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0さん以外の人が萌えを投下するスレ

1名無しさん:2010/05/07(金) 11:07:21
リロッたら既に0さんが!
0さんがいるのはわかってるけど書きたい!
過去にこんなお題が?!うおぉ書きてぇ!!

そんな方はここに投下を。

18222-69 女装が似合う攻め×女装が似合わない受け 2/2:2011/08/16(火) 05:39:56 ID:B5kauskA
「……ったくもう、いつまでこれ着てなきゃいけねえんだよ…」
積み上がった段ボールの裏に隠れて一息つく。
「あ、健ちゃん!こんなとこ居たんだ」
俺を見つけた玲也が嬉しそうに隣に座る。
「ホール居なくていいの?玲也人気者なんだから」
「えー、もういいよ疲れた。ああいう爽やかな笑顔とか向いてねぇもん俺」
自分の引き攣った頬を揉みながら、俺の肩へ頭を置く。
「そんなに似合うのに?」
「え?ホントに?健ちゃん、俺似合う?」
「うん」
頷くと嬉しそうにヘラヘラと笑い、腕に抱き着いてきた。
顔はどんどん綺麗になったけど、中身はずっとこんなんで。
「えー、でもぉ健ちゃんも可愛いよぉ!凄ぇいい!」
ファンクラブの子たちのイメージ通りのキリっとした喋り方なんてしないし、あと何故か幼なじみの俺にデレデレだし。
「……どこが…」
「えー!絶対俺より可愛いって!つかさっきさあ、この格好のまま生徒会行って下さいとか言い出した奴いてさあ、マジ意味解んねぇし」
生徒会長は玲也よりは劣るけどまあまあ男前で、
「お似合いだとか思われてるんだろ」
俺もそう思うんだけどな。
「うえぇ、もう健ちゃんまでそういうこと言うなよ。気っ色悪ぃ!アイツに抱かれるとかマジ女子って意味わかんね。
 ……あ、そういえば健ちゃんさ、なんでずっとスカート抑えながら歩いてたの?」
「え、や、だって…恥ずかしいだろ、その……見えたら…」
「……え?あ、え、健ちゃん…もしかして」
玲也の手が勢いよく伸びてきて、
「…あ、止めろ!」
抑えようとしたが間に合わず、俺のスカートは見事に捲られた。
「ちょ、ば、止めっ見んな!」
スカートを下ろそうとするが、玲也にしっかりと押さえられて全然動かない。
「……わぁ、健ちゃん、エっロぉ……」
玲也がうっとりとした表情で俺の股間を見つめている。
女物の下着を身につけた俺の股間を。
「ホントに、履いたんだ…」
小さな布地で、しかもその殆どがレースで出来たそれに収まりきるはずもなく、
それでもどうにか押し込めた俺のモノは生地の上からでもはっきり解る程浮かび上がって、
「って、え!ホントにって!え!お前?え、お前履いてないの?」
この服に着替えるときに一緒に渡してきたこのパンティを。え、履かなきゃいけないんじゃないの?
「え、てか、え?皆は?え、俺、え?俺だけ?」
パニクる俺のスカートから手を離し、スカートを捲った玲也は、グレーのボクサーパンツを履いていた。
「えええ!?お前!お前、皆履いてるからって!履かなきゃダメって!」
「ゴメンね健ちゃん。あれ、嘘」
背景に咲いた花が見えそうな程の笑顔で言われる。
「マジ…かよ……」
騙されたショックと羞恥心に顔を伏せる。
「健ちゃん、ゴメンて。いやあ、でもいいもん見れたぁ」
楽しげな声がムカついて顔を上げると、幸せいっぱいな顔をした玲也が、ギラギラした目で俺を見つめていた。
「健ちゃん、俺…我慢出来ない……」
「ちょ…おい、ここは、さすがに……」
「…じゃあ、トイレ行こ」
「っ、で…でも」
「おーい、玲也ぁ!あれ?玲也知らね?」
「え?アタシ見てないよ?」
「んだよ混んできたのにどこ行ったんだよ」
段ボール越しにクラスメイトの声が聞こえて竦み上がる。
「……ほら、もう行かないと」
「えー、嫌!」
「駄ぁ目!」
「そんな可愛く言われたら、言うこと聞くしかないじゃん」
「…だから、俺のどこが可愛いの?これだって、似合って…ないだろ」
「うん!」
「即答?!」
「似合ってないから可愛いんじゃん!そのピチピチの服に収まり切らない筋肉、恥ずかしそうな顔、もうホント堪んない!
 健ちゃん昔っから可愛かったけど、最近もうホントに可愛くなってきて…」
「ん?玲也くん?居るの?」
段ボールを向こう側からどんどんと叩かれる。
「あ。あー、今行きますよーっと」
残念そうな声を上げて立ち上がる。
「あ、健ちゃん、今日も家来るよね?」
「えー……俺、明後日練習試合あるんだけど…」
「もう今日人前でなくていいから!俺ごまかすから!」
「あ、それは助かる」
「まあ、これ以上こんな可愛い健ちゃんを他の人に見せたくないしね」
俺も見せなくないな、こんなお前。
「じゃあ、最後にこれだけ」
ちゅ、と軽く唇が触れ合う。
「よーし、いってきまーす!」
見せたくないよ、他の人には。ファンクラブの女の子とか、クラスメイトとかには。
キリっとした喋り方なんてしなくて、まあまあ変態で、つかガっチガチのホモで、バリバリのタチで、
あと何故か幼なじみの俺にデレデレのことなんて。
俺だけの秘密だ。

18322-99 スマホ×ガラケー:2011/08/19(金) 22:30:55 ID:NlGXqeGo
私の主人、すなわち私の所有者は、近頃新入りにお熱だ。
「で、今は何の用事だったんだ?」
「道順の確認。いやーあの人ほんと方向音痴だねえ。僕が来る前はどうしてたんだか、心配になるよ」
「私にもナビアプリは搭載されている」
「へえ? まあ、そんなチンケなディスプレイとチャチなアプリじゃあ、さぞ苦労してたんだろうねぇ」
まただ。この生意気な新入りは、自分のスペックを鼻にかけているのか、やたらと嫌味な物言いをする。
「ああ、私は小柄だからな。虚弱体質な割に図体だけはデカい誰かさんと違って」
それにつられて、こちらもつい刺々しくなってしまう。カチンと来たらしい新入りがなにか言いかけたとき、
「っ!!」
私の身体が震えた。すぐに主人の手が私を取り上げ、身体を開き、耳元へと押し付ける。
『もしもし? うん、今向かってるとこ。ちょっと迷っちゃってさー……』
すぐ側で聞こえる主人の声が心地よい。あいつが来るまで、私はいつも主人の側にいた。
あいつとは比べものにならないかもしれないが、自分なりに主人に尽くしてきたつもりだった。
そう、私は自分から主人を奪ったあの新入りに嫉妬している。認めたくも、ましてや知られたくもないことだが。
やがて主人は通話を終え、私は鞄の中へ放り込まれた。しばらくして、新入りの様子がおかしいことに気づく。
いつもならすぐに絡んでくるのに、今はやけに憂鬱そうに押し黙っている。
「どうした。もうバッテリー切れか?」
沈黙に耐えかね、からかうように尋ねると、
「……僕らってさぁ、本来誰かとつながる道具じゃん」
奴は独り言のようにつぶやいた。
「僕は君よりずっと多くの仕事をこなせるのに、あの人と誰かをつなげる役目は君のものなんだなー、って」
そういえば、主人がこいつで誰かと話しているところを見たことがない。
メールのやり取りも、大抵私を通して行っている。だが、
「お前だってそういう機能がないわけじゃないんだろう?」
「勿論あるさ。けど、なんか電波とかアドレスとか色々事情があるっぽくて、使ってもらえない」
悔しさと寂しさが入り交じった声に、胸を衝かれた。優越感とも親近感ともつかない奇妙な何かがこみ上げてきて、
「無念だな」
何とはなしに、そんな言葉が出た。言ってみてから、それは私自身の心持ちだったのかもしれないと思った。
新入りはしばらく私の真意を測りかねていたようだが、哀れまれたと判断したのだろう、
「君みたいな旧式に、分かったようなこと言われたくないね」
ことさら突っぱねるように吐き捨てた。
いいや分かるさ、誰かの一番になれない痛みなら。
そう告げようとしたとき、再び鞄に主人の手が伸びてきた。今回はどちらが選ばれるのか、私も奴も身構える。
しかし、予想外のことに、主人は私達をいっぺんに掴み上げた。
右手で新入りの大きな液晶を撫ぜて、左手で私のボタンを押す。体内でコール音が鳴り響く。
『もしもしー? ゴメンやっぱり道分かんなくなって――うん、だから地図見ながら直に教えてもらおうと
 ――そう、スマホ見ながらガラケーでかけてる。やっぱり二台持ちにして正解だったわー……』
暫くの間、主人は新入りの画面と周囲を見比べつつ、私越しに道案内を受けて歩き続け、
ようやく通話相手らしき人と合流した。
仕事を終えた私たちは、再び鞄の中で隣り合わせになる。顔を見合わせると、どちらからともなく笑いがこぼれた。
「全く、手のかかる主人を持ったものだ」
「ほんとにねぇ。こんな調子じゃ、僕のスペックを持ってしても手に余るよ」
今までずっと、私の力だけで主人を助けたいと思っていた。
でも、この新入りが一緒なら、もっと主人の役に立てるというならば。
「共にあの人を支えていくしかないか」
「……まあ、ご主人サマのためなら仕方ないよね」
そう、全ては我らが主人のため。それだけのことだ。
だから、奴が台詞の割にどこか嬉しげだったのも、それを見て何故かほっとしたのも、きっと気のせいだ。

18422-109:2011/08/21(日) 11:40:35 ID:PDGJB1tI
アイツは人に甘えるのが苦手のようだ。
家庭の事情が複雑で、児童相談所に世話になったこともある。
何故そんなことを知っているかと言えば、俺が隣の家の住人だからだ。
隣の夫婦げんかは内容まで知っているし、物が倒れる音がしたと思うと
翌日あざの出来たアイツに会うという事は日常茶飯事だった。
通報があって一時保護が決まった時には、さすがのアイツも嫌そうだったので、
俺の家に来てもいいぞといったが無視された。
まあ、保護決定してるんだから来られる訳もなかったけど。
借金の督促もたくさんあった。郵便物がポストから溢れていた。
「親に死んで欲しい」と物騒な事をアイツが言っていたら、本当に事故で亡くなった。
自殺じゃないかと近所で噂になったが、自殺するような夫婦ではないという両親の火消しで
なんとか沈静化した。自殺するなら夜逃げだと俺も思う。そんなにしおらしい夫婦じゃないし。
アイツは冷静だった。学生なのに事務的にすべての物事をこなした。
葬儀も密葬で、知らないうちに全部終わっていた。
何か手伝える事はないかと聞いたが、すげなく断られた。
でも、一人で生活をしているアイツを心配して両親が強引に自宅に連れて来たのでホッとした。
うちの親はおせっかいで暑苦しいが、こういう時には便利だ。
長年のつきあいなのにはじめて家に来たお客さんのように他人行儀だったけど。
「お前さあ、家の手伝いなんかすんなよ」
「そういう訳にいかないだろ。世話になってるんだから」
「お袋にお前と比べられるから困る」
「そんなこと知らねえよ……。ま、いいや。俺、すぐに出てくし」
「え? え? そうなの? 家の買い手決まったの? いつ?
どこ行くの? もう引っ越し先決まったの? これからどーすんの?
金大丈夫なの? 一人で? 働くの? 連絡どーすればいいわけ?」
「いっぺんに聞かれても……」
「もう少しうちにいてもいいじゃんか」
「お前んちって、昔から苦手なんだよね」
「なんで?」
「なんか俺がいちゃいけないような気がする」
言葉につまった。そんなことはないと言いたかったけれど、
届かない気がした。
テレビからは芸人のハイテンションな声がしている。
「あのさあ」
「うん?」
「もう少し、こっちに寄りかかってもいいんじゃない?」
「なんでだよ。暑苦しいし、俺がヤダよ」
とアイツは俺から一歩遠のいた。
「そうじゃなくてさ」
「……気持ち悪。俺、もう寝る」
俺が言わんとすることは伝わっていたような気がするが、
無理矢理終わらされてしまった。
俺の部屋でアイツは胎児のように丸まって先に寝ていた。
凍えているようにも見えた。
俺は自分のベッドに横たわりながら、
「たまには甘えたって罰は当たらないぜ」
と隣の布団に寝ている奴に聞こえるように言ったけれど、
わざとらしい寝息をさせてアイツは目を覚まさなかった。

18522-109 甘えるのが苦手:2011/08/21(日) 11:49:28 ID:PDGJB1tI
タイトル入れ忘れました。失礼しました。

18622-249 権力者の初恋:2011/09/09(金) 23:32:24 ID:HSjYhJyQ
仕事も一段落した昼時。
快晴を喜ぶかのように小鳥達が歌いながら窓に映る空を横切るのを見送ってから、穏やかな気分でコーヒーをすする。

「大統領、私の話、聞いてましたか?」
「…ああ、すまないね。もう一度言ってくれるかい?」
私の言葉に秘書はため息をついた。
先程から口うるさくスケジュールを述べ続けていた彼女の顔が、仕事モードから急に“子供を見守る親”のようになった。
「…ええ何回でも言いますとも、しかし今日のあなたは私の話を聞いてくれるとは思えない」
ごもっともな答えだ。
私はしばらく考えて、彼女を見上げる。
「…信じられるかい?今夜の事を思うと心が浮き立っていて食事もままならないんだ。この私がだよ」
お昼に出された大好物のラム肉でさえもなかなか喉を通らなかったのだ。
俗にいう、胸がいっぱいというところだろうか。真意はわからない。
何せ初めて体験する気持ちだから。
「…しかし大統領、今夜は緊急の会議が…」
私は彼女の言葉を遮るように人差し指をたて、横に振りながら「ノー」と言った。
「多忙である彼のスケジュールをやっと押さえたんだ。そうだろう?」
「ええ」
「キャンセルだなんてとんでもない。会議は別の日だ」
「わかりました」
そう、彼は今やおしもおされぬ大スター。
毎日何かしらテレビに出ていると言っても過言ではない世界的スターの夕食時を、我がハウスに招く事ができる日が来たのだ。
大統領の特権とも言えよう。
少しの間だけでも彼の時間を手にした悦びは計り知れない。

18722-249 権力者の初恋2:2011/09/09(金) 23:33:03 ID:HSjYhJyQ
そして夜。
スーツに身を固め、手土産に花束なんて持ちながら彼はやって来た。
世界の名だたる役人が集まる会議なんかよりも緊張している私に、彼は笑顔でこう言った。
「大統領、お目にかかれて光栄です。心から尊敬しております」
彼は笑うと可愛いらしいえくぼが出来る。
小さな事だがテレビを通して何度も目にしてきたそのえくぼが、肉眼で確認できる。
夢ではない。
「ヘイミスター、なにを言うんだね君、こちらこそだよ全く」
私の言葉に彼は照れたように笑い、私の瞳をじっと見た。
「この花は、大統領の誕生月の花です。花が好きと伺ったもので…。今夜はお招きありがとうございます」
ああ、実物はなんてクールでナイスなタフガイなんだ。何もかもがまるで予想通りだ。
私は天にも昇る気持ちで、花束を受け取った。

18822-269 甘党な男前受け 1/2:2011/09/12(月) 08:43:43 ID:y6uzqi62
ヤツがどでかいパフェをうまそうに食うのを、
コーヒーを飲みながら眺めるのは嫌いじゃない。
「うげえ、いっつもなんでそんな食えんだよ」と俺が言うと
「欲しいんだったら言えばいいのに」ヤツがスプーンを差し出すので
「別に欲しくないけど」と言いながら一口もらうのがお約束。

そんなヤツは少しでも休みがあると、バイクに乗ってすぐどこかへ出かける。
俺も誘われはするが、俺は青空のもと太陽の光を長時間浴びると
干からびて死んでしまう(気がする)ので、大抵応じない。
この前なんとなくヤツに電話をしたら和歌山県まで行っていた。
「東京から?信じらんねえ」と言うとヤツは
「3徹でゲームする方が信じられない」と言ってきた。

俺たちの趣味趣向は全くもって合わないが、まあ気が合うので
そんなかんじで仲良くやっている。

しかし、ひとつ気の合わなそうなことがある。
いや、趣味趣向がひとつだけ合ってしまったというべきか。
何の事かというと、情事の際の立場のことだ。
まだそれに至ってはいないが、最近の悩みの種になっている。
俺はヤツを抱くつもりだか、何となくヤツも俺を抱く気でいる気がするのだ。


俺とヤツの背丈はそう変わらないのだが、ヤツは外で遊ぶのが大好きなだけあって、
力で俺が勝てる見込みが欠片もない。
ジムに行ったりもする男に、家でゲームしかしてない男がどうやったら勝てるのか。
格ゲーなら勝てる。でも実践では無理だ。
だがなんとかして情事のときは優位に立ちたい。
だって抱かれるのってよくわかんないしなんかちょっと怖いし。
これは、先手を打つしかない。
考えた結果、俺はそのままを告げることにした。
よし、決めたなら今言ってしまえ! 言ったもの勝ちだ!

18922-269 甘党な男前受け 2/2:2011/09/12(月) 08:44:24 ID:y6uzqi62
「抱かせて下さい」

ヤツはチョコレートケーキを頬張っているところだった。
不意打ちに驚いたのだろう、ケーキを喉に詰まらせそうになって
慌ててキャラメルマキアートを口に流し込んだ。
まさかそんなに驚かれるとは思っていなかったので
ゲホゲホと咳をしているヤツの背中をさすりながら俺は「ごめん」と謝った。


「いいよ」

一呼吸置いて、ヤツは緩く笑う。

それがどっちの言葉への返答なのか俺は判断がつかない。
だからといってもう一度聞けないでいると、
「なんで敬語?」と笑いながらほっとした顔でヤツは話を続けた。

「なんか最近思いつめてると思えば…
 欲しいんだったら言えばいいって言ってるだろう。
 ほんとうはおれが抱くつもりだったんだけどさ。
 おまえが欲しがってくれるんならくれてやるよ、なんでも」


ちゅっ、と口づけられたそれは、ひどく甘い味がした。

19022-289 博奕打ちの恋:2011/09/16(金) 00:10:03 ID:E16dp1lo
「負けたらどうなるか、判ってんだろうな」
「ああ」
 目の前で凄む男に、オレは軽く頷く。
 適当に遊んで来たつもりだが、負け無しのオレが気にいらないらしくついにルーレットでサシの勝負。
 イカサマ防止で玉を入れてからオレが賭けて、その逆を奴が賭けるいたってシンプルな方法だ。
 ルーレットが回り玉が入ると、いつものようにフッと脳裏に数字が浮かぶ。
 今回は19。
 オレは迷わず黒にチップを置き、奴は赤に置いて後は勝負を待つだけ。
 スピードの落ちてきた玉はコツンコツンと音をたて、赤の19に収まった。
 瞬間、奴の顔が笑顔になる。
 そりゃ嬉しいだろう、初めてオレに勝てたんだからな。
 奴は笑顔のままオレを見て、
「約束どおり、今までの分体で返してもらうぜ」
「好きにしろ」
 奴の言う取り立てがタコ部屋送りか、臓器を抜くのか、それとも言葉通りか……。
 正直どれを指しているのか判らない。
 が、オレは今まで賭けに負けたことは無いんだ。
 そしてこれからも、負ける気はねぇ。
 だからオレは、欲しかったモノを手に入れられるはずだ。

19122-309 噛み合いっこ:2011/09/16(金) 11:57:28 ID:jNbQemMk
「痛いって!やめろ!」
いつものことだから後ろに回られた途端すぐに避けたつもりだったのに、俺の肩にはくっきりと赤い歯型が残ってしまった。
「あーあ…」
長袖の季節ならまだしも、夏だから肩をだすこともあるのになぁと毎度のことながらうんざりした。
そんな俺の表情に、森下はニヤニヤと底意地悪そうな笑顔を浮かべて「ごめんごめん」と言った。反省の色なんかこれっぽっちも見えない態度である。
「反省してるならやめろっていつも言ってんだろ馬鹿野郎」
「愛情表現だって。つーか、お前だってノースリ着なきゃいいじゃん」
「何で俺がお前に合わせて服選ばなきゃならねぇんだよ。ふざけんな」
もう別の部屋に行こう、と思い、読んでいた雑誌と飲みかけのコーラを手に立ち上がった。
そうして森下に背を向けると、背後から「どこ行くんだよ」と聞こえた。
「別に」
「答えになってねぇし」
「どうして噛み付いたんですか、って訊かれて、愛情表現です、って答えるよりはマシだと思う」
「…」
森下が黙った。
俺達にとっては、くだらないことに、ここまでが毎日の恒例行事なのである。
森下は俺よりも10も偏差値の高い高校に通っているのに、いつも馬鹿げた行動を起こして、それに輪をかけて馬鹿げた言いがかりをつけて、結局いつも俺に言いくるめられる。
そして…
「あ、そうそう森下」
振り向くと、何故か森下の顔つきがぱっと明るくなった。
「これに小川が載っててさぁ。ガイヤが俺にもっと輝けと囁いてるとか書かれてるんだけど」
そう言って俺が本を差し出した途端、森下も手を伸べた。
「マジ!?あいつ中坊ん時根暗メガネだったじゃん!」
森下が興味を見せた途端、その指先に噛み付いてやった。
「いてっ!いてーよ!」
いつも仕返しされてんのに何で気がつかないのか毎度のことながら不思議なのだが、森下は慌てて手を引っ込め、俺に文句を言った。
「何だよ!ったくよー」
「何って、愛情表現だし…」
俺が言うと、森下は嫌そうな顔をして、「夜は覚えとけよ」とか何とか捨て台詞を吐いた。
「(別にいいだろ。そのときは俺が何も言えなくなるんだし)」
そう思い、後ろでわめく森下を置いて、本当は小川なんてどこにも載っていない雑誌を別室でゆっくり読むことにした。

19222-319 無気力系年下×おっとり系年上:2011/09/16(金) 15:44:33 ID:2c/cDd/w
電話が留守電になっていたけれど、どうせいるだろうなと思ったらやっぱりいた。
洗濯物が畳まれずにまだ山になっている。その横に灰色の塊が落ちていて、そよ風に前髪を揺らしながらべっとりと床に癒着している。
うつ伏せているのでよく分からないが多分まだ寝ているのだろう開きっぱなしの窓を閉める。風を含んでいたカーテンが音もなく戻ってくる。
昨日ぶりに洗濯物をたたみ始める。寝ている頭が洗濯を枕にしているのでちょっとやりづらい。そう思ってふと見ると、真っ黒な目が開いていた。
「プリン」
と口だけが動く。
「プリンくれ」
コンビニの袋がガサガサしていたので分かったのだろう。また袋をガサガサさせてプリンの蓋をむいてやる。
「あーん」
一口分救ったプリンを口元まで持って行って、食べようとした瞬間に手を引っ込める。
自分で口に含んでしまうと露骨に恨めしそうな表情する。面白くてつい笑ってしまう。ますます露骨にむっとされる。
「プリン食わせろ」
「だってアザラシみたいで面白いから」
「アザラシじゃねえ」
「タワシ」
「タワシじゃねえ」
「そうだね」
なだめすかすように言ったのが気にくわなかったのか、左手を掴まれて人差し指をガリガリと噛まれた。
「痛い痛い」
本気で痛いので手を引っ込めると、なぜかうっすら得意そうだ。

「そうだった」
ソファに寝そべって本を読んでいる途中、急に思い出して聞く。
「明日来れないんだけど生きていける?」
「別に死なねえし」
少し間が開いて、フンと鼻息を荒くした返事が聞こえた。
それを聞いて安心したのもつかの間、床から爬虫類のようにズルズル這い上がってきた。あっという間にのしかかられる。変に素早い。
「おもっ」
重いと抗議しているうちにゴツンと口がぶつかってきて、チュウチュウと間の抜けた音がする。キスをされた唇を思い切り吸い上げてくるせいだ。これにも痛いと言いたいが、気を悪くしそうなのでやめておく。
「する?」
「する」
代わりに聞くと今日一番力強く頷かれたので、少し照れくさくてタワシ触感の髪の毛を一房ひっぱる。今度は向こうが「痛い」とじたばたしていた。

19322-299 さあ、踏め!:2011/09/18(日) 02:44:19 ID:yOdrtY8Y
「みんなでメシ食った時、どっちかつーとSだって言ってたじゃん」
「あー、思い出した。言ったな。確かに言った。つーかお前も、俺ドMでいいやーとか
 適当ぶっこいてただろ」
「……」
「……」
「ともかく、これまで色々しておきながら、お前がサドだってことに気付かなかったのを悔やみまして」
「ちょっと外したすきに、人の部屋で全裸になったと」
「うん」
「ベッドの脚に手錠つないで待ってたと。……わざわざ買ったのかこれ」
「そう。慌てたら鍵すっ飛ばしちゃって、自力じゃ外せなくなった」
「……」
「で、そこの箱を開けて下さい。……ハイヒールです」
「見りゃわかるよ! これも買ったのか!?」
「うちの下駄箱で一番かかと高くて細かったやつ。多分上の姉ちゃんの」
「……」
「それを履いて、俺を思い切り踏んでいいんだよ」
「色々可哀そうだろ姉ちゃんが! サイズ的に足入らねえよ」
「さあ、踏め! サドっ気全開で踏みにじれ! 素足でも可! それで、満足したら十五分、いや十分でいいから
 触らせ……どこ行くんだ」
「放置プレイならしてやるよ。優しいご主人様は、これからお前の大好物の牛丼を買いに行く。徒歩で」
「往復三十分以上かかるよ!?」
「晩メシは牛丼食って、朝は……パンでいいな?」
「え?」
「お前ジャムいらないよな。買い足さなくていいか」
「それ、と、泊まりでいいってこと……」
「それじゃ大人しく待ってろよ。ついでにDVDも借りてくるわ。徒歩で」
「待って俺も行きたい! 一緒に行くってば! ……あー……」

「しかし、今日は本当に放置されるかと思った。すげえ顔してたぞお前」
「すげえ顔させたのはお前だ。万が一なんかあったら俺犯罪者扱いだもん」
「同級生を全裸で監禁。おお。全国ニュースになるな」
「だまれ真犯人」
「あのうところで」
「なんだよ、お前選んだ奴だろ、いい加減ちゃんと見ろよ」
「俺の太腿をぎゅっぎゅしてるこの足は……」
「素足でもいいから踏むんだろ」
「あ゛ぅんっ!」
「あ、悪い、蹴っちまったか。テーブル低いから動きにくくて」
「う―……」
「それで、満足したら十分だけ、だったな」
「……!!!」

19422-330 可愛いもの好きなのをひた隠しにする彼氏:2011/09/18(日) 02:48:01 ID:yOdrtY8Y
もいっちょ。両方萌えたので連打で失礼します



例えば、何気なく回したチャンネルで、仔猫が大写しになってた時。
ハンバーガーを買いに行ったら、子供向けセットのおまけがゆるくて可愛いキャラだった時。
この人はなんだかムッとした顔をするのだ。
もう、視界に入った瞬間に顔がひきしまり、その後少し挙動不審になる。

「スクラッチカード、貰っていーいー?」
「おお。俺いらねえからやるよ」
オレの集めてる分と、今削った巌さんの分と……おし、キャラクタープリントのカップがもらえる!
レジから戻ったオレの手元を見て、巌さんの精悍な顔がいつもの「ムッ」になった。
「お前、わざわざロゴじゃないほうのカップにしたのか?」
「オレこのキャラ好き。ねえこれそっち置かせてよ。これで巌さんのカフェオレ飲みたい」
飲みたい飲みたーいとテーブルを叩くしぐさをすると、ムッとした顔が諦めの表情に変わった。
「……お前の持ちもん並べると、俺の部屋が微妙な趣味になるんだけどよう。お前実は男子大学生じゃないだろ
 女子高生かなんかだろ」
「巌さん女子高生好きじゃん! 見かけるとすーぐそっち行きっぱなしじゃんか。顔キリッとさせてても視線固定されてるもーん」
巌さんは、しかめっ面で「んなこたねえよ」と言い捨てたけど、目が泳いでいる。

これはちょっとした意趣返し。だって、初めは本当に女の子がいいんだと思って、ずいぶん悩んだんだ。
でも、オレの事好きだって言ってくれる気持ちを信じて、よくよく巌さんを見てるうちに気付いた。
興味の対象は、女の子じゃなくて、女の子の持ってるカワイイ小物だって事に。
同時に「ムッ」の謎も解けた。可愛いもの見ると顔がゆるむけど、それが恥ずかしいんだなこの人は。
いつか、その恥ずかしい所も見せて貰えたら、と可愛いもの攻勢をかける日々だけど
「ムッ」の顔もかっこいいから別にいいかな、とも思う。
「悔しいから、段々可愛いもので浸食してって、最終的に巌さんの家にファンシーの間を作ろうと思う」
半ば本気で畳みかけると、巌さんが噴き出して笑った。

19522-329 理性×本能 or 本能×理性:2011/09/18(日) 04:05:04 ID:a2Mx9lvY
※ID:a2Mx9lvYです。あまりにもひどい行動をとってしまったので死ぬ前にせめて投下します。この度は本当に申し訳ありませんでした。



 調べたところによると、と彼は云った。

「本能とは動物にも人間にも生まれつき備わっている性質で、理性は人間にだけ備わっている知的特性です。理性で本能を制御して、今日まで人類は進化してきたといわれています」

