したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

( ・∀・) 夢都市のようです (゚、゚トソン

1名も無きAAのようです:2012/05/03(木) 15:07:09 ID:pjD1kZAc0


(; ∀ )「あ゛ぁ…ぶ……はっ」



冷たい苦しい沼の中。
息を吸おうとしても咥内に入ってくるのは臭い泥ばかりで。
こんなことはなら、いっそう死んでしまった方がマシだと思った。



(; ∀ )「ぶぁはっぐっふぅ…ぅ」



これは夢だ。そんなことわかってる。いつものように…いつものように冷静にここから這い上がればいい。
けれど、何故かいつもなら自由に動く手足は、恐怖に弄ばれ言うことを聞いてくれなかった。
霞む視界で見上げた空は星一つない暗闇で、黒い空の真ん中には青白く光る鋭い三日月が
こちらをにんまりと見下ろしている。


ああ、苦しい、クルシイ。

2名も無きAAのようです:2012/05/03(木) 15:12:10 ID:pjD1kZAc0


(; ∀ )「はぁっ…は、ぅ゛、ん゛」



何故僕はこんな場所で溺れているのだろう。
何故僕らがあんな目に合わなければならないのだろう。
がぼり、と大量の泥が喉の奥に流れ込んできて、息が詰まった。
これは夢だというのに、苦しくてたまらない。冷たくてたまらい。

意識が遠のいていく中、もう殆ど暗い影に覆われていた視界の中を、一線の銀色の光が走った。
とたん、今まで体に纏わり付いて重くのしかかっていた泥がサァッと消え去り、
喉の奥に詰まっていたはずの物も、酸素の足りない息苦しさも、まるで幻の様に消える。

3名も無きAAのようです:2012/05/03(木) 15:17:30 ID:pjD1kZAc0


(; ∀ )「…ッハァ!」



一瞬何が起こったのか把握できず、慌てて自由になった手足でその場を這い回る。
けれどすぐに、もうどこにも泥の沼がないことに気が付いた。
それどころか、手足にも着ている服にも、体のどこにも泥は付いていない。
安心してドキドキと五月蝿くなっていた心臓を落ち着かせ、両手を地に付けたまま顔を上げる。





そこには―――






.

4名も無きAAのようです:2012/05/03(木) 15:22:27 ID:pjD1kZAc0





(;・∀・)











( #゚;;)





.

5名も無きAAのようです:2012/05/03(木) 15:27:22 ID:pjD1kZAc0









――夢とは、

・睡眠中あたかも現実の経験であるかのように感じる、
 一連の観念や心像のこと。睡眠中にもつ幻覚のこと。
・将来実現させたいと思っていること。願望。


                         (Wikipedia引用)









( ・∀・) 夢都市のようです (゚、゚トソン



.

6名も無きAAのようです:2012/05/03(木) 15:32:56 ID:pjD1kZAc0

【20XX年5月10日

 またあの場所に行った。銀色と黒で構成された入り組んだ駅。
 今回は前よりも人通りが少なかったけれど、
 誰かから逃げなくちゃならないのは変わらなかった。

 いつものホームのいつもの車両に乗り込んで、その「誰か」を撒いた。
 外の風景は相変わらずぐちゃぐちゃ。
 私の乗り込んだ車両の人数も、顔が見えないのも変わらない。
 今回は、次の駅に着いたところで目が覚めた。

 夢占いのサイトによれば、駅は人生の岐路を示し、電車は現実からの逃亡を示し、
 追跡者から逃げ切ることが出来るのは悩みの解決を示す…、らしい。
 らしいけど、やはりこういうネットの情報はあまり
 あてにしないほうがいい、と聞いたことがある。

 実際、私の悩みが解決する兆しなんて、欠片も感じない。
 眠っている間のただの映像に、そんなものが隠されているなんて
 私には到底思えない。】


(゚、゚トソン パタン

(-、-トソン フー…

7名も無きAAのようです:2012/05/03(木) 15:37:17 ID:pjD1kZAc0





日々漠然と、何の感動もなく生きている。






  第一話「腐敗する夢」





.

8名も無きAAのようです:2012/05/03(木) 15:42:01 ID:pjD1kZAc0

(゚、゚トソン「おはようございます」

朝。平日。トソンは誰もいないリビングに挨拶をすると、テレビをつけて適当なチャンネルにあわせた。
そして画面の右上に出た時刻を見て、今日も学校に行くのは諦めることにする。

現在時刻は午前八時半。トソンの家から彼女が属する高校までは、自転車で二十分かかる。
どう考えても今から家を出て走ったところで、遅刻は確定だった。

さっさと郵便受けから新聞を取り出し、今日こそは学校に行こうと思って着ていたセーラーを脱いで、
その下に着ていたTシャツと短パンになる。
ソファーの上にそれを適当に放ると、トソンはトーストにマーガリンを塗っただけの簡単な朝食を食べながら、
ぼんやりと広げた新聞の一面を眺めた。

灰色の紙の束には、いつもどおり、特に関心を寄せるようなことは書かれていなかった。
でも何もないというわけでもない。そこには、この国や世界のありとあらゆる話題が踊っているのだ。
暗い話から明るい話。地域の小話から世界的事件。世の中は今日も激動に満ちている。

9名も無きAAのようです:2012/05/03(木) 15:47:21 ID:pjD1kZAc0

(゚、゚トソン(某国が謝罪と賠償を某メーカーに要求)

(゚、゚トソン(五歳の男の子を母親の恋人が虐待)

(゚、゚トソン(溝に詰まった野良犬をレスキュー隊が救助)

(゚、゚トソン(意識不明患者今月に入って四人目、原因は未だ不明)

(゚、゚トソン「ふーん」

アナウンサーが時折噛みながら読み上げるニュースを、右から左へ聞き流し、二枚目のトーストを齧る。
いつもよりも焦げてしまったトーストは、なんだかザリザリして喉に詰まって、口の中がカラカラになりそうだった。
そういえば今日はまだ何も飲んでいないことを思い出し、牛乳を取りに台所へ向かう。
冷蔵庫のドアポケットに入ったそれを掴んで持ち上げると、思っていたよりも軽い手応えに眉を顰めた。
  ,_
(゚、゚トソン(なくなってる……)

10名も無きAAのようです:2012/05/03(木) 15:52:42 ID:pjD1kZAc0

世界は激動に満ちている、らしい。
でもそんなことは、トソンにとっては道端の石ころと同じくらい関心のないことだった。
はっきり言って、世の中の出来事なんて、直接関わりあわなければ起こっていないも同然なのだ。
どこか遠い場所で羽ばたいた蝶が起した風が、この辺りで台風になるという話くらい、眉唾物で実感が沸かない話。
トソンにとっては、牛乳がない事のほうがよっぽど重要なくらいの話で。




ぶっちゃけ、「ドーテモイイ」。




(゚、゚トソン(牛乳……買いに行きますか)



  ○   ○   ○

11名も無きAAのようです:2012/05/03(木) 15:57:05 ID:pjD1kZAc0

平日の九時過ぎという時間帯、トソンの住む住宅街は静まり返っている。
主婦は家事に追われ家の中に引っ込んでいるし、男達や子供達は会社や学校に出払っているからだ。
それは彼らにとっては当たり前のことだ。その当たり前からちょっと外れたところに、トソンは立っている。

牛乳の入ったコンビニ袋をガサガサと揺らしながら、トソンはぼんやりと街の様子を眺めながら家に帰っていた。
ここのところは夏日が続いたいたから、外に出るのは少し憂鬱だったのだが。
気温は思ったよりも暑いということはなく、天気もいいからトソンは散歩気分でゆっくり歩く。

ぽかぽかと気持ちのいい日差しに、目を細めて空を見上げた。
今頃学校では皆授業を受けている頃だろうか。

(゚、゚トソン(皆何やってるんですかねー)

トソンは学年が上がった時に貰った時間割表の事を思い出そうとしたが、
もう随分と目にしていないそれは、ぼんやりとしか思い浮かべることが出来なかった。
なんだか、一時間目から体育だったような気がするし、数Iと数Aの二時間ぶっとおしだった気もする。
どっちにしろ嫌な時間割には違いない。

12名も無きAAのようです:2012/05/03(木) 16:02:11 ID:pjD1kZAc0

(゚、゚トソン(今日で何日目でしたっけ、学校行ってないの)

(゚、゚トソン(そろそろ行かないとやばいですかねえ)

袋を持っていない、空いてる方の手の指を折って、学校に行っていない日数を数える。
確か最後に顔を出したのが、担任から電話を貰った次の日だったから。

(゚、゚トソン(三週間か)

(゚、゚トソン(うん、まだ大丈夫大丈夫)

(゚、゚トソン(ごーるでんうぃーくを挟んでますし)

(゚、゚トソン(たぶん)

もしかしたらそろそろ親に連絡を入れられるかもしれない。
そうなると流石にちょっとまずい。そうならないようにやっぱり明日くらいは顔を出しておいたほうがいいだろう。
明日こそはちゃんと起きようと意気込みながら、ちょうど公園の横を通ったとき。

(゚、゚トソン「あれ…?」

トソンは今この時間ならこんなところに居るはずのない人間を、公園のベンチの上に見つけた。

13名も無きAAのようです:2012/05/03(木) 16:07:02 ID:pjD1kZAc0

( ><)

昼寝(というには少し時間が早いが)をしているのだろうか。
犇めく住宅の隙間にひっそりとある小さな公園に一つだけあるベンチ。
その上で、小学生と思しき男の子が、膝に本と猫を乗せて、首をこっくりこっくりさせていた。

男の子以外、公園には誰もいない。トソンは少しだけ気になって、
公園に入ると男の子を起さないように近寄った。
隣には黒いランドセルが置いてあり、これは明らかに。

(゚、゚トソン(サボり、ですね)

(゚、゚トソン(いっけないんだー)

(゚、゚トソン(なんて、私も人のこと言えませんけど)

平日のこんな時間に、いるべき場所にいない小学生。
そんな彼に少し親近感を覚えたトソンは、男の子を起さないように気をつけながら、隣に腰かけた。
そして、トソンがベンチに座ったのを気配で感じたのか、男の子の膝で眠っていた猫がパチリと目を開けた。
猫は、男の子の膝の上に座ったままトソンを見上げる。

(*‘ω‘ *)「…………」

(゚、゚トソン(目ちっさ……猫なのに)

14名も無きAAのようです:2012/05/03(木) 16:12:27 ID:pjD1kZAc0

若干ふくよかな白くて真ん丸い猫は、じっとトソンのことを見上げ、それからくぁっと口を開けてあくびをする。
綺麗なピンク色の口の中に、鋭い白い歯が並んでいるのを覗き込みながら、トソンはふと頬を緩めた。

可愛いなあと思う。
猫といえば、猫目という呼称まで与えられるほど特徴的な、あの釣り上がった大きな瞳だ。
でもトソンは、猫の瞳見つめられると、いつもなんだか何でもこちらのことを見透かされているような、
なんとも居心地の悪い気持ちになってしまって、あまり猫目が好きではなかった。

けれど、この猫みたいなつぶらな瞳なら、とても見ていて落ち着く。素直に可愛いなあと思えた。
ついでにこのままあの甘い声で「ニャ〜」と鳴いてくれれば完璧なのだけれど。

(*‘ω‘ *)

(゚、゚トソン

(*‘ω‘ *)「……ぽっ!」

(゚、゚;トソン「?」

15名も無きAAのようです:2012/05/03(木) 16:17:13 ID:pjD1kZAc0

そんなことを考えながら、じっと猫の仕草を愛でていたら、猫がこちらをじっと見つめてきた。
トソンも見つめ返す。
すると、猫は突然期待から大きく外れた、凡そ猫らしくない妙な声で鳴き始めた。

(*‘ω‘ *)「ぽっぽ! ぽっぽ!」

(゚、゚;トソン(ええええ、何この変な鳴き方)

(*‘ω‘ *)「ぽぽっ! ぽっぽっぽ!」
      。
( ><)゜....zzZ

( ><) ハッ

( ><)「え、え、ぽっぽちゃん、いきなりどうしたんですか?」

案外大きな猫の声に、今まで穏やかに眠っていた男の子は、ハッと目を覚ますと、
寝起きのまだどこかとろんとした目で、困ったように膝の上でトソンに向かって鳴き続ける猫を抱きかかえた。

(*‘ω‘ *)「ぽっぽ! ぽっ!」

(゚、゚;トソン(この鳴き方…猫に見えるけど本当は猫じゃない…とか?)

