
【鬼宿@ふしぎ遊戯】
[状態]:ダメージ(中)
[装備]:金属バット、ドッペルゲンガーのアリスストーン@学園アリス
[道具]:基本支給品(ランダムアイテム0〜1)
[思考]
基本:全員殺す

【F-4/砂漠南部/午前】
【揚羽@BASARA】
[状態]:全身にダメージ(大)
[装備]:耳栓
[道具]:基本支給品
[思考]
基本:まずは状況を見極める。
1:南の村へ
2:朱理、浅葱は保留
3:なぜ四道が……?
[備考]
※参戦時期は受け取った太郎の遺書を読んだ以降です。

【更紗@BASARA】
[状態]:健康
[装備]:バールのようなもの、十手、雷のアリスストーン@学園アリス
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜1、更紗が扱うことの出来る武器ではない(?))
[思考]
基本:慊人、心宿には絶対に屈さず、「痛み」を伝える
1:南の村へ
2:朱理、浅葱との合流。
3:揚羽……
[備考]
※参戦時期は本編終了後

【草摩綾女@フルーツバスケット】
[状態]:いつものアレ…の筈だけど、ちょっぴりおセンチにもなるよっ! けどやっぱりいつものがいいねっ!
[装備]:メイド服(私物)
[道具]:基本支給品、詳細名簿No.5、虎娘スーツ(私物)
[思考]
基本:慊人の考えを読むため、まずは生き残る。
1:南の村へ
2:透、由希、夾との合流も視野に入れておく。
[備考]
※参戦時期は本編終了後

[備考]
  ※詳細名簿について
詳細名簿は、名前・顔写真・簡単なプロフィールが記載されています。
学園アリス勢のアリス能力や、ぼく球勢の前世などについてまで載っているかは今のところ不明。
名簿はあいうえお順で五冊に分かれている可能性が高く、それぞれにナンバーが振ってあります。
ちなみに今作で綾女に支給された名簿に記載されているのは、
ペルソナ/本郷唯/本田透/松井風花/真山巧/森田忍/山田あゆみ/夕城美朱 の八名です。

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以上で投下終了です。

35名無しさん:2013/07/11(木) 01:26:43 ID:PzN6OBqE0
投下乙ですー
更紗&綾女ナイスタイミング!
そして更紗と揚羽が合流したー!
隻眼だからこその洞察力で本体を見抜いた揚羽だったけどやっぱり分身を使う相手じゃ分が悪かったか
宿命からの解放という言葉を使ったのも他の参加者に通じる所がありそうだなと思ったり
あと、虎娘スーツを着た更紗もカワイイんじゃないかと思います(真顔)

36名無しさん:2013/07/15(月) 00:08:26 ID:wG8MhUQU0
月報集計お疲れ様です。
少女漫画. 35話(+ 7) 33/40(- 1) 82.5(- 2.5)

37"守"の"理"とは ◆F9bPzQUFL.:2013/07/21(日) 23:21:59 ID:rNes25qE0
まあ、それは突然のことで。
飛ばしすぎたせいか少し疲れたので、マウンテンバイクから降りてゆっくりと歩いていた。
もちろん、あたりは警戒していたし、何も考えずに爆走していたわけではない。
だが、トラブルというのはいつも意識の外からやってくるもので。
曲がり角から飛び出してきた一人の男と正面衝突する形になった。
同時に、自分に襲いかかるはずの衝撃が弱いことに気づく。
「申し訳ないね、姫。少々慌てていたもので――」
立て続けに、その理由も理解する。
「おっと、それにしても、もしかして俺は、気づかないうちに天国へと召されてしまったのかな?」
自分が受けるはずの衝撃が弱かった理由。
それは、今までの人生で出会ったことも無いような気障ったらしい男が。
自分の下敷きになるように、倒れ込んでいたから。
「は?」
思わず、声が漏れる。
いや、何を言っているんだろう、という正直な気持ちを抱いてしまった以上、言葉が漏れ出すのは止められない。
「いや、まさか天使が実在するとは、思わなかったものだから」
続く言葉に、ただ言葉を失うことしかできない。
アレか? ひょっとしなくても自分は今、口説かれているのか?
"殺し合い"が行われている場で? どれだけ周りが見えていないのだろうか。
いや、周りが見えているからこその余裕か、はたまた……?
「っ! あなた、怪我!」
そんな考えが吹き飛ぶことに、気づく。
自分を庇ってくれた男の肩から、痛々しく血が流れ続けていることに。
「ああ、これですか? ご心配には及びません。麗しき姫の前ではこの程度の傷など屁でもありませ――――」
「口説いてる暇があったら手当!」
男の言葉を遮るように唯は手早くデイパックを開け、市街地の薬局から拝借した包帯とガーゼを取り出していく。
慣れた手つきで肩の止血を行い、消毒液を垂らしていく。
「ああ、なんて美しい……やはりあなたはこの戦場に救いを齎す天使……」
「それより」
長そうな口説き文句が始まろうとしていたのを、遮るように唯が口を開く。
「ありがと、庇ってくれて」
ようやく口に出せたのは、感謝の言葉。
出会うや否や速攻で口説かれていたため、すっかり困惑してしまい、告げることが出来なかった言葉。
その言葉を、唯は少しの笑顔と共に告げる。
「いえ、ホストとしては当然の行いです」
「ホスト……?」
返ってきた単語に、少し驚いてしまう。
今し方ホストと名乗った男の身なりは、彼女の知るそれではない。
育ちの良さそうな制服身を包んだその姿は、ホストというより学生だ。
男の言葉にまたしても困惑し始めてしまった唯の姿を見て、フッと笑う。
それから襟元を正し、片手を腹部の前に持って行き、身を45度、綺麗に折り畳む。
「自己紹介が遅れましたことを、お詫び申し上げます。
 私、桜蘭高校ホスト部、部長の須王環と申します。
 あなたのような麗しき女性に出会えたことを、誇りに思います」
始まった少し大げさな自己紹介。
けれど唯の読み通り、男は学生だった。
ホスト部、という部活があることに驚きつつ、唯も自己紹介を返していく。
「四つ葉台高校、一年の本郷唯よ。よろしくね、須王さん」
「かしこまりました、天使様」
唯の何気ない自己紹介に対しても、環はしっかりと片膝をついて唯の言葉を聞いている。
悪い気分ではないが、状況が状況なのでとても複雑だ。
なんとも気まずい空気になるのは嫌なので、唯は新たな話題を振っていく。
「ところで、その肩の傷は……」
それは、出会った時からずっと気になっていた、環の肩の傷について。
自分の不注意で怪我したのならば、その場で落ち着いて治療が出来るだろう。
その治療をせずに、辺りの警戒も投げ出して走り出していた。
それがどう言うことかぐらい、少し考えれば分かる。
「ああ、これは――――」

38"守"の"理"とは ◆F9bPzQUFL.:2013/07/21(日) 23:22:14 ID:rNes25qE0

そして二つに絞られた答えのどちらが正しいのか、環の口からゆっくりと語り出されようとした時。
ばんっ、と乾いた破裂音が一発響く。
同時にがくん、と体が後ろに傾いていくのがわかり。
気がつけば、環が自分の上に覆い被さるように、倒れ込んできていた。
「……はっ! ご無礼をお許しください、姫」
「そんな事言ってる場合じゃないでしょ!」
状況を理解すると同時に、環に檄を飛ばす。
素早く身を起こすと、遠くには体躯に釣り合わない大きな銃を携えた小さな子供がこちらをにらんでいた。
なるほど、と大体の事の顛末をその瞬間に理解する。
あの少年は――――人を、殺そうとしている。
そして、須王環はあの少年に襲撃を受けた。
銃の反動が大きいせいか、狙いが上手く定まっていないのがまだ救いか。
「君! まだそんなことを続けるつもりか!」
そうこうしているうちに、環は少年に語りかけていた。
どうやら、環は少年が殺し合いに乗っている理由を知っているらしい。
銃を突きつけられている手前、というのもあるが、唯はそのまま動かずに黙って環の言葉を聞くことにした。
「人を殺して、愛する人を生き残らせることが、君の願いか!」
おおよその予想、それはどうにも的中しているようだ。
目の前にいる少年は、"愛する人"がいて、それを生き残らせる為に、人を殺そうとしている。
その目は、ぎらぎらと燃える覚悟を宿している。
それは、明らかに見てくれから考えられる年齢の子供がする目ではない。
「愛する人を最後の一人にする、つまり自分が死ぬと言うことは!」
そんな目に睨まれながらも、環は言葉を続ける。
それは持論か、はたまた一般論か。
愛故に道を踏み外した少年へ、声を張り上げて語りかけていく。
「君の愛する人は! 君という愛する人を失うんだぞ!!」
「――――ッ!!」
殺し合いで生き残るという事。
一番簡単なのは、"全員殺してしまうこと"だ。
だが、"誰かを生き残らせる"ならば、話は変わってくる。
生き残れるのは、一人。
つまり、自分が死ななくてはいけないのだ。
ほぼ必然的に、奉仕対象はその死を見せつけられる。
……少年の奉仕する相手が、彼の言うとおり恋人なのだとすれば。
「いいのか! 愛する人を終わらない苦しみへ誘っても、いいのか!」
環の言葉のように、相手にとっては一生消えない傷跡になるだろう。
自分を生かすために、自分の愛する人が死んだ。
ここに、自分の目の前でなんて入ったら、もう目も当てられない。
その状況が思い浮かんでしまったのか、環の言葉に少年は明らかに動揺していた。
「でも、ありすが死んでしまったら……」
口に出すのは、最悪のケース。
そう、それが起こってしまっては元も子もない。
失われた命も、彼が手を汚している理由も、何もかもが。
全て、泡と化す。
「だったら! 君がやるべき事はこんな事じゃない!!」
だから、その前に。
全てが台無しになってしまう前に。
ありったけの叫びと共に、彼を止める。
「愛する人の元へ、行け!! 君も騎士なら、男なら出来るはずだ!!」彼がするべき選択を、男としての振る舞いをとってもらう為に。
そして、女性の悲しむ顔を一つでも減らす為に。
環は心の底から、大声で叫ぶ。

