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【第1回放送〜】平成漫画バトル・ロワイヤル【part.2】
878
:
らぁめん再遊記3(ry
◆UC8j8TfjHw
:2025/08/05(火) 22:34:58 ID:XG./maZk0
【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ】
①気づけばあと4話で三巡終了です。第四巡目は以下の通りになります。
001「サイダーガールと、ラーメンガールと…」
002「良識がちょっと足りない」
003「ヒナ・まつり」
004「うまるとでろでろ(仮)」
005「あたしのあした」
006「マルシルさんの好きなもの…だゾ(仮)」
007「風評被害ロックンロールフィーバー」
008「鴉 -巣立ち」
009「CONTINUED OVER GIRL」
010「咲けよ、二郎(仮)」
011「Delicious in Dungeon〜感電死までの追憶。」
012「巡り合う二人の『会長』」
特別回「Kung-Fu the Future ──思い出す、ふとした時に。」
013「第1回放送」
②「ヒナ・まつり」、「サイダーガールと、ラーメンガールと…」、「巡り合う二人の『会長』」の3本は筆が乗りそうな自信があるのでご期待ください。
【次回。8月12日投下。】
──最後に、お願い。
──ETの…指と指重ねるあのシーン。一緒にやってくれないかな。
──だって私たち友達じゃん!
「いいの、いいの」…マミ、うまる、デデル、山井
879
:
『いいの、いいの』
◆UC8j8TfjHw
:2025/08/13(水) 15:12:40 ID:hzrHUxHA0
[登場人物] うまるちゃん、新庄マミ、魔人デデル
880
:
『いいの、いいの』
◆UC8j8TfjHw
:2025/08/13(水) 15:13:46 ID:hzrHUxHA0
東●ホテル・『四階』。──読み方にして、『しかい【死界】』。
四方八方至るところにて、ブクブクブクブクと。急性アレルギー患者の水膨れの如く、ウンディーネが上品な館内を埋め尽くす。
至極当然、この場に一歩でも踏み込めば即肉片化。死を恐れる暇もなく、鋭い水流で楽にしてくれるだろう。
言わば、この場は完全に水先案内人のサンクチュアリ《聖域》と化していた。
ただ、トゲが多い薔薇は美しいもの。
というのも、魔力の集合体であるウンディーネは、本質上ポーション同然の成分を含む。
生命力という名の棘さえ外せば、(微々たるものではあるが)十分な魔力エネルギー源となるのだ。
言わば、《聖水》。
大きなリスクを背負ってでも手に入れたい──いや、絶対に手に入れなくてはならない。
聖なる水を求めて、三人。
ウンディーネ達のちょうど死角となる階段の影にて、うまるとデデル。
「やばっ?! やばやばやば〜〜っ!!! …なんか増殖してない?! バイバインか!!」
「…フゥ。とりあえず四階の有様を知れただけでも収穫だろう、土間の小娘。──」
「──さて、ウンディーネが少ない三階にて策を練りましょうか。行きますよ、マスタ…、」
「魔人さんにうまるちゃん、とくとご覧あれ!!! …私が『ただ者』ではない証明……──宇宙のパワーを見せてさしあげよう!!!」
「は?」 「…へ?」
そして、マスター・新庄マミは、
──魔力不足により徐々に姿が薄れてゆく我が使い魔。
──砂時計にして、一握り程度の残りリミットしかない魔人デデルを救うため、
『緊急SOS/ホテルの水全部抜く』──【ウンディーネ捕獲作戦】を遂行せねばなるまいのだった。
「…そりゃマミちゃんは宇宙人()だけどさぁ〜〜」
「ただ者ではあるでしょう。ただの人間の、小娘。……全く、マスターの愚かさには飽きさせ知らずです。ほら行きますよ…、」
「「…って、あぁ!!!」」
「はぁ〜〜っ。ハァ─────────っっ!!!!!」15:12 2025/08/13
仲間の制止を知らぬ構わずで、我先に飛び出したのはマスター自ら堂々と。新庄マミ。
ウンディーネの視線というスポットライトを存分に浴びる切込隊長は、何がしたいのやら、両掌を群れへ向けて差し出す。
「ハァ────!!」「ハァ────!!」「ハアァ────っっ!!!!!」──両手に力を込め、水塊を目柱強く睨む、その彼女。
傍から見れば、R-1グランプリに現れた電波芸人のような奇行をしてみせたマミであったが、別にふざけた訳では無い。
彼女には自信があったのだ。
「はぁああああ〜〜〜〜〜…っ」
それは日々。
同級生であり『超能力』の師匠でもある新田ヒナとの訓練の日夜。
放課後、何時間も河原で石ころを動かし続けた──念動力の練習に費やした時間と努力。
その積み重ねが、もしかすればウンディーネすべてを倒せるかもしれない。根拠のないとはいえ、そんな自信がマミには本気であったのだ。
そして、何よりも、
「ハァアアア─────────っっ!!!!!」
三人の中で自分が一番偉く、凄いという【マスター】の称号を、自分自身の力で証明してみせたかった。
「破ァアアアアアアアアア─────────っっ!!!!!」
881
:
『いいの、いいの』
◆UC8j8TfjHw
:2025/08/13(水) 15:14:00 ID:hzrHUxHA0
…しーん。
──「寺生まれのtさんかっ!!」
──うまるがそうツッコんだ折、『結果』が突如として現れた。
────『結果』を言おう。
────マミの力は、本物だった。
「…え?」
「「…え」」
何せ、マミへ。そして隠れていたデデルらの元へ。
手を一切触れずして、計二十体のウンディーネが、まるで吸い寄せられたのように一斉に急接近したのだから。
「なぁあぁあッ!??」 「……くぅッ!!」
この力は『本物』だったと認めざる得ない────。
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ────
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ────
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ────
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ────
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ────
………
……
…
882
:
『いいの、いいの』
◆UC8j8TfjHw
:2025/08/13(水) 15:14:27 ID:hzrHUxHA0
◆
東●ホテル・『三階』。──韻を踏めば『安泰』。
調理ルーム/食品保管室は、冷や汗と疲れを癒すには十分なほどに冷気が効いていた。
食品保管室とは、当ホテルにおいて精肉や作り置きの品々を保管するための空間。
──その中でも冷凍必須な食品においては、保管室奥の冷凍庫ルームにて保存されることとなる。
「うぅぅ゙ぶぶぶ〜〜〜っ!!! ぐ、ぐらかったよ〜! 狭かったよ〜! ざ、ざむかったよぉおおおお〜〜〜〜…!! ご、ごへんなはァい魔人さんん〜!! 寒い寒いぃい〜〜〜……!!!」
「申し訳ありませんマスター。私は制裁には暴力を好まぬ性分でして。ただ、これで頭が冷えたご様子ですので安心しました」
「…『冷凍室閉じ込めの刑』……。うまる、普通にマミちゃんのこと殺っちゃうのかと思ったんだけど〜…」
「それだと冷凍室が気の毒だろ」
「もう〜〜…だから何それっ!!? うぅ…、寒ぃ〜〜〜…」
口では冗談を言いつつも、冷や汗を隠しきれなかったデデル。
そして、未だに顔の引きつりが収まらないうまると、冷えた上に顔も引き攣るマスター。
三人はこうして、奇跡的に調理室まで隠れ逃げた次第に至ったが、一生分の奇跡はこれにて使い切ってしまったのか不安にも至る現状である。
調理室の鉄製のドアは施錠済み。
したがって、ウンディーネはおろか他参加者さえ侵入を許されない籠城下とはなってはいる。
そう。なってこそはいるが──、
──それでも怪異が収まるまでここに留まり続けるわけにはいかないのが、一行の状況だった。
「……………まったく、誰の為に私がわざわざ使い魔をしていると思っているのだか。私はキサマら人間共の争いに巻き込まれただけというものを…」
「…あ、デデル……。あれ、ちょっと〜〜…」
「…………いつ我が身が消えようとも、私には関わりなき話だというのに…。……愚かな主だ」
「………だいぶ、スケルトン度やばくなってきたね〜…………。デデル…」
「…魔人…さん……………。…さむ」
「…………ふっ、くだらん」
刻。刻一刻と過ぎ、徐々に空気へと溶け込んでいくデデルの身体。
その手にあるランプの中は、すでに干上がり、わずかな水滴が底にしがみつく程度。
残り少ない魔力が、透けてゆくデデルの姿を何より雄弁に物語っていた。
まるでスマホ充電の残り10%時のように、何もせずとも魔人の身体は脆くなり続けていく。
「……ねぇデデル〜…。どうにかしてさ……てかワンチャン、ほっといても勝手にランプに魔力チャージされるとかない? 自然回復〜〜…みたいなぁ〜〜?」
「…全く怠惰な土間だな。ただ、着眼点は悪くない。確かに時間をかければ、空気中の魔力で少しずつ回復することもある」
「え、うそっ?! それなら下手に動く必要もないじゃん!!! 楽チンで楽チンでうまるもダラダラ〜…、」
「586,920時間37分後。…人間時間でそれくらいになる見込みだな」
「………えぇ…。なにそのロー●ンメイデンでしか聞かない時間の長さ〜〜…………」
その為、調理室に逃げ隠れはすれど休息の時間も無く。超一般人であるうまるとマミは、どうにかしてウンディーネ捕獲作戦の明確プランを練らねばならぬのだった。
「…………マミちゃん」 「ぅ、うまるちゃぁ〜ん…」
「…………………」
883
:
『いいの、いいの』
◆UC8j8TfjHw
:2025/08/13(水) 15:14:43 ID:hzrHUxHA0
三人は互いに目を合わせあい、覚悟に似た共通認識を巡り流す。
「…ごほんっ!! えーではでは………」
\うまるーーん/
〜緊急うまる超脳会議!!〜
~また私は如何にしてウンディーネを手に入れ魔人を救わねばなるまいか。~
ーGenie's Strangeloveー
……
…
A『お兄ちゃんへのプレゼント、又は宴のつまみ…と、これまで幾多のうまるん会議を開いてきたものですが。…ですがッ!!!──』
A『──今回ばかりは本当に人生最大の危機なため、皆、真面目モード100%で望んでいただきたい!! うまるの諸君!!!』
B『はーい!!』 J『はいはいはい!!』 G『はーいぃ〜!!!』
A『今回は特別に参考人聴取として、以下の面々を会議室にお呼びしました!! まずは当の本人、デデル氏!!!』
「……おい土間の小娘。なんなんだこれは? まずこの会議自体がふざけ全開100%だろう」
A『…ごほん、参考人は静粛に!! 続いては、第二の参考人として〜、我らがリーダー・新庄マミ氏に…、』
「あっ!! ほら見て二人とも、いい? 月刊マー145頁によるとさ、CIAが魔物を密かに製造しているという証拠があるんだよね…。つまりは、魔物…ウンディーネ対策としては〜…、」
「……」 「…………」
C『…議長、なんだか外野が騒がしいですがいかがなさいます?』
「無視は健康に良いぞ」
A『はいその通り!! では以上、一名の参考人と共に、これから全うまるには慎重かつRTAに結論を辿ってほしいものであります!! ではどうぞ!!』
E『はいはいはい〜!!! 私、うまるEとしては、電気で感電させて捕える方法を推奨します!!!』
M『…え、水だから??』 B『んな安直な…』
E『安直とか関係ないでしょ!! とにかく魔人の力を使って「百万ボルト〜!!」とかやれば解決じゃん!! …じゃない……?』
「そのような力すらも残ってはないとは、言うまでもないよな?」
E『…さ、さ〜せん〜……』
C『いやそもそもの話さ! 案を出すにもまず前提が整ってないよ!! なにせ相手は水!! 触れない・運べない・触れたら即ゲームオーバー!! 凶暴で掴みどころない相手なんだからねっ!!』
M『水だけに掴み所がないだってさ〜』 G『ほら、ここ笑いどころです!! ひひひ〜』
「………………ぃッ」
──指パッチン
M『』 G『』
C『…と、ととと、というわ…けで……! な、何が言いたいかと…申しますと……デデル!!』
「……なんだ」
C『ウンディーネには何か弱点がないの?! うまるはそこからヒントを得たいわけ!!!!』
一同『『『『『そうだ、そうだ〜!!!』』』』』
「…………弱点か」
A『ねえ、何か…ない? 参考までに水タイプは草と電気に弱いよ〜? …ポケ●ンの話だけどさ……』
「………………。──」
「──…【熱】に弱い。…との伝来は残っているな」
884
:
『いいの、いいの』
◆UC8j8TfjHw
:2025/08/13(水) 15:15:09 ID:hzrHUxHA0
B『え、熱?!』 C『つまりは火??』 T『ほのおタイプがみずタイプに勝つ天地返し状態?!』
「…火……、…いや『熱』と言ったほうが今は正解か。貴様ら人間も、川の水を煮沸して飲む探検家を見たことがあるだろう。それと同じで奴らも熱消毒には弱いのだ。──」
「──…もっとも、聞き及んだ話にすぎんがな」
A『………………』 C『…………』
A『………だったらさ…………』
…………
………
……
…
「────…ってゆう『作戦』はどう? デデル!」
「…………」
「…うまるちゃん、ちなみにだけどその作戦。わたしの月刊マーの知識どれくらい取り入れた?」
「え、ゼロ。……でさ、役割分担としてはうまるがまず〜…」
「……土間……」 「さらっと流したよォうまるちゃんめぇええ〜!!!」
立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花。
曲がりなりにも、完璧美少女であるうまるだ。彼女も本気を出すとなれば、ものの三分で完璧な『捕獲案』を練りだしてみせた。
もはや成仏しかけの幽霊同然、透明さの極致に達したデデルを救う。──いや、自分達が救われる為の、完璧な作戦。
それは、デデルが主体となり、うまる、マミと三人全員の団結の元。
多少の生命的リスクは背負うものの、──勝算は見込める作戦だった。
単純な観点からは、緊迫した現状で導き出した、最良の策といえようものだ。
「…それでマミちゃんの役割は〜〜…、」
「……私は貴様を見くびっていたようだな、土間」
「へ?」
「まず初めに貴様がここまで頭が回る生物とは、不覚にも今悟ったものだ。………それともう一つ。──」
「──見た目に反して中々に『悪魔』な作戦じゃないかっ…。……ここまで私を明確に『道具』扱いするとは。………鬼畜めッ」
「………うん、そうだね。自分で言うのもアレだけど…うまる、結構鬼だと思うし。──」
「──でもさ! あっちが鬼モードで来てんだから、こっちだって鬼らしさを発動しなくちゃ!! でしょ?」
「……………」
「それに、シューティングゲームの鬼モードでは、『敵機が大量に来た場合は、BOMBを使わず一匹一匹倒していく』…。──これが上級者ムーブなんだからさ…っ!」
「………やれやれだ」
──ただ、その策の説明を以てして、デデルは難色を隠し切れない表情であった。
885
:
『いいの、いいの』
◆UC8j8TfjHw
:2025/08/13(水) 15:15:26 ID:hzrHUxHA0
◆
………
……
…
【ウンディーネ捕獲作戦】
【ウマル作戦】
────始動。
三階廊下。
館内案内図によるとレストランやスポーツジムなどが併設されているこの階にて、──現在ウンディーネは一体のみ。
もっともそれはあくまで目に見える範囲の話。
他にもどこかで密かに蠢いている模様だが、──ただ、デデル曰く「魔力反応はこの階だと三体ほど」とのことだ。
1/3。
────たまたま群れから離れ、孤独に漂い続ける一体のウンディーネ。
これは偶然か、あるいは奇跡か。
うまる立案作戦のために用意されたかのような、格好の実験体だった。
銀扉のガラス越しに、ゆらゆらと不規則に漂うウンディーネを覗き込む三人。
「…じゃ、……そゆわけで〜…──うまるーんっ!!」
「………」 「わ、わぁ……」
当作戦において、切り込み隊長を名乗り上げたのはうまる。
動きやすいようJKモードに変身した後、立案者自ら表舞台へと望む。
「……………すぅ……」
うまるは、一呼吸。息を整える。
正直なところ──先陣を切って生き残れる自信なんて、うまるにはなかった。
身体の震えを抑えるだけで精一杯だ。
どこぞの脳内お花畑月刊マー少女みたいに、死の恐怖を感じず突っ込めたら楽だっただろうに…と、うまるはこの瞬間ばかりは、自分の妙に回る頭を恨んだ。
恐怖が心臓を揉みくだして、はち切れそうだった。
「……はぁ…………。──」
「──じゃ、……あとはよろしく〜。デデルにマミちゃん!」
「…………」 「………うまる…ちゃん……」
だが、自分以外にやれる者は該当しないため、────ならば動き出すしか無かったのだ。
バタンッ──
「うおわァアアアアアアアアアアアっっ!!!!! なにがウンディーネだこの水ヤロォオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!!!!!!」
〜【行動その①】〜
──囮となったA(※うまるが該当)が、ウンディーネの前に飛び出す。
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ────
「うわ!! あぶなっ!! …く、くおおおおおォオオオオオオオオオ!!!!!」
【備考】
──※なお、囮は卓越した運動神経を持ち、ウンディーネの水刃を軽々と避けられる者が望ましい。
「よっ…!! あらもっかいよっと!!!」
ガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ────
ガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ────
「……さらにもっかいよっと!!!」
ガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ────ガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ────
「はぁはぁ…。──……へへへ…!! なんだかちょっと楽しくなってきた自分に驚いてるんだよね〜(ひ●ゆき風〜〜)…なんちって。はぁはぁ……。──」
886
:
『いいの、いいの』
◆UC8j8TfjHw
:2025/08/13(水) 15:15:44 ID:hzrHUxHA0
「──じゃ、今だ!!! 準備!!! デデル〜〜…Fightッ!!!」
「………やれやれ。…この重労働は労災が下りるものやら……。──」
「──まぁ魔人である以上、務めを果たすまでですがねっ……!」
バタンッ──
〜【行動その②】〜
──その後、Aと交代で鉄鍋を持ったB(※デデルが該当)が飛び出し、ウンディーネのウォーターカッターを正面から受け止める。
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ────
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ────
ギギギギギギギィィイィイィィィィィッッッ
「ぐぅうッ…!!!」
「ま、魔人さん…!!!」 「はぁはぁ……。だ、大丈夫?! デデル!!!」
「…………ご心配なくッ…というよりも黙ってください…マスター……ッ。ものの数秒の…忍耐ですからッ……!!!」
ギギギギギギギィィイィイィィィィィッッ
【備考1】
──※なお、Bは三人の中で腕力、そして体力が一般人以上。並外れた力の持ち主が望ましい。
──※ウンディーネのウォーターカッターは、レンガブロックも刹那に切り裂くパワー。
──※1000km/hの剛速球をしっかりと鉄鍋に受け止める。強靭なブロック力を持つ者でないと遂行には難しい。
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ────
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ────
ギギギギギギギィィイィイィィィィィッッッギギギギギギギッッ
メキメキメキメキバキバキバキバキバキバキバキッ
「ぐぅがぁッ!!! ぐぅううッ…!!!!」
「え、…ちょ、ちょっとまずくない……?? え、本当に平気なの?! デデル!!!」
「ぐうッッ………!!!!!!」
「な、なんか…すごい勢いで凹んでるけど………。ほんとに大丈夫?! …これは鍋的な意味も含まれてるからね?!」
「……ッ。………土間の小娘、一つ…ッ、聞きたい……」
「へっ?!!」
「…何故………ッ、キサマが……囮役を志願したのだ……ッ? ……マスターはともかく……私が囮と捕獲役の二重を兼ねても……良かった筈ではないのかッ……………?!!」
「え、…え。そ…そんな、理由なんてそんなの………。──って今ど〜でもいい質問してる場合はないでしょ!!! そんな余裕は…、」
「余裕なら────…十分にある」
ガガガガガガ…………
ガガ、ガ………
ぽちゃん、ぽちゃん……
「………え?」
887
:
『いいの、いいの』
◆UC8j8TfjHw
:2025/08/13(水) 15:16:03 ID:hzrHUxHA0
【備考2】
──※ウンディーネは小さな個々の『水の精霊』が集まり、球状の形を成した存在。
──※つまりは、代表的攻撃である『水流攻撃』は、厳密には体当たり《アタック》。
──※自らの身体を相手へ目掛けて突進、移動してくる形とも言える。
「…あまり魔界の力を見くびるなよ。人間の小娘に…魔物風情がっ………」
【備考3】
────※即ち、鉄鍋で忍耐強く受け止め続ければ、ウンディーネ丸々一体、手中の内も可能。
ちゃぽん…
ちゃぽん…
ガガ…ガガッ──…
「お、おおっ!!!」 「さすがはこの私の魔人さん!!!──」
【行動その③】〜
──急いでもう片方の鉄鍋でウンディーネを閉じ込め、キッチンまで急ぐ。
ガシャンッ
「──す、すごい!! やばいよねうまるちゃん〜!!! ついに…ついにここまで来たんだよ! なんて…なんて凄いんだ……! これはもはや人類の選別カウントダウンに似た光悦だよ!!」
「「黙れッ!!! 口よりも手を動かせ!!! マスター(マミちゃん)ッ!!!」」
「あ、…え、えぇ……。あっ…そっか!!」
ガンッ、ガンッ、ガンッ、ガンッ──
【備考】
──※この際、閉じ込められたウンディーネは激しく暴れるため、押さえ込みは全力で行うこと。
〜【行動その④】〜
──Bが来る間、C(※マミが該当)がガスコンロから火を付け、待機。
「マミちゃん急いでっ!!!」
「わ、分かってるから〜…!! どれどれ……──ポチっと」
──ピッ
「点いたよ!! 魔人さんっ!!!」
「………ありがとうございますマスター…!! さて、ここからが一番の…、」
〜【備考】〜
──※少しでも早く煮沸できるよう火力は『強火』が望ましい。
「…って、IHで鉄鍋に火が通るかァッ!!! この小娘がッ!!!!!」
「え…?! え、えぇー……?!! 魔人さんの…マジギレ………」
「……〜ぃッ!!! あぁもういい!! ──…ほらデデル!! 火つけたから!! こっち使って!!!」
「くぅッ!!!──」
ガンッ、ガンッ、ガンッ、ガンッ──
バンッ、バンッ、バンッ、バンッ──
「──では、行きますよ……ッ」
「…うんっ!!!」 「…あ、ぁう……」
888
:
『いいの、いいの』
◆UC8j8TfjHw
:2025/08/13(水) 15:16:19 ID:hzrHUxHA0
シュウウウウ…………
ジュウゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウゥゥゥゥッッッッ
「ぐうッッ!!!!」
〜【行動その⑤】〜
──火のついたガス台に鉄鍋を据え、ウンディーネが死滅するまで熱し続ける。
ジュウゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウッッッッッ
ガンッ、ガンッ、ガンッ、ガンッ──
バンッ、バンッ、バンッ、バンッ──
「がぁああァァァァ…ッ!!!!」
「で、デデル…!!!」 「わ、わわ‥!!!」
〜【備考1】〜
──※ウンディーネが死滅するまでの間、どれだけ鉄板の熱さが酷くなろうとも。
──※どれだけウンディーネが暴れ回ろうとも。
────※そして、どれだけ掌が焼け爛れようとも。
──※決して手を離してはいけない。
ジュウゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウッッッッッ
ゥゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウッッッッ
「………ぐぅが…がぁアアアアアアアア…ッッ!!!!!!」
〜【備考2】〜
────※全ては、作戦遂行の為に。
ガンッ… ガンッ… ガンッ… ガンッ…
ガンッ! ガンッ! ガンッ! ガンッ1
バンッ!! バンッ!! バンッ!! バンッ!!
「アアアアアァァァァアアアアアアッ…!!!!!!」
「…あ、あぁ……」 「デデルッ!!!」
「うっがああああああああああああああああああアアアアアァァアアアアアアアアアアアアアァァアアアアアアッ────」
────バンッ──────。
【以上】
──全ての行動を遂行した際、『うまる作戦』は成功と同義となり、
──【ウンディーネ捕獲作戦】、【ウマル作戦】は終了とする。
………
……
…
889
:
『いいの、いいの』
◆UC8j8TfjHw
:2025/08/13(水) 15:16:32 ID:hzrHUxHA0
◆
…
……
【ウンディーネの白湯】
・ウンディーネ────適量
1:ウンディーネを煮沸させる。
[エネルギー]
[タンパク質]
[脂 質]
[炭水化物 ]
[カルシウム]
[鉄 分]
[ビタミンA]
[ビタミンB2]
[ビタミンC]
……
…
890
:
『いいの、いいの』
◆UC8j8TfjHw
:2025/08/13(水) 15:16:48 ID:hzrHUxHA0
◆
「……やれやれ。これだから興味深い物だ、人間という生き物は…」
「え? デデルなんか言った〜??」
「……いや、気にするな。たかが独り言だ、うまる」
三階/冷蔵ルーム。薄暗い室内にて。
山積みのブラジル産鶏肉の段ボール箱に寄りかかる魔人・デデル。
今の彼の身体は、箱に刻まれた『消費期限 七月九日』の文字が霞みがちに映る程度には、透明から色を取り戻していた。
右手に持つランプを揺らせば、中でチャポンチャポンと魔力が波打つ。
ほんのショットグラス一杯ほどの、かすかな量ではあるが、彼の『タイムリミット』はか細くも延ばされた形となっていた。
「……フっ…」
らしくもない──と。自分の掌を見て自嘲する魔人。
自らの肉体的苦痛と引き換えに、成功へと終わったうまる流ウンディーネ作戦であるが、考えてみれば参加する理由はデデルに無いのである。
願い事を叶える魔人──とはいえ、この作戦は主の願いから来たものではない。
身を削り、焼ける痛みに耐えても、その対価となる報酬は何一つ存在しない。ゆえに、進んで臨む道理など、本来あろうはずもなかった。
“それだというのに、何故自分は、ランプの魔人らしからぬ行動をしたのか”────。
朧げながらジンジンと未だ熱さを覚える右掌へ、デデルは静かに笑みを浮かべる。
「…あれ? もしかしてまだ痛む感じなの? 魔力戻ったからしたはずじゃんか、回復魔法で…、」
「いや。貴様も何千年間生きれば悟ってくるものだ、うまる。…大人というものはな、理由もなく何かを眺め、ただ物思いに耽る瞬間がある」
「ふ〜〜ん。とりあえず次の願い事は『うまるとお兄ちゃんの寿命五千年にして』で決定だね〜〜。一生ダラダラしたいよぉ〜〜〜〜」
「…まったく貴様は……。フッ……。──」
うまるは敢えて触れずにはいたが、作戦終了を機にいつの間にやら、呼称が「土間→うまる」へと変わっていた。
この呼称グレードアップの裏腹には、辞書で引くところの『ある二文字』が込められているのだろうが、
魔人は果たしていつ、その意味に気付くことになるのだろうか。
『信頼』という、単純な二文字が──。
「──……さて、そろそろ面倒事を片付けるとするか…。貴様にも働いてもらうぞ、うまる」
「……はいは〜い。はあ〜〜…めんどくさい〜………。──」
ばん、ばん、ばんっ
「──おーい!! マミちゃ〜ん!! そろそろ出ておいでってば〜〜!! ほらほら、そんなとこ寒いでしょ?」
「…うっ、うぅ……。やめて!! は、話しかけないで…!!」
「はぁ……。マスター、もう分かりましたからそろそろ開けますよ。誰も貴方を責めてなどいませんから」
「だ、だから話しかけないでってばぁ!!! …ひぐ、うぅっ………。お願い…だから…。──」
「──ひとりにしてよ…………。うっ、う………」
「……はぁ…………」 「……駄目だこりゃ…」
──ただ一方で、その『信頼』が深まるほどに、心を抉られていく者もいる。
うまるとデデル──二人の間に芽生えた信頼関係。
────自分一人を除いた、その信頼。
891
:
『いいの、いいの』
◆UC8j8TfjHw
:2025/08/13(水) 15:17:04 ID:hzrHUxHA0
場所視点を移そう。
うまるらが今身を置く冷蔵ルーム、そこを区切る分厚いドアの向こう側にて。
体育座りで冷え切る身体を縮こませながら、涙ぐむ少女が一人。
氷点下の冷気と比例するように、心までどんどん冷えきっていく彼女は、
・『IHクッキングを点けてしまった際、うまる&デデルの苛立ちが傷ついた』──が、一割。
・『作戦の最中、自分だけ何もできず、無力感に苛まれた』──が、一割。
そして、
・『自分が一番偉い【マスター】な筈なのに……三人の中で足手まといなのが……辛い』──が、八割の内訳で。
「ぐすん……ぐすんっ………。う、うぇっ……ぇ………え…っ………………」
「「……」」
マミは、先程から冷凍庫ルームに引きこもっていた。
「…まぁ引きこもると言ってもこちら側から開けられるものだがな、冷蔵庫同様」
「…ねえマミちゃん分かるかなぁ……。そのドア、マミちゃんの側だと絶対出ることできないんだよ……? ほっといたら凍死しちゃうじゃん…」
「……え? ……うぅ〜…だ、だからぁ!! わたしのことなんか構わないでって!! ……もう〜っ………」
「…やはり人間はコリゴリな気がしてならない」
「まぁまぁデデル〜…。じゃ、お望み通り放置プレイでいこ〜よ。ね」
「そうだな。…ではマスター。一時間後、生存確認しに参りますのでその時までお休みください」
そりゃマミも寒いだろうが、うまるたちも冷蔵ルームの空調はなかなか堪える。
ドア奥から響いた「えっ?!」という声を無視して、うまるらは冷蔵ルームを後にしていった。
二人の共通認識を直球で示すとするなら、──アホに構ってる暇はまだ無いのである。
三階/調理室。
干物妹モードで調理台に寝転がるうまると、掌を再度眺めるデデル。
火傷一つ残らず治癒しきった──半透明な掌を眺め、デデルは憂いのため息を漏らしていた。
「…ちなみにだが、うまる。貴様の性格上、少し褒めてやればすぐ図に乗るだろうから、先に落としておくぞ」
「………うわぁ〜…今脳裏に走ったよ〜…。テロリン♪──って名探偵メガネくんみたいに…嫌な予感がさぁ〜………」
「十八点。貴様のウンディーネ捕獲プランは十八点だ」
「…一応聞こっかな。何点中…っ??」
「五京二千三百八十六兆七千五百十億三千二百五十一万…、」
「あぁもうストップストップ!!! わかったから〜!!! …てか絶対適当数字でしょっ!!──」
「──つまりはこう言いたいんだね? ────『二度目は通用せんぞ』……的な〜?」
「…今度は百点満点の回答だ。ただ一つ減点ポイントを考えるとするのならな?──」
「──『一度目で終わらせる策』も添えて、答えてもらいたかったものだ」
「………うん、う〜ん…」
大勢が敵なら、まず一人ずつから────それがモットーのうまる作戦。
一応は成功に終わったものの、欠点の多さゆえに一概に『成功』と括るのは難儀な話であった。
それは、簡単にまとめるなら、『一回きりなら成功と言える作戦だった』──という故である。
ねずみ算ならぬ『ウンディーネ算』で考えた所、現在ホテルには総勢二十六体。それぞれ一階から四階に分散されているとデデルは語った。
一方で、デデルの魔力残量はパーセンテージにして現在18%ほど。
ウンディーネ一体のみで二桁台に魔力度合を乗せたため、単純計算すれば十数体分の魔力がランプには必要となる。
従って、必要分以外のウンディーネは構わずとも良いのだが、今後の身の危険を考え(──というより山井恋への嫌がらせも兼ねて)、うまるらは全員捕獲との結論に至った。
892
:
『いいの、いいの』
◆UC8j8TfjHw
:2025/08/13(水) 15:17:18 ID:hzrHUxHA0
そう。二十六体分。
四階分を往復しながら、チマチマと二十六体を熱しなければ事態の解決には至らないのである。
──今のプランのままでは。
「…たしかにうまるも体力的にムリだし〜……。…デデルの手も…ね。一回ごとに回復タイム設けるとはいえ、そんな回数火傷させられるとなりゃ〜………もう懲役三十日みたいなもんじゃん」
「…懲役三十日……。世にも奇妙のか」
「えぇ…知ってんだ…。魔界にもフ●テレビ映るわけ〜??」
「………朧げな記憶の残滓だ。そうそう、奇妙といえば我が愚主《マスター》も、二十六回必ずキッチンコンロを点けられる保証はない。──」
「──すべては奴らの弱点である【熱】を突こうとした、この私が浅慮であったのだ………」
「…今気付いたけど、マミちゃん相当マスター特権()で忖度されてる作戦だよね〜……これ〜〜…」
『熱』という弱点を度外視した、新たなプラン。
果たして『新たな作戦立案』という光明は見えるのだろうか。
ちなみにだがデデル曰く、残りの魔力で叶えられる願いはあと一つ。
先程、うまるは「だったら全部のウンディーネここまでワープさせればよくない?」と言いかけたが、──すぐさま口を閉ざした。
分かっている。喋ろうとした瞬間、頭をよぎったのだ。
「その量のウンディーネを一体誰が熱するというのだ?」や、「その量を収められる鉄鍋をどこから用意する」や、
────「…魔力が少し回復した瞬間、真っ先に『ポテイトとコーラ出して〜』と願った貴様が言うかッ…?」等と、恐ろしいロジハラの嵐を。
──バリバリッ…
「どうした、食え。中々に美味いぞ、このポテイトとやらは」
「い、いや………。違う意味でお腹いっぱいです…。…我がデデル様…………」
──ゴクゴクッ…
「あぁ、コーラとやらも実に美味い。…これだけの味なら、貴様が癖になるのも無理はないなァ?」
「………は、ハハ…(こわっ?! 思い出したかのように怒ってヒートアップしてるよぉ〜〜!!!)」
なんだか干物妹モードだと、やたら機嫌が悪くなる我が魔人であるが──それはともかく。
一体どうすれば。
ウンディーネを捕まえる手段は、他にはあるのか。
どうすればこの危機から、──この居心地の悪い空間からおさらばできるというのか。
かつて、アイザック・ニュートンは空から落ちたリンゴをきっかけに万有引力を見出したものだが。
──ならば今この瞬間、うまるの頭にも『リンゴ』という名のヒントがぽとりと落ちてこないものか。
「…う〜〜〜ん………」
「…まったく………」
うまるはノーベル化学賞に匹敵する頭脳を、心の底からレンタルしたい気分であった。
893
:
『いいの、いいの』
◆UC8j8TfjHw
:2025/08/13(水) 15:17:31 ID:hzrHUxHA0
────ただ、いくら頭を捻ろうとも、難題《壁》は容易く崩れず、越えることもできない。