「……うん。それがどうした……?」

 いきなりつらつらと難しそうな話をしだした後輩に、俺はきょとんとした。彼とは同じ生徒会の役員同士で、密かに交際を始めてもうすぐ2ヶ月になろうとしているところだ。見た目からしておとなしく冷静で小柄な彼は、運動部長で筋肉馬鹿で本能に踊らされているとよく評される俺とは全く正反対の気質で、接点など何もないと思われていたが、ある時「サッカー好き」という共通の趣味が見つかり、それ以降急激に仲良くなった。その後、俺のほうが惚れ込んでしまい、玉砕覚悟で告白し、奇跡的に彼が受け入れてくれて晴れて恋人同士に昇格したわけだが、理性のかたまりと云わんばかりの彼を前に俺の本能はなかなか力を発揮できず、結局あまり進展のないまま今に至っていた。

 本日も「なでしこJAPANの試合の録画DVD」を餌に、彼を自部屋に招き入れ、今日こそは! と意気込むも、本能と理性の狭間でなかなかゴールを決められず、悶々としながら、「昨日の試合は〜」などとたわいもない話をしていた。冒頭の本能と理性の話は、そんなたわいもない話の最中に不意にもたらされたものだった。

「あなたは僕のことを理性的で落ち着いていると褒めるけれど、僕からしたらあなたのほうがよほど理性的で優しい。ぼくはあなたのそんな優しさが好きです。でも……」

 でも、と云いながら彼はベッドに腰掛け、自ら制服の下の白いワイシャツの第二ボタンまでをそっと外し、俺を真っ直ぐに見た。

「でも、今くらいは本能の赴くままに従ってもよいのでは、ない、でしょうか……」

 サァっと紅く染められた頬と、シャツの下に覘く白い肌に浮き出た鎖骨。俺の理性ははじけ飛んだ。

19622-329理性×本能 or 本能×理性:2011/09/18(日) 09:10:10 ID:3eCNlUC.
⑴理性×本能の場合
理性は常に落ち着いて物事を考える。クールでドライな感じ。
攻めだったら鬼畜かヘタレ。敬語でもいい。
本能は自分のやりたいことに向かって突っ走る。意外と人の表情の変化に敏感。
受けなら無邪気受け。それか元気受け。
「ねえねえ、理性、みて。ひつじ型の雲があるよ!」
「本能、落ち着きなさい。上ばかりみていたら転びますよ。」
「わかってるよー。」
(理性…今ちょっと笑った。理性はやっぱりかっこいいなぁ。)
みたいな感じで、ほのぼのしてたらいい。
⑵本能×理性
本能は受けの時と同じように無邪気か元気だけど、天然たらし要素or腹黒要素が加わる。
理性は敬語受け。押しに弱いタイプでちょっとだけツンデレが入っててもおいしいと思う。
この2人だったらラブラブで、
「理性ー、チューしよう。」
「なんでですか!こんなに人がいるところでできるわけないでしょう。」
「もういい!勝手にするから。」
「まさか本当にするなんて…本能のそういうところ、嫌いじゃないですけど…ね。」
みたいな会話を繰り広げてくれたら禿げます。

あまりにも萌えたので。初カキコなので表示がおかしかったらゴメンなさい。

19722-329 理性×本能 or 本能×理性:2011/09/18(日) 11:13:12 ID:7ttR8.B2
本スレ331です。329だけに的を絞って本能×理性でリベンジ。




「だっかっら!! どうしてそうすぐに暴走させるんだお前は!!」
「あっれー、これはイケると思ったんだがなー」
「“恋人”逃げたじゃないか! 貸せ、俺が操縦する!」
「据え膳食わぬは男の恥とか言うじゃん?」
「黙れ。おら“本体”、呆けてないで追いかけろ」
「…あ、“恋人”発見」
「よしよし、近づいて肩を…」
「うりゃ」
「あ! おっ前、また邪魔しやがって…!」
「ここは抱きつかせた方がいいんだって。ほら、セリフはお前が指示しろよ」
「ったく…謝らせて、素直に告白させて、と…」
「お、いい感じいい感じ」
「お前が暴走させなけりゃ最初から上手くいったんだけどな」
「それだとつまんないだろー」
「うるさい」
「…んー、なんかこれいいムードじゃね?」
「……まぁ」
「俺操縦しようか?」
「お前は大人しくしてろ、俺がやる」
「へいへーい」
「とりあえずキスしながら服の上から…」
「……」
「脇腹に手を…って、こら、何して…!」
「暴走しないように理性的な行動とやらを勉強しようかと」
「だからって俺に…っ」
「ほら、操縦疎かになってんぞ」
「っ、くそ…!」
「ふんふん、なるほど、こうすればいいんだなー」
「見れば…わかるだろ…っ! だからやめ…!」
「物足りなくなったか?」
「誰が…!」
「だってほら、“恋人”見てみ」
「…!」
「…『もっと強くして』だとよ。操縦交代、な」
「あ…っ!」
「あとはこの本能様に任せなさい。…お前も、な」
「う、うるさい…!」

198もてない男×もてる男で両片思い:2011/09/24(土) 00:56:54 ID:pJlX2v7A
yahho知恵袋
回答受付中の質問

僕は若い頃にモデルだった母に似て、いわゆるイケメンだそうです。
女顔なので自分ではコンプレックスがありますが、今は中性的な男がいいらしく、社内では多くの女性社員にアプローチをかけられます。
正直言って、僕は女性が好きではありません。特に恋愛に対しギラギラした人が嫌いです。
仕事に集中したいのに、暇な女子社員にやたら声をかけられて困ります。
こんな自分ですが、最近とても気になる人が出来ました。
総務部で地味に仕事をしている人です。
営業部にいた方ですが、大きな失敗の責任をとって飛ばされたようです。
でも僕は斬新な発想力が認められなかっただけだと思っています。
それなのに女性社員からはひどい扱いを受けていて、見ていてとても辛くなります。
この間は年下の女子社員から大声で怒鳴られていました。
それでもその人は黙って聞いています。そんな所もかっこいいと思います。
普段は接点がまったくありません。
話す機会が欲しくて、自分は非喫煙者ですが、喫煙者のふりをして喫煙所で話をしてみました。(その人はヘビースモーカーです)
僕が話しかけても「そうなんだ」くらいしか返事が返ってきません。
僕が行くとすぐにタバコの火を消して離れてしまいます。
「○○さんは人気あるからいいね」とも言われました。
これは嫉妬なんでしょうか?それともイヤミなんでしょうか?
客観的に見て、脈はあるように思いますか?
また、食事にでも誘いたいのですが、どのようにすればいいと思いますか?


ベストアンサー

最初は自分がもてることの自慢かと思いました(笑)。
タバコを吸っていたり営業をされていたり、ずいぶんカッコイイ女性なんですね。男性的というか。
そういう方はあまりあなたのような男性を好きにはならないかもしれません。
ただ、参考にはならないと思いますが、自分の知り合いで、その女性のような男性がいます。
彼の会社にも、あなたのようなモテる人がいるらしいです。
彼の目にはとても魅力的に写るようですが、気後れしてしまって、ぶっきらぼうに受け答えをしてしまうと言っていました。
男性的な女性なので、彼のようなパターンもあるかもしれないですね。
男なら当たって砕けろです!頑張って下さい!

19922−379 悪落ち→救済(1/3):2011/09/25(日) 18:22:24 ID:y5QL9qos
「実に、残念です」
ゆっくりと扉を閉めながら、彼は頭を振った。
「世間を騒がせていた殺人鬼が、本当に貴方だったとは……」
「幻滅したか?神父様」
言いながら、俺はコートのポケットに手を突っ込む。
それを見た彼が警戒するように一歩後ずさるのが見えたので、笑いかけてやる。
「別に拳銃なんか出やしねえよ。煙草だ」
だが、取り出した箱には煙草は一本も残っておらず、俺は舌打ちして箱を握り潰した。
後ろにいる男がため息をついている。
「神聖な場所で煙草など吸おうとしないで頂きたいのですが」
こんなときですら大真面目にそんなことを言うので苦笑した。
「あんた、俺が怖くないのか」
「は?」
意味が分かっていないような表情で首を傾げている。
この男はいつもそうだ。いかなるときも自分のペースを崩さない。
それが職の所為なのか、元々の性格なのかはよく分からない。
「あの殺人鬼が目の前にいるんだ。こっちのポケットにはゴミしか入っていなかったが、
 別のポケットには銃が入ってるかもしれない。それで口封じにあんたはここで殺されるんだ」

彼には、五人目の殺害現場を目撃されていた。
不幸にもその場に居合わせたこの若い男は、最初の数瞬こそ凍り付いていたが
すぐに全てを悟ったかのように悲壮な表情になり、そしてなぜか逃げもせずこうして俺を教会まで導いたのだ。

「あんたの取るべき行動は、すぐに警察へ駆け込むことで、俺を教会に連れて来ることじゃないだろう。
 それともお優しい神父様は、殺人者ですら哀れんで、一晩中、懺悔でも聞いて下さるのか?」
「貴方にその気持ちがあるのであれば、いくらでもお聞きしましょう」
そのセリフに、呆れた。
「俺とあんたが顔馴染みだからって、殺されないとタカを括っているのか?だとしたらとんだ甘ちゃんだ」
すると、彼は「いいえ」と静かに首を振った。
「知り合いだから殺されないとは、思っていません。今まで殺された方々も、貴方とはお知り合いだったのでしょう?」
その言葉に、俺は軽く衝撃を受ける。
彼の言う通りだった。
世間では無差別殺人だと言われているが、実際のところ、被害者達と俺は面識があった。
つまりは、怨恨だ。猟奇的な、ただの怨恨殺人。
だがその繋がりは表面上は限りなく薄く、警察も辿り着けていない。
だからこそ、世間は無差別殺人鬼だと噂しているのに。
「これは驚いたな。それも、例の『ご神託』……教会独自の情報網が出所か?」
「……いえ」
「その様子だと、俺の動機まで調べがついていたりしてな。神様は何でもお見通しか?」
「…………」
彼は困ったように目を伏せて曖昧に言葉を濁している。
これまでもこんなことは何度かあった。
耳の早い新聞社ですら嗅ぎ付けていない情報を知っていたり、行方不明の人物の居場所について見当をつけていたり。
否、知っていたのは『教会』か。
そのことについて今まで何度か訊ねてみたことはあったが、その度に彼は曖昧に笑って誤魔化すだけだった。

そういえば、彼は教会に入ってくるときにこう言った。
――世間を騒がせていた殺人鬼が、『本当に』貴方だったとは……

今の今まで、現場に彼が居合わせたのは不幸な偶然だと思っていた。
だが考えてみれば、神父である彼がこんな夜中に、町外れの裏通りを偶然通りかかる確率は限りなく低い。
しかし、もし知っていたとしたら。彼は故意にあの場所へやってきたことになる。

「はは、こりゃ傑作だ。警察よりもあんたら教会の方が、捜査機関として有能だなんてな」
心底可笑しくて笑っていると、男は顔を上げ「そんなことはありません」と言った。
「この国の秩序を守っているのは、あくまで貴方がた警察ですよ。……警部」
「俺はもう警察の人間じゃねえよ」

20022−379 悪落ち→救済(2/3):2011/09/25(日) 18:23:32 ID:y5QL9qos
「いいえ。貴方はまだ警部のままです。机の中の辞表は、明日にならないと発見されない」
「……あんた、本当にどこまで知ってやがる」
こちらの質問を無視して、神父は悲しそうな表情で俺に問う。
「まだ、続けるおつもりなのですか」
「さあて、どうだろうな。神様は全部お見通しなんだろ?」
俺は肩を竦めてみせる。
辞表を書いたのは、刑事でいることへの罪悪感からでもなければ、罪の露見を恐れて逃亡するためでもない。
単に、刑事という肩書きがもう不要になっただけのことだ。
正確に言えば『捜査の行き詰まりに疲れ果て辞職した刑事』という次の肩書きを手に入れるため。
そうしなければ、次のターゲットには上手く近づけないのだ。
そう。まだ俺は止まる訳にはいかない。
「とりあえず、懺悔するのが今じゃないことは確かだ。悪いな」
警察の手では届かない、刑事だった自分には裁けない、そんな連中を全て潰してやるまでは。
だから、ここでこの男といつまでも悠長に話している時間は、あまり無い。
(とりあえず、こいつには殺しの現場を見られちまったし、な)
彼をここで殺したとしても、彼のバックには教会の情報網があるようだから、根本的解決にはならない。
『教会』がどこまで知っているのかは分からない。不確定要素は危険だ。
だが少なくとも、ここで彼の口を封じてしまえば、いくらか時間は稼げる。
それに、知られていることを知ってしまえば、以後は警戒すればいいだけだ。
今まで物的証拠など残していない。だから逮捕はされない。それどころか、逆にそれを利用してやることも――
「……私の知っている貴方は」
不意に、噛み締めるような声が教会に響いた。
「悪を憎み、けれど犯罪者を一方的になじることはなく、更正が必要なら手を差し伸べる、そんな方です。
 あなたに救われて、心に平穏を取り戻した人は数知れないでしょう。
 私は、貴方こそ警察の鑑だと思っていました。いえ……警察として以前に、人間として、立派な方だと」
「おう、ありがとうよ」
礼を言ってやるが、神父の表情は苦しげに歪んだままだ。
「けれど貴方は、五人もの人間の命を奪いました。しかもこれ以上ないという程に惨たらしく。
 刑事という立場を利用して、貴方は警察の目を巧妙に逸らし、捜査網を掻い潜り、殺人を続けてきた」
重々しく響くセリフは、罪状を読み上げるようだった。
「罪に償いはあれど、相殺はありません。どれだけ貴方が他人を救っても、貴方の罪が濯がれることはない」
「おいおい、この状況で有難い説教か?まったく大したヤツだな」
職務に忠実なのか、度胸があるのか、自分の置かれた状況が理解できていないのか。
「ついでだからお返しに教えてやるよ。俺から見て、あんたはちょっと真面目――」
「警部」
しかし、言いかけたセリフは遮られる。
神父は軽く目を伏せてから、再びゆっくりと目を上げ、真っ直ぐに俺を見た。
「それでも神は、貴方を赦します」
「……あ?」
何を言われたのか、わからなかった。
「罪を裁くのは秩序。秩序を守るのは人間、秩序に守られるのは人間、秩序を乱すのは人間。
 秩序を守るためには犠牲が伴う。犠牲の為に戦うのもまた秩序。犠牲とは弱者。あるいは、罪」
言いながら、目の前で神父が白い手袋を填めている。
「貴方はたくさんの人々を救った。しかし五人の命を奪った。貴方には理由があった。五人には理由があった。
 理由はまだ転がっている。貴方はそれらを食い尽くすまで、止まる意思は無い。寧ろ、その意思しか持っていない」
彼の瞳は未だ悲しみを湛えていたが、こちらから視線を逸らすことはない。
「この国の法律も、警察も、世間も、そんな貴方を許さないでしょう。けれども、神は貴方を赦します」
まるで、式典で説教でもしているような口調で。
「貴方の魂は、安らかに神の下へ導かれるでしょう」
「あんた、何を言ってる」
薄気味悪さを感じて、今度は俺の方が一歩退いていた。
俺の知っているこの男は、いつも真面目でときに融通が利かず、日曜は子供達に囲まれ一緒に歌を口ずさみ、
良い行いには笑みを浮かべ、悪い行いには怒りでなく悲しみの表情を返す、そんな至って普通の神父。
それなのに、その声は今や恐ろしく落ち着いている。
「罪は秩序の下で裁かれべきであり」
その表情には憂いを帯びたまま。
「秩序を守るのは警察の役目です」
神父は、だらりと両の手を下ろす。
「……けれど、貴方は、少々やり過ぎました」
その言葉を言い終えたと同時に、彼の身体がゆらりと前へ傾いで――次の瞬間には、十歩の距離を鼻先まで詰められていた。

カタギの野郎の動きじゃない。
そう気付いたときには既に、銀色のナイフが、俺の胸に深々と突き刺さっていた。

20122−379 悪落ち→救済(3/3):2011/09/25(日) 18:24:47 ID:y5QL9qos


「これで四人もの人間を惨殺した恐怖の殺人鬼も終幕か。あっけないものだ」
「犠牲者は五人です」
私は訂正する。
「それに、四人目が殺されるまで我々は彼に辿り着けず、結局五人目にも間に合わなかった。
 『あっけない』で終わらせるには、いささか犠牲が過ぎたのではありませんか」
「ほう。それではお前は、この世には過ぎぬ犠牲もあると言うのだな」
面白がるようにそう返されて、私は黙った。
そんな私を見下ろして、自分の上司である男はなぜか愉快そうに笑う。
「本来は向こうの仕事だ。あまりに酷い状況だったからこそ、我々が手を下したのだろう。
 まったく、身内で化物を飼っていたことにも気付かないとは、警察も情けないことだな」
「……この方は、化物などではありません」
彼は立派な人物だった。
そんな彼を何が凶行へ走らせたのか。なぜ狂気へ走らざるを得なかったのか。
それをいくら此処で語ったところで、彼の罪は変わらない。
と、上司が思い出したように「そういえば」と呟いた。
「お前とこの男とは顔見知りだったのだな。やはり、やりたくなかったか?」
「いいえ」
その問いに、私はためらいなく否定を返す。
「こうしなければ、彼は救われないままでしたから」
言いながら、自分でも判で押したような答え方だと思ったが、上司は特に何も言わずただ「そうか」と頷いた。

教会には静寂が満ちている。
ステンドグラスから差し込んだ月の光が、彼の遺体に降り注いでいる。
ほんの数十分前までは生きていて、ほんの数日前までは捜査のついでだと言いつつ教会に顔を出していた男。
元々白かった手袋は、今は彼の血で赤く染まっている。
「……先生」
椅子に腰掛け、自分の両手を見つめたながら、私は上司に呼びかける。
「私の手は、救うに値する手なのでしょうか」
救済は万人に等しく与えられる。たとえそれが罪人でも。
だが、万人が全て、等しく救いを欲するのだろうか。果たして彼は救いを求めていただろうか。
おそらく彼は否と答えるだろう。そう、それを常に求め欲し憧れているのは、他でもない――
「私は値すると思っているからこそ、お前に仕事を任せているのだが」
顔を上げると、すぐ傍まで上司が来ていた。
「それだけでは不足かね?」
そう言って、まるで子供にするように、私の髪をくしゃくしゃとかき回す。
おそらくこの上司は、私の心情を知った上で、尚も面白がってこんなことをしている。
私はため息をついた。
「それは、ありがとうございます」
「さあ、雑談はここまでだ。そろそろ引き上げるぞ。この死体も、このままここに放置してはおけまい」
上司は私の頭から手を離すと、楽しげな表情を引っ込めて、淡々と言った。
「彼の魂の行く先に、安らぎと幸いがあらんことを……」
その言葉に、私も自分の中の下らない感傷を振り払う。
私は、自分のやっている事を忘れてはならない。やるべき事を見失ってはならない。
そして彼の死に顔も、断末魔も、罪も、理由も。
「先生。一つだけ、お願いをしてもよろしいでしょうか」

+++++

世間を騒がせている未曾有の連続殺人鬼は、現時点で実に六人もの犠牲者を出している。
被害者同士には何の繋がりもなく、共通項はただ一つ、遺体が酷く破損していることだけだ。
しかも六人目の被害者は現職の刑事であり、その事実に人々は更に震え上がっている。
今のところ、七人目の犠牲者は出ていないが、警察の捜査は難航を極めているという。

20222-389 ごっこ遊びはもう終わり:2011/09/26(月) 12:30:13 ID:k8Ftd3c2
もう後がなかった。嫌だよどうしてこんな事になってしまったんだ。
俺は匡兄が笑いながら、酷く優しいくせに鳥肌をたたせるような猫撫で声で俺を呼ぶ、それに必死で耐えている。
季之、なぁ、としゆきぃー。
気付かれたく無かったんだ、気付かれない方がよかったんだ。俺は匡兄に、知られたくなかったんだ。
だって俺は、バカだからあんたに夢を見てしまったんだから、あんたとずっと一緒にいたいなんて思ってしまったんだから、
その為にこんな柔らかな愛撫はいらないんだ。そうだろ?俺達は兄弟だって、また言ってくれよ。頼むから、ねえ。匡兄。
ベッドに潜り込んで丸くなって、俺は匡兄が優しい声で俺を撫でるのをやり過ごそうとする、聞こえないふりをする、
ずっとそうしてきっと朝になればまたうまくいく。
怪談なんかと一緒だ、朝までの、粘つく様な長い時間を耐え切れれば。
「何寝たフリしてんだよー」
毛布のすぐそこ、舌先で擽られるような距離だ。匡兄は笑ってて、なー、俺嬉しかったのに、なんて言うから俺の我慢が揺らぐ。
ぐらぐらと、寸前で踏み止まり目を瞑る、声は追いかけてくる、俺もお前が好きだよ季之。
それは、俺が一番欲しくて、一番いらなかった言葉だ。

我慢できない。俺は毛布を跳ね上げて、それに驚いていて目を見開いた匡兄を思い切り突き飛ばした。
匡兄は驚いた顔のままよろけてベッドから落ちる。
「なぁにすんの、お前、スキンシップには乱暴だろぉ」
声はまだ甘く溶けている、嬉しいよって全身で言っている。それが俺にはたまらない。
駄目だよ匡兄駄目なんだよ、俺達はここを超えたら絶対駄目になるってわかってんだよ、
これは被害妄想とか不安とかじゃなくて絶対だよ。
俺とあんたはきっと駄目になる。兄弟ごっこしているのが一番いいんだ、なああんただって知ってただろ。
だからずっと、それに付き合ってくれてたんだろ?
口を滑らせたのは俺のミスだ、ミスなんだけど、お願いだから忘れたフリをしてまた戻って欲しい。どうにか。
ねえ、どうにか。
「なー、としゆきぃ、もっかい言って」
俺の事好きだって。
俺が願ってる間も、匡兄は優しくも残酷なおねだりをする。
「やだよ間違いだしあれ」
「嘘だぁ」
愛が溢れてたから俺にはわかんの。
そんなイラッとする言葉でもって、俺を責める。

俺は頭を抱える。いやだ、こんなのは嫌だ。あんたは俺の兄貴でいてよ。
ちょっとバカで頼りないけど、意外と真面目なところもある、そんな兄貴でいてよ。
俺を弟だって言って、なあもう一回。
匡兄の目は熱を帯びていっそ狂気に染まっているように見える。
つまりはそれだけ我慢してたんだって、きっとあんたは言うんだろう。そうだろう、俺がそうだから多分そうだ。
でも俺は戻りたい、ついさっき、数十分も経ってないそこに。俺達が触れる事に意味が生まれなかった頃に。
「季之ぃ」
「やだ」
「何が」
「やだよ」
俺はその言葉と一緒に手を払った。明確な意図で、匡兄をまるで殴りつけるみたいに。
思ったよりも鋭く俺の手は匡兄の肌を擦り、まるでひっぱたくような形で匡兄の顔が横向く。
妙にスローモーションで、小麦粉とかの袋殴ってるみたいな変な感触、匡兄がぐるりと俺の方に向き直る。
「痛いよ、としゆきー」
それなのに匡兄は、俺を責めない。頬を擦りながら、それでもまだ嬉しいんだと言っている。
「な、季之。キスしよっかぁー」
俺が口なんか滑らせなかったら。
「やだ」
「どーして」
「絶対しない」
「なんで?」
俺も、お前が好きだよ?
そんな言葉でやっぱり俺を傷つける。あんたって酷い人だよ。きっかけはそもそも俺だけれど、ねぇ、だから嫌だったんだよ。
こんなに簡単に、やっぱり壊れるじゃないか。いつか全ては壊れるもんだなんて俺は思っていたけどさ。
それでも匡兄、あんたとは壊れないでいたかったのに。
「近寄んなよ」
今度はさっきより強く。近づいてきた顔を引っ叩く。
指先が笑う。伸びてくる。俺に触れる。嫌だ。こんなに幸せそうなのに、辛い。
俺はちっとも幸せな気分になんかなれない。
だってこれは、終わる合図でしかないじゃないか。
どうして同じ気持ちなのに、こんなに辛いんだ。
教えてくれよ、教えてくれよ、もう一度兄貴になって教えてくれよ。
あんたのどっかズレた答えにも今度はちゃんと頷くから。


ねえ、お願いだよ。

203<削除>:<削除>
<削除>

2041/2:2011/09/27(火) 19:27:59 ID:07G56RQY
間に合わなくて流れたのでこっちで







「好きだ!」

突き抜けるような青空の下、永井は叫んだ。
目の前にはぽかんとした顔の幼なじみの浅島。

「…は?」

とりあえず何かを返そうとしての言葉に、思わずうなだれそうになる。
だがどうにか自分を奮い立たせることに成功した永井は、いつもと同じ笑顔で浅島を見た。
銀縁眼鏡の向こうで、珍しく視線が泳ぐ。

わかっていた。
何しろ、長い付き合いだ。
彼が自分をどう思っているのかなど、痛いほどにわかりきっていた。

「お前は、いったい何を言ってるんだ」
「俺がお前を好きだっていう自己主張だけど?」
「…アホか」

呆れた表情に、いつもの浅島の雰囲気が戻ってくる。
けして肯定的ではない返事なのにもかかわらず、それは永井を嬉しくさせた。

「うん、いいんだ。お前が俺を友達としてしか思ってないのなんかわかってるから」
「永井」
「だから、お前が俺を好きになるようにするから!」
「…どうやって?」

2052/2:2011/09/27(火) 19:28:43 ID:07G56RQY
やや冷たい浅島の声に、永井が固まる。

「と、とにかくどうにかして!」
「計画性ゼロか」
「えっと、とりあえず、浅島の好みのタイプって?」
「背が低くてふわふわしたロングヘアの色白の女の子」

間髪入れずに言われた、性別含めまさに正反対の答え。
だがそれにもめげず、永井は浅島を正面から見据えて笑った。

「見てろよ、全部塗り替えてやるからな!」
「無理だろ」
「無理じゃない!俺、頑張るからな!」

言うだけ言って、その場から走り去ってしまった永井の背中を見送りながら、浅島は小さくため息をついた。

「ひとつ言い忘れたな…笑顔が似合う、って」

だから全部塗り替えるのは無理だろうが、とつぶやきながら、彼は薄く笑った。

20622-409 スーパー攻め様:2011/09/28(水) 23:05:36 ID:z/zOmFHk
ヤバイ。スーパー攻め様ヤバイ。まじでヤバイよ、マジヤバイ。
スーパー攻め様ヤバイ。
まず金持ち。もう金持ちなんてもんじゃない。超セレブ。
金持ちとかっても
「一般家庭20個ぶんくらい?」
とか、もう、そういうレベルじゃない。
何しろ御曹司。スゲェ!なんか財閥とか継いじゃうの。重役級とかヒルズ族とかを超越してる。御曹司だし超金持ち。
しかも強引らしい。ヤバイよ、俺様何様スーパー攻め様だよ。
だって普通はヘタレ攻めとか強引じゃないじゃん。
だって大して知らない人からいきなり「お前は俺のものだ」って言われても困るじゃん。取り巻きとか超妬んでくるとか困るっしょ。
いきなり押し倒されて、「最初は遊びのつもりだったのに、お前が俺を本気にさせたんだからな?」とか泣くっしょ。
だからヘタレ攻めとかゴリ押ししない。話のわかるヤツだ。
けどスーパー攻め様はヤバイ。そんなの気にしない。ゴリ押ししまくり。
当て馬とか邪魔しにきても逆に破滅させちゃうくらい権力持ってる。ヤバすぎ。
俺様っていったけど、もしかしたら優しいのかもしんない。でも優しいって事にすると
「じゃあ、いきなり別荘に拉致るってナニよ?」
って事になるし、それは誰もわからない。ヤバイ。誰にも分からないなんて凄すぎる。
あと超絶倫。約1カトウタカ。年齢制限で言うとR-18。ヤバイ。エロすぎ。抵抗する暇もなく蕩かされる。怖い。
それに超イケメン。超肉体美。それに超頭いい。IQ200とか平気で出てくる。IQ200て。小学生でも言わねぇよ、最近。
なんつってもスーパー攻め様は口説きが凄い。愛の囁きとか平気だし。
うちらなんて愛とかたかだか告白で出てきただけで上手く言えないから真っ赤になったり、わざと茶化してみたり、
最後まで言えなかったりするのに、
スーパー攻め様は全然平気。愛を愛のまま囁いてくる。凄い。ヤバイ。
とにかく貴様ら、スーパー攻め様のヤバさをもっと知るべきだと思います。
そんなヤバイスーパー攻め様に惚れてしまった俺とか超大変。でも愛してる。超愛してる。

20722-419 知りたがり×隠したがり:2011/09/30(金) 19:41:11 ID:fC2J/oaM
「なぁなぁ、受けは俺のどこが好き? ちなみに俺は全部好きだよ」
「ああそうかい」
 また始まった。
「受けはいつ俺を好きになった?」
「忘れた」
 冷たくしてもこたえず、また問い掛けてくる。
「えー。俺はね、忘れ物して慌ててたら何も言わずブッキラボウに貸してくれた時に、いいなーと思った」
「……」
 無視しても同じだ。
「じゃあさ、俺のことどれだけ愛してる? 俺は空よりも広く愛してる〜!」
「教えない」
「それじゃあ」
「ああもう、いつもいつも五月蝿!」
 怒鳴っても、攻めはなぜ怒ってるのか判らず不思議そうに首を傾げる。
「好きな相手の事は、何でも知りたいじゃないか」
「だからって、何度も同じことを聞くな」
「だって聞きたいんだモン」
 口を尖らせ拗ねたように言う攻めに、呆れたように背を向けた。
 そうしなきゃ平静を保てない。
「……」
 攻めのどこが好きかって? おれも全部好きだよ。
 いつから? 初めて会った時からに決まってんだろ!
 どれほど愛してるかって? 距離にしたら宇宙の彼方までぶっちぎる程だ。
 攻めは知らないだろうが、おれの方がベタ惚れなんだよ!
 毎回この気持ちを正直に答えてたら、おれ達とんだバカップルになっちまうんだぜ?
 だから答えてやらないよ。

