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SSスレ「マーサー王物語-サユとベリーズと拳士たち」

1 ◆V9ncA8v9YI:2015/05/02(土) 12:22:52
ずっと前にマーサー王や仮面ライダーイクタを書いてた者です。
マーサー王物語の数年後の世界が書きたくなったのでスレを立てました。

2007年ごろに書いた前作もリンク先に掲載しますが、
前作を知らなくても問題ないように書くつもりです。

SSログ置き場
http://jp.bloguru.com/masaoikuta/238553/top

787名無し募集中。。。:2015/12/23(水) 13:35:52
ついに決着!新フク王万歳!ハルナンも頑張った!

そしてリアルに握手会に参加する作者さん…取り敢えず譜久村と飯窪さんに謝っとけwまた創作意欲湧くこと祈ってます

788名無し募集中。。。:2015/12/23(水) 18:36:44
なんか最後の最後でハルナン情けないなあ

789 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/24(木) 12:56:00
決着から数ヶ月後。
モーニング城では新たな帝王の就任式が始まるとして、たいへん賑わっていた。
この日の主役はもちろん、例の決闘で勝利したフク・アパトゥーマだ。
数時間後の就任スピーチに備えて、控え室で身体を休めている。

「フク王様、脚の方の調子はもう宜しいのですか?」
「うん、ハルナン。もうすっかり歩けるようになったよ。」

この控え室の中にはフク王の他にもう一名。
モーニング帝国に2人存在する帝国剣士団長のうちの1人であるハルナンが立っていた。
これから大舞台へと羽ばたくフクのサポートを務めているのだ。
もう1人の帝国剣士団長は部屋の外の警備に当たっているため、ここには2人しかいない。

「それにしてもフク王様。」
「なに?どうしたの?」
「やっぱりフク王様こそ前線で戦い続けるべきだと今でも思うんですよねぇ……
 王座は、戦闘の役に立たない私に譲ってみませんか?」
「ちょっと!まだ言ってるの!?」
「うふふふ、冗談ですよ。 緊張をほぐすためのギャグです。」
「笑い事じゃないよもう……それにね、ハルナン。」
「はい?」
「私はね、ハルナンの方がずっと前線向きだと思ってるよ。」
「……それはギャグですか?」
「ううん。冗談なんかじゃない。
 ハルナンの策で帝国剣士全員を動かしたら凄いことが起こるはず。
 ううん、モーニング帝国剣士だけじゃもったいない。
 アンジュの番長、果実の国のKAST達とも協力しよう。
 個性の強い戦士達をまとめる総指揮は、ハルナンにしか取れないんだよ。」
「お言葉は嬉しいですけど……結局、私が前線に立つのとは関係ないのでは……」
「ある。」
「ありますか?」
「ハルナンはいつも最後には自ら敵に立ち向かってるよね。
 その自己犠牲の精神があるからこそ、天気組のみんなは従ってきたんじゃないかな。」
「あはは、じゃあそう受け止めておきます。
 ただ、一つだけいいですか?」
「なに?」
「総指揮に立つってことはQ期さんも自由に使っていいんですよね?
 後輩の私から命令するのは難しいので、王の方から新任帝国剣士団長さんに言付けしてもらえませんか?」
「うん。言っておく。」
「それはどうも。」

790 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/24(木) 12:59:07
マーチャンがやられた時点でハルナンには豪雨の中での戦いしか残されていなかったので、
雨が止むことでパニックになり、冷静さを欠いたということになっています。
ベリーズ全員がやって来るというのは、想定外だったんですね。

握手会行ってきました!みんな可愛かったです。
一瞬で終わったので謝罪は無理でしたw

791名無し募集中。。。:2015/12/24(木) 20:39:30
まぁベリーズが総出来るなんてそりゃ想定外だわなw
握手会楽しんで来たようで何より

792 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/25(金) 12:43:13
式典が行われる会場には数え切れないほど多くの人々が収容されていた。
城に仕える者だけではなく、新たな王を一目見たいと望む国民たちも集っている。
おかげ様で一階席、二階席、アリーナ席のどれもが満席。満員御礼だ。
そして、関係者席には特に重要なVIPらが着席していた。
アンジュ王国のアヤチョ・スティーヌ・シューティンカラー王ならびに8名の番長や、
果実の国のユカニャ・アザート・コマテンテ王と4名のKASTらも十分大物ではあるのだが、
特に来場客らからの視線を集めていたのはマーサー王と11名の食卓の騎士だった。
祝いの場なのでいつもの天変地異の如き殺人オーラを最小限に抑えてはいるが、
それでも彼女らはそこに居るだけで周囲を緊張させる。
この数ヶ月で大きく成長したモーニング帝国剣士らも、ベリーズ&キュートの放つプレッシャーだけはまだまだ苦手なようだった。
あの自由奔放なマーチャンでさえも、本能で危険を感じ取ったのか、大人しくなっている。
そんな中でビビっていないのはQ期団のサヤシ・カレサスくらいのものだ。
とは言っても、決してサヤシのメンタルが強くなったという訳ではない。
今は別件で頭がいっぱいなのである。

「認めない認めない認めない……」
「ちょっと、まだ落ち込んでるの?」
「カノンちゃん……ウチはもうダメなんじゃ。Q期としてやってく自信が無い……」
「気持ちは分かるけど決まったものはしょうがないでしょ。
 ほらお菓子あげる。ストレスは甘い物で吹き飛ばせばいいんだよ。」
「ありがとう……」
「まだたくさん残ってるからね。」

793 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/25(金) 12:43:43
夜ごろにまた更新出来そうです。

794名無し募集中。。。:2015/12/25(金) 15:51:05
やはり食卓の騎士は『11名』なのか…

夜の更新も楽しみにしてます

795名無し募集中。。。:2015/12/25(金) 19:09:41
悪魔の誘惑やめーやw

796 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/25(金) 19:16:31
トントン、と扉がノックされる音をフクとハルナンは耳にした。
警備を担当する新帝国剣士団長、兼新Q期団長には誰も通すなと伝えていたので
2人は少しだけ怪訝そうな顔をしたが、
部屋に入る客人の正体を知るや否やすぐに納得する。

「へぇ〜フクちゃんなかなか可愛く着飾ってるじゃないの。」
「「サユ王様!!」」
「王じゃないでしょ、もう。」
「いえ、私たちにとってはいつまでもサユ王です。」

フクを訪ねてきたのはモーニング帝国の先代の王、サユだった。
わざわざこうして訪ねてきてくれたのだから、現王フクはたいへん嬉しくなってくる。

「でもいったい何の御用で……ひょっとしてスピーチのアドバイスとか……」

サユは名演説家として他国にも有名だったので、
人前で話すのが苦手なフクはありがたい助言を期待していた。
ところが、サユの目的はそれではなかったようだ。

「ううん、初スピーチは自力でなんとかなさい。」
「ではいったい何用で…」
「私はね、自分の考えの正しさを確認しに来たの。
 いや〜我ながら完璧完璧」
「???」

フクにはサユの言葉の意味がまるで分からなかったが
ハルナンはすぐに気づいたようで、クスクス笑っていた。

「ふふふふ……スパルタにも程がありますよ。本当に。」
「え?え?ハルナンは何か知ってるの?」
「はい。サユ様は私たち帝国剣士に一人前になって欲しいがために引退を決意したんですよ。」
「ええ〜〜!?」

そこからサユはこれまでの選挙戦の裏で行われた、
数々の暗躍を白状していった。
わざと全員が血を流すように誘導したこと、
ハルナンが上手い具合に盛り上げてくれたこと、
そして最終的に素晴らしき新王と、立派な帝国剣士たちが誕生したことを告げていく。

「……ってワケ。なかなか満足いく結果だったわよ。」
「あ、有難う御座います!そんなに良くしてくれてたなんて……
 でも、ハルナンはこのことを初めから知ってたの?
 じゃあ今までのは全部演技……」
「違いますね。」
「!」
「演技なんかじゃありません。本気で帝王の座を勝ち取ろうとしてました。
 この期間、嘘をつくことはあっても手を抜いたことは一度とたりとも有りません。
 ですが、残念なことにフクさん達のほうが一歩上を行ってたのですよねぇ……」
「そ、そっか。」
「でもいいんです。おかげで"ファクトリー"に対抗できるかもしれない大戦力の指揮権を得ることが出来ました。
 いつまでも脅威に怯えるより、近々こちらから仕掛けていきましょう!!」
「「"ファクトリー"……!」

797 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/25(金) 19:18:51
>>794
はい。ベリーズ6名+キュート5名の計11名となっています。
マノエリナは食卓の騎士には含まれません。念のため。

>>795
サヤシが誘惑に勝てたかどうかは二部以降をご確認くださいw

チャンスがあれば深夜にもう一回更新します。

798名無し募集中。。。:2015/12/25(金) 19:49:47
やはりウメサン・メグ・マイハはいないんだな・・・分かっちゃいたが寂しいな

次回はついにファクトリーの謎が明らかになるのかな?サユ王も知らない感じだったけど…?

799名無し募集中。。。:2015/12/25(金) 23:57:05
考えたらスケート靴とか忍刀の使い手が入るより先に王が代わるんだな

800 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/26(土) 04:41:55
ハルナンは、王と剣士団長クラスの者にはファクトリーに関する情報を共有していた。
モーニング帝国に危険を及ぼすかもしれない存在ではあるが
その力が強大すぎるため、いたずらに恐怖を植え付けないよう公開範囲を狭めていたのである。

「ユカニャ王が"悪意なき悪"、"バイ菌"といった言葉で形容するファクトリーですが
 つい最近、マーサー王国の領土にて8名固まって行動しているのが確認されたみたいですね。」
「知ってる!確かベリーズの皆さんが対処したって聞いたよ。」
「はい。フク王様の言う通りです。」
「でも、シミハム様、ミヤビ様、モモコ様の力を合わせても追い払うのが精一杯だったらしいね……」
「はい。それもフク王様の言う通りです。」

あの怪物のように強い食卓の騎士3人の力を合わせても倒しきれなかったという事実は、
絶望を感じるには十分すぎるほどの情報だった。
そんな凶悪な存在が最低8人も周辺国をうろついていると考えると、王としては気が気でない。

「ハルナン。ファクトリーを倒す策はあるの?」
「……100%とは言えません。まだ足りていないんです。」
「足りていない、ってのは?」
「味方の伸びしろに関する情報ですね。特に新人が……」

完全に作戦会議モードに入るある室内に、外にいる新任剣士団長の声が飛び込んでくる。

「ちょっとちょっとー!そろそろ式が始まるけんねー急いで急いでー!」

はっとしたフクは時間を確認し、もう本番まで時間が無いことを理解する。

「あわわわっ、ほんとだ。急がなきゃ!」

フクとハルナンは急いで残りの支度を終わらせていく。
そんな慌ただしいフクに向かって、サユはくつろぎながら声をかけ始める。

「あ、そうだフクちゃん。」
「な、な、なんですか!?」
「合宿は全カリキュラム修了したから。」
「!!……それで、合否の方は……」
「安心していいよ。4人全員合格。」
「本当ですか!……ということは、残るは最終試験のみですね。」

801 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/26(土) 04:43:20
>>799
ちゃんと忘れていませんよw
タイミング的にはほぼ同時ってとこですね。

802名無し募集中。。。:2015/12/26(土) 08:27:51
ついに12期参戦か!寺合宿のシーンは描いてくれるのかな?

