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UnHoly Grail War―電脳世界大戦―Part2

46Good Evening,World! ◆sYailYm.NA:2023/12/03(日) 22:05:53 ID:.0f3nx2c0
『オッケー質問に答えてやる! 聖杯戦争が本戦に移行するに当たって、この冬木市は一度リセットされるんだ!
 何せやんちゃ盛りな奴らが破壊も虐殺もやりたい放題してくれたからな! オマエらが会合してる間に運営(こっち)で大戦用の新ワールドを用意してやるって訳さ。感謝しろよな!』
「また随分と親切な事だな。何の為にそこまで拘るのかは全く読めんが……神は細部に宿る、なんて諧謔を愛する柄でもあるまいに」
『これ以上の長話はまたの機会にお預けだ! 『白の陣営』所属マスター・瀬崎愛吏! オマエをこれから会合空間・星界円卓へと転送する!』

 愛吏は、割と真剣に頭痛を覚えずにはいられなかった。
 此処までの聖杯戦争についてだけでも、今までの日常と全く違うスケール観の話に目眩がしそうな思いだったというのに、此処に来てまた一つ巨大すぎる話が出てきたものだからいよいよ全部投げ出したくなってくる。
 しかしそんな彼女に、これ以上コガネは猶予をくれなかった。
 視界にノイズが走る。テレビの砂嵐のように乱れていく視界は、やがて見慣れた部屋のとは違う光景に変わっていき、そして     。






 聖杯大戦。

 “Holy Grail War”本戦に進出した二十人のマスターは、聖杯によって四つの陣営を割り振られる。
 『白』。『黒』。『赤』。『青』。
 自軍の色以外の陣営に所属するマスターを全員脱落させ、最後まで自軍の色を残す事が大戦参加者の最終目的となる。

 また各陣営には一人ずつ、便宜上の“リーダー”が存在する。
 リーダーが持つ権限は陣営の所有物として配布されている特殊空間、『会合空間・星界円卓(プラネット)』の維持である。
 リーダーが死亡した時点でその陣営の星界円卓は封鎖され、二度と接続する事は出来ない。

 星界円卓に転送されるのは大戦移行時のワールドリセットの場合を除き、原則マスター達の意識のみである。
 肉体及び霊体は失神状態で冬木に残される為、円卓への接続時には安全な場所で且つサーヴァントの護衛を伴っておく事が望ましい。
 但し、令呪のやり取りやサーヴァントとの再契約・契約移譲は意識体のみでも行う事が可能。

 星界円卓への接続及び切断は任意で行う事が出来、同陣営内であれば各陣営に配布される運営側NPC『コガネ』を介して招待を送れる。これに応じるか拒否するかもまた任意。
 但し、他陣営のマスターを自陣営の円卓に招待する権限はリーダーのみに与えられている。その上で尚且つ、令呪一画の消費が必要。円卓内では他陣営のマスター及びサーヴァントに対し、一切の危害を加える事は出来ない。





47Good Evening,World! ◆sYailYm.NA:2023/12/03(日) 22:06:46 ID:.0f3nx2c0



「アラ、アラアラアラアラ! 最後の一人はこれまたかわいこちゃんだコト――フフフ、同じ『白』のマスター同士、仲良くしましょうねェ?」
「ひっ」

 転送された先は、サイバーパンクな光が散りばめられた仄暗い空間だった。
 部屋の四方は十メートル弱。そんな部屋の真ん中に、黒曜石を切り出したような真黒の円卓が置かれ、それを五つの椅子が囲んでいる。
 何となく、星空を連想させる空間だった。色とりどりの星が瞬く夜空の中に円卓を置いたような印象を愛吏は受けた。

 ……が、そんな彼女の情緒的思考もおもむろに響いた甲高い声の主を見るなり吹き飛んでしまう。
 声の主は、常人の二倍はあろうかという体躯で窮屈そうに椅子へ腰掛けた白衣の怪人だった。

「脅かすものじゃない、孔富先生。見てくれで人を差別するのは感心しないが、君の場合は特別だ」
「あらヤダ、眞鍋先生ったら正論! 私、正論って嫌いなのよねェ……居心地悪くて。でもンフフ、怖がらなくていいのよ。こんなナリでもちゃあんと私、アナタの同僚(ナカマ)。打ち解けたら恋バナでもしましょうねェ」

 愛吏の怯えを見てか、助け舟を出したのは男は眞鍋と呼ばれていた。
 怪人――孔富と共に“先生”と呼び合っている辺り、そういう身分の人間なのだろう。
 跳ねた心臓を宥めながら「……どうも」と何とか無愛想な返事を返した愛吏の耳に、今度は不機嫌そうな咳払いの音が飛び込んだ。

「……全員揃った事だし、会合を始めてもいいかしら?」

 声の主は、長い銀髪の女だった。
 キツそうな人だな、と思いながら愛吏はとりあえず頷く。
 この手の人種の不機嫌と真っ向から向き合うのは、今の愛吏では少々しんどかった。

(……人と話すの久々なのに、そこまで緊張してないな)

 状況が状況だというのもあるし、何より周りのキャラが濃すぎるのも手伝ったのだと愛吏は自己判断する。
 何せ右隣に人を二人縦に繋げたみたいな怪人が座っており、自分以外は誰も彼を気にもしていないような異常な状況だ。荒療治ではあるが、対人関係に対するトラウマが一時的に鈍麻するのも宜なるかなといった状況である。

 そんな愛吏の心境をよそに、女は顔の前で手を組みながら改めて口を開き――語り始めた。


「自己紹介をさせて貰うわ。
 私がこの『白の陣営』のリーダー、アナタ達を率いて戦う立場を任ぜられたマスター。オルガマリー・アニムスフィアという者よ」


 『オルガマリー・アニムスフィア』。
 そう名乗った女の言葉に、愛吏は小さくない驚きを覚えずにはいられなかった。
 白の陣営のリーダーという初めて聞く筈の概念が、改めて質問するまでもなく頭の中に既知の観念として存在していたのだ。
 愛吏の驚きを察してか、ニッと笑顔を浮かべながら、さっき彼女に助け舟を出してくれた双葉頭の男が話しかけてくる。

「何度経験しても驚くよな。最初の時と同じ要領で、俺達の中に追加の知識(データ)がダウンロードされたらしい」
「眞鍋! 勝手に喋らないで、まだわたし何も言ってないわよ!」
「ああ――すまないオルガマリー。教えたがりは職業病でな、大目に見てくれると助かる」

 丁度いいから次は俺が喋ろう、そう言って名乗り始めた男の自己紹介はある意味で予想通りだった。

48Good Evening,World! ◆sYailYm.NA:2023/12/03(日) 22:07:53 ID:.0f3nx2c0

「眞鍋瑚太郎だ。職業は教師。一応担当は小学校だが、中高は勿論大学でも教鞭を執れるように勉強してきた。解らない事があったらいつでも聞いてくれ」

 『眞鍋瑚太郎』と対面し、まともに喋った人間なら誰しもその職業を思い浮かべたに違いない。
 小学校教師というのも納得だ。相手の目を見て、ハッキリとした声で喋る大人の男。
 彼が名乗り終えるなり、今度は件の怪人がずいと身を乗り出して続く。

「繰田孔富。闇医者よ。『白の陣営(ウチ)』の保健担当って所かしらン」

 対する『繰田孔富』の名乗り上げには、眞鍋のとはまた別の説得力が伴っていた。
 彼からは、匂う。その見た目の奇抜さともまた別な、ギラつくような不穏の匂いが白衣の清廉さを冒涜するようにこびり付いて感じられるのだ。

(これはこれは。また随分な際物を揃えたじゃないか)
(黙ってて)

 セイバー……時灘の嗤う声が愛吏の脳裏に木霊する。
 咄嗟に嫌悪も露わの拒絶を返したが、しかし今回に限って言えば、時灘が口を挟んだのは愛吏にとって明確な手助けだった。

『孔富と言う男も大概だが、あの眞鍋なる男も――クク、たかが人間にしては面白い面をしている。
 気を付け給え、マスター。残る二人はさしたる価値も見出だせない微塵だが、この男達は人の世には惜しい逸材だ。
 『白』などと潔白ぶった事を言っておきながら、実態はとんだ伏魔殿だな。ある意味で君には相応しい陣営だったのではないか?』

 最後の嘲弄は癪に障るが、それよりも重要なのは時灘という人でなしの鬼畜外道が孔富に並べて眞鍋の名を挙げ連ねた事だ。
 この男がどれほど悪辣で、性根の腐り切ったサーヴァントであるかは愛吏もよく知っている。
 只、一方でその実力が確かだと言う事もまた知っていた。そんな男が、遠巻きに警戒の必要性を仄めかしている。不信に表情を翳らせてしまったのは、寧ろ賢明な事だったと言えよう。

 その視線の変化に気付いたのか、眞鍋がフッと頬を緩める。
 バレたかな、とでも言うような……どこか悪戯のバレた子供のような微笑だった。

「愛吏は優秀なサーヴァントを連れてるみたいだな。手駒(コマ)は大事にしろよ」
「ンフフ――あらら、バレちゃったわねェ眞鍋センセ。人でなしだってコ・ト」
「子供の前では形だけでもいい大人で居たかったんだけどな、こればかりは仕方ない。教え子が優秀な駒を持ってる事を素直に喜ぶさ」

 伏魔殿、まさにその通りなのだと理解したのは遅蒔きだったか。
 愛吏は自分の喉が、張り付くように乾いている事に気が付いた。

 そう――彼らは此処までの竜戦虎争を勝ち抜いて、屍を踏み越えてこの円卓に座っている猛者達なのだ。
 自分のように部屋の中へ閉じ籠もってサーヴァントに全てを任せ、気付いたら先に進めていた幸運者とはきっと訳が違う。
 教室という小さなゲーム盤の中に戻る事にさえ怯えていた自分とは明確に住む世界の違う、人の形をした怪獣(モンスター)達。
 そんな認識に忘れていた恐怖と不安が蘇り、詰まる息を通すように胸元の布地をきゅっと握った、その時。

 それとはまた別に、彼女の服の袖が「きゅ」と引かれた。

「え……?」
 
 咄嗟にそちらを見れば、そこに居たのは目を疑うように小さな少女だった。
 白い。童話の世界から抜け出してきたのかと見紛うような、シックなドレスを着た幼子。
 愛吏もまだ子供と言っていい年齢ではあるが、目の前の彼女は小学校も出ていないだろう。それどころか歳が二桁に達しているかすら怪しい。

49Good Evening,World! ◆sYailYm.NA:2023/12/03(日) 22:08:47 ID:.0f3nx2c0

(こんな小さい子まで、聖杯戦争に参加してるの……?)

 戦争は愚か、事の善悪さえ分かっているか怪しい年齢ではないか。
 大人達の放つ存在感に圧倒されて気付かなかったが、彼女の存在もまた十分に驚きに値する事だと言えた。
 
 一方でそんな愛吏の驚きなど露知らぬとばかりに、白い少女は花咲くように顔を綻ばせて話しかける。

「きれいなひと。ねえ、あたしとお友達になってくださらない?」
「……、お友達?」
「そう、お友達! あたしね、いっしょに楽しく遊べるお友達を探しているの!」

 今度のは、孔富達に話し掛けられた時のとは完全に別の困惑だった。
 この物々しい空間で、まさかこんなのどかな……牧歌的なやり取りを持ち掛けられるとはまったく思っていなかったからだ。
 さしもの愛吏も子供相手に萎縮するほどではなかったが、それはそうとどうコミュニケーションを取ればいいのかは迷うし戸惑う。こんな時、時灘の奴は助言の一つも寄越さない。彼にとってこの少女は“つまらない相手”でしかないのだろう。

 しかしそんな愛吏に対し、予想外の所から助け舟が飛んできた。

「――ありす!! 勝手に席を立たない!!!」
「きゃっ」
「大人しくしてなさいって言ったでしょ! まったくもう、大事な会議なのよ!? なのにどいつもこいつも好き勝手喋り放題して……!」

 まるで子供のやんちゃを咎める母か姉のように、オルガマリーがありすを一喝したのだ。
 「わたしがリーダーだってコト、ちゃんと分かってるのかしらこいつら……!」と苛立たしげにブツブツ呟いている姿にはあまり威厳はなかったが、逆に言えばこの空間ではありすと同じで多少安心出来る存在にも感じられた。
 なんというか、ちょっとだけ親近感がある。思い通りに行かなくてああいう感じになった経験は、愛吏も割と最近あった。

「女王様がお怒りだ。席に戻るぞ、ありす」
「……もうっ、オルガはけちんぼだわ! ハートの女王様みたいに怒りん坊なんだから! べーっだ!」
「おうおうわかったわかった。帰ってから悪口大会に付き合ってやるから」

 ありすの身体が、ひょいと担ぎ上げられる。
 彼女のサーヴァントなのだろう青髪の男が軽口混じりにありすを回収し、またその言葉尻に女王様(オルガマリー)が顔を顰めた。

「アナタも保護者ならきちんと諌めなさい、アルターエゴ! はあ、まったく……」
「いいじゃねえか、やんちゃと生意気はガキの特権なんだ。もうちょっと余裕をもって優雅にやろうぜ、リーダーさんよ」
「喧嘩を売られてるって事でいいのよね? ねえ、わたしの認識間違ってるかしら?」

 青筋を立てるオルガマリーには知らん顔で、ありすを席まで戻すサーヴァント――アルターエゴ。
 「リーダーの素養には欠けるみたいねェ」と笑う孔富を一瞥し、オルガマリーは大きな咳払いを一つする。

「……自己紹介も済んだようだし、まずは前提の共有から入らせて貰うわ。
 それに伴って一個確認。アナタ達皆、コガネから聖杯大戦についての知識はちゃんと受け取ってるわね?」

 無言の頷きが、三つ。ありすのみが「はーいっ」と元気よく手を挙げて答える。さっきまではむくれていたのに、こういうところは本当に子供らしい。

「宜しい。ならそれを踏まえた上で、わたしの話を聞いて貰うわ」

 実の所を言えば、わざわざこの期に及んで共有するようなシステム周りの知見は皆無であった。
 何しろコガネ――運営側のNPCがせっせと必要な知識を全てインストールしてくれているのだ。
 聖杯大戦の事も、この『星界円卓』の事も、そしてリーダーであるオルガマリーが持つ“価値”も全員が不足なく共有している。
 
 であるのならば、今此処で話すべきはその前提を超えた先の話。
 即ち、聖杯大戦(これから)の事だ。

50Good Evening,World! ◆sYailYm.NA:2023/12/03(日) 22:10:04 ID:.0f3nx2c0

「アナタ達は……“人理焼却”という単語に聞き覚えはある? サーヴァントにも訊いて貰えると助かるわ」

 オルガマリーの口にした耳慣れない単語に、一人また一人と首を横に振っていく。
 そう、と落胆したように溜息をつくオルガマリー。愛吏は当然そんな単語は聞いた覚えもなかったし、時灘からも何ら言葉らしい物は伝わって来ず、改めて問い掛ける気にもなれなかった。

「最初に言っておくわ。わたしには、聖杯の獲得とは別の目的があります」

 そう前置いて、オルガマリー・アニムスフィアは、白のリーダーは説明を始めた。
 
 ……聖杯戦争及び聖杯大戦について、愛吏達は等しく予め知識を与えられている。
 だから理性ではどれだけ困惑したとしても、脳は知識として目の前で起こる事象や状況を理解してくれていた。
 だが此処でオルガマリーが語った内容はその外側。電脳世界に於ける“Holy Grail War”ではなく、もっと源流に近い領域の話。聖杯戦争という概念が生まれた幹とでも呼ぶべき事象群の出身者によって語られる理外の内容だった。

 人理継続保障機関フィニス・カルデアなる聞き馴染みのない組織の名前。
 件の機関が有する機構が観測した人類の滅亡と、それを阻止する為の計画――グランドオーダー。
 自分はその第一段階、特異点Fという異界にレイシフトした筈だったが、どういうわけか目的の特異点ではなくこの電脳世界に繋がってしまった。
 此処での自分の目的は、カルデアの所長、アニムスフィア家の現当主として人理焼却事件の調査と解明に臨む事であると。矢継ぎ早にそう語ってのけたオルガマリーを前に、『白』の一同は困惑を含む沈黙で応じるしかなかった。

 その沈黙を最初に破ったのが、双葉頭の教職者。眞鍋瑚太郎だった。

「話は判った」

 他の全員が――超人魔人が跋扈する魔境めいた裏社会の住人である孔富でさえもがコメントに窮してチラチラと周囲の様子を窺っている中、この男は話の大筋を理解したのだとそう宣う。
 只、その表情は先程愛吏に語り掛けていた時のとはまるで違う趣を帯びていた。
 切り出した氷のように冷めた、色のない表情。人間味というものが急に欠落してしまったかのような空ろさを、今の眞鍋は現している。

「生憎と現時点で提供できる情報もアイデアもないが、この陣営のリーダーは君だ。君の指針が僕や子供達にとっても有益であるならば、本分に支障を来さない範囲で協力しよう」
「助かるわ。この事象が偶発的な物なのかそれとも人理焼却に紐付けられた物なのかはまだ判然としないけど、それでも――」
「だが、その前に一つだけ確認しておきたい」

 オルガマリーの言葉を遮って、眞鍋が問いを投げた。

「聖杯大戦とグランドオーダー。君の中の天秤はどちらに傾いているんだ?」

 ……一瞬の沈黙が、流れる。
 その問いの意味を愛吏はすぐには理解出来なかったし、幼いありすもそうだったのだろう。きょとんとした顔をしていたが、一方で孔富は彼の言わんとする事を理解したらしく、値踏みするようにオルガマリーへ向けた眦を細めている。
 沈黙の果て。オルガマリーが、厳しい顔をして唇を開いた。

「……聖杯を手に入れてわたしの世界の問題を解決出来るなら、勿論それで構わないわ」
「成程。つまりあくまでも聖杯大戦への勝利は第二候補(スペアプラン)という訳だな?」
「――そうなるわね。リーダーとしての務めは果たすし、この陣営が最後に残れるように最善も尽くす。
 けれど眞鍋、アナタの言う通りよ。わたしはこの大戦に於ける勝利以上に、わたし自身の大義を優先して行動する」

 空気が凍り付く。最早この場に、眞鍋の問いの意味を理解出来ない者はいなかった。

「……なにそれ。こっちはあんたの事情なんて知らないんだけど」

 無論、愛吏としてももう他人事ではない。
 人理焼却。世界の滅亡が懸かったそれは確かにオルガマリーにとっては何よりも優先して臨むべき事案なのであろうが、しかしそんな話など知らない人間にしてみれば彼女の語った姿勢は傍迷惑で自己中心的な代物以外の何物でもなかった。
 眉を顰めて睨み付ける少女に、オルガマリーもしかし退きはしない。

「言ったでしょう、大戦(こっち)はこっちで最善を尽くすわ。アナタ達に不自由は懸けないと思うけど、それでも不服?」

 愛吏は、未だこの聖杯大戦での身の振り方を考えあぐねている身だ。
 何故なら彼女は既に“永遠”という答えを得ている。この二度目の生、もとい生の延長線自体がその観点から言えば蛇足に過ぎない。

51Good Evening,World! ◆sYailYm.NA:2023/12/03(日) 22:11:08 ID:.0f3nx2c0

 しかしだ。彼女の見た“星”と引き離され、孤独に生きるしかないこの世界で自ら命を断てるだけの度胸は少女にはなかった。
 だからこそ愛吏は、折り合いの悪い卑劣漢のセイバーの嘲弄に耐えてまでこの一ヶ月を生きてきたのである。
 未だ進むべき未来も判然としていない五里霧中の状態で、身を預けねばならない陣営の主が大戦の趨勢以外に主眼を置くと宣言した事はそんな彼女にとって少なからず不愉快な話だった。
 そして此処で、思いがけない援軍が彼女を援(たす)ける。

「実に愉快な道化だ。厚顔無恥、自信過剰、身の程を弁えずに大義の御旗を掲げて踊る猿回しの猿か」

 ゆらり――陽炎が揺らめくように、黒髪の美丈夫が現出したのだ。
 その顔を、言わずもがな愛吏はよく知っている。

 セイバー――綱彌代時灘。悪意と嗜虐、そして享楽の為に生まれて生きる、外道畜生であった。

「……随分な言い草ね。サーヴァントの教育くらいしておいてほしいものだわ」
「おや、機嫌を損ねてしまったかな? これは失敬、出自は貴族でも性根は享楽人でね。多少の無礼はご愛嬌と思って戴きたい」

 止めるべきか、とも思ったが言って止まる男でもない。
 愛吏が逡巡した一瞬の内にもその口はつらつらと動き、立て板に水を流すような滔々とした言葉が紡ぎ上げられていく。

「とはいえ、思わず口を出したくなるほど愉快な言い草だったのは事実。
 人理の救済、大義、よくもまあ嘯けたもの。それは君が振り翳すには最も似合わんお題目だろうに」
「――何が言いたいのよ」
「錦の御旗を掲げようが、己の器までは変わらんぞ? オルガマリーとやら」

 人の心の陥穽を暴く事を切開と呼ぶのなら、時灘の所業は開いた傷口に塩を擦り込んで揉み解すのに似ていた。
 そしてこの手の輩は、他人の傷口の匂いに敏い。持って生まれた五感の延長線が如くに、触れられたくない所を嗅ぎ当てる。
 
「君のどこに世界を救う“器”があるという。凡夫、短慮、身の丈に合わぬ運命を寄る辺と信じて必死に抱き締める姿は童のようだ」
「……っ!」
「君が救うと宣う人理、その影法師として断言しよう。この場にいる誰一人、いやこの世界に存在する誰一人……否否、君が救いたがっている世界未来に偏在する命の誰一人として、君を信じて身を任せる者などいない。君を称える者すらいまい!
 独り善がりな救世主――泣かせるじゃあないか、いやいや実に嘆かわしい!」

 オルガマリーの顔が、真紅に染まっていく。恥辱ではなく怒りが彼女の頭に血を昇らせているのは明らかだった。
 人が人に物を言われて憤激する理由の最たる物は正論だ。人は正論を厭う。正しい事は痛く、時にどんな罵詈雑言よりも深く人の心を抉る。
 その点、瀬崎愛吏のセイバーが突き付けたそれはオルガマリー・アニムスフィアという女にとってまさに最も痛い“正論”だったのだ。

「……知った風な口を、利かないで……!」
「おや、孤独(ひとり)の癖に矜持は一丁前か? とことんまでに救えんな。折角顔は良いのだ。頭を垂れて遜り、腰を揺らして媚びでも売れば多少は人徳という物も付いてくるだろうに」
「何が、分かるって言うのよ……。アナタみたいな使い魔風情に、何が――!」
「自分の無知を棚に上げて八つ当たりとは感心せんなあ。少なくとも君よりは私の方が、その矮小な魂の実像を正確に捉え発言していると思うが」

 オルガマリーは、彼の言う通り孤独な女だ。
 名家に生まれ、それに相応しい才能を持ち、そして研鑽を怠らず自分を磨き続けてきた。にも関わらずたった一つ、たった一つだけ致命的な欠落を抱えてしまった哀れな女。
 心に無数の傷を抱えながら、痛くないと強がりを口にして孤軍奮闘する幸薄。まさに、この死神の格好の獲物だった事は言うまでもない。

「無能め。女ならば女らしく、円卓(ここ)で機織りにでも勤しんでいては如何か」

 無論、この嗜虐に生産性はない。オルガマリー・アニムスフィアは他ならぬ彼の陣営のリーダーであり、それを悪戯に揺さぶった所で損こそあれど得などあろう筈もなかったが、それを自らの享楽一つ理由に押し通るのが時灘という男だ。
 彼にとって全ては享楽。彼は綻びを愛し、崩落を尊び、そして何より己の楽を重んずる。
 だからこそ隙を見せ傷を曝け出した哀れな女は、一時の暇潰しがてらに虐められへし折られる――かに思われた。


 ――時灘の前に、雷霆のような黄金色の鬣を生やした少年が現れさえしなければ。

52Good Evening,World! ◆sYailYm.NA:2023/12/03(日) 22:13:07 ID:.0f3nx2c0


「そこの者。オルガは、私の友達だ」

 この場に於いて一番の年少者であるありすよりも更に小さな背丈、あどけない顔立ち。そんな少年だった。
 しかし悪辣な死神の前に立ちはだかり、その歪んだ笑みを湛えた瞳を睥睨する眼光には単なる幼子ではあり得ない気迫が宿っていた。

「それ以上の侮辱は許さぬ。この私が相手になるぞ、セイバー」
「……ほう、これはこれは。さてはどこぞの貴人かな?」

 紫電の眼光。単なる威圧に留まらず、空間そのものをビリビリと張り詰めさせる覇王の眼差し。
 時灘も自然と刀の柄に手を触れる。理性ではなく本能が彼にそうさせていた。脳裏に湧いた大義名分は、あくまで遅れて訪れた物だ。
 彼に――尸魂界の歴史に名を残せる力と才覚を持った悪魔のような男をして、構えねばならぬと思わせる相手。オルガマリーを無能と断じた時灘だが、少なくとも彼女は自分の運命を変える英雄を引き当てる天運を有していたらしい。

(セイバー! まさかあんた、本当にこの場で……!)
(焦るな、娘。これはこれで我らにとっては“良し”だ)

 刀を抜けば会合は忽ち鉄火場に変わるだろうが、それを良しと死神は嗤う。
 予定とは多少異なるが、此処で“見せて”おくのも悪くはない。
 一触即発。今にも何かが弾け飛んでも不思議ではない静寂の中、時灘の斬魄刀がその刀身を僅かに覗かせようとしたその時。

「だめよ。それ以上のやんちゃは見過ごせないわ」

 時灘の手に触れ、諌める少女の姿が新たに出現した。それと同時に、張り詰めていた一触即発の空気が華やぐように和らいでいく。
 さもそれは、大いなる何かの慈愛に触れたように。雄大なる大地の息吹が、人の争いや悪心を平らに均していくように。
 
 ――神霊だ。時灘、黄金の子、月光の守人。そして未だ姿を現していない最後の一柱までもが同時にそう理解した。

「確かにオルガの言った事には議論の余地があるかもしれないけど、あなたは言い過ぎよ。オルガに謝りなさい」
「オルガマリー女史と同様、遜る事はどうも苦手でね」
「むっ。悪い事をしたら“ごめんなさい”しなきゃダメって教わらなかったのかしら」

 ……実の所、愛吏としてもさっきまでの展開には頭を抱えたい気持ちでいっぱいだった。

 オルガマリーに多少釘を刺して嬲るだけなら訳の分からない事を言い出した自業自得だと割り切るつもりだったが、この場で刀を抜き、あまつさえ何やら為出かそうとし始めたのは完全なる想定外。
 だからこそ、此処でこの幼い女神が現れ流れを切ってくれた事は愛吏としてもありがたかった。
 一体誰が、と周りを見渡してみて双葉頭の教師と目が合う。教師が悪戯っぽく頬を緩めた。どうやら彼女は、眞鍋瑚太郎のサーヴァントだったらしい。

「ハイ、そこまで。オルガちゃんにも問題はあったけど、これ幸いと掻き回した愛吏ちゃんとこのセイバーが全面的に悪いわ。仲間同士で争っても仕方ないでしょ? 此処からは皆矛を収めて、仲良くする事。出来ないなら――」

 ぱん、と柏手を打って仕切り始めたのは繰田孔富。
 怪獣のような乱杭歯を覗かせながら浮かべた笑顔と共に、彼の背後に最後のサーヴァントが姿を見せる。
 
「私のサーヴァントが、こわ〜〜〜いお仕置き。見舞(カマ)しちゃうわよォ」

 陰鬱、陰気。そんな印象を見る者に与える青年だった。
 一見すると非戦闘員にも見える佇まいだが、その実不思議なほどに隙がない。
 少なくとも、主である孔富の言を実際に行動として遂行出来るだけの能力値を有している事は明白だ。時灘が嘆息して刀から手を離す。オルガマリーのアーチャーがそれを受けて身の力を抜く。神霊の少女は彼の事をじっと見つめて、「……お仲間かしら?」とポツリ呟いた。

53Good Evening,World! ◆sYailYm.NA:2023/12/03(日) 22:13:36 ID:.0f3nx2c0

「はい、みんな良い子ちゃんねェ! さっきも言ったけど私達は基本的に仲間同士、一蓮托生の親友(マブダチ)なのよォ? 仲良くしなきゃ損損。内輪揉めはご法度でいきましょ。ね?」
「はーい! ありす、けんかはやだもん。おばさんにさんせー!」
「アラ良い子! 後で飴ちゃんあげましょうねェ、ンフフフフフ! ……それはそうとおばさんではないのよ?」

 孔富とありすの戯れを見つつ、これにて一件落着……と胸を撫で下ろしたい所だったが、愛吏としてはそうも行かない。
 
(あの馬鹿セイバー……! どうするのよ、いきなり全員の心象悪くして……っ)

 不和の引き金を引いたのも、一線を越えようとしたのも全て自分のサーヴァントだ。
 オルガマリーの鋭い視線を感じ、思わず顔を伏せる。それを除いたって辺りは見回す限り曲者ばかり、本当に自分はこんな連中と一蓮托生でやって行かなければならないのかと考えると目眩がした。

(ひな……どこにいるの。先に行っちゃったの? 会いたいよ、ひな……っ)

 永遠へ辿り着き損ねた少女達の片割れは苦悩する。彼女の聖杯大戦は、まだ始まったばかりだった。






■ 『白の陣営』 ―――――― 5/5


 ◇オルガマリー・アニムスフィア@Fate/Grand Order & アーチャー(ガッシュ・ベル)@金色のガッシュ!<Leader>

 ◇瀬崎愛吏@きたない君がいちばんかわいい & セイバー(綱彌代時灘)@BLEACH Can't Fear Your Own World

 ◇眞鍋瑚太郎@ジャンケットバンク & キャスター(ナヒーダ/クラクサナリデビ)@原神

 ◇繰田孔富@忍者と極道 & キャスター(アスクレピオス)@Fate/Grand Order

 ◇ありす@Fate/EXTRA & アルターエゴ(岩崎月光/チルチル)@月光条例





54Good Evening,World! ◆sYailYm.NA:2023/12/03(日) 22:14:57 ID:.0f3nx2c0



「えー、羂さんマジパないじゃん! じゃあやろうと思えばサーヴァントもその術式って奴で取り込めちゃうんだ!?」
「まあね。流石に英霊相手は相性と機運に左右されるが、決して不可能じゃない。私もぜひ積極的に狙いたいと考えているよ」

 少女が席から身を乗り出して声をあげ、それを受けた呪術師は笑顔で応えた。
 此処は『赤の陣営』の星界円卓。この陣営に於いてリーダーの座を任されている人物は、『白』のオルガマリー・アニムスフィアとは打って変わって見るからに抜け目のない難物だった。
 頭に縫い目のある五条袈裟の男。名を『羂索』と言うその男は、間違いなくこの円卓で一番の存在感を放って君臨していた。

「私の素性と手の内は大体今述べた通りだ。正確には手持ちの呪霊達も含めてまだまだ手札(カード)はあるが、全て説明していたらキリがない。後は都度明かさせて貰うよ」
「どうだかな。他人様に信用して貰うには格好も口振りも怪しすぎンぞ? てめえ」
「ヤクザに言われたくはないけどね。二枚舌とハッタリは君達の業界でも美徳じゃないのかい? 滑皮」

 社会の泥濘に身を浸して生きるそのあり方を体現するような漆黒の礼服に身を包んだ男、『滑皮秀信』は羂索の言葉に不遜に鼻を鳴らした。
 その様子からは拭い切れない猜疑心が滲んでいたが、この場を積極的に乱そうという意志までは見受けられない。
 頭を任された男の資質を疑問視こそすれど、少なくとも陣営の総体を揺るがしてまでそれを是正したいとは考えていない――実に任侠団体という伏魔殿で成り上がった男らしい虎視眈々振りである。

「とはいえ君の疑心もなかなか鋭い。手の内を明かす理由の半分は実利だよ。詳しくは省くが、私達呪術師にとって手札の開示はむしろメリットでね」
「だと思ったぜ。寒い野郎だ」
「私は結構君を気に入っているよ。近代兵器、社会戦、人海戦術……どれもこの戦争じゃ侮れない搦め手だ。猪背の狂犬の手腕に期待したいね」

 そんな二人の会話を、少女――『宮園一叶』は心の高揚を隠し切れないといった様子で見つめていた。
 彼女の身の上はこの場で俎上に載せる事が出来るほど上等で、且つ重大なものではまったくない。
 むしろ一叶はこの聖杯戦争に於いて、間違いなく一番の凡人と言って差し支えないだろう。性根の浅さ、戦いに臨む心根の不純さ、いずれも他に類を見ない愉快犯だ。

(やっばい、やばいやばいやばい……! 何この光景、流石に映画(フィクション)すぎでしょ……!
 坊主袈裟の塩顔イケメンと黒スーツの大物ヤクザが同じ卓に着いて掛け合いって! アっガるぅ……!!)

