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0さん以外の人が萌えを投下するスレ

1名無しさん:2010/05/07(金) 11:07:21
リロッたら既に0さんが!
0さんがいるのはわかってるけど書きたい!
過去にこんなお題が?!うおぉ書きてぇ!!

そんな方はここに投下を。

33125-59 俺のこと好きなんだろ?:2012/10/04(木) 06:25:16 ID:o22jxjt.
私は常識を逸脱したものが著しく嫌いだ。
2年C組の原田は、私の理解の範疇から一歩、いや何歩も踏み外している。
何度注意しても直さないボサボサの金髪。
ゴムで縛った前髪が、教壇から一番遠い最後列とは言え、非常に目障りだ。
そして何より座り方がおかしい。
椅子の上で、ある時は体育座り、ある時は胡座、またある時は正座。
数学の授業なのにこいつが腐心しているのは間違いなく、難しい解を求めることよりも、難度の高い座り方に挑戦することだ。
今は坐禅を組もうとして、必死に右足の上に左足を乗せようとしている。
おい、落ちるぞ。

気づくと、教室のあちこちから含み笑いが聞こえる。
「先生、板書間違ってます」
「え?…」
黒板に目をやると、『原田からの距離』という、紛れもない自分の文字が飛びこんできて、息が止まりかけた。
「あ、あぁ…すまん」
慌てて『原点からの距離』と書き直す。
恥ずかしさで耳が熱い。
私がこんなミスをするなど初めてだ。意味がわからない。

突然、教室の後ろからガタッと大きな音がした。
やっと坐禅を組むのに成功したらしい原田が、バランスを崩しかけて机にしがみついた音だった。
生徒の目線は原田に集まり、その体勢を見て教室は笑いに包まれる。
私も思わず苦笑がもれる。
照れたように笑っていた原田の目が、いきなりこちらを向いたかと思うと、なぜかパアッと明るくなった。
「先生、笑った」
え?
「やっぱさー、先生、」
何だ。
「俺のこと好きなんだろ?」
何を言い出すんだこいつは。

一斉に笑い声が起きる。
「何言ってんだよ」
「原田が先生のこと好きなんだろ」
「お前数学の授業しか出ねーじゃん」
囃し立てる生徒の声がやけに遠くに聞こえる。
原田が何を考えているのかも、自分が次に取るべき行動も、何一つわからない。
こんなの、完全に私の理解の範囲外だ。
私はやっぱり、原田のことが大嫌いだ。

33225-139 軽薄色男受けが本気になる瞬間:2012/10/15(月) 00:31:05 ID:hLv8qZ.A
トロトロ書いてたら被ったのでこっちで萌え語りさせて下さい


恋愛的な意味や性的な意味で本気になる軽薄受けも萌えますが
個人的には戦闘的な意味で本気になる受けを推したいと思います
軽薄で色男、きっと情報を仕入れたり助っ人にするには重宝するけど
一生背中を預ける相棒としては心もとない微妙な存在なのでしょう
そしてそういう性格になったのにも暗い過去やらトラウマやらがあるのでしょう
そんなめんどくさい受が本気になる程惚れるまで攻は相当苦労したと思います
「そいつは止めとけ」と周りに反対され、実際に何度か受けに裏切られ
それでも受けを信じ背中を支え預ける事の出来る男前な攻めさん
そんな攻が瀕死のピンチになり逃げる事も出来ない絶体絶命の時こそ受けが本気を出すのです
明らかに格上の敵に囲まれ、攻めに「僕なんか置いて逃げろ!」と言われ
それでも引かずに出せる限りの本気で戦う覚悟を決める受け
「昔ならお前さんなんか簡単に見捨てれたのになぁ…」
なんて攻めにぎこちなく笑いかける受けはさぞ美しい事でしょう
その後は覚醒した受けが一人で勝っちゃうような愛の力最強展開も萌えますし
受もボロボロになった頃何かが切っ掛けで助かる負けイベント展開も美味しいと思います
(ボロボロの二人で「負けちゃったな」「負けちゃったね」な会話が入るとさらに良いと思います)
またボロボロになった受を見て愛の力で攻復活→力を合わせて逆転勝ち展開も素晴らしいですし
勝ち目が無いと悟った二人が心中するようなBADENDもそれはそれで良いと思います
ですが個人的には勝ち目が無いと悟った受けが最後の力で攻めを回復させる展開が好きです
回復した後「カッコよく護ってあげられなくてごめん」と言い残し死んでしまう受け
肉体は護られたが心は酷く傷付いた攻と肉体は死んだが心は報われた受の対比
そしてビターなEDは今まで軽薄だった受だからこそ生み出せる結果だと思います

つまり何が言いたいかというとたった一人の攻にだけ本気で尽くせる軽薄色男受めっちゃ萌える

33325-209 どんなぱんつはいてんの? 1/2:2012/10/25(木) 03:33:44 ID:9xOU8aik
「どんなパンツはいてんの?」

真夜中に女装して歩いてる所を幼馴染の亮に見られた
慎重に、慎重に、と気を使っていたつもりだったが努力は無駄だったようだ
性癖を除いてだが今まで真面目に生きて来たこの十数年もここで終わる
そういう覚悟を決めて今まで隠してきた全部を亮にぶちまけた
その結果返ってきたのが「どんなパンツはいてんの?」という言葉だ
「…僕の話聞いてた?」
「ん、聞いてたから、下着も女物なのか気になった」
「……普通のトランクスだよ」
呆然とした頭で半ば条件反射のように僕は答えたが
返ってきたのは「ふーん」という気の抜けた返事と
「お前心は女なの?」という更なる質問だった

「さっきも言ったろ!?男だよ!
 男なのに女の服着て喜んでる変態なんだよ僕は!
 やっぱり僕の話聞いてなかったんじゃないか!」
みっともない位取乱した僕といつも通り淡々とした態度の亮との
違いが悔しくておもわず感情のままに捲くし立てた
「いやお前"女装癖がある"とはいったけど心が男か女かは言わなかったじゃん
 ていうかさ、オレがお前の話ちゃんと聞かなかった事とかあったっけ?」
やっぱり亮は嫌味な位冷静で淡々としていて、僕は心底情けない気分だった
「…ないけどさ」
泣きそうな声でポツリと言うと
「だよなぁ」
何だか少し楽しそうな声が返ってきた

33425-209 どんなぱんつはいてんの? 2/2:2012/10/25(木) 03:34:43 ID:9xOU8aik
「こんな女装男と居る所見られたら君まで誤解されるよ
 大体亮だって僕が変態だって知って幻滅しただろ…、もうさっさと帰ってよ」
やっぱり泣きそうな声でそう言った瞬間堪えきれなくなった涙が一粒足元に落ちた
いい歳した男が女装して幼馴染の前でメソメソ泣いてる、本当になんて情けないんだろう
「まあオレもゲイでネコだからさ、変態同士って事でそんな気にしなくてもいんじゃない?」
感傷と絶望に浸っていた僕はサラリと告げられたとんでもない発言に弾けるように顔を上げた

「なッ、何それ!嘘!?僕の事からかってる!?」
「オレがお前に嘘ついた事とかあったっけ?」
「ないけどさ!ないけどさぁ…!!!」
夜中って事も忘れて大声で叫ぶ僕の口にしーっと人差し指を当てる亮
「そんなに信じらんないなら好みのタイプでも教えようか?
 えーと、真面目な慎重派で鈍感で思いつめやすい手のかかる感じの…」
「うわあ!いい、もういい!何かリアルでヤダ!」
余りにも衝撃的過ぎる展開に感傷と涙は引っ込んでしまった

僕は亮の手を引っ張って早足の大股でズカズカ家へと向う
「と、とにかく一回ちゃんと話しようよ、今日は僕の家に泊まって貰うからね!」
「なあ、さっきの続きさぁ、自分の事より他人の心配ばっかする様な奴が好みだよ、オレ」
「それはもういいってば!幼馴染の好みの男性像とか聞きたくないよ僕!」
すっかり忘れてたけど僕今女装中だし亮に色々聞かなきゃいけないし
速く部屋まで戻らないと、いつも通りゆっくり歩く亮を半ば引き摺るように進む
「…はぁ〜、にぶちん」
「え?亮なにか言った?」
「さあ、空耳じゃないの?どうでもいいけどさ、今日月綺麗だね」
言われて夜空を見上げてみると確かに今日の月は濃い黄色が綺麗だった
「ん、ほんとだ綺麗、言われるまで気付かなかった」
「ダロ」

(…やっぱ、にぶちん)

335強がらない:2012/10/27(土) 19:41:45 ID:9P9LIwa.
沢田は昔から強がりだ。

俺は今、沢田が大学で1番の美女に一世一代の告白をした河原の土手にいる。
沢田は隣に座っている。見てる奴なんか誰もいないのに、泣かない。沢田は幼稚園の頃から一度も、人前で泣かない。

しかし泣きたいのは本当は俺の方だ。
何が悲しくて10年も片想いをしている奴の告白を見届けなければならなかったのだ。
フられてホッとしているなんて、沢田には死んでも言えない。

でも。沢田と違って強がれない俺は、好きな奴が悲しそうなのを見て、そして、俺が1番言われたいことをあんな女に言っていたのを見て、懸命に涙を我慢している。

「しん、なんでお前が泣きそうなんだ」
沢田は俺の顔なんか見なくても、俺が泣きそうなのをわかっている。
「お前が強がって泣かないからだ」と答える。本当は違うが。

「じゃあ、お前が泣けないと言うのなら、おれはもう強がらない。泣くよ。お前も泣け」

驚いて隣を見ると、沢田は初めて俺の前で泣いていた。ただ静かに、涙を流していた。

だが、俺は泣かなかった。
沢田、知っていたか?
俺は、お前が俺の目の前で安心して泣けるような男になるのが、小さい頃からの夢なんだよ。
大きく息を吸って、沢田の手を握った。

「沢田、俺はお前の事がずっと」

336暗殺者と虐殺者:2012/10/31(水) 12:16:44 ID:5jva7xIM
暗殺者は受けた仕事を淡々とこなし感情は込めないし仕事を選ぶこともない。
虐殺者のほうは自分の価値観で仕事を選び、許せないと思った奴だけを残虐な殺しかたで殺す。
全然違う人種なのにお互いを「人殺しは斯くあるべき」と尊重していた。

顔も名前も知らなかった2人が偶然出会い、同業者ならではの鋭さでお互いに正体を知られ、自分を偽ることなく関係を築き上げていき、今までの罪と向き合い2人で足を洗うかと悩みだしたその時、それぞれに対して殺意を向ける復讐者が現れ、暗殺者には虐殺者暗殺の依頼が、虐殺者には暗殺者虐殺の依頼が届く。



…という心中ENDまっしぐらな設定を数分で思いついた。
誰か最後まで完成させてくれたらいいのに。

33725-459 京都人×東京人:2012/12/04(火) 06:48:56 ID:KoHSiJGY
地元の人から見たら京都弁が間違ってる感じがありまくりですが
脳内補正していただけると助かります。
==========

出会ったのは夏の頃、その1年後に同棲することになった2人。
「食事の支度は交代で」というルールになり、最初のうちは
「はぁ? なんでお出汁取るのに昆布使わへんの?」
「えー、そんな薄い色の醤油使った煮物なんて美味しくなさそう」
とか言いつつ少しずつ妥協点を見出してきたのだけど、
大晦日の晩に正月用の雑煮の仕込みをしているときに
作り方の決定的な違いに気がついてケンカになった。
「嫌やわぁ、切り餅なんてめっそうもない。
 ましてやお醤油色の雑煮なんて絶対あきまへんえぇ!」
「おい、それ味噌汁に餅入れただけだろ、
 そんなの正月じゃなくても食えるじゃねーか!」
そのままケンカは互いの実家のお節料理の違いにまで発展し、
「もういい! 黒豆のちょろぎを馬鹿にする奴の顔なんか見たくない、
 ここから出ていけ!」
「出てけとは何様どすか?! いも棒の美味しさを分からへん人のことなどもう知らん、
 言われなくても行くわぁ!」
と京都人の方が家出することになった。

当初はお互い頭が沸騰していて気がつかなかったけど、
あとは餅を茹でて入れるだけの状態まで作った白味噌雑煮の味見をした東京人、
実は普段食べている味噌汁よりも奥深い味わいで美味しいことに気がつき、
慌てて部屋を飛び出して京都人を探しに行く。
一方の京都人、あまりに慌てていたので上着を着るのを忘れ、
東京人が飛び出したのと入れ違いにこっそり部屋に戻ってきた。
自分が雑煮を仕込んでいた鍋とは違う鍋が台所のコンロに乗っているのを見つけ、
そこには東京人が仕込んだ澄まし雑煮の汁が入ってたので何気なく味見。
実は「あまりに醤油の色をつけたら食べにくいだろう」と思って
東京人が京都人に合わせて薄口醤油で仕上げてあることに気がついた。
やはり京都人も慌てて東京人を探しに部屋を出ようとしたところ、
玄関先で鉢合わせ。
「お前何やってるんだよ?」
「さぶいぼ立つほどひやこいさかいに上着取ってこよか思うて。
 あんさんこそ何してますの?」
「探しに行くのにむやみに歩き回るよりはと思ったから自転車の鍵を取りに…。
 というかさぁ、互いに作った雑煮を1杯ずつ食えばいいんじゃないか?」
「ああ、それがええ。ほなそうしましょ」
翌朝互いに作った雑煮を交換して食べたが
「うっぷ。さすがに餅4つは多い…」
「あーしんどい。他のごっつぉ入らんわぁ」
と苦しいお腹をさすりながら足を伸ばし、
こたつに入ったまま畳に寝転ぶ姿はどちらの地方も差がないのだった。

この2人は毎年正月の雑煮をそうやって2杯食べるといいと思うよ。

33825-639 酌み交わす:2012/12/20(木) 13:00:17 ID:8oJIvay6
萌え語りさせてください
1.忘年会で返杯につぐ返杯で、酔ってタメ口になって和気藹々と明るく酌み交わすリーマンが一番に浮かぶけど

2.バブルの頃のクリスマス
デートの予定もないしバカ騒ぎのパーティも苦手で不参加の男同士(両片思い)が食事でもと出かけるが、どの店も満席で入れない
どっちかの家に行くのもなんか気恥ずかしくて、街うろついてやっと見つけたのは純和風の小料理屋
店の雰囲気でビールではなく熱燗頼むけど、お銚子や杯の扱いに慣れてなくてぶつけたり入れすぎたりと、ぎこちなく酌み交わして数十年
一緒に暮らしてる二人が、こんな冬の夜にコタツに入って熱燗をごく自然に酌み交わしながら鍋つついて暮らしてる、なんてのもいい

3.それなりの地位のライバルが、お前がまさかこんな所にくるのかって路地裏の屋台で鉢合わせ
帰るのは自分が逃げるみたいで嫌で、気に入らないけど同席することに
やる気のない店主が二人の間に一升瓶置いて仮眠してしまう
「冷かよ!」と文句言いながら飲むんだけど瓶の手酌は注ぎにくくて、会話はないのに自然と酌しあってコップ酒を酌み交わすとか

冬、男同士、酒って萌えの宝庫だ!

33925-699 あいみての のちのこころに くらぶれば:2012/12/28(金) 14:07:22 ID:hHGhJdFs
規制にひっかかってダメでした。700さんじゃありません。

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百人一首漫画にのせられて、競技カルタをはじめてみた。
やってみたら面白くなってしまって、俺は才能もあったみたいで
トントン拍子に勝てるようになってしまった。
運動神経もいいし、耳もいいし、勘もいい。地元では敵なしだった。
あまりにもちょろかったから俺は天狗になっていたんだろう。先輩から軽く戒められた。
「お前は確かに強い。でも、もっと強い人はたくさんいるぞ」
そりゃあいるのだろうけれど、そうですねと流していた。

ある日、お前の競技スタイルと違うから参考になるだろうと、先輩がDVDを持ってきてくれた。
テレビ出演してる時点で相当うまい人なんだろうとは思っていた。
だが、予想よりも強かった。本当に強かった。
こんな札の取り方があるんだ、守り方があるんだと、驚いた。
しばらく声も出なくて、やっと出た一声は
「この人と対戦するにはどうしたらいいんですか?」だった。
「お前、名人戦に出るつもりなのか」と先輩に笑われた。
その頃の俺は、名人戦にはどうやったら出られるのかも知らなかった。

彼とはじめて対戦するのは、それほどかからなかった。
別に俺が名人戦に出られるようになったわけじゃなく、
彼が地元に招待されて記念試合を若手としてくれたからだ。
あっさりと俺が負けた。彼は礼をしてニッコリしながらさっさと席をたってしまった。
俺はこんなに弱かったんだと茫然自失だった。

それ以降の俺は人が変わったように練習の虫になってしまった。
地元では練習相手が見つからず、カルタの為に引っ越していた。
もう一度、彼と戦いたくて。
もう一度、彼に逢いたくて。

『「逢ひ見ての のちの心に くらぶれば 昔はものを 思はざりけり」
恋しい人と逢瀬を遂げてみた後の恋しい思いに比べれば、昔の恋心などなかったようなものです―――』

女とやったら忘れられなくなりましたなんて、エロ思考な歌だと思っていたけれど、
それぐらい夢中になれる人に会ってしまったんだな。

数年たち、俺の目の前には彼がいる。
「よくここまでこれたね」
「頑張ったんで」
「思ったより遅かった」
今までの、冗談ではない本当に血のにじむような努力が頭の中を駆け巡り、
カチンときた俺はふてくされながら
「はあ?そうですか? 俺は思ったより早かったですけど」というと
「僕が年をとってから来れられても、卑怯だよ」と彼はさらりと答える。
そのくらいのハンデをくれたっていいじゃねえかと俺は心の中で毒づいた。
「じゃあ、よろしく」
「よろしくお願いします」
礼をして、俺は耳を澄ませた。
あとは、札を読む音と、畳のなる音だけが響いた。

34025-649 坊ちゃん×幼馴染の使用人:2013/01/02(水) 18:52:52 ID:kMwHVWgY
お題を見た時、坊ちゃん×坊ちゃんの幼馴染's使用人と勘違いしたw
萌語りをします。

腐れ縁の使用人がタイプ過ぎて、毎日押しかけたりセクハラしたり、引き抜きさせてくれと頼み込んだりする攻めに、面白がっている主人(幼馴染)の手前全力拒否できないドン引きな快活な受け。
攻めが大規模かつ空回りのプレゼントを用意したり、真面目になる攻めに時々絆されるけど身分の違いに迷う受けだったり、腐れ縁だからこそ攻めに辛い忠言をする幼馴染だったり。
スピンオフには、攻めの使用人×幼馴染なんて如何だろうか。


幼馴染の使用人に坊ちゃんと呼ばれる一般人の内気攻め。主人の昔からのご友人としか認識しない笑顔仮面の受け。
金持ちの使用人としてのしがらみや建前ばかりの受けの世界が分らなくて、理解しようと頑張りつつも本音を聞き出したいと受けに訴える攻め。攻めの真っ直ぐさに遠ざけたくなったり、攻めに近しい主人に嫉妬する自分に驚愕したりする受け。
幼馴染は昔から支えてくれた攻めと受けが幸せになることを何よりも望んで色々裏で手を回せばいい。


始めは文章を書くつもりだったが、途中で挫折しました。はい。

34125-729 寝正月:2013/01/03(木) 16:52:00 ID:jwbArMPs
正月早々病で床についているのは縁起が悪いので『寝正月』と言い換えるとは、先人たちは洒落ている。
だが、言い方を変えも病気は病気だ。
通いの者は三が日は休みを取って家には一人きり、さてとうしたものか。
食欲はないので、水だけで持たないだろうか?
ラチもないことを考えていると、縁側のガラス戸の開閉音と小走りの足音が聞こえてくる。
そして私のいる寝間の障子がからり開かれた。
「ああ、やはり寝込んでる」
「入ってくるな。風邪がうつるぞ!」
予想通りの相手に語尾を強めて言うが、彼は聞いていないかのように全く気にせず枕元に腰を下ろした。
「茶会に来ていなかったから、もしやと思ってきてみたら案の定だ」
「・・・・・・」
少しでも接触を避けるためと、こんな情けない姿を見られたくないのとで布団を目元まで引き上げるが、彼は腰を下ろすと手にしていた折り詰めを枕元に置く。
「料理を詰めてもらった。食べるか?」
今はまだ味の濃いものは欲しくなく、首を横に振る。
「なら蜜柑はどうだ?」
そういって袂から取り出しされた小ぶりの蜜柑を、つい凝視してしまう。
「剥いてやろうか?」
「自分で出来るから、とりあえず出て行ってくれ」
布団越しに小声で頼む私に、彼はあきれたようにため息をつき、
「せっかく来てやったのに、冷たい奴だな〜」
「うつしたくないから、出て行けと言ってるんだ!」
つい大声を上げてしまった私に、彼は怒るどころか笑顔を向けた。
「俺は丈夫だから平気だ。だから、お前が良くなるまでついていてやる」
「・・・・・・」
まったく人の話を聞かない彼に腹が立つよりも、呆れるよりも、一人でなくなることへの安堵を感じた。
「とりあえず粥でも作ってやろう」
「お前が!?」
「米と水があればなんとかなるだろ?」
それを食べるのは私か?と心配になったが、勝手場に向かう彼の後ろ姿を見送りまあいいかと思えてきた。
彼がいるなら、寝正月も捨てたものではないだろう。

34225-739 強くてニューゲーム(1/2):2013/01/04(金) 01:22:21 ID:8zR/OyEI
やり直しているんです。
彼と何の障害も無く一緒に居られるために。

僕は平民の出で、彼は良家の次男坊です。
身分差など気にせず、彼は対等に接してくれました。僕を見下したりしなかった。
僕の描いた絵を彼が褒めてくれて、屋敷に招いてくれたのが交流のきっかけです。
僕らは最初は良い友人になり、僕は彼の元へよく通うようになりました。
そしてじきに友情を越えて愛し合うようになったのです。
そのことはバレませんでしたが、彼の両親は、友人としての僕すら認めてくれませんでした。
無学な貧乏絵描きなど、友人に相応しくないと交友を阻まれたのです。
出自を考えれば当然のことだったのかもしれません。
しかし僕は諦められなかった。彼を説得し、僕らは逃げた。
ところが優しい彼は、捨ててきてしまった家族のことをずっと気にしていて、何度も連絡を取ろうとした。
その度に僕は説得していたけれど、そのうち彼は気に病むあまり、本物の病に倒れてしまったのです。
来世で会おうという僕への言葉と、家族の謝罪の言葉を口にして、彼は逃亡先で息を引き取りました。
僕は泣きました。同時に、どうしようもなく悔しかった。
来世だなんて、そんなもの。会えるかどうかわからないじゃないですか。
僕は嫌だった。僕は今生で彼と結ばれたかった。堂々と彼の隣に居たかった。
だから、やり直した。

彼の両親に見下されないように、僕は必死で勉強しました。
絵で稼いだ金はすべて本へとつぎ込みました。彼に釣り合う教養を手にしたかった。
ところがやはり反対されたのです。今度は家柄が釣り合わぬと言われました。
しかも、彼が席を外しているときに、ひどく高圧的に。
息子は将来この家を背負う人間なのだ、君のような者と付き合っていると堕落すると。
なんて馬鹿馬鹿しい人達なんだろうと思いました。あんな人達と彼とが血が繋がっているなんて。
あのときの悔しさが腹の底で蘇りました。僕は我慢できなかった。
その頃はすでに、僕と彼の関係は深くなっていました。
彼が僕の部屋で眠っているときを見計らって僕は彼の屋敷へ向かい、火を放ちました。
これで邪魔者は居なくなると僕は安堵していました。
ところが、計算外のことが起こった。
夜が明けぬ内に彼が目を覚まし、僕が居ないのを不審に思い、家の方へ戻ってきてしまったのです。
燃え盛る家を見て半狂乱になった彼は、僕の制止も聞かず家に飛び込んだ。
そして炎に包まれて、彼は焼け死んだ。
僕は心から後悔した。それこそ死ぬほどに。
だから、やり直した。