16名も無きAAのようです:2012/05/03(木) 16:22:11 ID:pjD1kZAc0

( ><)「鳴いてるだけじゃわかんないんです! いったい何に向かって鳴いて……」

(;><)そ「うわっ」

(;><)「お姉さん誰なんです!?」

(゚、゚;トソン(今まで気が付いてなかったのか)

男の子は猫の視線を辿ってようやくトソンに気が付いたらしく、彼女に気が付くとビクリと驚いて身を退いた。
その際、反対側に置いてあったランドセルがドサリとベンチから落ちたが、男の子はそれに気が付かずに、
ベンチの端まで猫を抱えてずり下がった。ちなみに膝に乗った本は器用なことにそのままである。

(゚、゚トソン「あ、えっと、私は怪しい者では」

(;><)「じっ、じゃあ絶対怪しい人なんです!」

(゚、゚;トソン「えぇ!? 何で!?」

(;><)「自分でそういう人は怪しい人だって相場が決まってるんです!」

(゚、゚トソン「ああ、言われてみれば……」

(゚、゚;トソン「っていやいやこういうノリは本当に怪しくないほうが多いですよ」

17名も無きAAのようです:2012/05/03(木) 16:27:17 ID:pjD1kZAc0

トソンは、彼のいうとおり、怪しくないとわざわざいう人間程確かに怪しいな、と納得しかけ、
けれどすぐに我に帰ると、自分は絶対に怪しくないからと男の子両肩を掴んで、
やや怯えた顔をする男の子にしっかり目の高さと目線を合わせて説明した。

が、男の子はトソンに掴まれた自分の肩と、トソンを見比べると、おずおずと口を開いて――

( ><)「も……もしかして」

(;><)「しょたこ(゚、゚;トソン「違いますから!」

何かとんでもない誤解が生まれよかけたのを、トソンは必死で遮った。

( ><)「……違うんですか?」

(゚、゚;トソン「違いますから! 私が好きなのは歳は30歳以上で背が3m以上のムキムキマッチョな男性ですから!」

(;><)そ「えぇ!?」

必死のあまり自分でもありえないと思う嘘が口から飛び出たが、
男の子が細い目をほんの一瞬見開き、「へぇ……」と気の抜けたような声を漏らしたのを見た限り、
どうやら信じてもらえたらしい。
まだ少し身構えてはいるけれど。

18名も無きAAのようです:2012/05/03(木) 16:32:05 ID:pjD1kZAc0

( ><)「違うんならいいんです……」

(゚、゚トソン「そんなことより、きみ」

( ><)「なんですか?」

(゚、゚トソン「ランドセル、落っこちて中身ぶちまけてますよ」

(><;)そ「あっ」



  ○   ○   ○



その後、トソンは男の子のランドセルからぶちまけたものを拾うのを手伝い、
そのまま二人は一緒に並んでベンチに腰かけ、のんびりと午前の暖かい日光を浴びていた。

男の子の名前は、ビロードというらしい。隣街の小学校に通っていて、
この公園にはいつもサボりをするときだけ、わざわざ一時間かけて歩いてくるという。
トソンが、どうして学校をサボるんですか? と軽い気持ちで尋ねてみたら、ビロードは少し俯いて黙ってしまった。

( ><)「……そのぅ」

19名も無きAAのようです:2012/05/03(木) 16:37:01 ID:pjD1kZAc0

(゚、゚トソン

(゚、゚トソン「ま、お互い様ですよ。私だって学校サボってるわけですし。無理していわなくていいですよ」

(゚、゚*トソン「こんなぽかぽかな気持ちいい場所で、そんなに暗い顔をしているのももったいないですしね!」

( *><)「……はいなんです」

本当にその日は空気がぽかぽかとしていて、
朝っぱらに考えたことも全部どうでもいいと思えるくらい気持ちがよかった。
うーんとベンチの上で両手を万歳し、背中を逸らしてトソンは伸びをする。
隣でもビロードが同じ事をしているのを見て、なんだか微笑ましかった。

彼の隣には、黒いランドセルと、その上に丸まっている白い猫(名前は『ちんぽっぽ』
というらしい、これだから小学生は)。
つやつやとした表面には、大小さまざまな傷が見えた。

実をいうとトソンは、さっきランドセルの中身を拾っている時に、落書きや切り傷でボロボロに
なった教科書を目にしていたのだが、ビロードには黙っていた。多分、見たことは言わないほうがいい。

何より、陽気な光の下では、それすらも自分にとってどうでもいい気がした。

しばらくゆっくり目を閉じて、日の光を満喫する。隣からは、本を読んでいるらしい、ビロードの
ページを捲るかすかな音が聞こえた。

20名も無きAAのようです:2012/05/03(木) 16:42:00 ID:pjD1kZAc0

(゚、゚トソン「何読んでるんですか?」

( ><)「そーせきさんなんです!」

そーせき。夏目漱石のことだろうか。
ビロードが持っている本は、よく見る児童用の物ではなく、大人が読むような文字の小さい本だった。
ページは少し黄ばんでいて、あちこちに染みがあって、古いのがわかる。

(゚、゚トソン「小学生なのに難しい本読んでるんですね」

( *><)「とってもおもしろいんです!」

と言ってビロードが見せてくれた表紙には、大きな黄色い目でこっちをじっと見てくる猫の絵が描かれていた。
やはり少し黄ばんだ紙に、細い流れるようなしなやかな線に、水彩で淡く色づけされた斑の猫。
今にも動き出しそうなその絵の猫の瞳に、トソンは少しだけ気まずくなり、目を逸らしてしまった。

たかが絵だ。なのにどうしてこんな気まずい気持ちになってしまうのだろう。
見つめられて、見透かされているような。居心地の悪い、そんな気分。

( ><)「どうかしたんですか?」

トソンの様子を不思議に思ったらしいビロードが、俯いた彼女を覗き込み、目があった。

21名も無きAAのようです:2012/05/03(木) 16:47:01 ID:pjD1kZAc0

(゚、゚トソン「あ…」

それにも何故かドキリとし、トソンはすぐに顔を上げると、ビロードの額辺りを見て微笑んだ。

(゚、゚トソン「すみません、ちょっと眠くなってしまって」

( *><)「それ、ぼくもなんです! おひさまがぽかぽかしててちょっと眠いんです」

ちょっと眠いというのは別に嘘じゃなかった。
ビロードのいう通り、日の光は相変わらず暖かくて気持ちがよくて、気を抜いているとついついあくびが出そうになる。

必死にあくびを噛み殺そうとしていると、隣でビロードが遠慮なく大きな口を開けてあくびをした。
つられてトソンもとうとう、ふぁ……とあくびをする。すると、一気に眠気が押し寄せてきた。

(゚、゚トソン「眠いですねー……」

( ><)「眠いんです……」

22名も無きAAのようです:2012/05/03(木) 16:52:57 ID:pjD1kZAc0

こてん、とビロードの頭がトソンの肩に寄りかかる。かと思えば、数秒後には小さな寝息が聞こえてきた。
寄りかかられてしまって動けなくなったトソンは、自分だけは寝まいと必死に目を開けていたが、
暖かい光と、肩に感じるビロードの子供特有の体温に、やはりついついうとうとしてしまう。

(゚、-トソン「んー……」

(-、-トソン「んんー…」

(-、-トソン(あ、今気が付いたけどこのまま寝たら牛乳腐るかもしれない……)

(-、-トソン

(-、-トソン(まあ大丈夫か……多分)

(-、-トソン

そしてとうとう眠気に負けて、トソンの意識はすべるように夢の中へと降りていった。



  ○   ○   ○

23名も無きAAのようです:2012/05/03(木) 16:57:17 ID:pjD1kZAc0



じっとりと重い薄暗闇。
目を開ければ、視界にはうっすらとこの空間にあるものを捉えることのできるくらいの暗闇。
最初に目に映ったのは、毎日見慣れた茶色の扉だった。

( 、 トソン

トソンは暗い部屋の真ん中に立っていた。
白い壁紙、きちんと整ったベッド、教科書が散乱している机、電源が切れて画面の真っ黒なパソコン、
カーテンの閉まった窓、本が疎らに入った本棚、床にほったらかしてそのままになっている学生鞄。

そして、扉が少し開き濃い闇が隙間から覗くクローゼット。

ここは、自分の部屋だ、とトソンはまず最初に思った。
けれど、トソンはここがすぐにいつもの夢の中だと気付くと、体を強張らせる。
これは、トソンが見る夢の中でも、もっとも見る回数の多い夢だ。

確かに現実のトソンの部屋と、夢の中のトソンの部屋は酷似していた。
けれど、決定的に違うことがひとつだけある。
いつもトソンが制服を掛けている壁のフックに掛かっているのは、ブレザー。
トソンの見たこともないデザインの制服。それに、トソンの学校はブレザーではなくセーラー服だ。
このブレザーが、トソンがいつもこれが夢だと判断する為の手段だった。

24名も無きAAのようです:2012/05/03(木) 17:02:02 ID:pjD1kZAc0

ハッとして足元を見る。大丈夫、靴は履いている。
廊下へと続く扉は鍵が開いているだろうか?
きっと大丈夫、いつもなら開いている。

前に見たこの夢を思い出しながら、自分から廊下への扉の距離を確認し、
トソンはゆっくりと視線をクローゼットへ移した。

ここは夢の中だ。けれど今、彼女の心臓はドクドクと鋼を打ち、体は微かに震えていた。
ここは夢の中だ。わかってる、ただの夢なのだ。目覚めれば終わる、夢。

自分に言い聞かせながら、クローゼットの僅かな隙間の奥を伺う。
濃い、深い闇は、まるでトソンを飲み込もうとしているようにも見え、思わず目を逸らしたくなる。
でも駄目だ。もしも目を離せば逃げるタイミングを失う。

( 、 トソン

夢の中だからなのか汗は出ない。
けれど、トソンはまるで汗が滲むような気分で、息を殺してただクローゼットの奥を見ていた。
闇の奥に潜む、自分にとって“危険”のある存在に、体が芯から冷えるような気がする。

ふと、闇の奥で何かが動いた気がして、足に力を入れる。
そして、クローゼットの隙間から“そいつ”の指先が覗いた次の瞬間。
トソンは一気に廊下への扉へと駆け出していた。

25名も無きAAのようです:2012/05/03(木) 17:07:07 ID:pjD1kZAc0

トソンが駆け出したすぐあとから、“そいつ”が追ってくるのを気配で感じる。
クローゼットの中から出てきた“そいつ”は、辺りに腐臭を漂わせながら、
気持ちの悪いうなり声を上げてトソンを追った。

