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【第1回放送〜】平成漫画バトル・ロワイヤル【part.2】

20『徘徊老人かな?』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/16(月) 18:00:04 ID:kOdSzS8M0

 ヘビが来るからやめろ、と親に咎められたことがある。




「〜〜〜♪」


 覚えたての口笛でミッキーマースマウチをぴゅ〜たら吹いたあの夜。
当時小学生だったアタシは、ヘビがなにより怖くて昼ですらもぴゅ〜ぴゅ〜〜吹くのをやめてしまった。


──もっとも、表玄関に広がるは田んぼ、裏玄関からは山が立ち塞がるド田舎住みだったもので、妙なリアリティがあったんだけども。




「…これでアタシは闘え、と…? ヨーヨーで?」

 暗い森…いや、山の中で。
古びたベンチに一人座りながら、アタシはヨーヨーをギュルギュル回していた。
バトル・ロワイアルだかなんだか知らないが、どうやらこの玩具が『支給武器』とのこと。


「スケバン刑事かよッ…」


「……………」

「…殺し合いって割とマジな感じでやると思ってたんだけど…、案外ほたるちゃんクオリティなわけ??」


あのグッダグダでボンクラなオープニングセレモニーらしいっちゃらしい、ポンコツ武器とは言えるけど。
念の為、他の人に会うまで緊張感は解かないようにすべきとアタシは考えた。


「〜〜〜〜♪」

…と、思いつつも。
同じく『支給品』であるフエラムネを吹くことはやめられない。
ボンカレーだのオロナミンだのボロボロなポスターが、木造りの塀にビラビラ貼られる昭和の時代から、今でも駄菓子の重鎮として君臨しているこのフエラムネ。
アタシのデイバッグには、そいつが何十パックもぎっしり入っており、あとはおまけの玩具が如く支給武器があるのみだった。
仮に、この殺し合いが『マジ』なやつだったら、アタシは大ハズレ引いちゃってるわけで。
ダークもいいところのお先真っ暗であった。


「〜〜〜♫ …いや、ほんとに真っ暗じゃん…。今いるここも真っ暗過ぎ…」

 目の前の崖からは渋谷というメトロポリスの輝かしい光が映える。
ただ、光と影というか…。
アタシの周りは木々で囲まれてめちゃくちゃ暗い。
『とな□のトトロ』で、夜にバス停で待つシーンがあるんだけど。
あれからトトロと雨とネコバスの登場を省いた場所まんまを移してきたのが、今いるここ。つまりは、ホラーだった。
…そいえば、メイとサツキは死んでる…とかゆう怖い話あったなぁ。


「〜〜♪」

 恐怖を紛らわす為に、アタシはひたすらフエラムネを奏で続ける。
ぶーーんぶーん、と時折耳の近くを通過するベース担当がなんとも煩わしい。
カナブンか、カメムシか、…Gかは知らんけど、ただでさえ露出の多い肩とか脚には止まってほしくないものだ。
…あーー、気持ち悪いっ。
とにかく、今はアタシのソロパートなんだ。
お前ら羽虫は邪魔してくんな、と声を大にしてアタシは言いたい。言いくるめたい。


「〜〜〜♪……」


そして、とにかく今いる暗い山が怖くて仕方なかった。


 …こっえーー。
こんな時に限って、脳内ではどう森の『うたたねのゆめ』が無限リピートしてくる…。
朝、早く来ねーかなぁ。
今の季節からして日の出は四時くらい、か…。
それまでの耐久となると…、まぁ頑張れなくもない気はするけど。

21『徘徊老人かな?』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/16(月) 18:00:36 ID:kOdSzS8M0
「………………てか、今何時か分かんなくない…?」

あいにく時計台らしいもんは見当たらないので、これは随分と精神的長丁場になりそうだった。




「…〜♪」



 夜中に口笛を吹いたらヘビが来る──。

…だなんてのは、さすがに今では迷信だと分かってるし、信じちゃいないが。
調べたところによると、空き巣や泥棒仲間のコミュニケーションの一環で口笛がされるらしく、タブーになるのもそういう理由があるからと知った昨今。
か細い笛の音色が、木々に浸透する夜にて。

後々、アタシはフエラムネを吹いたことを激しく後悔させられることとなる。



ガサッ


「…ブフォッ!! ひっ、ひぎっ!!!?」

 少し離れた草むらから、パーカッションが発せられた。
アタシの情けない声とラムネが、ポンと口から飛び出る。
イノシシか、シカか、…参加者か。
どれにしろ、心臓はとんでもない勢い加速して、全身は凍りついたみたいに動けなくなってしまう。


 ガサ…
   ガサッ ガサガサ…



 ザッ、ザッ、ザ


「…………、ぁ………………。………っ」


 ギギギ、と無理やり動かすように、アタシは砂利が踏まれる音の方へ首を向けた。恐る恐るに。
街灯もない山道だ。
目が慣れなくてはっきりと確認できなかったが、人形の影がヨロヨロと徐々に大きくなってくるのが分かる。
そいつは、間違いなくこちらに近づいている…。

 もし、そいつが幽霊や妖怪だとしたら。
──泡を吹いてぶっ倒れるくらい直感的に怖い。アタシはホラーが大の苦手だ。

 もし、そいつが人間だとしても。
──殺される可能性はやっべーから怖い。

 二つの未知なる恐怖が螺旋のように絡み合って、恐怖のピークに達する寸前のとき。
そいつは、既にベンチのすぐ近くへと歩き切っていた。


「……ぁ、あ…………。ぁあ…ひっ……………………──」







「──…あ?」


 そいつは、持っている杖をピタリと止め立ち尽くす。
いかにも高級そうな気品高い和服を着たそいつは、ボリボリと人差し指で頬を掻く。
シワだらけの年季が入ったその頬。
続いて、鼻の下に伸びる三日月のヒゲは真っ白で、…というか髪の毛も何もかもが白髪染めであった。
ヨボヨボと杖を持つ手を震わすそいつと目が合ったのは、しばらく眺めて十数秒後。
ごわついた声で、なおかつ独特なトーンと間を置きながら、そいつはアタシに向かってニタニタと語りかけるのだった。

22『徘徊老人かな?』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/16(月) 18:00:48 ID:kOdSzS8M0
「…血沸き………。そして、肉躍る…………、狂宴………!!」


「ワシの細胞を活性化させるような……クズ共の生命の奪い合い……!!」

「ワシはこれが見たかった…。これが……!! 破滅…絶望…死………! これこそが、愉悦となる娯楽、と………!」



「そうは思わぬか………? …小娘……!」



────悪魔が来りて笛を吹く。
────『悪魔』を呼び込んだことを、まだ知らなかったアタシはこの時、ボソリと呟くことしかできなかった。




「…徘徊老人かな?」

23『徘徊老人かな?』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/16(月) 18:01:04 ID:kOdSzS8M0




「のぅ…、小娘…………!」
「ワシは、自分のことを『聖人』だと思っている……………!!」


「…え? …あ、何か言った? おじいちゃん」

「カカカ……っ!! 崇高たる『王』という者……。普通は下々の前には姿を現すわけにはいかん………っ。いかんわけじゃが…………っ!!」
「ワシはこうして現れとる……。貴様の眼の前に…!」

「へ? へ? は、はぁッス」

「貴様が今五臓六腑に感じているじゃろう……、ワシの圧倒的優しさ…! このワシを『聖人』と言わずして誰が聖人じゃっ…?!」


「ククク……っ」
「カーカッカッカッ!! クキキ…! カーカッカッカッカッ!!!」


 …うわぁ。
こりゃ相当症状進んでんなあジイさん。
ネタで認知症扱いしてたわけだが、もしかしてガチで介抱しなくちゃならないわけか?
カツ、カツ…と隣の杖が砂利を蹴る。
今、アタシはじいさんと話しながら、暗い山を降ってる途中だ。


「しかし、まぁ……。小娘、貴様とこうして歩くのも…、また悪くない………!」

「…んまぁー、傍から見たら孫と祖父のお散歩ですからねー」
(──…迷惑老人を連れ戻す家族とも言えるけどなッ!)

「うむ…。価値はないに等しいが…、これもまた僥倖……!」
「……ワシの息子に和也というのがおるんじゃが………。ヤツめ、親の気持ちも分からずして、未だに子供を作らん………っ!」
「とどのつまり、『孫』という幻想を追い求めて彷徨ったら…、貴様と出会った……! 小娘、ワシはそう考えとる…──」

「──のう、小娘よ……!」


 …しっかし、
ジイさん口悪いにも程があんだろ。
この全ての人間を軽蔑し見下した態度…。
うちの学校の東大卒の高圧的教師思い出して、カチンと来ちゃいそうだ。
ボケる前は皇族か財閥の長でもやってたんか?
妙に人馴れしてないというか……、小娘小娘ってうっさいつーの!


 …にしても、このじいさん。
顔を合わせるたびにどっかで見かけたような感じがあるんだがー……。
なんだっけな。


「いやつーか…、小娘呼ばわりやめてくんないですか?」

「……………あ? あ〜〜〜〜〜〜〜〜っ………?」

「アタシにも一応名前あるんでー…。なんつか、名前呼びのほうが親しみあるじゃないスか?」

 うおっ。
じいさん、眉毛の角度がジワジワ上がってってる…!
ここまですっげえ露骨に不機嫌な顔するとか有り得ね〜〜。
と、いうわけでアタシは間髪入れず『自己紹介』を差し込んだ。

「アタシ『遠藤 サヤ』っつーんで」
「続けて読んだらエンドウサヤ〜だなんつって…!」


「…………あ…?」


「まぁ遠藤とかで呼んでくれればいいですよ。…『小娘』よりは」

「……エ…、エンドウ……っ」

「あぁそう。そんな感じで。…あっ、うちにはアニキがいるんスけど、そいつの名前は『遠藤 豆』だから、」
「うちら豆兄妹じゃん…! とか…。なんつって…ハハ」

24『徘徊老人かな?』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/16(月) 18:01:33 ID:kOdSzS8M0
「………………」



「クククッ…………」



「キキキ…! グキキキ……!! カーカカカカカカカ!!! ククク……!! カーカカカカカカカ……ッ!!!!!!」


 あっ、じいさんウケた。
人が変わったかのような大爆笑っぷり……。

…おいおい…。
どんだけウケてんだよ…。


「面白い…!! 素晴らしい…!!! カーカカカカカカ…!! ギギ…! カーカカカカカカ!!!」


 おいおいやべぇーよ…。大喝采じゃんか…!
マジでどんだけ………。

ってか、今のしょーもない小ネタでこんだけウケるって…。
もしかして、アタシ…、笑いの才能が密かにあっちゃったり…?
だとかして………??

へへへ…、
へへへへへ…!!


「やはり庶民のジョークはゴミじゃな……!! つまらなさすぎて逆に傑作………!!」

いや死ねよジジイ!


「くふっ…! くふっ…! ……早くワシについてこい! 小娘…!! このグズ…っ! マヌケ…っ!!」


「…………………………………」


 ………。
…あー、こいつ早く心筋梗塞とかで死なねーかなあ。
…はぁ、やだなぁ。
本家に住んでるおばあちゃん……。
こんなボケ方だけは絶対にしてほしくないなぁー。
まだまだ現役でいてほしいんだけど、人間って加齢に弱い生き物だし。
あー、来たる未来が恐ろしくて堪らない…。


「…見ろ……っ! 小娘…」


 …おばあちゃん、あんなでっかい家に一人暮らしだから、いずれアタシらが面倒見なきゃならないんだけど。
そうなった時…、もしもそうなった時はやっぱり『駄菓子』…だよな。
糖分の積極的摂取はボケの予防に良いって、ナンタラの医学で紹介されてたの見たし。
アタシ自身駄菓子にはあんま興味ないけども、そうとなると、暫くココノツのお世話になっちゃう感じか。
……ココノツのお父さん…、駄菓子のことになると早口になってめちゃくちゃ苦手なんだけども…。我慢して通いつめる他ならないわけで。
 あっ。あと適度なカフェインは長生きの秘訣らしいから、毎朝淹れてあげるのも心掛けるか。
サヤ・ブレンドの特製珈琲〜。
取り寄せた厳選豆に、工夫されつくしたお湯の熱さと、香りを寸前まで際立たせるコーヒーカップ。
ほろ苦い薫りを楽しめる遠藤喫茶でしか飲めないあの珈琲を、毎朝手軽に家で飲むことができるなんて…。
そりゃおばあちゃんもきっと喜…、


「見ろといってるじゃろがっ…!! 制裁っ!!」

────ブンッ!


「うおわっ!!!」

だなんて考えに耽けていたら、ジジイの野郎いきなり杖をアタシに向けてぶん回してきやがった!!!
やば!!?

「…クソジジ…、おじいちゃんいきなり何すんのっ?! 危ないでしょうがぁ!!!」

 間一髪、仰け反ることで回避したけど…。
当たったら顔に傷物だったんですけどっ?!
なに制裁って?!?
デンジャラスじーさん過ぎんでしょ?!!
…これで常にジジイに意識向けて注意しなくちゃならなくなったし…。
絶体絶命しろや!!てめーー!!!

25『徘徊老人かな?』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/16(月) 18:01:53 ID:kOdSzS8M0
「チッ……。クズが…っ!」
「あれを見ろと言ってるのが分からんかっ…!! 小娘……っ!!」


あ?!
謝罪の言葉もなしに何いってんの??
…と思いつつジジイの方を見たら、杖を夜景に向けてツンツン指しながらグギギギ…歯ぎしりを鳴らしていた。

「…こ、こいつ……………」

「小娘よ……、あの一番デカいビルがあるじゃろ」

「いやどうでもいいわっ! …とにかくその杖危ないから貸し──、」

「一応説明すると……、あれは『SHIBUTANI SKYA』……!」
「確かに……、確かに…ワシの所有するビルに比べれば、豚小屋同然の……っ!! 小さき建物に過ぎん……! チャラチャラした若屑共が入る………ウドの大木………!!」

「いや話遮るなし!! てかビルがなんなわ──、」

「じゃが、…今は贅沢を言えん……っ」
「ワシはあの高い展望台から、ゴミめらが潰し合う様を眺めたい……。安全な場所から…、外界を見渡したい……っ!!」

「…聞いてねぇーーしぃ〜〜〜〜…!!」


 …。

 ん?
つかジジイ何を言いたいわけなんだ…?こりゃ。
シブヤスカイどうたら〜って……、要するにあのすっげー遠くで、一番存在感を出してるビルのことなんだろけど。

…それがどうしたって…?

 こっから歩いたとして一、二時間じゃ到底着かないような場所に立っているんだけども…。
それに、今仮にも殺し合い中で不要な出歩きは控えたい場面なんだけども……。
それを踏まえた上でさ………。

どうしたいって…?


「ただ、年寄りには無理のある距離であることは事実………。これだけ歩いたら……、いわしかねん………! 腰を……!」

…だから、どうしたい、と…?


「じゃから…」

だから…?



「小娘、ワシをおぶさって連れて行け……っ!! 言うなれば人間競馬………っ、」

「…これぞまさしく、『ウマ娘』………っ!!!」




「……………」




「…ククク……っ。キキキ……!」

「あは、はは…」


「キキキッ…?」

「はっ、ははは…?」



「カーッカカカカカカカカ!!! グキキ…ッ! カカーカカカカカカカカカカ!!!!」

「はは…! あーはははははははは!!! おじいちゃんってば…! あははははは!! はは、は…」



「ふっざけんなよクソジジイ──────ッ!!! 図に乗るのも大概にしろオオォーー!!! バカにするのも程があんだろオ!!!! やんねぇーーよ!!! 死ね────!!!」

「あ? あぁあ?!? あぁーーー??!」

26『徘徊老人かな?』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/16(月) 18:02:09 ID:kOdSzS8M0
 冗談じゃねーこと言いやがったなァ!!このジジイが!!!
さっきから黙ってりゃ何様だっつーの!!
一人は怖いから、って理由で黙ってついてきたけど…、アタシはお前のお守りロボットじゃねぇーーよ!!!


「がっ……?! ど、どこに行く……!! 戻れっ、小娘………!!」

「もうっ! 限界だしっ!! 戻れってアタシゃピカ□ュウじゃないわ!!」

「なんじゃと?! ヒカシュー……?? ……制裁!! 制裁ーっ…!! 乗れ!! …焼き土下座…!! こっちに戻れ!!」


 あーあー!
『制裁』大好きっ子だなおいっ!!
どんだけ傲慢なジジイなんだよ。ったく…!
もはやこれはジジイとアタシを引き合わせたゴミ主催者にも責任があるわっ…!(…いやそいつは元から元凶だけど…)
とにかくさっさと一人で下山して、警察呼んでもう終わらせるわ。
ワガママなだけならともかく、傲慢で人間を馬鹿にしきったその目、あと特にやばすぎる暴力衝動…!
ちょっと意に沿わないぐらいで簡単に杖突いてくるとか付き合いきれんわ!!
こんなジジイに耐えられるわけないっつーの!!

「おいっ…!! 小娘……」


うるせー!
一人で山ん中埋まってろ!ボケジジイー!!

 …こんな酷い人間性のヤツ生で見るの初めてだわ。
テレビやニュース記事ではこういう腐った奴は見かけるけど、ここまで癪に障る老人ってのは唯一無二ってくらい…。
例えるなら、ワ□ミとか電□とか。
そういうブラックなやつらと同じような不快性の毒物だわ。
あとは、経営者でいったら帝愛とか、そいつらみたいな傲慢で最低な…………、






……。





『帝愛』………とか…………………?






「…わっ」

 ボスッ、と足元に何かが落ちた。


 突拍子もなく、急に。
ただ、誰がそれを投げつけたかは理解できる。…背後のジジイだろう。
サンダルの爪先に放り投げられ落ちた、その『何か』。
そいつが持つパワーは、アタシの歩を止めるのに十分すぎる力があった。

「…チッ、ゴミめが………」

「そいつをやるからさっさと戻ってこんかい…っ!! このアホが……!」


 アタシが拾い上げたその何かは──百万円の札束。
諭吉の金太郎飴がズラーーーッと並び尽くす。


正直、めちゃくちゃ悔しかった。


「ったく……。これじゃまるでお年玉だわいっ………。カスめ……っ!」


 今、思い出した。
コイツ悪名高い帝愛のトップ看板じゃん、と。
ネットでは有名なブラック会社だからアタシも知っている。
名前は確か……、『兵藤和尊』…。
クソジジイの名はそれだ。

27『徘徊老人かな?』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/16(月) 18:02:23 ID:kOdSzS8M0
 大企業の頂点に君臨する富豪だから、百万など本当にポケットマネーなんだろう。
悔しいし、イライラでいっぱいだった。


──だがしかし、ここは資本主義国家だった。



「おじいちゃ〜ん! さっきはゴメ〜ン!! あそこまででいいんでしょ? ならさっさと行こっか!! ねえ〜〜! おじいちゃん」


「フン…、早く来い……!」


 あぁ、悪ぃかよバッキャロー。
世の中金だよ!
金が全て!!

28『徘徊老人かな?』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/16(月) 18:02:41 ID:kOdSzS8M0




コクリ、コクリ…と涎を垂らし眠りこけるジジイに殺意を抱きながらアタシは草木を踏み続ける。


「はぁ…はぁあ………、はぁ……」

「チィッ…、まだ………まだなの…………」


 子泣きじじいめ。
思いっきり夢の中だろうに、手足だけはガッチリとアタシにホールドしたままだから体力的にめちゃくちゃキツイ……。


「ぐうっ……。はぁ、はぁあ…………はぁ……」


なんで…。


何でアタシがこんな目に遭ってるつーんだよ…。


 よくよく考えれば戦闘向きでもなく人も殺したこともない。
そもそも体力すら人並みではないというアタシが……。
何故こんな殺人ゲームで、しかも無駄な運動をさせられているんだ………。


「んぐっ……、きっつぅ………。はぁ……はぁはぁ、はぁ……………」


汗が目に染みて、いってぇ…。

どうせぶち込むなら…、ココノツとかアニキみたいな男にやらせりゃいいのに……。




「……いや、冗談でも……。はぁ、…そんなコト考えちゃ…だめだよな……」


 特にココノツは、ちょっぴりエロス走ってるけど、優しくて体が強くて、芯があって。
駄菓子のことになると、夢中になって歴史なり食べ方なりを教えてくれてさ。
顔はイケメンの部類ではないんだろうけども、あいつとベンチで座って食べる麩菓子が。

麩菓子の先の部分の特に甘みある部分が、夏の夕暮れ時にはなんだか甘酸っぱくて。
あの味がすごく好きだったから、軽い冗談でもそんなこと思っちゃいけないや。

…アタシは。絶対に。



「どうせぶち込むならアニキにやらせりゃいいのに………はぁ、はぁ……」


熱さでフエラムネはベッタべタになってるであろう中、闇夜の蛇道をひたすら下り続ける。
そんな十五歳の夜の話。




【1日目/D7/渋谷山/AM.00:41】
【遠藤サヤ@だがしかし】
【状態】疲労(重)
【装備】あやみのヨーヨー@古見さん
【道具】フエラムネ10個入x50、100万円札
【思考】基本:【静観】
1:金のため兵藤さま(クソジジイ)にご奉仕
2:SHIBUTANI SKYAを目指す
3:クソジジイには死んでほしいと思ってる

【兵藤和尊@中間管理録トネガワ】
【状態】熟睡
【装備】杖
【道具】???、懐にはウォンだのドルだのユーロだの山ほど
【思考】基本:【観戦】
1:展望台の頂上から愚民共の潰し合いを眺める
2:小娘(サヤ)を道具として利用


※この小説はフィクションです。実在の場所や場所、場所などとは関係ありません。

29次回 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/16(月) 18:04:52 ID:kOdSzS8M0
 ”叱られた腹いせに親の顔に唾を吐いて、またこっぴどく叱られた。”

 ”その時、おばあちゃんが自分を庇ってくれた。”


 ”そんな夢を見た。”


 ”────夢でもし会えたら、素敵な事ね。”


────『夢で逢えたなら…』

30 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/17(火) 20:32:52 ID:pdOpVO3g0
[登場人物]  [[根元陽菜]]、[[ヒナ]]

31『夢で逢えたなら…』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/17(火) 20:33:44 ID:pdOpVO3g0
無人の渋谷。
まるで終末世界に彷徨い込んだみたいで、ちょぴっとだけワクワクしながら私は歩いていた。
…あっ、『私たちは』だ。

ふと隣のヒナちゃんから話しかけられる。


「ねぇ陽菜、スマホちょっとかして」

「…いいけどー。何に使うの?」

「ガンガンアプリの更新時間だから。あとユーチューブでジョ●ョ見たい」

「…………はいっ──…、」




「──あっ!! 絶対検索履歴だけは見ちゃだめだよ?! 絶対だからねっ?!」

「?? えっちなサイトでも開いてるの?」

「……っ!! ──……い、いや開いてないけどさぁ……………。とにかく絶対だからね?! 指切りげんまん!!」

「はいはーーい。嘘つ〜いたらー、針千本&陽菜ビンタ〜〜」

「……さっきのビンタに変な技名つけるのやめて?!」



 スタ、スタスタスタ



  スタ、スタスタスタ……



   スタ、スタスタスタ


「ふんふふふ〜〜〜〜〜〜〜ん…」


「あっ、ところでヒナちゃんさっきの────…、」



 『あぁぁぁああぁぁぁあんっ!! んっ……! んじゅっ、じゅぷぷぷ……!!』

 『じゅぱっ……、じゅっぱ……! …はぁ、んんっ………! あぁ、ん…………!』

 『あはは…んっ! いっぱい出たね……! はぁ、はぁはぁん…………。じゃ、今度は、はぁ……、私の濡れちゃったところで…本番……しよっか……?』

 『あんっ……! あ、あぁん……、あんあんっ!! あぁんいやぁあんっ…! お●んぽが私のお●んこにぃやん………!! 凄く入って……こんな…ぁんっ!! こんなのオ●ニーじゃぁ…味わえないよぉっ!!』

 『んほおおおぉぉぉぉぉ♡♡♡ すごいすごぉおおおおぉおぉおぉぉおい♡♡♡♡妊娠確定っ!♡ 出産覚悟!!♡♡ 感度5000倍なんのぉぉおおおおおおおっ──────────────っっっ!!!!!!!!???????!!!!』



  『んほおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!♡♡♡♡♡♡』

 
    『んほおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!♡♡♡♡♡♡』


      『んほおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ………♡♡』








…クロから知ったえっちサイトのmp3が、山彦の如く会場全体に行き渡った。
深夜一時ちょっと過ぎの、そんなお話。

32『夢で逢えたなら…』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/17(火) 20:34:02 ID:pdOpVO3g0



✝Episode『夢で逢えたなら…』✝
──Oral sex master/Nemoto Hina Matsuri.

33『夢で逢えたなら…』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/17(火) 20:34:22 ID:pdOpVO3g0



……
「殴られるたび右目がどんどん腫れていく。ゆゆしき事態だこりゃ」

「いやヒナちゃんが九割過失だからねっ?! そらビンタやり慣れてない私も一割悪いけど…一割だけだよっ!!」


 はぁ、はぁ………。はぁ……。

──…っ! べっ別に喘いでるわけじゃないからね??! ほんとに!

…内容はともかく、大音量を流しちゃったから大慌てで走り出した私ら二人。
肺活を鍛えたいからランニングを欠かせない私だけど、結構な距離走ったからだいぶ疲れた………。
もう、なんなの………。ヒナちゃんは…。
押すなよ絶対押すなよ芸でほんとにやっちゃう人…割と初めて見た気がするよ…。


…で、

「ヒナちゃん…。さっきからなにしてんの??」

「自販機」

「…自販機…でっ!! なにしてるわけ??」


…まぁ聞かずとも何をしたいんだが一目瞭然だけどさぁー……。


「おなか空いた。でもわたしはお金がない。陽菜も(…エロサイトで金使ったから)ない。だからあさってる」

「…小声の部分だだ漏れだからね??」


はぁーあ……。
とんでもない意地汚さ。それに周りの目なんか気にしない大胆っぷり。
一年の頃、ボッチだったクロがやりそうな行動じゃん……。
この子、スクールカーストが浮き彫りになる中学高校に進学したらやっていけんのかな。


「あっ、五百円みっけ。超能力で、ほい〜〜〜〜っと」

「バカみたいな力の使い方……」


 …あっ、ちなみに。
逃げ走った先──今私達がいる場所は、なんの変哲もない横丁。
…『なんの変哲もない』…はちょっと違うか。これはあとで説明するけど。
周囲は立ち寄りやすいチェーン店やファッション店が軒を並んで、対岸沿いには噴水が存在感をアピール。
ロッテリアのすぐ近くにはダイドーの自販機があって、そこに私たちはいるって感じ。
ほんとにいつも行くような代わり映えのない町並みなんだけど、ただ一つ異物が混じってて…。

自販機の周りは、『御札』がびっしり埋め尽くしていたんだよね…。

……ごめん、変な言い回ししちゃった。
霊的な話じゃないからとりあえず安心して…みたいな。


「『みんなの願いが敵いますように。 今江』────短冊、かー…」


殺し合いショックで忘れかけてたけど、今日は七夕。
みんなが心の底からの願いを、一部の人は大喜利チックに面白い願掛けを、笹に吊るす日。
何があったかは分からないけど、とにかく地面には短冊がいっぱい落ちていた。

織姫と彦星、会えたかな?、と。
ふと夜空を見上げてみれば薄透明の青いバリアが星を覆い隠す…。
願うことなら、殺し合い脱出させてください〜!って頼みたいくらいだ。
大喜利でもなんでもなく、心の底からのマジな願いで、ね…。


「…ちょっと思ったんだけど、ヒナちゃんの超能力使えばワンチャン脱出いけるくない??」

「えー。あっ、むりむり。あくまで念動力だけだから。…ルーラつかいたいなぁ〜(ガサゴソ」

「無能力じゃん…」

「それよくいわれる」

34『夢で逢えたなら…』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/17(火) 20:34:42 ID:pdOpVO3g0

「……軽い雑談だけどさ。ヒナちゃんさー、願い事書くとしたらなににするー?」

「ねがいごと??」

「うんー。私の学校でも七夕イベントあったんだけどさー、友達がウケ狙いで恥ずかしい願掛け書いてー。しかもヤバい担任のせいで一番目立つ位置に吊るされたから顔真っ赤にしててさー。…はははー──」

「──ヒナちゃんはある意味それを超える願望ありそうだから気になるんだけど。…なんかある?」



「……………………う〜〜〜〜〜〜〜〜ん」


…ちょっと予想タイム。
……うーん。どうせ『イクラ食べたい』とかそんなのでしょ?


「いくらたべたい」


えー…、私なんかテレパシー使っちゃいましたー?<(^_^;)(なろう主人公風〜…)



「あと、とんかつ、ラーメン、おにぎり、カレー、味噌汁、コーラ、フランクフルト、ドーナツ、ぎょうざ、ハヤシライス、ガパオライス、キャベジンと〜〜」


うわっ、食欲全開だなぁっ!!
こんな感じの戦時中特攻兵の辞世の句あったなー………。
…てかどうせキャベジン食べたいならもっと食前にでしょっ。


「…やきとり、メンチカツ、すじこおにぎり………あと〜〜〜〜〜〜〜〜〜…、」




「はらが、減った………………」


「……………」



 ポン

  ポン


   ポーーン………………


って孤●のグルメかっ!!
──…クロと付き合うせいで変な作品の知識増えてくなぁ…私。



「…はぁ、じゃあご飯にしよっか…。…一応私普通にお金持ってるからね?? 普通にっ!」

「まじ? やったぁ〜やったぁ〜〜〜〜」

35『夢で逢えたなら…』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/17(火) 20:35:13 ID:pdOpVO3g0




ロッテリアでいいでしょ。
テキトーに。

…それにしても、券売機押すだけでほんとにハンバーガー出現したからちょっとビックリ。


「うまいな。うまいうまい。エビバーガーうまいな。ポテトもうまい」


 店内のテーブル席にて、私はヒナちゃんの食べっぷりをただ眺めていた。
…一応言っとくけど、お金ないから自分の分は買わなかったわけじゃないからねっ??
ほんとにエロサイトにお金注ぎ込んだりとかしてないから…!


「ズズーーッ。…うん、やっぱりハンバーガーにはスプライトだな。うまいうまい」

「…ヒナちゃん『旨い』以外に感想思いつくー?」

「……………………………? うまい、うまい」


ヒナちゃん、深刻なボキャブラリー地獄の様子だ。
まぁ何でもおいしいおいしいって食べれる人って心から幸せそうだし、いいんだけどね…。



…。
ストローにふと口づけ。
手元のアイスティーを飲みながら、私はちょっと思い吹けていた。


──……実は今結構メンタル的に重い感じでいたりする。



「…はぁ…………。──小宮山さんに吉田さん、内さんと…田村さん……」



 同じく手元の、『参加者名簿』を読んで、無意識のため息が漏れ出た。
ついさっきまで知らなかった…私の知り合い達が殺し合いに巻き込まれている、事実……。
ランダム無作為なバトロワ放り込みと考えてたから、この確信犯的な名簿は何よりしんどかった。
…これ括りとしては、私含めみんなクロの友達……なわけで。

 ──どうしてクロをスタンスにバトロワを行ったの?

とか。

 ──じゃあなんで肝心のクロは不参加なの?

とか。
色々疑問が頭を駆け抜けていく。



…その中で脳内に一番留まり続けた疑問が。



 ──この四人と、もう永遠に会えなくなるってことなの………?







「…………うまい、うまい、うまいうまい」



 一年生の頃はここまで深い関係になると思ってなかった──田村さんたち。
…ハハ。そうだった。
思えば、たった一年とちょいくらいからしか友達になって経過してないというのにさ。
ほんとに、初めて会って、あんまり月日経ってない女子たちだというのに。

36『夢で逢えたなら…』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/17(火) 20:35:28 ID:pdOpVO3g0
こんなにも悲しくて。

辛い気持ちになるなんて。


…びっくりだよ。



……ほんとに、さ。





「…え。陽菜……、………………ハンカチいる?」


……。



「えーなんで? いらないよー…ヒナちゃん……」

「だって」

「…んー…?」

「かお伏せてるけど、ばればれだよ………?」


……………。


「………なにがー………?」


「……わたしもさ、同じだから。新田に瞳にアンズ、あとマミ……………」




「………………」





「だから、ハンカチ…いる……? 陽菜……………」




……………気遣いしてきたヒナちゃん………。
顔を突っ伏して、目を腕枕で隠す私は、「いらないよ」と手振りでアクションを見せた。

視界は真っ暗瞼の内。




ふわぁあ……、と欠伸が聞こえた。
…そっか。
今超深夜だから…、ヒナちゃんにとってはそりゃ眠いよね…………。


…だから……、安心して一眠りしていいんだよヒナちゃん……。


縁もゆかりも無い私たちだけど……、護ってあげるんだから……………………。



私がお姉さんとして、ヒナちゃん…………………を……………………………………。






守りたいんだ……。

37『夢で逢えたなら…』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/17(火) 20:35:40 ID:pdOpVO3g0
私が…………………………………。




田村さん…たち……………………………………。







…バラバラになった四つのピースを………………………。







………全部…………………………………──────。

38『夢で逢えたなら…』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/17(火) 20:36:03 ID:pdOpVO3g0
……






 映写機のガガガガガガ…という音。
そしてそれが放つ光だけが目立つ。

暗い映画館にて、わずかばかりの人気を感じた。
見下ろしたら確認。並んで座る二人の女の子。
奇遇にも、彼女らは揃って黒髪のおさげヘアーだった。
…多分年はちょっとだけ離れているんだろうけど。

右に座る年上の女子。
……私の友達の、まるでアニメキャラってくらいに顔整ってて、そしてミステリアスな子──田村ゆりは、隣の知らない子の話を真顔で聞き流していた。



──絶対いると思うんだよっ!! みんながみんな、大人もクラスメイトもばかにするけど………、絶対存在してるから!!

────…ふーん。

──宇宙人は絶対いるよ!! そう思うよね? ゆりちゃん!!

──わたし、子供の頃見た映画で…。あれ以来UFOにとりこになったんだよ! …なんだっけな…。あっ、そうそう『プラン9 フロムアウタースペース』で!!!


────……………………!


──司令を受けた宇宙人が両腕をバシッバシッて自分の肩付近でやってさー! あれが「了解」ってアピールなんだよねー!


────それ私も知ってる。

──えっ?! ほんと!!

────チャリチョコのウンパ・ルンパの動きの元ネタがそれ。…私もプラン9好き。くだらなくても、内容が陳腐でも、作り手が熱意込めて作る洋画はなんでも好きだよ。

──…おおおっ!!! さすがゆりちゃん!! ね?? 宇宙人はいるよね!! ねえ!!

────…いるかどうかは何も言えないけど。…いると仮定して作った映画なら、これが一番面白いよ。



…そう言って指をさした先──スクリーンには『MARS ATTACK!!』のタイトルロールが。
UFOが飛び交い、キャストの名前を運んでいく。



──うわぁー!! UFOだ!! 火星人だ!! わーいわーい!!

────私的にチャリチョコ監督の最高傑作だと思ってる。B級だけど観て損はないから。うん、観よ。

──うんっ!!!



内弁慶な田村さんには珍しく、結構和気あいあいと話してる様子だった。
二つ結びが微風で揺れながら、楽しげに会話する二人。

私はそれをただ黙って。
黙って眺めていた。

39『夢で逢えたなら…』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/17(火) 20:36:18 ID:pdOpVO3g0
 なんでだろう。
何かを忘れている気がする。

ほんとは、一目散に階段を降りて。
そして田村さんに会って、無理矢理にでも一緒に動かなきゃいけない。
田村さんを…、なんだろ。
護らなきゃいけない…。


…だなんて、そんな気がする。


なんで? どうして?

そんな急がなくても明日学校で会えるのにさ。



どうして、今すぐにでも会わなきゃいけないって。




思うんだろ………………?




 ガガ────────ッ

  ガガ────────ッ………


………
……


40『夢で逢えたなら…』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/17(火) 20:36:33 ID:pdOpVO3g0




……
「た、田村さっ────!!!」



……あれ?


 …って、なんだ夢…か。

なんで夢の中に田村さんが……。
変な夢…。


「ってなんで私呑気に寝ちゃったの??!」


いや超やばいんだけど!!
殺し合い中だっていうのに、いつの間にやら寝ちゃってたし!!!
…目をゴシゴシ拭った私は、周りを慌てて見渡し始めた……!



「っ…………………」





「…………………あー、よかった……。誰もいないや…」


夢に落ちる前と変わらず、無人のロッテリア店内…。
幸いにも、私のバーディー──ヒナちゃんも全く怪我なく、ぐーすかぴーでヨダレを垂らして寝ていた。
…はぁー、よかった………。
多分疲れてたんだろな、私…。ほんとに奇跡モノじゃん、これ。


「って、ヒナちゃんそろそろ起きて!! …いや意識朦朧になってる時「寝ていいよ」とか言っちゃったかもだけど………。とにかく起きて!!」

「…むにゃむにゃ……。──んあーー?? おはよ〜……、陽菜」

「あっ、うん! おはよー。…とにかく、そろそろ出よっか!! …あーやば…。今何時くらいかな…………」


寝ぼけ眼のヒナちゃんを揺さぶりながら、私は時計の場所を目で探る…。

…あっ、今……『am.3:02』………??
やばっ、一時間くらい寝てたってわけじゃん!!
何してんだ…!! 私…っ!!!


「う〜〜〜〜〜〜〜ん…。やっぱ深夜のどか食いは眠気にくるな」

「…その節は私も悪かったよ…。とにかく店から出るよ! ヒナちゃん!!」

「…おっけ〜〜。らじゃー。──…ところで陽菜〜。私さっき面白い夢見たよ〜」


…このタイミングでしょーもない話 してこないでよっ!!
私はヒナちゃんに一応顔を向けつつも、デイバッグを肩にかけ席を立ち始めた。


「…なに? 後ででいいでしょ。その話──…、」



「不気味な映画館でさぁ、私のクラスメ〜トのマミが知らない女と話してて〜〜〜。その知らない女ってのがマミと同じおさげなんだよ。なんか変な話してて地味におもしろかった。そんだけ〜」











……え?

41『夢で逢えたなら…』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/17(火) 20:36:45 ID:pdOpVO3g0
【1日目/F3/渋谷センター街・ロッテリア店内/AM.03:03】
【根元陽菜@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!】
【状態】健康
【装備】ダーツ
【道具】???
【思考】基本:【対主催】
1:ロッテリアを出る。
2:ヒナちゃんを守る。他の参加者は基本話し合いで解決。
3:田村さんたちが心配。

【ヒナ@ヒナまつり】
【状態】額に傷(軽)
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:新田たちどうしてるかな〜。
2:陽菜はわたしの起こし係!

42次回 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/17(火) 20:38:23 ID:pdOpVO3g0
 ”ttps://youtu.be/g97La0u55_g”

 ”↑元ネタっす!よろしゃす!!”


────『悪魔のせいなら、無罪。 Just The Two Of Us』

43『悪魔のせいry』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/18(水) 20:38:31 ID:rBJ..1Aw0
**『悪魔のせいなら、無罪。/Just The Two Of Us』


[登場人物]  [[メムメム]]、[[藤原千花]]、[[マイク・フラナガン]]

44『悪魔のせいry』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/18(水) 20:39:04 ID:rBJ..1Aw0
 悪魔。
メムメムの仕事は、人の魂を狩ることだった。
──その狩り方というのが、寝ている男を淫乱で誘惑し悩殺……と、言わば『淫魔〈サキュバス〉』だ。
サキュバスといえば、顔を埋める程の豊かな胸、そして露出の多いビキニ姿…と艶麗な見た目を想像するものだが、──メムメムは淫魔要素皆無な姿。
二頭身で、露出0な黒のパジャマ姿、ぱっと見はコスプレした幼稚園児。
淫魔どころか、悪魔要素さえ背中の羽とツノくらいしかない彼女は、当然今まで魂を狩ったことなど全くない。
故に、悪魔界でのメムメムの扱いなんて蚊よりも不遇であった。
『カーストピラミッド』を上下逆さまにして直角部分(最底辺部分ともいえる)に位置するのがメムメム。
ある意味で唯一無二の彼女が、殺し合いに参加させられた時。
心に余裕がないのは分かるが、当然【対主催】として行動するはずなどあるわけなかった…────。


「…最低、二人だけでもいい…! 二人分魂を手に入れれば、先輩からご褒美をもらえるはず! …ふふふっ! ふふ…」

「あたしは殺しあいに乗るぞーーっ!! 頑張れあたしぃーーっ!!!」


…幼い見た目に騙されてはいけない。
メムメムはクズ。──精神だけは立派な悪魔だった。




……
 ぷかぷかと、闇夜に紛れて空を飛ぶメムメム。
上空から無人の街を見下ろす悪魔は、「はぁぁぁ〜〜……」と憂いていた。


「うーーん………。中々いないもんだなー……。バカそうな参加者さん」


悪魔、…といえど魔界からの注文道具がなければハムスター一匹さえ勝てないメムメム。(その注文道具を使っても有用できた試しは一度もないのだが。)
彼女もそのことは分かっているので、直接攻撃による殺害は一切視野に入れていない。
そうなると考えつく殺害方法は一つだった。
絶望的に頭の悪そうな参加者へ【マーダー】を唆し、楽に魂を手に入れるという──『殺人教唆』。
ここまでくるともはや悪魔どころかただのカスだが、メムメムには道がそれしかなかった。


「…あっ! アイツに頼もっかなー。……いやダメだぁ! 明らかにあたしより強そうだし賢そう……! もうっ、くそ!!!」

「……あ、また参加者発見…! 話しかけよう〜と……。──…って、………死んだし。くそおっ!!!!」



「……………もう、周り見ても誰一人歩いてない…。ここまで見つけた人間二十五人……。みんな揃ってあたしより頭良さそう……………。うっ、う……」


「うわぁあぁぁあ〜〜〜〜ん!!! 最初から分かってましたよぉ〜!! あたし以下のアホなんていないことくらい!! ちくしょー…、ちくしょおおお〜〜〜〜!!!! うわぁあ〜──……、」



前方注意────電柱。


 ゴツンッ

「ぐへっ!!!!!」



「…………。……うっ、ぐすん。ぎすんっ。ずずっ……。うぅ……………」



 このときぶつかった痛みは、なんだかいつもに増して身体によく染みていった。
やろうとしてる事がしてる事の為、本来なら全く同情できないクズの涙だったが、メムメムの妙な哀愁が気の毒さを醸し出す。

自分はこんなに頑張ってるのに、現状を良くしようと必死なのに……。
いつも理不尽で窮屈なこの世に、メムメムは自分が嫌で嫌で仕方なかった。
いつしか、飛ぶことも忘れフラフラよろめきながら落ちていく。
そしてハタリ…と。
嗚咽を止めるのに夢中だったメムメムは、力なく着地したことに長い事気付かなかった。


ただ、それはまるでパズルの1ピースがちょうどハマったかのように。
吸い寄せられるが如く、ポンコツ悪魔が着地した先は─────、


「あれ〜っ?! ちょっと大丈夫ですかぁ〜!! こりゃやばい…! 誰かぁーー!!! 救急車!! きゅ〜きゅ〜しゃ!!!」

45『悪魔のせいry』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/18(水) 20:39:23 ID:rBJ..1Aw0
────バカの頭の上だった。



「…ひぐっ! うぐうっ!! げしゅんっ!! …もうやだ〜〜………」

「泣かないでくださいよ〜〜〜!! 大丈夫ですから!!」

「…────ひっ! ヒ、ヒ、ヒィィッ!!?? きょ、巨乳だぁあああああああああ!!!???!! ひゃあああああぁぁぁあああ!!!!!!」

「………へ?? どうしたんですかぁ〜〜??」


何だかと何だかは惹かれ合う…とよく言うものだが、藤原千花とメムメムはこの時出逢ってしまったのだ。


………
……



「へえ〜〜っ!! 悪魔、ですかぁ〜〜〜!!!」

「…はい。とゆ〜わけで……、千花には殺しの方、おにゃしゃすっ!!」

「…分かりました! チカっとたくさん魂を集めて、メムちゃんにご奉〜仕させていただきまーすっ!!」


 おつむが悪い同士なだけあって意気投合はあっさり早い。
支給武器『護身用ペン』を回し歩く藤原書記と、追って浮遊するメムメム。──まるで新世界の神&死神さながら二人だが、彼女らに心理戦は難しいだろう。
マ〜ダ〜二人組は、居酒屋密集地の小汚い横丁を歩いていた。


「ところでメムちゃん────ッ」

「…は、はひぃ?」

「『紅生姜』ってぇ〜、あれ実は大根の千切りじゃないって知ってました?」

「……え? そりゃ、生姜じゃないすか…?」

「おっ!! さすがメムちゃん! 私最近まですっぱ辛い汁に漬けた大根だと思ってたから、発見してびっくりしたんですよー!」

「…………。──ゴニョゴニョ(…よしよし。ドン引きレベルだけど、こいつバカだ…! ひひひひっ!!)…。…そら、すごいすね……」

「……あっ、メムちゃん。言い忘れたけど、私結構地獄耳だから。小声でも悪口はやめてくれないかなあーー」

「ぎくっ!!!! いきなり目の光消えて怖っ!!! …す、すみゃしゃせん〜っ!!!」


…酷い会話であった。
──ただ、話が進むにつれ、藤原書紀がメムメムに一歩ずつ立場がリードしているように感じる。
見た目は花畑そのものの書紀ちゃんではあるが、腐っても秀知院学園生徒というわけか。
気づけば、メムメムは絞りきったかのようにしょぼくれていた。


「…つか……、『紅【生姜】』って思いっきり書いてるじゃん………」

「おお〜っ! メムちゃん選手、小声禁止令を出され、ついに堂々と毒を吐くようになりましたぁ!!」

「……ま、ともかく!!! 千花はちゃんとたくさん殺してくださいよっ!!!」

「もうメムちゃんったら〜! わざわざ釘を刺さなくても分かってますよー!」


──やたらやる気満々な藤原書記だが、二人合わせて武器がペン一つという現実を、恐らく気付いてないから自信満々なのだろう。

 羽虫がたかる自動販売機二台を通り過ぎて、歩く藤原書記一行。
自販機奥には、小さな駐車場スペースがあり、大きな看板を照らすライト以外、暗黙曇天の寂しい場所であったのだが。


「ところでところで、メムちゃん! ダチョウのステーキって──……、」

「…はぁ。なんす──……、」




「「────あっ………!」」

46『悪魔のせいry』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/18(水) 20:39:48 ID:rBJ..1Aw0
看板に寄りかかるように、そこには『参加者』が一人座っていた。──いや、うずくまっていた。
バチッ、チカチカッ…。
調子の悪いライトで、照らされては一緒陰に包まれを繰り返すその男は、震えて震えて、そして嗚咽を漏らし泣いていた。
その泣き様は、先ほどまでのメムメムを思い出させるが、奇遇にも彼女同様、男は『性格とは不相応な見た目』をしていたのだ。


「メムちゃん、敵を発見しましたー!! ただちに魂回収へ取り掛かります!!」

「えっ??!」


というのも。
座っている状態でもはっきりと分かる男の圧倒的『体格』、そして『筋肉』。
まず男の体格だが、恐らく二メートルは越えよう超巨漢。
頭の茶髪、そして時折発する英語の嘆きから、外国人であろう男。──その丸太のような腕はもはや三割三十本の助っ人レベルである。
そして、衣服越しでもはっきりと盛り上がる筋肉。肩幅は広く、屈強にも程がある肉体美。
背中はごつごつと石のようだった為、頭を抱えて微動しか動かないその姿はまさに石像だった。


「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいや!!!!! バ、バババ、バカですかぁ??!!!」


そんな怪物へ、果敢に藤原書記は挑もうと言うのだから、当然メムメムは止めにかかる。
いくら精神がすり減ってる様子の男とはいえ、無謀にも程があるだろう。


「バカすぎっすよ??! 千花絶対敵いませんって!!! 人を選びましょうよ!!!」

「大丈夫だいじょぶ〜♪ それに困ってる人がいたら声を掛けるってのが人情ってやつですよ!」

「人情も欠片もないゲーム今やらせてますがねっ??!!」


藤原書記の前でピカピカ角を光らせたり、脚を必死で食い止めたりと、妨害に全力を出すメムメムだったが、──…徒労に終わる結果だった。
大男の肩をポンポン、と叩いた藤原書記は、ペンをテクニカルに回しながら語りかけ始める。


「…あー……、ハロ〜! ウェルカム・トゥ・シブヤ! 大丈夫ですかぁ〜〜〜?」

「……Oh、what's?」

「私、藤原千花と言いますー! こっちは悪魔のメムメムちゃんでぇ〜〜、一緒に今殺し合いをしてるんです〜!」

「こ、殺し合い…デスか………」



「(…なっ?! ば、バカにも限度があるっすよ!!! こいつに話しかけるのは百歩譲るとして、なに殺すことバラしてんすか??!!)」

「(あっそうでしたね〜〜。それにしても外国人が日本で寂しく一人…という状況…。まるでロスト・イン・トランスレーションですよメムちゃん!)」

「(いや知らんがな! 何の話してん──……、)」



「うっ、あぁ、わァァァァァアアアアァァァァァァ………ッ!! ワァンアァン……!!! Ohhhhh! ァァァア………」


「「わっ??!! びっ、びっくりしだぁ!!!!」」


 何が起因となったか、大男の突然の大号泣にたじろぐ二人。
腕に顔を押し付け、頭が痛くなるぐらいに涙を放流する男。

────彼を前に、ポンコツタッグは何を思うか。二人の移した行動はまるで対照的だった。
元々戦意なんてなかったが、完全に闘う顔を失ったメムメム。
その一方で、千花は再び大男に近寄り、保育士のお姉さんのように優しく声をかけるのであった。


「……大丈夫ですよ! なにがあったか、話してください!! 私が受け止めてあげますから!」

「……ち、千花……。(コイツ…………! もう逆に尊敬するわ………!)」


「…………ズズッ……。殺し合い…………、……。…フジワラさんは自分が『何のために』参加させられたか……、分かりマスか?」

「………う〜〜〜ん? 役割、ですかぁ〜…」

「ワタシは分かりマス………。自分の『役割』が………………。トネガワさんは、力が強くて屈強なワタシに『これをしろ』と言いたいのデショウ…………」

「「……と、言うと?(…あっ、バカと被っちゃったっす! byメムメム)」」

47『悪魔のせいry』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/18(水) 20:40:21 ID:rBJ..1Aw0
「『殺し役』──をやってほしいようデス…………。ワタシに………──」

「──……だけど、ワタシは絶対に人殺しなんかしたくない……………………!!──」


「──フジワラさんとメムメムちゃん、カナちゃんに…男女問わず誰も手にかけたくないっ…!!!」



「「…………………………」」



「ダカラ、辛いんデス…………。ワタシは……………………」



大男の気持ちが痛いほど伝わる駐車場。
沈黙がしばらく独壇場を続ける。

…藤原書記がここで思い出されたのは『泣いた赤鬼』。有名な絵本だった。
見た目は凶暴な鬼だが、心はとてつもなく聖人で。怯える子どもたちとどうにかして友達になりたい優しい鬼の話だ。
あの絵本では、見かねた青鬼が彼のために一役買ってでる…というシナリオが続かれたのだが。


(……………………よしっ…)


名前も知らぬ大男を救うため、「ならば私も」と。
藤原書記もまた行動に出るのであった────。


スマホからYouTubeを開くと、お気に入り動画欄から速攻タップ。
広告をスラっとすっ飛ばしたのち、動画が始まるとなると、彼女は大男の隣に座り込む。


「えっ?? 千花、何を──…、」


静かで哀しかった駐車場にて、一つの洋楽が流れていった……────。



 …〜〜♫



────藤原書記のダッミダミな歌声とともに。YouTubeと、彼女の口。二つから奏でられる。


 ♪うぃがるみ〜〜〜〜〜〜

 ♪どろ〜〜〜んと、どぅ〜〜〜い〜〜〜……




「…は??! な、なにしてんすか!! 千花?!」


 バカの突拍子もない行動…。
メムメムは当然ながら、大男もまた意表を突かれ彼女の方を振り向いた。
一体、藤原千花という『カオス』は、何を考えているのか。
間もなく、曲はサビに突入する。


 ♪…じゃ〜すたぁ〜〜〜、とぅざあ〜〜〜す

 ♪うぃっけんうぃっきまいまいほ〜〜〜↑〜〜〜↓

 ♪じゃすたとぅざあ〜〜す…♪──


「──ジャスタートゥザアース!!!(裏声)♫」

48『悪魔のせいry』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/18(水) 20:40:41 ID:rBJ..1Aw0
お世辞にも上手いとは言えない美声が、この街を轟かせる。
エアマイク片手に、──勿論小指を立てて歌う藤原千花。
しばらくして。
曲の歌い途中ではあったが、彼女は『自身の考え』について遅ばせながら説明を始めた。


「…ふ〜んふ〜ん♪ 外国人さん! 泣かないでください!!」

「…エ?」

「悲しいときは歌えばいいんですよっ! 歌には不思議な力があります! 悩んでるときはまず歌えば、バッと気が晴れるものなんです!!」

「…エ? エ? で、ですガ……」

「まぁまぁ! ご遠慮せずに!! 私の好きな歌なんですから!! ほら!」



 〜♪


 ♪じゃぁ〜すた〜〜とぅざあ〜〜す
 
 ♪うぃっけんみっきは〜うは〜うは〜〜〜う♪



「…………………っ──」

「──♪𝙟𝙪𝙨𝙩 𝙩𝙬𝙤 𝙩𝙝𝙚 𝙤𝙛 𝙪𝙨 ♫ 𝙔𝙤𝙪 𝙖𝙣𝙙 𝙄……♫」



「おお〜〜〜っ!! ネイティブ〜〜!!!」


少女と大男の歌声。
深夜の駐車場というエモさ感じる場所と、しんみりした80'sジャズソングが妙にマッチし、心地良さが溢れてくる。

間奏──つかの間の休息タイムが始まった際、いい機会だからと。男の自己紹介が始まった。



……
「…へ〜〜! ──『マイク』さんって言うんですねーー!! カナダってすごい遠くの国じゃないですかー!」

「…ハイ! …このジャズソングも、カナダではポピュラーで、死んだリョージさんと…よく一緒に歌ったんデス……!」

「あー! だからあんなに上手かったんですねえ〜〜!! 聞き惚れちゃいますよ!」

「イエイエ…! フジワラさんもキュートな歌声デス」


大男──マイク・フラナガンと、コミュ力バグりまくり──藤原千花の和みっぷりといったら、傍から見ても微笑ましいくらいだった。
────これが殺し合い中でなければどんなに良かったことだろう。
二人は悲壮感など関係なしに、陽気に歌い続ける…。


フォン…フォン…と。
──電光に飛び交う蛾は、二人をどう見たか。

『just two of the us』の残り再生時間はまだまだ終わりを見せない様子だ。





…〜♪

49『悪魔のせいry』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/18(水) 20:40:57 ID:rBJ..1Aw0
「…バカバカしい。……呆れた」


 気づけば完全に忘れられてる自分であるが、もうそんなことはどうでもいい。
メムメムは蛾をなんとか通り越して、上空へと飛び上がっていく。
次なる獲物…もとい殺人代行者を探すために……。

──というか、メムメムってクズっちゃクズだけど、この場じゃかなりまともな部類の方ではないのか。



【1日目/E3/上空/AM.0:46】
【メムメム@悪魔のメムメムちゃん】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】???
【思考】基本:【奉仕型マーダー→魂集め】
1:アホそうな参加者をマーダーに誘導して、魂を集める。
2:バカ(藤原千花)は見切った。つか殺しのこと忘れてんじゃねーーよ!!!


【1日目/E3/小さな駐車場/AM.0:46】
【藤原千花@かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜】
【状態】健康
【装備】護身用ペン@ウシジマ
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:マイクさんと歌う。

【マイク・フラナガン@弟の夫】
【状態】軽い心労(回復傾向)
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【対主催】
1:フジワラさんを守る。
2:殺しは絶対にしたくない。

50次回 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/18(水) 20:44:07 ID:rBJ..1Aw0
 ”岡田「監督…おかしいですよ」”
 ”伊東「おかしいのはお前の打率だよ。しゃぶれって言ってるんだよ俺はさあ。誰も言葉分からない?」”
 ”細谷「(やっぱり結構でかいなこの人…)」”
 ”伊東「え、何なの?しゃぶらないならここ出られないよ。部屋の鍵ここだから。鍵は口入れちゃうからほらほらもう誰も出られない。しゃぶらないと出られない」”
 ”福浦「監督…しゃぶればいいんですね?俺がやりますから」”
 ”伊東「そういう力んだ顔はどうでもいいからしゃぶれって」”

 ”あ、鍵今飲んじゃったごめん”

──こみさんは、ロッテファンです。

────『コーミックナイト』

51『コーミックナイト』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/19(木) 20:02:19 ID:Smv9usBo0
[登場人物]  [[小宮山琴美]]、[[古見硝子]]

52『コーミックナイト』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/19(木) 20:02:41 ID:Smv9usBo0
「♬らら〜ら〜〜らら〜〜、ら〜らら〜らら〜、ら〜〜ら〜〜らら〜〜、ら〜↓ら〜〜〜↑」


 空は青く澄み、雲は強風で流れていく…。
風に全身をコーディネートされる乙女──小宮山琴美は、飛びゆく花と共に乱舞を飾どる。


「朝起きて〜〜、『あーあ今日も憂鬱…』…そんなのダメでしょう〜〜?♬ 楽しい毎日〜! 素晴らしい人生を遊ばなきゃ〜〜〜♬」


黄色、白、桃色……、色とりどりの花畑にて、彼女は踊った。歌った。微笑んだ。
奥には滝が水しぶきをあげ、下流へと川が愉快にせせらぐ。
水の流れる音と共にやってきたのは「ちゅんちゅんっ」── 一羽のオオルリ〈幸せの蒼い鳥〉。
陽気に羽ばたく鳥は少女にこう問い掛けた。


『やぁお嬢さん〜♫ なにやら楽しげな雰囲気だね!』

「! …ふふふっ! やっぱり〜分かるかな〜♬」

『どんな幸運が迎えてくれたのか、わたしに教えてくれないかね〜♫』

「ちょ〜〜っと!! それはダメ♫ だって恥ずかしいのよ〜〜〜〜♬」


「…?」といった様子で首を傾げるオオルリ。
鳥は用事を思い出したのか、遠く羽ばたいていったが、彼の青い羽が琴美の頭にフワリ乗っかる。──置き土産代わりといったところだろう。
歌う天使、小宮山琴美。
赤く染まった頬を両手で挟む彼女は、幸福に包まれた『理由』を言わなかった。

いや、言えなかった。


〝恋が叶いそうだから、舞っちゃった。〟──なんて、恥ずかしくて言えやしなかった。



「夢が叶う瞬間〜〜〜、きれいな空〜〜、明るい太陽〜〜〜♪」

「かけぬけろ〜ホームまで〜〜〜…」


「おぎ〜〜〜〜の〜〜〜たか〜〜〜しぃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜↑↑↑♬」


くるりっと一回転し、天を仰ぐ琴美。
ピアノの伴奏が止まる中、恋する乙女はキラキラキラ…と一人スポットライトを浴びるのだった。





────否。この場にはもう一人いる。


「…………………………!!!(ガタガタガタガタ…」


「……あっ…」



躍る琴美を前にして、震えるしかできずにいたのは絶世の美女──古見硝子。
暗い夜。無人のスターバックス店内にて。
二人の『こみさん』はこうして対面した────。


「…うわっ。恥ずかし……! ごめんね…っ!! 今の全部見なかったことにして!!」



「…………………っ…!(スラスラスラ」
{{こ、こちらこそ一人ミュージカルを邪魔してすみません……。}}

53『コーミックナイト』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/19(木) 20:03:16 ID:Smv9usBo0



 古見さんは、コミュ症です──。
声一つ発するのさえ苦手な古見さんは、いつもノートを持ち歩いている。
要は筆談が彼女唯一のコミュニケーションツールなのだ。


{{…只野くん、なじみさん、山井さんの三人……。}}
{{私の大切な友達がここのどこかにいるんです。}}

「ふーん。ふんふん…。只野くん、ねぇ。待って、今メモするからさ」


──故に、スラスラスラーッと名前をメモする琴美の行動は意味があるのか。
自己紹介を軽く済ませた二人は、カウンターテーブルに座り、暫し『見』に回っていた。
グランドホテル三階に位置するこのスタバな為、目の前のガラスからはネオンの夜景が一望できる。
古見、そして琴美。
互いに言葉は交わさずとも、『とりあえず今は待機』という共通認識はシンパシーしているようで、今は特に動かずいる。
変に動いて殺される…だなんてたまったものじゃないだろう──と。
珈琲の湯気が立ち昇る中、二人は談笑のみをするのだった。…談笑と言っても、声は一つしか聞こえないのだが。


{{…そういえば、小宮山さん。一つ質問いいですか?}}

「あっ? ん、なに?」

{{……正直、今…、楽しい気分なんですか?}}

「…えー? そんなわけないじゃん! 今殺し合い中だよ? やばい気持ちしかないって!」


琴美は軽く笑いながらそう答えた。
……ならば何故?、と。
なぜさっき一人で物凄く幸せそうに歌っていたのか??
あれはハッピー過ぎて有頂天な様子に見えたのだが………、と内心、古見さんは疑問で膨らんでいた。
琴美本人から「タブーにして!」と言われていたので、これ以上掘り下げることはできないのだが…。
これも何かの伏線として後々回収されるものだろうか。
…今はまだ、見 に回るだけでいる。


『ちょっと! ねえ、コト。さっきから誰と話してるの…?』

「…………………っ!!!!(びくっ」


 そんな折、なんの前触れもなくして第三者の声がこの場に響いた。
二重の意味で人と会いたくない古見さんは、電気ショックを受けたかのように怯え散らす。
彼女に走る、戦慄。一閃。
支給武器であるコルク入りバットを慌てて掴みキョロキョロ…と。手汗が滲んでパニック寸前だった。

要警戒を高める彼女とは対照的に、琴美は随分と落ち着いた様子。
いや、むしろ笑顔を見せて楽しんでいる様子だった。
彼女のメガネが視線を飛ばす先には、第三者の顔……。
────おさげで、琴美らと同い年くらいの少女が、『四角い薄板』に映っていた。


「あはははー。ごめんごめん! 伊藤さんと通話中なの忘れてたよ」

『…ねえコト。もう切っていい? 明日学校だし……、私眠いよ…』

「いや?! 切らないで?!!!! 私を一人にしないで伊藤さん!!! 一人じゃ心細いからビデオ通話にしたんだからさ!!!」

『…よくわかんないけど、誰かが近くにいるようだし、一人ではないんじゃない?』

「いや………。これは、また別腹みたいなものだし…………」


琴美とライン通話を交わす──伊藤さん…と呼ばれた少女はアクビ混じりのため息を漏らした。
改めて振り返るが今現在はド深夜。
伊藤さんの表情から察するに、熟睡している途中いきなり琴美から電話がかかった、的な様子だが、…なんと傍迷惑なことだろう。
ただ、基本和気藹々と会話する様子や、文句を漏らしつつも通話を切らないところから、琴美と伊藤さんの仲の深さが見受けられる。
琴美のスマホをチラっと覗き見し、ようやく安静に至った古見さん。
「あぁ、よかった。参加者じゃなかった…」と、そっと胸を撫で下ろすのだった。


『…えっ?! 今の誰?? もしかしてさっきまで話してた人……今の美人さん??』

「あぁ、紹介遅れたね。彼女は古見さん。いい人だよ」

54『コーミックナイト』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/19(木) 20:03:36 ID:Smv9usBo0
──絶世の美女を前に、伊藤さんは分かりやすく驚きを隠せなかった。
『美しい花には棘がある』…と言ったら多少ズレてる感はあるが、コミュ症とはいえ古見さんは千年に一度クラスの整った容姿。
顔、体型なにもかもが完璧で、男女問わず虜にする奇跡の産物だ。
ゆえに、地味ーズの一人である伊藤さんはその輝きを前に、ヒソヒソ…と琴美に不安を上げるのだった。


『(…コト。なにで知り合ったのか知らないけど、さすがにこの人相手なら……私も緊張する…)』

「(…大丈夫だよ! 確かに見た目は派手ーズだけど……、中身は結構私ら寄りだからさ)」

『(…私ら寄り……?)』

「(うん、私ら寄りだから)」


「ねえ! 古見さーん、これ私の友達の伊藤さん。古見さんも自己紹介してよ!」


ビクッ。
急に話しかけられた上に、スマホを顔近くまで押しつけられ古見さんは一瞬狼狽えた。
が、落ち着きをさっさと戻した彼女は、琴美の指示通り自己紹介を始めるのだった。

…ペンを手に取り、ノートにサササーッと書いてゆく。


『えっ?? なに?? え??』


二秒ほどして、スマホに向かって書いたノートを見せつけ始めた。──割と速筆な様子だ。
彼女が何をしてるのか全く理解できない伊藤さんはこのとき、新元号発表するのかな?と思考がショートしていた。


「……………………!」
{{私は古見硝子です。小宮山さんとはさっき出会いました。伊藤さん、よろしくお願いします。}}



『………………………えーー…』


四十七秒以来、二回目のヒソヒソが始まる。


『(……私ら寄りって…、そういうこと??)』

「そう! はははっ、面白い子だよね古見さんは!」

『(…ちょっとコト、声大きいって!)』

「…これはー、あれだね。映画のさ…『●の形』みたいな? あの映画もしょうこちゃんだったしね」

『……それそうやってネタにしていい映画じゃなくない??』


…伊藤さんの背後に集中線のような物が見えたのは気のせいか。
表情オンリーワンといった様子の伊藤さんだが、その顔はどこか軽く引いてるようだった。──琴美に対して。

 数十秒ほどのヒソヒソ声の後。
少々苦笑いつつも、「まっ受け入れるか」、との様子で伊藤さんはノートの彼女に話しかけた。


『…とりあえず。古見さん、コトをよろしくね』

{{…! は、はい!}}

『会ったばかりだから分かんないと思うけど……。コトってさ、悪い人じゃないけど…ヤバい人ではあるから、変なことしたら遠慮なく注意していいよ』

「ちょっと伊藤さん!!!? 私悪くもヤバくもないんだけどっ!!!!」

『…あっ、こっちの話だからコトは気にしなくていいよ』

「するよっ!!!?! スマホに映る少女は毒舌ドSキャラで、そんな相棒と共に苦難に立ち向かう私……。──私らはカゲロ●デイズかっ!!!! 伊藤さんはエネかっ??!!!」


『…ね? ヤバイでしょ? 古見さん遠慮なくドン引いていいからね。私が許可するよ』

「………………………〜〜っ…」
{{…反応に、困ります…………。}}

55『コーミックナイト』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/19(木) 20:03:53 ID:Smv9usBo0
伊藤さんの軽い微笑みに、古見さんは言葉を失うまでだった。
いや元から喋ってなんかないけども。



……
………


 あれから暫く時間が経る。
カフェインと緊張感のお陰で、夜更けになっても眠気は来なかったが。
頬杖をついて窓からの景色を眺める古見さん。
カフェ内にて響く音は小さなピアノジャズと、──それとコト&伊藤の話し声のみ。
…正直、この時間まで通話を続ける伊藤さんもちょっとヤバい奴に感じた。



(………はあ…………………)





(只野くん…………)


(…どこにいますか……? 只野くん………………)


古見さんが想いに耽るは友人・只野仁人。
バス内にてたまたま隣の席だった彼は、震える自分へひっそり声をかけてくれた。

〝僕が探しに行きますから…! 待っててください……! 古見さん……!〟

と。
思い返せば、彼との初めて出逢った時も『隣』。
隣の席にいた至って普通の男子生徒が、期待していなかった自分の高校ライフを変えてくれたのだ。


彼なら。
只野くんなら、また私を救ってくれるはず。
只野くんとなら、グッドエンドで殺し合いを終えれるはず。
だから…、


(今、どこにいますか………。私はここですよ……!)


(只野くん………………)


この思いが……。どうか伝わりますように──、と。
古見さんは真っ暗な夜空をただ、ただ眺めていた。



ちょうどその時、願いの女神『流れ星』が一つ。夜空を駆け抜ける。



「あっ!! 流れ星だ! 見た? 古見さん」

{{あっ、はい! …きれいでしたね。}}

『ちょっとコト! 急に話題変えないでよー…。コトがロッテの勝率調べろって言ったから今検索したのに』

「はは…。まぁまぁ、伊藤さんそれはあとで……!」


 ところでさー、と琴美は口を開く。
テーブルに肘を付け、顎を掌に乗せて、ふと古見さんの隣。
スマホ片手に彼女は古見さんに他愛もない疑問を投げかけた。

56『コーミックナイト』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/19(木) 20:04:15 ID:Smv9usBo0
「古見さんって願い事…なににした?」

{{……え? あっ、はい。『みんなが幸せになりますように』…みたいな、です。}}

「…ぶはっ!!! ちょっと何それ〜!!」

『…何それ、はないでしょ……。普通に優しくて良い願い事だと思うよ』

「いやいや〜!! 確かに優しくてココロ温まるけど……すっごい無欲じゃん!! それが面白くてさ〜〜」


何が面白いのかさっぱり分からなかった。
無欲と言うが、たかが流れ星一つにどんだけの願欲を託すつもりなんだ、と。
古見さんら二人はこのとき思った。

このとき、は。


「私ならさ、まず『叶える願いを五つにしろ!!』って言うね」

『えっ、まだこの話 続けるの?』

「まぁ、聞いて。それでー、一つ目はやっぱり『ロッテシーズン優勝』…かな! あれだけ補強して五位ばかりなんだから、もう他力本願でしか優勝できないよ!!」


ロッテ……?
あぁ、野球の話か、と。
自身の支給武器『金属バット』を軽く一振りした琴美を見て、古見さんは察した。


「二つ目はやっぱり角中の若返りを頼むね! 独立選手初の二千本安打を見たいんだな〜私は! あっ、あと鈴木大地のFA阻止もお願いしよっかな」

「三つ目は〜〜、………(伊藤さん、恥ずかしいから……伊藤さんだけに教えるよ……)」

『(…えっ、なに)』

「(…胸を、さ……。やっぱり、おっきくしたいよね……。でも、自分で言うの嫌だから伊藤さん代わりにそれお願いしてよ……!)」

『…言っとくけどコトのヒソヒソ声結構大きいよ? (…あっ、声『だけ』は大きいね……)』

「ちょっ!!! 伊藤さん、しーっ!!!」


 …気づけば完全に蚊帳の外にいた古見さん。
というか、伊藤さんも琴美が何を言いたいのか全く読めずにいたのだが、とにかく古見さん彼女はポツンとしていた。
ブンッブン、とバットを振り回す琴美の、伝えたい思い…。
全く察せない上に、ロッテが何だ〜とかついてけない話題を挙げるので何も話せずにいる。
ゆえに琴美をただ見つめるしかできなくなっていたのだが、


────そんな彼女と、ふと目がガッチリ合った。

五つ目は〜〜〜…、と琴美は続ける。



彼女の目を、瞳孔を、眼の奥の魂を見て、古見さんはようやく『何が起きそうか』察した。




『…いや四つ目飛ばしてるよ? なんで蒸発させたの?』

「五つ目の願い……。やっぱり、これがとっておきかな」


 立ったはいい。
立つまではよかった。
ただ、それ以降古見さんは急に足がすくんで動けなくなってしまった。
ニコリ、と琴美は微笑む。
そのスマイルはまるで天使。邪悪を知らず、天然水よりも澄み切った心の、なんと美しい笑みだった。


「私の好きな……、智貴くん好みの女の子に、さ……。私を変えてほしいんだ………」


『…??』

57『コーミックナイト』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/19(木) 20:04:38 ID:Smv9usBo0
「それが一番の願い、だね…………! 私は、智貴くんが隣なら、それだけでいいんだ………!」

『いやロッテがどうとか煩悩まみれだったじゃん』



どういう幻覚か。
オーラが見えたというのか。
琴美の周りにきれいな花が舞い散る幻覚が、一瞬見えた。
──それは、古見さんにのみ。はっきりと確認できる。

ここで思い出されるは、一番最初。バトル・ロワイアル開幕直後、琴美と出会った瞬間だ。
あのときも彼女はるんるんと楽しそうで、まるで花畑を走り回るかのような華麗さだった。


 ────何故、琴美はバトル・ロワイアル中にも関わらずお花畑いっぱいだったのか。


 ────そして、何故、琴美はグダグダと願い事の話を今しているのか。



さっきから渦を巻いていた二つの疑問が、貫通されたかのように一片に『理解』したとき。



「だから、私はこれをチャンスだと思ってるんだよ……!」

『え?』



古見さんは、一目散に逃げ出した────────。
────震える体を必死にこらえながら、彼女は走る。



「…伊藤さん、ロッテの勝率.485ってさっき言ったよね」

『えっ、うん…』


「────なら『私のゲーム優勝確率』はほぼ五割ってことだ────────ッ」



『…え?』



鬼に金棒。なんちゃらに刃物。
琴美も金属バットを振り回して、古見さんを追いかけていった……………。

58『コーミックナイト』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/19(木) 20:05:10 ID:Smv9usBo0



「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜……………っっっっっ!!!!!!!!!!!!」


「待てェええ────────────エエッ!!!!!!!!!!! 古見さぁーーん!!!!! 絶対追いつくからなぁあ────────────!!!!!!!!」


 ホテルのカーペットを、古見さんは全力疾走で駆け抜ける。
顔中真っ青で、汗もだっらだらだが堪えて彼女は逃走し続けた。
背後には言わば本物の鬼……。


突然豹変した殺人鬼との鬼ごっこが今繰り広げる……!

──いや、果たして琴美は『突然』豹変した、のだろうか……?
思い返せば、「この人やばくね…?」感全開だった琴美。
普段日常生活では、やばい人と出くわしたらまるで幽霊を見てしまったかのように、見ないふりをするものだが、古見さんはそれをしなかった。やらなかった。

しなかったからこそ、ピンチは必然的にやってきた。


『古見さんほんとごめんなさい。後で私がキツく注意するから…』

『だから今はとにかく逃げて。ほんとにうちのコトがすみません…。やばい上に悪い人でほんとごめんなさい……』


「おおぉおおお────────────!!!!!!!!!! 燃え上がれッ、燃え上がれッ、優勝掴み取れ──────!!!!!!!!!」



「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!!!!!!!!」



 声にならない叫びが響いた。
優勝に目がくらんだ変人と、喋らない美人。女達は汗水たらして、この夏夜を懸命に走り続けた…。
そう。今日は─────、七月七日の夜。
二十年も前に、フランク・ボーリックか逆転満塁サヨナラホームランを打った。七夕のナイター。


(只野くんなじみちゃん山井さん誰か誰か誰か誰か助けて〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!!!!!!!!)



ボーリックが駆け抜けたあの夏が、またやって来る────。



【1日目/G7/ホテル・3F/AM.1:41】
【古見硝子@古見さんは、コミュ症です。】
【状態】疲労(大)
【装備】コルク入りバット
【道具】古見友人帳@古見さん
【思考】基本:【静観】
1:小宮山琴美から逃げる。
2:只野君たちに会いたい…。

【小宮山琴美@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!】
【状態】疲労(大)
【装備】イチローのバット@トネガワ
【道具】スマホ
【思考】基本:【マーダー】
1:古見さんを追い駆けて殺す。
2:優勝の願い事でロッテを優勝させる。自分を黒木智樹くんが惚れるような女にさせる。
3:伊藤さんと通話しながら行動。


【外部介入】
【伊藤光@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!】
【状態】眠気
【装備】なし
【道具】なし
【思考】基本:【対危険人物→小宮山琴美】
1:コト(小宮山琴美)の暴走を止める。

※小宮山琴美と通話している是での参戦なので、渋谷にはいません。

59次回 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/19(木) 20:06:28 ID:Smv9usBo0
 ”ああ、僕の大声が”

 ”闇を照らし、みんなに笑顔を届けますように”


────『新田さんにあこがれて〜マジヤベーゼ!!』

60『新田さんに憧れて〜マジヤベーぜ!!』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/20(金) 20:41:51 ID:sqOBXRAQ0
[登場人物]  [[殺人ニワトリ]]

61『新田さんに憧れて〜マジヤベーぜ!!』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/20(金) 20:42:14 ID:sqOBXRAQ0

鶏冠頭のツンツン金髪。
常にメンチを切り続けるその目はギョロギョロと。
何よりも特徴的なのは彼の口を覆い隠すマスク。
そのマスクにはでかでかと『殺』の文字が刻印されており、町中で出逢うものなら絶対目を合わせちゃいけない、そんな凶暴さの格好であった。


その男、凶暴につき────。



 殺人ニワトリ(本名:山中 藤次郎)は、怖いもの知らずのヤンキー。
例え、相手がスジ者だろうとおまわりだろうと、気に食わない相手には容赦なく鉄拳を突きつける男。それが彼だ。
停学三回、補導歴無数……、後先考えず喧嘩に明け暮れる殺人ニワトリは狂犬と評すべきか、バカと評すべきか。
どちらにせよ、関わるべきでない人間であることは間違いない。

ただ、そんな彼にも一人。
心の底から畏怖する『男』が存在する。


「やっべー……。やべぇーぜ……、まじやべぇって………。マジ…!!!」


 ──毒蛇、鷹を前にして肉と化す。
圧倒的力の序列ゆえに、不良の殺人ニワトリでも臆することしかできないそんな男が、今。

「やべぇ……。何がやべぇって……、…とにかくやばすぎるんだよっ!!! ゴラァッ!!!」


 この殺し合いに参加していることを、手元の紙でニワトリは確認した。
その『名前』を見た瞬間、全身を襲う寒気と震え。そして、殺気…。
ニワトリが顔中汗びっしょりに濡れ果てるのは、決して夏夜の熱さからではない。
理由づけとして、彼は今震えて震えて全身ガタガタと身震いしている。
名前──たった四文字のみだが、そいつが出す絶望的パワー、死のエナジーに屈して、恐怖に包まれたのだ。


「やべえ…………」


「な……、なぜあなた様が…………。ここに………」



「────新田義史……さんっ…………………っっ!!!」


 異名『血と金と暴力に飢えた男』。新田義史。
人を殺すことなど耳糞を掘り出す感覚でしかなく、大金と女をゴミのように扱い、そして数々の『外道伝説』を噂される…──もはやカリスマの域に達した……闇の帝王。
名前を呼ぶことすら恐れ入る悪魔に、殺し合いをさせるとは。
どんな惨劇になるかなんて殺人ニワトリには、想像もできない。

「…まじやべえ。やばすぎるぜ……。こいつぁアよおっ!!!!」


 従って、殺人ニワトリは注意喚起をすることとした。
渋谷の街にいる全参加者に向かって、注意を。
彼の右手に握られるは、支給品である拡声器────…。



ニワトリは恐かった。

「………新田さん……。許してくだせい…………」


行動に移したくなかった。

「……でも、このまま犠せい者が増える様を黙って見ることなんか………。俺のポリシーに反する………ッ!!!」


だが、自分がやらなきゃいけなかった。

「…俺はやるぞ…………。俺は、やるんだッ……………!!」


新田の魔の手から、参加者たちを逃がすために。


 風吹き荒れるビルの屋上。
ふとバランスを崩せばそのまま転落死するくらいの風圧だったが、殺人ニワトリの『正義燃ゆる炎』はそれくらいじゃ消えなかった。
カチッ、と起動させた彼は、見上げりゃ広がるドーム状のバリアーへ、──いや、突き抜けて更に遥か上空の星空へ飛ばす勢いで。
拡声器の元、ニワトリの咆哮をあげるのだった────。

62『新田さんに憧れて〜マジヤベーぜ!!』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/20(金) 20:42:29 ID:sqOBXRAQ0
「みんなアァァァ────────!!!!!! 俺は殺人ニワトリだッ、聞いてくれエェェェェ────────ッッッ!!!!!!」



「『新田義史』って男に気をつけろ──────────────────ッッッッ!!!!!!!!!!!!」



「ヤツは間違いなくころしあいに乗っているッッ────……、いやそれどころか、殺人よりももっとやべぇことをするぞオオォ────────!!!!!!??」


「何をしでかすかは俺もわかんねぇー……。ただ、外患誘致罪以外のすべての犯罪をコンプリートした伝説のヤローだアァァァ────────!!!!!! 絶対に出くわすなアァァァ────────!!!!!!」


「今新田さんに会ってるやつは逃げろッッ!!!! 逃げろって!! マジで逃げろ、逃げろォ────────ッッ!!!!!!」


「ヤツと出くわしても闘うなッ!!! 家族ともども酷ぇ目に遭うぞッ??!!! …自分のためじゃねェー……、親や大切な仲間のために絶対に逃げろ!!!!!!!」




「…に、にに、新田さん……。無礼な真似を許してください…………。ただ……──、」




「この俺、山中藤次郎は……、絶対にアンタの好き勝手にはさせねェーぜ!!!!!! 分かったかァアアアアア───────ッッッ!!!!!!!!」



「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」



…カチンッ。



「よし……っ! これで安心だぜ!!」


「さーて、俺もボチボチころしあいするとすっかぁ!!! 優勝して母ちゃんに1000兆円プレゼントするぜ!!!! 超やべぇぜ!!!」


「ラリホオオォ────────!!!!!!」



 ズダダダダダダダダダダダダダダダダ、ダダダダダダダダダダダンッ

…と。
サブマシンガンを無駄撃ちしながら、殺人ニワトリは屋上から飛び出ていく。





 馬鹿の戯言とはいえ。
疑心暗鬼…、末には裏切りまでもある殺し合いにて、一ミリでも信用性の欠ける印象の人間は、捨牌を切るように簡単に追放される。
自分がいかに善人であるかを信用させ、仲間と強い結束を組み、そして理不尽を打破する。

それが、『バトル・ロワイアル』生還の鍵だ─────────。




【1日目/F2/雑居ビル/屋上/AM.01:36】
【殺人ニワトリ(山中藤次郎)@ヒナまつり】
【状態】健康
【装備】サブマシンガン
【道具】拡声器
【思考】基本:【マーダー】
1:優勝する
2:新田さん…すみませんん……!!

63次回 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/20(金) 20:45:49 ID:sqOBXRAQ0
 ”バイバイ、新田さん。”


────『新田さんは捨牌だゾ』

64『新田さんは捨て牌だゾ』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/20(金) 20:46:26 ID:sqOBXRAQ0
[登場人物]  [[新田義史]]、[[野原ひろし]]、[[海老名菜々]]

65『新田さんは捨て牌だゾ』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/20(金) 20:46:48 ID:sqOBXRAQ0
────あの日。



 「新田ー、射手座だよね?」

 『あ? それがどうしたよ。つか飯食いながらテレビ見るなつったろうがヒナ』

 「まぁまぁー…。…いや〜、すごいよこりゃ。ほら、見なよ」

 『…あ?』


 「今週の星座ランキング、一位はなんと…!! 七日連続の射手座です!! しかも今日はいいことづくしでしょう! 黙っててもラッキーが訪れる貴方…ラッキーカラーは黄色です」


 「前からずっと射手座一位だよ。素直にやばくね?(笑)」

 『手抜きしてるだけじゃねぇか。くっだらねぇ……』


 ピンポーン

 「お届け物でーす」


 『あっ、はーい』

 「新田義史様…でよろしいですね?」

 『え、まぁそうですけど…』



────このところ、俺はあまりにも。


 「…おめでとうございます!」

 『…え? なにが?』


 「新田様が応募した一億円の壺の抽選………お届けに参りました!」



────『ラッキー』な人生だった。

66『新田さんは捨て牌だゾ』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/20(金) 20:47:12 ID:sqOBXRAQ0
 …
 ……
 『…え? なんで事務所誰も出勤してないの??』

 「おう新田にサブ」

 「あっ」

 『おはようございますカシラ!! ──…で、このガランガランっぷりはどういったわけで?』

 「ったく……、全員が全員風邪だとよ! …ふざけやがって」

 「え? 何スカそれ?」

 「困ったことにな? 全員の自宅かちこんでみたらマジな感じで寝込んでて……。こんな偶然あっかよ?」

 『………とりあえずなにその俺だけハブられてる感?』

 「っつーわけで今日は休みだ。さぁ帰れ帰れ」

 「うそ?! マジスか?!!」

 「あっ、もちろん……。風邪対策したテメェらには、たーんと給料はずんでやっからよ…! …さぁ帰れ!」

 『…え? …………えっ?!』


────あまりにも幸運な一日だった。


 …
 ……
 「…いやあにぃ! それマジ運来てますって!! ばかにできないッスね〜! 運勢占いも!!」

 「ばーか。こんなんたまたまだよ。壺も、臨時休暇に臨時収入も。…運勢とか…くだらねぇ〜…」

 「いやいやマジあにぃついてますから!! …そうだ、今日の有馬記念ぶち込んじゃいましょうよ!! 適当な数字で!(つーか、この人の壺愛…統●信者に匹敵モンっすわ)」

 『…しょーもねぇ……。んじゃ、1-2-3の三連単で買っとけ。アンズの誕生日が12月3日だからよ』

 「(うっす! 分かりました!!)うわ…、なんでアンズちゃんのバースデー知ってんだよ。つか1-2-3って誕生日ホームゲッツーじゃねーか…。ぶふっ…!」

 『いや本心と建前逆になってない? ──まぁ、とりあえず朝から酒とすっか。詩子さんのバー行くぞ』

 「うっす!!」


 …
 ……
 カラン、カランカラン

 『詩子さん朝だけどいるよね────…、』

 ガチャッ、バン

 「ぐえっぎゃああああぁぁぁぁ!!!!!!!!」

 バタリッ


 『え?! え??!!』

 「えー?! 退店客にドアぶち当たっちゃったすよ?! なんで確認しなかったんスカ!!」

 『バ、馬鹿野郎!!! 確認なんかできっかよ??! 俺エスパーじゃねーんだから?!』

 「あっ、新田さん……」

 『ひ、う、歌子さん……。こ、これは不運な事故で────…、』

 「あ…ありがとう!!!」


 『………ん?』「え??」

67『新田さんは捨て牌だゾ』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/20(金) 20:47:31 ID:sqOBXRAQ0
 「そいつ…強盗野郎なのよ…! 助けに来てくれたのよね………? 新田さん…!」


 『え???』



 「お礼に今日は財布入らないわよ? た〜っぷりサービスしてあげる…から♡」


────努力も才能もいらねぇ。息をするだけで幸運が訪れるんだ。


 …
 ……

 ブゥゥゥゥゥゥーーン………


 『サブー、今日叙々苑まで付き合えよ。全部俺がごちそうしてやるわ』

 「うひょ!! マジっすか?! (うっしゃあ、アンズの糞ラーメン屋回避〜〜〜)…ははは〜、心なしかあにぃドライブ楽しそうっすねー」

 『…アホ。こんなことで舞い上がってるようじゃヤクザ者は勤めれねーよ。切り替えろ』

 「またまた〜〜〜!! ほんとはめちゃくちゃハッピーなくせに!」

 『それに、いつまた悲惨な運命が来るかも分かんねえんだ。そんときに浮かれてた時のことを思い出したら余計惨めな気持ちになる。だからあんま調子に乗らないのが自分の為になんだよ』

 「へー、新田さん流人生哲学…ためになるっス!!(調子乗ってなかったら肉なんか行かねーっしょ)」

 『常に用心。常に警戒。嬉しいときも苦しかった思い出を過ぎらせて心を中性に保つ。これをやらなきゃ極────…、』


 「あ、あにぃ!!! 前見て!!!!」

 BAaaaaaaaaaannn…!!!



 『』

 「な、な、…なにやってんスカ??!! 思いっきり前の車のカマ掘っちゃったスよ!!!」

 『……いや運尽きるの即落ちすぎない??』

 「…マジどうすんスか!! やべーっスよ!!!」


 ガチャッ……バタン


 「うわ!! 運転手出てきた!!! マジ俺寝たふりするスからね??!」

 『…………ったく……。んだよーーもう〜〜〜っ!!!』

 コン、コン

 『…は、はい……。す、すみま────…、』

 「すいやせぇん!!!! あっし、無免許なので…警察呼ばれるとアウトなんです…!!! だから、『コレ』で事故は無かった…ということで!!! つ、次からは気をつけてくださいね〜〜!!!」


 「……え???」『…え???』


────運転手から俺の手に渡されたのは壱万円の束だった。
────そいつは逃げるようにワゴンを走らせていく。


 「………え…………???」

68『新田さんは捨て牌だゾ』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/20(金) 20:48:03 ID:sqOBXRAQ0
 『………………これはー、……あれだな』

 「え??」

 『サブ、叙々苑は中止だ』

 「…あ、あにぃ?!」

 『…食わせてやんよ。銀座一流店……本物の『牛肉』ってやつを……なっ?』

 「…!! あにぃいいい!!!」


 [──…ザザーッ…………はすごいっ!! これは大波乱!! マックロサキー一着!!! 1-2-3フィニッシュですから倍率はなんと1580倍で……ザザーッ………]



────あまりにも、薔薇色だった。
────運がとことん味方してくれたから、俺も舞い上がらざるを得なかった。


────が。今思えば、あまりにもラッキー『過ぎた』…………のだ。



to be continued…

69『新田さんは捨て牌だゾ』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/21(土) 22:25:56 ID:7yIiiBDk0




「ひっ……ぐっ……、うっ、うぅ……………──」


「──うまるちゃん、タイヘイさん……。ひぐっ…………、わたし、怖ぇべよ…〜〜……ひぐっ………」


 プラットフォームを過ぎて、改札口。
待合室にてすすり泣く女の子を俺達二人は見つけた。
……間違いねぇ。
ド無能トネガワに見せしめにされた…あの子だ。…そら色んな意味で泣けるわな。


「…で、どうするよ?」

「どうするもこうするもねぇ〜だろ! オレ達で助けてあげないとかわいそうじゃね〜か!!」

「…おいおい……。あの子の視点からだとよ、一人さみしいところをチンピラと筋者二人組に囲まれるわけだぜ? 恐怖でしかねぇだろうが」

「あんなぁ〜〜……。いい加減オレを殺し屋扱いしね〜でくれよ?! …見たことないぞ、新田さん以外でオレを怖がるやつ…」

「…………………うんっ、……すまねぇ…」


……やっぱ俺疲れてんのかな。
野原ひろしさん……なんだかなぁーつうか。
口調は穏やか……ていうか情けないリーマン全開だが、どうにも隠し切れてない『殺』のオーラ…みたいなもんが見えて仕方ねんだよな。
………はぁ。的はずれな邪推を何故かやめられずにいれねぇわ。


「んじゃ、声掛けにいこうぜ〜。……新田さん、…恫喝だけはやめてくれよ? いや、一応忠告だからな……?」

「…分かってるよそれくらい………」


透明な自動ドアをくぐり抜け、座り泣く彼女の近くへ寄る俺達。
…あー、この子なんつったっけ。えびなちゃん…だっけな。
…ま、どうでもいいか。
基本会話担当は自称善良市民の野原さんがやるんだしな。


「やぁ! こんばんは〜〜…!」

「──ひっ!!! ひ、ひ、ひ、ひぃっ!!!!」

「わっ!! とと……。怖がらなくてもいいぜ〜!? オレ達は殺し合いに乗ってないんだからな!!」

「い、いやぁあぁぁぁあぁあぁ!!!!!」

「………え、え〜〜〜〜〜と…。だ、大丈夫だか────…、」


「すいっ…すいませえええええええん…………!!! ほ、本当に抵抗は、しっしませええええん………!! だ、だから…わっ私を殺さないでくださいいいいいいぃぃぃぃっ…!!!!!」


…やっぱり……、野原さん見た目怖いんじゃんかよ……。
えびなちゃん、めちゃくちゃ怯えてるし。
……いや、俺を見てビビりまくってるって可能性は否定しねぇよ?
でも、なら尚更「ほら言わんこっちゃない」って言いたくなるわけだよ。
俺ら二人じゃガキの御守りなんて難しいんだっつうの……。


「おっかねよ……! じっ、ひぐっ………!! 死にだぐねよ………!! ひぐっ、誰が助げで……よ……。いやぁぁぁぁぁ……………、ぁぁぁ……」


ベンチの隅で丸まりこむえびなちゃん。
これじゃまるで死を覚悟した小動物……悪ガキを前にしたダンゴムシだよ。
余計追い込ませちゃってどうすんだ…。
俺はそっと野原さんの肩を叩いた。
「もう…行こうぜ……?」とその合図を示す、無言のアピールだ……────。


「…その方言………。もしかしてきみ、秋田出身か〜?!」

「…あ?」「……ぇ?」

「オレも秋田出身だんておっかながるごどはねぜ〜〜〜!! ほら、ササニシキ…他県のお米ど違ってしったげ旨ぇよな!!!」

70『新田さんは捨て牌だゾ』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/21(土) 22:26:16 ID:7yIiiBDk0
あ??何いってんだ野原さん??


「おめ、末廣ラーメンって行ったごどあるが? ほら〜!」

「…………え?? 末廣ラーメン……ですか………?」

「んだ。あの黒ぇスープにしわしわのラーメン絡まってでな────…、」

「……それでチャーシューはギザギザに切られていて、お麩が入ってる……あのラーメンですよね……!」

「おっ!! そうそう!! あのチャーシュー…東京じゃ炙ってるのが大半なんだが〜、やっぱり特に焼かずそれでいて薄い秋田の末廣ラーメンがさぁ〜〜」

「………………は、はい!!」

「「うんめぇ〜〜〜〜〜だよなぁ〜〜〜〜〜〜!!」」


「…………ぷっ!!! あはははは〜〜…! 息合っちゃい…ましたね……!」

「ハハハハ! 同じ秋田の人間だから阿吽の呼吸ってわけだぜ〜〜!」



 ……意味分かんねぇけど、えびなちゃんなんか泣き止んだし…、まっいっか。
野原さんが秋田出身という割と衝撃的でもない事実はさておき、…えびなちゃん同郷ってだけであっさり心許すんだな…。
いるだろ………。
秋田にも悪い奴とか…、簡単に信頼しちゃって大丈夫ではねぇだろ…………。

──あっ、今野原さん「どうだ見たか?」みたいなしたり顔でチラ見しやがった。
若干ムカついたわ……。


「あっ、わ…私海老名菜々って…いいます……。ど、どうかよろしくお願いします………。──えっと、のはらさん…? ですよね………?」

「おう! オレは野原ひろし。世界一を目指すビッグサラリーマンだぜ〜。…で、こっちは新田さんだ」

「…どうも。海老名ちゃん」

「ひ、ひっ!!! …あっ、あわわ………。は、はじめまして…………」

「……まぁ〜〜、この新田さん…柄は悪いが根はいい人だから安心してくれ。な!」

「あ、あ、あ、…はいっ!」


……おいおい海老名ちゃん、そんな怯え切った目で見てくんなよ…。
いやつーか。つーかよ‥。
俺、このパーティで一人めちゃくちゃ浮いてね……?
秋田なんか行ったこともねぇし、二人と違って真っ当な人間でもない。…末なんちゃらラーメンなんて知らねぇし……。
二人が会話盛り上がったら入る余地ねぇわけで、すげえ居心地悪いんだけど…。
…なに?? 俺どうすりゃいいわけ…???



…ま、とりあえず。
今は先導切って、それなりの存在アピールするとすっか。



「……野原さんに海老名ちゃん。とりあえずここ出ないか? …いや、行き先は決まってないけどよ、俺も知り合い巻き込まれてるし…探すのを第一にしねえかな」

「…あっ、はい…! そ、そうですね……! 私もうまるちゃんを…みっ見つけなきゃいけないですから……………」

「おっそりゃまずいな〜…! じゃあ、新田さん行こうか!」

「…あぁ」



俺は後ろを振り返り出口へ。
野原さんも続いて身体をターン。
海老名ちゃんはよいこらせ、と立ち上がった。


──────────その時だった。

71『新田さんは捨て牌だゾ』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/21(土) 22:26:28 ID:7yIiiBDk0
「え??」

「は?」



「…あぁ??」



ガガガガガガガ──ッと。


地鳴りのようなノイズがやかましい。



『ニワトリの咆哮』が響き渡った。






「──…あっ??!!!」

72『新田さんは捨て牌だゾ』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/21(土) 22:26:42 ID:7yIiiBDk0




……
その声は山へと響き、

『みんなアァァァ────────!!!!!! 俺は殺人ニワトリだッ、聞いてくれエェェェェ────────ッッッ!!!!!!』


「うおっ??!! な、なに?!!」

「…あーー?? なんじゃこのバカ騒ぎは………っ!! 制裁……っ!!」



……
湖に波紋を立て、

『新田義史って男に気をつけろ──────────────────ッッッッ!!!!!!!!!!!!』


「うっさ!!! なんなのこれ?! きりえおねいちゃん!!!」

「…え?? え? に、新田……………? 」




……
都市を揺らし切る。大爆音。
魂の叫び。

『ヤツは間違いなくころしあいに乗っているッッ────……、いやそれどころか、殺人よりももっとやべぇことをするぞオオォ────────!!!!!!??』


「…新田、やべーことになっててうける。ワロス」

「え? ヒナちゃん知り合い??」



……
渋谷という街すべてを、馬鹿の戯言2500dB(デシベル)で埋め尽くした。

『何をしでかすかは俺もわかんねぇー……。ただ、外患誘致罪以外のすべての犯罪をコンプリートした伝説のヤローだアァァァ────────!!!!!! 絶対に出くわすなアァァァ────────!!!!!!』


「……野咲…………。新田から今救ってやるからな………!」




……
聞き逃した者は一人もいない。──否、既に死亡した三名を除いて。
全ての参加者たちが、この叫びを深く深く耳に通し、意識付けられた。


『今新田さんに会ってるやつは逃げろッッ!!!! 逃げろって!! マジで逃げろ、逃げろォ────────ッッ!!!!!!』


────血と金と暴力に飢えた男の、存在を。

73『新田さんは捨て牌だゾ』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/21(土) 22:26:58 ID:7yIiiBDk0





 …いや、いや。
いやいやいやいやいやいやいや、…いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや?!
いやっ!!?



…なにこれ……………?



「……………………………」


「……………………………え? …えっ………」




野原…さん……?
海老名…ちゃ………ん???
な、なんで……、そんな……、
変な目で……見てくるのかなぁ……………………?

お、俺が…………。


俺が、なにか、しちゃい、ました、か…………………………?



「…新田さん……──…、」

「いや俺は殺し合いに乗ってねぇエよっ??!!」

「ひ、ヒィッ!!!!」

「ちょ!! ビビらないでよ海老名ちゃん??! いやマジな方で…これは罠っていうか…。違ぇ…! これは娘の同級生のバカチンピラが勝手に騒いだだけでっ!!!! 事実無根の馬鹿騒ぎなんだよ!!!!」


…汗が、止まんねぇ……。

ンだよこれ………?!
意味わかんねぇよ??!!

…あっ、これ別に冷や汗ってわけじゃねぇよ??!


「に、ニワトリだ!! 殺人ニワトリって自称してるバカがいて…。ほら、馬鹿丸だしだろ??! そいつがこいた大嘘なんだよ!!! あれは!!?? だ、だから──……、」

「…すまねぇ、新田さん」


…はぁっ??!!


「これはアンタを信じきれないオレたちが悪いんだ…。たしかにアンタの言うことは真実かもしれないし、…オレたちだって新田さんと行動したい………」

「…な、ななな、ならっ──……、」

「だけどオレも、海老名ちゃんも…、…死にたくない…」

「……………………………に、新田…さん……」


やめろ………。

やめてくれ………。


そんな目で見ないでくれ。

74『新田さんは捨て牌だゾ』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/21(土) 22:27:16 ID:7yIiiBDk0

「…本当にすまねぇ…新田さん……」


そんな熊を前にしたような目で見ないでくれ。



「は、は………………。に、新田さん……………」


そんな囚われの羊みたいな哀愁の目で見ナイデクレ………。



ヤメロ…。
手ヲ……。
手ヲ振ッテクルナ…。

疑心暗鬼ニナルノハ理解デキルガ。
俺ノ気持チニモナッテクレ。
ナァ、頼ム。

俺 ヲ 信 ジ テ ク レ…。




「すまねぇ…。出てってくれ、新田さん」




…………………。
…モウ、ナニヲ言っても無駄だった。









……
「…………………に、新田さ──…、」


「俺に近寄んじゃねぇエッ!!!!!」

「ひっ!!!」

「ぃっ……………!! に、新田…………………」




「──────闘争本能に火がついちまってな。…引きちぎられたいなら来いよ。おい」



「「…………………………っ…」」



 …海老名ちゃんをガードする野原さん。
二人をチラリと見た後、俺は静かに階段を降りていった。
背中に突き刺さる敵意&恐怖の眼差し。
…ははっ。
バカの雄叫び一つでここまで状況が変わるとは。恐れ入るぜ……。

漆黒のスーツを揺らし、同じくどす黒い革靴を鳴らしながら、悪魔と名付けられし俺は行き先もなく彷徨い歩いた。






頬を伝うひと粒の涙。
──すっげぇ泣きたい気分なのに、こんなときに限って涙腺は謎の断水ぶりだった。

75『新田さんは捨て牌だゾ』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/21(土) 22:27:27 ID:7yIiiBDk0
【1日目/E1/渋谷駅/AM.01:43】
【新田義史@ヒナまつり】
【状態】放心
【装備】AT拳銃
【道具】???
【思考】基本:【???】
1:。


【野原ひろし@野原ひろし 昼飯の流儀】
【状態】健康
【装備】???
【道具】キンッキンに冷えた5000ペリカの缶ビール@トネガワ
【思考】基本:【対主催】
1:海老名ちゃんを守る。
2:新田を警戒。

【海老名菜々@干物妹!うまるちゃん】
【状態】健康
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【対主催】
1:新田さんを警戒。
2:野原さんと動く。
3:うまるちゃんたちと合流したい。







────『蝮』は笑った。

「新田ァあ〜〜? …ざけやがって、顔面をグチャグチャにぶち殺してやるっ!!!」



────『復讐の鬼』は願った。

「…新田………。うぅ…タエちゃん…、お願い……。私に優勝する力を…、貸して……………」



────『冥土』は警戒した。

「………信憑性はともかくとして…。新田という輩、マーダーであろうとなかろうと会ったら即殺のみでしょう。…協力なんて絶対不可能ですから」




巡り巡る、参加者たちの心情。

新田という男の存在が、殺し合いを大きくかき混ぜることとなる────……!

76次回 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/21(土) 22:28:47 ID:7yIiiBDk0
 “食うか食われるか。”

 “そこには上も下もなく、ただひたすらに食は生の特権であった。”

 “格ゲーブーム全盛の1994年から早二十年の今。”

 “異様で不気味な闘志が蔓延るゲーセンで生きた男・矢口ハルオと一行のもとに、ヤツは再び舞い降りた………。”




 “ハイスコアガール。あぁ、ハイスコアガール…。”


────『魔界村の騎士は両手に花』

77 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/21(土) 23:06:58 ID:7yIiiBDk0
お知らせです。
平成漫画ロワを始めてもうすぐ1か月が経とうとなりましたが、実際執筆に至り自分の中で「何かが違う」と思い悩んでいました。
その「何か」について今日不意に気づかされたのですが、当ロワは周りロワにおける『殺し合い』の緊張感・疑心暗鬼感が足りていませんでした。
私は従来のアンチテーゼをモットーに好き放題な展開で書いていましたが、皮肉にも、好き勝手書いた結果自分の心が満たされないことを悟ったのです。

つまり何が言いたいかというと、今からwikiに掲載されている回一部の内容の変更・訂正を行います。
さらにつまるところ、毒吐き別館にて指摘された当ロワの問題点をすべて改善しようと思っています。(例によっては、ダン飯関連です。正直原作は一回しか完読してませんでした。)
毒吐きの皆様の意見を取り入れ、従来のパロロワらしい展開をするパロロワが、自分にとっての『平成漫画ロワ』と判断したので、誠勝手ながらご理解の方お願い申し上げます。
「三拍子揃った」という表現がありますが果たして何拍子なのかと思うぐらい大量の訂正箇所があるロワで、書き直すことは大きな作業となりますが、コツコツながら最良に近づけていきますので、
当ロワを読んでくださる方も「このキャラこんなん言わんやろ…」と疑問に思う箇所があれば、箇条書きでOKですのでコメントの方お願いします。

最後に、これは本筋から離れますが、二週間ほど前パロロワ交流雑談所にて当ロワの論争で大きく荒れたことに関して、お詫びします。大変申し訳ございませんでした。
私は毒吐きでは完全にROM勢でしたが、要望スレにて報告される程の荒れ具合の引き金となったことを、平成漫画ロワ責任者としてお詫び申しました。

長々となりましたが、責任者としてこのロワを完結まで執筆しますので、皆様どうか平成漫画ロワ。いや、ヘマンロワはこれからもどうかよろしくお願いします。

78『魔界村の騎士は両手に花』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/22(日) 20:09:37 ID:dWhhbUZc0
[登場人物]  [[矢口ハルオ]]、[[オルル・ルーヴィンス]]、[[来生]]、[[ライオス・トーデン]]

79『魔界村の騎士は両手に花』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/22(日) 20:09:54 ID:dWhhbUZc0

 凶悪難易度ゲーム『魔界村』をプレイした男子なら誰もが妄想することだった。

知らんやつ宛に説明すると、このゲームの主人公はダメージを受けると鎧が壊れてパンツ一丁になるわけよ。
それを目の当たりにしたら、…必然的に思っちまうんだわ。
こいつが美少女だったらなぁー…。
主人公がおっさんじゃなくて女騎士版の魔界村作ってくんねぇーかなぁ……、とすけべ心が欲動しちまう訳だ。
……俺も男だから、そんな下衆な妄想すんのも仕方ねぇよな?…一応……。
初代魔界村が稼働し、十年が経つ今。
スト2はZEROへと進化を遂げバンバン女ファイターが活躍する一方で、魔界村は未だおっさんのままだ。
『いつまでも変わらない味』ってのは確かに大切なことだが、そろそろ女キャラ導入してもいいとは思うぞ?
あくまで、俺の個人的な意見だがな。

 …あぁ、そうだよな。
確かに、以上は今行われてる殺し合いとは全く関係ないゲーヲタの独り語りよ。
どうでもいいっちゃこの上はねぇー…。

だが、だぜ。
目の前にいる『コイツ』を見て、俺が真っ先に連想したのは魔界村だったんだ。
俺にとって、この『異常者』=アーサー…。
やつの格好は衝撃的過ぎてな…、思考停止した俺は魔界村という感想しか思いつかなかったんだよ。
……普通の非ゲーマーなら、めちゃくちゃ叫んで怯えまくるんだろうがな。
この、オルルみてぇーに……。


「な、なななんだ………、き、貴様ぁぁぁ……?!! ひぃ、やぁぁ……あぁ………ぁぁあぁぁ……………───────────っっっ!!!?????」

「…あぁ、すまない。俺は服装には構わない方だから。今下の鎧を取ってく──…、」


「『服装に構わない〜』はまず服を着てるやつのセリフだわいっ!!! この…変態野郎がぁァァ───────ッ!!!!!!!」


 ゴスッ

「…があッ」


ソイツが喋りだした瞬間、やっと我を戻した俺は顔面めがけてダルシムパンチを一突き。
『下半身丸出し』の鎧野郎へ、まるで牛のケツに拳突っ込む酪農家ばりに顔面をぶん殴ってやった……。


「な、な、…なんだよこいつはぁっ??!!!」


…とりあえず一旦話を数十分前に戻すぞ。

80『魔界村の騎士は両手に花』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/22(日) 20:10:11 ID:dWhhbUZc0



「プル………、パパ……………、私…、辛いよ……苦しいよ…………………。ごめん、なさい…ごめ…うーん……………──」


「────ハッ!!!」

「うひっ?!! 起きやがった!!!」


「…あ」 「………あー…」


 …おうおう、地獄の始まりだぜ……。──源平討魔伝のババアが手招きしてらぁ。
俺を襲撃したガキ──オルルが目を覚ましたのは空が微妙に青くなってきた時間帯。
それまでは近くのケータイショップにて、ソファに寝かしつけといたんだが、十数分経てとうとう覚醒しやがったよ…。
…オルルが寝てる間に逃げれば良いじゃん、とか突っ込まないでな。
ガイルのおっさんに託された以上…、俺も義理堅い性格ではあるからなぁ…。


「……………………」

「………………はぁーぁー………、参っちまうぜ…」


目が合って数秒経ったが、さてどう話すべきか…。
ガイルの言った通り、確かにこいつは寝てりゃただのガキンチョで。
うーん…、とうなされつつもむにゃむにゃ夢見心地の可愛げある奴だった。
──…だけどんなの関係ねぇーーしぃっ!!!
こいつは何の面識もねぇ俺を切りにかかった野郎、…何よりさっきの激闘でKOされて憎んでるわけだぜ??
一応バカデカ剣は奪ったから悪・即・斬は封じといたが、それでもこいつと穏便に接するなんて無理ある話だわっ!!
…あっ、何か忘れてた頬の痛みがまたジワジワ湿りだしてきたし……。
ほんと…、どう話せばいいわけよ………?


 ピタッ…


「いっ??! いっでぇえええ!!!!!」


痛っ!!! 畜生!!
オルルのガキ、そっと俺の傷跡に手を添えてきやがった!!!
…あっ、反対の頬にも手当ててきたし。
な、なんなんじゃこいつ!!


「……………やっぱり、なんも『反応』がない………。『呪い』が…、発動しない………」

「はぁあっ??!! 意味分かんねーよ!!」


ポツリ…と小声を漏らしたオルル。
ガキの小さな手がゆっくりと頬から離れていった。


「……ごめん………なさい」

「……あ???」

「…貴方を悪魔だと勘違いして……、私…憔悴してたから………、殺しにかかっちゃって……………」

「あ、あくま??」

「本当に………ごめんなさい…」


正直、謝れるだなんて一ミリも予想してなかったから…虚を突かれちまって俺は固まった。
……えーと………。
クソッ……、割と穏便に済んだら済んだで困っちまうもんだぜ……。


「……………」


んまぁー、…とりあえずだ。
深々と頭を下げるオルルの、今にも溢れだしそうな目の潤いがなんとも気の毒だから、俺もそれなりの返しをしてやるか……。

81『魔界村の騎士は両手に花』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/22(日) 20:10:30 ID:dWhhbUZc0
「…お、おう……! 気にすんな…──って言うとなんかムカつくけど…まぁいいよ。…お前もガキだし仕方ねぇってもんだからな」

「…………許して…くれるの………?」

「そーしとくよ。…プロ殴られ屋の俺だ。頬の傷なんかどうってこたぁねえぜ」

「………ごめんなさい。…そして……ありがとう…………──」



「──……ねえ、キミ……名前はなんていうの?」

「…あー? 俺矢口ハルオ。──おっと、お前は名乗んなくていいぜ? オルル…だろ…?」

「…うん。矢口……ね」


…呼び捨てしちゃうッスかー?
オルルパイセンよ〜〜?


「矢口……、ちょっと私試したいことがあるから………。他の参加者に会いに…、外出たいんだけど」

「………げっ!! ゲヘェ〜〜〜〜っ………。外に出るー? 参加者に会いにー?? 俺襲われたばっかなんだぜ?? おい〜……」


「………………そのことはごめんなさい」


「…あっ、いや俺が悪ぃ……」



「…でもほんとに…、私の『呪い』について確かめたいことがあるのよ………。──あっ、嫌なら…別に私一人で………いくけど。………うん。無理、だよね…………」


…露骨に悲しげな顔しよって。
これだから女のガキンチョは………、あー苦手だよ。
やるかやらないかで言えば絶対やりたくねぇーし、無理と判を押し付けたいくらいだぜ。──そのガキガキ顔にギューーッと判をよぉ?
………けどもだぜ。


 ──ハルオ……っ! ファイナルファイトで過ごしたあの時…を。隣に大野がいたあの時を思い出すんだ……っ!!

 ──2P同時プレイでの協力プレイ……。今すべきはまさに『ファイナルファイト』なんじゃないのか…? ハルオ……!!


…そうだ、しゃーねぇよな。


「…やべぇことになったら俺逃げるからな??」

「………えっ??」

「ほら、行くぞ。オルル……。なに試すのか知らねぇーけど…」

「……あっ…あ、ありがとう…!」


オルルのデイバッグを肩にかけ、俺はガキの手を引いてやった。
…あっ、そうだそうだ。


「言っとくけど、さっきみてぇーに手当たり次第「悪魔がぁ〜」って襲うなよっ??! 保護者役の俺にも責任降りかかるんだからな!!? 分かったか?!」

「……それは勿論心得てるわ………。うんっ」

「ほんじゃ行くぞ。しっかり掴まってろ」

「…え? つかまるって…ど、どういうことよ?」



…どういうこと、か。
一から説明すんの面倒臭ぇーから……。ま、とりあえずノリよ。ノリ。

82『魔界村の騎士は両手に花』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/22(日) 20:10:43 ID:dWhhbUZc0
 (→↓+Pボタンx3)
──────『ヨガテレポート』


「わっ──…!!!!」


 ビシュンッ……


ダルシムの技テレポートで適当な場所へと向かっていった。





────んで、ワープした先っつうーのが………。

83『魔界村の騎士は両手に花』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/22(日) 20:10:59 ID:dWhhbUZc0



「な、ななななな、なにをしてるんだぁ───────っっ???!!!! きさまぁぁ───────っ!!!!」


 BAN!BAN!BAN!BAN!BAN!BAN!BAN!BAN!

 BAN!BAN!BAN!BAN!BAN!BAN!BAN!BAN!



────車をバンバンぶん殴る鎧ロシュツキョウジャーの前だったわけよ…。
いぃやテメェはスト2のボーナスゲーム中かっ!!!!


「ひぃいいいぃぃぃぃっ!!!!!」

「…あっ!!」


よく見りゃ車内には涙目の女子がうずくまっていたし……。
このクズ野郎!!!


「…あっ、やあ!!」

「「やぁ、じゃないわいっ!!!!」」


「俺はライオス。妹を助けに魔物食でダンジョンを進む冒険家さ。…あっ、俺は決して殺し合いには乗ってないから安心──…、」

「この悪魔が…成敗してくれるわぁあぁぁぁ──────っっ!!!!!!」


にこやかな狂人目掛けて、オルルは剣引きづらせ果敢に飛び込んだ…!!
さっきは、「襲いかかるなよ」と注意した俺だが………、いいぞっ!! やれやれ!!!


「わっ。は、話を聞いてくれ!! 俺は主催者を倒したいんだ!! これは本当なん──…、」

「オルル!! やっちまえぇえ!! 誰も文句は言わねぇーぜ!!!」

「うんっ!! 承諾済み…! うおおおおぉぉぉぉおおおぁあああああああああああああぁぁぁぁぁ──────っっ!!!!!!」


ったく、テレポート早々不埒な野郎に出くわしたもんだぜ…!
ふっざけんなよ!!! ゴラッ!!!


 スタタタタタタターーッッ


と、無駄のない華麗な動きで一気に距離を詰めたオルルは、あの重たい剣を天高く突き刺す。
…露出野郎も剣を持っていたが、差は爪楊枝と割り箸同然。オルルの鉄板のような剣に敵うわけがなかった。
月明かりに照らされ、一瞬輝きが走る剣先。
剣先が再び暗闇に鋼鉄した時、オルルは


 ビュン──────っ


と。
最低野郎の頭目掛けて、一気に振り下ろした。





 ────バリンッ


  バラ、バラバラバラ、バラバラ……





「……………はぁ、や…やっぱり……………………」


「…え? な、なんて??」

84『魔界村の騎士は両手に花』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/22(日) 20:11:19 ID:dWhhbUZc0
──剣を振り抜いたオルルが「やっぱり…」とため息をついた理由……、それが分かったのは割と後だったぜ……………。


「…えっ??!!」


 鋭い刃面がやつの頭に直撃した瞬間、大きく響いた粉々に割れる音。
…そいつは決して、異常者野郎の頭が砕ける音じゃねぇってのは分かるよな……。
バラバラに砕け散ったのはオルルのバカでかい剣の方。
異常者には大してダメージを与えることができず…、


「こ、これは…。きみっ!! 一体どうしたんだい!!」


──というか全く外傷つけることなく、剣はその役目を終えてしまった……。
いや、なんでっ??!!
どうしてっ?!!!
物理的におかしいだろ?!! チョキがグーを羊羹切るみたいにスーって切断したようなもんだぞ??!!


「…やっぱり……だ………。もしかしたら……、呪いが消えたかと思ったのに……………。思ってたのにっ!!! …うぐっ、えぇん………、ええんっっ…!!」

「うわっ!! 大丈夫かい?! どこか怪我をしたんじゃないのかっ!! き、きみ!!!」


ポン…と奴はオルルの肩に手を置いた。
……それだけ、だったのに…──刹那だ。


「ぐわぁああぁぁぁぁああああああぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜───────っ!!!!!!!!!」

「えっ??! オ、オルル!!!!」


突如、オルルの身体全身は…電撃で包まれ、ビガビガビリビリビリ────と稲妻を発し始めた…!!
言うまでもねぇーが、少女は悶絶と超絶痺れで表情を強張らせ、カクッ、カクッと首を動かす…。

 ビリビリビリビリビリビリビリビリ────────ッッ

雷鳴は…異常者が触れた手を話した途端に。


「…ぐっへっへぇえええええええええええあ…………………………!!!」


パタリと止まった……。
──あぁそうバタリッ、ともだ。…これはオルルが倒れた音。


「………き、きみ…。こ、これは……あれだな」

「………………………」



 痺れてビクンビクンッと、リハビリ患者みたいに死物狂いで体を動かすオルル…。
ボッコボコの車、内部にて鼻水を垂らしながらなにか叫ぶ女…。
そして、狂人。

これはー………。
俺の固い頭が導き出した現状把握は…こうだぜ。
…よく知らねぇが狂人野郎もスト2…いや、なんかのマイナーゲームの技をラーニングされていて。
そのマイナーゲームというのが電撃使いなわけだから、剣も簡単に折れたし触れるだけで感電もさせた…。
奴が車を物理的に攻撃したのは、車には電気が効かない作りになっているから、か……。
的外れなら許せ…。あくまで俺のバカ脳がひねり出した考察なんだからな……。


「…あぁ、すまない。俺は服装には構わない方だから。今下の鎧を取ってく──…、」


…まっ、んなこたぁ、どうだっていいが…。
とりあえず。


「『服装に構わない〜』は…以下略っ!!! この…変態野郎がぁァァ───────ッ!!!!!!!」

85『魔界村の騎士は両手に花』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/22(日) 20:11:30 ID:dWhhbUZc0
 ゴスッ───────



俺は拳をヤツの顔面にビョーンっと一発。
ジャイアンに殴られたのび太並にめり込ませた…。
おーっ、セーフ……。感電なし〜………。



 バタリっ…──

 ──ガチャリッ


「怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!!!! うっうぅわぁあぁぁああぁぁああああああああ〜ん!!!!! 怖かったよ〜!!! 助けてぇええ!!!!!!」

「うおわいっ!!!!!??」


やべーやつを倒したとほぼ同時、待ってましたかというように車から女が飛び出してきた。
ギュッ…と抱きしめられる俺……。
あー、このままエンディングロールとなれば締まりがいいんだけどよぉ〜〜……。

86『魔界村の騎士は両手に花』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/22(日) 20:11:47 ID:dWhhbUZc0




……
「…ふーん、矢口くんね……。私は来生。優勝狙う気だったけど…もうやる気滅入ったわ……。で、あなたがー………」


「私はルーヴィンス家の末裔…。悪魔ハンターのオルル。──…ごめん、矢口。試して分かったけど…、『悪魔の呪い』……。まだ継続中だったわ………」


「あーはいはい…。つまりオメーは悪魔的な奴に触れると痺れちまう呪いがあるわけね? …はぁーあ…おいおいだぜー……」


「うん…。その証拠に矢口も。あと…、ほら」


 ポンッ


「来生さんに触れても何ともないわ…」

「…なによ、その………(…いや私も十分悪魔的異常者なんだけどっ?! 腹立つわね……)」

「厳密に言えば、今までは魔界の…本物の悪魔に触れたときだけ呪いが発動したけど……。見た目は人間でも悪魔同然の奴もアウト……みたい。……ぐっ、うぐ………」


「また泣いたし〜……。つーか、それじゃあ全然役に立たないじゃねえ────っか!!!!!」


「うぇえ〜〜〜〜ん!!! そうだよ〜〜〜!! だから、だから私…悔しいんだよ〜〜〜〜〜〜〜!!!!!! うわぁあ〜〜〜ん!!!」

「ちょっと矢口くん!! こんな小さい子相手に言い過ぎじゃない!!? 謝りなさいよー!!」

「いや…………、だって…、あれだけ力あるくせにこんな呪いで……。…役に立たないのは事実じゃねぇーかよ」

「まぁまぁ!! …オルル、君は立派だよ。このメンバーに不要な人なんかいないさ。ハルオは格闘担当、オルルは悪魔判定機、来生も……医療担当…。決して外れちゃいけないピースだからなっ!!」

「………………………」

「ひぐっ………………、ひぐぅっ!!!」



「…おうおう、それはそうとなぁ……────」







「なんで変態鎧野郎がこの場にいるんだよ────ッッ!!!!!!??? 馴染んでんじゃねぇえええ!!!!!!」



ホテルの個室、ベッドを囲んで右回りから俺、オルル、来生とかいう女、そして…コイツ………。


「そ、そうよおおぉおおっ!!??!!! …ひ、ひぃやぁぁあああああああああああああああああああっ!!!!!!!」

「うわぁぁああぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜んんん!!!!!!!!」


 俺のツッコミが終わると同時に、悲鳴が二重奏で展開された。
なんでテメェまでノコノコついてきやがんだよ……。

…って………、


「なにテメェ困った顔してんのじゃいっ!!!! アホかお前?!!!!!」

「い…いや、だって。話が違うじゃないか!!!」

「矢口くんコイツ追い出してぇええええ!!!!! 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖いひぃいいぃぃいもういやぁあああ〜〜!!!!!」

「…ちゃ、ちゃんと下を穿いてきたんだぞ、俺は…。それなのに、この対応はおかしいじゃないか?!」

「黙れ悪魔っ!!!」

「そうよそうよ!!! ひぐっ…悪魔は消えろっ!!!」

87『魔界村の騎士は両手に花』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/22(日) 20:12:03 ID:dWhhbUZc0
「…悪魔って…………。君たち………、そりゃないだろう………」


…だから、テメェが落ち込んだ顔してんじゃねぇえっ!!!!!

奴は相当堪えたのか、しょんぼりしながらトボトボと歩き出す。
…そのわざとらしさ感じるガッカリっぷりに得体の知れぬ狂気を覚えたがどうでもいい。
そのままアイツは扉を開けて、スタスタ部屋から消えていった。
 …──かと思えばさにあらずっ!!
出口付近の冷蔵庫をガチャリ…。
なんだか神妙な顔でゴソゴソ漁りだすと中にあった謎の機械??をヴィイイイーンと作動させて……、
遊んでいやがった……。


「や、やや、矢口くんあいつ殺しましょ?! ねっ、今がチャンスだから!!! 早くっ!!!」

「馬鹿野郎??!! 返り討ちに遭うだろうが?! 聞いてたかよ?! あいつ剣士だかなんだかつっただろうがよーーっ!!!!」

「矢口…、じゃあ一旦は逃げよう!! あの…ヨガテレポート(?)で!! それならいいわよね!!」

「あっ…、そ、そうだな!!」

「…な、なによテレポートって…」

「説明はあとですっから…とりあえず来生俺に掴まれ!!!」

「えっ? 分かったわよ……」


…両肩に高嶺の花……。
小さい手の感触が二つ、感じたところで俺は頭の中を念じ始めた。
ヨガテレポート………いけっ………! と。
適当な場所を始点にワープを開始したぜ…。


──あっ、ちなみにだが……。
…いやこれわざわざ紹介する必要ねぇーかな…。

 あのイカれた剣士の名前はライオス・トーデンだとかなんとか。
龍に妹を捕食されたから、救うためエルフ、ハーフフット、ドワーフの四人でRPGをしてるという……。
あぁ、説明だけでも完全にイカれてるよな。現に、あいつは「魔物が云々〜」とめちゃくちゃ早口で喋ってて…マジ戦慄させられたしよ。
ダンジョンがどうの〜だのと、連想させられるのはウィザードリィやドラクエとかだが生憎俺はアーケードゲーマーなんでね。
家庭用ゲーム機はほぼほぼ対象外だから、ヤツの話は興味をそそられなかった。
…まぁゲームの趣旨は抜きにしても、ライオスの話なんか聞いてたまっかよ……。




────そんなヤツの手が、


「あっ、来生。迷惑をかけたお詫びといったらなんだが…………」



────いや、ヤツが持つ電気マッサージが、


 ぶいぃぃぃぃぃん…


  …ぶぶぶぶっ


「…ぎゃっ──」



────ワープ寸前だった俺達の、──来生の肩にチョン…と乗っかり………。



「「「あっ」」」




 ピシュンッ

88『魔界村の騎士は両手に花』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/22(日) 20:12:16 ID:dWhhbUZc0



「おおっ!! ここはホテルのロビー…。瞬時に五階から一回までワープするとは……魔術………!? き、きみ…もしかしてマルシルを知ってるか?!」


────俺達『四人』は、一階までテレポートしていった。




「…やっ、やだぁあああぁぉぁぁぁぁぁっ!!!!!! お母さんお母さんお母さんお母さんお母さんお父さんお父さんお父さんお父さんおまわりさんおまわりさんおまわりさん!!!!!!」

「うっわぁあ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!!!!!!!」


「なぁハルオ。人は食わなきゃ生きていけない。それが掟なんだ。だからここいらで一つ。俺の魔物飯を──…、」

「いやお前は死なんかいっ!!!!!」


 ゴシュッ


「ぐへがっ」







 …
 ……
 “食うか食われるか。”


 “そこには上も下もなく、ただひたすらに食は生の特権であった。”


 “格ゲーブーム全盛の1994年から早二十年の今。”


 “異様で不気味な闘志が蔓延るゲーセンで生きた男・矢口ハルオと一行のもとに、ヤツは再び舞い降りた………。”




 “ハイスコアガール。あぁ、ハイスコアガール…。”




【1日目/B2/ラブホテル/1F/AM.01:35】
【ライオスさん隊】
【矢口ハルオ@HI SCORE GIRL】
【状態】頬に切り傷(軽)、ダルシム@スト2技ラーニング
【装備】なし
【道具】なし
【思考】基本:【静観】
1:ライオスをどうにかしねぇと…。
2:ガイルの委託に従い、オルル(と来生)を守る。

【オルル・ルーヴィンス@悪魔のメムメムちゃん】
【状態】号泣
【装備】なし
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:矢口らと行動。
2:ただしライオスはくんなっ!!

【来生@空が灰色だから】
【状態】精神状態:恐怖(大)
【装備】アーミーナイフ@牛丼ガイジ
【道具】なし
【思考】基本:【静観】
1:矢口くんらと一応行動。
2:ただしライオスはくんな!! 普通じゃない普通じゃない普通じゃない普通じゃない!!
3:助けて助けて助けて助けて!!

【ライオス・トーデン@ダンジョン飯】
【状態】健康
【装備】鋼の剣『ケン助』@ダンジョン飯
【道具】クリスマスプレゼント・電マ@わたモテ
【思考】基本:【対主催】
1:来生、ハルオ、オルルを守る。
2:一旦は食事だ。
3:主催者を倒し、ゲームを終わらせる。
4:パンツがあるから恥ずかしくないよ!

89次回 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/22(日) 20:13:17 ID:dWhhbUZc0
 ”ぬんっ”


────『しかだがのこのこだがしかしたたん』

90『しかだがのこのこだがしかしたたん』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/25(水) 21:28:17 ID:J4hzjdvo0
[登場人物]  [[佐野]]、[[鹿田ヨウ]]

91『しかだがのこのこだがしかしたたん』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/25(水) 21:28:46 ID:J4hzjdvo0
 ただ一人でもいい、私は仲間が欲しかった。
バスの中にあんなにも多くの人間がいたから、私の『仲間』が紛れているんじゃないかと。
そんな淡い期待を、正直抱いていた。


「…隣りに座っていた……来生さん」

「私に気づいた途端、大袈裟なくらいに怯えちゃって……」


「やっぱり…来生さんも自分を開放できなかった普通の人間なんだね…………。……寂しいよ、…辛いよ」




河川敷の橋の下。
真っ暗な影に覆われ透過されそうな中、私は衣服を脱いだ。


 ベチャッ、ベチャッ


そして同じくらい真っ黒な『蛍光液』を、体全身に塗りたくる。


 バサッ……


…普段被っている『髪』。
塗るのに邪魔だったからそれを無造作に投げ捨てる。
露になったスキンヘッドにも蛍光液をたっぷり染み込ませた。


 ガサゴソ……


 ペタッ、
  ペタ、ペタ…


袋から一つ、一つ取り出していく。
山で見つけた動物たちから拝借した、大小さまざまな『目玉』。
濡れ切ってベタベタになった身体へ、吸い付くように貼っていく。
脚、手、胴、頭、後ろ、裏側、──付け爪を剥がし、十本指全部にもつけていって、


  ブゥン…
   ブゥン、ブゥンブゥン
 ブゥーン……


羽虫たちが嗅ぎつけて周りを飛び交ってくる。
全身ギョロ目で埋め尽くされるこの姿が──────、『本当の私』。
これが皆に見てもらいたい私の姿だった。


「緑の色の毒の電波が走っているのを見つけたのはクリスマスだったな…。12月25日。キリストもメシアとして知ってた…。だから血を流したり、腹を裂いて黄色い脂肪の玉を取り出したりしたからねー…」


「まるで蛙の解剖みたいに。…うふふっ! ──あっ、いたたた……。痛みはやっぱり鉄の足枷ねー……」





「……来生さぁん…。ほんとは私を試してるんでしょ? 普通の人間のフリして私が『本物の仲間』か試してるんだよね? 分かってるんだよ?? …ねえ、だから教えてよ」


「──今、渋谷のどこにいるか教えて。脳内電磁波を飛ばしてさ………。お願い、来生さん………」



 私のこの姿を見た、自分を『解放』できない人々は皆逃げていく。
大声を出して、泣きながら、いろんな汁を飛ばしつつ、山から走り去る。
私は別に襲いかかろうとか、そんなアクションを一ミリも取っていないのに、みんなみんな逃げるしかしない。してくれない。

その人たちの背中を見るたびに、私はいつも決まった思考をしてしまう。
──特に、カップル連れとか、二人組の人を見たら。その思考が顕著に激しくなる。

92『しかだがのこのこだがしかしたたん』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/25(水) 21:29:10 ID:J4hzjdvo0
 “私も、あぁやって一緒に逃げてくれる『仲間』が、ほしい。”………って。



「えっ??! うおっ、はぅあぁあっ!!!!??!!!」


………。
ふと、後ろからの声に振り向かされた。
…この男の人もまた、一言も会話してないのに、私を見ただけで既に立ち去る体勢でいる。


「ひっ、ひっ!!! うおわぁぁあああああぁぁぁぁぁぁぁああああああああああっ!!!!!!!!!!!!!!!」


そして、予想通り物凄い勢いで逃げていった。
…いつも、こう。
もしかしたら、この渋谷なら違った反応になるかなと期待したけど。…いつも、いつも、いつも、いつも、いつも、こう。
皆そろってマニュアルみたいに同じ行動して、私はいつも一人残される。


 もしかしてこの星には、自分を『開放』し自由になろうって考えの人はもういないのかな。

 この星のあらゆる海、あらゆる土地を探しても私と同じ考えの人は見つからないのかな。
 だとしたら、もう地球には用はないから宇宙外にいきたいけど、……私にロケットとか所有していない。

 つまり、私はこれからもずっと……、本当の自分を誰にも理解されず。
 ずっとずっと、偽の姿のまま生きなきゃいけない。


 そういうこと、なんだね。



…目玉から、ドロドロと汁があふれてきた。
多分、熱帯夜だから腐るのも早いんだろう。蛾やアブにたっぷり目の汁がかかる。
足先の目、肩につけた目、額につけた目、顎につけた目────あと、元からついてる目から。…液体が止まりを見せなかった。




「──うおぉぉおおおおおおぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!!」


……………え?
背後から急に大声が迫ってくる。正直、意表を私は突かれちゃった。
振り向いた先にいたのは、さっき逃げ出したあの男の人。

 ズザザザザ────ッと。
私の横で急ブレーキをかけたそのおじさん。
息を荒くしながら、彼は私の肩をポン、と叩き……、そして物凄くフレンドリーに話しかけてきた。


「ハァハァ…! …君の全身についてる『それ』…。これって、まさしく──…!!」

「…………え? な……」


「────『ヤングドーナツ』だよねっ!!!!! ハァハァ…ハハハー…、ハーハッハッハッハッハッ!!!!!!!!──」



「──貼りたりないようだから急いで買ってきたぜっ!!!! ほら、喜んで受け取りなっ!!!!!!」



……………。
私の手には、よく見る駄菓子が握らされていた。

93『しかだがのこのこだがしかしたたん』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/25(水) 21:29:24 ID:J4hzjdvo0



「ここで、お勉強ターイムと行こうかっ!!!!!!!」


 そういって、目の前のおじさんはメガネをかけだした。
…メガネといってもマーブルチョコたちが「8」型に包装された駄菓子のあれだけど。
それをスチャっとかける素振りをして、おじさんは講釈を始める。


「ヤングドーナツは今から二十年前に宮田製菓から発売された新人駄菓子なんだぜ!!!!! …あっ、宮田製菓さんいつもありがとうございます〜〜!!!!!!」

「ルーツはみんな大好き揚げパンだ!! それもアンコが入ってるやつねっ!!!!! 普段その製造をしていた下請け会社から宮田製菓さんに「揚げパンの材料があまったからあげるよ〜」的な委託をされたんだ!!!!!」

「これをどうにかうちの製品に作れないか…? と悩む宮田製菓さん……。そこで、この駄菓子が閃いたというわけなんだっ!!!!!!」

「あのヤングドーナツ…牛乳、小麦粉、たまごにお砂糖の素朴な味ではあるが、アクセントになってるのは降り掛かった粉末砂糖だろうっ!!!! あれはこの歴史が由来となっていたんだよ!!!!」


………私は何を聞かせれているんだろ。
そもそもにして目玉をドーナツと見間違える視力もスゴいけど、さっきからわけ分からない話の勢いが凄まじい。
ほんとに、このおじさんは何が言いたいのかな?


「…しかしだなっ……。噂には聞いていた全身ヤングドーナツ人間だが……。まさかこんな場所で出会えるとは………!!!」


なんか全身ヤング云々とかいう意味のわからない変人と勘違いされてしまった。


「俺…、実は『世界一駄菓子を愛してる人間って自分じゃないのか? いふふふっ!!! 』…って思ってたんだが自惚れだったぜ…。──ヤングドーナツ人間くん!!! 君を超えるヤングドーナツ愛の人間は、この世にいないっ!!!!!!!」


…駄菓子は別に好きでも嫌いでもない…かな。
というか、「いふふふっ!!」ってどういう笑い方なの?


「そこで、俺は考えた。…どうにかして、君に対抗できない…か、をねっ!!!!!」


ライバルにされてしまった。


「…君の模倣になるようだが許してくれ………! そして刮目してくれっ!!!!!──」

「────これが…、俺の…!! 『駄菓子愛』なんだァァァア────────────ッッ!!!!!!!!!!」


なんだか急にテンションMAXになり、叫びだしたおじさん。
明らかに普通ではないおじさんは、自分の着物をバッと脱ぎ出すと、自分の肉体美をさらけ出してきた…。
フンドシ一丁の体は、全身にマーブルチョコがべったりと貼り付いていて……、カラフルこの上なくデコレーションされている。
……この匂い、はちみつ…?
よく見たらおじさんの足元にはアリたちが羨ましそうに眺めていた。

…そもそもこの行動。
普通に考えればセクハラとか…それ以上の公然猥褻では??



「ハァハァ……。いい闘いだったな…! 俺達……!!!」


知らない間に闘わされてたらしかった。


「……激闘のあとは共闘だ…!!!! 駄菓子好きな俺達で渋谷に広めてやろうぜっ………!!」


…繰り返すけど私は駄菓子が好きじゃなかった。


「────まさしくヤングドーナツレボリューションをなっ!!!!! この殺し合いのルールに『穴』をあけてやろうぜ!!!!!! うおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!!」


……『穴』って。
そんな上手いこと言ってるようには聞こえなかった。

94『しかだがのこのこだがしかしたたん』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/25(水) 21:29:36 ID:J4hzjdvo0
ただ、一つ。
──ひとつだけ分かったことがある。

このおじさんが完全に普通ではないこと────言うなれば自分の『解放』に成功しきった人間なのだということが。
つまり、長きに求めていた同人種──『仲間』とついに出会ったのだ。
……私は、思わず息を飲んだ。


目玉を袋に全部戻し、全身を濡れタオルで拭いてから、カツラを被りスカート等を穿く。
制服に袖を通して、おじさんに一礼。
ついに『本物』と遭遇した私は、なんだか安堵な気持ちで満たされていた………。


「私、佐野といいます…。別にお菓子は好きじゃないです……。…それでは……!」

「……──えっ??!!!!! ちょ、ちょっと待って??!!! え???!!! お、おじさんは鹿田ヨウだよ!!!!!! …だからなんだって話だけど……。…と、とにかく待って!!!!!」



…でも、さすがにこの人と同類とは思われたくない…かな。


【1日目/C2/河川敷/AM.0:06】
【佐野@空が灰色だから】
【状態】健康(普通の姿)
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:『仲間』を探したい。

【鹿田ヨウ@だがしかし】
【状態】健康(フンドシ一丁に全身マーブルチョコ)
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【対主催】
1:駄菓子同盟・佐野ちゃんと駄菓子レボリューションを起こす。
2:──はずだったんだが……、ちょっとどこ行くの!??

95 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/25(水) 21:32:50 ID:J4hzjdvo0
 ”俺はただ飯をまともに食いたい、それだけだった────。”


 ”迷いし参加者が、悪鬼に襲われたその時。”

 ”ヒーローは颯爽と、月光の元現れた。”


 ”ヒーローはみな、素顔を現さない。”


────『世界一やさしい殺人鬼』

96『世界一やさしい殺人鬼』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/26(木) 22:05:05 ID:gM9aIOe.0
[登場人物]  [[田宮丸二郎]]、[[尾張ハジメ]]、[[黒崎義裕]]

97『世界一やさしい殺人鬼』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/26(木) 22:05:36 ID:gM9aIOe.0

美味しくウィダーインゼリーを食いたい────。

それだけだったはずなのに、俺は──────。

98『世界一やさしい殺人鬼』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/26(木) 22:06:00 ID:gM9aIOe.0



「うわくっせっ!!!!」


 支給物品である弁当箱。
タッパーを開いたらプゥ〜〜〜〜〜ン……と凄まじい腐敗臭が広がった。
──奇妙な手紙と共に。



 {{畠山くんへ。}}

 {{せっかく僕が朝早起きして君のためにお弁当を作ってあげたのに一口も食べないとは人としてどうかと思う。}}
 {{君に良心があるのならどうかこれを全部食べてほしい。}}

 {{僕をあまり怒らせないでくれ。 ──N}}



「……は?」

「…畠山? 誰だよ…。このNってのは主催者の名前か? …訳が分からない」


ネッチョリ…と納豆のような粘つきを見せる弁当箱。
…こんなモンを食えと? この俺に?
ふざけるなよっ?!


「まぁ…俺、畠山じゃないし……。別に放置でもいいよな…。これ」


弁当にそっと蓋を閉じて、とりあえず今座ってるベンチの横に置くこととした。
──……いや、やっぱ臭いがヤバすぎるから投げ捨てた。

 俺の名前は田宮丸二郎。
周りからはジローちゃんと呼ばれており、特に婚約者のみふゆからのモーニングコール──「ジローちゃん、朝よ〜!!」はこの上ない幸せだった。……だなんて、まぁどうでもいいわな。
明日に備えて早寝をした昨夜、目を覚ましたら「殺し合いをしてください…!」とは。
キャンペーングッズの抽選をコツコツ応募するのが趣味な俺であるが、人生初の当選がまさかのバトロワ参加権……。
いらんっ、いらんぞ。
犬にでもくれてやれっ。ンなもん。
…ため息は嫌いだからつかぬようしてきたものだが、さすがに許してくれ。


「…はぁあぁーー…………」


ンだよこれ……。
ワケわかんねぇし…、こういう時どんな顔すりゃいいか途方に暮れるわ…、これ。
…そうそう。
一番訳わからんのが、俺の支給武器だ。
バスから転送され目を覚ましたとき、まっさきに目に入ったのが横に座る『こいつ』。──……こいつ、はおかしいか。人間じゃないもんな……。
顔はバカでかく、鼻水を垂らし目はギョロギョロ。
おまけに寸胴で一見全く頼りになさそうなこいつ。
──そいつの名は正義のヒーロー『どくフラワー』だ。
…言ってしまえば、スーツアクターが職業の俺が着る 着ぐるみというわけだ。
ご丁寧にも値札のように、『田宮丸様専用武器』と貼り付けてあるのだから、これを着て戦えと申すのだろう。


「…きったねぇ弁当誤支給した割には律儀によこしやがってなぁっ!!!」


…全く参った話である。
確かにどくフラワーは毒の力で敵を倒す正義の味方だ。
相手を一発で戦意喪失させるパンチに、とんでもないキック……、いざバトルとなれば彼に敵うやつなんかいないだろう。


「…がっ!!! あくまで、それは設定のはなし…」


こいつを着ていざ殺し合いとなってみろ?
ノー装備時に比べて動きづらい、視界も狭い、暑苦しさが半端じゃない……。パワーダウンもいいところだろうが。
なにが田宮丸様専用だ?! なにが俺専用武器だ?!! シャアかよっ?!!
……どうせ殺し合いをするんだったら、せめて有能な主催者の元やりたかったよ。うん。


「……で、俺はこれからどうすべきか…という話だが………」

99『世界一やさしい殺人鬼』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/26(木) 22:06:16 ID:gM9aIOe.0
…早い話、弁当ぶん投げた時点でもう俺の支給品はゼロなわけだ。
他の参加者みなさんもこんな感じのカス支給っぷりに困り果ててるだろう……と思ったが、あの主催者のことだし意味不明な支給格差がついてる可能性は大だ。

…なぁ?
俺はどうすりゃいい??
死亡率が凄まじく高い気がするんだが、ほんとに何をすれば助かるんだ。俺は……。
それとも諦めてさっさと自サツをしろという神の思し召しなのか??


「いや死にたくねえよ…。こんなバカげたことで……」


…とりあえず、

とりあえずだ。



俺は支給武器であるどくフラワーの中に入り、でっかい頭を被ってみることとする。





──とりあえず、
ここが一番の隠れ場所だから、な……。

100『世界一やさしい殺人鬼』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/26(木) 22:06:35 ID:gM9aIOe.0



 川のせせらぐ音。
屋根のない車修理場にて、一人の女性が歩いているのを確認した。
辺りは小休止中の大きな歯車、鉄片の数々に、事務所へ続く扉、至る所落ちている吸殻たちに、そして着ぐるみ。いずれも月明かりに辛うじて照らされるのみ。
一見して、OL風といったメガネの彼女。
バカか、否か。…恐らくバカであろう。
今がどういう状況かは分かってるだろうに、メガネ女は大声で周囲を見渡していた。


「おーー〜〜〜い! ココノツ店長いるスかぁ〜〜〜〜? ほたるさんは〜〜〜?」

「…いない、か……。お〜〜〜〜い! ハジメは自動車工場にいるっスよ〜〜〜〜〜〜!!」


大胆、と評せば聞こえはいいが、『ハジメ』と名乗った女性は大声を出して暫く経っても、この場に残り続ける。
ナンタラ店長だか、ほたるさんだかと早く出逢いたい──そんな思いは理解できるが、彼等よりも先に違う参加者と鉢合わす可能性の方が高いだろう。
ましてや、そうドでかい声を上げたら、絶対に出会いたくなんかない──ゲームに乗った参加者に会う確率の方が……。


 ザッ……

「あっ! ココノツ店長ッスか────…、」


「…って、違ったしー…………」


…即落ちにも程があるだろう。
ハジメの声を聞きつけ、足音を立ててきた男が一人……。
シワ一つないスーツを着た…なんだか権力者、重役と思える男が工場入口に立っていたのだ。
ハジメとヤツとの距離は推定十メートルほど距離が離れている。
そのためか彼女は声を届けたいと大声で、しかもこれといった緊張感皆無で男に接し始めた。
フレンドリーにメガネを光らす彼女…。やはりバカだった。


「すいませーーん!! 私、尾張ハジメって申しまーーす!!! …あっ、殺し合いには乗ってないんでーー、まぁ仲良くやらないスか〜〜?」

「……………………………」


尾張ハジメ。──…おわりはじめ……とは何たる因果な名前だろう。
ニコやかに叫ぶ彼女へ、男は無言で返す。──といっても、軽く微笑み手を振るといったアクションも含めて返事を返したのだが。
カッ、カッ、カッ、カッ────とハイヒールを鳴らし、彼へと近づくハジメ。
警戒心ゼロで歩み寄る彼女は、会話一つさえしていない男を完全に信頼しきっている面持ちだった。


「ところで〜〜、おじさん…名前なんて呼べばいいスカ? あっ、私は適当にハジメでいいんスけどーー……」


…例えば、ペットボトルがあるとしよう。
『ペットボトルの形はなんですか?』と聴かれた時、そら『?? ボトル状でしょう』と答えるはず。
ただし、ペットボトルの向きを回転させたとき。すなわち奥底を見せつければ、『いいえ、丸です』と答えることができる。
…つまりは、だ。


「あれーー? おじさん無視しちゃいますかぁ〜〜〜〜? まー、別にいいっスけどー……」


──視点を変えた時見えてくるものがある。
男と対面しているハジメは決して気付かないだろう。
彼が右手に隠し持っている『バズーカ砲』が────。



刹那。

 ──ボンッ、ドガァァァアアアアアアアアッッッッ


「……………………え?」


ハジメのすぐ背後が焼け野原で覆い尽くされる。
燃ゆる地面、一瞬にして湧き立つ煙、そして揺れる足元。
爆発音が静まった後、バズーカ男は口を開いた。

101『世界一やさしい殺人鬼』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/26(木) 22:06:54 ID:gM9aIOe.0
「動くのを、やめなさい…………!」


「…え??」


もう隠すまでもない。
銃口ははっきりとハジメを捉えていた。


「ははっ…! やはり反動を抑えるのが難しいな……。外してしまったよ……」

「…ちょ、ちょっ!!! な、なにやってんスか!!? 普通にやべ──……、」

「二回目だ。動くのをやめなさいっ………!」


「……………」

「この『動くな』は体あらゆる部位全て。口も開くな、を意味している……! 分かったかな………?」


男に一喝され、ハジメは静止をせざるを得なくなった。
冷静に考えてみれば、動こうが止まろうが待っているのは死一つのみなのだが、焼け燃える背後と男のマムシのような目が、まともな思考を許さなかった。
冷や汗がサラーっと顎から落ちるハジメ。
驚愕の顔を維持したまま、彼女は立ち尽くし、口をあんぐりと開け、ただただ。
────震えた様子で言葉を発した。


「…そのスーツ、『帝愛』の…っスよね…? だったら察するんスけど、おたく利根川幸雄か黒崎義裕…っスか?」

「……………………」

「その無反応は『御名答』を意味してますかね…? はは、私就活のとき大手を色々調べたんで、分かるんスよ……。ねえ、──黒崎さん?」

「……………ふぅ…」

「こんなことしていいと思ってるんスか…? 例え、私を殺せたとしても、立場上かなりやべーんじゃな──…、」

「わしはな………っ!」

「…え?」


「わしは、『四回まで』ならミスを許すことにしてるんだよ。自分の部下が……、一度注意したことをやらかそうとも……………! 四回までは穏便にしとるんだ…………。いつも…………」

「…な、なんの話──……、」

「だが君は、わしの部下ではない………っ!!! 無論……!! 『動くな』という指令を君は破り、これで三回目………………──」


「──三回も許してあげたのだから、優しい方だろう?」


「えっ………。ふ、ふざけるなっスよ──……、」

「言い訳は嫌いだ…。とどのつまり、これ以上の会話は圧倒的不要………っ! ──さようなら、お嬢さん……!」



間髪なく。────ボムッ…と。
ハジメの最期の言葉を待たずして、発射される弾丸。
ボーリングサイズのそれは、火の玉ストレートのように。
どこまでもどこまでも真っ直ぐにキレを保ち、そして、破裂。


「……………えっ」





光が、見えた。




 ──ドガァァァアアアアアアアアッッッッ


 ガァァァァ、ァァァァ………

   ガシャンッ、ガタガタ…………

102『世界一やさしい殺人鬼』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/26(木) 22:07:13 ID:gM9aIOe.0
     バタリッ──、ゴロゴロガタッ…………






「…ぁがああぁぁぁっ!!!?!」




はじき飛ばされ、転がっていく────『男』の身体。


「…えっ?? ……………えっ??」


二発目の弾丸が当たった先────『壁』がホツホツと焼け爛れる。
鉄パイプ山にぶつかり、ようやく静止した男。その驚きの顔を隠し切れなかった。
…それは、ハジメとて同じ様子だ。
男は問い掛ける。
「な……、何だね………? き、『キミ』は…………??」、──と。


 フフッ…。
思わず笑ってしまった。
今までの敵たち、奇襲を食らったら口を揃えてそのセリフを吐いてたのだから。
マジの殺し合いでの、そのセリフに笑わずいられない。


あのとき、バズーカが放たれる寸前。
俺は飛びかかり男に向かってキックをお見舞いした。
強烈で、たまらない一蹴りだ。
お陰でハジメは爆散なんてせず、今もこうして立っているわけなのだが。

……え?
何故、そんなピンチになるまで黙って見ていたんだ。って…?



簡単さ。


 ────ヒーローは、ピンチの時に駆けつけてくるんだよ。




「毒の力で平和を守る……──どくフラワー、参上!!!!!」





「…………………あ、あー?」


「帝愛の黒崎といったなッ!!!! お前はこのボクが、闘志乏しくなるまで叩きのめしてやるッ!!!! 覚悟しろッ!!!!」



…ほんとはどくフラワーは喋っちゃいけない設定なんだが、まぁ…いいだろう?
毒のヒーロー…もとい俺、田宮丸二郎は、正義の味方としてこのバトル・ロワイアルと対峙するのだった────。


「ど、どくフラワー………………!」


歓迎、歓喜の声…。
ハジメから発せられるその声になんだか痺れてしまう………!


「…やれやれだな…………。どく何とかクン、警告だ………! キミも動くのをやめな──…、」

「♪どーくの力で咲くフラワー♬♬」


「は? ……何をしてるのかね? き──…、」

「♬どくでー、花をー、咲かせましょーー♫♪」

103『世界一やさしい殺人鬼』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/26(木) 22:07:31 ID:gM9aIOe.0
 ♪どーくの力で倒そう〜、敵を〜

 ♪毒は怖くないよ〜〜、強いだけなんだ〜

 ♪さぁ、みんなもドクドクドクドクッ!



「♬ドックンドックン、ドックンドックンドックンドックン!! バックンバックン、バックンバックンッバックンバックンッッ!!!!」


「……………………」


動くな、ってか?
…そんなのどくフラワーには通じないんだよっ!!
どくフラワーは誰にも縛られないし、誰の言うことも聞かない…っ!!
それ故に、いつも孤独に戦い続ける正義のヒーロー…。だが、『どくフラワー体操』だけは毎回かかさず行う。
それが俺なんだよ……。
それがヒーローなんだよ…っ!!
俺の体操は誰にも止める権利はないんだよ………っ!!!!!
──…いや、あまり冷たい目で見ないでくださいよ……。黒崎のおじさん…。 


「はぁー………。ここは問題児ばかりだな……。…なあ、勝てるというのかね? わしに……………、キミは…………………っ!」


「…勝つか、負けるかじゃない……。闘いたくないんだ…………。なぁ…」


「………おやおや──」

「──本音が出たようだね。ダメじゃないか……!! キャラにちゃんとなりきらなきゃ……! 」

「…ボクは闘いたくない……。…ヒーローといっても綺麗事だ。…倒された敵は死んで、遺体は無惨に爆散で、…敵にも遺族がいる……」

「…………何が言いたいんだね」

「…ボクは……、ボクは……っ!! あんたをボコボコにして怪我させたくなんかないんだっ!!! 闘いをやめる選択肢があるなら、あんたはバトルを諦めるべき!!! さぁ選べっ!!!! ボクは倒したくないんだよっ!!!! あんたをっ!!!!」


「…やれやれ。そこまで勝てる見込みがあるのなら、わしも手加減は失礼に値するな……!」




「────やるのかい、黒崎?」



「────やるさ……! どくフラワー……──」


「──くんんんんんんんんんんんンンンンンンンンンンンンンっ……ッッッッ!!!!!!」



 素早くリロードされたバズーカから、弾丸が飛び出される。
俺はそれを軽くかわして刹那────真っ赤な光と爆音。始まりのゴング代わりにはちょっとうるさすぎた。




「わっ!!!! ど、どくフラワーさん!!!」


俺は一気に距離を縮め──いわば飛び蹴りで闘いにかかった!
…が、二度目はないぞ。と、黒崎は軽く避け、間髪入れずに襲いかかってくる右フック、左フック…。
さすがにこればかりは避けきれず図太い頭に直撃。
熱々の汗水がほとばしり、飛び散る。
…着ぐるみという名の厚い鎧のおかげでダメージは少なかったが、それでもスタンガンを受けたかのような痺れはあった。


「フンッ…………!!」


 ゴシュッツッッッ

104『世界一やさしい殺人鬼』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/26(木) 22:07:48 ID:gM9aIOe.0
…ぐえっ!!! 蹴り強っ?!!
三発目、蹴りを腹にぶち込まれ、尖った靴の先が内部にまで染み渡っていく。
このとき俺はキックの衝撃を堪え、後退りしないよう足に力を込めるので必死だった。
仮に突き飛ばされた場合、待っているのはバズーカの破壊光線……!
接近戦では飛び道具…、ましてや爆撃範囲の大きいバズーカは使うまいと、黒崎は考え肉弾戦に持ち込んでいるわけで。
ヤツと距離を遠くすることは死を意味するのだ…ッ!!!


「……ハハ。わしは空手を少しかじっていてね。まぁ、運動不足解消にと始めたものだが……。役に立ってよかったよ……………!」


 ドスッ

  ドスドスドスドスッッ


…そう言いながら奴は顔面めがけて正面突きをしてきやがった………!
ぐにゃり…とへこむどくフラワーフェイス……。──内部の俺もどんな顔になったかは言うまでもない。
正直、後悔した…。
クズいことを言うようだが、ヤツと闘ったことを後悔したよ。
汗とよだれと鼻水で内部はめっちゃめちゃだし、吐き気もすっごいくらいに止まらない。…もしかしたら、吐いたのかもしれない。
たった五発ほどの攻撃で。
俺はもう白目寸前で、立ってるのさえやっとだった…………。


「どうだね。どくフラワーくん。疲れたようなら、言いなさい……。すぐわしが楽にさせて──…、」





────だが、それが何だと言うんだ?





 ゴシュッ────どくフラワーパンチ。


「…っがぁっ!!!!」



 ドスッ、ドスドス────どくフラワートルネードキック。


「…ッッ……、…なっ??!!──」

「──ぐいぎいぃぃがぁぁぁぁああああっっ!!!!!!」



 ッ、パァァァァァァン────どくフラワーアッパー…!!


「…ぐほっがぁぁぁあぁぁぉっ!!!!!」


どくフラワーだって生き物だ。完璧超人なんかじゃない。
これまで何度も何度も何度も何度も……、もうワンパターンなくらいに敵に捕まり、死寸前まで追い詰められてきたというじゃないか。
毎回ボコられ、痛くて、辛く苦しくて。
投げ出したい。

投げだしたいけど………、
彼にはいた。仲間が、みんなが。
応援してくれる子どもたち、お客さんが……ッ!!

それは中身の俺とて同じだ。
俺にもみふゆ、近藤さん、大貫、服部、靖雄、亜希ちゃん……………、
そして、


「ど、どくフラワーさぁーーん!!!! 頑張ってッスーー!!!!!」


応援してくれる『お客さん』がいる…!!
大声を出して声援を送る彼女が、今…!!

だから、だから……………!!

105『世界一やさしい殺人鬼』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/26(木) 22:08:05 ID:gM9aIOe.0
「俺は……、ボクは絶対負けないんだぁアアアアァァァァアアアア─────────ッッ!!!!!!!!!!!」



「…ぐぅうっ…………! ──…あっ、あぁっ……!!!?」


 最後の一発を、よろける敵に向かって。
渾身の必殺技──どくフラワータックルをお見舞いしてやった。



…これもハイになった副作用から、か。その一撃の直前はなんだかすごくスローに俺は感じた。




「…す、素晴らしい……! ハァ、ハァ……きみは…どこでこの体術を……得たのかな…? 称賛に…値するっ……!! コングラッチュレー──…、」


「俺は、スーツアクターだ。…もっとも近藤さんには敵わんがな」





 ズッガァァァァァァァァァォァァァァッ─────

     …ドボンッ。



飛ばされた黒崎は、川の中へと落ちていった。



【1日目/D1/自動車整備場/川/AM.1:20】
【黒崎義裕@中間管理録トネガワ】
【状態】気絶
【装備】グレネードランチャー
【道具】???
【思考】基本:【マーダー】
1:バトル・ロワイヤルを楽しむ
2:会長が心配だけど一旦置いておく
3:どくフラワーを称賛

106『世界一やさしい殺人鬼』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/26(木) 22:08:22 ID:gM9aIOe.0



……
「いや〜〜!!! ほんっとスゴかったッスよ!!! ありがとうございます!!! 田宮丸師匠!! …てか師匠ほんと何者なんスか??!!」

「はははっ…。とにかく尾張さんが無事で良かったよ」


 …師匠って……、ハジメもスーツアクターするつもりなのか…?
工場を出て走ること十分弱。
近くにあったマクドナルドで疲れを癒やすことまた十分弱。(…この『十分』が大切なのだ。)
俺たち二人は色々話し込んで、このあとの方針を定め中なのだった。


「…あっ。失礼、師匠。鼻水が出てらっしゃるッス」


……あぁ。


「いや、いいんだよ」

「えー? よくないっスって!! ほらティッシュ渡しますから……、」

「…ふっ、いいんだ──」


「──どくフラワーにとって、演者の鼻水は勲章の証……だからな」



「…は、はぁッス……。よくわかんないスけど、あとでかんでくださいよ〜〜」


……分かりはしないだろう。
あぁ分かるわけがないんだ。
これは、どくフラワーを着た者たちにしか分からない……、特権なんだからな。
はははっ………。


「みふゆ…………。俺は絶対生きて帰るからな……! みんなを連れて……」


不謹慎ながら、これが勝利の甘美ってやつか……。
俺は思わず、ボソリッ独り言を漏らしてしまった。

107『世界一やさしい殺人鬼』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/26(木) 22:08:39 ID:gM9aIOe.0










「…ところで、ハジメさん。そのウィダーインゼリー………」

「…へ? なんスカ??」

「いや、変わった飲み方だな…って。なんでそうやって手に持たず、ちゅ〜〜〜〜〜って飲んでるんだ? おかしくないかな?」

「え??? 別に意味なんてないスけど……、強いて理由あげるならー…このほうが飲むの楽だから、ッスかね?」

「…楽……?」

「…はい。こう…ちゅ〜〜〜〜〜〜って一気に飲んで、十秒くらいで飲み干したらポイ〜、みたいな。みんなやってる飲み方っスよ」


「……みんなやってる…………? これが…『普通』…………?」


「え〜〜〜? 師匠はじゃあどう飲んでるんスカ〜〜〜? アイスのバニラの吸うあれも同じように飲むッスけど〜」

「ク…クーリッシュをか……?」

「あぁそれッス! 具体的名称すぐ出せるとかココノツ店長みたいスね〜〜。あははは〜〜〜」


「…俺は、クーリッシュを限界まで溶かし、容器を握りつぶして……、一瞬で飲むのが好きだった」

「…え?」

「…それはウィダーインゼリーも同じだ……。握りつぶして一瞬で口いっぱい……。あの旨さが好きだったんだ…」

「…師匠、失礼ながら怒ってます?」


「…………怒ってなんかねぇよ」


「……いや、えぇっ……?」


「怒ってなんかねぇけど、納得いかねぇって言いたいんだよ。俺は……」

「正直自分も何言いたいのかわけわかんないッスが…」

「俺は秋田の頃からずっと握りつぶして飲んでた。それは周りも同じだ……、みんなやってたんだ。…なのに、なのに………」



「どうしてお前の飲み方が普通と断言できるんだぁぁぁぁ─────────!!!!!!!!」

「俺が異常だと………そう言いたいのかぁぁぁぁ─────────!!!!!!!!」









気がついたら俺は椅子でハジメを滅多打ちにして殺していた────…。









【1日目/D2/マクドナルド店内/AM.1:45】
【田宮丸二郎@目玉焼きの黄身 いつつぶす?】
【状態】放心状態
【装備】どくフラワー@目玉焼き
【道具】なし
【思考】基本:【???】
1:…。



【尾張ハジメ@だがしかし 死亡確認】
【残り66人】

108次回 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/26(木) 22:14:53 ID:gM9aIOe.0
 「恋愛は告白したほうが負けなのである!」

 暗い駐車場で出会った藤原書記とマイク…。
 接点は掠りほどもない二人がバーにて出会った少女。
 イヤホンをはめ無表情を貫く…。そんな『陰キャ』な彼女を巻き込んだ、藤原書記のゲームが今始まる──!!

 理想
 『仲間になろ〜よ〜!ね?』→『…はい、分かりました』

 現実
 『仲間になろ〜よ〜!ね?』→『普通に嫌だけど──────』


────『クマとリボンと音楽少女(終)』

109名無しさん:2024/09/26(木) 23:24:35 ID:W05XKUAU0
え?ハジメさんマジ殺された……
地雷が何か解らない人怖い……
二人の危険人物が今後どう化けるか楽しみです
乙でした!

110 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/27(金) 22:01:58 ID:9FKXeKBs0
>>109
ご感想ありがとうございます❗❗
ハジメさん…100%ズガンすべきキャラではありませんが色々悩んだ結果、一番犠牲役でパっとするのが彼女だったのでお陀仏しました。南無妙法〜💀
黒崎、田宮丸共にパロロワ参戦歴0のマーダーなので今後もお楽しみください😋😋

111『クマとリボンと音楽少女(終)』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/27(金) 22:02:35 ID:9FKXeKBs0
[登場人物]  [[田村ゆり]]、[[藤原千花]]、[[マイク・フラナガン]]

112『クマとリボンと音楽少女(終)』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/27(金) 22:02:56 ID:9FKXeKBs0
サックスが静かにJAZZを彩るバー。
バーテンダーもおらず、出されるカクテルもなく。ただただ、カウンター奥の酒々たちがしんめりと証明に照らされる。
カウンター席に座る女性客──いや参加者は、頬杖をついて一人待ち焦がれていた。

ふわふわで短いお下げ髪。
髪に絡んで、耳まで伸びる白色の有線イヤホン。
原幕高校からの招待客────田村ゆりは、彼女らしくただ一人。
誰ともつるまず、待ち続ける…。

常に無表情、そして気だるげといったイメージのゆりは、バトルロワイヤルのやる気なんかさっぱりなく。
それでいて、死ぬ気も全くなかったが──生きる気もなかった。
いや、生きる気がないというより、『生きれる気がしない』と言うべきだろう。
棚ぼたで最後の一人になれたとしても確率は1/70。──単純計算で70なのだから、実際の確率はもっと低い筈。
まるで真っ暗でどこまでも深い海底に沈んだ気分の彼女。
生きて帰れる自信は見い出せなかった。

だから、彼女は遺言を書き表した。
LINEにて。『親友』…の黒木智子宛に。
上手く気持ちを表すのが難しかった為か、淡々と。


──[今までありがとう。ごめん。   ▶]


「…………………」


押そうとする人差し指が、誰かに引っ張られたかのように動かなかった。
微動に震えはできたものの、『▶』──送信ボタンを押すことだけは許してくれない。
この疑似金縛り。ゆりが人差し指を立ててかれこれ十数分が経過している。
彼女はその十数分の間ひたすら待っていた。待ち焦がれるので費やし続けた。

 ──ボタンを押す『勇気』が来るのを。ひたすら彼女は。────


「…すぅ…………」


一呼吸。
勇気を沸き立たせるために酸素を送り込む。
こころなしか普段のポーカーフェイスが崩れかかったように見えたこのときのゆり。
彼女は覚悟を決め、ゆったりとスマホの画面をタップしていった。




『♬SPOTIFY』

 〜〜〜♪



「……………………ばかみたい、私…」


彼女が押した先に広がるスマホの画面は、音楽配信アプリ。
お気に入りのリピート曲が流れ出し、耳を充満していく。
…結局、ゆりは遺言を送信することができなかった。する勇気さえ現れてくれなかった。

カウンターテーブル上のグラス。
氷がひっそりと溶け、からんっ…とバックグランドミュージックと混じり合う。
おさげ髪の先っぽを指でいじりながら、女性客は誰かを待っているかのように。
一人寡黙にグラスを眺めていた………。









「じゃ〜〜〜〜〜すたとぅざあ〜〜〜〜す♫ …聴いてる曲、もしかしてjust the two of usですかぁ〜〜〜〜〜?」




「……………………………………………はっ?」

113『クマとリボンと音楽少女(終)』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/27(金) 22:03:10 ID:9FKXeKBs0
…そんなゆりに絡んできたのは、待ちもしていない一人の来店客だった。


「あぁー……。ス、スミマセン。邪魔したようで…。フジワラさん、失礼デスよー……!」


いや、もう一人いた。

片や、二メートルは越えよう山のような大男。
とはいえ、ヒゲもじゃの毛むくじゃらに悪意なき穏やかな表情から、まるでテディベアといった印象をゆりは持つ。
片や、頬をめちゃめちゃ近付けてにこやかに何か話しかけてくる少女。
少女といっても自分と同い年くらいであろう。桃色のセミロングヘアにちょこんと飾られた黒いリボン。
リボンをつけてるから────と、それだけで邪推するのもなんだが、随分おつむの弱そうな女の子と思えた。

片や困惑気味、片や距離感バグりまくりでウッキウキ。
人とスキンシップを取るのが苦手なゆりが、どちらに比較的好印象を持ったか。
それは言うまでもないだろうが、先に口を開いたのは不幸にもリボン娘の方だった。


「ほら! とりあえずイヤホン取ってくださいよ〜〜〜〜〜! ねっ!」


「…………………………………うん」


「わたしたち〜〜…。メムちゃんからの頼まれ事でぇ〜〜〜〜〜、ちょっと霊集めしてるんですよ〜〜〜」

「………は? 意味…わかんないんだけど」

「あっ!! 声超カワイイーーッ!! あなたモデルさんですかぁ〜〜〜? ──って、それはさておき〜〜〜…。とにかく沢山ころしちゃえ〜って思ってるんです〜!!」

「………………なんなの?」


リボン娘が先陣切って話だしたことは、クマ男の方も割と不幸だったようで。
ゆりが握り拳を固めたのを確認して、大慌てで彼は話を遮り始めた。


「いや、イヤイヤ!! スミマセン…、フジワラさんは思いつきで話すもんデスから……。とりあえずスルーしてくだサイ…!」

「…………いや、スルーって…」


クマ男の態度に懐疑的さを抱くゆり。
何だか、隠しておくべき本来の目的をバカ(リボン)が口走ったため、クマが慌てて訂正したように思えたからだ。
ただ、


「ぷるぷるぷ〜るり〜〜ん♪ ぷるりん〜〜〜♫」


普通に、バカが何も考えず適当なことを言った可能性のほうが高いため…。
とりあえず大男の話を聞いてみることにする。


「ワタシたち、殺し合いの脱出を考えてマシテ。人数が多けりゃ脱出確率も高まるだろう…と。今、人集めをしてるんデスが…」

「…え? 脱出……。………プランとか思いついてるんですか…?」

「いや、それは…まだ…………」

「…………………あぁ、…はい……」


「……………デスが!!──」

「──可能性は0ではありマセン!! ただ待つくらいなら、行動して、最適解を目指す……。ワタシはそれが大切だと思うンデス!!」



「だから、アナタも。ワタシたちと行動し、力を貸してくれマセンか? ほんの一つの勇気が、何かを変えられるんデス…!」


会話途中、ゆりは気付いた。
あぁ。この人なんで片言なのかって外国人なんだ…と。
その外国人から差し出される掌。
──手の中には『希望』という名の強い意志が握られている。

114『クマとリボンと音楽少女(終)』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/27(金) 22:03:23 ID:9FKXeKBs0
大きな掌を前に、ゆりは何を思ったか。
ジャズに合わせて間の抜けた歌声が響くバーにて。
しばしの間の後、彼女はゆっくりと口を開いた。


「…普通に嫌だけど」


【1日目/A2/バー/AM.1:00】
【田村ゆり@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!!】
【状態】健康
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:一人でいたい。

【藤原千花@かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜】
【状態】健康
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【対主催】
1:魂を刈り取る。

【マイク・フラナガン@弟の夫】
【状態】軽い心労(回復傾向)
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【対主催】
1:フジワラさんを守る。
2:殺しは絶対にしたくない。

115『クマとリボンと音楽少女(終)』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/27(金) 22:03:38 ID:9FKXeKBs0









……
「って、そこは仲間になるパターンでしょ〜〜〜〜〜〜っ??!! ちょっとやだ〜〜〜〜!!! ねえ、ねえねえ〜〜!!!!」

「…私の名前『ねえ』じゃないんだけど」

「えっ?! 急にヘンなとこで我を出してきて怖っ!!?」



 からんっ────

氷が溶ける音が鳴る。
続けざまというように、


 カランッ────

「…え??」


気づけば、ゆりはバーの扉。
いつの間にやらこの場を後にしようとしていた。


「ちょっ〜〜〜〜〜と!!! キミ待ってよ〜!! ねぇ!! ねえねえねえねえねぇねえねぇねえっ、ねえ!!!!」

「……………なに」

「ねぇねぇねぇねぇってばぁ〜〜〜〜〜〜!!!!! ねえねえねえねえ、ねえちゃんねえちゃんってばぁ〜〜──……、」



 ドンッ────
 《怒りの鉄拳制裁・Punchi Out》


「ぎゃわぁっ!!!!!」

「…あっ、ごめん………。…つい」


飛びかかってきたリボン娘へ反射的に行ってしまったのか、はたまたしつこい『ねえ』連呼にカチンとスイッチが入ったのかはいざ知らず。
ともかく、ゆりは肩目掛けて強烈な一発をお見舞いしてきた。
黒木智子評して『哀しきモンスター』との田村ゆり。
加減を知らぬ凄まじい破壊力の拳は、リボン娘を膝つかせ、しばらく頭を下げさせるほどの威力があった。


「ががあ……んびょっ…………がぁっ………………」


イワン・ドラゴにKOされたグリードのごとく、脂汗をかき立ち直れないリボン娘…。
小柄なゆりの見た目不相応なこの力、恐らく匹敵するのは参加者の中でも──マイクくらいだろう、と。リボンは畏怖した。


「あっ、フ、フジワラさん〜〜〜…!! キミ、な、なんてことを………………」

「…………すみません。いつもの癖で…つい」

「…イツモの癖って………。ドメスティックバイオレンスな彼女なんデスか…。あなた……」

「………いや。そんな日常茶飯事やってるわけじゃないですけど……。智子とか根元さんにしかやってないですから」

「…………酷い…。その二人がかわいそうだYO……。YO………」



……暫くして。
リボンはよたよたと、立ち上がり肩をさする。
カウンターテーブルに片手を置いた彼女は、もう一方の手をデイバッグに突っ込む。
何を取り出すのやらガサゴソと。
──暴力娘へ復讐するための『武器』か、それとも何か別の危険に曝される道具、か。

116『クマとリボンと音楽少女(終)』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/27(金) 22:03:54 ID:9FKXeKBs0
「………っ!」


罪悪感でやや表情を変えつつも、警戒心を強めるゆり。
リボン娘が「あった〜」と取り出す『物体』。
ゆりの視線が突き刺さる、その『物体』は──────。


「…え〜〜〜ごほんっ。日常茶飯事といえば〜わたしは忘れられがちですが書記員なんです。…というわけでたまには書紀らしいことをしま〜す」


「キミ!! わたしの『ねえちゃん』y呼びが気に入らなかったようだけど〜〜……──はっきり言って、そう呼ばれても仕方ないYO!!」

「……………は?」

「なぜならキミはまだ名乗りもしてないんだからぁ〜!! ねっ!」

「……………なにがしたいの?」


「と」
「い」「う」
「わ」「け」「でぇ〜〜〜〜〜──」


 キャプッ…


「──まずは自己紹介タイムの始まりですよ〜〜〜!!! YO!!!!」


─────リボン娘が取り出したのは『油性ペン』だった。


ホワイトボード代わりに、彼女はきゅきゅきゅきゅ〜〜〜っと、カウンターテーブルに文字を書く。
スラスラ書かれる箇条書きの羅列…。
最後に自身の似顔絵を添えて、とうとう書き終わった。


「この通り、わたしは藤原千花って言います〜〜!! 遊びとイタズラが大好きなじぇ〜け〜でぇぇーす!! よろしくお願いしま〜〜〜〜〜す」


《大紹介その1》
・FUJIWARA CHIKAでーす♡
・秀知院学園にいまーす♡♡
・メムちゃんからー、おねがいをされたのでー、今ころしあいに乗ってる最中でーーす♡
etc……

なにやら冗談にならないことが書かれているがさておき。
リボン(=藤原書記)は我先に自己紹介を終えた。


「じゃっ、次はマイク〜〜!! 私が書記するのでぇ〜〜〜、どんどん名乗っちゃってください〜!! 例えば好きな食べ物とかぁ〜、好きな暴露系YouTuberとかぁ〜〜〜──…、」

「藤原…さん…か」

「おっ!! キミ〜〜〜、さっそくわたしの名前を呼んでくれたね〜!! キュンっときちゃいますよ〜〜」

「私、藤原さんに似てる人知ってるよ」

「…え〜〜っ!! 誰ですかぁ〜〜?」

「私のクラスメイトの根元さん。…常にどこか演技臭くて大げさなアクション・台詞がアニメオタクみたいでキツい、ってとこが凄く似て────…、」

「わ、わわ、ワタシはマイクデス! ──マイク・フラナガン。祖国はカナダで…、フジワラさんとはさっき出会いマシタ」


ゆりがなんだかとんでもないことを言い出しそうになった為、クマ(=マイク)は慌ててセリフを遮った。
きゅ、きゅ、きゅっ、きゅっきゅっ、きゅきゅ〜〜と黒ペンが走る音が響く中、マイクは続ける。


「…えーと。好きな食べ物はチーズマカロニ。…カナダではポピュラーな食べ物で、スゴク美味しいデス」

「ほうほう〜〜〜! そんな感じで続けてマイク〜!!」

「…へー、チーズマカロニ。私知ってますよ」

「…Oh! それはホントデスかー!! 日本人で知ってる方とは…珍しいデス」

「味は知らないけど、ダーク●ンジェルで観ましたから。…だから私は知ってるけど。藤原さんとは違ってね」

「いやなんですかそのマウント?!」

「……umm……。…ハハハ………」

117『クマとリボンと音楽少女(終)』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/27(金) 22:04:11 ID:9FKXeKBs0

……
《大紹介その2》
・MAIKU FURANAGAN(´(ェ)`)♡♡
・好きな食べ物はチーズマカロニ
・好きな映画はばっふぁろー66??
・建設業ではたらいてる!! まっする〜♡♡
etc…


「藤原さんには失望した。英語スペルで書けないんだね」

「…って、おいっ!! ぶっちゃけ最初からわたしへの失望度限界突破してるよねキミ!? あたりがやたら酷いよ〜〜!!」


「ん、んんっ!!! …それでー、ワタシは婚約者がイマス。日本人の方デス」

「…え〜〜!! …あっ、だから日本語が上手いんですね〜〜!! どんな方なんデスか〜〜〜〜〜?」


婚約者はどんな人なのか──と。
一瞬カミングアウトを考えたマイクだが、…無駄に彼女らを混乱させるのもどうなのかと。
適当に濁すことにした。


「…えぇ。いい方デシタ。二人でいる時間はこの世の何よりも幸せ……」

「うんうん〜!」

「一緒にお風呂に入って、ワタシが作った料理を食べて、一緒に御酒を嗜んだあと、一緒に寝る……。もちろん抱き合って……、幸運そのモノデシタ」

「わぁあ〜〜〜〜〜! ロマンチックですねぇ〜〜!!! 聞いてるだけでほっこりします〜〜。ね! キミもそう思うよね!!」

「………………あっ、うん。そう思う」

「いや興味ないオーラすごっ!!!」


字面だけだと確かにロマンチックではあるのだが。
まぁ、ともかく。
やや苦笑いをするマイクに対し、藤原書記はサラッと質問した。


「ちなみに〜〜、マイク。その人とは日本で暮らしてるんですかぁ〜〜〜?」

「………エ?」

「その人も日本にいるのかなぁ〜って聞いてるんですよ〜〜〜!!」

「…………あぁ、ハイハイ。…彼はいますヨ」


そう言って、天を仰ぎだしたマイク。
同時に人差し指を作り、それをまた天へと高く向ける。
指先を眺める二人娘に対し、──マイクは笑いとも悲しみとも違う、なんともいえない表情で言葉を続けた。




「………お空に………………」





「……………………」

「……え?」



──お空って、パイロットさんですかぁ〜…だなんてバカな質問は、このときさすがの藤原書記でも言わなかった。
シン…と静まり返るバーの雰囲気。
しばしか細いジャズの音だけが流れるだけだった。


「…三年前、デスね。忘れられマセン」


ゆっくりと首を下ろし、藤原書記とゆりの顔を眺めるマイク。
…これまでたくさん泣き明かしたのだろう、その目に涙は生まれなかったが、芯の入った眼をしていた。

118『クマとリボンと音楽少女(終)』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/27(金) 22:04:27 ID:9FKXeKBs0
「…………」

「…マイク………」


闘病生活、ベッドで静かに呼吸をする愛しの彼────亮二。
彼が抗病剤で髪をなくし、歩けなくなり、そして自暴自棄になっても、マイクは懸命に支え続けた。
I'm with you. (私がついてるよ)
Don't worry.(だから、安心して)……────と。
頑張れ等のエールは敢えて使わず、ただ悲しく、哀しく、最後まで付き添ったのだ。

最期のときまで。
スッ…と瞼が閉じ切る、そのときまで。


やや声を震えつつも。
暫くして、マイクは口を開いた。


「おさげのアナタ……」

「えっ…! な…なんですか」

「アナタがフジワラさんによくないイメージを持つ気持ちは分かりマス…」

「……………持ってない…ですよ」

「イエイエ、いいんデス。それに、殺し合いをさせられ、気持ちが動揺するのも確かに分かりマスヨ…」

「………………………」


「でもデスッ!!──」


「──死は、本当に辛く。本人も……、残された家族も……、お別れの時間は大切な時間なんデス…!! だから、だから…………!!」


スゥ…っと息を呑んだ。


「こんな殺し合いという酷いゲームで『死』は使われてはいけナイッ…! 死を安易な経験にしちゃダメなんデスッ……! だから、ゲームを終わらせるために我々は協力しまショウ!!!」


「………………」


マイクの顔を向く先は、変わらずゆりのまま。
最愛の人の別れから、『死』について改めて価値観を認識した男の魂の叫びは、彼女にどう通じただろうか。
──ふと耳をすませば書紀の泣き声が漏れ聞こえる。

口を軽く開けたままのゆりへ、マイクからすっと手が差し伸べられていた。
出口付近で立ち尽くす彼女へのいわば『バトンタッチ』だ。
マイクは最後こう綴って、自身の紹介を終えた。


「次は、アナタデス。我々の、欠けてはいけない仲間であるアナタの番デスヨ。…お願いシマス」



「………………………はい」


ゆりには、親しい身内の別れという経験はない。
ただ、マイクの最愛の彼を自身の親友と照らし合わせたのか、感情移入は十分にできた。
息を軽く吐いて、周りを見渡す。
涙目の藤原書記、そしてマイク。
彼らの視線が集う中、ゆりは自分の名前を明かしだした。
この時。彼女の心中は、小石を落とした湖のように、なんだか揺れて揺れてもどかしかった──────。





「私は田村ゆり。一人でいるのが好きだから。──じゃ」


カランカラン…と開いたドアへ少女は背中を向ける……。

119『クマとリボンと音楽少女(終)』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/27(金) 22:04:45 ID:9FKXeKBs0
【1日目/A2/バー/AM.1:19】
【田村ゆり@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!!】
【状態】健康
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:一人でいたい。

【藤原千花@かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜】
【状態】健康
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【対主催】
1:魂を刈り取…、












「キング・オブ・マイペース〜〜〜〜〜!!!!!!???? ゆりちゃんに決定〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!! この流れでそれはおかしいよマイちゃ〜〜〜〜ん!!!!!!!!」

「私、 田  村  ゆ  り  だけど。藤原さん」

「いやいきなり目から光消えるの怖いんですけど〜〜〜?! どうやってるのそれ??!! これじゃもうマイン(地雷)ちゃんだよ〜──…、」


 ────ゴーシュッ
 (怒りの鉄拳・セロ弾き)


「ぎゃわっぷすっ!!!!!」


「ゴ メ ン ナ サ イ。 ツ イ ヤ ッ チ ャ ッ タ 。 藤 原 サ ン」

「……酷い棒読み謝罪デス………」



DV慣れなんかもちろんしていない藤原書記。
さすがに二発目の鉄拳制裁は相当堪えた模様だ。
…よりによって背中の微妙な箇所に殴打されたのだから、もう痛みで這いつくばるしかない。


だが、そこは藤原書記…だ。



「ちょっと待って………。ゆ、ゆりちゃ……………」


「…………──…ぃっ!!!」


虫のように這いながら、ゆりの足首部分──真っ白な靴下をぎゅうぅっと引っ張ると、


「…自己紹介もだめなら、ゲームで親睦だYO〜〜………」

「…………………なに?」


「というわけでぇ〜!! 第一回!! チキチキ!! ガキの使いやらへんで!! 『ワードバスケット対決』で勝負だよ〜〜っ!!!! ゆりちゃん!!!!」

「……立ち直りっぷり急すぎでしょ」


ポケットからカードの束を取り出し、藤原書記は一気に立ち上がった。
自己紹介で名乗った通り、ゲームが大好きなリボンの彼女。
マイクらの注目の中、ノリノリでルール説明を始めるのだった。


「(ちなみにさっき見えたゆりちゃんの……、ピンクのスパッツらしき物はいつか脅しに使いま〜〜〜す。にやにや…)」

120『クマとリボンと音楽少女(終)』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/27(金) 22:04:59 ID:9FKXeKBs0

 …
 ……
 ─────『ワードバスケット』…!!!──

 言わば、疑似しりとりゲーム…!!

 何人からでもプレイ可能。
 『ん』を除いた、ひらがな五十音のカード五枚ほどが各プレイヤーに手渡される。
 ルールは簡単。
 場に出ているカードが『ま』だったら『ま』で始まる言葉を考える。
 ただし、手札の文字で終わる言葉でないといけない。
 例えば、『ま』しゅま『ろ』──『マシュマロ』……!
 こうやって五枚の手札を先に使い切ったら勝ち…。
 単純だが奥深い心理ゲームなのだ!!

……




場に置かれたカードは………『す』。



「ホウ、なるほどデス……」

マイクは手中のカードを見る。


「……………はぁ…」

ゆりも、呆れつつだがカードを見た。
バーから出ればよいものだが、彼女もなにか思うところがあるのだろうか。


「…………では、でゅえる〜〜〜〜〜…──」

そして最後に藤原書記も見た。
ふと、にやり…と。
…どうやら自信ありげな様子だった。
彼女の一声が合図で、今ワードバスケットが、


「──スタート!!!!」


始まるのだった………────。


「はいっ、『す』たー『と』で。──『スタート』!! わたし一枚さっそく出しましたよ〜〜!!」

「ズルっ…」 「んな卑怯デスよフジワラさんー…」

「勝負にずるいは敗者の言い訳ですよ〜〜〜! ほらほら〜、『と』で始まる言葉ないですかぁ〜〜〜〜〜〜〜??」


「………ummmm……。…フジワラさん、あまり言いたくないのデスが……」

「おやおやおや〜〜〜〜〜? マイクさん言いたきゃ言えばいいんですよ〜〜〜? それとも揺さぶりかけてるんですかぁ〜〜〜〜〜〜???」

「……………言ってもいいんデスね??」

「どうぞどうぞ〜〜〜〜〜!! 言えるものなら〜、アハハハは〜〜〜!!!」

「………──藤原さんの笑い方が心底ゾッとさせられる」

「いやゆりちゃんワードバスケット関係ないただの悪口やめてぇっ??!!!」


「……フジワラさん、ワタシに歌いながら声かけてくれたジャナイデスか……」

「えっ?? それがどうしたんですかぁ〜〜」

「その時ワタシ、正直…アナタを……」


「『と』んち『き』、『き』ば『つ』な、『つ』かみどころな『い』──『トンチキ』、『奇抜』、『掴みどころない』人だと思いまシタ!」


一気に三枚のカードが消費される。

121『クマとリボンと音楽少女(終)』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/27(金) 22:05:15 ID:9FKXeKBs0
「は…、はぁぁあぁぁあぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ??!!!!! マ、マイクそんなこと思ってたんですかぁ??!!!」

「いやいや、嘘デス!! ただ、これでワタシはあと二枚デース。面白いデスね〜、HAHAHAHA〜!!」

「ぐぅううっ〜〜〜〜〜!!! ゆりちゃん反撃して!!!」

「……私もマイクさんに同意。これでも割と言葉を選んで罵倒したほうだと思う」

「追撃されたし〜〜!!! しかもまたワードバスケット関係ないただの煽り!!!──」


「──あっ!!! ゆりちゃんってさぁ〜〜〜〜、外出あんましないでしょ〜〜〜!!!」

「……………………別にそんなことないけど」

「ならその言葉の詰まりっぷりはなんですかぁ〜〜〜!!!! …わたしはもちろんたくさんキャンプとかサイクリングするけどね〜〜! ゆりちゃんと違って!!」

「…え、私の真似した?」

「ゆりちゃんみたいな根がくら〜〜い人のこと…世間ではなんて言うか知ってるかな〜〜〜?? 分からないでしょ〜〜〜〜???」

「……(フジワラさん、あくびの出るような挑発を………)」

「……知ってるけど」

「じゃあ答えてごらんなさいよ〜〜〜〜☆」

「………インドア派でしょ。…もっとも私は普通に外出──…、」


 ──Doooooooon〈ドーンッ〉だYO!!!!


「…は?」

「略して、『い』ん『と゛』!!! ──『インド』!!!! まだまだゲームが分からなくなったね〜〜〜!!! ムッツリインドアゆりちゃ──…、」

「…………力が思ったより制御できない」


 ──ドンッ
 (SIMPLE THE 鉄拳制裁)


「…〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!!!!!!!!」

「私も力抑えようと頑張った。その努力は認めてほしい。ゴ メ ン ナ サ イ」


「…アッ!! 『と゛』『ん』──『どん』。ワタシあと一枚デース」

「…??! いやいやいやマイク『ん』だから無効ですよ〜〜!!!」

「あぁ…、それは失礼……………」



…マイクの『ん』を別のカードと入れ替えて再スタート。
ゲームは早くもほぼ架橋。
藤原書記三枚、マイクはほぼリーチの二枚と終盤は目に見えている現状だ。
縛りプレイスタイルのしりとり…と、かなりの思考力を使うゲームだが、この試合展開はいかなるわけか。

なまじ、ゲームのことなら何だろうとガチる藤原書記に歩があるのか。
それとも、日頃誰にでも優しく、善人であり続けたマイクに幸運の女神が微笑むのだろうか。

…いやはや勝敗の予想は難しかった。
藤原書記の手持ちカードは『へ』『あ』『し』。一方マイクは『よ』『え』。
いずれも『と』から始まり手札で終わる言葉は見つかりそうにない。
手に汗握り、必死で言葉をひねり出す両者。

──ただ、考えると同時に二人は『待ち』に専念していたのだ。

それは、やる気を一切見せないビリケツ。
カードゲーマーで言うところの『ポーカーフェイス』──田村ゆりの捨て札を。

122『クマとリボンと音楽少女(終)』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/27(金) 22:05:28 ID:9FKXeKBs0
「………………………」



「……っ!!」 「………ふぅ〜〜……!」


彼女が何か札を場に出した時、間違いなくこのゲームは動く。
止まっていた時計の針に差される潤滑油。
二人はそれを待ち続け、それだけのたもにひたすら考えるふりをした。


「…………………ふぅ…」


「…(おっ!!)」 「(ゆりちゃんついに出すか!!?)」


五分ほどして、ゆりから一呼吸が飛び出る。
それは、二人がずっと待ち望んでいた行動…。

何を考えてるか分からない…という面では、心理戦最強王ともいえるゆり。
その手から、ついに。

均衡を破る一手が飛び出された────。



「(……タムラさん!──…、)」

「(ゆりちゃんきたぁあぁぁあ〜〜〜!!!!!──…、)」





「『て』『も』『る』『ぬ』『や』──『てもるぬや』。はい、私の勝ち。……勝っちゃったね………!」





五枚のカードを乱雑にぶち投げ、少女は席を後にした。

実に、満足そうに………………。




「ゆ、ゆゆゆゆ、ゆりちゃぁあぁぁあぁぁぁあぁぁあぁあぁ〜〜〜〜〜ん!!!!!!!!????? そりゃないよ!!!?? うわああぁぁあぁぁあぁあ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!」

「……また来た、死にたいやつ」

「いやそれ武☆壮のセリフ〜〜!!! てか殴らないでよゆりちゃん!!!!」



…hahaha……、と異国人の笑い声が一つ。
あんなに大人の雰囲気だったバーはうるせぇやつらで大騒ぎだった。

123『クマとリボンと音楽少女(終)』 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/27(金) 22:05:41 ID:9FKXeKBs0
【1日目/A2/バー/AM.1:31】
【田村ゆり@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!!】
【状態】健康
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:一人でいたい。

【藤原千花@かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜】
【状態】健康
【装備】???
【道具】ワードバスケット@目玉焼きの黄身
【思考】基本:【対主催】
1:魂を、刈り取ります!!!
2:ゆりちゃんの鉄拳を、ガードしますっ!!
3:死は、…とにかくダメですっ!! きゃ〜〜っ!!

【マイク・フラナガン@弟の夫】
【状態】健康
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【対主催】
1:フジワラさん、タムラさんを守る。
2:殺しは絶対にしたくない。













































.

124次回 ◆UC8j8TfjHw:2024/09/27(金) 22:06:44 ID:9FKXeKBs0
 No.1【駄菓子名鑑】
 ● すっぱレモン ●

 確率は3割、外れればすっぱ〜いガム!!
 パッケージに描かれたサングラスのレモンキャラが特徴的の駄菓子。
 三十円ながらスリル満点、今でも愛されるハラハラのお菓子だ。

 ほたるさんは駄菓子が好きな少女(…少女?)
 彼女が現れる元には駄菓子あり────。
 ドアを開いて目に入ったのは、まるですっぱレモンのコスプレをしたかのような……………!
 サングラスの黒服だった…………!

 何が起こるか分からぬスリル満点の殺し合い、刮目せよっ…………!


────『菓子』

125お知らせ ◆UC8j8TfjHw:2024/09/27(金) 22:08:51 ID:9FKXeKBs0
お知らせです
書き溜めたストックが尽きたのでこっから投下ペースが一気にカタツムリになります
言い訳がましいですがご了承ください

126名無しさん:2024/09/27(金) 22:36:11 ID:tUDa858w0
乙です!
ゆりちゃんが藤原さんのテンションに流されず、最後は少々打ち解けたアクションを見せたのはベタながらもいい流れに見えました
背後に悪魔がいてもw
もう一方でマイペースすぎながらも前向きに正しく行こうとする男女二人はやかましいながらも輝いて見えます
いつまでその空気を維持できるか見ものと思いました
作者さんこれからも応援しますので無理せず頑張ってくださいませ

127 ◆UC8j8TfjHw:2024/10/04(金) 23:49:22 ID:G7vuCML60
>>126
ご感想ありがとうございます❗❗❗
それと諸事情…というか持病が原因で返信がかなり遅れたことをお許しください……。

書記←→ゆりちゃんという胸のサイズ以外ほぼ対極な二人の絡みは私的にも楽しく書けました。
バトルロワイヤルという題材が題材なので、チーム・マイクのギャグなノリもいつかはシリアスなものになってしまうのですが、いやあ作者ながら頑張ってほしいものです。
…などと言いつつ、藤原書記は過去のロワで早々に退場したこともあり、個人的にかなり暴れさせたいなと思っていたり。笑

リアルでのトラブルでしばらく留守になってしまいましたが、これからも引き続きお願いします🤗🤗🤗
それでは、『菓子』をお送りします。

128『菓子』 ◆UC8j8TfjHw:2024/10/04(金) 23:49:48 ID:G7vuCML60
[登場人物]  [[佐衛門三郎二朗]]、[[枝垂ほたる]]

129『菓子』 ◆UC8j8TfjHw:2024/10/04(金) 23:50:04 ID:G7vuCML60
●すっぱいぶどうにご用心!!●


「駄菓子………!」
「ぶどう味のガムが三つはいっている。」
「…しかし……!」
「三つのうち一つだけ『超すっぱい』のだ………!」
「──確率は33%……、no doubt(間違いなし)………!!」

「割とマジですっぱいから……、心して食べると良い……………。」

(『すっぱいぶどうにご用心』パッケージ説明欄)

130『菓子』 ◆UC8j8TfjHw:2024/10/04(金) 23:50:24 ID:G7vuCML60




 『過程よりも結果』か、──『結果よりも過程』。
どちらが人生的に正しいのか気付かされた瞬間。──それは随分遡るが、幼少期……クリスマスを迎えた時だった。
クリスマスイブにて食後、あれだけワクワクしながら床についたというのに。
翌日朝プレゼントを開けた時…心はなんだか冷え渡っていた。
それは別に期待通りの中身じゃなかったとか失望を意味するわけではない。
確かに父から貰った流行りのゲーム機は嬉しかった。
テレビに繋いで遊んで、何時間も占領して心底幸せだった。

だが…、……違う……………っ!
何かが違う……。
こんなにも遊んでて楽しいのに………、心は十分に満たされない…………! 違っていたのだ……………!


何が違うのだろう、何が足りないのだろう、と画面上の敵を倒しながら考える内、…僕は唐突に気付かされた。


そうか…っ。
いわば本番よりも前夜………、イブ………!
プレゼントを貰うより以前がピークだったから、いざ迎えた本番《クリスマス》は消化試合感があり…心がときめかないのだ…と…………!


────この時の気付きが、『結果よりも過程』を重視すべきコトと結びつき、以後人生にて雁字搦まれるように…その理念の元行動することとなった。



「……生き残る確率は1/70。…間違いない、僕は………っ」


──no doubt………。
『結果』だけ考えた場合、このバトルロワイヤル。僕は死ぬ…………っ。
間違いなく…………っ。
生き残れる算段は思いつかず、もはや悔しいとかそんな気持ちさえ潰れてしまっている…。

そう考えたとき、僕はどのような『死ぬまでの仮定』を積むべきか。
…僕も生きている以上、そしてこの殺し合いに参加させられた以上、何か痕を残して死んでいきたい。
ならば、その爪痕は具体的にどういう内容で残すのか、だけども。

…日頃『我関与せず』を貫き、自他共に認める非人情派の僕がこんなことを言うのもアレではあるが。
──お世話になった上司…共に殺し合いに放り込まれた『利根川先生』が得になることをしたい。
……それが、僕の残したい爪痕。人生の集大成となる『過程』だと考えた。




「………一体、どこにいるんだろうな…………。はぁ………」


 室内ライトつけず、そして月明かりも大して通さず──、暗い車内の運転席にて僕は一人ため息を漏らす。
眼の前…十数メートル先には浜辺で二人の子供(中学生……?)がなんだかギャーギャーーと喚き散らしていた。
──まぁ二人と言っても、怒り狂う小太りの少年に比べて対面する少女は至って冷静だったが。
殺し合いという事態が事態なので、普通なら僕は仲裁に入るべきなのだろうが………ただ、ただ眺めていた。
時折、使っていないアプリで溢れたスマホの画面整理をしたり、アルバムの普段は飛ばす曲を聴いてみたりしつつも、今はただこの白いミニバンに身を籠るだけでいる。


「…あっ、もしかしてこの車《ミニバン》が僕の支給武器………なのか……………?」


鍵は最初から付いている。
なにしろゲーム開始直後、気づいたらこの車内にいたわけで。
…つまりは、コイツを暴走運転して轢殺しまくれ………! という意味合いは察するに容易かった。
──……が…、


「『枝垂ほたる様専用武器』………か……………」


ぶら下がる鍵にはそう、明確に表記されていた。


…何故…僕のワープ先。
初期位置を……人様の武器にした…?
それは置いとくとしても…何故…その肝心の『枝垂ほたる』さんを載せていない…?
…まったく解せない。圧倒的不可解の極みだ……。
──前述の僕のため息は、この不可解が八割起因となっている………っ。

131『菓子』 ◆UC8j8TfjHw:2024/10/04(金) 23:50:41 ID:G7vuCML60
「……はぁ………っ」


主催者の理解できぬ意図と、人様の車に勝手に乗ってしまったという理不尽な罪悪感が脳を満たし。
僕は重くなった頭を思わず抱えていた──。





「…監視お疲れ様、刑事。差し入れ買ってきたから、ま、休憩といきましょう」



────そんな時だった。


ガチャリ…と唐突に開かれる助手席ドア。

そして、紙パックのコーヒー牛乳と『謎の食い物』を差し出す小麦肌の腕。



「……………あぁ、どうも…」



僕は貰った食料たちを受け取り言葉を返す。

食料と共に受け取った透き通る女子の声。

うながされるまま首を向ける僕の視界に映ったのは──。



「……刑事といったらアンパンに牛乳のセット。でもあいにく持ち合わせがなかったから、アンパンだけは我慢してほしいわ。刑事!」



まるで二次元からそのまま出てきたかのような……。


紫色髪の美少女だった…………。





──全く面識がない少女ではあるが。





「…って誰ですかあなたはァ────!!! ──…的な返しはあえてしませんからね………?」

「ふふっ…!! 冷たい反応……、ドライねっ! あなた!!」


 妙な面白ポーズで助手席に座る謎の彼女X。
バタンッ──とドアが閉じられる。
さて、面倒くさいことになったぞ…。


「…う〜〜ん……。色々聞きたいことはありますが……、とりあえず小さい質問から………っ。潰しておきますか…………」


僕は手に握らされた食料……──らしきもの…っ………!
ゴツゴツと野球ボールサイズで、茶色いそいつ《食い物》に視線を落としながら、彼女に向かって問いてみた。


「………何ですか? これ」

「……ふふっ! 何だ何だと聞かれたら、答えてやるのが我が使命! 私は枝垂ほたるよっ!! 以下宜しく!!」

「いやっ違いますよ……! …まぁ名前は後々聞く予定でしたけども……っ。…このボール状の変なやつは何かと──…、」

「あらあら? 名前を聞いてもまだ察せないかしら…?」

132『菓子』 ◆UC8j8TfjHw:2024/10/04(金) 23:51:02 ID:G7vuCML60
………え? 名前って………? 何を言ってるんだ……?
枝垂ほたる…………などと名乗られても連想するのは…………。──あっ、ミニバンの支給者!
鍵に書かれた名前…だ……………!

