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【アク禁】スレに作品を上げられない人の依頼スレ【巻き添え】part5

1名無しリゾナント:2014/07/26(土) 02:32:26
アク禁食らって作品を上げられない人のためのスレ第5弾です。

ここに作品を上げる →本スレに代理投稿可能な人が立候補する
って感じでお願いします。

(例)
① >>1-3に作品を投稿
② >>4で作者がアンカーで範囲を指定した上で代理投稿を依頼する
③ >>5で代理投稿可能な住人が名乗りを上げる
④ 本スレで代理投稿を行なう
その際本スレのレス番に対応したアンカーを付与しとくと後々便利かも
⑤ 無事終了したら>>6で完了通知
なお何らかの理由で代理投稿を中断せざるを得ない場合も出来るだけ報告 

ただ上記の手順は異なる作品の投稿ががっちあったり代理投稿可能な住人が同時に現れたりした頃に考えられたものなので③あたりは別に省略してもおk
なんなら⑤もw
本スレに対応した安価の付与も無くても支障はない
むずかしく考えずこっちに作品が上がっていたらコピペして本スレにうpうp

790名無しリゾナント:2015/03/19(木) 12:02:01


で、今回の件である。
堀内が猛り狂うのも当然と言ったところなのだが。
それに対する電話越しの彼女の反応は。冷ややかな、ため息。

「申し訳ないのですが、こちらもそれどころではないので。そうだ。あなたたちが我々に内緒で雇っていた
『先生』のところの能力者にでもお願いしたらどうですか?」
「き、貴様!よくもそんなことを!!」
「もしかして、断られたのですか? まあ…彼女たちも多忙でしょうしねえ」
「は、はははははは!!!!!!!!!!」

人間、あまりにも理不尽な怒りに包まれると笑いすらこみ上げてくるという。
堀内の今の状況も、まさにそれだった。

「話にならんな!!!!貴様じゃ埒が開かん、『首領』を出せ!!!!!!」
「生憎、席を外しておりまして。まあ、この件であなたとお話になることはまず、ないでしょうけど」
「なら貴様の発言!『首領』も含めた組織の総意と思っていいんだな!?」
「…構いませんよ」
「そうか!そうか!!貴様らは表面では我々にへこへこしておきながら、裏ではしっかり舌を出してたわけ
だな!!!!いいだろう、我々を甘く見ていると…」
「ご用件はそれだけですか。じゃあ、長話はこれで。私も、そこまで暇ではないので」

まるで次に堀内が何を言うかを予想していたかのように。
絶妙な、堀内からすれば最悪のタイミングで電話は切られてしまった。

791名無しリゾナント:2015/03/19(木) 12:03:58
「…くっ、そがぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

ぶつけるはずだった怒りのやり場も見つからないまま、獣のように吠える堀内。
しかし。気を取り直す。気持ちを、切り替える。

あいつは。我々が切り札、「あれ」を使わないと思っている。いや、使えないと思っている。

だからこそ、あのような舐めた口を利けるのだ。
確かに、「あれ」は先程まで話していた女が開発し、そして秘密裏に堀内たち5人の権力者に引き渡された
ものだ。
そこには開発者としての性能の把握、つまりおいそれとは使えないだろうという「常識」が思考の根底にあ
るに違いない。

悪童たちが何を目的にリヒトラウムに乗り込んだのかはわからない。
ただ、たとえ目的があれの掌握だとしても。案ずることはない。あのような連中に、使いこなせるはずがな
いのだから。
むしろ、奴らが妙な真似をする前に、こちらが使ってやる。

ノートPCを起動させ、ボタンを押す。
モニターに現れる、四人の同志たち。

「どうした」
「…使うぞ。『ALICE』を」

堀内が発した言葉に、しばし言葉を失う四人。
しかしその顔は、絶望など微塵もない希望。躊躇のない、好奇心。
そういったものに、溢れていた。

792名無しリゾナント:2015/03/19(木) 12:07:28
「そうか。いよいよか」
「リヒトラウムに緊急事態が発生した。最早一刻の猶予もない」
「まあ、使う時が少しだけ早くなっただけだ」
「幸い、ダークネスの有力者たちは本拠地に固まってる。一掃のチャンスだな」

彼らは、むしろ今が好機だとばかりに、口々にそんなことを言う。
体よく能力者を使っていた彼らの、傲慢のさらに向こう側にある根本的な感情。

恐怖。

自分たちとは、まったく異なる存在。
その異質さに、彼らは恐怖していたのだ。
だからこそ、決断する。やつらを完全に飼い慣らす必要があると。

「…ただ使うだけじゃない。あいつらに最大限の屈辱を与えてから、使ってやるさ」

能力者などというバケモノどもに、教えてやる。この地上に君臨するのは…我々だ。

堀内の暗い情念は既に、闇の底で蠢きはじめていた。

793名無しリゾナント:2015/03/19(木) 12:08:13
>>786-792
『リゾナンター爻(シャオ)』更新終了

794名無しリゾナント:2015/03/23(月) 14:05:09
>>786-792 の続きです



施設各所から吹き上げる炎の柱は、光の国の居城前からもはっきりと見ることができた。
炎の根元がどういう状況になっているかは、想像しなくても理解できる。

「どうしよう、このままじゃ遊びに来た人たちが!!」
「とにかく、助けなきゃ!!」
「その必要はないね」

リゾナンターたちの言葉を遮るように、一人の少女が目の前に降り立つ。
へそ出しショートパンツという軽装の、ポニーテール。
その顔には、見覚えがあった。

「こいつ…この前の譜久村さんに擬態してた!」

亜佑美が、思い出す。
確かに少女の顔はあの時の襲撃者のそれによく似ていた。が。

「ざけんな。あんな出来損ないと一緒にすんなって。まいいや、”のん”が面白い場所に、連れてってあげる」

それだけ言うと、右手をリゾナンターの面々に翳す。
何かの攻撃か。身構えた一同だったが、次の瞬間には少女は姿を消していた。

795名無しリゾナント:2015/03/23(月) 14:05:45
「何やったと、今のは…」

衣梨奈がそう言ってしまうほどに。
思わせぶりな登場の仕方にしては、拍子抜けな結末。
姿を消して不意打ちでも食わす、というわけでもなさそうだ。
しかし、傍らにいた優樹は気づいていた。重大なことに。

「生田さん…」
「何、優樹ちゃん」
「みんなが、いなくなっちゃいました」
「え!?」

優樹の言うとおりだった。
姿が、ない。
香音。春菜。遥。さくら。
四人の姿が、一緒に消えていたのだ。

796名無しリゾナント:2015/03/23(月) 14:06:21


視界が、歪んだと思ったら次の瞬間に。
香音は、目と鼻の先に自分によく似た人物が間抜けな顔をして突っ立っていることに気づく。

「ひゃあっ!?」

普段は滅多に出さない、女の子らしい声。
驚き後ろに飛び退くと、正面の相手も同じような格好で後ろへと飛んだ。

「もしかして…鏡?」

言いながら、右手を上げてみる。
やはり同じように、左手を上げるぽっちゃり娘。
間違いない。上げた手を正面につくと、ひんやりとした感触が伝わった。

「みんなは?」

辺りを見回す。
しかし目に映るのは、たくさんの戸惑っている香音だけ。
上下左右、あらゆるところが鏡張りになっているようだ。

― 鈴木さん、大丈夫ですか? ―

心の声が、訴えかけてくる。
この声は。

797名無しリゾナント:2015/03/23(月) 14:07:26
― 小田ちゃん? ―
― はい。今、どこにいますか? ―
― 何だか鏡だらけの場所にいるみたいで ―
― 私もです。どうやらミラーハウスみたいな場所に転送されたみたいで ―

「ちっ、四人しか転送できなかったか。しょぼい能力だししょうがないか」

そこへ割り込んでくる、少女の声。
先ほど香音たちの目の前に現れたあの少女のものだ。

「こんな場所に連れて来たのは、あんただね!」
「そうだよ。お前らが知ってるとおり、のんの能力は『擬態』。お前らの姿になら、いつでも化けられる。
鏡だらけのミラーハウスでそんな力を使われたら、どうなると思う?」

― 鈴木さん! 飯窪です! その人はきっと、私たちに擬態して混乱させるつもりです! ―

横から聞こえる、甲高い心の声。
さくらの他に、春菜も連れて来られたのか。敵の少女は確か四人連れて来たと言っていた。となるともう
一人、ミラーハウスにいるはず。

「鈴木さん!みんな!!ハルのところに合流してくださいっ!!」

鏡の向こうから、大声で叫ぶハスキーボイス。
最後の一人は遥だったか。擬態を得意とする相手、しかし春菜と遥がいればもしかしたら。

798名無しリゾナント:2015/03/23(月) 14:08:24
「わかった!こんな鏡なんてすり抜けて…」

香音の持つ「物質透過」があれば、鏡の障害などものの数ではない。
勢いよく鏡に向かって突っ込んでいった結果。

殴られた。

走りこんだ香音と同じようにこちら側に向かっていく彼女の鏡像は。
途中で動きを止め、それから「鏡」の世界の外側の香音に向かって、綺麗な右ストレートを決めたのだ。ひ
っくり返り倒れる香音。
香音が鏡だと思っていたのは、少女が香音に「擬態」した結果のもの。

「けけけ、騙されてんじゃねーよ。ばーか」

明らかに香音を馬鹿にした言葉を残し、少女は足早に走り去ってしまった。

鏡像と、「擬態」。この組み合わせは。
早く他の三人と合流しないと、まずいことになってしまう。
殴られたダメージはそれほどではない。おそらく途中で「物質透過」を使ったせいだろう。気を取り直し、
立ち上がる。聞こえてくる心の声を頼りに、香音はすぐ側のの鏡を通り抜けていった。

799名無しリゾナント:2015/03/23(月) 14:08:59
>>794-798
『リゾナンター爻(シャオ)』更新終了

800名無しリゾナント:2015/03/24(火) 12:36:40
リゾナン史を編むということは砂漠でオアシスを探す行為に似ていると私は思う。
何千何万と残された膨大なリゾナン文書の中からたった一つの真実を見つけたと思った次の瞬間、他の研究者によって新説をぶつけられた経験が何度もある。
その時の私は乾ききった大地の中でようやく見つけた桃源郷が蜃気楼だと知らされた探検家の境地に立っていたことだろう。
だがしかしそれで研究を諦めようと思ったことは不思議と無い。
私にとって人生とは旅のようなもので、終着駅に辿り着くことは最優先される目的ではなく、旅の過程を楽しむことこそ目的だというのが私のモットーだからか。

これから私が紹介するのは、リゾナンターの一人が書き残した手記である。
新垣里沙、共鳴の原点を知る者にしてCカップのボンキュッボンなボディで世の男性を悩殺したと伝えられる女性。
以下の手記がかの新垣里沙の真筆であるかどうか、いまだ確定していない。
真筆だったとしても、手記の内容が新垣里沙の真意であるかどうかも定かでない。
あるいは私がこれからやろうとしている行為は輝かしきリゾナンターの足跡に泥を塗ることかもしれない。
幾千幾万と存在するリゾナン史研究家を蜃気楼で惑わせる行為なのかもしれない。
それがわかっていながら私がこのほど発掘された手記を皆様に公開するのは一重にリゾナン史を編むという行為を楽しみたいからに他ならないことを前もって記しておく。

リゾナン史研究家   エリソン・P・カーメイ

801名無しリゾナント:2015/03/24(火) 12:37:29

2007/5/13

最悪だ
まったくもって最悪だ
最悪なのには慣れっこだけどこんなに最悪なのはあの日以来
天使が翼を失ったあの日あの時以来のことだ  ------------------(注1)

白い家と呼ばれるこの研究施設の外で仕事をしたことは何度かある
慣れ親しんだ自分の部屋のベッドでないと眠れないほどのお子ちゃまってわけでもない
でも今現在この白い家の最深部にはあの人がいる。
傷ついて翼を失ってしまったあの人がいる
この世界にいつまで留まっていられるのかわからない私だけの天使
安倍なつみを残して外に出ていけるはずがない

これがこれまでと同じような仕事
強制的に組織の為に働かせた外部の人間の記憶を改竄したり、正義感から組織を司直に摘発しようとした人間の記憶を書き換えたり
そんな薄汚い洗脳屋の仕事ならどの程度で仕事を終わらせられるかの目途も立つ
何日で戻ってこれるか計算できるが今回仰せつかった仕事は取りとめが無さすぎる

何年も昔に組織から連れ去られた人工能力者製造実験の被検体の捜索なんか私向きの仕事とは思えない
どう考えたって今回の件には何か裏がある

誰かが安倍さんに不埒なことを仕出かさないか
傍らで目を光らせている私のことを遠ざけようとしているとか

802名無しリゾナント:2015/03/24(火) 12:38:03

一縷の望みは下命の場に統括管理官と一緒に居合わせた女帝こと中澤さんが個別に話す席を設けてくれたこと
私から見れば組織の高みにいる人だけれどそれでも中澤さんは私と同じ能力者だ
そんな中澤さんに訴えれば雲を掴むような人探しの仕事からは逃れられるかもしれない
だけど結局説き伏せられたとしたらどうしよう
私みたいな下っ端なんかに拒否権なんか無い
無期限での被検体捜索の仕事の為に安倍さんの傍から離れなければならないとしたらどうしよう
確かに今あの人にはこの白い家の高度な医療機器や能力者の生態に通じた科学者が必要なのは事実だ
だが一番必要なのはあの人のことを何よりも、自分の命よりも大切に思っている人間の筈だ
この私みたいに