予想通りちゃんと鍵の開いていた扉から転がるように廊下へ飛び出し、フローリングを踏みしめて必死に走る。
ちょっとでも足を滑らせてば、追いつかれるかもしれない。
何度も走ってきた見慣れた家の中を駆け抜ける。

彼女の部屋動揺暗い家の中は、彼女の現実の家と似ているようで僅かに違う。
廊下の曲がる方向、階段の長さ、リビングの位置、玄関への通路。
どれか一つでも現実と混同してしまえば駄目だ。
トソンはしっかりと今までの夢の記憶を辿り、立ち止まることなく家の中を走った。

夢だとわかっていても、トソンは怖かった。
腹の底から泣き喚きたいほど怖かった。
“そいつ”にだけは捕まってはいけないと思っていた。
捕まればいったいどうなるのかはわからない。
でも、本能的に捕まってはいけないとトソンにはわかっていた。

最後の廊下の角を曲がり、目の前に現れた玄関扉に飛びつくように駆け寄る。
そして力任せにノブを握って扉を押した。

26名も無きAAのようです:2012/05/03(木) 17:12:09 ID:pjD1kZAc0

( 、 ;トソン「!?」

ところが、いつもならここですんなり開いてくれるはずの扉が、今回は閉まっていた。
ガンッと腕に響く衝撃に、腹の底がサアッと冷たくなり、流れないはずの汗が滲む。
けれど驚きに呆けている暇はない。

すぐ背後に“そいつ”の腐臭と気配を感じ、慌ててノブの下についている鍵を開ける。
外に飛び出せば、目の前にはいつもの見慣れた、けれど微妙に現実とはちがう薄暗い街があった。

家を飛び出せば後はどこへでも、とにかく扉を閉めて“そいつ”に捕まらないよう逃げれば勝ち。
この夢はやっと終わる。
ところが、慌て過ぎたせいで足が縺れたトソンは、家の外の道路まで走ったところでその場で転んでしまった。

( 、 ;トソン

がくんっ、と道路の真ん中に倒れ、腹を強かに打ち付ける。
今まで五月蝿いくらいに鼓動を打っていた心臓が一瞬止まった。

耳が痛いくらいの静寂
聞こえるのは荒い自分の息遣い。
少しずつ近づいてくる足音。

背後まで迫った気配と腐臭にトソンは恐る恐る振り返った。

27名も無きAAのようです:2012/05/03(木) 17:17:03 ID:pjD1kZAc0





(゚、゚;トソン




(゚#ρ。;:トソン





そこにいたのは、ドロドロに腐って顔が崩れ、ボロボロのセーラーを着た自分だった。

28名も無きAAのようです:2012/05/03(木) 17:22:02 ID:pjD1kZAc0

( 、 ;トソン「あ……」




(゚#ρ;:。トソン




( 、 ;トソン「ぅあ…ああああああああああっ!!」





体が一気に冷たくなる。
トソンはすぐ目の前にいる“そいつ”から少しでも距離をとろうと、振るえる腕でその場からずり下がろうとしたが、
それよりも先に、“そいつ”が両腕をトソンの首へと伸ばした。
腐ってねとついた指がトソンの首を掴み、ゆっくりと締めあげる。

これは夢だ。夢なら覚めればいいのだ。早く覚めろ。この悪夢から覚めろ。
苦しい、夢なのに、いつもならこんなことになる前に覚めるはずなのに。なのに、なんでこんなにも苦しいのか。
だんだんと腐った指喉に食い込み、息が出来なくなる。
トソンの必死の願いは叶うことなく、目の前の“そいつ”は一向に消えてくれない。

29名も無きAAのようです:2012/05/03(木) 17:27:22 ID:pjD1kZAc0

ドロドロに溶け、左目が眼孔から垂れ下がった顔がトソンの顔に近づく。
濁った右目が、恨めしげにトソンを睨んでいた。



( 、 ;トソン



意識がだんだん遠くなる。
これが夢のはずなのに、何故こんなに感覚はリアルなのだろう。
頭がグラグラと煮立ち、手足が痺れる。
ああ、このまま行けば私は死ぬんだな。
トソンがそう、考えかけた時。
そして、いっそう首を絞める両の手の力が強くなった直後。



突然“そいつ”が、何かに撥ね飛ばされたかのようにトソンの目の前から消えた。



( 、 ;トソン「カハッ……んぐ、はあっ……はあっ」

トソンは自由になった呼吸に一瞬混乱したが、すぐに深呼吸をした。
足りない酸素を補給し、眩暈や手足の痺れが直るのを待つ。

30名も無きAAのようです:2012/05/03(木) 17:32:10 ID:pjD1kZAc0

(゚、゚;トソン「はあ…はあ……」

落ち着いたところで、トソンはいったい何が起こったのかと顔を上げた。
すると、トソンから少し離れた場所に、“そいつ”が苦しげに横たわってこちらを睨んでいるのが見えた。
そして、“そいつ”よりもトソンに近い場所に立っていたのは。



( ・∀・)



すらりとした細身の体系に、明るい色の髪。
そしてピシッとしたスーツにスニーカーを履いて大きな木槌を抱えた男。
トソンは、一応今まで見てきた夢の大半、建物の細部から登場した人物や動物、怪物をきちんと記憶している。
けれど、今目の前にいる男のことは、今まで一度も、夢の中でも、ましてや現実でも見た覚えはなかった。

彼は、トソンと“そいつ”の間に立つと、呆然と自分を見上げているトソンににっこりと微笑み、ピッと“そいつ”を指差した。

( ・∀・)「あれ、君の夢?」

(゚、゚;トソン「はえ?」

31名も無きAAのようです:2012/05/03(木) 17:37:03 ID:pjD1kZAc0

唐突の質問に、トソンは間の抜けた声を声してしまう。今の状況に、さっぱり頭が付いていけていなかった。
というよりも、自分の夢に出てきた人間が何故その夢の主にそんなことを聞くのか、わけがわからない。
今までこの夢で起こったことのない事態に混乱したまま、とりあえずトソンは男の質問に力強く頷いた。

(゚、゚;トソン「え、あ、えっと、はい」

いつもと事態は若干異なってはいるが、ここはやっぱりいつも訪れる夢の中だし、
“そいつ”もいつもどおり自分を追いかけてきたのだ。
妙に噴出す汗や息苦しさなど、普段と違うリアルさに違和感はあったが、
それでもここは自分の夢だとはっきり断言できた。

しっかりと頷いたトソンに、男はよりいっそう笑みを深くする。

( ・∀・)「ん、そっか、わかった」

( ・∀・)「そんじゃあ」




( ・∀・)「さっさと片しちゃおうか」




男の瞳が、一瞬怪しく光ったような気がした。




.

32名も無きAAのようです:2012/05/03(木) 17:42:16 ID:pjD1kZAc0

ざわり、と何故か鳥肌が立ち、トソンはぶるっと身を震わせた。少しだけ気分が悪い。
なんだか、自分の頭の中に異物が入ってしまったかのような違和感。
何故か夢がいつもよりリアルなことへの違和感にも似た感覚に、寒気がする。

我慢できずに額に手を当て俯いたトソンを一瞥し、男はにやりと笑うと“そいつ”の方へ向きなおった。

ぶんっと音をたてて、男は持っていた木槌を手の中で一回転させて構える。
それとほぼ同時に、今まで地面に這い蹲っていた“そいつ”は体制を立て直すと、己を弾き飛ばした男へと飛び掛っかた。
男の首に掴みかかろうとした“そいつ”を男は容易くかわし、そのまま勢いよく振り向きざまに木槌を振りぬく。

まるで野球のバットを振るようなスイング。
木槌は確実に“そいつ”の顔面を捉える。
“そいつ”は木槌を避ける暇もなく、べきゃっと大きな音をたてて再び吹っ飛ぶと、
家の塀にぶつかり、ずるずると地面に落ちた。

その間、たった数秒の出来事。

塀の隅に崩れ落ちいてる“そいつ”の首が、人間ではありえない方向に曲がっている。
なのにまだその場でもがいている“そいつ”に男は歩み寄ると、木槌を大きく振り上げた。

33名も無きAAのようです:2012/05/03(木) 17:47:28 ID:pjD1kZAc0

( ・∀・)「バイバーイ」

ガッ。

振り下ろされた木槌は重い音を響かせ、“そいつ”はあっさりと潰された。
瞬間、“そいつ”はまるで弾けるように辺りに四散し、消えてしまう。
その場に残ったのは、今まで“そいつ”がいた場所に転がる六角形の黒い物体と、男とトソンのみ。

男は、木槌を持ち直して一度、もう何もいないかと辺りを見回し安全を確認すると、
六角形の物体を屈んで手に取り、彼の背後で絶句しているトソンの方を振り返った。
そして、ぱっと空いた方の手を顔の横に上げると、ちょいちょいと指差きを折り曲げる。

( ・∀・)「じゃ、そっちのお嬢さんもバイバイ、またね」

(゚、゚;トソン「え?」

にこやかに手を振る男。
トソンが今の状況と男の言葉わ理解する前に、突然今までトソンが手を突き体を支えていた地面が消えた。

34名も無きAAのようです:2012/05/03(木) 17:52:06 ID:pjD1kZAc0

(゚、゚;トソン「え!?」

がくんと後ろに倒れる。

斜めになった視界に映ったのは、だんだん上空へと吸い込まれる様に消えていく夢の中の我が家と、周囲の住宅地。
真っ黒な空も、まるで画用紙をくしゃくしゃに丸めるみたいに小さくなって、消えていく。
それとは逆に地面はあらゆる大きさの四角形に切り分けられ、暗闇の底に落ちていく。

四角く切り取られ落下する地面の一つの上ににこやかなまま立った男は、
トソンが瞬きを一つした次の瞬間には消えていた。

崩壊する世界の中、トソンは結局いったい今がどういう状況なのか掴めぬまま、
四角い地面と共に暗闇の底へと落下していった。



  ○ ○ ○ ○ ○ ○

35名も無きAAのようです:2012/05/03(木) 17:57:15 ID:pjD1kZAc0



ゴッ、という側頭部への衝撃。のちに襲ってきた強烈な痛みに、トソンは顔を歪めてゆっくりと瞼を開けた。
  ,_
(-、;トソン「ッツゥ……」

若干涙目になりながら、右側の頭を抑えて体を起す。
そして、肌に感じた風の冷たさに、ぶるっと身を震わせた。

気がついてみれば、空で輝く太陽はもう随分と傾いてしまっていて、
小さな公園には近所の小学生がわらわらと集まっていた。
公園の中央にある時計を見る限り、どうやら結構長い間眠ってしまっていたらしい。
しかも寝こけてベンチから落ちたとは……絶対にここにいる子供たちの数人には見られただろう。

ふと、そういえば眠ってしまうまで一緒にベンチに座っていたビロードがいなくなっていることに気がつき、トソンは辺りを見回した。
てっきり、公園に来た友達と遊んでいるのかと思ったが、わらわらと数少ない遊具を取り合っているちびたちの中に彼はいない。
ランドセルももうどこにも見当たらないから、眠っている間に帰ってしまったのだろうか。

とにかくトソンは地面から立ち上がると、服に付いた砂を払ってベンチに座りなおした。

(゚、゚トソン ボー

夕暮れ近い冷たい風に、腕を擦りながらぼんやりと空を見上げる。
当然、いつまで見ていたって、現実の空は画用紙を丸めたみたいに、くしゃくしゃになって消えたりしはしない。

36名も無きAAのようです:2012/05/03(木) 18:02:34 ID:pjD1kZAc0

それにしても、変な夢だった。否、変というよりも“妙”と言った方がいいんだろうか?
トソンは、夢の中で見た腐った自分と、暗い闇を思い出す。

あの夢は、中学の三年生半ば辺りになった頃から、週に二三度見るようになった夢だった。
腐った自分を見たのは今回が初めてだったが、それまでの行動や出来事は、いつも同じ。僅かなぶれも今まではなかった。
いつもなら家から飛び出し、すぐに玄関扉を閉めてその場から立ち去れば終わる夢だった。
恐ろしい、けれど手順さえしっかり踏めば安全に終わる夢。

なのに、今回は違った。

にっこりにこやかな男の顔を思い浮かべ、小さく呻る。
彼はいったい何者なのだろう。
トソンの夢のイレギュラー。

(゚、゚トソン(ビロードくんと会ったことで私の心境に変化が現れた、とか?)

