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クロノブレーク☆臨時レス置き場
1
:
名無しさん
:2014/03/31(月) 01:00:27
【タイムトラベルファンタジー・クロノブレーク】
神々が当たり前のように地上を闊歩していた時代、ガイア紀。(BC.99997000)
高度な魔術で繁栄が築かれていた時代、ギャグファンタジア王国期。(BC.12000)
魔と現が分断して別れ、それぞれに発展を遂げてゆくダブルスピラ期。(AD.1999)
悠久の時を経た歴史が、再び幻想や神秘と邂逅するレヴァリアース期。(AD.2015)
遥かなる未来、全知全能の機械が世界の全てを支配するユビキタス期。(AD.4000)
時を駆ける力で五つの時代を駆け巡り、世界の滅亡を救え!
……まで思いついた
2
:
黒野 鳥芽
◆uMJFatUpYM
:2014/04/01(火) 00:35:12
>「もしもぉしっ!くろのぉ!!」
巻貝型の携帯端末から着信音が流れた。
黒野鳥芽 ◇l5fYN9WzSkから電話がかかってきたようだ。
この時代の電話は時を越えても通じるらしい。便利な世の中になったものである。
>「えーなんだって!この俺を出し抜いて、おまえばかりずるいじゃねぇか!」
>「なあっ、お、おっぱいみえるか!おっぱいがぁ!?
おんなのおちちぃ〜っ!!」
「落ち着け! 今の所男だらけでむさ苦しいだけだ!」
>「えっと、私たちも後を追うから、待っててね。黒野様!」
何故か黒野を様付けする幼馴染。
あまりに慌てているのか、もしくは悪い物でも食べたのだろうか。
突如として、天空から雷鳴のような音が鳴り響く。
>「神鳴りぢゃあ!やちほさまじゃあ。今年もやちほさまがごこうりんなれたぞぉ!」
「やちほさまって何だ!?」
どさくさに紛れて裸の男に尋ねてみる黒野。
「一年に一度ごこうりんされる恐ろしい破壊神でのう……
若く美しい男を生贄に捧げぬと世界が滅びてしまうのじゃ。
この裸の踊りはその際に儀式で踊るものじゃ」
「な、なんだってー!?」
3
:
【クロノブレーク】黒野鳥芽
◆l5fYN9WzSk
:2014/04/02(水) 19:07:37
>「一年に一度ごこうりんされる恐ろしい破壊神でのう……
若く美しい男を生贄に捧げぬと世界が滅びてしまうのじゃ。
この裸の踊りはその際に儀式で踊るものじゃ」
> 「な、なんだってー!?」
「な、なんだってー!?」
過去と未来の黒野が同時に驚愕。
刹那、目をクワッと見開いたその瞳に少女の姿が映る。
急斜面を駆けてくるその少女の名前はユナ。
獣避けの鈴の音をチリンチリンと鳴らしながら少女は駆けてくる。
彼女はこの土地の巫女だった。
「たびのおかたですよね?もしお疲れなら私のうちに泊まりませんか?」
少女の急な言葉に黒野は面食らうかもしれない。
しかし大昔、旅人は貴重だった。他所の土地の情報をもたらしてくれる。
なので、宿を乞われたら進んで泊めもてなすのが習わしだったのだ。
それに未来の黒野は大声をあげ嫉妬。
「黒野てめぇ、女とお泊まりかよ!?朝ちゅんかよ!ふざけんな!」
巻き貝型の携帯電話は大暴れしていた。
それに気付いたユナは黒野の携帯電話を見つめていたが
おもむろにカードを取り出して
「この口寄せ草のカードを使って声の主の方を、こちらに呼び寄せることができます。
お試しになってみますか?」
少女がカードを取り出した瞬間、それはカードから猫じゃらしのような草に変化した。
あとはそれで鼻の穴を刺激してくしゃみをすると、声を出している相手を呼び寄せられるという。
黒野は黒野を呼び出しても呼び出さなくても好きにすればいい。
ようはつかいどころが肝心なのだ。
使用しないまま三分たてばアイテムはカードに戻ることだろう。
それはさておき、黒野は村に招待された。
はだか祭りは明日、太陽が沈んでから行われるということ。
男たちは練習の汗を落とすために川で沐浴を開始。
彼らと川面を照らす真っ赤な夕日が少し不気味だった。
4
:
【クロノブレーク】黒野鳥芽
◆l5fYN9WzSk
:2014/04/02(水) 19:15:13
「きゃはきゃは♪こうやってみてると人間ってチニクのつまった人形って感じがする」
ユナの神殿から少女の声がする。
言ってることは意味不明だが嫌な予感が醸し出されていることだろう。
だがしかし、黒野はユナに誘われるまま神殿の内部へ。
「ただいま戻りました。やちほさま」
「あ、おかえりなさいユナ」
案の定、少女は神殿に降臨したやちほさまだった。
やちほは軽やかにスキップをしながらこちらに向かってくる。
「なにかいいはカードなぁいの〜?あったら交換しましょうよぉ」
「す、すいません、やちほさま。
これといって私に、珍しいカードはございません」
「え〜!そうなのぉ……。つまんな〜い。でも今回の生け贄は百人目だから何か起こるかも…。
わたしはそれを期待しているのっ」
そう言ってやちほは外に走ってゆく。
すると入れ替わりで慌てふためいた男が入って来た。
「た、大変ですユナ様。生け贄の美少年が……!」
男は顔面蒼白だ。
いったい美少年がどうしてしまったというのだろうか。
【だいだろすカードは購入することもでき、交換やイベントで入手も可。
妖怪のなかには倒したあとカードに変化するものもあり。
レアカードほど入手は困難】
※だいだろすカード
神秘の力の秘められた謎のカード
5
:
黒野 鳥芽
◆uMJFatUpYM
:2014/04/08(火) 23:50:59
>「たびのおかたですよね?もしお疲れなら私のうちに泊まりませんか?」
「えっ、いいのか!?」
一瞬知らない人の家に泊まっていいものかと面喰ったが
村長やそれに類する人が旅人を泊めるのはよくある話である。
今回もその類だろう。
>「黒野てめぇ、女とお泊まりかよ!?朝ちゅんかよ!ふざけんな!」
「落ち着けって、これはそういう流れじゃないだろ常識的に考えて」
>「この口寄せ草のカードを使って声の主の方を、こちらに呼び寄せることができます。
お試しになってみますか?」
呼んだところで騒がしくなるだけだとも思ったが
電話の向こうにいて妄想を暴走させられる方が騒がしいので、いっそ呼んでしまう事にした。
こちょこちょ……
「はっくしょん!」
これで黒野鳥芽 ◆l5fYN9WzSkもこちらの時代に召喚されるはずだ。
こうして村に案内された黒野。
ユナに案内されるままに神殿へ付いていく。
>「きゃはきゃは♪こうやってみてると人間ってチニクのつまった人形って感じがする」
穏やかではない台詞が聞こえてきたような気がするが、聞き間違えと思う事にした。
いかにもラスボスの部屋っぽい扉の前で少し待っていて下さいと言って、ユナは部屋に入っていく。
そこに男が来て、二人の黒野を見ると慌てた様子で扉を開けて報告する。
>「た、大変ですユナ様。生け贄の美少年が……!」
「生け贄!?」
「二人になってしまいました!」
口寄せ草の効果が今現れ、黒野鳥芽は二人になっていたのだ。
「二人になると何が問題なんだ?」
「今邪神の業界ではトレーディングカードが大ブームでな。
100番目の生贄でレアカードが出るはずだったのに一気に101人になってしまうではないか!