────人は思索を深めれば深めるほど、かえって袋小路に迷い込む性質を持つ。
────しかし、それでも私は『考える』という営みを無益だとは断じない。
────成功する者とそうでない者の差は、努力や才覚ではなく、『考え方』だ。『考え方』さえ変えれば、閉ざされた扉も驚くほど容易く開くのだ。
────私が何事かを案ずるとき、必ず考えておく事項がある。
────“それは、もう既に『忘れてしまった物事』について、考えるのだ”。
(哲学者 アイザック・ニュートンの遺稿より)
バタンッ──
「話は聞かせてもらったよっ!!! うまるちゃんに魔人さん!!!」
「くっ?!」 「わ、ビックリしたぁ?!!」
冷蔵ルームのドアが突拍子もなく開かれた。
「M●Rのキバヤシかっ!! …また古いネタをあんさんは…」──この時うまるが冷静だったのなら、そうツッコんだ事だろう。
驚嘆を隠しきれないデデル、うまるの両視線の先。
そこに立っていたのは──────【“魔人に忘れ去られていた冷却少女”】。
「いい!! UMAるちゃんの作戦なんかよりも、わたしの方が50,238,675,103,251万倍すごいってことを…このわたしが……──」
「………マスター…?」 「ま、マミちゃん………?!」
──新庄マミは、全身至る所に霧氷をつけ、誇張してるぐらいにガクガク震えながら、──颯爽と現れた。
顔色も悪い。手に持つ月刊マーなんか完全に凍りきっている。
イメージとしては『SAW3』の氷漬けにされた女性に近い姿で、我らがマスターは現れたのだが。
──だが、その表情だけは、いつもの倍以上の熱量を放っていた。
「──マルっとズバっと見せつけてあげるんだから!!! だから聞いて!!!──」
「──わたしなりの…【ウンディーネ一括捕獲作戦】を!!!」
「…………え?」
────事実、デデルらはこの後、二十五体全てのウンディーネを手にすることとなる…………。
894
:
『いいの、いいの』
◆UC8j8TfjHw
:2025/08/13(水) 15:17:51 ID:hzrHUxHA0
◆
【BGM】
ttps://youtu.be/9IOZNfDpRek?si=mlQqNmr0UYitMxQZ
用意された習字用の筆と、何枚にも重なる紙──。
うまる、デデル両名の視線が集中する中、マミは第一投を紙へとぶつける──。
閃きのきっかけは、ドアだった──。
一通り泣きはらし、切り替えの意を込めて超能力()の練習をした際──、
内部からは絶対に開けられないはずのドアが、突然、後方へと倒れてきたのだ──。
「はァア──────っ!!!!」
「和田アキ子かっ〜〜!!」
スラスラスラ──。
…《回想》…
マミは、先程から冷凍庫ルームに引きこもっていた。
「…まぁ引きこもると言ってもこちら側から開けられるものだがな、冷蔵庫同様」
「…ねえマミちゃん分かるかなぁ……。そのドア、マミちゃんの側だと絶対出ることできないんだよ……? ほっといたら凍死しちゃうじゃん…」
…《回想》…
一枚目ッ────【ドア】。
無論、これは念動力が実を結んだ結果ではない──。
老朽化により自然と壊れたまでであるのだが──。
『ドア』が床に倒れ伏せたその時。マミの脳裏に【閃き】が走った──。
スラスラスラ──。
…《回想》…
『単刀直入に申しますと、皆様には『最後の一人になるまで殺し合い』──をしていただきたく集まってもらいました……!』
そう言い終わると、利根川は持っていた頭を適当な方向に投げ捨てる。
…《回想》…
二枚目ッ────【バトル・ロワイヤル】。
「マスター…これは一体……」
「へぇ〜……フジは映るのに、TBSまでは入らないんだ〜デデル。魔界のテレビ事情ってさ!」
「は?」
「…ま、見てなってば〜!!」
スラスラスラ──。
…《回想》…
「…………弱点か」
A『ねえ、何か…ない? 参考までに水タイプは草と電気に弱いよ〜? …ポケ●ンの話だけどさ……』
「………………。──」
「──…【熱】に弱い。…との伝来は残っているな」
…《回想》…
「はぁっ!!!!」
三枚目ッ────【弱点:熱】。
895
:
『いいの、いいの』
◆UC8j8TfjHw
:2025/08/13(水) 15:18:07 ID:hzrHUxHA0
…《回想》…
〜【備考】〜
──※少しでも早く煮沸できるよう火力は『強火』が望ましい。
「…って、IHで鉄鍋に火が通るかァッ!!! この小娘がッ!!!!!」
「え…?! え、えぇー……?!! 魔人さんの…マジギレ………」
…《回想》…
「はぁっ!!! …はぁ……ぁ………」
「あ、多分嫌なこと思い出して萎えたっぽい」 「…………マスター…」
スラスラスラ──。
四枚目ッ────【弱点:強火!!!】。
…《回想》…
そう。二十六体分。
四階分を往復しながら、チマチマと二十六体を熱しなければ事態の解決には至らないのである。
──今のプランのままでは。
…《回想》…
スラスラスラ──。
五枚目ッ────【チマチマ】。
…《回想》…
「…やはり人間はコリゴリな気がしてならない」
「まぁまぁデデル〜…。じゃ、お望み通り放置プレイでいこ〜よ。ね」
「そうだな。ではマスター。一時間後、生存確認しに参りますのでその時までお休みください」
…《回想》…
スラスラスラ──。
六枚目ッ────【コリゴリ】。
「……ふぅ…!!」
ここまで書き表し、マミは一旦筆を置く。
弘法筆を誤る──という諺に失礼なくらい、汚い字の習字たちを並べていくが。
極めつけに、最後の一書き──。
「はぁっ!!!!!!!!」
「織田●道か!! G●NTZの仏像に殺されたやつ!!!」 「……うまる、貴様も何故一々ツッコむ必要がある?」
スラスラスラ──。
七枚目ッ────【土間 うまる】。
「……なんだマスター。そのチョイスは…」
「いや分かったよ?! うまる、その意図もうバッチリ読めちゃったからね?! だってこの後マミちゃんが何をしだすか…、ドラマ見てるから履修済みだもん!!!」
「なんだそれは。おいうまる、詳しく説明しろ」
「そ、そりゃ……。『うまるのこと憎んでるから』──でしょ?! ねえっマミちゃん!!!」
「…へへっ…!!」
896
:
『いいの、いいの』
◆UC8j8TfjHw
:2025/08/13(水) 15:18:21 ID:hzrHUxHA0
文字が書かれた紙を全て一纏めにしたマミは、したり顔に似たバカらしい笑みでニヤリと。
うまるを一瞥した後、紙を両手でビリッ。
破いては再度まとめ、ビリッビリッ、さらにビリッ。両手で破けないとなれば足で踏み、ビリビリビリビリッ。
七枚すべてを破き切ったその後──。
「………」
「はぁ!!!」
──習字の紙吹雪を、両手で勢いよく撒き散らした。
「……いただきました…!! …題して──【ウンディーネ捕獲作戦 in マミ】…!!」
「………はい…?」
「──主から魔人へ。令呪を持って命じます…!!──」
「──作戦に伴い、わたしの願い事を一つだけ………叶えてほしいんベェへックシュンッ!!!!」
………
……
…
897
:
『いいの、いいの』
◆UC8j8TfjHw
:2025/08/13(水) 15:18:38 ID:hzrHUxHA0
◆
ウンディーネとは、水の『塊』。
四階廊下。
館内案内図曰く豪華なプールサイドが併設されているとのことだが、そんな案内図を読む暇もなくウンディーネが漂う。
その数実に二十体。二十体もの殺戮水生物が漂っているのだから、もはやプールサイドというより人食サメの水族館の併設だ。
20/25。
──人が絶対踏み込んではいけない縄張り地帯にて。
一匹。
そして、また一匹と。一匹と。
──ゴトンッ
──ボトンッ
なんの前触れもなくして、ウンディーネは次々に生命活動を停止。
文字通りの『塊』が床へと落ちていった。
「う、ゔぶう…〜〜うぅぅぅぅ…!!!! 寒いよぉお!! 夏なのにぃ〜夏なはずなのにぃ〜〜〜!!!」
「…作戦立案者がそんな情けない姿みせなさんなってマミちゃん〜!!」
「うぅうう〜……。分かってるから!! んじゃあ…ごほんっ!──」
「──うまるちゃんっ!! そして魔人さんっ!! 本時刻を以て作戦始動────開始!! 行くよっ!!!!」
「らじゃぁアアアアー!!!」
「……やれやれだな。………これだから人間とは…、──」
「──実に興味深い生き物だっ……!」
【ウンディーネ捕獲作戦】
【マミ作戦】
────始動。
〜【行動その③】〜
──三人協力して、ウンディーネを回収。後、粉砕。
──ヒョイッ
「おもっ!!? …いや予想はしてたけどさぁ〜〜……。とにかく重っ!!!」
「うぅう〜ガクガクガク〜〜!!! 寒いよ冷たいよ重いよぉ〜〜〜〜!!!!」
「…だから申し上げたはずです、私一人で運ぶと。…にも関わらずあなた方は聞く耳すら持たなかった…。…せいぜい頑張ってください」
「……うぅう〜〜〜………。『鬼めっ…』とは言えない立場なのが悔しいぃ……。──」
「──で、でも…。でもだよ!! …デデルっ!!」
「……なんだうまる」
「…そりゃ出会って何時間も経たない…お互い信頼しあってるかと聞かれたら即答はできない関係性だよ…。うまるらは……。──」
「──でも!!! それでも…一人だけに重労働任せるなんて…!! そんなのできないから!!!」
「……」
「…薄っぺらくたっていいさ!! 信頼関係乏しくても構わない……!! それでも…うまるらは…三人は『仲間』なんだから!!!──」
「──さっきの作戦の時、『何故キサマが囮役を志願したのだ?』ってデデル訊いたでしょ…?──」
「────これがその答えだよっ!!」
「…………。………ほう。──」
898
:
『いいの、いいの』
◆UC8j8TfjHw
:2025/08/13(水) 15:18:52 ID:hzrHUxHA0
〜【行動その②】〜
──ウンディーネが『凍りつく』のをただひたすら待つ。
【備考】
──全てが氷塊と化す、その時まで。実行者A、B、Cは忍耐するのみ。
「──陳腐ではあるが心には響く回答ではあったぞ、うまる。──」
「──…ただ一つ。願わくば、その発言がワ●ピースからの受け売りでないことを祈るまでだがなっ…!!──」
「──…しかしお任せください、マスターにうまる。……魔人とて、ただ傍観するだけでは飽き足らぬ時があるのですから……っ!」
ふわっ…
「おお!! ウンディーネの塊が浮き上がったよ〜!!! しかも全部! 全部!!! さすがわたしの魔人さん!!!」
「しかも魔界は間違いなくフジテ●ビが映るご様子だ〜い!!!」
〜【行動その①】〜
──B(※デデルが該当)に、
────『一階から四階まで。つまりウンディーネがいる全ての階の温度を【氷点下零度】にして』と願い事を頼む。
【備考】
──※ウンディーネは【熱】に弱い魔物。
──※熱とはすなわち【温度】と意味合いではイコール付けられる。
────※水の融点は『零度』である。
………
……
…
「じゃあ行くよ…!! うまるちゃんに魔人さん!! せーの!!」
「…いや、何が『せーの』ですか? 貴方一人でやる作業でしょうに」
「あ〜〜もういいからさっさとやっちゃって!! 我がマスター・マミ様!!!」
「はいはい!! 【アルティメット〜〜…──」
「──かき氷作戦】!!! おりゃああぁぁぁぁぁああああああああああああ!!!!!」
ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリッッッ────
ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリッッッ────
〜【行動その④】〜
──全回収後、調理室に戻り、『かき氷機』で氷のウンディーネを粉砕。
【備考】
──※氷の刃がきゅるきゅると唸り、透きとおる粒がほろほろと崩れてゆく。
──※砕かれたばかりの雪のような氷片は、ふわりと舞い、涼やかな音を立てながら器へ降り積もる。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」
ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリッッッ────
ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリッッッ────
「…雄叫びを上げるほどの仕事でないでしょう」
「まぁまぁ!! マミちゃんにやっと訪れた見せ場なんだから!! 念願の舞台に水差さないであげてよ〜〜!!」
899
:
『いいの、いいの』
◆UC8j8TfjHw
:2025/08/13(水) 15:19:04 ID:hzrHUxHA0
「う…うるさいんだって!! …二人して、わたしをイジれば場が和むっていう……その共通認識がぁ!!!──」
「──ムカつくんだってもおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ────
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ────
────ガガッ──────。
「あ!!」
【以上】
──全てのウンディーネを粉砕しきり、そしてランプへと氷の粒を入れきった際、
──『マミ作戦』は成功を意味し、
────【きょうの料理】は完成となる。
□
【ウンディーネx25@ダンジョン飯 死亡確認】
【mission complate!!】
□
900
:
『いいの、いいの』
◆UC8j8TfjHw
:2025/08/13(水) 15:19:16 ID:hzrHUxHA0
◆
…
……
【ウンディーネのかき氷】
ウンディーネ────適量
1:ウンディーネを凍らせる。
2:お好みでシロップをかける。
[エネルギー]
[タンパク質]
[脂 質]
[炭水化物 ]
[カルシウム]
[鉄 分]
[ビタミンA]
[ビタミンB2]
[ビタミンC]
──[魔 力]★★★★★★★★
901
:
『いいの、いいの』
◆UC8j8TfjHw
:2025/08/13(水) 15:19:35 ID:hzrHUxHA0
◆
………
……
…
【ホテルでのBGM】
ttps://youtu.be/3hEyf6KZxPM?si=neaUniefA2Zb86JL
──パクっ
「うんみゃぁああ〜〜〜〜〜!!! ヒエッヒエ〜〜〜!!! やっぱ夏って言ったらコレだよねぇ〜〜マミちゃ〜〜〜ん!!! かき氷パワー全開〜〜〜〜〜!!!」
「………」
「…え。何そのドン引いてる感じ………。ま、マミちゃん…食べないの……?」
「土間、貴様サイコパスだろ」
「え゙っ?!!」
「そうだようまるちゃん。もう気付いてって。──」
「──シロップ、つまり人工甘味料は体に悪いんだよ。なんで体に悪いものを販売してるか分かる? 『依存』と『病気』を作り出すための陰謀なんだよ。砂糖の代わりじゃない──新しい鎖なんだよ。…関先生がそう言ってたけどね」
「…この歳にして思想が月刊マーに犯されてるしぃ〜…」
「というか、シロップじゃなきゃ食べるつもりだったのですか……? マスター…」
一階ロビー。噴水の縁にて。
噴水が脅威の欠片も感じさせない、本来の『水』としての和やかさを演出する。
本来の姿──といえば、それはまたデデルも同じく。
ランプ内の充満された『魔力』が、彼の元の身体を物語っていた。
「…あ、そうだうまるちゃん。…一応〜聞きたいんだけどさ………。さっき、四階でたくさんのウンディーネに襲われたとき…あったじゃん?」
「あんむ!! もしゃもしゃ……。それがどした〜?」
「あの時…わたし何か叫んだの……。聞こえてない…よねぇ〜…??」
「え? うん。マミちゃんが『ママ〜!!!』って叫んだのはうまるらだけの秘密だよ〜〜〜ん」
「っ??!! ちょ、そ、それ秘密になってないでしょ?!──」
──ぐぅぅ…
「…も、もういい!! わたしだってかき氷食べるんだから!! シロップ代わりにコーラで!!!」
「…いや食べるのですか、マスター」
「あ。ついでにデデル〜。『五万円の水●燈のドールちょうだい』〜〜!! はい、お願い☆」
「……最も普通からかけ離れた種族であるこの私が、唯一の常識人になりつつあるな……。……まったく、土間め……っ」
ピアノのBGMが静かに鳴り響く、早朝のロビー。
壊れかけの窓ガラスからノンビリと日差しが登る。
それは純粋な温かさの日差しではない。夏の予感、とも言えるジリジリ感は拭いきれない朝日だった。
熱さ故に、空調が壊れきったロビー内にいるうまるらは自然と汗が浮かび上がるが、
──その汗には冷や汗が含まれることは、もうない。
「うへっ!!! 頭いた〜いぃ〜!! キンキンするよぉ〜!!!」
「おっ、脳に電波攻撃されてますか〜!!? マミちゃ〜〜〜〜ん!!!」
「う、うるさいって!!! もう!!!」
「…まったく。──」
902
:
『いいの、いいの』
◆UC8j8TfjHw
:2025/08/13(水) 15:19:49 ID:hzrHUxHA0
縁に腰を据え、和気あいあい(?)と喋る女学生二人と。
そして、呆れながらも眼差しを注ぎ続けるデデル。
「──…やれやれなもの…だな………。…ふっ」
平穏な、陽の光。
嵐が過ぎ去った。
安らぎのこの時間。
噴水が陽光を弾き、細やかな水しぶきが宙に舞う。
耳をくすぐるのは、途切れることなく続く涼やかな水音。
そのさざめきの中、ふと、水面がわずかに揺れ、ひそやかに顔をのぞかせるは取り残されたウンディーネ。
──パンッ────
「……………え」
「………な」
新庄マミの心臓を的確に撃ち抜いた後、颯爽と『主人』の元へ帰るウンディーネを眺めながら。
三人は、今はまだ平穏さの余韻を味わい続けるまでであった──。
【新庄マミ@ヒナまつり 死亡確認】
【残り62人】
903
:
『いいの、いいの』
◆UC8j8TfjHw
:2025/08/13(水) 15:20:01 ID:hzrHUxHA0
【1日目/F6/東●ホテル/1F/AM.05:08】
【魔人デデル@悪魔のメムメムちゃん】
【状態】記憶喪失、魔力(残り98%)
【装備】なし
【道具】なし
【思考】基本:【奉仕→対象:新庄マミ】
1:…マスター……………?
