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( ^ω^) ブーンが雪国の聖杯戦争に挑むようです
202
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 01:51:40 ID:TZdjw55g0
軽い柔軟体操を行い、
((ФωФ )
( ^ω^)) 「よろしくお願いしますお」
一礼を交わすと張り詰めた空気がブーンの肌を粟立たせる。
ロマネスクの放つ闘志によるものだ。
気を練り上げ、実戦さながらの緊迫感をブーンへ与える。
相手はかつて聖堂教会と魔術教会で繰り広げられた戦争に参加し、
代行者としても戦果をあげてきた歴戦の猛者だ。
一線を退いてはいるといっても、命を奪い合うという行為を行ったことのないブーンなど、
容易い相手である。内藤家の跡取りとして魔術の教練を受け拳を鍛えてきたとは言っても、
まだまだヒヨッコにしかすぎない。
間合いは10歩ほど離れているがすぐにでも詰め寄られてしまうことだろう。
ロマネスクの身体を通して出る"気"が重圧となり、どう攻めても返り討ちにされる結末が脳裏を過ぎった。
だからブーンは足を引き、間合いを開くことにした。
距離を置くことで攻撃が命中するまでの時間を稼ぎ、迎撃しようというのだ。
先手必勝とは言うが、時と場合による。
戦争においては待ち伏せ側が有利であるとブーンは承知していた。
203
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 01:53:38 ID:TZdjw55g0
経験と実力の差を戦術によって覆す。
靴を脱いだ素足は畳を踏みしめるも、感触はやけに重い。
身体全体が重く、呼吸が苦しくかんじられる。
まだ大して動いてもいないと言うのに、額からは大粒の汗が流れていく。
(;^ω^)
拳を構え、何時でも防御や反撃を行えるようにしたまま、ブーンはなお身を引かせた。
( ФωФ)「ッ!!」
おぉ、という叫びが聞こえたかと思えると、ロマネスクは動きを作り出す。
来た。
硬直した身が突貫するロマネスクを待ち構え、射程に入ると右の拳を放つ。
中指から小指までを上にした、傾き気味の拳は額を捉えた。
屈筋と伸筋を用いた拳は加速と停止を瞬時に行い、衝撃を増している。
鋭い音が空を切り、次いで肉と肉がぶつかり合う鈍い音が響いた。
その時には既にブーンは畳へ叩き付けられてしまっていた。
反転した視界にロマネスクが映る。
一瞬で勝敗は決してしまったが、くじけずに彼はもう一戦望んだ。
空気が再び張り詰めていく間もなく、構えたブーンは突っ込んでいく。
己の引き出せる最速を求め、畳を力の限り蹴り飛ばす。
生み出された振動を突き出した拳に伝動させ、胴へと余すことなく破壊力を与えた。
204
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 01:55:52 ID:TZdjw55g0
しかし、渾身の一撃はロマネスクの身を掠めて風を切る音が立つのみ。
(;^ω^) 「ッ!?」
素早く利き足を引き、間合いを取ろうとするが攻撃後に生まれた硬直を、
ロマネスクが逃すはずも無く、重々しい音が拳とともにブーンの下腹部へ突き立った。
(;゜ω゜)
あ、という喘ぎすら漏れずブーンは呼吸すらままならない。
力を失ったように両足は膝をついていき、四つん這いになって、
大きく開かれた口から涎がダラダラとこぼれて行く。
こみ上げて来た唾液の塊を吐き出すことで、ようやく呼吸が出来た。
朦朧とした意識の中、ブーンはロマネスクを見上げる。
( ФωФ)「ブーン、休もうか」
四十を過ぎた肉体であるにも関わらずに、彼は汗の一粒すら浮かべてはいない。
構えもせずに悠然と、慈愛の籠もった瞳でブーンを見つめていた。
これが今のブーンと聖杯戦争を生き延びた者との、覆しがたい実力差である。
だが決して彼が無力であるわけではない。
この十年の間、血反吐を吐くような鍛錬に臨んできたのだから。
拳法という武道の競い合いでは敵わぬが、これが実戦で、
魔術さえ扱えればまた結果は違うものになっていたに違いない、はずだ。
聖杯戦争を戦える力は充分に備えている。
205
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 01:58:02 ID:TZdjw55g0
ロマネスクに学んだものは少林寺拳法。
父と母からは魔術を。
この二つを用いて彼はこれから戦いに臨む。
ブーンはその前に「自分は勝ち抜ける」という自信を持ちたかった。
だからこうしてロマネスクの下を訪れたのであったが、この完敗が現実である。
勝てずとも、互角の勝負を演じられれば希望を持てただろう。
だが手も足も出なかった。
そんなはずはない、自分はもっとやれるはずだ。
ブーンは自らをそう鼓舞して、ロマネスクの視線に応える。
(;^ω^) 「いえ、回復しましたお……もう一度お手合わせお願いするお」
( ФωФ)「ふむ」
静かにロマネスクは笑みを作ると、ブーンが立ち上がる様を見届け、構えを作る。
若さが彼を駆り立てるのか、ブーンは猛然とロマネスクへともう一度立ち向かっていった。
206
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 01:59:35 ID:TZdjw55g0
******
組み手開始から三時間ほどが過ぎた頃、
地下に作られた道場ではブーンが畳の上で大の字になって倒れていた。
身体中に痣を作り、大量の汗を滴らせた彼は疲労困憊し、
深いダメージを受けた為立ち上がる気力は残っていないようだ。
ロマネスクは荒い息をつく彼へ、そっと近寄り、
( ФωФ)「少し休もう、ブーン」
対照的に、整った呼吸をして囁いた。
優しい、父性を匂わせる声だ。
(メ;´ω`) 「そうさせて……貰うお…」
力無く息を切らせながらも、ブーンは応えた。
ロマネスクには子供がいてもいい年頃なのだが、
残念ながら彼には妻も無く子も無い。
( ФωФ)「冷たい茶でも持ってこよう。そのまま休んでいなさい」
しかしブーンに接する彼は、父親と言っても差し支えはないだろう。
昔、シャキンとの間に交わされた約束が彼をそうさせたのだ。
「息子を見守ってくれ」と、死の際に放たれたシャキンの言葉が、
ロマネスクを一人の男として成長させ、慈愛の心と父性が今の彼を作り上げた。
207
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 02:00:17 ID:TZdjw55g0
事前に用意していたのか、上階へ向かったロマネスクは、
コップと麦茶が満たされたボトルを載せた盆を持って、すぐに帰ってくる。
ガラスコップ一杯に麦茶が注がれ、褐色に満たされていくとブーンへ差し出された。
(*´ω`)ノ旦ノ「おっおっ!」ゴッキュゴッキュ
水分を失った身体に、冷えた茶が染み渡る。
喉をならして飲み込んでいくブーンの口腔に、
麦の甘みが広がっていった。
(*^ω^) 「ありがとうだおロマおじさん! 美味しかったお!!」
汗を腕で拭い、笑みになったブーンを見て、ロマネスクも釣られて微笑する。
( ФωФ)「冬とは言っても運動後にはやはり冷たい茶だ。
良い茶を貰った。お婆さんに直接お礼を言わねばな」
( ^ω^) 「また、貰い物かお?」
( ФωФ)「私が昨日飲んでいた茶も、同じ方から頂いたものだ。
孫が世話になっているからと言われたが、
断ってもどうしてもと押し切られてな」
( ^ω^) 「ロマおじさんは、面倒見が良いからだお。
教会だっていうのに小っちゃい子達が児童館代わりに寄ってくる。仁徳だおね」
キリスト教の教会だからと毛嫌いして近寄らない、
ショボンのことを頭に浮かべながらブーンは呟いた。
208
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 02:03:32 ID:TZdjw55g0
( ФωФ)「本気を出させて貰った。実戦と、同じように。しかし実戦ではない。
実戦ならばブーンは魔術を使えたよ。
私とて内藤家の魔術師と殺しあえば敵うかはわからない」
( ^ω^) 「ロマおじさんだってそれは同じ条件じゃないかお」
( ФωФ)「いや、私はな。魔術のほうは治癒魔術や強化の魔術くらいしか扱えんのだ。
もし此度の聖杯戦争に参加していれば、老化もあって以前のようにはいかない。
君に屠られていただろうさ。全盛期は既に遠い昔の話だよ」
( ^ω^) 「全盛の頃だったら、この聖杯戦争も勝ち抜けたかお?」
( ФωФ)「私は既に、願いを果たした。挑む理由はないよ」
( ^ω^) 「もう願いは叶えられたから、力があったとしても挑まないのかお?」
( ФωФ)「若い私にあった強迫観念じみた使命感は、もはや無い。
聖杯戦争に挑む君の前で口にするのは憚れるが、年老いた私は学んだのだ。
命を天秤にかけてまで、叶えるべき願いなどはないのだと」
( ^ω^) 「……それは、勝者の余裕ですお」
( ФωФ)「そう言うだろうから、言うべきか悩んでいたのだ」
( ^ω^) 「何で今になって言ったんだお」
( ФωФ)「ふっ、君が中年の戯言に屈するような、
半端な意思で戦いに望んだわけではないのだと確信したからだよ」
209
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 02:07:34 ID:TZdjw55g0
(;^ω^) 「褒めている、のかお?」
( ФωФ)「あぁ、そうとも。しかし、この雪国の聖杯戦争に聖堂協会は反発している。
あまり表立った行動や、表社会に影響を及ぼすようなヘマはしないでくれ。
少しでも問題が起これば協会は間違いなく"異端狩り"を行うだろう」
( ^ω^) 「異端狩り?」
( ФωФ)「端的に言えば教義に反する者を抹消することだ。
聖堂協会は札幌に存在する聖杯を、"神の奇跡"を汚した贋作であり破棄すべきだと主張している。
だから十年前の戦争が起きた。君が幼い頃の話だから、忘れてしまっているかもしれないがね」
淡々と語るロマネスクではあったが、苦い記憶があるビジョンと共に脳裏に蘇った。
血を湛えた己の拳。
傷を負った肉体と精神は満身創痍となり、霞む視界には斃れた友の姿が浮かぶ。
戦場は騒音に満ちているというのに鼓動がやけに大きく聞こえ、
一対の陰剣と陽剣を構えた男はこちらを振り返り――
(`・ω・´)『あぁ……』
( ФωФ)「む……」
亡き友の姿が目前に現れた。
意思の強さが込められた鋭い眼光を向ける男性は、シャキンだ。
モララーと共に、一つ年下の自分を中学時代に魔道へと誘った男。
若さゆえの過ちとも呼べる事柄で、魔術師にとっては大問題であったのだが、
あの出会いがなければ今のロマネスクは無い。
210
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 02:08:27 ID:TZdjw55g0
師とも呼べるシャキンとモララーは、結果的に戦争では敵同士になってしまった。
彼が魔術を知らなければ、もしかしたら"聖杯戦争前哨戦”と呼ばれる戦いは起きなかったかもしれない。
しかし、シャキン達と出会っていなければ今のロマネスクが無いように、
ブーンもこのような男には成長しなかっただろう。
それを幸か不幸かを決めるのは、ブーン自身が決めることである。
( ФωФ)(ご子息を見に来たのですか……先輩? それとも、俺を笑いに?)