803名無し募集中。。。:2015/12/26(土) 08:55:04
周辺国をうろちょろしてるってファクトリーは野盗かよw

804 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/26(土) 17:33:43
舞台に主役が登場することで、会場は一気に静まり返る。
純白のドレスと、金色に輝くティアラで彩られた新王フク・アパトゥーマに目を奪われているのだ。
普段は軍服や訓練着ばかり着ているイメージが強いため、誰もがその美しさに息を飲む。
だが、しばらく経つと来場客はまたざわつき始めた。
フクではなく、その三歩後ろについている帝国剣士団長に注目している。
関係者席にいるサヤシも、その事実が公に晒されてしまったことにガックリきていた。

「はぁ〜……なんでエリポンなんかが剣士団長になってしまったんじゃ……」

王の後ろの帝国剣士団長は、新任のエリポン・ノーリーダーと、従来通りのハルナン・シスター・ドラムホールドの2名だった。
今後はそれぞれがQ期団と天気組団の団長をも兼ねることになる。
この時のエリポンの表情はドヤ顔にも程があり、
今すぐにでも「これが現実です。」と言いたそうな雰囲気を醸し出している。
このまま放っておけば会場はいつまでもざわついていたのだろうが、
フク王が拡声器に手を伸ばすことでそれもピタリと止む。
やはり主役はフク。みな彼女の演説を聞きに来たのだ。
最重要同盟国であるマーサー王国の面々もこれは見逃せない。

「ほらフクちゃんのスピーチが始まるよ。 あの時モモが晴れさせたおかげで王になれたんだよね。」
「え?クマイチャン何言ってるの?意味が分からないんだけど……」
「またまたぁ。」

誰もが新王フクの力強いスピーチを期待したのかもしれない。
先代サユがやってみせたように、人の心を鷲掴みにする話術を見たいと思うのは当然だろう。
だが、残念ながらフクにはそんなトークなどできやしない。
弱々しいかもしれないし、文量もサユと比べてずっと短いが、
フクは自分の思いの全てを言葉に詰め込んでいた。

「モーニング帝国史上、最も頼りない帝王だと思われてしまうかもしれません。
 でも、タカーシャイさん、ガキさん、レイニャさん、アイカさん、
 そしてサユさんに教わったことには誰よりも自信があります。
 サユさんのように背中で語ることは出来ないと思いますが、
 みんなで頑張っていくことは出来ると思うので、精一杯頑張りますので、
 これからのモーニング帝国をよろしくお願いします。」

本心を言葉にしたフクに対する反応は、文句無しの拍手喝采だった。
立ち上がりながら手を叩く人たちまで視界に入ってくる。
確かにサユのような名演説とは言えないかもしれないが、
この場にいる人々の心を掴むには十分すぎたのだ。

「さて、それでは仕上げですね。」

ハルナンが重厚そうな剣を取り出し、フク王に膝をついて手渡した。
王が剣を取り、力強く掲げることが恒例の儀式となっているのだ。
フクは宝石が贅沢に散りばめられた剣を見て、
剣士時代愛用していた装飾剣「サイリウム」のことを思い出した。

(懐かしいなぁ、確かにアヤチョ王に折られちゃったんだっけ……
 剣士だった私を支えてくれてありがとう。
 そして王となる私をこれからも支え続けて欲しい。」

フクは鞘から剣を引き抜くと、雲ひとつない天空へと突き上げた。
その剣は装飾剣「サイリウム」のようにピンク色単色には輝かない。
決闘の日の模擬刀のように虹色の7色にも輝かない。
新たなる剣は太陽に照らされることで13色に輝くのだ。
王が握るに相応しき装飾剣、その名も「キングブレード」。
その剣が放つPRISMのGRADATIONは、この国の全ての「かがやき」を表現している。

805名無し募集中。。。:2015/12/26(土) 18:21:13
いいネタの盛込みだね

806名無し募集中。。。:2015/12/26(土) 19:20:08
キンブレwついに『ミズキングダム』建国か…某スレのように変態王国にならないことを祈ろうw

807 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/27(日) 14:56:01
式も終わり、各国の重鎮への挨拶も済んだところで
フク王はやっと帝国剣士らに会うことが出来た。
Q期団はもちろんのこと、天気組団も式の感想を言い合う場を設けたいと考えていたのだが
フク王にはそれよりももっと見て欲しいものがあったようだ。

「みんな、今日のイベントはまだ終わりじゃないよ。」
「え?」「それはどういう……」
「新しい帝国剣士のお披露目会が開催されるから、今すぐみんな広場に来て!」
「「「!!!」」」

フク、ハルナン、エリポンの3名に連れられた先にある大広場には
サユ前王が召集した500名の一般兵らがズラリと並んでいた。
それを見て、サヤシがごくりと唾を飲む。

「入団当時を思い出す……最終試験が行われるんじゃな。」

モーニング帝国剣士の最終試験。それはお披露目の場で500人斬りを達成することだった。
帝国剣士の新人は特殊な場合を除き、基本的には若き少女から選ばれるため、
屈強な男性兵達に舐められないように実力を示さねばならないのだ。
同期の力を合わせて500もの男を納得させる。
それが出来ねば帝国剣士としての資格はない。

「うわぁ〜アレ大変なんだよねぇ……」
「アユミンさん達は苦戦したんですか?私は1人で500人斬りを達成しましたが。」
「うるさいぞオダァ!!」

この試験、期にどんなタイプの戦士が揃っているのかによって難易度が大きく上下する。
Q期のような純粋な戦闘タイプなら楽勝なのだが、
天気組みたいに特殊戦法を使うようではなかなか難しいのかもしれない。
それでも、この試験は必ず乗り越えねばならない。
一切の言い訳は許されない。

「それでは新たな帝国剣士たち!前に!」

フクの号令とともに新メンバー4人が登場する。
4人の少女はさすが合宿を乗り越えただけあって、一癖も二癖もあるように見えるが
その中でも最も小柄な新人は、帝国剣士らの視線を多く集めていた。

「あれ?あの子は確か……」
「サユ様のお付きの……」

一同が質問を投げかける暇もなく、最終試験の時刻が迫ってくる。
フク王の呼びかけに応えることでお披露目は始まるのだ。

「ハーチン・キャストマスター!」
「はい!」
「ノナカ・チェルシー・マキコマレル!」
「はい!」
「マリア・ハムス・アルトイネ!」
「はい!」
「アカネチン・クールトーン!」
「はい!」
「今こそ力を合わせて、帝国剣士としての威厳を示すのだ!!」

808 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/27(日) 14:56:37
ようやくここまで来たかーって感じです。

809名無し募集中。。。:2015/12/27(日) 15:45:41
おお!いよいよですね…1部で一スレまるまる消費って感じですね

810名無し募集中。。。:2015/12/27(日) 23:33:16
マキコマレルw

811名無し募集中。。。:2015/12/27(日) 23:57:14
>>810に先を越された

812 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/28(月) 02:16:04
「じゃあウチから行くわ。ノルマは100人なんやろ。余裕のよっちゃんやで。」

他の3人に先駆けて前に出たのは、新人の中では最年長であるハーチン・キャストマスターだった。
雪のように真っ白な肌と、折れてしまいそうなくらいに細い腕が特徴的な女性だ。
彼女ら新メンバーは最終試験を攻略するための作戦会議を事前に行っており、
各自が順番に100人ずつ計400人を撃破して、残る100人を4人のコンビネーションで始末しようと決めていたのだ。
ところが、先陣を切るはずのハーチンの両手には剣が握られていなかった。
帝国剣士は文字通り「剣士」であるため誰もが剣を武器にするのが道理だし、ハーチンもその例からは漏れていない。
そう。彼女の剣は手ではなく足に装備されているのである。

「あ!あれは……!!」

オダにはハーチンの履いている靴に見覚えがあった。
それは以前マーチャンがラボで試作品として使用していた刃付きの特注シューズだったのだ。
靴底にエッジが取り付けられたその見た目はまさに「スケート靴」そのもの。
おそらくはスケートの要領で滑りつつ、蹴り技で相手を斬りつけるための武器だと想像できる。

「でも、陸地じゃ滑れんっちゃろ?」

エリポンがそのような疑問を抱くのは至極当然のこと。
スケート靴は氷の上を移動するための道具。地上では満足に滑ることが出来ないはずだ。
だが、スケート靴の製作者であるマーチャンはそのことも折り込み済みだった。

「エリポンさん遅れてるなー」
「なん!?」
「ローラースケートですよ、あの子が履いてるのは。」
「!」

ハーチンはマーチャンの記述した説明書の通りに、かかと部分をコンと強く叩く。
それがギミックの起動スイッチとなり、靴内部に収納されていた車輪が外へと飛び出していく。
このスケート靴「アクセル」はアイススケートとローラースケートを切り替えることによって氷上と陸上の両方に対応可能なのである。
さっそくハーチンはローラーによる加速で敵の集団が固まっているところへと突撃する。

「ほらほら〜行くで〜!」

そこからはハーチンのオンステージだった。
高速移動からの勢いで繰り出される蹴り、すなわち斬撃を避けられる兵はそうそういなかった。
スケート競技の経験で培った柔軟性のおかげで彼女の脚は高くまで上がるため、
剣を手に持つ剣士と比べてまったく見劣りしない射程をもカバーしている。
そして特筆すべきは、攻撃にしょっちゅう組み込まれているスピンの回転力の凄まじさだ。
ハーチンはその細腕細足ゆえに一見して非力な戦士のように見えるのだが、
一っ跳びでダブル回転、トリプル回転くらいは簡単にしてしまうので、その回転力がスケート靴のブレードの破壊力をより一層高めてくれる。
ゆえに硬い装甲であっても簡単に切り崩すことが出来るのだ。
スケート技術を取り入れた戦法を巧みに操るため、ハーチン・キャストマスターは西部地方で「氷上の魔術師」と呼ばれていた。
だが、そんな彼女にも直すべき欠点はある。

「Ummm……ハーチンまた悪い癖が出てる……」
「女の子があんな顔をするなんて、マリア、信じられません。」
「ハーチーーーン!顔!顔!」

ハーチンの欠点。それは戦闘の悦びに浸るあまり、ついつい変顔になってしまうことだった。
白目を剥いた変顔で敵をバッタバッタと薙ぎ払う様は、傍から見れば恐怖でしかない。
それが由来となって、ハーチンは西部地方で「表情の魔術師」とも呼ばれていたという。

813 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/28(月) 02:17:49
キャラ名や武器名はあとでまとめて由来を説明するつもりですが、
ノナカ・チェルシー・マキコマレルはそのまま「巻き込まれる」ですw

814名無し募集中。。。:2015/12/28(月) 07:58:57
氷上と表情w

815 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/29(火) 03:28:08
変顔はともかく、華麗に滑りながら攻撃する戦法はなかなか見事なものだ。
ハーチンのバランス感覚ならば、アユミンがツルツルに均した地面の上でも転倒せずに活躍出来るかもしれない。
先輩剣士と連携可能であれば技のバリエーションも増えるため、実戦が非情に楽しみになってくる。
そんなハーチンに続こうと、もう一人の新人剣士が準備をし始める。

「ハーチンの戦い方は本当にfabulousだなぁ……そろそろ私も行かなきゃ。
 あ、その前に先輩方にご挨拶か……」

二人目の新人は少しボーっとした、どこか田舎臭い雰囲気を残した少女だった。
彼女の名はノナカ・チェルシー・マキコマレル。異国での修行経験を誇りに思っている。
異国語を「覚えた」ことのあるマーチャンも、そこに興味を持ったようだ。