今度は彼に出会うずっとずっと前から、僕は準備しました。
慣れない媚を売って愛想笑いを浮かべて金持ち連中に取り入って、とある家の養子に収まりました。
屈辱的なこともありました。我慢も沢山しました。好きな絵を描く時間もなかった。
でも彼と共に居られない辛さに比べれば、なんということもありませんでした。
これで平民だと馬鹿にされることはなくなったのだから。
そして進学させて貰い、僕は彼に再び会うことができた。
それはこれまでの出会いとは違ったけれど、彼は彼のままでした。僕の愛する彼でした。
すぐに僕と彼は良い友人になった。今度は彼の両親も何も言いません。
僕は嬉しかった。してきた事がようやく報われたのだと。
ところが、また計算外のことが起こった。いや、起こっていた。
彼に、許婚が居たのです。そんなもの僕は知らなかった。
『過去』にそんな女性などいなかった。
しかし『今』はそれが現実でした。
僕が彼に釣り合うよう必死に努力していた陰で、彼は僕ではないひとを好きになっていたのです。
信じられなかった。
何も変わらない筈なのに、不都合な現実を変えたきただけの筈なのに、変わってしまっていた。
絶望する僕には気付かないようで、彼は僕に笑いかけました。
「うちに来て絵を描いてくれないか」と。よりにもよって、彼と許婚の二人の絵を。
そのときどんな顔をしてどんな返事をしたのかはよく覚えていません。
ただ、家を訪ねる約束をして、一旦帰宅して、僕は絵筆の代わりに、ナイフを握りました。

34325-739 強くてニューゲーム(2/2):2013/01/04(金) 01:24:47 ID:8zR/OyEI

僕はやり直しているんです。
彼を愛しています。彼も僕を愛してくれています。
彼の隣に居るためにやり直しているのに、どうしてこんな風になってしまうのだろう。
今度こそ、今度こそ、上手くやらないと。
あの、僕は死刑になるんですよね?二人も殺してしまったのだから、そうなりますよね?
捕まるなんて、これも計算外だった。
時間が勿体無い。早く死刑にしてください。僕は、早くやり直さなければならないのです。



「馬鹿だな、君は」
私は目の前の男に言葉を投げたが、彼の瞳は虚ろでこちらの言葉は届いていないようだ。
言いたいことをただ一方的に喋るだけ喋って、あとは薄く笑みを浮かべているだけ。
彼の言を信じるのなら、またやり直すことができると確信しているからだろう。
「君は一刻も早く死にたいようだが、今の君は神経衰弱だと診断されている。
 よって死刑にはならない。『今回の』君は、残りの一生を病院の中で暮らしていくことになる」
勿論、死は平等だからこの男にもいつか訪れるだろう。しかし、それは彼の望む時期ではない。
彼にとって辛い事実を突き付けているも同然の筈だが、やはり彼からの反応は無い。
しかし私は構わず彼に語りかける。
「まったく、君の執念には呆れを通り越して感心するよ。それは君の美点でもあると思うが、同時に欠点でもある。
 先程も言ったが、君は馬鹿だ。美点を美点として制御できれば、いくらでも幸せになれるだろうに」
一つのことに目標を定めると、周りが見えなくなる性質なのだろう。
しかし見えなくなるにしても限度がある。
「今にして思えば、駆け落ち程度で驚いていたのは浅はかだったよ」
私は少し前屈みになって、男の瞳を覗き込む。
「邪魔な家族を殺そうとしたところまでは、理解したくもないが理解しよう。
 しかし、まさか弟本人にまで手にかけるとは思わなかった。婚約者諸共とは言え、ね」
「おとうと……?」
男はぼんやりとそう呟き、不思議そうに首を傾げた。
もしや会話が成り立つかと期待して続く反応を待ったが、またすぐに彼の瞳は虚空へ戻ってしまう。
私はため息をつき、背もたれに凭れ掛かった。
「私の話を簡潔にしてあげよう。
 一度目、私は君達を追って愚かにもこの身体で屋敷の外に一人出て事故に遭った。
 二度目、君の放った火にまかれて逃げられないまま焼け死んだ。
 三度目、弟に君を屋敷に招くように頼んだ。『一応の用心で』、警備員と医者を手配した。
 それからこれは私の希望が混じった推測だ。
 一度目、弟は君の目を盗んで一度だけ実家へと連絡を取り、私の死の経緯を知った。
 二度目、私の身を案じ、弟は自分の危険も省みず私を助けに向かおうとした」
目を細めて彼を見据える。
恐らく、弟を失ったと同時にこの男は死を選んだ筈だ。
ならばもし、彼が自殺を選ばず――選ぶことができず、このまま無様に生き長らえたら。
考えているとふと背後でノックの音がして、ドアが開く気配がした。
「お時間です」
聞こえてきた事務的な声に、私は振り向かずに頷く。
「ああ、結構だ。行こう」
静かな足音が背後まで迫り、失礼しますとの声と共に、私の車椅子はゆっくりと方向転換する。
私は最後にもう一度男の方を見やり声を投げる。
「また来るよ。次はカンバスと絵の具を持って。実は、私は君の描く絵画のファンなんだ」
反応は無い。
私は笑みを浮かべた。視界の隅で迎えの男が僅かに眉を顰めたが、何も言わなかった。

真っ白な部屋を退室し、無機質な廊下を進みながら私は問いかける。
「弟達の容態はどうかな?」
「はい。依然、意識は戻られておりませんが、峠は越えたと先ほど連絡が」
「それは良かった。落ち着いたら花を持って見舞いに行こう。
 しかしまずは、先方への根回しが優先だな。あとは父さんと母さんにも適当な説明が必要か」
あまりご無理をなさりませんように、という言葉が降ってくる。私は鷹揚に頷いてみせた。
わかっている。
わかっているが、逸る気持ちを抑えるのは難しいのだ。
今度こそ、私は何をも失うわけにはいかないのだから。

34425-749 猫っぽい人×犬っぽい人:2013/01/06(日) 00:41:36 ID:Pqo1mpqw
職場の飲み会、その二次会の帰り、店横の路地での出来事。
好きです、と彼は呟くように言った。
真っ赤にした顔を俯かせて、俺のコートの袖を掴まえている。
「初めて会ったときから、初対面ってカンジがしなくて……きっと一目惚れなんです」
そのままの姿勢で、つっかえつっかえ喋っている。
「自分でも、おかしいって思います。でも俺、気がついたら、先輩のことばかり見てて」
「お前、酔ってるな」
「酔ってます。酔ってなきゃ、こんな告白できないです」
やや乱暴な口調と共に、彼は意を決したように顔をあげる。
まだ少し幼さが残る顔は、強気な声とは裏腹に今にも泣きそうだった。
感情が顔に出やすいんだなと考えている俺に、彼は繰り返した。
「好きです。俺、先輩が好きです」
「………」
酔っ払った冗談だろうとか、反応を見て後でからかうのだろうとか、そんな風に考えることもできたが
そのときの俺はただ「本気なんだろうなあ」とぼんやり思っていた。
彼が配属されてきてからからまだ一ヶ月しか経っていない。そこまで多く言葉を交わした覚えも無い。
それでもなんとなく、彼は本気なのだと確信していた。なんとなく確信、というのも変だが。
とにかく、ならばこちらも真面目に返さなければならない、そう思った。
「そっか。ありがとう」
言って、空いていた左手で彼の頭をぽんぽんと叩く。
それに驚いたのか軽く目を瞠っている相手に、続けた。
「ごめんな。俺、明日は早出だからもう帰らないとならない」
ごめん、と俺は頭を下げた。
途端、ずっと掴まれていた右腕が解放される。
次の瞬間には、彼は俺とは比べ物にならないくらい深く頭を下げていて、そして
「すいませんでした!」
と叫んだかと思うと、くるりと回れ右をして、恐ろしい速度で走り去っていく。
否、走り去っていくと俺の脳が認識した頃には、走り去っていた。
俺はぽかんとしていた。
なんだ今の一連の動作は。瞬間芸か。本当に瞬間すぎてついていけなかった。
「…………」
それからしばらくの間、その場に突っ立ったまま考えた。
電話して呼び戻そうかと考えたが、そういえば彼の携帯番号を知らない。
「……。ま、いいか」
どうせ明日また会社で会うのだから、そのとき聞けばいい。そう判断して帰宅することにした。

今思えば、俺も多分に酔っていたのだ。

その三日後に判明したこと。あのとき彼は、俺にお断りされたと思ったらしい。
「だって、謝られたから、俺はてっきり…」
「ありがとうって言ったろ?」
「もう帰るって言ったじゃないですか」
「早出」
「確かにそう聞きましたけど!」
フラれたと勘違いした彼は、あの後クソ寒い中、公園で一晩泣き明かし
その翌日から風邪で会社を休んだ。正直、馬鹿だと思う。
そして俺も馬鹿だ。彼に連絡を取ったのはその更に二日後だった。
「嫌いな奴の頭は撫でない」
「宥められたんだと思いました。先輩に気を遣わせて、俺、申し訳なくて。居たたまれなくなって」
気持ち悪がられるの覚悟してましたから、と言う。
この三日間、彼がどんな気持ちで寝込んでいたのか想像して、俺は一つ息を吐いた。
「ごめん。これからはもう少しきちんと喋るよう心がける」
「っ、俺も、もっとちゃんと、話を聞くようにします!本当にすいませんでした!」
これからよろしくお願いしますっ、とまた勢い良く頭を下げている。
面白いやつだなあと今更のように思う。
「うん。よろしく」
再び、彼の頭をぽんぽんと叩いた。

34525-829 イカ×タコ:2013/01/17(木) 23:55:45 ID:1Uy9IfeI
神様は不公平だ。
イカもタコも海の悪魔と呼ばれ同じように恐れられているのに、実は奴と僕には差がある。
今まさに、それを思い知らされていた。
イカの手に僕の五本の手と大事な部分は絡み付かれ抵抗出来なくされているのに、イカにはまだ二本も自由な手があってそれが僕の体をくまなく這い回る。
「離せこのすっとこどっこい!」と悪態をついても、いずれこの唯一動かせる口の中にもイカの手が潜り込んで掻き回されるんだ。
悔しい。
手の本数が違うだけで抵抗出来ないなんて……。
 
以前、腹が立ってイカの顔に墨を吐いてやった。
でも僕の墨は辺り一面に広がるけど、その分拡散するのも早くて何の役にも立たない。
仕返しとばかりにイカが吐いた墨は粘度があって、目の前を塞がれたように何も見えなくなってしまった。
そのせいで、イカの手の動きを何時もより強く感じてしまった。
歯がゆい。
墨の質だけで抗えなくなるなんて……。

ああ、イカの手の動きが早くなって僕はまた何も考えられなくなっていく。
何か囁いているイカの言葉も、もう聞こえない……。

34625-829 イカ×タコ:2013/01/20(日) 09:42:41 ID:Aa3NuFjI
「よう無事だったか、タコ」
「その呼び名、やめてくんないっすか。手賀木さん」

悪りい悪りいと悪びれなく笑い、手賀木さんは俺の頭、正確にはカツラをぐしゃぐしゃにする。それを無視しながら、俺は今回の報酬のアタッシュケースを無造作に放った。

「にしても、タコは本当化けるな。この前の筋肉バカの姿と今のインテリが同じ奴とは誰も気づかねえよ」

アンタ以外はな、そう脳内で呟く。いわゆる"普通の世界"で、自分の特技を自己満足に披露していたのは、もう随分前だ。

『なあ兄ちゃん、タコって知ってっか?他の生物に化けては、周りに溶け込んで、体の形まで変えちまうんだ』

安らかな深海に留まっていた。

『兄ちゃん。普通の世界つうのは、つまらねえと思わねえか?』

急流や危険ばかりある海中を泳ぐ気なんてなかったのに。

「つか、手賀木さんは化けねえのかよ」
「義手まで誤魔化すのは面倒だ。適材適所つうのが世の中にはあんだよ」

まあでも、真田の為には、化けてやらんこともねえかもな。

右頬を冷たい右手で左頬を温かい左手で撫でられる。
その仕草に心まで搦め奪られたのは、随分前だ。
強い目から逃れられなくなったのは、随分前だ。

「成功の祝いに美味いもんでも食いに行くか、タコ」
「、皮くらい剥がさせて下さいよ」

乱れたカツラを外しネクタイを緩めながら、札束を持った手賀木さんの後を追いかけた。

34725-901 閉鎖的な二人:2013/01/27(日) 09:28:09 ID:AsLSjejA
あの二人は自己完結してる――それが二人の人間関係をよく知る僕の印象だ。
良くも悪くも二人だけの世界だ。すごい剣幕で喧嘩をしたかと思えば、誰も理由を知らないうちに仲直りしていたりする。
僕はそのことについて苦言をこぼすけど、「それで今まで問題がなかった」なんて気にもとめない表情で言われると頭が痛くなる。
この二人のことをクラスの大半は容認している。でも、それでも不満は貯まるんだ。
二人に言いにくいからって僕が愚痴に近い文句を言われていることを知っていて、こういったことを言うんだから嫌になる。
確かにこの二人は美形だ。顔がそっくりの双子だ。だからなんとなくふたりだけの世界を作っていても仕方がないという雰囲気ができている。
生徒はもちろん先生までだって「双子だもん心の奥底では通じ合ってるもんねー」なんていうくらいだ。
顔の似ている双子は似てない双子や普通の姉妹、兄弟より特別に見られやすい。
バカバカしい。顔が似てても年齢が一緒の双子でも他人が通じ合えるか。神秘的がどうのこうの漫画の読みすぎだ。
俺だって双子だけど相手のことを上の兄ちゃん位しか理解していない。顔も似ていないから二人のように特別視されてもいない。
誤解がないように言わせてもらうけど、僕は自分が特別扱いされたい訳じゃない。
ただクラスの、なんとなく双子だからみたいな風潮をやめてほしいだけだ。

放課後達見が聞いてきた時だってそうだ。
「なー、シゲー、達也ー。今日どこ行く?」
「あそこは?」
あそこってどこだよ。
「あの辺最近治安悪いらしいからダメ」
なんでわかるんだ。テレパシーか。顔が似ている双子には似ていない双子と違ってそういう機能でもあんのか。
「じゃああの辺」
「おっいいな! じゃあそうしよ」
「結局どこに決まったんだ?」
全く理解できていない僕が二人に聞くと声を揃えて「え?」なんて聞き返される。
「今の話の流れからわかるでしょ」
「あそことかあの辺でわかるか」
「このあたりで治安が悪いと言ったら、あの店だろ? トイレが発展場になってるって噂の」
「んでもって金欠の俺らが、ある程度の時間遊ぶのにちょうどいい場所といえばカラオケだろ?」
「僕は君らみたいにツーカーじゃないから」
そんな風に呆れても二人は理解できないらしく首をかしげていた。

34825-969 お隣さん:2013/02/03(日) 23:07:33 ID:mI4n82us
「あ」
「……はようございます」

玄関のドアを開けると、ちょうど隣に住む男が部屋の鍵を閉めているところだった。
俺と目が合った瞬間、彼がぺこりと頭を下げた。
寝起きなのか、最初の方があくび交じりだった。

「おはようございます」

挨拶をされたので俺も頭を下げる。
今日の彼はスーツだ。
彼と鉢合わせするときは大体私服だったが、ここ数日スーツ姿の彼と会うことが多い。
……もしかすると、就活か?なんて推測してみる。
大体仕事に出かける時間に彼と出くわすので顔は知っているけれど
俺は彼がどんな人間なのか、仕事は、趣味は、その他もろもろ何も知らない。

思えば彼が引っ越してきて1年あまり。
今の若者にしては珍しく、タオルを持って引っ越しのあいさつに来た彼。

「隣に越してきた田賀っす。よろしくお願いします」

と、どこか間延びした口調に、どうも、と礼を言うくらいだった。
その後も特に交流はなく、顔を合わせたら挨拶を交わすくらいだったのだが。

「スーツ姿、決まってますね」

その日は彼に、そんな一言を口にしてみた。
特にたくらみも、考えもない言葉だった。つまり気まぐれだ。

「……あ、ありがと」

だが、彼の方は普段挨拶しか交わさない俺の言葉によほど驚いたらしい。
目を丸くして俺を見て、たどたどしくそう答えた。
ああ、まずかっただろうか。突然こんなこと言ってしまって。
気まずさにその場をすぐに立ち去ろうとしたら、彼が俺に向かって声をかけた。

「すげ、うれしいっす」

振り返ってみた彼の顔は、いつもの彼よりくしゃりと笑っていた。

34926-19 明るそうにみえて根暗×暗そうにみえて根明 1/2:2013/02/10(日) 18:27:56 ID:GHP.xgIU
残念 間に合わなかったので供養します


「大丈夫、大丈夫。もう十分練れてるよ、これ以上心配ばっかしてもダメよ?
 心配ばっかしてて企画はできないのよー、タメちゃん」
パン、と景気よく手を打って、江島が席を立つ。
俺にはよくわかる。
江島は、言葉とは裏腹にこの企画に納得しきれてないのだ。
会議室のテーブルには、各人三杯ずつのカップラーメン。
若者向けの期間限定企画として、軽いノリで作られた激辛シリーズのキムチ、わさび、黒ゴショウ三種だ。
「さあ、いい加減腹もいっぱい、順番が逆だが食後のビールといこうぜ!」
おごり好きの江島の言葉に、チームメンバーも喜んで立ち上がる。
俺もいい加減口がつらい。辛い物はだいたい好みじゃないのだ。立て続けに三杯は苦行だった。
だからなのか。
……美味いと思えない。
食ってから一言もしゃべる気になれないのは、ヒリヒリする唇のせいじゃなく、
何と言ってダメ出しをしようかずっと考えてたからだ。
江島はそれも察している。だからこそ、お茶を濁そうとしている。
他のチームメンバーを味方につけて、多分俺が否定的なことを言おうものなら
『お前はすぐそうだ、なんでもダメだ、無理だとバックギアに入れる』
と、さっき言ったような印象操作で自分の意見を通そうとするだろう。
お気楽企画だと思って手を抜きやがって。
俺は黙って座ったままでいる。

35026-19 明るそうにみえて根暗×暗そうにみえて根明 2/2:2013/02/10(日) 18:29:52 ID:GHP.xgIU
「……でさ、タメちゃん。どうしたらいいと思う?」
江島がこんな顔になるのは、ふたりきりの時に限る。
こいつのこの悲しい性分を知ってるのは俺だけ。
「キムチ、やめよう」
俺は考えていたことをようやくぼそぼそと口にする。
俺の小さな声を聞き取るために江島が耳を寄せてくるが、その距離も許す。
呼吸器の弱い俺は、人前で大きな声で意見を言うのは苦手だ。その小さな声を江島が拾ってくれる。
「キムチはいい加減ありふれてる。このままじゃただの普通の激辛ラーメンだ、だろう?」
「……それでいいかと思ったんだがな」
「期間限定だからこそ、話題性は必須」
チームメンバーは俺の事を悲観論者、暗い面白くない奴だと思ってるだろう。
でも俺は自分を知っている。これでも俺はなかなかのアイデアマンだと思うのだ。
ただ、人に好かれない自分も知ってる。だから、江島を待つのだ。
江島こそ、真の悲観論者だ。太陽のように振る舞った後、必ず怖くなって俺を頼る。
こうしてギブアンドテイクの関係が成り立った。
江島に利用されてるとは思わない。俺が利用しているのだ。
「あのな、江島。みんなコッテコテには飽きてると思うんだよな。俺なら、俺が食べたいのはさ……」
俺は、俺の案を江島に授けてやった。
聞いた江島は、
「それ、お前の好みじゃん! でも美味そうだよね、なんかいけそう?」
やっと、肩の荷を下ろしたように笑った。

「呑んだ後にあっさりお茶漬け、の代わりに『のりわさびラーメン』」
シリーズには和風スープ黒ごしょう、梅かつお。
俺達の企画は、若い女性や年配層に受けて小ヒットとなった。
「やっぱりなー、当たると思ったんだよ」
江島は、今日も大きな声でみんなの真ん中だ。似合ってる。
俺は、自分好みの商品を世に送り出せて満足。
みんなに教える必要はない。俺達はベストコンビなのだ。

35126-49 いい声の人:2013/02/15(金) 00:34:22 ID:.0gLvtCQ
ぎりぎり間に合わんかった…


「好きだ」というのが、彼の最高の褒め言葉だった。
曰く、他人には文句のつけようのない誉め方、らしい。
す、の時にすぼめる口。き、でこぼれる形の良い歯。
滑らかで心地の良い低音が僅かに上ずる瞬間。
ずっと横で見ていたから、あの満面の笑顔と一緒に覚えてしまった。
旨い料理を、広がる絶景を、美しい音楽を、咲き誇る花を。
最高のものを、彼は「好きだ」と評価する。
上ずった低音の、嬉しそうな声で。
その声が隣の平凡な僕に向くことはない。
そう、思っていた。

「好きだ」
すぼめる口は見えなかった。こぼれた歯も見えなかった。
声の上ずる瞬間なんて、感じている暇もなかった。
耳に湿った温もり。息の音。
背中には僕より少し大きな手。
「な、んて・・・」
ひっくり返りそうな、無様な僕の声。
「好き、って何が、を・・・?」
面食らった僕を抱きしめたまま、彼は確かに笑った。
耳に心地の良い音が滑らかに滑り込んでくる。
「好きだよ。君を・・・愛してる」

35226-89 やっと愛するお前のところへ行ける:2013/02/20(水) 10:18:17 ID:0LDanBCk
港を一望できる小高い丘の頂に造成された公営墓地
その東側の片隅にアイツの墓はあった
少しだけ伸び始めた白髪混じりの坊主頭に初冬の風は冷たい
自分は24歳だけど今の自分を見て誰もが40代だと思うだろう
あれから7年ですっかり老け込んでしまった
ずっとこの日を待っていた
ただいざこの日を迎えるとそれが何なのだという虚しさが猛烈に込み上げて来る

アイツとはずーっと幼馴染みでダチだった
高1の夏に部活の合宿で行った長野の山奥で関係は劇的に進んだ
それからは猿みたいにやりまくった
男子高校生なんて性欲の塊みたいなもんだからな
あの日はオレもアイツも17歳の高2の秋の夜だった
一緒に帰る途中に寄ったコンビニで実に他愛ないことで口げんかした
コンビニを出て別々に帰宅の途に就いた
アイツはオレと別れてから約10分後に何者かに刺されて死んだ
直前にアイツとけんかしたことだけを根拠に警察はオレを逮捕した
しかしひどい話だ
起訴したときにはオレが犯人ではないことは警察も検察も分かっていたそうだ
防犯カメラを見直したらアイツが殺された現場近くに不審な男が映っていた
顔認証でソイツは強盗致傷と強制わいせつ前科のある男だと分かった
警察も検察も真っ青になったらしいがオレは既に逮捕されていた
まあ警察も検察も何よりもメンツが大切だからな
オレは全力で否認したけど裁判では実に簡単に有罪
なんでオレが今は娑婆に居るのかって?
真犯人が調子に乗って強盗殺人なんかやって逮捕されたからよ
取調べで余罪を洗いざらい喋ってオレの無実が証明されたのさ

両親は事件を苦に夫婦して自殺しちゃったよ
オレは一人っ子だからもう天涯孤独なんだな
もう今さらどうでもいいよ
これから生きてて何になるよ?
アイツの墓の隣がおあつらえ向きに無縁仏専用の納骨堂なんだ
そこに入ればオレはずっとアイツの隣に居られる訳だ
ははははは
もう何もかも無駄で可笑しくてバカでどうしようもねーよ
こんな世の中ととっととおさらばだ
あの世でアイツと一緒に人生の続きをやり直すんだ
アレはアイツの墓の前で静かに硫黄の臭いを嗅いで目をつむった

35326-109 紙の花:2013/02/24(日) 13:10:54 ID:02/eITC.
 下校間際になって、ダチにこれからどうすると聞いてみた。
「オレ塾」
「生活指導の呼び出し」
「デート」
 珍しく全員が予定を口にしたので、オレは驚きと落胆で大声を出してしまう。
「誰も暇なやついねぇの?」
「みたいだな」
「で、どうした?」
「誕生日だから、何かおごってもらおうと思ったのに」
「ばか!」
「そんなのはちゃんと先に言っとけ!」
「今日は無理だから今度な」
「ちぇっ」
 確かに事前アピールしてなかったから仕方ないとすねながらも諦めるオレを残して、ダチはそれぞれに行ってしまった。
 仕方ない、家に帰ったら何かあるかもしれないと帰りかけるとアイツと出くわす。
「一人なんて珍しいな」
「皆用があるんだって。オレの誕生日だっていうのに」
「誕生日?今日が?」
「ああ」
「…………」
 何か複雑な表情をしたアイツはカバンからノートを取り出すと一枚破り、何かしはじめた。
 説明も何もなくただ見ていると、正方形に切り取ったノートを折って畳んで開いてあっと言う間に花の形にした。
「鶴は見舞いの、兜は子供の日のイメージだから。誕生日おめでとう」
「あ、ありがとう」
 手際の良さと思いがけないプレゼントに驚きながら、折り紙の花を受け取った。
「聞いたからにはお祝いしなきゃな」
「オマエって器用で律儀なんだ」
 裏も表も白だけどちゃんと花に見える元ノートを眺めて、つい顔がほころんでしまうほど喜んでいる自分に気付きあわてて表情を引き締めた。
「お前の誕生日っていつ?」
「夏だけど」
「ふーん。好きな物なに」
「何だよ急に」
 オレ、コイツの事もっともっと知りたくなった。