(゚、゚トソン(いやいや、特に心が動いたとかそういうのはなかったですし)

(゚、゚トソン(帰ったら一応あのサイト行ってみますか)

(゚、゚トソン(あんまり信用は出来ないけど)

37名も無きAAのようです:2012/05/03(木) 18:07:20 ID:pjD1kZAc0

(゚、゚トソン(帰ったら……あれ、私なんで外に……)

(゚、゚トソン

(゚、゚トソン「あ」

(゚、゚;トソン

(゚、゚;トソン(牛乳……)

トソンはすばやく立ち上がると、自分の脇に今まで忘れ去られ放置されていた牛乳の入ったコンビニ袋を鷲掴み、
我が家の方向へ歩き出した。
かなり時間は経っているが、途中から空気も涼しくなっていたようだし、きっと大丈夫だろう。

(゚、゚トソン(うん、大丈夫大丈夫)

(゚、゚トソン(……多分)

まあ、もし、万が一あたったとしても死にはしないだろう、多分。

38名も無きAAのようです:2012/05/03(木) 18:12:06 ID:pjD1kZAc0

コンビニ袋をぶんぶんと振り回しながら歩いている最中、
ふと、夢の中で嗅いだ腐臭を思い出し、トソンは眉間に皺を寄せた。
本当、妙な夢だった。普段なら臭いだって寒気だって夢の中では感じなかったというのに。
人間が腐れば、本当にあんな臭いを発するのだろうか。

腐った自分の姿を思い浮かべかけ、首を振る。
あまり思い出さないほうがいい。
次、あの夢を見たときは、今回のようなことはない様にしないと。
いつだってあの男が助けてくれるとは限らないのだから。

色を変え始めた空を見上げ、トソンはまだ鼻先に香る腐臭の記憶を振り払うように、
よりいっそうコンビニ袋をぐるぐると振り回しながら、誰も居ない我が家へと急いだ。









第一話「腐敗する夢」  おわり

39名も無きAAのようです:2012/05/03(木) 18:18:08 ID:pjD1kZAc0
今回はここまで。
次はもうあるのでまた近いうちに投下したいと思います。
では、また今度

40名も無きAAのようです:2012/05/03(木) 19:45:47 ID:726WmDIc0
おもしろい
待ってる

41名も無きAAのようです:2012/05/04(金) 12:27:54 ID:3Cjh3QoQ0
おー、いいね


42名も無きAAのようです:2012/05/04(金) 15:52:34 ID:JlGZmL460
wktk

43名も無きAAのようです:2012/05/06(日) 20:15:18 ID:QHk5lOM.0

【20XX年5月10日 昼

 公園でうっかり居眠りをしてしまったときに、あの夢を見た。
 いつも通り、暗い家の中を逃げ回る夢。でも、今回はいつもと違う展開があった。
 まず、玄関の鍵が開いてなかったこと。それから、追いかけてくる奴の姿を見たこと。
 そして、そいつに襲われたところに助けがやってきたこと。

 あと、いつもと違って何故か臭いと寒気を感じた。
 公園で出会った男の子が何かの刺激になったんだろうか。
 それともまた別の要因があるんだろうか。

 夢占いのサイトは見てみたけれど、今回はあまり役に立たなかった。
 助けに来てくれた知らない男の人は、スーツに何故かスニーカーだった。
 大きな木槌を振り回し、私を追いかけていた“腐った私”を叩き潰してくれた。

 いつも見る夢のはずなのに、臭いや寒気、スーツの男といい、
 今回は何故か妙にリアルな夢だった。

 ちなみに、公園で眠ってしまっている間に、買ってきた牛乳を放置してしまった。
 もしかしたら夢の中の“腐った私”は、「このままだと牛乳腐るよ〜」
 という警告みたいなものだったのかもしれない――なんちゃって。】


(゚、゚トソン パタン

(-、-トソン (牛乳、大丈夫かな……)

44名も無きAAのようです:2012/05/06(日) 20:20:07 ID:QHk5lOM.0







彼女はずっと嘘を吐きつづけている。







   第二話「運ばれる夢」





.

45名も無きAAのようです:2012/05/06(日) 20:25:02 ID:QHk5lOM.0

トソンは夢日記を机のもとあった場所に静かに戻すと、
シャーペンの芯を出したり入れたりしながら日記に書いたことを反芻した。
公園、猫、ビロード、夢占いのサイト、鍵のかかった扉、臭い、寒気、腐った自分、知らない男、牛乳。
……牛乳、大丈夫だろうか。

家に帰った後、トソンはすぐに牛乳を冷蔵庫へ入れた。
まだ開封するのは何となく気が引けて出来なくて、今もまだ売っていたときと変わらない状態で置いてある。
風呂に入った後の牛乳コップ一杯一気飲みを今夜するかどうかが、今の悩みどころだった。

(゚、゚トソン(うーん、腐った牛乳というものを飲んだことがないからどうなるかよくわからない……)
カチカチカチカチ

(゚、゚トソン(最悪、お腹下すんですかね? だとしたら胃腸薬用意しといたほうがいいかな)
カチカチカチポト

(゚、゚トソン(あ、シャー芯出し過ぎた)

机の上に落ちたシャーペンの芯を指で苦心して摘み、シャーペンの先から中へと戻そうとする。
が、突然トソンの短パンのポケットの中から鳴り響く着メロに驚き、ぽろりと床に落としてしまった。
フローリングの板と板の隙間に挟まったシャーペンの芯を見て、
早々に諦めることにしたトソンは、携帯を開いき、通話ボタンを押した。

46名も無きAAのようです:2012/05/06(日) 20:30:00 ID:QHk5lOM.0

白(゚、゚トソン「はい、もしもし――あ、お母さん? どうしたんです? そっちまだ朝ですよね」

電話の相手は今父親の出張で海外にいるトソンの母親だった。
そうとわかったとたん、トソンの頭の中で様々な言葉や作り話が飛び交い、形を作る。

白(゚、゚トソン「ああ、ええ、元気にしてますよ。ちゃんと食べてます」

嘘。本当は毎日食パンやレトルトで済ませている。

白(゚、゚トソン「学校? 楽しいですよ、新学期に入って友達増えました」

これも嘘。本当はまだ友達なんて一人もいない。
学校だって、そんなに楽しいとは思わないし、第一まともに行っていやしない。
トソンの嘘に気がついていないらしい母親は、携帯の向うでとても安心したように笑っていた。

白(゚、゚トソン「そっちはどうですか? え、お父さんが拗ねてる? なんで」

白(゚、゚トソン「休みの日のデート中にお母さんが金髪碧眼のイケメンにナンパされたから?」

白(゚、゚トソン「それくらいで情けないですね、男なら相手を追い返すくらいしなさい! とトソンが言ってたって伝えてください」

白(゚、゚トソン「ええ、楽しいですよ、元気ですから。安心してください」

白(゚、゚トソン「はい、また夏休みに、バイバイ、元気で」

白(゚、゚トソン ピッ

47名も無きAAのようです:2012/05/06(日) 20:30:58 ID:7GwzlyB20
きたきた

48名も無きAAのようです:2012/05/06(日) 20:35:49 ID:QHk5lOM.0

(゚、゚トソン

(゚、゚トソン(……また嘘を吐いてしまった)

(゚、゚トソン

(゚、゚トソン(まあ、仕方ない仕方ない)

何が仕方ないのか自分でもよく考えていないが。
携帯を短パンのポケットに戻し、机の棚から教科書とノートを取り出す。
多分今の範囲はここだろうなあというページを適当に開き、シャーペンに新しい芯を入れなおした。

今、トソンの両親は長期の出張でイギリスに行っている。

本当は、両親はトソンも一緒に連れて行くつもりだったのだが、トソンが日本に残りたいと言ったのだ。
今まであまり自分の願いを口にしなかったトソンの言葉に、両親はとても驚いたらしい。
滅多にないトソンの要望を無視するのも忍びなく、両親は渋々彼女の一人暮らしを許したのだった。

トソンの独り立ちを願い、彼女に託した我が家。
両親の中では、立派に一人で家事をこなす娘の姿があるのだろう。
だから、トソンは若干の罪悪感を感じつつも、今日も両親の理想とはかけ離れた生活を送っていた。

今日の勉強ノルマを終え、時計を見る。
学校はきっともう放課後だろう。先生は今暇だろうか。連絡でも入れておこうと思った。
再び頭の中をあらゆる言葉が飛び交い、作り話を形作る。家の電話からかけようと思い、リビングへ向かった。

すっかり嘘を吐くことに慣れてしまったことに、少しだけ不安を感じながら、
トソンはそのことに気がつかないふりをする。





49名も無きAAのようです:2012/05/06(日) 20:40:19 ID:QHk5lOM.0



窓の外の空もすっかりと暮れ、真っ黒な空間に小さな星が輝き始めた頃。
適当にあわせたチャンネルでやっていたバラエティをぼんやり眺めながら、
トソンはインスタントのスープを飲んでいた。

今日の晩御飯は、朝と違い綺麗に焼けたトースト二枚に、それぞれ苺ジャムとマーマレード。
それから、ちょっと怖いが牛乳の入ったコップも、テーブルには並んでいる。
本当はちゃんと米を炊いておかずを作ったほうがいいのだろうし、両親もそれを望んでいるだろう。
一人暮らしの提案のときにも、

+(゚、゚トソン「家庭科の調理実習で一通り習ってるから料理は大丈夫です」

と大見得をトソンは切っていた。
けれど実際は、今まで調理実習は周りがやってくれるのに任せていたため、
トソンは包丁の持ち方もわからないレベルなのだ。
ついでにいうと、調理実習はトソンにとってあまり良い思い出は、どれ一つとしてない。

米を炊く方法も、炒め物の仕方も、何となくしかわからない。
わからないことには手を出さない。失敗したときが怖いから。
そして数少ない使い方のわかるトースターと電子レンジを駆使し、トソンは今まで食事を取っていた。

50名も無きAAのようです:2012/05/06(日) 20:45:09 ID:QHk5lOM.0

(゚、゚トソン(コンビニ弁当という手もあるにはあるんですけどねえ。でもあれは食べると舌が痛くなるから…)

もそもそとマーマレードジャムを塗りたくったトーストを頬張り、インスタントのスープで飲み下す。
テレビの枠の中では、最近イケメンを売りにしてあちこちに出てきているタレントが笑顔でこちらに微笑みかけている。
しかし、はっきり言ってあんまりイケメンには見えない。
なんだか誰かと誰かを切り貼りしたみたいな中途半端な顔だった。