【うまるちゃん@干物妹!うまるちゃん】
【状態】健康
【装備】うまるがやってるFPSのマシンガン
【道具】ジャンプラやら雑誌色々、ポテイトチップスとコーラ
【思考】基本:【静観】
1:………え。
904
:
『いいの、いいの』
◆UC8j8TfjHw
:2025/08/13(水) 15:27:07 ID:hzrHUxHA0
【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ】
①連載の締め切り遅れてしまい申し訳ございません。
②新しく工事したwifiの影響で規制が入り(巻き込まれ的な)、投下が困難な条件にいました。
③今後もこのスレで投下ができるか不透明でありますが、wikiでは必ず毎週火曜日に更新するので、暫くはwikiから閲覧をお願いしたいです。
ttps://w.atwiki.jp/heiseirowa/
【次回。8月19日投下。】
──苦い檸檬の匂い。
「悪魔のゲームソフト」…メムメム、ひょう太、高木さん、肉蝮
905
:
◆UC8j8TfjHw
:2025/08/13(水) 15:31:09 ID:hzrHUxHA0
【お知らせ】
現在、『要望スレ』にて2chパロロワ@wikiの管理者権限に関する重大な話し合いが進められるため、
wikiの方針が定まるまでの間、邪魔にならぬよう当ロワはsage進行で行わせていただきます。
906
:
◆UC8j8TfjHw
:2025/08/13(水) 15:32:12 ID:hzrHUxHA0
>>905
訂正
×『要望スレ』
〇『管理人様に連絡』スレッド
907
:
名無しさん
:2025/08/26(火) 23:05:09 ID:miG0SwzE0
>>905
お気遣いありがとうございました。おかげさまで方針も決まりました。
また、パロロワウィキにてこちらの企画のページも新規作成しようと考えています。
次スレ以降企画名を変更されるとのことですが新しい名称でのページ作成がよいでしょうか?
このスレ内での告知やまとめウィキを見たところ表記揺れもあり、どれが正式な名称になるかわからなかったもので、企画主様からページ名と新企画名について教えていただけると幸いです。
908
:
『やりなおしカナブン』
◆UC8j8TfjHw
:2025/08/28(木) 22:58:56 ID:ftVzt7Bs0
[登場人物] [[メムメム]]、[[肉蝮]]、[[小日向ひょう太]]、[[高木さん]]
---------------
909
:
『やりなおしカナブン』
◆UC8j8TfjHw
:2025/08/28(木) 22:59:17 ID:ftVzt7Bs0
「た、高木さんっ!!! メムメムのやつ、どこ行ったか知らないか!?」
「え? メムちゃん? メムちゃんならついさっき、“トイレに行く”って言ってたけど……。それよりも廊下の様子はどうだった? 小日向くん」
「どうもこうもないんだよ、それがっ!!! …とにかく、早くアイツを探してここから逃げないと……」
「ちょっと待って。何があったの? 落ち着いて説明してくれなきゃ、私も下手に動けないよ」
「……………っ、廊下にいたんだよ…!」
「え?」
「────…明らかに危険人物な…ヤバい奴がっ……!!!」
910
:
『やりなおしカナブン』
◆UC8j8TfjHw
:2025/08/28(木) 22:59:37 ID:ftVzt7Bs0
………
……
…
◆
「ふんふふ〜〜〜ん♫──」
…ふふっ♪
別に花摘みで個室トイレに入ったわけじゃないっすよ〜〜。催し度はゼロ%っすから!
ただっ!! バヒョやデコ娘の目の前で、魔道具の品々をおっ広げるわけにはいかないのでね…。
つまり今のあたしは、『一人作戦会議』の真っ最中ってわけっす!
「──まずはこの自縛キャンディ!! こいつは、口にしたら無意識のうちに自分をロープで縛っちゃうというやべ〜アメだからね〜〜。バヒョを無力化するにはもってこいだわ!!──」
「──で、バヒョが芋虫みたいになってる間に、デコ娘へ使い魔レーザー射撃!! あたしの使い魔と化したデコ娘の太ももギロチンで、バヒョの魂はサクッといただき〜〜!!──」
「──これにて、デコサキュバスの伝説の始まりっすわ!!」
────『魂乱獲』の作戦会議をね…!!
ふふひひ…!!
参加者全員の魂をかき集めた暁には……宝石ザックザクに、美味しいご飯〜♫
もしかしたら六淫将に昇格〜、──だなんて転がり込むかもしれない、このチャンス……!!
だからこそ、…万年雑用以下のあたしは……絶対に掴まなきゃいけないすわ……!!
「ふふふ…ふふふ〜!!! なーんか今のあたし、頭のネジ噛み合いすぎてて怖いんすけど〜〜! ふふふふ〜♫」
ゲーム脱出?? 打倒主催?? ──そんな偽善知ったこっちゃないっす!!
所長から貰った(=盗んだ)魔道具を前に、あたしは野心でメラメラに燃え上がっていたのでした!
……もちろん、六淫将の面倒くさい仕事は、全〜部レース先輩に丸投げして〜………、
──バンッ、──バンッ
「おい出てこいッ!!! 中にいることは分かってンだぞッ!!!!」
「びぃいっ?!!!!?」
わ…、ビックリさせないでくださいよもうっ!!!
あたしがノってる時にドアノックしてくるとか…。…なんすか? KYっすか? 空気読んでくださいよ!!
まぁどうせバヒョの奴なんでしょうけども……。…って、ここ女子トイレっすよ??!
うわぁあ〜…きしょいよおぉ〜〜…。アイツほんと性癖歪みすぎっす〜〜……。
はぁ〜あ……、もう〜〜〜…。
「はいはい今出るっすから〜落ち着い……、」
────ガッギャァァンッッ
──メキメキィィッ
──バリバリバリッッ
「……え?」
「オイコラァッ!! てめぇ……杖持ったクソジジイを見てねェだろうなァ!?」
「…………ぇ…」
…個室ドアをシャベルで破壊という、ダイナミックに登場してきたソイツは、
…こんな暑い中だというのに厚着のフードジャンバーで……、
…歯はギザギザのボロボロで、明らかに目がイッていて……、
……そして何よりも、第一印象で『ゲームに乗ってる人物』と分かる〜…。
凶悪面と〜……大柄でぇ〜〜……。
911
:
『やりなおしカナブン』
◆UC8j8TfjHw
:2025/08/28(木) 22:59:56 ID:ftVzt7Bs0
「俺はそいつを……──ぶち殺すッッ!!!」
「ひ、ひぃい!!」
神様、どうかこの人が突然変異でバリクソになったバヒョでありますように…。
神様、どうかこの人が突然変異でバリクソになったバヒョでありますように…。
神様、どうかこの人が突然変異でバリクソになったバヒョでありますように…。
◆
【#074 『やりなおしカナブン』】
912
:
『やりなおしカナブン』
◆UC8j8TfjHw
:2025/08/28(木) 23:00:22 ID:ftVzt7Bs0
◆
………
……
…
…だな〜んて思っていたのも、今や遠い過去の話♫
人は見かけによらないとは正にこのこと、──と言っても勿論こいつはバヒョでは無いんですが。
兎にも角にもあたしは……この──…!!
「お茶をお淹れしました!! よろしければお召し上がりくださいっす!!」
「おうっ。……いや…待て。てめぇ、まさか毒入れてたりしてねェよな?!」
「毒なんてまさかとんでもない!! 隠し味はあたしの愛だけっすよ〜〜♡──」
「────我が『肉蝮さま』!!!」
──肉蝮さまという、素晴らしい相棒を手にすることができたんすわ!!!
いやぁ〜〜ほんと肉蝮さまは神!! …いや神とかっていうレベルじゃないんすよ!!! もはや神の上っすか!??
……ま、そんな神を前にしたあたしも、最初は正直ビビってたんすけどね〜〜…。
『お帰りくださいぃ、お帰りください〜…』って唱えるのが精一杯だったんすよ……あの頃は。
──でもっ!! 話してみりゃ肉蝮さまの慈悲深いこと深いこと!!!
…いいすか? 聞いて驚かないでくださいよ?
なんと肉蝮さまは参加者全員の命を『救いたい』らしく、──そ〜ゆ〜わけであたしの『魂集め』にも協力してくれるみたいなんす〜〜!!!
「…では失礼ながら肉蝮様。このあたしが直々に、お茶の毒味を致し…、」
「はぁ? よせ汚ェ!! 口つけんなっ!!! ……ったくメムメムてめぇはよォ。──」
──(ズズズッ…グビグビ
「──ぬりぃ…。この夏にヌルいお茶って絶妙にムカつかせにきてンな…。ただでさえイライラしてるっつーのにバカかてめぇはよっ!!!」
「ふふ♫ 肉蝮さまともあれば最高級玉露も陳腐な味に感じますでしょう〜」
ほんと神っすよ肉蝮さまは!!!
キリストとかムハ●マドなんてこの御方に比べたら雑魚カスっす!!!
肉蝮さまがMLBなら、神様なんて千葉ロッテの九番打者って感じすよ〜!! もう〜〜!!!
「──……ところであなた様のイライラの原因とは、やはり………ナタのことで?」
「ッたりめェだボケ!!! 俺がジジイにKOされて動けねェ間に盗まれんだぞっ!!! 誰が盗ったのか知らねェが卑怯な根性が許せねェっ!! おかげでその辺にあったスコップに武器ボリュームダウンしちまったが…なンだよスコップって!!! 何でホテルにあンだよそんなもんが……、」
「………っ……〜…。……そうっすそうっすよ!! ほんとクズっすねその犯人!!」
「……おいてめぇ…今アクビ堪えてただろ?」
「ちょっと言ってるイミがわからないです♪」
「…チッ!!!」
…うぅ〜……。ぐすっ〜…ひぐっ〜〜………!
…ふふふ……!
涙って、悲しくなくても……勝手に出るもんなんすね……!!
あたし……いま……人生で一番しあわせを噛みしめてるかもしれないっすよ……!!!
友だちができる奇跡。信頼できる味方がいる安心感。しかも強くて頼りがいまである優越感……!
こんなん……居心地よすぎて死ねるっす〜〜……!!
あたし、もう決めました。
一生どころか、死んだあとだって──背後霊になってでも、あなた様に付いていきます!
親愛なる……我が、肉蝮さま──────。
「で、てめぇは俺に何しろって話だっけ? メムメム」
「もう肉蝮さまったら〜!! さっきも言ったっすけど、あたしの魔道具を頼りに、全参加者の魂回収してほしんすよ!!──」
「──言っちゃえば皆殺し──『優勝』っす!! よろしゃっす!!!」
「…あァアッ?──」
913
:
『やりなおしカナブン』
◆UC8j8TfjHw
:2025/08/28(木) 23:00:57 ID:ftVzt7Bs0
「──…ッテメェに言われなくてもそのつもりなンだよゴラアッッ!!!!」
「…え?」
………え。
…な、なに……………?
「“さっきも言ったけど”だァ!? テメェ、俺様にダメ押しする気か!? 舐めてんのかコラァアッッ!!! 舐めてンのかっつってんだよクソガキィィッ!!!!!」
「…な、舐めてるって……。──」
あれ。
これ、もしかしてあたし…怒られてるんすか…?
え…なんで……?
肉蝮さま……、何をきっかけで…。
急にお怒りスイッチが………ONに…??
「──いや、そりゃ……あたしは悪魔で……肉蝮さまは……人間……だからその……上下で言ったら……」
「ぃぃィイイッッッ!!!!!」
──ガシッ
「い、痛ぁ゙ァっ!!!!」
…あ、あっ、あっ、え゙っ?!! ちょっとストップストップ!!
な、なんで急に…?! 肉蝮さまは何でキレてきたんすか!!?
突拍子なさすぎるってゆーか……。…と、とにかく髪引っ張らないでください……っ…!!!
痛い…痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い……いだいっ!!!!
「テメェみてェなクソガキがこの俺に命令してる感じが超気に食わねンだよッッ!!!! …どっちだァッ?!!! おい、どっちが上だッ!! もっかい答えてみろゴラッ!!!!!」
「うぅ…いだいっ…痛い痛い!!! …す、すませ…ずまぜん゙じだぁっ!!!! 命令では…なぐぅ…、協力……してほしぃ…んす……っ」
「協力だとッ?! じゃあ、俺のウンコ踊り食いしろ!!! チビッ!!!!」
…ぐすっ…!!!
痛いぃっ………。ぐすっ…。
────……いや、…えっ……!?
…今……、肉蝮さまは…なんと仰りに…………?
「…え……? あ、あの肉まむ…、」
──ゴスッ
「…っぃっだぁああ!!!」
「“え?”──じゃねェぞチビ。俺さっきラーメン食ったからよォ〜? ちょうど腹ン中にコンモリ溜まってンだわ!!! 俺がイクまでアナル舐めしてくれるっつーなら認めてやる」
「…え……」
「…ィッ!!! だから“え”じゃねぇつってンだろうが!!! おい!!! やれつってんだろッ!!! 文字通りの肉便器になれよッ!!!!」
──ガシッ
──ゴスッ──ゴスッ──ゴスッ
「うっ!!! いだっ…痛っ痛っ!!! ぁああ…っ!!」
「舐めてんじゃねェエぞッッ!!! おいッ!!!!」
914
:
『やりなおしカナブン』
◆UC8j8TfjHw
:2025/08/28(木) 23:01:27 ID:ftVzt7Bs0
………。
…どっち…すか………。
舐めりゃいいのか、舐めちゃだめ…なのか…………?
どちらにせよ……痛い………。
歯……歯の根っこが……ぐらぐらする…………。
ほっぺが……熱い……ひりひりする…………。
…肉蝮さまの…拳が………怖…い…。
「………」
……と、とにかく…鼻を…つままなきゃ……。
舌先を噛んで神経を一時的に麻痺させなきゃ……。
…む、無を…無を考えないと…………。
それでいて、気絶しないように…しなきゃ……。
「…が、がんばります………。………お舐めいたします…ぅ………」
「あァ??!!」
あぁ…。
全部は…。
すべて…は…。
「…できる範囲…で…」
「…………テメェ…」
魂回収と、
肉蝮さまへの親睦の……ためなんすから……────。
「げげぇ〜〜〜〜〜!!! げげげげぇ〜〜〜!!!!」
「…………え?」
「おまえ変態かぁ〜〜?! 俺はスカトロ趣味なんかないぞ〜〜〜〜! 気色悪ぃ〜〜〜!」
「………え」
「ったくガキのくせにマセたこと言いやがってよォ!! …この児ポ児ポちゃんが〜〜っ!!! げげげげぇ〜〜〜〜〜〜!!!」
「…………は、はい…。…うっ、うぅ…」
……鼻から血が、出ちゃった。
──はははー。目から涙、鼻から血、折れた葉からは歯槽膿漏ー…ぐしょ濡れじゃないすか、あたしー……。
…はは…は………。
「泣くな児ぽっち!! どーせ悪魔だから痛みなんて感じてねェだろ! ンじゃ、そろそろ行くぞ」
「…あ、は、はい!! …よろしゃっす…!!」
「敵は【2106号室】にあり!! ……楽しみだぜ!! げひゃひゃひゃ〜」
「………ははは、…しゃっす……」
…うん。ダメ、ダメダメ!! ダメだよあたし! 肉蝮さまに対して心の中で悪口しゃべったら!
この一連の行動は、何もかも欠けてるあたしへの──愛のムチ……。
今後またミスしそうになったら、この痛みを思い出せばいいんすよ……!!
915
:
『やりなおしカナブン』
◆UC8j8TfjHw
:2025/08/28(木) 23:01:42 ID:ftVzt7Bs0
それに…日頃の…。
──レース先輩のお仕置きに慣れてる身からしたら、これなんてマッサージレベルっすよ……。
……肉蝮さまは、もう仏……いや大仏っす……。
…うぐっ………。
ありがたい、ありがた…や〜………。
…
……
──“レース様って優しいよねぇーー…”
──“ほんとそれ!! メムメムみたいなダメ悪魔を庇ってくれるなんて。普通の六淫将なら即処分なのにさー”
……
…
「…………」
…肉蝮さまはありがたい。
…………ありがたいんだ。
◆
916
:
『やりなおしカナブン』
◆UC8j8TfjHw
:2025/08/28(木) 23:01:58 ID:ftVzt7Bs0
………
……
…
「祝ゥっ!!!!!!!」
「あ? うっせェんだよテメェ!!!!」
「ひっ、す…すません〜〜」
……祝!!(ヒソヒソ)
この、あたし!!
なんと今日をもって、めでたく改名させら…──肉蝮さまから新たなお名前を賜りましたっ!!!