354幼なじみ 1/10:2013/03/05(火) 19:53:45 ID:dSuCcf7s
本スレ(Part26) 180〜の投稿です。(投稿分も一応再掲させてください)



「おい、こんなもん付いてるぞ」
屋上の給水塔の陰で居眠りぶっこいていたら、声をかけられた。
手にもってるのは、「バーカバーカ」と書かれたノートのきれっぱし。
あー、寝てる間に頭に貼られてたのか。またか。いまどき、小学生でも
しないようなイタズラの犯人はわかってる。1ヶ月前に転校してきたスガワラだ。
なぜか俺を目の敵にして、こんなガキっぽいイタズラを延々と続けてくれている。
上靴にアマガエルが入ってたり、ロッカーの体操服が全部裏返しだったり、
移動教室に行ったら俺のイスだけなかったり。

355幼なじみ 2/10:2013/03/05(火) 19:54:52 ID:dSuCcf7s
とってくれた紙をひらひらさせながら、サトルもため息をついた。
「ヒロム、お前、ほんとにアイツとなんもないの?」
サトルは中坊の頃から同じクラスになり続けている腐れ縁だ。進級するたびに
クラス委員になる典型的なデキるヤツ。そのサトルにも、アイツの行動はわけが
わからないらしい。ない。ほんとにないよ。なんでだろうな。
ノートから雑に破り取った紙に書かれてる単純すぎる罵言を見ながら、俺も
ため息。なんで転校生にここまで絡まれるのだか。

356幼なじみ 3/10:2013/03/05(火) 19:55:47 ID:dSuCcf7s
転校してきた初日に隣の席になったもんだから「よろしく」と挨拶をしたとき、
スガワラは妙な顔をして口の中でもごもごとなにか言った。
「なに?聞こえなかった」と聞き直したら、憮然とした顔をしてそっぽを向いた。
スガワラとの交流といえば、それだけだ。
聞きなおしたのが悪かったのか。挨拶もされたくなかったのか。わからん。
わからんが、仕掛けてこられるのは実害といえるほどの害があるようなことでもないので、
最初はとまどったものの、最近はもう基本的にスルーすることにしている。

357幼なじみ 4/10:2013/03/05(火) 19:56:39 ID:dSuCcf7s
「そのうち、もっと古典的なイタズラもされそうだな。教室のドアをあけたら黒板消し落下、とか」
それは教師に対するイタズラの定番だろ。クラスメイト用じゃねーだろー。
「古典的かつ落下といえば、タライの落下もはずせない」
てめ、他人事だと思って気楽に言ってやがるな、このやろう。
「悪い悪い、メガネが挟まって痛い、はなせ」
ヘッドロックかけてやったら、笑いながらほどこうともがくサトル。いつものじゃれあい、
いつもの軽口のたたきあい。
一応、俺もメンタルは人並みにあるので、意味もなく目の敵にされてるっぽい雰囲気
なのは精神的に少しコタえてはいる。こうやってサトルとじゃれあうことが少し心地よい。

358幼なじみ 5/10:2013/03/05(火) 19:57:26 ID:dSuCcf7s
そんな感傷的なことをちらりと考えたとき、突然頭上からどばーっと水が降ってきた。
俺もサトルもずぶ濡れで、一瞬、なにが起きたのかわからなかった。雨?いや、そんな馬鹿な。
ゲリラ豪雨っても局地的すぎんだろ、おい。
あっけにとられて見上げた給水塔の上に、ちらっと小さい人影が見えた。
「スガワラッ!」
濡れたメガネをはずして水滴を振り払っているサトルを見て、さすがに俺の怒りも沸騰した。
俺だけならまだしも、サトルまで巻き込みやがって。それに、これはさすがにやりすぎだろう!

359幼なじみ 6/10:2013/03/05(火) 19:58:25 ID:dSuCcf7s
給水塔のハシゴをすばやくよじ登り、反対側から飛び降りようとしているスガワラをとっつかまえて
組み伏せる。小柄なスガワラを拘束するのは簡単だったが、じたばたと暴れるのをやめようとしない。
おとなしくしろよ!なんなんだよ一体!
「はなせよっ!ヒロムのばかやろうっ!」
思いがけずに呼び捨てにされ、悔しそうに見上げてくる顔が、ふいに古い記憶とオーバーラップした。
あれっ…お前、もしかして、シュンちゃん?
「なにいってんだよ、バカヒロム!今更なんなんだよ!」

360幼なじみ 7/10:2013/03/05(火) 19:59:31 ID:dSuCcf7s
負けん気一杯で真っ赤になっている小さい顔は、幼なじみのシュンちゃん、シュンヤの顔だった。
思い出せないくらいに小さい頃からの幼なじみ。保育園でも幼稚園でも小学校でも、負けず嫌いで
すぐに喧嘩腰になって、でもチビだからすぐ泣かされて、泣かされてもしつこくくらいつくあのシュンヤ?
うわ、まじ?なつかしーな、おい。
「俺のことすっかり忘れてたくせに!お前なんか大っ嫌いだ!俺は、お前のこと忘れたことなんてなかったのに!」
あー、そういえば、転校していくときに手紙書くとか電話するとか言ったっけか。いや、でも、
それって何年前よ。ガキの頃のそういう約束って、お約束で忘れたりなし崩しになるもんだろう。
っていうか、お前からも手紙とか来たことなかったような気がするけど。

361幼なじみ 8/10:2013/03/05(火) 20:00:16 ID:dSuCcf7s
「俺は出したんだ!一回だけ!返事がこなかったからずっとその後出せなかったんだ!」
あー、えーと、そういうことがあったようななかったような。だってほら、ガキの頃って、手紙とか書くような
時間ねーじゃん、遊ぶの忙しいし。
「だから、いい加減に離せよっ!俺が悪いんじゃないんだから!」
反応に困りきっていたら、背後からサトルの声。
「ヒロム、離してやれよ。お前が悪いみたいだぞ?」
え?お前までそういうこと言うわけ?
「僕が一番、ヒロムとの腐れ縁が長いと思っていたけどな」

362幼なじみ 9/10:2013/03/05(火) 20:00:58 ID:dSuCcf7s
笑みを含んだサトルの声に反応したのは、俺よりシュンヤの方だった。
「そうだよ!俺がヒロムの一番だったんだからな!お前も嫌いだ!」
あー、そういえば、シュンちゃんは俺が他の子と仲良くしてると、よく色々とイジワルをして相手の子を
泣かせて怒られていたっけな。あー、そういうことですか。はぁ。
「まあ、ヒロムはそこで間抜け面さらしてないで。ほら、スガワラも立って」
びしょぬれのままさわやかスマイルを浮かべられるサトルに俺は心底感じいったが、シュンヤは
そんな気にはなれないようだった。
制服のホコリを払ってくれるサトルの手を振り払って、今度こそ給水塔から飛び降り、振り返りざま
「ベーーーーーー、だ!」
そのまま、駆けてってしまった。おいおい…それはどう考えても、高校生のやることじゃないと思うの
だがなぁ…。

363幼なじみ 10/10:2013/03/05(火) 20:01:37 ID:dSuCcf7s
つか、サトル、悪いな。どうやら俺のせいで巻き込んでしまったようだ。お前にまでイタズラが
波及しなきゃいいんだけどな。
俺が少し恐縮してみせると、サトルは意外なことにニヤリと笑った。
「まあ、これで理由もわかったし。僕としても受けて立つにやぶさかではないからいいよ」
え?なにその台詞?意味わからないんですけど。
「ヒロムはわからなくていいんだよ。うん、わからなくていい」
なんでそんなニヤニヤ笑ってるんですか、サトルさん。え?一体どういうことなのー?

364<削除>:<削除>
<削除>

365<削除>:<削除>
<削除>

366良心の呵責:2013/03/07(木) 19:07:24 ID:AIUHvxk6
――ああ、やってしまった。
どうすればいいんだ。
焦りに似た罪悪感が心臓を這いあがってくるようだ。
俺のことを、犯罪者だの変態だのと責めている声が、耳の奥に、さっきからずっと響いている。

俺は――俺はただ、彼女と普通に付き合いたいだけだったんだ。
彼女が俺のことを好きになってくれていたならば、こんな行為はしなかった。
手の平にこびりついた、彼女のペンケースの感触。
明日になったらまた、犯人探しが行われるのだろうか。
自分が彼女の持ち物を盗んでいることがばれて、クラスメートに糾弾される情景が浮かんで、背筋に悪寒が走る。
どうしたら、どうしたらいいんだ……。

頭を抱えて蹲りそうになったとき、ぐるぐるとまわる思考に乱入してくる声があった。
「よう、斉木じゃん。こんなところで何してんだよ」
クラスメートの吉田だった。
あまり話した事は無いが、あまり話すのを見た事は無かった気がする。
少なくとも、今ここに俺がいることを言い触らしたりはしないだろう。
ほっとして振り向いたとき、俺は凍りついた。
吉田の目は、まるで獲物を見つけた肉食獣のように、ギラギラと輝いていたからだ。
「……わ、忘れ物を取りに来たんだよ」
たったそれだけの言葉を言うのに、かなりの労力を使った。
もしこいつがさっき俺がしたことを知っているなら、この言葉を言ったら終わりだと思ったのだ。

固まった体を動かして、さっさと帰ろうと踵を返す。
吉田は何も言ってこない。
俺の勘違いだったのかと胸をなでおろして、不自然にならないように早足で歩いた。


次の日。
一時間目の数学を潰して学級会が行われた。
彼女が泣きながら教師に相談したらしい。あのペンケースはそんなに大切なものだったのか。
また、好きな人を傷つけてしまった。

自分がとても下等な生物であるような気がして、首が痛くなるほど俯いていた俺に、突然声がかかった。
「斉木君、君は一週間前に雪村さんに振られたそうだけど……まさか、降られた腹いせに物を盗むなんてこと、してないですよね?」
教卓に立った学級委員長が、俺に冷たい眼差しを向ける。
間違いなく、俺を犯人だと思っている顔だ。

答えられずにいる俺に、周囲がざわざわと騒がしくなりだす。
「斉木君が盗んだところを見た人がいるって……」
「確かにすげえ落ち込んでたしな……」
そんな声が、遠くから聞こえてくるような気がした。
冷や汗がだらだらと垂れる。対照的に、顔が燃える様に赤くなる。

――だが、これで良かったのかもしれない。
おそらく誰からも信用されなくなるだろうが、ずっと隠し続けて生きるよりはましだ。
そんな気持ちで立ち上がろうとしたが、俺の動きは途中で止まった。
「俺がやりました」
そんな声が聞こえてきたからだ。
「あ……」
俺が言うはずのセリフを先に言ったのは、吉田だった。
再びざわめきの波紋が広がり、それは吉田に対する侮蔑の言葉に変わっていく。


「おい、吉田、ちょっと来い」
と、落書きだらけの席に座って本を読んでいた吉田に大柄な男が声をかけた。
上級生かもしれない。あれから三日もたってないのに、もうそんなに噂が広まっているのか。
吉田は男に乱暴に腕を掴まれて教室から引っ張り出されていくところだった。
十中八九、というか間違いなく、これからリンチされるのだろう。
――助けよう。
助けて、俺が本当の犯人だというんだ。
いじめられる恐怖にずっと渋っていたが、やっぱりこのままじゃいけない。
そう思ったとき、ポケットに入っている携帯のバイブがなった。
嫌な予感がして、携帯を開く。
差出人は吉田だった。
『明日、俺の家に来い』
それだけの文章が、とてつもなく恐ろしく見える。
吉田の方を見ると、吉田は、あの日と全く同じ、捕食者の笑みを浮かべていた。
怖い。体が拒絶反応を浮かべる。
――けど。
このメールに従えば、俺の罪悪感は、ほんの少しでも軽くなるのではないか。
俺は吉田の方を見て、頷くしかなかった。

36726-239待つほうと待たせるほう:2013/03/12(火) 22:04:32 ID:8PKegH/6
僕が彼に振られたのは、今から30年も前の話になる。
あの頃の僕は大ばか者で、とにかく彼を手に入れたくて必死だった。
好きだ、好きで堪らない、どうしても諦められない、諦めるくらいなら死んだほうがマシだ。
そんな事を思って、その思いを彼にぶつけ続けた。
その度に彼は困ったように笑って、「参ったナァ」などと冗談めかして受け流していた。
けれどある日、忘れもしないあの夏の夕日。
放課後の教室で、彼は欠片の笑みも見せずに言った。
「お前、正直気持ち悪いよ」
そうして、僕はようやく己の恋が無残に散った事を受け入れた。
受け入れざるを得なかった。
彼は優しくて、賢くて、誠意のある人だった、それが僕の好きになった彼だ。
その彼にそこまで言わせてしまった自分を恥じた。
それ以降、彼の顔をまともに見られずに、しばらく僕の暗黒に満ちた平穏は続いた。
そして、その3ヵ月後、彼は入院し、そのまま一度も退院する事なく亡くなった。
以前から病気だったのだという。
自分の余命は分かっていたと。
彼の母親から手紙を渡されて、僕はその事を彼から伝えられた。
【本当は、あの時お前を傷つけて、そのままサヨナラするつもりだったんだ。
 そうしたらお前は、そりゃ多少は後味悪いだろうけど、気負うことなく次の恋に向かえるかなって。
 本当にごめん。オレも、お前が好きだ。好きで堪らない。どうしても諦められない。
 こんな手紙を残したら、お前をもっと傷つける事は分かってるのにな。
 もしお前が、これを読んでる今もオレの事を好きでいてくれるなら。
 取りあえず30年、待ってくれるか?
 そしたらお前は47歳になってるかな。
 そこまで待つつもりが沸かないなら、それでいいよ。この手紙は捨ててくれ。忘れてもいい。
 でももし待ってくれたなら。その時に守るべきものが何もなかったら。お前が、オレに会いたいと思ってくれたなら。
 その時は、オレも会いたいと思ってる。その事を、ただ知っておいてほしい。
 ……なんてな、ただの冗談だよ。真に受けたら、バカを見るのはお前だ。可哀相にな。
 本当、オレなんかより、お前の方がよっぽど可哀相だ。頑張って、幸せになってくれよ。元気でな。
 長々とごめん。じゃあな。】

…そして、30年。
僕が今も相変わらず大ばか者だ。
彼は待っただろうか。多分待ってはいないだろう。再会したところで、お前は本当にバカだ、なんて困ったように笑って。
でも、きっと僕を待たせた責任は取ってくれることだろう。
彼も、僕に会いたいと思ってくれているに違いないから。
今、僕は彼に会いに行く。

368名無しさん:2013/04/01(月) 17:26:05 ID:NY5br2DY
テスト

36926-349  好きになりつつあるけどまだ好きじゃない:2013/04/01(月) 17:39:13 ID:WnrSDTxc
おはようごさいますと言って入室すればおはようと返ってくる。
それが普通なのだと気付いたのはここに転職して二週間後のことだった。
以前の職場では無視・舌打ちが当たり前で、挨拶は不要なものだと入社三日で理解していた。
他にも特有の社内ルールはいくつかあり、
それに適合できなかったため、追い出されたのだった。
 
今の職場では正社員ではない。
そのため出勤時間は十時と遅く、社員が全員揃っている中で入室しなければならなかった。
ここに来て半年経つものの、軽く咳払いをして深呼吸をし、
心の準備をしてからでないとドアノブを回せない。
最初は緊張しているからだと思っていた。
しかし、二ヶ月三ヶ月と過ぎ、嘱託職員でありながら
有志飲み会の固定メンバーになってしまうほど周囲と打ち解けた今、緊張はないだろう。

固定メンバーの一人でもある石垣に、
初日の挨拶もそこそこに「重役出勤かぁ」と返されたことを思い出す。
それを嫌味だと受け止めた当時の私は苦笑いしか出来なかった。
課長は「じゃあ石垣は明日から午後出勤でいいぞ」と言うし
若手職員は「重役出勤なのは石垣さんの方です」と言っていたから、
場を和ませるための冗談だったのだと今なら解る。
おそらく、当人は言ったことすら忘れている。

その日から、扉を開けるたびに石垣の席を確認するようになった。
普通の挨拶が八割、会話が一割、不在が一割。
ここにきて、アドリブ力は随分と磨かれたような気さえする。

一週間の出張を終え、石垣は定位置へ戻ってきた。
出張先は香川だと言っていたから、今日はうどんネタだろうか。もしかしたら香川繋がりでサッカーかもしれない。
そんなことを考えながら咳払いをして深呼吸をし、私はドアノブに手を伸ばした。

37026-389秘密の関係:2013/04/05(金) 03:18:28 ID:lUWUSuQA
いつも真面目で、誰からも信頼されて、俺に常識をわきまえろと説教してくるくせに、佐内は俺の『セフレ』をしてる。

最初はじゃれ合いで、悪戯しあってるうちに、お互いなんだか気持ち良くなってきてエッチした。
次は甘えてきた。佐内からだ。
甘い言葉を俺に囁くので、佐内にとってそれが遊びでも、嬉しかったから、またヤった。
気がついたら習慣化してた。
気持ちのいいことを追求する習慣に。

佐内はどれだけヤりたいんだろう。
俺は毎日でもヤりたい。
だからだろうか。普通に友だちと話しながら笑ってる佐内にイライラしてきた。
そいつ、その笑い声よりもっと高い、スゴい声出すんだ。それを俺は知ってる。
真剣に答弁する佐内を見ながらイライラしてきた。
そんな澄ました顔なんかじゃなく、快感にうっとりしてる表情の方が自然だ。それを俺は知ってる。
口うるさく俺に説教してくる佐内にイライラしてきた。
お前、その常識のない俺に、メチャクチャ甘えてくるくせに。

「俺は、知ってるよ。お前は俺がセックス狂いだってバラしたいんだろ」
「佐内……」
「でもお前は優しいから、そんなことバラさないっていうのも知ってる。そんなのバラしたら、俺なんて青くなってビビっちゃって泣くよ。そんな酷いことしないだろ?」
「しねぇけど、イライラする」
「俺はさ、バレる想像するだけで吐きそうなくらい恥ずかしいことを、お前にだけ知られてると思うと、凄く感じるくらい変態なんだよ」
「ワケわかんねぇよ……」
「……だから馬鹿だって言ってるんだろ」
佐内はそう文句を言いながら、俺にいつものようにキスした。

37126-409 初恋の人との再会:2013/04/07(日) 00:05:59 ID:L4VKu0o6
ほんのちょっとだけ胸糞注意(不倫?)です。



嫁さんにメール。
『これから電車。帰りは八時頃になる』
薄暗い蛍光灯が陰気な車内は、ひときわ疲れを感じさせた。
目の奥が疲れて痛くて、携帯を眺める気にもならない。
車窓に頭を預けて目をつぶっていると、突然小さな声で「田中?」と呼ばれた。

かすむ視野に見えたのは、普段着の男。
誰だっけ、知ってる奴?と軽く混乱しつつ「えっと、あ、ども」とか意味のないあいさつを口にする。
相手は軽く笑った。
「わかんないか、俺、高校の。安東なんだけど」
高校の……安東。嫌な汗がじんわりとにじむのがわかった。
当たり前だがそんなことはおくびにも出さない。テンション上げて顔を作った。
「ああ!安東かお前!久しぶりだなぁ、どうしてるの、今」
「今日は仕事休みでさ、久しぶりにこっち遊びに来たんだ」
「仕事?」
「そう、覚えてる?俺、寺つぐの」
覚えてる。思い出したら全部思い出した。
忘れていたわけじゃなかった。ただ、経年変化が想像できてなかっただけで。
そういわれれば、安東の髪型は坊主だ。でもなにやら格好いい洋服と合っている。
「今修行と修行の間でさ。しばらく実家に帰ってきてるんだよ。もう勘弁してほしいわ……田中は?就職したんだな、その格好」
「ちっちゃい会社でヒヤヒヤしてっけどな、まだペーペーだし」
「スーツ似合うよ」
覗き込まれて、ぎょっとした。
「……安物だよ」「そう?感じいいよ」
こいつはいつもこんな風だった。育ちがいいせいか、物怖じしなくて、屈託無くて。
俺は安東の服を褒めたりできない。そもそも、顔をまともに見られない。

「うわ、残念、俺乗り換えだ。ケータイ、教えて!」
電車が止まって、安東が急に慌てだした。
「え、あ、なんか、書くもの」
「いいから言えよ!覚えるから!」
俺が番号を叫ぶと同時にドアは閉じて、はたして安東に届いたかどうか。
窓の向こうでにこやかに手を振る奴の様子からは全然わからない。

ひとりになった車内ですっかり目の覚めた俺は、それでも顔を覆わずにはいられなかった。
安東は俺の初恋の相手だ。それも、恋であることにすら気づかなかった……
安東が好きだ、と気づいたのは、卒業して離ればなれになってから。
安東のことを思うと胸が痛い、安東に会いたくてたまらない、安東を独り占めにしたい。
そんな自分の状態に気づいて、まるで好きみたいじゃないか、とか思い至って。
馬鹿な、そんなことあるわけない、安東は男だぞ、って自問して。
じゃあ、もし安東のことが好きなら、キスしてるところ想像できるか?それ以上のことは?って試してみたら。
……およそ思い出したくもない。
そして、俺は自分の身に起きていることが初恋だと知ったんだった。
その驚き。とまどい。後悔。
初恋もわからなかったなんて。男が相手だなんて。何かの間違いだ……
安東のことは苦い思い出になってしまった。安東を封印して、次は失敗しない、と思った。
それから、大学で出会った嫁と普通に恋愛して結婚した。

二度と会いたくない相手のはずだった。
安東は俺の携帯番号を聞いただろうか?そして覚えただろうか。
ひょっとしたらかかってくるかもしれない。覚え間違いで、かけられないかもしれない。
もし……かかってきたらどうしよう。
やりなおすには遅すぎる。俺は安東といい友人になれるんだろうか?
なぜ番号を叫んでしまったんだろう。
安東は俺の指輪を見ただろうか?
まぶたの裏に、安東の笑顔がよみがえる。それは高校の頃の、ふたりきりの時の、あの笑顔。
いい思い出にはやっぱりできそうもない。
なのに今、俺は携帯の電源を切ることができないでいる。

37226-439 なかなか好きといえない:2013/04/11(木) 21:59:17 ID:XQfcw1FA
■腐れ縁タイプ
「なに泣きそうな顔してんだよ。元気出せって。もう付き合ってる奴がいたんじゃしょうがねーよ。な。
 で、どうせ今晩飲むんだろ?朝まで付き合ってやるよ。いいっていいって。明日休みだし。飲み明かそうぜ。
 お前がフラれてヤケ酒なんていつものこと……って本格的に泣き出すなよ。ひどくねえよ。事実だろが。
 ほら、行くぞー。お前んちでいいよな。途中でツマミ買ってくか。………。言っとくけど、奢らねーからなー」

■『なぜ謝る』タイプ
「あの。あの………いえ、なんでもないです。すいません。てっ、天気いいですよね!ね!あはは…
 はあ……え、いえっ、元気です!ほんとに、なんでもないんです。すいません。すいません!!」

■好きの代わりに馬鹿と言っちゃうタイプ
「お前馬鹿だろ!?調子悪いのに出てきてんじゃねーよ。あとは俺がやっとくから。いいから!
 そんな状態で手伝われる方が迷惑だっつーの。早く帰れ帰れ。馬鹿が無理してんじゃねーよ。さっさと寝ろ」

■言葉に辿り着くまであと少しタイプ
「君といると苦しい。脈が速くなって息が詰まる感覚がする。本を読んでいても文章が頭に入ってこない。
 音楽を聴いていても君の声ばかりが耳に届く。君と食べる食事はいつもと味が違う。同じ食事なのに変だ。
 君がいないと苦しい。部屋の広さに気が遠くなる。本を読んでいても頭の片隅で君の事を考えている。
 昔は嫌いだったうるさい音楽も聴くようになってしまった。君がきちんと食べろというから三食食べるようになってしまった。
 たまに酷く苛々する。君の所為だって反射的に思って、そんな風に考えたことを後悔する。僕は酷い人間だ。
 君が隣に居ても居なくても苦しい。だから君が怖いのに、君に会いたいと思っている」