(゚、゚トソン(最近こういうタレント増えたな)

(゚、゚トソン(イケメンってどういう人のこというんでしたっけ……)

ふと、脳裏に昼間の夢に出てきたスーツの男が浮かんで消えた。
まともに顔を見れる状況ではなかったが、なんだかそれなりにイケメンだった気がする。

(゚、゚トソン(また、会えますかね)

そう簡単に同じ夢を見れるとは限らない。
けれど、いつも同じはずのあの夢に出てきた初めてのイレギュラーに、トソンは強い興味を持っていた。
やっぱり夢は面白い。自分の内面を写しているとかそういうのは信じていないけれど。
でも現実では体験できないことを体験できるあの世界が、トソンは好きだった。

51名も無きAAのようです:2012/05/06(日) 20:50:08 ID:QHk5lOM.0

(゚、゚トソン(あの人が夢の中ではどういう人物なのかすごく気になる)

(゚、゚トソン(それに……)





   「じゃ、そっちのお嬢さんもバイバイ、またね」





(゚、゚*トソン(……『またね』って言ってくれたし)

そういえば、見た夢のことを細かく思い出したら、
次見た夢もまた同じ夢だということが多々あることを、トソンは思い出した。
だとしたら、あの男のことを鮮明に思い出せば、もしかしたら、もしかするかもしれない。
トーストの最後の一切れを口の中に押し込み、食器を片付けテレビを消す。
さっさと風呂場に向かいながら、トソンはスーツの男の姿を頭の中に詳細に描きだし、好奇心に胸を膨らませた。



  ○ ○ ○

52名も無きAAのようです:2012/05/06(日) 20:55:01 ID:QHk5lOM.0
トソンが晩飯を食べ終わったところで
作者もちょっと晩飯を食べてきます申し訳ない
食べてきたら再開します

53名も無きAAのようです:2012/05/06(日) 21:15:00 ID:QHk5lOM.0
再開します

54名も無きAAのようです:2012/05/06(日) 21:20:09 ID:QHk5lOM.0



ギラギラとしているけれど決して眩しくない、銀色と黒でデザインされた入り組んだ駅の構内。
高い天井はぼんやりと暗く、そこから床へと何本も輝く銀の柱が伸びている。
床は、銀色のベースに黒いラインが緩やかなカーブを描きながら一面を覆い、
どこにあるのかわからないライトの光を反射していた。

行き交う人はいつもよりも疎らで少なく、けれどいつものように人々は厚いコートに身を包み、
目深く帽子を被って俯いて歩いていて。
前方に視線を投げれば、遠くの方には大きな縦に長いガラスの扉。
観音開きのそこから、多くの人間が出入りを繰り返している。

背後からはざわざわと人々の声や足音の波、車両発車のアナウンス。
でも、トソンは振り向いたことがないから、後ろに何があるのかは知らなかった。

(゚、゚トソン(………?)

トソンは高校の制服を着て、俯き歩く人々の流れの真ん中で突っ立っていた。
学校指定のセーラー服は、その装飾の細部は現実の物とは若干違う。
恐らく、トソン自身があまり自分の高校の制服をそこまで真剣に見たことがなく、
着た回数もそんなに多くないからだろう。

そんなことよりも、トソンはいつもと少し様子の違う駅に首をかしげた。

55名も無きAAのようです:2012/05/06(日) 21:25:03 ID:QHk5lOM.0

(゚、゚トソン(なんか、いつもより落ち着く)

いつもなら、この夢にやってきたらすぐに“誰か”から逃げ始め、
犇めく通行人を押しのけ前に前にと進むというのに、
今回は何故かいつもの“誰か”の存在も感じなければ、どこかへ逃げなければという不安もない。

通行人も少ないため、前に進むのに人を掻き分ける必要もない。
ギラギラと輝く銀の光も、なんだか自分を包み守ってくれているような気がするくらいだった。
  ,_
(゚、゚トソン

“誰か”の存在がなければ、逃げる必要もない。
トソンはここに居る目的を感じることが出来なくて、少し戸惑った。
戸惑った末、とりあえずいつも通りの手順を踏むことにする。

逃げる必要がなくなったから、いつもは足早に通り過ぎるこの場所をゆっくりと歩いた。
それでも、不安で押しつぶされそうな感覚がないためなのか、
人が疎らなせいなのか、いつもよりもさくさくと進むことが出来た。
普段はちゃんと観察したことのない構内をじっくりと見回しながら、いつもの道を進む。

目的の場所にはすぐにたどり着くことが出来た。大きな縦に長いガラスの扉を下の方から見上げる。
ガラスの扉は他の銀の柱同様、暗い天井の奥に吸い込まれる様に消えていた。
その先で、何かがキラキラと輝いているように見えるが、あれはいったい何だろう?

56名も無きAAのようです:2012/05/06(日) 21:30:15 ID:QHk5lOM.0

トソンは好奇心に胸を膨らませるが、輝きはあまりに高いところにありすぎる。
その正体を知ることを諦め、トソンは渋々先に進むことにした。

ガラスの扉をくぐれば、その先には白い、幅の広いエスカレーター。
普通のエスカレーターが十機ほど並んだぐらいの幅のエスカレーターに手摺はなく、
まるで階段がぐるぐると回っているように見える。
そして、エスカレーターが登りきった先にあるのは、駅の構内と同じデザインの、銀と黒で装飾された電車。

トソンは迷うことなく電車の中に乗り込むと、誰も座っていない紺色の座席の真ん中に腰掛けて、車内を見回した。
車内にはトソンの他に数人乗客が居たが、皆が皆一様に俯き、
顔はぐちゃぐちゃとした影に覆われ霞んでみることは出来ない。
アナウンスもない、おしゃべりもない、静かな車内に座って、電車が発車するのを待っている。

もしかしたら今回は乗客の顔を見ることが出来るかもしれない、
と少し期待していたトソンは、ちょっとがっかりしてしまった。
ここからはどうやら、いつもと同じという事らしい。

しばらくすると、電車はふしゅーという音をたてて扉を閉め、ゆっくりと走り出した。

最初のうちは真っ暗だった、トソンの向かいの窓の外が、パッと光を取り戻し明るくなる。
けれどそこに風景というものは存在しない。
あるのは、まるで雑誌や写真集や落書きを切り刻み、ぐるぐると回る洗濯機に放り込んだような景色だった。

57名も無きAAのようです:2012/05/06(日) 21:35:19 ID:QHk5lOM.0

見続けていると目が回りそうな景色から視線を逸らし、トソンも他の乗客と同じように俯く。
窓の外を見続けているとどうしても気分が悪くなってしまうからだ。
それに、この電車に乗るときはいつだってこうだ。そして、現実の電車に乗る時も。

車内で見知らぬ人と目があったり、“見られている”と思われると面倒だから下を向く。
きっと周りの人々も、同じ理由で俯いているのだと、トソンは思った。

そうこうしてその場をしのいでいるうちに、電車の窓の外は再び暗くなる。
それから、次の瞬間にはまたどこかの駅に到着する。
ぷしゅーという音とともに開いた電車の扉の下のほうに、トソンは視線を向けた。

いつもなら、このまま電車には誰も乗ってこないまま扉は閉まり、そして次の駅へと出発する。
次の駅がどんなところかは知らない。いつも、この後トソンは起きてしまうからだ。

この駅の次の駅はいったいどんなところなのだろう。
この前はこの駅に着いても、また発車しない内に目覚めてしまった。
今回はちゃんと行くことができるのだろうか。

そんなことを考えながら、電車の扉が音を立てて閉まるのを見ていたトソンは、
扉が一度完全に閉まる直前になってから、再び開いたことに驚いて、思わず目を見開いた。



一度しまりかけた電車の扉が開く理由は、一つだけ。
それは、ギリギリ乗り損ねた人を迎え入れるためだ。



.

58名も無きAAのようです:2012/05/06(日) 21:40:13 ID:QHk5lOM.0

再び開いた扉の向うに居た人物、なんだか見たことのあるスニーカーが車内に乗り込んでくる。
スニーカーは車内の通路の真ん中で一度立ち止まり、
つま先をこちら、トソンのほうへ向けると、ずんずんと近づいてきた。

トソンは体中に期待と不安が広がるのを感じた。
視線を上げ、こっちに近づいてくる人物の顔を確かめたい気持ちと、
もし予想と違っていたらという気持ちが押し合う。
電車の扉が閉まり、ゆっくりと視界の端に映る窓の外の景色が動き出す。

スニーカーの主は、車内の座席はどこもがら空きで座り放題だというのに、
迷うことなくトソンの隣に座ると足を組んだ。
トソンのすぐ側で、やはり見覚えのあるスーツのズボンとスニーカーが揺れている。
これはもしかしなくても、間違いない、明らかにあのスニーカーとスーツだ。

意を決したトソンは、パッと顔を上げると隣に座る男の顔をしっかりと視界に入れた。


(・∀・ )


(゚、゚*トソン「!」

.

59名も無きAAのようです:2012/05/06(日) 21:45:20 ID:QHk5lOM.0

やっぱりだ、やっぱりあの男だった。
すらりとした細身の体系に、明るい色の髪。そしてピシッとしたスーツにスニーカーを履いている。
あの大きな木槌は今日は持っていなかったけれど、でも間違いない。
トソンは再びこの人物と出会えたことに感動と興奮を覚えながら、男が自分を見るのを待った。

(゚、゚*トソン

(・∀・ )

(゚、゚トソン

(・∀・ )

(゚、゚;トソン

無言。
男は、なにやら楽しげな表情でただ窓のぐちゃぐちゃな景色を見ているだけで、
トソンのほうはチラリとも見ようとはしなかった。
もしかしたらこちらのことは忘れてしまっているのかもしれない。

それに、これは夢なのだ。夢の中の人物に何度もあったからと言っても、
相手に前に会った時の記憶があるかなんてわからない。
むしろ、無いときの方が圧倒的に多い。
いや、それよりもまず、この場合それは記憶と言っていいのだろうか?