…ということはつまり、今すぐ僕に車からどけ…と言いたいのか。

無駄な争いごとは今は避けたい為。
とりあえず言われるがまま車から僕は降りることにしたが。


──脳内にふと、『枝垂』という苗字の既視感が過ったのは、その時だった……………。
──ドアの取手に手をかけた、その時………っ。



「…あれ?? 枝垂ってどこかで聞いたような…」


ふと僕は言葉を漏らした。のだが、
まるで待っていましたというかのように。
彼女はギラリと目を輝かせ、濁流の勢いで言葉を乱射し始めた。



────『よく気づいたわね…!!』


「うおっ…………!! な、なんですか…?」



「そう!!! ご存知お菓子メーカー『枝垂カンパニー』!!! チョコといえば〜〜…っの!!! スナックと言えばクッキーといえば…っの!!! とにかくお菓子と言えばの『枝垂カンパニー』!!!!」

「…え……あっ…。じゃあつまりは…──、」


「そして、何を隠そう私の父の会社『枝垂カンパニー』ぃぃっ!!!!」

「…か、菓子………っ! …つ、つま…──、」


「だけど行く行くは私、枝垂ほたるが世界一のお菓子メーカーを作るつもりなのでそこのところはヨ・ロ・シ・ク…!!! まぁそんなこんなでつまりは分かったわよねっ!!!」


…凄まじいハイテンションで、度々僕の言葉が遮られたが。
…つまり……。
つまりは…っ、彼女の求める『アンサー』はこういうことなんだろう………。
僕は口を開いた。


「…つまり、この…僕に渡した…謎のゴツゴツボールは…………、菓子…………っ!!」

「…………ッ!」


びくっ! …と彼女──枝垂さんの体が反応する。
そして、矢継ぎ早……。
次に彼女が見せたアクションはなんだかソワソワとした動き、表情…………!
僕の勝手な勘だが、「それだけじゃ物足りないわ〜もっと核心に近づいた説明をして〜」と言わんばかりの笑みを見せてきた。

………というわけで仕方なく、僕も彼女の期待に応えるとする…っ。


「しかもこれはただの菓子じゃない………! なんだろう、何かを加工したような………!」

「……ッ!!!」


口には出してないが彼女は「おおっ…!!」とか「それでそれで…?!」などと言いそうな顔だった。
僕は謎のボール状の匂い──焦がし醤油の微かな香りを鼻に通し、物体にところどころついた『薄黄色の欠片』を一つまみ取る。
彼女へ向けて、とどめのアンサーを突きつけた……………っ。


「そう…っ!! つまりこの欠片はピーナッツ。更につまり……っ!! これは『柿ピー』を砕いてボール状にこね、ピーナッツをまぶした『アレンジ菓子』ですよね…………っ!!」


「ッ!!!!! ────〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!! …コングラッチュレーションッ、〜〜パーフェクツ・アンサーねっ!!!!!!!」

133『菓子』 ◆UC8j8TfjHw:2024/10/04(金) 23:51:19 ID:G7vuCML60
…僕の回答は百点花丸らしく、陳腐な表現にはなるが彼女は笑顔が花吹雪に咲いていた。


「────というわけでっ!!! 今回のバトル・ロワイヤルのテーマは『すっぱいぶどうにご用心』よっ!!!! ぶどうサングラスくんっ!!!!!」

「柿ピーボールどこいったんですか……っ?! 関係ないじゃないですかっ………!!」


……笑顔満点の枝垂さんが突き出してきたのはガムの駄菓子。
脈略も伏線もガン無視なその菓子チョイスに流石の僕もつい突っ込んでしまった。


 ──…というか、何やってんだ………っ? 僕は…………
 ──殺し合い中だというのに、何まんまと彼女のほんわかペースに乗せられてしまってんだ……………。


ぐいぐい、と顔近くに見せつけられるパッケージ。
パッケージに描かれたサングラスのぶどうのキャラと目が合わさる。


「…間違いない…!! 似てる、似てるにも程があるわ!! ぶどうサングラスくん、あなた…、パッケージキャラにコスプレするほどのマニアなのね!!!!」

「……えーと……。何が言いたいんですか………? 枝垂さん…っ」


…いや、待て……。
ていうか、『ぶどうサングラスくん』って僕のこと呼んでるのか……………っ?!
確かにまだ僕は名乗りをしてないのもあるが、変な距離感で来るな……。この人…………!


「…とりあえず僕は佐衛門三郎二朗といって……──…、」

「生き残るか、死ぬか…。それがバトルロワイヤル!!! 確率は1/2ね……!!」

「はぁ…………?」


  ────そこで連想されるのが、このすっぱいガムロシアンルーレット………!!!

  ────確率は1/3。当たれば地獄、外れれば楽園……、まさしくAZEMIC…!! 地雷選び《十七歩》…!!!

  ────枝垂流バトル・ロワイアルとは、まさにこのこと……!! 彼女の殺し合いは、イコールすっぱいガム!!!!
 
  ────サングラス輝かし佐衛門は、彼女と出くわした以上…、この勝負に挑まなきゃいけない運命なのだっ…………!!!!


  ──── 🕶️〈いっひひ! 俺様がすっぱいガムだぜ

  ────↓BOMB!!!↓

  ──── 🔥🔥🔥🕶️🔥🔥🔥〈Fireeeeeeeee!!!!!!!!!ぐわぁあぁぁぁwwwwww


「──支給品とトネガワ君は言ってたわね…。私にはこのガムが十個もカバンに入ってたわ!!! つまりは、長丁場…恐怖の十番勝負になるわけよ!!!! ぶどうサングラスくんっ!!!!」

「…なんか謎のイメージ映像とナレーションが聞こえましたがともかく……………、なんなんですかそれは………っ??!」


ジャラジャラっと…──彼女はデイバッグいっぱいに詰められたガム菓子をアピールする。

…なんなんだ、これは……。僕は何をしてるんだ……と。
もう何回目のセリフかは分からないが……、繰り返し吐かせてくれ……………っ!!


「な、なんなんだこれは……………………っ」


…彼女の持つ圧倒的エナジー、そして圧倒的勢いに押され、僕は完全にペースに乗っかりきっている……。
いわば、ベルトコンベア…………っ!
枝垂カンパニーの枝垂ベルトコンベアに流されるがまま、僕は何一つ行動ができなくなっていた……………!!


「ぐうっ……………」



「さて、どれを選ぶのかしらっ?!! それとも貴方にはもう酸っぱいガムがお見抜きかしらっ!!? 私も負けるつもりはないから本気で来なさい!!!!」

134『菓子』 ◆UC8j8TfjHw:2024/10/04(金) 23:51:32 ID:G7vuCML60
…あぁ、馬鹿げた話だし、ほんとに僕は馬鹿げてるよ。
殺し合い中だというのに何ふざけた真似してるんだってツッコまれてもいい。

だが、しかし…………。仕方ないんだ…これはっ……………!
これはもう彼女──枝垂嬢に対面した者にしか分からない、圧倒的パワーなのだから…。
説明なんて、できやしない…………っ。

僕は流されるがまま、ガムを二つ選択し、胃の中へと流し込んだ………。

135『菓子』 ◆UC8j8TfjHw:2024/10/04(金) 23:51:52 ID:G7vuCML60



 ぱくっ


「……──〜〜〜ーーー〜〜〜〜ッッッ??!!!?! …ま、また酸っぱいのを選んだ………。な、何故……………? 何故この私が……?!」



 あれから経過して、数分…………。
ミッ◯ィーの口のようになる枝垂さんを見守る僕はこれで六連勝目。
…といっても、別に勝利の喜びや快感は……皆無だっ………!


「もはや味覚なんて死んだも同然よ…! ここまで連敗して酸っぱいのを引くなんて……、たまたまじゃないわ!!!」

「…は、はぁ………」

「あなた…、もしかして本当にすっぱいぶどうガムの…擬人化……?? いや生まれ変わり……?!! 薄々察してはいたけど…、その通りよねっ?!!!」


その通りではないけども…………。

まぁ……ははッ、知らない人は知らないよな。
このガムの当たり外れの『見分け方』があるだなんて。
それは決して、超能力、エスパー、…ましてやぶどうガム人間による特殊能力で選別できるわけではない。
かなり簡単だがパッと見では気づかない特徴があるのだ…………!

僕もそろそろ甘さで舌がおかしくなってきたしネタバラシをするか…。


「…実はですね、枝垂さん。ヒントは大きさが……──、」


「あァっ────ッッ!!!!!!!」

「うわ?! な、なんですか?!」


…心臓に悪いなぁ………。
肝心のネタバラシが、彼女の大声でかき消された。
驚愕の表情が張り付く枝垂さん。
「見て!! 佐衛門くん!!」と…、彼女が指をさす先は前方。
──前方と言えば何やら言い合いをする中学生二人組がいたものだった。…すっかり存在を忘れていたのだが、そのうちの一人。
女子の方がなんと…………。


「えっ…………??!!」

「ねっ!! 見たでしょ…?!」


大衆向けの表現ならば……、『タコ』………!!
姿形はそのまま、足がタコの八本足のようになり……、ニョロニョロとその場から離れていったのだ…………!!
正直目を疑ったけども、枝垂さんも見たとなると幻覚ではないのだろう。
あれはまるで…。


「あ、あれは幻の…『たこぶえ』よっ…!!」


…火星人のようだ。…と僕は言おうとした。


「…え? たこぶえ???」

「えぇ…。私も昔から調査してるんだけど一切詳細が掴めない謎の駄菓子──たこぶえだわ……!!! 特徴的なのはパッケージ!! まるでミッ◯ーマウスまんまのデザインに触手が生えたキャラ!!! それしか情報がないのよ…」

「…じゃあ色々危ないんで…、以下「たこ◯え」と表記しますか…………」

「こんなところで会えるなんてまさに奇跡……、枝垂探検隊が出くわし謎のUMA………、モチのロン…ロマンよっ!!!!」


気づけばテンションマックスでワナワナと震えていた枝垂さん。
たこ◯えがなんだか知らないが……、とにかくお手本のような武者震いを僕は目の当たりにした……………!

136『菓子』 ◆UC8j8TfjHw:2024/10/04(金) 23:52:02 ID:G7vuCML60
「というわけで、ここからは別行動よっ!!! たこぶえを捕獲次第報告するから待っててちょうだい!!! 佐衛門くん!!!」

「…──あっ!!!」


 バタンッ。
…更に気づけば、枝垂さんは謎のタコを追ってどこかへ行ってしまった。
自分の支給武器であるミニバンを置いたまま。
というか、武器であることに気づかないまま………!
彗星のごとく現れたと思いきや、流れ星のように彼女は消えていった。



「…あっ──」


「──最後の最後に呼んだな…。僕のこと、『佐衛門』って…………」



これは……バトルロワイヤルに勝利した僕を認めたという証。
そういう意味合いなんだろうか。



「……いや、ていうか何だったんだ、彼女は…………っ。一体…………」

137『菓子』 ◆UC8j8TfjHw:2024/10/04(金) 23:52:15 ID:G7vuCML60



 数分経ち、波打つ音がヒーリングとなる夜の浜辺。
気づけば小太りの少年すらいなくなった暗い海にて。
本質上盗難なので、やや気は引けるが……僕は車にエンジンをかけ、ライトを点灯。

『奴』に会うために。
僕はSpotifyから、西野カナのトリセツを流し、アクセルを一気に踏み込んだ。


言うまでもないが、枝垂さんに出会ったという『過程』は僕の心境に一ミリたりとも影響は与えていない。



【1日目/A2/バー/AM.1:31】
【佐衛門三郎二朗@中間管理録トネガワ】
【状態】健康
【装備】宮本のミニバン@ハンチョウ
【道具】???
【思考】基本:【静観?】
1:『ヤツ』に会う。

【枝垂ほたる@だがしかし】
【状態】健康
【装備】???
【道具】すっぱいガムx4
【思考】基本:【静観】
1:たこぶえを追い駆ける!!

138次回 ◆UC8j8TfjHw:2024/10/04(金) 23:55:26 ID:G7vuCML60
本命…『二人だけの危ないGAME ~ Love is war』…???、???、???

対抗…『恋のバトル♡ロワイヤル』…???、???
  …『らぁめん再遊記 第二話『ツルツルさん登場!』』…アンズ、???

大穴…『魔神 が 生まれた日!』…マミ、うまる、???
   『やめよう! 無差別説教』…たこぶえ?、小太りの少年
   『東京卍リベンジャーズ』…三蔵、ミコ、カモ、相場

139名無しさん:2024/10/06(日) 02:34:17 ID:HRa4qhEw0
投下乙です!
企画に六万かけるその熱意に脱帽です

さて、指摘があれば教えて欲しいとのことだったので、過去話ですが、幾つか指摘があります

『ラヂヲヘッド』
・高木さんが揶揄うのはあくまで西片やちぃといった親しい人であって、殺し合いで出会ったばかりの男子をいきなり揶揄い始めるのは違和感があります。
 ラジオを聞いている西片を揶揄うためにやっていると受け取ることも出来ますが……


・一般女子中学生である高木さんが、殺し合いの中でラジオを始めたり、痺れ薬や銃を撃つ真似を、会ったばかりの男子にするとは思えないです。

・高木さんの口調に違和感があります、殺し合いの恐怖で発狂したのではなければ、こんなハイテンションでエキセントリックな喋り方はしないと思います。

・作中でも指摘されていますが、小日向はメムメムを危険に晒すような真似はしないと思います。本人を直接詰ることはあっても、根拠なく「殺し合いはアイツの仕業」と、放送に乗せて発言するようなキャラではないかと
(殺し合いで発狂したなら、説明はつきますが……)

以上、お目汚し失礼しました
今後とも平成漫画ロワを応援しております

140 ◆UC8j8TfjHw:2024/10/07(月) 12:34:15 ID:FpaB7Z5g0
>>139
ありがとうございます❗❗
過去話の訂正、またお読みになっていただき誠に感謝します。

指摘箇所である、
・高木さんは初対面をからかわない
・高木さんの行動、口調に違和感
・ひょう太のメムメムへの態度

以上の点を直したうえで、原作を忠実に再現したリブート回を書き直したので、お読みいただけたら幸いです。
それでは、『ラヂヲヘッド』の訂正、もとい訂正版の投下を今から行います。

141『(元)小日向ひょう太』 ◆UC8j8TfjHw:2024/10/07(月) 12:35:02 ID:FpaB7Z5g0
登場人物

小日向ひょう太、高木さん

142『(元)小日向ひょう太』 ◆UC8j8TfjHw:2024/10/07(月) 12:35:22 ID:FpaB7Z5g0
■チェンジリング■

──見た目は傘が紫色のエリンギ。
地面にグループで輪になって生えるのが特徴。
毒素を十分に抜けば可食ではあるらしいが、チェンジリングを食べる者は物好きといってよい。


 ところ変わって、意識は闇の中。
極度の脚フェチでスケベな点以外はごく普通の高校生・小日向ひょう太は、朦朧としつつも半覚醒の状態──寝起きの一歩手前でいた。
淫魔だの、魔神だの、大戦だの…と、高校に入ってから何かと“珍妙な災厄”に巻き込まれてしまう体質となった彼。
バヒョ…改めひょう太は、その幾多に及ぶ大騒ぎを経て、非日常にはすっかり耐性が付いたものだったが、今宵彼が巻き込まれた──…いや、呼び寄せた災厄は人生最大級の危機『殺し合い』。
到底“珍妙”と洒落させることのできない災厄を前に、バヒョの心は激しくシェイク寸前だった。



(…なんで……、なんてこった…………ッ。どうして、オレがこんな目に…………………)


どうしてこんな目に────とは。
すなわちメムメムが全ての起因となる。


 ──…じゃあ、うん。バトル・ロワイアル…頑張りましょうか…………!!

 ────ちょっと待てェェ!!!なんだこのバスは!? さっきまで家にいたのに…!!

 ──ここは極厳修行場らしいです…! 魔界を仲介して転送されました……!

 ────魔界?! やっぱりまた!! …ていうか極厳?!! 難易度ハードモードなのっ?!!
……





(………メムメムのやつ、半泣きで……。いや、泣きながら…………話してて……)


メムメムが泣く理由────。
それもまた彼女が全ての起因となる。


──上からのお達しで……、あたし……成果をあげないから修行しろって言われて…………。それでがんばります!! ──って言っちゃって………。

────…で………? それが……なにっ…??

──でも、一人で修行するのが怖くて……、転送玉で皆を連れてきちゃいました…………。

──…何やってくれてんだァーーッ!!!?
……





(…オルルちゃんに、デデルさんもいて……………。バスの中…………)

(…オ、オレたちが…………こ、殺し合い………………………ッ)


以降、首元が閃光したかと思えばシャットダウン────。
主催者の指パッチンが起因となり、バヒョは僅かばかりの眠りにつかされた。


 バヒョ…──ひょう太が再起動完全完了するまで刻々と、45%…50%…75%………。
無論、再起動は飛び起きることを意味するが、着々と意識のパーセンテージが満たされる中、彼は絶望の譫言を心の中で漏らし続けた。


(…うぅ……、汗が止まらない…………っ)


(全身が痛むように震える………………っ!)

(イヤだ………。オレはこんな所で終わりたくは…………………。終わるわけにはいかないのに……………………ッ!!)


暗闇は必然的に光を欲す。
精神を極限状態まで追い込まれたばひょう太が、追いかけた光の名前は一つだった。

143『(元)小日向ひょう太』 ◆UC8j8TfjHw:2024/10/07(月) 12:35:43 ID:FpaB7Z5g0
(…あ、あ……………)



(ぁっ──ッ、)


────杏…ちゃんっ………………!!!







「──はっ────!!!」



──眩いライトが目に痛くて。
彼は、硬いアスファルトの元、飛び起きた。
見上げれば文字通り照らしの強い街灯の光。生暖かい地面の感触、蒸し暑い渋谷の空気が、ひょう太を残酷なリアルに呼び起こす。


「……ま、まずい…。オレ、どれだけ眠ってたんだ………………」


寝起きで低血糖気味なのか、メガネメガネ〜と探す人のように手で地面を数回叩きながら、無理矢理立ち上がるひゅう太。
ガードレールに添いながら、とりあえずベッタリ付着した寝汗を拭くことにしたが、一呼吸置いた彼は、ふと靴底の妙な感触に気付かされる。


「──…………………んっ?」


足で見知らぬうちに踏みつけてしまったのであろうその柔らかい何か。
…まさか犬のフンではないか? ──と、殺し合いの雰囲気をぶち壊すしょうもない事故を想定し、恐る恐る脚をあげてみたのだが。


己のあがった脚……、肉付きのいい太ももを視界に入れた時。
彼の脳内の片隅では、ふと呆れたように誰かが呟いた。


(……はぁ………。隙あらば“奇妙な災厄”に巻き込まれるな………………。オレって)




────彼が出会い頭踏んでしまった……、いや厳密に言えばスタート位置に生えていたものこそ『チェンジリング』。


胞子に触れると『近種族』に姿が変わってしまうとのことで、冒険者から軽く恐れられていたキノコが。

ひょう太を『デジャブ』へと襲いかかる………………。

144『(元)小日向ひょう太』 ◆UC8j8TfjHw:2024/10/07(月) 12:35:58 ID:FpaB7Z5g0




 夜の静寂に包まれた街。一人。
シャーーッ、とペダルのタイヤの回る音、そしてペダルを漕ぐ音のみが響くので緊張感が走ってしまう。
自転車の乗り手──ひょう太は、なんとなく乗り心地の悪さも感じながら、前述の緊張感と共に闇夜を走っていた。
──…というのも。



『高木様専用武器──』


「──がっ、なんで【オレ】に支給されてんだよっ!!? …って突っ込みたいよ…」



 自転車の箇所に張り付けられたその名前札にふと目を落とす。
言わずもがな、そしてひょう太も口に出さずもがな、ド無能っぷり全開の主催者の失態、またしてもここにありだ。
誤配給されたこの高木という参加者専用の自転車。
──なにも、それのみが誤配給というわけではない。
参加者名簿、バッグに入っていたじゃんけんを模すカードの束、食料に数枚の現金。
それ全てがデイバッグの印字曰く『高木様専用』らしく、ひょう太…【彼】はとことんツッコミ欲が揺らいでいた。

無神経な参加者ならいざ知らず、ほんとに普通の【男子高校生】である【彼】は、念の為バッグの中身を使わないように、と。
それでいてチャリンコを押して歩くのは邪魔だから…、と、バッグ片手に自転車を乗り走る今に至る。


「………にしてもこのチャリ…サイズ微妙に小さいな…。【女子サイズ】くらいだと思うけど………まぁいっか。どうでも──」


「────…よっ、と」


不意に、【彼】はブレーキを掛けその場に立ち止まった。
理由は単純だ。【彼】のすぐ隣にて、発光する物体に目を取られたからである。
暗闇の中でぼんやりと浮かび上がるその明かりは、周りの世界から切り離された小さなオアシスのよう。
七月という夏盛りの気温もあって、その『オアシス達の巣』は、乾ききったひょう太を引き止めるには十分の存在だった。


「コーラコーラ〜〜…っと」


小銭を少しばかり投入し、いざオアシスの湖へ。
『自動販売機』にて、ひょう太が開口一番選んだ物は、ペプシ社のライバルが発明し450ml缶であった。
部活帰りの少年たちが一気飲みしようそのサイズ缶を取り出し、プシュッ──と即プルタブを開ける。
割と喉はカラッカラだったのであろう、【彼】は炭酸の喉粘膜突き刺し攻撃も気にせず一気に飲み干した。



「──ぷはっぁ…!! ンッ、ゲホッゲホゴホ……………。…ふぅ、知らない間に炭酸強くなった気が……」


口いっぱいにべったりとカラメの甘みが染み渡る。
自分の細くてなよなよした腕で、口元を拭き取ったひょう太は、僅かばかり液体の残る缶片手に。
何の不満があったのか、目の前の住宅地をじっと見つめ途方に暮れていた。


「………はぁ〜〜〜………」


脚を組み、自販機にもたれ掛かる形でため息を漏らす。
ふと自然発生した風に煽られ、空き地の草むらが、茶髪と衣服がサラサラと吹き付けられる。
柔らかい自分の唇を摘みながら、もう一言だけ【彼】は呟いた。


「…どうして、【オレ】……。いつもこんな目に遭うんだよ………………」


憂いの言葉を漏らす【彼】を風が吹き終わり三秒ほどして。
手中の半ば邪魔になったコーラを飲み干そうと、唇に近づけたその時。



ふと、自分のそばにいた────一人の女の子に気が付いた。



「…あっ」

145『(元)小日向ひょう太』 ◆UC8j8TfjHw:2024/10/07(月) 12:36:12 ID:FpaB7Z5g0
 ひょう太の第一声はそれであったが、心中「…【オレ】と同い年…ちょっと下か…??」と推察する面もある。

長い髪が夜風に揺れ、淡い光の中でその顔がぼんやりと浮かび上がっている。
セーラー服。膝下程のスカートが微風にそよぎ、どこか物憂げな表情で木の棒──支給武器を握りしめていた。
肩に担がれたデイバッグ──ひょう太が持っているデイバッグと同じサイズなのだが、妙に大きく見えるほど、それくらい彼女は小柄であった。

パッと見、デコッパチがチャームポイントの美麗な少女。
こちらが気づいたことに彼女も気づいたのか、ふと目が合った。


「…あっ、えーと……。うーん、と………。うーーん??」


 最初に口を開いたのはひょう太だった。
小柄な少女という相手が相手なため、緊張感や戦意は発生しなかったのだが、それは置いとくとしても何を話せば良いのか分からない。
迷いながらも、とりあえず「うーんと」を連発するひょう太だったが、【彼】の言葉を待ちきれなかったのかいざ知らず──。


「…………………」

「…あっ!! ちょっとキミ!!」


────デコの女の子は、自分を通り越してスタスタと歩み始めていった。
その表情は何を考えているか、真顔を作りつつもどことなく神妙な面持ちに感じる。
割と予期してぬ言動だった為か、呆気にとられるひょう太。
が、すぐさま慌てて思考回路を正頓した。


(…って、何呼び止めようとしてんだ【オレ】……。別に…、彼女になんか用あるわけじゃないし………、無視でいいよな)


【彼】の言う通り、たまたま鉢合わせただけの二人。
無理して会話する義務もなければ、無理にでも行動を共にする必要性もないのである。
──これは別にひょう太が対人コミュニティに難を抱えてるというわけではないのだが、何となくドライに対応すべきだと【彼】は考えるに至った。


(………………………うん)


正直、チラチラと見える彼女の脚が名残惜しかったひょう太だが。
先ほど通りの姿勢──自動販売機に寄りかかり、コーラを飲む姿勢を取り直し、ただボーーっと彼女を見送った。



「…んぐっ、ゴクゴクゴク…………」


闇夜。
真っ黒な液体が体内を巡り巡って胃に到達していく。

その時、一つ。いや、二つ。

──小さな鐘の音が鳴らされた。



 チリン、チリン──────。




「んぶふっッ!!! …軽くビックリした……。えっ??」


殺し合い中という緊迫下もあり、必要以上にオーバーリアクションを取ってしまった【彼】──ひょう太。
鐘の音、いわば自転車の音の先にはまるで手招きするように。
通り過ぎたはずの少女が、サドルに手をかけこちらを眺めていた。


「ねえ、」


「えっ??!」


話しかけられたのはひょう太。
彼女の柔い声にたちまち包まれる。

146『(元)小日向ひょう太』 ◆UC8j8TfjHw:2024/10/07(月) 12:36:26 ID:FpaB7Z5g0
「私の名前、もしかして分かったりする?」

「……えっ、え?? え? 名前???」


そんなことを聞かれても彼女は初対面。
そもそもひょう太にオデコがチャームポイントの知り合いなどいやしない。
突拍子もない質問を前に、ひょう太はしどろもどろになるしかなかった。


「…あー、分かんないか」

「……ご、ごめん。失礼だけど、どっかで会ったりしたー…っけなー………?」

「あはは。じゃ、今度は私がキミの当ててみるからね」

「…え??」




「小日向…さん、だよね。合ってるかな?」



「…えっ??!!」




ズバリ的中──驚愕七割、思考停止二割、隠し味の恐怖一割といった表情をするひょう太。
その分かりやすい顔が堪らなかったのか、少女は「あはっ」と軽い笑い声をあげた。
超能力…? メンタリズム…? それとも、魔物……??! と、頭がこんがらがる【彼】にとってその笑い声はゾゾゾッとさせられる要因だったが、別に彼女は何でもない普通の女学生である。

────デコの彼女が、ひょう太の名前を言い当てた理由。
それは、わざわざ長文の説明を充てるまでもない。あまりにも単純だった。



「…いやさ、私『高木』って言うんだけど。ほら、このバッグ見てよ」

「………ひょ?? デイバッグ………?」

「私に渡されたの、ほら『小日向様専用』って。書いてたからさ」

「…え??? えーー…?」



だから、もしやって思ったんだけど──…と、あまりに単純なタネバラし。かつ、物凄い奇跡的な参加者同士の鉢合わせにひょう太は呆れる他なかった。



「…な、ナンデスカァー……。いや、色々とさぁーー…………」


その表情が妙にツボだったのか、少女・高木さんはまたケラケラと笑い出したが、今度の笑い声はゾッとすることはなかった。


「あはははっ〜。初対面でこれ言うのもヘンかもしれないさー、小日向さん面白い反応するね。結構、匹敵レベルかも」

「…匹敵って…だ、誰と…??」

「………ま、それは置いとくとして。私、一人で不安だったからさ。一緒に行動しないかな? うん。荷物交換ついでにさ」


はい──と渡された小日向専用バッグ。
共に行動することについて拒否もできたが、…別にそんなことをする必要性はなかったのでひょう太は二つ返事をあげた。


「うん、じゃあ。とりあえず宜しく。…あととりあえず…お疲れ……。──高木さん」

147『(元)小日向ひょう太』 ◆UC8j8TfjHw:2024/10/07(月) 12:36:41 ID:FpaB7Z5g0





■チェンジリング■

──見た目は傘が紫色のエリンギ。
地面にグループで輪になって生えるのが特徴。
この茸は輪に入った対象に紫色の煙のような胞子を浴びせるのだが、これを浴びた対象は生物だろうと切り取った肉、あるいは調理済みの食品、さらには無機物だろうと『近縁種』に『変わって』しまう。



……
「…あーでもよかったなぁ」

「え? 何が?」


高木さんの独り言に反応するいなや、ひょう太は手に持っていたコーラをバクリと取られた。


「…あっ!!」

「あっ…って。さっき貰っていいよね、って聞いたでしょ」

「…あ、いやそうなんだけど。…けども…ね……」

「…? なんかスッカリ喉乾いちゃったな」


まだ冷え切っていたコカ・コーラ缶。
ちゃぷちゃぷと残量を確認した高木さんは缶を傾け、そのグミのように弾力あるピンクの唇に口づけ。
内容液を流し込み、喉がピクピクと唸る。


「……………………」

「ぷはっ、──どうしたの? 小日向さん。なんか変な目で見てきて…」


ぷるんっと弾けた唇から、唾液の結晶が軽く飛散した。


「……えっ?!! い、いやぁー…。そ、その……」

「………?」

「今更言うのもあれだけど…、これ…間接……キス………………になってるから…………。はは、て、照れ臭くてさ……………。い、いやゴメン……」

「……………ヘンなの。別にいいじゃん」



顔を分かりやすく赤くしてボリボリと頬をかくひょう太。
生まれてこの方まともな女子とのキス一つできてない【彼】だから照れ臭いを通り越してるのだろう。

【彼】にとっては。




そんなひょう太を様子見た高木さんは、まるで不可解と言った顔をしていた。
そう、彼女からしたらひょう太の発した『間接キス』だかは本当に理解不能といった感じなのだ。

彼女にとっては。
──いや、彼女のみならず世間一般誰彼問わずしても、だ。


高木さんは、「なにいってんの?」と言うように、口を開いた。

148『(元)小日向ひょう太』 ◆UC8j8TfjHw:2024/10/07(月) 12:36:59 ID:FpaB7Z5g0
「…いいじゃん。私たち【女の子】同士なんだからさ」



「……あっ!! う、うん………。そうだね〜……」





「それにしても、ほんとに初対面が同姓でよかったよ。…男の人だったら、正直怖かったし。私」



「…あはっ、はははは………。確かに言えてる………………かも……」



……



■チェンジリング■

『人間』に近い種族は、淫魔。
…それは、かつてメムメムがチュチュの魔法の杖を使った時。
──使用対象のひょう太に生えしツノ、悪魔の羽…そしてマシュマロのような胸に、肉感のたまらない脚と、そして幼顔と、おさげ髪………。



淫魔 が こうして 生まれた瞬間──だった。






……


──小日向ー、格好は構わんが…。先生、個人的には男の姿のままで、今の露出度が惚れ惚れするぞーー。


「ひっ!!!!」

「ん? 小日向さ…、小日向ちゃんどうしたの?」

「あっ、ごめん。ちょっと寒気が………」


自転車に夜間、二人乗り。
後ろに座りし奇妙な淫魔は、ペダルを漕ぐ彼女の脚へと、ひっそり牙を剥く。



【1日目/E4/AM.1:00】
【小日向ひょう太@悪魔のメムメムちゃん】
【状態】サキュバス・性転換(♀)
【装備】まさやんの杖@トネガワ
【道具】???
【思考】基本:【微静観】
1:高木さんと行動する。
2:なんでオレはこんなことに………。

【高木さん@からかい上手の高木さん】
【状態】健康
【装備】自転車@高木さん
【道具】限定じゃんけんカード@トネガワ
【思考】基本:【静観】
1:小日向ちゃんと行動。

149 ◆UC8j8TfjHw:2024/10/07(月) 12:38:17 ID:FpaB7Z5g0
訂正版投下終了です。
まだまだ至らぬ点があるかもなので、引き続きご指摘や気になる点がございましたら、お願いします。

150名無しさん:2024/10/07(月) 23:23:20 ID:CV.5EAJk0
投下&修正お疲れ様です

一読み手の意見のためにわざわざ訂正していただき、ありがとうございます

元々バヒョが西片属性(?)なのもあって、これくらいの接し方はとても自然だと感じました
また、そもそも殺し合いに参加することになったのはメムメムのせいだった(アイツなら深く考えずにそれくらいのことはやる)というのは、上手い修正の仕方だと思います

今後とも平成漫画ロワ、応援させていただきます……!

151 ◆UC8j8TfjHw:2024/10/08(火) 20:29:56 ID:n8cDgdj20
>>150
ご感想大変感謝します❗

ご指摘に沿った話の修正ができて私も安堵です…!
原作を読み直してキャラに忠実なエピソードを書けたので、改めて原作ラーニングは重要なんだなと実感しました。
『ラヂヲヘッド』の路線のままの場合、野咲が次の回で退場予定だったのでその点を踏まえても今回の指摘は有用だったな、と感じます。

恐らく今週中にかぐや登場回とタイヘイ登場回が仕上がるので、引き続き平成漫画ロワの方をよろしくお願いします!!

また、他にも過去回のご指摘があれば即日直させていただくので皆さま気兼ねなく書き込みお待ちしております。

152『札付妹! キョーコちゃん』 ◆UC8j8TfjHw:2024/10/13(日) 12:41:56 ID:cgTiVX5M0
[登場人物]  [[土間タイヘイ]]、[[吉田茉咲]]、[[札月キョーコ]]

153『札付妹! キョーコちゃん』 ◆UC8j8TfjHw:2024/10/13(日) 12:42:14 ID:cgTiVX5M0

●REC

00:01


『あー……あー……。うん、これで一応録れてるよな……。よし』



『これを聴いてるのがうまるなら、本当は良いんだけど……。そう上手くはいかないよな…』

『…という事で、このレコーダーを拾ってくれた人へ。言葉を遺します』



『俺はタイヘイ…『土間タイヘイ』っていいます。普通にサラリーマンやっていて、結構年が離れた妹が一人いるのですが──』

『どうか、どうか。これを聴いてくださった方へ』


『厚かましいのは重々承知ですが、…どうかその妹・うまるを保護してくれないでしょうか。──…特徴としては……うーん…フード被ってて……面倒にかかる女学生がいたら十中八九うまるです』

『…俺もできるだけアイツと合流するよう努力はするのですが。……どうか本当に、保護をお願いします』




『……それと、』


『もし、貴方がうまるに会うことがあれば。ですが、この録音をあいつに聞かせないようにしてください』



『──…多分あいつの性格上、かなり精神的にきちゃうと思うので、できればこのレコーダーは廃棄してもらいたいです。……はい』




『………とりあえずこれくらいで良いかな…』




『俺からは以上です。一旦切ります』



 ブツッ─────



00:57

154『札付妹! キョーコちゃん』 ◆UC8j8TfjHw:2024/10/13(日) 12:42:32 ID:cgTiVX5M0




 数日前、何となく寄ってみた神社でお参りをしてみた。
…神社に惹きつけられた理由なんて大したものでもない。
あの日は無音の深夜。トラブルによる残業でメンタル的にもかなり疲労していたんだと思う。
五円玉を放り投げ、パンッパンと手を叩き「うまるがちゃんと自立できますように」──…とか、若干壊れちゃってた俺はそんな思い返すのも恥ずかしい行動を取っていたんだ。

────今思えば、あそこで俺は変な疫病神に取り憑かれたんだろなと思う。


それからというもの、叶課長とアレックスくんが揃って流行り病で高熱状態。
そのおかげで集中的に俺に仕事が集うようになり、ボンバと二人協力の残業デスマッチが始まった。
……こんなことを言うのも気が引けるけど、よりによって『ボンバ』だけが健康に出勤してたのも過労の原因だった。
帰宅時間が遅れる日々なものだから、当然うまるの不満も日に日に大きくなる。
「お兄ちゃん遅いじゃん!!」とか、「ブラックすぎでしょ!! ワ◯ミか電2に働いてるわけ!?」みたいな文句はまだ比較的可愛いモノ。
「…あっ、お兄ちゃんもう帰ってきたの…」──と、深夜一時過ぎにて散らかり放題の我が家を見たときは、天から舞い降りし天使たちの幻覚を見てしまった。……ほぼ召される寸前だったんだ、俺は。

疫病はミジンコのような小さなとこも細々と舞い降りてきた。
サイフを電車で落としたり、タイムカードを紛失したり、パソコンがいきなり再起動したり、重要会議の書類を本場が忘れたり……、とにかく怒られ三昧トラブル三昧で。
我ながら、この鋼メンタルの強さに有難みを感じるここ数日だった。


「……で、最終的には『バトル・ロワイアル』…というわけだが。……やっぱり行くべきだったかな、お祓い………」


ふと、うまるたちと遊んだパーティーゲームを思い出させられる。
『桃太郎…なんだか』というゲームだけども、それに出てくる貧乏神キャラがまんま俺に取り憑いた印象だ。
思えば、あの日以来やたら浪費…というか。
俺のカードに見覚えのない一万円の請求が来たのだから、金銭面でもジワリジワリ不幸化してるのは確かだな…。


「──って、それはうまるの仕業か…!! あ、…あいつめぇ…………」




 …とまぁ、なんだかんだでこの不幸の珠々繋ぎは現在にも至る。
というのも俺の、いわゆる支給武器がとんだ大ハズレというか……、…まぁ『これ』の紹介は後回しでいいか。
俺が今現在いる場所──つまりワープ初期位置はパチンコ店だった。
…うん、噂には聞いていたがとんでもない喧しさだ。
ボンバのやつ、よくこんなペットショップみたいな騒がしい店に通えるな……、と皮肉抜きの尊敬が込み上げてくる。


「……いや本気でうるさい…。頭がどうにかなりそうだ」


隣の筐体からビキニ姿の二次元少女と目が合う。
微笑みかけるブロンドの彼女……。
…ごめんな、許してくれ。
どれだけ「こっちよ〜こっちよ〜」と語りかけても、俺は今遊んでる暇はないからな……。
第一、パチスロのルールとかやった事ないから分からないし。


「…出るか。とりあえず………」


 一呼吸…──溜息混じりのそいつを吐いて、俺は出口へ足を運ぶことにした。
…出口へ向かう──……といっても、さっき言った通り俺はパチンコ店ビギナーなので、探り探りに店内をウロウロするだけなんだが。
とにかく、適当に歩き回ること十数分。
パチンコ台に次ぐパチンコ台……、眼精疲労の時見たら目玉が爆発するんじゃないか? ってぐらいのチカチカ迷路。
雑音に次ぐ雑音の嫌になる環境の末。
ようやく俺は────…、今自分がいる場所が『四階』であることを知らされた。


「………ふう……」


目の前にて流れていくエスカレーターと、横の館内案内図……。



「…………とりあえず、飲むか…」


今は一旦小休止…というか。
近くに備えてあった自販機から缶コーヒーを取り出した。

──…さっきも言ったが、十数分だぞ…。『十数分』。
【十数分間】彷徨うほどこのパチンコ店はとてつもない広大さだというのに、ましてやまだ四階。
出口に着くまで三階分また迷路をウロウロしなきゃいけないだなんて………。
…さすがに体が、これから迎える悪夢に備えて休息を欲していた。

155『札付妹! キョーコちゃん』 ◆UC8j8TfjHw:2024/10/13(日) 12:42:49 ID:cgTiVX5M0
立ちながらコーヒーを喉に流し数十秒。
特別喉が渇いていたわけではないが、なんだか妙に飲みたい欲望が発してしまい、一気に空にする。
カフェインと少量の糖が胃に吸収されて、脳が眠気覚ましの準備を開始…。
数分したら起こるだろうカフェインハイを待たずして、俺はエスカレーターに足を置こうとしたその時。




「……ーい……──」





「──…おーい………──」







「──…おーーォいッ!!!!」



 …俺はとうとう参加者の一人と出くわしてしまった。
パチンコ台迷路からズカズカ…とこちらに向かって速歩きしてくる──『彼女』。


「うわ…うっ……!!」


恐らく俺に向かって呼びかけてるのだろう彼女と目が合い、思わず顔が引きつってしまった。
というのも、うまると同世代──女子高生らしき彼女は、髪が金髪の真っ黄色。
…金髪といっても頭頂部は黒色なのでプリンのような髪色なんだが、彼女はプリンアラモードみたいなチャーミングさは一切ない表情で。
木刀を振り回しながら、こちらを睨みつけ近づいてきていた。

そんな容姿の彼女にガンを飛ばされるサラリーマンの俺。

……これってまるでヤンキーの親父狩──…、


「おいテメェ!! なんでさっきからあたしのこと見てんだッ?!! あァア?!!」

「…おわっ!!」


…知らない間にものすごく距離を縮まれていた。
俺の右腕あたりで体を思いっきり近づけ、ジロジロ視線を飛ばしに飛ばす彼女……。
俺はさっそうどうすべきか…どう話せば穏便に済むのか…………、悩ましかった。


「…いやっ!? 『何あたしのこと見てんだ』…って君が呼びかけたんじゃないかっ!!」

「…………………………あ?──」






「──………チッ!!…」

「ちっ、って…………」


…彼女自身よく考えもせずどなり散らした結果なんだろうか。
俺の返答に、まさしく『ぐうの音も出ない』といった感じで舌打ちのみを返された。
……な、なんなんだこの子は……。
というか、これにて絡みはもう終わりってことなんだろうかな…。


「…って、ンなもんはどうでもいいんだよッ!!! おいッテメェ!!!!」


…あぁ、まだ用件があるのか……。

156『札付妹! キョーコちゃん』 ◆UC8j8TfjHw:2024/10/13(日) 12:43:11 ID:cgTiVX5M0
「な、なんだ??(テメェ…って……)」

「テメェメガネくんよお、この辺でイカれた女見なかったかよッ?!」

「…え? なに?? いかれた女って……」

「…あー、分かったわ。見てねんだな。…クソがッ………!!」


…やべー女なら僕の目の前にいますよ。…とは口が裂けても言えないものだった。
会話途中に気付いたが、彼女の制服は千葉の高校だ。
あそこは確か県内屈指の高偏差値で、それこそ俺やうまるが通った学園のとほとんど同じクラスの優等校な筈なんだが………。
もしや、彼女は誰かしら千葉の高校生徒から制服をパクったんじゃないかとふと…──、


「ンじゃあ、テメェ『リボン』は見なかったか?!! リボンは!!」


…一人考える間も与えられず、彼女は怒鳴り散らしてきた。


「…え? リ、リボン…か??」

「あぁ…。いや、なんつぅーか……。『お札』だっけな………。あぁぁーー……」

「…お札??」

「…チッ!!! とにかく赤くて長い布みたいなん落ちてなかったかって聞いてんだよ!!! おいっ!!!」


スーツを乱雑に揺さぶり彼女は大声を上げてくる。
落とし物か何かなんだろうか、そのリボンを探している様子の彼女。
…理由は定かではないけど、彼女からは凄まじい焦りの様子が見えた。



  ──Why?(なぜ彼女はピクピクと焦っている?)



俺は乱れたスーツを整いながら、落ち着いて口を開いた。



「…悪いけど見ていない」

「あ?! あークソがッ!!! まじやべぇつぅのに……──…、」

「お札よりも何よりも………。君、ちょっと注意したいんだけども…いいかな?!」

「…は? あ??」

「確かに今は殺し合い中だ。だから気が動転するのも無理はないけど……、さっきからテメェとかクソとか失礼すぎると思うぞっ?! 僕達初対面じゃないか…! なんなんだその態度は?!」

「…あぁっ?! ンなもんどうでもいいだろッッ!!!!」

「よ、よくないだろ!!?」



…さすがにうまるほどではないが、あまりに教育がなってない彼女の態度が酷くて、つい俺は説教モードに入っていた。
考えれば逆上されて殺される…可能性もあったが、日頃うまるを叱る癖でついつい止められなくなってしまう。
ほんとに、こんな典型的なヤンキー目の当たりにするの…初めてだよ……と。
彼女に負けじとの勢いで声が荒がる俺だったが。



「……あっ────!!」



──…またしても、女学生の参加者に遭遇したのはこの時だった。




  ──Why?(なぜヤンキーの彼女はピクピクと焦っている?)


   ↓

  ──Answer.(それは、【危険人物】と出会したから。)

157『札付妹! キョーコちゃん』 ◆UC8j8TfjHw:2024/10/13(日) 12:43:37 ID:cgTiVX5M0
「……わ────んっ………!」


「…えっ?」


デジャヴというか。
奥のパチンコ台迷路から猛スピードでこちらに向かってくる女の子が一人。




「……げてぇ、助けておにいちゃ──────………!!」




小柄…、だがうまるらと同じく女子高生なのだろうその彼女。
彼女を見るなり、隣のヤンキー…ちゃんは木刀をギュッと握りしめ睨みつけていた。

猛スピード……。その表現がかなり適切な『猛スピード』。
少女の走り寄る速さはまるでトラック、いや…山手線のそれに勝る勢いで。
その人間離れした速さにて、あっという間に俺らとの距離は──…、




「お願いだから逃ぃげてええええええ───────っっっ!!!!!!!! うわぁああぁぉぁぁあああ───────んっっ!!!!!!!!」



──目と鼻の先にまで追い詰められていた。


…まるでワープしてきたかのような俊足に感じた。



「ちぃっ!!!! テメェッ!!!!」「うおわあっ!!!??」


刹那、振りかざされるヤンキーの木刀。

俺の目の前にいた少女は、涙目、かつ怯えきったかのような表情で。
真っ白な髪をパラパラと揺らしそれが特徴的だった。
…どことなく、…どことなくだが。
なんだか『妹っ娘』のような顔つきに感じられ、俺は彼女が危────。



「ごめんっ、ごめんねぇええええええ───────っっっ!!!!!!!! わ、私も…もう抑えきれなくて……ぁああぁぉぁぁあああ───────っっ!!!!!!!!」



──だなんて、悠長に特徴説明してる暇はなく…。
…そもそも彼女が目と鼻の先にいた時点で、考える時間などごく僅かに等しいんだが。



 ────ドッガアアアァァァァァァァッ


「うっ、がぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!!!!!!!」


スクーターにひき逃げされたかのような衝撃と、一瞬遅れて破裂音が全身に染み渡る。
…少女の打撃を喰らい、なぜだか遅れてやってくる鈍い痛み。これはアドレナリンに似たような症状なんだろうか。
その痛みを、脳が理解したとき。

────俺は壁に激突したことに気付かされた。
…首元にて、あの白髪の少女が鋭い『牙』を向けながら………。



 ──ザシュッ



「…テメェこのッ!!! オラァアアッ!!!!!」



ヤンキー娘の怒号が響いた折、俺は意識を完全に失った。
視界が暗闇一色へと変貌していく……。

158『札付妹! キョーコちゃん』 ◆UC8j8TfjHw:2024/10/13(日) 12:43:54 ID:cgTiVX5M0



 ダクダクと流れる首からの鮮血。
そして、全身の激しい痛み。
…うまるから「FFの1ダメージってあばら骨が砕けるくらいの痛みらしいよ〜〜」といつだかに聞いたっけな。

なら、俺は今何ダメージ受けたんだ…? って言いたいぞ……。

骨折とかそういうのを遥かに凌駕した内臓シェイク状態だし、すげぇ激痛……。


…痛い、痛すぎる。
暗いし、寒い……。寒気がやばい…。


やばいっ………!!




(…あっ。何ダメージ受けた、って。さっきの一撃で全HP消えたんだろうな…………。俺の、HP………………)



はははっ……、
つまりはゲームオーバー──『死』……………………。



…ははは。なんだよ、それ………。





はははは……。







「…うまる、ごめんな」



最後にボソリと漏れた一言は無意識によるものだった。
騒がしかったパチスロ店も、今はもう静かだ。


俺は人生に悔いを残しながら生涯を終えた。




【土間タイヘイ@干物妹!うまるちゃん 死亡確認】
【残り65人】

159『札付妹! キョーコちゃん』 ◆UC8j8TfjHw:2024/10/13(日) 12:44:08 ID:cgTiVX5M0










「おお、お兄ちゃん。死んでしまうとはなさけない〜〜……」







「──って、うまる!! ふざけるなっ!!! 勝手に人を殺すんじゃないっ!!!」

「なにお兄ちゃん。軽いジョークだよ、ドッキリだよ」

「冗談にならないんだよっ?!! 誤解を生むだろうが!! …お前ってやつはもうっ………──…、」






コラ──────────────────っっ!!!!!!!!



………
……

.

160『札付妹! キョーコちゃん』 ◆UC8j8TfjHw:2024/10/13(日) 12:44:36 ID:cgTiVX5M0





 世の中には科学では説明のつかない超常現象、怪異、超越生命体というのがいる。
例によって俺の妹・うまるもその超越生命体に値するのだが、そのコトに気付かされたのは遅くも今だった。
普段なら普通の少女だが、家に帰った途端『変身』──二頭身のグータラ生物になるなんてまさにUMA…超生物といえるんだろう。
…『超越生命体』というにはかなりショボい部類なんだが……、とにかく自分の妹が普通ではないことに、彼女らとの会話を経て改めて認知させられた。


…うん。つまり何が言いたいって? って聞きたいだろうな。

あれから目を覚ました俺は、なんだかんだで二人の少女と行動を共にすることになった。
『襲撃者である白髪の少女』と、『ヤンキー娘』の二人だ。
そのうちの一人、つまり前者である『キョーコちゃん』が──………、


「………あっ、…さっきは本当悪かったわね。タイヘイさん……」

「あっ、いや。いいんだよ別に…痛っ! たたた…」




──まさしく超越生命体。
────いわば、『吸血鬼』だったんだ。





「…うぅっ……。私、あんな感じで暴走しちゃうから、ほんと気を付けてほしいわ。…ね? 吉田も!!」

「…チッ」


ヤンキ……改め、『吉田さん』が相変わらず舌打ちを打つ。


 吸血鬼・札月キョーコ。
ゲーム開始直後即彼女と出会ったらしい吉田さんが話すに、キョーコちゃんの『異常さ』に気付いたのはふとした瞬間だという。
二人が歩いてる途中、彼女の真っ赤なリボン。
──厳密には『お札』になんだか目がいったようで、彼女の取れかかったそいつを結びなおそうとしたら流れ風に飛ばされていき。
その瞬間、今までツンツンと傍若無人な性格だったキョーコちゃんが豹変したんだと言っていた。
突如、赤子のように泣きわめき、…そして凄まじい怪力で自分をねじ伏せ噛みつきにかかる……──いわば、『吸血鬼』に変貌だ。


「…ってか、ほぼほぼ吉田のせいよねっ?! 私も御札触らないでって言ったのに!!」

「なんだとッ?!! 大体にしてキョンシーだか血を吸うだか……、ンな眉唾話信じられるわけねぇだろうが!!!」

「…なによそれ?! 私のせいなわけ!!?」


吸血鬼の正体を現したキョーコちゃんは、うわ言のように特定のフレーズを呟き続けたという。
「お札を探して」「お札を結んで」…と、言葉とともに放たれるはプレス圧縮機のような平手打ち。
耐えかねず、さすがの吉田さんも逃走兼リボン探しで転がり込んだ先が────、このパチンコ店だった、という経緯だ。

つまりは、狼男…というかジキルとハイドというか……。
キョーコちゃんのユラユラゆれるリボンは、彼女の本性を抑えるリミッターらしく、外すとかなり厄介。
見境なく襲い掛かってしまうらしい。

……って、自分で状況整理しててひどく頭が痛む。
…なんだ、バンパイアって………。
首筋についたやや痛む噛み痕を擦りながら、俺は重くなった頭を抱えた。


「まぁ……、UMAには……UMAるには慣れっこっちゃ慣れっこだしな。俺は……………」

「…あァ? ゆーまがどうした? メガネ」

「いや、何でもないよ独り言(…呼称:メガネって………)」


とにかく、そんな凶暴性があろうと根はいい子…というか。
決してキョーコちゃんが【危険人物】でないことは、気絶明け後の二人の説明で理解できた。
ならば、この未成年二人を。彼女らを見てやらなきゃこれから色々危ないだろう。
社会人である俺が保護者として守らなきゃいけないだろう、という使命感で。
──今こうして俺は、ヴァンパイア&ヤンキーの二人と行動を共に至っている。

…俺が目覚めた時、胸倉をつかまれてるキョーコちゃんと吉田さんとで大乱闘の殴り合いをしてたのだから、そういう意味でも監視対象にしなきゃいけなかった。

161『札付妹! キョーコちゃん』 ◆UC8j8TfjHw:2024/10/13(日) 12:44:57 ID:cgTiVX5M0
「……でっ!! 吉田さん平然とパチンコ打ってるけど…、ダメだからなっ?!! それ!」

「そうよ。吉田。バッカじゃないの?」

「あ? 店員なんて一人もいねぇんだ。買ったって換金できないんだし別にいいだろ」

「よくないよっ!! ほらやめなさいっ!!!」



ガシャガシャガシャガシャ、ガヤガヤガヤガヤ…………。
あー、うるさいっ……!
吸血鬼よりも何よりも、この言葉遣いの荒いヤン…吉田さんが俺にとっての一番の危険人物だ…。


「……………はぁ。ったくもう……………」




腫れた頬の絆創膏を搔きながらスロットを打つ吉田さん、

その倍くらい顔中絆創膏だらけのキョーコちゃん、


ヴァンパイア娘と不良娘が共存するこの『バトル・ロワイヤル』という世界で、俺は『支給武器』を取り出し使用を始めた。
……支給武器といっても、こんなのだけど。っていうか『これ』武器といえるのか…っ?!

…とにかく、支給武器を片手に俺は録音を開始する。



「……あーマイクテステス。『吉田さん』という金髪の女生徒と、『キョーコちゃん』という白髪でリボンの子は危険人物ではありません。…この言葉を残します──」


「──あっ!! あとキョーコちゃんのリボンは絶対取らないでください! 絶対に!! …以上です」



俺の唯一の支給品は、『レコーダー』のみだったんだ。
あぁ、笑ってくれよ。もう…………。




 ブチッ──────

162『札付妹! キョーコちゃん』 ◆UC8j8TfjHw:2024/10/13(日) 12:45:10 ID:cgTiVX5M0
※※※



ザ───────────ッ

 ザ───────────ッ

  ザザザ───────────ッザザ



…す、てす…ザ───────────ッ


 えー……この……
ザ───────────ッ



 このテープを…再生してくれた貴方へ。

 これを聴いているということは、…私はもう既にこの世にはいないでしょう。






『…こころの手紙かッ』



【1日目/F1/渋谷センター街・パチンコ店/4F/AM.02:31】
【土間タイヘイ@干物妹!うまるちゃん】
【状態】背中に痣(軽)、吸血痕
【装備】ボイスレコーダー
【道具】なし
【思考】基本:【静観】
1:吉田さん、キョーコちゃんと行動。
2:うまるが不安…。

【吉田茉咲@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!】
【状態】健康
【装備】木刀
【道具】タイムマシンボール@ヒナまつり
【思考】基本:【対主催】
1:キョーコ、あぶねぇ奴だな…。

【札月キョーコ@ふだつきのキョーコちゃん】
【状態】ぶん殴られて「アイッター!」
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【微静観】
1:あーーいっだい……。

163次回 ◆UC8j8TfjHw:2024/10/13(日) 12:49:30 ID:cgTiVX5M0
本命…白銀会長、かぐや、島田

対抗…アンズ、ラーメンハゲ
   日高、なじみ
   池川、クロエ

大穴…山井
   利根川、三嶋

<お知らせ>
以下の話を本日中に訂正します。

※『E悪気持ち』にてマルシルが飯沼に惚れた説得性の文章の付け加え。
※『こーしてオレはバトル・ロワイヤルを堪能した』にてコースケがあまりにもクズに書き過ぎた為、話を多少変更。
※『患部を切ってすぐ食す〜狂気の相場』にて口調の原作準拠。

164『僕の青春はBattleRoyal』 ◆UC8j8TfjHw:2024/10/14(月) 21:37:37 ID:KyI1d5NE0
[登場人物]  [[池川努]]、[[クロエ]]

165『僕の青春はBattleRoyal』 ◆UC8j8TfjHw:2024/10/14(月) 21:38:20 ID:KyI1d5NE0
『これまでのイケガワツトム』



オーケー。
もう一度だけ僕は説明するよ。…ふふっ。


 僕は池川努。
何も無いクソ田舎でぼちぼちサバゲーを楽しむ中学生だ。
…あとはもう分かるよね?

僕なんかじゃ決して手の届かない高嶺の花……。
まるで雪原に咲く一輪のミスミソウのような──野咲春花…。
彼女の家をうっかり燃やして以来、僕ら犯人たちは復讐の鬼と化した野咲くんに命を狙われたってわけ。

殺らなきゃ死ぬのは分かっている。
だから彼女を殺すことは法的にはセーフ、正当防衛で許された。
…だが、僕は本心じゃ殺したくなかった。
僕をミンチにするためやってきた彼女を抱きしめ、甘い言葉をかけ、ことを穏便かつロマンチックに終わらせたかったんだ。


「…ごめんな。…そして大変だったよね、野崎くん…」

「僕が罪滅ぼしとして、全てを忘れさせてあげるから……」


…とか、言って。
僕自身も見た目が悪いのは重々承知だけども、焼身の…あっ間違った。傷心の彼女相手ならばもしかしたら上手く行く筈…。
あわよくばベッドインまでをも考えながら僕は彼女との決闘に臨んだのさ。



……
(野咲くん…、君が相場くんと仲良くしてるところを見ると…。もどかしくて…くやしくてっ)

(憎たらしかったよ……、君がっ!!)

(だから手に入らないのなら……、いっそ………、キミの存在を…)


(──消してしまいたいッ…!!!)



────ひっ、ひっ、ひぃっ…!!

────ぎゃぁぁああぁぁあぁあぁあぁああああぁぁあぁぁあぁあああぁぁぁぁあああッッ!!!!!!!!



 ガシュッ…


────の、のののの、のざぎぐううん!!!! ぎぎぎっぎみのごどがずぎ──…ぐわぎゃべっ。

……



で、結局僕は友達の真宮君と一緒に返り討ちに遭い死んだ。
…ふふふっ、まさにトホホな話だね。


 それからの体験はあまりにも、…うーん、陳腐だった。
うん、かなり陳腐な話を今からするよ。
あれから僕達は『地獄』に落ちたんだ。…どうだい? 陳腐だろう?
漫画で見た通りの陳腐な閻魔様に、はたまた陳腐な罪状読み上げで、陳腐陳腐陳腐陳陳丸……。
あまりの陳腐の連続に真宮くんと揃って嘲笑したよ。

そんな陳腐地獄の行く末は、『血の池地獄 懲役千年コース』だ。いやあ〜〜…陳腐っ!
まあ陳腐っぷりは一先ず置いといて、血の池地獄行きは結構ラッキーだなぁとこの時僕は思った。
…針地獄なり、火炎地獄なり、蟻地獄なりと……。まぁ、そんなのあるのか知らないけど。
そいつらに比べりゃ血の池なんてかなりぬるいものだよね。うん。
鬼に案内され、僕らは口笛を吹きながら、ブラッディビーチへ足を運んでいったのだ。
──いやあ、ほんとに。この『鬼』ってのも陳腐なものだねぇ。


だが、余裕の態度を取れたのも道中までだ。

…本当の地獄は。というか違う意味での地獄が待っていることを、現地に着いてからようやく気付かされたんだ。

166『僕の青春はBattleRoyal』 ◆UC8j8TfjHw:2024/10/14(月) 21:38:37 ID:KyI1d5NE0

……

『私だって……』



『…ぁ?』



『私だってほんとはやりたくなかったもん! そもそもあのとき野咲にちゃんと謝ったし……! 全部…全部橘が悪いんじゃないのっ!!!』

『だからそれ何度目だっつったよねッ?! あたしゃアンタらが同調圧力かけなきゃあそこまでやんなかったって…。何度も何度も…何度も何度も言っただろうがぁあああこの低知能がぁああっ!!!!!!』

『ぎっ、ぎゃがぁあああああああっ!!!! もういやぁああああああぁぁぁぁぁあああああああああ!!!!!! もう嫌だやだぁああぁぁぁああああぁぁぁぁぁあああッッ!!!!!!!!』




『…いやっ、いやぁああぁぁぁ!!!!! もうやめてよおっ!!! ひぐ……、…くがっ、久我が悪いんだからっ!!! ひぐっ、うぐっ……!!! 久我が、マッチ落とさなきゃ…こんなことになんなかったじゃんっ!!!!!』


『…あ? なんだよ加藤またそれ言いてぇのか』

『…いだ、いだいぃぃっ……。そうよ、久我が戦犯でしょっ…………!! なんで…なんで私が責められなきゃいけないわげえっえ!!!!』

『お前ら……てめぇ女の分際でマジ殺すぞ? あァア…マジ殺すぞ殺すぞお前ッ………』

『…本当にあんたのせいだよ……。死ねよ……』

『死ねッ!!! 久我ぁあああ死んで死んで死んでもういやぁあああぁぁぁぁあああああああぁぁぁあああっ!!!!!!』


『…ぎぃっ?! ぎっ、ぎゃぁああでんめぇええええええっッッッ!!!!!!!!』




────こ、これは…。

……



 僕と真宮くんが目にしたのは、血の池地獄にふさわしい血で血を争う闘いだった。
なんと橘や久我ら、野咲くんにぶち殺されたクラスメイトたちもその地獄にいて、とてつもなく醜い争いをしていたんだ。
罪のなすりつけ合いに、責任転嫁のマシンガン。
言葉が詰まれば、持っていたナイフなり…酷い時には自分の腕肉から伸びし骨で突き刺したり…殺し合いの惨状だ。

…殺しきってもまた即生き返らせられるのが残酷だ。
──それは地獄の特権というやつなのか、その蘇生システムのお陰で彼らは飽きずに不毛な血みどろ合戦を延々と続ける。
まさしく、『地獄絵図』だった。…あぁごめんね。僕も陳腐な表現使っちゃって。


──おい。普通…野咲被害者の会ってことで団結するもんだろ。

────ははは、真宮くん。仕方ないさ。表面上仲良くしてた橘らも本心はこれ…ってわけなんだからさ。

──ほーん。俺とお前みたいなもんじゃねぇか。

────はははは。ハハハハハッ!! …………えっ?


達観ぶっていた僕らだったが。
ふと加藤と目が合わさった時、──……とうとう僕らもこの醜い殺し合いの仲間入りをすることとなった。
最初に殺られたのは僕。
橘の奴に「お前のせいだ」って血の池に顔を沈められ……、悶えてる最中、真宮くんの抉られた顔面が沈んでいくのを見た。
そこからはもう止めようのないエンドレスバトルロワイヤルが始まったというわけさ。
まるで歯車のように、やめたくてもやめられない喧嘩の時計《二十四時間》…。


最初は「なに不毛な争いをしてんだコイツら」と馬鹿にしていた僕らであったが、ギスギス口論しなければならない理由にすぐ気づいた。

──理由は簡単だ。
殺されて、それが腹が立つから復讐…。
この殺人の連鎖はもう永久機関モノだね。ぜひとも閻魔様にノーベル化学賞を与えたいくらいだった。

167『僕の青春はBattleRoyal』 ◆UC8j8TfjHw:2024/10/14(月) 21:38:55 ID:KyI1d5NE0
 そんなゴミムシ以下のニュー生活から早一週間くらい…か。
あいも変わらず心のままに罵り合いを続けていた僕ら。
話題は確か……、小黒くんの恨み節をしていた時だと思う。


『…妙子の野郎……早く来てくんないかな。なんで主犯のアイツがのうのうと生きてて、あたしらがこんな目に遭ってんのよ……マジムカつく……』

『てっ、てめえ!!! 俺の妙子の悪口言ってんじゃあねぇぞゴラ。マジぶち殺すぞ? いやマジ殺すからな? 殺すからな橘ぁああぁぁ』

『…もう、もう嫌………。野咲…ほんとにごめん……ごめんなさい…………。謝るから早く助けて……………。最初だけ仲良くしてあげたでしょ………』

『うっせンだよッ!!! テメェはほんとにッ!!!!』


なんの生産性もない五人の喧嘩を作業BGMに、その時の僕はゆらりと水面に浮かんでいたものだった。
赤黒い空をただ暇そうに眺め続ける僕。
このとき僕は「小黒くんよりも野咲くんが来てくれないかなぁ」と、地上にいる佐山の野咲抹殺成功を願っていたんだけども…。



運命の瞬間は、その時だった────。



『ね、ねぇ……。池川……』

────ん? なんだい。…悪いけど今は疲れてるから殺し合いは後にしてくれないかな。


 何の用があるんだか、話しかけてきたのは三島だった。
…一応分からない人に説明しておくと、野咲くんに脚を斬られそのままピタゴラスイッチみたいに頭ぶつけて死んだあの女のことだよ。
ツインテールのみが萌え要素の、存在感ない女だから一応話しとくね。ふふ。
その三島が何やら天を指差し、僕に絡んできたんだ。


『あれ、見てよ…。あれ』

────…三島くぅん、キミねぇ。だから僕は疲れてて……──…、


────…はぅあっ!!??


彼女がフラフラと指を差した先。
それを見た時僕は驚きに支配されつつも、頭の片隅では達観的にぼやいていた。




────(…えっ、また陳腐なのかい…)




…とね。
真っ黒空に赤い雲の地獄空から差し込む一筋の光……。
それはよくよく見れば光なんて形ない物ではない。
そいつは、真っ白で触り心地の良さそうな糸…。
つまりは、宮沢〜〜…………なんだかさんの本にも出てきた『蜘蛛の糸』がまさしく降りてきたんだっ。


『い、池川……。どうする………?』


血塗れの三島はそう語りかける。
…ふふふっ。馬鹿かな? 君は………? ──僕は彼女に嘲笑うことで返した。

もしかしたら、あの蜘蛛の糸は幻覚……。
いや、それはないにしろ、鬼か誰かの罠……、掴んだら大変な目に遭うトラップの可能性もあった。
普段の僕なら冷静に考えた上、暴走に似た突っ走りなどしなかっただろう。


 ……だが、それがどうしたっていうんだ。
ここは殺しても殺しても死にきれず、死にたくても死にたくても殺され生き返る血の池地獄。
これまで僕は百七十三回ほど殺されていったというのだ。
特に真宮くんからはサンドバッグのように陰湿な嬲られ方をしたね。ふふっ…。

──そんな死を飽き切らした僕が、今更トラップなんかに怯えるなんて……そんな訳はないだろう?

168『僕の青春はBattleRoyal』 ◆UC8j8TfjHw:2024/10/14(月) 21:39:22 ID:KyI1d5NE0
だから、僕らは一目散にあの光の筋へと藻掻き、泳ぎ、這いずり行っていったんだ。

幸いにも真宮くんたちは糸の存在に気付いていない。
目先の争いに夢中になって、希望を見いだせない彼らの様はまるで虫同然だった。ふふふふふっ!

対して、光を目指すは僕と三島くんの二人のみ。


ただ、ゴールを目前にして、彼女は突如として立ち止まった。


『…こ、これ………。うん…』


彼女が静止した理由…。ふむ、成る程。
目の間にある糸──この糸のか細さたるやだ。
さすがに二人同時に昇ることは無理だと判断し、戸惑っていたのだろう。
チャンスは恐らくこのときのみ。どちらが優先的に登るべきか。迷う時間…。
一度は外道に落ちた僕も、このときは三島くんに同調し頭を抱えていた。

…レディファースト…といううんざりする言葉があるが、果たしてどうすべきなんだ。
そう思い悩んだとき、彼女はあまりにも意外な言葉をかけてきたんだ…っ。


『…池川………』

────えっ、なんだい。


『あんた、私のことあまり殺さなかったじゃん』

────…それがどうしたんだ?


『だからさ…。お礼っていうか……。池川がこれ登っていいよ。…うん』

────えっ!!?



特に良い子のイメージはなかった三島の、意外な言葉だった。
正直僕はたじろぐことしかできなかったよ。
『意外』を前にしたら人間しどろもどろにしかなれないんだな…って実感したね。
しばらく置いて僕は、何故だか本心ではない言葉を彼女に返した。


────むっ、無理だ。君が行くべきさ。なぁ!


何故そんなド嘘の偽善を吐いたのか。
もしかしたら、あれは『恋』だったのかもしれない…。理由は分からないけど。
とにかく遠慮した僕だったが、またしても意外な展開が訪れたのだっ…。


──さぁ行くんだ。僕はいいから。君が──……、

『…ッ!』


 チュッ──



──……………えっ。



 気がついたとき、彼女の柔らかい唇が僕の口と絡まさっていた…。
僕の唇を挟むようにペタンと口づけされる二枚貝。
一瞬ではあるものの、甘くていい匂いの舌が口内をひとなめしていた。

彼女は、三島くんは、決して言葉には出さない。
だが、糸を上ることに遠慮を示した僕へ、痺れを切らしたのだろう、
行け──、池川いけ──。というラブコールが、唾液が一滴一滴溢れ落ちるとともに伝わってきたのだ………っ。
押し付けられる小さな胸。…僕の高鳴る心臓は、くっつけられた彼女の胸に吸い込まれそうだった。

169『僕の青春はBattleRoyal』 ◆UC8j8TfjHw:2024/10/14(月) 21:39:37 ID:KyI1d5NE0
『…ぷはっ……はぁ……………池川…』


キスは一瞬だったが、唾液はしっかり伸ばされる。


…ここで行かなきゃ男じゃないな、と。
僕はこのときチェリーが溶ける感覚に襲われながら思ったね。
うん。



────好きだよ…。三島くんっ。








……まぁわかると思うが、上述に語ったロマンスは全部ド嘘なんだけども。ふふふっ…。



蜘蛛の糸を掴んだ三島の頭を蹴り飛ばし、我先にと僕は登り上げた。
ぐえっ、とカエルを潰した声が眼下から響く。
…運動が苦手で、登り棒などずれ落ちる作業でしかなかった僕であるが、このとき不思議とスイスイ登れた。
あろうことか、腕の疲労さえ感じない……本当に駆け抜けるように……っ。
僕は無我夢中で救いの手を掴み取ったんだ──。








そして目が覚めた時。
僕はあのバスの中にいた。







…やれやれだね。

また殺し合いだよ、僕。
もしかしたら僕はこのままずっと、輪廻転生を経ても『殺し合い』という歯車からは抜け出せないのかもね。




ふふふふふ。まあいい。


待っていてね。

の、野咲くん……………。

170『僕の青春はBattleRoyal』 ◆UC8j8TfjHw:2024/10/14(月) 21:39:54 ID:KyI1d5NE0



「海か………。デジャブだね、むふふっ………!」


 目の前に広がる黒い海。
あの忌々しい血の池地獄を見た後じゃあ、この透き通るサラサラとした水面は感動ものだったよ。
波打つ音に心が安らぐ…。
安らいだ後、清まっていく……。
リラクゼーションの見本市ともいえるべき、この渋谷浜辺にて、心を落ち着かせた僕──池川努は思い立った。
決心したわけだよ。


「野咲くん。僕が優勝させてあげるよっ…!! 君を…!!!」


──大天使の白い花・野咲春花の保護(ならびに相場晄の殺害を)、だ…っ。

 あのとき…、僕は間違っていた。
火をつけたまではまだ道は誤っていない。
…真宮くんの誘いで『鬼退治計画』に参加してしまったことが完全なるミステイクだったんだ。




何故、僕はあんなにも愛して、


──(う、美しすぎる……。なんだ、彼女は……)


あんなにも心に残って、


──(転校生の子…可愛かったな……)



あんなにも愛を伝えたかった、


──…はぁ、はぁはぁ……。んっ、ふぅ…ふっふっふっ…………。




野咲くんを亡き者にしようだなんて…だいそれた過ちをしてしまったのか。

…それは己の弱さだ。
己のコンプレックスが原因だった。
自分の弱さを認められず…それならもういっそのこと消し去りたい……と。
身勝手なナルシズムが、全てを過ちへ導いたんだ。
自分は心の底から、最低なやつだった。


「…だが、それも過去のことだよ。野咲くん」


うん、そうだ。
もう、過去との自分とは決別したんだ僕は。
あの長いようで長い地獄の底の体験から、僕は自分を見つめ直し成長を遂げたんだ…っ。
だから今ここにいる僕は、野咲くんの知っている池川努じゃあない。
生まれ変わったんだよ…僕は……、と。
今どこにいるかも分からない野咲くん宛に、テレパシーを飛ばしたくて仕方なかった。


「…ていうか文字通り生まれ変わったわけだけどね。ふふふっ、ふふ……」


三島くん共の想いを胸に僕は今ここに勝ち上がっている。
…地獄でお愉しみあってる彼らもきっと僕を応援してることだろう。
僕は何をすべきか。
この殺し合いで、どう生き返った証を残すべきか。
そんなの、言わずもがな決まっていた…………っ。
うん。本当に言うまでもないよね。


「野咲くん、君を地獄送りにはさせないよ…。僕が、ね」


…あっ、言っちゃった。
まぁいいや。

171『僕の青春はBattleRoyal』 ◆UC8j8TfjHw:2024/10/14(月) 21:40:15 ID:KyI1d5NE0
歴史の例えならジャンヌ・ダルクに信仰したジル・ド・レのように。
僕が好きな残虐映画ならマチルダを保護するレオンのように。

僕は聖女を守るため、ボウガンを握って立ち上がった。
この渋谷全ての人間を抹殺するために。


「あいにく僕は『殺し』の回数だけは豊富なものでね。ふふふふっ」


さっそく僕は矢をセットし戦闘の準備を整えるのだった────…、






「うぬぼれるな。ドアホウ」





……と思っていた矢先。
待ってましたかのように獲物が現れてきた様子だった。
背後から唐突に響いた女の声。
…ふふふっ。不謹慎かもしれないけど、なんだか笑えてきちゃったよ。
微笑を堪えながら、僕は後ろを振り返り──…、




「おヌシは自分のことを成長したと思い込んでいるようだがそれは単なる勘違いだ。言い換えれば『自惚れ』だな。それがわからぬ様子で見ていて呆れてくる」




………なんだこの子は……。
いや、なんだ…その変な…会話…というか説教──……、




「そのおヌシが守りたい野咲とやら。…果たして彼女はおヌシが殺しまくるざまを見てどう思うのだろうか──」

「──おヌシが顔に血を塗りたくって、野咲殿に笑顔を見せて。果たして彼女は嬉しがるだろうか。ありがたいと思うだろうか──」

「──そんなことも客観視できぬ以上、おヌシが彼女を振り向かせることは不可能だ。…いや、それ以前に客観視できぬ者にこの殺し合いは生き残れぬ」



…僕が振り向いた先。
そこには金髪の外国人らしき女子高生が立っていた。
カタコト交じりに話される謎の武士的口調。富士山みたいな三角の口からそれが発せられる。
そいつは──……、




「もっともおヌシの見た目では、何をしようとも…そのミスミソウという高嶺の花は振り向きはせぬだろうが…、ルッキズム尊重のダイバーシティにこのことを言うのは酷よな。失礼した」




…だとか、好き放題失礼なことを喋ると──…、




「ところで、オロカモノよ──」



「──『お天道様は見ている』。…私の父が好きな言葉だ。肝に銘じておけ──」


「──そして、生きろよ。いつの日か、また。本当に成長したおヌシを見せてくれ──」




「──さらばだ」







「…え?」

172『僕の青春はBattleRoyal』 ◆UC8j8TfjHw:2024/10/14(月) 21:40:38 ID:KyI1d5NE0
……フランスパンを片手に。
──よく見たら反対の手にはタバコを持ちながら、彼女は闇夜へと消えていった。




「…………えっ!??」




ニョロニョロニョロニョロ……と。
まるでタコか、蜘蛛か、あるいは宇宙の生物が持つような不気味な足…──というか触手を動かしながら。


波が寄せては引き、彼女の足跡を呑み込んでいく。
真夏の渋谷にて、侵略者《エイリアン》を目の当たりにし、宇宙の脅威を感じた僕は好奇心に似た畏怖を覚えた。





「…まぁそんなのどうでもいいけども」

173『僕の青春はBattleRoyal』 ◆UC8j8TfjHw:2024/10/14(月) 21:40:53 ID:KyI1d5NE0

【1日目/B1/浜辺/AM.01:20】
【池川努@ミスミソウ】
【状態】健康
【装備】ボウガン@ミスミソウ
【道具】???
【思考】基本:【奉仕型マーダー→対象︰野咲春花】
1:野咲くんを優勝させる。
2:相場を殺害。基本皆殺し。

※参戦時期は死亡後です。


【クロエ@クロエの流儀】
【状態】健康
【装備】フランスパン@あいまいみー
【道具】タバコ@クロエの流儀
【思考】基本:【静観】
1:見境なく説教しまくる。

174次回 ◆UC8j8TfjHw:2024/10/14(月) 21:43:02 ID:KyI1d5NE0
本命…白銀、かぐや、島田
対抗…日高、なじみ
   アンズ、ラーメンハゲ
   マミ、うまる
大穴…ニワトリ、堂上
   利根川、三嶋
   サヤ、兵頭、左衛門、メムメム

175『ふたりだけの危ないGAME〜Love is War』 ◆UC8j8TfjHw:2024/10/18(金) 23:18:55 ID:6WcvfGC60
[登場人物]  [[四宮かぐや]]、[[白銀御行]]、[[島田虎信]]

176『ふたりだけの危ないGAME〜Love is War』 ◆UC8j8TfjHw:2024/10/18(金) 23:19:29 ID:6WcvfGC60
 ──バトル・ロワイヤル────!!

それは、数多くの参戦者たちに生死を賭けた競い合いを強要し、最後の一人になるまで争わせる悪趣味な殺人遊戯。
まるで古代中国において用いられた呪術『蟲毒』に相似しているが、その蟲毒と決定的に違う点が一つある。
──それは、虫ではなく生身の人間に殺人をさせることだろう。
地面を這うことしか能のない虫共と違い、我々人間には人を信用し、時には疑い、極限状態で悩み考えぬく『思考』がある。
すなわちバトル・ロワイヤルとは、本質的にはコンゲームでもあるのだ…!!


 時は、スーパームーン観測報道が出た日の夜。厳密には某月七日。
その夜の神秘的光輝さといったら、まるで朝の如し。
満月が太陽の成りすましをしたかのような明るさで、そのリアリティのない光により屋外にいようとも作られた舞台セットにいる錯覚に陥られる。
──あの古典御伽『竹取物語』のかぐや姫も、きっとこんな月夜の晩に降り立ったのだろう。

そんな幻想的な真夜中、
──一人の男が微動だにせず、静かに直立していた。


(…フンッ。俺に殺し合いをしろだと…? 愚かな人間がいたものだ……)


純金飾緒が目立つその学ラン。
微風が彼の体をかすめるが、なびくのは黒い制服とやや金色がかった髪のみである。
男の名は────、白銀御行。以下、俗称:白銀会長。
そう。『会長』と冠するに相応しい彼はまさしく──、


「主催者。…トネガワだか、黒幕が誰だか……そんなことはどうでもいいのだが…──聞け。お前に特別、後悔する時間を与えてやろう」


「────この秀知院学園『会長』である俺をゲームに巻き込んだことをな…ッ!」



『天才』だった────。


 かつて貴族や士族を教育する機関として創立された名門校『私立秀知院学園』。
貴族制が廃止された今でなお、富豪名家に生まれ将来国を担うであろう人材《スチューデンツ》が多く就学している。
そんな彼らを率い纏め上げる者が、凡人であるなど許される筈もなく…。
云わずもがな、白銀会長は白眉──聡明叡智の頭脳的カリスマなのだ。


(…全くやれやれなものだな………)


 キャットストリート。──旧姓:渋谷遊歩道。
渋谷から原宿に抜ける約一キロメートルの道にて、天才の彼は一人直立不動を維持し続ける。
ただ、その不動っぷりもゲーム開始からかれこれ数十分が経過。
トネガワの説明通りこの殺し合いには制限時間がある。
普通たる凡人なら僅かな時間も無駄にしたくはないと慌てふためき、自分を見失うほど悪鬼に駆られるが顛末なのだが。──白銀は何故、動かないのか。
何故、ここまで膠着を崩さず、静止画状態を極めているというのか。
…もしかしたら、彼は『殺し合い』を前に、ヘビに睨まれた蛙のような憂虞を感じてるのではないのか──?


「…くく…。ふはは、ははっ………」


──否。違う。
白銀は耐えかねず、己の身体を震動し始めた。


「…くっはっははははは…、はっははははははははははっ!!!! はははは──!!!」


彼の震えは、何も自分の置かれた運命に臆した訳では無い。
古来、不戦神話を誇った剣豪・宮本武蔵は戦いの前夜、早く斬りたくて斬りたくて仕方ないと体をうずめかせていたものだが、それと同等の震えが今白銀が魅せる『武者震い』。
戦いを前にしての『興奮』。


「はっはははははははっはっはっははははははははははははっ!!!!!!」


100%の計画成功。
すなわち絶対的な脱出をその頭脳から導き出し、笑いという形で武者震いをしたのだろう、白銀は彼らしくもない高笑いを響かせた。
そう、白銀会長は可笑しくて可笑しくてもう仕方なかったのだ。

それは主催者のボンクラぶり、それに係りバトル・ロワイアルのルールの穴だらけっぷりにも笑いが止まらなかったのだろうが、これはあくまで一割程度。

──笑いの大部分の理由。それは。

どんな危機的状況に陥ろうとも、最適解を短時間で導き出せる自分自身────。
そんな自分に我ながら敬意を評して笑っていたのだ。

177『ふたりだけの危ないGAME〜Love is War』 ◆UC8j8TfjHw:2024/10/18(金) 23:19:49 ID:6WcvfGC60
天才たちの頭脳戦〜BATTLE ROYALE〜。
──彼はその悪しき物語に終止符を打つべく。
時はAM.0:41にして、眼前の長い坂道を下るべくついに…。

動き出すのであった──────。



「……主催者のヤツめ。ふははっ………──」










「──…が、まあ、──」










「──『どんな願いでも叶えてくれる』というのなら……。望み通り殺しに参加も、考えてやらんこともないがな?──」


「──…くははっ」



…訂正しよう。



(…例えるなら…四宮かぐやという女の生徒がいたとする……)


「そんな彼女の猫耳姿が見たい──ッ、だとか…彼女のメイド姿が見たい──ッ、だとか…彼女をスク水にしろ──ッ、だとか…彼女を常時デレデレにしろ──ッ、だとか……。四宮を我が下僕にしろだとか、四宮に俺の弁当を食わせろだとか、四宮に俺の体をマッサージさせろだとか、むしろしたい…だとか…。ははは──」


「──ははははははは!!!!! はっはははははははっはっはっははははははははははははっ!!!!!!」



 白銀御行。
彼が笑い出した理由、引いては彼が何十分も考え事をしたかのように動かなかった理由…。
それは、かの四宮かぐやに対する願望を妄想していたから。
そしてそれがワンチャン叶うかもしれないと堪えきれなかったからだ。


「面白い……。制限時間四十八時間とは言わず今すぐにでも終わらせてやる。待っているんだな、主催者」


「──そして四宮かぐや!!!」


神。
何故、神は人間に『煩悩』という最悪のカルマを背負わせたのだろう。

彼がぎゅっと握りしめるは、いつぞやの記憶かマニュアルを既にラーニングしていた散弾銃。
かぐやのことで頭がいっぱいになった質実剛健──白銀は過ちにもほどがある方向に頭脳を使うため…。
おしゃれなカフェが集うこの坂を一歩、一歩下っていく……。

178『ふたりだけの危ないGAME〜Love is War』 ◆UC8j8TfjHw:2024/10/18(金) 23:20:06 ID:6WcvfGC60
「……しかし、殺し合いに乗った以上油断は禁物だな。出会う参加者をよく見定め泳がせるか、始末かを見極めねばなるまい。…バカな参加者を相手にした時は見なかったことをすべきだ」


──何故なら、バカは何をしだすか分かったものじゃないから扱い難い…と。
ディープな街を練り歩きながら彼は言葉を漏らした。
メンズ・レディースを問わず沢山の古着屋が軒を並べるこのキャットストリート。
なかなか手に入らないようなアイテムを宝探し感覚で探し求めるのが、古着屋巡りの魅力だが、白銀も目をギラつかせて獲物を探る。
ただでさえ目つきの悪いだけあり、もはや虎か彪かの威圧感さえ醸し出していた。


 スタ、スタ…

  スタ、スタ……


クマまみれの目がギラギラ光っていく。

毅然、誰かが指示を出すまでもなく輝き続けるスーパームーン。


「…ただ、問題が一つだけあるな。…もしも、あの参加者に。『彼女』に出くわした時…」


スーパームーンの月光がタイル敷きの道路を塗装していく。
いわば、ブレイブ・メン・ロード《光の道筋》。
幻想的な明るさ故、もはや白夜同然と化した渋谷遊歩道にて、一人────舞い降りた。



「あぁ、『彼女』に出会った時……。俺は果たしてどう行動すべき──…、」




「──か……。あっ」

「あっ……!」




『彼女』を前にして、白銀は思わず立ち止まることを余儀なくされた。


無防備な銃口を前に、気づけば立ち塞がっていたその彼女。

黒い艶のある髪を、紅のリボンで一本結びし、
小柄だが気品あふれる佇まい、そして圧倒的な令嬢のオーラを醸し出し、
──何よりその整った童顔が、美術品クラスだった。

──そして、今白銀が何よりも会いたくない顔だった。


「……………くっ…」

「…あ、あの………………。あのっ…!!」



 正真正銘の天才にして生徒会副会長。三年。
産まれたばかりの子鹿のように体を震わし、目には涙を浮かべ打つ…。
満月のスポットライトを集中的に浴びる──月からの姫に。

白銀はこの時出会ってしまった。




……


今は昔、竹取の翁といふ者ありけり。

野山にまじりて竹を取りつつ、よろづのことに 使ひけり。

名をば、さぬきの造となむいひける。

その竹の中に、もと光る竹なむ一筋ありける。怪しがりて、

寄りて見るに、筒の中光りたり。それを見れば、三寸ばかりなる人、いとうつくしうてゐたり。


……





「…会長……。会長……!! …会えて嬉しいです……………!」



「…………四宮…かぐや…………っ!!」




────名は、かぐやと申した。

179『ふたりだけの危ないGAME〜Love is War』 ◆UC8j8TfjHw:2024/10/18(金) 23:20:19 ID:6WcvfGC60
「…ってなんや知り合いかいっ! おい姫、…なんやこいつごっつう目つき悪うて……。大丈夫なんか?! おい!!」



「…いや、え?」


……彼女の背後にもう一人。
脇役というように、ガラの悪い男を添えて。


「あっ…。会長、大丈夫です…。この人は島田虎信さん。…案外優しい人なので警戒はする必要ないですよ。…ねっ……?」

「ほーん。お前は会長ゆうんか。とりあえず一緒に行動や。ボゲのトネガワは俺がボコったるさかい、姫と一緒に安心してついてこい!!」




彼女らと出会い、こうして十数秒経ったものだが。
その僅かな間の後、白銀はとりあえず一言絞り出すのだった。


「四宮……。お前『姫』って呼ばれて…。──いや、呼ばせてるのか………………?」



かぐや『姫』──だからか?、と。

180『ふたりだけの危ないGAME〜Love is War』 ◆UC8j8TfjHw:2024/10/18(金) 23:20:33 ID:6WcvfGC60




 満月にて人知れず栄える都『黄泉の国』。
月からの使者である異星人が、仮の姿をまとい、渋谷の地に降り立つ。
異星人が模すは、『蚊』の成。
蚊は途方もない長旅にて疲れた身体を癒すべく、水たまりにふと着陸すると──…、


 ブロロロロロロロロロロロロ……


  ────ブチッ


ハマーH2のタイヤに轢き潰され敢え無く死亡した。



夜間を中古車が走りゆく……。





「……いや、この人が勝手に姫って呼んでるだけですからね? 島田さんが勝手に……」

「あ、あぁ。…そりゃそうだよな………」

「いや待てッ!! そんなんゆうてお前…、かぐや言うたらかぐや姫やろがい! 男からしたら素直に女の名前呼びなんかできんねんて!! はずいやんか!!!」


「…ちょっ。とりあえず島田さん。前向いて運転してくれませんか……?」

「…チィッ!! 言われんでも…分かっとるわい!!」



 どのような人間でも、誰しもが『仮面』を被っている。
一度は【マーダー】になることを意思表じた白銀御行も、この車内では【善良一般人】という厚くて頑丈な鉄仮面を被りきっていた。

かぐや『姫』との鉢合わせを経て、あれから幾ばく経ったのか。
島田虎信──以下:トラ運転の下、二人は後部座席にて微妙な距離感を保っていた。


(………くっ、この男…。前を向いて運転しろ……どころか運転するなと言いたいものだ。なんなら俺に代わった方がまだマシだろう…)


移りゆく車窓。巡りゆく古民家カフェ達。
まるで山道を登っているかのような激しい揺れに、白銀は酔いを堪えながら窓を眺めていた。
意味もなく刻まれ続けるハンドルに、浮き沈みの激しいアクセルの踏み具合。
間違いなくペーパードライバーであろう運転手──…、


「とりあえず腹減ったしなんか飯行こか。…安心せえ。俺はゴールド免許やからドライブ中の危険はナッシングまち子先生やて! かははっ〜」


──いや無免許のトラのドライブ捌きといったら、かぐや白銀両名、口に出さずとも不安が募るばかりである。
要するに、ゴールド免許とは────、『嘘』だ。

白銀が眺める窓の下。
そこにはかぐやの青ざめがかった表情が反射していた。


「なぁ、四宮…」

「…はい」


「ゴニョゴニョ…(このままではヤツ《島田某》のキルスコアに『+2』が付く。…しかも意図せぬ事故でだ)」

「ヒソヒソ…(会長、ごもっともですが…。そんな失礼な……)」

「ゴニョゴニョ…(悪意のない泥棒が一番厄介とはよく言ったものだが。…俺はこの走行中の車から安全に脱する方法を考えている。…だがどうだ? 四宮も思いついたりするか?)」

「ヒソヒソ…(思いつきませんが…。…そうそう、仮に事故ったとして島田さんだけはエアバッグで助かるのがなんともですよね…)」

181『ふたりだけの危ないGAME〜Love is War』 ◆UC8j8TfjHw:2024/10/18(金) 23:20:50 ID:6WcvfGC60

「…全く、とんだ厄介事に巻き込まれたな……。俺も……」

「せやな、白銀。だが諦めんなや? 俺やて、絶対死にたくないし、殺しもしとうないんやからなっ……!!」


「…………」「………あぁ、はい……」



白銀とトラとで齟齬ある会話だったことに、トラだけが気付いていない。



 時速100km/hでキャットストリートの道を走り抜け数分。
表参道を依然変わらぬスピードで湾岸ミッドナイトしていくが、地面が塗装されたアスファルトな分、地獄のような車内揺れは収まっていた。

顎を手の甲に乗せ、巡りゆく並木を眺める白銀は、脳裏で密かに計画を組んでいた。
天才である彼の脳は休むことを知らない。
日夜、寝ているときさえ働き続ける白銀ブレインはこの時、信じられないくらい高速回転する車輪と競うかのように回り続けていた。



 ──四宮かぐやをどうするか、について。…だ。



(…四宮………)



白銀には、夢があった。
それが、願いだった。
殺し合いという異常非常事態が起因となり、悪に堕ちた彼の願い──、それはかぐやを好き放題自分好みにすること。
このゲームに生き残るだけで、そんな夢が簡単に叶うのだから殺し合いを拒む理由なんか無かった。

だが、無論。
それは四宮かぐやの『死』とイコール付られる。

愛しの彼女が誰かに殺され──いや、自分が手に掛けるようでないと、優勝は理論上できない。
避けては通れぬ茨の道であったのだ。
優勝の褒美で後々生き返らせるとは言え、今は暫定的に死なせなきゃいけないのである。


(……………………だから会いたくなかった。できれば先延ばしにしたかったんだ……。この『四宮かぐや問題』は………………ッ)


この問題だけは、さすがの努力の賜物である頭脳を持ってしても解くことは容易くなかった。

 殺したくないけど、殺さなきゃいけない。
 生き返らせるけど、殺さなきゃいけない。
 殺さなきゃいけないけど、生き返らせたい。

『結果』はさておき、この殺す『過程』をどうにか自分が傷つかないようこなさねばならず。
その過程に、白銀は延々と苦しめられていた。

ブロロロロ…と暴走運転する車内にて。考えるごとに、まるで永遠のようにも感じた。




(ぐっ………………)




(俺は自分の都合ばかりだ……っ。自分が傷つかないように、自分の願いのために…と。自分自分自分自分ばかり……………)



(本来なら、俺は四宮を絶対殺しちゃいけない。守らなきゃいけない筈だというのに………………。俺は……)



「だが……………。…だが、しかし……なんだ………」

「なんやて? 白銀の坊主お菓子食いたいんか? こんな事態やっちゅ〜のに、気楽でええなぁお子様は…っ!」

「………。…いや、なんでもないです」

182『ふたりだけの危ないGAME〜Love is War』 ◆UC8j8TfjHw:2024/10/18(金) 23:21:06 ID:6WcvfGC60
車内の揺れは収まったというのに、吐き気に似た葛藤の苦しみがピークに達しそうだった。
心中泣きたいようなもどかしさで込み上がっていた。
光を包み込み全反射する、その涙。
そんな涙が吐出口を求めて暴れていた。




そんな、涙が────こぼれ落ちた。




「………──えっ?」



────自分の隣に座る、殺したくて殺したい『彼女』の目から。




「…えっ?! …ど、どうした………。四宮……………」

「…あ、あれ。なんでだろう、なんか……。泣けて来ちゃって………。すみません、会長……………。なんだか…、急に──」



「──うっ…ううぁあ…ぁぁぁぁあああ!! …ぐっ、ひぐ…。あぁぁあぁ…………っ!!!」



「なっ?! し、四宮!!」




 涙は一粒。二粒。三粒。
…気づけば完全なる液体の塊と化し、濁流となくこぼれ落ちる。
しゃっくりをあげ、息が詰まるほどに顔を赤くしながら泣き続ける彼女、四宮かぐや。
白銀の知る普段のかぐやは達観的かつ冷静、そして仮面を被ったかのように隙など見えない女の子である為。
今の彼女の豹変ぶり、普段絶対見せぬその顔に戸惑いを隠しきれなかった。

彼女の涙は、か弱さを露わにした。
それほどまでに、殺し合いの中にいる彼女は無防備だった。


雄──、生物学的に男という生き物は、弱みを見せる物・か弱い対象相手にはそっと優しくなるものだ。
優しさを魅せるアピールとしては、例えるならハグするなり、抱きしめるなり、抱擁するなり…と弱者を包み込む。


「…と、とりあえず落ち着──…、」


そんな男としての本能からか、無意識にもだだっ広く開かれた白銀の懐は──。



 ギュッ…


「──おわっ!? し、四宮?!!」


──泣き通すかぐやが飛び込むに十分の広さだった。


「…会長…………っ! ぐっ、うぅ……ひぐ……………」


急ブレーキをかけたわけでもない。自発的な飛び込み──末の抱擁。
かぐやの柔らかな身体、
そして髪から透き通る甘い匂い、
背中を回り込む細い腕に、
黒い制服から漂う果実のような芳しさ。

予期せぬ言動と、現状に。白銀はマネキン同然をせざるを得なかった。
それゆえに、耳元で泣き声をあげるかぐやへ、ただ反論もできず耳を貸すこととなる。
涙ながらに語る乙女の想いを、ただただと。

183『ふたりだけの危ないGAME〜Love is War』 ◆UC8j8TfjHw:2024/10/18(金) 23:21:24 ID:6WcvfGC60
「…私怖かった…。逃げ出したいし、もう何もかも嫌だったんです………っ」

「し、しの──…、」


「殺し合いなんて、もうどうにもできないと思ったんです……。絶望しかなくて、氷のように心が冷えてたんですよっ……………」

「……………………」


「会長と、さっき…会うまでは………────っ…!」

「…………………ッ!」



その白くて細い指で、涙を一回擦った。



「…会長は……、決断力に英断力、そして…何より希望を持たせてくれる……唯一の参加者………じゃないですか…………」

「……し、四宮。……お、俺は…」


「だからっ……………、あの日の…夏の。…花火大会もっ……………」

「…………っ」


「私…救われたんです………。救われたんですよ……。いつの日も…、会長のお陰で………………」





「………………………………四宮…」



かぐやが次の台詞、何を言い出すか。
すなわち彼女は自分に何を求めているのか。
自惚れてるつもりはないが容易に察することができた。

それと同時に白銀は思った。


「……俺はなんてバカなことを考えてたんだろうな。馬鹿すぎて生徒たちから呆れられるだろう、もう…」

「…え?」


思うままに口に出し、彼はかぐやの台詞を遮った。

…何故彼女に抱きつかれるまで気が付かなかったのだろう。
何故彼女が泣き顔を見せてようやく気づくぐらい、自分は愚かで間抜けだったのだろうと。

四宮かぐや──。
──彼女が殺しても簡単に生き返らせていいだなんて、そんなレゴブロックのようなチープな存在ではないことに。
ここまで経てやっと理解した自分へ、思わず白銀は嘲笑してしまった。
──思えば、ゲーム開始直後以来久しくの笑い声だった。ただあのときとは笑いの成分は大きく異なる。


「…あっ、会長…………」


気が付いたら、胸元のかぐやを両の手でギュッ…と抱きしめ……、
──は恥ずかしながらできなかったものの、彼女の頭にポンと手を置いた白銀は、…いや白銀『会長』は。

今度ばかりは恥ずかしげもなく、はっきりと宣言するのだった。

184『ふたりだけの危ないGAME〜Love is War』 ◆UC8j8TfjHw:2024/10/18(金) 23:21:43 ID:6WcvfGC60
「…富士そばに月見は似合うと言うが……、四宮。お前には到底似合わん。──その涙がな」


「会長…………」




「…辛いか? …苦しいか?」


「……それは──…、」






「なら俺が見せてやる──」





「──涙のいらない拍手のエンドロール。──俺とお前の『ハッピーエンド』…を」





…正直あとあと思い出して恥ずかしくなるセリフかもしれない。
だが、焦燥し切るかぐやにはこれが一番ピッタリなセリフでもあるかもしれなかった。

AM1:01を以て。
白銀御行生徒会長は『打倒主催宣言』──ならびに『四宮かぐや守護宣言』を終えたのだった。


密かに…────。










(…フフ………。ハハハハハ………………)














(──いやぁああぁぁぁぁっ、よく平常心を保てたな…ッ!!! 俺!!!!! )


(……かぐやを守るだと…………? バカを抜かせっ!!!)





(四宮がこんなに泣くには『裏』があるに決まってるのだ…ッ!!!! そうそう騙されてたまるかッ!!!! ハハハハハハ!!!! フハーハハハハハハハ!!!!!!)




『かぐや守護宣言』
─────嘘であるッ!!!
白銀会長…いや白銀はまったく優勝願望をあきらめてはいなかった!!!!

185『ふたりだけの危ないGAME〜Love is War』 ◆UC8j8TfjHw:2024/10/18(金) 23:22:00 ID:6WcvfGC60
「…ところで四宮」

「……はい…」

「あのトネガワ某、優勝した暁にはなんでも願いを叶えるとほざいたが…。愚かな参加者の中にはこう願うやつもいるだろうな。『〇〇(参加者)ちゃんをオレ好みにしたい!!』とか」

「…は? …はぁ……」

「愚問なことは承知だが答えてくれ。まさか、四宮もそんなことを企んではないだろうな??」





「………何言ってるんですか……。考えてるわけないじゃないですか……! 会長、ひどい………っ!!」



─────嘘であるッ!!!
この女…四宮も優勝の願い事で白銀相手にあれやこれ…とよからぬ妄想を抱いていた!!

その証拠に彼女の右手には月光を反射するナイフが持たれている!
泣き芸効果で隙を見せた白銀を一突きにしよう…と、かぐやは既に道徳も倫理観も捨てていたのだ!!!




「ほう。…それはすまない。軽い冗談のつもりだったが、…悪いな。俺も四宮のこと信じていたよ」

─────嘘であるッ!!!



「…ほんと、酷いですよ。…それにしても……藤原さんたちが心配でなりませんね。早坂も…」

─────嘘であるッ!!!
証拠に早坂のことが気になるなら、さっきから通知うるさいラインの返事をしているはず!!
なら何故返さないのか…。──それはレスポンスの仕方も、早坂の約束も忘れたからだ!!



「全くその通りだ。しんぱいだなーーー」

─────嘘であるッ!!!




「なーんや。黙って聞いてりゃ変な会話しよって。『おかわいい』やっちゃなお前ら〜〜」



「……」「……」

(お可愛い…………だと?!)(お可愛い……ですって?!!)


─────嘘であるッ!!!
…何が嘘って、繰り返し言うが島田虎信という男。ゴールド免許(ド嘘)である。






……嘘と嘘で塗り固められていく車内。

そして、マーダー二人と山程の嘘を乗せた車内。


互いに疑心暗鬼が沸き立つ、一触即発の空気感の中、車は目的地も知らず走り続けた。
この三人が、殺し合いという『コンゲーム』をどう完走し切るか。
それは、まだ凡人の我々には到底予想がつかない。…誰も分からないのである。

186『ふたりだけの危ないGAME〜Love is War』 ◆UC8j8TfjHw:2024/10/18(金) 23:22:10 ID:6WcvfGC60
──後輪右タイヤにて、極めて微かな血痕を引きづらせながら。
一旦はここいらで幕引きとなる。




【本日の勝敗】

【月からの殉職者『蚊』の────勝利。】



【1日目/D8/表参道/ハマーH2車内/AM.1:20】
【白銀御行@かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜】
【状態】健康
【装備】散弾銃
【道具】???
【思考】基本:【マーダー】
1:優勝する。
2:優勝の願いで四宮にあれやこれをする。
3:四宮は割と警戒、トラは経過次第で始末予定。

【四宮かぐや@かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜】
【状態】健康
【装備】ナイフ
【道具】???
【思考】基本:【マーダー】
1:優勝する。
2:優勝の願いで会長にあれやこれをする。

【島田虎信@善悪の屑】
【状態】健康
【装備】丑嶋の車@ウシジマくん
【道具】???
【思考】基本:【対主催】
1:トネガワみたいなクソったれ野郎をぶっ潰すんやっ!!
2:とにかく参加者を多く集めて守りたい。

187次回 ◆UC8j8TfjHw:2024/10/18(金) 23:26:23 ID:6WcvfGC60
一巡まで残り2話!

優先→『らぁめん最遊記 第一話『ツルツルさん登場!』』・『#恋のバトル♡ロワイヤル』
もしかしたらこっち書くかも→『Big Lebowski』・『マルシル飯( l _ l )』・『止まらない、止まれない、この勝負は譲れない』

188『らぁめん再遊記ry』 ◆UC8j8TfjHw:2024/10/26(土) 20:27:13 ID:FQB5aI6Y0
[登場人物]  [[アンズ]]、[[芹沢達也]]

189『らぁめん再遊記ry』 ◆UC8j8TfjHw:2024/10/26(土) 20:27:32 ID:FQB5aI6Y0
 『殺し合いを止めるくらい絶品のラーメンを作り屋台で成功したい。』

──────(若干十七歳。超能力少女)


 バトル・ロワイアルの占領下に置かれた渋谷にて、唯一有人営業をするラーメン屋台『とんず』。
アンズが営むその店では、相も変わらず閑古鳥しか客はいなかった。



『…ズルズルズ──。…ハハ、やっぱり天才だよ。お前のラーメンはな』

「うそっ?! ほんとに美味しい?!! 新田!」

『あぁ。…味とか、美味さとかそんなの関係ねぇ。お前の作る料理には……光るものがあるんだ』

「…光る、物……? なによそれ?」

『まぁー、殺し合いを終わらせるくらいの『スパイス』さ。そいつがふんだんに加わってんだから…こりゃすげーよ』


「…それが光る…ってコト? 新田」

『あぁ。ピカピカさ』



くたびれたボロボロの客席に座る一人の閑古鳥。
──否。『一体』と表記するのが正しい。
イスと同じくらいボロボロでヨレヨレの服を着せられた新田さん──改め、新田マネキンの存在は、



「…ふふふっ。ピカピカ…ね。………ピカピカ……──」


「──………ピカピカ……ピッカ……………ピカ…光るもの…──」






「──…もうっ!!! 何やってんのよ私っ!!!!!! もうぅっ!!!!」


────アンズの心を虚しくする…というより、虚しさを象徴するいい存在だった。
もうやってられない、かと言うように彼女は厨房に顔を突っ伏す。


新田人形が放物線を描いて、手足を自由回転しながら飛んでいく様は、ものの見事な程の八つ当たりだった────。



 ドサリッ。

 殺し合い開始、あれから既に五時間。
ひいてはとんずラーメン店が営業を開始して二時間が経過している。
「味は普通」──…と述べた最初の客が立ち去って以降、屋台を担いで移動を開始したアンズ。
自身の超能力で屋台を動かしてる故、疲れもなく四方八方歩いてみたものだが、一向に参加者と出会うことすらできていない。
たまに二、三人ほど参加者とすれ違うことはあれど、声をかけても何故か無反応。無視のオンパレード。
【マーダー】参加者遭遇対応として、対峙の心得もしていたアンズだったが、そいつらとすらも出会さない。関わることが全くの皆無。
──誰一人とてラーメン屋台に足を踏み入れてくれる者はいない現状だった。

というか、まるでこのラーメン屋台に誰も気づいてないかのような──。

どうすれば客足が増えるのか、全く名案が思いつかないこの始末で。
アンズの掲げた『ラーメン幸福理論』は早くも破綻に傾いていた。

スタートラインにすら立てないという現実に打ちのめされたアンズ。
高架線にて涙をこらえながらトボトボ歩き、走る山手線をBGMに悲壮感を出していたのだが。
──そんな最中、彼女の目にとまったのがあのズタボロに捨てられた新田人形…という次第である。



『アンズ、お前のラーメンはピカピカだよ……』



 『ピッカピカだよ……』



  『ピッカ………、ピカ………』

190『らぁめん再遊記ry』 ◆UC8j8TfjHw:2024/10/26(土) 20:27:49 ID:FQB5aI6Y0
「……なによぉ………、ピカピカって………。もうっ…………」


文字通り朝日に照らされピッカピカに輝くアンズ。
──夜が明け太陽が顔をのぞかせる、この数時間。
この数時間に自分は何がやったか、何を成すことができたか……。それを考えると悔しくて悔しくて、もう堪え切れなかった。



ちなみに、言わずもがな新田人形との会話は一人会話である。


「……マオじゃん。私の…やってること………。うぅ…ぐっ………………」



街の中心部。
再開発が進んでいるエリアでもあり、古い建築物と新しいビルが入り混じった独特な景観を形成するこの高架線にて。
アンズの心の光には闇が少しずつ立ち込めていた……。






そのため────、







「…『大』か『小』しかサイズがないのか……? なんだ、ここは便所か」


「…え…………?」




「まぁいい。とりあえず大で作ってくれ、いいな」

「…え、えっ……? ──…あっ、はい!!」





客が一人──座っていることに気づけずにいた。





「……………」

「んっ? なんだ、チラチラこっちを見て」

「…あっ、いや……。一応聞きたいんだけど…」

「……なんだ?」


「お客さん…、マオの知り合いの〜〜〜…『ツルツルさん』じゃないわよねっ…?」

「……………なんだそれは……。いいから手を動かすんだ」



 スキンヘッドが何よりの目印。
メガネを掛けた中年くらいのサラリーマン。
そんな男の客が着席していたことに、アンズは遅ばせとも気付かされた。




………
……


191『らぁめん再遊記ry』 ◆UC8j8TfjHw:2024/10/26(土) 20:28:05 ID:FQB5aI6Y0
 水垢まみれのカスが浮いたコップは一旦置いておく。

卓上に置かれたラーメンの器。
蒸気がモクモクと立ちこもり、その出来立てっぷりは生唾が喉を滑り落ちていく。
これでもかって位ドロドロの濃厚スープは、ガラを少時間煮込んだ程度じゃ出せないだろう濃さ。
箸を突っ込めば、圧倒的存在感の極太麺がワシワシと伸びていく。
──…ところどころかなりの極細さを誇る麺……というか黄色い髪が絡まさっていたが、これもまた一旦は置いておく。

メガネの客はスープを一口、静かに啜る。
濃厚でありながらどこか優しい味だ。
舌に絡む麺の食感が心地よく、自然と体が温まる。
次第に心の奥にあった疲れや憂鬱が溶けていくような気がした。


あぁ、旨い。旨い。…との勢いで麺が啜られていく。
彼の食べる様子は自分の世界に入り込み、何かを思いながら一杯のラーメンに向き合っているように見える。
まるでこの小さな屋台が、人生の短い休息地であるかのようだ。

ふと、アンズは思った。
人生とはこういうものかもしれない。
忙しい日々の中で、ほんの一瞬だけ立ち止まり、自分を見つめ直す時間がある。
それは決して大きなことではないが、確かに必要なことだ。

──そんな休息地を、絶対に参加者全員に届けなきゃいけない…。

彼女は、その固い想いを抱き、ぎゅっと客を見つめるのだった。


レンゲ内のスープを飲み干し、男はふとアンズと目を合わせた。





「なるほど、三十点だ。これは酷い」




「──………はぁっ?!!」



「だが安心しろ。エース●ックのスー●ーカップがあったとしよう。俺はそいつを三十点と思っているからそれとは同等だ」

「……はぁあああぁっ?!!」




 休息地────は急激に一触即発の危険地帯と化した。男の一声で、急激に。

とんずラーメン、──遡るに来々軒の味は、アンズにとっては海の底よりも思い入れ深い味だ。
その思い入れ深さは百年大樹の年輪に匹敵するだろう、おじさんとの日々が詰まった大切な味。
その品を採点されることさえ不満だが、あまつさえ三十点…カップ麺レベルと言われるとは。
この名前も何も知らないハゲた男に簡単に貶されるだなんて、とアンズは心中、寸胴鍋のスープくらいに煮えたぎっていた。

反面して、男は冷水をかけるように冷たく声を続ける。
屋台がグラグラグラグラと怒り揺れる中、男は至って冷静だった。


「勘違いはするなよ。ラーメンは多種多様。色んな味がある。従って、俺が三十点と評したのは味の話じゃない」

「…は? はぁ?? 何が言いたいのよッ!!!」

「まぁ聞け。──というよりは俺が訊く。おい小娘」

「…何って言ってんのよッ!!!」


「簡単なQ&Aだ。お前は何故今このラーメン屋を開いた? 何故今これを作ったんだ」



「……はぁ?! そんなの……──」



────ラーメンの力でこの殺し合いを止めたいから。
…と、少し前の女性客に聞かれた時と同様の返しを答えた。

192『らぁめん再遊記ry』 ◆UC8j8TfjHw:2024/10/26(土) 20:28:19 ID:FQB5aI6Y0
人間という生き物はその特性上、繰り返し同じ質問をされるとどうにも鬱陶しく感じ、腹ただしさが増す。
握り拳を作りつつも、なんとか激情を抑えながらアンズは取り繕った。


「……ふっ。だろうな。そう言うだろうと予想は簡単だった」

「なによそれ!! あんたさっきからハゲの癖に──…、」


「ならまた訊こう。──お前はこのラーメンで本当に殺し合いが止められると思うのか?」


「……止められるっ。止められるわよ!!!」



「いいや嘘だな」



「止められるって言ってるでしょうがッ!!!!」




「いや嘘だ」




「…ィッ!!! もうっ、いい加減にし──…、」




「厳密に説明するとだな。殺し合いを止めるラーメンの『可能性』。──それに関しては俺は嘘だと思っていない」

「………………え、」



「お前の『自信』が嘘だと言っているんだ。お前もどこかで「本当にいけるのかな」と不安に思っているんだろう。いや、絶対に思っている──」


「────証拠に、見ろ。この切り損なって繋がっているナルトを」



そう言って男が箸ですくい上げたのは、器の中の一本ナルトだった。
スープが垂れ落ちる魚肉製の白い棒。
束の間、その汁が落ちる音のみがこの場に響き続けた。


「…あっ…………」



 あつあつのラーメンに飲水はつきもの。
あの冷え切った清涼水が、味もないというのに最大級の美味さを誇るのだ。
冷え水でピシャリとされたアンズは何を言うことも無かれ。
男は最後に一つ吐き終える。



「いいか。つまりはお前の拉麺心が『三十点』だと俺は言っている。「最高の隠し味はまごころ〜」だなんてよく聞くが、小娘。お前のラーメンには心が足りなかったんだ」





「………………」



アンズが押し黙ったのは他でもない。
男の主張がズバリお見通しというわけで、心に突き刺さった以上ぐうの音も出なかったからだ。
確かに自信のなさが心中潜んでいた。
心のどこかで、「失敗で終わるかもしれない」という不安があった。
挫折したかもしれない、という思いを心の奥底に必死に沈めて、隠していた。

193『らぁめん再遊記ry』 ◆UC8j8TfjHw:2024/10/26(土) 20:28:39 ID:FQB5aI6Y0
それをこの男にたった数口ラーメンを味見されただけで見透かされ、芯を食われている。
気づけば、膝をついて地面を呆然と眺める中、アンズは「だったら……」と思った。


(……だったら、何者なのよ…………。このツルツルさん…なんなのよ。)


…と。




 ダンッ────


「…え?」


思えば未だ名乗りを上げないこのメガネの男。
その容姿から勝手に『ツルツルさん』と呼んでいたが、彼の名前はアンズでさえ聞き覚えのあるものだった。


 ──芹沢達也。
 『麺屋せりざわ』店長
 ならびに、フードコンサルタント企業『(株)清流企画』社長。



「……えっ??」



卓上に叩きつけられた『名刺』にそう書いてあった。
ラーメン界の第一人者にしてカリスマ。
多くのラーメンヲタクに絶大なる崇拝をされるその男の名前。

ふとアンズが見上げた先には、ニヤリッと笑みを浮かべる芹沢がいた──。



「だが安心しろ。俺はお前みたいなラーメン屋を山程見てきた上、山のように事業復活させてきたからな」

「…………な、何を言って──…、」


「正直言って『殺し合い』を終えるという最終目標は困難の極み。おまけに小娘、お前は瞬間湯沸かし器の傾向があるからかなりの問題児だからな。はっきり言って嫌いの部類には入る」

「…いや、はぁ??!」


「あぁ俺はお前が嫌いだ。…ほんとにうるさい最近の女が苦手なんだよ。──そんな俺とついてこれるか? つける自信があるなら『契約完了』だ。やるぞ──」




「──【殺し合いを終わらせるほどのラーメン作り】…をな」



「………………………っ!」




アンズの今度の沈黙は決意表明の表れだった。
何だか分からないけど、この男となら。
芹沢達也とならやれるかもしれない…、自信がついてくれるかもしれない……と。


ゆっくりと立ち上がったアンズは二つ返事を返し、温かい日の出の太陽光を存分に浴びた。
その眩しさ、反射してくる光は本当にピッカピカであったという。


「……よろしくねっ! ツルツルさん!!」

194『らぁめん再遊記ry』 ◆UC8j8TfjHw:2024/10/26(土) 20:29:08 ID:FQB5aI6Y0
【1日目/C3/屋台『とんずラーメン』前/AM.05:33】
【アンズ@ヒナまつり】
【状態】健康
【装備】中華包丁
【道具】寸胴鍋
【思考】基本:【対主催】
1:芹沢と協力して打倒主催!!
2:私のラーメンが…30点……?

【芹沢達也@らーめん才遊記】
【状態】満腹
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【対主催】
1:アンズと協力する……………?

195『らぁめん再遊記ry』 ◆UC8j8TfjHw:2024/10/26(土) 20:29:23 ID:FQB5aI6Y0




あれは。





あれは、一週間前だった。






ヤツは深夜遅く。




 ガシャ────ンッ

「なっ??!!」




唐突に。





 シュウゥゥゥゥゥ…………

   ポーン、ポン…




「…んだ、これは………………」





“現れ”やがった。




「…やぁ」




「なっ?!!」



「僕は『ハル』。芹沢達也さんですよね?」

196『らぁめん再遊記ry』 ◆UC8j8TfjHw:2024/10/26(土) 20:29:44 ID:FQB5aI6Y0
「……あぁそうだ。だが小僧、…俺は男娼癖もなけりゃ少年癖もない。ついでに面倒事も起こす気はない。見なかったことにしてやるから十分以内に家から出ていけっ」

「あぁすみません。タイムマシンの仕様上、服が消えちゃうもので…」

「…何言ってるんだお前………」


「とりあえず時間があまりありません。説明は後からするので一緒に来てください」

「あぁ?? ど、どこに──…、」

「はは。どこへって…──」





「──五十年後の未来に、ですよ」





……


 ブオンッ、ブオオオォォォオォ

  ガシャッギガギガギギギギ…


   ギャアアァァァァァァ……………



「な、なんだ…。これは………」


「えぇ、酷い街でしょう。ここは大日本東亜帝国・伊勢拉麺第9区。平成の時代で言うところの『渋谷』です」

「あぁっ??!!」

「2020年。日本政府は解放組織のテロ行為により崩壊され、『タリメン政権』が牛耳るようになりました」


 ブオンッ、ブオオオォォォオォ


「戦争を繰り返し侵攻を続けた結果、街は荒れ果て暴走族がたむろする…、草木は枯らされ失業者は80%…、おまけに知識人や権力者は全員処刑されたので国民平均知能はIQ70台。まるでヒナお姉ちゃんの好きな世紀末漫画ですね。──」

「──ほら」




──『芹沢達也(死亡) 麺歴10年に処刑。ここに埋没』




「…な、なんだこの墓は…………」


「えぇ。芹沢さんもまた知識人なのでこの末路に…。そうそう、近々『ヌードルをフォークで啜るから』という下らない理由で米英と核戦争をおっぱじめるらしく、ほんとこの未来は終わってますよ。……さて、芹沢さん」

「…あ?」

「もう、お分かりですよね…?」

「いや、なにがだっ?!」


「この大日本東亜帝国の統治者大統領が誰なのか……………をね」


  ガシャッギガギガギギギギ…


    ビュオオオオォォォォォ……


.

197『らぁめん再遊記ry』 ◆UC8j8TfjHw:2024/10/26(土) 20:30:02 ID:FQB5aI6Y0
「…いや知るわけないだろっ!」

「見て下さい。あの看板を…」

「あの看板…だぁ………?──」





「──なっ??!!!」





    ビュオオオオォォォォォ……


「…そうです。『汐見ゆとり』閣下。──ならびにバトル・ロワイヤル終身名誉ゲームマスター『E』大統領。この二人が出会わさった結果……この惨状なんです」



……



「いかがでしたか。遠い未来の体験は」


「いかがもなにも……。今日はもう酒を流しこまんと寝れる気がしない……──」




「──小僧…。お前は…なんなんだ」

「…はい?」

「お前はこの俺に何がしてほしくて来たっ?! …それが気がかりで…もう頭が痛くなりそうだっ」

「…はいはい……。それがですね…──」



「──芹沢達也さん。残念ながらあなたは一週間後『殺し合い』に巻き込まれます」

「あぁあ??!」

「その殺し合いの主催者が、汐見さんと手を組んだ男張本人──E。…僕もどうにかして過去改変を試みたのですが、あまりにもバックの力が強く…遠く及ばずでした」


「…こ、殺し合い…?」

「はい。殺し合いです」



「芹沢さんには、その殺し合いを参加者という身ながら食い止めてほしいんです」


「…俺が、か……?」



「バトルロワイヤルには『アンズ』という参加者がいるので、彼女を上手いこと頼りに、なんとかEの野望を崩壊してほしいんですよ」

「…………アンズ…………?」

「はい。彼女は感情モンスターなので適当に情で語れば簡単に信頼してくれます。ですからそういうスタンスでご接しを……」

「……………」



「すべては僕たちの未来のために──。…では、僕はそろそろここらへんで失礼します。長居をしたらバレちゃうのでね」

「な?! お、おい! ちょっと待て!!!」


「健闘を祈ります。芹沢さん。あなたの麺の力で、誇りをかけて…。どうか」

「おいっ!!!」

198『らぁめん再遊記ry』 ◆UC8j8TfjHw:2024/10/26(土) 20:30:15 ID:FQB5aI6Y0


「────では、失礼します」










気付けばガキは部屋から居なくなっていた。
深夜という時間帯もあり、一連は俺が見た夢だと思っていたのだが。
──夢は、必ず叶う。
一週間後、目覚めた俺は知らないバスの中で座っていたんだ………。

199次回 ◆UC8j8TfjHw:2024/10/26(土) 20:32:06 ID:FQB5aI6Y0
『Houkago Destruction』…日高・なじみ


※↑投下後、wiki内の時系列順で見る本編を開設予定

200『Houkago ♡ Destruction』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/02(土) 22:19:38 ID:I2WyWeRg0
[登場人物]  [[日高小春]]、[[長名なじみ]]

201『Houkago ♡ Destruction』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/02(土) 22:19:50 ID:I2WyWeRg0
 古典シューティングゲーム『ゼビウス』にはバキュラという敵キャラがいるらしい。
そのバキュラは所謂無敵キャラ。
公式設定上では撃破することは不可能で、ゆらゆらふわふわといつまでも空中を浮ついてるとのこと。

ただし一つ、そんなバキュラにも都市伝説があって、何処かのゲーム雑誌によると山程弾を撃てば倒すことができるらしかった。
その弾丸の数はなんと256発。

256発……。
256発も……。
そんな途方もない数だけ撃ってやっと倒せるらしく。


────だったら、矢口くんもそれだけアタックすれば振り向いてくれる、かな。


って。
私は毎晩ベッドに入るたび、胸が苦しくて…重たくなる…。

202『Houkago ♡ Destruction』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/02(土) 22:20:10 ID:I2WyWeRg0



 GAME START────!!
私の中にワン“コイ”ンが投じられたのは、中学二年のふと突然にだった。

それまでの私の青春といえば、…なんだか味っ気のない面白み0の学校生活。
趣味なんてものはこれといってなく、やることと言えば勉強とか…友達との付き合いで流行りの遊びをすることだけだった。
流行りの遊び──ファッションとかアクセサリーとか、洒落た店に行くだとか。色々手を出した。
その付き合いの中で、表面上は愉しそうにキャッキャと振りまいたけど……──心の奥底ではなんだか冷えわたる…みたいな。
なんだろ…。心臓がはち切れるくらいのドキドキ、光悦を欲していた…っていうか。
上手く表現しきれないんだけど、とにかく退屈な日常って感じだった。


ちょうど、あの時もこんな具合で。
天気は連日続く曇り空だった。


……
 ──ふっふふふ…っ!!


 ──無人の教室、見回りも皆無、それに帰りの電車の影響で俺は四十分近く暇な状況と来た………!!


 ──よしっ。教室での『ストⅡDash』…携帯ゲーム機のプレイ実現させてもらうぜ!! はははーっ!!





 『……………………』


……



ゲームボーイの画面ってくらいに白黒のみのグレイテイストな私の青春。
────そんな生活に、彩りを与えてくれたのが…………、



……

 ──勉学の場で勉学を愚弄するが如き我が行為……‥!

 ──あぁ〜…なんて快感なんだ…!! 教室でソニックブームを繰り出す開放感は!!


 『…ねえ〜…──矢口くん〜……』

 ──ひぎっ??!! び、びっくりじだぁ!!!



  ファネッフー……
   ファネッフー………ファネッフー……………

 

 ──って…な〜んだ──日高かよ……。
……





矢口ハルオくんの存在…だった。




……
 『ばかみたい。教室にゲームボーイ持ってくる人なんて初めて見たけど』

 ──ゲームボーイ〜?! 違ぇよ! こいつはPCエンジンGTだ!! PCエンジンのゲームをいつでもどこでもやれる優れものだ!!
……


203『Houkago ♡ Destruction』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/02(土) 22:20:33 ID:I2WyWeRg0
 …うん。
私のクラスメイトの矢口くん。
彼とは、下校途中。──以前からゲームセンターから逃げ出るのを度々目撃してたけども、初めて会話したのはあのとき。
委員長として矢口くんの反省文を取りに行ったあの時が最初だった。




……
 『…そんなのどうでもいいし。私的には早く居残り終わらせてほしいんだけどォ』


 ──…ういうい……。悪ぃ。
……



「恋は突然に…」とか、「目を合わせたその日から…」とか色々初恋の謳い文句はあるけれども、私は別に最初から矢口くんに想いを馳せていたわけじゃなかった。
……正直、ファーストコンタクトでの印象は『問題児』って思っちゃったし。
だって、ゲームセンターなんて不良の溜まり場に行き来しててさ。
それで授業中もいつもボヤ〜〜ってやる気なさげで、先生から怒られるのがお馴染みの男子だったんだから。
本来なら好きになる対象じゃなかったかもしれない。

だけど、『例え遊びでも極めれば人を感動させられる』…ってことなのかな。
ゲームに夢中で、周囲からばかにされようとも我が道を往く矢口くんをずっと見ていくうちに。
なんだか……、興味が湧くようになってきて。


……
 ──修学旅行…。行き先は京都……。目的地に着くまでの車内は実に退屈この上ねぇーーぜー………。

 ────おいハルオ…。とか言ってどうせ携帯ゲーム機持ってきてんだろ? あの、PCナンダカって。

 ──…あー?? バカいうんじゃねーよ。せっかくの修学旅行だぞ?



 『…………』



 ──…携帯ゲームは持ってきてないがPCエンジン本体は持参したぜ?

 ジャラッ


 ────ハァ…?! うおっ、マジ!!?

 ──桃太郎電鉄にボンバーマン……! パーティーゲームを泊まり先、みんなでやるのが夢だったんだ!! ひっひひい!!

 ────…お前なぁ〜………。


 『…やば……。修学旅行くらいゲームから離れればいいのに』

 ────そうだ…! 日高もっと言ってやれ!!
……



ひょんなことから、初めて矢口くんとゲームをした時。
なんだか心のビートが弾けるくらいに高まって……。

204『Houkago ♡ Destruction』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/02(土) 22:20:46 ID:I2WyWeRg0

……
 ──…おい、日高。


 『…なに。矢口くん』


 ──電車…行っちまったなぁ〜………。


 『…うん。修学旅行初日で途中下車して……。みんなと離れ離れだね…』


 ──…ふわぁ〜あ〜〜〜ぁ……



 『──矢口くんのせいでねッ!! 呑気にあくびしないでよ!!! 私まで巻き添えじゃん?! どうすればいいの!!!』

 ──まぁまぁ日高。落ち着け。

 『落ち着けるわけないでしょ!? …もうっ、最悪〜〜〜〜〜………っ』


 ──だーから落ち着けっつ〜の。



 ──まっ、過ぎたことは仕方ない。ダラダラそこの駄菓子屋でゲームしながら落ち着こうぜ。な?


 『…〜〜〜……っ』

……




……

 『何これぇ〜……。気持ち悪いゲーム……』

 ──おい名作『R-TYTE』をキモがるんじゃないぞ?! やれば分かるがあの圧倒的ヌルヌルっぷりはたまらないんだからな!?


 『…ヌルヌル……』

 ──あっ!! も、もちろんヌルヌル動くって意味だぞ!? 勘違いすんなよ!!

 ──…まぁー、普段ゲームなんてしないお前にはちと早い難易度よ。R-TYPEは一旦置いとけ。

 『…別に気になってないんだけど』


 ──とりあえずこいつで対戦すっかぁ。

 『……なにこれ』

 ──あ〜? 大丈夫だ。俺が操作方法教えてやっから心配すんなよー。

 『いや私やるとは一言も言ってないんだけど〜…』

 ──まぁ、まあまあまあ! いいからやろうぜ! な?




 ──『サムライスピリッツ』を…よっ!!


……


→→→[1 Coin ♡]

そして、だんだん…と。
ゲームも、矢口くんも好きになってきてて……。

205『Houkago ♡ Destruction』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/02(土) 22:21:03 ID:I2WyWeRg0

……

 ガチャガチャ…

 ──な?! 面白いだろ!? ネオジオはすげーだろ!!?


  ガチャガチャ……

 『…………まぁー。うん……』

……



……気がついたら、ドはまりにのめり込んでて。




……

 ←→↑↓←←→→↘↓+AB

 (六連つばめ返し────ッ!!!)

 ドドドドドドドッ

  「ぐわぁぁぁぁ……ぐわぁぁぁぁぁ……………」


 ──…がっ。ひ、日高…………。お前………

 『…へっ、へへへ〜……』



 ──なに知らん間にコマンド入力上手くなってんだァァァアアアア!!!!!???


……


 中学三年生を迎える頃には自他ともに認めるくらい、ゲームが上手くなっちゃってた。
矢口くんをコテンパンなくらい打ち負かせた時のあの顔…。あの引きつりきった顔……。
今でも忘れられないくらいだ。


ほんとに……。
矢口くんのおかげで毎日が充実していた。
矢口くんは夢中になれる楽しさというのを私に教えてくれた。
真剣になれる興奮を教えてくれた。ゲームの世界の奥底深さを知らせてくれた。

彼とゲームを体感するあの1vs1の空間は、なによりもずっと心地よかった。

私の大好きな人────矢口くん。
時間が止まるボタンがあれば鬼連打するくらいに、ずっとずっとそばにいたかった。


だけど、
だけども………、

206『Houkago ♡ Destruction』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/02(土) 22:21:21 ID:I2WyWeRg0
……



 ──ちくしょ〜〜っ…!! コンチクショー!!! 何故俺は勝てないんだぁあ……!!!

 『…ちょっと〜、負けたくらいで大袈裟すぎでしょっ』

 ──いぃや大袈裟なんかじゃねぇ〜……!! 女のお前には分からんだろなっ! この屈辱を……。

 『なにそれ〜…』


 ──日高に苦戦するようじゃあ……俺は………、俺は………………、








 ──『大野』には一生勝てやしねえ………。




……


だけども、矢口くんの頭にはいつも──大野さんがいた。



……

 『大野…………………さん……?』

……



 転向してきたばかりの、誰もが目を奪われる完璧な女子。──それが大野さん。
小さい頃から習い事詰めという彼女は成績も良くて運動神経も抜群。天才このうえなく、まさに龍躍雲津、叡智うんぬんかんぬん……。
私なんか逆立ちしようが敵わなかった。
何よりもサラサラとした柑橘類の香り纏う長髪に、整いきった完璧な容姿。きれいな肌。
同性の私でも気を抜いたら取り込まれちゃうんじゃないか、ってくらいに、大野さんは美麗だった。

矢口くんはそんな大野さんのことを口癖のように毎回呟く。

「嗚呼、大野がぁ…………。」
「俺は大野を超えられねぇ……………。」…とか。


…矢口くんの性格上、彼は人間にほぼほぼ興味がないので、大野さんに恋愛感情とかそうゆうのは皆無なことは分かっている。そうと信じたい。
だから、二人が結ばれて幸せ…だなんてあり得ないとは分かりきっていた。
分かっていたんだけども。


………矢口くんはそれでも私のことなんか全然振り返ってくれなかった。
愛しの彼の眼には、大野さんしか映っていなかった。


ゲームが強くて太刀打ちできない──アーケードゲームの天才…大野さん…………しか。




……

 『うわぁ〜……。なにこれまたゲームオーバー……。難しすぎ…』

 ──うへぇー! 日高お前下手すぎ。ははは〜。

 『…ちょっと頭くるんだけど…!』

 ──この程度のゲームに苦戦するようじゃまだまだお前はぺーぺーだぜ。いいか? こんなのよりも難しいゲームは山程あんだからな!! やれ『原始島』だの、やれ『最後の忍道』だの、『アーガス』だの…………、

……


207『Houkago ♡ Destruction』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/02(土) 22:21:41 ID:I2WyWeRg0
…それと、ドルアーガの塔とかグラディウスⅲとか妖怪道中記とかランボーとかパロディウス…とか。
かつて矢口くんはほんと山のように高難易度ゲームを列挙してくれた。
あっ。あと、『カイザーナックル』の…特に『ジェネナル』ってボスとか。


〜…

 [KAISER KNUCKLE]


 [ROUND ONE……]


 [vs GENERAL──FIGHT!!]
 

 「クックック。遂にここまで昇ってきたか」

 「女性の身で戦いとは、感心しませんな。近頃の女性はやんちゃで困る」

〜…


そんな、凶悪ゲーマー殺しの名作たち…。
矢口くんの口から呼名されるアーケードゲームたち……。
────後々プレイしてみて分かったけど、そんなのよりも矢口くんの取り扱いのほうが何倍も難しかった……っ!


〜…


 「もっと頑張らないとこの私を倒すことは出来な──…、」


 『そんなの…知るかぁ────ッ!!!!』

 BOW!!!
 (→+強攻撃────『つかみ投げ』!!)


 「ぎっ!!? ぐわぁぁぁあああぁぁぁぁぁ………」


〜…


…ほんとに、矢口くんはいつも気ままで…掴みどころなんかまるでなくて……。
どうやったら私に夢中にさせることができるのか攻略法が分からない…。
最強の『壁』だ。
あいつは……、『バキュラ』そのものだった。


だから、私は。

208『Houkago ♡ Destruction』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/02(土) 22:21:56 ID:I2WyWeRg0
何度も、何度も、

格ゲーを練習して………。



……

 ガチャ、ガチャガチャガチャ…

 「【登りつばめ返し】…ッ」「【ツバメ六連】…ッ」


 『………………っ』


……



何度も、何度も、

強くなって……………。



……


 ガチャガチャガチャガチャ、バンバン

 「【チェーンコンボ】…!!」「【エスペシャルジェノサイドバルカン】……!!!」


 『………………っっ』


……



ゲームしか頭にない矢口くんが、眼焼き付けるような圧倒的なプレイヤーになりたくて……………。

大野さんを超えるような強さになれば、やっと彼も振り向いてくれると考えて………っ。



……

 ZUBAAAAAAANNNN……


 ──KO



 『………………………』



……



────矢口くんの為だけに。絶対。
私はこの青春を熱く、熱く、費やしてきた……。
ずっと鏡の前、人知れず磨き上げてきた……。
絶対、大野さんを倒す為に────。


そんな矢口くんと、大野さんと…私は今、『バトル・ロワイアル』というNEW GAMEに身を投じられている。
ゲームスタートの合図はバス内にて首輪の一斉爆発から。
視界を覆い隠す暗転の幕……。
…高鳴る心臓。…刻まれるBPM。
そして、心のゲージが限界にまで達してくるこの感じ……。

私は『想い』で殺し合いの恐怖感を燃やしつつ、瞼をゆっくり開いていった……。

209『Houkago ♡ Destruction』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/02(土) 22:22:15 ID:I2WyWeRg0




「…………って意気込んだつもりなのに……──何、ここォ〜………?」


 辺りに広がる真っ暗な景色…。
それは今の時刻が深夜だから黒く染まっているというわけじゃない。
要するに、今私がいるこの場所は上空を遥か天元突破した先──宇宙だった。
で、大小さまざまな星が360度巡っていく中、私が地に足をつけている場所は……なんていうか。
モゾモゾと蠢き所々触覚の生えている…赤や緑のグロテスクな地面。…というか生物? よくわかんないけど…。
その地面のフジツボみたいなとこから湧き出てくる虫みたいな生き物たち。
なんとも言えない色合いのムカデとかサソリみたいなその生物たちが体に絡まりついたかと思いきや、どこかへと自由に動き消えていく。き、気持ち悪い……………。


前方からチョロQサイズのちっちゃな戦闘機が飛んでくる……。


「…うわぁ……。…はぁあ〜ーー……………」


まぁ、…要するに私は今『夢の中』にいるって感じだ。
それも、なんかの気持ち悪いシューティングゲームの…夢……。
…あはは、よくあるよねー…。目覚めたと思ったらまだ夢だったってやつ。

矢口くんと話すようになってから、何だかこんなゲームの夢ばかり見るこのごろ。
正直こんなヘンテコドリームを見るのは慣れきった感じだけど、それはともかく早く目覚めなきゃと私は頭で一生懸命念じた。
覚めろ〜、覚めてぇ〜…って。
はまぐりみたいに閉じきった瞼をこじ開けようと、努力する。
…もうなんなのー…………。


だなんて、そんなとき……──。



「ついに登場と来たなボスステージ!! これまで散っていった残機は三つ……、この借り返してもらうぜ!!」



「…えっ?!」



──矢口くんの声が聞こえた。
…えっ、どこから?
えっ、えっ? 現実世界でスリープ中の私に矢口くんが話しかけた感じ??
とか、色々考えながら辺りを見渡した先…。


「喰らえっ!! ドブケラトプスめっ!!!」


 ビジュンッ──────────


「んきゃっ!!!!」


目の前のちっちゃな戦闘機から…レーザーが一直線に放たれてきた!!
あまりに唐突で、そしてあまりに鋭く伸びのあるレーザービーム…。
当然かわせることなんかできず、胸に直撃しちゃって。

…………何故かセーラー服だけ弾け散り、胸が大きく露わになった。



「────……って、はぁあっ!!?」



被弾して散り散りに浮かぶ制服のかけらたち…。
無重力空間の影響からか、無駄にスローで揺れ動く胸が煩わしい……。
慌てて両腕で胸部の防備にかかる私だったんだけども。
──戦闘機の狙いは遥か下だった。



 ビジュンッ──────────


「うわっ!!?? …イ、イヤアア!!!!」

210『Houkago ♡ Destruction』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/02(土) 22:22:33 ID:I2WyWeRg0
「な、なんな……──って!!!? いや、…いやっ!!♡」



またしても宇宙空間を浮遊し始めた制服の欠片……。
──ていうかスカート…!!
レーザーを下半身にもろに浴び、見事に大破してしまった私の露わなスカート…。
幸いにも全部焼け飛んだわけではないけれども2/3壊滅状態というか。そのせいで太ももがスースー空気を通して、内股にしないと下着が見えそうなくらいに破れ果てて──……、

って、なんなのそれっ!!?
なんでこんな都合よく服だけが破れていくの!?
ていうかそもそも何な訳!? この夢!??
なんて夢見てるの私は?!!


「ちっ……!! ダメージあまり食らわず……かっ」


「はぁ?!」



戦闘機から声がした。



「かくなる上は…──仕方ねぇ!!」


「仕方ない…じゃないでしょっ!! ふざけないでよ!!? ほんとなんなのこれぇ〜!!!!!」



…すけべ戦闘機からのその声。
ノイズ混じりではあったけど、搭乗者の顔がはっきりと思い浮かぶ。
────間違いなく矢口くんだった。


戦闘機はゆっくり…ちょっとずつ後退りをして……、


「すべてはミッションクリアーの為だぜっ……!!!」

「は? いや、は?? はぁ??? ちょっとだめだからね!?? なにしてんの矢口くん!!??」


アクセル全開にパワーを溜めだすと………、


「いくぜっ!!!!」

「いやいかないでよ!!! 絶対イかないで!!!! ちょっと矢口く──…、」



「あっ!!!!」



チョロQを離したように全速力で私に特攻。

──私の下着深部へと…。

深く……深くっ……、潜り込んで……ぇ……。




「…んんっ!?!! だ、だめっ!! だめぁあああ〜〜〜〜──────────っ!!!!!♡」


 ぱうっ!!!



「やんっ♡♡♡!!!」


 POW!!と爆散して行った……………。

211『Houkago ♡ Destruction』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/02(土) 22:22:46 ID:I2WyWeRg0
…………っ。

…このアーケードゲームの夢……………。
まさかの……脱衣ゲーム…………………………っ!?


……


212『Houkago ♡ Destruction』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/02(土) 22:22:59 ID:I2WyWeRg0


「んんっ……! ぁ、ぁあ……────ハッ!!!! な、なんだこの夢!!??」



 ……変な夢で場を汚してゴメン。
今度こそ正真正銘現実世界に戻った、私………。
辺りは閑散としていて、閉店した店ばかりで、そして真っ暗で…。目を覚ました先、私は横町の真ん中で堂々と寝ていたことに気づかされた。
寝ぼけ眼を擦ると、眼前には唯一灯りが照りつける二十四時間営業の薬局が。

あと、あぐら座りをしてこちらを覗き込む一人の参加者の存在も…目の前にいた。


「よっ!! 日高っち久しぶりー!! なーんか誇張したってくらいうなされてたけどダイジョブー???」

「…………え?」

「あっ! ボクはバトロワにはまーったく乗ってないからそこんとこは安心してねー!! 殺し合いとは恐ろしや〜だなんて言っちゃったりして!! (あっ、今の韻踏みR-指定さん使っていいよー!! )…それはともかく、ほーーんとそれくらい全く乗り気じゃないからー! ──…唯一乗るとしたら、日高っちの恋愛話とインテグラくらい…かな? あはははーー〜〜」



アホ毛が二本立ったショートカットの女子生徒が。
私の目の前に…。



「…えっ誰? なんで私の名前知ってるの…??」

「えーー?? ひどいなぁ日高っち〜〜〜! ボクは──長名なじみ! 幼稚園のころ一緒だったじゃんかー!! 忘れちゃったかなぁ〜!!」

「……は??? 長名……──…、」



「──あっ!!」

…と。
十年近く前、砂浜で一緒に遊んでいたあの子の記憶を思い出す。

あぁー………。
なじみくん。あのなじみくん…かぁー……。懐かしー………。
確か幼稚園全員と幼馴染だとか色々自称してて、友達もかなり多かったヘンな子。
こんなとこで会うなんてどういう運命なの……、とレベル2くらいの懐かしさで身が染みてきちゃった。
うわぁほんと懐かし…。


「もうー! 日高っちは相変わらずなんだからなぁ〜!! まっ、仕方ないか! とりあえずここで会ったのも縁だし一緒に動こうZEーー!!! YO!!!」

「……うん。そうする」




…真夏の夜の夢、破れて幼馴染あり。
熱帯夜ということもあり『火照る』体から滲む汗を拭って、私は重い腰を上げていった。
これが私のGame Start──。

ってなにこのばかみたいな幕の上がり方〜〜〜………。













「……あれ?? なじみ…くん…なんでスカートなんか履いてるの?」

「なーに言ってんだい日高っち〜〜! ボクは男じゃないんだからそりゃこの格好だろー!! もう、困るなぁ〜〜」

「…えっ!!?? あれ?? ……そうだっけ…………」

213『Houkago ♡ Destruction』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/02(土) 22:23:12 ID:I2WyWeRg0
【1日目/F8/渋谷横丁/AM.00:00】
【日高小春@HISCORE GIRL】
【状態】健康
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:なじみ……ちゃん…? と行動。
2:矢口くん、大野さんと合流したい。

【長名なじみ@古見さんは、コミュ症です。】
【状態】健康
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:日高っちはDear my Friendだよ〜〜〜〜〜ん^^

※なじみは参加者のほとんどと『幼馴染』の設定になっています。

214次回 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/02(土) 22:26:28 ID:I2WyWeRg0
これにて参加者一巡です。くぅ疲!
改めて振り返るとヒナまつり、わたモテ、ハイスコアガール登場回は筆が乗る印象でした!
これからも『読んで楽しむ型』の平成漫画ロワをよろしくお願いします!!


次回→『魔神 が 生まれた日!』

215名無しさん:2024/11/02(土) 22:47:24 ID:FtL4jAzc0
おめでとうございます
これからも拝読させていただきます

216次回 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/02(土) 23:50:13 ID:I2WyWeRg0
>>215
ありがとうございます!
完結まで結構な長期企画となりますが、どうかエピローグまでお付き合いお願いします!!

217『魔神 が 生まれた日!』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/13(水) 20:42:12 ID:pRXYgB.w0
**『魔神 が 生まれた 日!』


[登場人物]  ???、[[うまるちゃん]]、[[新庄マミ]]

218『魔神 が 生まれた日!』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/13(水) 20:42:35 ID:pRXYgB.w0
ここは、




────どこだ………。






私は、




────一体………。









「…ぐうっ!!」


 頭が猛烈に痛む…。
二日酔い状態に酒瓶で殴られたかのような狂おしい激痛。

目が何も見えない…。
いや、これはどこか暗い場所に閉じ込められてるのか。
とにかく光源らしい光源が一ミリたりとも見当たらない。


そして、全身が動かない。

手も足も、うねることさえできない。









なにも、

思い出せない。










私は、





私は一体………。

219『魔神 が 生まれた日!』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/13(水) 20:42:48 ID:pRXYgB.w0
 ──なんでも願いかぁー……。



 ──とりあえずー…、あたしを一級悪魔にしてもらえませんか?







私は一体………………一体………………………。








 ────我が魂を呼び起こし者よ。

 ────魔人の掟にのっとり願いを一つ叶えてしんぜよう。



 ────さぁ、我が主《マスター》。望みを一つ言うがよい。









………私は。







………私は。









「……………私…は────ッ。」












──────【残り66人】


         【+1】

220『魔神 が 生まれた日!』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/13(水) 20:43:03 ID:pRXYgB.w0




 《ウソかホントか分からない》
   《やりすぎ都市伝説!!》

 ────『渋谷で遭遇したUMAの謎を追えッ!!』


♫テレレレン 
 ♪テレンテレンテ テー……

  ♫テーーテーテーテーーテー↑テー↓………


 ごほんっ…!
皆さんこんばんは、今回のストーリーテラーを務めさせていただきます──わたし、新庄マミです…!
X-FILEのテーマ曲と共にしばらくこのマミが語らせていただきます……。

あらゆる困難が科学で解決するこの平成の時代……。…とはいえ、科学というのもまだ発展途中の分野。
この世にはまだまだ説明のつかない怪奇現象──いわば神秘が、まるで海中のプランクトンのように…目にはつかずとも山程潜んでいるのです……っ!!
例えるなら、未確認飛行現象『UPA』…!
例えるなら、『陰謀』…! オバマ大統領の火星探索や、日本による宇宙自衛隊派遣…!
幽霊、心霊、超能力、エスパー、未来人の存在、悪鬼、村の風習、CIAによる戦争、AIの脅威………。
つまりは、『オカルト』…!!
我々人類は未知なる者をすべて『恐怖』と一括りにしてしまうもの…。
──って、わたしが今持ってる月刊マー五月号に書いていました。


さて、今回わたしはそのオカルトの中でも、『UMA』について……っ!

本邦初公開、ことの始終を読み聞かせしましょう…。
嘘まやかしは一切ありません…!
全てはこの恐怖を生き延びた哀れなわたしの証言に基づいたもの。


「…さあ、もうこれ以上隠しておくことはできません」


「果たして皆さんの心臓はこの悪夢の如し衝撃に耐えることができるでしょうか……?」



「早速、お聞きください──。」


「────わたしが渋谷で出会った一匹の『超越生物』の…。その全貌を………っ!!」







「────って………」





 ピコ、ピコピコ
  バキュン、バキュバキュ…グシャッ

「よっしゃぁー! エリア殲滅完了〜…。我ながらうまるの射撃テクニックはプロ並みに達してるなぁ―ー」




「はいッストップ────!!! もう雰囲気がぶち壊しだよ、うまるちゃんーー!!!! ゲームなんかしてないでUMAらしいことしてよーー!!!!!!」

「はいはーい。ちゃんと聞こえてるから話し続けていいよ〜〜」

「聞こえてる…って……。真面目に聞いてはくれてないんでしょっ?!!! もうーー!!!!」



「はいはい聞いてます聞いてます」と、うまるちゃんは左手を動かす…。
袋からポテイトを手に取り出すと、ぽーーん……って投げて。
まるで地球の周りを公転する月のように、宙を漂うポテチ。…そして、そのまま重力の元、寝っ転がるうまるちゃんの口へと入っていった。

221『魔神 が 生まれた日!』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/13(水) 20:43:24 ID:pRXYgB.w0
「あんむっ。バリバリ」


「あんむじゃなぁーーいっ!!!!」

「バリバリバリ〜…、…マミちゃんの言ってること真剣に聞いてたら頭おかしくなるなこりゃー」

「なにそれ?!! 酷すぎるよ?! もう〜〜っ、とにかく早くUMAっぽいことして魅せてよぉぉ〜〜〜〜〜!!!!」

「はいはい。もうしゃーないなぁ。やりますよ〜っと……」



 …ここらへんでひとまず回想するね。
殺し合いに参加させられたわたしは、渋谷のとあるコンビニにて超常生物“Unidentified Mysterious Animal”──U.M.Aに出くわしてしまったのだ………。
人類に化けて普段は生活を送るそのUMA。通称『うまるちゃん』……!!
その存在は、長年超常現象やUFOを追いかけ、オカルト雑誌『週刊マー』を愛読していたわたしにとっては…もうねっ。もう〜、ねっ!!!
たまらない存在だったんだよ…!!!

心臓なんてもう興奮いっぱいでびよんびよんっ!!
インフルエンザ感染に似た熱気で全身が叫ぶように燃えていく中…、
その内たる感動を秘めつつ、冷静に。これからこのUMAるちゃんをどう解析し、そして如何にその神秘たる生態を解き明かそうかニタニタしてたんだけども…………。


「はい、うまるのUMA特技〜〜。今から誰もが羨むJKに変身しま〜〜〜す」


 うまるーーんっ────ポンッ



「はい、元の姿に戻りま〜〜す」


 うまるーーんっ────ポンッ




「…はい、おっしまいっ! 以上っ!!」

「それ以外はっ?! それ以外をしてよ!!! もうっ!!!」


──この通り、うまるちゃんは「二頭身→普通の姿」の変身以外…なんもしてくれないのだった…………。


「ねぇお願ぁ〜〜〜い!!! うまるちゃん!!! もっと未確認生物らしいことしてよっ!!!!」

「あんむっ。バリバリゴクゴク……。そんな無茶言わさんなってマミちゃ〜ん」

「た、例えばさぁ〜!! 空を飛ぶとか、目からビーム出すとか、ソニックブームで走り出すとかさぁ〜〜〜〜!!! それくらいならお願いしてもいいでしょぉ!!!」

「…うまるはポケモンかっ。あ、アイテムGet〜!! これで次のボス戦楽になるぞ〜〜〜」

「もう、もうもうもうっ!!! とにかくゲームやめて!!! やる気出してぇえ〜〜〜〜!!!!」


……。
…ぐすんっ。
ぐすん…だよ……。


「ぐすん、って…。選択肢『いいえ』連打したあとのドラえもん(FCギガゾンビの逆襲)じゃん〜」

「う、うるさいなぁ!! もう!!!!」


…ほんとに、ほんとにぃ……。
うまるちゃんを学校で見せびらかして、みんなに自慢できる…ってすごい嬉しかったのにぃ………。
『ET』みたいに未知との交信ができて、ゆくゆくは月刊マーとかオカルト番組に引っ張りだことだと思ったのにぃぃ………。
UMAの実情は、バリバリおかしを食べてゲームばっかして、くつろいでてさ…。

ゴロゴロしてて、グータラで、見た目はただのタヌキ。喋れるただのタヌキ。
これじゃあなんもスゴくないし注目も集めれないよ〜〜……。

222『魔神 が 生まれた日!』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/13(水) 20:43:35 ID:pRXYgB.w0
「そう、『ドラえもんじゃんっ!! 』──はわたしのセリフだよ〜っ!! お喋りぐーたらタヌキのUMAるちゃん!!! きみはドラえもんかってゆーの!!!!」

「はいは〜〜〜い。まっ、あまり興奮しないでマミちゃーん」


…うぐっぅ〜……!!!


「…もういいっ!!! うまるちゃんなんか知らないっ!!!」



ゲーム画面に映る、グチャグチャと射殺され続けるエイリアンたちが泣いてるよ…っ。
UMAの風上にも置けないやる気なしのうまるちゃん。…最低にもほどがあるわ〜っ!!!


腹いせというようにわたしはドアをバーーンッ!!! って叩き開けて…、
月刊マーの次刊を取りに行くため、この狭い『個室空間』から出ていくのでありました…………。
全く、もう…っだよ………。


「あっ、マミちゃんトイレ行くの?」

「いや催してなんかないよっ!!! 雑誌持ってくんだよ! 雑誌!!」

「ふ〜〜〜ん。じゃあついでだし、うまる喉渇いたからコーラ持ってきてぇ〜〜〜! 頼んだよドラえもぉ〜〜〜ん」

「いや、やだしっ!!! 知らないよっ!!!」

「よろしくー。…ふんふふふーん♪」




…はぁ〜あ。
わたしのとこに、来てほしいくらいだよ。
……ドラえもんみたいなそういう未来からの使者とか、タイムパトロールとか〜……。



ちゃんとした…UMAとか、さぁ………。

223『魔神 が 生まれた日!』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/13(水) 20:43:49 ID:pRXYgB.w0



 〔『△Head's.6 Cafe 渋谷店』──当カフェをご利用いただき誠にありがとう御座います。〕
 

 [五感に響く大人のためのプライベート空間……。洗練された居心地の良い空間を追求したネットカフェへようこそ。]

 [全室防音個室なのでワーキングスペースにも最適です。ジュース飲み放題、漫画読み放題。二階にはシャワールームも完備しております。]

 [初めてご利用の方は、受付についてカードの作成の方をお願いします。]


 [1hour 600円。18歳以上からご利用お願いします。]


……



 個室、個室、個室、個室、個室、個室、個室……とループしてるかのような廊下をズカズカ歩き続け一分。
「とりあえず渋谷といえばあそこでしょ!!」とのうまるちゃんの提案で、今わたしたちは最寄りのネットカフェにいる。
普段はカタカタとパソコンのタイプ音が響いてるだろうこの場所も、今はシーーンと人影一つなく…。
ただヒンヤリ、冷房が効き続けるこの無人の空間は、小さな明かりが点々とするだけだった。


「って、そんなのはどうでもいいっ!!! ほんとに、うまるちゃんのやる気のなさムカムカするよっ!!!!」


いや、ほんとにっ!! うまるちゃんにはイライラさせられるっ!!
例えるならサーカスの猛獣…!
例えるならポケモン…!!
どれもそれも、主従関係を厳しく守って、主人に忠実な姿勢をとるものだ!!
それはわたしとうまるちゃんの関係だって例外じゃない!
初めてUMAるちゃんと出会って以来、さすがの私もアメとムチ…というか?
とにかく未知なる生命体と友好関係を結ぼうと色々おだててあげたんだよっ!
やれ「喉乾いたからジュースおごって〜」とかさっ! やれ「このお菓子全部会計して〜」とかさ!!
うまるちゃんの命令は全部従ったつもりなんだよ!! 財布の減りゆくカラッカラぷりに涙を飲みながらさぁ〜!!!
上手く我々人類側を信用させて、その対価としてUMAとしてのすさまじいパワーを引き出してもらおう、って、そんな考えでたくさん尽くしてきた!!
尽くしてきたっていうのにぃ〜!!!!


「全っ然…言うこと聞いてくれないんだからっ!! うまるちゃんはっ!!」


パワーを引き出すどころか現状UMAになめられまくってるこのわたし……。人類としてなんたる屈辱だよっ!!!
さっき『アメとムチ』って話したけど、なんだかそのヒモを犬用リード代わりに使われて、わたしは飼われてるイメージだ…。
…うまるちゃんが飼い主でっ!! ベロベロアメを舐め倒しながらの散歩って感じ!!!
ほんとになめられまくりの舐め放題されてるよ!
本来なら、わたしが飼いならす役目だっていうのにぃ〜!!!


ドカドカドカドカッ……。
大股で歩いて、うまるちゃんへの怒りを地面に踏みつけていくっ。


「ほんとにうまるちゃんは〜〜〜…!!」

「うまるちゃんって奴はぁ〜……!!!!!」



 ──UFOに乗ったことある、って? ぷぷっ…! そんなのいるわけないじゃ〜〜ん! マミちゃぁ〜ん



「…もうっ!!!!!!!」


 ドカッッッ




 というわけでっ。
今、わたしがたどり着いた場所はドリンクバーコーナーだ。
ほんのりコーヒーとインスタントスープの匂いが漂うこの空間。
ふと下を見れば雑誌が壁に沿って並べられている…。
そこから一冊。月刊マーの七月号をペラペラペラりながら、わたしは空のグラスに飲み物を入れていくのだったっ〜。

224『魔神 が 生まれた日!』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/13(水) 20:44:03 ID:pRXYgB.w0
 ペラッ────154頁目。
 『大ピラミッドはノアの方舟だった!!! 衝撃の五ページ特集!!』


Why→わたしがなぜドリンクバーに足を運んだのか。
…それは何も喉を潤すためここにいる訳ではないっ。


 ペラッ────160頁目。
 『2025年原点。マヤ文明の予言により世界の【宗教】が終わる。Mr.都市伝説が語るファティマの予言とは…。』


──そしてっ!!!
うまるちゃんに頼まれたコーラをパシられ注ぎ入れてるわけでもないっ!!!



「すべてはぁ〜〜……、」


 ペラッ────164頁目。
 『【特別マル秘情報】UMAの正しい飼い方 五選。これを読めば君もUMAマスターだ!!』
 『チュパカブラ「きえーーっ。」』


「そうっ、このページ!!!」


 この特集に書いてある正しい飼い方NO.2『言うことを聞かないチュパカブラには『精力剤』を飲ませろ』を実行すべくっ!! 今ここにわたしは来たのだ!!
んん〜〜!! このページを見た瞬間「これだっ!!」って目に流れ星が走ったね!!
ほんと有り難いよ月刊マーは〜っ!!!
わたしが今欲してる情報をタイムリーに載せてくれて!! ほんとありがとー!!!

でっ!!
さっそくその精力剤たる飲み物を汲みに来たわけだけども、さすがにドリンクバーにそんなものが無いことくらいは分かっている………。
ただっ! 作ろうと思えばもしかしたらいけるわけで!!
作り方はマーに載ってないし、だいたい精力剤ってなんなのかよくわかんないんだけども、熱意さえあればいけるでしょ!! って考えのもと。
すべては言うこと聞かないワガMama UMA──うまるちゃんをムチで調教すべく……っ!!!

さっそくわたしはオリジナル精力剤ドリンクの調理を開始するのであったのだ!!!




「クッキングマミ!! イッツ・ア・START〜〜〜〜!!!!」



 まずは原液作りだねっ!!
コーヒー、紅茶、コーラ、そしてオレンジジュースにその他もろもろ飲料水。
八つあるボタンのうち、…とりあえずすべてをグラスに入れて混ぜます!!!


 ジャババババババババババババババババババババババババババッ

「子どもの頃もよくこうやって飲み物ミックスさせてたなぁ〜〜。はは、なんかちょっと楽しくなってきたかも!!」


お次は、なんとなく目に入った隣のドリンクコーナーから液体を注入!
デカデカと黄色く『二十歳から』と書かれたそこには、焼酎、ビール、テキーラ、白ワインその他……と押せばお酒が出てくるみたいだった。

…あれっ? そういやうまるちゃんって何歳なのかなぁ〜??
見た目はわたしと同い年か、ちょっと上くらいだと思うけど、UMAと人類じゃ年齢っていうのはかなり違うと思うし…。
未成年にお酒はさすがにまずいかなぁ〜〜……??


「まっ、いいか。UMAに味覚なんかあるわけないし入れてもバレないよねっ!!!──」

「──ていうかもう入れちゃったし!!!」

 ジャババババババババババババババババババババババババババッ


全部まんべんなくブレンドして、指でかき混ぜたら…。
アルコール度数が限界突破した精力剤のできあがり〜っ☆
ふむふむっ…!
これはこれは中々のドス黒い色になってきたじゃあありませんか!!

225『魔神 が 生まれた日!』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/13(水) 20:44:23 ID:pRXYgB.w0
「あっ、なんか粉チーズと胡椒とタバスコとパクチーとシナモンもあったからそれも入れてっと!!」

 ドバッッッ


え〜〜〜と………。
これでもう完成でいいんだろうけど、なんとなくもう一品が欲しいな……。
よくわかんないんだけど、これじゃまだ未完成…って感じ??

…じゃっ、とりあえず〜〜〜。


 ブチッ

「いてて…。自分の髪の毛入れてみよっと」


なんか精力剤といえばやばいのが入ってるイメージあるしねっ。
おさげから一、二本拝借してハサミで刻んだあと細かく入れてみました!!

え〜〜〜と。
あとは〜………。


 ブチッ     ──殺鼠。

「近くを走ってたネズミの尻尾も少々〜っと」


 チャポンッ   ──床虱。

「あと個室の中で見つけた茶色くてキモい虫も少々〜〜っと」


なんか魔女ってよくクスリ作ってるよね??
あれの材料になんかヤモリとか虫使ってるけど、そのイメージで入れてみました〜!!!
…変な虫に関して。殺すのイヤだから生きたまま入れてみたけど……、まあ部屋に運ぶ頃には死んでるか!!!


「あっ、うまるちゃんはコーラ好きだからそれも少々入れて…」

 ジャバッッ




「…完〜成!!! マミのおしおきっ調教用ウェルカムドリンクがついに登場〜〜!!!!」


シュワシュワと登る真っ黒な泡!!
ガソリンスタンドみたいな凄い刺激臭のするそのエナジー!!
そして、どういった化学反応からか、なんか中国の工業地帯の川みたいなスゴぉい色をするそのパワー!!!



「…試しにちょっと一口あじみ!!」


 ペロッ


「…………。 ❩(T〜T;)❨ 」


…な、なるほど……。
これは凄まじい………。
多分青酸カリってこんな味…………。


でもっ!! でもこれならっ!!!
これを飲ませればUMAるちゃんもついに覚醒間違いなしだねっ!!!
故郷の味を思い出しついに正体を現したうまるちゃんは、もう未知とかそういうレベルじゃない大生物になるかも!!!
超越生物DOMA UMAruに、それを従えるわたし………。
これからの未来を想像するとニヤニヤが止まらないっ!!!


「まずはクラスで自慢して〜、それで全校に広まって、文化祭で発表することになってぇ〜…」

「で、ある日突然、陰謀の国アメリカからCIAが教室に来て、わたしとうまるちゃんは連行されてぇ〜…」

「何をされるのかな…不安だな、怖いな…。と思う中連れられた先はなんと月面…!! そこには滅びたはずのナチスがいて、わたしたちは戦争することになってぇ〜……」


ふふふっ、フフフフ………!!!

226『魔神 が 生まれた日!』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/13(水) 20:44:38 ID:pRXYgB.w0

「あはははははははっ!!!! アハハハハハハハハハ!!!!! これで世間から大注目されること待ったなしだよ!!!」


あははははははははははははははははっ──……、




「…そこにいる…貴方。…どうか………、助けてはくれない………でしょうか……………」





ははははははははははははははははは………。


──は、ぁ…………………??

エッ!

コワッ!!!?


今、どこからか声が聞こえた…よね……っ??
この空間にはわたししかいないはず…なのに、どこからか声……。
男の人の声が、しかも「助けて」って………。

これって、まさしく…。
島田秀平ホラー────幽れ…、




「あなた…です。…そこの………おさげの………………。私の声が…聞こえますよね…………」




…って思ってたら、幽霊の正体見たり枯れ尾花…………。
声の主はドリンクバーの台に置かれている──金のランプ。
あの本格的なカレーとか入れる、あのランプから声がしたのでした……。
具体的には、ランプの口のとこから。
響くように……、奥底から苦しそうにその声が…………。





「はい……。私はそこ…に……います。だから、どうか………。ここから…出してくれませんか…………………」





「あっ。喋るランプってのも十分怪奇か」

「…怪奇とか……そういうのは…今はどうでもいいでしょう……。お願い…します……。私を助けて…く……ださい……」


…なんだか唐突にランプ??に助けを求められてしまったわたし……。
すごい変な絵面だとは思うんだけど事実なんだから仕方がない。

……さて、どうしよっかな〜…。
困ってるようだし助けてあげたい気もするんだけども。
…いや待てよ、と。心の中で「知らない人についていってはいけません」と注意喚起するわたしもいる…………。

う〜〜〜〜〜〜〜ん。どうしよう??


「どうしよう〜…じゃないですよ……。早く…助け……てくださ……い」

「えっ?! 心の声読んでいたっ?!!」

「あなた……自覚ないんですか。さっきから独り言というか…心の声…一字一句喋ってますよ……………」


えっ、嘘!?
ほんと?!!!
はずかしっ!!

227『魔神 が 生まれた日!』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/13(水) 20:44:52 ID:pRXYgB.w0
「ぐっ…………!! 蓋を開けるだけで…いいんです。あなたに危害は……加えませ……ん。ですから、早く………」


あっ、ど、ど、どうしよう…〜!!
なんだかランプすごい震えて、ガタガタガカダガタって…とても苦しそうだっ。

わ、わたしはどうすれば……。
一体なにをしたら…………。


「…早…………く」





………。


…うんっ。
利になるか害となるかはよくわからない。

……でも、とりあえずわたしはランプを救ってみることにした。
その苦しみから解放すべく。


行動へ…………。





 ジョボボボボボボボボ〜〜〜〜〜〜



「…………は………………っ……?」







「…勿体ないけど仕方ないや。今、精力剤飲ませたから元気になれるよ!! がんばって!!」




 ドッヒャぁ──────────んんんんんんんっ!!!!!


  ガシャンッガシャンッ、ドチャンッガッチャンッ

   ガシャンッガシャンッ、ドチャンッガッチャンッ


   バンバンババババンバンバンバンバヲバンッ バンバンババババンバンバンバンバヲバンッ

    バンバンババババンバンバンバンバヲバンッ バンバンババババンバンバンバンバヲバンッ



    プシュ──────────ん……




 ……ランプは勢いよく暴れ出してあちらこちら四方八方、棚の上から床の隅まで、とめちゃくちゃに飛んでいった!!
まるでそれは操縦不能になったUFOみたいに!!
あるいは弾丸みたいにっ!!!
湯気を猛烈に吹き出しながら暴走列車はネカフェの本棚を荒らしつくしていったのだ!!!


「…あっ!」


…そして気がつく頃には、ランプは粉々に壊れて。
中から精力剤がバチバチと漏れ出てくる。

228『魔神 が 生まれた日!』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/13(水) 20:45:06 ID:pRXYgB.w0
 バシャリッ

ゆらゆらと蜃気楼みたいに揺れ動く白い湯気。
そして、足音。
その音を聞いてふと顔を見上げれば、黒い一つの人影が浮かび上がっていることに気づかされた…っ。


「…ごほっ!!! がはっ、ごほっ!!!!」


湯気が蒸発していくこの一秒ごと。
ランプに閉じ込められた数奇な運命の男、その素顔が……。
徐々に徐々に、一秒一秒にはっきりとしていって。




────その黒いスーツを着こなしたミミの尖った男の人が『魔人』だなんて。


────このときは当たり前だけど、知るよしなんかなかった。








   happy birthday satan!

   【魔神 が 生まれた日!】











「……ハァ、ハァハァ………。なにを…」

「え??」


あっ、あと。
湯気が完全に消えたそのとき。
その魔人は無表情ながらも物凄い睨んでることに、わたしは気付かされた…。




「なにを飲ませたんですか…………ッ」


………
……


229『魔神 が 生まれた日!』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/13(水) 20:45:22 ID:pRXYgB.w0



 [ひとみーん@hi103 ところでみんな何願ったしー? ∧∧]

 [ザキヤマヤマ@yamafxck えっ。なに唐突w]

 [U.M.R!!@umaaaaaaa 次のクエストの話??]

 [かわい様は告らせたい@bunt おまえらほんと節句に無関心やなぁ]


 [海老谷@ABroll25 せっく??]

 [ザキヤマヤマ@yamafxck 下の話か???笑]

 [ひとみーん@hi103 いや違うわ!!(汗)^^; ほら、今日は七月七日でしょーが(^_^;)]

 [かわい様は告らせたい@bunt 『七夕』だから何願った聞いとんのやろ!笑]



「あっ、今日七夕かぁ〜〜…。うまるのお願い事は〜〜…。とりあえず『人をだめにするソファが欲しい!!!』…とかかなぁ」


 チラリっとパソコンの日付欄を見て、ようやく今日が七夕であることを理解。
そっかそっか〜。今日はみんな願い事とにかく書きまくる日だよねぇ。
うまる的七夕の思い出といったらかれこれ一年か二年前。
お兄ちゃんに節句だからと願い事を書かされ、バカ正直に「ネコロンブス(ぬいぐるみ)もう一体欲しい」とか「いつまでもぐ〜たらナマポりたい」とか書いたら凄い怒られたという口うるさい思い出がある……。
まぁ、だからって別に七夕に苦い思いや飲食はないんだけどもね〜〜〜。



「………って……。こんな日にうまる殺し合い参加させられてるわけ…………………?」


 カタカタカタ、タンッ


 [U.M.R!!@umaaaaaaa わたしの願い事はとりあえず次のギルドクリアーすることかなぁーー]

 [U.M.R!!@umaaaaaaa とゆわけで皆早くギルドやりましょや!! さっきからひとみーんチャットばっかやりすぎ!!!]


 ピコンッ

 [ひとみーん@hi103 そこまで言うならギルマス一人でやれば??(*´∀`)]



「……。…………はぁ〜〜〜あ──」


「──……ほんと、何でうまるがこんな目に………」



 オンラインゲームをピコピコしながら、私──うまるはお手本のようなため息を漏らす。
ふとここで思い出されるのはあのバカ主催おじさん・トネガワのワンシーン。あの、一言。

「優勝した人には願い事をなんでも叶えますよ〜」

…って〜、セリフだ。
そのセリフは今日が七夕であることを狙っての発言か、偶然シンクロしただけなのか。
とにかく、うまる達参加者何十人はその願いを掛けてバトル・ロワイアルを無理矢理やらされる形となっている。
……うまる的には人殺してまで願いなんか叶えたくないし、バトロワ反対のノーベル平和賞候補人間だからやる気なんてさんさらないんだけどね〜。


 カタカタカタカタカタカタカタ、タンッ


 [U.M.R!!@umaaaaaaa あぁもういじわる言わないでよ!!! てか割と正論でしょ!! わたしの発言!!!]




「殺し合い……。う〜〜ん、願い事…………──」



「──てゆ〜か。うまるもマミちゃんも殺し合いの参加者らしいこと一切やってないなぁ。今のトコ………」

230『魔神 が 生まれた日!』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/13(水) 20:45:35 ID:pRXYgB.w0
はぁ〜〜〜〜ぁ〜〜あ。
…そうそう、マミちゃんおっそいなぁ。
なんか半泣きしながら出ていって、あれから三十分くらい経ってるけども。未だに帰ってこないし。
もうっ〜〜、うまるのコーラはまだ持ってこないのぉ?? …いや、そりゃコーラの期待はしてなかったけど、それにしても遅すぎだよぉ。
…一体何をやってんだか。変人のすることは全く想像できないや。




はぁ〜あ〜〜〜〜〜…。
退屈ぅ〜〜。



「うまるちゃんっ!!! 願い事を叶えてせんじよう!!!!!」

 扉バーンッ!!!


「うわっ!!!」


…だなんて思ってたら帰ってきたし。
なんたるシンクロ…………、



「まずはわたしの願いから!!! 魔人よ魔人、『うまるちゃんからゲームを取り上げてください!!!』…はいっ、お願い!!!」

「…マスター。そんな下らない願いでよろしいのですか…?」

「いいからいいから!! あと何回かは余裕で叶えられるんでしょ!!!」

「……まぁ、本人がそう望むのであれば……。なら、行きますよ」


………はひ??
え、マミちゃん誰かとなんか話してるし。
知らない間に男連れ込んできたのっ???

気になってうまるはちらりと後ろを振り返……──…、



「…『ゲームよ、────壊れろ。』」


「…えっ??」


 バンッ
 [ERROR デバイスに問題が発生した為、強制シャットダウンします。]




「…はぁっ!!!???」


えっ!!? なにナニ?!
どゆこと!!????
パソコンからイヤァ〜な音が聞こえたかと思ったらあっという間のブルースクリーンに…シャットダウン!!??
なにっ???!!!!
クエスト途中だったのに、なんでいきなり壊れたわけ!!!!!!??????


「…おおっ!! さすが魔人!!!」

「お褒めに預かり恐縮ですが、…こんな願い事で褒められても嬉しさはあまりないというのが本音です。マスター」

「じゃっ、次はうまるちゃんの願いも叶えてあげよっか!!!」

「…うまるちゃん……とは。あの妙な一頭身の生き物で?」

「そう!!! わたしの友達の、あのチンチクリンだよ!!!」


…は??? は、は、はぁ????
パソコンが壊れたと思ったら悪口大会!!???
その変な格好の男と一緒に……。なにゆってんのマミちゃ──…、

231『魔神 が 生まれた日!』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/13(水) 20:45:51 ID:pRXYgB.w0
「…じゃ、そんな感じでお願いっ!!!」

「…また下らない願い事を……。まぁいいでしょう──」



「『うまるの手にコーラよ、────現れよ。』」



 ポンッ………






「…え????」


…気がついたら。
うまるの手にはドカ飲みサイズのコーラがひんやりと握られていた。
いや、気がついたら…というか。
何もない場所から唐突にっ………。そのコーラが現れたのだ………っ!!!


「へへへ〜!!! すごいでしょ、うまるちゃん!!!」


氷点下ギリギリの温度でうまるの手を侵食していくコーラ…。
ふと我に返り、前を見上げてみればしたり顔が愛憎たらしいマミちゃんと、
パンパンッと白手袋を叩く謎の男の二人。



この唐突で理解に難しい現状をどうにかして理解しようと…。
見た目はまんまる、中身は干物。その名も名探偵ウマルの頭脳は高速に回転するのであった……。


(え〜っと…。とりあえずこれまでを振り返ろう…!!)


・マミちゃんの発した『願いをかなえて』との言葉
・それに応じて隣の謎男は、呆れ顔ながら指をふるわし、『願い』を忠実に『叶える』
・二つの『願い』通り、壊れたゲームPCに、無から現れたコーラ
・マミちゃんはそれを見て、男をこう呼んだ。『魔人』
・まるでなんたるA Whole New World………




(そ、それって…)



(いや、まさかだけど…。それはつまり……………)



「この人は『魔人デデル』!!! ランプの中から飛び出てきて、なんかわたしのマスターになったんだっ!!! よくわかんないけど、わたしの体力と寿命と引き換えに願いを叶えてくれるんだって!!! すごいでしょ!!!」


…結論を出そうとした直前、マミちゃんは長々と説明をしてくれた。


「──って!!! マミちゃんなんかやべぇ発言したの分かる??!! 寿命と引き換えに〜…って!!!! 何言ってるか理解できてんの??!!」

「………?? えっ、さぁ??」

「さぁ…って…………」


「あの。うまる…さんで宜しかったですよね」

「うおわ!!! 自称魔人話しかけてきたし!!!」


…そのデデルという人は、耳元でひそひそとうまるに喋りかけてきた。

232『魔神 が 生まれた日!』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/13(水) 20:46:04 ID:pRXYgB.w0
「(…もちろん願いは叶えられるのですが、一般庶民であるマスターの体力如きでは微々たる力しか吸収できず…)」

「(え? なに??)」

「(したがって、彼女の友達…いや、知り合いである新田ヒナという方から無断で魔力を貰うことにしています。ヒナという者を紹介してもらったのですが、どうやら常人離れした力があるようなので、担保にしてもらっている形なのです)」

「(…うわっ!? そりゃひどっ!!? かわいそっ、そのヒナって人!!!!)」


…いやていうか、さり気なく『友達→知り合い』に訂正してたし、魔人。
ヒナって人とマミちゃんが友達でないかのような言いよう………。それもひどっ!!!


「だからうまるちゃん!!!!!」

「な、なに…………?」


「有限ではあるけども、通常一つしか叶えられない願いもこれでいくつかは叶えられるらしいんだ!!! すごいでしょっ!!! あははははは!!!!!」




「………………………」



……はい、はい。


魔人が相棒にいて、そいつがなんでも願いを叶えてくれて、嗚呼非現実非科学の極みに今置かれている…と。
成る程ねぇ〜………。
そんな馬鹿みたいな狂言、普段なら信じるわけがないし、クラスメイトに話したら口を揃えて「…そんなアニメ流行ってんだぁ」と相手にされないだろ〜な。…普段なら。

ただ、これが現実……。
手に持つこのコーラこそが現実の証明……。
なにせ、開幕セレモニーで生き返った海老名ちゃんを見させられたうまるだ。
こういう非現実なのも目に映ったまま、受け入れなきゃいけない立ち位置ではあるんだろう〜。

うん、成る程…ね。


「じゃあマミちゃん尚更おかしいって!!! なに貴重な願いを下らないことで二つ消費してるの!!!?? き、気づこうよっ!!!!」

「…あっ、『月刊マー最新号ください』もお願いしたから三つだよ!」

「いやいや!!!! 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!! そういうんじゃなくて!!!!」



「──うまる達が今一番叶えたい願いは他にあるでしょっ。言ってしまえば『殺し合いからの解放』、『渋谷からの脱出』だよっ!!!!」

「──あっ、そうか!!! そだね、わたしたちバトロワ中だもんねっ!!!」



「…マスターにうまるさん。二人して何をヒソヒソと?」


「あっ、魔人さん!!! わたしから一番お願いしたいことがあってぇ〜」

「はあ」


…あっ、マミちゃん開口一番にしゃしゃり出した!!!
何とんちんかんなこと言い出すか分からないからうまるが代わりに言わないとっ!!!


「ちょ、ちょっと!!! 見てよ、この首輪!!!」

「……首輪…。そういえばお揃いの首輪で。それが何か?」

「今うまるたち殺し合いさせられてんの!!! …詳しいことは後で話すけど〜…。とにかくっ、この首輪には爆弾があって外せないからさぁ!!!」

「…はい」

「これを外してっ!!! それが願い!!! とりあえずお願いねっ!!!!」


…ふうっ。
我ながらベストアンサー!!
変に『ここから脱出させて』ってお願いしても、エリア外に出た途端首輪が邪魔してBOMB!!! がオチだからね。
まずは首輪の処理からだよ。首輪から!!

233『魔神 が 生まれた日!』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/13(水) 20:46:17 ID:pRXYgB.w0
「…分かりました。では叶えましょう」




「おおっ!!!」「よっ、待ってました!!! わーいわーい!!!」



頬を掻きながら、…多分思うところがありつつもであろう、魔人デデルは人差し指を突き出し始めた。
その指先からじわじわと溜まっていく光の結晶。
…それがなんなのか分かんないけども、多分首輪を外す魔法かなんかに決まってるはず!!!


僅かの間空いて。
デデルは一呼吸置くと指をうまるたちの首輪に向け出し。



「『首輪よ────外れよっ。』」



って、『願い事』を唱え始めていった!!




「うまるちゃん………!!!」

「…うんっ……!!」


歓喜を前に、思わず見合わせてしまううまるら二人………。
その表情、互いにして花盛りのスマイルであることは言うまでもないだろう!!!


希望を乗せてふわふわ。
ゆっくりと飛んでいく魔法の結晶。
その光の眩しさといったらこれほどまでもない……。

そう思った束の間、気がついたら魔法は静かに首輪へと入り込んでいった。




まるで、粉雪が溶け込むかのように…………。












 ピッ─────────────────────────


『首輪の取り外しが見られました。ルール違反の代表として、三十秒後、爆破します』






 ピッ、ピッ、ピッ、ピッ

  ピッ、ピッ、ピッ、ピッ

234『魔神 が 生まれた日!』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/13(水) 20:46:31 ID:pRXYgB.w0
【1日目/G2/ネットカフェ店内/AM.02:46】
【うまるちゃん@干物妹!うまるちゃん】
【状態】健康
【装備】うまるがやってるFPSのマシンガン
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:ッ!!??

【新庄マミ@ヒナまつり】
【状態】健康
【装備】ランプ@メムメムちゃん
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:ッ!!??

【魔人デデル@悪魔のメムメムちゃん】
【状態】記憶喪失
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:マスター(マミ)に従う。
2:この珍妙な一頭身は一体…?

235 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/13(水) 20:54:20 ID:pRXYgB.w0
【第1回】シンアニロワコソコソ噂話!!

1周突破記念ということで今回から投下毎に、死産と化した『シンアニロワ』の設定供養を行います
※一応これです
ttps://w.atwiki.jp/shinanirowa/

『シンアニロワの生還者?!』
シンアニロワでは、後藤ひとり・星野ルビー・カービィ・諸星あたる・デラックスファイター・ミカサアッカーマン・刀語の阪口大助の忍者(名前忘れた)が生還の予定でした
てんやわんやでラスボスは窪とシンジで、このメンバーが生き残りました〜的な感じです
……ミカサたちが戦うバックで、ぼっちたちがサンボマスターのライブまんまパクった演奏で応援するってプロットにしたかったのですが…残念ながら力果て…

今日はここまでです!


次回→『大好きがムシはタダノくんの』(本命)、『鳥貴族』(対抗)、『いいの、いいの』(大穴)

236『シャワー's -義史ちゃんのぷにぷにおま』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/19(火) 20:14:50 ID:uCETlS9o0
[登場人物]  [[うっちー]]、[[早坂愛]]、[[新田義史]]

237『シャワー's -義史ちゃんのぷにぷにおま』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/19(火) 20:15:04 ID:uCETlS9o0
 あれからかれこれ数十分は経ったかもしれない。

私は別に汚れてたりしたわけでもないけど、とりあえず『シャワールーム』のある雑居ビル三階へと足を運んだ。
脱ぐ順番はいつも靴下から。
そこから上着を脱いで、穿いてる物をロッカーに畳み入れる。セオリーがあるわけでないけど、思い返せば公衆浴場のときはいつもこの順で脱衣をしていた。
人の気配は無の、明るいロッカールーム。
下着をフトモモから爪先にかけて下ろすとき、思えば常に謎な法律違反感と軽い恥辱感が体の底で軽く震える。



回想してみれば…、


アイツ………。────黒木と初めて絡んだときもシャワーに入ろうとしたその時だった。
修学旅行最終日、たまたま私と同室になった、あの黒木………。




 シャ────ッ


水栓を捻れば無数の熱帯雨が。かきあげたオールバック髪をしんめり包んでくれる。
シャワーの雨を弾き返し、そして同時に温かく潤っていく私の肌、手、腰、そして全身。



…私と黒木の『初めて』があの日のシャワー中。



だから、私の殺し合い初行動も。

シャワーの音をスタート合図とさせてもらう。





「…はぁ…………………。、黒木…………………………」






( ' - ' )集合体に並ぶ個室シャワールームから、とりあえず四番目のとこを選んだ私。( ' - ' )


( ' - ' )──…さてさて。とりあえずボディソープで身体を洗い終わるとこまで一旦話を割愛します。( ' - ' )

( ' - ' ) By──えみり。( ' - ' )

238『シャワー's -義史ちゃんのぷにぷにおま』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/19(火) 20:15:21 ID:uCETlS9o0
………
……



…おでこに汗がジンワリ…湧いてきた……。
私のスッピン卵肌の毛穴が膨大してくる………。
語弊がないよう言っとくけど、これは別にシャワーで体がポッカポカだから…というわけじゃないっ…………。


「ウソ…。えっ、待って…!! ウソ…ウソ、なんでドア…開けなくなったのっ??!!」


すんごくヤバいことになったから、焦りに汗っているわけなのだ…………。
いやいやほんとにやばいんだけどっ!!!
やばっ!!!!
やばい、やばやばやばやばヤバい!!! ヤバすぎて気持ち悪いっ!!!
個室のドア──そいつは引き戸式だったんだけども、…引こうが押そうがビクともしないし!!! ドアは完全にただの壁状態!!!!
…いや、ていうかドアノブからして急に回らなくなったしっ!!!
ナニコレっ!???
なんの前触れもなく、急にすごい固く回らず…で。ヤバキモッ!!!!


「な、なんでなんでなんでなんでっ!!? 全然動かない!!! なんで?! なんでっ??!!!」


…やばいっ、やばい……っ!!
焦りが原因の手汗でヌルヌル滑って、余計ドアノブが回せなくなるし……!
いやそもそもココどうあがいても湿気が溜まる場所だから、手汗拭っても滑るしぃ………!!



ツルッ────
……回せないっ!!!


バンッ────
……タックルしてみても開かないっ!!!!


ジワッ……………
────どんどん滲む汗が鬱陶しいっ!!!!



「はぁ………。はぁはぁ………………。ハァ………………ハァ」




「────…どうしよ…! どうすればいいの……………!!」





バンッッ────

……備え付けのコンディショナーを投げつけてみたけど。
ドアは一切ダメージを受けていない……様子だった…………………。


……なんとなくシャワーしたかったから。
そんな軽い思いで入ってみた結果、今私の前には遥か高い壁がそびえ立っている。
…別にこの個室は完全なる密閉空間というわけじゃない。
チラッと上を見れば、天井とドアの間──50cmくらいの隙間があり、そこから脱出はできるわけだけども………。
さっきも言ったが目の前にそびえ立っているのは『遥か高い壁』だ。
よじ登るのも不可能なくらい、無駄にドアが高く設計されてるから、実質出口0の八方塞がりが現状…………。

ほんとに、待ってよ……。
ほんとに、ほんとに…………どういうこと……………??
なんで急にドアが壊れちゃったわけなの…………………?? どういうタイミングでドアの老朽化発動しちゃってるわけなの…………………??
なんで、開かないの………………。

239『シャワー's -義史ちゃんのぷにぷにおま』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/19(火) 20:15:37 ID:uCETlS9o0
「────ヒッ!! ……あっもしかして──」

「──もしかして…。…もしかしてだけど、これは……………。────悪霊の…しわざっ……………」


…ゾゾゾっ!!!
…やばいっ……。キモイっ………。
今すぐシャワーに浴びたくなるくらいの寒気が、急に走ってきた。


………そう。
これは…悪霊の仕業と捉えるのもあながち変な考えじゃないかもしれない…………………。
もしかしたら……この現象…………。
私に常日頃から取り憑く…………、雁字搦めにしてくる悪霊の行い……。
その証拠に、なんだかドアの向こうでとてつもない気配…、霊気が感じる気がしてならない。──キモい霊気がっ…………!!


「…悪霊と化した黒木が………!! 私を閉じ込めてペット(違う意味で)にしようとっ…………!!! キモ怨念パワーを使ってる可能性が…………………──」


「──っっっ!!! …モッ、モッ……。キモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモッ…………………」




「────キモ怖いっ!!!!! キモホラーっ、キモ供養っ、キモ南無妙法蓮華経っ!!!!」



 シャアアァァ────ッ
…シャワーで洗汗と、凍った背筋の解凍に勤しみ私…。
身を震わせながらこの場をどうするか、ブルブル震えながら頭を煮え切るこの時………。




 ──ガラガラガラガラガラ………、って。
 



悪霊ではない正真正銘の人間の気配が、シャワールームの玄関を開ける音と共に感じた。
後に響くはペタ、ぺタ、ペタぺタ…。裸足でタイルを踏みつける音も。



「…………………!!!」



勿論、私は今がバトロワ中であることを忘れてるバカなんかじゃない。
大声を上げて「助けてー出してぇ」なんて求めることは命取りだなんて、分かっている。
息を潜めて隠れたほうが本来ならすべきことだ。

…でも、他の個室がガランガランな中、四番目の個室だけシャワーが流れてる時点で、中に誰かがいることはバレバレなわけで……。
そう考えると、一か八か殺されないことを願って………。助けを求めるべきだな、と私は思った。


バンバンバンバンッ

「ちょっと助けてっっ────!!!! このドアなんか開かなくなったんだけどっ────!!!! ねえどうにかしてくれる────!!!!!?」

「うわっ! …ビックリした……。…助け……、ですか…」

「そうなんだけどっ────!!!! 出られなくなったから────!!!! お願いっ!!!!」

「……今、殺し合い中なの分かってますよね?? それでいてヘルプ……ですか…。まぁ、永遠に苦しみから『救われる』って意味合いもありますがね」


……ぃっ!
そういう返答まったく求めてないんだけどっ…!!


「…もおっ! ねえ────!!!! アンタが殺し合い乗ってるかとかそんなのどうでもよくてさ────!!!!」

「…はあ」

「私裸なんだからっ!!!! 装備0のパフパフ状態なんだからァっ!!!! そんな人を殺してさ、アンタどう思うのっ!!!! 恥ずかしさとか感じるでしょ!!!!! もう────!!!!」


「………まあ、それもそうです………かね」



そうっだよっ!!(  ' - ' 💢)

240『シャワー's -義史ちゃんのぷにぷにおま』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/19(火) 20:15:49 ID:uCETlS9o0
「………はぁ、仕方ありませんね。…………今からカギ壊すので、ちょっと離れてくださいよ」

「えっホント!! …とっ、とにかくお願い!!!」


…ドア越しで、顔も知らない相手だというのに何故だか彼女の呆れ顔がはっきり浮かぶ。
まぁとりあえずは、必死に叫んで説得したお陰でこれにてどうにか協力を得ることができた。
ホッ…と一息。壁に…黒木。


ちょっと間を置いて、

ドアが派手にバァ─────ンッッッと天井向かって吹き飛んでいった。
ズボッと亀裂が走る真っ白な天井。…それにめり込んだドアが、半分残して床に儚く落ちていく。





「…あっ…………………」





私のヘルプコールに応えてくれた…心優しい………かどうかはまだ分からない、目の前の彼女。
────結論から言えば、彼女は【マーダー】。殺し合いに乗った参加者だった。



「……とりあえず、大丈夫…ですか?」



バトルロワイアル開始からまだ数時間も経ってないというのに……、
決意が早い。早すぎる。
サイドテールで纏めた金髪の彼女は、顔と手が真っ赤に塗れ、ヒョウ柄のごとく血飛沫で全身をコーティングしていた。

…シャワールームに入ってきた理由も頷ける。




…そしてなによりも………──…、




「…大丈夫。……一応…お礼は言っとく。ありがと」


──その重苦しそうなくらい大きな胸と、くびれて質感あるアダルトなボディライン。
肉感ある柔肌の太ももラインが重点的に返り血を浴びてるように見えて………………。
その体型に、黒木に似た『キモさ』を感じ、私は思わず生唾を飲み込む。



ごくりっ、て。( ;' 。 ' ’ )

241『シャワー's -義史ちゃんのぷにぷにおま』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/19(火) 20:16:03 ID:uCETlS9o0



……ただ、Blood Girl──早坂 愛にキモさの可能性が魅えたのも一瞬。時間にしてほんのわずかコンマ.015のこと。……

……比べるのもおこがましいけど、常にキモオーラを出す『キモイ』の化身・黒木には到底及ばなかった。……

……黒木、には。……

242『シャワー's -義史ちゃんのぷにぷにおま』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/19(火) 20:16:24 ID:uCETlS9o0




 水栓を捻れば噴射される──温かな雨が、同じくらいに生暖かい『返り血』を洗い流してくれる。
血液、とシャワーの水。同じ温度で、そして同じ液体。
それだというのに、清涼な水が体に浴びることのなんて気持ちの良いことか。

とにかく最初は返り血が特に付着した部位を中心にシャワーを浴びていく。
一先ずブロンド髪を湿らせて、真っ赤でベタベタな手から、腹部、邪魔なくらいに実った胸にかけて、シャキシャキと。
胸から最後の血の一滴がしたたり落ちた──その折で下半身も入念に洗い、太腿を一撫で──付着した血を払い除けとりあえず洗い流しはここまで。
誰だか知らない、顔もよく見えてない、そんな男子生徒の血が排水口へと流れ消えていく…。


…かぐや様と対面した時、こんな姿を見られたくないから──。と。


タイミングよく見つけたシャワールームにて、私は存分に裸体を洗っていた。



「──うわ気持ち悪っ!!! ……ちょっと早坂!! 血こっちまで流れてきてんだけどっ!!!」

「あぁ申し訳ありません。こっちも気をつけてはいるのですがね。………っていうか………」



…隣の個室にて、何故かこの場に居座る絵文字みたいな顔の──内 笑美莉という女と共に。


 シャ─────

  シャ─────……



……。
…えーと。


彼女の行動理念が全く察せないんですが、なんでまだ能天気にシャワーしてるんでしょうかー…。
自分で言うのもアレですけど、私殺人鬼ですよーー??
危険じゃないですかー??
おーい???


……シャンプーで髪についた血の匂いを流しながら、私は隣に問いかけた。


「…しかもトナラーだし………。隣の個室使っといて「血が流れてくるんだけど〜っ ' - '」とか文句喋るわけ?………」

「えっ、早坂何か言った?」

「…あの……、一つ聞きたいんですが。なんでまだココにいるんですか? 普通なら逃げたりするでしょうが。……血塗れのヤバい奴に遭遇したら」

「そんなの別にいいでしょっ!!! 言ったら、私が着替えてる隙に早坂が攻撃してくる可能性もあるでしょ!!! そう考えたら、こうやって監視したほうが安全じゃん」

「…はあ」


…それは確かに一理ある……──とはならないでしょ。
この内という女、個室に閉じ込められてたようで、さっき何となくでまぁ助けてみたものだけど。──その時披露したドアを一撃でぶっ飛ばす私の力見たんだから、監視とか無意味って分かるでしょ…。
着替え中だろうが警戒中だろうが関係なく、捻り潰される可能性とか思いつかないのかな。

……しかも、そんな武力戦を別にしなくともさぁ…──…、


「では内さん…ご自由に……」


備え付けの石鹸を、床と壁の隙間にヒョイ────ッと。
ツルツル勢いよくターゲットへと滑っていく石鹸は、あっという間に隣の個室へと移動していって。


「────おわっ!!!!」


 ガシャンッ、ガシャガシャゴロゴロ…
 バンッ!!!


…と。隣から頭を床に激しくぶつける音。

こんな風に労力要らずして簡単に殺すこともできるのだし。
殺意満々の人間と隣り合わせにして、良いことなんかないから逃げればいいのに。
彼女が何を考えてるのかサッパリだ。私には…。

243『シャワー's -義史ちゃんのぷにぷにおま』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/19(火) 20:16:38 ID:uCETlS9o0
「………………………」





「あっ、もしかして今ので死んじゃったりしましたか? 死んでたらとりあえず返事お願いします」





「………………………」




「……い、生きてるよっ!!! …いっだぁ〜〜!!! 何いきなりっ?!! キモッ!!!! キモさに可愛げが全くないんだけど!!! なんなの!!!!」



わお。そりゃラッキーなことだ。

どうでもいいけど、内…。これで『キモい』と発した回数十五回目。
口癖なのかは知らないけど(てかそうなんだろうけど)、凄まじいペースでキモいを連発してるのでギネス記録間近になったら記録でもとっておこう。


「…ほんと早坂やめてくんないっ?! …ぶっちゃけ、私今テンパってんだから」

「え? はい?」

「あんたと遭遇してテンパってるんだから、余裕がないのっ!!! だからキモいたずらしてこないでよっ!!!! キモッ!!!!」


「………それは失礼しました」



『いたずら』って可愛いレベルのことしたつもりはないんだけどなぁ…。

とにかくこのタイミングで、彼女が謎にトナラーしてくる理由も判明。
要は焦ってどう行動するのが正解か分からないから…と。
まぁ確かに、いきなりドアが開かなくなって親切な人に助けてもらったかと思ったら、そいつは殺人鬼だった。…だなんて、脳がバグるのも仕方ないかな。

私からしたらそんなのどうでもいいんだけども。


「てゆーか、早坂また血流れてきてるしっ!!! …あれなの? もしかして『あの日』なの?? 生理中に加えて鼻血も、上下から噴出してるの???」

「えっ? キモ…────あっ、申し訳ありません。ほんとこれ不可抗力みたいのものですから…。ていうかそれより、今やばい発言聞こえた気がしましたけど。せいりちゅう…とか──…、」

「って、黒木ならそんなキモいこと言うかもしれないって話なんだけどっ!!! ほんと血気をつけてよっ!!!」


…黒木……ってのは確か内さんが長々と話してくれた友達の中で一番キモい女子…とのことだったか。
数分前。恐らくテンパってたであろう、唐突に自己紹介の交流を提案してきた内さんは、自己紹介の内訳八割使ってその黒木の説明をしてくれた。
…って、なんなんだそりゃ。



…なんていうか、もう。


隣の内のことを考えたら尽くしんどい…っていうか。シャワーに集中できないから。
テンパリ絵文字女のことは洗い流すように考えず、一人の時間を意識…と。
コンディショナーで結ったサイドテールから全てにかけて、髪を纏めあげて。────温水で洗い流した。



「……ふぅ…………」




 シャ─────

  シャ─────

244『シャワー's -義史ちゃんのぷにぷにおま』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/19(火) 20:16:54 ID:uCETlS9o0
「……………あっ、早坂。ボディソープ足りてる? 良かったら貸すけど」

「お気遣い感謝ですがちゃんとあるので大丈夫ですよ。…てかなんかやけにフレンドリーですねー内さん……」


「あっそう。──」

「──…あとさ、フレンドリーとか言ってたけど、別に。早坂と仲良くなりたいとかそんなこと考えてないから。ただ、助けてくれたんだから冷たく対応するのも変でしょ」


「………それもそう…かな。そうですかね」



 シャ─────

  シャ─────




 真っ白な泡が身体中の汚れを鷲掴み、綺麗にコーティングしてくれる。
胸の膨らみの曲線をなぞるように泡が付着し、そこから腰骨に向かい、背中側へ。
太ももの外側をマッサージするように泡が包みこまれれば、ふくらはぎ、足へと。残りついた血痕が泡と混ざり合う。
足先にて、指の間を一つひとつ確認するように丁寧に行き渡る泡。
あまり悠長な時間もないから、と。ついでに洗顔もスタート。
鼻先に付いた、蜜のような香りの泡が、湯気とともに広がった。

…まぁ、この辺でいっか、と。
いつもの倍近く時間を短縮させて、シャワータイムはこれにて終わり。
水栓をひねってシャワーを呼び戻し、肌から肌へと水を滑らせていった。


濡れた金色の髪をかき上げると、したたる水滴の中。ごく僅かな物思いが一瞬心のなかで走っていく……。




「ねえ早坂。いきなりだけど心理テスト…いい?」

「…本当にいきなりですね……」

「軽い雑談くらいいいでしょっ! シャワー中みんなするんだから」

「私もうすぐ出るんですけど…。……まぁいいですよ」


…相も変わらずフレンドリーというか……そんな方だ。
シャワーを顔に浴びながら、話半分でとりあえず聞いてみることにした。


「じゃ、いくよ。『あなたは歩いています。すると道が二つに分かれていました』」

「はあ。二つに」

「『A:林に行く』/『B:片方の森に行く』。さぁどっち?」



…………………。
どっちでもいいかこんなの。


「…………………………『A』?」

「…A。Aに行くんだね」

「……別に深くは考えてないですが、それで」

「………………やっぱり」



…………………やっぱり……って。
その答えとは……?