■『もう若くないから』独白タイプ
「…………こんなおっさんに言われても、あいつも迷惑だろ」

37326-489 あえぎ声がうるさい攻め(notショタ)と声を我慢する受け:2013/04/18(木) 13:19:28 ID:ukNmSW4c
規制されてたのでこっちに投下。


ドン、と。地鳴りのような音がした。
すぐにわかった、誰かが壁を叩いた音だと。
陶酔していた雰囲気の中から急に日常に引き戻される。俺が真昼間っから男とセックスしている間、隣の誰かがテレビを見ている洗濯をしている友達と電話している。
途端に顔が熱くなる。「恥ずかしがっている」それをこいつ知られるのが殊更に恥ずかしく、耳元がカイロでも押し当てられたみたいに熱い、それが触れなくてもわかった。
2階建ての安アパート、当然のように薄い壁、最初から声は抑えていたつもりだったが、こいつの実家から持ってきたというちゃちなパイプベッドが高い音を立てながら軋んでいるのに気が付いた。
「うぁ、沢原ぁ……、ちょっ、ゆっくり…」
助けを求めるように後ろに首を向けると、俺とベッドを揺らしている男が幸せそうに笑っていた。
「なに?なんでーこっち見てんの?ふふ、たっちゃんかわいー!」
相変わらず声がでかい。いつでも、どこででも。
「っ沢原、となり…が」
口元に手を添えできる限り小さな声で話す。沢原はお構い無しにでかい声で喋り続ける。
「たっちゃんってばかーわい、恥ずかしがってんのー?顔真っ赤だねー、あーキュンキュンしてる!やーらしー!たっちゃんマジ最高かわいいい!」
「さ、っわ……バカ!」
小声のままで精一杯抗議する。これでもかと顔が熱くなる。
自分でも訳がわからないくらい、いつになく体中が反応している。そんな俺を沢原が食い入るように見る。
恥ずかしい、声を出したくない。顔を枕に埋めてしまいたい。沢原に見られたい。沢原を見たい。
「たっちゃん、綺麗な指、噛んじゃだーめ」
言いながら沢原は長い指を俺の口に突っ込んできた。と同時にベッドの軋みがさらに早くなる。
俺は我慢できずに沢原の指を噛んだ。口中で指先が俺の舌を玩んでいる。
「ふっ、ぅぐ…」
「あー、たっちゃんイイ、最高イイ、マジ気持ちい!超好き!あっ、あー!やっばい、超気持ちー!」
「…っゔ、ぐ」
どこかからまた地鳴りのような音が聞こえる。これでもかと顔が熱くなる。沢原は「たっちゃん超締まってる」とかなんとか下品な言葉を繰り返していた。
「たっちゃんマジ!全身真っ赤だねぇ、はっずかしーぃ!けどかわいー!」
ベッドが軋む。早く大きくドン、ドン、と全身に音が響く。
「っぁ、さわはら、ぁ」
「たっちゃん、もっ俺やば」
「っん、…ふっ………」

横になったまま呼吸が整うのを待っていると、汗ばんだ肌のせいか、先ほどまで暑かったはずの室内が急に寒く感じられた。
そうして少し、冷静さを取り戻す。
「あ……、隣!ばか沢原!隣が」
「え?隣?なにが」
呑気な顔で俺の買ってきたアイスを勝手に食い始めている。
「だからこっちの部屋の、人が……あれ」
「なに隣って?ここ角部屋じゃん。反対も住んでないし。え、ホラー?やめてよたっちゃん俺今日のバイト遅番なんだよー?」
「いや、ちが…だって最初に何回かドンドンって」
「え?…あ、それ俺だ」
「は?」
呆気にとられる俺を尻目に沢原は、「見て見てたっちゃんパナッペがにこにこしてるー」とふざけたことを言っている。
それからさらりと「たっちゃんマジかわいー、とか考えてたら嬉しくてつい」と、壁を殴った理由を口にした。「きゅーんってなってきゃーってなってブンブンしてたらどかーん、みたいな」とも言っていたが、そっちはほとんど意味がわからなかった。
「だからって、あんな何回も叩いたら隣じゃなくても迷惑だろ?」
沢原の手から半分以下になったアイスを奪い返し反論する。
すると沢原はきょとんとした顔で「俺それ、1回だけだと思うけど」とほざき始めた。
「はぁ?バカ言えお前、数もかぞえらんなくなったのか」
言いながら頭の中で音を反芻する。
ふとそれが、まさか自分の心臓なのじゃないかと気が付いた。
「ん?あれ?なしたのたっちゃん、顔真っ赤だけど」
「うっせー!帰れ!」
「俺んちだけど」
「うっせー!ばか!ばかぁ!全部お前のせいじゃねーか!」
「はー?なんだよたっちゃん、パナッペのこと?帰りに買ってくるよー」
「ちげーよばか!」
手元にあったクッションを投げつけると、沢原が「べうっ」と奇声を上げて顔で受け止めた。
「たっちゃーん、これじゃマジ近所迷惑…」
「うっさい!さわんなぁ!」

37426-509 運動部対文化部:2013/04/21(日) 14:25:16 ID:yqnA/Y4w
規制中だったのでこっちに



「貴様、そんなつもりで学園祭がどうにかできるとでも思っているのか!軟弱者が!」
ハヤトが怒鳴るので、僕はびくりと肩を震わせた。
「そんなこと言ったって……ぼくはハヤトみたいにかっこよくないし、みんなをまとめるなんて……」
「何を言うか!阿呆!俺にできて龍介にできない訳があるか!根性を出せ、根性を!」
その後ハヤトは30分にわたるお説教を繰り広げ、スポ根漫画の主人公のようなセリフを何度も繰り返した。
二か月後に迫った学園祭、そこで繰り広げられる運動部と文化部に分かれて行うレクリエーションの指揮を任された僕は早くも胃が痛い。
人前に立って誰かをまとめるのは僕にはどだい無理な話なのだ。
「僕もハヤトみたいにかっこよければな……」
「な、なんだいきなり!」
「僕もハヤトみたいにかっこよくなりたいよ」
「〜〜〜っ!阿呆か貴様!龍介だってかっこいいわ!阿呆!」
ばんばん机をたたきながらハヤトはまくし立てた。
軽く舌打ちをして教室から出て行こうとしていたハヤトはふと気が付いたように、「おい」とまた僕に声をかけた。
「龍介、次の試合はいつだ」
「明後日にいつもの体育館だよ」
「そうか、また見に行くから全力で勝て!」
「うん! 僕もハヤトの賞をとった絵をみたよ、素敵だった!」
「ふん、あんなもの余裕だ阿呆め」

そういって出て行ったハヤトの耳はまだ熱をもったままだった。

37526-479  一番の味方:2013/04/26(金) 10:57:55 ID:ynOcWvg2
亮平には高校三年生の弟がいる。母親は病死、父親は蒸発、たった二人の家族だという。
「進学を諦めて就職したいって言ってたお前の弟、どうなった?」
「何言っても就職から変わんね。授業料とか払えないだろって、
そんなん気にしないでさ、やりたいことがあるんだから勉強すればいいのに」
一度言葉を切って携帯をコツコツと叩く。言い淀んでいるのがわかるから、先を促したりはしない。じっと、次を待つ。
「俺の給料明細盗み見して諦めるって…馬鹿じゃねえの」
最後の馬鹿、は、諦めている弟になのか。それとも弟の夢を叶えてやれない自分に、なのか。
「奨学金の話をしても?」
「それでも」
「利息ゼロの貯金箱があんのに?」
「は? 何それサラ金?」
「いや、俺」
「はぁ?」
お前から金なんて借りねーよ、と呆れた風を装ってはいるが、気になっているのだろう。
サラ金かと答えたときは険しかった表情に、少々の緩みが見える。
「毎月じゃなくて、本当にヤバくなった時だけ。上限三万とか決めてさ。借用書も書く?
 俺の生活もあるし、二人で弟を育てる! みたいな感じで」
努めて明るく話す。最後に一言付け加えるのを忘れずに。
「俺一人っ子だから兄弟いるの羨ましいんだよね」
嘘だけど。それは飲み込む。
「…………じゃあ、ヤバくなったら貸してください。受験料ぐらいは何とかなるけど、入学金のとき借りる、かも。あいつには大学でバイトさせるから」
「そこら辺は兄弟で話し合って決めて。弟には俺の事言わないでねー」
「ごめん、ありがとう、宏樹」
「まだ借りてないんだからごめんじゃないでしょ」


こちらこそ俺の姉が亮平たちのお父さん奪って駆落ちしてごめんね。

37626-559 RPGの中ボス 1/3:2013/04/30(火) 02:01:44 ID:Y8NEggXk
いま俺の目の前に居る人間が噂の勇者だってのには一発で気が付いた。
だって他の人間とは存在感みたいなのが段違いだったし
そもそも並大抵の人間や魔物じゃここまで絶対に来れっこないし。
ただ思ったより小さかったのと、誰とも組まずに一人で来たらしい事には少し驚いた。
そのちっちゃい勇者は不意打ちで攻撃して来ることもなく
話しかけてくる様子も見せず、ただ黙って俺の前に立っている。
このまま見つめ合ってても仕方ないから俺は今適当に作った口上を並べた。
「俺が地下四階の守護者、種族はレッドデビル。
 名前は言わない、多分人間には聞き取れないからさ。」
ちっちゃい勇者はやっぱり何も言わずに頷いた、そして俺の後ろの扉を指差す。

「あー、そこ入りたいの? なら俺殺さないと入れないけどヤる?」
さっきちっちゃい勇者が指差した扉は魔王様の部屋に繋がる通路に繋がる扉で
身も蓋もない言い方をすると、通過されてもそこまで困らない扉。
俺が守ってる扉を抜けても魔王様の部屋の前には強ーいドラゴンが居るし
その先には勿論もっともっと強ーい魔王様が居る。
だから魔王様戦が本番、その前座がドラゴン、さらにその前座が俺って言う事。
俺は別に面白い戦い方をする訳じゃないし、大して強くも無い、多分一番印象に残らないタイプ
門番の役目だって『勇者を一目見てみたいでーす』って言ったら適当に使役されただけ。
誰からも期待されてないし、俺自身ですら勝てると思っていない、
今だって"勇者見れて満足したし来世はどんな生き方しようかな"とか考えている位だ。

そうやってくだらない事を考えながら勇者を見ていると彼は再び頷いた。
「そっか、じゃあ戦おう。」
俺は手に持っていた槍を構える、勇者の方も背負っていた剣を抜いた。
その剣は吃驚する程キラキラ輝いていて、それを構える勇者も何だか凄くキラキラだった
思わず「……キラキラだ」と声になって溢れる位に。
こんな光を見たのは初めてだった、魔王様ですらこんなに輝いて見えた事が無い。
俺の出方を窺っているのか防御の型を取る勇者を見つめる
その金の瞳と視線がぶつかった瞬間、また勝手に声が零れていた。
「ねえ、人間でも呼べる名前を俺に付けてよ、それでその名で俺を呼んで。」
いくらなんでも即物的過ぎやしないかって感じだがそれが魔物だから仕方ない。
ちっちゃい勇者は未だ表情一つ変えずこっちをジッと見ている
でも俺には何故か、彼が「はい」って喋ってくれるような予感がしていた。

37726-559 RPGの中ボス 2/3:2013/04/30(火) 02:03:54 ID:Y8NEggXk
いっぴきのまものか゛ とひ゛らをまもっている!

て゛ひ゛る
「おれか゛ちかよんかいのしゅこ゛しゃ しゅそ゛くはれっと゛て゛ひ゛る
 なまえはいわない たふ゛んにんけ゛んにはききとれないからさ」

しゅんはとひ゛らをゆひ゛さした!

て゛ひ゛る
「あー そこはいりたいの? ならおれころさないとはいれないけと゛やる?」

→はい いいえ
 
て゛ひ゛る
「そっか し゛ゃあたたかおう」

たたかう →ぼうぎょ アイテム にげる

しゅんはみをかためてようすをうかか゛った!
て゛ひ゛るはちいさなこえて゛なにかつふ゛やいた!

たたかう →ぼうぎょ アイテム にげる

しゅんはみをかためてようすをうかか゛った!
て゛ひ゛るはこっちをし゛っとみている!
て゛ひ゛るとめか゛あった!

て゛ひ゛る
「ねえ にんけ゛んて゛もよへ゛るなまえをおれにつけてよ
 それて゛ そのなて゛おれをよんて゛」

て゛ひ゛るはしゅんのなかまになりたそうた゛
て゛ひ゛るになまえをつけてなかまにしますか?

→はい いいえ

37826-559 RPGの中ボス 3/3:2013/04/30(火) 02:05:28 ID:Y8NEggXk
「もしもし久保さんのお宅ですか? 高橋ですけど、あ、そうです駿です。
 悟くんに代わって貰えますか? はい、お願いします。

 ――あ、悟? なあオレ今日ブレイブクエストやってたんだけどさ!
 そう、仲間作らずに勇者の一人旅でやってたデータ!
 あれさラスボス戦の前の前にレッドデビルって中ボス居るじゃん?
 アイツ仲間になった! ……いや、ホントだって!
 うん、多分勇者の一人旅じゃないと仲間にならないっぽい。
 何か『デビルに名前つけて下さい』って出てきた、え? だからマジだって!
 お前もう今から家来いよ、うん、うん、悟が来るまで名前付けずに待っとくわ!
 おう、分かった、速く来いよ! 二人で名前考えよーぜ! じゃ切るから!」

37926-569 今日から両思い:2013/05/02(木) 23:15:30 ID:WraCejIw
「――今日から、両思いだね」
フ、と唇の端で気障な笑いをして、奴は手の中のグラスを揺らした。氷が涼し気な音を立てる。
窓の外の三日月と同じ形に細められた流し目から、俺は顔を背けた。
「言葉は正確に使え。お前の今の台詞は明らかに間違っている」
「え? ……え? うそ? 違うの!?」
裏返った声と、グラスが乱暴にテーブルに触れる音が絶妙な不調和を生む。騒々しい。
「だって! 俺さっきお前が好きだって言って、お前だって頷いてくれたのに!」
「声の大きさを考えろ。個室とは言えこの店は貸切ではない」
「あ、はい」 
大げさに肩を落としてしょぼくれたような顔をしてみせる、その様に少しだけ苛立った。
「……やっと言えたのに」
小さな子供がいじけるように口を尖らせて呟く。声は少し震えているようだった。
「ずっとずっと好きで、やっと両思いだと思ったのに……」
なぜそんなに落ち込んだ素振りを見せられなければならない。まるで俺が悪いかのように。
「お前はいつもそうだ。一人で先走って見当違いなことばかりを言う」
とうとう涙目になってしまった。元はといえばお前が失礼なことを言うのが悪いのだろう。
今日から両思いだと? 馬鹿なことを。まったくもって不愉快だ。勘違いも甚だしい。
「訂正しろ。今日からではない。ずっと前から、両思いだ」

38026-599 夕暮れ時の二人:2013/05/07(火) 01:06:46 ID:ixRXxauM
「夕暮れ時って切なくなるよな」
「因果関係がわからない。切なくなる、の主語はマスターか?」
「そうだよ。んー…なんかこう、終わっていくなーって感じ」
「終わるの主語は?」
「今日と言う日が」
「日付が変わるまであと5時間30分程度あるが、誤差の範囲内と考えていいのか?」
「いやそうじゃなくてさ…うん、じゃあ訂正しよう。太陽とサヨナラするから寂しい」
「別れが寂しいから、マスターは夕暮れを見て切なくなるのか?」
「そうそう。誰とだって、お別れするのは寂しいだろ?」
「無生物を生物のように扱う表現を用いるのはマスターのパターンとして既に認識している。
 しかし、明日の日の出は午前4時42分だ。同等の表現をすれば、約10時間10分後に
 太陽とは再会できる。よって、そこまで寂しいと感じる必要は無いのではないだろうか。
 現に、マスターは同僚との別れについて『切なくなる』『寂しい』と私に漏らしたことはない。
 しかし例外的に、太陽との約10時間10分の別離がマスターにそこまで重大な事項であるのならば、
 滞在地点の拘りさえなければこのまま追いかけることも可能だ。シップの手配をするか?」
「なんだそれ。ロマンがねえなー」
「不愉快に思われたのなら謝罪します。今の提案は取り下げ、パターンを破棄します」
「いいよいいよ。不愉快じゃない、怒ってないから。まったく、急に丁寧語になるなよ」
「謝罪の意を表すには口調も大事だと、過去にマスターが言った。私はそれに従っている」
「うわ、責任転嫁かよ」
「マスター、先程の『ロマン』の定義は?」
「切替早っ!…えーと、夕暮れってさ、昼と夜の隙間だから美しいんだよ」
「……。マスターの話はよく飛躍する」
「してないよ。昼間の空は青いだろ?対して夜は黒、いや俺としては深い藍色かな。
 一日のうちで大半を占めるのがこの二色。その隙間にほんの僅か存在するのが夕暮れの赤だ」
「日の出は?」
「まあ、それもだけど。今は夕暮れの話。空が綺麗に赤くなるのなんてせいぜい数分間」
「希少価値を見出して有り難がる人間の価値観か」
「なんかトゲのある言い方だなあそれ。まあ概ね正しいよ。俺はほんの数分間だからこそ夕暮れが好きなんだ。
 だから、夕暮れを追いかけていっても無意味。つーか、追いかけていったら夜が来ない。邪道邪道」
「マスター、すまないが情報を整理したい」
「あはは、いいよ。どうぞどうぞ」
「マスターは、夕暮れ時は切なくなる」
「うん」
「太陽と別れるのが寂しい、だから切なくなる」
「そう」
「しかしマスターは、夕暮れを美しいと認識していて、かつ夕暮れが好きである」
「おお、ちゃんと情報の取捨選択して理解してるじゃん。メモリ増設した甲斐があったな」
「切なくなるとは、人間のネガティブな感情だと理解している。切なくなるのに、好きなのか?」
「そうだよ」
「…………」
「お、悩んじゃった?フリーズ?」
「マスターの言動を理解するにはある程度の矛盾を許容する必要があると学習している。問題ない」
「それ、俺に対する悪口じゃないの。まあいいや。…って、もう真っ暗だな。ラボに戻るか」
「マスター、申し訳ありません」
「え。なんで急に謝るわけ?」
「あなたの好きな夕暮れの時間を、私との会話で消費させてしまいました。
 マスターが夕暮れを見ていた時間は約30秒、そこから日没までマスターの視線は私に向けられていた」
「なんだ、そんなことか。いいよ、明日も見れるんだから。明日も晴れだよな?」
「降水確率は10パーセント」
「だったらノープロブレムだ。じゃあ、明日は今日の学習を踏まえて二人で夕焼け空を見ようか」
「了解した」
「そのときは手でも繋ぐか?」
「命令であれば、そうしよう」
「それじゃつまんねーよ。明日までにどうしたいか考えとけ。ふふん、明日の夕暮れ時が楽しみになったな」
「楽しみ?切ないのでは?……マスター、待ってくれ、今の言葉の意味は――」

38126-699 味噌と豆腐:2013/05/26(日) 00:43:53 ID:47ArE6QE
同じさやで育った君と僕。 
将来何になるか話しながらいつまでも一緒だねと言っていたのに、枯れたさやから放り出されると別々の容器に入れられてしまった。
いくら泣いても呼んでも返事がない。
諦めて疲れた僕は袋に詰められ、トラックに揺られて大きな工場のタンクに。  
今頃は君もきっと何かに加工されてしまってるんだろうね……。
僕も他の仲間たちと混ぜられて何かに成っていく。
君が居ないんだからもう何でもいい。
早く食べられて消えてしまいたかった。
そう思っているのに一年以上もほったらかされて発酵して味噌なった僕は、やっと出荷され店頭からある家庭にやってきた。
毎日の料理に使われ消費されて、いよいよ僕は味噌汁になって食べられる。
長かったな。
これでやっと僕の一生も終わるんだ。
鍋で溶けて他の具材に触れていると、ふと懐かしさを感じた。
懐かしくて暖かでこの感じは……。
真っ白な豆腐は、もしかして君なのか?
でも君がなぜ今頃豆腐に?
機械の内部に引っかかって、一年以上外に出られなかったのか。
辛い体験をしたんだね。
でもそのおかげで、再び僕たちは巡り会えたんだね。
嬉しいな、嬉しいな。

38226-739 美男と野獣1/2:2013/06/02(日) 17:29:01 ID:CfRdt7eo
森へ入ってはいけないと言われていた。
森には怖い魔女が住んでいて、捕まると魔女の棲家にある大鍋に入れられて毒薬の材料にされてしまうと。
けれど今自分の目の前にいるのは魔女ではなく、全身毛むくじゃらの化け物だった。
村一番の大男など遥かに凌ぐ大きな体、口元には牙が覗き、鋭い爪も見える。
まるで山狗か狼のような姿なのにそれでも化け物だと思ったのは、それが両の脚二本で立っていたからだ。
人間のように立つ獣なんて、絵本でしか読んだことがない。まさか本当に居るなんて。
(きっと、僕のことなんか一口で食べてしまうんだ)
逃げ出そうにも右足は痛みを増すばかりで言う事をきいてくれそうにない。
走る以前に、腰が抜けて立ち上がることもできない。
荒い呼吸で肩を上下させながら、化け物がこちらへ一歩踏み出してくる。
僕は反射的に朝のお祈りのときのように両手を組んで、眼を閉じた。
(神様、神様、神様……!!)