20822-429 紳士攻め×流され受け:2011/10/01(土) 21:26:32 ID:s.BeOs1g
初めは彼女に連れられてやってきた。
あまりにも俺の服装がダサイといって、オーダーメイドの紳士服屋。
そうしてあれよあれよという間に仕立てることになったスーツは、
俺の手持ちで一番高い勝負服となり、彼女と別れた今も捨てられない。


「ネクタイですか」
そう言って声をかけてくれたのは、スーツの採寸もしてくれた檜山さんだった。
今の給料じゃとても二着目は仕立てられないが、檜山さんに会いたくて、
俺はちょくちょくこの店に小物を買いに来るようになっていた。
「今日のお召し物はとても良くお似合いですね。今日のものに合わせるタイなら、こちらの臙脂も宜しいかと」
「じゃぁ、それを」
褒めてもらったスーツも、実は檜山さんの見立て。
この店に通うようになっても一向にセンスが磨かれない俺を見かねたのか、
檜山さんが「買い物につき合って頂けませんか」と言って見繕ってくれたのだ。
以来、俺が身につけるものは殆ど檜山さんのアドバイスに従っている。
俺の服選びに毎回つき合ってもらうのに申し訳なくなって、
手料理を振る舞うようになったのはいつごろからだろうか。
いつの間にか、俺たちの間では一回の見立てでご飯一回、という暗黙の了解ができていた。
会計のあとで檜山さんに目で合図をしたら『今晩伺っても宜しいですか』というメールが入っていて、
テンションは一気に上がる。


「今日の料理もおいしかったです」
一緒に出したワインでほろ酔い加減になった俺は、ふらつく足でシンクに食器を置きに立つ。
「あぶないっ」
運よく食器は手にしていなかったが、頭を打ちそうになったところを間一髪檜山さんが支えてくれた。
「全く、あなたからは一秒も目を離していられない」
「ほんと、すいません…っつ」
頭は打たなかったが、腰をしたたか打ったようで、手でさするように押さえる。
「おや、腰を打ったのですか。痣にならないか確認してみましょうか」
「え、…は、はぁ」
戸惑う俺をしり目に、檜山さんの低い体温が脇腹に触れる。
「あ…のっ」
「人に触られるの、苦手でしたか」
頬に熱が集まる俺を見て、檜山さんが優しくほほ笑む。
「い…え…」
人に触られるのが、とかじゃなくて、触り方がエロイ気がするのが、
あまりに自然になんでもないことのように聞かれるので、俺の意識のしすぎかと思ってしまう。
その様子に、檜山さんは今度は小さく吹き出す。
「プレゼント、はしてませんが、服を見立てるのは脱がせたいからですよ。こういうの、お嫌いですか?」
「い…え…」
あまりにさらりと言われるので、思わず反射的に否定の言葉を言ってしまう。
事の重大さに気付いたのは翌朝だ。


「私のことを嫌いになりますか?」
「…いえ」
それでも檜山さんが嫌いじゃないのは、ちょっと不思議だ。

20922-429 紳士攻め×流され受け:2011/10/03(月) 17:16:48 ID:/yeL5qtg
「で、どう?」
 急に話が核心に飛んで、きた、と内心胃が縮んだ。
 今日は久々の同乗だったから、危ないとは思っていた。
 一日店で疲れ、ようやく帰宅となったらまた難題をつきつけられる。
 ハンドルに集中しながらでは、とても対応できそうにない。

 うちみたいな地方の大型スーパーは、不規則な業務のせいで社員の離婚率が高い。
 店長も俺もそのくちで、今はふたりとも社借り上げの同じアパートに入ってる。
 自家用車に同乗して通勤するのは、店の駐車場が少ないという事情のため。
 社員がまず率先してパートやアルバイトに示しをつけてるわけだから、簡単にやめられない。
 ……たとえ、同乗相手が俺のことが好きだなんて言い出したとしてもだ。
「しばらく考えてみてよ、柔軟な思考の訓練だと思って、ね」
 店長はいつぞやの社員研修を引き合いに出して笑った。
「えーっと……なんか、私、試されてるんでしょうか?」
 俺も半笑いでごまかそうとしたら、とてもまじめな顔で首を振られてしまった。

 それからひと月がたつ。
 ほっておいた企画話なら、怒鳴りつけられるか、とっくにおじゃんになってるかという期間だ。
「現在、検討しているところ……です」
「それはよかった。ぜひ、前向きにお願いします」
 穏やかな声には、一片のトゲも感じられない。

 その声にほっとした俺は、いったい何に安堵しているんだろう?
 叱られなかったから? それとも、まだ嫌われなかったから、だろうか。
 店長は、仕事のできる尊敬する上司で、人柄もいい。
 男もいける性癖の持ち主である、ということは欠点ではないと思うくらいに、店長自身を気に入っている自覚がある。
 こんな話じゃなければ、同じ社の一員として、末永くおつきあいしたい人間だと思う。
 できれば、この人をがっかりさせたくはない。
 だからって、これまで平凡に生きてきたのに、いきなりホモと言われてもハードルが高すぎるのだ。
 ──どうしても返事は延び延びになる。

「そこのコンビニ、入りたいな」
 店長が言って、俺は車を曲げた。
 郊外の広い駐車場をもつコンビニは、この時間も客足があって数台の車が止まっている。
「止めやすいところでいいよ、店の前じゃなくても、あっちで」
 店長が指したとおり、敷地のはじに駐車する。
「じゃあ、私もなにか買います」
 と、シートベルトを外した時だった。
 シフトレバーを越えて店長が覆い被さってきて、首を曲げられキスされた。
 頬に触れるだけ。だけど、確かに唇が、俺の顔にあたって音を立てた。

「……笹岡くんはいいにおいがする」
 女ならイチコロな声で、ささやかれた。
「か、加齢臭しますよ、俺」
 必死の抵抗は、噛んでうわずって効果無しだ。
「なんだか美味しいにおいだよ」
「それは総菜の、うちの売り場のにおいです、むしろ店長の方が香水とかの……」
 言いかけたところを腕をつかんで引き寄せられて、今度は店長の胸に頭を預ける形になった。
 シャツ越しの体温が、額に伝わる。肩にまわされる手。
 敗北感。終わった、というあきらめに似たこの気持ち。
 暗い車内でこの人とふたり、こうして。

 とうとう、なってしまった。いつか、こうなると思った。

 頭の上で店長の低い声がする。
「いつまでも保留なままなのは、良い返事なんだと私は思ったよ。たぶん、もう、こうした方がいいんじゃないかな、君にとっても」
 強引。いや違う、俺の責任をかぶってくれたのだ。
 これで俺には言い訳ができ、落としどころを得た思考は停止して、身だけを任せられる。
 俺は、自分が流されたがってたことにようやく気づいた。

21022-459  俺は忘れた、だからお前も忘れろ:2011/10/05(水) 08:32:55 ID:HTGhtEzc
あいつはあの時正体不明なくらい酔っ払っていて、俺はドラッグでぶっ飛んでた。
ちょっと多い量をキメて、つうかキめちまって結構血管が膨れ上がる感じに吐き気までもよおしてたとこだ。
ゲロと一緒に全部出ちまったさ。だから忘れちまったよ。と俺は言った。
言ったんだが。
「なぁ、マジで?マジで覚えてねぇの?」
なんでコイツはこんなに食い下がってくるんだ。
欠食児童みてぇなガリガリの体にありえない力を込めて俺の腕を掴む。
あんまり邪魔だったんで持っていたジャックダニエルでこめかみを押しのけた。
「覚えてねぇっつってんだろ」

その夜俺が、クラブのトイレに女を連れ込んでヤった後、
カウンターにいた馴染みの売人からいつものを買ってそれを吸って、それで部屋に帰ってきた。
そうすると俺と入れ違いに2人の女が部屋から出て行って、て事はだ。
汚ねぇ部屋の真ん中に酒臭い汚ぇガキが一人って事だ。
「おっかえり〜」
あいつは意味もなくゲラゲラと笑って、素っ裸のまんまで俺に飛びついてきた。
これが胸のでかい女なら申し分ないんだが。
「な、キスしねぇ?キス」
いつだってどこだって構わず噛み付くこいつが、甘えるように言う。
俺は笑っていいぜと答えたんだ。だからって何の意味がある?俺とこいつの間に。何かが生まれるってのか?
まぁ、精々その内一緒に一人か二人の女を交えて楽しむ事があるかもしれないってくらいだ。
こめかみや、眼球の裏側が心臓みてぇにどくどく言っていた。
いい感じにきいているドラッグに俺は酩酊状態でくすくす笑うとあいつは軽く俺の鼻を噛んだ。
「マジで?じゃぁさ、口開けて」
俺はその通りにしてやった。抱きついてきたアイツは物凄く酒臭かったが、俺も似たようなもんだろう。
べったりと口とその周辺に引きずったように真っ赤な口紅の道。
「あんた、女とヤってきたろ」 
「正解だ、なんでわかった?」
「香水くせぇ」
「お前もな」
ひとしきり笑って、俺は立っているのが面倒になったんで壁によろけた。壁も床と同じくらいに汚いんだ。
よくわからねぇ染みとか、はがれかけた壁紙とか。
全く冗談じゃねぇけど直してもすぐにこんなもんだろうし大体そんな金も無い。
そうすると被さるように思いっきり唇が噛み付いてきた。
俺はあいつの脇あたりを支えながら、それを受ける。入り込んできた舌が、俺の痺れたそれに絡みついた。
味なんかしねぇし、感覚だけがビリビリくる。
一度離れてもう一度、それがもう一度、と際限なく続く。いい加減面倒になってきて何回かの後あいつを押しのけた。
涎で口の周りがぐちゃぐちゃだ。
「もう寝ろ、坊や」
「……ムカつく奴だな、あんた!」
わかるだろ?これが俺達の親愛なるおやすみなさいの言葉だ。よい夢を、ベイビー。

そんな訳であいつが自分の部屋に消えた後俺はまた少し薬をやって吐いて、そんな事を繰り返したら朝だった。
カーテンも無い窓から差し込む太陽の光は、否応なく更に部屋の汚さを感じさせるがしょうがない。
ミネラルウォーター代わりに冷蔵庫にはこれしかないという酒を呷っていると、あいつが起き出してきた。
「俺にもくれよ」
「残念だな、飲んじまった」
逆さに振ってやる。一滴だって出てこない。俺の喉から胃に直通だ。
「なぁ、昨日のキスもっかいしようぜ」
「昨日の?」
実際、俺はそう言われるまで忘れてたんだ。
つまり、わかるだろう、俺にそれは重要じゃなかったし、他にする事がいっぱいあった。
ドラッグとか、吐くとか。その合間に考え事だとか。毎日変わる女とヤるくらいなもんで、
顔も覚えてない女達の間にこいつとのキスなんてすっかり埋もれちまうのがどうして間違った事なんだと俺は思う。
でもこいつは聞き返す俺に拗ねるように口を尖らせた。
「何だよ、忘れちまったの?」
「ああ、忘れちまったな」
そして、やたらと食い下がりはじめた訳だ。

「じゃぁ、いい。今すっから覚えて」
「はぁ?そんな気分じゃねぇよ、どけ」
「嫌だね。あんたが覚えてくれるまでする」
子供の強情さってのは、女のヒステリーくらい性質が悪い。殴りつけた方が早いかもしれない。
「いいから、口開けろよ。昨日みたいに誘えよ」
「覚えてねぇし、誘ってもねぇな」
「うっせぇよ!」
冷蔵庫に押し付けられ、噛み付くように唇が被さってくる。俺は思わずジャックダニエルを振り上げた。
忘れるとか忘れないとか、一体何がそんなに大事なんだ?俺にはわからないしわかりたくもない。
只、本当は忘れてねぇんだって事を読み取れない程ガキなこいつがムカつくだけだ。

21122-439 お兄ちゃんの彼氏?:2011/10/06(木) 21:55:50 ID:UmwJli/2
 僕達兄弟は年が離れてるけど、とても仲がいいです。
 弟の僕から見ても、お兄ちゃんは綺麗でよく女の人に間違えられています。
 体もそんなに大きくないからかもしれません。
 そのせいか彼女も居ません。
 どうしてと聞くと、女の子はお兄ちゃんをペットのように可愛がるか一緒に歩くのを嫌がるかで、モテないと言ってました。
 でもそれはどうでもいいです。
 とにかく僕は、優しくて家事も得意なお兄ちゃんが大好きです。

 そんなお兄ちゃんのキスシーンを見てしまいました。
 しかも相手は男の人で、僕は二重に驚きました。
 日焼けした体は縦も横もお兄ちゃんより大きくて、良く見えなかったけど顔もまあまあ格好良さそうです。
 すぐにその相手が、最近よく家に来るお兄ちゃんより年上のお友達だと気が付きました。
 その人の太い首にガッチリ両手を回して、嬉しそうにキスしてるお兄ちゃんを見てると、自然に恋人同士って言葉が浮かんできました。
 けど、2人とも男なのに?
 考えても判らないから、思い切ってお兄ちゃんに聞くことにしました。
「何時も遊びに来てるあの大きな人って、お兄ちゃんの彼氏?」
「急に、どうした?」
「キスしてたから」
「あーっ…」
 しまったって顔をしたお兄ちゃんは片手で額を押さえたけど、すぐに真面目な顔でまっすぐ僕を見ながら話し始めました。
「まだ理解出来ないだろうけど、世の中にはいろんな愛があるんだ」
「愛? 大好きってことでしょ」
「そう。ぼく等の絶対変わらないのが兄弟愛。そして、他人だけどずっと一緒にいたいと思う相手が出来るんだ。それが恋愛。普通は男女だけど、ぼくは同性で」
「お兄ちゃん、女の人より男の人が好きなの?」
「違うよ。彼だったから好きになったんだ。性別なんて関係ないんだ」
「?」
 何が違うのか判らなかったけど、お兄ちゃんがその人のことを凄く好きなのは、誇らしげで嬉しそうな顔で話しているから僕にも伝わってきました。
 そんなお兄ちゃんを見てると、幸せならそれでいいやと思いました。
「あの人が、お兄ちゃんの彼氏なんだ」
「うーん、正確にはお兄ちゃんが彼氏、だよ」
「どう違うの?」
 お兄ちゃんはクスッと笑って、問い返す僕の頭を優しく撫ぜながら
「大きくなったら判るよ」
 それ以上は答えてくれなかったけど、笑っているお兄ちゃんは自信に満ちていて、なんだか何時もより頼もしく見えました。
 きっと愛の力なんだろうな。
 お兄ちゃん、ずっと仲良く幸せでいてね。
 
 愛には性別や見た目や体格なんか関係無い、と僕が知るのはもう少し先になってからだった。
 その時、さらに兄が偉大に見えた。

21222-470続き 1:2011/10/07(金) 11:20:10 ID:eIjuahuo
本スレ470です。
確かに最後あれではスッキリしないなと思いましたので、蛇足ながらちょこっと続きを書きました。

「書類は揃えましたし、当座はあれで大丈夫でしょう。
 …さて、御主人様は…軽い脳震盪、ですかね。
 気絶というより、もう眠っておられるようだ。
 だいぶお酒を召し上がられているようだし、最近お忙しくてお疲れだった影響もありそうですね。
 ベッドに運んでおきましょうか」
ファサ
「一応、朝起きたら医者を呼ぶようには指示しておきましたが、
 変ないびきもかいていないようですし、とりあえず無事そうですね。
 …良かった。」フウ
「さて、待ち合わせまであと1分少々ありますね…ふむ。」

「ご主人様、起きて下さい。」
「…うーん、もうちょっとー…」
「朝ですよ。起きて下さい。」
「…あと少し…だけ…」
「起きなさい!ぼっちゃま!」
「ひあ!爺!?ごめんなさい!…え?」
「おはようございます、御主人様。
 …まったく、だからあれほど御就寝前のお酒はお控えくださいと、爺が口を酸っぱくして申し上げたではないですか。
 酒は百薬の長ですが、過ぎると毒なのですよ。」ガミガミガミ
「…ちょっとまって、爺?あれ?なんで?」
「理由はこちらです。」ペラリ
「…辞表…」
「はい、2枚。」
「…あー…」
「さて、御自分の一時の出来心のせいで、優秀な部下を2人も失った御気分はいかがですか?」
「夢じゃなかった…」ショボン
「ええ、おかげさまでこのロートルまで駆り出される事態です。」
「…ごめんなさい。」
「とはいえ、屋敷内の者たちの気持ちが動揺しているだけで、引き継ぎ書類は完ぺきでした。
 ざっと目を通しましたが、すぐには困りませんし、たちまち代わりの者でも処理できるようになっておりましたよ。」
「そうか」
「まったくあの子たちは優秀な人材でしたねぇ。ああ惜しい惜しい。」
「…泣きながら床擦り土下座で謝ったら、許してくれないかな…」
「それはかつての坊ちゃまの得意技でしょう。
 まだお可愛らしかった御幼少のころならともかく、今のご容姿でされても不気味なだけです。」
「だよねー…。爺!」
「はい」
「今回の件は、私に全ての責がある。急ぎあの二人を探してくれ。」
「そうおっしゃると思いまして、現在ツテを総動員して捜索中でございますよ。」

21322-470続き 2:2011/10/07(金) 11:22:06 ID:eIjuahuo
「そうか…私のことは許せないだろうが、今まであれほど心をこめて勤めてくれた者たちだ。
 …退職するなら、きちんと退職金ぐらいは持たせたい。」
「まあ、そうできなくさせたのは坊ちゃまですけどね」
「ぐ…っ!」
「ご主人様の言葉というのは、下々のものにとって、御自分で思っておられるよりはるかに重いのですと
 この爺が口を酸っぱくしてお教え申したではないですか。
 だからこそ上に立つものは何時でも理性と知性を失ってはならないのです。
 だいたい坊ちゃまは…」グチグチグチグチ
「…ごめんなさい…。」
「爺は情けのうございますよ」フウ
「泣き土下座でなんとか」
「なりません。」
「だよね。」ショボン
「あの二人、戻ってくるといいですね。」
「うん。」
「…さて、目が覚めたのでしたら屋敷の者たちに声をかけてやって下さい。多少落ち着いたとはいえ、まだ動揺しておりますから。」
「わかった。」
「あくまで普段通りにお振る舞いになるように。当主たるもの、な」
「何事にも動じてはならない。」
「よろしい。」
「…なあ、爺。」
「なんですか?」
「…本気だったんだよ。」
「存じておりますよ。」
「うん。」
「ですが次に恋をされた際には、まず恋文からお始めになるよう、老婆心ながらご忠告申し上げます。」
「…はい。」
「さあ、起きて下さい。…ああ、そうそう。皆の前に顔を出す前に、洗顔だけは済まされて下さいね。」
「?? うん、わかった。」


〜洗面所〜
主(゜Д゜)人←額に流暢なラテン語で「ちんこ の のりもの」

21422-329 理性×本能 or 本能×理性:2011/10/11(火) 16:41:15 ID:6z.li0Jw
今さらですが萌えたので、ひとつ供養に投下します。

「つまり何が言いたいかっていうとだな。
 うちは職場恋愛禁止だ、というのもまず生徒の手前があるし、父兄の目もある。
 常に公正をおもんばかって身を慎むべき、聖職者とまでされた職業であるから、
 これは当然のことだあな。

 また、俺もお前も親や兄弟、親戚から早く結婚しろとせっつかれるいい年齢で、
 孫の顔が見たい、とか、お前にいたってはひ孫の顔が見たいばあちゃんがいて、
 その期待と義務に応えるべき身であると。

 そもそも大前提として、俺もお前も男同士だ。
 これは世間ではホモと後ろ指指される関係なわけで、ま、今時はゲイというらしいんだけども、
 その世間の冷たい目にさらされて今後を生きる覚悟があるのか、
 常に人目を気にして後ろ暗く生きていくのか、どうなんだという根本的な問題がある。
 これは難しいところだ、今、人生の大きな岐路に立たされていると言っても過言ではない。
 お前もよく考えろよ、物事を単純に見るのはお前の長所でもあり、短所でもある。

 そしてこの行為だな、ゲイセッ、セッ、セック……スには様々な危険がともなうらしい、
 だいたい生物の体のつくりとして、男女の行為は自然なものだが、
 男同士というとその摂理に反していろいろと無理があるもの……だから……だから」

「だから、いろんなやり方があるんですよ、なにもいきなり尻とか言わず、できるところまででいいんです」
 俺は愛しい先輩の頭を抱きしめた。賢くてあほなこの人が可愛い。
 裸になって、上と下になって抱き合ったこの体勢から何をグズグズしているんだろう。
「まだ悩んでたんですか? 先輩。そんで、もういい? 俺はもう待てないんだけど」
 まだ合わせたばかりの肌は乾いているものの、お互いに触れた部分はギチギチで、これから先の展開に何の疑いもない。
「お前がそんなだから俺は必死で考えざるを得ないんだよ」
「とか言って、結構その気なくせに。ほら、もういいでしょう? やっちゃいましょ」
 早く、と合わせた腰を揺すると、先輩が一瞬息を詰める気配。
 それがすごく色っぽくて、本当に理性が飛びそうになる。
「お前……したいしたいって、本能のままじゃないか」
 先輩は俺の大好きな苦笑いを浮かべ、
「……本当に、いいのか」
 と、俺の顔をのぞき込む。いとおしむような、憐れむような優しい目が、ちょっとつらい。
「いいですってば。さんざん言ったでしょうが。二年も待ったんだから。もう先輩も何にも考えないでさ、早く、しましょう? いやなんですか?」
「だから……だから、考えたんだ。いろいろ考えて、やっぱり我慢できないってわかった」

 すまん、とつぶやいた声に聞こえなかったふりをして、目をつぶった。
 先輩の固い理性のたがは、とうとうはずれてくれたらしい。
 本能のままに荒々しくまさぐられる、その手つきに嬉しくなると同時に、俺の頭は一方で冴えていく。

 俺だっていろいろ考えたのだ。
 自分にこんな性癖があるなんて知らなかったからずいぶん葛藤した。
 先輩に知られ、また奇跡のように先輩の気持ちをもらってからも、職場や身内の事情や先輩を引きずり込むことが怖くて、身もだえしない夜はなかった。

 考えて考えた末……俺は本能に流されることにした。
 考えても仕方がないほどの、この感情。
 ──人生でたったひとりに出会ってしまった。
 そうなったら、どんなに理性的に考えても、押しとどめる手段はないのだ。
 わかってしまった。
 だから突っ走ることにした。

 理性的な先輩の本能と、本能に従う俺の理性。
 ふたりで望んだ結果が今なのだ。
 俺は、目の前の愛する体に噛みついてやった。
 ふたりともが、これ以上何も考えられなくなるように。

21522-489 くすぐりに弱い受け 1:2011/10/11(火) 23:42:06 ID:IM.Z6pqw
初投下。萌ネタ形にするのって楽しいですね。


―付き合ってください
―…俺のどこがいいの
―そんな、男に告白されても動じないようなクールなところが…
―…ふーん……別にいいよ

あの日から今日で3ヶ月。
いつものようにオレの部屋のちゃぶ台で、聡はレポートを書いている。
正直もう限界だった。

いい加減漫画にも飽きたオレは、ベッドに転がったまま聡の背中に手を伸ばした。
「なあ…」
肩に触れるか触れないか、ギリギリのところで聡の手が飛んでくる。
「なに。今忙しいんだけど」
振り向きもしない冷たい態度。
忙しくなくたって振り払うくせに。
弾かれた手がやけに痛い。
「なあ、お前にとってオレってなんなの?」

しまった。
つい口にしてしまった。
この手のアホな台詞は嫌いだと聞いてたのに。
案の定、振り向いた聡はものすごく不機嫌そうな顔をしている。
「だってさ、オレ達付き合ってもう3ヶ月だろ?
 キスどころか手も繋いでないっていうかオレ聡に触ったこと一回もないよ。
 図書館や漫喫の代わりにオレの部屋に来るようになっただけじゃん。
 それって付き合ってるって言えなくね?
 てか何、オレは漫喫のオーナーか何かなの?」

ダメ元で告白して、まさかのOKもらって、すごく嬉しかったんだ。
いつだって抱きしめたかったけど、聡は人に触れられるのを嫌がるから、我慢してたんだ。
嫌われないように、追い詰めないように、手を伸ばすのだって3日に1回くらいに抑えてたんだ。
なのにお前はいつもそうやってオレの手を弾く。
オレの部屋オレの前にいるくせに、まるでオレに興味なさそうに。
なんでOKしたしたんだよ。
男に惚れたアホな男への興味本位?それとも同情?

謝ろうと思った口からは、不満と疑心ばかりが溢れた。
抑えようと思ったけど止まらなかった。
そのうち涙まで出てきて、聡の顔は、能面のように表情をなくしていった。

ああもうダメだ。聡に嫌われた。

そう思ったらますます涙があふれてきて、多分オレは今世界で一番醜い男だ。

21622-489 くすぐりに弱い受け 2:2011/10/11(火) 23:45:20 ID:IM.Z6pqw
いたたまれなくなってトイレに逃げ込んで30分。
ようやく落ち着いて、オレはトイレを出た。
もう帰ってしまっただろうと思っていた背中を、さっきと同じ場所に見つけて動きが止まる。
聡は背を向けたまま、小さく息を吐いた。
「あのさ、」
「ごめん。やっぱこんな男嫌だよね。もういいよ。無理しないで」
努めて明るく言ったつもりの言葉はやっぱり震えていて、枯れたはずの涙がまた出てくる。
オレこんなに泣き虫だったんだ。いい歳こいてキメえな。
涙を拭いながら頭の片隅がぼんやりと冷静になっていた。
しばしの沈黙。
「あのさ、そうじゃないんだ。」
「何がそうじゃないんだよ。触られるのも嫌なんだろう?
 そんなのと無理して一緒にいる必要なん―」
「だからそうじゃないんだって!」
突然の大声とちゃぶ台を叩く音に、息も涙も止まる。
ちゃぶ台を叩いた勢いで立ち上がった聡は、怒った顔で突進してきた。
30センチ手前で止まって、え、あれ、止まってなくね?