……おいこら、どこに行った!?」
男が解説に夢中になっている間に黒野達はその場から逃走し、忽然と姿を消していた。
6
:
黒野鳥芽
◆l5fYN9WzSk
:2014/04/10(木) 01:12:28
>「今邪神の業界ではトレーディングカードが大ブームでな。
100番目の生贄でレアカードが出るはずだったのに一気に101人になってしまうではないか!
……おいこら、どこに行った!?」
――その後、黒野たちの姿を見たものはいない。
――Fin――
「……って。終わらねぇよ!
つか生け贄の美少年って俺達のことだったのかぁ!?」
黒野たちは夕闇の街へと紛れ込んだ。
街は前夜祭で、賑わっていた。
「いったいこれはどういうことだよ……」
路地裏に隠れてひとりごちる。
頭のなかを整理すると、自分たちは裸祭りの生け贄で
なんの間違いか二人になってしまったため、レアカードが出なくなってしまうのだそうだ。
「それってやちほって神様の勝手な都合じゃねぇか。そんなの知らねぇっつの」
頭を抱えながら黒野はしゃがみこんでいる。
まさか裸祭りの起源がこんな恐ろしいものとは思ってもみなかった。
それとこのことを知れば、やちほはレアカードをてにいれるために
黒野のどちらかを消しにかかるに違いない。
だとしたらいったいどういうつもりで
巫女のユナは口寄せ草のカードを黒野に手渡したのだろう。
「とりあえずは明日の裸祭りが終るまで逃げきろうぜ」
そう言って立ち上がり表通りの様子を伺う。
すると何処かで見たようなものが見えた。
それはなんと巨大な飛脚のからくり人形。
そして巨大な巻き貝。
その隣には学者風の男が立っていた。
「さあさお立ち会い。これは世にも不思議な魔法の巻き貝。
この巻き貝の穴にむかって大声で叫ぶと
あら不思議。向こうにある巻き貝からも大声が聞こえてくるではありませんか」
男は黒野の幼馴染みの先祖だろう。
小型化されていない飛脚と巻き貝の通信機がその証明だ。
「あれって博士の先祖じゃねぇ?行ってみようぜ!」
7
:
黒野鳥芽
◆l5fYN9WzSk
:2014/04/10(木) 01:13:50
と、そのときだ。
突然、スリップドレスの娘が現れ大声をあげる。
その甲高い声は巻き貝の穴に飲み込まれてゆき
遠方にある巻き貝の穴から美しい歌が鳴り響く。
そして、大爆発。
「……」
歌声の主、やちほは無表情で爆裂した巻き貝から立ち昇る爆煙を見ていた。
それには民衆もどうリアクションしたらよいかわからず、その場はどよめいている。
が、そのどよめきのなか、少女の正体が破壊神とも知らず、
黒野は前にしゃしゃり出たのだ。
「あっちゃ〜、今も昔も変わらねぇなぁ博士」
頭に手を当てているのは黒野。
「まあ失敗は成功の母って言うからな。
その証拠に博士の子孫はこの実験に成功してるし」
そう言って、黒野は巻き貝の携帯電話を取り出して見せる。
その最先端の技術を博士はまじまじと見つめていたかとおもうと、
突然カッと目を見開く。
「や、やはり私は天才だったのかぁああ!
つまりこうだな。天才の私の天才の子孫たちがタイムマシンを発明し
君達がこの時代にやってきた!
それは私を天才と証明するためにだっ!」
(……この人あほだな)
どうやら博士は自分かその子孫がタイムマシンを発明し、
未来人が会いにやってくることを予想していたらしい。
「えっと正確に言うと、未来で博士の子孫が造ったテレポッドが原因不明の爆発をおこして
俺っつうか黒野がこの時代に飛ばされちまったんだよ。
だから俺達を元の時代に帰して欲しいんだ。
まあそれは無理だとしても裸祭りが終るまで俺達をかくまってくれれば助かるかな?」
「ふむ、なるほど……。そういうことか」
黒野達の背後にいるやちほを気にしながら博士はドキドキしていた。
黒野たちはこの時代には絶滅危惧種の美少年。
彼等はきっと、生け贄に選ばれたのだと博士はすぐに察していた。
8
:
黒野鳥芽
◆l5fYN9WzSk
:2014/04/10(木) 01:15:18
しかし、博士は思う。
(生け贄を差し出さなければこの時代がとんでもないことに……)
美少年の生け贄も今年で100人目。
噂ではレアカードが出現するらしいが、
もしもレアカードを手に入れられなかったら、
やちほが大暴れすることは間違いない。
ああ見えて、やちほはラスボス幼稚園を首席で卒業しているのだ。
売られた喧嘩は買うし残酷なことも平気で出来るのだ。
気がつけば、やちほが黒野達の顔をまじまじと見つめている。
「……まあ!双子の美少年と出会えるなんて今日はなんて幸運な日なの。
きっとこれでレアカードが二枚ももらえるわ!ユビキタスに感謝しなくっちゃ」
ユビキタスとは「いつでも、どこでも、だれでも」
が恩恵を受けることができるインターフェース 、環境、技術のことである。
時空自在と表現する者もいるが、やちほの言うユビキタスとは一体なんなのだろう。
「……けっ、おまえがやちほかよ。
生憎俺達は双子じゃなくって同じ人間なんだよ。ひとつの魂から生まれた二人の人間なのっ。
だから俺達を生け贄にしちまったら生け贄は101人目になってレアカードは出現しないんだってよ」
「はあ?なにそのとんちみたいなの?」
「だからぁ、俺達を生け贄にするのは諦めろってこと!」
「……え〜?」
やちほはしばらくその意味を考えていた。が、
「それっておかしい!ユビキタスがそんなミスをおかすはずないもん!」
と自分がバカなのを棚にあげ桜餅のように顔を染め上げる始末。
そのときだった。まるで最後にとってつけたかのように
その出来事は起こった!
なんと巨大な飛脚人形が暴走を始めたのだ。
飛脚人形は、博士がブルーフェアリーのカードで永遠に回る歯車を与えたもの。
(ブルーフェアリーとはピノキオに命を与えた妖精だ)
「あわわ、博士の作ったものって不良品ばっかだな!」
飛脚人形は黒野たちを追いかけながら大暴れ。
それをやちほはきゃっきゃと笑いながらあとから着いてくる。
「ねぇねぇ、助けてあげよっか?