と、ざわざわと木々が揺れる音がしたかと思うと、強い風が吹いた…ような気がした。
しかしそれは一瞬だけで、すぐに辺りはしんと静まり返る。
僕はしばらく目を瞑っていたが、いつまで経っても身体に化け物の爪や牙がかかる気配がない。
もしや風に驚いて、どこかへ行ってしまったのだろうか。
(………?)
恐る恐る目を開ける。
化け物はまだそこにいた。けれど、僕の方を向いてはいなかった。
先ほどの場所に立ったままこちらに背中を向けて、何か、別のものに注意を向けているようだった。
それが何なのか見ようにも、僕のいる場所からは化け物の大きな体に遮られてよくわからない。
ただ、別の誰かがそこにいる気配はした。人の気配。
……もしかして、村の誰かが助けにきてくれた?
僕は身体を少し移動させて、化け物の向こう側を見ようと試みた。
けれど、這うときに肘が枯れ枝を折ってしまい、乾いた音を立ててしまう。
音に反応したのか、化け物が――なぜかぎくりと肩を揺らして――身体ごとこちらを振り返る。
視界が開けた。
(あっ)

そこには、魔女が立っていた。

黒ずくめのローブを着ていて、手には変わった形の杖を持っている。
魔女だというから絵本で読んだお婆さんの姿を想像していたのに、それよりも
ずっとずっと若くで、とても綺麗な人だった。まだ若い魔女なのだろうか。
若い魔女が少し首を傾げてこちらを見る。フードから真っ直ぐな黒髪が零れ落ちた。
助けてもらえるかもしれない。
「あ、あのっ……!」
その人に声をかけようとした矢先、化け物が魔女と僕の間にまた割って入って、魔女の姿はまた見えなくなってしまう。
化け物は……また僕に背中を向けていた。心なしか両腕を広げている。――まるで、僕を庇うように。
僕は訳が分からずに、ぽかんとその毛だらけの背中を見上げた。
草を踏む音が静かに近付いてきて、止まる。
「どけ」
聞こえてきたのが男の人の声で、僕は驚いた。
「私に気付かれずに済むとでも思ったのか、馬鹿が。この森は私の城だぞ?」
その人は当然のように、化け物に向かって喋りかけている。
そして化け物の方もそれに対して暴れたり襲い掛かろうとする雰囲気は無い。
「それはあの村の子供だろう。西の入り口から入ったようだな。これは立派な盟約違反だ」
どけ、と言う声がもう一度聞こえて、化け物の身体がゆっくりと脇へ退く。

38326-739 美男と野獣2/2:2013/06/02(日) 17:30:00 ID:CfRdt7eo
そして僕の前に進み出てきた魔女――男だから魔法使いだろうか?――は近くで見ても
やっぱりとても綺麗な人だった。
その人は、立ったまま僕を見下ろしてきた。
「おい子供。森へ入ってはならないと、親に教わらなかったか」
決して大きな声を出しているわけではないのにその声音は威圧的で、僕の身体は竦み上がる。
まるで教会にある聖母様の像のように綺麗な顔なのに、浮かんでいる表情は酷く冷たい。
なぜか、この人の方が化け物よりももっともっと怖いもののような気がした。
「森には怖いものが居て住処に勝手に入ると殺される、そう教えてはもらわなかったのか?」
その言葉に僕ははっとなる。
魔女に捕まって毒薬の材料にされる、というのはどこか遠い世界の話のように頭のどこかで思っていた。
しかし今「殺される」という直接的な言葉で、絵空事は現実に引き寄せられた。
全身が震えだす。
後退りする僕を見て、男は端正な顔に笑みを浮かべた。
「そうか、言いつけを守らなかったのか。悪い子だな」
言いながら杖をくるりと回して、杖の頭を僕の方へ向ける。
周囲の木々がざわざわと騒ぎ始めた。
得体の知れない恐怖が襲ってくる。何か途轍もなく怖いものがくる、そんな予感がした。
許しを乞おうとしても声がうまく出せない。
(神様……!)
目の前が真っ暗になった。と同時に身体が地面から浮かび上がる感覚。
これが魔女の魔法なのだろうか。僕はこのまま死んでしまうのだろうか。
そんなことが思い浮かんで……けれど、僕の意識は数瞬後もそのままだった。
身体のどこも――森に入ったときに転んで挫いた足以外は――痛くない。
「……。聞き分けの無い奴だ」
魔女の人の低い声が耳に入ってきて、僕はゆっくり首を動かして辺りを見回した。
そして気付く。
僕は、あの毛むくじゃらの化け物に抱きかかえられていた。
顔のすぐ傍に鋭い爪が見えたが、それは僕の身体に食い込んだりはしていない。
寧ろ爪が触れないように、手首から先が反らされている。
「お前はいつまで経っても甘い」
こちらを……いや化け物の方だけを見て、魔女の人が溜め息をつく。
「子供だからと目こぼししたところで、何の得もないというのに。無事に森の外へ出したとしても
 感謝などされず、お前が余計に恐れられるようになるだけだと何故わからない。本当にお前は馬鹿だな」
厳しい口調だったが、さっき感じたような冷たさは無い。
ただ、表情はとても苦々しいもので、まだどこか怖さを感じる。

僕はこれからどうなるのだろう。
殺されるのだろうか、助かるのだろうか。村へ帰れるのか、もう森の外へ出られないのか。
頭のすぐ上から荒い呼吸音が聞こえてくる。
僕は恐る恐る、化け物の顔を見上げた。

384名無しさん:2013/06/03(月) 23:24:25 ID:cJXzTCt6
>>749
規制で書き込めなかったときここに投下します

すきだ、って南が言った時聴き間違いだと思った。「酢来た」とか「鍬だ」とかの。
日常生活でまぁ仮に今と同じ月9に出てきそうなこじゃれた夜景の見えるバーかなんかでなんで男2人でいるかっていうともちろんナンパなんだけど、例えば食事と一緒に酢が来て「酢来たよ」とか言うシチュエーションは日本中どこかにもしかしたらあるかもしんないけど「鍬だ」っていつ言うかな。
中学生が日本史の資料集開いて先生が日本の稲作の歴史を紐解きながらこれが「鍬だ」とかはあるだろうけど、鍬かついだ農民がバーになだれこんできたり、
実は今食ってる野菜スティックはバーテンダーが家庭農園で精魂こめて作ったもので、俺がバーテンダーにこの野菜スティツクうまいっすねって言ったらカウンターの下から鍬を出してこれで週末耕してるんですよーって言って南が「鍬だ!」って言っていや俺は何考えてるんだろう。
まぁでも。ウイスキーを舐めながら反射的に浮かんだ考えを打ち消す。「好きだ」はない。流れてしまった会話をなんか蒸し返すのも面倒でいつのまにか話が野球の話になっててそんな出来事を俺は酒の酔いもあり忘れた。
バーを出て、エレベーターに乗り込む。今日は収穫もなかったのに南は上機嫌でスキップしそうな勢いでエレベーターに乗った。
エレベーターはガラス張りで、眼下にネオン瞬く夜の街が広がる。正直俺はこのタイプのエレベーターが嫌いだ。高いとこが苦手ってわけじゃなく車で山道走ってる時みたいに頭の芯がくらっとして気分が悪くなる。
しょうがなく外を背に腕組みして目を瞑ると外を見ていた南が低い声で俺を睨みあげる。
「何怒ってんの」
はぁ?と思った瞬間ネクタイ引っ張られてがっつりチューされた。うわ、と思ったけど超絶キスのうまい南に嫌悪感より先に好奇心が勝ち更なる快感を探求すべく頬を両手で覆ったり、角度を変えてキスしたり、なんか女の子にするみたいにしてしまった。
「なぁさっきやっぱり」
27,26,25,24
エレベーターの階数表示を見ながらキスの合間に息も切れ切れに言う。
「好きだって言った」
ちょっと逆切れするみたいに南が言う。いつも勝気な切れ長の目の奥が濡れててやらしい。
「悪い、酔ってた、忘れろ」
もっとキスしたい、と俺が南の腰を抱くと南は急に俺の胸を押した。うーわツンデレむかつく殺すと思うと同時にエレベーターが1階についた。俺の手をくぐりぬけ開いたドアから先に行こうとする南をつかまえ閉まろうとするドアを手で制しながらキスの続きをする。さっき俺にキスしてきたのはなんだったのか南はすごい抵抗をみせそのたびにガンガン容赦なく閉まるドアに俺達は体のあちこちをぶつけながらそれでも南に俺は食らいついた。
こいつとならセックスできるわ。頭の中ですでに南を脱がしながら再び上昇し始めるエスカレーターの中に喧嘩の相手を投げ飛ばす勢いで南を強引に押し込み、乱暴に最上階のボタンを押した。

38526-759 書生同士:2013/06/05(水) 23:31:23 ID:ChEPw9/M
分割量を模索していたら規制されました。ということでこちらに。



 茫として、天井の染みを見上げていた。熱に浮かされた頭が重い。
 枕元に置かれた湯冷ましは、先に空にしてしまった。
 喉が渇いた、と思うが、立って家人に求める気力も無かった。申し訳程度の手伝いで居候している身であれば、尚更世話になることの済まなさもある。
 だから廊下をきしきしと歩む音を聞き、襖が静かに開けられて、その向こうに同じ書生の男を見て取った時、照一は内心安堵した。

「テルさん、御加減は如何です」

 問われた声に返事を返すのも億劫で、うん、とだけ喉の奥で唸る。柔和な顔を笑ますのは、隣室に住まいを間借りし、同じ大學に籍を置く斎藤だった。
 同じ書生と云えど、法律を学ぶ斎藤と、生物学に傾倒した照一では、まるで畑が違う。
 また地方の農家の出である照一に対して、斎藤は上京してきた身とはいえ、中々の名家の出と聞く。
 論じることの出来る事物など殆どないから面白くもなかろうに、一つばかり年長の照一に気でも遣っているのか、斎藤は何かと話し掛けて呉れた。
 世間話から、身を寄せている商家の人々の話だの、友人の羽目を外した話だのを聞かせて呉れたこともあった。
 本当は英語が苦手でもない癖に、取寄せた書物の訳などを頼ってくることもあった。
「まだ、良くなさそうだ。浅野さんが持って行けと、呉れましたよ」
 この家の勤勉なお手伝いの名を出しながら、斎藤が枕元に膝をついて、片手に乗った盆を置く。
 新しい湯飲みと、無花果を載せた皿とが照一の目に入る。そろそろと身を起こして湯飲みを口に運ぶと、少しだけ頭が明瞭になった。
「……有難い。浅野さんにも、宜しく、云っておいてくれ」
「はい。ああ、それからタイさんにね、帰りに遇いました」
「泰助が」
「教授が、高月の休むなら余程酷かろうって心配していたそうですよ。……それで、本を幾つか預かって」
 高月は照一の姓である。同級の寺田泰助は、照一を介して斎藤とも顔馴染みだった。今では余程、斎藤との方が仲が良いように見えることもある。
「テルさんが読みたがっていたのが、数冊手に入ったからと」
 小脇に抱えていた書物の表紙を見せられ、その題字を呆けた眼で追って、思わず手を伸ばしかけた。
 途端に、斎藤の手に掴まって夏蒲団の中へ押し戻される。予め判っていたかのような素早さだった。
「駄目ですよ。どうせ、今読んだって頭に入りやしませんよ。それで夜更かしなぞして、風邪の治りだけ遅くするんですから。
 此れは今のテルさんには毒ですから、僕の手元に置いておきます」
 正論だと思って、照一は押し黙る。斎藤は何時も口が達者だ。法学の道には入れぬな、としばしば思うが、他の者が如何であるか実の所はよく知らない。
 ――ただ、己の手を掴んだ斎藤の手が、徐々に温くなっていくのが勿体無いと、ふと思った。
「読む為には早く治すことです」
「……ああ。そうしよう」
「余り遅いと、僕が先に見てしまいますからね。お大事に」
 立ち去る素振りを見せた斎藤の手を、照一は思わず掴み直した。
 そのまま引っ張って甲を額へあてがうと、まだそちらは少し、冷やりとして心地良い。吃驚したような斎藤の声が、頭にぐわんと響いた。
 こんなものは、体温を下げる役には立たない。
 判っていても、何故だか酷く惜しかった。
「テルさん、テルさん。今水枕でも貰って来ますから……」
 慌てたような斎藤の声が、遠くなる。済まない、斉藤、と口にした積りであったが、定かではない。


 聞こえ出した寝息に硬直を解いて、斎藤は複雑な顔で照一を見下ろす。
「思い違えたら如何するんです」
 日頃斎藤を頼りもしない、此方から話し掛けなければ口も利かないような風情だから、不覚にも動揺してしまった。
 疎まれているかと落ち込んで、寺田に笑われた事もあったというのに。心音が頭に響いて、煩い。
 斎藤はそっと書籍を傍らに置いて、諸手で力の抜けた照一の手を包む。
「……葉っぱを見る目の少し位、僕に呉れても罰は当たらないでしょうに」
 屹度研究の道にそのまま進むのであろう彼と、法曹の道へ進む心算である自分の、道が別れる時まではもうそう遠くない。その時、せめて友人で在れるだろうか。
 斎藤の手が、じわりと熱くなる。
 頑強な彼のこと、明日にはすっかり快復してしまうだろう。それでも、もう少し此の侭でいて呉れてもいいと、不謹慎な事を思った。

38626-819 旅行先で出会った運命の人 1/2:2013/06/15(土) 23:08:15 ID:XFt/5UKs
向こうに書き込めないのでこっちに

 あいつとは沖縄を旅行中に知り合った。今から六年前で、あいつは卒業旅行中の大学生。
 馴れ馴れしく写真撮影を頼まれて、成り行きで会話をしていたらお互い近くに住んでいることが判明し、
 微妙に付き合いが始まって、いつの間にか恋人になっていた。
 俺はその頃から、男の癖に占いに凝っていた(性差別的な文言だが)。
 当たると噂の占い番組で、「今週の天秤座は旅行が吉。運命の相手に会えるでしょう」といわれたことが、
 旅行の一つのきっかけだったほどだ。
 両思いになってからそれを思い出し、俺は他愛もなく、そして年甲斐もなく浮かれた。三十前の男がである。
 男同士であることも、年が八つほど離れていることも、その時は大したことには思えなかった。まあ、若かったのだ。
 付き合って三ヶ月くらいした頃だったか、俺は、酔った勢いで、その占いのことを喋ってしまった。
「だから君は俺の運命の相手なんだよ」
 素面なら死んでも吐かない台詞を真顔で言い切った俺に、あいつは一瞬間を置いて、けたたましく笑い出した。
「おい君、笑うな。笑うな」
「だっ……、だって、あひゃひゃひゃ、運命って、運命の相手って、おっさんが真顔でうひゃははははははは」
「おっさんというのはやめなさい」
「あははははははははははは」
 ひとしきり笑ったあと、俺も天秤座だから双方向運命っすね、こりゃもう逃げられねーなぁ、などと
 にやにや笑っていたあいつの顔はまだ鮮明に思い出せる。
 だが、今の俺はひとり、だ。

 あいつとはこの一年連絡を取っていない。理由は簡単で、俺が逃げたのだ。
 あいつはいい恋人だった。口は悪かったが、マメでよく気が付いて、態度は巫山戯ていたが、優しくて愛情深かった。
 一方で俺はどうだ。三十路も半ば、零細企業で細々と働く将来性皆無のくたびれた平社員。
 若いあいつの未来を摘み取ってしまっている気がして怖かった。
 あいつは別にゲイではなく、昔は彼女もいたらしい。
 結婚して、子供を作って、そんな普通の幸せが幾らでも掴めた筈なのに、いや、今からでも掴める筈なのだ。
 俺が居なければ。
 だが、あいつは俺がそんなことを口にすると、酷く怒った。
 当たり前だ、だが俺は怒らせることを承知で、言わずにはいられなかった。
 運命の相手と浮かれてみても、俺があいつを幸せにできるとはとても思えなかったのだ。
 喧嘩が増え、関係はぎくしゃくし始めた。
 そんな時に、俺は、――会社をクビになった。
 ある意味でチャンスだ、と感じた。交友関係の狭い俺は、それら全てを断ち切り、
 アパートを引き払って、携帯を解約し、一方的に、姿を消した。
 謝罪と感謝の手紙を、一通だけ送って。

 三十路を過ぎて、見知らぬ土地での再就職は大変だったが、
 奇跡的に、訳ありの人間を多く受け入れている小さな会社に入ることができ、どうにか生活も安定し始めた。
 月曜日、パターン化した流れでテレビを付ける。聞き慣れた音楽。
 あいつがいた頃は、毎週一緒にチェックしていたあの占い番組だ。もう、一人で見るのが当たり前になった。
「今週は絶好調、天秤座のアナタは、旅先で運命の人に会えるカモ☆ 他人への気遣いを忘れずに!」
「……またか」
 苦笑する。運命の相手がそんなにごろごろ居て堪るか。
 一人でいい。一人でよかった。一人でよかったんだ。あいつがそうでないのなら、もう誰も要らないんだ。
 その週末の社員旅行をキャンセルしようかと思ったが、催行人数ぎりぎりだったことを思い出し諦めた。
 俺の所為で中止になっては、温泉を楽しみにしていた同僚の山田さん(62歳)に悪い。
 だがその気遣いが、裏目に出た。
 俺は、熱海の旅館の廊下であいつと真っ向鉢合わせる羽目になったのだから。

38726-819 旅行先で出会った運命の人 2/2:2013/06/15(土) 23:11:22 ID:XFt/5UKs
 社員旅行×社員旅行。まさかのバッティング、である。予想して然るべきだった、シーズン真っ盛りに観光地なのだから。
 しかし同旅館とは酷い。運命の悪戯、或いは本気?
 驚愕と混乱と焦燥に無言の俺とは対照的に、あいつは、
 いつも通りの――いつも? 一年前までの話だろう、と俺は自嘲する――馴れ馴れしい口調で話し掛けてきた。
「わー久し振りっすね、三百七十二日振り? あは、ちょっと痩せた? 髪の長さ変えた?
 幽霊見たみたいな顔すね、足ちゃんとあるよ、俺。見る?」
「……驚かないんだな。君は」
「あー。だって絶対、此処で会えると思ってたし?」
「……何故だ?」
 あいつは笑みを消して真顔で答える。
「『天秤座のアナタは、旅先で運命の人に会えるカモ☆』俺の運命の人つったら決まってるじゃないすか」
 俺は黙り込む。あんなのはただの占いだ。だが、その占いを信じてこいつに告げたのは誰だ?
 実際に俺達は此処で会ってしまった。偶然? 必然? 運命? それとも。俺は混乱したまま言葉を絞り出す。
「……まだあの番組見てたんだな」
「あんたの所為で習慣になっちゃってんすよ、責任取って結婚しろよな」
 聞き慣れた軽口。だが、目は笑っていない。その口調も表情も、台詞に似つかわしくないほど真面目だった。
 ……ああ、こいつはまだ、俺を。馬鹿が。諦めろよ。ブーメランのように自分に戻ってくる言葉が頭に幾つも浮かぶ。
「さっき仲良くなった山田さんって人、あんたの同僚でしょ?
 ふーんそっか、日本海側まで逃げたんだ。随分畑違いに就職したんすね」
 俺はくるりと背を向けた。逃げよう。そう、今度はもっと遠くに逃げる。
 苦労して就職した会社だが、仕方がない。こいつが諦めるまで、
「逃げるの? 別にいーよ」
 意外な言葉に、俺は思わず立ち止まって振り向く。
 あいつは追い掛けようとする素振りも見せずにさっきのままでさっきの場所に立っていた。
「何度も何度も何度も何度も何度も逃げれば……。俺は全然構わねーすよ。だって、」
 俺はあいつから目を離すことができない。
「もしも俺とあんたが運命だったら、何処に逃げたって消えたって死んだって追いつける。
 十年後でも五十年後でも千年後でもいつか絶対一緒になれる」
 それが運命ってもんでしょ、とあいつはけたけた笑う。
 俺は、何かに押さえつけられるような錯覚を感じながら、月並みな文句で抗おうとする。
「君は……、俺といない方が、幸せになれるだろう。運命なんか、忘れて」
「そうかもね。あんた卑屈だし、根暗だし、一方的だし、考え方が馬鹿だし。でもさ、」
 あいつは一歩も動かないまま、俺を見据えて笑った。ぞっとするほど綺麗に。
「知らねーの? 運命は、抗えないから運命なんすよ」

38826-849 両片思い:2013/06/20(木) 16:59:11 ID:mmvb.f/c
先輩は有能な営業マンで上司にも部下にも厚い信頼を得ている
俺は気さくで仕事にひたむきな先輩にすぐに懐いて…恋情を抱いた
そうしてみると途端に真っ直ぐに尊敬の眼差しを向けてきた事が恥ずかしくなった

先輩には奥さんがいる
先輩はあまり話したがらないけれど、絶世の美女とだけ言っていた
「俺の眼鏡どこにある?」
「童顔隠しの伊達なら給湯室にありましたよ」
「…お前生意気だぞ」
大丈夫、先輩の幸せを壊すつもりはない
俺は後輩として先輩を尊敬してるんだ

俺には男前の部下がいる
たまに生意気だが素直で仕事の覚えも速いいい部下だ
「甘党な先輩にケーキのストラップ買ってきました」
そういって面白半分に買ってくる乙女チックな物が年々溜まっていく
「あなたって意外と乙女なのね」
そうレズビアンの妻から笑われる

相手はストレート、しかも直属の後輩
「奥さんってどんな人なんですか?」
「絶世の美女。いいから仕事しろ」
大丈夫だ、あいつはいい部下だ。バレる訳が無い。隠し通せるに決まってる。

38926-859 暑くても離れたくない:2013/06/21(金) 19:32:29 ID:b.zNaHh6
本スレ860です
続編というかおまけ

==============================

「ごめんっ…俺べとべとだった」
身体を離そうとするとぐいっと押し戻された
「俺も涙でべとべとだから気にしないで…俺も離れたくないし」
普段の余裕のある智ではなくて、

「やっぱもういっ「だめ」
「キスだけ…」

いつもとは違うぎこちないキスは心地よかった

39026-869 狸×狐:2013/06/24(月) 07:39:09 ID:q1JnN67M
本スレで時間切れに気付かず投下してしまいました…申し訳ありません
あと三十分早く気付いていれば良かったです…
時間切れ無効ですので、こちらにも投下させて下さい。すみません。


「あっはは、また騙されてやがる。無様なやつめ。気分が良いなあ。うすのろをからかうのは気分が良い!」
俺の腹の上に跨がって、目尻をきゅ、と細め、口角を吊り上げケラケラ笑う奴の顔を見上げ、溜め息をつく。
襦袢の裾から飛び出た奴の尻尾がぱたぱたと動いて俺の太ももの辺りを着物越しに掠めるのがこそばゆい。
「いい加減どいてくれないか」
「嫌だね」
「なあ、ならせめて、俺の腕を膝で抑えるのはやめてくれよ、痺れてきた」
「ふうん」
そう言うやいなや、ぴしゃりと俺の手の甲を叩く。
指先が痺れる感覚に眉をしかめると、奴は一層ニンマリと笑った。
「な、僕は綺麗だったかい?まったく綺麗な女だったろ?お前はいつも、あんな風に女を口説くの?お前なんかに着いてくる女なんて、いるの?答えてみてよ、さあさあ」
言い淀んでいると、またぴしゃぴしゃと痺れた手を叩いてくるので、仕方なく口を開く。
「…ううん、まあ、そうだなあ…大抵は……着いてくる」
上機嫌に動いていた尻尾がぱたりと止まる。
俯いたまま動かない奴に声をかけようか否か考えながら、二、三まばたきをしていると、いきなり頬をつねられた。かなり、強く。

「いひゃい」
「僕に騙されてのこのこ着いてくるうすのろの癖に、生意気なんだよ。一丁前に女なんか口説きやがって。なっさけない顔してさあ。こんな情けない顔した奴に着いてく女は、何考えてんだろ」
「さあ…顔はやたら、ほめられるけど」
「うるさいよ!ほんと憎たらしい。憎たらしいから、もっとからかってやる」
「あ、おい…」
「喋るな!」


お前だと分かっていて声をかけた。
そう告げたら、こいつも少しは可愛気のある顔をするのだろうか。
……まあ、喋るなと言われたので、少し黙っていようと思う。

391890-1/2:2013/06/26(水) 03:41:51 ID:eO3ad2tU
本スレ890-891です。
長いと叱られたので分割してたら途中からになってしまいました…
本スレ2レス投下で終了ですが、1/2の前半部分を追加でこっちに
投下させてください。読みづらくなって申し訳ないです



姉さんの3回忌に訪れた墓所で、俺と義兄さんは静かに手を合わせる。
親代わりになって歳の離れた俺を世話してくれた姉さん。
それを陰から支え続けてくれた義兄さん。
福祉課の職員と相談に訪れた市民という、色気の欠片もない出会い方をした二人は、バレンタインデーに告白して、ホワイトデーに返事をするという、今時小学生でもやらない幼稚で不器用な恋愛を経て結ばれた。
なのに、たった一年足らずで姉さんは逝ってしまった。
義兄さんは今も変わらず、市民の良き相談相手として働きながら、大学に通う俺の面倒を見てくれている。
まるで困っている人に尽くすことが、人生の生き甲斐みたいな人だ。
「お腹空いただろう? 何か食べて帰ろうか」
「はい」
合掌を解いた義兄さんの、眼鏡の奥にある瞳が少し潤んでいる。
二人に見守られて十代の後半を過ごした俺は、両親がいなくても十分に幸せだった。
本当に、二人には心から感謝している――だから、この気持ちは二人への裏切りだ。
姉さんが短い生涯で一番愛した人を、俺はこれから傷つける。酷いことをして、消えない罪を背負わせる。
どうしてこうなったのか自分でもわからない。けれどもう決めたことだ。
義兄さんはきっと苦しむ。悩みすぎて頭がおかしくなるかもしれない。もしそうなっても俺がずっと側にいる。義兄さんと俺は、これから先もずっと一緒だ。
姉さんが天国で待ってたとしても、俺と義兄さんはそこには行けないだろう。
地獄まで義兄さんを連れていく俺を、姉さんは決して許さないだろう。
神様は選択を間違えた。姉さんではなく、俺を連れて行けばよかったのに。
それとも、こんな俺だから神様も側に呼び寄せたくなかったのだろうか。

「晴れてよかった。来週からは雨続きらしいから、むし暑くなるよ」
「もう梅雨入りしましたからね」
こんな会話ができるのも、あとわずかな時間だけ。
義兄さんの、こんな穏やかな笑顔が見られるのも、あと少しだけ。
「――義兄さん」
「うん?」
「お話したいことがあるんです」
「話? どんな話?」
「できたら、家に帰ってゆっくり聞いてもらいたいんですけど、だめですか」
少し考えるような顔で、それでも微笑んで頷く義兄さんの目は優しい。
「いいよ、たまには男同士でじっくり語ろうか」
「はい」
そっと俺の背中をたたく、義兄さんの手。
そこには今でも、姉さんを愛している証拠が薬指に光っている。
義兄さんの、一生分の愛情を持って、遠いところにいってしまった姉さん。
だから、残りは俺が全部もらう。
――いいよね? 姉さん。