「え、あ  え、今、 え?」
頭真っ白になったオレの前で、聡の顔は、みるみる真っ赤になっていった。
「だから、そうじゃないんだ。
 俺、あの、別にお前のことが嫌いなんじゃ…つーか、す…好き……だけど……」
うわあどうしよう、聡の口から好きとか初めて聞いた。
てかさっきのやっぱりき、キス?鱚?キスだよな?
衝突事故じゃないんだ。うわーひゃっほーありがとうありがとう、世界中にありがとう!
「ちょ、おい、離…っ……ひ…っ!……や、やめ……ひぅ…っ!」

21722-489 くすぐりに弱い受け 3(ラスト):2011/10/11(火) 23:49:50 ID:IM.Z6pqw
「ひゃ!……ゃ………止めろよ!」
思わず抱きついて背中をなでながら頬ずりまでしていたオレを突き飛ばした聡は涙目で、かなり息が上がっている。
ちょっと煽情的すぎて暴走しそうだ。
いやいや待てオレ落ち着けオレ。
この流れでこの程度の接触でこの反応はさすがにおかしいだろ。
「……聡、もしかして、触られるの弱いの?」
肩がビクっと震えて、真っ赤な顔がゆっくりと下を向く。
「……ごめん」
消え入りそうなほど小さい声。
なんだそうか。そうだったのか。それで触られたくなかったのか。
オレが嫌だったわけじゃないんだ。
「なんだよ。最初から言ってくれればよかったのに」
ホッとしたら急におかしくなってきて、オレは声を上げて笑った。
「だって、お前、いつもクールなところが好きだって言ってたから、こんなヘタレじゃ嫌われるんじゃないかって…」
真っ赤な顔をますます赤くして言い訳をする聡。
オレに嫌われるのが怖かったとか何そのかわいい台詞。
確かにこんなかわいいなんて思いもしなかったよ。
でも嫌いになるとかありえない。
むしろますます大好きになった。
「っ…!だから触んなよ!」
散々我慢させられたんだ。
これからは遠慮なく触らせてもらおう。
「大丈夫、ヘタレでかわいい聡も大好きだよ」

21822-539 ピロートーク:2011/10/16(日) 04:56:55 ID:7JOoH6nA
「さて、桃太郎が歩いていると、向こうから一匹の犬がやって来ました。
 『桃太郎さん桃太郎さん、お腰につけたきびだんご、ひとつ私にくださいな』――」
「おい善紀、なんでこの犬桃太郎の名前を知ってるんだ。初対面なんだろう?」
「なんでって……まあ、有名人だから?」
「なるほど。桃から人が生まれるのはその世界でも異常事態なんだな」
「多分――で、犬の頼みを聞いた桃太郎は、『鬼退治についてきてくれるならあげましょう』と――」
「団子一個で戦場へ行けというのか。随分乱暴な話だ」
「うん、正直それは俺も思った。……ああ、きっと半年予約待ちレベルの激レアきびだんごなんだよ」

晃にせがまれ、この前から寝る前に昔話を聴かせている。
が、この「おはなしの時間」は心地よい眠気と倦怠感に満ちていて、
二人とも、ともすればいつの間にか寝入ってしまう。
おまけに、晃は話が少し動くたびにいちいち疑問やツッコミを挟んできて、
俺もその度にいちいち理由を考えて答えている。
そんな状態なので、物語の終わりは一向に見えてこない。

「楽しいな」
雉はきびだんごを食べられるか否か、について考え込んでいると、不意に晃が呟いた。
え、と首だけでそちらを見やる。暗くて表情はよく分からないが、確かに上機嫌だ。
「何十回も読んだ話でも、こうやって誰かと一緒の布団に入って」
言いながらふわっと抱きついてくる。一心に甘えてくる小さな子供のようだ。
「俺ひとりに聴かせるために話してくれて、俺がなにか言ったらちゃんと答えてくれて……
 こういうの、昔はなかった。だから今、長年の夢がかなってすごく嬉しい」
幼少期に家族関係で寂しい思いをしていたらしいことは、親しくなるうちになんとなくわかっていた。
でも、こういう話を直接聞くのは初めてだった。
「そっか。夢が叶ったか」
淡々と語られた言葉に胸がいっぱいになって、晃を抱きしめ返す。すると、
「今、ここにいるのが善紀でよかった」
囁きと共に、耳朶に柔らかいものが触れた。その一点が熱を帯び、全身に波紋のように広がっていく。
それを気取られたくなくて、
「まあ、楽しいのはいいけど、こう立ち止まってばかりじゃいつ話し終わるか分かんないよ?」
突っぱね気味に大仰なため息を付いてみせる。それを聞いた晃は、再び俺の耳もとで、
「いつまででも話し続ければいい。夜はあと何千回でもやってくるんだから」
当たり前のように言ってのけた。
俺はまず呆れ、次にその言葉の意味するところに思い当たり、さっきとは違う感情で胸がいっぱいになって、
何か言おうとして言えなくて、ただ晃の身体にまわした腕に一層力を込めた。

こうして二人は今夜も幸福な眠りについたのでした。
めでたし、めでたし。

21922-559 仲良し三人組:2011/10/18(火) 15:24:04 ID:yzso3blE
元はオレたちは三人組だった。オレとアイツは冒険者になった。もう一人は家業の道具屋を継いで一般市民として生きることになった
ところがだ。もう一人の店が潰れてしまった。近所にできた大型の道具量販店との競争に負けて、経営が成り立たなくなったそうだ
仕事を探したらしいが、このご時勢にロクな仕事も見つからない。ということで、もう一人は冒険者になった
そしてオレたちのクエストに同行することになった。今そのもう一人の最初の職業を決めるためにダーマの転職樹にまた来ている
アイツは順調に勇者としてレベルアップをしている。この間は北の辺境で異常発生した白熊の化け物の退治に成功した
オレも農民として頑張っている。色んな野菜をどんどん作っている。次は今までやっていなかった青菜類の栽培を覚える
来月から遥か東方から来たという先生から「チンゲンキャベツ・ターキャベツ・クーシンキャベツ」の作り方を習う予定だ
アイツは青菜類が嫌いなようだ。勇者がガキのように青菜を残すなんてダメだ。オレの手で矯正してみせる!
それはそうと、もう一人も空気を読めってんだ。オレとアイツの仲についてはよーくご存知であるはずだっちゅーの!
それにアイツもアイツだ。「また一緒になれたな」とか言いながら普通に大喜びしてやがる。どういうことだ!
オレが同行者専用の喫茶室で飲み始めたコーヒーも三杯目が空になった。初めてだから時間がかかるのかな・・・
オレも初めてのときには時間がかかったなあ。なかなか転職樹によじ登れなくてなあ。独特のコツが要るんだよな
アイツはオレをおいてスイスイ登って行っちゃったけどな。アイツの運動神経の良さはやっぱ惚れ惚れする
しかし本当に遅いな。さすがに少し心配になってきたな。オレのときもこんなにはかからなかったぞ・・・
カランカラーン! 喫茶室のドアがチャイムと一緒になった。お、戻って来た。どうだった? 何の職業になったんだ?
・・・なにいぃぃぃ! 「命の護り人」だとおぉぉぉ! それはあらゆる回復系と防御系スキルをまとめて覚えられるお得職業じゃねーか!
オレがアイツをサポートするために一番なりたかった職業じゃねえかあぁぁぁ! ちっくしょおぉぉぉーーー!
ヤバイ。オレの地位がヤバイ。マジでヤバイ。本当にヤバイ。ごっつヤバイ。えげつなくヤバイ。ウルトラスーパーミラクルやばい!
あああああ、めっちゃ喜んでやがる。それにアイツも大喜びするだろうな。いい戦闘時の補佐役ができたって・・・
何とかしなきゃ! 何とかしなきゃ! 何とかしなきゃ! 何とかしなきゃ! 何とかしなきゃ!
何としても早急にいびり倒して追い出さないとヤバイ。畑に生き埋めにして肥料にしないとヤバイ。ぶつぶつぶつ・・・



・・・そうだ。そんな荒っぽい真似をしなくても解決する方法がある。四人目をスカウトしてソイツとくっつければいいんだ
よし、決めたぞ。何とでも理由を付けて四人編成にするようにアイツに言おう。それで万事解決するはずだ!
オレは今夜に作るご馳走のメニューを考えながら喫茶室を出て、もう一人と一緒にアイツの待つ宿屋への帰路に就いた

22022-529 和と洋:2011/10/18(火) 20:36:22 ID:smGcIDv.
自分の親父は名門料亭の凄腕の板前だった。創業者の一人娘のお袋と結婚して自分が生まれた。名前は和(なごむ)だ
親父は料理人としては最高だったが、父親としては最悪な人間だった。とにかくどうしようもない女好きだった。
まず行きつけのラーメン屋の中国人店員に手を出した。腹違いの弟の中(あたる)ができた
次に懲りずにどうやって出会ったのかタイ人留学生とデキた。腹違いの弟の泰(やすし)ができた
親父はますます調子に乗った。今度は近所のカレー屋の夫と子供のいるインド人女性と不倫した。腹違いの弟の印(しるす)ができた
お袋は・・・親父に対抗するように不倫に走った。
まず行きつけの焼肉屋の韓国人店員と関係を持った。中絶という選択肢はお袋にはなかったようだ。種違いの弟の韓(かん)ができた
次にベトナムを旅行して現地の行きずりの男性と関係を持った。一度だけだったらしいが大当たり。種違いの弟の越(えつ)ができた
最後に出会い系サイトで出会ったトルコ人男性と関係を持った。これも見事に当たった。種違いの弟の土(つち)ができた
書いてて嫌になる。なんか横溝正史の小説の出来の悪いパクりみたいだ。この異様な七人兄弟が同じ屋根の下で暮らしている。
一番年上の自分が高校三年で、一番下の土が小学校一年生。非現実的な現実がここにある
父親は仕事と女に忙しく、母親は遊びと男に忙しく、ほとんど家には不在だ。自分としては居てくれなくて実に過ごしやすい
実は七人兄弟は凄く仲がいい。七人とも父親と母親の無責任で自己中心的な行動に振り回されたという意味で同志だ
このバカ両親に対抗するために兄弟で揉めている場合じゃない。ただし一つだけ団結が乱れることがある。それが食事だ。
自分は和食が大好きだ。中は中華好き。泰はタイ料理を食べたがり、印はカレー狂い。韓はキムチとゴマ油がないと怒り出す
越はいつもインスタントのフォーをすすっている。土は毎日のように屋台の羊肉のドルネケバブを買って来る
みんな味覚だけはナショナリストだ。家で出される食事に全員の希望を聞いてたら「会議は踊る。されど進まず」状態になる
七人で話し合ってある結論を出し、七人全員で両親に要求を出した。ネグレクト両親はあっさり承諾した
兄弟で要求したことはオレたちの飯を作ってくれる通いの洋食のシェフを雇うことだった。やってきたのは洋さん
パリ・ローマ・マドリード・モスクワを渡り歩いたという凄腕のシェフだ。昼間は料理教室の先生だ
夕食と夜食と翌朝分の朝食を作りに午後に来てくれる。いつも腰を抜かすくらいに美味しい
洋さんの父親は凄腕のフランス料理のシェフだったが、子供だった洋さんとお母さんを捨てて愛人と蒸発してしまったそうだ
その話を聞いたときは本当に吃驚仰天した。自分たちのために神が遣わしてくれた人としか思えなかった
洋さんには自分たちと自分の子供時代とがダブって見えるらしい。確かに洋さんから見ればそうかもしれない
いい臭いがするなあ。今日はビーフストロガノフかな。洋(よう)さんの作る煮込み系の料理は最高なんだよな・・・
洋さんは来年には自分の店を出す計画だそうだ。そうだよな。自分たちとしてはずーっと洋さんの料理を独占したいけどそうもいかない
自分は受験生だ。ずっと大学なんかどこでもいいと思っていたが、経営学を勉強できるところを目指すことに決めた
理由は・・・実現するなんて思ってないけど・・・ひょっとしたらサポートする機会もあるかもしれないじゃないか・・・
とにかく今は洋さんの料理に舌鼓を打とう。そして洋さんが用意してくれた夜食を食べながらしっかり勉強することにしよう

22122-169 硬貨で六角関係:2011/10/19(水) 12:02:14 ID:/Dw7NPBU
僕の名前は若木一(わかぎ・いち)といいます。このたび日本硬貨に新入社員としてやって参りました
いきなりこんなことを言うのもどうかと思いますが言います。好きな先輩が居ます。一年先輩の稲穂計五(いなほ・けいご)先輩です
実家は林業だそうです。なんか金色にピカピカしているようなオーラの見える素敵さです
僕にはライバルが居ます。常盤十郎(ときわ・じゅうろう)先輩です。京都出身。実家は平等院鳳凰堂の近くだそうです
もの凄いチャラ男です。日焼けサロン通いで冬でも銅線のような肌の色です。もちろん髪も真っ茶っ茶です
どうやらこの常盤のクソが稲穂先輩に手を出しているのです。稲穂先輩がアンアン言わされているみたいなんです
ひどいことに常盤のボケは二股をかけています。その二股のもう一人は五十嵐菊(いがらし・きく)先輩です
五十嵐先輩はとても気が弱い人のようです。本命さんが居るのに諸悪の根源の常盤に言い寄られてきっぱり拒絶できないようです
その本命さんは桜木百人(さくらぎ・ももひと)先輩です。仕事はできる人ですが、ちょっと鈍いところがあります
五十嵐先輩のピンチに気が付いていないようです。僕は桜木先輩との共闘を計画しています
そしてみんなを束ねるの上司が五百旗頭桐花(いおきべ・とうか)部長です。大柄で茫洋としていて懐の深い人です
そして僕になんかベタベタとします。ちょいとしたセクハラです。それに五百旗頭先輩には腐れ縁の本命さんがいるはずです
えーっと確か・・・ライバル会社の韓国硬貨の部長さんだったかな。双子のように似ていて間違えられることもあるみたいです
こんな日本硬貨ですが、そこそこ楽しくやってます。硬貨ユーザーの皆さん、今後とも日本硬貨をご愛顧ください

参考資料・日本の硬貨(wikipedia)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AE%E7%A1%AC%E8%B2%A8

22222-579 日韓友好1:2011/10/21(金) 06:17:38 ID:.smG8zT6
夕食を早食いして、洗面所でセミロングの髪を輪ゴムでポニーテールにまとめて、俺は家を出た
行き先は歩いて五分の距離にある築五十年の剣道場。十一月下旬。かなり寒い
短いが急な坂を上った先に旧式の電球型街灯に照らされた日本家屋が晩秋の夜に浮かび上がっている
黒船が浦賀に来航した嘉永六年生まれの俺から六代前のご先祖は、幕末の剣豪の生き残りたちから剣術を直伝された剣士だった
明治の終わり頃に土地を買って、後世に技を伝えるために剣道道場を開いた。数度の建て替えを経て道場は今に至る
実はこの道場の所有者は高校二年生の俺だ。自由に使えるという意味ではない。民法上、正式に俺の名義なのだ
前の所有者は道場開設のご先祖のひ孫、つまり俺の父方の祖父だ。その爺ちゃんが去年の春に急病で倒れた
爺ちゃんは死期が近いと思ったらしい。爺ちゃんの子供は一人娘の俺の母親だけ。娘婿の俺の父親は剣道には全く係わり合いがない
兄と妹が居るが、こちらも剣道に興味なし。ということで、爺ちゃん的には父親をスキップして俺が跡継ぎらしい
爺ちゃんは父親にもし権利が渡ったら道場を潰されて土地を駐車場にでもされかねないと思い込んだようだった
誰にも相談せずに司法書士に生前贈与の手続きを取らせて、土地と建物の名義を俺に変更してしまった
もちろんその後の我が家ははちょっとした修羅場になった。ちなみに爺ちゃんはすっかり治って前よりも元気だ
そんな爺ちゃん主催の剣道教室の練習のない日は、俺この道場を好きに使っていいことになっている
建物は平屋の日本家屋で板張りの床の広い剣道場が中央に位置し、付属する更衣室と給湯室、物置と十二畳の和室からなっていた
普段は全く使われていない和室を、俺は完全に自室にしていた。そこで静かに過ごすのが何よりも好きだった
道場に着いたらまず取り敢えず竹刀の素振りを一通りやろう。それをしないと気持ちが落ち着かない
終わったら給湯室でお茶を沸かして、冷蔵庫にしまってある水ようかんを食べよう。汗を流した後に食べる和菓子は最高だ
その後は昨日買った「月刊 碁ワールド」掲載の注目の棋譜を並べよう。俺は剣道と同じくらい囲碁が好きなんだ
俺はそういう想定で剣道上の入り口の引き戸を開けた。鍵がかかっているはずなのに・・・開きやがった・・・
玄関には黒いナイキのサッカーシューズが脱ぎっぱなしになっている。高校生にもなってきちんと靴を揃えて脱げんのか!
道場は暗かったが、和室はドアの下の隙間から光が漏れている。給湯室の電気もつけっ放しだ・・・嗚呼・・・
と、オレの到着に気付いたらしい。ドアが開いてドタドタと足音を立てながら走ってこちらに向かって来た
「せんぱーい! 遅かったねーっ! オレのこと愛しているなら放っておいたらダメじゃないかー!」
言いながらこちらに飛びついて来る。抱きつかれるとウザいので取り敢えず一発蹴りを入れた

22322-579 日韓友好2:2011/10/21(金) 06:18:26 ID:.smG8zT6
「何だよー。ひどいじゃないかー。こんなに愛しているのにー!」
大好きなご主人様に邪険気味に扱われつつも、尻尾を振ってさらに愛想を振りまく大型犬以外の何者でもない
この大型犬の名前はヨンという。韓国名も日本名もあるが、もう色々とウザくて面倒臭いので呼び方はヨンで統一している
父親は済州島出身の韓国人で母親は日本人。日韓ハーフで俺より一つ年下の高校一年生。生まれも育ちも日本だ
身長は167cm。俺より6cm低い。元々は俺の家の向かいのアパートに住んでいて、なぜだか俺に物凄くよく懐いた
幼稚園のときには俺のことをお嫁さんにすると喚き散らしたこともあった。あの頃はまだ無害でかわいかった
ヨンの小学校入学と同時に一家は転居した。距離は遠くなかったが学校が別々になったため、それからは会うこともなくなった
再会したのは今年の春。俺が通う高校はサッカーの強豪校で近隣からガチでサッカーをやる男子たちが集まって来る
その中の一人にこの大型犬は混じってやがった。それ以来、幼稚園以来の焼け木杭に火がついたのかなんかもう凄い
ちなみにポジションは予想通りフォワード。協調性がなくてやたら前に出たがるので監督からよく怒られるらしい
「いつものことだが何でウリがここに居るニダ」
「七時頃にここを通ったら、先輩の爺ちゃんが居た。挨拶したら入れてくれた。待つなら部屋で待ってなと言われた」
そう言えば家を出る前に爺ちゃんが何か言ってような気がする。それにしても爺ちゃん・・・何てことしてくれんだよ・・・
爺ちゃんは何だか分からないがこのヨンのことを妙に気に入っている。あーあ。静かな時間を過ごすのは絶対に無理だ
ヨンは今日もサッカー部丸出しの格好をしてやがる・・・上は韓国代表の2010年W杯のモデルの赤いレプリカユニだ
下のこの紫のサカパンは・・・こないだサカユニの薀蓄を垂れてきたときに聞いたな。確かサンフレッチェ広島の今年のモデルだ
あと赤と緑のソックスは・・・PORT・・・ああポルトガル代表のモデルか
しかしこの大型犬は着れれば何でもいいのか? もうちょっと組み合わせとか考えようよ。老婆心ながら思うぞ
それにもうそこそこ冷える時期なのに寒くないのか。せめてジャージを着るくらいすればいいのに・・・
なんて思いながらヨンの顔を見た。スポーツ刈りにつぶらな瞳で・・・よく見ると頬に茶色いものが付いている
その瞬間にこれから食べるはずの水ようかんがヨンの腹の仲に収まっていることを悟った俺は、ヨンにもう一発蹴りを入れた

22422-579 日韓友好3:2011/10/21(金) 06:19:27 ID:.smG8zT6
夜にこの部屋で二人きりになったら囲碁を打つことが多い。意外なことだがヨンは初段程度の碁打ちなのだ
小学生の頃に父親に無理に習わされたらしい。基本はバカだから大して強くない。注意力散漫だから簡単な読み抜けだらけだ
「謝依旻(台湾出身の女性囲碁棋士。凄く強い)よりちょっと弱いくらい」と棋力を自己申告されたときには爆笑した
ぶっちゃけ五段の俺と通常の手合いで打ったら勝負にならない。五子局(かなりのハンデ)くらいでやっといい勝負になる
普段はうるさいヨンが珍しく黙って考えている。さすがに寒くなってきたのか上に青い部活ジャージをはおっている
「もう投げろって。どう考えたってウリの黒の大石は助かりません。盤面で五十目以上の差ニダ」
「うるせー! これから神の一手を打って華麗に凌いで逆転すんだから! ぜってーぜってーぜってーひっくり返す」
ヨンのいつもの投了寸前時の逆転宣言を聞き流しつつ、お茶をすすって俺は何気なく上を見た
天井は限りなく黒に近い焦げ茶色。日本の近代史がのしかかっているような重厚な色合いだ
目を戻すとまだ考えている。だからもう無理だって。いつも形勢を悪くしてから考えるから駄目なんだよ
もう終わった碁なので盤面を見ても仕方ない。ふと何となく視線を右にやるとヨンの足が俺の目に入った
やっぱガチでサッカーやっている感じのする肉のつき方だ。サカパンからはみ出たアンダースパッツから伸びる腿はぶっとい
・・・俺は何をやっているんだ・・・男の下腹部から腿をマジマジと眺めて一体どうするんだ・・・いかんいかんいかん!
「チクショー! もう終わりだー!」
ヨンはいきなり叫ぶとアゲハマ(取って別にしておいた石)を乱暴な手つきで盤の中央に置いた。終わった。投了だ
「なんで、いっつも負けんだよー! ていうかさ、先輩が強すぎんだよ。オレは弱くない。うんうん。オレは弱くない」
言い終わると床に大の字になった。
「せんぱーい。眠いからこのまま寝ていい?」
「寝るな、大型犬。寝たらひどいことするぞ」
「えーっ、ひどいことってなんだよー」
「とにかくひどいことだ」
俺は碁石を碁笥にしまいながら考えた。俺とヨンの関係は何なんだろう? 単なる幼馴染でもないよな。友人とも違う気がする
週に何回か夜に会って碁を打ったりお菓子を食べたりしてまったりと男二人で過ごす関係・・・当てはまる言葉が思いつかない
ふと見るとヨンは寝息を立ててやがる。ああ、やっぱり寝やがった。囲碁の後はいつもヨンは眠り込んでしまう
きっと普段は脳の使わない部分を起動するから疲労困憊になるんだろう。本当に小学生みたいなヤツだ
しかし、こんなに無防備に眠りやがって。それになかなかかわいい寝顔してるじゃないか。俺が衆道家なら襲っちゃうぞ! なんてな・・・

22522-579 日韓友好4:2011/10/21(金) 06:20:28 ID:.smG8zT6
俺の頭のネジが飛んだ。理性というブレーキは飛んで行った。高二が欲情したときの瞬発力は凄いもんだ
ヨンの上に馬乗りになり無理やりにキスをした。ヨンは驚いて目を覚ました
「お前だって、こうなることを薄々分かっていたんだろう!」
「せっ! せんぱい・・・せんぱい・・・」
ヨンは俺の豹変の様子に呆然としているようで、そのせいで体から力が抜けて動けないようだった。
俺は口だけじゃなく顔中にキスし、その最中に思いついて、一旦行為を止めた。ヨンはこちらを何とも形容し難い表情で見ている
俺は脇に置いてあったヨンの部活用バッグの中を調べた。今日の部活で使ったと思われる少し泥の付いた練習着が入っている
やっぱりあった。白虎のエンブレムのついた韓国代表モデルのレプリカの白いサカパンと赤いソックス
俺はサンフレッチェモデルのサカパンとポルトガル代表モデルのソックスを脱がして、韓国代表モデルのレプリカを履かせた
俺の方も着ていたジーンズとトレーナーを脱いで、試合用の白の剣道着に黒い袴に着替えた
ヨンは逃げもせずにじーっとしていた。ヨンがどういうつもりかは分からないが、俺は今になって後には引けない
「ヨン! 俺はお前のことをこれから犯す。本気でやる。覚悟はいいな」
ヨンは微かに笑って承諾するかのように頷いた。これは試合ではなく死合だ。使っているのは竹刀ではなく真剣だ
その後のことは余り覚えていない。俺はヨンの上半身を舌で愛しまくり、太腿や脛を猫のように繰り返し甘噛みをした
一発目は右太腿から屹立したものを突っ込んで、履いたままのサカパンの中に放出した
自分でもよく分からないが、俺の液体で代表ユニを汚したいという感情が猛烈に湧き上がって来たからだ
そしてサカパンとアンダースパッツを脱がして露になったあそこを無理無理しごいて二人同時に逝った
最後は俺が後ろから征服し、今度も二人同時に逝った

取り返しの付かないことになった。俺はどう責任を取ればいいんだ! 混乱して訳が分からない・・・
あの後、ヨンは半泣きで道場から出て行った。朝になってヨンの携帯に電話を入れてみたが留守電だった
ヨンはガキだけども本当にいいヤツなんだ。それを俺は・・・自分がこんなに嗜虐的に振舞えるなんて思いもしなかった
それにしても自分の行動の意味がよく分からない。どうして俺はヨンにわざわざ韓国代表のユニを着せたんだ? 
それにこっちは剣士の正装に着替えて・・・やったことは一方的な強姦
俺はとにかく罪悪感と自己嫌悪の洪水に飲まれている。どうしてこうなってしまったんだ!
俺のしたことは犯罪だ。ヨンに告訴されれば少年院行きだな。それも仕方ない。俺が全て悪い・・・
俺はそのまま部屋から出れなかった。家にはここから学校に直接行くと嘘の電話をし、学校には風邪で休むと連絡した
そしてそのまま夕方になった。今日は運がいいことに丸一日道場使用予定が入ってなかった。
そろそろ家に戻ろう。ずっとこうしていることもできない。明日は午前中から剣道場は使われるはずだし・・・
「せんぱーい。こんばんわー! 昨日は水ようかん食べちゃってごめんねー。コンビニで買って来たよー」
え?
「オレはねー、ぶっちゃけ、いつかこうなりたいと思ったし、こうなると思ってたよー」
ええ?
「ただオレの思ってたより早かったし、とにかく急なことでびっくりしちゃってさー」
えええ?
「ムチャクチャされたけど、基本的に嬉しかったよ」
えええええええええ? 俺は部屋から猛ダッシュで玄関に出て今日はインテルのユニ姿のヨンに抱きついた
「だからさ、先輩が持っているこの道場の合鍵が欲しいんだー! オレが好きなときにこの部屋に来れるようにしたいの」
えええええ? それは調子に乗り過ぎだろう! でもまあいいか!

22622-589 140文字の恋:2011/10/22(土) 04:18:29 ID:vBwmg1h.
奴からメールが来た。


元気か?


たった4文字の素っ気ないメール。
……それだけなのに。
何で俺は、こんなに泣いているんだろう。
言いたい事は沢山ある。
聞きたい事も。
今は遥か異国の空にいるお前に……俺の想いは、どうすれば伝わるのだろうか。
まずは短くメールを返した。


お前を待ってても良いか?


と。

22722-609 インド人DK:2011/10/23(日) 22:57:53 ID:FYN8Wm.6
ドムの野郎だ・・・ドムが今朝も迎えに来やがった・・・毎朝のことながら実に欝だ
ドムというのは同級生のインド人だ。母ちゃんが日本人だから正確に言うと日印ハーフだ
ただ見た目は母ちゃんの遺伝子はどこに消えた状態の褐色の肌で高い鼻で真っ白い歯の完璧なインド人だ
オレが自宅の外に出ると象に乗って六人ほど御付きを従えたドムが居やがった
「ナマステー! おはようございまーす。今日も公信さんはきれいですねー」
ドムってのはあだ名だ。インド名がプラヤースと言って、向こうの言葉で努力という意味らしい
で、そこから日本名が努務(つとむ)。で、あだ名はドム。もうちっと親も考えて名前をつけてやればいいのにw
「もう迷惑だから来るなと言ってるだろ! せめて象は止めろ!」
「公信さん! 本当は嬉しいんでしょ。また照れちゃって」
「てめー! ぶちのめすぞ!」
オレたちが言い争いをしている間も象は脱糞して、従者さんが片付けている。お疲れさまです
でも今日は一学期の終業式の日だ。明日から夏休み。ドムともしばらく顔を合わせないで済む
「とにかくもう二度と来んなよ。迷惑だから」
オレはドムを置いて歩き出す。学校は徒歩三分の近場にある。ドムも後ろからついてくる
何でか知らんが高校に入学して三日目にいきなり大勢の同級生の見ている前でピンク色の蓮の花束を渡されて告白された
オレは唖然とするばかり。「公信さんほどかわいい人間を見たことがありません。一目惚れです」とか抜かしやがった
ドムは頭がおかしい。こんな身長163cmのちんちくりん高1のどこがかわいいんだか? ちなみにドムは180cmありやがる
確か父親の実家は偉い金持ちだとか言ってたな。御付きを連れているから相当な身分なのは分かるんだけどさ
そうこうしているうちに学校に着いて、始業式から通知表を貰って学校は終わった。やったー! 夏休みだ! 
オレはとっとと帰宅しようと校門を出た瞬間、脳天に衝撃が走った。目の前が真っ暗になり、意識を失った
・・・公信さん、公信さん、目を覚まして下さい!
目を覚ますと凄く豪華な部屋に居た。ここはどこだ。そして、なんで目の前にドムが居る?
「公信さん。これから二週間ゆっくり僕のハパの故郷のハイデラバードで楽しく過ごしましょうね」
「はあ?」
「ご両親には既に許可済みです。パスポートについてはパパの力で何とかしました」
ドムの言うことがよく分からない。・・・あれ、ここはどうも普通の部屋じゃねーな
オレが左右を見ると小さな窓がたくさん並んでいる。まさかと思いつつ窓の外を見たら・・・雲の上だった・・・
うわー! 飛行機だ! ドムに拉致られたあああ! 姉貴がよく読んでるアラブの王子が出てくる変な小説まんまの展開じゃねーかー!
ドムは満面の笑みを浮かべてこっちを見ている・・・あああああ・・・オレの人生と貞操オワタ!