60名も無きAAのようです:2012/05/06(日) 21:50:06 ID:QHk5lOM.0

まあそれは今はともかく。

(゚、゚;トソン

そのことにやっと気が付いたトソンは、一瞬腹の底が冷えたような気分になった。
すっかり一人で浮かれてしまっていたのが、すごく恥ずかしい。
でも、ここは夢であって自分以外現実の人間なんて一人も居ない、だから恥ずかしがる必要もないのだ。
なんとか腹の底から沸きあがる羞恥心を抑え、もう一度男のことをじっと見る。

(・∀・ )

ここは自分の夢なのだと割り切ったトソンは、遠慮することなく、現実なら不躾なくらいじろじろと男を眺めた。
どこか浮世離れした雰囲気に、なんだか不思議な色合いをしている瞳。
スーツには皺も染みも無く、スニーカーは近所の小学生が履いているものと同じメーカーのものだった。
  ,_
(゚、゚トソン(んー……)

やはり、何故か違和感を感じる。ここは自分の夢の中だというのに、
この男だけはまるで別の場所の異物のように思えるのだ。

男は、トソンに見られていても気にすることなく楽しげなままだ。
こちらにはきっと気がついているのだろう。
というか、こんなにじろじろと見られていて気がついていないわけがない。
だんだん、トソンはこの男にからかわれているような気がしてきた。

そして、それを決定付ける行動を、男がとった。

61名も無きAAのようです:2012/05/06(日) 21:55:04 ID:QHk5lOM.0

(・∀・ )

( ・∀・) チラ

(゚、゚トソン「!」

(・∀・ )彡フイ

(・∀・ ) ニヤァ
  ,_
(゚、゚トソン(こいつ……)

確信犯だった。
男は、己が行動を起さないことでトソンが戸惑っているのを楽しんでいるようだ。
さっきよりもいっそう楽しげにニヤニヤと窓の外を眺める横顔を、ぐっと睨みつける。
  ,_
(゚、゚トソン「……あの」

(・∀・ )
  ,_
(゚、゚トソン「あの、今日の昼間会いましたよね!」

言ってから、そういえば昼間の夢は夢の中では夜だったことを思い出したが、
言ってしまったものは仕方が無い。

62名も無きAAのようです:2012/05/06(日) 21:59:57 ID:QHk5lOM.0

それに、トソンの言葉に男はきちんと、初めてまともな反応を返してくれた。
今まで窓の外を見ていた視線をこちらに向け、パァッと明るい笑顔を浮かべた男は、
「その通り!」と言うと握手をトソンに求めた。

( ・∀・)「やあやあ、やっと話しかけてくれた、よろしく、僕の名前はモララー。君は?」

(゚、゚;トソン「え、あ、都村トソンです」

( ・∀・)「トソンくんか、いやあ君の夢は便利だね、乗り物だなんて」

(゚、゚トソン「へ? はあ、ありがとうございます」

( ・∀・)「これで都市の交通の便も少しはよくなるかなあ」

(゚、゚トソン「都市?」

( ・∀・)「そう、都市。今まではこんな夢を持った人なんて夢遊者にいなかったからずっと徒歩が主流でさあ」

( ・∀・)「目的地が遠い場合でもいっちいち歩かなくちゃならないしね」

( ・∀・)「個人でバイクとか自転車とか持ってる奴はいるんだけどねえ、でもやっぱり大半は徒歩だったから」

( ・∀・)「運び屋は新入りは乗せてくれるけど古参はあんまり乗っけてくれないんだよ」

( ・∀・)「あいつらケチだよな、こちとら毎日皆が平和に暮らせるようにせっせと片付けしてるってのに」

( ・∀・)「本当に助かったよー、ありがとう」

(゚、゚;トソン「……ええっと」

63名も無きAAのようです:2012/05/06(日) 22:05:25 ID:QHk5lOM.0

突然のマシンガントークにトソンは口を挟む暇もなく、わけのわからない話を聞かされた。
“都市”や“夢遊者”といった単語や、徒歩が主流だとか交通の便がどうだとか。

わけがわからない、というのは確かに夢の専売特許だ。
だがなんだろうこのなんともいえない感覚は。
言われていることはわけがわからないのに、この男――モララーと話していると夢だという実感がまるで沸かない。
何故か現実でわけのわからないことに遭遇しているような感覚だった。

そして頭に襲ってくるのは、昼間見た夢でも感じた違和感、不快感。
しかも今度はそれがよりいっそう強くなり、まるで電車に酔ってしまったかのような気分だった。

( ・∀・)「あれ、どうかしたのかい?」

(゚、゚;トソン「いえ、なにも…」

グラグラする頭を抑え、トソンはモララーから電車の床に視線を落とした。
モララーは、それを気にする様子もなく、電車の窓の外を眺めながら嬉しそうにしている。

( ・∀・)「それにしても今日はいい日だ」

( ・∀・)「電車は開通するし、トソンくんにもちゃんとまた会えたし、目立った悪夢の目撃情報もない」

( ・∀・)「都市の皆も喜ぶだろうな」

64名も無きAAのようです:2012/05/06(日) 22:10:16 ID:QHk5lOM.0

再びモララーが口にした“都市”という言葉が、頭にひっかかる。
そういえばこの電車は今どこに向かっているのだろう?
もしやその“都市”という場所に電車は向かっているのだろうか?

自分の夢なのに、何度も飽きるほど見てきた夢のはずなのに、
トソンはこの先いったい何が起こるのか全くわからなかった。

電車酔いのような症状が、一時的かもしれないが波が引き、少しだけ楽になる。
トソンは何度か瞬きをしてから顔を上げた。

(゚、゚トソン「あの」

( ・∀・)「ん、なんだい?」

(゚、゚トソン「その都市って、どこの都市ですか?」

( ・∀・)

(゚、゚トソン「他にもさっき言ってた夢遊者とか悪夢とかはいったい……」

(゚、゚;トソン「これは…私の夢、ですよね?」

65名も無きAAのようです:2012/05/06(日) 22:15:40 ID:QHk5lOM.0

( ・∀・)

( ・∀・)「……うんまあ、それらの質問は次の駅に着いたら教えてあげるよ」

(゚、゚トソン「次の駅……」

(゚、゚トソン「今この電車はいったいどこに向かってるんですか…?」

三度モララーに投げかけた質問の直後、
今までごちゃごちゃと極彩色に溢れていた窓の外がふと暗くなった。
それにすぐに気がついたモララーが、トソンの視線を窓の外に向けさせる。

( ・∀・)「そんなの決まってるじゃないか」

( ・∀・)「次の駅は、君が今僕に尋ねた場所」

暗かった窓の外が、今度はサァッと明るくなり、突然の強い光にトソンは目を瞑った。
電車がゆっくりと減速し、停止する。
扉の開く音がする。
モララーに手を引かれ、目が眩んだまま電車を降りる。

少しずつ瞼を開き、トソンの視界に映ったのは――






( ・∀・)「ようこそ、我らが“夢都市”へ」





.

66名も無きAAのようです:2012/05/06(日) 22:20:21 ID:QHk5lOM.0

(゚、゚;トソン「これは……」


そこにはまるで、極彩色のおもちゃ箱をひっくり返したような光景が広がっていた。

トソンが立っているのは見たことがあるようでないような駅のホームだった。
ところどころ出発した駅に似ている銀と黒のデザインの中に、古い駅のような鉄骨が見える。
トソンたちの背後の電車からは、いったい今までどこに乗っていたんだという数の人が車両から降りていた。

駅はどうやら小高い丘の上にあるらしい。
すぐ側にある改札から雪崩れるように人が出て行く端で、トソンは呆然と目の前の町を見下ろした。

電車の窓から見えた景色と同じようなコラージュのように継接ぎの景色。
一見、遊園地のアトラクションが所狭しと並んでいるかのようにも見えるし。
けれどよく見れば、それはちゃんと街の形をしているようにも見えた。
かと思えば廃れた過疎地のようにも見え、瞬きをすれば繁華街にも近代都市にも姿を変える。
朝と昼と夜が空に張り付くように揺らめき、僅かに歪んでいる。

少し首を動かしただけでまるで万華鏡を覗きこんでいるかのような景色が広がる現象に、
またトソンは一瞬眩暈を覚えた。
トソンの隣で相変わらずモララーは笑みを浮かべている。

67名も無きAAのようです:2012/05/06(日) 22:25:21 ID:QHk5lOM.0

(゚、゚;トソン「な、え……なん、ですかこの街は」

( ・∀・)「言っただろう、“夢都市”だよ。君がさっきどこにあるのかって質問してきた都市」

( ・∀・)「まあ最初のうちはこの光景を見てるのも大変だろうけど。慣れれば結構綺麗だよ」

(゚、゚;トソン「夢、都市……」

今まで見てきた夢のどれにも似つかない夢。
これは本当に自分の夢なのか、疑わしくなったトソンは試しに自分の頬を抓ってみた。
じんわりと頬に広がる痛みは、今まで夢の中では一度も感じたことがない。

(゚、゚;トソン「…痛い、え、痛い、まさか…」

まさか現実なわけがない。こんな光景が現実にあってたまるものか。
それに確かにさっきまで自分はいつもの見慣れた夢の中にいたのだ。
いつのまにか現実の世界を歩いていたなんて夢遊病を患っていた覚えはない。

68名も無きAAのようです:2012/05/06(日) 22:30:22 ID:QHk5lOM.0

トソンがさらに混乱して視線をあちこちに漂わせていると、
隣で彼女の様子を見ていたモララーは少しだけ表情を硬くした。

( ・∀・)「……言っとくけどここは現実じゃないよ」

(゚、゚;トソン「でも……痛みが」

( ・∀・)

( ・∀・)「うーん……」

( ・∀・)「君がまさかこれくらいで混乱するとは思わなかったなあ…」
  ,_
(゚、゚;トソン「は…? え?」

( -∀-) フー…

( ・∀・)「それは君が『頬を抓ると痛い』ことを知ってるから痛いんだよ。現実だからじゃない」

言われた言葉がいまひとつ飲み込めず、トソンはもう一度確かめるように頬を抓る。
やはりじんわりと広がる痛みに変わりはなかった。

69名も無きAAのようです:2012/05/06(日) 22:35:35 ID:QHk5lOM.0

(゚、゚;トソン

とりあえずはここは現実ではないと考えよう。
だとしても、トソンはこの痛みに関しては何だか納得がいかなかった。

今までだって現実なら痛みを感じるような夢を見てきたはずだ。
けれどもそれらの夢の中でトソンは一度も痛みを感じたことはなかった。
なのに何故今更、頬を抓ったくらいで痛みを感じたのだろう?

( ・∀・)「それは君が『痛み』を意識しながら頬を抓ったからだよ」

( ・∀・)「今までどんなに夢の中で酷い目に合おうと、君は夢の中では痛みなんて感じないと思っていた」

( ・∀・)「だから今まで君は夢の中で痛みを感じたことはなかったんだろう」

( ・∀・)「でもさっき君はここが夢なのか僅かながらも疑いつつ頬を抓った」

( ・∀・)「痛みを感じる可能性を意識していたから、痛みを感じたんだよ」

( ・∀・)「夢の中で痛みを感じないなんて誰が最初に言ったんだろうね」

70名も無きAAのようです:2012/05/06(日) 22:40:32 ID:QHk5lOM.0

表情をあまり感じさせない笑みをモララーは浮かべる。
トソンはやはりいまひとつ言われたことを飲み込めないまま、抓った頬を撫でた。

( ・∀・)「さて、まずはどこに行こうか」

そういいながら、モララーはさっさと改札機に向かって歩き出した。
さっきまでは五月蝿いくらいいた人の波も消え、そこはすっかり静まり返っている。
トソンは慌ててモララーの後にくっ付いて、開きっぱなしになっている改札口の扉を通り抜けた。
一瞬、切符もないのに通り抜けていいのだろうかと不安になりかけ、ここが夢の中だということを思い出す。

( ・∀・)「トソンはどこに行きたい?」

(゚、゚トソン

(゚、゚トソン「どこと言われましてもここがどこだか未だによくわかってません」

( ・∀・)「そっかあ、そうだよねえ」

(゚、゚トソン(さっきこの人ナチュラルに呼び捨てにした…)

71名も無きAAのようです:2012/05/06(日) 22:45:25 ID:QHk5lOM.0

( ・∀・)「まあ僕はここの案内人ってわけじゃないし」

( ・∀・)「じゃあとりあえずは――」



「おー、モララーじゃねえか!」



モララーが何かを言おうとしたとき、どこからか声がかかった。
そして声と一緒に聞こえてきたのは、低く轟くエンジン音。
声の方に視線を向けると、モララーはにっこり笑って片手をあげた。