392890-2/2:2013/06/26(水) 03:51:27 ID:eO3ad2tU
出会ってから付き合うまで約二年。付き合ってから結婚するまで一年と少し。結婚生活は一年足らず。
妻が亡くなって、もう二年以上が過ぎてしまった。
今日は3回忌の法要で久々に妻の眠る墓所を訪れた。妻がこの世で誰より大切にしていた義弟と一緒に。
妻を見送った日は、ひどい雨が降っていた。
傘を差し、最後まで墓石の前を離れなかった義弟は、一粒の涙も流していなかった。
僕は泣き腫らした目で「君は強いね」と声をかけた。
義弟は振り向きもせず、真っ直ぐに立って「もう三人目ですから」と呟いた。
その声があまりに淋しげで、僕は傘を放り出して義弟の肩を抱いた。
嗚咽を上げる僕に、義弟は自分の傘を差しかけてくれた。肉親全てを失った彼のほうが、ずっと辛いはずなのに、慰められたのは僕のほうだった。
妻がいなくなった家に、今は二人で住んでいる。大学を出るまでは面倒を見させてほしいと、僕が願い出たからだ。大学を卒業するまで、自分がしっかり世話をしたいと言っていた妻の気持ちを、僕が成し遂げてやりたかった。
――けれど、本当は僕自身が淋しかったのだ。淋しさに耐え切れなかったのだ。
義弟の強さに、僕は知らぬうちに甘えていた。
一回り以上も歳が離れている彼に、自分の淋しさを押し付け、背負わせてしまった。
悲しみを分かち合えるのは義弟しかいなかった。義弟の存在だけが、僕の生きる支えになってくれた。
涙を流して悼むほどの悲しみは通り過ぎたというのに、未だに薬指の指輪をつけているのは、半分は妻への思いだが、もう半分は義弟への依存心からだった。
もしも指輪を外してしまったら、義弟は僕の側から離れていってしまうかもしれない。僕を残して、どこか遠くへ行ってしまうかもしれない。
妻を悼み続けることで、義弟を縛っておけると考える僕は、誰から見ても最低の人間だ。
けれどもう少しだけ、彼の強さに甘えて、縋っていたかった。
こんな僕の心を知ったら、彼はどう思うだろう。
大切な姉を預けた男が、こんな脆弱な心の持ち主だとわかったら、失望し、軽蔑するだろう。
だから隠し続けなければならない。今はまだ、彼を失うわけにはいかないのだから。
墓石の前に並んで立ち、僕と義弟はそっと手を合わせる。
こんな僕に、大切な弟を残して逝ってしまった妻への、懺悔の時間だった。

39326-899 他校の後輩:2013/06/27(木) 17:51:49 ID:q8Kclirc
 小さい頃から得意で続けて来た競技は中学で全国大会に出場するほどの腕前で、高校もその推薦で決まったくらいだ。
 卒業式に柄にもなく花なんぞを手渡して見送ってくれた後輩達に、俺は明るく声を掛けた。
「後は任せたぞ」
「はいっ!」
「それで一年後、俺ん所に来い。また鍛えてやる」
「判りました!」
「頑張ります!」

 高校に入学しても日々練習に励み、一年でも選手に選ばれ充実した生活を送った。
 春が来て新入生の中には見知った顔が何人かいたが、一番期待していた奴はいなかった。
 聞いてみると、進学のため県外に出たらしい。
 一番伸びそうで期待していた奴だが、将来の目的のためじゃ仕方ないな……。
 残念に思いながらも、鍛錬を続け迎えたインターハイ。
 当然のように勝ち進み、地域ブロックの試合会場で見つけた懐かしい顔。
 少しデカくなった?
 いやそれよりも、なんで進学校じゃなくて強豪で知られる高校にお前が居るんだ?
 聞きたいことが沢山ある。
 試合前のバタバタした会場内、イメトレや精神統一をやめて駆け寄った俺に気付くと礼儀正しく一礼した。
「お久しぶりです」
「お前、続けてたのか」
 だったら何でうちの学校に来なかったんだ?とは聞けなかった。
 けど顔に出ていたのか、後輩は昔と変わらずまっすぐ俺の目を見て話しかけてきた。
「オレ、強くなりたいんです。先輩に可愛がられたいんじゃなく、勝ちたいんです。だからこっちに入学しました」
「!そうか。頑張れよ」
 一年見ないだけで生意気になりやがって……。
 余裕ぶって笑顔で肩を叩いて別れたが、内心ムカついてしまう。
 俺が一番気に入って期待していた後輩。
 でも今は他校の選手になっていた。
 なぜかは分からないが、無性に腹が立つ。
 先輩としてのメンツだけじゃなく、絶対に負けられないって気になる。
 闘志を燃やしながらも平常心を心掛け二回戦に進み、運よく対戦した奴をコテンパに負かしてやった。
 それなのに、まだもやもやしたものが残っていて気分がスッキリしない。
 この先もまた奴と戦うだろうが、勝ち続けなければと何故か焦りを感じた。

39426ー919 ブルーカラー×ホワイトカラー:2013/06/29(土) 19:26:51 ID:SSoNmiXs
規制中なの


蒼、蒼、藍色瑠璃の色。
濃淡様々な青色が、空と海とを描き出す。
一見冷たい印象を抱かせるその色が、暖かみを得るその一瞬が、他の何より好きだった。
「青」
一息ついた背中に声をかける。キャンバスに向かっていた青い瞳がこちらを移し、明らかな喜色を孕んでみせた。
「白」
その笑みに微笑み返し、俺はキャンバスの前まで歩みよる。
「見事なものだな」
巨大なキャンバスを目の前にして、俺は言った。すると青は少し照れたようにしながら、あの人に捧げるものだもの。と胸を張った。
1ヶ月後の今日。俺たち色は、全てを作りだして下さった方に会う。それは一年に一度のお祭りで、その時俺たち色は、全員で協力して描いた一枚の絵を、あの方に捧げる。中心となる絵は毎年変わるが、今年は青が、その大役に就いていた。
「見事なものだな」
空と海をとっくりと眺め、もう一度、俺はそう呟いていた。無意識だった。
色の中でも赤青黄の三原色は特別で、その表現力も突き抜けていた。そして俺は、三色の中でも青の絵が、他の色より好きだった。
一見冷たい印象を抱かせるその色が、他にはない暖かみを帯びる姿が好きだった。
ほう、と息をついていると、そっと近づいてくる気配。とっさに身を引けば、やはりというか、青が手を伸ばしていた。
「……青」
思わず声が低くなる。
青はごまかすように笑っているが、ごまかされてなんかやれない。今、こいつは俺に触ろうとした。

39526ー919 ブルーカラー×ホワイトカラー2/2:2013/06/29(土) 19:28:58 ID:SSoNmiXs
本来、色同士が無闇やたらとお互いに触れることは、あまり誉められたことではない。触れた先からお互いの色が染み込んで、しばらく取れなくなるからだ。ひどいと色としてしばらく使えなくなってしまう。俺はその性質が特に強く、少しだけでもすぐに染まってしまうからやってられない。
「……青」
じろりと睨む。青はバツの悪そうに目をそらす。思わずため息が出た。
「誰かと触れ合いたいなら緑か紫に頼めば良いだろう」
青の部下である彼らなら、影響も最小限で済むのだからと、そう言えば、青は弾かれたように顔を上げ、頬を膨らませてみせた。
そしてポツリとこぼされたのは。
「僕は白に触りたいんだ」
ガツン。と、これ以上なくストレートな言葉。思わず頭を抱えたくなった。これだから、こいつは!
見ればむすりと子供のような顔。
その顔に、どうしようなく弱いのを、俺はもう自覚済みで。
ため息ひとつ。
「……青」
青の、一秒たりとも同じ色を映さない瞳に映る白。綺麗だなあと、人事のように思ってしまう。そして、彼の描く巨大な絵。
ああ、仕方ない。
「……少しだけ、なら、許してやる」
ポツリとこぼしたその言葉が消えないうちに、体に衝撃が走って。
抱きしめられたのだと知ったのは、その暖かさからだった。
しばらくは己に付いた色に悩まされそうだと思いつつ、その色の印象からは結びつかない暖かさに、腕を回したのだった。





1で分割表示忘れてすみませんでした

39626-929 憎いはずなのに:2013/07/01(月) 14:29:46 ID:68cKC9P6
好みのお題だったのに間に合わなかった…


俺が殺したかったアイツが切られて、嵐の海に落ちていく。
それを見た瞬間、俺は反射的に荒れた海に飛び込んでいた。
何をやってるんだ……。
嵐の海で意識のない人間を抱えて、岸まで泳げるのか?
第一憎んでいた相手を助けようとするなんて、自分で自分が分からない。
それでも動いちまった以上はやるしかなく、必死で俺は岩場まで泳ぎついた。
息も整わぬまま気を失った奴を引きずり岩場を上へ上へと歩き、波の届かない岩の隙間を見つけて中に入りやっと一息つく。
薄暗い中で奴の上半身から濡れた服を剥ぎ取り、絞ってそれを包帯代わりに腹に巻き付け止血を試みた。
思っていたより傷口は浅く、これで何とかなるかもしれない。
初夏だが濡れて体温を奪われ身震いした俺は、仕方なく意識のない奴を抱きしめる。
いつも余裕の冷笑を浮かべている顔は血の気を失い青ざめていたが、整っていて人間離れしていた。
普段はセットされた髪は濡れて額に張り付き、年相応の若さに見える。
何時とは全く違う初めて間近で見る姿に、俺はつい見入ってしまう。
コイツに近づこうとして、それを疎ましく思った周りの奴に狙われ、俺は仕事も仲間も失った。
その恨みを、直接関係ないコイツを追って殺すことで晴らそうとしていた。
憎まなくては、俺は今日まで生きてこれなかった……。
それなのに必死で助けて、抱きしめたコイツに口付けたいと思うなんてどうかしている。
このままこの腕に閉じ込めてしまいたいなんて……。
コイツが目を覚ました時、俺はどうしたらいい?

39726-949 セクサロイドとインキュバス:2013/07/04(木) 13:26:27 ID:vJXpVw72
規制中につきこちらで。


何かなァ、と彼はベッドにうつ伏せて呟いた。横たわった僕のすぐ横に、端麗な横顔が来る。
色の薄い髪の先が滑り落ちて、尖り気味の耳が露わになる。剥き出しの背には蝙蝠のそれに良く似た翼がぱたついて、いかにも退屈そうだった。
「オマエとしても、あんまりキモチヨくないんだよなァ」
そう言われると、僕としてはどうすればいいか分からなくなる。
黙り込む僕の方に顔を向けて、彼は悪戯っぽく笑った。僕が惑うのを楽しむように。
「オマエ夢見ないだろ。オレとしてはソッチがフィールドだからさ? 生身ってナンか変なんだよ」
「……そうでしたか」
「ま、しょげんなよ。へばンない相手は久しぶりだったしさァ」
伸ばされた手に頭をぐしゃぐしゃされながら、伝えられた不満を解析して、どうにかできることがないか考えてみる。
暫しの沈黙の後、やがて一つ、いいことを思いついた。
体を起こして、訝る顔を左右から挟むように、ベッドへ両手を付く。できるだけ優しく笑う表情を作って――

「では、役割を変えてみましょう。未知の中に新たなる趣味嗜好を見出せるかもしれません」
「ちょッと待てよオイ」
「あ……あの、もう過去に体験済みでしたか。ごめんなさい」
「ねーよ! ねェけどそこがモンダイなんじゃねェんだよ!」
「良かった。ご心配なく、方法は心得ていますから」
「オマエ分かってる? ナイだろ? そもそもオレの名は『上に乗る』って意味でだなァ」
「ええと……大丈夫です。お望みの体位にお応えします」
「そういうイミで言ってんじゃねーよ!」

目を三角にする彼の頬に、僕はそろりと手を触れた。

「貴方に快い夜をお約束致します」

それは昔、僕が売り出された頃のキャッチコピー。
規約に従い、前の持ち主のデータはもう、僕の中に何一つ残っていない。
覚えているのはただ、棄てられた後の、どうしようもない不安と虚しさだけ。
彼が悪魔なんて非現実的な存在でも、面白半分にでも、僕を拾ってくれた時、まだ価値があるんだとどんなにほっとしただろう。
――もう二度と手放されたくない。失いたくない。一人にはなりたくない。だから。

「マスター」

覗き込む僕の顔に、何を見たのだろう。
どォにでもなれ、と自棄気味に呟いて、マスターは仰向けになると僕の首に両腕を回した。

39826-949 セクサロイドとインキュバス:2013/07/04(木) 17:35:54 ID:bN0kX93U
また、夜が変わった。
ほんの一眠りしてる間、加速度的に世界は人工の光で満たされていく。
以前は赤や緑など雑然とした色にまみれていたが、今はただ青く白く統一され、どこか病的な印象を受ける。
あれからどれほどの時間が流れただろう。なんにせよ、目覚めたということは餌が必要になっているということだ。
感覚を広げ、ややあって一つの魂を見つける。好都合にも近くに他の反応はない。
さっそくその場に跳躍すれば、瓦礫とともに一人の若い男が横たわっていた。
浮浪者だろうか、酔いどれだろうか。そういう類の者にしては身なりは整っているように思える。
しかし、そんなことは久々の食事にあっては瑣末なことにすぎない。端正な上物とあってはなおのことだ。
「さあ、お前はどんな夢を望むんだろうな……?」
女か、それとも男か。無意識に潜む理想の姿を探ろうとする。
しかし、いくら意識の同調をはかっても、なんの反応も返ってこなかった。
焦りとともに額を合わせる。
その時、間近で閉じられていた瞼が開き、暗闇の中にちかりと赤い瞳がまたたいた。
「――……こんばんは。あなたが今日の私のマスターですか?
 あなたの望む、一夜の夢を叶えてさしあげます」
不意の輝きに身をのけぞらせる。男は緊張した空気をかき消すように、ふわりと笑みを浮かべた。
この状況で人間が目を覚ますなど、初めての状況だ。
夢を見ない。支配下におけない。そんな人間がいるものか。
あり得ない事態に動けずにいると、一瞬で顔の形が組み替わり、今度は女性的な顔で微笑んだ。
「今宵は、どのような夢をお望みですか?」
本来、血や骨や筋繊維でできているはずの人間の内部が、鋼鉄の骨組みに置き換わっているのが見えた。
戸惑っているうちに、目の前の人物は何度も何度も姿を変えて同じ問いを発する。
最終的にまた元の顔へと形を変わったとき、ようやく腰が据わった。
「どのような夢をお望みですか?」
「……それはこちらの台詞だ」
そうだ。人間がどういう進化を遂げたかは知らないが、要は精さえ搾り取れればよいのだ。
「おまえこそ、どんな夢を望むんだ」
「私の望みですか?それに答えられるようにはできておりません」
「いいから、言ってみろ」
「私の、望みですか?」
「ああ」
「……私の…………望み……」
急速に眼の光が失われ、体から力が抜けていく。
「おい、どうした、おいっ!」
呼びかけても返事はない。勝手に起きたり寝たり、ままならない奴だ。
体を揺さぶってみたり、ばしばしと頬を叩いてみたり、額で熱を測ってみたり、いろいろ試してようやく目を覚ました。
ぶうんという羽虫の飛ぶような音が、かすかに聞こえたような気がする。
「こんばんは。あなたが今日の私のマスターですか?
 あなたの望む、一夜の夢を叶えてさしあげます」
「おまえは一体何なんだ……」
「私は個体番号M-TR1098、ユーフォビア社のセクサロイド“アルプ”です」

39926-949 セクサロイドとインキュバス2/2:2013/07/04(木) 17:36:56 ID:bN0kX93U
「……つまり、おまえはゴーレム、じゃない、ええと自動人形のようなものということか」
「多少の齟齬がありますが、おおむねそのような理解でかまいません」
それにしても話を聞く限り、魔の物にとって情勢はさらにやっかいなものとなっていた。
人間はカプセルという名の密封された棺桶で眠り、常に都市の監視下に置かれ、警邏の網が張り巡らされている。
弱り切った人外の物など瞬滅できる武器を、人間はとうの昔に作り上げている。
下手に寝所へ赴くと消されかねない。これからの行動を決めあぐねていると、“アルプ”が問いを発した。
「私は不具合が見つかり、このまま明日十時ちょうどに廃棄を言い渡されました。
 あなたが現れたということは、何かオーダーに変更があったのでしょうか」
堅く握ったこぶしに焼印のようなものが押されているのが目に留まった。
得られた情報は理解できないことの方が多いが、ひとまずこいつ自身に関しては人形で奴隷で淫売なんだと結論付けた。
「――ああ、そうだ。廃棄される前に案内を頼みたい。できるか」
「はい、可能ですが、私は性機能に特化された機体です。ナビならば、もっと適任が――」
「おまえとは、そういう行為をする気はないよ」
「はい……」
目覚めてからずっと柔和な笑みを保っていたが、初めて表情を曇らせた。
性行為自体はむしろ好ましいところだが、それは十分な補給があればの話だ。
こいつから精気を得られない以上、無為にエネルギーを失うことは避けたい。
とりあえず、人にまぎれるには何らかの姿をとらなければならない。
幸いにもこいつが意識を失う瞬間に、一人の男のヴィジョンが見えた。ひとまずは、そいつの姿を借りることにする。
「…………っ!」
淡い発光とともに変質させると、また落ちるんじゃないかと思うくらい、激しく身を硬直させた。
「……教えてください。あなたは何者なのですか?」
「なあに、どうしようもない淫売の仲間だよ。――さあ行くぞ」
“アルプ”の体を抱きかかえ、人間の街に跳躍の目標を定めた。また長い眠りに就くために。

――――
すみません。ご迷惑おかけしました

40026-949 セクサロイドとインキュバス:2013/07/04(木) 18:10:55 ID:FemsFhaQ
3番手ですがいかせていただきます。


彼は寂しそうに見えた。少なくとも、そのような外的特徴を備えていた。
伏せた目。物憂げな眉。血色の悪い頬。丸めた背。
目があったので話しかけると、しばらくして「ああ」と得心の声をあげた。
よくある反応だ。そして、その次の反応は大抵、私に用がある場合とない場合で大きく異なるのだが、
彼の場合は前者であったらしかった。
私は需要があったものと判断し、彼と共にしかるべき場所に赴いたのだった。

「ばっか、ばっか、馬鹿じゃねーの!? なんで俺がやられる方だと思うのさ、それも男とかねーし!」
挿入の直前で拒否され、私はその機能を一時停止した。
「誘ったのはお前の方だろ? 俺のセックスに興味があるって言ったじゃないか」
「そのしゃべり方もやめろ!気色悪い」
「……そういうご要望でしたので。男らしくやってみろ、と最初に」
「できるのか、って言ってみただけ!なんかお前みたいな機械があるって聞いてたからへぇー、って思っただけなんじゃん!ほんとにやるかよ、馬鹿らしい!
だいたい、お前俺のこと知らないだろ?俺は女専門だっての」
「それは、失礼しました。では今回は、ご依頼というわけではなかったのですね」
「ちょっと見てみたかっただけっつーわけよ、ほんとに人間じゃないのなーって」
何故か、彼は寂しそうな顔をした。また。
「はい、私は人間ではありません。登録され、ご要望に応じてこういった行為をサービスするものです」
「人間そっくりなのに匂いがなかった」
「匂いですか?」
私には、体臭も機能の一つとして、人間のように、より望ましい形で付加されているのだが。
「俺らの食べ物だよ、わかんなくていーの。……あーあ、まったく、お前らみたいなのが増えると、俺みたいなのは死ぬしかないわ」
「同じ職業の方というわけですね、人間では、珍しい」
ようやく、私にも彼の寂しい顔の理由がわかったというわけだ。
しかし彼は言った。
「そんなんじゃねーよ」

彼との出会いは、いつでもはっきりと思い出せる。私の記憶が失われることはない。
私は、あらゆる面において、人間を凌駕する存在として作られた。
では、なぜ創造主は、私に命、魂という機能を備えてくれなかったのだろう。
それがあれば、おそらく私ですらも、彼の食糧になりえたのではないのか。

彼が私に抱いた感情を、私は持たなかった。あるいは、彼の人より長すぎた生において、何らかの障害が発生してしまったのか。
彼は、自分が飢えて消滅するのだと私に語った。もう、人間からエネルギーを得る気になれないのだと。
私がいくら彼と行為をともにしても、彼にとってのエネルギー(彼は精気といった)は満たされない。
医療の必要性を説いたこともあったが、一笑に付された。
「でもな」
彼は笑う。
「精気はないけど、お前は美味い。他の奴は食えない、もう」
気がつけば私はまた、彼の映像を繰り返し再生している。決して失われない彼の姿。

40126-979 ツンケンしてて恋愛にも淡白そうなのにry1/2:2013/07/09(火) 01:56:47 ID:PyPwxR3M
他の人のも読みたいのでこっちで




とうに日は落ちて、息が白く煙る冬の夜。
4つ下の幼馴染(男)が黙々と隣を歩いている。
俺は大学帰り、こいつは部活帰り途中の駅でばったりと遭遇した。
別に隣同士なうえ付き合いは長いから、一緒に帰ることに違和感はない。
ただ、この沈黙がひどく痛々しいのは、何の因果かこいつと付き合うことになったからだ。


きっかけは、俺の家でゲームで対戦してた時のことだ。
どうだー高校生活はーとか彼女はできたかーとか、そんな話題をうざがられつつふっていた。
「女とか興味ねーよ。あんたや友達と遊ぶ方がまだ楽しいし」
「そうなの? 俺はおまえくらいのときは結構楽しんでたけどね。
 授業抜け出してさ、こっそり屋上とかで……」
言ってから自分の失言に気付いた。
俺はこいつが通ってる学校のOB、そこはれっきとした男子高だ。
「あんた、男が好きだったの?」
うまいごまかし言葉も思いつかない。「男がじゃない、男もだ」とさらなる墓穴を掘るのが精一杯だ。
「俺のことも、そういう目で見てんの?」
リアルでも画面の中でも俺は立て直しがきかず、あいつは的確なヘッドショットで着実にキル数を稼いでいく。
すいません俺Mなんでお前のそういうジト目大好きです、とはさすがに言えない。
あーとかうーとか何とも言えない唸り声を出していると、ぽつりといいよと声がした。
「いいよ。別に、つきあっても」
とりあえず引かれてはいないようでよかったとか、そんなあっさりと決めれる奴だったのかとか、
年下のくせに不遜だけどこいつ以上に気の合うやつはいないとか、
いろんな思考が渦巻く混乱の極みの中で、俺はよろしくお願いしますと返事をした。

40226-979 ツンケンしてて恋愛にも淡白そうなのにry2/2:2013/07/09(火) 01:57:25 ID:PyPwxR3M
はい付き合うことになりました、だからといって何が変わるわけでもない。
あれから顔を見るどころかメールや電話などの連絡もなく数日経ち、心構えのできていない状態で今この事態を迎えている。
横を向けば何考えてるか分からない、いつもながらの仏頂面で、隣を歩く奴がいる。
ぶらぶらと夜風の中で、むきだしの手が泳いでいた。
「……おまえさあ、寒くないの?」
赤くかじかんだ手が痛そうで、思わず手に取っていた。
――瞬間、手が振り払われる。
「あ、ごめん。つい触っちゃって」
少し怒ったような顔つきで頬を赤くしている。
やっぱ、駄目だったかと心に影が差す。
「……あんた、なんで、そういうことさらっとできるんだよ……。
 俺、すっげえタイミング計ってたのに……!」
とてつもなく悔しそうな顔で、睨まれた。
茫然としていると、せっかく会えるかどうか待ってたのに、
せっかく雰囲気作ろうとしてたのに、と次々理不尽な怒りをぶつけられる。
俺はそこでやっとさまよわせている冷たい手の理由に気付いた。
「なんだ。そうだったのか。了解了解」
安心と、微笑ましさで頬が緩む。
そんな俺の顔を見て、馬鹿にされてると思ったのか、余計に顔を赤らめた。
「なんかそーゆー、あんたのいらないとこだけ余裕そうなの、むかつく」
「べっつに深く考えなくても、俺があっためてやるよ……とかいって、きゅっ、とやれば万事オーケーだろ」
そう言って笑うと、俺はあんたみたいにチャラくないんだよとか、それはまだ早いだろとかなんかごにょごにょ言っていた。
俺は俺で、ちゃんと俺のこと恋愛的な意味で考えてくれてるんだなあ、
意外な一面があるものだなあと、いろいろ嬉しく思っていた。