でもねぇ。ただじゃダメなのよね〜。
生け贄を100人ぴったりにする方法を教えてくれたら助けてあげる」
どうやらというか、やちほはかなりのアホのようだ。
9
:
黒野鳥芽
◆uMJFatUpYM
:2014/04/16(水) 23:09:39
そんな騒動から少し離れた場所にて――ユナと村長が話していた。
「同じ魂を共有する二人……やはり彼らこそ予言に謳われた救世主。
必ずやこの世界の呪われた宿命を断ち切ってくれる……」
巫女とは、代々破壊神に仕え鎮める役割を担う者。
やちほの犠牲となったものは生贄の少年ばかりではない。
今まで幾人もの巫女が破壊神の怒りを買い、命を落としてきた。
その世界の仕組みを断ち切ろうと決意した今代巫女のユナは、表向き仕えつつもやちほを倒す方法を探っていたのである。
飛脚人形に追い回される二人を見つめつつ心配そうに呟く村長。
「そうじゃといいんだがのう……」
やちほは二人に取引を持ちかける。
>「ねぇねぇ、助けてあげよっか?
でもねぇ。ただじゃダメなのよね〜。
生け贄を100人ぴったりにする方法を教えてくれたら助けてあげる」
「さっきユビキタスと言ったな? お前の背後で指示を出している者がいるのか?」
と質問を投げかけた矢先。
「どっこいしょー!」
黒野は飛脚人形につかまり、かごに放り込まれた。
「ヤハリアナタガタハ救世主ナノデスネ。アナタ達のオ蔭で命ヲ得ルコトガデキマシタ
オ礼ニタダデテレポートサセテアゲマショウ」
どうやら無料でどこかにテレポートさせてくれるようだ。とはいうものの、行き先を選ぶ余地はなさそうだ。
果たしてどこに運搬されるのだろうか。
10
:
黒野鳥芽
◆l5fYN9WzSk
:2014/04/17(木) 20:04:23
>「さっきユビキタスと言ったな? お前の背後で指示を出している者がいるのか?」
黒野の言葉に、やちほはぎょっとして後ろを振り向く。
「ばかぁ!おどかさないでよ。後ろになんか誰もいないじゃない」と、やちほ。
「ちげーよバカ!ユビキタスって奴にお前は命令されてんのかってことだよこのチンチクリンが!」
「え〜命令?ユビキタスはとってもいいものだから誰にも命令なんてしないもん。
私がレアカードが欲しいってお願いしたら生け贄のことを教えてくれたし、
今回の生け贄もきっとユビキタスによるお導きなのよ」
やちほは黒野にそう答える。
やちほの言うユビキタスとは人間の魂を補完せし存在。
不完全な人間の脳の認識が、世界を不完全なものへと変えているのだ。
だとしたらこの世の森羅万象を完全に理解することが出来れば
世界は完全になり人間に葛藤はなくなる。
つまり、やちほにとってのユビキタスとは完全なる理解者であった。
「よくわかんなぇな。それって神様の神様みてぇなもんなのか?」
黒野は飛脚に追い詰められていた。
それをやちほは小馬鹿にした顔で見つめていたが、
もそもそと懐からスマホを取り出して掲げあげる。
「ユビキタスは、こんなかにも入ってるんだよーっ!」
そう言われても黒野にはなんて返してよいのかわからない。
飛脚に追い詰められてそれどころではないのだ。
見上げれば巨大な飛脚の顔。
黒野は諦めた。
が、突然飛脚が変なことを言う。
>「ヤハリアナタガタハ救世主ナノデスネ。アナタ達のオ蔭で命ヲ得ルコトガデキマシタ
オ礼ニタダデテレポートサセテアゲマショウ」
それを聞いた黒野は目をぱちくり。
「へ、救世主?俺たちがお前に何かしたっけ?
もしかして変なものでも食ったのかぁ?」
飛脚の摩訶不思議な台詞は今流行りのコピペか。
それとも黒野たちの出現により本人たちにも予期せぬ奇跡でも起きたというのか。
むろん前者は手抜き、後者は伏線である。
11
:
黒野鳥芽
◆l5fYN9WzSk
:2014/04/17(木) 20:18:33
「まあいいや。こんな所にながいは無用だぜ。
はやいとこテレポートたのむぜ!」
「アーイッ!」
「あ〜こらっ!まちなさい」
ビキビキビキビキ!
やちほのもつスマホに反応しているのか飛脚と黒野たち、それとやちほが
感電したかのように骸骨になっている。
それをみている巫女のユナと村長は固唾を飲んでいた。
村長にはどうしても黒野たちが救世主には見えなかった。
あまりにも言動が自分勝手過ぎる。特にあとから現れたほうが粗暴だ。
いっそのこと、爆裂してこいつらごとやちほが死なないものかと想起する。
そして純粋過ぎる村長の願いが通じたのか、
強烈な電流のなかで黒野たちは瀕死になっていた。
おまけにやちほも白目をむいている。
「……おれたち、死ぬのかな?」
黒野は短かった人生を思い出してみる。
このままおっぱいも見ないで死ぬのかと思うと泣けてくる。
「考えてみたら、俺たちって何で二人いるんだろう……」
いつから二人だったのか。
黒野は、黒野のことを知らない。
黒野は黒野であり、黒野のことをこの世で一番理解しているはずだ。
でも黒野は本当の黒野を知らない。
「なあ、お前はだれだ?教えてくれよ」
黒野は恐怖で震えていた。
黒野とは何かわからない。自分が何かもわからない。
理解されないということは、認識されないということ。つまり虚無。
――黒野がテレポートしたのは安全な場所でも未来でもなく、
深淵なるマトリックス(子宮体)の遥か彼方。
生物と無生物の限りない境界線であった。
12
:
黒野鳥芽?
◆uMJFatUpYM
:2014/04/25(金) 01:37:33
>「……おれたち、死ぬのかな?」
>「考えてみたら、俺たちって何で二人いるんだろう……」
「分からない。ただ時々思うんだ。
これが現実だっていう保障はどこにあるんだろう……」
>「なあ、お前はだれだ?教えてくれよ」
「俺は……俺達は……」
意識がフェードアウトしていく――
―――――――――――――――――――――――――――
生物と無生物の限りない境界線――そう、それはウィルス。
どこかの惑星のいつかの時代にて――未知の病原体が人々を恐怖と混乱の渦に陥れていた。
その名は”クロノウィルス”。
感染したら奇妙な夢に捕らわれるようになり、やがてその夢の世界に行ってしまうように死ぬ。
一部のトンデモ科学者は、クロノウィルスは惑星《ほし》を喰らい尽くす人間に鉄槌を下す浄化機能
人間こそが病原体なのだいう説をまことしやかに唱え、それに賛同する過激派環境保護団体も登場。
更に混乱を大きくしていた。
そんな中、クロノウィルスに果敢に戦いを挑む一人の医者がいた。
彼の名は裸簿酢(ラボス)――
「先生! 小学校で集団感染発生しました!」
「何!? 今度こそ死なせるものか! すぐに運び込め!」
13
:
黒野鳥芽
◆l5fYN9WzSk
:2014/04/26(土) 00:14:03
>「先生! 小学校で集団感染発生しました!」
>「何!? 今度こそ死なせるものか! すぐに運び込め!」
ラボスは今度こそ死なせるものかと誓っていた。
ということは……。そう。残念ながら目の前のベッドには少年の亡骸。
黒野そっくりの少年の亡骸があった。
今まで彼、否、彼等が看取ってきた患者の数はこれで合わせて千人。
「ダイダロスコレクター。シャットダウン完了しました」
ぷしゅー。
装置が開き中から現れたのは、八千穂博士。
ワンレングス、切れ長の目の和風美人。
彼女はこれまでの研究で、生体電流の誘導性サージによる非線形波動を応用し
外部との新しいシナプス伝達型の通信方式を生み出す装置を開発していた。
――それがダイダロスコレクター。
簡単に説明すると、クロノウィルスによって昏睡に陥った患者の夢に
オペレーターがダイダロスコレクターを用いダイブし、内部から覚醒を試みる方法である。
が、成功例はなく、ほとんどのオペレーターが逆侵入され、悪夢の中で精神に異常をきたすのだった。
(女神で降臨する予定が、破壊神になってしまうなんて)
「でも…」
少年の夢は何かを伝えてくれていたような気もする。
あの狂った夢のなかで。
八千穂は少年の小さな手にそっと手をふれた。
雑踏。
病室に慌ただしく運び込まれる新しい患者たち。
「ラボス先生、お願いしますっ!子どもたちを助けて下さいっ」
こうして新章が始まるっ!