22822-619 うたた寝:2011/10/27(木) 18:39:37 ID:uyTLBpkk
あぁ、腰が怠ぃ…。
よっこらしょ、と声を出した自分に苦笑しながら、縁側に腰を下ろす。
三十路の身体に一晩に3回はさすがにキツいか。
小春日和の日差しの中で中で、昨夜のことを振り返る。
「慎二さん、ね、もう一回だけ、いいでしょ?」
年下の恋人はとてもねだり上手だ。
可愛さにほだされてつい3回目もつき合ってしまった。
だって、しょうがねーよなあ。可愛いものは可愛いんだから。
「慎二さん、大好き!」
嬉しそうに抱きついてきた翔太の笑顔を思い出すと自然と頬が緩む。
今の俺、デレデレと締まりのない顔してんだろうな…。
そんなことを思いながら、日だまりの温もりに眠気を誘われて、
いつのまにかうとうとしはじめた。


バイトを終えて、弾む足取りで家へと急ぐ。
慎二さんは今日は仕事が休みで家にいるはずだ。
ただいまー!と元気よく玄関の扉を開ける。
「慎二さん、ただいま。……あれ、いないのかな?」
家の中はしんと静まりかえってる。
買い物に行っちゃったのかな?一緒に行きたかったのに……あ、いた!
縁側に座る恋人の姿に、少ししぼみかけた気持ちがまた膨らむ。
「慎二さん!」と呼びかけようとして、その声を飲み込んだ。
こくりこくりとと揺れてる頭に気づいたから。
起こさないように足音を忍ばせて傍に寄り、隣に腰を下ろして、
寝顔をそっと覗き込む。
いかついけれど優しい顔。
昨夜無理させちゃったよね。疲れさせちゃって、ごめんね。
そんな申し訳ない気持ちを覚えながらも、
慎二さんは寝顔も格好いいな…。
格好いいだけじゃなくて、エロくて可愛いんだよね。
自分に抱かれた年上の恋人が甘く喘いだ姿を思い出して、
どうしようもなく顔がにやける。
口許を緩めたまま、穏やかな寝顔を見つめていた。


かくん、と首が揺れた拍子に目が覚めた。
身体の右側がやけに暖かいと思ったら、
いつ帰ってきたのか翔太が肩に寄りかかって眠っている。
あぁ、やっぱり可愛いな、なんて思いながら見ていると、
長い睫毛が震えて、やがてぱちりと目が開いた。
「あれ、俺いつのまにか眠ってた?」
瞬きしながら首を傾げる年下の恋人に微笑みかける。
「今日はぽかぽかしててうたた寝日和だな。
 ……おかえり、翔太」
「ただいま、慎二さん」
にっこりと、輝くような笑みが返ってきた。

229眼鏡の僕系男子:2011/10/30(日) 00:50:45 ID:0LkIMSHA
語ってみる。

眼鏡をかけているので、目が悪い。普段は本を読むか、パソコン、スマホいじり。
一人称が僕なので、少し精神年齢が低め。プライドも高め。親からは溺愛されている一人っ子。
同級生からは嫌われ気味だが、プライドが高いが故に、馬鹿な奴らはどうでもいいなんて思っている。
社会にでたら、奴らと仕事をしなければならないのに、解っていないのが幼さの証拠。独断で受け認定。


合う攻めを考えてみる。

●いじめっ子タイプ…
弱みを握って体を要求するか、脅して無理やり関係を持つ。
体は手に入ったけど、心が手に入らないのでヤキモキする。
受けには嫌われる。体を開発しても嫌がられる。仕方ないので無理やりしてしまい、また嫌われるのループ。

●受けよりも能力のあるタイプ…
受けよりも成績が良く社交性もあり運動能力もある。
受けの劣等感を刺激するので、受けを挑発して関係に持ち込む。
「その年でセックスもしたことないの?」など。
遊び半分で関係を持ち、その事に気がついた受けが離れてみて、初めて自分の気持ちに気がつく。意外と鈍い。

●包容力のある年上タイプ…
彼の幼さが愛しくて、同情が愛に発展していくタイプ。
攻めに影響されて、受けも大人になっていく。
受けのわがままに振り回されがち。

●受けを一人前の男に育てるタイプ…
眼鏡を外させる。本は読ませない。スマホ没収。受けがシンデレラのように変身してしまうので、ライバルが増えて慌てる。


共通点
どんなタイプも基本的にS攻め。やっそん時に受けを泣かせるのが好き。

230国際会議:2011/11/03(木) 12:43:10 ID:JYAkR4D2
金髪碧眼アメリカ人×黒髪黒目日本人は良く見かける。
留学して右も左もわからない身長160cm未満の日本人を、ルームメートになったアメリカ人が美味しく頂く…有り得る。

日本人×アメリカ人の場合はどうだろう?
アメリカ人=ガタイが良いという日本人の発想から、なかなか王道となり難い。
ならば走るべきはショタか。
近所に住んでいる天使のような少年をパクリ。…いける。

生まれも育ちも日本、英語はからっきし。外国人相手に戸惑うアメリカ人と、知っててからかう日本留学中のイギリス人。
イギリス人×アメリカ人も素敵だろ?

アラブ人が攻めなのは何故か。金髪褐色肌はなかなかいないが、黒髪褐色肌の受けがいてもいいじゃないか。
海外出張でアラブに来た東洋人に一目惚れされる石油王受け萌え!

チャイニーズマフィア×ロシアンマフィア禿萌エス。
ジャパニーズ“GOKUDO”×ロシアンマフィア寺萌エス。
色白ロシア人総受けだろJK

いっそ太平洋×大西洋←インド洋とかどうよ?
ユーラシア大陸×オーストラリアとかめちゃくちゃ良くね?
地球まじ萌える。



『以上、本日午後に行われた801国際会議の模様をお送りしました』

「やはり最初は開催国である日本に重きを置く内容となりましたね」
「しかし、後半はおいてけぼりを感じますね。やはり日本は自己主張をしっかり行い、日本総攻めを強く押し出していくべきです」
「いや、日本は総攻めではなくバチカン市国×ツバルをイチオシカプとして…」

『続いてはお天気です。今夜の月は何組のやっそんを覗き見るんでしょうか。八百原さーん?』

231国際会議:2011/11/03(木) 19:53:02 ID:lH9Zg6fQ
801国際会議の会場の外では会議の開催に抗議するNGOらの集会が開かれていた
「801G6の日中米英露亜だけで801世界の全てを決めるな!」がスローガンだ

「我々ラテン系にも決定プロセス関与の機会を!」(仏伊西の801NGO)
「金髪碧眼のアングロサクソンは米英だけじゃない!」(豪加の801NGO)
「一大ジャンルにナチスものがあるのになぜ我々が参加できないんだ?」(独の801NGO)
「アメリカにはオレたちだっているんだ!」(ネイティブアメリカンの801NGO)
「南米を無視するな!」(メキシコ・ブラジル・アルゼンチンの反801貧困NGO)
「ムエタイ戦士だって凄くかわいいぞ!」(タイの801ムエタイの競技団体)
「オレたちだって石油王に負けず劣らずの金持ちだ!」(インドの801マハラジャの親睦団体)
「中東に住んでいるのはアラブ人だけじゃない!」(イラン・トルコの801イスラム組織)
「黒人が1人も居ないのは変じゃないか!」(ケニアの801人種差別撤廃運動団体)
「北海道を舞台にするならオレたちも出せ!」(801ウタリ協会)
「中国マフィアを一まとめにするな! 香港・上海・福建・東北の四派閥あるぞ!」(801マフィア研究家)
「大草原を駆け巡る雄大な801を作れ!」(モンゴルの801NGO)
「太平洋の海の男たちだって参加資格はあるぞ!」(ハワイの801NGO)

このように各々の立場でシュプレヒコールを上げていた
今回参加できなかった801団体もたくさんある
801国際社会はとても広い
今は会場の外に居ても次の会議で中に入っている団体もあるかもしれない
ほんの何年か前までアラブ人たちも会場の外でシュプレヒコールを上げていたのだから・・・

23222-709 ハーレム:2011/11/08(火) 20:44:47 ID:.q96r0rs
近所にテイクアウト専門の丼屋ができたらしい。話の種にオレは相方と一緒に行くことにした
店の前に着く。見ると客の若い女性比率が高い。丼専門店で女性が多いって珍しいなと思った
列の最後尾に並んで注文を決めようとオレたちは立て看板を見て唖然とした

「持ち帰り専門丼屋 ご飯総受けハーレム」
全品600円
攻増し(おかず増し)+100円
受増し(ご飯増し)+50円

アイヌ×日本=鮭フレーク丼
沖縄×日本=ゴーヤーチャンプルー丼
韓国×日本=豚キムチ丼
北京×日本=かに玉丼
上海×日本=豚角煮丼
広東×日本=チャーシュー丼
四川×日本=麻婆丼
台湾×日本=豚そぼろ高菜丼
モンゴル×日本=塩マトン丼
ベトナム×日本=豚ピーナッツ丼
タイ×日本=激辛豚そぼろ丼
マレーシア×日本=蒸し鶏丼
インドネシア×日本=サテ丼
ハワイ×日本=ロコモコ丼
バングラデシュ×日本=いわしカレー丼
北インド×日本=野菜カレー丼
南インド×日本=えびカレー丼
パキスタン×日本=チキンカレー丼
モルジブ×日本=鰹だしカレー丼
アフガニスタン×日本=マトントマト煮丼
アラブ×日本=マトンケバブ丼
トルコ×日本=牛ケバブ丼
エジプト×日本=コロッケ丼
ロシア×日本=ストロガノフ丼
デンマーク×日本=チーズ丼
ドイツ×日本=ソーセージ丼
イタリア×日本=いわしトマト煮丼
フランス×日本=クリーム煮丼
スペイン×日本=マヨネーズ丼
イギリス×日本=魚フライ丼

「・・・」
「ヘタリアの同人誌の読みすぎなんじゃないかな・・・ここの店主」
結局オレはタイ×日本を選び、相方はアフガニスタン×日本を選んだ
丼を買うだけでなんかオレたちはヘトヘトになってしまった
味はまあそこそこだったわw

23322-729 嘘つき×嘘つき:2011/11/12(土) 10:22:49 ID:4.TVwXIA
「きけ、マコト。いいか?俺がこれから言うことはウソだからな」

強張った表情の幼なじみの口から、そんな言葉が告げられた。
「…なにそれ、駆け引きのつもり?やめなよユイ、似合わない。君、不器用なんだからさ」
僕は読んでいた本で口元を隠した。ひどくいやな顔をしているに違いない、今の僕。
言われたユイは追い詰められたような表情で、ぐっと言葉を飲み込んだ。
昔からだ、すぐに黙り込む。そうして沈黙に耐えられない僕が、言葉で捲くし立てて君を傷つけて。
目の前に17年鎮座まします思いの丈には、二人とも気付かないふりで。

「ねぇ、ユイ。なんて言いたかったの?僕にさ。本音をぐちゃぐちゃにして、何を隠して、何を伝えたかったの?ユイ」
普段の底抜けに明るい姿とは似ても似つかない目の前のユイ。
「何を言いたかったの?僕に」
「………」
忌々しい。
性別、世間体、下らない恥ずかしさと、これまで大切にしてきたお互い以外のもの。君以外の全てが僕の足を引っ張る。
僕たちに嘘を吐かせるもの全てが、忌々しい。
「ユイ」
我ながら、ひどく優しい声をしている。
大切な幼なじみを追い詰めるには充分なほど。
「ユイ、何が怖いの。嘘をつかないでよ、ホントのことを言って、そしたら僕は…」

「…お前が、嫌いだ」
「………うそつき」
瞳が揺らいだ。

嘘吐きが泣いた。

234さよならのうた:2011/11/13(日) 08:38:37 ID:m/wViJgg
リロミスすみませんでした><こちらに投下します。

5/1 晴れ
最近君が「また会おう」と言わずに「さようなら」と言うようになったのを不安に感じる。
それに対して何を言うわけでもなく部屋を出る俺は、無力なのだと痛感する。
だが、きっとお医者様が治してくださるはずだと信じている。
くだらない事を考えるよりかは散歩でもして、彼に聞かせる話でも探そう。

5/2 曇り
朝にお見舞いに行き、昼には仕事をする。
仕事と偉そうに書いてはいるが、所詮文豪に憧れたしがない物書き。君のことが頭を離れず一文も書けない。
甲斐甲斐しくお世話をしてくれた書生に八つ当たりしてしまった。
出来もしない仕事などしても意味がないと、晩には俺が君に何を出来るかを考えた。何も思い浮かばなかった。

5/3 晴れ
朝一番に書生に頭を下げた。すると、頭を下げる必要などはないと焦った様に頭を上げることを促される。
しかし謝ったのは、八つ当たりしたまま彼に顔を見せられなかったからだ。そのことに自己嫌悪する。
彼には顔を見せて、しょうもない世間話をした。本当にこれでいいのだろうか?
漠然とした、薄気味の悪さに思わず閉口する。
5/4 雨
今日は彼に顔を見せていない。昨日の夜から、仕事をしていた時、お医者様に彼がもう長くないことを知らされた。
瞬時土下座をして、一日でも長く延命してくださいと叫んだ。
お医者様が去るまで何を言われても床につけていたので顔は見ていない。
年甲斐もなく泣きそうになった、たぶんきっと情けないようなものを見る目で見ていただろう。

5/5 晴れ
彼が私の家の庭を見たいと言った。安静にしていなくてはと思ったものの、昨日のお医者様の言葉が脳裏をよぎる。
気がつけば私は首を縦に振っており、彼を家にまで運ぶこと決意した。
お医者様にそのことを伝えると、半ば期待していた止める言葉をかけてくださらなかった。
彼の部屋に戻り、書簡をしたためている彼に「明日行こう」と伝えた。彼は筆を止めなかった。

5/6 晴れ
彼は庭の花をじっくり見ていた。
「9月に植えた石楠花と灯台躑躅がまだ開花していた。君が世話をしてくれたんだろう。安心した」
そう言った彼に私は微笑んだ。なんという贅沢な言葉だろう。
仕事に身が入らないということが、たまにはいい仕事をするもんだ。

5/7 快晴
彼が死んだ。手には手紙が握られていた。
見る勇気がない。お医者様も無理に見る必要はないと、手紙を読むこともなく私に手渡した。
死ぬ前に彼が何を思ったのか知るのが怖い。
震える手で、庭で茶を啜る。
5/8 朝:小雨
このままじゃいけないと決心して手紙を開いた。
「私は明日、庭を見る。篤志家な君がどのような庭を見ているかが想像できない。
もしも庭に花が咲いていたら、私が亡くなったあとも続けてほしい。
もしも何も生えないない庭ならば、居なくなった私だと思って何かを植えてほしい」

5/8 昼:霧雨
手紙を途中で読むのを止めた。
小説を受け取りに来た者が私の気も知れずに渡せ渡せと五月蝿いからだ。
完成していない旨を伝えると書け書けと五月蝿い。
書生が心配そうな目を向けるのを無視して小説を書き始める。

5/8 深夜:星空
小説を書き終えた。手紙の続きを読んだ。死ぬ前に書き足したであろう一文があった。
「清の庭を見た。もう怖くない」
庭に出て空を見た。
月と星空が共存する中に彼の姿を見た気がした。

23522-749生意気意地っ張りだけど世話焼きな年下攻め(受けにもタメ語):2011/11/15(火) 09:31:57 ID:RngBqtCo

「こんちわ、ナカさん?入るよ」
青年がそう声をかけ居間を覗き込むと、繋がった寝室から穏やかな声がする。
「やあカズくん。なに、またお見舞い?もう今週3度目じゃないか。しかも3日連続で」
ベッドに上体を起こしたまま、眼鏡の男が答える。
青年は下げてきた買い物袋をベッドの横に降ろすと、上着を脱いでベッドの周囲を片付けはじめた。
「…いいだろ別に。どうせ俺しか来ないんだから」
「そうだね、君しか来ないね。たかが足の小指の骨折だ」
青年が片付けた端から、男は青年の荷物を物色する。
「…もう来てやんねーぞ。てかそのカズくんはやめろって」
男のお目当てはスーパーの袋ではなく、小さめのトートバッグに入ったタッパーにあった。
「カズくんがダメなら、なんて呼ぶんだよ。お、かぼちゃか、いいね」
美味であろうことはわかりきっているが、だからこそひとつ味見をしたい。
迷わず一番大きい一切れを手にしようとしたところで、青年にタッパーを取り上げられる。
「つまむな、今用意するから」
「はーい」
やれやれ自分は幸せ者だな、と読みかけの新聞を手にすると、居間の奥にある台所から青年が戻って来た。
手には昼に男が食べたカップラーメンの空き容器があった。
「おい!またカップ麺なんか食って!煮付けどうしたんだよ冷凍の、渡しただろ!」
「あー、ジャンクなものが食べたかったんだよ、煮付けもちゃんと食べるよ。カズくんのおいしいごはんだもの」
「カズくんはやめろ」
「じゃあカズマ」
目を見据えてそう呼ぶと、青年は苛立ちと照れをあらわにして言葉に詰まってしまった。
「……」
「返事しないんじゃないか、相変わらず照れ屋だなぁ君は」
「うっさい」
「一真、そう冷たくしないで」
「あーもうわかったよ!いいよカズくんで!」
「なんだよ一人で、せわしいね君は」
青年は不服そうに台所へと向かった。黒のエプロンをかけた背中を、老眼鏡を外し見送る。
純情で正直な恋人をからかうのは、もう自分のライフワークかもしれないな、そう思うと笑みがこぼれた。

30分もしないうちに、食卓が整ったと青年が寝室へ来た。
肩をかりてベッドから降りる。数歩進むと夕餉の香りが鼻をくすぐった。
「幸せだなあ」
ぽつりと漏らすと、青年がびくりと反応した。表情が強張っている。
「…死ぬなよ?」
探るようにそう言われても、こればかりは約束が出来ない。
「うーん、死にたくはないなぁ。まだ君の成人式も見てないのに」
そう答えると、青年は「メシ、食おうか」と言って顔を背けた。

食卓へつくと先ほどのかぼちゃの煮物と、男の好物であるなめこの味噌汁が湯気を立てていた。
その他にも常備菜の切干大根など、青年の作ったオーソドックスな和食が並ぶ。
「美味しそうだねぇ、ありがとうカズくん。いただきます」
味噌汁をひと口飲み、「美味しい」と言うと、青年の顔がほころんだ。
「かぼちゃも食ってよ、ナカさん」
そう促され深い橙のかぼちゃに箸をつけた。
「あー美味しい、カズくん好き好き、すっごく好き」
男の軽い口調が気に食わないらしく、きらきらとほころんでいた青年の表情が見る間に少し不機嫌そうになる。
「いまのはカウントしねえ」
「これまで言ったの数えてるの?馬鹿だね」
「うっさいくたばれ」
「僕が死んだら泣くくせに。あー美味しい」
「泣くよばか」
思わぬ正直な言葉に顔を上げる。
頭の片隅でかぼちゃを味わいながら青年を見ると、出会った頃の幼い彼のままで、淋しそうな顔をしていた。
まだまだ子供か、頼りないな、そうしてたまらない愛しさがこみ上げてきた。
「…遺灰はエーゲ海に撒いてね」
「やだよ」
「そう言うなよ。あ、明日は天ぷらが食べたいな、舞茸の」
「明日は来ないからな、絶対来ないからな!」



236名無しさん:2011/11/18(金) 02:39:22 ID:p2O9tW9A
妄想を吐き出させて下さい。

親が遺した借金抱えて天涯孤独の受け。
長年の苦労ですっかり無気力状態、債権者の攻めに
「金がないなら身体で払って貰おうか」と言われても
「鉱山でも男娼宿でも放り込めば」と投げやりな態度。
「そんな所で働かせてもロクに返済出来ないうちに死なれそうだ」ということで、
受けは攻めの会社(とか店とか)で攻めの商売を手伝うことになる。
最初は半分死んだように働いてた受けだったが、攻めの容赦ない指導もあって徐々にやる気と才覚を見せ始める。
そうこうする間に互いに惹かれていくわけだけど、
攻めは「借金を楯にして受け容れさせても虚しいだけだ」と踏み出せないし、
受けは「借金返済で切れる縁なら深入りしたくない」と距離を置こうとする、って感じで、
債権者/債務者という立場のせいでなかなか進展しない。

そんな中、受けが己のアイデアなり機転なりですごい利益を叩き出し、
攻めは「これでお前も自由の身だ、これからは好きにすればいい」と借用書を焼いてしまう。
ここからは受けが「俺はあなたの傍にいるのが好きなんだ」と告白するもよし、
攻めが「自由になったんだから嫌なら断ってくれ」と仕掛けるもよし、
晴れて対等な立場で公私ともにベストパートナーになったらいい。

ベッタベタでも、まだるっこしい両片思いがジリジリ続くのが好きなんです

237236:2011/11/18(金) 02:41:56 ID:p2O9tW9A
すみません236は
22-779 債権者×債務者
です

23822-789東南アジアから来た天才少年:2011/11/19(土) 13:51:41 ID:z3XeLOE.
「『本格レッスンわずか2ヶ月で単独コンサート大成功の天才ピアニスト!ヌワン・パビ・ユエチャイくんの素顔にせまる!』
『脅威の音感、天才少年ユエチャイくん』『澄み切った音色から広がる美しい世界』『音楽の申し子・アジアから世界へ』だって。すごい記事ばっかりだな。見た?」
「みてない、ちゃんと読めない」
「お前婚約者が3人いることになってるけど」
「えー!?ホントに?…参ったなぁ、おっぱい大きいかなぁ」
「全然参ってないじゃん」
「でもホントに参った、昨日母さんに電話したら、妹が6人増えたって。いまうちオオジョタイ」
「受け入れちゃったのかよ、お前の母ちゃんもすごいな」
「まだしばらく帰れないみたいだからなぁ…チョト心配。じいちゃんも老い先短いし」
「ざっくりした日本語になっちゃってんぞ。…やめたい?」
「んーん、ピアノ好き、少しの、えーと流行り廃り?でも喜んで聴いてくれる人がいるのは嬉しいし、幸せなことだと思う、から。それに日本には、アキラがいるしね」
「……よせやい」
「エドッコ?ふふ。
でもホントに感謝してるんだよ、アキラにも、アキラのパパやママにも。昔僕にピアノを教えてくれたこと、友達になってくれたこと、たくさん優しくしてくれたこと、それから」
「ヌー、大変になったらすぐ言うんだぞ。強制送還してやるから」
「僕ミツニュウコクじゃないよー」
「はは、まーでもホント、もっと頼ってよ」
「うん、ありがとう。嬉しい。アキラは僕のキョウダイみたいなものだから」
「兄貴だろ、チョーカッコイイ。男前の」
「ちがう、男前はタカクラとワタナベ」
「ケンかよ!」
「あのね」
「うん?」
「時々思うんだ、嬉しいことや悲しいことがあったとき、アキラと僕が繋がってたら、どんなに幸せだろうって。
アキラの辛いことや悲しいことをわかってあげたいし、僕の嬉しいことでアキラにも喜んで欲しい。ホントに心が繋がって、僕たちが二人で一人だったら、そうしたら、アキラのこともヒトリジメできて…」
「ヌーって馬鹿?」
「なんで!」
「あのなあ、もう繋がってるっつーの、お前のことぐらい手に取るようにわかるぞ俺は」
「…そっか」
「信じてないだろ。ひとつ当ててやろうか」
「なに?」
「俺のこと好きだろ、超」
「…プレイボーイ」
「いなせと言え。それか色男」
「ちがう、それヒノショーヘイ」
「マジかー」
「でもホント、あたり。ピンポンだよ、アキラ好き、すごく好き。照れるけど。…愛してるんだ。ヘンかな?」
「月が綺麗ですねってか」
「まだごきげんようだよ?」
「テレビ好きだねお前」
「うん、でもアキラも好き」
「あれ、"も"なの?」
「ゴジュッポヒャッポ」
「えー?」
「倍ぐらい違う、アキラがヒャッポ」
「新解釈だな」
「…あのさ、……もしホントのホントのホントに辛いことがあってさ、シメンソカ?なって、僕が逃げ出したくなったらさ」
「攫っていいよ、お前の国に」
「……キスしていい?」
「こういうのはなー、きかないでするんだよ」
「愛してる。愛してる?」
「イェス,オフコース!」

「あ」
「?」
「今度あれ弾いてよ、エリーゼのために」
「いいけど…それしか知らないんでしょ」
「ばれたかー」

23922-849 貿易港そばのグラウンド 1/2:2011/11/27(日) 04:24:35 ID:PDDxumjc
忍法帳リセットされていたのでこっちに書きます。なんてこったorz



あの頃、港町は猥雑で、グラウンドの金網の向こうからは常に湿った風が吹き荒れていた。
グラウンドは四角に仕切られただけのただ広い空間で、古びたバスケットゴールがわびしげに佇んでいる。
幾つものネオンが港に瞬く頃、グラウンドで遊ぶ子どもらは段々とその姿を消していき、最後にはひとりの少年だけが残る。
少年は俺だ。唇を噛みしめている。
燃えるような夕日を、落ちてくる夕闇を、親の仇のように鋭く睨みつけている。

俺が宇宙人と出会ったのは、そんな繰り返しの日常の中だった。
無人のグラウンドに色濃く落ちた影に視線をうつして、俺はいつものように数を唱えている。
ゆっくり百まで数えたら家へ帰ることにしていた。
六十過ぎまで数えたころだったろうか、ふと背後から物音が聞こえた。はっとして振り返ると、ひとりの少年が怯えたように立ち竦んでいる。
年の頃は俺と同じくらいだが、見たこともないほど鮮やかな金色の髪が風に揺れていた。肌の色も発光したようにぼんやりと浮かび上がっている。
俺はすっかり目を奪われてしまって、お前はどこから来たんだと勢い込んで少年に問いただした。
少年はラムネのビー玉の色をした瞳を戸惑って瞬かせながら、金網の向こうの薄ぼけた闇を指差した。
そこにはただ、黒々とした海が横たわり、冷たくなっていく空が広がっているだけだった。
後から考えると、それは日本語の喋れない少年が、自分は異国からやってきたのだという意味のジェスチャーをしたに過ぎなかったのだが、
そのときの俺には彼が空を指しているように見えたのだった。
あいつは空からやってきた宇宙人。そのことを俺だけが知っていた。

実際そんな勘違いは彼が日本語を覚えるころにはすっかり解消されていたのだが、それでも俺にとってあいつは特別な友人だった。
誰もいなくなった後のグラウンドで二人で遊んだ。互いの母国語で冗談を教え合った。俺がもう数を数えることはなくなった。
貿易会社の社長子息である彼にどのような事情があって、遅くまで家に帰らなかったのかは知らない。
その関係は俺たちが中学に進学するまで続いた。

中学に入るとすぐに先輩が絡んできた。しつこく金をせびられて、余分な金はないと断ると生意気だと罵られた。
吐くまで腹を殴られたある日、お前のお袋は淫売だと言われたのでそいつの前歯を折った。
それからは散々袋叩きにされたが、一度も謝らなかった。誰も助けてくれないのはわかっていたので自分で頑張ることにした。
一本の腕を折られたら二本の腕を折った。鉄パイプで殴られたらその拳を叩き潰した。
お前の親父は屑のろくでなしだと言われたが、それは本当のことなので殴らなかった。
気が付いたら俺は一端の不良だった。だから街であいつとすれ違っても、もう声をかけることもしなかった。
あいつの視線が気遣わしげに俺を追っていることには、知らない振りをした。
晴れてあいつは違う世界の住人、宇宙人になったのだ。

今はもう、あいつはこの町にいない。地元の私立中学を卒業した後は生まれた国に帰ってしまった。
俺はといえば、高校へは行かず港にたくさんあるバーの給仕や用心棒をして糊口をしのいだ。
その頃母親は男と三度目の失踪をし、父親は酒をしこたま飲んである朝動かなくなった。
停滞した日常の中、気性の荒い船乗りや外国人に揉まれて腕っぷしだけが強くなっていった。
ときには強い酒で喉を潤し気安い女たちと戯れたけれど、それはそれでつまらないことだった。

24022-849 貿易港そばのグラウンド 2/2:2011/11/27(日) 04:25:26 ID:PDDxumjc
俺が今になってあいつのことを思い出すのは、彼が去り際に投げつけた言葉のせいなのだ。
あのとき、いつものように無視をして通り過ぎようとする俺の腕をあいつは痛いほど掴んで引き留めた。
「俺は国に帰らなくてはならない」
何かを確かめるように、あいつは慎重に言葉を紡いだ。
あいつの瞳は変わらずに綺麗なビー玉のままで、俺はおそらくそのせいで身じろぎもせず続きを待った。
けれどじっとあいつの瞳を見ていると、昔にはなかった意志の光が静かに宿っているのがわかった。その目で強く俺を見据えてあいつは言った。
「今の俺にはお前の側にいる力がないけれど、いつか俺が戻るまで待っていてくれないか」
「嫌だ」
考えるより先に言葉が口をついて出た。何らかの予感が心臓を突いて全身の血を熱くさせていた。
何かを言わなくてはならなかったが、それがなんなのかは自分でもわからなかった。だから拒絶した。
俺は嫌だ。もう一度はっきりと低い声で言うと、あいつを突き飛ばして俺は逃げた。

そしてこんな風に感傷的な気分になるのも、明日になったらあのグラウンドが立ち入り禁止になると聞いたからだ。
なんでも、どこぞの若い実業家が買い上げていったらしい。何に使うのかは知らないが、おそらくグラウンドは潰されてしまうのだろう。
正直心残りではあるけれど、それでなくてもここ数年この辺りでは開発が進んでいる。
海にほど近い寂れた土地が対象となるのは、どちらにせよ時間の問題だっただろう。
俺はふと思い立って、仕事前にグラウンドに足を向けることにした。

茜色に燃える空に、何の因果か大人になっても俺はひとりきりだった。
無人のグラウンドに立って目を閉じると、まぶたの裏に血のような赤が張り付いている。
宇宙人はいない。
外国人は行ってしまった。
約束は存在しない。
成長した俺だけがここに取り残されていた。
不意に、哀しみが暴れだす。どうしようもない寂しさが胸に突き刺さって痛む。俺は歯を食いしばり、ゆっくりと数を数え始める。
昔のように百まで数えたら俺は帰れるだろうか。
幾つまで数えた頃だろうか、俺の後ろから微かな物音が聞こえる。どうやら足音のようだが、俺は数えるのをやめない。
こんな時間にこんなところにやってくる酔狂な人間は、俺以外にいるはずがないからだ。
思わぬ幻聴のせいで数がわからなくなったので、とりあえず七十くらいから再開することにする。
だんだん足音が大きくなっているのはやはり気のせいなのだろうか。その歩幅は広く、成人男性のように思える。
だけどほら、もう足跡は止んだ。
しんと静まり返ったグラウンドで俺は百まで数え終わる。そしてもう逃げられなくなっておもむろに目を開ける。
眩しい光が目の中に流れ込んできた。
「……ただいま」
夕日をバックに、金髪の男が屈託なく笑っている。
俺は立ち竦んでいる。
お前なんでいるんだよとか、いくらなんでも成長しすぎだろうとか、言いたいことはたくさんあるのに、
どれもこの場にはふさわしくない気がして俺は口をつぐんでいる。
戸惑う俺に、あいつの手がまっすぐに差し出される。恐る恐る掴むと力強く握り返された。
俺は泣く。
嗚咽を噛み殺す。
失ったと思っていた大切なものが今日帰ってきたので、俺はまるで少年のように泣いてしまったのだった。