とにかく明日だ
明日の中澤さんとの面談に望みをかけよう



2007/5/14

力が欲しい
精神干渉
他人の精神に土足で踏み込む薄汚い力なんかじゃない
あの人を守れる力
あの人に危害を加えようとする全ての者を打ち砕くことができる強い力が欲しい

803名無しリゾナント:2015/03/24(火) 12:38:35

2007/5/16

能力者狩りに駆り出されることが結局決まってしまった
中澤さんに言いくるめられてしまった感があるのは否めない
ただ今あの人をこの世界に繋ぎとめておくには組織が有する科学力や蓄積された知識が必要なのは事実
しかしそれらのものをあの人に無条件で注入する程この組織が甘いものでないことも真実
中澤さんはともかくとして5人の老いぼれども

日本という国を影から動かしていると戯言を吐く五老星とも5ブラザースとも呼ばれる男たちは結果を求めている  ------------------(注2)
奴らにとって今の安倍さんは天使ではない
奴らの濁った眼には傷つき斃れ力を失った能力者のなれの果てにしか映っていないんだろう
かつての力を失てしまった安倍さんに奴らが手を出さないのは安倍さんが力を取り戻すかもしれない可能性を捨てきれないでいるからだ
しかしそんな状況でも奴らは安倍さんの身体を調べ、DNAのサンプルを採取し、何らかの施術によって強制的に力を回復できないか
実験したくてうずうずしている
そんな奴らの関心から安倍さんを逸らすには、奴らの気に入りそうな玩具を差し出してやるしかない。

それがi914
膨大な失敗の果てに生み出された唯一の成功例
能力が本格的に発現する以前にその生理学上の母親によって連れ出された幼児  ------------------(注3)

そんな彼女の生存が確認されたという
組織で人工能力者の製造プロジェクトに関わっていた研究員が成長した彼女と思われる女性を都内の某デパートで目撃したという
同じ能力者を犠牲にすることには気が咎める
しかし安倍さんを助けるためなら仕方がない
私は何としてもi914を見つけ出す

804名無しリゾナント:2015/03/24(火) 12:39:36

2007/5/23
疲れた
足が棒になったみたいだ
首都圏だけで三千万を越える人間の中からたった一人を見つけるのは簡単なことじゃない
でもそんなことは最初からわかっていた
あきらめるわけにはいかない



2007/5/28

報告の為に一度白い家に戻ったら中澤さんの計らいで安倍さんとの対面を許された
今日は調子が良いみたいだった
まるで銀翼の天使と呼ばれていたあの頃と全然変わらない感じ
この状態が続いてくれたらいいのに
位相が違うと中澤さんは言っていた
安倍さんは天使だから私たちと同じ位相には長く留まっていられないと
中澤さんが言っていることは難しすぎて理解できなかったが、状態の悪い時の安倍さんのバイタルの数値は生きていることが不思議なぐらい悪いのは私にでもわかる
そんな安倍さんを守るためなら私は何でもする

805名無しリゾナント:2015/03/24(火) 12:40:12

2007/5/31
こんなに一人の人間の画像を見つめたのは安倍さんのを除けば初めてだ
i914
幼い頃の彼女の画像に彼女の生物学上の母親のデータを加えて20歳の女に修正した画像
先日彼女を目撃した研究員の証言も加えた画像はもう確認する必要が無いぐらい頭の中に焼き付いてしまった
彼女は今何を思っているのだろう
もし彼女が自分の立場を理解しているのなら人目に触れる場所には出向かないだろう
離島とか山村とかに隠れ住むのか
しかしそういった場所は一旦追求の目が入れば逃れにくいという欠点がある
都会で住めば人目に付く危険は多いが、人に紛れやすいという利点もある
明日は研究員が彼女を目撃したというデパートに行ってみようか
そこで彼女が見つかるなんて甘いことはないだろう
しかし彼女が何を思いどう行動しているのか
捜索の手がかりぐらいは掴めるかもしれない



2007/6/1
見つけた  -----------------(注4)
神様ありがとう
あの人のことを救ってくれなかったあんたのことを呪ったこともあるけど今日だけは感謝する
これが全ての問題の解決に繋がるとは思ってもいない
でも安倍さんの為にいくらかの時間は稼げた筈だ
あの女、高橋愛と名乗ったi914には悪いけど安倍さんの為に犠牲になってもらうしかない

806名無しリゾナント:2015/03/24(火) 12:40:49

(注1) 安倍なつみの立ち位置にはいくつかの説がある。 組織の幹部として前面に出て戦っていたという説や、組織の方針に反し幽閉されていたという説。
     今回の手記の中で述べられている安倍なつみは負傷により能力を失ってしまったようであるが、その経緯が触れられているリゾ文書としては(22)432 『堕ちた天使』が挙げられよう

(注2) リゾナンターと敵対した組織、ここではもっとも通りが良いダークネスと称させていただくが、その組織の構造にも諸説がある。
     ダークネスという男を首領に抱くという説。
     中澤裕子こそが絶対無二のボスであったという説。
     中澤など紺野あさ美や飯田佳織一派の傀儡に過ぎないという説も一時期有力であった。
     比較的新しい時代のリゾ文書が集められた『爻(シャオ)』においては、日本の政財界の有力者もダークネスに発言権を有していたという記述が見受けられる
     彼ら有力者とダークネスの力関係については未だ確定していないが、今回の手記によって『爻(シャオ)』の信憑性が高まる可能性がある

(注3) この辺りの記述-高橋愛が幼児期にその母親の手によって組織から連れ出され - はリゾ文書(08)893 『葉を隠すなら森へ、愛を隠すなら名へ』と合致する。
(注4) 新垣里沙が高橋愛をデパートで見つけたという記述はリゾ文書 (03)649 『A Summer Day』で触れられている事象とかなりの部分で合致する。
     とはいえ一部矛盾する事柄もあるため、両者の整合性を検証するに当たりより洗練された翻訳者の協力及び文書の書かれた時期を確定するための最新の技術による炭素測定の実施が必要であろう

807名無しリゾナント:2015/03/24(火) 12:41:43
>>800-806
『新垣里沙の手記・其の一』

808名無しリゾナント:2015/03/24(火) 22:12:18
>>794-798 の続きです



一方、同じミラーハウスの別の場所に転送されていた春菜は。
「擬態」能力の持ち主がこの場所を戦場に選んだ目的を早くも理解していた。
しかし、春菜は心の余裕を保つ事ができる。なぜなら。

「おーい、はるなん!!」

すぐに、遥のものだとわかる塩辛い声。
彼女の「千里眼」と自分の「五感強化」があれば、相手がいかに自分達のうちの誰かに擬態しようとも
見破る事ができるはず。

遥の声のするほうへ駆け寄ると、相手もまた春菜を探していたようで、出会い頭でばったりと出くわした。

「なんだ、こんな近くにいたのかよ。いるんだったら返事くらいしろって」
「えっ、あ、ごめん。ちょっと考え事してて」

相変わらずの年上を敬わない態度、けれど今はそれが頼もしく映る。
能力者の少女の攻略に、遥の能力は不可欠だからだ。

809名無しリゾナント:2015/03/24(火) 22:13:39
「ねえくどぅー、『千里眼』で相手がどこにいるか、視える?」
「さっきからやってる。こっから斜め右方向でちょこまか動いてら」

忌々しげに遥が言うのを聞いたか聞いてないか、ミラーハウスの館内から大きな声が聞こえてくる。例
の少女のものだ。

「改めて自己紹介ね。のんは、『金鴉』。金のカラスって書いて、きんあ。”メインディッシュ”が来
る前にお前らと遊んでやるよ」
「くそ!とっとと出てこいよ!!」
「そうそう。のん、ダークネスの『幹部』って奴だから」

ダークネスの「幹部」。
この二つの言葉は、即座に緊張を齎す。
つまり、7人がかりで挑み、まるで歯が立たなかった赤い死神のことを、どうしても思い出させてしま
うのだ。

「そんな!まさか、あの子道重さんが言ってた…」
「幹部にしちゃ随分しょぼい能力使ってくるじゃん。『擬態』なんてせこい力、見破っちゃえばわけな
いって」

怖気づきかけた春菜の心を、遥の頼もしい言葉が支える。
確かにそうだ。彼女は自分のことを「オリジナル」と称していた。つまり喫茶店に現れたのは彼女のク
ローンなのだろう。しかし、使う能力が変わらず「擬態」ならば。

そこへ、鏡を通り抜けてきた香音が飛び出してくる。
ほぼ、同時に鏡の回廊を潜り抜けてきたさくらもやって来た。
「金鴉」と名乗った少女が連れ出したと思しき全員が、ここに揃ったわけだ。

810名無しリゾナント:2015/03/24(火) 22:14:48
「これで全員っすか?」
「多分…周りに他の子たちの気配もないし」

遥の問いに、香音が頷く。
香音。春菜。遥。そしてさくら。前線でも戦えるさくらを除き、見事に後方支援のメンバーが狙い撃ち
された格好だ。

「これはヤバいですね…」
「でも、逆に言えばチャンスかもしれない。私の『嗅覚強化』とくどぅーの『千里眼』があればね」

春菜の考えはこうだ。
いくら相手が「擬態」して自分達に化けようが、個人特有の匂いだけは誤魔化せないだろう。また、相
手の位置は常に遥の「千里眼」によってマークされている。

「それと、あの時道重さんに教えてもらった…」
「うん。これだね」

さくらと香音が、自らの右手の甲を見せる。
それを見て、他の二人も。甲には大きく「×」の文字が書かれてあった。

擬態能力者の襲撃があった日。
自分達に姿を変えて再襲撃してくるであろう刺客対策として、さゆみから教えてもらった策。

「ははは、あいつ、得意げに何か言ってたけど、うちらがこれだけ対策してるのなんて知らないだろうね」

そんなことを言いながら笑う香音。
しかし、その背後からナイフをかざした遥が。

811名無しリゾナント:2015/03/24(火) 22:16:20
「あぶないっ!!」

その瞬間を目撃したさくらが、時間停止を仕掛ける。
さくらが止められる時間など、瞬きするかしないかくらいの僅かな時間しかない。が、不意を衝いた襲
撃を防ぐには十分だった。

「いって!!」

さくらに突き飛ばされた遥が、後ろの鏡にぶつかり尻餅をつく。
止められた時間の中にいた香音と春菜は一瞬何が起こったのかわからないようだったが、すぐに事の重
大さに気づく。

「え?くどぅー!?」
「どうして!!」
「はるの千里眼舐めんな!お前、鈴木さんに擬態した偽者だろっ!!」

戸惑う三人を他所に、遥は大きくそう叫んだ。

「そんな!だってみんなの手の甲には×印が…」
「あいつの姿がどこにも見当たらないんだよ!!どこに消えたか探したら、見えたんだ!こいつの中に、
『金鴉』とかいうやつの姿があるのを…」
「かのは偽者じゃない!だってさっき、偽者に会ったばかりだし!ほら!『能力』だって使えるから本
物だって!!」

遥に疑われ、近くの鏡に自らの手を出し入れしながら、必死に香音は自分が本物である事を弁明する。
確かに、擬態能力の持ち主ならばそのような芸当はできないはずだが。

812名無しリゾナント:2015/03/24(火) 22:17:27
「いや…でもまさか…もし、『能力』すら擬態できる奴だったら」
「ええっ!そんなことできるんですか!?」
「わかんねえけど、もしそうなら『鈴木さん』のアリバイはあてになんないよ!!」
「そんなこと言ったらどぅーだって!!」
「はるはあいつの声が館内に響いてる時に、はるなんといたし!!」

疑念が疑念を呼び、収拾がつかなくなりつつあるが。
もしも相手が「能力」さえ擬態できるとしたら、四人のうちの全員が怪しいということになってしまう。

「確かにくどぅーの言うとおり、私は『金鴉』が大声で話してる時、一緒にいました」
「だよな。鈴木さんは? 小田ちゃんはどうなんだよ」
「それは…」

彼女たちには自分の身の潔白を証明してくれる人間がいないのは明らかだった。
となると、疑いはいよいよ二人のうちの一人に絞られてくる。

「か、かのはあいつの、『金鴉』の姿を見てるんだから…だとしたら」
「え、わ、わたしですか!?」
「・・・だったら『小田ちゃん』しかいないな。諦めて姿現せよ」

矛先を向けられたその瞬間。
さくらの姿が掻き消えた。

「やっぱりだ!あいつ、正体がばれたから逃げたんだよ!!」

そう。
この瞬間に、擬態していた真犯人は明らかにされた。
そのことを知らないのは、真犯人だけではあったが。

813名無しリゾナント:2015/03/24(火) 22:18:36
>>808-812
『リゾナンター爻(シャオ)』更新終了

814名無しリゾナント:2015/03/26(木) 12:09:19
【但し書き】

・↓の話は〜 コールドブラッド〜の二次創作的な何かです
・設定の一部を使わせて頂いてますが完全に踏襲しているわけでもないです
・〜コールドブラッド〜を好きな方は不快に思われるかもしれません
 前もってお断りしておきます
・〜コールドブラッド〜なにそれ?食べたことないけどおいしそうという方は回避されることを一応推奨しておきます