「うん……そうだね」

しばらくの静寂を突き破り、うつむいたままだった少年がぼそりと呟く。顔は見えないが、ひとまずは話を聞いてくれたことに環は安堵する。

「だから、騎士として彼女を守るよ」

39"守"の"理"とは ◆F9bPzQUFL.:2013/07/21(日) 23:22:29 ID:rNes25qE0

しかし、話を聞いていたからといって、話を受け入れた訳ではない。
少年の頭の中で弾き出された結論は、環の想定した結論ではなく。

「彼女の命を脅かす存在から!!」

彼女に襲いかかるかもしれない脅威を取り除く、そのための騎士。
少年がたどり着いた結論は、そこだった。

ばん。
一発の銃声が響く。

続いて、甲高く鳴り響く金属音。

「――――ッ!?」
「間一髪ってとこか……」

割って入ったのは、一人の男。
手には一振りの刀を持ち、環と少年の間に立つ。
突然の第三者の登場に、皆が息をのむ。
「わっ」
呆気にとられている間に、乱入者の男が少年の背後をとり、手に持っていた銃を弾き飛ばす。
「ったく、んな危ないもん振り回しやがって」
「くそっ、離せ!」
そして暴れる少年の抵抗を正面から受けながら、少年の服の襟の後ろを掴み、ぐいいと持ち上げる。
体を宙に浮かせながらも抵抗する少年の顔を、男は目前までずいっ、と寄せる。
万物を斬り裂かんほどの眼光に、その場にいた人間が再び息を呑む。
「だが……お前の言いたいことは分からんでもない」
すっかり怯え始めていた少年の体をおろし、一息付く。
自由となった体、けれど自分が自由に使えるわけではない。
下手な動きをすれば今度はどうなるものか、分かったものではない。
歯を強く噛み、ここはひっそりと堪え忍ぶ。
「……ふっ、いい眼だ。よし、気に入った! 俺に付いてこい!
 俺が、"守り方"というのを教えてやる!」
そして、男の突然の提案に誰もが度肝を抜く。
愛する人を守りたい、けれど人を殺せない。
そんな悩める少年に、男は"手"をさしのべようと言うのだ。
「なぁに、俺はお前を束縛するつもりはない。
 お前がいつ自棄を起こして俺に襲いかかろうと考えても、別に構わん。
 お前が本当にそうしたいと願って動くのならば、俺は止めはせん」
勝者故の余裕を醸しだしながら、男は少年に語りかけていく。
気に障る横柄な態度、サーチェスさえあればこんな男に後れをとることはないと言うのに。
けれど、けれど、なぜだろう。
自分を見つめる男の背には、自分の目には入りきらない"何か"があるように思えて仕方ないのは。
「俺は"守り方"を知っている。お前みたいな子供と違ってな。
 だから俺の身はもちろん、俺の者は全て俺が守ってみせる」
人一人だけではない、もっと大きな何かを背負い、愛している。
そして、それを守り通す"術"も知っている。
男の発言だけではなく、振る舞い、気品、その全てがそれを物語っている。
「どうする? 小僧? 選ぶのはお前だ」
指が、突きつけられる。
選択を強いられているのは、自分だ。
銃はない、サーチェスもない、絶望的な状況。
どうする? 男の配下に下る? けれど、そんな悠長なことをしている時間があるのか?
そんなことをしている間にも、彼女は、ありすは――――

「う、うああああああ!!」

気が付けば走り出していた。
どこへ? という訳ではない。
ただ、その場に居ることが苦しくなっただけ。

どうすれば、どうするのが、いいんだろう。

40"守"の"理"とは ◆F9bPzQUFL.:2013/07/21(日) 23:22:45 ID:rNes25qE0

「……カタい年頃だな」
劇的な乱入から手早く少年を追い払った男は、服に付いた埃を払いながら一息をつく。
すると、男がやってきた方向から、新たにもう一人の少女が現れた。
「遅いぞ透」
「はぁっ、はぁっ、しゅ、朱理さんが、はや……はぁっ」
肩で息をしながら、透と呼ばれた少女は、男、朱理に訴えかける。
一発の破裂音と、喧しい男の声に何かを感じ取った朱理は、一足先にその現場へと駆けつけていた。
故に、先ほどの乱入劇が始まった訳だ。
一転してまた一転、目まぐるしく変わる展開にすっかり目を剥いていた唯の意識が、ようやく現世へと戻る。
「ところでお前ら、こんなところで何してる」
それと同時に男か出た言葉は、唯も朱理たちに問いかけようとしていたことだった。
ちょうどいい、と思いながら口を開く。
「ああ、それは――――」
「おおおっ!! 醜き戦場にまた新たな天使が!」
「ふえっ!?」
会話が始まると同時に、再び環が色んな意味で"元気"になり始めた。
先ほどまで肩で息をしていたというのに、そんな素振りを見せず、一瞬で透と呼ばれた少女の元へ向かい、軽く膝をつく。
「姫様、きっと私めはあなたにお会いするために生まれたのでしょう……」
「えっ!? へぇっ!?」
突然の男の行動に、おそらく人生で二番目か三番目くらいの狼狽え方を見せる少女。
まあ、無理もない。
自分もさっきまでは、少女の立場だったのだから。
「……なんだアイツ」
「……私に聞かないで」
突然元気になった環に、朱理は正直な疑問を抱き。
唯は、その問いに匙を投げた。

朱理の愛する彼女も、似たようなやりとりをしていることを、朱理は知るはずもない。
ただ狼狽える透と、ナンパを続ける環の姿を見続けることしかできず。
「……赤の王、朱理だ」
「唯、本郷唯よ、よろしくね」
とりあえず、まともに話の出来そうな隣の少女と、名前を交換することにした。

41"守"の"理"とは ◆F9bPzQUFL.:2013/07/21(日) 23:22:57 ID:rNes25qE0

【C-3/市街地・西部/昼】
【須王環@桜蘭高校ホスト部】
[状態]: 左肩に銃創
[服装]:桜蘭高校制服
[装備]:
[道具]:基本支給品、スタングレネード×2(デイバックの中)、不明支給品(0〜2、未確認?)
[基本行動方針]: 主催屋の居場所を突き止め、説得(接客)して殺し合いを止める。 
[思考]おお、お客様第二号発見だ!
0: 仲間を集める、ホスト部員を優先して探す。
1: 殺し合いに対する恐怖。特にホスト部員が死んでしまったりしたら、どうしたらいいかわからないほどの恐怖。
[備考]
 ※参戦時期はハルヒ入部より後です。その他の細かな時期は、のちの書き手さんにお任せします。

【本郷唯@ふしぎ遊戯】
[状態]:健康
[装備]:モンキーレンチ、しんさんのMTB@ハチミツとクローバー
[道具]:基本支給品
[思考]……はあ
基本:惑わない、殺し合いを止める
1:朱理と情報交換
[備考]
※本編終了後より参戦

【朱理@BASARA】
[状態]:平常
[装備]:朱雀の刀@BASARA
[道具]:基本支給品(ランダムアイテム0〜2個)、44マグナム
[思考]なんだありゃ
基本:儀式に反抗する仲間を集める
1:唯と情報交換
2:透とともに行動する
3:更紗や、仲間になりそうな人間を探す
4:温泉に向かう
 [備考]
  ※出典時期は14巻前後。少なくとも更紗の正体を知る前です

【本田透@フルーツバスケット】
[状態]:平常
[装備]:なし
[道具]:基本支給品(ランダムアイテム1〜3個)
[思考]ふぇっ!?
基本:儀式に反抗する仲間を集める
1:朱里とともに行動する
2:夾や由希、その他仲間になりそうな人間を探す
[備考]
  ※出典時期は21巻(慊人との崖の上での会話)以降のどこかです。

【C-3/市街地/午前】
【小林輪@ぼくの地球を守って】
[状態]: 通常、サーチェスなし(?)、擦り傷
[装備]:44マグナムの弾薬
[道具]:基本支給品(ランダム支給品0〜2個)
[思考]――――?
基本:亜梨子のために、他の参加者を殺害する
1:例えサーチェスが無くても、別の方法で他の参加者を殺害する。
2:亜梨子のために、他の参加者を殺害する
3:能力者の存在にもっと注意し、情報収集を怠らないようにする
[備考]
※盗みのアリスによってサーチェスが抜き取られました。
 柚香のアリスのように完全に抜き去られたどうかは、不明です。

以上で投下終了です。

42"守"の"理"とは ◆F9bPzQUFL.:2013/07/21(日) 23:24:06 ID:rNes25qE0
あと、拙作にて数点ミスを発見したので、Wikiにて修正しておきました。
収録していただいた方にご迷惑をお掛けしましたことを、お詫び申し上げます。

43名無しさん:2013/07/22(月) 22:29:38 ID:iM3QodUc0
投下乙ですー
大きなものを背負い守ろうとする朱理の器は圧倒的に大きいなぁ。
彼を前にすると輪もますますただの子供だ

透と環…確かに更紗もあーや的な意味で透と同じような状況になってるw
環透朱理唯とそれぞれバラバラな性格の四人が集まったのも期待大です

44ヒーロー失格  ◆o.lVkW7N.A:2013/08/10(土) 00:28:47 ID:9869nyvs0
あの日、彼女を背負って歩いた家路を、昨日のことのように思い出す。
俺の背中に圧し掛かる体温はまるで子供のように少し高めで、
首筋に落ちてきた涙の底冷えのするような冷たさとの対比が、どうしてかおかしかった。
薄ぼんやりとした月明かりは、何処までも優しい暖かな光で頭上を照らすのに、
俺と彼女の間には、それでも拭いようのない闇が横たわっていて。

いつも俺たちを叱咤する力強いそれとはまるで違う幼子のような声が、咽喉を震わせて紡がれる。
「好き」「好きなの」「大好き」と、繰り返し何度もそう言われる度に、
俺はただただ馬鹿みたいに「うん」と、たった一つの言葉だけを返し続けた。
あの時はそれ以外に答えようがなかったから。
安易な肯定や慰めなど自分にはできなかったし、してはいけないと思ったから。