わ〜いわ〜い!! へっへへ〜参っちゃうなぁ〜〜〜♫
天才たる肉蝮さまのネーミングセンスはもはや湯婆婆に匹敵!! 素晴らしいお名前をつけてもらったんすよ〜。
さて目に焼き付けろ、あたし!!
おでこに貼られた札に書いてる、新しい名前に惚れ惚れしろ、あたし!!
その気になるお名前は〜…、ワン・ツー・スリー──鏡をチラーリッ!!!
【命名︰『ア●メ(笑)』】
「……………ア●メ…!!」
はい、どうもこんちゃっす!! あたし、ア●メ(笑)っすわ!!
「あくまのメムメム…略してア●メだっ!!笑」──肉蝮さまの由来説明も…素晴らしい〜!!
…ふふふ…♬
何もできない悪魔のあたしに、ここまで気をかけてくださるなんて……!!
感動で昔の名前なんて、もう記憶から吹き飛んじゃったっすよ……。
魔道具の一つ、『開運改名札』をあたしに使ってくれた肉蝮さまに感謝っす!!
「なんかイミわかんねェーけど、てめぇの魔道具ってヤツおもしれぇなぁ〜〜。ウケるわ〜。ぎゃははは」
「喜んでいただき大変光栄でありますっ…!! 肉蝮さま〜!」
「…こうなるンなら、もっと早くてめぇに会えばよかったぜ。そしたらあのクソッタレ丑嶋の野郎にも改名させれたのにな〜。その名はまさしく『牛糞 香(ぎゅうふん かおる)』ッ!!!! ぎゃははははッ!! 最高だろコラ!!!」
「…うしじま? 肉蝮さま、その人は一体…、」
「ゥうるせェんだよッ!!! ムカつく奴の話をしてンじゃねェよクソチビ!!!!」
「…ひっ…。そ、それはそれは失礼っしゃした〜〜。…あはは〜〜!」
今、あたしの魔道具は全〜部、肉蝮さまのデイバッグにお納め状態♪ 気に入っていただけたようで、ほんと光栄の極みっす!
──そして更に今!! あたし達さいつよコンビは、『2106号室』を目指して廊下をズンズン進軍中!!!
シャベル片手に練り歩く肉蝮さまの背中はもう、威圧感の権化っすわ〜〜!
…ふふふ。そうだそうだ。
記憶力の足りないばかの為に説明しときましょうか。
『2106号室』とは、────ズバリっ、バヒョとデコ娘がいる部屋!! (…あ。あと多分兵藤のヤローも)
あたしが告げ口した結果、肉蝮さまは「己の力を見せつける」ってことで突撃する流れになったんすよ〜〜!
…嗚呼、哀れなバヒョ。…それと、デコ娘…。
ええ、もちろんちょっとは心が痛むんすよ? だって一応はアイツら元仲間だったんすから。
あまりに心が痛いんで、オロナインを胸に塗りたくっちゃうあたしっすわ〜…。
「……でもっ、魂を狩れる方と狩れない方…。どっちに付くかと考えたら……!! ──あたしもばかじゃないんでね。…ふふふ〜…」
「つかてめぇ独り言多すぎ。あとなんか…臭くね? 悪魔ってガチ目にニオイえげつねぇよな!!」
いやいやいや〜。
えげつないのは貴方様のオーラですよ〜、肉蝮さま!! 貴方様は自分から醸し出される覇気に気づかれていない!!
バヒョなんか見てくださいよ〜。
あのヘナチョコ、長いこと一緒に暮らしてるんすが、まったくもってもう…。もう〜〜…ねっ!! 牛乳臭い雑巾のほうがまだ役に立つって話っすわ〜〜!
それに比べて肉蝮さまは、もう万能ナイフを千個発注したくらいの便利さ…!!
てゆーか単純に素晴らしすぎるっ!!! 痺れる憧れるビッリビリっすよ〜〜!!
あたしはもう、早く肉蝮さまのキレたナイフっぷりで、魂をごっそり刈り取っていただきたいっすね……!!
魂大漁フェスティバル〜〜〜♫
917
:
『やりなおしカナブン』
◆UC8j8TfjHw
:2025/08/28(木) 23:02:14 ID:ftVzt7Bs0
スタ、スタ、スタ、スタ…──
「おいチビ」
スタ、スタ、スタ、スタ……──
「ふんふふ〜〜〜ん♫ 何ですか肉蝮さま〜」
「なんだっけなァ…、その、デコ娘ってガキ。可愛い?」
「え、アイツすかぁ〜? んまぁ…顔は良いっちゃ良んじゃないすかね? とにかく、胸はペッタンコすからあたし的には接しやすい人間っす!!」
「へぇーー…処女かなァ〜? マグロだったら面白みねェ〜からなぁ…」
「…あ。……肉蝮さま、えろいこと…するつもりなら……あたしが見えないようによろしゃっすよ………? あたしえろ嫌いなんでぇ〜…」
「はぁ? ンだそれ。俺的にはてめぇがいろんな意味で怖いっつーの!!! じゃあ罰としててめぇがそのデコのパンツ脱がせろ!!!」
「な?! なにが“じゃあ”なんすか?!! …それだとあたしが頑張る感じじゃないすかぁ………。嫌だなぁ……あたしがデコ娘をって…、──」
…
……
──“小日向くん…そんなメムちゃんを責めないでよ。まだ幼いんだから”
──“ね、メムちゃん。…お菓子、食べる?”
……
…
「──……………………。──」
「──ま、まぁ…肉蝮さまの頼みなら尽力つくす限りっすよ〜〜!! できる範囲で…!!」
「『できる範囲で』大好きっ子だな…、おい!! ──」
スタ、スタ、スタ、スタ…──
「──あ。あとよォ、バヒョってガキ………なんだよ外人か? つか女か??」
「一つ目の質問はNO、二つ目はYES!! あぁ、イエス・ノー両方一回に使えるだなんて…肉蝮さまの質問は素晴らしい……素晴らしい…」
「てめぇやっぱ舐めてんだろ」
「あ、流石に持ち上げが過ぎました!! すませんっんんん〜〜〜!!!!!──」
「──バヒョは一見ただの人間の小僧っすが、…ちょっと特殊でね〜……。……聞いてください肉蝮さま……アイツ、お湯かけられると女になるんすよ!!!」
「…あ? はァ〜ア?!! 何の工夫もなくパクってきたなそのガキ!!!」
「そうそう〜!! ♫タンマタンマで〜そんなもんねとオトモダチ〜〜♫………ってね!! バヒョのヤローとは長らくの付き合いなんすがねぇ〜。ほんとアイツは駄目なやつで…、──」
…
……
──“メムメム!!!”
──“あのバカ…こら、メムメム!!!”
──“メムメムゥ──────ッ!!!!”
……
…
918
:
『やりなおしカナブン』
◆UC8j8TfjHw
:2025/08/28(木) 23:02:32 ID:ftVzt7Bs0
…
……
──『うぅ…』
──“…流石に今回のミスは堪えたようだな、お前もさ……”
──『…ん。え? あぁ、違うっす。さすがにあたし…空腹が限界でぇ〜…』
──“……っ……まったくメムメム…お前ってやつは…。いや俺だって腹減ってるからな!? 何故か俺も巻き込まれで魔界の人らに怒られたんだぞ!!?! お前のせいで!! …もうすっかり夜じゃないか〜〜〜!!!!”
──『まぁまぁ落ち着きましょうって〜!!!』
──“落ち着けるかぁ!!!! …くそ……。…本気で叱ったらもう疲れるよ………はぁ……”
──“…とりあえず……奢るからさ。付き合えよラーメン屋。な、メムメム。”
──『マジすか?! あの人妻のとこのラーメン屋っすよね!?! もうバヒョったら〜!!』
──二言目が微妙に余計なんだよっ!!!
……
…
…
……
──『うぅ…ぐすっ……。バヒョ……バヒョと……』
──『バヒョと……ひぐっ…。……一緒にいたいからっ…!!!』
──『…だからあたしは……ここに残りますっ……!!!』
……
…
…
……
──タンマタンマで。
──そんなもんねと、
──オトモダチ。
────………バヒョ。
………
……
…
「…………。………バヒ……、」
──バシンっ
「え、いだぁあっ!! な、何するんですかぁ〜!!」
「意識飛んでたぞッ!! 集中しろチビ!!」
「すっ…すませんすません〜!! …でも暴力はやめてくださいよ〜〜肉蝮さま!!?」
「だーかーらァ、俺に指図すんじゃねェつってんだろ!!! 次命令したら両親殺すからなッ」
「…あ、はいっ!! 気を付けますっ!!! ………──」
…いたた…痛ぁ〜…。うぅ…。
あたしとしたことが、ついボーッとして躾されちゃいましたよぉ……。
しかも魔道具で殴られて!! あれ高価な品っすからね!? 鈍器にされちゃ色々たまんないっすわ!!
そりゃあたしもくだらない過去に思い更けてて、悪いっちゃ悪いっすけどもぉ〜…。
…もう〜っ、肉蝮さまったら〜〜!! ははは〜!
…………はは、はは…は……。
「──………………。」
…────くだらない、
────過去…。
「……」
919
:
『やりなおしカナブン』
◆UC8j8TfjHw
:2025/08/28(木) 23:02:49 ID:ftVzt7Bs0
…ごめんね────、とは勿論言いませんからね? …バヒョに高木。
そもそもあたしは、最初から一貫してゲーム優勝狙いなんすから。
勝手に仲間意識持って…、「裏切ったな〜!!!」とか言われても……知らんがな、で終わりっす。
そもそも、あたしは悪魔。
お前らは人間。
土俵も住む世界も常識も。何もかもが違うんすから!
お前ら人間の言う義理やら人情やら…勝手に作った物差しであたしをクズと図らないでくださいよ!!
「……」
………魂一つすら集めれない、
気づけばみんなから見下され、嫌われて、だんだん自分でも「ホントにダメだな」って思うようになって。
……気づいたら、自分のことまで嫌いになる。
そんな出来損ないの気持ちなんて。
お前らには分かるわけないんすから。
「…………」
──スタ、スタ、スタ
「……2103、2104、2105…。──」
──タッ──
「────【2106号室】…! おい、ここでいンだろ? さっさとドア開けろチビ!!」
「………あ、はいはい!! この部屋で合ってます合ってます〜!!」
……とまぁ、そ〜こ〜している内に着いちゃいました!
バヒョと高…デコ娘らがいる部屋──あたし達の目的の場所に!!
いやぁ〜、肉蝮さまと会話してたらもう話が弾んじゃって、時間があっという間に感じるものっす〜。
「……では肉蝮さま!! …開けますよ? 本当によろしいっすね??」
「あ? とっととしろ」
「………………………あ、ところで…扉にカギ、別にされてないすけど、あたしがわざわざ開ける理由は…?」
「ッチィ!!! うるせんだよッ!!!! この部屋はテメェがいた場所だろッ?!! ンで、テメェが開けて閉めたドアノブだろうが!!! 触りたくねェんだよばっちぃッ!!!!」
「あ!!! そういうわけっすか、すませんっ〜〜!!!」
あー…またまた肉蝮さまを怒らせちゃった〜…。
もうしっかりしてくださいよ!! あたし!!!
……ふふ♪
それにしても肉蝮さま、このあたしをまるでバイキンかなにかのように扱いなさるなんて……!!
あたしも、とうとう菌と肩を並べれるくらいにはなれたんすね…!
……いやぁ、出世したなぁ〜あたし……♪
「………。……ふう」
…かちゃっ──。──ドアノブのヒ〜ンヤリとした感触。
無機質な扉の向こう側では、…バヒョたちは一体どんな顔をして待っているのやら♪
のんきにお菓子でも食べてたりしてるのかな?
肉蝮さまのオーラを前にしたとき、あいつらきっとビビりまくるでしょうね!!
「お許しをぉおお〜〜〜!!」とか命乞いしたりして!!
──…あっ。バヒョの奴、今、我慢できずにデコ娘とえろいことしてたりして。
……。
…く、くそぉおお〜!!! ありえる…アイツのことだしやりかねんっすよ!!!
人がこんな苦労してる時に、ヘラヘラお盛りになるとか……、余計腹立たしくなってきたっす!!!
えろい奴は全員、肉蝮さまがナマハゲの如くギッタギタにしてやりますからねこのヤロー!!!!
920
:
『やりなおしカナブン』
◆UC8j8TfjHw
:2025/08/28(木) 23:03:05 ID:ftVzt7Bs0
「……。…では仕切り直して。オープン・ザ・ドア!! 開けさせていただくっす」
「テンポ悪ぃんだよ!! さっさとしろやッ!!!」
…とにかく!! バヒョたちの怯えきった顔が楽しみで仕方ないっす〜!!
あたしにイライラMAXで睨みつけてもムダ・ムダ☆ その頃にはとっくにあんたらは魂化してるんすから!
この調子でたくさんたくさん参加者たちの魂を集めていって〜〜♪
レース先輩をどうパシらせるか妄想ふくらませつつ、肉蝮さまの魂荒稼ぎをニコニコ眺めて〜♪
気がついた時にはあのトネガワヤローとご対面!!
…ついでだしソイツの魂も狩らせて〜、あたしも念願の優勝をして〜〜♪
────優勝した時、あたしはどんな顔しているんだろ。──
「………」
…はは。何で汗なんかかいてんすかね、あたし。
“どんな顔してるんだろ”って……。そんなの決まってるっしょ! 満点満開、大スマイルっすよ!!
あーもう、テンポ悪ぃな〜あたし!!
ワクワクが止まらないっすね〜、もう〜!
だって今から始まっちゃうんすもん、伝説が!!
肉蝮さまと、悪魔のあたし……──あっ、え〜とえ〜と…あたしの名前なんだっけ……。
……あ。そうだそうだ。
このあたし──『悪魔のアクメ』。
二人によるサキュバス伝説の、幕開けを────…。
…
……
──“ひょう太とやら人間よ。…どうやら貴様はこいつと長くいすぎたせいで耐性がついたようだな。メムメム化の免疫が……”
──“…悔しいが、魔界の命運は貴様ら二人にかかっている。頼んだぞ”
──“ひょう太と……、そして、”──
……
…
「────ッ『メムメム』ゥゥゥゥっ!!!!! 早くっ!!! 早く逃げろォオオオオオオオオ──────っ!!!!!」
「あ?」
「……………え」
おでこに貼られた命名札が──、
無風の廊下で、ひらりと剥がれ落ちていった。
921
:
『やりなおしカナブン』
◆UC8j8TfjHw
:2025/08/28(木) 23:03:30 ID:ftVzt7Bs0
「…あ……? あんだぁ……?! あのガキ…………」
「……あっ」
「逃げろって──ッ!! 逃げろつってんだろォオオオ────────ッ!!! バカァア────────ッ!!!!!」
……振り返る必要なんて、ないのに。
振り返らなくてもいいって、自分でも分かってたのに──あたしは。
肉蝮さまより先に、首が声の方へ向いていた。
タタタタ────ッ、
タタタタ────ッ、
廊下の奥から勢いよく走ってくる──『アイツ』。
武器を片手に、どんどんあたしらと距離を詰めてきて。
……普段は弱っちくて、ヒョロヒョロで、なんの役にも立たないクセに。
今だけは不相応に血気盛んな顔をして。
けど、その血気盛んさだけじゃ誤魔化しきれないくらい、顔色は真っ青で……。
無理してるのなんて、丸見えで。
──………でも、そういうのがアイツらしくて。
アイツと目が合った瞬間、あたしは思わず声が震え出た。
「ば…なん………なんで……なんすか……………」
「ハァハァ…!! 高木さん連れて…そいつから逃げろっ………ハァハァ……、逃げろよォ…!!!」
「あ、…に、逃げ……………ぁた、ぁたしは………」
「…ィッ早く逃げろっつってんだろォ────────!!!!!」
「………っ!」
…“震え出た”……って。
あたしは別に、アイツのことなんかちっとも恐れてないのに。
「…ンだぁ? おいチビ、てめぇアイツと知り合いなんか? ぁあ?」
「あ、ひ……し、知り合いっていうか…………あたしは………」
「いやてめぇなに泣きそうになってんだよ? まったく気持ち悪ぃ奴だぜ悪魔はよォ……………。──」
「──…って、あ? …おい待てよオイッ……」
…というより、アイツの方が肉蝮さまにビビりまくってるはずなのに。
タタタタ────ッ、
タタタタ────ッ、
「うわぁああアアァアアああああああああああ────────ッ!!!!!!!」
「…ィイイッ!!! あのクソガキィッ!!!! テメェ……ッ、ソレ……!!!──」
「…………え?」
「──俺のナタじゃねェかゴラァアアアアアッ!!!!!!! テメェが犯人かァ、この糞ガキィィィィィッ!!!!」
「…えっ」
ヨタヨタしながら重いナタを振り回して。
……無謀にも、あたしらに戦意をむき出しで突っ込んできて。
………いや、違う。
アイツは、肉蝮さま“のみ”に向かって刃先を振りかざしてきて……。
922
:
『やりなおしカナブン』
◆UC8j8TfjHw
:2025/08/28(木) 23:03:49 ID:ftVzt7Bs0
恐怖に呑まれきってるくせに、恐れ知らずみたいな態度で。
あっという間に至近距離まで飛び込んできた、アイツに──。
「ば、……バヒ………………そ、その…ナタ……」
「だッから、逃げろつってんだろうがァアアアア────────────!!!!!!!──」
──……………『バヒョ』の奴に。
バヒョに名前を呼ばれて、
「──メムメムッ!!!!! 逃げろよォオオ──…、」
「テメェエエエエ!!!!!! 死ぃいいいいいねぇぇぇぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええッッッ!!!!!!!!!!!!」
「…あっ………」
────ガシュンッ
……あたしは、自分の名前が『メムメム』であることを思い出した。
「…ぁ、あぁ…ぁ………!!」
「がぁあ…………っ……!! い、痛……っ!! ぐ、ぁ…いぃっ…………、──」
────ガシュンッ
「──うがぁああぁっ……!!!!」
「死ねッ!!! ふざけンなよテメェゴラアアアッッ!!!! クソガキのくせに俺を舐めてんじゃァねぇえッ!!!!」
な、
……な。
な………な、何をしてるんすか……? バヒョ…。
そんな…らしくないことを……。
肉蝮さまを…怒らせるような真似をして………。
シャベルで一発食らわされて……、…もう頭…凹んでるじゃないすか…………?