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いたい……くるしいよ
いたい……だれかたすけて

…わたしに手を差し伸べてくれる「人間」なんかこの世界にいやしない
そんなことはわかってる
それがわかったからこんなことをしたんだ

でも…みじめだよ
苦しいよ
だれにも望まれずこの世界に生まれてきた
自分では望んでいない「力」の所為で振り回されて生きてきた
そして最後はこんな暗闇で一人苦しみながら死んでゆくなんて

ねえサブリーダーさん
あなたが自分の命を賭けてまで倒そうとした「吸血鬼」はまだくたばってませんよ
お堅いリーダーさん
どんな任務も完璧に果たしてきたあなたらしくないじゃないですか
「人類」の敵を殲滅するのがあなたのご立派な使命なんでしょう
さあ憎むべき「吸血鬼」にとどめを刺してくださいよ

815名無しリゾナント:2015/03/26(木) 12:09:50


声も出ないや
そうだよね
わかってる
あの二人がミスってわたしが生きているのを見落とすはずがない
情けをかけて見逃してくれたわけでもない
わたしはもう助からない
そんなことわかり過ぎるくらいにわかってるんだ


わたしは「吸血鬼」だ
ノーマルの人間では有り得ない身体能力と超感覚を持っている
物理的なダメージにも強い
ちょっとぐらいの傷なら超速再生していくしほんと
どこの破面(アランカル)だってぐらいのものよ
我が名は第6エスパーダ、コハルーノ・クスミリエなりってなぐらいのものよ

わたしは「吸血鬼」だ
普通の人間では私の肉体は壊せない

でも痛いんだ
この痛みは肉体が感じている痛みなのかそれとも心が感じている痛みなのか

わたしは「不死者」だけど「最強」ってわけでもないし「無敵」の存在なんかでもない
闘争に負けることもあるし、その結果徹底的なダメージを与えられたら死ぬこともあり得る
その相手が脆弱な「人間」などでなく同じ「吸血鬼」だったら

あの人はわたしを斃すために「人間」としての生を捨てた
そして手にした「吸血鬼」の力で抉られた心臓を再生するのはさすがのノーライフキングでも無理みたいだ

816名無しリゾナント:2015/03/26(木) 12:10:24


わたしが意識を保てているのは復活する兆しじゃない
「吸血鬼」の生命力があまりにも強靭すぎるから
即死している筈の傷を負っても惨めったらしく魂だけがこの世界にしがみついてるんだ
身体のそこここに残っている命の絞りかすがわたしに最後の夢を見させてるんだ
最低最悪の悪夢ってやつを


…ふん
それとも
もしかしてこれは仲間を裏切って殺めたわたしへ神さまが与えた罰?
いつ終わるとも知れない痛みの煉獄で苦しめとでも?
もしそうなら神さま
あんたはとことん間違っているよ

確かにわたしは「リゾナンター」のみんなを裏切ったかもしれない
でも、でも、でも、でも最初に裏切られたのはわたしのほうなんだ
わたしは「吸血鬼」として「人間」を狩っていくつもりなんてなかった
「人間」の「血」を欲する本能を抑えて「リゾナンター」として生きていくつもりだった
普通の「人間」に紛れて生きていくことは困難でも「リゾナンター」の「仲間」となら生きていけると思ってた
でもそれは間違っていた

結局、誰かが他の誰かと完全にわかり合えることなんてありえない
それはサイコフォース「リゾナンター」として戦ってきた日々が教えてくれた
「リゾナンター」の目的は普通の「人間」では扱い難い犯罪者を摘発検挙粛清することだった
その対象は普通の「人間」とは異なる能力者であったり、人知を超えた化け物であったわけだけどそれらですべてってわけじゃなかった

817名無しリゾナント:2015/03/26(木) 12:10:59


偏執的な妄想に捉われたシリアルキラー
原理的な教義に殉じたカルト
「リゾナンター」の任務の対象は実のところ、生物学的には普通の「人間」の方が多かった
でも「人間」である彼らに「人間」の言葉は届かなかった
自分の中に築かれた価値観ですべてを判断し、他者の価値観など一瞥だにしない。

同じ「人間」同志であってもそうだった
だから「人間」とは異なる種族の「吸血鬼」のことなんて最初からわかろうともしない
「吸血鬼」が何者を愛し、何者を憎み、何を欲し、何に怯えるのか
そんな考えが頭を過ることもなく平気で駆逐していく

わたしの身体に「吸血鬼」の血が流れていると知ったらあの人たちは平気でわたしのことを駆除しただろう
わたしが笑っていたって怒りを見せたって涙を流したってその意味をわかろうともせず

だからそうなる前にわたしの方から仕掛けたんだ
自分の「生」を全うするために
与えられた「吸血鬼」としての生命を最後の最期まで生き抜くためにわたしは動いたんだ

これまでに「人間」はどれだけの種類の生命を根絶やしにしてきたんだろう
百?千?万?
だったらいいじゃん
万物は流転するんだよ
今度はあんたら「人間」が泣く番だよ
だからわたしは悪くない
悪くないわたしがこんなに苦しむなんて間違ってるよ

818名無しリゾナント:2015/03/26(木) 12:11:42


痛っ

あ痛っ

あー痛っ

あー痛いっ

あ、痛たたたたたたた

誰か助けて! ヘルプミー!!

ホントまじ痛い

指先一本動かないのに痛みだけ増していくって感じ
これはやっぱ助からないかな
痛みで覚めた時は結構期待したんだけどな
一度は諦めたワンピースの最終回を読めるかなと思ったんだけどな
まあどうせこれまでの冒険で出会った仲間たち、経験の全てが一つながりの財宝だ(ドン!!
みたいなオチだとは思うけど
やっぱ想像するのと自分の目で確かめるのとは違うし

痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛っ

ちくしょうっ



ほんとうは居場所が欲しいだけだった
誰かにこんなあたしでも生きていていいって声をかけて欲しかった

819名無しリゾナント:2015/03/26(木) 12:12:15


もっと違うやり方があったんじゃないかな
あの人たちの前から姿を消して
あの人たちの目の届かない場所で生きていくって選択だってあった

でも私は確かめたかった
「吸血鬼」に堕ちた仲間を救う道をあの人たちが選ばないか
もしも選べなくても仲間だった「吸血鬼」の粛清を一瞬でも躊躇わないかってこと

結局わたしの身勝手でみんな死んじゃったんだね
わたしが「人間」を否定するのも「人間」がわたしを否定するのもおんなじだ
わかってたはずなのに

取り返しのつかない過ちを犯してしまった
あやまったって許してもらえるはずもないけど

ご…め・んな…

へぇあなたは生き延びたんですか
どう考えたってろくでもない未来しか待ち受けてるように思えないですけど

・・・一人になったね

820名無しリゾナント:2015/03/26(木) 12:13:11
>>-
『Regret d'agonie』
【但し書き】

・↑の話は〜 コールドブラッド〜の二次創作的な何かの一部です
・設定の一部を使わせて頂いてますが完全に踏襲しているわけでもないです
・〜コールドブラッド〜を好きな方は不快に思われるかもしれません
 前もってお断りしておきます
・〜コールドブラッド〜なにそれ?未読だけど何か面白そうという方は回避されることを一応推奨しておきます

821名無しリゾナント:2015/03/27(金) 18:18:28

リゾナンターは実在したのか。
リゾナン史に興味を持たれている方にとっては愚かな問いかけに聞こえるだろう。
しかしリゾナン史の編纂に関わった初期の研究者の多くはその命題に頭を悩ませたのだ。
たとえば彼女たちの名称として使われる「リゾナンター」「リゾナンダー」「共鳴者」「リゾネイター」
彼女たちの果たすべき使命、「正義の味方として悪の組織ダークネスの野望を阻む」「巨大怪獣による地球の破壊を防ぐ」「日常を侵食する闇から生まれいずる人外の物を駆除する」「毎日を生き延びる」
リゾナン文書に綴られた多様なリゾナンター像に惑わされリゾナンターの実在を疑った者がいた。
他の能力者集団をリゾナンターと誤認しているのではないか懐疑的な考えを抱いた研究者もいた。

連想ゲームをしよう。
次の三つの言葉からあなたは何を思い浮かべるだろう。
動物、灰色、細長い身体器官。

同じ問いかけを私が教える学生達にしてみた結果、実にその九割までが鼠を連想した。
しかしながら私の思い描いた正解は……象である。
ある事象をいくつかの特徴をもって誰かに伝えるとき、特徴の一つ一つを正しく伝えたとしても、その事象そのものを正確に伝えられるとは限らない。
いくつものリゾナンター像という記述のぶれの原因は実のところこんなことではないかと私は考えている。
以下に紹介する「新垣里沙の手記」に綴られているリゾナンターをあなたたちはどう捉えるだろうか。

亀井絵里愛好家 エリソン・P・カーメイ

822名無しリゾナント:2015/03/27(金) 18:19:41


----
2007/6/5

上の人間の考えていることがわからない
せっかくi914を見つけたのに何故回収作業を行わないんだ
i914
確かに彼女は高レベルの能力者だ
私が確認したのはテレパシーだけだが本人によればテレポートも保有しているらしい
だがしかし私の目から見たあの女は躾の行き届いていない猿だ
回収担当の工作員の手を煩わせるまでもなく私一人でも蒼女を檻に閉じ込めることはできるのに、上の人間は何を考えているんだ
デパートで出会ったその日から、私の携帯にはあの女からの着信が絶え間ない  ------------------(注1)
よっぽど人との繋がりに飢えていたと見える
とりあず現在の住所は抑えてあるし姿を消す心配もないが一度顔を見せてご機嫌を取っておこう


2007/6/6
猿女と会った
今は喫茶店を開業する準備をしているらしい  -----------------(注2)
少し前から喫茶店を開きたいという願望あったらしいが私との出会いが背中を押したとか
ちょ何で勝手に私をあんたのプランに組み込むわけ
共同店主として運営に参加して欲しいとか冗談じゃない
あんな下品な山猿と肩を並べて仕事するなんてまっぴらごめんだ
そもそもあんな女が喫茶店を開いたって繁盛するとも思えない
いやパッと見だけはいいから顔や体目当てのエロおやじどもには人気が出るのかもしれないけど  ------------------(注3)
まあいい
ストレートに断ってご機嫌を損ねるのもマズい
今は別のところで働いてるとでも言っておくか
あの女と話すとイラついて血圧が上がりそうだ
メールを送っておこう

823名無しリゾナント:2015/03/27(金) 18:20:34


2007/6/9
ヤバい展開だ
しばらくあの女を泳がせておくとか
周辺を観察しておくとか
私がその監視役とか冗談じゃない
監視のための拠点作りとかふざけてんのか
ピン=チャボ―なんてブティックこの世に存在しないんだよ  ------------------(注4)
あの女に断りのメールを送る時になんとなくそんな名前を思いついただけなんだよ
実在しないんだったら既存の店の関係者の記憶を弄って会社名を変えさせろとかどれだけ腰を据えて観察するつもりなんだ
つうかどれだけピン=チャボ―が好きなんだよ
中澤さんに直訴しようにもこのところ連絡が取れなくなったし
もしかして避けられてるのか
安倍さんの状態も芳しくないし
ああ、ユウウツ

824名無しリゾナント:2015/03/27(金) 18:21:07


2007/6/11
あの女はバカだ
喫茶店のスタッフに加わってくれという頼みはなんとか断った
つうか一度や二度会っただけの人間を誘うかよ普通
私が働いているピン=チャボ―を見てみたいと言い出したのには困った
こんなこともあろうかと現在改装工事中のデパートで開業予定のアパレルを見つけてはいる
経営者の精神に干渉すればブティック、ピン=チャボ―の誕生だが正直そこまではしたくない
話を逸らすためになぜ喫茶店を開きたいのか尋ねてみたら興味深い話が聞けた
あの女が猿山から東京に出て来た時、一時期喫茶店に身を寄せていたらしい  -----------------(注5)
女性のマスターと先輩の女性
三人で暮らしていく中でいろんなことを学んだらしい
そして救われたとも言っていた
今度は自分が他の誰かを救いたいとも
猿女は今度開く喫茶店を自分のような能力者の為のシェルターにしたいような口ぶりだった
能力を持って生まれた故に苦しんだ者を救う為の城にしたいとも
私は感心した口ぶりで褒めておいた
まあその店が開店することはあっても繁盛することは無い
安倍さんを救う為にあの女には犠牲になってもらう
このことだけは確定しているんだから