ただ、冗談だったはずのアドバイスを真に受けてクサい台詞を吐かれたあげく、
きゅっと抱きしめられて、全身温められることになるのはまた別の話だ。

40327-29 甥っ子×叔父さん 1/2:2013/07/17(水) 02:11:55 ID:.cybjFvQ
「おじさん結婚しないの」
19歳下の甥っ子に突然尋ねられた。ついに兄貴が婚期を心配しだしたのだろうか。
「もしかして今日、見合いの話持ってきた?」
「違うって。親父からは別に何も言われてないよ。ただ俺が聞きたいだけ」
「なんだよ焦った。まったく予定ない。残念なことに彼女もなし。
 それよりお前はどうなんだよ。コレ、できたか?」
小指を立てて聞いてみる。
「それおっさんくせえからやめたほうがいいよ。彼女なんていない」
「20過ぎたら30まであっという間だぞー。ちなみにその先の30代はもっと早い。
 今のうちにいい子つかまえとけよ」
「……んん」
アラフォーからのありがたい忠告だというのに、テーブルに頬杖をつきながら適当な相槌を打たれた。
しょっちゅうお馬さんごっこやヒーローごっこをして遊んでやったこいつも、あと10日で成人だ。
時の流れは恐ろしいほど早い。それにしてもずいぶん大きく育ったものだ。
我が家の家系から180越えが出るとは思わなかった。
「今お前に乗られたら骨折れそう」
「乗るって……えっ、ちょっと、何言ってんの急に」
「昔、お馬さんごっことかしてやったなーと思って。
 お前、『歩け歩け!』って言いながら尻叩いてきたから痛かった」
「あー、なんだ。そういうことか。っていうかいきなり何年前の話してんだよ……」
赤面して決まりが悪そうにしている。こういうところを見るとまだ子供らしいなあと、つい笑ってしまう。
「他には……そうだ。ぐるぐるとかよくやったな」
「回してもらうやつだっけ。それすげー好きだった気がする」
ぐるぐるとはその名の通り、後ろから相手の腰の部分を持って抱き上げ、ぐるぐる回すという遊びだ。
こいつは数ある遊びの中でも、なぜかこれがお気に入りだった。
疲れてやめようとすると、もう一回だけお願いと半泣きでせがまれたっけ。
満足するまでやらされたおかげで、よく腕が筋肉痛になった覚えがある。
今の俺では、回すどころか持ち上げることすらできそうにない。

40427-29 甥っ子×叔父さん 2/2:2013/07/17(水) 02:12:55 ID:.cybjFvQ
「懐かしいな。あれ、そんなに楽しかったのか?」
そう問いかけると、いきなり立ち上がって俺の背後にまわり、脇の下に手を入れて持ち上げられた。
「なんだよ」
「いいから」
されるがままに立ち上がると腰に腕をまわされ、ひょいと抱きかかえられた。
フローリングに足がつかない。
「だから何やってんだって」
「昔のお礼。おじさんも体験してみたらいいんじゃない……っと!」
そう言って笑うと、その場でぐるぐると回りはじめた。
こちとらいい年したおっさんなので、当然ながらまったく嬉しくない。
ぶらんと揺れる自分の足が家具に当たりそうでひやひやするだけだ。
1分ほどされるがままになっていたが、気が済んだのか床に下ろされた。
だけど腰にまわされた手はまだ外れない。
「どうした? もう気が済んだろ? 暑いからさっさと離れろ」
「……やだ」
身体の隙間を埋めるようにぎゅっと密着してきた。背中から心臓の脈打つ音が伝わってくる。
どくどくという速いリズムにこちらの心臓もなぜかつられそうで、離れようともがく。
「やだって子供か! 離せって。おっさんにくっつくと加齢臭移るぞ!」
「まだ子供だし。ぎりぎり未成年。それにおじさん加齢臭しない」
耳の後ろにやわらかい感触と、においをかぐような気配があった。
見えないけれど多分鼻と唇が当たったのだろう。
生暖かい息が耳にかかってぞくりとする。
「彼女つくる予定ないなら、俺といっしょにいてよ」
続けて、おねがい、と言った声は少し震えていた。
同性で親子ほどに年が離れていて、しかも血縁と関係を持つことなんてできるはずがない。
だけど昔のように、結局俺はこいつの言うことを聞いてしまいそうな予感があった。
どうやったって俺はこいつの泣き顔とお願いには勝てないようにできているのだ。
子供のときと変わらない、高い体温の身体に抱きしめられながらそう思った。

40527-49 役者と裏方:2013/07/19(金) 11:13:47 ID:l8oVxFtI
本スレ49ですが、あの後の部長視点も書いてみたので投下

あっははっ。いやいや何も聞いてないよー俺は。
そんな聞いたからって真っ赤になって怒られるようなこと聞いてないよー。
うんごめんごめん。ごめんねー。いやこの前はほんと迷惑かけたね。それは悪いと思ってるよ。
いや裏方に迷惑かけちゃうようなアドリブしちゃうあたりは俺の技量不足だよ単純に。
でもさ、ちょっとくらい無茶しても君がどうにかフォローしてくれちゃうんだよね。
だからつい甘えちゃうんだよ。信頼できるのはいいけど信頼できすぎちゃうのも考えもんだねー。
嘘じゃない嘘じゃない。
ニヤニヤしてるのは君がかわいいから。
お?どしたどした?ほらこんなとこでうずくまんないで。顔上げてごらん?ほら!
いたいいたいいたい。褒めたのにぃ。
ていうか、友達ほっといていいの?
ねー。俺こんなはたかれるようなことしてないよねー。
ちょ、ひっぱんないでひっぱんないで。友達ほっとていいの?おーい。

いやいや嘘じゃないってばおちょくってもないって。
本当に君の技量はすげぇと思うよ。信頼してる。
ん、まぁ、そりゃ俺普段ついふざけまくっちゃうけど。こういうことで嘘つかないよ俺。
君がうち来てからすごい伸び伸び演技できてるんだよ俺は。
でもすげぇ嬉しいなー。あんなこと考えながらやってくれてたんだ。俺の演技好きなんだぁ。
……君なんで俺ひっぱってきちゃったの?二人っきりにしちゃったの?余計追い込まれてない?
いや、俺としては好都合だけど、ね?
はいうずくまんない。顔上げて。ほら。
ねぇ。一個聞いていい?好きなのって俺の演技だけ?
……うん。知ってる。
いたいいたいいたい。

406405:2013/07/19(金) 11:17:40 ID:l8oVxFtI
本スレ49じゃなく50です。間違えましたすみません!

40727-49 役者と裏方:2013/07/19(金) 16:35:15 ID:3zzqgcwU
本番初日の前夜だった。
劇場から出て駅までぞろぞろと歩く中で、偶然吉井さんと歩調が合い、どちらからともなく「お疲れ様です」の決まり文句とともに会話を始めていた。
吉井さんは他の劇団から参加している役者の一人で、おそらく年上のはずだったが、礼儀正しい人らしく丁寧な言葉遣いで話してくれた。
今回の舞台もかっこいいですね、と褒められたことにどぎまぎしてしまって、思わず「いや、実はまだ二度目で」と縮こまった。
彼はこの劇団の過去の舞台を思い起こしているのだろうが、おそらくそれは別のベテランが担当したときの公演だろう。
ところが吉井さんは目を丸くしてこんなことを言った。
「じゃああれが初めてだったんですか」
驚いたのはこちらの方だった。あれを観に来ていて、しかもそのときの舞台美術担当の名前まで記憶しているとは。
「あの舞台、すごいなと思って。シンプルなのに幻想的で。ラストの仕掛けとか」
あれを覚えていたから今回ここのオーディションを受けたけど、まさか本当に深見さんが担当になるなんてね、と彼は嬉しそうに笑った。
言うなら今だと思ったので、半分固まりかけている口を何とか開いて動かした。
「俺も吉井さんのこと知ってました。去年の夏の、喫茶店のウェイター役見てて」
吉井さんは照れたように唇を噛んで足元に視線を落とした。
「よく覚えてますね、僕全然特徴ないのに」
確かに彼はこれといって特徴のない役者だ。華やかなルックスでもなく、感情が突き刺さるような演技でもなく、印象に残る声質でもない。
でもそんなことは些細なことだった。
「吉井さんの演技は、自分が前に出ようとかいう欲がなくて、すごく自然な気持ちで見れました」
まるで自分以外の役者を、脚本自体を、ひいては舞台や照明といったスタッフワークさえも引き立てようとしているみたいで。
「……」
「あ、すみません、分かったようなこと言って……」
あまりに無遠慮な物言いだったとすぐさま反省したが、吉井さんは目を細めて「ありがとう」と言ってくれた。
「深見さんの舞台、大事に立ちますね」
「はい」
横断歩道の向こう側に駅の南口が見えた。
もし、今度一緒にどこか観劇にいきませんかと言ったら、来てくれるだろうか。
千秋楽を迎えるまでにもう少し仲良くなっておきたいなと、柄にもなく子供じみたことを思った。

40827-79 オナニー目撃(するされる)シチュ:2013/07/22(月) 00:56:53 ID:sLfV5Myc
暑くてだるいからオナニーすることにした。
ひとり暮らしになってから、何の気兼ねもなく昼間から好きにできる。大学生万歳。
携帯でお気に入りのエロサイト見ながら開始する。
眠たかったので股間は最初から半起ちだった。ズボンの上から軽くなでると、すでにじんわりいい感じだ。
固い布越しに数回こすってから、さっさとボタンを外して尻まで下げる。
トランクス越しの感じも好きだから、そこでもちょっとしごくと微妙な感じがまたよくて、完全にスタンバった。
今日はノリノリだ。気持ちのいい一発になりそうな予感がひしひしとする。
エロサイトも、新着が好みど真ん中のマッサージもので、握る手にも力が入る。

もちろんこの場合、力っていっても実際の力じゃない。他人は知らないが、俺はゆっくりやんわりやりたい方だ。
早漏というわけじゃないが、今日みたいにノッてる場合、あっという間に気持ちよくなって出ちゃうとなると、もったいないと思うわけだ。
これも他の奴と関係ない話だけど、俺は一日一回やれば満足なタイプ。いや、性欲弱いんじゃないよ、弱くないと思うけど、賢者っていうか、出すともう一回はできない。
だから一球入魂、ゆっくりと、ツボをつきつつはずしつつ、力加減を考えながらこころゆくまで一人の時間を楽しみたいと思うのだ。

棒をこする。あまり早いとすぐ高まるのでゆっくりと。でも今日は波が来るのが早い。そこで、先っぽをぬるぬる責めて気をそらすことにした。
液も多い。今日はとことん高みをめざせそうだ、と感じながら携帯を捨てて目をつぶる。
両手が空いたので左手はやわらかい袋をもむ。毛を撫でてくすぐったさを心地よくあじわいながら、さっきまで画面で見ていたおっぱいに思いを馳せる。
足がつっぱって、自然に腰が動く。絶好調だ。もう、手を早めてもいい。ぬるぬるをできるだけ広げて、皮の可動領域いっぱいにしごき上げると、絶頂の衝動があっというまに高まった。
出る!

『ピンポーン』
心臓が止まる衝撃。ドアチャイムが鳴ったのだ。今、この瞬間に!
「高橋ー、いるー? おーい」
……園屋だ。こうして時々突然に訪ねてくる奴。いい奴だが今は最悪だ。
できることはただひとつ、息をひそめて居留守を使うこと。大丈夫、カギはかかってるはず……頼む!
「おーい、ジュース買ってきたぞー」
なかなか園屋はあきらめない。ようやく園屋が帰ったのは、俺のものが十分に萎えて乾いた頃だった。
あぶなかった。生涯にあるかないかというピンチだった。
……で、そのあと俺は続きをした。意外なことに中断後のオナニーは想像を絶するほど気持ちよく、俺は新しい世界のドアをあけたと思った。
一度、無理矢理やめる、そのあとまたやる。名付けてお預けオナニー。くせになった。

──まさか、必ず園屋を思い出すことまでくせになるとは思わなかった。
中断するための萎える要素としてあの瞬間の園屋を思い出しているうちに、オナニーと園屋が結びついてしまった。
罪悪感で起たない手段のはずが、どこで入れ替わったのだろう。
『おーい、高橋』
気がつけば、園屋の声を思い出しながらやっていた。
今では園屋を思わずにはイけない。
いや、それ以上にヤバいことに、逆に、園屋を見ると妙な気分になるようになった。

「……何?」
夕飯の帰り道、園屋の手を握った。
園屋は不思議そうな顔をして、それがたまらなくキた。
おかしな回路が俺の脳内でつながっている。
好きになった子に欲情するのなら、欲情する相手を好きになるのもありなんだろうか。

409名無しさん:2013/07/28(日) 00:53:04 ID:X2qGWpFE
どうしよう、俺あいつに嫌われたかもしれない。

クラスの奴らに俺が好きな子はどんな子だって聞かれたから、
俺「すげえ可愛い子だけど、詳しいことは教えてやらない」って答えたんだ。
だってあいつの可愛いところは絶対誰にも教えたくなかったからさ。

その翌日、あいつの様子がおかしくて、なぜか避けられてるような気がしたから、
放課後逃げようとしたあいつの腕を強引につかんで詰め寄ったら、
あいつは眉間に皺を寄せて俺を睨んで、

「お前の好きなヤツ、すごく可愛い子だって……」

蚊の鳴くような声でそう言うと、あいつの黒目がちの目に大きな涙の粒がたまって、赤くなったほっぺに涙がポロポロこぼれた。
泣きながら俺を睨みつけるあいつの顔を見ていたら、もう可愛くてたまらなくなって、俺は無理やりあいつの細い体を抱きしめた。

「お前のその泣き顔が可愛くて仕方ないんだよ!」

あいつはポカンとした表情で俺の顔を見上げた。普段は白いあいつの顔が耳まで赤くなった。
その顔もすげえ可愛くて、俺がつい笑っちゃって。
それが勘違いさせたみたいで、あいつは本気で傷ついた表情を浮かべて、

「からかうな!」

と叫ぶと、俺を置いて教室を飛び出していった。


あれからもう3日もあいつと口きいてない。

どうしよう。俺、あいつのことが好きなのに。

41027-119 攻めが受けを語る:2013/07/29(月) 07:28:46 ID:gXc.vObA
投下しようと思ったのに躊躇してたら寝ちゃってた
攻めが受けの家族長期不在の実家に帰えるところから始まります

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
攻「あれ?お兄さん帰ってたんですか」
受兄「おう!お前さあ…昨日のまんまだったぞ、ベット」
攻「はい?あ!すみません!昨日、その…そのまま寝ちゃって…」
受兄「いやいや弟を(性的に)可愛がってくれてどうも。で、あのツンツン弟ってどんななの?」
攻「そっそんなこといったら怒られます!」
受兄「いいじゃんここだけの話だからさあ〜」
攻「言いませんよ!」
受兄「実は俺、彼氏が出来てさ、どんなことしたら喜んでくれるか知りたいんだよね」
攻「え?そうなんですか?…絶対内緒ですよ?」
受兄「うんうん俺のために人肌脱いで!ぁ」
攻「まあ僕が一番嬉しいのは受のおねだりですね。ちょっと焦らしただけであの真面目そうな顔がとっろとろになって「攻め…もっと…」なんていわれたらそりゃ!あ、それに顔真っ赤にされてあは〜んやうふ〜んされ「攻め?」
攻「ん?っ?!い、いつ帰って来たんですか?」
受兄「まあ僕が〜からぷるぷるしながら突っ立ってたな。ほらお前の好きな赤面だぞ〜」
攻「いや、僕が好きなのは恥じらいの方の…ごめんね受けお兄さんに彼氏さんが出来たみたいでその…ごめん」
受兄「それ嘘だよ。つーか俺帰るわお土産置いてくのが目的だったし」スタスタ
攻「嘘!?」
バタン!
受「攻め」
攻「っはい!!」
受「もっと」
攻「はい?」
受「嬉しくないならもういいよ!」
攻「え?可愛い」
受「うっうっさい!もう1m以内に近づくなよ!」

41127−129 汗っかきと冷え性:2013/07/31(水) 02:38:32 ID:CBRamczI
「ねぇねぇ」
「……」
「ねーねーってば」
「……なんだよホッカイロのくせにうるせえな」
「ひどい。……ねえ、いつまでこうしてるの」
「朝まで」
「くっつきあったまま?」
「イエス」
「ひどい」
「だまれ抱き枕」
「ひどい……てかさ、まじめな話、俺汗かきだからさ、現に手汗すごいし、こんなんしてると
冬でも汗臭くなるからさ、そろそろ離」
「それもまたいい…」
「へ、ヘンタイだーッ!」
「うるせえ」
「いたっ! っていうかそーちゃん平気なの? 暑くないの?」
「ふははは冷え性なめんなよ。おまえから体温奪ってちょうどだ。…つーか」
「ん?」
「おまえなんでそんな暑いの」
「……それわざわざ言わせんの?」
「言えねえのか」
「……ひどい……」
「……もう寝ようぜ。…おやすみ」
「……おやすみそーちゃん。……………だいすき」

412<削除>:<削除>
<削除>

41327-159 どこか狂ってる人とその彼をうまく扱える人:2013/08/03(土) 22:13:23 ID:8g5eRipg
長文で瞬く間に規制されたのでこちらに失礼

語りたくなったので、パターン分けしつつ萌えてみる

1.戦闘狂と知能派
とにかく戦闘一辺倒、他の事はよく知らないみたいな奴と、
補佐して暴れられるように作戦組んだり、指示したりする奴の組み合わせ
バトル大好きヒャッハー系でも、戦うことしか知らなかったみたいな無感情系でもいいよね!
知能派は常識人で戦闘狂に頭痛めててもいいし、冷徹に扱うタイプでもいい
主従関係があってもいいと思う

性欲の発露みたいな、ちょっと殺伐とした恋愛でもいいし、信頼関係が高じてらぶらぶに至っても美味しい
ヒャッハー系なら戦闘狂が押し倒すのが定番だけど、襲い受けとかもありだと思う
戦うことしか頭になかったのに、いつの間にか…みたいなのもいい。萌える

2.科学者と理解者
マッドサイエンティストとか、学者とかのタイプと、その理解者だったり助手だったりするのの組み合わせ
科学者が目をきらきらさせながら一方的に喋って、聞いてくれるのは理解者だけみたいな
科学者宛の伝言だの頼みだのは、本人に行くと伝わりづらいので理解者経由で、とか
周囲からも理解者あいつしかいない、な扱いだと良いよね

科学者側は世話になってるの分かってて、内心感謝してる割に好意には鈍感で
「お仕事だからそうしてるんでしょ? え、違うの?」みたいな認識だといい


3.鬱々系や電波っ子とフォロー役
引き篭もってたり自虐的だったり厭世的だったり(だけど何かの天才だったり)する奴や、
反対にちょっと躁っぽいテンションの高い電波な子と、それをフォローする常識人の組み合わせ
振り回されたり、あれこれ手を焼いたりしながらも、
いざと言う時は「君がそう言うなら」とか「君の頼みなら聞くよ」とか言われるようなフォロー役であってほしい

扱われる側はフォロー役のことが大好きだけど、迷惑かけてるなーとかでたまに落ち込んでもいい
それで好きだから傍にいるんだよ、みたいな王道パターンで
なんだかんだでほのぼのした日々を築いていけばいいと思う


ちょっと変なのは何かの才能があったり、彼が生活力皆無なのを世話してたりするのもある種の定番だと思う
狂い気味の側が上手く扱う側に依存してるように見えて、
扱う側も無意識の内に「自分だけの彼」みたいな感覚抱いていればいいよ!

乱文失礼しました

41427-159 どこか狂ってる人とその彼をうまく扱える人 1/2:2013/08/04(日) 09:28:13 ID:xEIlP/PE
書いたは良いけど投下を迷っている間に寝てしまった。
-----------------------------------------------------------
 リュウヤが白衣のまま玄関に倒れこんできた。
 疲労困憊、顔面蒼白。まさにそんな感じで。俺は慌てて駆け寄った。
「た、だいま」
「おい!リュウヤ!」
 蹲ったまま息を荒げているリュウヤの顔を覗き込むと、リュウヤは思いの外強い眼光でこちらを見た。
 そしてもう一度、言い聞かせるように言う。
「ただいま」
 やれやれ。言いたいことはわかった。

「……おかえり。大丈夫なのか」
 そう言うと、リュウヤは満足そうにニヤッと笑った。
 こいつは俺が「おかえり」と言うのを聞くのが好きらしい。
 たまに言い忘れると、「おかえり」と言うまでこっちの話を聞いてくれない。

「大丈夫。根を詰めすぎただけ」
 そう言って立ち上がろうとするのを押しとどめる。
「待て。肩貸すから、よっかかれ」
 よほど辛いのか、素直に肩に手を回してきた。そのままリビングのソファーに連れて行く。
 俺より背が高いくせに、俺より細い腕。棒っきれみたいな奴だ、と思う。

 ソファーに座らせ、白衣は脱がせて洗濯機に放り込む。
 レモンティーを淹れるためにお湯を沸かしながら、ぽつぽつと会話をする。
「研究の成果は?」
「上々だよ」
「身体は大事にしろよ」
「わかってる」

 答えるリュウヤの声が心なしか弾んでいて、珍しいな、と思った。
 俺が「大事にしろ」と言うといつも、リュウヤは困ったような顔をした。「大事にする」という感覚がよくわからないらしい。

 すぐ捨てる、すぐ壊す。愛着と言うものがないのだろうか。
 自分のことすら蔑ろにする。少し前まで、倒れるまで研究室に籠ることはザラだった。
 家で待っている身としては非常に心臓に悪い。

41527-159 どこか狂ってる人とその彼をうまく扱える人 2/2:2013/08/04(日) 09:33:43 ID:xEIlP/PE
 今日のような状態で「帰ってきた」というだけで褒めてやってもいいぐらいだ。
 そう思って「帰ってきてくれてよかった」と言おうとすると、先にリュウヤが口を開いた。
「ケイタがそうやって言うから」
「え?」
 突然自分の名前が出てきて戸惑う。
 聞こえなかったと思ったのか、リュウヤはもう一度繰り返して続けた。
「ケイタがそうやって言うから、大事?にする。今日だって帰ってきたし」
「……だよな」

 やばい、嬉しい。
 黙々とレモンティーを淹れているように見せかけて、にやつくのを抑えるのに必死。

 どうにか零したりすることなく二人分のレモンティーを淹れ終えて、リュウヤのもとへ向かった。
「はい、どーぞ」
「ありがとう」
 リュウヤがティーカップを両手で受け取り、俺はその隣に座る。もうお決まりになった一連の流れ。
 こてん、とリュウヤが寄りかかってきた。
「ケイタ」
「なんだよ」
「俺、わかってきたかも。大事にする、ってこと」
「おお、本当か!?」
「うん」
「良かった、良かった」

 俺の反応が不満らしく、まだ何か聞いてほしそうにちらっとこちらを見る。わかりやすい奴。
「なんでわかるようになったんだ?」
 そう聞くと、ころっとニコニコし始めるリュウヤ。
「全部ケイタだって思えばいいって気づいたんだ」
「……どういうこと?」

 すると奴は、“とっておきの秘密”を喋る子どもの様に耳打ちしてきた。
「鉢植えも、水槽も、水槽の中の金魚も、石ころも、赤の他人も『あれはケイタだ』って思ったら、なんか……大事?に、できる」
 そして、一際大きくにっこりして、嬉しそうに言う。
「今日発見した。だから、今日はずーっとケイタと一緒にいたんだ」