否、と自ら投げかけた問いをロマネスクは打ち消す。
(`・ω・´)『そういうことかお』
逆八の字を象られた険しい眉は、緩やかな弧を描いていき、
鋭い目つきは真ん丸で人懐っこい瞳へと代わっていった。
亡霊の像が消えていく。
( ^ω^) 「双方、多大な犠牲が出て、今回の聖杯戦争が終了するまで聖堂協会は監視を行う。
その約束のおかげで魔術協会と聖堂協会の和平が実現した」
シャキンの姿をロマネスクに見せたのは、やはり親子であるが故に似通っているからだろうか。
彼はロマネスクの胸中も知らずに会話を続けていた。
(;^ω^) 「昔、そうロマおじさんやかーちゃんに教えてもらったの、思い出したお」
211
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 02:09:51 ID:TZdjw55g0
( ФωФ)「しっかりしてくれ、ブーン。もはや君は、一端の魔術師なのだぞ?」
(;^ω^) 「言いにくい話だけど、マスターとして半人前もいいとこだお。
僕は、サーヴァントを召還したはいいけど、ちょっと話したら見限られて、
もうどこにいるのかもわからない、半人前なんだお」
少し拗ねたように、ブーンは昨夜の失態を暴露する。
羞恥心が、言葉の歯切れを悪くさせた。
( ФωФ)「む、令呪を通しても存在を感知出来ないのか?
魔術回路がつながってる内は、念で交信できるはずなのだが……いや」
(;ФωФ)「まさか、ブーン。アーチャーを召還したのか?」
(;^ω^)) 「……」コク
ブーンは何も言わず、ただ頷きだけを返す。
(;ФωФ)「単独行動スキルが仇となったか……」
( ^ω^) 「でも! ちゃんと考えはあるんだお!!
情けない話だけど、手のうちようはあるんだお。
心配しなくても大丈夫ですお」
(;ФωФ)「そうか……監督役として、私は必要以上に君に肩入れすることは出来ない。
シャキンに恥じぬよう、しっかりやってくれたまえ」
212
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 02:13:35 ID:TZdjw55g0
( ^ω^) 「おっおっお、勿論だお! ロマおじさん、充分休んだことだし、そろそろ……」
呼吸を整えたブーンは立ち上がり、拳を構えるも、
ロマネスクは座ったまま首を横に振るう。
( ФωФ)「いや、止めておこう。今夜、戦闘になる恐れもある。
教会から出れば、戦闘区域だ。余力を残しておいたほうがいい」
( ^ω^) 「それもそうだお……でも、ロマおじさんに一本も取れなかったのは悔しいお」
( ФωФ)「まだ、拳のみの戦いでは私には敵わんよ。時間ももう遅い。帰りたまえ」
( ^ω^) 「ちぇー」
しぶしぶながらもブーンは立ち上がり、
部屋の隅に捨ててあったブレザーと、スタジアムジャンバーを羽織っていく。
( ФωФ) 「まぁ、また拳のみの勝負でよければ相手になろう。いつでも来たまえ」
(*^ω^) 「お言葉に甘えさせてもらうお」
畳を踏みしめ階段の脇に置いた靴を履き、ロマネスクの私室へと昇る。
礼拝堂を進み、玄関の扉に手をかけるとロマネスクが口を開いた。
( ФωФ)「……ブーン、最後に忠告が一つある」
( ^ω^) 「ん? なんだお?」
213
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 02:16:19 ID:TZdjw55g0
( ФωФ)「君の父……シャキンを殺したのは刃児耶ギコだ。
此度の聖杯戦争に参加している、セイバーのマスターだ」
(;^ω^)そ 「ロマおじさんッ!?」
外に出たブーンははっとして背後へ振り返るが、
白亜の扉は堅く閉ざされ、声に応える者はいなかった。
春風が混じり始めた寒空の下で、ブーンはギコという男の名を脳に刻み付ける。
( ^ω^) 「刃児耶……ギコ……セイバーのマスター」
ロマネスクの言が本当ならば、かつての戦争で父を殺めた仇の名を、ブーンは口ずさんだ。
シャキンの顔が目に、ローソクの炎のようにぼうっと浮かぶ。
街灯も少なく、月明かりだけが照らす夜の東区をブーンは歩む。
人気は無いといっていいほど少ない。
住人達の帰宅が住み、家で団欒をとっているのだろう。
労働で疲れ、帰宅してきた父を、母と子供が暖かく迎える。
夕餉に舌鼓を打って談笑し、風呂に入って一日の疲れを癒す。
そんな幸福な一時を誰もが迎えるわけではないが、父を自分と母から奪ったのはギコだ。
遠い過去の話ではあるが、父の葬儀で流した母の涙をブーンの眼は焼き付けている。
214
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 02:17:29 ID:TZdjw55g0
夜闇の如く暗い考えが胸を浸していく。
住宅街へ入り、公園を横切っていくと……。
「やっぱり、ロマおじさまのところに行っていたのね」
( ^ω^) 「ッ!?」
声がした。
清澄でいて、勝気さが滲み出た声。
少女の物と思われるそれは、聞き覚えがあった。
ξ゚⊿゚)ξ 「ここで貴方の迷いを終わらせてあげるわ。
戦いましょう、父様達もきっと喜んでいるはずよ。
聖杯戦争……魔術師として己の魔術を、存分に競い合える戦場」
(;^ω^) 「ツン……やるのかお?」
ξ゚⊿゚)ξ 「えぇ、構えなさいブーン。一族の誇りと願いを賭けて」
ツンの全身を魔力が駆け巡っていき、右腕へと集約されていく。
周囲の空間が熱を孕み始め、朧のように歪むと、
ξ゚⊿゚)ξ 「get set―――」
呪文が響いた。
己の気を高める、スイッチとなる頭語である。
募った魔力は魔術回路によって"力"へと変換され、
高密度に圧縮された炎が右手から噴射された。
215
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 02:19:05 ID:TZdjw55g0
Σ(;^ω^) 「くっ、本気かお!?」
ブーンの足元に炎の弾丸は突き立って、雪を音も無く溶かしていく。
ξ゚⊿゚)ξ 「呆けているんじゃないわよ。サーヴァントを出しなさい、ブーン。
さもないと――――貴方、無様に死ぬわよ?」
言葉に表れたものは怒りと、
( ゚_ノ゚)
大きな銀と黒の十字を首から下げた、
鉤十字の装飾を施された軍服を身に纏うサーヴァントが現れた。
(;^ω^) (アーチャーを呼ばないと……!!)
令呪を使用する。
ブーンの生存本能が咄嗟に行動を取らせていくが、直前で理性が邪魔をした。
「こんなところで使ってしまって本当にいいのか?」
その躊躇いが空白を生み出してしまう。
かつて戦場で名を馳せた英霊が隙を見逃すはずも無く、
腰のホルスターから瞬く間に抜かれた、ワルサーP38がブーンへと向けられ―――
216
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/07/29(日) 02:23:56 ID:TZdjw55g0
第4話 「get set―――」 part 乱世エロイカ②
投下終了。遅れてしまって申し訳ない。
待っていてくださった方々には感謝と謝罪をする。
これからは月一の投下を目標にします。
217
:
名も無きAAのようです
:2012/07/29(日) 10:15:22 ID:fXUOG.TU0
マジか!乙
218
:
名も無きAAのようです
:2012/07/29(日) 12:31:36 ID:CpT9oAKIO
乙!