825名無しリゾナント:2015/03/27(金) 18:21:45


2007/6/18
許せないあの猿女
安倍さんと一つ屋根の下で暮らしていただなんて
そればかりか手に手を取って色んなことを教わったとか
いや、それは全部夢
夢の中での出来事だ
安倍さんがそんな喫茶店のマスターをしていただなんてありえないし
ただあの女が東京に出て来た時期と安倍さんのキャリアの空白の時期とが微妙に重なるようなのが気にかかる
もういいあの女潰してやる
あの女の所為でここのところ私のペースは狂いっぱなしだ
あの女がいなければ私は白い家を拠点に洗脳屋の仕事をしながら安倍さんのお世話も出来たのに
あの無警戒な女を潰すのは簡単だが、私がやったことを上の連中に知られるのはやはりマズイ
藤本美貴
氷の魔女として恐れられている狂犬をあの女にぶつけてやろう
猿と犬が仲悪くケンカすればいいんだ

826名無しリゾナント:2015/03/27(金) 18:22:22


(注1) リゾ文書『(03)459 名無し募集中。。。 (メール三文字)』などで、高橋愛は仲間との連絡に関しては非常に素っ気ないことが知られている。
     そうした事実と高橋愛からの着信が多いという記述は矛盾すると考えられる方もいるだろう。
     そうした方にはこの時期の高橋愛と『〜(メール三文字)』の頃の高橋愛では周囲を取り巻く環状が違うということを考慮していただきたい。

(注2) この時点では喫茶リゾナントは営業していなかったという事実を証明する記述であろう。

(注3) そんなエロおやじ共の中で名前が明らかになっている数少ない人物が間賀時夫氏であろう。
     リゾ文書『暁の戦隊』(3rdシーズン-第16話「HEY!未来」)において間賀氏は女性の太腿の画像データを7GB近く保有していたとされている。
     同じ時代に生まれ酒を酌み交わしたかったとつくづく思う。

(注4) 新垣里沙が服飾関係の会社に籍を置いていたことはいくつものリゾ文書で証明されている。
     しかしながらその会社名が明記されているリゾ文書は(18)117 『じゃじゃ馬パラダイス☆激闘編』程度しか発見されておらず、その信憑性が疑われることもあった。
     今回の手記は「ピンチャボ―」という店が実在したという説の信頼性を高める材料になったのではないだろうか。

(注5) マスターやウェイトレスの描写も併せれば、(13)304 『常夜を引き裂く照空灯』で描かれている喫茶店でないかと推定される。
     高橋高橋愛が祖母の元で暮らした時期と喫茶リゾナントのマスターとして仲間に囲まれていた日々を繋ぐミッシングリンクとなるのか。
     今後の検証を待ちたいと思う。

827名無しリゾナント:2015/03/27(金) 18:23:29

以上ここまで
『新垣里沙の手記・其の二』

828名無しリゾナント:2015/03/30(月) 21:15:25
「・・・」
彼女は歩き続ける
「まってくださいよ〜」
それを追うように歩く少女
「ちょっと、えりぽん、新垣さんも疲れているんだからやめたほうがいいよ」
そんな二人を追う少女

奇妙な奇妙な追いかけっこ

「だって、みずき、新垣さんと次会えるかわからんっちゃよ?
 もっともっと教えてもらわんといかんことあるとよ」
「だからって、新垣さんも疲れているんだよ!同じ糸使いのえりぽんならわかるでしょ?
あんなにたくさんの糸を一度に操ったんだよ。疲れないはずないでしょ」
足早に歩く二人を追いかけてきたためか、はたまた元来のものか頬が紅く色を帯びている
「え〜新垣さんなら、あれくらい大丈夫っちゃよ
 そりゃ、えりは一本で限界っちゃけど、新垣さんは最強っちゃもん
 ですよね〜新垣さん」
へらへら笑いながら生田は足を止めない、歩き続ける

「・・・」
新垣は何も話さず、歩き続ける

「だからってえりぽん、すべて新垣さんに任せるわけにもいかないでしょ?
 高橋さんがおっしゃってたように、聖達もどうしたらいいのか考えたほうが」
「え〜えり、そういうの苦手やけん。できることからすると。
そのためにはまず、えりはえりのできることをすると。そういうのはみずきに任せると」
「え〜えりぽん何言ってるのよ!聖だって頭良くないから、得意じゃないんだよ」
顔を真っ赤にしながら譜久村は生田を追いかける
「頭の良さと戦略に長けるって別っちゃろ?道重さんだって常識に弱いところあるけど、策士やろ?
 えりは自分でもわかっとうもん、周りをみれんってことは」
あっけらかんと自分の弱点を宣言する生田をここまで来ると逆に気持ちいいと譜久村は感じていた

829名無しリゾナント:2015/03/30(月) 21:16:00
新垣は無言だ

「えりは勉強や一般常識ならみずきには勝てる自信あると、みずきお嬢様やん。
 でも、戦略家としては才能ゼロやし、それならしっかりと指示通りに役割果たせるようになるとよ」
「戦略家って聖には無理だもん、聖、そういうのじゃないもん・・・」

新垣は次の角を曲がった

「あ、新垣さん、待ってください」
生田も次の角を曲がった

「あ、えりぽん、新垣さんもお疲れなんだよ!」
譜久村も次のry)

曲がった先の一本道を進むと川辺にたどり着いた
「あ、あれ?新垣さん、どこいったかいな?」
どうやら見失ったようで、眼をこらしてきょろきょろと辺りを見渡す
ようやく息を整え終えた譜久村もベンチに腰を下ろし、ハンカチで流れた汗を拭いてゆく
「まだまだ教えてほしいことたっくさんあるとよ、鉄は熱いうちに打てっいうやろ!」
「えりぽんは熱すぎるよ、聖、つかれたもん」

そこにカコン、と何かを打つ音、次いで、ぽちゃん、と水に何かが落ちる音が響いた
それも一つではなく、何回も続いた
「!!」
全力で駆け出す生田
「え〜?また、はしるの?」
(新垣さん!!)
音のする方へ、する方へ、次の角を曲がった
数十個の空き缶が一列になって川端のフェンスに並べられていた

830名無しリゾナント:2015/03/30(月) 21:16:35
しかし、新垣の姿はない
「あ。あれ?新垣さんはどこいったかいな?」
ゆっくりとフェンスに近づく生田の後ろに、足音が近づいてくる
その主は・・・
「なんだ、聖か」
「なんだってなんですか!!えりぽん、また勝手に走り出すから、なんか、今日走ってばっかりだよ」
生田の暴走に振り回されてばかりに譜久村は半分泣き顔だ

「それで新垣さんはおられましたか?」
「ううん、おらんと、せやけど、こんなんあったと」
フェンスに手をついて聖に示した
「空き缶がたくさん並んでいるね。さっきの音はこれかな?」
「多分そうっちゃろ。新垣さんがワイヤーで狙い撃ちしたっちゃろ」
「なんでわかるの?」
「ンフフ・・・えりの勘っちゃ」
過剰な笑顔を浮かべながら、生田は袖の安全装置を外した

「そして、これが新垣さんの訓練ならえりもやってみたいと
 たぶん・・・この辺かな?うん、このくらいっちゃろ」
フェンスから少し離れ距離をとり、生田は構えた
黙り込み、リズムを刻むように踵をコツコツとならす
頭の中ではワイヤーを右から左に薙ぎ払うように伸ばし、見える全ての空き缶の中心を打つ
打ち払った空き缶達は全て川の中に順序よく、水音とともに沈んでいく

イメージが完成した時点で、生田は右腕に仕込んだワイヤーをフェンス向かい伸ばしていく
始めの数個は完璧であった。鞭で払うかのように、しなやかな軌跡をたどってワイヤーは伸びていく
(よしっ)

831名無しリゾナント:2015/03/30(月) 21:17:08
しかし、そこからワイヤーの軌道は上へ下へ微妙にずれていく
全て川に飛ばすつもりであったが、そうはならずただ上にとぶだけのものも出てきた
そして最後の空き缶に辿りつく前にワイヤーはフェンスに当たってしまった
結果的にすべての空き缶を払うことには成功したが、イメージしたものとは全然違った

そんなことを露ともしらず、譜久村は「スゴイスゴイ」と手を叩いて喜ぶ
跳ねながら飛んでくる譜久村は生田の不満げな顔を見て驚く
「え?どうしたの?全部倒したのに、何か上手くいかなかったの?」
「・・・」
「すごかったよ、えりぽん、あんなにきれいにカカカカカカーンって」
「・・・すごくなんかないとよ」
「え?え?」
戸惑う譜久村の後ろから、アルトボイスの声
「そう、フクちゃん、全然すごくないよ」
「・・・新垣さん。どこにおられたんですか」

新垣は落ち込む生田に気づかないふりをしながら、空き缶を拾い上げた
「あのベンチから見てた。生田のことだから、ああしていれば『えりもやる!』っていうだろうと思ってね。
 正直、今の生田の技術をしっかり見ないといけない、そう思ってたからね」
「それは今日の戦いをみて、ですか?」
「う〜ん、それもあるけど、前から思ってたところもあったからね
 生田が私のことを慕ってくれるのは嬉しいんだけどね、言わなきゃいけないこともあるからね」
新垣自身も言い出すまいか迷っていることがその口調から譜久村は勘ぐった
「・・・あまりいいことではないみたいですね」
「ま、そういう部類に入るかな。ほら、生田」
拾い上げた空き缶を生田めがけて投げつけた
生田は下を向いていたにもかかわらず、空き缶をみることなくキャッチした
「うん、反射神経は相変わらずいいね」
ようやく新垣は笑顔をみせた

しかし、生田の表情は暗く、譜久村の表情はどうしていいものかわからず不安げだ

832名無しリゾナント:2015/03/30(月) 21:17:44
「新垣さん、えり・・・」
もう一本新垣が無言で缶を投げつけた
同じようにつかんだ生田は中身がはいっているとは思わず、つかんでその熱にやられた
「ほら、それでも飲んで落ち着きな」
新垣は自身のコートのポケットからあと2本取り出し、一本を自分に、もう一本を譜久村に投げてよこした
「あ、ありがとうございます」
「いいって、ほら、立ち話もなんだから座って話そうか」
空き缶のタブを開ける音と喉をごくごく言わせて一口新垣がのどを潤す
「・・・あ〜ビールがうまいっ
 ふぅ、二人とも今日は大変だったね」

二人の労をねぎらう新垣
だが、二人の顔は浮かない
「ん?どうした?なに暗い顔してるの?」
「・・・だって今日は新垣さんの作戦も上手くいかなかったですし、亀井さんを逃してしまいましたし
 いいことなんてないんですから、それに作戦も決まっていないから明るい顔なんてできませんよ」
譜久村の弱気をききながら新垣は缶の半分を一気に飲み干す
「そりゃー私だって、反省してるよ、今日はだめだって。
 でも、うまくいかないことのほうが多いんだからさっ、あんまり気にしないのさ」
あまりにあっけらかんとしている新垣を見て譜久村は驚いた
あれほど黙っていた理由をてっきり、今日の反省をしているものだと考えていたのだから

「でも、作戦とか考えるんですよね」
「うん、明日ね。いや〜生田、さっきいいこといったからね。私、嬉しかったよ」
新垣に褒められ、少し元気が戻ったのだろう、生田の顔色に血色が戻ってきた
「『できることからする』、その通りだよ、できないことを無理にする
 それって大変だから、余裕ができたときにすればいいんだよ
 はっきり言って、今日の作戦は無理があったのは認めざるを得ない
 今のリゾナンターを囮につかうとか、はっきり言ってリスクが高いからね」

833名無しリゾナント:2015/03/30(月) 21:18:26
「でも、それしか方法がないのなら聖達は」
最後まで言わないように新垣は首を振った
「いやいや、もうしないよ、約束する。あんな危険な賭けしても無駄だってわかったから」「そ、そうですか・・・」
譜久村は戸惑う、これが新垣が凹んでいた理由なのか?と

「じゃあ、新垣さん、えりに糸の使い方教えてくださいよ!!
 できるようになりたいんです!!えりは新垣さんみたいに強くならなきゃいかんとです」
急に立ち上がり声を荒げる生田に驚く譜久村と対照的に新垣は笑みを浮かべたまま
「うんうん、生田の気持ちわかるよ。でも、少しは落ち着きなさい
 ほら、フクちゃんも驚いちゃってるんだからね」
「ご、ごめん、みずき」

生田が座り、おしるこジュースを一口飲み、その甘さに舌がやられたのを譜久村はみた
「さて、生田の気持ちはわかった。精神操作、精神破壊、私と似た力だからね」
新垣は生田が甘さにやられていることに気づいていないようだ
「精神系能力、それは直接的な攻撃ではないが、使い方次第では反則的なダメージを与えることができる
 私が本気出せば、人格を崩壊させることも、別の人格を作り出すこともできるかもしれない
 ・・・したことはほとんどないけどね」
「は、はあ」
「その分、非常に繊細な部分も必要。人格を崩すほどの大胆さと緻密性、療法とも不可欠
 一朝一夕でできるようなものではないし、私だって人並みに使うには5年以上はかかった
 生田、あんたはまだ3年だから、焦る必要はないよ」

「さて、フクちゃん。フクちゃんの能力は『能力複製』だよね
 これまで生田や私みたいな精神系の力をコピーしたことはある?」
突然話が自分に飛んできたので驚いたが、一瞬、考えすぐに答えを出した
「あります。でも」
「うまくいかなかった」
譜久村が頷いた