245『シャワー's -義史ちゃんのぷにぷにおま』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/19(火) 20:17:31 ID:uCETlS9o0

「ちなみにこれ、Bを答えた人は…処女。Aを答えた人は恋人。つまり『想い人』がいるって診断なんだけど」

「…………そうですか。私らの年代だと大体好きな人くらいいると思いますが」

「要はそこなのっ! 私、早坂がなんでそこまで血塗れになるほど殺し合いに乗っちゃったか、聞きたかったんだよね。でもこれでハッキリした──」





「────早坂、参加者の中に想い人がいるでしょ」


「……………………」





「────しかも、女…の」


「……………………はぁ??」



じゃあ違いますよっ。…って言いたいところだけど、ズバリとまではいかないが言い得て妙ではある。
私が殺し合いに乗った理由は、『女子』。
こんなゲームに参加させられた『かぐや様』を救う為だった。
主従関係であるかぐや様をここから脱出させるには、こうするしかない…と。手始めに知らない高校生を八つ裂きにしてしまった。
だから、内の心理テストが内面を的確に言い当ててるのは事実でもある。

────ただっ!!!!

かぐや様が想い人かって言われたら全く違うわけでっ!!!!!
そんな女子同士のイチャイチャなんて求めてないのだからっ!!!!
変な誤解解くためにも私は訂正で横槍入れることにしたっ!!!!!


「そうでしょ。その子のために、やってるんだよね」

「そうですけど、違いますよっ! …あの、何言いたいんですか……」

「違わないのっ!!! …いいから聞いて。私も同じなんだから」

「誰とっ?!」

「…早坂と」


「はぁ???」────と言いたかったのに。
間髪入れずして放たれたのは、「あれは高校二年の頃。修学旅行最終日の夜」って内の語り口調だった。
…物語の幕開けというように、内の個室からキュッ、とシャワーを止める音が響いた。

何が主張したいのか。
そして、その話した内容で私に内面の何か変化があるのだろうか。
…私は棒立ちでとりあえず話を聞いてみた。



「私はその晩。ある女と同室になった──」


 ヒタ、ヒタ、ヒタ…


「──その女は私がシャワーを浴びている最中、私の荷物を物色していたようで──」


 ヒタ、ヒタ、ヒタ…


「──私がシャワーを浴び終え部屋に戻ると私は自分のパンツがそいつに盗まれていることに気づいた」



「…全く何喋ってるのか、わけが分かりませんが」

「そう。分からない。私も何故その女がそんなことをしたのか理解できず。私はそいつの顔を見た」

「……………」



「そいつ──黒木は何も答えないでニヤニヤ笑みを浮かべるだけだった。……私はその瞬間とてつもない嫌悪感と、ゴキブリが背中を走ったかのようなゾワゾワが駆け巡った──」

246『シャワー's -義史ちゃんのぷにぷにおま』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/19(火) 20:17:46 ID:uCETlS9o0
 ヒタ、ヒタ、ヒタ……


「──その日以来、私は黒木のことを徹底軽蔑した。前々からぼっちの終わってる奴と認識してたけど余計イメージは悪くなった──」



 ヒタ、ヒタ………


「──だけども、不思議なことに。同じくその日以来、頭の中は黒木で常に埋め尽くされてしまった。視界に黒木が入りそうな予感がしたらつい見てしまう。三泊四日に渡る修学旅行の思い出もパンツ盗みで全て上書き──」

「──全てが黒木黒木黒木黒木黒木黒木黒木黒木……。いっぱいいっぱいだった」



 ヒタ……………………



「──なぜ私は黒木のことを想うようになったのか。なぜ私は黒木に頭を支配されてしまったのか──」

「────それは、同じく。早坂が殺し合いに乗った真の理由にも繋がる」



「……………と、言いますと……」


「うん、聞いて」




 ──ポチャンっ




「あの日、私は黒木の発したKMI-virus『キモい風邪』に感染した為、黒木のキモさに魅了されてしまった!!──」

「──つまりは早坂も。…かぐや…って子のキモウイルスの罹患者になったわけ!! つまりは分かる? 早坂が今すべきことは殺し合いじゃなく、キモ病院キモ科にてキモワクチンを打つことだって。だから一緒に克服しよう、キモの魔力から!!!!」



「…聞いて損した。出まーーす」

 ガチャッ


「えっ??!! なんでっ!!! ちょっと待って!!!!」





最初は私とかぐや様の関係の裏──今までは気づかなかった何かを紐解いてくれるのかな…と微妙に期待はしたけど。
結局何を言ってるのか理解できなかった。
──理解できない自分でよかった。




「待ってってば!!! 私も出るから!!」


脱衣所への自動ドアを向かう手前。
振り向きざま、ガチャッと個室から飛び出る音が聞こえた。

…いや、内の奴ついてきたし!! なんでついてくるのっ??

247『シャワー's -義史ちゃんのぷにぷにおま』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/19(火) 20:18:01 ID:uCETlS9o0
「待って!!!」

「私に待つ理由がありますか? …あっ、キモウイルス罹患〜だかなんだかで私とシンパシー感じたとかなら、それ勘違いですからねっ?!」

「はぁ!!? いやそんなこと言っといてさ!!! 早坂もかぐやって子に感じてるんでしょ!!!」

「何をっ??!!」

「キモさをっ!!!」

「感じるかァーっ!!!!」



ペタ、ペタ、ペタ、ペタ……。
青いタイルを踏む音がこちらに近づいてくる…。
迫りくる顔面──絵文字……。
わけが…、わけがわからないっ。
──この殺し合いが始まって以降、私はやたらと個室で変な女と出くわすサイクルにハマらされてるんだけど。
どういう運命なわけ…?


ブツブツなんか言いながら──多分「キモい」とか連呼しながら近づいてくる内。
…やはり、あの時助けなんかせず首の骨を折っとけば良かったか……。…と。
自分の行動力の先見性に悔いながら、どうすべきか頭を働かせた…──その時。



────あっ、そういえば内のやつ。テンパってるんだな……って。



「──うわっ!!!!!!」

「あっ」


内は、焦りからか。
足元に転がる『石鹸』に全く気づかず、思いっきり滑って。前のめりになり転んだ。


 ズドンッ



「…いってて……」

「……………」



ちなみに、転ぶ前の内と、私の距離は若干1メートル。

従って、彼女の『前のめり』…とは。





「…………あっ」





「…あ」




──全裸の私を押し倒した上でのすっ転びを意味する。




「………………え、え……」


「…………あっ」



…言うまでもないけど、下着、靴下すらつけぬ裸の姿は、内もまた同様………。

248『シャワー's -義史ちゃんのぷにぷにおま』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/19(火) 20:18:18 ID:uCETlS9o0
内の膝、そして私の膝が互いにまたぐらに入る形での……押し倒し。


互いの太ももが重なり合い、その湿った感触を共有する形での……押し倒し。


内は転んでも怪我をしなかった。──何故なら私のたわわがクッション代わりとなったから。
胸を互いに押し付けあった形での……押し倒し。



「………………は……っ早坂…………」


「………内…………さんっ…」



思わず、吐息が漏れてしまう。
内の甘い吐息が鼻に通し、視界は絵文字の柔らかそうな顔でいっぱい。
ちょっと口を尖らせれば、唇同士が重なり合う。
……………そんなほぼ0距離での、押し倒し。



「…わ、私…………。はぁ…………。私は………………」

「…………………はっ、ん……早坂………………」



全裸の女子同士が。
ふとしたトラブルがきっかけで、絡み合い……、……胸の先っぽが擦れる。


時間が止まったかのように、動けない………。


内も私も、膠着しかできない…………。脳も甘くとろけて麻痺している……………。



こんなのガラじゃないのに………。
私はこんなの興味なんか、ないのに…………………。




「…はぁ…。はや、………早…坂ぁ……………」




「内さ……………はぁ、はぁ…………。んっ……………」




────唇と唇の距離が…、

ゆっくり、ゆっくり縮まって、行────ッ……………………。






 ガラガラガラガラガラガラガラガラ

「…え?」


「あっ」「あ」



…とはいかなかった。いや、行かせるわけなかった。
突然の来訪者の登場で、我を忘れていた私たちは慌てて離れる。

249『シャワー's -義史ちゃんのぷにぷにおま』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/19(火) 20:18:29 ID:uCETlS9o0

「………えっ??? え???!」


「……あ?」「はぁ?」





──────『男』の来訪者によって。

250『シャワー's -義史ちゃんのぷにぷにおま』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/19(火) 20:18:39 ID:uCETlS9o0




……思えばさっき。……

……『新田義史』は危険だ──という拡声器による告発が響き聞こえた。……

……真偽はともかく、私はそいつに出くわしたらできるだけ関わらないようにしようと。そのとき思った。……



……関係ない話を失礼しました。以下、腰にタオル一つで正座させられている男をお送りします。……

251『シャワー's -義史ちゃんのぷにぷにおま』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/19(火) 20:18:53 ID:uCETlS9o0



 よくよく考えたら。
殺し合いだのトネガワだの渋谷だの。──全部、夢なのかもしれない。
いや、思い返せば昨晩浴びるように酒を飲んだから、悪酔いしてるだけなのかもしれない。

全部が全部、現実でない可能性もあるのだ。

それに気づいた俺は、傷心をさすりつつもシャワールームへと立ち寄った。
…え? なんでシャワーをするんだ? ってか。
なに。気まぐれみたいなもんだ。

まぁ話せば長い時間巻き戻すことになるが、あの時も。
ヒナの奴がキモい見た目で未来からやってきた──初・対面の時も俺はシャワーを浴びたものだった。
あぁ、これは全部幻覚だ。酔いを覚まさないとな、ってな。
だから、今回も俺はシャワーで心と頭を覚ましに求めてきたんだ。
野原さんらに捨てられ、新田義史という男が危険人物と広まった────この現実から、温水で癒されるために…な。


…だが、それが現実逃避であることに変わりないわけで。シャワーをどれだけ浴びようがこの『殺し合い』という現実は変わらないのかもしれない。
──いや、断定する。この現実は変わらないだろう。
思えば、あの初・対面の時もシャワーから戻ったとき普通にヒナがいた。まったく幻ではなかった。

……分かってはいた。分かっていたんだけどもさ。



「早坂!!! 早くこの変態を殺して!!! 早く!!! ほんとに気持ち悪い!!! キモキモキモキモキモキモキモ!!(  ' - ' 💢)」

「いえ内さん。このまま彼を殺してしまえば、私は『覗きオヤジを殺した』という汚点が残ってしまうわけです。…ここはどうにか」

「は??? なにっ!!!!! こいつ庇うわけ?!!!」

「自分が最低最悪以下の下劣で、脳よりも性欲しか働けない生きる価値のない人間であることを、たっぷりの説教で自戒させてから斬首すべきとしたいです」

「あっ、じゃあそうして!!! 何事も下処理が肝心ってわけか!!( ' - ' )」




ただ、俺は、今一番現実逃避がしたかった。



 脱衣所にて、死人みたいな顔をしている俺。
乾いた冷や汗の感触に苦い思いをしながら、タオル一枚で正座させられる……俺…っ。

そして、目の前────つっても俯いてるんだが…、俺の前には二人の女子高生がネチネチ嫌な言葉を投げかけてくる。

…痴漢して逃げた先で電車に撥ねられるヤツって。多分、このくらい惨めで狭苦しい思いなんだろな。



…あぁ。

言い訳をする気はねぇ。
この女子シャワー室におっさんがズカズカ入ってきたのは事実。…自分の意思でここに踏み入れたのも、また事実。
そりゃ、もう悲鳴いっぱいにキレるよな。あんたらお嬢さんたち。

そら、な……。


言い訳の余地はねぇが、…ただ聞いてくれ。
俺はほんとに知らなかった。気づかなかったんだ。
入り口に赤いマーク──『女子専用マーク』があっただなんて。


精神的にキツイことがあって、まじで気づかなかったんだよ…………っ。



「あのー、あなた話聞いてますか? さっきからボーーっとしてるようにしか見えないんですが。反省してませんよね」

「ほんと気持ち悪いっ!!! 早くこいつを死刑にできる世の中になってほしいくらいっ!!!! キモッ、キモッ!!!!」



…………。
それと、もう一つ誤解を解きたい。聞いてくれ。

252『シャワー's -義史ちゃんのぷにぷにおま』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/19(火) 20:19:07 ID:uCETlS9o0
あんたら、JKだかJCだかJDだか知らねぇし、クソどうでもいいけどよ。
俺はどちらかというと、自分と同い年…か大人の女性の方がタイプなんだよ。
例えるならバーテンダーの詩子さんとか。朝テレビに映る女子アナウンサーとか、な。
だから、今までヒナの下着をいくら洗おうが、三島のガキがチラチラ見てこようが俺は一切欲情しなかったんだよ。
…興味ねぇから。


「なんか喋ったらどうですか? あなた。最低すぎませんか??」

「ふざけてるよね?! こいつ!!! 話せないの?!!!」



まあ聞いてくれよ。ガキンチョたち。


俺の……、闇の社会で生きる俺の『理想』…ってのをな。


あんたら、映画の『ゴースト ニューヨークの幻』って見たことあるか。
かく言う俺も金ローが初見でそれっきりなんだがな。
…あっ。別にその洋画の面白さを熱弁する感じではないから。そこんとこは勘違いするな。


……その映画のワンシーンでな。
社会人の主人公が壺の陶芸に熱中してる折、幼馴染の彼女がやってきて和気あいあいとするってのがあんだよ。
夜の自室でな。互いにドロとか顔につけてじゃれ合ってさ。
ムードが高まる中、二人は恋に落ちてロマンスな映像が流れる。って。
そんなシーンがあるんだわ。

ライチャス・ブラザーズが歌う”アンチェインド・メロディ”をBGMに、な。


分かるか?

壺を愛してやまない俺の『理想』が、まんまそれだったんだよ──────っ。






『♪“Unchained Melody” lyrics(1954 America)』



(♪Whoa,〜 my lvoe〜〜……)


「おーい、もしもしー。はぁ…とりあえず自己紹介から始めますか? あなた名前なんていうんですかーー」






だから。





(♪My dariigu〜…)

(♪I’ue hungdrew for yaur touuh〜〜)


「もういいでしょ!!! 早坂、サクッと殺そ!!! サクッとチェンソーで!!!!」




だから…っ。

253『シャワー's -義史ちゃんのぷにぷにおま』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/19(火) 20:19:30 ID:uCETlS9o0
(♪A long, louelr tiwe)

(♪And tiwe gwes dy su slooly〜)


「はぁ。せっかくシャワー入ったのに。…そうですね。私も暇ではないので、殺っちゃいますよ」






だから…ッ。




俺はッ。






(♪Run naked, town〜)

(♪Run naked, town〜〜)



(────直訳:裸で駆けろ、町中を)







我ながら唐突にして、この場から一目散に逃げ出した。




「「あっ!!!」」






シャワールームを一瞬で飛び出し、階段をハイジャンプで一気に降りる。
雑居ビルを出た途端、ネオンの明かりが俺の体をカラフルに照らしてくれた。


俺の、裸体を────。

色とりどりに────。





『ゴースト ニューヨークの幻』…………。
俺も早く楽になって、幽霊みたいに透明になりたい。





なあ。

なんなんだろうな、人生<バトル・ロワイヤル>って。




なあ………………。

254『シャワー's -義史ちゃんのぷにぷにおま』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/19(火) 20:19:40 ID:uCETlS9o0



……とりあえず、行く先は──ユニクロだな。……



【1日目/D4/繁華街/AM.03:33】
【新田義史@ヒナまつり】
【状態】半裸、放心状態
【装備】AT拳銃
【道具】???
【思考】基本:【???】
1:ユニクロに行きたい。──夏の日の変態。

255『シャワー's -義史ちゃんのぷにぷにおま』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/19(火) 20:19:52 ID:uCETlS9o0




………
……

「…とりあえず早坂。さっきは転んで……ご、ごめん……………」

「…………いや、忘れましょうよ…。もう、それ…」

「で、早坂。かぐやはどこにいるの? これからどこ行くつもり??( ' - ' )」

「えっ。ついてくるんですか…。何故に?──」



「──まぁ、別に。いいです…けども………」

256 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/19(火) 20:35:45 ID:uCETlS9o0
※早坂とうっちー、シャワー室での最後の下りはかぐやOVAの丸パクリスペクトです。


【第2回】シンアニロワコソコソ噂話!!

『殺害人数Ranking!!』

最終的な殺し人数はたしか以下の通りです

1位 窪…14人 (ボンドルド、グエル、岡部、カイル、目玉親父、カイマン、リヴァイ、有馬、デデデ、心、橋田、島、ムゲン、富樫)
2位 千代田桃…8人 (ラム、カートマン、七宮、ミサト、鈴原サクラ、面堂、伊藤誠、ジーク)
3位 レグ…6人 (間取親父、渚カヲル、凸守、ミオリネ、とがめ、マイルス)

桃は特に第3回放送でマーダー化→第4回放送で死亡なので、6時間で8人という驚愕のペースとなっています

今日はここまでです!


次回→多分二本立て

257『未来はオレらの手の中』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/25(月) 18:56:10 ID:upGrLp560
[登場人物]  [[コースケ]]、[[堂下浩次]]

258『未来はオレらの手の中』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/25(月) 18:56:31 ID:upGrLp560
 青い空。──といっても澄んでいるわけではない。
ネイビーブルーの暗い夜道にて、オレはなにげなく小学校の校庭に入ってみた。
日常生活の普段では、男児がサッカーに戯れ、女児は花を摘みながらおしゃべりし、野良犬は児童皆の注目を浴びるこの校庭も今は無人。
通り過ぎるのは風のみで、普段は侵入を許されぬこの土地に踏み入ることはびみょーなスリルを感じる。


「……………………………」


そんな小学校にて、まるでシンボルマークが如く、入って早々鎮座する一つの遊具があった。
一本の錆びた鉄を、屈強な二本の青い鉄で挟み構成されるシンプルなその遊具。
その遊具の高さはオレの頭一つ…いや体一つほど上を行く標高があり、──なによりもこれが目について、オレは校庭に入ることを決意したのだ。


「…鉄棒かぁ………………………………」


先程パンを数個たいらげたこともあり、万事に備えて腹ごなしをしようと考えていたオレ。
そして、鉄棒の真下まで歩を進めたオレ。

鉄棒を使った運動といえば、前回り、後ろ回り、伸膝後ろ回り………と山のよーに選択肢はあるものだが。
とりあえず、オレは勢いよくジャンプすると、すかさず両の手で棒を握りしめる。
ぶら下がり状態の中、腕や広背筋・大円筋に力を込め、すーぅ…ふうーぅ……っと。
一定の呼吸のリズムを保ちつつ、顎が棒の高さに来るまで体を引き上げた。
腕の力を弱め、引き上げた体を下ろしまたぶら下がり状態に戻るとき。
肩の筋肉がキチキチ…ッとエキサイトの雄叫びをあげる……。


「いーち………」




────要は『懸垂』だ。





「にー………………」



 高校を卒業して数年が経つ。
卒業後、即大東京ビンボー生活を始めたオレにとって、高校卒業〜今に至るまでのその年月は長いようで短く感じた。
高校時代──当時のオレはスポーツ部に励んでいたこともあり、全校生徒の中でも体力面は秀でている自信はあった。
それゆえ、数年経った現在ではどれだけ力が出せるものだろーか、と。
今オレは数年ぶりの体力テストで、自分の力を確かめている。

あの頃は懸垂三十回など余裕で熟せたものだが、ぐーたら生活を送っている今のオレたるや。
果たして、いかに………。 


「さーん……………っ」

  「しーー…………………っ」


……
………


    「きゅーー………………っ……」

     「じゅうっーー………っ…………」


…十回目の懸垂を終え、現状の体力は以下の通りとなる。
身体はやや保温を始め、心臓と肺がバクンッバクン……とうねりを見せ始める。
息も、荒い傾向に入り始めていた。
手に汗握る腕も全体的に重く、震えだしてくる。

だが、これでもまだ序の口。
オレ自身、十回が限度かなと高をくくっていたものだが、体力はまだまだ残量を示しており。
思いのほか、結構行けそうな気がしてきた。

よしっ。
休みを入れず、オレはまだまだ上腕筋を奮い立て、懸垂に臨んだ。

259『未来はオレらの手の中』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/25(月) 18:56:47 ID:upGrLp560
「じゅう〜〜っ……………………いーち」

 「じゅう〜〜〜〜っ…………にっ」



……
 割愛
………
…………


   「じゅう〜〜〜〜〜〜〜……きゅうっ………………………っ」


    「に〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜…………………じゅうっ…………」



 ──まだまだ体力は残量を示した、といったが、二十回台を超えてくるとなるとここからは根性での勝負となる。
この時点で腕は休みを求めてプルプルと、ゼリーのように震えだし、夏場なだけあって額には汗がジュワッ…と顔真っ赤。
肺なんかもう破裂する勢いで、全身の動脈がバクバクと流れるさまはうるさいくらいだ。
高鳴る心臓の音。良い表現をしてみると、生きてる実感を感じさせられる──そんな高鳴りぶり。

思い返せば、学生の頃もちょうど二十回目を超えたあたりで激しい疲労に襲われたもの。
となると、体力はさほど変わっていないということなのだろーか。
力仕事や大家から引き受けた雑用はこなす毎日とはいえ、普段寝てばかりだというのに、この体力維持ぶりは如何なる現象なのだろう。
自分の今の力っぷりに、虚を突かれた思いをした。


となると、だ。
目指すは数年前のオレが記録した三十回。
…いや、それをも超える大台中の大台へと、切り開いてみよーではないか。
過去のオレへ、未来のオレから自慢気に見せつけるかのよーに。


詩人・仲間庚のスローガンは『一球入魂』とのことだが、彼に倣ってオレも『一回入根性』。
休みを求める身体に鞭を入れ、再び休むことなくオレは懸垂を始めるのだった。




「にじゅう〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜…………………いちっっ…………」

ホカホカの口臭が漏れ出る。──一方で、筋肉を震わせ身体を持ち上げた。



「に…じゅう〜〜〜〜〜〜〜〜…………………………にっ……………」

鼻息と共にかっ開かれる眼光。──一方で、筋肉を震わせ身体を持ち上げた。



「…にじゅう〜〜〜〜〜〜〜〜………………………………さんっ………」

力を込めようと引き締まっていく我が腹部と尻──一方で、まだまだ筋肉を震わせ身体を持ち上げた。
持ち上げ続けた。オレは、まだまだ。



最初は冷たい感触だった鉄棒も、この頃にはコタツのよーにポカポカしだしてくる。──握った箇所のみ。
掌が痛みを通り越してへしゃげた感覚だ。
これはアドレナリン…といったとこなのだろーか。二十回を超えると、手の痛覚がなくなってくる様子。──ならば、全身に取り付く疲労も取り払ってくれと言いたいところである。

もう、体力は限界突破寸前で、それはイコール気絶に結びつけられるといったところ。
正直、やめどきかな。と心の片隅で芽生えてきたのだが。
それでも、オレは懸垂をやめなかった。
やめたくないという気持ちがあった。

いま、何を考えてるの? ──と聞かれたら「ただ無心です」と答えるまでだ。
オレは二十四回目の懸垂成功を目指し、一人校庭。
拳に力を込め、ひたすらに身体を起こすことに打ち込んだ………。

260『未来はオレらの手の中』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/25(月) 18:57:07 ID:upGrLp560
「…にじゅう〜〜〜〜〜〜〜〜………………………………」


「やあっ!! はぁはぁ……!!! 中々やるっスね、おたく……っ!!!」




「─────…………………よんっ………」





やっとの思いで身体を持ち上げ、束の間の休息に突入しようとした時。
この時にやっと、オレは隣客がいることに気付いた。

…オレと同じく、鉄棒にぶら下がり汗水を垂らす────屈強な肉体の男が。




ざわっ…。




「俺…堂下浩次ってモンでして……っ!! 貴方の懸垂っぷりを見たら火がついちまって………!! はぁはぁ……、失礼ながらお隣失礼させてもらってるんスよ!!!」


頼んでもないどころか会話すら始めてないというのに、自己紹介と説明をしてくれたその男──堂下は、真っ黒なスーツ越しでも分かる圧倒的筋肉だった。
…まー、彼の筋肉はさほど興味は沸かないのだが。
オレが気になった男の身体的特徴といえば、真夏だとゆーのに全身黒ずくめの長袖と、同じくらい真っ黒なサングラスだ。

お世辞にも『普通』とはいえないその服装ではあるのだが、堂下という男は一体何者なのだろう。
葬式帰りなのか。わけがわからない。
映画のマトリックスまんまの姿格好にツッコミを入れたい欲がウズウズしてくる。


「…にじゅう〜〜〜〜〜〜〜〜………………………………」

「はぁはぁ……そうだっ……!!」


「─────…………………ごっ………」

「……ぐっ!!! はぁ…! はぁはぁ………。俺と懸垂勝負しませんか…………っ!!! 多くやった方が勝ち…でっ!!!」


奴のグイグイ迫る顔面のなんと暑苦しいことか。
ただでさえ全身が火照っているというのに、これじゃサウナにいるよーな気分だ。


それに、何故だがオレの動きに堂下もグイグイと懸垂を合わせてきている。


「…にじゅう〜〜〜〜〜〜〜〜………………………………」

グイッ


「おっ!! うっ、うおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!」

グイグイグイグイグイッ


「─────…………………ろくっっ………」

「ふはっ……!!!! はぁはぁはぁ…………っ! そうだ!! 負けたらプロテイン奢りにしましょう!! いいっスよね…っ!」


↑こーいった具合で、オレが一度懸垂する度に、ヤツは五、六回ほど高速で懸垂をしだすのだ。
まるで掘削機。もはや…ピストン…。
その勢いで凄まじく懸垂をする体力は、驚きと称賛に値するものだが、しかし何故にそんなことをしだすのか。
さっき「懸垂勝負だ」とヤツは言ったがハンデのつもりなのか、いやそれとも自分の力自慢を見せつけたいだけなのか。

…というか、そもそもにして見ず知らずのオレと何故こうも距離感が近いのか。

261『未来はオレらの手の中』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/25(月) 18:57:20 ID:upGrLp560
「……にじゅう〜〜〜〜〜〜〜〜………………………………」

グイッ


「!!! うおおおおおおおおおおおああああああああああああああああああああっ!!!!!!」

グイグイグイグイグイグイグイグイグイグイ


「─────…………………しちっ」

「はぁ…はぁはぁ…………!! オレも…、T京ラグビー部主将の意地があるんでね………っ。絶対負けませんから!! ──ゴチになりますよ…! プロテイン……っ!!! はぁはぁ…」



…プロテインって。

……さっきも話したが、オレの懸垂キャリアハイは三十回である。
従って、終盤近くを迎えた今、ものすごい疲労と限界で体が歪みそうなのであるが。
謎の来訪者──堂下の勝手な提案でやめようにもやめられない事態となっている。
何故なら、この懸垂勝負で敗北したらオレはプロテインを奢らなくちゃならないのだ。
ビンボー人のオレが、プロテインを…だ………。
常日頃から思うんだが、プロテインってなんであんなに高いんだ。
量はそれなりとはいえ、たかが粉になぜ五千円近くも値段が張るのだろう。なんなんだ、その高価な粉は。覚せい剤かっ。


それを、一文無しのオレが何故…。
何故、買う羽目になっているとゆーのだ……。



「手が止まってますよ……!! もうそろそろやりましょうよっ!! 引き締まった体〈ボディ〉を想像して………っ。──さぁ!!!」


「…………………………っ」




絶対に負けられない………が、熱意は込められてない勝負事を唐突にするはめとなり。
オレは力ない腕を奮う中、負けた未来の自分を想像しどうすべきか自問し続けた。



「はぁ……。……にじゅう〜〜〜〜〜〜〜〜………………………………────」

262『未来はオレらの手の中』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/25(月) 18:57:36 ID:upGrLp560



………
……



『試合に勝ったが、勝負に負けた』────とゆー有名な名言があるが、オレは誰が発言したものなのかは知らない。


「はぁ………っ! はぁっ…! 嘘だろっ…………。はぁはぁ、この俺がっ………!!! はぁはぁ………」

「…………………ふぅー、ハァハァ」


とにかく、オレは懸垂我慢対決に勝利し、金銭問題はどうにか事なきを得たのだが。
…勝ったとはいえ、勝利の歓喜、喜びに光悦は一切とてない。

ただ得たのは立ち上がれないほどの強い疲労と腕の痺れのみだった。…あと、『事なき』の三つしか得ていない。
死ぬ気でやればなんでもできる、とは斎藤茂吉の詩集にもあったが、オレは今まさに死にかけ状態だ。


汗だけがどんどん流れ出て、それ以外は死体同然のオレ。
…とにかく勝った褒美のプロテイン奢りが待ち遠しい。
喉が水を欲してぐちゃぐちゃに暴れ狂っていた……。


「ぐっ………!! がぁっ……!!! ぐうっ!!!」

「…………え?」


「悔しい、悔しすぎんだろ……………っ!!! ぐうっ………!!」

「……………………」


しかし、待てども待てども堂下という男が差し出す液体は、『涙』のみ。
自身から排出するその涙はとても熱苦しく、その熱気で余計に汗が大量発生してしまう。
本来なら液体とは潤してくれる存在のはずだが、奴の出す涙は逆にオレをどんどん乾かし干からびさせてくる。


頼む、…早くプロテイン。
…というか水を……。


「悔しいけど……っ! 悔しいんだけどもよっ……………!! その倍くらい……、晴れやか…………!! 爽やかな気持ちの負けだっ…………!! 俺は…!!!!」

「………そ、そーすか。…はぁはぁ、とりあえず奢りの件は………」

「俺と名勝負に付き合ってくれてありがとう……!!! Congratulations……!!! Congratulations…!!」

「………はあ。ど、ども…………………」


悔しながらも勝者に褒め言葉を贈る奴は、まさしく人格者の鑑………──などとは決して言わないつもりだぞ。
コングラッチュレーションの言葉と共に、堂下は握手を求めて…というかヘロヘロのオレの手をがっちり握ってきたのだが。



「……あっ」



──その際、俺の手中に握られていたのは一冊の本。

どこから、いつ取り出したのか知らないが、どうやら奴から勝利の品を貰ったようだった。



「これ……!! 俺の尊敬する三嶋瞳先生の書いた本!! 必読本だからっ……!!!」


ん。なんだって。
三島由紀夫先生の本?


「良かったらキミにやるよ……っ!! 読んだら人生変わるから…!!! マジすげぇからさ………っ!!!」


説明不足でよく分からないが、とにかく彼が大切にしている本を貰ったらしかった。
…関係ないが、気が付けば敬語をやめて馴れ馴れしくタメ口になった堂下だけども、その心の変わりようはなにがきっかけだ…?

263『未来はオレらの手の中』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/25(月) 18:57:48 ID:upGrLp560
「いや…もう、ほんとすごい本だよっ……!! キミくらい凄いよ………!!! あっ、キミスポーツなにやってた? ラグビーとか興味はある?」


…とりあえず本の品定めに入りたいから、隣の熱血男はかなりの邪魔。
あまり言いたくないが、用が済んだのなら去ってほしい…が本音だった。


──…と、俺の軽い本心が伝わったのか。否か。



「んじゃっ……!! 俺まだまだ用事があるからこれで…………!!! いつかまた会ったら草ラグビーしようぜ!!! ──じゃあな…!!!!」


…いや多分伝わってはないだろう。偏見で悪いが、彼に人の心を察することなんてできるわけないだろうから。
堂下という男はやりたい事をして満足したのだろう、さっさと校庭から立ち去っていった。



「T京魂ッ…ファイア────────────っ!!!!!」



…と雄叫びをあげながら。

時計にして、五時五分での出来事だった……。




……てゆーか、『草ラグビー』ってなんだ……?





「……………………」






さて、校庭に一人取り残されたオレであるが。
疲れがそこそこに抜けたオレは堂下から貰った『私だから伝えたい ビジネスの極意』を拝読した。


ぺらっ、ぺらぺらぺら…


「………………」


うんっ。中々に面白い。
現代ビジネスの新しい改革、そして自身の体験を綴った分かりやすい表現で確かにヤツが気に入るのも納得な傑作だった。
スラスラと読みやすく、それでいて重厚感ある文章なのもいい。良い本だ。


ただ、一つ欠点があって。

──これはジャンルにして『ビジネス本』だ。
日頃貯金をなくなく崩しながらマイペースに生活するオレにとっては、非常に耳が痛くなる本だ。
あぁ、痛い。あまりにも痛すぎる。


「…………………………」





活字を一冊を読み終えたこと、
激しい運動の後であるということ、
数時間前パンを豪快に食したこと。


──この三点が絡み合いハーモニーを生んだ影響で、オレは尋常じゃない睡魔に襲われてしまった。
もう、抗うことすらできない。
目を覚ました時、花畑〈HEAVEN〉にいないことを願いつつ、オレは鉄棒の下であえなく力尽きていった。



「…ところで、三嶋瞳って…誰…………だろう………………」




 バタリッ

264『未来はオレらの手の中』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/25(月) 18:58:01 ID:upGrLp560


……
………
 ──お兄さん、大家さんの御親戚かなにか?

 ────…………いえ。単なるここの住民で。

 ──学生さん?

 ────…いえ。………一応、…社会人…で。

 ──…ふーーん。
………
……




【1日目/C3/渋谷高校校庭/AM.04:46】
【コースケ@大東京ビンボー生活マニュアル】
【状態】睡眠、疲労(大)
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:疲れたからオレは寝る…。
2:なんだったんだろう、あの男は。
3:チェンソーメイド(早坂)に警戒。

265『男たちは向かう』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/25(月) 18:58:27 ID:upGrLp560
[登場人物]  [[殺人ニワトリ]]、[[堂下浩次]]

266『男たちは向かう』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/25(月) 18:58:46 ID:upGrLp560
  ダックハント【DUCK HUNT!!】


  ババババババババッ、バンッ!!!──────ドサリッ


  ババババババババッ、バンッ!!!──────ドサリッ



 カラスが一羽撃ち落とされ。
また、一羽。カラスの死骸が道路に落ちて行く。




 ババババババババッ、バンッ!!!

 ────カカァッッ…!!!!


そしてまた、電線に泊まっていたカラスにも弾丸が命中する。
不幸中の幸いにも、そのカラスは右脚をぶち抜かれたのみで済んだのだが、
────ジリジリと痛みを堪えながら、恨みの込もった眼光で『狙撃手』の姿を捉えていく。
マシンガンを乱れ撃ちし、トサカ頭の金髪と『殺マスク』を揺らしながら走る──その狙撃手の姿を絶対に忘れまい………と。


「ハトが豆鉄砲を食らったかのような」
そんな比喩表現があるが、カラスが『ニワトリ』に殺されるという弱肉強食の逆転現象が起こった時であった。
──いや、カラスがニワトリを襲うものかは定かでないが。



 ババババババババババババババババババババババッッッ

「はははははははははっ!!!! ぁははははははははははははっっ!!」


 空に向かって支給武器をとにかく撃ちまくる男──殺人ニワトリ(本名 山中藤次郎)は、雄叫びを上げながら全力疾走に嵩じていた。
彼が走る理由、とは。────すなわちダチョウが走る理由と全く同じ。
特に何か考えがあるわけでもなく、とりあえず走り→撃ちを繰り返す。
一応、ニワトリも【マーダー】に決意を固めた男。とはいえ、拡声器使用後、宛もなくドタドタ走り回っていたのだが。
考えもなしにとにかく銃を撃ちまくっていたため、とうとう彼にも『行く宛』ができてしまった。


ババババババババババババババババババババババッッッ

 ────カスンッ、カスン…

「あっ!!! 畜生ッ!!! 弾切れしちまったぜ!!! マジヤベェ〜〜〜」


マシンガンを放り捨て、彼が足を踏み入れた先はダイソー渋谷店。
ワンコインの力で、色んなものを幅広く────がキャッチコピーの百均ショップは、まさしくオールジャンルに色々な物が売られている。
その店で武器の補充でもしよう、と考えたのか。
ニワトリは売ってあった刃渡り15cmを手に取ると。


「おいゴラァッ!!! 店員出てこいやッ!!!! 客に会計待たせてンじゃねェ〜ぞタコッ!!!!」




しーーん…………。


「チッ!!! なんだァ誰もいねェのか?!! ……仕方ねぇ。会計は出世払いとさせてもらうぜッ!!!! あばよっ!」


明るい店内からまた再び夜道へ。刃物一つ万引きして出て行った。



 センター街にて、包丁を振り回し走り続ける凶悪面。
その目は完全に据わっており、もしも自分が彼に対面したとなったら心臓が震えそうになるものだが、それ程までの『絶対に関わっちゃいけない人間』が渋谷にいた。
風を切り裂くシャープなナイフ、そして猛猪突進が如くスピードを緩めない殺人ニワトリ。
人を切りたくて倒したくて仕方ない、という狂走ぶり故に、彼の被害者となる哀れな人間が現れないよう願うばかりである。


だが不運にも、殺人ニワトリの目の前にちょうど一人の男が歩いていた。
──しかも、こちらに背を向けて。隙だらけの様子で。

267『男たちは向かう』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/25(月) 18:59:01 ID:upGrLp560

(うひょ〜〜っ!!! 超ラッキーだぜぇっ!!!!)


「殺し合いをしろ」と言われたからやりました。………と。
ただそれだけの理由で、スーツを着た背中に猛接近していく殺人ニワトリ。
彼に道徳心や倫理観、または少しでも頭が働かせる力があればこのような凶行はしなかったのだが、そこは伊達に偏差値最下層『帝辺高校』在学生ではなかった。


ナイフの先を肉目掛けて突き立てると、──ザクリッ────。


「──ぐわっ…?!!!! がぁっ!!!」


被害者の悲痛かつ、スタッカートな叫びが響く。
が、そんなことなんか気にも留めず、包丁を引き抜いては再び──ザクリッ────。
更に攻撃を緩めることなく、今度は馬乗りになってザシュッ、ザシュッ────。


「うおおおおおおおぉおぉぉぉぉぉぉぉぉおおおっ!!!!!!!!!!」

ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ、
ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ、


顔いっぱいに返り血を浴びても、服が生暖かくぐしょ濡れになっても、──男が力なく倒れ、滅多刺しの背中をピクつかせるのみになっても。
ニワトリは命一杯包丁を振るい続けていき…。

────唐突に動きを止める。



「思い知ったかッ!!! ヤンキー舐めンじゃねェぞゴラァッ!!!!」


アスファルトに血溜まりが伸びていき、生気を失った眼で地面を見続ける男……。
惨劇があまりにも唐突に一瞬で、始まり、そして終わった中。
ニワトリは勝利宣言が如く死体にガンを飛ばし。


「…まっ、てめぇの分も俺が責任取って長生きするから安心してくれ!!! じゃあなッ!!!!」



死体から刃物を抜き取って、その場を後にするのだった。



血塗れの狂人(バカ)が、次の獲物を求めて練り歩く………。
ギョロリ、ギョロリッ…と周囲を見渡しながら……………。







【残り65人────────────────……?】

268『男たちは向かう』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/25(月) 18:59:16 ID:upGrLp560

……
………

立つ鳥跡を濁さず。


残された死体は無念のままただ風に吹かれるのみだった。


紹介しよう。
滅多刺しにされた男の名前は──堂下浩次。
利根川グループ屈指の熱血漢で、かつてはラグビー部キャプテンとして、魂をひたすら輝き続けた男……。
そんな堂下の顔を、背中を刺し続けた殺人ニワトリは見たこともない。
堂下がサングラスをかけていて、鍛え磨き上げられた肉体を持つことも知る由もない。
情報を全く知らない、恨みも何もない人間を、ニワトリは殺して亡き者にしてしまったのだ。


「母ちゃん…!! 待ってろよッ!!! 俺が願い事で100兆円お願いすっから……、今まで迷惑かけた分恩返しするからなっ!!!!」



死体に背を向け、真っ赤な刃物を振り回すニワトリ。

その隙だらけの背中ゆえに、彼は気づく由もなかった。



────死体の男がゆらりっ……と立ち上がることに。

────とどめを差し切った筈の、死体の男が。





「いいか………? 歯を…………っ、食いしばれっ………………!!!」

「…へ??」


スチャッ、とサングラスを直す音が背後から響く。
何ぞの音だ、とニワトリがふと後ろを振り返った時。
その時にはもう遅かった。


「俺は…………っ! 今から……、────お前を殴るっ…………………!!!!」

「えっ────」




 ズッパアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァッッッッ────────────




えっ、


なにこの男……?!

なんでさっき殺したはずなのに生きてんだ……?!

いつの間にどうやって距離を縮めたんだ………?!


…との、疑問三連符が思いついた時は、既に殴られた直後のことだった。
振り向きざま襲ってきた男の拳。
砲丸投げを直に食らったようなその衝撃が猛スピードで走り、顔を歪まされる。
頬に拳がめり込み始めたコンマ一瞬。その瞬時にして、痛みを通り越した熱さが沸きたち、(あぁこれ内出血しただろなぁ)と殴打の度合いを把握してしまう。



「ぐっぎゃぎゃあぁぁぁぁぁっ!!!!!!!」


──とはいえ、普段部活にて新田妹の酷すぎるシゴキを耐えてきたニワトリ。
首をグイッと衝撃のまま横に動かされたぐらいで、倒れたり転ぶことはなかったのだが。
血に足をしっかり二つ直立した上で、彼は目の前の『殴り者』に改めて驚愕の声をあげるのだった。

269『男たちは向かう』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/25(月) 18:59:28 ID:upGrLp560
「あっ…??!! あァっ??!! て、てめぇ????!」

「…はぁ、はぁはぁ…………。ぐっ…………………!! はぁはぁ………」


赤い吐息を漏らしつつも、握り拳を固く作るその男──堂下浩次。
これは亡霊か、それとも幻なのか。
────答えは、現実。頬の痛みが、信じられない目の前を現実と教えてくれる。


なんで生きてんだコイツは…??
死者蘇生…??
それとも、心臓を刺し損ねたから…?? いや、人間じゃないのか……??

目の前の男が生きている理由を、ショートした頭で必死に考えるニワトリ。
考えることに神経を使ったためか、ポロリと右手からナイフが溢れてしまう。
訳がわからなかった。
何故だか泣きそうな気分になりそうだった。


ポロ、ポロポロ…


「ぐっ……………………!!」

「あぁっ??!!!」


────先に涙を溢したのは、何故だか目の前の男。堂下からだった。



「いいか。勘違いするなよっ………!!! 俺は別にっ…! お前が殺し合いに乗ったことを怒ってるんじゃないっ……………!!!」

「え、え、えっ、あぁ???」

「むしろ尊敬………っ!!! 褒め称えたいくらいっ………!! 夢に向かって行動に移したお前は……………、立派だっ…………!!」

「な、ナナナなななナナナ、なにが言いてェんだよッ??!! オヤジィ!!!」


 堂下は泣いていた。
誇張とか比喩抜きで、湯気が沸き立つその熱い涙をポロポロ流していた。
耐えきれず、か。時折涙を袖で拭う堂下。
涙なんかよりも先に止めるべき体液…出血があるだろうとさすがのニワトリも思ったが、口にできなかった。

堂下の熱くて、暑くて、アツ過ぎるその眼差し。
そんなものをマンツーマンの対面でたっぷり浴びさせられているのだから、金縛りに似た直立不動しかできなくなっていたのだ。


「…ただ。俺がっ……。俺が怒ったのは、そのナイフ……………っ!!」

「え?」

「どうしてお前は武器に頼った…ッ!!! 答えろッ!!! 武器を使わなきゃいけない状況だったか────ッ!!? お前は武器を使わなきゃいけない程度の人間だったか────ッ?!! 違うだろっ、違うだろうがっ…………!!!!」

「え?? あ???」


「なぁ…違うだろうがっ………。お前は自分の肉体だけで闘える『勇漢』。…そうだろ、そうだろうがっ………。なんで諦めるんだよ、そこで……………っ────」




 “…いいか。”

 “殴られた痛みなど三日で消えるっ。”

 “だがな、武器なんかを使い、俺に殴られた…。その悔しさだけは絶対に忘れるなよ。”


…とかなんとか。恐らくそんなことを堂下は続けて言ったのだろうが、このときニワトリはあまり聞き取れなかった。
なぜ、俺はこいつに怒られているんだろう。
…そんな思いの中、半ば放心に刈られていたニワトリが最後に目にした光景は────…、

270『男たちは向かう』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/25(月) 18:59:41 ID:upGrLp560
「もう一回殴るぞっ…………!! これは体罰じゃない………っ。お前のためだっ…………!!」


「……えっ?!」


「…いくぞっ………!! 歯を、食いしばれっ…………!!!」


涙ながらにもう一発。
頬へ向かってストレートを向ける……──熱血教師のようなサングラス男の拳だった。



 ッ、パァァァァァァァァンッッッッ

271『男たちは向かう』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/25(月) 18:59:58 ID:upGrLp560




……
………

 思えば、これまでの人生たくさん拳を浴びたものだった。


視界は真っ暗。
あのグラサン野郎に殴られて気絶しちまったのか……と、闇の中ニワトリは一人思考を続けた。



(一番古い記憶だと、酒臭ェ父ちゃんからぶん殴られて………)


(あとは顧問による体罰、体罰、体罰、体罰、体罰、体罰、体罰、体罰、体罰、体罰、体罰、体罰、体罰、体罰。痛みの絶えない毎日だったぜ………………)


(そんだけ毎日ぶん殴られた、俺なんだが…………。なんなんだ、このっ…────)




(────『暖かみ』のあった……拳はっ…………? こんなに熱い拳を食らったのは、…初めてだぜ……………………)





(……畜生っ。何言ってんだよ俺…………)

(自分でも何言ってんのかさっぱりだぜっ…………。畜生、糞っ………………)




(…だけどもよぉ……………)




(さっき俺をぶん殴った──俺が殺したはずのアイツの拳は…それだけ…………)


(それだけっ…………!! 『魂』が籠もった……、温かみのある殴打………だったんだ………………っ)





(例えるなら、新田さんの作った弁当みてぇな、愛情感じる温かさ…っつうか)


(…例えるなら、小さい頃、俺が風邪を引いた時「ウイルスが死にますように…」と『殺マスク』を書いて作ってくれた母ちゃん……みてぇな)







(………そんな熱意を思い出させる、拳だったんだ………………………)




(そんな拳を今まで、一回も貰ったことなんかなかった………)





(なんでなんだっ………。なんでそう感じちゃうんだ……っ? 俺は……。俺は………………)

272『男たちは向かう』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/25(月) 19:00:09 ID:upGrLp560
不意に、頬から冷たい感触が包みこまれる。


真っ暗な意識不明の洞窟から抜け出した先には──雪原。

雪のように白く明るい、眩しい『現実』が訪れて行き。


ニワトリはゆっくりと目を覚ました。

273『男たちは向かう』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/25(月) 19:00:26 ID:upGrLp560



………
……


「…あ?」


ハチ公公園のベンチにて、缶コーヒーを頬に当てられ意識を取り戻す殺人ニワトリ。
当然、隣にはコーヒーを当ててきた張本人が座っていることになるのだが。
そこには、自分をぶん殴ったあのサングラス男が、当然の如くいた。


──拡声器からガーガーッと叫び通しながら。


「三嶋瞳先生ェ──────ッ!!! 三嶋大先生ェ──────ッッ!!! 貴方様の書いた本、俺は…猛烈にっ感動しました!!!! 貴方様をお守りしまぁ──────すッ!!!」

「いやうっせぇぞオッサン!!!!」



「…あっ。…起きたか少年。悪いな、お前の拡声器…。勝手に使っちまってな……!!」



ニコリっとこちらに顔を向けるサングラス男──堂下。
気絶前までは怒りと涙で混ざりきった表情の奴だったが、打って変わって今は爽やかな笑顔。
太陽みたいに笑う、温かさのスマイルだった。


「………………………」


何故に、奴は笑っている。
いやそもそも、何故に奴はわざわざ自分をここまで運んできた。
いや更に深掘るなら、何故に奴は自分と席を共にしている………?

ふと視点を変えれば、粉々に大破したハチ公像も気になるところだが、寝起きということもありニワトリは思考することを難としていた。
痛む頬がアンパンマンのように腫れ上がる………。



「…お前、夢は…なんだ…………っ?」

「…あ? ……なんだよ…………」


背もたれに両手をかけ、グラサン男が不意に話しかけてくる。
夢…。夢……。
自分の、夢。
なんと返せばいいのか鳥頭故に熟考に費やしたが、ニワトリはとりあえず『殺し合いの褒美──願い事の内容』で答えることにした。



「100兆円手に入れて母ちゃんを楽にすんだよっ」

「……くくっ。はははっ…!! …いい目標だなっ」

「笑ってんじゃねェーー!!! 真剣なんだぞ俺はよォッ!!!」

「…いや勘違いするな! 別に馬鹿にしたつもりは………ないっ……………!!」

「あぁ?!」


二人並んで座ったベンチにて、グラサン男側の背もたれが真っ赤にペイントしていく。
痛みや出血による体調の変化…。それらを一切気にしない様子なのか、男はカシュ、とコーヒーを開け、天を見上げた。


「俺の夢はな……っ、ラグビー日本代表になることだったんだ。熱く体をぶつけ合い、魂を込めてトライする………っ。そんなスポーツに俺は憧れを持っていた…………」

「…あ?」

「…全てはお袋を喜ばせるために──なっ…………! 俺、母子家庭だったからお袋に人一倍愛情込められて育ち、…俺も人一倍お袋を愛していたんだ…………………っ。お前みたいに…な」

274『男たちは向かう』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/25(月) 19:00:39 ID:upGrLp560
明かり乏しい真っ黒な公園
ブラックコーヒーが、黒ずくめの男の喉を流れていく。
一瞬(それ、俺の為のコーヒーじゃねーんだ…)と思うニワトリであったが、そんなツッコミは瞬時に頭から流れ去る。


「………………………」


堂下の『母の思い』から始まる語りは、どうやらニワトリの心内で何かが動いた様子。
淡々と語る男の話を、気付けば親身になって傍聴していた。



「ラグビーの名門T京大学にさ………。お袋は身を粉にして俺を入れてくれて──」

「──俺は嬉しさを感じると同時に…………っ。絶対恩返ししようっ、絶対頑張ろうっ、って決意したんだ……………っ!」


「……………おう」

「絶対に、絶対にっ…………って………──」



「──ただ、あの頃の俺は甘かったんだ………っ」

「あ? …なにがだよっ、おい」

「大学のラグビー部ときたら、なんというか…激流………っ! 高校の頃と比べものにならないくらい…キツさがあってな…………っ。苦しくて………っ。耐えるのもやっとな日々だった………………」

「…おう」



「だから、心的余裕が無かったんだろう………。ある日、お袋の弁当が異様にしょっぱくて、不味すぎて………。帰宅後、思わず俺は言いたい放題しちまったんだ……………っ。捌け口に…な………………っ」

「あ?? …おい自分の母ちゃんに何言いやがったんだてめえっ!?」

「……あの時の俺は、最低だった。言っちゃいけないことも吐いて、弁当作るな…つって。……「ごめんごめん」、と謝るお袋を無視して部屋に閉じこもった…………」



グラサン男は、瞼をゆっくり閉じて。
力なく、缶コーヒーを地面に落とした…。



「翌日家に帰ったら────お袋は倒れていて。脳梗塞でそのままいなくなったんだ…………………。永遠にな……………っ」


「…………………あぁっ……?!」


「あぁ、天国に。永遠に………なっ」




「…じゃ、じゃあ弁当が異様な不味さだった理由っつうのは……──…、」


「…ああ。無理して、作ってくれたんだよ。………無理して、俺の為に…………………っ」




「………………………………」




コーヒー缶が風に吹かれて、カラカラカラ……と道路へはみ出ていく。

275『男たちは向かう』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/25(月) 19:00:53 ID:upGrLp560
「だからな。お前を見てるとな、そんな昔の俺を思い出して気が気でなくなったんだよ…………っ」

「…あ?」

「あの頃の俺を見てるようで………。どうにかしてやらねぇと…ってな………! だから、さっきは感情のままぶん殴ったんだ………っ! ──…悪いな。まだ頬痛むか?」

「…………………」



頬は確かに未だ痛かった。
殴られたダメージで奥歯が何本か逝った為、口内もヒリヒリする。

だが、そんな痛覚よりも………っ。
いや痛覚なんか気にさえしない………、今は………っ。

ニワトリは、頬の痛みよりも何よりも。
──目からこみ上げる熱い感覚の方に意識がいって、強く…熱く…震えざるを得なかった。




「…ぐううっ!! がぁっ……!! ひぐっ、ひぐ!!」





(────なんて、なんて切ない話なんだっ………。畜生っ……!!)



(……………しかもっ…………。いや、それよりもっ……………)




(すごくかっこいい………、凄すぎるぜ……………)


(何がかっこいいって…このグラサン男…………。俺があんだけ滅多刺しにしたっつうのにピンピンしてやがる………! いや、それどころか俺のことをこう親身に触れてきてくれるっ…………!!)

(その器量の大きさ……。そして、奴とシンパシーが感じた『母への愛』が……………深すぎて………………)



「ぐっ!!」




(あぁそうか……。俺が奴から殴られたとき感じた『温かみ』って、このことだったんだな…………っ!!)





「うっ、うっ、うぅっ……!!! があっ…………!!!」



(────漢の魂……………!!! すごい、すごすぎるぜっ!! おいっ!!!!!)



男泣き────っ。

グラサン男の語った内容は短く端的だった。
それも淡々と。話し終えるのに五分も掛からないものだった。
だが、その短い時間に込められた『母への愛』──。
そして『真の漢』としての熱い感情がニワトリの心を揺さぶって止まりを見せない。
男の熱意に負かされ、もはや頭が痛くなるくらいに…呼吸がし辛くなるくらいに…ニワトリは泣き晴らした。

276『男たちは向かう』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/25(月) 19:01:16 ID:upGrLp560
地面に捨てられたコーヒー缶からもポロ、ポロと液が、零れ落ちる。
夏場だというのに、そのコーヒーはつめた〜いではなく『あったか〜い』。
熱い。あまりにも熱い温度だった。



「だからな…。…One team────っ!!」

「…うっ、うっ……!! えっ、な、なんだ……?」


「────俺に付いて来いっ………!! 少年めがっ…………!! …〜だなんて、利根川先生風に言ってみたが………。いいよな?」

「………うっうっ…! あぁ…あぁっ!!」



ニコリッ、と肩を組んでくるグラサンの熱血漢。


もう一度だけ振り返ろう。
ニワトリを男として熱く接し、血濡れの彼を更生に導いた………この男の名前は────…、


「───俺は堂下浩次………!! よろしくなっ……………!!!」

「俺は殺人ニワトリ…っ!!!! 兄貴って呼ばせてください!! 兄さん…!!!!」

「あぁ!!! 弟よ、殺人ニワトリよっ………!!!」



────以上の通り、だ。
ニワトリと初対面時、握りしめられていた怒りの拳も、今や手のひら。
相手とその手のひらを合わせれば『掌〈たなごころ〉』となる。


ラグビー日本代表が南アフリカを打ち破った、あの年の男達の汗と涙と絆…。
それに匹敵するぐらいの大番狂わせが、このバトル・ロワイヤルにて引き起こせるのか、否か。

男たちは、向かう────。






 カチッ


「三嶋大先生ェッ────!!!! 貴方様のことは、私堂下浩次と、殺人ニワトリが絶対に救いますッ────!!!! ノックオッ────ンッ!!!!」


「それと新田さん…、いや新田義史ッ────!!!! 俺と兄貴がお前なんかけちょんけちょんのやべぇ〜ことにしてやるから覚悟しろやゴラァッ────!!!!」


「そうだッ────!!!! 新田ァッ────!!!! ニワトリから聞いたぞっ…!! 金髪にオールバックでヤクザみたいな風貌のお前ッ────!!!! お前には絶対負けない、負けないからなぁッ────!!!!」




「「うおっ…うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」」






「「三嶋瞳大先生、バンザァァァァァァァァァァァイイイイイイイッ!!!!!!! バンザァァァァァァァァァァァイ!!!!!!!」」

277『男たちは向かう』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/25(月) 19:01:28 ID:upGrLp560
【1日目/A4/公園/AM.05:18】
【殺人ニワトリ(山中藤次郎)@ヒナまつり】
【状態】頬の腫れ(軽)
【装備】サブマシンガン
【道具】拡声器
【思考】基本:【対主催】
1:堂下アニキに一生ついていく!!
2:新田…ぶっ殺すぞっ!!
3:みしまひとみって誰だ?

【堂下浩次@中間管理禄トネガワ】
【状態】背中出血(大)
【装備】なし
【道具】本『私だから伝えたい ビジネスの極意』
【思考】基本:【対主催】
1:三嶋瞳大先生にお会いして、忠誠を誓う。
2:殺し合いを終わらせる。
3:never give up。ニワトリと共に最後まで諦めない……っ!

278 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/25(月) 19:14:43 ID:upGrLp560
【第3回】シンアニロワコソコソ噂話!!

『主催者の最期!?』

主催者はネルフ@シンエヴァ、スレッタ母。以上の通りです。
クワイエットゼロと人類補完計画が似ていたのでこの組み合わせにしましたが、彼らは全員第7回放送直前でゲッターの戦艦に駆逐され死亡します。
これにて殺し合いは終わり救助のヘリが来ますが、「こんな終わり方でいいのか?! 今までたくさん殺して闘いあってきたのはなんだったんだ!!」と窪が救助ヘリを撃ち落とし、最終決戦に入ってくのです…。

…三行でコソコソ話が終わってしまいましたね。
ということでおまけで、シンアニロワ生還者の後藤ひとりの動向をまとめます。

1回放送『2/4 夢の旅』→リコと別れる。チュチュと行動。ぼっち、チュチュにビビりまくる。
1回放送『クリス・ロック』→学校で牧瀬と会う。共に行動。
2回放送『Hacking to the Gate』→橋田、あかねと会う。共に行動。
2回放送『ドクターペッパーの弾けた昼』→5人で休息。
2回放送『スクール・オブ・ロック』→学校に移動する。
2回放送『ブラック・ロック・シューター』→ジークに襲撃される。が、撃退する。
3回放送『rock to the future』→ぼっち、放送でリコの死を知り憔悴。その後、リコの焼死体を見つけ一人で泣いてるところを窪に襲撃される。…殺される直前、『外部乱入者』に助けられる。

…ってな感じです。
その外部乱入者というのは有馬かなが絞殺された回終盤で、出てきた謎のキャラ。
そのキャラはぼっちにとってかけがえのない人物で、着想はクレしんの『オラの花嫁』で得ました……。

次回→思いつかないけどワンチャン今週に投下

279『僕と彼女と僕の生きる道』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/27(水) 19:10:26 ID:njKj5X3E0
[登場人物]  [[田宮丸二郎]]、[[クロエ]]

280『僕と彼女と僕の生きる道』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/27(水) 19:10:42 ID:njKj5X3E0
 どす黒い物がベッタリと張り付いた夜空にて。
俺とハジメの二人は、通りかかった牛丼チェーン店で午餉を始めていた。

俺が頼んだ品はシンプルに牛丼並盛。
こいつにセルフサービスの紅生姜をふんだんに盛り付け、一気に掻き込む。
──ふんだん、と言うからにはその紅生姜の量、ただならない。たっぷり山のように乗せ、肉が全く見えないくらいになったらようやく食す。


ガツガツ、ガツッ。
うん。不味い。


そら美味い筈がない。
食っても食っても紅生姜のしょっぱ酸っぱい味しかせず、逃げ場など皆無。
本来なら主役であるはずの肉や米を、たかが口直しのアクセントである紅生姜が喰ってしまい、食べることへの喜びなんか感じられない一品だ。

だが、俺はこいつを無性に食いたくなる──その瞬間がたまに訪れてきて。
自分を励ますために、俺は我を忘れて紅生姜の海へとセルフダイブする。


「あ……。確かに変な食い方だよな、ハジメさん。でもこれを考えたのは俺じゃないぞ? 焼野原っていう変なやつにインスパイアされて始めたんだ。はは…」


俺の隣席にて、ただただテーブルを眼に映す──ハジメさん。
彼女の顔は疲れ切ったという様子で、虚ろな目で無言を維持していた。


「味はさ。確かに味はすごい不味くて。ほら、この見た目だし絶対に体に悪いだろ? だから真似をするのはオススメしないな」


メガネを外し、裸眼の顔でずっと。ずっと虚を見続ける。
そんな彼女。


「だけどな。…食わずにはいられないんだよ──」


「──『前を向きたいとき僕はビッグマックを食べた〜』ってCMがあったが。俺にとってはまさしくこれ──」





「──耐えられないくらい嫌なことがあったら。俺は必ずコイツと人生相談をするんだ………………」



俺の投げ掛けた言葉に、ふと彼女の体が反応した。
体がバランスを失いグラッ、とゆっくり傾くと────。



ベチャッッ。




「………………………」



──床に勢いよく倒れていき、血塗れの頭をジンワリ湿らせていった────。




彼女はもう二度と動かない。

いやというか、数時間前から完全に事切れている。




「………………………ああ………………。俺は………」





────俺は、自分が助けた尾張ハジメを殺してしまったのだ…──。
────ただ、彼女の食べ方が気に入らなかった──。

────それだけの理由で。…それだけの理由なのに………………──。

281『僕と彼女と僕の生きる道』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/27(水) 19:10:52 ID:njKj5X3E0




 …手厚く埋葬の方をしたかったが、アスファルトまみれの渋谷に柔らかい土など見渡らない。
とりあえず墓代わりに…という考えで、着ぐるみの中に彼女を入れて埋葬した。



いや。


違う。…違うっ。



これは埋葬だなんて綺麗な行いなんかじゃ、ない………。
俺は単に隠したかった…。見たくなかっただけなんだ……。

彼女の死体と、自分が人を殺した現実………を。

282『僕と彼女と僕の生きる道』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/27(水) 19:11:09 ID:njKj5X3E0




 『ビリー・ミリガン』。
俺達の世代からしたら馴染み深い犯罪者の名前だ。
一時期ワイドショーで大きく取り上げられたので嫌でも知る羽目となったんだが、奴は『多重人格』の犯罪者。
つまり、普段こそはごく普通の一般人だけども、ふとした瞬間、犯罪欲求の危険人物に人格が変わるとの輩らしい。
犯した罪はチンケなものだったが、その精神異常が認められビリーは無罪となった。


──今気づかされたのだが、俺はビリーと一緒だ。
内面の中、密かにもう一人の『サイコパス』な俺が存在している。






「………………………タバコ、久々に吸ったが…美味いな──」


「──俺にとってタバコは香りよりも後味だ。特にこのメビウスの………。なんていうか、ミルキー感ある後味が好きだったんだ……………………」




 店内の喫煙席にて、現実逃避するかの如くタバコを始めた俺。
自分の心を少しでも安らがそうと煙を吸い続けたが、吸っても吸っても、煙は『罪悪感』を覆い隠してくれなかった。
血の匂いも、ヤニのきつい香りじゃ消してくれなかった……。



……話を戻す。

 俺は間違いなく精神を病んでいて、心の中に『殺人鬼の別人格』がいる。確かなことだ。
これは決して、自分の犯した罪を正当化する意図はない。…あぁ、確かに正当化してるようにしか聞こえないだろうが、本当に事実なんだ。

というのも、俺は今日以前から、その『サイコパシー』の片倫が度々現れていた。
過去を振り返ると、一番古い記憶では、婚約者のみふゆと初めて朝食を共にした時。
ブレックファストメニューは目玉焼き定食で、彼女手作りのとろけるお月見を旨い〜旨い〜と食ったものなんだが。

そのとき、ふと見れば、みふゆは黄身だけを残し白身を全部平らげるという食い方をしていたのだ。


それを見た時、俺は思わず口に出てしまった。



────お前、『バカ』か…?




二番目の記憶はトンカツを食った時。
──厳密に言えば、この時の注目はトンカツのキャベツを食った時。
みふゆは、「カツを食べて飲み込んでからキャベツを食べる」という食べ方をしてるらしく。
いわば、キャベルは脂っこい口の中を中和させるためだけの存在、との認識をしていたそうだが。


それを聞いた時も、俺は思わず叫んでしまった。



────俺はキャベツが純粋に美味くて食っているんだぁ!!! それだというのに………っ。…中和させるくらいなら最初から食うなああぁぁぁぁっ!!!!!!!




三番目は、ステーキハウスに行ったとき。
ライスをフォークの背に無理やり乗せて食ったら、みふゆに「無理してそんな食べ方をしなくていい」と言われ、…思わず。


────お前なんかに俺の気持ちが分かってたまるかぁああぁぁぁっ!!!!!!!

283『僕と彼女と僕の生きる道』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/27(水) 19:11:25 ID:njKj5X3E0
みかんを食べた時だって。

────お前俺の剥き方見て笑ってたんだろ?! バカにしてたんだろぉおおっ!!!!



ちらし寿司を食べた時だって。

────ワサビ醤油を丼にかけてから食うだろっ??!!! バカか??!!



目玉焼きが、パンとセットのときだって………

────黄身を早々に潰してパンにつける…だとっ…………?! ふざけるな…。そんな食い方………話が違うじゃないかぁぁあああああっ!!!!!!!



………
……



こんな感じだ。いつもそうだった。
俺の内たる『悪魔』が顔を覗かせるシーンは、いつも決まって──…人と飯を食っているときだ。
それも、他人が自分と違うスタンスで食っているときに限り。俺は怒りで我を忘れて発狂してしまう。

サイコパス人格に切り替わった俺はみふゆを小汚く罵倒した。
人格否定もいいところ。とにかく暴れまくった。

だから、元の正常な人格に戻った時。
口癖のように俺はいつもこう呟いた。
──「気づけばみふゆは怒って居なくなっていた」……と。




「………………………………ふぅー……」



 食が絡むとどうにも俺はイカれてしまう。
自分でも分かるくらい、もはやキ印の域に達している。
今までもそんな感じでたくさんの人に迷惑をかけ、その時その時で山程反省をさせられた。

……だが、
今回…。

俺は、とうとう超えてはならない一線に踏み込んでしまった……。
現代社会を全うに生きる人間なら絶対にしてはいけない禁忌を犯したことになる……。
我を忘れてただ暴れるだけならまだ良い方。──俺はとんでもないことをしてしまった………。

脳が機能を停止する最期の時まで、滅多打ちにされ続けた彼女────ハジメは何を思ったのだろうか。
被害者の気持ちを、殺した張本人である俺が代弁するのも忌々しいことだが、…きっと彼女はこんなことを考えていた筈だ。
──何故、この人は暴れているのだろう。理解できない。────と。


申し訳ない……。


本当に申し訳ない。
謝りきれなくても謝りたい。御免なさい……っ。

──俺自身も、何故暴れたのか理解できないんだ。




「………………………………………くっ」



 どんなに辛いことがあっても自殺なんかは絶対選択肢に入れなかった俺だが、ハジメ殺害後は自然と自死を実行していた。
潰されそうなくらいの喪失感の中、自分の両手を首にかけ、グッ…と長い時間圧迫する。
絞め続ける中、俺はずっと心の中で唱えた。…ずっと自戒し続けた。
「お前のせいだお前のせいだお前のせいだお前のせいだ……」。心の中はその言葉で埋め尽くされ、ただ死が来るのを待ったが、……結局自殺遂行はできなかった。
…まぁ当然だ。
自分の首を絞めて死ぬことなど考えなくとも不可能と分かる。
苦しくなるにつれ本能的に自制がかかるわけだし、それを振り切って締め続けたとしても、気絶して腕の力がなくなる。
だから、俺は今も生きている。死ねなかった。
──自殺するにしても他に確実な方法はたくさんあるのに、それもしなかった。

284『僕と彼女と僕の生きる道』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/27(水) 19:11:42 ID:njKj5X3E0
洗ったはずなのに、何故だかまだ未だ真っ赤に見える掌。

俺はこの手で自分の首を絞め、牛丼を食い、ハジメを殴り殺し、彼女を襲った襲撃者を殴った。
そして、かつてみふゆに指輪を渡し、みふゆの手を取って抱きしめた────この手。

…情けなさと激しい自侮感で涙が出そうだった。



俺はこれからどうすればいいんだ。



今までの人生、食べ方について暴れた後、色々な考えを見聞きして、自分自身の成長と理解に繋げてきた俺だが。
今では、どう行動することが一番の正解というんだ。




本当に………、俺は……………………。
どうすべきなんだ。…なぁ。




…なぁ。





「………………………………………ふぅー……」







「────思い上がるな。ニコチンパンジー」






「…えっ」


「傍を通るだけで煙を浴びせられる。非喫煙者たちの気持ちが分からず、よくタバコを吸ってられるな。オロカモノよ」



……こんな俺に、なんの用なのか。

話しかけられるまで、喫煙席そばに女子が一人立っていることに気づかなかった。
口が三角形な点以外はごく普通の見た目の女子高生。…多分、ハーフかなにかの子なのだろう。金髪とブルーアイが特徴的だった。
すぐ近くまでその女子が迫っていたというのに全く察知できない…とは。
それほどまでに俺は追い込まれ、もう無我夢中で罪悪感に潰されていたんだな……。
はぁ……。もうさっさと消えていなくなりたい。


俺に構わないでくれ──。
クズな俺なんかに話しかけないでくれ──。


彼女を追い払おうと俺は重たい顔をやっとの思いで上げた。


「………………………」




────そして、見てしまった。

285『僕と彼女と僕の生きる道』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/27(水) 19:11:55 ID:njKj5X3E0
「煙草は迷惑だからやめろ。…とチンパンジーに説明をしても無駄だが、私の虫が治まらん。言わせろ。おヌシら喫煙者はいつも被害者面をするが、100%加害者だ」


「…あっ、あ………!! あぁああっ………………」




────何を見てしまった、…とは。

────別に女子高生の姿を見て怯えたとか、ましてや彼女がなんかベラベラ喋る内容に心が刺さったわけでもない。


────俺が見てしまった。…目に焼き付けてしまった……『モノ』。




「嫌われるような真似をして嫌われているだけというのに、何故おヌシら喫煙者は被害者になりたがるのか。物事の本質を見ろ、ドアホウ」


「…や、やめろ……………。やめてくれ…………………」




────目に焼き付いたのは、こんがり焼かれたフランスパン。

────女子高生が手にしている、その長くて硬いパンだった。



「やめろ、か。私の説教にそこまで心が滅入るとはな。だが辞めぬぞアホウ。私はおヌシがタバコをやめるまでずっと言い続ける。辞めてほしかったら貴様がまず喫煙を辞めろ。よいか」

「そ、………『それ』を…………。俺に見せつけるな…………」

「…………? なにを怯えている。私は何もおヌシに見せつけてはおらぬぞ。もっとも私自身がお主にヤニ臭いそれを見せつけられているのだがな」

「や、やめろと言ってるんだっ……!!!!!」




────俺は、食い物…。…いや、人が物を食ってるとこを見ると我を忘れる。


────我を失い、サイコパスにも程があるもう一人の俺が出てきてしまう。


────自分と同じような食べ方をしてるなら別に何とも思わない。…ただ、少しでも違和感を感じる食べ方だと………。狂ってしまうんだ…………。



「だから……やめろっ…。やめろぉっ!!!!!」

「………おヌシ、気は確かか? ──もしやそのタバコ……、法を犯した成分が含まれているか…? おヌシが吸ってるモノが麻薬だとするなら…私も容赦はせぬぞっ………」

「だからやめろと言ってるだろぉおおおっ!!!!!!!!」



────頭の中に過る、パイプ椅子で頭がクシャリと割れたあの鈍い音。


────あんな真似はもう絶対にしたくない。

────そしてこの名前を知らぬ彼女も手にかけたくない。


────彼女の為にも、そして自分の為にもなるから、なんとかしてこのフランスパン女子を遠ざけたかった。

────逃がしたかった………。




────それだとというのに。

286『僕と彼女と僕の生きる道』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/27(水) 19:12:15 ID:njKj5X3E0
「まったく…呆れたやつだな。おい聞けオロカモノ、今日はみっちり説教するから覚悟を決めるのだな」





────女子高生は、やれやれ…とそのフランスパンを口にし始めた。



────────…フランスパンの皮の部分をメリメリ剥がし食べた後、白い生地を、富士山みたいな口に放り込む…。そんな食べ方で。






「あっ………………。あぁ…………………」


────俺はもう、頭が真っ白になっていた……………。







バンッ──と椅子が宙を舞う。


「!!?? な、なんだオロカモノ!! その態度は──…、」

「黙れッ!!!!! き、貴様はぁあぁぁ…………ッ、なんて食い方を……ッ」

「?????」




────今、彼女に怒鳴り散らしているのは田宮丸二郎。俺なんかじゃない。

────俺の心の中にいる隣人十八号──…『もう一人の俺』だ。もう一人の俺が、逆鱗に触れられ目覚めてしまった。




────…必死に抵抗した。

────…もう一人の俺なんかに負けてはいけない。

────心の中で悪魔と死に物狂いで抗った。

────悪魔と取っ組み合いに発展し、まさに映画のファイトクラブみたいに、必死で自分と殴り合った。

────ほんとに必死で、闘ったのだが…………。



────不意にニヤりと。ヤツは俺にこう語りかけてきた。




────『…………素直になれ。許せないだろォ? あのふざけたフランスパンの食い方がなっ……!』






────その言葉を聞いた瞬間、俺は頭の中が真っ白になり。意識がだんだん薄れていった………。






「貴様は………『剥がし魔』かぁあぁぁぁぁぁあああぁあアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!!!!!!!!!!!」





「────ぴぎゃっ!!!!!」


………
……


287『僕と彼女と僕の生きる道』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/27(水) 19:12:27 ID:njKj5X3E0




────気がついた時には、俺は車の運転席──。

────女子高生を縛って拉致し、他人の車を乗り回していた──。



「…車の窃盗に、拉致監禁、暴行。行く行くは婦女暴行か? おヌシはいくつ犯罪を重ねる気だ。…ふざけるな。めちゃくちゃだぞ…おヌシ」

「うるせェっ!!!! 一番重要な罪ハブいてんじゃねぇッアホ!!!! もうすぐ『殺人罪』も犯すつもりだからよ! 誰が被害者になるのかちっさい脳みそで想像しとけゴラッ!!!! 」

「ぴっ?! ぴぎぃ…………」




…俺は、なんて暴言を。

なんで吐いたんだろう?


なんで俺は今ハンドルを握っているのだろう?


助手席で頬を腫らす女子高生……、これは俺がぶん殴ったのか……?




俺は一体、なんてことをしてるんだ……?





「……はぁ、はぁ……っ!! ぐっ、クソッ…!!」



サイコパス人格から我を完全に取り戻したとき。
その時はもう、遅かった。

誰か、もう殺してくれ。
俺を誰か止めてくれっ…。


そして、頼むから誰も一人とてもう──俺の目の前で飯を食うな……………。


頼む……からっ…………。

288『僕と彼女と僕の生きる道』 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/27(水) 19:12:40 ID:njKj5X3E0
【1日目/D7/表参道/AM.1:45】
【田宮丸二郎@目玉焼きの黄身 いつつぶす?】
【状態】放心状態
【装備】なし
【道具】なし
【思考】基本:【マーダー】
1:…気が付いたら俺は、クロエを拉致誘拐していた。
2:どうすればいいのか自分には分からない。

【クロエ@クロエの流儀】
【状態】頬殴打(軽)
【装備】フランスパン@あいまいみー
【道具】タバコ@クロエの流儀
【思考】基本:【静観】
1:どうにかこの状況を脱さねばな………。
2:見境なく説教して気持ちよくなる。

289 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/27(水) 19:21:17 ID:njKj5X3E0
【第4回】シンアニロワコソコソ噂話!!

『私の姉は後藤ひとりです。謎の少女の告白…』

エピソード『rock to the future』にて、ぼっちは窪くんに殺されかけますが、その時助けに来たのがなんと妹・後藤ふたり。
それもかなり成長した姿(高校生ぐらい)で、ぼっちの前に現れます。
窪撃退後、ふたりの説明曰く、「自分は殺し合いが惨劇で終わった世界線の──未来から」来たとのこと。
その世界線での生還者・橋田至と協力してタイムマシンを発明し、自分の姉を救うため乱入したのです。

殺し合いに乱入するとなれば準備万端のふたり。
格闘術を身につけたうえでスパイダーに噛まれ超人化。おまけにジミヘンも『式神・玉犬』と化したので、ぼっちにとっては心強すぎるボディーガード。
ほぼほぼ阿万音鈴羽化したふたりと共に、チュチュ先輩らと合流するのでした………。(続)

次回はどうしても書きたかった初登場話2選についてお話します。
では、死ななかったらまた会いましょう。


次回→ダン飯改めて読み直したのでそれにちなんだ『ゆりこん2』か『鳥貴族』、『我が友よ冒険者よ』投下

290 ◆UC8j8TfjHw:2024/11/27(水) 19:22:57 ID:njKj5X3E0
あともしかしたら『明日の天気は曇りでしょう』『優しいおじさん』のどっちかも投下します。
挙げた5話すべてダン飯絡みです。

291『ゆりこん2』 ◆UC8j8TfjHw:2024/12/02(月) 21:05:41 ID:k02c0U/k0
[登場人物]  [[田村ゆり]]、[[藤原千花]]、[[マイク・フラナガン]]

292『ゆりこん2』 ◆UC8j8TfjHw:2024/12/02(月) 21:05:57 ID:k02c0U/k0
これは私が高校一年生の頃。
智子と出会う以前の、空がどんよりしてた日々の話。





……
「まこっちー、この本すごい面白かったんだけどー! あれどこで知ったの? また貸してよねー」

「ほんと? 良かったー。この『妄想ラノベ』って小説、打ち切りなんだけどいい本だよねー。ゆりも面白いって言ってたよ」

「えー?! 田村さんもこれ好きなの? まじー? 私と気が合うじゃーん」



「…はははっ。面白い話だったよね、美馬さん」



 いつもと変わらない街。
いつもと変わり映えない天気の中。
その頃の私は作り笑顔を浮かべながら登校していた。
四人グループで、軒を並べながら。

私と真子とアイツと、そして美馬さんのグループで固まり、毎日同じ道を、同じ目的地目指してボンヤリ歩く。

女子は余り物になるのが嫌いだから、私もこうやって友達のように彼女らと喋り歩いたけど。……真子を除いて、アイツと美馬さんの二人とは心の底からのフレンドリーさは感じていない。
多分…──というか確実に美馬さんら、も私を上っ面だけの友達と認識してると思う。


マージャンで例えれば、
私→一萬、真子→二萬、アイツ→三萬、美馬さん→四萬…みたいな感じで。
いつ切られようが何とも思わない、形式上『友達』になってるだけなのが、私たちのグループだった。



美馬さんの隣にくっついていたアイツが、唐突に口を開いた。


「──…えっ?! ブフッ!!! ちょっと見たぁ〜??! 今すれ違ったやつの見た目ぇ〜〜!!」

「え、何いきなり? 小陽ちゃんどうしたの」

「めちゃくちゃ痛い格好の女いたんだけどぉ〜〜〜!! アハハッ!! そいつ黒い手袋に黒タイツで歩き読書しててさぁ〜〜、まじやばくなぁ〜〜い? 超ゴスロリで笑ったんだけどぉ〜!! あははははっ」


「……………」

「…は、あはは……………」


「南さん、そういうの笑うのはよくないよ?」

「……………えっ…?!」

「失礼だし…、その人に聞かれてたりしたら大変な目に遭うかもよ。ねぇ、ゆりもそう思うよね」

「…え? あー…えっと……。どうなの、かな………」


「…えっ、…えーー………………」


すると、アイツの耳元に。美馬さんが引いた顔で見ながらも、ひそひそ口を当てて。


「…………──」


「──…(…小陽ちゃん)」

「……(えっ…なに?)」


「…(私もそいつ見ちゃった。めちゃくちゃ服装キモかったよねー…!!……ふふっ!!)」

「……!!(!!! だよねー!!! ほんと絶対友達いない感じの人だったし! はははは〜!!)」



その漏れ聞こえた陰口を聞いて、私はただ、微妙な愛想笑いを浮かべながら無難な反応しかしなかった。
────あの頃の私は。


「…………ところでゆり、次の体育なんだっけー」

「……あー。前と同じテニスじゃなかったっけな」

293『ゆりこん2』 ◆UC8j8TfjHw:2024/12/02(月) 21:06:16 ID:k02c0U/k0
本当の私は、今すぐにでもアイツに鉄槌を食らわしたい欲があるほどの暴力性があった。
本当の私は、美馬さんらに「真子とだけ歩きたいから消えて」と言ってしまうほどのわがままだった。
本当の私は、マイペースにイヤホンをはめて、会話から逃げ出すような協調性のない人間だった。
でも、そんな女子じゃ学校生活で楽しくやっていけなんかできないから。──こうして、無難で当たり障りのない女子を演じている。


あの頃の私はこの登校中。この四人で固まる時間がほんとに窮屈で、抜け出したくて。
早く学校に着いて、一人の時間でいられる『授業時間』にならないかと。
軽い憂鬱な気持ちだった。


──その憂鬱な時間は、下校時にも訪れる。
まるでタイプが違う形だったけども。



……


「まこっちじゃあねー。また明日ね」

「うんっ。バイバイ、美馬さん、田村さん」

「じゃあね…」


電車から真子が降りて、扉が閉じきるこの瞬間。
私は毎日毎日、嫌いだった。



「…………………」

「………」



美馬さんと、私。
共通の友人がフェードアウトして二人きりになる、この時間。
──十分弱の乗車時間が気まずすぎて、ほんとに苦手だった。


「………」

「………」


私らに会話なんか一つもない。
美馬さんはわざと私から背を向けスマホをいじり、対する私も美馬さんに気づかないフリをしてイヤホンをはめる。
別に私ら二人はかなり険悪だったとか、そういうわけじゃない。
…というか、そもそも喧嘩に発展するほどの会話なんか一回もしたことがない。

美馬さんが途中下車する帰りの──、


「……じゃ。…田村さん、またね」

「うん。バイバイ…」


──が、唯一交わされる会話だった。


美馬さん相手になんの会話をすればいいのか分からないし、相手だって私としたい話なんかない。
声には出さずとも互いに嫌なオーラを出し合うあの空気感が、ほんとに気まずくて。三家さんが作ったお菓子よりもまっずくて、
必然的に私は美馬さん(…とアイツ)のことが苦手になっていた。



うん。
私は美馬さんが苦手だった。
波長が合う合わないとかそういうんじゃなくて。
…とにかく居心地の悪い相手が彼女だった。



──だからこそ、冬休み突入前の。あの日のことは今でも深く印象に残っている。

294『ゆりこん2』 ◆UC8j8TfjHw:2024/12/02(月) 21:06:33 ID:k02c0U/k0
「……………」

「………」


真子が下車したあとの、いつも通りの気まずい空気感。
あの時の空気は雪の影響でひどく冷え切っていて、補修を終えた後という時間もありよくよく見渡したら──車内は私たち二人しかいなかった。

窓に映える、ちらつく雪。
急停止し揺れる電車と、車掌からのアナウンス。


『えーー。大雪に見舞われたため、大変申し訳ありませんが六時まで停車いたします』

「………ハァッ?!!」


スマホの時間を確認すれば、その時は『17:03』。中々の長丁場が予想され、寒気が酷い瞬間だった。


一時間近くも………。この電車に缶詰状態………。
充電パーセンテージも残りわずか、十パーセントほど。
スマホがブラックアウトした暁には、仕方ないし寝たフリでもしようかな…。って、私は耳をちょっと掻いた時。



「…ねえ、田村さん」

「……えっ」




「ぶっちゃけさー、ブタ…──小陽ちゃんのことどう思う? …どう思う、ってのはつまりさぁー、…好き? 嫌い? どっちなの?」

「…えっ……。み、南さんのことが……? ていうかブタって今言いかけ──…、」

「私さぁー、あいつのぶりっ子感? ってゆーか。常にキョロキョロしてるとこが、すごいウケるんだよねーー。あいつマジな方でやばくない? 正直」

「……う、うん……。どうかなぁー…」



「ところでさぁ、田村さんはいっつも何聞いてんの? ねー?」



横にいた美馬さんと、進学以来初めて会話をした。
話題にしてる題材が題材なだけ、それはすごい醜い会話の内容だったんだけども。



……
「…ははははっ!! まじー? 田村さんウケるんだけどーー!」

「あはははー………! それはないって美馬さーん…!」




雪原に咲く、茎の高い白い花が風に揺らされた──あの時間。

電車が動き出した後も私らは夢中で話を続けた。
別れ際、鬱屈ないつもと違って、互いに晴れやかな顔で「またね」と交わし。
雪が降り続ける曇り空だというのに、心が晴れ晴れして清々しかった。


これが、最初で最後となる美馬さんと話が咲いた瞬間。

あの時彼女と共有した妙な楽しさは、これでもう最後。二年生以降は、彼女と別クラスになり必然的に距離を置くこととなる。


私と美馬さんの平行線がほんの少しだけ交じった時間で、他愛もない時だというのに。
今でもたまに、脳裏に過ぎる。


それだけの…。
それだけの……話。


本筋とは全く関係がない、そんな話。

295『ゆりこん2』 ◆UC8j8TfjHw:2024/12/02(月) 21:06:51 ID:k02c0U/k0





…疲れてる気持ちは分からなくもない。



「グオォ────────ガァ────────スピスピ…。グオォ────────ガァ────────スピピ……」


「…………」



でもこの状況で眠りこけれるなんて相当危機感がないと思う。



 カナダ人のおじさんが眠り始めて何分経ったか。
バーにてしんみりとBGMをしていたジャズは、地鳴りのようないびきで完全にかき消されている。
ソファでぐっすりのマイクというおじさんにはマナーモード機能がないのか。
…はっきり言ってイライラするくらい五月蝿かった。


「…あ〜。ゆりちゃんまだ起きてたの〜〜? 眠くないんですかぁ〜?」

「………寝れるほうがおかしいでしょ。色んな意味で」


違うタイプでうるさい人がもう一人。
私の隣に座る藤原さんとかいう人も、二十四時間フェス状態のやかましい人間だ。
私は彼女気に入られでもしたというのか。
話しかけてもいないのに、さっきからやたら五月蝿く絡んできてて……、
今もこうして、ムニャムニャの面で私に話しかけてきた。
…ピンク髪の女子ってなんでこうも変なノリの人が多いんだろう。内たるストレスゲージがどんどんどんどんと溜まっていく。


「そうだゆりちゃん! マイクおじさんが眠って、女子二人のみが活動を続ける…──今こそっ! やろうよ〜!! 私らで恋バナを〜〜っ!!!」

「…なにが今こそなの?」

「ふっふふ!! かくいう私も秀知院学園では『恋バナ探偵』と呼ばれ皆に尊敬されたものっ!!! ゆりちゃんがどんな恋をしてるのか、話を咲かせたいんだよね〜っ!!!」

「……もう咲いてるでしょ。藤原さんの頭に、花畑」

「あはは〜、そらもう脳内フラワーガーデン満開ですよ〜〜〜〜…って、そんなのはともかくっ!!!──」


「──知りたいなぁ〜! 聞きたいなぁ〜〜!! ゆりちゃんの好きな人ぉ〜!!!♡」

「……………………」


頭を割って中の花畑を見てみたい。
そして、枯渇剤を撒いてロボトミーさ《黙ら》せたい。
…はあ。どうして私の周りにはこうもうるさい人しか集まらないんだろう。

騒音やかましい目覚まし時計には掌で一叩き。
──ハートマークと花マークを飛ばしながらルンルンの藤原へ、私は勢いよく握り拳を振るった。


「…………………」

 ブンッ────────────────、スカッ…


「──うわ危なっ!!! もうっゆりちゃんってばぁ〜〜〜!!! 何回も黙ってぶたれると思ったら大間違いだからねっ!!! もう〜!」

「………………………」

「まったくもう!! 恋バナもできないっ、攻撃も当たらないっ……そんなだめだめなゆりちゃんに私がパンチのお手本を見せてあげるよっ!! ──藤原流格闘術、喰らえぇ〜〜!! おらおらおらおら〜!!!」



 🎀三ぽかっぽかっぽかっぽかっぽかっぽかっぽかっぽかっぽかっぽかっぽかっぽか〜〜……



…鉄槌が空振った上に余計うるさくなってしまった。
ヽ( >Д<)ノ ←こんな感じの顔で、一切ダメージのない連打を続ける藤原さん。
攻撃は右肩に集中しているから、必然的に肩叩きみたいになっちゃってるけども、疲れは取れるどころかますます増えるばかりだ。

296『ゆりこん2』 ◆UC8j8TfjHw:2024/12/02(月) 21:07:06 ID:k02c0U/k0

「………はぁ…」

「おらおらおら〜!! ため息を一つついたらハッピーも一つ逃げちゃいますよぉ〜〜!!! お客さんっ、私の肩叩きはこれからですぜ〜〜〜!!!」


ぽかぽかぽかぽか〜っ……………



「グオォ────────ガァ────────スピスピ…。グオォ────────……」




「………………はぁ…、……はぁぁあぁぁ…」




……本当にっ。
…………何もかもがうるさくて仕方ない………。






…………
………
……



「…──あっ!! ねえ見てみてゆりちゃん〜〜〜!! あんなところにキノコが生えてますよぉ〜〜〜〜」



…うるささが唐突に遠くなっていった。

数分間、存在無視で相手にしてなかった肩叩きラッシュ。その肩の重みが急にスッとなくなる。
そのキノコだかを見つけた藤原さんは矛先を私から部屋の隅に向け、タタタターって走っていった。
ほんとに気ままで能天気な人って感じだ。…すごいバカみたい。


「……………」



「ねえねえゆりちゃんも見てよ〜〜!! ほらすごくない?? 部屋の中にキノコ生えてんだよぉ〜〜〜」

「………」


…智子なら「エ●同人で立派なキノコ生やされてそうな人がなんか言っとる」とか言いそうな場面だけど。
対して、私は「頭に花が生えてる人が遠ざかって嬉しい」……としかこの時思わなかった。
シメジなのかマツタケなのか、見てないから知らないけど、私から貧乏神を祓ってくれたそのキノコに今は感謝だ。ありがとう。


「ほらっ!! キノコ、一本や二本どころじゃない…たくさん生えててさぁ〜〜。それも円形状に並んで地面に咲いてるんだよ〜〜〜〜!! 珍しい〜〜っ!!!」

「……………」

「ちっちゃいエリンギがみんな輪になってるみたいでさ〜〜〜!!! ほらゆりちゃん見てよ〜〜〜!!!」

「………」

「ぐるぐるぐる〜って感じで生えるキノコですよぉ〜〜!!」

「……………」


「えりんぎっ、えりんぎ☆ ぐるぐるぐる〜〜〜♫ えりんぎっ、えりんぎ☆ ぐるぐるぐる〜〜〜♫ 余った時間でなにしよぉ〜っ☆♫ あっそれ!!」



無関心。
好きの反対語は無関心らしいから、やかましい藤原さんを無視し続けた。
スルーをすれば大抵の人は嫌気が差して絡んでこなくなる。
この騒音を止めようとわざわざ席を立って殴りに行くのも面倒だし、私は得意の無視を決め込んでいった。

297『ゆりこん2』 ◆UC8j8TfjHw:2024/12/02(月) 21:07:24 ID:k02c0U/k0

「ゆりちゃぁ〜〜ん!! えりんぎっ、えりんぎ☆ ぐるぐるぐる〜〜〜♫ えりんぎっ、えりんぎ☆ ぐるぐるぐる〜〜〜♫」


………だけども、相手が相手なだけあり、あまり効果がないようだった。
藤原さん…、私の敵意を全く感じていない様子でさっきから「エリンギ〜」と「ゆりちゃ〜ん」のリピートを鬱陶しく続ける。
…なんでこう、陽気なキャラの人って延々に絡んでくるものなんだろう。
私には全く理解できないんだけど。

…藤原さんの存在はもはや私にとって毒電波だ。
毒をもって毒を制す〜じゃないけど、そのキノコの毒でも食らえば少しは中和されるだろうに。


「ゆりちゃ〜ん〜!! キノコのダンスですよぉ〜〜〜!!! えりんぎっ、えりんぎ☆ ぐるぐるぐる〜〜〜♫ えりんぎっ、えりんぎ☆ ぐるぐるぐる〜〜〜♫」


「…………」



ほんとにっ…。
…藤原さんは『エース・●ンチュラ』のジム・●ャリー並にやかましかったっ…。


……藤原さんはそういう映画見たことないんだろうけども…。



はあっ…………………。





「えりんぎっ、えりんぎ☆ ぐるぐる…──…、」


 ブチッ


「…えっ」



腰を上げた私は藤原さんの近くまで寄り中腰に、そのキノコへと手を伸ばす。
タイルの床に生えていたからどれほど根が深いのか気になったけど、ちょっと力を込めたら簡単に引っこ抜けた。


「はい。あげる」


「えっ……。えぇ…………」



 ブチッ、ブチッ、ブチッ、ブチッ、ブチッ……


なんかキノコが大好きらしいから、全部引っこ抜いてあげた。
大小さまざまだけど色は白で統一されたエリンギ。
山程根こそぎぶち抜いたから、藤原さんもさぞ大喜びだろう。


「……ゆ、ゆりちゃん……。ひどい…〜。なんて慈愛のない…環境破壊を……」

「………たくさん採れたね………! 私はいらないから全部藤原さんにあげるよ。ほんとに私は興味ないから。このキノコ」

「…えー………。いや、いらないデスゥ〜……………。ひどすぎる……」



…手についた白い粉が煩わしい。
胞子なのかなんなのか、分かんないけどもとにかく手をパンパンッ、と祓って一息。

こうして私は藤原さんを黙らせることに成功した。
あぁよかった。
めでたしめでたしだ。


「ちょっとゆりちゃん!!! ──改め、哀しきモンスターゆり〜〜!!! どうすんですかぁこのキノコ達!!! すごい理不尽な虐殺されましたよぉ〜〜〜!!??」

「…いらないならあとで私が全部捨てるから大丈夫」

「やっぱその倫理観薄いとこ好きだわぁ〜〜〜…………。ほんとゆりちゃんはすごいよっ!!? 色々と〜〜!!!!?」

298『ゆりこん2』 ◆UC8j8TfjHw:2024/12/02(月) 21:07:37 ID:k02c0U/k0
すごい、って褒められてしまった。あーうれしい。

さて、暫くは音楽でも聴いて時間でも潰そっかな。…と。
私はスマホが置いてあるカウンターテーブルへと足を進めた。
さっさとこの場から出ても良いものだけども、バーから出た先で殺人鬼に会ったり、……藤原さんやマイクおじさんよりも五月蝿い人に出くわしたらイヤだし…で。
とりあえず日が昇るまでここに待機することと決める。
……一人なら、すごい落ち着けるいい場所なのにな。このバー。


「……ゆりちゃん〜〜〜………」

「………」


テーブルからイヤホンを手に取り、右耳へ。
もう片方を入れるのはなんとなく後回しにして、音楽アプリをそそくさと開いた。
スマホ画面に流行りの曲のラインナップがスラリと表示されたこの瞬間。



──気づいたら、風邪を引いたかのように身体全身が熱くなってきて。


「…えっ、ゆり………ちゃん………………?」



──発熱に気づいたと同時に、スマホもテーブルも棚も……。ぐにゃぐにゃ歪みだして、耳なりもしだして。


「…ゆ、ゆりちゃんっ………!? ど、どうしたんですかぁ〜っ?!」



──真夏だというのに、背筋がゾワッと寒気がしたと思ったら…。




「…あれ。えっ」




────頭の中が真っ白になって。私は倒れ込んだ。




 バタリッ





「ゆ、ゆりちゃん〜〜っ!!!!」






──倒れた拍子から激打した頭の痛みが、徐々に徐々にはっきりしていく……。



──この、意識朦朧の空気感。


………
……


299『ゆりこん2』 ◆UC8j8TfjHw:2024/12/02(月) 21:07:48 ID:k02c0U/k0



──………田村さんさー。前、小陽ちゃんが「小学生時代はモテてた」って言ったの覚えてる?

────…えっ? あぁ、うん。そんなこと言ってたようなー……。どうだろ。

──私さぁ、その時思い出した映画あんだって。…なんだと思う? ヒントは小学校が舞台。

────…映画ー…かぁ。分からないや。答えはなに?


──『ブタがいた教室』…!

────……ふっ! はは、はははっ……!



──で、ところでさぁー。田村さんって小学校時代どんな感じだったわけ? まこっちとは高校からの知り合いでしょ? 友達いたの?


────…え? 私の小学校時代……? うーーん。まぁ別に。





 普通だった感じだよ………?

300『ゆりこん2』 ◆UC8j8TfjHw:2024/12/02(月) 21:08:03 ID:k02c0U/k0




……
………


「う、嘘…………。なっなに…………………。……これ……………」



…鏡を見て私は唖然とした。
鏡を直視するとき、必ず自分の姿が映りだす。

──ならば、今映っているこの姿が本当に真実なのか。

鏡にたくさん問いただしたけど、目の前の明らかに『おかしな姿』は一向に変わりなかった。


「フ、藤原サン……。田村サンに一体………ナニが……?! コレは一体……………」


背後に立つマイクおじさんの驚いた声も、この姿が現実であることを示し出す。


…全く訳が分からない。
意味が分からない。理解不能。理解ができない。
私は一体、…なんで。
こんなことに………。



「…これは〜…。今こそ恋愛探偵・藤原千花が──全てを説明するときですね〜っ……!!!」

「藤原サン……。何がどうなってるんデスか…!??」

「…ごほん。これは全て私の勝手な推理によるもの……。ですが、お聞きください…──」



「──ゆりちゃんの身に起こった『真実』のすべてをっ〜……!!!」






 ズダダダダダダタンッ(ドラム)

 ♫てーてって、テレレレー!!

  ♫てーてって、テレレレー!!!

   ♫てーてって、テレレレー!!!!


 ──♪てれれてってー!!!────


   ♫てーてって、テレレレー!!

  ♫てーてって、テレレレー!!!

 ♫てーてって、テレレレー!!!!


 ──♪てーーっ↑てー↓────

【劇場版名探偵チカ 〜シブヤー街の亡霊〜】


 ──私の名前は田村ゆり!! 無表情高校生探偵だ。

 ──ベストフレンドである藤原千花と殺し合いに入れられた最中…、白ずくめの怪しいキノコを見つけてしまった!!

 ──キノコを毟るのに夢中になっていた私は、背後から忍び寄る死神の気配に気づかず。キノコの毒をもろに受けてしまう…!!


 ──キノコの毒で意識を失い、目が覚めたときには…………っ。





「身体が『縮んで』いたっ────!!!!!」

301『ゆりこん2』 ◆UC8j8TfjHw:2024/12/02(月) 21:08:17 ID:k02c0U/k0
………。


「つ、つまり。やはりこの『子供』は…田村サンなんデスねっ?!! このダボダボな制服を着た子はっ!!!??」

「そう…!! 彼女は紛れもなくゆりちゃん……!!! 見た目は子供だけど頭脳は〜…我々の知るあの無表情モンスターそのもの!!! ゆりちゃんなんですっ〜!!!!」

「そ、そんなマサカ…!!!」




鏡に映る……自分の姿。

それはいつもよりも童顔で、いつもよりも手足が短くて、いつもよりも体が小さくて、いつもよりも声が若干高い。

いつも通りじゃないけど、決して見覚えがないわけでない。



「………なんなの…………。これ…」




試しに手で顔を触ってみると、鏡の少女も同じ動きをする。服をタポタポ揺らしてみると、鏡の少女の服もまた同じく揺れる。
額から汗の感触がツラーーッと流れると、鏡の少女も同じく汗を流す。

息を呑めば、喉がうなる動きが映される。




鏡には、まぎれもなく私が……………。

…ほぼ十年前の姿まんまの──少女な自分がそこには映っていた………………。



「一体…この現象はナンナンデスか………」

「いいえっ!! 心配は無用ですよ〜…。マイクおじさん!!! むしろこれはポジティブな出来事!!! 嬉しいハプニングなんです〜〜っ!!!」


「エッ??」 「………は?」



「さっきからゆりちゅんには私が和太鼓に見えるのか…。ドンダコドンタコスと殴られ続ける私でした〜〜…。この上ない暴力…、屈辱の悪人っ…。ゆりちゃんはなんて悪魔なんだろう。そんなことを思う日が私にもありました〜…──」


「──ですがッ!!! 今のゆりちゃんはどうですか!!! 暴力の気配すら見えないか弱さ…!! もはや天使!!! カワイイーッ!!!!──」


「──心をなくした無表情デビルから、アメをあげればホイホイついてくるチョロ天使に弱体化したんですよ〜〜っ!!! これぞ、まさしく神様がくれた『下剋上』じゃないですかぁ〜!!!」



「…ゲ、下剋上………。──アッ!? 田村…ユリチャンッ! だ、だめデスよっ!!!」 「………………はぁ」



「古くは北欧神話から…。虐げられた人々は皆最終的に王に勝ってきましたっ〜!! 歴史は天地一変、逆転の連続で作られてきたんですよっ〜!!! …す・な・わ・ち──」



「──ゆりちゃんさっきまではよくも殴ってくれましたねぇ〜〜〜!!! お仕置きですよぉ!!! おらおらおらおらおら──…、」

「…ふじわらさん。あいかわらず、うるさいんだけどっ」


 ──ドガッ


「ぎゅわあぁぁあぁいっ!!!!?? 力強っ??!!!!!」

「フ、藤原サァン……!!」

302『ゆりこん2』 ◆UC8j8TfjHw:2024/12/02(月) 21:08:27 ID:k02c0U/k0
…でも、馬鹿力だけは普通に継承されてるっぽかった。
……そんなの、どうでもいいんだけどね。



……。
この姿、治ったりするやつなのかな。
もしも治らないんだとしたら、これからの人生。

わたしはどうしたらいいの?

303『ゆりこん2』 ◆UC8j8TfjHw:2024/12/02(月) 21:08:37 ID:k02c0U/k0



〜マイクのバトル・ロワイヤル講座〜
  【チェンジリング】

 田村さんが触れてしまったキノコの名前は『チェンジリング』といいます。
このキノコの特性として、踏んだり、輪の中に入ってしまえば、自分と近い種族に変わってしまうという効果があるのです。
分かりやすく説明すると、田村さんの種族は【トールマン(人間)】であるため、近い種族の【ハーフフット】──つまり見た目がずっと幼子な種族に変化したのでした。
 もっとも、チェンジリングは普段こそはダンジョンでしか生息しない生物なのですが、どういう訳か渋谷にも度々現れるこの現状。
これはバトル・ロワイアル開催による影響が及ぼしているのか、今はまだ謎が深まるばかりです。
 ともかく、見かけても絶対触れない食べない引き抜かないように心がけましょう。

304『ゆりこん2』 ◆UC8j8TfjHw:2024/12/02(月) 21:08:51 ID:k02c0U/k0



【1日目/A2/バー/AM.02:41】
【田村ゆり@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!!】
【状態】ハーフフット
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:どうしてこんなことに…。
2:ふじわらさんが、とにかくうっさい。

【藤原千花@かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜】
【状態】健康
【装備】???
【道具】ワードバスケット@目玉焼きの黄身
【思考】基本:【対主催】
1:ちびっ子ゆりちゃんカワユイ♡
2:魂を、刈り取ります!!!
3:ゆりちゃんの鉄拳を、ガードしますっ!!
4:死は、…とにかくダメですっ!! きゃ〜〜っ!!

【マイク・フラナガン@弟の夫】
【状態】健康
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【対主催】
1:フジワラさん、タムラさんを守る。
2:殺しは絶対にしたくない。

305『ゆりこん2』 ◆UC8j8TfjHw:2024/12/02(月) 21:22:02 ID:k02c0U/k0
【第5回】シンアニロワコソコソ噂話!!


『自由を、つかみ取れ────。』

シンアニロワで書きたかった登場回その①はakiraの金田登場回です。
ワープ後の初期位置は『走行中のバイク』。つまり、目が覚めたら猛スピードのバイクを運転していたことに気付き、慌ててハンドルを正す金田。
もう一つ金田が気付いたことがあり、バイクには同乗者。──まだ目を覚ましていない三宅しのぶがいたことで、「うひょ〜女だぁ〜」と浮かれ気分で運転を続けます。
眠りから覚めたしのぶにボカボカ背中をぶん殴られながらも、彼女を半場拉致誘拐の形でバイクを走らせ続ける金田。
そんな二人の前に、『もう一人のバイク乗り参加者』アーロン・デイヴィスが迫ってくるのでした…。

ssタイトル『自由を、つかみ取れ────。』の元ネタは大友克洋のFreedom。
最後、アーロンと金田で一騎打ちするシーンが特に書きたかったものなんですがね……。


今回は以上です。
では、死ななかったらまた会いましょう。


次回→
90%…マルシル、飯田
5%…黒崎
2%…ほたる、小泉さん
1%…センシ、日高、なじみ

306<削除>:<削除>
<削除>

307 ◆UC8j8TfjHw:2024/12/05(木) 20:39:26 ID:f8CHdknw0
>>306
ご感想ありがとう…ってナンデスカアナタはっ?!

まぁ何であれ、このスレに書き込みありがとうございます!
よかったらこのロワのまとめwikiの方もいい機会だと思うのでご覧ください
ttps://w.atwiki.jp/heiseirowa/

308 ◆UC8j8TfjHw:2024/12/07(土) 23:18:57 ID:26ZUqUH.0
諸事情により2025年までエタります。
大変申し訳ございませんがご理解お願いします。

皆さん来年お会いしましょう。

309【明日の天気は曇りのち】 ◆UC8j8TfjHw:2025/01/21(火) 20:13:14 ID:qznXjTBc0
───────復活【revival】。


[登場人物]  [[マルシル・ドナトー]]、[[飯沼]]

310【明日の天気は曇りのち】 ◆UC8j8TfjHw:2025/01/21(火) 20:13:38 ID:qznXjTBc0
 この世の中、ありとあらゆる事柄が全て『魔術』で解決される。
私は今までそう信じて生きてきた。
例えば、小さい頃に聞かされ怖がっていた幽霊やホラーな話も、正体は魔物──もとを辿れば全てが魔術。
こういう感じで、どんな現象も因果は必ず魔術で結びつけられ、魔術が当たり前なこの世界。
そんな世界で生まれ、学校創設以来群を抜いての優等生だった私だから、非魔術的なんか一切信じていなかった。

ファリンにいつの日か聞かされた────『異世界』。ファンタジーの話なんて、軽くあしらうだけだった…。



……
………
──…あるんだろうなー。異世界。行ってみたいなぁー…。

────……。ほらファリン! そんな下らないこと考えている暇あったら勉強に集中!! また試験でやらかすかもしれないよ!

──あっ。ごめんごめん。……でも、異世界って本当にあると思わない?

────えっ? その話 続ける気なの??


──確かにこれは非魔術的な話かもしれないけどさ。きっと存在はするんだよね。魔術の代替として『何か』が発展した世界がさ。そんな私が世界にふと足を踏み込んじゃう可能性とかさー。絶対あると思うんだよ! 異世界!

────…えー。貴女ちょっと夢見がちすぎ……。




────あるわけないでしょ。そんなもの…。
………
……






でも…。
だけども…っ。
…………………。


……ごめんね。
そして、ファリンなら…きっとバカにせず信じて聞いてくれるだろうね…。
私が今から言う…話をさ。




ねえ、ファリン…。








『じどうはんばいき』って物体を、信じる………────?








「な、なにこれっ────────??!! ボタン押したらほんとにガコンッ、ってなんか落ちてきて……。この缶詰…ほんとに飲み物入ってるのっ────────────?????!」

「はあ、ちゃんと飲めますよ。十回以上振ってからプルタブ引いて飲む感じで」

「え、こう…?(ゴクゴク…」


「ナッ??!!! 甘ッ!!??? なにこれスライムゥ────────────────!!???? スライムみたいなプルプルした奴が口いっぱいに……──てか甘っ!!!! ほんとに甘くて美味しっ!!!? ぶどうみたいな味で…ナニコレェ────────────!!!!!!」

「はあ、(モグモグ」

311【明日の天気は曇りのち】 ◆UC8j8TfjHw:2025/01/21(火) 20:13:59 ID:qznXjTBc0
ねえ…。
『とうきょうどーむ』って建築物を、信じる………────?



「ちょ、ちょちょちょちょちょちょっと!!! イイヌマ、あの大きい建物……。あれ、なんか…怪しくないっ!!??」

「え、あぁ。あれは東京ドームですよ」

「い、いや名前とかどうでもよくて…、ほら…おかしくない?! あんな大きさの建物、維持するのには一般人の手じゃ到底無理…、膨大な魔術力が必要なはずじゃん……? 例えるなら……──『迷宮の主』クラスのっ…!!」

「はあ、つまりは…(モグモグ」

「あのトウキョウドームは魔物の住処である迷宮……っ!!! 私が言いたいのはあの中に主催者のトネガワがいるんじゃないのか…ってことなのっ……!!!」

「魔物が棲むのは甲子園じゃないですか(モグモグ」






ねえ……。
『てれび』って、信じる………────?



「あ〜っ! 美味しかった〜…!! ブタとウシのミンチ焼き!」

「独特なハンバーグの呼び方ですね…。まあとりあえず腹ごなしできて良かったです(モグモグ」

「ほんと久々にまともな食事(=非魔物飯)を食べれたよー…。ほんとに幸せ…」

「魔物…飯……ですか(モグモグ」

「そう! 魔物飯。私たちちょっとした事情で一文無しでダンジョンに入ったんだけどさー。それで…──」


「──あっ!!?? イイヌマ気をつけてっ!!!!」

「え。なん──…、」


「い、い『生きる絵画』がっ!!! しかもこんなにたくさんもっ…!!!」

「……え?」


「ほらあそこに!!! めちゃくちゃ動いてる絵画あるじゃん!!! あのイルカの絵画!!!! あれに近づいたら…絵の中に取り込まれるからっ!!!!! 遠回りするよ!!!!」

「……絵?? あぁ、あれテレビですよ」

「だから具体的名称とかどうでもいいんだって!!! とにかく…近寄ったら一生出てこられないんだから!!!! 私たちの仲間も危うく取り込まれそうになったんだからっ!!!」

「………?」


「…にしても訳が分からない…。なんでこんな所に魔物がいるわけ………? ほんとに、ここに来てずっと…ずっと……!! 分からないことばっかり………」

「え。あそこ電気屋だからテレビがあるのでは?(モグモグモグモグ」






本当に…。

………本当に何もかもが違和感しかないこの世界。
私が今いる、魔術が通用しないこの世界。

イイヌマが云うには『科学』というものが台頭した、『この世界』──────。



ファリン…。
科学の力なら…、貴方を元の姿に戻せるのかな。
この世界の常識の下なら、私たちはもっと平和かつ幸せに過ごせるのかな。


拝啓。
ねえ…、ファリン……。




今、私……。

『異世界』にいるっぽいんだ……────。

312【明日の天気は曇りのち】 ◆UC8j8TfjHw:2025/01/21(火) 20:14:26 ID:qznXjTBc0
「(モグモグモグモグ」


「って!!!! ゆーかイイヌマいつまで食べてるのっ!!?? もしかして…この世界じゃその食べる量が当たり前…だとか?」

「…あっ、すみません。でも、そんな人を大食漢みたいに言わないでくださいよ………」




(モグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグ…………──────

313【明日の天気は曇りのち】 ◆UC8j8TfjHw:2025/01/21(火) 20:14:39 ID:qznXjTBc0



………
……

私達はあれから、『東●ホテル』という名前の宿に向かったんだけどさ。

その宿は、信じられないくらい綺麗で、信じられないくらい清潔で明るくて、
そして、魔術が信じられなくなるくらいな背丈の建物だったの──────。

314【明日の天気は曇りのち】 ◆UC8j8TfjHw:2025/01/21(火) 20:15:01 ID:qznXjTBc0





……
………

『(次のニュースです)』


『(米国大統領は七月七日、国家安全保障上の懸念を理由に、日本製銀企業との取引を禁止する行政命令を発表しました。日本企業による米国企業の買収を米国大統領が禁止したのは今回が初めてです………──…、)』


 ぼんやりと、薄明るい。
『ほてる』の一室にて、シャワーで身体を清める王子様・イイヌマ。
薄っぺらい壁のすぐ向こうで想い人が裸体を晒す現状だけども、対する私はドギマギ〜〜〜ッ……──とかそんな感情の乱れはなく冷静だった。
──…ううん。違うか。冷静っていうか、気が抜けてる…っていうのか。
フワフワしたベッドに腰を沈めて、私は今てれびを眺めている。

宝石みたいな夜景には目もくれず、ただボーーっと。てれびと睨めっこしていた……。


『(またアメリカ国防省は、先月に起きた橋爆発テロにおいて他国が関わったと見なし調査を始めるとのことです。五百人が死亡したこのテロでは──…、)』


……あっ、ファリン…。てれびって何なのか分からないよね。
これは、えーと………。
イイヌマの説明によると、生きる絵画の超進化系みたいなものでさ。──あっ、進化系と言っても魔物ではないらしいの。そもそも生きてないらしくて。
見た目は薄っぺらい板状なんだけども、いろんな国の情報とか、音楽とか、事件とかミュージカルが見れる物体なんだよね。
『でんぱ』という力を介して動いてる物体なんだけども、犬が歩いてるシーンが出てきたり、真面目そうな人が事件を読み上げるシーンが出たかと思えば、女装奴がふざけ踊ってるシーンが現れたり…。
はは…、ごめん。何いってんのって感じだよね。
でもそれが『てれび』って物体なんだからさ。…正直自分も何言ってるのか分かんなくなってきたし、脳みそがポップコーン状に弾け飛びそうな気分だよ……。
イイヌマ曰く、この世界の住民は皆てれびを持っていて何時間も眺めてるらしいけど。
──ただの板を何もせずずっと眺めてるとかバカみたい。信じられない世界だ、ほんとに……。


『(以上、深夜のニュースを柳町がお伝えしました。(終)』




『今日の天気』
『提供 ワンダードリームランド、SB』


『現在発令中の警報はございません』


『渋谷区は曇り。降水確率は10%。最低気温は25度』
『目黒区は曇り後晴れ。大田区は晴れのち曇り』
『江戸川区は雨。ところにより雷雨の可能性』





 はぁ……。


 もうっ…ギブアップ………。
お願いファリン……教えて…………。
いやファリンじゃなくても、ライオスでもセンシでもチルチャックでもシュローでもいいから…助けて……。…あっ、ナマリって今何してんだろ……──ってそんなことはどうだっていいや!!
とにかく誰でもいいから教えてよ…。



『この世界』…一体何なわけなの………??

はぁ………っ。



 そりゃ私だってバカ正直にこの異様な世界を受け入れ、信じちゃってるわけじゃない……!
色々可能性は考えたよ。
幻覚説、集団催眠説、夢説、やばい魔物飯でラリっちゃった説…………。候補は枚挙にいとまがない……っ!!
特に、この中では幻覚説は最有力まで上り詰めている…。
噂にしか聞いたことがないけど、死体回収屋には幻術を使って、仲間同士で殺し合わせる──そんな悪どい金儲けをしてる奴がいるらしいし…!
そいつが仕組んだとなったら全てが説明つく。
夢説だってつい最近、なんたらかんたらって悪夢を見せる貝類(名前なんだっけ…? ライオスじゃないから一々覚えてらんないわっ!! 魔物の名前なんか!!)に遭遇したばかりだから可能性も大いにある…。

とにかくこの世界はありえない…。
『現実』なんかじゃない。
幻術なんだ、って……!

私はそう信じたかった──。

315【明日の天気は曇りのち】 ◆UC8j8TfjHw:2025/01/21(火) 20:15:23 ID:qznXjTBc0
『港区は雨のち晴れ』

『今日の天気(おわり)』



『(なんでも揃うー♪ スーパーマーケットーー♪)』
『(お肉も野菜ー♫ 新鮮な魚類ー、スーパーマーケットーー♪)』




だけども、結局はそんな現実逃避を許してくれなかった。

学校はじまって以来の才女である………、私が………っ。



 幻覚魔術は至ってシンプルかつ単純魔術なことは言うまでもない…。
一見複雑に見えても必ず痕跡がある、──粗の多い魔術なんだけども、私の彗眼をもってしても痕跡が全く見つからなかった……っ。
どれだけ見渡し、すごい凝視をしても幻覚魔術特有の癖がない。なさすぎる……。

だから路線変更ってことで、今度は夢説立証のため頬をめいいっぱいつねってみた…。
跡が残るくらい、血の滲む思いでつねって、引っ張って、引っ叩いてビンタして…、頬はダメだと判断したら舌先もギュっと噛んで…。
そして、瞼を引っ張るところまで行動したとき、とうとう諦めた…………。


……はぁ。…ウソでしょ…………?──って。
夢でも、幻覚ですらも、ないの……………? この世界は………。──って。

これは…現実世界…………?


────痛みで涙がこぼれ落ちた一瞬。振り返ればさっきの『はんばーぐ』の美味しさは確かに現実のものだったな…って私は思った。



『(なんでも揃うー♪ スーパーマーケットーー♪)』
『(今だけポイント感謝デー五倍ー♪、スーパーマーケットーー♪)』





この世界を前にして、もう私の脳内はぐっちゃぐちゃミンチ肉のとろーり状態……。
夢説とかさっき言ったけど、今、夢見そうなくらい身体は疲れ果てて──…、



『(ハンバーグの由来は〜〜、ドイツの〜ハンブルク!!)』
『(へぇ〜そうなんだ〜〜。おじいちゃんハンバーグ買ってきて〜)』

『S●ハンバーグの素 新発売。エ●ラ!』



 ────だから、ただボーーっとテレビを眺めるに至っている。
イイヌマみたいな無気力かつ気だるげな目で。
…思えばイイヌマってよく見ればそんなかっこよくもないしパッともしないし、全く頼りがいなさそうなんだよなー…。なんで王子様に見えちゃったんだろ、あの人のこと。


はあーあ……。



『ワンダードリームランド』

『(ここは楽しい遊園地ーー♪ ワンダードリームラーンードー♪ 一度入れば夢見心地ー♫ ワンダードリームラーンドー♪)』



ゆうえんち…………。
それがなんなのか分からないけど、とりあえず両端で踊ってるマスコットキャラが可愛い…………!
羊っぽい動物だけど二本足で立ってて、それはともかくふわふわでつぶらな瞳で…。
このゆうえんちって所にこの魔物たちがいるのかな。
さしずめ、ゆうえんちはこの世界の迷宮みたいな場所と予想…。

316【明日の天気は曇りのち】 ◆UC8j8TfjHw:2025/01/21(火) 20:15:40 ID:qznXjTBc0
『(ここは楽しい遊園地ーー♪ ワンダードリームラーンードー♪ 一度入れば夢見心地ー♫ ワンダードリームラーンドー♪)』


『【お知らせ】』

『当遊園地は今月をもって閉園することが決まりました。これまでのご来訪誠にありがとうございます』

『また会おうね!』



って閉園すんのかい…っ!!
え?? もう誰かが迷宮の主倒したってことなの??!
やばっ!!!
この世界のかがくの力すごっ!!!
じゃあそのかがく力でこの殺し合いも崩壊してもらいたいとこなんだけどっ………! バリアーがめちゃくちゃ邪魔だし…。




『(〜♪)』

『JO●M-TV』
『映像周波数 77.54MHz』
『映像出力 5kW』
『音声出力 1.25kW』



『本日の放送は終了しました』




…あっ。
これまたよく分かんないけど何かが終了したみたい。『ほうそう』って……。
なんかどれもこれも矢継ぎ早に終わるなぁ。この世界……………。




『(〜♪)』

『お休みの前に火の元、戸締まりの確認をもう一度行ってください』

『おやすみなさい』




…あっ。生きる絵画にお休みとか言われちゃった。なんか変な気分……。
いや、これが魔物ではない『てれび』という物体なのは分かってるんだけどもさ。
なんていうか〜…。
人外にGood nightの挨拶されたの、初めてだから。…なんかもどかしいというか……。そんな感じ。
まあ、そんなこと本当にどうでもいいんだけどさ。

そもそも私いろんな意味で今寝れないし…。




『(〜♪)』





「……………はあー…。考えれば考えるほど知能が衰えそうな気分…………。早く帰りたいよぉ〜。グッスリ頭を休めたいぃ…………」





てれびから流れる民族音楽と、シャワー音の協演。
その二つの音で、わずかばかりに活気づく静寂の室内。
私はただひたすらに王子の帰り【風呂上がり】を待つばかりだった……………。









『(〜♪)』

317【明日の天気は曇りのち】 ◆UC8j8TfjHw:2025/01/21(火) 20:15:54 ID:qznXjTBc0



























『NNN臨時速報』





『今日の死亡予報のお知らせ』















………
……


318【明日の天気は曇りのち】 ◆UC8j8TfjHw:2025/01/21(火) 20:16:18 ID:qznXjTBc0



 シャワーから出て、身体を拭き取り下着を身に付ける。
一瞬、バスローブを纏おうかと悩んだけど、万事に備えて、僕は汗臭いスーツに再度袖を通した。
脱衣場を出て、ひょんなことから僕と同行することになったマルシルさんに軽く会釈。
既にカラーバー状態のテレビにくぎ付けの彼女は、まるで映画ポルターガイストのワンシーンを彷彿とさせられたが、恐怖を感じえど興味は湧かず。
僕は飲み物かカップ麺を買う為、ドアを開けて廊下へと足を運んだ。


「………………」


 あー。
お腹、空いたな…。
さて何を購買で買おうとするか……。

幼少期、父から「三食、バランスの良い食事を」とよく躾けられたけども、振り返れる限りでは、ここ数週間近く健康的食事は取ってない気がする。
残業に終電にトラブルの対応、パワハラ……。
数多の現代社会攻撃で傷ついた心を癒すべく、多くの社会人たちは暴食に手を染めるらしいが、例に漏れず僕もその一人。
元々食べることが好きな僕ではあるが、数週間前から大盛りが売りの食堂を憩いの場とし、毎晩通い詰めだ。

外食ばかりで健康に悪いのはわかっている。
自制しなくちゃならないことも承知だ。
それでも人は食べなきゃ生きていけない。
現代社会人は食べ過ぎなきゃ、やっていけないんだ──。

父さん、教えを破るようですみません…。
カップ麺二個、今のこの時間帯から頂きたいと思います………。


「あっ、三個だな………。マルシルさんの分も。きっと喜ぶだろう………」


…今気づいたが、ルームサービスを頼めばもしかして牛丼屋のとき同様いきなり料理が現れたのでは…?
わざわざ出歩かなくてもよかったのでは……? と今更ながらに思ってしまった。
現在、エレベーター前に僕はいて、自ルームへ戻るのもまた面倒な為、ほんとに『今更ながら』なんだけども。


「…ふぅー……」




…そういえば、と。

エレベーターを待つ間、この退屈な余り時間にて僕はふと軽い考え事をした。
というのも、部屋を出る直前、マルシルさんが妙なことを問いかけてきたので、真意は何なのかと気になってしまうのだ。
ドアノブに手をかけたとき、彼女はこちらを向いてヒッソリ話しかけてきた。




【ねえ……。い、イイヌマ……】

【この世界の『かがく』ってす…すごいねー。明日の天気とか分かるんだからさ……】

【未来予知ってわけでしょ……? ほんとにすごいよ、かがくは…………。な、なっ…なんでも『予知』できるんだから………】




僕はあの時「はあ」と返した。
そうしたら、彼女は最後にもう一言だけ、こう聞いてきた。




【イイヌマ……………。死なないでよね……。お願いだから。今日は……………】




これまた、僕は「はあ」としか返せなかった。
そういえば今現在、僕はトネガワさん主催の殺し合いだかに参加させられている身である。
なんの因果か分からないけどやたら僕になついてるマルシルさんは、本当に僕のことが心配だったのだろう。
ただ、あのときは特に深くは考えもせず、軽く感謝を抱いて僕は部屋を出てしまった。






「…………………………」

319【明日の天気は曇りのち】 ◆UC8j8TfjHw:2025/01/21(火) 20:16:32 ID:qznXjTBc0
以上の彼女の発言の中で、一つ不可解な点がある。

それは「死なないでよね……。お願いだから。今日は……………」という台詞だ。


『【今日は】』とは一体何を意味しているのだろうか。


…深い意味はないのかもしれないが、まるで僕が今日死ぬ運命にあるかのような言い様だ。



不可解と言えば、テレビを見続けるマルシルさんの表情。
あの時の顔は、信じられないものを見たという風に青ざめていた。





彼女は一体、テレビで何を目にしたのだろうか…………………………?






…なんだか妙な不安感が胸に巣食い始める中、エレベーターの扉がチーン…と開いた。




【1日目/F6/東●ホテル/7F/AM.03:04】
【マルシル・ドナトー@ダンジョン飯】
【状態】健康
【装備】杖@ダンジョン飯
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:………。
2:飯沼と動く。
3:ここは…異世界……。

【飯沼@めしぬま。】
【状態】健康
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:さて、何を食べよう。

320 ◆UC8j8TfjHw:2025/01/21(火) 20:25:47 ID:qznXjTBc0
【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ①】

①エピローグ投下後、エンディングMAD作ります
②曲はかぐや様のダディダディドゥーです
③こちらみたいなのを作りたかった感じです ttps://youtu.be/_WK3mehqIPs

残りの情報…それはまだ混沌の中。
それが………平成漫画ロワ…………!


【次回】
────戦い会え。混じれ。戦慄。

────もう、殺そうが殺さまいが、先がないのだから。

【40%完成】…『止まらない、止まれない、この勝負は譲れない』…野咲、マルタ、大野、池川
【20%完成】…『本当にあった怖いダガシ』…小泉さん、ほたる
【*5%完成】…『エスケープ フロム B.R.』…チルチャック、りこな、切絵、折口

321 ◆UC8j8TfjHw:2025/01/21(火) 20:30:52 ID:qznXjTBc0
※ダン飯の描写、再現度に関して自信が乏しいので、問題点があったら気軽にご指摘お願いします!

322名無しさん:2025/01/22(水) 08:53:20 ID:XjblDbGI0
乙。
続き待ってました!
とりあえず飯沼さんも相方を悪く思ってない様で安心。
マンシルの心理描写からの豊富な反応、一方で変化のない外界とロワ会場に潜む仕込。
それらのギャップが出来のいいホラーの序章の不穏さが出ていい刺激でした。

323 ◆UC8j8TfjHw:2025/01/22(水) 21:52:41 ID:8znpMi0c0
>>322
ご感想ありがとうございます!(それと新年ことよろ以下略です!)
アタフタ慌てまくるマルシルと全く関心なく接する飯沼の二人は個人的に気にいってるコンビだったり…
謎のcmチャンネル見て思いついたのがこの回なので、話の不気味さを感じて頂き筆者冥利に尽きます

324『止まらないry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/01/28(火) 21:17:59 ID:Hrp5mMJI0
**『止まらない、止まれない、この勝負は譲れない』


[登場人物]  [[野咲春花]]、[[マリア・マルタ・クウネル・グロソ]]、[[大野晶]]

---------------

325『止まらないry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/01/28(火) 21:18:20 ID:Hrp5mMJI0
 坂道にて。月光。

真っ白な満月をバックに、真っ赤なコートがコントラストとなる。
登り坂を沈みきった面持ちで歩く彼女の名は、野咲春花。その手には数日前、久賀秀利の口を掻っ捌いた包丁が握られていた。

古き邦画にて『青春残酷物語』なる題目の作品があるが、野咲の青春はまさしく残酷そのもの。
刃毀れから多少ギザギザが目立つその刃物。
────彼女の心はザックザクに抉られ傷だらけだった。


こんな気分の時に限ってなんで嫌な過去しか思い浮かばないんだろう、────と。
虚ろな目で地面を映しながら野咲は一歩、一歩、確実に踏みしめる。


「……………」


 右足の靴底が着地し、一歩。
この時思い出したのが引っ越す二日前、家族で東京生活最後の夕食を楽しんだときのこと。
鴛鴦鍋にてグツグツ温まる麻辣スープを前に母が呟く。「祥ちゃんはよく冷ましてから食べるのよー」。
母から渡された小皿を片手に妹は微笑んだ。「辛いのは平気ー! 全然大した事ないもんー!」
バレバレな見栄を張る祥子に思わず苦笑する父。
三人に箸を渡しイスにやっと腰をかける、この温かな時間が野咲にとっては幸せだった。
────ガスコンロの青い『炎』が直立不動で燃え盛っていた。

「おっ、結構美味いモンだなぁー」

「そうねー。ほら、春花も早く食べなさい。美味しいわよー、『火鍋』!!」


「…うんっ!」




────────【火】。


………
……

 左足の靴底が着地し、また一歩。
この時野咲が思い出したのが東京の頃。──今振り返ると東京最後の夏。夜。
虫の鳴き声が響く河川敷で、友達四人と遊んだ時のことだった。
友達の一人がスーパーで買ってきたという手持ちサイズの棒。バチバチッ、シューーと音を立てて彩るソレに、当時の野咲は純粋な心で酔いしれる。
どこからか祭り囃子の音が聞こえる中、立ち込める消炎の匂い。バケツに張られた揺れる水面。
──あの頃は、まだ楽しかった。

「…じゃ、そろそろラストに着けちゃおっか!! 『ロケット花火』!!」




────────【火】。


………
……


 右足が再度地面に着き、また一歩。
この時脳裏によぎった過去も、まだ辛うじて楽しくはあった。
あの田舎に引っ越した後、級友となった──なりたかった小黒妙子の家に遊びに行った時。
ボンヤリうとうとと、眠気に誘われる野咲にピシャリっ。寝転んで美容雑誌を読む妙子が言葉を発した。

「…ちょっと野咲ぃー。話聞いてる? 今寝てたでしょうが!」

「──あっ、ごめん小黒さん。半寝してたかも…」

「もうーっ…。じゃもっかい言うわよー?」

野咲が眠気を催すのも無理はない、季節。
秋と冬の移り変わるやや直前のこの時。部屋は暖をとろうと温かさに包まれ、



ストーブがメラメラと燃え盛る────────【火】。


………
……


326『止まらないry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/01/28(火) 21:18:30 ID:Hrp5mMJI0
“こんな時だけ、なんで嫌なことしか思い出せないんだろう。”




「……………………………………妙ちゃん」




──付け火して、──煙喜ぶ、────田舎者。

 年はわずか十五歳にして、父はもういない。母もいない。妹はもはや包帯で全身を隠さなきゃいけないほどの姿になっている。
野咲の失いたくないものをすべて失った。──いや、奪われた。
一片に何もかもが燃やされてしまった。
辛うじて燃えているのは、野咲のか細い命の灯火のみ。


「………………………………………………………」


復讐の炎がメラメラと新鮮なこの機を逃さんとばかりに、彼女は主催者に刈り出され、今殺し合いの会場にいる。
殺害人数不明の鴨ノ目武、肉蝮を除いて、キルスコア七人は参加者の中でもトップの数。
わずか三日の内にクラスメイトを抹殺したという実績を踏まえて選出された野咲だが、主催者の目論見通り彼女は殺すことしかもう心にはない。
もう、失うものはなにもない。
そして、喜の感情も全くない。
あるのは可燃油のようにドロドロとした真っ黒な絶望のみだ。────今は。


「………………………………………………………妙ちゃん、お願い……」


殺し合いに優勝して、もう焼け失ったすべてを取り戻すために。
そして、自分の手で消し去ってしまった『友達』の想いを果たす為にも。野咲は淀みきった目をしながら坂を登りきった。


「………………………………………お願いッ…、力を……………、貸して…………………………………」



ギュ、っと強く握られる包丁。
────真っ黒な瞳が捉えたのは、青い目の女性と自分と同い年ぐらいの女子。いかにも人畜無害そうな二人組だった────────。

327『止まらないry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/01/28(火) 21:18:48 ID:Hrp5mMJI0




 ・ゲーマガ201x年6月号 二冊
 ・シャルル・ペローによる「ペロー童話集」や
 ・ラ・フォンテーヌによる「ラ・フォンテーヌのおはなし」


────計、5,600円相等のお買い上げ。


カウンターに値段きっちりの貨幣を置いて、マルタは相方に目を合わせた。


「…じゃ大野ちゃん! 準備しますヨ!」

「………………………………(こくりっ」


 街外れにポツンと佇む本屋を出た二人組──内、大野晶は制服をめくり腹部を露わにしだすと、ゲーマガ雑誌を巻き付けてガムテープで固定。
マルタも同様の行動で、同様に本の表紙が皺くちゃとなる。



 これらの本は決して読了の為に買われたのではない。


 『防備』の為にである。


 ────by マルタ提案の元。




「…ほんとはシャルル・ペローの本をこんなことに使いたくないのですが〜……。事態が事態なので仕方ないですね……っ。…大野ちゃん、『ロバの皮』とか面白い童話ばかりなんですよ〜この本〜〜…!」

「………………………………(…ぺりぺりっ…」



制服を正して、マルタの言うことはさもどうでも良いかのように大野はアメを舐めだした。


「………………………………(ぺろーっ」


 喧嘩の際、腹部に分厚い本を入れるという防御手段────。
軽い雑学となるが、この防御の発祥は昭和時代のヤクザだという。
ページが多い雑誌を腹や胸に入れ、サラシで固定。
密度の高い雑誌は厚さがわずか1cmでもあれば、それでナイフの刺突ぐらいはほぼ完全に無効化できるのだ。(それ系の雑誌を地面においてサバイバルナイフで突き立てれば分かるが、貫通させるのは至難)
こちらはあくまで確証はないものの、380ACP程度の小銃であれば停止させれる抵抗力もあるという。

妙に豊富な知識力があり、普段からその知識を発揮することの多いマルタだが、大野を連れて真っ先に移した行動がこれ。
成程。戦いを前にして『攻』──武器は既に支給されている為、『守』の補強に急いだということだろう。
となると、腹部以外にも頭部や四股のガードも欲してくるところだが、マルタが言うに次の目的地はスポーツ店らしい。


「野球のヘルメットは時速160km/hの硬球をも防ぐ実績があります! 今渋谷で集められる最大級の防具といったら…やはりスポーツ用品店にあるでしょう!! ちょうど近場なので大野ちゃん、さくさく行きますヨ!」

「………………………………」

「…まぁもっとも…ワタシの武器が袋一枚なんて惨状で……。バットとか欲しいという情けない理由が大きいですが〜……。ともかく! ハイレッツゴーですっ!!」

「………………………………──」




「──………………………………」




無表情。かつ、無反応。──傍から見たら大野に眼中なしとのマルタだが、一応のコミュニケーションは取れてる様子らしい。
普段の日常でも人まばらなこのファイヤー通りにて、二人は目的地へひたむきに歩いていった。
マルタの恵体な先頭に、高架線を抜けていく。


「…大野ちゃん、あまり怯えなくても大丈夫ですからネ!! 私が絶対に守りますからっ!」

「………………………………」

328『止まらないry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/01/28(火) 21:19:05 ID:Hrp5mMJI0
「………はい!! …それにしても大野ちゃんとはなんだか会話が弾みますね〜!」

「………………………………──」


「──………………………………」

「…はいっ!! それは流石ですよ大野ちゃん!!」



「………………………………」



コツ、コツコツコツ…………。二つの足音と一つの声のみが響き渡る。


 ここで一旦、大野晶──彼女について振り返るとする。
巨大財閥のお嬢様にして才色兼備。
成績優秀で勉強も運動もオールマイティ、学校では周囲から慕われる彼女はまさしく完璧な女子だった。
おまけに容姿もかなり良く、まるで高級リアルドール。──そのポーカーフェイスぷりとミュートっぷりからほぼほぼ人形の彼女だ。
家庭では財閥の令嬢として多くの稽古事を強いられており、その息抜きのために放課後はこっそりゲームセンターに通っている。
華道に茶道に書道、そして柔術、ピアノからバイオリンから美術まで、あらゆる教養や文学を身に着けさせられた彼女の、一番の趣味が──ゲームセンターだ。

それを踏まえたのであろう、主催者から大野へプレゼント《習得》されたのが、『リュウの技』。
格闘ゲーム『ストリートファイター』登場キャラの以下の技が使えるようになったのである。


・【背負い投げ】────←+強P
・【巴投げ】────←+強K
・【波動拳】────↓\→+P
・【昇龍拳】────→↓\+P
・【竜巻旋風脚】────↓/←+K


何故、架空のキャラの技をまんま発動できるのか。
どういう原理で技が出せるのか。
どういった過程でいつの間にやら技が習得されたのか。
──そもそも自分はザンギエフ使いだというのになぜリュウの技なのか。
成績優秀な大野とはいえ、ここまで荒唐無稽だと度し難いものだった。

ただ、理解できないとはいえ普段なら戦闘向きでない一般人の自分が、これほどまでの力を使いこなせていることは事実。
なにせ頭の中でコマンドを入力すれば、体がその通りに動くのだから、ゲーム感覚で敵と対峙できるのである。



「………………………………!」

「…あっ!!」



高架線を完全に通り抜けた直後、ここで交わる『もう一つの足音』。
前方にはこちらに気づいているのか否か。多少ふらつきながら近づく女子がいた。
大野と同年代──恐らくほとんど同じ歳であろう。そして、大野と同じロングヘアーで黒髪の女の子。


「お〜〜い!! そこのキミー! ワタシたちは殺し合いに乗ってないからー、安心してくださぁーーい!! 一緒に動きましょう!」


「………………………………」


無警戒…というか人を疑うことを知らないのであろう、マルタは笑顔で前方の女子に手を振った。
「子供だから殺し合いに乗ってるはずがない」──そんな思いで、徐々に徐々に迫りくる女子を暖かく迎える。
そんなマルタへ、赤いコートの女子から帰ってきた返事はこれまた大野同様『無言』だったのだが。


「…お〜い!! …大野ちゃん、言うまでもないでしょうけど…、あの子と仲良くしてくださいヨ!」



「………………………………」




──仲良くなんか、できる筈なかった────。


徐々に小走りとなりだし、俯きながらも右手を背中に隠す眼の前の女。
接近距離、残り三メートル、二メートル、一メートル。目と鼻のほぼ先。

329『止まらないry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/01/28(火) 21:19:22 ID:Hrp5mMJI0
その女がマルタの眼の前まで来た時。


「大丈夫デスか? 怪我とかしてない?? ワタシはマルタで、こっちは大野ちゃ──…、」



いや、厳密に言えば、その少女がマルタにぶつかった時。


「………っ、……………え?」「……え」



さらに、厳密に言えば、少女が隠し持っていたナイフが、マルタの腹部────本で防備した箇所に吸い込まれ。
刺さりこみ…──と言っても身まで刺さることなく、カシュ…という力ない刺音が鳴り。

二つの「えっ」が重なった時。


その瞬間。1フレームの出来事だった。



「────………………………………ッ!」





────────→↓\+P
 【昇龍拳】。




「…えっ!? いっきゃあああア──…、」


バンッ───────。

乾いた打撃音と共に少女────野咲春花は宙を舞わされた。
顎に襲いかかった、痛みをとっくに通り越す衝撃。揺れる顔全体の筋肉に、骨。
歪む表情。そして、吐き出される唾の粒。
此時、野咲はその宙舞う唾の動きが鮮明に見えるくらい──いわばスローモーションに感じ、地面に叩きつけられるまでの僅か一秒ほどが永遠のように感じた。

永遠のように──。


無重力空間にいるように──。



────ただし【永遠】など来ない。




「──ぐッ、っあぁぁああああああッ!!!!!!!!」


「………………………………」


 勢いよく吹き飛び、硬いアスファルトに叩きつけられるは野咲。
対して、アッパー後華麗に着地し、細かな所作まで自然とお嬢様の風格表すは、大野晶。
この時大野は殴った手をグー→パー、グー→パーと閉じ開き。対人で技を使ったのは始めてな為、身体がついていけず痛みを生じたのであろう。
ただ、痛みを気にするのも僅かばかりの時間。
ぶっ飛ばした相手が「うぅ…っ」と再起する素振りを見せた瞬間、大野は眉間にシワを寄せ、前を思いっきりメンチ切る。


────AM 02:52。ステージはファイアー通り。
────タイムは無制限。ハンデ、共になし。
──────タイマン勝負の【ストリートファイト】。

通り魔的殺人者《Murder》との遭遇により、今、大野のファーストファイトが始まった……。



「えっ!!?? ちょ、ちょっと何してるんですか!! 大野ちゃんっ!!」

「………………………………」

330『止まらないry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/01/28(火) 21:19:37 ID:Hrp5mMJI0
マルタの発す注意の声は当然無視。
──というより、聞いてられる余裕など大野の心にはない。
普段こそ喋らず、表情も変えず、そしてロボットのようにパーフェクトな大野のため、冷徹な人間だと思われるかもしれないが、実は人情深く、そして人思いである彼女。
それ故に、未遂で終わったとはいえ、自分に優しくしてくれたマルタを襲撃した──野咲には徹底的に叩きのめすことしか頭になかった。
初代『ストリートファイター2』のFPSは60だが、それを簡単に上回るスピードで野咲に急接近していく。


「……………………────あッ!」


驚愕の声をあげたのは野咲。
殴られ、ふっ飛ばされ、地面に転がり…、気がついた時には──襲撃予定だった相手に『蹴られる直前』なのだから驚きを隠し切れない。
華麗にスピンを始める大野の身体と、風を着るタイツ包の脚。

理解が追いつけなかった。
というか、何もかもが予想の範囲外だった。

野咲が大野orマルタの二択で、マルタを最初の闇討ち相手に選んだ理由は極めて単純。──マルタの方が強そうだからである。
外国人で長身、更にはその顔つきに似合わず肉付きは屈強なのだから、殺るには『不意打ち』が最適。
手ぶらかつ、パッと見強くもなさそうな大野は、マルタを始末してからでも余裕だろうと、判断したのだ。
誤算など到底考えてもいなかった。

──考えていないからこそ余計、血気迫る眼の前の大野が信じられなかった。


(…な、なに………ッ。なんなの……? なんなの…これはッ………!!)


もうすぐで目と鼻の先になるだろう、迫りくる大野の蹴り。
ただ、この危機的状態を文字通り前にして、野咲は右手の感覚──握っていた『奇跡』に歓びが沸き立った。


「……っ!!」


奇跡的にも、右手にはまだ包丁が握られていたのである。
さっきの強烈な昇龍拳を受けても、どういう幸運が作用したのか手放さずに持てていた包丁。
殴打による痛みの度合いは40del、大して鋭利なもので切られた痛みは120del。──この科学的成果が示す通り、包丁は打撃より強い。
このアッパー女がどんな柔術を使っているのか知らないが、とにかく武器の差で勝ち目はある。
…まだ、勝算はある……。と、野咲は一心不乱で包丁を薙振るった。



────↓/←+K。【竜巻旋風脚】。

────────ただ、『腱は剣より強し』。


「──あっッ!!!」


ポーーンッと、月光に照らされ反対歩道へと吹き飛ぶ包丁。
その刃先は大野相手に傷一つつけれることなく役目を終えると、回転蹴りを無防備に浴び続ける主人へただ哀れみの目を向けるだけだった。


腹部めがけて正確に衝撃が走る──一蹴り、二蹴り、三蹴り、四蹴り、五蹴り、六蹴り。────6 COMBOッ。

「──いッ!!? きゃッッ!!! あがっ…ッ!! ぐッ………! ゲホッ!!! うあああああぁぁっ!!!!!」

「………………………………っ」


最後の蹴りは渾身の一撃か、かなり重たく。
野咲は再び宙に浮かぶこととなる。


「………………………………ッ!」

「…ぇっ……!?」


ただし間髪などない。
大野は、宙ぶらりんの野咲の脚を瞬時に掴むと、容赦することなく地面に叩きつけ。──打撃。


「ッ、いっきゃっあああアアッッ!!!!!!」


格ゲーでは通常、ハメ技防止の為、攻撃を食らった相手は一瞬の無敵時間が発動するのだが、このバトルは生憎【リアル世界】。
攻撃を防いでくれる都合の良い現象など起きるはずもなく、待ったナシに大野は攻撃を与え。
──そして野咲は素直に連打を浴び続けた。

331『止まらないry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/01/28(火) 21:19:51 ID:Hrp5mMJI0
「ちょっと大野ちゃん!! もう、もういいでしょ!! ねえ!!」


この時、マルタ《外野》からファイトストップの声があがるも、言わずもがなアンサーはスルー。
大野は大きく腕を引くと、糸を引くようにまっすぐ──、


「………………………………ッ」


────鋭い一発を繰り出す。
──野咲の肩へと吸い込まれるその拳は、小学生時代ハルオを殴った時の型とよく似ていた。


 “…ど、どうだぁーっ!!! ざまぁみろ大野!!! 待ちガイルでお前の鼻をへし折ってやったぜ!!! ざっざまぁ──…、”


「………………………………ッ!!!」

BOWッ────────

「…いっ、あっあああ────────ッッ!!!!!」



もう二発目。
────今度は胸へと打点を伸ばす拳は、またもハルオを殴ったあのストレートに酷似だ。


 “お前…、怖いの苦手なのかよっ。プッ、ぎゃはははは〜!!! ついに弱点見つけたり──…、”


「………………………………ッ!!!!!」

DOWッ────────

「ぐうっ、…やゃあぁあ…──────ッッ!!!」



もう三発目。
────竜巻旋風脚のとき同様、腹部目掛けて内蔵を抉るように突っ込まれる一発。
振り返ると、最初のアッパー以外顔への攻撃はないのだが、これは大野の僅かな優しさなのだろうか。
…そんなことはどうだってよいだろう。何にせよ、このパンチの痛みに優しさなんか全くない。

サンドバッグと化した野咲へ強烈な拳。──あの時、ハルオを殴った威力とほぼ同じそれは、同じくハルオとの想い出を、そして思いを乗せて伸びていく。
参加者名簿を読んで知った──同じく参加者として放り込まれた彼への思いを……。


“……………なぁ大野……………”


“今…、お前にあげれるものは…これくらいしかねぇ……。ゲーセンで取ったしょぼい指輪………”



“悪ぃな…。だが、…受け取って……くれるかっ…………? ──大野…っ”



「──………………………………ッッ!!!!!」

DOOWッ────────


「んっがっ!! いっぁあぁあぁぁあぁぁあァァ……──────ッッ!!!!!!」





──────…DOSUW、DOSUW、DOSUW…。

言葉にできないほどの凄まじい打撃ゆえに、二三回バウンドした後、蹲る野咲。
…強い、目の前の敵はあまりに強すぎる。
──というか土俵が違う。
凶器を使って陰鬱かつ凄惨に殺し合ってきた自分とは、そもそもにバトルフィールドが違う。
故に、勝てない。勝てなさすぎる。殺せなさすぎる。

相手が違いすぎる─────。


「……かはぁ………。はぁ、ゴホッ…!! ゲホッ………………。はぁ、はぁ………」

332『止まらないry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/01/28(火) 21:20:04 ID:Hrp5mMJI0
込み上げる血反吐に、潰れかけで息苦しい肺。
全くテンションなんて高ぶっていないのにビートが激しく波打つ鼓動。
思えばこの戦闘でそんなにアクションを起こしていないというのに、疲れて疲れて全身が熱く痺れる。
返り討ちの代償があまりに大きすぎる。
アツアツのサウナ室でテキーラをピッチで飲んだかのような朦朧の中。地面に倒れ込む野咲は、かき消されそうな声で呟いた。


「…………はぁ、はぁ…………………。な、どうして………………わ………私………──…、」



──こんな目に遭っているのか。とでも言いたかったのかもしれない。


その声は最後の必殺技、【波動拳】────↓\→+Pであっさりかき消されたのだが。



野咲が最後に聞こえた声は、カタコトの悲痛な悲鳴だった。




「ちょっと!!! もうやめてっ!!!! 大野ちゃ────…、」



 ZUBAAAAAM………………





──────KO.

333『止まらないry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/01/28(火) 21:20:15 ID:Hrp5mMJI0



 野咲の意識は暗闇の中。
頭がかろうじて働くのみで、手も足も体全体が極度の疲労で動けない。
自分は何も動いてはいないというのに、自然と揺れ動く体。
──これは恐らく誰かに背負われている、ということなのだろう。

深い深い眠りの中で彼女はふと思う。


“……………何年ぶりだろう。誰かにおぶされたのは…………。小さい頃…以来かな。お父さんに背負われて、眠って……………………”



深くて深い、どこまでも深層な意識の中、頬が涙の感触を伝っていった…………。



“………お父さん……。お母さん、祥ちゃん…………………。ん、うっ…………………………”



【1日目/H1/ファイヤー通り/AM.02:55】
【野咲春花@ミスミソウ】
【状態】気絶、全身痣、精神状態(弱)
【装備】なし
【道具】???
【思考】基本:【マーダー】
1:皆殺し。
2:優勝して家族を生き返らせる。
3:妙ちゃんの思いを無駄にしない。
4:黒髪の格闘女子(大野)に恐怖。

334『止まらないry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/01/28(火) 21:20:30 ID:Hrp5mMJI0




 まず初めに、「重くないの?」──と、大野は聞きたかった。


「…あぁ、大丈夫ですヨ〜このくらい! この子結構軽いし、正直ワタシ自身も背負えちゃってる自分に驚いてますが……。あと、大野ちゃん反省してくださいねっ!!!」


次に、「反省…って。仕方ないと思うけど」──と、大野は聞きたかった。


「いや仕方無くないですっ!!! 酷いですよこんな女の子をボコボコに………。言い訳は無用!! いじめカッコ悪い、ですよ!!!──」

「──この子が起きたら謝ってくださいね!!!」



…その答えに大野はかなり不服そうな面持ちである。
締めに、最大の疑問をマルタに投げ掛けた。


「──…で、何故この襲撃女をおぶさっているの?」────と。



「…まぁ確かに、大野ちゃんは納得いかないでしょう。…ですが、この子にも事情があったと思うんですっ!! 見捨てちゃいけない…絶対……って、ワタシ思って……。とにかく話せば分かると思うんですよ!!!」


「………………………………」



ファイアー通りにて、スポーツ用品店があるOI●Iが見えてきた道中。
大野とマルタ、そして気絶中背負われてる野咲の三人は道を歩く。


 理解に…苦しい。
大野は全く解せなかった。
マルタが汗をこぼしながら大事そうに背負うその少女は、知人でも家族でも何でもない。ましてや善良の一般市民なんかじゃない。
自分たちを言葉交わさずして襲撃し、問答無用でナイフを突きつけてきた危険マシンなのである。
そもそも、この危険人物が手始めに襲いかかったターゲットら紛れもなくマルタ本人。
恨みはすれど、庇い仲間に入れるなんて普通は絶対しないというのに、なにが「話せばわかる子」なのだろうか。──と。

大野はマルタの極度なお人好しぶりに、この先未来を憂じるまでだった。


「………………………………(はぁー…」

「大野ちゃん、あんまりため息つかないでください! ため息一つで幸せが一つ逃げるんですから〜!!」

「………………………………」


何度も説得して、何度も「絶対連れてっちゃだめ」「そいつを縛って放置で、それでいいよね」と諭しても結局は無駄だった。
なら、せめて今はまだ眠るそいつが目を覚ましたとき、隙だらけのマルタに攻撃してこないよう警戒するか──が最終判断。


野咲を最大限に見張りつつ、大野は戦闘の疲労回復のためやや遅歩きでマルタについて行く。

335『止まらないry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/01/28(火) 21:20:47 ID:Hrp5mMJI0
────そんな二人の頭、ちょうど間を、唐突に『矢』が飛んできて、真後ろの電柱に刺さった。






「──………………………………っ!!!」

「──えっ…」






────慌てて、背後。──矢の投擲方向を振り返ると、十数メートル後ろに、直立不動で立つ一匹の子ブタがボウガンを構えていた。





「………………………」

「あ、あの……………」


「ふふふっ…。やあベイベー。…我ながら僕のボウガンコントロール力は中々のものだろう?」





────メガネをクイッと整え、そのブタはボウガンをリロード。


────マルタにボウガンを向けて。──いや、その後ろ。





────────マルタが背負う野咲春花を矢で指さしながら、不敵に喋るのであった。





「…あぁ、勘違いしないでくれないかい。僕は別に君らとやり合おうってつもりじゃないんだ。…僕も色々あって、殺しには飽き飽きしててね。穏便にいきたい──」


「──外人さん。あなたが背負ってるその子…彼女は野咲くんというんだけども、まぁ僕の知人というか…『恋人』でね。ちょっと置いていってくれないかい? というか君らごときにその華麗な『三角草の花』は勿体無い──」




「──僕を怒らせるような真似はしないでもらいたいね。さっさと寄越せ。彼女を…。…………いや、」








「────────野咲閣下を。……ふふふふっ」











────自分の愚かだった人生一週目をリライトするため。そして、自分の人生に決着をつけるため。
────愛しの『三角草』を誰の手からも守るために、




今、池川努は実に二週間ぶりとなる野咲との再会を果たした───────。

336『止まらないry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/01/28(火) 21:21:00 ID:Hrp5mMJI0

【次回ッ─────────】
【エピソードタイトル:『紅の豚』に続くッ─────────】



【1日目/H1/ファイヤー通り/AM.03:03】
【マリア・マルタ・クウネル・グロソ@くーねるまるた】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】童話本二冊(腹部に装着)
【思考】基本:【対主催】
1:大野ちゃんと行動。
2:子供たちを悪い大人から守る。
3:わ、私はどうすれば……。

【大野晶@HI SCORE GIRL】
【状態】疲労(軽)
【装備】なし
【道具】雑誌二冊(腹部に装着)
【思考】基本:【対主催】
1:マルタと行動
2:………………………………。
※大野は出展作品特権でリュウ@スト2の技が使えます。



【池川努@ミスミソウ】
【状態】健康
【装備】ボウガン@ミスミソウ
【道具】???
【思考】基本:【奉仕型マーダー→対象︰野咲春花】
1:野咲閣下を優勝させる。
2:野咲閣下にすべてを捧げる。
3:野咲閣下を愛する。
4:相場を殺害。基本皆殺し。

337 ◆UC8j8TfjHw:2025/01/28(火) 21:27:40 ID:Hrp5mMJI0
【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ②】

①本ロワは非リレーなのをいいことに伏線を張りまくってます
②ただ、月日設定は七夕のはずなのに、第1話「あんたが客で、私がその髪をカットして、」が思いっきり冬なのは伏線でもなんでもありません。ミスです
③ところどころ三ケ月だったり満月だったりバラバラですがそれも伏線でもなんでもありません。ミスです
④センシが 『食うため。』で「島から出たことない」とかほざきましたがこれもミスです
⑤参戦時期が高校生編以降の新田が『自分のことを殺し屋だと思われている一般人』で小学生ヒナに何も触れていませんがこれもミスです
⑥その他山ほど矛盾点がありますが全部伏線ではありません。ミスです

残りの情報…それはまだ混沌の中。
それが………平成漫画ロワ…………!


【次回】
────大東京ビンボー生活マニュアルを読んだ。

────なんだよ、メントール1つ200円って。なんなんだ昭和は。こちとらヤニ吸わなきゃ文章も書けないっつーのに、昔の文豪先生たちはさぞ幸せですなっ

【23%完成】…『本当にあった怖いダガシ』…小泉さん、ほたる
【*5%完成】…『エスケープ フロム B.R.』…チルチャック、りこな、切絵、折口
【*1%完成】…『バトロワ最強は超能力少女?!』…ネモ、ヒナ、肉蝮、ウシジマの死体

338『バトロワ最強はマイバーディっ?!!』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/04(火) 20:36:13 ID:GoaNmR1M0
[登場人物]  [[根元陽菜]]、[[ヒナ]]、[[肉蝮]]

339『バトロワ最強はマイバーディっ?!!』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/04(火) 20:36:34 ID:GoaNmR1M0

 それは遥か未来。五十年後の世界の話。
長い月日を経て科学力は天元突破し、その行く末には核戦争が勃発。
聡明な賢者は虐殺兵器の開発をし、権力者は核シェルターに籠り、知も富もない凡人たちは携帯式レールガンを握る。──肉片と化す男達、春を売る女達、そして戦地の英雄になることを無邪気に憧れる子供達……。
時代の波と共に荒れ果てた未来の、ニホンのある研究所で────奴は産まれた。

テスト訓練と称し、奴を敵国の最前線に送り込んだ際、後に研究所主任はその青い髪の奴をこう評したという。────『最高傑作』と。
一方で、焼け果てた戦場跡にて、唯一生存していた敵国戦闘員はシンプルに一言。
その凄惨な戦闘風景をこう回想し、出血多量で息耐えた。

────『最強』、と。


……

「ちょっと閃いたんだけどさー、このでっかいバリアーあるでしょ? ヒナちゃん」

「え、あーうん。わたし達を取り囲むこの大きなバリアー。まるで、鳥籠の中にとらわれたかのような屈辱が込み上げる。いまいましい」

「…いやそのセリフ何のアニメからの引用? 賢ぶった言い回ししても別にヒナちゃん知的には見えないよ……?」

「………。この大きなバリアー、まるで丼ぶりの中に押し込められたイクラのような屈辱が込み上げる」

「……はいはい、ヒナちゃんらしいよそれが。…それはともかくとして、バリアー…ワンチャンもしかしてだけどさー」

「もしかして?」


「ヒナちゃんの『念動力』で壊せちゃうんじゃない?? って私思うんだけど…。どうー?」

「ほー」


……

 最強傑作──奴はヒナと名付けられた。
対立国がAI技術を使った軍事侵攻を始めた時、対抗としてニホンはある事柄に科学技術を結集させた。
──それは、『超能力』。
開戦前から念動力を使う動物の生成に成功していたニホンは、さっそくこの叡智な力を軍事利用。
大戦最高出資者であるミシマコーポレーション主導の元、クローン技術を駆使して数体のエスパー・チルドレン【人造人間】を作ったわけだが。
その中の三体目が、ヒナ。

常に眠たげで覇気のないその瞳は、──後に125,646人の屍を目にし。
全体的に貧相で、ナヨナヨとしたその腕は、──12の国を存続不能に陥れ。
道の真ん中で能天気にあくびをしたその顔は、──『第八次中東戦争』、『日本海戦争』、『5.25連合国内戦』で暗躍した悪魔として、敵国では最大危険人物の手配写真で有名である。



……

「…じゃあーいくよー。成功したら陽菜、ご褒美わすれないでね」

「うんっ。イクラ瓶詰め一つで済むんだから安いもんだし。じゃ、ヒナちゃんやっちゃえ!! バリアーに向かって──『サイコキネシス』だっ!」

「わたしはガッ●ュベルかっ。おりゃ…おりゃうおおお〜〜〜〜〜〜っっっ!!!」

「…私的には『ポケモンかっ』、ってツッコんで欲しかったんだけどなっ!! とにかく力の限り頑張って!!!」


「おっりゃぁぁああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっ」



グラグラグラグラ…………

 グラグラグラグラ…………


「…えっ凄っ!!? バリアーが…、バリアーが揺れてる………!! 念動力のパワーが、確実に効いてる!!」


  グラグラグラグラ…………────ピシッ


「あっ!!! す、すごいよヒナちゃん!!! ヒビ入ったんだけど! ほら、あそこ!!」



……

 そんなヒナであるが、ニホンに莫大な利益を与えた成果とは裏腹に、末路は自国からゴミ同然に捨てられることとなる。
不法投棄された先は、五十年前の過去。
軍は何故、英雄であるヒナをそのように蔑ろにしたのか。
【メリット】、【デメリット】という相反する二つの概念が存在するが、ヒナはその二つが『共通』している稀な生命体である。
ヒナのメリットは【強すぎること。】逆に、デメリットもまた──【強すぎること。】

つまり、ヒナが捨てられた理由。
それはもう誰にも制御できないくらいの『最強』だったからなのだ。

力が暴走しやすい体質で、暴走を防ぐため普段から適度に念動力を放出していたヒナ。
以前暴走した際に街をひとつ吹き飛ばしたこともあり、その甚大すぎる被害から裁判なしの即殺処分が決定したが、そもそもに死刑執行が誰にもできない。倒すことさえできなかった。
その為に過去の世界へ押し付ける形で、タイムマシンの元、未来から追い出されたのだが、ここで一つ質問を提起しておきたい。


【この地球上で最も戦闘力が高い生物は一体何か────?】
質問は以上であるが、どう答えるか。

340『バトロワ最強はマイバーディっ?!!』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/04(火) 20:37:22 ID:GoaNmR1M0

……


 グラグラグラグラ…………────ピシッ、ピシピシ………


「あ〜〜。なんか思ったより余裕そー。わーい、これでイクラだ──…、」



ピ────────────────ッ

『違反行為を感知しました。詳細:【脱出行為】。辞さない場合、三十秒後に首輪が爆発します』


「…え」「……あっ、やっぱり。…もしかしたら…とは思ったんだけどさー……」


『今すぐ脱出行為を辞めてください。さもなくば首輪を爆破します。カウント、スタート。──対象者:【根元陽菜】』


「…え?」「──…え゛っ!!?? 私だけっ??!!」


29、28、27、26、25…………
ピ、ピ、ピ、ピ、ピ…………


「どうして!!? 直接攻撃してるのヒナちゃんなのに、私だけ!!???」

「…ははは。主催者のボンクラ判断うける」

「ちょ!!? ちょっと!!! ひ、ヒナちゃん超能力中止!!! ストップ!!! 爆発しちゃうんだけど!!!!?」

「…え?? え、なんで?」

「グッバイしちゃうからに決まってるでしょっ!!! 私がっ!!! ねえほんとに作戦中止!!! 早くやめてっ!!!!」

「…え、でもやめたらご褒美が……」

「そのご褒美あげるの誰かなっ?!!!!」



グラグラグラグラ…………────ピシッ、バキバキバキ

21、20、19、18、17…………
ピ、ピ、ピ、ピ、ピ…………


「…………………………………う〜〜ん………──」



「──…そうだ。こうしよう。一つ言い忘れてたけど、いい機会だから言うよ」

「そんなの後ででいいでしょ!!!! 早くヒナちゃ…、ヒナ!!! こらっヒナァ───────…、」

「さっき陽菜寝てたじゃん? そのとき見えたんだけど、…パンチラの食い込みかなりえぐかったよ」



「……………は?」



……


 地上最強の生物。
──陸限定とするなら、サバンナのアフリカゾウが走攻守完璧と言える。
海洋生物を連想したものは、食物連鎖のトップであるシャチ。空で例えればオオワシが挙がるだろう。
もしくは、人類から選出するならWWWFヘビー級王座保持数NO.1か、WBA・WBC・IBF世界ヘビー級統一王者か、昭和時代伝説の喧嘩師か。

しかし、断言するのならば、いずれも答えとしては不正解。
地球最強の生物、それは明確な回答が存在するものなのである。



……


「ほんとギリギリで。ガッパガッパで脚開いてたから丸見えだった。つまり、わたしが言いたいのは、これで陽菜は死にたい気分になったから心残りなく首輪爆発して──…、」

「…………」

……



その生物が現在拠点においている場所は東京都・渋谷区。
ドーム型の遥か大きいバリアーの元、奴は封じ込められ、──殺し合いをさせられている。

341『バトロワ最強はマイバーディっ?!!』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/04(火) 20:37:41 ID:GoaNmR1M0
最強生物の名は、すなわち新田ヒナ。
一見ぐーたらで弱々しくて、何の力もなさそうな奴こそが、『食う寝る原子爆弾』ヒナ。



つまり、バトル・ロワイアル下に置いて、ヒナを差し置いて優勝できるものなど──全七十人。誰一人も存在しないのである────。






……

────────ビチャンッ(通称 陽菜ビンタ)



「あっいっだぁぁああああ───────っっっ!!!!!!!!!」

「バカじゃないっ!!?? いやバカでしょ!! ……ほんとバカバカバカ!!! …謝らないからっ絶対!!!」


………
……




「『根元陽菜暴行記録──七月七日 目を殴られ腫れる。計三回』…っと」

「何書いてるのっ?! レ●ンマンかっ!!」

342『バトロワ最強はマイバーディっ?!!』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/04(火) 20:38:33 ID:GoaNmR1M0





 数分後。
舞台は、渋谷街の小さなラーメン店。『ラーメン愛沢』店内に移す。
内部構造──厨房を店内の半分を埋め尽くすカウンターテーブルが囲み、右サイドにはウォーターサーバーと宙吊りのテレビ。左サイドにはテーブル席が二つこじんまり。
サイドメニューは餃子とチャーシュー丼のみのようだが、味噌・醤油・辛醤油・煮干しetc…──ラーメンの種類はオールマイティにメニュー表に書き連ねられている。

今現在、この店内にいる客の人数は四名。
その内の一人。
カウンター席で連れと共に座る『怪物』が頼んだのは、チャーシュー麺大盛りだった。



「ホフホフッ…! ズルズル……。…旨っ!! 旨い旨い!! 旨ェーなァ、ウシジマッ!!!」


現在気温28℃。
真夏の最中だというのに、その怪物は分厚いジャケットを纏いフードで顔を隠す。
つい最近、「クレーンゲームで金使い果たしたから」という理由で強盗殺人を犯した噂が立つ────奴の名は、『肉蝮』。
小指一本で100kg超えの自身を腕立て伏せできるという、信じられない強靭的筋肉とパワーを兼ね備えた奴だが、その性格は極悪非道この上ない凶人。
強盗と拷問を稼業にし、地元では「100人斬りの強姦魔」や「女子高生をアナルレイプするのが趣味」と目を覆いたくなるような伝説を数多く語られている。
そんな異常者が『殺し合い』に放り込まれ、何もせずいられる訳もなく────。


「…オイッ、ウシジマァ!! あんま辛気臭い顔してンじゃねェゾ?! テメーが俺の腕折った件はさっきの拷問でもう許したんだからよォ………。元気出せやッ!!! オラッ!」


 ──丼ぶりに顔を突っ込み、グッタリしている『連れ』。既に死体と化した丑嶋馨へフレンドリーに話しかけていた。

宙ぶらりんの生気のない両腕、根性焼きまみれで十円禿のようになった頭、そして耳から流れる黄色い膿。──言うまでもなく、肉蝮に殺害されたのである。
数時間前、公園裏に引きずり出された丑嶋は拷問を一方的に受けた挙げ句、最期はスピリタス一気飲みをさせられた際、喉に突っ込まれた酒瓶で喉仏が折れ死亡。
心身両方ズタボロにされたというのに、死してもなお、死体を肉蝮に弄ばれ続けている。


「つか旨ぇなマジで!! ハフハフ……。そうだ。おいウシジマ、テメー俺と早食い勝負な!! 負けた方が奢り+スイッチ新型購入の刑! いいな!!! 根性出せよォ〜?!!」


厚切りのチャーシューを一口で飲み込み、肉蝮は唐突に提案を叫ぶ。
割り箸を新しい物に持ち替え、気合十分の態度で目を光らせる肉蝮であるが、無論その勝負の提案に連れからの反応はなし。──ジェスチャーひとつとてできる筈がない。
「テメェも頑張れよ!!」──と言いたげに、やたらフレンドリーな態度で肉蝮は丑嶋の肩を小突くと、


「…………あっ! …って…──」


「──勝負も何も…テメー絶対ェ勝てねぇか。…死んでンだもんな!」


バランスをなくした死体はフラッと傾き、そのまま床へと倒れ込んでいった。
──青痣だらけのその顔面には、「さよならは、カナしい言葉じゃない。バイバイ……(泣)────By.肉蝮」とポエムが書き殴られている。


「プッ!!! ぎゃはははははははははははハハハハハハハはははははッ!!!!!!!! ぎゃハハハハハははははハはハッ!!!!!!!!」


バンバンバンッと笑い叩かれる机。大口から飛んでいく唾。
ラーメン店内を気違いのような笑い声が響き走る。
赤く亀裂走る白目の眼球──。完全に糸の切れたマリオネットとなった丑嶋は、もう食べる事も、喋る事も無い。
身動き一つも絶対なく、ただ天井の回るシーリングファンを瞳に映し続けるのみ。
そんな様子の亡骸が滑稽に見えたのだろうか、肉蝮は執拗に笑い、転がり続けた。



「ぎゃははははは………はは、は……あ〜あ…。────………つーかよぉ…──」




「──人と食事してるっつうのに何寝てんだウシジマぁあァ────────ッ!!!!!! テメェ舐めてんのかゴラァあぁああ!!!!」



 ただ、笑ったかと思うのもつかの間。
何が琴線に触れたのか、唐突に肉蝮は大激怒し始める。
怒りの矛先である死体へ、ゴスッ──と容赦なく突っ込まれる足蹴り。


「目ェ覚ませやテメェ────!!!!! オラッ!!!!!」


工場のピストンで押し潰されたかのような、その力強い踏み潰しを丑嶋の胸部はもろに浴びる。
無論、肉蝮の蹴りがどれだけの威力だろうと今更丑嶋にダメージなんかはない。ただ、衝撃でバウンドし無抵抗を維持するだけだ。
無抵抗に次ぐ、更なる無抵抗。────何発も何発も靴底が降り注いでくるが、アクションは寝返りのように転がされるのみである。

ただ、不意に蹴りが胸部の肺部分へモロ直撃し、丑嶋の鼻からブニュッ──と豆腐に似た何かが飛び出す。
────そのことが余計、肉蝮の精神異常な癪に触ったのだろう。

343『バトロワ最強はマイバーディっ?!!』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/04(火) 20:38:53 ID:GoaNmR1M0
「テメェッ!!! …ふざけやがって、もうっ許さんッ!!!!──」

「──そのムカつくメガネ顔…、髭男ディズムよりも『グッバイ!』してやるッ!!!!! 貴様ぁああぁァアアア!!!!!」



肉蝮は死体に馬乗りになると、割り箸を力強く握り、躊躇なく顔面へ振り下ろした。


 ザスッ、ザスザスザスザスザスザスザスザスザスザス────────…
  グチャッ、グチャグチャ、ベチャッベチャヌッタリ。


「畜生ッ!! 畜生畜生畜生畜生!!! 死ね死ね死ねしねしね死ね死ね死ね死ね死ねしねしねしね! オラッ!!!」


真っ二つにしたスイカをスプーンでほじり食べたかのような音が連続する。
乱雑なほじくられ方をした影響で、無造作に飛び散る果肉たち。充満する赤い汁。
割り箸が、剥き出しとなった赤黒い顔面骨格に硬度で負け、バキッと折れると肉蝮は「チィッ!」。一言のみ。
新しく隣の割り箸を手に取り、文字通り血の池と化した顔面に入刀をずっと。ずっとずっとずっと、満足行くまで続けていった。


「どうだぁ!!! 悔しいかッ?!!! テメェが大嫌いなこの俺に負けて悔しいかぁあッ!!! 答えろ!!! 話せるもんなら答えてみろ!! …ゲヒッ、ヒィーヒッヒ…!!!──」




「──はっははははははははハハハハハハハハハハハハハははは!!!!!!!!! だぁっはっははははっはっはっははははははァァァァァアアア!!!!!!!!!!」







────不幸にも、そんな凄惨な現場に現在、根元陽菜らは居合わせることとなる。







「……………………っ、……。…………」

「……………………」


 彼女ら二人が身を潜めている場所は、カウンターテーブル奥。──肉蝮から見て反対の場所。
十数分前、「力使ったらお腹すいた」──とダダをこねたヒナを黙らせる為、近くにあった愛沢ラーメン店へ入ったのだが、タイミングが非常に悪かった。
券売機を押し、カウンターテーブルの席に腰を降ろした折で、入口から現れた不穏な人影。
万が一に備えて…と、根元はヒナの襟首を掴み咄嗟にテーブル下へ隠れたのだが、入ってきた人物はその『万が一』であった。

グチャグチャグチャグチャグチャグチャ──と嫌な音。時折、パキッ──と何かが折れる音。
一連が何をして発せられる音なのかは見ていない。ただ、想像してる通りの惨たらしいことを、対岸の大男はやってるに違いなかった。
たまたま訪れた店で唐突に現れた人生最大級の恐怖、そして危機。

連日最高気温が報じられる程の猛暑だというのに、根元の身体の震えが止まらず、顔も真っ白に青ざめていく。ただ、汗だけは季節に従順して流れが止まらない。
大男──肉蝮への恐怖を前に、根元は何も動けず、隠れることしかできなかった。

例え、太もも上をどこからか湧いた虫が這ってもなお、身動き取らずにじっと隠れる。


「………──っ!!! ……………………………」

「………………」


生理的嫌悪感のくすぐったさに耐えながらも、根元はヒナの袖をギュッと握って動かなかった。
──否、動かないというよりも待ち続けていた。
完璧に逃げられる『タイミング』の訪れ。言わば、肉蝮の隙をずっとずっと待つのみである。


「…………(…ねぇ、陽菜)」

「……!(ちょ、ちょっとヒナちゃん……! もう少し声抑えて話して…………)」

「……。……………(どうする? 今すぐ出た方がいいんじゃない?)」

「……………(……ダメ。100%逃れられる保証はないし…マズいから。……とにかく今はジッとしてよう。…ねっ………)」



もっとも、根元が待ち望んでいたのはこの悪夢が自ら立ち去ることなのだが。

344『バトロワ最強はマイバーディっ?!!』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/04(火) 20:39:16 ID:GoaNmR1M0

 ただそんなか細い思いが伝わったのか、否か。
何の前触れもなく、グチュグチュ…と吐き気を催す音が止まりだした。


「………………っ!」

「……………………」


辺りを支配する不気味な静寂。──死体の血泡が弾ける音のみが聞こえる。
肉蝮は何を考えたのか──。この無音っぷりは一難去ったと捉えてよいものなのか──。
この静かさ故か、鼓音が目立つくらいに高鳴り出す。

 バクンッッ、
  ドクンバクンッッ、バクンッッ…。

根元の緊張感が一気にボルテージを昇っていく中、この静けさの『答え』がすぐさま解き明かされた。



「…さーて、かまちょウシジマの相手するのもこれくらいにして。…ところでよォー──」




「──おい二人組の女ァッ!!!」


「!!」「…ひっ…! …あ、…………っ!!!!」



「俺が気付かねェとでも思ってたかァアッ!!!! 隠れてないでさっさと出ろ!! つぅか犯させろオッ!!! やらせろッ!!!! どうせテメーらもアソコ濡れ果ててんだろッ?! あぁああッ!!??」




「……………っ、………」



 静寂の答え────それは、『嵐の前の静けさ』である。

根元の心臓は、飛び跳ねるを通り越してクラッシュ寸前に達した。
過去に人に呼びかけられて、これ程までに心臓がバクついたことはあっただろうか。あったとしても、授業中ウトウトしてるときに先生に当てられた時が最大だ。──と。
それくらいに、平穏で一般庶民的な日常を送る根元にとって、今のこの恐怖はバッドトリップ級だった。

震える手、震える舌に、震えるハート。
ここから一体どうすればよいのか──、私たち二人は────、走馬灯の如く過去の体験から最善策を呼び起こそうとも、頭は怖さで一杯一杯だ。
そんな状態のため、当然肉蝮の声には静寂でしか返せなかった。


「……………………………………」


暫しの静まりで場は包まれる。
根元が唯一選択できた沈黙という答え。
その反応を受けて、痺れを切らしたのか悪魔は「チッ」と放った後、話し出す。

肉蝮の提案した『二択』はこれ以上もない最悪な内容であった。



「……一応、勘違いすンなよッ?! 女共」

「………………え?」

「俺はこのメガネザルを背負わされたせいで今…疲れてンだわ! その上今バトロワ中だろォ? 体力勝負だろォ?! 無駄なスタミナ消費は避けておきたいわけで」

「…………………」



「つまりぃは、テメーらのどっちかが俺のチンポコの相手しろッ!!! ンで、片方はどうでもいいから消えてよし。女共もそれで文句はねェよなァ〜?!! 分かったか!! オラッ!!!」



──『二択』と言っても根元には実質一択しか選択権がない。
それは『無視して逃げ出すこと』────なんて簡単にできるものなら縋りたかった。

自分が犠牲になるか、それともまだ小さなヒナを上納して逃げ通すか。

345『バトロワ最強はマイバーディっ?!!』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/04(火) 20:39:49 ID:GoaNmR1M0
(…そんなの、前者一択しか無いじゃん……っ。やれる訳がないし……。ヒナちゃんを差し出すなんか……………──…、)

「あっ、テメーらが処女か、それともガバマンかなんて俺はどうでもいいから! アナルをぶち犯して破き倒すッ!!! それが俺のポリシーだからよ、安心しとけ!!!」

(………っ──)


(──…………ヒナちゃんを………、さ、差し出す…なんて……………)



ニジ…、ニジ………。
蝮が這うような足音がにじり寄ってくる。もはや躊躇っている余裕など、鉄板上の溶けゆく氷よりもない。

本当は動きたくなかったし速攻逃げ出したかった。
性欲の知識などせいぜい黒木から借りた対魔忍が限度で、肉蝮にどう弄ばれるのか、そしてどう痛みつけられるのかも想像が絶して──それでいて恐ろしかった。


それでも、パッと見小学生のヒナを見捨てる事なんて、根元は出来る筈がなかった。


「………………………っ!」




──"煩いな…。分かったよ………"────と。



「…あァアッ?」



根元は震えまくる手にギュッ、と爪を立てて、カウンター下からゆっくり立ち上がっていった……。




「まって、陽菜」




「………。な、なに。…ヒナちゃん……」



「…陽菜といたら、すごい楽しかった」

「………………え、何。何が…………?」


「まぁ聞いて」

「…………うん」



「わたしが居た未来ではずっと…。ずっとロボットみたいに。命令をこなすことが存在意義だった」


「……………」


「いつも大人たちから指示されて、つらい毎日だった」


「………ヒ、ヒナちゃ……」




「でも陽菜はわたしが知ってる人間とは全然違う──」


「──戦闘命令もしないし、ご褒美もくれる。何もしてないのに食べ物を奢ってくれる。…ビンタは痛いけど…──」


「──……────でも、そんな陽菜といたこの数時間が何よりも幸せだった…」




「…………」

346『バトロワ最強はマイバーディっ?!!』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/04(火) 20:40:07 ID:GoaNmR1M0
「陽菜といたら………楽しかった。──」





「────だからここは、わたしがやる。陽菜は下がってて」



「………え。……え、ヒナちゃん…っ?!」



 ポンッ、と根元の肩に伝わる感触。
肩を頼りにゆっくり立ち上がったヒナは何の恐れもなく、怪物のような大男の前へスタスタと歩み寄っていく。

呆気に取られて棒立ち。
根元はヒナの予想だにせぬ言動に暫し何もできずにいたが、脳が理解に追いついた途端、慌てて静止へと飛び出した。
待って、行かないで!!──と根元は激情を漏らす。


 ──これからあの狂人男が何をするか、ヒナちゃんは分かってるの…?
 ──まだ思春期の「し」の字にも満たないくせに、どんな目に遭わされるのか分かってて動いてるの………?!
 ──ヒナちゃんっ………!!


「待ってッ!!! ヒナちゃん!!!!──」



「──あっ…!」



根元がカウンター席を飛び出した時には、もう遅い。
眼の前に広がっていたのは、肉蝮の手にがっつりと肩を捕まれた直立不動の──ヒナ。
後ろ姿のヒナの表情は当然見えない。ただし、大男のボロボロで鋭利な歯を見せながらニヤつく、醜悪な顔だけは目に映る。────最悪中の最悪だった。

それでも根元は入口ではなく、ヒナの元へと駆けていく。

溢れる涙が震え上がる。
「陽菜といたら楽しかった」という一言がずっと頭の中でリフレインされる。


 ────"私もヒナちゃんといるの結構好きだよ?"、と。



根元は腕を懸命に伸ばした────。




「あァ?! ガキ、テメーが相手役だっつうのか!? お前なんか犯したら俺ロリコン扱いされンだろ!!? ざけンなッ!!!! ……まぁいいや。テメーにはたっぷり──…、」

「そしてえ〜、か〜がやぁ〜く……」

「…あ?」


肉蝮の言葉を遮って、前に出されたのはヒナの人差し指。
凶悪面を前にして何の震えもなく、その指はまっすぐ指されると。


「うるとら…──ソウルッ!!!」

「…………あぁ?!」



クイッ、と指は入口の方へと向きを変えた。

347『バトロワ最強はマイバーディっ?!!』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/04(火) 20:40:27 ID:GoaNmR1M0
────────HAIッッ❗️❗️❗️☆(ハイッッ!!!!!)





    ビュンッ!!!

  パッ!!!! 


 ズガアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ────────────ンッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!


 異様な轟音が響いた。
閃光もなく、爆発音もない。
それだというのに、肉蝮の巨体が指の差した方向へと勢いよくぶっ飛ぶ。
吹き飛ばされたのは肉蝮だけじゃない。
店内のあらゆる品々が──、棚にずらりと並んだ漫画本、テレビ、木造りのテーブルに椅子、そして死体までもが、全てを洗い流すかのように放出され、空中を舞い、町中に散らばっていく。
時速百数十キロで弾ける肉蝮の身体を、入口のたかがガラス戸ごときが支えきれるはずなく派手に破損。
それでも勢い止まらず、ついには向かいのシャッター店までぶっ飛び、ガシャガシャバンガランッ!!──と、大破に次ぐ大破へ至った。

肉蝮にとってはワゴンに跳ね飛ばされたかのような衝撃だった。
彼がその全身の痛みに気付いたのは、意識を取り戻す数十分後のことだという────。




「ふー。一件落着。てかお腹すいたーー」




「え。えっ、え!!?? ……ヒ、ヒナちゃ……。えっ!!???」



再び棒立ちの静止画と化す根元。
そして、伸び切った自分のラーメンをすするヒナ。



「……ズルズル。うん、まずい。まずいな。でも食えなくはないな。でもまずいまずい。ズルズル…………」



さっきまでのピンチは一体何だったんだろう…──。
ヒナの強大過ぎる超能力を後にして、それしか考えられなくなった根元。
能天気にラーメンをすするヒナをただ見て、脱力からかただ膝をがっくり落とすしかもはやできない………。






【バトロワ最強はマイバーディっ?!!】──────完ッ。

348『バトロワ最強はマイバーディっ?!!』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/04(火) 20:40:39 ID:GoaNmR1M0



「とりあえずヒナちゃん……。う、ウェーイ! ( ; ^^)pグータッチ」コツッ

「…? うぇーい。q(=_= )」コツッ



【1日目/C2/ラーメン店・愛沢/AM.03:46】
【根元陽菜@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!】
【状態】健康
【装備】ダーツ
【道具】???
【思考】基本:【対主催】
1:バトロワに参加させられた私、チート級超能力少女が仲間なお陰で結構お気楽モードになれそうです。(なろうタイトル風〜^^;)
2:ヒナちゃんを守る。他の参加者は基本話し合いで解決。
3:田村さんたちが心配。
4:フードの男(肉蝮)に恐怖。

【ヒナ@ヒナまつり】
【状態】右目が腫れ(軽)
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:陽菜はやさしい。なんでもおごってくれるから大好き。
2:ろりこん、って何だ?


【肉蝮@闇金ウシジマくん】
【状態】気絶、全身打撲
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【マーダー】
1:がぁっ……。ぐうっ…………。
2:あのクソガキ二人(ネモ、ヒナ)、絶対許さねぇ。絶対犯し殺してやる…ッ。


※C2・大破した店にて顔面が崩れた丑嶋の死体が転がっています。

349 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/04(火) 20:52:15 ID:GoaNmR1M0
【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ③】

①今回から毎週火曜日連載となりました
②どれだけ継続できるかは未定ですが、チューズデイ=平成漫画ロワと思っていただければ幸いでございます
③あと全く関係ありませんが、企画主はおさげの髪型がめちゃくちゃタイプです。エヴァで好きなキャラは?と聞かれて「委員長」と答えるのはわしくらいでしょう
④つまり、ヒナまつりでマミ、メムメムでオルルが参加できたのは完全にわしの好みのお陰。優遇するつもりはありませんが、描写が他参加者と比べて濃くなってることはお伝えしておきます


残りの情報…それはまだ混沌の中。
それが………平成漫画ロワ…………!


【次回】
────一匹の獣は、股座を行く。

【多分次これ】…『マイライフアズアドッグ』…ひろし、海老名、クンニーヌ、山井、うまる、マミ、デデル、マルシル、飯沼
【↑書けなかったらこれ】…『本当にあった怖いダガシ』
【↑書けなかったらこれ】…『クマとメガネとイヤホンとリボンとヤンキーと吸血少女(札)』

350『十年ごのボクへ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/07(金) 22:22:06 ID:sMvNuXUc0
[登場人物]  [[鹿田ヨウ]]

351『十年ごのボクへ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/07(金) 22:22:25 ID:sMvNuXUc0
「ミュージアム♪ …ミュージアム♪ かけがっえの、な〜い〜♪──」


「──たいせつなみっらいを〜〜♪ なんたら、かんたら、ふふふふ〜〜〜ん♪………──」



「──……………──」




「──…なんだっけ────!?!! この曲────────────っ!!!!」




【答え:ド●えもんかなんかの映画(多分)】




……

 オッス!
俺の名は鹿田ヨウ!! 好きなものは駄菓子と巨乳だ!!!
日夜オイシイ駄菓子を追い求め全力疾走しッ!!!──ふと、おっパイ姉ちゃんとすれ違ったら思わず立ち止まってしまう…!! そんな俺はまさしく『永遠の青春期』………。
サンデー的言い回しで「見た目は大人、頭は………」とは、────この俺のことだぜっっ!!!!(あっ、あとシカダ駄菓子店も経営してるよ!! ヨ・ロ・シ・クねっ☆)

そんなEccentric Shounen Boyな俺が、この度馳せ参じられたのが……バトルロワイヤルっ……!!
なんだかよく分かんないけど殺し合いをすることになっちまったんだ…。やぁ〜ねぇ、もう聞いてヨ〜奥さんっ!! 殺し合いですとよっ?!!!
この人生、毎日毎日駄菓子について切磋琢磨し、…時には妻に逃げられ、…時には売上低迷に頭を悩ませながらも………、それでも俺は男手一人でココノツを育て上げたんだが…。
四十五年間必死で生きてきた結果が……──これなのか……………?
…うまい棒めんたい味よりも塩辛い涙が頬を伝う俺だったぜ…………。
うぅっ…〜〜。


「………フッフフフ。──なーんちゃって…っ!!!」


──だなんて思っただろっ!!!
殺し合いを前にして俺が泣き上戸になってると思ったでしょ!!? ざ〜んねん!!!
違いまーーすっ!!!!

主催者のトネガワ先生!!
残念だが、バトルロワイヤル如きで俺の『駄菓子魂』は燃え尽きたりしねぇーぜっ!!!!
いや、むしろこの駄菓子魂でバトロワを終わらせようとか考えちゃっている!!!! 俺は!!!!
見てろよ────? 刮目しろよ────? そして味わう準備はできたか主催者くん────???!
俺の魂が発する、おやつカンパニーパワーで……、バトルロワイヤルを満腹に…。──いやっ、満腹とまでは行かないけど駄菓子を頬張った時のような微々たる幸福感に…っ!!!
──今、包みこませてやるぜっ!!!! うおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!!!


「それにっ!!! 俺には今最高の相棒──佐野ちゃん《…とはあくまで仮の名。彼女の正式名称はヤングドーナツ星人!!!》がいるんだからなっ!!!! これもうフラグ立っちゃったねっ!!! HAPPYENDフラグが!!!! はーはっははは!!! はーはは、はは──……、」



……………。


「あ、佐野ちゃん見失ったんだった………………。は、はははㇵ………」




 …というわけで。
どっかに行っちゃった佐野ちゃんを探しに、血眼になって走っていた俺は、気付いたらこの『渋●区美術館』の中にいたんだ。(…くぅっ〜!!! 美術館に佐野ちゃんがいるはずないっていうのに俺は……。この方向音痴めっ!!! めっ!!)
…ごめんよ。ヤングドーナツ佐野ちゃん………。おじさん、バカで………。
せめて彼女が怪しいオジサン達に惑わされないことを願うばかりだぜ………………。

ま、それは一旦置いといてっ!!!!(ホントは置いといちゃダメかもだけど話を進めるぞ!)

352『十年ごのボクへ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/07(金) 22:22:43 ID:sMvNuXUc0
世界各地から選りすぐりのアートを展示してるという、このナイトミュー●アム(またの名をib!!)…。
美術の成績はお世辞にも良くない俺だから、ほとんどの展示品の価値が分からず……。
佐野ちゃん探しという名目でプラプラ展示品を流し見してたんだがよ〜…。

 そんな俺が食い入って見てしまった芸術品が、一つ存在したっ!!
────それが、この『甘美なる駿馬』!!!!


【作者】カンビィー・ウォーホース 

【作品名】
『甘美なる駿馬』



何が凄ぇ、そして痺れるッ憧れるッ作品なのか…って──。
──この馬はマーブルチョコ数十万個を積み上げて模したものなんだっ!!!!!!
銅は黄色、顔は赤、蹄は青!!! カラフルな集合体が成す、この大きな馬はまさしく努力の結晶!!!!
作るの大変だったろうなぁ〜。何時間もかかったろなぁ〜。…俺は思えば思うほど、息を呑んだぜ………。

息をゴクリッ…ってな………。





──……あと、涎もゴクリッ…ってな。




「(キョロキョロ)…………………。……誰もいない…よね……?」



……誰もいない…な!
周りを入念にチラリズムした後、俺はこっそりと一粒。──プチッとマーブルチョコをつまみあげた。

「……これでよし、っと!!!」

…あぁ分かってるぜ。…やっちゃいけないってのは重々承知よ…。
だけども、一つ、言い訳させてくれ。
俺がつまんだこの青マーブルチョコは、黄色い胴体の中に一つ紛れ込んでいたやつなんだ。
まるでスイミーみたいな場違いっぷりだよ。…きっと作者のカンビィーさんも間違えて配置したんだろな。
違和感まみれで、ウズウズしちゃって。…つい! つい、取っちゃったんだよ………。
A型の人ならきっとこの気持ち分かるんじゃないかな…?! しかも何十万粒の中の一粒だし抜けてもバレないでしょっ!!

俺はスッキリした面持ちで、その一粒のチョコを口に放り込んだんだ─────…☆





──そんなことしたら次の瞬間。
────馬の模型はバランスを崩して、雪崩のごとくジャラジャラ崩壊しちまった。
──────僅か一粒消えただけで、原型なくスッカラカンに。



「……………あ」




……。

…制作者さん、ほんと申し訳ありません。
警備員さんもいたらボクを捕まえてください。
防犯カメラは……。いやん、見ないでエッチ……………。


俺は済まし顔しながら、この場を早足で去るのだった。

353『十年ごのボクへ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/07(金) 22:23:05 ID:sMvNuXUc0




 マ〜ジカル☆駄菓子!!


 駄菓子といったら、うまいっ!!!

 上手いといったら、絵画!
 絵画といったら、なんでも●定団!
 なん鑑といったら、価値が高い!
 価値が高いといったら、ワイン!


──ワインといったら……ぶどう!!!


「あなた何ボサッとしてるの!! さっ、これを運んで!! まったく人手が足りないたらありゃしない…」

「あっ! い、今運びますので〜!! そんな怒らないでお姉さん〜〜!!!」



────そして、ぶどうといったら…今俺が運んでいる果物…………!


 ようっ!! また会ったな!
俺、鹿田ヨウまたまた馳せ参じ…!!

Mr.駄菓子とのこの俺は今、洋風な部屋の中でアルバイト中!!!
果物やら料理やらを、よくわかんないけどメイドみたいなお姉さんと一緒に運んでるぜ!!!
小耳に挟んだところによると、ここはどうやら王様の持ち家らしく、祝福なことに赤ちゃんが産まれたらしいんだ。(Happy──Birthday ☆)
赤ちゃんの名前は確かデルガルって子!! いやぁ〜、良い名前だなぁ! そう思わない?!
ヒゲの王様に奥さん、そして耳の尖った子?に抱えあげられるデルガル坊の、その姿……。
部外者ながら、その幸せな光景に熱いものが込み上げてきちゃうぜ………。 いやぁ、おめでとう!!


「というわけで俺からもご祝儀さ! 果物カゴにハッピーターンを入れて、っと!! …ハッピーターンは厳密には駄菓子じゃないけど、俺からのせめてもの思いさ…。デルガルくん!!」

「こらっ!! 何ヘンな物を入れてるの!?」

「ヒッ!!! お、お姉さんすみません!!! こ、これは些細な粗品でございまして〜──…、」

「もう…っ!!! いいわ!! あなた邪魔になるから出ていきなさいっ!!!!」

 バンッ

「ひぃ〜え〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!! すみませぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!!!!」


ご、ごごごご、ゴゴごめんなさいぃ〜〜〜!!!! 不機嫌になるくらい忙しいってのにふざけちゃって〜〜〜〜〜〜!!!!!
怒ったメイドさんは大きなほうきで俺をバーンッと!!
そのまま俺はゴミを掃かれるように、この『絵』から追い出されるのでありました……………。
これでバイトクビ!!! 『鹿田ヨウバイト編』、これにて完っ!!!!!

────────────────────────────
………
……



 ………ふふっ、さーて。
──聞こえるぜ?
隠さなくたっていい。君の心の声は、マインド駄菓シーカーである俺には筒抜けなのだからな……。

「そう!!! 諸君らは突っ込みたいわけだ──────っ!!!!」

「『絵から追い出された』、ってどういう意味だァあ!!??──ってな!!!」
「そりゃ意味不明もいいとこだろう…。ほかには『なんで唐突に美術館から王の家に場面転換したんだ』、とか『前触れもなく何故バイトを?』とか…。あぁ聞こえてくるぜ、疑問の鬼電が……」


──だがっ!! しかしっ!!!


「これらは、比喩表現でも突飛な展開でも何でもないっ!!!! …今から言う話を全部信じてくれよ? 信じないと話が進行しないからなぁ!!!」


この渋●美術館…………。なんと驚きっ!!!


「絵画や展示写真が…“動いて”っ、──しかもその中に…“入れ”ちまうんだァ─────────!!!!!!!!」





【作者】不詳

【作品名】
『ぶどうを持つ女性の肖像。〜王の誕生』

354『十年ごのボクへ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/07(金) 22:23:29 ID:sMvNuXUc0
………………ん? ────え゛っ!?
いやいやいやいや!! 別に俺はアヤしい粉やってラリってるわけじゃないよ!!?? 正真正銘シラフだから!!!
(そりゃ…俺は毎晩こっそり怪しい粉(ビンラムネ)ヤっちゃったりはしてるけども……。)
ともかく幻覚症状見たわけでないよっ!!??
(──あっ、これはさすがに岡田商店さん(ビンラムネ製造元)に怒られるかな………。ゴメンナサイッ!!!!)



「……まぁ、百聞は一見にしかず……。今から絵の中に入る様子をご覧させてやんよっ!!!」



【作者】秀知院学園校長

【作品名】
『記念撮影』

【被写体】四宮かぐや、白銀御行、藤原千花、石上優、伊井野ミコ


↑↑↑
とりあえず隣にあったこの写真に今から入らせてもらうぞ!!!
カメラ目線でにこやかに微笑む生徒の写真………。

この中へイッツ・ア・ダイバー──ヨウッ!!!!!!
ジャーンプ!!!!!!



……
………
────────────────────────────


「…えっ!!? わぁびっくりしましたっ!!!! い、いきなり誰ですかぁ〜オジサン!??」

「き、きゃぁあああっ!!!! …め、…名門ある、この秀知院学園に…………不審者っ…!? 誰か、誰か!!! 警備の者を!!!!」


 ………ふぅ!!!
輝く俺、黄色く眩しい太陽、そして黄色い悲鳴………。
歓迎ムードで出迎えられたみたいだなぁ〜!


「か、会長!!! どうすれば……。ど、どうします!!? ねえ!!」

「………落ち着け四宮。そういえば今日庭の噴水にある甘いリンゴとさくらんぼのレリーフの奥深くに蝸牛が……」

「見て見ぬふりをしろ、って言いたいんですかぁー!!? あの不審者を!!! …もうっ。ちょっと、石上くん! 貴方が何とかしてください…」

「……あっ、すみません今クエストいいとこなんで。てか、こういうのは伊井野が担当でしょう」

「「はぁっ!!????」」


俺の登場で一気に賑わいだしちまったみたいだ!
グッ、ここまで注目の的になるだなんて…。我ながらツライぜっ………!!

…と鼻をこすってたら、一番ちっちゃな女子生徒がヨロヨロ近寄ってきたぞ!!
さしずめ彼女は飛び級のエリート小学生かな?
おさげヘアーも子供っぽいしね!


「…あ、あなた!! 刑法第130条【建造物侵入罪】!! 今から警備の者が連行しに来ますので……、ぜ、絶対変な真似はしないでください!!!」

「ふふふっははははっ!!! この歳で高校入学とは流石だねっ!!! 勉強大変だったろ? …えーと……。君はたしか、…御行ちゃん!!」

「ヒッ!!! 気持ち悪いっ……。わ、私は伊井野!! 伊井野ミコですっ!!!」

「おっと…! 名前間違えてゴメン!! …とにかく、頑張ってるミコちゃんと友人四人にオジサンからプレゼントだよっ!!!」


懐から駄菓子を取り出し、俺は突き出すっ────!!!!