「外国の言葉話せるの?」
「Yes!」
「喋ってみて。」
「How are you doing? I am fine.
 I'm so happy to be a member of this team.
 Why don't we talk about the globalization of Moning empire's swordwoman together?
 I want to liven up the Military strength with you all!」
「What do you want? Is it necessary?」
「Oh! マーチャンさん、さすがです。」

異国語となると急に流暢に喋りだすノナカに、マーチャン以外の先輩剣士らは困惑してしまった。
その中でもエリポンだけはなんとか話に入ろうと頑張ってはみたものの、
語学力が足りないために「I am a pen!」としか言えなかった。
そうこうしているうちに、ハーチンがノルマの100人斬りを達成する。

「よっしゃ終わった!ノナカちゃん交代な〜……ってあれ?ノナカちゃんどこに消えた?」

もうすぐ出番だというのに、さっきまで先輩の前で自己紹介していたというのに、
ノナカは足音も無くその場から消え去ってしまっていた。
いや、正確には「足音が無い」というワケではない。非情に聞き取りにくいだけで有るには有るのだ。
帝国剣士の中でも特に優れた音感を備えたカノンとマーチャンだけが、一般兵の密集地帯へといち早く視線を向ける。

「あそこだ!ノナカちゃんはもう戦闘開始してるんだよ!」

カノンが叫んだころには既に、ノナカは柄の部分に紐のついた忍刀をぐるりと回して、周囲の敵をぶった切っていた。
音が鳴るよりも速く刀を投げつける芸当は、忍刀「勝抜(かちぬき/かつぬき)」がおもちゃのように軽いからこそ出来ることだ。
この「無音切り」を自身の代名詞としているノナカだが、彼女の特徴はそれだけではなかった。
次の行動が、特にエリポンを驚愕させる。

「アクロバットまでやりようと!?」

周りの兵をあらかた切り終えたノナカは、次の敵が集まるところへと前転で移動していた。。
他にもバク転や側宙など、エリポンを彷彿とさせるアクロバットで相手を翻弄する。
回転数や力強さなどは先駆者であるエリポンに軍配が上がるが、その代わりノナカの器械体操はとても静かだった。
音をほとんどたてずに縦横無尽に跳び回る様はまるで忍者のよう。
海外生活の長いノナカは、それが反動となって母国の文化に強い興味を持つようになっている。
その結果、はるか昔の暗殺者として実在したとされる忍者の戦闘スタイルを好んで取り入れたのだ。

「はぁ、やっぱりみんな西洋の鎧ばっかり着てるなぁ……忍者がいなくてちょっぴりSHOCK……」

816名無し募集中。。。:2015/12/29(火) 22:23:37
ノナカの謎の忍者推しは元ネタなんかあったっけ?まぁチェルのくのいちは似合うから良いけどw

817 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/30(水) 04:33:34
次々と実力を示していくハーチンとノナカに続いて、3人目マリア・ハムス・アルトイネが登場する。
彼女が立ち上がるなり、残った300名の一般兵らもピリッとし始めた。
マリアは研修生の出身であり、その中でも優れた逸材として有名だったのだ。

「大大大好きなサユ様にひみつのマリアちゃんな修行を見てもらって、マリア、とっても嬉しかったです。
 だからマリアはもう、ややチビマリアじゃなくておとなマリアなんです!」

言葉のセンスはあまりに個性的すぎるが、研修生のTOPまで登りつめた実力は本物だ。
その強さの秘密は両方の手に異なる剣を握った「二刀流」スタイルにある。
左手には投てき用途で使われる小型の投げナイフ「有」。
右手には敵を叩き潰すに十分な重量を誇る両手剣「翔」。
この「投げナイフと両手剣」の2つを同時に扱う怪物のような強さが兵士らを怯えさせているのだ。

「両手剣?あの子、両手剣を片手で持っちゃってるけど……」

アユミン自身も「振分髪政宗」と名付けられた大太刀を愛用するが、やはり両手で握るのが精いっぱいだった。
マリアはこれまでとても辛い自主トレーニングや春季キャンプ、秋季キャンプをこなしてきたため
右手一本で両手剣をも持ち上げてしまうくらいのパワーを手に入れていたのだ。
新メンバーの中で最も長身、すなわち体格に恵まれているとは言ってもかなりの細身なので一見して弱そうだが、
実際に超重量の武器を軽々と持ち上げているところを見るに、筋肉がギュッと凝縮されているのだろう。
この厳しい修行もすべて、サユ(元)王をお守りしたいという一心で乗り越えてきた。
それだけマリアはサユのことを尊敬していたのである。

「それじゃあ行きます!20勝目指すので見ててください!」
「マリアちゃん!20勝じゃあかんで!100勝せな!」
「そうでした。100勝します!」

スケート術やアクロバットで動き回った同期とは対照的に、マリアは初期位置から動かなかった。
そう、彼女は投げナイフをぶん投げることによって、マウンドから一歩も下りずに敵を倒せるのだ。
これよりマリア・ハムス・アルトイネの始球式が開始される。
大きく振りかぶって第一球。今投げられた。

「あーーーーーーーー!?」

誰もが見事な投球を期待したものだが、それに反してマリアの投げナイフは上空高くにふっとんでしまった。
その先に敵がいれば良かったかもしれないが、残念ながらモーニング帝国の一般兵に空を飛べる者は存在しない。
普段の訓練や合宿では滅多に制球を乱したりはしないのに、ここぞという時で手元が狂ったのである。
あまりにショックすぎたマリアは、ガクッと項垂れて、地に手と膝をついて落胆する。

「汗ですっぽ抜けちゃいまりあ……ハンカチでちゃんと拭いておけばよかったです……」

ひどく落ち込んでいるマリアを見て、兵士らは「今なら倒せるんじゃないか?」と思い始める。
帝国剣士となる最終審査というプレッシャーに押しつぶされたマリアなら怖くないと考えて、大勢で押し寄せたのだ。
だがマリアの得意とするスタイルはご存知二刀流。
投げナイフ「有」がダメでもまだ両手剣「翔」がある。選手交代だ。
これ以上ミスをしたら帝国剣士になれない、つまりはサユを守れないと考えたマリアは必死で両手剣を振りまくった。
この剣は刃こそ鈍いが、かなりの重量であるためにヒットした敵をホームランのごとく遠くまで飛ばすことが出来る。
結果としてマリアは、マウンドから一歩も下りることなく次々と押し寄せる100名の命知らずを迎撃してみせた。

「勝てたけどイメージと違う……不甲斐なくてごめんちゃいまりあ……」

818 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/30(水) 04:37:04
マリアは研修生TOPと書きましたが、
モーニング帝国の研修生のメンツは現実世界の研修生とは異なっています。
アンジュルム合格者がいない、カントリーがいない、こぶつばがいない、等々……ですね。
段原はいるかどうかは現実の動向次第ですねw

>>816
忍者推しに元ネタはありません!
音関連+器械体操=忍者っぽいというイメージだけで設定してますね。

819名無し募集中。。。:2015/12/30(水) 10:55:08
次はクールトーンちゃんか
どんな武器を使うんだろ

820 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/31(木) 08:09:49
ハーチン、ノナカ、マリアの3人が見事100人斬りを達成した今、
残る最後の一人であるアカネチン・クールトーンに注目が集められた。
戦闘向きには到底見えないその風貌に、ハル・チェ・ドゥーも心配しているようだった。

「クールトーンちゃんだっけ?……大丈夫?戦える?」
「ハルさん、これから私のことは名前で呼んでほしいです。」
「えっと……アカネチン?」
「はい!せいいっぱい頑張るので見ててくださいね!」

憧れの先輩に並ぶため、アカネチンは意気揚々と戦場に向かっていった。
もう彼女は研修生でも書記係りでもない。いっぱしの帝国剣士なのだ。
剣をその手に握り、同期と同じように100人の一般兵を倒さんとしている。

「えっ、あれがアカネチンの剣?」
「ペンのように見える……いや、彫刻刀じゃろうか?」

カノンとサヤシだけでなく、帝国剣士の誰もがアカネチンの持つ剣に驚きを隠せなかった。
それもそのはず。その剣はたった10cm強しかない筆のような形状をしていたのだ。
彫刻刀のようなナリをしたその剣の正体は"印刀"。本来は木や石を彫って印鑑を作るための道具だ。
その印は書をかいた後に己の名を判するときに用いられるため、書道には欠かせない。
印刀「若木」をアカネチンなりに扱うのが、彼女が合宿で習得した戦闘スタイルなのである。
しかしそれをもってしても、アカネチンは殆どの一般兵らに舐められているようだった。

「アカネチンって研修生にいた子だろ?……強かったか?」
「実力は中の下ってところかな。マリア様と違って恐れるに足りない。」
「だったら手柄を立てるチャンスじゃないか。仮にも帝国剣士。痛い目を見せて、俺たちの力を示してやろう!」

残りの200人のうち、考えの浅い者どもは一斉にアカネチンに襲い掛かった。
帝国剣士の最底辺が相手ならば自分たちも勝利を収めることが出来ると思ったのだろう。
だがアカネチンだってサユ元王に認められ、修行を積んできた戦士だ。
この程度の逆境を乗り越えられないはずがなかった。

「全部、見えてます!」

複数の兵士らによる剣や槍の雨あられをアカネチンはすべて避けきってしまった。
どちらかと言えばどん臭いイメージだったはずのアカネチンがとても見事な回避を決めたので、一同は驚愕する。
一見して超常的な進化のように見えるが、これまでの経験を思い返してみればこれくらいは出来て当然だ。
クマイチャンとモモコの本気の戦いを間近で見たり、合宿でサユによる殺気の込められた斬撃を避け続けた彼女にとって
一般兵の攻撃を見極めることなんて容易いのである。

821 ◆V9ncA8v9YI:2015/12/31(木) 08:11:41
今日はあと一回更新をする予定です。
それで第一部は最終回となりますね。

こぶしファクトリーも最優秀新人賞をとったことですし、
登場を予定している第二部の準備を進めねば……

822名無し募集中。。。:2015/12/31(木) 09:16:20
アカネチンはやはり『眼』か…それにしても印刀とはマニアックなw
いよいよ一部も完結…約7ヶ月楽しい時間だった!二部も楽しみにしてます

823 ◆V9ncA8v9YI:2016/01/01(金) 01:17:58
アカネチンの得意技は見切りのみではない。
サユの書記係だった時に見せた高速筆記だって立派な個性の一つだ。
「筆」を「印刀」に、「紙」を「相手の肉体」に置き換えれば、特技は戦闘スキルへと変化する。

「うわあああああ!!」
「い、痛い……!」

相手の肉を掘るという行為は、アカネチンの可愛らしい見た目とはウラハラにあまりにもえげつなかった。
剣で四肢を斬りつけるのと比較するとダメージ量は明らかに少ないはずなのだが、
日常のそばにあるリアルな痛みという理由から、周囲にいる敵兵らの戦意を喪失させていく

(よし!この戦い方なら勝てる!)