834名無しリゾナント:2015/03/30(月) 21:19:06
「なんていうか自分自身の体じゃないものを、それこそ機械を操るみたいで、全然使いこなせませんでした
 どこをどうすればいいのかもわからなくて・・・糸を使うとかそんなところまで行きそうにもなかったんです
 えりぽんの力を試そうとしたときは、気持ち悪くなって・・・・動けなかった」
思い出したくない記憶の一つが生田の力をコピーした後の副作用
数時間、頭痛とめまい、脱力感におそわれ、見えない何かにつぶされるような幻覚に悩まされた

「精神系能力者の力は普通の能力者とは全く別。『ただ心を操る』『心を覗く』、そんなものではないの。
 耐えきれないほどの他人の心を自身の心をぶつかりあわせて、折れないように、かつ相手の心を崩さないようにする
 小手先の技術なんかじゃこの力は制御できない」
生田の目をみながら新垣はゆっくりと説う
「はっきり言う。生田、あんたはこの力に必要な繊細さが未熟だ
 今の生田じゃ、私には一生追いつけないし、一人前にはなれない」

「・・・わかっとうもん、そんなことは」
弱弱しく生田が眼に浮かべる
「わかっとうもん、えりは精神系能力者やけど、人の心を操る能力者やけど、人のこころがみえないと
 何をして笑って、何をして怒って、何をして悲しむか・・・わからんもん」
「えりぽん・・・」
「鍵穴のように、絡まったコードのように、かっちりと細かい技術が必要なのはわかっとう
 でも、えりにはそれは苦手なことっちゃ!!ドライバーで飛ばすのは得意やけどパターは苦手
 大胆なことは得意っちゃけど、繊細なことはできんとよ!!えりには」
それは隠していた思い。思わず零れてしまった弱音。
「えりは里保が羨ましいと、あんなにはっきりと闘える力があることを
 あゆみちゃんも小田ちゃんも羨ましい。前線に飛び込んでいける力やもん
 えりはこんな力望んでいないと!!もっとみんなにえりらしくなれる力がほしいと」
「甘ったれるな!!」
新垣が立ち上がり思いっきり生田の頬を殴り、生田は地面に倒れこんだ

835名無しリゾナント:2015/03/30(月) 21:19:38
「なにが『大胆なことは得意、繊細なことは苦手』だ
 『こんな力望んでいない』だって?ふざけるんじゃないよ!!
 それなら私だって、こんな力欲しくてもってるんじゃないんだよ
 生れたときからこの力は私の一部なんだよ、それを自分で要らない?こんな力じゃなくて他の力が欲しかった?
 生田、あんた、それでもリゾナンターなの?ちょっと見損なったよ」

「私だってこんな力、捨てたいなら捨てたい。でも、今の私があるのはこの力のためだ
 私の一部なんだ、私自身なんだ、変えられないんだよ。
 自分でできることをする、さっきそういったのは生田でしょ?それならそれも受け入れなさい
 少なくとも私が知っている生田はこんなことを言う子じゃなかった
 だからこそ、言わなきゃいけない、そう思って改めて場を作ったのに」
突然、立ち上がる新垣
「帰る。生田、あんた少し頭を冷やしなさい」
そして足早にその場をさっていく新垣

「ま、待ってください、新垣さん」
譜久村は新垣を走って追いかけた。生田を置き去りにして、今の新垣を追いかけるなんていつもの自分らしくない、と感じていた
しかし、気になってしまったのだ、いつもの新垣らしくないと
あの新垣里沙がこんなに強く、自分を慕う後輩に強く言うものか、と
その裏には何かがあるのではないか、と。

「ま、まってください」
急に立ち止まる新垣
「フクちゃん、生田を頼むね。あの子は本当に弱いから」
「は、はい・・・でも、新垣さんは何を本当は伝えたかったんですか?」
「・・・」
「こんな展開を予想しておられなかったと思うんですが、新垣さんは生田がしっかりと覚悟していると思ったんですよね?
 それなら何を」

836名無しリゾナント:2015/03/30(月) 21:20:10
「・・・フクちゃん、生田の言うことはある意味正解だよ
 向き、不向きがある。得意、不得手はあるよ。だから・・・私は生田に、私の後を追うのはやめろって言おうと思った」
「そ、それってどういうことですか?リゾナンターをやめろっていうことですか!!」
「違う、具体的にはワイヤーを使うのをやめろってこと・・・かな。
 あの子には人並み以上、それこそ私以上の身体能力がある。それを使っていけばいいんじゃないかってね
 ・・・だけど今の生田にはそんなことを考えさせる余裕はないね
 結局自分らしさを確立させていないんだからね。悩む年頃なのかもしれないけどね
 それに、フクちゃんも考えた方いいよ、自分の役割ってことを」
「え??それって??」
「生田がいってた参謀役、っていうのも悪くないよ」

自分自身が参謀??
考えられない、と思っているとふと残してきた生田が不安になって後ろを振り向いた
前を向くとすでに新垣は姿を消していた
(・・・)
夜風が身にしみた、涙が浮かんだが花粉のせいではないだろう

★★★★★★

「生田、フクちゃん、強くなるしかないんだよ。だって・・・愛佳の予知では」

837名無しリゾナント:2015/03/30(月) 21:22:52
>>
『Vanish!Ⅲ 〜password is 0〜』(9)です。
ベリロスしてた・・・有明コロシアム最高だった・・・
ようやく復活傾向。ゆっくり完結させますが、やはりネタ入れたくなる性分だなw

838名無しリゾナント:2015/03/30(月) 23:14:02
お帰りなさいまし
代行行ってきます

839名無しリゾナント:2015/03/30(月) 23:30:42
行ってきますた

840名無しリゾナント:2015/04/03(金) 13:59:46
【但し書き】
・〜コールドブラッド〜の二次創作的な何か
・原作の設定をお借りしておりますが完全に踏襲しているわけでもありません
・〜コールドブラッド〜を愛された読者の方々には不快な思いをさせるかもしれません
 前もってお詫び申し上げます
・〜コールドブラッド〜? 何それ食べたことないけど美味しいのという方も回避を推奨しておきます
・一応『Regret d'agonie』http://www35.atwiki.jp/marcher/pages/1217.htmlと同じ世界観を共有する話です



「二人っきりだね」

…ああ、そうやな
サイコフォース「リゾナンター」も私とさゆの二人しか残っていない
でもこの傷の具合だともうすぐさゆ一人に・・・・

…ダメだ
たとえ冗談でもこんなことを言っちゃあいけない
いまいちばん苦しいのはさゆなんだから
私なんかより辛いのはさゆの方なんだから

さゆは一連の事件の中心にいた「吸血鬼」の教育係を務めていた
一連の事件の黒幕だった中国籍の彼女と姿形が似ていたさゆは、日本の事情に疎かった彼女のことをけっこう気にかけていた
そしてなにより

さゆのいちばんの親友だった絵里が「リゾナンター」の中で最初に「吸血鬼」の毒牙に掛けられた
「吸血鬼」の「眷属」となった絵里は「リゾナンター」に牙を剥き、かつての「仲間」を手に掛けかつての「仲間」によって除去された
さゆにとって関わりの深い面々が一連の「吸血鬼」事件の犠牲者や加害者に名を連ね…いや違う

841名無しリゾナント:2015/04/03(金) 14:00:18

サイコフォース「リゾナンター」なんて大層な名前で呼ばれていたって実際は十人にも満たない集団だった
一人ひとりの隊員が他の誰かと何らかの関係が出来上がっていた。
疎遠な間柄だってあったけど逆にそのことがネタになってしまう。
そんな濃い関係が生まれるような時間を私たちは共有してきた
筈だった
だのに

いったい何がいけなかったんだろう
どこで間違ってしまったんだろう
上司と部下としてかなりの時間を過ごしながら「吸血鬼」の正体に気付かなかったこと?
「獣人」だった彼女が心の奥底に「人間」への憎悪と不信感を抱きながら生きていたことに気付かなかったこと?

…それともまだ絵里の消息が不明だった時点で「吸血鬼」に変貌していた場合の処分を決定してしまったこと…なんかな?

小春にはいろいろ悩まされた
配属された時から気ままだったあの子は教育係として付けたさゆを悩ませたり、他のみんなとも問題を起こした
それだけじゃなく裏付けの無い勘で動いたり、能力を悪用した性犯罪者に対して過剰な実力行使を行ったり
私が書いた始末書や進退伺の原因はほとんどあの子だ

そんなあの子を荒事の現場で目の届かない場所に置いておくのを恐れた私は編成変えまでして私と組ませた
最初の頃は捜査や除去の対象以上にあの子の動向には警戒した
でもその為に疎かになって背中から撃たれた私をあの子は守ってくれた

あの子とのコンビは李純や銭琳が「リゾナンター」に加わった時点で解消したが最後の頃はあの子のことを信頼してあの子に背中を預けていた
そしてあの子は私の信頼と期待を裏切らなかった
その逆に私があの子の背中を守ったこともある
あの子、小春は何をしたかったんだろう

842名無しリゾナント:2015/04/03(金) 14:00:50

もしもあの子が「人間」の世界に紛れ込んで生きるのが目的だったなら
その障害となる「リゾナンター」を解体するために潜入してきたのだとしたら
今回のような「吸血鬼」に焦点が当たるような真似をせずとも、簡単に私の寝首を掻くことが出来ただろうに
でもあの子はそうしなかった

あの子の口から真実を聞きたかった
でも仮にあの子が真実を語っていたとしても私にはその言葉が真実だと信用できなかったかもしれない


絵里は私にとってもいちばんの親友だった
私は任務を忠実に果たすことでしか自分の存在する意義を証明できないと信じて生きてきたつまらない女だった
能力者で編成された特殊部隊の班長という物々しい肩書の所為でともすれば自分が女であることを忘れてしまいがちだった
でも絵里と話している時間だけは自分が年相応の女性なんだという当たり前のことを実感できた
そんな絵里が「吸血鬼」の手によって連れ去られた時、私の心がざわつかない筈は無かった

見つける手段をどれだけ模索しただろう
「闇の眷属」に堕ちた仲間にどう対処すべきか口にするのにどれほどの逡巡があっただろう

「リゾナンター」が私一人だけだったなら
たとえ「吸血鬼」の眷属に変わり果てていたとしても絵里のことを助けたかった

でも現実には「リゾナンター」は私一人じゃない
「リゾナンター」はあくまで警察機関の部署の一つだ
上部組織があって、連絡機関があって、「吸血鬼」事件が発生した時点で九人の隊員が在籍していた
そしてこれはまだ誰にも話してなかったけど、今後何次かに渡って新人を配属していく予定があるとの内示もあった
私の一存で人類の「正義」に悖る行為を犯してしまったらいったい何人の「人間」に迷惑をかけることになる

幾度かの暴走による譴責を一身に引き受けてくれた管理官
法令的には明確にアウトな備品の便宜を図ってくれた会計課職員
市民の安全を守るため、それだけの理由で所轄の壁を越えて情報を提供してくれた捜査官たち
私たちなら「人間」をその脅威から守れると信じてくれた人たちを裏切ってしまうことが私にはどうしてもできなかった

843名無しリゾナント:2015/04/03(金) 14:01:21

…李純は私たちのことを裏切ってたんだろうか
彼女にとっては異国であるこの国で彼女の両親の命を奪ったのは「リゾナンター」だ
「人間」から見ればそれは不幸な行き違いがもたらした事故なのかもしれない
しかし理不尽な理由で血族の命を奪われた彼女の立場に立てば紛うことなき災厄であり禍そのものだ
もしもその禍「人間」の手によってもたらされたものなら彼女には復讐する権利がある
私刑を止める者がいるなら、その者は咎を負うべき者に裁きを与える
それが「人間」の法だ

しかし咎を負うべき者と裁きを与える者が同一であったなら
同一であったが故に法の下の裁きを免れたとしたら
彼女には復讐する権利が生まれるのが道理
でも「人間」の社会の秩序を守る為に彼女の復讐の権利は否定された

李純の両親を殺したのは私が選抜される以前の「リゾナンター」だ
私の手も私が率いた「リゾナンター」の手も彼女の両親の血で汚れてはいない
しかし私が先達の「リゾナンター」の築いた在所に立っている以上、リーダーとして負の財産も引き受ける覚悟はある
でも私以外のみんなは…

「…ちゃん、大丈夫。ごめんね私を助けようとして。なのに応急処置ぐらいしかできなくて」

そうか
自分が治癒能力を失ってしまったことを言ってるんかな
確かにさゆの能力が今も健在だったら失った左腕は戻らないまでも傷口を塞いで血も止めてくれただろうな
あるいはみんなの中にも死なずに済んだ者もおったかもしれん
でもさゆには悪いけど今の私はそこまでして生きたいとも思っとらんよ
こうして息をしていて、さゆが声をかけてくれているから死のうとは思わん
神様が生きていろというなら生きていよう
でももしも神様が許してくれるならこのまま逝ってみんなに謝りたいと思ってるし