……けれど、けれどもし今、漫画みたいな奇跡が巻き起こって、あの瞬間に戻ったとしたら。
その時俺は、一体どんな言葉を彼女にかけてやるのだろうか。



     ○     ○     ○

45ヒーロー失格  ◆o.lVkW7N.A:2013/08/10(土) 00:29:17 ID:9869nyvs0
緊張しているのだろう。差し出したこちらの手を握り返してきた男の指先は、酷く冷たかった。
当然か、と思う。こんな状況で平然としていられるのは、根っからの殺人狂くらいのものだ。
そして自分も目の前の男も、そういった『螺子の緩んだ』類の人種とはまるでかけ離れている。
むしろ常識と秩序と平穏を愛し、ごくごく真面目で手堅い人生を送りたがるタイプだろう。
真山は自分がそうだからこそ、対する相手の人となりが手に取るように理解できた。
尤もだからといって、自分と彼を同一視して、無駄な共感や同情を抱くつもりはない。
彼はあくまでも一時的に手を組んだだけの共犯者に過ぎないのだから、
互いに裏切りや切り捨てを当然の行為と念頭に置いたうえでの行動が不可欠となる。

「……で、これからどうする?」
「そうですね」

問いかけてきた男と共に今後の計画を練ろうとしたところで、足元に倒れ伏している彼女が目に入る。
幸い、という単語が正しいのかは分からないけれど、胸にぽっかりと空いた穴以外、
彼女の身体は平時と何一つ変わらなくて、まるで長い眠りについているだけのように見えた。

「こいつの墓、作ってやってもいいですか」
「……ああ。分かった」

こちらの申し出に相手が頷いたのを確認してから、横たわっていた彼女を背負う。
まだ温かいその身体は、魂が抜け落ちている筈なのにも関わらず、以前にも増して重く感じられた。
こりゃ、あの時同様、明日は腰痛と筋肉痛のフルコースだろうなぁと吐息する。

「……あー、重っ」

ついそう呟いてしまってから、もし今目が覚めでもされたら大変だなと小さく苦笑した。
「だぁれが重いってーっ!??」と、降り上げられた脚で思い切り踵落としを喰らわされて、
そのまま呆気なく失神……というお決まりの光景が、手に取るような鮮明さで目に浮かんだからだ。
鉄人・山田あゆみの足技を受けてなお立ち続けられるものなど、むくつけき男衆ですらそうそう存在しないだろう。
真山自身、長い大学生活の中で、何度彼女に殴られ蹴られては、声すら出せずその場に蹲ったか、最早憶えていない。
その痛みを思い出して苦々しく顔を顰めた後、けれど酷く重大なことを思い出し、「ああ」と呻いて天を仰いだ。


――――彼女が起き上がることは、もう二度とないのだ。


あの夜とはまるで違う、生気の感じられない骸を背負いながら、真山は砂浜を真っ直ぐに進んでいく。
いくら己の掌を血に染め、目的のため殺人者になると誓ったところで、
人間、そうそう簡単に、自分の持ち得る全てを捨てて、別人のように生まれ変われるものでもない。
当然真山も同様で、今死んだばかりの知人の遺体をそのままにしておけるほど、冷酷非情にはなりきれなかった。
本来なら、余計な雑事に時間や体力を使うべきではないのだと、分かりきっている。
何を選んで何を切り捨てるのか。己の小さな両手で掬い取れるものは限られていて、だからこそ無駄なものに手を伸ばす暇はない。
それを痛いほどに理解していて、それでも尚、彼女をこの場に放っておくことはとても出来なかった。
恋愛対象としてではなく、それでも彼女を大切に思うこの感情には、一体何という名前が正解だったのか。
友情、仲間意識、庇護欲、独占欲……。失った今でさえ、その問いに対する明確な答えは出なかった。

歩を進めるごとに、砂を踏みしめる音がざりざりと足下から鳴り響く。
永遠に続いているのではないかと思える海岸線を淡々とひたすらに歩き、見通しのいい開けた場所へ向かった。
頬に当たる風がべた付いた潮の香りを纏わせ始めたのを感じながら、辿り着いた海をぼんやりと眺める。
いつか見たうすら寒い真冬のそれとは違い、日光を反射して煌めく海岸は一枚の絵画のように美しかった。

46ヒーロー失格  ◆o.lVkW7N.A:2013/08/10(土) 00:29:47 ID:9869nyvs0
「……山田、ほら海だぞ」

首を後ろに捻って背中の彼女に視線を注ぎながら、そう話しかける。
柔らかい声は二度と返ってこないけれど、それでも彼女へ言葉を紡ぐ行為は止められなかった。

「昔さ、五人でクソ寒い中、わざわざ水上バス乗って臨海公園の辺りまで行ったよな。
 それで二人で観覧車乗って……、あー、もう思い出すだけで気まずいわ」

ははっと失笑して、あの世界一長かった地獄の17分間を回想する。
振った人間と振られた人間が密室に閉じ込められて、地上に降りるまで二人だけの空間を強制されたのだ。
お互い、居た堪れないわばつが悪いわで、どうしようもなくぎくしゃくした空気ばかりが張りつめていた
あの時も今も、二人の関係は変わっていない。真山には愛する女性がいて、それでも山田は真山のことが諦められなくて。
片思いの連鎖なんて言えばドラマみたいで聞こえはいいけれど、現実には辛くて苦しくてぎこちないだけだった。
青春スーツを脱げないままな自分たちの恋愛模様は、当人からすればシリアスな悲劇なだった筈なのだけど、
恐らく傍から見れば、精一杯がむしゃらになった全ての日々が、笑えない三流コメディでしかないのかもしれない。

「お前さ、馬鹿だよ。俺なんかのために大学四年間費やして、挙句の果てに死んじまって。  
 ……俺、お前に好きになってもらえるほど出来た人間じゃないってのに。
 なあ、ずっと言ってたろ。俺はお前のことなんか好きにならないし、とっとと諦めろってさ。
 なのに、結局最後までこんな風に勝手なことして……」

下唇を前歯で噛んで、いくらでも溢れ出てきそうな彼女への言葉を無理やりに封じ込めた。
このまま口を開いていては、馬鹿だと詰ることしか出来そうになかったからだ。
尤も本当に馬鹿なのは山田ではなくて、彼女の死を前にしてすら己の決断を変えられない真山自身の方なのだろうが。




「……ごめんな、山田」



結局、最後に選んだのはそんな陳腐な言葉で、こんな時でしか謝ることしか出来ない自分が最低だと思った。
けれど「俺も愛してた」なんて嘘を言えるほど器用ではないし、そんな口先だけの空事に彼女が喜ぶとも思えない。
だからせめて、最後は飾ることない混じり気なしの本心でお別れしたかった。

ろくに取り柄も無いような、ごくごくフツーの俺。
そんな自分が唯一誇れることがあるとするならそれはきっと、
美人で美脚で男前で肝っ玉がでかくて一途で一生懸命で友達思いな最高にいい女が、
――――あの山田あゆみが、好きだと言ってくれたことだと、そう思うから。


 お前の気持ちは受け入れられないけど……、それでも、好きって言ってくれて嬉しかった。

47ヒーロー失格  ◆o.lVkW7N.A:2013/08/10(土) 00:30:38 ID:9869nyvs0



     ○     ○     ○



玲の眼前で、青年がさくさくと砂浜を掘り返しながら、友人を埋葬するための墓を掘り進めていく。
主催者側がこんな事態を見越していたのかは不明だが、真山と名乗った青年の支給品の中には大ぶりなスコップが含まれていた。
この辺りの地面がさらさらとした軽い砂地であることもプラスされて、穴を掘ることそれ自体は、さほど難しくないようだ。
一応の礼儀として、玲も「手伝おうか」と声をかけたのだが、その提案は無言で首を横に振られてしまった。
尤も相手からすれば、それは当たり前の心情と言えるだろう。
なにせ少女を撃ち殺したのは、玲自身であるのだ。そんな男の手など借りたくないに決まっている。
「……はぁ」
疲労からだろうか。そう吐息した真山が、額から垂れ落ちてくる汗を鬱陶しそうに手の甲で拭う。
それでも休もうとする素振りすら見せないまま、彼は黙々と一心不乱に同じ行為を続けていた。
半刻もしないうちに十分な深さの穴を掘り終えると、恭しい手つきで少女の身体をかき抱き、穴の中へと横たわらせる。
注がれる視線はとても複雑な色をしていて、玲はそこに彼と彼女の間に織り成されたであろう男女の関係を想像した。

「一つ、聞いてもいいかな。その子と君は……」

突然かけられた玲からの問いかけに、真山がはっとしたような顔でこちらへ振り向いた。
強張っていた顔面がゆっくりと表情を形作り、泣き笑いに似た、どこか困ったような笑みを見せる。

「……恋人、とかじゃないですよ。ただの大学の同級生です」
「そうは見えなかったけどね」
「あいつは、俺のこと好きでしたから。
 俺なんかの何処が良かったのか、最後まで分からなかったですけど」

恋人同士でなかったということに少しだけ驚くが、そういえば先ほど二人は末期の会話で「りかさん」がどうこうと言っていた。
あれだけの美人に片思いされて、それでも別の女性への思いを貫き通すとは、なかなか一本気な若者だ。
とはいえ、いくら恋人ではなかったとはいっても、少女が真山の友人であることに変わりはない。
それも、ただの女友達ではなく、自分のことをずっと好いてくれていた異性なのだ。
共闘を提示してきてから現在まで表面上は落ち着いた様子を見せているが、彼が自分を憎んでいるのは当前のことだろう。
そんな玲の内心の思考を読み取ったわけではないだろうが、汗で張り付いた前髪をくしゃりと掻き上げると、真山はぼそっと呟いた。

「相模さん、俺、貴方のこと恨んでません」
「……は?」

告げられたのはあまりに予想外な台詞で、取り繕う事すら忘れてしまう。
ひどく間抜けな声を上げた玲に、対する相手は視線を足元へと向けたまま、ぽつぽつと言葉を続けた。

48ヒーロー失格  ◆o.lVkW7N.A:2013/08/10(土) 00:31:23 ID:9869nyvs0
「だって貴方のおかげで、俺は自分の手であいつを殺さずに済みました」
「それは……」
「俺、さっき完全に殺すつもりであいつに近づきました。
 相手が女だとか友達だとか、俺に惚れてることとか全部関係なく、むしろそれも利用しようとして。
 ……でも、おかしいんですよね。実際会ってあいつの顔を見たらやっぱり怖くて、手が、震えて」

そう口にする真山の掌は、まるでその瞬間を思い出したかのように、指先がかたかたと震えていた。
蒼褪めた顔を持ち上げてこちらを見据える表情は、まるで幽霊か何かのようだ。
恐らく、恐怖や後悔や羞恥や悲しみや自己否定や、ありとあらゆる感情に押し潰されかけているのだろう。
当然だ。大切な友人を殺そうとしたという事実は、枷として付けるにはあまりにも重すぎる。