戦士としての手応えを感じ始めたアカネチンは、恐怖で動きの鈍った相手を引き続き削り取ろうとする。
しかし、つい最近まで並程度の実力だった彼女がこんな戦い方を長く続けられる訳もなかった。
敵の肉をえぐる感触は己の手に直接伝わってくるし、悲痛な叫び声だって間近で耳にしなくてはならない。
おまけに今回のノルマを達成するには100回も同じ行為を繰り返す必要があるので、
まだ幼いアカネチンは精神的にも肉体的にもひどく苦しめられることになった。

「はぁ……はぁ……でも、ここで頑張らないといけないんだ……」

結果だけ書けば、アカネチン・クールトーンは100人切りを見事達成することができた。
だが先に述べた理由から疲労困憊になり、条件をクリアーするや否や地面に倒れこんでしまった。
心も体も限界なので、ここから先はもう戦うことなど出来ないだろう。
帝国剣士のほとんどが、ここまでよくやったとアカネチンを温かい目で見守ったが、
唯一ハルナンだけがあえて厳しい言葉を投げかけていた。

「あれ?たしか最後の100人は4人のコンビネーションで戦うんじゃなかったっけ?
 アカネチンがこんな状態なら、3人で戦うしか無いのね。」

同期の力を合わせて500人を倒す、という最終試験の条件自体を満たすことは出来るだろう。
しかし、それでは有言実行にならない。計画倒れとみなされてしまう。
実際の戦場では不測の事態などいくらでも起こりうるため、せめて試験や訓練の場ではトラブルなくこなさねばならないのだ。
それを新メンバーに知ってもらいたいため、ハルナンはあえて言葉にした。
ところが、ハーチンら3名はまったく落胆をしていないように見える。

「ハルナンさん、アカネチンは戦いながらこれを書いてたんですよ。見てやってください。」
「このメモは……!!」

ハーチンに手渡された紙には、残る100名の敵兵の特徴がびっしり記述されていた。それも血文字でだ。
アカネチンは持ち前の洞察力で戦況を見張り続け、同期に情報を共有する目的でメモを残したのである。
兵士の血液をインク代わりに印刀で書いた文章はとても読みやすく、
一目見るだけでハーチン、ノナカ、マリアの3人は残る100名の弱点を理解することが出来た。
嘘みたいに簡単に頭に入ってくるのである。
そして3人は自分たちが一人で戦うよりも圧倒的に早いスピードで残党を制圧するのに成功する。

「やったー!アカネチンのおかげやで!」
「Yes! やっと帝国剣士として認められるんだね。」
「嬉しいこと&楽しいこと、いっぱいあるといいね。」

とても嬉しそうに喜ぶ新メンバーから少し離れたところで、フク王がハルナンに声をかける。

「私はあれもコンビネーションの一つの形だと思ってるけど、ハルナンはどう思う?」
「王がそうおっしゃるのなら私が言うことは何もありませんよ。それに……」
「それに?」
「アカネチンの能力は非常に有用です。本人はまだ気づいていないのかもしれませんけどね。」
「そうなの?じゃあハルナンが新メンバーの教育係としてちゃんと教えてあげてね。」
「えっ?」

すべての帝国剣士が新たな仲間を受け入れたところで、この物語は完結する。
そして、新たな物語が始まる。

New Start
Morning Empire's Swordwoman。'15

第一部:sayu-side 完

824 ◆V9ncA8v9YI:2016/01/01(金) 01:20:40
昨日中に更新するつもりが新年になっちゃいましたね……
何はともあれ、これで第一部は終了です。

第二部はすぐには始めず、当分はおまけ更新が続くと思います。
それにしても一部は七か月もかかってたんですねw
すべて終わるのはいつになるやら……

825名無し募集中。。。:2016/01/01(金) 09:05:43
確かにアカネチン能力は使いようによっては強力だな
第一部完了お疲れ様でした
おまけも楽しみにしてます

826名無し募集中。。。:2016/01/02(土) 22:49:58
まさかの13期ww

827 ◆V9ncA8v9YI:2016/01/04(月) 03:50:34
13期。来るとは思ってましたが本当に来ましたねw
加入までには2部まで終わってるといいなぁ

さて、だいぶ空きましたがおまけ更新を行います。
まずはキャラ名+武器名+必殺技名の元ネタから。

828 ◆V9ncA8v9YI:2016/01/04(月) 03:50:53
■モーニング帝国剣士

フク・アパトゥーマ :団地妻
装飾剣「サイリウム」 :そのままサイリウム
装飾剣「キングブレード」 :複数色切り替え可能なサイリウム+王の剣
必殺技「Killer N」 :( ̄ー+ ̄*)キラーン

エリポン・ノーリーダー :空気読めない+リーダーではない+仮面ノリダー
打刀「一瞬」 :前作のガキの武器から。新垣里沙の写真集のタイトル

サヤシ・カレサス :植物を枯れさす
居合刀「赤鯉」 :広島カープのイメージ

カノン・トイ・レマーネ :トイレのモノマネ
出刃包丁「血抜」 :食事のイメージ

ハルナン・シスター・ドラムホールド :いもうと+太鼓持ちアイドル
フランベルジュ「ウェーブヘアー」 :ファッションのイメージ

アユミン・トルベント・トランワライ :れいなの好きな弁当を先にとったエピソード+すべりキャラ
大太刀「振分髪政宗」 :伊達政宗の愛刀+振分親方

マーチャン・エコーチーム :ヤッホータイ
木刀「カツオブシ」 :前作のレイニャの武器から。れいなの猫イメージ

ハル・チェ・ドゥー :ハルーチェ+どぅー
竹刀「タケゴロシ」 :タケちゃんとの因縁(やっちまったな等)
必殺技「再殺歌劇」 :ステーシーズ 少女再殺歌劇

オダ・プロジドリ :自撮りのプロ
ブロードソード「レフ」 :レフ板

ハーチン・キャストマスター :素人時代にツイキャスのキャス主
スケート靴「アクセル」 :トリプルアクセル

ノナカ・チェルシー・マキコマレル :チェル+巻き込まれる
忍刀「勝抜(かちぬき/かつぬき)」 :好物のカツ丼を我慢

マリア・ハムス・アルトイネ :ハー娘。+明日も嬉しいこと&楽しいこと、いっぱいあるといいね
投げナイフ「有」 :元日ハム投手のダルビッシュ有
両手剣「翔」 :日ハム打者の中田翔。有と翔でユウショウ=優勝

アカネチン・クールトーン :クルトンが好き
印刀「若木」 :あかねちんがブログに載せた習字

829名無し募集中。。。:2016/01/04(月) 05:00:19
エコーチームってそれだったのかwww
包帯の印象だったから全然分かんなかった

830名無し募集中。。。:2016/01/04(月) 12:45:23
「勝抜」ってカツ丼のことだったのか!w

831 ◆V9ncA8v9YI:2016/01/04(月) 12:56:08
■アンジュ王国の番長

アヤチョ・スティーヌ・シューティンカラー:捨て犬+シューティングスター+唐揚げを投げたエピソード
七支刀「神の宿る剣」:博物館に飾ってそうな武器

マロ・テスク:そのままマロテスク
小型銃「ベビーカノン」:前作のカノンの武器から。

カナナン・サイタチープ:埼玉は安いイメージと発言したエピソード
ソロバン「ゴダン」:中西香菜がそろばん5段

タケ・ガキダナー:親戚マイミのキャラ名+子供っぽい
鉄球「ブイナイン」:巨人が黄金時代にV9達成

リナプー・コワオールド:ブログで昭和時代の人の名前に「子」が多いと発言
愛犬「ププ」:勝田里奈の愛犬
愛犬「クラン」:勝田里奈の愛犬

メイ・オールウェイズ・コーダー:スマイレージはいつもこうだ
ガラスの仮面「キタジマヤヤ」:ガラスの仮面に登場する北島マヤ+しゅごキャラミュージカルで芽実が演じた結木やや


■果実の国のK(Y)AST

ユカニャ・アザート・コマテンテ:あざとい+困り顔+石川県の方言「〜てんて」
※武器未登場

トモ・フェアリークォーツ:フェアリーズのファン+ローズクォーツ
ボウ「デコピン」:佳林にデコピンをよくする

サユキ・サルベ:さるべぇ
ヌンチャク「シュガースポット」:バナナの甘い箇所

カリン・ダンソラブ・シャーミン:男装好き+wonderful worldの時の髪型が社民党党首っぽい
※武器未登場

アーリー・ザマシラン:ハーモニーホール座間での公演に遅刻
トンファー「トジファー」:植村の育ててたトマトの名前

832 ◆V9ncA8v9YI:2016/01/04(月) 12:56:50
ヤッホータイはまーちゃん曰く「ヤッホー隊」らしいですよw

833 ◆V9ncA8v9YI:2016/01/04(月) 18:55:29
アンジュの必殺技を忘れていました。
以下に追記します。

アヤチョ・スティーヌ・シューティンカラー
必殺技「聖戦歌劇」:我らジャンヌ 少女聖戦歌劇

マロ・テスク
必殺技「爆弾ツブログ」:前作のカノンの必殺技から。いちごのツブログ。

834名無し募集中。。。:2016/01/04(月) 21:18:36
未発表の武器&技が気になる
そう言えば前に『フクのサイリウムの名前には秘密がある』って言ってたけど結局なんだったんだろう?

835 ◆V9ncA8v9YI:2016/01/05(火) 02:16:30
最後は前作キャラの元ネタです。
特別なことが無い限りは、今作では苗字と武器名を出すことはないと思います。


■食卓の騎士+サユ王

クマイチャン
武器は長刀
必殺技「ロングライトニングポール」:電柱
必殺技「ロングライトニングポール"派生・シューティングスター"」:流星ボーイ
オーラ「重力」:高い所から下へと押さえつけるイメージ

モモコ
武器は暗器
必殺技「ツグナガ拳法」:ツグナガ憲法
必殺技「ツグナガ拳法"派生・謝の構え"」:許してにゃん
オーラ「冷気」:血の通ってないアイドルサイボーグのイメージ

マイミ
オーラ「嵐」:雨女のイメージ

ミヤと呼ばれた女性
オーラ「斬撃」:尖った顎のイメージ+普段は見られない裏側を見せるGreen Room

色黒の長身
オーラ「太陽」:明るいキャラのイメージ+日焼け

シミハム
オーラ「?」:?