( ・∀・)「やあジョルジュ、配達かい?」
  _
( ゚∀゚)「おう、兄者に頼まれた奴をさっき届けたとこだ」

( ・∀・)「そりゃお疲れさん」

暴走族にも似た音を発してやってきたのは、濃い黄色に塗られた車体の、
バイクに似た乗り物に乗った、短い金髪の、眉毛の濃い若い男だった。
男の乗ってきたバイクは、だいたいの形とエンジンの音で何となくバイクとトソンは思ったのだが、
実際形は現実のバイクに比べると随分デフォルメされていた。

72名も無きAAのようです:2012/05/06(日) 22:50:13 ID:QHk5lOM.0

まるでアメコミに出てきそうなそれに跨る男は、親しげにモララーと談笑している。
身につけているのはバイクと同じく、けれどこっちは目が痛くなるような鮮やかな黄色のロングコート。
はめている手袋も履いている靴も暖色で、頭の先から足の先の隅々まで男は明るい色をしていた。

トソンがその派手な見てくれに目をぱちくりさせていると、男は「ところで……」と視線をトソンの方に寄越した。
好奇心に溢れた視線に、思わずモララーの陰に隠れる。
  _
( ゚∀゚)「配達から帰ってる最中に、今まで何もなかった所にいきなり見たことない駅が現れやがったから、
     もしやと思って来てみたんだが……そこのお嬢ちゃん、新入りか?」

(゚、゚トソン「え、新入り?」
  _
( ゚∀゚)「何だ、違うのかよ」

(゚、゚トソン「え、あの」

( ・∀・)「いや、新入りだよ」

(゚、゚トソン「え?」
  _
( ゚∀゚)「だよなあ、新入りじゃなかったらこんなとこ来れねぇもんな。
     その様子だと、まだ自覚はないって感じか?」

( ・∀・)「だね」

73名も無きAAのようです:2012/05/06(日) 22:55:05 ID:QHk5lOM.0

なにやらトソンにはよくわからない話を始める二人。
新入りとはいったい何の新入りなのだろう?
トソンは自分が最近何かのグループに参加したり所属したりといった記憶は全くなかった。
なによりもここは夢の中だ。

さっきから夢の中のはずならないような出来事ばかりで、トソンは頭が痛くなりそうだった。
収まっていた酔いのような気持ち悪さもまた波が来ている気がする。
訳が分からないことには下手に口を挟まない方がいい。
深く深呼吸をしつつ、トソンは大人しく二人の会話を聞いていようと思った。
けれど、そう思った直後、モララーが妙なことを言い出し、トソンは首を傾げた。

( ・∀・)「さっき僕もここで偶然会ってね」

( ・∀・)「ちょうどここのことを説明してたとこなんだよ」

(゚、゚トソン「え、モララーさんさっき私と一緒に…っでぇ!」

モララーの言葉を訂正しようとしたトソンは、
彼にジョルジュからは見えない角度で二の腕をつままれ、
それをトソンが認識した瞬間思いっきり抓られて、痛みに悶えた。

74名も無きAAのようです:2012/05/06(日) 23:00:09 ID:QHk5lOM.0

(;、;トソン「っくぅ〜」
  _
( ゚∀゚)「ん、どうしたんだ?」

( ・∀・)「頭痛だよ」

( ・∀・)「いやあ、まだここに来てばっかりで、彼女夢酔いしてるみたいで」
  _
( ゚∀゚)「ああ、夢酔いは確かに辛ぇよな」

( ・∀・)「今薬持ってる?」
  _
( ゚∀゚)「おう、あるぞ。ちょっと待て、今渡すから」

結局訂正をできないまま、トソンはジンジンと痛む二の腕を押さえていた。
モララーはそれを横目で一瞥しただけで、謝るそぶりはない。
憎々しげにトソンはモララーを睨んむと、一発蹴りを彼のスネにかまそうとしたが、
ひょいとあっさり避けられてしまった。

ジョルジュがバイク(だと思われる乗り物)の荷台をがさごそと漁る。
取り出したのは、なにやらきらきらと光る粒状の何かが入っている瓶だった。
ジョルジュは瓶の蓋を開けてそこから三つほど粒を取り出し、トソンに粒の乗った手のひら差し出す。

75名も無きAAのようです:2012/05/06(日) 23:05:21 ID:QHk5lOM.0
  _
( ゚∀゚)「夢酔いにはこれが一番だ。噛み砕かずに飲み込め」

( ・∀・)「普通の錠剤と違って水なしでも飲めるから」

(゚、゚トソン「あ、ありがとうございます……」

渡された粒は、大きさは一粒が指先に乗るくらいの小さなもので、
これもまた町の風景同様見る角度によって色や模様が様々に変化した。

言われたとおりに、噛み砕くことはせず口に放り込むと、一気に飲み込む。
一瞬異物が喉を通るのを感じた後、薬は胃に落ちた。
とたん、今までずっとぐらぐらしていた重い頭が少しだけ軽くなった気がした。

( ・∀・)「あ、効果は服用しないと現れないから」
  _
( ゚∀゚)「ここに来るたびに三粒ずつな」

――気がするだけだったらしい。
  _
( ゚∀゚)「んじゃ、そろそろ行くか」

76名も無きAAのようです:2012/05/06(日) 23:10:28 ID:QHk5lOM.0

トソンが薬を飲み込んだのを確認すると、ジョルジュは停止させていたバイクのエンジンを吹かす。
すると、単車だったはずのバイクの脇が突然ぐにゃりと変形し、何もなかった場所にサイドカーが現れた。
ジョルジュはサイドカーが完全に形を作るのを見届け、トソンに視線で乗れと促す。

(゚、゚トソン「あの、行くって……どこへ?」

( ・∀・)「君を案内屋のいるところまで案内するんだよ」
  _
( ゚∀゚)「ほら、さっさと乗れ」

(゚、゚;トソン「あ、はい」

( ・∀・)「ねえねえ、ジョルジュ」
  _
( ゚∀゚)「んだよ」

( ・∀・)「このサイドカー、一人乗りに見えるんだけど」
  _
( ゚∀゚)「そうだぞ、それがどうした」

(゚、゚トソン「あの、ヘルメットとかは…」

77名も無きAAのようです:2012/05/06(日) 23:15:47 ID:QHk5lOM.0
  _
( ゚∀゚)「ヘルメット? そんなもんいらねえいらねえ、ここをどこだと思ってんだ?」
  _
( ゚∀゚)「落っこちたら痛ぇくらいだ、心配すんな、死なねえよ」

(゚、゚;トソン(痛みはあるのか)

( ・∀・)「ねえねえ、ジョルジュ」
  _
( ゚∀゚)「なんだよ」

( ・∀・)「僕はどこに乗ればいいのかな?」
  _
( ゚∀゚)「ねーよんなもん」

( ・∀・)「なんだい僕は置いてけぼりかい?」
  _
( ゚∀゚)「お前なら自力でついて来れるだろうが」

( ・∀・)「疲れるから嫌だ」
  _
( ゚∀゚)「バーカ嘘吐け。夢の中で疲れた奴なんて見たことねーよ」

( ・∀・)「いやいやいや本当だって、めちゃくちゃ疲れるんだって」
  _
( ゚∀゚)「俺の夢遊者暦なめんなよ。誰がそんなホラ信じるかっての」

78名も無きAAのようです:2012/05/06(日) 23:19:17 ID:QHk5lOM.0
  _
( ゚∀゚)「そらお嬢ちゃん、しっかり掴まってな。
     スピードは遅めにしといてやるけど万が一落ちたりしたら拾うのが面倒だから――な!」

(゚、゚;トソン「ぅわっ――」

( ・∀・)「あっちょっ置いてくなよ!」

言葉とともにジョルジュがバイクのアクセルだと思われる場所を触ると、
一瞬トソンには周りの景色が吹き飛んだように見えた。
体も一緒に吹っ飛びそうな感覚に、思わずサイドカーに掴まる。

けれどもそれはほんの一瞬のことで、しばらくすればトソンの周囲にはちゃんと景色が戻ってきた。
といっても、速度は僅かに遅くなっただけ。
今にも振り落とされそうなのは変わらないまま、トソンは必死でサイドカーに掴まった。

いったいどのくらいのスピードが出ているのか、バイクはもう駅から随分離れ、
目の前の都市へと続く丘の一本道を爆走している。
夢の中だからなのか、風は感じないため、目は開いていることが出来た。
  _
( ゚∀゚)「お嬢ちゃん大丈夫かー!?」

(゚、゚;トソン「はいー! なんとかー!」

79名も無きAAのようです:2012/05/06(日) 23:23:27 ID:QHk5lOM.0

爆音のエンジン音の隙間を縫う様に聞こえてきたジョルジュの声に、トソンも声を張り上げて答える。
聞こえたかどうかわからないが、その後ジョルジュは何も言わないから多分聞こえたのだろう。
トソンはもう一度しっかりとサイドカーに掴まりなおすと、
置いてけぼりを食らってしまったモララーの様子を見ようとちらりと後ろを振り返った。

ジョルジュは彼に自力でついて来れるだろうと言っていた。
けれどトソンにはモララーが何か乗り物になりそうなものを持っていた記憶はない。
走ってついてくるということも考えられるが、このスピードについて走ることなんて出来るのだろうか……。


(゚;トソン チラ

(、゚;トソン「え」

( 、 !iトソン「えええー…」


そんなトソンの心配はあっさり消えることになった。

.

80名も無きAAのようです:2012/05/06(日) 23:27:03 ID:QHk5lOM.0

( ・∀・)「なにそんなポカンとしてるんだい、トソン!」

( ・∀・)「僕がこんな風になってるのに驚いたのかい?!」

( ・∀・)「忘れちゃいけないよ!」

( ・∀・)「ここは夢の中だ! 夢の中なんだよ、トソン!」

呆然とモララーを見上げているトソンに、モララーはあっはっはと楽しげな笑いを落とした。
今、モララーの身長は優に五メートルを越しているかもしれない。
元から背は高いほうだったが、まさかいきなりこんなに人の背が高くなるなんて誰が予想しただろうか。

それに、単に背が高くなっただけだったらトソンはこんな気持ちにはならなかった。
なんというか、はっきり言って気持ちが悪い。
夢酔いをしている中で、こんなものを見せられて、トソンの気分の悪さは絶頂にたどり着きそうだった。
ここが夢の中でなかったら胃の中のものを吐き出してしまっていたかもしれない。

現在のモララーは、手や胴はは今までどおりのサイズで、足だけが妙に長くなっているのだ。

81名も無きAAのようです:2012/05/06(日) 23:30:43 ID:QHk5lOM.0

いちいち、ぶんっぶんっと音がしそうなほどの大降りな一歩。
本人はきっと普通のスピードで歩いているくらいの感覚なのかもしれない、
けれど、ちゃんとモララーはジョルジュのバイクのスピードについて来ていた。
関節はいったい幾つあるのだろう、まるで何かの化け物のような見た目は、只管悪寒を誘う。
  _
( ゚∀゚)「相っ変わらずキモチワリィ見た目だなあ!」

( ・∀・)「失礼だなあ、だったら僕もバイクに乗せろよなあ!」
  _
( ゚∀゚)「やーなこったぁ!」

やっとバイクに追いつき、並走するモララーを見上げ、ジョルジュは怒鳴った。
それに負けじと、モララーも声を張って言い返す。
けれどトソンには、そんな二人のやり取りを傍観する余裕もなく、
必死にサイドカーから落ちないようにしながら気分の悪さと戦っていた。

( 、 !iトソン(なんだかとんでもない所に来てしまった気がする……)