219
:
名も無きAAのようです
:2012/07/29(日) 12:37:05 ID:0VZCBLis0
おつー
220
:
名も無きAAのようです
:2012/07/29(日) 20:00:11 ID:w12BCxLE0
ギコェ…
シィはもう
221
:
名も無きAAのようです
:2012/07/30(月) 00:52:52 ID:zaN4V8hE0
乙!
続きが気になる
222
:
名も無きAAのようです
:2012/07/30(月) 13:56:19 ID:P5IkB5k.0
ギコほど不幸が似合う奴はそうそういないぜ
223
:
名も無きAAのようです
:2012/08/01(水) 04:56:44 ID:s0hHn/8Y0
ギコ視点に立つと、ギコにはドクオを倒して仇を討ってほしいな
224
:
名も無きAAのようです
:2012/08/01(水) 06:16:11 ID:1vbJD/rM0
なんというギコへのエールwwww
225
:
名も無きAAのようです
:2012/08/01(水) 11:39:51 ID:la8NPhW60
しかしシィの遺体食べられちゃったのに
ギコはどうやってドクオが仇だって気付くんだろう
226
:
名も無きAAのようです
:2012/08/01(水) 12:48:55 ID:xvC0Jaek0
アサシンが何か言うんじゃね。
227
:
名も無きAAのようです
:2012/08/01(水) 12:52:44 ID:1vbJD/rM0
アサシン「シィなら朝しんだwww」
228
:
名も無きAAのようです
:2012/08/02(木) 13:25:32 ID:iY/8zESo0
ギコが人気なのって、シローを彷彿とさせるからかな?
ドクオはキリツグと考えると、キリツグvsシロー(エミヤ?)だから胸熱
229
:
名も無きAAのようです
:2012/08/03(金) 10:54:59 ID:/a3o2mnY0
まだ大した活躍してないよな
230
:
名も無きAAのようです
:2012/09/06(木) 15:56:27 ID:1DJMbsfc0
まだかーまだかー
231
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 00:17:31 ID:QCpLB3rI0
明日の22時頃に投下する
遅れて申し訳ない
232
:
名も無きAAのようです
:2012/09/08(土) 00:23:58 ID:gnaa9reI0
うひょー!!
来たか!!
233
:
名も無きAAのようです
:2012/09/08(土) 08:53:13 ID:xFZfoilA0
キタゼー!
234
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 22:11:50 ID:QCpLB3rI0
夜の帳が落ちた札幌市東区、その片隅にある公園で小さな光が灯る。
遅れて乾いた音が響き、大柄の少年の足元に火花が散った。
(;^ω^) (本当に撃ってきたお!!)
少年、ブーンはロマネスクとの稽古で火照った身から、
血の気が引いていく感覚を味わう。
恐怖によるものだ。
( ゚_ノ゚) 「……」
軍服姿の男は構えていたワルサーの照準を修正し、
素早くブーンの額へ狙いを定めていく。
ξ゚⊿゚)ξ 「あら、威嚇する必要はないのよ。英霊さん?」
引き金にかけられた指を注視し発砲の間際にブーンが飛び退いたことは、
ツンの目にも明らかなことであったが、意地悪くサーヴァントへ激を飛ばす。
英霊とのみ呼んでクラス名を伏せる抜け目無さは周到であると言えよう。
(;^ω^) (飛び道具? ってことはアーチャーかお?)
短絡的な思考でクラスを結びつけるが、「いや」と否定する。
アーチャーは自分が召喚したはずだ。
同じクラスのサーヴァントが召喚されることはない。
ではこの英霊は一体どのクラスに該当するのか?
235
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 22:13:23 ID:QCpLB3rI0
戦場に初めて入り込んでしまった緊張感とツンの言動が、
ブーンを当惑させ冷静な思考能力を奪っていた。
( ゚_ノ゚) 「貴様、何故サーヴァントを呼ばない?」
剥き出しの銃身が踊り、ワルサーの銃口がブーンを捉える。
雪の敷積もった足元には穴があり、弾丸が減り込んでいた。
一瞬、ほんの一瞬反応が遅ければこれが額に風穴を空けていたことだろう。
明確な殺意を以って放たれた弾丸はブーンの背筋に何か冷たいものを走らせる。
心臓は早鐘を打ちサーヴァントの口の動きがやけに緩慢に見えた。
何故サーヴァントを呼ばないのか。
違う、呼ばないのではない。呼べないのだ。
アーチャーの作戦が裏目に出てしまったことで生じた自体に、
怒りとも恐怖ともつかぬ感情が湧いてきた。
助けがくることはない。令呪を使えば、話は別であるが。
目前には規格外の魔力の集合体であるサーヴァントとそのマスター。
ツン一人ならまだしも、魔力そのものとも呼べるサーヴァントに、
人間であるブーンが行使できる魔術程度で、傷を負わせることなど、
ましてや倒すことなど不可能だ。
銃撃は外れたが、そんなものに攻撃されたという事実は、
ブーンを恐慌状態に至らせるに充分だった。
令呪を使用するという考えも、吹き飛んでしまう。
236
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 22:15:25 ID:QCpLB3rI0
(;^ω^) 「うぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
磨いてきた魔術も拳法もサーヴァントには歯が立たない。
絶対に敵わぬ敵を前にしてブーンは背を向けて逃げ出す。
今の彼に魔術師としてのプライドなど微塵もない。
策などでもなく、ただの恐怖による逃亡だ。
圧倒的に己を上回る力量を持ち決して倒せぬ敵は恐れそのものである。
相対した者は逃げるか許しを請うか、
全てを諦め黙って命を差し出すかの選択しか与えられない。
勝算のない戦いを挑む者がいようものか。
逃げ出した彼を嘲笑うことなど出来やしない。
死を受け入れず足掻いてみせただけでもブーンには勇気があったと言えよう。
(;^ω^) 「ツン、やめてくれお! 僕達が戦う必要なんてないんだお!!
同じお菓子食べて一緒に本を読んでた、ツンちゃんじゃないのかお!?」
そして彼には、停戦を申し込むだけの勇気すらもあった。
ツンと殺し合うなど、耐え切れなかったのだ。
敵意による恐怖を跳ね除けて、精一杯心の叫びをブーンは上げる。
237
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 22:16:51 ID:QCpLB3rI0
ξ ⊿ )ξ 「……無様ね、ブーン」
しかし思いの丈は彼女には届かなかった。
むしろこれは、ツンからしてみれば決闘に対する侮辱ですらあった。
夜の海の如き暗さに沈んだ少女の表情は、
ξ#゚⊿゚)ξ 「命乞いとはッ!!」
瞬く間に憤怒の色に染まり、背を向けるブーンに罵声を浴びせて右腕を構える。
アミュレットが煌き魔力回路が巡って手のひらへと集約されていくと、
ξ゚⊿゚)ξ 「get―――set」
詠唱。
次いで甲高い音が響く。
銃声にも似たそれに遅れて火球が右手から放たれ、ブーンに襲いかかった。
238
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 22:17:47 ID:QCpLB3rI0
(;^ω^) 「ッ!?」
背後から迫る熱気に、彼女の扱う魔術を知悉していたブーンは身を崩し、
慌てて転げていくと先程まで頭のあった位置へと、火球が過ぎ去っていく。
安堵の息をつく間もなく、立ち上がって走り去ろうとするが、
( ゚_ノ゚) 「マスター、威嚇する必要はないんだぞ!?」
銃声が響いた。
(;^ω^) 「ぐっ!!」
起き上がろうとしていたブーンは雪の上で尻餅を突いてしまい、遅れて痛みを感じる。
右足を撃たれたようだ。制服のズボンには黒いシミが広がっており、
弾丸は脛の肉を打ち破って骨を砕いていた。
その部分だけ火鉢を押し付けられたような高熱を感じる。
あまりの衝撃に痛覚が麻痺してしまったのだ。
だが、徐々に正常な働きを取り戻してきた神経は、
強烈な痛みをブーンへもたらしていく。
( ω ) 「あぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
これまでに感じたことのない激痛に、ブーンは涙をこぼしかける。
打ち身や骨折ならば稽古や試合で何度も経験してきたが、
銃で撃たれるなど銃社会でもない日本で経験できるはずもない。
239
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 22:19:02 ID:QCpLB3rI0
銃傷にもだえる彼へ、ツンとライダーはゆっくりと、
確実に追い詰めるかのように近寄っていく。
彼らの足音はブーンにとって、死刑囚が絞首台から聞く処刑人の足音も同義であった。
人間の脚力などでサーヴァントから逃れようという考え自体が無謀だったのだ。
百戦錬磨の英霊にとって背を向けて逃げ出す獲物の、何と狩り易いことか。
ξ゚⊿゚)ξ 「サーヴァントも連れず……アンタ、私をどこまで馬鹿にしたら気が済むの?