「ひぃいいっ!!! 気持ち悪い気持ち悪い!!!」

「い、伊井野さん。絶対それ受け取らないでくださいよ!!! 言うまでもないですが!!!」

「…ひぃい……。──…えっ?」

355『十年ごのボクへ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/07(金) 22:23:53 ID:sMvNuXUc0
俺の手に握られていたのは子供から女性まで大人気のお菓子──『トッポ』五袋だぁ!!!
…ほんとはビンラムネをあげたかったんだけども。……勉強疲れの子にはやっぱりコレだよね〜? ロッテのトッポ〜〜♪
(厳密にはこれも駄菓子じゃねぇーぜっ!!! セルフツッコミ!!! )


「…………………ごくりっ」

「いやゴクリッじゃないぞ伊井野────っ!!?」「この大食漢──────っ!!!!」

「…わぁ〜!! わたしちょうどお腹空いてたんですよぉ〜〜〜。優しいおじさん、ありがとうございま〜〜〜〜す!! ミコちゃん一緒に食べましょ〜」
「……あ、藤原先輩がそう言うのなら、…頂きますか………」

「あぁもう伊井野さんあっさり傾いちゃったしー!!!」「…だから藤原先輩をあっち行かせろって言ったでしょ僕!!!」


…ハハハッ。
マシュマロみたいな豊満ボディの子に手に渡ってトッポ(と俺)も幸せ者だなっ……。

じゃっ、役目を終えたことだし駄菓子サンタはクールに去るとするぜ……。
バイバイ!!! 秀知院学園のNEWフレンドたち!!!!


「あっ、逃げた!!!」
「…………ポリポリモグモグ。…あんな不埒な男。絶対捕らえてほしいものですね。モグモグ…」「もぐもぐ〜。ほんとですよ〜!」
「口ではそう言いつつも体は〜…って奴ですかッ!!?」

「…よもやよもやだな。………全く…」


────────────────────────────
………
……



 さっきまでは普通の記念写真だった【作品名『記念撮影』】が、今では楽しげな菓子パーティに変わっている……。

ほれ、見たことか!!! 凄いだろっ!!?
この通り何でか知らないけど、展示絵画の中に入れちゃうんだよ!!!! スゲーねっスゴイです!!!! ス・ノーマン・パーもおったまげ〜!!

さしずめ、『生きる絵画』と言っていいこの展示コーナー…。
まだまだたくさん絵が飾られてるわけだから、童心思い出して遊び放題ってわけよッ!!!

これって例えばさ!! もしかして、俺が描いた絵をここに持ってくれば、オリジナルの世界で遊べるってことなのかな?!
別れた奥さんの写真とか持ってきたら、あの頃に戻った気分で懐かしめるってわけだろ?!!
うひゃー!! 最高じゃねーか!!!
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!! また会いたいぜ、また話したいぜ、俺のカミさん───────────!!!!!!!



「……………………」




「…あっ、ごめん。出ていかれた日のこと思い出してちょっと萎えてきた」

「…………………うわ、虚しっ……」




…………………。

…まァッー、そんなことは忘れといてっ!!!
このテーマパークで遊びに遊びまくろうじゃねーーか!!!!

356『十年ごのボクへ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/07(金) 22:24:12 ID:sMvNuXUc0
……


【作者】林あんず

【作品名】
『らーめん祭り』


【作者】城田

【作品名】
『夜景の写生』


【作者】黒木智子

【作品名】
『安藤の似顔絵とかテキトーにこんなもんでいいっしょ…』



「これらは幼児の部の入選作品かな? みんなイキイキ描けてて微笑ましいねっ!!!」


 もし大人が描いた作品だとしたら、ピカソ級の独創的画風な絵達を俺は今眺めているぜ!!!
うん!! 本当に素晴らしい絵だなぁ〜!
特にこのあんずちゃんが描いたラーメンの絵なんか……、メンマやチャーシューが踊り騒いでてキュートっ!!!!
俺がこの絵の作者なら『ヤッターメン』のマスコットキャラを赤塚プロに訴訟覚悟で書き加えそうだぜ〜!!

…ま、俺の懐にある駄菓子も残りあと少ない現状。
幸せそうなこの絵のキャラクターたちにあげるのもまた別の機会…というわけで!

俺は安藤似顔絵の隣に飾られた──ひろ子さんの風景画に入ることにしたぜ!!
ホップ、ステップ、カールイス!!
ダイビーング、────鹿田ヨウ!!!!



【作者】
ひろ子
【作品名】
『コーラを飲むコースケくん』



……
………
────────────────────────────


「ぷはぁ〜〜〜〜〜〜〜〜。(ドンッ」


「(満点の桜のもと、オレは花見の場所取りをしていた)」

「(大家やカノジョ達を待ちながら飲む炭酸飲料はなかなかのモノだ)」

「(…ただ、花より団子という言葉がある通り、オレは今絶望級の空腹に襲われている。まだか、まだか…と待ちくたびれて力が出そーにない)」


「…あー。……………お腹すいたな………」



…そんなときに現れた救世主ってのがこの俺なわけよっ!!!


「…………え」


えーと……。コースケくんっ!!!


「………………あ、ども。……てゆーか、誰ですか」


…………フッフフッフ!!!
名乗るまでもないぜ…。


「俺の名前は正義のヒーロー『駄菓子マン』!!!! 空腹に苦しむコースケ君を救いにただいま参上だっ!!!!」


きらーんっ☆


「…………思いっきり名乗ってますよ」

357『十年ごのボクへ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/07(金) 22:24:28 ID:sMvNuXUc0
「まぁ細かいことは桜の木の下許してくれっ!! とにかくこの駄菓子を一粒味わってみな!!! 美味いよ! オイシイよ!!」


「……………。………(ぱくっ」



「(謎のオヤジから貰った飴のようなもの。噛んでみたら案外脆かったので、だとしたらガムなのかもしれない)」

「(まー、どちらにせよ美味いことは変わりない。グレープ味のそのお菓子は俺の空腹をいとも簡単に満たして魅せた……)」


「…………………(かむかむかむかむっ」


「どうだ美味いだろ!!? これはなぁ、俺の息子も小さい頃すごい好きでな………。だから色々思い出の駄菓子なんだ……!」


懐かしいあの頃…。十年ほど前…。
まだ「父さん父さん〜」と懐いていたココノツはこいつを見るたびによくせがんだものだった………。
今では顔を合わせるたびに軽蔑の目を浴びせてくるココノツだが……。…あの頃は可愛いヤツだったよ…………!


「ただァ────!!! 時がつれて早十年!! なんとこの菓子は今若者の間で再ブームとなってるんだ!!! コースケくん!!──」

「──その要因はSNS!! つまりは『YouTuber』!!! 分かるかな!? コースケくん!!!!──」


俺は近くにあったコーラの缶を手に取り、春一番の雄叫びをあげるのだった!!!!


「──この『メントス』をコーラに一粒入れると…なんと大噴水の大噴射をするってことで!!!! YouTuberたちが続々動画にし、真似する人が続出したのさ!!!!! 化学反応でこういう噴射が起きるらしいけど……スゴイよねっ!!!!──」

「──なぁコースケく…──……、」













「………………………………………あ」





………俺は無かったことにして、トボトボとこの絵画から逃げ出した。

────────────────────────────
………
……


358『十年ごのボクへ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/07(金) 22:24:47 ID:sMvNuXUc0
【撮影者】不明

【作品名】
『黒い巨塔』



「……〜〜?? 黒い……、黒いか??」

 さてさて、お次は風景写真。
タイトルは黒い巨塔…とのことなんだが〜……、どう見てもごく普通のありふれたビルにしか俺は見えない…。
看板マークに「(帝)」とデカデカ乗ってる普通のビルなんだけども〜…。…これはあれか?
芸術的ブルジョア感性があれば黒く見えるってやつなのかなぁ???
…ごめんっ! 撮影者さん!! 俺にはただのビルにしか見えね〜〜〜…!!!


「…と、そんなコトはどうだってよし。………それよりも俺の目が引いちまう絵がありやがったぜ…………………」


……なんで、この絵が展示されてんだ……?──ってな。
俺はその素晴らしい絵画に思いっきり食い入ってしまったんだ。
その絵が……これだ………。



【作者】────
────────鹿田ココノツッ!!!!

【作品名】────
────────『少女漫画──“恋の港町”生原稿』ッ!!!!!!




「──ぶっ!!! だっはははははははははははははぁあ──────!!!!!!! へひっひっひひひひひひひひひ!!!!!!!!!!!!!」


 ひぃーひひひひ!!!! おかしっおかしい!!! あーはははっはっはっは!!!!!!
なんで!!! なんでココノツの漫画が展示されてんだよっ!!!
なに???! ココノツの奴持ち込んできたってことなの??!!!
編集部ではなく美術館に!!????? ぶふっ!!!!
しかも、わざわざ豪華なフレームに入れられてさぁ!!!
しかもわざわざ生原稿でさぁ!!!!!
いとお菓子すぎて涙が出ちゃうよ!!! だはっはっははっはっは!!!!!!


「いやぁ〜、しかし悪くないけど相変わらず女キャラに理想入りすぎてて若干だが童帝くさいな!!! それとここのセリフなんだけどちょっと読者に伝わりにくい感じがしてもう少し分かりやすさを追求してほしいな!!! あははははははっ!!!!!──」



「──って、なに長々と息子の描いた漫画に真面目な審査コメントしてんだァアアアア!!!! この俺ぇエエエ!!!!!──」



「──だっははははははははははははっはぁあァアア──────!!!!!!!」






……。

しーん………。




「…う〜ん。やっぱりココノツ《ツッコミ役》がいないとどうにも締まらんな……………」


…これ、傍から見たら一人で大爆笑してるヤバいおじさんなわけだからなぁー……。
……トネガワ先生…。次からはココノツを頼むぜ〜……? 俺一人じゃ寂しくて虚しくて馬鹿みたいじゃんかよっ!! もうっ!!
(──あっ!!! ココノツ死んだら跡継ぎいなくなるからやっぱナシで!!! 撤回!!!!)




「…ふぅ。……さて、そろそろ出るか。一通り絵画も見終わったことだしな!!」


 締めにまさかのココノツを見れたことは儲け物だったが、ちょっと疲れてきたしな……。
遊び疲れた夏のボウイ──俺は美術館を出ることに決めたぜ…。
…てかよく考えたら真夜中の暗い美術館とか怖っ!!!
今更だけど動く絵も心霊的な意味で怖っ!!? 一人ぼっちでこの体験とか怖すぎじゃん!!!!
…おいおい今になってゾワゾワしだすなよ背筋ちゃん…!! もう夏だっていうのに寒気が凄いんだけどぉっ!!!!


「………あー怖ぇ。……最後の菓子でも食べて紛らわすか…」


バリッ──と、『かっぱえびせん』の封を開けてバリバリもぐもぐ。
消灯した美術館管理者に恨みを抱きながら、俺はここを後にしたぜ………………。

359『十年ごのボクへ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/07(金) 22:25:06 ID:sMvNuXUc0
 ビュウゥゥウウウ………



        ────ベラッ



「………おっ?」



…悪いな。ここを後にするのはもう少し先の話になるぜ………。

何処からともなく風が吹き、そして何処からともなく現れた──一枚の紙。
足元に落ちていたソイツは畳まれていて……。なんか面白そうって理由で、俺は紙を拾い開いたわけよ。

そしたらもうっ、驚き!!!!
──ってほどでもないか…。
その画用紙に描かれていたのは住宅街の風景画だったんだ!
多分作者さんは小学生なんだろうな…! クレヨンで描かれたその夕焼け街は子供特有の良い味わいがあったぜ………。
恐らく【幼児部】から外れたんであろうこの絵は、【作者: 作品名:『十年ごのボクへ』】と札付き!!!
俺が唯一見逃していた絵画がポツリと落ちていたんだ──。


「…ごめんよ、君のことを忘れていて。…わざわざ見てもらいに俺のとこまで来てくれたんだな…!!」


────というわけで予定変更!!!
美術館なんて怖くなんかないさ!! 怖いなんて嘘さっ〜♪
この最後の一枚に飛び込むことで【鹿田ヨウ ナイトミュージアム編】は幕引きとしようじゃないか!!!



「──行くぜ………っ」


「ダイバー…………………──ヨウッ!!!!! ──とうっ!!!!!!!!」



レトロなその街の風景へ、最後の旅だ!!!
俺はちっちゃな画用紙に向かって、体をまっすぐに飛び込んでいった!!!

スーパーシカダ64!!! ────イッツミー…YAHOOOOOOOOOゥゥゥゥゥッ!!!!!!!!!
(ふぁふぁんふぁんふぁふぁん、ふぁん♪)




……
………
────────────────────────────

360『十年ごのボクへ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/07(金) 22:25:26 ID:sMvNuXUc0
 秋の風が冷たく頬を撫でる。夕焼けに染まった住宅街を、一人の少年が泣きながら歩いていた。

「……なんで、なんでだよ……」

肩を震わせ、小さな声でつぶやく。
制服の袖で涙を拭うが、すぐにまた溢れてくる。

電信柱の影が伸びて、少年の小さな背中を包み込んだ。
家々の窓には温かい光が灯り、晩ごはんの匂いが漂ってくる。
どこかから子どもの笑い声が聞こえた。
その音が少年の心を余計に締めつける。


「なんで、皆あの良さが分からないんだよ…。なんでボクを異常だって決めつけるんだよ………──」



「──悲しいよ…。辛いよ………。うぅっ……」




────そんな哀しき少年を、この俺がほっとけるわけなんか当然ないだろ…?




「…やっ!! まぁ元気出しなよ、おもしろボーイ!!!」

「わっ!! (…なんだよおもしろボーイって)…おじさん、誰? ボクになんの用だよ……っ」

「オジサンはヨウ・シカダ!!! 略してマスター・ヨーダとでも呼んでくれいっ!!!」

「……いや略せよっ!! …意味がわからない。早くどっか行けって…!!」

「まあまあ〜……。とりあえず何があったのか相談に乗るぜ? どんな悩みでも、オジサンに心の内を話してごらん………!!」

「なんでだよ。お前には関係ないだろ…」

「あぁ、たしかに関係ないな」

「は?」



「でも、もう二度と会わない他人相手だからこそ、心の底からのモヤモヤを好き放題話せるんじゃないのかな? おもしろボーイ!」


「………………………──」



「──じゃあ、話すよ……」



………
……


361『十年ごのボクへ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/07(金) 22:25:44 ID:sMvNuXUc0
「…でさぁ!! ボクがその『バトル・ロワイヤル』の良さを話したらみんな嫌な顔しだして………っ! 終いには、先生にチクられて「異常だな」とか言われたんだよっ……!!! まさしく理不尽、絶望だっ!! ありえないだろッ!!!」

「…………へ、へー。バ、バトロワねぇ…」


 藤原●也「どうしてみんな簡単に殺しらうんあお゛お゛おおおおん!!!!」でお馴染みのあの映画…。
あれの良さを教室で熱弁したこの少年は、軽いイジメ…? ──というかドン引かれたらしく。


その悩み相談を受けた俺は、急激に居心地が悪くなってしまった……。

俺、…そのバトロワの当事者なんだからな………。



「…ちょっとマスター・ヨーダ聞いてんの?! ねえ、ボクおかしくないよね?!! あの映画面白いよね!!?」

「…ㇵは、…ごめん。知らぬが仏」

「はぁっ!!? おま…、どんな悩みでも聞くつったじゃん!!!!」

「…ごめん。…じゃあ知ってキリスト」

「ふざけんな不審者オヤジッ!!!」


だって…仕方ないじゃん……。
もうね、もう…。何を答えればいいんだよ……?!
…懺悔室で「神父様、私は人を殺してしまいました」とか言われたクラスの困惑さ………。
返す言葉がないんだよ…。ごめんな、おもしろボーイ……。


「…はぁ。なんで誰も理解してくれないんだ………。ボクを、あの映画を………。みんなボクをバカにして……。馬鹿にしやがって……っ」

「……………」



…ただ、強いてボーイに返す物があるとするのなら……。
────まぁ、俺にはこれくらいしかできないよな。


「……フフッ。あまり気にするな!! ほら、これを食べて元気出すのさっ!!!」

「…はぁ? なに、これ……」



 〜〜〜〜〜
 【かっぱえびせん】!!!

 カルビーが販売するロングセラーのスナック菓子────っ!!!
 主な原料は小麦粉とえびで、独特のサクサク食感が特徴。
 もはや説明不要!! 実はカルシウムたっぷりで成長期にはかかせない菓子!!(…かも!!)
 〜〜〜〜〜



「……。…………──」



「──…いただきます(ボリボリ」


「…俺もな。元気がない時や苦しい時があって、そういう場面では必ず『かっぱえびせんだぞ…っ!』って呟いたもんだ」

「………(ボリボリ、ゴックン」

「かっぱえびせんは不思議な力がある。俺はこの味を忘れられな──…、」

「は? いやまっず。要らないよこれっ。あとは全部あげるね……」



…えっ?



「へ? えっ!!?? エエェェェェエエエ工工工ッ!!?????? そ、そりゃないよ!!!! あんまりだよボーイ!!!!! ボーイボーイボーーイッ!!!」

「…ショックから『おもしろ』外しやがったなこのオヤジ……。美味しくないんだし仕方ないじゃん」

「いやいやいやいや!!!! もう一回食べてみて!!! キミえび大好きだろ?!! それと同じだからほら!!!! ほら!!!!」

「うわ!! うっざいなぁ……。えびは大抵の人間好きだろ!!! 絡んでくんなよ!!!!」

362『十年ごのボクへ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/07(金) 22:26:08 ID:sMvNuXUc0
いやいやいやいやいやいやいやいや引き下がれないよっ!!!!
駄菓子を否定すること=俺のアイデンティティも否定することになんだからっ!!!!!
これじゃあ「返す言葉が思いつかないから代わりに駄菓子で…」ってプレゼントした俺が馬鹿みたいじゃん!!!!!!
訂正してよ!!!!!!! うわぁぁぁおおおおおん────…、


「あっ!!! お母さん!!!」


「…えっ?」



 少年に号泣しながら抱きつくという…極めて犯罪者スレスレだった俺だけども……。
ボーイは眼の前に現れた揺れる影を見て、一目散に走っていった………。
女性の影へ、抱きつくように…………。


「ねえお母さん聞いてよ!! 今日さー、映画のバトロワ見たって話たら皆に馬鹿にされたんだけど……。お母さんなら分かるよね!?」

「あらあら、どうしたの…もう」

「バトロワは傑作だよね!? ボクは間違ってないよねっ!! ねえ!!」

「………、──」



「──なにクヨクヨしてんのよ。自分が面白いと思えばそれでいいじゃない。…安心して、母さんもあの映画好きだから……っ!」

「…お母さんっ!!!」




 …へへっ。

どうやら俺もかっぱえびせんも、出る幕じゃなかったみてぇ〜だな…!

ボーイに必要なのは、菓子でもなんでもない。──母の愛だったんだ…!!


夕焼け空が目に染みるぜ…。
二人は手をつなぎ、仲良しげに話しながら帰路へつく。

おもしろボーイよ、…バトロワが面白いかは一先ず置いといて。
その母との日常も今のうちの幸せだから……、後悔しないくらいに楽しんでおけよっ…!!


…じゃあなっ!


「あっ、おじさぁーーん!!!」


「えっ?」


「かっぱえびせん…ありがとねーー!! ボクの愚痴聞いてくれてありがとーー!!! またねーー!!!」


………振り向きざま、おもしろボーイは手を振ってくれた。
なんだアイツめっ…!! ちょっとは見直したぜ…おいおい……!


「あぁ!! またネッ☆ 次会う時はえびせん(高級味)でリベンジだぜ!!! おもしろボーイ!!!」



…君とかわしたこの五分間……。忘れないぜ、俺は。
夕焼けに照らされる中、男・鹿田ヨウ。元の美術館へ戻るのだった────。

ははっ…。



「…あっ、あとさぁー。おじさーーん!!」



…ん? なんだなんだい?
別れの挨拶が物足りないのかな…?











「お前参加者だろ。」

363『十年ごのボクへ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/07(金) 22:26:32 ID:sMvNuXUc0







………………え。












「お前はここで、見てはいけないものを見た。知りすぎた。──」





「────さらばだ。鹿田ヨウ。」






ピ──────────ッ

【三十秒後、首輪が爆発します。】








え。

えっ。







え?





─────ボンッ

364『十年ごのボクへ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/07(金) 22:27:12 ID:sMvNuXUc0



………
……


「────はぅあっ!!!!!! なに急に?! 怖っ!!!! 怖っ!!!!!!!」



 …俺、疲れてんのかな……。
めちゃくちゃ怖い夢見たんだけど……。なにあの夢…。急展開すぎないっ!??
…いやぁー。冷や汗がヤバい………。

落ち着け、落ち着くんだ鹿田ヨウ…。
とりあえず一服(ココアシガレット)で冷静になろう……………。


「……はぁ、ひぃ、…ふぅーー………」


辺りは真っ暗で人の気配一つない美術館…。
メディアギャラリーにたくさんの絵や写真が飾られているが、──一切動きを見せず、固まりきっている。
…まぁ、そりゃ当たり前だよな。絵が動いたり、中に入れたりなんてできるはずないんだもの。

…そんな絵空事、『夢』じゃあるまいに…………。


「…よいしょっと。ちょっとばかり眠りすぎたが…、まぁ体力回復はされたしいっか!!──」


「──さてそろそろ佐野ちゃん探し再開すっかぁ。美術館に長居なんてガラじゃないしな………」



汗をぬぐって俺はゆっくりと歩き出した。

…あばよ。作品たち。
名だたる絵画たちを横目に通り過ぎていく……。
『少女漫画──“恋の港町”生原稿』、『コーラを飲むコースケくん』、『安藤の似顔絵とかテキトーにこんなもんでいいっしょ…』、『夜景の写生』、『らーめん祭り』、『記念写真』に、『ぶどうを持つ女性』………。
君たちを眺めていたら変な夢を見ちゃったよ。
またいつか、会えたら良いな…。はははっ。


駄菓子マイスター鹿田ヨウ──。
俺が成す行動はもはや一つしかない。

月光眩しい出口をただ歩むのみ。
それだけさ……………。




「…あっ! 『馬』は夢じゃないんだな………。チクショウゥ!!!」



入口隣の、床に散らばったマーブルチョコを見て見ぬふりしながら────。


【1日目/C7/渋●美術館/AM.3:25】
【鹿田ヨウ@だがしかし】
【状態】健康
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【対主催】
1:駄菓子レボリューションを起こす。
2:佐野ちゃん(改めヤングドーナツ星人)を探す。

365『十年ごのボクへ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/07(金) 22:28:07 ID:sMvNuXUc0

……
………
"お母さん"


 "…お母さん、ボクね。"


 "ボク…、大人になったらね。絶対やってみせるから…。絶対にこの夢を成し遂げようと思うんだ…っ。"



 "…………えっ? どんな夢なの、って? …もう、そんなの聞くまでもないでしょ。"





「『殺し合い』だよ! 悪魔のゲーム・『バトルロワイヤル』の実現さっ!!! …絶対に主催者になって、あのいけ好かないクラスメイト共を見返してやるんだっ!!」




【作者】『』

【作品名】
『十年ごのボクへ』

366 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/07(金) 22:41:13 ID:sMvNuXUc0
【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ④】

①没主催者候補…新道@ウシジマ、見せしめ…カズヤ@ウシジマ。→元ネタが元ネタだけに色々アウトなので没。
②没主催者候補…翼獅子@ダンジョン飯、見せしめ…海老名。→殺し合い開催の動機が思いつかなかったので没。ちなみにこのOPでは海老名は復活しません。
③没主催者候補…本田華子@あそびあそばせ、見せしめ…参加者全員。→元々あそびあそばせを出す気満々でした。その後、華子がかぐやに若干見た目が似てるってことで白銀と組ませた話も書いたのですが色々破綻しだしたのでなかったことに。
④没主催者候補…兵藤和尊@トネガワ、見せしめ…参加者全員。→コレから主催者を影武者に変更してできたのが正OPです。ヤングロワ様と大被りしたので変えました。

残りの情報…それはまだ混沌の中。
それが………平成漫画ロワ…………!


【次回】
──今日を頑張ったものにのみ明日が来る。

──男は今日死ぬとわかっていて、それでいて今日を頑張る。


【100%これ】…『終活』…黒崎

367『終活』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/11(火) 11:42:00 ID:LVgxKxtY0
[登場人物]  [[黒崎義裕]]

368『終活』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/11(火) 11:42:19 ID:LVgxKxtY0
────………。

────…あー、もしもし………っ。


『…あっ……! これはこれは………、黒崎さまっ………!!』

────うん。悪いね……。
────夜分遅くに………!

『い、いえっ…!! とんでもない………っ! ──…ところで私めにどういったご要件が………?』

────…それがなんだがな………。
────宮本くん…、悪いけどちょっと人数集めてくれるかな………?
────今すぐ……! 圧倒的大至急………!! 呼べれる奴ら全員を…用意さ。

『……と、仰いますと…?』

────あのーー………、今スゴイことになってるらしいだろう? …渋谷………っ!

『えぇ、確かに…。──深夜、渋谷に突如として出現した巨大ドーム型バリアー。警察は原因解明と住民の安否確認を急いでいる……。──大変な事態になってますね………』

────…その、渋谷の中にね。いるわけなんだよ………っ。
────………兵頭会長がさっ…! どうやら………。

『──えっ??! 会長がっ…!? そ、それは確かな情報ですか…!?』

────うん。
────情報源は明かせないけど、確かにいるんだわ………。会長………。
────だからさ、警護の連中とか…もう誰でも良いから、とにかく人集合させて、……壊しちゃってくれない? そのバリアー…………!

『…は、はい!! 畏まりました…!! では総動員で向かわさせていただきます……っ!!!』

────うん、じゃ頼んだよ。

『はいっ………!!』



────あっ。

────それと、もう一つ。…まぁこれは小さな頼み事なんだけどもな………。

『………あ、ご命令とあらば何とでも』



────わしの部下たちに、伝言頼むよ。

────『すまない』…………って。それだけでいいや。


『……………え? 黒崎さま………?』

────…ハハッ。わしからは以上だ。…悪いがこちらも急いでるんでね。…詳しいことはまたかけ直すよ。

『……あっ、畏まりました……』

────…うん。かけ直す、さ………。また……。


────それじゃあ失礼するよ。



[通話終了]
………
……


369『終活』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/11(火) 11:42:41 ID:LVgxKxtY0




廻る、廻るよ、時代は廻る。
(♪The times go around and around.)
──コインランドリーにて、控え目に響くラジオのリクエストBGM。


 どくフラワーと名乗るふざけた着ぐるみに、川へ突き落とされて十数刻経った現在。
コインランドリーにて唯一、黒崎が使っている洗濯乾燥機だけが、低い唸り声をあげながら回転を続けている。
ガコン、ガコン──。乾燥機の中で貴高い衣類がもみくちゃになって回った。


家内と娘へ、軽い別れの挨拶をLINEした黒崎は、バスローブ姿で古びたベンチに座っている様子。
彼はスマホを懐にしまうと、代わりに二枚の紙を取り出し膝元に置いた。
一枚は──参加者名簿。──厳密にはその裏面にて、黒崎は文章を綴り始めた。
黒崎の足元にて、床に散らばるおつまみのゴミや空になったハイボール缶達。その酒缶の量たるや、常人なら既にへべれけ状態であろう数だったが、ペンを握る手は真っすぐで一切震えがなかった。

殺し合い中──。
──自分が死するその時だというのに、文字は歪むことなく。
慎重居士かつテキパキと。
数分後、黒崎は財布を文鎮代わりに、完成した『遺書』を畳んでベンチ隅に置く。



 これを読んでくれた方へ。

 もし、貴方様がバトル・ロワイヤルに怯え、不安で恐怖で潰されそうな思いなのだったら、利根川幸雄という参加者に頼ってください。
 主催者のトネガワとハンを押したかのような男が渋谷にいますが、その瓜二つな彼に助けを求めるのです。
 こちらが、『本物』の利根川さんなのですから。
 信用できない気持ちは重々承知ですが、これも貴方様の為。──そして、利根川さんの為にも。
 この遺書を信じて進んでみてください。

 そして、もしこれを読んだ貴方が殺し合いに乗っているのだとするなら。
 ──勝手にすればいいんじゃないですか。私から伝えたいことはありません。

 長々と失礼しました。
 『プランA』が成功し、そしてこの醜悪な殺し合いが破綻で終わることを、私は天から見守っています。


 …いや、『地』の底から見上げて願っています。


  一参加者として以上を記す。    黒崎 義裕



「…………………。…遺書なんて初めてだったが…良く書けたな………っ。我ながら…! …はははっ」


一般論として、普通遺書を書くまでに至った者は、絶望…そして破滅しきった真っ青な顔をするものだが、黒崎は喜怒哀楽の『楽』が張り付いた表情。
一切とて心の動揺見られぬ様体で、そいつを無事書き上げた。
この落ち着きぶりも、長年帝愛に勤め続け、遂にはNo.2候補に登り詰めた彼にしか為せぬ技巧であろう。

 続け様、余ったもう一枚の紙にも筆を走らせる。
罫線並ぶその紙に書かれた内容は、律儀にも弊社への退職届だった。
迅速かつ迷いなく文字を連ね、乾燥機が『ピーピー』と終わりを告げた折に書き終える。


「……おっ! もう乾いたか」


文書を丁寧に折りたたみ、封筒に入れるとそいつを片手に黒崎は腰を上げた。
向かう先は無論乾燥機。
バスローブを脱いでスーツに袖を通すと、乾燥機の温かさが鳥肌を包んでくれる。
封筒を懐にしまい、一瞬腕時計を確認した黒崎は「もう君は不要だよ」と言うように、バスローブをゴミ箱へ投げ捨てた。

宙を舞い、ヒラヒラと放物線を描いてシュートされる白上着。
綺麗に中へと捨てられたバスローブだったが、ゴミ箱は既にパンパンの状態でいる。
そのゴミの内訳としては大半──というか全てが黒崎の私物だ。厳密に言えばバカでかいデイバッグに支給品の数々。
捨てるのは勿体ない、と思ってしまうところだが、支給品はサイコロ三つにパチンコ玉に紙パックジュース(一日分の野菜)…と、何の役にも立たない物ばかりなので仕方ないだろう。
よって、黒崎は武器であるロケットランチャーと弾薬以外、今は何も持っていない状態だ。


「…。……ははっ。これももう必要ないな………っ!」


最大までに身軽となった黒崎は、最後にブランド物の腕時計を外し投げ捨てる。
ドサッ──とゴミにまみれる腕時計。電池は抜いていないので、不要と判断された今でも針は時計盤を周回し続けた。

370『終活』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/11(火) 11:43:04 ID:LVgxKxtY0
「…今まで、共に…。感謝するよ。……わしの、時計…」


廻る時代。
そして、巡る回想。


「………………」

自動ドアが開く所まで足を進めた黒崎は、ふと立ち止まる。



────思えばこれまでの人生、ずっとずっと働き続け、邁進に身を捧げたものだった。


バブルの始まりが漂う時代に、黒スーツを着て望んだ帝愛の面接…。

無事面接が終わり、退室しようとした矢先「…それではあちらにお進みください……!」と促され、暗い部屋にポツンとあったサングラスをかけたら、『Congratulations…! Congratulations…!』と……。────合格通知…。

黒服デビュー以降、振り返れば弓矢の如く早い人生だった…。

拘束時間は漆黒に長く、残業の毎日だったというのに、若かりしあの日々は一瞬に感じる。気がついたら幹部候補に推薦され、気がついたら誰よりも権力者になっていた…。

同期は皆辞めたか、自分よりも下の役職で、上へ上へとトントン拍子に登っていく…。

別れと出会いをたくさん繰り返し、新元号『平成』を迎えて暫く経っても、会社を辞めず上昇し続け…。


そして、天皇退位が報道された現在──平成末期には帝愛次期会長候補にまでいる……。



「…はは、ははは………」


乾いた笑いが思わず漏れ出た。

これまでの長きに渡る人生、それに終止符を打つ場がこの渋谷なのだと、──黒崎は何を考えたか。
『自分のような悪役が生還など似合わない』と、律儀に遺書と退職届を書き、身辺整理を終えた黒崎は────何を思いに人を殺めるのだろうか。


「………悔いは、もうないさ。……さて、始めるとするかっ………!」




中年重役は、【マーダー】としての使命を全うする為、薄暗い町中へ歩を進めるのだった。






「…あっ!」


「そうだ、スマホスマホ〜っと。ちょっと嗜んでから事を起こすとしよう。…わしの趣味……、『裏アカ探し』を…………っ!!」


「………どれどれー。……ふーん……」



「…………」



「クク…クククッ、はははっ!! 人前じゃあんなに真面目ぶっても………。やっぱり裏アカじゃ年相応のツイートをするんだなっ………!! ──三嶋のお嬢さんは……!! はははは……!!」


「……はははは………」







「────よし。続きは後で、で…」

371『終活』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/11(火) 11:43:23 ID:LVgxKxtY0
 ブロロ、ブロロ…
ブオオオォォォォン────。荒い運転の車が目の前を通り過ぎていく。
一瞬ではあるものの同乗者の数を確認ができた。──ロン毛の運転手と男子学生、女子学生の、三名。


「さて、今度はちゃんと当たるかな…?」

ボウリング玉のような大きい弾薬をロケットランチャーにリロードし、肩に担ぐと、ホッと黒崎は一息。
もう、何のためらいも必要はない。
標準を暴走車に向けると、ゲーム開始宣言代わりの一言を吐き、簡単に引き金を引いた。



「…言っとくが………。『192』さっ……! ──わしのボウリング…ベストスコアは…………っ!」




ボンッ、シュウゥゥゥン…───────。



【1日目/D6/東京ミッ●タウン周辺街/AM.01:59】
【黒崎義裕@中間管理録トネガワ】
【状態】健康
【装備】グレネードランチャー
【道具】なし
【思考】基本:【マーダー】
1:優勝を目指す。
2:その一方で、利根川幸雄と三嶋瞳には不殺でゲーム終了達成を願う。
3:車に向かってランチャーをぶち込む。
4:会長を保護したい。
5:わしはどうせ、死ぬのだろう………。

372 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/11(火) 11:50:55 ID:LVgxKxtY0
【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ⑤】

個人的お気に入り登場話BEST3
①『自分のことを殺し屋だと思われている一般人』…新田義史、野原ひろし
②『Chase the Light!』…利根川幸雄、黒崎義裕、三嶋瞳
③『(元)小日向くん』…小日向ひょう太、高木さん

残りの情報…それはまだ混沌の中。
それが………平成漫画ロワ…………!


【次回】
────わかるか四宮 これが俺の気持ちだ――

──ウルトラロマンティック砲。祝砲が奇跡を轟き鳴らす。

【100%これ、でも最悪締め切り遅れるかも】→『I will give you all my love…』…かぐや、会長、トラ、黒崎

373 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/16(日) 03:00:33 ID:xiXL.1JE0
【お知らせ】
・『作品把握』の一部雑感を書き直しました。全作品ポジポジな感想に仕上げたので、毒はかなり薄まったと思います。
ttps://w.atwiki.jp/heiseirowa/pages/13.html

・『食うため。』のセンシのエミュ度を向上させました。ダンジョン飯再読、面白かったです!
ttps://w.atwiki.jp/heiseirowa/pages/102.html

・一部キャラの口調を原作に寄せました。

・私事ですが、何だか物凄い「逆スランプ」中なので、投下頻度がかなり高くなると思います。目標は年内100話ノルマといったところでしょうか。とにかくよろしくお願いします。

それでは18日(火)の20時〜21時頃、死んでなかったらお会いしましょう。
お知らせ以上です。

374『空に消えてった 打ち上げ花火』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/18(火) 20:25:05 ID:gIjiPh6Q0
[登場人物]  [[四宮かぐや]]、[[白銀御行]]、[[島田虎信]]、[[黒崎義裕]]

375『空に消えてった 打ち上げ花火』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/18(火) 20:25:21 ID:gIjiPh6Q0
 夏。


 コレでもかと肌を焦がす太陽と、アスファルトに揺蕩う陽炎が、恋心を後押ししてくれる。

 そんな熱い季節。


 私には夏の思い出なんて、十七年も生きて一回もなかった。
 稽古に作法に堅苦しいしきたりばかり。
 生まれながらにして《四宮家令嬢》という制約に雁字搦めだったから、夏休みの愉しさは全く記憶に無い。
 ずっと、ずっと。真っ暗なだけの思い出が、私の夏を構成している。

 暗い部屋で、窓から見えた小さな光〈花火〉だけが強いて挙げられる夏の思い出だった。


 それが四宮かぐやという子女の決められた人生だというのに。


──会長…。酷いですよ。…貴方のせいなんですからね……。

 周囲から『氷のかぐや姫』と蔑まれて孤立し、孤立される態度を取ってた私を生徒会に招待して。


──…酷いですよ。

 一学期終了後の生徒会室で、不器用で遠回しながらも私を夏の予定に誘ってくれて。


──……あんまりですよ。

 屋敷を飛び出して、何処にいるかも分からない私の居場所を、わざわざ探して声を掛けてくれて。


──……ほんとに……ひどい…ですよ……。

 私なんかの為に、八時半までやってる千葉の花火大会まで連れて行ってくれて。
 普段はどケチこの上ない守銭奴な癖して、あの時だけは花火会場に間に合わせようとタクシーを呼んでくれて。
 後部座席で藤原さん、石上君と──皆で肩を並べながら……。夜空に溶け込む夏の光を私に見せてくれて。

 それでもって、私は花火よりも、会長の横顔から目が離せなくいて────。



──会長…。…貴方のせいなんですから。

 心臓の音が五月蝿くて、もう花火の音は聞こえなかったあの短夜。
 人生で初めて浴衣姿で夜を通したあの夜を、私は忘れられなくなってしまったのだから。

 …だから。



“不思議だ。花火を見ていると何もかも許せる。自由のない生活も、醜い裏切りも、こんなにも苦しい人生も。何もかも許していけるような気がする。(聖ヨハネ祭のアレクセイエフの言葉)”



──いつか…。『責任』。取ってくださいよね……?


──ねっ…………。


……………会長…────。

376『空に消えてった 打ち上げ花火』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/18(火) 20:25:36 ID:gIjiPh6Q0



「……………」

 狭い密室で肩を並べ、小気味良いFMラジオに耳を傾け、喋りをしながら街を駆け抜ける──俺と四宮。二人きり。
このシチュエーション……、言うなれば『ドライブデート』という事になるんじゃないのか? …莫迦な考えがふと過る。
厳密には車内に運転手もいるのだから、二人きりなどではないのだが。
過去をいくら遡ろうとも、四宮と隣同士でドライブという経験は無かったのだから、不覚ながらも妙にソワソワしてぎこちない。
殺し合い中だというのに、全く俺は不埒な奴だ………。
…はは…。


『Déjà vu────ッ♪ I feel like I've been here beforeッ────♪』
『I feel ungroundedッ────────♪ It’s probably time to leave────────ッ♪』

「いやうっせぇ───────なァ?!!!! 小気味良いFMラジオ!!!!」


「…え? なんかゆうたか白銀!」

「……いや。きっと空耳ですよ。…島田さんは気にせず運転の方を…」

「………。おう。…デジャブ〜〜ッ♪ アイフィーンザセッセコー♪」


ブゥオオオオオオオォォォォォォォン………



 ぐっ……。
あぁそうだ。全身がソワソワぎこちない理由は四宮なんかじゃない。──島田虎信とかいうゴロツキの荒れた運転が大いに原因だっ!!
よりにもよってカーラジオはイニ●ャルDがリクエストされたものだから、そのタイミングの悪さたるや……。
ハイテンションかつゲーム感覚で乗り回す島田某の運転で、かれこれ十五回は衝突寸前&タイヤ痕撒き散らしを繰り返している…っ。
──…これのどこがドライブデートだ!!?
──…俺が所有する普通自動車免許を見せつけても運転を代わらせてくれない、これのどこがデートなんだっ??!
…巫山戯るのも大概にしてくれっ………。


「あっつ〜〜!! しっかしなんでこうも日本の夏はバカ暑いねんな!! ジメジメもええとこやで。なぁ、姫」

「…姫………。年々気温が上昇してるものですから…。自然に抗えませんね」

「ほんまっな!! こうゆう暑い日はやっぱビールをクイッ…って。そしてクゥ〜ッ…!! ってしたい気分やで。今すぐな!」

「「…………」」


…クソッ。恐ろしい事を言い出す男め……。
普段の俺ならば今頃、最も迅速かつ、最も効率的たる対処法でこの島田某を亡き者にしたところだが…。生憎、カフェイン不足で慢性的な眠気《ナルコレプシー》に入っている。
脳は仕事を放棄し話にならない為……、仕方なく今は支給品をデイバッグに仕舞う作業中だ。

 さて、ここで利根川センセーから頂戴したありがた〜い支給品の数々を紹介する。
──俺が天才であるが故のハンデだろう。支給物は見事なまでにゴミばかりであった。
主要武器のATハンドガンはまだ良いとして、『シュシュ』に『本』に『ティッシュ&ウェットティッシュ』と『ブレスケア用品』に『ハンドタオル』……。
この無作為ぶりは、もはや何か隠された暗号を模しているのか…と考察してしまう位だ。
全く以って莫迦莫迦しい……。愚の骨頂…。
こんな品々を手配して「サッ、これで殺し合いしましょう〜!」と考え至る主催者大センセーの低能ぶりは嘲笑せざるを得ない…。
──あ、笑うのは自重しておこう。ウケ狙いでこんな支給品にしてる可能性も捨て切れない。


「………あー、会長…話聞いてますか?」

「──あっ。これはすまない、四宮。…少し集中が逸れていてな…」

「…ところでさっきからやたら不自然な角度で首を曲げて……、私の顔見てこないですけど……。一体どうされたのですか?」

「…え。あぁ、あぁ。目にまつ毛が入ってしまってな。まぁ気にしないでくれ」

「……それは……。お気の毒に…」

377『空に消えてった 打ち上げ花火』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/18(火) 20:25:54 ID:gIjiPh6Q0
そうそう、支給品が正月の福袋同然な事は四宮もまた同じく。
ゲームのカードやトランプがぎっしり、それにナイフ二本(──と言っても、一方は玩具のナイフ。刺さってもグニャっと曲がるダンボール製だ)…と。
そんな物…犬か藤原書記にでもくれてやれっ……!──口を大にしてツッコみたい位の有り様だった。…なんたる酷さだ………。
ツッコもうと思えば一番マシなアサシンナイフに対しても向けれる…。
銀色に鏡反射し、その鋭利さときたらどんな腱でも軽く掻っ捌けるであろうナイフ。──ただ、それを普通…女性参加者に渡すものか?! 男女格差を考えたら俺の銃こそ四宮に支給すべきだろうに……。
最後までチョコたっぷりの屑さだな…。凡骨利根川の頭を揺らせばきっと「カラン、カラン」と小気味よい音が聞こえるだろう。

はあ………。全く以って……………。


「くだらん。…本当にくだらんゲームに巻き込まれた物だ。…誇り高い秀知院学園の俺達がな……。そう思うよな、四み────…、」

「はい。……………………にゃあ」

「ィィぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいや──────ッ!!!!!」

「うわ!! ど、どうしたんですか会長!!」


「…しまった!! お、俺としたことが…つい四宮に顔を向けて……」

「は、はぁ??? まーたそうやって不自然に目線そらして!!!」


………くっ。…『猫耳』の、…四宮…………。
何故っ、何故あの時のコスプレグッズが四宮のデイバッグに紛れているのだっ…………!
──そして何故貴様はそれを被っているっ…………!! ──てかなんでニャアと鳴いたっ…?!
昔から猫好きで…、あのモフモフだが屈託のない耳が堪らず好みな俺だが………、それを四宮が付けるなんて……まさしく『奇跡的相性《マリアージュ》』。
今の四宮に顔なんて到底合わせられない。…何故なら優秀最美な俺らしからぬニヤケ顔を見せてしまうからだっ…。
くっ、罪深い女め…。四宮……。うっかり油断して見てしまったじゃないか…。


「…全くもうっ。どうしたんですか会長。らしくないですよ…」

「………あぁ、大丈夫。ダダダダダだだだダダダダイジョーブダカラ。…気にしないでくれ……」


「…………クッ、ハァアア〜〜〜〜っ!!! もう!! 賢ぶってても姫は察しが悪いねんな!」

「…え? なんですか島田さん。いきなり……」

「白銀はお前のその猫耳が愛おしゅうて愛おしゅうて仕方ないから顔見れへんのやろが。分かるか? お前そいつに好かれとんねん。そゆこっちゃろ。知らんけど」

「………は???」「……えっ」

「それを察して言わんのが普通女の役目やさかい。…おのれが気付かんから俺言うてもうたやないか。なぁ? 白銀!!」


 …………。
この男…、まさしくカオス《不可解物体》……。
デリカシーも何も頭にない上、場の空気を混沌化させる発言をしておいてひょうひょうとした顔だ…………。
…どうするんだこの空気…。それを言われて俺はどう返せば良いというのだ……っ。
一刻も早く始末しなければ俺と四宮のメンタルが保ちそうにない…………っ。──というか島田某、何故貴様も猫耳を被っているっ…?!! 確かに二組セットだったが何故つけた………??
…頼む、四宮…。ここはどうにか話題転換を率先してくれ………。


「…あーあー、そんなことよりも……。島田さん、目的地はどこをお考えで……?」


ナイスッ!!! さすがは俺が見込んだだけある適応力だっ、四宮!!


「…あー? そんなん、…別にないで。行く先も分からぬままブラブラ走っとるんや」

「(…尾●豊かッ!!)え……。何ですか、それは…………」

「別にええやろ行き先なんか。ただ走りまくる、それに意味があんねんやから。知らんけど」

「全く解せません…。なんなんですか貴方は………」

378『空に消えてった 打ち上げ花火』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/18(火) 20:26:11 ID:gIjiPh6Q0
「まぁまぁ四宮。…島田さんがヤバい《カオス》な事は俺も同意だが、このひたすらな運転。理には適っているぞ」

「……え? …意外ですね、こんな人の盾につくなんて。会長、その理とは一体…」
「いやおいっ。薄々感じ取ってはいたが…お前らやっぱ俺のこと見下しとんな!!!」

「簡単な事だ。猛スピードで走り回る車を襲撃できる者はいやしない。ましてや、この車は『ハマーH2』という高級車で防弾、衝撃対策もバッチリだ」

「……はあ」

「ほら見ろ、このウインドウなんかちょっとやそっとじゃ傷が付かん。これはな、水と片栗粉を混ぜた繊維複合流体(shear thickening fluid: STF)が由来で、こいつは衝撃が強ければ強いほど──…、」


──あっ、あっぶねェェェェェ!!!!
これ饒舌に語れば語るほど四宮からオタク扱いされるやつじゃねっ…?!
俺がこのまま好き放題、ハマーH2について語るとなれば…行く末は………。


“へぇ。会長って意外にもオタク系の方だったんですね。そんな石上くんみたいに……”

“…普段こそは真面目なのに、さしずめ部屋に帰れば車〜車〜…と子供のようにはしゃぐのでしょう。それが会長の本性…。まぁ、なんて──”



“────お可愛いこと。”



…あぁぁぁ、あぁあぁぁあ……。


「──ってなりそうだから雑学はこの辺にさせて貰う。勘違いするなよ? これはあくまで学園発刊の新聞から得た知識だ。…そこは勘違いするな」

「え? え?? 私何も言ってませんよ」

「…ともかくっ。車内に身を置く事は現状最大防衛となる。生存の術として、今は車の中にいた方が一番良い」

「……はあ、成程…──」


「──…。(…じゃあ尚更運転手の交代急がねばなりませんねっ会長!!ゴニョゴニョ)」

「……。(すまない…。今俺は寝不足との闘いで精一杯だ。四宮、どうにかして此奴を…ゴニョゴニョ)」



…フフッ。
まぁ生存の術とか言っておきながら、俺はあくまでゲーム優勝を目指す【マーダー】サイド。
莫迦共が潰し合い、ゲームが佳境になるまでの時間潰しとして車内にいるまでなのだがな。
…ほんの僅かな時間であるがせいぜい余生を愉しむと良い。俺に不意打ちで命落とすその時間までをな。島田某に、──そして四宮っ。

…しかしまぁ、僅かな時間といえど、参加者が小数まで絞られるタイムは十八時間…──いや、一日程要しそうだ。
この無駄な隙間時間を有効活用するべく、とりあえず俺はフランス語スピードラーニングでも聴くとしよう。
イヤホンに軽く息を吹きかけ装着…と。

…あー、コマンタレブー。
オーオー、アドモアゼル。ジュマペール…。


「まぁでもミサイルとか戦車ぶっ放されたら流石にお陀仏やけどなっ」



………………。

379『空に消えてった 打ち上げ花火』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/18(火) 20:26:24 ID:gIjiPh6Q0
「え、…そりゃそうですけど…。島田さん?」

「いや、白銀さっき言うたやん。車ン中安全やて。でも全部が全部防げるわけちゃうで。例えば〜…、グレネードランチャーとか。あれいったらハマーH2も俺等も逝くやろ」


「……………」「…………」


「島田さん……。それって俗に言う『フラグ』って奴じゃないですか?」

「なっ! おい四宮……。それを言うな…っ!! マジに飛んでくるだろうが………」

「…あっ、すみません……」


「いや、アホかッ!! 漫画か!! そんなタイミング良くグレネードランチャー来てたまるかい!!! …大体なぁ────…、」




──大体なぁ、に続けて島田虎信が何を言おうとしたのか。今となってはもう分からない。

最初に気配を感じたのはこの俺だった。


気が付いた時にはもう、後ろ窓ギリギリに大きな『弾丸』が迫っていたのだから。
この時俺はもう熟考を諦めた────。




…回収早すぎんだろ。




 ドッガガガバギャァァアアァアアアアアアアアアアアアア────────────ッッッ!!!!!!!


………
……


380『空に消えてった 打ち上げ花火』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/18(火) 20:26:42 ID:gIjiPh6Q0



 ────DIE HARD。
グレネードランチャーの雄叫びを直撃した車が、二度、三度──ゴムボールのように弾んで燃え盛る。
宙を舞い、そして地面に叩き付けられ……、メッキメキに大破してもなお最後は四輪で着地した様はさすが高級車・ハマーH2と言えようが、それでも炎に包まれてることには変わりない。
油煙の焦げ焦げしさ漂う街角。火の海と化すアスファルトに、車。静寂だった夜が地獄絵図でメラメラと照らされる。
火炎車から幾ばくか離れた場所に立っていた男────狙撃者張本人は、消炎昇る大砲にフッ…、と息衝き。
この惨状に似合わぬ落ち着いた表情と、殺人者らしからぬ格式高い背広の格好がまた不気味であった。


「お〜〜。結構燃えるなぁ…………──」

「──…これで三キル…か〜…。わしも……っ! ククッ……。若い参加者達にはまだまだ負けんぞぉ……………?」


推定年齢五十代ほどのその男は、目を擦りながら巫山戯た事をほざく。
続け様、奴は大口を開けてふわぁ〜、と欠伸を漏らした。奴にとっては、この一連の殺人など、つまらない仕事をこなしたかの如く単純作業なのだろう。
その表情からは奴の心がまったく窺えない。
一見にして昼間そこら辺にいそうな普通のリーマンであるが、今後も。──これからも、こうして人をつまらなそうに爆殺していくに違いない。


「…うーん……。ま、三十点ってとこかな………っ? クククッ……。派手さが…ちと足りんかったから…………。まぁもういいや──」

「──さっさと全員殺して……っ! ひとっ風呂浴びて帰ろう……………」


燃えゆく車内の死体はわざわざ確認するまでもない、と言うように。
中年リーマンは身体の向きを反対方向に変え、またつまらなそうにこの場を去っていった。








「…それは言い換えるのなら、『隙だらけの背中』……。フッ、誰だか知らんが哀れな男だ──」




「──そう思わないか? ────『四宮』」

「…えぇ。それよりも、この現状でその鎮まった態度……。流石ですよ…──」


「────『会長』は……。私なんて…もう、恐ろしくて……。震えが止まりを見せません………」

「心頭滅却の精神だ、四宮。この灼熱の如し煙も、そしてスリルも……。心を平静に保って、暫く俺について来い……っ」

「…ええ。了解」



────燃え盛るハマーH2から、ブロロロ…とアクセル音が鳴る。

381『空に消えてった 打ち上げ花火』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/18(火) 20:27:02 ID:gIjiPh6Q0
「それじゃあ、────島田さん、お願いしますっ!!!! アクセル全開で、突き進んでくださいっ!!!!」


────こんなに大破し、辛うじて原型を留めているに過ぎない廃車だというのに。



「行けっ!!! 島田さん!!!!」


────かつて公道を走り回った高級車の『魂』は、まだ。


「命令すんなガキの癖になァ!!! ンなん、言われへんでも──」



────炎に負けないくらい燃え燥いでいた────。

運転手の島田某は、恨みを晴らすが如くアクセルを踏み倒し────、そして同じく前方を睨む後部座席の二人、俺と四宮。車は一気に加速するッ。
──ブゥオオオオオン────。
装甲は大火傷まみれだが、ハマーH2は最期の運転を遂行すべく、そして、誇りをかけて。
火炎車は、隙だらけのリーマン目掛けて、夜の街を110km/h限界突破で走り切る《Driv'ing High》──。


「──あのクソをぶっ潰すまでやァアアアアアアアッッ!!!!!! 喰らえェエやァアッッッ!!!!!!!」


 “轢ッ”
 【Night】ッッ──────────、

  “逃ッ”
  【of】ッッ──────────、

   “炎ッ”
   【Fire】ッッ──────────!!!!


──マフラーが炎を吹き散らした。



ドンッ────、
と俺自身生後以来初であろう、人を轢き飛ばした感触が伝わる。
窓ガラスが大破している故もれ聞こえたうめき声と、宙へ弾き飛ぶリーマン…。
…愚かな殺人者め。──値段にして12,000,000円。その重みある価値の高級車が、たかが豆鉄砲一発で機能停止すると思うか?
それに、此奴──ハマーH2は元々イタリアの軍用車を模して製造された物。
…闘う相手を見誤るとは、殺人者として全く情けない奴だ。

言っただろう?
この『ハマーH2は最大防衛』……とな────。


「まぁ全然安全じゃなかったですけどねっ!!! ゲホッ、ゲホ……。大破どころか爆発寸前ですから、この車!!!」


……………確かに、安全…ではない。
打撲と軽いムチウチで住んだ四宮と俺はまだいい方。島田某なんてどうして運転できるのか不思議なくらい頭から血を流したのだから、…防具としては失格の烙印だ。
………フッ。…その点は御愛嬌ということで片付けるとしよう。

382『空に消えてった 打ち上げ花火』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/18(火) 20:27:14 ID:gIjiPh6Q0
──…キキィ──────ッ…


「おっしゃ、ほんじゃさっさと降りるで、白銀っ!! 姫っ!!」

「…はいっ。四宮、俺に掴まれ…!!」

「えっ…? あ、わ、私は一人でも大丈夫ですから…とにかく出ましょうっ!!」



熱した鉄板の如しドアを蹴り破り、無事外界へ。
この俺を殺めようなどという、莫迦な殺人者の面を一目拝もうと。島田某の後を追う形で、俺達はハマーH2の亡骸を後にした。



…………
………
……


383『空に消えてった 打ち上げ花火』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/18(火) 20:27:30 ID:gIjiPh6Q0
「がっ………。ぐ……、…う……………。ぎ、ぎぎ…………………。ハァ…、ハ………………ァ………………。…ククク──」



「──クククッ………!! は、はは……はっ…! クククッ………………! …ク、ク………!!」


「…見るな、四宮」

「……………っ」


 眼、鼻、耳。顔の穴という穴から血を垂らす中年リーマン。…何が可笑しいというのか、口部からは唯一笑い声が漏れ出す。
この一笑──轢かれた衝撃で前頭葉が損傷したのか、それとも自分が死に行く“今この時”をも楽しんでると言う訳か。…どちらにせよもう俺には関係ない事だ。
島田某、そしてしゃがむ俺と四宮の三人に囲まれて、ただ痙攣を続ける殺人者はまるで道端に落ちた蝉だった。──否、蝉ほど長生きできるのならもう御の字だろう。
既に虫の息となった奴は、もはやただ俺達に看取られるのみだ。


「ク…クッ…………。ク、クク……グッ………。ぎぎ……………………」

「おい、オッサン。…なに笑とんねん。あぁ? 言うてみいや、コラ」

「ちょ、ちょっと。島田さん…」


「……………………………………。…………クク、……………クッ………」


メンチを切りしゃがむ島田某と、彼に胸倉を掴まれ振り回される中年。
血痕が付着しながらも尚気高さが溢れるそのスーツからして、奴は重役か権力者と推察できるが。──まさか自分がこんな最期を迎えるとは思いもしなかったろうにな。
…仕方ない。こうして出逢ったのも何かの縁と考えるとして。惜別に俺からも最期、奴に言葉を贈るとしよう。


「…聴こえてるのか知らんが、まぁいい。良いか。これは神の憐れみだ。あれほどの事故なら貴様は普通、即死」

「………………ク、ク………………………」

「神が改心させる時間をチャンスとしてくれたのだ。この短い時間の中できちんと自戒できれば、極楽に行ける可能性も、…辛うじてだがあるだろう」

「か、会長…………………」


「………………。ふ、は…、はは………………」




「「……あっ」」


奴の震える手が、俺の胸元へとゆっくり、ゆっくり伸びて行く。
ピタッ──。皺目立つ指先の感触が伝わったのは、金の飾緒。
戦時中、戦没者の章飾から特殊な工程で金箔を集め作られた、この秀知院学園の飾りを握り──奴は何を考えたか。
スー…、と手を降ろしていき、俺との最初で最後となる会話を口にし出した。


「ク…………ク、クッ…………。まさしく……、──勝者…………っ! ……き、君は………人、生の……………勝者だ…………ね………」

「…なに?」

「この……飾緒……。…あの、…秀知院……学園、の…………。………生徒会長にしか………………与え、られぬ…。重みの……………飾り……だ」

「………それがどうしたと言う」

「………まさしく…人生の………勝者、じゃないか………………、君…は。…そんな……人間と、相まみえる…とは………………わしも運が……ない。……す、素晴らしい……………っ!! …おめでとう……っ!──」


「──Congratulations…………っ!! Cong…ratulations………っ………………!」


「………………」

「………下賤ね…。狂ってる…」

384『空に消えてった 打ち上げ花火』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/18(火) 20:27:49 ID:gIjiPh6Q0
賛辞の言葉を送るその顔は──、──その目は、視力を失ったかのように死にきっていて、そして狂気だった。


「チッ、なにがおめでとうや? …ちゅうかオッサン。お前、視覚も聴覚も理解力もまだイカれてへんようやし、俺からも言わせてもらうわ」

「………………ク、ク………ッ……」

「自分、何十年生きとる思うねん? どこぞの馬の骨に「殺し合いしてください」ゆわれて、ほんで従うとか……。終わっとる思わんのか? 何歳やねんお前。やって善い事と悪い事の区別もできんのか」

「……………」

「親父くらい歳の奴にあんま言いたくないんやけどもなぁ………。ほんまお前屑やからなっ? 最低やぞ? ボゲッ──…、」


「……………………逆…さ…っ」



「…あぁ?」



「わしは……かれこれ…三十年近く………っ。働き…続け、たが…──」

「──……わしが……この国にしてきた…………、…その…発展の……礎……貢献……! その………圧倒的…貢献…貢献………──貢献っ……を考えれ…ば………!──」

「──若者《クズ》の……っ! 五人や六人………。…殺そう…と……問…題は無いっ……!──」


「──わしには…許される………はずだっ………。……若…造、…………違うかっ………………!!」



「……………」

「……此奴………っ」



「……………………クククッ…。はは、ははははっ…………! ハハハはははっ…! ははははははは──…、」

「もうええわ」


外道に掛ける言葉はもう無い──、と。島田某は強く握っていた胸倉を力無く離す。
ドンッ──と地面に後頭部が激突する音が響き。それが直接の死因となったか、それとも下賤同然の罵詈雑言はイタチの最後っ屁で言い終えたと同時に力尽きたのかは分からない。
どちらにせよ、リーマンは糸が切れたかのように全ての身動きを取らなくなり──。


「………お亡くなり、ですね」

「…………。けったくそ悪い……ッ…」


────不気味な笑みのまま絶命し切った。




「……………………」


「………。さて、弾丸が…四つ。…よいしょっと。結構重たいのですね、グレネードランチャーって…」

「……な?! お、おい四宮!!」


『氷のかぐや姫』──。とは、中等部時代の彼女を表す異称だが、…四宮は冷たい眼差しで、そして尚且つドライにも死体の武器を担ぎ始めた…………。
……何を……。血迷っているのか此奴は………?

385『空に消えてった 打ち上げ花火』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/18(火) 20:28:05 ID:gIjiPh6Q0
「姫…!? お、お前なぁ……」

「…し、四宮。仮にも…人様の……。しかも今事切れたばかりの人間の武器だぞ……? お前らしくない…。も、モラルとかないのか…」

「…あら。お言葉を返すようですが、会長らしからぬ適切さに欠けた思考回路。これを誰かに拾われて、そしてまた撃たれでもしたら溜まった物じゃありませんよ」


「「………………………」」


「それとももう一度喰らいますか? この下賤な花火を」

「………。…すまない。俺とした事が」



…一応納得する素振りは見せたものだが、しかしやはり四宮…。侮れん、恐ろしい女だ。
合理性は強調する反面、倫理観は著しく欠けている……。見ろっ、ヤクザ者の島田某でさえ流石に引いてるぞ………。

この冷たさは死体を前にしたショックも含まれているのだろうが、奴は『氷のかぐや』から脱却した今でさえ恐るべき一面がある。
優秀かつ、何に対してでも常に万能で、それ故に一切の隙を見せない──小悪魔のような女。
難攻不落で、在りし日の風雲たけし城よりと付け入る隙がない。
まだ奴は牙を見せていない現状だが、この殺し合いで一番敵に回してはいけない人間はまさしく四宮。
バトル・ロワイヤル優勝も、四宮なら容易くやってのけることだろう。
末恐ろしい無惨さこの上無い。


────そんな女に、俺は惚れ。あまつさえ告白させようと四六時中策を練っているのだがな。
…………はぁ。…はは…………。


「…いやあり得へんって!! 捨てときやそんな──…、」

「さて長居は無用だ。そうだな? 四宮」

「ええ、会長」

「……おま…。お前らっちゃ、ほんま………」


 後は腐り朽ち果てるだけの、中年の死体には目もくれず。
未だバチバチと熱気五月蝿いハマーH2をバックに、俺達は立ち上がり行動を開始した。
──存在意義は全くとて無い島田某がひっついてくるのは癪だが、…始末するのはまだ先としよう。

数歩進んで、涼しい風に吹かれる。
金の飾緒が揺れる中、上着のポケットに手を突っ込み、俺は今後の生存術について省察し続けた。




【黒崎義裕@中間管理録トネガワ 死亡確認】
【残り65名】









「…──────あっ!!」




──さて、『ポケットに手を突っ込んだ』俺であるが………。
その際生じた『気付き』たるや、吉なのか、凶なのか…………。

386『空に消えてった 打ち上げ花火』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/18(火) 20:28:28 ID:gIjiPh6Q0
「? どうしたのですか? 会長」


「……拙い。…今引き返したらまだ間に合うものだろうか…………。クッ、面倒臭い……っ」

「はあ? なんやねん白銀」


「ポケットに入れた筈の…。俺の支給武器が……無いっ! 十中八九、あの車の中だ……」

「はぁ〜〜〜!?」「そんな、会長…。ドジキャラは…伊井野さんで十分ですよっ」


…無論、支給武器とはどんな莫迦でも使いこなせるあのハンドガンを指す。
そいつはポケットサイズだった為、いつ引き金を引いても良いように仕舞っておいたものだが……。──これも寝不足の限界が故かっ…。
クッ、屈辱だ………。

俺の周りには暴力奴の島田某に、ナイフ&ランチャー四宮がいる為、武器所持の必須性乏しいとも言えるが……。
ただ、それだとあまりに格好が付かないではないかっ! このっ、俺がっ!! 莫迦っ!!

……あんな小さなピストル一つにわざわざ数メートルも引き返すのは…煩わしさの極みであるが…………。
…ぐうっ、やむを得ないだろう。


「…不覚だ。……四宮、悪いが今銃を取ってくる。急いで戻るから少し待っていてくれ」

「あっ、会長!!」



…恐らく後部座席に置いてある所だろう。探す手間は無いものと考えられるが、…全く……寝不足の俺は情けない……。
来た道をUターン。──俺は忙しなく車へと身体を向けるのだった。






────その振り返った視線の先に、『俺のハンドガン』は在った。





「……………………………えっ?」






委しく言えば、『銃口』がこちらを向いていた────。






「………クククッ………!──」



「──上手いもんだったろう? 齢男の……っ、…『演技』も中々…………っ!」





────想像を驚嘆上回る光景を目にして、この時俺は考えることを完全に忘れていた。

387『空に消えてった 打ち上げ花火』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/18(火) 20:28:48 ID:gIjiPh6Q0
────ハンカチで顔の血を拭い、ニタニタ不敵に笑う眼の前の男が。

────絶命した筈の男が、何事もなかったかのように直立し。



「だがなぁ…………、ダメじゃないか……っ!! …クククッ……。これだから……、これだから、敗者共は面白いっ…!! 滑稽で、淀みなくバカで………!! ククク──」


「──刮目…っ…………! 花火の再炎をっ…!!!」



────あの時。

────『奴』が俺の飾緒に触れたあの時、盗ったのであろうハンドガンが。

────一発だけ、放たれて。




 ──パァンッ



「…え? ……………………──えっ」

「……ぃっッッ!!!! 避けろッッ、白銀ぇえっ!!!!」





────中年リーマン。奴は恐ろしく狡猾で、卑怯で、そして何よりも計算高く。
────たった一発の弾丸でここにいる三人全員を滅ぼす手段を取ってみせた。


────速急、距離を詰めた島田に突き飛ばされる俺。
────やっと我に返った俺が見た『スローモーション』は。




真っすぐカミソリのように飛んでいく弾丸と──────。

狙いピッタシに『ランチャーの』黒い弾に直撃する様と──────。



「…会ち──…、」




火花。






太陽の様な眩しさと、悲鳴の様な爆轟が泣き喚き。

火花が盛大に咲き乱れる。






俺の目は熱く熱く、どこまでも焼き付かれた。

─────『今の』ランチャーの持ち主が、高く弾む光景に。

388『空に消えてった 打ち上げ花火』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/18(火) 20:29:00 ID:gIjiPh6Q0





かの奉る不死の藥の壺に、御文具して御使に賜はす。
勅使には調岩笠つきのいはかさといふ人を召して、駿河の國にあんなる山の巓いたゞきにもて行くべきよし仰せ給ふ。
峰にてすべきやう教へさせたもふ。
御文・不死の藥の壺ならべて、火をつけてもやすべきよし仰せ給ふ。

──────────(竹取物語 原文)


 かぐや姫は月に連れ帰される歳、愛した男に不死の薬を残す。
だが彼女の居ない世界で生きながらえるつもりはないと、男は薬を燃やしたという美談で締められる。

でも、考えてみればあの性悪女が相手を想って不死の薬なんて渡すと思うか。
俺はいつも思うよ。

あの薬は「“いつか私を迎えに来て”」────そんなかぐや姫なりのメッセージだったと。

だけど男は言葉の裏も読まずに、美談めいた事を言って薬を燃やした。
……酷い話だ。



俺なら絶対かぐやを手放したりなんかしないのに────…。

389『空に消えてった 打ち上げ花火』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/18(火) 20:29:17 ID:gIjiPh6Q0




 ──ドクンッ──、バクンッ──、ドクンバクンッ、
  ──ドクンッ──、バクンッ──、ドクンバクンッ、
   ──バクンバクンバクンッバクンバクンバクンッ……



  ビタンッ──────!!!

「痛っ!!! 〜〜〜っ……」


 着地失敗した……っ。私とした事が…、いったくて立てないわ………。
 ──って!! そんな事ほざいてる場合じゃないっ!!!

 拙い……っ。この事態は拙すぎるわっ…………。


──バクンバクンバクンッバクンバクンバクンッ
──バクンバクンバクンッバクンバクンバクンッ


 何で死んだ筈のあの男が生きてるの……? ──とか今は推察してる余裕もない………!
 アイツを見て「お亡くなりですね…」とか的外れな事を言ったのは…紛れもなくこの私。…つまりアイツの奇襲被弾は全て私の責任になる訳だけどもっ………。
 不幸中の幸い…って訳かしら…。私は咄嗟にボーリング玉みたいな弾丸は投げ捨てたから外傷は特に無いし。──会長も、島田の奴も間一髪躱せたから無事みたい。

 ────ってそんなの本当に今は些事な訳でっ!!!!
 今、最も拙く。そして今、最も迅速に対処しないといけない事……。
 それが…………っ。


──バクン! バクン! バクンッ!! バクン! バクン! バクンッ!!!──バクン! バクン! バクンッ!! バクン! バクン! バクンッ!!!
──バクン! バクン! バクンッ!! バクン! バクン! バクンッ!!!──バクン! バクン! バクンッ!! バクン! バクン! バクンッ!!!



 あの爆発の影響でっ……、心臓が『ショック状態』になっていること…………っ。


 心臓のポンプ機能の障害…、血液量の減少……、 血管の過剰な拡張…………。
 ショックを起こして私の心臓は物凄いBPMの数値を叩き出してるわっ……!
 な、何よこの高鳴りぶりっ!! まるでフェスを彷彿とする騒がしさじゃない!!!


──バクンバクンバクンバクンバクンッバクンバクンバクンバクンバクンッバクンバクンバクンバクンバクンッ
──バクンバクンバクンバクンバクンッバクンバクンバクンバクンバクンッバクンバクンバクンバクンバクンッ
──バクンバクンバクンバクンバクンッバクンバクンバクンバクンバクンッバクンバクンバクンバクンバクンッ


 …うぅっ………!
 ほんとに拙い、拙すぎるったら…拙いの極致までまずい…!
 まずいまずいまずいまずいまずいまずいまず……ズイ、マズイマズイマズイマズイマズイっ!!!
 【心原性ショック】……。心臓だけが不自然な位に跳びはねてて、──まずいっ!!!

 このままの行く末だと、十秒後に臓器の機能不全、そしてまた十秒したら脳が停止し始め、…一分以内に死……。──死んじゃうじゃないのっ…………!!
 名家に産まれて、庶民達とは遥か高く別世界を往く私が…………っ。こんな下らない所で………!
 「会長を生き返らせて素直な性格にしてほしい」──だなんて、バトル・ロワイアル優勝の野望も叶わずして……っ。こんな莫迦げた死に方で……………!!

 そんなの…、私の矜持が絶対許せないっ!!

 ていうか、ゲーム開始最初期に死亡とか…、普通石上くんとか下賤(藤原さん)がされるものでしょおーーが…………!!


──バクンバクンバクンバクンバクンッバクンバクンバクンバクンバクンッバクンバクンバクンバクンバクンッ
──バクンバクンバクンバクンバクンッバクンバクンバクンバクンバクンッバクンバクンバクンバクンバクンッ


 …冷静に…。普段らしく慎重に対処しなきゃ。
 ……ええ、この事態を対処するのよっ。──私…!! 四宮かぐや!!!

390『空に消えてった 打ち上げ花火』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/18(火) 20:29:34 ID:gIjiPh6Q0
 やる対処法は至ってシンプル、そして基本中の基本……!
 手を心臓の位置より高く挙げて、目をゆっくり閉じた後に…深呼吸!
 基本的止血法とやる事は一緒。この三パターンを意識すれば、鼓音を平静にするのも容易い…。──大丈夫だわっ………!!


──バクンバクンバクンバクンバクンッバクンバクンバクンバクンバクンッ


 落ち着いて。落ち着くのよかぐや……。
 鼻から大きく吸って、口からは軽くだけ吐いて………。
 この繰り返しで落ち着くんだから…。だから、クールに……。
 冷静にっ………。


──バクン、バクンバクンバクン。バクンッ、バクン、バクンバクンバクンバクンッ…


 吸って……っ、


──バクン、バクン、バクンバクン。バクン、バクン、バクンバクン………


 吐いて……ッ、


──バクン、バクン、バクン、バクン。バクン、バクン、バク………


 また酸素を取り入れて………っ、


──バクン、バクン、バクン。バクン。


 ……二酸化炭素を透かしだけ吐き出すっ。


──バクン、バクン。バクン。バクン。


 落ち着いて、落ち着いてったら…。


──バクン。バクン。バクン……。

 私のっ……心臓………。

 すぅ……。



──バクンっ。






──…どくん。ばくん。どくん。ばくん。どくん……



 はぁ。…ハァハァ………。

 やった…。

391『空に消えてった 打ち上げ花火』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/18(火) 20:29:53 ID:gIjiPh6Q0
 ようやく落ち着いてきたみたい…………。
 良かったわ………。

 爆破の衝撃でショック死とか……、絶対葬式で早坂が失笑する死因じゃない…。
 …兎に角。
 これでもう一安心ね…………。


 さて、早く会長達の元に行かないといけないわ。
 …足手まといとか思われたら心外も良いとこだから………。



──どくん。…ばくん。どくん。…ばくん。


 …ハァハァ。もう疲れちゃうわ……。


──どくん。……………ばくん。…どくん。…………………ばくん。


 ……………。


 あれ?
 

──どくん………………。……………ばくん…………………。…どく、ん……………。…………………ばく、ん……………。


 …え、


 …えぇ……。


──どくっ、ん…………………………………。……………ばくん…………………………。…………どく、ん……………。……………………ばく、ん………………。


 落ち着いたら落ち着いたで…、今度は心拍数下がってきてるじゃないっ!!
 これもこれで私死ぬんですけどっ!!! 何なのこの心臓……、まるで役立たずの…。能無しじゃないっ!!!

 こ、こういう場合は……。確か…、どうすれば良いんだったかしら………………。
 まずい、マズイマズイ!!



──どくっ、ん………………………………………。……………………………ばくん…………………………。



 一体どうすれば良いんだっけ………。

 も、もうっ……………………。



──どくっ、ん…………………………………………………………………。







 …あ。



 何で気付かなかったんだろ。私。




────どくん…………………………………………………………………。ばく…。

392『空に消えてった 打ち上げ花火』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/18(火) 20:30:12 ID:gIjiPh6Q0
 ……フフッ。気付かなかった理由、って。
 それはもう、『アドレナリン』の急分泌が原因ね。…これ。



 右腕は骨も肉も滅茶苦茶に崩れてて。

 右腹部から太腿にかけて大きな空洞が出来て、笑えるくらいに血が濁流してて。

 顔も…。右半分は多分直視できないくらい爛れて。剥き出しの表情筋に、がん開きの眼球と、髪の毛が全焼して更地になった頭部。



 焦げた肉の悪臭がキツくて。

 唾液が、止まらなくて。



 ……心臓の音がスローペースになるのも妥当なわけね。


 …………私、もう虫の息…。なんだから。



────どくん…………………………………………………………………。



 ……………。

 …はぁ、あー…あ…。
 ……いざ自分が召される直前ともなると、腹が括ると言うか、案外リラックス状態になっちゃうものなのね。
 右半身が凄惨になってるというのに、安らかで充足した境地にいる心地…。
 不思議な安堵感に包まれて、眠気で身体が重たくて、眼の前で光る最大級のスーパームーンを見ても、何にも感じなくなる。

 本当に、…この世のあらゆる事柄全てが取るに足らなく思えてくるわ。






 ……。

 …けども。

 ……だけども。

393『空に消えてった 打ち上げ花火』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/18(火) 20:30:34 ID:gIjiPh6Q0
 見ないでっ…───────。

 見ないでほしかった。
 かつての面影もない、辛うじて原型を留めている程度の、私の顔を。



 見られたくないっ───────。

 特に『あの男』にだけは。
 人体模型同然の容姿になった私を、構わないでほしかった。


 
 そっとしておいてほしかった。

 どうせ私はあと数十秒程の命なのだし、襲撃直後という事もあるから、さっさとこの場から逃げ去ってほしかった。


 このまま。

 一人でいたかった。




 ──そんな私の気持ちを汲み取りもしないで。
 無神経にもあの男は。

 白銀御行という男は。
 満月を覆い隠すように私の視界いっぱいに映っていて──。
 ────らしくない表情で、その鋭い目付きを私の目に合わせていた。



 …もう、やだったら…。


 初めてですよ。…私。

 会長が……。涙を流す所を見るのなんか。
 ……会長に膝枕されて横になるの……。初めて……ですよ。



“…や……っ!! …し…宮あぁッ…!!! …っ、ぁあ………ッ……。…………に……だったんだ……ッ。…………の、俺がぁ…………っ!”


 …ちょっと……っ。
 落ち着いて話してくださいよ…。
 何を言ってるのか全く聞き取れないじゃないですか。
 …キャラ崩壊してませんか……? 普段そんな叫んだり狼狽する人じゃないでしょうが…。
 会長ったら。


“俺は………とお……が………ったっ…! ………な簡単な…………を、…っ!! ずっ…と……えな…………っ。………矜持が邪魔して………。ずっと…。ずっとっ………”


 …え? 矜持が邪魔して〜……、何ですって?
 あぁもう全然聞き取れないっ…!
 …多分。──と言うか確実に鼓膜が破れたせいで半聞こえ状態なんでしょうけども……、会長が仮に、かなり重要な機密を話してるんだとしたら……もう最悪だわ……。

 後、さっきから大粒の涙が凄い落ちてくるんですけど。
 ……少しは自重してくださいよ。会長らしくない。



“……はっ……………!! ……俺………………はぁっ!! …ソッ、クソクソッ……! ……………に、……………!!! …………っ!! …………しか、無いんだよっ……。四宮………………”


 …はぁ。
 何が無いんですか…。

394『空に消えてった 打ち上げ花火』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/18(火) 20:30:53 ID:gIjiPh6Q0
“………れて……ない…。…まないっ………。風紀………………為だとは………あるがっ……! ………、許してくれ………”


 だから何が無いんですか。…いや、あるんですか? アルナイアルナイ………って。
 それでもって、何を許せば良いんですか、私は…。


“………まない。……が……の……気持ちだ……………。四宮…………、……………っ”


 …あーもういいですよ。
 喋らなくても結構です。──普通「もう喋るな」は死に掛けてない方が言う台詞ですがね。


“…………ら。────………かぐや……っ”


 ……だからもうっ。
 私に構わなくて良いですよっ、会──…、






“─────────────────────…っ。”




──バクンっ。




 あっ。




 …絶対、私の火傷顔を見て何とも思ってない筈がないのに。
 …早坂の調査曰く、グロテスクやスプラッターな物には全く耐性がない会長だというのに。

 肉破けた右顔と、まだまともな左顔のちょうど半分の位置。
 冷えた呼吸が漏れる、私の唇に向かって顔を近づけて…。


 ────会長は、勢いのままに口付けしてきた──────。





 ……………。


 初めてと終わりを兼ね備えた、人生唯一で一度きりのキス。

 初めて唇で味わったその感触は、なんだか暖かく…。イヤらしいとか、卑猥な考えは一切浮かばない純粋な柔らかさ。
 それでいて、力か弱く派手さのないキスは、何処か寂しくて。哀しくて。

 こんな状況。普段起こりうるものなら、考える事を忘れきるくらい脳は痺れて顔真っ赤になっちゃうと言うのに。



 今はもう、眠気さが限界で、感情の乱れは起きなかった。




“…………だろう。…もう………、…にな…………”



 相変わらず、会長が何を喋ったのか、読唇術に切り替えてみても把握出来なかった。
 …勿体ない気もしますが、まぁもういいでしょう。

395『空に消えてった 打ち上げ花火』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/18(火) 20:31:08 ID:gIjiPh6Q0

 …………それよりも。

 それよりも、会長。
 お忘れですか。



 恋愛関係に於いて、『好きになった方が【敗け】』は絶対のルール。
 即ち、行為を認め、告白することは【敗北】を意味するのですよ。
 …恋愛は、戦。
 プライドが高くて、常に努力家の会長が、こんなチンケな所で隙を見せちゃうだなんて……。

 フフッ………!




 ………………。
 さて、そろそろ…時間……ですね…………。



 会長……。
 私は僅かながらの間…、天高くの敗者待機部屋で貴方がどう足掻くか見物してますから…………。
 紅茶でも嗜みながらずっとずっと…、観戦を愉しむとします。


 …ほんとに会長ったら…。多分お忘れなのでしょうけども……、この殺し合い…………………。
 優勝したら『誰でも生き返らせる』褒美が与えられるのですよ…………。
 貴方が利根川某に私の名前を挙げた、その瞬間。──最期だからって迫ってきた、あの接吻を散々な位に弄り倒してあげますから……………!
 その来たる未来に怯えながら……、今のうちにメンタルを鋼化させておいてくださいよ。



 いいですね…………………?




 本当に……。


 貴方という人は…────…、






“………すまない。………………………………四宮”






 ────お可愛い……………………──私だけの──…人……………っ!

396『空に消えてった 打ち上げ花火』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/18(火) 20:31:24 ID:gIjiPh6Q0




「……………………………四宮……」



 四宮かぐや。
彼女の瞼を閉じさせたこの瞬間。


────俺の心中、何が壊れた。



壊れたと同時に、これまで隠れていた何かのスイッチが姿を表して。
俺は何の躊躇もなくそいつをONにした。



あぁ。…忘れる筈なんか、ないだろ。

利根川の魔力で、死亡した者を蘇生させられるということを──。
そして、あの日生徒会のメンバーで見た花火の美しさも──。すぐ隣にいたお前の浴衣姿も、笑顔も──。
──忘れてたまるものか…………。


「………………」

「……白銀ッ…。俺は……、俺はッ…! すぐ近くにいたお前が精一杯で……ッ。あんな屑親父にッ……。あの屑野郎にまんまとしてやられて、逃げられたッ…!!!」

「………島田…さん」

「…ほんますまない………ッ。申し訳…ありませんッ、白銀ッ…………! ほんま、ほんま…………ッ」


……いくら頭を下げようとも、四宮は生き返る訳がない。
……だが、だからと言って島田某。俺はお前に「謝るな」とは言わんぞ。
お前があの時バックで奴をしっかり踏み潰すなり、脈拍を確認さえすればこんな事にはならなかったのだからな。

…俺にも責任はあるが、お前に非が全く無い訳でもない。
……しっかりと、【禊】を償ってもらう。

四宮の形見であるアーミーナイフ。
握り拳に力を入れ、満月に反射させるかのように、その銀色のナイフを掲げ上げた。


「…顔は覚えたさかい……。俺が、…今まで屑共をぶち殺してきた俺がッ!! 絶対あの屑を敵討ちしたるんや──…、」

「…もう良い。……島田」

「……あ…? 何やねん…………ッ。白銀、お前──…、」


そして。
そのナイフを奴の顔手前まで突き魅せる。


島田某の言葉を遮るように────。




「復讐だ殺人だ等と野蛮で愚かな事をする暇があるなら、お前にやってもらいたいことがある」

「…あ? …何やねん。何言うてんねんなお前ッ……」

397『空に消えてった 打ち上げ花火』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/18(火) 20:31:42 ID:gIjiPh6Q0
「────『俺を守護れ』。──この命令に従う義務が島田、お前にはある。みすみすリーマンを逃し、四宮を死に至らしめた責任としてな」


「……あぁ?」





──あの時、主催者はほざいた。『人を生き返らせることもできる』、と。

「さしずめ俺が脳。お前が肉体担当だ。…利根川某はどうやら蘇生術があるようだが、あんな低能…秀知院学園頂点であるこの俺が操れぬ筈がない──」

「──例えば、殺し合いに優勝せずとも、奴の力で……四宮…を生き返らせる。…とかな」


「……ッ!! お、お前…」



──また回想して。あの時、主催者はこうをもほざいた。『勝たなきゃいけないんだ』、と。


「…良いか。お前は肉体担当なんだ。さっきの親父のような小物と無闇矢鱈やり合って、体力を消耗させたくない。だから黙って俺の言う事を聞け。そして脳である俺を守れ」

「………チッ! そんなん言うて、お前…。勝算あんのかッ!? 勝つ秘策っちゃうモンが!! あるん言うんかッ!!」

「あるさ。…もう既にな」

「なら言うてみいやッ!!!」



──最後にもう一度だけ回想して。あの時、バス内での、俺の飾緒は一人でに震えていた。
──『武者震い』という奴だったのだろうか。絶対的自信からか、金の重みは、…いや俺は、確実に身震いしていた。
──そして、間違いなく笑っていた。

島田某にそっと耳打ちし、俺の推察並びに脱出プランを伝える。


「……。……──ッ!!! …お前、ほんまか………? それ……」

「…おいおい。疑う必要性はあるか?」

「………ッ……」

「兎に角、作戦遂行の為にも、お前にはボロ雑巾のように利用させてもらう。いいな」

「………おう。…ほんなら親父狩りは保留や。──…行くで、白銀」

「………あぁ。…お前には四宮死亡の責任を………。…俺と共に味わうまでだ………っ」





 すまないな、四宮。


お前的には、俺の優勝の暁で生き返りたかったものだろうが、生憎俺は…チキンだ。
息吹短いお前に、キス一つするのさえ震えて仕方なかった俺が、──殺人に手を染められはできない。

計画ではゲーム崩壊までに最低三十六時間は用する。
長い待機となるだろうが、それまで放置することをどうか許してくれ。

…俺は、それほど迄にお前に生きていてもらいたいのだからな。



眠る四宮の頭から、焼け跡目立つ猫耳をそっと外し、頭へと被る。
現実を目の当たりにして、脳内のスイッチが【マーダー】等という楽観的かつ子供じみた選択肢から。
──現実主義派【対主催】へと切り替わった────あの死の瞬間。

俺は、絶対に忘れない。


天を見上げ『バリアー』を一睨みし、俺等二人は硝煙がキツイこの街から去っていく。

398『空に消えてった 打ち上げ花火』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/18(火) 20:31:53 ID:gIjiPh6Q0
「………………………………」




…四宮。

お前の言いたいことは、今なら手に取るように分かる。

『優勝せずしてバトル・ロワイアル終了だなんて無理』……とでも言いたげの様子だろうな。



…………心配はいらないさ。



この程度のゲーム《殺し合い》。
『いつもの』に比べれば、百倍簡単だよ。



木更津で見せたあの夜の花火を、もう一度俺が見せてやる。





【本日の勝敗】

【四宮かぐや@かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜 ────死亡】
【残り65人】

399『空に消えてった 打ち上げ花火』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/18(火) 20:32:05 ID:gIjiPh6Q0
【1日目/D6/東京ミッ●タウン周辺街/AM.02:58】
【白銀御行@かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜】
【状態】悲哀、打撲(軽)、ムチウチ(軽)
【装備】アーミーナイフ@映画版かぐや様
【道具】猫耳@かぐや様
【思考】基本:【対主催】
1:主催者をおびき出し、四宮かぐやを生き返らせる。
2:ゲームを崩壊させる。
3:四宮の死に激しい悲しみ、自責の念。
4:四宮死亡の一因ともなった島田某を許せない。散々使い倒して、ボロ雑巾のように捨ててやる…っ。

【島田虎信@善悪の屑】
【状態】悲哀、頭部出血(軽)
【装備】なし
【道具】猫耳@かぐや様
【思考】基本:【対主催】
1:白銀の『策』を信じ、従う。
2:姫(四宮)……。ほんますまんッ……。
3:中年親父(黒崎)に復讐したい。…が、今は後回し。


【黒崎義裕@中間管理録トネガワ】
【状態】頭部出血(軽)、全身打撲(軽)
【装備】ATハンドガン
【道具】なし
【思考】基本:【マーダー】
1:どれだけ卑怯な手段を取ってでも殺しまくり、そして優勝する。
2:その一方で、利根川幸雄と三嶋瞳には不殺でゲーム終了達成を願う。
3:会長を保護したい。
4:わしはどうせ、死ぬのだろう………。

400次回 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/18(火) 20:36:06 ID:gIjiPh6Q0
【次回】
────ロボットが嫌い。

──面白い陰口を喋り合えないから。


【次回】
美馬サチ、西片、ガイル

401『そんなガキなら捨てちゃえば?』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/19(水) 21:51:38 ID:J31/VQ160
[登場人物]  [[美馬サチ]]、[[西片]]、[[ガイル]]

402『そんなガキなら捨てちゃえば?』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/19(水) 21:51:58 ID:J31/VQ160
 出会ってまだ何時間も立ってないけどさぁー、そろそろ捨てちゃおっかな…。
この『ロボ』。
…はぁー……っ、うっぜ。


バス内見渡した限り、参加者はどれもこれもパッとしないダサい人間ばかりだったけども、──どうせ出会うなら女子の参加者が良かったわ、ほんと。
まー、女子つっても誰彼構わずウェルカムって訳じゃあないけどさ。
対象内は私よりカーストが若干下、それか同程度くらいの女子がいい。
あんまり陽キャな奴相手だと合わせるのが疲れるし、かといって腐女子()みたいなド陰キャならつるんでる私もダサい扱いされるからNGで。
まこっちみたいな毒にも薬にもならない凡な奴と、できるものなら組みたかった感じだわ。

あっ、あと願わくばおまけ要員として、陽キャで賢くて私達を守ってくれる男子とも組みたい。
顔もねー、高望みはしないけどさ、中の上くらいの男子を私は希望だわ。いくら性格が良かろうとも、不細工とかオタク系の奴はマジで無理だから。…ほんとに、無理すぎ。

あ、話変わるけどさぁー、ダセェ男子ってなんで皆揃って黒縁メガネかけてんだろね?
視力悪いにしても、シャレた眼鏡とか売ってんだからさー、自分磨きに意識すればいいのに。
そんなんだからオタク共はモテないし嫌われんだよ、って常に思うわ。女子からしたらマジあり得ないし。


ほんと、冴えない男子って何もかもダメだし気持ち悪いわぁー……。


「………高木さんっ…!! 頼む、電話に出てくれ!! 高木さん!」



──あっ。私、そのダサ男子と今つるんでんじゃん。眼鏡はかけてないけど。

…マジ最悪っしょ、私。



「………………」

「高木さん……。高木さん……っ。……………。ダメだ、何回掛けても出てこない……」


「………ハァ…」


 えーと、西坂…だっけ。西村……だか、西田だか………。…どうでもいいか。
興味本位…っつーか。バトロワスタート後、何となく声を掛けてしまったのがチョー運の尽き。
この命名:『高木ロボ』は壊れたかのようにさっきから同じ人名をブツブツと喋り繰り返している。

…なんなの?
いや割と本気でなんなわけ?


「…美馬先輩…」


うわー、芋臭い顔でこっち向いてきたし。
何話したいわけ? 高木ロボさぁー。


「……もしかしてですけど…、高木さんって女子を見掛けたりしてませんか?」


はーい、これで二十二回目の『高木さん』。
んな奴知らねーし、バトロワ始まって移動なんてしてないから会うわけねーし。
普通考えりゃ分かると思うんだけど、高木ロボって案外思考回路欠陥品なんだね。

くだんないことで一々話しかけて来んなよ、っぜーな。


「……。…ごめんね。悪いけど西片君以外まだ誰とも会ってないからさ。分かんないや」

「…うぅっ、クソ……。…オレと同い年で、センター分けで茶髪の…。…とにかくその子…。──高木さんはオレとクラスメイトで探さなきゃいけないんですっ…!」

「…うん、…そう」

「オレ、いつも高木さんにからかわれてて…。その度に『次こそは見返してやろうっ!!』って意気込むんですけど、またからかわれて………。毎日毎日…。屈辱感でムカムカしながら、からかわれ続けるんですけど──」

「──そんな高木さんをっ! …そんな彼女だからこそ、今オレは守らなきゃダメなんです……。だから焦っちゃって……。本当にどこにいるか心配なんですよっ…!」

403『そんなガキなら捨てちゃえば?』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/19(水) 21:52:14 ID:J31/VQ160
はい、これで『高木さん』二十三、二十四、二十五回目ーー。
…って、私も私でなにコマメに数えちゃってんだ。…あーあ、アホらし。
まー、オタク特有の急に饒舌になる高木ロボに比べりゃアホらしさもそこまでだけどね。


「…あっ、そうだ! 今、高木さんの写真見せますから! ………………。…この子です…! 美馬先輩…、見覚えないですか?」


だから知らねーモンは知らねーっつうの。
無様な高木ロボ、安物のスマホ取り出して写真見せびらかしてきたけどさぁ…。


……はあ。

この高木って奴……、まぁまぁハイカーストそうな顔付きはしてるけど、…なーんか……田舎臭さあってダサくね?(笑)って感じ。
マジでしつけぇ奴だわ高木ロボ。この写真でシ●ってそう〜…(笑)。
…あっ。ロボの奴、ワンチャン「オレこんな可愛い子と仲良しなんですよぉ〜」って見せびらかしたいだけだったりして。
きっっしょ。


「……本当にごめんね、ロ……西片君。とりあえず今は落ち着いて様子見すべきだと私は思うんだけどさー。…ね? 落ち着かない?」

「……くっ………。うっ……──」

「──申し訳ないですが、到底落ち着けないですよっ…! 美馬先輩は参加者に知り合い居ない様ですが、高木さんは僕の……と、友達なんです…!」

「…………そうなの?」

「だ、だからっ! …無理強いはしないですが、お願いしますっ!! 僕と一緒に高木さん探しに協力してくださいっ!!! このビルから出て、彼女を探しましょう!!!」



…あ、ヤバい。なんかカチーンって来たかも。



──ちなみにいい忘れてたけど私が今いる場所、スタート地点のビルだから。
…変に動いたらやべー奴に襲われるかもだし、当然の行動だよねぇ? 普通。


…その私が冷静に見出した『普通の行動』を理解もせず、自分本位でグダグダ高木高木うっさく喚いて。


これだからカースト下層のフツメン野郎は嫌いなんだよっ……──。



「…あのさぁ、西片君。────何でそう自分中心に進めちゃうわけ? 何なの?」

「……え? み、美馬先輩………?」

「女子はさぁ、空気を読み合って協調性を保つんだけどもさ。さっきから高木さん高木さん〜って自分の事ばかり話すじゃん?」

「………………美馬、先輩……」

「西片君さ、空気読もうともしないから、私が行きたくないオーラ出してるの察せてないよねえ? どうして私に合わせてくれないのかなあ? これでプラプラ出歩いてさ、私殺されたら西片君の責任になっちゃうね。ねえー?」

「……………」


「…オレだって、自分が焦ってるのは分かってますよ」

「え、なに?」

「だけどもっ…!! オレは高木さんを探したいし、…かといって美馬先輩を一人放ったらかしなんかできないっ!!」

「…………え?」

「だから、だからっ……!! お願いします、お願いしますっ!! オレと一緒についてきてくださいっ!!! お願いしますっ!! 先輩!!」



「………………。…あっそう」

404『そんなガキなら捨てちゃえば?』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/19(水) 21:52:25 ID:J31/VQ160

………高木ロボってさー。
多分、普段の学校生活でも、優しい真っ直ぐな男『キャラ』で頑張ってやってってんだろね。
まじウケる………。


──こういう輩…、ぼっちやオタクよりたちが悪い。

──私が一番嫌いなタイプな、クズ……。


はあ……。
本気で、そろそろ捨てるタイミングかもしれないや。
この産業廃棄物《高木ロボ》。


死ねよ陰キャ。

405『そんなガキなら捨てちゃえば?』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/19(水) 21:52:38 ID:J31/VQ160


 …
 ……

 “みんなアァァァ────────!!!!!! 俺は殺人ニワトリだッ、聞いてくれエェェェェ────────ッッッ!!!!!!”



 “『新田義史』って男に気をつけろ──────────────────ッッッッ!!!!!!!!!!!!”

 ……
 …

406『そんなガキなら捨てちゃえば?』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/19(水) 21:52:53 ID:J31/VQ160



 真っ黒な夜空が青みがかってきた頃合い。

コ●ダ珈琲店のテーブル席にて、
──頼んだアイスティーに一切手を付けず、ただストローを回すのみの私と、

「………………………」


──能天気にカツパンセットをガツガツ燃料補給す《食べ》るウザロボットと、

「それにしてもスゴいですね…。その筋肉……! 一体どんな鍛錬を積んだのかオレには想像できないですよ………っ!」



──そして、筋肉質かつタンクトップのアメリカ人。

「…いや、大した事はしていない。ただ日々の訓練と業務で自然についただけだ、この肉体は。…俺なんかよりも西片。お前の方こそ中々の身体をしているじゃないか。その鍛えた腕に、腹筋。その歳にしては素晴らしい肉体美だ」

「え! い、いや! いやいやいや、いや〜!! そんなコト無いですよー! ──『ガイル』さん!」



「………………………ハァ」



────「お前は誰だよ」の境地だわッ。


 …遡れば十数分前。
バカカラスみたいに「タカギサーンタカギサーン」と鳴き続ける高木ロボに、もう私は限界寸前だった。
バトロワ中にボッチとか二重の意味で嫌だから、ロボの切り捨て時が見つかるまで同行してたんだけどさぁー。…ほんとにコイツ《ロボ》は生理的に無理過ぎる。
いつどこで頭のイカれた奴に遭遇するか分かんないっつーのに、……なんでコイツ、こんな大声出せるわけなの?
無警戒にウロウロ町中を行ったり来たり、探し続けてるし。
どんだけ頭が悪いの?? コイツ。

私が「声のボリューム控えて…」ってか〜なり優し〜く注意しても、一分後には鳥頭同然にまた鳴き続けやがるし。
…こんな奴さっさと殺せばいいじゃん、ってトコなんだろうけど、殺人とかクソ気持ち悪そうだから手 下したくないし。
もうどうすればいいわけ………? めちゃくちゃイライラして血管切れそうなんだけど、って感じで。


イッライラ。

イライライライライライライライライライライライライライライライライライライライライライライライライライラ。

死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね…───────って、私は眼の前のだらしない背中に呪いを飛ばしまくってたわ………。



────そんな爆発寸前の時に声をかけてきやがったのが、タンクトップの変態だった。


ガイルとか何とかって名乗るソイツは、「君達は俺が守るッ…!(一部省略)」とか偽善宣言してきたから、コ●ダで三人座る今に至るってわけ。

──一応言わなくても分かるよね? 偽善タンクトップ男を仲間に引き入れたの、当然私じゃなくてロボだから。
コイツが目輝かして「共二行動シマショウ。高木サーン」とかほざいたんだからさ。勘違いはしないでよねえ?




「……………はァ………………………」


…マジで、
……うっぜ……。

407『そんなガキなら捨てちゃえば?』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/19(水) 21:53:10 ID:J31/VQ160
「…あ、ところで美馬先輩…。もしかしてどこか具合悪いんですか?」


 ………は? なに。
どこも悪くないし。
あんたとは仲良くともなんとも無いんだから、一々こっちに絡んでくんなよ。


「……え。なんで? 西片君………」

「だって、今結構小腹空く時間帯じゃないですか。だから皆でコメダに着たのに…、先輩アイスティー一つ飲んですらいないから………。ちょっとオレ心配で…」

「……………」


また何も考えずに話してるよ…。
毒物入ってる可能性もあんのに無闇食えるかっての。
大体、私女子なんだけど。
こんな深夜にパンなんか食べたら太るでしょ。
そう言うちょっと考えなくてもできる気遣いできないから、ロボはモテないカースト三軍野郎なんだよ。
…コイツが自慢気に思ってる彼女の高木とかいう奴も、どうせビ●チでしょ。うちの学校の佐々木みたいなヤ●マンビッチ。
ちょっと顔良いからって調子乗ってそうだし。


「いや、西片。サチをそっとしといてやるんだ」


「…えっ、ガイルさん。で、でも……」

「この状況だ。彼女だって言葉には纏められない思う事が沢山あるのだろう。…それに、レディーに『食え食え』と迫るのも…。フッ、関心しないな」

「あ、そうか…。すみません! 美馬先輩……!」


いや変態タンクトップお前は良識あんのかよッ。うわぁキモッ…!
明らかに変人な服装のクセして、いっちょ前に気遣いはできてやがるし。
ロボと違ってコイツは陽キャ男子っぽいからまだ抵抗感は薄いけどさぁ…、それでもやっぱ無理だわーー…こいつ…。
(というか、今更だけどもロボの奴…完全に高木のこと忘れてるでしょ。なに呑気に飯食べてるの?……)


「あっ、いい機会だから聞いちゃおうかな…? ガイルさん!」

「…ん。なんだ、西片」

「オレ、高木さんにからかれる度に…──っというか毎日腹筋や腕立て伏せを百回してるんですけどー……。それだと言うのに誰に聞いても「全然変わってなくね(笑)」とか言われて………」

「…ふむ」

「どうやったらガイルさんみたいにムキムキの漢になれるんですかっ? …ウエートとか? オレ、もう分かんないんですよ〜っ」

「……フッ。簡単な事さ。筋肉は長年の努力で引き出していくもの。すぐ結果が出る訳じゃないんだ、西片。ただ、一つアドバイスをするのなら、まずは三角筋の鍛え上げから試せ。肩の力だ」

「……は〜、なるほど……。肩、ですか!」

「あぁ。成長期真っ只中の西片は腹筋よりも肩を重点的にした方が良い。…ましてや、ウエートトレーニングなどする価値はない。やめておけ。俺もそんな物一回もしたことはないからな」

「えぇ!? でも、テレビとかスポーツ選手は良くウエートって…」

「西片。トラやライオンはウェイトをするか? ──持って生まれた体のバランスがある。する意味などないのだ」

「あぁ〜!! 確かに! 勉強になります!」




「………………はァ」


オタクってさぁ、なんだろう。
やたら筋肉質になることに憧れてるよねぇー。
女子からしたら、許容できる範囲は細マッチョまで。全身筋肉づめなボディビルダーとかキモいしドン引くのに。

夢壊すようなこと言うようでほ〜んとごめん〜。──マッチョとかモテないから。
ウエートだか何だか知らないけど、女子から見向きされたいなら違うトコに努力しろっつーーの。

408『そんなガキなら捨てちゃえば?』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/19(水) 21:53:31 ID:J31/VQ160
まったく。
何なのコイツら………。
コイツらの会話は聞けば聞くほど、無様で、バカ全開で、ツッコミどころ満載。
一人とか絶対嫌だから無理にでもコイツらにつるんでるけど、何もしてないのに物凄い疲労感湧いてきてしょうがない。


…本当に色々終わってる二人組。



……かと言う私も。

ほんと、終わってんなー。


…性格……………。




「あ、うっ!!!!」



うわ…ビックリした。
いきなりうめき声あげないでよブスロボ。


「…え。西片君どうしたの?」

「…あ、えっと。……いや、何でもないですけど。──…って!! 何でもはあるか…!」

「は?」

「えーと……。何ていうかその…………──」

「──ちょっと、『花を摘みに』失礼したいなぁっ〜て…。………なんちゃって。 と、ととにかく行ってきます────っ!!!!!!」



「…………………」



…きっしょ。
腹を抱えながら猛ダッシュでトイレに向かうマヌケ面。
……あんな奴野垂れ死んで、ホームレスみたいに朽ち果てればいいのに。


「……緊張性胃痛か。…哀れな運命だな。俺はまだしも、闘いなんて無縁なあんな子供が……、──殺し合いをする羽目になっているのだから。………主催者…、許せんッ………」


「……………………──」





「──…はぁあ………………」

409『そんなガキなら捨てちゃえば?』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/19(水) 21:53:45 ID:J31/VQ160
 ……さて。
願うまでもなく現れたこの『高木ロボがいない』時間だけども。

アイツが戻ってくるまでのタイムリミットはせいぜい五分くらい。
その間、何の興味も関心もない、絶対に趣味も合わないこのガイルと二人きりなんて、なんて居心地の悪いこと。
間を保たす為に、コイツと何を話せばいいのかってわけだけど、会話なんて何も思いつかないし。…大体私、男と話したことなんかそんな無いし。
逃げ出したいくらい窮屈な無言の間になることは、簡単に想像できた。


「………………」

「………………………ふぅ」


かといって、本当にここから逃げるのも絶対嫌。
こんな都合の良い筋肉バカを引き連れてるというのに、一人になって殺されてたまるかって話。

私は絶対に死にたくないし、言っちゃえば最後の一人に私がなりたい。



『絶対優勝したい』っていう強い願望なんかないけど、死ぬわけにはいかないから優勝したい。



「………………」

「………………………」



──となればさ、私がコイツとする会話は。


──そんなの、一つしかなかった。



「………。…──ところで、サチ──…、」



ぶりっ子ぶって、私はガイルの胸元へとギュッと抱きついた────。



「……──ッ!? サチ、どうしたっ!! いきなり…」

「ガイルさんっ…! お願い…、…私を助けて……………」

「なっ!? どうしたと聞いているだろう!! サチっ!!」

「…さっき…言ったよね………。出会った時に、ガイルさん……。『美馬、君を守る。絶対に助ける』とか………………。…だから、だからさ…………」

「…あぁ、確かに言った。俺は力無き者を見捨てたりはせん。君も、そして西か──…、」




「だったら西片君を殺してくれない?」







「…………………………………なにっ?」

410『そんなガキなら捨てちゃえば?』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/19(水) 21:54:01 ID:J31/VQ160
 …ハァ…。

…コイツの体、汗臭…………。
やっぱ筋肉野郎のゴツゴツした体って耐えられないわ、無理過ぎ………。

……でも今はまだ我慢っと。演技に集中ー。



「…サチ。君は血迷っているのか? …自分が何を言ったのか、……分かっているのか」

「…………そら貴方には分からないでしょ…。会って……数分もしてないんだからさ…………。────西片、アイツの本性がっ…」

「………詳しく言え」

「私たちと……初めて会った…数分前を思い出してよ……。あの時の私、…どんな顔だった? ねえ、ガイルさん………」

「…………」

「…凄い絶望して、すっごく泣きそうで嫌な顔してたでしょっ………。私…………。…西片のやつに……、服破かれて……、ヘンなことされそうになって…………。拒んだら急に豹変して、殺されそうになって……………」

「…………さ、サチ…」

「あの時、ガイルさんが通りかかってなければ…、私殺されてたのっ…!! だから、アイツが善人のフリして貴方に近寄り……、何もなかったように食事してるのが…………。私、怖くて、たまらなくて……──」



「──だから西片をやっつけてよ。ね? ガイルさん…………」

「………。………………サチ…──」



「──君を疑うつもりは無い。…だが信じられん。信じられぬのだっ………」

「…………」

「あの真っ直ぐな瞳をした、殺しのこの字も知らん童にっ。……外道に堕ちた真似ができるとは……。………サチ」



…………チッ。めんどくせーな。
これ以上私にイタい芝居させないでよ。

…あと、さっきから私のこと『サチ』呼びってさぁ。……フランク過ぎるにも程があるでしょコイツ。


「………信じてくれないの? 私のこと」

「俺は、疑心暗鬼が苦手だ。……君のことも信じたいが、西片も同じく信じたい。…………どうすればいいか頭が痛いっ…」

「……証拠ならあるのに。…西片が、ヤバイ奴だって証拠は……………」

「…なにっ?」

「…一時くらいにさ、なんかスゴい放送聞こえなかった? ほら、『みんな、あの参加者に気をつけろ〜』……って……」

「……あぁ、聞こえたさ。それが何──…、」


「『【にしかた】って男は殺し合いに乗ってるぞ──』。──とか、………………言ってたよね?」


「……っ。………………………──」


「──いや違う。…俺もおぼろ気だが、西片ではなく【にった】と言っていたな。……サチ、君の勘違いだ」


…確かにそりゃ違うけども……。
頭使えないバカの癖に一々反論してこないでよ。
あぁもうっ…ほんとウザいわ。

411『そんなガキなら捨てちゃえば?』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/19(水) 21:54:16 ID:J31/VQ160
「…いいえ、違う。絶対に西片って言ったから」

「……さ、サチ。何故君はそんなに西片を──…、」

「あの放送の時、ガイルさん何してた?」

「……何とは。…俺は、泣いてる参加者を守るため街を走り回っていたが…」

「ほら、だからじゃん………。黙って聞いてないから…聞き間違いするんだって」

「…………………」

「聞こえてなかったのなら、改めて私から言い直してあげる。……【西片は危険人物】だって。……私を…信じて……、ガイルさん」

「……サチ……」


だから名前呼びしてくんなっての。呼ばれるたびに鳥肌たつわ………。
……はぁ、まっどうでもいいや。一々…。

分厚い胸筋に顔をうずめて、ギュッと力いっぱいに抱き着く。
鼻を閉じながら、私はトドメとして『泣き真似』をアイツにぶつけこんだ。



「────お願いだから、私を信じて…っ。…私だけを守って…っ。………助けて、──ガイルさん……………………………」


「…………………! ……サチ……………………」




…ちょっと目線を下に落として、確認。

……なーんだ。
私に抱かれてコイツ勃●でもしたかと信じてみたけど、全然じゃん………。
まあしてたらしてたでサブイボ全開なのは確かだけどもさ………。

どうでもいっか、そんなの。


「……サチ、…疑ってすまない。ここは俺に任せてくれ……ッ」

「え? ガイルさん…。じゃ、じゃあ………」



「君のことは俺が守る。……絶対に、……絶対にっ、だ………! ──西片から……」

「………っ! ガイルさん…………!」



──勃とうが勃たまいが、コイツを完全に『堕とせた』のは変わりないんだから。

…私のド大嘘で。
ぶふッ…!

ほんと私って性格終わってるわぁ〜〜。
なんかガイルの奴、殺意の波動に目覚めたって顔してるし。うわ、うける〜。

412『そんなガキなら捨てちゃえば?』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/19(水) 21:54:36 ID:J31/VQ160
 ──ガチャッ


「あ、美馬先輩にガイルさん〜…! すみません!! ほんと急にお腹が痛くなっちゃって〜…。ヤバかったですよ」

「…あっ」「………………西片…」


そうこうしてるうちに、何も知らないロボが登場〜。
能天気にヘラヘラ笑っちゃって、…めちゃくちゃ滑稽なんだけど……!


「……………」



「…あれ? な、なんだこの空気の悪さ……。み、皆さんどうかしましたかー??」


「………」


「…。…西片……」

「…はい?」

「西片………。話したい事がある。…表に出ろ。良いな」

「…え?? …良いですけど…………。……??」



「………………」





「………………………フフッ!」




あっ、やば。
つい吹き出しちゃったけどガイルにもロボにも聞かれてないよね……? …うん、聞かれてないな。ラッキー。



ほぼ羽交い絞めみたいな形で変態タンクトップに連れまわされる西片。
その背中を眺めていたら、ちょっと前の過去が頭によぎる。


 ……思い返せば、私は中学生の時からダサい男子が大嫌いだった。


私の人生史上一番ダサい男はあの時のコンビニ店員だ。
生理用品を買いにコンビニ行った時。
女の店員なら配慮で茶色い紙袋に包んで渡してくれるんだけど、男店員はそんなことしない。
だって、そんな『配慮』知る由もないんだから。するわけがないし、それに一々私は気にはしない。
それが普通だから。

でも、あの冬、会計を担当した男店員は違った。
紙袋に入れた上に「ご一緒にレジ袋に入れてもよろしいですか?」とかわざわざ聞いてきたんだって。

413『そんなガキなら捨てちゃえば?』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/19(水) 21:54:48 ID:J31/VQ160
分かる? めちゃくちゃ気持ち悪くない??
イケメンとかならまだしも、そいつ…何ていうかその、チー●牛丼食ってそうなのっぺり顔だったし。
その「誰も知らない女性への配慮を、俺しちゃってんだぜ。カッコいいだろ?」って透けるアピールがさぁ。
…私、思わず軽蔑の視線を刺しちゃったわ、ほんと…。



……で、そんなわけだから、私はお前が大嫌い。

バイバイ、高木ロボ。
お前さぁ、その店員と同じくらいに、生きてる価値ないからさ。


あっ。間違っても私を恨まないでよね〜?
ロボを殺す張本人はそのタンクトップ筋肉バカなんだから。

ハッハハ〜〜〜…!
うっける〜。





…あ、やば。
言い忘れてた。
ガイルのアホに、ちゃんと『即死』で殺すよう釘刺しておかないと。

下手に戦闘長引いてさ、西片と話したりでもして、矛盾とかボロ出てきたらこっちがマズくなるんだからさ…………。

414『そんなガキなら捨てちゃえば?』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/19(水) 21:55:02 ID:J31/VQ160
【1日目/B5/コメ●珈琲店店内/AM.03:19】
【美馬サチ@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!】
【状態】健康
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【優勝狙い】
1:筋肉バカ(ガイル)に引っ付く。場合によっては切り捨てる。
2:西片バイバ〜イ(笑)
3:自分とカースト同程度の女子の参加者と行動したい。
4:で、そいつと誰かの悪口言いたい。

【西片@からかい上手の高木さん】
【状態】健康
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:ガイルさんについていく………。なんだ、何があったんだ…?
2:高木さんを探したい。
3:美馬先輩を守る。

【ガイル@HI SCORE GIRL】
【状態】健康
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【対主催】
1:西片……………っ。
2:襲われている参加者・力なき者を助ける。
3:サチを助ける。
4:ハルオ…生きろよ……っ!

415次回 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/19(水) 21:57:23 ID:J31/VQ160
──ボウリングやる時、ガター狙って投げる奴アいない。

──ストライク狙って投げなきゃ、始まらねえ。


【次回】
『ボウリング・フォー・コロシアイ』
【出演】
『三嶋瞳、利根川幸雄』

416 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/22(土) 20:42:58 ID:FhP9fNKw0
──次回、ボウリング・フォー・コロシアイと言ったな

──あれは嘘だ


『意味が分かると怖いダガシ』


[登場人物]  [[小泉さん]]、[[枝垂ほたる]]

417『意味が分かると怖いダガシ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/22(土) 20:43:28 ID:FhP9fNKw0
 あれは──、私が本当に体験した出来事だったのでしょうか。
それとも幻を見ただけだったのでしょうか──。
いずれにせよ、この目ではっきりと確認したことだけは事実。
夜更けの人淋しいはずれ町にて遭遇した、不思議かつ不気味な現象がそこにはあったのです。


ええ、『怪談』です。

418『意味が分かると怖いダガシ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/22(土) 20:43:44 ID:FhP9fNKw0



「うーん。…悩みますね。日高屋で良しとするか、五百メートル先の山岡家まで我慢するか。…悩ましい、悩ましい限りです」


 屋台『とんずラーメン』という隠れた普通店を完食後、私は数分間町中を歩き続けていました。
スマホのナビアプリに身を任せ、特に何も思考せずボーっと足を進めたところ、気がついたら路地裏に。
はぁ…お腹空いた……──と、胃袋の物恋しさに悶えるのでした。
このド深夜、そしてこの渋谷で私が目指すその目的地────それは言うまでもなくラーメン店。
趣味はラーメン、そして幸福はラーメン、人生こそがラーメン。──聖典は拉麺に在りき、との私はもはや啜ってなければ呼吸をしてないも同然なくらい。
だからこそ、最寄りにあったラーメン屋へ急がねば。そして、日高屋か山岡家のどちらにするか選ばねば…と、ただただ歩いていたのです。



……。


はて、どこからか謎のツッコミの嵐が聞こえた気がしましたが、…面倒なので一片に答えておきましょうか。

『えっまた食べるの?!』『屋台のラーメン食べたあとなのに?!』『てかまだ食べるの?!』『深夜に食べて大丈夫なの?!』『大食いなの?!』『大食漢?!』『どんだけ食べるの?!』


………。
────私からのアンサーは全部まとめて『はい。以上』のみ。
私はラーメン店を二、三軒──しかもスープを完飲してハシゴするのがほぼ日課なので、これが日常。これが普通なんです。
そして、これが私なので理解したいのならどうかご理解をお願いしたいところです。
…はい。では、ツッコミの皆様さようなら。



「……うーーん。日高屋か、山岡家か、……………困りました………」


 それにしてもこの二択、
実に困ったものでこの道中なんだか足取りが重くなってくるばかりです。
「ラーメンはあっさり派か、こってり派か」なんて論ずるつもりはありませんが、私は今人生の岐路ならぬ、ラーメンの岐路に立たされています。


 濃厚な豚骨スープと太めのストレート麺が特徴のこってりラーメン────『山岡家』。
当初こそは山岡家一択で、そこに向かってまっすぐ進むつもりでした。
ええ、なにしろ時間帯も時間帯で、深夜の今に開いているラーメン屋など必然的にチェーン店しかなく。
マップで調べたところ最寄りのラーメンチェーンは五百メートルも遠いここしかないので、距離の忍耐を覚悟しながら歩を始めたのですが…。

 万人受けするようなあっさりとした味付けの「こういうのでいいんだよ」系ラーメン────『日高屋』。
よくよくスマホに目を凝らすとちょっと角を曲がってすぐに、同じく二十四時間営業のチェーン店の名前が……。
五百メートル分も空腹に耐えなくても、すぐラーメンにありつけれるとはまさに現代のオアシス《Ramen》。ならば予定変更にここにしようと一瞬判断してしまいました。


 ………ただ、ここで思い出していただきたい──そして私が不意に思い出したのは先程の『ラーメンとんず』の味でして。
チャーシュー、メンマ、スープ、麺。──全てにおいて学食を思い出させる素朴な味の、あの一杯。
あれを食べた直後にまた連チャンであっさりを食べるのも「…うーん」という感じがありまして。
だったら日高屋にて中華そば(\420)ではなく、とんこつラーメン(\500)を頼もう…とも思いましたが、身体は山岡家のようなより脂っこい物を欲している気分…。


飢えに耐えてでも中太麺でパンチの効いたあの店を行こうか、
それとも妥協して近場で済ます──チャーハンをセットに鶏ガラの効いた一杯を啜ろうか………。

こんな小さなことで私はかつてないほど苦渋に悩まされていました。


「…あぁ、ひもじさが限界級…………。一体私はどちらにすれば……………」


…と、そんなこんなでこのとき目の前が見えていなかった私。
スマホナビに釘付けされながら歩いていたものですが、ナビアプリという物はどういう訳か普通ならあまり通りたがらないような道筋で常々案内してくるもの。
気がついた時、私は──………。





「……………あっ」





 まるで闇の中に街が生えたかのような────真っ暗な商店街の中に足を踏み込んでいたのでした。

419『意味が分かると怖いダガシ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/22(土) 20:44:02 ID:FhP9fNKw0
 …ええ、不気味な商店街です。
一見にしてどこにでもあるような普通のシャッター街、何も変わり映えない電柱に看板、アスファルト。…それなのに『何か』が違う。

目では分からない何か不穏なオーラ、言葉では上手く言い表せない異様感。
不自然なくらい静寂っぷりが目立ち、人の気配どころか人がいた形跡もない街。──それだというのにどこからか誰かの視線を感じる異様な空間。

空気が淀んで、生乾きのような臭いが鼻をついて。
風がぴゅーっ……と、夏だというのに鳥肌が立つほどの冷たさで。
私は何故だか胸騒ぎ…といいますか、直感的にここから逃げ去りたい感情に。



…いわば霊的な何かということでしょう。

私はそんな不気味の具現化ともいえる街の真ん中に一人立っていたのでした。



「……………………………」


骨まで染み渡ってくる寒気に、

闇に包みこまれたこの不安感。


普段、幽霊や怪談なんて全く信じていない私ですが、…そんな私でも「これ以上進んではいけない」と本能的に訴えてくる、……何かがありました。

スマホを暗転させ、ゆっくり静かに。
何事も無かったかのように、身体の向きをUターンし、ここから去るよう決意した私だったのですが。


後ろを振り返って、右脚を一歩進めたその時。



 ────ガシャン………



「……………えっ」




私のちょうど真横に建つ、古びた古民家から突然。


 ────ガシャンッガシャンッ、ガシャンッガシャンッ、ガシャンガシャンッガシャンッ、ガシャンガシャンッガシャンッ、ガシャンガシャンッガシャンッ、ガシャン



「……っ!!!」



 ガラス戸を激しく叩く音が響き渡ったのです。

──……古民家内に潜む、『何か』による…。



 ────ガシャンッガシャンッガシャンガシャンッガシャンッガシャンガシャンッガシャンッガシャンガシャンッガシャンッガシャン


「………っ、………………………!」


徐々に、徐々に、激しさを増していくガラス戸の音と、そして比例する私の心臓の爆音。
……ドクンッドクンッ、ドクン………。
心臓が、冷えていく血液を循環させ、頭の頂点から爪先まで巡る寒気が、私の動きを完全に止めます…。
その冷水を浴びたかのような悪寒ときたら、思わず息をするのを忘れさせるほど。

420『意味が分かると怖いダガシ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/22(土) 20:44:19 ID:FhP9fNKw0
ヘビに睨まれたカエルは、今際、こんなに冷え切った心地だったのでしょう。

私はガラス戸越しの『何か』に魅入られていたのでした……。



 ────ガシャンッガシャンッ、ガシャンッガシャンッ、


「…………………っ………」


 ────ガシャンッガシャンッ、ガシャンッガシャンッガシャンガシャンガシャン…………





 “お願い……………。………………”





「………えっ?」



 ────ガシャンッガシャンッ…………


 “……お願い…………………。…出し…て…………”



 …この怪異はまだ終わりを見せません。
延々と鳴り続ける打音の裏で、弱々しくも…確か、に。女性の『うめき声』が聞こえたのでした。
ガラス戸と共鳴するかのように、古民家の中から。………確実に……。



 “開…けて……………。ここを、開けて…。はや──…、”


 ────ガシャンッガシャンッ、ガシャンッガシャンッ、ガシャンガシャンッガシャンッ、ガシャンガシャンッガシャンッ、ガシャンガシャンッガシャンッ、ガシャン



「……っ。……………」



今にも消えかかりそうな、…明らかにこの世の者ではない人間の声。
家内に封じ込められている『何か』は、明らかに私に向けて言葉を発していたのです。
「開けて。」「出して。」────言われるがまま従ったらどんな恐怖と対面することになるか…。
到底想像も出来ませんでしたが、確実にまずい事態になるのは確かです。


そんな『何か』の唸りに、私が取ったアンサーは…………、────……一つ。

421『意味が分かると怖いダガシ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/22(土) 20:44:35 ID:FhP9fNKw0
「………………行き、…行きますか……」




 
それは、────言われた通り助けに『行く』事です。

 ……ええ、意外な行動でしょう。
正直、当時の自分も何故、古民家へと吸い込まれていったのか解せませんでした。
普通なら意のまま、飛び出すように逃げるものでしょうし、それが最適解です。
わざわざ覚悟を決めて歩み寄るなど、二郎系店で残す行為と同じくらい愚の極み。愚かな考えです。



……ただ。


 ────ガシャンッガシャンッ、ガシャンッガシャンッガシャンガシャンガシャン…………



私はもう既に、未知たる『何か』に標準を合わせられている現状。
…逃げた所で、追手と化した奴から無事でいられるのか──。
…そう想定したら、私が取った行動もあながちバカなミステイクとは言えないのではないでしょうか。



…それに。
──正直言って、『うめき声』まで追加されたら、…胡散臭さというか。
──陳腐で嘘臭さもありましたから。



 ────…ガシャンガシャンガシャンガシャン

 ────…バクンバクンバクンバクン


「………………」


ガシャンガシャン………と崩れぬ打音。そしてうめき声。
両者揃って震えるその音の下、私は用心しながら静かに歩み寄って。──近づき。



 ────ガシャンガシャンガシャン…………

 ────バクンバクンバクン……


「………………」


今にも倒壊しそうな、まるで昭和中期の遺物とも言える古民家の前まで、立った時。
多少震える両手を引き戸まで伸ばして、取っ手に指をかけた私は一呼吸。



「…………すぅ…………。……………んっ!!」



 ────ガシャンッッ

 ────バクンッッ


常日頃使う機会など無い勇気を振り絞って、思いっきり力を込めるのでした……………。

422『意味が分かると怖いダガシ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/22(土) 20:44:48 ID:FhP9fNKw0
ガラガラガラ…と、
一気に開かれる扉。


引き戸から解放されると同時に、私に襲いかかってくる、黴臭さと湿気。

そして、家内の異様な『熱風』。





最後に、待ってましたとばかりに、ガラス戸にもたれ掛かっていたのでしょう──『何か』が、うめき声と共に勢いよく。




「あぁぁっあ〜〜〜〜〜〜っ!!! 暑かったわぁあああ〜〜〜〜〜〜っっ!!!! ばたんQぅぅえ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜……」



「…え?」




「…げふぅ〜〜。ハァハァ……。誰かは存じ上げないけど……ハァハァ………、助かったわっ!! ありがとう!! ハァ…ハァ……、イッツ・ア・……パーフェクツ─────っ!!! アンサーよっ…!!!」



「…は?」



溶けかけのバターのように、ちゅるりんっと『彼女』は倒れ込んだのでした。


…勿論、生身の人間の。
彼女──、後に聞いた処の『枝垂ほたる』さんが。


「恐怖? なにそれおいしいのっ??!」ってくらい、幸せそうな表情かつ汗ビッショリな枝垂さん…。

…そして、古民家奥から充満してくる『豚骨』の匂いときたら……。
…ほんと……。





…何ですか…。これは。
すごいビビリ損だったじゃないですか…。

423『意味が分かると怖いダガシ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/22(土) 20:45:00 ID:FhP9fNKw0




────そうっ!! 今日のテーマはずばり……これよっ!!!!(By 枝垂ほたるっ!!)


 ●『ブタメン』●


…お湯を入れると『本物の』ラーメンに!!
…味の種類も豊富!!
…小腹がすいた子供達に絶大な人気の、ポピュラー駄菓子だ!!!

424『意味が分かると怖いダガシ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/22(土) 20:45:17 ID:FhP9fNKw0




 …ガラス戸の怪を前にして、本来の目的を完全に忘れていた私ですが、…思い返せばラーメンを求めて彷徨っていたのが始まりでした。
その起点を踏まえると、枝垂さんを助けたのも結果オーライ…というわけでしょう。


量は少なめながらも、こうしてブタメン《ラーメン》にありつけれたのですから………。



「…ずるずるずるずるずる」

「ッッ! プッハァ────────────ッ!!! 乾いた喉に瓶ラムネは〜〜っ……、最高にハイねっ!!!! 生き返るわぁ〜〜〜!!!」

「……。…ずるずるずるずる………」


 古民家…────いえ、正式には『駄菓子屋』外のベンチにて、私達は今つかの間の休息中。
夏の暑さを乗り越える、スタミナを付けるには最低の駄菓子……。そんなブタメンは、待ちに待ったラーメンだけに、それはそれは至高の味でした。
濃い目の味付けと、ミルキーな白濁スープが絡み合う温かなハーモニー…。
意外と低加水な麺は、そのワシワシした食感が結構楽しめ、満足度は非常に高かったです。

容器を傾け、最後のスープを一飲み。
…んっ、んっ。……ぷはっ!

ご馳走様でした。
古びた駄菓子屋の品ともあり、賞味期限に不安はありましたが、なんと新品で。しかもガスまで使えたので、驚き超満載です。

はー………! 美味しかった………。



「…でっ!! この真夏だというのに駄菓子屋に閉じこもって、ストーブ炊いて……。…汗だくになりながらブタメンを食べてたら、戸が壊れて出れなくなった────…ですか……。枝垂さん」

「フフッ! 説明繰り返しありがとう小泉ちゃん!!」


「………バカですか? …あっ、失礼。言い過ぎました」

「あらあら! よしてよ小泉ちゃん!! バカはバカでも究極の駄菓子バカとはこの私っ!!! ほら、よく言うじゃない? バカとマヌケは紙一重ってね!!!!」

「…そりゃ紙一重でしょう」


……そうそう。
驚きと言えばこの枝垂さんも、まさに奇天烈の域…。
信じられますか?
彼女がストーブを点けてブタメンすすった動機も、一人我慢大会とかそういうのじゃなくて、『ブタメンを美味しく食べる…ため……っ──』とかですよ。
あまり人の悪口を言う性分じゃないですが…、枝垂さんかなりどうかしてます。
全く何をやってるんでしょうか…。
……………はぁ。


ビー玉が瓶の中で転がる、清涼な音が隣から響く……。



「ブタメン………。やっぱりこの味は良い物よね〜小泉ちゃん!! 味もさることながら、七十円と比較的高価な駄菓子であるブタメンは、やっぱり特別感あるわよねっ」

「そうですか。私は駄菓子屋にはあまり…なので分かりませんけども」

「あら、そうなの? …勿体なぁ〜い……。じゃあ…仕方ないわ。小泉ちゃんにちょっとした昔話をしてあげるんだからっ!!! 以下、回想────!!!!! 遡るは、小学生時代の私…────!!!」

「いえ結構です。…あと何に託つけての『仕方ないわ』ですか………」


…って、言っても多分聞く耳持ちませんね…。

425『意味が分かると怖いダガシ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/22(土) 20:45:32 ID:FhP9fNKw0
 ………
 ……
 …
 
 ブタメンにも味の種類が豊富にあるわ……。(ナレーションは私よッ、ほたるッッ!!!!)

 百円玉を握りしめ、駄菓子屋へ行った私は、
 何個も買えないブタメンを前にして、別の味を試してみるなんてことはあまりにリスクが高かった………。

 「……ぅッ!!!」

 試したくてもついつい、安心の『とんこつ』を選んでしまいがち。…常にそうだったわ。

 今でこそ好きなように選んで食べられるけれど………。
 親しみ深いのは、やっぱりとんこつ味…。

 …
 ……
 ………



「…あっ、もう終わり?? 思いのほか回想短かったですね」

「フフッ…!! この感覚を共有できる人が日本中にいると思うと興奮するわねっ。ブタメンが作るとんこつの絆ってやつだわ!!」

「何を言ってるんですか?」

「いや、他愛もないただの雑談よっ小泉ちゃん!!! そんな私だけども、幼少期。一度だけ…、いや二度とんこつ以外を食べた記憶があるわ………」

「はあ」

「あれは、確か『しょうゆ』と………。え〜〜〜〜っと。あとは〜〜〜〜……思い出せないわぁ〜〜〜……──…、」


「…『タン塩』ですか?」

「えっ!!??」

「それか、『焼きそば』、『カレー』、『旨辛』、『シーフード』、『エビぱいたん』等等…。御当地限定の『味噌カレー牛乳味』や、二十周年記念の『スペシャルエディション味』なんかもありますね」

「………そ、そうっ!!! それよ、それ!!! 旨辛味よっ!!! こ、小泉ちゃん恐れ入ったわ……。凄すぎるじゃない〜〜っ!! こんなに沢山スラスラ言えて!!! 駄菓子興味ない、なんて下手なウソついちゃって、このっ!!」


…まぁ、というのも、小学生時代の私もブタメンは沢山啜りましたからね。
「駄菓子屋はあまり行ったことない」は嘘でないですが、…ブタメンに関しては網羅済みですから。
これくらいは言えて当然なんです。


「…そうね……。さしずめ……、これはもう小泉ちゃんならぬ、──『ブタ王』といったところかしら…?」

「いや違いますよ。てかしないでくださいよ?? …その呼び方。絶対断固拒否ですから……っ」


………うわ。
危ない危ない…。
危うく最悪な渾名を付けられるところでした。豚王って……M●THER3ですかッ。


「ふんふふん〜〜〜♪ これで、我が駄菓子軍団にブタメンマイスター──小泉ちゃんも加入〜〜〜♪♪ この調子で団員を増やせばバトロワも、終わらせれるわねっ!!!!」

「………。え、他にその、団員…いるんですか?」

「モチのロンッ!!!! 小泉ちゃんが記念すべき第一弾────────っ!!! おめでとう!!!!」


…………。
本当に、常に想定を超えてくる人というか…。
枝垂さんは掴みどころの全くない人でした。………全く。

426『意味が分かると怖いダガシ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/22(土) 20:45:55 ID:FhP9fNKw0
「…………ふう」


さて、こうして勝手に『駄菓子軍団』とやらに入れられた私ですが。
つまりは、暫定で枝垂さんと今後、この殺し合い下を共に行動することになった次第です。
枝垂さんはキャラが濃い上に、そもそも私はソロ行動をしたいスタンスなので、正直かなりの困惑と窮屈感はありますが……。

…別に気にすることはないでしょう。


「…さて!! こうしてはおれないわ小泉ちゃん!!! 行きましょう!!! 私たちと駄菓子を布教して、今こそ見せる時よっ!!!」

「……」


「駄菓子の────底力を!!! そしてブタメンの熱い情熱をっ!!!! 準備はいいわね!!! 小泉ちゃん!!!!!」


「……はい、はい」



枝垂さんが例えどう無茶に振り回してきても、何をしでかそうとも、──私は構わず、我を通す。
命尽きる最期の時まで、素晴らしい渋谷のラーメン店達を巡り……、知らない薫りに吸い込まれては、足を運ぶ。


ラーメンを求めるのが、私の『生き様』なのですから────。



空になったカップと箸をゴミ箱に投げ捨て、カランっ…────と。
ゴミ箱に着地した音が鳴ると共に、私は腰を上げるのでした……。













“お分かりいただけただろうか。”

427『意味が分かると怖いダガシ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/22(土) 20:46:08 ID:FhP9fNKw0
【1日目/F4/センター街/AM.4:00】
【駄菓子軍団】
【小泉さん@ラーメン大好き小泉さん】
【状態】健康
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:殺し合いとかどうでもいい。とにかくラーメンを食べる。

【枝垂ほたる@だがしかし】
【状態】健康
【装備】???
【道具】すっぱいガムx4
【思考】基本:【対主催】
1:駄菓子の力でバトロワを終わらせるわっ!!
2:というわけで駄菓子同盟第一弾は小泉ちゃん!! 一緒に行動よっ!!!

428次回 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/22(土) 20:50:38 ID:FhP9fNKw0
【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ⑥】

①最終回では9人死にます。
②第5回放送では9人死にます。
③そして、第1回放送では12人死にます。

残りの情報…それはまだ混沌の中。
それが………平成漫画ロワ…………!


──ボウリングやる時、ガター狙って投げるry


【次回】
『ボウリング・フォー・コロシアイ』
【出演】
『三嶋瞳、利根川幸雄』

429『ボウリング・フォー・コロシアイ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/25(火) 20:51:00 ID:Et9.Y5BI0
[登場人物]  [[利根川幸雄]]、[[三嶋瞳]]

430『ボウリング・フォー・コロシアイ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/25(火) 20:51:19 ID:Et9.Y5BI0
 西部劇に出てくる………──アレ…………。


風に吹かれて荒野をコロコロ転がる、ボール状の干草。
正式名称は『タンブルウィード(回転草』との事らしい。

タンブルウィードは通常、アメリカ西部の乾燥した地域にしかその姿を確認出来ぬ物だが。
どういう訳か、奴は渋谷区東部の東京湾。──西でもアメリカでもない、湿地帯にて登場し、誰に言われずとも浜辺を転がり始めた。


「………チッ! 出やせん……、誰も…、電話に………っ!! …確かに時間帯も時間帯……。山崎や権田らが応答できぬのも致し方はない…………っ──」

「──ただっ……………!! 左衛門…、堂下………。どうしたっ……?! お前らなら出れる筈だろう……………!! お前らは……、『参加者』なのだから………!!」


「………うぅー〜〜……。…ダメだ。利根川さん、こっちも繋がらないですよ…。新田さんにヒナちゃんにアンズちゃん…。社員の誰一人どころか110番さえ出ません」

「………チッ、使えんゴミ共がっ……………」

「これ…もしかして、電波妨害とかされてるんじゃないですかね? これじゃあ助けを呼ぼうにも何も役に立ちませんよ〜…」

「…クゥッ………。だとするなら、意気揚々と三本指を立てるな…………っ! スマホの電波アンテナの奴……………っ!!」


タンブルウィードは、風に動かされ海岸沿いを抜ける。
峠を転がり続け、カーブが見えても難なく進み、歩を止めない。
何処までも何処までも。どこかへ向かって回り続けた。


「…はぁ。本当にダメな人達……。特に私の社員なんか、四六時中何かある度に私に頼って来るのに……。…私がヤバい時は誰も助けてくれないわけ? 一人も……」

「……もう良いっ……。時間が経ったらまた掛け直すまでだ…………」

「その時間が経つ間に殺される可能性もあるじゃないですかぁ〜っ!! …もうっ、本当にピンチなのに〜……──」


「──…はァ。お互い、使えない部下を持つ身として大変ですよね〜〜……。利根川さん」

「……クッ、まだ子供の癖して………いっちょ前に同意を求めるな…………っ! …それにわしの部下達はお前のとは違って有能揃い………っ」

「…。………はぁ〜あ〜〜あ…」



「…さて。……もう良いだろう。お嬢、行くぞっ……………! そろそろ…………」

「…へ? 利根川さん、どちらに……?」


真夏の大冒険──。
旅するタンブルウィードは、遂には町中まで到達し転がった。
信号機が赤だろうが、青に光ろうが、ただの干草には交通法など気にも留めない。
街の灯に声援を送られながら、干草は自由に転がり巡った。


「………どちらに、か。………そんなもの、愚問中の愚問…………っ」

「え??」

「………お嬢。ボーリングは好きか…………?」

「へ、ボーリングですか? ……う〜ん…。そもそもやった事無いですねぇー………。私〜」

「んっ? やった事ない、だと……………っ? ただの一度たりともかっ…?!」

「はい。…あっ、大雑把なルールとかは普通に分かりますよ? 重い球投げて、ピン倒して〜って。でも本当経験はないですね…」

「……ほう………っ。…ならば、結構いい機会と言うわけだな………。お嬢…………」

「はあ。…。…………………──」



「────……『どこへ』っ!! 行こうとしてるんですかっ…? …利根川さんっ」


「────…言ったろう、お嬢………。『圧倒的愚問』、とな………!」

431『ボウリング・フォー・コロシアイ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/25(火) 20:51:33 ID:Et9.Y5BI0
転がること、早20km。
この広大な渋谷の大地を、タンブルウィードは自由に駆け回った。
誰の視線も気にせず、そして誰にも気にされず、長い距離を転がり続けた。
ただ、旅は必ず終着点。──終わりというのがあるもの。

丸くて柔らかい草ボールは、名の知れぬ現代アート家が作った『十本の立つ枝』へ。
──たまたま路上に立っていた枝の群れへ、勢いを増し転がると────。



「行くぞっ………! 『スポ●チャ』へ……………!! ボーリングをっ………………!」


「…え? いや、え??? は…?? …えっ、なんで!??」

「…クックク。…shut up──!! 理由は後で話す。とにかく黙ってついてこい……っ! お嬢めがっ……………!」



──バランッバラン…、と一本も残さず倒し、排水溝へと落ちていった。




「…………えー、…えぇ〜〜〜〜〜……???」



──────────────────────────────────────
     ★作品No.050☆

☆『ボウリング・フォー・コロシアイ』★
 ★(原題: Bowling for BattleRoyale)☆

       ★出演★
      ☆三嶋 瞳★
     ★利根川 幸雄☆
       ☆???★


       〜Wait.〜
〜 If you wait, the opportunity will surely come... someday.〜
──────────────────────────────────────





……
………

 …という訳で、殺すか殺されるかの極限状態にいるというのに、ボーリングを遊びに娯楽施設に来たこの私。

…………。
…何してんだろ。


私…。

432『ボウリング・フォー・コロシアイ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/25(火) 20:51:48 ID:Et9.Y5BI0





……
………

 拝啓。


──…とりあえず差宛はヒナちゃんへ。



 ヒナちゃん、この前仁志君とボーリング場で擬似デートみたいな事したって言ってたよね。覚えてるかなー。
今、私もラウン●ワンでボウリングさせられてるんだけども…。
ヒナちゃんが行った店も、室内はナイトモードで薄暗く、ワックスがけの床と電光掲示板のみが輝いて、そしてテーブルやら専用シューズ置き場がレトロに鎮座……。そんな感じの雰囲気なのかな。
とりあえず以下、具体的なボーリング場内の詳細〜…。

彼方先にて、十本の白いピンが舞い降り、直立不動で処刑の時間を待ち続ける…。
ガコンッ──と、ボール排出所から登場して、私の隣でゆっくり立ち止まる貸出ボール…。
そのボールの、穴の空いた三つの目とちょうど目が合った。貸出ボールは私の指を愛おしそうに見つめながら呟く。──「You、早く投げちゃいな」、と…。
電光掲示板に刻名される『H.MISHIMA』の名前。…その横にはズラーッと『▶◀』が並んでたけど、……ボウリングは詳しくないから詳しい意味は不明。

ラウン●ワンに足を踏み入れて数十分が経過。
ベンチに座る利根川さんの「早く投げろっ」というギスギスした視線を浴びる中。

私の第九球目となるボウリングが、始まりを告げた────……。





…。

……。

……いや……もう、さ……。




はぁ、ぁぁぁ…………………。



ぁぁ、ぁ……………。

………。





本当に私……。


何で………?!




こんなことやらせてるの…………………………………?




意味が…。

意味が分かんないよ………………………。




「…………ィッ。…絶対こんな事してる場合じゃないのに………」

「チッ!! どうしたお嬢………っ!! 早くしろっ………!」


「………………」

433『ボウリング・フォー・コロシアイ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/25(火) 20:52:05 ID:Et9.Y5BI0

私がボソッと吐いた正論は、EDM調のBGMで完全にかき消された…………。



「…………はァ……」


 私は、顧問が勝手に企画した寺合宿に、無理矢理連れてこられた気分だった。
…やり場のない煩わしさと、激しい倦怠感。
……本当に堪らない。

不貞腐れた目付きで視線を伸ばす先には、十本のピンがある。


────形も色も大きさも、何もかも揃っているそのピンは、利根川さんの部下達を彷彿とさせられた。



……
………

 ……回想。
 数分前の会話の事。
 店内に入るや否や、利根川さんは私に趣味について尋ねてきた。


 『…え?? うーん……。やっぱ【仕事】…ですかね』

 『あぁ………? 趣味が、仕事………? くっ、なんて小娘だっ……』

 『…………えー…。何ですか…?! その反応〜……っ』


 私の答えを聞いて、利根川さんは一瞬虚を突かれたみたいな顔をしたけど、直ぐ様、実につまらなそうな表情に変わっていく。
 …そりゃ、自分でも「あ、変な事言っちゃったかも」とは思ったけども、…この利根川って叔父様。何とも分かりやすく表情に出る傾向がある気がする。
 ただ、後々解ったことだけども、利根川さんがそういうリアクションを取ったのも理由があって。
 なにしろ、彼の部下は全員揃って、趣味を聞かれたら『ボウリング』と答えるそうだった。


 『………だから、わしはあの時思わずツッコんだ……っ!! 揃いも揃ってお前ら……、高校生かッ…、と…………!』

 『……はあ』

 『その事が効いとるから………、お嬢……! お前の趣味を聞いて不意を突かれたのだ…………。余計な………』


 利根川さんの勤める帝愛の規定上、社員は全員黒スーツにサングラスの清掃が義務付けられていて、
 彼らの仕事風景は映画のマト●ックスまんまみたいらしいんだけども。
 私はこの時、二つツッコミをしたい気分だった。


 “全員見た目同じで趣味も統一って……────クローンなのっ!??”

 と、

 “ていうかラウ●ドワンで何するわけっ?! ──そこがまずツッコミポイントなんだけどっ!!!”


 ……の、二つ。
 
 もっとも、後者である「ていうかラウ●ドワンで何するわけっ?!」は口に出してツッコんだため、すぐに答えが判明する事となる。
 ………全く腑に落ちない、その『答え』が。

………
……


434『ボウリング・フォー・コロシアイ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/25(火) 20:52:18 ID:Et9.Y5BI0
「…はぁ…………………。…よいしょっと……」


 傷一つない新品のボールを持ち上げて、一呼吸。
…噂には聞いていたけど正直こんなに重たい物だとは思っていなかった。
ただでさえ右腕が重たくしんどいというのに、今はもう見るだけで嗚咽が催すくらいうんざりだった。

バーテンダー時代の腱鞘炎を思い出させるその重量…。


────私の心中はボーリング球よりも重苦しく、ドンヨリしていた。



……
………


 『…いや…………』

 『ん? どうしたお嬢』


 『…どうしたもこーしたも…無いでしょうっ────────?! 利根川さんっ────!!!』

 『…………あ〜?』


 『今どんな緊急事態に置かれてるのか分かってますかっ!!? 殺し合い中ですよっ?!! 呑気にボーリングしてる暇じゃないでしょうが!!!──』

 『──こうして玉転がししてる間にも……、罪のない人達が何の理由もなく殺されていくんですって!!!! それが分からないんですかっ!!??──』

 『──それに、託されたじゃないですか…!! 黒崎さんから…、…プランAを!!!! だから早くここから出てゲームを終わらせましょうよっ!!!! ねえ!!!』


 『…………………』


 また回想…。
 ハァ、ハァ…と、正論の三連単一気飛ばしに息が上がった。…ねえ、私が言ったこと正論だよね??

 ボウリング球を片手に、直立不動で固まってしまう利根川さん…。
 私はてっきりこのラウン●ワンで。──いや、ラウ●ドワンに在る『何か』が殺し合い崩壊の鍵になり、それを求めて利根川さんは動いたのかと思っていた。
 ボウリングとバトル・ロワイアル。
 接点なんて見つからないその二つだけども、利根川さんなら、きっと何か考えがあるのでは……? って。そう信じて付いてきたわけだけど。
 ……結局のところ、彼の真意はただ遊びたいだけだった。

 ……全く以って理解ができない……っ。
 何なの………?
 もしかして、ゲーム脱出とかハナから諦めていて、「どうせ死ぬんだし最後は自分のやりたいことして終わりたい」とか考えてるわけ………?
 イライライライラ、イライライライライライラ……っ。
 利根川さんの内たる胸中を考察する度に、沸き立つムカムカが抑えきれなかった。
 

 そんな私の正論に、言われた利根川さんもすっかりと怯んで──……、


 『…………ククク………』

 『…な、何がおかしいんで──…、』

 『お嬢、追いすぎだ…………! 『理』をっ…………………!!』


 『……え?』


 ──しまう事なんて全くなく。
 蛇は、私にその鋭い牙を向けてきた……。

435『ボウリング・フォー・コロシアイ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/25(火) 20:52:32 ID:Et9.Y5BI0
 『ククク…なるほどなるほど。確かにかなっている……。理には……! たかが小娘とはいえ、その主張にはわしも出んよ……………。ぐうの音もなっ………………!!──』


 『──なら、聞こうじゃないか………! お前はボーリング場を出て以降、何をするつもりなんだ? …具体的にな………………!!』

 『……えっ?』

 『何を、どう行動して、誰に会うつもりで……っ、そう動こうとする…………? 是非聞きたいものだなっ………! お前の…【策】とやらを…………!!』



 『……………え。…え、えっと……………──』


 『──………。……そ、そんなの〜……。簡単に思いつくものでもないですけども………』


 『クククッ………。案の定………っ!!』

 『い、いやっ!!! 違いま──…、』

 『否定しなくて良いっ……!! 簡単に打破できる代物ではないのだっ………!!! …いいか、舐めるなよ………? このバトル・ロワイアルを……………!』


 『……お、お言葉を返すようですがっ! だからって遊んでるのも酷く冒涜的行為でしょう!! …何人も命の危機に晒されてる……この現状下で………。そう思いませんか!!』

 『…悪いが、死なせておけ。そんな奴ら……………』

 『はぁっ!!?』

 『逆に聞こう………。お前は七十人近く……、この全員無傷で救えると…本当に思うのか? あれだけの大人数……、広いエリアで……、好き勝手に動く参加者共全員を…………っ!! あ〜〜……?』

 『…………それは…。そうですけども………』


 パンパンッ──って、参加者名簿シートを叩きながら利根川さんは続けた。


 『無論、インポッシブル………! そんな絵空事…………。合法ロリ社長だか知らんが……、キサマもなまじ経営者なのだから……。リアリストに考えるべきだろうっ………………』

 『……………』

 『今こうして死にゆく奴らに関しては………、もう諦めろ。…運命だ……、もはやなっ………』

 『…………………………』


 『……。…さて、とは言いつつも、わしは決してゲーム崩壊策を諦めてるつもりではない。……とどのつまり、頭にある計画上、第一行動としてやっているのが………これっ……! ──ボーリングなのだ………!!』


 『…は…?』


 『現状……、今はどうする事もできない………、対主催策を掲げるわしらは泥濘にハマったも同然……………!! 圧倒的無力だっ……──』

 『──だから……!! 何か、事が起こるその時まで【待機】っ…………! 待命、待構、我慢……っ!──』

 『──ただし…っ、時が来るまで何もせずボーっとするのもそれでよろしくない…………。だからこその時間潰し………《Bowling Time》なんだっ………………!──』



 『──クククッ、クク………。一番の疑問を解消できてスッキリしたか? ………お嬢…!』


 『…い、いや。そんなの…………。理屈とかそういうの抜きで……………。納得なんて、できないですよ……』

 『フンッ、お嬢。キサマはどうせ心中…《頭の固くて通じない老人》だとか…、舌を出して蔑視しとるのだろう……』

 『えっ。…そ、そ、ち、違いますけど…!!』

 『確かに……。年寄りは新しいものに馴染めず……、頭ごなしにモノを言う傾向がある…………っ。そう思われても仕方ないだろう……──』

436『ボウリング・フォー・コロシアイ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/25(火) 20:52:53 ID:Et9.Y5BI0
 『──だがっ……、その頭ごなしは長年の人生経験から積み重ねて出来た産物なのだっ……!! わしは…分かっている……! もう暫く…、あと数十分後に【機】が来るとなっ………!! 根拠はない…、だが確実にっ……!──』



 『────だから、待つのだ……! 今はまだなっ………!』

 『……………』


 …私は、何も言い返せなかった。
 大手企業にその歴三十年の利根川さん…。彼と、たかがベンチャー企業の私で、遥か彼方すぎる差を見せつけられたようですごく悔しかった。

 利根川さんを説得どころか、逆に丸め込まれてボーリングをする羽目となったのだから。
 私は自分が嫌で、憎たらしくて、辛くて……。


 『よし、早速だ……っ。まずはボールの構え方から教えるぞ………? Lecture────っ。いいな、お嬢!!』


 『……はい、お願いします…』



 それで、気が重くてペラッペラになりそうだった…………。


………
……



「…すぅ……………。…………………はァー…」


 一呼吸置いて、吸った二酸化炭素をため息として出す…。


親指を十時の方向に向け、親指にあまり力をかけない。
ボールから親指が抜けてから、残りの二本の指で少しボールを回すように意識する。
腕の振り抜いた先の軌道上に、スパットが来るように、腕を真っ直ぐ振り、投じる。
────全部、この短時間の間で利根川さんから叩き込まれた『ボーリングの基本』だ。


………
……



 『スピードよりもコントロールだ…! 中腰になって下から投げるんだ…! 言うなれば、アンダースロー………っ!! 里中の様な姿勢で……、まずはやってみろ………』

 『は、はい………………』


 …あっ、あとは『片手で下げているときには、手首を曲げないようにする』とか指導してきたっけ。

 とにかく私は仕方なさそうに、言われた通りボールを投げてみせた。
 私のボーリングヴァージンが破られた、その第一球目…。
 なんか知らないけど軌道が大きく変化しながらボールはピン集団へと吸い込まれていく。

 …記念すべき……ボーリングデビューは如何なる成績となったか。
 …それはというと、


 『がぁっ………!!?』


 ────ガランッ、ガラガラガラン……

 

 ……え〜〜っと。何だっけ。
 …『ストライク』だっけ?

437『ボウリング・フォー・コロシアイ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/25(火) 20:53:08 ID:Et9.Y5BI0
 ピン全倒しで私のボウリング戦績は幕を上げた……。

 唖然とする利根川さんの、顎の開きっぷり…。
 表情から察するに何か凄いことやっちゃった感じなんだけども、…私は嬉しさなんて全く沸かなかった。

 …だって、それどころじゃないんだし………。


 『ほう……。デビューとしては華々しい結果じゃないか………』

 『…お褒めに預かり光栄です。はぁ……』

 『………だがっ!! ククク、勘違いするなよお嬢………! 所詮は【ビギナーズラック】なのだからな…………?』

 『………はい』


 欠伸の出るような戯言を吐いた後、出番を迎えた利根川は、お手本が如くボールを投げてみせた。
 彼が倒したピンの数は…というと……。──………全然覚えてないや。
 …ほんの数十分前の出来事の筈が、遠い記憶の様に私は感じた…。


 ────ガラガラン………


 『ほれ、出番だっ………! 言っておくが、お嬢はさっき若干引けていたぞ…。腰がな……! そこを意識して……。望むと良い』

 『……………』


 はぁーーあ…………。

 教えたがりおじさんのアドバイスを背に、間髪も入れず私の第二球がスタート。
 …まるで、永遠のようなボーリング時間だった。


 ていうか、アドバイスおじさんって何で一々事細かに忠告してくるんだろ…。


 ジャンボ尾崎のホールインワンかよ………。


 ────ガランッ、ガラガラガラン……

………
……



 気怠げ限界な私の思いを乗せて転がるボール。
油濡れの道を転がる先には、何度倒されてもまた定位置に立ち上がるピンの群れがある。…無論。

…もしかして。
『このピン達のように不屈な精神で耐え抜き、立ち上がる精神が、バトロワを生きるうえで必要なんだ』…とか何とか、メッセージ性含みで利根川さんはボーリングに誘ったのかな。
…いや、…それはないかな。だとしたら陳腐で薄っぺらすぎるし、本当にバカげてるよ。


────バックで鳴り続けてるテンポの高いBGMが、背後で歯軋りをしてる利根川さんによくマッチしている…。

………
……


 …第四球目───────ストライク『▶◀』。

 …第五球目───────ストライク『▶◀』。

 …第六球目───────ストライク『▶◀』。


 そして、第七球目も……。

 ────ガランッ、ガラガラガラン……

 ────ストライクッ、『▶◀』……


 『………』

438『ボウリング・フォー・コロシアイ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/25(火) 20:53:26 ID:Et9.Y5BI0
 どうしようもないボーリングの才能があったお陰で、完全にストライクマシンと化した私だけども、…驚嘆や歓喜なんて未だ皆無。
 というか、寧ろ絶望に近い居心地の悪さだけが増していった……。


 『チッ…………』

 『………。……』


 既に利根川さんとはダブルスコアで点差が開いている。
 連続ストライクも四回目になってきた頃合い、徐々に徐々にと口数が減ってきたアドバイスおじさんだけども……。煩わしさが失せた反面、険悪なムードがどんどん立ち込めてくる……。

 もう、私だって……。 
 私だって、好きでストライク取り続けてるわけじゃないのに………。
 ものすごい力感なく投げたり、ガーターに方向向けたりと忖度の限りを尽くしてるつもりなのに、…結果は必ずストライク……。
 地獄だった。


 …いや、ていうか…………。


 そもそもボーリングやり始めたの利根川さんだよね??
 目上である利根川さんがやるっていうから付き合ってるだけなのに……。
 なんで私…こんな憎悪を浴びなきゃいけないの……??? おかしくないっ?!

 自分が「ボーリングをやろう」とか言い出さなきゃ、イライラすることも無かったのに…。


 『チッ、血も涙もない……。機械のような……小娘っ………。楽しいか……? それで…』

 『…………………………』


 なんで私は怒られているわけなの………?




………
……



 ものすごく嫌な空気感で満ちたるボーリング場内。
もはや普通に殺し合いしてる方がマシなくらいに陰鬱とした雰囲気だった。
なんか一人勝手にギスギスイライラしている利根川さんだけど、……私だってモヤモヤな思いで一杯だしっ………。
最初は利根川さんのヤな視線にビビってた私も、…今はもうムカムカと不貞腐れ状態…。
その為、八つ当たり気味で投げたこのボールは、凄まじいスピン量と加速をしながら転がっていった。


 ────ガランッッッ、ガラガシャガラガランッッ


「……はァ」


派手にぶち撒けて、空中を舞うピン達。


────前述の通り、私はピンを帝愛の社員たちに見立てている。
────最前線に立つ一本のピンは、角張った顔の白髪オヤジに見立ててっ。


……
………


 『あぁ…………。また……ストライク………』

 『…………………。…羽生は、根暗。野茂は………うすのろ…』

 『え?』


 『ならば…、いけ好かないボーリング野郎はァ〜〜〜? あぁ〜〜〜〜〜〜〜?』


 『……………』


………
……


439『ボウリング・フォー・コロシアイ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/25(火) 20:53:37 ID:Et9.Y5BI0
────ねえ、ボーリングって何が楽しいスポーツなの?




「チッ………! 残すところ後1フレーム……。これでラストか……」

「…………そーですね」

「…おい、お嬢……。…あまり言いたくないのだがな………、普通するだろっ…! 忖度とかっ………!! あぁ〜? キサマはビジネスでもそうなのか……?! 自分さえ目立てば後はどうでもいいと……………。そうなのかっ………!?」

「…………………」

「チッ! まぁいい…………っ。これで最後の投球だ…………。お互いに……、思い残しのないボーリングを──…、」


「……ちょっとトイレ行ってきます」

「あぁ? ……なんだと…………?」

「…いやトイレくらいいいでしょ。すぐ戻るんで。んじゃ」

「………………クッ」


利根川さんの顔を一切見ずして、私は足早にトイレへと向かった。
…まぁ、別にトイレじゃなくても。一人になれる場所なら何処だって良いんだけども……。



────私が今一番声に出して叫びたい言葉は、ad●のデビュー曲のタイトルだった…。

440『ボウリング・フォー・コロシアイ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/25(火) 20:54:48 ID:Et9.Y5BI0




『♪…っっはぁ〜〜────────────────────────────────────ッッ!!!!!!』



『♪うっぜぇ────ッ!! うっぜぇ────ッ!! うっぜぇ──────わアッ!!』

『♪貴様が思うより健全でぇ────すッ!!!!』

『♪一切伐採凡人な〜〜──────、お前ぇじゃ分からないかもねぇ──────!!!!』



「……………………ィッッ」


個室トイレでっ………。
Bluetoothを大音量にしてっ…………。
ストレス発散するためにっ…………。

私は縮こまってお気に入りの音楽を聞いた……………。


『♪あぁよく似合う───────っ!!!』


…本気でアイツ、なんなの…………っ。
うっせんだよ……。
何が「機が来るのを待つ」だよ。
そんなの絶対来るわけ無いし、ふざけんなよっ。
マジで……──Seriously...!!
just die already. You've been rambling on and on...!!!!!


『♪カモ不可もないメロディズム〜〜───────っ!!!!』


Don't act so high and mighty...!!
You're just a useless old man who’s lived a little longer…!!!
You really piss me off.!!!!!


『♪うっぜぇ────ッ!! うっぜぇ────ッ!! うっぜぇ──────わアッ!!』

『♪脳みその出来がッ!!! 、違うからッ!!!!』


You're seriously driving me insane...!
How much more do you want to piss me off?

Ahh...
fuck,fuck,fuck,fuck...
fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,
fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,
fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck
fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck...


『♪問題はナーシ───────────っ!!!!!!!』



I feel like putting a pig's ass in that dirty and shutting it upッッッ!!!!!

────fuckッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!

441『ボウリング・フォー・コロシアイ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/25(火) 20:55:09 ID:Et9.Y5BI0


………
……


「……………」

「お嬢、遅かったじゃないか………。早くやるぞ………っ」


「………機なんか来ねぇよ」

「あぁっ…?!」


ピカピカの床、暗い室内、ボールにピン、備え付けの自動販売機まで……。
もはや何もかもが鬱陶しい。

何が「早くやるぞ」だよ、ジジイ…。
…もうっ、私はうんざりだ────っ。


「飽きました。疲れたし、ていうか全く面白くないです。はぁ………。──もうさっさと殺し合いを止める準備しましょうよっ!!!! いい加減にしてください!!!!!」

「…………」

「そら私も策なんかないですけど、ただ待つくらいなら動いた方がいいでしょっ!!? ましてやこんなつまらないスポーツやるくらいならっ!!!!! ねえっ!!!! 利根川さん!!!!!」

「……」

「ねえっ!!!!!!!!!」



「…クククッ。…楽しかったか? ボーリング………」

「はぁっ!!!!??」


楽しくなんかないしっ!!!!
そっちから楽しい雰囲気出させなかったでしょ!!!!!!


「いい加減にしてくださいよっ!!!! ほんとにっ!!!」

「…あぁ。勿論、いい加減にするさ。…これくらいになっ………!」

「え?? は、はぁあぁぁっ!!???」


うわ、急にあっさり引き下がってきたし……。
引き下がったら引き下がったで逆にその態度がムカつくんですけどっ…………!!


「お嬢……。今までは、いわばテストだ……っ。わしからのテストにキサマは無事合格したのだからっ………! もうこれで終わり……! そういうわけだな」

「て、テスト……………? なんのっ??! ボーリングのテストですかっ………??」

「………クク。いや違う……っ!! …いいか? これは──…、」

「いや良くないですからっ!!!! 『いいか?』って聞かれてももう聞きませんよ!!! ほんとにっ………」


ほんとにっ、この『とどのつまりジジイ』は…………!
──いや、元はといえばコイツと組む羽目になったのは、コイツの同僚の黒崎さんのせいだしっ…。

さすが悪評誇り高い帝愛の連中だっ…………。
帝愛のボンクラ連中……、ブラック企業の奴らは揃いも揃って………………っ。
もう、もう……爆発寸前だっ……。…もうっ……。


もうっ!!!!!



「私の言う事だけを黙って聞いて────…、」


『三嶋大先生ェッ───────────────────!!!!』



「──うわっ!!?」 「──………なっ!!?」

442『ボウリング・フォー・コロシアイ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/25(火) 20:55:46 ID:Et9.Y5BI0
 ……爆発直前の私の声は、突如して現れた馬鹿でかい雄叫びで掻き消された。
若い成人男性って感じの、その大声。
店内放送のアナウンスか何かと、一瞬私は見回したけど………。……多分違う。
恐らく、殺し合いに参加させられてる誰かの……。拡声器を使った雄叫びなのだと推察できた。

…って、今私の名前…思いっきり叫んでなかった!!!??


『三嶋先生ぇ!!!!! 貴方様のことは───、私堂下浩次と、殺人ニワトリが絶対に救いますッ──────!!!! ノックオッ─────────ンッ!!!!』

「は??! やっぱ聞き間違いじゃなかったし…。誰????!!!」 「…ど、堂下…………!?」


『それと新田さん…、いや新田義史ッ────!!!! この殺人鬼野郎が!!! 覚悟しろやゴラァッ────!!!!』

「えっ!!!??」 「……新田??」


今度は比較的若い、別人の大声が響いた。
…いや、何これっ!??? 何話してるの!!??
新田さんが…。さ、殺人鬼って………。めちゃくちゃ誤解じゃんっ!!!!
こんだけバカでかい声量だから、間違いなく渋谷全体に広がってるんだろうけど……。
それだと新田さんものすごく大ピンチじゃんかっ!!!! なにこの放送!!???
いや黙ってよ!!!! ほんとに!!!!!!


『そうだッ────!!!! 新田ァッ────!!!! ニワトリから聞いたぞっ…!! 金髪にオールバックでヤクザみたいな風貌のお前ッ────!!!! お前には絶対負けない、負けないからなぁッ────!!!!』

「……あ、あわわ…あっ……」 「な、何を馬鹿なことを……………? 堂下………」


しかも新田さんのメチャクチャ詳細な容姿まで喋りだしたし……!??
何考えてるわけ?!! 拡声器の主は!???
今すぐにでも止めないとマズすぎるっ…!! 新田さんが危ないよ!!!!?



『『うおっ…うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!』』



『『三嶋瞳大先生、バンザァァァァァァァァァァァイイイイイイイッ!!!!!!! バンザァァァァァァァァァァァイ!!!!!!!』』





『───────プツンッ』




「……」 「…がっ…………」





………なんなの。
これ………………。



────止めなきゃ、メチャクチャまずい。


まずい放送だった────………。




誰だか知らない奴に…、私がいかに素晴らしい人物かを崇拝され、新田さんが意味不明に窮地と化した……。そんな放送…………。


…わけが、分からなすぎる……………。

開いた口が、塞がらない…………。

わなわなと震えちゃう………。

耳が熱くなる……ぅ…………。顔の真っ赤さが、…止まらない……………ぃぃぃ…………。


「…ククク……! クククッ!! とうとう来たな…………!!」

「………え?」

443『ボウリング・フォー・コロシアイ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/25(火) 20:56:04 ID:Et9.Y5BI0
「『期』が熟した………! 重い腰を上げるその時がっ……………! バカのお陰でっ…!」


…利根川さんは、見ないでほしいくらい赤くなってる私の顔に向き始めた。


「…先に詫びを入れておくか……。三嶋お嬢、ボウリングでの、わしの無礼……。すまなかったな」

「…………………へ??」

「あの態度はな。実はわざと……っ、言わば『耐久テスト』だ…………!」

「……ふぇ????」

「このバトル・ロワイヤル………。わしの見立てでは相当な理不尽…、憤慨…、絶望に…疑心暗鬼………っ!! それらが激流の如し、襲い掛かってくるものだと推察している………──」


「──とどのつまり、キサマがどれだけ耐久できるか……。わざとわしは理不尽かつイラつかせる素振りで接したのだ………!! 結果、お嬢は合格ライン……! 第九フレームまで耐えてみせた…………!! …すまないな、勝手に測るような真似をして」



え、
え…………………?



「…え、演技?」

「クククッ、圧倒的愚問…!! わしがあんな小物じみた、器の小さいクズなんかだと………! まさか思うまいな? お嬢………!」

「うぇっ!!?? え、え、も、勿論………」


「…そして、今の信じられない放送に関してだが…………。…あれはわしの部下の声だ。間違いないっ………」


え?
はっ????


「え、いやどうしてくれるんですか!!?? ──って、利根川さんに言うのもお門違いですけども…………。あ、あれのせいで……、私と…新田さんが…………」

「あぁ。間違いないな……。キサマらが大変なことになってるのは………………──」


「──だから、行くぞっ………! 声の音源……、恐らく北東に進んで1km………、渋谷公園周辺方面にっ……………!!」

「えっ!!?」


え、嘘!?
具体的な発声場所とか今ので分かっちゃったの!???



…と、利根川さん。

…なんなのこの人は……。

良い意味で……。

444『ボウリング・フォー・コロシアイ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/25(火) 20:56:17 ID:Et9.Y5BI0
「安心しろっ…! 無論、わしはバカの発言なんかは信じていないっ………!! 新田という奴も完全に風評被害…………!! …信じるまでもないっ」

「…と、利根川さん………」


「だがっ…………!! …クククッ…、『使える』っ………! 拡声器の主は、バカが故に使える……………!! 実に優秀な駒だっ……!──」



利根川さん…………。
ほんとこの人は…────、





「────ゲーム崩壊の、『プランA』にっ…………!!」

「…利根川さんっ!!」


「だから──Chase the light……!!! 長々待ったこの鬱憤を晴らしに………。行くぞっ…………!!」

「は、はい!!」



───…さすがです!! 利根川さん……!

445『ボウリング・フォー・コロシアイ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/25(火) 20:56:30 ID:Et9.Y5BI0
【1日目/F5/ラウンド●ン/AM.03:50】
【三嶋瞳@ヒナまつり】
【状態】健康
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【対主催】
1:仲間を集ってゲームを終わらせる。
2:利根川さんについていく。
3:新田さんがピンチすぎる……。

【利根川幸雄@中間管理録トネガワ】
【状態】健康
【装備】回転式拳銃
【道具】タバコ
【思考】基本:【対主催】
1:拡声器の主(堂下)に会うため渋谷公園まで急ぐ。
2:自身指揮の元、『プランA』でゲームを終わらせる。
3:お嬢(三嶋)をお守り。
4:会長が少し気がかり。
5:黒崎っ…。

446 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/25(火) 21:01:14 ID:Et9.Y5BI0
【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ】

①やっっっっっっと、50話行きました。
②とどのつまり漫画ロワ1/4分、新漫画ロワ1/3分といったところです
③……もしかして、これって結構テンポ悪い感じ??

【次回】
『脱出の可能性』、『言わないけどね。』、『TOKYO 卍 REVENGERS』のどれか

447 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/27(木) 19:57:14 ID:K/piMhMo0
──きこりの泉から出てきたのは。

──男と、悪魔と、悪魔。

【次回】
『言わないけどね。』

【お知らせ】
イラスト風名簿の特定のキャラを描き直します。

448『Darling,Darling,心の扉を』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/04(火) 20:05:11 ID:tYEe6xyE0
[登場人物]  [[小日向ひょう太]]、[[高木さん]]、[[メムメム]]、[[兵藤和尊]]

449『Darling,Darling,心の扉を』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/04(火) 20:05:43 ID:tYEe6xyE0
「わあー、すごい…。この場所…」

「……あ、うん。そだね〜………」


 Girl and “Girl”。 高木さんが驚嘆の声をあげるのも無理はない。
二人が自転車から降りた先には、狂騒とオシャレな渋谷のイメージとは程遠い──大自然の湖畔があった。
周囲は木々が環境良く立ち並び、その中心にて黒曜石のように深く、それでいて透きとおる水面が切り開かれている。
その湖の清純さときたら、服を脱ぎ散らかして飛び込み、泳ぎ疲れたらその水を躊躇なく飲もうかというくらい、美しかった。
東京都の中心地として大開発が発展する渋谷に、まさかこんな穏やかな森林湿地帯があろうとは。
知る人ぞ知る秘境地を前に、二人の女子はただ湖の前で直立不動。清らかな景色を受け続けた。

二人の『女子』は。


「まさか渋谷に湖畔があるなんて思ってなかったよ」

「…オレ………わ、私も〜。なんなんだろね、ここ」

「…ハハっ。私、なんだか懐かしい気分になるかも」

「え?? …なんで?」

「前にさ、西片と釣りに行ったんだけども。その場所もこんな感じで大自然の中ポツンと湖! …ちょっとそれを思い出した感じでさ」

「…にしかた?? っていうと、高木……ちゃんの友達?」


「うん」。その次に、「あっ」と。
高木さんは思い出したかのように、スマホから短髪の少年の画像を見せてきた。


「あ、そうだ。小日向ちゃん。もしかしてだけどさ、この男子とすれ違ったりしなかった? 西片って言うんだけど、…ゲームに参加されててさ」

「え? あっ、どれどれ……。高木…ちゃん。悪いけどスマホ貸してくれる? …み、見えづらくてさ〜……」

「うん。いいよー」


滑らかな指から差し出される、西片という少年の画像。
全く見覚えなんかない男子の顔を見て、小日向は何を思っただろうか。

────否。何も感じていない。
────それは、この広大な自然も同じ。今のひょう太にとっては、何の関心も眼中さえない。


「………………」


先程からやたら高木さんの太腿──魅惑の領域部分ばかり視線を落としている彼女。
──いや、“彼”。小日向ひょう太は、湖よりも西片よりも、隣に立つ高木さんの事しか頭には無かった。
これは恋心とか、高木さんを見ているとドキドキする…だとかピュアな思いでは断じてない。

完全なるゲスでイヤらしい目付きだった。


「…………に、西片くんねぇ〜ー…」



(………。……ヤバいっ! ど、どうなっちまったんだ、オレ………! 全く集中できない……っ──)


(──高木さんの脚に……、XXXなコトやXXXに至ることしか考えられなくなってるよ…………っ!!!!)


ひょう太のおさげ髪と柔らかそうな胸が、ワナワナ震えた。
もはや高木さんにさえ伝わるほど、挙動不審なひょう太だったが、彼がやたら欲情を放出寸前となっているのにも理由がある。
数十分前、魔茸『チェンジリング』の作用で淫魔♀と化してしまった彼だが、淫魔という生き物は淫靡な誘惑で魂を狩り、それで生業を為す。
【性】を全面に出し、そして【性】が前提。【性】が性(さが)の悪魔な為、Hが脳を埋め尽くす割合は常人の何倍以上だ。
その為、元より脚フェチだったひょう太が、容姿整う高木さんにスケベ心が働かない筈もなく。

──彼は心を悪魔に完全掌握されていた。

450『Darling,Darling,心の扉を』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/04(火) 20:06:00 ID:tYEe6xyE0
(クソ、クソっ………! 高木さんの指……、高木さんの膝、ふともも…、高木さんの靴下…ぁ…………)

(お、女の子ってなんで全身あらゆる箇所がエロいんだよぉっ…………。一番エロい筈の…おま………陰部が比較的グロいってくらいに………。何もかもが刺激的すぎるぅ………)

(高木さんにXXXしたいぃっ……! XXXして、無理矢理にでもXXXして、XXXを見せつけたいっー、舐めたいぃぃ…………!!! 魂を奪いたいぃぃいい…………)


(──嗚呼……。頭の中はそんなことで一杯でっ…………!!! 高木さん以外目に入らないよっ、オレーー……………!!)


そんなわんやで、吐き気が込み上げるくらいの興奮をし続ける淫魔、ひょう太。
震える小柄な身体と、火照りあがる頭の中。スマホをただ見るだけという、単純な行動さえままならなくなった彼だが、──それ故──。


────ツルン、と。


「あ」

「あっ!!!!」


高木さんから借りたスマホが滑り落ち、湖へとダイブ。
──流石にヤバいと思ったのであろう、ここで初めて意識が高木さん以外へと向いたひょう太は、慌てて手を伸ばしていき、


「あっ! こ、小日向ちゃん!!」


────大きな水飛沫。
そのままスマホごと湖へと転び落ちていった。


割と水深があるのか、着水から暫くたってもゴボゴボと顔をあげない小日向。
幸いにも、高木さんのスマホはギリ耐水性の為そちらの心配は無用なのだが、彼女は中腰になって心配そうに湖を見つめ続ける。
こんな物凄いくだらない事で、バトルロワイアルパートナーが溺死………。
…そんなこと、高木さんは考えたくもなかった。


「──ぶはっ!!!! …ぜぇ、ぜえ………!!!」

「わっ、ビックリしたぁ…」


無論、ひょう太の方だってそんな末路まっぴら御免である。
全身ぐしょ濡れの彼は、湖に落ちてちょうど一分後、やっと顔を上げだした。
息苦しそうに掲げるは高木さんのスマホ。恐らく、それを探しに暫く潜っていたのだろうと。窶れ切ったひょう太の表情が伺える。


「はぁ、はぁ………。ご、ごめん高木ちゃん………。落としちゃって………」


「…………………。──」



「──え?」



「………? 『え?』とは……? 高木さん………」


軽いハプニングとは言え、何とか事なきを得た、助かった。──と、この時のひょう太は思っていたのだったが。


────『木こりの泉』。
もはや説明不要のこの童話は、今回のケース同様、何か物を泉に落としたら女神様が登場するというストーリー。


「……………え、」

「? …ど、どうしたの高木ちゃん? あっ、スマホなら大丈夫〜…だよ? ほら電源つくし……。…ま、とにかくごめ──…、」

「……誰?」


「へっ?」

451『Darling,Darling,心の扉を』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/04(火) 20:06:16 ID:tYEe6xyE0
────スマホを泉に落としてしまった高木さんの前に現れたのは、女神ではなく。
────むしろ逆。



「…………誰なの。……」


「えっ」



────見知らぬ男。

────『小日向ひょう太(♂)』が、水面から現れてきた。


…………………
………………
……………
ヤパパ〜
ヤパパ〜
インシャンテン〜〜♪
…………
………
……




「…ふーん。つまり小日向……くんは冷水をかけられたら男になって………」

「…………はい……」


 靴、靴下の一式を脱いで、ひんやりとした水辺に生脚をちゃぷちゃぷ。
高木さんは『あったか〜い』おしるこ缶を小日向に手渡す。
プルタブを取ったひょう太はそいつをクイッと飲むと、──────PON!!


「温かい水がかかったら、……女子になるわけなんだね」

「………そゆことらしいです………」


「………。…まんまだね」

「うん、まんま1/2だよ………。いや何なのこれぇ────────っ!!?? 全く原理が分かんねーよォ──────!!!」


 厳密には本家とは真逆なのであるが。
冷たい湖でひょう太はバシャッ、と洗顔。
顔を拭いた後、水面に映る【男の顔】に若干彼は憂いていた。


「ところでさー小日向…くん。じゃあなんでさっきまでずっと女子なフリしてたの? ナヨナヨした口調でさ」

「えっ!!? …そ、そりゃ………変なキノコ踏んでこうなっちゃいました〜だなんて言っても信じてもらえないだろうし…………」

「それはそうだけども。正体がバレた今振り返ったら、恥ずかしいことやっちゃったな…とか思うでしょ?」

「ちょ!!! や、やめてよ──────っ!!! 高木さん──────っ!!! それ言う必要あるっ??!!」

「…あはは〜〜」


笑い声と突っ込み声が湿地帯にて飽和する。
『性転換♂♀』とは、かなり非科学的かつ信じられない現象であるが高木さんはそれなりに順応している様子。
──というか、西片代替品であるひょう太をイジるのに夢中で特に気にしていないのだろう。
けらけら笑う彼女だが、対してひょうた1/2は焦りの気持ちしか無かった。
淫欲抑えきれない悪魔から、そこそこな下心で留まってる人間に戻れただけでも良きであろうが、彼は頭を抱え続ける。

452『Darling,Darling,心の扉を』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/04(火) 20:06:29 ID:tYEe6xyE0
魔茸『チェンジリング』の効果から戻れる方法は知れたが。
────なら、尚更これからの日常どうしていけば良いのか………、──と。

胸元のスカスカ具合に、制服の着心地の悪さを感じながら、ひょう太はボソボソ呟き始めた。


「……いやもう〜……。本気でこれからどうすりゃいいんだよ……」

「ははは〜〜……。──え? どうすりゃいい、って??」


「オレ…、これ…汗かく度に女の姿になるのかよ〜………」

「あー確かに。残念だね、体育やれなくて」

「ていうか温度の境界線は何なんだ……………。何度までが女で何度までが男判定なんだよ…………。ぬるい水かぶったらどうなるんだ…………」

「とりあえず温泉の時は女湯入れるって喜べばいいんじゃない?」

「……冬になったらマジでどうすりゃいんだよぉ…………。あの季節に冷たい食べ物縛りとか…涙無しには過ごせないって……………」

「年中冷やし中華だね」


「…オレ結構マジな感じで悩んでるのにからかってこないでよ───っ!! 高木さん!!!」

「えー。私だって真剣に対策法考えてるんだよ。そんな言われ様は心外かなー…。…あははっ」

「……〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」


バシャバシャと水面を蹴る高木さんの生脚。
それにあのバひょう太が見向きもしない現状なのだから、彼にとっては相当深刻な悩みの様子だ。
自由自在、自分の思ったタイミングで好きなように性転換できるのならばここまで頭を下げなかったのだろうが。
これもまた神のいたずらなのか、悪魔の罠なのか。


「はぁーー…………………………」

「…小日向ちゃ、…くん。ほら、元気だしてさ。ここの湖冷たくて気持ちいいよ」

「……………うん…」

高木さんと交わされた『温水使用禁止例』を前に、ひょう太は人生最大級の生きづらさを味わうまでだった。



そんな折。

座る二人の間をちょうど通り過ぎていった『物』がある。



「……えっ?!」

「わっ」


チャポン、

チャポンッ、チャポンッ、チャポンッ、チャポンッ、チャポンッ、チャポンッ………と。
水切り石の要領で、対岸から飛んできた物は、なんと光り輝くダイヤ。
高木さん、ひょう太の二人はほぼ同タイミングで息を呑み、そして互いの顔を見合わせた。


「……」

「………」


草むらで毅然月明かりを反射するそのダイヤは【LAZARE DIAMOND】。
時価にして十億円も越すブランド物の頂点である。
色(Color)・カラット(Carat)・透明度(Clarity)の『3C』を満たしたその輝きは、ダイヤに無縁なひょう太たちでさえ魅了してしまう程だったが、────そんな物の価値なんて今はどうだっていい。

453『Darling,Darling,心の扉を』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/04(火) 20:06:42 ID:tYEe6xyE0
「……た、高木さん…………」

「………うん」


緑豊かな湖地帯で自然発生する訳が無い物が──、
誰かに投げられでもしない限り絶対する筈のない挙動で──、
二人の間を狙ったかのように飛んできた────。
──この現象。


「………っ」

「……………」


二人がまん丸な目を合わせたのも一瞬のこと。
『渋谷での殺し合い』という現状下もあり、緊迫した面持ちで対岸に視線を移した。

半径五メートルほどの湖を挟み向こう岸にて。
月明かりに照らされる二つの影を確認。
出来ることならもう誰とも出くわしたくなかった……──とこの時ひょう太は絶望していたのだが。


「…────あっ!!!」


そこにいた二つの内、一つのプカプカ浮かぶ参加者の姿が確認できた時。

心の何処かで掬っていた『心配』と、
そして絶望と緊張感が、ひょう太から溶け消えていった。


言うまでもないが、彼の心に訪れた感情は、────『安堵』である。



「クズと……クズが…互いに陥れ合い…出し抜く……!! ククク……、生命の取り合い……バトル・ロワイヤル………!! どうじゃ……っ!! そのゲームの始球式に相応しい………、ワシのダイヤ石水切りをっ……………!!」

「さ、さすがっす!!! 兵藤さま〜!!! あたし素直に歓迎っす! マジリスペクトっすよ!! 素晴らしい!! 素晴らしい!!!」

「ククク……。のう、──メムメムよっ………!!」

「はいっ!!!! さすがは全参加者の頂点に君臨する兵藤さま!!! あたし、一生あなた様に付いていきま──……、」




「────…あっ」


「メ、メムメムッ!!!!?」

454『Darling,Darling,心の扉を』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/04(火) 20:06:52 ID:tYEe6xyE0


 『再会』───────


 With you,

 I can escape this town.

 Take me away right now.


 my sweet sweet darling……

455『Darling,Darling,心の扉を』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/04(火) 20:07:06 ID:tYEe6xyE0



……
………

「へぇーー…………。存在感無いからってパクリで個性出してきた感じっすかバヒョ」

「いやオレだって好きで女になってるわけじゃないしぃっ─────!!?? そんな物言いするなぁあ─────!!!!!」

「まあまあメムちゃん。そういう訳だから小日向くんの前で温水はNGね」

「うしゃーす。了解っす!」


「ヒソヒソ…(それにしてもバヒョ)」

「…ヒソヒソ(いい加減名前覚えろよ二十七歳!!! …で、なに…?)」

「ヒソヒソ…(趣向変わったんすか? こんなあまりおっぱいでかくない子を連れ回して……)」

「ッ!?? ヒソヒソ…(だ、黙れ!!! エロ目的で高木さんと行動してないわっ!!!)」

「ヒソヒソ……(まぁ巨乳見たらひきつけ起こしちゃうあたしからしたらGood jobなチョイスですがね)」

「………ヒソ(お前それほぼ死に設定だろ!!)」


「……二人して何の話してるの? こうも堂々と人前でヒソヒソ話」

「あっ!!! い、いや別に何でもないよ高木さん〜! メムメムのやつ、なんか腹減ったみたいでさ……。はははー………」

「いや減ってるのは胸の話っすよ〜〜バヒョ──…、──ゴボッ!!!!」



「………はは〜……。なんでもないなんでもない〜……」

「…ふーーん」


「もがふがもがーっ!!!」



 Girl,Boy, Girl and Oldmen.

メムメムの減らず口を慌てて抑えるバひょう太と、
口を塞がれても尚モガモガうるさい悪魔──メムメムと、
自転車を押して歩く高木さん。そして、──おじいちゃん。

軽い自己紹介と状況説明を終えた四人は湖地帯を出て、町中にて歩を進め続けた。
時刻もそろそろ朝焼けが顔を覗き始める頃合い。
疲れからか、やや眠気が襲いかかるものの、それでも高木さん達は目的地に向かって歩きを停めない。

 ──自己紹介時、ひょう太が口にした『再会』という言葉について。
 ──和気あいあいと接するメムメムと彼に、高木さんも『会いたい』という思いが一層強まった。

 ──あの春、ハンカチを拾ってくれた。
 ──隣の席の男子に、早く再会したい、と。


「………………」


本心は、西片のいる何処かを『目的地』にしたかった。
ただ、今はその気持ちもグッと奥底に沈め、指定された場所へと歩いていく。


悪魔と、元悪魔と、小悪魔と、────『圧倒的悪魔』……………っ。

456『Darling,Darling,心の扉を』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/04(火) 20:07:19 ID:tYEe6xyE0
『圧倒的悪魔』の指示の元、面々が向かう先は────、


「……ちっ!! くだらぬ………。やれらんまだの……、やれ西片だの……、やれパクリだの悪魔だのダーリンダーリンだのっ…………!! つまらぬ会話をしおって、小童共が………っ!!!」


「…………」 「……」 「……ひっ! じいさ…兵藤さまいきなり喋りだした………!!」


「どれもこれも下らん内容………っ!! さっさと展望台まで目指すぞっ……………!! ゴミがっ…!!!」


「……は、はい……。兵藤さん……」



────最寄りのスイートホテル。
殺し合いの様子をのんびり眺められる、屋上が目的地だ。




「…………」

「…おい、メムメム………。なんだよ…この爺さん………。いつ出会ったんだよ………」

「…あ、あたしに文句は言わないでくださいよ!? 兵藤のヤローは魂集めに最適な道具なんすから」

「…魂集め…ってなに? メムちゃん」

「………その道具(兵藤さん)にお前さっきめちゃくちゃ低姿勢でペコペコしてたなっ!!」

「…。…うっう〜〜〜〜…。あたしにも事情があるんすよ!! こんなジジイにも媚売らなきゃいけない事情が!!!」

「…どうせろくでもない事情だろ!!」

「そんなメムちゃんのこと責めないでよ小日向くん。………ね、メムちゃん。私まだ聞いてないからさ、何があったか教えて欲しいかな」


「…………。…はぁー……。仕方ないっすね…………。これは遡ること数十分前なんですけどもー……」




 (^ ๑°< °๑^)  ...。。。。ooOOOOOOO(   )

  ぽわんぽわん、ぽわんぽわんぽわん………

 ……………
 …………
 ………
 ……
 …



◆遡ルハ、一時間前◆


457『Darling,Darling,心の扉を』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/04(火) 20:07:32 ID:tYEe6xyE0
【1日目/F6/東●ホテル周辺/AM.03:53】
【高木さん@からかい上手の高木さん】
【状態】健康
【装備】自転車@高木さん
【道具】限定じゃんけんカード@トネガワ
【思考】基本:【静観】
1:↑えっ? メムちゃんの頭からぽわんぽわんって何か出てきたけど…。これなに?
2:小日向くん、メムちゃん、兵藤さんと行動。
3:最寄りの東●ホテルまで目指す。
4:西片が心配。

【小日向ひょう太@悪魔のメムメムちゃん】
【状態】健康、人間(←→サキュバス)
【装備】ドッキリ用電流棒@トネガワ
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:↑メムメムの奴、頭から回想出せるんだよ高木さん。ぽわんぽわんって煙みたいに。
2:高木さん、メムメム、兵藤のお爺さんと行動する。
3:なんでオレはこんなことに………。

※ひょう太は水をかけられると男、温かい水なら女(淫魔)になります

【メムメム@悪魔のメムメムちゃん】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】???
【思考】基本:【奉仕型マーダー→魂集め】
1:アホそうな参加者をマーダーに誘導して、魂を集める。
2:てかバヒョの奴生きてたのか……。
3:兵頭さまにご奉仕。

【兵藤和尊@中間管理録トネガワ】
【状態】健康
【装備】杖
【道具】???、懐にはウォンだのドルだのユーロだの山ほど
【思考】基本:【観戦】
1:展望台の頂上から愚民共の潰し合いを眺める。

458『Darling,Darling,心の扉を』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/04(火) 20:07:50 ID:tYEe6xyE0
【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ】
①実は没にした『ステマ棚ロワイヤル(仮)』というのがありました。当ロワの原型です。
②参加者はたしか90人。色々あって(書き溜めてたスマホが水死した)、15話書いた時点でリスタートすることに。
③以下が、そのステマロワに出ていた作品たちです。


7/7【女子高生の無駄づかい】→とみー繋がりでヤマイと伊井野タッグにするつもりでした。
 〇バカ(田中望)/〇ヲタ(菊池茜)/〇ロボ(鷺宮しおり)/〇ロリ(百井咲久)/〇ヤマイ(山本美波)/〇ワセダ(佐渡正敬)

6/6【聲の形】→ステマロワではゴッリゴリにゆずる依怙贔屓してました。この作品なーんでロワ人気ないんスかね…?植野と川井は簡単にギスギス出せるし真柴は名マーダーいけるのに…
 〇西宮硝子/〇植野直花/〇川井みき/〇永束友宏/〇真柴智/〇西宮結絃

5/5【1日外出録ハンチョウ】→平成漫画ロワでも継続予定でしたが、今もバリバリ連載中で話題にもよく上がるため、『平成感』があまりないと判断し除外。
 〇大槻太郎/〇沼川拓也/〇石和薫/〇宮本一/〇大刻屋のオムレツ大将

4/4【異世界居酒屋「のぶ」】→参加者数を70人きっかりにしたかったので除外。
 〇タイショー/〇千家しのぶ/〇ハンス/〇ゲーアノート

3/3【あそびあそばせ】→オリヴィア精神崩壊回書いて以降収拾つかなくなったため除外。
 〇本田華子/〇オリヴィア/〇野村香純

3/3【うずまき(伊藤潤二)】→超好きな漫画です。なんj夜の漫画部でアホほど話題にされました。今からでも出したいくらい好き。でも軌道修正だるい。
 〇五島桐絵/〇斎藤秀一/〇山口満

3/3【おとりよせ王子 飯田好実】→飯田が内輪弁慶過ぎて動かしづらく泣く泣く除外。
 〇飯田好実/〇主任/〇盛田

2/2【お酒は夫婦になってから】→酒を絡めた文章表現するのがめんどくさくなってきたため。千里は10行で死んで旦那がサイコキラーに。
 〇水沢千里/〇水沢壮良

2/2【食の軍師】→タマリマセブン定期
 〇軍師/〇本郷播

1/1【酒のほそ道】→70人きっかりにしたいので除外。クズで自分勝手で人を簡単に切り捨てるキャラとして動かしたかったです(只野くん喉仏へし折り回は本来宗達がkill役でした)
 〇岩間宗達

1/1【テコンダー朴】→買うのが面倒になってきたのでやめました。ハルオ登場回で襲撃者は本来ならパクの予定。
 〇朴星日

1/1【僕と野原ひろし】→ひろしを狙うサイコキラーとして出す予定が「漫画ちゃうやん」との脳内ダメ出しが。
 〇僕

1/1【ワカコ酒】→動かし方が全く思いつきませんでした
 〇村崎ワカコ

1/1【手品先輩】→動かし方が全く思いつきませんでした
 〇先輩


ちなみに平成漫画ロワ参戦作品でもつばめと石上(かぐや様)、もこっちと加藤さん(わたモテ)、園田(善悪の屑)、家庭教師(ハイスコアガール)等をリストラしました。
これらを除外して代わりに出したのが【闇金ウシジマくん】【ミスミソウ】【空が灰色だから】【古見さんは、コミュ症です。】【ダンジョン飯】【目玉焼きの黄身いつ潰す?】【悪魔のメムメムちゃん】。
果たしてこの選択が正解だったかは今はまだ闇の中…。


【次回】
『Perfect Girl(古見さん親衛隊の活動内容報告書)』、『クマとメガネとロリとヤンキーとリボンと吸血少女(札)』、『悪魔とメムメムちゃん』のどれか

459 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/08(土) 00:41:21 ID:TY79Nue20
【お知らせ】
イラスト風名簿修正にパワーを持っていかれてるので多分来週火曜日予定通り投下できません。
誠勝手ながらご理解おなしゃす。

【ステマ】
今更ながら参加者紹介MADを作りました。再生してくれたら少なくとも俺は喜びます。
ジジイキャベツ様リスペクトの動画なのでこの場を借りて感謝を申し上げます。ありゃしゃす!
『【参加者紹介MAD】平成漫画バトル・ロワイヤル』
ttps://www.nicovideo.jp/watch/sm44731686

460『ゲーム生還の糸口♂♀』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/11(火) 20:50:00 ID:xEF573ek0
[登場人物]  [[チルチャック・ティムズ]]、[[本場切絵]]、[[折口夏菜]]、[[璃瑚奈]]

461『ゲーム生還の糸口♂♀』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/11(火) 20:50:14 ID:xEF573ek0
マンションの屋上でリコナがギャータラ騒ぎ立てて………、

それが原因でキリエとカナの二人に出くわして…………、

んで、屋上から適当な部屋へと下り、今の俺に至る………………。


 …まあ、聞け。
家族、チーム、冒険パーティ、職場仲間………、なんだっていい。
世の中、『団体』にいる以上必ず何かしらの『役割』というものが全員に与えられる。
例えば俺の普段のパーティだと、センシは調理兼戦闘担当、マルシルは魔法・治癒全般担当、ライオスは戦闘。
──そして俺はトラップ等解除担当と。
それぞれの得意分野から振り当てられたアイデンティティ──役割が必ずあった。
足手まとい、何もしない役立たずはいちゃあいけない。つか、そいつにも何かしら役割を与えるのが団体に属するということ。
全員が各々の役目を理解し、ピンチのときは行動して皆を助けるからこそ、団体【パーティ】はより固く強硬になっていくわけだ。


………。


……然るにだ…、



 『本場切絵』ッ!!!──────役割→ただのガキンチョA!!!!

「じゃ、じゃあ夏菜師匠なにか飲み物持ってきますね〜〜!!」

「はーーい」



 『折口夏菜』ッ!!!──────役割→ただのガキンチョB!!!!

「………。ねえ璃瑚奈おねいちゃん〜。切絵おねいちゃんが描いたこの絵本、読みきかせてよ!」

「…あーー??」



 そして『和田璃瑚奈』…ッ!!!!──────役割→ただのガキC!!!(コイツが断トツに役立たず!!!)

「は? やだよ。んな面倒臭いことするかよー……。大体、お前もう小学生だろーが。一人で字くらい読めんだろ。読み聞かせとか幼稚園で卒業モンだぜ普通〜」

「なにそれ!? ねえお願いだからさあ」

「あーあーうるせーなぁ…。だったらその絵本が読んでられないくらい血塗れにグロテスクで、聞いてられないくらいレイプ描写満載で、暗いくらいダークな胸糞露悪趣味本でも最後まで聞けよな? 聞きたくなくても聞く耳は立てて聞いて聴いて効きまくれよなっ?!」

「…? れいぷ……? …そんなタッチの絵本じゃないじゃん。てゆうか、どんな本であっても璃瑚奈おねいちゃん読み聞かせる気ないでしょ!」

「おっ理解力いいな。こりゃ神童だぜ。…というわけで私はやる気が出ない。じゃ、」

「…〜〜〜〜っ」



で、俺─────役割→罠解除担当……。



…俺が言いたいこと。
もう、分かるよな?
……悪いが声を大にして言わせてもらうぜ。



「って何だこのお荷物だらけのパーティッ──────?!!!! どいつもこいつも…俺含めて戦闘で全く役に立たないひ弱な役立たずばかり───────────!!!!!!」

「わっ!!! び、びっくりした〜…!!」 「なんだよチルチャックうるせーぞ!!」


「こんなので……──」


「──こんな役立たず大集合パーティでバトル・ロワイヤルが生き残れるかぁあああああああ嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼AAAAAAAA!!!!!!!!!!!!」



嗚呼あぁ……。

ah〜ӒӔ〜〜〜ぁぁぁぁ…………あぁ…………………。


ぁぁぁ………………。

462『ゲーム生還の糸口♂♀』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/11(火) 20:50:32 ID:xEF573ek0
「…………………ハァ、ハァ…………」



「あっ、チルチャックくん絶叫もう終わり?」

「……へッ。ガキは元気だな。その元気ハツラツぶりじゃあオロナミンC要らずで良いもんだぜ、風の子チルチャック!!」

「だーから俺はガキじゃねーつうの!!! ハーフフット!!! 何回言えやあ分かるんだよ!」

「…………またでた」 「ハーフフット…(笑)」


「……ちっ!!」



 はぁ……………。
はぁーああーぁぁぁぁぁあっ、ぁぁぁああ……………………。
んだよこれ……。マジなんなの、これ…………。

俺は神が大嫌いだ…。故に無神論者だよ……。
神ってヤツはいつまで俺をボロ雑巾のように扱って、臭い牛乳を浴びせ続けるんだ…。
いつもいつも俺は不安しか無い運命ばかりだよ…………。

………言っとくがっ!! 本当にっ俺は子供じゃないからなっ……!
当たり前だが、この絶望最弱チルドレンの中じゃ俺が一番年上!! 一番オヤジなんだよっ!!



……
………

 ──え〜? でも切絵おねいちゃん達みんな同じような身長だから…みんな小学生にしか見えないよー!!

 ──ち、違いますよ師匠〜〜!! 私は十六!! 高校生です!!!

 ──えっマジ? じゃあ私とタメかよ切絵………。…んじゃ、お前は?


 ────あ? 俺? …こ、今年で二十九………。


 ──………。
 ──……。


 ──は、あはは〜〜……。う、うん! チルチャック君は大人びいてて、かっカッコイイですねー……!!

 ──はいはいチルチャックの面白いギャグ(笑)が聞けたことだし出ようぜー。

………
……



 …………っ! ………。
と、ともかくっ………。
俺ァこいつらと違って成人な訳だが、それ故にこの軍団のお守り役──リーダーとして……。
率先して最前線に立たなきゃならない。

──バトるなんて専門外なこの俺がだよっ…!!

……クソぉ……………。
常日頃のライオスが実質リーダー係で、俺は戦闘を陰から見守るあの美しい構図が………。
今じゃあ涙ぐむほど恋しいよ……。


ほんとに………。クソがっ……………。


「…ハァ………。叫んだら喉乾いちまった…………。…行くか……」

「え? 台所に? 今切絵おねいちゃんがジュースもってくるってよ」

「んなガキの飲み物俺には合わねーよ……。酒だ、酒。どうせあんだろ………」


「…………ふふっ!」「ぷっ!!」


「チルチャックくんはおさけの味知っててオトナだねえ〜〜〜〜!!」

「苦かったら砂糖とミルクたっぷり入れてもいいからな〜〜〜〜〜!!!」

「うっせぇストレートだわいっ!!!!」


あーもうっ………!!
本当に…『クソだっ!!!』──だわ!!! (特にリコナの奴の減らず口!!)