82名も無きAAのようです:2012/05/06(日) 23:33:07 ID:QHk5lOM.0

駅はどんどん後方へと遠ざかる。
夢都市はだんだんと目の前に近づいてくる。
これからトソンの身には、いったいどんなことが待っているのだろう?
出来れば、これ以上気持ちが悪いことには遭遇したくない、とトソンは心の底から願った。





( 、 !iトソン「うぇっ」









第二話「運ばれる夢」  おわり

83名も無きAAのようです:2012/05/06(日) 23:36:18 ID:QHk5lOM.0
今回はこれでおわりです。
ここまで読んでくれた人ありがとう。

次回は一応もうありますが、ちょっともう一話分書き溜めてから投下しにきます。
では、また今度。

84名も無きAAのようです:2012/05/06(日) 23:36:37 ID:RzE4WT1E0
おつ、地の文が綺麗で羨ましいよ

次回も楽しみにしてる、

85名も無きAAのようです:2012/05/07(月) 06:11:52 ID:cDEcIJlI0
おつ

86名も無きAAのようです:2012/05/18(金) 20:07:35 ID:X8Lwg1Uw0
好きだわートソン

87名も無きAAのようです:2012/05/20(日) 19:15:25 ID:l3IWarkw0
マダカナー

88名も無きAAのようです:2012/05/20(日) 20:23:13 ID:UPqNmzkw0
読み返してる?
第一話脱字が多いお

89名も無きAAのようです:2012/06/08(金) 22:41:44 ID:oC4lnlaM0
大丈夫大丈夫

90名も無きAAのようです:2012/06/09(土) 17:04:31 ID:38SxqkVM0

( 、 !iトソン(20XX年5月10日……)

( 、 !iトソン(あ、今現実は夜中だから)

( 、 !iトソン(20XX年5月11日…今回の夢は………)

( 、 !iトソン(…………)

( 、 !iトソン(くそう、ノートがないから記録できないじゃないですか)

( 、 !iトソン(なんか色々ありすぎて覚えていられるか自信が…)

( 、 !iトソン

( 、 !iトソン(というか、これは本当に私の夢なのか?!)

( 、 !iトソン

( 、 !iトソン「うぇっ」

91名も無きAAのようです:2012/06/09(土) 17:07:27 ID:38SxqkVM0

( ・∀・)「大丈夫かあい、トソーン! バイクに吐いちゃ駄目だよー!」
  _
( ゚∀゚)「夢の中で吐くとかねーよ!」

( ・∀・)「そんなこと一概に言えないだろう?!」

( ・∀・)「ここは夢の中なんだから何があったって可笑しくない!」
  _
( ゚∀゚)「お嬢ちゃん、あとちょっとで着くからな! それまでの辛抱だぞ!」

( 、 !iトソン

( 、 !iトソン(これは本当に私の夢なのか?!)

( 、 !iトソン「うっ…うぇぇえぇ」

( 、 !iトソン(ああ…吐けない分、ずっと気持ち悪い……)

92名も無きAAのようです:2012/06/09(土) 17:10:49 ID:38SxqkVM0






彼は目的を達成するまで、木槌を振るい続けている。







   第三話「アパートの夢」





.

93名も無きAAのようです:2012/06/09(土) 17:13:28 ID:38SxqkVM0

現在、トソンを乗せたジョルジュの運転するバイクと、
バイクと並走する足だけ異様に長くなったモララーは、目的地に入ったばっかりだった。
突然周囲に増えた建物は、遠くから見たときとは違い、形がしょっちゅう変わることはなく、
どこか異国を思わせる町並みの形を保っている。

シックな色合いの建物に、石畳の表通り。
見通しはあまり良くなく、道は真っ直ぐではなく緩やかな波のようにくねくねとしている。
そんな道をジョルジュの運転するバイクはスピードを落とさず、爆走していた。

もしもトソンが夢酔いとモララーの姿のせいで気分を悪くしていなければ、
もっと街並みを楽しむことが出来ただろうに。
しかし、あっちこっちへと激しく揺れる車体の上のトソンには、そんな余裕は微塵もない。
吐きたくても吐けない状況に口元を押さえ、彼女は何度もえづきながらサイドカーに掴まっていた。

94名も無きAAのようです:2012/06/09(土) 17:16:38 ID:38SxqkVM0

表通りを出歩いている人間は誰もいないため、その通りをジョルジュはお構いなく爆走する。
建物の窓は、どれも暗く、その向こう側に人が住んでいる気配はない。

途中、バイクは小さな広場のような場所に出たが、そこもすぐに通り過ぎて後方に遠ざかってしまった。

(゚、゚!iトソン(あれ…)

広場を通ったのは一瞬。
けれど、トソンはその一瞬の間に、広場に人が固まっているのを見た。
町の中をこんな爆音のバイクが走っているのに、彼らはそれには目もくれず、こちらに背を向けて何かをしていた。

何をしていたかまではわからなかった。
でも、トソンは人々の後姿を見たとき、何か嫌な印象を受けたのだ。
心の奥の方に、泥を押し込められたような不快感が、あの場を通った一瞬トソンを襲った。
あれはいったいなんだったのだろう。

95名も無きAAのようです:2012/06/09(土) 17:19:32 ID:38SxqkVM0
  _
( ゚∀゚)「……おい、モララー!」

( ・∀・)「ああ、わかってる」

( ・∀・)「ジョルジュ、トソンをよろしく頼んだ!」
  _
( ゚∀゚)「おう、当ったりめぇだ、任せとけ!」

(゚、゚!iトソン「え?」

トソンが後方に遠ざかる広場を、もやもやとした気持ちで見つめていると、
モララーがいきなり長かった足を元の長さに戻して、視界に現れた。
そして、いったいどこに持っていたのか、初めて出会ったときに持っていた木槌を右手に構えると、
バイクの進行方向とは真逆の方向――さっきの広場へと駆け出した。

(゚、゚!iトソン「モ、モララーさん、何しに行くんですか?!」

96名も無きAAのようです:2012/06/09(土) 17:22:22 ID:38SxqkVM0

どんどん遠ざかるモララーにかけたトソンの言葉は、モララーには届かない。
いったいどうしたのだと、今度はすぐ隣でバイクを操るジョルジュを見る。
ジョルジュはトソンの視線に、口端を上げた。

(゚、゚!iトソン「ジョルジュさん、モララーさんは…!」
  _
( ゚∀゚)「ああ、あいつは今な」




  _
( ゚∀゚)「片付けに行ってんだよ」





 ○  ○  ○

97名も無きAAのようです:2012/06/09(土) 17:25:13 ID:38SxqkVM0

さっき通り過ぎたばかりの小さな広場には、三十人くらいの人だかりが出来ていた。
美しい街並みの中で、その人だかりが出来ている一角だけが、今は異様な空気を放っている。
どろどろとした、頭の痛くなるような空気。

人だかりのその誰もが皆、再び広場に戻ってきたモララーには気がつかないまま、
背を向けて何かを取り囲んでいる。
取り囲まれているモノは、人が壁となっているために確かめることは出来ないが、
モララーにはもう、そこに何があるのかはわかりきっていた。

背後のバイクがカーブを曲がり視界から消えるのを確かめてから、
モララーは広場の入り口に立って木槌を持ち直した。
そして、目の前の沢山の背中の人数に、改めて呆れる。

( ・∀・)(なんかまた数増えてない?)

( ・∀・)(前はまだ十三人だったよな)

98名も無きAAのようです:2012/06/09(土) 17:28:10 ID:38SxqkVM0

( ・∀・)(また現実のほうで何かあったな、ドクオの奴)

( -∀-) ハァー

( ・∀・)「おーっし、さっさと片付けようか!」

広場全体に響く声で宣言し、木槌を手の中で一回転させて駆け出す。
何かを取り囲んでいる人々はこちらに気がついていないのか、振り返ることはせず、
ずっと取り囲んだモノを見下ろしているようだった。
近づけば、なにやらブツブツと呟いているのが聞こえるが、その内容には興味がない。

モララーは人々にぶつかる直前で足を止める。
そして、そのままの勢いで振りかぶった木槌を目の前の男の後頭部に叩き付けた。
パァンとはじける様に男はその場から消え去り、代わりに現れたのは六角形の黒い物体。

コロンと石畳の上に転がったそれを拾っている暇は今はない。

99名も無きAAのようです:2012/06/09(土) 17:31:21 ID:38SxqkVM0

突然襲われたにもかかわらず、人々はモララーに見向きもしなかった。
ただ只管、取り囲んでいるモノを見下ろしている。

振り下ろした木槌を、今度は左に振るい、男の隣にいた女二人を薙ぎ払う。
吹っ飛ばされた女二人は、モララーよりも後方の石畳にぐしゃりと落ちたが、呻き声一つ上げなかった。
ただ、じっと一点を見つめ、何かを呟き続けているのだ。
その様子に、モララーは少しだけ背筋がゾクリとし、脳裏にある映像が浮かびかけたが、すぐに思考から追い出した。

女たちの反対側にいた老婆と青年もふっ飛ばし、その前に立っていた女も叩き潰し、
やっと彼らに取り囲まれたモノはその姿を現した。



(;'A`)「モ、モモモモ、モッモモモラララーっ」



( ・∀・)「『モ』多過ぎだから。なんかまた人数増えてるけどなんかあった?」

100名も無きAAのようです:2012/06/09(土) 17:34:17 ID:38SxqkVM0

(;'A`)「そんなそんなそんなこといいいいから早くっ早く助けっ…」

( ・∀・)「あーはいはいわかったから、ほら、ドクオ、さっさとそこから退いて」

そこにいたのは、少し貧相な体格をした、石畳の上に情けなく尻餅をついている青年。
傍らには、蓋が外れ中身が散乱した鞄が転がっている。

ドクオと呼ばれた彼は、長く伸ばした黒い前髪の隙間から、怯えたようにモララーを見上げた。
そして、慌てて言われた通りにモララーの作った隙間から、人の囲いの外に出ようとする。
しかし、ドクオがあとちょっとで囲いから出ようとしたとき。
両側で今までブツブツと何かを呟いているだけだった者たちが、ガシリとドクオの腕を掴んだ。

(;'A`)「ひぃっ」

再び囲いの中に引き戻されそうになる。
が、ドクオは顔を真っ青にして、目立った抵抗なくされるがままになっていた。
恐らく恐怖で身動きできないのだろう。
それを見て、モララーは木槌を振り上げた。

101名も無きAAのようです:2012/06/09(土) 17:37:04 ID:38SxqkVM0

( ・∀・)「もー、何やってんだ、よ!」

ガッとドクオの腕を掴んでいた者の半分を叩き潰す。
続けざまにもう半分もふっ飛ばし、モララーはドクオの服の襟首を掴むと、広場の反対側へと投げ飛ばした。

('A`;)「ぅわああぁぁぁああぁ……ぐふぁっだふっ」

広場の反対側まで飛んだドクオは、そこにあった建物の壁にぶつかると、ぼたっと石畳に落ちた。
どうやら、飛ばされた瞬間に痛みを意識したらしい。
地面に転がったまま、芋虫のように悶えているドクオをみて、モララーは呆れた顔をした。

(; A )「おまっ…モラ、ぐふっ…なにす…っ」

( ・∀・)「いや、そろそろ学習しような。
     そういうときに痛み意識したら駄目だって何回言えばいいんだよ」

('A`;)「んなっ…それ…いってぇえぇ」

( ・∀・)「今から速攻でこいつら片付けるから、そこ動くなよ」


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板