失望したわ、ブーン。シャキンおじ様もきっと悲しまれることでしょうね。
お父様の娘である私と、息子であるアンタとの決着が、こんな無様なものになるなんて」
冷徹に見下ろしたツンは、手で銃を形作り銃口をブーンへ向ける。
魔力が指先へと、高度に圧縮されていくのがブーンにもわかった。
ξ゚⊿゚)ξ 「これで……おしまい……」
火球が現れ、魔力の流れが止まる。後は放つのみ。
(;^ω^) 「ツン……」
死の際というものはこんなにも静かなものなのだろうか。
ブーンの心は不気味なくらいに穏やかで、何の感情も湧いてはこなかった。
ツンが行使した火の魔術が自分へ襲いかかるというのに、まるで他人事のようにしか映らない。
あぁ、あれが己を焼き尽くすのだろう。
そう傍観することしか今の彼にはできなかった。
ξ゚⊿゚)ξ 「……"ライダー"。殺って」
炎で構成された球体がぼっと音を立てて消えていき、ツンはサーヴァントを呼んだ。
240
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 22:20:29 ID:QCpLB3rI0
( ゚_ノ゚) 「手を汚すのが怖いか?」
ξ゚⊿゚)ξ 「そんなわけ、ないじゃない。魔力を温存しておきたいだけよ」
( ゚_ノ゚) 「ならば……」
ライダーと、最後にクラス名が明らかになった死刑執行者は、
ブーンの額へと銃を押し当てて引き金に指をかける。
茫然自失となったブーンにもはや、アーチャーを令呪を使用して呼ぶという考えはなかった。
ただ死を受け入れるだけの家畜である。
( ^ω^) (……ごめんお、とーちゃん)
死の直前に脳裏を過ぎったのは父の顔だった。
( ゚_ノ゚)
だが彼の目に写っている者は軍服姿のサーヴァントである。
押し付けられた拳銃の重みが、ブーンに死を予感させた。
続けざまに胸を突く思い出が蘇る。
*( )*
それは後悔の記憶―――
魔術でも救えぬ物があると、幼心に刻みつけられたトラウマ。
無意識ながらも、彼の"人々を救いたい"という想いに駆られる、要因となった出来事。
失われてしまった友人の顔が心の奥底で浮かび上がり、
241
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 22:22:13 ID:QCpLB3rI0
(#^ω^) 「ッ!!」
気づけばブーンは動き出していた。
起き上がりに生じる臀力に乗せた右の拳が風となり、ライダーの頬を捉える。
渾身のストレートがぶちかまされた。
が、拳に感触は無く、しかしライダーは宙を飛んだ事実に変わりはない。
何故拳が空を切ったというのに奴は飛んだのか?
答えは遅れてやってきた音によって明かされる。
銃声だ。
その時、ブーンの脳裏には声が聞こえてきた。
サーヴァントとマスターのみが行える念波による交信である。
(<`十´> 『待たせたな、マスター』
(;^ω^) (アーチャー!?)
ξ゚⊿゚)ξ 「何っ!?」
凍てついた空気が震え、高い高い音が彼方より張り詰めていくが、
飛び上がったライダーはツンを抱えて駆け出し、
積もった雪の飛沫が足元で爆ぜる。
銃声のした方角を見やったライダーは目を鋭くして、
( ゚_ノ゚) 「サーヴァントを呼んだのか?」
242
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 22:25:21 ID:QCpLB3rI0
ξ;゚⊿゚)ξ 「違うわ、ライダー。令呪を使ったわけじゃないわ。
敵サーヴァントは私達が隙を見せるのを待っていたのよ!」
銃声一つでサーヴァントと断じるのは早合点とも取れるが、
何が起きるかはわからぬ戦闘において、
常に最悪の状況を想定しておくほどの用心深さは必要不可欠である。
そしてその用心深さからくるツンの判断は、正しかった。
同時に自らの浅はかさに冷水を浴びせられた。
ブーンはサーヴァントを隠し、ライダーのマスターであるツンが無防備になったところを狙撃させ、
勝負をつけようと策を練っていたのだ。サーヴァントを出さぬのは別行動をとっているのか、
あるいは戸惑いによるものなのかとツンは"思わされて"しまっていた。
先日から、いや、ここ数年のブーンの態度、
それすらも己を欺くための演技だったのだとツンは彼の狡猾さを思い知る。
ξ゚⊿゚)ξ 「どうやら私は貴方を過小評価していたようね……ブーン。
貴方は私と同じ、ここからは一人前の魔術師として扱わせて貰うわ」
しかし、こうなっては下手に行動を取れない。
真っ先にブーンを仕留めようにも、敵は狙撃が可能なサーヴァント。
恐らくはアーチャーかキャスターのクラスだ。
ライダーにも先程の狙撃のみでは位置を割り出せないらしく、
彼はツンの目を見ると首を横に振った。
膠着状態と言えよう。
243
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 22:26:50 ID:QCpLB3rI0
張り詰めた空気がピリピリとツンの肌を刺激していき、
次の一手を目まぐるしく頭の中で探っていく。
撤退すらも、既に選択肢の一つとして浮かび上がっていた。
(;^ω^) 『アーチャー! 今までどこに!?』
ツンの焦燥を知る由もなく、ブーンは魔力のパスが再び繋がった、
どこにいるかもわからぬアーチャーへ念によって問う。
(<`十´> 『そんなことより目の前の状況に集中しろ。
間一髪だった。お前がそのままジッとしてれば仕留められたものを……』
(#^ω^) 『いるならいると言えば―――』
(<`十´> 『マスターに知らせれば勘付かれていた。演技が出来る人物でもあるまい。
良いから集中しろ、先ほどのように。敵はこちらの位置には気づけん。
イニシアチブはこちらが取ったが、依然お前が無防備であることに変わりない』
(<`十´> 『ゆっくりと、そのまま敵から目を離さずに後退しろ。
敵の出方を探り、追ってくるのならば仕留める』
( ^ω^) 『追ってこなかったらどうするんだお?』
(<`十´> 『家へ帰れ。マスターが逃げれば敵も今夜は下がるだろう。
奴らからすれば、お前のサーヴァントのクラスが絞れただけでも大した情報だ。
だがそうはいかん。私が撤退する敵を追跡し、仕留める』
244
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 22:36:10 ID:QCpLB3rI0
(;^ω^) 『仕留めるって、ツンは……』
口に出しかけたところで、ブーンは躊躇った。
攻撃してくるのならばと先程は無意識で拳を振るったが、
平静を一度取り戻すとやはり、ツンを傷つけたくはないという気持ちが勝ってしまう。
(<`十´> 『知っているさ。夕刻の会話、聞かせて貰ったぞ。だから私がここにいる』
アーチャーは彼らの関係を知った上で今夜、現れた。
ブーンの気持ちをよく理解し、利用してこの戦法を取ったのだ。
聖杯を掴み取る為に召喚に応じ契約を交わすサーヴァント。
そして聖杯を欲するマスター。
あらゆる願いを叶えるという聖杯を手にする為に呼ばれ、
自らにも求める理由があるからには、己の"任務"を最大限に全うするのみだ。
サーヴァントとはそういうものなのだ。
6人の魔術師とサーヴァントを討ち取るマシーンなのだ。
私情などを挟むブーンはアーチャーに蔑まれて当然である。
聖杯戦争を勝ち抜くべくアーチャーという武器を手にしたのは彼なのだから。
(;^ω^) 『アーチャー!』
245
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 22:39:10 ID:QCpLB3rI0
(<`十´> 『恨み言を聞いてやる時間はない。下がれ』
(;^ω^) 『くっ!!』
苦虫を噛み潰したような表情でブーンは一歩下がっていく。
視線はツンとライダーへ向けたままだ。
ξ゚⊿゚)ξ 『逃げる気ね』
( ゚_ノ゚) 『そのようだ、敵サーヴァントの居場所が読めん。
こちらにとって攻め込むには不利だが、
奴からしてみればこちらを攻めるに不利だ。距離が離れてしまってはな』
ξ゚⊿゚)ξ 『狙撃が失敗した今、撤退するほうが無難、ということね』
ツンはブーンの動きをじっと観察し、ライダーは弾丸が飛んできた方角を見やるその間も、
ブーンはまた一歩後退し公園の外へと向かっていった。
(;^ω^)
ξ゚⊿゚)ξ 『仕方ないわね。今回は見逃しましょう。
ブーンのサーヴァントが、遠距離攻撃が出来るってことがわかっただけで―――』
意思をライダーへと送る、その最中。
突如として疾風が舞い込んできた。
246
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 22:41:49 ID:QCpLB3rI0
(;^ω^) 「なっ!?」
疾風の中、ブーンはそれを見た。その者が見えた。
その身を守る鎧は西洋の物ではなく、東洋の具足と呼ばれる物。
両腕を覆う金属板は矢と槍から頭部を守るべく長方形に広がり、
兜には鹿角を模した装飾がなされている。
闇に紛れるかのようなその具足は禍々しさを放っていたが、
何よりブーンの目を引いたものは肩に下げられた黄金の数珠と、
長さ5メートルは優に越える長槍だ。
刃ですら50センチ近く、切っ先は鋭く笹の葉の如き形状をしており、
街灯に照らされただけで暗闇が霞むような眩い光を放っていた。
それはブーンの槍という物の概念を変えてしまった。
驚きとも興奮ともつかない奇妙な気持ちをブーンは味わったのだ。
本で、斬馬刀という長すぎる太刀を初めて見た時の感覚にこれは似ている。
こんな物を使って本当に戦えるのか?
一体重さは何キロあるというのだ?
目,`゚Д゚目
見るからに扱いにくそうなこの槍を、
片手で軽々と持ち上げるこの男は、一体何者か?