14
:
◆uMJFatUpYM
:2014/05/01(木) 02:44:23
>「ラボス先生、お願いしますっ!子どもたちを助けて下さいっ」
八千穂博士の悲痛な叫び。ラボスは自ら患者の夢に潜る決意をした。
「分かった……。今度は私自ら行こう」
精神世界に潜ったラボスがまず聞いたのは、黒野を救えなかった事に対する呪詛の声だった。
「よくも黒野を殺したな!」
「糞ゲー!糞ゲー!」
「いや、あれは数ある未来の可能性のうちの一つでして……」
「どっこいしょー!」
ラボスはがけから海にけり落とされた!
そして次に気が付いた時――聞こえてきたのはさざ波の音。
ラボスは砂浜に流れ着いていた。
目を開けた時に目の前にいるのは美少女……なわけはない。
何十年か前に美少女だった可能性は微レ存。
「おお兄ちゃん、ドザエモンかと思ったわ。この辺で見かけん顔やなあ」
「早くこの世界での患者を見つけなければ……」
「何やねん、浮かん顔して、悩みがあるならおばちゃんに言うてみ!」
ド派手なファッションをした大阪のおばちゃんみたいな人達がラボスを取り囲む!
「あの……ここはどこですか?」
「もちろんオバタリアンの浜や!
ウチら飛ぶ鳥を落とす勢いのアイドルグループオバチャーンの活動拠点やで!
今からライブやけえ聞いて行きいや!」
早速足止めをくらうラボス。
15
:
やちほ
◆l5fYN9WzSk
:2014/05/01(木) 22:23:00
>「もちろんオバタリアンの浜や!
ウチら飛ぶ鳥を落とす勢いのアイドルグループオバチャーンの活動拠点やで!
今からライブやけえ聞いて行きいや!」
八千穂の開いた口が塞がらない。
モニターにうつるけばけばしいおばちゃんたち。
まさかと思い、ユビキタスで調べてみたら
YouTubeにそれらは実在してた。
それはさておきダイダロスコレクターを身に付けているラボスは苦しそうにうめいている。
「患者の夢に逆侵略されているんだわ!逃げて先生っ」
おばちゃんたちの唄に、無数の飛ぶ鳥が落ちてくる。
そんな悪夢のなか。ラボスの足が太い大根足になってゆく。
なんとおばちゃん化しているのだ。
セルライトに産後の座骨神経痛。
次々と襲来するおばちゃん化の代償。
「気を付けてラボス先生!バブルの世代のおばちゃんは雑に育てられたからがつがつしています。
考えるよりもいち早く行動することが習慣化しているのだそうです。
だから先生。おばちゃんたちの弱点はじっくりと考えること!
聞こえますか?おばちゃんたちの弱点はじっくりと考えることです」
オバチャーンライブの大音量が
精神世界を震わせている。
ゆえにラボスは、首から下が完全なおばちゃんになっている。
「あぁ!……ぶっふぅ」
それをモニターから見て、思わず吹いてしまう八千穂。
その時だった。
ラボスの巨乳の死角、地面から子どもがにょっきりと生えてきて
丸い頭がやわらかい胸を持ち上げる。
その子どもは黒野鳥芽に似ていた。
「えっ!?……黒野…くん。どうしてここに?」
輝く丸裸の子どもはクロノウィルスに感染せし少年の夢が生み出した黒野鳥芽という少年。
クロノウィルスは人間に夢を見せ、眠らせるように命を奪うというが少年のようすは何か違う。
「あなたはいったい?」
八千穂が問いかけると黒野は、びくっとしてラボスの胸をさわろうとするのをやめる。
そしてラボスの顔を見て腰を抜かす。
そう、ラボスが男だったからだ。
だが、そんなこともお構いなしに、おばちゃんたちの侵害は続いていた。
「うちら、歌って踊って青春とりもどしてんねん。
バブルのころを懐かしんでんねん。
はよ、先生も踊ろうや。一緒に懐かしいバブルの夢をみようやぁ!」
バブル。ロストジェネレーション。団塊Jr.に団塊。今はゆとり。
「ラボスせんせーいっ!」
とうとうラボスは全身がおばちゃんとかす。
ミーン、ミーンミーン。
日差しの溢れるプラットホーム。長椅子に皆で座って、ラボスたちは電車を待っていた。
「ジュース飲まへん?」
ラボスの手に、プルトップをあけてぶどうジュースの缶を握らせる厚化粧の中年女。
――このままでは、ラボスは患者の夢に飲み込まれてしまうかもしれない。
初心を思い出し、気をしっかりもつのだ!
16
:
ラボス
◆uMJFatUpYM
:2014/05/07(水) 20:29:09
>「ジュース飲まへん?」
「おおきに……」
と受け取りながらお礼を言ってはっと気づく。
何時の間に言葉まで関西弁になっとんねん!と。
あかーん! このままでは患者の夢に飲み込まれてしまうかもしれへんでー!
>「気を付けてラボス先生!バブルの世代のおばちゃんは雑に育てられたからがつがつしています。
考えるよりもいち早く行動することが習慣化しているのだそうです。
だから先生。おばちゃんたちの弱点はじっくりと考えること!