サユ
武器はレイピアとマンゴーシュ
必殺技「ヘビーロード」:道重
必殺技「ヘビーロード"派生・レイ(一筋)"」:道重一筋
必殺技「ヘビーロード"派生・アフターオール(結局)"」:結局道重
必殺技「ヘビーロード"派生・スティール(今尚)"」:今尚道重
必殺技「ヘビーロード"派生・トゥーレイト(今更)"」:今更道重
必殺技「ヘビーロード"派生・ディペンデンス(依存)"」:道重依存
必殺技「ヘビーロード"派生・リミット(限界)"」:限界道重
オーラ「光」:鏡をよく見るイメージ

836 ◆V9ncA8v9YI:2016/01/05(火) 02:18:49
>>834
後の武器が「キングブレード」になる、というのが秘密でした。
サイリウム持ちのフクがいずれ王になることを暗に示してたんですね。

837名無し募集中。。。:2016/01/05(火) 06:14:19
>>836
なるほど!何故気付かなかったんだorz
ミヤの「裏側」ってそっちかーてっきり表裏が分からない意味かと…w

838 ◆V9ncA8v9YI:2016/01/05(火) 12:38:26
おまけ更新「Q期のお披露目」

タカーシャイ王「うーん……エリポン、サヤシ、カノンのヤツら、最終試験だってのに相当緊張してるなぁ」

ガキ「実力は有るんですけどね。いかんせん実戦経験に乏しい……」

タカーシャイ王「よし!じゃあ経験豊富な子を追加しよう!」

ガキ「研修生からですか?」

タカーシャイ王「もちろん!フクちゃん降りといで!」

フク「ええええええええ!?」

839 ◆V9ncA8v9YI:2016/01/05(火) 12:43:11
おまけ更新「天気組のお披露目」

アユミン「大変だよハルナン!ハルが気絶した!」

ハルナン「ええっ!?ケンカ強いって自慢してたから前線に配置したのに!」

アユミン「ぶっちゃけ私もヤバいかも……ごめん、後は頑張って……」

ハルナン「そんなあ!まだ敵兵は200体以上も残ってるのよ?どうすれば……」

マーチャン「ねえねえハルナン」

ハルナン「なに!?今は話をしてる場合じゃ……」

マーチャン「マーチャンね、全部覚えたよ。」

840 ◆V9ncA8v9YI:2016/01/05(火) 12:44:49
おまけ更新「オダのお披露目」

オダ「最終試験って出来レースみたいなものですよね。あれで苦戦する人いるのかなぁ……」

アユミン「てめぇ……」

841名無し募集中。。。:2016/01/05(火) 12:52:03
フクちゃんいきなりかよwって確かに合宿してないんだよなぁ…それで王になるとは

842名無し募集中。。。:2016/01/05(火) 23:29:43
オダぁ!w

843名無し募集中。。。:2016/01/05(火) 23:54:41
マーサー王の世界でやってみたいわ

ハロプロ三国志のゲーム作ってみたんだけど [無断転載禁止]���2ch.net
http://hanabi.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1451441803/

844 ◆V9ncA8v9YI:2016/01/08(金) 07:44:44
明日には二部に入れると思います。

845名無し募集中。。。:2016/01/09(土) 19:06:35
2部まだかな
ドキドキ

846 ◆V9ncA8v9YI:2016/01/09(土) 21:33:28
SSスレ「マーサー王物語-ベリーズと拳士たち」第二部
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/20619/1452342496/

次スレを立てました。
続きはそこで進めていきますので、移動をお願いします。

こっちのスレもおまけ更新は続けるつもりです。
たまにで良いので覗いてみてくださいね。

847名無し募集中。。。:2016/01/09(土) 21:35:11
>>846
乙です

848名無し募集中。。。:2016/05/19(木) 02:18:11

『外伝:もう一人のA』

849名無し募集中。。。:2016/05/19(木) 02:19:14
 
「みんな、頑張って。そして死んではなりません。必ず生きて帰ってきて。これは命令です」

たった一人で見送りにきた果実の国国王、ユカニャ・アザート・コマテンテはいつもの困り顔の眉根を更に寄せ、そう告げた。

「心配すんなよ。あれだけ特訓を重ねたんだ。もう今までのKASTじゃねえよ」
「そうそう。それにあたしたちにはまだやることが沢山ある。夢にまで見た『例大祭』だって控えてるんだし」
「だからあたしらが帰るまでこの国のこと頼むで、ユカニャ王」
「うんうん。みんな、絶対勝とうね!」

『例大祭』というのは、ある程度以上の国力をもつ国にのみ開催が許される大掛かりで神聖な行事で、
最近ようやくこの国でもそれを取り行う許可が下りたのである。
これは王、KASTのみならず国民全員の夢でもあった。

死出の旅になる可能性もあるのに、帰ってきてからのことをもう考えている。
ユカニャ王は少し安心した。

捕らわれた隣国の王と元帝王を救うため。
強大な敵を倒すため。

それらもひいてはこの愛する自国の未来のため。

彼女たちは壮絶な闘いへと身を投じる。

その日、黒蝶の戦闘装束を纏った4人の少女たちは誰にも知られぬよう静かに国を出た。

850名無し募集中。。。:2016/05/19(木) 02:20:13
果実の国を出て間もなく、4人は道で一人の旅人とすれ違う。
背格好からするに彼女たちと同世代の少女のようだが、その深くかぶったフードの奥の顔を見ることはできない。

「どうした、カリン?」

そのまま歩を進める一同だったが、
先頭のトモが振り返ると、カリンが立ち止まってその旅人の後姿を見つめていた。

「・・・今の子・・・?」
「ん?あの旅人がどうかしたのか?」
「みんなは気付かなかった?なんか、うまく言えないんだけど、あの子・・・」
「おいおい、合同作戦会議に遅れるわけにはいかないんだぞ?小さなことには構わず急げ!」
「う、うん、そうだね、ごめん」

カリンは自分の中の胸騒ぎを振り払うようにして再び歩き出した。

このカリンの予感は的中するのだが、
彼女たちKASTがそれを知るのはこれよりずっと後のことである。

フードの奥でニヤリと歪む旅人の口元を見た者は誰もいない。

851名無し募集中。。。:2016/05/19(木) 02:21:33
果実の国は新興国である。
地理的に穏やかな気候で肥沃な大地を有しており、自給率100%を越える食料で他国と貿易関係を持つことで独立を保っている。
農業が盛んだった地域の領主たちをまとめ上げ、ひとつの国として形作らせたのはひとえにユカニャ王の功績だ。
戦士としての技量や科学者としての実績はもとより、特に政治的な手腕に長けていることがユカニャ王が王たる所以である。
「あざとい」とまで揶揄される彼女のロビイ活動により、
政治家だけでなく多くの資産家、投資家、そしてイイジマ氏やイシイ氏といった強大な荘園領主たちを味方に引き入れ、国を興すことができたのだ。

だが経済的に順調な一方、軍事力においてはまだ心許ないのが正直なところでもある。
元々が農民の多かった地域性もあり、人々は自分たちをファミリーのように思っており、平穏無事に暮らすことを一番に考えている。
実際、果実の国の兵士たちは他国に比べ平均年齢が高いという指摘もある。
食料に溢れていながら兵力の弱い国…そんなものは悪党たちの格好の獲物でしかない。

だからユカニャ王はジュースを使い、力を失うほどに自らの戦闘に力を入れてきたのだ。
果実の国において、軍事力の要となるKASTは欠かせないのである。

しかし今やKASTは3国合同作戦のために旅立ってしまい、いつ帰るともわからない。
こうなると今の果実の国はいつ攻め込まれてもおかしくない状態であるため、王の判断によりKAST不在の情報はトップシークレットとされた。
そのため4人は密かに出立したのである。

とはいえいつまでも隠し通すことはできないだろう。
侵略者がこの情報を掴んで攻めて来る前に防衛策を立てねばならない。
モーニング帝国の新王から屈強な防衛隊を派遣してもらう段取りにはなっているが、まだ数日かかるらしい。
帝国兵がいれば大きな抑止力となるはずだが、それまでの数日間の空白期間がユカニャ王には大きな懸念事項であった。

「急いで…今は一刻も早く…!」

4人を極秘で見送って帰ってきたユカニャ王の不安と焦燥感はつのるばかりであった。

852名無し募集中。。。:2016/05/19(木) 02:22:27

だが王が帰城して間もなく、執務室の扉が音もなく開いた。

焦る気持ちで国内の防衛対策資料に目を通すユカニャ王は気付かない。

ひとつの影が忍び寄る。

ユカニャ王が資料から目を上げたとき、その人物は目の前の椅子にゆったりと腰掛けていた。

「!!!!何者!!??」

ユカニャ王は恐怖した。

果実の国とはいえ、一国の王である自分の部屋までこうも簡単に警備を突破して来ている時点で只者ではない。
王の部屋に部外者が侵入する目的はひとつしかない。
暗殺だ。

戦う術を持たぬユカニャ王は硬直している。
KASTを見送ってすぐにこんな事態になるとは。
死の匂いと王の責任は硬直するユカニャの体中を冷や汗となって覆った。

「おいおい、ずいぶんとご挨拶だな」

座った人物のフードの奥から聞こえた声に、ユカニャ王は聞き覚えがあった。

いや、覚えがある所ではない。
忘れようとしても忘れられぬ声。
まさか。

「オレだよ」

そう言ってゆっくりとフードを脱ぐ。

ユカニャ王が予感した通りの人物がそこにいた。

かつてKASTがKYASTだった頃。
本当のKYASTはKYAASTだった。

戦士は、「6人」いた。
そう、「A」はもう一人いたのだ。


「久しぶりだな、ユカニャ王」


アイナ・ツカポン・アグリーメントは、そう言ってニヤリと笑った。

853名無し募集中。。。:2016/05/19(木) 06:30:08
おお外伝来てた!

良いよ良いよ楽しみ増えて

854 ◆V9ncA8v9YI:2016/05/19(木) 08:47:34
外伝を書いてくれて有難うございます!
どこかで見たことあるような人たちが多数登場してますねw(いーいしさんとか)
例大祭は、今年の11月開催のアレにかかってるんでしょうか。

アイナの武器や戦闘スタイルが気になります。

855名無し募集中。。。:2016/05/22(日) 12:29:13
ツカポンきたー!握手会にしれっとファンとして紛れ込むくらいスムーズに入ってきたなw

856名無し募集中。。。:2016/05/23(月) 01:07:12
 
「ア、アイナ・・・なぜここへ・・・?」

ユカニャ王は侵入者が思いもよらぬ相手だったことに驚き、困惑していた。

「王に直接話しに来たんだよ。その方が早いからな」

かつて突然KYASTの前から姿を消したアイナ。
その一件は果実の国に大きな混乱と失望をもたらし、果実の国の発展が遅れる一因ともなった。
そのアイナが、今ここに再び戻ってきた。
数年ぶりに会うアイナのショートカットは長い金髪になり、
平民の出で両親の愛に乏しかったことを跳ね返すように品性を磨いていたはずの言葉遣いはまるで男のものになっている。

「アイナ・・・ずいぶんと粗野になったのね」

「フン・・・色々あったんでね」

こちらも見ずにそう言うアイナは以前とは違ったオーラをまとっているように感じる。
かつて日差しを浴びる元気なフルーツのようだったオーラは今やどこか禍々しい。

「単刀直入に言うぜ。王の力でオレをこの国の…」

アイナの言葉が終わる前にユカニャ王は叫んでいた。

「ムリだよ!いくら謝ったって、もうムリ!」
「あの時、国民のことを考えなかったの?KYAASTの支援者のこととか、部下たちのこととか、全然考えなかったの?」
「一言もなく突然消えて…大切な『原液』まで持ち出して…あれからの研究がどれだけ遅れたか!」
「この国に貴女の居場所はないから!すぐに出て行って!!」

ユカニャ王はアイナから目を離さずに言い切った。
アイナは脱走者であり、犯罪者。いくら実力があっても、もう一度この国に関わらせるわけにはいかなかった。
それは王として、今ここでいくら謝られても許すことはできなかった。

だが、アイナの意図は王が思ったものとは違っていた。

「フッ…ハハハ…アッハッハッハ!そうだな、確かに『ユカニャ王の下では』そうなるわな」
「謝る?冗談はよせよ。話は最後まで聞きな、王様。オレが言いたかったのはな」
「『王の力でオレをこの国の王にしろ』ってことだよ」

「な、なんですって!!??」

「言葉の通りさ。オレがこの国の王になる。あんたは王位を譲って降りるんだ」

857名無し募集中。。。:2016/05/23(月) 01:08:17

ユカニャ王はこの突拍子もない言い分…つまり『脅迫』に再び驚き、恐怖した。
そのタヌキのような垂れ目は大きく見開かれたままだ。

「オレの軍団はもう蜂起の準備をしている。断ればあんたも含め、現体制に関わる者は全員殺す」
「昔のよしみだ。今、王位を譲るんなら誰の血も流さないことを約束してやる」
「どうだ?イエスかノー、シンプルな答えだぜ」