「だからあいつが撃たれたとき思ったんです。「ああ、良かった」って。
 俺はともかくあいつが……山田が、惚れた男に殺されるなんて最低の死に方しなかったから」

そこで一旦言葉を区切ると、真山は玲へと真っ直ぐに向き直り、頭を深く折ってその場で一礼した。
地へ向けられた顔から、彼の表情を窺い知ることは出来ない。
けれど、伏せた瞳からぽたぽたと透明な滴が落ち、首筋を伝っていく姿だけは、玲からもよく見えた。


「……ありがとう、ございました」


まさか、人を殺して感謝されることがあるとは思わなかった。
出来ることならば二度とあってほしくない経験なのだけれど、
もしかしたらこの殺し合いの場では、そんな「まさか」が何度も起こり得るのかもしれない。
実際、彼のように「生き残りたい」と「けれど出来れば殺したくない」が同居しているような参加者は多いだろう。
玲自身、羽山や直澄といった紗南の友人たちは、なるべくなら他の人間の手にかかっていてほしいと思っている。

「君の友人はあと何人いる?」
「三人ですね。転んだだけで死にそうな子と、何度転んでも起き上がる後輩と、
 転んだ拍子に地面に落ちた小銭を一枚でも多く拾おうとするような先輩の三人です」
「彼らを見捨てても……、殺してでも、最後の一人になりたい、と?」

その質問に一瞬だけ言葉を詰まらせると、しかし真山はきっぱりとした声音で言い切った。

「そうですね、……戻って逢いたい人がいるんです」

そう口にする真山の表情に躊躇いは無かった。それを見て、玲はその人物こそが真山の愛する相手なのだと悟る。
自分を一途に想う女性を捨ててでももう一度逢いたいひと。恐らく先刻の「りかさん」とやらだろう。

「そっちが恋人かい?」
「だといいんですけど……、今のところはまだそこまでは」

情けなさそうな声でそう返すと、真山が苦笑しながら、今度はこちらに質問を向けてくる。


「相模さんはどうなんですか」
「……ああ、俺も同じだよ。大切な人のために、この殺し合いに乗ることを決めた」

49ヒーロー失格  ◆o.lVkW7N.A:2013/08/10(土) 00:32:05 ID:9869nyvs0
玲の言葉に偽りはなかった。玲は確かに、『大切な人のため』に、『殺し合いに乗』っている。
けれどそれは、真山のそれとは意味合いが違っていた。
真山が『大切な女性の元に戻るため』に、自分が最後の一人になることを目的としているのに対し、
玲は『大切な女の子を元の世界に戻すため』に、彼女を最後の一人にすることを最終目的と定めている。
そしてそれを実現させるためには、当然ながら最後には玲自身も命を絶つ必要があるのだ。

けれど玲はそれでもいいと思っていた。
何せ自分は、既に一度死んだも同然の身なのだ。
彼女にフられ受験に失敗し両親が事故死して、人生のどん底で世捨て人のように暮らしていた。
住む家も金も無く、ホームレスとしてその日暮らしをするしかなかった自分に、けれど手を伸ばしてくれた少女がいた。
彼女と出会って、玲はもう一度笑うことが出来るようになった。やり直そうと思うことが出来た。

……だから、構わない。あの子を守るためなら、あの子に生き延びてもらうためなら、自分の命など惜しくない。
なにせ本当なら路上でのたれ死んでいたかもしれないのだ。今日まで生きてこれただけでも儲けものだろう。

玲にはよくよく理解っていた。
自分とあの子。二人の命を天秤にかけたとき、より重いのはどちらか……、なんてことは、そりゃもう明白に。
そして何より、自分が『誰に一番生きていてほしいか』という問いの答えにも。

その決断は揺るがないはずだった。少なくとも、玲自身は悩むことなど無いと思っていた。けれど。
――――この場にはいない、何処かで待っている『彼女』は、果たして玲の想いを支持してくれるだろうか。
恩人の女の子なんてどうでもいいから、ただ最愛の恋人に、『相模玲』に生き残ってほしいと、そう願いはしないだろうか。


「麻子……」

無意識のうちに自然と口を突いて出たのは、玲の愛する女性の名だった。
このまま己の決意を貫き通せば、もう二度と逢うことができないであろうひと。
その涼やかな目元を、形のいい唇を、手触りのいい髪の感触を思い出し――、その全てを振り払った。


「……ごめんな、麻子」


なあ、麻子。お前には悪いけど、俺は、真山君のようにはなれないよ。
お前とあの子と、どっちが大切か訊かれたら、きっとお前だって答えると思う。
もし二人のどちらかしか助けられないなら、俺は多分、迷った末にお前を生き残らせる。

……でも、今は違うから。

俺の犠牲であの子が助かる可能性があるって、そう思ったら、やっぱり、さ。
それにほら、お前は美人だしいい女だから、俺なんかよりいい男がいくらでも見つかるだろ。
そもそもお前が俺無しでもやっていけるのは、経験済みで既に分かってるしな。だから。


 お前のことを誰よりも愛してる。……けれどそれでも、もう隣にはいてやれない。

50ヒーロー失格  ◆o.lVkW7N.A:2013/08/10(土) 00:32:22 ID:9869nyvs0
【E-8/砂浜/昼】
【真山巧@ハチミツとクローバー】
[状態]:健康
[装備]:グロック26@現実、予備弾薬(9mmパラベラム弾)
[道具]:基本支給品一式、毒薬、スコップ、ランダムアイテム0〜4個
[基本行動方針]:どんな手を使ってでも生き残る方法を探す
[思考]原田理花の所に戻る、なんとしてでも。
1:相模玲と協力、人を減らす。
2:自身の命が危なくない範囲で脱出が可能ならば、それに乗る。

【相模玲@こどものおもちゃ】
[状態]:健康
[装備]:ワルサーPP@現実
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜2)
[思考]
基本:倉田紗南の護衛、最終的には優勝させる。
1:真山と協力し、人を減らす。
2:できれば積極的に殺していく。が、深追いはしない。
3:紗南の友達は一先ず保留。

51名無しさん:2013/08/10(土) 21:20:45 ID:8AY6JzxI0
投下乙です!!
似た者同士だけど「自分が残って想い人の元に戻る」と
「あの子を残すために自分は想い人の元には戻ることはできない」の違いはかなり大きい…
>それでも、好きって言ってくれて嬉しかった。
この一文が泣ける。覚悟を決め冷徹になろうとしたには違いないけれど
実際に目の前にすると心が揺れてしまってあの結末に安堵してしまう、その描写が非常に丁寧で

52名無しさん:2013/08/10(土) 21:37:35 ID:jjl.Razo0
投下乙です!
真山ぁ、くそぅ、青春スーツ野郎めえええ……
ほんとにこの二人は不器用だよなあ。
目的は一緒で、けれど微妙に違って。うむぅ……

53螺子と歯車は噛み合わない ◆F9bPzQUFL.:2013/08/13(火) 00:22:43 ID:HPUKKgWw0
どれくらい、走り続けただろうか。
ちりちりと痛む火傷の傷跡に沁みる汗を堪えながら、馨はただひたすらに走っていた。
全身のあちらこちらに広がる火傷を処置するには、ぬるい飲み水をかける程度ではダメだった。
もっと量が多くて冷たい水が必要であると馨は考える。
幸運にも彼は、そんな水が豊富な場所を知っている。
この地で目を覚ました初めの場所、彼の始まりであり終わりの場所。
正確に言えば、今向かっているところは初めの場所ではない。
ただ、そこに流れる川は同じ。
自分のこの手でナイフを突き刺し、一人の男を突き落とした、あの川が流れているであろう方向へ。
馨は、立ち止まることなく走り続ける。
己の傷を、癒すために。

しばらく走り続け、ようやくたどり着いた"始まりの川"。
たどり着くや否や荷物を投げ飛ばし、服を脱ぐこともなく川にざぶざぶと入り込んでいく。
ひんやりとした水が、火傷の痕にゆっくりと沁み渡る。
汗の塩分の痛みとはまた違う、癒しの感覚。
痛みが完全に引いたわけではないが、それでも確実にマシな状況にはなってきていた。
「こんな感じに、流れていったのかな」
ふと、その時に思い出したのは始めに"殺した"人間のことだ。
ナイフで一突きして、川に思いっきり蹴落とす。
それだけで終わってしまった、あっけない出来事。
今の自分のように、ぷかぷかと川に浮かびながら流れていく男の姿を見て、初めは確信していた。
人を殺すことは、簡単だと。
守れる、このちっぽけな両手で、光のことを守ってやれる。
そう、信じてやまなかった。
けれど、その思いはすぐに砕かれた。
自分よりも二つか三つほど年下である少年に、意図も容易く出し抜かれてしまった。
おまけに今もヒリヒリと痛む火傷まで負わされている。
原因は考えるまでもなく、自分だ。
自分の心の中に、油断、慢心があった。
こんなに簡単なら、すぐにたどり着けると思っていた。
けれど、現実はそうではないことを知った。
まるでマジックのように炎を出して見せた少年のように、現実では考えられない事が簡単に起こるのかもしれない。
もっと、気を引き締めなくては。
光に出会い、光の剣となり、光の盾となるまでは。
この身を滅ぼすわけにはいかないのだから。
「……そろそろ、いいか」
そこまで考えたところで思考を止め、ゆっくりと川から上がっていく。
ずぶ濡れの制服が、重石となり馨の動きを鈍くしていく。
躊躇うことなく上着を脱ぎ捨てる、どうせ替えならいくらでもある。
それに、血のついた服をいつまでも着ているわけにはいかない。
自分は油断せず、相手の油断を誘って殺していく。
出来る限り安全な手段を取った方がいい。
油断すれば、また先ほどのようになってしまうから。
頬を数回叩き、意識を集中させていく。
そして、首輪探知機に目を通していく。
画面に表示されていたのは、「2」と「14」の二つの点。
それをみて馨は、次の一手を考える。