絶対痛くて…。…いや、痛いとかそんなレベルじゃないのは………あたしだって分かるくらいっすよ……。
うずくまって…、手からナタはこぼれ落ちて……、
もう頭を抑えるので精一杯だというのに………、
ガキィンッ────
「ぐっい…ぎゃぁあああああああああああああああ゙あ゙!!!!!!」
「ひっ………」
「テメェなに死んだフリぶっこいてんだコラァッ!!!! 俺ァ熊じゃねぇんだぞ?!! そんなもん通用しねぇからなゴラァアアアアアアアアアアアッッ!!!!!!!!」
右手を、シャベルの側面で叩き折られて……、白く鈍いものが皮膚を突き破って…覗いていて………。
手の先はどんどん真っ青に変色していって……。
「テメェだけは絶ッ対許さねぇからなッ!!!!──」
「──絶対に許さねェエからなテメェエエエエエエエエエ!!!!!! 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねッ死ねッ死ねッ死ねッ死ねッ死ねッ死ねッ死ねッ死ねッ死ねッ死ねッ死ねッ!!!!!!!!!!」
ブンッ──
────ガシュンッ、────ガシュンッ、────ガシュンッ
──ガシュンッ、ガシュンッガシュンッ、ガシュンッガシュンッ、ガシュンッ、ガシュンッ、ガシュンッガシュンッ、ガシュンッガシュンッ、ガシュンッ
ぐしゃり……ぐちゅり……メキメキ……ッ
「…ぁっ…………、がぁ…………っ……、…ぁ……、っ………、っ…………、……………。、………」
「ぁああ……ぁぁ……………ぁ、ぁ……」
923
:
『やりなおしカナブン』
◆UC8j8TfjHw
:2025/08/28(木) 23:04:08 ID:ftVzt7Bs0
…何度も……何度も何度も顔面をシャベルで殴られて…………。
おでこも…鼻も口も………目も…。
打ち付けられるたび、文字通りに表情が歪んでいって……。大破していって………。
…ぷつぷつと血の泡が弾けるたび、鉄の匂いが鼻に突き刺さって……。
顔…もう、血みどろでめちゃくちゃじゃない…すか…………っ。
な…なんで。
…いや、どうしてっすか!!!?
……なんでそんな……自分が損しかしないような……ばかなことをして……………!?
…Mなんすか………? ドMでもなきゃ説明つかないでしょこんなの…………!
なんで…なんすか…………っ……!!
──ガシュンッ、ガシュンッガシュンッ、ガシュンッガシュンッ、ガシュンッ、ガシュンッ、ガシュンッガシュンッ、
──ガンッ────
「………っ……………………ぁ」
「……ふぅ〜。計三十発!!! おいチビ、凄くね?! ここまでフルスイングしたっつーのに、息一つ切れてない俺凄くねぇか?! なぁ!? なぁッ!!!」」
「ば………ば、バヒ……。…ば……………」
「オイッ、チビ!!! 何黙ってんだッ!!! テメェ如きが俺を無視すんのかゴラッ!!!!」
──グイッ
「ゎ…ぎゃっ!! ……ひ、ひ…あた…あたし………っ…」
「おい聞いてるよな? 何俺のこと無視してんの? 何無視してんのかつッてるよなァ?」
「…………あ、ぁた……し………」
「あ? あたし〜…がなんだよ。おい、テメェはなぁ…頭悪ぃんだから…、──」
……………どうして。
……どうしてなんすか。
────ガリィッッッ
「──ぃッッ!!? ぎゃあああぁいっでええぇぇえ!!!!!!!!」
「…え」
「………ぃ……が………ッ……げ…………ッ…」
…どうして。
どうしてあたしが肉蝮さまに掴まれた瞬間……、奴の脚に噛み付いたんすか。
…そんなことしたら……どうなるかなんて絶対分かってるのに………。
真っ赤になった顔で………息を苦しそうに漏らしながら……必死で歯を食いしばって………。
「ぇ……む……………、っぅ…う、…………ッ………、」
「テンッメェエエエエエエエエエエエエエエエエッッッ!!!!! 絶対絶対ッッ絶対に許さねぇえええええええええええええええええッ!!!!!!」
──ガシュンッ、
────ベチャッ
924
:
『やりなおしカナブン』
◆UC8j8TfjHw
:2025/08/28(木) 23:04:23 ID:ftVzt7Bs0
「…、…………………」
「あっ……、あぁ……!!」
「殺すッ!! 殺しまくって殺しきってサツガイしてやるッッッ!!!! テメェの両親共が棺桶にゲロ吐くくらい、死体蹴り潰してやるからなッ!!!!!! クソガキがァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!」
──ガシュンッ、
ガシュンッガシュンッ、ガシュンッガシュンッ、ガシュンッ、ガシュンッ、
ガシュンッガシュンッ………、
…もう…もう………何も見えてないというのに…ぃ………………。
…顔をぉ…しっかり……、あたしの浮いてる方向だけを見据えて…ぇ……………。
声に……こ、声に…ならない言葉で………。
…口をしっかり…形作って……ぇ……………。
「………っ………、……ぉ……………」
「……え…?」
────『に』『げ』『ろ』。
…って。
「…ぅうっ、ひ……ぅうっ!! ひょ…ば……、バ…ぁ…ヒョぉ…!! バヒョぉ…お…ぉおお…………!!!」
あたしは…、あ…あたしはバヒョと顔が合って………泣いて震えることしかできない…というのに…ぃ………。
大粒の涙が…足元のバヒョに向かってこぼれ落ちる…それだけが精いっぱいで……ぇ……。
なにも…なにもできていない……と…いうのにぃ……ぃ……。
…どうして、そんなことを……したってゆうんすか…………………?
ガシュンッ──────。
「……ひっ……ひぅ…っ……っ、ぅ……はぁっ……っ………バ…ヒョぉ…っ……」
「………………、…………………」
「あ〜…なんか……やっぱちょっとキちゃうよな、チビ」
「…………………え…」
「人間ってこんなんになっても生きられるんだなァ〜ってな…。…命の神秘すぎて…俺ちょっと感動しちゃったわ……。マジでコイツの死、どうにかしてドラマチックな物にできねーのかなぁ…」
「…………………………」
「ほら、キレイな顔してんだろ? 死んでるんだぜ……………。…………あーやべ、泣けるぜ…」
「………………」
────……“どうして”って────。
────理由は、あたしだって分かっている。
925
:
『やりなおしカナブン』
◆UC8j8TfjHw
:2025/08/28(木) 23:04:42 ID:ftVzt7Bs0
………最初からあたしは分かっていた。
肉蝮のやつが全く『優しい人』なんかじゃないことを。
絶対にあたしの心配や思いなんて一ミリも頭にはないし、…それどころか気まぐれであたしを殺したりとか、そんなヤバいだけの奴なことは……普通に分かっていた。
あたしもそこまでばかじゃないから。
ファーストコンタクトで分かってたはずだった。
でも──逆らったり、逃げたりした瞬間に捕まるのが怖くて。
それでいて……肉蝮とはいえ、たかが人間ごときに屈することを、悪魔としてのプライドが許せなくて。
『魂稼ぎの良き相棒』とか、『あたしは肉蝮を信頼している』とか、自分自身に嘘をつき続けた。
ほんとは逃げ出したくて、嫌で嫌でたまらない奴なのに、あたしは自分に言い聞かせるように嘘で心を固めてきた。
ほんとに、ただ自分の為だけに。
……ダメダメで、何をやらせても失敗して、ミスばかりで、ポンコツにも程がある……。
それだけならまだしも、おまけに開き直りクセのある、………最低なあたし。
……魔界のみんなから見捨てられるのも、当然の報いだ。
結局のところあたしは……。
自分のことしか考えてない、どうしようもないクズなんだから。
「ぐ…っ……はっ……うぅ…………」
──そんなあたしを、────バヒョだけは受け入れてくれた。
「うぅ……うぐっ……!! うぅう………!!!」
──一緒に暮らしてくれた。
──一緒におやつを食べた。
──バヒョが休みの日は、一緒にお昼寝した。
──魔界の厄介事にどれだけ巻き込んでも、追い出したりしなかった。
──あたしのせいで、アパートの娘との仲が最悪になったときだって、ただ呆れて済ませてくれた。
──どんな時だって、嫌々ながらも付き合ってくれた。
「…ぅ、うぅ………! うぅっ…! うわぁあ…うわぁあああぁぁ……」
「あ?」
──喧嘩はした。何度もした。
──でもあたしが泣いたら仲直りしてくれる。
──勘当なんてしなかった。
──あたしなんていない方が楽な生活だっただろうに、
──それでも一緒にいてくれた。
「うっ…ぁぁ…ぁあああああああああああああ……」
「う〜あ〜うるせぇぞコラ!! コイツのうめき声思い出して吐きそうになるっつーの!!!」
「うぅ……うっ…──」
──そして今、利害関係なしに、あたしを助けに来てくれた。
────…あたしの、友達だった……。
「──うわぁあぁあぁぁぁぁあああああああああぁぁぁぁんんあっ…!!!!! うわぁあああああああああ!!!!!」
「…な。…チィッ!!!──」
「──やかましい!!! 俺は赤ん坊のお守りなんかゴメンだぞクソガキィ…、」
ガシッ──
「………あ?」
926
:
『やりなおしカナブン』
◆UC8j8TfjHw
:2025/08/28(木) 23:04:57 ID:ftVzt7Bs0
「…ひぐっ、うぐ……ぇ………。…にぐ、肉蝮っ………!!」
「テメェ…なに俺の手掴んでんだ? つか、なにその反抗的な目? ぁ?」
「………っ、…うぅ……!!」
「それに今、俺のこと呼び捨てにしたよな? どうした? …………俺に本気で怒ってほしいのか?」
「んっ……ひぐ……! うぐ……っ……!!」
「俺に。本気で。怒ってほしいのか、つってるよな?」
「…うぐっ……! …うるさいっ…!!!!」
「あ?」
……あたしは、これまでの人生、どんな局面でも楽な方を選んできた。
二つの道があれば、必ず安全そうな方へ。
少しでも自分が傷つかずに済む方へ。
楽で、安っぽくて、逃げるだけの方へ。
……そうやって、ずっと逃げ回ってきた。
それがあたしの、生き方だった。
…だから今も、あたしはこの局面で楽な選択肢に逃げようと思う。
「………ひぐっ……よく聞いて…ぁ、頭に叩き込んでよね………肉蝮っ………!!」
「………………テメェ…」
「………………と言っても…うぐっ……、…別に…理解する事はどうあがいても……『できない』んだけども…………。うぅ……」
「ぁあ?」
「……悪魔からの…、忠告です………っ。いい………?──」
「──一度裏切った奴は…何回でも裏切るんすよっ……!!!!!」
楽な選択肢。
──『バヒョが死ななくても良いようにする』という、逃げの一手を。
…バヒョのこの姿を目に焼き付けて、優勝のお立ち台にあがりたくないっ……。
……これから何十年、ずっとずっと後悔しながら長生きなんかしたくないっ………。
やっとの思いで手に入れた、奇跡みたいな友達がいない世界なんて……あたしは何よりも嫌だった……!!
…だからあたしは……、
万が一のために、肉蝮には渡さず隠していた『魔道具』のひとつを取り出して…。
震える手で、それをマントにギュッと取り付ける…っ。
「テンメッッ…、このクソチビッ…、」
「…っ!!! お願いぃっ!!!!! ────『やりなおしカナブン』ッ────!!!!!」
………っ。…バヒョ……。
お前は「逃げろ逃げろ」って……死に物狂いであたしに叫んでたすけども…。
……あたしだって、もう逃げるのは飽きたっすよ……っ。
──パァァァ……
………
……
…
◆
#074『やりなおしカナブン』
【魔道具説明】
…『タイムリープ道具。』
『取り付けると五分前まで【過去】を遡る。』
『この場合の五分前とはつまり、──』
『──肉蝮がバヒョに、最初のフルスイングを叩き込もうとした、──』
『──丁度その時────。』
927
:
『やりなおしカナブン』
◆UC8j8TfjHw
:2025/08/28(木) 23:05:13 ID:ftVzt7Bs0
◆
………
……
…
「──メムメムッ!!!!! 逃げろよォオオ──…、」
「死ぃいいいいいねえええええええええええええええええええええええええええええ…、」
──スッ…──。
「あっ?!!」
「あ………」
たくさん迷惑かけて
ごめんなさい。
今まで一緒にいてくれて、
ありがとう。
バイバイ。
「────……ひょう太」
「………………メ、メムメ」
………
……
…
【メムメム@悪魔のメムメムちゃん 死亡確認】
【残り61人】
928
:
『やりなおしカナブン』
◆UC8j8TfjHw
:2025/08/28(木) 23:05:25 ID:ftVzt7Bs0
◆
……
…
「……………ねえ、小日向くん」
「…」
私が「ごめん。勝手に使わせてもらったよ」と、スタンガンを見せても、彼は何も反応をしなかった。
スタンガンで気絶させて、更にメムちゃんの魔道具でグルグル巻きにした大男。
一旦は脅威が去ったはずなのに、小日向くんはその場で凍りついたまま、大男と同じように動かない。
私が肩を叩いても、言葉は返ってこない。
何も聞くことがない。
「…………………メムメム」
彼が漏らすのは、その一言だけ。
腕の中で、ぐったりとしたメムちゃんの亡骸を抱えるだけだった。
……辛うじてパーツが残っているといった、メムちゃんの両目を、ずっとずっと。
目を合わせて、眺め続けて。
「…小日な…、」
「………ごめん、高木さん。…少し、ここで待ってて…」
「………え? 小日向…くん……?」
薄明るい廊下にて、ふと立ち上がった彼はそう口に発した。
背中越しに「…五分で済むから」とだけ残し、ゆらりゆらりと歩き出す。
「……どこ、行くの?」
愚問だったのかもしれない。
足を止めた彼は、振り返らずに答えた。
「…作って…やらないとさ…………」
「…………メムちゃんの、を…?」
「……………」
……本当は、私も彼に付いていくべきだったのかもしれない。
でも、その時の私はただ立ち尽くすことしかできなかった。
……五分後、小日向くんが帰ってこれることを、ただ願うことしか。
「……………………ごめんな、…ごめん」
風も、音もない。
ただ電光だけが淡く照らす廊下にて、レモンのような苦い香りが通り過ぎていった。
【高木さん@からかい上手の高木さん 第一回放送通過】
929
:
『やりなおしカナブン』
◆UC8j8TfjHw
:2025/08/28(木) 23:05:37 ID:ftVzt7Bs0
【1日目/F6/東●ホテル/11F/廊下/AM.05:50】
【小日向ひょう太@悪魔のメムメムちゃん】
【状態】放心、人間(←→サキュバス)
【装備】鉈
【道具】なし
【思考】基本:【静観】
1:…………メムメムの墓を作る。
※ひょう太は水をかけられると男、温かい水なら女(淫魔)になります
【高木さん@からかい上手の高木さん】
【状態】健康
【装備】自転車@高木さん、ドッキリ用電流棒@トネガワ
【道具】限定じゃんけんカード@トネガワ
【思考】基本:【静観】
1:小日向くんと行動。
2:……メムちゃん、…そんな。
3:西片が心配。
4:兵藤、大男(肉蝮)に警戒。
【肉蝮@闇金ウシジマくん】
【状態】気絶、全身打撲
【装備】シャベル
【道具】魔道具諸々@メムメム
【思考】基本:【マーダー】
1:畜生ッ…………全員…殺してやるッ………。
2:クソチビ(メムメム)はムカついたが、フルボッコにできたからまぁまぁ満足。
3:ジジイ(兵藤)、クソガキ二人(ネモ、ヒナ)の顔を覚えた。絶対に復讐する。
4:皆殺し後、主催者の野郎とスマブラをする。
930
:
◆UC8j8TfjHw
:2025/08/28(木) 23:06:14 ID:ftVzt7Bs0
【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ】
①お久しぶりです。
②私のスタンス上、平成漫画ロワは書きたい回から優先的に投下して、構想が全く思いつかない回は後回しにしています。
③まぁ、つまり、投下が遅れた理由はそういうわけです。
【次回。多分9月2日投下。】
──See you again.(また会おうね!)