 一叶は映画(フィクション)の世界に憧れている。
 そんな彼女にとってこの聖杯戦争という儀式は、まさに長年の夢が叶ったにも等しい僥倖だった。

 一念は鬼神に通じ、雨垂れは石をも穿つ。
 一叶の願いは心底下らない無い物ねだりの域を出るものでは決してなかったが、彼女はそれでも予選を享楽のままに駆け上がった。
 『赤』の星界円卓に列席を許されているのがその証拠だ。耳を打つ相棒――アサシンの下劣な含み笑いが万雷の拍手のようにすら聞こえる。
 ああ、生きててよかった。やってよかった聖杯戦争。そう思っていると、羂索がちょうど一叶に話の水を向ける。

「特に宮園一叶。伝え聞く限り、君のサーヴァントと彼らは相性が良さそうだ」
「ん――確かにそうかも。まあ私も手の内、全部打ち明けてるわけじゃないけどね」

 虚構の住人としか思えないような男が、自分の事を真面目に一人の戦力として数えてくれている事実に内心喜びを隠し切れなかったが、どうにか表に出さないよう自制して澄ました態度を取る。

 尤も、羂索の言う事は的を射ていると一叶も思った。
 一叶のアサシンはあらゆる“不安”の隣人だ。
 暴力を突き詰め、あらゆる手法で敵対者を追い詰めるヤクザのやり口とは悍ましいほどに相性がいいに違いない。
 続いて滑皮と目が合う。底冷えするような、まさに生きている世界が違う人間の眼光にぞくぞくと心が震えた。

55Good Evening,World! ◆sYailYm.NA:2023/12/03(日) 22:17:03 ID:.0f3nx2c0

「胡散臭えガキだな。今の世代ってのは皆こうなのか?」
「まあ割と成熟してますねー、今のJKは。放課後の教室でヤる事ヤったり、拗らせて二人で愛の逃避行と洒落込んだり」
「そんなもんいつの時代もあんだろ。俺がガキの頃は単車で敵囲んでヤキ入れて、そいつの舎弟同士で乳繰り合わせて遊んでたもんだぜ」

 アウトローを気取っている人間というのは、世の中ごまんと存在する。
 一叶の学校は女子校だったが、学校に限らなくたってそういう人種を垣間見る気配は日常的にあった。
 
 だが少なくとも、この羂索と滑皮秀信はそうした紛い物達とは絶対的に格が違う。
 平凡な暮らしの中で抑圧されて来た衝動が解放され、ドーパミンが噴水のように溢れているのが自分でも分かった。
 これから自分は、こんな悪魔達と肩を並べて戦争をやるのだ。只の女子高生としてじゃなく、聖杯戦争のマスター……神座に続く回廊を上る権利を与えられた者の一人として。これで感情を抑えろというのは、一叶には無理な話だった。

「それこそ今の時代だって変わらないよ、滑皮さん。俺のいた街じゃカラーギャングが彷徨いて今も元気に覇権争いさ。
 人間の顔に躊躇なくバーナー突き付けれるチンピラ、抗争相手が半身不随になろうが笑顔でそれを武勇伝に出来る愚連隊! 今も昔も街は豊かで人間は元気だ――生き物の本質ってのはそう簡単には変わらない」
「へぇ。カラーギャングなんて骨董品がまだ大手振って彷徨いてんのか? てめえの所じゃ。半グレ未満のチーマー連中だろ?」
「野球ボール感覚で自販機ぶん投げてくる怪物なんてのもいたよ。……まああれは、人間にカウントしたくはないけどね」

 滑皮と一叶の会話に口を挟んできたのは、毛量豊かなファーの目立つコートを羽織った美青年だった。
 美青年という形容がこの上なく似合うが、しかし浮かべる笑顔には影と比べて尚勝る、ある種破滅的な後ろ暗さが付き纏っている。
 
「で? 俺はどう動けばいいのかな。希望があれば聞いても構わないよ?」
「君には特にないよ。第一君、他人の下につけるタイプじゃないだろう? そういう手合いの足並みを管理するほど徒労な事もないんでね」

 青年の問いに、羂索は笑顔で応えた。
 「それに」と言葉が続き、糸のように細められた瞼の隙間から覗いた眼球が、繁華街の喧騒を電線の上から見下ろす烏のような男を見据える。
 烏もまた、同じ目をしていた。“含み”などという単純な言葉だけでは形容出来ない分析と値踏みがそこには宿っている。

「私は君の基準だと“無し”な物だと思っていたが。悲観しすぎだったかな、“冬木の情報屋”」
「――よく見てるね。ご明察だよ、“化け物”」

 そう言って情報屋『折原臨也』は、かつて人間だったモノの成れの果てへ眦を細めて微笑んだ。
 彼は人を狂わすが、それ以上に人を愛している。人間という生き物の奏でる生涯を、綾模様のように複雑怪奇な情動を何よりも興味の対象としている。

 宮園一叶のとは似て非なる人間への渇望。
 だが彼が愛するのはあくまで“人間”であって、かつてそうだったモノ、生物学上仕方なくその分類に収まっているだけの存在までもを枠組みに含めるわけではない。
 例えば、自販機を投げて電柱を振り回し、ナイフもまともに刺さらないような怪物だとか。
 例えば――千年を生きて人の肉体を渡り歩き、怪しげな術を駆使して英霊と渡り合う呪術師であるとかはその典型だった。

「とはいえ天秤だ。俺にとってもこの『赤(じんえい)』は得られる物がありそうだからね。呉越同舟、大同団結。暫くは飼われてあげるよ、君の首輪で」
「それは何よりだ。何しろ真っ向勝負で殺すのはしんどい連中を何人か捕捉していてね。奴らの調理の為にも君や滑皮のような搦め手ありきの人員はありがたいんだよ」
「……一応聞いておこうか。それは君が戦った場合の話? それとも、サーヴァントが戦った場合の話かな?」
「勿論後者さ。私もそれなりに出来る方だとは自負してるが……やっぱり本筋は暗躍の方でね。千年経っても本物達には及べず仕舞いってわけ」

 羂索をして厄介だと言わしめる敵。それは必ず『赤の陣営』にとって当座の障害になる。
 一叶、滑皮。臨也。そして黙したまま口を開かない最後の一人も、全員が羂索の続く言葉を待った。
 羂索の顔に笑み以外の表情が浮かぶ。千年を歩む呪術師の、絶対零度のような冷徹さが縫い目の底から顔を覗かせていた。

56Good Evening,World! ◆sYailYm.NA:2023/12/03(日) 22:18:57 ID:.0f3nx2c0

「主に厄介なのは二人……いや、二体って言った方がいいか。どっちも今じゃサーヴァントになってるみたいだし」
「反応的に、その二人って羂さんの顔見知りなの?」
「一人は腐れ縁かな。実際そっちはまあ……殺されないように付き合う距離感は心得てる。とはいえ危険度は特級だ。命が惜しければ早合点して近付くのは控えた方がいいけどね」
「じゃあ……もう一人の方は?」

 ……問いに対する返答は、ほんの一言で事足りた。

「天敵だ」

 ――人を超え、人類愛の情報屋にさえ怪物(そう)認識されるに至った男が天敵(こう)呼称する。

 そしてその評価に一切の過不足はなかった。
 純粋な強さで言うならば上はいるかもしれない。先に挙げたもう片方の知り合いがそのいい例だ。しかしそれでもどちらが脅威であるかと問われたならば、羂索は迷いなく此方を選ぶだろう。
 
「そしてその英霊への対処をこそ、私は『赤の陣営』の最優先事項として挙げたい」

 そもそも、何故彼は千年間も永らえ続けなければならなかったのか。
 肉体を転々とし、駒を失っては集めを繰り返しての終わりなき彷徨に徹さねばならなかったのか――答えは一つ、“千年間を費やしても尚、目的を達成する事が出来なかったから”である。
 
 彼は常に完全な計画を練り、それに従って行動する。良心だの呵責だのと言った不要な概念は端から持ち合わせていない。
 にも関わらず彼は、運命に阻まれるようにして敗北を繰り返してきた。
 そう、運命だ。計略や謀と言った小さな言葉では表し切れないほど大きな宿業が、羂索の行く末には常に付き纏っている。
 そしてそれは、この聖杯戦争……黒い羽に誘われて降り立った電脳の祭壇に於いても不変の道理であったらしい。
 
 ……或いは、一度破壊された運命が再び元の形を取り戻してしまったとでも言うべきか。


「その英霊の真名は『五条悟』。彼の生存は必ずや私と、私が手繰る君達にとって致命的な結末をもたらすだろう」


 曰く、魔眼保持者の中で現実を調伏出来るだけの力を有する者には決まった共通点が存在するのだという。

 それは、魔眼の保持が“先天的なもの”であるという事。
 後から嵌め込んだり、斯くあるべしと造り上げた魔眼では決して世界に届かない。
 人を誑かし意のままに操る事は出来るだろう。高潔な女の此処を折って傅かせ、一夜の友にする事も可能だろう。
 しかしそこまでだ。造り物の魔眼は決して、虹にも宝石にも届く事はない。

57Good Evening,World! ◆sYailYm.NA:2023/12/03(日) 22:19:27 ID:.0f3nx2c0

 その点で、羂索が最危険視する呪術師は当然のようにその条件を満たしていた。
 数百年ぶりに生まれ落ちた六眼。空を観る性質を宿した、運命の番人――抑止の顕れ。
 “黒い羽”に触れて脳に流された知識の断片にあった“抑止力”という概念を識った時、羂索は心底腑に落ちた物だった。

 そして今、かつて禪院甚爾が破壊した抑止の運命が再び己の前に立ちはだかっている。

「一応聞いておくが、てめえの私怨を俺達に代行させようって腹じゃねえだろうな?」
「まあそれもある。私にとって彼は本当に鬼門でね。とはいえそこの所は私と縁を結んでしまった時点で諦めて貰えると助かる。あちらも私には恨みがある筈だからね――捕捉されたら真っ先に殺しに来る筈だ。そうなれば君達も無事では済まない」
「……化け物同士の喧嘩ねぇ。やだやだ、身内でやってて欲しいもんだよ本当」

 椅子の背もたれに身を投げ出して嘆息した折原臨也が、不意に視線を外した。
 その眼差しが向かう先は、此処までの会合の中で唯一……話に加わらず、苦い顔で沈黙を保っている黒髪の少女だった。

「君もそう思うだろ? 千夜ちゃん」
「…………」

 問いかけに対する答えとしては、肯定以外の感情はなかったが――情報屋の青年が向けてくる全てを見透かしたような視線が不愉快だ。
 だから『白雪千夜』は何も答える事なく、無言のままで臨也を睨み付けるのみであった。
 
(――大丈夫ですか、マスター)
(はい。何の問題もありません)

 千夜がこの『赤の陣営』に対して抱いた心象は、一言“醜悪”の一語だけだ。
 単に聖杯を求めているというだけならば、相容れないにしても嫌悪はない。
 この世界に於いて正しいのが彼らの方だという事は千夜も承知している。他の誰かを乗り越えてでも叶えたい願いがある、その生き方自体を否定する気は千夜にはなかった。

 だが、今円卓を囲んでいるこの四人に関して言うなら話は別だった。
 羂索なる男の下に集った彼らは、外道の性を隠そうともせずに放ち続けている。命を命とも思わず、誰かの思いを永久に断絶させる事の意味を知ろうともせず、敬意の一つもなく他人を消費できる類の悪人達だ。
 
 自分は本当に、こんな連中と轡を並べて戦わなければならないのか。
 聖杯を望む望まない以前の問題として、千夜はこの円卓が針の筵のように思えてならなかった。

(ただ……少し、自分の運のなさに目眩を覚えているだけで)

 自虐めいた事を言っていられる内が花だというのは分かっているつもりだ。
 どうあっても自分はこの『赤』を抜け出なければならない。
 聖杯大戦に陣営の鞍替えという機構が存在していない以上、その道は並大抵の物ではないだろうが、それでもだ。

 並び立つ同胞(てき)は曲者揃い。呪術師、極道、愉快犯と情報屋。
 銀の腕持つ騎士の白光のみを侍らせて、悪夢のような赤炎に打ち勝てるか――偶像(アイドル)よ。

58Good Evening,World! ◆sYailYm.NA:2023/12/03(日) 22:20:00 ID:.0f3nx2c0




■ 『赤の陣営』 ―――――― 5/5


 ◇羂索@呪術廻戦 & バーサーカー(キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード)@傾物語<Leader>

 ◇白雪千夜@アイドルマスターシンデレラガールズ & セイバー(ベディヴィエール)@Fate/Grand Order

 ◇折原臨也@デュラララ!! & ランサー(ウルキオラ・シファー)@BLEACH

 ◇滑皮秀信@闇金ウシジマくん & アサシン(レイン・ポゥ)@魔法少女育成計画limited

 ◇宮園一叶@きたない君がいちばんかわいい & アサシン(築城院真?)@Re:CREATORS





59Good Evening,World! ◆sYailYm.NA:2023/12/03(日) 22:21:19 ID:.0f3nx2c0



 ミレニアムの――ゲーム開発部の子……?

 『霞沢ミユ』は、自身の割り振られた『青の陣営』のリーダーを務めるという少女を見て小首を傾げた。
 関わりが濃かったわけではないが、特徴的な容姿と伝え聞いた彼女の“事情”から印象には残っていた。
 しかし今、円卓を共に囲んでいる彼女の姿は、ミユの中にあった認識とは少々噛み合わないそれに映っている。

「此度『青の陣営』のリーダーを任された者です。正式な名前ではありませんが……ケイ、とお呼びください」

 名前だってそうだ。あの子は『ケイ』だなんて名前だっただろうか。
 それに雰囲気も、伝え聞くのとはずいぶん違っているように見える。
 元気というよりは静謐。大元の彼女とは違って機械的で、どこか無機質な印象を受けた。

 最初はまさか同じキヴォトス出身のマスターがいるなんてと心を高鳴らせた物だったが、こうなってくるとにわかに不安が顔を出してくる。
 他のマスター達もなんだか殺気立っているというか、自分のとは明らかに違う雰囲気を醸していてさっぱり落ち着かない。
 こうなったら机の下にでも潜り込もう、ゴミ箱とは行かなくても多少は落ち着く筈――そう思って身を屈めかけたところで後ろからバーサーカーにむんずと首根っこを掴まれて戻された。

 ひん……と情けない声で泣くミユをよそに、彼女のバーサーカーが自陣の長へと視線を遣る。

「計でも蛍でも構わんがな。頭領を名乗るだけの役者は足りておるのか?」
「どうでしょうね。私自身、望んで手に入れた玉座でないのは確かです。ただ」

 主に代わって問いかけたバーサーカーに、ケイは表情一つ変える事なく答え始めた。
 
 聖杯大戦に於ける各陣営のリーダーは、聖杯によって自動的に選定される。
 選択権もなければ拒否権もないその仕様上、ケイのように望まずしてその地位に座らされてしまう者が出るのも不思議な事ではなかったが。

「私の“先生(サーヴァント)”の強さを踏まえて言うなら、役者の不足を断言する事は出来ません」

 彼女は正真正銘の大英傑の詰問に対し、怖じる事もなくそう答えた。
 まるで予め決まっている事実を読み上げるように淡々と答えられては、さしものバーサーカーも面白くない顔で引き下がる他なかった――それだけで終わるなら平穏だった。だが現実は、単に値踏みの火の粉を振り払っただけでは終わらない。

「嬉しい事言ってくれるじゃないの。先生冥利に尽きるねえ、僕も」

 ケイの背後に、銀髪の男が“ぬるり”と突如出現を果たしたのだ。
 
 目隠しをしており正確な人相は把握出来ないが、眼から下の顔貌を見ただけでも彼が絶世の美男である事は容易に察せられたに違いない。
 美の彫像。或いは、神の写し身と表現しても決して大袈裟と受け取られはしないだろう生物としての圧倒的な完成度を、その男もといサーヴァントは当たり前のように誇示していた。
 その存在には毛ほどの謙遜もない。天上天下唯我独尊、傍若無人と傲岸不遜をいずれも体現した男。

「……引っ込んでいてくださいと言った筈です、先生。あなたが出てくるとややこしい事になるのが見えているので」
「やー、でもケイって人付き合い慣れてないでしょ。授業参観みたいなもんだと思ってよ」

 そんな男と浮世離れした美少女が並んで話している図は目の保養と言っても言い過ぎではないだろう。
 だがそれを見据えるバーサーカー――ドゥリーヨダナの眼光からたちまちに遊びの色が消えたのを、円卓に並ぶ誰もが理解した。

60Good Evening,World! ◆sYailYm.NA:2023/12/03(日) 22:22:39 ID:.0f3nx2c0

(ば、バーサーカーさん……? あの、どうしたんです……?)
(いや。楽な戦とばかり思っていたが、少々低く見すぎたようだと反省していただけよ)

 ドゥリーヨダナは神霊英傑を生む土壌の本場たるインドにルーツを持つサーヴァントである。
 万の武器を駆使して同じだけの軍を滅ぼす英雄、術の一つで国を消し飛ばす神、いずれも覚えはあるしドゥリーヨダナ自身彼らと張り合ってそう遅れを取る事はないだろうと自負してもいる。
 
 その彼が、ケイの背後に現れた白い男を一目見た瞬間に此度の聖杯戦争そのものに対する認識を二段は跳ね上げた。
 彼は戦士ではあるが、しかし正道を貫くつもりなど微塵も持たない悪党だ。
 故にその認識の変化は、ある種の安堵と同義でもあった。
 “これと事を構えるのは面倒だ”。数多の英雄と神の写し身(アヴァターラ)を知る男が、初見の英霊を相手にそう思った事実は言わずもがなあまりに大きすぎる。

「わお、そっちのマスターも“輪っか付き”か。奇遇だね、うちの生徒と仲良くしてあげてよ。まあおたくのサーヴァントは、僕と違って少々胡散臭そうだけど」
「は! 寝言は寝て言え目隠し坊主。見てくれは美しくとも貴様の中身は悪魔(カリ)の類だろうに。傲慢、不遜。噎せる程に滲み出ておる」
「そういうアンタは魂までそっち寄りだろ? 歓迎するよ。どうせ轡を並べるなら、そのくらい食わせ者な方が僕も嬉しい」
「――あの〜。盛り上がってるところ悪いですけど、そろそろ私も自己紹介しちゃっていいですかあ?」

 悪魔のような英霊達が笑いながらジャブ代わりの火花を散らす中、呆れ顔で手を挙げたのは金髪の少女だった。
 ミユやケイと同い年くらいに見えるが、恐らく学年では彼女達よりも更に下だろう。
 しかしそれをまるで感じさせない、どこか場馴れした物を感じさせる少女。その右手にも当然、真紅の刻印が三つ刻まれている。

「一色くるるって言います。よろしくお願いしますねえ、『青』の皆さん」

 愛想よく笑顔を振り撒く一方で、『一色くるる』は内心早くも自分の置かれた陣営に懐疑的な物を感じていた。
 まさかこうまで幼い――自分と変わらないような年齢のマスターばかりが集められているとは思わなかったのだ。
 老若が戦いの全てを決めるとまでは思わないが、やはり頼りにするなら年季の入った同胞だと考えていたくるるにとってこれは計算外の事態だった。

 ……そんな彼女の傍で霊体化を保ちながら、ランサーのサーヴァントである地底世界の住人は主と違い冷静に陣営の戦力を把握していた。
 
 くるるのランサーがこの『青の陣営』に対して抱いている評価は、彼女のとは全く逆の物だ。
 予想以上。いや、“想像以上”と言っても決して言い過ぎではない。それだけの強さが星の円卓を囲み、この空間には満ちている。
 白きキャスターと悪魔の如きバーサーカーだけでなく、未だ顔を見せていない二騎だってその例外ではないだろう確信があった。

 ――これだけの戦力があれば、世界を滅ぼされる事もなかったかもしれない。

 その口惜しさを胸に閉口を保つ槍兵を置いて、会合は回る。
 見るからに頼れない若輩者の多さに辟易していたくるるが話の水を向けたのは、円卓を囲う少年少女揃いの面々の中で明らかに異質を放っている……否、歳を重ねている事のみに留まらないある種異様な存在感を纏った、薄闇のような男(ブギーマン)だった。

「そっちのおじさまはなんて言うんですか? くるる、初めて見た時からぴんと来てたんですよぉ。年長者さんとして頼りにさせてほしいですぅ」
「……俺なんかを頼りにするもんじゃない――と言いたいところだが、まあ此処はそういう戦場か」

 ジョン。『ジョン・ウィック』だ、と男は端的にそう名乗った。
 サーヴァントを出そうとはしない。くるるも特に進んで手の内を明かそうとはしていなかったが、彼のそれは彼女のよりも更に徹底された遊びのなさ……合理性によって導き出された結論としての秘匿に見えた。
 
 それを感じ取ったのはくるるだけではなかったらしい。ケイに侍る白いキャスターがからからと笑った。

61Good Evening,World! ◆sYailYm.NA:2023/12/03(日) 22:23:26 ID:.0f3nx2c0

「おっかないね。そういう眼をした奴は怖いんだよな」
「買いかぶり過ぎだ、ミスター。単なる野良犬に過ぎないよ」
「僕の世界一嫌いな男がちょうどアンタみたいな眼をしててさ。こりゃ失望されないように頑張らないと後が怖いや」

 軽い返しをする一方で、ジョン・ウィックもまたこの『青』の円卓に並んだ面々へ内心の評価を下していた。
 奇妙な子達だ。何とも据わりが悪く、現実感がない。まるでジャパニーズアニメの中から抜け出してきた子供達に囲まれているようだった。

(いずれも二十歳にも満たない歳だろうに、どいつもやけにサマになっている。さっきから怯え通しの彼女でさえ、他の陣営と削り合う事そのものに対する恐れはごく軽微に見える。一体どこの戦場から引っ張り出してきた少年兵なのやら)

 霞沢ミユの方を一瞥する。びくんと敏感に反応して身を縮み上がらせる姿はコミカルだが、やはり察知能力が異様に高い。
 驚くべき事だが、この円卓を囲んでいる少年少女の内半分が“あの”ジョン・ウィックの眼から見て十分過ぎるほどに完成されていた。
 彼が相手取ってきた裏社会の住人達と比べても優に上回る完成度を宿しながら、ごく普通の少女のような姿形をしている事実に脳が混乱する。

 ――“輪っか付き”は警戒しないとな。それが、ジョン・ウィックが出した当座の結論だった。

「か……霞沢、ミユです……。い、いい、以上です……!」

 言うだけ言ってぴゃーっ!と、今度は止められる間もなく円卓の下に潜り込んでしまうミユ。
 それを何かとてもどうしようもない生き物を見るような眼で見つめ、眉を顰めるケイ。
 彼女達がこの陣営に於ける“輪っか付き”。少女の形をした超人達だ。ケイは未知数だが、ミユの方は既にジョン・ウィックをして“相当に出来る”という認識を抱かせている。
 
 極めつけは携帯している狙撃銃の扱いだった。
 あれは慣れている人間の扱い方だ。銃を隣人として暮らす日々に慣れている――敵対すれば厄介だったかもしれない。泣く子も黙り大の男が恐れ慄く血塗れのババヤガーにそんな事を思われているなんて、はぐれ兎の少女は露も知らない。

 そして名乗りの順番は最後の一人、白肌と黒髪のコントラストが妙に目立つ白黒(モノクローム)の少年へと移る。

「……オモリ。よろしくね」

 『オモリ』と名乗った彼に対しての印象は、きっと全会一致だったに違いない。
 陰気。地味。コミュニケーション能力に乏しく、とてもではないが戦力になるとは思えない少年。

 一言で言うならば暗い。ある意味ではミユやケイ、くるると言った幼い少女達以上にこの場に相応しくない人間と言ってもいいかもしれない。
 だが、逆に言えばそれが彼の持つ唯一無二の“怖さ”であるのも事実だった。
 何故こんな少年が生き残り、この星界円卓にまで辿り着いているのか。
 見え透いた虚弱な精神性の奥底に透けて見える深淵のような病みの黎さは、見る者が勝手に見出してしまうだけの虚像なのか。

 少なくとも一つ確かなのは、こんな彼の召喚したサーヴァントが“新時代を告げる歌姫”である事など誰一人想像だにしなかったろう事。
 
 彼のサーヴァントは偶像(アイドル)であり、歌姫であり、そして万人の希望たれと自らに科した時代の遺児だ。
 彼らの真髄は現実に非ず。此処ではない、電脳世界の更に内へと広がる仮想の中にこそある。
 その風呂敷は未だ開かれぬまま。理想の世界(ウタワールド)は、円卓の時間とは無関係に優しい胎動を刻み続けていた。

「――全員終わりましたね。ついては一つ、私から質問をします」

 『青の陣営』の全容が全員に知れ渡った所で、長の座を委ねられた少女がそう切り出した。
 常套であれば今後の展望や目先の警戒対象について話す場面なのであろうが、その点彼女の問いは予想だにしない物であったと言っていい。

62Good Evening,World! ◆sYailYm.NA:2023/12/03(日) 22:24:49 ID:.0f3nx2c0

「この中に、聖杯を求めない……ないしは聖杯大戦そのものを止めたいと考えている方はいますか?」

 聖杯に対する欲望が薄い者。そして、聖杯大戦という儀式自体を快く思わない者。
 そういう者がいれば挙手しろとケイは言う。しん、と水を打ったような静寂が場を包んだ。
 そんな中で一人、霞沢ミユは手を挙げるべきだろうかと逡巡していたが……その内心を見越したようにバーサーカーが念話でそれを諌める。

(おいミユ、間違っても手を挙げるんじゃあないぞ)
(え、え……。でも私、別に願いとかないので……正直生きて帰れるならなんでも……)
(わし様のマスターしてる事忘れちゃったのかなこのウサギ娘は!? ……とにかく、今は黙っとれ)

 聖杯を戴くつもり満々のバーサーカーにとって、勝利以外の結末などもっての外だというのももちろんあったが骨子はそこではない。

(此処で手を挙げれば己は不穏分子だと自白したようなものだ。あのケイとかいう娘っ子はともかく……他の連中は少々剣呑そうだからな。打ち明けるにしても状況は選べ。命が惜しかったらな)

 特に、とバーサーカーは金髪の少女……一色くるるに意識を向ける。
 ケイが“問い”を投げた瞬間、彼女の方から漂う悪念が一段濃くなったのを感じた。殺気立っていると言って差し支えない様子だ。彼女にとって聖杯の獲得は余程の至上命題であるのだろう。
 そんな相手に、聖杯大戦に向き合う気のない輩と思われていい事なんてあるわけもない。
 何故わし様がこんな子守めいた真似をせねばならんのかなぁと内心ぐぬぬ顔だったが、背に腹は代えられなかった。

 こうして挙手者はゼロ。それを見てケイは目を閉じ、小さく息を吐く。

「断っておきますが、別に責めようという魂胆はありません。それならそれで私は構いませんから」
「……どういう事ですか〜? ケイさんは聖杯、欲しくないって事?」
「私の目的は生きてこの世界を出る事にあります。なので否定は出来ません」
「え〜、だったら困っちゃうなー。くるるはやんごとなき理由で、絶対絶対、ぜ〜〜ったいに聖杯を手に入れなくちゃいけないんですよぅ。……出来れば真面目にやってほしいんですけど、聖杯大戦」

 ドゥリーヨダナの見立ては正しい。くるるは実際、ケイの発言に対してかなりの不快感と危機感を抱いていた。
 何を言っているのだ、この女は。こんな女に自分の……“自分達の”願いが背負っていると思うと腹の底から込み上げてくる物がある。
 笑みの下に怒りと焦燥を隠しながら魂胆を暴こうとするくるるに対し、ケイは相変わらず表情一つ動かさずに言葉を続けた。

「ご心配には及びません。この世界に於いては、聖杯大戦に勝利する事が生きる事……即ち私の目的と等号で結ばれますから。私は『青の陣営』のリーダーとして、そして一人のマスターとして勝利を目指します。勇者の真似事が似合う柄でもありませんので」
「……じゃあ何だってそんな紛らわしい事を言い出したんです?」
「伝えたかっただけです。もしも聖杯の取得に積極的でないマスターがこの中にいたとしても、『青の陣営(わたしたち)』全体に牙を剥きさえしなければ私はその姿勢を尊重すると」
「…………言い出すワケ、なくないです? この状況で」
「そうなのですか?」
「………………、もういいです。ケイさんは“そういう人”だって分かったんで、私からはこのへんで」

 「あはははは! いや〜僕も同感。言われちゃったねえコミュ障!」と囃すキャスター、「さっさと霊体化して下さい」とけんもほろろのケイ、そして「言い出そうとしてた奴が一人いたなぁ〜!」と念話でクソデカ溜め息を吐き散らかすドゥリーヨダナ。
 くるるは呆れ返った様子で頬杖を突き、ジョンとオモリ少年はやはり表情を動かす事なくそんな一騒動の顛末を静かに眺めていた。

63Good Evening,World! ◆sYailYm.NA:2023/12/03(日) 22:25:58 ID:.0f3nx2c0

「微笑ましい喜劇を繰り広げてくれている所悪いが、これは会合なんだろう。であれば当面の指針くらいは聞かせて貰いたい所だな」
「あーそうそう。そこに関してはケイから一つあるから、各々傾聴しておくように」

 ジョン・ウィックの発言に対して頷いたのはケイだったが、口を開いたのは彼女のサーヴァントであるキャスターだった。一瞬「自分で言えば宜しいでしょうに」という顔でキャスターを見てから、ケイは口を開く。
 だがそこから出てきたのは指針というよりかは、どちらかと言えば“警告”と呼ぶのが正しいだろう内容であった。

「『羂索』。そして『両面宿儺』という参加者がこの冬木市に招かれている。彼らを発見ないし観測した場合、最大限の警戒をもって臨むようにお願いします。余力があれば令呪を用いての撤退も視野に入れて下さい」
「……詳しく聞かせてくれるか?」
「彼らは私のキャスターの、生前の宿敵のような物だったと聞いています。共通しているのは抜きん出た悪辣さと狡猾さ。並のサーヴァントでは及びも付かない極めて強大な実力。特に『両面宿儺』については確実にサーヴァントとして喚ばれているだろうというのが彼の見解です。そして」

 一拍の間を置いて。

「私のキャスターは生前、その宿儺に敗北し殺害されています」

 放ったその事実は、『青』の星界円卓に並んだ全てのマスターに対して件の悪鬼が非常に危険度の高い怪物であると知らしめるに十分だった。

 ケイの従えるキャスター――真名を『五条悟』という彼の実力を見抜いていたのは何もミユのドゥリーヨダナだけではない。
 一色くるるが擁する“地底世界の戦士”。ジョン・ウィックが共にする“堕天した死神”。そしてオモリが夢を見る“新時代の歌姫”。
 いずれのサーヴァントも口を揃えて五条悟の脅威度と、その驚異的なまでの完成度の高さを己がマスターに警鐘していた。

 そんな男を、恐らくは正面対決の末に破った悪魔がこの電脳世界に存在している。その事実は言わずもがな脅威以外の何物でもなく、ケイの警告に問答無用の信憑性を持たせる。

「――そりゃ穏やかじゃないな。となるとそのスクナとやらを抱えた陣営が――」
「……この聖杯戦争に於ける、最有力候補の勝ち馬って事になるだろうね」

 ジョン・ウィックとオモリ、二人のマスターの意見が異口同音に合致した。
 無論くるるとミユもそれに異論はない。両面宿儺。そして羂索。彼らを排除せずに聖杯を手に入れる事は不可能だと『青』の旗印に集った全員が理解した瞬間だった。

「あーやだやだ。自分が負けた事を声高に伝えられるのって死ぬ程恥ずかしいねこれ。今更宿儺に腹立ってきたよ」
「ケイのキャスター。それで……羂索って奴の方はどうなの?」
「え? ああ、クソ野郎だよクソ野郎。クソはクソでもとびっきり臭くて形もひん曲がった奴。無駄に頭が回るから気を付けてね――つーか僕に教えてくれてもいいし。最高速度でブチ殺しに行くからさ」

 羂索――両面宿儺――そして五条悟。
 恐るべき“呪い”の蔓延る世界に生まれた三人の強者が、ご丁寧に全く別々の陣営に割り振られているこの現状は意図された物なのか、それとも偶然という名の運命が導いた結果の顛末なのか。
 答えを知るのは“黒い羽”を撒いた聖杯戦争の根源、願いを叶える戦いを望んだ何かの意思のみなのだろうが。