247
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 22:43:40 ID:QCpLB3rI0
その問は、愚問である。
(<`十´> 『マスター敵だ! 脇目も振らずに逃げろ!! 全力だ!!』
唖然とするブーンへアーチャーは怒号を飛ばす。
人形のように立ち尽くしていたブーンよりも早く、敵は彼を見た。
目,`゚Д゚目 「聞けい! 我は槍がサーヴァントランサー!!
内藤ホライゾン殿、御首頂戴致す」
振り返ると同時に、ランサーは槍を構える。
切っ先は長槍ゆえブーンの喉に触れかかっており、
些細な力が加えられただけで肉を突き破ることだろう。
(;^ω^) 「……」
だが、ブーンは動かなかった。
槍の放つ輝きとランサーの強烈な殺気が、彼から意思を奪い取っていたのだ。
蛇に睨まれた蛙の如く、動くことが出来なかった。
目前にまで突きつけられた刃はこれから自分の喉を掻き切る。
そんなことも理解出来ないほどに、彼は恐怖に支配されてしまっていた。
逃げようと思考することも許されない。
身体全体を強固な鎖で縛り付けられているようだ。
248
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 22:45:58 ID:QCpLB3rI0
目,`゚Д゚目
ランサーの目は己の得物に匹敵するほど鋭く、ブーンの瞳を射抜いていた。
そして行動は迅速だった。
構えられた槍が横凪に振るわれる。あ、と声を出す間もない。
代わりに金属音が響いた。
目,`゚Д゚目 「見切っているぞ、アーチャー」
視線を離さず、ランサーはそうアーチャーへと告げた。
ブーンの視界の端へと槍は振るわれており、切っ先から火花が散る。
(<`十´> 『……ッ! マスター! 早く逃げろ!!』
再びアーチャーの怒号。
自然と足は動いていた。
言われたとおり脇目も振らずに、後方へと。公園の外へとひた走る。
アーチャーの声により緊張が解け、槍とともに恐怖が遠のいたのだ。
人は痛みを恐怖する。ブーンは包丁で指を切った経験があった。
あの槍に刺されればそんなチンケな刃物と比べ物にならぬ痛みを味わうだろう。
だからそれとの距離が離れたことで硬直状態から脱することができたのだ。
249
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 22:49:16 ID:QCpLB3rI0
目,`゚Д゚目 「敵に背を向けるは万策尽きた者のすること!
恐れからくる逃走であるならば、なおのこと!!」
しかし"恐怖"は既に背後から迫っていた。
逃げ出し距離を離したブーンへ、一足飛びのみで急接近したのだ。
槍を振るった、そのままの姿勢でだ。
上半身を捻り込むことで足から加わった力を槍へ乗せ、
風の唸る音と共にブーンの胴へ柄が炸裂する。
(;゚ω゚) 「ぐぅぅぅぅッ!!」
衝撃は肋骨を打ち砕いて肺にまで達して収縮し、一時的な呼吸困難の苦しみに襲われた。
吹き飛んだブーンの身は地面へと激突して跳ねるが、
積もっていた雪がクッションとなってそれ以上の傷は負わずにすんだ。
うつ伏せに倒れたブーンをランサーは更に追撃する。
アーチャーが援護するべく狙撃するも、やはり弾かれた。
硬質な音が、虚しく響き渡る。
目#`゚Д゚目 「無駄だ! アーチャーよ、遠矢からでは拙者を討ち取れぬぞ!?
出て参れ!! 主君の危機を眺めるだけの臣があろうか!?」
250
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 22:52:52 ID:QCpLB3rI0
(;<`十´> 「チィ……」
ランサーの言葉通り、アーチャーが正面から立ち向かえばブーンを守ることは出来るだろう。
彼の位置からの狙撃では着弾まで数コンマほどのタイムラグがあり、人間同士の戦闘ならばいざしらず、
音速の域に達する速さで移動する、サーヴァント同士の戦いにおいては大きな負い目だ。
相手が敏捷に長けるランサーであるというのならば致命的と言えよう。
だからと、ランサーの前に出ればそれこそ思う壺だ。
アーチャーは遠距離攻撃を得意とするクラスであり、
逆を言えば接近戦では有用な攻撃手段をあまり持たない。
比べて、ランサーは近接戦闘のエキスパート。
敏捷、筋力、耐久において彼に勝るステータスは無いだろう。
考えうる限り最悪の状況である。相手はあのランサーだけではなく、
ライダーとそのマスターツンまでいるのだ。
もしライダーがランサーと共にブーンへ攻撃を加えれば、もはやアーチャーに防ぐ術はない。
ブーンが殺されたとしてもアーチャーは他のマスターを探し、
契約を行えば良いだけの話しだが、見つかるかは運だ。
単独行動スキルにより他のサーヴァントよりは長生きできるが、
魔力が尽きれば肉体を維持できなくなりアーチャーの聖杯戦争はそれまでとなる。
しかしその僅かな望みでさえ潰すため、ランサーはアーチャーを引っ張り出そうと挑発しているのだ
251
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 22:55:35 ID:QCpLB3rI0
(;<`十´> (もしだ。もし、これが単なる偶然で、偶然で私達の戦闘に遭遇し、
迷わず私のクラスを特定し、あの少女とサーヴァントから逃げようとしたマスターを狙い、乱入し!
ランサーに誘き出させようとしているのなら、そのマスターは何者だ?)
(;<`十´> (戦い慣れし、聖杯戦争を知悉した者だ。そいつは始めから私を狙っていたのか?
マスターだけを始末しても私は単独行動スキルで数日生き延び、新たなマスターを見つけることも、
私のマスターを始末したそいつに復讐することも出来る。奴にとって私はアサシンほど厄介なのだろう)
(;<`十´> (だとしたら、何時から見ていた? 何時から私たちの戦闘を、行動を監視していた?)
アーチャーのライフルにはスコープはついていなかった。
陽光や電灯によってガラスが反射する恐れがある為だ。
故に彼は伝説となり、こうしてサーヴァントとして戦っているのだ。
生前から行っていた肉眼による長距離射撃は、固有スキルである千里眼が補助し、
最新式の光学照準器よりも正確な狙撃を可能とする。
だがその狙撃も、この状況では歯が立ちそうにはない。
――――たった一つの攻撃方法を除けば。
(<`十´> (この距離、真名開放を行えば仕留められる。
標的は3つ。例え"宝具"を開放しようとも目撃した敵を全て消せば……)
宝具の使用は諸刃の剣である。
一撃で敵を屠るほどの威力を持つ物や、戦況を絶対的に優位に立たせる物などがあるが、
皆全て、英霊の過去や伝説に纏わる武器であり、使用すれば真名が露見してしまう恐れがあるからだ。
真名が分かれば、後は文献を調べて弱点を見出しそこを叩けばよい。
252
:
名も無きAAのようです
:2012/09/08(土) 22:56:19 ID:dzQ0jLO60
キタ
253
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 23:00:17 ID:QCpLB3rI0
アーチャーにとってこれは起死回生の一手でもあり、地獄行きへの切符でもある。
(<`十´> 「何、変わりはない―――」
目#`゚Д゚目 「アーチャー、貴様! 腑抜けめッ!!」
ランサーが動きを作る。
攻撃の挙動だ。前進し、槍を振り上げて起き上がろうとするブーンの首を刎ねようというのだ。
もはやアーチャーが割って入ろうにも間に合わない。
一瞬の猶予もならない事態にもかかわらず、アーチャーの心は穏やかだった。
身体に力が篭ってはおらず、引き金にかけた指の動きは恋人に愛撫するかのように優しかった。
その指つきが、かつて505人もの兵士へ死を与えた魔弾を放つ。
(<`十´> 「これも、訓練だ」
雪と一体化した狙撃兵は独白する。
―――そして、
グリムリーパーバレット
(<`十´> 『白き死神の魔弾!!』
宝具の真名が謳われると共にライフルへと死神が込められていき、
高密度の魔力を帯びた十六の弾丸がランサーを撃ち抜いた。
254
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 23:02:48 ID:QCpLB3rI0
******
彼女は夢を見ていた。
懐かしき故郷の乾いた風の匂いが鼻腔を満たし、
建物に遮られることなく照りつける陽の光が肌に心地よい。
石で作られた店の並ぶ市場を男に連れられて彼女は歩いていた。
足に伝わる熱砂の感触は小さな針が無数に突き刺さってくるようで、
時たま転がっている石を踏んでしまった時などは槍で刺されたかと思うほどだ。
だが、奴隷には靴など与えられない。服があればいい方だ。
その服も自分を売っていた店主に破かれてしまったのだが、
"クー"という名と共に男は服を与えてくれた。
もはや服としての役割を果たさないボロ切れの上から、
自分の新たな人生への一歩を踏みしめる気持ちでそれを羽織った。
オリーブドラブという濃い緑色の生地で作られたコートを、
人はミリタリーパーカーともモッズコートとも呼ぶ。
モッズの人々に好まれたことからモッズコートとの名が付いたのだが、
元はアメリカ軍に採用された物で、男から与えられた物の装飾性は低く、
無骨なデザインで本来の用途で扱われるべく作られたのだろう。
彼は兵士だった。クーの故郷の地形に溶け込むべく砂漠を模した迷彩服を着込み、
首には似たような色のストールを掛けていて、何よりもクーに「兵士だ」と思わせた物は、
ベルトで肩に掛けていたアサルトライフルだった。この銃にまで迷彩は施されている。
255
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 23:03:50 ID:QCpLB3rI0
クーが羽織っているコートは戦場で使うわけではなく、
市場へ出かける際の日除けとして羽織ってきた物なのだろう。
目付きが険しく表情には生気というものが感じられない。
自分を買った主を観察しながら付き従っていると、不意に言葉をかけられた。
「あぁ、そういえば靴を持っていなかったな。痛むだろ?」
抑揚のない声だ。
その意味をクーは見出そうとする。
自分を買い、すぐに手放して家へ返そうとしたこの男の心理が気になり、
"良い人"なのか"悪い人"なのか探り続けているのだ。
服装を観察していたのもこの為だ。
しかし、どちらか判明しないまま付いて来たのは彼女のほうだ。
いや、彼女にはそうする他なかった。
帰る家などもう無いのだから。
川 ゚ -゚) 「うん」
短く返し、次に男がどんな言葉を投げかけるのか、
神経を研ぎ澄ませて耳を立てていく。
256
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 23:05:14 ID:QCpLB3rI0
「コートならサイズが大きくても良いが、靴はそうはいかねぇよな……」
実際、わずか十歳でしかないクーにはミリタリーコートは大きすぎた。
手どころか足まで隠してしまい、歩く度裾が引きずられてしまっている。
男が目指す場所に着く頃にはボロボロになっていることだろう。
しかし、靴は小さすぎても大きすぎても履くことは出来ない。
裸足で砂上を歩くクーのことを気に病んでいるらしく、
男は市場をキョロキョロと見回し始めた。
が、靴を売っている店は中々見つからないしあったとしても大人のサイズしかない。
無表情のまま立ち止まり、口に手を当てて何やら考え事をすると、彼は屈みこんだ。
クーに背を向けたまま、
「肩車だ、肩車。靴なら後で用意する。良いか? 肩車だぞ?