463『ゲーム生還の糸口♂♀』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/11(火) 20:50:46 ID:xEF573ek0
成り行きで組むことになった雑魚パーティーとはいえ…………。


この中で唯一いつでも頼りになれるのは……。

お前だけだよ…………。


俺の愛しい酒ちゃんよぉー……………………。

464『ゲーム生還の糸口♂♀』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/11(火) 20:51:01 ID:xEF573ek0



んぐっ、

ぐびぐび…………。


「……ぷはー……。おっ! 中々イケるじゃねえか、この『やまざき』って酒。…支給品のエールときたらありゃ不味いったらありゃしない。酒つったらやっぱこれよ、これ」


──ガチャッ
 
「………あっ。…え、ええ、え?? ち、ちちチル……くんっ………?」

「お。……なんだよその顔……、キリエ」

「そ、そそそれ………。お酒…ですよっ………?! ま、まずいですって………」

「あー平気平気。全然不味くないし、俺もこの程度の度数じゃ酔わねえからよ。コイツの旨さが分かるようになって一端の大人ってもんだ」

「そ、そそ……そういう事じゃなくてぇ〜〜〜〜〜…」


 ……はいはい。
どうせこいつも「子供が飲酒は〜〜…!!」とかふざけたことヌカすんだろ。
…もういいから。そういうのっゴリゴリじゃい!!

薄暗い台所で、冷蔵庫に寄りかかりながら呑む俺と、コップを持つツントゲガール・キリエの二人並び。
こいつは何が哀しいんだか、看護師の格好でさっきからうろついてる変な奴だ。
コスプレ娼婦みたいなギリギリゾーンのスカート履いて、そのクセ常に自信なさげでオドオドしてんだから掴み所のない女だぜ……。

んぐ、んぐ、ごく………。


「……ぷはぁあぁぁーー……。はぁーあ…………」

「あ、あわわ……。あっ、〜〜〜〜!!!」



「…………………。──はァー……………」


……やっぱり…。
酒に頼ってみたもんだが、コイツの力をしてもどうしようもねぇもんだな…………。
はぁ……。
(あ、あとここに住んでた元の住民。勝手に私物飲んで悪ぃ〜なーー)


 …いや、そりゃ俺だってよ?
言われるまでもなく、こんな女子集団さっさと切り捨ててよ。別の強そうな奴につるめばいいってのは承知しているし。
戦闘力皆無な種族である俺もそれが最適解っつうのは重々理解してるさ。
金の払い具合と勝算の高さで人を見てる俺だ。その点は抜かりねぇーよ。


「──けどもだっ…!!」

「え、ええぇ、え?? け、毛玉??」


例えによっちゃ、飢え死にしそうな我が子を前に、お供え物があってソレを取らない親がいるか? って話よ。
そんなことするやつ、極楽浄土に行けることを信じてるヤツだけだ。
──さっき言った通り俺は神だの仏だのは全く信じちゃいない。

そろばんづくの俺だが、コイツらガキを見捨てるほど人情は薄くねぇ…。
カナやツントゲガール、憎たらしいリコナでさえ、死亡者放送だかでその名前を呼ばれたら……俺、絶対引きずるだろうし。
……何よりそんな真似をお天道様よりも俺ァまず許さねえよ。


「だからこそっ!! だからこそ………っ。悩ましいんだよなぁ〜……………」

「な、悩んでるからってお酒は、ま、NGですよっ!! NG!!」


 ガキ共を捨てちまうのは俺の心情に反する……。
だが、コイツらと行動したら自分の命を捨てることになる……。
…俺は今どちらにも踏み出せない、帰路のど真ん中にいるわけだ。
くっそ…、どっちつかずってのが一番嫌いだぜ…………。おい………。

 …そりゃよお。
出来るもんならコイツらを引き連れつつ、新しく強そうなメンバーを迎え入れる──とかな。
そんな絵空事カンタンにできるんならまた話は別だ。よろこんでその策に飛び込んで頂くよ俺は。
けども、それはまさに絵に描いた餅だ。…絵の中の餅を食えるのはライオスくらいなもんだぜ。
参加者七十人近く──大半が疑心暗鬼で今にも行動に移しそうな中、こんなシマウマの群れを目にした獣共はどう思うよ?
よっぽどのお人好し野郎か、陰で何考えてるか分からない異常者以外俺らを引き受けたりはしないのさ。
……引き受ける奴としたら、これもまた数多くの参加者の中でライオスくらいだわなっ…。

465『ゲーム生還の糸口♂♀』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/11(火) 20:51:18 ID:xEF573ek0
だから、もう現状手も足も出ないよ………。
俺はもう…。


何を、
どうして、
どういう風にすりゃ………いいってんだ。


俺は、これから……………。


「嗚呼………。あ〜、やまざきぃぃー……………。どうすればいんだよぉ、やまざき〜〜〜〜っ!!!!」

「も、本場ですっ!! 私は本場!! や、ややっ山崎って………誰、ですか…………」

「って、おのれはさっきからうるさいわ──────っ!!! お前ぇには何も言ってないわい!!」

「ひ、ひぃっ!!! そ、そ、…そんなこと…いっ言ったって…………」


 あとツントゲガール!!
お前は初対面の頃からずっと睨んでて……、…怖いわっ!!!
恐ろし過ぎんだろ!? 何考えてんだ?!
…陰気なやつかと思えば、うまるさん? だのカナの話は早口になるし……。
ぶっちゃけ三人娘の中で一番接しづらい奴だよこいつっ!!


「と、ともかく!!! お酒は辞めてください!!」

「いらねー心配だな! だから俺はイんだよ酒に強いんだし」

「えっ、…せ、せせ、せ、成長期なんですから。チルくん、しっ身長…止まりますよ………」

「チッ!!! また出た!!! 好きだよなぁお前ら俺を子供扱いネタ!!! 看板ギャグにするつもりだろうがそうはいかねーぞ!!!」


ほんとに雁首揃えて〜っ……お前らはセンシかっ!!!
…なに? なんなわけ………。
トールマンとドワーフは種族について全く習わないのか???
あんまりしつこいと…俺だって堪忍の尾ってのがあるぜ?!!


「ゆ、ゆゆ……。はぁ……。こ、こまる師匠……、私に勇気をください………」

「はあ?」

「…ゆ、言っときます…けどっ!! わ、私がこの中では一番お姉さん…なんですから…………!! ゎ、私の言うことをチルくんは…聞くべき…でしょうっ………」

「ざけんな!! 二十九!! 十六!!! どっちに『>』が傾く?!」

「な、七歳の子供が……ワガママ言わないでくださいっ!」

「なっ?!!! な、なななななななななななナナナナナナナナナナナナなな…七っ────────!????????」


七はねぇーだろ!!? 七歳はっ?!!
どういう勘定してんだ!!? チクショー!!!


ほんとに、ほんとにっ……!!
どいつもこいつもアホでバカで大間抜けだ………!!!
うんざりだ!!!


もうっ、喰らえっ!!!


 ──ジュッ、ボワ………

 ──スパァーー。モクモクモク…………


「わっ!!?? チルくん何吸ってるんですか?!! さ、さそっ…さすがに冗談じゃないですよ!!!」


 ゲホッゲホゴホ!!!
あ、やべー…。久々すぎてむせちまった。格好付かね〜……。


「……ハァーーーー〜〜………。それは俺の台詞だ、ガキ扱いの冗談はもうやめろ。飽きたし執拗過ぎんだろ。スゥーー〜ー……」

「煙草は辞めてください!!! 本当に!!! ち、ちびっ子ギャングですか!!!」

466『ゲーム生還の糸口♂♀』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/11(火) 20:51:33 ID:xEF573ek0
あっ!!! ムカついたわ!
マルシルですらそこまでしつこく擦らないってのに…………。
限度の知らなさエルフ以下かよっ!?
このっ!!!


「ぷはぁーーー〜〜〜〜〜〜ーー〜〜〜」

「げ、ゲホッ!! ゴホゴホ…!! や、やめてください〜!! 人の顔に向かって……ふっ吹き掛けて……………」

「あー? 自業自得だろ。どうだ恐れ入ったか? 子供がこんな大量にケムリ肺に入れて、大量に吹き掛けれるわけねーだろ」

「じゅ、じゅ受動喫煙!!! 言っておきますが……、吸う人より吸わない人のほうが肺癌率た、た高いんですからねっ!!!」

「おーおーそりゃそうかい。ひでェ喫煙者迫害思想だな。こりゃタバコーストだよ。ま、かく言う俺も娘出来て以降長らく禁煙中だったがよ…──」


「──今は別だっ!! ほれ思い知ったか! スパァーー〜〜〜〜〜〜、…はぁあぁぁぁぁぁ〜〜ーーー〜〜〜ー!!!!」

「や、やめてくだ──ゲホンッゲホ!!!」


へへへーー。ざまーみろ。
…って、なにエルフ共でもせん外道な事してんだ俺…………、とはなるが…。
まあ、仕方ないってもんだろ…。
俺も人間さ。腹が立つこともあるし、憂さ晴らしの欲が抑えきれん時もある。
こうもしつこく半ばコンプレックスをいじられりゃ、やる時はやんだよ。



ざまぁーみろ。ざまぁだぜ。
ガキ共よぉーー…────……、



『ピギィィィイイイイイイイイイイイイイイイイイ─────────ッッッ』


「え?!」 「ゲホ……えっ!!??」



 …だなんてスカッと気分に愉悦浸っていた中。
台所中を、唐突に『奇獣』のような悲鳴が木霊した。


「………」

「………………え?」


……俺は最初、限度が来たツントゲガールが発狂したもんかと思ったんだが。
──キリエの奴もその『奇声』に反応した様子から、どうやら第三者の声らしかった。

俺と、キリエしかいないこの間での。
第三者の声が。


「………………」


首をひねられる直前の怪鳥みたいな奇声は、思いの外一瞬で止んだ。
声の出どころは、……間違いなくキリエから。
だが小娘の悲鳴なんかではない。


奇声の張本人は、キリエの首。
──ギンギラに光るその首輪型爆弾からニョロニョロニョロ………って。
その赤黒くてグロテスクで、口しかない。昆虫の様なソイツが、息苦しそうに這い出てくると…………。


「うわ気持ち悪っ!???」

「え、え、え????」


────ビチャンッと、冷たい床に落ちて。



 パチン。

 ボト…………。

467『ゲーム生還の糸口♂♀』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/11(火) 20:51:45 ID:xEF573ek0
「「え?」」



そのキモい生き物が恐らく息絶えたその瞬間。


キリエの『首輪』が静かに外れて落ちていった…………。







え?

468『ゲーム生還の糸口♂♀』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/11(火) 20:52:01 ID:xEF573ek0



………
……


「…ところで璃瑚奈おねいちゃん。れいぷ、ってなに?」

「……っ?! ……あのなぁー………………。夏菜…、忘れろ。つか察しろ。おかあさんといっしょでその言葉が発せられるの見たことあるか? ないよな? つまりはお前にはまだ早いんだわ」

「カナおかいつ卒業したんだけどっ! いいじゃん教えてくれてもさー!」

「おかいつ……………。おい忘れたか? 私は何事にもやる気が出ない人間なんだぞ。一々説明してられっかよ面倒臭い…………」

「また、そうごまかして!! カナ諦めないからねっ!! ねえねえれいぷってなにー? ねえ〜〜!!」

「…あーーもう〜っ──…、」



 ガチャッッッ──────
 バタンッッッ──────



「おいカナ!! リコナ!!! ははっ!! よく聞け、今から外に出るぞっ!!!」

「ハハ…!! あははは!!! そうですよ皆さん!! 行きますよ!!!!」

「うわびっくりしたぁー!!!」 「は? んだよいきなり…………」


 ドアを開けりゃ対面する二人のガキンチョ面。
…フッ、…ハハハハ!!!
リコナの癪に障るやる気0フェイスも、この興奮と歓喜を前じゃあどうにも気にならねぇ!!!
……いや本気でマジかよこれっ?!
ハハハハハハハ!!!! 笑いが止まらねぇよ!!! こりゃ発作だわ!!! ハハハハーーッ!!!!


「…え? お前ら二人してテンション高すぎねぇーか。キャラ変わりすぎだろ。何が琴線に触れてそうポジティバーになったんだよおいー」

「い、いやだって!!! ねえー! チルさん!!!」

「おうキリエ!!! 『これ』を目にして興奮しねぇ奴なんかねーよ!! ハハハハ、ハッハ────────!!!」


「…引くぜ」

「てゆうかキリエおねいちゃんジュースはぁ〜?? 持ってくるんじゃなかったの??」

「まぁまぁ夏菜師匠〜!! あ、そうだ。チルさん、師匠にも『やって』あげてください!!!」

「おっ! それもそうだな!! おいカナ、こっち来い!!!」

「………?? ヘンなの。…なに〜?」


「バカ、行くなっ!! あいつらクスリしてるぞ!!!」──とか何とか。
あたふた萌え袖をブラブラしてるリコナの野郎は無視して、近づいてきたカナの肩に俺はそっと手を置いた。
おうおう〜!
リコナの奴、「何をする気だ!!」とか言いたげに汗撒き散らしやがって!!
何をすんだ、つわれたらよぉー?
そりゃ勿論…………、


「な!!」 「はいっチルさん!!!」


──スパァーーー〜〜〜〜〜〜〜…………。


「!?? げほげほ!!! く、くさっ!!!? な、何を──…、」


『ピギィイイイイイッッッ』

 パチン。→ボト…………。



「………え?」 「…あっ?!」

469『ゲーム生還の糸口♂♀』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/11(火) 20:52:16 ID:xEF573ek0

煙草の吹き掛け。
ただ一つに決まってんだろ?



「え?? あー?! 夏菜?! お、おま……。首輪が…外れて…………………」

「え、あれぇ〜〜〜〜〜?!! てかなにこの虫っ?!! ゾワッてするんだけどぉ!!?」


「…………ふっふふふ……!!」

「お、お前…チルチャック!!! なんだよこれ?! おい!!!」

「す、スゴイですよねっ!! 璃瑚奈さん!! ささ、さっきチルさんが見つけたんですよ!!──」



「────『首輪の解除方法』が、ですっ!!!!」



「………………え」 「………………──」



「──いや切絵お前には聞いてねー」

「あ、あぅ…ぁ……。す、すみません……………」


「なに六歳児が煙草吸ってんだとか……、なにこの遊星からの物体Xはとか…、ガキの顔に煙草吹き掛けるとかイキりすぎだろとか……。山程産まれた突っ込み卵はこいつの前じゃあどうでも良しだぜ……。おいチルチャック!」

「あ〜? ふっふ〜〜ん!!」

「何なんだよこれ?!! 説明しろよっ!!?? こいつら一体全体何が起きてやがんだ!!!??」


 …ったく! リコナめ、凄まじい勢いで詰め寄ってきやがってな!!
ま、仕方ないから説明してやんよ。

ここで脳裏に浮かんだのは、ファリンが食われてまだ幾ばくも月日が経たぬ頃。
地下深くでの、ライオスの会話だ。

以下、迴想〜。


……
………

 ──ははは。『動く鎧』…か…。


 ────…まーた始まるよ、ライオスの早口で独りよがりな魔物説明。

 ──よしなよチルチャック…。


 ──産卵…。孵化…。体長わずか5mmほどの貝類『動く鎧』は、成長と共に外郭を形成し、ある程度成長すると群れ始め、徐々に鎧の形に成体。動けるようになると他の群個体を探し移動する。…というのは俺の仮説だ。

 ──ほう。


 ──実は、コイツを見て俺、そういう類似生物がいたな…って思い出したんだ。…名前は分からない。ただ、動く鎧同様、色んな物体に似た殻を作る魔物がいるんだって、迷宮ガイドに書いてたのさ!!!

 ────あの信憑性乏しい同人本ねぇ。

 ──ライオスほんと好きだねそれ……。


 ──例えば、銅像!! 例えば、────『爆弾』!! …ただ、彼ら貝類は少し弱点があってね………。

 ──…いや銅像型や爆弾型のからは話広げないんかい!! ライオス…。

 ──まぁ聞こうではないか。…ふむ。その弱点とはなんなのじゃ。



 ──それがなんだが………。


………
……


470『ゲーム生還の糸口♂♀』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/11(火) 20:52:35 ID:xEF573ek0

「────奴らはニコチン、タールを0.5mg以上含んだ『煙』に弱いっ!!! つまりコイツをかなりの至近距離で喰らわばよ…」


スパァーーー〜〜〜〜〜〜〜…………。


『ピギィイッッッ』

 パチン。→ボト…………。


「イチコロ、って訳だぜ。リコナちゃんよお!!!」




「…………………………マジかよ」

「主さい者ってばかなの?」


 かハッ〜!! おいおいカナちゃん〜!
バカに決まってんだろ?!
あのオープニングセレモニーだぜ?
バカが陣取ってるゲームなんだから、こんなもん楽勝すぎるわ!!!


「と、まぁ首輪解除法はあっけなく見つかったわけだが。それを踏まえて、俺らはこれからあることをしなきゃなんねぇんだわ」

「ある、こと…………?」

「はい師匠!! 私たち四人組は悲しいですが最弱もいいところ…。敵に出会ったら瞬殺即ENDが約束されてる……よわよわな集まりじゃないですか」

「うん…」


「例えばリコナ。お前、バス内でレイプ魔のヤバイ奴が隣つっただろ? そいつに会った日にゃ俺らは色々な意味で終わり、完封だよな」

「お、おう。つか思い出させんなよお前…………」 「………っ!(また出た…れいぷ)」


────だがっ!!!


「もし、ソイツが『仲間』に付けるとしたら?」

「え?」

「…いや別にレイプ魔に限った話じゃないぞ? 殺し合いに乗った野郎にさ、首輪解除をエサに無理矢理ボディガードにしてな! 『ゲーム終盤に外してやるから俺達を守れ』とか言ったらよお!!」

「……………っ!!」




「────この戦……。生還を諦めるのもまだ早いんじゃねぇのか? なぁ、リコナ」




「……………」 「………」



「…スカウトってわけか。それもかなり勝算の高い………。面白ぇ。面倒事は嫌いな私だが乗らせてもらうぜ………──」




「──だがあのレイプ魔だけはやめろよなっ??! アイツ絶対話なんか通じねーから!! 弁が立つ私でさえアイツを丸め込むのは無理だよ!! 難題だよしんどいよ死罪だよっ!!!」

「ま、まあまあ璃瑚奈さん! 一つの例え話じゃないですか!! そっそ、その点はチルさんも理解してますよ〜!!」

「ったりめェーだろ。勿論最低限人は選ぶぜ。ゲームに乗ってるか乗ってないかは問わず。とにかく外出て参加者をスカウトだ!!」

「そうしろ!! マジでレイプ魔だけは勘弁だ!!! レイプなんかされたくなーい!!!」

「レイプレイプうっせーよ!! てかお前その言葉言いたいだけ説あるだろ」

「んな説あるかっ!!! いいか、レイプ魔だけはやめろ!!! 釘何十本でも刺して言うからな!!! レイプ魔だけはヤ・メ・ロー!!!!!」

471『ゲーム生還の糸口♂♀』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/11(火) 20:52:52 ID:xEF573ek0
「ちょっと皆さん……。子供の前なんですからぁ〜…」

「…………〜〜〜〜っ?」


レープレープと、お年頃なお嬢ちゃんはともかく。
偶然ながら、これにて俺らは『ゲーム生還の糸口』に針を通すことができたわけだ………。

勿論、まだまだ課題はある。
圧倒的武器不足だとか、バリアー問題だとか、ライオス達の安否確認だとか…、マルシルはまだ生きてるのかだとか。
無駄に奥深さあるこの殺し合いではあるが、…幸運にも主催者は浅いところで舐めていやがってのさ!!



 なあ、神様よ……。

あんたが存在するんだとしたら、トネガワをバカに作ってくれて感謝するぜっ。

そして、『動く鎧の亜種』という生物を生み出してくれたことも、心からお礼言いたいぜっ……!!



 首輪を四人一斉にゴミ箱へ放り投げ、この一室を後にする……。
俺達ガキ帝国の創設が、今歴史の始まりを刻むのだった────────。





「……で、れいぷって何!! チルチャックくん、切絵おねいちゃん!!」



「…は?」 「ひ?」 「…ふ? ──とは言わねーぞ私はよぉ〜…」


「皆ばっかり知ってて…。カナだけ知らなくて、仲間はずれでっ!!! カナかなしいんだけど!!! もうおしえてよ!!!」


「…………し、師匠……。ま、まだ早いですよ〜………?」

「なぁ、さっきからこればっかなんだぜ? この放送禁止用語乱射口を誰か黙らせてくれよー。おい〜〜」

「…………」


「おしえてくれない限りカナ動かないから!! ねっ!!!!」


「…」 「……」 「………」



 …いやいや、もう……………。



まぁ……、仕方ねぇかもう…………。

かなりなくらい早いけど、コイツにも正しい知識を教えてやんないと……ダメか…な………。


あー面倒臭え………。


「…はぁ、分かったよカナ」


「え?! ち、チルさん!!??」 「バカ!! 黙れよチルチャック!!!」




「花、あんだろ?」

「うん」



「…それには雌しべと雄しべがあってだな………………」

472『ゲーム生還の糸口♂♀』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/11(火) 20:53:10 ID:xEF573ek0
【1日目/G5/マンション/6F/AM.03:27】
【平成少年団】
【チルチャック・ティムズ@ダンジョン飯】
【状態】健康、首輪解除
【装備】???
【道具】メビウス@煙草
【思考】基本:【対主催】
1:誰か強そうな参加者を誘う。首輪解除をエサに仲間に引き入れる。
2:リコナ、キリエ、カナを守る。
3:リコナはうぜー、キリエは常人ぶった変人、カナは問題児!!

【璃瑚奈@空が灰色だから】
【状態】健康、首輪解除
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:ガキンチョ一行と行動する。
2:レイプ魔(肉蝮)には会いたくない…。

【本場切絵@干物妹!うまるちゃん】
【状態】健康、ナース服@うまるちゃん、首輪解除
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【対主催】
1:チルさんたちについていく。
2:夏菜師匠をお守り。
3:うまるさんと海老名さんが心配…。

【折口夏菜@弟の夫】
【状態】健康、首輪解除
【装備】???
【道具】???(一式ランドセルに梱包)
【思考】基本:【静観】
1:チルチャックたちくんについていく。
2:『死』だけは絶対…ダメ!!
3:めしべとおしべ…?


※ナゾ1【首輪型爆弾の謎】…続報。

「参加者全員に嵌められた首輪型爆弾。この物体は一体何なのか?」
→正体は生物。『自爆型の魔物』。(※1)
 動く鎧@ダンジョン飯の亜種で、赤黒く口のみの生物。(※2)
 市販されているタバコの煙が弱点で、至近距離から吸い込むと即死してしまう。

 (※1)ライオス・トーデンが#020『[[少女と異常な冒険者]]』にて解明。
 (※2)チルチャック・ティムズ、本場切絵が#053『ゲーム生還の糸口♂♀』にて解明。

473 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/11(火) 20:53:40 ID:xEF573ek0
【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ】
①首輪解除RTA更新です。多分これがパロロワ史上一番早いと思います。(ゲーム開始3時間27分で解除)
②まぁ平成漫画ロワは会場を包む強大なバリアーがありますから脱出も無問題ですが。
③そのバリアーについては白銀会長が何か策がある様子…。その詳細はまた十数話後、『いけない太陽(仮題)』にて……。


【次回】
──幽幻道士。キョンシー。

──獣が、ヴァンパイアが、殺人鬼が血を欲する満月の今宵。二人のキョンシーが、『対峙』する。


…『熊と眼鏡と書記と不良と幽幻道士と吸血少女(札)』
(※ゆりちゃんの格好の元ネタはわたモテ個展でのグッズと二年生の時の七夕回)

474『熊と眼鏡と書記と不良と幽幻道士と吸血少女(札)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/13(木) 21:10:43 ID:kWnGcn6U0
[登場人物]  [[札月キョーコ]]、[[土間タイヘイ]]、[[吉田茉咲]]、[[田村ゆり]]、[[藤原千花]]、[[マイク・フラナガン]]

475『熊と眼鏡と書記と不良と幽幻道士と吸血少女(札)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/13(木) 21:10:59 ID:kWnGcn6U0
──幽幻道士(キョンシー)──────!!

 それは言わば中華ゾンビ。
月の光る真夜中にのみ行動を開始し、生血を求めて人々に襲いかかる屍。
中国古来から伝聞される、日本で言うところのぬらりひょんや河童並みにポピュラーな物の怪だ。

ただ、ゾンビといえど奴等には人並みの知能がある。
そして、どの人間の鮮血が美味いかを見定める悪どい邪心がある。
吸血の為ならどれだけの実力行使も遂行する──殺人的本能があった。


今宵。
七夕真っ最中の土曜日。サタデームーンの渋谷横丁にて。
『二人』のキョンシーは吸い寄せられたとでもいうのか。
偶然にも巡り合うのであった─────。


……

「…くそォーー………。うまるの奴…何してんだ? さっきから全然電話に出てくれない………」

「あー? つーか眼鏡くんよぉ。そのうまるってヤローは知り合いなんか」

「……。(眼鏡くんって……、ヤローって………)知り合いも何も、俺の妹だよ。…たった一人だけの大切な家族さ。……うまるのヤツ、面倒事起こすタイプだから色んな意味で心配でね」

「妹? お前マジか………。そりゃ鬼電も仕方ねーわな。なぁ、札つ──…、」


「死んでんじゃないの。今頃」


「……………っ」 「……………ッ、てめぇ…………」



「うっそ〜。冗談だってば。………そんな睨みつけないでよっ吉田」


 紹介しよう。
──東側にて。

三人一列で歩く右端──真っ赤なリボンと白髪がチャームポイントの、洒落にならない発言をした彼女は、正真正銘のキョンシー。札月 キョーコだ。
見た目こそは華奢で小柄な女子生徒なのだが、キョンシー《吸血鬼》であるが故、その潜在的力は世界最高峰のボディビルダーにも勝る。
倒木した樹木を片手で受け止める、分速二千メートルで走る事が可能、一軒家をものの一瞬で廃屋化させる……等。
力加減をしてかなり慎重に行わなければ、体育の技能テストで人間離れな成績を残してしまうとの、キョーコの逸話は枚挙に暇がない。

それに何より彼女は、『血の味』が好物であった。


「……きょ、キョーコちゃん。…聞かなかった事にはする。だから吉田さんもいい加減彼女の胸倉掴むのやめなさい!!」

「あ? …………チッ!!」

「「(いや…チッ、ってさぁ……………)」」


「………ごめんタイヘイさん。…私、ちょっとイライラしててヤバいこと言っちゃったわね。……言い訳するつもりじゃないけど、血足りなかったから。…それもあって」

「…あ? …てめー、あの日か?」

「はアぁッ?! バカじゃないのッ?!!! 吉田黙れ!!!──」


「──…ともかく、いつもはお兄ちゃんの血吸って事を収めてるんだけど、生憎いないわけだし。……ほんとにごめん……」

「いやいやだからもう良いからさ。俺の方こそ、ずっとしつこく電話してたし。多少イラってくる気持ちも分かりはするよ」

「…………んん、ごめん」

「…おい、辛気臭え。無理矢理にでも話変えるぞ」

「あ、うん…」 「………」

476『熊と眼鏡と書記と不良と幽幻道士と吸血少女(札)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/13(木) 21:11:13 ID:kWnGcn6U0
「眼鏡くんよぉー。さっきからずっと私は思ってたんだが。いいか?」

「…何なりとどうぞ」

「おめー絶対シスコンだろ!」

「…はァッ!!??」 「いやいやいや……。話題変えたら変えたで嫌な質問だなぁ吉田さん〜………」


そんな史上最強の吸血鬼────キョーコと。


「いやバトロワの心配云々は抜きにしてよぉ。妹のことやたら心配でこんだけ電話連打するとか、普段の日常生活なら即シスコンヤロー認定じゃあねーか」

「…まぁそりゃそうだけども。でもッ!! 一番肝心な部分抜きにはするなよなぁーー!! 吉田さんーー!!!」

「タイヘイさん、あのバカに構わないで。覚えたての『シスコン』って言葉使いたいだけわよどうせ」

「アぁあっ!?? てめーさっきから私のこと舐め腐ってんだろゴラァ!!!」

「誰が舐めるのよアンタなんか!!! アンタのドラッグと乱酒で濁ってそうな血……1ccも舐める気しないわっ!!! カルシウムでも摂って清純な血液にしなさいよこのイラチ!!!」

「てめー表出ろバケモノ女が!!!」

「いやもう表出てるし吉田さん……──…、」




「「「───って、…あっ」」」


「「「あっ」」」



もう一人のキョンシー。
────田村 ゆりと、が。



「…………」

「………」



眼と眼が遭ったこの瞬間。

不幸にも、彼女ら二人とそれぞれ同行していた一般人四名は、惨状の巻き添えとして血肉の薔薇に咲き乱れるのであった────。


…………
………
……


477『熊と眼鏡と書記と不良と幽幻道士と吸血少女(札)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/13(木) 21:11:57 ID:kWnGcn6U0
「…………………………(〜♪」



「…ハァ…。タムラさん、言うこと聞いてくれない………」

「そうですよぉ〜! ねーマイク!! マイクがあれだけ『自分の後ろに隠れて歩いて』って注意したのに〜〜!! ゆりちゃんは反抗期真っ只中で、マイペース過ぎますよ〜〜〜!!!」



 紹介しよう。
──西側にて。

力強そうな大男(&リボン娘)をバックに、大胆にも一人先陣を切る──無表情でイヤホンの彼女は、田村ゆり。彼女が行きたい先は他でもない『ユニ●ロ』である。
大きく太腿が露出したチャイナドレスに、中華帽子、そして額には御札と。見た目はまんまキョンシーなのだが、あくまでこれはコスプレ。
陰キャの鏡であるゆりなら普段「智子なら似合うと思うよ。こんなバカなファッション」と蔑むくらい、性格に似合わぬ服装をしているのだがこれにも訳がある。
というのも、数十分前、魔茸『チェンジリング』にやられて以降、急激に身体がロリ化《縮んだ》彼女。
当然、普段着などダボダボで着れるはずなく、仕方無しにバーで探した小児衣服がこのバカなファッション一着だったのだ。

スカートの丈が短くて鬱陶しい、と。彼女は『まともな服屋』を求めて、辺りを見回す。


「…………………………(〜♪」


「ねぇ〜〜マイク」

「なんデスかフジワラさん」

「私分かっちゃいましたよ…っ!! ゆりちゃんがやたら私たちから離れて前を歩く理由……っ!!!」

「理由…とは??」

「それはズッバ〜〜〜リ!!! あのイヤホンです!!!」

「…………?」

「ゆりちゃんめ、もしかしたら私たちに聴かれたら恥ずかしいぃ〜っ…ような何かを聴いてるんですよ!!! 例えば〜〜動物の鳴き声集.mp3とかぁ〜、ジャ●ーズアイドル生越の癒しASMRだったりとかぁ〜〜〜!!! あははは〜!!!──」

「──いや、ヒーリングミュージックだとか?? あるいはお教とか砂嵐だったりして〜!!! 説立証ズバリあると思いませんかぁ!!!」

「タムラさんがそんな病んだ子に見えないデスがー……」

「あっ、そんなぁ〜〜!! うちの可愛い後輩であるミコちゃんをヘラってるみたいに言って〜〜〜〜!!!」

「フジワラさんの後輩を勝手に引き合いにしてたんデスか……!? …私、時々アナタの垣間見える毒がコワいデース…」


「ということで!!! おしゃれ♡探偵団切り込み隊長──藤原千花っ!!! チカっと真実を確認にいって参りま〜〜〜〜す!!!!」

「…あっ!! フジワラさーん!?!! またアザが増えるだけデスヨォーー!!!!!」


「…………(〜♪」

「ゆ〜りちゃん!!! 何聴いてるんですか〜〜!!」

「…。………何もきいてないんだけど」

「うわ!! 嘘の付き方も小学生レベルに退化してます?!! …もう〜〜っ、可愛んだからゆりちゃんは〜〜〜〜!! おねえさんにちょっとイヤホン貸しなさぁ〜〜〜〜──…、」



そんな似非キョンシーの根暗少女────ゆりと。


……

「……………最悪…です…ぅ……。あんなの、聴かなきゃ良かった……………。ゆりちゃん絶対普段あんな酷い物…聴いてないですよぉ……………………」

「何聴かされたのデスかっ??!!」

「いやもう小悪魔どころか悪魔そのものですよぉ…………。デビルマンレディーゆりですぅ………。あんなの聴いたらもう──…、」




「「「───って、…あっ!!!」」」


「「「あっ」」」

478『熊と眼鏡と書記と不良と幽幻道士と吸血少女(札)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/13(木) 21:12:15 ID:kWnGcn6U0
キョンシー。────札月 キョーコと、が。



「…………」

「………」



眼と眼が遭ったこの瞬間。

吉田茉咲の鋭い睨みに藤原が臆し、
マイク・フラナガンの圧倒的威圧感にタイヘイが警戒心を高めたこの瞬間。

バトル・ロワイヤルという緊迫した空気感もあってか、キョーコの瞳孔が赤く見開き、ゆりもまたポーカーフェイスがやや崩れる。


血への欲と、

本能と、

幽幻道士としての矜持が、『非日常』の訪れを告げる。


「…………ちょっと、あんた……」


「…………」



──────両者、向顔。

戦慄と緊張感、行く末は絶望…か。
血を血で争う、キョンシー同士の『殺し合い』が。
そう、お手本通りの『殺し合い』が今初めて、この渋谷で行われようとしていた─────…。




「って、お前……田村か?!」

「え? 吉田さん?!」



「「「「………え?」」」」





────……………行われるかもだった。

吉田は何の警戒心もなく、友人であるキョンシーの元へと近寄る。
帽子越しにて、愛犬を愛でるようにワシャワシャとゆりの頭を撫でると、


「おいどうしたんだよ田村〜〜! なんだ〜? そんなちっさくなってよぉ!! いやそれよりもお前が元気そうで良かったよ! おいっ!!!」

「ちょっと…! 吉田さん、やめてよ…。はずかしいから…」

「ははっ〜〜!!! 田村ぁ〜〜!!!」



「…え? 吉田の知り合い??」

「いやゆりちゃん…、そのヤン……、人と…友達なんですか〜………?!」


渋谷横丁を覆った紅い緊張感など、綺麗さっぱり消え失せた。

479『熊と眼鏡と書記と不良と幽幻道士と吸血少女(札)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/13(木) 21:12:26 ID:kWnGcn6U0

……
………
「うっし、おめーら。取り敢えず休憩とすっぞ。あの『UFO型の建物』で色々積もった話解消するからな」

「はぁあぁっ!!??? 馬鹿!! 却下よ!!! あの建物絶対なんなのか知らないでしょ!!! いややっぱりバカじゃん吉田!!!!」
「…。………………………」
「てゆうか『休憩』ですか〜…………」


「………は、ハハ…。困りマシタね…………」

「……まぁとりあえず動くとしますか…………。ね、マイクさん………」

480『熊と眼鏡と書記と不良と幽幻道士と吸血少女(札)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/13(木) 21:12:40 ID:kWnGcn6U0


………
……

 一泊OKのデイリーマンション。
ホテルとは違いマンションには無論、キッチンや流し、そして必要最低限の調理器具が用意されている。
『男子厨房に入らず』──とは、昭和生まれ親父の決まり文句だが、キッチンに立つ二人はいずれも男。

バトルロワイヤル開始から早くも四時間が経過。
朝方近くな為、真っ暗だった街も日の出を予感させる薄暗さになっている。


「それにしてもタイヘイさん。その若さで料理もできるとは………。何とも頼もしい方デースネ」

「はははっ。うちは未成年の妹と二人暮らしですから、必然的にやれてるだけですよ」


とどのつまり、タイヘイ&マイクが作るのは少しばかり早めの朝食。
これからの行動に備え、リビングで待つ四人娘の為に何かを調理するのだった。


「いや、しかし………。やっぱり…何だろう、罪悪感はありますよね…。人ん家の冷蔵庫から勝手に拝借するわけですから…」

「……う〜ん確かにデス。マンションの元の住民サンには悪いことをしマス……──」

「──…デスが腹に背は変えられない…と言いマスか。戦に備えて腹ごなしは欠かせまセン。コンビニやスーパーで買い出す手もありマスが矢鱈な行動は危険デスし──」


「──という訳で、料理のテーマは『最低限』デスヨっ!!」

「最低限ですか。と言うとマイクさんつまり………」

「えぇ! ちょびっとの具材を使って、それでいて皆を大いに満足させられる料理!! …タイヘイさん、アナタさっき何を作るつもりと言ってましたカナ?」

「あ、カレーです。カレー。簡単に作れて大人数用も容易いですから」


「フフフっ……!! ならちょうど良いデス!! さぁ、今から作りマスよ!! ────私の母国『カナダ式カレー』をっ!!!」

「おお!! カナダ式…ですか!」


まな板上には食パン、鶏もも肉、そして植木鉢に咲く謎の野菜一つと。
カナダ式カレーに欠かせない最低限の食材が並ぶ…………。

………
……


「…ほうほう〜〜〜。つまりは怪奇!! キョーコちゃんはそのリボンを取られたら…かっなぁ〜〜りマズイんですね〜〜〜! …例えるなら──」

「──奇しくも同じくリボン娘の私ですが……。それを今ここで外して見せたらぁ〜〜〜〜……。(ポロッ)…ふっふふ…。がおおあぁ〜血をよこせぇ〜〜!!!!」

「…え。…あっ!!! まさかアンタもっ…」

「て、てめぇーもかこの野郎ッッ!!!!」


───ゴシュッ!!!

≡〇)🎀`Д゚)グハッ

【よしだ の がんめん ストレート!!】
【ふじわらしょきは、250のダメージ。こうか は ばつぐんだ!】


「ぐへぇやぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!! …い、いだっ???!!!! 何でいきなり殴ってくるんですかっ?!!? 冗談に決まってるじゃあないですか!!」

「あ? …んだよ。じゃあ書記、てめぇーは普通の人間なんだな? 吸血鬼なんかじゃねぇんだな? あー?」

「当たり前でしょおっ??! もう〜〜っ!! なんで原幕高校の生徒は皆すぐ手出してくるんですかぁ〜!!」

「…いや冗談にならないから仕方ないじゃない。ほら、藤原謝りなさいって」

「……ったくよ…」

「ふっへっへ〜〜〜〜〜〜…………。被害者が謝罪しなきゃならないこの事態こそが怪奇現象ですよぉ〜〜〜〜〜〜〜〜……………。しかもキョーコちゃんナチュラルに呼び捨てしましたよね〜〜〜〜…………。うえ〜〜〜〜ん…………」

481『熊と眼鏡と書記と不良と幽幻道士と吸血少女(札)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/13(木) 21:12:57 ID:kWnGcn6U0
「…………………(〜♪」


 一方で、残りの女子四名はソファで寛ぎ中。
テーブル上には支給品確認の痕跡として、シュローの刀(@キョーコ支給武器)、熱した鉄の棒(@ゆり)、エアガン(@タイヘイ)にさくら棒(@マイク)…と、武器達が散らばっている。
彼女ら四人は、────いや三人は武器には目もくれず和気あいあい(?)と駄弁り続けた。


…それにしても、しかしだ。
エアガンやらただの鉄棒やらはともかくとして、『さくら棒』の何に殺傷能力を感じて主催者は支給武器としたのだろうか。
長さ、太さはそれなりにあるとして、このさくら棒。武器でも何でもなくただのお菓子。
静岡伝統のピンク色なただの麩菓子である。これで撲殺できるとしたら、『豆腐の角で頭ぶつけて死ぬ人間くらいだろう。
やや狙ってる感はある、酷い武器チョイス。
これには流石の表情筋10gゆりでも失笑するほどであった。


「………ふふっ…(〜♪」

「あっ! ほら見なさいって吉田!! 田村笑ったよ!! 今!!!」

「……っ?!(〜♪」


「…あ?」 「あ、あちゃあ〜〜〜……………」


「今絶対笑ったわよね? 田村、そのさくら棒見てさ。変なとこで急に初笑いとかなんなのさ〜、もうったら〜〜〜!」


「…全然わらってないんだけど………………」

「てゆーか、田村もさー。そりゃ私らと歳離れてるから接しづらい気持ちも分かるけど。…そうロンリーウルフ気取ってないでなんか話そうじゃないの」

「………気どってないから。接しづらくもないし。藤原さんはともかく、吉田さんとなら話せるから、見透かしたかのようにいわないでほしんだけど」

「結局内弁慶じゃない!! もう田村ったら〜〜〜」



「キッズ相手だからってデリカシー0発言乱射しますね〜〜………。キョーコちゃん…」

「悪意がない分タチが悪いってヤツだな」

「それはそうですけど〜…。悪そのものの吉田さんがそれ言いますかっ?!! ──あ、怒らないで〜!!!? 殴らないで?!! 千葉はともかく東京じゃ暴力は犯罪なんですよぉ〜〜〜〜!!!!!!」



「…………はあ……(〜♪」



「私は今話せませんよ」とアピールするが如く、中華ロリゆりちゃんは中華まんをパクリっ。
もぐもぐ&曲の音量爆上げで、キョーコをひたすら構わず関せずの態度を貫くのであった。



キッチンから徐々に立ちこめてくるカレーの匂い。
ほのかに苦みの隠し味が混じったその香りに、どこか懐かしさが感じる。

出来上がるカレーを前に、敵意など皆無で(──四人全員が互いに信頼しあってるかはともかく)、話に花を咲かせる四人娘。
笑い声が飽和し続けるキョーコ藤原ら四人を見て、部屋の時計は何を思うか。

時刻はAM.04:30丁度。

バトル・ロワイヤルという『非日常下』にて行なわれる、普段の日常生活と変わりない和やかな雰囲気。
額のお札が揺れる中、マンションの一室は束の間の休憩で、楽しげなムードに包まれていた。

482『熊と眼鏡と書記と不良と幽幻道士と吸血少女(札)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/13(木) 21:13:07 ID:kWnGcn6U0



────この安らぎのムードが、『嵐の前の静けさ』であることを、六人誰一人として知らずに。


──外を見渡せば立ち込める曇り空の陰。


────あと少し経てば『惨劇』が始まる。










二日後、ふと、このカレーを待っていたときの事を思い出して。


今思えば、──あの時はまだ楽しかった。

そして、──あの時はまだ知る由もなかった。


…と。

ふと彼女は回想する。

483『熊と眼鏡と書記と不良と幽幻道士と吸血少女(札)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/13(木) 21:13:25 ID:kWnGcn6U0



 ドクン、
  ドクン────────


 いや。
知る由もないと言うか、知る訳もなかった。



 ドクン、
  ドクン────────

 …『非日常』の始まりを告げる、『あの叫び声』のことも。


 “ぁぁあ………あ…”
 “あぁぁああアアアアアアああぁぁぁああぁぁああァぁぁぁァァァ───────ッッッ”



 ドクン、
  ドクン────────

 …後々、自分を救ってくれた『仮面ライダー』のことも。


 “俺はもう二人殺した。一人はこの手で、もう一人はこの目で。…見殺しだ”
 “もう。俺は人が死ぬ瞬間を目にはしたくない………”



 ドクン、
  ドクン────────


 …変わり果てた『アイツ』の姿も。


 “ハハッ……。だからさ、生きてよ。つか生かさせるから………。私が…………”
 “絶対に…………。絶対に絶対に絶対にっ……。うっぅ………うぇっ…………”
 “もう、全部……………。────ミコちゃんのせいなんだから……………。私を置いてかないでよ、ミコちゃん………”

484『熊と眼鏡と書記と不良と幽幻道士と吸血少女(札)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/13(木) 21:13:40 ID:kWnGcn6U0

 ドクン、
  ドクン────────


 ──…そして、美術館での『血闘』…も────。



 “はぁぁ…はぁ……ハァハァ…、”


 “………ハァ? 何言って…んだ…テメェ……?”


 “ハァハァ…。…何が…トップよ……ッ。何が……パンケーキだっつうの……………ッ”



 ドクンッ…────────



 “つうか何…泣いてんだよテメェッ………? ……被害者ぶってんじゃねぇぞ………ぶっさい泣き面晒しやがって…ゲホッ………! ハァハァ…………。…テメェのせいで……吉田もタイヘイも…死んだッ………!! 優しかったみんなが…皆………糞みたいな理由で……………殺されたッ!!!!!”



 ドクンッ…────────



 “ハァハァ……ァアアア……ッッッ!!!! …ふざけんなッ…マジでふざけんなよテメェ…………ッ!!! ………絶対許さないッ……! テメェだけは絶対殺してッ…、負けてでもぶち殺しきってやる──────ッッッ!!!!!!”



 
 バクンッ────────


 “ァあの世で喉潰れるまで詫び続けろァアアアアアアッッッ─────!!!!!!!!!!! この人殺しがァアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァ!!!!!!!!!!!”



『Vampire - The Night Warriors』


 プツン…………………─────







────────…

……最後に、

『プランA』の実態、も。



 ────“…………いいや、花火だ。”


 ────“あれは花火……”


 ────“鎮魂代わりの。…一夏の、大天火だな…………”

485『熊と眼鏡と書記と不良と幽幻道士と吸血少女(札)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/13(木) 21:13:51 ID:kWnGcn6U0
今はまだ。

何もかも、まだ知らなかった。

知らないからこそ、まだ幸せだった。


幸せで、それでいて『不幸』だった。




焦土と化した渋谷の街を、車窓から眺めながら。
彼女は回想を終える。




 ドクン、


  ドクン────────、


………
……


486『熊と眼鏡と書記と不良と幽幻道士と吸血少女(札)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/13(木) 21:14:19 ID:kWnGcn6U0
【1日目/F1/渋谷センター街・パチンコ店/4F/AM.02:31】
【チーム・キョンシーズ】
【札月キョーコ@ふだつきのキョーコちゃん】
【状態】健康
【装備】シュローの刀@ダンジョン飯
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:↓以下のメンツと同行。
2:ちゃんゆりがちょっと可愛い…。
3:吉田とは犬猿の仲!!

【田村ゆり@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!!】
【状態】ハーフフット(ロリ化)、キョンシーの服装
【装備】熱した鉄の棒@善悪の屑
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:ひとりで行動したい。
2:吉田さんと会えてよかった。
3:藤原&札月とは波長があわなく苦痛…。

【吉田茉咲@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!】
【状態】健康
【装備】木刀
【道具】タイムマシンボール@ヒナまつり
【思考】基本:【対主催】
1:つか田村なんでちびっこになってんだ?
2:藤原とキョーコ、あぶねぇやつだ………。
3:うまるを探すタイヘイに同情。

【藤原千花@かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜】
【状態】健康
【装備】護身用ペン@ウシジマ
【道具】ワードバスケット@目玉焼きの黄身
【思考】基本:【対主催】
1:カレーまだかなぁ〜〜♪
2:…私、暴力娘x2に吸血娘と囲まれてるとかピンチではっ……………?

【土間タイヘイ@干物妹!うまるちゃん】
【状態】背中に痣(軽)
【装備】池川のエアガン@ミスミソウ
【道具】ボイスレコーダー
【思考】基本:【静観】
1:カナダ式カレーをマイクさんと作る。
2:うまる、大丈夫か…………?
3:なんだかリビングが騒がしいな…。

【マイク・フラナガン@弟の夫】
【状態】健康
【装備】さくら棒@だがしかし
【道具】???
【思考】基本:【対主催】
1:全員を守る。
2:カレーをふるまう。
3:ところでこの『謎野菜』は一体…………?

487 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/13(木) 21:19:04 ID:kWnGcn6U0
【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ】
①ぶっちゃけ一部の作品キャラの動かし方・最期が全く思いつかないでいます。…やっぱり飯漫画とバトロワはミスマッチですね。これ、教訓。


【次回】
未定。
とにかく、以下の話のどれか。これら全てを終えたら参加者二巡完了です……。

『Perfect Girlです。』…小宮山琴美、古見硝子、堂下、殺人ニワトリ
『古見さん親衛隊の活動内容報告書です。』…古見硝子、堂下、殺人ニワトリ
『TOKYO 卍 REVENGERS』…伊井野ミコ、鰐戸三蔵、鴨ノ目武、相場晄
『悪魔とメムメムちゃん」…メムメム、兵藤和尊、佐衛門三郎二朗、遠藤サヤ
『野原ひろしと僕たち(仮)』…山井恋、野原ひろし、海老名菜々、クンニーヌ、うまる、マミ、デデル、マルシル、飯沼
『大好きはムシがタダノくんの』…只野、佐野
『鳥貴族』…センシ、長名なじみ、日高小春
『らぁめん再遊記 第二話〜需要と供給…?〜(仮)』…アンズ、芹沢達也、早坂、うっちー

488 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/14(金) 20:46:08 ID:7ORhDVZ20
──ふと、あの日のうまい棒の味を思い出す。

──彼は私と同じく、駄菓子が好きだった。


【次回】
『枝垂ほたるのメタルギア』…小泉さん、ほたる、???


────新キャラ、参戦。

489『ほたるさんと、メタルギアと…』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/18(火) 20:38:01 ID:WB4mfFLo0
[登場人物]  [[枝垂ほたる]]、[[小泉さん]]、???

490『ほたるさんと、メタルギアと…』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/18(火) 20:38:17 ID:WB4mfFLo0

 小泉さんには、『大澤悠』という女子の知り合いがいた。

もっとも、小泉さんサイドからしたら、(接する頻度はかなりなものの)彼女を友達だとは思っていない。


あれはいつの日かの、春の事だったろうか。
二郎系ラーメン店に小泉さんが並んでいる時、不意に話しかけてきたクラスメイトの──大澤悠。
その会話の中で、何かが悠の琴線に触れてしまったのだろうか。その日をキッカケにやたら彼女は付き纏うようになった。
廊下を一人歩いていたら「やっ! 小泉さん〜」とベタベタと絡み、放課後になると「小泉さんどこのラーメン行くの? 私もご一緒いいかな?! あははーっ」等と、常に常に存在してくる悠。
その度に小泉さんは、────嫌です。──お断りします。──と、ドライかつ丁重に断っているのだが、悠という女はいつまでも執着深かった。

そのストーカーぶりに嫌気が込み上げるのも早一年。
あいも変わらず、悠は飼い犬のように小泉さん一筋で愛で続け、一方で小泉さんもやや受け入れつつはあるこの頃。
その長い月日が積み重ねるに連れ、小泉さんにも『特殊能力』のような何かが身に付いた。


それは一言に、────『大澤アレルギー』というものか。


「………………──っ!!」


(……この寒気。……まさか、『来る』んですか………っ?)



 つまりは、大澤悠の気配に敏感になってしまったのである。

無論、今はバリアーに囲まれての殺し合い中。
周囲を見渡しても悠の姿はおろか、声すらも確認できない。
この渋谷に彼女が来れる筈がなかった。


だが。──だが、しかし。
確かに前進を走り抜けたこの寒気…。そして予感…。
生暖かい夏の空気に混じる、悠のラッブラブな吐息感……。


参加者でも何でもない大澤悠が、今この渋谷に降り立った。────何となくだが、そんな予感。



「……………………。寒気が酷い………」


どこからか聞こえた気がする「小泉さぁーーん……」の声に。
身体中を支配した寒気を取り払うため、彼女はひたむきに温かいラーメンのスープをすすり続けた……………。



────ただでさえジェネリック悠のような、『やたら絡んでくる』『やたらフレンドリー』『やたらしつこい』の3Yな人が隣りにいると言うのに。
────それが二人に増えるとはまっぴら御免である。



「すごい…!! すごい食欲ね……小泉ちゃんっ!!! これでもう早くも三軒目のラーメン屋ハシゴだわっ────!!! これぞまさにハイ・ヌーン…。私の駄菓子愛に匹敵するほど、あなたのラーメン愛は本物よっ!!!!──」

「──Hey! カロリーQueenっ!!! …これはもう私も負けじとベビースタードカ食いに行くしかないようね………!! 行くわよっ!! 受けて立つわ!!!」

「…………そうですか(ズルズルズル」


小泉さん feat. 枝垂ほたる────。
二人がいるこの場所は、新店なのか年季が入った店なのかよく分からない『ラーメン店・愛沢』。
町中華らしい鶏ガラベースのラーメンを啜りながら、小泉さんは一つため息を付いた。


「……はぁ………」


「……あっ。……今、『Hey! カロリーQueenっ!!!』って喋ったの………。どっちかしら、小泉ちゃん…」

491『ほたるさんと、メタルギアと…』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/18(火) 20:38:47 ID:WB4mfFLo0
「……はい? …枝垂さんに決まってるでしょう」

「…フフ。いやはや面目ないわ。というのも私たち二人。何だか声が…、どことなく似てるじゃない?? だから、時々私が喋ったのか、小泉ちゃんが話しかけてきたのか分からなくなるのよね〜〜〜!!!!」

「…流石ですね。色んな意味で」

「そうっ────!!!! つまるところ、私たちは声が似てる者同士引き合った…ってことね。この出会いは偶然ではなく運命!!! 私たち駄菓子軍団が結成されるのは約束されてたことなのよー!!!!!!」

「……………はあ」



 ため息混じりの相槌が漏れ出た。

悠とは別ベクトルにヤバい枝垂ほたるに、小泉さんが鬱陶しさを感じていたのは確かであるが。
それとは別に、彼女がため息を漏らしてしまった理由が実はある。


殺し合い開始からかれこれもう四時間は経過。
その長いようで短い過程の中で、恐らく何人かは既に殺された現状なのだが。

──刻々と屍が積み重ねられる間、自分は殺し合いに置かれてるとは思えない『日常』を送り続けている。
──というより、殺し合いを打破・生還するための術を何も講じていない。


最初こそは、バトロワなんかに流されず我が道《拉麺道》を行こうとの考えだった小泉さんも、これだけ時間が経てば心中重かった。

自分には当然何も出来ない。
ただ、やらなきゃいけない。動かなければ死んでしまった参加者達に申し訳ない。…こんなことしてる場合じゃない、と。
積りに積もっていく、この『罪悪感』に似た感情は、もはやラーメンハシゴでは誤魔化せなかった。

それ故、どうすべきか──と、ため息が止まらない小泉さんであったが、隣りに居座るほたるは生憎これっぽちも『生死の緊張感』は持ち合わせていない様子。


(…………どうすればいいのでしょう)

(………私はっ……………。どうすれば……………っ)


思わず箸を置いてしまうくらい、彼女はモヤモヤで一杯だった。




 ────ピロロンッ♪ ピロロンッ♪



「…………えっ?」



 そんな中、我先にと先じて行動を始めた者がいる。

その彼女は携帯を耳に当てると、目的である『誰か』の応答を待ち中。
────彼女だって、バトル・ロワイヤルが遊びだとかふざけて良いものだとは一切思っていなかった。


「…………小泉ちゃん。アナタの気持ちはうんと分かるわ。…でも下手に動けないのも仕方ないことなのよ。今はね」

「………え。…枝垂、さん………」


携帯を使い始めたのは我等が駄菓子軍団隊長────枝垂ほたる。
これまでと打って変わってシリアスな面持ちをするほたるは、小泉さんに向けて言葉を続けた。

492『ほたるさんと、メタルギアと…』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/18(火) 20:39:03 ID:WB4mfFLo0
「だって、このバトル・ロワイヤル……。分からない事だらけだもの。大小様々な謎が蠢き合い、もはやカオス《混沌》にすら達している殺し合い…………。あまりにも情報が足りなすぎるわ」

「………それで、何を………………?」

「だからこそっ…。今私達に必要なのはズバリッ『情報』よ!! この鳥籠の外にいる、外部からの客観的な情報が欲しいわけ」

「…………………」


「────私が今電話する相手は、最も信頼できる…非参加者の、あの人……………!! 『情報屋』ってやつねっ…!」

「…『情報屋』………………?」



 ────ピロロンッ♪ ピロロンッ♪

その音が、プツッ────と、『応答音』で途切れた時。
最後にほたるはニヤリと笑みを向けた。



「情報が一通り手に入れたら。…動くわよっ、…モチのロン、殺し合いを終わらせるために…………。ね、小泉ちゃん…!!」


「…枝垂…さん……………っ」



電話口から雑音混じりの男の声が聞こえだした──────。






「…いや、その携帯…。おもちゃですよね。ていうか駄菓子ですよね。……なんで鳴るんですか?」


「…フフフッ!!! イッツ・ァ・企業秘密────!!!!」



 ●【わくわくスマートフォン】●

 タッチパネル風画面をスライドさせて当たりが出るとラッキー!!
 中に入ってるお菓子を出して食べられるぞ!!
 もちろん電話はできないぞ!!!

493『ほたるさんと、メタルギアと…』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/18(火) 20:39:20 ID:WB4mfFLo0
………………
……………
…………
………
……



──【某所。】


──【某マンション。】



──【寝室にて。】



 ────ブブブブブブブッ

  ────ブブブブブブブッ
 

「うおわッ……!? …なンだよビックリさせやがって…………。ふわぁ〜あ………」

「……ヤクザ者は時間帯なんてお構い無しだからな……。俺が寝てると知らずに…」



「……はァ…、仕方ないか…………」



「はい、もしもし…────…、」


『もしもし!!! 私よ!!! あのしだれカンパニーのっ、あの枝垂ほたる!!!!!』



「……えっ??! ほ、ほたるちゃん…………?!」


『こんな時間帯にごめんなさいね。……分かるかしら? つまりはよっぽどの急用ってわけなのよ』

「……一体なんの御用で?」

『あなたの力…。是非とも情報を貸してほしいわ──』

「…うちは情報料高いよ」

『モチのロン、そんなこと重々承知済みだわ。………私も大盤振る舞い、うまい棒明太味、百五十本ってとこで良いかしら?』



「…いや逆に拷問じゃねェーのそれ? …まぁ、いいよ……。俺とキミの仲だからね。キミが納得行くまで遊びに付き合ってやるよ」


『……フフッ。あいにく、これは遊びではないのよ。……ともかく、久しぶりね──』





『────────────────戌亥くん』

494『ほたるさんと、メタルギアと…』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/18(火) 20:40:42 ID:WB4mfFLo0
※この話に限っては、続きはwikiからお読みください。

ttps://w.atwiki.jp/heiseirowa/pages/150.html


【1日目/F4/センター街/AM.05:01】
【駄菓子軍団】
【枝垂ほたる@だがしかし】
【状態】健康
【装備】わくわくスマートフォン@だがしかし
【道具】すっぱいガムx4@だがしかし
【思考】基本:【対主催】
1:駄菓子の力でバトロワを終わらせるわっ!!
2:小泉ちゃんの思い人…(?)『芹沢達也』さんに会う!!
3:戌亥くんありがとー!! また連絡ちょうだいね!!

【小泉さん@ラーメン大好き小泉さん】
【状態】健康
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:芹沢さんと合流したい。
2:戌亥さんを信頼。

495 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/18(火) 20:49:17 ID:WB4mfFLo0
【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ】
①今更ながら宣言しておきます。
②ヒナまつり、わたモテ、トネガワ、ウシジマくん、ハイスコアガール。この5作は私が中学のころから愛読している本当に好きな漫画なので、キャラ再現度はかなりの自信があります。
③つまりは、この5作のファンなら間違いなく楽しんで読めると思います。自分で言うのもなんですが。

④さらにつまりは、それ以外の漫画キャラのエミュ度はもしかしたら低いのかもしれません。
⑤その為このロワを読んで頂けた皆様。「このキャラ口調おかしくない?」や、「こんな行動するわけないだろ!」と少しでも感じたら気兼ねなくご指摘お願いします。
⑥どれだけ前の話でも一切構いません。指摘後、即訂正に参ります。些細な訂正案でも構いませんので、違和感がございましたらお願いします。


【次回】
──彼女は書いた。『世界は必ずしもみんな平等とは限らない』

──彼女は書いた。『敗者と勝者が存在する』

──Perfect Girl Mishima Hitomi.


『Perfect Girlです。』
『古見さん親衛隊の活動報告書です。』…古見さん、堂下、ニワトリ、小宮山、伊藤光
の二本立て

496『Perfect Grilです。』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/24(月) 20:44:26 ID:dhp0Q9MA0
[登場人物]  [[古見硝子]]、[[小宮山琴美]]、伊藤さん、[[殺人ニワトリ]]、[[堂下浩次]]

497『Perfect Grilです。』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/24(月) 20:44:48 ID:dhp0Q9MA0

も・じょ【喪女】(名)[mojo]

「もおんな」とも。定義として、

①男性との交流経験が皆無。
②告白されたことがない人。
③純血であること。


ネガティブ思考で自虐的なことが多い。


「We love love love〜〜〜〜♪ マリーンズ♪!!!!──」

「──古見さん待てぇぇえええええっ!!!!!! 逃げられると思うなよぉおおおお!!!!! ストップ、ストップ───────!!!!!!!」


────一方で、喪女の対義語は、『美女』。


『本当にうちのコトがごめんなさい。古見さんもっと早く逃げて。お願い逃げて…』

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!!!!???!?!?!!??」




 走る度に振り撒かれる髪の匂い。そして汗。
全力疾走で駆けぬける美女と、追い走る喪女(?)。
朝日が昇る河川敷にて、二人の女子高生による爽やかな青春の風が、そこにはあった────。

──……古見さんからしたら、そんな青春真っ平御免であろう。


「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!」
(だ、だだ誰か助けてください〜!!! ハァ、ハァ……。誰か〜…………………)

「いやていうか古見さん意外にも脚速いなおいっ! 是非にでもロッテの代走で契約してほしいくらいだよ……──」

「──でも、だからといって私は絶対逃さないからなぁあああああ!!!!! …代走がなんだっ、…俊足がなんだっ、うちの強肩田村捕手は捕殺率リーグNo.1なんだぞぉおおおおお!!!!!! うおおおおおおおおお!!!!!!」

「っ??!! 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!」


この度行なわれている青春は、『捕まれば→即DEATH』という極限の鬼ごっこ。
ギコギコギコギコ…と自転車を飛ばす小宮山の片手には木製バットが。──言わずもがな、追いつかれた暁にはソイツで頭をグシャッ…である。
背後のチェーンの走る音に恐怖を感じながら、過呼吸気味に走るは古見さん。
何もかもが完璧すらも超越している彼女故に、流石は自転車でも追いつけない脚力で逃げ続けるものだが──…。
文字通りの【鬼ごっこ】開始から早くも三十分が経過。
彼女は身も心も、圧力鍋にかけたアイスクリームの様にベッチャベチャであった。



────姫(笑)は呟く。

「…すごい、今までにない何か熱い風を感じる…。なんだろ、プリ●ュアみたいなさ。魔法少女というか……、私、今主人公になってる気分だよ……っ! 伊藤さん………」


────そして姫は妖精さん(笑)に語りかける。

「全員参加者をやっつけたらさ、…智樹くんと…念願の……──rendez♡vous……!! そう思うと、ワクワクが止まらないんだよっ!! 最高の気持ちだよ!!!」

『(…rendez♡vousにかなりドン引きした。)コト、ふざけるのはもうよして。最低なことしてるよ』

「もう〜っ!! 妖精さんったら!! 私は『コト』じゃないってば〜〜!!! 私の本来の名前は『シンデレラ・オブ・5103・ナイト《闘うお姫様^^》』!! 普通の少女じゃもうないんだよ〜!! うおおおおおおおおお!!!!!!!」

『(……どうしよう、全く面白くない。真顔になっちゃう。引き笑いすらも起きない。これはもう素直に『ドン引き』だ。)…………コト…』


────最後に姫は、自身が乗る白馬(笑)をチラリ。爽やかな笑みを浮かべた。

「まぁでも私一人の力じゃここまで全力疾走はできなかったけどね。……全ては君のおかげだよ……、私の白馬…………!」

『馬? 自転車だよそれ。他人の』

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!」

498『Perfect Grilです。』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/24(月) 20:45:10 ID:dhp0Q9MA0
「…〜〜もうっ!! 伊藤さん私の世界観ぶち壊す発言しないでっ!!!──」

「──ほらよく見てよ!! 綺麗なユニコーンでしょ!! …脚も長くて……、目つきもどことなく智樹くんの鋭い目に似ていて……。おいおい、君は智樹くんの生まれ変わりかっ!!! ──…ってね!」

『(…いや死んでないから、智樹さん。)…ごめんなさい、コト係の私が責任持って謝ります。本当にごめんなさい古見さん………』

「〜〜〜〜〜〜〜∆∌∆∌∈√∃∑∌∬∏‰∈∂∈√∃∑∆∌∈√∃∑∌∬∏‰∈∂∌∬∏‰∈∂〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!!!!」
(もう…やだ…………。疲れた…きつい……〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!)


────そして、姫(笑)は敵を追いかけて行く……………。


【理想】
→『素敵な…笑顔!』
私は夢見がちな普通の女の子っ♪
だけど今日で冴えない自分は卒業だねっ!!♪
何せ、その『夢』が叶うのかもしれないから……………。
王子様《智樹くん》と誓う夢を果たすため、魔法少女になった私は敵を全員倒すのっ!!


【現実】
→『鬼の形相』
「うおおおおおおおおおおおっ!!!!!! 待て古゛見゛さ゛んんンんんんんんっ!!!!!!!!」

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!!!!!!!!!!」


……


 小宮山琴美…───。
若干変人な部分はあったものの、出会い当初は優しかった彼女が何故【マーダー】に豹変したのか。
──そんなこと今の古見さんは考える余裕もなくどうだって良かったのだが、とにかく彼女は必死に逃げ続けた。
「ハァ…ハァ…」……破裂寸前の肺に、頭のてっぺんから爪先まで真っ赤な全身、そして息切れ。
スタミナが擦り切れる中、古見さんは思い続け、そして願い続けた。
────只野くん………、只野くん………。とヘルプコールが心中何周も駆け巡る。

ただし、マラソンには必ずしもゴールというものがある。


「………〜〜…。…ぁあ、あぁぁ〜〜〜〜っ!!!!! もういいっ!!!! ──これでオシマイっ、喰らえ古見さん!!!!」

『──あっ!』


 痺れを切らした鬼が、ぶん投げた物は、支給武器であるイチローのバット。
大リーガー直筆サイン付きの逸品は贅沢にも投げ飛ばされると、


 ドボォッ

「〜〜〜〜!!! ────きゃっ!???!」


ミット────と言うよりもミート《肉体》。
古見さんの背中目掛けてきれいに吸い込まれていった。
その硬いアオダモが頭部に当たらなかったことに関しては幸と言えるだろうが、衝撃故に古見さんは転倒を余儀なくされる。


「…………いッ…………………………………──」


「──…………ぁっ…………!!!」


「…ハァハァ──」


「──やっと…ゼェハァ………。やっと追い付いたよ古見さん…………。『バット投げとか早●のリスペクトかっ!!』 ってツッコミは禁止カードだからね…………。ハァハァ、あのプレイはロッテファンからもタブーみたいなものだからさ………………」



そして、古見さん同様静止する一つの影。
真夏の日差しで、その妖影が揺れる中、自転車から降りた鬼はバットを拾い上げる。

499『Perfect Grilです。』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/24(月) 20:45:33 ID:dhp0Q9MA0
『(まるで皆知ってて当然のようにロッテネタを振ってきた。さすがコト。言動揃ってドン引きだ。)……………あぁ、こ、古見さん…──』

『──コト…。いい加減にしないと私も怒るよ。人に迷惑だけはかけない優しいコトだったのに…(…あ、普段から迷惑者の部類だった…。)…どうしてこんなことしてるの……』

「……ハァハァ…………。ハァ……、その迷惑が、……正義だったりすることもあるんだよ伊藤さん………………」

『(……あ、これ多分「例えるなら〜」に続いて、過去の迷惑かけた偉人の知識披露するパターンかも。)………………そんなわけないでしょ。怒るよ、ねえ』

「……ハァ、………例えるなら……、1997年の伊良部のメジャー挑戦に、そして例えるなら早川あおいのプロ入り──……パワプ●のね。後例えるなら…………──…、」

『(やっぱり。)…………』


 何だか有名人の名を挙げるのが止まらなくなった小宮山だが、彼女の言葉は一切古見さんには入ってこなかった。
綺麗な膝に生じた擦り傷に、打撲痕がにじむ背中………。一歩、また二歩と眼鏡が白く光る鬼の姿。

気がつけば、鬼は自分の目の前にて金棒を振り掲げている。
今にも振り下ろされそうなそのバットは、ペラペラと夢中で喋る「例えば〜〇〇」の乱射により辛うじて静止されていたのだが、
──圧倒的絶望と、未知たる『死』という体験を前にしたゾワゾワ感が古見さんを支配していた。


「………………っ………………………」


(なじみちゃん……。只野、くん………………)



「ハァハァ…古見さん」

「………ひっ!!」

「…小便は済ませたかい? 神様にお祈りは? 部屋の隅でガタガタ…、…………あーもう忘れた。とにかく、もういいよね?」

『……コトッ』

「じゃ、いくよ………。ハァハァ…、全てはロッテと智樹くんの為にっ………。………夢の為には犠牲がつきものだよ…」

『コトッ!!』


「おやすみなさいませ、古見さん」


ビュッ────と、無慈悲にも風を切るバット。
直前、今際の古見さんはノートとペンを手に取り何かを書こうとした様子だが、──これは命乞いを伝えたかったのか。
──それともダイイングメッセージか、────只野への遺書か──。


白球を弾き返す為だけに作られた硬いバットは、ガキンッ────と一発。

頭蓋骨を力いっぱい粉砕して、一人の参加者の命は尽きていった──…………。







古見さんノートには一言。
シンプルにこう書かれてあった。





────────{{えっ…}}

、と。





「…えっ」

「え?」


『……えっ(…なに…──)』

500『Perfect Grilです。』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/24(月) 20:45:47 ID:dhp0Q9MA0
 Sun glasses…。
バットが振り下ろされた先に居たのは、決して古見さんではない。


彼女の声にならない叫びが聞こえた──とでもいうのか。
振り下ろされる直前、古見さんの前に立ち塞がり、──そして打撃音を自身の頭で受け止めた参加者が一人。



古見さんも、小宮山も。
そして当然ながらスマホ越しの伊藤もが知らない、その彼……──いや、その『漢』の名は、



『(──この人《漢》………っ!! 誰…!?)………』



 ギギギ………

  グギギ……………



「ぐぅっ………!!!! があっ………!! …ぎぃいいいっ……………………!!!!!」



「「『えっ?!!!』」」




──────男。オトコ。漢が燃える。
──────それが運命(さだめ)よ、【漢-otoko-】。


T京大学ラグビー部元主将・『堂下浩次』。その人であった。




「……いや………。いやいやいや……、おかしいって………………。なんなの……。いや誰だよっお前はァアっ!!!!?」

「ぐうっ……………!!! うぅ、うぐっ…………!! くう………………………っ!!!」

「はぁあっ??!!!」


 突拍子もなく現れた救世主に声を荒げる小宮山。無理もなかった。
ただ、彼女のアタフタ震えるツッコミは堂下という漢には一切届いていない。
頭蓋骨にはヒビが入り、急速な脳出血。
外傷からツーーッ、ダクダク…と鮮血がこぼれ落ちる堂下の顔は見たままに真っ赤っか。
ワナワナと震えながらと堪える歯の動きは、それはもう想像も絶する激痛であっただろう。

────だが、しかし。
堂下という『漢』が小宮山の言葉を無視した理由は痛みなんかではない。
漢の血走る目からは、熱い結晶液が漏れ出ていた。


「…………白刃取り…………っ。それを…やるつもり…………だったが………、…ぐうっ…………………!! ミスっち………まったな…………………」

「は、はぁ??!!」

「はぁ…はぁ……………。ぐうっ…………。お、お前…………っ。メ、メガネ娘……………。聞かせてくれ……っ。──『スポーツ』は………好きか…………?」

「ヒッ!!? す、スポーツ…………?! わわ、わ、私は野球が好き…だけど………」

「…野球………だとっ──────?! はぁ、はぁ…………──」

「──うっ…、うう………、ぐうぅうっ…ぃぎぎぎいっ……!!!!!!」

「ひ、ひぃい!!!!」

501『Perfect Grilです。』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/24(月) 20:46:02 ID:dhp0Q9MA0
『野球』という単語が漢には逆鱗だったのか。
小宮山の言葉を聞いた途端、堂下の目つきが鋭くなり始めた。
見ず知らずの男、とはいえ、奴の尋常じゃない睨みと、圧。そして「な、何で倒れてすらいないんだ…」という不可思議さ故に、小宮山はビビり散らすしかもうできなくなっている。

無論、堂下の圧に圧倒されたのは、この場に居合わせた他の者達も同じ。
膠着状態の古見さんと、「(…あのコトを借りてきた猫みたいにするだなんて………。この人、すごい…)」──だなんて開いた口が塞がらない伊藤と。

そして、遅れて駆け付けてきた殺人ニワトリと。


「あ、アニキっ??!! …テメェー何しやがるんだこのアマァァッッ!!!!! ぶち殺すぞゴラッ!!!!」

「ひいっ!!!!!!」


ナイフを振り回しながら接近してくる殺マスクの男……。
そのパッと見で分かる超危険人物の乱入に、小宮山はすっかり戦意喪失をしていたのだが、──殺人ニワトリに構わずと、堂下は怒りの言葉を発した。

バットをギュッと握りしめて────。


「ひ、ひぃいっ??!!!」


「ふざけるなよお前………………っ。野球の……どこ…が……っ、スポーツなんだ……………」


「へ?? は、はひぃ…??!!」

「あ、アニキっ……………?!」


「…あんな……二時間も……試合を…して、選手の……………大半…がっ………ただ立ってるか座ってるかだけの…………。何が…スポーツなんだっ………………!! あんなのは………スポーツなんかじゃないぃっ……………………!!!」

「へ、ひっひぃぃ…………。論点………ソ、ソコでふか…………?!」


「俺は……はぁ、はぁ、…最大に怒っている…っ。過去一番に…キレてると言っても…………過言じゃねぇ……………っ!!!」

「ひいっ!!!!!!!!」

『(す、すごい。コトが…臆している…っ!!)…』


ジリジリと交代していく小宮山。
戦況的絶望と、堂下からの圧迫感からすっかり手からはバットがこぼれ落ちていたのだが、──地面にバットが着地する音は聞こえない。
漢が握りしめる木製バット。
そいつはミシミシと音を立てていき、やがてヒビが生じる。


 ──ピシッ


「ひひゃあぁ…っ!!???」

「……いいか。スポーツっていう概念は……………、チーム全員が…互いにっ…!! 汗を流しぶつかり合い…、相手にリスペクトを持ちつつ……全力を出す……………競技のことだ……………っ──」

「──それこそがスポーツ……………!! 熱き魂のぶつかり合い…なんだっ……………!!!」


ちなみに、木製バットの硬度は公式に5,500kgf/mm2。
これは身近なもので例えると、iPhoneやリンゴと同等の硬さなのだが、『怒れる筋肉漢』にそんな細かい事は関係ない。


「分かるかっ…………!! 分かるかっ、メガネ………………!!!」

「え、ええ、ぇぇわ、まったく分からないす…………」


「そしてスマホ画面の二つ結い娘も………っ!!!」

『え、私もっ?!』

502『Perfect Grilです。』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/24(月) 20:46:18 ID:dhp0Q9MA0
五本指と掌の鍛え上げられた毛細筋肉繊維が急激に膨張し、強靭な握力へと変換される。
憤慨と、悲哀と、そして何処か満足気さと。

色々な物が籠もったその手の圧力を前に、握りつぶせる筈のないバットはとうとう──、


「つまりはラグビーだっ────…………………!!! ラグビーをすればお前も……、変われたんだっっっ────……!!!!──」

「──…うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!!!!!!!」


 ────バキッイイイッッッ、バキバキバキバキ…


「ひいいいいいやああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!???!??!!!!!!」



 ──バキンッッッッ────。



──男気注入。


──とうとう、バットはただの木片と化し、

──それを合図に、小宮山は猛ダッシュで敗走へと勤しんでいった。


「…うわあああああああああ!!!! ぁぁぁぁぁぁぁ…………ひゃぁぁぁぁ………………」

『コ、コト!?』



「…あ?!! 待てやコラ!! アマァッ!!!!!」


隙だらけの背中を見せ逃げる小宮山に、負けじとニワトリも追う素振りを見せたが、単純思考な彼には珍しく行動を一旦止めた。


「…って、ンなことしてる場合じゃねぇ………!!!──」




「──あ、アニキ…………。堂下アニキ………!!!」




渋谷河川敷で発生した、地獄の鬼ごっこ。

朝焼けが包み込む中、あとに残されたのは。

503『Perfect Grilです。』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/24(月) 20:46:33 ID:dhp0Q9MA0
ほぼ放心していた古見さんと、




「………ぁ、あ……………………」




殺人ニワトリと、




「ぁああ、ああっ……。アニキ………………アニキィイ…………………………」



────ゆっくりと、どこか満足げな笑みで倒れていった屍の。



 バタンッ……………。


「…………………」





三人のみであった。





「…いや……待ってくれよォ………………。目開けろや…………──」


「──…ああああああぁぁぁっ!!!!! 堂下アニキィイイイイイ───────────ッッ!!!!!!!!!!!」



【1日目/G4/河川敷/AM.04:33】
【小宮山琴美@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!】
【状態】恐怖(大)
【装備】なし
【道具】スマホ
【思考】基本:【マーダー】
1:やばい『漢』(堂下)から逃げる…。
2:優勝の願い事でロッテを優勝させる。自分を黒木智樹くんが惚れるような女にさせる。
3:伊藤さんと通話しながら行動。

【エリア外】
【伊藤さん@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!】
【思考】基本:【対危険人物→小宮山琴美】
1:コト(小宮山琴美)の暴走を止める。ついでに解説担当。
2:あの漢は一体……。

504『Perfect Grilです。』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/24(月) 20:46:49 ID:dhp0Q9MA0



 ドン、ドン、ドン、ドンッ

 

頭部損傷に寄る出血多量────具体的な死因は、以上の通り。
後頭部から血溜まりが伸び、血濡れの顔面と白目を青空に向ける“漢”堂下浩次。
見知らぬ美女を損得勘定抜きで助け、そして犠牲となった英雄は、こうして全身の機能を停止していった。
彼は、バットで頭を一撃され、死にいったのだ────。


「生きろッ!!! あぁあああっ!! 死ぬな、死ぬな死ぬな死ぬな……!!! 早く直れやこのクソがッ!!! アニキぃいい!!!!!」

「…………!! っ、ぁぁ………………」


 だが、そんな死を認めてたまるものか──と。
漢の熱心な崇拝者である殺人ニワトリは、懸命な『心臓マッサージ』を続けていった。


 ドン、ドン、ドン、ドンッ


スーツを破り、大きくはだけた胸筋に向かって行なわれる強打の幾多…。
人名蘇生の基礎すらも知らない、帝辺高校問題児のニワトリ故に、その心臓マッサージはメチャクチャな手法であったが、それでもニワトリは心臓圧迫を辞さなかった。

絶対死なせない、

死なせるわけにゃいかない、

と。

しかしニワトリの必死さも虚しく。彼を嘲笑うかのように後頭部からは流血が止まらない。


「あぁもうクソがっ!!! マジやべぇ、クソやべんだよバカ野郎ッッ!!!! 生き返れ、生き返れやッ!!!!!」


もはやマッサージ如きでは話にならないと思っただろうニワトリ。
手を止めた彼は、デイバッグからインシュリン注射を取り出し、天高く掲げる。
無論、針の行く先は胸部。
ブスリッ────と、もはや刺殺する勢いでめいいっぱい心臓を串刺し、内容液の注入を開始。


「………………ぇぅっ……………!!」


針が思いっきり肉に食い込むその光景は、憔悴しきった古見さんでさえ目を逸らすほどのものだった。




 ドン、ドン、ドン、ドンッ
────心臓マッサージの再開。


「アニキ………、アニキィッ……。あんた言ったよな……。『もしもの時はこいつを使え』って……………!! 俺、忘れてねェからッ……。覚えてたからよッ……………!!!」


 ドン、ドン、ドン、ドンッ


「そ、それにィッ………。あんた言っただろ…言っただろうがッ……!!! ここから出た後は………、参加者全員で草ラグビーをするって……………。ニワトリ、お前と汗を流したいって………………!!!!」


 ドン、ドン、ドン、ドンッ


「だから死ぬんじゃねェよタコッ!!!! アニキ…アニキがいなくなったら、俺と…古見様はどうすりゃ……、ぐっ………!!! どうすりゃいいんだよォオオ───────ッ!!!!!」


 ドン、ドン、ドン、ドンッ


「答えろ、答えろよッ!!!!──」


「──アニキィイイイイイ───────────ッッッ!!!!!!」



 ドン、ドン、ドン………

505『Perfect Grilです。』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/24(月) 20:47:05 ID:dhp0Q9MA0
「……頼む。答えてくれよ………、アニキ………」



後頭部の血溜まりが、涙するニワトリの膝下を赤く染め上げていった。



「くっ……………。俺は…無力だ…………。一人じゃ何も出来ねぇチキンオアビーフだぜ…………。畜生ッ…、畜生ォッ………!!!!」

「…………………っ」

「うぅ…………。もう……仕方ねぇ……………。──おいっ古見様!!!!」

「……!!」


 唐突に名指しされ飛び上がる古見さん。「本当は避けたかったが…仕方なかった」──と後にニワトリは語る。
というのも、堂下アニキの死を受けて、激しいパニックのニワトリ脳内はこの諺が支配していたのだ。
『二人集まれば文殊の知恵』。
今の状況にて要約するならば、「悪いがお前も救命に手伝え。つまりは、自分はマッサージしているから、古見様は『人工呼吸』をしろ」と。
ニワトリは色んな感情が籠もった震える声で、古見さんに命令した。


「…本当は、こんな可愛くてやべー美しさの古見様にやらせたくねんだがよ…………。あいにく…ッ、俺はホモじゃねェッ!!!」

「…………っ!?」

「……じんこーこきゅー、って要はキスじゃねェかよッ………。俺がもしアニキにそんな真似したら………、好きになっちまうッ…!! 男としてではなく、『一人の人間』として愛しちゃうんだよッ……………!!!!」

「……ーーっ…」

「そんなのアニキに失礼だから……。だから頼むッ!!! ホモを呼んでくるか、それとも力を貸してくれッ!!!!──」


「──ひっ、ぐぅ………!!! 堂下アニキに……じんこーこきゅーを………。頼む、してくれ……ッ。この通りだ古見様………………!!」

「……………………っ……。……」


古見さんとニワトリとで、面と面が向かうことは無かった。
何故なら、ニワトリが死体の胸上でズリズリズリィ──と土下座をしているのだから、合わせられる筈がないのである。
男同士でチュゥはしたくないと、殺マスクで口を覆う彼は話したが、それは女子である古見さんとて同じ。
断っても良かった上に、仮に人工呼吸をやろうと考えていても、こうも人工呼吸=キスを強調されてはやる気など削がれるものだった。


だが、断らない。
それは断る勇気がなかったとかそういう物ではなく、やらなきゃいけないという固い意志が古見さんにはあった。

──自分を助けてくれたこの人を、──見捨てられない…………。────そんな想い。


「……………っ!!」

──{{分かりました。}}



「…!! あ、ありがてぇ………っ!!! ありがてぇぜ、すまない古見さん…ッッ!!!!」


心優しく、他人の痛みは分かる気持ちの彼女だ。
何のためらいもなく、まずは一呼吸。


「…………………すぅ…」


死体のそばに跪き、長い髪をかきあげると古見さんは口元にチュっと。


「…………っ」


天使の息吹を堂下へ注いでいった────。

506『Perfect Grilです。』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/24(月) 20:47:21 ID:dhp0Q9MA0


……
 “浩次。何やってるのよ。”

 “あなたはまだここに来ちゃいけない。早く戻ってラグビーをしなさい。ね。”


「………………お袋……」
……




「はっ────────」


「「………………っ!!!」」



しかし流石は見る者全てを惚れさせる特性の古見さんというわけか。
その艷やかな唇が重なった次の一瞬。
まだ息一つも吹かずというのに、堂下は永い眠りから目を覚ました。




「……ッ!!!! あ、アニキ…………。アニキィイイ!!!!!」 「……っ!?」


「こ、ここは………………。──ぐっ!!!」


 蘇生した先にて視界に広がったのは、驚きの表情を隠しきれない美女と、そして犬のように飛びついてくる弟分の姿。
感涙を撒き散らしながら抱き着くニワトリの感触と、ズキズキ鈍い頭部の痛覚を感じながらも、状況整理を試みる堂下だったが、
その点は流石帝愛の理不尽面接を通過した堂下だ。
自分が息絶えたこと、自分が蘇生を施されたことと、そして生き返らせた人物がかの二人であることを瞬時に理解し、そっとニワトリの頭を撫でた。


「……フフッ………。お前ら…………」

「アニキィィィイイ〜〜〜〜〜〜!!! うわああああんアニキィィィィ〜〜〜〜〜!!!!」


「…悪い。………迷惑、かけたなっ………、ニワトリ。そして、…う、美しすぎる貴方様もっ…………。…本当に有難う…………っ!! 有難う………っ!!」

「礼はこっちがしたいくらいだぜぇ〜〜!!! アニキぃ〜〜〜〜〜〜!!!!! おぉぉ〜〜〜〜ん………!!! おおん〜〜〜!!!!──」

「──あ、紹介するぜっ。この美女の名前は古見様っていうんだ…アニキ!! アニキは古見様のチュー一発でザオリクされたんだよっ!!! マジやべーだろ?! おい!!!」

「……あ? …古見、さま……………?」

「……!」
→{{古見硝子です。…本当に申し訳ありませんでした}}

「…………。………あぁ…、ああっ!! 気にしないでくれ、古見……様!!! とにかく古見様も…本当に有難う!!!! 有難う、みんな………………っ──」



「──…いや、待てよニワトリ。お前…、俺が死にかけてるときに済ませたのか…………? 彼女と、自己紹介を………」

「あ。…………………──」



「──まっ、いいじゃんそういうの!! なぁアニキ!!! ここで会ったのも縁ってヤツだぜ!!! 俺等で古見さんを守ろうじゃねぇか!! おい!!!」

「だなっ!!!」



 ややギクシャク感は発生したが、ともかく。
古見硝子という存在が呼び寄せた破天荒二人組。
そして、現在殺し合い下に置いて新結成された『古見様親衛隊』。

彼ら凸凹三人組がこれから一体どんな運命を歩むというのか。
加えて、古見様親衛隊はどれだけ勢力を拡大していくのだろうか。
無論、新生古見様親衛隊の行く末は、今はまだ神のみぞ知る状態に留まっているものだが。


『一つ』だけ、はっきりと断言できることがある。

507『Perfect Grilです。』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/24(月) 20:47:36 ID:dhp0Q9MA0
「……あぁ〜〜〜っ!!! にしても鬱陶しいな……っ、頭の痛み……」

「あっやべぇ!!! だ、大丈夫かよ?! アニキ!!!」

「………。……面倒臭ぇけど……やるっきゃねぇよな………」

「……………?」
→{{な、何をですか?}}



────それは、堂下浩次という漢の『最強伝説』に1ページが加わったという事だ。


「…悪い、ニワトリ。そのナイフを貸してくれ」

「え? まぁいいけどよ………。一体何に…──…、」

「──なぁっ!?!????」 「!!????」


 堂下は「ぐうっ…」と強く歯軋りをしたかと思えば、鋭利な刃先を自身の頭部へ滑らせる。
溢れ出る鮮血に、とんでもない激痛。
切れ味よくスーーッと頭皮に切れ込みを入れた彼は、頭髪を両手で力一杯握りしめると─────ブチブチメリメリメリメリィッ、ブチィッ。
己の頭皮を引き裂いて、赤黒い頭蓋骨を大胆に露出し始めた。


「T京ぉおお…ぉぉ……ッ、魂ぃいいぃい………………ッ」

「………うぷっ!!!? げえ…」 「……ぃぃぃ、……ぇ……………!!!」

「いぎぎぎぎぎぎぃいいっぎぎぎいいいいいいっがああああぁぁぁぁあああああっ」


鼻息荒く、歯から血が滲むほど『気合』のみで痛みに堪える堂下は、デイバッグからアロンアルファを取り出すと、ヒビ割れた部分に直接注入。
メリメリメリ………。接着剤が乾くのを待たずして、分断された頭皮にもアロンアルファを塗り込むと、無理矢理に繋ぎ合わせていった。

これで『応急措置完了』、と言いたげな様子でふぅ〜と息をつく漢・堂下。
さすがのニワトリとはいえこの漢っぷりはドン引き以上の大ゲロを吐くこととなったが、苦悶の二人なんか堂下の目には映っていない。
血濡れの顔をタオルで拭き取ると彼は二人に一喝。


「…フゥ、ハァハァ……。大丈夫だ、『身体に受けた傷はすぐ直るが、心の傷はずっと残る』……偉大なる名言だからな………っ!!」

「……あ、アニキ……………」 「…→{{…え。どういうことですか?}}」


「うっし行くぞ!!! ワンチーム…、古見様親衛隊活動の第一歩をな……!! 休んでる暇はないぞ! うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

「……お、おお。おおお!!!!」 「………………〜っ」



ラガーマンとして特攻し続けた彼の強靭な肉体、そして精神を物語る────【堂下浩次最強伝説】の伝記。
その1ページがまた追記されるのであった。

508『Perfect Grilです。』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/24(月) 20:47:56 ID:dhp0Q9MA0



………
……



「それでは………三、二、一……………──」



「──ミュージック、スタート…………っ!!」


 サングラスをスチャッと。
堂下は上記の動きを見せた後、それを合図に音楽が鳴り響いた。

ニワトリのSpotifyから流れるは、まるでジムで流れているようなアップテンポの曲。
低音が地面を震わせ、ビルの窓ガラスが共鳴する。


 ♪ドゥンッ、ドゥクドゥクドゥンッ
 
  ♪ズンチャチャ、ズチャ…


「……クククッ」

「ははは、はははは…!! アニキ!!!」


「あぁ行くぞっ…! 弟よ!!」

「押忍ッッ!!!」


男二人はポキポキと指を鳴らし、一歩前へ踏み出す。


渋谷全体に響き渡るこの曲────。
この爆音の正体は何なのか────。
そして、今ここで何が始まるのか───。

荷車にて古見さんがワナワナと震える中、渋谷の朝に、ただならぬ空気が満ちていく。



唯一の常識人、古見さんがその手に持つ──いや、持たされた本のタイトルは────、


──────三嶋瞳著『私だから伝えたい ビジネスの極意』だった。

509『Perfect Grilです。』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/24(月) 20:48:18 ID:dhp0Q9MA0

……
………

 ♪ズンチャッチャ、チャチャチャ、ダダン

  ♪ズンチャッチャ、チャチャチャ、ダダン

   ♪ズンチャッチャ、チャチャチャ、ダダン

 ♫ズンチャチャン↑、ズンチャチャン↑



────【FIRST TAKE】

【♫『Perfect Girl Mishima 👁️ Hitomi』】

【堂下浩次 feat.殺人ニワトリ】

ttps://youtu.be/4Bh1nm7Ir8c

-------

510『Perfect Grilです。』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/24(月) 20:48:34 ID:dhp0Q9MA0
♫(三嶋書いた、情熱なくして仕事はなーしッ!!)

♫(三嶋書いた、仕事には必ず熱意と情熱が存在するゥッ!)


♫(三嶋言った、そのビジネスの頂点は自分自身ッ!! そうShow the Temple!!)

♫(彼女が法であり世界の支配者ッ、俺等はもはや三嶋先生にビビるしか無い愉快な心配者ッ)


♫(勝ち抜きたいな渋谷で死闘!! 君と見たいなお月見しよう!! 仲秋!! 郷愁!! 死臭?! I LOVE YOU!!)
♫(みんな持ってるコモンセンス!! 薬で打ってるバリーボンズ!! 俺達ゃ踊るぜコミダンス!!! 三嶋の本は神センス!!!)
♫(精神崩壊!! トネガワ新田マジ惨敗!! オーライ!! まだまだ諦めては無い!! イクラを食おうゼ、すしざんまいッッッ!!!)


♫(参加者全員崇める準備はいいか?) ♫(生還するため運気はほしいか?)

♫(さあみんな天に手を掲げて) ♫(そして今こそ読めよ、そして刮目、瞳の本ッッ!!!!)




♫(恐れるなぁ〜〜、驚くなぁ〜〜)



♫(三嶋ッ!!!)

\Three Island!!/


♫(瞳大先生ッ!!!)

\Great Teacher EYE!!! four〜!!/




♫(その気合と〜〜、魂を〜〜…──)


♫(──今ッ!!!!!)


♫(──ささげようぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお…!!!!!)





シン………。


「─────Hitomi, lolipop Perfect Girl」

511『Perfect Grilです。』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/24(月) 20:48:53 ID:dhp0Q9MA0
♫(MI・SHI・MAッッ!!!! MISHIMAッッ!!!!)

 ♫(MI・SHI・MAッッ!!!! MISHIMAッッ!!!!)

  ♫(MI・SHI・MAッッ!!!! MISHIMAッッ!!!!)



「─────Hitomi, lolipop Perfect Girl」


♫(We〜〜〜〜、Living 渋谷!!!!)

♫(MI・SHI・MAッッ!!!! MISHIMAッッ!!!!)


「─────Hitomi, lolipop Perfect Girl」


♫(We〜〜〜〜、beliving new world!!!!)

♫(MI・SHI・MAッッ!!!! MISHIMAッッ!!!!)





「─────Mishima Hitomi, 【Perfect Girl】」






「「…うひょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」」






「「三嶋瞳大先生、バンザァァァァァァァァァァイイイイイイイッ!!!!!!! バンザァァァァァァァァァァァイ!!!!!!!」」










スラスラスラスラ…

「…………………………?」
→{{宗教…?}}




【1日目/E4/河川敷/AM.05:00】
【古見様親衛隊〜よっしゃあ漢唄〜】
【古見硝子@古見さんは、コミュ症です。】
【状態】膝擦り傷(軽)、背中打撲(軽)
【装備】コルク入りバット
【道具】古見友人帳@古見さん
【思考】基本:【対主催?】
1:なんだか漢達に振り回されています……。
2:只野君たちに会いたい…。
3:小宮山さんに恐怖…。

【堂下浩次@中間管理禄トネガワ】
【状態】背中出血(大)、頭蓋骨損傷(大)
【装備】なし
【道具】どこかから盗んだ荷車、本『私だから伝えたい ビジネスの極意』
【思考】基本:【対主催】
1:三嶋瞳大先生にお会いして、忠誠を誓う。
2:殺し合いを終わらせる。
3:Never give up。ニワトリ、古見様と共に最後まで諦めない……っ!

【殺人ニワトリ(山中藤次郎)@ヒナまつり】
【状態】健康
【装備】サブマシンガン、100均ナイフ
【道具】拡声器
【思考】基本:【対主催】
1:堂下アニキに一生ついていく!!
2:新田…ぶっ殺すぞっ!!
3:古見様、お美しい…………。
4:みしまひとみって相変わらず誰だ??!!

512 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/24(月) 20:52:07 ID:dhp0Q9MA0
【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ】
①平成漫画ロワではダンジョン飯を除いて全作品同一世界という設定です。
②大半の作品が現代日本を舞台にしているので、異世界設定にする意味はないと考えたためです。
③つまり、平成漫画ロワは『ダンジョン飯 異世界編』とも別名がつけられますね。

【次回】
『古見さん親衛隊の活動報告書です。』は明日20時から21時のどこかで投下。

513『古見様親衛隊の活動内容報告書です。』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/25(火) 20:01:54 ID:Lz7gUJNw0
[登場人物]  [[古見硝子]]、[[堂下浩次]]、[[殺人ニワトリ]]

514『古見様親衛隊の活動内容報告書です。』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/25(火) 20:02:08 ID:Lz7gUJNw0
『バタフライエフェクト』……。

あの時、小宮山さんに襲われなければ、こうして二人と出逢うことはなかったでしょう。



 只野くんへ。
この度、古見友人帳に新たな二つの記名が…!
バトル・ロワイヤル下において、私に友達が二人できました…!
一人は堂下浩次さん。【────堂下さんは、熱血男です】
もう一人は殺………、ニワトリくん。【────ニワトリくんは、殺マスクです】
二人とも、少し癖が強い方々なのですが、とても優しくて勇敢で、そして“夢”に向かって邁進を続ける──漢の鑑といった彼らでした。
その、堂下さん達が抱く“夢”…なんですが、参加者の三嶋瞳社長(?)に会うことを強く渇望しているそうで、私は今彼らに振り回されている……といった形です。

三嶋…瞳ちゃん……。
どのような方かはまだ分かりませんが、ここまで来ると私も会って友達になりたくなってきました。
──…もしかしたら、只野くんと一緒に行動しているの、かも…………?



…只野くん。

貴方が今どこに居て、何をしているのか。
それが分からないだなんて本当に辛くて、苦しくて、堪らない気持ちです。
友達がいなかった私に、最初に声をかけてくれて、──そして唯一無二の親友になった只野くん。貴方へ。
この広い街の中で貴方を見つけ、──それとも、見つけられることを切に願っています。



……お願いです。

只野くん………………。

助けてください……。





 一体どうやったら、彼らを落ち着かせれるのか…。

私に教えてください……………………………。





「三嶋ァ!!!! 三嶋三嶋三嶋三嶋三嶋三嶋…三嶋瞳──────!!! いるんなら出てこいやっ!!!! アニキが貴方様にお会いしたいようだぜ〜───────っ!!!!!」

「三嶋大先生ェ───────!!!!! 私ですっ……!! 私っ…!!! 貴方様の熱烈な信者であるこの堂下めに………、どうかそのお姿をぉおお──────!!!!!!!!!」


「〜〜〜〜…………………っ!!!」




 三嶋ちゃんの本で山積みの荷車にて。
…私は今や震えるしか行動できません…。

この状況…、会話が苦手じゃない一般の方なら、普通どう行動しているのですか……?
私は……どうすればいいのですか…………?


ヘルプ、ミー……。

…只野くんっ………………。

515『古見様親衛隊の活動内容報告書です。』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/25(火) 20:02:23 ID:Lz7gUJNw0



『古見様親衛隊の活動報告内容です。 #057-A』




 バババババババババンッ──────


 コンビニの自動ドアガラスに走る、無数の銃弾跡。
その後、


「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!!!」」

「………〜〜〜〜〜〜っ!!!!???」


 ──ガシャァァァアアアアンッッッ!!!!───────


ガラスを粉々にタックルして、ダイナミックに堂下さんらは入店。
荷車を激しく揺らし、商品棚をたくさん倒しながら、堂下さんはコピー機へと全力疾走するのでした……。


「よし……っ!!! ニワトリ、金は俺が担当する……!! とどのつまり、俺の百円玉が尽きるその時まで………、お前はコピーし続けろ………っ!!! 灰になるまで……!!!」

「押忍ッ、大蔵省ッ!!! 俺の力の見せ所だ!!! コピーしまくって…行く末は……、コピーしまくるぜぇ!!!!!!」

「あ、それと。古見様………!!!」

「……っ!??」

「貴方様も是非、お力を……っ!! 身を粉にして玉砕する我が弟に………。声援をどうかください…………!!」

「………っ!!!? ………………──」


「──………が…ん、…がんば………ががば…………──」



「──…がばばばばばばっ、ばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばば…」


 ──ガーッ、シュバババババババババババババババババ…………


「おおっ!! 古見様の応援が通じてか、大量印刷が止まらねェ〜ぜ!!! まじやべぇ!! だははははっ!!!! ウケる!!!!」

「まるで確変……っ!! パチンコの…、確変………!! 喝采だっ!!! 沼が泣いてるぞ…っ!!!」



堂下さん主導のもと、ニワトリくんが印刷しているものは、…『新田義史さん』の顔写真です。
慌てた様子でカメラを遮ろうとしている、その表情の新田さん。写真下部には『この顔見たら110番。笑 こいつが新田だ!!!!』という赤い文字が……。
取り出し口から溢れ出てくるA4サイズの新田さんの波は、まさに大洪水級でした…。


「よしっ……!! もう十分だろう」

「ぁああ?!! アニキ、まだ足りねぇよ!!! もっともっと印刷して、参加者共に新田の恐ろしさを知らしめねェと……──…、」

「…いや聞け。…お前な…、どう思う………? この新田の山を見てさ……………」

「…あ? ………。……──」

516『古見様親衛隊の活動内容報告書です。』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/25(火) 20:02:34 ID:Lz7gUJNw0
「──確かにバリきめぇな!!! うしっ、ンじゃばら撒くぞぉ!!!!」

「ああ………っ!!!」


二人は手一杯に新田さん手配書を抱えると、たちまち外へ。
両手を大きく広げてバサッ──と。


不幸にもその時たまたま、ものすごい強風が吹き荒れたので、遠く広く。
何百枚にもなる新田さんは、渋谷中へと、夏空を舞い上がるのでした………………。

517『古見様親衛隊の活動内容報告書です。』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/25(火) 20:02:51 ID:Lz7gUJNw0



『古見様親衛隊の活動報告内容です。 #057-B』


 ガラガラガラガラ…。
荷車を手押しする熱血漢二人。
渋谷駅近くに来た折、堂下さんらは何を思いついたのか。唐突に服を脱ぎだすと……、


「………………っ!??」


「…クククッ……。さすが弟分。俺と考えることは一緒だなっ………!!」

「あたぼうだ!!! それが兄弟ってモンだぜ。一連たくしょー二人っきりの〜〜♫ 運命きょーど一体〜!!!」

「よし!!! 行くぞっ…!!」


唯一肌に身に着けている、パン……、…下着に……それぞれ『三』『嶋』と筆で書いて、線路内に侵入しました。


「「うぇぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜い!!!!!!──」」


「──古見様!! 俺等をスマホで撮ってくれや!!! あとでツイッターにあげるからよ!!!」

「はい……っ!! ピース………!!! にいっ!!」


「………………………〜〜〜〜〜…………!!(ガクガクガクガク」


 ────パシャッ



場面切り替わって次は吉野家。
ソースの入れ口を鼻穴に突っ込み、変顔をするニワトリさんの額には『三嶋瞳万歳』の文字が…。


「あっぷっぷ〜〜〜〜!!! はい古見様撮って撮って!!!」


「……〜〜〜〜……!!(ガクガクガクガク…」


 ────パシャッ


退店後。
燃え盛る電柱を見て……──というより、自ら放火し、文字通り炎柱と化したそれを見ながら……。
耳なし芳一のように全身『三嶋瞳』の文字で埋め尽くされたニワトリさんと、肉体美を魅せつけ汗を掻く堂下さんは先程同様ほぼ全裸……………。
ジッポライター(?)を持ちつつ、二人は満面の笑みでこちらにピースをしました…。


「渋谷の〜、」

「夏はぁ……、」


「「世界一熱いぜっ………!!」」



 ────パシャリッ……

518『古見様親衛隊の活動内容報告書です。』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/25(火) 20:03:03 ID:Lz7gUJNw0
……申し訳ありません…。
恐怖に負けて、言うことを従うしか私はできませんでした……。
注意をする勇気すらも出なかった自分が情けないです……。


「…ニワトリ。…俺の同僚に、海老谷ってヤツがいてな。そいつがかつて言っていたことを思い出したんだ──」

「──『悪名は無名より重い…………っ!』ってな。ヤツはツイッター運用に関してはプロだったよ…………」

「ぐうっ………。がぁ、ぐうっ………!! 感動するぜ…おいぃっ…!!!!」



……。
恐らく電柱よりも大炎上しているSNSの反響は、気が弱い私には見る勇気もありません…。

519『古見様親衛隊の活動内容報告書です。』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/25(火) 20:03:20 ID:Lz7gUJNw0



『古見様親衛隊の活動報告内容です。 #057-C』




 舞台は再びセンター街、私は荷車上。



 シューッ、カランカランカラ……


──【ミシマヒトミ 最強】

──【秒速で四十億稼ぐミシマ最強伝説】

──【三嶋瞳ッッ】


…上記のような内容を、標識からアスファルト上から、建物のシャッターに至るまで……。
街中色んな箇所に、ニワトリさんはスプレーで落書きをしていました…。


「…あ? おいコラッ!! …何をやってるんだお前は………っ!! 犯罪行為は流石に感心しないぞ………っ」

「………………………………っ……」


「ぁあ? グラフィティアートだよ。れっきとした芸術だぞゴラ!!」

「……ったく。何をやってるんだお前は………………。…やった事はもう仕方ない…。この辺でやめるんだ、ニワトリ………っ!」

「……チッ!!! 報われねェ努力だぜ……」


「…まあ、ただ、気持ちは分からんでもないがな。…ハハッ。荒くれ者だったお前が……これ程までに三嶋先生を崇拝するなんて…………。やった事は褒められんが大したもんじゃないか………っ!」

「……アニキ…」

「だが、──another case………!! もっとやり方がある…………っ!! こういう風に、な?」


そう言って堂下さんが荷台から取り出したのは一冊の本。…あの、『私だから伝えたい ビジネスの極意』です。
本屋さんを数軒ハシゴして、『私だから伝えたい ビジネスの極意』のみを山程抱えた彼らは、それをドサッと荷台に………。
汗だくになりながら、本を一冊五万円で参加者達に売ろうとしていたのでした………。

…つまり、私は今、本の山に埋もれている現状です……………。


「〜〜〜〜〜〜〜〜…………っ!!!」



「つうかアニキよォ〜。一冊五万って流石にぼり過ぎじゃねェのか??? 誰が買うんだよそれをよぉ」

「………ハハッ。何も、利益が目的じゃないさ──」

「──ただ、三嶋大先生の執筆なさったこの本は…それだけの価値があるっ…………!! 美麗、癒心、感銘………! 一文字一文字がもはや光に見える………!! この御本は、五万でも失礼なくらいさっ……………!!!」

「おお!!! さすがアニキ、そして三嶋瞳先生!!! よくわかんねぇけどマジやべぇぜ!!!!!」


「…………………………………。…………」



 グシャリッ──。

車輪がどこからか飛んできた新田さん手配書を踏み潰しました……。

520『古見様親衛隊の活動内容報告書です。』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/25(火) 20:03:33 ID:Lz7gUJNw0



『古見様親衛隊の活動報告内容です。 #057-D』



「おいアニキ!!! ──“【悲報】まーたバカがツイッターで犯罪自慢!!! 『ミシマヒトミ』って誰よ?www”────だってよ!!! 俺達の三嶋先生布教がまとめニュースに載ったぜ!!! うっひょやべぇ〜〜!!」

「ん? どれどれ。…おぉ、こりゃすごい……っ!! おいニワトリ、お前の顔写真がモザイク無しで至るところに貼られてるぞっ!!」

「おいおい〜、それはアニキも同じだぜ!! 有名人じゃんかよ!! 三嶋先生のお陰で俺達神じゃねぇか!!!」

「これはまさしく……。圧倒的大草原……!! ってやつだな!!」


「「ははははははははははははははっ!!!!! はははははははははははははははははは!!!!!!!!」」



 …………………………。
私もその登場人物の一人として晒されてるのでしょうか…。不安でもう涙が助けを求めてます……。


「………………〜っ(ガクガクガクガク」



 本屋、コンビニ荒らしに窃盗、器物損壊に放火………。
そして盗んだ荷車を走り倒す現在に至るのですが、私のバトル・ロワイヤルフレンズはまだまだ暴走を止める兆しは見せません…。
確かに今は『殺人』という重罪を強いられている状況ですが、だからといって何をしても許されるという訳ではないのに………。



…一体、何が彼らをここまで駆り立てたのでしょうか。

────…と、そう聞かれるとしたら、どう考えても『私だから伝えたい ビジネスの極意』が原因でしょう。



……──『ドグラ・マグラ』…。
読む者の精神を狂わせることで有名な著書を、私は連想してしまいます。
三嶋ちゃんの本もそういった部類なのでしょうか…。…一見はごく普通のビジネス本なのですが。
ニワトリくんらをここまでさせる、この本の魔力……。
どういった内容なのか一読してみたい好奇心と、「読んだら後戻りできなくなるよ!!」という本能的危険心が、私の心中で五分五分に戦いあっていて………、
…とても心が重苦しかったです。


「……………………………」


──堂下さんたちを咎められない自分にも嫌気が差して、情けなくて……。
本当に心が潰れそうになりながら、荷車の元、私はただ揺れ動かされ続けました。


「なあ、ニワトリ…。このバトロワが終わったらよ、帝愛にでも──…、」

「あ? アニ──…、」




「「…………あっ」」



 そんな折のこと。
荷車は唐突に静止…。
────『何か』を見つけた押し手二人によりブレーキがかけられたのです。

521『古見様親衛隊の活動内容報告書です。』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/25(火) 20:03:53 ID:Lz7gUJNw0
「……………おい。…………マジかよ……………」

「……ぐっ……。チッ、クソ……………」



「……────……っ!!!」



進路を妨げるかのように、道路上にて静かに『眠っていた』者。

………私たち三人の視界に入ったのは、名も知らない女の子の……………──亡骸でした。



「「「……………………………」」」



 ビュゥゥ────。どこからか吹いた微風。
その風により、女の子の髪が、まだ比較的『原型を留めている』顔半分を静かに撫でます。
…恐らく私や只野くん達と同い年で、恐らくごく普通の優しい女生徒で、そして恐ろしく…身体が爛れていたその子………。

硝煙の臭いと、血肉の焦げた空気……。

彼女がいつ、命を落としてしまったのかは分かりません。
ただ、ある日平穏な日常が『殺し合い』で失われた時、彼女はどう感じたのか、と。
そして、その悲惨な中で惨たらしく殺められて、最期の瞬間、彼女思ったのか、と。
……そう考えた時、主催者への義憤と女の子のへの無念さで、胸がグッ…と苦しくなり……、


「……………………」


私は声を失いました。



 …それはおちゃらけていたニワトリくんや、あの堂下さんも同様で、周囲は沈黙で押し潰されています。
私達と同じ、一人の参加者の『死』はそれ程までの衝撃と悲惨さがありました。

ニワトリくんは、暗い顔つきに変わり、黙って亡骸を眺め続け……、


「……………………」



そして堂下さんもまた静立………。
──いえ。よく見たら、彼の大きな背中は微弱に震えていました。
声は聞こえず…──恐らく歯を食いしばりつつも、堂下さんは涙を零していたのです。

志半ばに命を絶たれた────その女の子への、追悼の涙を………。


「…ぐうっ………。がぁ、ぐぐっ……………。うっ……………」

「あ、アニキ──……………、」


「ぐうぅっ、ぅうううううううううううううううううぅぅぅううっ…………!!!!!!──」

「…アニキ…?!」

522『古見様親衛隊の活動内容報告書です。』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/25(火) 20:04:14 ID:Lz7gUJNw0
涙を堪えきれなくなった堂下さんは、とうとう我慢出来ないといった様子で亡骸に急接近をすると。



「うぅがぁあああああああああァァァァァアアアアアアァアアアアアアアアッッ!!!!!!!!! ああああああああああああああああああああッッッ!!!!!!!!!!!」




 タタタタタ………

 ────ペラッ──


「……あぁ!??」 「……ぇっ…………?!!」



──女の子のスカートをめくり上げ、…真っ白な下腹部の下着をマジマジと触り出したのです。







……。

……………すみません、嘘じゃないんです。

…本当に、彼はそんな信じられないかつ、想定する限り最悪な行動をしだしたのです………。



「テ、テメェッ?!! 三嶋の本読みすぎてイカれたか?! この腐れ外道がアアアアアァッ!!!!!! ボゲ──…、」

「俺はッ─────………!!!」

「あぁ??!」

「俺は、…彼女を……、『四宮かぐや』を知っている…………………」

「…え??」


「知り合いとか……。そういうのじゃないが………っ。ぐうっ…………!! あの時、バスで………、早坂と四宮とで………っ! 俺は話をしたんだ………」


「え?」

「………ぇ…?」

523『古見様親衛隊の活動内容報告書です。』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/25(火) 20:04:35 ID:Lz7gUJNw0
…『あの時のバス。』とは即ちゲーム説明中の、数時間前のこと。
以下は堂下さんが涙ながらに語った回想です。



……
………
 ────やっ! 俺は堂下浩次! 帝愛ってブラック会社あるだろ? そこで働いてるんだ…! 君らは高校生かい?

 ──………。

 ──………………。


 ────なーんちゃって!!

 ──……え、何が?

 ──…堂下さん、何が「なんちゃって」なのかはサッパリですけど………。一言も冗談は言ってないのに…。


 ────ところで君たちは何かスポーツはやってる? どこの高校なんだ?

 ──…………………。

 ──…申し訳ありません堂下さん。……もういいですかね…?


 ────はははっ……!! スポーツは良いぞ!! 最近は女性のラグビーファンも増えて来てるから…、君らもやりなよ!!

 ──……………。


 ────クククッ…!! ハハハハッ!!!!
………
……




「ぐうっ……!!! だからこそ……俺は、怒っている………っ!!! かつてないほど、怒り、激昂、憤慨………!!──」

「──四宮を殺した………あのクズめが《主催者野郎》をっ…絶対許さない…………!!!」


そう言って、堂下さんが懐から取り出したのは一本のマジックペン。
油性の漆黒を、…四宮ちゃん…? にペチャペチャ書き殴ると、彼女の下着には────『瞳』という一文字が…………。



「あ、ぁアニキ…………………」



「とどのつまりっ…………!!! 今こそ……!! 殺し合いを終わらせる程の圧倒的カリスマ……──三嶋大先生の布教を始める時だっ!!!──」


「──死んだ四宮や……。どこかで泣いている早坂………っ!!! …それだけじゃねぇ。もう命尽きてしまった者たちや、危機に瀕している参加者の想いを背負って………っ!! 皆を助けるためにっ!!!!──」


「──俺達は俺達のやり方でバトルに抗う………っ!! …違うか?! 違うかァアッッ!!? ニワトリぃ………っ!!!」



「あ、アニキ……………。う、うっす!!!!!」

524『古見様親衛隊の活動内容報告書です。』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/25(火) 20:04:52 ID:Lz7gUJNw0
「俺は……、猛烈にやる気に漲っている…………っ!! もうこれは遊びなんかじゃねぇっ…………!! …血と汗と涙を流してもまだ足りない…真剣モードだっ!!──」


「──やるぞっ!!! 弟よっ……!!」

「押忍ッッッ!!!!」

「──撮ってくれっ!!!! 古見様っ……!!」

「っ!!??」



「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!!!!!!!!」」




 ────パシャリ………。


こうしてアップロードされた──ニワトリくん、堂下さん、…痛々しい死体の三人で完成された『三・嶋・瞳』のパンツ文字ガッツポーズ写真は、
とんでもないハイパー大炎上を見せ、堂下さんのアカウントは削除されていきました………。



…只野くん………。
これを読む頃には私はもう既にこの世には居ないのかもしれません。


…現に、私は目眩で頭が真っ白になっているのですから……………。

その白さといえば、夏の陽射しよりも、轟く入道雲よりも、…この世の何よりも真っ白で、もはや夢見心地でさえありました……………。



 バタリッ



「あっ!!! 古見様?!! どうしたんだ古見様ァアアアア!!!!!!!」






(以上、古見硝子所持。『古見ノート』六頁から十七頁までを一部抜粋)

525『古見様親衛隊の活動内容報告書です。』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/25(火) 20:05:06 ID:Lz7gUJNw0




……
………


 ボォォ………

  ボロボロボロ……………



 “…はぁ、はぁ……。その声……。お前……か…”



 “……はい。…ハァハァ、ぐうっ………”



 “……………お前が全て…やったんだな…………?”


 “はい。…我が親愛なる…、三嶋閣下…………っ!! 古見様親衛隊隊長となる、この私は………。貴方様の書籍に、猛烈に感動…ハァハァ…………。致しました……っ!!”


 “……いや、…もはや三嶋親衛隊でしょ…。はぁはぁ…。…………痛ぃ……ッ…”



 “お会いできて光栄です…。三嶋閣下…。私が貴方様を全力で御守りします。────仰せのままに”


 “………。……はぁ、はぁはぁ……──”






 “──…………お前は一体誰なんだ?”




───────【再開】。

526『古見様親衛隊の活動内容報告書です。』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/25(火) 20:05:23 ID:Lz7gUJNw0


【1日目/D6/東京ミッ●タウン周辺街/AM.05:46】
【古見様親衛隊〜よっしゃあ漢唄〜】
【古見硝子@古見さんは、コミュ症です。】
【状態】気絶、膝擦り傷(軽)、背中打撲(軽)
【装備】コルク入りバット
【道具】古見友人帳@古見さん
【思考】基本:【対主催?】
1:なんだか漢達に振り回されています……。
2:只野君たちに会いたい…。
3:小宮山さんに恐怖…。

【堂下浩次@中間管理禄トネガワ】
【状態】背中出血(大)、頭蓋骨損傷(大)
【装備】なし
【道具】どこかから盗んだ荷車、本『私だから伝えたい ビジネスの極意』
【思考】基本:【対主催】
1:三嶋瞳大先生にお会いして、忠誠を誓う。
2:三嶋先生の偉大さ、素晴らしさを全参加者、…いや世界中に知らしめる。
3:殺し合いを絶対に終わらせる…っ。
4:Never give up。ニワトリ、古見様と共に最後まで諦めない……っ!
5:四宮、すまないっ………!

【殺人ニワトリ(山中藤次郎)@ヒナまつり】
【状態】健康
【装備】サブマシンガン、100均ナイフ
【道具】拡声器
【思考】基本:【対主催】
1:堂下アニキに一生ついていく!!
2:新田…ぶっ殺すぞっ!!
3:古見様、お美しい…………。
4:大炎上しまくって照り焼きチキンみたいにコンガリなってやるぜぇ!!!うぇ〜〜〜い!!

527 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/25(火) 20:13:09 ID:Lz7gUJNw0
【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ】
①『第〇回放送』タイトルでキャラが死んだロワってありますか?
②ヘマンでは、少なくとも『第3回放送』で参加者が死にます。

【次回】
──あの日、我々は随分大きなものを掘り当てた。

──そう。この迷宮だ。

『sora tob griffin.』…センシ、なじみ、日高

528『sora tob horse』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/31(月) 21:12:37 ID:S3r/h/YE0
[登場人物]  [[センシ]]、[[長名なじみ]]、[[日高小春]]

529『sora tob horse』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/31(月) 21:12:58 ID:S3r/h/YE0

 わしの名はイズガンダの…センシ。
小さな坑夫団の一員だった。

鉱夫と言っても鉱石が目当てだった訳では無い。
戦争前の遺跡を探し、一攫千金を夢見ていた。

とはいえ、主な収穫は鉱石で、稀に歯車やレンズなどの遺物が見つかれば上々だったが、あの日────。
我々は随分と大きな物を掘り当てた。
黄金に輝く古代の城………


 そう、『迷宮』じゃった。



……

「………なじみく…ちゃん、スマホでずっと何見てるの? …一時間もスマホと睨めっ子してるけどさぁ」

「……『ボクは今渋谷肉横丁にいるよ!! 会えたら大歓迎ー!! 笑』…っと!!(ポチポチ) ──ん? 日高っち何か喋ったかい?」

「…いや、別に何だって良いんだけども………」


「あ〜メンゴメンゴ!! ほらっ、ボクってさぁ幼馴染ワールドレコーダーな訳だろう? だから、こうして『この渋谷にもいる幼馴染』達にもLINEしてるわけなんだよ!!──」

「──この多さたるや〜…もう長丁場っ!! 重労働この上なしだよ〜日高っちぃ〜〜〜」

「…(出た。なじみくん十八番の虚言癖……。)渋谷にいる幼馴染=参加者、ね〜………。…バカみたい…」

「おいおい〜ちょっと日高っち〜〜。ざっと数えただけでもボクの友達が五十人もここにいるんだよ〜? ホントだってさぁ〜!!」

「………………」

……



 闇の中で両目を爛々と輝かせ、吸い寄せられるように奥へ…奥へ…と進んでいく仲間たち。
野心家が多かったわしの仲間たちとはいえ、あの時の様子はかなり異常じゃった。
だが、そんな彼等の顔も…。──例え、おぞましく異様な目つきだったとはいえ、今ではもう見ることはない。
深い迷宮内に取り込まれたわしら坑夫団は、気が付けば食糧が底をつき。
…そして、食糧の後を追うように、一人…そしてまた一人。
胴体に『深い裂傷』を負って、故郷へと永遠に去っていった……。

 今、成長したわしならば、きっと仲間の死に嘆き果て、
きっと闘争本能と生存術を兼ねて、殺した相手に復讐を挑み、
そしてきっと、仲間を意味もなく殺戮した──忌々しき魔物『グリフィン』に斧を向けたことじゃろう。

じゃが、あの時のわしはまだ若かった。
鉱夫の中でも最年少。
成長していたとはいえ、仲間内からも子供扱いのわしだった。
それ故に、どれだけ仲間たちが息絶えようとも、何か不可解なことがあろうとも、心を支配した感情は常に──『恐怖』一色。
とにかく死への恐怖、自分の事だけしか考えれんかった。


そして、若かったが故に、『グリフィン』という魔物に関して、わしの心に今も巣食うほどのトラウマを植え付けられた────。

530『sora tob horse』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/31(月) 21:13:14 ID:S3r/h/YE0

……

「──……じゃあ、この、『矢口春雄』……って男子も知ってるわけ?」

「おっ!! 数ある参加者名簿の中から彼を挙げるとは…日高っち渋いチョイスだね〜ーっ!!」

「…………何それ。………別に、だけど…」

「矢口ハルオ君。彼とは幼稚園からの幼馴染さ! 矢口君はアーケードゲームのマニアでね〜〜。マニア過ぎてスト2じゃ全く敵わなかったよボク〜〜! …彼、ハメ技ばっか使うからねぇ………」

「…………!!!──」


「──え、…じゃあ…さ。…その矢口くん…って、…す、好きなモノとかあったりするのかな?」

「え? 好きなもの………? 普通に超絶倫人ベラボーマンとかディグダグとかだっけな」

「…あ、いや!! そうじゃなくてぇ〜〜!!」

「?」


「……矢口くんの…………、好きな…、…女の子のタイプとか……。どんな子に惚れてるのかな〜とか……。そういう感じを聞きたいんだけど………………──」

「──…なに聞いてんだろ、私……。はははっ……。分かるわけ無いよね…………。バカみたい……」

「……………。フッフフ………!! おい〜日高っち……。このボクの…wikipediaにも勝る情報網の広さを、あまり舐め取ったらいかんぜよぉ〜〜〜?」

「………え!!」


「人には興味なさげな矢口くんとはいえ……ズバリッ!! ──…彼はショートカットの娘が好みで………、」

「…………えっ?」

「髪色は黒髪か……、いや、どちらかと言えばブロンドカラーの娘がタイプって言ってたかな………、」

「…………………!」

「あっ、あと大人しめな性格の娘がタイプでね。例えば、学校で委員会とかを卒無く熟してく真面目系な子がさ………、」

「…………………え、え………──」


「(────そ、それって…………………──…、)」




「あとは胸も比較的大きくて〜!! フルネームは『ひ』から始まって『る』で終わる六文字のぉ〜〜、『春』って漢字が入ってる子が好きって言ってたよ〜〜〜〜〜ん」


「………やっぱり。……呆れた──」


「──ちょっとなじみちゃんふざけないでよっ!! 本気で!!!」

「あれ? …ボクなりのサプライズなつもりだったのに〜……。心外だったかい〜?? メンゴって日高っち〜〜」

「………ぃっ!! …と、ともかく………!! 今私が質問したこと絶対口外しないでよねっ?!! 特に矢口って男子には!!!」

「ラジャー!! 理解・了解・妖怪道中記〜〜!!! あ、ちなみにだけど〜。この『白銀御行』君は目に隈がある努力家、野咲ちゃんは優しい綺麗な子。根元ちゃんはアニオタで、小日向君は楽天ファン、只野くんは普通すぎる男子だよ〜〜。フフフ…、恐れ入ったかい? ボクの情報網は〜!!」

「……私が知らないの良いことに絶対嘘言ってるでしょ?」

「おっ!! ピンポーン! 大当たり〜〜!! さーて、↑の中で一人、大嘘があります! …視聴者の皆さん、果たして分かるかな〜〜〜??」

「…誰に喋ってるのっ?!」

……


531『sora tob horse』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/31(月) 21:13:34 ID:S3r/h/YE0
──食糧が完全に尽き、餓えで眠ることさえままならなくなった頃。

──生き残っていたのはわしを含め、ギリンとブリガンの三人のみ。

──特にブリガンは、遭難後一番役に立っていなかったわしを邪見に見ており、わしの些細な行動が原因で、あの時の彼は烈火の如く怒り出した。

──極限状態と言うこともあったろう。わしに対し面倒見の良かったギリンと、ブリガンとで激しい口論が発生し、二人はわしを置いて外へ。


──怒鳴り合う声が徐々に激しくなり、大きく争う物音と、悲鳴。

──彼らが何を口論していたか、その内容は分からない。

──ただ、……外から響く…血飛沫が飛び散る音に、わしは耳を塞いでただ縮こまって、涙と共に震えていた。



──暫くして、その喧騒は恐ろしいほどに静かになった。

──唐突なことじゃった。




 ガチャッ……


 『ギ、ギリンッ!? 一体何が……──…、』

 “じっとしてろッ!!”

 『っ!!!?』


 “…外は見ないほうがいい。…今しがた、グリフィンに襲われたんだ。──”

 “──グリフィンは俺が殺したが、ブリガンも即死した。──”

 “──………それより。グリフィンを食っちまおうか。…【アイツ】を捌いて煮込んでもすりゃ、何日かは生きられるだろう”


 “さ、食事としよう”

 『……………』


──その時のギリンの目は、今までの冗談好きだが冷静で、そして穏やかな目つきでは全く無く。

──彼の兜をよく見ると、【何か】鈍器で殴られたような凹みがあった。



 “ほれ、スープだ。──…いただきます”



 『…………──ごくりっ…』

──水で煮ただけのグリフィンスープは、獣臭と肉の硬さでそれは酷い味だったが、

──…わしは手が止まらなかった。

──夢中で咀嚼し、ゆっくりと長い時間をかけて飲み込んだ。

──…そんなわしとは対象的に、箸が止まったままボーッと放心していたのはギリン。

──小便をする、と言ってふらり出ていった彼は、



──二度と戻らなかった。




 …その後、残りの肉を食いつなぎながら、迷宮の規則性に気付いたわしは、放浪を続け。
オークに捕まりしばらくは捕虜として檻に閉じ込められた。
しかし、話してみると案外気のいい連中で、古代ドワーフ語や迷宮について講義をする代わりに、茸の見分け方や魔物のあしらい方を学んだ。
…こうしてわしは、地上へ出ることができたのだ。


────…ただ、

532『sora tob horse』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/31(月) 21:13:52 ID:S3r/h/YE0

……


「にしても、いいなぁ〜日高っちは!! 大当たりじゃないか〜!」

「え、何が?」

「もう〜〜!! 武器の話さ〜支給武器! 方や日本刀で、方やただの黒い中華鍋って……。格差社会ぱないと思わないかい!」

「…そんなこと言われたって〜。私だって、この刀重すぎて使えないし…、というか使う機会訪れてほしくないし………──」

「──それになじみちゃんの鍋もさ。ほら、取説あるでしょ? 『材料を入れれば【召喚獣】を出せます』〜って。すごい武器じゃん?」

「ちょ〜〜〜っと〜〜! 冗談がキツイよ日高っち〜〜!! だってさ…召喚獣だよ?(笑) 全く馬鹿にして……。そんな非現実的なもの出せるわけ無いじゃないかぁ〜──」

「────とか言いつつ試しちゃうのがこのボクなんだけどなっ…………!! どれどれ……、髪の毛と適当な肉類を入れたら蓋をし、魔法陣を書いて、呪文〜〜と…」

「………………」

「…(ガチャガチャ)……よし! これで準備OK〜!! 残すとこはあと呪文のみ!! ──アブラカタブラ〜ヤサイマシマシ〜メンヌキデ〜〜〜〜………っ──」


「──ほいっ!!!」


 ──ポンッ…


「…わっ! え、嘘…。ほんとに成功したの?!」


 シュウゥゥゥ……


「…どうやらその様だね…!! タネも仕掛もない非現実…ここにありさっ!! さて、中を覗こうじゃないか日高っち!!」

「………う、うん…」

「どれどれ〜。────さぁ、闇の炎と共に、主の前へ出でよっ!!! ボクの召喚獣よっ!!!」

「………………っ」


「…………」


 パカッ………



『キョェェェェェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ──────ッッッ』



「「……………へっ?」」


……


ただ、気がかりだったのは、あの時飲んだ肉スープ。
本当にあれは『グリフィン』の肉だったのか………? ということだ。

なにか物を食べる度にスープの、あの味を思い出す。

どんな魔物の肉も、記憶の味からは程遠かった。



……


『キョェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ──────ッッッッッッ』


「ハァ、ハァハァ………!! ちょっ…、なじみちゃん!? 何…?! 何この『鳥の化物』はっ??!! 何で私達に襲いかかってくるの?!! ハァハァ…」

「ボ、ボクだって理解不能だよっ??!! ハァハァ…、うげぇっ……。しかも何かこの鳥と視界が重なって、具合悪いし…………」

「??? ど、どどどういう意味…?? ハァハァ……、ハァハァ…、と、とにかく早く逃げなきゃ!!!」



『キョェエエエエエエエエエエエエエエエ──────ッッッッ』

533『sora tob horse』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/31(月) 21:14:10 ID:S3r/h/YE0


……


………わしはあの魔物がトラウマだ。


……




『キョエエエエエエエエエエエエエエエ──────ッッッッッッ』


 ──ッッッ、ズガンッッ


「…きゃっ?! ぃっ、ああぁぁあああああああああ!!!!!」

「ひ、日高っち!!! ハァハァ…、大丈夫かい!??」

「…………がぁ……………。うっ、うぅ…………………」



……


わしは真実を知るのがこれまで恐ろしかった。


……


「あ、あぁあ……………。なんてこったい……。使い魔の制御が効かないよ…っ!!! こ、このままじゃ………お陀仏…じゃあないか…………!! ゲホ、ハァハァ……」

「………………………な、なじみちゃ…………。逃…げ…………」


「……ひ、日高っち………。…クウッ、なんてモン支給すんだい…トネガワ大先生は……──」


「──ハァハァ……、このままじゃ本気でヤバい、ヤバすぎうわっ酔ってきた気持ち悪ぃうげえ…………オロロロ……………」



「………………ガハァッ………………。ハァ………ハァ………………」



……


髭をたくさん蓄え、そして幾多の知識を取り込み、人生経験が豊富になった今でも。

あの硬い肉の弾力が、
あの酷い匂いの油が、
そして、あんまりな出来ではあるが……、これまでの食事で一番『美味かった』あの味が……………、

年老いたわしを雁字搦めにし、いつまでも『恐怖』に抱かれ続けている。

……



『キョエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ──────ッッッ』



「……………ハァハァ…………………。ハァハァ………ど、どうしたら…──…、」


「──どうしたら…………、召喚獣のっ……コントロールを……………………」




……


だから、わしはこれまでグリフィンと出会すのが何よりも恐怖じゃった。


……


534『sora tob horse』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/31(月) 21:14:46 ID:S3r/h/YE0
 そう。
 何よりも………。








 ───────ガキンッ──


「………………………え?」






 そして、だからこそ──。
──わしはあの忌々しきトネガワとやら主催者に、感謝をしているわけだ。





 ギギギギ、ギギッ………


『…ッ、キィィィィ……キエェエエエエッ………………』


「…相変わらずじゃな、グリフィン。……と言ってもお前はわしを知らんだろう。…いや、そもそもわしとてお前の生身を見るのは初めてだから…………。──……フッ、まぁいい」

「………え?」



 斧から伝わる、かのグリフィンの力強い蹄……………。
ギリンに、ブリガン………。
…五人の仲間たちを引き裂き、頭に大穴を開けたそのパワーたるや、今までのどんな魔物と比べ物にならぬくらい尋常なまでだった。
黒い蹄は斧を殴り潰そうとばかりに揺れ動かし、…斧が、──そしてわしの腕が、震えて震えて仕方なかった。

わしの眼の前には、今まさに『恐怖』が争乱挑んでおるのだ。


──襲われ、慄いている女子二人を守る為に、と。




「……確か、出会いもこんな感じだった筈…。あの時、魔物《スライム》に襲われているお前らを見て、わしは助けた。────………そうじゃよな、ライオスよ……………」

「…………え、……え? お、おじさん…。誰……………?」



 ギギギギギッ


「娘よ、一つ問おう。何故、わし等人間は『恐怖』を感じると思うか?」

「……え?? そ、そんな哲学チックなこと聞かれてもボクは…──…、」

「答えは『食べる為』じゃ」

「ふぇ??」


 ギギッ、ギギギ…………………


「人間は感情を持つ唯一の生命体。今日一日を、そしてこれから将来、平穏に暮らしていきたいが故に、平穏の支障となる『恐怖』を避けて生きてゆく」

「……………………?」

「それは『食』も一緒じゃ。生きる為には食わねばならん。食わねば、…死のみが待つ。」

「……………」

「なんら接点のないと思われる『食』と『恐怖』は、実はイコールで結ばれる関係性だったのだ」

「…………………──」

535『sora tob horse』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/31(月) 21:15:06 ID:S3r/h/YE0
 ギギッ…ギギイイイイイィイイッ


『キョェェェェェッエエエエエ………………ッッッ』


「──…え、それって違うくない? とボクは思うんだけど……」

「…フッ。なに。考え方の違いじゃ。つまり、わしが言いたいことはだ…………」

「……………つ、つまり…?」



『…キョオオオオオ…………ッ、…ェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ──────ッッッ』


 ──ガキンッ──────





──────『恐怖』は、ただ味わうのみ…ッ。




斧を力一杯振り絞ったわしは────…その勢いのままグリフィンの両脚を斬り断つッ────!!!


 スパンッ────

『ギュウッッ…、キアアアアッ─────ッッッ』


「…えっ?!」



怯んだグリフィンに構わずして、続け様高く飛びかかり────…翼を一振りで切り落とすッ────!!!


 シュンッ────
  ─────ドサッ……

『ッッッァアアアアアアアアアアアアア────────』


「ちょ、ちょっと……!! お、おじさんっ!!!」




紙吹雪のように舞い散る奴の羽と、響く雄叫び。
脚、そして翼をも失い、もはや赤子同然の戦闘力と化したグリフィンは、成す術なくままに地面へ強く追堕された。


 ドンッ──────

『ギィ……キョギエェェエ…………………ッッッ』


「あ、あっ………!! しょ、召喚獣が……!!」



 ──…正直なところわし自身、今、呆気には取られておる。
気が遠くなるような長い年月、あれだけわしにトラウマを焼き付け、…そしてあれだけの仲間達を葬り去ったグリフィンを、こうも簡単に捌けるだなんて────とな。


仮説として、もしや今闘っているこやつはグリフィンに酷似した亜種なのかもしれない。

…いいや、宿命ともいえる『恐怖』を前にして、アドレナリンという実力以上のパワーが漲っていたのかもしれない。


────……もしくは、坑夫団の仲間達が、わしに力をくれているから……とか、か。


……………フッ。
何も根拠のない考えは、よすべきか。

536『sora tob horse』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/31(月) 21:15:22 ID:S3r/h/YE0
「…あぁ、そうじゃった。礼を言う事を忘れておったな、主催者よ」

「…………え??」


四股を捌かれてもなおこちらに向かって、身震いのする睨みと、鋭い嘴を突きつけるグリフィン。
奴の背中上にて、わしは最後の一撃を叩きつけることで、──一つ、ピリオドが打たれる。


「…グリフィン、奴の存在は、わしの人生そのものと言っても過言ではない」


「え、ちょ!! ちょっとおじさん…!!」


「…────その人生と決着を付ける場を、曲がりなりにも設けてくれたのだから。…唯一感謝はしておくぞ、主催者……!」


「…ね、ねえおじさんっ………!!!」




────この礼は、あとでタップリと返させてもらうから、覚悟を決めておくのじゃな。
主催者………。



『キョエ…ァァァ…ァァァアアアア────…、』


 ────ザシュンッ



グリフィンの首に振り下ろした、風を斬ろうとの斧の一撃。


…別に、わしは奴を長年食いたくて食いたくて愛おしく感じておった魔物とは思っていない。




ただ、この狩りを成した『一瞬』は、尋常なまでにスローに感じて、周囲の雑多音も全く聞こえず、




これまでの回想が、まるで走馬灯のようにわしの周りを流れ去っていった。





 ─────ドサリ…………

537『sora tob horse』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/31(月) 21:15:33 ID:S3r/h/YE0
「………………あぁ…………」







「あぁ…………──」

「──じゃないよぉ〜〜っ!!! お、おじさんこれボクの召喚獣だよっ??! ボクの唯一の武器なんだよ!!?? …助けてくれた点はお礼言わなきゃだけどもぉ〜〜〜…」

「……む??」


「ボクは武器無しでこれからどうすりゃいいのさぁああああああ─────────────────っ!!!!!!!!!!!??????」




ああああ……、


ぁぁぁぁぁ、ぁぁぁぁぁ………………。







「………。……うむ──」


「──そうとなれば、まずは食事だな。自己紹介は後からじゃ。支度をするぞ」


「「なにが『そうとなれば〜』…だっ!!!!(…あ、日高っち生きてたんだっ?!)」」

538『sora tob horse』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/31(月) 21:15:47 ID:S3r/h/YE0


………
……


 さ〜〜〜て!!
ちょいと、これまでを振り返りタイムだよ!!


ボク達を…うん、まぁ、助けてくれたこのスーパーマンは、イズガンダのセンシ。
小さな坑夫団の一員だったそうだ!!

鉱夫と言っても鉱石が目当てだった訳では無いらしいんだけど……、
戦争前の遺跡を探し、一攫千金を夢見ていたそうなんだよ……!


「いやなじみちゃん!! それさっき聞いたから………」

「あっ、失礼失礼〜。でもボクもこうやって語りとかやってみたいモンでさぁ〜〜〜。気持ちは分かるだろう〜? 日高っち〜」

「……全然分かんないし………。…ていうかさ……(モグモグ…」

「……うん。ボクが代わりに君の気持ちを語るよ…………(モグモグ」

「…………」



……。


すっごい、…不味くない……………?



…『これ』↓↓………………。




……

【ヒポグリフのスープ】
・ヒポグリフのもも肉────一塊
・水────────────適量
・塩────────────適量

1:塩をもも肉に擦り込み、よく揉む。
2:沸騰した鍋に肉を入れ煮込む。
3:灰汁を取りつつ、暫く煮込み、肉に火が通ったら完成。

[エネルギー]
[タンパク質]★★★
[脂   質]
[炭水化物 ]
[カルシウム]
[鉄   分]★★★★★★
[ビタミンA]
[ビタミンB2]★
[ビタミンC]

……


「…………(パクパク……」

「………お世辞にも食べ進めたい料理とはいえないよね……………」

「………う〜ん。……食べ手の技術が試される味ってとこだね〜〜〜〜…。……ボク、正直ギブアップ!!! イチ抜け!!」

「あっ、ズルいっ!! 『そもそもの話、なんで私たちセンシさんと食を共にしてるか〜』、って言おうとしたとこなのに!!!」


豚肉を食べてるのか、鶏肉を食べてるのか分からない……ただ、ケモノ臭さだけは確実に口いっぱい広がって……、ヤバすぎるスープだったよ。
…まぁボクとしては、あの鳥なのか馬なのか分からない召喚獣に蹴られて無事でいる日高っちの方が気になるトコだけども。


 …………まっ。
それはともかく、だね。

539『sora tob horse』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/31(月) 21:16:02 ID:S3r/h/YE0
「…うっ、うぅ…………。うっ………」



「…………」

「…………センシさん…」

「センシ………。…泣くほど美味いかい」



「……いや違う。違うんだっ……。酷い臭いに硬い肉…。あの時とまんま同じな料理じゃよ…………──」


「──ただ、ずっとずっと……………。この味を飲みたかった……………──」


「──…ありがとう…………。みんな…。………ありがとう………………。うっ…………」




「……センシさん……………!」

「…ははは。涙ってさ、塩っぱいよね。──……このスープに下手な味付けはいらない。その思い出の結晶粒が、…一番味を引き立たせてくれるのさ………」

「……。…………──」



「──…なじみちゃん。その謎ポエムは余計……」

「……某サンデー的名探偵ならこうオシャレに語るってことだよ。……フッ…………」



 …涙ながらに器をかきこむセンシさん。
肉を捌いてる途中、ボクが召喚(=襲った)コイツがグリフィン? ではなく、『ヒポグリフ』…という動物に、彼は気付いたらしく……。
そこから、う〜〜〜〜ん…………。まぁいろいろあって今に至るわけだけども…!

とにかく彼の語る過去を聞けば、もう涙無しには食卓を囲めないよねっ………。


一つの蟠りが溶け消えた、この食事。

ボクら日高タッグは、新たな仲間を受け入れつつ、今はただアツアツの料理を食し続けていったのさ……………………。




「………なじみちゃん残してるけどね…」

「まぁボクらは女の子だから、こんな時間にモリモリ食べるのもまずいだろう!! 二重の意味で!!」

「……まぁ、私もギブだけどさ……………」


「………。…ところで、なじみとやら。…すまぬな」

「え? なんだいセンシ〜!」
「………(なじみちゃん、呼び捨てにした……!? やば〜………)」

「お前の、その召喚獣とやら…………。事情を知らぬとはいえ斬ってしまったものでな……………。わしは償いたい思いではち切れそうだ」

「いやいや、いいんだよ〜!! センシ〜〜!! ボクにはこうしているじゃないか! 君という、頼もしい……武器が!!」
「武器呼ばわりっ?!」

「…いや、よしてくれ。わしの身勝手な判断であることは事情。……そこでお詫びと言ったらなんなのじゃが………」


「え??」

540『sora tob horse』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/31(月) 21:16:25 ID:S3r/h/YE0
箸を置いて、センシがリュックサックから取り出したのは…なんとビックリ!!
────『レーザー銃』だったのさ!!

…ほうほう、なるほどと〜!!

つまり、センシはボクの武器を肉にしてしまったお詫びとして、自分の支給武器をくれたわけなんだね………!!
貰っておくのもまた義理。
ボクは快く受け取ったよ!


「…あっ。そ、その銃………」

「ん? どしたんだい〜?? 日高っち」

「…え、それスペースガンの…………──」


「──いや、やっぱり何でもないや………。とにかく良かったね、なじみちゃん」

「……? う、うんっ!!」



…な〜んか、日高っちの反応が気になるとこではあるけど………まぁとにかく!!


 かくして、銃使い&ドワーフ&……小春…のパーティが、ルイーダの酒場を経由せずして自然発生した現状であるが……、
パーティには必然的に立ちはだかる相手──『敵NPC』が出現するもの…………。
できることなら、その敵NPCとは出くわさずしてグッドエンドを迎えたいゆるゲーマーなボクだが、あいにく日高っちとセンシは色んな意味でガチガチなゲーマー……。

嗚呼、この運命よ………。

果たして、ボクら三人旅の行く末はどうなるものやら……。
バトル・ロワイヤルという空前絶後のダメRPGにて、「しんでしまうとは なさけない!」のメッセージが浮かばれぬことを、今はただ願うまでだ。




「………満足した?」

「────フフッ、この程度で満足するボクじゃないよ日高っち!!──」


「──そしてセンシ!! さあ行くよ!! Partyの始まりさ!!」


「…うむっ」

「………はぁ〜あ…………」





 バトル・ロワイヤル………。


  嗚呼、よもやよもや…。


   バトル・ロワイヤル………………。

541『sora tob horse』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/31(月) 21:16:38 ID:S3r/h/YE0
【1日目/C5/渋●肉横丁/AM.03:56】
【センシ@ダンジョン飯】
【状態】健康
【装備】斧、料理セット一式
【道具】鍋、干しスライム@ダンジョン飯
【思考】基本:【対主催】
1:殺し合いから脱出。主催者を倒す。
2:あれはヒポグリフの肉だったのか…………。うぅ、みんな…。
3:日高・なじみとパーティを組む。
4:メガネの若者(丑嶋)が心配。

【長名なじみ@古見さんは、コミュ症です。】
【状態】健康
【装備】レーザー銃@ハイスコアガール(スペースガン)
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:センシ&日高っち&ボク!! 君のためのPartyさ〜〜♪^^
2:参加者の幼馴染たちと会う!! 僕はみんなの『幼馴染』だからね
3:にしてもあのスープだけは……………無理^^;。

【日高小春@HI SCORE GIRL】
【状態】健康
【装備】橘右京の居合刀@ハイスコアガール(サムライスピリッツ)
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:なじみちゃん、センシさんと行動。
2:矢口くん、大野さんと合流したい。
3:なんか私このパーティでツッコミポジションになってない〜?!

542 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/31(月) 21:24:39 ID:S3r/h/YE0
【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ】
①残すところあと5話で参加者二巡となりました。
②あらかじめ宣言します。そのうちの一話、『北埼玉ブルース』は時系列シャッフルにしたので若干読みにくいです。
③今更ながらバッカーノのアニメにハマったので影響受けました。あらかじめご了承ください。

【次回】
──僕は、あの時チェンソーにばらばらにされ…死にました。

──悔いは正直かなりあります。いやない方がおかしいですよね……。はは………。

──次回はそんな僕…

瞳「あーもうお兄ちゃんうっさいから黙ってて!」

瞳「次回は私メイン回の『大好きがムシはタダノくんの』ですっ!参加者でも何でもない私がなんと主役に大抜擢!えっ?それってマジやばくない?どういう構成なの?いやヤバすぎてうける!あっ、ちなみに笑介は残念ながら出てこないよ〜」

瞳「ということで来週死ななかったらこうご期待!!」


その他
『TOKYO 卍 REVENGERS』…伊井野ミコ、鰐戸三蔵、鴨ノ目武、相場晄
『悪魔とメムメムちゃん」…メムメム、兵藤和尊、佐衛門三郎二朗、遠藤サヤ
『北埼玉ブルース』…山井恋、野原ひろし、海老名菜々、うまる、マミ、デデル、マルシル、飯沼
『らぁめん再遊記 第二話〜需要と供給…?〜』…アンズ、芹沢達也、早坂、うっちー

第三巡
『我が友よ冒険者よ』…ライオス、ハルオ、来生、オルル、早坂
『人畜無骸』…吉田茉咲、札月キョーコ、土間タイヘイ、ゆり、藤原、マイク
『ビンボー生活マニュアル ぬーぼ』…コースケ、マルタ、大野

543 ◆UC8j8TfjHw:2025/04/02(水) 20:29:57 ID:Ex510fAA0
【お知らせ】
イラスト名簿、ミコ描き直し完了につき工事完了です…
くぅ〜疲れましたw
ttps://w.atwiki.jp/heiseirowa/pages/12.html

544『大好きが瞳はタダノくんの』 ◆UC8j8TfjHw:2025/04/07(月) 20:11:04 ID:puUwLcSo0
[登場人物]  [[佐野]]

545『大好きが瞳はタダノくんの』 ◆UC8j8TfjHw:2025/04/07(月) 20:11:23 ID:puUwLcSo0
────朝、起きたら、




「もうなにやってんのお兄ちゃん………。鬼電も鬼LINEも一切無視………。ロンリーウルフ気取りかっ!!」




────私のお兄ちゃんが、




 ドンドンドンッ!!

「お兄ちゃん!! 絶対起きてるでしょ! ねえLINE見たよねー? 早く私と一緒にコンビニ行こうよー」


 シーン………

「…このっロンリーウルフめ!! 分からず屋っ!! ねえってば、こんな早朝に女子一人でコンビニ行かせるなぁっ! 正しく野に放たれた羊だよ私は!! ウルフ達に襲われちゃうってば!!」


 シーン………

「もう!! 入るよ!!! お兄ちゃ──…、」



 ガチャッ



「……………へ?」




────死んでいました。





「……いないし」





──…多分。

546『大好きが瞳はタダノくんの』 ◆UC8j8TfjHw:2025/04/07(月) 20:11:40 ID:puUwLcSo0




 …おかしい。

何かがおかしかった。


 時刻は現段階、四時前……。──…午前のっ…。
いくらふつつかな我が兄──只野仁人とはいえ、奴は本当に普通すぎる人間。
友達との遊び付き合いという推理もできるけど、こんな夜遅くに家にいないとは、お兄ちゃんの性格上考えられない…。
自室、リビング中、お風呂にトイレ。鞄の中も机の中も探してみたけど見つからないこの現状は、如何に…。

……あっ。
言うまでもないけど、私は逆シスコンとかじゃない。
あんな頭のトサカ以外これといって特徴がなく、成績も性格も頭脳も頭身も、スマホの壁紙でさえチョ〜普通な兄には、愛着なんてなかった…。


…そう。────ない筈だったのに…。


何なんだろう、この妙な胸騒ぎは……。

縁起でもないことを言うと、まるでお兄ちゃんはもう二度と帰ってこないんじゃ………? というような。

…なまじ同じ親から産まれた血が繋がる者同士なだけ、私はそんな嫌な予感がビシビシ脈走るのでした…………。


私のお兄ちゃんはこんな時間に──一体何処へ?──────………。



「……ま、お兄ちゃんも羽目外したい時くらいあるか。どうせ昼間には帰ってくるでしょ──」

「──コンビニは〜〜…。…もういいやっ。寝直そっと」



心の何処かで蠢く予感…。
それを奥底にしまい、私は自室へと戻っていった。









「───────っというのは第一の仮説っ!!!!!!!──」


「──もう一つの仮説はぁ〜……、そうっ!!!! 只野仁人は不運にもっ──」


 テレビ、ピッ!!


『引き続き速報です。渋谷区に発生した未確認巨大型ドーム。警察は住民の安否確認を急いでいます』


「──その渋谷の中でっ!!!」


 7chチャンネル、ピッ!!


『今日から皆さんにはちょっと殺し合いをしてもらいます』


「────【バトル・ロワイヤル】をさせられているっ……というのが仮説2にして最有力説だぁぁぁぁいっ!!!!!!!!!!!」

547『大好きが瞳はタダノくんの』 ◆UC8j8TfjHw:2025/04/07(月) 20:12:02 ID:puUwLcSo0
 テーテーテ、テレレテー♪
テー↑、テー〜〜〜っ…↓


 申し遅れました!! メンゴ★
私の名前は『只野 瞳』!!!
名字は『ただの』だけど、只者じゃないってのが私のアピールポイントだよ!! ハイ、ヨロシクゥ!!!
勉強も運動もちょ〜〜〜っと…苦手な私だけどその分アグレッシブでハイ元気!!
持ち前のスーパーテンションを活かしてもう友達の数は山の如し!!! 今は、隣の席の古見笑介くんと大親友になることを目標としてまーーす!!!!
…あっ、ねえ聞いてよね〜? その笑介くんときたらさぁ、あの子コミュ症らしくて……。自己表現が苦手みたいなんだよ〜〜。だから私が彼をクラスに馴染めるよう悪戦苦闘してるんだけど、笑介くんったら私の努力なんて一切気付いてない様子で〜〜〜………、


「──あ、はいカット──」

「──話が逸れちゃった。まずいまずい。…私…、集中────っ!!!!──」


「──というわけでテイク2!!! (…あ、ココだけの話、FI●ST TAKEってあれ普通に撮り直しあるよね??)ゴニョゴニョ」




【テイク2】

 テーテーテ、テレレテー♪
テー↑、テー〜〜〜っ…↓


 …フッフフ。名乗るのを遅れてごめん!!
私の名前は────『只野 瞳』!!! (タタンッ!!)
名字は『ただの』だけど、只者じゃないってのが私のアピールポイントだよ!!
ハイ、ヨロシクゥ!!! 以下略!!

 (元々存在感は湯気同然だったけど)突如として、湯気の如く消えてしまった私の兄──只野仁人…………。
本当にっっっ──ごく平凡な男子高校生、只野仁人は今、何処で何をしているのか…。
その事について頭を搾り取るように、ギュ〜〜〜ッと熟考…推理した時。
私はとうとう、とんでもない仮説にたどり着いてしまったのでした……。


「そう!!! バトル・ロワイヤル!!!──」

「──バトル・ロワイヤルと言ってもまだ主催側なら箔が付いたというのに……。私の兄は不幸にも参加者として招かれたのでした!!!!」


…勿論、根拠は0! ナッシング!!
イッツオーライ?!
Hey!!



そんな不幸ケッコーコケコッコーな兄だけども、時刻はもうすぐ朝焼けが昇りニワトリが鳴く頃合い。
渋谷にバリアーみたいなのが発生したのは昨日の夜十一時頃らしいから、バトロワ開始もその頃と仮定しよう……。
つまり、デスゲーム開始から五時間くらい経過している現在……。
不肖の兄・只野仁人は生き永らえているのかと考察すると………────。



「………………ま、おじゃんだよね〜………──」


「──…そりゃ私だって死んでほしくないって気持ちはあるけども……。こういうデスゲーム物は何も特徴ない人から片付けられるイメージだし? お兄ちゃんって変な人に絡まれて災難に遭うってイメージもあるしー?………──」



「──というわけでッッ!!! 『只野くんの、人生です。』、これにて完ッ────!!! うわ〜〜ん何してんのさー!! お兄ちゃぁ〜〜-ん!!!」



 はいはい!! さてさて!!
こうしてお兄ちゃんの安否確認は無事(?)済ませれたものだけども、
──ここで気になるところは、…只野仁人。彼は一体どういった死に様を見せたのか……、というトコだねっ…………。
例えば、殺人者に襲われている女子参加者を助けて身代わり死…とか?
更に具体的に挙げれば、女子目掛けて放たれた銃弾を、我が身削って被弾した…とか……?
そういう感じで、ドラマティックかつ熱い最期だったとしたなら遺族代表の私として、この上ないくらい涙物なんだけどねっ………!
英雄に敬礼っ!! 勲章贈呈っ!! って感じで…。
誇り高い死だと思うよっ………。うぅっ…、ぐすん…。


「…でも、悲しきかなっ!! 神様はお兄ちゃんを常にごく普通平凡な人生しか歩ませてくれないっ─────…………」


…というわけで、お兄ちゃんの生き様は『なんとなく歩く→殺人者に遭遇→逃げるも追いつかれ普通にYOU DIE……』で決定!!!
ついでだし、死因も鋭利なもので背中を突かれYOU ARE SHOCKに決定!!
我兄ながら正しく凡すぎる死っ…! ゆーあしょっ!!!
勿論一ミリも一ミクロンも根拠は0。
…ふっ、ただ推理において必ずしも証拠は必要だとは言えない…ってわけかな?
名探偵と化した私の脳内には、一連の考察がまるで確定事項のようにフツフツと沸き立ってるのだよ……。ふふふっ…。

548『大好きが瞳はタダノくんの』 ◆UC8j8TfjHw:2025/04/07(月) 20:12:20 ID:puUwLcSo0
「…あ、でもさすがに普通すぎて気の毒だから死に方も大ハードなモノにしとこうかな。…じゃっ、チェーンソーで斬られて死亡に決定で!!!──」


「──もちろん根拠はナッシング!!」


…いや待てよー。
…チェーンソーでバラバラ死って……流石にさぁグロすぎない…? エグすぎないっ……? ドン引きだよね……。
勝手な推理とはいえ、そんな発想に至っちゃう自分に恐怖を覚えたんだよね…………。えっ?? 私ってもしかして隠れサイコパシー…っ?!!


「……【バラバラにならない程度に脚を斬られた後、胸をギュイィィンって一突き】、で妥協しますか…。さすがにお兄ちゃん可哀想だしね…!! ぐすんっ…!!」


…私だってギタギタのミートにされたお兄ちゃんを見るのは嫌だしねぇ…………。
葬式? か、警察の人が「身元確認お願いします…」って、差し出してきたのがブロック肉とかだったら大勘弁だし………?



…………はいっ!!
さてさて、…こうして亡き者となってしまったお兄ちゃんではありますが……。
彼のバトロワ活動はこれにて終了……………。
(まったく無事じゃないけど)無事THE END………………………。


────かと思ったらさにあらずっ!!


去る者あれば、残る者ありとはこの世の常…………。
凄惨なお兄ちゃんの遺体を見つける者が一人!!!
それは不幸か、それとも幸か……。たまたま通りかかった先で、『参加者』の一人は只野仁人だった物と出逢うのでした………。



「…と、私は勝手に考える……!!!」



その参加者の名前はズバリ………。


 チャンネル、ピッ!

『佐野文吾を許さないぃっ……………』


────【佐野】さんっ!!!

そして、佐野さんの性別はズバリ………。


 チャンネル、ピッ!

『男の人っていつもそうですねっ…!!』


────男っ!!!




「…と見せかけて【女】!!! 騙されたでしょ!! …フフフッ、探偵の推理にはこういう無意味なじらしテクニックも必要なのだよ〜…」



 私は勝手に考える。
その佐野さんもまた、デスゲームに踊らされた変質者に襲われ、命からがら逃げてきた者の一人…。
彼女は奇跡的にも逃れることには成功したものの、逃れる者同士は惹かれ合うというわけか………。
既に事切れたお兄ちゃんを見つけてしまい、ショックで言葉が震えるのでした…………。

佐野さんは噛み締めます……。
死体を目に焼き付けて、思うは死への恐怖と、未来への懇願……。そして、自分の不運さの絶望視…………。


もう喋ることのないお兄ちゃんを前にして、彼女はブツブツとこう言うのだった…ってね。

549『大好きが瞳はタダノくんの』 ◆UC8j8TfjHw:2025/04/07(月) 20:12:39 ID:puUwLcSo0
「……ごほん。…『わっ。…脱落者……。…ううん、違う。自分の解放に成功した参加者だね…(裏声)』──」


「──『分かるかな? 彼らにコントロールされ本当にけしかけられかなり高価なプログラムまでけしかけられ買い込みだましたの。やつらが何か霊的な光をどろどろしたから
ね(裏声)』──」


「──『違和感がある内に止めさせてください停止の命令をあなたが聞けないのなら、とか信用できないのなら、それはあなたがコスリ感緩和膜を頭の裏に貼られているからだよ(裏声)』──」



「──とか言ってたり」



…うはっ!! 我ながら何言ってるか意味不明ー!!!

だけどもしかし!! さっき言った通り、お兄ちゃんの知り合いは一癖も二癖も強い人間達ばかり…………!! なじみ君ちゃんとか!!(あっ、硝子さんは除く!!)
だからこうして、佐野さんもまためちゃくちゃヤベー人なのであったわけだ!!
多分、見た目こそは普通の女子なんだろけどね!! 知らないけど!!!
わけのわからない電波な佐野さんを前にして、その場にいたお兄ちゃん(幽霊)も流石にドン引いたことでしょう〜…………。

ただし、かなり異常な佐野さんとはいえ…別に血も涙もない狂人というわけじゃない。
ぶつぶつイミフな一連の台詞達は、いわば彼女なりの追悼の意で……。
ちょびっと空いた心の穴を引きずりつつも、死体に一礼。
お兄ちゃんの魂が救われることを願いながら、彼女は後を去るのでした………。




────その折に、突如として鳴り出す、死体の携帯。


血濡れの胸ポケットから響く着信音に、佐野さんは一体何を考えたのでしょう…。


甲高く光る、スマホの画面に映るは妹・『只野瞳』の名前………。



そう、物語はこの鬼電ラインから急速に加速するのでした──────。







「…………と、まぁーこういった具合で上手く締めちゃったわけだけども」




 …ふふふ。
これが深夜テンションってヤツなんだね…。
バカバカしくて厨二全開でおかしな推理(という名の妄想!!!)を、我ながらしちゃったもんだよ………!

言うなれば↑の妄想は全部、──【フィクションです。実在の人間、場所、団体は一切関係ありません】!!!
どうせお兄ちゃんはコンビニかどっかに行ってるし、殺し合いなんてあるわけない。
渋谷のバリアーも多分催し物かなにかだ。


…ほんとに、バカバカしい妄想ったらありゃしない。
……こんなお馬鹿な考え事を三十分近くもしてる私は、もうきっと逆ノーベル賞受賞に値するバカヤローだろう。
ほんと、バカだなぁ。私は……。


「でもそんなバカな私……。──…嫌いじゃないぜっ」



さて、時間もそろそろヤバい頃合い。
お母さんに怒られる前に…二度寝するとしますかー!!
幸いにも明日は土曜日。

おやすみっ!! Good night!!!

550『大好きが瞳はタダノくんの』 ◆UC8j8TfjHw:2025/04/07(月) 20:12:58 ID:puUwLcSo0

 ──ブーーブーーーッ

  ──『電話です』



 ──ブーーブーーーッ

  ──『電話です』



「うわビックリしたっ!!! タイミング悪っ!!!」


 いやほんとタイミング悪すぎ!!
私リビング出て寝ようとしたところなんだけど?!!
ドアを開けようとした私を引き止めたLINEの着信………。
こんな時間に誰だよっ!! こんな夜更けにっ!! バナナかよっ!!! ──と思いつつ、スマホを見てみたら、…そこには不肖の兄・只野仁人の名前が…………。
(…それにしても我が兄。LINEのアイコンは自撮り(微笑にピースサイン)。……超普通である)


「はあーーあ……。今頃…?? なんなのさぁ〜………」


私の鬼電から三十分経って、やっと折り返してきたお兄ちゃん……。
仕方なし…と。私はスワイプして受話器を取るのでした〜〜…。
…あーあもうタイミング考えてよっ!!!


 ────スッ


「はいもしもしもしもし!!! 何お兄ちゃん今頃になって!! もういいよ私は寝るんだか──…、」



『……もしもし。……瞳さん、ですか?』





「へ?」




 …私は虚を突かれた思いだった。
……言い換えたら不意打ちだった。あと予想打にしなかった。あとは寝耳に水だった。

…私の耳に入ってきたその声。
それはお兄ちゃんの声ではなく、水のように透き通った女子の声だったのです………。


…いや、いやいや、ちょっと待てい!!!
この夜に姿のないお兄ちゃん…。そして、お兄ちゃんの代わりに出た女の人………。
こ、これって……。い、いやお兄ちゃん本気で何してるわけっ??!!
あの比較的ビビリで度胸なしのお兄ちゃんが、よ、よ、夜遊び…??!!
これじゃあ不肖の兄じゃなく不埓な兄じゃん?!! もはや兄ですらなく『乙』っ!!!
お、乙よ……、卒業…しちゃったってわけ!?
この電話はどうやら顔を赤めないと聞いてられないようでござい────…、


『……瞳…………。…三嶋…瞳さん? ですか………?』

「…へ???──」



「──み、三嶋ぁ〜〜〜…??? 私は只野ですけど…? ただのっ、瞳っ!!」

『…ただの瞳………………? …貴方はこの方の…、知り合いですか?』

「…………〜っ?? この方…とは……。兄ですけど〜……。私のお兄ちゃん」

『……あ、はい。…すみません、電話が鳴ってたので…、迷ったのですが折り返して…』

「…は、はあ……………──」

551『大好きが瞳はタダノくんの』 ◆UC8j8TfjHw:2025/04/07(月) 20:14:00 ID:puUwLcSo0
「──………。………あ、あのっ!! わ、私も家族ですし…ちゃんと知っておきたいんですけども!!! いいですか? ズバリっ!!!」

『………え、何をですか………?』

「恥ずかしいかもですけど…ズバリっ!! 貴女とお兄ちゃんはどういった関係ですか?!! てか誰?? なりそめは?? 経緯は??! どこまでしました??!!」

『………。──』

『──…私は、この人を知りません。ただ出会っただけの、そんな関係です………』

「…うぇ??」



『────…あと、私は【佐野】と…いいます』





……。



……うぇ、え???




『瞳さん………。…気を落とさず、聞いてほしいんですが………』

「えっ???」

『…………………いや。すみません、何でもないです』

「…うぇへっ????!」


『ところで瞳さん、今、どこにいらっしゃいますか? ここで繋がったのも縁なので………、…私と落ち合ったりとか…しませんか……』


「え、え、え。…家ですけど。マンションの…」

『…マンション。…ということは、渋谷マンションですか…?』

「えっ???!」

『…今向かうので、…危険が来ない限り待っててください………』

「え、え???? ちょ、ちょっと……。え、どゆこ──…、」


『…それではっ………!』




 ────デデンッ…

  ──[通話終了]







「………………………………………」

552『大好きが瞳はタダノくんの』 ◆UC8j8TfjHw:2025/04/07(月) 20:14:27 ID:puUwLcSo0

………………。



……………………え、


………え…、




…えーー…………????





 チリン、チリンと揺れる風鈴。
吹き抜ける風が私の素肌を通る…。



…とりあえず、……眠気…。
超消えちゃったんですけど……………っ??!

553『大好きが瞳はタダノくんの』 ◆UC8j8TfjHw:2025/04/07(月) 20:14:43 ID:puUwLcSo0





『──続いて渋谷の天気です。曇りのち晴れ。最低気温は28℃。午後にかけて日差しが強まる予報です────』





 気が付いた時、僕は自宅にいた。

朝焼けがカーテンの隙間から伸び、点けっぱなしのテレビ以外は無音の、いつもと変わりないリビング。
こんな朝早くだというのに、ダラダラ汗を掻きながら直立不動の妹には気になったものだけど、…それでも平穏そのものな自宅だった。


…これは、……最後に家族へ別れの言葉を残しておけ、…だなんて、神様の気遣いなんだろうか。
過程はどうあれ、僕はこうして渋谷から出ることに成功できている。


……その過程がとんでもない物だったわけだけども。



 僕は妹の頭をそっと撫でて、天からの光が差すベランダへと向かった。
足取りが重い訳では決してない。
だけども、今居るこの世を噛みしめるように、ゆっくりゆっくりと、歩くスピードは遅めでいる。





 …すみません。古見さん。
謝りきれなくても謝りたい思いです。



──あなたに会いたかった。

──…会えなかった。

──いや、会わなきゃ駄目だった。



……古見さん。
あなたは、男女問わず皆から無条件に好かれ、…いいや。好かれる以上に、物凄く愛される特性の持ち主です。
…あなたのその魅力で、悲惨なゲームを終わらせてくれることを、遠い空の上から願っています。


………どうか。
どうか古見さんの力で、闇を照らし光が圧勝しますように。
そしてどうか……、みんなに笑顔を届けますように。






…ごめんなさい。古見さん。



いつか友達として、また再会しましょう。






またいつか。


いや、『いつまでも』…────────。






-------
…………
………
……


554『大好きが瞳はタダノくんの』 ◆UC8j8TfjHw:2025/04/07(月) 20:14:58 ID:puUwLcSo0
【1日目/D2/住宅街/AM.04:26】
【佐野@空が灰色だから】
【状態】健康(普通の姿)
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:『三嶋瞳』がいる渋谷デイリーマンションに行く。
2:来生さんにもう一度会いたい。

555 ◆UC8j8TfjHw:2025/04/07(月) 20:21:27 ID:puUwLcSo0
【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ】
①救急車にするか、
②マ●ックミラー号にするかで、
③迷っています。

【次回】
──惨劇の序章。

──敵は本能寺にあり。

──間もなく燃え盛るこの場にて、4人の命が奪われる。

──Baccano(バカ騒ぎの幕開け)。

『北埼玉ブルース』…ひろし、飯沼、マルシル、海老名、山井、うまる、マミ、デデル、???

556 ◆UC8j8TfjHw:2025/04/11(金) 20:19:43 ID:epSE9bTo0
【お知らせ】
想像以上に長くなったので『北埼玉ブルース』保留です

【次回】
──人が人であることをやめた時。

──終焉にて待ち受けるのは。

『TOKYO 卍 REVENGERS』…ミコ、カモ、三蔵、相場

557『TOKYO 卍 REVENGERS』 ◆UC8j8TfjHw:2025/04/14(月) 20:17:25 ID:Cj/PtNN60
[登場人物]  伊井野ミコ、鴨ノ目武、鰐戸三蔵、相場晄

558『TOKYO 卍 REVENGERS』 ◆UC8j8TfjHw:2025/04/14(月) 20:17:39 ID:Cj/PtNN60
『Morte Alla Francia Italia Anela』────!!

(──全てのフランス人に死を、これはイタリアの叫び)


 シチリア島を中心に組織するギャング集団『マフィア』は、上記の叫びが由来。(各単語の頭文字を並べてM・A・F・I・A)
マフィアは古来から『血は血でしか報われぬ』との掟のもと、身内が殺められた際は必ず報復を為す。
血の惨劇は血の惨劇で返す、爆殺には爆殺で返す、皮を剥がされれば生皮を剥ぐのみ。このような信条で、マフィアは止まらぬ負の連鎖を二百年以上続けていたという。

────言わば、『復讐』である。

血薔薇の乱れ咲きを以て、自分の叩き潰された尊厳、または殺された大事な人間の敵討ちをする──復讐という行為。
常々、復讐とは「そんな事やっても何も生まれない」と否定されがちではあるが。
──果たして、本当に『何も』生まない所作なのだろうか。



これは三つの『復讐』の物語。



 例によって、舞台は都内の古本屋。
その店主、裏の顔は殺し屋。厳密に言えば、『復讐代行屋』である。
誰よりも愛し、何よりも大切だった妻子が外道に殺されて以降、復讐屋として稼業を立て始めた──その男。
彼が復讐完遂した死体の数は、一つの集団墓地が出来上がるほどだという。

 あるいは、誠愛の家というタコ部屋を営む──その男。
動物や弱者を拷問し、幼女の首を絞めて射精するというサディストな男には、長年憎悪し、復讐を誓っている対象がいた。
自分の頭目掛けてバットをフルスイングし、惨めな現状に陥れた丑嶋馨と、自分の唇を切り落とした滑皮秀信の二人。
奴はその二人を徹底的に復讐すべくと、日夜日夜ドス黒い邪心が揺れ動く。

 そして、あるいは雪積もる村での物語。
クラスメイトによる悲惨なイジメ、行く末には家族全員を焼き殺された少女は、刃物を片手に雪原を歩き回る。
放火事件を起こしてもなお、ヘラヘラと笑い続ける下衆達の抹殺。それが彼女の原動力であり、もはや唯一の生き甲斐であった。
いじめっ子六人を惨殺したその少女──…を付き纏う男子生徒の物語。


地域、復讐対象、復讐者の年齢。どれもバラバラな三つであるが、

──その三つの別種類がある日偶然、同じグラスに注がれ、絡み混ざった時。

────化学反応により、『予想せぬ』味を生みだしていく──。



#060 『TOKYO 卍 REVENGERS』
副題:"A vengeance that sticks like stubborn limescale."
───(洗い流されることのない、執念)





 ただ、この復讐のワインには、一つのスパイス…──というよりも不純物が。

彼ら三人に交わるその少女は、不純を取り締まることがモットーの生真面目生徒で、そして刑法に触れる『復讐』【殺人罪 第199条】が何よりも嫌いだった────。

559『TOKYO 卍 REVENGERS』 ◆UC8j8TfjHw:2025/04/14(月) 20:17:55 ID:Cj/PtNN60




『とても頑張ってる。そのままの君で…いいんだ……』

「〜…♪」



「ほーーん。………………で?」

「『…で?』、……とは何だ」

「テメェは遺族に代わって犯罪者共をたくさん殺してきました…と。ンでテメェは頭のおかしな殺人鬼です…ってか? ………で? それがどうしたっつうンだ? あぁ??」

「………………」

「まさかと思うが、ンな脅し文句でこの俺がビビるとでも思ってねェよなァ〜? テメェのぼくはヤクザですアピールで、俺がコイツをレイプしたりぶっ殺すのやめると思ったかァ? グラサン坊主野郎」


「……グラサンはともかく。坊主はお互い様じゃないのかねえ………」

「………あぁっ?! ブッ…!! …ぎゃはははハハハハハ!!!! あははははははははははっ!!!!!!──」



「──くだらねェ冗談言ってる余裕なんかねェぞゴラ? 止めてみろよ、何もできねェ偽善者!」

「冗談じゃねェよ馬鹿野郎。…オレはジョークを言わないタチでねぇ……ッ」



『辛いよね。泣きたい時には泣いていいんだよ……』

「〜♪」



 一触即発。
前方──鴨ノ目武、後方──鰐戸三蔵とで、殺闘前の睨み合いが繰り広げられていた。
互いに、これまでの人生山の数ほど人を殺め、蛆蝿集る肉片に変えてきた男同士。
平穏な日常生活じゃ決して見ることのない、悪漂う緊張感は、舞台である渋谷駅前を闇深きに染め上げていた。
大小凹み目立つパイプレンチを突き出す三蔵と、懐から何かを握り臨戦態勢に入るカモ。
戦闘のきっかけは比較的大したものではない。
カモの視点からすれば、この三蔵という異型な男。眼の前の少女を強姦したいだの、殺したいだのと言い放つ為、なんとか穏便に収めたい次第であったのだが──何せ相手が相手。
逸した凶悪思考を持つ奴には何を言っても無駄で、──三蔵もまた強姦行為を止めに入るカモが鬱陶しくて仕方なかった。
────“俺に指図すンのか?”──、と。


『大丈夫………。僕は君の味方だよ』

「〜〜っ!…♪」


「…お前さん、格ゲーのフィタリティって知ってるか?」

「あぁ?? 何言ってんだテメェ」

「…モータルコンバットとかで。戦闘終了後、敗者相手に勝者がグロテスクな処刑を行うシーンをフィタリティと言ってねえ。あれは二十秒くらい残虐な演出がされるんだよ」

「……なァにが言いてェつってンだよサル」

「だけどな、オレのフィタリティは二十秒なんかで終わらないよ──」



「────屑はたっぷり苦しませるからねえ…。たっぷりと」


「あ? 拷問椅子座るのお前だけどな? ひっさびさに釘まみれの自作チェアー誰かに座らせたかったンだわ〜──」


「────ンじゃやっか? 文字通りの椅子取りゲーム」

「……『やるか?』じゃない。……殺るんだよ、屑」



「……………ッ」


「……………ぃッ」



『君には僕がいるんだから………』

560『TOKYO 卍 REVENGERS』 ◆UC8j8TfjHw:2025/04/14(月) 20:18:14 ID:Cj/PtNN60
言うなれば、この現状。
『善の外道』 対 『悪の屑』という対立構造となるのだろう。

人の道から外れた者同士の殺し合いは如何に。

惨殺合戦の火蓋は、今にも飛び出しそうなくらいに暴れ狂っていた────。



『今にも飛び出しそうな君を、僕は愛してる──…』

「…あはは…♪ キス、してみたいなぁ…………」





「「………………」」




「………オイッ!!!!? つかうっせェ───ッ!!!! なんなんだ女テメェッ??!! さっきからイヤホンダダ漏れだっつぅのッ!!!!!」

「…えっ?? あ、すいません鰐戸さん。どうしましたか?」

「……伊井野。取れてるんだけども。…イヤホンジャック」

「え゙ッ??! う、嘘ッ??!!! や、やだ…。ほ、本当ですか鴨ノ目さんッ??!!!」


「……………はァーー…………。何聴いてんだよコイツ………。おいッ保護者の鴨ノ目ェ!! このバカに何再生させてンだァ?!」

「……いや、曲セレクトは彼女自身だから……」

「つーか曲じゃねェーし……」

「…色々と困ったもんだねぇ………」


「〜〜〜〜〜っ!!!!」



 ────戦闘、中断。

思えばつい数十分前も、カモvs三蔵──復讐者同士の死闘が遮られたものだが、何という天丼ネタであろうことか。
殺意波打つ緊迫感は度々、ミコ一人によってぶち壊しとなっていく。
つまりは、二人にとって『伊井野ミコ』というノイズはそれほどまでに強烈な存在であった。
──これもまた、法の天秤の元、犯罪行為は絶対許さないというミコの信念が現れた元なのだろう。
ノイズ少女は赤っ恥をかきながら、『耳元ASMR キン●リ平野のゼロ距離囁き♡ 安らぎの温かい吐息、憩いの空間へ……』の再生をアタフタ停止した。


「…ごほんっ。勘違いなさらぬよう弁論しておきますが……、私普段からこういうの聴いてませんからねっ!! た、たまたまですから!! 勉学に日々励み、司法書士を夢とする私が…ジャ●ーズ系アイドルにウツツなんて……。し、してませんしっ!!! 本当ですよ!!」


「…………チッ!!」



「………………………うーん…」

「『うーん…』じゃねェよハゲ!!!」

「………いや、オレも悪かった。…オレの責任だよ、こればかりはねえ…」

「ったり前ェだゴラッ!!! だから言っただろうがよッ?! レイプとかぶっ殺し予定は抜きにして、このバカ女は超絶邪魔だから一旦どっか行かせろってなぁ?!!」

「………うーん…」

「それをテメェーが『女の子一人は危ないから〜』とか偽善ほざいたせいで全部ぶち壊しじゃねェか??!! テメェ自身だってコイツのことうるさく感じてるから、イヤホンでノイズジャックさせたンだろ?!──」

「──…テメェと、このクソガキのせいで………。色々全部ぶち壊しじゃねェかァッ!!!??!! どう落とし前つけンだ山猿がッ!!!」

「……………だから困ってるんだろうが。オレも『うーーん』って──…、」



 ピュイ〜ッ────────────!!!



「……!!」 「…あぁもうッ!!! チッ!!!」


二人の喧騒を止めたかったのか、またもや『黄色のホイッスル』というノイズが会話を邪魔する。
たじろぐ二人を傍目に、風紀委員のミコは随分と忙しい人だ。

561『TOKYO 卍 REVENGERS』 ◆UC8j8TfjHw:2025/04/14(月) 20:18:31 ID:Cj/PtNN60

「…鰐戸さんっ!! 今…。レ、レイ…プとかいう信じられないワードが聞こえましたが…………。…風紀委員として断じて許せない言動ですっ!!! 神聖なこのバトル・ロワイアルで…なんて破廉恥な………。恥を知りなさいよっ!!!」


「…神聖……ねぇ……」

「またかよコイツ…」


「いいですか? 確かに現代日本では言論の自由・発言の自由が許容されています。ですがっ!! 公共の場での卑猥な発言は、刑法175条・わいせつ物頒布等罪に該当します。親告罪ではありますが、被害届を受理されると逮捕。起訴後、懲役三年又は罰金刑が課せられる、立派な犯罪なんですよ!!」


「…ミコ、少し落ち着きなさい………」

「いや待て。一々ウザ過ぎて逆に面白くなってきたなコイツ…──」

「──おい伊井野!! テメェなぁ…風紀委員とかお固い自称してる割にゃあ、猥褻ワードに随分お詳しいじゃねェかよ〜?」

「………っ?!! えっ?」

「口では偉いことほざきつつも、どうせ頭ン中はエロスで一杯なんだろッ!! あぁそうだ!! じゃねェとあんな催眠音声なんか聴かねェもんな!!!」

「な?! ち、ち違いますよっ!!! 失礼過ぎます鰐戸さんっ!!! 撤回を要求します!!!」

「嘘こけ!!! これにて偽善者の皮破れたり!! それもそうだ、ンなデカい乳して性欲がねェとか御伽噺にも程あるぜッ!!! ぎゃはははははははハハハハハハッ!!!!! ぎゃははははははははははッ!!!!!!」

「……ちょ!! も、もうっ!! や、やめてくださ…──」


「──って、ひゃんっ………!!♡」

「………」


 お手本のような嬌声がミコの口から漏れ出た。
馬鹿笑いを繰り返す三蔵が揉みくだすは、無論ミコの黒いベールに包まれし胸や太もも。
サディズムな三蔵故に、痛いぐらい握りしめられたのだが、割と満更で無さそうな嫌がり顔をするミコには困ったものであっただろう。
カモは呆れ半分怒り半分で、三蔵を静止にかかるが、奴は気付けばニヤニヤと。
カモの股間部分に視線を落とし、ヘラヘラほざき出した。


「…つまりは偽善者山猿。テメェも本心はヤりてェで一杯なんだろ? あ〜ッ??」

「…馬鹿か? …おい、あまりふざけるなよ屑。ミコもミコだけど、お前も調子乗りすぎじゃないのかねぇ」

「はぁ??!! 『私も私だけど…』ってなんですかぁっ?!!!」

「うっせェテメェは話入ンな伊井野ッ!!! …あのなァ、いい加減自分に正直になれや? 偽善の皮剥いでテメェも楽になれよ? な?? どうせカウパー滴ってる癖によォ〜??」

「…カ、カウパーっ??! …………鴨ノ目さん、貴方までそんな性的な……。嘘…ですよねっ………?」

「…黙りなさい。嫁入り前の女の子がそんな単語言うんじゃない。…あのねぇ、鰐戸や………」

「あっ、それとも皮は皮でもまだ剥いてねェとか?! そりゃ人前でチンコ出せねェよな?!! ぶっはははははははっはっはっはっはっはははは!!!!!! ぎゃはははははははははははははははははッ!!!!!!!!!」


「……………」


念の為補足するが、カモは別に三蔵の発言が「ズバリその通り」だった為、黙った訳ではない。彼は(死別済みとはいえ)既婚者である。
ただ、もう殺し合いとか戦慄だとか、そんな雰囲気はオサラバな現状下にて。

カモの目に映る──…一人で馬鹿笑いする三蔵と、
──…支給品である『クロミちゃん特大ぬいぐるみ@マイ●ロ』をギュッと抱きしめる──、


「……もう、私…世の中が…嫌になっちゃうよ……。この風紀の乱れ……、私いつも頑張ってるのに………。なんでいつもいつも報われないの………」

「…………」


──伊井野ミコには、流石のカモもある意味戦意喪失といった訳で。

勿論、それは比較的平穏。平和この上ない現状で、カモ自身も諦めて事の成り行きを見届ければ良いのだろうが。
行き場のない戦闘欲のもどかしさというか、消化不良に終わったむず痒さというか、──とにかく色々で。
彼は呆れ返り、ただ坊主頭を搔くしかできずにいた…………。



「……………全くもって困ったもんだよ…──」



「──……ふう…………………」







「は? 困ってんのはその子だろ。クズ共」

562『TOKYO 卍 REVENGERS』 ◆UC8j8TfjHw:2025/04/14(月) 20:18:50 ID:Cj/PtNN60
「「「……………………っ!!!」」」




 前触れもなくして。
ギクシャク三人一行に発せられたその一声は、当然ミコでもカモでも三蔵の物でもなく。
彼等の前方十メートル程離れて立っていたのは、恐らくミコと歳は離れていないであろう黒髪の男子であった。


「……あ? ンだよテメェ??」

「『あ?』じゃねえだろ。…っていいやもう。おまえらチンピラとは話しても無駄だしな」

「あぁッ?!」


 端正で顔の整った少年の姿は、カモ&三蔵という凶悪面ばかりと接するミコに新鮮な思いを届けただろう。
先程までか弱くながらも抱きしめていたクロミちゃん人形から、すっ…と力が弱まっていた。
そんな彼女と目が合った少年は、ニコリと微笑。
シッ、シッ、とミコへ向けて手振りをしながら、彼は『カメラ』をそっと構える。


「…キミ」

「え、…わ、私ですか?」

「うん。ちょっとばっかり離れてくんないか? レンズに入っちゃうからさ」

「………。…は、はあ」


突如として現れては、自分の監視対象兼仲間をクズ呼ばわりし、そしてまた前触れもなく撮影を整えだす少年。
そんな彼にはミコとて違和感は感じていたが、何となく彼の言う通りには従ってみせた。

少年の視点にて──カメラのレンズからミコが消えた折、彼はゆっくりとシャッターレンズを押し込む。


「……おい鴨ノ目、なんなんだコイツ……?」

「…さあねぇ…」

「…チッ。おいクソガキ!! 誰の許可得て撮ろうとしてんだゴラッ!!!! 舐めとんのかキサ──…、」


「うるせえよ。会話する気ないつっただろ?」


レンズの被写体は、二人の男。
────鴨ノ目武と、鰐戸三蔵の姿──。
睨みながら近寄る三蔵ときたら、それは写真としてブレまくったのだろうが、少年にとってはそんなことどうだって良い。

彼は「はい、チーズ」と小声で呟くと、────刹那。パシャリッ。





 ───ドッガガガバギャァァアアァアアアアアアアアアアアアアッッッ




「…………………………えっ」





爆音と、光と共に乱れ咲いた彼岸花。


唐突に鳴り響く、鼓膜を刺激するほどの爆発音に、ミコが振り返ったその時にはもう。



二人の復讐者の姿は、灼熱の炎で完全消失していた。






「…『おもふひとはあなたひとり』。綺麗だよな。彼岸花の花言葉だ」

563『TOKYO 卍 REVENGERS』 ◆UC8j8TfjHw:2025/04/14(月) 20:19:01 ID:Cj/PtNN60
「……………………え」



「…いや、守ってやったんだからお礼くらい言えよ……。……って、まぁ言葉失うのも無理はないか。悪い。──」


「──俺は相場晄。……ま、とりあえず自己紹介云々も兼ねて、そこで話そうか。な?」





クロミちゃん人形が、ボトッ…と地面にこぼれ落ちた。

564『TOKYO 卍 REVENGERS』 ◆UC8j8TfjHw:2025/04/14(月) 20:19:16 ID:Cj/PtNN60






……
………


 伊井野ミコは、泣く時はいつも個室空間。一人の時のみだった。
風紀委員として我が強すぎる彼女は、時としては皆が恐れるヤンキーの先輩に、時としてはクラスで人気者の男子にさえ注意を躾ける。
場の空気感、人間関係、流れなど気にせず、校則違反があれば些細でもガミガミと叱責する──そんな彼女だった。
故に、ミコを良く思わないクラスメイトが(特に中等部時代は)大半で、陰口を囁かれたり、陰湿なイジメを受ける事が度々ある。

──ミコが泣く時は、誰もいない場所で。いつも隠れて、一人の時のみだった。
今までは。



「……っ、うっ………………。っ…、…ぐっ…………………」



「『はにかみや』…。三角草の花言葉さ。…はにかむと意外と可愛い『はにかみや』…ってな──」

「──…ははっ、笑うなよ? 俺、こう見えて花とかが好きでな。ガラじゃないんだろうが…花を慈しむのが密かな楽しみなんだ──」

「──…おいおい、女々しい趣味だな〜とか思ったりしてないよな? 厳密に言えばさ、俺は花が好きというより花の写真を撮るのが好きなんだ。…いや、つか写真がそもそも趣味って感じか。ほら見てくれよ。この、二人映るうちの…お姉ちゃんの方──」

「────『野咲春花』。この子がさっき説明した三角草の花。…俺らがこれから探すその人さ」


 珈琲チェーン店二階。多人数用テーブルにて。
クロミちゃんぬいぐるみで顔を伏せ、肩を震わすミコへ。相場はポケットから『小黒妙子の死体写真』を取り出す。


「あっ! やばい間違った!! ………………ち、違うんだ…。…これは関係ないっていうか……、本当にどうでもいい写真だから…!! …き、気にすんなよ?──」

「──…ふぅー。……えーと、…あぁこれだこれ──」


 ペラッ


「──この長い髪の女子が野咲。…美しいよな……。…彼女は俺が支えてやんなきゃいけない。俺と野咲は互いにな、…唯一の友達同士なんだ。…な、キミ」


「…っ…………、ぐっ……………うぅっ……………………」



「……………………。…あのさぁ……」

「………………っ…、…ぅ…………」

「普通、学校でもなんでも…挨拶くらいはまずするよな。常識的に。………キミいつになったら名乗るわけ? あんたの名前知らんワケだから、俺はいつまでもキミキミキミキミ…って。いい加減ウンザリなんだが………。いや、マジに」

「………………っ…………」

「……会話する気0…か。てかそもそもさぁ…、泣く要素………どこ? いや泣くのが癖ってんなら俺も深堀りはしないけどよ。何か事情あったんなら相談には乗るぞ?──」



「──キミには俺がいるんだから」




“────君には僕がいるんだから………”


「………っ!!!…」



優しい口調で、そして温かな掌で頭を撫でられるミコ。

傍のガラス窓を見下ろせば、今も尚、爆裂の焔が燃え盛っていた。



「…………………ふっ、ふざけないでよ…」

「…え? …あぁ悪い。俺的には冗談話してたつもりは一切ないんだが……。何か気に触ったのならそれは──…、」


「…人殺しッ!!! ふざけないでよ……ッ、…この人殺しがぁあアァッ!!!!!」



「…………………………は?」

565『TOKYO 卍 REVENGERS』 ◆UC8j8TfjHw:2025/04/14(月) 20:19:31 ID:Cj/PtNN60
 涙でグッショリと濡れるぬいぐるみ。
彼女の瞳に映る、面を喰らったといった相場の顔といったら、余計激情が堪らなかった事だろう。

ウィンクと微笑を維持するクロミちゃんとは対象的に、顔をあげたミコの表情は激しい怒りと悲しみで震えていた。


「……ぃぃッ!!」


「………いや、おまえさ……、ちょっとヤバくないか? ………人殺し呼ばわりとか………ないだろ」

「…うぐっ……うっ……、ッ……!! …ヤバいとかヤバくないとかッ………、法を遵守とかしてないとか…もう関係ないしッ…………!!」

「…は? まぁいいや。…正直俺さ、おまえが怒ってる様子見て少し安心したよ。何はどうあれ、やっとおまえは俺に意思表示したんだからな。………ははっ、いや、その──…、」

「アンタは命を奪ったッ……!! …罪のない……、二人を…………。理由もなく殺したッ…!!!」

「………ぁあ? ……おまえさぁ、人が話してるときに被せてくるの、やめ──…、」

「アンタの名前なんかどうでもいいしッ…知りたくもないッ!!! 私はアンタを絶対に許さないッ!!!! 許さないん…だからッ!!!!!」


「………………んだよそれ……──」


「──おまえなぁ、あの死んだクズ共に同情して俺を恨んでるならお門違いだからな? …あのまま野放しにしてたらおまえ今頃死んでっからな?? …いや、ただ死ぬだけならまだ不幸中の幸いだぜ…。──」

「──おまえの綺麗な顔も、貞操も。何もかもが徹底的に侮辱されて、苦しい思いさせられた後にやっと楽になれるんだぞ? 冷静に考えてくれよ、なあ?」

「クズ共って呼ばないで…ッ!!! あの人たちの名前は、…鰐戸さんに、鴨ノ目さん………ッ!!! アンタ如きが人をクズ呼ばわりできる人なんかじゃないんだからッ!!!!!」

「…………」


「……確かに私だって鰐戸さん達のことはよく知らないし…………。それに、正直…怖くて……何されるか分からないって…疑心になる節もあったわよ……………」

「……」

「…ィッ…!! でもッ…、それでも殺して良い人なんかでは決してないッ!!! 殺人は許されないッ!! 私が指導更生すれば、優しくなれる…そんな心を持つ人達だったのよ…ッ!!!」

「…」

「…それを……アンタは何も知らずして爆殺したッ!!! 蟻を踏み潰す感覚で…、適当に命を奪ったッ!!! 私はアンタと話すことなんかないわ…!!!──」


「──償ってよッ…。裁かれて…苦しんでよッ!!! この……人殺し…。人殺しがァああ──…、」


ミコが涙を撒き散らして叫ぶ時。──その時にはもう既に相場の瞳孔はどす黒く死にきっていた。
彼は熱々のブラックコーヒーを、彼女が話し終わるのを待たずして顔にぶっかけると、


「…ッ!! 熱っ…!!! い、いやぁあッ──」


「───あっ………!!!」



ミコが大事そうに抱いていたぬいぐるみを鷲掴みにし、力づくで引き奪う。



「……ごめんな、俺ビョーキなんだ。カッとなると見境なく暴力奮っちまう。…でも、自制してる方ではあるよな? おまえを殴ってはいないんだから………」

「…ちょ………。か、返して…。…返しなさいったら……、ねえっ…………!!」

「え、返さねぇよ? 何せおまえはコイツを抱けば言いたいことを言う勇気が湧くんだからな。…コイツさえいなけりゃ、おまえは正常な言動に戻れるんだッ…」


「返してったら…………。……あっ!!」


──ビリッ、ビリビリビリッ…バリッ。


 首を引き裂かれ、綿が大きく飛び出すぬいぐるみ。
口調は淡々ながらも、眉間に皺を寄せ表情が歪む相場は、ミコ唯一の心の拠り所を力一杯引き裂いた。

無惨な姿にされてもなおコチラに微笑むぬいぐるみの姿は、か弱い心ミコのをグシャグシャに押し潰していく。


「…い、いや…。いやァぁあああああああぁあああああああああああああああああッ!!!!!!!!!」


「…うるさいよ……。大袈裟かっつうのッ。…おまえは……ッ…。………ハァ、ハァッ…」

566『TOKYO 卍 REVENGERS』 ◆UC8j8TfjHw:2025/04/14(月) 20:19:47 ID:Cj/PtNN60
怒りのまま顔面の綿を毟り取っていく相場。
かつてズングリムックリで柔らかい心地だったぬいぐるみは、今やヘロヘロの皮のみとなる。


「やめてぇ…。やっ…やめて…ぇぇ………」

「…ハァア……ッ。うるせぇッ」


彼女の悲痛を作業用BGMのように聞き流す相場はビリビリビリビリッ──と。
ぬいぐるみの胴体から手足から、なんの見境もなく八つ当たりの引き裂きを続けた。
もはや原型を留めなくなってもなお。


「や…やめ…………」


「…………」


「やめてぇえええええええええええええええええええええええええッ──…、」

「……………ィッ!! うるせえッていっただろうがァアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!!!」


そして、とうとう矛先はミコ自身に向けられる。
普通、どんな男であれ女子の顔を殴る事だけは御法度。──例え、怒りを堪えられなくとも最低平手打ちと。ダメージを与えるような事はしないもの。
ただし、相場晄という男は『普通』なんかでは到底無い。

──ゴシュッ…と。

白い綿を握り潰しつつ、その拳のままミコの右頬を容赦なく振るい放った。


「いッッ、きゃァアアッ──」


「──ィッ、いぃ……ッ!!」


 間髪入れずして、ミコの頭皮に襲いかかる鈍い痛み。
ミコの前髪を引っ張り上げた相場は、その恐ろし狂った形相を一気に近付ける。
彼の手の甲に付着した、ミコの汗と涙の粒。
──そんな体液の生暖かさ、か細さなんてわれを忘れた狂人には、何ら罪悪感の揺れ動きなど無かった。


「……痛いかッ? あぁ痛いよなァッ?? 」


「……‥やっ……………、ぃたいっ……ッ。…やぁっ……やめ……。離して──…、」

「…俺は今までの人生その何倍も心をズタズタにされてきたんだよッ!!!!」


グッシャクシャに髪を揺り引っ張り、激昂を叫ぶその男。


「引っ越す前の…仙台の奴らも……ッ。小黒の野郎もッ、ばあちゃんもッ、…母さんでさえもッ……………、そしてテメェもッッ!!!!!!」


「ぃぃっ…ッ、…あぁっ………」


苦悶と恐怖で涙を流すミコ相手に、男は好き勝手に独りよがりな激怒を続ける。
奴は屑をも越えた完全なる外道。
相場は、鬼であった。


「この世の『女』って生き物は全員…ッ! 誰も俺の言うことを理解してくれないッ!!!──」

「──俺をいつまでも苦しめてッ……、いつもいつも…いつも、いつも、──」

「──いつも、いつも、いつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもッいつもッいつもッいつもッいつもッッ!!!! 嫌われてばかりの人生だッッ!!!!!!」

「…………いぃっ…………。ぐっ…………」

「痛いのは俺の方なんだよッ!!!!! 俺ばかりがいつも苦痛なんだよオオオッッ!!!!!!!」

567『TOKYO 卍 REVENGERS』 ◆UC8j8TfjHw:2025/04/14(月) 20:20:04 ID:Cj/PtNN60
相場という男は、完全に逸している。


圧倒的恐怖の存在であった。



────ただ、ミコの人格を形成した『信念』は。

──たかが恐怖ごときで、今更怯む物なんかではなかった。




「…嫌われて当然でしょうがッ………」


「………ハァハァ……。……あ? ………今なんつった」



「…嫌われて当たり前よッッ!!!! …こ…この人殺し…、人殺しがぁああああああああああッ!!!!!!!」

「………ぃ、ぃぃィイイ!!!!!!!!」



 頬と前髪の痛みに、流れ出る口元の流血。
そんな心身的激痛を超越した、ミコの正義の心。──心からの叫び。
無論、彼女の発声は悪足掻きとほぼ同等。
ブレーキーの無いイカれた四輪駆動にガソリンを注いだ様なもので、相場の激情により一層火をつけたまで。
後先を考えれば、無抵抗でいた方が身の安全であったろう。


──だが、その場の安全が保証されて何になる。


──日和見。事なかれ主義で、『無念』は晴れるものなのか。



────カモと三蔵。ミコが背負った二つの『無念さ』を、暴力なんかで屈したくは無かった。




「ハァ…ハァ……、俺がッ……」

「…………!」


「俺がテメェを守るって言ったじゃねェエかよォオオオッッ!!!!!!! 女ぁああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!!!!!!!!」



「………ッッ!!!!」




──ただ、その強い信念を引き換えに、石直球の様な拳をひたすら浴びる迄であった────。










「あ? 男もテメェのこと大嫌いだがな?」







「…えっ」

「………あ?──…、」




「鳴けよ、ブタ。──むンばッッッ────────!!!!!」





 ──ガシャンッッッ────

  ────ボキッ

568『TOKYO 卍 REVENGERS』 ◆UC8j8TfjHw:2025/04/14(月) 20:20:20 ID:Cj/PtNN60
 ミコの鼻目掛けて放たれた筈の右ストレートが、フッ…と力無く落ちる。
相場でも、ミコでもない。──第三者の声が、喧騒を遮ったその時。
気が付けば、相場の腕はテーブルに叩きつけられ、そして骨が飛び出る程へし折れており、
その異形な腕を理解した時、相場は初めて強烈な痛みを感じ、絶叫をあげた────。


「いっ…ッ!!! ぎゃぁぁあああぁぁあぁああぁあぁぁああああああああああああああッッッ!!!!!!!!!!!!」

「あァッ?!! おいクソガキ、テメェは豚なんだよ!! ブタは『ぎゃあ〜』なんて鳴かねェだろうがッ?!! バカかテメェ!! ぎゃはははははははッ!!!!!!」



「…え…………………?」



激しい痛みに、腕を抑えてのたうち回る相場。
──そして、パイプレンチ片手にゲラゲラ嘲笑する『その男』。


ミコは信じられなかった。
脳の処理この時が全く追い付いていなかった。


一度無くなった物はもう二度と取り返せない。

死んだ者が生き返る事だなんてある訳がない。

錬金術が当たり前なアニメ的世界ならともかく、完全に消え果てた者が再来するなんて、現実主義者であるミコは全く信じてはいなかった。

そう。
信じていないからこそ、ミコは『その男』に目を丸くして驚き──、



──先程まで流した物とは、また別の感情の涙が零れ落ちた。






「…が、『鰐戸さん』っ……………!!?」





 勿論、そこに立っていたのは幽霊ではない。
鰐戸三兄弟の極悪三男────。
──鰐戸三蔵は、微々たる火傷痕を擦りながら、ミコの元へまた、戻ってきた。


「……ぃぃいいいぎぎぎぎぎぎぃいいいいッ………!!!! ああああああッ………!!! な、なんで………ッ」

「ははは〜っ。痛そう〜、うけるわ(笑)──」

「──つーか伊井野!! 随分コイツとお楽しみの様じゃねェかよ。こんなヘニャチンよりも俺の方が楽しませてやれンのによォ〜?」

「…………あ、あ…………」


まるで何事もなかったかのようにヘラヘラ下衆な事をほざく三蔵。
その姿には、ミコは言葉が詰まりつつも歓喜を、一方で相場は脳がシェイクするほどの絶望を感じていたのだが。
二人揃って共通に思った事がある。

「何故、生きているのか」──と。

語気、声色は違えど、ミコと相場の声がハモリを見せた瞬間だった。


「…あぁッ??! 生きてちゃ悪ィかよッ!! ぁああ?!!」


「…え。いや!! 違いますよ…!! で、ですが………」

「いや…悪いに……決まってんだろ…がぁああ………………ぁああッ………いっぎゃぁあ……」


「…あ、あの時………。爆発に巻き込まれて…………。私、…それで死んじゃったと思ってて……。が、鰐戸さんっ……!!」

「あー、そっかそっか。ンまぁ普通死んだと思うよな。…テメェもすっかり殺した気になってたもんなァ〜?! ブタくん♪」

「ぎぃっいいいぃぃぃ……………………──がぁっ!!!」


豚──と罵られる程、相場は別に肥えてはいないのだが。

それはともかく、悶える彼を軽く足蹴りした後、三蔵は自らが生きている『理由』を語り始めた。
靴底で相場の頭をゴロゴロ撫でつつ語る三蔵。


──この時の彼は、先程までのおちゃらけた醜悪の表情と打って変わって、シミジミと真剣な面持ちであった。

569『TOKYO 卍 REVENGERS』 ◆UC8j8TfjHw:2025/04/14(月) 20:20:38 ID:Cj/PtNN60
「………縁も絆もねェどころか、『絶対ぶっ殺してやる』って、いがみ合ってた野郎だっつうのによ。──カモ。…カモ…兄ちゃんがよ。……俺を助けてくれたんだ」


「………えっ?」

「…は、はぁ……………ッ?!」


「…爆発の直前、俺の襟首掴んで投げ飛ばしやがって。……『何すんだゴラッ?!』とか言おうとしたら、ボンッ…ってよ──」

「──笑えるよな? つーか意味分かんねェし。あの野郎の考える事は理解できねェよ。だが、とにかく奴は…、兄ちゃんは俺を救ってくれたんだ──」


「──自分はグッチャグチャに火だるま化したっつうのによ…………………」



「……………えっ……。………え、それって…………──…、」

「…それはつまりバカチンピラは犠牲になったんだろ………? コイツの枯草にも劣る命守ってさ……。…ははっ、ハハっ!! …ば、バカかよ……? ぐっ…、ははははッ…!!!」


「………………」

「……ィッ!!」



 ────鴨ノ目武。

屑を最も嫌い、そして幾多もの屑達を残虐に葬り去ってきた彼が、何故鰐戸三蔵という男を『生かした』のか。
当の本人はもういない以上、その真意を聞き出すことは無理だとミコはこの時思ったが、それと同時に、彼への畏敬の念が込み上げてきた。
カモを失った悲哀と同時に、──畏敬が一つ。

“あぁ…やっぱり私の見立て通り。”

“鴨ノ目さんは、『良い人』だった……。”

──と。

ミコはもう、涙が溢れて零れて、感情の揺さぶりが止まらなくなっていた。


「……チッ…!! 身代わりとか兄ちゃんとか……すごいどうでもいいんだよ…!! 俺はっ……! ギィッ…。良いからさっさと足どけろよチンピラ………ッ!! もう満足だろ……。な?」

「…………あァ?」


止まらぬのは、一方で相場の減らず口も同様。
腕を滅茶苦茶にされ、圧倒的不利な境地に陥っても尚、メンチを切り続ける彼は、流石サイコパシーの異常者と言えよう。


「仕方ねェなァ? おらよ、ブタ」


 ──ゲシッ…────


「ンギャッ……!!!」


そんな異常人間を称賛するかのように、言われるがまま彼を蹴り飛ばして『足をどかした』三蔵は、相場に向かってこう言葉を発した。



「……俺には兄ちゃんが二人いた。…血の繋がる兄弟が、…二人、な」


「…え、鰐戸さん…………」


いや。
彼が言葉を綴る相手は、下衆でイカれたカメラ少年向けてではなく。
──顔は向けずとも、ミコに話していたのかもしれない。


「…一兄ちゃんと二郎兄ちゃん。…固い絆で結ばれて、いつも一緒にいた俺ら兄弟は……──死ぬ時もほぼ同時だった」

「……えっ。え? …それは……。…つまり………」

「九九も五十音も言えねェような悶主陀亞連合のポン中共に散々拷問されてッ……。散々屈辱された挙げ句、歳の順でバラバラにされたんだッ…。生きたままッ……」

「……な、なんですか………?! そ、それは………」

「…二郎兄ちゃんが首チョンパされて、次は俺って時に。…気が付いたらあのバスの中にいた。………俺にはもう兄弟も家族もいねェ。失う物なんか一つもねェンだ」


「…………っ…。……」

570『TOKYO 卍 REVENGERS』 ◆UC8j8TfjHw:2025/04/14(月) 20:21:26 ID:Cj/PtNN60
ふと、前方のガラス張りを見上げる三蔵。
──もしかしたら、この言葉は相場はおろか、ミコ相手に向けて話していないのかもしれない。


「だから。…だからよ。真意は知らねェが、俺を助けやがったあの野郎。──…カモの奴は、…偽善者のアイツに売り付けられた…『恩』ってのは…絶対果たさないといけねェ」


「………」


──坊主頭で、偽善煩くて、そしてサングラスで。
大嫌いだったアイツに。
三蔵はもしかしたら語りかけているのではないだろうか──。


「あの野郎こそが……。あのいけ好かねェ野郎こそが、…俺の兄ちゃん代わり。兄貴分なんだよッ……──」


「──伊井野。テメェは一々うぜェしさっさと犯してやりたいとしか思ってねェがよ………。カモ兄ちゃんはそんなテメェを大事にしていた……。…まるで本当の家族みたいに…──」


「──だからテメェは俺が守るッ……。野郎が兄貴分ならテメェは俺の妹分だッ…!!」



「へ…?! え、えっーー!!!?」

「チッ、うっせェ伊井野!! …俺だってガラじゃねェし…。こんなバカみたいなセリフ……恥ずくて馬鹿らしくておかしくなりそうなんだよッ!!!──」


「────だが俺にはもう失う物なんかねェ。恥もプライドも今更だ。……良いかァ? 伊井野。俺等が何故死なずに済んだか…」

「…は、はい」



「……答えは簡単だ。──失う物ねェ奴が一番【無敵】なんだよッッッ────!!!!──」


「──分かったか豚クソガキィィッッ!!!!」

「……………あ?!! は???」



三蔵が、らしからぬ【宣言】を送った相手は、ミコに向けてなのか、…それとも『兄貴分』へなのか。
──どちらにせよ、彼は再び相場へと睨みを飛ばした。


「…いや分かるかよ……ッ。………あー…見苦しいぜ…、異常者同士の家族ごっこ………。…つか…どうでもいいし、もう…………──」

「──んじゃ俺からも贈り物させてもらうからなッ…………!!! 太郎兄ちゃんだか何だか知らないが……、New兄妹セットであの世で再開させてやる…ッ!!!!」


「あっ!!!」


 相場はそうほざくと、懐から隠し持っていたハサミ(──小黒の盗品)を取り出し、不意打ちに背後のミコの喉元へ突き付ける。
折れてない方の手で握ってるとはいえ、三蔵の気迫に恐れてかガクガクと震えていたが、彼は容赦なく力を込めた。
カメラで爆殺という手法も選択肢にはあるが、ミコ、三蔵共に射程距離として近すぎる上に、そもそも両手持ち必須な重さの為、今は不可能。
三蔵に殺される事は覚悟であるが、せめて彼の心に傷をつけようと、ミコ殺害に足掻き始めた。


──だが、何故だろうか。



「…あ? …あ、あ??」


こんな卑劣な行動を取ろうとも、三蔵には焦りの表情は見えず。
気の抜けるくらいに、平然と眺めていた。



「…って、…あぁっ?!」


──そして、また何故だろう。

いくら力を込めようとも、健全であるはずの左手は『ビクとも動かない』。
まるで凍りついたかのように。
──いや、誰かに手を強く抑えられたかのように、全くとて身動きが取れなかった。



「…………………いや、おい………。嘘だよな…これ………………」


「……………」

──本当に、何故なのだろうか。
些細な事ではあるが、相場の額には冷や汗。絶望の玉粒が、にじっ…にじっ…と湧き出てくる。
彼は「嘘だよな」──と、今ある現実を逃避するかのような弱音を漏らしたが、一体相場は何を察したというのか。
何が起きているというのか。

571『TOKYO 卍 REVENGERS』 ◆UC8j8TfjHw:2025/04/14(月) 20:21:42 ID:Cj/PtNN60
──答えは簡単である。



──【背後の『誰か』に左手を強く抑えられているから】、だ────。





「オレにも家族がいてねぇ。……って、三蔵の話と引き合いにしたら、オレの妻子も屑みたいに思われそうで嫌だけども………。ともかく、二人はもう居ないんだ。この世にはねえ…。──」



「………んだよ……………」



「オレにとって、ミコと三蔵。…そしてここには居ないが、トラは新しくできた『家族』だ」



「…………ったく、…もう………」



「どんな理由があろうと──」

「──法に触れようと、道徳も正義も倫理も関係ない──」

「──オレの家族を傷つけるやつは誰だろうと決して許さない」



「…………………もう、訳わかんねぇよ……………」


三蔵、そして『ミコ』に注目を浴びる中。
相場はとうとう力なく項垂れていった──。







「昔の中東戦争時に、戦場カメラマンを装って『爆殺機能付きカメラ』を使った国があるんだよ。お前さんが丁度持ってるソレがさ。兵士はさぞ無念だったろうねえ。民間人かと思って攻撃を避けてたらボンッ──なのだから。卑劣極まりなくて、オレはイス●エルに強烈な不快感を抱いたよ──」






「────だから、屑は許さないよ。絶対にねえッ……」








 ──ゴスッ──────







「…か、………『鴨ノ目』さんっ!!!」

572『TOKYO 卍 REVENGERS』 ◆UC8j8TfjHw:2025/04/14(月) 20:21:55 ID:Cj/PtNN60




 以降、相場晄がとんでもない目に遭った事は、野暮なくらいに言うまでもないだろう。



「ハァ……、がッ……。ハァハァハァ………、ハァア…………。ミスミソウ……三角草の…花っ……──」


「──冬を……耐え抜いてぇっ……ハァハァ……。雪を割るように…じてっ…………、小さな花が……咲ぐ………──」


「──今は…苦しくても…、ゴホッ…!! ………ハァハァ………未来が苦しいとは限らない……。そう…だよな…、野…咲…。……野咲…ぃい…………………」



 片腕を抑え、そして片足を引きずり。
バッキバキに目を血走らせつつ、鼻息を荒くしながら、町中をフラフラ彷徨うは、相場の姿。
右目を大きく腫らし、止まらぬ鼻血をもう諦めて進み続ける彼は、もはや亡霊同然だった。


 数分前。
顔面をテーブルに叩きつけられて以降、気絶から覚ました時には、目隠し状態で椅子に拘束されていた相場。
この時、何故か上半身半裸にひん剥かれており、近くではヤニ臭い煙がモクモク漂っている。

──自分は何をされてるんだ…?
──俺はこれからどんな目に遭うんだっ……?!