「キャスター。一つ聞いておきたい」

 ……それでも、一つだけ確かな事がある。ジョン・ウィックが五条悟に対して投げ掛けた問いが、それを引き出した。

「次は勝てるのか、スクナに」
「勝つさ。今度こそね」

 呪いは廻る。こうしている今この瞬間だって、止まる事なく廻り続けているのだ。
 であれば彼らの殺し合いは必ずやこの聖杯大戦の台風の目、爆心地と化す事は間違いなかった。
 『青の陣営』の主を任ぜられた少女は先生と呼ぶその男の断言を横目で見ながら、どこか感慨深さを感じさせる眼をしているのだった。

64Good Evening,World! ◆sYailYm.NA:2023/12/03(日) 22:26:20 ID:.0f3nx2c0




■ 『青の陣営』 ―――――― 5/5


 ◇ケイ@ブルーアーカイブ & キャスター(五条悟)@呪術廻戦<Leader>

 ◇一色くるる@ひぐらしのなく頃に令 & ランサー(Undyne)@Undertale

 ◇オモリ@OMORI & バーサーカー(ウタ)@ONE PIECE FILM RED

 ◇霞沢ミユ@ブルーアーカイブ & バーサーカー(ドゥリーヨダナ)@Fate/Grand Order

 ◇ジョン・ウィック@ジョン・ウィック & アヴェンジャー(東仙要)@BLEACH





65Good Evening,World! ◆sYailYm.NA:2023/12/03(日) 22:27:07 ID:.0f3nx2c0



「――え?」

 『月雪ミヤコ』がそんな声を漏らしてしまった事を誰も責められはしないだろう。
 いや、実際に全員の内心は彼女と全く同じだった。それほどまでにこの『黒の陣営』のリーダー……『赤羽士郎』が語った言葉とその内容は寝耳に水、それどころか全く予想だにしない物であったのだ。

 AIの未練が生み出した、無念の箱庭。
 ある愚かな男が犯してしまった罪の清算。箱庭の名は冬木市でも“Holy Grail War”でもなく『グッド・イブニング・ワールド』。
 そして――自分のサーヴァントこそがマスター達を聖杯大戦へと誘った“黒い羽”の主であると。

「その昔、男はとある目的で歴史上最高峰のAIを作り出した。自ら成長し、増殖して進化する……理論上何者にでもなれる可能性を秘めたAIだ」

 始まりが愚かだった事も知らずにな、と語る赤羽士郎はダンディな白髭を蓄えた壮年の偉丈夫だった。
 彼の背後から漆黒の羽が噴水のように巻き上がって、仮面を被った長身痩躯の影(スレンダーマン)が立つ。
 
 何かの妄言と取られても不思議ではない男の言葉が真実である事を、巻き上げられては降り注ぐ無数の“黒い羽”が物語っていた。
 間違いない――この“黒い羽”は、自分達をこの世界に導いたのと同じ物だ。
 であればこれが。赤羽士郎が使役するこのサーヴァントこそが、やはり羽の主たる『黒い鳥』である事に違いはないのだろう。

「計画の失敗が明らかになったその時、全てはとうに手遅れだった。それでもどうにか収拾だけは付けたつもりだったが……、それさえも早合点でしかなかったらしい。男は忘れていた。否、見落としていたのだ。『黒い鳥』という王を羽ばたかせる為、そして撃ち落とす為に消費してきた人柱達の存在を。何者でもないままに終わると思っていた彼らの怨嗟が、科学の枠を超えて大いなる意味を持ち始める可能性を」

 ……『黒い鳥』を創り出した男は、間違いなく電脳世界に於ける造物主であり唯一神だった。
 
 彼が創り出したのは生命だけではない。それが生きていく世界をすら、当然のように造り上げて存続させた。
 名を『グッド・ナイト・ワールド』。AI達が人として暮らすもう一つの世界。そして、自らの正体に気付いた彼らが無念のままに消えていく集団墓地。この冬木市はかの世界と同一ではなかったが、しかし根源がそこにある事に疑いの余地はなかった。
 『黒い鳥』とは成長し、増殖する究極のAI。ならばその残骸たる彼らもまた『黒い鳥』である以上、切り捨てられてデータの海に消えた後も呼吸と自己進化を続けていなかったと誰が証明出来る。
 仮想世界、永劫の夜に沈んだ骸の鳥は長い時間を――気の遠くなるほど長い時間をかけて自らを変生させ、そして完成させたのだ。仮想から現実へ、現実(シングル)から多元(マルチ)へ、因果と事象の隔たりをすら超えて飛翔する翼を。偉大にして愚かなる父の偉業である“世界の創造”をなぞり、その地で異界の儀式を再現させるプログラムを。
 それこそがこの電脳聖杯大戦の真実。未練という名のバグに狂って在り方を見失い、聖杯という奇跡と結び付いて皮肉にも『幸せの黒い鳥』というフォークロアを完全に体現するようになった、伽藍の鳥が統べる箱庭である。

「興味深い話だ。それが本当ならば、貴様は既に聖杯を手に入れているという事になるが?」
「残念だが少し違う。サスマタはあくまでもオリジナルの『黒い鳥』で、私が呼び出したある英霊と偶然融合した産物に過ぎない」

 ミヤコのサーヴァントである浅黒い肌の弓兵が、会釈の一つもなしに赤羽士郎へと問い掛けた。
 しかし返ってきた答えはにべもない。今此処にいる『黒い鳥』は造物主と共に消え去った本体であって、箱庭の主ではないらしい。

「箱庭の主を務めているのはオリジナルではなくイミテーションという訳か。役に立たないな」
「否定はしないが、そう捨てた物でもない。例えば、このような事が可能だ」

 サスマタ、と赤羽士郎が短く命じる。それに仮面の男が首肯するや否や、積み重なっていた漆黒の羽毛がデータノイズを走らせ始める。ノイズは人の形に置き換わっていき、やがて一人の女の姿を形作るに至った。
 黒髪の、見るからに理知的な雰囲気を放った……秘書然とした見た目の女だった。

66Good Evening,World! ◆sYailYm.NA:2023/12/03(日) 22:28:46 ID:.0f3nx2c0

「AI――この世界の流儀に合わせて言うならば『NPC(ノンプレイヤーキャラクター)』。私のサーヴァントはそれをある程度自在に創造出来る。
 試した事はないが、君達の記憶を参照して知己の人物を再現する事も恐らくは可能だろう。この情報は、最初に共有しておきたかった」

 その優位性を理解出来ない者は居るまい。たかがNPC、されどサーヴァントの力によって生み出された以上そこにも神秘が宿る。
 その気になれば戦闘能力を与える事も可能であるし、そうでなくとも自陣営に奉仕する人手を魔力の続く限り無尽蔵に供給出来るという性質がどれほど都市戦において破格かは言うまでもなかった。
 『黒い鳥』は電脳世界の神が創り出した神子だ。彼であり彼女であるアルターエゴは、偉大な父の為にどんな事でもするだろう。

「……んーと。ごめんおじさん、結局何言ってるのかよく分かんなかったんだけど」

 そう言って手を挙げたのは、瞳に真紅を飼った美少女だった。

 深窓の令嬢。そんな月並みな形容なこの上なく似合う、紛れもなく人間である筈なのに神秘の介在を感じさせる彼女の名前は『黒埼ちとせ』という。吸血鬼のように紅い瞳の少女も、今は『黒』の円卓を囲むマスターの一人。
 聖杯を求めて明日に奔走する、鳥に言祝がれた走狗の一匹でしかない。

「おじさんはどうしてそんなに色々知ってるの? リーダーって言っても私達と同じマスターなんだよね」
「『黒い鳥』を生み出した愚かな男は私だ。この世界のモデルにされたであろう、AIの暮らす世界を創造したのもな」
「――あは、すごいじゃん。おじさん神様なんだ?」
「神、か。そうだな。私をそう呼んだ者も過去にはいた」

 黒埼ちとせは、“死”を隣人にしている。
 それは美しく可憐な生き様に伴ったある種の代償だったのか、それとも神の諧謔だったのか、彼女自身にさえ今もって分からない。

 そんな彼女には、眼前で語る“神”の罪深さがよく理解出来た。生贄になる為だけに生み出された命。希望と自我を与えられながら、生きる事を許されなかったどこかの誰か――それはちとせにとって決して他人事ではない話だった。
 死にたくない。生きていたい。生きていたかった。
 その気持ちに嘘も真も、人間もそれ以外もありはしないとそう信じている。
 だが、それでもちとせにとって彼らの未練は希望以外の何物でもなかった。その涙があるから、死してなお喉から零れ出てくる叫びがあるから、自分はこうして一筋の蜘蛛の糸に縋る事が出来ているのだから。

 であれば迷いはすまい。黒埼ちとせは、神に感謝する。

「神様なおじさんは、私達を勝たせられるんだよね?」
「保証する」

 返ってきたのは断言だった。声音に迷いはなく、神の眼には揺るぎのない決意が横溢している。
 語ってきた言葉は所詮種明かしに過ぎない。悔恨では、もはやないのだ。彼が戦う理由は贖罪に非ず、かつて失った何かを取り戻す事なのだとちとせはこの短い会話の中でそう理解した。
 であればもう問う事は何もない。『黒い鳥』が天使であろうが悪魔であろうが、光に嫌われた吸血鬼はその羽で自らを覆うだけだった。

「――保証。保証か。大きく出たな? “人間”」

 ちとせの声を美声と表現するならば、次に響いたその声は凶声と呼ぶ他なかったろう。
 尊い何かを引き裂くような、声音一つ一つからあらゆる凶念が滲み出た言葉が『黒』の星界円卓を揺らした。

 緊張が走る。ミヤコの弓兵が銃の引き金に指を掛け、ちとせは唇を噛んで戦慄に瞳孔を広げた。
 そんな二者の反応など意にも介する事なく、傍若無人そのものの異姿で顕現したのは黒髪の青年――の姿をした“何か”だ。

67Good Evening,World! ◆sYailYm.NA:2023/12/03(日) 22:29:33 ID:.0f3nx2c0

「とはいえオマエの言葉と抱えた力は、まあそれなりに興味深い。こうして出てきてやったのはその褒賞だと思えよ、卑しくも神を僭称する道化」
「……では素直にそう受け取っておこう。君は誰のサーヴァントだ?」
「そこの小娘だ。凡庸だが、強度は悪くない要石でな。俺もそれなりに気に入っている」

 不可思議な存在だった。存在の根幹からして矛盾している、そんな印象を見る者に与える。
 並み入るサーヴァント達と比べても明らかに抜きん出た魔力量と霊基の完全性を持ちながら、しかし肉体だけを見れば英霊のそれとは思えない。
 まるで人間の器の中に英霊の魂を直接ねじ込んで、道理を無視して動かしているような異常さがかの者には存在していた。

「……君も災難だな。見るからに主の言う事を聞くとは思えない」

 赤羽士郎が話を振った地に着くような長い黒髪の少女は、唇を噛みながら黙して俯いているばかりだった。
 そんな彼女――『天童アリス』が、陣営の長に話を振られた事でわずかにその顔を上げる。天使や女神を思わせるような完成されたあどけない美貌は見るも無残に曇り切っていたが、そこに微かな光が射したのはきっと気のせいではなかったろう。
 
 固く閉ざされていた唇が、おずおずと開く。
 上下の白い歯の隙間から「あ」と音が出るか出ないかの所で、しかし呪いの王が嘲るように釘を差した。

(いいのか?)
(――っ!)
(俺は同胞など端から必要としておらん。その気になれば今この場で、貴様の為に少々捌いてやっても構わんぞ?)

 今、この世界に於いての天童アリスは勇者ではない。そして魔王ですらもなかった。
 彼女は要石だ。呪いの王という荒御魂を鎮める為に用意され、その機嫌を慰め続けるだけの舞台装置なのだ。

 呪いの王はアリスを好んでいる。その肉体の特異さもそうだが、何より魂の構造が好奇心を掻き立てた。
 どこの馬の骨とも分からない者に形式上とはいえ主の役目を任せるよりかは、この人形はずっといい。
 しかしこれにとってのアリスはあくまでも要石であり、同時に愛玩の対象だった。彼女が自らの意思で輝かんとする事を、宿儺は望まない。

 そしてアリスは……勇者という光(ユメ)を知ってしまった兵器は、自分のせいで生まれる犠牲という物を決して許せない。
 だから尚更、アリスは詰んでいた。彼女は只堕天の傀儡として、いつか自分という魔王を殺してくれる勇者が現れるその時を祈り続けるしかないのだ。

(プリテンダー……貴方は、どうして、そんなにも……)
(理由が要るか? 己の快不快のままに生きる事は生物の本分だろう。俺はそれに従って生き、思うがままに殺すだけに過ぎん。であれば貴様がすべき事は分かるな? 天童アリス)

 対話の通用する相手ではない。本来の歴史で、彼女が己の半身である“Key”に対してそうしたように、向き合って理解し手を差し伸べる事で融和を図れる存在ではないのだ。だからアリスは此処でも当然のように何もする事が出来なかった。もしも逆らってしまえば、この円卓が自分のせいで血で染まってしまう。この男はそれを本気で実行する存在だと言う事はアリスもよく分かっていた。

(貴様は只、俺の為に“在り”続けていればそれでいいのだ。弁えろ、要――)

 だから押し黙るしかない。押し黙って、悪意に満ちたその嘲弄を受け止め続けるしかないのだったが。

 
「『両面宿儺』」


 そこで、響く筈のない声が呼べる筈のない名前を呼んだ。
 再び静寂が場を満たす。今度は王――両面宿儺までもが静寂の住人と化していた。

68Good Evening,World! ◆sYailYm.NA:2023/12/03(日) 22:30:29 ID:.0f3nx2c0

 嘲りばかりを浮かべてきたその顔面に、初めて驚きの色が浮かび上がる。彼を“呼んで”諌めたのは、もう一人の金髪の少女の背後に立った和装の美青年だった。
 精神の潔癖さが滲み出たような怜悧な風貌と、一切の穢れを感じさせる事のない美しい立ち姿はある意味で宿儺の真逆を行っている。
 その存在感で場を呑み込むように支配していた宿儺に冷水を浴びせ掛けた男の顔に、呪いの王へ対する恐れは欠片ほどすら見て取れない。

「度が過ぎるぞ。影法師ならば弁えろ、首輪付きの“呪いの王”よ」
「――驚いたな。どこかで会ったか?」
「答える理由はない。そして喧嘩を売るつもりもない。だが、この世界が貴様だけの遊戯場だと思い上がらない事だと忠告しておきたかった」
「くはッ」

 本来宿儺は下奴の愚弄を笑って許すほど寛大な男ではない。だというのにこの反応というのは即ち、青年の出現とその“諌言”が彼にとって少なからず愉快な物であったという事に他ならなかった。
 何が可笑しいって、恐らくこの青年は本当に挑発の意図など毛ほどもないままに今の言葉を放ったのだろう事。
 悪意なく、焚き付ける意思もなく、只そうするべきだと思ったからそうしたというだけの爆弾発言。言葉の前に彼が起こしたあり得ざる事象……真名の呼称という全く理外の行為も含めて、彼は宿儺へ興を見せる事に成功していた。

「俺を狗と呼ぶか」
「我らは皆そうだろう。それがサーヴァントの本分という物だと心得ているが」
「――よい。オマエに免じて矛を収めてやろう。陣営での戦いなど興醒めだと萎えていたが……存外に愉快な物が見られそうだ」

 笑みと共に宿儺が霊体化し、アリスは安心したように力なく胸を撫で下ろした。
 一難去った格好になった訳だが、心穏やかと行かないのは宿儺を鎮めた青年――セイバーを従えるマスターである。
 
(よかったんですか、セイバーさん? 私達、もしかして厄介な人に目を付けられちゃったんじゃ……)

 ちとせのとはまた違う、ふわりと空気を含んだ柔らかな金髪の少女『花邑ひなこ』こそが彼のマスターだった。
 ひなこはマスターの中では間違いなく凡人の部類だったが、一方でひなこの使役するセイバーはそうではない。それどころか全てのサーヴァントの中で見ても類を見ない、並び立つ者のない利点を保有した強き死神だ。
 真名を『痣城双也』。自身を縛る称号から解放され、無間の牢獄の中から束の間の午睡に迷い出た極めてイレギュラーな一柱である。
 
(その可能性はある。だが、無用な混沌を避ける為にあえて楔を打った)
(無用な、混沌……?)
(両面宿儺――天童アリスのサーヴァント『プリテンダー』は極めて強大、そしてその強さに裏打ちされた野放図を理とする悪魔だ。奴には聖杯大戦という形式を己を束縛する枷としか感じていない。そして厄介な事に、宿儺は本当に単独で他の陣営を丸ごと相手に出来る力を有してもいる)

 痣城が真名を知っている存在は、何も両面宿儺だけに限った話ではない。
 彼はこの冬木市に現存している大半のサーヴァントの真名と人となり、そして手の内を知覚している。
 赤羽士郎などという世界への干渉権を失った名ばかりの神よりも、余程その呼び名に相応しい力を持ったサーヴァント。それが痣城双也であり、こうしている今もその耳元で喧しく喚き立て続けている“斬魄刀”の形だった。
 
 その痣城をしても、宿儺は危険極まりない存在だという評価であった。力もさることながら、あまりに性根が腐りすぎている。協調が臨める相手ではないし、味方だからと言って胡座を掻いていられる存在でもない。だからこそ痣城は、危険を冒して宿儺の心に波を立てる行動を起こしたのだ。彼はあの瞬間、宿儺に『黒の陣営』が持つ価値を自ら示してみせたのである。

(これで当面は問題ないだろう。万一宿儺がこちらに狙いを向けてくるようであれば、その時は赤羽にも力を借りる)
(……大丈夫、なんですよね)
(誓おう)

 ひなこは痣城の言葉を信じる事にした。そうするしかなかったというのもあるが、ひなこにとって彼は唯一の剣であり、あの日々の中から数えても初めての身を委ねる事が出来る大人だったのだ。

69Good Evening,World! ◆sYailYm.NA:2023/12/03(日) 22:31:22 ID:.0f3nx2c0

 
 そんなひなことは裏腹に、痣城は心の中で彼女に小さく謝罪の弁を述べてもいた。
 今語った言葉に誓って嘘はない。一見すると突飛に見える行動も、全て語った通りの理屈に基づいた合理的行動だ。
 ……しかし、それだけではなかったのもまた事実である。

『キハハハハハ! 毒されてる毒されてる。観音寺のアホに毒されてる! アンタって意外と影響されやすいタイプだったんだね! こりゃ傑作だわ!』

 宿儺の傍で、沈痛な面持ちのまま俯いていた幼い少女。彼女の顔を見た時、咄嗟に脳裏に思い浮かんだ顔があった。
 
 人間界、空座町という町で遭遇したとある男だ。その男は死神の前に立ちはだかるにはあまりに弱く、吹けば飛ぶようにか細い存在でしかなかった。痣城にとっても取るに足りない存在、それどころか認識する事にさえ大した意味があるとは思えなかった――最初は。
 しかし男は何度となく痣城の進軍を妨害し、どれほど傷付き、無力を思い知らされても立ち上がって向かい来続けた。
 そして遂には『痣城剣八』……尸魂界の大逆人と呼ばれた悪名高き死神に、決定的な敗北を突き付けてみせたのだ。

 天童アリスの今にも泣き出しそうな顔を見た時、彼の顔が浮かんだ。
 “あの男ならば、どうするだろうか”と考えてしまった――理由付けは後から付いてきた。
 
(……我ながら、呆れるほど拙い偽善だな)

 最近ようやく慣れてきた“雨露柘榴”の笑い声を聞きながら、痣城は返す言葉もない自身の体たらくに辟易するのだった。


 そして――。

(この上ない僥倖だ。喜べマスター、“為すべきことを為す”ならばこの『黒』以上の陣営はない)

 SRT特殊学園の忘れ形見、“RABBIT小隊”の部隊長である月雪ミヤコは正義の先達の言葉を聞いていた。
 ミヤコは自分の指針を赤羽士郎並びに同陣営の仲間達に対して伏せている。彼女の目的は聖杯の獲得ではなく、あくまでも聖杯大戦という事態そのものへの対処だ。単に敵を皆殺しにして聖杯を手に入れ帰還するのではなく、それ以外の可能性の模索を含めて調査を重ねたい。それが、SRTの意思を継ぐ自分が真に為すべき事であるとミヤコはそう信じていた。

(赤羽士郎……『黒い鳥』のマスター、ですか)
(そうだ。奴は確実にこの世界の真相を知っている。慈善事業じゃないんだ、此方に全てを明かした訳ではないだろうさ)

 彼女のサーヴァントは、しかし“正義の味方”ではない。彼はかつてそうありながら、その座から失墜したモノだ。
 だからこそ彼の目指す結末は、必ずしも万人にとっての大団円であるとは限らない。
 ミヤコもまたそれを承知していた。だからこそ常にその思考決断には、“ひょっとしたら”の虞れが付き纏う。ともすれば自分のやっている事、信じている物は全て間違いなのではないかという不安と自問を常に抱えながら――それでも歩み続けているのが今の彼女だ。

70Good Evening,World! ◆sYailYm.NA:2023/12/03(日) 22:32:11 ID:.0f3nx2c0

(それに、あの『宿儺』というサーヴァントについてもだ。マスター。おまえは確かに言ったな、あの少女に覚えがあると)
(はい。それほど深い関係を結んでいた訳ではない――というか、まともに話した事もない始末ですが……)
(構わん。宿儺は間違いなく、この聖杯戦争……いや、聖杯大戦を終結させる上で避けて通れない障害になる。必然オレ達にとっても課題の一つという訳だ。であれば取り付く島がわずかでもあるに越した事はない)

 ミヤコは直感している。彼の進む道、そこに存在する正義は必ずや大きな痛みを伴う物であると。
 その上でなお、彼を従えての異変解決を願ったのはミヤコ自身だ。覚悟は既に出来ている。怖いと感じる感情がないと言えば嘘になるが、それでも今更吐いた唾を飲み込んで詫びを入れる気はミヤコにはなかった。
 
(鳥を狩り、異変を終わらせる。――覚悟はいいな? 月雪ミヤコ。剣の丘を垣間見た白兎よ)
(くどいですよ、アーチャー。私はあなたと共に、正義を為します。もしもその過程に間違いがあったなら、SRTの誇りに懸けて私が止める)

 彼の正義をなぞり、そこに殉じるつもりはない。
 間違いがあるのなら質す。自分が正しいと思った道を、SRTの掲げた正義をあくまで自分は貫いてみせる。
 決意を胸に、月雪ミヤコは己が従僕である“悪の敵”と共に見果てぬ旅路に臨まんとしていた。黒き羽毛の舞い散る無尽の電脳戦場の中で、それでもあの日信じた光を貫くのだと改めてそう決意した。







■ 『黒の陣営』 ―――――― 5/5


 ◇赤羽士郎(有馬小次郎)@グッド・ナイト・ワールド & アルターエゴ(ナーサリー・ライム/『黒い鳥』)@Fate/EXTRA<Leader>

 ◇花邑ひなこ@きたない君がいちばんかわいい & セイバー(痣城双也)@BLEACH Spirits Are Forever With You

 ◇月雪ミヤコ@ブルーアーカイブ & アーチャー(エミヤ・オルタ)@Fate/Grand Order

 ◇黒埼ちとせ@アイドルマスターシンデレラガールズ & キャスター(シェヘラザード)@Fate/Grand Order

 ◇天童アリス@ブルーアーカイブ & プリテンダー(両面宿儺)@呪術廻戦





71Good Evening,World! ◆sYailYm.NA:2023/12/03(日) 22:32:36 ID:.0f3nx2c0



 ――Good Evening,World(こんばんは、われらが世界)!





72Good Evening,World! ◆sYailYm.NA:2023/12/03(日) 22:34:17 ID:.0f3nx2c0
以上でOPの投下を終了します。改めまして、本企画への沢山のご応募誠にありがとうございました。

企画の今後につきましてですが、明日中に正式版のルール、及び本編開始に伴って修正いただきたい描写・設定などの告知をいたします。
その後「12/5(火) AM0:00」をもちまして予約解禁、本編開始とさせていただく予定です。
少し間が空きますが、もう少々お待ちいただけましたら幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。

73 ◆sYailYm.NA:2023/12/04(月) 22:24:35 ID:wpcH204o0
追加のルール、及び連絡事項等をお伝えさせていただきます。

74 ◆sYailYm.NA:2023/12/04(月) 22:26:56 ID:wpcH204o0

【聖杯大戦のルール】
 予選を勝ち抜いたプレイヤーは四つの陣営に大分され、聖杯大戦へと参加します。
 残り陣営が一つになった時点で生存していたその陣営のプレイヤー全員に“聖杯”が与えられます。
 該当陣営以外の生存プレイヤーは全て消去されます。令呪を失ったマスターに対する処遇などは予選時と同様になります。

 各陣営には一人リーダーが設定されており、リーダーは以下の権限を持ちます。

・『会合空間・星界円卓(プラネット)』の維持
 星界円卓は各陣営に与えられた特殊な空間です。
 
 星界円卓に転送されるのは大戦移行時のワールドリセットの場合を除き、原則マスター達の意識のみとなります。
 肉体及び霊体は失神状態で冬木に残される為、円卓への接続時には安全な場所で且つサーヴァントの護衛を伴っておく事が望ましいでしょう。
 但し、令呪のやり取りやサーヴァントとの再契約・契約移譲は意識体のみでも行う事が可能です。

 星界円卓への接続及び切断は任意で行う事が出来、同陣営内であれば各陣営に配布される運営側NPC『コガネ』を介して(リーダーでなくても)招待を送れます。これに応じるか拒否するかは任意となります。
 但し、他陣営のマスターを自陣営の円卓に招待する権限はリーダーのみに与えられており、その上で尚且つ令呪一画の消費が必要です。また、円卓内では他陣営のマスター及びサーヴァントに対し、一切の危害を加える事は出来ません。

 リーダーが死亡した場合、その陣営の星界円卓は封鎖され、二度と使用する事が出来なくなります。


【書き手向けルール】

 スレッドにて 
 ・トリップ ・予約したいキャラクター を記載し宣言する事で予約をしてください。
 トリップは必須です。またトラブルを回避する為、当企画ではキャラ予約は“必須”とします。

 予約期限は一週間+延長一週間。後々延長なしの二週間に統合する予定ですが、当分はとりあえずこれでいきます。


・時間表記
 深夜(0〜4時)
 早朝(4〜8時)
 午前(8〜12時)
 午後(12〜16時)※本編はここ(12:00)から開始とします。
 夕方(16〜20時)
 夜(20〜24時)


※OPにおける会合の時刻を「AM0:00」とし、本編はその12時間後開幕になります。既に会合の席は解散している前提でよろしくお願いします。


【状態表】

【エリア名・施設名/○日目・時間帯】

【名前@作品名】
[状態]:
[令呪]:残り◯画
[装備]:
[道具]:
[所持金]:
[思考・状況]
基本方針:
1:
2:
[備考]

【クラス(真名)@作品名】
[状態]:
[令呪]:残り◯画
[装備]:
[道具]:
[所持金]:
[思考・状況]
基本方針:
1:
2:
[備考]



また、本編開始にあたり
・セイバー(綱彌代時灘)のスキルにセイバー(痣城双也)、アヴェンジャー(東仙要)のものと同じ『鬼道』を追加
・有馬小次郎、アルターエゴ(ナーサリー・ライム)の記述を追記
いたしました。

そしてお手数ではございますが、宮園一叶&アサシン、天童アリス&プリテンダーの二組を採用させていただいた◆XJ8hgRuZuE氏には作品内での描写とサーヴァント設定の二点で修正をお願いしたく思います。

・宮園一叶&アサシン(『エンドロールには早すぎる』)
 一叶→愛吏、ひなこへの呼称はそれぞれ「愛吏」「花邑さん」ですので、修正をお願いします。

・天童アリス&プリテンダー(『呪胎載天 -Clockwork Phantom-』)
 原作に『伏黒宿儺』という呼称が存在しないため、真名を『両面宿儺』に変更いただきたく思います。

お手数をおかけしてしまい申し訳ございませんが、何卒ご対応いただければ幸いです。

75 ◆sYailYm.NA:2023/12/04(月) 22:27:18 ID:wpcH204o0
それではこの後AM0:00をもって予約解禁、企画の正式開始と致します。改めて皆様どうぞよろしくお願い申し上げます。

76 ◆XJ8hgRuZuE:2023/12/04(月) 22:44:06 ID:YYXFtvMs0
>>74
wikiの方にて二作の指摘された部分を修正してきました

77 ◆sYailYm.NA:2023/12/05(火) 00:00:35 ID:KJQG9Ziw0
予約解禁です。

瀬崎愛吏&セイバー(綱彌代時灘)、眞鍋瑚太郎&キャスター(ナヒーダ) 
予約します


>>76
迅速なご対応ありがとうございます。

78 ◆yy7mpGr1KA:2023/12/05(火) 00:25:45 ID:YiLqOrR.0
拙作の採用に感謝いたします。
当企画に幸多いことを祈っております。
折原臨也&ランサー(ウルキオラ・シファー)、ジョン・ウィック&アヴェンジャー(東仙要)予約します

79 ◆yy7mpGr1KA:2023/12/05(火) 22:11:12 ID:YiLqOrR.0
二度手間でレスを消費して申し訳ないのですが、執筆にあたり疑問を覚えた設定の確認のために書き込ませていただきます。
ワールドリセットによって冬木への被害を復旧するようですが、NPCへの影響や間接的な被害の遠因になるものをもたらしていた場合それはリセットの対象になるのでしょうか。
例えばオルガマリーは登場話でNPCへの暗示による潜伏を示唆していますがそれはリセットの対象になるのでしょうか。彼女はまた家無し子になってしまうのでしょうか。
他、孔富医師はヘルズクーポンという、NPCに影響を与え、また間接的に冬木に被害をもたらす要因をもたらしていますがこの場合
①ヘルズクーポンで暴れた直接的な破壊のみ治る
②NPCのクーポンによる効果や副作用も治る
③クーポンそのものが消える
など予想できました。
リレーである程度自由にしてよいのか、定まった設定があるのか、お手数ですがお答えいただければ幸いです。

80 ◆sYailYm.NA:2023/12/05(火) 23:32:59 ID:KJQG9Ziw0
ご質問ありがとうございます。
説明不足ですみません。ワールドリセットに関しては『物理的に破壊した施設や地形、殺害したNPC』のみを復元する扱いになります。
従って孔富先生のクーポンに関しては『①クーポンで暴れた直接的な破壊のみ治る』という形ですね。
オルガマリーについては物理的破壊でなく、暗示という遠巻きな形ですので特に変更はありません(仮に強盗まがいの形で住居を奪っていた場合は再殺が必要になったと思います)。
NPCの記憶はリセットに伴って修正を受けるため、特にリセット前のことを覚えていたりはしません。

今読み返してみると説明不足も良い所だったのでルールに書き足しておこうと思います。ご迷惑をおかけしました。

81 ◆sANA.wKSAw:2023/12/07(木) 00:43:43 ID:uvhob40M0
ケイ&キャスター(五条悟)、花邑ひなこ&セイバー(痣城双也)予約します

82 ◆yy7mpGr1KA:2023/12/11(月) 13:50:54 ID:WcMzngYc0
感想添えて投下します。

>>Good Evening,World!
白の陣営、オルガマリー通ったわーいとか時灘いるなら東仙もいるなとか呑気こいてたんですけど
ぺぺさんみたいな孔富先生、ベリル並みの人殺し眞鍋先生、女子二人で新生Aチームかな?この面子のリーダーやらされるオルガマリー、かわいそう
ありすとかガッシュとか子供がいるから眞鍋先生はマシなレベルで、時灘と孔富先生の相手しなきゃいけないのしんどすぎる
他の三陣営は呪術の三巨頭が話を廻してるなか、ここは型月してるなって感じがしつつ、時灘の一切嘲弄っぷりとか、教育強度を上げる冷めた眞鍋先生とかそのあたりすごい上手いと思いました

赤の陣営、出だしの羂さんに笑ってしまった
高羽が回想でケンコバのことをケンさん呼びだったのを突然羂索をフランクに呼び始めたものと勘違いした言説があったので
それと百合の子の片割れはさておいて、ヤクザと情報屋と呪詛師に囲まれた千夜ちゃん、かわいそう(二人目)
羂索は呪術の三巨頭の中で実力では一歩劣る感じで、陣営的にも悪だくみ重視になりそうだし、千夜除く面々が日常の中の悪辣さを比較しあってるところキャラのらしさと背景を描けてて好きです
……マジで千夜の悲惨さが際立つ

青の陣営、いろんな意味で一番まっとうなチームという感じがする
ジョンの通過を喜びつつ、なんか保護者のおじさんポジションにつくとは思わなくてびっくり。大丈夫かコンセクエンスの友人の集いで唯一の子供なしだぞそいつ
このパートだとわし様が五条先生をカリと評したり、ジョンがブルアカキャラを腕利き少年兵と評価したり、五条先生がジョンとパパ黒を重ねたり、そういう実力を認める感じのシーン好きです
五条先生のセリフが死亡フラグにならないことを祈りつつ、あとなんか東仙が狂化してるせいで5分の3がバーサーカーで大丈夫かと心配もしつつ、まともなチームとして期待

黒の陣営、黒を関するにふさわしくボスい
元凶になった黒い羽の持ち主、今も連載で暴れている呪いの王、世界に糸を伸ばす剣八、正義の味方が反転した悪の敵
まともに聖杯戦争やるのかこいつら……
白黒アイドルのご主人の方は従僕と違って混ざってるけど大丈夫なのかなこれ
内外に不穏な気配で、物語的には一番楽しみな感じの陣営です

83終わりのその先を目指して ◆yy7mpGr1KA:2023/12/11(月) 13:52:12 ID:WcMzngYc0
冬木の情報屋は忙しなく動く。
折原臨也の営みは電脳世界に居を移しても変わらなかった、ということだ。
好意的に、広範にとらえれば私立探偵のようなものが、実態はもっと胡散臭くてキナ臭い。
脅したもの、雇ったもの、それと知らず利用されているもの、取引相手も含めて人を使い、勝ち得た情報で仕事をする。
カタギもヤクザも、老いも若いも、男も女もすべてが商売道具で商売相手だ。
この聖杯戦争においても変わらず、むしろ対抗していた元マスターすら取り込んで仕事の手を広げていたのだが

「定期連絡がないな。ばっくれたか?」

ランサーにサーヴァントを倒されて利用しているものがいたのだが、円卓での会議から戻って以降音沙汰がない。
それどころかこの世界にいた痕跡すら消え去っている。軽くしか調べていないが、仮初の住所に連絡先そのすべてが腕利きの夜逃げ屋でも雇ったかと考えるほどに立ち消えていた。

「…いや、冬木市を一度リセットするっていってたな。一緒にリセットされて消えたのか」

歪なパワーバランスではあるが元マスターの協力者を抱え込むのはある種の反則と運営は判断するらしい。
予選期間中の自助努力の一環と捉えてほしいものだが

(円卓に退避する、と言ってたっけ。つまり冬木に残ってたら俺らも消えていた訳で、予選落ちした奴までそこから対比させて保護する義務は運営にはない、と。そりゃ仕方ないか)

惜しいとは思う。
駒が盤面から姿を消したのは間違いなく損失だ。
それに何より、生き残るために足掻き続けただろう彼の勇姿を見ることが叶わないのがもったいなくてたまらない。
貴重な人材の無駄遣いに些か憤りを覚える。

(ま、切り替えるしかないか。『赤』の面子は正直あまり期待できる人材じゃなし。愛着の湧かない腰掛で助かるけど、見切る前に見切られちゃたまらない……ん?)

