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UnHoly Grail War―電脳世界大戦―Part2

140方舟の救いと洪水の救い ◆WutzLL0xx2:2023/12/27(水) 02:43:17 ID:4Rbxc5TA0
★★★★★


「随分と上機嫌だな」

不機嫌そうに、キャスターは言う。

拠点の一つである廃診療所に戻った"怪物医"は、電話で"地獄の回数券"の製造状況を確認していた。
"U.T.A"のライブが終わるとすぐに眠っていた極道たちは目覚め、新たな指示を与えられ去っていった。
この古い木の匂いと、新しい消毒剤の匂いがする診療所には、今は孔富とキャスターのみが残る。
孔富は電話を置くと、キャスターに微笑みかける。

「ええ。勿論」
「期待通り、いや期待以上だわ。あの子たちは本当にこの世界を"救済"しようとしている」
「…病人どもが。まずは自分の治療に専念してから世界を治すと言え」

接した時間こそ僅かだったが、キャスターの医師の感性は、あの"U.T.A"を名乗るバーサーカーも、"オモリ"を名乗るマスターも孔富と同様の病人だと告げていた。
無論、病気は患者により一人ひとり違う。彼らの病名は別かもしれないが、行動は同じだ。

「それで、どうするつもりだ。あいつらの言葉に素直に乗って、"宿儺"や"羂索"と戦うのか」

「あの子たちの力にはなってやりたい所だけれど、私達だけで戦うのはまあ無理でしょうネェ。やるなら"白"と"青"の同盟戦──かしら?」

彼らの話を信じるならば、宿儺と羂索はそれだけのことをしてでも落とす価値はある。
孔富は机の上に置かれた、モノクロの無表情な電伝虫に目をやる。

「まあ、"白"の円卓に話を持っていく位はしてあげましょう。その先は"青"の出方次第ねえ」

又聞きの間接的な情報とはいえ、有力な敵の情報と他陣営の方針の共有は陣営にとって有用だろう。

そこまで考えて、キャスターは疑問に思う。

「何故、お前は奴らにそこまで入れ込む?」
「奴らの主張する"宝具を使い、死ぬしかないNPCたちを助け出す"ことが、お前の狂った主張に叶うのか?」

バーサーカー主従の主張は、自らの病状を鑑みぬ冒険的な願いだ。実行者が彼らであるというリスクを鑑みれば、キャスターには成功の見込みなどない奈落にしか見えない。
それでも、主張自体は平和的だ。
"麻薬の齎す人工の幸福の下で殺す"ことを救いと呼ぶ孔富の願いとは、反するものに思える。
寧ろ偽りの電脳世界の中で、世界の真実を知らないまま聖杯に溶けていくことを救いと呼びそうな男だ。

「キャスター。貴方は彼女の宝具をどう使って、NPCを救うつもりだと思う?」

「…聖杯を使うのだろう?あの女の宝具は、おそらく奴の固有結界に近い。夢という限定された、特殊な形態で展開する代わりにあのような万能性を持っている。ならばイメージを、願いを具現化する聖杯を使えば奴は、万能の世界そのものを避難所として現実に──」

「いいえ、違うわ」
「あの子たちは魔術の知識もない。聖杯の知識だって、聖杯から与えられたものだけのはず」
「あの子たちは──与えられたものを、その通りに使ってるだけ。あの夢を操る、夢のような力は、そのままでNPCを救えるの」

そうでなければ、あの子たちはNPCを救おうなんて言わないわ。
孔富はまるで見透かしているかのように、彼らの思考を言う。キャスターはその姿に不気味なものを感じ、それでも反駁する。

「…妙なことを。夢想の幸せと、音楽で心を救ったとしてそれがこの滅びゆく世界では何にもならない。そんなことなど、奴らも理解しているはずだ」
「だから、そうではないのよ。あの子たちの言う救いって言うのは──夢の世界に、NPC皆を連れて行くこと」
「文字通り、この病んだ世界の全てを、肉体すら捨て去ってね」

根拠などないだろう。
簡単に言い放つことの出来るはずの言葉は、しかしキャスターの喉で止まっていた。
バーサーカー主従の、夢の世界と現実を等価に語るような言動。バーサーカーの、夢の世界に心そのものを導く能力。その狂った結論は、確かにシンプルな答えであった。


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