完全なる視界不良の中、不安と絶句で冷や汗が止まらなかった彼だが、微かに聞こえるのは恐ろしい話し声のみ。
「一生物のブラジャーとブルマの刑だ、ぎゃはは」など、「いや、ガスバーナーで…」などと、想像を(悪い意味で)掻き立てる男たちの会話。
これは復讐者x復讐者による『拷問のクロスオーバー』が話し合われていたのだが、相場が彼らの素性など知る由もない。
ただ、得体の知れぬ恐怖だけが、彼を暗闇とともに包みこんでいた。


──そんな算段も、「『拷問等禁止罪』!! 身体的または精神的な苦痛を故意に与える行為は憲法違反で云々…」という口煩い女子の一声で破談となったのだが。



「野咲………。ハァハァ、……絶対俺が助けるからな…………。ガッハッ………。野咲……」


結果的に、自分が『守ろうとした』ミコに助けられるという皮肉な救いで、彼は比較的無事で解放されている。
(──とはいえ、帰り際、復讐者二人に顔面グーパン一発ずつを浴びたのだが)


プライドも身体もメンタルも、全てがボロボロにされた相場。
彼は現実逃避するかの如く、無思考でただ歩き続け、

そして無思考で、思い寄せる『三角草の花』の名前をひたすら連呼し続けた。




「…野咲……ハァハァ………。野咲………」



【1日目/G7/街/AM.03:06】
【相場晄@ミスミソウ】
【状態】精神衰弱(軽)、顔殴打(右目、右頬腫れ)、右腕開放骨折、左足打撲
【装備】爆殺機能付き一眼レフカメラ
【道具】写真数枚(小黒妙子の死体写真他)
【思考】基本:【奉仕型マーダー→対象:野咲春花】
1:野咲にとにかく会いたい。
2:邪魔する奴は『写真』に納める。
3:絶対に死にたくない。
4:チンピラ共(カモ・ミコ・三蔵)を許さねぇ……。

573『TOKYO 卍 REVENGERS』 ◆UC8j8TfjHw:2025/04/14(月) 20:22:17 ID:Cj/PtNN60




「…わっ!! ひ、酷い火傷………っ。……鴨ノ目さん、良いですか…? 明らかに軽度のやけど以外は、皮膚科や形成外科を受診することが得策です。特に背中など広範囲に──…、」

「あ゙っ〜〜〜〜!!! 貴様は黙れゴラッ!!! ………にしても兄弟分、この火傷マジメにヤベェぞッ……。…グロ過ぎてもう俺焼肉食えねェクラスだわッ! …ぎゃはは……」


「うーーん…。…とりあえず、オレはもう二度と仰向けで寝れないねぇ…」



 一方で、ズタボロの相場とは引けに劣らず。
命からがら助かったとはいえ、カモら一行もダメージは激しい物だった。
殴られ跡を氷袋で冷やすミコ、そして同じく腕や顔の軽火傷を冷却する三蔵はまだ良い方。
相場の奇襲時、三蔵の庇護を優先したカモは、背中上部と右太腿を大きく被爆しており、──どうやってそう平静を保っているのか聞きたい程であった。


「…取り敢えずは包帯と軟膏で済ませるけども、……やはり急冷スプレーとか欲しいもんだねえ」

「…きゅ〜れ〜…ですか?」

「あ? ねェモンはねェよッ。今はスタバにある医療道具で妥協しろっつうの」


「……………。………あの、…鰐戸さんっ!!」

「はいストップ!!! テメェの言いたいことは手に取るように分かるからなッ?! 『薬局まで薬取りに行きましょう』っつうつもりだろ??!! 俺に指図すんじゃねェぞクソガキ!!! こんだけボロボロで行けるかアホッ!!!」

「…っ?!! ………ごほんっ。確かに映画のミ●トでは薬を取りに行った結果沢山の犠牲が生まれました。ですがっ!! 見てくださいよこの大火傷!!! 事は万事…極まりないですよ!!!」

「あ??? 映画の話はしてねェんだよッ」

「……初対面の時から思ってたけど知識披露したいだけじゃないのかねぇ、この子…」



ただ、皮が剥き出し状態とはいえ割と問題無く接し、あまつさえクロミちゃんの修復裁縫をする余裕まで見せるのだから、カモはやはり百戦錬磨のアウトローという訳か。
致命傷者0人という結果で、ひとまずは終わりを迎えそうであった。



涼し気な空調が珈琲の薫りを運ぶ、スター●ックス二階にて。


ミコと実質用心棒二人は、些かな休息を取りつつも、次なる事態に備える。






────【復讐】。

────それは何も生まないとは、本当か。




「…ところで、カモ兄ちゃんよ」

「…ん? 何だ」


「……………。……あのよォ、────何故、俺を助けた。…おかしいだろ、普通に考えりゃよ」

「…あ、それ私も聞きたかったです。あれだけ喧嘩をしていたというのに、…何の心境が………?」



「……………………」



────否。

574『TOKYO 卍 REVENGERS』 ◆UC8j8TfjHw:2025/04/14(月) 20:22:32 ID:Cj/PtNN60
「…おい黙るなよ?! 見ざる言わざる聞かざるってか? 山猿か貴様ッ!!!」

「鰐戸さん! 正しくは『見ざる言わざる聞かざる』ですっ!! ………って、合ってましたね…」

「アホ死ね。…んで、兄弟分よ。真意はどうなんだ? あ?」



「……………──」






「──さあねぇ〜……」


「うわキモッ」

「…素敵です…っ。鴨ノ目さんっ……」

「は? 何処が?」





────復讐は、【無】を生む。




────特に何も無く、それでいて争いや恨み、悲惨さが無い一日ほど、素晴らしい物はあるだろうか。


────空のペットボトルには、何でも詰め込める力がある。


────無こそが、無限大の可能性を引き込む、最大級の一流価値なのだ。




────…きっと──。

575『TOKYO 卍 REVENGERS』 ◆UC8j8TfjHw:2025/04/14(月) 20:22:44 ID:Cj/PtNN60
【1日目/G7/ビル2階/ス●バ店内/AM.03:23】
【伊井野ミコ@かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜】
【状態】精神衰弱(極軽)、頭部打撲(軽)、左頬殴打(軽)
【装備】???
【道具】ホイッスル、クロミちゃんの抱き枕
【思考】基本:【対主催】
1:殺し合いの風紀を正す。
2:鴨ノ目さん、鰐戸さんを信頼。
3:法律違反をする参加者を取り締まる。
4:カメラの少年(相場)がトラウマ。

【鴨ノ目武@善悪の屑】
【状態】背中火傷(大)、右足火傷(軽)
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【対主催】
1:クズは殺す、一般人は守り抜く。
2:ミコ、三蔵と行動。
3:三蔵は屑と認識しつつも見直している様子。

【鰐戸三蔵@闇金ウシジマくん】
【状態】胴体、顔に微々たる火傷(軽)
【装備】パイプレンチ@ウシジマ
【道具】処した男達の写真@ウシジマ
【思考】基本:【静観】
1:伊井野、鴨ノ目を信頼。
2:自分に指図するクズ、生意気なブタ野郎は即拷問。
3:つか早くカモ兄ちゃんと拷問してぇなぁ〜〜。


※三蔵の参戦時期は死亡後(ただし本人は気づいていない様子)に確定しました。

576 ◆UC8j8TfjHw:2025/04/14(月) 20:23:17 ID:Cj/PtNN60
【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ】

今回はちょっと長くなります。
…といっても、内容としては大したものではいないので、ご安心ください。

私は平成漫画ロワ以前に、「シン・アニメキャラバトル・ロワイヤル:||」というリレー物を企画していたのですが全13話でエタりました。
打ち切り理由としては、週1ペースで書いたとしても計算上最低6年間の付き合いとなるシンアニロワにて、「6年後にはオワコンになってる水星や推しの子の小説書くのはキツイいなぁ…」という思いが込み上げてきたためです。
決して飽きたとかやる気が失せたという訳ではありません。
作品のせいにするつもりはないありませんが、ただ、作品チョイスが打ち切りの最大の原因となっていました。(いや作品にせいにしてるやんけ)

この打ち切りを機に、私自身もロワ界隈から離れる志でいたのですが、
その折に流行りだしたのが春アニメ『ダンジョン飯』の存在。
実はこのダン飯。連載初期からネットの某片隅(というかなんj)で話題にされていた漫画であり、なんJグルメ漫画部で「センシすこ」とか「食べ物を食べ物で例えるのがなぁ」と(まぁ比較的)好かれ気味だった印象です。
私自身、小中高とアフィチルで、なんjでネタ(=ス〇マ)されてた漫画達は、なんというか青春というか。馴染み深い存在でした。

この時。──ダン飯に懐古を感じたこの時。
私は閃きました。
「そうだステマ棚の漫画でバトロワやらせたら新感覚やん」と。
そして「参加作品全部時代過ぎたヤツにしたら逆に長続きするんじゃね??」──と。

かくして気付けば60話を突破した平成漫画ロワではありますが、あらかじめ宣言しておきます。
このロワは私の青春です。いや、もはや人生といっても過言ではありません。
羽生は『将棋』、野茂とイチローは『野球』のことばかり考えているのと同じく、私には『平成漫画ロワ』。この平成漫画ロワという独立したジャンルを磨き上げていく熱意と自信があります。
つまり、平成漫画ロワは絶対全350話完結させます。それととどのつまり、失踪したらリアルに死んだと思ってください。(←これが一番重要)
というのも、1日1時間の執筆には毎夜メビウス10本とレッドブル2缶の注入が必須と化しているのでワンチャン人生エタるんです。

さて、長々と全く必要性のない自己顕示欲ばっきばき駄文は以上となりますが、これからも皆様、どうかよろしくお願い致します。
このお気持ち表明(?)は恐らく今回限りとなるので、不満を持った方はその点ご安心ください。
では死ななかったら、また会いましょう。



【次回】
──悪魔と悪魔が出会った夜の話か。

──あるいは、畜生が少女2人を惑わす物語か。

──それとも、ホテル大惨事の序章か。


──『バトル・ロワイヤル in 渋谷』には主人公がいない。70人各々すべてに物語がある。


『悪魔とメムメムちゃん』…メムメム、会長、サヤ師、左衛門

577 ◆UC8j8TfjHw:2025/04/20(日) 20:07:38 ID:GMBXlCQk0
【お知らせ】
仕事の諸事情により、4/22(火)の投下となります。
個人的事情で投下が遅れることを深くお詫び申し上げます。

578 ◆UC8j8TfjHw:2025/04/21(月) 18:30:33 ID:k7y5XQbE0
【お知らせ】
#061『悪魔とメムメムちゃん』の出来が納得いかないモノだった為、書き直します。
従って、悪魔とメムメムちゃん改め#061『よふかしのうた』は来週月曜日の投下となります。
誠勝手ながらお詫びを申し上げますと共に、ご理解をお願いします。

579名無しさん:2025/04/28(月) 17:58:51 ID:AjveotCA0
【お知らせ】
「もう何度目のお知らせや」って感じですが申し訳ありません
完全にスランプに入りました
もう一文字も思いつきません、大した話でもないのに迷走で終わってます
というわけで書き上げるまで休止とします

どう見てもエタりフラグ立ちつつありますがご安心ください
今年中に絶対に戻ってきます、私は不死鳥の様に何度でも蘇ります
台所で詰まった油汚れのようなこのスランプが解消される、その時まで
どうか、どうかご理解下さい

【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ】
①軽いネタバレです
②生き残るのは『実質5人』です、誰が生還するか五連単してみてください

580 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/01(日) 17:09:14 ID:.mAMloyw0
明日投下します。

581名無しさん:2025/06/01(日) 19:58:35 ID:Koxudk2Y0
お帰りなさい
新作楽しみにしてます

582 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:42:49 ID:cFeuEibI0
>>581
ありがとうございます。ただいま戻りました。
長々と失礼しますが、ぜひまたお読みください。

583 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:43:23 ID:cFeuEibI0
【お知らせ】
①お疲れ様です。1か月ぶりの浮上となります。
②スランプ期間中に書き溜めた全5話を一気投下するのでかなり長くなります。
③もちろん「長すぎ、読む側の気持ちを考えろ」というご指摘重々理解できます。
④…ただ、これだけ長い期間平成漫画ロワを放置していたため、それくらいやるのが企画主の務めだろう……という(私の独りよがりな)熱意アンド責任感をどうかご理解ください…。

584『らぁめん再遊記 第二話』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:44:08 ID:cFeuEibI0
**『らぁめん再遊記 第二話〜情報なんてウソ食らえ!〜』


[登場人物]  [[芹沢達也]]、[[アンズ]]、[[早坂愛]]、[[うっちー]]

---------------

585『らぁめん再遊記 第二話』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:44:33 ID:cFeuEibI0
『チャララ〜ララ、チャラ、ララララ〜〜♪』

 ──1度聞いたら耳に残る、あのチャルメラの音色。
ラーメン屋台専用出囃子と言ってもいいその旋律は、まるで狙ったかのよーに、PM.10:00〜11:00の小腹が減るタイミングにて響く印象だ。
ボロいアパートで受験勉強中、「そろそろ休憩かな」と背伸びした折に、窓の外から届く『音の匂い』。

焼肉、カレー、中華……何だっていい。
料理は『香り』という五感で、我々生物の食欲を刺激するものだが。──屋台に限っては、刺激に使う五感は『音』。
チャルメラの音が、人々に空腹を思い出させ、店へ誘い込むのだ。
「こんな時間にラーメンは…」──だなんて罪悪感を抱えつつも、あの音色を耳にしたらもう振り切るのは難しい。
ついつい、足を運んでしまうものである。

時刻は深夜二時過ぎ。
ラーメン屋台『中華そば 来々軒』と共に足を運ぶ、若干十六歳の少女が一人。
彼女──アンズは我々と違い客ではない。
この若さながら、一つの店を構える、正真正銘の店主なのだ。
200kgの屋台を引いて二年。されども、味は昭和懐かしい中華そばで、しかも熟練の味。
額に汗をにじませながら、アンズは、渋谷のネオン光へと消えてゆく。



「…よしっと!」


 スッ──。

木造りの引き出しを開けば、作り置きの細麺が目に入る。
黄色艷やかに、小麦粉でうっすらコーティングされた黄色い麺をひと束掴めば、待つのは寸胴鍋。
ゴトゴト、グツグツ……。
軽く手でほぐされた後、麺は熱い湯に向かってダイブしていく。

注文は『中華そば大、麺固めで』。
麺が鍋の中で愉快に踊る間、アンズは器に醤油ダレを投入。
ラーメンは麺と醤油スープの一体感で為す代物だ。故に、この醤油ダレも麺同様、熱湯に浸されるのもまた一体感の一つか。

じゅぅあっ……こととととと………。
別鍋から鶏ガラベースのスープが、手持ちザルに漉されつつ、器をどんどん満たしていく。
あれだけ黒かった醤油ダレは、今はもうまろやかで温かみのある茶色スープに変貌。
鶏油がラーメンの海をゆったりと漂い出す頃合いには、もうすっかり仕上げの段階である。
海苔、チャーシュー、半熟ゆで卵にナルト。
アクセントにネギともやしをあしらえば、主役の登場は間近。

ざっ、ざっ、ざっ。ざっざっ。
手際よく湯切られるは真打ち登場。縮れ麺だ。
余計な水分を振り落とした後、麺はアツアツのスープとご対面。
やたらと熱い湯に御縁たっぷりな彼ら──麺ではあるが、さっきまでの釜茹でと比べれば、スープの中は居心地が良さそうだった。


「はいよ、お待ち!! ラーメン大、麺固めね!!」


さて。
カウンター席にて、待望のラーメンとうとうお出ましだ。
小雨降りで肌寒い夜中である。これはお腹いっぱい間違いなしだろう。

ほわっ……。ずるずるずる。
「その味はいかに」──と綴るつもりであったが、気が付いたら麺を啜っていた。
鼻腔を満たす、しょっぱい湯気。
それを前にしては、もはや食欲には抗えないものである。

ウェーブがかかりつつもワシワシとした食感の細麺。
良い意味で無駄な主張がなく、あっさりとしたスープに良く馴染んでいる。
そうそう。このスープもあっさり目でありつつ、コクの深さが美しい。
胡椒が醸し出す、琥珀色のうま味。そして鳥と豚骨の美学たるハーモニー。喉を通す度に、腹が減ってゆく。
味こそはシンプルかつ王道系であるものの、『シンプル』と『王道』を両立させることこそ最も難しいのである。

ごくり。…ごくごく。
店主から出された水を一口。
何だかんだで、「この世で一番うまい飲み物とは何か」と問われたら、ラーメンを食べてる時の水と推したい。
どんなに高価な酒も、どんなに世界中で売れた飲料も、この一杯がくれるひんやりとした癒やしに勝るものは、きっとない。

586『らぁめん再遊記 第二話』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:44:44 ID:cFeuEibI0
梅雨明け間近の深夜。
駅裏の屋台で食べた、このラーメン『来々軒』。
実に実に普通で、そして実においしかった。
なんでこういう店が東京には無くなったのだろう。今は千円以上が当たり前の店ばかり。店長さんは腕組みして睨まなくていいから。


我々はこういうラーメンを求めているのだ。
こういうのが────。



………
……


「──的な感じでしょ! ね、美味しいわよねっ!! 芹沢さん!!」

「…………何がだっ!? おい、ラーメンに髪の毛が入っているぞ! お前ふざけてるのか!!」

「あっ。………………。…サービス」

「あ?! なんだとっ!?」

「サービスよ。ほら、サービスだからサービス!!」


「……………」



………奴のチラチラした視線は、俺のスキンヘッドに向けられている………っ。
…(学食のような)懐かしさのラーメンに、実に美味(くも不味くもな)いこの味。
なにが、「こういうのでいいんだよ」…だっ。

コイツは確実に舐めているだろう……。
ラーメンも世の中も俺のことも、何もかもを……………っ。
ラーメンオタクよりも何よりも、こういう輩が一番タチが悪い。



おい小娘。
一つ聞くぞ…。




こんなのが、『殺し合いを終わらせるほどのラーメン』…なのか…………っ?

587『らぁめん再遊記 第二話』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:44:57 ID:cFeuEibI0



 …これは…………、一体どこから説明すれば良いのか。
クソっ……。


「………はい、もしもし。芹沢です」

「ふんふふんふ〜〜ん♫」


辿る『元凶』が多すぎて…頭がおかしくなりそうだ………っ。
今日はクライアントとの打ち合わせ予定日。北海道へ出張する筈だった。
本来なら今頃、何処かのビジネスホテルで程よく酌を取りつつあるものを………。


「…ええ。はい。はい。…誠に恐れ入りますが、代わりまして部下の河上を伺わせますので、何卒ご理解賜りますよう…。…はい」

「困った困ったバトルロワイアル〜♪ アンズが助けてあげますよ〜〜♫」

「……………っ。…はい。…伺えない理由について、でございますか………。…それは……──」


俺は今、顧客に詫びの電話を入れる羽目となっている……。
──バカの歌声が響く中で、だ……っ!


「──………渋谷。…はい。大変な騒ぎになっている、渋谷のバリアーについて。…実は私、その事に巻き込まれている形でして…──…、」


 ガチャッ!! ツーツーツー……


「………クソっ………。“ふざけるな”、か……………。これで一件依頼がパーだ……クソっ!!」

「お腹をすかしたおおかみさん〜〜♪ 子鹿を見つけてむしゃむしゃ〜〜♫」

「〜ぃっ……!!」


 現時刻深夜の三時。
…こんな時間の、断り電話なもの故に、相手が怒るのも無理はない。

得意先から暖簾分けしたという、味噌専門の新規店舗。
先方には長い時間かけて、たっぷりとコンサル料をせしめた事もあり、「この金のなる木を無駄にしまい」と俺も意気込んではいたのだが…。
バトル・ロワイヤルという『ふざけた理由』のお陰で、何もかも全てが水の泡…失墜だ……っ。
俺の評判もっ…、清流企画の評価もっ……、信頼性も金も努力もっ………。
愚にも付かぬ理由で俺の矜持はズタボロだ…………っ!


…一体何故……俺は怒られ…、
そして一体何をさせられているんだ…? この俺は………っ。


「…………くっ……、ふざけるのも大概にしろ……………ッ」

「子豚を見つけてムシャムシャ〜〜♪ たまごさんからぴよぴよぴよ〜〜〜♫ お腹いっぱい〜〜〜♫」

「……………ぃぃっっ!!!!──」

「──おい黙れっ!!! お前が一番に大概にしろアンズ!! なんなんだそのふざけた歌は…。脳が破裂しそうだ…!」

「え? 別にいいじゃないの。──」

「──それよりも芹沢さん、試作品やっと完成したから、ほら食べて食べて! あなたのアドバイスに従ったら魔法みたいにどんどん上手くいくわ!!」

「いらんっ!!! あと何杯同じようなモンを食わせりゃ気が済むんだ、お前は」

「はぁ?! 何よっ!!! …私だって……おじさん達の変わらぬ味を守りたい、それでいて芹沢さんの言う至高の一杯に仕上げたい…。その思いで、頑張ってるんだから…!!! ほら、食べなさいよ!!!」

「………………こいつっ……。…まるで話にならん………」

588『らぁめん再遊記 第二話』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:45:11 ID:cFeuEibI0
 …ズタボロ同然なのは何も俺のプライドに限った事ではない。──胃の調子も崩壊気味だっ…。
得体の知れないループに陥ってるのか知らんが、アンズという小娘にかれこれ十杯近くも、全く改善も進歩もないラーメンを食わされ続けている…。
…コイツはもしや…俺をアンチラーメンにさせたいのか? ──そう邪推してしまうほどだ。
ただでさえ学食のばぁさんが作るようなクオリティだと言うのに、これ以上しつこい試食を受けようものなら…──もはや恐怖症が植え付けられる。


 これほどまでに我が強い上に、成長や期待も見込めない小娘…。普段の俺なら、こんな奴、即切り捨てたことだろう。
…当たり前だ。金の見込みができん店主の面倒など見れるものか。
おまけに、喧しく社会的常識もない小娘は、既に十分すぎるほど抱えている。
…ただでさえストレスの源である汐見のような女が、二人もいるとなれば、…酒がいくらあろうと足りないくらいだ……。


…だが。




……
………
──芹沢さんには、その殺し合いを参加者という身ながら食い止めてほしいんです。

────…俺が、か……?

──バトルロワイヤルには『アンズ』という超能力者がいるので、彼女を上手いこと頼りに、なんとかAの野望を崩壊してほしいんですよ。

………
……



 奴。────数日前、未来から来た『ハル』という小僧の、忠告の元。
俺にとってこの小娘は、切りたくても切れない……、命綱のような存在と化している訳だ。
分かるか?
あの全裸の小僧が、俗に『全ての元凶』といった訳なのだ────…。


「…もう!! 食べないならいいわよ!! 私が食べるんだから!!! ……新田なら喜んで三杯は啜ってくれるのに…」

「馬鹿舌かそいつは……」


…ただ、奴一人が元凶ならまだ話は簡単だったものを。
ハルがわざわざ未来から飛んできて、そして数ある参加者の中から俺宛に忠告を伝えてきた理由……。
それは『全ての元凶の元凶』──『汐見ゆとり』が原因だからだ。



……
………

────汐見が、閣下だぁ…!?

──はい。『汐見ゆとり』閣下。──ならびにバトル・ロワイヤル終身名誉ゲームマスター『A』大統領。この二人が出会わさった結果が……この惨状なんです。

………
……



汐見ゆとり………。
基より、頭のネジが外れたパッパラパー女ではあったが、五十年後の未来ではテロ組織のリーダーとして政権奪回に成功した『英雄』とのことらしい…。
拉麺党党首だかタリメンだか知らんが、…奴の才能を見込んで入社させたのは紛れもなく俺自身。
別にラーメンの道を選ばずとも、他の料理業種で通用できた汐見を、このレールに敷いたのは俺……。

俺の選択が馬鹿で、俺が何もかもを間違えていたのだっ…………。


「(ズルズル)うん、美味しい!! …そうだ、ねえ芹沢さん聞いてくれる? 知り合いにヒナって奴がいるんだけど…、そいつ、私のラーメンにイクラ乗せて食べるのよっ!? 信じられないでしょ!!」

「乗せたところで台無しになるほどのラーメンじゃないだろ!」

「はぁ〜?!」


………信じられない。
いいや、『信じたくない』のは俺が一番だ。

589『らぁめん再遊記 第二話』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:45:24 ID:cFeuEibI0
つまりは、元を辿れば起源は…俺──。
──芹沢達也が『全ての元凶の元凶の元凶』という────…。



……
………

──ですから、健闘を祈ります。芹沢さん。あなたの麺の力で、誇りをかけて…。どうか。

────…お、お前………。

──では。

────ま、待て!! おいっ…!!!

………
……



「………………っ」


……いや、もう考えるのはよそう。
取引先の信用が一つ失われ、それどころか自分の命が危機に瀕している現在。
俺の身体中、至る所に元凶の大群が纏わりついて鬱陶しいものだが、『過去』に構ってる暇はない。
大切なのは『今』。
この元凶娘・アンズを利用し、俺は何としてでも生き抜かねばならないのだ。
無論、ラジコンとしての操縦は困難を極める上に、波長の合わない小娘ではあるが、奴の『力』は本物。
──ラーメン自体は贋作同然だが、『超能力』だけは頼もしい存在なのだ。

したがって、俺は今のみを見据えなくてはならない。


「………あ、芹沢さん!!」

「………」


無理やり背負わされた運命を、
同時に、狂った未来をも破壊するために………っ。


俺は………………。




「あ、…危ないっ!!!!」

「あ?──」


「────……あぁっ?!!!」






 ドンッ────…………





────などと、本来なら響き渡る筈であっただろう、その音。
アンズの念動力により、俺は『ソイツ』からギリギリ回避できた訳だが。
……それにしてもハルの奴。
どこまで『殺し合いの内容』について知っていたかは分からんが、…予め説明はできなかったのか…………っ。


 シャ────────ッ

  ──キキィッ

590『らぁめん再遊記 第二話』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:45:39 ID:cFeuEibI0
「…あーもうっ! …ごめん早坂、外した」

「謝る必要はありませんよ。ていうか凄い軌道で避けましたねこの人……。今の見ました?」


「……ちょっと!!! 危ないじゃないのっ!!! 気をつけなさいよ!!!」


「…え? 嘘、もう一人いるわけ?! キモっ」

「まあ避けようが攻撃外そうが、もう一人いようが関係ありません。内さん」


「はぁ?!! 何いってんの?! とにかく芹沢さんに謝りなさ──…、」



「────追撃あるのみ、ですから。」



──…俺が、キックボード乗りの小娘【マーダー】二人に襲われるという……っ。
未来の説明を…………。



「………殺る気なわけ? あんたら……ッ………」


「だろうな。…チッ、早速厄介事か……」



…これだから俺は電動キックボードが嫌いなんだっ。

591『らぁめん再遊記 第二話』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:45:52 ID:cFeuEibI0



……
………


 シャ────────ッ



 海が盛況しだすこの季節。
この長い長い下り坂を、軽車両に二人乗りで。
操縦者の背中にぎゅっと抱きつきながら、夏の夜風を浴び進む。
ゆっくり、ゆっくり……、下ってゆく………。


…はあ。
願わくば、在学中一度はこういう青春を体験したかったものだ。
中々恋愛が発展していかないかぐや様とはいえ、一度や二度、絵に描いたような青春を味わっただろうに。あの方と。

本当に、私も、理想的な青春を送りたかった………。


「……誠にキモい……。早坂胸の弾力を感じながら…女子二人夏風を浴びる…。女子同士のイチャイチャであるこの現状………。まさしくキモさ堪らない青春だ…」

「…はい?」

「ただ、早坂はキモいか? ──となると話はまた別。早坂は確かにキモいっちゃキモいけども、あの黒木と比べたら段違い。……というよりも別ベクトルのキモさがある」

「………だから、…はいぃ?」

「つまりは早坂。アンタはキモいならぬ『グロい』っ!!!! そう、グロいこそが早坂を表すピンポイントな表現なんだよ!!」


「…また始まりましたか、それ………」



あと、…願わくば『男女間』でそういう青春を送りたかった………。



 シャワーを浴びた後、私は目的の人物と会うため、キモい連呼女(以下:絵文字)の支給武器に乗せてもらっている。
絵文字に支給された武器というのが、この電動キックボード。
ただでさえ一人乗り様、おまけにバランス力が求められる物ゆえに、乗り心地は(…色んな意味で)悪かったが、まぁ歩くよりマシ。
これを走らせてでも迅速に再会したい人物が、私の中にはいた。


──金髪の除き魔。私たちの裸を見た、…あの忌々しいオヤジが……………。


「……って違う違う!! そうじゃないっ!!!」



訂正。
────私の仕える四宮家令嬢。かぐや様の姿が、…もうすぐそこに…………。


 絵文字の腰を片手に、私はふと手中のスマホアプリに目を落とす。
『らくらく安心ナビ』──GPS連動で、家族の居場所を簡単に探せる見守りアプリだ。
かぐや様に襲い掛かる、ありとあらゆる脅威…凶悪から、彼女を護るのが私の使命であり、存在意義。
かぐや様にスマホを買い与えられたと同時に入れたこのナビによると、ここから1km範囲以内に確かにいるようだった。

ただ、このアプリ自体…決して性能が良い物とは言えない。
アプリ起動時、『GPS連動には多少の時差が生じます』という小さい注意書きがあった点から、嫌な予感は漂っていたけども。
超大雑把なマッピングに、かぐや様の位置ポインターがあっちに行ったりこっちに行ったり……そしてエラーでアプリが再起動したり…と。
verは最新版と表記されているにも関わらず、中国会社が作ったのか? ってぐらいに酷い出来だった。
…あとやたら胡散臭い広告も頻出するし。


それでも、私はこの安心ナビを唯一頼りに、彼女を探さなければならなかった。

何故なら、かぐや様のスマホは、この終わってるナビアプリが精一杯の安物泥スマホ。
…あの最低な父親が、娘に買い与えた……──チンケなスマホを唯一頼りにしなきゃいけない。

そんな彼女なのだから………………っ。

592『らぁめん再遊記 第二話』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:46:05 ID:cFeuEibI0
「…………………かぐや様」



 うろちょろバグの様な挙動をしていたポインターは、ついさっき突如として全く動かなくなった。──この付近にて。
チカチカと点滅するポインターが、まるで危険信号の様に見えて……。

…………遅ばせながらお迎えに上がりますから、待っていてくださいね。
………かぐや様────と。


…嫌な想像で心臓が沸き立つ中、それでも可能性を信じて、私は今絵文字の運転に身を委ねている。


「………早坂…。そのかぐやって子に、そんなにも思い入れがあるんだね。グロテスクな思い入れが………」

「…私とかぐや様とでドロドロした変なのがあるみたいなニュアンスじゃないですか……──」

「──って、まぁ良いや一々……。…かぐや様とは物心付く前からの主従関係でしてね。軽い昔話になりますが聞きますか?」

「…うん、いいよ。早坂……」


……どうでもいい補足だけど、この絵文字女…。
話を聞く限り、どうやらヤバいとかスゴいを使う感覚で、『キモい』という言葉を発するらしく………。
かぐや様含め私は、さっきからコイツにキモい(=グロい)と散々に言われてきたけども、悪意的な意味は無いらしかった。
…いや、むしろ好意的に使っているというか………、つまりは私はグロいッグロいッと絵文字から大称賛を浴び続けているわけで……。

…なんの悪意もなく多用されるグロいに、苛立ちとむず痒さは感じるが、一々指摘するのも野暮ったい。というか面倒臭い。
絵文字は『そういう人』と受け入れつつ、私はスルーすることを決めていた。


 住宅街を走り抜けるキックボードに、ノーヘルの女子二人。
吐息のような風を浴びる中、私はナビアプリをギュと見つめた。
かぐや様再開までの移動時間。余暇潰しとして、私が口を綴った昔の話。

それはまだ私達が六歳の頃の、ベッドでの体験だ。


「………就寝前、明かりを消そうとした時に、かぐや様が急に話しかけてきたんですよ。弱々しい声で、本を片手に」

「うん。……本?」

「ええ。今夜は寝付きが悪くなると彼女は予感したんでしょうね。私に読み聞かせをしろと差し出してきて──…、」

「あっ!! …ごめん、早坂。…ところでどうする………?」

「……何がですか………。──」



「──って、あっ……」



 …話し始めも良いところだけども、かぐや様との幼少話はまた別の機会になりそうだ。

絵文字の視線の先。彼女が話を遮ってくるのも無理はない。


坂道を下った先にて、かぐや様とは全く関係ない────『参加者』が一人突っ立っていた。
出会うものならかぐや様一択であったが、そこにいたのは坊主の眼鏡リーマン、ただ一人。


「……どうする?、って。愚問じゃないですか、内さん」

「…ま、そうだよね。………キックボードでやれるかどうかは不安だけども」


私はそのサラリーマンに会った経験はない。
本当に見ず知らず。どんな名前かも、どんな声なのかも、どんなスタンスで殺し合いに望んでいるのかも知らない。
言ってしまえば、どうでもいい人間の一人でしかなかった。

593『らぁめん再遊記 第二話』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:46:20 ID:cFeuEibI0
「……やれるかどうかじゃないですよ」

「………やるんだよ、って言いたいわけ?」

「いえ違いますよ。ていうかあの人の生死は今眼中にありませんから。…何はどうあれ──」


いや、寧ろどうでもいい人間だからこそだった。



「──今轢いておけば、後々ゲーム展開的に楽でしょう」


「…………うん、分かった」


「では申し訳ありませんが、お願いしますね。…内さん」



急加速していくキックボード。

────私はあの男を奇襲《轢き逃げ》するつもりでいる。


運転者の絵文字とは何だかんだで意気投合した仲。
私の『ゲームのスタンス』を理解した上で、尚も付いてくる彼女は、ブレーキを完全に放棄し真っ直ぐ進み続ける。

急速に縮まる距離。
こちらの殺意に気付いてか否か、ボーーっとある意味では隙一つなく突っ立っているサラリーマン。
…別にこのサラリーマンには恨みとかそういう嫌な感情はない。
頭がつるっパゲだからといって、嫌悪感とかも特には生じていなかった。
それに、奴を無視して突っ走るという選択肢もあるにはある。


「行くよっ、早坂……!!」

「…ええ」



ただ、『四宮かぐや優勝』という完成図に他参加者たちは、────十分すぎる程に邪魔だった。




ドンッ────、と。
思いの外あっけない音と共に、サラリーマンは宙を舞う……。

スキンヘッドが満月と重なるほどに、高く……────。








…飛ぶ筈だった。

594『らぁめん再遊記 第二話』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:46:36 ID:cFeuEibI0
………
……



「ほう。『ライオン一頭 脱走か。渋谷区』………おいアンズ。仮に遭遇したとなっても、お前の力なら対処できるんだろうな?」

「……ちょっと話しかけないでよ!! 今集中してるんだからッ…………」

「あ? まあいい。話が通じる相手ならともかく、さすがの俺も猛獣と出くわしたのならくたびれるからな。その時は頼むぞ。──」


「──………それで、『お前ら』はどうなんだ。会話は可能なのか? おい」



 ギギギギッ…


  ギギギギッ…


「ぐっ…………」

「…なに……、これ…………っ。…キモっ………」




 …なにが、ライオンだっ……。
私自身も、襲う参加者相手皆が皆、猛獣のように何の知性も感情もないNPCだったらどれほど良かったことか………っ。

始末する筈『だった』リーマン。
椅子に腰をこけ、呑気に新聞を広げるソイツの視線を感じながら、私と絵文字は今、跪いている……。
──いや、違う。
跪か『されて』いる感じだ………っ。
言葉に形容するのも難しい…見えない力で無理やり地につかされて、屈まされて……。


バカみたいなことを言うなれば、────『念動力』で、抑えつけられ………。
身動き一つ取ることさえできないでいる…………っ。


「…は、早坂…………っ…」

「なんな…っ……………。これは……」


「もう…呆れて怒る気もしないわ……。ねえアンタ達っ!!!」

「「……っ…」」

「危ないじゃないの!! 危うく芹沢さん怪我するとこだったでしょっ!!! …本当にっ、殺し合いに乗るなんて……反省しなさいよっ!!!!」

「…バリバリ怒ってるじゃねえか」

「ねえ芹沢さん! …私、これからどうすればいいのっ…? いつまでも『力』で抑えてるわけにもいかないし。…この子達、どうすればいいのかな……」

「知るか。この件に俺は関係がない。………ただ、独り言を呟くとするのならな……」

「……?」


「────とっとと始末した方が身のためではあるだろ。…これはあくまで独り言だからな? これからお前がどう行動し、結果的にどうなろうが俺は一切関与していない。以上」



「……は………? はぁ……っ?!! …き、キモっ……………」

「………っ」



「…芹沢さん。…始末…って……………」



 屋台から身を乗り出し、こちらへ近づいてくる金髪女…。ソイツの困惑した目と、ふと合う。
どうやらこの訳の分からない『圧力』は、ソイツ──アンズという女によるものと察せるが………私的にはそんな事もうどうだっていい…っ。

595『らぁめん再遊記 第二話』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:46:55 ID:cFeuEibI0
奇襲を仕掛けるも即返り討ちにされ、…文字通り手も足も出せず屈しているこの現状。

何の意味もなくただ時間だけが浪費して……、成り行き次第では絵文字共々処刑される…この現状……。

……自分の誤判断で、再開以前の問題に………。
かぐや様とはもう二度と会えなくなるかもしれないという……──このっ……、現状…………っ。


…彼女のせいにするつもりは無いが、かぐや様という存在。
彼女の安否が、私をここまで判断ミスに狂わせたのかもしれない。

……それ程までにかぐや様というエナジーは、私の原動力だった。
私にとって、かぐや様はどれだけ輝く宝石よりもブランド品よりも四宮家の全財産よりも……。大切で護らなきゃいけない存在だった。

彼女のことで頭が一杯だった。

もはやかけがえのない存在……。絶対に手放したくない物、それが四宮かぐやだった。



…従って、生死がアンズの手中にある今、改めて冷静な判断をさせてもらう………っ。



この勝負………──私達の負け【敗北】だ。
…私は降りることにする。



……
………

──早坂ー…。これ、よみきかせてよ…。

────珍しいですね。あなたというお人が……。

────…仕方ありません。できるだけ迅速に…! 早く!! 寝てくださいよ………。


────かぐや様………。

………
……



“出来るだけ迅速”にっ…………。




「…………あの…………、…申し訳…ありません……でしたっ……。深くお詫び…申し上げます…」


「え?」

「は、早坂………っ!?」


「芹沢…様で宜しかった……ですよね………」

「……なんだ、小娘」

「…信じられない気持ちは…重々理解できますが……、私共、貴方様に敵わないことを身に沁みて………、もう襲撃も関与もせぬことを…心から誓います…………」

「ほう」


「……は、早坂?! な、何言ってるの…………!! こんな奴らに頭下げなくても………」

「…そうですよね………? 内さん…」

「いや…! おかしいって!! ね、ねぇ早さ──…、」

「ですよね………ッ」

「……! ………………………」

596『らぁめん再遊記 第二話』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:47:11 ID:cFeuEibI0
「…我々のだいそれた過ちを詫びるとともに………、お願いできますでしょうか……………──」

「──どうか私達にご容赦と、慈悲を………。力から解放され次第、即退散しますので…………………。どうか、この願いを承知できますでしょうか………………。芹沢様に、アンズ様…………」


「……何言ってるのよ! 『人を憎んで罪を憎まず』──おじさん達から習った教訓だわ! 芹沢さんの独り言なんか知ったこっちゃない!! 最初から許すつもりよ!!」


「…………真ですか……?…」

「ええ!!」

「…………」


正直なところ予測できた返しではあった。
徐々に身体を抑えつける力が弱まっていく中、ニコリと微笑んだアンズは、私達の前に丼を置く。


「…『人を憎んで罪を〜』じゃコイツらを許してない事になるだろうが……………」


眼の前に鎮座する、湯気立つそいつ。
……仲直りの証としてこれを食べろと言うのか、彼女は屈託のない笑顔で箸を差し出してきた。

言うまでもないがこれを食している暇はない。
──…かといって、芹沢達に申した謝罪や敗北の意思表明も嘘というわけではない。

絵文字は未だ闘争心が鎮火していない様子だけれども、私は彼らに構い、ここで道草を食う暇も余裕もなかった。
…そう、余裕がない。
……私はかぐや様に早く会わなければいけないのだ。


「……寛大な御心、感謝します。………私を信じてくださりありがとうございました、アンズ様………──」

「──行きますよ、内さん。…早く……」

「えっ……。いいの…? 早坂…」 「いや私のラーメン食べないの?!」

「……私の、いや私達の『最優先事項』を…お忘れですか。内さん」

「……………そう。早坂が良いならそれに従うよ」


「いや食べてから行きなさいよ!! 美味しいわよ?!」


アンズがバカ正直な純粋者で助かった面もある。
念動力が弱まった折、立ち上がった私は絵文字を起こし、ヨタヨタ、キックボードへと歩を進めた。


私は本当に……。
こんなことをしている場合じゃないんだっ……………………。




 ペラっ──────


「おい待てメイド」

597『らぁめん再遊記 第二話』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:47:22 ID:cFeuEibI0
「…………。………ご心配なく。再度轢きにかかることは決して行いません…………。…決して」

「いや違う。その事に関してはどうだっていい。一つお前に聞こう。…なに、簡単な質問だ。時間は取らせん」

「…………なんなりと」

「お前は何故殺し合いに乗っているんだ? 返答次第ではこちらも態度を変える…だなんてするつもりはない。ただ、その真意を純粋に問いたいのだ」

「……え。は、早坂!!」

「…………畏まりました。真意…単刀直入に言えば奉仕です。…センター分けで、私と同い年の女子──…、」







「そいつは『四宮かぐや』の為か?」










……………………………………………え。




 奴の。
芹沢の。
全く予測していなかったその発言で、足が急速冷凍されたかのように動けなくなる。






…奴は、



「えっ?」




…今、



「え?? 四宮??」






…何と言った……………………?





「え……………………」






「……御名答か、そいつは運が良い。お前も時間が無い様だからな、手短に説明するぞ」

598『らぁめん再遊記 第二話』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:47:35 ID:cFeuEibI0
…時間が…、確かに止まったかのような感覚だった。

静止して、何もかもが静寂に死にきっている中、


新聞の巡る音が異常に大きく感じた。



 ペラっ────────────




何故…、

ヤツはその事を知っているんだ………………………?



「“何故知ってるか”……、か。答えは単純だ。十数分前、丁度この場所であたふためいた娘と出会してな。センター分けで、制服姿の。大した会話は交わさなかったが、妙に印象深い奴ではあったよ。四宮はな」


「………えっ」


「暫くして、その四宮は突拍子もなくバタバタ走り去っていった。恐らく奴にも考えがあってのことだろう。……いや、四宮が走り出したのにも明確な理由があった」

「…え」



「ほら、アレを見ろ」



「………アレ……………」



私は芹沢の方へと振り返る。
奴の指差す先には遠く向こう側、

ピンク色の小さなホテルが建っていた。



「ああアソコだ。…これは後になって解った事だが、四宮のお嬢が去った後、血相を抱えた連中が四人、その後を追ってきてな。従って、四宮は奴ら【マーダー集団】から逃げていたと推測立つわけだ」


「……………かぐや様が、…………追われて………………?」

「…え?? ちょっと待ってよ芹沢さん!! 確かにあのホテルには四人組がいたけど──…、」

「…ぃっ!!! 口を挟むなアンズ!! お前は食器洗いを済ませたのか?! 口より手を動かせ、手を!!!」

「……はぁ?! な、なによ。今やるところだったわよ!!!」


 ガチャ、カチャ………


「…申し訳ないなメイド。事情を知っていたら俺も四宮を匿ったものだが。…巡り巡った運命は今重なり合ったというわけか。すまない」

「……………………………」

「まぁ、信じようと信じまいとお前の自由だがな。信じたくない気持ちは重々理解できる──」

「──ただ、信じて動いた所でお前にデメリットが無いと、俺は考えるがな」

「…………」

599『らぁめん再遊記 第二話』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:47:51 ID:cFeuEibI0
「想像してみろ。怒り狂った野郎共が、一人の幼娘を追い回して。しかも、逃げ込んだ先が『そういう』ホテルと来たものだ。これから何をされ、どんな目に四宮が遭うかはもう……。…すまん、これ以上言う必要はないな。──」

「──だが、そんな下衆な推測が立てられるほどの事態であることには間違いない。どうだメイド、信じるか信じないか。…いや、信用するか悩む程の暇はあるか? お前には」



「……なに、それ………。…ホテル…キモっ……」

「……………………」



…信じるも、なにもない。
芹沢。奴の発言を鵜呑みとするのならば、


──かぐや様は、
──ラブ………ホテルに逃げ込んで、
──取り敢えずの安否確認。生存の確認はできている。


但し、安否と同時に彼女は、

こうしてる間にも、

現状。
今、まさに。



──危機に瀕している。




「……うそ………。信じられない、キモ………」



…………………。
…私も『ウソ』だと思いたかった。
いや、嘘と決めつけて縋りたかった。


「手短に説明……とは言ったが随分長いこと話してしまったな。ついついお喋りが過ぎるのが俺の癖でね。…困った物だ、まったく…」

「…………………。…芹沢様」

「ん。なんだ」



ただ、その信じたくもない情報に縋っていた方が、まだ希望が見えていた。
少なくとも、何とかできるという可能性はあった。
…従わずにいるなど、それこそ愚の骨頂だった。



……それが、かぐや様の順従たる、…私の使命なのだから………。




「貴重な情報、誠に感謝します──」

「──…その一方で、貴方がかぐや様を保護しなかった責任について。身勝手ながら有事の際、徹底的に『追求』するつもりでおりますから──」


「────ご覚悟を。では、失礼します」


「……やれやれ、喋る必要のないことまで説明したようだな俺は。…全くこの悪癖は早治を検討せねばなるまいものだ………。──」

「──それじゃあ俺からも以上だ。『急がば回れ』、今度ばかりは安全運転を願うぞ。メイド」


「……飛ばしてくださいね、内さん」

「…う、うんっ。行くよ!!」

600『らぁめん再遊記 第二話』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:48:05 ID:cFeuEibI0
 絵文字に引っ付き、目指すは離れのホテルまで。
キックボードを走らせ、私達はこの場を後にしていく。

時間を大幅ロスした芹沢襲撃タイムではあったが、その分何よりも欲しかった情報を得たので結果はオーライか。
…この失った分の時間は、絶対に取り戻してみせる。

かぐや様も……っ。何もかもをっ…全部…………………。




 シャ────────ッ……………



不安と半端じゃない憂苦をグッと噛み殺しながら、私は再び夜風を浴びていく……。



「あぁそうだ。おい待て、絵文字の娘!!」


キキッ──


「え。私?! 何?」

「メイドはともかく。お前に是非とも渡したいものがある。…この割り箸なんだがな、一本五千円ってところでどうだ?」

「…はー??! いやキモ!! キモ高っ?! ただの割り箸でしょそれ!! 普通にいらないしキモっ!!!」

「…(キモキモ何だこいつは……。)あぁそうだ。これは何の変哲もないただの割り箸。五千円の値打ちに合うかで言えば、ボッタクリもいいところ。別に無理に買えとは言わないさ──」


「──だが、いいか? お前はバトル・ロワイアルについて『何も知らない』。お前も……、メイドも……、そしてお前らは『四人連中』の事さえも、何一つ情報がないわけだ」

「…………」

「買うか買わないかは自由だがな。もっとも、懐に収めておいて損だけは無いと言っておこうか」


「………………………わ、分かったって…!!」




去り際、割り箸と五千円札が夜空を交差。

それぞれの元へとトレードされていった。




「…くははっ! 毎度!」


【1日目/B2/ラブホテル前/AM.04:18】
【早坂愛@かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜】
【状態】精神不安定(軽)
【装備】チェンソー
【道具】???
【思考】基本:【奉仕型マーダー→対象︰四宮かぐや】
1:かぐや様、古見硝子以外の皆殺し。(主催者の利根川含む)
※:マーダー側の参加者とは協力したい。
 →同盟:山井恋
2:ホテルにいるかぐやとのいち早い合流。
3:かぐや様が心配。
4:変態覗き男(新田)を警戒。
5:後々来るであろう『個室にてヤバイ女と出会う未来』に警戒…。

【うっちー@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!】
【状態】健康
【装備】電動キックボード@らーめん再遊記
【道具】割り箸
【思考】基本:【静観】
1:早坂についていく。
2:黒木が『キモい』なら、早坂は『グロい』!! グロメイド!!!

601『らぁめん再遊記 第二話』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:48:17 ID:cFeuEibI0


………
……



 暴走娘二人組が去って以降、幾ばくか刻が経つ。
情けないくらいに凡庸なラーメンの匂いが漂う中、俺は相変わらず新聞を読んでいた。


「…ねえ芹沢さん。あの割り箸さ、一体どんなすごい物なの?」

「なに? 割り箸に凄いもクソもあるか。本当にただの箸だアレは」

「はぁ?!!」


俺は夕刊新聞が好きだ。


「つまりはゴミで五千円をぼったくったわけ?!!!」

「ああ。人間ってのは想像深い生き物だからな。意味有りげに言えば、信じてしまうものだ。──」

「──なにはともあれ、軽い臨時ボーナスこれにて頂きだ…! ふふふっ、人の金で飲む酒が一番美味いってものよ!」

「詐欺じゃないのっ!!!! もう、信じられないっ…!!!!」


新聞という読み物は実に興味深い。

新聞記者という輩は、常に論客気取りで、一面に政治関係の罵詈雑言を掲げ、スポーツ面も悪意に満ちた記事を書くことが多い。
情報を判別せずそのまま掲載することから紙面の殆どは憶測記事とネタで大半。まるで個人アフィブログのようなレベルを平気で売り出す。
悪評。誤情報。印象操作のデパートだ。


「あっ。…そうだ、あのメイドさんがかぐや(?)って人追っていたの……なんで分かったの? 私たちそんな子と会ってないじゃない」

「あー。あれも適当だ。参加者名簿の中から目についた名前を話した。それだけだな」

「え、え、…はぁあっ?!! …たまたま当たったからいいものを………。外してたらどうする気だったのよ!!!」

「その時は『そいつがセンター分けの女生徒を追っかけていた』だとか言えばいいだけだ。…ただ、そのケースの場合、信憑性にやや欠けるものだから、今回は幸運が働いたな」


「……信じられない……っ。最低………」

「ほう。何が最低と感じた?」

「あんたが適当に大嘘こいたせいで、あの人達…迷惑に振り回されたじゃないっ!!!! メイドさん、改心する一歩手前だったのに……!! なんでそんな酷い嘘流すのよっ!!!!」

「……バカか。あの娘共は間違いなく再襲撃に掛かっただろう。メイドは知らんが、絵文字の変な女は間違いなく殺意が鎮まっていない。そんな危険な連中を、口八丁適当丁で退けられたのだから、感謝してほしいぐらいだ」

「そんなわけないしっ!!!! それに、あのホテルには確かに四人連れがいた…。──子供のよっ!!! 何も野蛮なんかじゃないちびっ子たちが!!! …メイドさんがあの人達を襲撃したら……どうすんのよっ!!!!!」

「知るか。俺達に幸運が作用した分、そのガキ共に不幸が渡る。そう考えろ」

「ぃっ!!!! もう、アンタって人は……もうっ──…、」



「お前こそ『もう〜』…だ。聞け」


「…えっ?!」


俺は新聞を愛してやまない。

こんなしょぼい紙切れで世論を動かせると勘違いしている、マヌケな記者共を想像するのが、何よりの笑いの肥やしとなるのだ──。

602『らぁめん再遊記 第二話』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:48:34 ID:cFeuEibI0
「────いいか? お前のお花畑脳はやたら悪を毛嫌っているが、ラーメン店において『悪』は時として強い味方となるのだ」

「……は?」


「悪は時として富を産む。お前の今後の…、殺し合い脱出後の経営についての話をしよう。──」

「──アンズ。お前の『来々軒』は食べログ評価星4の優良店らしいが、例えばこいつの評価を意図的に下げるとする。つまりは自演だ。自分や知人に協力してもらい、悪評を流したくって星1まで下げるのだ」

「いや絶対嫌よ!!! そんなの…馬鹿じゃないの!!」

「うるさいっ黙って聞け。…今はSNS最前線時代。星1の屋台ともあれば、頭の悪いインフルエンサーが店に集まり動画を撮る。バズり狙いに悪評を垂れ流すレビュー動画というわけだ──」

「──しかし、奴らYouTuberは無能ゆえにその職を選ばざるを得なかったバカばかり。一度麺を口にした途端、こう思うだろう。『あれ、悪評ほど不味くなくね』とな」

「……え?」

「その動画が拡散され再生される度に、同じく頭の悪い視聴者共が店に集まる。怖いもの見たさで来店し、その度『思ったより美味い!!』と勘違いし、次第に食べログ評価は元の高さまで戻っていく。売上も鰻登りになった上にな」

「………………………え、それ……」


「ラーメン作りにおいて一番重要な事は味であるが、『ラーメン店経営』においては別だ。味よりも、悪。悪を味方につけることこそ成功の秘訣……! 聞くぞ。お前にとっての成功とはなんだ? アンズ」

「…成功って。…それは、今は──…、」

「『殺し合いを終わらせるほどのラーメンを作ること』、だよな?」

「…………っ!」



「何事も綺麗事で済むほど、この世の中も、バトルロワイヤルも、人生も甘くない。『悪』こそが、お前の一杯に足りない最大の要因なのだ」


「………………」



 …だとか、適当なことを言ってみたが。
──流石はハル曰く単細胞の小娘だ。
こんなめちゃくちゃな主張にぐうの音も出なくなったぞ。

俺の言った台詞。要約するならば、『つまり僕は何も悪くないよーん』という正当化でしかないのにな……。


「……ごめんなさい芹沢さん。私が間違っていたわ」

「なんだどうした」

「私、考え方を改めてみるわ!! 悪こそが大事!! 悪い奴らは大体トモダチ!! その考えで挑んでみるわね!!!」

「はいはい、そうかそうか」



…だが、これだからバカは堪らない。
しかも、コイツのような『実力あるバカ』は俺らからしたらこれ以上ないくらいの好都合なカモだ。

バカと何とかは使いよう、とよく言ったものだが。
俺はアンズのラーメン革命(笑)で絶対生き延びてみせる。
(行く末は、無許可営業に衛生法、未成年就労や殺し合いの件、超能力の件で、アンズの親から脅迫グレーに金をゲット。これでコンサルがパーになった件は埋め合わせだ!!)


ラーメン店で一番大切な物。
それは悪でも味でもない。バカな客の存在だ。


バカこそが俺を潤わせ、そして生存競争を勝ち抜かせる可能性を大いに沸かせるのだ…────。

603『らぁめん再遊記 第二話』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:48:46 ID:cFeuEibI0
「というわけで食べてみて!!」


 ドン


「…あ? ……………何だ……これは」





「廃油マシマシ醤油濃いめ添加物増量賞味期限切れブラックラーメン!! 新商品よ!! 今までは化学調味料は体に悪だから控えてたんだけども……。芹沢さんのアドバイスで、新たな一歩に踏み出せたわ!!!」


「…………………お前…」


「ほら、たーんと試食して!! ねっ!」





……ただし、コイツや汐見のようなホンワカパッパはお断りである。

604『らぁめん再遊記 第二話』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:48:57 ID:cFeuEibI0


【ラーメン界の第一人者・芹沢達也 〜本日の名言〜】
──いいか。ラーメン店において悪は時として強い味方となるのだ。



〜バトル・ロワイヤルを経て学んだ『ラーメン道』 アンズメモ〜

①悪評は経営において有効活用すべし。逆ステマは絶対バレない自演方法!!
②最初は悪評まみれでも成り行き次第では向上される! 未来を信じて頑張ろう。
③ラーメンの隠し味に悪は必須。ただし加減はほどほどに……。






【1日目/B2/屋台『とんずラーメン』前/AM.04:23】
【アンズ@ヒナまつり】
【状態】健康
【装備】中華包丁
【道具】寸胴鍋
【思考】基本:【対主催】
1:芹沢さんと協力して打倒主催!!
2:必要悪ってことなのね……。
3:ホテルの四人組(ライオス一行)が心配。

【芹沢達也@らーめん才遊記】
【状態】満腹限界(大)
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【生還狙い】
1:アンズの念動力を利用し生還。
2:どんな卑劣な手段を取ってでも生き残る。
3:殺し合い開始数日前、俺は未来から来た『ハル』にゲーム崩壊を託された。……なんなんだコイツは。
4:それにしてもアンズのラーメンは冷食同然だっ!

605 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:49:36 ID:cFeuEibI0
投下終了です。
引き続き、『悪魔のいけにえ(漸ノ篇)』をお送りします。

606『悪魔のいけにえ(漸ノ篇)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:50:26 ID:cFeuEibI0
[登場人物]  [[メムメム]]、[[兵藤和尊]]、[[佐衛門三郎二朗]]、[[遠藤サヤ]]

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607『悪魔のいけにえ(漸ノ篇)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:50:39 ID:cFeuEibI0
………
……



 満月。
──それは夜空唯一の単眼。
深海の如く淀む真っ暗闇が見せた、刮目。
刮目、刮目、刮目……。身震いを催す光。

まんまるな眼球に一点集中で睨まれた、あの夜。あの山中にて。 


あたしは、一人の悪魔と目が合うのでした………────。

608『悪魔のいけにえ(漸ノ篇)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:50:54 ID:cFeuEibI0




 …よくよく思い返してみたら、魔界の周りにはあたしみたいな二頭身を全く見かけなくて〜…。
──…もしや、あたしはそもそも悪魔ですらないのではっ?
──悪魔学校時代のクラスメイトは全員、あたしのことを動物実験で入学した天才チンパンジーを見る目で接してたのでは………っ??
……自分を懐疑的に見ちゃう、そんな悲観的さで涙ぐっしょぐしょな今日この頃です……。


 こんちゃす、あたしメムメム。一応悪魔をやらせてもらってるっす。

いやぁ〜、あたしね?
日頃から、バビョの奴とかレース先輩とか…悪魔だの人間だのと種族関係なく、色んな人からクズ扱いされて困ってるんですがね〜……。
…この際だからはっきり言いますよ!!
そうです! ごもっともっすよ!!
あたしはクズです!!
人間性はめちゃくちゃ劣悪っすよ!!! まさに小悪魔って感じすわ!!
性格カスですがそれがなにか? …もう開き直っちゃってるくらいの極カスがこのあたしですっ!!!

…え?
“クズな性格を直そうとは思わないの?”──って??
……ふんだっ。
あたしだって別に、好きでカッスい性格を送ってるわけじゃないんすよ。
最初期の頃こそは、それこそ純粋な心の持ち主で…、ついてくのも大変な仕事を一生懸命努力し、輝き頑張っていたんすからね。

……でもね。
…もう……ね。
ここまで自分が『魂略奪』をできないとなるんなら…………。……もう不貞腐れて開き直るしかないじゃん………、ってのが結論っすわ〜〜……。



 ────そんなあたしが一人目に選んだ、『悪魔代行』の参加者。



 ブロロロロロ……

「……」


 バン、バンッ…

「………をぉぉ……、さぃぃ……………………っ」

「…んっ……?」


 ──渋谷山の峠で。
 ──風で吹き飛ばされそうになる中、窓ガラスにへばり付くあたしを、…何十分も運転してやっと気付いたソイツ……。


 バンッ、バンッ


「びょおおぁぁ゙ああぁぁああぁぁぁあああっ!!!! 開けてくださいぃいぃぃぃいいいぃぃ〜〜!!!! とゆーか停まってくだざい゙ぃいいぃい〜〜〜っ!!!! お願いじまぁあ゙ぁぁあずぅ〜〜〜〜っ!!!!!!」

「う、うわっ!!?」



 キキィ────────────────ッッ



 ──車をガードレールにアタックした、『さえもん三四郎』だなんてふざけた名前のソイツは、
 ────カス程にも役に立たない参加者でした……。




  ──バンッ…


「んびゃっ!!!」

609『悪魔のいけにえ(漸ノ篇)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:51:09 ID:cFeuEibI0
…………
………
(じじょーせつめー、割愛〜。めむめむ〜)

……




 ブロロロ……


 ──ポチッ!!
 ♫Spotifyにて、西野カナの『トリセツ』から→米津玄師の『lemon』にチェンジ♪


「は……っ?」



 (前奏略)
 『♫夢だったら、どれだけ〜〜良かったでしょう〜……』


「……………」


 『♬未だにアナタ〜の〜、ことを〜、夢で見る〜〜〜……』




「────うぇ…っ♡」



「……………」

「………」




しーん………



「…今のでムラっときたりしてないすか?」

「え?? …どこで?」

「…ど、どこで…って。……あたしの歌声でですよ」

「別に…だけども…………? というか普通歌わないだろ、『うぇっ』のとこ………。しかもそこだけを…………」


「………………。………………はぁ──」

「──……あたし…えろいことで誘惑して魂を奪うのが仕事なんす………。でも、あたし自身おっぱいとかえろいことが苦手で………。だから〜、…全然魂ゲットできなくてぇ…………」

「……急に何の話を……………?? 一体君はなんなんだ──…、」


「──って!!! い、いや待てよっ………!? とどのつまり君は今、淫靡な(つもりの)歌声で僕の魂を…狩ろう《殺そう》としたのか…………っ?!!」

「あーもういいすよ? その話は。できないで片付いた事なんすから、もう」

「いや良いわけあるかっ!! 殺意を向けてきたんだな……!? 君は僕に…!!??」

「……うるさいですね………。何でもいいから前向いて運転してくださいよ。これでまた事故ったんならアンタ人としてやべーすから」

「起きる事故全て君が起因だろ………っ!!」


 …はぁ〜。
↑この様に、三四郎というヤローは一言一句ツッコんできたりと、まるでバヒョみたいな男だったんでぇ〜。
…ワンチャン誘惑できるかなぁ〜? と試してみたんすが……。……ビギナーにはあたしの美惑が難しいようですね。…はぁーあ。

610『悪魔のいけにえ(漸ノ篇)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:51:27 ID:cFeuEibI0
 助手席下の駄菓子を開くこと、四袋目。
あたしは今、この三四郎運転の元、のんびりと商談しているって現状っす。

…あんむ。ム〜シャムシャ……。うん、美味しい〜…! 幸せ〜〜!

ゴクリ。
……んで、その『商談』の内容ってゆーのがですね。
まぁこの三四郎というヤロー……、サングラスに黒スーツと「ブルースブラザーズかっ!!」てツッコみたくなるくらい馬鹿な服装してて、…まぁその見た目通りバカそうだったんすが。

そんなあたしと多分同じ無能であろう三四郎にしか、頼めない──。
──…とゆーよりも、こんなヤツをアテにしなくちゃならない。
…こんなバカでもできる仕事ってゆーのがありましてね。
それをこれからコイツに話すって感じっす。

………にしてもこのサングラスのび太ヤロー。
いつまでこの山ん中走るつもりなんですかね〜……。ドラえもんの裏山みたいなココをさっきからぐ〜るぐるすよ。コイツ…。
ま、別にどうでもいいんすけどねぇ〜…。


「……これで分かりましたか。見ての通りすよ三四郎。あたしはこんなカス一人の魂すら奪えない。チョー非力悪魔なんっす…」

「見た目に反して毒吐きが酷いな……。まるで利根川先生の如し……もう毒蛇だよ………っ。──」

「──…。(というか僕の事…三四郎呼び………)」

「という訳で三四郎!! お前には一つ、あたしから頼みがあるんです!!! どうか聞いてくださいぃっ〜!!!」

「………え? た、頼み………? う、うーん………。──」



「────…まさかじゃないが……っ、僕にやれと言うんじゃないよな………っ?! 魂集めとやらの……『人殺し』を…………っ!!??」

「何がまさかなんすか?」


……むむむっ、って思いましたよ。
三四郎のやつ、意外にも結構頭が回るようなんすから。
やっと「あたしより駄目なやつと出会った〜!!」って心の底でウキウキだったってゆーのに。
…やっぱりあたしが見下せる対象ってこの世にはいないんすかねぇ〜……。


「…ぐっ……………、はぁ…………。……まず、僕は男だ。…どう誘惑すればいいと言うんだよ。この僕に………っ」

「あ、あぁ〜。いや別に淫魔的誘惑とかもうアウトオブ眼中っすわ! 三四郎には刺すなり轢き飛ばすなり絞めるなり、自由なやり方で魂奪ってほしいんす」

「……君ねぇ…………」

「いやもうあたしだって形振り構ってらんねーすわ!! …あ、ほら!! このピストルで運転中、窓からバーンバーンってのもいいすよ!! グラ●フみたいに!!!」


そう言ってあたしが握ったのは、助手席に置いてあったコイツの支給武器──『ヘルペスの銃』ってタグが貼ってあるピストルっす。


…え、待って。

…ヘルペス………?
ヘルペスって、あの口周りに水膨れができる…人間特有の、あの病気の………………??

…………。
…コイツに触るのは控えたほうが身のためかもっすね。…感染対策ですわ。


「…言っておくが僕は違う……っ!! その銃が、ヘルペス銃って名前なだけだ………!!」

「…………あたし何も言ってないのに察し良すぎません?」

「顔に思いっきり出てるんだよ…君は………。バイキン見る目を向けるな……僕にっ…………!!」

「…人の顔をあんまりジロジロ見ると嫌われるっすよ〜? 三四郎〜〜」

「………勝手にほざけばいいさっ…。──」



「──ぐっ………。うっ………。何故よりにもよって、引き合う…………っ。今、こんな時に………………っ。僕はこんな性格の子と…………っ」


「は? …え、なんすか」


 キキッ────

611『悪魔のいけにえ(漸ノ篇)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:51:41 ID:cFeuEibI0
 アホの三四郎は…バカなりに思い詰めたのかなんなのか。
唐突にブレーキペダルを踏んで走行停止。…頭を抱えながらハンドルに向かって顔をうずめてきました。
…いやリアルになんなんすか? こいつ。
全くあたしにはワケワカメだったすよ。もしゃもしゃ、コリコリ……(あっ、この茎ワカメって菓子おいし!!)


目をギュ〜っと閉じて、アホみたいに自分の髪を鷲掴む三四郎のヤツ。
気付けばソイツは壊れたラジオのよーにブツブツブツブツ…独り言を唱えてたんす。
この時、あたしはヤツの突飛な行動にドン引きしつつも、「あれ?? もしかして時間差であたしの淫歌声に効いてきた……!?」とか軽くウキウキだったんすが〜。


「…インポッシブル…インポッシブル、インポッシブル………っ。自分にはできない……そう分かっていても、なお覚悟を決めるか思い悩む……………っ」

「え……? イ●ポ………? …ひぃ、なんすかその急な卑猥ワード!?」

「……………一線を越えるか…否か………っ。……決断をやっと心に焼き付ける…その時まで………ずっと一人でいたかった。……一人で悩みたかったというのに……………。そんな僕を茶化すように……運命はなぜこんな軽薄な子と引き合わせたんだ………………っ」

「あーもしもし〜、三四郎? 聞こえてるすか……?」

「ぐっ……………………!──」



だけどもね。
三四郎のボソボソ独り言をよ〜く聞いた時。

──奴の口から、魂よりも貴重な内容が飛び出ていることに、気付かされましたわ……。



「──僕がっ………、会長を『殺そうか』…悩み苦しんでいるって……………そんな時にっ………………!」



「え…?!」



…というか、コイツの発言が予想外過ぎて、あたしの方から魂が出かかったすわ。ほんと。

 聞きましたか?!
三四郎のヤツ、グダグダ理由つけて魂狩りを断ってくんだろなぁ〜と思ってたら……、…いたんすよ!!
──奴にも、どうしても殺したい参加者の一人が!!!

──つまりを魂を手に入れる目処が!! あたしの目の前に!!!
────今ここにっす!!!


「…さ、三四郎……! お前………」

「………ぐぅっ…」


…ま、人間どんなアホな奴でも、一人くらいは心から憎んでる存在ってのいますからね。
いや、むしろ三四郎みたいな無能なら、辛く当たってくる人間は身近にたくさんいるわけっすから。
その会長(?)ってゆーのにどんな仕打ちされたかは知らないですが、殺意が湧くのも仕方ないことでしょう。

……ふふ……っ!!
…気持ちはまぁ分かりますよ、三四郎。
…かく言うあたしも、同類《無能》すからね……………!


「……ぐぐぐっ……………………」


さて、そう来るとなったら同類同士、助け合うというのが筋です!
あたしはポンッ、と縮こまる三四郎の肩に手を当て、

612『悪魔のいけにえ(漸ノ篇)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:51:56 ID:cFeuEibI0
「………。…なんだい…………っ」

「………言えたじゃないすか! 三四郎!!」

「………………何がだ。君には関係のないこと──…、」


ズバリ一言!!
こちらに情けない顔を向けたコイツへ、

──悪魔のささやきを、耳元にて呟くのでした────…。


「じゃあチャンスじゃないすか…!」

「…え?」


「会長の魂を刈っちゃいましょう!! …あなたは一人じゃない。周りにはあたしがついてるすから…!! ねっ!! 魂回収はあたしに任せて、三四郎は思う存分恨みを晴らしてください!!! よろしゃっす!!!!」

「………………」


…『一言』ではなかったすね。て〜せ〜。
ま、そんなことはどーでもいいっす。


 ………今のうのうと生活し、チンタラ平穏に料理を食べ進める愚かな権力者、パワハラ上司共へ。
あたしは言いたいっすね。
いいですか?
バカを怒らせた時が一番怖いんすからね?

アンタらは日々何も考えず、あたしらサンドバッグ《無能達》に怒りのままにイヤな言葉をぶつけ続けてきやがりますが…。
丸々と肉ついた顔面のアンタらが偉そうにできるのも、『社会的立場』があってこその特権なんすよ……?
もし、あたしら無能がすべてを失い、社会的立場という雁字搦めから解き放たれた時……、果たしてアンタらはどうなるものか…………。
…ふふふ。…分からないことでしょう。
バカのしでかす恐ろしい惨状なんか………。

…ただ、分からないのなら、見せてやるまでっす……。


「ね!! 三四郎!!!」

「……………………っ」


後悔してももう遅い!!
目に焼き付け、そして満月のよーに目をかっ開いてくださいな!!

憎悪と逆襲の後、まるで虹のように晴れやかな気持ちになる────そんなスカッと劇《復讐の魂狩-レクイエム》。

あたしと三四郎の二人三脚で、そいつの御手本を見せさせてやりますよ……!!


今っ…──。

ここで────……。





「…いや黙っててくれ。だから、君には関係ないことだよ…………っ」




………。



「…………………えーそう来ちゃいます……?」

「…とりあえず君は……預けるから…………、誰か優しそうな保護者のもとに……っ。それまで黙って乗っててくれないか」

「……………マジでそう来ちゃいますか………」


「子供には関係のない話だよ……………っ」

「…………」

613『悪魔のいけにえ(漸ノ篇)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:52:14 ID:cFeuEibI0
 …はいはい、我関せずっすか。
ドライな奴っすね、三四郎は………。
……全く。本当に役に立たない奴ですよ、こいつは……。



 ────というわけで、あたしは次なる『悪魔代行』の参加者目掛けてひとっ飛び。



「えっ……!? と、飛んだ………?──」

「──いや、待ってくれ!! …待つんだ、メムメム………っ!!」

「はいはいどーせあたしは子供ですよ。子供に見えるんでしょ子供にっ!! ありゃーした〜〜…」


 ──車が停まっていた場所にて、真横にはちょうど光灯る休憩所。公衆トイレと自販機があり。
 ──ペンキの剥がれかかったベンチにて、まるであたしを待っていたかのよーにポツンと一人。



 ふわ、ふわ〜

「…モグモグ。…げぇ〜。このハッカって飴はあたし好みじゃないすね………。ブタのエサっす」

 ペッ

「危ないぞ……っ! こら、メムメム……!!!──」


「──…ん? ………あっ…!」




 ──第二の『悪魔代行』参加者。
 ──…なんたらサヤという、……ベンチに座る女子。
 ──そいつは、淫魔にうってつけで、なおかつあたしが接しても全く平気なくらい色気0だったっす。

 ────名前忘れたんで、以下、呼称『ぺったん子ヨーヨー』を、この時スカウトするのでした……。



…………
………
(じじょーせつめー、割愛〜。めむめむ〜)

……





「…だからヤだって。メムちゃん」



「……え、えぇ………。──」

614『悪魔のいけにえ(漸ノ篇)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:52:27 ID:cFeuEibI0
「──そ、そりゃお前はおっぱい無いから色々出来損ないではありますよ〜…? で、でも心配なく!! お前にはあるじゃないすか!! その露出された脚が…!! 太ももこそ最大のえろだって、魔界の──…、」



「ところで佐衛門さんー、悪いけどもう少し待ってくれるかな…? アタシの連れが今トイレでさ……。お願い!! もうちょっとだけだから!!」

「…ふふっ。何も急いでなんかいないさサヤさん………! それにしても、圧倒的災難だったね……。この山の中、一人でその人を背負ってたんだろう……?」

「うん…。ほんっとしんどかったし!! もう身体中ベットベトでさぁ〜。熱中症寸前だったよ〜〜! アイツ、本当に最低!!」

「オアシス……! ここを見つけた時は砂漠の中の湖だったろうね………!!」

「あーね。あはは〜っ」





「……………。──」


……あたしの存在ガンスルーで、やたら仲良し気に接するペッタンコと三四郎の二人…。


ねえ。

この会話、何が楽しいんすか。




「──うぇっ…♡」


「…ん? どしたー? メムちゃん」 「…またlemonの変なトコか………っ」

「…いや、ワンチャン三四郎の魂これで誘惑できるかな〜って。それだけっす」

「………会話に入れないことを逆恨みして、僕を殺しにかかったな…………っ!」

「てかもう淫魔やめたら? アンタ向いてないと思うよ」


「…くそっ……。くそぉお…、ちくしょぉおおおおぉおおおっ!!!!!」


「……」 「………あ、それで佐衛門さんさぁ〜…」



 その白いエプロンは真っ平らな胸を隠す為の物なんでしょうか…。
でっかい髪ピンでセンター分けにして、バカみたいなミニスカートを吐く、ヨーヨー片手の嫌な女。
そのスカートの丈ゆえに、バヒョなら絶対鼻息を荒くするようなえろい脚で…、
そしてそのバカみたいなスカート同様の頭のレベルでしたよ、こやつは…。

はい、ハズレくじの連チャンっす。
このぺったん子ヨーヨーも、三四郎同様何にもあたしの役に立たないバカでした。
……はぁ……。


…今思えば、ラムネをグビグビ飲んでる最中を、あたしが急に話しかけたのが原因だったんでしょうか。
ワッ、と水を噴き出した後の、ヨーヨーガールの顔はものすごい変な顔で………、──多分第一印象から「なにこいつ…」って思われたかもしれないす。
んで、その後あたしの魂狩り説明を始めたら、…もう言葉を重ねる度に、どんどんどんどんコイツは嫌な顔をしていって…………。


「…え〜っ?! それ絶対ほたるちゃんじゃん!! どこで?! どこで見たの!!!?」

「なんだ知り合いなのか…………。そこの、海沿いで話したっきりさ。…彼女の方から急に飛び出していってね……」

「わー…、ほたるちゃんらしいアクティブさ〜……。んじゃさ、後でほたるちゃん探しも…いいかな?」

「はははっ………! 君は枝垂さん、僕は…会長。さしずめ僕らは探し人同盟だね………っ」


…気付けばこの有望な淫魔候補《ヨーヨーガール》は、あたしの後を追ってきたジョン・ベルーシ😎野郎ばかりと打ち解け合い。
あたしよりも、こいつに懐ききってるわけって感じっすわ……。

615『悪魔のいけにえ(漸ノ篇)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:52:41 ID:cFeuEibI0
なんすか…。
シダレホタルって…。
火垂るの墓の話…っすか………?

…もうっ、お前らを墓にしてやろうかってんだちくしょおこのおおおぉぉっ!!!!! あの映画も清太が普通にクズっすよね!!! もうおおおおおおおっ!!!!!

興味ないわ!! アンタらのイチャイチャお話シーンとか!!!!
人の苦労も知らずに……こんちくしょおおおおおおおおおおおっっ!!!!



「……はぁ………」



「…にしても遅いなぁ〜おじいちゃん。何してんのさ〜…」

「おじいちゃん………っ?」

「うん、アタシの連れ。…もう三十分近くだよ。…トイレで格闘しすぎじゃんっての!!」

「………おじいちゃんか。……──」


「──って…、あっ!」


 ふわふわ〜

「………………」


「…メムメム……、どこに行くつもりだ……っ?! 危ないからサヤさんに引っ付いててくれなきゃ………っ」


…はぁ。


「……老人って便器冷たいだけですぐ心筋梗塞になるんすよね?」

「…なっ!? き…君……殺す気かっ……!? サヤさんの連れをっ………?!」

「あたしはね〜…もうスケジュールが分刻みなんすわっ! お前ら人間のくだらない会話聞く暇あったら魂っすよ!! タ・マ…シ✡イ!! そんだけです」

「……なにそれ。はいはい、言われてみれば確かに心配だしね。ちゃんとおじいちゃん死んでないか見てきてね〜メムちゃん」

「うしゃーす」


「おいおいサヤさん……っ。何故行かせるんだ………っ。あの子なら本気でやりかねないよ……、普通じゃないんだメムメムは………」

「え、大丈夫だと思うよ。…虫も殺せないじゃんメムちゃんは。ほら、まさに…」

「…え?」


 …はぁ。
ほんとにバカデカため息っすわ。はぁ…………。

そりゃ、魂狩り《殺人》に加担しない人ってのは、…ほんとに褒められた存在で。
世間一般じゃ良い人になるんだろうけどさ〜…。
………なんで、こういういらない時に限ってそんな『優しい人』ばっかりに出会うんすかね、あたしは……。
…普段あたしが絶望してる最中なんか、誰一人とて優しくしてくれないっていうのに…………。


「メムちゃんの周り、すごい蚊たかってるでしょ?」


 ぷーんぷん…
  ぷーん、ぷーん…


「『虫も殺せない』とはこのことか………っ。はは…!」


「ぐぅっ〜〜〜〜……!!──」

616『悪魔のいけにえ(漸ノ篇)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:53:08 ID:cFeuEibI0
世の中って、なんでこうもあたしに不都合に回るんだろ…。
地球の自転どういう回りっぷりしてんすか。ほんと…………。


「──うっさいわムシケラ!!! …あ……、ひっひぃい〜!! さ、刺さないでよぉおお!!! しっ、しっ、おねしゃす〜〜〜っ!!!」

「あはは!」



…ま、こーしてあたしがフワフワ吸い込まれた先は、便所近く。
入口からアンモニア臭の渦中へと潜り込むに連れ、あたしの周りでは蚊に加えて蝿というムシケラの二重奏が展開……。…あたしはどうやら変な生き物にばかり好かれる性質のようっす。

電灯がバチバチッ…と切れかかる、辛うじて明るい公衆トイレ内。
一応、日頃掃除はされてるのかキレイっちゃキレイでしたが、汚物感を隠しきれないその男子トイレにて。



「…くくくっ………!! ききき…………!!」


「…あっ!! コイツか……。ヨーヨー娘のジジイは…」



 ────最後の『悪魔代行』の参加者が一人。




……
………

「……ところで、サヤさん。……君の…、そのおじいちゃんって人の話なんだけどさ…………っ」

「あ。別にアタシのガチ祖父ってわけじゃないからね、一応。…あんなのがリアルにおじいちゃんだったら、多分今頃アタシ少年院だわ…」

「……。……──」

「──…もしかしてだが……………っ。その人の名前さ」

「ん?」


 ──そのジジイは、用なんか足してなく。
 ──手洗い場で何がしたいのか、ティッシュ箱からティッシュを取り出しペラペラ…→グシャリと。
 ──…かつて『ティッシュン』ってゆう、あたしには最高の使い魔(ティッシュ)がいたから、ジジィのわけのわからない行動は妙にムシャクシャした。


 ──ジジィは後に、『ティッシュ箱くじゲーム』をしたかったと。この耄碌じみた行動の意図を語る。



……
………

「その人の名前…『兵藤和尊』…とかじゃないのか…………っ?」



「……え? ………………あの、質問で質問返すようだけど…さ、佐衛門さん」

「………なんだい……」

「…その、佐衛門さんが探してる『会長』ってのも……。もしかして……」

「……愚問だね………──」



 ──ジジィの足元には杖が落ちてあった。
 ──あたしはひたすら「それに気付かず転べ〜」と念じていたこの時だけども。




……
………

「──……兵藤会長。僕が殺す……唯一の参加者だっ……………!」

「えっ…!?」



 ──このジジィこそ、

 ────『兵藤和尊』様こそが、あたしの追い求めていた本物の悪魔だった────。



「……還るか…? 海…深海に漂う…藻屑…泥や砂…澱みに…!!」

「は…? 何の話すか? とりあえずお前、そこの杖で転んでみて──…、」

617『悪魔のいけにえ(漸ノ篇)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:53:21 ID:cFeuEibI0
 カチャリッ


「…え?」



 ──そんな圧倒的悪魔に向かって、銃口が向けられたのでした………。



…………
………
(じじょーせつめ…──…、



「あぁぁあ〜〜〜〜〜〜〜っ?! なんじゃ貴様はっ………!!」

「…ひっ!! め、めむめむ〜〜〜…」



「…………………っ」


「……犬っころめがっ……! 噛みよるというのか…?! 主人に向かって…黒服如きの分際で…………!!! あぁっ〜?!」


「…………………お迎えに上がりましたよ…っ。──」




「──会長…………っ!!」




 …事情説明挟む間もなく、矢継ぎ早矢継ぎ早の展開っすよこりゃまた!!

618『悪魔のいけにえ(爻ノ篇)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:54:07 ID:cFeuEibI0
[登場人物]  [[メムメム]]、[[兵藤和尊]]、[[佐衛門三郎二朗]]、[[遠藤サヤ]]

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619『悪魔のいけにえ(爻ノ篇)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:54:18 ID:cFeuEibI0
 突然便所に入って来たのは愚鈍な三四郎、そいつ本人。
……思い返せば、野郎は『会長』を殺したいだか何だかで…、一瞬あたしと気が合った仲ではありますが、……奴の標的は割とあっさり見つかったわけか。
ヘルペスピストルを、多分その『会長』御本人に向けて、目を血走らせるのでした……。


「…へ?! お、おい三四郎!! な、何を………」

「あぁ、勘違いしてほしくないんだがね…メムメム。…僕は別に会長へ恨みを持っていたりとか………、そういう怨恨、復讐心はないのさ………………」

「は?」


「…ちぃっ………!! とどのつまり……貴様は特に意味もなく……王へ反逆精神………っ!! 造反をするというのか……………っ! 気の触れた……救いようのないゴミめがっ……──…、」

「…いや。…大義名分は薄いにしろ僕だってありますよ。…貴方を殺す、意味がねっ………!」

「あぁ………!?」


「…いいですか。日本は極めて平和な国です……。汚職政治家に、権力を盾に暗躍する犯罪者、捕まらないバカ息子…………、そしてブラック企業経営者……っ。ソイツらは日本国民何千万人から何度も殺されています……──」

「──ただし、それはあくまで空想の中でのみ…………っ」


「あ?」 「…あくまで? 悪魔??」


「その空想は…決して現実化しない……っ。空想と現実の垣根は意外に高いのですよ………っ。頭の中だけで完結する殺人なんです…………──」




「──ただ、ある日突然…自分の目の前に銃が湧いたら………──」


 カチャリッ



「──そして同時に、今住んでいるこの場所が…法もクソもない無秩序………っ。治外法権地帯になったら………………っ──」


 にじりっ…


「──権力も何も通用しない………、そんな自由を限界突破した世の中で、人々はどう生きるか………っ──」




「──…一線っていうのはですね、……こういう奇跡の積み重ねで簡単に超えられちゃうんですよ………っ──」


「────なにせ、殺人っていうのは誰でも簡単にやれるんですから……っ! やろうと思えば…誰でも………っ!!」



「…あぁ? …貴様………」 「…なんすか急に…三四郎………?!」




「あ、言い忘れてましたね。…僕が会長を殺す理由。それは、貴方が悪評高い経営者だからです………。貴方の命日は貴方の誕生日よりも祝われる……。喜ぶ人はたくさんいるんだ……………っ──」

「──理由はそれだけです………──」





「────終わらせましょう、何もかも………………っ!!」

620『悪魔のいけにえ(爻ノ篇)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:54:31 ID:cFeuEibI0
「ぃっ…………」

「………」


 人も百人殺せば英雄になる、だか。
放たれた弾丸、命中するが悪ならば即ち無罪、だか……。
要するに、この三四郎野郎は、英雄気取りでジジィを襲ってるみたいっすね。
…コイツを同じパワハラ被害者無能《仲間》だと思ってたあたしが酷く惨めっす…。
結局は独りよがりな考えで殺意を抱いてたんすから…もう同情もできないっすわ、コイツには……。

まぁコイツがどーゆー動機でジジィを襲おうがあたしとしては、どうでもイーグルす。

 …ふふふっ。
……この時はまだワナワナ震えていたあたしですが、…実は心の奥底では踊り狂ってたんすよ。…あたし……!!
え? 何でって?? 言うまでもない!!! 念願の魂ゲッツの時到来なんすから!!

三四郎が弾丸を放ったその時、その瞬間…、
……こんな老いぼれがヴァージン破りとは何となく不服ではありますが……、とにかく魂を手に入れれるんすよ!!
魂を!!!

レース先輩に褒められるだろな〜♪
周りのみんなは悔し涙でハンカチを噛みしめるだろな〜♫
所長からお菓子(ご褒美)たくさん貰えるだろな〜〜♪
あたしは人生最大の転機を前に、妄想が膨らんで仕方なかったんすから!!
フィーバーっすよ!!!



 ──……まぁ、ただ。



「……クククっ…………!」

「……な……?」

「カカカ……っ……、キキキ…!!! クゥ、クゥクゥ…!!!」

「何が…何がおかしいんですかっ………!!! 会長っ……………!!!」



「思い出した…………。貴様はたしか…、…利根川グループの…、何やらいけ好かぬ…小僧じゃな…………?」

「……………っ。王の最期の言葉にしては随分締まらないですね…………っ」

「カァーーっ!!! キキキキキっ!!! かぁーカッカッカッカッカカッカカッカッカッカッカ!!!!!、ぐききき……っ!!!」

「………だから、何がそんなに笑えるというのですかっ………!! 貴方は死ぬんだ……、殺されるんだよ──…、」



 ──多分〜…。魂が飛び出る相手は…。



「キキキ………っ。おい小僧、震えてるぞ…………? 手が……!!」


「…!! ぃッ…………………!!! ………」


「その手で撃てる自信があるというのなら、大した腕前じゃないか…………!? あぁ〜? 小僧…っ!」

「…くっ、…ならお望みどお──…、」



「本日をもって利根川グループ社員は全員地下行き確定………っ!!!! ────やれ、『小娘』がっ………」




 ──『三四郎』の方になるんすがね…………。

621『悪魔のいけにえ(爻ノ篇)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:54:46 ID:cFeuEibI0
 バシッ────


「がぁっ………!!!?──」



「──……………えっ…?」



 シュルシュル〜…と勢いよく伸びていって…ばしんっ!!!
三四郎の右手目掛けて飛んできたプラスチック製の球は、奴の持つヘルペス銃をはたき落とし……。
紅脹して痛む右手を抑えながら、三四郎は後ろを振り返って、…………絶句。



「……ごめん」



「え………。…………え?」




「…ごめんなさい。佐衛門……さん……………っ」



「………え」






「くぅっ!! きぃーっききききき!!!! かかかかかかかーかっかっかっかっかっかっかァ─────っ!!!! ききききききききっ!!!!!」






「さ、サヤ…………さん…………………?」


「………………」




 ……印象的だったすよ。
『兵藤和尊』名義のバカみたいな桁が書かれた手形を片手に、何とも言えない表情をするヨーヨー娘は。
…そして、まさかの裏切りを前にして、腫れたかのように目をまんまるとした三四郎の顔は……。



「……サヤ、さ……………」


「…本当にごめんなさい。…ねえ、これでいいよね…。──」



「──兵藤様……………」




……本当に三四郎の表情は記憶に残るくらいだったっす。


アイツの『絶望』を一瞬で理解したっていう…その顔は、ものすごい異色放っていたっすから………。

622『悪魔のいけにえ(爻ノ篇)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:54:58 ID:cFeuEibI0
「かーーっかっかっかっかっ!!!! ききききかかかかかかっ……!!!!──」


「──これでいいか、じゃと………?! バカがっ…!! 足りんわ……!! ききききっ……………」

623『悪魔のいけにえ(爻ノ篇)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:55:10 ID:cFeuEibI0




 満月。
そう、満月。
狂犬病に感染した生物は月光を浴びると、カミソリの如く激しい痛みに悶えるらしい。
──月はまさしく悪魔の眼光でした…。



 バシィン────ッ

   バシィン────ッ


「ぐぅっ…………!! がぁっ………!!!」

「制裁っ……!! 制裁、制裁、制裁っ…………!! この塵芥……ゴミ……っ…ゴミ以下のカスがっ……!!──」


「──制裁っ…!!!」



 バシン────ッッ


「がぁっ……………!!!」


 公衆トイレ外にて、響く嫌な打音。そしてうめき声……。
……まるで調教っすよ。
出来の悪いウマを鞭でビシバシ叩きのめして………、ウマはウマでデカい図体してるのに調教師には反撃すらもできずただ叩かれ続ける…………。
ヨーヨーガール曰く、ジジィ改め兵藤のヤローは『人間競馬』っていう…全く想像もつかない遊びをするのが好きらしいんすが。

サングラスを弾き飛ばされ、杖で好き放題背中を叩かれ続けるウマ──三四郎と…。
そのウマを一切人間扱いせず、涎を垂らしながら怒り殴る調教師──兵藤のジジィ………。

…今あたしが見てるこの光景こそが『人間競馬』みたいなモンでしたわ……。



 バシィン────ッ

   バシィン────ッ


「ぐぅっ……………!!」

「分を弁えろ……っ!! たかが黒服が…っ!! たかが黒服がぁっ……!!! 制裁…!! 制裁…!!」


「あ、ぁ、わ…………。ひ、ひ……ひゃっ…………」


……正直ね。めちゃくちゃ震えまくって、もう金縛りって感じだったすよ。
…この時のあたしは………。



「…ちょっと………っ。……お、おじいちゃん…もう……やめてよっっ!!!!」

「あ〜……っ?!」


「……さ、サヤ………さ…ん…………………」


…あっ。
言っときますけど別にあたしは兵藤のヤローに…び、ビビり倒して震えてたんじゃないすからね?! …こ、こんな耄碌、全〜然怖くないし何も思ってないすよ……!!
…この時あたしがいた場所は、ヨーヨーガールのえっろい胸の中……。
──つまりこの女に抱かれ持たれてる感じだったんすから!!
ほら、あたしってオッパイ恐怖症じゃないすか!! それが原因でビビリまくってたんすからね!!! こ、こんなジジィの制裁なんか余裕だったんすから!!!


「お願いだからもうやめてって!!! ねえおじいちゃん……っ!!!!」

「あんじゃ小娘がっ………!! 女の癖に……しゃしゃり出るなマヌケ………っ!!」

「いやふざけないでって!!! …もう十分でしょうが…………」

「…ぁあ〜〜〜〜〜〜っ??!! あぁ〜〜〜〜????」


「ひ、ひ〜ひぃ………。あ…ぁ……ぁ……!!」

624『悪魔のいけにえ(爻ノ篇)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:55:25 ID:cFeuEibI0
……へ? なんだって??

──『そのヨーヨーガールは胸がペッタンコなんだろ?』
──『だからお前が彼女にビビるのはおかしいじゃねぇか』…って………………?

…………。
……まぁそんな細かい話はさておき…。
さておきっすよ。もうっ!!


 …『叩けば直る』だなんて、まるでのび太ン家のテレビかっ!! てぐらい、三四郎をボコボコにするジジィ…。
そんなヤローの邪智暴虐っぷりには、流石のヨーヨーガールも黙っていられなかったのでしょう……。
若干涙ぐみながら、コイツは静止に駆け付けて来ました。

一方で、当のジジィといったら、…まぁ孫の年ほど離れた娘に「もうやめて」と言われたわけっすからね。

『チッ』──…

って、舌打ちを飛ばした後、思う事があったのか。
物凄く嫌な目つきをしながらも、杖を振るうのを停止しだしました。


「………クソっ……。……………虫けらにも劣る…奴隷………っ。自由を知らない、ボウフラ同然の奴隷如きがっ……………。王であるワシに……楯突くとは………………」


「ぐうっ…………………。がぁ……あっ………………………」




さっきね、三四郎が公衆トイレ内からほっぽり出された時、ジジィが「向こうの自販機からなんか買ってこい」って小娘に命令したこともあって、
ヨーヨーガールとジジィとの距離は今、まぁまぁに離れてはいたんすけども。


小娘が泣きながら(──あとあたしを抱えながら──)ジジィの元へと近づいていく間。

三四郎の胸ぐらをシワクチャな手で掴んだジジィは、


「おい……っ!! どのくらいじゃっ………!! 貴様の……視力は………っ!」

「ぐぅうっ……。……な、何故…今………その話を………」

「あぁ?! バカがっ……!! 淀み…濁り…腐りきり……っ!! 貴様の目はあまりにも酷すぎるっ……。──」

「──高価な品……本当に価値のある一級品………。普通の人間には…素晴らしき品を見定める彗眼が備わっとるものじゃが…………。…圧倒的価値…巨万の富である王……このワシを襲うとは………。貴様には見る目がなさすぎるわいっ……!! ──」


「──これを見ろ……っ!!! ゴミっ…!!」

「…え………?」


懐から、折り目一つない新札のお金。
…どこの国のお金かは分かんないっすが、それを一枚取り出し、三四郎に見せつけると、


「おいっ……!! 分かるか……この貨幣の価値がっ………!! 一体コイツは何円じゃっ…!! 答えろ…、答えろゴミ……っ!!!」

「え。………い、一万………ペリカ…………。…地下で通用する……お金の──…、」

「ちぃぃっ…!! 黙れっ……!! …やはり…貴様はゴミ………!!──」



三四郎の右目を無理やり開かせて、



「────…刮目せよっ………!! クズめがっ……!!」






貨幣の切れ目を、眼球に、────シュッ────────。




「ひッ」

「ぁ」



「がぁッ────」




──今夜は満月。

真っ白でまんまるなお月様へ、一筋の黒い雲が横切っていました────。

625『悪魔のいけにえ(爻ノ篇)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:55:38 ID:cFeuEibI0
「ぎい゙ぃぃぃいがぁ゙あ゙あぁぁッ…!!!!!!! ぐがぁ゙ああああぁぁぁあああぁぁあああぁああああああああああああああああああ────────ッッッ!!!!!!!!」



「ぐうっききき! きききぃっ……!!」




「…ぁっ………左衛門……さ………………………」




「あ゙がぁあああ゙ぁぁぁああぁぁぁあぁぁああぁあぁぁあぁぁあぁぁぁあああぁぁあああああぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッッッッ」






「カ────ッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカァ───────ッ!!!!! クゥクゥクゥーカッカッかっかっかっかカッカッカァーー!!!!」




…異常な光景を前に、ヨーヨー娘は絶句しきって。
…あたしだってもう魂が抜けたんじゃないかってくらい頭が空っぽになって。
……三四郎は我を忘れて地面を転がり狂う…。


──あの場にいた四人の中で、楽しかったのは兵藤和尊。奴だけでした。



 ────奴だけだったんす。

 ────人間のフリをした………『真の悪魔』は……………。





「カァ────ッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカ!!!!!! カ────ッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカァ───────ッ!!!!!」

626『悪魔のいけにえ(爻ノ篇)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:55:54 ID:cFeuEibI0
…………
………
(ぽわんぽわん、めむめむ〜)
(回想終了〜)
……




「…以上が事のあらましっす!!」


「…」「…う、うげぇ…」


「いやぁ〜思えば長旅だったすわ…。アホの千花にデカ外国人、それに三四郎とヨーヨーガール……何人もの使えない参加者達に出会い続け…三時間近く!! 誰一人とて魂回収に協力してくれない中……、やっとあたしの努力が報われたんですよ……!!──」

「──今はお休み中の兵藤様ですが…奴こそが!! 奴こそが最強の悪魔であり、あたしのナイスバーディ!!! 勿論奴とは手形で契約したのでね!! 奴を以ってして、取れぬ魂はないときたもんすわ!!!──」

「──うふふ…♫ あたしもついに一流の悪魔の仲間入り!! もう讃美歌をカラオケしたい気分っすね♪ ふふ…!!──」



「──というのに…っすよ」

「お、お前ぇ…………………」



………はぁっ……。


「なんで兵藤のヤローを部屋から追い出したんすかぁああぁぁぁああっ??!!! 寝てる隙にポイ〜って………!!!!!! 酷いじゃないすか〜あんまりすよ、バヒョぉおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!」

「バカヤローっ!!!! なんて回想をオレらに見せつけるんだっ??!!! そんな危険思想なじーさん連れてくるなぁあああ!!!! どこまでバカなんだお前はぁあああああああ!!!!!!」

「せっかく魂をゲットできるチャンスだったのにぃいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!」


「…とりあえず一つ。メムちゃんは淫欲(?)な方法で魂を集めるのが仕事なんでしょ?」

「あぁぁああっ???!!! なんすか高木んんんん〜〜〜っ!!!!」

「…本当に殺しちゃう手段取ったらさ、そのレースさんに…逆に凄い怒られると私思うんだけども」


「え…………………」



………………………。



「と、とにかくジジィを連れ戻しますよっ!!!!? あたしはヤツの財源と力が必要なんすからぁあああああああ〜〜〜〜〜〜っ!!!!!!!」

「あっ!!! ま、待て!!! やめろメムメムぅ───────っっ!!!!!!」




 ジタバタジタバタ…


「もがぁあああぁああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!!!!」



 ……東●ホテル、十一階・2106号室。

……超後悔っすよ。マジ。
…高木とバヒョの奴にあたしの回想を見せてなきゃ……、魂集め計画はオジャンにならなかったんすからね……………。

627『悪魔のいけにえ(爻ノ篇)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:56:05 ID:cFeuEibI0
…はぁ。
こっちの気も知らずに、ジジィは時間帯が時間帯なだけあって、廊下のどっかでむにゃむにゃ呑気に睡眠中っすわ。



もう、ちくしょぉめぇえ〜〜…………っ。



「こくりこくり……。あぁ〜〜〜………。むにゃむにゃ…」



【1日目/F6/東●ホテル/11F/2106号室/AM.04:30】
【メムメム@悪魔のメムメムちゃん】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】???、兵藤からの手形百万円
【思考】基本:【奉仕型マーダー→魂集め】
1:アホそうな参加者をマーダーに誘導して、魂を集める。
2:……というわけで、ベストプロフェッサー・兵藤様を連れてきたというのにぃ〜…。作戦失敗だチクショー!!
3:どっかに魂、落ちてないすかね………。

【高木さん@からかい上手の高木さん】
【状態】健康
【装備】自転車@高木さん
【道具】限定じゃんけんカード@トネガワ
【思考】基本:【静観】
1:兵藤さんに警戒。
2:メムちゃん、小日向くんと行動。
3:西片が心配。

【小日向ひょう太@悪魔のメムメムちゃん】
【状態】健康、人間(←→サキュバス)
【装備】ドッキリ用電流棒@トネガワ
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:兵藤に警戒。
2:高木さん、メムメムととりあえずは行動。
3:…メムメムと関わったばかりに、あのサングラスの人の人生はメチャクチャ……。

※ひょう太は水をかけられると男、温かい水なら女(淫魔)になります


【1日目/F6/東●ホテル/11F/廊下/AM.04:30】
【兵藤和尊@中間管理録トネガワ】
【状態】睡眠
【装備】杖
【道具】???、懐にはウォンだのドルだのユーロだの山ほど
【思考】基本:【観戦】
1:こくり、こくり……。
2:展望台の頂上から愚民共の潰し合いを眺める。
3:王に逆らう者は制裁っ………!!

628『悪魔のいけにえ(爻ノ篇)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:56:20 ID:cFeuEibI0



 …佐衛門さんの崇拝する、利根川センセって人曰く。
『金は命より重い』────とのことらしいけど…。


…冗談じゃないッ………。


金が全てなわけがあるかッ…………。
この世の全ての物に金がかかるだけで、あんな紙切れが何よりも大事な訳が無い………ッ。


…決別の意として、兵藤の手形をビリビリに破いた時。
……アタシは後悔なんか一ミリも湧かなかった…………────。



「……はぁ、はぁはぁ……。ぐうッ………。はぁ……」

「…さ、佐衛門さん…大丈夫……なの…!?」

「はぁ、はぁ…………。大丈夫にッ………見えるのか…………ッ?」

「あ…い、いやごめん。そういう事じゃなくてさ……──」



「──ソレ、…『違法』な奴……だよね………?」

「………ノープロブレム………っ。コイツは『医療用』と銘打ってるんだから………脱法ドラッグだよ…………ッ。……吸わなきゃ、痛みでやってられないさ……………ッ──」


「──スゥ…ハァッ………。…フゥ………ハァアァッ…、ッ………。」

「……………………ほ、程々にね………」


 サングラス越しで眼帯を付ける彼。
唯一露わになっている彼の左目は、…もう鬼ってぐらいに怒りで血走っていた。
…真っ暗な病院にて、お目当ての『ソイツ』を探り出した彼は、一心不乱に袋の中身を吸い続ける。
………さっきまでの優しくて、比較的まともだった佐衛門さんはもういない。……そんな気がして堪らなかった。



「…………ハァハァッ…………──」



「──…申し訳ないね。……サヤさん」

「えっ…。い、いや…!」


「………もう痛みはだいぶ……和らいできたとは思うからさ……………っ。……そろそろ、行こうか………」

「……え…。だ、大丈夫なの……?」

「…そりゃ、大丈夫…ではないさ………っ。…ただ、君こそ大丈夫なのかい………。こんな不気味な病院で……長居するのは………」


「…………うぅっ…! …そ、それは確かにだけども…」

「……よし、なら出ようか……。…ねっ………!」

「…うん………分かった」



…金なんか要らなかった。
恐怖も、絶望も、文字通り『こんな目に』遭うのももう嫌だった。

金なんかよりも……、たった十円ぽっちで大分満足できる……平和であまい菓子の方が何倍もいい。
……もう二度と金に惑わされてたまるか、って…ッ。

629『悪魔のいけにえ(爻ノ篇)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:56:55 ID:cFeuEibI0
「…ねえ、…………ごめんなさい。私の方こそ」

「………」

「……あの時、佐衛門さんにヨーヨーぶつけなきゃ…………裏切っていなきゃ………ッ。貴方は今頃──…、」

「……ははっ………。僕が謝ったものだからゴメンナサイ返しか………………。いいよ気にしなくて。罪悪感なんて最も非生産的な感情だ…っ。もうよしてくれ…。──」



「──…ありがとうね、サヤさん…」



……
………
────“金さえあればなんでもできると思うなッ……!! ジジイッ……!!”

────“……。行くよ、佐衛門さん…”
………
……




「──…あの時……、こんな僕を庇ってくれてさ………っ」

「…………うん」



 …アタシには兄貴がいる。

頭が悪くて、ダメダメで、スケベ心だけはいっちょ前の愚兄だけども、…それでも大切な。

──『サングラス』がトレードマークの兄がいた。



佐衛門さんの肩を支えながら、アタシらは病院を後にする。




……一応補足。
アタシアタシ〜って一人称だから勘違いしちゃったかもだけど、アタシはメムちゃんじゃない。
…そしてヨーヨーガールぺったんこって名前でもない………。

アタシは、──────遠藤サヤだ。



【1日目/D6/東京ミッ●タウン周辺街/AM.04:31】
【遠藤サヤ@だがしかし】
【状態】健康
【装備】あやみのヨーヨー@古見さん
【道具】フエラムネ10個入x50
【思考】基本:【静観】
1:佐衛門さんと行動、そして互いに助け合う。
2:ジジイ(兵藤)を絶対許さない…っ。
3:ほたるちゃんを探したい。

【佐衛門三郎二朗@中間管理録トネガワ】
【状態】右眼球切創、背中打撲(軽)
【装備】ヘルペスの改造銃@善悪の屑(外道の歌)
【道具】???、医療用●麻x5
【思考】基本:【静観】
1:サヤさんを守る。
2:会長に激しい憎悪。
3:……メムメム、アイツについていって大丈夫だろうか………っ。

630 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:58:32 ID:cFeuEibI0
以上で二本目終了です。
引き続き、『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』をお送りします。

631『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:58:53 ID:cFeuEibI0
[登場人物]  [[野原ひろし]]、[[海老名奈々]]、[[飯沼]]、[[山井恋]]、[[マルシル・ドナトー]]、[[魔人デデル]]、[[新庄マミ]]、[[うまるちゃん]]

632『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:59:15 ID:cFeuEibI0
**短編01『迷走家族F(ファイアッー!)』
[登場人物]  [[野原ひろし]]、[[海老名奈々]]、[[飯沼]] / [[マルシル・ドナトー]]、[[山井恋]]

『時刻:AM.04:56/場所:東●ホテル3F』
『────現在』
---------------

633『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:59:27 ID:cFeuEibI0
 ガガガガガガ────ッ…


  バキバキバキ────ッ…



「…ぼっ、僕には……、妹がいるんですよ。歳の離れた…夏花っていう…………」


「………」 「…い、ひぐっ…うぅ……」



 飯沼がふと口を開いた。
豪華な扉を、静かに綺羅びく灯りを、誇り一つない床を。
小学校低学年の版画が如くウンディーネが無作為に切り裂く中。──ひろし等は縮こまりながら、飯沼に耳を傾ける。
ウンディーネ【水先案内人】──。水の精霊である奴が居る場所は階下なのか、階上なのか。そもそも今、何体に分裂したのか。
どちらにせよ、ウンディーネの繰り出す『ウォーターカッター』はレーザービームそのもの。
岩、鋼、人体に人骨。何であろうと簡単に真っ二つにする威力な物だから、奴が暴れ狂うこの場──東●ホテルの長居は危険極まりない自殺行為である。


奴と闘っても勝ち目などなかった。
ましてや、戦闘どころか喧嘩すらも無縁なひろし、飯沼、海老名の三人なら、即刻退避が望ましいだろう。



ただ、三人には。

──厳密には、飯沼には残らざるを得ない『使命』という物があった。



「うぅっ……ぼ、僕は一人暮らしをしていて…。……たまになっちゃんが遊びに来て……料理を振る舞って…やるんですが…………。『美味しい…!』って歓びを共有するあの時間が……凄く好きで…………………」

「……………」

「…僕、人と話すのは…苦手で………。…昔から…人にはあまり興味もなかったん……ですが…。…なっちゃんの面倒は…よく見たんですよ………。…アイツ、お兄ちゃん、お兄ちゃんっていつも……………──」


「──そんな妹に……、マルシルさんはよく似ている……っ。…彼女、僕のことを慕って…なついてくれるんです…──」

「──こんな卯建が上がらなく、……暗い…魅力がない僕なんかに………。彼女は………、…マルシルさんは接してくれた…………」



「…飯沼君………っ」



ガシャンッ────、と。窓ガラスが真っ二つに切れ落ちた。



「ヒィッ……!!! ………ひぐっ………──」



「「──あっ!!」」



否。
切断されたのは窓ガラスのみではない。
水の精霊による無差別乱射は、天井の照明にも及んだのか、三階廊下は薄暗さに包まれる。

暗闇が、怖かった。
無は恐怖だった。
無は何もかもを不安と絶望に覆い包んでくれる。
死への絶句と視界不良から、海老名はもうパニックで、二重の意味で眼の前が見えなくなっていた。

ただ、唯一、はっきりとこの目で捉えれた事がある。
それは、水圧による斬撃と。
そして頭を地面につけて懇願する、飯沼の姿。──涙だった。

634『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:59:40 ID:cFeuEibI0
「…い、飯沼君っ!!」

「………だ、だからぁ……っ!!! …お願いしますっ…、野原さん!!! …一緒にマルシルさんを…………。お願いします…………!!」

「………っ!!」



「ここで逃げたら………僕は…………自分のことが…堪らなく嫌いになる………。だ、だからぁ…野は──…、」


「もういい。飯沼君」




「ひ、ひろしさん……!!」


「………………」



 ガガガガガガガガガガガ────ッ…


  ガシャン────ッ…



 曲がり角奥から、何かが大破する音が響いた。

縮こまって頭を上げない飯沼の背中へ、ポンと置かれる掌。
手を置いた張本人──野原ひろしは、この時何を考えたのか。
辺りは目を凝らさざるを得ない程暗闇だったため、その表情は飯沼、海老名共に把握できなかったが。

────無論。
ひろしという男は双葉商事係長を勤め上げ、これまで幾多のビジネス的困難を昼メシの力で挑んできた人物。
心の底から懇願する若者へ、「諦めろ」等とドライに言い放つ男ではなかった。


「…喋ってる暇があれば足を動かせ──社会人のモットーだぜ、飯沼くん……!!」


「………っ!! の、野原さん…っ」




「……確かにオレたちはそのマルシルさんを知らねぇさ…。…だが、それがどうしたってんだっ…!!──」


「──オレらサラリーマンはどれだけ身が削れても…どれだけ心が減っても…耐え忍びっ…。社会という大きな壁に向き合ってきたんだ…………──」


「──バトルロワイヤルだぁ…? 生死の戦いだぁ? ンなもん知らねェッ!! サラリーマン人生を歩んできたオレらに……今更怖いものなんかねェんだよッ!!!」




「………っ!」




「…マルシルさんのいない世界に未練なんてあるかってんだッ………!! ……行くぞ……。た、助けに行くぞオイッ!!!」


「の、野原さん…!!」

「ひぐっ……、ぐっ………………う……」

635『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:59:52 ID:cFeuEibI0
──それが野原ひろしという男の『流儀』だった。

飯沼に鼓舞を打った後、ゆっくりと立ち上がっていくひろし。
彼は、半ば巻き込まれ状態である海老名に一言詫びを入れると、前へ向いた途端、その目は一変。
覚悟を決めたその眼、その魂のまま、マロが向かったであろう十一階。──即ち、移動手段であるエレベーターへと歩んでゆく。
あとに続くは、怯えつつも勇気を振り絞って立ち上がる海老名、飯沼の両名。

────奇しくも三人は飯好き。美味しい物好き。グルメ大食いという共通点を持つ。


空腹よりも辛い、惨劇のホテルにて。
三人は1421号室で身を縮こませるマルシルを救いに、恐怖と抗う。
ひろし等が第一目標として、その姿を探すは、自分らをこんな目に遭わせた戦犯の内ともいえる──マロ。


「オレが…絶対に皆を……。責任持って守ってやるからなッ……」


「………はいっ…」 「ひっ、ひっ…………。ひろし、えぐっ…さん…………」




「……。………野原一家ッ……F【ファイアーッ】………!!」



ただ、この絶望へ抗うにあたって、三人合わせて武器一つのみとは、あまりにも心細かった。

636『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:00:18 ID:cFeuEibI0
………
……




「…はっ、はっ、はっ、はっ」



 ─────パッ


「……きゃっ………──ぁ…っ?!! 何ここ…?」

「…え!? うわっビックリした?!!!」

「……は? は?? は? はぁっ?! って、あの時のバカ犬っ!!! て、てんめっ…」


「…はっ、はっ、はっ、はっ」



「…え。血、大丈夫………? というか、だ、誰なの、あなた…………??」

「………は? 私山井恋。これで満足? ていうかアンタ何してんの? バカ犬にペロペロ股間舐めさせて………。こんな事態に発情期……?」

「なっ、ち、違うわいっ!! この子が部屋に入ってきて…急にスカートに突っ込んできたんだけどっ!!!──」

「──あ。あと私はマルシル。マルシル・ドナ──…、」

「あーどうでもいいよアンタの名前なんか。別に仲良くする気はないし、興味ないって感じ〜〜?」

「…は、はぁ??!」

「ま、何はどうあれ…。そのクソカスが眼の前にいるんだから結果オーライって感じ…かな。私が用あるのはその犬だからさ〜」

「…??」






「────だからアンタは死ね。…バイバイ、マルシル何たら」






 ガガガガガガッ………………






*『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』
〜パルプフィクション。短編を時系列シャッフルで綴る、群青劇〜

[総登場人物]  [[野原ひろし]]、[[海老名奈々]]、[[飯沼]]、[[山井恋]]、[[マルシル・ドナトー]]、[[魔人デデル]]、[[新庄マミ]]、[[うまるちゃん]]

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637『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:00:39 ID:cFeuEibI0
**短編02『古見八犬伝』
[登場人物]  [[山井恋]]

『時刻:AM.04:08/場所:桜丘の森』
『────『←』巻き戻し/話は16分前に遡る。』

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638『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:00:50 ID:cFeuEibI0
 『犬』という動物は、──血統、種類にもよるが──知能面に関して人間の二歳から三歳程度。
つまりは、IQ90程の知能を兼ね備えているらしい。
動物学的研究結果によると、ニンゲンを除いて平均知能の最も高い生物は犬とのこと。
遡ること古代エジプトから、犬は人間の一番のパートナーとして可愛がられて来ているが、その頭脳は計り知れない物なのだ。
従って、躾も訓練を熟せば容易に覚えさせられる。


下衆な例となるが、例えば────『バター犬』だとか。



「はっ、はっ、はっ、はっ、」



 渋谷サクラステージの一角にて、舌を出す大型犬が一匹。
この犬の名前はマロ。
そして、飼い主の名は今江恵美────と、本来なら説明する所だが、マロは殺し合いにおいて『支給品』。
参加者の一人──佐野が連れ忘れた犬であり、バトロワ的には彼女こそが飼い主であった。

そっと吹き付ける夏風の指示の元、マロは一人でに動き出す。
犬の視線が捉えた先には、呆然と膝をついて座る女子生徒がいた。
血溜まりと嫌な死臭が立ち込む中、それでも身動きを取らない彼女の放心っぷりたるや凄まじい物ではあっただろうが。



「……はぁ…はぁ、はぁ………………。…何してんだろ、私…………」


マロは、


「はっ、はっ、はっ、はっ、」



いや、『クン●ーヌ』(命名:黒木智子)は、



「はっ、はっ、はっ、……」


「……ごめんなさい。……只野…く──…、」



「はっ、はっ!!!!」



 ズボッ────



「んおわっ!!???」




誰に教わった躾なのか。
女子生徒のスカート内へと顔を突っ込み、ベロベロと股ぐらを舐め出していった。

639『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:01:02 ID:cFeuEibI0
**短編03『北埼玉ブルース』
[登場人物]  [[野原ひろし]]、[[海老名奈々]]、[[山井恋]]

『時刻:AM.04:10/場所:渋谷駅前』
『────通常再生』
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640『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:01:17 ID:cFeuEibI0
「はっ、はっ、はっ、はっ、」


 ペロペロペロペロ……



「わっ!! ちょ、ちょっと…!!! えっ?!! ひ、ひろしさん…た、助けてくださぃ…〜〜!!!」

「なっ、なんだこの犬は〜〜っ?!!! …くっ……。や、やめなさいっ!!!! …この破廉恥野郎〜っ!!!!」


 ────ボコッ


げ    ん   こ    つ!!




 シュゥゥゥゥ〜……と、倒れたマロのたんこぶから湯気が出る。

 渋谷駅待ち合わせ場にて、唐突に現れては海老名の股ぐらへダイビングしたこのバカ犬。
海老名の同行者──ひろしは、色んな意味で突飛な襲撃者に、思わず手が出てしまった。


「え、海老名ちゃん大丈夫か〜っ!!?」

「うっ、え…は、はい………。…あの、いくらなんでも…殴るのは酷いですよ〜……。わんちゃんを……」

「…う、うぅ………。…自分の行いを正当化するつもりはないが、仕方ないってもんだぜ〜…?」

「し、仕方なくなんかないですよぉ〜!!」

「海老名ちゃん、考えてみるんだ! SASという部隊では軍事犬という攻撃専門の犬がいると聞いたぜ。…今は殺し合い中だ……。この犬も、もしかしたら誰かが送り込んだ刺客という可能性もあるから…警戒を──…、」


「はっ、はっ、はっ」


し〜〜〜ん……



「流石にないと思いますよ………?」

「……………ああ、オレが馬鹿だったよ。すまない!! …さしずめ、一人暮らしのOLからの刺客…かなぁ……。この犬は………」



 見れば見るほど間抜け面のマロ。
ひろしは脱力感でくたびれそうなほど呆れ返った。


 時刻は午前三時。──普段なら騒ぎ足りない若者達が踊るこの時間帯も、今や閑散とした寂しさが漂う。
つい先程の、何処ぞの参加者によるバカでかい拡声器発声もまるで嘘のような静けさだった。

新田義史追放以降、男手一つで海老名菜々を守るは、双葉商事のスーパーサラリーマン野原ひろし。
ローン十年。三十五歳。これまで幾多ともなるトラブルに立ち向かってきたひろしだ。
治外法権下と化した渋谷区で、彼が何もしないなどある訳がなく────、


──という訳はなく。
現時点では、海老名を連れて渋谷駅を出ることしか行動を取らずにいる。

待ち合わせ場所まで出て早数十分。
未だ、彼ら一行は基本スタンス通りの【静観】を貫き続けている。


「はっ、はっ、はっ、はっ、」

「はは…あははぁ〜…。それにしてもめんこい犬だべな〜〜……」

「…言うほど可愛いか〜? そいつ……。まぁ人それぞれだけどよ〜」


「待て!」────と、犬の躾の如く待機を貫くひろし等。
これは当然ながら誰かに指示されてのスタンスではない。
──そして、何も考えず愚鈍にただ突っ立っている、という訳でもなかった。


 言わば、『何もしない』という策である。


 軽く遡るは、数カ月前のランチタイム。
束の間の休息を釜飯屋にチョイスしたひろしは、あろうことかスマホを会社に忘れてしまっていた。
本格的釜飯店ともあり、出来上がるのにも数十分掛かる。
その窮屈すぎる長い待ち時間、暇を潰す道具も持たずして一体何をすれば……と。
熟考に頭を働かせたひろしが辿り着いたのが──『何もしない』事なのである。

641『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:01:31 ID:cFeuEibI0
“待てよ…。なんでオレは何かをやらなきゃいけないと思ってるんだ…!?”


“思い返せばちょっと時間が空くといつもスマホをいじっていた…”


“何もしないでいるのを時間を無駄にしていると思っていた……”



“──けど本当にそうなのか────?”



この思い付きは結果的には得。
ひろしのこれまでの考え方をリライトする、新たな価値観となった。
何もせず、店の中をぼんやり眺めてみれば、雰囲気の出る竹ザルやアンティークな掛け時計、囲炉裏の上にある魚の飾り等…古民家風な凝った装飾が発見できる。
その温かみのある内装にひろしは心から落ち着いた様子であった。
もしもスマホを会社に忘れてこなかったら、これら店の雰囲気には一つも気づかなかった事だろう。

情報だらけの昨今。
ひろしは、こんなにも落ち着く気持ちになったのは久々な気がしていたのだ。


「かわいいな〜えへへ〜〜!! あ、ひろしさんもよかったら撫でますか…? わんちゃん」

「え? いや、いいぜ。うちはもうシロで散々撫で飽きたモンだからな〜〜」

「あ、そうですか〜。…めんこいな〜〜」

「はっ、はっ、はっ、」



────ただ待つという贅沢。

何もしないことにより、今まで目に付かなかった物がハッキリと感じれるようになるから、と。
今はまだゲーム開始から三時間も経っていない。四十五時間も短いようで長い時間が有り余っているのだ。
従って、以上の経験の元。ひろしは海老名を説得し、ただ何もせずにい続ける。
本当に、何にも──。


「はっ、はっ、はっ、はっ、」

「んん〜〜〜!! かわいい〜〜〜! …………──」


「──……………。…………」


「ん? どうしたんだ海老名ちゃん」

「あっ!! い、いや…何でもないです……!」

「…そうか〜? なら良いんだが…」


「……………ははは…」


もっとも、海老名からしたら今すぐにでもうまる等知人たちを探したいのであるが。


 満月。
映像広告看板が目まぐるしく文字移動し、誰も乗っていないにも関わらず尚も働き続けるエスカレーター。
ひろし達は、何もしないという攻防策を身に置いて、静観をただただ続けていた。

まるで、何かを待っているかのように。

642『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:01:47 ID:cFeuEibI0
「はっ、はっ、はっ、はっ!!!」


 ズボッ


「んおわっ!!! きゃっ!!!!!」




「「え…?!」」


二人の「え?」が同時に重なる。──ということは、『第三者』の声が発生したとの次第だ。

少しばかり向こう、青ガエル電車模型前にて響いた、女子の声。
海老名と同年代頃であろうその女子は、声が飛び出る今の今まで気配を察せず。二人揃って振り返った時、初めてその子の存在に気付かされた。
──それと、マロがその女子のスカートに頭を突っ込んでいたことにも、今更。


「あっ!!! あのおバカ……、い、いつの間に…!!!」


女が目に付けば見境なしに襲うのだろうか、随分と『躾』がなった犬だなぁ…、と。
脳裏に我が息子が思い浮かびながら、ひろしは海老名と共に大慌てで静止にかかる。


「す、すみません〜!! …こらっ、離れなさい! もう…一体どうなってんだお前は……!!」

「すみません!! うちのわんちゃんが〜…ご、ご迷惑を〜…!!!」

「…は?」


バカ犬を無理やり引き剥がし、ひろし等は被害者の女子に平謝りを始める。
対して、虚を突かれた様子で地面に座り込むその女子。
肩までかかる茶髪のミディアムヘアに、同じく茶色のセーターで制服を覆う。イメージ的には、キャピキャピした感じといった顔立ちの女子生徒であった。


「……またこのバカ犬………。…なんなわけ………?」

「えっ? また、って…。君こいつを知っているのか〜?」

「は? …あー、こいつ名前マロだから。…ほら、首輪に書いてるでしょ?」


「首輪……?──」


待ち合わせ場所にて、誰かを待つかのように静観し続けたひろし等が出会った、その女子。


「──あっ、確かに!! 今まで気づかなかったぜ〜…。ごめんよ、うちの〜…っていうか君の…かな? マロのやつ、なんかこう…女の人見かけると暴れちゃうタイプで〜〜…」

「いや知ってるから。私もさっきそのバカ犬に頭突っ込まれたし。やだよね〜ほんと。獣くっさくて敵わないってーの。──」

「──本気で死ねばいいのに。…そう思っちゃう感じ〜? ね〜〜」


「「………」」


「お、オレは野原ひろし! で、こっちは海老名ちゃんだ」

「あ、はい!! よ、よろしくお願いします〜…」

「取り敢えず君に怪我なくて良かったぜ……。ところで君は──…、」

「あ、私パスで。自己紹介」

「え?」

「だってさ〜、普通に面倒臭いし。自己紹介で終わるならまだしも、これまでの経緯とか仲間の話とか色々しなきゃダメでしょ? そんなのダルいしキツイじゃん〜──」

643『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:02:03 ID:cFeuEibI0
もしかしたら、ひろし等は本当に待ち続けていた。
──いや、待たされていたのかもしれない。



「──それに、やる意味なんかないし」


「…え?」



武器も乏しい、戦闘力も皆無、無害、──殺人者としては格好の餌。
待ち続けていたのだ、──死神はひろし等を。

ひろし等の身体から魂が離れる、その瞬間を。


「バカ犬は…とりま保留。対象はそこのオッサンと脂肪の塊みたいな女だから。よろしくね♫」

「……えっ」



「────『ウンディーネ』っ!! 皆殺しにしてッ!!!!!!」



女子生徒──山井恋が、ペットボトルのキャップを外した瞬間。
飲み口からまるで水晶のような透明の塊が宙に浮かび、

刹那。
レーザー《ウォーターカッター》が飛び掛かる。



 ガガガガガガ──────ッッッ



「えっ!!??」

「え、海老名ちゃん!!! 逃げ──…、」




 グシュッ──




────死神がその黒いベールを脱いだ。






644『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:02:24 ID:cFeuEibI0
**短編04『マミの使い魔』
[登場人物]  [[魔人デデル]]、[[新庄マミ]]、[[うまるちゃん]]

『時刻:AM.04:10/場所:渋谷駅前』
『────同時刻』
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645『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:02:39 ID:cFeuEibI0
 使い魔には、使命がある。


使い魔には、主【マスター】の命令に従い、護衛や補助などの役割を担う義務がある。

使い魔には、どんな不条理や理屈であっても、どんなに頼りなくか弱い主であっても、その主の存在を。
いや、主の生命を一番に考えなくてはならない運命がある。

例え、自分の身に危機が迫ったり、戦いの末、自らの魂が犠牲になろうとも、守り続けたい『存在』があった。


それが、使い魔として産まれたが故の、天命だった。



──ただ、その半透明化した身体は、使い魔と呼ぶにはあまりにも脆弱な姿だった────。





「(……保って半日…いや二時間ほどか。…クッ……。──)」

「(──…主がいかにもオツムの弱そうな小娘ときたものだからな。奇天烈かつ無駄な願いを連発することは多少目に見えていたが………。…あまりにも酷い、酷すぎる………──)」

「(──OK,siri感覚で私を酷使するとはっ………。お陰で私の充電は5%未満だ…………。──)」


「(──…魔力が欲しい。……一刻も早く、魔力が………………)」



「あっ!!! ゆ、UFOだ!!! ほら魔人さん、うまるちゃんも一緒に!! アーメンソーメンヒヤソーメン〜〜っ!!! アーメンソーメンヒヤソーメン〜〜っ!!! わたし達をどうか助けにきてぇ〜〜〜〜!!!! 宇宙人さん〜〜〜〜〜!!!!!!」

「いやただの飛行機じゃんアレ。…でももう一途の望みにかけるしかないよーー!!! アーメンアーメンアーメ──────────ンっっ!!! うまるをここから連れ出してぇえーー!!!! あとついでにダラダラしてても文句言われない星に連れてってぇええーー!!! お願い宇宙人様ぁ─────────っ!!!!!!!」


「……………はぁ」



夜空を一つの赤い輝きが通過した頃。
必死こいて天にお祈りをする二人の小娘に、魔人・デデルはため息が漏れる。

──なんて愚かな光景だろう。
──そしてなんて馬鹿な主《マスター》なのだろう。

地面上にてジャンプーSQ雑誌や月刊マー、お菓子等が乱雑に散らばる中、デデルは赤い星(──と言うか普通に飛行機)に向かって指パッチン。


 パッ


「「あっ!!??──」」


「──き、消えちゃった?! どうして!!? なんで!!! わたしを見捨てないで宇宙人さん〜っ!!!」

「いや魔人が消したんでしょ絶対! …何してるのさもうーーっ!!!! ワンチャンUFOだった説あるんだよ!!? ワンチャン〜〜〜〜っ!!!!」


「バカな信仰をしてる暇があったら行きますよ。……全く…」

「ば、バカって……。別にうまるは本気で心からUFO信じてたわけじゃないよ! …バカは、その………マミちゃんだけだし」

「なにそれっ?!!!」


「………………はァ。困ったモノだ…」


魔人のただでさえ消えかかっている姿が、余計スケルトン度を増すこととなった。





646『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:02:50 ID:cFeuEibI0
**短編05『制服少女に踏まれたい』
[登場人物]  [[山井恋]]

『時刻:AM.04:03/場所:桜丘の森』
『────『←』巻き戻し/話は7分前へと遡る。』
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647『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:03:03 ID:cFeuEibI0
 S極とN極は、その磁力でまるで運命のように引き寄せ合う。
ただ、どれだけ強い磁力を発そうとも──山井恋は、意中のあの子に未だ出会えずにいた。
【S】hoko──Komi極。
彼女の為なら、こんな下劣で全てが終わっている厨二デスゲームでも喜んで乗ってやろう。
そう意気込んでいたというのに──。


「…ひっ!!! ………あれ。………え…。嘘っ………──」



「──…………只野くん…」



 渋谷高校から徒歩数時間。
どれだけ歩こうとも歩こうとも、先程から山井が出会す参加者は、『既に参加者で無くなった者』──【死体】ばかりである。

 渋谷サクラステージの歩道橋を進み、道なりに足を踏み入れた先は桜丘の森。
ライトアップされた木が閑散と光るこの公園。
死臭に飛びついたのか、さっきからカラス達の声が酷く喧しかった。


「……………早っ。…早すぎでしょ…………。何してんの、…うげっ………。只野くん……………」


ベンチ下の地面にて、まるで寝返りを打ったかのように仰向けのクラスメイト。
知り合いの遭遇ともあり、山井は思わず前屈みで座り声を掛けたが、当然返事など無い。
赤黒く胸を染め、鼻と口からは歌舞伎のペイントのように紅の軌道を綴る、白目の死体。
下半身の断面からは、どこかに失った両足を探すが如く、血の噴水が水溜りを伸ばして続ける。


「……。(…早坂ちゃん説ある? ワンチャン…)」


 死体の傷口を眺めながら、山井は不意に犯人像を思い浮かべた。
三時間前、校舎内にて互いに不可侵条約【古見/四宮接近禁止令】を交わした、早坂という女。
条約締結の記念品として、所持武器をそれぞれトレードしたものだが、山井に比べて早坂は参加者遭遇率が高かった様子。
早速目についた只野を即襲撃──逃げられない様脚を切断してから──トドメを刺したのだろう、とスプラッターで嫌な想像が頭に浮かんだ。

山井に重い現実を突きつける、知り合いの死。
──ただ、かと言って彼女は別に早坂を恨んだり復讐心を抱いた訳でもなく。
よくしてもらった親戚の葬式と同程度の悲しみで、山井は涙を浮かべながらそっと鎮魂の想いを念じた。


「………っ、……うっ……………。は、はは…。おかしい…よね。…そんな仲良くも友達でもなかった………っていうのに…。──」

「──いや、違うや。…………こうなると分かってたら、もう少し仲良くしてれば良かった。……っ……、そうだよね、只野くん………──」



「──…………………。」


 ジィィィィィ……

 涙を袖で拭きながら、山井は返り血で染まるデイバッグを開いた。
中に詰まっていたのは生徒手帳やらノートやら、食べる気なんか起きない血染めの菓子パンやらがズラリ。


「……何これ? …『うんでぃーね』………?」


その数ある遺品の中から、彼女が取り出したのは一本の飲料水。
──いや、只野仁人の『支給武器』であった。
ラベルには【只野仁人様専用武器 ウンディーネ】とデカデカにラッピング。
一見役立たずそうなデイバッグ中身群の中から唯一、彼女がソイツに興味を惹かれたのも、『武器であるから』が理由である。
今はまだ詳しく取説を読んでいないため、その飲料水が毒物なのか硫酸のようなものなのかも不明。
効果がどう作用する武器なのかは不明なものの、

648『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:03:15 ID:cFeuEibI0
「…ごめん。ちょっと借りるから………」


取り敢えず持っていて損はないと、山井はNEW武器として拝借をした。


屠殺場のような血の匂いが立ち込める公園地帯。
羽虫の存在が鬱陶しい中、山井は吐き気を催した事によるものでない──悲哀の涙を確かに流す。

山井恋は、病んでいます──。
──古見さんが関わる事以外であれば、至って普通の女の子である山井。
【マーダー】タイプの彼女とはいえ、同級生の死には堪えられない物なのだ。


「…………もう行くね。…バイバイ、只野くん…」


 去り際、彼女はそっと掌を只野の顔へ向ける。
白目をかっ開いたまま眠る死体には、誰だって目を閉ざさせたくなるものだろう。
山井もその想いのまま、ゆっくりと瞼を閉じさせにかかった。




 フワッ




「…え?」




 それが、悪かった。



 掌から感じる、奇妙さ。
只野の顔にいざ触れたとその時、羊の毛のようなふわふわとした感触が伝わる。
体毛に覆われた野生猿ならまだしも、人間の素肌に触れて普通、毛のような感触が伝わる筈など無い。
その突飛たる違和感に山井がふと手を止めた時。
彼女はよくよく注視してみると、




「…………………………………は?」





只野の顔中至る所、蚊の大群が蠢いていた。




鼻、耳、額、唇、頬。何十匹。

どこもかしこも無数に。
羽。羽。羽。
手足の細い蚊達が、大小群れを成して夢中に吸血を続ける。

視点を移せば、損傷の激しい胸部には羽虫共に混じってカナブンや蛾が血肉を舐め。
両足断面から湧き出る水溜りには、蚊や蟻の溺死骸が馬鹿のように漂う。


山井が涙ながら語りかけていた只野。
乾いた白目をむくコイツはもう、死体ですらない。
夏の虫たちへの贅沢なディナー。大きな大きな食料と化していた。

649『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:03:27 ID:cFeuEibI0
血臭につられた黒虫が一匹、山井の鳥肌を通り過ぎて行く──。




「──────…ィ気持ち悪ィんだよッッッ!!!!!!!」




 グシャッッ


  ドシャッ、グチャグチャッ、グシャッ……


   グチャグチャグチャグチャ………………



 我を忘れて虫共を踏み潰す頃合い、気が付けば靴も、靴下も、太腿に至るまで、返り血でベチャベチャになっていた。
嫌悪感という激しい怒りで容赦なくぺしゃんこになっていく蚊達。
──そして崩壊が止まらない只野の顔面。


これが古見さんの死体ならば、ここまでの地団駄は踏まなかったことだろう。


「ふざけんなッて!!! ふざけんなッ!!!! 死ねッ死ねッ死ねッ死ねッ死ねッ死ねッ!!!!!──」


「──気持ち悪いんだよッッッ!!!!!!」


 グチャッ────



只野くんという、比較的どうでもいい人間が、山井恋の本性を曝け出していく。






650『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:03:39 ID:cFeuEibI0
**短編06『しんのすけ、網膜を"焼け"』
[登場人物]  [[野原ひろし]]、[[海老名奈々]]、[[山井恋]]

『時刻:AM.04:15/場所:渋谷横丁』
『────『→』早送り/話は12分後へと進む。』
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651『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:03:54 ID:cFeuEibI0
♫山井ちゃーん!!


「はァ〜〜い!!」


♪何が好きぃ〜〜???


「チョコミント!! …よりも古・見・さん❤️💕💕」



「(はい♪ ここで自己紹介タ〜イム! と言っても、私の紹介は別にいいよね?)」

「(今回は、私のNewフレンド!! 只野くんから奪…貰った、ウンディーネちゃんについてご紹介しまーす! 可愛いでしょ? 皆ウンディーネちゃんのことよろしくね〜!!)」

「(ほら、ウンディーネちゃんも挨拶して!)」


シーン……


「(…もうっ寡黙な子なんだからっ…!! ほらって!! してよ挨拶!)」


シーン…………



「──いや挨拶しろって言ってるよね────。──」


………、
…………………。


「──…まぁいいや」


「(この挨拶すらもできない人見知りな子!! …っていうか喋れないか、口ないし。……ともかく、このウンディーネはいわゆる私の武器!! ポケ●ン的な使い魔って感じだよ!)」

「(見た目はなんていうか…水晶玉みたいな? 真ん丸の水、宙に浮いてる…ってそういう感じかな)」

「(正直なところ、コイツ話すことできないからお喋りも退屈だし〜? しかも全然オシャレな見た目じゃないから、私的にはかなり無理なタイプなんだけどもさ〜…)」

「(でも、そんな些細なこと全然許せちゃうくらい……この子は物凄く強いのっ!!)」


「(…ん? 何がどう強いの?──だって? えーと、それは〜……取説取説と)」



【支給武器紹介】
【ウンディーネ@ダンジョン飯】
湿地帯に生息する魔物。
厳密には精霊(の集合体)。
圧縮した水をウォーターカッターのように高速で打ち出すことで──…、


「(あー堅苦しくい説明で滅入るわ。ということで、私の口から説明するねっ☆)」



「(小学生の頃プール入る時にさ〜、目洗う専用の蛇口みたいなのあるでしょ? あの、やたら水圧強くてめちゃくちゃ痛いやつ)」

「(それのハイパー強化版が、ウンディーネの攻撃《ウォーターカッター》なわけ!! つまりは〜〜)」


ガガガガガガガガ──────ッッ

高くはビルの看板から電柱にかけて、低くはアスファルトなり店の扉なり路上駐車した車と。
レーザーは規則性無く、街の至る箇所を切り刻んで行く。


「(↑そうそう〜こんな感じで!! どんな物でも切断できちゃうの! 窓ガラスでもコンクリでも、レーザーみたいな奴でスッパスパ!! 凄いでしょ?! バイオの映画に出たアレみたいだよね〜〜)」

652『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:04:09 ID:cFeuEibI0
「(あとさ〜、取説には『意思がない魔物』って書かれてるけど、私の命令なら何でも聞いてくれんだよ! バカそうなのに意外と賢いんだよね〜〜!!)」

「(OK,Siriする感覚で〜、『アイツとコイツだけは攻撃するな』みたいに命令すれば従順に行動してくれるの!!)」

「(ほら、この通り! さっきから色々切りまくってるのに、私だけはま〜ったくの無傷!!)」



ガガガガガガガガ──────ッッ

盗んだ自転車に乗り走る、山井の頭上には二つの水晶玉が浮かぶ。
主人のスピードにピッタリ合わせて進むウンディーネは、一切攻撃の手を緩めることなく。
山井が過ぎ去った後の道は、どこもかしこも戦場跡かのように、ズタズタに切り拓かれていた。


「(──…まぁ私を攻撃したらしてきたで、『楽しい』調教タイムが始まるんだけどさ────。)」



「(ともかく! このふしぎなお友達と仲良くなった私はスーパーエンジョイタイム!! とってもハラハラして、それでいて楽しいわけ☆)」

「(…はぁ。……早く…見せたいな、古見さんにも。私の強いパートナー・ウンディーネを………)」


「(こんなクラスの隅っこ界隈が昼休みに妄想するようなデスゲームで…、)」

「(産まれたてのチワワのように震えてる古見さんの元を…、)」

「(私が颯爽、駆け付ける……。ドラマみたいなシーン…‥…)」

「(…ねっ? だから、こっちを振り返って…。早く会いたいよ…。ずっと私だけのことを見ていてよ…)」


「(私だけの…………────古見さんっ」




「(──水の精霊が祝福の雨を降り注ぐ中、私達は幸せ一杯にずぶ濡れる。…そんな時間の訪れは、もしかしたら割とすぐなのかもしれない……)」




ガガガガガガガガガガガガガガガ──────ッッ
バキバキバキバキバキバキバキバキガシャンッッッ



「………いや空気読めって。ロマンスなときめきの予感してる時に、ガガガ〜じゃねーよ。うっさすぎるし。……やっぱコイツとはオトモダチ無理。ほんと使えないわ………。──」

「──…はァ。……てかいつまでやってんのコイツ? 私、アンタに街破壊しろだなんて頼んでないし。さっさと殺ってよ。つか脚狙えよ、まず脚。──」


「──……たかが水に大活躍期待した私がバカだったかな…………。はぁ〜ア最悪………。もう……──」




“死ねよッ。古見さん優勝計画に邪魔な、無能達がッ──────”

653『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:04:33 ID:cFeuEibI0
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
切る切断きキ切創斬切る切ったがきる切って切るを切るお切りますきるきってきったきろう切る切ってkillキルキル切る切断きキ切創斬切る切ったがきる切って切るを切るお切りますきるきってきったきろう切る切ってkillキルキル
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切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切
切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切………



「ぎょえぇええええええええええ〜〜〜〜〜〜ッッ!!!!!!! ハァハァ…え、海老名ちゃぁあああ〜〜〜〜〜〜んんッ!!!!!!」

「はぁ、はぁ…は、はいぃ〜!! ひ、ひろしさぁあん────────ッ!!!!!!」

「チクショぉおおおおお!!!! みさえ、みさえぇえええ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!!!!!!!」


「はっ、はっ、はっ、はっ、」



 ここ、渋谷横丁通りを駆け抜ける三つの影。──追いかけるは自転車の影と水晶二つ。
今思えば、渋谷駅前にて放たれた奇襲《ウォーターカッター》は「よーい、ドン」のピストル代わりと言えようか。
ひろしと海老名は人生最大級の危機を背負いつつ、人生最大級の激走を続けていた。
ひろしの手から伸びる長いリード。──彼らを引っ張るかのように、マロもまた四足の脚で大地を蹴る。

ボイラーのように熱くそして膨張する太腿に、どんどんと切れていく息。
ただでさえ全身汗だくだというのに、いつ自分の方へ飛んでくるか分からないレーザー攻撃には、冷や汗が混じり入った。

先頭を走る犬は、今の危機的事態を理解しているのか否か。
苦悶の表情で走るひろし等とは対象的に、さぞ愉快に尻尾を振るソイツの尻は、必要としていない苛立ちをどんどんどんどん沸かせに来た。
“お前がアイツに飛びついたせいでこうなっているんだぞッ!??”────。
──ツッコミを入れる分の体力が勿体ない為、この叫びは心の中のみに押し留めるひろしであった。


汗と、涙と、男と、女。──と、犬一匹。
ひろし史上最走となる犬の散歩が、油臭い横町で開幕する────。


「うっえええぇえ〜〜〜〜〜んんっ!!!!! はぁはぁ………!!! 誰かぁ〜〜〜っ!!!!!」

「…ぜぇはぁぜぇ……はぁああっ!!! あぁあ〜お慈悲を〜〜!! お慈悲をくださいぃ〜〜〜〜っ!!!!! 助けてくれみさえ〜〜〜〜〜っ!!! みさえ〜〜〜〜!!!!!!!」


ポポン♪

『畏まりました。野原みさえさんに電話をかけます』


ひろしの懐から機械音声が響いた。

654『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:04:49 ID:cFeuEibI0
「いやこんなタイミングで反応するな!!!! siriぃ〜〜〜〜〜〜!!!! くそぉおおおお〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!!」

「はぁはぁ……。ひろしさんん〜〜〜〜〜〜!!!!!!」

「は? うわウケる。丁度いい機会でしょ? 最期の電話したらいんじゃない〜?」

「「最期とか言うな(言わないでくださいっ)っ!!!!!」」

「…うわウッザ〜…。…息ピッタシすぎ」


「…ゼェハァ……ゼェゼェ……。…お前なんかには…絶対分からないだろうなっ…………。ハァハァ……」

「え、何が? あとウンディーネ、そのオッサン集中狙いに作戦変更で」


ガガガガガガガガガガガガガガガ──────ッッ


「うおっ!!? ひ、ひ、ひぃいいぃいいいいっ!!!!!!! 話してる途中に攻撃すんじゃね〜〜っ!!! 武士道の風上にもおけない卑劣さだぞちくしょおおおおおおおおおお〜〜ッ!!!!!!」

「? ウシ道?? 牛は早坂ちゃんだよ?」

「…はぁはぁ……、な、なんの……話ですかぁ………」


 ウォーターカッターの二重攻撃。──もはや螺旋化。
ただでさえ深夜の全力疾走は三十代の齢男を蝕むというのに、二重ともなるレーザーの全力回避は、満員電車の何倍もキツかった。
回避→ジャンプに、かがんで→回避 x ∞…。
ふたば商事に勤めて早十年近く。営業で鍛えた足腰を自慢に思っていたひろしとはいえ、体力消耗は著しい様子。
願わくば、風呂に入ってパァ〜〜っとビールを飲み干したい気持ちだった。
というか、限界超越した今、頭の中はソレ《現実逃避》のことしか無かった。


「……ハァハァ…──」

「──おい、聞けよ……。ウンディーネ娘……!!」


そんなひろしの目つきが、ふと変わる。


「…カチーン。その呼び方めちゃくちゃムカついちゃったー。でもアンタら如きに本名言うのもヤだからもどかしいって感じ〜──…、」

「聞けつってんだろッ!!!! おいぃッ!!!!」

「………」


立場上優位な事もありヘラヘラ減らず口が止まらない山井であったが、『圧』。
ひろしのエナジー籠もる『圧』を受け、思わず押し黙ってしまった。

現状、ビールのことしか考えれていない華金頭のひろしではあるが、コレを良く言うとするのなら。
──いや、逆に言えばだ。
この絶望の中。
彼は、“絶対、マイホームに帰ってやるッ”──という強い意志が有るということなのだ。


「……いいか…ハァハァ……。家に帰れば既に風呂は沸かしてある……ッ。子供たちとゆったり湯船に浸かりながら疲労を癒やし……ッ! 風呂上がりには酒とつまみ、…大好きなジャイアンツ戦が待っているッ!!!」

「……は?」


「…しんのすけらが眠った後…たまには妻とのんびりコーヒーさッ!! みさえの入れたインスタントは…工夫も拘りもない癖して何よりも美味くッ…!! 温かくッ……!!!」

「…ねえ通訳お願い。そこの脂肪の塊みたいな女!! このオッサン何が言いたいわけ??」

「……はぁはぁはぁ、ひぃい〜〜〜〜!!!!」

「はぁ? 無視はなくない〜?! …ムカついたわ、罰ゲームとしてウンディーネ分裂。そいつにも追加制裁で」


ガガガガガガガガガガガガガガ──────ッッガガガガガガガガガガガガガガガ──────ッッ

655『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:05:01 ID:cFeuEibI0
「え…。ひっ──…、」


 分裂。──水の精霊 x 4。

 一々苛立ちを表してくる山井の命令の元、水晶体は四体に増殖。
その事も束の間、間髪入れずに右二体は水圧の槍をぶち飛ばした。
狙いは無論、命令通りたわわな胸の美少女へ。

運動が苦手で、自他共に認めるおっちょこちょいな海老名である。
秒知らずの螺旋レーザーが迫り来たこの瞬間、避けるどころか反応すらも当然敵わず──。



「あっ────…、」

「海老名ちゃん危ないッ!!!!」



ズザッザァ───────…


その小さい身体は為す術なく、衝撃から一瞬宙を舞った。







グイッ

「きゃいんっ」







──リードを無理矢理引っ張りつつ、海老名を抱きかかえ攻撃を避けた、ひろしの手によって。




「あ…ひ、ひろしさん!!!」

「…ハァハァ……。あ、危ねぇ〜〜。間一髪すぎるだろうが〜〜っ……」

「くぅぅぅん〜〜…」


 首が締まったことで顔が真っ青になるマロと、違う意味で青ざめていくひろし。
彼が「あぶねぇ〜…」と口にするのも無理はなかった。
倒れ込むひろしの靴先数センチの距離にて、道路がズタズタに亀裂走る。
これも営業で鍛えた恩恵というわけか。後一歩遅ければ、海老名ごと真っ二つのブロック肉と化していただろう。
海老名の死、そして自分の死をもギリギリに回避したひろしは、気を抜けば失禁しそうなくらいだった。

ただ、そこまでしてでも守りたい物がある。
命に変えてでも──いや、否。

何一つ失わずして守護りたいという信念が、ひろしにはあった。


「…武士道……ッ。一旦、刀を置け…! な? ウンディーネ娘!!!」

「だからウシは早坂かそいつ。で、私をそんな呼び方しないでちょうだい。…つかいい加減死ね──…、」

「なぁッ!!!!」

「…っ!! …………」

656『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:05:17 ID:cFeuEibI0
「チッ」と舌打ちと共に、自転車から降りた山井へ一睨み。
ウンディーネの攻撃でまたも遮られた『熱弁』を、彼は息が上がるのを忘れて吐き飛ばした。


「…しんのすけにひまわり、そして愛する妻のみさえ……ッ。久しぶりの日曜日には、家族皆で釣りに出かけるんだ…。あんたの漕いでるような自転車でッ、オレら四人はよッ!!!!」

「………」

「…ちょうど明日…、本来ならそういう予定だった。…しんのすけの奴に、釣りの流儀ってもんを教えたくてウズウズしていたよ……──」


「──だが、予定変更だッ…!! オレは明日、海老名ちゃんを家族に紹介するんだッ!!!」

「は?」

「はぁはぁ……。えっ、ひろしさん…?!」


「…きっとしんのすけの奴は言うだろう…『お姉さんいくつ〜?』とナンパしてな……ッ。みさえはこう叱るに違いない……『あなたその子何っ?! 離婚よ離婚!!』ってなぁッ!!! ご近所迷惑なくらい大騒ぎ間違いなしだろう!!」

「…」


「…だが、それで良い…ッ! それが家族なんだ…、それがオレの愛する…帰るべき家族なんだッ!!! 今想像している家での未来が…オレを待っているんだよッ!!!」


この時。
ひろしは海老名(とマロ)を庇いつつ、右足で地団駄を踏んだ。


「…娘。お前には分からねぇ〜だろうな…。家族が待つ温かさがッ、…無事に帰って来れた心地よさがッ!!」

「………」


ガシャンッ──

この時。
たった一人の地団駄では揺らせれる筈がないというのに。
確かに、自転車が倒れた。


「だから…もうよせっ。いや、攻撃なんかやめたほうがいいんだよッ…!!──」

「──さいたま春日部生まれッ…、双葉商事二課…、係長……ッ、ローン十年…中年……ッ、三十五歳ッ…!!──」

「──オレは野原ひろしだッ……!!!!」


「……」


「あっ…!」


この時。海老名は気付いた。
自転車が一人でに倒れた理由。それはどこぞの風による自然発生なんかではない。
地面が確かに、確かに揺れ動いていたことを。


「大して責任も、罪悪感も、背負う物も無いお前が……ッ。お前なんかがッ………」


「………」



そして、この時。
ひろしはゆっくりと立ち上がった。
珈琲臭い口に、ジョリジョリの無精髭、全身親父の汗でフラワーに香る中年サラリーマン・野原ひろしであったが。
──彼の熱い魂は、渋谷横丁を揺れ動かす。

657『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:05:28 ID:cFeuEibI0
ひりつく周囲。
この暑さは真夏の気温とは別の、熱意籠もる『熱さ』。
絶対に家に帰るという信念は、周りの環境を確かに変えていく。



「愛する家族がいるオレに………………ッ」



野原ひろし、FIRE──。

彼の炎燃え滾る思いは、サバンナクラス。

もはやウンディーネの攻撃とて焼け石の水であろう。



「お前なんかがッ……………」



時はまだ深夜。

太陽いらずのこの夜に、ふと眩しさが灯る。



「オレを倒そうだなんて…ッ」


僅かばかり一呼吸置いて。

漢・焼け野原ひろしの魂の叫びは、ウンディーネを確実に蒸発へと掛かる───。





「──誰がなんと言おうとッ、百年早ぇんだよオオオオオオオオオオッッ──…、」







『あなたー!! ちょっとどこにいるのよ!? こんな時間に電話して!!』




「…げっ。み、みさえ〜……」


「は?」 「えっ?」





──…このとき、ひろしからしたら冷水を浴びせられた思いであったろう。
懐のスマホから鳴り響くは、愛する妻の怒りの声。


“あー。そう言えばsiriのやつ、連絡しやがったんだよな〜…。さっき……”──と。


『早く帰ってきてちょうだい!! 話はそれからです!!! もうっ…』


「…………………み、みさ…──…、」

658『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:05:41 ID:cFeuEibI0
ガチャッ…

ツーツーツー


「…………………」

「……」 「………」


「はっ、はっ、はっ」




「…………………………──」


「──こんな時くらい、カッコよくさせてくれよ〜〜〜…みさえ〜……。…やれやれ、海老名ちゃん」

「…は、はい………」



一気にトーンダウンした渋谷横丁にて。
マロを持ち上げ、海老名の手を握ったひろしは一呼吸分ため息。



「熱く語ればなんとかなるとは思っていたんだが〜〜…」

「…ウンディーネ。はい準備〜」



「うしっ、逃走再開だ!!! えひゃああぁああああああああああああああ〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!!!!」

「もういやぁああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!」

「あいつらバカ三人を切り刻んで!!! 本気で死んでよねもうッ!!!!!!!」



ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ




三人は絶望の鬼ごっこを再開するのであった。


戦士《サラリーマン》に休息はない────。





659『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:06:13 ID:cFeuEibI0
**短編07『恋の記憶、止まらないで』
[登場人物]  [[山井恋]]

『時刻:AM.04:17/場所:東●ホテル前』
『────通常再生』
---------------

660『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:06:26 ID:cFeuEibI0
Never donna give you up.
(──決して諦めないよ。君のことは)



Never gona let you own.
(毛の一本たりとも無駄なく、綺麗な放物線を描く髪の毛に、整い過ぎている顔)

Never gona run arund an desrt you.
(スタイルは高校生にしてトップモデルの如し、それだというのに彼女を見ても卑猥な欲情が不思議と湧かない、品のある風格)

Never gonna mke you cr.
(おまけに性格も良く、コンマ一秒でも視界に入れば誰もが振り向いてしまう)

Never gonna ay goobye.
(古見様って人類史上もっとも優れた人物だよね。アインシュタインやニュートンも古見様と比べたら小物だわ)



Never gona tell a lie an hurt yu.
(貴方を傷つけるなんて、私は絶対にしないよ)


(絶対…)




「………ック──」

「──鬱陶しいところに隠れてッ…………。あぁーー……もう…もうッ!!!!──」


「──ファアアアアアッックッッッッ────…ション。…あはは〜、くしゃみ出ちゃった。風邪かなぁ? ごめんね、カス精霊ちゃん〜──」



「──アンタも発熱したい感じ? …コントロール【F】野郎がッ………」



 大きな壁を前にして、呆然と立ち尽くす山井。
暗くうつむいた表情の山井と反比例するかのように、その壁は喧しいほど綺羅びやかで、豪華だった。

 反り立つ壁の名は──『東●ホテル』。
『桜丘町の金閣寺』とも言えるその建物は、光眩しい優雅なスイートホテル。
全十四階。全三百室を完備。宿泊者専用のプールやトレーニングルーム、バーが特設されており、中でもテラスラウンジは、夜景による安らぎの一時を送れる。
某米国俳優が来日時、施設内のレストランを大層気に入り七泊も延長したという、そんな逸話が残るセルリアンタワー東●ホテル。

──殺し合い下の現状に限った話では、野原ひろし・海老名菜々が逃げ込んだホテルとしても名高かった。


「ィィィッッ!!! 【F】uuuuuuuuuuuuuuuuckッッ!!!!──」

「──カスカスカスカスカスカスカスカスカスカスカスカスカスカスカスカス役立たず役立たず役立たず役立たず役立たず役立たず制裁制裁制裁制裁制裁制裁制裁制裁!!!………」


 ウンディーネの耳元(?)にて、恐ろしい呪詛が延々と。
取説欄の【──ウンディーネは熱に弱い】という記述をネジネジ指差すは、恋する16歳♡山井恋。
彼女の瞳は、今まさに病みきっていた。

無論、仕方ない。
彼女がストレスに沸き立つのも当然であろう。

 振り返ること何十分間。
長時間に渡る追いかけ回しは、明らかに弱そうな獲物二匹を狩り逃したという徒労に終わったのだから、山井の精神的屈辱はいざ知れず。
百発零中、十中ファッキュー、コイツのせい。
──ノーコンウンディーネを戦犯と見立て、行き場のない怒りに彼女は苦しみ続けている。

これだけの抹殺力を持つウォーターカッターを武器にしながら、ヘナチョコ親父と胸だけ脂肪の塊女(──おまけに舐め犬野郎)の三匹を取り逃がした、ウンディーネ。
責任の所在として、使い魔に九割近く負担となる件については、訂正の余地もないのだが。

661『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:06:39 ID:cFeuEibI0
それよりも何よりも、


……
………
────ハァハァ……ッ。おい!! ウンディーネ娘!! 一つ聞くぞ〜ッ…!!

──…だーかーらー、そのキモい呼び名やめてって言ったよね〜私〜〜? はい、追加制裁。ウンディーネ、また分裂して〜…、

────グっ!! ふふ、ふふっ…!! い、いやすまんっ…!

──は? はい再度分裂〜。ウンディーネ倍増マシマシで〜…、


────年頃の女の子が……。…その…『ウンディーネ』連呼は……どうなんだよ〜〜?? …な〜。

──…?? 意味分かんないんだけど。…ほら早く!! 分裂しなさいってば、ウン…、



──ディ……………………………。………………。




────よしっ、怯んだぞ!! 今だ喰らえっ!!!!


 ポーンッ

  バンッ


──ぎゃっ!!??


   バタリ……
 
………
……



「カスカスカスカスカスカスカスカスカスカスカスカスカスカスカス…。あんな奴ッ、あんな奴ッ、嫌な奴ッ嫌な奴ッ嫌な奴ッ嫌な奴ッ嫌な奴ッ!!!!──」


「──『讎《Kill someone with kindness》』ッ!!!!! ヤな奴ッッッッ!!!!!!!!──」



「──あ、これだと私とあのクソ親父で恋愛劇《カントリーロード》始まるみたいになるじゃん。…気持ち悪ッ…。カスカスカスカスカスカスカス……」


──ひろしから、本来なら触れるのも禁止カードにすべき『ウンディーネという名前の響き』を突きつけられた上、
──ディバッグを顔面目掛けてシュートされ、山井自身が転倒してしまったことが。

ひろし逃走成功の最大要因であり、本人にとってもそれが一番の痛手だった──。


「…本気でッ…、カス…………」


 ぶつけようのない腹立たしさと、
痛む膝の擦り傷、鼻先。
そして水の精霊をもう正式名称で呼ぶことのできないもどかしさ。

あの最悪なリーマン共は、今、このホテルの何回の、どの部屋に逃げ込んだというのだろう。
疲れた身体を癒やしながら、「…それにしても機転効きましたね〜ひろしさん」→「ウンディーネは流石にねぇよな〜(笑)」等と雑談に花咲かせてると想像したら、ドス黒い反吐が出そうになる。
渋谷横丁をズタズタにした分の報いというのか、山井のプライドはズッタズタの切り裂かれ放題。


「……もう死ねよっ………。もう……」


ウンディーネの群れが必死に「こっち! 左っ!! ⇐!!」と、『左マーク』に変化し主をホテルへ誘導するのを傍目に、

山井はとうとう諦めて、この場を去って行く。

──もはや面白いくらい程ズッタッズッタ《八つ当たり》にされた、変わり果てた姿の自転車が、寂しく転がった。

662『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:06:54 ID:cFeuEibI0
「…………………古見さん…」


 タップリとお礼参りをしたい復讐心があるのだが、『本来の目的』から考えればそんな怒りなど些細な事。
山井の目的はまず一番に古見さんと会うことであり、古見さんを優勝《皆殺し》させることであり、古見さんと幸せな生還を描く事だ。
ホテルでチマチマ文字通りの虱潰しをしてる暇があったら、目的遂行をしなければ、と。


自分に言い聞かせながら去る山井の足取りは、重く鈍かった。


「……今会いに行くからね…。待っててね、古見さん………………」









「────ね、ねえ!! きみっ!!!」






「………………ぁ?」





663『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:07:05 ID:cFeuEibI0
**短編08『ホワイトアウト・メモリー』
[登場人物]  [[魔人デデル]]、[[新庄マミ]]、[[うまるちゃん]]

『時刻:AM.04:11/場所:東●ホテル周辺街』
『────『←』巻き戻し/話は6分前へと遡る。』
---------------

664『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:07:49 ID:cFeuEibI0
 軍資金を借りる為には何か高級な私物を担保にしなければならない。
 スマホを動かすには充電をしなければならない。
 生物は、食わなきゃ生きてゆけない。

人間界、異世界、魔界問わず。この世に存在するありとあらゆる物は、エネルギー源無くして動く事は叶わない。
『永久機関』が絶対に誕生しない訳も、その通り。
物を動かすには消費せざるを得ないエネルギーが必須だった。


 ほとんど薄れ消えた記憶の中で、鮮明に憶えている過去が、デデルには一つある。
それは確か二十年ほど前。当時の主による『家を豪邸にして、親父の安月給も十倍にして、あとプレステとドリキャスを出せ』という欲望まみれの申出をされた事だ。
如何にも子供じみたバカな願いではあったが、魔力のその消費量たるやかわいいものではなく。
流石の魔人とて心労著しい労働であったという。

ただ、要望通りその願いは忠実に叶えられた。
そして魔人もまた、姿を保ったまま《透明化する事なく》事を終えている。
何故なら、その時の主が、莫大な願いを実現できる程の魔力を蓄えていたから。
代償に見合った対価を支払えた為、デデルは何の支障もなく、願いの遂行に至れたのである。


──即ち、主が何の魔力もないただの変人娘という現在。
──酷使に重なる酷使で、デデルの身体が徐々に消滅しかかっている《魔力消耗》のも必然であった。



「うっ…うぅ……うわぁあああ〜〜〜〜ん!!!」


「…………」


「ごべんっ…、ごめんなざい〜っ!! わたしが…お願いを無駄遣いするせいで……魔人さんこんな事に………。知らなかったんだよ〜〜〜っ!!!!」

「…そう自分を責めないでください、…と言いたい所なんですがね。…流石に『バリアー↑にミステリーサークル書いて』とおほざきになられた時は………正直…」

「ごめん〜ごめんなさい〜〜〜消えないでよぉお〜〜〜!! うへぇ〜〜〜〜〜んんん!!! …魔人さんが消えちゃったら…わたしクラスで自慢できなくなるよぉ〜〜〜〜!!!!」

「…結局自分のことかいなっ!!!」


 ガラス張りの高層ビル群が頭上を覆い、無数の広告モニターが無音の映像を流し続けている夜。
東京メトロ・副都心線が駆け抜ける宮益坂方面、TSUTAYA前にて、デデル並びにおさげの中学生・マミとその相棒(?)・うまるらは練り歩く。
涙ながらに自責を続けるマミと、西洋風な服装のデデル。一行の姿は、まるで渋谷ハロウィンパーティー後、酔いしどれながら帰路につくようであった。
号泣しながら抱きつくおさげの主には、デデルも大変歩き辛そうであったが、
──彼女よりも気がかりだった存在は──背負うデイバッグ内の『ソイツ』。

“三人は練り歩く”──とは、表現に語弊があった。
三人の内一人。珍妙でまん丸な姿のソイツは、ポ〜〜ンとポテイトを投げては──、


「あんむっ。バリバリ……──」

「──まぁデデルが心配なのは分かるけどさ〜マミちゃん。その魔力(?)ってのがあればどうにかなるんだから、あんま気にしなくていんじゃな〜い? あんむっ、バリバリ……」


──口に入れる。
二頭身のソイツ・うまるはデイバッグから顔を出し、コーラとポテイト袋を両手に実に寛ぐ様子だった。
──無論、そのポテイトはデデルによって生み出された願いの産物。
──そしてまた無論、一行がネカフェを後にしたのも、『お兄ちゃんや海老名ちゃん達を探したいから(建前)(──本音は、無人で夜の渋谷街とかエモイから散歩したい)』という、うまるの頼みから来た物である。


「…………………」


お気楽・能天気・グータラリン。
小動物ほどの重さと比例して中身もスッカラカンな、デイバッグ内のモルモットには、冷静なデデルもやや苛立ちがある様子だった。

665『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:08:04 ID:cFeuEibI0

「バリバリ。あ、これ食べる? 少しでも魔力の足しになれば──…、」

「…なる訳ないだろ、土間の小娘」

「ど、土間………っ。ねえ魔人怒ってるの……? うまるだってさ〜こうなると知ってたら願いポンポン言ってなかったてぇ〜〜!!」

「ぐすっ…うぐ………。そうだよ〜、うまるちゃんが悪いんだ全部〜〜……!! わたしは十個、うまるちゃんは二十個!! どっちが悪いかといったらうまるちゃんじゃん〜〜〜っ!!!」

「うぅ〜…!! はいはいどっちもトントンに悪いよ!! 五十歩百歩だよ!!────…と、魔人は言いたいようで……」

「ほう。頭が働くようだな土間。…それにしても貴様はなんなんだ? 人面ハムスターか? 少なくとも人間ではない様だが。…貴様を喰らわば少しは魔力補給にはなりそうだな、土間」

「…え゙っ?! それマジな感じで言ってるの………?!」

「……くだらん。冗談に決まってるだろ。貴様の肉で腹を壊す私の身にもなってみろ、土間」

「もう〜〜うまるが腐肉前提で言うなァ〜!!!」

「うえ〜〜ん……、ダメだよぉ〜魔人さん〜〜! 宇宙人の可食部は内蔵の汁のみ、って月刊マーに書いてたんだよ〜! 食べたら病気になるって〜!! 土間るちゃんは宇宙人なんだから……」

「だからマスター。こんなチンケな土間、食べる勇気なんて私には到底ありませんよ」

「……うっへへ〜〜え〜〜ん…土間ぁあ〜〜〜〜…」

「おたくらさっきから土間って言いたいだけでしょっ!!! …あんむ、バリバリ……」


ポテチカスがデデルの首元へボロボロと溢れていく。
ただでさえ彼の身体は限界に近いというのに、ストレスが溜まる一方。──マミから「あっストップ!! ストップ!」と静止されなければ、無意識のうちに『指パッチン』を鳴らす寸前であった。

──本当に何なんだ、この生物は。こんな見た目の生物、今まで見たこともない────と。

ふと目を閉じて髪をかき上げるデデル。
古代エジプト時代から生き永らえし百戦錬磨との魔人でも、流石にこの珍妙な土間には頭を悩ました様子だった。


「…………。…くっ」


「あ、そうだ! エイリアン食といえばメン・イン・ブラック3だけどさ〜!! 魔人さん、缶コーヒーのボスの宇宙人ジョーンズって知ってる???」

「うわ何マミちゃん…。急に元気だなぁ〜〜…」

「あのCMはさ〜、宇宙人が地球の調査に来たんだけど、映画見て人間になりすましたからトミー・リー・ジョーンズそっくりって話でね!! …もしかしたら、うまるちゃんもソレなんじゃないかな〜〜ってわたし思うんだよねえ………っ!」

「いや『チラッ→ニヤリ…』じゃないわマミちゃん!! …確かにうまるは普通の人間モードにはなれるけども〜…けどもだ──…、」



────…いや待て。───


───本当に、『今まで』このような生物を見たことはなかったか?───

────……私は…………っ?───





「…うッ…………!!」



「「え……?!」」



うまるとマミで下らぬ問答が繰り広げられた折、デデルへ不意に頭痛が押し寄せて来る。
その頭痛は脳が直接激しく揺れ動いたかのような。兎に角、脳内から響き渡る鈍い痛みであった。


「…うぅ、くっ…………!!」


「え?! ちょ、ちょっと魔人さん!!」

「だ、大丈夫!??」


「ぐうッ……………………!!!」


頭を抱えて膝を地面に着く、デデルの唐突な体調不良にマミらは心配の声をあげる。
電撃が走ったかのような頭の痛み。そして滲む脂汗。
二人があたふた心配する傍ら、彼女らを無視してデデルはひたすらに、『記憶の回路』に藻掻き続ける。

デデルは分かっていた。

────頭痛の正体は、『既視感《デジャヴ》』。

666『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:08:17 ID:cFeuEibI0
 魔人。
彼には記憶が無い。
記憶喪失という現象は、外傷的、または精神的激しいショックから引き起こされる病であるが、彼が記憶を失った起因についてはいざ知らず。
自分がランプの魔人であることという実績、経歴までは残っているものの、ある『一部分』だけが抜けている。

その一部分とはつい直近。──と言うよりも、ここ『一年近く』の記憶がゴッソリと無くなっていたのだ。
誰かに呼び出された所までは記憶に残っている。
モクモクと煙が立ち込める中、“さて、今度のマスターはどんな強欲者か………”と諦めた顔つきで、
『我が魂を呼び起こし者よ──』『魔神の掟に乗っ取り願いを叶えてしんぜよう──』『さぁマスター望みを…──』とお決まりの言葉を口にする。
そこまでは憶えているのだが、────以降。『誰』に呼び出され、その後一年も『何を』していたのかは全くの靄がかかっていた。


巡る記憶に、鎖が掛けられた脳を呼び覚ます『土間るちゃん』という名の鍵。



「(……………思い出せない。何もかも……………)」


「(だが、確かに『いた』。……………私にはうまるという生物の様な奴を、見た記憶があった………………)」



「(何故だが、『忘れてはいけない筈の』………。得体の知れぬ者が、頭の片隅で揺れ続けている…………ッ)」



モノクロで断片的、乱れの多いものであったが、それでも『記憶の映像』が、サイレントながら流れていく。




ソイツは、【二頭身】で────



“じゃあ〜〜……。一生分のお菓子とかは…‥……?”





ソイツは、【減らず口】ばかりで────



“やりたくない仕事はやらなくてもいい。あたしが伝えたいのはそれだけすかね……ふふっ♪”





ソイツは、なんの役にも立たず【駄目】なやつで────



“す、さ、さーせんしゃしたぁあ!!! あ、あたしうっかり壊しちゃって…ぇっ…………”






──それでも、ソイツは大切な存在だった気がして──────────。

667『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:08:30 ID:cFeuEibI0
………
……

『…まったく。貴方一人で何ができるというのですか』

“…え……えっ………?!”

『ここは私にお任せ下さい。──』


『──行きますよ。…マス─────……、』

……
………



「(…ター────────………………)」




「…人さん……!! 魔人さんしっかり〜!!!」

「え、ええ、え、と、とりあえず水!! 水飲むっ?!」


「……………」



 巡る。巡る、存在しない筈『だった』記憶。
頭を抑えてから三分ほど経過。
この時には既に、けたたましかった頭痛は緩やかな波打ちに収まっている。

また同時に、脳を駆け巡ったあの無声映像《記憶》の続きはもう霧中状態。
二頭身の『彼女』の姿は、完全に消え失せていた。

結局、デデルは失っていた記憶を取り戻すことは出来なかった。
いくらテープで補修しようと努力しても、これ以上頭は稼働しそうにない。
彗星の如く過ぎ去っていった、『走馬灯』に似た何かはもう見つからず。
通り過ぎた記憶の痕を舐めるしか今はまだ出来そうにない。

彼は重たそうに目をゆっくり開き、そして乱れた呼吸をフゥ…と整え出す。


「…………………。…申し訳ありません、マスター」

「え?! だ、大丈夫……?」

「ええ。……それに土間の小娘も、申し訳ない。…心配は無用だ」

「…え、うん……。…ダイジョブならいんだけどさ………」


やや涙ぐむマミの肩へ、優しく手をおいたデデルは、ゆっくりと前を向く。
やがて、また彼はゆっくり立ち上がると膝の汚れを祓い、汗を拭いて乱れた髪を整える。

ふと、懐からひび割れた自身のランプを取り出すと、何を思うか、じっとただ見つめた。
ただ、じっと。

失いかけていた記憶の名残惜しさに、魔人も思う節があるのだろう。
頭に引っ掛かる取りづらい何かに、きっと心中もやもやで一杯だった筈だ。


だが、記憶と同時に自身の身体も薄れゆく現在。


「……さて。マスター、そして土間」

「え、何…??」 「…苗字で呼ぶなしぃ〜〜………」

「自意識過剰な事を申すようでしたらお恥ずかしいですが、…貴方がたは私が必要不可欠な存在。…そういうわけですよね?」

「…そ、そりゃそうだけども……」

668『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:08:44 ID:cFeuEibI0
「いやそうだよ!! 今殺し合い中だよ〜っ?!! 魔人いなくなったらうまる達ゲームオーバーだよ!!──」


「──………それで、何が言いたいの?」

「左様ですか。そうとなれば少し名案が思い付きましてね。『魔力』もまた、私にとって必要不可欠な物。そこでですよ。──」



魔人・デデルは、過去ではなく『今』。
取り敢えずは、『今ある目の前』を見据える事とした。




「──マスター、少しばかり私の我儘に付き合ってもらいたいです」




「え???」



デデルの十数メートルほど前にて浮かぶ、『魔力の源』八体。
──トボトボと後ろ姿を見せる少女・山井恋を指し、デデルはマスターの肩へ手を置く。







669『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:09:04 ID:cFeuEibI0
 追憶。


私が飲んだ、水の精霊は────────、



シチューでした──────。



**短編09『スマイル・アンド・ティアーズ!』
[登場人物] [[マルシル・ドナトー]]/ [[新庄マミ]]、[[山井恋]]、[[魔人デデル]]、[[うまるちゃん]]

『時刻:AM.04:17/場所:東●ホテル周辺街』
『────通常再生』
---------------

670『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:09:25 ID:cFeuEibI0
「はっ、はっ、はっ、」

「もうコラーってばぁ〜! あはは〜!!」


 1405号室。スイートルーム。
犬が大好きな魔術師・マルシルは突然の訪問者であるマロに随分とお戯れな様子であった。
マロのほっぺをモ〜チモチと引っ張ったり、大型犬なその身体を胸一杯に抱き締めたり。
事態が事態である事を気にしていないのか──と聞かれたら、恐らくマルシルは緊迫な現状下を忘れているのだろう。
同行のチルチャック曰く、『賢ぶってるけどヌけてるヤツ』との彼女らしい、実に平和なひと時を送っていた。



【モンスターよもや話】
…………………
 そんなマルシルさんであるが、かつてウンディーネに襲われ、体力と共に『魔力』を失った際、機転の効いた回復方法を行使した事がある。
それは他でもない。──ウンディーネを飲む事だ。
仇をもって薬となす。
精霊は魔力を捕食して生きる生物の為、魔力が豊富に含まれていることは間違いない、と。

ナマリら他パーティ同行者に苦言を呈される程の策であったが、もう色々な意味で後が無かったマルシルらは『水先案内人捕食作戦』を決行。
鍋に閉じ込め、煮沸(ウンディーネは熱に弱い)。
ジャガイモ等と共に煮て、味を整えた『ウンディーネシチュー』の御賞味結果ときたら、
──それはそれは暖かな優しい味であり、────そしてマルシルの魔力も僅かながら回復に至った。

魔物食とは、現代社会で日常生活を送る一般人からしたら、昆虫食やゲテモノ食いに値するのだろうか。
兎に角、マルシル一行の食生活は常識はずれなものであり、ナマリ等がやや引くのも無理はなかったが、結果的には。
──結果的にはサバイバル精神が活きた物と言えるだろう。
…………………
…………
……



「はっ、はっ」

「かわいいんだから〜…っ!! もう!」


とどのつまりは、再演、か。
彼女が泊まるホテルにて、迷宮探窟家狩りの精霊が水飛沫を撒き散らしていることなど。
今は、まだマルシルは知る由もない様子である。




 ドンッ


「……きゃっ………──ぁ…っ?!! 何ここ…?」

「…え!? うわっビックリした?!!!」


そんな彼女の背後にて、額を真っ赤に染めた女子生徒が何処からともなく降り落ちて来た────。



………
……


671『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:09:37 ID:cFeuEibI0



 笑顔にも種類がある。


「…ふ〜〜ん。つまりその水の精霊さえ手に入ればどうにかなるんだね?」

「その通りだ土間。…とは言っても水先案内人《ウンディーネ》の魔力は微々たるものであるが。……まぁ二、三体ほど確保できればランプを満たすことができるだろう」

「……二、三体…ねぇ…………。…ところでさぁ魔人〜…」

「なんだ」


 魔人デデルと暇人うまるに陰から見守られる【マスター】新庄マミ。
彼女の表情はパッパラパーな程にスマイル。不安や恐怖といった不純物が一切ない、心からの笑みであった。
そんなマミと対面するは、負けじと笑顔の山井恋。
──光と闇の対極という訳か。山井の一目で分かる作り笑いは、笑顔では隠しきれないドス黒い邪悪さが漂っており、


「……マミちゃんかなりピンチじゃないっ…?! …なんで一人で行かせたのっ!!??」


「……」


────マミの周囲一帯では八体のウンディーネが、今にも吹き出しそうな位にウォーターカッターを構えている。


「主の見せ場を作るのもまた使い魔の役目」

「ハァっ!!?」


「言わばマスターの力量の見せ所だな。これは」



ギギチチ……っ。
放たれる直前の弓矢のように、発射寸前を維持するウンディーネ達。邪悪の笑顔な山井。
取り囲まれたマミに、絶体絶命のマミ。
そして、この状況を全く理解していないのか、「あはは〜」と笑顔が咲き乱れるマミ。──junior high school girl。

 魔力をそこそこに蓄えているウンディーネ狙いで、我が主・マミへ「あの水の精霊所持者と交渉してくれ」と頼み込んだのは数分前のこと。
何故、デデルは自分から表立って交渉しにいかないのか──。
そして何故、よりにもよって『こんな子』に無茶な交渉代理人の白羽を立てたのか──。

魔人はその意図を語る。


「…何故……か。私がわざわざ出る幕でもない、それだけだ。それに、半透明かつ、貴様らの観点からしたら異様な服装と言える私よりも、ごく平凡なマスターの方が相手も警戒しないだろう」

「……い、いやそりゃそうだけどもさぁ〜っ!!」

「そしてなによりも、マスターは…『歩』だ。土間の小娘」

「え? 『ふ』って……???」

「どんな優秀な棋士も、第一手は必ず歩。歩で相手の実力を見るものだろう。…となると、うってつけはマスターと言える。……奴には願いを酷使した贖罪もあるからな…」

「あ、あーー…。歩って歩兵のことね〜。将棋の………。──」


「──マミちゃんの扱い…歩兵レベル……………」

「…ふふっ。……あ、失礼。私とした事がつい……」


 僅かながらだが、魔人からも笑みが漏れた瞬間だった。

 嘲笑、満面の笑み、暗黒笑み、──笑顔の絶えないウンディーネの群れ。
四者四様、四方八方から笑顔が咲き乱れるホテル前にて、マミの頭は花畑。
返答によっては、花大盛りな頭のマミも血薔薇化することは言うまでもなくだが、果たしてこの危機的状況、彼女はどう収めれるだろうか。
何十本にもなる視線が痛いくらいに突き刺される中、マミはへらへら口を開く。

672『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:09:49 ID:cFeuEibI0
 ギギギギッ……


「………えーと。それで〜山井ちゃん…だよね?」

「そだよー? マミちゃーん。…ついさっき名乗ったばっかなのに確認いちいち必要かなぁー?」

「わたしさ!! …実はオカルトとかUFOに関しては人並み以上に深堀りしててさ……! …自分で言うのもアレだけども…、結構やばい領域に足踏み込んじゃったりしてるんだよね……!! フフフ…!」

「なーに? それは」

「だからさ、ほら見てよ!! このUFOの破片!!」


 ゴソゴソ…


「………で、なーに?」

「これは月刊マーの付録にあった奴なんだけど…すごいんだよ!! あのロズウェル事件で極秘流出したもので、なんと重さがないんだって! 0gらしいんだよ!! この世の物じゃないからさ!!」

「………ごめんねー、マミちゃん──」


「──言いたいことそれじゃないよねー? 絶対」

「え?」

「もっとな〜んかさー、私に要件あるから話しかけてきたんでしょ? そこからまず話そうよ〜〜。──」

「────ねぇっ、…マミちゃあぁ〜ん?」

「あ、うん。ゴメン…」


対面相手が自分より年下で、かつおつむの弱そうな女子である為か、お姉さん的態度で優し〜く宥める山井。
勿論、彼女に優しさなんかこれっぽっちも無い。
マミへの思いやりの精神があろうものなら、出会い頭、即「はい水の精霊、構えて」と敵対心を見せつけないものである。
とはいえ、そんなギチギチ…と鳴り響く水の槍達も、後に偏差値30台の帝辺高校に通うマミには知らぬ存ぜぬか。
頭上のウンディーネ達を見渡した後、マミは例のUFOの破片だかを差し出した。


「それで〜〜山井ちゃんにお願いなんだけど〜…。…これあげるっ!!」

「…だからどーゆーことなのかな?」

「だから交換ってことで!! このウンディーネさんを…一つか二つ…私にくれないかな?」

「…………ん〜? なーにそれ?」

「本当はこのUFOの破片……わたしの宝物で……。将来的にはなんでも鑑定団に出したいってくらい…大切なものなんだけどさ…」


──“結局手放すんかいっ!!”
と、うまると山井で心中ツッコミがハモる。


「今はもうそれどころじゃないんだ…。ウンディーネさんが何よりも必要で、欲しい人がいるから……。…その人の為にっ……。お願い山井ちゃんっ!! トレードってことでお願いだよ〜っ!!」

「……」

「ねえ、どうにかならない………?」


「やばー。やば谷園」


 消えかけのデデルへの思い、そして自分が彼の命綱となってる責任感からか。
マミの目からも水先案内人《涙》が一粒零れ落ちる。──その涙には恐怖も緊張感も含まれていない。どうやら未だ自分が殺される寸前だということを理解していないようだった。
ただ、形はどうあれ年下の少女の涙は、相手の感情を揺さぶる効果がある。
涙を堪えながらもフルフル震えるマミへ、山井はどう心が揺れ動いたか。
彼女は笑みを維持したままそのアンサーを突きつけた。

673『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:10:04 ID:cFeuEibI0
「嫌」

「えっ!? えぇ………」


──無論、邪悪が張り付いたかのようなその笑みで、である。


「ごめんねーマミちゃーん。マミちゃんの想いは伝わるけどさぁーー、私UFO興味ないしいらないって感じかなー? …いらないものを押し付けられたらさ、どんな気持ちになるか、考えれるかな?」

「で、でもっ!! わ、わたし本当にウンディーネさんが──…、」

「うん、分かるよ。でもいらないしあげたくない。…ほら、あんまり無理しないでよマミちゃーん」

「え…?」

「マミちゃんってさー、アレでしょ? 本当は誰かに言わされてるんだよねー? 誰だかワルイ大人にさー、『それ言ってこい』って操り人形させられてるだけなんでしょ? あはは〜」

「……ぎ、ぎくっ…。そ、そんなことは──…、」

「うわ、『ギクッ』って口に出す人初めて見たし…。もうーマミちゃんったらバレバレなんだから〜〜。ね? だからマミちゃんがいくら頑張ろうと私は譲らない。…バックの人じゃないと話にならないからねーー」

「…や、山井ちゃん〜〜。お願いだからぁ〜──…、」


「ねぇ────? バックの誰かさーーん。どうせ近くにいるんでしょー?」




「………バレてるし魔人」 「………………………やれやれだな」



 『歩で相手の実力を図った、その結果』。
──敵意剥き出しのウンディーネは、思ったより只者ではなかったこと。
────そして、我がマスターが予想以上に使えない事が判明となった。

デデルは軽く頭を抱えた。
そしてうまるも蛇に睨まれたかのような、ズッシリと重たい物を抱えさせられた。


「…さて。マスターがお困りとあらば……仕方ない。行くぞ、土間の娘」

「…うへ…マジ〜…?」


歩兵が使い物にならなかった今、ならば大将直々にお出ましと。
ビル陰でモニタリングしていたデデルはMPを消費し、しょんぼり気味のマミの隣へテレポート。


 ────パッ


「うわっ!!! ………………は?」 「あ!! 魔人さん〜…!!」

「申し訳ありません。…山井さん…でしたよね? うちのマスターは会話が下手なもので、接していてさぞ大変であったでしょう」

「………え。何…それ」 「……か、会話下手じゃないよっ!!!」



「ここからは出来の悪い傀儡人形のパペッティア────私、デデルが代わりますので、どうか説明を聞いていただきたいです」

「……ふーーん。とりまさ〜アンタがマミちゃんの保護者ってわけねー。──」


「──てゆうか、何か…透けてない? アンタ………。幽霊…?」

「ええ。気になりますか? …私のこの姿。……こちらも時間が無いのでね、矢継ぎ早説明に入りますよ」

「あっそう」

674『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:10:17 ID:cFeuEibI0
異様な姿の来訪者を前に、流石に山井も『喜怒哀楽』の『楽』に表情が戻る。

魔力消費故に余計透過度が増したデデル。
彼による、交渉part2が始まりを見せた。

落ち着いた素振りで魔人が対話する中、舞台から降ろされたマミは何だか不満げな様子で。
デイバッグのうまるへひっそり語りかける。
「(……なんかわたしの扱い皆ひどくないっ?!)」──と、ヒソヒソ。
──対してうまるの、「(…どんまい!)」と何のフォローにもなっていないヒソヒソ返しには、マミも地団駄を踏み鳴らしたが、ポンコツ少女にはこれ以降一切構わず。
ウンディーネの鋭先に怯えまくる中、うまるは戦況を黙って見守っていた。


「このランプ、分かりますか?」

「……え? いや知らないし。それをなんでも鑑定団に依頼するわけー?」

「いえ精神鑑定に出す予定はマスターと土間の娘だけです。それはともかく、」

「…って、おいっ!!」 「ひどくないもうっ?!」


「このランプは私ら魔人にとっては言わば心臓。…魔力を貯める必需品であり、掛け替えのない品物なのです。……ええ分かりますよ。『自称魔人とかコイツあたおか?』と御思いでしょう。ただ、半透明なこの私やウンディーネという非科学的な存在を前にした貴方なら、どうか鵜呑みにして聞いて頂きたいです」

「………………あーうん。思春のヤツのお陰でこーゆー《厨二臭い》の慣れてるからそこんとこオーケー」


「…私が消えかかっている理由もこのランプが全て。圧倒的魔力不足が原因なのです」

「………」

「普通の主ならば魔力で満たせるこのランプ内も……。見て下さい、このスッカラカンぶりを。…主の友達である『超能力者』の魔力を遠隔で利用してみたのですが…もはやこの有り様。…今の私には足りないのです、魔力が……」

「……………」

「……そこで、貴方の力を借りたい…という発想に至ったのです。山井さん」


「……代用になるってことなの? 私の可愛いウン…水の精霊達がさー、ランプの魔力に」

「…代用どころか半端なく助かりますね。勿論、全部とは言いません。一、二体でもう十分。……マスターは先程『わたしが話せば分かるよ〜!』と私に言ったのですがね、どうでしょう。──」


 ギギギギッ…
 
  ギギギギッ……


「──話せば、分かりましたか? 山井さん」

「…………」



 冷たい水が恋しい灼熱夏の夜。
とは言っても殺意剥き出しに先端を向ける水先案内人達には、心底ヒヤヒヤするうまるであったが、緊張を感じるのは彼女のみではない。
綺羅びやかなホテル玄関前、いや東●ホテルがシンボルマークの周囲。この周囲一帯が、確かに緊張感で包まれていた。
ツララのようにいつ落ちてくるか分からないウンディーネの刃。
生と死の狭間が生じた街角。
緊張感がボルテージに昇り詰める中、未だほげぇ〜としているのはマスター・新庄のみ。
そんな現状となっている。


「……ご、ごくりっ」 「…」


「…………」

「貴方にデメリットがあるという話ではないと思いますが…、如何に? 山井さん」

「……」

675『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:10:29 ID:cFeuEibI0
デデルの発言も理には適っている。
言わば砂漠に水をやるのと同じで、魔人と自称する阿呆共にウンディーネを渡しても特に不都合は無し。
それどころか、彼らのスタンスは基本【対主催】である為、ウンディーネを用いて山井に危害が加わる心配も無い。
たった一、二体。それっぽっちをくれてやるだけで満足なのだから、断る理由は存在しなかった。

少しの沈黙の間。──山井が思考整理の末、考えを導き出した時──。
彼女はやれやれと仕方なさそうに、ニコリと微笑んだ。


「ふーーん。…まぁ確かにね。よく話はわかんなかったけどもー、アンタも色々大変なんでしょ? そうならー、…ま、仕方ないか」

「………ほう」



 山井が選んだ決断。
それは『承諾』であった。

近くにいたウンディーネ二体を、ホイホイ〜と指で引き寄せ、山井は口角を上げる。


「はい、水の精霊。困ったことがあったらお互い様だからねー。遠慮なく使っていいよ〜」

「…………」


 警戒心を解き、デデルの元へとゆったり近づいていくウンディーネ二体。
思いの外あっさりと引き渡された魔力の元であるが、この味っ気のないあっさりさに魔人はどう感じたか。
「…なんか、結果オーライ?」→「だね!! さすがわたしの魔人だよ〜!!」と平凡女子二人は胸を撫で下ろす中、

山井はぶりっ子というくらいに満面の笑みを見せた。


「…さて、マスターに土間の娘。……やれやれですね」

「ほーんと……。一時はどうなるかと思ったよ〜〜〜」 「まぁよかったじゃんこれで〜」

「……」


「え。何それカワイ〜!! ねえ魔人…だっけ? アンタの抱えてるその子、…何これハムスター? チョーかわいんだけどーー!!」

「えっ。うまるのこと〜…??」

「…………」

「えーー、ちょっと魔人〜無視ぃ〜? 何それうけるー。…ともかく、その子…うまるちゃん?? あんまりにキュートだからさ、私もサービスしよっかな〜…みたいな?」

「え?」 「へ??」



主《山井恋》の言葉に、その意図を汲み取ってかウンディーネ八体全てが動きを取る。


「二体とは言わず全部あげちゃう! 出血大サービスだからね〜??」

「…え??」

676『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:10:42 ID:cFeuEibI0
山井の笑み。

可愛らしく純朴なその微笑みは、




「……………さて、行きますよ、土間とマスター。あぁ、あと山井さん………いや、もう敬語すらも煩わしい……。」




常に、



「────今度こそ確実に殺ってよ、水の精霊。──」




────真っ黒で邪悪なスマイルである。




「おい山井。このお礼は後でタップリ支払わさせて頂く。…人間の…たかが小娘がっ…………」




 ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ────────────
 ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ────────────
 ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ────────────ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ────────────ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ────────────

────────────ッッッガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ────────────ッッッガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ────────────ッッッガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ 
────────────ッッッガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ 
────────────ッッッガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ



「ぎゃっ?!!」 「わっ!!!?」


 分裂。
そして螺旋のように迫りくるウォーターカッターの十六奏。
躱しようのない、切断の雨あられ。

普段のデデルならばたかが魔物の攻撃如き、赤子の手を捻るよりも簡単に対処できるものだが、生憎、魔力の枯渇ぶりが激しい今。
テレポートもバリアーも無駄遣いできなくなった今現在、マミを無理やり抱えた彼は手も足も出せない…──否。手足をフル活用するしかない。


「ほーら!! もっと速く走れ、走れって☆ フォレスト・ガンプーー!!」

「ぐぅっ…」

「な、なななにこれえええええ!!!!!」 「びええええええええぇえええ!!!!!!!」


 ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ────────────



光の彼方──ホテル内へ逃げ込むデデル一行。
彼らを見送る山井には、今度こそ正真正銘の微笑みが表れていた。



「あははっ☆」

677『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:11:08 ID:cFeuEibI0
**短編10『奇跡の味は』
[登場人物]  [[飯沼]]、[[野原ひろし]]、[[海老名奈々]]、

『時刻:AM.04:42/場所:東●ホテル3F』
『────『→』早送り/話は25分後へと進む。』
---------------

678『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:11:22 ID:cFeuEibI0

“奇跡は起こらないようで、よく起こる。”


 1962年の創立以来、ずっとお荷物球団と言われていたメジャーリーグのニューヨーク・メッツが、ボルチモア・オリオールズを破って、初のワールドシリーズ制覇したあの年。

勝敗が決まる最後の試合にて、投げていたのはエースのトム・シーバー。
──実は彼、本当はアメフト選手で活躍する未来もあったが、五歳の時の誕生日に、父が間違えて購入したグローブをプレゼントされ、野球の道を選んだという経緯がある。

そのシーバーが最後の打者に投じた内角低めのストレート、百二十球目のボール。
──あのボールは製造会社のミスにより、一球だけ紛れた反発数の低い物だった。
打った相手打者はこれをジャストミート。ただ、濡れたスポンジ同然のボール故に、打球はみるみる失速。

左翼手であるクリオン・ジョーンズのグローブの中へと収められることとなる。
──このジョーンズも、妊娠前母親がワインを口にしなければ女の子に産まれ、名前はクララだった。

(引用元:メン・イン・ブラック3)


 まるで、『風吹いて桶屋が儲かる』という言葉そのものだが、こういう奇跡の連続は、実際に世の中でもたくさん起きているのだろう。
私たちがそのすべての過程を知らないだけで。確実に。
普段生活している上では忘れがちだが、今この瞬間は多数の奇跡の上で成り立っているのだ。


例によっては、ホテル三階にて。



 ピロンっ
(♪ライン〜!)