24122-869 1/2:2011/11/29(火) 20:24:39 ID:fM0mxOr2
すでに投下されてたのでこっちに




どんよりと曇った空の下、彼は黙って花を置いた。
栄華を誇った都市の、その面影が静かに風に吹かれて消えていく。
本当に何も残っていない。それを再確認して、彼の頬を涙が伝った。
故郷を捨てた。友を捨てた。愛した恋人すら捨てた。
そんな自分に涙する資格などないのだ思いながらも、落ちる雫を止めることもできなかった。

どれほど時間が経っただろうか。
彼は花に背を向け、歩いてきた道を戻り出した。
『もう帰るのかい?』
耳に響く優しい声。
たまらず振り返ると、そこには捨てたはずの恋人の姿があった。
最後に見た時と同じ、皮肉げな笑みを浮かべていた。
「…俺を、恨んでるだろう?」
やっとのことで絞り出した声は震えている。

『君はいつもそうだ。僕の言葉なんて聞かないんだから』
「そうだ、俺はいつもそうだった。だから、逃げ出したんだ」
すると恋人は、なんだかひどく優しい顔をした。
「やめろよ…そんな顔で見るな!罵れよ!臆病者って、二度とここにくるなって、罵れよ!」
『君は本当に馬鹿だなあ』
そう言って、くすりと笑う。

24222-869 2/2:2011/11/29(火) 20:25:21 ID:fM0mxOr2
『そんなこと、できるわけないじゃないか。僕は君が生きていてくれていることが嬉しいんだから』
「嘘だ!」
彼はその場に崩れ落ち、悲鳴じみた声で叫んだ。
「俺は…ここから逃げ出した!滅びることがわかってて、それでもなんとか食い止めようとするお前たちを見捨てて一人逃げたんだ!」

『今となっては、君の判断が正しかったんだ。あれこれ苦悩してみたものの、結局滅びは止められなかった』
それは、聞いたこともないほど優しい声音だった。
『君が自分を責める必要なんてないんだよ』
「俺を、恨んでないと?」
『そうだね…』
どこか遠くを見つめるような顔をして、恋人はつぶやく。
『恨んでるってことにしてもいいよ。だから…』
俯いた彼の頬に、細い指が伸ばされた。誘われるように顔を上げると、微笑む目に囚われる。
『たまには、みんなのために花でも持ってきて。それから、僕のことは忘れて、でも僕たちが滅んだことは覚えていて』
その言葉の意味を数秒考え、彼もまた笑った。
「お前らしい、無茶な注文だ」
『そう?』
悪戯っぽく首を傾げる恋人を見て、ただ頷く。
それを見届けると、恋人の姿はかき消えた。

再び誰もいなくなったその場所で、彼はつぶやく。
「誰が忘れるか」
そうして立ち上がり、また歩き出すと、
『君は本当に馬鹿だなあ』
そんな声が聞こえた気がした。

24322-879 昔の攻めの結婚前夜:2011/12/01(木) 15:00:13 ID:KhXHPikk
規制酷いんでこっちに書く




「悪ぃ、俺、ゲイじゃなかったみてーなんだわ」
そう言って合鍵を放り投げて去った彼から、見慣れぬ葉書が来た。
正しくは来ていた。僕が入院している間に。

なにが悪かったのか胃にデカイ穴が開いたので塞いできた。
久しぶりの我が家に帰ってたまりにたまった郵便物をチェックしていたとき、それはひらりと床へ落ちた。
眩しいくらいに真っ白で、黄色い花の絵に彩られた招待状。配達ミスかと思うほど、僕の部屋には似合わなかった。
上品な名前と並んで、彼の名前があった。
結婚式、披露宴と、おだやかじゃない文字が並ぶ。間がいいのか悪いのか、そこには明日の日付が書かれている。
過ぎたことならもう少し、平静を保っていられただろうに。

僕の勤めるバーに、客としてやってきたサラリーマン。
当時の彼女にフラれてヤケになった彼となあなあで関係を持ち、ほどなくして付き合った。
くたびれたスーツが色気を醸して、たまらなく大好きで。

自分の性的嗜好に悲観気味、かつ世間にビビってる僕みたいな暗いゲイに普通のサラリーマンなぞ勤まる訳もなく、だからこそ彼のスーツ姿が好きだった。安物の、汚れの目立たないグレーのスーツ、それに僕の買ったネクタイ。
ぶっきらぼうで、カラオケ好きで、セックスが雑で、僕の部屋に転がり込んでカーテンをヤニで染めた彼。
笑い上戸で、手が大きくて、故郷が好きな、二つ年上の彼。

彼が好きだった、病めるときも健やかなる時も、それ以外のどんな時だって。
誓うべき神は、いなかったけれど。

気が付いたときには、玄関にしゃがみ込んで泣いていた。
明日が晴れますように、そう言って葉書を破いた。

24422-879 昔の攻めの結婚前夜:2011/12/01(木) 21:11:59 ID:ZcsIa3fE
いよいよ明日だな。さすがのお前も緊張してるだろ?
結構経ったよな、あれから。そりゃ結婚の1つ2つくらいするわな。
それにしても、ここ2,3年でお前も随分丸くなったよなあ。あの人のおかげだな、確実に。
俺は、あの頃の抜き身の刀みたいなお前に魅入られたクチだけど――まあ、そんなことはともかく。
あんなにあったかい心と笑顔の持ち主はそうそう居ないぞ。
せっかく巡り会えたひとだ、絶対手放すんじゃねーぞ。
……言うまでもないことか。
お前は今も昔も、大事なものを大事にする所は変わってねーもんな。
バカな俺が、それを無碍にしてしまっただけで。
お前と居た時のことを思い返すと、感謝してもしきれないし……いくら後悔しても、しきれない。

白状するけど、俺はお前にずっと想われていたかった。
よく「死がふたりを分かつまで」って言うけど、それ以上のことを望んでしまってた。
俺がいなくなった後のお前を見てると、悲しくて、申し訳なくて……でも、少し嬉しかった。
傍に居なくても、自分がお前の中に在り続けられる気がして、
俺もお前も哀しみ続けることが分かち難い愛の証になるんだって、思い込んじまってた。
今思えば歪みまくってるよな、全く。
しかしまあ、時間の力っていうのはやっぱり大きいもんだな。
だんだんと、お前への気持ちはそのままに、そういう歪んだ喜びみたいなのだけが消えてった。
俺たちが過ごした日々ってもんの存在は絶対取り消せないし、そこから伸びる線の先に今のお前が居るんだって、
なんとなく納得できたんだと思う。
その頃にはお前もあの人と出逢って、少しずつ笑うようになってた。
あの人がいい意味で俺と正反対だったのも良かった。いや、奇特な人だよ、ほんと。
とにかく、いつの間にかお前の、お前たちの幸せを願える程度には、俺も気持ちの整理がついたってわけだ。

だめだ、このままだと明日までウダウダ居残っちまいそうだ。
いくらって思い切れたって言っても、いざお前たちの晴れ姿を見たらポルターガイストを起こさないとも限らない。
せっかくの式を台無しにしないうちに、そろそろあっちへいこうと思う。
最後に、これだけは言わせてくれ。
勝手に死んでごめん。あんだけ事故るなって言ってくれてたのに、約束破ってごめん。
俺にとってお前は、たった一人のひとだった。
もし生きていられたら、俺は、今もきっと――
いいや、続きは向こうで言うわ。気になっても、あと百年くらいは来るんじゃねーぞ?
じゃあ、そのときまで、またな

24522-879 昔の攻めの結婚前夜:2011/12/02(金) 12:02:36 ID:C9/ajx5w
 カレンダーを見るまでもなく、頭の中のカウントダウンは「結婚式まであと一日」を光らせていた。
 とうとう、明日が大輝の結婚式。
 おだやかな夕闇が窓に広がる。天気がいいといいんだが、このぶんなら大丈夫じゃないか。

 大輝は、学生時代の元彼だった。
 真性の俺と違って、当時からノンケだったのを強引に落とした。
 ガタイがよくて癒し系、優しい性格につけ込んだらあっさりいけた。
 半同棲に持ち込んでどこもかしこも相性バッチリ。一年も続いた、今でも忘れられないいい男だった。

「翔太はもてるから」
 だから、別れ話は意外だった。
 いつもと変わらない優しい目で俺に言う大輝の意図が、最初はさっぱりわからなかった。
「妬いちゃってる? 浮気疑ってる? 俺、大輝ひとすじだってば」
「その、他に誰かいるとか思ってるんじゃないよ、でも……俺……」
 浮気はしてなかった、本当に。友達は男も女もいっぱいいたけど、誰とも大輝が気にするような事実はない。
 つまり言いがかりだ、と思った。
「大輝こそ、最近仲良いよね、ゼミのさくらちゃんだっけ」
「……共同プロジェクトだから、普通に話したりはするよ、それも五人グループだし」
「俺のも、友達でしょ?」
「友達とは手を握ったり……キスしたりはしない」
 内心、ため息つく思いだった。大輝は固いのだ。
「やってないよ?」
「俺は、翔太だけが好きだった」
「俺も。大輝だけだよ」
 俺が飲み込んだため息を、大輝は我慢することなく吐き出した。
「……翔太みたいな人たちがそういう風だとはよく聞くけど、それなら、俺には無理なんだよ」

 大輝は、あっという間にお互いの部屋の荷物を一人で片付けて、あとは学内で会っても、電話をかけても無視だった。
 正直、こんな後味悪い別れ方は初めてだった。結構傷ついた。
 周りの友達がからかい半分、モーション半分であれこれちょっかいかけてきて、大輝が見たらなんて言うだろって
 期待したりした。
 大人しくしてればいつかまた、と思って、ちょこちょこメールを送り続けて半年、我ながら柄にもなくけなげじゃん。
 俺の誕生日に送ったメールに、たったひとこと「おめでとう」って返信が来た時は嬉しかったな。
 少しずつ、返信が増えて、会っても話すようになって、卒業をまたいでも学生時代の仲間で飲み会セッティングしたり。

 別れて三年、そろそろ、なんて思ってたところに降ってわいた大輝の結婚だった。
 ショックがなかったと言えば嘘。でも、気にするな、ドンマイドンマイ、って自分に言い聞かせた。
 結婚したって友人関係に影響はない。俺達は、今は男同士の友達なのだ。
 嫁さんにも、誰にも文句は言わせない。相手、どんな女か知らないけど。

 晩飯を考えつつ、一応送っとくか、とメールを打つ。
『いよいよ明日! 結婚おめでとう!』
 恥ずかしいほどキラキラにハートでデコって、ニヤニヤと送信ボタンを押した。
 珍しくすぐに返信が来た。
 大輝からの返信は早くて一時間、遅けりゃ来ないくらいなのに。
 いつもの、絵文字もなにもないそっけない文面が薄暗くなった部屋の中で光る。

『もう、メールも電話も受け取らない 今までありがとう』
 驚いた。大輝の話はいつも突然だ。
『なんで? 友達じゃん 絶交宣言? なんで?』
 すぐ送った。またすぐに返信が来た。
「うぬぼれかもしれないけど、結婚するんで翔太とはつきあえない』
『男同士だからいいじゃん? 友達でしょ?』
『俺は、本当に翔太のことが好きだった。だからつきあえない』
 好き、という文字が目に飛び込んできた。じゃあなんで?
 続いてすぐ次のメールが来る。馬鹿みたいな着信音をぶっちぎって確認する。読んでるうちに次の着信。
『もっと早くこのメールを送るべきだった。俺は、本気だった。翔太はそうじゃない。わかってほしい』
『好きだったから、離れられなかった。俺は卑怯だった』
『ありがとう。本当に大好きだった。これで最後になる』
 文の最後に、脈絡もなく唐突な赤いハートの絵文字。初めて見た……

 ぼんやり眺めていたら鼻がツーンとして、慌てて返信を作った。
『俺が好きならまたつきあおう』
 急いで打って、何もつけずに送信する。
 ──宛先がない。メールを拒否られた。きっと、電話もかからない。
 なんてひどいんだ。涙が流れた。何が悪かったんだ。どこで間違ったんだ。
 友達でいいじゃないか。大輝、ねぇ。
 泣きながら、俺は無意識になぐさめてくれる奴を探して携帯を握り……目をつぶって壁に投げた。

24622-900 なにその変な所で無駄にハイスペック:2011/12/04(日) 04:34:08 ID:0xTf9SwQ
いきなりで何だがオレの恋人兼バイト先のコンビニの同僚はネパール人の留学生だ
こんなこと言うのもアレだがスゲーイケメンだ
日本語もかなり達者だ。もちろん英語もできる。当然ながらネパール語も話せるからトライリンガルだ
よくよく考えればこれだけでもかなり高スペックだな
なんてことを考えながらレジを打っていた。今日は恋人と二人きりのシフトだ
まあわりと忙しい店だからいちゃついたりする暇はないんだけどね
と、なんか南アジア系の人たちが集団でやってきた。そしてレジのオレのところにきて何か聞いてきた
???
英語ではない。何だろう、この言葉は? オレは途方に暮れて硬直していた
そうしたら、別の仕事をしていた恋人がすぐに来てその客と会話した。無事に解決したようだ
「道を聞いてたみたいだよ」
「今のネパール人?」
「いやインド人よ」
「言葉は通じたの?」
「僕はヒンズーもいけるのよ」
と、今度は妙な民族衣装を着た人たちが入って来た・・・これは見覚えがあるぞ・・・
そうだ! こないだ来日したブータン国王が着ていた民族衣装だ
おいおい、こっちに向かってなんか話しかけて来たぞ! あわわわわ!
そうしたら、別の仕事をしていた恋人がすぐに来てその客と会話した。無事に解決したようだ
なんか今日は厄日だな。と、レジに並んでいたのは白人女性
あ、いらっしゃいませ! ・・・? おい、ここは日本だ。日本語で話せ。ドイツ語なんか知らん・・・
そうしたら、別の仕事をしていた恋人がすぐに来てその客と会話した。無事に解決したようだ

バイトを終えて帰宅後。夜のオレの家での寝室にて
「あれ、言わなかったっけ。僕インドの大学に行っていたからヒンズー語できるね」
「あっ・・・くっ・・・」
「それと日本に来る前にドイツに居たからドイツ語もできるね」
「はっ、はっ、はっ・・・」
「あと親戚にブータン人が居るからゾンカ語もオーケーよ」
「あっ・・・あーっ」
「今はコンビニの接客くらいしか使い道がないけどねw」
「・・・」
オレは恋人のハイスペックぶりを聞きながら逝き果てた

24722-899 雪の降る町降らない町 1/2:2011/12/04(日) 21:25:01 ID:VjLbMnlE
書いてたらお題から24時間経過しちゃったので、こちらに。


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ピッ
「もっしもーし!!オレオレ!わかる?」
『…詐欺なら間に合ってます』
「ちょw冷たいww」
『なんの用だ』
「んー?別に用事はないけど、どうしてるかなと思ってさ。元気?」
『ああ、特に変わりない』
「北の大地はどうよ?やっぱ寒いの?」
『いや、むしろ暖かい。建物の気密性もすごいし暖房器具も充実してるからな』
「へー、そうなんだ」
『あと、ゴ○ブリもいない。快適』
「寒がりで黒い悪魔の嫌いなお前にはぴったりの土地ですねw」
『沖縄のGはでかすぎる』
「まあね〜、こっちのは怪物級だよねww」
『そういえば、今日、雪が降った』
「雪!?マジで雪!?すげー!!!」
『積もったから、いま外は一面真っ白だ』
「えー!いいないいな!写メくれ写メ!」
『ああ、後で送るよ』

24822-899 雪の降る町降らない町 2/2:2011/12/04(日) 21:28:59 ID:VjLbMnlE
「やっぱ雨みたいに空から降るの?ふわっふわなの?」
『降り始めは、小さい欠片がヒラヒラ降る感じ。
そのあと塊みたいなのが、ボトボト空から落ちてきた。』
「はー、いいなぁ。やっぱ綺麗だった?」
『ああ。空を見上げたら、白い綿みたいなのが、はらはらはらはら降ってくるんだ。花びらみたいに軽そうなのに、身体にあたると張り付いて溶けて冷たくて重くて…なんか不思議な光景だった』
「いいな〜オレも見たいわ〜」
『…でも少し、物悲しくなるぞ?』
「はっはーん、つまりお前は雪が降るのを見て人恋しくなって、
俺に電話しようかしまいか携帯を握って考えていた結果、
さっき電話に出るのが異常に早かったわけか〜」
『…俺、お前のそういうところ嫌い』
「オレはお前のそういうとこも大好きよwww
も〜、距離が離れるんだから、寂しくなったらすぐ連絡しろって言ったデショ!」
『…雪のせいだと思ったから』
「関係ないさー、距離のせいでも雪のせいでも何のせいでも、まず電話!
そしたら俺が愛のパワーで寂しさとか不安とか吹っ飛ばしてやるから!」
『…うん』
「あ、そうそう。オレ、とうとうA判定出たよ!このまま頑張れば、来年にはそっちの大学行けるから!
…来年は、手つないで一緒に見ような!雪!」
『うん』

24922-899 雪の降る町降らない町:2011/12/04(日) 22:43:54 ID:J7MYJRIk
「雪が見てみたい」
『突然どうしたんです』
「此処は雪が降らない。私は文献の記述でしか、雪というものを知らない」
『そうなんですか。僕は知ってます。こちらではたくさん降りますからね』
「嫌味な奴だな」
『そんなつもりで言ったんじゃありませんよ。気に障ったのなら謝ります』
「雪とは冷たいものだそうだな。雨よりも冷たいのか」
『それはまあ、気温が低くないと雪にはなりませんからね。雪も雨も元は同じものです』
「お前の手よりも冷たいのか」
『さあ、どうでしょう。ああでも、僕が冷たいと感じるのだから、僕の手よりも冷たいのかも』
「そうか。まったく想像がつかん。お前の手より冷たいものなど存在するのか」
『それ、僕は喜んでいいんですか?それとも悲しむべき?』
「好きにしろ。……お前は雪が好きなんだな」
『は?』
「雪はお前よりも冷たいのだろう。お前は、お前より優れたものが好きだと前に言っていたではないか」
『これはまたえらく飛躍しましたね。冷たいというのは事実であって、僕の評価じゃありませんよ』
「雪を知らない私にとっては同じことだ」
『それに、雪が降るところには降るところの苦労がいろいろあるものです。
 それにしても意外ですね。そちらは雪が降らないのですか』
「当たり前だろう。雲の動きを考えろ」
『でも、そちらには何でもあるじゃないですか。無いものを探す方が難しいくらい』
「そんなことはない。此処には何もない」
『うーん、それはこちらに対する嫌味にならないんですかねえ』
「そんなつもりは無い。私は常日頃から感じていることを正直に言っている」
『貴方の正直さはいつも美しい』
「心が篭っていないな。お前はいつもそんな調子だ。だから信用ならん」
『その上で僕を愛して下さる貴方のことが、僕は大好きですよ』
「本当に空っぽだな、お前は」
『残念ながら、篭める心が無いもので。……それで?』
「なんだ」
『貴方は死ぬのですか?』
「……。なぜそうなる」
『急に雪が見たいと仰った。僕の手の冷たさを思って下さった。普段の貴方は、下界に関心など持たないでしょう』
「…………」
『僕は僕より優れたものが好きですが、それは僕と貴方が元は同じものだったからですよ。
 貴方は僕より優れていて、僕より温かくて、僕など比べ物にならないくらい正直で。でもそれだけだ』
「私が雨で、お前が雪か」
『そういうことです。だから、貴方の考えていることは分からなくても、感じているものは解ります。
 貴方とこんな風に話が出来るのは、僕をおいて他には居ない。自惚れの特権のようなものです』
「おめでたい奴だ」
『貴方が雪が見たいというのなら、僕が迎えに行きましょう。今すぐにでも』
「……お前と通じていることが同胞にバレた」
『ああ……それはそれは』
「此処にもはや私は不要だ。私は、否、我らは、死に染まった同胞を許すことはない。
 我らを堕落させる貴様らを、許すことはない。此処には何も無い。それが全て」
『いつ聞いても大袈裟な口上ですねえ』
「真実だ。私の評価ではない」
『僕らの仕事は真実と虚構を掻き混ぜる事なので真と否はさして重要では無い。
 初めてお会いしたときにそう言いましたよね。憶えていますか?』
「ああ、憶えている」
『貴方はもっと高望みしても良いと思いますよ』
「だからお前とこうして話をしているだろう。私の最後の我侭だ」
『それは光栄なことです。……雪、こちらでは今ちょうど降っていますよ。とても、とても静かです』
「そうか。羨ましいことだ。此処では太陽しか見えない」
『ああ、解けても良いから、あのとき貴方を攫えば良かった』

25022-909 滅亡する王朝の少年皇帝の最期:2011/12/05(月) 15:07:11 ID:rinx5Ew2
それを望んだのは、彼だった。
そうでなければ私のような者が、彼をこの手に抱くことなど無かっただろう。

病に侵され深い眠りに付くときに、私の歌を聞いていたいそうだと、皇帝の側近から告げられた。
正確には、私でなく私の母の歌だ。
母は若い頃、楽師としてこの宮中に出入りしていた。
琵琶の腕前では右に出るものはなく、当時の皇帝から名指しでお声をかけていただくほどであったと聞いた。
母がよく歌ってくれたのが、山向こうの遊牧民たちから聴き覚えた子守唄だった。
そんな母は舞楽の仲間達数名と共に他国へ向かい、道中山賊に殺されてしまった。だからもうこの子守唄を歌える者は私しか残っていない。
宮廷の下の下仕えである私が宮殿内へ入ることなど、あとにも先にも今だけだろう。
そうでなくともこの国は、もうすぐ幼き皇帝のものではなくなる。

先代皇帝が病に伏したとき、国は悪しき高官たちによって荒れに荒れた。
幼き皇帝が彼の側近によって守られ皇位を継承した頃には、もうこの国に未来は無く、人民の前には闇が広がるばかり。
それでも幼き皇帝は、民を愛し、国を愛した。
我々の考えなど遠く及ばないほどに深い慈悲でもって、この国には今ひとたび、ささやかではあるが幸せという名の灯がともったように思えた。国の最期へと向かう、穏やかな日々だった。
彼はその時既に、父と同じ病に侵された、自らの天命の限りを知っていたのだという。

彼は初めて会った私に、兄上、と声をかけた。
私が驚いていると、私の母をそれほどまでに慕っていたと教えてくれた。息子がいることを母から聞き、私に会いたかったとも。

私が促されるまま枕元に腰を下ろすと、手を握り、抱きかかえるよう言われた。絢爛な衣の上からも、やせた彼のか細さが伝わってくる。
私の目元が母にそっくりだと言って、柔らかな指先で私の睫毛を撫でた。
母の奏でる琵琶は風に似て、その声は旋風の中を舞う花弁の様であったと懐かしんでくれた。
それほどまでにおっしゃってくださることが恐れ多く、私はじわりと汗をかいた。
幼き皇帝は、金糸銀糸に彩られた袂で私の汗を拭い、消え入るように「歌って下さい」と言った。

母のしてくれたように体をゆっくりと揺らし、背中の手で拍子を取る。
幼き皇帝は期待感からか、私を見つめ子供のように笑った。
なぜだかは知らないが、私は本当に彼の兄であるような心地になり、彼がただ一人の少年であるような気になった。
馬鹿げたことだ、恐れ多いことだと思いながらも、私の目からは、溢れ出る涙が止まらなかった。
震える声で母を思い出しながら歌っていると、彼もまたうっとりと瞼を閉じ、私と同じ母を見ていた。

私の歌が終わる頃、彼は大きな役目を果たし、短い短い生涯を終えた。
出来うる限り人を愛し、あらん限りこの国に尽くした。
そうしてまたこの国も、長い長い、歴史を終えた。

今思えば、彼ほどにあの国を愛した者はいなかっただろうと思う。
いや、まだこの国と呼ぶべきか。
彼は短い生涯にあれだけの民を愛しながら、隣国へ私たちの未来を託した。
人民は誰も傷付く事なく、なにも失う事なく、国はやがて穏やかな村となった。
彼の功績は最後の皇帝がもたらした奇跡として語り継がれている。
今日もまた、村には風が吹き、花が舞うばかり。

25122-939 ツンデレ攻め×鬱受け:2011/12/08(木) 21:35:12 ID:6xMIQAUw
「五月」
「……なんだあんたか。なんか用」
「最近お前が閉じこもりがちだと聞いてな。様子を見に来た」
「別に。だりーから寝てるだけ」
「また五月病か」
「うるっさいなー…だるいもんは仕方ないでしょ」
「連休のときはあんなに元気だったじゃないか」
「あーもー…」
「確かに月初に連休があると中旬以降は辛いかもしれないが、土曜と日曜は
 普通にあるだろうが。六月と八月は祝日が全く無いのに元気にやっているぞ」
「あいつらと一緒にしないでくれる」
「なぜ」
「八月はほぼ夏休みだから元気で当たり前。能天気に遊んで休みのツケは九月に投げてさ。
 六月は結婚式だ披露宴だって他人の幸せ見てニコニコしてる偽善者で」
「捻くれた考え方をするな。八月はああ見えて盆の行事はきちんとやっているし、なんだかんだで宿題は終わらせる。
 六月は他人の幸せも心から祝福しているんだ。自分は雨男だからと、てるてる坊主で願掛けまでして」
「あー…そうだね。俺が最低なだけだわ」
「誰もそんなことは言ってないだろう」
「わかってるよ。皆が俺をうざいと思ってるって。あんたは特にそうだろ」
「何だと?」
「働けることに感謝しましょう、働く人に感謝しましょう…だっけ?立派だと思うよ本当に。
 だから、あんたから見たら俺はただやる気がなくてウダウダしてて、すげー腹立つんだろうなって」
「…………」
「俺のことなんて放っておいた方がいいんだ」
「本気でそう思ってるのか」
「そーだよ」
「俺達がお前を鬱陶しがっているだって?馬鹿も休み休み言え。そういうのは四月の領分だ」
「いいから。もう帰ってよ」
「俺が嫌いな奴の為に遠い距離を出向いてくると思うのか。一番遠いお前のところまで、わざわざ」
「帰れって」
「俺は、お前の作る柏餅が好きなんだがな」
「………」
「まあ、今日のところは帰るが。だがあまり閉じこもってるようなら、先生を連れてくるからな」
「脅しかよ」
「ああ、脅しだ。……また来る。ではな」


「知らねーよ…あんたの好みなんか……」

25223-9 原始人×サラリーマン:2011/12/11(日) 18:36:59 ID:jRHgUOkE
目が覚めると、そこは原始時代だった。
なんだ夢かと思って、もう一度寝ようとしたが、地面は石だし、
砂埃も凄いし、動物に襲われそうになったので慌てて逃げた。
俺は普通のサラリーマンである。
人と違う所はインドアで多少オタク趣味があるくらいだろうか。
だからこそ、こんな奇抜な設定でも冷静にいられるのかもしれない。
タイムスリップ漫画の知識を総動員して、とにかく現代に戻る方法を考える。
まずはここでの衣食住を確保しなければと思い、周辺を歩き、そのうちに川を見つけた。
木も生い茂っていて、身を隠す場もありそうだった。
俺はしばらくここで生活することにした。
川の水は綺麗だったので、思い切って口にした。現代の水よりも遙かにうまかった。
明かりは無かったから、日の出と共に起き、日の入りと共に寝た。
食べ物は木の実や、魚でなんとかなった。
こんな健康的な生活は何年ぶりだろう。
俺が生まれるべきだったのは、本当はこっちの世界だったんじゃないかとまで思い始めた。

川の下流に進むと、木をくりぬいただけの稚拙な作りだが、カヌーらしきものがあった。
文明らしきものを見いだして感動した。
言葉は通じないだろうけれど、
身振り手振りでコミュニケーションはどうにかなるかもしれない。
俺は一縷の望みをかけて人を探した。
人はいた。筋肉のついた色の黒い男だった。男は興奮していた。
見慣れない奴がいるのだから当然だろう。どうすれば落ち着くのだろうか。
興奮した男は、ひとしきり興奮した後、どこかに行ってしまった。
不振に思って仲間を連れてくるのかと思ったら、何故か食べ物らしきものを持ってきた。
肉である。しばらく食べられなかった肉である。
現代人の自分には到底手に入れることが出来なかった肉である。
さすがにギャート○ズの肉ではなかったが、今の俺にはごちそうに思えた。
これを食えと言っているように思えたので、恐る恐る口にした。うまい。
味はないが、空腹は最大の調味料。かつ、肉がしまっている。
夢中で食べていると後ろから男が抱きついてきた。
ああ、原始人って本能に素直なんだよなあ。
食欲が満たされたら、性欲かあ、などと冷静に分析している自分もいたが、
身の危険を感じて大慌てで離れようとする。
しかし、原始人にひ弱な現代人が勝てる訳がない。
獣のようにやられた後に、俺は男の仲間の所に連れて行かれた。
男はリーダー格の人間だったらしく、他の男に差し出されはしなかった。
彼らに現代人は色が白く、歯も白く、神秘的に見えたらしい。
俺は神のようにあがめたてられた。
そして今は骨で占いらしきことをしている。
男は惜しみなく俺に肉をくれる。その後は本能の赴くままだが。
俺の人生って本当にこれで良かったのかな。
まあ、いいけど。

25323-29 熱々あんかけ対決:2011/12/15(木) 11:36:21 ID:7kI6qjpc
「おい勝負だ!」
 あるアパートの一室で、今夜も料理対決のゴングが鳴る。
 お題は「あんかけ」。対戦するのは板前見習と大学生だ。

「店の片付けで疲れてない? 別の日でもいいんだよ」
「バーロー、お前に勝ち逃げされてたまるか! つか卒論抱えてるくせに余裕だなお前」
「真面目な学生だからね。はい、それじゃ大家さん審査よろしく」
「おんやまあ、今日もかい? 二人の料理を食べられるのは嬉しいねえ」
「ばーさん、審査は公平に頼むぜ」
「じゃあ、スタート!」

 ――奴の料理はあんかけ炒飯だった。
 玉子とネギだけのパラパラ炒飯に、エビのとろとろ熱々あんかけ。
 炒飯もあんかけもどっちも美味しいのに、まるっと全部一緒に食べると、咀嚼する度に小気味よい食感が味わえる。最初は炒飯のぱらぱら感とエビのぷりぷり感が歯に心地良く、咀嚼が進むにつれて双方の風味が渾然一体となって口の中に広がる。そして飲み込む時ののどごしを、あんかけが心地良くしている。
 はっきり言って奴の料理はうまい。天才だ。俺は胃袋を奴に掴まれていると言っていい。
 米の炊き方も包丁の握り方も知らなかった奴に料理のいろはを教えたのは俺だが、奴は瞬く間に上達して俺を飛び越していった。
 きっと料理人になったら沢山の人を幸せにできるだろうに、奴は元来の夢をかなえる為に故郷に戻って、可愛い嫁さんを貰って家業を継ぐ。
 俺じゃない誰かを幸せにするんだろう。
 それに苛立って、料理対決をしかけてる。
 ‥‥こんな風にじゃれあうのも、奴が大学を卒業するまでの事だ。


 ――彼の料理はあんかけうどんだった。
 人参の紅に絹さやの緑、大根の白、椎茸の黒、出汁の琥珀色が美しい。
 薄い色合いだから淡泊かと思いきや、出汁が利いている。それでいて濃すぎず、あんのとろみで味がまろやかになっていて、つるつると食べられる。
 難点があるとすればうどんのコシの弱さ――讃岐うどんに慣れた僕にとってコレはちょっと不満だけど、審査員の大家のおばあちゃんの歯が弱いのを考えてだろう。僕に作ってくれた時のうどんは、コシがしっかりしていたから。
 こういう気配りは、彼には敵わない。
 料理ができなくて弁当ばかりだった僕に暖かい料理を差し入れてくれて。
 さしすせそを知らない僕に料理を教えてくれた時も、口は悪いけれど褒める時はしっかり褒めて、駄目な時は叱って、だから迷わず楽しく料理に挑戦できた。
 彼のぶっきらぼうな優しさに、ずっと前から心臓を鷲づかみにされてる。
 故郷と家業への愛着が、揺らぐほどに。


 今夜の料理対決は彼の勝ちだった。
 大家の部屋を辞して、二人の部屋に戻る。
「次は来週だからな」
「また対決するんですか」
「お前が卒業するまでに星を五分に戻しておきたいんだよ。言っただろ、勝ち逃げは許さねぇって」
「その事ですが」
「ん?」
「君には言いそびれていましたが、僕、院に行くんですよ」
「‥‥つまり」
「だから、もう暫くお世話になります」
 そう言うと、彼は嬉しそうな顔で「さっさと言えよばかやろー!」と笑った。

254名無しさん:2011/12/15(木) 13:33:39 ID:z4b61Y7I
0以外253
最後の笑い顔が浮かぶようだったよ
爽やかかつ美味しそうなお話GJでした!