「夜が明けたら、SATが駆けつけるから」

844名無しリゾナント:2015/04/03(金) 14:01:52

ああそうだっけ
警察の組織図では私たちと横並びの特殊急襲部隊も出張ってきてるんだった
能力への耐性が低い一般人で構成された SAT が敵に惑わされて私たちの足を引っ張ることのないよう付近で待機してたんや


「腕は何処? 私じゃ無理だけど外科の専門医だったらもしかして」


落とされた腕をさゆの能力でくっつけてもらったことがあったな
あん時は右腕やった
でも今度は無理やろうな
だって噛み千切られた私の左腕は李純の体内にある

“空間置換”
それが私の持っている能力
瞬間移動とか空間跳躍と思っている者もいるけど任意の空間と空間を置き換えるのが私の本当の能力
無傷で正常な状態なら二つの空間を置き換えることは比較的容易
だけど片腕を噛み千切られて正常な意識を保つのが難しい状態では置換する空間の座標を正確に認識するのは困難だった
だから認識しやすい固体である私の左腕を李純の心臓と置き換えた
血液を身体中に送り出すことが出来なくなった李純は糸の切れたマリオネットみたいに倒れて逝った

時間があればもっと違うやり方を見つけてたかもしれん
でもさゆには時間が残されていなかった
さゆが装備していた官給のブローニング25口径の装弾数は6発
私の耳が捉えた銃声は5発
用心深いさゆのことやから遊底を引いて弾薬を薬室に送り込んでから、弾倉に補充して1発余計に撃てるようにしてるやろう
それでも残り2発
その程度で李純を止めることは出来なかっただろう
だから自分の左腕を犠牲にすることに何のためらいもなかった
それにもう一度は生きていることを諦めてたし

845名無しリゾナント:2015/04/03(金) 14:02:22


でも…なんで私は生きているんだろう
なんでこうして生き延びてくよくよくよくよ振り返っはりできるんだろう
腕を喰い千切られた衝撃が血管を通って心臓に来て失神した
そんな私の心臓が完全に止まったかどうかなぜ確認しなかったんだろう
脈拍とか鼓動を確認するのが面倒だったんなら獣化した牙で頭蓋ごと噛み砕けばよかったのに
獣化したその爪で私の臓器を捌けばよかったのに
四足獣の力で四肢を切り離せばよかったのに


なあ李純
もしかしたらすべてを終わらせた後で蘇生させた私に「リゾナンター」の犯した罪を総括させてから命で贖わせるつもりだったんか?
それともリーダーである私には他のみんなよりも苦しみを味あわせてからあの世に送るつもりだった?
違う
私と向き合ったあんたの顔はやり場のない怒りに囚われている復讐鬼の顔じゃなかった
積年の恨みを晴らせる喜びなんか感じられんかった
あんたはわかっていた
いつかこうなることがわかっていた
こんな日が来ることがわかっていた
わかりあえるはずなんてないとわかっていながらそれでもなんとかわかりたいと願い続けていた希望が完全に消えてしまった
そんな敗残兵のような顔をあんたはしていた

ああ、まるで私とおんなじ
鏡に映っている虚像と実像
私とあんたじゃ心臓に流れてる「血」は違っていても心の奥底で思っていることはそんなに遠く離れてはいなかった
もしかして、もしかしてあんたは自分を止めて欲しかったんか

846名無しリゾナント:2015/04/03(金) 14:02:53


ごめんねってあんたに言った
最後の決着をつけるために姿を現したあんたに私はごめんねって言った
あん時あんたは呟いとったけど何て言ってたんや
私の耳には届かなかったけど…知りたいよ

もしもこの夜を生き延びることが出来たら

それはこんな私でも生きていろということやろう
生きていてもいいのか
大切な仲間を失っておめおめと生きていていいのか
でも、さゆがいる
さゆだけは何とか守ることが出来た
そんなさゆを一人残して逝ってしまっていいんやろうか
辛いことや面倒な後始末をさゆ一人に残して楽になってしまっていいのか

生きよう
生きなきゃ
最低でもみんなを弔ってさゆの身の振り方が決まるまでは生きていよう

でも私みたいな能力者は持って生まれた能力で社会に貢献できなければ生きていくことを許されないから
だから私は「リゾナンター」から完全に離れることは出来ん
もう現場に出ることは叶わないだろう
でも経験から得た教訓を後進に伝えることは出来る
こんな悲劇を二度と繰り返さないように
これから生まれいずる能力者の子供たちがこんなかなしみを味あわなくてもいいような
そんな世界を作ることが私ができる唯一の償いなんかな

847名無しリゾナント:2015/04/03(金) 14:03:23

早く夜が明ければいい
数時間前までは夜が明けて曝け出された醜い真実を突きつけられるのが怖かった
でも今は違う
どんな絶望的な真実でも受け止めて生きていくのが私に課せられた使命なんだろう


・・・一人になったね


小春?
今の声は小春なんか
もしかして最後の最期で「リゾナンター」を取り戻したんか?

ごめんな小春
私は一人じゃない
私はさゆを守れたんだ
歩けないさゆと片腕を失った私じゃあ、実戦では一人分の戦力にすらならんかもしれん
でも私たちは続けていく
新しい共鳴の担い手に思いを託して「リゾナンター」は続いていく

だから待っていて
あんたや李純
絵里や他のみんなに謝るのももう少し先になりそうやから

848名無しリゾナント:2015/04/03(金) 14:04:35


「一人になったね」


え、さゆ?
あんたまでどうしたん?



閉ざされた視界の中で私の耳が捉えたのは誰かが瓦礫を踏みしめる音
自力では立てない筈のさゆがそんな音を発する筈がない
SAT が到着したんならもっと物々しい音がする
もしかして「リゾナンター」の誰かが生き残っていたのか
それとも討ち漏らした「吸血鬼」が迫ってきているのか

「さゆ、いったい…」

「愛ちゃんが最後のリゾナンターだよ」

849名無しリゾナント:2015/04/03(金) 14:05:18
>>-
『Ultima resonancia』

【但し書き】
・〜コールドブラッド〜の二次創作的な何か
・原作の設定をお借りしておりますが完全に踏襲しているわけでもありません
・〜コールドブラッド〜を愛された読者の方々には不快な思いをさせるかもしれません
 お詫び申し上げます
・〜コールドブラッド〜? 何それ食べたことないけど美味しいのという方も回避を推奨しておきます
・一応『Regret d'agonie』http://www35.atwiki.jp/marcher/pages/1217.htmlと同じ世界観を共有する話です

850名無しリゾナント:2015/04/03(金) 20:45:08
■ インシュアランス -研修生- ■

「これは?」

旧エッグです…

「旧?」

かつて存在した次世代能力者の開発機関です…

「『わたしたち』とは違うのですか?」

同じです…
いえ、『同じに変質してしまった』…
本来のエッグの目的を忘れ…卑近な…
ごく短期間で実用に耐えうる【能力者】を『生産』するなどという…
表向きのお題目を真に受ける実に度し難いおバカさんたちがいましてね…

「あらら。」

まあその結果エッグは廃止…
蜜の味を忘れられぬおバカさんたちへのいわば目くらましとして
『研修生』という代替機関が作られました…
ですからその意味では同じです…

「本来の『エッグ』の目的とはどんなものだったんですか?」

『あなたと同じ』ですよ…
あなたが攻性とすれば…エッグは…
そうですね…
まあ名前そのもの、とでも言っておきましょうか…

851名無しリゾナント:2015/04/03(金) 20:46:48
「このひとたちは?」

彼女たちは『存在しない存在』…
沢山の『彼女たち』にチャンスを与えたのですが…
結局処置に耐えられたのは彼女たちだけでした…

「このひとは?」

…気になりますか?

「とても美しい…」

なるほど…彼女は特別です…
彼女だけが唯一の成功例と言っていいのかもしれない…
当時としては…

「当時?」

ええ…現在では…

「わたしはいいのですか?」

852名無しリゾナント:2015/04/03(金) 20:47:28
必要ありません…
あなたはあなた自身の【能力】だけで充分に最強だ…

「でも、このひとに私は敵わないように思います。」

その通り…彼女には…あなたは勝てない…
狙われたら最後…逃げることも不可能でしょう…

ですが…それでもあなたが最強だ…
彼女の強さはあくまで『我々の中で』ということにすぎない…
一方あなたは…『A』とわたりあえる『可能性が』ある…
この一事をもってすれば、他の理由なぞ…

853名無しリゾナント:2015/04/03(金) 20:48:46
「可能性…」

…そう…可能性です…
その可能性が零ではない…それだけで…あなたは最強だ…

「そのときに死ぬんですね?わたし。」

先ほど述べたとおりですよ…

「そうですか。」

怖いですか?

「わかりません…ただ…」

ただ?

「ただ…わたしは…」

―――わたしは―――

854名無しリゾナント:2015/04/03(金) 20:52:30
>>850-853

■ インシュアランス -研修生- ■
でした。

以上代理投稿願います

855名無しリゾナント:2015/04/03(金) 20:53:55
>>850に間違いがありました
再投稿します

856名無しリゾナント:2015/04/03(金) 20:55:04
■ インシュアランス -研修生- ■

「これは?」

旧エッグです…

「旧?」

かつて存在した次世代能力者の開発機関です…

「『わたしたち』とは違うのですか?」

同じです…
いえ、『同じに変質してしまった』…
本来のエッグの目的を忘れ…卑近な…
ごく短期間で実用に耐えうる【能力者】を『生産』するなどという…
表向きのお題目を真に受ける実に度し難いおバカさんたちがいましてね…

「あらら。」

まあその結果エッグは頓挫し…
蜜の味を忘れられぬおバカさんたちへのいわば目くらましとして
『研修生』という代替機関が作られました…
ですからその意味では同じです…

「本来の『エッグ』の目的とはどんなものだったんですか?」

『あなたと同じ』ですよ…
あなたが攻性とすれば…エッグは…
そうですね…
まあ名前そのもの、とでも言っておきましょうか…

857名無しリゾナント:2015/04/03(金) 20:55:41
「このひとたちは?」

彼女たちは『存在しない存在』…
沢山の『彼女たち』にチャンスを与えたのですが…
結局処置に耐えられたのは彼女たちだけでした…

「このひとは?」

…気になりますか?

「とても美しい…」

なるほど…彼女は特別です…
彼女だけが唯一の成功例と言っていいのかもしれない…
当時としては…

「当時?」

ええ…現在では…

「わたしはいいのですか?」

858名無しリゾナント:2015/04/03(金) 20:56:37
必要ありません…
あなたはあなた自身の【能力】だけで充分に最強だ…

「でも、このひとに私は敵わないように思います。」

その通り…彼女には…あなたは勝てない…
狙われたら最後…逃げることも不可能でしょう…

ですが…それでもあなたが最強だ…
彼女の強さはあくまで『我々の中で』ということにすぎない…
一方あなたは…『A』とわたりあえる『可能性が』ある…
この一事をもってすれば、他の理由なぞ…

859名無しリゾナント:2015/04/03(金) 20:57:12
「可能性…」

…そう…可能性です…
その可能性が零ではない…それだけで…あなたは最強だ…

「そのときに死ぬんですね?わたし。」

先ほど述べたとおりですよ…

「そうですか。」

怖いですか?

「わかりません…ただ…」

ただ?