54螺子と歯車は噛み合わない ◆F9bPzQUFL.:2013/08/13(火) 00:22:57 ID:HPUKKgWw0



「ねえねえー、そんなにムスっとしてないで、お話ししようよー」
子供には子供っぽく、ということか。
浅葱は無邪気に蜜柑へと話しかける。
けれど、蜜柑の表情は一切晴れることはなく、それどころか浅葱をジッと睨み続けている。
詳細名簿には載っていない情報、アリスという能力の正体、その他諸々、蜜柑には聞いておきたいことが山ほどある。
何とかして蜜柑の口を割りたいのだが、暴力的な手段に出るわけにもいかない。
彼女は浅葱にとって未知の能力、"アリス"を防ぐことが出来るのだから。
その力を役立てて貰うには、彼女に生きていて貰わなければいけない。
盾として使おうにも、死んでいては意味がないのだ。
だから、こうやって遠回しな方法で彼女に"問いかけている"のだ。
「ねーえー、ちょっとくらい教えてよー」
けれど、蜜柑は決して口を割らない。
こいつにだけは屈したくないという意志と、友を守りたいという思い。
それらを反抗の証として、目つきに表しているだけなのだ。
だが、一向に口を割らない蜜柑に対し、浅葱も同じ手段を続けるほどバカではない。
「そう、どうしても喋らないんだね、じゃあ」
ふっ、と表情を冷ややかにした後、肘から先が残像を伴うかのように消えていく。
「君は"生かされてる"って事を、思い出させてあげないとね」
「えっ――――」
ほぼ同時に、蜜柑の体に走る痛み。
腹部から少し上、深々と突き刺さる浅葱の拳。
耐えきれない痛みに、蜜柑はその場にうずくまってしまう。
「君が大地を踏みしめて生き続けてられるのは、君に価値が有るからだよ。
 なんの価値もないただの女の子を手元に置いておくほど、僕は変態趣味じゃない」
うずくまる蜜柑の頭を踏みつけながら、浅葱はつらつらと言葉を並べる。
自分が生きる、そのためにならどんなものですら利用してみせる。
たったそれだけ、けれどそれが浅葱を動かす全てなのだ。
「分かった? 返事が欲しいんだけど」
上から下へ、全てを凍らせるほどの冷ややかな目線のまま、浅葱は蜜柑に問いかける。
ふわりと蜜柑の頭から足が離れていく。
けれど、蜜柑の次の言葉次第でその足がどう動くか変わっていくだろう。
「……はい」
悔しい気持ちを必死に堪え、けれど心が完全に服従しきってしまわないように。
仮初めの気持ちだけを、浅葱に告げる。
「分かってるならいいよ」
小さく振り上げられた足は、そのまま地面にすとんと落ちる。
その頃には痛みもようやく引いてきていた。
蜜柑は強く思う。
この状況を、早く何とかしなければ、と。
けれど、今は思うことしかできない。
自分一人では、どうすることも出来ないのは分かっているから。
ふと、頭に一人の少年の姿が過ぎる。
こんな状況に現れて、自分を助けてくれそうな一人の少年。
「棗――――」
その名前を浅葱に聞こえないよう小さく呟いたと同時に、蜜柑は見つける。
浅葱と同年代、いや少し下ほどの一人の男が、目の前に倒れていることを。
「あ……」
だが、蜜柑は迷ってしまう。
傷ついた人間が倒れていると言うことを、奴に伝えるべきなのかどうか。
いや、伝えるべきではない。
あの男は間違いなくとどめを刺すだろう。
なんの、躊躇いもなく。
しかし、蜜柑は考えてしまう。
ひょっとすれば、自分の状況が変わる"チャンス"になるかも知れないと。
彼を助ければ、何かが変わるかもしれない。
そんな些細な希望を抱かずには居られない。
だから、少しだけ足を止めてしまったのだ。
「ん? どーしたの?」
無邪気な顔で浅葱が振り向く。
あわてて平静を取り繕うも、もう遅い。
浅葱の目にはしっかりと、蜜柑が見つけた男の姿が映っていたのだから。
ずいっと足を動かし、浅葱が男に近づいていく。
手には銃を持ったまま、ふらふらとした足取りで。
駄目と言いたくても、口は動かなくて。
きっとそれを言ってしまえば、望みも何もかもが無くなってしまうから。
これから起こることを、ただじっと見ていることしかできない。

55螺子と歯車は噛み合わない ◆F9bPzQUFL.:2013/08/13(火) 00:23:17 ID:HPUKKgWw0

「おーい、生きてるぅー?」
声をかけながら、浅葱は男の体を揺すっていく。
けれど、反応はない。
「ダメだ、死んでるねこりゃ」
早々に判断し、くるりと蜜柑の方を振り向いて浅葱は言う。
その瞬間、空気がざわりと動いた。
びしょぬれだった男が、突如として起きあがり腕を振るっていく。
手に持ったマチェットを高速で浅葱の頭めがけて振り下ろす。
あっ、と声が漏れる。
それは浅葱が死んでしまう事に対しての声だったのか、それとも男の身を案じての声だったのか。
ただ、見ているだけしかできなかった蜜柑は、声を漏らすことしかできない。
そうして、マチェットは振り下ろされる。
「はーっ、それで上手くいくと思ってたの?」
空を切るマチェットと、浅葱の呆れたような声。
倒れていた男が違和感を認識すると同時に、手首を掴まれて捻りあげられる。
「血の臭いと武器を握る手に力が入ってるのを見れば、誰でもそういうことだって事ぐらい分かるよ、バカだなあ」
ギリギリと骨が軋む音と共に、浅葱は男にささやいていく。
男は初めは反抗的な目つきを見せていたものの、腕を取られている状況からそうそうに観念したのか、視点が少しずつ落ちていく。
「……でさ、このまま腕折られたい? それとも五体満足で生きたい?
 聞きたいんだけど、こういう事するって事は、つまり君はそう言うことでいいんだよね?」
優勢を保ったまま浅葱は男に問いかけていく。
余計な反応を返すことは、死とほぼ同義。
自分に残された選択肢が少ないことを認識しながら、男はゆっくりと頷く。
そして、浅葱はニヤリと笑い。
「僕と一緒に行かない?」
「なっ……」
同行の申し出を、男に向けて放つ。
男は突然のことに動揺してしまうが、すぐに平静を取り戻す。
「僕も、生き残りたいからね。
 近接戦闘は君がする、遠距離援護は僕がする、未知の能力は彼女が守ってくれる。
 これって最高の布陣だと思うけど、それでも今死ぬのを選ぶ?」
口では都合のいいことを言っているが、要するに男を自分の"盾"として扱いたいのだ。
危険な前衛を任せて、自分は安全な後衛から支援に徹する。
どう考えても男には不利な条件なのだが、ここで断れば腕を失うという事が確定している。
果たして、片腕だけで守ることが出来るのか。
そもそも、これを断っても男は生かしてくれるのか。
「……わかった」
「う〜ん、物分かりがよくて助かるよ」
さんざん考えたあげく、男は服従を選ぶ。
その瞬間、縛られていた手がふわりと軽くなる。
攻撃に転じることも出来るが、今の状況では勝ち目がない。
折角拾った命、己の目的のために使わなくてはいけない。
歯をグッと噛みしめ、この状況を堪えていく。
「僕、浅葱。あっちの女の子が佐倉蜜柑。君は?」
「馨、常陸院馨」
「そう、よろしくね」
けろっと笑う浅葱に対し、馨は無表情で自己紹介を返す。
差し出された手も、軽く弾きとばす。
「つれないなぁ、もう」
少しひりひりする手を押さえながら、浅葱はぺろりと笑う。
そのまま自由の身となった馨が、蜜柑の横にぴたりと立つ。
「ひっ」
蜜柑が思わず声を上げる。
新しい"仲間"から放たれる、異様な気を感じてしまったからか。
とにかく、怯えずにはいられなかった。
馨が放っている、異色の気配に。
「じゃー、ちょっと休んだら行こっかぁ」
そんな気配を知ってか、知らずか、浅葱ののんきな声が響く。
三人は肩を並べて歩く、いや。
そのうち二人は肩を並べて歩かされている。
ただ一人、ほくそ笑んでいる浅葱に従わされるように。

向かうのは、南。

56螺子と歯車は噛み合わない ◆F9bPzQUFL.:2013/08/13(火) 00:23:41 ID:HPUKKgWw0

【D-5/橋の近く/昼】
【浅葱@BASARA】
[状態]:平常
[装備]:拳銃(ベレッタM92、残弾不明)、輪のアリスストーン@少女漫画ロワ
[道具]:基本支給品、詳細名簿No,2
[思考]
基本:最後の一人になったうえで、主催すらも利用し返す
1:蜜柑と馨を利用しつつ生き残る。反抗の意志が見えたら即殺
2:最後の一人になるため行動(無茶はしない)
3:詳細名簿1〜5までを全部集めたい
4:月との同盟はとりあえず守る?
 
[備考]
  ※詳細名簿について
詳細名簿は、名前・顔写真・簡単なプロフィールが記載されています。
学園アリス勢のアリス能力や、ぼく球勢の前世などについてまで載っているかは今のところ不明。
名簿はあいうえお順で五冊に分かれている可能性が高く、それぞれにナンバーが振ってあります。
ちなみに今作で浅葱に支給された名簿に記載されているのは、
倉田紗南、小泉月、小林輪、坂口亜梨子、相模玲、佐倉蜜柑、更紗、四道の八人です。

【佐倉蜜柑@学園アリス】
[状態]:ダメージ(小)
[装備]:特になし
[道具]:基本支給品(ランダム支給品1〜3個)
[思考]
基本:友人を探す/輪ちゃんを守りたい
1:浅葱に従う、心まで服従したつもりは無い。
2:輪の元へ戻らな……
3:蛍や棗など、友人たちを探したい

【常陸院馨@桜蘭高校ホスト部】
[状態]:強固な決意(?)、全身に火傷(暫定処置済み)、上着なし
[装備]:滑り止め付き軍手、マチェット、血糊、首輪探知機
[道具]:基本支給品*2
[思考]
基本:光のために他の参加者を皆殺しにする
1:浅葱に従いながら人を殺す。
2:首輪探知機については黙っておきたいが……
3:浅葱の銃が欲しい