おんぶはダメだ。暑いからな」
川 ゚ -゚) 「……」
いきなり、そんなことを言われてクーは子供ながらに戸惑った。
見ず知らずの大人に急に肩車をすると言われても、乗り難い。
第一、クーは奴隷として買われた身なのだ。
主人の肩に乗る奴隷などいようものか。
彼女には、この状況を理解出来なかった。
それでも「ほら」と急かされてはそうする他ない。
恐る恐る迷彩服の肩へ足を掛けていき、前屈みになって安定を取る。
両足が乗った感触を確かめた男は「立つぞ」と声をかけた。
257
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 23:06:30 ID:QCpLB3rI0
川 ゚ -゚) 「あっ」
浮上していく視点。
地面が離れていきより多くの物が見えた。
ダンボールを集めて作った台の上に乗せられた果物、
壊れかけ錆が浮くラジオなど機械を売っている店と豚を解体している男。
色々な物が目に移り、市場を見渡せるようになった。
川*゚ -゚) 「わぁ〜」
子供らしい純粋な感動が胸を満たしていった。
心臓が高鳴り全身が嬉色に染まっていくのを覚えた。
「歩くぞ、落ちるなよ」
対照的なほどぶっきらぼうな声が返る。
男が一歩進む度に視界が揺れたが、それすらにも喜びがあった。
これ以上素足で歩かせぬ為にしただけの肩車は、クーに様々な想いを巡らせる。
想いには、悲しみも含まれていた。
川 ゚ -゚)
足から伝わる筋肉の硬さと太さが男の屈強さを伝え、クーに安らぎを与えたのだが、
そんな頼りになる男がほんの数日前まで共にいた父と兄を想起させたのだ。
258
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 23:08:40 ID:QCpLB3rI0
父達の背は彼ほど逞しくはなかったが、クーにとっては絶対であった。
牧家であった彼女の家は市場から離れており、
少し遠出をすれば獣や害虫に襲われることもあったのだが、彼らは必ず守ってくれた。
男家族の頼もしさは母や兄弟、そしてクーに安寧を与えていた。
父と長男がいればどんな苦難や危険も乗り越えられるだろう、なんとかしてくれると、
普段そんなことを思うことはなかったが、それほどまでに安全を保証されていたのだ。
だが、父は"聖戦士"達に銃弾で穴だらけにされ、兄は片腕を切り落とされてしまい、
母とクー達は乱暴されて奴隷として市場に卸された。
妹が二人いたのだが早々に売り落とされ、母は聖戦士達の元にいる。
家族は離れ離れになってしまったのだ。あんなに強い父と兄がいたというのに。
男の肩が物語る強さは彼女にとって空虚なものだった。
空虚であるだけならばまだ良い。蘇っては痛みを与える記憶がその空虚を満たそうとしてくるのだ。
喉の奥が乾いていき、目が熱くなってくる。頬を涙が伝っていく。
気道に何かが突っかかったかのように苦しかった。
それでも、心の叫びが嗚咽混じりに口から漏れ出てきた。
川 ; -;) 「私は……どうしたらいいの? どこへ行けばいいの?」
鎖に繋がれて店の前に出され、買い手を待つ日々は思考能力を奪う。
何かをする自由を与えられずただ使役され、店主の相手をさせられる。
まだ10歳の少女にとってどれほど過酷な日々だったのだろうか。
259
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 23:09:47 ID:QCpLB3rI0
しかしそんな時にこの男と出会い、買われた。
飼い主が変わるだけで彼女の日々に何の変化ももたらさないはずだったが、
この男は「家に帰っていいよ」と自由を与えた。
とぼけた命令だ。
「帰る家が奴隷にあるはずがない!」と怒鳴り返す者もいるだろうが、
クーの中にその言葉で生まれたものは問いであった。
「どうして?」「どうすれば?」「どこへ?」と疑問ばかりが生じる。
目の前で行われようとしていた邪悪な行為を止めようと、
手を差し伸べただけだった彼には迷い続ける彼女を救うほどの覚悟はなかった。
しかしその問いを聞いた彼は、今度は覚悟を決めて、
少女を"救う"覚悟をして再び手を差し伸べたのだ。
「君は新しい家で暮らすんだ。父もいなければ母もいないし、兄弟だっていない。
だがそこは君の新しい家であり出発点だ。いずれは独り立ちをするものだが、
それまでは俺が君を護り育てよう。不自由をさせるだろうが、俺が与えられる限りの物を与えてやる」
260
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 23:10:59 ID:QCpLB3rI0
川 ; -;) 「貴方が、私を育てる?」
「あぁ」と短いながらも力強い声を男が返す。
だが、その頼もしさがクーには不安だった。
彼との生活に不満はないが、再び家族を失うことが怖かったのだ。
川 ; -;) 「貴方は……大丈夫? し、死んじゃうんじゃ……」
問いの真意がもしかしたら、この言葉では伝わらないかもしれない。
クーにそんなことを考える余裕はなかったが、
男は少し笑って、肩に乗るクーにもそれは聞こえた。
「大丈夫さ、クー。ここだけの話しだが、俺は魔法が使えるんだ」
今のは、冗談なのだろうか。どんな冗談なのだ。
どこが面白いのだろう。意味もわからないしつまらないが、
川 ;ー;) 「ふふっ」
釣られて、クーも笑った。
261
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 23:14:36 ID:QCpLB3rI0
******
円山の木々が生い茂る場所で、クーは目覚めた。
人であった頃の記憶が夢として蘇り、暖かい気持ちが懐いていたが、
それも空腹によって意識を呼び覚まされたとあっては消し飛んでしまう。
川 ゚ -゚) 「行くゾ、バーサーカー。食事ダ」
彼女は、血に飢えていた。
人間の頃に抱いた喜びも死徒には必要のないものだ。
魂蟲によってズタズタにされた声帯も、死徒故の高い治癒力により、
徐々に治り始め人間らしい発音が出来るようになってきた。
それが必要か不要かは分からないが、肉体はそう適応した。
バーサーカーは霊体から肉のある身体へと変化して現れると、
「――――――――ッ!!」
応じるようにそう叫んだ。
森の中で響き渡る咆哮に動物達は一斉に逃げ出す。
野生に生きるものたちの生存本能が危険を訴えたのだ。
狂気の闇に染まる鎧に覆われた巨体が、荒野を行く百獣の王の如く山を降りていく。
そんな恐るべき存在を、付き人のように後ろを歩かせる黒いドレスを纏ったクー。
異様な二人を前にして近寄ろうと考える者はいないだろうが、
262
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 23:16:48 ID:QCpLB3rI0
「お姉さんどこ行くの!? 綺麗なドレス着てるね〜。
ちょっと遊んでいかない? 俺さ〜遅くまでやってる良い店知ってんだよね〜」
街に降り立ったところで、ドレスから覗くクーの珠のような白い肌に魅了されたのか、
街灯に群がる羽虫さながらに男が声をかけてきた。
「ねぇどう? コスプレならさ、もっとイイ衣装あるしさ〜奢るよ〜?」
この男は背後のバーサーカーに対して愚かな勘違いをしているらしい。
妖艶でいて、危険な微笑をクーは浮かべると、
川 ゚ー゚) 「お前はウマイのカナ?」
「やっだな〜お姉さ〜ん。俺そんなんじゃないよー。俺ってさ、ピュア。ピュアだがば……」
男の喉笛を噛み千切り、言葉を遮った。
両腕を押さえ込んでいくクー。抵抗させぬ為でも逃さぬ為でもなく、
これは単に食べやすいように小分けする為に行われた。
クーの細腕には吸血鬼の怪力が宿っており、人間でしかない男の腕など小枝を折るほど容易い。
掴まれた両腕が呆気なく引きちぎられてしまうが、喉を食い破られた男には悲鳴を上げる事もできなかった。
263
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 23:17:55 ID:QCpLB3rI0
川 ゚ -゚) 「マズイな……」
ぷっ、と肉片を吐き捨てると拳程もある蟲が死体を這っていき、食い尽くしていく。
バーサーカーも腕の欠片を拾い上げると口に含み、魔力を補充した。
人間の体内に生じる魔力(オド)などサーヴァントにとって微量なものでしかないが、
塵も積もればなんとやらだ。そして"塵"はこの街に履いて捨てるほどある。
バーサーカーとクーは通行人を見かけると一目散に駆け出し、喰らっていった。
人々が住まい生活する円山の街はもはや、弱肉強食の世界と成り代わった。
死徒より食物連鎖の下に立つ人間達は彼女にとって食料にしか過ぎない。
幸い夜遅く、人通りは少ない為犠牲者は少なく住んでいるが、
クー達がこのまま東へ向かえばそこには北海道の中枢を担う札幌がある。
大都市にこの二匹の化物が訪れれば未曾有の大量殺戮が起きてしまうことだろう。