「ただ…わたしは…」

―――わたしは―――

860名無しリゾナント:2015/04/03(金) 20:58:21
>>856-859
■ インシュアランス -研修生- ■
でした。

以上代理投稿願います

861名無しリゾナント:2015/04/03(金) 21:57:03
今北
行ってきます

862名無しリゾナント:2015/04/03(金) 22:09:26
何とか終了
インシュアランスってたしか保険って意味だっけ
代替用の保険という意味ならなんかブラックな感じがする

863名無しリゾナント:2015/04/03(金) 23:47:39
>>808-812 の続きです



四方八方を鏡に囲まれた、空間。
鏡の一枚一枚に映った糾弾者が、たった一人の犯人に一斉に視線を向けた。

「今…全てがわかりました」

春菜が、静かに言う。
そこには、いつもの弱弱しさなど微塵も見られない。

「だね。かのも今、はっきりと確信した」

そこへ続くのは香音。
戸惑うのは遥一人だ。

「なにが…わかったんだよ?」
「『金鴉』が化けてるのは…」

ほんの一瞬の、沈黙。
そして。

「くどぅー、あなたよ!」
「は?ちょ、ちょっと待てって!何でそうなるんだよ!!」

指差され、納得のいかない表情の遥。
一方妙なことをされまいと、香音と春菜が間を詰める。

864名無しリゾナント:2015/04/03(金) 23:49:22
「だってはるは、はるなんと一緒にいただろ!そん時に『金鴉』の野郎がべらべら喋ってたじゃんか!!」
「あのアナウンスが、予め用意されていたものだとしたら…それはアリバイにはならないよ」
「たとえその推測が当たってたとしても、そのことがはるを疑う確かな理由にはなんないだろ!ここに
いる全員が疑う対象だろ!!」

遥が、春菜と香音を交互に睨み付ける。
まるで、二人の中のどちらかこそが「金鴉」だと言わんばかりに。

「それに、これがはるが本物のはるだっていう動かぬ証拠だ!!」

そして、掲げられた右手。
手の甲には、彼女の主張と同じように、くっきりとした×印が刻まれていた。
これは、喫茶リゾナントでさゆみが後輩たちに教えた「本物と偽物の区別を付けるための」印。

「あん時道重さんが言ってたじゃん!!これさえあれば相手の『擬態』も怖くないって!!あの場所に
はるがいたってことは、この印が証明してくれるって!!!!」
「…決定的、だね」
「そうですね」

必死に無実を訴える遥だが、それを聞いていた二人は首を振る。

865名無しリゾナント:2015/04/03(金) 23:50:33
「何が決定的なんだよ、わかんねえよ!はる、今変な事言ったか?どうせそれもあの時の会話を盗聴さ
れてたら、とか言うつもりなんだろ!だから言ってんじゃん、そういうこと言い出したらこの場に居る
全員が…」
「違うんだよ。確かにそれもアリバイを崩す要素ではあるんだけど。でも、今現在進行中で、あなたは
致命的なミスを犯してる」

それまで汗をかき、必死に身振り手振りで否定し、涙目にまでなっていた遥が。
その時はじめて、本当の戸惑いの表情を見せる。

「な、何だよ。そんなデタラメなことで」
「あなたには聞こえないんでしょうね。この声が」

春菜と香音は、ずっと会話を交わしていた。
「遥」だけが、その会話に加わる事ができなかった。
それは、彼女たちの会話に、共鳴しあうものだけが感じることができる声が使われているから。

それが、「心の声」。

「は、はっ!そうか!それで勘違いしてんだ!違う、違うんだよ!今、はるにはその声が聞こえないん
だ!きっと『金鴉』のやつがはるに何かしたんだって!」
「確かに。だから、そうおっしゃる可能性もあるかと思って。仕掛けました」
「は?」

春菜が視線を、遥の背後に向ける。
遥の後姿が映っている鏡。その曲がり角から。

866名無しリゾナント:2015/04/03(金) 23:51:57
「『工藤さん』は、どうして私を正体がばれたから『逃げた』って言ったんですか?私、ずっとこんな
近くにいたのに」
「あ…」

姿を現す、さくら。
そう。彼女は、ずっと機を伺っていた。
「工藤遥」が言い逃れできなくなる、その瞬間を。

「心の声も聞こえない。千里眼も使えない。あなたは本当に『工藤さん』なんですか?」

さくらの投げかける言葉は、ついに。
偽装者の仮面を、剥がす。

「…いつから、気づいてた?」

それまで遥だった彼女が、姿を変えてゆく。
背が縮み、髪の毛が伸び、そして顔のつくりが融ける様に変化する。

「最初からです。だって、変じゃないですか。透過能力を持つ鈴木さんと、五感強化の飯窪さん。それ
に、千里眼の工藤さんが『選ばれたかのように』攫われる。まるで、犯人探しをしてくださいって言わ
んばかりに」
「…それだけで疑ってたのかよ」
「そうですね。私、ダークネスに居た頃に『永遠殺し』って人に教わったんです。『完璧な事実ほど、
疑うべき』だって」
「ちっ、あのおばちゃんが言いそうなこった」

867名無しリゾナント:2015/04/03(金) 23:53:28
春菜も、香音も。
最初に遥が敵の擬態である可能性をさくらに示唆された時、半信半疑の思いが強かった。
普通は、この状況で真っ先に遥を疑う判断材料を見出すことはできない。そこにはさくら独特のものの
考え方が根ざしていた。

工藤さんは、心の声を使わなかった。
大声を張り上げて自らの位置を知らせる遥に、さくらは真っ先に違和感を覚えた。
確かに心の声はそうそう連発できるものではない。大声を上げたほうが楽な場合もある。それでも。
他のメンバーが心の声を使う中、遥だけが敢えて心の声を使わない理由。さくらはその時点で、疑いを
遥に向けていた。

「小田イズム」と、半ばからかいがちに表現されるさくらの思考回路。
しかしそれが、張り巡らされた罠を打破する決定打となった。

『金鴉』が、本来の姿を取り戻す。
けれど、その表情にもう焦りの色はない。まるで策が破れたことすら想定の範囲だったかのような、そ
んな表情をしていた。

「あいぼんの言うとおりだった。やっぱり注意すべきは、新入りのお前。か」

「金鴉」の言葉を、さくらは本能的に怖れた。
正確に言えば。彼女の背後にいる人物を、だ。

868名無しリゾナント:2015/04/03(金) 23:54:56
さくらを除いたリゾナンターたちの情報は、既にダークネスによって存分に把握されているであろうこ
とは当人たちも承知の上。そう言った意味では、さくらは組織にとって未知なる存在。かつて手中に収
め、彼女についての研究が行われていたとは言え、今のさくらは組織にいた頃のさくらではない。能力
も変質し、そしてより人間味のある人物となった。
さくらはかつて組織の手の内にあった身ながらも、リゾナンターの「隠し玉」でもあった。

それが、今回のことでこちらの有利性は一気にひっくり返される。
「金鴉」が、いや、彼女に指示を与えた人間はそれを狙っていたのだ。

「ってことで。次のアトラクションに移動、だ」

言いながら、「金鴉」が右手を三人に翳した。

まずい。また、どこかに飛ばされる!?

身構える間もなく、抗えない力がさくらたちの身に襲い掛かる。
鏡にはもう、誰の姿も映ってはいなかった。

869名無しリゾナント:2015/04/03(金) 23:55:56
>>863-868
『リゾナンター爻(シャオ)』更新終了

870名無しリゾナント:2015/04/07(火) 19:01:01
■ チェリィブロッサム -研修生- ■

「この子たちはどなたなんですか?」

キッズ…そう呼ばれていた子供たちです…
とはいえ、この記録はだいぶ古い…みなさんあなたより年上ですよ…

「そうなんですか。」

こちらの子の【能力】が、今のあなたと似ています…
もっともそれは現象面において、ということですが…

「すごい、この方は『戻す』ことが出来るんですね。」

…より正確にいうと事象の確定を先延ばしにする…そして…
確定させるか…発現点まで無かったことにするかを選択する…

「へえ。」

そしてこちらの方もあなたと似た【能力】者です。

「『止める』力…私と同じだ…」

ええ…まあ…

「お二人とも随分と長く…私なんかまだまだなんですね。」

たしかに、あなたは、数秒が限界…
彼女は数分…この方の場合は数時間とも…数日とも…
誰も限界を知らない…そういった意味では大きな差がある…

871名無しリゾナント:2015/04/07(火) 19:01:37
「二人とも、一度お会いしてみたいな…」

…それは残念ながら…彼女たちは、すでに死亡しています…

「まあ…」

…【能力者】というものは、どれほど強力な【能力】を持っていたとしても、
その運用を誤れば、あっけなく…実にあっけなく敗北する…
彼女たちの死は実に…実に多くの教訓を含んでいる…そうは思いませんか?

「はい。」

まあいいでしょう…それと、先ほども少し触れましたが…
彼女たちは、あなたのもつ【能力】の…
『現在発揮されている機能』と『多少似ている』にすぎません…

「はい。」

幼少時より覚醒していたあなたには、あなたなりの【能力】の運用が、
すでに出来上がっている…
もちろん、それはとても価値ある機能だ…

「はい。」

872名無しリゾナント:2015/04/07(火) 19:03:44
ですが…知りたくはありませんか?
あなたの可能性を…あなたが『本来』どんな【能力者】になるはずであったのかを…

「はい。知りたいです。」

よろしい…
さて、記録は拝見しましたよ…ご家族は残念でしたね…
もっとも、あなたはさほど興味もないでしょうが…

「ふふ。」

そうだ…いつまでも番号というのでは味気がありませんね…
これからは名前でお呼びしましょう…

「いいんですかそういうのって。」

気にすることはありません…もうあなたは『研修生ではない』のですから…
もっとも、他になにか名乗りたい名前があるなら、それでもかまいませんが…
なにかありますか?

「特にないです。」

そうですか…
では行きましょう『さくら』さん…

『小田さくら』さん…

873名無しリゾナント:2015/04/07(火) 19:05:03
>>870-872

■ チェリィブロッサム -研修生- ■
でした。


以上代理投稿願います。

874名無しリゾナント:2015/04/07(火) 21:45:28
代理投稿行ってきます!

875名無しリゾナント:2015/04/10(金) 07:33:16
>>863-868 の続きです



「あ…」

突如現れたポニーテールの少女によって攫われたかと思われた、遥の姿が再び現れる。
転送したように、見せかけた。その意味も、意図も。ここにいるリゾナンターたちには理解する術はな
いが。

「くどぅーおかえりっ!」
「一瞬くどぅーの姿が消えたように見えたんだけど」
「そうだ、あいつ!!」

亜佑美に訊ねられ、遥が思い出したように叫ぶ。

「人の顔ぺたぺた触りやがって!挙句の果てに『お前の血はまずそうだなぁ』とか言っちゃってさ、む
かつくったらありゃしない!!」

何の意味があるかは解らないが、相手は遥を転送させた後にご丁寧にもといた場所に再転送したの
だという。その意図を、話を聞いている亜佑美と優樹が知る事はできない。

そんな中、思い出したように施設内の放送設備から甲高い声が流れる。

876名無しリゾナント:2015/04/10(金) 07:34:47
「せや。うちまだ名乗ってへんかった。うちの名前は『煙鏡』。ダークネスの幹部、やってるもんや。
ああケムリ言うても、煙の出るお線香なんて吸うてへんよ。って煙の出るお線香ってなんやねん。ほれ、
あれや。温泉旅行に行った時とか無性に吸いたなる、って何言わせてんねん。アホかボケナス。とにか
くまあ、お前らリゾナンター…生かして返さへんから。ほなまた」

言いたいことだけ言って、それきり沈黙してしまう、「煙鏡」と名乗った少女。
ダークネスの手の者であることは予想していたが、まさか幹部クラスのお出ましとは。
緊張と不安がメンバーの中を錯綜する。

一方。

「…なんなのよ。何だってのよ!!」

自らの計略を突如現れた邪魔者に全てひっくり返された、哀れなシンデレラは。
怒りのあまり、叫び声を上げる。

先ほど姿を現した少女に、花音は見覚えがあった。
いつぞやの会議の中で「要注意人物」としてホワイトボードに貼られていた写真。最近組織の一線に復
帰したという二人組の能力者の片割れだ。

となると。
花音の動きを知ってか知らずか。
彼女たちはリゾナンターたちとここで事を構えるつもりだったようだ。
言わば、計画と計画の正面衝突。
既に自分は主役の座から引きずり降ろされた。あまつさえ三下扱いされたことに理不尽な怒りは覚える
ものの、そこに拘っている場合ではない。すでに花音の感情は、怒りよりも理性が勝っていた。

どうする?ここは一旦立て直すか。
後輩たちが揃いも揃って枕を並べて敗北している状況。うち一人は花音自身が私刑を与えたのだが。と
もかく、これから勢い勇んで幹部狩り、という選択肢はないに等しい。

877名無しリゾナント:2015/04/10(金) 07:36:35
ならばこのまま立ち去るか。
相手はどうやらリゾナンターにご執心で、花音たちのことはどうでもいいらしい。テーマパークのあち
こちは火の海だ。面倒なことになる前に、この場を離脱したほうがいいかもしれない。

時間にして数秒にも満たない、ほんの僅かな逡巡。
だが、その迷いとあちこちから吹き上げる炎の柱が、花音の「隷属革命」の効力を弱めていた。彼女に
とって予期せぬ事態がすぐに、発生する。

「あれ…」
「ここどこ…てか、あの火の柱って!?」
「な、なんか、やばくない?」

花音に操られていた群衆たちが、次々と正気に返る。
夢から醒めて間もないような反応を見せる、花音がかき集めた観光客たち。
その隙を、亜佑美は見逃さなかった。

「今だ!!」

自らの内なる獣、青き獅子に呼びかける。
風を切る迅さはそのまま亜佑美のスピードとなり、それこそ目にも止まらぬ速さで人と人の間をすり抜
け、囚われの身となっていた聖を救い出した。

「しまった!」
「あんたのゲームは、もうおしまいだよっ!!」

得意のどや顔を披露しつつ、亜佑美が高らかに宣言する。
その間に聖は倒れている朱莉に駆け寄り、治療を始めた。

878名無しリゾナント:2015/04/10(金) 07:41:21
「くそ…くそ!あんたたち如きが、よくも、よくも!!!!」

感情が、再び激しく熱せられる。
花音の溢れる怒りは、止められない。
再びシンデレラの魔法を、しもべたちにかける勢いだ。

「福田さん…もう、やめにしませんか」
「うるさいっ!何がリゾナンターだ!エリートのあたしが、あんたたちに遅れを取るなんてありえない、
ありえないっ!!!」
「こんなことをしても、あなたの孤独は癒されない」

朱莉に手を翳して治癒の力を送り込みながら、まっすぐに聖は花音を見据える。
朱莉は、身を挺して自分のことを守ってくれた。そのことを考えると心がねじ切れてしまいそうだ。
でも。だからこそ。この因縁に決着をつけなければならない。突きつけなければならない。
花音と接することで、知ることができたすべてのことを。

突然の、聖の発言。
それを聞いて、花音は、大げさに顔の表情を歪めた。

「はぁ?フクちゃんの言ってる意味、わからないんですけどぉ?」

わざと相手を苛つかせるように、語尾を伸ばし気味に。
それでも聖には、今の聖には。理解できる。
それが、彼女自身を護る為の仮面に過ぎないことを。

879名無しリゾナント:2015/04/10(金) 07:43:04
「聖、思ったんです。福田さんは、きっと誰かに認められたい、見てもらいたい。そう思ってるんじゃな
いかって。だから」
「…何勝手に決め付けてんの?ばっかじゃない?」

群集が、次々に悲鳴を上げてこの場から逃げ去ってゆく。
花音の隷属革命は最早完全に影響力を失っていた。散発的な逃走は、やがて雪崩を打ったような人の波へ
と変わっていった。

花音の中で、膨れ上がる思い。
いつも四人で行動していたあの日。一人は、自由気ままに振舞っていた。一人は、自らが認めた相手の顔
色ばかり窺っていた。そして最後の一人は。

「福田さんが操ってた人たちから、感じたんです。福田さんの本当の気持ちを」
「はいはい、凄い凄い。妄想もそこまで来ると立派なもんだね」

そんな自分のことを思っている友人のことを、大切に思っていた。
だから。

「そういう風に考えたら、何だか福田さん自身の声が聞こえてきたような気がして。誰か、私のことを見
て、って」
「いい加減にしろよ。黙れ」

あたしは、ずっと一人ぼっちだった。
四人でいても、一人だった。
紗季は、自分の欲望のために動いていた。憂佳は、彩花のために動いていた。そして、彩花は。誰も。誰
も。誰も。あたしのためになんか、動いてくれない!!!!