聞こえますか?おばちゃんたちの弱点はじっくりと考えることです」
どこからともなくやちほの声が聞こえてきた。
その場で「考える人」のポーズを取って思索にふけるラボス。
いつの間にか周囲が教室のような風景にかわり、ラボスやオバチャーン達は席についてテストにいそしんでいる。
「解けへんで〜〜! 後攻の勉強なんて昔過ぎてすっかり忘れてしもたわ!」
オバチャーン達はお手上げの様子。
曲りなりにも医者のラボスはすらすらとテストを解いて、いちはやく退室する。
「先程の少年……どう見ても黒野君だった、彼は一体……この病気の正体の鍵を握っているというのか!?」
黒野鳥芽の謎を探るべく、彼のいるクラスを探すラボス。
この学校はクラスに色の名前が付いているようだ。
「白、黒、赤、青、か……多分黒だな」
その心は黒組、黒のクラス、クロノクラス、なんちゃって。
何はともあれラボスは黒組の扉を開けて中に入る。
17
:
◆l5fYN9WzSk
:2014/05/08(木) 21:05:56
第1話『ふたりのくろの』
第2話『やちほしゅうらい』
第3話『ほんとうのみらいず』
今回
第4話『えんかんするあくむ』
ラボスは地の文まで関西弁になっていた。
ポップなラボス。能天気なラボス。
本当はリアルがド不幸ならいいのに、と、
やちほは業務を忘れ、いらいらしいになっている。
「それにさっき、高校を後攻ってまちがえてた。信じられない。
私のことなんてどうだっていいっていうの〜?」
たぶん、変換するのめんどうやわ〜とか考えていたのだ。
こんな風にやちほが苦言をていするのも期待の現れでもあるのに
だいたい世の中のほとんどはやちほのことをメンヘラというのだ。
それとやちほは裏切り者は許さない。
特に信じていたのに裏切ったものは許さない。
でもショートケーキのお土産を持ってきたら許す。許しちゃう。
それはさておき…
>「白、黒、赤、青、か……多分黒だな」
クロノクラス……という駄洒落。
もしかして、ラボス絶好調?
やちほはひっくひっくと泣きながら笑っていた。
もうよくわからない。
長寿スレも終わってゆくし、大切なパートナー同士の友情はせつなくもあり羨ましくもある。
その絆は確固たるものでそれ意外のものもなく『時』って重いものねと思うやちほ。
腐れ縁。腹心の友。花子とアン。
でも、あっちは続けてこっちは捨てているのだね(キラリ、げすがお)
話は戻って、教室を開けるとそこには知らないゲス顔。ゲス顔。ゲス顔。
ラボスは吃驚して一旦扉を閉めてもう一度開けると
そこは小堺一機のクラス。
ごきげんようの小堺一機は小さな頃、トイレから帰って自分のクラスへ入ったら
知らない子どもたちが座っていた、というマジキチな話をモチネタとしている。
吃驚して扉を閉めてもう一度開けると元のクラスだったそうだが
それと同じで、ラボスの目の前には小堺一機のクラスがあった。
だからどうしたのということだけどアンビリバボーを見ながら適当に考えたことなんてみんなそんなもの。
人は生まれたら訳のわからないものを見せられたり
この宇宙では起こったりする。
それはいつもいつもあたりまえのこと。
「なにがでるかななにがでるかな?」
コロコロと転がっている黒野鳥芽。
コロン。
「はい。今日の当たりめは……コロソークエスチョン!」
コロソー。コロゾウではなくってコロソー。
……殺そう。
「こいつを殺そう食えすちょん!」
生徒たちがラボスに詰め寄る。
「よくも黒野を殺したな!」
「糞ゲー!糞ゲー!」
「いや、あれは数ある未来の可能性のうちの一つでして……」
「どっこいしょー!」
海に落下するラボス。
※以下、繰り返される悪夢。
18
:
◆l5fYN9WzSk
:2014/05/08(木) 21:11:14
「……」
恐ろしいことになってしまった。
ラボス先生の脳波が徐々に弱くなっていく。
それに加えて、同じ夢を見はじめた患者たち。
「これって……。感染拡大……」
各個人。生きてきた経験も、人生の望みも異なるはずなのに、
臨死体験はほとんど酷似している。
それと同じ。
クロノウィルスに感染したものは、同じ場所へ向かっているとでもいうのか。
ダイダロスコレクターの接続を強制解除しても反応はない。
(ユビキタスが私の指示に従わないなんて!)
数日後、再び悪夢のなか。
剣呑とした顔でラボスが一万杯めの蒲萄ジュースを飲もうとしたその時。
駅に電車が停車した。
車掌はやちほ。
ラボスはふらふらとその電車に乗る。
ほうと深いため息。
五年間。旦那とは喧嘩らしい喧嘩もせず会話らしい会話もしていない。
彼と最後に食事をしたのはいったいいつのことだろう。
そんな思いにふけるなか、ふと、車掌のやちほと目があった。
スピードは全開。それでもやちほは前も向かずにラボスをじっと見つめている。
「ちょ、ちょっとアンタ!前むきっ」
刹那、轟音。脱線。
――リナさん、どうか生存報告をお願いします。
突然の場面転換。
スレを覗けば、必死な感じのGMがリナさんというコテに発狂寸前の呼びかけ。
これは?
ラボスは記憶を呼び起こす。
高校時代にやっていたTRPG という遊びだ。
GMのラボスはリナのことが好きすぎて異常だったのだ。
ミラーという他人に成りすまし気にくわない同僚を裏で叩き
管理人にアク禁されたこともあった。
とにかくミラーは年末連休はラボスと同時にいなくなり、文体もラボスそっくりに真似できるという触れ込み。
それゆえにPCを兼用している同居人、地獄兄弟という説もあったのだ。
(あのころはやっちまってたなッ!)
ミラーがラボスの肩に手をおいてゲス顔。
ミラー…。薄汚れてババ臭いもう一人のラボス。
「リナが引退したあと、なぜスレを放り投げたんだッ!」
ミラーがラボスに問いかける。
リナが引退しラボスがスレをやめたあと、名無したちは業界は終わった。
とかしばらく騒いでいたがそれいこう、叩きも何もなくなり
彼等の得意気に語る業界というものは平和になった。悪く言えば興味の消失。
競争のようなある種の保身、○○は俺の嫁ッ!のようなリビドー迸る叩きももはやなく
本来、書くのが好きな温厚なものたちだけのパラダイスになった感じ。
そう。すべてはラボスの盤外戦術だったのだ。
なんとラボスは罪深い者なのだろう。
たった一人の盤外戦術に翻弄され狂い勢いを失ってゆく世界。
――記憶の底。甦る罪悪感。
患者を治療しなければならない医師の心にトラウマがあっては、
汚い手で汚れたものを綺麗にしようとしているようなもの。
ラボスは自己のトラウマを乗り越えなくてはならないのだ。
輝く全裸の子、黒野はドアの隙間からラボスを見守っている。
次回、第5話『かつてぼくはごけつだった!』
19
:
◆l5fYN9WzSk
:2014/05/08(木) 21:29:22
あ、それとこれはフィクションです。
リナは優秀なコテ。ラボスはGM。
ミラーはラボスが盤外戦術を行うために作った人格が
悪夢の世界で一人歩きしたもう一人のラボスです。
よろしくです。
20
:
◆uMJFatUpYM
:2014/05/12(月) 00:38:40
>(あのころはやっちまってたなッ!)