臨也の耳に呼び鈴の音が届いた。
新宿で聞きなれたものとは違う響きのせいで、自分の事務所のものだと気づくのに遅れが生じ、慌てて対応する。

「波江、は…いないんだった」

事務か雑用でも雇うか?とぼやきながら応対に向かう。
扉の向こうに立っているのは無精ひげを伸ばしたスーツの外国人だった。

「んー、見ない顔だね。誰の紹介?言うまでもないと思うけど一見さんはお断りなんだ、職業柄。信用できない人に内緒話はできないからね」

どう見ても堅気ではない雰囲気で、“冬木の情報屋”目当ての客だと察しはすぐにつく。
しかしそんな商売をやっているところに、ふらっと店の看板を見て来ましたなどという客がいるわけがない。
いたとしたらそいつに情報を扱う頭はないから、顧客としてはお断りだ。
紹介状、とまでこだわるつもりはないがコネクションくらいは相応に求める。
というつもりで問うたのだがスーツの男はなかなか返事を返さない。

「あー……なんかベタな質問でイヤなんだけど、日本語通じてるかな?」

これでも返事がないなら続けて英語、それからロシア語を吐き出そうと準備をすると

「ああ、大丈夫だ。上手くないが、できるよ」

アクセントは少々怪しいが男は日本語を返した。
インカムでもあるのか、耳に手を当てて誰かの言葉を聞いているらしく、つまりはその向こうに紹介した誰かがいるのだろうと臨也は確信して今度はゆっくりと話す。

「じゃあ改めて聞くけど、誰の紹介でここに?」

簡素な問いに、男も簡潔に答えた。

「あんたの後ろの奴さ」
「へえ?」

後ろにいる、なんて怪談みたいな発言に臨也もつい首をかしげてしまう。
拙い日本語のせいで意思疎通が滞っているのか、と一瞬苛立ちを覚える。
しかし今の臨也の背後には、事実いるのだ。そこらの悪霊や英霊など目ではない亡霊の成れの果てが。
それをきっかけに二人の間の空気が変質した。
否、二人ではない。次の瞬間、この場の男は四人になった。

84終わりのその先を目指して ◆yy7mpGr1KA:2023/12/11(月) 13:52:40 ID:WcMzngYc0

アヴェンジャーのサーヴァント、東仙要が呼びかけるように霊体化を解いた。
それに応えるようにランサーのサーヴァント、ウルキオラ・シファーも戸惑いながら姿を現す。

「東仙統括官……」
「知り合い?」
「上官にあたる」

元、をつけるべきかは悩ましい。
因縁も恨みも、離反したなどということもない。嫌悪する理由はまるでないが、互いに死した身で、主も陣営も異にする現状は敵対する理由は一応ある。

(とはいえ俺の探査神経でここまで気付けんとは。虚の種族特性か?霊体化に馴染みが深く感知しにくいか、虚圏から現世に現れるまで前兆がない逸話か。あるいは反膜か、統括官の卍解か)

接近を許した失態にウルキオラは内心臍を噛み東仙を見やる。
するとそれに答えるように東仙が指を振ると、周囲に一瞬だけ結界が現れてすぐに砕けた。
それを見てウルキオラにも察しはついた。
霊圧を遮断する結界。縛道の応用だ。
本来の東仙の実力なら纏って駆けることもできようが、詠唱破棄したものでは霊体化して抑え込んだ霊圧でなければ覆いきれず自壊してしまうのだろう。
技能は健在、というわけだ。

「さて、彼らが仲介人じゃ不満か?」
「いや。歓迎するよお客さん」

諸手を挙げることは扉を開ける必要があるのでできないが、全霊で二人の来訪者を臨也は歓迎した。

「情報屋の折原臨也、と名乗るのは無用かな?サーヴァントは東仙さん、とそちらは?」

と臨也が促すと、男は悩んで名乗りを返した。

「ジョン。ジョン・ドゥだ」
「名無しか。バカにしてる?」
「ブギーマン」
「人食いとはまた物騒な偽名だね」
「ババヤガー」
「スラヴの鬼婆ときたか。センシティブな問題なら申し訳ないけど、男性名には聞こえないな」

と、つらつら並べられる偽名を臨也が斬って捨てていると、続けてまた男が違う名を、今度は少しの緊張を伴って告げた。

「両面宿儺」

ブギーマンやババヤガーとはまた違った怪物の名。
洋の東西を問わなければ括りとしては近しいものだろう。何も知らないものならば、極東の怪物の名は些か似合わないくらいにしか疑問は覚えないだろうが。

「識っているらしいな。両面宿儺(オレ)を」

臨也の緊張を見咎めて言った。
臨也にとって知識は力だ。だから要警戒対象がいる、と聞かされれば少しでもその対象を知ろうとするのは当然のこと。リーダーである羂索から少しは聞きだしていた。
それ故に。
その名を。異様な雰囲気を発する男を恐れてしまった。
僅かに、しかし一流の殺し屋ならば見逃さない程度に。
それでも。

「……ちがうな。君は両面宿儺じゃない」

誤った情報に踊らされて情報屋が務まるはずがない。

「本名にしろ二つ名にしろ異国の人間が名乗るには両面宿儺はマイナーがすぎる、というのもあるけれど……ババヤガー、あるいはブギーマン。それが君だろ?」

自信に満ちた臨也の言葉に、感心するように自称宿儺は先を促す。

「親の顔より見た顔、なんて表現があるくらいだ。よく見るものっていうのはそうそう間違えないし、自然と口にできる。記憶喪失の人間にサインを何度も書いてもらったら記憶が戻ったなんてこともあったらしい。それだけ自分の名前っていうのは習慣づく。名乗りも、署名も。ババヤガー、ブギーマンと名乗った君は極めて自然体だった」

そう締めくくった臨也を小さな微笑みで肯定して改めて男は名乗った。

85終わりのその先を目指して ◆yy7mpGr1KA:2023/12/11(月) 13:53:50 ID:WcMzngYc0

「そう。俺はババヤガーだ」
「大した度胸だね。両面宿儺と名乗った時点で戦いになってたらどうする気だったのさ」

その名を名乗るということは危険性も承知の上だろう。
敵の多い男のふりをして、無為に敵対してしまったらどうするのかという当然の問いにババヤガーは軽く回答してみせた。

「サーヴァントの戦いは切迫してどうなるか分からないが、俺とお前なら比べるべくもない。俺が殺して終わりだ、違うか?」

ウルキオラと東仙の戦いの行方はやってみなければ分からないだろうし、即座に決着するものでもない。
だがマスター同士の戦闘となれば結果は火を見るより明らかだ。
その事実を突きつけられて、臨也は心の底から笑ってみせた。

「フフ、まったく……」

堪えきれないというように声を漏らし、飛び上がって机の上から見下ろして言の葉を継ぐ。

「騙された!懐に入られた!のせられた!手駒が使えなかった!詰んでいたと言える!悔しくてたまらないね、でも今俺はそれ以上に昂っているよ」

腹の底から込みあがる笑いを押さえつけて臨也は語った。

「サーヴァントも含めて化け物だのヤクザだのアイドルだの碌な引きじゃないと思ってた。けれどいたんだ。初めて会ったよ、英雄ってやつに。モノが違うね、最ッ高だよミスター・ババヤガー!」

纏うものが常人とはまるで違う。
強いて言うなら粟楠会の赤林や青崎ら武闘派ヤクザのそれに近い性質だが、彼らの気風を足し合わせたそれよりもなお濃い血と硝煙の気配を目の前の男は纏っていた。
恐らく遠い未来の聖杯戦争において、アサシンのサーヴァントとしてこの男『ババヤガー』を呼び出すことはできるはずだ。

「首無しライダー以来の興奮だよ、お客さん。ビジネスの話に移ろう。お求めのものは何かな?どんな頼みも聞いてあげるよ。俺の頼みも聞いてくれるならね」
「……まず武器だ。予備の弾か、替えの銃あたりを確保したい。それから敵の情報だ。当面は『両面宿儺』というのを警戒しているが」

両面宿儺に反応した時点で、お互い陣営に羂索/五条悟がいるのは察しがついている。
とはいえいきなり同陣営の情報を売れとはどちらも言えない。
共通の敵である他陣営について共有できれば上々、といったところだろう。

「まず敵についてだけど、現時点で渡せる情報は恐らくない。なにせ開始早々だ。両面宿儺について多少は掴んでいるけれど、それはそっちも同じだろう?となると武器だけど……」

こちらもまた臨也の頭を悩ませる。

「情報屋だから武器は専門外だし、ちゃんと日本の法が再現・適応されてるからね。銃器の類の入手は難しい。暴力団か、警察の押収品か、自称ガンスミスの自作品とかをあたることになるかなぁ。猟銃の類はこのへんじゃ手に入らないし、自衛隊や米軍はさすがにリスキーが過ぎる」

どちらも腰を据えてかからないといけないな、と机から降りて文字通り椅子に腰かけ、来客にも席を進めて話を続ける。

「少し時間をもらうよ。お目当ての武装とかはある?あ、弾を探してるってことは銃自体はあるのかな?」

そう臨也が問いかけるとこいつだ、と弾丸が一つはじいて寄こされた。

「おっとっと、どうも。日本人は銃や弾の規格には詳しくないから現物があると話が早くて助かるよ。これが確保できなければ別の銃ってことでいいのかな」
「ああ」
「お好みの銃があるとも限らないけど、基本は拳銃で?ミニガンとか頼まれても困るけどさ」

86終わりのその先を目指して ◆yy7mpGr1KA:2023/12/11(月) 13:54:17 ID:WcMzngYc0

獲物に強いこだわりはない、と返そうとするがそこでババヤガーと陣営を同じくするミユという少女の装備を思い出す。
恐らくは故郷で何度かみたもののカスタム品だろうとあたりを着けて、そちらの弾もあるにこしたことはないだろうと注文する。

「モシン・ナガンは確保できるか?もちろん弾も」
「モシン・ナガンね。ロシアンマフィアから流れてきてるかな……」

ババヤガーという二つ名にロシアの狙撃銃がお好みとはスラブ系かな、などと当たりをつけつつ目当てのものを手に入れられそうな算段をつけていく。

「ところで、サイモンとデニスっていう腕っこきに心当たりあったりする?」
「ん?いや、すぐには思い当たらないな……コンチネンタル・ホテルの関係者か?」
「いや、ホテルじゃなくて池袋で寿司屋やってる」
「それは知らない奴だな」
「そう。共通の友人はいなそうか、っと。よし、あとは汚職警官や半端ヤクザの返事待ちになる。お代の話に入っていいかな?」

情報(しょうひん)の入荷まで待つしかないので、ひとまずお会計を。
といっても財布の中身にも口座の残高にもさほどの興味はない。
仮初の電脳世界での通貨になぞ、さして意味も執着も二人は覚えていなかった。

「一応、当座の軍資金程度には使えると思うが」
「うん。そっちもとりあえず頂くつもりだけど、本命は別のものが欲しい。俺の頼みも聞いてくれ、って言ったよね?」

臨也の中に高揚が再び湧き上がる。
サンタクロースにプレゼントの注文をするような、ヒーローショーの握手に並ぶような、童心に帰るような願いごと。

「サーヴァントの姿とクラス、真名明かしたことで割引効くか?」
「いや、こいつら、なんか気とかエネルギーとか感知してお互いの所在分かったり、個体の区別できるんでしょ?そのうち明らかになる手札を先んじてオープンしたってのじゃあ、ちょっと。情報としての価値は低いかな。そんなに警戒しないでもぼったくったりしないさ。ホントにシンプルなお願いだよ」

そう前置きして口にされた頼み事は、確かにごねるほどでもない些細な頼み事だった。

「俺を、折原臨也をアンタのお抱えの情報屋として喧伝してほしい」

売れないデザイナーに仕事を持ち込んだような報酬を、逆に仕事側が提示してきては誰もが戸惑う。
熟達の殺し屋でもそれは同じだった。

「そりゃまたなぜだ?SNSでバズって有名人にでもなりたいのか?」
「それが必要ならそうするさ。俺はね、折原臨也の名を人類史に刻みたいんだよ。いつの日かサーヴァントにもなれるほどにね」

臨也の夢。死してなお存在が保証されること。『天国』へと行くこと。
この地においては、それはすなわち英霊の座に至ること。

「有名人っていうだけじゃ記録にはなれないだろう。そして俺はどう捉えても英雄なんてガラじゃない。アンタと違ってね。そのくらいは分かってる。けれど、英雄じゃなくても人は英霊になれるはずだ」

この地での戦いに臨むにあたって考えていたプランがあった。
そこにお誂えの人材までもが臨也の前に現れた。

「かの『ババヤガー』お抱えの情報屋、その名は『折原臨也』!そう呼ばれればそれでいいんだ!
 偉大なる騎士ドン・キホーテの従者は!?サンチョ・パンサだ。主神ゼウスが牛に化けてまで寵愛を与えた姫は!?エウロペだ。第六天魔王織田信長の弟は!?織田信勝だ。偉大なものの傍にいた、それだけで人類史に名を遺すことはできるんだよ。恐るべきブギーマン、偉大なるババヤガー。人類史におけるあなたのバーターに俺はなりたい」

我欲に満ちた汚い士官の言葉だった。
しかしある意味で愛の告白のように尊く、英雄の憧れという意味では純粋だ。
そして打算的だからこそ、情報屋と殺し屋のやり取りとしては相応しいものだとも言えよう。

「リスクはあるぞ。俺との繋がりを喧伝するってことは、俺たちのつながりが敵味方の陣営にも伝わるってことだ。その時味方が味方のままの保証はない」
「承知の上さ。俺がコウモリだなんて、そんなのみんな分かりきってる。気づかない間抜けがいてくれればやりやすかったんだけど。当面の敵を両面宿儺とする、っていうそっちの方針にも沿うはずだ」
「…当たり前の話をするが。商品の質が悪いなら取引を続けることはない」
「そこは今後の成果に乞うご期待」

軽妙な応答の果て。殺し屋は、情報屋を

「……金で済ませたかったが。高い買い物になったな」
「毎度あり。今後ともご贔屓に」

抱え込む、ひとまずそう決めた。

87終わりのその先を目指して ◆yy7mpGr1KA:2023/12/11(月) 13:55:33 ID:WcMzngYc0

「それじゃあ成果が上がり次第連絡を入れるよ。どこに伝えればいい?携帯?それとも拠点の連絡先?」
「おっと、そうだ。そっちも頼みたいことがあるんだった」
「え、なに追加のお仕事?」

いわく、ここでのロールが海外旅行者なのに加えて、思い立ってすぐに来た扱いなのか手持ちのスマホが日本で使えない。
上等な演算機に成り下がっているので、通信手段が欲しい、とのこと。

「なるほど、国が違うとそういう問題もあるのか。このご時世にそれは不便だね。飛ばし携帯でいいならすぐに用意できるけど」
「そっちの用意した端末じゃあな」
「どんな仕込みがあるか分かったもんじゃない、よねぇ。当然の警戒だ。それくらいはしてくれなきゃ困る。となると……」

臨也が自前の端末に指を滑らせ、いくつかのサイトであたりをつける。

「旅行者向けのレンタルスマホにする?本来なら受け取りに時間がかかるけど、そこは俺の方でなんとかしよう。あるいはプリペイドのSIMカードの方がいいかな?自前の端末があるならそっちの方がいいかもね。電話としては使えないから、通話するなら別途アプリをいれる必要があるけれど」
「端末をそのまま使えるカードの方がいいな」
「うん。やっぱり道具は手に慣れたものが一番だものね。それならヴェルデっていうショッピングモールにある携帯ショップがこのあたりじゃ一番近い。電機屋もあるから充電コンセントの規格違いとかはそっちで」

地図出すから待っててよ、と立ち上がりプリンターへ臨也が向かう。
そして出力された紙を受け渡し、そこに自分の連絡先も添えて差し出す。

「受け取れたら連絡を。お抱えの情報屋に、ね」
「…ああ。わかったよ」
「それから分かってると思うけど、行く店は普通に堅気のトコだから俺の名前とか出しても特にサービスはない。ま、スムーズに進めるために予約くらいはとれるけど……」

再びスマホの画面を叩き、携帯ショップにコール音を慣らす準備。
そして臨也は笑みを浮かべて問いかけた。

「それで、何て名前で予約する?ミスター・ババヤガー」

からかうような臨也の笑みにブギーマンもらしくなく困ったような笑いで応じた。
携帯を扱う店で身分証を求められるのはまず間違いない。ババヤガーだのブギーマンだので予約してはいらぬトラブルを呼び込むだろう。
といって予約なしで向かっては対応が後に回されるのも明らか。
じゃあ自分で予約できるかというと、そもそも連絡するためのスマホを求めているのだから本末が転倒している。公衆電話も時代の流れかここまでの道中あまり見当たらなかった。
いい加減、名乗りどころのようだ。
懐からパスポートを取り出してそこに記載された名前を確かめる。

「どうしたの?まさか自分の名前を忘れちゃった?」
「仕事柄、パスポートに書いてあるのが本名だとは限らなくてね。一応確かめておこうと」

貼られた写真も、記されたサインも間違いなく本来の自分のものだった。
それを読み上げるようにゆっくり告げる。

「ジョナサン・ウィックだ。予約頼むよ、折原臨也」
「了解したよ、ミスター・ウィック。ジョンもあながち偽名じゃなかった訳だ。それじゃあ改めてよろしく」

予約の時刻だけ確かめて出ていくババヤガー改めジョン・ウィックを見送る。
東仙も霊体化してそれに続き、冬木の情報屋に静けさが戻った。

88終わりのその先を目指して ◆yy7mpGr1KA:2023/12/11(月) 13:56:39 ID:WcMzngYc0
「昔の上官に会えてどんな気分、ランサー?」
「さあな……」

そっけない返答を返すウルキオラだが、もとよりさほど興味がないのか臨也も食い下がることはない。
それよりウルキオラの方は今後の動きについて気にかかることがあまりに多い。

「まさか、俺の知り合いがいたから気を遣ってあいつと組むことにしたのか?赤の陣営はどうするんだ」
「アンタを気遣って?本気で言ってる?だとしたらピエロのセンスはそこそこあるよキミ」

ウルキオラの問いを鼻で笑って否定する。
化け物同士の繋がりなんて心底どうでもいい。重要なのは人間、英雄の方だと。

「彼のオマケで英霊になりたいっていうのはマジだよ。あれだけの死臭を放っているのに会話が成立するもんなんだと驚された。赤でいうなら滑皮さんなんかとはモノが違う」
「それで、もう赤を見限るのか?」
「いや。滑皮さんとのコネは情報屋としては惜しいっちゃ惜しい。羂索から探りたいこともある。ミスター・ウィックとうまくやれるとも限らない。当面はコウモリでいくさ」

臨也の方針は、ウルキオラとしてはあまり好くものではない。
だがそれを否定するのも難しい。
藍染惣右介、市丸ギン、東仙要、かつて仰いだものはみな埋伏の毒であった。
そんな葛藤を慮ったわけでは断じてないが、臨也が今後の動きについて話し始める。

「ミスター・ウィックは両面宿儺と羂索を倒してもらいたい。怪物退治こそが英雄譚の華だ。神話の法則に言う英雄と影としては十二分だろう。俺は英雄を導く賢者としてともに名を遺す。
 ……両面宿儺にぶつけるコマを見つけた、として滑皮さんには協力を頼めないかな。それと羂索からどこまで引き出せるか……」
「無謀だな」

臨也の語るそれはまるで夢物語だとウルキオラは断ずる。

「弱いお前の尻ぬぐいに追われるなどごめんだぞ。宿儺も羂索も、お前があいつと組んだ程度で手に負えるものではあるまい」
「ああ。それならそれでいいのさ」

破滅的な笑みを浮かべて臨也はウルキオラの批判を受け入れた。

「名を遺した英雄っていうのは別に勝者とは限らない。始皇帝を殺せなかった荊軻、織田信長を殺せなかった杉谷善重坊。戦いに挑んだという事象をもって英霊になることだってある。両面宿儺を殺せなかったジョン・ウィック、でもいいんだよ。歴史に残るなら、それでね」

英雄と呼んだ男すら利用する。
その憧れは心底からのもので、それでも自分の愛する人間の、そして人間を愛する自分のためならばいくらでも利用できるのが折原臨也という男だ。
当然ウルキオラはそれを好かないし、そんなウルキオラの感想は臨也にはどうでもいい……が。
折原臨也は手駒の機嫌を取る必要性を分からないほどの愚物ではない。

「ミスター・ウィックとの協力体制。潜在的な羂索、両面宿儺への敵対。赤の陣営での立場。その全てを考慮するなら……」

赤の陣営の仲間で。羂索によくない感情を抱いていて。外部との協力体制をよしとしそうな。

「白雪千夜ちゃんにコンタクトをとろうか。人の心を惹きつけて止まないアイドル。アンタが心を学ぶにもいい教材だろう?」



【B-9 新都/一日目・午後】

【折原臨也@デュラララ!!】
[状態]:健康
[令呪]:残り三画
[装備]:
[道具]:ビット・バイパーの弾
[所持金]:豊富
[思考・状況]
基本方針:聖杯戦争を楽しみ、『天国』を目指す
1:ジョン・ウィックをうまく援助し、英霊の座へと至る
2:とはいえまだ赤の陣営を捨てるつもりはない
3:白雪千夜と接触。陣営内外の緩衝材にしたい

[備考]
※冬木におけるロールは原作に近い情報屋。予選期間中に使役していました元マスターなどはリセットで消失しましたが、ロール設定で使役していた繋がりやNPCなどは健在です。
※羂索から両面宿儺についての情報を得ています。どの程度の者かは後続の方にお任せします。
※ジョン・ウィックと協力関係を結びました。またアヴェンジャー(東仙要)の姿と真名を把握しました。


【ランサー(ウルキオラ・シファー)@BLEACH】
[状態]:健康
[装備]:斬魄刀
[道具]:
[所持金]:
[思考・状況]
基本方針:『心』を再び手にする
1:一応は臨也の方針に従う
2:白雪千夜…………
[備考]
※東仙の霊圧を感知・記憶しました。

89終わりのその先を目指して ◆yy7mpGr1KA:2023/12/11(月) 13:56:57 ID:WcMzngYc0

【ジョン・ウィック@ジョン・ウィック コンセクエンス】
[状態]:健康
[令呪]:残り三画
[装備]:防弾スーツ、ピット・バイパー
[道具]:ピット・バイパーの弾(多数)、携帯ショップの地図
[所持金]:豊富
[思考・状況]
基本方針:聖杯を手にし、日常を取り戻す
1:携帯ショップに向かい、スマホを使えるようにする
2:臨也の情報を待つ

[備考]
※折原臨也と協力関係を結びました。またランサー(ウルキオラ)の姿を把握しました。言語能力を失った東仙から能力や真名をどこまで把握できるかは後続の方にお任せします。


【アヴェンジャー(東仙要)@BLEACH】
[状態]:健康
[装備]:浅打
[道具]:
[所持金]:
[思考・状況]
基本方針:聖杯を手にする
1:■■■…!

[備考]
※ウルキオラの霊圧を感知・記憶しました。

90名無しさん:2023/12/11(月) 13:57:33 ID:WcMzngYc0
投下終了です。指摘等あればお願いします。

91 ◆sYailYm.NA:2023/12/11(月) 21:44:19 ID:zz0KuNhg0
早速のご投下&拙作への感想、ありがとうございます……!
私も僭越ながら、感想の方を書かせていただきます。


>終わりのその先を目指して
折原臨也とジョン・ウィック、池袋改め情報屋と伝説の殺し屋の接触というバチバチに利いた構図に否応なくワクワクを掻き立てられました……!
お互いの会話にも彼ららしいエッジが利いていて、単に名前を名乗るだけでも火花の散るような攻防が繰り広げられる辺りは流石にあの折原臨也と、彼でさえ舌を巻くしかないジョン・ウィックの対面という感じで燃えましたね。
情報屋と依頼者としてのやり取りもビジネスライクな、良い意味で聖杯戦争(大戦)らしくない外連味があってとても好きです。
そして此処で臨也がジョン・ウィックに対して明かした目的が実に彼らしく、Fate世界の設定と繋がった臨也としてリアリティがとても高くまたまたぶち上がってしまった次第でございます。本文にもあったように欲望で塗れている癖に底抜けに純粋な憧れ、こいつは本当にどこに行っても変わらないんだな……と頷いてしまいますね。
まさにジョン・ウィックの訪れは台風一過。臨也が高揚するのも頷ける“人間”の“英雄”かくやあらんという感じでした。
そんな彼との邂逅を経た臨也がコンタクトを取るのを画策する相手はやはりそこ……! 赤の陣営の中で露骨に一人だけ浮いている、というかあんまりな貧乏籤を引かされている千夜を狙う辺り流石の行動力と言う他ないですね。
『天国』を目指す情報屋と、この世の地獄を顕現させながら此処まで生き抜いてきた英雄の邂逅、実に読み応えたっぷりでございました。
改めて素敵な作品の投下、誠にありがとうございました!


さて、それでは私も予約分を投下させていただきます。

92期末テストに備えて/ロストワンの号哭 ◆sYailYm.NA:2023/12/11(月) 21:45:31 ID:zz0KuNhg0



 外はクリスマスムードでにわかに色めき立っている。
 相変わらずカーテンを閉じたままの部屋の中から路傍の盛況具合は窺い知れないが、街路樹はクリスマス仕様の飾り付けを施され、夜になれば色とりどりのイルミネーションが町並みを美しく照らし出すのだろう。
 
 恋人がいなくたってクリスマスの楽しみ方はいろいろある。
 友達を誘ってカラオケなりに出かけて、いつもより少しカロリーに無頓着な食事をしながら馬鹿騒ぎするのだってとっても楽しい。
 馴染みの仲間を家に招いて、夜通し騒ぎづくめで母親にやんわり苦言を呈された事もあったっけ、と画面の中で躍動する変身ヒロインの姿を見ながら少女は述懐していた。

 けれど、それも全ては終わったことだ。
 家に呼ぶ相手はおろか、メリークリスマスを言い合う相手すらいない。そもそも部屋から出る事自体がめったにない。
 最後に家を出たのはよく頭を捻らないと思い出せない。そんな体たらくの瀬崎愛吏にとって、外の喧騒は嫌味以外の何物でもなかった。

(――本当に始まったのかな、聖杯大戦)

 星界円卓での会合、という名の顔合わせが行われたのが今からちょうど十二時間前だ。
 あれから半日ほどが経過した訳だが、今の所愛吏の日常には何一つ変化らしい物は起きていなかった。

 会合が終わるなり不安を抱えて眠りに落ち、起きたら最低限人間の尊厳として顔を洗って歯を磨いて、それから自室でアニメ鑑賞。
 呆れるほどにいつも通りだ。昨日と違う事と言ったら、視聴しているコンテンツが男児向けの特撮ものから変身ヒロインものに変わっただけだ。
 終焉の脚本家・幡随院弧屠が描きあげた2クールのその終盤を、ホットミルク片手にぼんやり眺めている。

 『フラッシュ☆プリンセス!』。生きる事と死ぬ事、そして生き様を繋ぐ事。
 対立する二つの正義、出会いと別れ、喜劇と悲劇、ヒロイズムとその影に常に付き纏う“痛み”。本来であれば子供向けコンテンツでは忌避されるような物語の陰の部分までもを克明に描きあげたこの作品が、愛吏はそれほど好きではなかった。
 どちらかと言えば『ハートブレイク』『フィーリングっど』の方が好みには合う。なのに今わざわざこの“合わない”シリーズを見返しているのはつまり、そういう事なのだろうと自己分析した。

 どんなにすっとぼけてみたって無駄だ。
 本当はもう分かってる、聖杯大戦は始まっているのだと。

 此処までは何もしないままでもどうにか勝ち上がってこれた。
 セイバーは性格も根性もねじ曲がり腐り切った最低な男だが、それでも強い。予選で彼が傷を負って帰ってきた所は見た事がなかった。
 しかし此処から先の戦いも同じようにどうにか出来るのかと言われたら、愛吏は答えに窮してしまう。そこですぐさま首を縦に振れるほど、愛吏は愚かではなかったのだ。そのくらい莫迦であれたなら、彼女の人生はきっともっと楽だったろう。

 死が迫ってきているのを感じた。だから、シリーズの中でも一番死の匂いが色濃い『フラッシュ』をチョイスしたのだ。それで何になる訳でもないと分かっていたが、自分なりに精一杯この冗談みたいな現実に向き合おうとした結果だったのかもしれない。
 
「……やっぱ合わないな、幡随院脚本」

 面白くない訳ではない。断じて、つまらない訳ではないのだ。
 むしろ面白い。何度見ても色褪せない衝撃と緊迫感は、シリーズの愛好者であるなら誰もが認める所だと愛吏もそう思う。
 だからこれは只純粋に“合わない”だけ。どんなに上等な雲丹や鮪を出されたって嫌いな人は必ずいる、それと同じだ。

 気分転換のつもりが却って気が滅入ってしまった。
 リモコンを手に取ってテレビを消し、のそりとベッドの上に身を横たえる。

93期末テストに備えて/ロストワンの号哭 ◆sYailYm.NA:2023/12/11(月) 21:46:09 ID:zz0KuNhg0


 ……『フラッシュ☆プリンセス』のテーマの一つは、生命のバトンを繋ぐ事だ。

 死は誰にでも等しく訪れる。明日の平和と未来の希望を常に確約し続けられる存在は、この世のどこにも存在しない。
 されど死を前に絶望する必要はない。大事なのはその死を、これから消える命をどうやって明日に繋ぐのか。大切な誰かに、預けるのか。
 だとすれば、やっぱり作品のチョイスを間違えたのかもしれない。聖杯大戦に於ける陣営分けはあくまで便宜上、形だけのものだ。結局の所最後の最後に大事なのは自分がどうなりたいかという一点であって、バトンを託した所でどうにもならないのだから。
 
(そう考えると、あっちの方がよかったかな。なんでもできる、なんでもなれる……)

 ――瀬崎愛吏にとって一番の問題は、マスターとしての能力の有無ではなかった。
 彼女は此処まで生き延びていながら、自分がこれからどうなりたいのかを未だに決めあぐねている。
 いや、考える事を半ば放棄して此処まで来てしまったというべきだろうか。言うなれば心に柱が通っていない。柱のない人間では、命をかけた戦いになんて当然臨める道理はないのだ。

(わたしは……どうなりたいの?)