57 ◆F9bPzQUFL.:2013/08/13(火) 00:24:02 ID:HPUKKgWw0
以上で投下終了です。

58名無しさん:2013/08/13(火) 00:58:48 ID:5/nPcUl20
投下乙です
はわわ、浅葱に続いて馨まで蜜柑と一緒に・・・
棗はもう…

59名無しさん:2013/09/03(火) 23:42:48 ID:BTYqRpQc0
投下乙です

久々に来たら投下来てた
まとめ読みしようと…

60 ◆F9bPzQUFL.:2013/09/15(日) 01:34:00 ID:/bHjbKdw0
月報集計お疲れ様です。
少女漫画. 38話(+ 3) 33/40(- 0) 82.5(- 0.0)

61名無しさん:2013/09/25(水) 23:12:29 ID:iks5P8tI0
ここの参加作品は昔家にあった漫画が多くて
懐かしいなー、読み返したいなーとなって今もう一度集め直してます
最近BASARAを全巻読み終えたんですがまさに名作でした
支援絵投下
ttp://www20.atpages.jp/r0109/uploader/src/up0252.png
ttp://www20.atpages.jp/r0109/uploader/src/up0253.png

62名無しさん:2013/09/26(木) 11:59:34 ID:PE7YkV4Y0
うおおおお!
支援乙です!
しかし鬼宿も浅葱も悪い顔してんな……w

63激走! トマランナー! ◆F9bPzQUFL.:2013/10/10(木) 00:55:12 ID:lhe/urCI0
「貴様……"アリス"の持ち主か」
痛む腕を押さえながら、ペルソナは自身に蹴りを入れた男へと問う。
学園が把握していないアリスは相当数居るが、その中に無効化のアリスの持ち主が居るのは予想外だった。
しかし、男はきょとんとした顔をしてから、ふふんと鼻を鳴らす。
「ん? ああ、そういう設定? じゃあ、多分……俺が最強だな」
アリスという能力を知らず、生まれ育ってくる人間もいる。
故に、アリスという単語に反応できない能力者が居るというのも、何ら不思議ではない。
へらっ、と笑う男がそうである可能性も、無いわけではない。
「よくわかんねーけど、とにかく正義の鉄拳を食らえぇぃっ!!」
先ほどと同じように、男が無計画に突っこんでくる。
握り拳を作りながら、ただ、まっすぐに。
それを撃退しようにも、腐食の力は使えない。
だが、"それ以外"ならある。
ペルソナは素早くそれを構え、男へと突きつけていく。
あとは、引き金を引くだけで良い。
「ほほう、そんなヘボヘボの銃でこの森田様を倒そうってか」
引き金に指を当てたとき、男は不適に笑った。
怖じることもなく、銃口を見つめたまま。
「支えとなるべき片腕はない、肩で呼吸をするほど疲れてる。
 ってのに精密に急所を撃ち抜ける自信があるなら、大したもんだ」
男の言うことも尤もだ。
ペルソナは、銃を扱うスペシャリストではない。
先ほどは至近距離に近かったが故に当てることが出来たが、今の距離感で確実に撃ち抜ける自信はハッキリ言って、ない。
辺りの炎が揺らめき、視界を曲げていく。
「クッ……」
苦しみの声を出したとき、男の後ろから先ほどの二人の少年少女がこちらに向かってくるのが見える。
少女はともかく、少年は何かしらのアリスを持っている。
今の状況で戦闘になれば、苦戦を強いられることは間違いない。
下手に手を出すより、ここは逃走を選んだ方がいい。
くるり、と身を翻し、まだ動く足を動かしてその場から逃走を図る。
自身の能力を察しているのか、男は追ってくる気配はない。
助けられる形になっているのは気にくわないが、ここで死ぬわけにはいかない。
そう、まだ。
こんな所で死ぬわけにはいかないのだから。



「……あの男は?」
「逃げたよ」
ようやく追いついた時、森田の側に先ほどの男の姿はなかった。
亢宿の問いかけに特に悪びれる様子もなく、森田は答えていく。
「逃がしたんですか?」
「いや、勝手に逃げた。そういう流れなんだろ」
重ねて放った問いかけにも、即座に回答が返ってくる。
が、その回答は少し引っかかる点があった。
「――――そういう流れなんだろ」
亢宿は気にしていなかったが、側にいた紗南はその言葉にどうしても引っかかっていた。
紗南がそれを問いかけようとしたとき、後ろで張り裂けそうなほど大きな音が響く。
振り返れば、燃え上がる炎が巨木を飲み込み、耐えきれなくなった体が爆音とともに倒れ込んでいたのだ。
猛る炎は、未だに弱まる気配がない。
「こりゃやっべーな、熱い熱いと思ったらマジのヤツじゃねえか。
 ったく……あのクソ監督、リアルにも限度ってもんがあんだろ。
 巻き込まれない内に、早く逃げ……あー」
ぶつぶつと言いながら、森田は早々にその場を立ち去ろうとする。
が、ついてくるのは中学生ほどの年齢の少年少女。
大学生(と表現して言い生命体なのかどうかはさておき)の森田の走りについてこれるわけもない。
かといってそのままなら間違いなく火事に巻き込まれるだろう。
せっかくライダーキックまでかましたのに、か弱い子供をおいて逃げてしまっては主役としてみっともない。
一瞬の思考の後、森田は突然後ろの二人へと振り向く。
ぎょっとしたままの二人を、有無をいわさず両脇に抱えていく。
「揺れるからな! 舌噛むなよ!」
そう言って、己の出せる全力全開を出して、広がる火の手から逃げ出していった。
こういうのはスタントマンの役目なのだが、と思いながらも、森田はひたすらに走り続ける。
抱えている二人がなにやら言っているが、それは耳には入らない。
ただ、森田が思っているのは。
映画の主役も楽じゃないな、ということ。

64激走! トマランナー! ◆F9bPzQUFL.:2013/10/10(木) 00:57:19 ID:lhe/urCI0



しばらくして。
森田とよい子のみんな達は火事の現場から大きく離れることには成功した。
――――森田の体力という(すぐに蘇る)犠牲を伴って。
全身から噴き出している汗、上半身全てを動かして行われる呼吸。
「はーっ……はーっ……あ"あ"あ"あ"疲れたぁぁぁぁ!!」
最後に、叫び。
言ってしまえば40〜50kgを片手ずつに抱えて全力疾走したのだ。
本物の火事から逃げるために必死になっていたために、いろいろとトんで居たが、落ち着いてみればそれらが瞬時にのしかかってくる。
ばたりと倒れ込んだ森田はぴくりとも動く気配を見せない。
「あ、あの」
「ごめん無理会話する気力もない今から寝るから後で起こして」
「えっ」
声をかけようとした紗南の言葉を遮り、一息で吐いた言葉を皮切りに気絶した。
その間、コンマ数秒。
「何なの、この人……」
「さ、さあ……」
あまりの事態に何がどうなっていて、何をどうすべきなのか分からずにいる二人。
けれどまあ、このままほったらかしにしておく訳にも行かないし、亢宿の傷の手当てもある、ということでその場に残ることにした。

気がつけば、足が震えている。
怖い、怖いのだ。
先ほど直面した、死の恐怖。
初めて味わう感覚が、こんなにも怖いものだなんて。

……また、あれを味わう羽目になるのだろうか。

この場所には、人を殺すことを何とも思わない人間がいる。
それを、証明されてしまった以上、可能性は0ではなく、寧ろ100に近い。
次、その場面に立ち会ったとき。

自分は、どうするのだろう。

ただ、一つ言えるのは。
「紗南」
隣にいてくれる、彼は。
「大丈夫」
今この場で、自分にとって唯一頼れる支えであるという、こと。

そう、まだ、前を向ける。

怖くは、ない。

聞こえないように小さくつぶやき、自分に少しだけ強く、言い聞かせた。

65激走! トマランナー! ◆F9bPzQUFL.:2013/10/10(木) 00:57:30 ID:lhe/urCI0
【B-5/森林/昼】
【ペルソナ@学園アリス】
[状態]:左腕遺失、軽い火傷
[装備]:ゾラキ 925(22/25)
[道具]:基本支給品、不明支給品(1〜5、棗の物を含む)
[思考]
基本:人を殺す

【C-5/キャンプ場/昼】
【森田忍@ハチミツとクローバー】
[状態]:め っ ち ゃ 疲 れ た 、気絶
[装備]:無効化のアリスストーン@学園アリス
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜2)
[思考]
基本:正義のヒーローとして振舞う
1:寝
[備考]
※バトルロワイアルのことをよく理解していないです
※というかピーター・ルーカスの映画撮影だと思ってます

【倉田紗南@こどものおもちゃ】
[状態]:健康、困惑
[装備]:制服(私物)
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜1)
[思考]
基本:とりあえず生き残る
1:どうしよう
[備考]
※参戦時期は本編終了後

【亢宿@ふしぎ遊戯】
[状態]:右目の辺りが腐食、脇腹を負傷
[装備]:リコーダー、包帯
[道具]:基本支給品、不明支給品(1〜3)
[思考]
基本:紗南と行動を共にする 
1:どうしよう
2:青龍七星士として呼ばれたのか?
3:朱雀の巫女、鬼宿と会ったら…
[備考]
※参戦時期は川で流された後、美朱と再会前

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投下終了です。

66名無しさん:2013/10/26(土) 23:15:27 ID:HsEjXxcM0
遅くなりましたが投下乙乙。
いやー森田さんが自重しないなーwおまえさーまじさー…w睡眠でどんだけ時間使うんだwwww
ペルソナさん勝手に誤解して退散したけど結果的に双方よかったのかもしれないと思わせる森田さんぱない
亢宿が徐々に覚悟を決めてきているがはたしてどうなるか期待

67 ◆F9bPzQUFL.:2013/11/15(金) 00:45:45 ID:wJ76rJhQ0
月報集計お疲れ様です。
少女漫画. 39話(+ 1) 33/40(- 0) 82.5(- 0.0)

68 ◆F9bPzQUFL.:2016/06/11(土) 15:45:47 ID:D2U2vMHA0
投下します

69魂の迷い子 ◆F9bPzQUFL.:2016/06/11(土) 15:46:16 ID:D2U2vMHA0
 自分が目覚めたのがデパートであったのは、不幸中の幸いだった。
 ドライバーを始めとした工具は、日用品レベルのものなら手に入るからだ。
 工具さえ手に入ってしまえば、あとはこっちの物だ。
 デパートの一角に置かれた家電とパソコンを、片っ端から分解していく。
 あらかたの家電とパソコンを部品に戻した所で、いざ、と言いたいが。
 手元にある工具は、あくまで日用品レベルだ。
 本格的にモノを作るのだとすれば、これでは少し心細い。
 だから、まずは"工具"を生み出していく。
 ひとつ、ひとつ、またひとつと組み合わせていくことで、急ごしらえの"工具"を作っていく。
 一つ工具ができれば、作れるものの幅が広がる。作れるものの幅が広がれば、作れる工具も増えていく。
 ひとつ、ひとつ、けれど確実に進めていくことで、可能性は広がっていく。
 可能性が広がれば、それは自分の力になる。