「お、お前は……!」
ラボスは驚愕した。
自らの心が作り出した影が形を持ってそこにいたのだから。
>「リナが引退したあと、なぜスレを放り投げたんだッ!」
「スレを投げた理由? そんなの飽きたからに決まってるじゃないか。
この世界などくだらない、存続する価値の無い物だ……!」
「いや、違うな……誰よりもこの世界を愛したお前が望んだのは永遠の平和……!」
「……ああ、ああそうだよ! 私のお蔭で戦乱の絶えなかった世界は平穏をを手に入れた!
それの何が悪い! 裸で何が悪い! 消えろ、私の前から消えろぉおおおおおおお!
うぉおおおおおおおおおおお!!」
ラボスの絶叫と共に小林○子のような舞台装置が起動。背中には羽が広がり、電飾が光輝く。
このままラスボス化してしまうのか!? その時だった。
「待って!」
一人の女性が現れる。
「リ……ナ……!?」
「心の影《シャドウ》はあなた自身。それを受け入れた時、ペルソナへと昇華する事が出来る……!」
「こいつが……私……自身……!?」
「と、いうわけで喰らえ! 竜破斬(ドラグ・スレイブ!!」
「お、お前はラノベレーベルの一つ富士見ファンタジア文庫華やかなりし頃の王道RPGファンタジー、スレイヤーズの主人公
ドラゴンもまたいで通るドラまたのリナ・インバースじゃねえか!
ぐぁあああああああああ!!」
リナの必殺技がラボスを一刀両断。やたらと説明的な台詞を言ってから絶叫をあげるラボス。
21
:
◆l5fYN9WzSk
:2014/05/16(金) 00:11:09
こうして、ラボスの意識は消え、ミラーが主人格になった。
そして月日は流れ、ユビキタス期さえも遠い昔。
この時代。すべての物質を細かくしてゆくと、
最終的には『情報』というものになることが解明されていた。
かつて猛威をふるったクロノウィルスも、とある情報だったのだ。
天に輝くは巨大にふくれた太陽。
大森林からは高度文明の残滓、かつてのビルぐんが屹立していた。
――そしてここはクリスタルの森。
チロルドレスの少女が泉の底で光る魚のようなものをじっと見つめている。
溺れて死んだものは、生まれ変わり、魚になるという。
そんな迷信があった。
少女の名前はチホ。この森に住んでいる。
気がつけば泉の水面に無数の波紋。
「あ、雨!」
ザーっ!
雨雲が太陽を隠し、森は夕暮れどきのように真っ暗だ。
チホは木の穴に隠れ雨宿り。
「まったくもう、これじゃ帰れない。
師匠がむかえに来てくれたらいいのに」
22
:
◆uMJFatUpYM
:2014/05/20(火) 00:42:11
雨宿りするチホの元に小さな子供のような足音が近づいてくる。
「見つけたにゃ。
そんな事だろうと思って迎えに来たにゃ」
現れたのは猫耳の美少年。
この時代の素材で出来た傘を差し出す。
彼は文明崩壊に至るまでの時代の遺伝子異変やら何やらで現れた色んな種族のうちの一つ。
見た目こそ少年だが、人間の寿命よりもずっと長い時を生きているらしい。
「チホ、大丈夫じゃったか? 突然の大雨じゃな」
帰った師匠とちほを出迎えるのは、何故かBBA口調の少女。彼女の名はチャコ。
チホの姉弟子にあたる。
少女ではなくロリBBA又はロリお姉さんではないかとの噂もあるが
この時代には戸籍制度もないので正確な年齢は不明だ。
「うにゃ。こんな日は”奴ら”が騒いでいるのかもしれないにゃ……」
空を見上げながら呟く師匠。
この世界には《ウィルス》という存在がある。
怪物のような姿をして現れ、世界を狂わせる存在だ。
具体的には、空間を歪めたり、世界法則を捻じ曲げたり、様々なパターンがある。
外界から送り込まれた情報体や、世界の歪みが生み出したバグ、等諸説あるが真相はよく分かっていない。
二人は《ウィルス》を退治し世界を正常に保つ《巫女》としての修行をしているのだ。
部屋の隅で輝く師匠のクリスタルが怪しい光を発している。
「んにゃ!? 森の奥に《ウィルス》の出現反応にゃ!」
23
:
チホ
◆WiN7G5G9lU
:2014/05/21(水) 00:32:25
>「んにゃ!? 森の奥に《ウィルス》の出現反応にゃ!」
チホはワンピースに着替えて
ホットミルクをすすっている。
窓ガラスを叩く雨音は次第に強さを増している。
「チホはいかないよ。だって、濡れるのいやだもん」
んべっと小さな舌をだす。
チホとしては日常てきにのんびりとしていたくて
大きな理想、世界の救済よりも、
普通を普通に行うことこそ本質に近いことと思っている。
「だってお水、どんどん増えてるじゃん。
お外に出たら、また足がべちょべちょになる。
それに洪水になったら溺れて死んじゃうもん」
外からは、雨樋に滝のように雨が落ちて、
じょろじょろと物凄い音。
そんななか、
ぎぎぎ……と二階の扉が開いて
降りてくるのは幽霊の由香里。
「はぁい♪」
由香里の持っているのは可愛いレインコートと可愛い長靴だった。
「これを身につけていれば、ぬれませんよ〜」
「わあ〜、可愛い〜!」
チホの目は輝いて、花柄模様が着物のようにデザインされたそのレインコートに釘付け。
早速着替えて、チャコと森の奥へ向かうことにする。
――雨降りのクリスタルの森はまったく違う顔をみせて動物たちも皆雨宿り。
小川も濁流に溢れて、丸太の橋も流されていて道も変わっている。
なので小さな子どものチホには歩くだけでも大変。
せめて底なしの森を越えれたら水捌けも良くなり普通に歩けるのだが……。
困ったチホは木の上の猿たちに頼んで木に引っ張りあげてもらうと自分を運んでもらうことにした。
小さいことは短所でもあり長所でもあるのだ。
――猿王の大木――
喋る猿、猿王が住む大木のお城。師匠とは友達らしい。
それにかつては四戦士と呼ばれたらしいが、チホはただの喋れる猿としか思っていない。
その大木の展望台から見下ろすと師匠の家が微かに見えて、
近くのチホのイチゴ畑が水浸しになって見えた。
それは師匠に耕させ、チャコに毎日水やりをさせた大切なイチゴ畑。
なのでチホは悲しくて涙がこぼれた。
そして猿王は、森の奥へ向かうには幽鬼の洞窟が近道という。
それ以外にはクリスタル湖を船で移動するしかない。
こう見えてもチホの住むクリスタルの森は、山あり谷ありで自然が豊なのだ。
これも巫女になるための試練。
主にチャコにとってのだ。
チホはまだまだ見習いでもなく体験入学の身分で
巫女になるのかもわからない。
チホの親がわけあって師匠に預けているだけとも言えた。
24
:
チホ
◆WiN7G5G9lU
:2014/05/21(水) 00:35:44
幽鬼の洞窟。
古の情報が残留思念となって漂っていたりするという。
入り口は大理石の装飾されたゲートがあり洞窟というより遺跡と言ってもおかしくない。
よく見ると入り口には無数の人影。
彼等は雨宿りの旅人たちや、ここに住んでいる人外族。
チホはレインコートの可愛い自分が見られていると感じながら
洞窟に入ってゆく。
「お嬢さんたち。地下は雨水がたまっていてあぶないぞ」
「大丈夫よ。地下にはおりないもん」
鍾乳洞にクリスタルライトが淡く照り返している。
天井の穴からは雨水が白い糸のように流れ落ちている。
所々に死んだ甲殻類のように機械がたたずんでいるが
それが古の洞窟工事に使われたことなどチホにはわからない。
しばらく歩いたあと
チホはレインコートを脱いでリュックサックから
自炊セットを取り出しココアを温め始めた。
森の奥まで行くには時間がかかる。
なのでパンにバターをぬってチャコに手渡す。
今日はここで眠るつもりだった。
「チャコちゃん。ちょっと寒いね」
洞窟内部は底冷えがしている。
「……ねぇ、チャコちゃんは巫女になってどうするの?