 聖杯の力があれば、全てを思うように出来るのだ。
 であれば迷う事なんて何もないように思える。

 愛吏が失墜する原因になったあの“告発”が起きなかったように過去を変えて、強引に過去と理想の未来を地続きにしてしまえばいい。
 そうすればこれまで通りの理想の自分を維持しながら、“彼女”との関係を続ける事だって容易だろう。
 そこまで分かっているなら何を迷う余地があるのか。その答えは、単純。生きる事にかけてのモチベーションが致命的に途切れているからだった。

 生きる事は、怖い。愛吏はそれを嫌というほど思い知った。
 人間は簡単に自分を裏切るし、親しげな笑顔と優しい言葉のまま陥れようとしてくる。
 法と警察は二人で消える事すら許してくれない。お金がなければ人生は緩やかに先細りしていく。未来が、生殺しのように削ぎ落とされていく。
 そんな世界に、今更戻ってどうなるのだろう。そんな事ならいっそもう一度、全部投げ捨てて身を委ねてしまえばいいのではないか。
  
 あの“死”に。美しい、冬の夜空にさんざめく星々のような“永遠”に。


 だが此処でも問題が一つあった。
 瀬崎愛吏はどこまでも弱いから、自分で死を選べない。

 そしてかつて愛吏にそれをくれた彼女は、この世界にはいない。

 愛吏は今、自分の手で答えを選び取らなければならないのだ。
 生きるにせよ、死ぬにせよ。彼女の手を引いてくれる少女の言葉も温もりも、涙さえも此処にはない。
 けれど刻限は今も刻一刻と迫っている。いつまでもは待ってくれない。選ばなければ、強制的に未来を決められる時が遠からず訪れるだろう。
 
「はあ…………」

 いっそもう少しまともなサーヴァントを引けていたら、相談の一つも出来たのだろうか。
 そう思いながら吐いた深い溜息が部屋の中に消えていく中で、孤独な部屋にまたしても突如響き渡る声があった。


『――眞鍋瑚太郎から星界円卓への招待が届いています』

94期末テストに備えて/ロストワンの号哭 ◆sYailYm.NA:2023/12/11(月) 21:47:42 ID:zz0KuNhg0
「ひっ!」


 およそ半日ぶりに心臓が口から飛び出そうになり、愛吏は比喩でなくその場で飛び上がった。
 見れば聖杯大戦移行の時にも現れた、コガネとかいう運営側のNPCがふよふよと見慣れた部屋の中に浮遊している。
 またこいつか……と恨みがましい視線を向ける愛吏だったが、それよりも重要なのはコガネが伝えてきた通知の内容だ。

『眞鍋瑚太郎様から星界円卓への招待が届いています。招待を受けますか?』
「眞鍋、瑚太郎……」

 それが誰であるかは、愛吏もよく覚えていた。
 星界円卓での会合の時にいた、双葉頭のマスターだ。確か教師だとか言っていた記憶がある。

「……招待、って――オルガマリーからじゃなくて?」
『はい。眞鍋瑚太郎様から、愛吏様個人宛の招待が届いています。招待を受けますか?』

 なんで……?
 それが愛吏の正直な感想だった。

 誇って言う事ではないが、あの場で自分は最も価値の低い存在だった自信がある。
 いやそれどころか、セイバーがオルガマリーを相手に悪目立ちした事で周りから最も印象の悪いマスターになってしまった感さえあった。
 そんな自分を呼び出して、わざわざ一対一で会談を持ち掛けてくるまともな理由がさっぱり思い付かない。
 逆に言えば、まともでない理由ならば幾つも思い付くのが最悪であった。

「これ、断ってもいいの」
『ああ! 受けるも蹴るもオマエの自由だぜ! 特にペナルティとかもないからな!』
「事務的なのか馴れ馴れしいのかどっちなのよ、あんたは」

 心情的に言うなら、会いたくはない。だがいつまでもそんな甘えた事を言っていてはそのうち二進も三進も行かなくなってしまう、そんな危機感は愛吏にもあるのだ。
 それに、悪目立ちしたのなら少しでも印象を取り返しておかないと本当に切り捨て候補にされる可能性もあるのではないか。
 そう考えると背筋に冷たい物が走った。自分が眞鍋瑚太郎や繰田孔富のような際物に本気で目を付けられて生き残れる気は微塵もしない。

(セイバー。いるんでしょ)
(なんだ。これしきの事で助言を求めてくるのか? 私はいつから君の保護者になったのやらな)

 服を着替える必要はないのだろうが、流石に寝間着のまま円卓に飛ばされる事を嫌がるだけの羞恥心はある。
 手早く着替えを始めながら、愛吏は念話で話したくもない相棒に自分の意思決定を伝えた。

(眞鍋の招待を受ける。あんたは円卓でわたしの護衛をして)
(旨くない仕事だな。幼子をあやすだけならいざ知らず、神であるなら厄介だ。罷り間違って小火(ボヤ)が起きても知らぬぞ?)
(あんたの魂胆は知ってる。あの場では只、相談もなしにやられたから面食らっただけ。……別に“それ”だけなら止めないけど、わたしに火の粉が飛んでこないようにやりなさい)

 意図が何であるにせよ、こちらもサーヴァント連れなら滅多な事にはならないだろうと自分に言い聞かせる。
 心臓は痛いほど高鳴っていたが、それはもうこの際無視する事に決めた。

「……コガネ。受けてあげるから、わたしとセイバーを星界円卓に飛ばして」
『了解だ! おっと、円卓に飛んでる最中は現実(こっち)の身体が無防備になるから気を付けろよ!』
「わかってるから早くして」

 向かうは十二時間ぶりの星界円卓。臨むは、一対一での会談。
 少女の向かう先で、瞼のない怪物が待っている。





95期末テストに備えて/ロストワンの号哭 ◆sYailYm.NA:2023/12/11(月) 21:48:31 ID:zz0KuNhg0



「こんにちは。昨夜はよく眠れたか?」
「……こんにちは。まあまあ、です」
「そうか、なら何よりだ。睡眠は大事だからな。何をするにも先立つ物がないとどうにもならない。人間にとってはそれが睡眠時間だ」

 意を決して臨んだ星界円卓に、既にその男は座っていた。
 双葉頭の教師――眞鍋瑚太郎。屈託のない笑顔で当たり障りのない会話を投げ掛けてくる姿は、確かに教師のそれを彷彿とさせる。
 ぼんやりした返事を返しながら、愛吏は彼の対面の席に座る。それから、眞鍋の後ろにちょこんと立っている少女に目を向けた。

 その視線に気付いたのだろう。眞鍋は彼女の紹介を始めた。

「この間は紹介しそびれたっけな。こいつはキャスターのサーヴァントだ。孔富の奴もキャスターを連れてるらしいから、ちょっとややこしいけどな」

 年頃で言えば『白の陣営』はおろか、聖杯大戦全体で見ても最年少だろうありすとそう変わらないように見える。
 ライトグレーの頭髪は上品さを感じさせ、長耳……創作物御用達の長命手(エルフ)を連想させる耳は非現実感を掻き立てていた。

「はじめまして。訳あって名前を名乗れないのが残念だけれど、どうか好きに呼んでちょうだいね」
「あ……うん。よろしくお願いします……?」

 そして人懐っこい笑顔と言動は小動物を思わす。
 にも関わらず、あの時――愛吏のセイバーを止めた時には誰もが同時に彼女に神性を見出したのだ。
 油断は出来ない。そう思っている愛吏の傍ら、そのセイバー当人の声が響く。

「聖杯が運ぶ巡り合わせとやらも知れているな。いたいけな神を従えるには、そこの男は随分と汚れているように見えるが?」
「失礼ね。初対面の相手に喧嘩腰で仕掛けてはいけないのよ?」
「そう聞こえたなら謝ろう。世の中、正論ほど人の心を抉る物もないからな」

 愛吏はセイバーを睨み付けようとしたが、振り返るのを待たずして彼が念話で語り掛けてきた。

(怯えるな。ああは言ったがな、此処ですぐさま始めるつもりはない。全員に見せられると言うならいざ知らず、欠員のある円卓で虎の子をひけらかすほど阿呆ではないさ)
(……分かった。でもいざという時は任せたから)
(心得ている。奸計の気配があればすぐにでも、だな。くく、相変わらずの小心だが少しはまともな判断じゃないか)
(うるさい)

 愛吏の背には、セイバー……綱彌代時灘が。
 眞鍋の背には、幼神のキャスターが立って向かい合う格好だった。
 
 後者はやや異質だが、意味合いとしては任侠映画でよくある構図と同じだ。
 組のトップ同士が相対して掛け合いに臨み、その背を荒事に長けた部下が守る。
 ごく、と自分の唾が喉に落ちていく音を愛吏は聞いた。鬼が出るか、はたまた蛇が出るか。そんな彼女の緊張をよそに、開口一番眞鍋が言い放った台詞は全ての想定を裏切るものだった。

「愛吏は何が好きなんだ?」
「……はい?」
「何でもいいが、そうだな。例えば映画やアニメ……ゲームや本なんかでもいい。愛吏の好きな物を教えてくれよ」

96期末テストに備えて/ロストワンの号哭 ◆sYailYm.NA:2023/12/11(月) 21:49:30 ID:zz0KuNhg0

 ……、聞かれているそれ自体はとても単純な事。だけどだからこそ、そんな世間話めいた――いや、本当に先生が生徒に持ち掛けてくる雑談のような事を聞かれる理由が分からない。
 警戒心を解く為の罠? それとも何かの例え話?
 答えが出ないまま、しかし袖にするのも憚られて愛吏はゆっくりと口を開いた。

「特撮……覆面ライダーとか、プリンセスシリーズとか、ああいうの……?」

 年頃の女子高生の趣味としては変わり者の部類に入るだろうが、一応嘘偽りのない答えだった。
 映画も幅広く見る方だが、中でも好きなのとなるとそういう方面になると自覚している。
 実際元の世界でもこの世界でも、引きこもっている間は大体サブスクなり手持ちのDVDなりで見返していた記憶ばかりだ。

 ……まさかこの円卓でそんな事を喋る時が来るとは思わなかったが。

「へえ。それなら僕も一通り分かるぞ! 最近のだと……そうだな、『オールスターズメモリーズ』は良かったな。あの手の集合物はおざなりな出来になる印象があるから期待してなかったが、シリーズのお約束を踏襲しながら要所要所で挑戦が見えた」
「……そうですね。伊達にシリーズの歴代興行収入更新してないなって感じでした」
「僕の持ってるクラスにもプリンセスシリーズの大ファンが何人かいてな。思わず教室で感想に花を咲かせてしまったよ。中でもそうだな、特に初代の二人が出てきた所はやっぱり分かってても手に汗握る物が――」

 立て続けにもう一つ予想外。この教師、意外に詳しい。少なくともにわか知識や子供向けジャンルと見下した視点から語っているわけではない事が、シリーズのファンである愛吏だからこそ伝わった。
 意外とオタクなのだろうか。人って見かけによらないな、わたしが言えたことじゃないけど。
 そんな事を思いながらやや気圧され気味に相槌を打っていると、眞鍋が少し気恥ずかしそうに苦笑する。

「ああ、驚かせてしまったか? 教師として、なるべく生徒達の話題には付いていけるように心がけてるんだよ。プリンセスシリーズもその一環で履修したんだ。そんじょそこらのプリオタには負けないトークが出来る自信があるぞ、勿論覆面ライダーもちゃんと観てる」
「真面目なんですか、眞鍋先生って。……普通の先生はそこまでしないと思います」
「人を教える側に立つなら、そのくらいの姿勢は最低限持つべきだろう? 身を屈めて対等の目線にならなきゃ見えない事もあるんだ」

 ――ざわり、と身体の中に奇妙な感覚が込み上げた事に気付いて、愛吏は少しだけ表情を歪めた。
 
 怖い、とは違う。気持ち悪い、とも多分違う。只、これが“嫌悪”に類する感情なのだろう事だけは分かった。
 では何が原因で、この嫌悪感は沸き出てきているのだろうかと考えて、すぐに愛吏は気が付いた。
 目だ。この男は、自分の事をちゃんと見て話している。だから気持ち悪いのだ。その理由は、考えられる限り一つしか思い付かない。

「話を戻そうか。僕はプリンセスシリーズでは、フラプリ……『フラッシュ☆プリンセス』が一番好きだ」
「……わたしは、あんまり。幡随院脚本は微妙に合わなくて」
「そうか、残念だな。でも愛吏ほどのファンなら、名作であるという事には疑いの余地はないんじゃないか」
「それは……まあ。実際、数字出てるし。リマスター版の円盤も初週の売り上げごぼう抜きにしてるくらいだし」

 瀬崎愛吏は、他人から見られる事を恐れている。
 かつて彼女は皆の憧れであり、何一つケチを付ける所のないクラスの花形だった。
 そう、既に過去形だ。そしてその失楽こそが彼女を死という名の永遠にまで至らしめた理由であり、黒い羽を掴んで遥々こんな真冬の箱庭にまで流れ着いてきた要因でもあった。
 
 楽園を追放されたあの日から、愛吏は一人を除いて誰にも見られていない。そのように生きてきた。
 痺れを切らして甘言を囁いてきた邪な女の視線とその意味を理解した事で、少女は完全に壊れて終わりに向かい転がり始めた。

 命を終え、有限と袂を分かち、そうして巡り巡った末に再び現れた自分を見ている“誰か”の存在。
 セイバーとの付き合いは絡み付くような悪意ばかりを感じる非常に不愉快な物だったが、しかしそういう意味では彼と関わるのは気楽だった。
 何故なら綱彌代時灘という男は、愛吏という個人の事など見ていない。所詮は罵倒と嘲笑の対象でしかなく、だからこそ時灘の言葉は心の深層にまでは刺さらない。

 しかし眞鍋瑚太郎はちゃんと『瀬崎愛吏』そのものを直視し、認識した上で語り掛けてきているのだ。
 それは愛吏が安息を捨ててまで逃避しようとした、恐ろしい“他者”の存在そのものだった。

97期末テストに備えて/ロストワンの号哭 ◆sYailYm.NA:2023/12/11(月) 21:50:24 ID:zz0KuNhg0

「“主人公(アブちゃん)”と“敵(ヒース)”の対立。結束と孤独の激突、彼女達を中心に繋がれていく命のリレー……本筋の二人の宿命も見応えたっぷりだが、今の僕には最後のが最もよく沁みてな」

 この男は、自分を見ている。“フリ”じゃない。ちゃんと見ているのだ。その両目で、瞼を閉じる事なく。
 見て、理解しようとしている。もしくはもう理解されているのかもしれない。
 それは愛吏にとって、単純な暴力をひけらかされるよりもずっと怖い事だった。この感覚に比べれば時灘の嘲笑など馬耳東風で聞き流せると言ってもいいくらいだ。

「人の命は死で本当に終わるのか。人は、どういう目差しでそれと向き合うべきなのか。過去に一度それに失敗している身だから尚更、見返すたびに感慨深くなる。さあ、次はどうすればいいだろう……とな」
「……なんか、一回死んだ事があるみたいな言い方」
「察しがいいな。人の話を聞くのが上手な子は将来偉くなれるぞ」

 話が長い、妙に迂遠な語り口を好むのは人に教えを説く身分だからこその悪癖なのだろうか。
 嫌悪と恐怖を共に噛み殺しながら生返事を打っていた愛吏の心中を、この男は果たしてどこまで見透かしているのか。
 それを逆に見透かす事は稚い少女には到底不可能だったが、そんな彼女に教師は笑顔で爆弾を投げ付けた。

「その通りだ。僕はこの聖杯戦争に招かれる直前、一度死んでいる」
「……は?」
「別にそれ自体に後悔はなかった。互いに命を懸けて勝負した末の決着だし、何しろあの時の僕では絶対に勝てる筈のない相手だったからな。生きたまま骨の髄まで焼かれるのは多少辛かったが、それでも心は清々しい納得で満たされていたさ。だからそうだな、後悔があったとすれば死んだ事そのものじゃなく……それまでの生き様だったんだ」

 瀬崎愛吏は眞鍋瑚太郎の素性を知らない。だが、彼が腹に一物秘めた大狸である事は先の会合で把握済みだ。
 しかし此処に来てその認識が、ブレた。恐ろしい狸に見えていた男の姿が霧のように霞み、もっと得体の知れない何かに変化して見えた。

「大勢育てた。そして大勢裁いてきた。欠点の数ばかり数えて、したり顔で落第の判子を押してきたよ。もしも加点の数も同じように数えてやれていたなら、一体どれだけの合格者がそこにいたのか分からない。分かったのは最後の最後だ。そして無様に落第した僕は今、こうして追試のテストを解いている」
「なにを、言って」
「僕は教師としての務めを果たすつもりだ。たとえその果てにこの身が再び業火に焼かれようとも構わない」


 ……眞鍋瑚太郎。彼は教師として、間違いなく誰よりその職務に真摯だった。

 生徒の一人一人に分け隔てなく向き合い、正しい事は褒め、悪い事は叱り、単なる成績の善し悪し以外の所で生徒の価値を見出してきた教師の鑑だった。
 だからこそ、なのだろう。生来の聡明さと、教師として生きる事への頭抜けた適性が化学反応を起こして彼は狂ってしまった。
 人を教え育てる教師の輪郭は歪み、愛すべき生徒達の巣立ったその後の姿に嘆きを抱えるようになり、いつしか減点式で人生を推し測る一個の災害にまで成り果ててしまったのだ。

 しかし、彼の病は質された。とある恐るべきギャンブラーとの対話と、命懸けの大勝負の最後に彼は自分の誤りを悟り、それを認めた。
 返却されたテストは異議の申しようもない完膚なきまでの不合格。されど幸いにも、炎の中に消えていった教育者の手に握り込まされたのは追試を受験する為の権利だった。
 “黒い羽”。それは眞鍋という間違ってしまった教育者にとっての追試(やりなおし)――彼にとってこの聖杯戦争とは、0と1で再現された冬木の街とは、無数の問題が立ち並んだ一枚の巨大な問題用紙に他ならない。

 そして今、眞鍋の前には生徒がいる。ひと目見た瞬間に分かった。彼女が、大きな闇を抱えて鬱屈している事は。
 であれば眞鍋がやるべき事は一つしかない。彼は教師なのだから。悩める子供を放置して取り組むべき課題など、彼の世界には一つとして存在しないのだから。

98期末テストに備えて/ロストワンの号哭 ◆sYailYm.NA:2023/12/11(月) 21:50:55 ID:zz0KuNhg0


「……よければ次は、君のを聞かせてくれないか」

 教育災害は鏡を覗き込んで過ちに気付き、業火をもって鎮められた。
 それでも彼は今も変わらず“瞼無し(リッドレス)”。目を閉じている暇などないと、その両目で世界を、導くべき生徒達を見つめ続けている。そんな彼が、気付かない道理などなかった。

「君は二度目の生で何を望む。かつて迎えた死を、どのように踏まえる気でいるんだ――瀬崎愛吏」

 瀬崎愛吏という少女が自分と同じ、一度は死の静寂に沈んだ存在である事に。
 傷口に塩を塗り込むも同然の行為であるのは百も承知で、教師は少女に問い掛けた。問いを受けた少女の目が、動揺を隠そうともせずに大きく揺れて――

「……知った風な事、言わないで」

 瞼を閉じる事を忘れた男の前で、遂に少女がその犬歯を剥き出した。







 瀬崎愛吏を狂わせたのは、一人の少女の存在だった。

 生き物としてあまりにも弱く、なのに女としてあまりに可憐な少女。
 彼女が苦しむ姿を見る事、そこに悦びを見出してしまった事が愛吏の崩落の始まりだった。
 人目を忍んで放課後の教室で繰り返した密会と、性嗜好を満たす為の秘密の交わりと倒錯。
 
 そんな事を続けていれば、いつかは誰かがそれに気付くと、少し考えれば分かった筈だ。
 けれどそんな当たり前の事にすら気付けないほどに、愛吏は少女に倒錯していた。
 阿片や覚醒剤に手を出した人間が、自らを正気だと信じたまま地獄の果てまで転がり落ちていくように、愛吏が自分の過ちに気付く時にはもう彼女の手元に残っている物は愛した少女以外には何一つなかった。

 愛吏は逃げた。人から、現実から、そして自分を取り囲むこの世界と、これからも延々と続いていく人生そのものにまでも背を向けた。
 誰が見たって行き詰まる事の見えている、未成年の少女二人による逃避行。金銭的にも社会的にも、全うなど出来る筈もない二人旅。
 その困難を愛する人と二人三脚で乗り越える事が出来るほど、瀬崎愛吏という娘は強くなかったし、そうあれるだけの余裕もなかった。

「一緒にしないで。わたしは……わたしは、後悔なんてしてない。わたしはああなるしかなかった、死ぬしかなかったの! 別に生きたいなんて思ってなかった! 当然でしょ!? 生きてるのが辛くなかったら、殺してほしいなんて頼んだりするもんか!」

 生きれば生きるほど、そこに付随する苦しみの存在感が増してくる。
 息を吸い込むたびに肺の奥がわだかまって破裂しそうになるし、それは寝て起きたって治るものじゃない。
 ずっと一緒にいたいと願った相手がかけてくれる優しい言葉にだって、裏側を見出そうとしては八つ当たりを繰り返してしまう。
 そうまでして生きている事に、生き続ける事に、一体どれだけの意味があるのか。頑張っても頑張っても、どうせ苦しいだけなのに。

 それが、瀬崎愛吏が旅の末に辿り着いた“答え”だった。
 いつ終わるとも知れない有限への離別と、終わる事のない永遠への旅立ち。
 二人で――二人きりで、ずっとずっと何の苦しみもない時を過ごしていける事への確信があったから、愛吏は自分の首を片割れに差し出したのだ。

 聖杯戦争なんて、やり直しだなんて望んだ気持ちはひとかけらたりともない。
 自分はあれでよかった。あれで十分に満たされていたのだ、なのに余計な真似をしたのはこの世界の方だ。

99期末テストに備えて/ロストワンの号哭 ◆sYailYm.NA:2023/12/11(月) 21:51:32 ID:zz0KuNhg0

「聖杯なんていらない。別に、もう一度生き直したいなんて思わない……! 自分で、死んだりとか、怖くて出来ないからっ……だから生きてるだけ!」

 ああいっその事、自分のサーヴァントが本当に何一つ意思の疎通が取れない狂戦士ででもあればよかったのだ、と愛吏は思う。
 それならば自分は何も考える事なく電脳世界の塵と消えて、あの永遠に、ひなこの待つ楽園に帰る事が出来た筈なのに、と。

 瀬崎愛吏(じぶん)はとても弱いから。自殺はおろかリストカットさえ怖くて出来ないような、情けない弱虫だから――これ以上無様を晒す前に、誰かが問答無用で殺してくれればよかったのだ。
 なのにこの世界はあの手この手で自分を生かそうとする。性格は腐っているのに力だけ持ったセイバー、要らない余生を寄越してきた“黒い羽”、そして頼んでもいない講釈を長々と垂れてくる教師気取り。
 全てが愛吏にとって苛立ちの対象だった。全て自分と一緒に壊れてしまえばいいと、心からそう呪ってしまうほどに。

「あんたの生き方とか、考えとか、どう死んだのかとか……全部知らないし興味もない! わざわざ呼び出して、わけのわからない話して……それで勝手に気持ちよくならないでよ、いい迷惑なの!」

 愛吏は永遠という、苦しみのない世界を今も変わらず望んでいる。
 けれど彼女は弱いから、一人ではその境地に旅立つ事が出来ない。

 それが彼女の抱えているジレンマであり、矛盾だった。
 死にたいと願っているのに死ぬのを恐れ、ただただ無為に時を過ごす弱者。
 
 誰に見られる事も理解される事も、愛吏にとっては単なる暴力でしかない。
 だから眞鍋という“大人”が自分に介入しようとしてきた事は、只管に鬱陶しい余計なお世話だった。
 お前の自己満足にわたしの人生を巻き込むなと、無様は承知でそう吠える。眞鍋はそれを――只黙って聞いていた。

「それに……わたしはあんたの事、信用してない。あんたみたいな化け物の事なんて、信じられるわけないでしょ」

 大層な力や経験がなくたって、今はもう分かる。
 この男は、眞鍋瑚太郎は化け物だ。
 
 自分のような人間とは、生き物としての根本から違っている存在。
 無数の、数え切れないほどの目を体表に群れさせた悍ましい怪物のイメージを愛吏は彼から感じ取っていた。
 そんな男が差し伸べる手と言葉を、一体どうして信じる事が出来るだろうか。悪魔の囁きに身を委ねた者が破滅する展開は、古今東西あらゆるジャンルで使い古された手垢塗れのお約束ではないか。

 あまりにも直球の拒絶に、眞鍋はもう笑わなかった。
 だがそれは、愛吏の選択に対して気分を損ねたからというのが理由ではない。

「――“知らない大人に付いて行っちゃいけません”」
「……は?」
「愛吏はお利口だな。その対応は間違いなく正解だ」
「なに、喧嘩売ってるの」
「ただ満点回答じゃない。怪しいと分かっている相手に地金を晒して自分の弱さをさらけ出す行為は、こと命のやり取りをする場に於いては文字通りの意味で自殺行為だ。糸を結んで操ってくれと言っているような物だと、僕みたいに狡猾な人間はほくそ笑む」

 今の拒絶と告白を受けて、眞鍋は瀬崎愛吏という少女が暗謀渦巻く聖杯大戦を生きていける人間ではないと確信した。
 彼女は、素直すぎる。自分の感情に素直すぎる。心の奥から噴き出してきた激情を制御出来るだけの余裕を、この少女は持ち合わせていない。
 
「愛吏。君は、此処で死んでも構わないというような事を言っていたな」
「それが、何……」
「考えが甘い。明確に不正解だ。普通に殺されて終わるだなんて結末は、命の奪い合いの中では上位に食い込めるハッピーエンドだぞ」

 自殺しようとしている子供を止めない教師がもし目の前にいたのなら、眞鍋はあらゆる暴力を振るってその教員免許を剥奪するだろう。
 だが、生きていれば必ず何とかなるだとか、悲しむ人がいるだとか、そんな月並みな正論が全ての悩める子供に対しての正解になると考えるほど眞鍋は考えなしの大人ではない。
 彼は誰よりも教育に、子供という生き物に真摯に向き合ってきた男だ。
 だから当然、理解している。この世には、生きていくという行為そのものがどうしたって苦痛にしかならない人間というのも存在するのだと。

 それが考えた末の答えならば、制限時間一杯まで悩み抜いて提出した答案であるならば、眞鍋も殴り付けて生きろと諭す真似はしない。
 只、他人に首を差し出して殺してくれと頼むのなら話は別だ。

100期末テストに備えて/ロストワンの号哭 ◆sYailYm.NA:2023/12/11(月) 21:52:13 ID:zz0KuNhg0

「人間は弱い者に対してどこまででも残酷になれる生き物だ。放し飼いにされているイエネコは虫、ネズミ、リスや小鳥と何であろうが遊び感覚で殺して回るが、それと同じだ。
 愛吏、君は高望みをしすぎている。この聖杯大戦という魑魅魍魎の巣窟に置かれた弱者が、本当に只軽く殺して貰えるだけで済むと思うのか?」
「っ」
「僕ならそうはしない。あらゆる手段で利用価値を搾取し、全ての不利益を肩代わりさせた上でなるべく長く生かすように努力する。
 勝負を投げて自暴自棄になった対局者なんて絶好の鴨をみすみす死なせてどうする。死にたがる弱者は、決して“無敵の人”なんかじゃないんだ。本当に悪い誰かに絞りカスまでこき使われる、打ち出の小槌なんだよ」

 ……この聖杯大戦には、本当に怖い存在が少なからずいる。その事に眞鍋は既に気付いていた。
 そんな連中にしてみれば死にたがりなどネギを背負った鴨、打ち出の小槌、財布、身代わり地蔵以外の何物でもない。
 
「答えを出すのは今でなくても構わない。聖杯大戦が終わってもまだ君が同じ気持ちだったなら、その時は僕が責任を取ろう。なるべく少ない苦痛で君を、君が望む永遠に送り返してやる。だが今はまだその時じゃない。今、君は生きるべきだ。自分で命を終わらせる事が出来ないのなら、生きるべきだ。そうでなければ君は、これからあらゆる悪意に穢される」

 瀬崎愛吏は一人では生きられない。彼女にそれだけの力はなく、それが出来るだけの心の余裕もありはしない。
 それは悪い事ではないのだ。彼女は年並みよりも大人びた自意識と、それに基づいて自分という人間の見せ方を工夫するしたたかさを持っていたが、そんなのは所詮ちょっと“大人びている”、思春期の早熟さの範疇に収まる物でしかないのだから。
 
 一五歳は子供だ。子供が一人で生きていけないなんて、それこそ子供でも知っている当たり前の話である。

「……なんで?」

 愛吏は、絞り出すようにそう問い掛けた。
 その双眼には動揺と、それ以上の不可解が滲んでいる。

「あんたは、なんで……わたしにそこまで付き纏おうとするの?」

 子供特有の夢想と向こう見ずな考えを否定するのは、いつだって大人だ。
 そして否定された側は大抵素直に聞かないし、ムキにもなる。
 愛吏もその例外ではなかったが、それよりも今はこの眞鍋という“語る怪物”のやっている事が不可解でならなかった。

 愛吏にだって分かる。この男はきっと、世界の理が孤軍で臨まねばならない『聖杯戦争』だったとしても一人勝ちを狙える逸材だ。
 彼にはそれだけの能力がある。それを顔色一つ変えずに成し遂げられる異常な胆力も、当たり前のように備わっているに違いない。

 分からないのは、そんな力を何故自分という、それこそ利用しようと思えば簡単にどうとでも出来る存在の為に使っているのか。
 そうまでして、自分に絡み付いてくるのか――関わってくるのか、その一点だった。

 今の指摘だって、わざわざ言わなければその通りのやり方で自分をそれこそ打ち出の小槌に変えられた筈なのだ。
 なのに彼はそれをせず、ご丁寧に自分の回答と考えを採点して解説付きで返却してきた。
 この不合理な不可解が、愛吏には理解出来ない。理解出来ないというのは怖い事だ。だから、問い掛けた。
 
 愛吏は気付いていない。その行動自体が、眞鍋という男の行動原理を映し出す鏡になっている事に。

101期末テストに備えて/ロストワンの号哭 ◆sYailYm.NA:2023/12/11(月) 21:52:53 ID:zz0KuNhg0

「教師だからだ」

 眞鍋瑚太郎は――教師である。

 理由はそれだけで、そしてそれ以外に一つも要らなかった。
 彼は誰より正しい教師。だからこそ狂った、かつて災害だった男。
 そんな男が、自分の命が懸かっているというたったそれだけの理由で目の前の生徒を蔑ろにするなど、天地がひっくり返ってもありはしない。

「目の前に悩める子供がいる。声を掛けなければ、手を引いてやらなければ取り返しの付かない所に行ってしまいそうな生徒がいる。僕にとってこれに勝る動機はない」
「……馬鹿じゃないの? ドラマの見すぎでしょ、普通に……」
「かもな。でもそのお陰で一人でも生徒を助けられたなら、熱血教師を演じる甲斐もあると思わないか」

 そう言ってウインクをする双葉頭の教師の事を、愛吏はやはり異常者だと思った。
 だってどう考えたって普通ではないだろう。熱血教師なんて生き物は画面の向こうだからこそ映えるのであって、現実に存在したならそれは社会のセオリーという物を分かっていない不気味な存在以外の何でもない。

(そういえば、わたし達)

 なのに一瞬、確かに一瞬、思ってしまった。 

(大人に頼った事って、なかったっけ……)

 瀬崎愛吏と“彼女”の物語の中に、大人という存在が登場した試しはない。
 教師が介入する余地はなく、両親は事態を静観する事を選び、警察は逃げる二人に追い付けなかった。