「……あ、…………なっちゃん…」


無人の購買にて、カップ麺をかごに入れるサラリーマン──飯沼の話。
自身の空腹を満たす為、そして成り行きで連れとなったマルシルにご馳走するため、七階からわざわざ降りてきた彼は、物色を続ける。
何となく目についた、魚肉ソーセージを取り出した時、不意に鳴るはLINEの通知。
妹・夏花からの心配の言葉であった。


「…………」


夏花──『どこ??』 既読

夏花──『いないよ!! 家に!!』 既読

夏花──『(心配〜😢のスタンプ)』 既読


「……なっちゃん………」


一人暮らしである自分の家に、たまに遊びに来て。
そして美味しい手料理を、光悦の表情で共にする──飯沼の大切な妹。
友達よりも食。ほとんど人に興味がないと言っていい飯沼が、マルシルという謎の初対面女へドライにほっておかないのも、この妹が理由か。
血の繋がる夏花を見ているようで、なんだか無視してられない──といった具合で、彼はマルシルを気に掛け続けていた。


「………………うわぁ、……ごめんね。なっちゃん…」


妹のラインが胸に刺さってどうしようもない。
飯沼の、そんな様子が見受けられた瞬間だった。

──ただ、一方で、飯沼は「…それにしても何故なっちゃんは、こんな時間帯に僕の家へ……?」と心の奥底、不審に思う点もある。

679『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:11:38 ID:cFeuEibI0
──これは、夏花がサークルの帰り道。大学に忘れ物をした事に気付き、山手線をゴチャゴチャ往復した結果、終電を逃したという経緯の元である。

──そして、その忘れ物に気づいた経緯も、乗客であるアフロのサラリーマンが「パチンコまた負けた…。『雑誌』読んだのに…」と呟いたのが起因となっている。

──また更に巡ること二時間前。本来なら高設定だった台は、たまたま隣にいたじいやという老人の台パンによりバグらされてしまっていた。
──この八つ当たりさえなければ、台を選んだアフロは大勝ちし、ウキウキ気分の元、タクシーで家に帰っていた筈だった。

──普段は温厚な性格のじいやが、この日この時間に限ってたまたま怒りを露わにしたのも、業田萌美という家庭教師に詰られた事が理由となっている。

──ただ、萌美が厳しく当たるのも無理はない。
──なにせ、自らが専属し指南する令嬢・大野晶が行方知らずとなったのだから、気が気でいられなかったのだ。



「………『大丈夫だよ、安心して』……と──」


「──…あぁ。ごめん、ごめん………。なっちゃん…」


もしかしたら、これが最期の返信になるかもしれないという、悲しみ。悲哀。
飯沼はこの時、確かに指が震えていた。



──震えていたのは何も飯沼のみではない。
──場所、時刻は違えど、昨日の午後一時、カツ丼屋にて。
──大盛りを頼んだ川口の奴というサラリーマンは、その量に心底震えざるを得なかった。
──店の名は、『かつ澤』。
──サイズは、『キッズ用』→『レディース』→『普通盛り』→『大盛り』との四段階だが、レディースサイズが他店でいう大盛りサイズに値する。
──故に、そこから二段階量が増えた『大盛り』たるや、もはや山の如し重圧と高さであったといい。

──ただ、その悪魔的量にもバックボーンがあり。
──数年前、街を歩いていたかつ澤店長はたまたま。
──「カツ〜♪ カツといったらビッグカツ〜♫」と歌う、紫髪の少女とすれ違った。
──この時の何気ない歌声が、この理不尽なドカ盛りの発案につながったという。

──紫髪の少女は、後にしだれカンパニー社長の娘と知る。
──駄菓子店からの帰り道にて、お好み焼き屋の親父から「気に入った!! 今日はとことん付き合ってやるよ!」と突然絡まれた。
──虚を突かれた思いの少女であるが、その親父から響く謎の「じゅわっ…」という音が何だか嫌で、嫌で。
──見て見ぬふりをしつつ、来た道を戻り返す。

──そのお好み焼きの親父から発せられた「じゅわ…」音は、厳密には裏の家からの音。
──汚れた室内にて、鰐戸三蔵が豚塚に根性焼きをした音が、たまたま漏れ出たのだ。



 ポチッ

『送信エラー。時間を置いてから再度送信してください』


「…あれ…………? おかしいな…」


妹へのラインを送信し、購買から出ようとした飯沼。
彼を立ち止まらせた要因は、LINEアプリへの違和感。
すなわち、普通ならまず目にしない謎のエラーメッセージが表示されたのである。


──このエラーが発生した原因は、案外単純。
──新田ヒナの超能力が暴走し、ラインのサーバーが攻撃されたから、が理由となる。

──ヒナがまるで漏れ出たかのように超能力を発動した理由も単純。
──歩きスマホをして前を見ずにいたところ、フラフラと食い倒れ寸前の川口にぶつかり、「つい…」という具合だ。

──そして、この川口。
──過剰な暴食が原因となって、ケアレスミスを犯してしまい。
──ストレス発散として、つい公共の場で雄叫んでしまった。


──小太りのサラリーマンが発狂するという異様な光景を目の当たりにして、夏花は講義室に置いた『雑誌』の存在を忘れてしまった。

680『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:11:52 ID:cFeuEibI0
────そう、『忘れ物』はこうして出来上がる事となる。





「まぁ、いいか………。マルシルさんも待っているし……そろそろ行くかな…………」



あの時、夏花が忘れ物をしなければ。
アフロのリーマンがパチンコで負けなければ。
大野晶が『参加者』に選ばれていなければ。
川口が叫ばなければ。
かつ澤の店長が大盛りを異常なボリュームにしなければ。
しだれコーポレーションの令嬢が帰り道を引き返してなければ。
お好み焼きの親父から「じゅわっ…」と音が出なければ。
豚塚が鰐戸三蔵から逃げ押せていれば。
ヒナが前を見て歩いていれば。


どれか一つでも無ければ。


飯沼は無駄な時間を過ごす事なく、スムーズにマルシルの部屋へと戻って行き。
何の災いも危険も負うことなく、とりあえずは平穏でバトル・ロワイヤルを過ごせたことだろう。


ましてや、エレベーターに向かった際、



「……ん?──」




 シュッ────




「──え?」



階段から現れたウンディーネに鉢合わせることなどなく、




 ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ────────────


「え────…、」




──妹への無念を最期の意識に。
──鋭利なレーザー光線で肉体を切り刻まれるなど。


──無かった筈なのに。




 プツンッ…──

681『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:12:04 ID:cFeuEibI0
 “奇跡は積み重ねでできている。”
(メン・イン・ブラック3──グリフィン)







本来ならここでページが終了するはずだった、飯沼の物語は、




「はっ、はっ、はっ!!」


 ドンッ


「う、うわ!!」





奇跡の犬。マロ。
『マロ』が突進したという、一つの奇跡のお陰で、まだまだ連載が期待できそうものとなる。

この駄犬が飯沼に目がいった理由。



──彼の腰ポケットには、犬の好物である魚肉ソーセージがあったのだ。




 タ、タ、タ、タ


「あっ!! だ、大丈夫かぁ〜?! 君!!」

「え……!?」

「ひ、ひろしさん!! この人…は………!?」

「わ、分かんねぇ!! 知る訳ないし、…そりゃ失礼ながらゲームに乗った参加者な可能性も…あるかもさ……──」


「──だが、敵の敵は味方…!! …つったらこの人に失礼だけどよ〜〜……。ウンディーネが攻撃対象にしてる以上、この人も大切な仲間だぜ!! さぁ、早く逃げるぞ!!!」

「え、は、はい……………!!」





奇跡の【味】は────。
三人はこうした経緯の元、出会う事となった。

682『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:12:29 ID:cFeuEibI0
**短編11『雨ニモマケズ』
[登場人物]  [[山井恋]]、[[魔人デデル]]、[[新庄マミ]]、[[うまるちゃん]]

『時刻:AM.04:36/場所:東●ホテル3F』
『────『←』逆再生/話は6分前へと遡る。』
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683『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:12:43 ID:cFeuEibI0
 ガガガガガ………────ッ


「レイミーブルー、もう〜〜〜♫」



 スイートホテル一階・ロビーにて、噴水の縁に座った女子生徒は──雨に唄う。
満面の笑みで身体をユラユラ…リズムに揺らせる彼女は、このあまりにも酷いホテルの内部を全く気にしていないのか。
グーグルレビュー曰く星四つ。多くの人々から高い評価を受けていた豪華宿舎、その内装は、あんまりなまでに崩れ散らかっていた。

まるでペインティングで切り裂かれた失敗作の絵画のような、辺り一面斜線まみれのズタズタなロビー。
十五階建てである筈なのに、何故か天井から至る所降り注ぐ雨漏り。
床は水浸しのウォーターワールドであった。
そして、何よりも問題のある箇所は、上階から鳴り止まない騒音の嵐。
──現在進行系で増築中なのか、先程から『ガガガ────ッ』とけたたましい地鳴りが響いて安息も糞も無い。
他にも多々問題点は抱えているが一先ずはこれにて割愛。

まだ未完成状態だというのに、何故意気揚々と『OPEN!』の看板が立てかけられているのか不思議で堪らない。
客を全力で追い返すスタイルの、訳の分からないホテルであったが、ならば「そっちがそういう態度ならこちらも」との考えか。
ふとこの場に足を踏み入れた女子──山井恋は、開き直ったかのように讃美歌を歌い続けた。

傘を差しながら、水溜りを無邪気にビシャビシャさせ、山井は歌う。

小天使のような愛しい鼻唄は、まだまだ降り注ぐ雨粒に向かってのメロディ。


「変わっ〜た〜〜、はずなのに〜〜♪──」


雨に唄えば────。
──彼女は水の精霊へ言葉を続ける────。




 シュ────ッ……

「あ、ちょっと〜ストップ!! ──…おいアンタだよ。止まれって」


 ……ピタッ

「うん、追加命令ね。今思いついたんだけどさ〜、ついでだしあの魔人(笑)以外にも何か参加者見かけたら即片付けヨロシクね! 手当たり次第殺っちゃっていいからさ。分かったー??」


 ……………………


「………とりあえず分かったんなら反応くらいしよっか。ねぇ〜??」


 ……………………


「…はぁ。無反応、だっる……。…ま、いいや。あとこれ一番大事な事だからさ。ちゃんと頭に入れておいてよ? ね?」

 ………………

「誰でも彼でも好きなだけ攻撃していいとは言ったけどさ〜──」


「──私とっ!!!──」

「──古見さんっていう物凄く可愛くてロングヘアーの女子とっ!!!──」

「──…………あと、首輪にマロって書いてるゴミ犬。──」


「──この三つだけは絶対に攻撃しないでね? 絶対だよ? 分かった?? 他の連中にもちゃんと伝達してよね!」

 ………………

684『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:12:57 ID:cFeuEibI0
「────アンタらクソッカス水如きの命握ってんのが誰なのか──。よ〜く肝に銘じて、約束守ってね♪ それじゃ、よろしくー!!」


 ……

 シュ────ッ……



「………ったく。…レイミーブルーなぜ追い詰めるの〜〜♪」



山井が喋り終えた後『水の塊』はズタボロの階段奥へと高速移動。
その姿が完全に視界から消えた折、上階の工事音のような喧しさはより一層激しい物と化す。

ガガガガガ─────ッ
 バキバキバキ、ガガガ────ッ
  ガシャン────ッ

全ては、主人に尽くす為。
山井の心とろける歌声に、雨もまた答える──。



「あなたの幻〜〜ふんふん〜♪…………あーもう歌詞分かんないからいいやっ!」




────────【言うまでも無く、ホテルをここまで斬撃し尽くしたのは『雨《ウンディーネ》』。ならびに『山井恋』による犯行である】────。





 山井の小さな肩へ、ポツポツと零れ落ちる『ウンディーネの一部』。

彼女にチャプチャプ…と靴で踏み躙られても一切の文句を言わない水たまり──即ち、『ウンディーネの一部』。

鼓膜が痺れるほどの暴音に紛れて、耳を澄ませば感じ取れる男女複数の悲鳴。上階の犠牲者達。
そんな血生臭い叫び声など端からノイズジャック済みなのか、山井はゆったりとペットボトル水を口に含む。──『伊賀の天然水』。


 夏の暑さにやられた喉を潤した彼女はほっと一息。
束の間のみ和んだ後、鋭い菜箸の先をツンツン触ると、やがてさぞ面倒臭そうに立ち上がった。
右手にはやたら鋭利な金属の箸、左手にはやや黄色味がかったビニール傘を持ちつつ、山井はエレベーターへ歩を進める。
──この土砂降り下にて、仮にぐしょ濡れの誰か参加者に出会した際。──彼女は躊躇なく右手の物を、『さし出す』事だろう。


「さーて、アイツら喋んないから当てにならないし。私も探しますか〜、クソカスわんちゃんを!! あはっ☆」


 野原ひろし等がこのホテルに逃げ込み──現在二十分経過。
魔人デデル一行がまた同様に、ホテルに吸い込まれ──ウンディーネが追い回して以降、十五分経過。
二組それぞれの逃亡者を東●ホテルに追い込んだ張本人・山井は、満を持してとホテル内の探索を開始する。


「ふんふふふ〜〜〜ん♡」


攻撃担当は山井のポケモン──ウンディーネである以上、主人がわざわざ戦場に立つ意義など全くとて不要なのだが。
それでも彼女はホテル内に立ち寄る理由があった。
例え、怒り狂ったひろしや魔人が襲い掛かろうとも、
そして行く末。自分の身に危険が生じようとも、山井は立ち寄らなければならない。
『捜さなければいけない』という、固い決意があった。


「ふんふふふ〜〜〜ん…──」


その、山井恋が求める相手というのが、先程ウンディーネに「“この三つだけは攻撃すんな”」と釘を差した対象の一人。



「──早く会いたいよ、…古見さん…………」


────古見硝子。
──自分と家族全員の命よりも大切な、彼女であった────。

685『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:13:24 ID:cFeuEibI0
「…あはは。…複雑な気持ち……かな……。──」



────…という訳ではなく。





「──あのクソ犬が神聖な古見様を舐め回すとかめちゃくちゃ勘弁。で〜も〜……それでいて、舐められて思わず感じちゃう古見さんの光悦顔も見てみたい……って気持ちもあって………。──」

「──もどかしいな…、この気持ち……。貴方のこと、ほんとにほんとに…舐めたいのは……私なのに……ね…」


 山井が探す対象は、野原ひろし等の飼い犬。
自分の股ぐらに顔をうずめてきた──クソ犬(正式名称:マロ)である。
誰彼構わず、若い女子を見かければ躊躇なく飛び付いてくるマロだ。
一生舐めても溶け消えないような宝石であるあの子────古見さん探しには、バカ犬がうってつけであろうと。
山井がホテルに入った目的は、その考えから来るものであった。
──無論、探知犬が古見さんを見つけた暁には、ご褒美の殺処分が待っている。


「…もしかしたら、この中にいるのかな………古見さん──」


「──はぁ〜……」


 恋ひしがれる山井の指先は疲れを見せていたのか、微弱の震えが続く。
無理もない。
早坂と別れて以降、何百通にも渡る古見さん宛のラインを送り続け──現状既読すらも付いていないのだから、疲労は確かにあった。
そんなか弱い人差し指を、力を込めて押すはエレベーターのボタン。


「私も今日はそっと……♪ …雨…………っ♪」


下降マークが白く光る。

山井はエレベーターの迎えを、そして古見さんの姿を(──それとクソ犬を)、胸一杯に待ち続けた。





ただ、待てども待てども。
やって来るのは求めていない物ばかり。
人生とは難しい物で、自分の思い通りに事が進む人間なんか才能がある極一部のみである。



心の中しっとり雨の山井に訪れる者。
──それは、



「生憎だがエレベーターは今故障中だ。…くたびれるものだな、この何階建てにもなるホテルを階段で上がるとは…」

「え──…、」



 バンッッ─────────ッッ



「──ぎゃッ──」


──エレベーター扉に顔面を打ち付けられたことによる、額の鈍い痛みと。
──目元から弾ける白い星。
──涙粒と共に爆ぜる、おでこからの流血。

686『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:13:37 ID:cFeuEibI0
「いっぎゃぁああぁぁああァアアアアアア──────────ッッ!!!!!──…、」

「──ンッ、ぐえッ!!!」



「ただ、ポジティブに考えればだな。映画のディパーテッドではないが、エレベーターは乗った際、開きざまに即銃撃を食らうというケースも考えられる。…マスターに倣い、ポジティブ思考をしてみたが、そう考えるとコイツが故障中な事もまた利だろう」


「ぇ……い…ががッ…………。…は、…はぁ………ッ……!?」


──額から溢れる血でポツポツとペインティングされる、白い手袋。
──いや、白いという割にはあまりにも透明過ぎる。
──山井の首を持ち上げ、宙吊りにする、その半透明な右手と。


「……とはいってもエレベーターを壊したのは貴様。…というよりウンディーネ共なのだがな。最後に一つ、チャンスをくれてやる」

「…が…ぁッ…………………。な、なん…………で…………」

「『何で』とは。私は確かに言ったはずだが。後でお礼を支払うとな。まぁ良い小娘」


──ダメージジーンズか、とツッコみたくなるぐらいボロボロのジャケットと。

──冷たく氷切った目。


──そして、顔面前に突き出される、指パッチンの左手。




「………な、…ぁ…………んでッ………………………」



──────“何故、生きているのか………………?”

青筋がぶち破れたかのような痛みで、瞼の痙攣が止まらない。
息がとにかくできない。
いくら白いグローブ越しの手を引っ掻こうとも、びくともしない。

2cm程の額の裂傷に悶える山井へ、待ってましたとばかりに現れたその男。


「──二択だ、選べ。このエレベーターに[故障中]という張り紙を書きたいか、それとも『書けなくなりたい』か。お前にチャンスをやろう──」


「────魔界流の出血大サービスだ──────。」




『魔人』。
デデルは、まだ生きていた────。




「…ず…………随分と、また……………透明にッ…………なった…じゃん……………ッ」

「そうだな。『限りなく透明に近いブルー』…という小説があるが。貴様の顔も随分青くなってきたぞ?──」


 ポタ、ポタ…


「──…いや赤か」

687『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:13:52 ID:cFeuEibI0
「…………死………ねよッ……!! …つ…か、敬語……使え……っ……………て…………」

「敬語を求めるならいくらでもしてやる。ただ、魔人に対価を求めるなら願い主もまたそれなりの対価を差し出す物だがな。いいか?──」



「──今すぐウンディーネ全ての稼働を停止しろ。貴様へのチャンスはこれのみだ。…どうだ、引き受けるか?」


「…グ…ウッ…………………………!!!」



 上階のウンディーネの暴れっぷりたるや、それは耳障りな程騒がしかった為、デデルの顔は極至近距離。──山井の視界には、魔人の顔のみが映っていた。

何もかも、わけが分からなかった。

いや、冷静に考えれば、何故自分がこのような事態に陥ってるかは理解できそうものではあるが。
矢継ぎ早に次ぐ矢継ぎ早の急展開という事。
額の激痛を凌駕する絞苦と。そして、ダメージで麻痺しかける頭痛脳。
これらが要因で山井は全く理解が追い付けずにいた。

ウンディーネに追うよう命じて長時間経った筈──。
それだというのに、一体どうやって──。
何故、無傷で──。
この透明な化物は生存に事を終えているのか────?


ウンディーネの片割れを呼ぼうにも、首がしまって大声が出せる現状ではない。
援護には来てくれない。
何の役にも立たないポツポツ雨のみが、山井を湿らせていく中、切羽の詰まった彼女はもはや思考を放棄。
デデルが与えた『チャンス』に、山井は、


「…おいどうした小娘。YESかNO。貴様が選択を──…、」

「ィイイッ………!!!」


 ザシュッ─────
辛うじて手放さなかった菜箸を奴に突き刺す。
そんなアンサーで返したのだが、




結果は焼け石。




 ────ガキンッ




「………………は………………………?」




「やれやれ…。コレは『バリアー』だ。ユニークだろう? 私とて、お荷物二人を抱えるとなったらコイツを使う他あるまいものだった。しかしこれでまた無駄に使ってしまったな……魔力を…。これでは後先が思いやられる………。──」

「──しかし、小娘。貴様も負けじとユニーク…面白い奴だな。やはり人間の悪足掻とやらは実に興味深い…………」


「は…………? ッ、は…………………? ち…ょっと………待っ、て…。は………?──…、」



「貴様のユニークさは今後の参考にさせてもらう。さらばだ、小娘────」


「いや…、テメッ──…、」




ただ、焼け石に水とは言っても、雨が降っていた為もう十分だったのだが。

688『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:14:05 ID:cFeuEibI0
 パチンッ────



親指と中指を組み合わせて、パチンと響く小刻みの良い音。
そいつが鼓膜を振動した瞬間、山井の姿は蒸発したかのように消え失せた。
綺麗サッパリと、この場から。






「さて、…もう出てきても良いですよ。──マスター」



………
……



 ザザッ…

  ザザッ──……

689『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:14:18 ID:cFeuEibI0
『──臨時ニュースをお伝えします。──』


『──先ほど、アメリカ・マディソン郡にて、日本の民間航空機が墜落したとの情報が入りました。墜落現場は観光名所としても知られるマディソン郡の橋付近で、多数の死者が出ている模様です。──』

『──現地メディアによりますと、機体は突如現れた後、墜落。そして激しく炎上。周辺一帯には現在も救助隊が多数出動し、懸命の救出活動が続けられています』



「と、突如現れた……ねぇ…‥」

「…ま、…まま、魔人さん、もしかしてこの飛行機って………。さっきの……」


「……さっき、とは?──…、」

………
……


地面上にてジャンプーSQ雑誌や月刊マー、お菓子等が乱雑に散らばる中、
デデルは赤い星(──と言うか普通に飛行機)に向かって指パッチン。


 パッ


「「あっ!!??──」」


「──き、消えちゃった?! どうして!!? なんで!!!」

「いや魔人が消したんでしょ絶対! …何してるのさもうーーっ!!!!」


……
………


「…あぁ、あれですか。…普段こそは任意の場所の設定もできるのですがね。……如何せん、今日は何だか調子が悪いようです。…私が不甲斐ないばかりに…申し訳ない」

「も、もも、申し訳ないじゃないでしょ魔人〜〜っ??!! あ、あぁ〜〜!!! ほら死者推定五千だって!!! 五千だよっ〜!???」

「……喧しいな。土間、喉の渇きはどうだ? 貴様の好きなコーラならまだあるが」

「飲んでる場合かぁ〜〜〜〜〜〜っ!!!!!」

「ど、どどどどうしよう〜〜〜〜〜〜もう〜〜〜〜〜〜!!!! う、うぅ…うへっええぇ〜〜〜〜ん!!!!!」



 ガガガガ──ッ……

  ガガガガ──ッ…………



「…だから喧しいと言っているだろう…………っ」



 フィルムを剥がしたアクリルフィギュアのような、もはやギリギリその体を維持してる程の、透明魔人・デデル。
貴重な魔力を消費してでも鳴らした、指パッチン一発でどれだけの人間が『透明化』した事だろうか。
紳士的態度とはいえ、所詮は【魔界】の住民。悪魔と同たぐいである彼。
故に、壊れかけのテレビから流れる臨時ニュースには、つまらない授業を受けるかの如し退屈な目で眺めていた。

本当に、彼からしたら自分と関係のない人間如きの死滅など、全くの眼中外だったのだ。
それ故、喧しく騒ぎ立てる二人の女子。──自分の、一応の仲間に向かって、彼はドライに話し出す。


 ピッ──


「あっ!!」 「(テレビを)消した!!?」

690『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:14:33 ID:cFeuEibI0
「…さて、くだらない事は後回しです。早く事を収めようではないですか、マスター」

「く、くだらなくなんかないでしょっ??!! 人が死んでるんだよ〜〜っ??!! 魔人のせいで〜!!!」

「…そうだな土間の小娘。願うとあらば、後でこやつらの慰霊の森でも作るとしよう。これで一応の解決にはなる」

「なるかっ!!! 何その自殺した子の墓に苛めっ子達がお線香供える〜的な舐めた発想は??!!」

「フッ。的を得たツッコミだな。流石は火星人だ」

「それでおだてたつもりかっ??!!! こんなので──…、」



「そんな貴様と、マスターにまた手伝って貰おうと思うのだが」



「え゙っ?!」 「え?!!」



「虫取りといこうか、夏らしくな。…宜しいですね? マスター。『ウンディーヌ』というムシケラを………っ」




「………う、うん……………」

「…はぁ〜あ…………」



アメリカ政府が、日本へ報復措置を取るのは実に数時間後。
そしてまた、薄れゆく魔人のタイムリミットも、──蝉の寿命程のか細さ。
──いや、蝉よりももう後が無い。炎天下に置かれたアイスキャンデー程度といったところであろう。


階段をせっせと登っていく中、デデルに背負われている身のうまるはユラユラと。


「…………ぼくなつでカブトムシコンプリートしたから…それで代用できないもの…かなぁ…………。はぁ…………」



随分と大長編になるかもしれない『うまるの夏休み』──。
そんな悪い予感でもう溶け出したい気分だった。

691『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:14:47 ID:cFeuEibI0
【1日目/F6/東●ホテル/1F/階段/AM.04:36】
【魔人デデル@悪魔のメムメムちゃん】
【状態】記憶喪失、魔力消耗(残り8%)、半透明化(95%)
【装備】なし
【道具】なし
【思考】基本:【奉仕→対象:新庄マミ】
1:ウンディーネで魔力を補給。
2:マスター(マミ)に従う。
3:土間の小娘(うまる)には協力してもらう。
4:小娘(山井)に敵対。

【新庄マミ@ヒナまつり】
【状態】焦燥
【装備】ランプ@メムメムちゃん
【道具】UFOの破片
【思考】基本:【静観】
1:ウンディーネを捕まえてデデルさんを助ける!!
2:この水の塊をランプに入れたら魔力が回復するんだって!
3:それにしても『指パッチン』…恐ろしい………。
4:みんなしてわたしの扱い酷過ぎない?!

【うまるちゃん@干物妹!うまるちゃん】
【状態】焦燥
【装備】うまるがやってるFPSのマシンガン
【道具】ジャンプラやら雑誌色々、ポテイトチップスとコーラ
【思考】基本:【静観】
1:死にたくないからデデルを助ける。
2:どうやって助けるって? なんかウンディーネ?っていう攻撃性ヤバいやつを捕まえなきゃならないんだよ〜。
3:あ〜〜しんどいよぉ…。死にたくないよぉおお〜〜〜。

692『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:15:00 ID:cFeuEibI0
【1日目/F6/東●ホテル/3F/廊下/AM.04:50】
【飯沼@めしぬま。】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】なし
【思考】基本:【静観】
1:7階にいるマルシルさんを助ける。
2:ひろしさんと共にこの窮地から脱出する。

【野原ひろし@野原ひろし 昼飯の流儀】
【状態】疲労(軽)
【装備】銃
【道具】なし
【思考】基本:【対主催】
1:海老名ちゃん、飯沼くんを守る。
2:マルシルさん?を助けてホテルから脱出。
3:ウンディーネに恐怖心。
4:新田、ウンディーネ娘(山井)を警戒。

【海老名菜々@干物妹!うまるちゃん】
【状態】疲労(軽)
【装備】なし
【道具】???
【思考】基本:【対主催】
1:飯沼さん、ひろしさんと共にホテルから脱出。
2:ウンディーネが怖い…。
3:新田さん、あの女の子(山井)を危険人物と認識。


【1日目/F6/東●ホテル/7F/室内/AM.04:37】
【マルシル・ドナトー@ダンジョン飯】
【状態】健康
【装備】杖@ダンジョン飯
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:えっ、何この子……!?(山井に対して)
2:え〜っ何このコ〜〜♡(マロに対して)
3:飯沼、まだかな………。

【クン●ーヌ@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!】
【思考】基本:【静観】
1:はっ、はっ、はっ、はっ…

【山井恋@古見さんは、コミュ症です。】
【状態】額に傷(軽)、鼻打撲(軽)、膝擦り傷(軽)
【装備】めっちゃ研いだ菜箸@古見さん、ウンディーネ@ダンジョン飯
【道具】???
【思考】基本:【奉仕型マーダー→対象︰古見硝子】
1:古見さん、四宮かぐや以外の皆殺し。
※マーダー側の参加者とは協力…かな?
2:目の前の変な金髪女を殺害。
3:こんなドブネズミの巣から古見さんを早く脱出させたい。
4:ホテルにいるクソカス共をとりあえず全員皆殺し。
5:クソ犬(マロ)を使って古見さんを見つける。トリュフ探すブタみたいにね☆
6:クソ親父(ひろし)、脂肪だけの女(海老名)、魔人(笑)(デデル)とその仲間共(うまる、マミ)に激しい恨み。

693『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:15:11 ID:cFeuEibI0
※支給品説明…『マロ(クン●ーヌ)@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!』
→佐野の支給品。(現所有者マルシル)
 大型犬。女性を見かけると股座に顔を突っ込む。

※支給品説明…『ウンディーネ@ダンジョン飯』
→只野人仁の支給品。(現所有者山井)
 湿地帯に生息する魔物。
 厳密には精霊(の集合体)。
 圧縮した水をウォーターカッターのように高速で打ち出すことで攻撃する。
 現在、16体に分裂。ホテル2F〜6Fにかけて、『山井恋』・『マロ』・『古見硝子』以外の参加者を無差別に攻撃中。

694 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:16:18 ID:cFeuEibI0
参加者二巡目、完・了!

投下終了します。
引き続き、『支給品:『アシストフィギュア』について』をお送りします。

695『支給品:『アシストフィギュア』について』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:16:51 ID:cFeuEibI0
[登場人物]  [[肉蝮]]、[[兵藤和尊]]

696『支給品:『アシストフィギュア』について』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:17:02 ID:cFeuEibI0
【特殊支給品紹介】
────『アシストフィギュア』


格闘ゲーム『大乱闘スマッシュブラザーズ』に登場するアイテムを模した品。

電気ポット程の大きさを誇るフィギュアで、楕円状のカプセルケースに内蔵されている。
“共闘してほしい”──という強い意志と共にこのフィギュアを天高く掲げると、カプセルが砕け『実体化』。
頼もしい味方が召喚され、損得も信頼も関係なく、戦闘に協力してくれるという、そういった代物だ。

アシストフィギュアの中身は実にランダム。
主催者曰く、『誰が出てくるかはお楽しみに』とのこと。
参加者達の知人から無作為に選んだ人物《のクローン》が登場する為、フィギュアファイターがとんでもない化物や格闘家だったり、はたまた全くの無役な一般人等が出てくる可能性があったりと。
召喚が吉と出るか凶となるかは運次第。

フィギュアファイターは前述の通り、基本召喚者に忠実な働きぶりをするよう作られている。
ただ、一定時間を過ぎるか、または致命傷を負った場合、光と共に跡形もなく消えていくという特徴もある。
──一定時間とは基本約一分程であるのだが、これまた主催者曰く『例外もある』とのことだ。



身体的能力、ハンデ等全く考慮されず、適当に選ばれた一部の参加者に支給されし──このアシストフィギュア。
今後、各々の戦闘活動に於いて、フィギュアファイターの力が、ただの焼け石に水となるか。
それとも渋谷全体を大きく流し倒す大洪水となるか。

いわゆる『サブ参加者』達の行動に目が離せない現状である。



 ここで、アシストフィギュアの使用例について、場面転換することとしよう。

 バトル・ロワイヤル下にて観測上、初めてその使用が確認されたのはゲーム開始から三時間が経過した折。
──時刻04:12:23秒の事。
──場所は渋谷東●ホテルの十階、廊下にて。


支給者No.06『丑嶋馨』の所持していたアシストフィギュアがその芽を開花させた────。

697『支給品:『アシストフィギュア』について』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:17:16 ID:cFeuEibI0



「あぁ〜〜んっ!! イカせちゃうのはァ〜〜〜〜♪──」

「──馬並みの俺ェエ〜〜ッ!!! …ぎゃはははははははッ!!!──」



「──んじゃ達者でなァアアアッ!! オ●ニー尿道プレイ大好きなウシジマァアアアアアアアアア!!!!!!!」



 時刻はAM.03:56:19秒。
 真っ暗な町工場にて、ボッ──と小さな明るさが灯った。焼却炉からヘソのゴマを燃やしたかのような悪臭が漂う。


まさしく【血と金と暴力に飢えた外道】【座右の銘は強盗、殺人、SEX!!】との凶人・肉蝮は、手際よく『ブロック肉達』を焼却炉へ投げ込んでいく。
肉蝮の片手に握られるは、所々刃毀れが見られるドス黒い鉈。
鉈に血染み塗りたくったそのブロック肉は、これまでの人生を酷く冒涜するかのように、黙々と燃え滾っていた。


──ブロック肉はかつて、肉蝮にとって大切な『遊び道具』の一種であった。
──ただどんなオモチャでも思い入れが無い限り、いつかは壊れるか、飽きられ廃棄される運命。
──例にも漏れず、この『オモチャ』もわんぱく心旺盛な肉蝮は“もう使い飽きたから”という思いで。丁寧に解体された上で廃棄処分されていった。


大人になっても童心は忘れぬ、肉蝮は悪臭と共に燃え上がる火を見てこう呟く。


「……くっさ!!!──」

「──…人がせっかく子供ン頃のキャンプファイヤー思い出して浸ってた…つーのに。水差してんじゃねェぞテメェ?!! 普段何食ったらここまで臭くなンだよ?!──」

「──永沢君を見習えよなァッ?! アイツなんか家燃やされても香ばしいオニオンの匂いしかしねーつうンだからッ!!! おい!!──」


「──プッ!!! ぎゃはははははハハハハハハハはははははははハハハッ!!!! 我ながら傑作!! あーはっはっハッハッハッハッハッはははは!!!!!!!!!」



轟々と嫌な煙が昇る中。
静寂な工場にて、イカれ狂った馬鹿笑いが響き渡っていった。
純粋な少年のような目で、そのメラメラとした炎を眺める悪魔──肉蝮。
壊れてしまった肉オモチャを前にして、態度では歓喜を表す肉蝮もどこか寂し気な様子が伺えたのだが、──心配はない。

主催者がかなりの期待を込めて参加させた彼には、まだまだこれからも、沢山の『オモチャ候補』が待っている。
ゲーム強制終了までのリミットはまだ四十時間近く残す今、肉蝮が退屈する事など随分と先の話になる訳で。
今はまだ会わずとも、彼を楽しませる仲間達は十分に存在するのだ。


それに、肉オモチャが燃え切ろうとも、彼のディバッグには文字通りの玩具が一つある。



「……………つーかよォ………──」




「──トネガワの野郎、スマブラが好きなんか…………?」



最後のブロック肉を投げ捨てると同時に、肉蝮は『アシストフィギュア』を持ち上げ一言。
丑嶋から奪った支給品を眺めながら、その使用用途に「?」で一杯の肉蝮であった。

698『支給品:『アシストフィギュア』について』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:17:46 ID:cFeuEibI0



 AM.04:11:14。

 下劣な思考回路の肉蝮の事である。
恐らく、“ヤるといえばホテル”との考えで、彼は近くにあった東●ホテルへと足を踏み入れた。
一階から七階まで、解体中かのようにズタズタとされた内部の惨状には、彼も気になった様子だが特に深堀りはせず。
女の居そうな空間を求めて、彼は現在十階廊下を練り歩く。


「あの人の〜パパになるために〜〜♪ ふんふふふんふ〜〜ん♪ ホテルに来たの〜〜♪──」




「────………あァ?」



ただ、いくら独自の嗅覚を駆使しようとも、そう都合良く被害者女性が現れることなく。
ふと立ち止まった肉蝮が睨む先────、そこにはヨロヨロと老人が一人彷徨っていた。


「…………ジジイ…かぁ〜………。つまんねェー……」


 白髪頭に髭を蓄え、こちらに気付いてるのか否か、クキキキ…と一人で笑うその老人。
気品高い身なりはそこそこの銭を期待《強盗殺人》出来そうではあったが、一方で杖を付きながらも蹌踉めく足取りは、如何にも柔弱そうであった。
コツ、コツ、コツ、コツ………。
映画のシャイニングまんま生き写しかの如し静かで綺麗な廊下にて、杖を付く音のみが鳴る。


「うーーん。…じゃ、とりまコイツでいっか!!」


肉蝮は老人を見てそう呟いた。

彼は別に老人へ特別興味が湧いた訳でもない。
ハッキリとした殺意も無ければ、本当に素通りしてもいい存在であった。

──ならば、どうでもいい奴にはどうでもいい物をぶつけろ────と。

デイバッグからアシストフィギュアを取り出し、取説通り高々と掲げて見せる。


圧倒的戦闘力があり、殺害経験も豊富に持つ肉蝮にとって、全くの不要であるアシストフィギュア。
本来なら武器も握れぬ弱者救済の為の支給品である故、肉蝮には持っていても仕方ない物と言えよう。
彼もその事には重々理解をしていた為、このどうでもいい場面でアシストフィギュアの無駄遣いを結構。

実験感覚──
────というより、アリに妙な薬品をかけて楽しむ感覚で。


「出てこいッ!! ゴラァアッ!!!!!」


肉蝮は、フィギュアファイターNo.03を呼び起こした──。





 ポンッ─────



「よっ! …全く仕方ねェなァ。旦那と俺はボンナカ《友人》みてェなモンだしよ」



「………あァ?!!」



【アシストフィギュア No.03】
【熊倉義道@闇金ウシジマくん 召喚確認】
【概要】
→二代目猪背組理事長の極道。
 やや肥満体で顔に二箇所の刀傷が特徴的。

699『支給品:『アシストフィギュア』について』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:18:00 ID:cFeuEibI0
「あいつ撃てばいンだろ? ったく…こんなチンケな仕事させやがって。…もうこれっきりだからなァ??」

「ンだァ…?! テ、テメェ……マジで出てきやがったし……! どうなってンだこりゃッ?!!」


 肉蝮が目を丸くしたのも無理はない。
冗談半分で何となく出してみたら、本当にゲーム《スマブラ》通りに。
カプセルから巨漢の男が出現したのだから、これが夢なのか現実なのか判断に苦しむ程だった。

そんな主人を尻目に、熊倉は懐へゴソゴソと手を突っ込む。
フィギュアファイターは事前に己の『使命』を組み込まれたクローン達。
故に、「何故自分がここにいるのか」だとか「状況を整理したい」だなんて思考を働かせることは一切なく。


「とりあえずこれが終わったらさ、お礼としてよォ……、」

「は? は? はァ??」



「──新米700kg買ってくンない? 出所は言えねェーけど物は確かだ」




眼の前の老人へ向けて、銃口が正確に構えられた。




 パンッ────

  パンッ──、パンッ──、パンッ────

 パンッ────




「ぁあ?!!」



 リボルバーに込められた五発全てが、一直線に飛んでゆく。
扱い難い回転式銃とはいえ、狙撃者・熊倉は何十年も裏社会を牛耳ってきた熟練者。
老人の顔面を破壊すべく、正確なポイントで弾丸は走り抜ける。
老人と熊倉の距離は5メートルほど離れている。故に、弾丸の着弾時間は0.016秒ほど。
──無論、ほぼ奇襲で放たれた銃撃を、死期が近い老体が避けようものなどできる筈がなく。


彼の命は、虫のごとく簡単に散っていった。





ちなみに、フィギュアファイター『熊倉義道』の稼働時間は設定上、三分三十秒きっかり。
その間は、召喚者の命令がない限りはこの場に存在し続ける事となっている。
戦意静まり返り、僅かばかりだが戦場跡と化したこの廊下には、



──────断末魔をあげる暇もなく、ズタズタに消えゆく『熊倉』と、

────そして、気が付いた時には全身に妙な違和感が発した肉蝮と、



──肉蝮の後ろを、何食わぬ顔でヨロヨロ過ぎ去る老人の姿。

700『支給品:『アシストフィギュア』について』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:18:12 ID:cFeuEibI0
「ぁあッ?!!──…、」




肉蝮が振り返ろうとしたその瞬間、彼の全身に『杖による殴打』の痛みが走り切った。




 ──バシィイイッ

  ──バシィッ、バシィッ、バキバキバキバキッ、バンッッ──



「──ぎぃッ?!! ぎゃぁぁああぁぁああぁああぁああぁぁぁぁあぁぁあああああああああああッッッ!!!!!!!!!」




 腹部、四股、頭部。
何箇所にも渡って響く痛みに、肉蝮とて転がり回ざるを得ない。
痛みに悶える最中、ふと患部を確認すれば、下腿前面の脛骨──弁慶の泣き所は青く腫れ上がり、頭からは軽い傷が生じていた。


“分かんねェ…ッ”

“意味分かんねェし……ッ”


“何が一体起きたんだッ………?!”


地面に投げ捨てられた水生昆虫のようにジタバタ暴れ狂う肉蝮には、この現状が到底解せなかった。



コツ、コツ、コツ………。


またもや杖の音のみが小さく響く中、半狂乱の身とはいえ、肉蝮も唯一分かっていたことがある。
恐らく、──理解も常識も超えている事だが、恐らく。


「…最初から……生まれた時から王だったら、どれほど良かったものか……………っ」

「…ぁああ……ッ?!!」


「初めて銃を握った時……ワシはまだ十五の若造じゃった。血肉貪り、貶め合い、そして米兵を絶命に至らせる…………あの頃は殺し合いの大戦下………………っ。…まだ若かりし……兵士だった頃のワシは、実に醜く…愚かじゃった」

「ジ、ジジィ……ィ………ッ!! がぁあッ……。テ、テメェ…………」


「……まぁその『体験』のおかげで、こうして貴様を返り討ちにできたのじゃがなっ…………? …衰えたものだとばかり思っておったが、案外身体はまだ覚えているものだわい」

「……テメェ……い、一体……………」



「──…………あの幾千の、戦いの記憶がっ……!! カカカ!」




「…………『何をしやがった』…ッ?! …テメェッ……………」

701『支給品:『アシストフィギュア』について』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:18:31 ID:cFeuEibI0
──刹那ほどの猶予もない弾丸の雨を全てはたき落とし、
──目にも止まらぬ圧倒的スピードで、熊倉を再起不能に倒して、
──肉蝮を全身何発も叩き殴った。

────これら全てを杖一本で。しかも0.016秒以下で。



──恐らく老人は熟してみせたのだろうと。────



“こいつは一体、何者なんだ…………ッ?!”



全身の悲鳴が癒えるのを待つ中、肉蝮はもう思考崩壊寸前で唾液を漏らし続ける。




《老兵は死なず》
────制裁の乱れ打ち【武士道】。


「ききき……。負ける訳にはいかん……いかんわけなのだっ…王は………………っ!!」





エレベーターに乗り込む老人──兵藤和尊会長。
彼の手にもまた、未開封の『アシストフィギュア』が息を潜めていた。



【アシストフィギュア No.03】
【熊倉義道@闇金ウシジマくん 消滅】

702『支給品:『アシストフィギュア』について』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:18:44 ID:cFeuEibI0
【1日目/F6/東●ホテル/10F/AM.04:15】
【兵藤和尊@中間管理録トネガワ】
【状態】健康
【装備】杖
【道具】アシストフィギュア、懐にはウォンだのドルだのユーロだの山ほど
【思考】基本:【観戦】
1:展望台の頂上から愚民共の潰し合いを眺める。

【肉蝮@闇金ウシジマくん】
【状態】全身打撲
【装備】鉈
【道具】なし
【思考】基本:【マーダー】
1:不可解の集合体である現状《殺し合い下》に頭が悩む。
2:ジジイ(兵藤)、クソガキ二人(ネモ、ヒナ)の顔を覚えた。絶対に復讐する。
3:皆殺し後、主催者の野郎とスマブラをする。

703 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:19:25 ID:cFeuEibI0
投下終了です。
ラスト、『焔のはにかみや』で締めます。

704『焔のはにかみや』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:19:47 ID:cFeuEibI0
[登場人物]  [[池川努]]、[[野咲春花]]

705『焔のはにかみや』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:20:04 ID:cFeuEibI0
 やあ。
僕の名前は池川努。中学三年生さ。
運動不足気味で最近やや肥えてきたところがコンプレックスなんだけども、まぁその内危機感湧いて肉体改造にガチるだろう。その内。
とにかく、痩せればそこそこに顔が整っている少年。それが今宵の語り手、僕──池川努だ。
とりあえずよろしくね。

 さて、早速だけど一つ君達に訊きたいことがあるかな。
…なに。
簡単な質問だよ。身構える必要なんかない。
二択だからね。
こちらも選択次第で態度や考え方を変えるとか、そういうつもりはないからさ。
悩むことなく、本当に直感で答えてもらいたいね。
ゲームで名前決める時「ああああ」にするくらいの適当感覚で望むといいよ。ふふふ…。

では、行くよ。



QUESTION.
──『正義』の反対とは、ずばり何か?


→1:『悪』
 2:『正義』

706『焔のはにかみや』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:20:31 ID:cFeuEibI0
 …………答えを導き出せたかな?
正直、君らがどちらの選択肢を選んだかは僕にとってどうでもいい。
…というか、そもそも質問じゃなかったね。
これ、問題だから。明確な答えがハッキリと用意されている問いかけだからさ。ははは、ゴメンよ。

 ズバリ、『正義』の反対は、二番。
────『また別の正義』であるわけだ。
これはつまり…見方を変える、ってことなのかな。
ニュースや世間一般、そして我々が思考停止で『悪』と決めつけている存在も、違う視点から捉えれば『正義』。正しく義にかなった存在となるわけなのさ。

例えば、昨今。
三年に一回のペースで、どこぞの無職が子供を無差別殺傷する事件が報じられるけども、アレも正義。
殺されたガキ共の中にはさ、普段同級生を散々に虐めてる『死んで当然の存在』がいたかもしれない。
いや、虐げられる対象が何も人間だけとは限らないよ。
クソガキは無邪気だからね。日頃、なんの意味もなく虫や小動物を踏み潰す奴が、被害者の中にいてもおかしくなかっただろうさ。
つまり、その虫共、虐げられる者達からしたら、無敵の人はまさしく『英雄』なのだ。

また、例えるなら、…これはかなり昔話になる。
第二次世界大戦で日本に、広島と…あとどっかにヤバいミサイルが落とされた事件は有名だろう?
教科書では、最大の虐殺行為だなんて恨めしく綴られている出来事だけども、アレもまた『正義』だ。
…これは何もアメリカ人からしたら正義の行動とかって言うつもりはないよ。
僕ら日本人の視点に立ったとしても、ミサイル投下は正義の行いといえるんだ。
あの……──…あ、思い出した。原爆投下だ。
原爆で焼き殺された人々の数は(授業ボイコット勢の僕は)詳しく知らないけども、何万人も死んだ中には、心から死を希望した者もいるはずなんだ。
上司に叱られるなり、家庭で嫌なことがあったりしてね。
「あぁ…死にたい…」「死にたい死にたい死にたい…」「楽にならないかな。今すぐ…」とかさ。
そういう苦しみつつも死ぬことさえままならない、彼等死亡志願者にとっては、原爆投下はまさしく青天の霹靂。
あの灼熱の光は、彼らを結果的に救えたのだから、まさしく『正義』と言えるよね。

……さて、長々とお話をした終えたところで、「結局お前は何を言いたいんだ」ってことになるんだけども。
それはだね。
まーズバリ、一言で言うと、………。

……とりあえず後回しで。
いや悪いね、なんか急に喋る気分じゃなくなったんだ。
後々、必ず…必ず話を戻すから「気まぐれな奴だなあ」と呆れるぐらいでご容赦してくれ。


 じゃ、本題に移るよ。

何となくで立ち寄ったモ●バーガー店、ガラス寄りのテーブル席にて。
今後に備え、タンパク質《てりやきバーガー》をモリモリ摂取する僕と、包み紙に一切手を付けず、今はまだ夢の中の彼女。
ぱっちり二重に柔らかそうな頬、そして長い髪が香る彼女の名は──野咲閣下。
…しみったれて退屈な田舎村に現れた、あまりにも可愛すぎる存在さ。

背もたれを寄り掛かる閣下は、実に苦しそうな様子で目を覚まし、


「……んんっ…………、ん…………………」


「…お。…お目覚めのようだね」

「………………ん…………えっ? ──」



「────……ッッ!!!!」


──彼女と目が合った刹那、僕の眉間ギッリギリにナイフが突き出される。
…正直自分の反射神経の良さに驚きを隠せなかったよ。我ながらね。
本当に気が付いたら刃先が目の前にいて、気が付いたら包丁握る彼女の手首を掴んでいたのだからさ。

それにしても美しい花にはトゲだか毒だかがあるらしく。…小柄な見た目とは裏腹に、閣下の凄まじいものだったね。
真宮君や久我のようなバカ共なら、この一瞬で簡単に命を絶たれていただろう、あんまりすぎる力だったよ。

ただ、僕は彼等愚かな者共とは違う。
刃先が命欲しさに震える『スリル』という喜びを感じながら、僕は閣下にこう申したのさ。
穏やかで、冷静な口調を意識しつつね…。(あと冷や汗をたらしつつもね…)


「…の、野咲くん。まぁ理由が理由だからね。僕に強烈な殺意が向くのも仕方ない。君を責めるつもりは全くないよ。…ふ、ふふ」

「………ッッ」

「…ただ、信じられないだろうし信じる気もないだろうけど聞いてくれ」

「……………うッ、くッ…………」



「……本当にごめん。申し訳ないよ」

707『焔のはにかみや』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:20:44 ID:cFeuEibI0
「………………ッ、え………?」

「……謝って済まないくらいの事をしたのは分かっているさ。…それでも僕の真意を、心からの反省を聞いてくれ。……本当にごめん、悪かった」

「…………………えっ」

「……それとさ。…これまた信じられないだろうし信じる気も以下略だろうけども………。聞いてくれないかな。──」



「──僕は………君を守りたいっ…!!! 野咲くんを優勝させたいんだ………!」


「………………………………え」




「…だからさ、何となく僕を信じて、一旦話そうじゃないかな?」



「………………」



 …一週間くらい前かな。
仲間内のノリでね、僕は閣下の御自宅と、御家族を焼き殺しちゃったという過ちを犯したんだ。
アツイアツイ〜と、鬼のような目をしてのたうち回る御両親に、真っ暗な周囲を轟々と照らす大火災。…何も無いクソ田舎最大のビッグイベントだったよ。本当にあれは。

最初こそはラインを超えてしまったゾクゾク感と、なんにも悪びれてない自分に酔いしれててウキウキだった僕だけども、……後悔したよ。
野咲閣下に殺されて地獄に落ちて、経血臭い泥沼に漂いながら、僕は山程自戒させられたんだ。
…自分が嫌で嫌で仕方なくなりそうだった。
…野咲閣下の御殿に、主犯格みんなで線香とお参りをしたい気持ちだった。
どんまいだよね、野咲閣下は…。


だからね。
諸君らも、そして閣下も信じられないだろうし、…現にナイフ握る手の力は全く緩まなかったんだけども。

──野咲閣下に詫びたい────。

──そして今度こそは閣下をお守りしたい────。

僕の発言は、嘘偽りない、『正義の心』だったんだよ。


黒く淀んだ閣下の目をガッチリ合わせて、僕はニヤリと笑ったんだ。



「…だからさ、降ろさないかい? …ナイフ。なぁ頼むよ…。ふふふ………」


……とね。







「………なんで」



「…なんだい?」




「………なんで…………生き返ってるの……………………っ?」


「……え?!」




…あー、
そうかそうか。

まず話はそっからだよねー………。

708『焔のはにかみや』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:20:56 ID:cFeuEibI0




……
………

「………………祥ちゃんのこと、…しようとしてたんでしょ…………………」

「え? 何がだい?」

「………………その………、………えっちな…こと………」

「…………え」



──“出てこいよ野咲ィ!!! 池川なんかテメェの妹犯そうとしてたんだぞ!!! ハーハハハ!!!!”



「ッ!????! ち、ちち違う!! あれは〜…誤解さっ!! 僕は決してやましい事はしてないよ!!? 信じてくれ、野咲くん〜!!!!」


「……………信じられない…。………信じられるわけないよ…。──」

「──何も…かもッ………」


「…こ、困ったなぁ……」


…僕が閣下の妹をヤろうとしたか否かは、君らの想像にお任せするよ。
本当に真宮のクズといったら……もう!!
…ふっふふふ………!


 あれから十数分。
刃先がギラギラと光を反射する中、未だ僕らは一進一退の攻防《会話》を続けていた。
…まぁ攻防といっても男女間の力の格差があるからね。
僕の太い腕と対峙して、閣下のナイフを握る力は徐々に弱まってきた様子。
比較的僕は優位な状況とはいえ、それでもナイフは怖いからさ。彼女の手をテーブル上に抑えつつ、僕は会話を試みてる現状だ。
見境なく襲い掛かる野生動物同然だった閣下もね、色々疲れてたんだろうな。…今は、少し諦めた様子で、話す気になってくれているよ。

閣下の肌白くて綺麗な手を撫でるように抑えて、僕は彼女の目を見る。
……やはり君の美しさは毒だよ。…猛毒クラスさ。
ははは……。


「…………………何が君を守る…なの。…何が優勝させる……なの。………信じられるわけないでしょ…………今更」

「…え? まだ言うかいそれ……」

「………本当は今だって、私の事殺そうとか思ってるくせに………………。…何が……、…何が目的なの………」

「そ、そんなぁ!! 目的も何も、本当に君のことを守りたいんだよ僕はぁ!! 生まれ変わったのさ、本当だよぉお──…、」


「…信じられないッ!!!」



「………えぇ〜…」



「…もう離してぇえッ!!!!! 触らないでよォッ!!!!! 池川君ッッ!!!!!! もう嫌ぁ…ぁあ、……ッ!!!!」


「………うわ!! う、う〜〜ん………」

709『焔のはにかみや』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:21:07 ID:cFeuEibI0
 触らないでとか言われちゃったよ…。いやぁゲンナリだね。
あっ、でも僕のことを『君』付けで呼んだのはかなり心が踊るかも。…ふふふ、プラマイ0だねっ…!

髪を乱してジタバタ暴れる野咲閣下……。彼女の姿は実に痛ましく、……その態度は忌々しささえ感じたよ。
……やましい気持ちなんかない。僕は純粋に彼女を守りたいし、一緒に行動したい。…それだというのにだ……。
一度失った信頼を取り戻すのは難しい、って本当のことなんだね。
…本当に困ったよ。
彼女の心をガッチリ掴むようなイケメンワードを絞り出さないと…って、僕は頭を必死で絞り出したね。

あぁ困った。…実に悩ましい………。


「………うーーん…………。…野咲くん、考えてくれないか?」

「…な、何がッ……!! 何がなのッッ!!!! ぁぁぁあああああああああ…………!!!!」


…ごめん、ちょっとタイム。
なーんで女の子っていつもいつも皆無駄にヒステリー起こすのかなあ………。
喧しくて話にならないよ………。……正直、かなりしんどいね、もう。

…まぁそこをグッと堪えるのが男の役目なのだろうけどさー。


「君はさっき、『本当は私のこと殺そうとしてる』と言ったけども……。なら、何故君は今生きているんだい?」

「…………………どういう事…ッ」

「何せ、さっきまで君は寝てる…というか気絶したわけじゃないか。意識のない、隙だらけの姿だよ──」


…そして好きだらけのその姿……。あぁ、野咲閣下、君は美しい………。


「──…君に何があったのかは聞くつもりはないけど、君を殺す機会ならいくらでもあったわけさ。僕はね?」

「………………ッ」

「それだというのに君は眠りから無事覚め、こうして生きているわけだ。…しかも、ボロボロの君を発見し、ここまで運んだのは紛れもなく僕! いや〜〜疲れたもんだよ、あれは〜」

「……なに、なんなの………………っ」

「…そこまでして、今現在君に殺されかかっているこの僕さ──」

「──これは野咲くんへの殺意がない、立派な証明になると思わないかい?」


「…………………だから、…何なの……って聞いてるでしょ……」

「『何なの』とは?」


 野咲閣下はそう言って、カフェラテから伸びるストローに口吻する。言わずもがな、気絶中の彼女用に僕が頼んだドリンクだ。
あぁ、望むものならそのストローになりたい気分だよ僕は………。
清涼な唾液で舐め回される彼が羨ましい…。
思えば野咲閣下、あれだけ声を荒げたというの唾が下品に飛んでくることなど無いのだから驚きだ。
そういう細かい所も自然に謹んでいるから、僕は彼女に惚れたのだろうね………。
…そう思う一方で、閣下の唾を浴びたかったという欲望も僕にはあるがね。…ふっふふふふふ……。

ま、それはともかくとして、彼女がカフェラテを飲んだというこの行為。
これは即ち、僕にとっては大チャンスとも言えるんじゃないのかな?
どれだけ喉が乾いてたのかは知らないけども、この緊迫下で野咲閣下は飲み物を飲むという『余裕』を見せたのだから。

つまりは、安堵というかね。
僅かばかりとはいえ彼女は僕に気を許しつつはあるのさ。
さぁこの優位になりつつある展開、どう出るかは僕次第だ!!

710『焔のはにかみや』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:21:19 ID:cFeuEibI0
「……本当にもうッ……………。訳が分からない…………。何なの、何がしたいの池川君はッ……………………」

「…くっ。た、頼むよ! 僕を信じてくれって野咲くん!! 君を守りたい、その一心なんだ!!! どうしてそんなに意固地なんだい!!!」


…いや、『どうしてそんなに意固地なんだい』って。
セルフツッコミするようだけど、まぁそりゃ僕のこと信じられないよなぁ………。


「…も、もう………分かったから……………」

「えっ?!」


…と言ってる間に、ついに閣下から承諾のお言葉が。
え、何で?! 何故、急に僕のキモチを分かってくれたんだ?!!
何がキッカケかは知らないけども……、僕はこの時はち切れそうなくらい絶頂の思いで──…、


「もう分かったから…手を離してッ!!!! 近寄らないで!! 嫌だから…もう嫌なんだからぁ………ッ!!!! もういなくなってぉおおおおお……!!!!」

「……………………えぇ…」


…いや、まぁ………分かってたけどね。
僕も分かってたよ、こんな反応することくらいさ…………。
…にしても、どんなイジメを受けてもションボリするだけだった閣下がここまで取り乱すとは…、ちょっと意外。
…というかギャップ萌えかなー。


「の、野咲く──…、」

「もうやめてぇええええええええッ!!! 嫌、嫌々嫌…嫌ッ!!!!!! 話しかけないでよッ!!! お願いだからぁああああああッ!!!!」

「…………………」

「ぁぁあああああああああああああああ!!!!! あああああああああぁぁぁ…ぁぁぁ………」

「………そ、その……」


「ぁぁぁ………。…………ぁ、あ………。……っ、……うっ………………ぅっ……………」

「…………」



「……もう分かったから…………。うっ………、私に…関わらないでよ…ぉ………………………」

「………………。…………」


 …唐突に怒り狂ったかと思えば、今度はシンミリ涙を流す閣下。…そのお姿…。
彼女の瞳からこぼれ落ちる結晶は、凛と咲いた花の朝露の如し、清純さだったよ…。
回想すること一ヶ月くらい前。いけ好かない相場君のやつが、野咲閣下を『ミスミソウのようだ』…だなんて呟いていたことを思い出す。
その声に、何となく気になって調べたところ、……もうね、もうね。ふざけるな!!、ってね。
あんな交通事故跡の電柱に手向けられてるような花、…陳腐なミスミソウ如きと彼女を一緒にするなっ!!! って、僕は思ったよ。
僕ならさ、薔薇とか、世界一価値が高い花に彼女を例えるのに、本当にアイツは何も分かってないよね……。
…相場、だからお前友達いないんだよ。ってもはや呆れる次第だったよ。

……………まぁともかく、その美しい薔薇は半狂乱かつ、涙ながら懇願するほどに、
────僕の事を拒絶していた様だった。

…無理もないね。
なにせ、彼女の眼の前にいるのは、自分を散々虐めた上に、家族を焼き殺した張本人なのだから。
見た目が生理的に嫌だから、とかそういう理由で僕を拒絶してるわけでは決してッ…!!! 決してッ、ないんだろうけども、…主義主張関係なく僕を嫌うのも仕方なかった。


……つまりは僕が何を言おうとも、もう無駄なわけなんだね、これが…。

711『焔のはにかみや』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:21:34 ID:cFeuEibI0
「…ごめんよ、野咲くん」

「っ、ぅう…………。……謝らなくても、いいから………………。…もう、構わないで………………」


「…………」


気が付けば、彼女の手はもうナイフを握る力もなく弱々しい。
弱々しいといえば抵抗の時、閣下の手は微弱ながら震えていたけども、あれは純粋な恐怖の表れだったんだろね。

僕にとっての野咲春花くんはもはや天の上の存在。閣下だ。
「眼の前から消えて」との、閣下の命令があらば、従うのは下僕の使命。
それが例え不服な指示だとしても、どんなに屈辱的で…殺したいくらいの怒りを覚えたとしても……僕は従わなきゃいけない。
なぜなら、僕はどうしようもないくらいに…野咲閣下を愛してしまったからさ……。


「……………ごめんね、……野咲くん」


「……………………………っ、ぅっ………、ぅぅ…」



 彼女のスベスベした右手を離し、それと同時に僕はこの場から身も離れていく…………。
心の痛みを堪えつつも、僕が向かう先は出口付近。
ゆっくりと重い足取りで、僕は指先をまっすぐ伸ばしていった。






 ピッ

 ──『モ●バーガー 単品 330円』



「………………えっ?」


「……ふふふ! 見て驚くなよ、野咲くん!!──」

「──不思議なもんだよね。…券売機でボタンを押したら三十秒後…………こうだ!!」



 ポンッ!!


「わ!!」


野咲閣下のただでさえ大きい瞳が、さらに丸く開かれる。
…ふふふふ。無理もないね。
なんの前触れもなくテーブル上にて、自分の眼の前にポンッと!! 温かいハンバーガーが現れ出したのだからさ。



 ふふふ。
ふっふふふふふ…!!
君達、僕がこんな簡単に諦めるような男だと思ったかい?
悪いが、僕は自他共に認めるネッチネチな粘着質でね……。

野咲閣下に拒絶された位で泣く泣く後を去るようじゃ、あの時真宮君とともに野咲討伐計画は立てていないってのさ!!
ふふふふふ…。


「ほら、面白いだろう? それよりもお腹空いてないかい? よかったら遠慮なく食べていいんだよ! 僕の奢りさ」

「…え、え…………?」

「トマト入ってて、トローリとしたチーズにミートソースが合うこと!! モ●バーガーだよ。僕ら田舎者からしたら馴染みのない店だけどね。ふふ……」

「…………なに、これ…?」

712『焔のはにかみや』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:21:47 ID:cFeuEibI0
 僕が今取ってる行動は、ズバリ作戦変更だね。
どれだけ閣下への熱い想いを伝えようとも、振り向きさえしてくれない今。
ならばならばと話題そらしで、違う所から話して、距離感を徐々に縮めていこうという寸法さ。

なんだか知らないけどボタン押しただけで料理が出現する魔法みたいな世界《殺し合い下》…。
さっきからずっと俯き加減だった閣下も、これには流石に興味津々といったご様子で…。
さしずめこの魔法は、僕と閣下を辛うじてでも繋げさせれた潤滑油的な物といえるかな。
…いや、潤滑油というよりも…………、はは。ロマンス的なことを言うようで悪いけどさ。

『キューピッド』って感じかな。この魔法は───。


「…隠さなくてもいいさ。お腹、空いたんだろ?」

「………」

「…あ、心配はいらないよ。毒なんか無いから」

「…え?」


呆気にとられる閣下の元へ、僕は店員に負けないくらいのスマイルで近寄ると、
パクリッ……モグモグ。


「…うん美味い! ご飯三杯待ったナシの旨さだよ、なーんちゃって。はははは〜」


「……………………」


出来立てのハンバーガーを豪快に一口。食べた断面を彼女へ向けて差し渡した。

人は食べなきゃ生きていけない。
食べずにあるのは死が待つのみ。
ふと空耳か否か、彼女のお腹からグゥ〜…とお手本のような虫の音が聞こえた気がしたよ。
…ふふふ、可愛い奴め。野咲閣下は。


僕は閣下の下僕さ。
忠実すぎるくらいの良くできた僕従。
彼女の幸せこそが一番の生きがい、そんな存在だ。

閣下に少しでも笑顔を取り戻すことができたら………ってね。

僕は彼女が心を開くその時まで、寄り添うつもりなのさ。
そう、いつまでも…………。



「………う、うん。……じゃあ、買ってくるから……」

「…ぇ゙?!」


 ピッ

 ──『モ●チーズ 単品 350円』


「…三十秒くらいで……来るんだよね…………………?」

「え、あ、ああ!! ハンバーガーの自販機みたいだよね〜! ふふふ〜……」



……おいおい野咲閣下。
さすがに僕の食べかけは口にしたくないかい…………。

713『焔のはにかみや』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:22:03 ID:cFeuEibI0




 食べ方が美しい女性、というのもいる。
給食時間。僕の周りのクラスメイトなんか、飯を食べてる最中だというのに、ギャハギャハ笑いながら口を開いて、咀嚼物が丸見えだというのだから品がないことこの上ない。

ただ、その点野咲閣下は違ったのさ。
食べるという行為をまるで恥じらうかのように、慎みを以って食す。
横髪をかき上げ、ハムスターかリスのようにハンバーガーを頬張っては、清く正しく一回一回咀嚼し、飲み込む。
僕が話しかけた際には、必ず飲み込んでから声を発する。
たまにトマトソースが口元に付着したら、こっそりと指で拭い、そのタレを一舐めしたりさ。
最後はカフェラテでハンバーガーを胃へ流し込むという完成形だ。

彼女の食事風景は芸術的価値さえあった。
そして、この珍奇な料理提供、空腹の満たしこそ、僕と彼女を繋ぐ架け橋でもあったのさ。
──…もっとも、僕自身が健気に笑顔と愛想を振りまいた面もあるんだけどね。

ただ、ここで一つ。しょうもない事だけども疑問が湧く訳なんだ。


「………ご馳走様でした」

「…しかもしっかり『ご馳走さま』まで言う礼儀の良さ…。やはり閣下は美だよ、美の骨頂だ……」

「…え、…何………?」

「あ、ごめんごめん!!! 独り言だから触れなくてもいいよ、野咲くん」


Question.
『このハンバーガーの『調理工程』は一体どうなっているのか』────ってね。


 結果には必ず過程、料理には必ず調理工程がつくものさ。
ボタンを押したらポーンと何処からか出てくる、このモスバーガーであるものの、僕が気になった点は『ラグ』。
ハンバーガーが出てくるまでの『三十秒』という謎のラグが、妙に引っ掛かって仕方ない訳なんだ。
…もしかしたら、そのラグは調理時間。つまり、バックヤードには調理人がいるのではないのか……? ってさ。


「………ハンバーガーありがとう。………じゃあ私、もう行くから……」

「…え?! いやちょっと待ってくれよ野咲くん!!!」

「………………ごめん。………私、時間がもう──…、」

「そ、それは分かってるさ!! ただ君はまだ食後間もない! 焦らずともまだまだ時間はあると思うけどね……?!」

「………何? ……………私、池川君とは…もう──…、」


「気にならないかい? 君も、…バックヤードではどうなってるのかをさ…」

「………え?」



 ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピ……

 ──『モ●バーガー 単品x10 3300円』



「……えっ?!」

「見てみようじゃないか…! 未知なる世界を!!」



だから、僕はボタンを連打した。

…僕の見立て通り、さっきまでは気付かなかったけども、奥のバックヤードからはジュゥ…と調理開始の音が聞こえ出す。

……調理工程の真実なんて、ぶっちゃけどうでも良いんだけどね。
本当にクソほど興味なんかなかったよ。
ただ、未だ警戒心が解けてないとはいえ、ハンバーガーの魔法のお陰で、閣下とは距離感を縮められつつある。
閣下はこの不思議な現象に興味をいだいているのさ。

ならば、この機会を逃してたまるかってね。

714『焔のはにかみや』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:22:25 ID:cFeuEibI0
「さぁ行くよ! 野咲くん」

「え、ちょっと……。…あっ!!」


彼女の手を引っ張って、僕は銀色のドア《バックヤード先》へ走っていったよ。





 タ、タ、タ、タ、────バタン。



「…はぅあ!!!?」


 世にも不思議なモスバーガーの秘密。
企業秘密とも言えるその裏側の世界を目にした時、僕はもう目眩がしそうだったね。


「……────あっ」

「な、なんだ…これは………?!」


無人の調理台。無気配の冷蔵庫。そして無傷、欠陥一つない真っ平らの鉄板。
人知れずして加熱し続けるその鉄板上に、突如として、またしても『無』から生のパティが続々出現《浮宙》していく。
そいつらは注文通り十枚、宙に並んだ瞬間、パーン…と鉄板へ落ちていき……。
アッツアツの鉄板で、肉汁滴らせながらソイツらは焼けていった。
…その傍らでは、まな板上にてまたしても無からバンズやトマトが生成され、肉が焼けるのを今か今かとウキウキで待っていたんだ。

不意に、風に飛ばされたかのようにパタパタパタパタパターンっ、とひっくり返るパティ達。
よく見れば焼き加減も均一で正確だ。

無人調理の究極系が、そこにはあったんだよ………。


「いやなんか気持ち悪…!! な、何だこれは……。一体どうなってるんだ、これは………」


…『魔法のような』とは言ったけど、これもう完全に魔法そのものだったね。
じゃないと、何の気配もなくして黙々とスライスされていくトマトの説明がつかなかったよ。
あまりの光景に、マジマジと鉄板の近くまで覗き込んでもそのタネや仕掛けが見当たらない。
僕に許された行動は、鉄板の熱気に怯んで顔を戻すくらいさ。…本当にわけがわからなかったよ……。

…まぁ別にこれとて、大層な興味や好奇心が抱かれたというわけでもないけどね。
この謎解明については、どっかのバカな名探偵気取りにお任せするよ。

ただ、僕自身は一切興味を惹かれなかったにしろ、閣下はまた別。
年頃の女の子らしく、気になることには何でも首を突っ込んじゃうであろう野咲閣下さ。
彼女に合わせ、好奇心あるフリをしながら、僕は彼女の方へと顔を向けた。


 ジュウゥゥゥゥゥ……


「…す、すごいね。……これは一体何が起こってるんだ……──」

「──ねえ、野咲くん!!」





 ジュウゥゥゥゥゥ…………

  バチバチバチ……





「……野咲くん………………?」

715『焔のはにかみや』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:22:40 ID:cFeuEibI0
 ……しかしどういったわけか、野咲閣下からの反応は無かった。
本当に無だよ。無。この目を疑う光景を前にして、彼女の返答は沈黙すらもない、完全なる無の表情だった。
…僕もねぇ、虚を突かれたって感じかなあ。
予想打にしなかったね。彼女のリアクションの皆無っぷりはね…。
あまりに無っぷりが酷かったから、思わず僕はそっと声をかけたよ。


「の、野咲くん……。どうしたんだい? …もっと驚かなくちゃ──…、」

「…………………ゃ、……ゃっ…………………」

「へ?」



「…………ちゃん………っ……、っ、と……さ…………。おかぁ…さ……………。ゃ、…………………」


「ふへ??」



 バチバチバチ……

  バチバチバチ……


 ジュウゥゥゥゥゥ…………
  

わけのわからない調理工程を前にして、閣下がボソボソ呟くのは聞き取れない言葉ばかり。
…これは、驚きのあまり声を失ったってことなのかな……? ってね。
僕は超さり気なく、彼女の小さな肩へポンと手を置いたよ。



 ジュウゥウウウウウウウウウウ…………………ッ、バチバチバチ…………





────今思えば、これが命取りだった。

────僕は、物凄く回りくどい『自殺』を、無意識のうちにしてたんだな、って。後悔したな。




「ひっ…!! 嫌ぁああああぁぁああああああぁぁああああぁあああああぁぁぁああああッッ!!!!!!!!!!!」



「え?!」




 彼女が。野咲春花閣下が無表情だった理由。
いいや、無の顔つきなんかじゃない。
彼女は怖かった。トラウマを思い出して心がミキシングされていたんだ。

──肉が焼ける、『火』を見て。


 ジュウゥゥゥゥゥ…………


「離してぇええええッ!!! やめてえええええええええええ!!!!!!!!! お母さぁあああああんッ!!! お父さあああああああああああああああああッ!!!!! 祥ちゃ、祥ちゃぁああああああああぁぁぁぁああああんッ!!!!!!!」


「え? え?! の、野咲くん!!? どうしたんだ、いきなり大声──…、」

「あぁぁぁあああぁぁあぁあぁあぁぁあぁあぁあぁあぁあぁああああああああああぁぁぁあああぁぁあぁあぁあぁぁあぁあぁあぁあぁあぁあああああああああああああああッ!!!!!!!!!」



 そして野咲閣下は、思い出した事だろう。
家族をジュージューにバーベキューされたあの日の事を。
あの時のキツイ肉の臭いも、何もかもすべてを。

──燃やした張本人達の卑しい笑顔も。



 ジュウゥゥゥゥゥ…………


「…嫌だ、もう嫌だ嫌だ嫌ぁああああぁぁぁぁああぁぁあぁああああッッッ!!!!!!!!! いやぁあああああああああああああぁぁぁぁああぁぁあぁああああッッッ!!!!!!!!!」

「ののの、野咲くん?! と、とりあえず深呼吸だ!! しんこ──…、」

「────ィッッッ!!!!!!!」




──そして、僕のことも。

716『焔のはにかみや』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:22:53 ID:cFeuEibI0
僕がスケベ心で肩に手をおいた時。
彼女は狂乱した心の中で、こう思ったんじゃないのか。




“コイツ ハ、”



“私ヲ、”



“焼キ殺ソウト シテイル”




“マタ。今度コソ”





 ジュウゥウウウウウウウウウウ…………………ッ、バチバチバチ…………



…弁明させてくれ。
僕は本当に彼女を殺すつもりなんかない。
尊敬していた。リスペクトさ。
閣下の為なら、ボロ雑巾の様に戦い抜いて、最後には涙ながらのキスをされる…とか、そういう妄想を抱くくらいに愛してたんだ。
これは本当さ。

本当に彼女を守りたかったんだ。…今度こそは。



──だが、そんな熱い想いなんてオロナイン程の役にも立たないくらい、彼女の心は火傷まみれで。

──僕なら彼女を救えるという考え自体が見当違いすぎて。


──というか、彼女の人生を舐めすぎていたんだ。



────僕は。



 ジュウゥウウウウウウウウウウ…………………ッ


「やめて…」



 ジュウゥウウウウウ…………………ッ


「え、安心してくれ!! ここには誰も……──…、」




 バチバチバチバチバチバッッッ──





  ──パンッ




「もうやめてェェぇぇぇぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええッッッッ」



 ザシュッ────

717『焔のはにかみや』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:23:06 ID:cFeuEibI0
憎悪と狂乱に満ちた表情を浮かべ、閣下は持っていたストローを突き出す。
予想外の行動に、…僕は為すすべがなかった。


「ぎぃいっっ?!!?」


…喉が焼けるようだったよ。熱くて溜まらない……。
喉を抑えた時、ストロー口から面白いくらいに血が脈々と流れていって、……起動を塞ぐ異物感と激しい痛みで、目が大きくかっぴらいた。


「ぎっ…がががぎゃがぁ……あああぁぁぁ……ッ、かががぁかぁ…あいぁぁ……ッ!!!!!!!」


あの時の僕はパニックだった。
細々ながら喉の肉を突き破り、どんどん下へ吸い取られていく血のジュースには、もうどうすればいいのかな、って。
とりあえず出血を抑えるために、ストローの先を自分の口に入れようって、折り曲げようとしたその時。


「がががっ…ぎゃがぁああ…──…、」


「あぁぁぁああアアァァァアアアアアァァァァァアあぁぁあぁあぁあぁぁあぁあぁあぁあぁあぁああああああああアアアアアああああッッ!!!!!!!!!」


「ぎびっ?!!!」



僕の頭は鷲掴まれ、
熱々の鉄板へと無理矢理に押し付けられた。


[焼き加減の目安:ウシ 三十秒。ブタ 五十秒]──と書かれた、台のメモが妙に印象的だったよ────。




ジュウゥウウウッッッッッッッッッ────────


「ぃぃぃっ?!!! ぎぃぃぃい゙ぃ゙ぃ゙ぃ゙い゙い゙ややぁあああああああああああああああ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙アアアアアアアアアアアアアアァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!」


「嫌嫌嫌嫌嫌嫌ぁぁぁぁぁぁあぁぁぁああぁあああああああッッ!!!!!!!」



「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙────────────────────ッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!」



 …人間って燃やすと、こんなに臭かったなぁ…って思ったな。
顔面一杯に、あっという間に爛れて、赤黒い肉が脂を撒き散らしながら焼けていく。
目玉は鉄板に張り付いて、唇は溶け消え、歯が灼熱の犠牲と化す。
顔中何もかもが熱くて激痛で、耳からは湯気が出た気がした。
呼吸ももはやままならない。一度吸ったら、流れ込む熱気で気道内すべてがズタズタだ。
脳が激しく暴れ揺れる感覚は、…当たり前だけどこれが初めてだった。


ジュウゥウウウウウウウウウウッッッッッッ────────


「ぎびぃいいぃぃいううういいいいいいいいいいいいいのざぎぐぎゃばぁああああああ!!!!!!!!!」

「ぃッ……!!!」


あまりの醜臭からか、閣下は一度僕の頭を持ち上げた。
ギトギトな僕の髪を無理矢理引っ張って、彼女は歯軋りを鳴らす。

718『焔のはにかみや』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:23:25 ID:cFeuEibI0
この瞬間は比較的安らぎだった。
片目は炭化し、もう一方の片目は餅のようにびよーんと鉄板から伸びる。
力いっぱい引き上げてもなお、鉄板から伸びる赤い顔面肉はチーズを彷彿とさせられた。

筋肉剥き出しで、グッチャグチャになった僕の顔面。
束の間だが、鉄板から離れられたこの瞬間はクーラーで冷え切ったかのような心地よさがあったよ。何故だかね。


まぁ、あくまで『束の間』なんだけども。


「ひゃ、ひゃ…ぁ………ぁ……。ひゃ、びゅ………ば…………」

「嫌ぁあああッッッ!!!!!」


 ドスッ

ジュウゥウウウウウウウウウウッッッッッッ────────



「ぎんぎぎぎぎぎぎぎぎぎんぎんぎんぎゃあァアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!」


再び顔面を押し付けられ、僕はもう叫んだ。
声が掠れるのも気にせずして、誰か参加者に見つかるのも危惧せずして、甲子園のサイレンの如く雄叫びをあげた。
叫ばずにはいられなかったんだ。

手足を虫のようにジタバタさせ、必死で藻掻こうとも、全く動かない頭。
もう死んでもいい、と観念していたのに中々絶えない意識に、灼熱の地獄。
飛び散る汚い油と、膿が腐ったかのような臭い。

──そして、殺意。


「ぁ゙あ゛あ゛あ゛あ゛…!! あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッッあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッッ!!!!!!!!!!!!!」


ジュウゥウウウウウウウウウウッッッッッッ────────



 ふと、何かに引火したのか。
僕の叫びがボルテージを迎えた折に、


ボンッ────、と。


激しい光と共に鉄板は照らされ、そして大爆発していった。
爆風のまま、吹き飛ぶ閣下の姿。
──もちろん、僕は即死だ。
モス●ーガー店はアクション映画のような大炎上に包まれ、建物の何もかもを四方八方に吹き飛ばしていく。




正義の反対は、また『別の正義』。
アメリカ兵に原爆を落とされたとき、自殺志願者はさぞ大喜びだったたろうね。

時刻は四時。辺りがようやく青みがかってきた頃合い。

渋谷通りにて、僕は爆弾娘に火を付けた。




 ドッガガガガガガッガァァアオバァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ────





【池川努@ミスミソウ 死亡確認】
【残り64人】

719『焔のはにかみや』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:23:36 ID:cFeuEibI0





 え、なに?
『死んでんじゃんお前』、ってかい…?
あぁその通り。
僕はこれにてオサラバ、地獄に逆戻りさ。死にましたがなにか?

ただ、池川死すとも閣下は死せず。
あれだけの大爆発を直に食らっても、野咲春花。彼女は物凄い奇跡的に無傷で済んでいたのさ。


「……うっ…………………うぅ……──」


「──…祥ちゃ………………。うっ……」


…驚きだよねえ。
あ、無傷は言い過ぎかな。
さすがに若干、火傷はしてるけど、なんかところどころ焼けた衣服から見える素肌が……、不謹慎だけどもエロチックに見えたね。
特にニースやスカート破けた太もものとことか。ふふふ………。



「…もう、嫌………。ぁ嫌………ぁ……………はぁ、はぁ…………………」





 爆発の影響で周囲は停電の真っ暗。
明かり一つない、暗い夜道を彼女はヨロヨロ歩いていく。
次なる獲物を探して、ってね。



僕の話はこれにておしまい。
僕の跡を引き継いで『野咲春花物語』に乞うご期待だ。


…ふぅ。
それにしても、…ほんと無駄遣いだったね。生き返り。
蜘蛛の糸を掴んで生き返ったは早々、間抜けな死に方でおじゃんだなんて。血の池地獄の橘らにどやされること間違いないよ、こりゃ……。
まぁ、月のお小遣いを一週間で使い切っちゃう僕らしいっちゃ僕らしいけどさ。

とほほだ、…僕は…。




【1日目/H2/ファイヤー通り/AM.04:18】
【野咲春花@ミスミソウ】
【状態】全身痣、火傷(軽)、精神衰弱(中)
【装備】刃物
【道具】???
【思考】基本:【マーダー】
1:もう何もかも嫌…。
2:皆殺し…。
3:優勝して家族を生き返らせるッ………。
4:妙ちゃんの思いを無駄にしない。
5:黒髪の格闘女子(大野)に恐怖。

※H2ファイヤー通り一帯は停電しました。

720『焔のはにかみや』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:23:54 ID:cFeuEibI0
………
……


────ばんっ!!


 バサッ…




──え? い、池川くん…、カラスが撃ち落とされたけど…何したの……?!

────あ。…ふふふ!! 大丈夫大丈夫、死んでないから! ほら見なよ。

──…え?


 カァ、カァ


────カラスってのは賢いからさ、バーンと指で撃つジェスチャーすれば倒れたフリをしてくれるんだよ。

────なんにもないこの田舎で編み出した、僕なりの娯楽さ。野咲くん。

──なんだ…。良かった……。


────…ふふふ。

──…? どうしたの?

────…いや。親御さん、まだ迎えに来ないみたいだね。お互い。

──あ、うん。…遅いなぁ、お父さん。

────この豪雪の中、ママの遅さには正直イライラする気持ちはあるけども……。…それでも、僕は遅れてくれて良かったなと思う面もあるよ。

──…え? どういうこと?



────君と、二人きりで放課後残れてるんだからさ。誰もいない教室で。

──…ははは〜。池川くんなにそれー…。

────あっ!! ごめんごめん。今ので僕をヤバい奴だと思ったなら撤回してくれないか?! …別に他意はないんだ、他意は!!

──分かってるよー。気にしないでって。


──…私も、この引っ越し先でさ。良い友達ができて、嬉しいから。

────え? …はは、僕のことかい?

──うん。



 ブォォオオオ………キキッ



────あ、ママだ。

──……良かったね。じゃ、またね!

────…。



────…いや、もう少しそばにいてもいい…かな。

──え? でも……。

────大丈夫。ちょっとだけさ。




────ほんとに、あと少しだけ………………。



……
………




……。
つまらない過去を思い出しちゃったね。

…ふふふ。

721 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:25:14 ID:cFeuEibI0
えー今日で総139レスですか…。
はい、普通にやべぇです。申し訳ありません。

【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ】
①お久しぶりです。『悪魔のいけにえ』が一切文章思いつかなかったため、そのスランプ期間他の話4話分手を付けました。
②本来ならティッシュンを賭けてメムメムが兵藤とティッシュくじをするっていう伏線モリモリの話にする予定でしたが挫折しました。
③んまぁともかく、以上を持ちまして、参加者第二巡達成ですね。くぅつか。
④第三巡は以下の通り。題するなら『在庫処分祭り』です。比較的結構死にます。

01「颯爽と走るトネガワ君」…利根川、三嶋、ヒナ、ネモ、センシ、なじみ、日高、ミコ、カモ、三蔵、相場
02「我が友よ冒険者よ/愛のむきだし」…ライオス、ハルオ、来生、オルル、早坂、うっちー
03「Plan -【A】」…白銀、島田、遠藤、左衛門
04「毎日命がけ──。私の王子様──。」…飯沼、マルシル、ひろし、海老名、マロ、山井
05「いいの、いいの」…うまる、マミ、デデル
06「大東京ビンボー生活マニュアル ぬーぼ」…コースケ、マルタ、大野
07「咲けよ、二郎」…小宮山、田宮丸、クロエ
08「人畜無骸」…吉田茉咲、札月キョーコ、土間タイヘイ、ゆり、藤原、マイク
09「男の闘い」…西片、ガイル、サチ、ヨウ
10「人生ゲーム」…高木さん、ひょう太、メムメム、肉蝮
11「らぁめん再遊記 第三話〜生きるということ〜」…アンズ、佐野、芹沢達也


⑤さてさて、クソどうでもいいですが(どうでもよくないか)、最近文章力が枯渇してきました。
⑥というのも、どうあがいても文章が半端なく長くなってしまうのです。↑で言うなら、『わが友よ冒険者よ』と『人生ゲーム』は一ミリも短く要約できる気がしません。
⑦まぁ〜…ね、まぁ私自身もどうにか短くするよう頑張ってはみるのでね。しばらくの間、ジャンクフードドカ食いする感覚で読んで頂ければ幸いです。申し訳ございません。
⑧では、死ななかったらまた来週お会いしましょう。

722 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:25:29 ID:cFeuEibI0
【お知らせ】
①『支援絵集』のページを開設しました。
②タイトル通りエロ絵ばっかです。エロで読み手を釣ります。
③とはいってもwikiBANが怖ぇんで、あくまでコロコロコミックレベルのエロ。ほんっとにビミョーなエロですが。
④エロ関係なく、個人的に書きたくなった絵も保管しております。どうか見てやってください。

ttps://w.atwiki.jp/heiseirowa/pages/159.html

723『大東京ビンボー生活マニュアル ぬーぼ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/11(水) 00:19:23 ID:rmwPsVaY0
[登場人物]  [[コースケ]]、[[マリア・マルタ・クウネル・グロソ]]、[[大野晶]]

---------------

724『大東京ビンボー生活マニュアル ぬーぼ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/11(水) 00:19:59 ID:rmwPsVaY0
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■                         ■
■第66話 『大東京ビンボー生活マニュアル ぬーぼ』■
■                         ■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


………
……


「おっ」


 懸垂を終えての帰り道、オレはふとオシャレな車が目に入った。


「……………」


 白くて四角いフォルム。屋根の上には赤いライトのよーなものが乗っている。
妙にケーキっぽい色合いと、玩具めいた造形。おしゃれで軽薄なモノには、たいていどこか毒がある。
だが、そーゆーものに限って、オレは何故だが惹かれてしまうのだ。


 きょろ、きょろ…

「………」


見渡すかぎり、通りには誰の姿もいない。
渋谷とは名ばかりの、ただの静けさのカタマリ──そんな朝だった。
しんとしたその中で、車だけがぽつんと、まるで拾われるのを待つ子犬のように佇んでいたのである。
オレは再度首を左右にめぐらせ、人の気配を探したが──やはり、誰もいなかった。


 がちゃっ

「……」


オレはゆっくりと車へ近づき、そっとドアに手をかけた。
鍵は、すでに挿さっている。これはもう「乗ってくれ」と言っているものだろう。


 ばたんっ


「…はぁ〜〜〜」


 座席に腰を下ろすと、クッションは硬くもなく柔らかくもなく、ちょうど良い。
灰皿も汚れていないし、メーターの並びも美しかった。
見慣れない記号と針が儀式の祭壇のように整然と並び、まるでスティーヴンソンの筆先で描かれた幻想機関のよーだった。
ハンドルは意外なほど手に馴染み、まるで昔からここに座っていたかのよーな錯覚さえあった。


 がちっ

  ぶぶぶぶ……


 キーをひねる。
車体が震え音が低く唸る。その瞬間、街が少しだけ動いたよーに見えたのは気のせいだったのだろうか。

 なにかを借りて、知らぬ世界を走る。どこへ行くあてもないが、それがいい。
貧乏人にとって「所有」とは縁遠い概念だ。
だからこそ、こうして「他人のもの」に触れることは、一つのぜいたくなのである。
かの正岡子規は『病牀六尺』の中で、狭き畳の上に宇宙を見たというが、
ならばオレもまた、このハンドルの中に、ちいさな銀河を見よーではないか。
びみょーなスリルを感じつつ、オレは下駄履きの足でアクセルペダルを踏み込んだ。

725『大東京ビンボー生活マニュアル ぬーぼ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/11(水) 00:20:18 ID:rmwPsVaY0
「よし、行くか」




 ぶろろろろ…

「……」


 渋谷の街をオレは走る。
正確には、オレの意志で動くよーになったこの白い車が、眠りこけた街の中を静かに滑っていた。
信号が何やらチカチカしていたが、特に気に留める必要はないだろう。
交通法には生憎疎いオレであるが、世の中『気にしたら負け』という事柄もあるのだ。


 ぶろろろろ………

 「速いなぁ」


 …速いと言ってみたものだが、スピードは出していない。いや出せなかった。
なにしろこの車の操作はまだ未知の祭事であり、アクセルの踏み具合ひとつにも慎重を要する。
ただ、この前へと進む感覚はたしかにオレを別の世界に運んでいた気がした。


「……………面白いなぁ!」


流れる景色が非常に美しい。
コンビニの看板は、まだ光だけを放って誰のためとも知れぬ営業を続けている。
時折、路肩に並ぶ自転車が、オレの通過に合わせて小さく揺れる。その様子は、まるで「よぉ」と声をかけてくる旧友のよーにも感じた。
横断歩道のゼブラ柄も、誰にも踏まれずに整然とそこにあり、それを見たとき、オレはふと、アフリカのサバンナを駆けるライオンの姿が思い浮かんだ。
誰に咎められることもなく、ただひたすらに風を切って走る──オレはいま、まさに自由を堪能しているのだ。

風景は灰色と白と、ほんのり色づく朝焼けで彩られていて、それがまるで、時代をすべて洗い流した後の世界のよーにも見える。

いったいこの車がどこへ向かっているのか、オレにも正直よくわからない。
だが、目に映るものすべてが清々しく、また少しだけ物悲しく、そして懐かしかった。
その風情を前にしたら、道先を気にすることなどきっと野暮に等しい物だ。
それに、ここは大東京であり、同時に誰の大東京でもない。
ならばオレはこの広大な一人舞台を、風のごとく走りきるまでだ。


 ぶろろろろ………

 「……」



「……。──」


なんとなくハンドルを切ってみると、車体が大きく右へ曲がる。


「──おっ」


 その角を抜けた先に、ちいさな牛丼屋がぽつんと佇んでいた。
「吉」の字が、白い照明にぼんやり浮かび、店内からは蛍光灯の光と、温かい湯気が漏れる。そんな牛丼屋だった。

…ごくりっ。
──もはや、生唾の時点で旨い。

裸の大将といえばオニギリとゆーように、牛丼が何よりも好物なオレである。
一杯三百五十円で腹いっぱい満たせるソイツは、ビンボー人であるオレには少々手の届かない存在なのだが、
それでも食欲には勝てずついつい店に寄ってしまうここ最近だ。

アツアツの牛肉に、じゅわっ…と湯気を発するご飯…。
最初は出されたままの味を堪能し、クライマックスに差し掛かった時には生卵をかけガツガツ飲み込む……。
数十秒後の未来にて、牛丼をハフハフ頬張っている自分を想像すると、もう運転なんて集中できそうにもない。

726『大東京ビンボー生活マニュアル ぬーぼ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/11(水) 00:20:33 ID:rmwPsVaY0
「…………」


この松屋という牛丼店はまさしく『虚』。
道なりで走った先に現れた、牛丼という運命に、オレは虚を突かれた思いだった──。



 ────ガシャアアアアンッッ


「………………あ、」



…どうやら突いたのは虚だけではないようだ。
ついた、といっても一応店内には着けたものだが。

──ブレーキペダルを踏み忘れたオレは、あろうことか牛丼屋に車を突っ込んでしまった。


「………参ったな…」



 ガラスが砕け、アルミの扉がひしゃげる音。
朝焼けの中に軽く煙が舞う。
ハンドルにしがみついたまま、オレはこのとき状況を呑み込めずにいた。
やってしまった、という感覚は薄い。あまりにも現実味のない光景だったからだ。

しばらく経って、額に冷たい汗が浮かび、指先がじんと痺れてきた──つまりはようやく頭が現実を直視してきたという、そのとき。
視界の端に、誰かの影が映った。


「あっ」


 ──コツ、コツ、コツ


「………………………………」


足音。
ゆっくりと、それでいて迷いのない歩み。
ふり向いた瞬間、オレは思わず息を飲んだ。

紫のワンピース。膝下までの黒いタイツ。恐らく客の一人だろう。
一見にしてお嬢様とゆー印象を抱く、少女が、無表情のまま歩いてきた。
ただ、無表情といってもその無表情の奥には、熱を孕んだ怒気のよーなものがある。
……オレは運転席で居心地の悪さを感じながら、このメチャクチャになった店内風景をどう考えたらいいのか自問し──…、


「………………………………ッ!!」


 ブゥンッ──────

  バンッ──────



 ………やれやれ、困った困った。
そのお嬢様娘に矢継ぎばや殴り飛ばされ、オレは一瞬にして意識は闇の中。


──虚を突かれ、車を突っ込み、最後は小突かれるという。今日は随分と疲れる一日となりそーだ。




「え?! お、大野ちゃんっ!!!」



………
……


727『大東京ビンボー生活マニュアル ぬーぼ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/11(水) 00:20:51 ID:rmwPsVaY0




🍴第66話 『大東京ビンボー生活マニュアル ぬーぼ』




 エルサ・ベスコフの絵本に、『もりのこびとたち』という作品があります。
森に暮らすこびと一家が、自然の中で季節をめぐりながら、静かにたのし〜く暮らす──といったお話です。
“冬は白く、春はやわらかく、夏はきらめいて、秋は少しさみしくて──。”
私はその一文が好きで、この絵本を何度も読み直しているのですが、その度に思うこです。
世界は、ほんの少しの優しさと、静けさで回っているのだと……──ってね☆

……だから。
…だからですよっ…!!

なんの前触れもなく目の前の男性に昇龍拳をふるった…………──、

──そんな大野ちゃんに………、


「Carambaっ!!(コラッ!!) なんて酷いことをしてるの大野ちゃん!!! ちょっとそこ座って!!!」

「………………………………!?」


………私は到底黙っていられることができなかったのです……っ!!!


「私だって本当は怒りたくなんかないよ?! でも…………これはもうあんまりだよ…。…どうして……どうして大野ちゃんはすぐ暴力に走るのさ!! 酷すぎるよっ!!!」

「!??? ………………………………〜〜!!」

「えっ、“だって襲撃者だし…”って?……そんなの理由になりませんっ! というかどう見ても事故でしょ!! 事故!!!」

「………………………………っ!!!」

「“今殺し合い中ですが…”って!? …………いい? 大野ちゃん。もうやってしまった事に関しては私も責めるつもりはないよ。でもっ!! 言い訳をして自分を正当化することは感化できないからねっ!!!!」

「………………………………〜っ!?!?」

「うーん、もう言い訳禁止!! お天道様は見てますから!!! ほんの少しでいいから、自分がやったことの重さを考えてね!!! いい?」


「………………………………〜」



 ……まったくもう!!

………いや、ちょっと待て〜?
大野ちゃんも大野ちゃんですが、私も私で少し怒りすぎました…かね?
……うーん。自分のイライラっぷらに少し反省が必要かもしれません………。トホホ…。


「……あ、大野ちゃん…。あんまり落ち込まなくても…いいですからね?? …私も少し怒り過ぎましたから〜……」

「………………………………(………」


……この時の大野ちゃんの顔は、なんとも言えない複雑そうな面持ちでした……。
これは…私と大野ちゃん。二人揃って心のモヤモヤを共有してる〜…って、そんな感じなのでしょうね……。

…はい………。
私もイライラしていたと言いますか……、ちょっと事情があって、今、心の天気は晴れ模様じゃなかったんですよ〜〜……。
というのもついさっきの事です…。
その時私たちは、『野咲閣下(?)ちゃん』という女の子を保護して、三人一緒に歩いていました。
……あ、歩いてはいませんね、野咲ちゃんは。…気絶した野咲ちゃんを背負って私達は歩を進めていた感じになります。
…どうやらその野咲ちゃん。彼女の口から事情は聞けてないので憶測ですが、【襲撃者】にならざるを得ないバックボーンがあったようで、私たちが彼女に出会ったのもそれが『理由』でした。
──あー、あと野咲ちゃんが気絶しているのも大野ちゃんによる力が理由となっています…。

恐らく大野ちゃんと同い年くらいで、襲撃者とはいえまだまだ子どもな野咲ちゃん……。
幼いながら殺人者の道を選んだ彼女を、どうにか諭さなくちゃならない……。絶対見捨てちゃだめだ……って、私は思いましてね。
大野ちゃんからは反対の声が激しかったものの、私はその時野咲ちゃんを背負い続けていたのですが……。


ボウガンを構える小太りの少年に、あろうことか彼女を掻っ攫われてしまい……………。


………野咲ちゃんへの心配と、武器に臆した自分の情けなさ、そして…、


 ぐぅ〜〜…

「……あ、そういえば牛丼まだ食べてなかったですね〜……。大野ちゃん、腹の虫が失礼失礼〜〜…」



……空腹で。

728『大東京ビンボー生活マニュアル ぬーぼ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/11(水) 00:21:09 ID:rmwPsVaY0
私はもやもやに包まれながら、吉野屋に馳せ参じた現在に至ります。


「はぁ〜〜〜……」


野咲ちゃん、…大丈夫かな………。
あの少年、ちゃんと野咲ちゃんの面倒を見てくれているのかな…。ヘンなコトはしてない…よね………?
そして、何より私自身も、…大野ちゃんとどう接するのが正解なのかな………。

……分かりやすくほっぺを膨らます大野ちゃんを横に、私は自問自答の波に飲み込まれ続けていました…。



と、そのときです。


「……ん?」

「……………………………!!」


何かが視界の端でゴソッと動いた気がしたのです。
…え? なんだろう〜〜…?? って、私はちらっとをカウンター席を見ました。
店内には私と大野ちゃん、そして気絶中のうっかり事故さんの三人しか現状いない筈。
車が突っ込んで以降、人の気配はなかったので、「なんだろ…??」と疑問符で一杯だったのですが………、

視界に入る彼を認識した途端、ありゃビックリ!!


 がつがつ……

「…………」


大野ちゃんに殴られてグッタリだった筈の男の人が…いつのまにやら。
なんと、何事もなかったかのように牛丼を食べていたのです…!!!


「……………………………!」

「ええっ!? 食べてる!!? だ、大丈夫なんですか?!!」


「あ、ども(がつがつ…」


 もう、ビックリおったまげですよ!!!
アンパンのように腫れ上がった頬は、彼からしたら蚊に刺された程度なのでしょうか…?!
彼はお椀の中の肉だけをつまんで、瓶ビールと一緒に流し込んでいたのです……。


「ちょ、ちょっと…!! …“ども”じゃなくて〜…。だ、大丈夫なんですか?!」

「…………」


男の人はなぜだが返事をしませんでした…。
ただ静かに、驚くほど丁寧な手つきで牛丼の肉だけをつまみ、ビールで流し込む……。
まるで料亭の板前が季節の八寸を扱うように、肉一切れ一切れを慎重に選び、慎重に噛んでいたのです…。

…私は大野ちゃんをチラリと見ました。
とりあえず、大野ちゃんパンチが彼にとって大したダメージじゃなく(…ようには見えませんがともかく…)、そこは安堵すべきなのでしょうが〜…。

彼女も心做しかやや引いた様子で、男の人の動きを見つめていました…。


「………………………………っ」

「………うん、ウマいなぁ(じゃっじゃっ、がつがつ…」


…えーと。
と、とにかくこの人、いったい何者なのでしょう……。
…彼の予想外すぎる行動に私も大野ちゃんも立ち尽くすしか選択肢が選べません……。
あ。…とりあえず大野ちゃんの非礼を謝るのが先なのでしょうが、…彼の予想外なマイペースに飲まれて動きを封じられた私たちでした……。

…だけど、うーん、なんなんでしょうか………。この気持ち……。
彼の「はふはふ」と心の底から美味しく食べてる様子を見た時、だんだんとなんだか不思議なもので〜…、
あたたかい気持ちというか、癒されるに似た思いで満たされてきたんです…!
ハハハ〜、ヘンなこと言ってますよね〜〜…。私〜…。

えーと、これはつまりですね〜〜…。


「大野ちゃん!」

「………………………………?」

729『大東京ビンボー生活マニュアル ぬーぼ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/11(水) 00:21:24 ID:rmwPsVaY0
「私、この人と、仲良くなれる気がします!」



「…えっ!?………………………………」

「あ、大野ちゃんが喋った!!」

「………………………………」


そう!!
根拠はありませんが、なんだかこの人とものすごく波長が合うような…。
初対面の人にこんなこと言うのもおかしいですけど、彼の人柄が好きになったのです☆ 私!

というわけで、お食事中失礼〜…ではありますが、早速私は彼に話しかけてみることにしました!


「えっと……その、はじめましてっ!」

「もぐもぐ…。どもす」


「私はマルタといいます!マルタ・コルネイロ!ポルトガル出身で、料理と散歩と読書が好きですっ!」


男の人は、じっと私を見ていました。
その目はすこし眠そうで、でもどこかまっすぐな印象でした。
あ、ちょっと目をそらした! 人見知りなのかな…?


「それで……お名前は……?」

「……コースケす。ども」

「おお〜!! コースケさん! prazer em conhecê-lo!!(よろしくお願いしますっ!)」


私はさっそく手を差し出しました。
コースケさんはそれを見つめただけで、握ってくれませんでしたケドもね………。
……まあ、いいです!! そういう人もいますっ☆


「………………………………」


一方で、大野ちゃんといえば腕をだら〜んとさせたまま、じーっと私たちを見ていました。
彼女は何か言いたげな様子でしたが……なんだかイヤな予感がするので触れるのはやめておきます…かね……。
はい、大野ちゃんもまたこういう子です!! 以上☆



「そうだ。車あるよ」

「えっ?」


と、その時その時〜。
コースケさんは、ふと煙が轟々と登る先を指差しました。
ガラスが割れて、煙がうっすら立ちこめたその向こうに――さっき突っ込んできた車がそこにあり〜…。
…良い言い方をすれば、静かに駐車されていました。


「……あれ、コースケさんの……車?」

「いや借りたんだよ」

「誰から…?!」

「………。ボクの車ではないけど、オシャレだよ」

「え、いや………。そもそもアレ救急車ですけど……っ?!」


…お恥ずかしながら、今突っ込んできたのが救急車だということに気づいた次第です〜。


「………」


コースケさんは私の質問に何も答えません。
口にせずとも、その目は「何か問題が?」とでも言いたげでした。
ふと見ると、大野ちゃんもまた、口は開かずとも……。目だけを細めて、「は?」という顔をしています。

…よくよく考えれば色々ツッコミどころ満載な発言をするコースケさんでしたが…、


「ま、いっか!!」

「………………………………!?」

「行くよ!! 大野ちゃん!! …あとでコースケさんに謝るんだよ? いいね!」

「………………………………!?!???」

730『大東京ビンボー生活マニュアル ぬーぼ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/11(水) 00:21:37 ID:rmwPsVaY0
……ウフフ☆
この二人の表情が、沈黙のにらめっこみたいで少し面白かったり………と私は思いましたネ。

私は足をパタパタ鳴らしながら、大野ちゃんを引っ張って、救急車のほうへ走り出しました〜☆

731『大東京ビンボー生活マニュアル ぬーぼ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/11(水) 00:21:54 ID:rmwPsVaY0




 救急車のドアは、思ったよりも軽く開きました。
内部には、消毒液とゴム手袋の匂いがほのかに残っていて〜〜…。
でも、それすらも「ちょっとレアな車内芳香剤♪」みたいに思えてしまいます☆


「わ〜っ、すごい!本物の救急車に乗るのって、初めてです!しかもこうして走れるなんて……なんだか特別感ありますネ!」

「………」


コースケさんは何も言わずに運転席に座り、淡々とハンドルを握りました。
エンジンがゴウン……と低く唸るような音を立てて始動します。
車内のライトがぼんやりと灯り、私の顔を下から照らしました。


「これってちょっと映画みたいだなあま! 異国で出会った三人が、誰も知らない朝の渋谷を走り抜ける〜〜…だな〜んて!──」

「──ね!! 大野ちゃん!!」



 しーん…



「…お、大野ちゃんスルーはいけませんよ〜…?!」

「………………………………」



「ウフフ……☆ でも一緒に来てくれるんですね、大野ちゃん♪ そんなブスーっとした顔してても、ちゃんと来てくれるところが優しいですヨ!」

「………………………………(⁠╯⁠_⁠╰⁠)⁠」


ふふっ♡
態度では表さずとも、彼女もまたコースケさんになにか魅力を感じた者の一人なのでしょう☆


 ぶろろろろ……


 朝焼け前の渋谷。
誰もいない街を、救急車という名の異端な船で駆け抜けます。
わたしたちはまるで、季節の切れ目を旅する“もりのこびとたち”──そのものでした。
このままページをめくるたびに、少しずつ物語が色づいていくワクワク感。
コースケさん、そして私たちも、きっとその途中にいるのでしょう……。

ネっ✩
大野ちゃん♡




「………………………………」


………
……


732『大東京ビンボー生活マニュアル ぬーぼ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/11(水) 00:22:19 ID:rmwPsVaY0






“鮮血の結末──【Bad End】は、ここから始まった。”









【1日目/H1/渋谷区内・某牛丼チェーン店前→救急車移動中/AM.05:17】
【マリア・マルタ・クウネル・グロソ@くーねるまるた】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】童話本二冊(腹部に装着)
【思考】基本:【対主催】
1:コースケと大野ちゃんと行動!!
2:この旅がいい思い出になりますように!
3:ちょっと変だけどコースケさん、好きかも?✩
4:野咲ちゃんが心配…。

【大野晶@HI SCORE GIRL】
【状態】疲労(軽)、やや不満顔
【装備】なし
【道具】雑誌二冊(腹部に装着)
【思考】基本:【対主催】
1:マルタ“だけ”を守りたい。
2:………………………………。
※大野は出展作品特権でリュウ@スト2の技が使えます。

【コースケ@大東京ビンボー生活マニュアル】
【状態】疲労(中)、軽い眠気、酒気あり
【装備】なし
【道具】割り箸、牛丼弁当並盛持ち帰り
【思考】基本:【静観】
1:救急車を借りて移動を開始。
2:ぐーたらマイペースに過ごす。
※チェンソーメイド(早坂)への警戒は継続中。

733『大東京ビンボー生活マニュアル ぬーぼ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/11(水) 00:26:41 ID:rmwPsVaY0
【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ】
①この回は、『大東京ビンボー生活マニュアル』と『くーねるまるた』を学習させたChatGPTに書かせたものです。
②いやーAIってすごいですねぇ。僕の文章の癖もちゃんと再現してくれるのですから。
③というわけで、以降全ての回はチャッピー(chatGPT)による執筆となります。
④これを読んで頂けた皆様、書き手の皆様も、ぜひ3000円課金してチャッピーに書かせてみてはいかがでしょうか。おすすめです。

734『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/16(月) 21:30:17 ID:OxoBAsgQ0
[登場人物]  [[利根川幸雄]]、[[三嶋瞳]]/[[根元陽菜]]、[[ヒナ]]、[[日高小春]]、[[長名なじみ]]、[[センシ]]、([[戌亥]])、[[伊井野ミコ]]、[[鴨ノ目武]]、[[鰐戸三蔵]]、[[相場晄]]

---------------

735『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/16(月) 21:30:34 ID:OxoBAsgQ0
「クククっ……………。…バカが……っ!」

「…え? あ、利根川さん何ですか?」


 早朝の渋谷を歩く、<働きマン>二人。
ふと、利根川がスマホを眺めながら口を開いた。
良くも悪くも掴みどころのない上司的存在に、三嶋は内心ハラハラしながらも、反射的に言葉を返す。


「お嬢……、キサマの名前は…確かに三嶋瞳なんだなっ……………?」

「?? 何を今更……」


何を言い出すか予想もつかず、そもそも予想すらしていなかった問いに、三嶋は一瞬だけ言葉を探す。
その隙を縫うように、利根川は語調を変えることなく淡々と続けた。
 

「…いや、いわば同業の好でな……? わしとお嬢は『プランA』のビジネスパートナーだ。……したがってキサマ──『三嶋瞳』について今……軽くググってみたものだが……………。──」

「──なんだぁ…? 『中学時代はバーテンダー、イベントスタッフ、ビール売り子にビル清掃、派遣社員を兼業。そしてアメリカに渡り軍に入隊し、ノウハウを掴む。高校時代は一年で企業。現在は某海外ベンチャーのCEOとして活躍中』……とは…」

「………」


「クスリしながら書いたのかな? このWikipedia編集者は………っ!」

「…それが困ったことに事実は小説よりえなりかずき〜って奴です。だってしょうがないじゃないですかぁ〜〜!!」


目を泳がせ語尾を引き延ばしながら、三嶋は渋々と返答をつむいだ。
彼女のひょうひょうとした答えに、利根川は余計舌を巻く事となる。
それが“事実”だと、困惑しきった顔でなお言い切れる──その神経に、利根川は静かに震えたのだ。
 

「バカかキサマはっ……!! 未成年就労児でもここまで働かんわっ……!!!」

「…私だってそう言われても〜ってわけですし…」

「…いやキサマが貧困家庭ならまだ納得がいくもの……。きっかけはなんだっ!? 何がキサマをそうさせたんだ……!? 何が目的でここまで働くっ!!? 答えろお嬢……っ」

「…な、なにがってぇ〜〜………。…イチローさんや野茂さんは野球、羽生さんは将棋…じゃないですか……」

「あ……っ?」

「…つまりは私は仕事…みたいな? 最初っからそうって訳じゃなかったんですけど、好きなんですよ。──」


「──『働くことが』が」

「……………なっ……。──」

 

「──………とりあえず、来るなよ………?」

「…へ?」


“なにに来るな”と言いたいのか──。
三嶋は一瞬迷い、口を開く。


「…とりあえず利根川さん、倒置法で話すのやめません……? 主語言わないから一々聞くの大変で──…、」

「<ウチ>帝愛にだっ……!! ビジネスがどのような流れになろうが……ウチには絶対近づくな…小娘っ………!!」

「えっ!? そ、それは何故で──…、」

「──…あっ」

736『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/16(月) 21:30:56 ID:OxoBAsgQ0
勘の良い三嶋である。
彼女はふと、利根川の言いたい事を先読みさせられた。

なるほど。自分が帝愛に関わろうものなら、利根川の狙うNo.2の座が揺らぎ──水泡。三嶋自身がそこに座ってしまう可能性すらある。
“はは……お互い社会人人生、大変なんだなぁ〜……”──と。三嶋は小さく息を吐いた。

そんな三嶋の隣で、利根川はといえば──口横にて怒りの唾液泡をブクブクと。絶え間なく湧き上がっていた。


「水泡水泡水泡水泡水泡水泡水泡水泡水泡水泡………っ!!」

「……」


………
……


 【死のゲーム】────…っ!

これは…、疑心暗鬼と裏切りの連続が絡み合う…──『バトル・ロワイヤル』にて………。
主催者が自分と瓜二つな男な故に、とんでもない運命に遭うという…………。
帝愛グループNO.2候補のエリートにして、サラリーマン一筋で戦い続けてきた中間管理職………『利根川幸雄』の………。


「──水泡水泡水泡水泡水泡………っ!! 水の…バブルっ……!!! 来るな……絶対に来るなっ……!!! 悪魔めがっ………!!!」

「………はあ」



…いや、どちらかといえば『三嶋瞳』の………っ。
苦悩と葛藤の物語である。




第 (六)(十)(六) 話

ヒナまつりx中間管理録トネガワ

『颯爽と走るトネガワくん』

〜酒と泪と男と女といくらとツインテと小春と幼馴染と戦士と唯一の味方と893と893と、そして……。登場人物定員オーバー・ロックンロールフィーバー〜
………
……




737『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/16(月) 21:33:17 ID:OxoBAsgQ0
分割投下以上です。
以降、今週中に4分割で全て投下します。
書きあがり次第随時wiki編集するので、「早く続きを」という方はwiki本ページからのアクセスをオススメします。

ttps://w.atwiki.jp/heiseirowa/pages/169.html

738『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/20(金) 23:38:53 ID:cs1/aZKQ0



 【限定ジャンケン】──………っ。

 それは、希望の船・エスポワールで行われた1対1のゲーム。
手札はグー・チョキ・パー各四枚、持ち点は『星』三つ。
勝てば星を奪い、負ければ失う。十二枚のカードをどう使うか──運否天賦と駆け引きの応酬が、勝敗を分ける。

裏切りが約束された場所では、信頼こそが最も貴重な札となる物。
だからこそ三嶋は、疑う余地すらない『知人』との再会を心の底から願っていた。

この時────。



「ククク…っ!! 『私だから伝えたい ビジネスの極意』…──圧倒的名著………っ!! 次回作はいつぞやかな…? 三嶋大先生よ………っ!!!」

「…ぃっ!!! 黙れいじるなっ!!! …あ、失礼しました……。もうっいじらないでくださいよ〜っ!!!」

「ほう、なになに…? 『情熱を無くして仕事はできない』…とは……っ!! 同感の極み…!! クククっ…!」

「……はァ……っもう〜〜〜っ…!! 言っておきますが超適当に書いた本ですからねコレっ?! こんなの…精神異常者しか読んでませんよ……。──」

「──まったくっ…。…なんなの…もう………」

「クククっ……!!」



 神南の並木道。
まだか弱い日光がビルの谷間から差し込み、カフェのシャッターが音を立てて開き始める、そんな時刻。そんな渋谷の一角にて。
利根川は一冊の書籍を片手に、厭味ったらしくページを繰りながら歩いていた。
──言わずもがな、(バカ)堂下のお陰で今や渋谷中知らぬ者はいない三嶋大先生の著・『私だから伝えたい ビジネスの極意』である。

二人が目指す先は、拡声器を手に『三嶋万歳っ!!!』と叫び回る──そのバカ本人の元。
もはや三嶋にとって、殺し合いよりも利根川の嫌味よりも何よりも、
──余りにも理不尽な狂信者の存在が、最も神経をすり減らす災厄だった。


「利根川さん………、堂下って人、普段からあんな感じなんですか?」

「あ?」


そんな異常崇拝者の素性について、三嶋はふと質問を投げる。


「…大変失礼ながら、アイツのせいで私もう…歩くのさえやっとな位赤っ恥ですよぉ………。なんなんですか、あの人…」

「……。……そうだな……。──」


「──…My Answer────ワシからの答えは、『そうっちゃそう』……っ」

「……はあ」

「そして『そうじゃないっちゃそうじゃない』………だっ…………!」

「え?? はいぃ…?」


Answerはまさかの二段構え。

三嶋は思わず足がガクッとさせられた。
『そうっちゃそう』と『そうじゃないっちゃそうじゃない』──。彼の口にした曖昧な返答には、一体いかなる意図が潜んでいるのか。
噛み合わぬ二つの答えが曖昧な靄を残して空に浮かぶ中、利根川は本を静かに閉じた。



「とどのつまり……確かに堂下の奴は…圧倒的脳筋………っ。ワシとて、目に余る程の…要注意人物……判定:Eだ………っ。──」

「──だがその要注意判定も…あくまで常識の範囲内……っ! 破綻はあれど……まだ……っ…まだ『一般人』の括りに入れていい………。優秀な奴ではあったのだがな…………」


「………」

739『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/20(金) 23:39:10 ID:cs1/aZKQ0
「…これまではワシという操縦者……っ。ワシの制御下にいたから…まだ暴走には至らなかったのか…………。………とにかく……このバトル・ロワイアルが発端であることは…確かっ………。奴が狂い出したのは…………っ」

「…出会ったら責任持ってきっちり操縦し直してくださいね。その壊れたラジコンを……」

「クク………。さっきから聞き流してみれば…キサマも中々のモノじゃないか……毒吐きが………っ!」


三嶋からしたら、文字通りの『毒』を壊れたラジコンにぶち注いでやりたいものなのだが。
テトロドトキシン、トリカブト、ベラドンナetcetc……。古今東西の毒物名が脳内で流れ続けるが、ここで思い出す諺は『バカにつけるクスリはない』。
(別の意味で)毒されていく脳裏に三嶋が苦しむこの最中、──今度は自分が問いを投げる番だと言わんばかりに、利根川がゆるりと口を開いた。


「さて、お嬢よ……。こうしてキサマからの質問を律儀に…答えてやったわけだ。ワシからも当然……っ、一つ良いよな………? 軽い質問を……っ!」

「ほんとに軽くしてくださいね? …どうぞ」

「ああ……っ。それは紛れもない…キサマ自身についての疑問だが──…、」




「あっ」 「あ?」


「えっ?」 「え」


ただ、利根川の問いが発せられることはなかった。
まさに言の葉がこぼれようとしたその瞬間──、通りの向こう、ビル角の影からふいに現れた二人の女子。
次の一音を押し出す前に、『出会い』が言葉を遮ったのである。

ほぼ同時に共鳴した、4つの声──「あっ」と「えっ?」。
空気をピンと張りつめさせる合図代わりの、小さな驚きのハーモニーは、並木道の空気感を固めてくる。


「あ、ヒナちゃん!!」

「…あ………っ??」


ただ、女子二人組のうち──青髪の女子に、三嶋は反射的に声がこぼれた。
特徴的な無表情と、のんびりとした空気感。紛れもない、級友の新田ヒナ──その人だ。
(バトル・ロワイヤル)殺し合いとは、出会いのすべてにまず疑念が差し込む世界下だが、その一瞬──少なくとも三嶋にとっては、張りつめていた神経が緩んだ瞬間だった。


「なんだお嬢…知り合いか…………っ?」

「ええ! …あ〜〜、実家のような安心感ですよ〜……。とりあえず、あの子はヒナちゃん。私のクラスメ──…、」

「ヒナちゃんッ!!! (アイツ)主催者にサイコキネシスだ!!!」

「はぁ〜い」


「……………………………え?」


──その安堵も、『念動力』という風で速攻吹き消される事となるのだが。



「ほいよっと」


 グイッ………

  ぎぎ、ぎぎ…


 ギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギッッッッ



「ぎいっ……!? ぐががががががぁああああああぁあっ…!!!!!!」

「え…。え、ぇ…、え゙っ!?? ちょ、ちょちょ何?!!」

740『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/20(金) 23:39:27 ID:cs1/aZKQ0
 利根川の悲痛な叫びと三嶋の慌惑の声が、並木道に木霊した。

 刹那、ありえない方向へ向かって捻じ曲げられる利根川の右腕。
それは、誰かの手による直接的な圧力ではない。言うなれば、『目に見えぬ意思により、骨を追い詰めていた』という様な。
目に見えぬ『圧』が、利根川の腕を逆へ逆へと捻り上げていく────。
──説明は不要。サイキック少女・ヒナの『(サイコキネシス)念動力』である。

骨がねじ切れそうな感覚に、本能のまま絶叫を上げる利根川。
突然かつ突飛、突拍子もない先制攻撃に、「あわゎわわわわ」で脳内泡まみれとなる三嶋。
そして、片手を利根川に向けるヒナ。

まるで起き抜けの猫のような顔をする彼女は、実にマイペースに、隣のツインテールへと話しかけた。


「ところでさぁ陽菜〜、あのおじさん誰?」

「いや分からないで攻撃してたわけっ?!! …ほら。『主催者』だよ、アイツ! さっきのバスで、トネガワって主催者がいたでしょ?──」

「──その御本人が今目の前にいるってわけなんだよ…ッ! …何考えてるのか知らないけどさ………」

「ほ〜〜。なるへそなるへそ」


「いや、なるへそじゃないでしょっ?!!!」


 まるでピントの合わない悪夢を、白昼に見せられているかのようだった。
利根川の右腕はどんどんどんどんと捻じ曲がり、悲鳴は風に引き裂かれるように並木道へ響く。
一方で──当の加害者本人は、どこか他人事のような目で、ふわりと掌を掲げているだけ。

「あわわわ、あわわわ……」脳内に吹きこぼれた泡を、ふと味見してしまったのか。
すぐさま、三嶋の脳内は「──まずいっ……」の一言ループに支配されだす。
舌の上に残った苦みは、まるで状況の悪化そのもの。
『誤解』による取り返しのつかない暴走劇で、三嶋の顔からは、わずかな安堵の色もすっかり消え失せていた。


(……マズイマズイマズイっ!!! つまりはこれ…利根川さん腕折られそうになってるんじゃんっ……!──)


(──ヒナちゃんの力で…………!!──)

(────しかも…あらぬ誤解でっ…!!──)



(──…あー。なんか利根川さんの倒置法喋り乗り移っちゃってるし……私ぃ〜………──)



(──……って、そんなことはどうでもいい!! とにかく……は、早く説得しなきゃ〜〜っ……!!!)


三嶋は、喉の奥から突き上げる焦燥のままに、必死で声を張り上げる。
言葉を選ぶ余裕を辛うじて保ちながら、ただひたすらに、誤解をほどこうと、慌てて説得を始めた。


「ち、違うからっ!! この人は主催者じゃないし!!! い、一旦話を聞いてよっ、ねえ!!」

「あ、瞳だ」

「ヒナちぁゃんんんんんん〜っ…!!!!」


三嶋の必死の呼びかけに、ヒナは休日に友達を見つけたかのような無邪気さで答えた。
その声を聞いたツインテ女子──根元陽菜は二人の関係性にピンと反応する。


「え? なに?? ヒナちゃん、あの子と知り合いなの……?」

「うん、三嶋瞳。瞳はわたしのクラスメ〜トで、わたしが授業中寝てたらヨダレ拭いてくれたり、わたしの給食運んでくれたりさ、優しいんだよ」

「…なにその世話係みたいな感じ……。──」

741『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/20(金) 23:39:45 ID:cs1/aZKQ0
「──…じゃあさ。…えーと、三嶋さん…でいいんだよね…? …………え、あの?」

「そうですっ、私があの悪名高き三嶋大センセーですっ!!! …そ、それはともかく早く力を止めるよう言ってくれないかな!!? 利根川さんは本当に悪い人じゃないんだってぇ!!!」

「………どこまで事情説明すればいいか分からないけど…、とりあえず後回し! 今ヒナちゃんの…『力』で、そいつを食い止めてるからさ。…三嶋さん、ゆっくりこっちに来て!」

「いやなんでっ!?」

「………なんで、って…。三嶋さんを助けたいからだよ。──」


「──そのトネガワ《主催者》からッ………!!」



「なんかまんじゅう食べたいなあ〜」


 ギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギッッッッ

「ぐいぎぎががががががががががががががぁぁぁぁっっ…!!!!!」



「…………………」


もっとも、今一番助かりたいのは、他でもなく利根川本人なのだが。



「…………誤解」

「え?」 「まんじゅう?」


何かが腑に落ちたような、あるいは底抜けに落ちていくような誤解の渦中で、三嶋はそれでも必死に言葉を尽くした。


「誤解だからそれっ!! い、いいかな…?!」

「………?」 「まんじゅうの話?」


「結論から言うと風評被害なんだって!!! 主催者とこの利根川さんはすごく顔が似てるだけの別人なの!! 中身なんてIQの差が歴然なんだからぁ!!」

「………んん??」 「あんまん」


「そ、そそ、そりゃ信じられないのも無理はないけど……でも、本当に別人なんだからぁっ!!! だからお願い……私を信じてよ!!! その子も…──」

「──そしてヒナちゃんもっ…!! ね……? ねっ…??!」


「………………」 「まんじゅう…」




「…うん、分かった」

「えっ!!」


口を開いたのは、陽菜だった。
ぽつりと漏れた「…うん、分かった」の一言に、胸はほぐれる。
目に見えない緊張が少しほどけ、小さく息つく三嶋。
信じてくれた──その事実が、今はただ嬉しかった。


「ヒナちゃん、あの『三嶋さんモドキ』にもサイコキネシス!! …一応女子だからさ、足動かなくするだけでいいからね」

「まんじゅー」

「はいぃぃいいいっ!!!?? ──って………があっ!!」


 ただ、その安堵も、束の間もいいとこの即オチニコマだったが。
希望の芽を握りしめたその手が、次の瞬間には地雷を踏んでいたようなものだった。
三嶋の両脚は、ふいに地面と一体化したかのようにピクリとも動かない。
柔らかな風すら足元を通り抜ける中、彼女の膝下だけが異様な静寂に閉ざされていた。

742『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/20(金) 23:40:03 ID:cs1/aZKQ0
「……何をどう、分かったつもり…なの…でしょーか…………っ?!」

「正直偽物がどうとか……似てるのがどうとか…。意味分からないし、関係ないよ。それはトネガワも、あなた自身にも」

「いやいやいやいや関係あるからっ!!?」


ちなみにだが、この時すでに三嶋は二人を──、


「でもハッキリと言えることはさ。『人を信じる』ってとてもじゃないけど簡単にはできない事でしょ?──」

「──…現状、私が信頼できる参加者はヒナちゃんだけ。だからさ、ヒナちゃんに結論出させる事にするね」

「まんじゅ………、──…えっ」



(いやソイツなんかに判断委ねるなよなぁぁぁぁああぁぁぁぁぁっ)


──完全にバカを見る目で見下していた。



「ねえ、どう思う? ヒナちゃん。…簡単には結論出さないでね。ヒナちゃんなりにじっくり考えて、あいつらの命運を決めて。…お願い」

「……え…。──」

「──う、うーーん…」


(うーんじゃねぇぇえわっ!! 絶対なんにも考えてないでしょぉおおおっ!!!)


「うーん、うーん…」


三嶋のツッコミは、ズバリその通りだ。
事実、根元からの突飛なフリに、ヒナの思考回路は見事ショート。──心なしか、その耳の穴からは本当に煙が上っているように見えた。


(で、でもワンチャンはある……!! ヒナちゃんだってたまにはマトモになる可能性が…)


それでも三嶋はただ、祈るように両手を胸の前で握りしめ続ける。
頼むから、ボケないで…。
今だけは、せめて一瞬だけでも『まとも』でいて…。
バカの脳みそが、奇跡的な化学反応でマトモな結論に辿り着いてくれることを──、それだけを信じて。


「……う〜〜ん…」

(お願いぃ……ふざけた事を話さないでぇええ………)


淡い希望を胸に灯し、ただ一縷の奇跡を信じて三嶋は祈り続けた。


(お願いいぃいいいぃぃぃぃぃっ)


奇跡の、価値は──────。
この時の三嶋の姿は、まるで自身が最も忌み嫌う堂下さながらの信仰者。

神へ一心の願いを祈り続けていた──。



「とりあえず瞳さ……哀しきモンスターを必死で庇う村娘みたいで…ウケる?(笑)」

「はいっ!! じゃあ攻撃続けて!! ヒナちゃん!!!」




「…………………。──」

(──言っても分からないバカばっか……)

743『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/20(金) 23:40:18 ID:cs1/aZKQ0
《大衆は限りなく愚かだ。》
《大衆の圧倒的多数は、冷静な熟慮でなく、むしろ感情的な感覚で考えや行動を決める。》
《獲得すべき大衆の数が多くなるにつれ、宣伝の純粋の知的程度はますます低く抑えねばならない。≫

 ────アドルフ・ヒトラー・著『我が闘争』より



 ギギギギギギギギギギギギギギギギ……

「…どうせ今出会ったばっかの薄っい関係性の癖に。ちょっと話したぐらいでヒナちゃんと信頼関係あるとか言わないでよ………」



利根川の叫び、そして彼の腕からの嫌な音が途切れなく続く中、三嶋からボソッと毒を漏れ出た。
その毒を吐き出した矢継ぎ早、矛先をヒナへ向け、言葉を放つ。

ヒナと三嶋の付き合いは、中学時代からの長きにわたる物。
根元よりも長く、誰よりも深く──ヒナの本質を理解しきっている三嶋は、攻略の一手をシンプルに差し出す。


言葉を紡ぐその直前、呆れながらの彼女の脳裏には、以下の名文が蘇っていたという──。



《バカとハサミは使いようとは圧倒的愚ことわざ。》
《とどのつまり、バカはハサミよりも扱いに容易いものなのである。》


────利根川幸雄・著『お説教2.0』より




「ヒナちゃーん、あそこにイクラの赤ちゃんがいるよーー」

「え? まじ??」


三嶋が指を伸ばしたその方向に、ヒナはあっさりと首を向けた。


「な?!!」


「がぁあはぁぁぁ………っ!!」

 バタリ…


「大丈夫ですか! 利根川さん!!」


反射的な動作──彼女の注意が逸れた瞬間、指先に集まっていた超常の力がふっとほどける。


「よし、今ですよ利根川さん!!」

「……グっ………。なんだ……っ。なんなんだこれは…一体ぃ〜〜っ……!!!」



「イクラの赤ちゃんどこだろ〜」

「なっ、なな何をしてるのヒナちゃん?!!!」

「え、だって陽菜。イクラベイビーが〜…」

「そもそもイクラの時点で赤ちゃんでしょ?! バカじゃないっ!!??──」


「──って、あっ!!!」


根元が気づいたときには、もう既に遅し。

744『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/20(金) 23:40:34 ID:cs1/aZKQ0
三嶋と利根川──二人の背は、疾風のごとく並木道の奥へと向かっていた。
風を裂いて逃げるその背中は、もはや手の届かぬ距離。追う者の焦燥すら置き去りにして、二人は朝の渋谷に溶けていった。


「……あぁ…ッ。も、もうっ!!!」


そんな二人を逃がすまいと、大慌ての根元はポケットから支給武器──ダーツの矢。その一本を握りしめ、腕を振るう。
ビュンッと、鋭く空を裂き、利根川の背中目掛けてホップアップし続ける矢。
ダーツの矢とは、たとえ軽く投げられたとしても時速200kmを超える速度に達しうる、小さく鋭利な凶器である。
しかもその弾道は細く、速く、静かだ。目で捉えるのすら難しい。
ゆえに避けることなど、ほとんど不可能に近かった。



(何が『もうっ』だ…っ!!)



 バンッ──

 

「え…?!」

「なっ……!?」



その矢をいとも容易くエイム。
的確に銃撃し、命中させ、破壊しきった者がいる。
──他でもない。三嶋瞳、彼女本人だ。

即座に振り返り、まるで呼吸するような自然さで銃を構えると、無駄のない動きで一撃放つ。



「お………お嬢………………。キサマ………!? 今………っ」

「ちょ、話しかけないでくださいよ今は………。ほら走ることに集中しましょう!! 利根川さん!!」



007のジェームズ・ボンドさながらのアクションは、根元の動きを、そして利根川の驚顔を完全に静止画化していった。



【1日目/C3/並木道/AM.04:41】
【根元陽菜@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!】
【状態】健康
【装備】ダーツx15
【道具】???
【思考】基本:【対主催】
1:ヒナちゃんを守る。他の参加者は基本話し合いで解決。
2:田村さんたちが心配。
3:フードの男(肉蝮)に恐怖。
4:主催者逃がしちゃったし………。てかあの三嶋さん何者!?

【ヒナ@ヒナまつり】
【状態】健康
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:いくらの赤ちゃんを探す。
2:まんじゅう食べたい。
3:よくわかんないけど瞳必死でなんかウケる。(笑)
4:陽菜はやさしい。なんでもおごってくれるから大好き。


………
……




745『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/20(金) 23:41:44 ID:cs1/aZKQ0
続きは明日以降お送りします。

746『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/25(水) 20:42:06 ID:MLDmdjmU0


 【勇者達の道〔ブレイブ・メン・ロード〕】──。
──別名・『鉄骨渡り』────…っ。

 高層ビルの間に架けられた細い鉄骨を、命綱なしで渡らされるという狂気のギャンブル。
落ちれば即・地獄。
己の恐怖心とバランス感覚を天秤に賭けた、人間競馬の極致である。

三嶋と利根川。
二人の身を撫でる風は、果たして希望を運ぶ追い風か、それとも単なる絶望の強風か。
息も絶え絶えな三嶋らが辿り着いた丸井デパート一階にて、乾いた風が吹き抜ける──。


「ハァハァハァ………ぐうっ………………」

「はぁはぁ………、はぁ…………。間一髪でした…ね…………」


「……。……ククク……なるほど………。どうやら…本物のようだな…………、お嬢……………っ」

「はぁはぁ………。な、何が…ですか…………?」

「『──そしてアメリカに渡り軍に入隊し、ノウハウを掴む。』────Wikipedia……っ! [三島瞳-の項より]…出展……っ!!」

「………」

「あれだけ小さな矢を…針の穴を通すかのように撃ち抜いた……キサマの銃コントロール………っ! …流石のワシも、アメリカ仕込の銃扱いには圧倒的感服……。頭が上がらん…。Congratulations……! ──………とどのつまり、三嶋お嬢よ…………」

「はあ」


「…何故、わざわざアメリカ軍に入隊した…?」

「………英会話を習いたかったから…です」

「あ…………? 禅問答かっ! キサマ……!!」



 禅問答かッ――と声を荒げられても、三嶋としては困ったものである。
なにせ、『英会話を習いたかったから』とは誇張抜きの事実。ド真ん中153km/hストレートの事実なのだから。

三年前。まだバーテンダー時代の三嶋はふと「英語くらい話せた方が、カウンターも映えるだろう」と思い立つ。
バーテンダーは英語で注文されても返せなければ話にならない。そう考えた彼女は、迷わず英会話留学を申し込んだ。
わずか二週間の短期、場所はニューヨーク。軽い気持ちの渡米留学のはずだった。
しかし、どこでどんな手違いが起きたのか、彼女が辿り着いたのは米軍訓練基地の本場──フロリダ州。
案内された施設の看板には、『LIVE FIRE TRAINING ZONE!!』の文字。すぐ隣でカモフラージュ姿の大男たちが発砲訓練を続ける。
パスポートを手にうろたえる間もなく、彼女はそのまま基礎体力演習コースに放り込まれたのだった。
結果、二週間後――三嶋は、英会話以前に銃の照準をマスターしてしまったという次第に至る。

ただ、そんな行く先先で酷い目に遭うという三嶋の体質を、利根川は知るはずもなく。
彼女の曖昧な回答を煙に巻く詭弁とでも思ったのか、口角を引きつらせたままゆっくりと息を吐いた。


「……………。──」

「Then let's see what you've got in terms of English conversation skills.」
(ならばキサマの英会話力を……お手並拝見……! いこうじゃないか……)

「え…!?」


饒舌かつ嫌みを含んだネイティブが、利根川の口から飛び出る。
どうやら英会話テストが始まるご様子だった。


「えー…。あーー…。──」


「──Ah? The hell you say, p*g」
(あ? 何だブタ野郎)


「あ………!??」

747『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/25(水) 20:42:23 ID:MLDmdjmU0
「Don’t start babbling in English outta nowhere, a*shole」
(突拍子もなく英語でベラベラしゃべってんじゃねぇよクソッタレ)

「…あぁ…っ!? ──...You—how exactly do you plan to survive this Battle Royale?」
(──…これからこのバトルロワイアル。キサマなりにはどう生き抜くつもりだ?)

「Like I give a sh*t. Whether I live or croak depends on the goddamn scene. But you? You better keep that fat a*s movin' and try not to slow me down, got it, d*ckhole?」
(さぁな。生きるも死ぬもその場の流れ次第だろーよ。ただなァ……てめぇはあたしの足引っ張んなよ? そのでけェブタケツ引きづってなぁあ〜? わかったかこのチン──【不適切なフレーズの為以下翻訳不能】)


「なっ…………。…米軍仕込みすぎるだろ英会話力……っ!! ハートマン軍曹かキサマっ…!!!」

「はーとまん…? すみません、まだ英語が板についてないものでして…」

「その小汚い板を取り外せっ……!!! 大至急っ…!!!」


どうやら英会話テストは、わずか会話二ターンで合否が出たようだ。
米兵隊仕込みの美しいネイティブスピーカーに、利根川の顎はわずかに緩んだまま戻ってこない。さしずめ、口の中で小型爆弾が炸裂したかのような衝撃だったろう。
利根川評して『小汚い板』との、その板裏には、三嶋の意図せずとも星条旗と弾薬と罵詈雑言がみっしり貼り付いていた。


「…あ、あの〜。具体的にどこが英文法おかしいんですか? 私も一生懸命頑張ったつもりなんですけど……上手くいかなくてぇ〜──…、」

「黙れ…! もう既にパーフェクツ・ネイティブだ……!! 違う意味でな……っ?!!! ……ちっ…。さて、お嬢よ…………」

「えぇ…なんでしょうか……」


「…改めて、一つ良いよな………? 軽い質問の件を……っ!」


──誤解なきよう何度でも念を押したい。三嶋は本当に、『意図せずして』酷いスラング交じりの英会話をしているのである。
──彼女にとって、本当に普通な英会話をしているつもりなのだ。

──ただ、そんな(違う意味で)あんまりな英会話力は見なかった事にして。


────再演。
利根川は、先程ヒナ&陽菜に遭遇したせいで遮られてしまった『軽い質問』を、捨て牌をふと切るように投げかける。
タイミングを逃したまま切り損ねていた言葉の断片が、今になって熱を帯び、舌先へとせり上がった。


「……一つ聞くぞ。いいか………?」

「Keep the heavy sh*t limited to that flabby-ass body of yours」
(【不適切なフレーズの為以下翻訳不能】)

「黙れ死ねっ…! ……ともかくキサマ自身についての疑問だ。…何故、キサマはワシを…──…、」




「「…あっ……」」

「あっ」




 ただ、またしても質問は遮られる事となる。
言葉の続きが喉に引っかかったまま、二人の視線が角に張り付く。
壁の向こうから、まるでタイミングを測ったかのように、ふらりと顔を覗かせる金髪ショートの女子生徒。

言うまでもなく、見知らぬ参加者。
そして言うまでもなく、立ち込める『災いの予感』である。

軽い質問から始まり、対面した人物と出会い頭「あっ」がハモるというこのデジャブ。
再演再演再演再演再演再演再演…、再演の連続。──『災炎な再演』――──。
ヒシヒシと火の粉が舞い込む中、金髪娘はその再演の幕を躊躇なく引き上げるのであった────。

748『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/25(水) 20:42:38 ID:MLDmdjmU0
「…な??! …い、いやァァアアアアアアアアア──…、」

「──ふがっ!!??」


「あっ、危っな〜…!!! なにこの一難去ってまた一難!?? …も、もうっ〜〜…またまたまたまたまたまたまたぁああ〜〜〜〜〜〜〜…!!!!」

「………………クソ……っ!! …はぁ……やれやれだ………」


 女子生徒──日高 小春の叫び声が漏れるその寸前。
三嶋は反射的に一歩踏み出し、目の前の少女の口を勢いよく塞ぐ。
先程の対ヒナ戦の経験ゆえ、出会う参加者すべてを信じる権利をとうに停止させられていた利根川タッグだ。先手必勝と、とりあえず日高の動きを封じることに先じた。

三嶋の手のひらに日高の唇が触れる――指先を擽る湿った感触。甘やかな唾液。
暴れる彼女の体を押さえつける三嶋を傍目に、我先にと『再演』の上映中止に動いたのは利根川であった。


「…もが…ッ、もが……も…が……ッ──…、」

「Shut-up…!! 黙れ…ぶち殺すぞ……!! 小娘めが………っ」

「……っ!!」


ビクッ──、と。
利根川の低い唸り声で、日高は肩を小さく震わす。
刃物よりも冷たい視線が頬をかすめ、「……っ」と喉の奥で悲鳴が噛み殺される。
補足として、「……いや、殺しはしないからね? 殺しは……」と囁いた後、三嶋は硬直下を見て取るや言葉を継いだ。

 
「あの……いい、かな…?」

「…………ッ………!」

「…私だってこんな安っぽい脅し気が進まないけどさぁ……。ごめん…大声出さないで…。──」

「──仮に叫んだら……、こうだから!! こうっ!!」

「っ!!!」


三嶋はそう言って、二・三回トントン…と、日高の肩に銃を突きつける。
それは軽い仕草のようでいて、否応なく状況を理解させるには十分だった。


「だから、…お願い。私もそんなのしたくないから〜…、何も見なかったことにして去ってくれる…かな………? ね?」

「…………………」


「…ね……?」


「……………」



 日高からのアンサーは、コクリっ────、と一つ。

三嶋のプチ脅しに、今にも涙が零れそうな潤んだ眼で、日高はそう小さくうなずいた。
その仕草に、三嶋の胸の奥から長い息がこぼれ落ちた。
張りつめていた空気が、氷の表面にひとすじの亀裂が走るように、わずかに緩んでゆくという。
三嶋は安堵の思いのまま、そっと対面の柔らかい唇から手を緩めそうになった。


「……はぁ〜〜………、良かっ──…、」


「フっ……青二才が……っ」

「えっ?」

749『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/25(水) 20:42:52 ID:MLDmdjmU0

その横からぬるりと差し込んできたのは――"蛇"こと利根川幸雄。
まるで安堵という名の糸が張られた瞬間──その瞬間の真ん中を躊躇なく断ち切るように。
静かに、だが確実に響く声で彼は再び、三嶋の『甘さ』へ刃を向けた。


「黙って聞いていればお嬢……。貴様はビジネスでは一流なのかもしれんが…、……出とるぞ……っ。──」

「──いざ説得となった際……年相応の甘さが…………っ!!」


「え、え、…利根川さん、な、何が不満と…?」


「良いか……? この小娘のように──こちらへ強い警戒心を抱き……、かつ自らが不利な立場にある者には……完全なる『納得』……っ! 納得を与えねばならないもの…………。ワシらは……っ」

「えぇーと…とどの〜つまり〜〜…?」


三嶋の『とどのつまりイジリ』にコンマ0.005秒だけ眉をひそめたが、利根川は意に介さず結論を突き付ける。


「そう…とどのつまり……Win-Win…──『対価』だ……っ。双方が得をする形を提示する……この小娘にも利益があるような……そんな対価の提示をせねばなるまい………!!──」

「──それをせねば、叫ばれて終わり………っ!! 人は納得を得たとき、初めて従う……それこそが…プロの駆け引きなのだっ……!」

「あーなるほど…。……じゃあ、お手本。お願いしますよ……? てか自分がやりたいんですよね? 説得」

「…ククク……っ!! その言葉を待っていたものよ…………!!」



 利根川が一歩、日高ギリギリまで歩を進める。その足取りはまるで将棋の飛車。直線的で迷いがない。
視線を正面から受け止めた日高の肩が、小さく震えた。


「…………っ…」

「おい……小娘……!!!」

「っッ…!」

「…ワシが……主催者ではない……何度そう訴えたとて……っ、まぁキサマら(馬鹿共)には……理解できまい事……。なぁ? 小娘よ……っ」

「…………」


「──ゆえに…仮にで構わん。“ワシが主催者である”という体《てい》で……話を進めるぞ……っ。体《てい》で……っ!」


「……え?」

「………?」


日高。そして抑える三嶋、と。
彼の言葉にキョトンとする二人を前に。利根川は唐突に右手を上げ、


「…ククク…………。──ドガアァァアンッ!!!」

「……っッ!?」

「わっ!?」


パチンっ────と指を鳴らした。

そう、これもまた『再演』。
あのオープニングセレモニー時の偽主催者の第一声、ならびに首輪起爆の指パッチンが、静まりかけた丸井デパート内を切り裂く──。

──とはいえ、彼はあくまで『偽物』の主催者《トネガワ》。
その指先に宿るはずの死神の契約も実体を伴うことはなく。音だけが虚しく響き渡ったという結果に留まる。

750『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/25(水) 20:43:09 ID:MLDmdjmU0
「……だなーんて。ワシの指パッチン一発で…首と銅がララバイになることは承知の筈だ……。キサマも重々………っ──」

「──ましてや、キサマが叫んで…仲間を呼ぶとなればな………? こちらも渋々強硬せざるを得なくなるもの………。分かるか…っ」

「………っ……………」


利根川の口から漏れた『仲間』という一語に、日高の肩がわずかに反応する。
震え続けていたその身体が、ほんの一瞬だけ別の感情に触れたかのような。
そんな微細なしぐさを、利根川は一切見逃さず――そして間を置かず、声の刃をさらに深く突き立てた。


「ククク…………。小娘、連れがもうできてるようだな………? 参加者の…仲間が……」

「………………」


──こくりっ。


「ほうほう………! …なら尚更丁度いいっ……! ちょうどワシとて調子が悪かったものだからな…指鳴らしの不安定さがっ……。──」

「──ほれ、もってけ…っ! セーラー服娘………!」

「…………っ……?」


「出血大サービス………っ!! 『悪魔的特別支給品』をくれてやる………!! 出会った縁に…特別だ………っ!!」


「……っ!」

「え………?」



 そう言うなり、利根川は背後のデイバッグに手を差し入れる。
ゴソリ…と布が鳴り、気づけば一冊の『書物』がその手の中に。
『出血大サービス』とは、いかなる贈り物か――。全身の血潮が波打つ日高に、差し出されしその本。

何を思ったか、なんとも言えない表情をする三嶋をスルーしつつ、利根川は一切の間を置かずに言葉を継ぐ。
まるで呼吸と同じくらい当然の所作として、説得と支配の『次の一手』を置いていった。


「記憶に新しいものだなっ………。先ほどのバスにて、ワシ…が蘇らせたろう…? 首の離れた…見せしめの…小娘を………っ」

「………」

「…………と、とね…」


「あの信じられぬ光景の原理はこの本………!! 見ろ……二百ページ目の『魂を蘇らせる〜』の記述………。ここを詠唱するだけでどんな肉片もカムバック………!! 何度でも蘇生させれるのだ………っ!──」

「──いわば、魔導書…とやつだな…………っ!!」


「…………っ……………!」


「……いや…、いや……利根…川さぁん……。──」

「(──いやソレ私の本やんけぇええええええ…ええ……ぇぇ…………)」


無論、その魔導書は『私だから伝えたい ビジネスの極意』。
著者である合法ロリ社長の顔写真入り。
帯には『堀江氏絶賛!! 【バカと政治家はこれを読め!! 日本復活の鍵となる本!!】』との詭弁が躍る、魔法の如しビジネス本である。


「そんな本をキサマに…無条件でやるというのだからまさしく悪魔的………! もはや犯罪っ………!!──」

「──…無論…信じるか信じないかはキサマ次第……っ。キサマには自由が保障されておるわけだ…。選択の自由がな……?──」

「────まぁ違う意味で『自由になりたい』というのならっ…今すぐ大声をあげるといい…………っ!! ククク…!!」


「…………………ッ」

 ──ビクッ

751『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/25(水) 20:43:30 ID:MLDmdjmU0
「Are you Alright? ──さぁ…ワシからの縁、受け取ってもらえるかな………? 小娘……っ」


「……。……………」


 視線という矢が四方から突き刺さるなか、日高の前に差し出される蘇生本。
頁の重みより利根川の声の圧が重く、恐怖と奇妙な期待が胸の奥でせめぎ合う。
胸の奥ではまだ怯えがざわめいていたが、それでも信じてみたくなるような熱が、心の奥に滲んでいた。
逃げる余白も、否と告げる勇気も見当たらず、せめてもの意思表示に喉がひとつ震える中、


静かに彼女の身体は応えた。



「……………ッ」

 ──こくり………



「クククっ……!! 圧倒的賢明な判断………っ! キサマの将来が非常に楽しみだよ…。ククク……」



 ────勝利。
──結果的に、完全勝利。

利根川の説得は通るに至った。

それはまるで、タンヤオすら見えないゴミ手で始まった配牌が、ツモるごとに不思議と形を成し────混一。
ドラドラ──、三色同順まで乗って――倍満。
そんな逆転の巡り合わせだった。
ブラフも押し引きも冴えわたった、完璧な一局。
その和了牌を、短い会話の中で利根川という『天才雀士』は完璧に引いたのである。

利根川の見事な和了に、三嶋は祝杯の声をあげざるを得なかった。


「…私の本を勝手にどんどん神格化してきやがるのはさておき………。──」


「──さすが利根川先生!! デメリットを逆手に取って窮地を脱するとは……。さすがですよ!!」

「クク……。トネガワ主催者と呼びなさい…! 今はな…。三嶋よ……。──」

「──しかしキサマも中々酷な女だ…。ほれ…、もう解決したのだから、小娘の口から手を放すんだ………」

「あ、そうでしたね…。ご、ごめんね……! そしてありがとね!!」


「…………──ぷはっ…」



日高の口から、そっと三嶋の手が離れる。
その瞬間、張りつめていた糸が静かにほどけ、利根川と三嶋の胸に、歓喜と安堵がゆるやかに満ちていった。
まるで長い局を制したあとの和了の余韻――。


静かで、

確かな、

そんな勝利の余韻がそこにはあった────。



「まぁお嬢、これはキサマの本にも助けられた賜物だっ………。クククっ……」

「…うーん、それに関してはとりあえずノーコメントで〜…!!」

「…しかしワシも考えものかな……? 『私だから伝えたいビジネス』一冊で秒速億を稼ぐ…激アツビジネスを──…、」



「早く助けてぇえええええエエエエエエエエエエッッ──────!!!!!!!!! なじみちゃァ──────ん!! センシさん──────ッ!! 主催者がいるよぉぉ────────────っっ!!!」

752『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/25(水) 20:43:52 ID:MLDmdjmU0
「「なっ」」





 ──ただし、勝利の味は『水』の味。
利根川ら二人の余韻に水を差したのは日高の絶叫。その声の大きさたるや、まるで館内アナウンスさながらの通達だった。
溜まった物を全て吐き出すかのような。日高の血気溢れる絶叫は、デパート内の空気を突き破り、三階の天井までも震わせるほどの凄まじいデシベルで響き渡る。

利根川も三嶋も、一瞬で言葉を奪われ、ただその空虚な余韻の中に立ち尽くすしかなかった。



「むっ。…聞こえたか、なじみ」

「…当然! ボクの耳に入らないのは授業だけだよ!! ……よ〜くは分かんないけど日高っちピンチっぽいし、さぁダッシュだDASHダッシュ──────!! センシィ──────っ!!!!」

「ゆくぞっ!!」



タ、タ、タタタ、タタ、タ………。



「「あっ!??」」


その叫びを合図にしたかのように、奥まった通路からと靴底が床を刻む二つの速足音が近づく。
続いて硬質な金属が引きずられる不協和音が重なり、静寂の廊下へ不気味なリズムを奏で始めた。




 利根川の和了ももはや水の泡。
ツモの直前――日高が放ったのは、麻雀界における禁忌の奥義、『つばめ返し』。
あらかじめ欲しい十四枚を一列に積み上げ、己の手牌と瞬時にすり替えるという、禁断の反則技。

『サムライスピリッツ』──橘右京使いの日高による『ツバメ返し(↙↓↘→+斬り)』は、利根川のプライドをズッタズタにまで切り裂いていった。


──日高の足元にて、魔導書(笑)がゴミのように転がり、風に吹かれて行く…────。



(このクソボケカス女ァ……)

「この…クズがぁあああああああぁあああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!!!!!」


………
……



【1日目/H1/OIデパート/1F/AM.04:59】
【日高小春@HI SCORE GIRL】
【状態】恐怖(軽)
【装備】橘右京の居合刀@ハイスコアガール(サムライスピリッツ)
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:なじみちゃん、センシさんと行動。
2:主催者とその助手(?@三嶋)の顔を認識。
3:矢口くん、大野さんと合流したい。
4:なんか私このパーティでツッコミポジション…?!

【センシ@ダンジョン飯】
【状態】健康
【装備】斧、料理セット一式
【道具】鍋、干しスライム@ダンジョン飯
【思考】基本:【対主催】
1:日高を助ける。
2:殺し合いから脱出。主催者を倒す。
3:日高・なじみとパーティを組む。
4:メガネの若者(丑嶋)が心配。

【長名なじみ@古見さんは、コミュ症です。】
【状態】健康
【装備】レーザー銃@ハイスコアガール(スペースガン)
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:日高っち今助けにいくぜえええええ!!!!
2:参加者の幼馴染たちと会う!! 僕はみんなの『幼馴染』だからね
3:…あれ? センシとボクの出番もしかしてこれだけっ?!

753『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/25(水) 20:44:42 ID:MLDmdjmU0
あとは伊井野出てくるパートと相場出てくるパートをパパパっとやっておわり!
続きは明日以降です

754『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/28(土) 16:27:27 ID:9Fifyl5Y0
 【Eカード】──…っ!!

 『皇帝』『市民』『奴隷』の三種のカードを用い、勝者と敗者の立場を極限まで強調した心理博打。
皇帝は奴隷に勝ち、奴隷は市民に勝ち、市民は皇帝に勝つ──ただしカード配分は不均衡。
一方は皇帝1枚・市民4枚、もう一方は奴隷1枚・市民4枚。立場の圧倒的差こそが、勝負の本質。

ゲームマスターが負ければ金銭を失い、挑戦者は耳や目といった尊厳そのものを賭ける──それがEカード。
三嶋らが命からがら逃げた先──S●INNS SHIBUYA109《服屋》には今、異様な熱気が満ち溢れている。
まるで焼き土下座の鉄板を眼前に据えられたかのような、息苦しいまでの緊張感が空間を支配していたのだ──。


「………さて…お嬢よ…」

「…うーーん。…そうだな……。…利根川さん、このアロハシャツ着てもらえます?」


 カラフルなアロハシャツ、もじゃもじゃと膨らんだアフロカツラ、そしてつばの広いパナマ帽──。
鮮烈な色と形が交錯する店内を、三嶋の指先は迷いなく渡り歩いていく。
まるで舞台衣装を選ぶ演出家のように、彼女の手は一つひとつの奇抜なアイテムを拾い上げていた。


「あ、はい。…そうだ、とりあえずサングラスも試着してみますか」

「……………『桶狭間の戦い』を知っているか………?」

「え? ……信長の…ですか?」

「…………クク、愚問だったな…。──」

「──今川義元の軍勢三万に対し、信長軍は僅か五千ぽっち…。誰がどう見ても圧倒的負け戦……窮地に立たされるな中………休憩中の今川軍を奇襲し──GIANT KILLING………っ! 織田信長は以降一躍乱世の寵児……っ。歴史の表舞台に駆け上がったのだ………」

「まさに運命を分かつ一戦ってわけですね」

「…信長は立派だ……。『殺すなら殺せ………っ』…その精神で駆け込める…剣槍乱舞する前線に…………っ!」


「──…同じ民族…同じ日本人の筈だ、あの人達と…ワシも………っ」


 利根川はそう言うと、ふっと視線を落とし、静かにうつむいた。

――1560年(永禄3年)。『桶狭間の戦い』。
圧倒的劣勢下の最中、家臣から「すぐ前方で今川軍が油断し、酒を酌み交わしている」との報を受けた織田信長は、この機を逃すまいと即断。
土砂降りの雨の中、わずかな兵を率いて奇襲を仕掛け、瞬く間に今川義元の首を討ち取ったいう──ビジネス戦略としても『ランチェスター戦略』の典型例に語られる痛烈一戦である。
そんな先人・織田信長の偉業を語り、利根川は何を思うか――。
彼の視線は、三嶋──いや、厳密には三嶋の腕にかかっていたアロハシャツやらカツラへと、実に恨めしそうに沈んでいった。


「そんな弱音吐いて…らしくないですよ利根川さん………。じゃ、一旦服脱いで、カツラを被っていただけ──…、」

「信長がするかあっ…?!! 仮に…家臣から『殿、逃げ延びる為にこれを………』と言われても……」

「…え?」

「変なコスプレをして…我が身を偽装しようとは……!!! するわけがない…っ…!!! しないんだよ信長はっ………!!!! …ふざけよって………。──」

「──この…三流スタイリストがぁあああああああっ……!!!」

「え…。えーー………」


 まるで風林火山が如し。
利根川は、三流スタイリスト《三嶋》に着せられた巨大なアフロウィッグ、袈裟のような僧衣を乱暴に脱ぎ捨てる。
「佐藤蛾●郎かッ」「パパ●ヤ鈴木かッ」とでもツッコみたくなる奇抜な装いが、彼の憤りを視覚化するようにぐったりと床に沈んでいく。

無論、このセンスの悪さも甚だしいスタイリングに、三嶋には悪意や悪ふざけの意図は全く無く。
あくまで利根川が『トネガワ《主催者》』として他の参加者に認識されるのを避けるため、彼女なりに考えた末の『変装プラン』なのだ。
その選択がどれほど彼の美学に反し、プライドを逆撫でしたとしても――少なくとも、命を守るという一点においては理にかなっている。


「…お気持ちはお察しします。ですがっ、…もうプライド捨ててくださいよ〜〜…。生身じゃ平穏に過ごせないんですってぇ〜利根川さんはぁ〜〜〜!!!」

「着るかっ…!!! 教示は命より重いっ………!! ワシをリカちゃん《着せ替え人形》扱いするなっ…!」

「もう〜〜〜…」

755『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/28(土) 16:27:44 ID:9Fifyl5Y0
──勿論の事、利根川本人にとってソレは納得のいく作戦ではないものだが。


「…ちっ!!──」



毒づく不良人形は、箱からタバコを一本取り出し火を点けた。


「──…………お嬢よ。一つ軽い質問…良い──…、」

「…うぇっ?! あっ!!!!!! ストップストップストップ〜っ!!!! ダメですよそれ以上はっ!!!」

「………あ?」

「考えてくださいよっ!? そのセリフ言う度に参加者《野郎》共と出くわしてるじゃないですか〜!!! もはやフラグ化してますからね!!! だから絶っ対言わないでくださいよっ?!!!」

「…………安心しろっ…。白旗《フラグ》はもう振ったわ…っ! 満足なくらいにな……」

「いや全然返し上手くないですからね?! …あっ。そうだ、利根川さんに旗持たせてみるのもアリかな〜──…、」



「Question──…っ! キサマは何故…ワシが『本物』だとわかった………?」




「え゙っ。…あーあ、とうとう封を切られちゃったしぃ…………軽い質問《死亡フラグ》」

「いいから答えろっ……!!──」


とうとう切って出された死亡フラグに、三嶋は恐る恐る辺りをキョロキョロと。
照明の隙間、服の陰、レジカウンターの向こう――どこかから突然参加者が飛び出してくるのではないか、そんな妄想じみた緊張が背筋を走っていた。
経験則が告げていたのだ。
利根川が『軽い質問』を発した瞬間、この世界はいつだって騒がしくなるのだと。


「──…キサマは何故…他の愚民共とは違い……ワシを信じて、そして行動してくれるという…………? …そればかりが気になって……むず痒くて仕方ないわ…………さっきから……っ」

「…あー、その事ですか…。──」


「──………。…………ええ、簡単な事ですよ」


その簡単な事、とは。
再度入念にキョロキョロと見渡した三嶋は、不穏な気配がないことを確認した後、静かに背中のデイバッグへと手を伸ばす。
幼子同然の小柄な体つきゆえ、三嶋が背中のデイバッグの中身をあさる姿は、まさしく“むず痒いところに手が届かない”。
肩越しに手をねじ込んでは指先が届かず、少し体をよじってはまたも空振り――小さな悪戦苦闘の末、ようやく彼女の手が目的の『ソレ』に触れた。

彼女が取り出したのは一冊。
使い込まれた背表紙が、そのページが何度も開かれてきたことを物語る────『圧倒的名著』。


「読ませて頂きました、愛読書ですっ!!」

「なっ………!?」


────利根川幸雄著・『お説教2.0』。その本であった。


「…ど、読者………………?」

「はいっ。経営者界隈で…一目置かれている幻の存在…──『利根川幸雄』先生っ!! 皆口々に疑問に思ってますよ。そのバイタリティを保持しながら、何故彼は起業しないのか…ってね。利根川さん…!!」

「…読んだのか………っ? それを………」

──ペラペラ、ペラッ

「『信じられない事柄を目にした時まず疑うべきは世界ではない。とどのつまり自分の目と判断力だ。(126頁目参照)』────…ほんと、みんな《参加者達》ダメだなって感じですよ……。利根川さんとアイツの違いなんて、一目瞭然なんですから!」

「……あ?」

756『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/28(土) 16:28:02 ID:9Fifyl5Y0
「あくまで私の洞察によるものですが。利根川さんとトネガワ《あの無能》はこれほどまでに違うんですからね!! ほら!」↓↓


……
………
ttps://img.atwiki.jp/heiseirowa/attach/171/400/%E3%83%88%E3%83%8D%E3%82%AC%E3%83%AF%E3%81%A8%E5%8E%9F%E4%BD%9C%E7%89%88%E5%88%A9%E6%A0%B9%E5%B7%9D%E3%81%AF%E3%81%93%E3%82%8C%E3%81%A0%E3%81%91%E9%81%95%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%21.png
………
……


↑↑「この通り内面は勿論、外見にも大きく差があるというのに…。ねぇ〜利根川さん」

「サイゼの間違い探しかっ…!!」

「『成功とは、大きな一歩ではなく、小さな“気づき”の積み重ねである(221頁目あとがきより)』──圧倒的名文です…。ハッとさせられちゃいますよ」

「…まさかとは思うが、いじっとらんよな………!? ワシが散々キサマの奇書を皮肉った……仕返しに…………っ」


三嶋大先生が、正気とは思えぬ信者読者《堂下》に粘着されていた件は、記憶にも新しい事であるが。――まさか、堂下と同様の熱狂的な崇拝者が自分のすぐ隣《三嶋》に潜んでいようとは。
まったくの盲点。唖然と、言葉の喪失。利根川は完全に茫然とさせられる。
ただ、その間もまるで熱は冷めることがないかのように、三嶋は畳みかけるように言葉を紡いだ。


「とどのつまり、成功《生還》の為にはコツコツ細かいところから積み重ねなくちゃダメなんですって!! だから…お願いします。着ましょう? ね…?」

「…キサマァ〜〜………。『とどのつまり』の特許出願でもしようものか………っ」


三嶋はそれで話を上手くまとめたつもりなのか、と。
眼前に差し出されたダサいマジシャンスーツを、利根川は害虫を扱うように手で払いのけた────、


「いいか!? 着ないと言ったら着な──…、」



その時。

ガチャリっ──。




「「あ…」」


「…えっ?」



────『フラグ』から少々遅れて、またも再演。

 カウンター奥、スタッフルームと思しき扉から不意に登場したのは、三嶋とほぼ同じ背丈程の、小柄な少女だった。
店内をかすめた風が、彼女の肩にかかる茶髪のおさげをふわりと揺らす。
赤い結い目《アクセサリー》からこぼれる細い毛先が宙に舞い、やがて静かに落ちるまでの一瞬──、


「…渋谷って、広いようで狭いんですね……。はァ……………」

「…ハァ………。もうワシは…疲れた………っ──」


──利根川と三嶋は、ほぼ同時に諦めのため息をついた。



「──…おい、そこの二つ結い娘……」

「………はい」

「せめて最期にさせろ……一服くらい…………っ。後は煮るなり焼くなり好きにしていいが…………武士の情けを………っ、かけれんものか……おい…」


(武士……。どんだけ武将が好きなのコイツ……)──三嶋が心中で一々毒づく中。
目の前の茶色いおさげの少女は静かに口を開いた。
その声音は風に揺れる髪とは対照的に、凛としていた印象だという。


「……やはり、利根川さんのようですね…」

「……おっ。この子脳みそいっぱい積まってますよ〜利根川さ〜〜ん。さすがですねーー…ハァ………」


「それに、──ミシマコーポレーションCEO。三嶋瞳社長」

「…え?」 「…あ?」


二人は少女の言葉に思わず虚を突かれる。
まっすぐに三嶋を見据え、言葉をひとつひとつ丁寧に紡ぐ少女――その眼差しには、幼さを超えた確かな意志と、揺るがぬ信念が宿る。

757『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/28(土) 16:28:16 ID:9Fifyl5Y0
「…お会いできて光栄です。不肖ながら私、伊井野。読ませていただきました」

「あ…?!」


少女は言い終えると同時にすぐさま──『再演』。
ほんの数分前、三嶋が見せた動きとまったく同じように、背中のデイバッグへともどかしく手を差し入れる。
やや苦戦の末、ようやく引き抜かれたその手には────言うまでもない。『再演』となる一冊の本。


「貴方様の本を。『本物の』利根川幸雄……。利根川先生の御本を……!」



───凛、時として奇跡。

それは、伊井野 ミコという――──初めて、話の通じる参加者に出会った瞬間だった。




………
……


758『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/28(土) 16:28:33 ID:9Fifyl5Y0
「やっと………会えた…………。──」



 感涙──。



「──話の…分かる……参加者………」

「…はい?」



 三嶋の、心からの感涙──。



「ありがとぉ伊井野さん────っっ!!!! もう…ほんっとにすっごく大変だったんだからああぁ〜──…、」

「──ぐへがあっ!!!」



 三嶋の感涙は、拒絶の一撃と共に宙へと弾け飛んでいく────。



「不純同性行為…っ!! 貴方様という御方が…気安く抱きついてこないでくださいっ……!!」

「…え、えぇ……?!! …不純要素……どこ…?!」

「よせお嬢……。自分の身体に触れられるのが嫌という…そういう人間もいるのだ………っ。というか一番不順なのは…圧倒的にワシ………っ!!!」

「え、えーー……。と、とりあえずごめん…ね……? 伊井野さん……」

「……失礼。私も私でつい取り乱してしまって。…三嶋さん、申し訳ありません」


 事情説明・兼・自己紹介タイム割愛。
根元&ヒナ、日高と──これまでまるで話が通じない、信頼の通路すら築けぬ参加者共と出会いを重ねてきた道中。
そんな旅路の果てに、ようやく現れた《理解者》ミコの存在に、三嶋と利根川は心の底から歓喜していた。
それは言葉が通じるというだけで、これほどまでに救われるのかと。──――異国の僻地で日本人旅行者を偶然見かけたかのような、それに似た安堵に二人は酔いしれる。

自分たちの味方が現れたという事もさることながら、利根川がなによりも感心さえられたのは、彼女の経歴。学力。
自己紹介の間にてミコが口にした肩書等に、利根川は顎に手を添え感服する。


「(ククク…。…ほう……。──)」


「(──裁判官の父を持ち…、名門・秀知院学園で風紀委員を務めるという……原理原則主義者、伊井野ミコ………っ。──)」

「(──将来は司法関係の仕事を勤めたいだか……そのナンダカカンダカという夢は心底どうでもいいが……。…だが流石は……秀知院現役生徒なだけあるじゃないか…………!──)」

「(──凡人共とは頭一つかけ離れた…洞察力……っ。力が………!! ……コイツは使える………っ!──)」


「(──さしずめ両腕が揃ったものだな………。右腕には三嶋…、左腕には秀才の卵《伊井野》とやらがっ…!! ククク……っ)」


ミコの圧倒的な肩書き、そして名門校に在学していることをほのめかす、端的で洗練された自己紹介。
その語る姿からにじむ育ちの良さと、場の空気をわきまえた品のある教養。利根川は、その全てを一瞬で見抜いた。
「これほど“使える”参加者は、もう二度と現れまい…」――そう確信した彼の口元に浮かぶは期待の笑み。
『逆境』の予感をまるでミコに見せつけるが如く、利根川はじっとミコに視線を注ぎ続けた。


「…そうだ。三嶋さん、良い機会ですからお伺いしたいのですが…、貴方の著書である『私だから云々』………あれ、全文パクリですよね? はっきり言って」

「……。(どんな風向きになろうが結局そのゴミ本の話に巡るのかよッ……)……え〜と……。それが…なにか…?」

「良いですか? 盗作罪は著作権侵害に当たり、刑事罰の対象となる可能性があります。ただし、著作権侵害は親告罪であるため著作権者が告訴した場合にのみ、公訴を提起できますがね。…見損ないましたよ。何開き直ってるんですか?」

「…私だって、あんなの……。小宮って野郎《編集者》に無理矢理書かされたもんだし〜…」


「おい、話は済んだか……? 小娘共…………っ」


「…お気遣い無く。利根川先生との対話に比べれば塵芥同然の会話ですので」

「……塵芥…。まぁ、事実だけどさぁ………」

759『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/28(土) 16:28:50 ID:9Fifyl5Y0
 小宮《編集者》同様、三嶋の愚本(──の話題に──)ピシャっと冷や水をかけた利根川は、今度はミコへと顔を向ける。
彼の目に宿るは、まるで試すかのような光。
問いかける内容は一つ――ミコなりの『解決策』についてだった。


「さて、伊井野よ……。秀才のキサマは…どう考える……?」

「…利根川先生が、今後参加者対策としてどうすべきか……についてですね?」

「ほう! クククっ……! 本当に将来が楽しみな小娘を呼びよって…!!──」


「──…その通り……っ! …かの棚ぼた成り上がり娘は…ワシに変装させて事を済まそうという……圧倒的凡骨な発想しか思いつかぬものだったのだがな………。是非とも……っ、キサマの代案を参考にしたいものだ………!」

「何この毒の飽和状態……。利根川さんもしかして私に見切りつけてませんっ?!」


「…………そうですね……、利根川先生…。──」


一旦はそう答え、ミコはしばし静かに思考の淵へと沈む。
眉間に軽く皺を寄せ、言葉にならぬ答えを探すように――考え、また考え、さらに考え続ける彼女。
だがやがて、まるで諦念と表すかのように、正面へと顔を上げた。


「……申し訳ありません利根川先生。…想像以上の難題ゆえに、今私の口から即席で案を出す事は不可能です」

「………。いや、いい………。ワシとて今ここで…過度な期待はよせておらんかったからな………。あまり責めるな…、自分を……伊井野……っ」


もっとも、『期待などしていない』というのは大嘘。
ミコの返答に落胆を隠せない、利根川の実に分かりやすい表情を見て、三嶋は内心でふっと嘲笑を浮かべる程だったが。

──だが、そこで終わらない点が、利根川が惚れ込んだだけのことはある才媛・ミコであった。


「…ですが、三人集まれば文殊の知恵。…とどのつまり、『五人集まれば』…どうなるものか、です」

「あ…?」 「…!!(出た?! 利根川さん十八番の『とどのつまり』!! やっぱこの子ホンモノ《熱烈な読者》じゃん〜!!)」

「私にも同行者が二人…。確かにいますので、彼らを交えて……自己紹介も兼ねてその解決策を導き出しましょうか。──」


「──私が藤原先輩よりも唯一尊敬するお方……利根川先生…!!」

「…なるほど……っ!! 素晴らしい……。キサマは圧倒的だな……人脈面もっ……!!」


ミコの口から飛び出した、まだ見ぬ協力者の存在。
この状況下にて、たった一人さえ参加者を信頼させ、引き入れることすら中々至難なはずだ。それにもかかわらず、彼女は二人も連れていると言うのだ。
人を見る眼、統率力、そして何より信頼を得る才――。やはりこの少女は只者ではなかった。


「私達もちょうど今この服屋に野暮用がありましてね。奥のスタッフルームに、鴨ノ目さん、そして鰐戸さんが待機してますので、ご同行お願いします」

「…鴨ノ目に鰐戸か………。ククク…………」

「………やりましたね、利根川さん…!!──」


──ヒソヒソ、

「──……。(ここに来て立ったのはまさか『成功フラグ』とは……。やはり偉大な作家は神も見放さないんですよ!! 利根川さん〜〜っ!!)」

「……。(クク……、月面に旗《フラグ》を立てた時…きっと奴等も同じ高揚感だったろう……アポロ13号の宇宙飛行士連中も………っ!)」

「………!(ほんとミコちゃんに会えて良かった〜…。聞きましたか利根川さん、秀知院ですよ!! あの秀知院!! もうベタ惚れしちゃいますよ〜〜…!)」

「………。(クク……! 程々にしておけよお嬢…? 羞恥淫……不純同性行為《百合》も……っ!)」


「…いやその発言はさすがに笑えませんから。」

「……………あ? なんだあっ……? ワシは今何か喋ったかぁ……? あぁあ〜っ??」

「…………。(……………)──」


「──ともかくこれで一安心ですねっ!!」

「圧倒的同感…!! …ぐぅっ……! 思えば…しんどい…苦行の道のりだったものよ………っ」



茨の道の末、ズタボロの身の前に咲いていたのは、聡明な一凛の百合花。──ミコ。
伊井野ミコという名の若き才媛に、確かに薫る戦略性。

利根川は、期待と確信に胸を膨らませ、伊井野のあとを歩んで行くのだった─────。


奥へ、奥へと。スタッフルームの元へ────。

760『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/28(土) 16:29:11 ID:9Fifyl5Y0
────ゾッ………。



「…ぐううっ…!!??」






「え…? 利根川先生、どうなさいましたか…?」





 不意に、正体不明の悪寒が利根川を襲った。
何が原因かは分からないが、それは首にネットリとまとわりつく大蛇のような、嫌な予感。
無論、あくまで『予感』である。何の根拠も気付きも一切ない、なんとなくのその予感。


「……やっぱり……。…ワシは降りる。行くぞ、お嬢《三嶋》………」

「えっ?! な、なんでですか??!! き、気を確かに………」 「………」


 Eカード、パチンコ『沼』、十七歩麻雀、そして社会という名の終わりなき競争──。
利根川幸雄は、これまで幾度となく死線を渡ってきた。
不条理に満ちた勝負の場にあって、ただ勝つのではなく、勝ち抜くということ。それを可能にしてきたのは、決して運ではない。
一手、一秒の『気づき』であった。
絶望の中に差し込む一筋の光を見逃さず、他者が見落とした『違和感』をいち早く察知し、踏み込む勇気と見極める冷静さを併せ持つ──。
それが、利根川という男の本質だった。

その勝者ゆえの独特の嗅覚。勘というわけか。
もはや本能。野生の勘に近い。数々の修羅場を越えてきた者だけが持つ静かなる警鐘が彼を支配していたのだ。


「…利根川先生、疑心暗鬼になる心中はお察しします。ですが、私をどうか信じてください!! 罠…口八丁の方便……そんなのでは決してありません…!! 利根川先生、どうか…──…、」

「予感だっ……!!」

「「え?」」


 利根川は語る。
一見すれば、何の変哲もなく、明るい照明に照らされるスタッフルーム扉。
だがその奥に潜み隠され────どす黒く澱みきった『予感』について、利根川は説明を始めるのであった。


「危険な…危ない雰囲気とは……普段の日常ならば…得……っ。女共はその危ない雰囲気の男に……、ヤバそうな男に惹かれるのだ……心をっ………。──」

「──だがっ………、ワシが今…感じる危険な雰囲気とは…────文字通りの『キケン』ッ……!! 悪い予感しかせんっ……!!」

「………いやそういうのいいですから。バカなこと言ってないでついていきますよ……」

「…危険とはつまり。『私の同行者が信じられない』、と。そう仰るつもりですか?」

「……察しが良いな………っ。勿論…、この件はキサマには一切非はない……。ないがっ…………──」


利根川はこの折、一瞬言葉をつまらせる。
スタッフルームの曇りガラス越しに、ぼんやりと二つの人影が浮かんだ為だ。
言わずもがな、その人影はミコの言う『同行者』なのだろうが、その輪郭を視界の端に捉えた瞬間、利根川の中にあったただの『予感』がそして確信へと変わっていく。

大人の体格の、二つの影。
曇りガラスの向こうで、ゆっくりと輪郭を濃くしながら、静かに、確実に近づいてくる。
『鴨ノ目』、『鰐戸』という、そんな影は──。



「…伊井野、キサマは優秀だ…。ワシが出会った小娘達の中じゃ……文句無くナンバーワンの切れる女………。実に優秀だっ………。──」

「──そんな優秀なキサマに…人生の年長者であるワシから………別れ際、アドバイスをくれてやる………」


「え…?」

761『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/28(土) 16:29:27 ID:9Fifyl5Y0
──ガチャッ…



「ミコ、誰と話してるん──…、」

「さっきからガタガタうるせェぞ伊井──…、」




「「……ぁあ?」」


「え゙」





──姿を現したその瞬間、彼らは視界に捉えた『主催者の男』めがけて、迷いなく一直線に駆け寄った。

──それぞれ手には、重たげな鉄器――まるでバールのような物を握りしめ、鬼気迫る形相を貼りつけたまま。


パっと見で分かる明らかに『アチラの《やべー》世界の人間』な坊主頭の二人。
世にも恐ろしいふたつの恐相を前に、身動きひとつ取れず硬直する三嶋を無理やり引き寄せ、利根川は踵を返す。
別れ際、彼は伊井野ミコ《実に惜しい人材》に向け──『ワンポイントアドバイス』を残し、泣く泣くこの場から疾走していった──。





「友達選びはよく考えろっ……………伊井野…っ!!!」

762『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/28(土) 16:29:39 ID:9Fifyl5Y0
【1日目/G7/ビル1階/S●INNS SHIBUYA109店内/AM.05:10】
【伊井野ミコ@かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜】
【状態】頭部打撲(軽)、左頬殴打(軽)
【装備】???
【道具】ホイッスル、クロミちゃんの抱き枕、利根川著『お説教2.0』@トネガワ
【思考】基本:【対主催】
1:ど、どこに行くんですか!? 利根川先生!!
2:殺し合いの風紀を正す。
3:鴨ノ目さん、鰐戸さんを信頼。
4:法律違反をする参加者を取り締まる。
5:利根川先生を助けたい。
6:カメラの少年(相場)がトラウマ。

【鴨ノ目武@善悪の屑】
【状態】背中火傷(大)、右足火傷(軽)
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【対主催】
1:目の前の主催者野郎を追いかける。拷問後、即殺害。
2:クズは殺す、一般人は守り抜く。
3:ミコ、三蔵と行動。
4:三蔵は屑と認識しつつも見直している様子。

【鰐戸三蔵@闇金ウシジマくん】
【状態】胴体、顔に微々たる火傷(軽)
【装備】パイプレンチ@ウシジマ
【道具】処した男達の写真@ウシジマ
【思考】基本:【静観】
1:目の前の主催者野郎を追いかける。拷問後、即殺害。
2:伊井野、鴨ノ目を信頼。
3:自分に指図するクズ、生意気なブタ野郎は即拷問。




763『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/28(土) 16:30:05 ID:9Fifyl5Y0
タブアシ(続きは多分明日)です

764『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/01(火) 21:33:10 ID:kyzqnuMU0




……
………

「はぁはぁ………。…うっ、ひぐっ……、うぇ……ん……っ」

「………」

『羞恥心〜〜♪ 羞恥心〜〜♪ オレ達は〜〜〜〜♪』



「うっ…もう…な、なんなのぉお……もう………。うぅっ……………」

「………………」

『もういつもどんな時も負けやしないっSAァ〜〜〜〜♪』



 【羞恥心】─────…っ!
それは、2008年に結成されたユニットによる、かつて一世を風靡したデビュー曲。
渋谷の路地裏、公園前にて。
たまたまそこに落ちていた古びたラジオから、その懐かしきメロディが流れ出す──…、



『どんまいどんまいどんまいどんまい〜〜♪ 泣かないで〜〜〜(笑)♪』

「「ぃいッ!!!──」」

「「──煽んなボゲッ!!!!!」」



 ガシャンッ──。
蹴り上げられたラジオは、宙を舞う刹那──『渋谷区の天気、今朝は三十度を越える見込……』とニュースキャスターの声を響かせ、

 バンッ──。
遺言を言い終えることなく、アスファルトに叩きつけられた。


「……死ね…っ!!…………」


 無論、ラジオはこの時すでに死亡している。



 ニュースキャスターの予報通り、突き刺すような陽射しの下の大疾走。
今どき野球部ですら避けるというこの炎天下での走り込みは、利根川と三嶋を汗でぐっしょりと濡らし、ベタついた不快感と特大疲労で包み込む。
“よりによって……夏に…バトロワ開催しやがってぇ…………”────。
──公園の水道水をがぶ飲みしながら、三嶋は天高く眩しい太陽を恨めしく睨んだ。


「…クク……っ!! ケキャっ…! キキキ………」

「……え?」

「分かった……っ! とうとう…気付いてしまった……っ!! キキキ…………っ」


 そんな三嶋の隣でふと響く不気味な笑い声。
三嶋は一瞬、それがラジオからの音声かと錯覚させられた。
というのも、隣から聞こえた笑い声は、まるで機械のような感情皆無の声。完全に狂い切った笑い声だった故に。──まさか隣にいる利根川の声だとは、思いもしなかったのだ。


「…と、利根川さ──」


「──ぁ………………………っ」


恐る恐る横を向いた三嶋は、この時。灼熱下の暑さを相殺するような悪寒に襲われたという。

765『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/01(火) 21:33:29 ID:kyzqnuMU0
 ムシャムシャッ……──

「…ククク……。よくよく考えれば……バトル・ロワイヤルだの…超能力だの…蘇生だの………っ。全てが荒唐無稽……! まるでバラエティ番組……っ!! クズ視聴者共が見る…ドッキリ番組なのだっ………!! なにもかもが…………!!」

「……と、とねが……ぁ……………」

「ククク……!! 見ろ…、お嬢…………っ!!」

「…え?」


 バリバリ、ムシャムシャッ……──

何せ、隣に広がるのは地獄絵図。
かつて『理想の上司』、『圧倒的ビジネスカリスマ』…と日本中の経営者から尊望されていた利根川は、


──正気を欠いた眼を漂わせながら、地面の土や草を次々頬張り、



「バレバレじゃないか…………! 隠しカメラ…………っ!!」



──公園に設置された防犯カメラを、狂気の笑みで指差していた────。




「スタッフ…出てこいい──────っ!! 出てこいぃぃ──────っ…!!! さっさと持ってこんかぁあああ────っ…!!! 『ドッキリでした〜』ボードをっ…!!!──」

「──どうしてくれるっ…!!! ほれ、キサマらのせいで泥まみれじゃないか…っ!! ワシのスーツが………っ!!!──」

「──おいスタッフスタッフスタッフィっ………!!! …山崎かっ…?! 黒崎…キサマもどうせ見てるのだろっ…?!! それとも海老谷…もしやキサマかっ…!?? 出てこいぃいっ…!!!──」


「──出てこいスタッフぅうぅうぅ────────────っ………!!!!!!!」



「…あ、あわ……わわ…………」



 三嶋が利根川をラジオの声かと勘違いするのも無理はなかった。──道端で部品散らすラジオ同様、彼もまた、壊れてしまっていたのだから。

防犯カメラへ向かって一人、狂気じみた怒声を浴びせる中年男。
三嶋が心中(なんで私がこんな目に遭ってるの……? よくよく考えればこれ全部利根川さんに巻き込まれてる形じゃん……)と呟きかけたその矢先の出来事である。
完全に常軌を逸した光を眼に宿し、もはや理性の灯など微塵も感じさせないその中年男は、わんぱく全開に土を食らう。
今目の前に広がる狂い切った現実に、三嶋は言葉という概念すら見失っていた。

──『想定上の最悪』という言葉はあるが、これは『想定外』かつ『最悪』。

三嶋はもはや願わずにはいられなかった。
今すぐにでも、ドッキリ大成功!!の札を掲げた軽薄なスタッフ共がニタニタ飛び出して。


この狂夢を終わらせてくれることを────。




「おいおい…早朝から発狂するなってオッサンさぁー。ラジオの曲聴こえないじゃないかよ…」


「「……え?」」


「…って、ぶっ壊れてるし。…ラジオ」



 ──ただいくら願おうとも、現れてきたのはスタッフではなく『カメラマン《参加者野郎》』。
一眼レフを手にした一人の少年がスタスタとこちらへ歩み寄ってきた。
中性的な美貌を湛えたその顔には、何があったのか痛々しい傷や打撲痕がいくつも走り、右手に巻かれた包帯はグロテスクに濡れ切る。
その白い右手で、彼はカメラの『シャッターボタン』に指を添えていた。



「……ん? …は? …いや、ちょっと待てよ……。──」

「──……オッサンさ、……え、何? …主催者……………??」


「「……」」

766『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/01(火) 21:33:42 ID:kyzqnuMU0

もう、正直。
ここまで来たら怖いものなしである。



「…何でここに………いるんだ……? のんきに…………」


「…………」 「………」



完全に終わりきった表情の三嶋。
そして気がつけば、彼女と同じく諦念の色を顔に宿していた利根川。

──カメラの少年の存在は、利根川の理性を呼び戻す引き金となったというわけか。
少年がカメラのスイッチを『戦闘用』に切り替えた折、利根川は静かに口を開いた。



「……小僧、このお嬢からキサマに一つ………『軽い質問』があるとのことだ………。いいな……?」

「…………なんだよ」



「軽い質問」────。もはや注釈は要らないであろう。
死神を呼び起こす呪文のような一語《死亡フラグ》である。


ふと浮かぶ二つの笑顔。
三嶋と利根川は顔を見合わせ、ほんの一瞬、静かに微笑みを交わし、



「クク……。おいお嬢……忘れるなよなっ…………? ワシの常套句をっ……!」

「え、あ、…あー。分かりました。──『とどのつまり』……そこのキミに一つ質問ね……。──」



本当に軽い質問。
それでいてキレがあり『答え』が分かり切ってる質問《直球130km/h》を、三嶋は少年へ──。
────相場 晄の内角目掛けてゆるやかに投じた。




「──キミは敵か? それとも味方になるか?」

767『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/01(火) 21:33:58 ID:kyzqnuMU0



………
……




──もう少し自然な笑顔でお願いしまーす。



 パシャリッ……




ドガァンッ──

 
 ドッガァァァァンッッ──


  ドッガバッガァッァアアアアアアアアンッッッ──


   ドッッッガバッガァッァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッッッ──



………
……


768『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/01(火) 21:34:16 ID:kyzqnuMU0


 
 ───ドッガガガバギャァァアアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ



 背後で爆発音が鳴り響く。それも断続的にボンボンボンドガンドガンっと。
閑静な住宅街に不釣り合いな轟音が全くの間髪を入れずに炸裂する中、利根川と三嶋は振り返ることなく、ただひたすらに逃げ続けていた。


「はぁあぁぁぁぁあぁああああああああああああああああ!!!! もうもうもうもうもうっ、もうううううううううぅうううう〜〜〜〜っ!!!!!!」

「ガキ使年末のラストかぁああああああああっ…!!!!!!」


 爆ぜる爆炎に何度も足をすくわれそうになりながら。
二人はただ夏を、


「はぁあぁぁぁぁあぁぁ……もう〜〜〜〜熱いよきついよしんどいよお〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!! ……あの時ミコちゃん無理矢理にでも連れ出してればこんなことにはならなかったのにぃい〜〜〜〜〜〜!! もうこれどうすりゃ…どうすりゃいいんですか利根川さぁあああああああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!!!!!!」

「ハァハァ………。バカがっ……、どうした《堂下》もこうじたもあるかっ………………!!!──」

「──今はただ止まらずっ………馬の様に駆けるのみ………っ!! 本能だ……っ、本能のまま走るのだお嬢っ…………!!」

「……はぁはぁ…。………この緊迫下でも…──…、」


 ───ドッッッガバッガァッァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッッッ


「うおっ!? うっさい! 私の言葉遮んなっ!!! せめて空気くらい読んで爆発攻撃してよイカレポンチィイ〜〜〜〜〜〜っ!!!!!──」

「──はぁあ………はぁはぁ………。…この…緊迫下でも……その倒置法喋りに利根川節を維持するとは………はぁ……さすが先生ですよ……。利根川さんん〜〜………っ。──」

「──私…頭おかしくなって……土とか食べだしたら…止めてくださいねぇ〜………。利根川先生ぇええ〜〜…ん……………」

「ハァハァハァ…ハァハァ……。おあいにく様だっ……三嶋大先生よっ………!」


 灼けるような季節を、


「ハァハァ………。…キサマも食ってみろ…土くらい…………」

「……はぁはぁぁああ………、ところでお味はいかが……で……………?」

「ハァ…ハァ…。……ックク……!! 気になる土の味は…キサマ自身で試すといい………っ!! なまじ『作家』ならば……!」

「………作家なら何事も経験が命…ですかぁ………」

「……ククク…、さすがは三嶋大先生………っ!!」



 ──命がけで駆け抜けた。

 この様子は傍から見れば…。まるで、シンクロ………。
長い長い『利根川逃亡劇』を経て、二人に生まれた一体感……………っ。
利根川ら両名は逃げることに必死で気づかずとも、二人の足並みはこのターン……完全に揃い切っていたのだ………っ────!


無論、利根川らの逃走……。ならびに、これまでの、やれ説得だの…やれWinwinを踏まえたプチ脅しだの…才媛を招き入れるだの……軽い質問だのと…すべては悪あがき………っ!
利根川が主催者にソックリな以上、もうどうすることもできない……。奇跡的に災難を先延ばしにできただけの…虚しいあがきでしかない……………っ。
あがけばあがくほどに、深みにハマっていき………。
奈落の底へとアクマが手招きしている……………。
どっちに転ぶか分からない……悪あがきなのだが………………っ。



 ────それでいて、今が三嶋らのラストチャンス………………。



「楽しめ……っ。むしろこの経験を……楽しむのだっ………!! ワシに関わってしまった以上……キサマはもう開き直るしかないっ……!!」

「……はぁはぁ……(息切れ)…。………ハァ…(ため息)」



 ────あきらめるんじゃない………。変わるのは自分自身……………っ。



「考えてみろ……っ! これだけ悲惨な目に遭ったのであれば………きっと重厚なものになるだろう……………」

「………もうやめにしませんか?──」

769『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/01(火) 21:34:34 ID:kyzqnuMU0
 ────誰も情けなんてかけちゃくれないのだからっ…………。



「──…『本』の話はっ!! …はぁはぁはぁハァアアアア〜〜〜………」

「…そう……っ! キサマの最新著『バトロワ体験記』は………重厚にっ………!! …中々、先読みができるじゃないかお嬢……!!──」



「──先読みのプロである…キサマとは是非とも…詰将棋をしたいもの……っ!!! だから今は…逃げぬくぞっ………!! 生きて帰るぞ………っ!! スリルを楽しめ…! ──」

「──圧倒的文豪…三嶋大先生っ……………はぁはぁ……!!──」

「──ピース…又吉……著………『火花』っ…………!!」



 ──ドッガンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンン──────ッッッッッ……!!!!!!!



「クククッ!!! クククッ!!! ククククククッ──────!!!!! 狙うぞ…芥川賞をっ……!!!!」

「あぁあああああああああああああぁぁぁぁああああああああ〜〜っ!! これだから本とか大嫌いなんですよ私はああああああぁ〜〜〜〜〜〜っ!!! もうがぁああああああ〜〜〜〜っ!!!!!!!」



嗚呼…。

あぁ…。

ぁぁぁ………。


………
……




『人間は考える葦である。』
────詩・作家。ブレーズ・パスカルの名言。




 今…負け犬たちの勝負の時が始まる…………。



 今……っ、

 負け犬たちの……勝負の時が………始まる…………っ。

770『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/01(火) 21:34:52 ID:kyzqnuMU0
【1日目/G7/街/AM.05:30】
【相場晄@ミスミソウ】
【状態】精神衰弱(軽)、顔殴打(右目、右頬腫れ)、右腕開放骨折、左足打撲
【装備】爆殺機能付き一眼レフカメラ、鉄製のハサミ
【道具】写真数枚(小黒妙子の死体写真他)
【思考】基本:【奉仕型マーダー→対象:野咲春花】
1:主催者共を追いかける。んで、殺す。
2:野咲にとにかく会いたい。
3:邪魔する奴は『写真』に納める。
4:絶対に死にたくない。
5:チンピラ共(カモ・ミコ・三蔵)を許さねぇ……。



【利根川幸雄@中間管理録トネガワ】
【状態】疲労(大)、熱中症(軽)、右腕捻挫(軽)
【装備】回転式拳銃
【道具】タバコ
【思考】基本:【対主催】
1:とにかく逃げる………っ!!
2:伊井野にはいつかまた会いたい……。
3:自身指揮の元、『プランA』でゲームを終わらせる。
4:お嬢(三嶋)をお守り。
5:会長が少し気がかり。
6:黒崎っ…。

【三嶋瞳@ヒナまつり】
【状態】疲労(大)、熱中症(軽)、精神衰弱(軽)
【装備】ハンドガン
【道具】『お説教2.0』@トネガワ
【思考】基本:【対主催】
1:仲間を集ってゲームを終わらせる。
2:ミコちゃんがいたらこんなことにはならないのにぃいいい〜〜〜〜!!!
3:利根川さんについていく。
4:新田さんがピンチすぎる……。
5:利根川さんがこの先生き残る方法を模索…。

771 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/01(火) 21:41:19 ID:kyzqnuMU0
【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ】
①このスレッドが埋まり次第次回から、『【なんJ】ステマ棚漫画バトル・ロワイヤル』に改題します。
②略称はステロワとかですかね。
③大変ご迷惑をおかけしますが、どうかご理解をお願いします。


【次回】
──中日ドラゴンズのレジェンド・山本昌投手の焼き肉の食べ方をご存じだろうか。
──焼いた肉を、生の肉が浸かっていたつけだれにチョンチョンとつけて食べるという、なかなかに胃袋の鍛えられる流儀である。
──本題の元ネタは、まさしくそれ。

──……ところで、あなたは『お茶漬け』。
──スプーンで食べる?それとも箸で食べる?