私は巫女になるのイヤだよ。
だってずっと遊んでいたいんだもん」
チホは口をとんがらせ、ココアをすすり始めた。
25
:
チャコ
◆uMJFatUpYM
:2014/05/26(月) 23:05:28
>「チホはいかないよ。だって、濡れるのいやだもん」
>「だってお水、どんどん増えてるじゃん。
お外に出たら、また足がべちょべちょになる。
それに洪水になったら溺れて死んじゃうもん」
御尤もだがそれを言ったらお終いというか、もしも卓上TRPGだったらGM泣かせなのは間違いない。
だが、このスレのGMも手慣れたものだった。
>「はぁい♪」
>「これを身につけていれば、ぬれませんよ〜」
可愛いレインコートと長靴であっさり丸め込みに成功。
「やはりこれは普通の雨ではないな……」
「明らかに奴らの仕業にゃ……。そろそろ頃合いだと思っていたからいい機会にゃ。
この怪異を解決できた暁には正式な巫女として認めるにゃ。
見習いから助手に昇格してお給料も出すという事にゃ」
「師匠……! 本当か!」
この世界では、巫者の中でも高位の者が認定を受けて”社”を開いている。
社というのは要は《ウィルス》の駆除を管轄する役所のようなもの。
そして一般の巫者はそこに所属するというわけだ。
特殊な業界のため、一般の巫者の認定は、師匠である高位巫者に任されているのだ。
26
:
チャコ
◆uMJFatUpYM
:2014/05/26(月) 23:05:59
水浸しになったイチゴ畑を見て涙をこぼすチホの肩にチャコがそっと手を置く。
「そんなに気を落とすでない。また育てようぞ」
チャコ達は森の奥に向かうために幽鬼の洞窟へ。
>「お嬢さんたち。地下は雨水がたまっていてあぶないぞ」
>「大丈夫よ。地下にはおりないもん」
洞窟という時点で地下のような気もするが気のせいだろうか。
しばらく歩いたところで、チホは自炊セットを取り出し休憩モードに入る。
お礼を言ってパンを受け取るチャコ。
二人は軽食を取りながらしみじみと語り合い始めた。
>「……ねぇ、チャコちゃんは巫女になってどうするの?
私は巫女になるのイヤだよ。
だってずっと遊んでいたいんだもん」
“働いたら負けだと思う”とはニートの常とう句である。
働かなければ生活できないというのが一番妥当な答えであろう。
しかしもしも一生遊んで暮らせる費用が保障されたとしたら、これに反論できる者はどれぐらいいるだろうか。
「ふふふ、さっき聞いたであろう?
生活するだけなら今のままでも不自由ないが正式な巫女になれば給料……つまり自由に使える小遣いが貰えるぞ
そうしたらもっと色んな遊びが出来るかもしれぬぞ」
そこまで言って少し真面目な顔になるチャコ。
「世の中にはもっと割りのいい仕事もあるのに何故巫女かと言われたら……そうじゃな
さっき水浸しになったイチゴ畑を見て悲しかったであろう? そういう事かもしれぬな……」
その時チャコがある異変に気付く。地面の水溜り部分が拡大しているのだ。
「地下は雨水が溜っていて危ないぞ」がフラグだった気が物凄くする。
「む、いかん! 浸水してきておる……。このままここにいたら水浸しになって溺れ死ぬかもしれぬ!
早いところここを抜けるぞ!」
27
:
チホ
◆WiN7G5G9lU
:2014/06/03(火) 22:20:30
>「世の中にはもっと割りのいい仕事もあるのに何故巫女かと言われたら……そうじゃな
さっき水浸しになったイチゴ畑を見て悲しかったであろう?
そういう事かもしれぬな……」
>「む、いかん! 浸水してきておる……。このままここにいたら水浸しになって溺れ死ぬかもしれぬ!
早いところここを抜けるぞ!」
チャコと一緒に洞窟を駆けるチホ。
巫女になったらお給金をもらえるらしいから、チホは頑張ることにした。
以前、師匠と洞窟に来たときは
この辺りは洞窟の半分くらいで
あと半分歩いたら洞窟は抜けられる。
でも、道は幾つかに別れていて間違えたら水に追い付かれて死ぬのだ。
なので二人は懸命に駆ける。
本来ならトランプをしたりチャコに本を読んでもらったりと
まったりする予定なのにチホは真っ赤な顔で走るはめになった。
そして二人は洞窟を抜ける。
鼻腔をくすぐる土の匂いがそれを教えてくれた。
洞窟の入り口から外を見上げたら
周囲は黒を黒で塗りつぶしたような闇。
たぶん、午前零時は過ぎていて、チホは眠気と疲労でへとへとになっていた。
だから、洞窟の岩だなに転がった瞬間、気絶するかのように眠ってしまう。
そして朝。
垂れ込めた黒雲に土砂降りの雨が、深い森の色をさらに濃くしていた。
チホは目覚めると自炊セットを洞窟の奥に忘れて来たことに気づく。
「……チャコちゃん、どうしよう。おなか空いちゃった」
森の奥まではまだまだ距離があった。
【遅くなってしまってすいません】
28
:
チャコ
◆uMJFatUpYM
:2014/06/07(土) 02:14:08
チャコとチホは手を取り合って洞窟を駆ける。
水に追いつかれたら溺れて死んでしまう。
もうすぐ出口というところで、すぐ後ろに水が迫ってくる。
「ええい、これでどうじゃ!」
チャコは振り向き、トレカのようなカードを後ろに投げた。
地面がせりあがり壁を作り、水をせき止める。
このカードは《アプリ》と呼ばれるものである。要するにアイテムだと思ってもらえばいい。
このように使い捨てのものもあれば、継続使用できるものまで様々なものがある。
巫女はこの世界の理である《情報》を駆使し、《ウィルス》と戦う存在。
《アプリ》の扱いは巫女の技能の一つだ。
「長くは持たん、急ぐぞ!」
そして間一髪で二人は洞窟の外に転がり出る。
「よく頑張ったなチホ、もう大丈夫じゃ……」
そう言ってチホの方を見ると、彼女はすでに夢の中に旅立っていたのだった。
チャコもその場で横になり、チホに寄り添うように眠った。
次の日――
>「……チャコちゃん、どうしよう。おなか空いちゃった」
慌てて水から逃げて来たので、彼女たちは自炊セットを洞窟の中に置き忘れてしまったのだった。
野草でも生えていないかと道端を漁ると、地面で何かがキラリと光る。
都合よくカードのようなものが落ちていた。どうやらアプリのようだ。
もしかしたら師匠が先回りして置いてくれたのかもしれない。
「何々……? ”なめこ栽培キット”。簡単に美味しいなめこが作れます」