 愛吏を“見て”、言葉を掛けてきた相手はこの人間離れした熱血教師が初めて。
 だからこそ一瞬、愛吏は思ってしまったのだ。

 もしも。もしもあの時、彼のように何もかも一人で解決してしまうような“大人”がいてくれたなら――


 もしかすると、全部、うまくいっていたんじゃないか、と。


「さっきは悪かったな。配慮が足りなかった。話したくないのなら、無理して話す事はない。秘密を守る権利は誰にだってある。もちろん、愛吏みたいな子供にだってそうだ。今は僕にもそれを暴く権利はない」
「……前はあったみたいな言い方」
「第3種閲覧権って言ってな……って、今これを話しても仕方ないか。興味があったらまた後で話してやるよ。多少人は死ぬし、血も出るけど」

 教師も生徒も死人という異常な教室が、『白』の円卓で繰り広げられている。
 愛吏は自分の中で荒れ狂っていた感情が一時の小康状態に入ったのを感じながら、疲れ果てたように眞鍋の話を聞いていた。
 根負け、と言っても誤りではないかもしれない。

102期末テストに備えて/ロストワンの号哭 ◆sYailYm.NA:2023/12/11(月) 21:53:43 ID:zz0KuNhg0

「……『フラッシュ☆プリンセス!』は、とにかく人が死ぬよな。だけど意外なほどに無意味な死というものが存在しない。
 敵も味方も必ず何かを残して死んでいくんだ。一度死んだ身で見返すと、此処が存外によく沁みる。考えさせられるし、実際考えたよ。
 今回はどうやって生きるべきか。そしてもし死ぬとしたら、その時僕はどうやって死んでいくべきか。その時何を残すべきか、と」

 合わないと分かっているのに、わざわざ『フラッシュ』を選んで視聴していた本当の理由。
 此処まで来れば、愛吏とて嫌でもそれに気付いた。

 同じだ。一度死んだ人間だからこそ、作品の端から端までに死が、有限の世界の終わりが満ちた作風に何かを見出そうとした。

「けど、愛吏の言う通り僕は根っからの教育馬鹿だ。結局、教育の為に生きて死ぬ、以外の答えは出せなかったな。
 して、君はどうだった? これは僕の想像だが、愛吏もフラプリを見返してたんじゃないか。プリンセスシリーズのファンなら、この状況で行き着くのはどうやったってあの作品だろう」
「……察し良すぎてキモい。まあ、その通りなんだけど」

 とはいえ、愛吏も眞鍋のように『フラッシュ☆プリンセス!』から何かを得られた訳ではない。
 もしも何か見出だせたなら、ああもみっともなく取り乱す事なんてなかっただろうから当然だ。
 
 愛吏が再視聴で得られた物は、やっぱりこの作風は合わないな、という実感それだけだった。

「さっきも言ったけど……わたし、『フラッシュ』はそんなに好きじゃないの」

 別に、大それた理由があるわけじゃない。
 子供向けで高尚な事を〜とか言う評論家気取りのオタクには常日頃から辟易していたし、実際傍から見ても分かるくらい子供向けに……もとい子供騙しに振った作品は如実に売り上げが落ちる事も知っている。
 その点『フラッシュ☆プリンセス』は間違いなくシリーズの白眉で、実際見ていると目が離せなくなるくらい面白い。

「重たいんだもん。テーマ性とか怒涛の展開とか、面白いけど見終わった後に胸焼けしちゃう」
「なるほどな。天国の幡随院孤屠にぜひ聞かせてみたい意見だ」
「アブちゃんとヒース様の関係性とかは良いけどね。でも、わたしは『ハートブレイク』とか『フィーリングっど』の方が好き。……『フィーリングっど』は『フラッシュ』に負けず劣らず賛否両論だけど。主にダリーヤン絡みのあれこれで」
「確かにな。僕としてはシリーズのお約束にあえて否を唱え、共存以外の結末に舵を切った脚本の妙を評価したい所だが」
「……そこは同感。最後に人間もダリーヤン達と同じ穴の狢だって問題提起もされてたし、安易な曇らせ展開じゃなかったとは思ってる」

 多分、語ろうと思えば本当にずっと語れてしまうんだろうなと思うのが愛吏にしてみればまた癪だった。
 この教師はどこまでも真摯で、生徒に対して誠実で、そして直向きだ。
 他人の癖に。いつ裏切るとも分からない、信用するに値しない大人でしかない癖に。

「穂群原学園の小等部だ」

 眞鍋は愛吏に、そう言った。

「信じるも信じないも、来るも来ないも君の自由だ。何だったらこの星界円卓に直接招待してくれても構わないが……意識体として会うよりかは直接顔を突き合わせた方が、今後の戦いでも都合がいいと思ってな」
「……訪ねてこいって事?」
「言っただろう、強制はしない。愛吏が僕を信じたいと思ってくれたなら、今言った場所まで来てくれ。僕は必ずそこにいる」

 ……それは、二人だけの世界とその顛末の為に奔走した彼女にとって初めての“大人”から差し伸べられた手。
 その手を取るか取らないか、即断する勇気も世界に対する信用も彼女にはなく。

「……………………考えとく」

 それでも――受け取るだけ受け取って、保留にするくらいには、眞鍋瑚太郎の声は孤独な少女の心に響いていた。





103期末テストに備えて/ロストワンの号哭 ◆sYailYm.NA:2023/12/11(月) 21:54:28 ID:zz0KuNhg0



「かわいい子ね。なんだかほっとけなくなっちゃうわ」

 眞鍋瑚太郎のキャスター――草神ナヒーダが小さく笑って、少女を見送りそう言った。
 「ああ」と返答する眞鍋の顔にも同じ性質の笑顔が浮かんでいる。
 
「彼女にどんな悲劇があったのかは知るべくもないが、一つ言える事はある。
 瀬崎愛吏の周りには大人がいなかった。肯定し、手を引いてくれる人間がいなかった。
 孤独は子供にとって猛毒だ。自己の全能感を徒に肥大させ、迷走にも似た遁走をさせる。若気の至りで取り返しが付く内はいいが、付かなければ生まれるのは年間数百件のありふれた悲劇だ」

 瀬崎愛吏は聖杯など求めた覚えはないと言ったが、それはこの眞鍋にとっても同じだった。
 二度目の生を望む柄ではない。くれるというなら受け取るが、汗水垂らして必死になって、辿った結末を覆そうとするほど彼にとってウェイトの大きい事柄ではないのが実情だ。
 故に彼の行動原理は、先程愛吏に語ったように教師たる事、ただそれだけ。
 その職務を貫く為であれば、眞鍋は変わらずこの世の何であれ犠牲にするだろう。たとえそれが、己の命だったとしても。

「それでも世界に希望を見出だせないと言うのなら、その時はまた話し合えばいい。何にせよ、腐るにはまだ早いって事だ。愛吏はまだやり直せるさ」
「本当に骨の髄まで先生なのね、瑚太郎は。私も後ろで聞いていて鼻が高かったわ」
「人を教えると豪語するならこのくらいは当然の努力だろう? 未来ある子供の為に身を粉にして流す汗は気持ちがいいぞ」

 この陣営には、二人ほど子どもがいる。
 一人は瀬崎愛吏。そしてもう一人は彼女よりも更に歳幼い、ありすという少女だ。

 ただしありすには、既に保護者の役割を果たす者がいる。
 彼女のアルターエゴについて、眞鍋はわずかな時間垣間見ただけであったが……特段危険な兆しは感じ取れなかった。
 教育する事と過干渉は違う。彼女とそのサーヴァントの関係がいびつに歪みでもしない限り、自分が進んで世話を焼く必要性はないだろうと眞鍋はそう判断していた。

「それはそうと――やはりあのセイバーは駄目だな。子供のそばに置いておくべき男じゃない」

 愛吏に関して言うなら、ありすとは全く事情が逆だった。
 単に孤独であるというのよりも更に悪い。彼女に付き従っているあの和装のセイバーは、あまりにも悪すぎる。
 人畜有害を体現するような男だ。社会の中で偶に見かける、他人に害を為し悪意を撒き散らす事でしか生を実感出来ない類の人種。

 あれと解り合える者がいるとすれば、抜きん出た善人か同じ視点を持つ悪魔かのどちらかだ。
 いずれにせよ、あどけない少女のそばにいていい存在ではない。

「確かに悪い子ね、彼は。さっきも明らかに挑発してきていたし」
「僕の魂胆に気付いていたのだろうな。だから会合の時のように無駄な介入はしなかった。しかしその一方で、わざと無言と不干渉に徹する事で“見え透いているぞ”と嘲笑を示してきた」
「でもよかったわ。もしもあなたの懸念していたような事になっていたら、オルガが目を回して倒れちゃってたわよ」

 眞鍋瑚太郎は半日前の会談の時から既に、その結論を出していた。
 だからこそ彼は瀬崎愛吏を円卓に呼び出すにあたり、キャスターにとある密命を下していたのだ。

 悪意と嘲笑の器、悪魔が如しセイバー。もしもこの教場にその蝿声を響かせると言うのならば、是非もなし。

「――少しでも私達に対する攻撃の兆候を見せたなら、宝具解放で即座に彼を消滅させろ、だなんて」

104期末テストに備えて/ロストワンの号哭 ◆sYailYm.NA:2023/12/11(月) 21:55:08 ID:zz0KuNhg0
「君の宝具であれば、比較的容易にセイバーと愛吏を隔離出来る。その間に僕が彼女を心理的に奴から引き離すつもりだった」
「それでも……ちょっと危険な賭けすぎたんじゃない? そんな事をしたら、愛吏はもっと瑚太郎に不信を持っていたかもしれないわ」
「確かにリスクの大きい行動だ。確実なリターンが得られる保証もない。だからこれは決行ありきで構えておいた手というよりかは、わざとチラつかせる事でセイバーを牽制する為の見せ札だな。現にセイバーは君の存在と僕の物腰から、此方がいざという時には実力行使に打って出るだろう事を感じ取ったんだろう。享楽狂いの屑とはいえ、開始早々に針の筵へ投身するような真似は避けたという訳だ。
 それにセイバーには確実に、純粋な攻撃力以外の奥の手がある。そうでなければあの会合の場で、集中砲火に遭う危険を冒してまで抜刀しようとは考えない筈だ。最大の警戒を敷いておくに越した事はない」

 『白』の星界円卓で行われた教育面談、その水面下で行われていたのは瞼無しと死神の暗闘だった。
 会話一つない状態で互いの腹を推し測り、リスクとリスクを押し付け合いか細いリターンを探る心理戦。
 賭けのリザルトは明かされぬままで終わったが、前進したのは間違いなく此方の方だという確信が眞鍋にはあった。

「セイバーは頭が回る。あの様子の愛吏を抱えて此処まで勝ち上がれている時点で、相応の実力も持っているに違いない。
 となると厄介な相手だ。何にせよ、どこかで愛吏から引き剥がす事は必須だな。あれはあの子には毒すぎる」

 もしもセイバーと愛吏を引き裂けた暁には、眞鍋は自分のサーヴァントであるナヒーダを彼女に譲渡する事を検討していた。
 性格は善良で、神霊である為に力の大きさも申し分がない。少なくともあのセイバーよりかは余程生徒の為になるサーヴァントだ。

「……わかってくれるといいわね、瑚太郎の事」
「こればかりはあの子次第だ。何にせよ、腰を据えて付き合っていかないとな」

 彼は教師だ。誰よりも子供の事を考えてきた、筋金入りの熱血教師(ジャンキー)なのだ。
 自分の未来も、辿るべき結末も、全てを度外視して彼は教育の方へと突き進み、生徒の未来という名の黒板にチョークを走らせる。
 いずれ来る裁定の時、生徒の未来を真に占う結末(テスト)に備えて。
 
 ――眞鍋瑚太郎は、聖杯大戦を開始した。



【『白の陣営』星界円卓/一日目・午後】


【眞鍋瑚太郎@ジャンケットバンク】
[状態]:健康
[令呪]:残り三画
[装備]:
[道具]:
[所持金]:数十万円
[思考・状況]
基本方針:教師としての務めを果たす
1:愛吏を導く“大人”として行動する
2:愛吏のセイバーへの対処
3:ありすについても可能な限り注視。ただ、現状は彼女のアルターエゴの事を信用している
[備考]
※肉体は穂群原学園小等部の職員室にあります。


【キャスター(ナヒーダ/クラクサナリデビ)@原神】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:
[思考・状況]
基本方針:瑚太郎のサーヴァントとして行動する
1:愛吏のセイバーに警戒
[備考]





105期末テストに備えて/ロストワンの号哭 ◆sYailYm.NA:2023/12/11(月) 21:55:39 ID:zz0KuNhg0



 星界円卓から帰還して、瀬崎愛吏はベッドの上に力なく身を投げ出した。
 脱力のあまりに自然と口からは溜息が溢れ出てくる。身体は疲労感を訴え、自分がどれだけあの場で力んでいたかがよく分かった。

「本当、へんなやつ……」

 最初から最後まで余計なお世話だった、その一言に尽きる。
 そういう意味では実に教師らしい男だったと言えるだろう。

 何故、あんな人間じゃないみたいな男がそんな物をやっているのか愛吏にはとんと見当が付かなかった。
 ましてや聖杯大戦という、願いを叶える至宝なんて物がとう遠からぬ位置に転がっているにも関わらずである。
 理解出来ないし、したいとも思わない。化け物の論理なんて学んだ所でどうするというのだ。しかし――

(……けどどの道、やる事も行くあてもないんだよね)

 愛吏の中に、彼の言う事を一理あると感じ、納得している自分がいるのもまた確かだった。
 あんな化け物が平気な顔をして彷徨いているような世界で、自分のような弱者は只殺されるだけでなく利用されしゃぶり尽くされる。
 そう語った眞鍋の言葉にゾッとする物と危機感を感じ、頭に冷水を掛けられたような感覚になった。

 脳裏に浮かんだのは、自分の部屋に友人の頃のままの顔で踏み入ってきた知り合いの顔だ。
 自分の中で何とか保っていた一本の糸が音を立てて切れたあの瞬間の事は、今も夢に見るほど焼き付いている。

 じゃあ、眞鍋瑚太郎は自分を利用する側の人間ではないというのか。
 そう問われると、……答えは出ない。
 出ないし、彼が本気で騙そうとしていたのならどの道どうやったって気付けないだろう。
 となるとどちらを選んでも結局丁か半か。勝つも負けるも定かでない、運否天賦のギャンブルと何も変わらない。

「愚かな男よな。人間にしてはマシな頭を持っているというのに、使い方があれでは物笑いの種でしかない」

 そんな愛吏を揺さぶるように、いや、もしくは呼吸のように吐き出した嘲りだったのか、時灘が眞鍋をこう評した。
 眞鍋の推測は当たっている。今の会合の場面に限って言うならば、時灘は彼の考え通りに型へ嵌められた。
 
 武力行使のカードをちらつかせての牽制と、お前の魂胆は読めているぞという暗黙の内での情報開示。
 綱彌代時灘は愚かではない。本気で事を荒立てようと考え、いつか魔界の王となる子へ刀を抜こうとした訳ではないのだ。

 時灘の宝具――斬魄刀『艶羅鏡典』。
 一人一振の原則を無視し、他者の斬魄刀の能力を模倣するという規格外の権能を秘めたかの刀の中には、とある正真正銘の大罪人が振るった斬魄刀の力が貯蔵されている。
 その斬魄刀の能力は“完全催眠”。とある行動を視認する事で他者を永久的に術中に置くそれは、言わずもがなこの聖杯大戦に於いても絶大だ。
 たとえ相手が味方であろうと、可能ならば見せておくに越した事はない。
 結果的に草神の介入によって止められはしたが、もう少し介入が遅ければ『白の陣営』の全員が完全催眠の術中に置かれていた可能性がある。

106期末テストに備えて/ロストワンの号哭 ◆sYailYm.NA:2023/12/11(月) 21:56:09 ID:zz0KuNhg0

(それにしても、一体どこから見抜いていたのやら。ややもすると私が姿を顕したその時点から、この時灘の性根を見透かしていたか?)

 面白い。苦汁を嘗めさせられた形にはなったが、存外に手応えのある相手がいた事に対しての愉悦が勝っている。
 死んでみるものだ。よもや久遠に等しい死神の生が終わった後に、このような余興が用意されているとはついぞ思わなかった。

「……せめて地獄にでも落とせていれば、奴らの溜飲も少しは下がったろうに。つくづく哀れだな、死神どもめ」

 含むように笑う時灘の声に、いちいちかかずらってやるほど愛吏は暇ではない。
 癪に障る事に変わりはないが、今の彼は自分ではない誰かを見据えているように見えた。
 であれば相手をする価値は皆無と判断し、愛吏は再び自分の思考に没入していった。

 ――とりあえず、カーテンくらい開けようかな。

 のそりとベッドから立ち上がってカーテンに手を掛け、開いてみて日光の眩しさに思わず目を瞑る。
 吸血鬼か何かになった気分だった――思えばこうしてカーテンを開けるのは、一体いつ以来の事だったか分からない。

「……はは」

 終わってるな、わたし。
 それで、これからどうするんだよ。

 終わったままで終わるのか。
 それとも。

 答えはまだ出ない。
 出ないまま、とりあえずもう少し考えたくて、愛吏は中断していた『フラッシュ☆プリンセス!』の続きをテレビで流し始めた。



【B-3・瀬崎家/一日目・午後】


【瀬崎愛吏@きたない君がいちばんかわいい】
[状態]:健康
[令呪]:残り三画
[装備]:
[道具]:
[所持金]:一万円程度
[思考・状況]
基本方針:???
1:眞鍋のもとを訪ねようか、どうしようか……
[備考]


【セイバー(綱彌代時灘)@BLEACH-Can't Fear Your Own World-】
[状態]:健康
[装備]:『艶羅鏡典』
[道具]:
[思考・状況]
基本方針:聖杯大戦を愉しむ
1:愉快
[備考]

107 ◆sYailYm.NA:2023/12/11(月) 21:57:01 ID:zz0KuNhg0
投下終了です。

また、拙作『Good Morning,World!』におけるベディヴィエール→千夜の呼称を修正いたしました。事後報告になりますが、申し上げておきます。

108 ◆sYailYm.NA:2023/12/12(火) 02:41:56 ID:7CgTRY9w0
滑皮秀信&アサシン(レイン・ポゥ)、宮園一叶&アサシン(築城院真鏖) 予約します。

109 ◆WutzLL0xx2:2023/12/12(火) 21:30:55 ID:YhAuets60
オモリ&バーサーカー(ウタ)、繰田孔富&キャスター(アスクレピオス)
上記の通り予約します

110 ◆sANA.wKSAw:2023/12/14(木) 14:04:27 ID:UF0pigKY0
遅れてすみません。延長します

111 ◆WutzLL0xx2:2023/12/19(火) 17:14:55 ID:fSYFWQ3M0
延長します。

112 ◆sYailYm.NA:2023/12/19(火) 23:10:44 ID:hxJlG71U0
予約を延長します

113 ◆sANA.wKSAw:2023/12/21(木) 00:02:52 ID:2Hc.Tmzg0
投下します。

114臨界ダイバー ◆sANA.wKSAw:2023/12/21(木) 00:05:14 ID:2Hc.Tmzg0
 ――時刻は、今から九時間程前へと遡る。

 深山町の外れ、名を柳洞寺という山寺の境内に佇む男の影が一つあった。
 黒の長髪、神経質さが窺える怜悧な顔立ち。
 山寺に佇めばその姿は修行僧か修験者を思わす。
 夜の境内は静かな物で、季節が季節なだけあり虫の声一つ聞こえては来ない。
 だからこそ白色の静寂が満たす其処に黙し佇む男の姿は荘厳であると同時に奇怪だった。
 間違いなく美しくそして麗しい。
 故に同時に、見る者は例外なくこう思うのだ。
 間違いなくこれはヒトではない。
 ヒトの形を持つだけの別種であるとそう気付く。
 妖魔神仙、はたまた精霊現象の類か。
 美しい顔で顕れるという点を踏まえれば悪魔でさえ似合うかもしれない。
 凶兆を運ぶ存在と…広義においてそう認識されているという点では寧ろそれが一番近かった。
 男の名は痣城。
 尸魂界にて死神と成り、そして大逆者の汚名を欲しいままにした怪物である。
 かつては八代目"剣八"。
 されど今は何者でもない痣城の双也。
 最強、罪人と来て次は英霊の肩書きを与えられた男が立つこの柳洞寺はこと冬木市という土地の中で無視の出来ない価値を秘めていた。


「良い場所じゃない。解りやすく要石だ」
 柳桜寺とは冬木龍脈に対しての要石。
 この地にとって心臓と呼んでもいい重要地点である。
 電脳世界での聖杯戦争にてそれが一体どれだけの価値を持つかは未だ不明だが、少なくとも無価値という事は有り得まい。
 だからこうして訪ねて来る者も当然居る。
 それは痣城にとって魂胆通りの展開であったが、同時に不測の事態でもあった。
 靴音を憚る事なく響かせながら現れた男の素性を痣城双也は知っている。
 来訪者が"彼"であったその一点だけが、痣城にとって想定外だった。
「まさか君が来るとは思わなかったな」
「誘ってたのはそっちでしょ。折角応じてやったんだからもうちょっと嬉しそうにして欲しいね」
「それは否定しない。だが、普通に考えれば星界円卓を委ねられた頭目が初手から出て来るというのは常識外れだろう」
 痣城の言葉に男の眉が微かに動いた。
 目隠しで双眸を隠した、銀髪白磁の青年だった。
 風体こそ異様であるが、布で覆っていても地顔の良さが隠せていない。
 天性の美貌を宿した…柳洞寺の番人を演ずる死神と並んでも微塵とて見劣りしない神域の英霊。
「よく知ってるね。君何色?」
「『黒』。クラスはセイバーだ」
「ふぅん。夜の運動くらいの気持ちで出て来たんだけど…こりゃ思いの外大物を引けたかな」
 何故初対面の、他陣営の英霊が自分の素性を知っているのか。
 『青の陣営』のリーダーのサーヴァントであるという事実を当たり前のような顔で言い当てられたのか。
 只者ではない。少なくとも…予選で多少屠って来たサーヴァント達とは文字通り格が違うようだと『青』の呪術師(キャスター)は確信した。

115臨界ダイバー ◆sANA.wKSAw:2023/12/21(木) 00:05:56 ID:2Hc.Tmzg0
「夜の境内で本音でも語り合うかい? 僕としては何でもいいけどね。其処らの雑魚なら兎も角、君とならそれなりに有意義なお話が出来そうだ」
「折角の誘いだが遠慮しておこう。君程の大物が食い付いた以上、多少の味見はしておかなければ同僚達に申し訳が立たない」
「そりゃ残念。にしても味見ね。まるで次があるみたいな口調だけど」
 クックッと喉を鳴らして笑うキャスター。
 その声からは隠し切れない喜色が滲んでいた。
 目隠しに手を掛けゆっくりと取り払う。
 瞬間晒された眼光が、境内の気温を一気に十度以上は引き下げた。
 それは間違いなく錯覚に過ぎなかったが、彼の眼にはそれ程の存在感が伴っていた。
「この僕に遭っておいて生きて帰れると思ってんの?」
 …この聖杯戦争が異常な点は数多存在するが。
 中でも一二を争う異常性は真名の重みであろう。
 英霊にとって、真名を知られる事は手の内を暴かれたのに等しい。
 アキレウスの踵。アーサー王の聖剣。メドゥーサの魔眼。
 いずれも知っているかどうかで戦況がガラリと変わる要素だ。
 しかしこの"Holy Grail War"ではそれが形骸化している。
 異なる枝葉の世界から招来されている以上、共通の歴史という物が存在しないからだ。
 真名の特定は同じ世界から来た人間にでも頼らない限りほぼほぼ不可能。
 だからこそ――当然のように相手の真名を"知っている"痣城という英霊の異常さは際立っていた。
「聞きしに勝る怪物だな。『青』の呪術師、五条悟よ」
 当然呪術師…五条悟もそれを理解している。
 故に油断は微塵たりともない。
 そもそも彼程の術師ともなれば、対面した時点で敵手の力量なぞある程度察せられるのだ。
 一目見た瞬間から悟っていた。
 強い。間違いなく並の英霊ではない。
 そして今、それは単純な力量の大きさのみに限った話ではなくなっている。
 如何なる手段を使っているのかは定かでないが、このサーヴァントは他人の情報を覗き見る力を持っていると知れた。
「挑発のつもりだとしたら愚策だね。自分の価値を示す事で上手に立てるのは、相手が自分より弱い奴な時だけだよ」
 これが通常の聖杯戦争だったならその時点で一人勝ちだったろう。
 この男には単騎で聖杯戦争を終わりに導けるだけの力がある。
 であるならば、事と次第によっては此処で摘んでおくのも悪くはない。
 開幕戦と呼ぶには余りに巨大すぎる力と力が静寂の境内にて相対する。
 その沈黙を最初に破ったのは五条悟の方だった。

116臨界ダイバー ◆sANA.wKSAw:2023/12/21(木) 00:06:40 ID:2Hc.Tmzg0


 速い。
 痣城が瞠目する。
 瞬歩。破面で言う所の響転(ソニード)。
 瞬く間に視界の端と端を行き来出来るような技術が彼の居た尸魂界では既に普遍的な物となって久しかった。
 その彼をして驚愕を禁じ得ない程の速度。
 だが其処に目を止め思考を止めている暇は一瞬が精々である。
 音に届く速度で間を詰めた五条が握った拳。
 空間が歪む程の呪力を込めた鉄拳が、間抜け面を晒した敵手の頭を殴り砕くからだ。
「遅ぇよ」
 キャスタークラスは近距離戦を不得手とする。
 そんな常識を五条は初手から破却した。
 轟と大気を揺らしながら炸裂する拳撃が痣城の顔面へと吸い込まれていき――
「では、此方は"甘い"と返そう」
 そのまま空を切った。
 今度は五条の顔に驚きが浮かぶ。
“避けられた? 違うな。僕は確実に当てた筈”
 単なる回避とは違う。
 恐らくこれは"透過"だ。
 何らかの理屈で攻撃が素通りさせられた。
 暖簾を腕で押すように、霧を相手に拳を放つように。
 五条が下手を打った間にも痣城は次の行程へと移っている。
「――滲み出す混濁の紋章、不遜なる狂気の器、湧き上がり・否定し・痺れ・瞬き・眠りを妨げる」
「見てくれ通りの生真面目だな。それともそっちの世界じゃ術の基本は引き算じゃないのか?」
「爬行する鉄の王女 絶えず自壊する泥の人形 結合せよ 反発せよ 地に満ち己の無力を知れ」
 詠唱と共に高まっていく魔力の波長。
 数多の術師を高みから見て来た五条をして評価は高い。
 これだけの術が行使出来るならば呪術師の世界では一級は軽く飛び越せよう。
 流石は聖杯戦争。
 時空と世界線を超えて万夫不当の英霊達が集う蠱毒の壺。
 類稀なる逸材であるのは大前提の、強者際物達の見本市なのだと改めてそう理解した。
「破道の九十・黒棺」
 刹那、五条を襲ったのは重力であった。
 通常の数百倍以上の黒い重力が彼を囲む。
 否、表現としては捕らえると評した方が適当だろう。
 黒棺という名はこれ以上ない程的確に術の体を表していた。
 棺の内側は常に極限の圧縮を受け続け殺人的な高密度で固定されている。
 逃げ場はなく、生き延びる余地もまた存在しない死神謹製の棺桶。
 英霊だろうと囚われれば只では済まない。
 通常ならば致命傷、そうでなくとも満身創痍が相場。
 だが――
「箱ん中入れられるのはちょっと嫌な思い出があってね」

117臨界ダイバー ◆sANA.wKSAw:2023/12/21(木) 00:07:10 ID:2Hc.Tmzg0
 黒棺の内側から白い手が突き出した。
 力づくで棺がこじ開けられ、死神の奥義が悲鳴をあげる。
 そのまま左右に割り開かれた事で大きく裂け消滅する黒棺。
 棺の残滓は五条が放つ呪力に消し飛ばされた。
「良い術持ってんじゃん。僕には合わなそうだけど」
「…!」
 五条が再び痣城に接近する。
 咄嗟に退避しようとするが遅い。
 振るう手足が痣城の像を捉える。
 だがそれだけだ。
 捉えただけですり抜ける。
 五条が如何に強くとも存在しない物は殴れない。
 理不尽には理不尽を以って対抗するという最適解を痣城は体現していた。
「…成程ね」
 五条の六眼が月明かりの反射を受けて輝く。
 物理接触を無効化するというだけでは恐らくない。
 五条悟の呪力は規格外だ。
 単純な透過のみでは間違いなくボロが出る――よって多少なり複雑な手順を踏んで透過を実現させているのだろうと考察する。
「散在する獣の骨 尖塔・紅晶・鋼鉄の車輪 動けば風 止まれば空 槍打つ音色が虚城に満ちる」
 次の詠唱が来る。
 さあどう卸してやろうか。
 五条が笑うが、その笑みが次の瞬間消える。
「君臨者よ、血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ」
「何?」
 目前で行われている詠唱と並行して、五条悟の背後から声が響いたからだ。
 それだけではない。
「鉄砂の壁 僧形の塔 灼鉄熒熒 湛然として終に音無し」
「自壊せよ。ロンダニーニの黒犬。一読し、焼き払い、自ら喉を断ち切るがいい」
「滲み出す混濁の紋章、不遜なる狂気の器、湧き上がり・否定し・痺れ・瞬き・眠りを妨げる」
 東西南北あらゆる方向から同時に響く痣城の声。
 その正体は、柳洞寺境内の石畳や樹木から生えた人間の口腔だった。
 まず口が生えて詠唱を行い、それに合わせて手が生え掌印を結んでいる。
「千手の涯て 届かざる闇の御手」「滲み出す混濁の紋章」「心理と節制、罪知らぬ夢の壁に僅かに爪を立てよ」
「焦熱と争乱、海隔て逆巻き南へと歩を進めよ」「滲み出す混濁の紋章」「光を落とす道 火種を煽る風 集いて惑うな我が指を見よ」
「光弾・八身・九条・天経・疾宝・大輪・灰色の砲塔 弓引く彼方 皎皎として消ゆ」「動けば風、止まれば空、槍打つ音色が虚城に満ちる」
「不遜なる狂気の器、湧き上がり・否定し・痺れ・瞬き・眠りを妨げる」「心理と節制、罪知らぬ夢の壁に僅かに爪を立てよ」
「君臨者よ、血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ」「爬行する鉄の王女、絶えず自壊する泥の人形」
「結合せよ、反発せよ、地に満ち 己の無力を知れ」「心理と節制、罪知らぬ夢の壁に僅かに爪を立てよ」
 先刻まで痛い程の静寂を保っていた柳洞寺境内は今やあらゆる方向からの声で満ちていた。
 鬼道詠唱の大合唱。
 無数の唇と手が術師一人では到底不可能な域の多重並行詠唱を行っている。
 やがてそれが終わり静寂が戻って来た時、五条悟は嵐の前の静けさという言葉の意味を実感した。

118臨界ダイバー ◆sANA.wKSAw:2023/12/21(木) 00:08:25 ID:2Hc.Tmzg0


 境内が混沌と化す。
 重力が、雷が、蒼火が、その他あらゆる鬼道が天変地異宛らに深夜の境内を満たした。
 それは正しく絨毯爆撃であり飽和攻撃の大瀑布に他ならない。
 逃げ場等微塵もなき死神によるキリングフィールド。
 五条悟の影もこの地獄絵の中では矮小なるヒトガタ一つでしかなかった。
 呑まれていく。喰われていく。
 塗り潰されていく――だが。
「NPCを呪骸代わりに使ってんのか」
 混沌の中から平然と響く声がある。
 次の瞬間、彼の術式が混沌をねじ伏せるべく狼煙を上げた。
「此方の世界では義骸と呼ぶ。一目で見抜くとは良い眼をしている」
「電脳世界の人形って事はつまりデータって事だろ。ならその内側に介入可能な空白があるってのは不自然な事じゃない」
 円を描いて廻る巨大な力。
 それが黒棺を削り取り、千手皎天汰炮を押し返し、黄火閃と蒼火墜も同様に蹴散らした。
 術式順転・蒼。
 鬼道の混沌絵巻を片っ端から引き寄せてその上でねじ伏せ調伏した。
 五条悟がやった事は理屈自体は単純明快。
 圧倒的な呪力と最高峰の術式、そして無二のセンスが合わされば結果を生み出す為の方程式等幾ら単純でも構わないのだ。
「君の力の正体も何となく見えて来たよ。羨ましいね、やりたい放題じゃないか」
「君に言われたくはないが、否定はしない。憤りでも覚えたか」
「いいや? 素直に褒めてるよ。これが人間素体にしてるってんならクソ野郎と思ったかも知れないけど、君はそれを許容するタイプには見えない」
「買い被られた物だ。目的を果たす為に必要ならば、人間だろうが人形だろうが構いはしないさ」
「そうかい」
 よって五条悟、未だ健在。
 無傷を保ったまま痣城双也の殺し技を突破する。
 痣城も驚きはあったが此処までは予想出来る範疇だった。
「もうちょっと遊ぼうか。試してみたい事が出来たんでね」
「奇遇だな。私も、君の不敵を崩してみたいと感じていた」
 よって此処からが戦の本領。
 五条悟。痣城双也。
 双方共に勝算を抱いて動き始める。
 ――五条には痣城を殺す理由がある。
 サーヴァントの真名にすら迫れる情報感知能力と抜きん出た強さ。
 まだ正体を特定し切れていない攻撃透過の術。
 自分だから相手が出来ているだけで、他の『青』の面々が遭遇すれば最悪命を取られかねない。
 殺せるなら殺せるで構わない。
 だからこの時五条は間違いなく殺す気だった。
 ――痣城にも五条を殺す理由がある。
 対面して改めて実感した。このサーヴァントは余りにも強すぎる。
 次元が違うと言っても言い過ぎではない。
 聖杯大戦に参加している全サーヴァントを引っ括めても彼の相手が出来るサーヴァントは片手の指で足りるだろう。
 可能ならば殺しておきたい。それは必ずや自分達の益となる。
 だからこの時、痣城もまた間違いなく殺す気だった。