『山本昌の焼き肉の食べ方、やっぱおかしい?』…田宮丸二郎、クロエ、???(アシストフィギュア)、小宮山琴美
(『目玉焼きの黄身いつ潰す』事前に鬼把握したためエミュ度自信ありの巻)

772『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:22:41 ID:DKOnC83.0
『山本昌の焼き肉の食べ方、おかしい?』

[登場人物]  田宮丸二郎、クロエ、小宮山琴美、伊藤さん

773『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:23:03 ID:DKOnC83.0
『男には強固で積極的な殺意はなく、計画的な犯行でもない。殺意のグラデーションの中では最も淡い』


 ──死刑執行部屋にて、裁判官から言われた言葉を思い出す。
蝉の声がやけに五月蝿く、対象的に周りの刑務官達は沈黙のまま俺を囲い込む。そんな執行室にて。
俺はただ、ぼんやりと追憶をなぞっていた。


 ハジメさんと……、それに、クロエ…。
正直、殺した数はわずか二人。その上精神異常を理由に、酌量もあるはずだと思っていたのだが。…裁判官の俺を見る目は、氷よりも冷えきっていた。

退廷前、俺は傍聴席の最前列──みふゆと一瞬目が合う。
……彼女はその時どんな顔をしていたのか、か。
…みふゆは静かに笑っていたさ。普段の日常生活と変わらない穏やかな笑顔で。
白木の額縁に収まれて。みふゆの写真はいつまでもいつまでも、笑っていて……。
自殺した愛娘の遺影を抱えた……みふゆの父さんの目を、…俺は一瞬たりとも合わせることなんかできなかった。


 裁判最終判決から、三年が経つ。
渡された遺書の用紙は、一文字すらも綴ることないまま。
木偶人形同然と化した俺を、刑務官二人は実にしんどそうに引っ張り上げ、絞首台へと向かわせに行く。
俺の足取りは重かったが、これは生に執着しているからというわけでは決してない。
生きようとする気力も、死を恐れる感情も、…俺にはもう無かった。



──ただ、


──一つだけ。


──それでもなお最後まで、俺の心に引っかかっていたことがある。


それは、執行室に入った際、最後の晩餐として出された──お茶漬けについて。
………その妙な食事チョイスも気になったものだが、それ以上に俺を惑わせたのは、盆の上に置かれた二つの食器。


『箸』。

そして、『れんげ』についてだ。


 なぁ……。
お茶漬けって…、どっちで食うものなんだ…………?
箸か? れんげか?
何故……、……「どうぞお好きな方で」と言うかの如く…二択を出してきたんだ……………?

俺はずっと、…これまでの人生常に……お茶漬けを箸で食べてきた……。
……理由なんて大したものじゃない…。
ガツガツかき込むように食うという……、それが一番旨いと思うし、それが『普通』だと思っていたからだ……。
…それだというのに………。
お茶漬けという『和食』をスプーンなんかで食べる奴が、いるというのか…………?
…当事者に聞くぞ。いいのか……? 本当に、それが“アリ”だと思っているのか……………?

…それが気になって、気になって……、どうしようもなくて………、


首に縄を掛けられた時……、俺はその『最期の言葉』を迷う事なく口について出た…………────…。



「ぉ、お茶漬けって……箸で食べるのが……普通で──…グフガッ────」



………………
……………
…………




“…い、ろー……。”


“…おい、二郎……。”


“…きろ……二郎……っ!!”

………
……


774『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:23:22 ID:DKOnC83.0




「起きろ、二郎っ!!」

「はっ!! …………………え?」


ひたすらに青い空に、白く膨らむ入道雲。
湿った風に混じった耳を撫でるミンミンゼミの声に。
場違いなほど鮮烈なモジャモジャアフロヘアー……。


「……とりあえず、おはよう!」

「お、おはよう……。──」

「──近藤さん」


近藤さんの声で、俺は目を覚ます。


「……おいおい。そっちは『ございます』だろ」

「あっ、あぁ……ございます、近藤さん……」

「まったく。呑気に眠りこけやがって……お前、疲れてるのか? とにかくもうすぐ出番だ。早く準備しろ」

「は、はい……!」


 アフロヘアとサングラスがトレードマークの、近藤雄三……。近藤さん。
俺の上司であり、初代どくフラワーの中の人。現場ではカリスマ的な存在だ。
いつも何かに悩み迷っている俺のよき相談相手であり、こんな俺のことを常に気にかけている…。
イチローにとっての仰木さん。錦織圭にとっての松岡修造。──近藤さんは、そういう存在だ。

……やれやれ。
それにしても、なんてとんでもない夢を見てしまったんだろう……俺は。
背中にはじっとりと寝汗。額にもまだ汗の名残があるから気持ち悪いったらありゃしない……。
休憩中、ほんの軽い仮眠のつもりで眠ってみたら、夢内容はとんでもない内容……。

ハハハ…。なんだろうな。
せっかくだし近藤さんに夢の話をしてみるか。
ちょっとした雑談のつもりでこの奇妙な夢の話を持ちかければ、さすがの近藤さんだって、驚く顔のひとつやふたつ見せてくれるに違いないだろう……。


「………近藤さん、僕…うなされてたりしてませんでした?」

「ん? …まぁ、随分と寝苦しそうな表情はしていたけどな。どうした? そんなに見た夢の話でもしたいのか?」

「ははは。変な夢見ちゃったんですよ。…気が付いたらバスの中にいて、たくさん乗客がいて、……それでバスガイドが現れたかと思ったら…何言いだしたと思います?」

「『右手をご覧くださいませ』とかだろ?」


この時思わず、俺の視線は自分の右手へと吸い寄せられていた。


「…いやいや。そんなんじゃ普通の夢じゃないですかー。…違うんですよ。『これから皆様に殺し合いをしてもらいます』って…そう言われたんです」

「…………!」

「驚きですよね…? 僕ももう、声なんか失っちゃいましたよ。…それでまた気が付いたら、殺し合いの会場にいて……。──」

「──そこで、ハジメとクロエという…同じく参加者の女性に会ったのですが、……あっ、言っておきますが僕殺し合いなんか乗る気じゃなかったですよ? 当然ですがね。…ただ。──」

「──その女性の食べ方を見て…僕はもう…取り返しのつかな──…、」


「おっとSTOP! それ以上は言うな二郎」

「…………え?」


近藤さんはそう言ってシーの指のジェスチャーを差し出した。
…シーと、『静かにしろ、シー』の。
あの人差し指だけを出すジェスチャーだ。


「これより先を聞いたら、多分俺…お前を殺す」

775『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:23:42 ID:DKOnC83.0
「え…………?」

「Kill Jiroだよ。オ・キル・ジロー!」

「……ぇ……?」


…『死ーー』のジェスチャーを決めたまま、脅迫罪スレスレの口ぶりで近藤さんはそう言った。
……何を言っているんだ? 近藤さんは……。もし俺が精神的に不安定な人間だったら、通報されてもおかしくないレベルの物騒発言なのだが………。
…まあ、とにかくこれ以上喋るなと言われたものだ。
俺も着ぐるみをkill<着る>準備をしなくちゃな……──……、


「待て二郎。…多分だがな、お前は重大な勘違いを二つしているぞ」

「………え? あ、すみません…。“十大・勘違い”ってことなのか、“二つ勘違いしてる”って意味なのか、どっちの話で──…、」


「一つ目、まず俺は近藤雄三じゃない」


「……え?」
(『え?』counter 5回目)



…え?
(『え?』counter 6回目)



「『クローン』だよ」

「く……クーロン?」

「はは、それじゃあプレステの怪作になるが、ゲームの話はまた今度の機会だ。──」

「──俺は近藤雄三の『クローン』だよ。──」


…えぇ??
(『え?』counter 7回目)


「──そして二つ目なんだがな……。殺し合いは『夢』じゃない」

「……え?」
(『え?』counter 8回目)


…え?(『え?』counter 9回目)




「つまるところ…まぁ簡潔にいったらだな。──見ろ」

「……ゑ?」
(『ゑ?』計測装置 八回目)



…近藤さんにうながされるまま、俺はゆっくりと後ろを振り返る。
そこには……………、



「……誰がお主に殺されたというのだ、オロカモノ──」

「──お主がやっていることは、現実逃避。自分の過ちから、贖罪から、目を背け続ける卑怯者だ。──」「──『夢』というものは本来、目標として掲げ、人が努力の糧とするもの。逃げ道に使うべきものではない。──」

「──……まったくッ…。木枯し紋次郎に憧れた私が……お主なんかに殺されてたまるものか……!! 夢見がちなオロカモノよ……」



「…A?」
(『A?』→すなわち『え?』。counter 10回目)



……俺は全身の血が逆流するかのような感覚に襲われた…。

振り返った先に立っていた彼女。
顔じゅうに殴られた痕がくっきりと残り、それでもまっすぐにこちらを睨む鋭い目。
金髪が朝の光を反射し、富士山のような口元がわずかに歪んでいる。

……クロエ……。
『夢』で俺が殺した……、
…あの…………『参加者』の女性が立っていた…………。


「……フフッ、二郎。すなわちな…」

「え?」
(『え?』counter 11回目)



「俺は、クロエに召喚された『フィギュアファイター』だ!」

776『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:23:57 ID:DKOnC83.0
その言葉の意味は、一瞬で理解できなかった。
いや、理解できなかったというより……俺の脳がそれを理解するのを拒んだのかもしれない。



──…多分、この時の俺は、塗られていない塗り絵のように真っ白になっていたと思う。

777『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:24:40 ID:DKOnC83.0
「……夢なのに」

「…ん?」


「夢じゃなかった……。夢だけど…夢じゃ…なかった…」

「……そうだな…。夏だし、俺も久々にみたくなってきたよ…。──」



「──…となりのトトロ」




限りなく広がる空は、まるで少年の頃に見上げた夏の午後のように。

ただひたすらに青かった────………。



………………
……………
…………
以上、田宮丸二郎『え?』記録11回。世界記録は276回。)
………
……


778『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:24:56 ID:DKOnC83.0



【アシストフィギュア No.11】
【近藤雄三@目玉焼きの黄身 いつ潰す? 召喚確認】
【概要】
→二郎の仕事先「フラワー企画」のイベントチームリーダー。
 風貌は細目の身体つきで大きめの黒い眼鏡を掛けたアフロヘア。
 いつも何かに悩み迷っている二郎のよき相談相手であり、常に彼のことを気にかけているが、二郎の行動にあまりにも問題がある時には鉄拳制裁をくらわすこともある。優しくも厳しい上司。


………
……


バンッバンッ──、バンッバンッバンッ──、バンッ────

 ガンッガンッ──、ガンッガンッガンッ──、ガンッ────



「あああぁぁぁぁあああああぁぁああぁぁああああぁあああああああああああああああああああああああああああああああ──────────────っ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

「な、なにをしているっ?! オロカモノ!!?」



 ガンッガンッ──、ガンッガンッガンッ────、ガンッ────────


 …修行僧は心を無にするため毎朝木を打ち続ける…だかなんだかって話を聞いたことがある。
俺は今、無心でひたすらに近くにあった木に頭を打ち続けた。



「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!!!!!!!! あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

「何の真似だ?! …いきなり?! オロカモノ!!」

「………あああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁ………!!!」



 バンッバンッ──、バンッバンッバンッ──、バンッ──


……皮膚が削れ、血が滲み、頭蓋の奥にじかに響くような鈍痛が走っても、俺はなお何度でも何度でも木に額を打ちつけた。
皮膚の痛みなど、とうに感覚の外に置き去りだった。ただ脳の奥底で、鈍い悲鳴が反響しているだけ。もう容赦のないバイオレンスの連続さ。
流石にドン引きしたクロエが腕を掴んで止めようとするが、俺は動きを止まることを知らず。

理性も羞恥もどこかへ飛び、ただひたすらに自傷を繰り返していた。


「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

「何の真似だと言っているだろう!!! ジロ殿っ!! ジロ殿!!!!」

「…ぁぁぁぁああああああああああああああ…………。ぃいいっ………!!──」


「──………、巨人の星の………真似っ………」

「はぁ?!」



 バンッ……。

…『巨人の星』の主人公、星飛雄馬。
彼が生涯でただ一人愛した女性──日高美奈が病に倒れ、帰らぬ人となったとき。
飛雄馬は深い悲しみのあまり、心を失い、目の前の木に己の頭を何度も打ちつけたという。
……そんな、魂の慟哭を描いた一場面がある。


「とにかくやめろ!! やめろ…やめろと申しておるだろジロ殿っ!!!!!!」

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

779『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:25:12 ID:DKOnC83.0
……俺の幼少期に、多大な影響を与えた漫画──『巨人の星』。
未読の人には、ぜひとも読んでほしい名作だ。
梶原一騎の計算し尽くされたストーリー構成に、巻を重ねるごとに迫力が増してゆく川崎のぼるの作画。
自分の棺桶に入れてほしいくらい、俺にとって大切な作品だ……。


だから俺は今すぐ死ぬ為に、こうした自殺行為を続けて………、



バンッバンッ──、バンッバンッバンッ──、バンッ────

 ガンッガンッ──、ガンッガンッガンッ──、ガンッ────

「ああああああああああああああああああああああああああああああ──…、」


──ぶーん

「──あっ。…………………」


頭を打ちつけていた木のちょうど一点に、変な虫が止まった時………俺は頭を打つのをやめた。




「………………はぁ…………はぁはぁ…………」


全身から力がすうっと抜け落ち、膝から崩れ落ちる……俺…………。
頭の奥でくぐもった痛みだけが鼓動と重なり、静かに鳴り続けていた。


 ドクンッ…バクン……ドクン…………────






「………近藤殿。失礼ながら、こやつはいつもこういう有様なのか……?」

「いや……。…まぁ確かに二郎は、食が絡むとすぐ感情的になって、しばしば人と衝突していたよ。…でも、それでも二郎は人の話に耳を傾け理解しようとしてきた。これまで、ちゃんと自分の中に取り込んで……成長する…進化を続けてきた男だったんだがな………」


「はぁ………………はぁ…………………」



「……ここにきて何で急激に退化した……?」

「……………………………………はぁ……」



………正直今、めちゃくちゃバファリンと絆創膏が欲しかった。
──………それくらいの痛みで、俺は心身ともにズタボロだった………。


 朝の歌舞伎町。
ゴミが道に散らばり、あちこちに空き缶やタバコの吸い殻が転がる。足元ではカラスがぬるく乾いた『地面上のもんじゃ』をついばみ、どこかやる気のない鳴き声をあげる。
…そんな美しい景観の、町の片隅にて。
左から…クロエ。
右に俺……。
そしてクローン藤雄三さんがその間に挟まって座り……。並んだ三人の影が、夏らしく実に長く地面に伸びていた。


 …俺は、………俺…は……仕事前の『朝の匂い』が好きだった……。
カリカリとベーコンと目玉焼きが焼ける音で目を覚まし…、顔を洗うころにはホカホカのご飯の香りが鼻をくすぐる……。
リビングに行けば、みふゆが笑顔で待っていて、しょうもない会話を交わしながら、珈琲の苦々しさが部屋中に広がっていく……。
そんな何気ない時間が………俺にとって一番幸せだった。
好きな人と、好きなものを共有する朝。……それが、ずっと続けばいいと願っていた。
守りたかった。あの何でもない、でも確かな幸せを……未来永劫守備固めしたかった……。
……本来ならちょうご今ごろも、ブレックファストの最中だったはずなのに……。

780『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:25:29 ID:DKOnC83.0
その筈なのに……俺は………。



「……それで、今度はどうしたっていうんだ。二郎」

「…………近藤さんは……」

「ん?」

「お茶漬け……箸で…食べますか…………? そ、それともれんげで……食べますか………?」

「……お茶漬け、か…」

「………はい……………。…考えられますか………? 俺……今まで知らなかったんですが……いるらしいんですよ…………。お茶漬けを…レンゲで食う……和食の風情も何もない…そんな人間が…………。──」

「──…………そんな…………人間……がぁっ……………。……うぐっ………うっ…うぅ……………」


「「……………」」



──俺は涙が止まらなくて、止まらなくて…………。
──…よくよく考えたら…何の涙なのかわけがわからなかったが………、



「……まるでつかみどころのないヤツ…。近藤殿…こやつは一体………」

「面白いヤツだろうクロエ? 我がどくフラワーが誇る逸材、二郎さ。勿論誰にも引き抜かせんがな」

「……………ぶぶ漬けはいかがだ? ジロ殿に近藤殿………」



………………涙が止まらなくて仕方なかった。



「…………そうだな…。クロエ、君はどっちの派閥に入る?」

…ふと、近藤さんが口を開く…。


「…む。派閥…とは……? なんの話だ近藤殿」

「お茶漬けは──A:『箸派』か──B:『れんげ派』か。A or B。究極の選択さ」

「…………A…だ。…箸派だな、私は」
(『A』→すなわち『え?』。クロエcounter 1回目)


……………。
…不思議と、涙が一瞬で引っ込んだ気がした。まるで強力な掃除機に吸われたかのように……ズルズルズルッ…っと。
俺は頭を抱えつつ、クロエの方へと顔を向ける…………。


「………君も…箸派………。やっぱり箸で食うものだよな…っ!! なあ!!」

「『君も』……。………お主なんかと同じ派閥とは…私としてもいささか頭が痛くなるものだ……」

「なぁに。頭が痛いのは二郎も一緒だ。…はは、さしずめ箸兄妹めっ。お前らは案外気が合うのかもな。──」

「──で、クロエ。君はなぜ箸で食べるんだ? 俺としては、あの水中でバラバラに泳ぐ米粒を、箸で拾い上げるってのは……正直、めちゃくちゃ食べづらいと思ってるんだがなぁ」

「……オロカモノ。愚門だ近藤殿。──」

…クロエはほんの一瞬、空を仰いだ。
白くまぶしい陽射しが、髪の隙間をなぞっていって………。やがて富士山のような口を開き始めた……。

781『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:25:42 ID:DKOnC83.0
「──私の場合は『憧れ』だ」

「「憧れ……?」」

「『木枯し紋次郎』。──大昔の時代劇ドラマだ。その主人公、紋次郎は必ずご飯に味噌汁をぶっかけ、猫まんまにして食すという『紋次郎食い』なる作法を行う。──」

「──私は、時代劇というものが好きでな。…あの侍の生き様と飾らぬ食い方に心を奪われたもの。以来、私はずっと紋次郎食いだ。…あの侍のように、箸で静かに、かき込む。それが私のお茶漬けの流儀につながるわけだ」


「………そんな理由………なのか………? ただのかっこつけじゃないかっ!!!」

「……なに? お主とて箸を使う理由など大したことないであろうに……。ドアホウが………」



 …………っ。
富士山みたいな口してるくせに、芯食ってきやがって………っ。
そ、そりゃ…俺だって『箸でかきこんで食べるのが旨いから』という…しょうもない理由で派閥入りしているが………。
……だが、だ……っ。
たかがドラマの影響で自分の食い方を決めるような、そんな流されやすさはどうにも気に入らない…………。
同じ箸派として……クロエを除名処分にしたいくらいだっ……。

俺は軽蔑をにじませた視線で、じっとクロエを睨みつける……。
……くっ。だが当の本人は、俺のジリジリとした怒りなどどこ吹く風といった様子で……。
レジ袋から「さけるチーズ」を取り出すと──

──……裂かずに、モシャモシャと丸かじりしはじめた。



「って………。ふ、ふざけるなァアアア!!!!!!! なんだその…ふざけたさけるチーズの食い方はァアアアアアアアアアアッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!」

「……むっ?!」 「……ん?」



 ……………見なきゃ…よかった。
…ここのところの俺は、人の変な食べ方を見るたびにサイコパス化してしまう。
まるでスイッチが入ったみたいに……完全なる沸点と化しているのだ………。

…それだというのに……。そんな自分の性質など分かっていたはずなのに……。



「まるで……まるでサラダチキンスティックのように…………さけるチーズを食べやがって……………。──」

「──生産者に対して冒涜じゃないかァアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!!!!!!!」


俺は………もう頭真っ白になって………。
……クロエに対して怒鳴り散らして………………。

もはやブレーキ知らず。制御ができなくなって………………。


「……ま、またか……。…ジロ殿………」

「……また、だとッ?!!」

「ぴぎっ?!」

「…お前が悪いんだろうが………………」



気が付いたとき、俺は……。



「お前がさけるチーズを裂かないのが悪いんじゃないかァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」



クロエにグーの拳をふりかざして────……………。

782『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:25:57 ID:DKOnC83.0
「いや待て二郎。『パー』✋」


「「………え?」」




「お前の負けだ。ジャンケンポン!」



 ──…近藤さんのジャンケンに負けていた────。
………『ふりかざす』で終われてよかったと思う。
顔いっぱいに広がる、近藤さんの掌………。
発狂した奴にバケツの水をぶっかけて頭を冷やす──とはよくある漫画の典型的シーンだが…、…俺は近藤さんに敗北したことでギリギリ寸前冷静さを取り戻せた………。


……やばい。

……ったく、なんなんだ………………俺は…………。

完全に……壊れかけてる……。いや──もう壊れてる………Radio……………。


なぜこんなにも、自我が保てなくなってるんだ……?
完全に狂い切っているじゃないか………俺は………………。
何故こうも自我を保てなくなってるんだ………………俺…はッ…………………。

…………俺は………………………。



「…………怒らずに、俺の話を聞けるか? 二郎」

「………うん」

「そっちは『はい』だろ?」

「……敗《はい》…………」


……近藤さんはため息を吐いた後、口を開き始めた……。


「………俺はな。れんげ派だ」

「……敗《はい》……………。──って、はいぃいっ??!!!」

「お、…こりゃまずいな。…今からずっと『パー』見せつけながら話すから俺の無礼を許してくれよ。…普通に殴られたくないからな、二郎」

「……ハっ!! …………敗《はい》……」


……そう言って近藤さんは、隣のクロエをチラリとみると、彼女の(かじり痕残る)さけるチーズを右手に取った。


 ──バクリっ。

「…あっ! 近藤殿?!」


……もちろん、彼女には許可なくである。



「俺はな、お茶漬けを和食とは思っていない。れんげを使う理由は『チーズ入り』! ──チーズお茶漬けにして食べるからだよ」

「…え?!」 「な、なに………?──」


「──和食をぶち壊す恥知らずめ、このドアホウ……。いいか、近藤ど──…、」

「悪い。こんな早朝に説教は俺的にお腹いっぱいだクロエ。『パー』✋!」

「──もがっ!!」

783『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:26:12 ID:DKOnC83.0
…近藤さんは、説教魔クロエの口を左手で塞いで……俺に説明を続けた。
……俺とクロエはこれでじゃんけん敗者同士。…正直気に食わない女子ではあるが、なんだかんだ彼女と惹かれ合うものはあるのかもしれない。


「きっかけはテレビでな。今流行りの…T君という子役が、お茶漬けにスライスチーズを入れるのがオススメと言っていたんだ」

「『T君』………寺田心くんですね………? ………こ、近藤さんも、そんなすぐ影響受けて脳死しちゃうタイプだったなんて……見損ないましたよ……。…お茶漬けにチーズとか……合うわけないじゃないですかっ!!!」

「おい実名を出すな二郎。……いや俺も最初は合わないと思ったよ。良い言い方をすれば子供らしい無邪気な食べ方…。悪い言い方をすれば……やめておこう。お前が実名出したせいで誹謗中傷になりかねん。……まぁともかく俺も呆れたものだったさ」

「……………」


「だが────『チーズおかき』!」

「…………っ!!! ………チーズ…おかき……………?」

「それと同じさ。食欲がそそられない見た目だが、熱湯でふにゃふにゃに柔らかくなったチーズがお茶漬けに妙にマッチしていて………。…あれは一口目ではまだわからん。…『まっず』と思い、仕方なく二口目を入れたら……もう気が付いたら完食だ。よくよく考えたら大体の料理チーズかけたら美味いからな。──」

「──…だから俺はお茶漬けをレンゲで食う。俺にとっては、お茶漬けは『リゾット』なんだよ」


「………………………だから、れんげ………………?」

「フっ………。『パー』✋。今度はあいこだ、二郎」

「………あ」


 ……気が付いたら、俺は力が抜けて手が開ききっていた✋。

理解できない…理解もしたくない……。……そんな食べ方を聞いたというのに。
俺の拳は開ききっていて、暴力性のかけらも見せていなかった…………。
掌が震えていた。微弱だけども確かに俺の掌は震えていた………。。
汗にじまみ、しわがはっきりと見える。

俺の年季こもった掌は、確かにこの時震えていた……。


「……なっ?! オロカモノ!! 私の朝食っ!!!!──…、」

「…ん?」


……あと…近藤さんが右手を開いた✋以上、クロエから奪ったさけるチーズが必然的に地面に落ちたことにも……今気づいた。(一応、チーズはあとでちゃんと水で洗って食べた)



「つまりな、二郎」


近藤さんは軽く肩をまわして、ポキポキと首を鳴らす……。


「…うまいこと言うつもりはないんだがな。俺もアシストフィギュアとして召喚された以上、お前…そして主であるクロエにも、一つだけアドバイスを送らなきゃならん。──ちょっとだけ気づいたことがあるんだ」

「……………ア、アドバイス…?」 「………なんだ…近藤殿」

「二郎、お前はこれまで食べ方について色んな人と対立し、まさしく気狂い沙汰をみせてくれたものだが……。どんな時も最後は相手を理解し、自分自身も変われた。──それが、俺とお前の歩みだっただろう?」

「……はい……」

「だが今のお前はどうだ。バトルロワイヤルっていう土壇場になった途端、全く他人の食い方に理解を示さなくなっただろ。……何故か。何故お前はここまで狂ったのか。…その答えは単純だ。──」



「──『みふゆさん』だよ」

784『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:26:31 ID:DKOnC83.0
 俺は……。
まるで全身に雷を落とされたかのような……そんな衝撃を受けていた………。

近藤さんの――心の奥まで見透かすような、その雷鳴のごとき指摘………。

空気は静まり返り、耳に届いたのはただ一言、クロエの「…こやつ…結婚しているのか……?」という的確なツッコミだけだった。



「……みふゆさんがこの場にいない今。………つまりはお前に。そしてクロエはどうすべきか………。それは…つまり──…、」


「ほう。『私』──…と言いたいのだろう。近藤殿」

「ん?」


「…いわばズワイガニ代わりのカニカマ。私がみふゆ殿の代わりとなり、このオロカモノのサポートをする。──」「──そして、またコヤツも私をみふゆと思って、私を守る。──」

「──私とてもちろん本望ではないのだがな。ただ、こやつと『箸派』という同派閥となった以上、運命に従うのは私の使命。──」
「──………フッ。まぁ確かに、考えてみればここまで破綻した人間…。私とて説教のし甲斐がありそうものだからなっ……!──」

「──…近藤殿、お主の提案……、承るぞ……! ズバリ、お主はそう言いたかったのだな?」



「…………………ん?」



…この時、近藤さんは『鈴木雅之の十七枚目のシングル』といった表情をしていた。
…どういう意味かは各自お調べに任せる。


 ただ、近藤さん、そしてクロエの言葉を重ね合わせ、これから先のバトルロワイヤルを生き抜く術を、俺なりにも考えてみた結果……。
……たどり着いた結論は一つ。この狂った舞台で、俺がまず信じるべきは──クロエと共に歩むという選択だった。

…思い出すのは、彼女…クロエとの最初の出会い。
俺は激情のままにクロエを車内へと引きずり込み、暴行し──そして、首を絞めて殺した……はずだった。
頭のネジが吹き飛んだ暴力魔。そんな男と手を取り合って進もうとする者など、常識で考えればどこにもいない。
……それでも彼女は、余裕いっぱいで笑い飛ばし(…富士山のような口を開いて)、平然と俺の隣に腰かける……。
ノリノリで、やる気まんまんで、…自分を殺そうとした相手を隣に…さけるチーズを咀嚼しながら──(…富士山のような口を開いて)。

…近藤さんもそうだ。
こんな俺を『進化する人間』とまで呼び、まるで父親のように導こうとしてくれている……。


俺は、そんな二人を──この手で遠ざけるわけにはいかなかった……。
……たとえ俺が、何度過ちを繰り返したとしても……………っ。たとえ俺が、何度正気を手放しそうになったとしても……。

この二人がいる限り、俺はまだ……、人間に戻れる気がした…………。


「……………近藤さん………。俺………俺は……………」

「……二郎。結論はもう出たぞ。なら行け………!」

「…………え?」


近藤さんが指すその先──そこには、ぽつねんと佇む一軒の焼き肉屋があった。
『焼き肉じゅうじゅう』。
赤提灯がまだ薄明るい早朝の空に、妙にあたたかく灯っていた。

…………不覚にもこの田宮丸二郎…。
俺はこの時緊張感もなく………………空腹が鳴った。


「朝から焼き肉は普通ヘビーだが、お前にはちょうどいいだろ。色んな意味で」

「…………」

「焼き肉の本場、韓国では──焼き肉屋は『出会い』の象徴らしい。見知らぬ者たちが、煙をくぐらせ、酒を酌み交わし……心を交わす。──」

「──今こそお前たちピッタリじゃないのか? クロエに、そして二郎……!」


「………」 「……焼き肉…」

785『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:26:46 ID:DKOnC83.0
俺とクロエは互いに顔を見合わせた。──…いや、今はもうクロエ《みふゆ》…なのかもしれない。
じゅうじゅうと焼ける音と、香ばしい炭の匂いが鼻腔をくすぐる……。

…………近藤さんはいつも俺を助けてくれた。
言葉に毒を含ませながらも、…時には毒のような鉄拳制裁をしつつも………導いてくれて……そして、見捨てなかった。

あの時だってそうだ。羅生門社長の言葉で色々と精神的不安定になっていた俺を、何も言わず焼き肉屋にハシゴしてくれて…………、
「割り勘な」とか言いながらも、実際は多めに払ってくれた…………。



……俺も…上手い事を言うつもりはないが……、



────近藤さんは、いつだって俺の『最後の一枚の肉』だったのかもしれない………。







(………………すまない。全く上手くないどころか意味不明だった)





「それじゃあな。…クロエ、悪いが今後しばらく頼むぞ」

「…え?」 「近藤殿、どこへ……?」

「言ったろう? 俺はフィギュアファイター。活動時間『15分』が限度のようだからな。最期にちょっくら目玉焼き定食でも食べに行っておさらばとするよ」

「………え?」


 近藤さんは唐突にそう言って、背を向け始める。
その後ろ姿は歩くごとに少しずつ薄れていき………、
──なぜか、サングラスの輪郭だけが最後まで大きく、はっきりと見えたような気がした。


「……二郎、本物の俺に…よろしくな?」

「近藤さん………」


その言葉を最後に、近藤さんはゆっくりと去っていった……。
………俺がこの先、生還し、…すべてをやり直せることを当然のように信じているかと………そんな口ぶりで……。



……そうだ………! …ハジメさんも。みんなも……この手で、どうにかして生き返らせばいいんだ………。
全てをやり直して、生きて帰ればいいんだ………! 俺は………!

自殺なんて…バカ抜かせだっ………!! 俺はまだやり直せる…!
取り返しのつかないことなんて、きっとない。
信じられる。そう、自信をもって言えるよ……俺は……。


…………なんだ?
…『その自信の源はなんなんだ』…か…………。


簡単さ。


………近藤さんの言葉を信じて動いた時、俺の人生はいつだって前に進んだのだから────。

786『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:27:02 ID:DKOnC83.0
「……何をしている。行くぞ、ジロ殿」

「………え、あ。ああ!」



──疲れてヘトヘトな時はカルビ→カルビ→カルビときて。落ち着けばハラミ。気が向けばロース……。
──近藤さんはいつでもこんな俺を助けてくれる。


────近藤さんと言う七輪が、俺の悪い脂を焼き落としてくれるんだ。いつも………。




(──今度こそは上手い事を言えたつもりでいるよ。俺は────………………)




【アシストフィギュア No.11】
【近藤雄三@目玉焼きの黄身 いつ潰す? 消滅】


………
……


787『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:27:29 ID:DKOnC83.0
 ガラガラガラ……


  ジュウジュウ………


『…コト。なんで朝から焼き肉なの? どういう体力をしてるの?』

「だ、だってしょうがないじゃないかぁ!! あんな…頭のおかしいグラサンに…私負けちゃったんだよ!! やけ食いも仕方ないでしょ伊藤さ〜ん!!!」

『……それよりも、その食べ方はなに?』

「あぁ。これチュニドラの山●昌がやってた食べ方でね。ほら、焼いた肉を、生の焼き肉の漬けダレにちょんちょんってつけて、──」

「──豪快にバクリッ!! これがおいしい食べ方なんだよ。今度一緒に試してみてよ伊藤さん」

『(……コトの変な食べ方を生で見てドン引きしたいけど、その場合は他の客に私がコトと同類だと思われて引かれる。行こうか行くまいか悩ましい)………………ん?──』


『──あっ。コト、お客さん』



「え………?」




「「あっ」」



──焼き肉屋の扉を開けたとき、そこにはすでに、ひと組の先客がいた────。

──スマホで誰かと会話しながら、そのメガネの女は焼けたカルビをパクリと────。


──…俺はこの時、生肉の漬けダレ絡む…箸先のカルビにしか目が行っていなかった────。

──釘付けだった────。

──クロエのことも、近藤さんとのことも完全に頭から消え去っていた────。



──香ばしい煙が鼻をくすぐった、その瞬間────、






俺は、思わず口について出た。







「お前………バカか?」

788『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:27:42 ID:DKOnC83.0
────第67話◎─────。
──『山本昌の焼き肉の食べ方、おかしい?』───────。
──To Be Continued……─────────。

………
……


789『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:28:02 ID:DKOnC83.0











【1日目/G1/】

790『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:28:15 ID:DKOnC83.0










【歌舞伎町→ミニバン車内・走行中/AM.05:25】

791『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:28:31 ID:DKOnC83.0
【小宮山琴美@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!】
【状態】恐怖(激)、右頬殴打(軽)、手足拘束、頭にレジ袋被せられて「ヘコーヘコー」
【装備】なし
【道具】スマホ
【思考】基本:【マーダー】
1:なになになになに???!! これなに???!! この人(ジロちゃん)なんでいきなりブチギレたの?! なんでこの人に私誘拐されてるの??!! 伊●勤の采配より理解不能なんですけどっ?!!
2:誰か助けて!? 誰か…だれかぁ!??? 伊藤さぁーーん!!! 里●ぃーー!!!!!
3:死ぬ前にロッテ五十年ぶりの優勝が見たいぃい…!!!!!
4:やばい『漢』(堂下)がトラウマ。
5:優勝の願い事でロッテを優勝させる。自分を黒木智樹くんが惚れるような女にさせる。
6:伊藤さんと通話しながら行動。

【クロエ@クロエの流儀】
【状態】恐怖(激)、右頬殴打(軽)、手足拘束、頭にレジ袋被せられて「ヘコーヘコー」
【装備】フランスパン@あいまいみー
【道具】タバコ@クロエの流儀、さけるチーズ
【思考】基本:【静観】
1:息苦しい…。へこーへこー……
2:ジロ殿を説教しまくって更生させたい(建前)
2:見境なく説教して気持ちよくなる(本音)

【伊藤さん@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!】
【思考】基本:【対危険人物→小宮山琴美】
1:コト(小宮山琴美)の暴走を止める。ついでに解説担当。
2:…このレジ袋集団はなに? …やや引く。



【田宮丸二郎@目玉焼きの黄身 いつつぶす?】
【状態】放心状態
【装備】なし
【道具】なし
【思考】基本:【マーダー】
1:気が付いたら、
2:俺は、
3:クロエと小宮山という子を
4:拉致誘拐していた。

5:……………………え?

792 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:38:23 ID:DKOnC83.0
【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ】
①あと十数話後に書く『巡り合う二人の会長』と『会長と、呼ばせたい。(仮)(もしくは、天才たちの頭脳戦)』という2ピソードがありますが
②正直めちゃくちゃ良い話に書ける自信があります。
③どんな話になるかお楽しみに。
④『あの会長』と『あの会長』をここまで活躍させれるロワは恐らくここだけだろうと、自信持って言えるくらいです。


【次回】
──うるさい

──女ごときが邪魔をするな


──男同士の闘い。その行く末は。

『男の闘い』…西片、ガイル、サチ、北条
(あるいは、『プランA』…白銀、島田、左衛門、サヤ)

793『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/15(火) 23:56:12 ID:TQm/ytFw0
『【ℙ𝕝𝕒𝕟 𝔸】 - 𝕗𝕣𝕠𝕞 𝕂𝕒𝕘𝕦𝕪𝕒'𝕤 ℝ𝕖𝕢𝕦𝕚𝕖𝕞』

[登場人物]  白銀御行、島田虎信、佐衛門三郎二朗、遠藤サヤ

794『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/15(火) 23:56:30 ID:TQm/ytFw0
 “俺は『神様』なんてものを信じちゃいない。”
 “本当にいると言うなら、今すぐ目の前にでも現れてみろって話だ。”
 “俺としてもそれが本望だ。こんな悲運に負わせた礼として、骨が飛び出るまで拳をぶち込んでやる。”

 “…だが、どれだけ憤りを見せたで、神が姿を見せる訳もなく。”
 “そもそも今具体的にどこにいるのかも分からん。いや、恐らく天の上だかにいるのだろうが。”
 “遥か届かぬ上空で胡座をかき、絶望下の俺をニヤニヤ見下ろしてると思うと──腸が煮えくり濁る。”
 “故に俺は、神という輩をハナから存在しないものとしている。”
 “…そうでも考えないと、発散のしようがない怒りでどうにかなってしまいそうだからな。”


 “その一方で、同じく非科学的存在である『あの世』だけはあってほしいと願っている。”

 “…ああ。都合の良い話だっていうのは分かってるさ。”
 “ただ、”

 ────もう居なくなってしまったアイツが、存在できる場所──。
 ────アイツと再開できる場があるというのなら──────、って。


 “俺はそう願っているよ。”





 “ブラインドの隙間から細く差し込んでくる朝日。”
 “薄明るい部屋の中で、パソコンのキーを打音のみが響く。”
 “ディスプレイの文字列を眼前に今、俺は。”


 ─────神を破戒する。

795『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/15(火) 23:56:41 ID:TQm/ytFw0




 calling…
  calling…

 calling…
  calling…

──────【𝔸𝕌𝕏】──────────────────
 🅲🅰🅻🅻
    ᴘᴜꜱʜ ꜱᴇʟᴇᴄᴛ
─────────────────────────────────

  Calling Shhirogane Miyuki. 

  Calling Ishigami yū.


……
………

796『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/15(火) 23:56:57 ID:TQm/ytFw0

……
………



 『…これは俺の友達の話なんだがな』

──…そのセリフ聞くたびに思うんですけど、会長ってクラスに友達いるんですか?

 『莫迦を抜かせ石上会計。白馬岳の渓谷の数ほど存在する友人の中でも、………特に俺が眼に灼きついていた…『アイツ』の話をしたいと思う。いいか?』

──……『アイツ』…………ですか。


 『……俺は、アイツのことが怖かった。──』

 『──芸術、音楽、文芸、学問。…あらゆる分野において才能を示し我が秀知院を総ナメにした、まさしく『天才』……。……こっちが彼女の心を読み取ろうと四苦八苦している最中にも、アイツはもう俺の全てを見透かし、掌の上で転がしているのでは……と。……俺はアイツが怖かったよ。──』

 『──俺がヤツに抱いていた感情の片鱗を…少しでも悟られたら………アイツはきっとこう言っただろう。「……お可愛いこと」…ってな。──』

 『──……その一言が、プライド…矜持の塊である俺には…何よりも恐ろしかった。──』



 『────……それでいて、…彼女は……俺にとっての『希望』だったんだ』

──………。



 『今の俺にはもう、恐怖はない。…恐れるものなど何一つない。…それは、幸か不幸かで問われれば幸せに値することなのだろうが、そんなのあくまで浅い視点からの話だ。……今の俺が、どんな感情かなんて………言うまでもないだろう。』

『──…『恐怖』と『矜持』は一字違い。故に、俺は今から『恐怖』を《プライド》とルビ打ち、呼ぶこととしようじゃないか。──』


『──俺は無くした『恐怖《プライド》』を取り戻すッ………。──』

『──手段も…ッ、倫理も……道徳も…もう知ったことかッ………。何があろうと絶対に恐怖《プライド》を…この懐に引き戻してやる…………ッ。──』

『──…………そうだ。丁度いい……ッ。こうしてプライドが無くなった今だからな………ッ。今だからこそ声高に言いたいことがあるよ……ッ。俺は……俺は…見るも忌々しかった…あの恐怖《アイツ》のことが………ッ。──』



『────……………計り知れないくらいに好きだった』




──………本当に友達の話をしだす人初めて見ましたよ。

──……まぁさておき。分かってはいましたが、つまりはその彼女が起爆剤となって……僕にここまでの仕事をさせた、と……。

 『…………』

──VPNを何重にも噛ませたうえでアフガンの爆弾発注ルートをハック改竄して、配送先をアメリカ本土にすり替え、さらに起爆時間セットもオンにさせる…とか。………僕的には何よりも会長が恐怖ですよ。

──大体にして、倫理面や法律面を抜きにしてもこの『作戦』…粗がありませんかね? いくら宗教国とはいえそう簡単に騙し込めるものなのか…とか、バリアー破壊はよしとして首輪解除はどうすんですかとか………。まぁその点は言うまでもなく考えてはいるんでしょうけど。…何よりも僕は──…、


 『……………………………………』


──……って、会長。

──…まさか僕に謝ろうとしてませんよね。ここまで来て今更罪悪感とか抱いたりとかしてないですよね。

 『………』

──…もしそうなのだとしたらやめてくださいよ。らしくない……。

──というか謝るどころか…国をあげて極刑十回執行してもまだ済まない、悪の可視化みたいな『作戦』なんですよ。そんな作戦の統率者に、罪悪感がまだあるんだとしたら………。

──……最低じゃないですか。

 『……』

──…まあとは言っても、起爆停止スイッチは作動可能なのでまだ中止は可能ですけどね。…どうしますか、会長──…、


 『──…【ウルトラアトミック作戦】。──────』


──え…?


 『当作戦の呼称は【ウルトラアトミック作戦】とする。……実に直球なネーミングではあるがな。仮に俺が死んだ時そう記載するよう、書類会計を頼むぞ。──』

 『────石上会計………っ』


──………ふっ、やっぱり貴方はそうこなくっちゃ。ただ、一つ異議を申すなら…死なないでくださいよ会長。…僕には生徒会長代理なんて到底勤まりませんから……。

797『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/15(火) 23:57:11 ID:TQm/ytFw0
 『…………はは…。…検討はするさ』



──では二日後また。五人揃って、いつもの生徒会室で。…失礼します。

 『……………………礼は、その時に言おう。……またな』



──────プツンッ。






……
………
☩ EPISODE ##.𝟎𝟔𝟔 ☩

『【Plan 𝓐】 - from Kaguya's Requiem』

☩────────☩




………
……


798『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/15(火) 23:57:25 ID:TQm/ytFw0



 15世紀のフランスにて。
ある貴族の男は、かつて神を信じていた。

1429年、シャルル7世の命で宮廷に呼ばれた男は、一人の少女と出会う。
ジャンヌ・ダルク──神の声を聴けるというその聖少女の姿に、彼はたちまち圧倒された。
まるで天使のような威厳を纏った彼女を前に、ただちに忠誠を誓ったのである。
以降、戦場では二人は共に剣を取り、いくつもの華々しい勝利を収めた。
男はその武功を称えられ陸軍元帥となり、家紋には王家の百合が加えられるという名誉を賜った。

だが、栄光は長くは続かなかった。
ジャンヌは捕らえられ、時の流行である魔女狩りによって火刑に処されたのだ。

……


『Pourquoi Dieu l’a-t-il abandonnée…?』
──(なぜ彼女を見捨てたのだ…、神よ………)
────百年戦争の英雄。ジャンヌ・ダルクの右腕。『ジル・ド・レ』の言葉。


……

信仰の灯が消えたとき、ジルの心には別の炎が灯る。
錬金術、黒魔術、少年達への残虐な拷問。
──見るも忌々しいキリスト教徒共、ならびに神を焼き尽くすほどの、『復讐』の焔。

神が、憎かった。
全ては神を裏切るための、儀式だった。
神がジャンヌを奪ったのなら、自分はその神を否定するしかない。


────悪魔に魂を売り渡した男・『青髭』はこの時、神へバスタードソード《宣戦布告》を突きつけたのである。



 時は流れ平成の世。
青髭の生涯を知ってか知らずか、──いや、英才卓抜である『彼』は間違いなくその存在を知っていたであろう──。
ジル・ド・レの生き写しが如く、悪魔に魂を売り切った男がいる。

フランス貴族として享楽の限りを尽くしたジル・ド・レとは対照的に。庶民の出でありながら、ただ努力一つで生徒会長の座を掴み取った──その男。
まるで宿命をなぞるように、彼もまたあの青髭と同じ『鋭い眼差し』を宿していた。

────四宮かぐやを想いながら、エンターキーを押し込む。彼の名は────。




 カタンッ──



──【残り00:14:59.875】──



……
………


「……こんのクソがァッッ!!!!」


 バンッ──。

 事務所『カウカウファイナンス』、廊下を少し歩いた先の男子トイレにて、鏡がひび割れる音が響く。
白銀の用心棒係──島田虎信は、血が滲む握り拳をギュっと締め、沸き立つ怒りを深く噛み締めていた。
彼のズボンポケットには一枚の野口英世札。──数分前、白銀から「悪いがこれで缶コーヒーを」と頼まれて受け取った紙幣であるが、島田が向かった先は外の自販機ではなくトイレ内。

別に、彼は緊張感もなく催していたというわけではない。


「………ぐぅッ………!! うっ………。なんや…。──」

「──なんや…アフガニスタンって…なんや融点がどうたらって………もうワケわからん…………。──」

「──アイツ《御行》の作戦はメチャクチャや………。──」


そして別に、白銀が彼に耳打ちした、ゲーム脱出のプラン──『ウルトラアトミック作戦』について理解ができなかったわけでもない。
荒くれ者で、お世辞にも教養は育まれていたとはいえない島田でも理解できた、実に単純な作戦である。

ただ、


「………カモ……っ。もっとお前に…『仕事』の流儀について聞いときゃって、後悔しとるで…………。…なぁ、カモ………。──」


「──…お前なら…どうするんや………。そして、オレは…………御行をどないすりゃ正解なんや……………っ」

799『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/15(火) 23:57:45 ID:TQm/ytFw0
──その単純である『悪魔』の作戦と、悪魔に陥った『白銀御行』の二つに、島田は心の底から苛まれていた。
鏡同様ひび割れた拳の血雫と、──そこからにじむ血の存在に、彼がようやく認識したのはこの時。

島田の怒りの理由は『己の葛藤』であった。


「………………止めれば…ええんか…………。…もう、………オレには分からんわ……………」


白銀御行に現状一番寄り添っている参加者として、島田が抱える苦悩、葛藤は計り知れないものだった。
『悪魔の作戦』を止めるべきか、否か。
シーソーのど真ん中に立たされた島田は、そのおぼつかない立ち位置に、心が揺れ乱れて仕方なかったという。



──【残り00:12:31.846】──


 島田視点から順を追って、可能な限りの説明と回想をする。
全ての始まりはもはや説明不要。──二人の目の前で、四宮かぐやが爆ぜり、────彼女の瞼をそっと閉じさせたあの瞬間。
──────白銀の瞳孔カラーが明らかに血走ったあの時から作戦が始まった。

白銀に促されるまま、ホームセンターから得た『硬度計測装置』を片手に、無言の道中を続けること十数分。
垂れる汗も、灼熱の陽の光も気にせず、互いに無言で歩み続け、
辿り着いた先──エリア《渋谷》最南東、別名には『バリアーの最端部』にて、白銀はやっと口を開いた。


……

──……ほう。…硬度にしてHV2100、か。…意外でいて予想通り、という感じだな。

──なぁ島田、こんなコンタクトレンズの如くペラペラのバリアーが、まさかセラミックの十倍の硬度を誇るなんて…信じられるか? バトル・ロワイアルとはつくづくこの世の常識が通じない…侮り難いものだ。


────………あ? なんやねん………? セラミック?? ……そんな…そんな訳わからん話するために来たんか?! ここまで!! オイッ!!

────まさかやないけど…お前このバリアー壊すつもりやないやろな?!

────…なんや? 仲間ごっつ引き連れて…一斉にぶん殴って壊すっちゅう考えか……? それがお前のゆうた『ウルトラアトミック作戦』ゆうんか?!

────…ッざけんのもええ加減にせえっ!!! …それよりも、ほんま…かぐやの為……真面目に考えなあかんこと…あるんとちゃ…、


──『あずきバー』の逸話にはこういうものがある。

────あ?


──…聞いた話によればな、アメリカ軍が実験でライフル弾を二発放っても、氷菓には傷一つ付かなかったそうだ。

──…信じられないよな。あずきバーの硬度と、そして軍予算の無駄遣いっぷりに。……俺はふと思うよ。

────…あ? なんや…お前………? だからホムセンであずきバーもこうたっちゅうんか? …ィッ!!! いや何話したいねんおま…、


──硬いのなら『溶かせば』いい。


────………ぁ……?


──どんな物質にも『融点』がある。…バカげた話だが、『こいつ《バリアー》はこの世のものではないのでは…』と俺は危惧していてな。故に、こいつにも硬度があるのかどうか不安ではいたが……。…ほんとに『予想通りだが意外』だったよ。

──HV2100となると、融点の推測値は『摂氏3500度から4000度』ほどになる。……もう分かっただろう? 島田。

────あ……?



──なら、『ちょうどよかった』じゃないか。


……


800『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/15(火) 23:58:03 ID:TQm/ytFw0
 手から放り落とされたあずきバーをジワジワ、ジワジワと溶かしていく──早朝の太陽と、地面の熱。

 あずき液にアリが集るのを待たずして、確信じみた表情を浮かべた白銀は、島田を近くの雑居ビルへと促した。
ノートパソコンがあるビル三階へと足を運ぶや否や、通話を飛ばすは、白銀の後輩という──石上優へと。
『ネットに関しては腕っぷし』と評す、その石上へ、白銀は事情説明を兼ねて『ウルトラアトミック作戦』の一部を託す。
最初こそ当然ドン引きしていた石上会計だったが、経過に連れ、ゲームを攻略するかのようなノリで手を動かしていく。
荒唐無稽かつ鬼畜じみた『作戦』も引き受けてしまうとは、生徒会長・白銀御行の人望を表す光景と言えるのだろうが、異様な雰囲気に島田はこの時、ただ立ち尽くすしかできずにいた。

ふと、石上が白銀へクエスチョンを向ける。


……

────……ところで会長。……アフガニスタンってどういうチョイスですか? 国なんて山程あるのにそこを選ぶセンスが僕には理解できませんが。

──ん、簡単だ。日本に一番近い核保有国がそこだから。それだけだな。

────あー、なるほど。

──それに宗教国家は都合がいいだろ? “神の教え”だの何だのと……。現実離れした神話を、真剣に信じ込んでいる連中だ。脳死な狂信者ほど扱いやすいものはない。…呆れた話だ。


──…………………『神』なんて存在しないというのにな。


────………はい。


……



 二人の会話をただ聞き流せば、気がついた頃にはもう作戦準備は終了間近。
石上の圧倒的な作業速度により、──もう取り返しのつかない地点へと踏み込んでいた。


 石上と通話を終えても、白銀は休むことを知らない。
ふと尋ねたところによれば、今度は『タリバン最高指導者のモデリング作成』に入るとのこと。
いつどこで学んだのか知らぬ、Dari語(アフガン公用語)をブツブツ練習しながら、白銀は作業をどんどん進めていく。
目にクマを腫らし、顔色も眠そうに青白くなっても、疲労が明らかになっていてもなお。
白銀は取り憑かれたように、作戦の準備を止めなかった。


 たかが──と言ったら語弊が発生するかもしれないが。

 たかがバトル・ロワイヤルが────いつの間にやら信じられぬ程スケールが肥大化していく。



 ──たかが、バリアーの為だけに。



 ただでさえ、ナルコレプシー(睡魔発作)傾向の白銀である。

眠気覚ましのため、強めのカフェイン《ブラックコーヒー》を島田にパシらせたのは、この折であった。





──【残り00:11:00.924】──

──そして現時刻に至る。──

801『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/15(火) 23:58:18 ID:TQm/ytFw0
………
……



「……オレは……………。オレ…は………………………。──」


 以上の通り、(裏社会の人間とはいえ)常人である島田が、ここまで苦悩するのも無理はなかった。


「──…どうすりゃ、ええんや…………。」


 母を理不尽に失って以来、『復讐屋』鴨ノ目武と働くようになった島田。
その稼業も気づけば長い年月を経ており、これまでも幾度となく『クズ共』を無惨に始末してきた。
被害者遺族の依頼を受け、対象のクズを攫い、物置小屋にて──斧、ドリル、ガスバーナー……etc。様々な戒めを味あわせていく。
依頼こそ無いとはいえ、復讐屋としての視点から見れば、白銀御行は紛うことなき『執行対象』。
──いや、もはやクズや極悪人なんて言葉は生温い、『大正義的巨悪』。正義すらも超越した、悪魔のような理知と意志だった。


「……おかん、カモ…………。…奈々………。…誰でもええから、最適解…教えてや…………」


ただ、そんなクズ共。
かつてのジェイク堀尾や櫻井志津馬。あるいは歴史に名を遺すジル・ド・レといった悪人達と、白銀で、決定的に異なる点がある。
それは一つのみ。
たった一つであるが、『悪』という存在を構成する根幹に関わる、決定的な分岐点だった。



──白銀は、【利他主義】。

──殺し合いに巻き込まれたすべての人間を救うために。ゲームそのものを崩壊させるために。


────【そして何よりも、四宮かぐやの為に。】




彼は、自ら悪の道を選び取ったのだ。



「………………………御行……っ」



 それは果たして、正義か否か。
というのも、白銀の立案したその作戦は、『巻き込まれる』無関係な人々にとっては、たまったものではない為である。
何かを得るには、必ず何かを失わねばならない。
まさに『等価交換』──。錬金術の理を地で行くその作戦は、罪なき人々の命を犠牲とすることで成立していた。
殺し合いに一切関わりない、それどころか他国の老若男女。
たまたま『その場』に居合わせただけの無辜の人々が、虫のごとく殺されていく。
それに加えて、犠牲数も桁違い。白銀曰く、「三百人で済めば御の字だな」──と、その『爆発』の威力を懸念していた。

いわば、国境を越えた虐殺を踏み台にした末の────自分達の生還。


 もしかすれば、他に方法があるのかもしれない。

バリアーを破壊し、主催者を突き止め、ゲームを終わらせる。
犠牲も最小限にとどめるプランが、どこかに存在していた可能性もゼロではない。
島田も、作戦の具体的内容を聞かされた際、勿論「アホか、他に方法あるやろ」──と、紛れもない正論のツッコミを入れたものだった。

──その正論は、また『別の正論』によって完全に打ち消されたものだが。


「…『あるなら出してみろ』…って……………。御行………お前……そんなん……………」



殺し合いに巻き込まれた参加者たちの命を救うために、無関係な多数を犠牲にするか。
または逆も然りか。

どちらが正解で、そして自分は白銀を止めれば良いのか否かも判断ができず、
両サイドに命がのしかかるシーソーの中心にて、島田が立ち尽くし続けること早三分。



──【残り00:10:01.123】──


「……………とりあえずは、…コーヒーやろ………」


 ポケットに手を入れた拍子、触れた貨幣の感触で『お使い』のことを思い出し。
長く伸びた髪をひと掻きし、島田は静かにトイレを後にした。
結論を出すことを一旦は放棄して、今はただ言われるがまま自販機へ。

島田はまだ、『神の存在』、──すなわち希望の道筋を諦めてはいなかった。その願いにも似た思いを胸に、彼はそっとドアノブを回す。




廊下を出て数歩ほど。

802『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/15(火) 23:58:30 ID:TQm/ytFw0
──片や、すれ違いざまの風の感触で、

「…あ?」


──片や、バタンと閉まったドアの音で、

「……え?」 「…なッ」




──島田と、
──このビルにたまたま入っていた佐衛門&サヤ。


互いが互いを振り返ったそのタイミングは、ほぼ同時だったという。




 ──【残り00:09:41.999】──

803『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/15(火) 23:58:44 ID:TQm/ytFw0



………
……



 一方は────対、改造銃。
島田の額にて、銃が突きつけられる。


「……ハァハァ………言っとくがなァ…、至近距離戦では…銃よりナイフのほうが遥かに有利なんやからな…………ッ!!!──」

「──なんかの漫画でゆうてたけど、銃はスリーアクションなんやぞ…。『抜き』……──…、」

「『構え』、『引き金を引く』…そのスリーアクション…なんだろ………っ?」

「…あぁ?!」


 もう一方は────対、ナイフ。
左衛門の頸動脈ギリギリにて、仕込みナイフが牙を剥く。


「それに引き換え、ナイフは『刺す』の一動作に終わる………。アンタはそう言いたいんだろ…………っ? とどのつまり……、──『オレのほうが有利〜』と。…そう〆るつもりなんだろ……っ!!」

「……っ。……んや…見透かしたかのように………。お前も読んどったんか、マスターキートン…………」

「答える気はない……っ。そしてアンタとも漫画の話で和気あいあいとする気は……ない…………っ。──」


「──僕にはただ殺意のみっ……!! アンタに今…向けるのは…殺意だけだ……っ!!」

「ッ、お前…ェ…ッ……」


「佐衛門さんっ!!!!」



 狼狽するは────サヤの声、ただ一つのみ。



「………な、なに……。なんなのこの状況…。…ね、ねえ佐衛門さん…何してんのっ………?」

「……サヤさん……・猜疑心重……『信じちゃダメ』ってことさっ……!! 参加者全員…誰もかも…………」

「…え? は、はぁ???!」

「その上…よく見てみるんだ……。こんな見るからに目付きの悪い……輩を相手にしているんだぞっ……。なら尚更じゃないかっ…………!!──」


 島田と左衛門で、互いに伸びる腕。
空気が張り詰める中、その互いの手にて、交差するそれぞれの武器。
互い、互い、互い、互い、互い、互い、互い、たがい。
────疑い。【疑心暗鬼】。


いや、この状況を四字熟語で簡潔に表すとするなら、【疑心暗鬼】ではなく──、



「──ここは僕が引き受けるから……。だから逃げろ………逃げるんだ…サヤさんっ……!!!!」

「なにが逃げろやねんワレッ!!!! お前が急に銃向けてきたんやろがッ!!! ふざけんなやゴラアアアァッ!!!!!」


「ひっ!!」



────【一触即発】だった。



 数分前。
すれ違い──島田の存在を認識するなり、佐衛門が取った行動は、先手必勝。
言葉挟む間もなく颯爽と銃を引き、そして構えた左衛門は、名前も知らぬゴロツキ標準にトリガーを指にかけ出す。
この考える余裕もない刹那の瞬間、佐衛門を支配していた感情は『焦燥』であっただろう。

なにせつい数刻前、兵藤に片目を奪われたという『バトル・ロワイヤルの真髄』をまざまざと見せつけられた彼だ。
唯一残る左目は、誰彼全てが【敵】。傍らのサヤを除いて、全てが敵と視えている。
平時はマイペースで、冷静な観察眼を持つ佐衛門であっても、この時ばかりは、初対面の人間を信用する余裕など欠片も残っていなかった。

──それが余計、島田のような見た目からして反社会的な匂いを漂わせる男と出会ったとあらば、尚更だろう。

804『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/15(火) 23:59:02 ID:TQm/ytFw0
 そしてまた、同じく数分前の話。
あっという間もなく銃を向けられた島田であったが、銃弾は放たれることなく。
何せ、過去には違法格闘技で名を馳せ、『復讐屋』となった今でも卓越した格闘術を見せる島田虎信。その人である。
トリガーに指がかかる寸前、反射神経で腕を振るい、仕込みナイフを引き抜いてみせた。
鋭利な刃先は、佐衛門の頸動脈を寸分違わずギリギリなぞり。──もしくは、すでに0.1ミリほど食い込ませた、瞬発の攻撃。

互いの心臓の震えが、互いの武器の先端を微かに揺らす。
刹那ごとに命の天秤が傾く、張りつめた静止。先に動けば、どちらかがフィフティーフィフティーで絶命する。

──この現状下は、こうして出来上がったのである。



汗が滲み出て、

「…………ぃッ!!」


向顔。睨み続け、

「ぐっ……………!」


一方は、首から、か細い一本の血脈がスーッと滴り、
一方は、銃口の奥に宿る冷たい空気に心臓が早鐘を打つ。


二人は膠着を解き放つ何か──『隙』が来るのを待つばかりの。


「……………っ!!」

「…………ぃイッ!!」


────この、緊迫の時間。



『甲子園には魔物が棲む』。
そんな言葉があるが、もしもこのバトル・ロワイヤルにもそのような『神』が宿っているのだとすれば、今この瞬間──。
きっと愉悦に満ちた眼差しで、島田 vs 佐衛門の静かなる死闘を見下ろしていることだろう。
──もっとも、比較的巻き込まれた側である遠藤サヤは不運なものであるのだが。


「え、え………。さ、佐衛門さ……………………」




【Judgment】。
──決着の刻。死の兆し。



ただ、どうであれ。


「…………悪魔がっ………」

「ああァ!?? 悪魔はお前やろがッ! ボゲッ!!──」



膠着下が暗転に包まれる瞬間は、



「──…容赦はせんからな……クソったれ……。ゲームに乗ったクズ野郎がッ…!!!」

「……ブーメラン…っ! そっくりそのままお返しだ………っ。──」


──もう。


「…終わり…もう終わりにしようじゃないかっ………!! うわああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!!」

「イィッ!!! ざっけんなやボゲゴラァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」



眼の前を覆い尽くすほどに、近かった──。








「…やれやれなものだ。たかが缶珈琲一本。まさか豆から挽いていたわけじゃないだろうな? …そう思っていたら………島田め……」



 ──【残り00:08:20.521】──

805『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/15(火) 23:59:21 ID:TQm/ytFw0
「「…あ?」」


「え?」



 そんな眼前から離れた向こうにて。

白い廊下に、揺れるカーテン。長く無機質な廊下奥から、コツ、コツ、コツ…と。

戦慄に満ちたこの空間をものともしないかのように、革靴の音と──、




「…案の定。実に愚かな争いだな……」



────独壇場を切り開くかの声が、静寂を引き連れて響きだした。




 ──【残り00:08:01.351】──




「………なっ…!? おま……──…、」

「島田、俺は常々思うんだがな」

「あぁ…?!」



 突然の出現。誰ひとりとして喧噪に夢中で、その気配を察知できなかった。
怒号も罵声も掻き消え、まるでサイレント映画のように静まり返る。──いや、三人を静まらせる力を持つその声。

靴の音が徐々に徐々に、一定のリズムでこちらへと近づいていく中。シルエットの主は淡々と、三人の内の一人、島田に向かって演説口調を発する。



「裁判、スポーツ、家督争い…なんだっていい。──」

「──結局、争い…すなわちバトルってのは『ジャッジマン《公平な第三者》』がいて、初めて成り立つと思っている」



「……え?」 「……………っ」



「そう考えるとだ。この『バトル・ロワイヤル』ってやつは、つくづくお粗末な構造をしていると思わないか?──」

「──なにせ審判《ジャッジマン》もなし。ルールも無用。勝手に始まり、勝手に命を奪い合って、勝手に結論が付く。…『バトル』の定義としては最低のフォーマットじゃないか。…公平性も何もない…。審判がいる分、小学校の球技大会のよっぽど秩序があるだろう」



 コツコツ、コツコツ────。

まるで機械仕掛けの秒針のように響く一つの足音。
佐衛門も島田もサヤも、誰彼もが虚を突かれ、氷と化したこの場で唯一響く音。

ビルの内壁に反射する光も、路面に焼きつく熱も、どこか白んで見える。
それは暑さのせいではなかった。彼が近づくにつれ、空間そのものの輪郭がぼやけていく。



「さて──唐突に割り込む形になってしまったが…、島田。あとそれから……君たちにも一つ俺から提案がある。──」

「──というよりも、…サヤ…だったか。そこの君に任せたいことがあるんだが。…いいか?」


「えっ!?」 「…な……っ?!──」


「──…な、なに……?」



光が邪魔で、なおも顔の判別もつかぬその男の白い輪郭が名指しするは、突飛にもサヤの名。
その口ぶりから察するに、彼は島田と佐衛門の膠着を、初めからどこかで見届けていたのだろう。
にもかかわらず、あえて直接の当事者ではないサヤを指名したことに、誰もが小さな違和感を覚えた。

なぜ彼女なのか。

というより何を言い出したいのか。奴は。

806『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/15(火) 23:59:34 ID:TQm/ytFw0
島田。佐衛門。
敵味方関係なく、かの男の存在感に身動き一つ取れなくなるこの空間にて。



窓を通り過ぎた折、やっとその姿をはっきり確認できた謎の男は。

──いや。




────『白銀御行』は。





「案ずるな。簡単な事さ、サヤ」

「…だから……なにって…──…、」




「君に是非『ジャッジマン』をしてもらおうと俺は思う。──島田虎信を始末すべきか、まずは話し合うべきか。──」


「──この場の命運をサヤに預けようじゃないか」





「…えっ、え?──」

「──え、え、え、え、──」


「──えっ!???!」



「「…………え」」





────比較的まだ若いサヤへ、白羽の矢をたてた理由について説明しだした。





「な、え、…は? な、なな、なんで………。急にアタシ………?!」

「道理も筋も『なんで』もあったものか。…まぁ強いて理由づけるとするなら、予行練習と思って審判を担えばいいさ」

「…な、何のっ?!」


「…『裁判員制度』の…かっ………?!」

「…ん。──」


サヤを弁護立てるかのように、佐衛門が割って出る。


「──御名答だ、サングラス男。…選択ってのは、往々にしてある日唐突に突きつけられるもの。国がそうやって制度《裁判員制度》として決めているんだ。ならちょうど良い機会だろう?──」

「──それに、現状この場で一番ジャッジメントに相応しいのは紛れもなくサヤ。君のみだからな」


「え……………」

「御行…………っ、お前……………」



 何を言い出すのか見当もつかない。
佐衛門の視点からすれば、突如現れたこの男の『提案』は、思考回路を乱す渦でしかなかった。

ただ、理には適っている。
冷静に考えれば確かに理には適っている提案とはいえよう。
なにせ、喧噪下にいた三人のうち、対峙の真っただ中にいる島田と佐衛門では、どれほど言葉を重ねたところで歩み寄りは期待できない。
そうなれば、必然的に残る選択肢は一つ。佐衛門の味方と認識されているサヤの判断こそが、唯一この場を収める鍵となる。

確かに、論理としては美しい。納得はいく『裁判員制度』。
無駄のない理ではあった。

807『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/15(火) 23:59:49 ID:TQm/ytFw0
──もっとも、サヤの立場からしたらそんな『理』など理不尽極まりないものであるのだが。


「…え、え…え………………、」

「俺としてもこんな不毛な応酬に時間を割く余裕はない。できれば、速やかに判断を下してほしいものだ」

「え?! …いや……ちょっと…………まってよ…」

「悪いな、俺的にはもう十分なくらいに待ったつもりだ」

「はぁっ?!!」


焦るサヤに、迫る白銀。
この理不尽を突きつけてきた諸悪の根源は、なおも忌憚なくサヤに言葉を続けてくる。




「選択肢は二つに一つ。シンプルだろう?──」


「──『殺すか』、それとも『生かすか』──」


「──さあ、判定の時だ。サヤ」




「…い、いや……、ちょ、ちょっと……。なんなわけ…──…、」

「──…あっ……」


そして気がつけば、佐衛門と島田の視線は、ただ一人──サヤへと静かに集束していた。
まるで世界の焦点が定められたかのように、二対の眼差しが彼女を射抜く。



「……サヤさん………っ」

「………ィッ……」


「ぃ、ぁ………あの………………」



その緊迫を帯びた鋭い眼差しは、睨みつけるというよりも、捕らえて離さぬ鎖のようだった。
細身のサヤの全身を、冷たい光が絡みつき、ゆっくりと締めあげていく。
逃げたい──本能がそう叫ぶのに、足は一歩も動かず。
投げ出したい──心がそう嘆くのに、この沈黙の圧は容赦なく肩にのしかかる。
ただ、空気だけが異様に重く、時間だけが冷たく流れていた。


気が付けば、この場の空気は白銀御行一人に完全に支配されていた。



「え、え……。え。…え………」


「さあ早く」


「…ちょ、じ、焦らすなよっ?!!」

「断る。──」




「──さあ、早く……っ」



「…えっ………え、」



一秒ごとに重くなっていく、全身を押し潰さんばかりの圧。
視線、視線、視線──突き刺すような眼差しが脳髄を灼き、目眩が走る。
良く効いた空調など意味をなさず、汗は皮膚を濡らし続けていた。

わずか十六歳。
喫茶店の店主でしかない、ただの少女に、
そんな重圧に耐えきれるはずもなく。



「あ…………アタシは…………………………────」



彼女は唇を震わしながら、やっと。【ジャッジメント】を下した──。

808『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/16(水) 00:00:02 ID:MBpdp8rs0


………
……


──Spotifyから流れるは、『逆転裁判3』BGMより。

『〜珈琲は闇色の薫り』
ttps://youtu.be/5uabvR-jCpE?si=I7AnnajviE8agHXJ


……
………



809『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/16(水) 00:00:18 ID:MBpdp8rs0




 ──【残り00:01:08.110】──



「…蛇めっ………!!──」


「──選べるわけ無いだろう……、サヤさんが…『殺す』という…選択肢を………っ!!」

「…ま、つまりそこまで計算づくやったちゅうわけやろ。恐ろしいやっちゃで…。なぁ三四郎」

「…くっ…………。………」



 サックスジャズが響く、カウカウファイナンス三階──事務所内。
Spotifyから流れる落ち着きの音色に寄り添うように、珈琲の香ばしさが空間を満たしていく。

『サヤ自家製・特製コーヒー』──四人分。

互いの間にあった疑心暗鬼が解けた──とは、まだ到底言い難い。
それでも、わずかながら緊張は緩和され、──そして白銀にとっては、ようやく念願のカフェインにありつけた次第である。
一応のところ、事態は丸く収まりつつあった。


「ほいよ、ブラックコーヒー」

「……すまないな遠藤。──」


 ──ゴクっ


「──……ほう。これは中々…。酸味と苦味のバランスが秀逸。…美味いな」

「あーへへー…。あーごめん、なんかもう色々疲れすぎて褒められても嬉しく感じないや、ぶっちゃけ……」

「まさに『コピ・ルアク』のようなコーヒー。ここにありだよ」

「…あ? …は? …いやそれ…褒めてんのっ?! …遠回しに『糞』みたいなコーヒーつってない?!」

「……物は言いようさ」

「そこは否定しろよおいっ!!!」


 マグカップから広がる苦い湯気。
一番窓際のデスクにて朝日を浴びながら、パソコンを動かし珈琲を飲む。まるでモーニングタイムの理想郷。
当然ながら本家本元の高級品『コピ・ルアク』とは程遠いコーヒーではあるが、ほろ苦い薫りにつられて、白銀はふと回想をする。


二年の時、

あれは夏休み以前のことか、生徒会室にて。

藤原書記が『コピ・ルアクのです〜』と口走ったせいで、ついつい猫の排泄シーンを想像しながらとなった、珈琲タイム。
無論、生産工程はどうあれさすがは一等品といえる、珈琲の奥深い味、薫りであったが。

その味わいを、三人で。


──隣にいた“彼女”と、同じ味わいを分かち合いながら──カップを口に運ぶ、あの笑顔を──……、



「…………………ふっ…」


──いや、今は、よそうか。──と。
ここまでを区切りとして、白銀は意識を現在に引き戻す。
カップをデスクに置き、タイピングの再開を始めていった。



「………」 「………」



無論、白銀がパソコンを用いて為すことはただ一つ。
──『ウルトラアトミック作戦』準備の続きである。

810『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/16(水) 00:00:33 ID:MBpdp8rs0
 ──【残り00:00:58.424】──


当作戦については、自己紹介の時間にすでに佐衛門ら二人へと説明済み。
ゆえに佐衛門は、白銀のパソコンを、まるで目の前に悪魔でも映し出されているかのような眼差しで、睨み続けていた。


「……白銀君…だったよなっ………? ………僕は是非ともキミに勧めたい場所があるよ…………」

「…………勧めたい場所、ですか。…当てても構いませんよね。──…『病院』と仰りたいのでは?」

「…流石だね………っ。──」


「──何が『ウルトラアトミック作戦』だっ…!? こんなの…ふざけている………。何もかもが内容が…滅茶苦茶だっ……!!!」

「…………三四郎……ゆうてそんなん……」

「なんだ島田さんっ……!? これ以外に策がないと…そう言いたいのか…………!?!」

「……………俺やて……。そんなん俺やって…──…、」


「インポッシブルだっ……!! 完全に狂っている……馬鹿すぎる計画だよ……っ!!!」

「ああ勿論自覚しています。バカの発想? その通り。正気の沙汰じゃない作戦なのは確かです。…ただ、俺は『バカと天才は紙一重』という言葉が嫌いじゃなくてね」



 ──【残り00:00:33.443】──


「…天才と言いたいのか……? 自分をっ………」

「…いえ。──」

「──ただ、バカと天才の違いについて分かりますか? …俺の持論を以て然るに、バカは思うだけで終わりますが、天才は行動に移す。…佐衛門さんもそう思いませんかね」


 ──【残り00:00:20.333】──


「………狂人の持論はあてにならないよ………っ」

「──ええ、アンタがそう思うなら自由にしてください。…まぁどう思おうにせよ、病院に行くべきは貴方ですよ佐衛門さん。──」

「──痛まないんですか? その右目」


「え、ちょっと白銀!! …それNGワードなんだけど…」 「…ぐっ………………。──」


 ──【残り00:00:08.133】──


「──…僕は、…間違った発言はしていないつもりだからな……………っ」


 ──【残り00:00:2.214】──


「…そうですか。なら俺とは対照的ですね。自分で言うのもナンですが、俺はこの作戦何もかもが過ちで、完全に間違いきってると思いますよ。──」





 ──【残り00:00:00.333】──




「──……なにせ、全ては一人の『女子』の為だけにあるんですから──────────」





 ──【残り00:00:00.001】──



 ────【Time up】────







 ボンッ──。

  ドッガガガガガガッガァァアオバァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ────



「わっ!!??」 「がっ……!?」


「な、なんやっ!??」

811『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/16(水) 00:00:54 ID:MBpdp8rs0

 唐突な爆発音が、事務所の空気を裂いた。
建物が軋みを上げ、大きく揺れる。

思わず窓際へ駆け寄った島田と佐衛門の目に映ったのは、遠くのチェーン店が炎に包まれる光景。
──平穏を絵に描いたような国、日本。──その中でも最も華やぎと平和に満ちた街、渋谷。
その筈だというのに────爆風は届かずとも、炎の残響は胸中を焦がしていく。

恐らく対岸の火事。自分らを対象とした爆破攻撃でないのだろうが、サヤと佐衛門の眉間には汗が滲み、島田は歯を食いしばったまま視線を逸らさない。


「…んやねんッ………。おい………」

「え、え、どうすんのこれ…!? とりあえず……避難──…、」


その『バトル・ロワイヤル』の一破片が飛び交った瞬間。


「──あっ……!」


パッと。
一つ、また一つ。
照明が、パソコンのディスプレイが、何もかも。『電気』の灯りが消え失せて行く。

ふと窓の外に目を移せば、街の灯りまでもが、ポツリ、ポツリと断たれていくのが見えた。──爆発の余波による電気接触の不良。大規模停電であろう。
誰かの指でスイッチを切られるように、街の灯《ライムライト》が、続々と退場していく。

早朝とはいえ、まだ薄暗さ残る渋谷区/外苑西通りは気づけば明かり一つない状態。
文明開化以前の街並みが如く、暗闇に包まれた。この一瞬であった。



──この一瞬。


──この一瞬にて、最後の幕を下ろすが如く、また一つの明かりが消えて行く。



────『パソコン』が壊れたことが起因となり、



「………サ、サヤ。とりあえず落ち着けって……──…、」



「──って、あッ!!!」 「あっ!!」







「……………………つくづく、爆破尽くめだな。…今日の俺は」




────白銀御行の視界は、ゆっくりと暗転していった。────。



 バタリッ─────



「み…御行ィッ!!!!」



………
……


812『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/16(水) 00:01:07 ID:MBpdp8rs0



 ピ…

 ──【残り00:00:03.000】──

アメリカ・マディソン郡の橋にて。


 ピ…

 ──【残り00:00:02.000】──


渋滞中であったことが不幸か幸か。
車内にて、赤いカウントダウンが人知れず泣きはらし。



 ピ…

 ──【残り00:00:01.000】──



 ピィーー……

 ──【残り00:00:00.000】──






 ────【Time up】────



──プルトニウム爆弾を積んでいたトラックが閃光と共に大爆破。

──その衝撃波により、周囲の車両は次々と吹き飛ばされ、近郊にあったトルーマン元大統領の墓すら無残に蹴散らかされる。



──前方車両に乗る、現地を視察していたアフガニスタン最高指導者は、光に包まれその生涯に終止符を打った。





────『ウルトラロマンティック作戦』は経過に連れ、後にこう改題されることとなる。



……
………

☩ EPISODE ##.𝟎𝟔𝟔 ☩

────『【Plan 𝓐】 - from 𝓐fghanistan』

☩────────☩




………
……


813『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/16(水) 00:01:24 ID:MBpdp8rs0
【1日目/D6/東京ミッ●タウン周辺街/AM.05:00】
【白銀御行@かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜】
【状態】疲労(大)、昏倒
【装備】アーミーナイフ@映画版かぐや様
【道具】猫耳@かぐや様
【思考】基本:【対主催】
1:四宮かぐや…。
2:ゲーム崩壊のプラン『ウルトラロマンティック作戦』を指揮。ゲームを崩壊させる。
3:島田、サヤ、佐衛門はとりあえずで引き入れている。

【島田虎信@善悪の屑】
【状態】頭部出血(軽)
【装備】なし
【道具】猫耳@かぐや様
【思考】基本:【対主催】
1:白銀の『策』を信じ、従う。
2:姫(四宮)……。ほんますまんッ……。
3:中年親父(黒崎)に復讐したい。…が、今は後回し。
4:三四郎、サヤと行動。ただ三四郎には嫌な感情しかない。

【佐衛門三郎二朗@中間管理録トネガワ】
【状態】右眼球切創、背中打撲(軽)
【装備】ヘルペスの改造銃@善悪の屑(外道の歌)
【道具】医療用●麻x5
【思考】基本:【静観】
1:サヤさんを守る。
2:白銀、島田は注視しつつも同行。
3:会長に激しい憎悪。
4:『ウルトラロマンティック作戦』に激しい嫌悪感。

【遠藤サヤ@だがしかし】
【状態】疲労(大)
【装備】あやみのヨーヨー@古見さん
【道具】フエラムネ10個入x50
【思考】基本:【静観】
1:佐衛門さん、白銀、島田さんと行動、そして互いに助け合う。
2:ジジイ(兵藤)を絶対許さない…っ。
3:ほたるちゃんを探したい。
4:とりあえずその作戦…ヤバくね……?

814『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/16(水) 00:04:53 ID:MBpdp8rs0
【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ】
①今回の話、意味不明だと思った方。正しいです。
②あえて説明不足で書いたので理解できなくて当然なのです。
③そして、融点とかアフガンについての描写がメチャクチャと思った方。正しいです。
④私は科学とか国勢に興味がないので適当に書きました。これもまた支離滅裂で当然なのです。

【次回。7月22日投下。】
──遠い、
──空をあの日。
──眺めていた。

『男の闘い』…西片、ガイル、サチ

815『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:19:57 ID:nieNARdc0
[登場人物]  西片、ガイル、美馬サチ

816『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:20:39 ID:nieNARdc0
「あはは〜、また私の勝ち。西片はほんと分かりやすいね〜」

「ぐ、ぐぬぬ〜……っ………………」


 …また、負けた……。

 入念に準備して…、恥もプライドも無くイカサマまで仕込んで…、泥水すする覚悟で勝つつもりだったのに………。
高木さんにまたゲームで敗れてしまった……。
……しかも負けた上にからかわれるというダブルパンチ………。なんて屈辱だ……っ!!
よくマンガで「負けたけど、清々しい気分だぜっ!」って、ライバルキャラが負けを認めて笑うシーンあるけど……。
…見習いたい……。…っていうより、オレも欲しいよ〜その心の余裕が〜〜!!!


「じゃ、そういうわけだからね。罰ゲームの覚悟、オーケー?」

「…え。え゙っ?! ほ、本当にやる気なの?! 高木さんっ?!!」

「ん? もしかしてそんなに怖かったの? デコピン」

「…いっ…!! …い、いや………。あ、あんまりに子供っぽい罰ゲームだからさぁ〜。『え? その程度でいいの?!』って思っちゃったんだよね〜オレ〜〜………」

「お〜流石は西片。じゃさっそくいくよ!」

「え?!! いやちょ、ちょっと!! タイムタイム!!!」


くそぉ……。
……高木さんめぇええええ……。
…いつの日か……きっと……。
──いや、オレは、いったいいつになったら……。


「タイムもなし、二言も認めません。『男に二言はねぇぜ…』って、西片の好きな西部映画でも言ってたでしょ?」

「なっ!!? なんで知ってるのそのセリフ?! 見たのっ!?」

「うん。クリント・イーストウッド、渋かったなぁ〜。昔の映画だけど面白かったよ」

「い、いやどうして興味惹かれたのっ?!」

「んーー。西片をからかう為ならなんでも履修の私だからかな〜」

「結局それに行き着いちゃうのかよ〜っ?!!」


……はぁ……。
オレは……。

オレはァ〜〜〜〜〜……………。


「じゃ、いくよ」

「…た、高木さーん…………」

「えいっ!──」


……高木さんにからかい、勝つことができるんだろう………。はあ〜あ〜ぁ……………。



「──…と、見せかけて脇腹にパンチ!! おりゃっ!」







 ────ズッッッバアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァンンンンッッッッッッ!!!!!!!

 ──バキバキバキバキバキバキゴキゴキゴキゴキッッッッッ──ミシミシミシミシギギギチギチギチィィィィィィイイイイイッッッッ




「ぐッがばぁああああああああぁぁぁぁッッッ!!!!!!!!!!???」



 …ご…ぁあ…ァァ……ッ………。

い、痛い゙っぃ………………ッ!!

脇腹を抉るように…めり込んでくる拳………ッ…。
腹肉とあばら骨が、ぐちゃぐちゃのミンチになって、…全身に震える波動が………走る……ッ。
い、息が……できない……ッ………!!
痛みのあまり……呼吸の仕方を思い出せ…ないぃ…ッ……………。

817『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:20:53 ID:nieNARdc0
「ゲホッ、ゴホッ……、た、タイム──…、」

「どうした、もう終わりか? 西片ッ」

「…あ、……うわぁッ!!!?!」



 ────ブンッッ


…わっ…!!
……そして間髪入れず飛んでくる……蹴り………ッ………!!!



…そうだ……。
そうだった………。

頭の上を星とヒヨコがグ〜ルグル………。──そんな混乱状態で忘れていたけど……、

オレ…………、今………。



「フンッ!!!」

「ぁっ──────!!!」



──…『ガイルさん』と……、ガチンコ死闘《Street Fight》をさせられてるんだった…………────。







episode 70
『男の闘い』
〜🅸🅽🆂🅴🆁🆃 ​ 🅲🅾🅸🅽〜





………
……


818『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:21:10 ID:nieNARdc0



い…いや………。

いや。いや……。



…ど、どうして………?



「はぁっ、はぁっ……っ。ひへぇ……、はぁ…っ…はぁ……っ。──」

「──ガ、ガイルさん……っ。ちょ、ちょっとだけ……話を──」



──ROUND【5】────


「──いっ?! も、もう始まるのっ?!!」

「…ッ!!!──」


────FIGHT!!


「──ファネッフーッ!!! ファネッフーッ!!! ファネッフーッ!!! ファネッフーッ!!! ファネッフーッ!!!」

──【ソニックブーム】(←ため→+P)
──[腕を交差させて放つ、真空の刃──音を置き去りにするような超速飛び道具。]


「う、うわああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!──」



なんで………?

どうして…?



「──はぁ…はぁ……。ひぃいいいいいいっっっ!!!」

「逃げるな西片ッ!! ファネッフー!! …──フンッッ!!!」

「うわっ!!!?」


──BUUUNッ!! BANッ!!
──【しゃがみ蹴り】(↓+K)
──[太い脚から繰り出される強烈なローキック。ガイルの圧倒的な体格から生まれる長いリーチが特徴]


「うわぁああああぁぁぁああああああああああ!!!!!」


も、もう……っ。
わけが……、わからない……っ……。


「何度でも言うぞッ…!! …避けるなッ! そして逃げるなッ!! …逃げるな卑怯者ォッッ!!!」


──BUUUNッ!! BUUUNッ!! BUUUNッ!! BUUUNッ!! BUUUNッ!! BUUUNッ!!
──【ソニックブーム】


「ひ、ひぃいぃぃいいいいいッッ!!! うわあああああああッッッ!!!!」

「…クッ。…西片よ……勝負においてだ」

「え?!」

「逃げて、何が得られる……ッ!? 攻撃を受けずして、何を学ぶというのだ……ッ!! …仮にこれが俺が狼で、貴様が野ウサギだったなら。…逃げることも戦術と呼べたであろう……」

「ひぃ、ひっ……! はぁ、はぁ……」

「だが、俺は貴様を、そんな純粋無垢な小動物だとは思っていないッ!! これは……貴様と俺……餓狼同士の対等な闘いだッ!!!」

「ひい?! ぃいぃいいいいいいいいいわぁああああああああ!!!!!」


「ゆえに、無抵抗を装った逃げなど、断じて許さぬッ!!!! ──フゥンッッ!!!」

819『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:21:26 ID:nieNARdc0
「えっ!!? ぁぁあ!!…──」


──…GASHIッ!!
──投げ技【ジュードースルー】…(→+中P)
[背負い投げに近い技。“柔よく剛を制す”の一手。]
[威力は高くないが、間合いを整えるにはうってつけだ。]



──BANNNッッッ………






はぁ、はぁ……っ。
……はぁ…………。


──……ど、どうして…………………?


オレとガイルさんは……。

────闘わなきゃならないんだっ…………………?!



しょ、初対面だったとはいえ………。
さっきまで、なんとなく仲良さげな…空気だったのに…………。
肩がぶつかったとか、誤解とか、そういう喧嘩のきっかけもなかった……。
ほんとに、なにも……なかったはずなんだ……。

つまり……
オレたちの間には、恨みも怒りも──0。

ついさっきまではそうだった…。
…少なくとも、オレがお腹壊して…トイレ行くまでは…そうだったはずだ…………。

それまでは優しくて、そして頼もしかった…ガイルさん…。
正直オレはバトル・ロワイアルが怖かったし…心もちょっぴり屈していたけども……、
美馬先輩と、…そしてガイルさんとなら……。希望の道を開けるんじゃないか…って……。

……そう思っていたのに………………。


「──ファネッフーッ!!! ファネッフーッ!!!」

──BUUUNッ!! BUUUNッ!!
──【ソニックブーム】


「う、うわぁっ!!!!」




────…トイレに行くとき……どんな逆鱗が踏まさったというんだ……っ????



「はぁはぁ……………」


「………………ッ……」





 ……まずい……。

いや本当にまずすぎるっ………!!


『残りカウント』は…たぶん五十秒くらい……。
…長いようで短いとはこのことだっ……!!体は今すぐ終わってほしいと悲鳴をあげてるけど、頭のほうは、もうちょっとだけ考える時間がほしいと訴えている……。

とにかくまずいから……──次の『インターバルタイム』までに…ガイルさんの説得方法を考えつかないと………!!

はぁはぁ………。
考えろ、オレ……!
…なにを考えるって、そりゃもちろん、……何故『今闘わされているのか』について………!
キッカケとなった、トイレ中の『空白の五分間』に何があったかについて考えるんだ………!!

820『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:21:41 ID:nieNARdc0
「サマーソルトキッィィクッッ!!!!」

──BUNNNッッッ………

「うわ!? あ、あぶな〜!!!」

「……クッ!! 逃げ足だけは野ウサギ並みか……。まったく、男の風上にも置けんッ…!!」



 ……もちろん、逃げながら……──考えるんだ、オレぇぇっ!!!

 …たったの五分程度……。
トイレから戻った瞬間、鬼みたいな形相で待ち構えていて、気付いた時にはヘッドロックされて…バトルを挑まれるという………。
兄貴分のような存在だったガイルさんが…なんで豹変したのか………オレにはさっぱり分からないよっ!!?

……いや待てよ…?!
も、もしや……。オレの…その……『トイレの音』があまりにも爆音で、不愉快だったから……とか…。そういう理由…なのかっ………?
……そんな、理由で……?
ここまでの殺意MAXに…っ!?


「ファネッフーッ!!! ファネッフーッ!!! ファネッフーッ!!! ファネッフーッ!!! ファネッフーッ!!!」

──BUUUNッ!! BUUUNッ!! BUUUNッ!! BUUUNッ!! BUUUNッ!! BUUUNッ!!
──【ソニックブーム】


「わ、わぁああああああああああああああっっ!!!!!」



 ──って、違う!! そんなくだらない理由なわけがあるかっ!!!
お、オレだって、美馬先輩の前だからめちゃくちゃ気を使って用は済ませたし……。
ていうか音が漏れるはずなんてないしっ……!! そんな理由は絶対にあり得ない…。
……いやいや、そもそも理由がどうこうじゃなくてっ……!! そうだ、仮に音がちょっとでも聞こえてたとしても……!!

──あんなにナイスガイだったガイルさんが…そんなちっちゃいことでキレるわけがないだろっ……。

…そりゃたしかに、ガイルさんとはこの場が初対面……。
この人について、分からないことや得体の知れない部分なんてまだまだ山程あるさ………。

なんで、アメリカ人なのに日本語そんなに上手いの?!──とか。
あの筋肉と格闘術、どういう人生送ったらそうなるんだ!?──とか。


「──ファネッフーッ!!! ファネッフーッ!!!」

──BUUUNッ!! BUUUNッ!!
──【ソニックブーム】


……その『ふぉねっふー』ってのはなに?!! ──
手からグルグルと火みたいなの出てるけど、アレなに!? 武器!? 魔法!!?──
無限に繰り出してきてるけどなんの武器を使ってるの?! ガイルさん、あなたは本当に人間なんですか!?? ──とか……。

…あぁ、そうだ……。
信じられない技といったらこの……、


「…クソッ……。──このッッ!!!」

──GUIッッ

「え。──お、おわっ!??」


「──フンッッッ!!!!」

──BAANッッッ!!!!
──【真空投げ】…←タメ→+強K→中K0同時押し。
[『無』を掴んで投げると、掴まれてもない相手がなぜか吹っ飛ぶ。]
[距離なんか関係なし。……もはや、バグとしか言いようがない『ガイル専用チート技』]


 ──バンッッ

「ぐっはぁああっ……!!!!!」


…どれだけ離れていようが、触れられてもないのに宙へ投げ飛ばされていく……、
「合気道か?!」とか「超能力か!?」って突っ込みたくなるくらいの、意味不明な投げ技も……──。

──質問したくてしたくて仕方ない……。
とにかくただ者じゃないことは確かな格闘家、それがガイルさんだ……。


 …だけど……、
それでも、…ガイルさんだってオレや美馬先輩のことは詳しく分かっていない……そんな中でもっ………!!!

821『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:21:56 ID:nieNARdc0
オレたちはさっきまでのコメダで……和気あいあいと食事を楽しんで…………、
お互いの確かな『心』を分かりあえたはず………!! オレとガイルさんは信頼関係にあったはずっ…………!!
ガイルさんが…この地獄みたいなゲームに巻き込まれた中でも、誰よりも立派で、優しい『男』だってことを──少なくとも、オレは分かってたはずなんだっ………!!!

それだというのに……。
一体、なにが…。
なにがきっかけで…こんな……ことに…………。

オレはガイルさんと闘いたくないのにっ………!!


「──フンッッッ!!!!」

──BAANッッッ!!!!
──【真空投げ】


「ぐえっ!!! …ま、……また…………?」


…まぁ闘うって言っても、実際はただの一方的なボコボコタイムだけどさ…………。
う、ぐぅぅ……! あたま、痛い……っ!!


「……はぁっ、はぁっ、……っはぁ……」



……あれ?
……いや、待てよ……!?
投げられて、頭をゴンッてぶつけたその瞬間──ふと、ひとつの疑念が……脳裏によぎった……。


──“…だけど……。”
──“ガイルさんだってオレや美馬先輩のことは詳しく分かっていない……。”


──“オレや『美馬先輩』のことは……”


「──っ……!!」


 ……あの時、店内にいたのはオレを含めて三人…。
ガイルさんと、美馬先輩とで三人だった………。

もちろん、これからする考察には……なんの証拠もない。言ってしまえば、ただの憶測。……いや、悪意ある邪推とすら言えるよ……。
──だけども、……可能性はそこに賭けても良いくらいだ……………。

…オレもバカじゃない。
前々からずっと、『彼女』はオレに、なーんだかイヤな視線を注いでいたことは…気付いていたけど………──もしかして。


「…『また』、か。真空投げが気に食わんと言うなら仕方ない。俺の肉体で味合わすのみだッ!!! ──フンッ!!!!」

──BANッ!!
──【しゃがみ蹴り】


「わ、わわわ、わっ!!!?」



これは…これは──全部……美馬先輩の仕組んだこと…………!?
オレを亡き者にする為、…彼女が…ガイルさんにウソを吹き込んだんじゃないのかっ…………?


…………………………。


……い、いやいやっ!? なに考えてんだオレっ!?
それって、あんまりにも……最低な妄想じゃないか……っ!! 美馬先輩からしたら「は?」ってレベルの冤罪だぞっ!?
初めて出会った時、美馬先輩は言ってくれたんだろ!
オレに、「私を助けて。信頼して」……って……!!
……くっ、それだというのに……。せっかく出会えた信頼する先輩へ……なんて酷いことを考えていたんだ…オレは。
…疲れているのか?! オレは……っ!!


「ファネッフーッ!!! ファネッフーッ!!!」

──BUUUNッ!! BUUUNッ!!
──【ソニックブーム】


「うわ!! ──ひぃっ!! ──ぐっああっ!? いっ……たあぁ……っ!!」

822『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:22:12 ID:nieNARdc0
 ──…いや、そりゃ、疲れてるよな。……オレ………。

 雨のように絶え間なく降ってくる攻撃に、避けようのない未知の技《真空投げ》……。
ここまで長時間避け続けてきたけど…あいにくオレは全てをかわすほどの超人なんかじゃない……。それができるんなら高木さんにここまでからかわれてないよ…………っ。
顔も体も……もう何発喰らったか分かんないくらい、ボコボコ……。
打撲って言葉の辞書が身体中に刻まれてるレベルだ……。
身体は歩くだけで軋むように痛むし、顔の違和感なんかスゴイ…。多分、目とかお手本のように腫れ上がっていると思う……。

おまけに今は真夏……。よりにもよって全く空調がない炎天下、外での闘い……。
ミンミンゼミの声援なんか励みにならない……どころか、イライラブーストにしかならなくっ……!

オレは…もう膝をつくほど………、
限界だった………………。



『──K.O.』

「あ…」 「くッ…!!──」



『────Time Over』

「──ここまで…かッ」



……これで、五回目のKO。
毎回聞こえてくる、どこかからの野太い声が……まるでゲームのアナウンスみたいに、休憩時間を告げてくる……。
…ガイルさんは戦闘態勢を立てた時、必ず、『Round 1,──FIGHT』との声が遠くから響いて、…そして九十九秒が経ったと同時に、この『K.O.(以下略)』が響くんだ……。
…インターバルタイムは、およそ二分ほど……。
そのあいだ、ガイルさんはほとんど動かない……。
唯一することといえば、乱れた髪をクシで整えるぐらいで……まるで銅像みたいに直立不動だ……。


「はぁはぁ…はぁはぁっ………! はぁ、はぁ……」

「………ぐうッ…」


あの声の主は誰で……どこにいるのか……。
そもそも、なんでガイルさんはその声に従ってるのか………。
…オレには全くさっぱりだけども……。(そのサッパリさをこの重苦しい身体中に分け与えてほしいくらいだっ……!!)

ともかく、オレはこの時を…。
インターバルタイム──休憩時間だけをずっと待って……。とにかく逃げ続けてきた………!!
戦闘中は全く聞く耳を持ってくれないガイルさんも、この時間だけは拳を止めてくれる…。
会話ができる…チャンスの時間なんだ……っ!

一回目は「あの……」で終わって、
二回目は「ガイルさ……」って途切れて、
三回目は「が、ガイ……」止まりで、
四回目なんて「……しつ、質問……」が精一杯。
疲れと痛みがひどすぎたせいで、まったく有効活用できなかったインターバルタイムだけども……っ。


分からないことは山積みな今………。オレは言葉の続きを………!!
オレは…ッ、疲弊する体にムチを打ってでも……──ガイルさんと話し合わなきゃならないんだッ────。


「……はぁ、はぁ…………。ぐッ、…美馬先輩…ですよね……ガイルさんっ………」

「………なんだ、西片」


これから話すことは……
自分でもヒドいって分かってる。……最低の勘違いかもしれない。
でも……もうそれしか、思いつかないんだ……。
今は……とにかく、ぶつけるしかない……っ!!


「も、もしかして……っ……。はぁ、はぁっ……ゴホッ! ゴホッ……っ。──」
「──……『西片を殺せ』って……そう……言われたんじゃ、ないですか……ガイル、さん……っ」

「…聞こえていたか」

「……っ!! …く、くそっ………………。はぁっ……はぁ……っ……──」


『聞こえていたか』って……それ、本当だったのか……!?
美馬先輩が……っ……!!
そんなっ……!? くそっ……ぐうぅっ……!!!


「──美馬先輩に……なに…言われたか…分かりません…けど……………、オレを…信じてくださいっ!!!! …あの人の話は、全てウソなんです…!!!」

「…なに」

「そ、そりゃ…あの人が何企んでるかとか…嘘ついてる証拠とか……オレ…頭悪いんで分からないし…説明できませんよ………っ。──」

823『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:22:28 ID:nieNARdc0
「──で、でもッ…ここまで、5Rも闘ってきて…分からないですかッ!?! オレが……そんなに殺されるほどの人間じゃないって……!! 誰かに恨まれるような奴じゃないってことを……ッ!!──」

「──…ってそんなの自分で言うのも、色んな意味でナンセンスですが……。…でも…と、とにかくッ!!!──」


「──オレを……信じてくださいッ!!! 本当に……お願いしますっ……!!」

「……」


「ガイルさんッ………!!!!」



…息があがって、肺が潰れそうになってるのを思い出したのは言い終えたこのときだった……。
『過労死』って死因、授業でつい最近習ったけど……。次の6R目の頃には……多分オレはそれで死ぬ感じだと思う……っ。

インターバルは、たった二分しかない……。
もうあと残り何分残ってるかなんて分からないけど…………それでも、今だけは……!!
ガイルさんが拳を止めてくれてる、この一瞬に……。
オレはこの今に人生の全てを賭けたんだッ………!!


「……………。──」


…何を考えてるか分からない表情で対面し続けるガイルさん…………。

お願いだ……!
聞いてくれ……! 分かってくれ……!! 頼むからッ……!!!

オレの心が通じてくれ………ッ!!!


オレの声が……この心が……届いてくれ……ッ……!!!
オレは……オレは、あなたのことを……。
──強くて、カッコよくて……どこまでも真っすぐな、あなたのことを……。


「──…………。──」



もっと知りたいんだッ…………──────!!





「──…恥を知らんのなら…教えてやるッ!!!」




「…え………」



「…あれだけ彼女を苦しめ、辱め……ッ。それでいていざ自分がピンチとなれば…サチに全部の罪をなすりつけるとは………」


「えっ…」



「…なにが『ここまで5Rも闘ってきて分からないですか』…だ? 俺はもう十分分かったつもりだ。散々逃げ回り、休憩時間を悪用して御託を並べる……。──」


「──そんなお前の本性がッ……!!──」



…え。



「──恥を知れッ!!! 残り十五秒…このラウンドで終わらせるッ、西片ッッ!!!!!」



 …………………ッ…。

…失敗…………?

う、嘘だろ………!?

824『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:22:54 ID:nieNARdc0
…オレの心からの思いが……全く伝わっていない……!
それどころか、余計火に油を注いだ結果……。
レギュラーもハイオクも軽も全て注ぎ入れたような………ガイルさんの……──鋭い殺意しか生まれていないっ………!?

こ、これって………『闘いにおいては話しても無駄』…という教訓の現れなのか………?!
いや……他の人だったら……説得できてたのか?
オレが口下手だから……ダメだっただけなのか……!?

残り休憩時間は九秒…、八秒…、七秒…………。
一秒ごとが異常なくらいに速すぎるっ…………!!
この短い時間で…オ、オレは………。
オレは一体どうすればいいんだ…っ!!?

か、考えろっ……。考えるんだ!! オレの脳みそ、さぼるんじゃない!! 働けぇぇぇっっ!!

そ、そうだ…!!
高木さんなら……。
あの人なら…同じシチュエーションの場合、どうしたかを考えてみよう!!
…いつもオレより一回りも先を行く……彼女なら、この緊迫した状況でどうしたか……………っ。

え、えーと……!! くそ、思い出せ……!
今までの高木さんとのやり取りを……全部……思い出すんだ……!!


高木さんなら、………高木さんならきっと………ッ。



きっと……………………ッ。


 ──五秒、四秒……、


「覚悟をするんだな、外道ッ………」

「いっ!!!」



 ………………………………ダメだ…っ。

なにも……、
…全くなにも思いつかない………………。

…くっ。
……ふふ……あはは……。
考えてみれば……当然か……。



彼女の思いを読み取れるなら……、

オレはここまで負け続けていないのだから、さ……………────。



……残り三秒が経過したとき────。


「…………」


────……すべてを諦めたオレは、不意に思い出した。
…そういえば、学ランの懐に『支給武器』──拳銃があったっけ、って。



……残り二秒が経過したとき────。


「…………高木……さん…」

「むっ…。──」


────気づいたら、もう手は懐に伸びてた。
弾は……入れてある。……撃てるかどうかは分からないけど、西部劇を何本も観てきたオレの勘がなぜかこう言ってた。
「──いける」って一言のみ。


「──なッ!!?! き、貴様ッ──…、」


「………」



……そして、残り一秒が経過しよう、そのとき────。


────もう、何もかもがどうでもよくなって。
………オレは、銃をガイルさんへ向けた。


「……………。オレだって……ッ」

「っ……に、西片……ッ……」

825『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:23:11 ID:nieNARdc0
……さっき、『高木さんならどうしたんだろう』とか頭一杯に考えていたけど……、…オレはそのことを後悔したよ………。

オレだって、…ガイルさんからした美馬先輩のように…守りたい人がいるんだよッ。
オレだって…ただ殴られて蹴られて掴まれて…そして殺されるわけにはいかないんだッ。


「……………っぅ!!!」


………卑怯極まりないし、…本当は撃ちたくない相手だけど、…もう仕方ない……。



「…西片アァァッ──…、」




────この闘いに勝つには、これしかないんだッ…………!!!






 “…あははー。顔赤いよー。”



 “…じゃ、また明日ね。交換日記忘れないでね?”



 “じゃあね、────西片!”







「………高木さん……」




残り0秒が経過。
『ROUND 6』の声が響いた、その瞬間……オレは────。



 カラン──……カラ……カラカラ……

 ……コン……。



「……なッ。………に、西片…………?」


「…………」




────銃を……遠くへ。思いきり放り投げた。

826『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:23:26 ID:nieNARdc0
「…な、…。──」


「──なんの真似だッ……西片………」

「………当たり前だろっ…」

「なに…!?」


…顔ギリギリのところで、ピタリと止まるガイルさんの拳。
視界を覆うその拳の向こうでも分かる、…その面を食らった表情。


「これをやっちゃ…おしまいなんだよッ…」

「……西片、何が………」

「オレはこのバトル……殺し『抜き』の、ぶつかり合いでやりたいって言いたいんだッ!!!!」

「…っ!!!」



…一瞬ではあったけども、その驚きの表情のガイルさん。
──さっきまで見せていた怒り一色の顔とは対象的な、…憤怒のない顔に。
オレはガイルさんの顔に憧れ、仲間意識を持っていた。

…穏やかな顔つきのガイルさんが『好き』でいたんだ。


「大人はみんな『争いは話し合いで』とか言うけどさ……そんなのは違うッ!!! 男なら…男なら己の力を見せ合い、ぶつかり合いッ、そして互いを鼓舞してこそ、初めて分かり合えるんだッ!!!──」

「──そうだろ!! そうだよなガイルさん!!!」

「…………」


「…だったら分からせるまでだ…!! オレの思いを、本当の気持ちを全て……、分かり切るまでバトル…闘ってやる…!!! 拳で、届けるんだッ!!!」



…そして、オレは…。
────もしかしたら、高木さんの…。彼女のこと『も』…、また…………。


……いや、これ以上は言わないでおくか。…小っ恥ずかしいし。



 まぁ、いいや……。
とにかくオレは、あの二つの笑顔を……オレが好きなその笑顔たちを……取り戻し………、


守るため……………っ!!!




「…西片、急に敬語をやめたな。その意思は何が理由だ?」



オレは遠く転がる銃を一目して、ガイルさんへを真っすぐ見据えた───。



「……これで、立場は『対等』だよな………ッ」


「……フっ。……面白い、ならば見せてもらおうじゃないか……。貴様の…『思い』やらを…ッ!!──」




「──確かみさせてみろッッッ!!!! うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!!!!!!!!!」


「ッ!!!!!!」

827『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:23:37 ID:nieNARdc0


──【FIGHT】────ッッ!!!!


828『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:23:54 ID:nieNARdc0
「──フンッ!!!!!!」

──POWッ!!!


 至近距離…ともあって想定はしていたけど、ガイルさんが我先に繰り出したのは『しゃがみ蹴り』…!!
分かっていても打てない変化球みたいに、スッと伸びてくるその脚をかわすことできずッ…、


「ぐうッ!!」


オレはもろに食らって滑るように後退りさせられた……ッ。
…ぐ…痛いッ…これ絶対、ヒビ入ってるやつ………ッ!!
正直痛みでもう叫びたいくらい…本気の一撃だっ……。

だが……痛みなんかに……。
そうさ…!! たかが痛みなんかに、オレの両足は屈してたまるものかッ!!!

地面をつかむようにして踏ん張って──必死で、立ち上がってみせた……ッ!!


「ぐううッッッ!!!」

「むっ!! …く、西片………。…行くぞッ!!──」


…ガイルさんの次なる攻撃ッ………。
『行くぞ』の声を込められた、その乱発攻撃も……オレは想像できた…!!


「ファネッフーッ!!! ファネッフーッ!!! ファネッフーッ!!! ファネッフーッ!!! ファネッフーッ!!!」

──BUUUNッ!! BUUUNッ!! BUUUNッ!! BUUUNッ!! BUUUNッ!! BUUUNッ!!


「…来たッッ!!!」


 巣箱を開けた途端のハトの群れみたいに……ッ、一斉に飛び出してくる『ふぁねっふーファイアー』……!!
かわせるものならかわしてみろ、と言いたいみたいに……上下左右から隙間なく飛んでくる回転軸は、脳内による避けルートの構成を阻止してくる……ッ!!
…考える暇もなかった…ッ。
一発、また一発ッ……!! 遠慮も容赦もゼロのファイアーが、顔に、胸に、腹に突っ込んできて…ッ!!
歯が飛んで、血がにじんで、唾液まで巻き散らかして…オレの体が、空中でバラけそうになる………ッ!


「…がアッ!!! ぐうッ!!! イッ!!!!」


欠けた歯の違和感が、神経を直接殴ってくる…ッ。
パンパンに腫れ上がった右目から溢れる、嫌な液体が染みて苦しかった…ッ。

だけど、考えろッ! 思い出せオレッ!!
──……このくらいの痛みッ……あのガイルさんの『拳』に比べりゃ、まだ軽い部類だッ!!!


…ギリギリ耐えられるとなればッ…!!!



「この…このッ!!!!」


 ────PANッ!!!!!



「な、なんだとッ!!?」


────オレは両腕をクロスさせて…、胴体や顔の前に重ねる…ッ。
ファイアーの直撃は上腕筋に任せ、胴体や顔への直撃を防ぐ…──いわば『ガード』ッッ!!!
…勿論、腕の悲鳴は甲高かったけど、…肉体全身へのダメージは防げるから、まだ戦闘への残り体力は温存できる………ッ!!

正直、型なんてなってないし、我流そのものだ。
けど、オレは今──“ガイルさんのガード”を……自分の中に、確かに覚えたッ!!
ファネッフーを受け止める技術を……今、手に入れたんだッ!!!


「……に、西片………。お前は……ッ!! ─栄泉ファネッフーッ!!! ファネッフーッ!!!」

──BUUUNッ!! BUUUNッ!! BUUUNッ!!


「はぁっ……はぁっ……!! っ、はああッ……はぁっ……!!」


 …喋りながらもにじり寄ってくるガイルさん……っ。
そして間髪入れず生成されるフォネッフー……ッ。
…余裕なんかオレにはない…ッ!!!

考えろ、このコンマ一瞬でも頭に導き出すんだッ…!! 思い出すんだ!!
次なるガイルさんの攻撃手段……、今までのラウンドで見てきた…彼の戦法を……!!!

この戦いは……そう、ボクシングと将棋を同時にやってるようなもの…ッ!!!
体も頭も、止まってたら即アウトなんだよッ!!!

829『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:24:10 ID:nieNARdc0
「…クッ…西片…ッ!!!」

「……っ!!」


…!!
そうだ、そうだ……!!

これまでの闘いの軌跡──それはつまり、高木さんとの勝負にて…、オレは負けるたびに彼女からこう言われてきた……ッ!


“西片はクセがバレバレなんだよ”


────オレの敗因はいつも『クセ』…ッ。
単純なオレはいつもそのクセに気づかず高木さんに看過され玉砕していく……。
…本当になかなか曲者だよ、高木さんはッ………。

…つまり、
……どんな一流プロ野球選手…どんな首位打者でも打席前は己の『ルーティン』を成すもの……ッ。

…オレは見切ったぞ。
ガイルさんの次の技は……ッ、



「……ハァァァァァッッ!!!!!!!!」



───(←タメ→+強K→中K0同時押し)



──来るッ……!! あの『真空投げ』だッ!!
触れずに投げる……武道の極致…ッ!!
わずか一瞬……でも、出す前には必ず前後に一歩だけ踏む────『クセ』が…ッ!!
ガイルさんにはあるッ……!


「フンッッ!! ──…、」


──それはお見通しだッッ!!!


「喰らええええええええええええッッッッッッ!!!!」

「──なッ……!?」


投げ飛ばされたらもう手も足も出ないッ。
ならオレは、投げる前に──『投げ返す』までだッ!!!!


「オラァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!!」


飛来してきたファネッフーを右手、左手でギッチリ挟み込み…掴むッ!!!

……ズルリと滑る、熱をもった刃…。
指の皮が裂け、掌の肉がえぐれ、血と火花が散る……!!
──でもそんなの、もう関係ないッッッッ!!!!
────痛みを雄叫びで発散して、オレはガイルさんへぶん投げたッ!!!



「ぐぁッ!!!」

──BAGYAAAANッ!!!


「…あっ!!」



…あ、当たった……。
…初めて……ガイルさんにダメージを与えた…………!
顔がフラついている……。めまいに堪えるように、その巨体が……揺れている……ッ!!
あの絶対的な存在に……オレの攻撃が、通じたんだ……ッ!!!


「…いや、違うッ……!! これはあくまでガイルさんの技………。オレが生み出した攻撃なんかじゃない……!!! オレの拳で、心で、ぶつけたわけじゃないッッ!!!」

「ぐうッ…。──」


「──はッ!!!?」

830『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:24:25 ID:nieNARdc0
…ああ、そうだッ……!!
もう6ラウンドも闘って……まだ、オレは“この人”に一歩も近づけていないッ!!!
オレ自身の拳を──この両手でつかんだ想いを……ッ、
まだ、ガイルさんに届けられてないんだッ!!!

だったら……行けるのは、今しかないッ!!!

……その巨人が、わずかに揺らいだ……今しかないんだッ!!!!!


「今しかないだろォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!!!!」

「──来るかッッッ!!!」


 …来るか、と言われてもオレには必殺技とか持ち合わせていないさっ…!! ガイルさんと違って…!
修行もなけりゃ、格闘術もない…。喧嘩ひとつしたことない、あいにく普通の中学生だからなッ……!!

そんなオレにできるのは、たった一つ。


“シンプルな、まっすぐな拳”だけだッ!!!!


──太陽に誓うように、拳を高く掲げるッ!
空さえも砕く覚悟で、振り下ろすッ!!!
ガイルさんに飛び掛かり…渾身の拳を重力のまま──叩き込むッッッ!!!!


「……クゥッ…!!! ──『サマーソルトキック』ッ!!!!!」

「ぃぎッ!!!」


…対して、ガイルさんはバク宙したかと思えばあの特徴的な長い脚で、オレを蹴りかかってくる…!!
サマーソルトキック…。……多分、ここまできて初めて投じられた隠し必殺技なんだろうッ………!!
無駄の動き一つないその回転蹴りはオレの胴目掛けて襲いかかってくる……ッ!! 避ける間なんて当然の如くなかった………ッ。


…だけど礼を言うよ、ガイルさんッ…!!


『先読み』……ッ!!
オレが拳の打点に向けるのは、アンタ自身に対してじゃないッ……。


──アンタが何かしら繰り出してくる攻撃──『拳か脚』狙いでオレは拳を突き出したんだッ!!


 ──GAKIIIIIIIIIIIIIIIINッッッ!!!!!


「ぐうッ!??」 「うッ…!!」


…分かるだろうッ?
打点を打点で受け止めることは…相殺ッ……!!
すなわち『ガード』になるのさッ…!!!

…身体はもうガードによる痛みに慣れてきた……ッ!!
この痛みを受け止めきれるほどの余裕がオレにはあるッ……!!

…アンタもその通りなはずだガイルさんッ!!
オレと違って百戦錬磨と語っていただろう? だから今更この打撃のぶつかり合いはどうってことないはず…ッ。



──だが、…『サマーソルトキック』を防いだオレの攻撃が……、──どうやらガイルさんには『想定外』のアクションだったらしく…ッ。



「な…俺の………サマーソルトキックが…まさかッ………」



 彼にはハッキリと『隙』が出来ていたッ…──!!!


…勝てる……自信はなかった。
……何もかも、これまでどんな勝負事も負け続けたオレが、ガイルさんを相手に成す術もないと思っていた…。

だから…オレはこの一瞬…。
ガイルさんに想いを打ち付ける可能性のある…勝機を見えたこの瞬間が………、…正直楽しくはあったッ!!
希望の光を掴みかけた…掴みかけではあるけど……その瞬間に歓びを感じたんだッ!!


ならば、…もう決着さッ!!

オレの…──ッ。
オレだけの…──ッ。
オレによる────勝利ッ!! このバトルに勝ってみせるんだッ…!!!

831『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:24:41 ID:nieNARdc0
隙だらけの身体へ、オレは叩き込むッ──。

お返しとばかりに…蹴りを大きく振り切って…叩き込むッ──!!!

怨みも、妬みも、マイナスな感情は一つもない魂の蹴りッ!!!


オレは、…生きてる実感を味わいつつ………、



「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!!!!!!!!!」


「なっ!!!!」



 ──BAKIIIIIIIIIIIIIIッッッ──…、



初めてガイルさんへ、一撃を投じていったッ──────。






 ──パシッ





「…え?」




「まだまだだな。モーションが大き過ぎる。格闘とは常に60fpsのハイスピードで生きる世界だ。西片。──」

832『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:24:57 ID:nieNARdc0

……え。
…あっさりと………。
…いとも簡単に……、片手一本で受け止められた…オレの………蹴り……………。


「──しかし案ずるな西片。お前の格闘発想は秀逸。特に感心した点は、ソニックブームを投げ返した点だな。…今まで闘った中で、その術を講じた者はいなかった」

「…え………っ」


「…そうだな……。このバトル・ロワイヤルが終わった暁に、リュウやザンギエフの奴にも教えるとしよう。──」



「──いや、『CAPCOM』に…か────。」



…ガイルさんの右手にて、
『青い瓶』が持たれていることに────この時気付いた。
その瓶をガイルさんは容赦することなく……、呆気にとられるオレの頭へスイング……………。



 ──バリンッ────

内容液の冷たさを感じるのを待たずして、オレは意識が闇へ落ちていった………………。


「…いっだ────…、」


………
……




「…くはない…………。え? ──『痛くない』………?」

833『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:25:12 ID:nieNARdc0



………
……



──…『青ポーション』…ですか?


────ああ。打撲、裂傷、軽度の骨折…。こいつを一瓶分かぶるだけで、どんな怪我でも癒える。…ただ蓋がなくてな、こうして割るしかなかったのだ。…『ゴールデンアックス』とは末恐ろしいゲームだ。…すまない。

──…ごーるでん…あっくす?

────…なんだ知らないのか? …ハルオなら目を輝かして飲み干すアイテムなのだがな……。

──えっ、の、飲むヤツなんですか!? それとも塗るタイプなんですか!?

────……塗り薬だ。言うまでもないだろう、ハルオはそういう男だ。
────俺の、心の友…………ハルオならな…………。

──…………はい。


────…西片、『ゲーム』は好きか?

──ゲ、ゲームですか……。いや、そりゃ……好きって言われりゃ、好きなんですけど……、
──………あ、いや。うーん……好きじゃない、かもです。いろんな意味で……。

────フッ。そうか……。


────俺はこれまで、世界中。中国、ブラジル、日本と、飛行機をまたにかけて戦い続けてきた。1991年、稼働以来何度も。何十度も。

──1991年……。

────相手は力士だったり、タイの格闘家だったり……中には人間ですらない存在もいた。
────そんな相手と、何度も何度も闘い続けて……そのたびに、思っていたことがある。
────「なぜ自分は、闘っているのか」ってな。

──……理由もなく…闘ってきたんですか…?

────いや。理由はある。
────俺たちが闘うことで……喜び、熱狂する者たちがいるからだ。

────画面越しに、レバーを握りしめる老若男女たちのために……な。


──………。



────…すまない、西片。

──い、いや! もういいんですってガイルさん!! こうして分かり合えたんだし、オレも、もうどこも痛くないんですから〜!!

────…違う。お前の怪我のことを詫びているんじゃない。

──え?

────お前の戦いぶりは、見事だった。
────心のこもった拳は、どんな必殺技よりも強い。
────あの魂のこもった一撃……興奮と、熱気……。
────まがい物じゃない、本物の“力”だったよ。

────そんなお前の真価を……6ラウンド目になるまで見抜けなかった。
────それどころか、卑怯だのなんだのと……お前にあらぬ暴言を吐いてしまったことを、悔いている。


────……すまない。……本当にすまない。

──………………。

834『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:25:28 ID:nieNARdc0
──…ふざけないでくださいよ……。謝って済む問題じゃありませんって……。

────…………。

──…そうですよねっ!! ガイルさん!!!!

────…………。


──…いくら謝ろうが……あの…『女』はっ…!!

────…っ!!


──仮に土下座されようが陳謝されようが……、許す気なんてありませんからっ……!

────………!!



──…少し用事…いいですか? 『『ヘリコプター』に乗る前に、ちょっとだけ。

────西片…!


──行きますよ、ガイルさん!



 ブロロロロ………

  ブロロロロ…………



【支給品解説】
【青ポーション@ゴールデンアックス(ハイスコアガール)】
【概要】
回復ポーション。
瓶を割って内用液に触れることで全治癒できる。


【アシストフィギュア No.02】
【タイガーヘリ@究極Tiger(ハイスコアガール) 召喚確認】
【概要】
ガイルのアシストフィギュア。
アーケードゲーム『究極タイガー(1987)』の自機。
軍用ヘリコプター。自我なし。ショット、ボンバーを撃てる。

835『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:25:46 ID:nieNARdc0



………
……



 アホのガイルの奴……。
あんだけ「即死でやってね?」って念押ししたのに肉弾戦やりやがったし……。
さっさと高木ロボの首やっちゃえよ。骨狙えよ。てゆーか、私が持たせたナイフ使えってーの。
……もう、いちいち注意するのもだるいし、なによりあいつ無駄にワチャワチャうるさいから、ブルートゥースのハメちゃったじゃん。ノイキャン全開で。
マジうっざ……。

──というわけで、私は決着(笑)がつくまでの間、『100%片想い』ってLINEマンガで暇をつぶす羽目になった。


「…はぁ………。なーんか…まこっちが勧める漫画って……ウザイのばっかな気がするわ………」


 はァ…………。
暇つぶしがてらに読んでみたけど……本気でこの漫画苦痛……。ページを捲るのさえ苦行だわ。
話は典型的なオタク大好きラブコメって感じで冷めるし。なにより登場人物が痛すぎて全く共感できないんだけど。
なにこれ?
主人公のキュン子ってやつ…、いつも彼氏みたいなやつと弁当食べてるけどさぁ。女子の友達とかいないわけ??
いちいちいちいち語尾が「〜だもん」とか「〜なの♡」とかで鳥肌立つし……、こいつの交友関係が気になってストーリーどころじゃなかったわ。
私的には五巻が精一杯。
これを全巻特に気にせず読める人って、ほんと悩みとか人間関係の不安がない幸せな人なんだろねー。小陽ちゃんがつるんでる二木みたいな。(笑)
マージ、うらやまって感じ?(笑)


ま、そんなマンガとの付き合いは二十分ほどで終了。
アホ達そろそろ殺し終えたかな〜だなんて、イヤホン取って、外の様子を見てきたらさぁ。



「サチ。妖怪腐れ外道にも劣るお前にはもう話すことなど皆無だがな。…二つ、答えてもらおうじゃないかッ…」

「…美馬先輩………ッ」


「…………はァ…」


『【新田】に気をつけろォオオ!!!!』って、どっかのバカがハッキリとその名前を叫び…、
んで、それをBGMにやたら睨みつけてくる筋肉バカとロボ……。
筋肉バカはいやらしく私の胸ぐら掴んできて…、さも「お前の悪事は全部見抜いたぞ」みたいに顔近づけてくる………──。


──この現状……。



…なにこれ。

…………いや最悪でしょ。

836『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:26:01 ID:nieNARdc0
「一つ目だ。何故仲間割れを先導した? もっとも理由が理由なら、俺もお前をまだ見捨てたりはせんがな──…、」

「はい、質問。なんで私を悪と決めつけんの?」


はぁ……。
あーもう…。
なーんかどうでもいいって感じ………。


「…なんだ? …話を遮るな──…、」

「いやだからなんで、私をそう悪者と決めつけてくるの? 今日会ったばかりなのにそう睨んで。なんなの? ねえ私を殺したいわけなの? サイコパスキャラ? わーカッコイイじゃーん」

「…おいサチッ…!! そんな話をしていないだろッ!! いいから聞け──…、」

「は? ちょっと待て。聞けって」

「……こいつ…」 「………」

「なんでさあ、そうやって私を一方的に加害者って決めつけるの? ねえなんで? なんでそう西片くんの肩を持つのか一回説明して? ……あ、いや、説明いらないわ。──」

「──まず謝ってよ、じゃないとその質問だかなんだかも聞く気失せるから。──」

「──ほんっと、そういうのムカつくんだって。ねぇ、なんで? なんで私を悪と決めつけるの?」


「………」 「…話にならん。──」

「──ならもういい。二つ目は『高木さん』という子の話だ。お前は何かその子について行方を──…、」

「あー知らな〜い。知らない知らない興味ないし〜。てかさ、謝らない癖に自分のしたい話はするわけ? 会話能力陰キャになってるじゃん。ガイルさん…大丈夫?」

「……。……言ったろう、西片。こいつと話すのは無駄な時間だと」

「………で、ですが……。…美馬先輩──…、」

「うわ怖っ。こわぁ〜……。急に話しかけられちゃったし…こっわ……。ねぇ西片くん絶対いじめられっ子でしょ? オーラからしてそういう感じ出過ぎだしぃ〜? ウケる〜〜(笑)」


「………行くぞ」

「…はい………」



「は?」



…もう。
なにこいつら…。

急に…なに? なんなの???

いや考えてみてよ。
片や陰キャでしょ? で、片やキモい筋トレオタクじゃん?
それだというのになんで? 何がどう繋がってコイツらはそんな「わかり合えました」みたいな展開なってんの?
どこにそんな共通点あったわけ? 意味不すぎてちょっと面白いわコイツら…。


そんなアホ二人は私を用済みと判断したら、不満そうにズカズカ背を向けだしていって……。
そのまま、どっから出したか分からないヘリコプターへと乗り込んで…。



 ──ブロロロロロロ………



「……………」



……飛んで行った。



────…私がマンガ読んでる間に…………なにがあったわけ…?

837『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:26:13 ID:nieNARdc0
【1日目/B5/上空→タイガーヘリ内部/AM.05:26】
【西片@からかい上手の高木さん】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】???
【思考】基本:【対主催】
1:ガイルさんを熱くリスペクト。
2:高木さんを探したい。

【ガイル@HI SCORE GIRL】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】くし、ポーション瓶@ゴールデンアックス(ハイスコアガール)
【思考】基本:【対主催】
1:西片を育て上げ、主催者を倒す。
2:上空から『高木さん』を探す。
3:襲われている参加者・力なき者を助ける。
4:サチは屑……。見捨てる。
5:ハルオ…生きろよ……っ!


【コメ●珈琲店前】
【美馬サチ@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!】
【状態】唖然
【装備】なし
【道具】???
【思考】基本:【優勝狙い】
1:つかアイツら置いていきやがったし私の事………。
2:ボッチじゃん私……。……ウけるぅ…。

838 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:26:40 ID:nieNARdc0
【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ】
①今回の話はからかい上手の高木さんの北条がアシストフィギュアで登場予定でした。
②北条が「何バカなことしてんの」的なこといって仲裁ENDみたいな。あまりに文章が長くなりすぎたため削りましたがね。
③それと今回チャレンジしてみて分かったのですが、私は致命的にバトルシーンを描く文才がないみたいです。
④そのため、平成漫画ロワは今後バトルはほぼしません。大体瞬殺で終わらせます。宣言です。


【次回。7月29日投下。】
──私の好きな人はみんな目の前でいなくなっていく。
──姿が消えるのはいつもいつも、私の方だというのに。

──もう、私を残さないで。


「日々は過ぎれど飯うまし」…飯沼、マルシル、山井、ひろし、海老名、マロ

839 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/28(月) 23:36:29 ID:ZsZDkn5w0
(トリこれ合ってるかな。ま、いいや)

お知らせです。
仕事の都合で、二、三日投下が遅れます。
大変申し訳ありません。

840『日々は過ぎれど飯うまし』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/03(日) 22:33:42 ID:kWrg7C0g0

[登場人物]  [[マルシル・ドナトー]]、[[飯沼]]、[[マロ]]、[[野原ひろし]]、[[海老名菜々]]、[[マロ]]、[[山井恋]]

---------------

841『日々は過ぎれど飯うまし』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/03(日) 22:34:03 ID:kWrg7C0g0

 ちいさい頃、父から読み聞かせられた一冊の絵本。
まるで子ガモが産まれて最初に見た相手を親と認識するように。
その絵本の内容は生涯、少女──マルシル・ドナトーの心に深く深く刻み込まれる事となる。



〜おうじょさまは、てきのしろにて かくれていました。〜
〜くらいへやの タンスのなかです。〜


「(……はぁっ、はぁっ……。)──」


「──(…お、落ち着いて……絶対大丈夫…。……私なら、大丈夫……っ……。)──」

「──(ウンディーネの挙動は予測済み……、対処法も……把握してる……。詠唱は可能……魔力も乱れてない……。……私は…大丈夫……。大丈夫…大丈夫……)──」


〜そとでは、みずの まものたちが「どこだ」「どこだ」と さがしていました。〜
〜がががー。がががー。〜
〜こうげき を やすむことなく、つづけながら。〜
〜おうじょさまは、ふるえながら、いきを のんで じっとしていました。〜


「(……大丈夫…っ…なんだからぁ…………っ!!)」



〜そのときです。〜


 ガガガガ────ッ


「がぁっ…!!!」

「……えっ?」



〜ふと タンスの すきまから のぞくと、そこに おうじさまが いました。〜



「……う………、嘘…でしょ……?」

「………」



〜おそらく、おうじょさま を たすけにきた、そのおうじさま。〜

〜かれは、みずの まものに おそわれて、うごかなくなっていたのでした……。〜



「……い、……いぃ……っ……!!──」



〜おうじさま、かれの なまえは──。〜



「────い、イイヌマっ!!!!」

842『日々は過ぎれど飯うまし』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/03(日) 22:34:18 ID:kWrg7C0g0



………
……


「はぁはぁ…………ッ! 『မင်္ဂလာပါ။ ကျွန်တော်』──────っ………!!!」

………
……


843『日々は過ぎれど飯うまし』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/03(日) 22:34:44 ID:kWrg7C0g0



 数刻ほど時を遡っての──回想。
マルシルが山井恋に襲撃され、ウンディーネが蠢く地雷地帯《廊下》へ飛び出した、その折。
彼女の望む王子様・飯沼は、ちょうど真下。六階1682号室にその身を置いていた。
行く先で出会った野原ひろし、海老名菜々の二人と共に、ウンディーネの攻撃から命からがら逃げ延びた彼。

マルシルが危機的状況に瀕している最中、彼は、
──というよりも三人は。
その一室で一体どのような行動に移していたかというと。



 ズルズルズル…────


「うまい〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!」

「(…うっま………)」

「このラーメン…うんめぇなぁ〜……!!」


「「(あ!! 秋田弁!!)」」



食事をしていた。




【本日のお品書き】
・エースコック クセになるもやしそば ピリ辛仕立ての味噌
・エースコック クセになるもやしそば 胡椒仕立ての塩
・マルちゃん 赤いきつね

カップ麺。以上三品。




──「人がこんな目にあってる時に…なに呑気に食ってんのじゃ!!」──。
──もしマルシルがこの場に居合わせたならそうツッコんだ行動ではあるが、一旦は置いておく──。


 ガガガガ────ッ、ガガガガ────ッ。
部屋の外にて、けたたましい殺意の狂騒が響く中、それでも気にせずして夜食を嗜むひろし一行。

停電はすれど、ホテルの非常用電気のお蔭で電気ポッドが利用できるとなれば、購買から持参したカップ麺に湯を注ぐ。
待ち時間、三分とは短し。されど空腹には酷な三分間。
この待ち時間の間、

「飯沼くんはスポーツしてたの?」→「…あ、いえ。特には……」→「ふーん(…してないのかよぉ〜…)」
「彼女はいるの?」→「いえ、特には…」→「そうなんだ〜(…う〜ん…)」
「出身は?」→「…東京ですね」→「………へー(…う〜む、会話が盛り上がらねぇ〜!!!)」

等々。
ひろしが飯沼との世代の違いで、会話に苦戦を強いられる中。
沈黙を切り裂くようにタイマーが鳴り響いた時、──いざ、食事。

844『日々は過ぎれど飯うまし』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/03(日) 22:35:02 ID:kWrg7C0g0
 飯沼が二重の意味でアツアツのお揚げを口に入れれば──、


「はふはふ…っ!! (…このお揚げ、久しぶりに食べたけど…うまいな………)」

「おっ! 飯沼くんはキツネ先に食べる派なのかぁ〜!!」

「…あ、はい。野原さんは最後まで残す派なんですか?」

「当たり前だぜ〜。好きな物は最後まで残す! 秋田県民は皆そーなんだからな!! な、海老名ちゃん!!」

「え……? あ、ごめんなさい! 私もきつねうどん食べるときは…先派…ですかね……!」

「えっ?!! が、がびぃ〜〜〜〜〜〜〜んっ!!!!」


──ひろしが大きく出た主語で玉砕され。

 もやし麺を啜るひろしが、散らばったラベル等を片付けようとすれば──、


「あ、野原さん。ここは僕が…」

「おっ、サンキューだぜ。──」

「──(気が利くなぁ。飯沼くんは若いのに立派だぜ……。…川口のやつなら絶対しね〜ってのによ!!!)」


──飯沼の気遣いに感心し。

 そして、飯沼の食べ顔。光悦で頬を紅くする、汗滴りしその表情に、海老名がふと気づけば──、


「…うまっ…」

「あっ!!! …〜〜〜〜〜〜っ!!!」

「ん? どうしたんだ海老名ちゃん」 「…?」

「あ、い…いえ!! なんでもありません…!!」


──海老名は顔を赤らめ、目を逸らす。


「(…い、言えないよぉ……。タイヘイさんに似てるから……飯沼さんのこと…惚れちゃった…って〜〜!!)」

「?」


────そんな、和気あいあいとした食事風景。



 ガガガガ────ッ、
ガガガガ────ッ。


 『水は油に強く、対して、水は油に弱い』。
──その言葉が示す通り。
ホテルのドアは一般的に、特殊な油(Neatsfoot oil)を塗っているため、ウンディーネがどれだけ鋭い水圧で攻撃をしようとも、完全鉄壁。
ウォーターカッターは油の壁に弾かれ、それ故にひろし等が被害を受ける可能性はゼロ。
自らドアを開かない限り安全地帯となっているのだが、それでもドア前にはウンディーネが二体。
完全包囲の証として、煩いほどに攻撃を続ける現状だ。

あははは、ハハハ!、と室内で咲き乱れる雑談の花。
その花咲く大地に立つ、壁の向こうでは旋律なる殺戮の戦場が繰り広げられている。
いわば──『BATTLE ROYALE』。
今はまだ対岸沿いの水圧カッター音は聞こえぬふりをするひろし等ではあるが。


彼らは如何にしてこの状況を乗り越えるというのか。

────いや、それ以前に。

何故、彼らはこの状況にして、まず飯を喰らうことを選んだというのか。

845『日々は過ぎれど飯うまし』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/03(日) 22:35:16 ID:kWrg7C0g0
きっかけは、ひろしの言葉だった。



 ズルズル…

「ハハハ。『窮地に立たば、まず敵を見定めよ。空腹に勝る敵なし』!!」

「…え?」

「あ、あの…どうしたんですかひろしさん! いきなり……」

「あ〜ごめんよ二人とも!! オレがさっき言ったセリフ…なんかカッコいいからもっかい言いたくなってな〜。いや〜悪いぜ」

「あぁ、ははは〜。そういうことでしたか〜」


「…やっぱり、焦った時は飯を食うに限る!! ……ラーメン食べたら、少しは冷静になれた気がした…ってのはオレだけか? 二人とも」


 ガガガガ────ッ、
ガガガガ────ッ。


「…………はい…!」 「……はい。──」


「──僕も、…正直さっきまで落ち着けなかったというか…。自分らしさを見失っていたので、……その通りだと思いますよ、野原さん……!」

「おう!! 飯沼くん!!」



 周知された言葉で言うならば『腹が減っては戦はできぬ』。──とは少し違うかもしれないが。
その精神の元、ひろしの提案でつかの間の食事を行った経緯となっている。
ウンディーネの刃に、少し前までは恐怖しか見出だせなかった三人。
泣き晴らす海老名に、震えが止まらない飯沼、そしてひろし自身も死の影に心を侵されそうになっていた。
そんな怯える三人の、共通点。
──好きな事となればすばり『食べること』。


ごくごく、ぷはっ。
スープまで完飲し、光悦の表情で顔を見合わせる三人。
そして三つの箸が、空のカップにほぼ同時に置かれた。


「……さて、飯沼くん。海老名ちゃん」



 *海老名にとっての『食』。
──それは、どこにいるかも分からない兄との架け橋。そして、何よりも一番幸せな時間だった。


「はい…!!」 「…野原さん……」


 *ひろしにとっての『食』。
──それは流儀。昼飯タイムという短い時間の中で、己のあり方、そしてビジネスの方向を決める、貴重で好きな時間だった。


「………オレの息子にしんのすけっているんだけどな〜。そいつは何か覚悟を決める時に、どこで知った言葉なのか分からないが…こう『決め台詞』を吐く。──…ってのを、さっき話したよな?」

「…しんのすけ…さんですね……!」 「野原…しんのすけ……くん…………」

「…悪いけど付き合わせてもらうぜ…!! すべては脱出…、そしてマルシルさん救出のために!!!」

「「!!!」」

846『日々は過ぎれど飯うまし』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/03(日) 22:35:30 ID:kWrg7C0g0

 そして、

 *飯沼にとっての、『食』────。


「…かすかべ防衛隊…ならぬ、しぶや防衛隊〜〜〜っ!!!」


「!!」 「…!」



それは────、



 ガガガガ────ッ、ガガガガ────ッ。
 ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
  ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
   ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ




「ファイアアアアアアアアアアァァァ───────ッッ!!!!!!!!!」


「「ファ、ファイアあああああああぁぁぁぁあああ!!!!!!!!──」」




  ────バキィイッ



「────あっ」




────単純に、『好きな時間』だった。
 


 水と油──とはいえど。
ドアに薄く塗られただけの油では、高圧の水刃を完全に防ぎ切ることは叶わない。
漏れ出た『水』は、我先に飯沼に向かって。
津波の如く【絶命までの時間《タイムリミット》】が押し寄せてくる────。


「に、逃げろォオッッ!!! 飯沼く──…、」



──プツンッ




………
……


847『日々は過ぎれど飯うまし』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/03(日) 22:35:43 ID:kWrg7C0g0




 魔術詠唱────『မင်္ဂလာပါ။ ကျွန်တော်』。

人間《トールマン》の言語にすると、直訳で────『蘇生せよ』。


……

 “わっ!! え、なになに?!”

 “──ごめん…マルシル。私の魔力を少し分けてあげようと思って……”

 “やだもう…、人に分けるほど魔力ないんだからさ。ファリン…”

 “──…ううん。なんだか調子がいいの…!”

 “──力が湧いてくる…みたいな。…私、さっきまで死んでたのに、不思議……!!”

 “……で、でも……”


 “──ねぇマルシル。…よく思い出せなくてさ…、一体何が起きたのか…教えてくれる?”

……




 “──……あなたの名前は、イイヌマさん……だったよね?”

 「……え?」

 “──ふふっ、ごめんね。マルシルが何度も呼んでたから……覚えちゃって”


 “私は…マルシルが好きだった。お弁当を一緒に食べて、雲を眺めてさ……。好きな人と好きな事を共有する時間が、一番幸せだったんだ……”

 「……」

 “…お願いが一つ。いいかな、イイヌマさん”

 「…お願い………?」



 “────私の好きだったあの子の一口を、守ってあげて…。”


 「…………あの子…」


恐らく妹の夏花と同い年ぐらいだろうか。
無音な銀世界の中、見知らぬ少女は飯沼の両手をしっかり握り締める。


「…すみません。あなたは…一体…。──」


少女の手がふっと離れた、時。


「──……あっ」



飯沼の手中にて。
魔法のレシピ──『一枚のメモ』が握らされていた。



………
……


848『日々は過ぎれど飯うまし』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/03(日) 22:35:57 ID:kWrg7C0g0



 …ドクン…………ドクン…………………。

  ────ドクンっ。


「(………あっ…)」


 一波高鳴った鼓動の音で、飯沼は目を覚ます。
何があったかは覚えていない。周囲はひたすらに黒一色で、目を擦って凝らそうとし眼鏡をかけ直しても、闇は晴れなかった。
壁に背もたれをかけ鎮座する、暗闇の空間にて。
足を伸ばそうとすれば、対岸の壁にぶつかり真っ直ぐ伸ばし切れない。
仕方なく立ち上がろうとすれば天井に頭がぶつかる。そういった具合で、この非灯の空間がいかに狭いかを思い知らされる。

──まるで、棺桶のような箱に入れられたかのような、息詰まる狭さ。


「(……あぁ、そういうことか………)」


犬のような獣臭と黴臭さが鼻につくこの空間にて。飯沼は『自分は既に死んでいる』という結論に至った。
朧気な記憶を辿ると、水の塊からの逃走中。ひろし等と離れ離れになった末に、意識が途絶えたのだ。
──ガガガ──ッ、ガガガ──ッ、鼓膜を破るような爆音が最期の記憶で。
過去を整理し、現状を客観的に見れば、間違いなく『死』。
恐らく、今は葬儀中で自分は納棺でもされているのだろうと彼は実感していた。


「(…ふぅ……)」


ただ、死を前にしても特に慌てふためく様子がない点は、マイペースかつ冷静な彼らしい。
ありのまま死を受け入れた飯沼はゆっくりと。
思い残すことなく、再度眼を閉じていった。


「(…あれ。………待てよ……)」


──“ただ、そうだとするなら、何故『心臓』の音が聞こえたんだ”────?


 終焉した筈の身体にて、確かに聞こえ、──目を覚ました起因となる──自分の鼓動。
先ほどの音は空耳だったのか。なにかの幻聴なのか。
不思議に思い飯沼は、自分の胸へそっと手を当ててみる。

ゆったりとした動作で触れたその先に、

──ふんわりと柔らかな髪の感触。
──花のような匂い。


「…え?」


 暗闇に目が慣れ、徐々に明瞭さが増していく視界。
視界の良好さに比例して、不思議と体の力がどんどん漲っていくような気がした。

飯沼の胸へ顔を埋め、小さな体を震わしつつも、確かにギュっと抱きしめてくる。──その彼女。
必然的に、頭を飯沼に撫でられる形となったその彼女は、温かな掌の感触に。

涙は止まりを見せず、ただずっと、ずっと飯沼の体を離さなかった。


「……っ……ひっ……うぐ……っ……。よかっ……たぁ……っ。よかっ……たぁ……っ……!!」

「…………あなたは…もしかして…」

「ほんとに…っ、せ、成功して……生き返ってくれて……よかったんだからぁ……!! ……………うぅ…っ!──」



「──イ、イイヌマっ………!!!」


「…ま、マルシルさん……」

849『日々は過ぎれど飯うまし』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/03(日) 22:36:10 ID:kWrg7C0g0
再会────。
エルフとサラリーマン。不釣り合いで奇妙な関係の、再会。


「……あの…。すみませんマルシルさん。僕、よく覚えてなくて…。ここは一体──…、」


「──…ん? …あっ………」


はっ、はっ、はっ、はっ、と。
膝元の違和感に視線を落とせば、何処かで見たような大型犬。
犬がしっぽを振るい、ペロペロと人懐っこく飯沼のスーツを舐めだした折。


「(………………これは、いったい何があったんだろう…)」


今自分がいるこの場が───『タンスの中』である事に気が付いた。


──

□(事情説明中略)□

──

850『日々は過ぎれど飯うまし』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/03(日) 22:36:24 ID:kWrg7C0g0
「……はぁっ、はぁっ……聞いて驚かないでね…。私なりの考えなんだけどさ……。──このシブヤは、ただの街なんかじゃない…!! ……【ダンジョンの異界】なんだって!」

「……あ、はい」

「………え? リアクション…薄くない? ま、とにかく説明を聞いて!!」

「はい」


「普通なら、外での蘇生は成立しにくいでしょ? 身体と魂の結びつきが脆すぎて、死んだらすぐに離れていっちゃうから……。そこはまず分かるよね? イイヌマ」

「はあ」

「でもここでは蘇生が成立した……。あり得ない…ほんとにあり得ないことなんだけど……──この通り、私があなたを生き返りを成功できた………………」

「はあ」

「そう、ダンジョン内部は魂が留まりやすい…。だから体と魂を繋ぎ直す蘇生が可能になる、成功率が跳ね上がるの。……ね、理屈は分かるでしょ?」

「はあ」

「……でしょ!? …そう、外では熟練者じゃない限り成立しない蘇生が、ここでできたのだから……。──」



「──つまりシブヤは、ダンジョン以外の何物でもないって結論に至るわけ!! …そうじゃないと…説明がつかないんだから…!!」


「はあ。分かる気がします」



 勿論、嘘である。
東大生が幼稚園児相手に数学問題の講義するかのような。──全く意味の分からない力説ではあるものの、飯沼は黙ってマルシルの話を聞いていた。
ダンジョンが云々、魂が云々と。
何かのアニメかゲームの影響でそんなジョークを言っているのかと思っていたら、マルシルの顔は至って真剣。
どうやらマジな様子のマルシルに、飯沼は何を思うか。ひたすらに無難な相槌を打ち続けた。

ただ、おとぎ話の中に放り込まれたような奇妙な説法の中で、二つ。
飯沼でも理解ができた、『現実』。────認識させられた事実がある。
それは、彼女の説明曰くして、自分がウンディーネの攻撃で一旦は『死』に至ったこと。

そしてもう一つは、


「………はぁ、はぁ……そうなると、一つだけ……。…どう考えても説明がつかないことがあるよ……」

「……え、それは…?」

「……こんなに高度な魔術の一覧が載っていて……。しかも、蘇生術が専門でない私でも唱えれる…安易な手順でできる方法が記されているとか……。なんなの……。──」

「──『このメモ』は誰が書いたものなのっ…?! どこでこれを拾ったの?! もう…わからないっ……!!! 常識が通じないよっ!!! …はぁ、はぁ………」

「…マルシルさん……。──」



──自分の支給品であるメモ一枚が、とんでもない力を秘めているという事。

メモを見せつけながらマルシルは訊いた。『これは一体誰が書いたものなのか』と。
ふと、先程まで自分が見た夢とシンクロしていることに気付き、その『誰か』について口にしようとした飯沼だったが、──何だか思い留まる。


 紙面は古く茶ばみ、サイン書きしたアラビア語のような羅列が埋め尽くされた、そのメモ用紙。
無論、飯沼からすれば何が書いてあるのか、ましてや何が高等なのか全く理解不能。
未解な文字列でしかなかったのだが、どうやらマルシルにとってはこの世をひっくり返すほどの破壊力があったようだ。
彼女のメモを握る手はガクガクと震え、吐息が不規則に揺れており、

851『日々は過ぎれど飯うまし』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/03(日) 22:36:40 ID:kWrg7C0g0
「──これ、僕のカバンの中に入っていたんです。野原ひろしさん、海老名さんらと支給品確認したときに見つけて……。それで──…、」

「あっ!! ちょ、ちょっとイイヌマ!! 声が大きいって!! ……もう少し落として……本当にまずいんだから……!!」

「え。…あ、すみません。…ところでマルシルさん、このメモはもしかしてフランス語なんですか? 僕には読めな──…、」


「──あっ…!」


 ──バタリッ。


「……う、…うぅ…………。…ぐっ……」

「ま、マルシルさん…! 大丈夫ですか……」


何よりも、彼女の顔は酷く青ざめていた。
意識はある。ただ、軽い貧血のような症状で、飯沼の身体へとグッタリ、吸い込まれるように倒れ込んでいった。
ふと見れば、マルシルの顔色とシンクロするように、萎れきった杖の先っぽの枝葉。
「もっと声のトーン下げて!!」とは言いつつも、自分の方が断然に声が大きいマルシルであったが、あれは気力だけで無理やり言葉を紡いだものだったのだろう。

──はぁ、はぁ。

息苦しそうに、やっとのことで空気を吸っていたマルシルの吐息。限界に近いその体から、弱々しく伝わる心臓の鼓動。

「……マルシルさん…」


飯沼は医者ではない。
だが、それでも何とかしてマルシルに即効で健康を取り戻す術が欲しかった。
狭く、一畳にも満たない、薄暗いタンス内にて。
ビタミン剤や飲料水といった部類が見当たらない中、なんとかしたい。──なんとかなきゃ、という一心で。
飯沼は、ふと。


「はぁ…はぁ………。い、イイ…──…、」

「……………えーと…──『ကဂစမား』……!」


──無意識のうちに、視線はマルシルが落としたメモを『読み上げた』。



「ヌ……マ……………。……──」


 ──パアァァァァ


「──って、ストップストップストップっ!? ちょっと何やってんの、イイヌマっ!?」

「…あ、すみません。蘇らせる魔術があるなら、回復する類もあるかなって…。つい」

「それは隣の行だし!! イイヌマが詠唱したの、火炎系魔術なんだけど?!! ちょっと適当に詠むのやめてよね!! デリケートなんだからこういうのはぁ!!!」

「あー、それは本当に申し訳ありません…。速攻中止します」

「もう…!!」


 ──シュン……




「──…え。いや……何で……………?」

「……あ、なんですか?」

852『日々は過ぎれど飯うまし』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/03(日) 22:36:58 ID:kWrg7C0g0
「……イイヌマ、どうして、それ……『詠めた』の…………?」

「…あぁ、何故だが分かりませんが──『詠めちゃった』んですよ。知らない文字なのに……」


「……え………?」



 火炎系魔術。
暗いタンス内にて、一瞬のみ灯りを広めた火の光。
その刹那の光に浮かび上がったマルシルは──畏怖を帯びた顔でこちらを見つめていたという。

何故、ダンジョンとは無縁な一般人が、魔術を『詠唱』できたのか。
仮に繰り返し問われても、飯沼は困惑を浮かべることしかできないだろう。
感覚、というか。
目にした瞬間、反射のように言葉が口をついて出た──と。それ以上の理屈など、彼には語れなかった。

これは言わば【参加者特権】。
主催者側の設定にして。メタな視点で説明すれば、『誰でも詠唱できるよう施した物』ということなのだが。
当然知る由もない飯沼、そして理論重視派であるマルシルは愕然とするのみである。


「………都市伝説みたいなものだけどさ……。カナリアにいる罪人エルフは耳に刻みを入れられるって聞いたことがある……。……もう分かった…」

「え? マルシル…さん?」

「イイヌマ、あなた元エルフなんでしょ!? そうに決まってる!! 試しに答えてみてよ!! 何歳なの!? 私は百一歳だけど!! ねえ、正直に答えてよ!! 理屈や構文に基づいた魔術はエルフは得意なんだから…っ!!」

「…うーん、困ったな…。………ん? あれ? 今百一歳って言いました???」


 理屈&理屈&理詰めに、時折挟まる支離滅裂な発言。
顔色を悪くしながらもツッコミに夢中なマルシルのお陰で、気付けば今隠れているという現状を忘れさせるほどの騒がしさだった。
彼女が口を酸っぱく注意していた『声のトーン』という概念は一体何なのか。
飯沼の耳を触りながら騒いでくるマルシルには、さすがの飯沼も困りが限界といった様子で。
彼女に共鳴してか、唐突に鳴き始める大型犬を傍らに、メガネの縁を押し上げる動作しかできずにいた。


「わんっ、わんっ、」

「わっ?! い、イイヌマやめてよ! いきなり犬の真似してさ!! 話逸らさないでね!!」

「え…。いや、このマロって犬が鳴いたんですよ」

「へ!? …え……。あっ、ちょっとわんちゃん!! あまり騒がないで!! バレちゃうから!!」

「わんっ、わんっ。ばうっ、…ぅううぅぅっ」

「ねぇもう〜〜〜〜っ!!!!──」


タンスのドア部分に向かって、懸命に吠えだす犬《マロ》。
「このバカ犬め…」──だなんて思ったか否か。飯沼から離れて、マルシルがその口を抑えようと行動に移した。


「──ね、いい子だから!! 落ち着いて!! 怖くない…怖くないから──…、」




「いやバレバレだし。クソ犬よりも声でかいじゃんアンタ」



「…え」 「………えっ…」




「ねえ、マルシルちゃぁ〜〜ん……?」




 そんな時だった。

853『日々は過ぎれど飯うまし』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/03(日) 22:37:21 ID:kWrg7C0g0



 犬が鳴くときには、必ず理由がある。
野生の本能として『外からの敵意』を察知すれば、飼い主に危険を知らせる。
マロの吠え声は、ただの騒ぎではなかった。

タンスの薄い壁を挟んでかなりの至近距離。
そこから、じわりと染み込むように声が響く。
──口調は明るく、年頃の女子といった可愛らしさはあるものの、────奥底では人ならざる邪悪を孕む。
何も知らない飯沼でも、そう察知させられる、その声が聞こえた。


「……ッ!」

「…ま、マルシル…さん……?」


マルシルの表情が瞬時に強張る。
先ほどまでの飯沼を責め立てていた真っ赤な顔色は消え失せ、健康状態相応の蒼白さ《恐怖》だけが残るのみ。

──忘れるはずもない。
偽装された明るさの、ついさっき聞いたばかりの声を、マルシルは忘れる訳がなかった。


「………ごめん、イイヌマ。……ここは私に任せてッ…」

「え?」


 十数刻前、突然自分の眼の前にパッ、と現れ。
 何があったのか額を真っ赤に濡らし悶えていた『ソイツ』は、目を合わせた途端、心配の声を待つまでもなく宣言。

 【死ね】──と極めて単純なる、宣戦布告。

 やたら先の尖った菜箸を片手に襲いかかった後、
 暫くしてから、どこからか、自分の使い魔と語る『ウンディーネ』を呼び寄せ、


 『過去のトラウマ《ウンディーネ》』の召喚と、『今起こり得るトラウマ』の生産を、二重の螺旋で見せつけてきた、
────その女。


「……私が…合図出すから……逃げてよね……」

「………逃げるって…。何からですか…?」

「…ッ、そんなの答える必要ないでしょ……。…それは──…、」


「あっ、マルシルちゃん〜♡ さっきはゴメンね〜? 私、ついちょっとだけ酷いこと言っちゃったかな〜って思って、ほ〜んと反省してるの! …ほんとだよ〜?──」

「──ねえ仲直りして遊ぼうよ! 大丈夫大丈夫〜、傷付けたりもしないから〜〜」

「……ィッ!!!」

「……だからさ、──」



「──早くドアを開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けて開けて開けて開けて開けて開けて開けて開けて開けて開けてけてけてけてけてけてけてけてけてけてけてけてけてけてけてけてけてけてけてけてけてけてけてけてけてけてけてけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけ」


 バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、
 バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、
 バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、
 バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、
 バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、

854『日々は過ぎれど飯うまし』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/03(日) 22:37:36 ID:kWrg7C0g0
「う、わ、わぁ……!!!」


「………ッ……!! ──『ウンディーネ娘』ッ…!!!」


 
 時折ドアの隙間から見えるがん開かれた瞳孔と、笑顔。
事情を知らぬ飯沼とて、眼前の少女のおぞましい表情は、すべてを察知させるだけのエナジーがあった。
蝶番とハンガーで施錠したドアは何度も何度も何十度も。
開かれそうになっては開けきれず戻され。また無理やり開かれそうになり。
ドア全体が軋み、タンスが地鳴りのように揺れ動く──この場は一瞬にして恐怖の支柱と化していた。


 バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ
 バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ──

────見ィ──ツ──ケ──タ。


ウンディーネ娘────山井恋。彼女のその目は地獄の陽炎の如し、邪悪にギラつき揺れ動く。


「…も、もう……。なんでなの………」

「え? なんで隠れ場所が分かったのかって?? だってさぁ〜タンスの前に血ぃべったり付いてんだもん。中にいるのバレバレじゃん☆ それよりも早くドアを開けてよ〜〜」

「…いや違うってッ!!! なんで私を襲ってくるの?! 私……なにか貴方にしたかなっ?!! …わけが……わけがわかんないよっ!!!」

「えー何それウケる〜。勘違いしないでよね? 私は本当にマルシルちゃんと遊びたいだけなんだよぉ〜〜?? …あんたの隣りにいるメガネくんとも、ね♫」

「…っ!!」

「ねえだから友達になろうよ〜。絶対滅多刺しにしないから〜〜。本当に絶対刺さないよ〜。ねっ。刺さない。──」


「──刺さない刺さない刺さない刺さない刺さない刺さない刺さない刺さない刺さない刺さない刺さない刺さない刺したい刺したい刺したい刺したい刺したい刺したい刺したい刺したい刺したい刺したい刺したい刺したい刺したい刺したい刺したい刺したい──」


「──殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺」


 バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、



「………もう…………嫌ッ……!!!」

「……うぅ………」


 刺さないと口で吐いても、鋭利な菜箸先だけは本音を語る。
ギラつき光を放つその刃は、マルシルらを触れずして羽交い締め仕切っており。
この状況はもはや文字通り。──そして本来の意味通りで『八方塞がり』。

マルシルが「もう嫌」というのも仕方がなかった。


「…………な……何が友達…だ……ッ」


だが、マルシルは八方塞がりの現実を受け止める気は毛ほどない。
背中に冷たい汗が伝い落ちても、視線は決して逸らさず。

──抵抗する。
それ以外の選択肢など、彼女には存在しなかった。


「……私はもう…十分なくらい仲間はいるんだからッ……!!!」


事実──具体的選択肢として、こちらにはあの高等魔術のメモがある。
紙切れ一枚。しかし、その一枚が、生死を分ける高価なキップ代わりであることは確かだ。

855『日々は過ぎれど飯うまし』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/03(日) 22:37:50 ID:kWrg7C0g0
「ライオスに……チルチャックに……センシに……ッ! ──ファリンに………ッ!!」


 ただ魔力の消耗は著しい現状。
体力はすでに短い蝋燭の炎のように揺らぎ、息は乱れ、吐き気が収まらない。
むせ返るような暑さと、耳を劈くドアの開閉音が、さらに喉の奥を締めつけた。
まるで短く揺らめく蝋燭の炎のようだった。


ただ──それでも。

それでも、大丈夫。

根拠はないが、絶対大丈夫。



「…そしてイイヌマにッ!!!」



なぜなら、隣には──、
自分の【王子様】がいるのだから──。


「………ッ!!!!」


 マルシルはちらりと飯沼の顔を見やる。
口をぽかんと開け、曇った眼鏡越しにこちらを見る──頼りなくて冴えない顔。
……それでも、彼女にとっては間違いなく王子様。夢見たその人が、すぐそばにいるのだから。

体力も、理屈も、魔力量の残りも──夢の前では関係ない。


 バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、
 バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、
 バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、


マロを強く抱きしめ、杖をどうにか握り。


「…終わらせてやるッ…!!──」


マルシルは一度だけ深く息を整える。


「────何もかもッ!!!!」


そして、足元に置いてあった筈の、あの一枚のメモ用紙へ手を伸ばした。







「『ထမင်းစားချင်တယ်』────。」





「……………………………え?」

856『日々は過ぎれど飯うまし』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/03(日) 22:38:08 ID:kWrg7C0g0
「……詠唱って、これだけでいいんでしたよね。マルシルさん」



 そう。足元に置いてあった──『筈』だった。


確たるメモの行方は、隣の──飯沼の手中にて。
『詠唱』を唱えた彼は、笑うわけでも、悲しむわけでもなく。



普段通りのボーっとした面持ちでマルシルを眺めて。
手をかざしていた。



「え…イイヌマ…………。…なん…で…」

「あ、はい。勝手なことしてすみません。──」


「──外には……さっき話した二人がいます。以降は彼らに頼ってください。……それにしても、野原ひろしって……すごい名前ですよね。本名らしいですけど……あ、マルシルさんは外国の方だから……知らないかな」

「……いや…………。…なんで……イイヌマ……」


飯沼が唱えた詠唱。
その響きは──既視感だった。

かつて、マルシルが一度だけ『受けたことのある』魔術の詠唱。再演を彼は繰り出して見せた。


「……なんで……。あんた、その『魔術』…なんなのか………分かってて唱えたの…………?」

「はい。…説明を読めばわかったので」

「……は? …………はっ? ……ふ、ふざけないでよ……………」

「………」


徐々に、輪郭がほどけていくマルシルと、腕に抱いた犬の身体。
二つの影は光の粒となり薄れ始める。


『ထမင်းစားချင်တယ်』。
──さかのぼれば、迷宮に初めてパーティで挑んだ際の、炎竜(レッドドラゴン)戦にて。

自分一人を残して、仲間を全員送還させた──ファリンによる、



 ────【迷宮脱出魔術】。



「ふざけないでよッ!! ねえなんでッ…!! …どうして……そんなことを──ッ…、」

「マルシルさん。モノを食べる時はですね」

「え?」


あの時も、そうだった。
声を伸ばしても、手を伸ばしても、ファリンの背中に届かないまま光にさらわれていく。
残された指先には、ぬくもりの余韻だけがやけに鮮明に残っていた。

857『日々は過ぎれど飯うまし』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/03(日) 22:38:27 ID:kWrg7C0g0
「誰にも邪魔されず自由で……。なんというか救われてなきゃダメだと思うんです。独りで…静かで……豊かで。──」


嫌だった。
もう、仲間を失うのは──嫌だった。


「──……僕は大勢で食べるのも一人で食べるのも好きですが、今は『一人食いしたい気分』ですかね」


そう言ってメモを丁寧に彼女の手へ握らせる飯沼。
透明さを増していくマルシルの指先。
涙は頬を伝い、重さを持った雫となって指先へ落ちた。
その手は、溺れる者が最後の浮き輪を求めるようにただ一人へ向かって伸びていく。



「……え………。な、何言ってるのって…聞いてるよねッ……!!!!」


自分の好きな人は、みんな目の前でいなくなっていく。
姿が消えるのは、いつだって、自分の方だというのに。



「ねえ……イイヌマ………。イイヌマッ………!!!」

「それにしても……──」

「……え?」



だから今度こそは。──この光から、誰も奪わせたくなかった。




「──お腹すきましたね……。マルシルさん」




 ──ピシュン



奪わせたくなかった。心からの想いだったのに。



………
……



「イ…イヌマ……っ…!! …うっ……ヌマ……っ……! ……イイヌマぁ……っ……!!!」


「………ひろしさん…」

「……………。──」


「──君が、マルシルさん……だね?」


「……ひっ……ぐ……っ………っ……ひくっ……! ぁ……っ……!!」




────ホテル玄関前の光が、痛いくらいに眩しかった。

858『日々は過ぎれど飯うまし』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/03(日) 22:39:03 ID:kWrg7C0g0
【1日目/F6/東●ホテル前/AM.05:39】
【マルシル・ドナトー@ダンジョン飯】
【状態】悲哀
【装備】杖@ダンジョン飯
【道具】高等魔術一覧メモ@ダンジョン飯
【思考】基本:【静観】
1:もう、いや……。

【野原ひろし@野原ひろし 昼飯の流儀】
【状態】疲労(軽)
【装備】銃
【道具】なし
【思考】基本:【対主催】
1:飯沼くん……っ。
2:老名ちゃん、マルシルさんを守る。
3:新田、ウンディーネ娘(山井)を警戒。

【海老名菜々@干物妹!うまるちゃん】
【状態】疲労(軽)
【装備】なし
【道具】???
【思考】基本:【対主催】
1:飯沼さん……そんな……………。
2:ひろしさんと行動。

【クン●ーヌ@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!】
【思考】基本:【静観】
1:くーん……。

859『日々は過ぎれど飯うまし』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/03(日) 22:39:19 ID:kWrg7C0g0


………
……

 ザシュッ────

  …ぐちゅぐちゅ


「…ぐうッ……!!!」

「はっ……んぁっ……んんっ…!! わ、わけが…分かんない………。なんで…どうして…なの……。ぁ…」


 ホテル廊下にて、粘り気を含んだ水音と、肉と肉がぶつかる鈍い音が響き始める。
出会い頭、即腹部に一突き。──激痛のあまり仰向けになった飯沼を逃さまいと、馬乗りになる山井。
それからは刺す。刺す。刺す。突く。滅多刺し。
菜箸が皮膚を貫き、肉の中で泳ぎ蠢き。
刺される度に、ビクンと揺れる全身に、グズグズと真っ赤に染まる白シャツ。
飯沼は悲痛の汗や唾液、途切れ途切れの声を漏らし続けるが、彼の苦しみなどお構い無しに、山井は刺し続けた。


ぬちゅ、ぬちゅ、ぬちゅっ……。
紅潮した頬の飯沼から、唾液や汗が飛び交い、山井の顔を濡らしていく。


 ザシュッ──

「あぅッ……!!」

「ぁあ………っ、なんで…どうしてなの………っ」


 ザシュッ──

「ぎいッ…!!」

「…体が…疼いちゃう………っ。ドキドキが止まらない………!!──」



「──もう止まらないんだけど…っ!!♡♡」


 ザシュッザシュッザシュッザシュッザシュッザシュッザシュッザシュッザシュッザシュッザシュッザシュッザシュッザシュッザシュッ


「んあッ!! はぁん………、ん、んはぁ……はぁっ…!!!」



 飯沼の下腹部に股がる山井。ピクつく肉感の良い太もも。
片手で胸を触る彼女の口からは、もう言葉というよりも、断続的な喘ぎと甘い声しか出てこなかった。

深く、そして鋭く突き上げるたびに、飯沼の身体が大きく仰け反る。


「っ、ん……っ、は……っ、ふぅ……っ……」

『と、止まらないのっ……♡ あぁっ、すごくっ……きてる、からぁっ……♡──」


最初は慎重だった動きが、徐々にリズムを帯びていく。
ガンッ、ガンッと腰を打ちつけるたびに、山井の胸が制服越しに、下にぶら下がり、ぐるんぐるんと大きく揺れた。

呼吸が乱れ、頬が紅潮し、目が潤む。
────それは、飯沼。そして山井。二人揃ってのシンクロナイズ。

860『日々は過ぎれど飯うまし』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/03(日) 22:39:34 ID:kWrg7C0g0
「──なんて…なんて……可愛いリアクション……するの?!♡ アンタはぁ…♡ あっ…♡ んっ、あぁっ!!♡♡」

「っは、あっ……ふ、ひぁぁっ…」


 ぬちゅっ、ざしゅっ、ざしゅっ、じゅぷっ……。
水気たっぷりの音が、湿った空間にいやらしく響く。
まるで、本能のままというか。
自分の意志では止められない身体の奥から突き上げられる欲求に、抗うことなく身を任せているかのようだった。


体液が、太ももを伝ってぽたぽたと床に滴っていく。

声が、甘く蕩けていく。


「っふ♡ くっ、…んぁっ♡ んっ…♡ だめぇっ……♡ もっと突いてぇ!! 突いてったらぁ!!」

「……んっ……ふ……っ……お…お………」

「って…突いてるのは私だしぃ〜〜〜〜っ♥  はっ♥ ふあぁっ♥ あっ…、んっ、あっ!!♥──」


物を食べた時の、光悦かつ淫靡なリアクションは、見た女子全て惚れさせる────。

食べることが好きなサラリーマン、飯沼。


「──あぁああっっ〜〜♥♥♥ あァんっ♥ あぁああ〜〜っ♥♥♥ だめなのにぃい〜〜〜!!!♥♥♥♥♥♥」



彼はまた一人、女子高生を快楽へと陥らせた──。



【飯沼@めしぬま。 死亡確認】
【残り63人】

861『日々は過ぎれど飯うまし』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/03(日) 22:39:48 ID:kWrg7C0g0
【1日目/F6/東●ホテル/7F/室内/AM.05:40】
【山井恋@古見さんは、コミュ症です。】
【状態】光悦、額に傷(軽)、鼻打撲(軽)、膝擦り傷(軽)
【装備】めっちゃ研いだ菜箸@古見さん、ウンディーネ@ダンジョン飯
【道具】???
【思考】基本:【奉仕型マーダー→対象︰古見硝子】
1:古見さん、四宮かぐや以外の皆殺し。
※マーダー側の参加者とは協力…かな?
2:こんなドブネズミの巣から古見さんを早く脱出させたい。
3:ホテルにいるクソカス共をとりあえず全員皆殺し。
4:クソ犬(マロ)を使って古見さんを見つける。トリュフ探すブタみたいにね☆
5:クソ親父(ひろし)、脂肪だけの女(海老名)、魔人(笑)(デデル)とその仲間共(うまる、マミ)に激しい恨み。

862 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/03(日) 22:40:09 ID:kWrg7C0g0
【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ】
①ダンジョン飯エミュ度向上の為、『ダンジョン飯 ワールドガイド 冒険者バイブル』購入しました。
②何故か九井先生の短編3冊つきで到着。『竜の子が〜』ってタイトルの短編集です。なんてお得な買い物した気分。
③いずれも、まだ完読には至ってませんが、世界観を堪能できればなと毎日読み続ける次第です。


【次回。8月5日投下。】
──時は平成末期、ラーメンは900円台。
──…未来のラーメンは、果たして値札に味が勝てているのだろうか。

「らぁめん再遊記 第三話〜未来《スパイスガール》!!〜」…芹沢達也、アンズ、佐野、???

863らぁめん再遊記3(ry ◆UC8j8TfjHw:2025/08/05(火) 22:29:33 ID:XG./maZk0
『らぁめん再遊記 第三話〜未来《スパイスガール》!!〜』


[登場人物]  芹沢達也、アンズ、佐野、???

864らぁめん再遊記3(ry ◆UC8j8TfjHw:2025/08/05(火) 22:29:53 ID:XG./maZk0
 ナンダカンダとキレイごとを言ったところで、ラーメン屋というのは所詮、商売だ。
金儲けのことを考えれば、どれだけ評論家やラーメンオタク共に酷評されようとも、大勢の客を招き入れるような一杯を作ることが大切だ。
この世は『売れたら勝ち』なのである。

これは、もちろん俺にも当てはまる。
俺の淡口らあめんは鮎の煮干しと比内地鶏・鹿児島黒豚を合わせたスープに、国産有機醤油と自家製麺…と。
こだわりに拘ってはいるが、売れなければ独りよがりな自慰行為に過ぎない。

一方で、そういう観点からすれば、小娘アンズの来々軒は完全に『勝ち組』だ。
屋台の客単価が六百五十円の中で、売上は日商五万円。
単純計算で一日あたり約七十五食、昼と夜の二部制で回している計算になる。
客単価・回転率ともに、屋台業態としては全国上位数パーセントに入る水準なのだ。

…俺が汗水垂らし、試行錯誤を重ねて『我がラーメン』を自答してる間に、奴は創意工夫皆無な一品でこの数字を叩き出している。
……言いようによっては天才のそれだ。
商売的な意味では間違いなく勝者に値するだろう。


──…そんな天才様()と凡人である俺との差は、もはや胃酸が込み上げてくる程だッ……。



「っ、おええぇええぇぇぇえ…ッ!!! ごぼっ、ごぼっ…、……ゔぉろろろろろろろろろろぉおえええええッ………!!!!──」


 …はぁ、はぁはぁ………………っ。


「──……死ね!!」


 …小娘アンズの陳腐なラーメンを試食され続け早十杯目……っ。
今、俺は奴の屋台から少し離れたコンビニ裏にて、地獄のデトックスタイムに見舞われている最中だ。

確かに俺は奴と出会った際、「最後までとことんサポートする」「お前の味と歩む覚悟だ」…とは言ったが……。
…限度というものがあるだろ…ッ! 限度が……ッ!!
『限度』という単語すら知らないであろう中卒無教養女の『一杯』は……(…というか十杯は)…、三角コーナーの野菜クズを口直しに貪りたい程の味である………。


「…ダメだわ………。どれだけ作り直しても…納得いく味にならないっ……!! …なんなの。芹沢さんとの差はなんなのよ!! もうっ…あの人を見るだけでムカムカしそうだわ!!」

「……………」


……おい、なに嫉妬しているんだこの女は。
不相応にも程があるジェラシーだろ! 俺のラーメンを同じ土俵にあげて語るな!!


……くっ。
………くそっ…。青筋絶叫小娘め……。

865らぁめん再遊記3(ry ◆UC8j8TfjHw:2025/08/05(火) 22:30:10 ID:XG./maZk0
 んぐ、んぐっ……


「ぷはっ…………。はぁはぁ………」


 …吐き散らして空っぽになった胃袋へ、俺は安物のウイスキーを流し入れる。
あぁ、勿論胃と食道が荒れることは承知済みだ。
だが飲まなきゃやってられんとはこの事……。

──五百円のブラックニッカに頼らなきゃいけないほど、今の俺は最大に追い込まれているわけだ……。



「…うん、ごちそうさま。美味しかったよ、アンズさん」

「あっ! ありがとう佐野!! ま、礼なら私のおじさんやおばさんに言ってよね! あくまでこの一杯は来々軒の味を受け継いだまでなんだから!! …へへへ〜!!」

「……それで、あの…。…もう行ってもいいよね?」

「へ? いや、なんでよ佐野!!」

「…なんで、って……。私は瞳さんって【仲間】を探さなきゃならないから……。さっきもそう言ったんだけど……。だから、…うん」

「あ、そっか〜…。…じゃあ、そういう訳でちょっといいかしら!!──」

「──隣に置いてるラーメン…。これは芹沢さんの分なんだけど、…伸びそうじゃない? だから食べてから行きなさいよ! ね〜!!」

「え。何が『じゃあ』……??」



………。
俺の身代わりというか、屋台にはたまたま通りかかった『佐野』という女が毒牙の餌食と化しているが……。…まぁそいつはどうでもいい。

アンズのラーメン拷問よりも、
佐野がペットのタランチュラを卓上に乗せてギャーギャー騒がれてる煩さよりも、

──俺を追い詰めている物………。


「………ちっ、とうとう来たか………」


それは、吐いている途中の俺に突如落ちてきた──、


「…………『ハル』のやつめっ……!!」



──イクラを肥大化させたかのような、『ボール』だった…………。



「…『拝啓 芹沢達也さんへ。アンズさん、佐野さんとご一緒に、このボールを押して、【ライブ中継】をご覧ください』……だと…?」



未来人──ハルからの、ボール。
…ご丁寧にもボールにはメッセージ付きでだ。
要するに、このオレンジボールはライブ配信を移す未来の映写機といった代物らしいのだが。


 ぐむぐむ…
  ズンッ

   ──パッ

 ジジジ────ッ、ガガガガ────ッ、


「…………」



…未来のインターフェイスのセンスが俺にはさっぱり分からない………。

866らぁめん再遊記3(ry ◆UC8j8TfjHw:2025/08/05(火) 22:30:25 ID:XG./maZk0



 calling…
  future…

 calling…
  future…

──────【𝔸𝕌𝕏】──────────────────
 🅲🅰🅻🅻
    ᴘᴜꜱʜ ꜱᴇʟᴇᴄᴛ
─────────────────────────────────


芹沢達也・アンズ・佐野
    ↓↑
    ハル

【通話画面】
ttps://img.atwiki.jp/heiseirowa/attach/181/425/m/musen.png





867らぁめん再遊記3(ry ◆UC8j8TfjHw:2025/08/05(火) 22:30:43 ID:XG./maZk0

……
………


 (芹沢)『…あ?!』


 ────お久しぶり…ですかね、芹沢さん。…アンズお姉さん、佐野さんからしたら初めまして。

 (佐野)『…あ、はい。初めまして…』

 (アンズ)『……えっ、アンタ誰よ……。まさ…、』

 (芹沢)『いや待て待て!! バカか!? 俺もお前のことなんか知らん!! …お前は誰だ!!?


 ────ハハハ、どんな御冗談を。ま、丁度よいので自己紹介に入りますね。ボクはハル。超能力者検体No.12。

 ────……つまりはアンズお姉さんと遠い親戚にあたるわけです。…超人会製ではないのですがね。


 (アンズ)『な、なによそれ…。つまりアンタは未来…、』

 (芹沢)『嘘をつくなっ!! だから誰だと聞いているだろ!!!』

 (アンズ)『ちょっと芹沢さん!! さっきから私の言葉に被せてこないでよ!!』

 (芹沢)『…黙れお花畑!!』


 (芹沢)『…いいか、ガキ』

 ────ええ。

 (芹沢)『確かに以前、俺の元にボールが落ちてきて、お前同様『ハル』と名乗るガキが来たものだ……』

 (芹沢)『お前とそのハルの決定的な違いが分かるか? …口で一々説明するのも馬鹿らしい、極めて単純なものだがな…』

 ────そこはご教示いただきたいたいものです。

 (芹沢)『…俺が会ったのは男だ!! 真っ裸の少年なんだよ!! …なにが『ボクはハルです』だ……?! お前みたいな小娘知るかっ!!』

 (佐野)『え? …裸の…少年……??』

 (アンズ)『…芹沢、最低ね…ッ』

 (芹沢)『お前らは口を挟んでくるなと言っただろ!! …というかアンズ、お前はコイツと同じ類なんだから裸になる仕組みくらい知っているだろうが………』


 (芹沢)『くっ……。俺はてっきりハルの奴がバトル・ロワイヤル攻略のアドバイスでも持ってきたものだと思っていたのだがな………。おい自称ハル…』

 (芹沢)『お前の目的は……なんだ?』


 ────…あぁ、なるほど。そういう訳でしたか。単刀直入に申します。ボクは【ハル】です。

 (芹沢)『その単刀は俺の理解には全く刺さってないがな…』

 ────そして芹沢さんがお会いしたというその娼少年もまた【ハル】。ボクなのですよ。

 (芹沢)『あ…??』

 (佐野)『…娼少年………』

868らぁめん再遊記3(ry ◆UC8j8TfjHw:2025/08/05(火) 22:30:58 ID:XG./maZk0
 ────はい。単刀では物足りないようですので、聖剣エクスカリバーでご説明いたしますね。まず、初めになんですが……。えー、どれどれ。


 ペラッ


 ────…あーはい、なるほど。…とりあえず、皆様が今いる場所はシブヤ【B-2】エリアで間違いないですよね?

 (アンズ)『…へ? びーつー…? も、もちろんよ! 当り前じゃない!』

 (芹沢)『いや絶対分かってないだろお前…。……おい自称ハル、B-2だのC-3だの言われても俺達は分からん。具体的名称ではっきり言え』

 ────あ、はい、申し訳ありません。B-2は目の前にファ●リーマートがあると思うのですが、間違いないでしょうか。

 (芹沢)『………』

 (佐野)『あ、はい。…それなら、確かにここはB-2ってことに……なりますね』

 ────それは良かった。話が早いです。



 ────史実では、今から十秒後に、エリアB-2・ファ●リーマート店前にて隕石が落下します。


 (アンズ、芹沢、佐野)『『『…え?(は?)』』』


 ────他区域での戦闘が誘発したものでして……ええ、直径一キロのクラスです。避けようはありませんね。


 (芹沢、アンズ)『『はぁ?!』』


 ────一応、ダメ元で使ったほうがよろしいかと。

 (アンズ)『えっ、え? え?? …え?? な、何をよっ?!!』

 (芹沢)『バカかお前!! お前の力……エスパーだか念動力だかを使えと言っているんだっ!!』

 (アンズ)『え?? あ、そっか……!! で、でも…どこから……、』

 (芹沢)『黙れ!!! さっさとしろォオオオオオオオオぉぉ…、』



 ヒューン…



  ──コツン



 (佐野)『わ、痛っ…』


 (芹沢)『………は?』


 (アンズ)『…………………え、小さ』



 (アンズ、佐野、芹沢)『…………は??』

869らぁめん再遊記3(ry ◆UC8j8TfjHw:2025/08/05(火) 22:31:11 ID:XG./maZk0
 ────…ご無事で何よりです。なにはともあれ、この通り降ってきたでしょう。隕石が…!

 (芹沢)『アンズ、映像の切り方を教えてくれ。ボールをまた押す感じでいいのか?』

 (アンズ)『さあ。適当に川に捨てればいいんじゃないかしら』


 ────おっと、これは厳しい御冗談ですね。でもこれはボクが接続を絶えるまで切れない仕組みですので…、

 (アンズ、芹沢)『やかましいッ!!! 冗談じゃないのはこっちだ!!! 何が隕石だ!! ふざけるなッ!!!!』

 ────…ボクも冗談は苦手な質なのですがね。皆さん落ち着きましょうよ。

 (芹沢)『お前のせいだろっ!!? …クソ…!! 貴重な時間を浪費させられた……。どいつもこいつも…俺は未来人()にはうんざりだっ…!!!』

 ────いえいえ。だから落ち着いてくださいって。隕石は本当に、史実通りならAM.05:32:25に落ち、壊滅的被害をもたらしたんです。

 (佐野)『……たしかに、ちょっとは痛かったけども…』

 (芹沢)『…壊滅的か、それは結構。ならば俺は未来人ってカテゴリを壊滅させるのが道理だろうな。……全くお前は……ッ』

 ────はい、その通りです。貴方には未来を壊滅させてほしいんですよ。…ボクはそのために過去へ来た。

 (芹沢)『壊滅してるのはお前とアンズの頭だけだ!!! ふざけるな!!!』

 (アンズ)『…え?』

 (芹沢)『人をおちょくるのも…ッ……、いい加減にし……、』


 ────芹沢さん、失礼ながらもしかして数分前に、嘔吐をしませんでしたか?


 (芹沢)『…あ?』


 ────…ハハ、やはり。そのお陰で、隕石は空中で破裂し、小さな石ころと化したんですよ。



 ────分かりましたか? ボクが少女に『書き換わった』理由。


 ────分…それは【バタフライ・エフェクト】によるものなんです。




 (アンズ)『…ばたふらい……えふぇくと………?』



 (芹沢)『いや、そんな聞き慣れない言葉でもないだろ……』

 (アンズ)『はぁっ?!』

 (佐野)『あの…。小さな出来事が、時間を経て予想外に大きな結果を引き起こす現象のこと……だよ。…アンズさん』

 (アンズ)『へえ〜! 佐野は物知りねぇ〜』

 (芹沢)『お前意外全員知ってる言葉だがな。さてアンズのせいでテンポはグズついたが、さっさと説明しろ。…ハル』

 (アンズ)『なによそれっ?!』


 ────はい。明確なバタフライ・エフェクトの起点は十日前。過去に戻ったボクが芹沢さんと干渉した瞬間が期でしょう。

 (芹沢)『……』

870らぁめん再遊記3(ry ◆UC8j8TfjHw:2025/08/05(火) 22:31:28 ID:XG./maZk0
 ────佐野さんの説明通り、過去という歯車はほんの少しの綿埃を噛み挟んだ程度でも、動きが大きく歪むものです。そのため、ボクの住む未来では政府の公認外でのタイムトラベルは極刑となっているのですがね。

 ────それはともかくとして。事実、【堂下浩次】という参加者は、現時点ではまだ生存しているはずですよね?


 (???)『三嶋先生ェエエ!!! 私、堂下浩次は大変感動しましたァアアア……っ!!!』

 (佐野)『わっ!!』


 
  しましたぁぁぁ………


    ……ましたぁぁぁ…………


      ……たぁぁぁ…………



 (芹沢)『………。…史実ではどうなっているんだ。その堂下と言う男は…』

 ────えーどれどれ…。…はい、『第一回放送深夜にて、…Sに誤射され死亡』。一時間十三分の寿命となっていますね。

 (芹沢)『…別に個人名をあげていいものを、わざわざ『S』と仮名したのは引っかかるぞ……』

 (アンズ)『………配慮したってわけよ。……ね? 犯人のS沢さんッ…!』

 (芹沢)『何が【…ギロリっ】──だっ、アンズ!! お前はさっきから俺になんの恨みがあるんだ………』


 ────…ともかくです。このともかくです。この通り些細な出来事で簡単に未来は変わってしまう。言うなれば、殺し合いを根本から瓦解させるだけのエネルギーを持つ唯一の策が、バタフライエフェクトというわけですよ。

 ────蝶の羽ばたき一つが、戦争をも、全宇宙すらもひっくり返す…【バタフライエフェクト】。ボクが皆様三人を集めた理由は、もう言うまでもありませんね?



 ────今から、僕の指示通りに行動していただきたいのです。


 ────…汐見閣下と終身名誉ゲームマスターAから、未来を救うため。



 (アンズ、佐野)『………』

 (芹沢)『……………っ』



 (アンズ)『…ところでアンタ、なんで浜辺から中継してるのよ。その場所チョイスはなに?』

 (芹沢)『…マイペースかお前、アンズ……』

 ────浜辺? いえいえ、ワイキキビーチとお呼びください。第三次世界大戦戦勝記念のバブル景気で、小旅行中なんですよ、ボク。

 (アンズ)『はぁああ?!』

 (佐野)『人がこんな目に遭ってるというのに……旅行………』

 ────まぁ骨休めも仕事の一つですから。アンズお姉さん、ハワイのマクドナルドにはラーメンが売っていることをご存知ですか? その値段わずか500ラー。もはや激安の殿堂ですね。

 (芹沢)『ラーってなんだ。ラーとは…』

 ────未来の日本の通貨単位です。麺歴三年以降、円は廃止され『ラー』に変わりました。

 (芹沢)『……『メン』でいいだろっ………』

 ────まぁそこは汐見閣下のブランディングセンスですので。何とも言えませんね。

 (芹沢)『……………バカがっ…』

871らぁめん再遊記3(ry ◆UC8j8TfjHw:2025/08/05(火) 22:31:44 ID:XG./maZk0
 ────話を戻します。それでは第一に、皆様三人にはある参加者へ会いに行ってもらいたいんです。


 (佐野)『…なんとなく黙ってましたが……私も巻き込まれているんですね……』

 ────えぇ勿論。後々欠かせないピースの一つになりますから。……佐野さんも、【車で10km引きずり回された末、皮膚欠損で死亡】だなんて死因は勘弁でしょう?

 (佐野)『……っ』

 (アンズ)『…え? なによそれ?? じゃあ私は史実じゃ…どうなっちゃうわけよ』

 ────あー、はい。アンズお姉さんは【壺の中にて遺体が発見された】との記述がされています。……タコ壺ですか?

 (アンズ)『え? 壺?? いや…はぁああ???!』

 (芹沢)『……ふふっ!! ………ぶふふ…』


 ────話が逸れました。それで、そのある人物とは、B-3・横断歩道前にて怪我を抱えつつ放心状態です。

 ────彼に三人そろって接触し、仲間に引き入れることで。はじめて【惨劇】を未然に防ぐ下地が整うんですよ。

 (芹沢)『…結論から話せハル。誰だ、そいつは……』

 
 ────はい。『新田義史』さん。その人です。


 (アンズ、佐野)『…え?!』

 (アンズ)『……新田…………!?』


 ────勿論存じ上げていますよ。山中藤次郎の拡声器で、新田さんが殺人者の危険人物と広められた現状は、計算上、史実通り。

 (アンズ)『違うッ!!! 違うんだからぁッ!!! 新田は悪いやつなんかじゃないわよッ!!!』

 (芹沢)『おいアンズ、話の腰を折るな』

 ────いえ芹沢さん。彼女の言う通り、新田さんは人畜無害。全ては山中の浅はかさが招いた風評被害です。

 (芹沢)『あ?』

 ────彼は野原ひろしに見捨てられ、早坂愛には除き魔と誤認され、そして逃げた先では西片に…と、今、心身ともにボロボロの状態です。……もちろん、それで暴走するようなれではありませんが、とにかく今の新田さんは(哀しい意味で)危険なのです。


 ────そんな新田さんに接触できるかどうかが、あなた方が【史実の惨事】から救われる一歩になるんですよ。



 (佐野)『…史実の惨事…って何なんですか………? 車とか…壺とか…さっき言ってましたが…それが何に…、』

 ────申し訳ありませんが説明は割愛させてください。……なにせ、もう時間がないんです。

 ────AM.05:37:00、ちょうどその時刻に、あなた方にはB-3へ向かっていただく必要があります。


 (アンズ)『え?! …五時三十七分って……』


 チラッ


 (アンズ)『あと十分もないじゃないっ!!!』

 (芹沢)『それは湿度計だバカ!! ………つまりは三分後、か…』


 ────その通りです。また、移動に際してお願いが。三人で、【ぴったり百五十八歩】で歩いてください。早歩きや遅歩きで調整して、なんとかきっかりに。

 (芹沢)『…その具体的歩数は何を意味する』

 ────…説明する時間は、もう無いんですよ、芹沢さん。

 (芹沢)『………くっ…』

872らぁめん再遊記3(ry ◆UC8j8TfjHw:2025/08/05(火) 22:32:01 ID:XG./maZk0
 ────では一旦はこの辺にて。必ず、指示を守った上で行動をお願いしますね。

 ────…未来というのは、たった一歩で思いもよらぬほど大きく、塗り替わるものですから………。


 (芹沢、アンズ、佐野)『……』



 ──ねぇ〜ハルちゃーん!! はやく来て一緒に泳ご〜〜っ。

 (アンズ)『は?』


 ────あ。…うん、分かった、分かったってば。とりあえず、水着に着替える時間だけはくれないかな〜皆。

 ────…ごくごく、ぷは〜〜。うん、ハワイに来たからにはトロピカルカクテルを飲まないと始まらないや。

 ──も〜〜、ハルちゃんたら〜っ!!

 ──きゃははは〜〜〜!!

 芹沢『…は?』



 ────では皆さん。この一歩が、未来の希望になると信じて。…今、塗り替えましょう。


 ────では失礼します。



………
……


 プツンッ………

873らぁめん再遊記3(ry ◆UC8j8TfjHw:2025/08/05(火) 22:32:16 ID:XG./maZk0



「新田………」

「………私…関係ない…はずじゃ………?」



「………グッ…」


 …未来は、塗り替えられる……だと。
…冗談じゃない。…ふざけるなッ。
いかにも未来人共の傲慢が溢れたセリフじゃないかっ。

仮に俺が1930年の日本に放り込まれたとしてだ。
「このまま戦争をすれば、広島で多くの人間が焼かれることになる」
「だから満州事変など起こさず、国際協調路線を取るべきだ」──そう進言したとして。

──歴史は、果たして変わるか?

…笑わせるな。
当時の人間に、そんな理屈が通用するはずがない。連中は理解すらせず、俺を特高警察に突き出すのが関の山だ。
そして十数年が経ち──ようやくのこと、誰かが言うだろう。「アイツは、正しかったのかもしれない」とな。


未来の人間がどれだけ知識を振りかざそうと、歴史の盤上で駒を動かせるのは、その時代に足をつけて生きた者だけだ。
結果を決めるのは情報量や、誰が駒を動かすかじゃない。紛れもなく、『駒自信』なのだ。


「………っ」


 ………時計は残酷だ。指定時刻まで、残り一分を切る。

…くっ、ふざけたことを言いやがって………。
ぬくぬくとビーチで寝転がり、特に説明もせず新田という輩に会えとは………。


──……大概にしろ……ハル……ッ!!
──…未来人共がッ…………!!



「……だが礼は言うぞハル。俺はまだ終わるつもりではいないからな……」

「え…?」


「それに、アンズと佐野。…お前らも少しは思ったことだろう?」


「何を…ですか…?」 「何をよ…」


「映像の終わり際。ハル背後に、妙な黒服の連中が近づいて──次の瞬間、映像がぷつりと切れた。あの瞬間……。──」




「──少しスカっとはな?」

874らぁめん再遊記3(ry ◆UC8j8TfjHw:2025/08/05(火) 22:33:27 ID:XG./maZk0
 アンズが俺用に出した試食ラーメンへ、


「…え?」 「え?」



 胡椒を…
──ドォバババババババババババババババババッババッバッババッバババババババァァァッァァァッァァァァァッッ──────!!!!!!!!!!!!!!!!!


「はぁあ?!!」



 伸び切った麺を一気に…
──ズズズズズッズズズッズズズズッズズズズズズズズズルズルズルズルウウウウウウウウウウウウウッッッ─────!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
──マズイッ、マズイッ、マズイッ


「はぁああああ!!!??? ちょ、ちょっと!? 芹沢さん何してんのよッ!!!」



 プハッ!!


「…うん、まずい。だが胡椒で味をごまかしたら、あのウンザリしたスープも飲み込めたじゃないか。……アンズ。これは新境地の扉が開かれたんじゃないのか?」

「はぁあぁぁああああああああああああああああっ??!!!」



──はい、完ッ食ッッ!!!!



「いや私のラーメンっ!!!!! 私の作ったラーメンなんだけどォォォォ────ッ!!!! 何してくれてんのよォオオオオオ────ッ!!!! うわぁあああああああああああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

「黙れプッツン女!! 南国の鳥かお前は…」



 ……あぁそうだ。

未来は、そこに住む者も建物も文化も、何もかも全てが空疎で最低品質。終わりきっている。
俺も実際にこの目で見た以上、確信を持って言えるものだ。

臭い消しのコショウはラーメンの風味を飛ばしてしまう。にも関わらず、ただ慣習で卓上コショウを置くのは悪臭でしかない。
──ハルの未来はコショウ同然の、邪智すべき存在なのだ。


「どんなゲテモノでも、カレーをかけりゃ大抵食える代物になる、それもまた事実だ。…スパイスというやつは時として食材の罪まで塗り潰してくれるのだな。──」

「──……俺はこういう誤魔化しの食法を長らく邪道と断じてきたが……さしずめ『邪道』はバカとハサミ同様、使いようというわけだ」

「ふ、ふざけるんじゃないわよぉおおおっ!!!! 私のラーメンんんんんんんんんん〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」

「あの…アンズさん、ちょっと落ち着いて……」

「もがあぁあああああああああああああああああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

875らぁめん再遊記3(ry ◆UC8j8TfjHw:2025/08/05(火) 22:33:42 ID:XG./maZk0
…だが、それがどうしたという話だ。
どんな最低品質の代物も、少しこちらで手を加えるだけでマシにはなることは実証済みだ。

──この、学食以下のラーメンのようにな?


「おい佐野!! そいつ係はお前に任せる。…行くぞ」

「え…?」 「はぁ?? そいつ係ぃぃぃ〜〜っ?!」


「時間だ。……忘れるなよ、『百五十八歩』。…きっかり、な?」


「は、はい………!」 「え?? ちょ、いやちょっと待ちなさいよっ!?」



 一歩、二歩、三歩………。

足並みをそろえ、俺らは前へと進み続ける。
未来だの何だの…。陳腐なSFごっこを仕向けてきて、ガキの使いじゃないんだぞとは言いたいところではあるが。

俺は一つの『疑念』を、次なるハルへ晴らすため、今はただ、残りの歩数を、淡々と刻むまでだ。



「待って…!! 待ちなさいってばぁああ〜〜〜〜!! …この……ラーメンハゲエエエエ──────っ!!!!」



 疑念。【Question】.
──数多いる参加者の中から、なぜ『俺』に白羽の矢を立てたのか?

未来人が俺に期待を託した、その理由。
ヒントは『汐見ゆとり閣下』が最大の鍵となっているだろう。


──……それは、つまり。──俺が………────。


「……ふん…」



…とな。








………
……


「…うぷっ……!! おえっ…」

「あ!! せ、芹沢…さん………!!」

876らぁめん再遊記3(ry ◆UC8j8TfjHw:2025/08/05(火) 22:33:54 ID:XG./maZk0



【ラーメン界の第一人者・芹沢達也 〜本日の名言〜】
──コショウは邪道だ。ただし使い方次第では一定の効果あり。
──俺はこういうコショウでの食法を長らく邪道と断じてきたが、さしずめ『邪道』はバカとハサミ同様、使いようというわけだ。



〜バトル・ロワイヤルを経て学んだ『ラーメン道』 アンズメモ〜

①まずいラーメンには胡椒で応戦!! 卓上調味料、バカにしちゃダメ…らしい。
②ということは味噌ラーメン用に卓上に一味唐辛子も見当。ただし、かけすぎには注意よ〜!! 辛すぎて口から火を吹いたら…アウト!!
③ハワイのマクドナルドにはラーメンがあるらしい……。何味なの?! チャーシューはさしずめパティかな?






【外部介入】
【ハル(過去改変二巡目)@ヒナまつり 死亡確認】

877らぁめん再遊記3(ry ◆UC8j8TfjHw:2025/08/05(火) 22:34:07 ID:XG./maZk0
【1日目/B2/屋台『とんずラーメン』前/AM.05:37】
【芹沢達也@らーめん才遊記】
【状態】嘔吐中、満腹限界(大)、心労(大)
【装備】???
【道具】いくらボール@ヒナまつり(使用済み)
【思考】基本:【生還狙い】
1:アンズの念動力を利用し生還。
2:どんな卑劣な手段を取ってでも生き残る。
3:未来からの使者『ハル』の次なる通信を待つ。ハルのバトロワ攻略法の元、動く。
4:新田義史に会う。
5:…新田。…アンズの陳腐な店に週四で訪れる男……。なんだこいつは罰ゲーム中か?!

【アンズ@ヒナまつり】
【状態】健康
【装備】中華包丁
【道具】寸胴鍋
【思考】基本:【対主催】
1:芹沢さん、佐野と協力して打倒主催!!
2:殺し合いを終わらせるほどのラーメンを作りたい!!
3:新田に会う。…待っててね、私が全部疑惑を晴らしてあげるんだからっ…!!
4:『未来』は一体どうなってるわけ………?
5:ばたふらいえふぇくと……。よくわからないけど気をつけなくちゃ!! …今度、瞳に意味を再確認しないと!!

【佐野@空が灰色だから】
【状態】健康(普通の姿)
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:『三嶋瞳』がいる渋谷デイリーマンションに行きたかった。
2:…それだというのに、私はなぜ少年の妄想を聞かされていたんだろう。
3:それを芹沢さんたちが真剣な顔で聞いてるのが、輪をかけて怖いんだけど………。
4:【仲間】に会いたい。…できれば来生さんとも…ね。

878らぁめん再遊記3(ry ◆UC8j8TfjHw:2025/08/05(火) 22:34:58 ID:XG./maZk0
【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ】
①気づけばあと4話で三巡終了です。第四巡目は以下の通りになります。

001「サイダーガールと、ラーメンガールと…」
002「良識がちょっと足りない」
003「ヒナ・まつり」
004「うまるとでろでろ(仮)」
005「あたしのあした」
006「マルシルさんの好きなもの…だゾ(仮)」
007「風評被害ロックンロールフィーバー」
008「鴉 -巣立ち」
009「CONTINUED OVER GIRL」
010「咲けよ、二郎(仮)」
011「Delicious in Dungeon〜感電死までの追憶。」
012「巡り合う二人の『会長』」
特別回「Kung-Fu the Future ──思い出す、ふとした時に。」
013「第1回放送」

②「ヒナ・まつり」、「サイダーガールと、ラーメンガールと…」、「巡り合う二人の『会長』」の3本は筆が乗りそうな自信があるのでご期待ください。


【次回。8月12日投下。】
──最後に、お願い。
──ETの…指と指重ねるあのシーン。一緒にやってくれないかな。

──だって私たち友達じゃん!

「いいの、いいの」…マミ、うまる、デデル、山井


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