255名無しさん:2011/12/15(木) 13:34:11 ID:z4b61Y7I
間違えました…えろうすんませんorz

25623-49 付箋を貼る:2011/12/17(土) 16:07:02 ID:wWIlTno2
規制ひどいんでこっちに

授業中に、大事だと思うとこには付箋をつけろよ、と牧野先生が言ったので、すぐそこにあった後藤の左手に貼った。
訝しげな顔をして小声で、星くんなにすんの、と聞くので大事なものに貼るんだろと答えたら、びっくりしたのか付箋の貼られた手を高々とあげて牧野先生に怒られていた。
真っ赤になって俯く後藤にピンクの付箋がよく似合って、にやけていたら不機嫌そうに睨まれた。
そのあと僕は、付箋は顔に貼るものじゃない、と牧野先生に怒られた。
冤罪です先生。

25723-59 行き止まりでの出会い:2011/12/20(火) 21:55:54 ID:80bCOhIA
足が疲れて絡まりそうになる。走る。逃げる。走る。
路地裏に逃げ込んで、俺は先に進めなくなった。
追っ手の声がして、俺は今来た方向を振り返った。すると背中からドアの開く音がした。
「あ……」
ドアから出てきたのはゴミ袋を持った若いバーテンダーだった。
とまどっている男を問答無用で押し込み、俺は扉を閉め鍵をかける。
「え?ちょっと……」
「助かった。ありがとよ」
「てめえ!ふざけんじゃねえぞ!逃げ切れると思ってんのか!」
ドアを叩く音と蹴る音、罵詈雑言が聞こえたが無視する。
「出口はどっちだ?」
「……勝手に裏口から店に入って、注文もせずに出口をきくなんて横柄なお客様ですね」
「ああ、すまん。今はこれしか手持ちがないんで勘弁してくれ」
俺は財布から札束を取り出して男の胸元に押し付けた。だか男は受け取らない。
「もらう理由がありません」
「礼だ」
「もらえません」
「うるせえな。金はあって困るもんじゃねえだろ」
「私は今困ってます」
「俺は急いでるんだよ。その金で一番高いボトルでもいれとけ」
「それでも余ります」
「十本でも二十本でも入れられるだけ入れりゃいいだろ。じゃあな」
「あっ、待って!」
後ろで男がゴチャゴチャ言っていたがそれも無視した。
気がついたらパトカーの音がして、俺を追いかけてくる奴らはいなくなっていた。

数日後、俺は様子をみるためにその店へ軽く変装をして行った。
男は俺を見るとすぐに苦笑いをして
「ああ、この間の……」と言った。
「そんなにすぐわかるか?」
「名前も言わず何本もボトルを入れられるお客様は少ないので」
「そりゃそうだわな」
「ポチ様で入れておきました」
「ポチ……」
「もういらっしゃらないと思っておりましたので嬉しいですよ、ポチ様」
どうみても迷惑そうに愛想笑いを浮かべて男は言う。
「あの後、俺のオトモダチが来なかったか?」
「来てましたよ」
男はサラリと言うが、ただ来ただけではないだろう。
だが男は話題に出すのを拒否しているように思えた。
「そうか、すまなかったな」
「いえ、別に」
目の前にグラスが差し出される。
「どうぞ、ポチ様」
どうもポチ様で押し切られるらしい。
あの日、警察を呼んだのはお前だろ?
そう聞きたい気持ちもあったがやめた。
男はあの日の事を聞かず、オトモダチの事も聞かなかった。
お酒はどういうものがお好きなんですか?
何か一緒につまんだ方がいいですよ……
そんな風になんとなく続く緩やかな会話。
気がつけば予定の時間よりも長く店にいた。

「このペースだと何年かかるかわかりませんよ」
「何が?」
「うちに入れたボトルを空けるのが」
「ああ……」
もうこの店に来るつもりはないと薄々気がついているだろうに、男は俺にそんな事を言う。
「お待ちしています」
男はにっこりと笑って見送ってくれた。
最後にポチ様とつけるのを忘れずに。

25823-179 勇気を下さい!:2012/01/10(火) 10:00:17 ID:rTVrua6s
「お父さん!勇気くんを僕に下さい!絶対幸せにします、お願いします!」

目の前で必死に頭を下げる青年を、私は複雑な気持ちで見ていた。
それなりに真っ当に育ててきたつもりだった次男が、幼馴染である一也くんにもらわれていく。
二人を興奮気味に見守る妻と、ふすまの向こうにいるであろう長男。
男女男男男。本日はお日柄も良くお父さん息子さんを僕に下さい系土下座。
自分のいる空間の奇妙さに軽いめまいを覚えながら、一緒になって頭を下げている次男を見る。
いつの間にこんなに大きくなったのか。
小さい頃から泣き虫で、長男にけしかけられては色々と危ないことをさせられていた。
妻に似た切れ長の目元は、笑うたび綺麗に下がる。
二人が一緒にいるところは、昔から良く見かけた。
勇気の目尻は幸せそうに下がり、一也くんもまた、彼の家族皆がそうであるように口を大きくあけて笑っていた。
これから先の不安や問題など、問うだけ無駄なのだろうと二人の姿から思い知らされる。
「律儀な男だね、君も」
そう呟くと、場が一層静まり返る。
次の言葉に威厳はどのくらい必要かと悩みつつ、神妙な顔をする二人をもう少し困らせてやろうとも思う。
皆にとって一世一代のイベントだ。
私はおそらくラスボスという奴だろうから、夕飯のことでも考えて、難しい顔をしていよう。
祝い事だからやっぱり寿司か?
勇気はやっても穴子は譲らんぞ、息子達。

25923-249 かえりたい:2012/01/27(金) 23:40:42 ID:KsMLYn2w
ロクでもない人生でも、オレにはお前が居た。
ヒッソリと生きていたのに、どうしてだ?
あの日、今まで信じていた事が嘘となり世界が変貌し壊れていった。
お前と共に……。
幸せになりたい、全てをなかった事にしたい、なんて贅沢は言わない。
ただ、あの日に帰れるものなら帰りたい。
そうしたら、今度はお前の側に居るから。
たとえ何が起きても、お前の手を掴んで離さない。
お前1人だけに、つらい思いをさせない。
非力なオレだけど、お前の為に精一杯頑張るから。
どんなに酷い現実でも、一緒に受け入れるから。
だから、あの瞬間にかえりたい……。

26023-349:2012/02/02(木) 20:17:31 ID:gVYyMpGc
私が中学生の時、君は小学生だった。
今では考えられないくらいの弱虫で、泣き虫で、いじめられているところを班の年長の僕がよく庇った記憶がある。
縮こまりながら泣きじゃくる君を見て、守ってあげなきゃという気持ちになった。
私が高校生の時、君は中学生だった。
今では茶色く染められた長い髪が黒い短髪だったとき、君はサッカーに熱中していた。
ゴールめがけてボールとともに走る姿を僕はとてもかっこよく思った。
私が大学生の今、君は高校生だ。
守ってあげたいとか、かっこいいと思っていた僕を殴り殺したいくらい後悔させてくれる君は、毎日僕の実家に通ってくる。
そして毎日食後に妹のさやかの部屋に移動する。
幸い僕が実家に帰っている時にそういった声がしないからいいものの、もしソレに近い行動をしたのならぶっ殺してやると思うくらいには僕は妹想いだ。
そう、君は僕の庇護対象からも賞賛対象にもならず、妹に近づく下種野郎になってしまった。
妹は君には渡さない。君を妹にも渡さない。
妹の料理をおいしいおいしいと食べる君に、今度は僕が手料理を振舞ってやろうと心に誓った。

26123-359 日本刀1/2:2012/02/05(日) 01:45:13 ID:v.TLS2Xc
あの箱には決して触れてはいけない。
子供の頃、探険ごっこと称して、家の中を荒らし回ったことがある。
その遊びは和室の一部屋に隠すように置かれていた桐箱を手に取ったとき、祖父の一喝と共に終わることになった。
祖父は僕たちの悪戯を叱りつけながら、きつくきつく言い含めた。
あの箱には決して触れてはいけないよ、と。
次にその箱を目にすることになったのは高校生の時だった。
兄と何かの会話の弾みにふいと、昔見たあの箱を覚えているかという話になった。
一度思い出してしまえば中身が気になって仕方がない。
二人の記憶をすり合わせ、かつてと同じ場所にあった桐箱を引っぱり出した。
箱を閉じていた紐を解き、いざ蓋を開けてみれば中にあったのは一振りの日本刀だった。
電光を受けて黒光りする鞘。手に取るとずっしりと重い。
何故こんなものが家にあるのだろうと訝しがったが、
僕たちの目は初めて見る「道具」に恐れながらも惹かれていた。
おまえ、ちょっと抜いてみろよ。
兄の提案に逆らえず、少しだけ、柄を持つ手を引いた。
瞬間、ぎらりとした凶悪な光に僕は息を飲んだ。
ただの電光の照り返しとは思えないほどの異様な輝き。
それはどんなものよりも僕の目を焼いた。
――睨みつけられた。そう思った瞬間にばしんと強く障子が開け放たれた。
振り向いた僕たちが見たのは、その刀を抜いたのかと問う祖父の姿だった。
祖父は昔より強い調子で僕たちを叱り飛ばし、
これは妖刀だから決して鞘から抜いてはいけない、と告げた。
そして、もうこれのことは忘れてくれと、祈るような声でこぼした。
祖父が去り気まずい静寂が続く中、僕はただ、見たか?とだけ問うてみた。
兄は、何を?と返した。何を見たかは、答えられなかった。
突然の乱入に驚いた拍子で刀を鞘に納めたため、刀身を見たと祖父が知ることはついになかった。

26223-359 日本刀2/2:2012/02/05(日) 01:45:53 ID:v.TLS2Xc
数年経ち、僕は滑り止めの大学に辛うじて引っかかった。
あれ以来、楽しいものや美しいものに心を留めることもなくなった。上の空になることが増えた。
ただ、あの時の輝きを思い出すだけの数年だった。
妖刀とはこうやって人を惑わすものなのかとどこか感心しつつ、
この件に決着をつけなければならないと感じていた。
そのためには彼に――そうだ、本能的にあの刀が男であることを知っていた――
彼に、もう一度会う必要があった。
さすがに高校生のときの一件があったからか、例の桐箱はあの和室にはなかった。
しかし、僕は祖父の所有している離れの蔵があることを知っており、
そこへの忍び方も、昔の悪戯の経験から、これまた分かっていた。
今はもうたやすく思い出せる箱。今度は一人きりで紐を解く。
彼を持ちあげる手が震えて震えて仕方なかった。
力を込めてゆっくりと鞘から引きぬくと、月明かりを受けて刃の上を光が流れていく。
そうして現れた全身を目にした時、
僕は、彼が妖刀だということを忘れた。――刀であるということさえ頭から消し飛んだ。
彼の姿はほっそりと澄んだ鈍色をして、久しく忘れていた美への感動を思い出した。
あの時とは違う優しい目の輝きと、ただただ見つめ合っていた。
どれほど時が経ったか、不意に彼の先端が服の襟元に触れた。
そのままボタンをぷつぷつと弾けさせながら降りていき、彼の目の前に裸の胸が晒されることになった。
彼自身を握っているのは僕なのに、彼の動きに僕の意志は全く関与していない。
肌に触れる、冷たくぴりぴりとした指先。
喉仏や胸元を特に好んでくすぐっている。
こうして彼は人を愛してきたのだろう。触れられたところからじわじわと深い陶酔が広がっていく。
その胸を撫ぜた手は鳩尾を滑り、くっ、と腹の上で止まった。
お前を鞘にしてもいいのかと、決意を問われているのが分かった。
ここまで強引に事を進めておいて、何を今さらと笑う。
彼にされることならば何も怖くはない。与えられる全てを愛することができる。
手に力を込めて、受け入れる。


ぐわん、と脳が揺さぶられる感覚がし、数瞬遅れて頬の熱さと兄の姿を知覚した。
気づけば彼は既に僕の手の中にはなく、真っ赤な顔をした兄がぶるぶると震えるほど固く握りしめていた。
あのとき探険をしなければ、祖父の言いつけを守っていれば、刀を抜かせなければ、
俺が兄だから止めなければ、守らなければならなかったんだと、全てを悔いて泣いていた。
夢心地の中で聞いた兄の独白も、僕の何を変えることもなかった。
ただ彼を納めるはずの体の中心から、とうとうと血が流れ出ていくのを感じていた。


あれから祖父の手により彼は二度と僕の目に触れないようにと、どこか遠いところへ追いやられてしまった。
だけど僕は彼を探し求め、程なく彼を見つけることができるだろう。
なぜなら、腹の傷が今もうずいて呼んでいる。呼ばれている。

26323-399 中東情勢1/2:2012/02/11(土) 04:42:53 ID:Bvpshl.w
街は瀕死の状態だった。建物は全て壊れていた。生き残った壁らしきものは蜂の巣になっていた
きっと美しい街だったのだろう……一緒に回りたかった……涙がこぼれてきた
ガイドの運転する車は更地の前で止まった。ガイドは「ここが目的地だ」という意味のことを言った
オレは震える手足と高鳴る動悸と乾く口と色んな心身の緊張を感じながら意を決して車から降りた

マラークという名前はアラビア語で天使を意味する。マラークはオレにとってまさに天使だった
出会ったのは去年の夏のことだ。河川敷で大学の仲間とバーベキュー大会をしていた
飲んで泥酔したオレは正体不明になり川に真っ逆さまに転落してあっという間に流された
もうダメだと思ったが、対岸で釣りをしていた若い男性に助けられた。それがマラークだった
マラークは中東出身の23歳。留学生だ。元水泳選手で国家代表の候補になったことがあるそうだ
ちみなに留学は私費だそうだ。実家は向こうの観光地のホテル経営に関わっているお金持ちらしい
日本を留学先に選んだ理由は「YAOI」だそうだ。マラークはゲイだったのだ
中東ではゲイがゲイとして生きることはまず不可能だ。マラークは故郷から離れることを選んだ
そして「YAOI」のある日本なら自分でもゲイとして生きられると考えて留学先を選んだらしい
マラークは髭を生やしていない。アラブの男は基本的に髭を生やす。髭を生やさないとゲイ扱いされる
マラークは敢えて髭を生やしていないのだ。マラークの顔を見てつくづく思うのだが、アラブ人は白人だ
学問的にはゲルマンでもラテンでもスラブでもなくセムという系統の人たちだそうだが間違いない
イタリアのサッカー選手をさらに濃くて少しだけ東方の血を混ぜたような感じだ
そんなこんなでオレとマラークは恋仲になった。オレの方が明らかにマラークにのめり込んでいた

26423-399 中東情勢1/2:2012/02/11(土) 04:43:29 ID:Bvpshl.w
去年の年明けから中東は揺れに揺れた。マラークはとても情勢を心配していた。オレも心配だった
夜にマラークとの行為を終えた後にネットに繋いでは、BBCやアルジャジーラを見ては情報を集めた
その最中に今度は日本が揺れた。マラークは在日アラブ人のコネクションを駆使して募金を集めてくれた
日本と世界が異常に揺れた年にマラークの故国も民主化運動で大揺れだった
デモ隊に軍が発砲して死傷者多数という痛ましいニュースは連日のように伝えられた
デモ参加者の14歳の少年が軍から壮絶な拷問を受け見るも無残な遺体になったというニュース映像も見た
マラークの故郷は以前から宗教的マイノリティが多く居住する地域で反政府運動が盛んだった
そしてとうとう始まってしまった。政府は反政府運動を徹底的に殲滅するために街に空爆を始めた
街の住民=反逆者というスタンスで徹底的にやるようだった。国際社会は何もできなかった
マラークは帰国すると言い出した。オレは止めようと思いつつ止めなかった
止めることはできないと思ったし、止めてはいけないと思ったからだ
「親族の無事を確かめて安全地帯に脱出させて必ず戻ってくる」と笑いながらマラークは成田から飛び立った
オレはその笑いがオレに心配をかけまいと必死に作っているように見えた
そしてマラークにはもう二度と会えないような気がした。その予感は的中した
マラークは両親や妹たちと親族宅に身を寄せて脱出の機会を伺っていたが、そこに空から爆弾が降り注いだ
建物は一瞬にして全壊した。遺体はどれが誰かを判別するのが困難なほどに損壊していたという
マラークの留学していた大学から訃報を知らされたのはマラークの死から二ヶ月ほど経った後だった
現地は混乱の極みだっただっだろうから連絡が遅れたのも仕方ないだろう
マラークは大学側に「もし自分に何かあったらこの人に知らせて欲しい」とオレの連絡先を伝えていたそうだ

オレが今、立っているのはマターラの遺体が発見された場所だ。瓦礫は全て片付けられていた
乾いた風が通り抜ける。空は何事もなかったかのように雲ひとつない快晴だ
マラークの死後から程なくして突然に国際社会が軍事介入して独裁政権を無理矢理に倒してしまった
世襲の大統領が国外逃亡して政権が崩壊したその日はオレがマラークの死を知らされた日でもあった
混乱の中で犠牲者の遺体はまとめて大きな墓穴に埋葬された。その中にマラークの亡骸も含まれていたらしい
ここに来る前に献花を済まして来た。しかし、それが何だというのか? どうしようもない無力感に襲われていた
鳥のさえずりが聞こえて来た。きっとマラークも聞いた鳥のさえずりだろう
オレに何ができるか分からない……でも何とかしてこの国の再建のために一人の日本人として役に立ちたい……
オレは落涙した。涙は地面に落ち、あっという間に蒸発した。ガイドは何事かとオレを見つめていた

26523-409 殺したくないけど殺す:2012/02/12(日) 00:25:22 ID:OGPkB9hU
二月だというのに、暖かく晴れた日。
両親と兄と僕と、家族総出で食事に出かけた。
そこで顔を合わせた男性に、僕は息を飲むほど驚いく。
数年間、会いたかった人だった。
僕が初めて付き合った彼と別れて、飲み屋で泣きながら飲んでいた夜。
たまたま隣の席に座ったオジサンが、「生きてると嫌な事も泣きたい事も沢山あるな」と慰めてくれた。
クヨクヨするな、泣くな!といった励ましでも、我慢しなくていい、泣いてもいいんだと甘やかすでもない、自然体で慰めてくれて僕の気分は随分と楽になった。
もう一度会いたくてその店に通ったけど二度と会うことは無かったし、店長に聞いても初めての客だったらしく覚えてもいなかった。
その人が今、目の前に居る。
奥さんは五年前に病気で亡くされ、一人娘を男手一つで育ててきたそうだ。
知りたかった名前も、年も、住所も知る事が出来た。
けれど……。
芽生え始めていた僕の恋心は、押し止めなくてはならない。
好きというこの気持を、殺したくはないけど殺す。
何故なら、その人は僕の義姉となる人の父親だった。
僕と違ってちゃんと会社に勤めている真面目な兄と可愛いタイプの彼女は、きっと幸せな家庭を築くだろう。
この二人の為にも、結婚を喜び楽しみにしている僕の両親と彼女の父親の為にも、僕はほのかな片思いに終止符を打つことにした。
再会できた喜びよりも、失恋のにがい苦しみが心に広がっていった。

26623-419 まとも×電波(1/2):2012/02/13(月) 00:55:50 ID:moLg4026
血の臭いが嫌いだと言う。
だったらその場に留まっていないでさっさと離れれば良いと薦めたのだが
「そしたら血の臭いで僕だけ浮きだってデフレスパイラルだ。ストレスで血を吐く」
と返って来たので、それきりその提案はしないでいる。
血の色も服が汚れて目立つから嫌いだと言う。
その割にいつも白地のパーカーを着ていることを指摘すると
「服が白くないと僕は夜から出られなくなる。何も見えない。カラスは鳥目だから」
と返って来たので、服についてはもう何も言わないことにして、よく落ちる洗剤を買ってやった。
臭いが付いたり服が汚れたりするのが嫌なら、せめて返り血をなるべく浴びないようにしろ、
そんな忠告をしてみたところ
「努力してみる」
と素直に頷かれた。たまに会話が普通に成立する分、この男は厄介だ。

俺はビルの階段を昇っている。
一階でエレベータのボタンを押してみたが、案の定、無反応だった。
こんなに歩かせやがってあの野郎、と俺は心の中で悪態をつきながら目的地である七階まで辿り着く。
表向きは、ナントカいう横文字の小洒落た名前をした株式会社の事務所だ。裏向きには……なんだったか。
ドア脇の呼び鈴らしきものを押したが、やはり何の反応も無い。というか、鳴った手応えすらない。
ノックもしてみる。反応なし。
まあ、反応が無いことはわかりきっていることなのだが。
ゆっくりとドアを開ける。すると、咽返るような血の臭いが鼻に付いた。
これは誰だって嫌になるレベルだろうと、俺は毎回思う。
「また派手にやりやがって」
わざと大きめに声を張りながら、俺は注意深く、奴の姿を探す。
目の届く範囲には見当たらなかったので、奥の部屋へと進む。
その部屋の入り口で中をざっと見回して、俺は部屋の隅にあるロッカーに目を留めた。
床のものを踏まないようにしながら、俺はロッカーの前まで足を運ぶ。
そして、ノックをした。
「……入ってます」
数秒の後、ロッカーの内側からくぐもった声が返って来た。俺はため息をついて、その扉を開ける。
そこには白いパーカーを着た青年が、すっぽり収まっていた。
状況によって驚愕にも恐怖にも笑いにも転がりそうな、奇妙な光景。
俺は一瞬だけうんざりしたが、顔には出さない。
「入ってます」
ぼそぼそと同じセリフを繰り返しているが、俺は無視する。
「お前、前に自分は閉所恐怖症だって言ってなかったか」
男は俯けていた顔を少しだけ上げて俺を見た。
「閉じられているのは世界だ。だから僕はずっと閉じこもっている。物理的閉塞は意味が無い」
瞳の色は漆黒だが、その眼にカラーコンタクトが装着されていることを俺は知っている。
「わかったから、さっさとそこから出てこい」
言いながら俺は腕時計を確認する。
時間にはまだ余裕があるが、ここから離れるのが早いに越したことはない。
何より黒服を纏った『処理班』の連中とコイツを引き合わせるのは気が乗らない。
「ほら」
右手を差し出して促す。
男は俺の手をじっと見つめて、何を思ったのか己の右腕を凄い勢いで持ち上げた。
ひゅ、と空を切る音がして、俺の手首ギリギリにナイフの刃先が向けられる。
「おいこら」
みっともなく後ずさりしなかった自分を褒めてやりたい。

26723-419 まとも×電波(2/2):2012/02/13(月) 00:57:15 ID:moLg4026
男の右手には大振りなナイフが握られていて、その刃は血糊で酷く汚れていた。
一体、何人分の血だろうか。
このロッカーに至るまでに床に転がっていた死体の数をカウントしようかと考えて、やめた。
「テメエ、俺の手首も掻っ切るつもりか」
とりあえず睨みつけて凄んでみたが、男は少し首を傾げただけでまるで動じない。
「間違えた。太陽に届く方だった」
ぼそりと呟いて、ナイフを持っていない左腕をあげて、俺の右腕を掴む。
俺は大きくため息をついた。
ため息はコイツと話すときには重要な役割を果たす。これのお陰で、俺はいろいろなことを諦めることができる。
「まったく。少しは自分から動け」
そのまま軽く腕を引けば、男は抵抗もなくロッカーから出てくる。重みは殆ど感じない。
この華奢な男のどこに大の男を何人も殺し続ける体力があるのか、不思議でならない。
上の連中はどうやってコイツの才能に気がついたのか。

俺の心中に頓着した様子もなく、男はそのまま部屋の中を見回している。
その表情には明らかな嫌悪が浮かんでいた。
いつもはぼんやりと宙を彷徨っている目が、このときばかりは忙しなく左右に動く。
そして平坦な声色で――それでも彼にしては感情的に――吐き捨てる。
「血の臭いは嫌いだ」
「…………」
お前がやったんだろうとは、俺は言わない。
何も言わずに、パーカーのフードを立てて奴の頭に被せてやる。フードの内側は幸いにも白いままだ。
「行くぞ。黒服の連中と鉢合わせするのは御免だろ」
「服の色は大した問題じゃない。重要なのは明日をどう生きているか、そして夕飯のおかず」
「お前な。自分でテメエの服は白限定だとか言っておいてそれはないだろうが」
俺はさっさと出入り口へ向かって歩き出す。後ろで男がついてくる気配がした。

男の才能を見出した上層部に対して、俺は慧眼だと感服するべきなのかもしれない。
しかし、今のところは節穴だと罵倒したい気持ちの方が勝っている。
どこでこの男を拾ったのかは知らないが、なぜこうやって平然と抱え込んでいられるのか。
こんな、不安定な状態で常時安定しているような男を手駒として使おうなんて正気の沙汰じゃない。
そしてコイツのお守に俺をあてがっているその采配にも、俺は文句を言う権利がある。
しかし仮に俺が何を喚いたとしても、現状、その役目から解放される見込みはない。
もう一度、大きなため息をついた。
すると、俺の少し後ろを歩いていた男が、聞き取りづらい音量で
「ため息をつくと幸せが逃げてしまうよ」
と言ってくる。
俺は立ち止まって振り向く。フードに隠されて男の表情はよく見えない。
稀に、本当に稀にまともなことを言う。話が通じると錯覚してしまう。
そのお陰で俺は上に文句を言うタイミングを逃し続け、この男と縁を切れないでいる。

「……。帰ったらそれを洗濯をするぞ。お前は今度こそ大人しく風呂に入れ」
「重要なのはおやつ。そして洗剤はアルカリ性に限り、洗濯機は閉じた世界であるべきだ」
「心配しなくても蓋閉めないと安全装置で動かねえよ。いいからまず風呂。飯はそれからだ、いいな」
「わかった。努力する」