旧友は国を裏切っただけでなく、王を脅迫し王位の強奪まで図る侵略者だった。
不敵に笑うアイナ。その袖から覗くジャマダハルの切っ先はこれが本気であることを示していた。
アイナの実力はユカニャ王が一番よく知っている。

「こんなことをしてどうなるかわかっているの?いくら貴女でもKAST全員を相手にして勝てるとでも?」

ごくりと生唾を飲む音が聞こえてしまわないか注意しながら、ユカニャ王は恐怖を押し殺して精一杯のブラフを仕掛ける。
本来このようなことがあればKASTが許すはずはない。

「フッ…無駄な抵抗はやめろ、ユカニャ王。オレがなぜ『このタイミングで』来たと思う?」

・・・バレている。
アイナはKASTが不在なことを知っている。そしてモーニング帝国の防衛隊がまだ来ていないことも知っている!
いったいどこから漏れた情報なのか、だが今はそれどころではない。
この状況、絶体絶命だ。

「・・・嫌だと言ったら・・?」
「いま、ここで…殺すの、私を…?」

「それが返事か?」

アイナはユカニャ王を見ずにスッと立ち上がると袖をめくり、自慢のジャマダハルを晒す。
次の瞬間にはその刃はユカニャ王の首に触れていた。

858名無し募集中。。。:2016/05/23(月) 01:09:23

冷たい、それはそれは冷たい感触がその黒めの肌に伝わってくる。
ジャマダハル…ユカニャ王はかつてアイナが最も尊敬する戦士の武器を模して作ったものだと話してくれたことを思い出した。
共闘していた頃には何度も助けられた刃が、今やその首を切り裂かんとしている。
ユカニャ王は目を閉じた。

「・・・・・・フン」


ふいに首筋に感じる抵抗が消えた。

「やはりこれではつまらん。考え直すチャンスをやる」
「明日の正午にもう一度来る。準備をしておけ」
「よーく考えろよ?こっちも王になったはいいが兵士が全滅してますじゃあ困るからなあ!」

捨て台詞を残してアイナは執務室の窓から風のように消えていた。
侵入の手口を見るに追っても無駄だろう。

ユカニャ王はガクリとへたり込んで大きく息をついた。

自らの命の危機は脱した。だが国は大きな危機に陥っている。
たった数分の出来事なれど、事態は大きく変わってしまった。

KASTもいない、モーニング帝国の援軍もないこの状況で、
国を守るため、侵略者・アイナ軍団と戦わねばならない。

果たして勝てるのだろうか?もし負けたら果実の国はどうなる?

震える手をギュッと握り締め、ユカニャ王は立ち上がる。

すぐに側近を呼んで指示を出す。

決戦まではもう24時間を切っていた。

859名無し募集中。。。:2016/05/23(月) 13:52:07
軍団って例の大塚軍団かw
外伝だと味方の使える駒が限られてるからユカニャ王がどう巻き返すのか楽しみ

860 ◆V9ncA8v9YI:2016/05/24(火) 01:18:32
ユカニャ王がアイナに向かって叫ぶシーンを見て、
武道館最終話でつるりんが愛子に怒鳴るシーンを思い出しましたw

861名無し募集中。。。:2016/05/25(水) 01:19:31
正午。

アイナ軍団は城門に集っていた。兵士崩れや山賊崩れの荒くれ者たちが約1000人。
皆、血に飢えたような目をしている。

閉ざされた城門はアイナへの返答を意味していた。

「ま、こうでなきゃあ面白くねえからな。よし、てめえら、突っ込め!!」

大きな柱で強引に城門をこじ開け、アイナ軍団は城内へとなだれ込む。
果実の国攻略戦が始まった。

862名無し募集中。。。:2016/05/25(水) 01:22:46

一時間ほど経っただろうか。
アイナ軍団はようやく城内の大規模アトリウムへとたどり着く。

そこにはユカニャ王を守るように、果実の国の精鋭ばかりが1000人、命知らずが2000人、待ち構えていた。

あえて城内に敵を誘い込み、狭い通路での落とし穴や射撃窓からの矢攻撃などのトラップの雨あられで、
可能な限り自軍の戦力を温存しつつ敵戦力を削ぐ。
そして最後はバックアタックやサイドアタックされない部屋内で隊列を組んで迎え撃つ。
これがユカニャ王の作戦だった。

おかげでアトリウムまで来れたアイナ軍団は800人程度しかおらず、皆一様に疲弊していた。

「ここまでは上出来…ここからが正念場ですね…!」

最後にアイナが姿を現すとアトリウム内の空気がピシッと張り詰めた。

「ユカニャめ、せこいマネしやがって…オレたち相手にこの人数で勝てると思ってんのか?」

「貴女たちのような侵略者に屈する果実の国ではありません!」

「いいぜ、どれだけ無意味なことしてるのか教えてやる!かかれ!!」
「国王、ユカニャ・アザート・コマテンテの名において命じます!全軍、侵略者を撃滅せよ!!」

「「オオオオオーーーーー!!!」」

ドカーンという衝撃音とともに、アイナ軍団と果実の国軍は激突した。


数で勝る果実の国軍だが、地力はアイナ軍団に軍配が上がる。
陣形を組んで戦うも、果実の国軍は少しずつ押され始めていく。
ユカニャ王が後方からエールを送ることで、軍は何とか耐えていた。

「みんな、何とか持ちこたえて!」
「あともう少し頑張れば、強力な援軍が来てくれます!」

「おいおい、いつまで頑張るつもりだ?帝国の援軍ならあと2日は来ねえぞ〜」

アイナはそう言って嘲笑う。
ユカニャ王はそれを唇を噛みしめて睨みつけた。

(みんな、私を信じて…信じて今は耐えるのです…)


(そして…お願い、一秒でも早く来てこの国を救って…『2人とも』!)

863名無し募集中。。。:2016/05/25(水) 06:20:02
そうか!あの『二人』かいたね!!ユカニャ王やローズクォーツとの関係を考えるとピッタリな助っ人だわ

864名無し募集中。。。:2016/05/26(木) 00:18:18

このままでは守りきれない。
ユカニャ王の言葉を信じて戦う果実の国軍だったが、
敵と直に刀を交え、一人また一人と倒れていく味方を見る度に、兵士たちの心は少しずつ弱気に傾いていく。

「ハハッ!どうしたどうした果実の国よぉ?てめーらの兵士はもう残り半分だぞ?」

最後方で腕を組んでニヤニヤと戦況を見つめるアイナ。

兵士たちの心の炎が消えかかる。
悔しいがこのまま押し切られてしまうのか。
この平和な国がこのような邪悪な侵略者に…

その時、突然アイナは何かを感じて顔を上げる。

「!?」


アトリウムの天窓がバリンと割れ、二つの影が舞い降りる。

「ぐえっ」「ぐはぁっ」

落ちてくる影はクルクルと回転したかと思うと落下の勢いそのままにアイナ軍団を蹴り倒し、
反動で再びクルクルと回って綺麗に着地した。

「き、来た!!」

苦境に心底困り顔だったユカニャ王の顔は一気に光を取り戻す。
来た。来てくれた。ついに来てくれたのだ。

「な、なんだてめえらは!?」

突然の乱入者にアイナ軍団はひどく混乱している。

「おまたせ、ユカ!」
「ごめんねぇ、遅くなっちゃった〜」

865名無し募集中。。。:2016/05/26(木) 00:22:55
二つの影は二人の乙女だった。
ユカニャ王をユカなどと馴れ馴れしく呼ぶこの二人はいったい何者なのか。

「も〜、この子が途中で道を間違えちゃうからさぁ〜」
「あわわわ、それは誰にもナイショって言ったじゃん〜」

一人は茶髪のショートボブで全身黒の衣装を身に着けている。
もう一人は黒髪のロングヘアーの毛先をゆるく巻いて、対照的な全身真っ白の衣装。
まるでこの世界の幼女たちが大好きなおとぎ話に出てくる伝説の戦士のようだ。

「来る途中に兵隊さんに聞いたし事情はわかったよ。あとは任せて」
「待たせちゃった分はここから取り返すから!」

「二人とも…よく来てくれたね、ありがとう、ありがとう…」

最大のピンチに助けに来てくれた親友たち。
二人を見つめるユカニャ王の目から涙がこぼれる。

乱入者に驚いたのは敵だけではない。
果実の国軍兵たちもこの二人にびっくりして動きが止まってしまっている。

「あら、完全アウェーだね、この状況?」
「それじゃあいつもの、いこう!」

二人は並んでスッと前に出ると、この戦場全体に対して大見得を切った。

「ガレリア所属!天空を満たす静かなる月輪!モエミー・レルヒ・マーキュリー!」
「同じくガレリア所属!大地を照らす燃え立つ日輪!アサヒ・シオン!」

「果実の国を狙う悪党ども!」
「この輝きを恐れぬなら、かかってきなさい!」

866名無し募集中。。。:2016/05/26(木) 00:27:31
名乗り終わるとともに一分の隙もない構えを取る二人。
二人の纏う闘気が只者でないことはこの場にいる全員が感じていた。
ユカニャ王が頼りにしていた強力な援軍がこの二人であることは疑いようがなかった。

気圧されるアイナ軍団の何人かが、ここまできてようやく気付く。

「ガレリアのモエミー?アサヒ?…ま、まさか!?」
「通った後には何も残らないって話の、ガレリア1のダーティペア、あのビ、ビ、ビ??」
「ビター・スウィート!?」

「ちょっとちょっとぉ!ひどいこと言わないでよね、失礼しちゃう」
「そうだよぉ、私たちは任務を確実にこなしてるだけなんだから」

『ガレリア』とは、某財団が設立したこの大陸最大のミュージアムである。
どこの国からも独立を保ち、この世界全ての歴史的文化的遺産を保管することを使命としている。

モエミーとアサヒはそのガレリア所属のエージェント。
世界を股に掛け、秘宝を探し保護したり、盗掘者や悪質な美術品シンジケートを叩き潰すのが仕事だ。
だが真面目で正義感に溢れるこの二人は、特にその秀でた武力でやりすぎてしまうことも少なくない。
だから盗賊や密輸などの裏世界にいた者にはこの二人の悪名は轟いているのである。

美人の見た目だけで『甘く』見てかかり、結果、死ぬほどキツイ『苦い』思いをさせられる。
転じて『ビター・スウィート』というのが彼女たちの通り名なのだ。

「チッ…厄介な連中が来てくれたな。だが構うな、数で押し潰せ!!」

引き気味の軍団だったがアイナが一喝するとすぐに正気を取り戻して襲い掛かってくる。
国盗りをするのに輝きを恐れてはいられない。

「じゃあ私は右ね、アサヒちゃん」
「左行くね、モエミーちゃん」

向かってくる数百の大群相手に2人が左右に別れると、あっという間に敵が吹っ飛ばされ始める。
アウトロー組織に乗り込んで壊滅させるのが仕事の2人には数の暴力などお手の物。
使いこなす強力な武器に悲鳴が上がる。

「な、なんだあっちは…どうやったらあんなに色々な倒し方ができるんだ…?」
「こ、こっちは…なんだ?何が起きてるのかわかんねえぞ??」

果実の国軍の逆襲が始まった。

867名無し募集中。。。:2016/05/26(木) 06:36:42
B&S予想あったったー…けど予想の斜め前いく設定wまさかプリキュアとダーティーペアぶっこんでくるとはww
確かに『萌』『あさひ』で月と太陽ピッタリ

868 ◆V9ncA8v9YI:2016/05/26(木) 13:22:18
ビタスイ!
大塚さんもそうですが、絶妙に本編に出てこない人たちが多数登場しますね。
このまま果実の国軍優勢で終わるのか、それとも……