だが―――それを許す"正義の便利屋"ではなかった。
(,,゚Д゚) 『trace―――on!』
必死に馴染ませた呪文が発され、黒白の夫婦剣が、
死肉を貪るクー達へ立ちはだかるギコの両手に現れた。
<人リ゚‐゚リ
蒼白のプレートアーマーを纏う少女、セイバーと共に彼は邪悪へと斬りかかっていく。
264
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 23:19:39 ID:QCpLB3rI0
第5話 「trace―――on!」part 乱世エロイカ③ 投下終了
これからおまけ投下
265
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 23:20:24 ID:QCpLB3rI0
日本式住宅の立ち並ぶモダンな住宅街の中、異色を放つ家屋がある。
真新しく、西洋様式を取り入れた洋館じみた建築物。
古めかしい、未だ木造建築が目に付く街の、
近代化の先駆けと言えるその一軒家は、津出家の住まいだ。
鍵を開けて、玄関へと赤いダッフルコートを羽織ったツンは入っていき、
ξ゚⊿゚)ξ 「ただいま帰りました、お母様」
大理石をローファーで踏み鳴らすと習慣通り挨拶をした。
ζ(゚ー゚*ζ 「あら、お帰りなさいツン。寒かったでしょう?」
するとすぐさま母、デレがやってきて娘を迎える。
揺れるブロンドは絹がごとく、サファイアを思わせる瞳をした淑女は、
西欧系の白人である。仕草の一つ一つが優雅で、育ちの良さが伺われた。
ツンが礼儀正しく、きちんと「ただいま」と言えるのは単に、
彼女の教育の賜物と言えるであろう。
ξ゚⊿゚)ξ 「お母様、心配いりませんわ」
が、ブーンと話している時と比べると、まるで別人だ。
勝手知ったる仲であるから、と言えば聞こえは言いが、
この少女は猫を被っているにしか過ぎない。
266
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 23:21:24 ID:QCpLB3rI0
ツンの凶暴性とも猛々しさとも言えるものが出ることは滅多になく、
社交性があると称える者もいることだろう。
実際彼女は、上手く立ち回っていた。
学校では成績優秀な上に容姿端麗で、素行も良い。
どの親が見ても「自慢の娘さん」と呼べるだろうが、
ツンは父モララーに恥じぬよう生きてきただけで、
目標達成には貪欲な少女である。
彼女の目標にして、モララーの悲願であった“根源への到達”だ。
何らかの障害が生じた際には"お嬢様"の皮などズルリと剥げる。
ζ(゚ー゚*ζ 「あら、そう。ココアでも飲む?」
リビングへ向かいながら、デレはそう訪ねた。
ξ゚⊿゚)ξ 「いえ、遠慮しておきますお母様。私は今夜"ライダー"と共に討って出ますので、
仮眠を取ろうと思います。くれぐれも、夜は出歩かないようお気をつけて」
ζ(゚ー゚*ζ 「わかったわ。無茶はしちゃダメよ? 危なくなったらいつでも戻ってきなさい」
ξ゚⊿゚)ξ 「お母様、敵の追撃に合うかもしれないというのに、
ここへ引き返すことなど出来ませんわ。
出会った敵は全て、片っ端から薙いでいきます」
267
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 23:23:07 ID:QCpLB3rI0
ζ(゚ー゚*ζ 「貴女も一流の魔術師だけど、聖杯を求めて札幌にやってきた魔術師達も、
みんな腕に自信があるからこんな殺し合いに参加してるのよ?
敵を過小評価してはいけないわ。いざとなったら私もツンの力になるわ。だから―――」
ξ゚⊿゚)ξ 「敵も一流であるというのなら、札幌は既に戦場であるということも理解してくださいお母様。
こうして家にいることも危険です。魔術を扱えるとは言え、
サーヴァントがいなくては丸腰であるのと同義。そう説明していたはずです」
ζ(゚ー゚*ζ 「でもね、ツン……」
ξ-⊿-)ξ 「今からでも構いません、お婆様のお宅へお向かいください。
聖杯戦争が始まった今となっては――――」
苛立ちを堪えながらも、ツンは自室へ向かいながら言い放つ。
ξ ⊿ )ξ 「お母様は足でまといです。お父様の為にも、私の為にも早く……お願いします」
心無いを言葉を吐いてしまい胸を痛めつつも、
ツンは二階にある自室への階段を上っていった。
ζ(゚ー゚*ζ 「ツン……私は、母親として貴女を守ってあげたいだけなのよ?」
娘の背を見送ったデレは、彼女の主張を最もなものだと理解しながらも、
ここから離れるわけにはいかないと、決意を固める。
デレの言葉は二人っきりの家の中で生まれた虚無へと、溶けていってしまった。
268
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 23:24:51 ID:QCpLB3rI0
******
陽が落ち、カーテンによって月明かりすら差し込まぬ、
暗闇に包まれた部屋に軽い電子音が響く。
ξ-⊿-)ξ 「ん……」
寝ぼけ眼でベッドを手探るものの、音源は見つからず、
苛立ちを募らせたツンは身に震えを覚えた。
寝返りを打ってみると、身体のあった場所でケータイが震えていた。
ξ#-⊿゚)ξ 「うっさいわねぇ」
スライド式のそれは以前似たような失態を晒してしまったが故の配慮だ。
ケータイ上部を展開したツンは耳障りなアラームを切り、時刻を確認する。
十九時四十六分―――可笑しい。
アラームは三十分に設定してあったはずなのだが……。
鈍い頭を擦り、崩れたブロンドを震わせるツン。
ξ;゚⊿゚)ξ 「あっ!」
思い至ったものはリジューム機能である。
アラームにも気づかぬほど熟睡していた彼女は完全な寝坊をかましてしまったのだ。
事切れたアラームは三十分を過ぎて持ち主を目覚めさせるべく、
リジュームにより電子音を響かせ、その事実を確認するまでもなくツンはベッドから飛び出す。
269
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 23:26:29 ID:QCpLB3rI0
壁に打った釘へ掛けた衣紋掛けから赤いダッフルコートをひったくると、
己の魔術礼装であるアミュレットを見やる。寝る時であろうとこいつは欠かせない。
これが自身を守る武器となるのだから。銃社会に住まう者が枕元に銃を隠しておくのと同じことである。
ブーンはブレスレットだと言うが、この魔術礼装は正しく言うとアミュレットなのだ。
アミュレットとはいわゆる護符やお守りといった物の類で、霊的な悪しき力を断つと言われる。
それにはツンの青い瞳とは対照的な、鮮やかな真紅を持つルビーが嵌められていた。
ルビーを基点として、黄金の輪を這うかの如く刻まれた文字は、
今は失われた言語で組まれた呪文であり、津出家の初代当主の血で綴られている。
同じ血が流れる者にはこのアミュレットは歯車が噛み合うかのように合致し、
詠唱の補助から魔力の高効率化までを成し遂げ、術者の魔術回路と共に魔術を放つ。
言ってしまえば魔術刻印のようなものだ。
きちんと先祖代々より受け継がれてきた礼装を確認したツンは、
"敵"が辿るであろうルートで待ち伏せるべく、部屋から飛び出していく。
目も当てられぬような失態で、時間を無駄に消耗してしまった。
270
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 23:27:21 ID:QCpLB3rI0
猶予はない。
ぎり、と歯ぎしりの一つでもしたかったが、そんな時間すらも惜し―――
ξ゚⊿゚)ξ 「……」
―――いのだが。
( ゚_ノ゚) 「1っ、2っ、3っ、4っ! 5っ、6っ、7っ! 8っ!!」
扉の前で床に座り込み、上半身を前へ可能な限り倒して柔軟体操を行う、
軍服のズボンに白いランニングシャツ一枚という、ラフな格好をした金髪男が邪魔だった。
ランニングから伸びた白い腕は太く、汗の粒が輝く。
上体をゆっくり起こしていく男は、
( ゚_ノ゚) 「……」
ξ゚⊿゚)ξ 「……」
一瞬ツンと顔を見合わせたが、
271
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 23:28:23 ID:QCpLB3rI0
( ゚_ノ゚) 「2、2、3、4っ! 5、6、7……」
再び身を伏せて屈伸運動を続けていくものの、
ξ#゚⊿゚)ξ 「無視してんじゃないわよ!!」
怒号と共に浴びせられたツンの蹴りに背中から倒されてしまう。
思わぬ仕打ちに頭を打ち付けたが、屈強な肉体を持つ男はけろりとしてツンを見た。
軽く息をつき、まるでくつろぐかのようにそのまま脇にあった牛乳パックを手に取る。
ごく、ごくと喉を鳴らして牛乳を飲み干していく男は、
( ゚_ノ゚) 「どうしたマスター? 何を慌てている」
ξ#゚⊿゚)ξ 「人の家の牛乳勝手に持ってきて呑気に体操してる場合じゃないの!