たまに会話が普通に成立する分、この男は厄介だ。

26823-469 妹が、お前のこと好きだって:2012/02/18(土) 13:38:05 ID:PdvG22iY
「お前彼女いんのか?」
「はっ?」
大学に入って、お世話になっていた叔母の家を出て一人暮らしを始めた。
いつまでも迷惑をかけられないと、両親の遺してくれた俺のための預金は学費を払うのには十分足りたし、バイトで生活費を稼げばなんとかやっていけるもんだった。
 理由はそれだけじゃないけど。
「なんだよ、急に来ていきなり……」
「いやーさすがに大学入ったらなあ。自ずと出来るもんじゃないのか?」
「圭さん、それ俺の友だちの前で言ったらぶっ飛ばされる」
「おっ? じゃあお前はいるのか?」
圭さんの頭の後ろに、わくわくという文字が浮かんで見える。そう輝かしい目で見つめられたってなあ。本当に、こっちはひとつもおもしくない。
「残念ながらいないよ。作る気もない」
「えー、マジかよ。若いのに有り余る性欲どこで発散すんのお前!」
「うるさいな! そんなこと言うためにわざわざ来たんですか」
圭さんが、んなわけないだろー、とニコニコと笑う。見慣れた笑顔。
見慣れすぎてちょっと鬱陶しいくらいだ。そう思うようになるくらい、このひとはいつだって笑っている。
「梨子がさ、お前出ていってからたまに寂しそうにしてんの」
「梨子? なんで?」
「お前がいないからだろ、単純に」
さっき俺が入れたコーヒーを、ティースプーンでくるくると混ぜながら圭さんは言った。カチャカチャと、無機質な音が未だ慣れないワンルームに響く。
「……それで」
「今度の休みに梨子に会ってやってよ」
 時々、というかここのところはほんど、圭さんはあのときのことを忘れてしまったのだろうか、と途方にくれる。
それにしたって、あのとき一瞬見せた驚きの表情は相当なものだと窺えたし、確かにあれから俺は何もアクションを起こさなかったけれど。
「圭さん」
「んー……、っうお」
あれは確か、俺が中学のときだった。あの頃に比べれば、俺は随分身長も伸びたし精神的にも大人になった。
けれど、あのとき一時の気の迷いだ、と一蹴された言葉は、未だにあのときと同じままの気持ちで口にすることしか出来ない。
「圭さん、好きだ」
「……お前なあ、だからって急に押し倒す奴がいるかよ」
ほらまた。そうやってしょうがないな、みたいな顔で笑う。眉を曲げて、頬を緩ませて、ありったけの情愛の籠った目で、俺を見つめる。
違うんだ、俺はそんな顔を向けてもらえるような、そんな綺麗な感情であんたを見てるんじゃない。
組敷いて、乱暴に足を開かせて、ぐちゃぐちゃに犯したい。泣かせてやりたい。
「……梨子には会わない。変に期待させたって、あいつのためにならない」
俺は、あんたみたいに生殺しみたいに、相手の気持ちを引きずらせたりなんてしない。そうしたら、何年だってその想いを引きずることになる。
「……何か言ってよ」
「ん、いや、お前も梨子も大事だからな、どうするのが一番なのかねって思って」
頭を撫でられて、その手のひらの大きさと暖かさに、大人の狡さを感じた。
俺は自分のことしか考えられないし、あんたしか欲しくない。

26923-479 最近もっぱら受けばっかやってる元攻め:2012/02/19(日) 04:07:42 ID:oMUugvhU
会話の、返事が不自然なものになる。
これ以上ないほど真っ赤な顔をして、ちらちらとこちらを見るくせに目が合うとぱっとそらす。
……分かりやすい。
歩み寄り、奴の座る柔らかなソファーの開いた空間に腰掛ける。
人ひとりの体重を受けて沈む音に全身を強張らせた奴の、その首に手を回せば、よりいっそう身が縮んだ。
顔を寄せ、キスをする。おどかさないように、掠めるだけの一回。確かめるためにもう一回。
何をするか想像はついてたろうに、呆然としている。
さらに一度キスをして、間抜けに開いた口に舌を潜り込ませた。
唾液をすすって舌を愛撫していくと互いの口から熱い吐息がこぼれる。
唇を離して甘く笑うと、眉は困ったように垂れ下がり、目にはどうしようもないやりきれなさを滲ませていた。
その情けないざまをいとおしく思いながら、片手で自分自身のシャツのボタンを外していく。
体を擦りつけ手を取って、奴の服にこすれた感触で勃った乳首に触れさせた。
歯を食いしばって、今にも死にそうな顔をしている。いつか見た表情。
こいつは自分が情欲を抱くこと自体が悪だとさえ思っている節がある。
俺がしたこれより凄いことも酷いことも、される立場なら戸惑いながらも笑って受け入れてさえしてたのに。

あの日、今にも死にそうな顔をして「お前を抱いてみたい」と言われたとき、
驚きや戸惑いよりもただ圧倒的な感慨が俺を襲い、迷うことなく承諾した。
だけど初体験なんてお互い上手くいかないもので、
俺は俺で生娘のようにぎこちなく、奴は奴で触れることさえいちいち許可をとろうとした。
終始、奴の顔は苦しさと負い目に縛られていて、それがひどく腹立たしかった。
いっぱしの意地が俺に誘いをかけさせた。「もう一度、お前に抱かれたい」と。
奴の自制心という名の傲慢さなんて吹き飛ばして、手加減なしで求めさせてやりたい。

だから、奴に抱かれるときはことさら放埓にふるまってみせる。
触られるままに声を上げ、体をよじり、
持てる全てを使って気持ちいいと、俺をお前の好きにしていいのだということを伝えてみせる。

「……すまない」

ついに漏れた、苦しさと負い目混じりの――それでも容赦がない声にぞくりとする。
ただ一言つぶやくのはこいつが全てを手放すサインだ。
俺の頭から小賢しい手管が吹き飛んでいく。
手をまわす。しがみつく。受け入れ、喘ぎ、食い締める。
そうして、溺れきった、必死な顔をして腰を揺するお前をかすむ意識の端で見て、ようやく俺は満足する。
俺だけが、求めているのかと思っていた。
人のいいお前はただそれに付き合ってくれているだけかもしれないと思った。
何もかも忘れたお前に思うさま求められることが、今の俺の喜びで、幸せなんだ。

27023-589一刀両断:2012/03/06(火) 20:34:34 ID:G/eRo5iI
否定型
「好きです、付き合って下さい!」
「俺とお前は男だろ」
「でも好きなんです!」
「考え直せ、まだ間に合うぞ」


設問型
「好きです、付き合って下さい!」
「まずは理由からだ、俺のどこが好きだ」
「潔さです」
「よしわかった、付き合おう」


天然型
「好きです、付き合って下さい!」
「分かった。どこにつき合えばいいんだ」
「僕の家に」
「よし、家に遅くなると連絡入れたからな」


肉食型
「好きです、付き合って下さい!」
「俺も好きだ、やらないか」
「アッー!」


草食型
「好きです、付き合って下さい!」
「俺も好きだ、でも友達からだ」
「じゃあ、交換日記から始めましょう」
「よしわかった、このノートから始めようか」


否定→肯定型
「あれから考え直しました。でもやっぱりまだ好きです、付き合って下さい!」
「何で俺なんだ」
「理由はありません、あなたがすきなんです、それだけです!」
「わかった、そこまでいうなら試しに付き合おうか」


結論
まとめて幸せになれ

27123-629 あなたさえ居なければ:2012/03/10(土) 18:22:09 ID:IoF7Ue7o
本スレにうまく書きこめないのでこちらに失礼します。
※ヤンデレ注意

恋に狂うのは、ひどく罪深いことだ。
あの人を見ているとそれがよくわかる。
あの人の相談を受け始めた当初、薄い恥じらいの表情が空気を幸せの色に染め、僕はその時間が大好きだった。
あの人が彼を手に入れてからも僕への相談は続いていたが、しばらくはただの惚気で、半分呆れながらも微笑ましく話を聞いていた。
いつからおかしくなったのだろう。
もしかして、あの人は、はじめからーー彼に恋をはじめた時からーーおかしかったのかもしれないと、今になって考えてみる。
僕には見えていなかっただけで。
あの人は彼のいろいろなものを奪っていった。
友人、家族、生活、時間。彼を監禁し始めたようだった。
僕への相談の時間が、赤黒い、苦しい色に染まるようになった。
僕はあの人が罪を犯しているのを知りながら、止めることが出来なかった。
あの人は苦しみながら、狂いながらも、幸せそうだったから。
事情が変わったのは、あの人が命を奪い始めたとき。
彼の可愛がっていたマンチカンを殺したのだという。
彼の膝の上に寝そべり、自分を見下す眼差しが憎かったのだと。
このままだと、あの人はいずれ人をも殺めてしまうかも知れない。
背筋が凍った。
僕は決意し、あの人が帰らない時間を見計らい、彼の許へと向かった。
彼は、思いのほか自由にされていた。
予想を裏切り、手枷や足枷はつけられていなかった。
しかし、理由はすぐに明らかになった。
彼は茫然自失の状態で座り込んでおり、目から光は失われていた。
憐れな彼の真ん中に僕は刃を突き入れ、僕ともども彼が赤く赤く染まるのを見ていた。

僕は我に返ると、判断を誤ったことに気がついた。
だって、あの人は僕を殺すだろう。
あの人を人殺しにしたくなかったから、彼さえいなくなればと思ったのだけれど……。
彼を殺した僕を、あの人が殺すのなら、結局、あの人は。


恋に狂うのは、ひどく罪深いことだ。
あの人を見ているとそれがよくわかる。
恋に狂ったあの人も、僕も、掌が、血に染まる。

27223-549 天秤座×水瓶座:2012/03/12(月) 22:32:40 ID:.6LZYHp2
「『獅子座のあなたは、頼られるのが大好きな親分肌!』」
「何そのファンシーな本」
「妹の本棚にあったやつ。『でも時にそれが見栄になっちゃうことも。力が足りないときは、認める勇気もたいせつ!』」
「わははいうこと割と容赦ないな。獅子座って誰かいるっけ?」
「あいつあいつ、児島」
「あー。あー、あー。」
「うん」
「いや児島基本的にはいい奴なんだよ?」
「うん、まあ、うん。 君何座だっけ」
「俺? 天秤座。なんてなんて」
「てんびん……『天秤座のあなたは、理知的でバランス感覚に優れた人!』」
「おおー」
「まんざらでもない顔」
「なんだよいいじゃん」
「『でも、優柔不断で八方美人になりがちなことも。好きな子には、気持ちをはっきり言わなきゃ伝わらないゾ!』」
「怒られた」
「『気持ちをはっきり言わなきゃ伝わらないゾ!』」
「なぜ2回」
「大事なことかなと」
「余計なお世話感やばい」
「ひどい。どこが八方美人だ」
「お前は九方向目なんじゃないの。……その本貸して」
「はい。俺水瓶座」
「だれがお前のところを見ると。
 ……『水瓶座のあなたは個性的! 誰とでも仲良くなれる公平さが魅力の人!』」
「なんだかんだ読んでくれる君が好きだよ」
「…………、……ありがとうよ。
 『でも、そのせいで好きな子とお友達の区別がつけづらいカモ? 好きな子を特別扱いしてあげて!』」
「ほう」
「『してあげて!』」
「あんまり自覚がないなあ。してるつもりなんだけど」
「……こうも書いてある。『納得できないとちょっぴり頑固になっちゃうこともあるから要☆注意!』」
「先回りされた」
「あなどれないな」
「ああ、でも相性いいんだって。90%だって」
「誰と誰が」
「……誰と誰がって」
「『はっきり言わなきゃ伝わらないゾ!』」
「…………。俺と、お前が」
「でもまあ、占いで相性なんて調べても所詮本人同士の」
「…………」
「蹴らないで。蹴らないで」
「『好きな子を特別扱いしてあげて!』」
「…………うん。好きな人といいって言われると嬉しいよね、占いだけどさ」
「だろ」
「うん」


「水瓶座と獅子座は相性30%だ」
「児島……」
「……いい奴だよ児島」
「八方美人め」

27323-549 天秤座×水瓶座:2012/03/12(月) 22:39:05 ID:.6LZYHp2
すいません失敗。

「先回りされた」
「あなどれないな」
「そこまで言われたら認めるしか」 << この行追加でお願いします。
「ああ、でも相性いいんだって。90%だって」

27423-689 枕返し(1/2):2012/03/23(金) 00:43:39 ID:nZxK1Rxo
「あれま、まだ起きてんのか」
深夜。能天気な声が頭上から聞こえてきて、僕は机の上の問題集から顔をあげた。
振り返ると、男が一人、まるで鉄棒にぶら下がっているかのように天井から釣り下がっている。
男の腕は天井を透過していて、その先の手までは見えない。天井裏の梁にでも掴まっているのだろうか。
ものすごく異様な光景だが、僕は動じない。もう慣れたからだ。
黙ったままの僕に痺れを切らしたのか、男は場の空気を取り繕うようににかっと笑った。
「いやはやどうも。なんかよーかい?」
「……それはこっちのセリフ」
僕は溜息をついた。
「いつから天井下りに転職したんだよ」
問えば、男は更に愉快そうに笑う。
「天井から下がれば天井下りだろうなんて、安直だねえ。奴らが聞いたら怒るよ?」
そう言って、両腕を上げたまま身体を大きく前後に揺らしたかと思うと
男は「えいっ」という掛け声と共に前方に飛び出して、空いていたベッドの上に着地した。
見た目にはそれなりの衝撃がありそうなのに、ベッドからは軋む音ひとつしない。
ふざけたようにポーズをとって「十点」などと呟いている男に向かって、僕は言葉を投げる。
「何しにきたんだよ」
「何って、俺が人様の家にあがる目的は一つでしょうよ。知ってる癖に」
笑いながら傍にあった枕に手を伸ばして、男はベッドに腰を下ろす。すぐ降りるつもりはないらしい。
「僕はまだ起きてるけど」
「いやあ、あんたいつもこの時間には寝てるからさ、ちょっくらご機嫌伺いにと思ったんだけどね」
へらへら笑う男は自分と同い年か少し上にしか見えないのに、喋り方は妙に老けている。
身に着けているのもあまり見かけない類の服で、強いて言えば作務衣に似ていた。
まだ夜中は肌寒いというのに、寒そうな様子はない。こっちはどてらを着込んでいるというのに。
(見てるこっちが寒い)
そんなことを思っていると、男は背筋を伸ばして僕の手元を窺うような仕草をした。
顔にニヤニヤとした笑みが浮かんでいる。
「けどあんたが夜更かしなんて珍しいな。なんだい、いやらしい本でも読んでるのかい」
「試験勉強中だ。邪魔しにきたのなら帰れ」
むっとして机に向き直ると、男が苦笑する気配がした。
「冗談だよ。本当にお前さんはこの手の冗談が通じないな。そういうところは弦一郎にそっくりだ」
弦一郎というのは祖父の名だ。この男は祖父の代からうちを訪れていたらしい。
一体いくつなのかという疑問は、随分前に通り過ぎた。
「もっとにこやかにならないとモテないよ。寡黙なんて今の世は流行りじゃないだろう」
「うるさい」
「けど真面目な話、夜更かしは身体に毒だよ」
その言葉に、男を横目で見る。

27523-689 枕返し(2/2):2012/03/23(金) 00:45:19 ID:nZxK1Rxo
彼はベッドの上で胡坐をかき、枕を両腕で抱きかかえていた。
先程の面白がるような笑みは消えていて、妙に真面目な表情をしている。
「勉学に励むのも結構だけど、身体壊しちゃ意味がないと、俺は思うけどねえ」
労わるような目をしているように見えるのは自分の気のせいだろうが、言っていることは至極正論だ。
試験前日の一夜漬けにも限度があることも、寝不足がマイナスに働くことも、自分が一番よくわかっている。
「……もう少しやったら寝るよ」
不承不承頷くと、男は殊勝な表情をすぐひっこめて「そうそう。こっちも商売あがったりだからね」と喜んだ。
そっちか。
「さてと、それじゃあ俺は一旦退散するとしますか」
僕がもう少しで就寝するとわかって満足したのか、男は丁寧に枕を元の位置に戻して立ち上がった。
ぴょんとベッドを飛び降りて、そのまますたすたと部屋のドアの方へ歩いていく。
「天井から帰るんじゃないのかよ」
予想外の動きに思わずそう訊くと、男はドアの手前でこちらを振り返った。
「せっかく来たし、たまには弦一郎に挨拶でもしようと思ってね」
「え」
「駄目?」
許しを請うように首を傾げたその顔に、僕は一瞬言葉に詰まる。
しかしすぐになんでもないように装って「別にいいけど」と答えることができた。
「ただし、父さんと母さんを起こさないでくれよ。もう寝てるんだから」
ぶっきらぼうにそう付け加えたのは、自分でも不思議なほど動揺していたのを隠すためだったが、
男は特に突っ込んではこない。
「ご安心を。人を起こすのは俺の本分じゃないさ」
ただそう言い残して、男はドアを開けることなく部屋から消えていった。
部屋がしんと静かになる。
僕は少し迷って、結局再び机に向き直った。だが、問題集の内容は頭に入ってこない。

さっき「駄目か」と訊いてきた男の顔は笑ってはいたが、その目は酷く寂しそうに見えた。
あれも自分の気のせいだろうか。それとも、本心からあんな表情を浮かべることがあるのだろうか。
人が寝ている間に枕元に現れて、枕を弄んで、気付かれないまま去っていく――そんな性分のやつでも。
祖父が亡くなってもうすぐ一年経つ。
あの男が自分の前に姿を見せるようになってからも、もうすぐ一年だ。
(あいつも寂しいとか、思うことあるのかな)

それから数十分後には、僕は勉強を切り上げてベッドに入ったのだが、
そんなことをぐるぐると考えてしまいなかなか寝付くことが出来ず。
結局、その夜『枕返し』は出なかった。


二日後の朝に、リベンジのごとく現れたことを知ることになるのだけど。

27623-719 異端審問官(1/2):2012/03/25(日) 16:07:47 ID:EIFbeL3M
個人的萌えワードだったので妄想を語る。
(※注意:宗教的な知識は殆どありません。非常に偏った・間違ったイメージです)

「教会」「信仰」「司教」「異教徒」「異端」「狂信者」が出てくるような世界観が好きだ。
また「諮問機関」「懲罰委員会」などの集団が出てきた日には単語だけでwktkする。
だから、「異端審問官」はそのどっちも兼ね備えている存在であると言える。
もうその響きからしてかっこいいよ!(※個人的に)

「異端審問」とは、異端者(異教徒)の疑いのある者と裁判にかけるシステムらしい。(wikiより)
よって、それを執り行う「異端審問官」をキャラクターとして考えると次のようなポイントがある。
----------
1.信仰心
 信仰の代理人として異端を取り締まる職に就いているのだから、勿論、自身の信仰は疑うべくも無い。
 よく言えば「信心深い」「忠誠心の塊」、悪く言えば「妄信的」「頑固」。
 何かを絶対の拠り所にしているキャラは簡単には揺らがず、厄介だ。
 相手によっては、それは狂気に似たものと映り畏怖の対象になるだろう。

 同胞相手だと穏やかで慈悲深くて優しいのに、異端と見なしたものには冷徹冷酷。だとギャップ萌え。

 また、忠誠の対象が「教え」そのものであるのか、4.で述べる上司などの「個人」までも含まれるかで
 そのキャラクター性に微妙な違いが出てくると思う。(心を許すような人がいるのかいないのか)
 それから、忠誠が強固だからこそ、それが揺らいだときの不安定さを思うとそれも萌える。

2.疑うのが仕事
 疑わしきものを罰するのが仕事なので、恨みを買うことが非常に多いと思われる。
 完全に黒ならまだしも、白に近い灰色を黒と断じて裁くこともあるかもしれない。
 己の役目を「信仰のため」と割り切って淡々と処理する冷静キャラでもよいし
 常に葛藤し、心の奥底に罪悪感や人間らしい悲しみを押し込めて仕事をしているパターンでもいい。

 それまで仲良く接してきた相手が「異端者」となってしまいそれを罰することになってしまうかもしれない。
 異端と見なしたとたんに白黒きっぱりと応対が変わり、相手がそれに驚き怯え絶望してもいいし
 相手に「どうして?」と問いながらも最後には自分で手を下してしまってもいいし
 異端者となった相手を「自分を裏切った」とある意味斜め上の解釈をして病んだ反応をしてもいい。

27723-719 異端審問官(2/2):2012/03/25(日) 16:08:49 ID:EIFbeL3M
3.戦闘能力
 「罰する」とは究極の場合、相手の命を奪うことだと思われる。
 日本の裁判のように相手が身動き取れない状態だと楽かもしれないがそんなことばかりではないだろう。
 つまり、戦闘能力が高い異端審問官キャラがいても不思議ではないのではないか。
 また、一所にとどまって日々仕事をする以外に、異端者の集う場所(例えば村一個とか)に赴く、
 いわゆる出張型の異端審問官がいてもおかしくない。
 その場合は一対多数、または数人対大多数になるので、並みの腕では返り討ちにあってしまう。
 
 ごっつい武器を持ち込んでもいいけど、暗器も捨てがたい。 
 一見温厚そうな男が、神父服(牧師服?)の下にナイフとか拳銃とか隠してたり
 携帯してる聖書の間から薄い剃刀的なものが仕込まれているとか、萌えませんか。

 自分の行う殺生と信仰心の折り合いをどうつけているのか、それは2.のように色々パターンがあると思う。

4.あくまで実働部隊、組織の一員
 異端審問官とは、異端審問の実働部隊に属する一員である。
 その組織の中でリーダー的な地位などは存在するだろうが、それでも異端審問官は全体のトップにはなりえない。
 つまり「上司」「指令をしてくる人間」がいるわけであるし、同じ仕事の同僚もいるだろうし
 同じ信仰者ながら、異端審問とは離れた職に就いているキャラもいる筈である。

 本人を理解してくれてた上で遣っている出来る上司、
 汚れ仕事だと異端審問官を忌み嫌い蔑んでいる同胞、
 仕事は認め合っているけどどうも性格の反りが合わない同僚、
 過酷な仕事を心配して辞めさせようとするも本人信仰の塊なんで言う事きかず、頭を痛めてるお節介。
 また、元異端審問官で現異端者という「逃亡者」的立ち位置のキャラもありえる。

 異端審問官という身分を知っている組織内の人間でこれだけ相手がいるので
 これに「組織云々には疎い一般市民」を加えると更にパターンが多くなるのでは。
---------- 
このように、一言に「異端審問官」と言ってもいろいろと妄想が広がると思いませんか。
また、今回は異端審問官を主に据えて考えたが、敵役としても立つキャラだと考えます。
寧ろ敵役・悪役の方が似合うのかもしれない。

以上。

27823-729 竜と人間1/2:2012/03/27(火) 12:42:33 ID:uDh3kQ7.
規制されて書き込めなかったので、ここに

*****************

私が傷だらけの彼を連れ帰ると、集落の誰もが顔をしかめた。

「そんなものを拾ってきて、どうするつもりだ」
「傷を癒して故郷に帰す」
「やめておけ。お前も知っているだろう、残忍で獰猛な一族だ。」
「しかし、このままでは死んでしまう」
「死なせておけばいい」
「それなら私たちの方が余程残忍だ。可哀想に、こんなに弱って……」
「いずれ息を吹き返せば、お前に牙を剥くぞ」
「構わない。見たところまだ子供だろう、小さな牙だ」
「奴らの成長は早い。姿を覚えれば、やがて力をつけて復讐に来る」
「それでも一匹だ。私たちの敵ではない」
「群れで攻めてくることだってある」
「しかし」
「村に災いが訪れた時、お前はその責任を取れるのか」
「……」

私が押し黙ると、彼は首をもたげて不安げな表情を私に向けた。
私と彼の間には言葉がない。
しかし、彼の潤んだ瞳を見れば、彼が今すがれる存在は本当に私だけなのだということを切実に痛感できた。
……大丈夫だ。そう言い聞かせたかったのは彼になのか、私になのかは分からない。
私が必ず彼を守る。きっとそれは、あの森の奥で、か細く助けを呼ぶ声を聞いたその時から決まっていた事だったのだ。

「仕方ない、それならば」

堅い決意をはらんだ私の声色に、集落の空気が刹那ざわついた。

「せめて彼の傷が癒えるまで、この村の離れで暮らすことを許してほしい。そして、彼の回復を待って……」

異様な空気に彼が怯え、体を私にぴたりと沿わせる。
私はその小さな頭に頬を寄せながら、残りの言葉を静かに吐いた。

「私はここを出ていく。そして彼が二度とこの村に足を踏み入れぬよう、この身をもって寿命の終わりを見届けよう。……先に私の寿命が尽きるのであれば、彼を殺してでも。」

27923-729 竜と人間2/2:2012/03/27(火) 12:44:42 ID:uDh3kQ7.
忽ち豪豪とした非難の嵐が私と彼を襲った。
ある者は目を剥き血管を浮かせ、ある者は私に襲いかかろうともした。
私の一族は代々その高い誇りが支えていた。その名折れとなる私の罪は、それほどの罵詈雑言をもってしてもなお購えなかったのだ。
しかし、村長だけはただ一人静かに目を瞑り、やがて口を開いた。

「魅入られたか」

その深長な響きに、あれほどざわついていた場が波が引くように静かになる。
村長は群衆に向き直ると、鎮痛な面持ちで述べた。

「もう彼に私たちの言葉は通じぬ。こうなってしまってはもう終わりなのだ。どれほどの罵倒も、どれほどの迫害も彼の意志を動かせぬ」

村長は私に振り返り、言葉を続けた。

「それが、その生き物の魔性なのだ。最早私は、お前を仲間とは思わぬ。傷が癒えるまでだと?甘い、今すぐここから出ていくがいい」

私は彼を抱えたまま、迷いなく踵を翻した。
だがその背中に投げ掛けられた言葉は、その後いつまでも耳に残り続けることとなった。

「ただ……それがお前だったのは残念だったよ」



彼の息はまだ浅い。そうだ、泉を探そう。そこで、薬草を摘もう。……この前足では上手に拾えないかもしれないけれど。
私たちは彼の一族のように涙を流すことができない。しかし、張り詰めるように引き結んだ眉間に何かを悟ったのだろう、彼は柔らかい薄橙の前足を私の頬に添えてくれた。

「……哀れんでくれるか。なら……」

あぁ、きっとこの言葉は彼には理解できないだろう。
しかし私はまるで先程の彼のように、一心にすがり求める存在だった。ただただ、救いが欲しかった。

「お前たちの一族がするように、愛や誓いの……印がほしい」

少しの沈黙の後、彼は小さい花びらのような唇を私につけた。

28023-739 ツンデレの逆襲 1/2:2012/03/30(金) 01:22:39 ID:/BiUw3/w
(同じく規制でした)


「受野さん、とうとう俺たちも卒業ですね」
「そうだな。これでお前との鬱陶しい毎日ともおさらばだ」
「何でそんなこと言うんですか!俺はこんなに受野さんが好きなのに」
「それが鬱陶しいって言ってるんだろ。言うにつけてはやれ『受野さん好きです』だの『受野さん愛してます』だの……」
「だって、本当に好きなんですよ。言ってるでしょ、入学式であなたを見た時から俺は」
「その話も聞き飽きた。何度お前に愛を囁かれてもだ、とにかく俺は……」
「受野さん……」
「……いや、いい。何にせよ、この話をするのも今日で最後だ。今日ここで、俺はお前との関係に蹴りをつけようと思う」

そう言って受野さんが指を鳴らすと、突如物陰から大勢の男達が現れた。
ラグビー部や柔道部で見た厳めしい顔や、逆に学校では滅多にお目にかかれないような筋金入りの不良までいる。
中でも背筋を震わせるのは、皆が皆俺を見ては嫌な笑みを浮かべたり、指を鳴らしたり、ポケットからナイフを出し入れしたりしているところだ。
遠くには、黒塗りの車で乗り付けてこちらを伺っている者もいる。
似たような情景を、俺はテレビや小説で見たことがあった。これは……『御礼参り』だ。

28123-739 ツンデレの逆襲 2/3:2012/03/30(金) 01:26:11 ID:/BiUw3/w
「はは、お前のような馬鹿でもさすがに察しがつくようだな。」

受野さんが、見たこともないような鋭い笑みを浮かべて呟いた。

「そうだよ、今日だけのためにこれ程の人数を集めたんだ。なぁ……いい加減理解できただろう。俺はな、お前が鬱陶しくて堪らなかったんだよ。」
「……それは……」

喉がカラカラに渇き、指先が冷えて震える。
今すぐにでも膝をついてしまいそうな絶望は、果たして自分が私刑を受ける恐怖からか、それとも此ほどまでに受野さんに嫌われていた現実からだろうか。

「これでようやく言えるよ。攻山、本当はな……」

不良の一人がナイフを構えるのが、目の端に映る。
受野さんはゆっくりと息を吸い、叫んだ。


「俺の方がずっと好きだったよ!!」


……え?
固まる俺。
崩れ落ちる膝。
歓声が上がる暴漢の群れ。

狂喜乱舞の騒ぎの中、当の受野さんは耳まで真っ赤になりながらなおも言葉を続けた。

「それが何だ!お前は口を開けば好きです愛してますと!鬱陶しい、まるでお前の方がずっと俺を好きみたいじゃないか!そんな事は断じてなかったのにだ!」
「鬱陶しかったよ!最高に鬱陶しかった!俺の気も知らず遠慮もなしに気持ちを伝えてくるその不躾さも!その割にいつまでも敬語で話しかけてくる腰の低さも!……いつまで経っても名前で呼んでくれない余所余所しさも……」

そこまで言うと受野さんは少し涙声になり、ぐすりと鼻を鳴らした。
すると、受野さんの後ろに控えていた屈曲な男達は急に静かになり、小声で「がんばって!」「もうちょっと!」などと応援し始めた。……まさか、この男達は御礼参りのために呼ばれたのではなく……


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