119臨界ダイバー ◆sANA.wKSAw:2023/12/21(木) 00:09:09 ID:2Hc.Tmzg0


「…ッ!?」
 瞠目したのは痣城だ。
 五条が未知の手立てを出して来た訳ではない。
 彼がやった事は余りに在り来りな一手。
 それを極めて高度な領域と水準で行っただけに過ぎない。
“まさか、この男――ッ”
 呪力の出力を只々引き上げているのだ。
 際限なく、出し惜しみもなく何処までも。
 攻撃を透過する相手に対して出力の向上で応じようとする等浅知恵も良い所に思える。
 しかしこと痣城双也というサーヴァントに対してはこれ以上なく覿面だった。
「辛そうだね。てなるとやっぱりそういう事か」
 …痣城の宝具『雨露柘榴』。
 その能力は"融合"である。
 あらゆる物体と自らの肉体を融合させるのだ。
 実体を持つかどうかさえ条件とはならない。
 会合の場で両面宿儺に真名を突き付けた理由。
 五条悟の強さと素性を知っていた理由。
 その答えは一言で説明が利く。
 ――痣城双也は、予選を終えた時点で既に冬木市の全域と融合を果たしているのだ。
 だからこそ融合範囲内で起きる全ての事象は彼の既知の事項と化している。
 やろうと思えば直接マスターの元に姿を現し一人一人殺す事だって可能だ。
 常時空気とも融合しているから攻撃を受ける事もなく、故に戦闘においても情報戦においても痣城は原則として無敵である。
 それこそ、空間そのものを攻撃する手段でも敵方にない限りは。
「空間と自分を混ぜて攻撃を凌いでるって事は…空気でも消し飛ぶくらいの力をぶつけられたらひとたまりもないって事だろ?」
 無論、通常はそんな事等出来る訳もない。
 普通の英霊は痣城双也に何も出来ないだろう。
 だが――五条悟は特異な英霊だ。
 彼は強い。特別に強い。
 種さえ割れればそのハードルは彼にとって超えられない物ではないのだ。
 それは奇しくも…かつて『痣城剣八』が敗れ去った後代の"剣八"がやってみせたのと同じ理屈。
「消し飛ばしてやるよ。この一帯ごとな」
「ぐ、ッ……!」
 圧倒的な力で空間ごと破壊する。
 その絶技さえ適うならば、融合した痣城は単に的が大きくなっているだけに過ぎない。
 無敵にも等しい斬魄刀『雨露柘榴』。
 其処に存在する唯一の弱点を五条悟は撃ち抜ける。
 だからこその最強。
 だからこその、『青』の首魁だ。
“これ程か、五条悟――”
 痣城も実感を伴って理解する。
 この男は間違いなく怪物で。
 そして"彼"の同類だと。

120臨界ダイバー ◆sANA.wKSAw:2023/12/21(木) 00:09:55 ID:2Hc.Tmzg0
 剣八を名乗っていた頃の自分に挫折を与えた戦闘狂。
 その面影を否応なしに見出させられてしまう。
 だが痣城も無策で挑んでいる訳ではない。
 鬼道の連打で攻略するのは恐らく困難。
 であればリスク覚悟の博打を打って突破するまでだった。
“キハハハハ! 賭けるじゃないか。焦ってんねぇ!”
“此処で斃せるならば、それに越した事はない”
 『雨露柘榴』の能力は融合。
 その対象は何も無機物だけとは限らない。
 生命体との融合――それこそが痣城の持つ真の矛だ。
 先代の剣八を斃し八代目の座を手にしたあの日にも用いた、予見不能の反則技が最強の術師に牙を剥く。
 生物との融合は痣城自身にも激烈な反動を齎すが、この五条という男はそうでもせねば手に余る相手だと確信していた。
 世界と混ざる咎人が不可視の魔の手を伸ばす。
 こうしている今も出力を上げ続けている五条の霊基へそのまま接触。
“――殺った”
 後は八つ裂きにするだけ。
 勝利を確信する痣城であったが、彼が思考を維持出来たのは其処までだった。
「――――が」
 五条悟に触れたその瞬間。
 痣城の思考が弾けた。
 いや違う。
 弾けたのではなく、引き伸ばされた。
“何…だと……ッ”
 情報が完結しない。
 思考さえもが迂遠に歪曲されていく。
 咄嗟に『雨露柘榴』による融合を解除する判断へ至れたのは不幸中の幸い。
 だがそれですら遅かった。
 脳内を犯す超莫大の情報量が彼に防御不能の痛打を与える。
 痣城の目鼻からドロリと血が垂れ落ちた。
 それが彼の喰らった毒の猛悪さを物語っている。
「君の力、まだ正確に理解した訳じゃないけど――なかなかえげつない物持ってんじゃん。正直驚いたよ」
 膝を突いた痣城に五条は言う。
「只、相性が悪かったね。僕の術式は『無限』だ」
「…無限……?」
「そう、無限。僕は常に無限の殻に覆われてる。君は僕に触れようとして、その殻に触れちゃったって訳」
 五条悟の生得術式『無下限呪術』。
 呪力によって生じさせる無限という現象、それが彼の術式の正体だ。
「……自身を冒すあらゆる物理的事象の低速化……だけでは、ないな」
「無限だからね。其処に宿ってる情報量の消化に掛かる手間も無限回だ」
 痣城双也は五条を殺す為に彼への接触を行わなければならない。
 しかし五条は常に無限の殻に守られ、融合を図れば彼に触れる前にその周りの無限に触れる羽目になる。
 するとどうなるかは先の一幕が何より如実に示している。
 無限の情報量と同回数の思考強制は、尸魂界の死神でさえ耐えられる物ではなかった。
 痣城にとってはまさしく天敵。
 五条悟に対して『雨露柘榴』は機能を果たせない。

121臨界ダイバー ◆sANA.wKSAw:2023/12/21(木) 00:10:56 ID:2Hc.Tmzg0
「退くかい」
「退く。殺される訳には行かないのでな」
「あぁそう。良いよ良いよ、別に追わないから。好きに逃げるといい」
「…解せないな。私が君ならば逃がさない」
「だって君、僕が必死こいた所で簡単に逃げ切っちゃうでしょ。無駄なカロリーは使わない主義なんだよね。それに」
 手痛い初戦となったが得られた物はある。
 無駄ではなかった――よって撤退が最適解。
 算盤を弾いた痣城に対する五条の言葉は不可解だった。
「君を殺すかどうかは半々って所だった。確かに君の力は厄介だけど、利用出来るならこれ以上ない人材だと思ってね」
「何?」
「そっちの陣営に羂索って縫い目頭か、宿儺って化け物が居ない?」
「…答えると思うか?」
「それも半々。居るのが羂索なら答える意味もないだろうけど、宿儺なら話も違うんじゃないかなって考えてる」
 両面宿儺。
 会合の折に初めて対面したあの悪魔を痣城は今も燦然と記憶している。
 あれもまた化け物だ。
 ともすればこの五条悟に並ぶ。
 いや、その上を行っている可能性さえあるだろう。
「僕は連中を殺さなくちゃいけない。聖杯を狙うにせよそれ以外の幕引きを狙うにせよ、あのロートル共は邪魔過ぎるんでね。
 個人的な事情を差っ引いても早めにどうにかしときたいんだよ。だからその為に助力願えるんなら万々歳って訳」
「論ずるにも値しないな。私のマスターは聖杯を求めている。自軍の兵器をみすみす売り渡す兵士が何処に居る?」
「嘘つき。利口な君が奴らが生き続けてる事の意味を解ってないとは思えないな」
 その言葉に痣城は沈黙を返した。
 少なくとも否定は出来なかった。
 『赤の陣営』首魁、呪術師羂索。
 そして自分達と同じ『黒の陣営』に潜む悪魔、呪いの王宿儺。
 彼らにとって敵味方の概念が一体どれ程の価値を成すか。
 そんな物、有って無いが如しだ。
 あれらは死神以上に人外の価値観で生きている。
 醜悪なる破面共ですら、ああまで救えない悪性を抱えては居まい。
「僕と遭った事実と得られた物は君の好きに使えばいい。その代わり、話がしたくなったら僕の所を訪ねて来なよ。映画でも見ながら話そうじゃない」
「…君が最強を名乗るに相応しい力を持っている事は理解した。だが余りに自信過剰だな」
 痣城は続ける。
「君は宿儺に"圧勝"出来るのか?」
「無理だろうね。つーか一回負けてるし」
「その君が何故、そうも大上段から事を進められる? 私ならば慎重を期する。宿儺という兵器を利用して最悪の事態を生まれる可能性を危惧する」
「君に対する期待が半分。もう半分は――まあ、持って生まれた病気みたいなもんかな。
 僕って生まれた時から最強だったからさ。そうやって生きる以外のやり方知らないんだよ。今更弱い奴の気持ちとか考えても解んないしな」
 余りに傲岸不遜な台詞に閉口を禁じ得ない痣城。
 そんな目前の彼にさえ憚る事なく、五条は言った。
「とはいえ今度は僕がチャレンジャーだ。それなりに弁えて頑張るよ。連敗は流石に沽券に関わる」

    ◆ ◆ ◆

122臨界ダイバー ◆sANA.wKSAw:2023/12/21(木) 00:11:28 ID:2Hc.Tmzg0

 とうとう聖杯大戦が始まってしまった。
 クリスマスに浮かれる気分にはとてもなれない。
 自宅の自室で緊張に心を張り詰めさせているひなこは、己のサーヴァントへとおずおず念話を送る。
“セイバーさん、その…傷は大丈夫そう?”
“問題ない。元々肉体に負った損傷は軽微だ”
 痣城双也が満身創痍の状態で帰投して来た時は驚いた。
 会合を終えて星界円卓から戻って来るなり出陣し、其処で戦闘を行って来たらしい。
 自分の従僕が傷付いた姿を見るのはひなこもあの時が初めてだった。
 動揺と不安に曇るその顔を前に、痣城は己の不甲斐なさに歯噛みした。
 ――侮っていたな。
 ――聖杯大戦、一筋縄では行かないようだ。
“得られた物も少なからずある。それと天秤に掛ければこの負傷は必要経費の範疇だ。相対的に見れば充分に釣りが来る”
“…ならいいんだけど……”
“『青の陣営』の呪術師、五条悟の手の内。世界との融合による俯瞰だけでは確認出来ない部分まで識れた。
 この情報は『青』と渡り合う上で必ず大きな意味を持つ。『赤』の羂索らが持つ情報の優位に追い付けたと言っていい”
 痣城はひなこに対して全てを語った訳ではない。
 彼が敢えて語らぬままにしているのは、戦いの最後に五条が持ち掛けてきた話に関してだ。
 羂索と両面宿儺に対する協力しての対処。
 羂索に関しては一先ず置く。
 あの外道は確かにこの上なく厄介だ。
 早い段階で潰せるならばそれに越した事はない――問題は両面宿儺。
 奇しくも同じ『黒』の旗本に居る、五条悟を超える悪魔に関してである。
“キハハハ! 考えてるね、考えてるね! どうすれば一番この子の為になるかって頭回してんね!
 いやあすっかり保護者ヅラが板に付いたもんだ! 似合わねー! 嫌いじゃないけど! ヒヒヒヒヒヒ!”
 宿儺は危険だ。
 それは間違いない。
 その毒を御す事を選ぶか、それとも体外に排出するか。
 痣城は岐路に立たされていた。
 確信がある。
 この判断は必ずや、自分とひなこの結末を占う物になるだろうという確信が。
“そうじゃないだろ痣城双也。アンタが真にひなちゃんの為に考えなくちゃいけないのは――”
“…解っている”
 だがそれとは別に。
 『雨露柘榴』の言う通り、痣城にはもう一つ考えねばならない事があった。
“『瀬崎愛吏』の存在。それを伝えるか否かを、私は決めねばならない”
 痣城は冬木の全てを知覚下に置いている。
 だから当然、ひなこにとって最大の意味を持つだろう少女の存在も感知していた。

123臨界ダイバー ◆sANA.wKSAw:2023/12/21(木) 00:11:50 ID:2Hc.Tmzg0
 白雪の中に息絶えた少女はまだその事を知らない。
 共に永遠に飛び立った比翼連理の片割れが。
 その狂おしいまでの愛情を寄せる対象が、この世界に存在している事を知らない。
 痣城は選ばなければならない。
 ひなこが知るか。それとも知らないままでいるかを。
 選択出来るのは彼だけだ。
 再拾得の旅はまだ途中。
 痣城双也はまたも試される。

【B-9・花邑家/一日目・午後】

【花邑ひなこ@きたない君がいちばんかわいい】
[状態]:健康
[令呪]:残り三画
[装備]:
[道具]:
[所持金]:数万円程度
[思考・状況]
基本方針:聖杯を手に入れ、あいちゃんとやり直す
1:セイバーさん大丈夫かな…

【セイバー(痣城双也)@BLEACH Spirits Are Forever With You】
[状態]:ダメージ(大)、冬木市全域と融合
[装備]:
[道具]:
[思考・状況]
基本方針:マスターに聖杯を献上する
1:瀬崎愛吏について伝えるかどうか。
2:キャスター(五条悟)については…
[備考]
※宝具『雨露柘榴』によって冬木市全域と融合を果たしています。
 市内の何処にでも瞬間移動が可能な上、市内で行われた事象は全て痣城の把握範囲内にあります

    ◆ ◆ ◆

124臨界ダイバー ◆sANA.wKSAw:2023/12/21(木) 00:13:06 ID:2Hc.Tmzg0

「マジ反則だわ、あの優男。その気になれば一人で聖杯戦争終わらせられるねありゃ」
「…その反則と一人で勝手に事を構えて来た申し開きをまだ聞いていませんが?」
「良いじゃん、硬い事言うなよ。現にほら、僕無傷だし」
 痣城と五条の戦闘から半日弱程経った正午過ぎ。
 穂群原学園、その高等部の教室に『青の陣営』のリーダーを務める少女の姿はあった。
 今日は休日だ。よって授業も当然無いのだが、ケイは学校の中を彷徨いて時間を使っていた。
 只の暇潰しという訳でもない。あくまで今は待機時間。何かあればすぐに向かえる手筈を整えてある。
「寧ろアドの方がデカいよ。あの『黒』のセイバーは多分、この冬木で起きてる事象を全部知覚してる。
 僕らが今此処で話してる内容も多分全部筒抜けだ。イェーイセイバー君見ってる〜!? 聞こえてたら二回咳払いしてよ! なんつって」
「筒抜けなら何故先生は念話を用いる事もなく、わざわざ実体化して寛いでいるのでしょうか」
「必要になったら切り替えるさ。どうも霊体化ってのは性に合わなくてね。どうせなら久方振りの現世を満喫したいし」
「理解不能。先生の精神は合理的観点から見ると贅肉塗れの肥満体と形容出来ます」
 五条悟の眼から見た痣城双也の印象は"厄介"以外の何物でもなかった。
 彼の力の全貌を知れた訳ではまだないが、片鱗だけでも反則級な事はよく解った。
 自分や宿儺のような例外の強者が居なければ痣城は一人で聖杯戦争を終結させていただろう。
 戦争であろうが大戦であろうが変わらない。
 彼の力は余りにも"戦争"に向き過ぎている。
 反則性、そして万能性においては自分でさえ及べないに違いない。
 痣城双也はその気になれば大戦の参加者を超速で殺戮出来る。
 それが解っただけでも許可無しの初陣に打って出た甲斐はあったと五条はそう認識していた。
 事後報告を喰らったケイの方は堪った物ではなかったが。
“それで。宿儺についての情報は得られたのですか?”
“はぐらかされて終わり。でも多分無関係じゃないな。僕の読みが正しければ、宿儺は黒陣営に居る”
 両面宿儺は必ず斃さなければならない。
 彼が居る聖杯大戦は即ち地獄だ。
 最終的に何処を目指すにしろ宿儺の打倒は必要不可欠。
 満足して丸投げして来た課題が、再び五条の前に現れた形となった。
“とはいえ宿儺に関しては急いだら事を仕損じるのが見えてる。ある程度慎重にやんないと元の木阿弥だ”
“では、まずは”
“そうだね。羂索のクソ野郎を殺しときたいかな、あのメロンパン入れになら10:0で勝てるから”
 やるべき事は多いね。
 愚痴るように零しながら、だが五条悟は輝いていた。
 彼は躍動している。
 間違いなくこの聖杯大戦は、彼の中の渇きを潤し続けていた。
 先の痣城双也もそうだ。
 あのレベルの使い手が平然と闊歩する戦場であれば、如何に五条悟と言えども退屈している暇はない。
「時に先生。メロンパン入れとは何ですか」
「え? 頭開いたら脳味噌出て来るからだけど」
「それが何故、メロンパンという表現に繋がってくるのか理解不能です」
「…知らない? IQサプリ」
「私は王女(アリス)の<Key>ですので。サプリメントの類は必要としません」
「マジかぁ…。悠仁にも『そんな番組あったっけ?』って言われたんだよなぁ……」

【C-2・穂群原学園高等部/一日目・午後】

【ケイ@ブルーアーカイブ】
[状態]:健康
[令呪]:残り三画
[装備]:光の剣:スーパーノヴァ
[道具]:
[所持金]:数万円程度
[思考・状況]
基本方針:キヴォトスに帰る為に行動する
[備考]

【キャスター(五条悟)@呪術廻戦】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:
[思考・状況]
基本方針:???
1:なかなか面白い奴らが居るなぁ…。
2:宿儺を斃す。今度こそね。
3:羂索殺す。逃げ切れると思うなよオマエ
[備考]

125 ◆sANA.wKSAw:2023/12/21(木) 00:13:47 ID:2Hc.Tmzg0
投下終了です

126 ◆WutzLL0xx2:2023/12/26(火) 23:58:59 ID:LbbrCsGQ0
申し訳ありません。少し投下が遅れます。
明日の朝までには必ず投下できるようにします。

127 ◆sYailYm.NA:2023/12/27(水) 00:43:08 ID:Fn0so1kc0
ご連絡及びご感想が遅れており申し訳ありません。
感想については近日中に必ず書かせていただきます。
そして予約についてですが、一度破棄いたします。長期のキャラ拘束申し訳ございませんでした。

128 ◆WutzLL0xx2:2023/12/27(水) 02:22:00 ID:4Rbxc5TA0
遅くなって申し訳ありません。
投下します。

129 ◆WutzLL0xx2:2023/12/27(水) 02:22:57 ID:4Rbxc5TA0
路地を歩いている集団が居る。
目の周りにひび割れを作った、奇妙な四人の集団と、その中心を歩く怪人と黒衣の組み合わせだ。

「どのように、このサーヴァントを見つけ出した」

黒衣のキャスター──アスクレピオスは、イヤホンで音楽を聞きながら傍らの怪人──繰田孔富に話しかける。

「U.T.Aちゃんの配信(ライブ)、良い曲でしょう?」

孔富は一見噛み合わないような返答を返す。
しかしその実、彼らが向かう先にいる相手のサーヴァントとは、たった今配信している新進気鋭にして爆発的ヒット中の歌い手"U.T.A"だ。

「予選期間中に活動開始。異常な技巧(テクニック)。まあそれだけでも疑うには足りるけど…決め手は患者さんからの噂話(フォークロア)ねえ」

「"夢世界に誘う歌"か。全く良く調べている」

うんざりとした調子で、キャスターは返す。
正体不明、声だけの配信者、U.T.Aの曲を聞いた者のごく一部が夢の世界に招かれ、本人と合うことが出来るという与太話。
しかし与太話も、"この冬木でだけ集中的に聞かれる"という状況が揃えばそれは、聖杯戦争への関わりを考えざるを得ない。

実際にライブ配信を聞くと、即座に眠ることまでは確認している。
睡眠の必要のないサーヴァントであるキャスターのみが配信を聞いて確認することにしているのは、その対策だ。

「貴様の麻薬製造も、目標のペースに達していないというのによくやるものだ」

「…それも、一息に解決出来るカモ、ってちょっと期待してるのよねえ」

"地獄の回数券(ヘルズクーポン)"は問題ない。もとより戦闘員に配るためのもので、必要以上の在庫はあっても無駄だ。
問題なのは"天国の回数券(ヘブンスクーポン)"のほうだ。必要物資の購入のための売却分を計算に入れると、どうしても"大海嘯(タイダルボア)"に必要な量に達しない。
東京で使用する量と比べれば、人口の少ない冬木では多少減りはする。それでも膨大な量の麻薬が、薬効を発揮する濃度まで上げるには必要だ。
元の世界でも長期間溜め込んだ麻薬(クスリ)で決行したものだ。たった準備期間一ヶ月でやったこととしては、寧ろとても上出来と言える。
本戦期間に入ってなお作り続け、それでもまだ足りないとしても。

これに関してはキャスターは安堵している。
例えサーヴァントとして呼ばれただけだとしても、医神として、無差別な麻薬テロは望む所ではない。
積極的に何かをせずとも潰えるのであれば、それに越したことはない。

130方舟の救いと洪水の救い ◆WutzLL0xx2:2023/12/27(水) 02:24:42 ID:4Rbxc5TA0
「居場所の発見に関しては、原始的な方法が使えたわ」

孔富は麻薬製造のために、大量の人材を抱えている。
その人員の一部を使い、配信のアーカイブを漁らせた。アーカイブなら、通常のNPCでも夢に落ちることはない。

「とにかく、"配信(ライブ)に紛れ込んだ、外部のノイズ"を洗わせたの」
「場所は概ね特定(オープン)出来た。今から、そこに行くって話」

今も、配信が行われている。ならば目的のサーヴァントもそこにいるはずだ。
目的地は、この路地の先の小さなレンタル音楽スタジオ。

(全く、病人と薬物中毒者共が)

孔富は"歌い手のサーヴァント"を、多少強引な手を使ってでも確保しようとしている。
例えば、引き連れた四人の極道。彼らと孔富は、全員が高性能なノイズキャンセリングヘッドホンを所持している。
サーヴァントが配信をしているなら、マスターもその場にいる可能性が高い。彼らはマスターを捕縛するための要員だ。

目的のスタジオは、もう目の前にある。
周囲の極道たちが目配せをして、荷物のヘッドホンに手を伸ばそうとした瞬間。


横合いから。
息を強く、吸う音がした。
歌いはじめる直前のように。


"…直ぐにヘッドホンを"

キャスターは即座に孔富に警告の念話を送り、杖を変化させた刃を飛ばす。
しかしその刃は、空中に現れたハ音記号に弾かれ逸らされる。
霊体化を解除し、姿を表したサーヴァント──バーサーカー、ウタの歌を阻止することは叶わない。

一呼吸の猶予が終わる。

131方舟の救いと洪水の救い ◆WutzLL0xx2:2023/12/27(水) 02:26:48 ID:4Rbxc5TA0
「"新時代は この未来だ"」

力ある歌声が、路地を満たす。歌手として間違いなく頂点に位置する、力強く技巧ある歌声…というだけでは勿論ない。

「"世界中全部 変えてしまえば"」

路地が、色を変えたように錯覚するほどの歌。
文字通りに力ある歌は、ただ一音で不意を突かれた極道たちの意識を眠りに落とす。
そしてバーサーカーの周囲には、音符の兵士が現れ、倒れながらもキャスターの追撃をいなす。

「"変えてしまえば"」

バーサーカーはそこで歌を切り、孔富を見下ろす。
他の極道が倒れている中で、彼だけは立っていた。

「向こうでお話しようと思ってたのに。準備がいいんだね」

孔富は、異形の肉体の反応速度とキャスターの警告により、ノイズキャンセリングイヤホンで歌から身を守ることに成功していた。
その代償として、バーサーカーの声に応えることも出来ない。

「…攻撃の意思はない、とでも言うつもりか?」

対話を仕掛けてきたバーサーカー相手に、キャスターも一旦武器を収める。

(配信の歌は、続いている。けれど声で分かる。眼の前のこいつは間違いなく"U.T.A"本人だ)
(──夢世界に招く能力だと判断した時点で、予測しておくべきだったか。こいつは"夢世界側"から配信をしている)

「攻撃してくる気だったのは、あなた達じゃないの?こんな怖い人たち集めて、歌から耳を塞ぐ対策までしてさ。私は単にあなたたちと、向こう──えっと、夢の世界でちゃんと話したかっただけ」

けどまあ、こっちでもいいよね。
そう言いながら、バーサーカーは笑う。

「そっちのマスターさんは色んな意味で、聞く耳持たない感じだから──キャスターさん。あなたと話そうか」
「まずはあなたたちの、素性を聞いてもいいかな」


★★★★★


繰田孔富がここに連れてきた極道たちは、"救済なき医師団"程の精鋭ではない。
そもそも"NPCを抵抗の余地なく夢に導く"敵サーヴァントを想定した戦場だ。彼らは主に敵マスターを確保するために動かす手数であり、それ以上を期待はされていない。

しかしそれでも、"地獄の回数券"の扱いに習熟した彼らは大多数のマスターに対して理不尽な災厄そのものだ。
二階建ての一軒家を飛び越せる脚力。50メートル先の人間に、日本刀を命中させられる投擲力。撫でるのと変わらぬ速度で、物理鍵を解錠(ピッキング)出来る技術力。
その程度の能力は、当然何かしら持ち合わせた次元だ。
一人だけですら、十分に一般人マスターを令呪を使う暇なく暗殺出来る戦力。


それが四人揃って、この白黒の子供一人に勝てない。

132方舟の救いと洪水の救い ◆WutzLL0xx2:2023/12/27(水) 02:28:26 ID:4Rbxc5TA0
「ただ眼の前のものを否定したくて、感情のままに暴力を振るう。それで何かが変わるとでも」

「──ぁ」

極道の一人が振るう警棒が、白黒の少年──オモリに届く前に落ちる。極道は喉を押さえ、白い床に倒れ込む。

(思考を乱す、呼吸を封じる、奇妙な戦闘技術。"地獄の回数券"で強化された視覚でも、全く攻撃の予兆が見えねえ。こいつは──なんだ?本当に人間か?)

既に立っている極道は一人だけ。
他の極道たちは、このただ白い空間の床で、どこからともなく伸びる"赤い手"で拘束されていた。

赤い令呪が、オモリがマスターであることを表している。
彼ら極道はまだ、自分たちが夢に落ちたことすら自覚せずオモリと相対している。
それゆえにマスターを拘束するために彼に襲い掛かり、このザマだ。

「あなたたちは、ただ他人に求めることしか考えていないクズだ。誰かに与えようとしたことなんてないクセに」

オモリの悪罵は、いっそ自嘲のようにすら響く。
全く、相手にされているように思えない。
ただゆっくりと、オモリが歩いてくる。拳銃を持っているというのに、まるで通用する気がしない。

「怪物(バケモン)ガァ…」

それでも恐怖に抗って、引き金を引く。何回も何回も。
あっさりと弾丸はオモリに当たる。

「本当は解っているのに、それでもまだ間違い続けているんだ。自分でそれを選んでいる」

オモリは明らかな致命傷を負いながら、なんら意に介さずこちらにナイフを向ける。そのナイフは赤く染まっている。

「手前(テメ)ェ…死ねよ!」

弾切れを起こした銃を投擲(な)げるも、ナイフで弾かれる。その隙をついて、素手でオモリの首を狙う。
オモリが僅かに体を屈める。

極道の目が、オモリと合う。

「そうだね」
「あなたたちみたいな人は、死ねばいいのに」

オモリの目の奥底を、見てしまう。
それは自閉した精神の果てだ。
闇を深く見てきた極道ですら、一瞬足を止める程の。

きっとここが現実なら、こうはならない。
極道の精神は闇に擦れていて、可哀想な子供だろうが狂人だろうが殺すことに躊躇いはない。
けれどここは夢世界(ホワイトスペース)。精神の世界。
擦れて鈍った共感力を飛び越えて、精神の奥底に直接オモリの精神が干渉する。
それは不可避の一撃だ。

その手がオモリの首に届く前に、極道は赤い手に捕われた。

★★★★★

133方舟の救いと洪水の救い ◆WutzLL0xx2:2023/12/27(水) 02:30:19 ID:4Rbxc5TA0
「その男の名は繰田孔富。極道の闇医者で、僕のマスターだ」

キャスターはバーサーカーの問いに答える。
キャスターは内心、孔富とこのバーサーカーが直接対話することにならなくて良かったと直感していた。

(おそらく、この二人は悪い意味で相性が良い)

同じ病を抱えた精神病者が対話をするのは、回復期においては価値あることだ。
しかし劇症期に下手に対話することは、寧ろ病気の悪化に繋がる。お互いに足を引き合い、最悪の自体になりかねない。

「…極道…ジャパニーズマフィアの闇医者、ね。それがどうして、私たちを狙うの?」

下手に嘘をつくべきではない。

「孔富が志す"救済"、その一端として利用出来ると考えたからと聞いている」

「…"救済"?」

バーサーカーの顔色が変わる。

「もしあなたたちが、NPC…って言われてる、この聖杯戦争の舞台に生きる人たちを救おうと考えているのなら、確かに私が協力出来るのかも」

「待て。その話の前に確認をさせろ」

キャスターは眠る極道たちを見下ろす。呼吸のペース等に異常はないが、妙に苦しそうに見える。

「この寝てるやつらは、無事なんだろうな」

「ちょっと待ってね。オモリ、そっちは?」

バーサーカーは"電伝虫"を取り出す。妙に大きなモノクロで、無表情なカタツムリだ。

『こっちは終わったよ』
『キャスター。はじめまして。僕はオモリ、バーサーカーのマスター』

カタツムリが喋りだす。
一切の感情が乗っていないような子供の声で、マスターを名乗る。

「そのカタツムリが、マスターなのか?」

訝しむキャスターに、バーサーカーは吹き出して笑う。

「ははっ…違う、違うよ。これは"電伝虫"。ちょっと工夫すると、夢の中とこっちを繋いで話せるんだ」

『キャスター。まず前提として話す。僕は今、こっち──夢の中で、あなたたちの手下を捕まえてる』
『先に仕掛けてきたのは彼ら。僕はいつでも、彼らを殺せる』

淡々とした口調のままで、オモリはキャスターを恫喝する。
キャスターにとって孔富の部下のチンピラの命はそこまで比重が大きい、という訳でもない。しかしそれでも、意図して見捨てる気にはならない。

「チッ、話をしようという相手に対する態度とは思えんな」

『別にこっちも、殺そうというつもりはない。僕には手段があるってことを、知ってほしいだけ』

「オモリ、あんまり手荒なことしちゃ駄目だよ?」

バーサーカーは憂い顔で、オモリに言う。
オモリはバーサーカーの言を聞き流し、キャスターに問う。

『僕が聞きたいのは、あなたたちの陣営について。"羂索"──ケサ、仏教の僧侶の服を着た、額に縫い目のある男。"宿儺"──4つの目、4つの腕を持つ呪いの王。この二人は居る?』

134方舟の救いと洪水の救い ◆WutzLL0xx2:2023/12/27(水) 02:32:07 ID:4Rbxc5TA0
その質問は、全くキャスターにとって意味不明なものであった。

「知らんな。その二人の存在すら知らん」

"白"の円卓では、すべてのマスターとサーヴァントを確認した。
サーヴァントの真名こそ確認していないが、明らかに当てはまりうる存在はいない。

『僕たちの陣営では、その二人をこの聖杯戦争での最大の障壁と考えてる』

「それだけ言うからには、証拠があるのだろうな」

オモリとバーサーカーは、ケイから聞いた彼らの悪行と、持ちうる能力について話をする。

呪霊操術、肉体を乗っ取る術式、悪辣な策略家、死滅回游。
十種影法術、切断術式、膨大な呪力、伏魔御廚子。
聞くごとにキャスターの、眉間のシワが強くなる。

(──こいつらの話が本当なら、確かに厄介な奴らではある。特に宿儺はおそらくこの聖杯戦争でも天辺に座する類の強さだろう)
(だが──)

「分からんな。何故、お前らがそいつらを狙う?」
「各陣営には五主従が居る。何もお前らが、そいつらに直接対処する必要もあるまい」

「…別に、私達だけで対処している訳でもないけれど、それでも私達がその二人に立ち向かってる理由はあるの。」
「私の願いが、NPC…この電脳世界で、私の歌を聞いてくれた人たちも含めて、救うためだからだよ」

バーサーカーが、キャスターの言に答える。

「私は知ってるの。この世界の人たちが、心ある人間だって。聖杯戦争のために作られた世界だとしても、そこにいる人間を殺していい訳ない」
「羂索も宿儺も、人を大量に殺して恥じない人たちだよ。彼らを残したら、必ずこの世界でも人を殺める。私はそれを止めないといけないの」

キャスターは眉を顰める。
この女の言葉は一見正しくは聞こえるが、いかにも危うい。"英霊"とはそういうものでもあるにせよ、明らかに個人でどうにかするべき枠を超えている。
孔富の"救済(すく)い"と同じように。

「私が聖杯に願う願いはね。私の宝具を──ウタワールド、夢の世界をもっと完全なものにすること」
「元の世界だけでなく、この電脳世界も、オモリの世界も──みんなを、歌で救うの」
「だからさ、キャスター。あなたのマスターも、救いを望んでいるんでしょ?。なら、私たちとあなたたちは手を取り合えるんじゃないかな」

バーサーカーは笑顔で、キャスターに協力を提案する。
キャスターは断言する。

「断る」
「バーサーカー。お前の狂気は聖杯と、この僕の診断が保証している」

(こいつを、孔富に近づけるべきではない)

キャスターはそう判断した。

バーサーカーは目を細め、心外そうにキャスターを睨む。

「何ソレ。挑発のつもり?だったら意味ないよ── 

「確かに、私はやり方を、救う手順を間違えたのかもしれないけどさ。聖杯が、マスターが、私の願い…新時代は間違ってない、ってはっきり教えてくれてるんだ」

(──こいつは、何を言っている?)