869名無し募集中。。。:2016/05/26(木) 14:13:10
本編作者さん、いつもレス下さる方も本当にありがとうございます

870名無し募集中。。。:2016/05/27(金) 23:55:34
続きはまだかな〜気長に待ってますけどね

871名無し募集中。。。:2016/05/29(日) 02:43:32

「ガレリアから来たなら昨日からたった一日で間に合うはずがない…」
「ユカニャめ、事前に手を回していやがったな…」

アイナはユカニャ王にしてやられたことに歯噛みした。
その通り、あざといユカニャ王はモーニング帝国からの援軍がKASTの出立に間に合わないと知り、
国防手段として2人を呼び寄せる手をアイナが宣戦布告に来訪する前から打っていたのだ。
ユカニャ王が待っていたのは始めからビター・スウィートだったのである。

もちろん通常ならこのような手続きには時間がかかるし、
何より独立を保つガレリアがそう簡単にエージェントを貸し出すはずもない。
そこを乗り越えて最短で助けに来たのは、ユカニャ王と2人が旧知の仲であったからに他ならない。

ユカニャ、モエミー、アサヒの3人はかつて大志を抱いてそれぞれ上京してきた新人同士だった。
モエミーとユカニャは隣国の出身で出生年月日が同じという縁があったり、ユカニャとアサヒは当時は雰囲気が似ていてよく間違われたものだ。
「森の泡戸」という冒険者ギルドで出会った3人はすぐに仲良くなり、
共に訓練したり、いつか大国に仕官して出世することを夢見て毎晩語らった同期であったのだ。

別の道に進んではいるが、当時の絆は今も変わっていない。
それにアサヒはKASTのトモ・フェアリークォーツの数少ない友人の一人でもある。
2人は果実の国のためならば、と全てを差し置いて駆けつけて来たのだ。

872名無し募集中。。。:2016/05/29(日) 02:48:26

「Don't stop me now!私を止めてみな!」

モエミーが振り回す長柄の武器の前に、被害者たちが見る見るうちに積み上げられていく。
先端に付いた鋭い刃で矛のように斬り、槍のように突き、
両側に左右対称に付く「月牙」と呼ばれる三日月状の刃で斧のように叩き、大鎌のように薙ぎ、引っ掛けて投げ、足を払う。

これがモエミーが「九印」と名付けて愛用する武器、『方天戟(ほうてんげき)』である。
元々は別の大陸のもので、かつてモーニング帝国に来た大陸剣士が持参した物の一つと言われている。

複数の用法があってオールマイティーに戦えるが、それ故に常人にはその性能を完全には活かしきれぬ武器。
モエミーは敵の戦闘スタイルや弱点に合わせて、その全ての用法を使いこなす。
斬られ、突かれ、潰され、投げられ地に伏す敗者たちを見て、果実の国軍兵が驚くのも無理はなかった。


「火傷しても知らないから!その心の闇、私の光で照らしてみせる!」

こちらの果実の国軍兵も目を丸くした。
道に迷ったとか言う話だし、どちらかというと大人しく地味に見えるアサヒ。その手は空、剣や槍は持っていない。
だがアサヒに飛び掛っていくアイナ軍団はどういうわけか一瞬で体勢を崩し、床に叩きつけられたり、投げ飛ばされている。
そうかと思えば離れた敵は間合いを詰められ、拳や足刀を叩き込まれて一瞬で倒される。
これらはアサヒが使用する異国の格闘技「合気道」と「空手道」によるもの。そう、こう見えてアサヒは武術家なのだ。

この世界にいる徒手空拳で戦う戦士たちは、その多くが力に任せたファイトスタイル。
だがアサヒの武術は相手の力を利用したり、どうしたら効率的に倒せるかを極限まで突き詰めたもの。
荒々しいはずの徒手空拳でありながら、洗練された動きで的確に急所を突き、相手を倒すアサヒは珍しく映るのだ。

本来は徒手空拳相手に武器を使えば絶対的に有利なはず。
だが敵が振るう剣や槍はアサヒの両腕に備わった、肘まである金属製の白い籠手のようなもので防がれ、流される。
「特殊手甲・桜花」。自身の拳への負担も減らしつつ敵への攻撃力も高める、アサヒの防具であり武器だ。
オープンフィンガーのこの手甲のおかげで、アサヒは敵の武器を気にせず「打」「投」「極」の全てを相手に仕掛けられるのである。

873名無し募集中。。。:2016/05/29(日) 02:50:40

「ひ、ひぃぃ…」「く、くそっ…」

気付けば敵全員が距離を取って逃げ腰になっていた。
アイナ軍団でまだ立っている者はもう300人にも満たない。形勢は逆転である。
妙な槍に近付けば訳もわからず切り伏せられ、徒手空拳には武器が全く役に立たずに殴られ投げられる。
まさにビター・スウィート。たった2人相手に、屈強な賊たちは完全に震え上がっていた。

尚も敵を睨みつけ、最後まで止める気配のないモエミーとアサヒ。
ユカニャ王と果実の国軍兵たちは勝ちムードを感じ始めていた。

「いける、いけるぞ…!」「これなら…!」


だが荒くれ者たちを率い、一国を獲ろうとするアイナがそう甘いはずがなかった。

「しょうがねえな…お前ら、アレを使え」

指示を聞いた残存アイナ軍団たちは、一斉に懐からアンプルを取り出し、ビキッと割って橙色の液体を飲み干す。

その光景を見たユカニャ王の表情が一気に強張った。

「…いけない!あれは『オレンジジュース』!!」

874名無し募集中。。。:2016/05/29(日) 13:38:03

「これは!?」「どういうこと!?」

モエミーとアサヒは驚愕した。
さっきまで腰の引けていたアイナ軍団たちからおびただしい量の殺気が発せられていたからである。

「ククク…きたきたきたぁ…」「こっからはオレらのターンだぜぇ…」

血走った目でこちらを睨み返してくるアイナ軍団。一歩、また一歩と2人への距離を縮め出す。
ユカニャ王は必死に叫んだ。

「モエミー!アサヒちゃん!今のその人たちは危険すぎる!!」

875名無し募集中。。。:2016/05/29(日) 13:40:18

ユカニャ王が開発した、人間の潜在能力を引き起こす不思議なジュース。

現存するジュースは、リンゴ、レモン、グレープ、メロン、そしてピーチの5種類。

だがそれらを開発するにあたって、ユカニャ王が最初に作り上げたプロトタイプのジュースがあった。
つまり全てのジュースの原点、それが「オレンジ」である。

オレンジは画期的だった。
動物実験の段階でも各能力を飛躍的に増大させ、果実の国の未来を担うものと期待された。

しかしオレンジは絶大なる力をもたらすものの、当然ながら身体への負担が大きすぎた。
そこでユカニャ王は総合的な能力アップよりも、負担を減らし各能力に特化させることへと運用方法を変更する。
オレンジの複合的な能力を5つに分散することにしたのである。
それが今の5種類のジュースなのだ。

そしてそこに至るまでの検証において、自ら治験に志願した者がいた。
それがKYAASTだったアイナ・ツカポン・アグリーメントだ。

アイナもかつては合同育成プログラムで優秀な成績を残した者の一人。
当時はカリン、サユキと並ぶKYAASTのもう一人のA(エース)。戦場での活躍はめざましいものがあった。

だがアイナは更なる力を求めた。国を、皆を守れるもっと強い力を得てもっと強い自分になる。
そのために躊躇するユカニャを押し切って、少々危険なオレンジを飲んだ。
もちろん戦績は連戦連勝。彼女のおかげで果実の国は独立を勝ち取ることができたといっても過言ではない。
全てがうまくいっているように見えた。

しかしあの日、アイナは突然姿を消した。
同時にオレンジの原液も保管庫から消えていた。

876名無し募集中。。。:2016/05/29(日) 13:42:45


あれから数年。
ユカニャ王はこんな形でオレンジと再会することになるとは思いもしなかった。

「くっ!いったい何が…?」「つ、強くなった…!?」

一方的にやられるだけだったアイナ軍団は今やビター・スウィート相手に十分渡り合っている。
当然だ、軍団全員がオレンジの爆発的な効果を享受しているのだから。
一太刀、また一太刀と徐々に攻撃を受け出す2人。こうなれば戦力差は目に見えている。

形勢は再逆転した。

かつて果実の国を救ったオレンジは、今や最悪な災厄の劇薬となって果実の国に帰ってきたのである。

877名無し募集中。。。:2016/05/29(日) 21:05:22
本作を上手く掘り下げてるなぁ〜次も楽しみに待ってるとゆいたいです

878名無し募集中。。。:2016/05/29(日) 22:12:35
オレンジジュース…別名つかポンジュースw本編の設定を受け継ぎつつも独自の発想盛り込んでくるの上手いなぁ

879 ◆V9ncA8v9YI:2016/05/30(月) 08:54:21
「森の泡戸」ってなんだろうと思いましたが
フォレストアワードだったんですねw

880名無し募集中。。。:2016/05/31(火) 23:41:51

「な、なんなんだこいつらは!」「うわああーーーーー!!」

あちこちから果実の国軍兵の悲鳴が上がる。
剣は避けられ矢も当たらず、斬っても斬っても立ち向かってくる超人と化したアイナ軍団。
集中力と動体視力が増大し、恐怖心も重力さえも感じない、リミッターの外れた荒くれ者たちに適うはずがない。
あっという間に果実の国軍の数は減り、後は100人程度がユカニャ王を必死で護衛するのみになってしまった。
このまま壊滅してユカニャ王の首が獲られてしまうのも時間の問題だ。

だがビター・スウィートもこの状況を黙って見過ごすつもりはない。

「モエミーちゃん、こっちもアレをやるしかないね」
「しょうがない…またダーティペアって言われちゃうけど、背に腹は代えられない!」

2人は構えを解いて印を結び、目を閉じる。
周りの空気が大きく対流していく。
ガレリアで異文化の高僧より教えを受けた「月と太陽の呼吸法」。
朝日と月光をイメージしながら行う呼吸法で、腹部の丹田を意識して呼吸をすることにより、
身体・細胞のすべてに太陽と月のエネルギーが満ちていく。
呼吸は深くなり、脳内にα波が発生し、2人の秘められた力が解放されていくのだ。

カッと目を見開いたとき、2人の表情は別人のように変わる。

燃える太陽の暗示を持つアサヒは激情を伴って瞳に炎を宿し、
静かなる月の暗示を持つモエミーの目は据わり瞳に狂気が宿る。

リミッターの外れた連中に遠慮はしていられない。
全力の本気で一度で意識を断つのだ。

「いくよ、まずはドラゴン」

モエミーがそうつぶやくと、一瞬にして九印でアイナ軍団たちの肩を貫く。
血飛沫が間欠泉のように大きく、高く噴出する。激しく燃え盛る火花のようでもある。
敵はあっという間にバタバタと倒れていく。

「続いてナイアガラ」

今度は大きく振りかぶって、並んだアイナ軍団たちの上半身を横一列に薙ぎ払う。
噴き出した血がまるで横長の滝のように噴き出した。

「そしてスターマイン」

九印の切っ先にフックされた敵が上空へと投げ上げられる。
モエミーは高速で移動しながら槍を捌いて敵を逃がさない。
それは次々と放り上げられ、空中で激突していく。
アトリウムにドカンドカンと轟音が鳴り響く。