880名無しリゾナント:2015/04/10(金) 07:44:06
「黙れ。黙れ黙れ黙れ。黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れだ黙ま黙れよおぉぉぉ!!!!!!!!!」

感情が、爆発する。
花音から弾け飛んだ黒い感情の流れが、一気に聖たちに襲い掛かった。
精神操作能力者が自らの力を律しきれなくなった時に発生する現象。

「やばい!すぐにここから離れないといけん!!」

その危険性を最もよく知っているのが、自らも能力を暴走させたことのある衣梨奈。
しかし、この黒い感情を自らの精神破壊で相殺するのはあまりにリスキーだ。

花音の感情の矛先は、当然のことながらその場にいるリゾナンターたちに向けられる。
対象の精神を屈服させ、思いのままに操る「隷属革命(シンデレラレボリューション)」。そのひれ伏せ
させる圧力が、天から落ちてくる途轍もない質量の大岩のように彼女たちに圧し掛かっていた。

「な、なんだよこれ!やめろよぉ!!」

感受性の高い遥が、自らの感情の乱れに戸惑い、泣き叫ぶ。
亜佑美も、聖も、衣梨奈も。なすすべもなく段々と黒い感情の渦に取り込まれていた。
そんな中、一人だけ平気な顔をしているメンバーがいた。

「いーひひひひ。こちょぱいこちょぱい」
「ま、まーちゃん!?」

まるでくすぐられているように、体を捩じらせる優樹。
自らも不快感に苛まれながらも、優樹を心配する亜佑美だったが。

881名無しリゾナント:2015/04/10(金) 07:45:06
「やっ…ほーたーいっ!!!!」
「あれ?」

目の前の景色が変わったことが、優樹の瞬間移動によるものだと気づいたのは、自分以外の全員が姿を消
したのを認識した少し後のこと。

「えっ?えっ?」
「やっ!ちょ、まーちゃん!?」

同じように転送された面々が、次々と姿を現す。
衣梨奈。遥。聖。そして聖に手当てを受けていた朱莉も。
予告なしに発動した能力発動に戸惑う、仲間たち。
そしてそれは、「彼女」も同様だった。

「これは、転送!? あんた、よくもあたしにそんなものを!!」

自らが優樹の「転送」によって移動させられたことに気付き、怒りを露わにする花音。
ただ、先ほどのような禍々しい感情を帯びてはいない。

「どうして…?」
「もしかして、これを狙って優樹ちゃんは」

気分転換の一つに、外の景色を見るという方法がある。
そこには視覚に刺激を与えることで、気持ちを一新させるという原理が働いている。
花音は、それを強制的にさせられたというわけだ。

もちろん、こんな方法は狙ってできるようなものではない。
ただ、ほんのわずかな景色の変化、状況の変遷が。花音の精神を闇から「ほんの少しだけ」ずらす。
彼女の心は、図らずも闇堕ちする一歩手前で踏みとどまっていた。
それでも、リゾナンターたちに対する敵意は消えていないが。

882名無しリゾナント:2015/04/10(金) 07:46:10
「いひひ、まーちゃん難しいこと、わかんない」
「…なるほどね。あたしを『しもべたち』から引きはがすことで無力化を狙ったわけか。でもね、そんな
の無駄。だって」

視界に入った人間すべてが、あたしの奴隷。
そう言おうとして、近くの人だかりに目をやったものの。

人が、玉蜂でも作るのではないかという勢いで一か所に集まっていた。
彼らのはるか頭上で「SEE YOU AGAIN!!」とデザインされた旗がひらひらと揺れている。
近くには、テーマパークのエリア同士を結ぶモノレールのレールが見える。
ここは、「リヒトラウム」の通用門だということは、見てすぐに理解できた。

人々は押し合い、圧し合い、人の波に揉まれ、かき分け。
我先にと外へ出ようとしている。

「…そうだ!あの炎の柱が!!」

最初はその光景を不可解な表情で見ていた亜佑美が、大きな声を上げる。
女王の城の向こうから見えた、立ち上る複数の炎の柱。あんなものを見たら、誰もがパニックに陥るはず。
だから皆、必死の形相で外へ逃げようとしているのだ。

押しのけ、服を引っ張り、引き倒す。
倒れた人を後からやって来た人が、踏みつけ超えてゆく。
首根っこを掴まれた男が激昂し、相手を殴り倒す。
自分が、自分だけが助かりたい。
群がる全ての人が、我を失っていた。

883名無しリゾナント:2015/04/10(金) 07:47:09
「こうしちゃいられん!えりたちもみんなの手助けするとよ!!」
「待てよ生田さん!」
「なん!?」
「何か、様子が変だ」

人だかりは、減るどころか、アーケードを駆け抜け逃げてきた人々を吸収しさらに大きくなってゆく。
なのに。その輪は縮まるどころかますます膨れ上がっていた。
なぜか。答えは、とても単純なものだった。

「出口が、塞がれてる」

遥の言葉は正確ではなかった。
出口は、確かに誰かが設置したと思しき分厚い鉄板によって塞がれていた。
ただし。一か所だけ隙間があった。それこそ、人一人が通れるくらいの隙間が。

「くそっ!あいつら、こんな恐ろしいことを狙って!!」
「ううん。もっと、恐ろしいことだよ」

施設内の放送をジャックした二人組が仕掛けた炎の罠がこんな状況を引き起こしている。
怒りを露わにする亜佑美に、聖がゆっくりと首を横に振る。
彼女が指を指した場所。

モノレールのレール。
本来なら円を描くように繋がるその軌道が。
すっぱり、綺麗に断ち切られていた。そして鋭く抉られたその切っ先は。
まっすぐに、そして狙い澄ますかのように、多くの群集が揉みくちゃになっている通用門へと向けられていた。

それが一体、何を意味するのか。
遠くで軋むレールの音が、まるで悪魔の讃美歌のように響き渡っていた。

884名無しリゾナント:2015/04/10(金) 07:48:41
>>875-883
『リゾナンター爻(シャオ)』更新終了

885名無しリゾナント:2015/04/13(月) 21:32:21
>>875-883 の続きです



まるで魔法の絨毯にでも乗っているかのようだ。
ただ一つ。絨毯がコンビニの入り口に敷かれていたダスキンマットであることを除けば。
逆に言えば、それがさゆみに現実感というものを齎していた。

風に乗り、さゆみを乗せて一定のスピードで飛行するマット。
それを巧みに操るは、足の長い、黒髪の美少女だ。

かそくどそうさ?で操ってるんさぁ。

ふわりと浮いたマットに乗るよう促したその少女は、さゆみとともにそれに飛び乗ると、軽快に空を
飛ばしていった。
危ういバランスで飛行しているような様子を不安げに見ていたさゆみに、少女が掛けた言葉がそ
れだった。

「加速度操作」。
そう言えば、先日春菜と衣梨奈が助けた能力者の少女の使う能力が、それだったはず。
さゆみは思い出す。彼女は。

スマイレージ。
警察組織が新たに対能力者の切り札として結成した「エッグ」の一部隊。

886名無しリゾナント:2015/04/13(月) 21:33:57
「道重さゆみさん、ですよね? はるなんからよく、話聞いてます」
「そういうあなたは。確か、和田…」
「彩花です」
「そう、彩花ちゃん。彩花ちゃんは、どうしてさゆみを?」

向かい風の強さに、思わず顔を顰めるさゆみ。
それでも「魔法の絨毯」の勢いは削がれない。彩花が加速度操作を巧みに使っている証拠だ。

彩花の同僚・福田花音は自分たちリゾナンターに並みならぬ敵意を抱いているという。
もちろん、彩花は花音ではない。けれど、それが彩花が敵ではないという証拠にはならない。が。

「かにょんが。『リヒトラウム』に向かってるんです。あやのせいで。あやは…あの子を止めなきゃ
いけない。スマイレージの、リーダーとして。そして何より」

さゆみは確信した。

「同じ苦しみを分かち合った、友として」

この子は、自分たちの敵では決してないということを。

しかし、気になるのは愛佳の「予知」だ。
彼女の話した内容をストレートに読み解けば、後輩たちは血の海に沈む。そんな未来が待っている。
そしてそれを望むのは、福田花音なのか。

887名無しリゾナント:2015/04/13(月) 21:44:55
わからなかった。わからなかったけれど。
ともかく、一刻も早く光と夢の国へと辿り着かなければならない。
ただ単に彼女たちが敵襲に遭うなら、そこまで急ぐ必要はない。なぜなら、さゆみは彼女たちに大き
な信頼を寄せているから。
ただ、愛佳の予知が外れたことなど一度もない。回避する手立てはあるけれど、手を打たなければ間
違いなく確約された未来が訪れる。その正確さは、愛佳と長い月日を歩んできたさゆみが一番良く知
っていた。

「ところで、彩花ちゃん」
「なんですか?」
「リヒトラウムは、こっちの方向であってるの? 何だか適当に飛ばしたようにも見えるけど」

彩花の扱う加速度操作はあくまでも「速度」を「操作」するものであり、物体を飛行させるものでは
ない。
つまり、この場合。最初の投擲が非常に大事になってくる。

「あやには。全てが『観ぇ』てるんさぁ」

まさか。
彼女も、二重能力者だというのか。
さゆみがかつて出会った前田憂佳という少女は、人工的に「造られた」二重能力者だった。
その同僚である彼女もまたそうである可能性は十分だが。

「なーんて。一度、言ってみたかっただけです。実は、あそこに大きな鉄塔が立ってるじゃないです
か。あそこの方向に、リヒトラウムがあるって、知ってたんです」
「なんだ、びっくりしたぁ」

二重能力者と聞くと、どうしてもさゆみは思い出してしまう。
かつて喫茶リゾナントにいた、頼もしいリーダーのことを。
皆を導いてくれた、光と影の狭間に立つ人のことを。

888名無しリゾナント:2015/04/13(月) 21:45:31
さゆみは、理想のリーダー像というものを模索していたことがあった。
眩いほどのカリスマ性と包容力でリゾナンターたちを率いてきた、高橋愛。
それとは違う形で、統率力と言うものを見せてくれた、新垣里沙。
二人ともリゾナンターのリーダーの名に恥じぬ活躍をしてきた。進むべき道を、背中で語ってくれた。

ならば、自分はどういう形を示せばいいのか。
悩み、迷い、底の見えない思考の沼地に足を取られかけた時。
かつて友が残した言葉が甦った。

― さゆは、さゆのままがいいよ ―

今も自らの病と闘い続けている、無二の親友の語ったことの意味。
ありのままの自分を体現することで、それが新たな後輩たちへの道しるべとなる。
そう思い至った。だから。

陰謀渦巻く光の国へ赴く。
歴代のリーダーたちが、そうしてきたように。
さゆみが後輩たちに、進むべき道を照らすために。

889名無しリゾナント:2015/04/13(月) 21:47:55
「…そろそろ、見えてきますよ。シンデレラの、お城が」

彩花の言葉に誘われ、前方に目を向ける。
広大な敷地に、色とりどりのメルヘンチックな建物が敷き詰められた光の都。
その中央に、白亜の城が聳え立っていた。

「シンデレラ?」

彩花の物言いに、首を傾げるさゆみ。
シンデレラの城は、もっと東にあるあの有名な遊園地にはるはずだが。

「シンデレラは、幸せにならなきゃいけないんです。必ず」

さゆみには、彩花の言っている意味が理解できなかった。
その真意は、彩花の胸の奥に。語られることは、なく。


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