「よし、と」

 一息つき、汗を拭う。
 気がつけば、このデパートにあった殆どの家電を分解していた。
 これほどまでに集中できたのは、やはり殺しあいという異常事態だからだろうか。
 生み出した工具の数もさながら、数時間の時を経て完成したそれは、なかなかの力作だ。
 見た目こそ不思議な生き物だが、その正体は即興のパワードスーツだ。
 予想よりも出来が良くなったのは、近年の家電が高性能化しているおかげだろう。
 それに感謝をしつつ、蛍は出来上がったそれを見上げる。
 珍しく考えこむポーズを取り、しばらくした後、何かを閃いたかのように口を開く。

「モゲ太……そうね、これの名前は、モゲ太よ」

 そう、それはなんとなしに付けた名前だった。
 家電からパーツをもいで作ったから、モゲ太。
 そんな単純な理由だった。
 よもや、それと同じ名前のキャラクターが居ることなど知るわけもなく。
 まして、そのキャラクターとスーツの外見が、酷似していることなど、気づくわけも無かった。

「ひとまず、動作確認よね」

 名付けも終わった所で、蛍はモゲ太へと乗り込んでいく。
 コクピットは自分が乗り込むことしか考えていなかったため、ギリギリのサイズだ。
 だが、逆を返せば自分にフィットしているとも取れる。
 欲しい情報は、手を伸ばせば直ぐ手に入るようになっているのは、我ながら惚れ惚れする出来だ。
 ふっ、とニヒルな笑みを浮かべた後、蛍はゲームコントローラで代用した操縦桿を握り、モゲ太を動かし始めた。

70魂の迷い子 ◆F9bPzQUFL.:2016/06/11(土) 15:46:38 ID:D2U2vMHA0
 


「くそっ、見失った……」

 脱兎の如く逃げ出した少女を追って、由希はデパートへと足を踏み入れた。
 一階に広がっていたのは、婦人用のファッション用品の数々。
 展示された宝石、無数のマネキンたちと、綺麗な服が多数かけられたハンガーラック。
 少女一人が隠れる分の隙間は、いくらでもある。
 途方も無いことだとは思うが、探していくしか無い。
 せめて、何か手がかりがあればいいのだが。
 そう思いながらも、一つ一つ物陰を探し始めた時だった。

「うぎゃーーーーーーーーーーーーっ!?!?」

 別の階で響いたの、叫び声。
 間違いない、さっきの少女の声だ。
 どうやらこのデパートには、先客が居たようだ。
 そして、別の階に逃げ込んでいた少女は、その先客と鉢合わせした。
 願わくば、その先客が"そういう人間"で無いことを祈りながら。
 階段を駆け登った先、そこで由希が見たもの、それは。

「えっ……」

 思わず、そんな言葉が漏れる。
 いや、声を漏らさずにいられる訳がなかった。
 何故も何もない、そこに立っていたのは。

「モゲ……太……?」

 由希もよく知っている、アニメキャラだったのだから。
 しかも、成人男性よりも一回りほど大きい。
 アニメよりゴテゴテとした外見なにが少し気になるが、と思っていた時だ。
 なんと、モゲ太が迷いもなくこちらへ向かってくるのだ。
 まさか、モゲ太が敵だと言うのだろうか。
 ちょっと理解が追いつかないが、最悪のケースを想定しつつ、由希は散弾銃を構える。
 まさかこんな事になろうとは、そういえば映画でもモゲ太は人を襲っていた気がする。
 いや、本当にモゲ太が存在するとでもいうのか、馬鹿馬鹿しい。
 そう思っているうちにも、モゲ太はどんどんこちらへ近づいてくる。
 どうする、どうする、どうすべきだ、思考が回る――――

『あの』

 その時に聞こえたのは、機械を通したような、別の少女の声だった。

『手伝ってくれませんか、怪我してる女の子がいるんです』

 そう言って、モゲ太はぺこりと頭を下げる。
 思考が、ストップする。
 もはや何がどうということなのか、考えられなくなっていた。
 銃を構える余裕などあるわけもなく、ただ単に、ぼうっとモゲ太の姿を見ていた。
 すると、モゲ太の傍から一人の少女が現れ、由希の目の前へと足を進めてきた。

「初めまして、今井蛍と申します。お願いです、手を貸してくれませんか?」

 少女、蛍の名乗りに、ようやく意識を現世に戻した由希は、ゆっくりと肯定するように頷いた。

71魂の迷い子 ◆F9bPzQUFL.:2016/06/11(土) 15:46:54 ID:D2U2vMHA0



 予想通り、といえば予想通りだった。
 怪我をしている少女というのは、先ほど由希を見て一目散に逃げ出していった、あの少女のことだった。
 聞けば、モゲ太は蛍が作ったパワードスーツ(なんて言葉を使うとは思っていなかったが)らしく、それの動作確認をしていた時に、少女と鉢合わせてしまったらしい。
 自分の顔を見るや否や逃げ出すほど追い詰められていた少女が、傍から見れば怪物にも見えるそれを見て、気を保っていられるわけもなく。
 気を失ってしまった少女を見て、どうするべきかと悩んでいた時に、由希が現れたのだという。
 それから、モゲ太を作ったのは蛍であること、アリスと呼ばれる超能力の話を含め、由希は蛍の話を聞いていた。
 超能力なんて信じてはいなかったが、目の前で見せられては流石に信じざるを得なかった。

「由希さんは、これからどうするんですか」

 デパートの一角の薬局から拝借してきた薬を掛けあわせ、一通り治療が終わった所で、蛍は由希へと語りかける。
 答えは分かりきっている、今更という気持ちもあるが、それでも蛍はちゃんと聞いておきたかった。
 少しの沈黙を経て、由希はゆっくりと蛍へ語る。

「決めたんだ。僕はこの殺し合いに抗う、誰も殺したくないし、死にたくもない。みんなで生き残りたいんだ」

 今は眠る、少女の姿を見て決めたこと。
 天秤をひっくり返す、日常を取り戻す。
 誰かを傷つけること、ましてや人を殺すことなんて、出来るわけもなかった。

「本当に、そんなことが出来ると思いますか」

 その答えを聞いた蛍が返したのは、そんな言葉だった。

「……こんな小さな子が追いつめられて、気を失ってしまうくらいだというのに。
 それでも由希さんは、"その気"の人間まで殺さずにいられますか」

 小学生とは到底思えない落ち着きで、蛍は口を開き続ける。
 その言葉に、由希もはっとする。
 そう、ここは殺し合いの場。
 人が人を殺し続けないと生き残れない、そう告げられている場所。
 その言葉に乗せられて、既にその気になっている人間も少なくはないだろう。
 そんな人間に襲われても、自分は"不殺"を貫けるだろうか。
 他人の幸せを奪おうとしている人間の幸せさえも、守ることが出来るだろうか。

「戦わなくちゃいけない時だって、あるんです」

 そんな心を見透かされているかのように、蛍の言葉が続く。
 言葉を詰まらせる由希をじっと見つめながら、蛍はその姿を"彼女"と重ねる。
 無鉄砲で、ハチャメチャで、でも人を思いやる優しい心をもつ少女は、この場所のどこかで人殺しを止めようとしているのだろう。
 そしてきっと彼女も、彼と同じように悩んでいるのだろう。
 その時自分は、彼女の言葉を聞けるだろうか。
 彼女の命を脅かす存在さえも、守ろうとする彼女の言葉を。
 それとも、彼女を守るための動くことを優先するだろうか。

 現実は、重い。
 気づいてしまった、気づかせてしまった、故に二人は足を止める。
 掲げた理想と目標を達成するためには、何かを捨てなくてはいけないのだろうか。
 もし、そうだとすれば。

 その時、自分は"何"を選ぶのだろうか。

72魂の迷い子 ◆F9bPzQUFL.:2016/06/11(土) 15:47:14 ID:D2U2vMHA0
 
【F-2/デパート内・家電売場/昼】
【今井蛍@学園アリス】
[状態]:健康
[服装]:学園の制服
[装備]:スタンガン、自作パワードスーツ(モゲ太型)、癒しのアリスストーン@学園アリス
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜1(本人確認済み、自分の発明品・工具は無い)
[基本行動方針]:人殺しには乗らずに蜜柑(たち)と生き残る、ルールには乗らない
[思考]
基本:殺し合い以外で助かる方法を模索する
1:由希と行動、少女(はぐみ)が起きるまで待つ。
2:蜜柑、棗と合流する。
3:ペルソナ、小泉月の危険度を教える。
[備考]
※参戦時期は16巻終了直後です
 ・小泉月のアリスが人を操れること、蜜柑に盗みのアリスが潜在していることを知っています

【草摩由希@フルーツバスケット】
[状態]:左手負傷(手当済み)
[装備]:ウィンチェスター M1887(5/5、予備弾10)@現実
[道具]:基本支給品、アリス学園高等部制服@学園アリス、「水の館」の台本@こどものおもちゃ
[思考]
基本:絶対に生き残る。
1:蛍と行動、少女(はぐみ)が起きるまで待つ。
[備考]
※参戦時期は本編終了後

【花本はぐみ@ハチミツとクローバー】
[状態]:気絶、恐怖
[装備]:
[道具]:基本支給品(不明支給品1〜3個)
[思考]
基本:友人を探す
1:――――

※はぐの怪我はアリスストーンで完治させました

---
以上で投下終了です。

73名無しさん:2016/06/13(月) 21:56:50 ID:AP39A43Q0
投下乙―!
蛍の能力はロワでも利便性高いなあ。っていうか、モゲ太……w
こういうクロスオーバーもロワの花だよね!
一方での由希君も、ロワではある種定番の悩みにぶち当たり、さて。
定番だと思う反面、大事な人、大切な人がいる舞台での取捨選択も少女漫画っぽくていいよなあ。
由希君だけでなく、蛍も、そしてはぐみも。