チャコはカード表面を指で操作し、アプリ内の原木になめこフードをセット。
「これで良し。もう少しの辛抱じゃ」
歩きながらなめこが出来るのを待つ。
間もなくアプリ内の原木にびっしりとなめこが生えそろう事だろう。
この世界では情報は現実と地続き。
もちろんアプリ内に出来たなめこはリアルになめことして収穫できるのだ。
29
:
チホ
◆WiN7G5G9lU
:2014/06/08(日) 20:43:24
>「これで良し。もう少しの辛抱じゃ」
チャコが草むらからナメコ栽培のカードを見つけた。
ナメコが出来るまで先を急ぐ二人。
こんなふうにチャコがチホの面倒をみてくれるのも
この世の中で尊いことなのに、まだ幼いチホはそれに気がついていない。
しばらく進むとクリスタル湖の対岸に到着する。
依然として雨は降っていて、湖の向こう、霧のような靄のようなものの奥に猿王の大木が蜃気楼のように小さく見えた。
昨日は約丸1日半、トータルで森と洞窟を随分と歩いたから二人はかなり遠くに来たのだ。
すると突然、湖の中央から大きな水音が響いて、
それはまるで巨大な魚が跳ねているような音に聞こえたから、
チホは幽鬼の洞窟を通って来て正解と胸を撫で下ろす。
そして、湖岸を沿ってしばらく進むと水没した船着き場の屋根だけが見えた。
この大雨で湖の水量も増しているのだ。
このままではクリスタルの森全体が水没してしまうかもしれない。
そうなれば皆、当然溺れ死ぬのだ。
そんななか、ナメコは成長して食べ頃になる。
気がつけば大木の根本に転がっている原木から、
無数のナメコが顔を覗かせている。
これが現実と地続きたる所以なのだろう。
それをチホは収穫して、焼いて食べることにした。
この世界では大きなナメコは、焼いて食べることもできるのだと言う。
だが――
「でもチャコちゃん。この雨じゃ火が使えないねぇ」
悲しそうな目で、チホがじっとナメコを見ているのも、
ナメコは生で食べてはダメと師匠に教えられていたから…。
それに船着き場の休憩所も水没していて、ナメコを調理することはできそうになかった。
なのでチホたちは強行して水のクリスタルの神殿に向かうことにした。
――正午過ぎ。水のクリスタルの神殿。
ここ、クリスタルの森の中央には風水火土の4つ神殿に囲まれるように光の大クリスタルの神殿がある。
チホは何度か師匠に連れて行ってもらったことはあったが
記憶からすると、水の神殿から光のクリスタルの神殿までにはさらに距離があった。
そんなことを思い出しながら、
チホは水の神殿の裏にある巫女の休憩所でナメコの調理を始める。
もちろん貯蔵庫には何もない。
長年の水の巫女不在のためにこの場所も使われていなかったのだ。
そしてチャコとチホはテーブルにつくと焼きナメコで遅い朝食。
その後二人は異常がないか神殿内部へ。
ふらっと見回ってみるもこれといって怪しいものも見つけられず
やはり怪異は光のクリスタルの神殿付近から発生しているのだと認識。
焼きナメコをタッパーに詰め今度は光のクリスタルの神殿に向う。
そして夕方。光の神殿に到着。
だが光の神殿とは名ばかりで神殿全体は闇に包まれていた。
なのでチホは探索は明日にすることにして、
今回も神殿の裏の巫女の休憩所で休むことにする。
「……巫女さん。誰もいないね」
休憩所はもぬけの殻。
やはりここの休憩所も無人で
勿論クリスタルの守人もいなく、
神殿というのに冷遇されている印象を受けるチホ。
師匠の話では大昔、この光の神殿の巫女たちは星の声を聞き、神との交信を行っていたという。
チホはランプの明かりを頼りに
先に進むと、奥の部屋で浴場を見つける。
ピカピカの大理石に口からお湯を吐くライオンの像。
どうやらクリスタルの神殿は、劣化という情報が塞き止められていて老朽化をしないようだ。
30
:
チホ
◆WiN7G5G9lU
:2014/06/08(日) 20:47:14
次の日。光の神殿。
チホがクリスタルの大広間に向かうと
中央に鎮座するクリスタルは巨大な水球に包まれていて
その水球の中に半魚人の王様みたいなのがいた。
「みてみてチャコちゃん!ボスがいるぅ!」
見た目からして、小さなチホには敵いそうにない相手。
すると二人に気づいた半魚人が……
「ぎょぎょ!そこのお嬢さんたち。助けてほしいんだぎょ」
水球から顔を出して叫ぶ。
彼は真っ赤な顔で逆上せているようだ。
「えっと…、どういうこと〜?」
「ぎょぎょ!説明させてほしいぎょ!光のクリスタルは言うならば情報という意思の結晶体なんだぎょ。
それに異変が起きてしまって今にも爆発してしまいそうなのだぎょ。
それを僕は水の力で封じ込んでいるのだが、無様なことに見ての通りぎょ」
水球の中心はクリスタルの熱で沸騰して蒸発している。
そうなのだ。この蒸気が雨雲となりクリスタルの森に雨を降り続けさせているのだ。
「それほんと?おじさん嘘ついてない?」
光のクリスタルが爆発するとか大事件過ぎる。
もはや巫女の昇格試験という問題でもないかもしれない。
「君たちは猿王の使いぎょ?
僕は水のダゴン。四戦士の一人だぎょ」
「私の名前はチホ。いちおう巫女見習いかな。
こっちのチャコちゃんも巫女見習いだよ。
二人とも大雨の怪異を解決したら晴れて巫女になれるの」
ダゴンと情報交換する二人。
光のクリスタルが爆発するということは、
何かそれに関係する有害な情報が大量に流れ込んでいるということではなかろうか?
光のクリスタルは四大元素である風水炎土の四つのクリスタルの情報をエネルギーとして
神と交信を行うための装置なのだと師匠は言っていた。
その四大元素の源はこの星そのもの。
古来、神の神託を受けた巫女はそれを人々に伝え
悔い改めた人々は神託の通りに行動し
世界は清浄に循環していたのだという。
「じゃあチャコちゃん。今度は炎のクリスタルの神殿を調べてみよ?」
そうチホが言うと、ダゴンは人魚に変身するカードとウォーターガンのカードを二人に与えてくれた。
神殿の外はついに洪水になってしまっているから二人は人魚に変身して炎の神殿へと向かう。
だが果たして、炎のクリスタルに必要なまでに熱の情報を与えているものの正体はなんなのだろう。
たった一つ言えることは、情報もエネルギーも、世界のすべては地続きで循環しているということだけだった。
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