「人畜無骸」…マイク、???、藤原書記、吉田茉咲、札月キョーコ、土間タイヘイ、ゆり
931
:
◆UC8j8TfjHw
:2025/08/28(木) 23:06:34 ID:ftVzt7Bs0
【お知らせ】
本日をもって平成漫画ロワは1周年となりました。
1周年?たかが通過点にすぎん…だなんて言えればカッコイイのでしょうが、正直長いようで長かったです。
「流行り物0のロワなら長続きできそう」との発想で始めた平成漫画ロワですが、
この1年の間、古見さんが完結したり、昼飯の流儀がアニメ化したり、マ●シルさんが色んな意味でえらい目に遭っていたりと、「まだまだ平成漫画(ステマ棚)も捨てた物じゃないんだな」と実感する次第でございます。
改めまして、俺ロワ掲示板管理者様、読者の皆様、毒吐き掲示板の皆様、他関係者の皆様に日頃のご愛顧を感謝申し上げます。
中でも、拙作『#018 ラヂヲヘッド(現:『(元)小日向くん』)』での、高木さんのエミュ度の足りなさを指摘してくださったお方には大変感謝しております。
現状、ほぼ意地のみで書き進めている当ロワでありますが、これから非リレーロワの企画を考えている人達の見本となれるよう、どうにか完結まで付き進めたいと思いますので、
これからもこの頭のおかしいロワをどうかよろしくお願いします。
はい。
『頭のおかしいロワ』とは自虐ではありません。むしろ誇りのつもりでいたりします。
次回以降、どんどんどんどん超変化球かつ超展開&そして超発想に参りますので、このただ者ではないロワを、最期の時までご賞味あれ。
932
:
◆UC8j8TfjHw
:2025/08/28(木) 23:10:53 ID:ftVzt7Bs0
>>907
様。
返信が遅れてしまい、大変申し訳ございません。
また、当ロワのページ作成を検討していただき、誠にありがとうございます。
次スレッド以降当スレは『ステマ棚漫画バトル・ロワイヤル』に改題しますので、
正式名称は『ステマ棚漫画バトル・ロワイヤル』で記事作成して頂ければと思っております。
私は幼少期からパロロワ辞典@wiki様に、自分のSSが載ることが夢でしたので、大変光栄に思います。
本当にありがとうございます。
933
:
『人畜無骸』
◆asMWoVpuyo
:2025/09/02(火) 23:25:44 ID:oXQIdaV60
**『人畜無骸』
[登場人物] [[マイク・フラナガン]]、[[藤原千花]]、[[土間タイヘイ]]、[[札月キョーコ]]、[[吉田茉咲]]、[[田村ゆり]]
934
:
『人畜無骸』
◆UC8j8TfjHw
:2025/09/02(火) 23:26:07 ID:oXQIdaV60
…
……
………
──“……ごほっ、ごほっ…!!”
──“…はぁはぁ……マイク…、歌、一緒にいいかな………。”
──『………え? 歌…ですか……?』
──“………なんでもいいよ……。もう、最後だからさ……デュエットしたいんだ…。なぁマイ……、”
──“……んっ…!!! げほっ……!! ゲホ、ゴホッ……がぁ………ッ”
──『リョ、リョージさん!!! …大丈夫デスか………!! あまり無理は…、』
──“……はぁはぁ…。大丈夫…、大丈夫だから…………。…はぁ…はぁ…”
──“……『just the two of us』……あの歌を…歌おう”
──『……………はいっ』
──“……………これが、俺とお前との…最後の共同作業だな……”
……〜♪
………〜♪
──“………マイク…”
──マイク…。
──マイク……。
………
……
…
935
:
『人畜無骸』
◆UC8j8TfjHw
:2025/09/02(火) 23:26:26 ID:oXQIdaV60
◆
「……マイク…さ、…マイ……………」
「…………………」
「────…マイクさんっ!!」
「……あっ!!」
コトコト──、グツグツ────。
マンション二階の一室。男二人、台所にて。
厚手の鍋で煮込まれるカレーからは、マイク・フラナガンを遠い記憶へ誘うほどの『カナダの香り』が漂っていた。
「………だ、大丈夫ですか? …俺、てっきり具合でも悪いのかと思って……。休みますか?」
「いえいえ。大丈夫デスよ、タイヘイさん。…ちょっと昔のこと思い出して、ボーっとしてました」
「そっか。なら良かったです。ほんと、急に固まっちゃうから心配しましたよ」
「ハハハ、それはスミマセン〜…!」
土間タイヘイ・アシストの元、男の料理として仕上げたのは『カナダ式カレー』。
基本的調理工程、スパイスは日本式と大きく変わらないが、このカレーには肉の代わりにサーモンを使う。
隠し味はメープルシロップ。
ぶつ切りにしたサーモン、ジャガイモを鍋に入れ、カレーパウダーを投入後、生米と一緒に煮込む──そんな一風変わった料理だ。
俗名にすれば、さしずめ『カレー風雑炊』とでも名付けれそうな代物である。
スパイスの刺激と甘さ、そして濃厚さ。
、極寒の大地──カナダを彷彿とさせる、その香り。
蓋を開ければ、キッチンはあっという間に北米の風土に抱かれた。
ぐぅう〜…──
「…あっ!! スミマセンスミマセン〜。ワタシ、ちょっとお腹空いてたみたいで」
「ははは! そりゃ俺も同じですよマイクさん。時間はもう朝食どき。…俺だってがっつきたいくらいですから!」
「オー! それはHAHAHAデス〜!! ではタイヘイさん、満を持して皆のトコにもっていきマショウ!」
「ええ!──」
タイヘイは六枚の皿とスプーンを、マイクは大鍋を抱え、四人の女子が待つリビングへと向かう。
自身の胸元にて匂い立つ、カレーの優しい温もりさ。
その味は、かつてのフィアンセ──折口涼二の面影。
料理が不得手なマイクのために、婚約の日々に彼が教えてくれた、唯一のレシピだった。
ウッドハウスのキッチンで、ぎこちなく魚を切り、
不器用な手つきを笑い合いながら、やがてテーブルには二つの皿が並ぶ。
吹雪の夜、窓の外を白に閉ざされながら、温かな皿を挟んで顔を見合わせ、
同じ味を、好きな人と共有して──、
「──(………ハハ。…リョージさん………!)」
──マイクにとっては、決して色褪せぬ思い出の味だった────。
「お〜〜〜いマイク〜〜〜〜!! ちょっと来てくださいよ〜〜♫」
「ん?」 「あ、フジワラさん…」
ふと、リビングの扉越し、玄関の方から声が響いた。
高いトーンで弾むその声は、まるで花が一瞬で咲き誇るように軽やかで、そして同時に場の緊張感を(良くも悪くも)吹き飛ばす無邪気さを持つ。
──藤原千花。ノ〜天気な書記娘の声である。
「どうしたんデスかね〜…。………あ、ではタイヘイさん、申し訳ないデスがワタシ…」
「ええ構いませんよ! …ただし冷めないうちに、手短に〜…で!」
「ハイ!!」
一体なにが話したいのかと。大鍋を託したマイクは、キッチンをあとにした。
………
……
936
:
『人畜無骸』
◆UC8j8TfjHw
:2025/09/02(火) 23:26:39 ID:oXQIdaV60
『ですからぁ〜、…Kレコレさんに……マネーの方、二十万円頂きたいんですけどぉお…』
『だから渡さね〜つってんだろ虚言ババア!!! ったくテメェはよぉ…ボケ!!』
「……んじゃ、そういうわけだから。私がカレーに手つけなくても文句言わないでよねっ。…特に吉田っ!」
「…あ?」
「血以外のモノ口にしたら私、グロッキーになるんだってば!! 『食物無駄にするな〜』とかアホみたいな説教するんじゃないわよっ!! ねぇっ! 吉田!!!」
「…チッ、釘刺すんじゃねぇよ。それくらい分かってるわ…ったく……。──つかおい書記!! さっきからなんなんだよこの動画!!! 悪口しか言わねぇじゃねぇかコイツ!!」
「ほ〜おやおや〜〜? ヤンキーの吉田さんともあろう方が知らないんですかぁ〜〜? 暴露系YouTuberの配信ですよっ!!」
「…ぁあっ?」
「わ、わ?! す、凄まないでくださいよ!!? もう!! ──…今やSNS台頭時代!! 困った時に『ドラえも〜ん』はもう古いんですっ!!──」
「──つまりは〜っ!! コ●たんにバトル♡ロワイヤルのことをリークして、脱出を図ろう〜〜…って考えたんです〜っ!! …もう相談の予約取りましたからね〜! 動画止めないでくださいよ…、──」
──ピッ
「──な?! え、ちょっとゆりちゃんっ?!!!」
「え、なに? ────…何」
「はぁ?! ゆりちゃんが凄んでも別に威圧感ないですからね?!!? もう〜話聞いて下さいよぉ〜!!!」
「いやNICEだから田村。こんな不愉快動画、田村の情操教育に良くないわよ。…ねぇ〜田村〜!! カレーは私がフーフーしてあげるから、安心して食べなさいよ〜!!」
「………札月さんも、いい加減そういうのいいんだけど」
「…キョーちゃんのゆりちゃんに対するこの甘さなんなんですか……?!」
──ガチャッ
「…おっ」
「みんなお待たせ! 今カレーできたから………って!!!──」
「──コラ藤原さんっ!!! マイクを置き去りにするんじゃないっ!!──」 「あれ? タイヘイさん〜マイクと一緒じゃないんですかぁ〜〜〜?──」
「「──…………。…………………ん?──」」
「──えっ…?!」 「──…へ?」
………
……
…
937
:
『人畜無骸』
◆UC8j8TfjHw
:2025/09/02(火) 23:26:56 ID:oXQIdaV60
薄暗い廊下を過ぎて、玄関。
青白い太陽光を遮るように、マイクの目の前には、確かに藤原千花が──いた。
「いい匂いだね、マイク。…カナダ式カレー……だっけか。思わず足を運んでしまったよ」
「………………っ、…………誰…デスか」
──厳密には藤原千花の『声』が、いた。
「ただ、勝手を言うようだけどね。具材がサケとイモだけとは…少し味気ないんじゃないかい?」
「………アナタ…………『何者』なんデスかっ…!!」
彼女と瓜二つ。
──いや、というよりもまんまの声色を放つ、異型の獣。
微風に毛並みを吹かれ、見た者全てを二度見させる容姿の『奴』は、凍りついたマイクを傍目にふと笑い、
どこからともなく一つの『植木鉢』を差し出す。
「だから、『この食材』を持ってきたんだよ。ちょっとした土産だ」
「………え…………? …だ、だから……、」
「…悪かったね、君の武器をさくら棒なんかにして。我々も時間がなかったのだ」
「……答える気はないんデスか……? ……アナタはっ……」
「そうそう。この植木鉢の中身は『マンドレイク』という……まぁ…野菜みたいなものだよ」
「…アナタは誰なんデスかっ…………!!! ワタシに一体何の…、」
「是非とも君には『引っこ抜いて』、味見してもらいたいさ。主催者直々のプレゼントだよ」
「………………え…?」
「ははは。──」
奴は──。
唐突の来訪者である奴は、植木鉢──植生魔物『マンドレイク』をマイクの足元へ寄せて──、
「──私、────【主催者】からの──ね」
「…えっ」
──AIが描いたイラストかのような偽装された笑みを浮かべた。
◆
#075『人畜無骸』
◆
938
:
『人畜無骸』
◆UC8j8TfjHw
:2025/09/02(火) 23:27:23 ID:oXQIdaV60
折口涼二の死。
午後1時36分17秒、電話口でその報せを受けたマイクに、哀しみの情が押し寄せたのは実に二十五分後の事だった。
理解を拒んだ事実が脳を打った時、──まず彼は呼吸を忘れた。
次に──いま自分がどこにいるのか、その座標をも見失った。
────そして、脈々と伸びていく汗の感触で、自分という存在を辛うじて自認できていた。
「……大声…出しマスよ」
「ん? それは何故だい、マイク」
「それとも、吉田さん達を……皆さんを連れてきたほうがいいデスカ……ッ。──」
「──主催者ッ………!!」
早朝、無音の廊下。
時間を停止させられたかのような、──霊安室にも似た沈黙の中。
立ち尽くすマイクの額からは、一筋の汗がゆっくりと滴り落ちていく。
「…確かにそうだね。君たちにとって私は憎悪の対象。ましてや一対六、立場は圧倒的不利だ。捕まった暁にはどうなることやら…。…私には想像の勇気がないよ」
「…何をふざけているんデスかッ…!!! ……あなたは…ッ、あなたのことは絶対に…ワタシたち…許すことができな…、」
「ただね、私は君との一対一を望みたい思いかな。いいかい、マイク。藤原千花…土間タイヘイ…札月キョーコ…吉田茉咲…田村ゆり。──」
「──君が大声を上げた瞬間、以上五人の首輪を爆発させます。そして折口夏菜の家を燃やします」
「………ッ…?…!!!」
「………ははは、陳腐な脅迫をして申し訳ないね。私も性格上、気が進まない発言だったから、ご容赦してもらえないかな」
「……。……な、…………なんなん…デスか………ッ」
「…ありがとう、大声を出さないでくれてね。……やっぱり君は優しい心の持ち主だよ、マイク」
吐息が、異様なほど冷たく頬を撫でた。
気がつけばマイクの膝は崩れ落ち、巨体は制御を失ったように震えていた。
汗を抑えきれず、表情を強張らせながら、ただその場に押し留められているマイク。
──そんな彼へ、慰めるかのように優しい声をかける【主催者】。
いや、奴が雄《男》なのか、メスなのか。そもそも人間なのかさえ今は知れず。
奴もまた気が付いた時には、四足歩行の容姿から、藤原千花へと姿を変じていた。
「……うーん、そうだな…。常日頃から『都合の良い嘘』で人々を欺く私とはいえ、…優しい君に嘘を付くのは多少罪悪感がある。…そこで、率直に述べるとするよ」
「………え…」
黒いリボンをわざとらしく整えた後、主催者はマンドレイクの葉に指を這わせた。
「マイク。君には優勝してもらいたいのさ」
「………ッ、……優勝って…それは…」
「ああ、皆殺しだね。だが君が気負う必要はない。──」
「──……このマンドレイクという魔物はね、引き抜けば雄叫びをあげる。聞いた者の精神を、粉々に砕くほどの絶叫をあげるのさ。──」
「────いわば、発狂するってわけだね。…形は違うとはいえ、マンドレイクも、そして君自身も」
「…………発…狂……………」
「知らず知らずの内…。意識が混沌とする中、君の身体が勝手に暴れて、そして目を覚ましたら優勝という筋書きさ。どうだい、これほど楽な殺し合いは中々無いと思うよ」
「………………」
「正直私はね、君に大いな期待をしているのだよ。なにせこの恵まれた体格にこのパワー! 優勝候補としてはチップを山積みにしたいほどさ。…ははは。──」
「──だから君は、ただマンドレイクを引っこ抜けば良い。それだけなんだよ」
「………………ッ。──」
地中に埋まるマンドレイクの半目に、睨まれた気がした。
マイクに注がれる、乾ききった二つの視線。──内、一つはなんとか潤いを偽装した視線。
無論、マイクにはそんな微笑みなど通用する筈もない。
「…………アナタ、怖い物知らずデスね………」
「…ん? ……それは褒めているのかな。それとも皮肉かな?」
939
:
『人畜無骸』
◆UC8j8TfjHw
:2025/09/02(火) 23:27:34 ID:oXQIdaV60
「…ッアナタは愚かだッ…!!! 『怖い物知らず』なんて…良い風に言っただけの言葉……ッ。アナタは愚かだから…ワタシたちの怖さを知らないんダヨッ…!!!!」
「………」
悪魔の目になど合わせることなく、彼は力いっぱい植木鉢を払い除けた。
邪魔だった。自分には十分過ぎるほどに邪魔だった。
視界にさえ、入れたくなかった。
940
:
『人畜無骸』
◆UC8j8TfjHw
:2025/09/02(火) 23:28:07 ID:oXQIdaV60
「……吉田さんに…ッ、田村さん、タイヘイさん、キョーコちゃんに藤原さん………ッ!! アナタは参加者誰一人の怖さを…知らないッ…! 何もかも知らないんだッ………!!!──」
「──何よりも…アナタは、ワタシのことを一ミリさえ分かっていないッ…!!! …何が“プレゼント”…デスか…? …ッふざけるのもいい加減にしてくれッ!!!!──」
「──ワタシは優勝なんて考えていないッ…!!! あなたの見込みは的外れ…何も分かっていないんだッ!!!!──」
「──だからもう出ていってくれ…ッ!!!!!」
「…ぽくぽくぽくぽ〜〜…。……いやぁ、それは困りましたよ〜マイク〜〜♫」
「…ぃいッ!!!! だから出ていけと言っているダロッ!!!!」
ましてや藤原千花の姿と声で、耳を汚すような囁きをしてくる奴は、爆発的な不愉快さだった。
マイク・フラナガン。
──亡くなった涼二を以てして、マイクが激昂する様は見たことが無いという。
朝起きても、夜疲れていても常にニコニコ温厚で。
つい彼に当たることがあれば、何一つ非は無いというのに謝ってきてくれる。──お菓子とお酒を愛する、温厚人物だった。
そんなマイクをここまで激情させ、感情のままに言葉を吐かせた────【奴】。
奴──主催者を、『怖い物知らずの愚者』と評したのは、モノの見事といえようか。
遭遇依頼、初めて面と向かい、睨みが止まらないマイクの目を見ても、藤原千花の無邪気な瞳はただ一切の揺らぎを見せなかった。
「……ぃッッ…………」
「……ははは。にらめっこなら、夏菜ちゃんとする方がいいんじゃないかな」
「ッッッ…!!!!」
無邪気にして醜悪なその笑みに、掌で握り潰したい衝動が胸を焼く。
だが──理性が、最後の良心が、それを押しとどめた。
偽物であれ、憎むべき主催者であれと。藤原千花の顔を傷つける真似は、彼にはできなかった。
「………もういい。アナタのことは知らない。……関わったワタシが馬鹿デス」
「…おや、おや」
相手にするのも馬鹿らしい、と。
そう自分を誤魔化しながら、マイクは踵を返し、リビングへ戻ることを思い立った。
ただ、『誤魔化す』とは言っても、僅かばかり不器用である彼には百パーセント包み隠すことはできない様子で。
主催者視点からして、ゴツゴツしたその背中からは、目には見えない怒りのオーラが隠しきれていなかった。
──それでもマイクは、後を去り、なんとか主催者との遭遇を『無かったこと』にしようと奮闘した。
「おーい。マイク〜、どこに行くんだ〜〜〜い?」
「………………………」
たとえ、緊張感のないほんわかした藤原千花の声が、彼を挑発するかのように追いすがってこようとも。