74束の間の休息 ◆F9bPzQUFL.:2016/06/16(木) 23:57:08 ID:sqxrrFNA0
 何度も何度も、飽きるほどに毎日聞いた、良く知った声。
 当たり前に聞けると思っていた、日常の欠片。
 何気ないそれが、日常が崩れ去った今は、この上なく嬉しい。
 だが、そんな感傷に浸っている時間はない。
 そうしているうちにも火は燃え上がり、次々に木々を飲み込んでいく。

「とにかく、ここはヤバイ。逃げるよ!!」

 再会を悠長に祝いあっている時間はない。
 ここでそんなことをしていれば、あっという間に丸焦げ死体が二体出来上がりだ。
 燃え上がる炎を背に逃げるなんて、映画でしか見たことがなかったが、まさか自分がそんな状況に陥るとは考えもしなかった。
 こんなにも熱いのならば、一度限りで御免被りたいものだ。
 そんな事を考えながらも、走りだしていた光の耳に、少し弱々しい声が届く。

「待っ、ひか……待っ……」

 そうだ、藤岡ハルヒという人間は、運動音痴が服を着て歩いているような、運動神経の持ち主だ。
 自分の全力の走りになんて、着いてこれるわけもない。
 いつもなら「トロいやつだな」と馬鹿にする場面だが、今はそんなことを言っていられない。

「ああっ、もうっ!!」

 半ば自棄になりながら、光はハルヒの体をひょいと抱える。
 正直、軽くはないが、見捨てることになるより、何倍もマシだ。
 人間追いつめられたら、普段の何倍もの力が出るとは聞いたことがあるが、多分これもその一種なのだろう。

「捕まってろよ!!」

 彼女を救うのは、キングの仕事だろう。
 そんな事を思いながら、光は一目散に走りだした。

75束の間の休息 ◆F9bPzQUFL.:2016/06/16(木) 23:57:37 ID:sqxrrFNA0



「はあっ……はあっ……はあっ……」

 途切れ途切れの上がりきった息と、水が静かに流れる音。
 体力の限界を迎え、あたりに構わず倒れ伏した光を、ハルヒは心配そうに見つめている。
 そんなハルヒに対し、光はにっと笑顔を作る。

「……ありがとう」
「気に、すんなよ」

 途切れ途切れの息では、会話も難しいか。
 こんな他愛もない会話をこなすのが難しいくらいには、疲れているということか。
 それでも、光は会話ができることが嬉しかった。

「おい、泣く奴が、あるかよ」

 ふと、ハルヒの顔を見て気がつく。
 そう、彼女は自分の顔を見つめたまま、ぼろぼろと大粒の涙を流していたのだ。

「だって、だってッ……」

 拭っても拭っても、涙が止まらない理由、それは。

「怖かった、怖かったんだよ!!」

 恐怖。
 殺し合いという異常な事態の中で、少し弱っていた精神には、火事という現象はいつもよりも怖く見えた。
 それは、少女の心を少し壊すには、十分すぎる恐怖だった。

「……俺だって、怖かっ……たさ」

 その言葉を受けて、光は思い出してしまう。
 火事から逃げ出していた先ほどまでの光景、ではなく。
 この殺し合いが始まってから、初めに出会った人間の事。
 錯乱しながら、自分に刺さったナイフを引き抜いて襲ってきた時の、顔。
 あれほど恐ろしいものを、光は今まで知らなかった。
 これから先、またあんな顔の人間に出会ってしまうのだろうか。
 その時、自分は正気を保っていられるのだろうか。
 そんな事を、考えてしまう。
 だから今は、彼女の顔をしっかりと見ておこうと思った。
 今だけだったとしても、この安心感を胸から離したくはなかったから。
 光は、ハルヒの顔を見て、もう一度笑った。

【C-6/橋の近く/昼】
【常陸院光@桜蘭高校ホスト部】
[状態]:少し安心、制服は返り血塗れ、疲労(大)
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品(1〜3)
[思考]
基本:とにかく馨に会いたい
1:休息

【藤岡ハルヒ@桜蘭高校ホスト部】
[状態]:疲労(中)
[装備]:防火服
[道具]:基本支給品、不明支給品(0〜2)
[思考]
基本:とにかく、人殺しはしない。
1:休息
2:他のホスト部員との合流。
3:森田はひとまず保留

76 ◆F9bPzQUFL.:2016/06/16(木) 23:58:14 ID:sqxrrFNA0
投下終了

77錯綜する、心 ◆F9bPzQUFL.:2016/06/18(土) 01:59:57 ID:5PiEMPPc0
 雨は降っていないのに、ざあざあとノイズが響く。
 時が凍りついたかのように、何も動かない。
 一つの死体を挟んで向かい合う、二人を除いて。

「何やってんねんって、聞いてんねん」

 今の状況を理解するのは簡単だが、理解したくないという感情が勝っている。
 当たり前だ、知っている人間が"殺人"に手を染めているなど、認めたいわけがない。
 だから、風花は両手を赤に染めている直澄に問いかける。
 再び沈黙が続き、空気が次第に重くなっていく。
 少しの間を置いて、直澄はゆっくりと口を開く。

「……突然この人が現れて、それで、死んだ」
「そんなん、信じろって言うんか」

 直澄がようやく振り絞った言葉を、風花は即座に切り捨てる。
 この殺しあい自体が、信じられないような現象であるのは確かだ。
 しかし、だからといってそんなマジックのような話を、おいそれと信じられる訳も無かった。

「そうとしか、僕からは言えないよ」

 だが、直澄からすれば、それが事実なのだ。
 まるでアニメや漫画のような話だと、自分でも思う。
 けれどそれが現実なのだから、そう語るしか無いのだ。

「せやったら、証明してや」
「え……?」

 半ば諦めていた直澄に突き刺さる、風花の言葉。
 どういうことだ、といった表情を浮かべる直澄に、風花は表情を変えずにそのまま続ける。

「あんたが人を殺してへん、殺すつもりもあれへんって事を証明して。
 うちの所に、あんたの袋を投げてよこすくらい、出来るやろ」

 風花の要求は、シンプルだ。
 武器や道具の入った袋を投げて渡す、たったそれだけのこと。
 本当に人殺しではないというのならば、それが出来るはずだと、風花は思っていた。

「……できないよ」

 だが、少しの間を置いて帰ってきたのは、否定の言葉だった。
 眉をひそめ、風花は直澄の顔を睨みつける。

「なんでや」
「だって、ここは殺し合いをする場所だ」

 風花の問いに、直澄は即答する。

「僕だって、死にたくはない……」

 そして、目をそらす。
 そう、ここは人と人が殺し合う、地獄のような場所だ。
 そんな場所で武器を失うということは、どういうことか。
 万が一、誰かに襲われた時に、抵抗する手段が無くなるということだ。
 誰だって、死にたくはない。だから、道具を手放すことが出来なかった。

78錯綜する、心 ◆F9bPzQUFL.:2016/06/18(土) 02:00:10 ID:5PiEMPPc0

「はっ、そういう事かいな」

 だがその答えは、この場においては最悪の事態を招く。
 風花からしてみれば、武器を手放すつもりがないということは、人殺しであると認めたことにも等しい。
 だから、風花は蔑むような目で、直澄を見つめる。
 お前は人殺しだ、自分とは違う、と言い聞かせるように。

「ち、違う! 本当に僕じゃない!!」
「近寄んな人殺し!!」

 弁明しようと声を上げる直澄に、風花はついに刀を向ける。
 風花にとっては、今の直澄は人殺しとしてしか映らなくなっていた。
 もし、普段の彼女であれば、もう少しまともな判断が出来たかもしれない。
 だが、直澄は知らない、知る由もない。
 間接的にとは言え、彼女が既に一人の人間を殺していることを。
 その事実が、彼女の精神を摩耗させきっていたことを。

「うちはアンタとは違う! 人殺しなんてまっぴら御免や!!」
「分かってる、僕も同感だ」

 自分は人殺しだと認めたくない、だから人殺しに近寄られたくない。
 認めたくない、認めたくないから、近寄られたくない。
 だから、風花は拒絶するように、刀を振るう。

「来んな!! 来んなって言ってんねん!!」

 型もへったくれもなく、ぶん、ぶんと大振りに振るう。
 女子のそれとはいえ、鋭利な刃物が振るわれているのは怖い。
 だから近寄れず、少し遠くから風花の様子を見ていた。

 もしこの時、直澄が体を張って止めていれば。
 もし少し前、直澄が袋を投げ飛ばしていれば。
 もし初めに、風花が人を殺していなければ。

 そして今、風花は闇雲に刀を振るっている。
 初めて見た死体から、全速力で逃げ出したが故に彼女の体力は落ちている。
 擦り切れた精神では、それを判断できるほどの思考能力は残されている訳もなく。

 もしと、今。
 細かな全てが、積み重なり。
 それは、招かれた。

79錯綜する、心 ◆F9bPzQUFL.:2016/06/18(土) 02:00:23 ID:5PiEMPPc0

「え」

 するり、と風花の手から滑って抜けた刀が。

 直澄の胸に、深々と突き刺さっていた。

「あ――――」

 はっきりと映ったその光景は、風花の意志を崩壊させるには十分で。

 声にならない声を絞り出しながら、風花はその場から逃げ出した。

「あ、っちゃ…………」

 ごふり、と血を吐き出しながら、直澄はその場に倒れこむ。
 投げ飛ばされた勢いも相まって、刀は思っていたよりも深く突き刺さっている。
 手当すれば間に合うかもしれないが、そんな人間なんてどこにも居ない。
 そんなことを考えているうちにも、血は流れていくし、感覚はどんどんと失われていく。
 少しずつ、体の自由が奪われていく感覚が、はっきりと分かる。
 演技でもなく、欺瞞でもなく、本当の"死"という感覚。

「……怖い、な……」

 初めて味わうそれを、しっかりと噛み締めながら。
 直澄は、ゆっくりと目を閉じた。

【加村直澄@こどものおもちゃ 死亡】
【残り32人】

※白虎の刀@BASARAが胸部に突き刺さったままです。
※支給品袋は遺体傍に放置されています

【G-2/南西部/昼】
【松井風花@こどものおもちゃ】
[状態]:吐き気、震え、殺人に対する恐怖
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、黒板セット@現実
[思考]
基本:――――――


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