モエミーの必殺技「大花火」。
人間を使った、あまりに衝撃的なショーである。
これはモエミーが誇りとする、自らの出身地の祭典になぞらえたものだ。

西方では満月は狂気を増大させると言い伝えられている。
このような衝撃的な仕打ちをモエミーが表情一つ変えずに行うのは、彼女が月の力を持つからに他ならない。
アトリウムに血の雨が降る。

「怯まないか…なら続けるしかない」

大花火は多勢向けの技であり、恐怖心で敵を圧倒する意味合いも大きいのだが、オレンジを飲んで恐怖心のないアイナ軍団にそれは通用しない。
いかに非情な技であろうとも、向かってくる限りはモエミーは人間花火を打ち上げ続ける。

881名無し募集中。。。:2016/05/31(火) 23:43:14

「はぁぁぁ〜〜〜〜…!」

一方のアサヒは大軍を前にして、両手の指をしっかり畳んでギュッと拳を固め、力を溜める。
すると白かった手甲の桜花が見る見るうちに赤くなっていき、まさに桜色に染まる。

「たあっ!」

そして向かってきた最初の敵の腹に溜めた正拳突きを叩き込む。
するとどうだ、爆発音とともに敵は十数メートルも吹っ飛んでしまった。
鎧は破壊され、何人か巻き込まれた者も同様に意識を飛ばされている。

「なンだそれは…?」

先程までとは桁違いの威力になった正拳に足が止まるアイナ軍団。
でもそれがまた命取りになる。

「隙あり!」

またもや爆発音とともに数人が吹き飛ばされ壁に叩きつけられてしまう。
明らかに異常な攻撃力である。
近接単体攻撃だけだったアサヒが複数を巻き込めるようになったのだ。

これはアサヒの桜花がガレリア秘蔵のオーパーツ金属を使った手甲であることの表れである。
桜花はアサヒの燃え上がる太陽エネルギーを吸収し、拳で解放するという機能を持つ。
これにより、太陽の力を使ったアサヒの正拳は、それだけで大砲一撃分とも言われる衝撃を放つことができる。
アサヒの両手が真っ赤に燃えて、敵を倒せと轟き叫ぶのだ。


力を解放して多人数攻撃を仕掛けるビター・スウィート。
だがオレンジを飲んで異常な力を得たアイナ軍団との戦闘をいつまでも続けるわけにはいかない。

「モエミーちゃん、残りをお願い!私がヤツを引き受ける!」

そう叫ぶとアサヒは眼前の敵を一気に飛び越し、奥のアイナへとダッシュする。
多人数戦にはリーチも長く攻撃範囲が広いモエミーが有利なのは事実。
よって疲労してしまう前に、単体戦向きの自分が首魁を仕留めようというのがアサヒの考えであった。

「おっと…もうオレと1対1をやろうってのか?」

腕組みしながら嘲笑う金髪のアイナ。ゆっくりとジャマダハルを装着する。

邪魔する軍団員を吹き飛ばし、スルリスルリと駆け抜け、ついにアイナの元へと到達したアサヒ。
ダッシュの勢いのまま飛び上がり、全てに決着をつけんと拳を振り上げる。

「痛いよ!覚悟しなさい!」
「フン!やってみろ!」

ガキィンという金属音と共に、両雄の剣と拳が交わった。

・・・かに見えた。

「・・・・っ!」

膝をついて悔しそうに胸を押さえるアサヒ。その手の隙間から流血が見える。
しかし一方のアイナのジャマダハルには血は付いていなかった。

アイナとアサヒの数メートル先に、5本の爪に付いた血を眺める異民族の女がひとり。
彼女が一瞬で飛び込んで、アサヒの薄い胸を切り裂いたのである。

「おう、外の掃除は終わったのか?カ・カよ」

アイナ軍団の隠し玉。
辺境の地から来た異民族の戦士。
野趣溢れる顔立ちのその女は、カ・カといった。

882名無し募集中。。。:2016/06/01(水) 00:43:43
長岡花火wそしてまさかのカ・カww茂木だっけ?ふーちゃんは無事アイナ軍団から逃れられたのか

883 ◆V9ncA8v9YI:2016/06/01(水) 23:10:24
茂木が出る予感はしてましたw
桜に月に、ビタスイ楽曲(田﨑名義含む)の歌詞がよく登場しますね。

884名無し募集中。。。:2016/06/02(木) 00:12:09

「アサヒちゃん!大丈夫!?」

モエミーが方天戟で敵を斬り上げながら声をかける。

「大丈夫…まだ…やれる!」

アサヒは立ち上がると胸の痛みを堪えながら構えを取った。

そんなアサヒを横目で見ながらアイナはユカニャ王に残念なお知らせを伝える。

「おい、外に隠してた残りの兵はみんなこいつが片付けてくれたそうだぜ」
「当てが外れて悪かったなユカニャ!ハッハッハッハ」

ユカニャ王は下唇を噛んだ。
アトリウムで迎え撃ちつつ、後半戦で隠していた兵を投入して奇襲を仕掛ける予定を見抜かれ、阻止されてしまったのだ。
カ・カを既に外に放っていたことからして、ビター・スウィート乱入以外のユカニャ王の作戦は読まれていたのだろう。
悔しいがアイナの方が一枚上手だった。

王の作戦が阻止されたのならば、後はモエミーとアサヒに全てが託されていることになる。
アサヒは自分を急襲したこのカ・カと呼ばれた女を必ず倒さねばならないと理解した。

構えを取って対峙すると、アサヒはカ・カを観察する。
先程の両手の爪は鋭く発達していてまるで獣のよう。
さっき使わなかったことから武器は持っていない、これはスピードや身体能力で肉弾戦を挑むタイプと見た。
つまりは自分と似たタイプ。
ならば尚のこと自分が倒すべき相手だ。そして最短で倒す道は見えた。

既にオレンジを飲んだ軍団兵にやられたりカ・カにやられた傷で、白い服も桜色に染まり出しているアサヒ。
一方、両の爪をこちらに向けて威嚇してくるカ・カ。
お互いにジリジリと少しずつ間合いを詰めていく。

床の土煙がパッと上がって、飛び出した2人の間でバシバシと激しい連打の攻防が展開された。
アサヒの的確な急所への拳撃を、カ・カも同様の攻撃で相殺する。
カ・カの攻撃は系統立っていないナチュラルなものであったが、それゆえに軌道が読みにくく、次第にアサヒも防御に回っていく。
そしてカ・カは自分が優勢と見るや更に手数を増やして連撃を加えてくる。
アサヒの腕や腹が少しずつカ・カの爪によってダメージを受けていく。このまま押し切られてしまいそうだ。

885名無し募集中。。。:2016/06/02(木) 00:15:31

だがアサヒはあきらめていなかった。防御の型・「蕾」で自らの急所はガッチリと守りつつ、ある一瞬を狙っている。
上段への攻撃を蕾で逸らしたアサヒはついにカ・カの右手を取った。

「!!??」

アサヒはそのままカ・カの後ろに回り込み、その回転を利用して手首を反し、取った手を振り下ろして後ろに引き倒す。
合気道の片手取り四方投げである。急に後方に身体を倒されるこの技に対応するのは困難。
もちろん、異民族でそのような「技術」を知らないカ・カには効果覿面だった。
驚き、訳もわからず受身も取れずに後頭部を床に強打するカ・カ。
そこを逃さず、アサヒは顔面に向かって拳を打ち下ろした。

ドゴォ、という破壊音がアトリウムに響く。
見守る果実の国軍兵たちはカ・カの顔が潰れた音だと思った。

だが破壊されたのは床のブロックだけ。
カ・カはすんでのところで思い切り顔を背け、直撃を避けたのである。

「は、外した…?」

アサヒは驚いていた。これまで四方投げを初めて喰らって混乱しない人間など一人もいなかった。
しかも確実に後頭部を床に叩きつけたのに追い討ちの拳すらかわすなんて…。
先程カ・カの実力を見立てた時に、ここまでやれば対応もできず、拳の初撃でKOできると踏んでいた。
だが実際は仕留め切れず、特殊手甲・桜花による一撃必殺の爆圧の存在すら知られてしまった。

戸惑うアサヒを跳ね飛ばし、カ・カが飛び上がって起き上がり距離をとる。
後頭部を打ったダメージはあるようだが、アサヒの拳を警戒する目つきで睨みつける。

非常にやりにくくなってしまった。
アサヒは果たしてこのタフで獣人のようなカ・カをどう攻略したら良いのだろうか。

886名無し募集中。。。:2016/06/04(土) 22:40:51
一瞬でも隙を見せるとカ・カは飛び上がって手刀で斬りつけてくる。
アサヒが辛くもかわすと後ろの壁に一筋の裂け目が入る。
お互いが一撃必殺、クリーンヒットした時点で勝負が決まるのだ。

こうなるとアサヒの狙いは一つしかなかった。
だがそれに向けての布石を打つのも、カ・カの止まぬ攻撃を避けながらでは並大抵なことではない。

上下左右から、袈裟懸けに爪で切り裂いてくるカ・カ。
桜花で防いだり受け流して正拳に繋げても、勢いのあるカ・カ相手に拳は空を切った。
前蹴りで間合いを広げつつ応戦するも有効打が出ない。

ナイフのように突いてくるカ・カの手を取って引っ張り、体勢を崩させる。
そこに顔面へ向けて渾身の手刀を振り入れる。
だがそれでもカ・カは後ろに仰け反って避けてしまう。
空振ったアサヒにはわき腹に貫手を入れられ、足を払われて倒される。
次の瞬間、カ・カの鋭い爪は寝た状態のアサヒの顔をかすめて床に穴を開けた。
すぐに転身して脱するアサヒ。頬から一筋の血が流れ落ちる。

ダッシュで間合いを詰めて攻撃を再開するカ・カ。
無言で静かに、だが激しく攻めてくる。まさに殺し屋といったところか。
前進しながら連撃を止めないカ・カ。受けながら下がりつつ機会を伺うアサヒ。

その時、振り下ろす爪の向こうでカ・カの口元が一瞬ニヤリと歪んだ。

「(何か来る!?)」

アサヒは前面からの攻撃への防御に意識を集中させる。
だが読みは合っていたが対策は外れていた。

「1対1とは言ってないよなあ?」

後ろからの声。
一筋の光と共に肉が切られる音がした。

「ッ・・・しまった・・・」

背中を大きく斬り裂かれ、膝から崩れるアサヒ。
背後でアイナのジャマダハルが血にまみれて嗤っていた。

カ・カは単にゴリ押し攻撃をしていたのではない。
気付かれぬようにアイナと挟み撃ちにできる位置へと誘導していたのだ。

アサヒを見下ろすカ・カとアイナ。
2人は仲良く右手を振り上げた。後は打ち下ろして終わりだ。
アイナのジャマダハルがキラリと光る。

「させるかぁーーーーー!!!!」

叫びと同時に方天戟が振り下ろされ、辺りの床ブロックが粉々に砕け散る。
アイナとカ・カは反射的に左右へと飛び退いた。
ようやく最後のアイナ軍団兵を打ち倒したモエミーが割って入ってきたのだ。

「アサヒちゃん!?」
「う、うん、、ごめん、ちょっとやられちゃったみたい・・・」
「こっちこそごめん!あいつらに手間取っちゃったから…」

即座にアサヒを守るように立ちはだかるモエミーの後ろで、よろよろとアサヒは立ち上がった。

「まだ立てるの・・・?」
「ふふ…モエミーちゃんを不利にはさせないよ・・・」
「アサヒちゃん…」
「モエミーちゃん、お願いがあるの」


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