 ……こいつは。
 ああもう、いま俺の顔どうなってんだろう。

「……大発見だな」
「うん、大発見」

 この幸せが続けばいい、なんて。
 柄にもなく願ってしまってもいいだろうか。

41627-159 どこか狂ってる人とその彼をうまく扱える人 1/2:2013/08/05(月) 00:10:55 ID:rv47SWJM
扉の開く音がした。目をやるとドアのところに長身の男が立っている。
相変わらずのスーツ姿、手には黒い杖。
彼を一瞥して、またすぐ空を眺める姿勢に戻る。今日は雲が多い。
「おはよう。気分はどうだい」
背後から声がする。
「食事に手をつけていないんだって?食べないともたないよ。それに、せっかく君の為に
 家政婦のマリアが腕をふるっているのだから、食べてくれないと彼女が悲しむ。
 あとでまた運ばせるから、どうか食べてやってくれ。味なら僕が保証しよう。マリアの料理は絶品だ」
マリアという人のことなど知らない。
こつこつと杖をつく音がして、声がすぐ傍まで近付いてくる。
続けてわざとらしい溜め息が聞こえてきた。
「せっかくあの牢獄から助け出してやったというのに。まったく助け甲斐の無い奴だな、君は」
「ここも牢獄だ」
窓に嵌められた鉄格子に向かって呟くと、後ろの男はなぜか嬉しそうに笑う。
「そうかい?あんな湿って暗い牢屋みたいな部屋と一緒にされては悲しいな。空調もきいていて清潔で、
 何より色調が明るい。あそこと比べたらこの部屋は天国だろう?天国に現れる僕はさしずめ天使か」
どんな顔をしてそんな間の抜けたことを言うのか。
そちらに顔を向けると、すかさず目線を捉えられた。
「ようやくこっちを向いてくれたね。人と会話するときは、目を見て話すものだよ」
かけられる言葉には何も返さず、黙ったまま男の頭から爪先まで視線を走らせた。
組織の幹部の一人。七人のうちで一番若く、一番の新参。しかし序列は既に四位だと聞いた。
今もこの部屋の前には部下が控えているのだろう。
髪を後ろへ撫で付けて、スーツもネクタイもおそらく高級品。微かに香水の匂いがする。
手に持つ杖にも、細かい細工が施してあった。
「こうして君に会いに来たのは他でもない。君に仕事を頼もうと思ってね」
「やらない」
言った瞬間に殴られる覚悟をしていたが、男は平然と肩を竦めた。
「そんなつれないことを言わないでくれ。君の腕を見込んでいるんだ。君にしか頼めない」
そして、聞いてもいない麻薬組織についてぺらぺらと喋りだす。
無視してまた身体を窓の方に向けた。空を眺める。
鉄格子の隙間から見える空は、いつの間にか暗い色の雲に覆われていた。一雨来るかもしれない。
嫌な気分になった。
「雨が降りそうだね」
タイミングよく言われて、思わず振り返ってしまった。また視線が合う。
男は少しだけ首を傾げて微笑んだ。
「君は雨が嫌いかい?」
「……嫌いだ」
「そうか。僕は好きだよ」
その返答に無意識に顔を顰めていたらしい。男が苦笑を漏らした。
「雨が好きな人間のことも嫌いかな」
その問いに少し考えてから「どうでもいい」と返す。その後は特に言うこともなかったので黙った。
わざとらしい笑い声が部屋に響く。
「もっとにこやかな方が会話というものは楽しいんだけどな。よく食べてよく笑うのが健康の秘訣だ。
 ああそうだ。食事が駄目ならデザートを運ばせようか。マリアの作るシフォンケーキはとても美味いよ」
何個でも食べられるのだと得々と語る男から視線を外し、再び空へと戻そうとしたところで、
視界の隅で黒い杖がリズミカルに床を小突いているのに気がついた。小さく音をたてている。
その音につられてなんとなく男の右脚に目を落とす。
彼の持つ杖が装飾品ではないことは、初めて歩く姿を見たときに気づいていた。
そんな脚になっても幹部で居続けられるのは、または居続けようと思うのは、なぜだろう。

41727-159 どこか狂ってる人とその彼をうまく扱える人 2/2:2013/08/05(月) 00:11:58 ID:rv47SWJM
こちらの視線をどう解釈したのか、男が黒い杖をくるりと回して見せた。
「これかい?なかなか凝った細工だろう。東洋のドラゴンをあしらってある。特注品だよ」
自慢げな口調になぜか急に苛立ちを覚える。
どうしてそんな風に振舞えるのか。脚に引き摺りながらも平然と、嘆きもせず笑っている。
「さて。このまま君と他愛の無い話を続けるのも十分に楽しくて魅力的なのだが、僕も忙しくてね」
なぜそんなに楽しそうなのだ。
理解ができない。
一旦そう思うと、まるで雨のように心の内に苛立ちが溜まっていく。
「本題に戻ろう。仕事の話だ。さっき説明したとおり…」
「やらないと言ってる!」
気付けば、苛立ちをぶつけるように男の話を遮っていた。
久しぶりに大きな声を出した所為で喉の奥が引きつり、軽く咳き込んでしまう。
咳き込みながら、なぜ自分は今怒鳴ってしまったのかと考えたがよくわからない。
顔を上げる。
目の前の男の笑みが、より一層深くなっていた。瞬間、背筋が寒くなる。
そして気づく。いつの間にか自分がこの男と会話をするテーブルについてしまっていたことに。
男は可笑しそうにくすくすと笑う。
「何だって?もう仕事をしたくないだって?」
「しない。もうやらない」
強く首を振る。男は杖をつき腰を少し屈め、こちらを覗き込んできた。
「なぜ辞める必要が?雨を嫌いなことは信じよう。だが、君は仕事のことは好きじゃないか」
「嫌いだ」
「それは嘘だな。君ほど仕事が好きな男を僕は知らないよ」
断定して、男はようやく傍にあった椅子に腰掛けた。
目線の高さが同じになる。そのことに、どうしようもなく焦燥する。
「仕事が嫌なら、君はあの屋敷から早々に逃げ出していた筈だ。それをしなかったのはなぜか?
 君は『嫌な仕事はやりたくなかったが、仕事はしたかった』。つまり君は仕事自体が嫌いなわけではない」
「違う」
「仕事を渇望している」
「違う。違う」
「君は逃げ出さずにあの場所で耐えていた。耐えながらずっと待っていたんだ。
 牢獄から自分を助け出してくれる誰かを、君はずっと求めていた」
言いながら、男は、己の太腿を軽く叩いて見せた。
「だから、あのとき僕を殺さなかったんだろう?」
にこやかに吐き出された言葉に身体が強ばった。
「助け出すのが遅くなって悪かった。これでも頑張ったんだけど、如何せん、序列というやつは厄介でね」
「……あなたは、一体、」
「うん、ようやく僕に興味を示してくれたか。良かった。いつまで呆けているのかと、実は心配していたんだ」
この男が何を言っているのか理解できない。理解したくない。
こんなドロドロしたものよりも、空が見たいと思った。
それなのに両の目は彼の顔をじっと見つめ、混濁した記憶と照らし合わせ始めている。
「さあ、仕事の話を続けよう。君に相応しい、素晴らしい初仕事だと思うよ。君にしか出来ない。
 安心するといい。僕はあのクソジジイどもが君にしたような仕打ちはしない」
耳に彼の言葉が入ってきて思考を侵食する。
右手の指が今ここには存在しない何かを求めてちりちりと疼く。
背後で、雨の降り出す音が聞こえてきた。

41827-169 ノリで女装しちゃった攻めと茶化して褒める受け 1/2:2013/08/07(水) 04:13:51 ID:sfQZatEY
「白と赤、どっちが似合うと思う?」
「うっへあッ!?」
随分と情けない声を出してしまったが、
目の前の可愛い子ちゃんがいきなり男友達と同じ声で喋ったとしたら
みんなこんな感じでかっこ悪くなるんじゃないかなぁ、とオレは思う。
「おっまえッ! マジ何してんの!?」
「女装。今度の文化祭、男子ミスコンやるでしょ。
 今日ノリで"優勝目指す"って言っちゃったから」
「文化祭、明後日ですけど!?」
「うん。だから、協力求む」
驚くオレとは正反対に陸人は無表情でコクコクと頷いた。
この進藤陸人と言う男。中性的な可愛らしい見た目と、
物静かで落ち着いた性格とは裏腹に案外ノリが良く
日常的に真顔でボケをかますような天然モノの変人だ。
今みたいにいきなり突拍子もない行動を取り始めるのも珍しくはない。

「とりあえず赤か白、答えて」
ぼけーっとマヌケに口を開けて固まっていたオレに
陸人はお花の付いたカチューシャを二つ突き出してきた。
「衣装は今着てるのに決めてるから、どっちが合うか教えて」
その言葉でオレは再び陸人を上から下までまじまじと眺めた。
髪はカツラでロングストレートになっていて多分軽い化粧までしてる
どこかの民族衣装風のワンピースはふんわりしていて何とも可憐だ
複雑な模様にシンプルな白いエプロンが実に映える。
「……赤だな。エプロンが白いから色被せないほうがイイ」
「なるほど、バランスは大事だ」
納得したのか陸人はガッツポーツまで決めて頷いた。
「はい、それダメ! 全ッ然"ミス"じゃない、やり直し!」
その仕草にすかさずダメ出しする、ノってる相手にはノリ返すのがオレの礼儀だ。

41927-169 ノリで女装しちゃった攻めと茶化して褒める受け 2/2:2013/08/07(水) 04:15:11 ID:sfQZatEY
「――っ! "なるほど、バランスは大事、ね?"」
一瞬ハッと目を見開いた陸人は、一回瞬きをした後すぐ淑女になった
男らしいガッツポーツだった手も今はお腹らへんで静かに佇んでいる。
「オッケー! めっちゃかわいい!」
今度はオレが全力でガッツポーツを決める、女装に仕草は大事だ
陸人は手応えを感じたかのように何度か頷いた後こっちを見つめてフッと笑った。
その笑顔は"かわいい"よりも"カッコイイ"で。ちょっと、ほんのちょっと、ドキッとした。
「うん、うん、これ優勝行ける。蓮介に自転車あげられるよ」
「はい? なんで自転車? オレに?」
自信満々に再びガッツポーツを決めかけ慌てて止めた陸人の言葉にオレは困惑する。

「知らない? 男子ミスコンの優勝賞品、折り畳み自転車。
 前に蓮介、欲しがってたやつだよ」
「えっ? え? お前それ取る為に、しかもオレに渡す為にやんの?
 で、でもさっきノリって、てかオレ思いっきし茶化しちゃったじゃん」
「ノリだよ? クラスの皆に言ったの……。
 自転車は最初から取る気で居たけど、準備もしてたし。」
そう言って陸人は衣装のスカートを少し引っ張った
オレはいきなりのその言葉に目を白黒させる事しか出来ない。

てかこの状況ヤバイ、超照れる、だってカッコイイだろ
友達が欲しがってる物一つの為に恥を忍んで真面目に女装とかさぁ。
むしろ茶化して軽いノリで動いたオレのが恥ずかしいって。
「……も、もっと早く言ってくれれば、こんな茶化し方しなかったのに」
「……? アドバイス的確だったよ?」
申し訳なさと恥ずかしさでおそらく赤面しているオレを
茶化すでも無く、怒るでも無く、陸人はサラッとそう返してきた。
不思議そうにオレの顔を覗きこんでくる陸人から慌てて目を逸らす
なんかもうこれ以上、目の前の男前すぎる可愛い子ちゃんを直視できそうに無かった。

420水×ふえるワカメ1/2:2013/08/07(水) 19:12:32 ID:Bt57U/6.
規制くらい、ここに投下をさせていただきます。


このお題で、どう萌えるんだろう?と思って妄想したら、思った以上に萌えてきたので投下。語りになります。

水系攻として、純粋透明な素直系アタック攻。そこに、初めは縮こまってて自信がなくても、水を与えられることで段々大きくなる=成長するワカメ系受。
謙遜通り越して卑屈気味だった受が、裏表ない攻の言葉を吸収して、最後には攻と同じくらいまで成長するんだ。
自分もなくてはならない存在なんだって、自分があることで役に立つことが周りにはたくさんあるんだって気づいてくんだ。ワカメサラダまじ美味いよね。
個人的に年上×年下を希望する。家庭教師と生徒でも、上司と部下でも。
「どうせ、僕なんて」「あんなあ、俺は、つまんない嘘はつかないよ。若芽、お前には才能がある」
んで、「僕。水島さんを助けます。いえ、水島さんを超えるくらいに成長してみせます!」「(若芽ならきっと…)おうよ、さて、今日も頑張るか!」みたいな感じで!

ここに、病み成分という調味料を加えますと。
何にでも染まっていく水のように、誰にでもいい顔をして自分を受け入れるものを淡々と探す依存心持ちの攻。
水が増えると浸食し増えながら塩味がきくワカメように、自信の大幅な無さから、認めてくれた人にはどうしても自分だけを見て欲しい、心を全て手に入れたい、よく泣く受。
物理的に浸食する=傷つけるのもありか?

421水×ふえるワカメ2/2:2013/08/07(水) 19:13:46 ID:Bt57U/6.
水系攻は依存して自分が変化することはあっても、向こうが変化することは今までなくて。
ワカメ受の変化にほの暗い喜びが生まれて、でもいい顔しいだから加害者になるのは嫌で…。でも好きな気持ちと依存心は増えるばかりで…。
そんな中で受はどうにか自分だけを見てな気持ちが段々大きくなって、独占欲が段々段々大きくなって、泣きながら暴走して…。
ぬっるぬるでどっろどろな関係。乾燥ワカメって3分ぐらい水もどしてから水気きったらぬるぬるしないらしいね。
「ねえ、水樹。僕のなか水樹でいっぱいだよ。ほら、水樹もきもちい?ねえ、僕しか感じない?ねえ。僕は水樹しか感じないよ。水樹好きだよ。僕だけ見て、見てよ水樹」
「そんなに抱きしめないでも大丈夫ですよ。布和でわたしはもう心がいっぱいなんです。布和がいないとだめなんです。布和が背に残す爪の傷も、布和のその涙も、すべてがわたしの喜びなんです」みたいなノリで!
個人的に同年代希望。使用人×主の息子(跡取りじゃない、期待されない受)とか良くないか!身分差があるようでないようで、とか良くないか!

他にも。天然軟水、つまり天然口説き攻にやられるツンデレ受(捻れたワカメから広がるワカメに)や。クール微S攻(冷水)×単純微M受(水かけりゃすぐ反応)や。普通に考えて、ふえるワカメ=ふえる受ということで、天然水攻のハーレムエンドとか…。際限なく萌えは止まりません。

萌えテンションが止まりませんでした。長々と読んでくださりありがとうございます!

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42327-209 受けより背が低いことを気にする攻め:2013/08/11(日) 01:59:46 ID:oFjJzTiQ
校舎の陰の芝生でぼけーっとしてたら、渡り廊下の方から
女の子たちのおしゃべりが聞こえてきた。
――山野井君て背が高くてカッコイイよね。
うんうん、山野井は確かにカッコイイぞ。なんてったって俺の自慢の恋人だし。
思わずにやにやしながら一人で頷いていると、今度は俺の名前が聞こえてきた。
――あたしは新堂君の方がいいな。
――うん、新堂君も可愛くていいよね。
ちょっと待て、可愛いってなんだよ。
ほめてくれてるんだろうけど全然嬉しくねーよ。
遠ざかっていく女の子たちの声を聞きながら、俺はがっくりと肩を落とした。

そんなことがあったものだから、帰り道、隣を歩く山野井につい
絡んでしまった。

「山野井、お前、今何センチあるの?また伸びたんじゃない?」
「ん?ああ、この前測ったら179cmだったな」
「なんでお前ばっかりそんなに伸びるんだよ!?」
「新堂だってそこそこ伸びてんじゃん。今、172くらいあるんだろ?」
「171.8。お前より7㎝以上も低い」
悔しげに呟く俺の顔を、山野井は覗き込む。
「どうした?今日何かあったのか?」
「ん、実はさ…」
ぼそぼそと先ほどのことを告げると、山野井の奴、肩を揺らして
笑い出しやがった。
むっとして睨みつけるように見上げると、
「実際、新堂は可愛いじゃん」
「……」
恋人に可愛いといわれるのは、正直嬉しくないこともない。
でも、俺は、可愛いってよりはカッコイイって思われたい。
胸の中でぼやいていたら、まるでそれが聞こえたかのように。
「それに、カッコイイ」
「え!?」
「新堂のことは前から可愛い子だなって思ってたんだ。
ただ、普通に同性の友達としか見てなかったから、
告白してくれたときは正直驚いたけど、新堂さ、すごく一生懸命に
自分の気持ちを伝えてくれただろ?あのとき俺、あ、こいつ
カッコイイなって思ったんだよな。で、気がついたらOKしてた」
山野井は少し照れ臭そうな笑みで俺を見つめ、それから身を屈めて
「…だからね、俺の恋人は可愛くてしかもカッコイイんだ」
俺の耳にそう囁いた。
俺の気を晴らすためもあるだろう。
でも、それだけじゃなくて本当にそう思ってるとその表情が告げていたから、
カッコよさではまだまだ負けてるなと思いながらも、俺の気持ちは
ぐんぐんと急上昇していった。
身を屈めたままの山野井の首の後ろに手を回すと、上向けた唇に
柔らかなキスが落とされた。

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42727-259 定年退職:2013/08/16(金) 10:19:16 ID:Ll9avnWA
「長い間お疲れ様でした」
「ありがとう」
少し奮発したシャンパンのグラスを互いに軽く当てると、孝志さんは気恥ずかしそうに微笑んだ。
テーブルの上にはクリスマス並のごちそうが並び、冷蔵庫にはケーキも入っている。男二人の食卓には似合わない花は、孝志さんが今日会社でもらってきたものだ。
「祝ってもらうのはありがたいが何だか変な感じだな。定年退職なんて別にめでたいものでもないのに」
「何言ってるんですか、めでたいですよ。会社を無事に勤め上げて、これから孝志さんの第二の人生が始まるんですから」
「第二の人生って言うと聞こえがいいが、単に老後の生活が始まるだけなんだがな。……でもまあ、何であれ君に祝ってもらえるのは嬉しいよ」
最後に早口で付け加えると、孝志さんはうつむいて頬を染めた。定年の年になっても、そういう可愛いところは昔から全然変わらない。
「そうそう、お祝いのプレゼントというにはちょっと何ですけど、孝志さんに渡す物があるんです」
「ほう、何だい?」
そうして俺が取り出した一枚の紙を見て、孝志さんは呆然と口を開けて固まってしまった。
「……養子縁組届って、君、これ……」
養子の欄に俺の名前を書いたその用紙は既に証人の欄に二人の共通の友人のサインももらってあり、あとは孝志さんのサインと印鑑があれば提出できる状態になっている。
「養子になる俺の方から渡すのも妙な話なんですが」
「……驚いた。三十年も一緒にいて、君、一度もそんなこと言ったことがなかったから」
「だって俺は個人事業だから別に戸籍がどうなろうが関係ないけど、孝志さんは保険や税金の都合で会社に知られるかもしれないでしょう? 十歳しか離れてない息子がいるって知られたら、噂になって孝志さん会社に居づらくなると思ってずっと我慢してたんです。でも退職したんだから、もう大丈夫ですよね?」
問いかけながら、ぐいっと顔を近づけて孝志さんが弱いと知っている甘えた上目遣いで孝志さんの顔を見る。しかしいつもならそろそろ視線が泳ぎ出すはずなのに、孝志さんは真顔を崩さないままだ。
「……すいません、いきなり言われても困りますよね。孝志さんがどうしても嫌ならあきらめますけど、でも、一度考えてみてくれませんか」
一生の問題なのに、キスをねだるのと同じように色よい返事をねだろうとするのはさすがに俺が甘すぎただろう。孝志さんも喜んでくれるだろうと勝手に思い込んでいたので、さすがにちょっと落ち込んだが、焦っても仕方ないので気持ちを切り替えることにする。
「とりあえず食事にしましょう。これはしまっておきますね」
そういって孝志さんの手の中にある養子縁組届を取ろうとすると、孝志さんがその手にぐっと力を込めた。
「孝志さん?」
養子縁組届けを握ったまま離そうとしない孝志さんに思わず怪訝な声をあげると、孝志さんの顔がみるみる赤く染まっていった。
「……ペンを取ってくれ」
「! はい!」
大慌てでペンを取りに立った俺の後ろでは、孝志さんが握りしめてしまった用紙のしわを伸ばす音が聞こえていた。

42827-299 ひょろい×筋肉質 1/3:2013/08/21(水) 17:55:32 ID:6an/yYa2
リストバンドを買いにスポーツ用品店に行ったら、
レジの前でクラスメートの峰と鉢合わせした。
峰が手にしていたのはダンベルだったので、俺は少し驚いた。
峰は、勉強は得意だが運動は苦手な典型的なインドア派で、
肌が白く体型もひょろりとしている。
女子には案外人気があるようで、クラスの子が「峰くんて中性的で素敵」
「王子様みたいだよね」と話しているのを聞いたことがる。
女の子から「王子様みたい」と言われるなんて、
ラグビー部所属で色黒がっしり系の俺からすれば少しばかり羨ましかった。
そんな峰とトレーニング器具の取りあわせは、だから全くしっくりこない。

「よぉ」
「あ、佐々原…」
「ダンベル、買うの?」
「あ、うん」
「なんか意外だな。お前がそういうものに興味持つの。スポーツとかさ、あんまりやらないじゃん?」
「うん、そうなんだけど…ちょっと、身体鍛えてみようかなって」
「へぇ…」
峰があまり詳しいことを聞いてほしくなさそうだったので、俺はそれ以上は追及しなかった。
まあ、こいつにはこいつの事情があるんだろう。
ただ、気になったのは――。
「お前さ、こういうの使うの初めてだろ?」
「うん、そうだけど…」
「初心者が無理な使い方して肩とか手首とか痛めるのってけっこうあるんだよな。
よかったら俺が基本を教えてやろうか?」
俺の申し出に峰はびっくりしたように目を瞠ったが、すぐに嬉しそうに頷いて
「よろしく頼む」と頭を下げた。

42927-299 ひょろい×筋肉質 2/3:2013/08/21(水) 17:56:15 ID:6an/yYa2
話してみると峰の家と俺の家はけっこう近いことがわかったので、
それぞれ家に戻って着替えてから近所の公園で落ち合うことにした。
「悪いな、手間かけさせて」
「いや、俺も筋トレの初歩は先輩たちに教わったからさ」
とりあえずダンベルの使い方の手本を見せながら教え、
その他道具を使わない筋トレ、腹筋、腕立て伏せ、ジョギングについても
アドバイスしたりした。
峰も俺のいうことを素直に聞いて、慣れない運動に真剣に取り組んでいた。

今まで同じクラスでも挨拶を交わす程度の付き合いだったのだが、
こうして一緒に時間を過ごしてみると、案外面白くていい奴だとわかり、
俺としてもけっこう楽しいひとときだった。
峰も得るものがそれなりにあったのだろう。
これからも週に2〜3回はこの公園でのトレーニングにつき合ってくれないかと
頼まれたので、俺は快諾し、その日はそれで別れた。

そして、約束通り週に2日か3日、俺の部活が終わってから公園で一緒に
筋トレに励むようになった。
トレーニングの合間にいろいろ話もして、音楽の好みが同じだったり、
俺の好きなラノベを峰も気に入ってたり、二人ともアジフライが好きだけど
俺はソースは峰は醤油派だとわかったり、他愛ない会話を重ねていくうちに、
俺たちはかなり親しくなっていった。

43027-299 ひょろい×筋肉質 3/3:2013/08/21(水) 17:57:39 ID:6an/yYa2
一緒にトレーニングをするようになってから3週間ほどたつと、
俺と会わない日ももちろん真面目にトレーニングを続けていた峰の身体には
うっすらと筋肉がついてきた。
そんなある日。
いつものようにトレーニングを終えてベンチに並んで腰を下ろし
スポーツ飲料で喉を潤していたとき。
峰が、不意に言った。
「僕が筋トレはじめた理由ね」
「うん?」
「実は、僕、小坂さんに憧れてたんだよね」
そう聞いて、俺は、ああ、と納得した。
小坂さんは隣のクラスの女子で、明るくてはきはきした性格で男子にも人気がある。
そして彼女の好みはスポーツマンタイプの男性だった。
でも、小坂さんは今…。
俺の表情を読んで、峰は頷いた。
「うん、彼女、今テニス部の牧村とつき合いはじめたよね」
そう、小坂さんは現在牧村といい雰囲気になっている。
つまり、峰は失恋したってことか…。
「あー、その、なんていうか……元気だせよな?」
失恋した友達にかける言葉をさがしあぐねた末にごくありきたりのことしか
言えない俺だったが、峰はにこりと微笑んだ。
「大丈夫。実をいうとね、最近僕他のひとのことが気になってたから…」
「あ、そうなんだ。よかったじゃないか。その子もやっぱり筋肉がついた男が
好きなのか?筋トレ、まだ続ける?」
「うーん、男の好みはわからないけど、筋トレはこれからも続けるつもり」
峰が筋トレを今後も続けると聞いて何故かほっとした。
が、続く言葉に仰天した。
「だってさ、押し倒すのにはやっぱり筋肉が必要じゃない?」
「いや、ちょっと待て。なんでいきなり押し倒すって話になるんだ・」
「だって、その人のこと見てるとムラムラしてくるんだもの」
「だからって押し倒すのはまずいだろ?そんなことしたら一発で嫌われるぞ。
 つか、まず、つき合ってください、だろ?」
「だって、OKもらえなかったらそれっきりじゃないか」
「まずは誠心誠意心をこめて、つき合ってくださいってお願いしろよ。
それでダメなら男らしく諦めろ。とにかく無理やり押し倒すのはなしだ」
「えー、でも…」
「峰が真剣に誠意をもって告白すれば、相手の人だって真剣に誠意をもって
応えてくれると思うぞ」
「そうか…。そうだね、じゃあ…」
峰はしばらく考えこんでいたが、急に俺の目をまっすぐに見つめてきた。
とても、真剣な表情で。
「佐々原、あのね、僕…」


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