マイクは堪え続けた。
「“ワタシのこと何も分かっていない”──そう言ったけど、私は君のことを全部知っているのだよー?」
「……………………………」
一歩、また一歩。
確かに遠ざかっていく背中へ、声は執拗に張り付いてくる。
「そりゃ主催者の務めだからね。君の家族や過去、折口夏菜ちゃんとの関係や、弥一が君をどう思っていたのかも………。私は全て知っているのだよ〜〜、マイクーー」
「…ッ、………………………………」
主催者とて偽装するほどの余裕さがなくなってきたのか。
藤原千花の声に、時折野太い男が混じり入った声で、奴は執拗に呼びかけ続けた。
「君の亡くなった婚約者──涼二のことだって、私はなんでも知っているのだからなァアーー」
「……………っ。──」
「──……………………………………」
“それが切り札のつもりなのか”──。
“リョージの名を出せば足を止めると思ったのか”──。
941
:
『人畜無骸』
◆UC8j8TfjHw
:2025/09/02(火) 23:28:18 ID:oXQIdaV60
マイクはそう思ったのかもしれない。
だが、どうあれ彼は振り向かない。
語らぬ背中を突きつけたまま、歩みを止めることはなかった。
「おーい!! おーーい!!」
何度も何度も呼ばれても、
「おいって。…おい。おーいっ」
声質が完全に、化けの皮が剥がれ。男の声と化しても、
「……おーいッッ!!!!」
「………………」
942
:
『人畜無骸』
◆UC8j8TfjHw
:2025/09/02(火) 23:29:04 ID:oXQIdaV60
マイクは空腹の事ばかりを無理矢理考えて、無視を決め込んだ。
リビングに続くドアノブを、力を抑えて押し込むマイク。
──その握り拳を、普通の人間なら憎たらしい主催者奴へ、絶命の限り決め込むというのに。
主催者の言葉通り、
────マイク・フラナガンは、本当に『やさしい人間』であった。
「おーい!!!」
「………」
「────おい。……待ってくれよ、マイク」
「…………………えっ」
六度目の「おーい」が響いた時。
マイクの手は、ドアノブから弱々しく落ちていった。
「……え…………」
「ははは、やっと振り返ってくれたか。マイク」
その声はもはや藤原千花のものとは全く似つかわぬ、三十代半ばの男──低く湿った響きだった。
振り返る必要などない。
無視しなければならないと、自分に言い聞かせていた。
絶対に応じてはならなかった。
──だが、人は、過去に縛られる生き物だ。
もし、失くした宝物が見つかったという情報を耳にしたら。
もし、夢の中で亡くなったペットに声をかけられたなら。
もし、三途の川の向こう岸に、大切だったあの人が立っているのだとしたら。
「……………ぁ、あ…………」
──分かっていた。
罠であることは、分かっていたはずだった。
それでも、マイクの瞳に映る────その男。
「やぁマイク…。元気だったか?」
「リョ………リョージ…さ…………」
植木鉢を片手にニコリと微笑む、
────折口涼二の姿を。その声を、目の当たりにして。
「……俺との『約束』………、果たしてくれたよな?」
「………ぁぁ、あ………リョ、リョージ……………ッ」
「ははは。ワガママで悪いけどさ、もう一つ約束…頼めるかな? …いや、その話はいいや。ともかくさ…」
「…………え?」
943
:
『人畜無骸』
◆UC8j8TfjHw
:2025/09/02(火) 23:29:26 ID:oXQIdaV60
「……好きだ。もうずっと一緒だよ………。何があっても絶対に離さない。──」
「──………愛してるよ、マイク…」
「…リョ、リョージ………さ…、」
マイクの全身から力が抜けてく。
霧散するように、怒りが消え失せていた────。
──────ブチュリッッ……
──ベチャッ……ベチャ、ベチャ……
「………………………ぇ」
刹那。
内側から押し広げられた風船のように膨れ、音を立てて弾け飛ぶ──涼二の肉体。
四肢は節ごとに断たれ、顔は輪郭を失い、ねじれた蝋細工のように飛散する。
手足、臓腑、眼球、脳漿、筋繊維。
赤黒い破片が空中に散り、降り注ぐ雨。
床に叩きつけられ、ピクピクと温もりを保った臓物と骨の破片──。
──亀裂まみれの顔面の涼二。
「ぁ…あ、あ。ぁあ、あ…」
「…イッ、イイ………ッ」
──張り裂けんばかりの高笑いを噴き上げながら、涼二はマイクの眼をがっちり合わせた。
「やあ、マイク!!」
「ぁぁああ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!!!!!!!!! あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ッッッ!!!!!!!!!」
「あははははははははははははハハハハハハハハハハハハはははははははは──────っ!!!!!! あ゛っははははははははははははは!!!!!!!!」
944
:
『人畜無骸』
◆UC8j8TfjHw
:2025/09/02(火) 23:29:59 ID:oXQIdaV60
「ぁぁああ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!!!!!!!!! りょ、りょうじざぁァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」
「ひひひひ……はははは……あ゛っはっはっはぁぁぁっ!!! 痛い痛い、死ぬのはイヤだよぉ……あーっははははははははッッ!!!!」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!! あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッッ!!!!!!!!!!!」
「ぼっくんをまた一度見殺しにする気かいっ!!!? そんなのは嫌だ…嫌だぁああああ!!!! 痛いよぉおおおおおおおおおよよよよよよよよよよよよよよよよよよよよよよよよよ!!!!!──」
「──あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっっっ!!!!!!!!!!」
945
:
『人畜無骸』
◆UC8j8TfjHw
:2025/09/02(火) 23:30:11 ID:oXQIdaV60
もう、かつての落ち着きを見せていたマイクはいなかった。
髪を乱し、自身の頭をわしづかみにしながら、喉を裂くような絶叫を吐き続ける。
指の間からは汗と血がにじみ、爪が頭皮に食い込む。
理性の残滓などすでに砕け散る。
ただ「あ゛」の連なりだけが、獣のように響き渡るのみ。
脳細胞が一秒ごとに潰れていく錯覚の中、頭を真っ白にしてマイクは叫び続けた。
「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙」
「…す、素晴らしいっ!!! 君の優しさは存分に認めるとしよう、この私は!!!」
そんなマイクを、心の底から慰めるように。
ズルリっ、ズルリ──とトマトソースのように崩れた涼二が、彼の体へ纏わりつく。
崩れ落ちた膝から、胴にかけて。首元まで、スライムの如くゆったりと。
──ズボッ──。
赤黒いスライムから、引き裂かれんばかりに口角を上げる、涼二の顔が浮き上がる。
「だが私はね、優しさとは『余裕』がある者の特権だと思っている!! だからこの世の中は陰湿で悪い人間ばかりなのさ!!! 皆、余裕なんてないのだからぁ!!! さて、君はあるかね?! 今、余裕なんてものは、心にあるのかね?!!!」
「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ぁぁぁ…」
「そうさないとも!!!! 君の心はもう容量オーバーだ!!!! …私は知っているぞ?! なんでも知っているぞ!!!! 折口涼二のことは、君以上に知っているのさぁ!!!!」
「ぁぁあ…あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙…あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!!!!!!!!!!」
──片目を零し、肉が崩れてぐずぐずに溶けた涼二の顔。
──静かに笑みだけを貼りつけるその顔は、指一本も入らぬほど近い距離で。
946
:
『人畜無骸』
◆UC8j8TfjHw
:2025/09/02(火) 23:30:29 ID:oXQIdaV60
「涼二の死因は病死なんかじゃない!!! 自殺なんだよ!!! 就寝前、インシュリンをあえて打たなかったことによる自殺!!!! その選択を私はこの目で見たのさぁ!!!──」
「──彼の最期の言葉も聞いたぞ!!! 『どうして俺は、普通じゃないんだ…』──彼は同性愛を疎む世の中を恨んで、怨念のまま死んだんだ!!!! 未練たっぷりに死んだんだよ!!!!!──」
「──涼二は生きたかった!!!! ほんとは生きたかったのに許してくれなかったんだ!!!! 愚母が…愚父が…愚かな弥一が!!!!! 世の中がぁ!!!! …だから、偏見のない世界を作ることこそ、君の役目なんだよっ!!!!!!──」
──血交じりの唾液を激しく散らした後、奴はマイクに──、
「────『弟の夫』マイク・フラナガンくん。私なら、君と涼二の【約束】を叶えられるんだよ」
「ぁ、ぁ……ぁ……………………」
────悪魔らしく、優しい声色で囁いた。
──ガチャリっ────と、ドアが開かれる。
現れた者は土間タイヘイ。凄まじい雄叫びに慌てて駆けつけたのだ。
「大丈夫ですか!? マイクさん!!」──そう声をかけようとした時。もう、涼二──主催者の姿はなかった。
「……え?」
「………」
「………マイク…さん?」
丸太のような腕から引き上げられる、一本の『魔物』。
──マイクの代わりとして──、土から引っこ抜かれたマンドレイクが、事のすべてを雄弁に説明するまでだった。
…
……
キィヤアァァアエエエエエエエエエエエエエエエエッッ─────
エエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエェェェ─────────ッッ
……
…
947
:
『人畜無骸』
◆UC8j8TfjHw
:2025/09/02(火) 23:30:48 ID:oXQIdaV60
◆
歌を、歌えば、
気が晴れるらしい。
…
……
──“悲しいときは歌えばいいんですよっ!”
──“歌には不思議な力があります! 悩んでるときはまず歌えば、バッと気が晴れるものなんです!!”
……
…
誰が言った言葉だったのか、もうマイクは思い出せなかった。
「…ゲキキキキ……!!──」
「──♪One day〜, in the forest〜〜…ゲキャキャ!!」
(♪ある日〜、森の中〜)
「♪I met〜, a bear〜〜♫ ききき!!!」
(♪熊さんに〜、出会った〜)
実に楽しげな笑みを浮かべ、町を闊歩する男──マイク・フラナガン。
彼が唯一覚えていたのは、
──マンドレイクの叫びで泡ぶくを噴き出した、土間タイヘイのこと。
──自分が標的に定めた、四人の女子たちのこと。
──馬乗りになって、鼻血が出てもなお、拳を浴びせ続けた、札月…キョー…………のこと。
──自分の頭へ、木刀で殴りかかってきた……吉田……ま………………のこと…。
──勝てないと見込み、たむ……ら…………と、タイヘ……と…、。デイバッグを置き去りに……、三人を抱え逃げる…………よし…だ………と…きょー………のこ、と……………。
──そ、し……て。
──………抱えられたうちの、『一人』……、桃色髪の女子の脚を……掴み上げ、
──………四人を追いかけることを…放棄し………、ピンク髪の………彼女だけの…抹殺を…開始…する……。
──…ベランダから………放り投げて、…………地面に…叩きつける轟音を響かせた………………、
────…名前の忘れた、あの子。
「………。──」
948
:
『人畜無骸』
◆UC8j8TfjHw
:2025/09/02(火) 23:31:05 ID:oXQIdaV60
「──On a flower-blooming forest path〜〜〜♪──」
(花咲く森の道〜〜♪)
「──♪a bear〜…、」
(くまさんに〜…、)
「…出会っ……た…ぁ………………♪」
「………………」
「……マイ…ク…………。…つらい……とき…は………一緒…に……歌いましょう…よ…………」
「……………ぃいぃい?」
彼の歌声に、足元からかすかなハモりが重なる。
「…独唱は…つまら、ない…で…しょ…………?」
「……………ぃいい〜??」
「………だから……行かない…で………よ………………」
ズタボロで、目から光が消えかかっている彼女。
倒れ伏せる彼女を見ても、マイクがとどめを刺さなかったのはどういう心境か。
単なる偶然なのか。
それとも、まだ心の奥底に、『本来のマイク』が残っている証なのか。
「………oh,…産め!!! 産め神の子を!!!! しゅうう〜〜〜りょぉおおお〜〜〜〜〜〜〜!!! ゲキャキャキャ!!!」
「…ま、いく………………………。──」
「──……ぅっ…………」
何はともあれ、マイク・フラナガンは『考える』という煩わしさをもう放棄しきり、獲物を探しに歩き続ける。
全て忘れ切り、
自分さえも完全に見失っても、
──『歌うこと』だけは忘れずに。
「………。──」
「──………二番〜、にばん〜〜〜〜〜〜!!! パチェ湖の汁を添加したぱちゅたぁ〜〜げいっげいっげぇえええ〜〜〜〜〜!!!」
意識の途絶えた藤原千花を振り返ることなく、一人、街をさまよい続けた。
949
:
『人畜無骸』
◆UC8j8TfjHw
:2025/09/02(火) 23:31:16 ID:oXQIdaV60
♪
くまさんの、言うことにゃ、
お嬢さん、お逃げなさい、
すたこらさっささのさ…、
すたこらさっささのさ…………。
【札月キョーコ@ふだつきのキョーコちゃん 第一回放送通過】
【田村ゆり@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!! 第一回放送通過】
【吉田茉咲@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!! 第一回放送通過】
【土間タイヘイ@干物妹!うまるちゃん 第一回放送通過】
【藤原千花@かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜 第一回放送通過】
【マイク・フラナガン@弟の夫 第一回放送通過】
950
:
『人畜無骸』
◆UC8j8TfjHw
:2025/09/02(火) 23:32:15 ID:oXQIdaV60
【1日目/G5/住宅街/AM.05:11】
【藤原千花@かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜】
【状態】気絶、暴行痕複数
【装備】護身用ペン@ウシジマ
【道具】ワードバスケット@目玉焼きの黄身
【思考】基本:【対主催】
1:………マイ…ク………。
【マイク・フラナガン@弟の夫】
【状態】精神完全崩壊
【装備】なし
【道具】なし
【思考】基本:【マーダー(発狂)】
1:rfghfれghfげrhfrghjけgqhgfrへgbふへrhfヴぇrhfgrへgfrgfh
【チーム・キョンシーズ】
【札月キョーコ@ふだつきのキョーコちゃん】
【状態】暴行痕複数、鼻骨折
【装備】なし
【道具】なし
【思考】基本:【静観】
1:マイクに激しい恨み。
2:ふ、藤原…藤原が…ぁ………!
【田村ゆり@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!!】
【状態】ハーフフット(ロリ化)、キョンシーの服装
【装備】なし
【道具】なし
【思考】基本:【静観】
1:……な、なにが起きたの………。
【吉田茉咲@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!】
【状態】暴行痕複数
【装備】木刀
【道具】タイムマシンボール@ヒナまつり
【思考】基本:【対主催】
1:………マイクの野郎ッ!
【土間タイヘイ@干物妹!うまるちゃん】
【状態】意識消絶、背中に痣(軽)
【装備】なし
【道具】ボイスレコーダー
【思考】基本:【静観】
1:…………………………。
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◆UC8j8TfjHw
:2025/09/02(火) 23:32:48 ID:oXQIdaV60
【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ】
①つい先日散々大絶賛しておいてアレですが、『颯爽と走るトネガワくん』からChtagtに書かせるのやめました。
②理由は単純。自分で書いた方が楽しいから。
③せっかく1年も書いてきて、自分なりの手つき・小説論を掴んできたものですから。これからも、私の癖全開な文体で書き進めて行こうと思います。
④つまり、何を一番に言いたいかと言うと、挿絵も手書きで始めるので急激に画力が劣化します。ご了承ください。
【次回。多分9月9日投下。】
──勇者であれ。
──Be ambitious.
「我が友よ冒険者よ」…来生、ライオス、ハルオ、オルル、早坂
同時上映「め組の」…うっちー、早坂
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◆UC8j8TfjHw
:2025/09/02(火) 23:33:41 ID:oXQIdaV60
【お知らせ】
今回をもって、この「どうでもいいネタバレシリーズ」はラストになりました。
これまでゴアイコーいただきありがとうございます。
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