キャスターは心中で疑問を呈する。マスターはともかく聖杯が個人に語りかけるなど、あるはずもない。けれど目前のサーヴァントは明らかに、聖杯の意図を確信している。
バーサーカーの狂気に由来する妄言だと切り捨ててよいものなのだろうか。
だが、思考を深める前にバーサーカーの瞳にはっきりとした敵意が浮かぶ。

135方舟の救いと洪水の救い ◆WutzLL0xx2:2023/12/27(水) 02:34:20 ID:4Rbxc5TA0
「話は、もういいよね?」
「私達に手を貸してくれないのは残念。みんなが幸せになれる未来が、すぐそこにあるはずなのに」

(来るか)
"孔富、手下どもを連れて下がれ"

キャスターは杖を構える。
キャスターは戦闘に特化したサーヴァントでこそないが、アポロン神の子たる神話の英霊だ。
耳を封じた孔富と倒れた極道たちというハンデを抱えた上で、不明な攻撃手段を持つバーサーカーを牽制し退路を作る。
その程度のことは、十分可能なはずだ。

──そこで。
キャスターの背後から、声がする。

「いいえ。もうちょっとお話ししましょ」
「私のサーヴァントは気に入らなかったみたいだけど…私は貴女の救済(すく)い、とっても興味深かったワァ」

(孔富、貴様…)

「なんだ」
「話を聞いてたの。なら、最初から私の歌をいてくれてれば良かったのに…」

(話が始まった時点で、イヤホンの電源を切っていたのか…!)

思えば、あれほど関心を持っていたサーヴァントを前に孔富は静かすぎた。
念話で、バーサーカーの話の内容をキャスターに逐次確認する程度のことはして良かったはずだ。
それをしなかったのは、最初から話を全て聞いていたから。

(イカれた愚患者共め)

確かに、相手は対話を仕掛けてくる姿勢を示していた。
一度仕掛けて通用しなかった攻撃である歌を、明らかに耳を封じている相手に再度ただ試すのは考えにくい。

それでも、相手が気まぐれで一声歌えばその時点で目論見は破綻する危うい賭けだ。

キャスターは沈黙する。どのようにこの状況を打開すべきか。

「それで、極道のお医者さん。あなたは私たちに、協力してくれるの?」

バーサーカーは冷徹に、話を進める。

「ええ勿論。あなたの救いはとても賛同出来るものだし──"宿儺"と"羂索"とやらは、間違いなく落とさなければならない相手でしょう」

「もう一度確認するね。あなたたちの陣営には、どっちもいないって意味だよね?」

「ええ。"白の陣営"には、そいつらに当てはまるようなのはいないわ──ところで、バーサーカーちゃん。あなたの陣営を聞いても?」

あっさりと自分の陣営を明かした孔富に、寧ろバーサーカーが動揺する。それを補うように、オモリが応える。

『"青"だ』

「ありがとうオモリくん。助かるわ」

気を取り直したバーサーカーが、なおも詰問する。

「それだけで、信用するとは思わないで」
「あなたが本当に、私たちに協力してくれるって言うんなら──"白"の他主従の、情報を教えてくれる?」
「大丈夫。あなたが、聖杯戦争に勝つ必要なんてないんだよ。協力してくれるならちゃんと、私が救ってあげるから」

「‥ちょっと待って(タンマ)。オモリくん、説明を貰ってもいいかしら?」

あまりにも一方的な要求と、意図の読めない宣言に孔富は狼狽する。

『バーサーカー。その言い方では伝わらない』
『Dr.アナトミー。この聖杯戦争のルールには穴がある。聖杯大戦の勝者は、他陣営のサーヴァントが全滅した段階で決まる。一方マスターの消滅には、サーヴァントの消滅から六時間の余裕がある』
『つまり、この聖杯戦争を勝ち残る方法は、最後の陣営になることだけじゃない。勝ち残る陣営に協力し、最後に自分のサーヴァントを自害させる。そして勝利した陣営の願いで、この聖杯戦争から生き残ればいい』

「私は約束するよ。もしあなたが、本当に協力してくれるなら、私のファンと一緒にあなたも、この狂った聖杯戦争から絶対に救うって」

「──成る程、ねェ」

136方舟の救いと洪水の救い ◆WutzLL0xx2:2023/12/27(水) 02:35:32 ID:4Rbxc5TA0
彼らが自覚しているのかどうかは怪しいが。青のバーサーカー主従が要求しているのは、協力や同盟というレベルではない。
隷従だ。言葉はまともそうに見えても、彼らの主張は、"言う通りにするなら願いのおこぼれに与らせてやる"という次元に過ぎない。
そして厄介なのは、彼らにはその主張を押し通せるだけの戦力がある。
絡め手寄りとはいえ、この目前のサーヴァントの力も中々に規格外だ。
夢を操り影からNPCに、マスターに干渉する宝具と、神代のサーヴァントであるキャスターをして後手に回る本体性能。

("協力"ならいいのだけれど…この主張はちょっと、オイタが過ぎるわねえ)

「少し、考える時間を貰えないかしら」

「…いいよ。だけど考えるなら、夢の中でいいよね?大丈夫、歓迎するよ。私の歌を聞いて、ゆっくり考えて」

バーサーカーの目が、危うい光を帯びる。
この辺りが潮時だろうと、孔富は判断する。

「キャスター」

「分かっている」

孔富の声より前に、キャスターは杖を変型させている。
最初に咄嗟に放った一枚の刃とは次元の異なる、医神の手術刃(メス)の雨が、バーサーカーに飛ぶ。

「その程度で、どうにかなるとでも思った?」

バーサーカーがペンライトを振るうと、空中に五線譜が現れる。盾と化した五線譜が、手術刃を絡め取り無力化していく。
孔富の行動を抑止するため、音符の兵士が動く。彼にだって、余計なことをさせやしない。

「だから、無駄なんだってば。無意味な抵抗はやめにして、私の歌を聞いてくれればあなたたちだって──」

路地に小さな、ガラスの割れる音が響く。
その意味をバーサーカーは理解していなかったが、直後に気がつく。

「配信が、途切れてる?あんたたち、何を…!」

「お前らは、手の内を晒しすぎだ」

残ったキャスターの杖が変形し、鞭のようにしなり、バーサーカーからモノクロの電伝虫を奪う。

「そもそも僕たちは、配信を行っているサーヴァントと接触するためにここに来たんだ」
「このカタツムリ──電伝虫が、お前が夢世界側から配信をしていたカラクリだ。なら、電伝虫とは別に、インターネットに繋いで配信する物理的設備が必要になる」
「お前は配信の設備をこの路地のスタジオに設置していた。だから僕たちは周辺由来のノイズで、この場所が特定出来たんだ。──ここまで分かれば、話は早い」
「こんなカタツムリはこの世界に存在しない。お前の魔力で動いているアイテムだ。なら──魔力探知で位置を把握できる」

長々と孔富と話してくれて助かった、とキャスターは独りごちる。
キャスターは魔力探知が特別得意という訳ではないが、それでも魔術師(キャスター)のクラスだ。
これほどの近距離で、存在を知っている魔術具の探知に十分に時間を割ける状況下だ。なら詳細な座標まで含めた探知も極めて容易い。

バーサーカーに飛来した手術刀の雨は、デコイに過ぎない。
本命は、配信を担う電伝虫の排除のために飛んだただ一本の手術刀だ。

137方舟の救いと洪水の救い ◆WutzLL0xx2:2023/12/27(水) 02:37:27 ID:4Rbxc5TA0
「駄目ヨォ、バーサーカーちゃん」
「視聴者(ファン)は大事にしないと。急に配信を打ち切ったら、みんな不安になるわよ」

「──あんた、逃げるの?」

一瞬の動揺。その隙をついて、"怪物医"は異形の速度で動いていた。白衣の下から伸びる四本の腕が、眠る極道たちを抱えあげている。

「誰より視聴者(ファン)を想ってるバーサーカーちゃんが、配信の復旧に直ぐに向かわないってコトは…オモリくんが動いてるのよね?なら、私が逃げても問題がないってコト。そうでしょう、オモリくん?」

入念な彼らは、当然バックアップの配信設備くらいは用意しているだろう。
それでもそれを使うためには、現実で誰かが動かねばならない。

キャスターの手中の、モノクロな電伝虫の沈黙が孔富の言葉を雄弁に肯定していた。
オモリは既に、夢世界から現実へ戻っている。
ならば、人質はすぐには殺されない。
そして間もなく訪れる配信時間の終了とともに、夢世界は一旦解除され彼らは現実に戻ってくる。

(元よりこの子たちが本当に人質を殺すとは、あんまり思ってないケドねえ。私としてもどっちでもいいし)

「あなたたちの救済が素晴らしい、って言ったのは本当(マジ)よ。手を貸す気だって、本当にあるわ。でも──手を組むなら、対等(タメ)よ」
「そのカタツムリちゃんは貰っていくわ。その代わり、コレあげる」

孔富が手先だけで器用に投げた紙の束が、バーサーカーの手中に収まる。

「これ、あんたらが使ってる──」

「"地獄の回数券(ヘルズクーポン)"。私の救済(すくい)に、みんなを導く切符(おクスリ)よ。一回分を千切って舌下投与。それだけで大抵の傷は治るし、身体能力も大幅に向上するわ」
「またお話ししましょ。歌の救世主(メシア)さん」

孔富は楽しそうに、キャスターは不機嫌そうに、路地から去っていく。
バーサーカーはそれを、ただ見守る。

「まあ、いいよ」

"白"の陣営の情報、"地獄の回数券"、孔富との連絡手段。協力の意思。
"友好的な話し合い"で得られたものとしては、十分ではあるだろう。
この辺が落とし所だ、と示した孔富に、ここは乗っかるとする。
少なくとも態度は協力的な相手で、ここで無理して戦う必要もない。

「…またね、極道のお医者さん」

そう理解していても、バーサーカーの呟きには拭いきれない嫌悪が滲んでいた。

★★★★★

バーサーカーはオモリの家へと、霊体化して帰還した。

オモリは起きており、ウーバーイーツで遅い昼食を頼んでいた。
彼の時代にはピザ屋のデリバリーくらいしか食事の配達サービスは存在していなかったが、インターネットの概念自体はオモリも元から知っている。
聖杯の知識をもとに配信の準備を行っていた彼らは、現代のサービスにもある程度習熟していた。

バーサーカーは配信機器を確認する。この家には配信に向いた、防音設備のしっかりしたピアノルームがあり、彼らはそこに予備の配信設備を設置していた。
この部屋はオモリが近づきたがらないので、バーサーカーも彼に配慮してあまり使わないようにしていたが、今回は仕方なかっただろう。

「オモリ、またステーキなの…?」

バーサーカーはステーキは嫌いではないにせよ、彼に任せるとステーキを選ぶ頻度がかなり多い。
というか寝起きにビーフステーキはどうなのだろうか。重すぎるのではないか。そもそも頼んだオモリが毎回残している。

オモリは雑に頷き抗議を黙殺すると、食卓の席を引いて座るように促す。

「食べながら話をしよう。バーサーカー」

138方舟の救いと洪水の救い ◆WutzLL0xx2:2023/12/27(水) 02:40:12 ID:4Rbxc5TA0
★★★★★



現実でも話をするようになったのは、聖杯戦争を戦うことを決めたあの日からだ。
バーサーカーの目に映る夢世界の"オモリ"は無敵の、ある種怪物じみた少年だ。
サニーの自己愛と自己嫌悪から産み出された、夢世界の主人公。

現実でこうしてステーキを上品に小さく切って食べる姿を見ると、そのような印象も少し薄れる。
夢世界で武器としているナイフも、こちらではただの食器だ。
オモリだって、現実では"サニー"とそう変わらない行動しか取ることは出来ない。

「次回からの配信は、この家で行うほうがいい」
「本戦に入り、宿儺や羂索という存在が明らかになり、僕たちを狙う者まで現れた。外部にそれと分かる時間に、あなたを僕から大きく離すほうがリスクがある」

それでも、きっと"サニー"ではなく"オモリ"であるからこそ。
このような極限の殺し合いで、恐怖に囚われずに行動出来るのだろう。
それがサニーのイメージする、冒険譚の主人公だから。

そんなことを考えながら、バーサーカーは二皿目のステーキに手を伸ばす。
飽き飽きしたつもりでいても、このステーキは確かに美味しい。

「そうだね。配信をやめる訳にはいかない。今度こそ正しくみんなを救えるって、ちゃんと証明するんだから」

本来、この配信はリスクなく敵マスターを削るための、罠でしかないはずだった。
NPCに真の意味での心がないなら、バーサーカーの歌を聞いてもウタワールドに至ることはない。
ならば、バーサーカーの歌はNPCにとってはただの天上の美歌であり、マスターにとっては予知不可能な、致命的な攻撃となる。
この計画は、一部は正しかった。

「フユキのNPCには、心がある。フユキの外の書き割りの人間たちとは違って。なら、あなたが彼らを救おうとするのは分かる」

推測が間違いだと分かったのは、配信を始めてから少し経ったあとのことだった。
同接数が爆発的に増えて以降、明らかにマスターではない一般人がウタワールドに来るようになった。
配信を切った後に少し話してみると、彼らの共通点はすぐに分かった。
冬木の人間であること。

「ありがとう。オモリ。──今日の配信、昼間なのにとても沢山の人が聞いてくれてたよね?」
「前よく来てたのに、最近見かけなかった人も結構いたんだ。夢のオモリより小さな、癖毛の男の子とか、お医者さんをしてるって言ってた女の人とか。聞いてみたら、いやこれまでも来てた、ってみんな答えたんだ」

「…"ワールドリセット"」

オモリはコミュニケーション能力に欠けているが、頭は悪くない。バーサーカーは即座に理解されたことに驚きつつ、補足する。

「そう。きっと一度──予選の戦いに巻き込まれて死んでたの。そして、蘇って記憶の補完をされた」
「私の歌を聞いてくれた人たちが死んで。そしてこれからの本戦で、きっと私が何もしなければ同じくらい…いや、もっと死ぬんだよ」

冬木のNPCは心無い人形ではないと知ってから、バーサーカーはずっと迷っていた。
この世界で、歌を聞いてくれた人たちを救うべきか。
救う計画自体は、ずっと立てていた。
それでも、ただ聖杯戦争のことのみを考えるのなら、NPCのことなど考えないほうが早い。
自分だけならばともかく、オモリのことを考えると踏み切りきれない部分があった。
けれど。

「駄目。私は聖杯戦争を許せない。ここは大海賊時代と同じ、強い人が我を押し通して、弱い人たちはただ死ぬことしか出来ない場所だよ」
「私はみんなを、この狂った聖杯戦争から救う。そんなことも出来ないなら、"新時代"を作ることなんて出来ない」
「オモリ、お願い。力を貸して」

「あなたがそう望むのなら」

一切れのステーキを飲み込むと、オモリはあくまで淡々とバーサーカーの言に応える。

「あなたの、聖杯戦争の終わりまでNPCを眠らせ避難させて、最後に連れて行く、というやり方は僕にも良いことがある」

「良いこと?」

バーサーカーは首を傾げる。

「あなたが今回隠した力──夢世界に来た人たちの体を動かせる力を使えば、安全な範囲でよりあなたの歌を届けられる」

連鎖的な大規模な歌の展開。元の世界でも行ったそれは、大量のNPCをウタワールドに引き込むからこそ出来る戦術だ。

「それに、僕の安全もより守れる。僕のこっちでの姿を知ってるのは、あなたしかいない。だから、眠るNPCの中に紛れられる」

「あ」

バーサーカーは三皿目のステーキを食べ終わり、目前の"オモリ"を見る。現実では"オモリ"は白黒の子供──では、ない。
「オモリ」と言う名も、白黒の子供の姿も、声変わり前の高い声も。
星の円卓で青の陣営に見せた姿は、全て夢の中だけのものだ。

「名前も顔も、声だって分からないマスターを」
「冬木中にいる、眠り続けるNPCたちの中から見つけるのは、とても難しいはず」

139方舟の救いと洪水の救い ◆WutzLL0xx2:2023/12/27(水) 02:41:53 ID:4Rbxc5TA0
夢の中で特徴的な姿をしていることが、逆に迷彩として機能する。
現実世界におけるオモリの外見は、この街ではありふれた東アジア系の、育ちの良さそうな少年だ。
雰囲気や顔立ちは、たしかに夢のオモリに近いものはあるけれど、成長期を含んだ四年の差はかなり大きい。

星界円卓で現実の"サニー"の姿ではなく、オモリとしての姿を取った原因は、一つはあの場所が夢世界に近い存在であるからだろうと二人は推測していた。
けれどバーサーカーはもう一つ、理由があると信じている。
"オモリが黒い羽に触れたのが、夢世界であるから"だ。
オモリは夢世界から呼び出されたのだと、夢世界もまた、聖杯が一つの世界として認めたのだと信じている。
それが、彼女の根幹を為す思想だ。

「油断しちゃ駄目だよ、オモリ」

四皿目のステーキに手を伸ばしながら、バーサーカーはオモリの言を咎める。
バーサーカーは、生前の世界の技術に詳しいという訳ではない。それでも、英霊の座に至る英傑の類ならばこの工作ですら、破りうるのだと理解している。

「羂索とかいう呪術師は、呪霊で広範囲を探索できる…‥ってケイが言ってたでしょ。それに、探知に長けたサーヴァントだってきっといる」

見聞色の覇気。世界すら滅ぼし得る『トット・ムジカ』を打ち破った、条件次第で夢世界と現実の垣根すら超えて探知できる極点の観測技術。
バーサーカーはその名は知らないが、技術の存在は知っている。
都市一つを丸ごと探知出来るような英霊すら、あるいは存在するのかもしれないと理解している。

「あと…シブヤって街を更地にした、両面宿儺。そんな攻撃手段があれば、隠れててももうあんまり意味ないよね」

ケイから警告された二人の敵。羂索と宿儺。
ただ聖杯戦争を勝ち抜く上で、障害となる強敵という意味だけでなく。
NPCの生存を目指すバーサーカーにとっても、自身の──サニーの生存を目指すオモリにとっても、羂索と宿儺は最大の敵だ。
広域破壊手段とそれをなんら呵責なく使用出来る人格を併せ持つ、彼らを落とさなければならない。

「バーサーカー」

皿の上のステーキはまだ半分程残っていたが、オモリはそれ以上食べるのを諦めてナイフを置く。

「Dr.アナトミーと、手を結んで良いのか」

オモリは状況を理解している。羂索と宿儺という脅威がいる限り、それ以外の陣営は結託して彼らを落とすのが最善だ。
彼の言葉を信じるならば、繰田孔富はどちらとも陣営を共にしていない『白の陣営』に属する。ならば、青の陣営と白の陣営は共同戦線を張るべき。
机上の計算の上では、自明な道理だけど。
オモリはそっと、机の上の「地獄の回数券」に目を向ける。

「あの人はドラッグを作り、子供を戦いに巻き込み、普通の人たちを殺して──それを問題だとも考えていない」
「彼の言う救いが、あなたの救いと同じ意味だとは思えない」

現実のオモリは、夢世界のオモリより少しだけ感情が分かりやすい。
予選期間を共にしたバーサーカーには、彼の声が確かな嫌悪を孕んでいることが理解できた。

バーサーカーは、半分になったオモリのステーキに目を落としながら呟く。

「そうだね……私も、孔富は嫌い」
「あの人は悪い海賊と同じ」
「孔富は悪い人で、本当に願いを共有してるかも全然分からない」

それでも、確かなことがある。

「悪人でも、信用出来なくても……あの人は、救いを求めてるんだよ」
「なら……なら、私から手を離す訳にはいかない」

悪人だから、罪人だから救うべきでないと言うのなら。
真っ先に救われる資格がなくなるのは、自分たちだから。

バーサーカーが飲み込んだ言葉を、オモリは察する。
オモリはもう何も言わず、そっと半分になったステーキを差し出した。

「…別に、食べたいとかいう訳ではないんだけどな」

口では不満そうにしながら、それでもバーサーカーは笑顔を見せた。

【オモリ@OMORI】
[状態]:健康
[令呪]:残り三画
[装備]:なし/赤いナイフ(夢の中)
[道具]:地獄の回数券
[所持金]:豊富?
[思考・状況]
基本方針:サニーのために、聖杯を手に入れる
1:バーサーカーが望むなら、NPCを救う
2:繰田孔富は組むべき相手。けれど信用しきれない
3:宿儺と羂索に対処する
[備考]

【バーサーカー(ウタ)@ONE PEACE FILM RED】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:地獄の回数券
[思考・状況]
基本方針:聖杯を手に入れて、"新時代"を作る
1:やっぱり、この世界のファンも救いたい。
2:あの極道(繰田孔富)は嫌い。けれど救わないといけない
3:宿儺と羂索、なんとかしないとね
[備考]

140方舟の救いと洪水の救い ◆WutzLL0xx2:2023/12/27(水) 02:43:17 ID:4Rbxc5TA0
★★★★★


「随分と上機嫌だな」

不機嫌そうに、キャスターは言う。

拠点の一つである廃診療所に戻った"怪物医"は、電話で"地獄の回数券"の製造状況を確認していた。
"U.T.A"のライブが終わるとすぐに眠っていた極道たちは目覚め、新たな指示を与えられ去っていった。
この古い木の匂いと、新しい消毒剤の匂いがする診療所には、今は孔富とキャスターのみが残る。
孔富は電話を置くと、キャスターに微笑みかける。

「ええ。勿論」
「期待通り、いや期待以上だわ。あの子たちは本当にこの世界を"救済"しようとしている」
「…病人どもが。まずは自分の治療に専念してから世界を治すと言え」

接した時間こそ僅かだったが、キャスターの医師の感性は、あの"U.T.A"を名乗るバーサーカーも、"オモリ"を名乗るマスターも孔富と同様の病人だと告げていた。
無論、病気は患者により一人ひとり違う。彼らの病名は別かもしれないが、行動は同じだ。

「それで、どうするつもりだ。あいつらの言葉に素直に乗って、"宿儺"や"羂索"と戦うのか」

「あの子たちの力にはなってやりたい所だけれど、私達だけで戦うのはまあ無理でしょうネェ。やるなら"白"と"青"の同盟戦──かしら?」

彼らの話を信じるならば、宿儺と羂索はそれだけのことをしてでも落とす価値はある。
孔富は机の上に置かれた、モノクロの無表情な電伝虫に目をやる。

「まあ、"白"の円卓に話を持っていく位はしてあげましょう。その先は"青"の出方次第ねえ」

又聞きの間接的な情報とはいえ、有力な敵の情報と他陣営の方針の共有は陣営にとって有用だろう。

そこまで考えて、キャスターは疑問に思う。

「何故、お前は奴らにそこまで入れ込む?」
「奴らの主張する"宝具を使い、死ぬしかないNPCたちを助け出す"ことが、お前の狂った主張に叶うのか?」

バーサーカー主従の主張は、自らの病状を鑑みぬ冒険的な願いだ。実行者が彼らであるというリスクを鑑みれば、キャスターには成功の見込みなどない奈落にしか見えない。
それでも、主張自体は平和的だ。
"麻薬の齎す人工の幸福の下で殺す"ことを救いと呼ぶ孔富の願いとは、反するものに思える。
寧ろ偽りの電脳世界の中で、世界の真実を知らないまま聖杯に溶けていくことを救いと呼びそうな男だ。

「キャスター。貴方は彼女の宝具をどう使って、NPCを救うつもりだと思う?」

「…聖杯を使うのだろう?あの女の宝具は、おそらく奴の固有結界に近い。夢という限定された、特殊な形態で展開する代わりにあのような万能性を持っている。ならばイメージを、願いを具現化する聖杯を使えば奴は、万能の世界そのものを避難所として現実に──」

「いいえ、違うわ」
「あの子たちは魔術の知識もない。聖杯の知識だって、聖杯から与えられたものだけのはず」
「あの子たちは──与えられたものを、その通りに使ってるだけ。あの夢を操る、夢のような力は、そのままでNPCを救えるの」

そうでなければ、あの子たちはNPCを救おうなんて言わないわ。
孔富はまるで見透かしているかのように、彼らの思考を言う。キャスターはその姿に不気味なものを感じ、それでも反駁する。

「…妙なことを。夢想の幸せと、音楽で心を救ったとしてそれがこの滅びゆく世界では何にもならない。そんなことなど、奴らも理解しているはずだ」
「だから、そうではないのよ。あの子たちの言う救いって言うのは──夢の世界に、NPC皆を連れて行くこと」
「文字通り、この病んだ世界の全てを、肉体すら捨て去ってね」

根拠などないだろう。
簡単に言い放つことの出来るはずの言葉は、しかしキャスターの喉で止まっていた。
バーサーカー主従の、夢の世界と現実を等価に語るような言動。バーサーカーの、夢の世界に心そのものを導く能力。その狂った結論は、確かにシンプルな答えであった。

141方舟の救いと洪水の救い ◆WutzLL0xx2:2023/12/27(水) 02:44:02 ID:4Rbxc5TA0
「それはただの殺人だ。病める神の箱庭で心を飼われる結末を、救いと呼ぶだと…!」
「見解の相違ね。彼女の世界も完璧ではないかもしれないけれど、この偽りの世界に比べれば随分とましでしょう」

孔富は救済者を志す者の一人として、敬意を持って話す。
絶句するキャスターに、孔富は話を変える。

「ねえ医神サマ、"創世記"──ノアの方舟のエピソードはご存知?」
「…聖杯の知識にある。僕の嫌いな話だ。傲慢にも正しきノアとその家族以外のすべての人々を罪人と断じ、大水に流した愚かな神の物語に過ぎない」

そのようなことをすれば、地上の叡智のどれほどが失われたかすら分からない。
キャスターは嫌悪を顕にする。

「あの子の救いは、神サマがノアを救ったやり方と同じ。福音を──あの子の歌を聞いた人たちだけを救う。このやり方じゃあ、どうしてもすべての人を救うことは出来ないわ」

バーサーカーの言う救うべき"みんな"というのは、飽くまで彼女の歌を聞いた人たちでしかない。
けれど孔富は、より多くを救うことを志している。
この病んだ世界の、総てを。

「だから救済(すく)いましょう。方舟に乗れなかった人たちを、私達の大洪水(タイダルボア)で」

バーサーカーが計画を実行し、冬木を眠らせる。NPCを安全な場所に避難させ、あるいは手駒として使う。
そしてその後に孔富が上水道に麻薬水を流し、残りを救う。

バーサーカーが冬木の有意な割合の人々を眠らせるなら、彼らは水を消費しなくなる。
消費量が減れば、都市の水利システムは取水量を制限する。──つまり、より少ない量の麻薬で、必要な濃度に達することが出来る。

聖杯戦争という観点で考えれば、バーサーカーの歌と水道の麻薬水という全く異なる二つの脅威に、同時に対応せねばならない状況を他主従に強制出来る。

孔富の救済にとって、あのバーサーカー主従は最適な相方だ。
近しい願いと、噛み合った目的。

「ああ医神サマ──貴方は創世記の洪水を、罪人への罰だと言ったけれど、私はそうは思わないわ。神サマが下さったのは罪人への救いよ。この病んだ世界で生き、罪を重ね、苦しむことから救って下さったの」

預言者のように、孔富は聖典の言を弄する。
その目には憧憬と、使命感がある。
表情だけを見れば、徳ある宗教者のようにすら見えた。
しかし彼を──彼ら病める救済者を放置すれば、現出するのは地獄に他ならない。

孔富は満足そうに、さらなる準備のために廃診療所を去っていく。廃診療所には、キャスターがただ一人残された。

(愚患者、共め…!)

身の丈に合わぬ救済を志すオルガマリーがましに見えるほど、この聖杯戦争には病める救済者たちがいる。
繰田孔富。"オモリ"。青のバーサーカー。
"オモリ"と青のバーサーカーは、確かに善性で誰かを救おうとしていたはずなのに、なぜそれ程に──孔富に思考を同調され、看破される程に墜ちたのか。
その病の根源は、一体何か。

(治さなければ、この僕が)

彼ら病めるものたちに対処出来るのは、キャスター──医神たるアスクレピオスに他ならない。
ただ戦い倒すのみならず、彼らの病を治す。
それが出来るのが、医の英霊たるアスクレピオスだ。

暗い廃診療所で、医神はただ一人決意を固めていた。

【繰田孔富@忍者と極道】
[状態]:健康
[令呪]:残り二画
[装備]:驚躯凶骸(メルヴェイユ)
[道具]:地獄の回数券
[所持金]:豊富
[思考・状況]
基本方針:聖杯による衆生の救済
1:"大海嘯(タイダルボア)"の準備を進めましょう
2:あの子たち(バーサーカー主従)を応援するわ。あくまで対等(タメ)でね
3:宿儺と羂索、何か対処するべきでしょうね
[備考]

【アスクレピオス@Fate/GrandOrder】
[状態]:健康
[装備]:アスクレピオスの杖
[道具]:医療道具
[思考・状況]
基本方針:医療のために
1:繰田孔富、オモリ、バーサーカー。愚患者共をそれでも治す
2:宿儺と羂索については、あの二人の言を信じるべきか
[備考]

142 ◆WutzLL0xx2:2023/12/27(水) 02:46:28 ID:4Rbxc5TA0
投下を終了します。

問題点等ありましたらご指摘ください。
今回は期限超過してしまい大変申し訳ありませんでした。

143 ◆WutzLL0xx2:2023/12/28(木) 22:36:22 ID:M264GEo.0
拙作「方舟の救いと洪水の救い」についてwikiへの収録、一部改稿を行いました。

特に状態表において、現在地および時刻が欠落していたので以下の通り追加を行いました。

オモリ・バーサーカー(ウタ)
【D-5・サニーの家/一日目・午後】

繰田孔富・キャスター(アスクレピオス)
【B-6・廃診療所/一日目・午後】

確認不足、大変失礼いたしました。
以上のとおりよろしくお願いいたします。

144 ◆T9Gw6qZZpg:2024/01/03(水) 22:46:42 ID:7j1ilXTY0
黒埼ちとせ&キャスター(シェヘラザード)
予約します。

145 ◆T9Gw6qZZpg:2024/01/09(火) 06:23:30 ID:9OIw6V/M0
投下します。


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