私は霊体化していたアンタに今夜敵マスターと戦うって伝えたはずよね?」
( ゚_ノ゚) 「マスター。誤りがあるぞ? この牛乳は君のムーター(母)に貰ったものだ」
ξ#゚⊿゚)ξ 「……そんなことは聞いてないわ。"ライダー"、作戦を忘れたのかしら?」
( ゚_ノ゚) 「正面から立ち向かい、実力でねじ伏せる。そんな物は作戦とは呼べんよ」
ξ#゚⊿゚)ξ 「あら、不服かしら?」
ツンにとって策謀などは不要であった。
272
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 23:30:22 ID:QCpLB3rI0
聖杯戦争は聖杯を奪い合う戦争と銘を打っているものの、
これは魔術師同士の魔術の競い合いである。
誰何かの魔術師が根源への到達に相応しいか、聖杯によって篩にかけられるのだ。
ならば正々堂々と魔術によって他者を圧倒するのみ。
最も根源へ到達するにたる魔術の腕を持つ者が聖杯を手にするのだから。
父から十全な状態で魔術刻印を引き継ぎ研鑽を続けてきたツンには、
己こそが根源へ到達するに値する魔術師である自信があった。
怒りに染まった瞳の奥に、実力に裏打ちされたその自恃を見取ったサーヴァント、
"ライダー"は不敵に微笑んだ。
( ゚_ノ゚) 「いや、敵がいるのなら撃滅する。出撃だ」
立ち上がったライダーは踵を合わせ、不動の姿勢で敬礼をマスターへ捧げる。
それは腕を斜め上に張り出すナチス式敬礼であった。
ツンとライダーの作戦が今夜、開始されようとしていた。
273
:
名も無きAAのようです
:2012/09/08(土) 23:33:37 ID:dzQ0jLO60
おまけ終了か。やっぱ引き込まれるなこの話。乙やでーい。
274
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 23:33:58 ID:QCpLB3rI0
おまけ終わり
投下遅れてすいませんでした
今月末にもう一度投下出来ればいいかなと思っています
275
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 23:36:15 ID:QCpLB3rI0
>>273
乙ありがとうございます!きっとfateという元ネタの魅力のおかげでしょう
投下遅れても読んでくれることに感謝。
276
:
名も無きAAのようです
:2012/09/08(土) 23:39:08 ID:SUR4swNM0
結構近代の英霊が多いんだな、もしも〜みたいな感じで好きだわ
277
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/08(土) 23:48:54 ID:QCpLB3rI0
>>276
僕の考えた最強のサーヴァント()を集めて北海道舞台で書きたい、という思いから書き始めました。
ありがとうございます
278
:
名も無きAAのようです
:2012/09/09(日) 09:03:01 ID:cI5hYG3s0
乙
みんなかっけぇのにブーンだけしょっぺぇなwwwww
覚醒すんのかwww
279
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/09/21(金) 23:38:52 ID:HyRI3nPU0
今月は厳しいので、来月末くらいを目処に次の投下を考えています
もう少々お待ちを
280
:
名も無きAAのようです
:2012/09/22(土) 06:49:50 ID:Vd2IKoZU0
まぁゆっくりな
281
:
名も無きAAのようです
:2012/09/22(土) 12:57:05 ID:zB6IN/Fc0
リョーカイでーす。
282
:
名も無きAAのようです
:2012/09/27(木) 10:06:29 ID:2Y6qSEacO
追い付いた
原作知らんけどなかなか面白い
因縁が絡み合っていくな
283
:
名も無きAAのようです
:2012/10/15(月) 23:41:26 ID:Phpmb.dI0
もうすぐだな。
284
:
名も無きAAのようです
:2012/10/22(月) 01:17:17 ID:UUu7PF720
あぁ、もうすぐだ。
285
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/10/23(火) 18:34:53 ID:ZAsAokfo0
/{,
! ヽ,
| ヽ, ,イ
l, ヽ / /
!, \ / /
ヽ i、 ,i" /
\ ヽ、 ,rーー、 ,r' /
\ ゝ、 iレ<ッソ ,r' /
\ `、 ,rーッヽ'イ、 ,r' /
\ ヽ_ ,.-'´ : ;リ`ヽ;iヽ\ ,r'" ,/
\ ヽ ,. - ': : :_;、: ::/l_;};;;{_ヾ! / ,/
ヽ_, ,.-ヘ─'´: : ;.-‐'´ `\;〉イi;7i':::\ / /
_,,..------.、 ヾ彡ヘ-─'´ r'`フ=={ヽ: :`ヽ-;ッ-、 /
 ̄ ̄ヾ、:.`ヽ、 _ヽ〉 ,rー'´_;ノ:;;:i};:ヽ\``'7'クシ'´ _,..--‐;:=ー
,-=;' ´ ̄ ̄ ̄: : : : : :.``ー─‐‐'"ブ´:::-、::::リシ::\``'ー'--‐'' ´ /´`
〈 ;:、 ;:: -─-,.-ッ: : : : : : : ;/:ヾヽ:;:-'ヘ:;:::/ヘiヽ、: : : : : : : :ヽ、__
/'´ '´ ,rー'´: : ;: : :,.-‐ヘ\:::;>"´: : : : :``'、:::!レ彡、: : : : : : : : : : : :`ー- 、
,..‐'´: : : :;;r','/:::::::::::;ゞ'´: : : : : :.i"::::`ーッネぐ:::::ヽ: : : : : : : : ; -─'⌒`
_,..- ''´: : : : : ;:_ノ;ヘヾ!::::::;/: : : : : : : : : }ヾ、r={{::::::{{:::::::::): : : : : :/
´  ̄`ヽ;.:- '´ /::::::゙ヾゞ'´: : : : : : :; : : : :.'!;::::;i  ̄r'^‐<、,、:(⌒′
,ヘヽ;::::/ヽ、: : : : : //-─ー^ー'`` ̄` `
/::::::ツ'´ ゝ─-i'´ ′
,..〈;::::::/
/:ヽニソ'
i' ̄ヽ;/
ヽ._,/
10月31日の23時頃に出来れば投下したいと思います
所用によって出来ない可能性もありますが、その際はまた報告させて頂きます
286
:
名も無きAAのようです
:2012/10/23(火) 19:17:53 ID:LjnB6O220
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
まってたわ
287
:
名も無きAAのようです
:2012/10/23(火) 19:26:00 ID:a8V/VFO20
待ってた!後誰だったっけこのAA
288
:
名も無きAAのようです
:2012/10/23(火) 19:57:10 ID:o0IgIWzg0
待ってる
289
:
名も無きAAのようです
:2012/10/23(火) 21:55:35 ID:eq6Sgaaw0
来たか
かっこいいアーチャーじゃないですかー
290
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/10/30(火) 15:06:08 ID:psvYex6A0
予告通り明日投下します
しかし、少々短くなりそうです。申し訳ない
/ : : : : : : : : 〉′: : : ::::::|:/ |: :/│:{: : : |:..:/ 1ハ: : :..:.:::::::| |: ::: : : : : : : : \
/: : ::::::::::::::::::::}: /: :..:.::::::::|',__|:/ !/|: : :ハ:.:{ __,|i斗-- ::::::::| |::::::::::::::::::::::::::/
 ̄ `ヾ:::::::::::::::::|∧: : ´ ̄/二ヾ{==--!: :/ |: |===彡--リ-|: : : ::::::::| |::::::::::::::::::::/
\:::::::::}::::}: : ::::ィ:iγ⌒ヽ\ヽ!:/ :::! /γ⌒ヽ!:ヽ::::::/:j/:::::::::::::::/
. /::::::/:::rヘ:.:.:::::::l.乂:::::ノ ,. j' } リ {:. 、.乂:::::ノ|: イ::://{|::::::::::::::::\
/::::::::::/:::::| ∨:! ::|ミ===彡ィ !.:.. \/..ミ==彡: : /.′j::::::::::::::::::::::ヽ
イ--――=ァ:::| 冫リ∨..{:::::::::}..{ ,ノ}:.、:. }..{ }.....|: / ′リ}:::::}  ̄ ̄ ̄
/:::::ハ..い{ }..{ }..{ --―-- 、...{ ......|/ .′ イト、:::,
ノ:≦iニヽ :、}..{ } /」´ ̄ ̄`i」:, }{ }...′' /::::|_ ヾ{
__,,イ二ニニ|ニニ\:.}..{ }{ .′: : : : : : : :..:.,}.{ }.{ /¨´:/ヽ:!ニ=-
ニニニニニニニ|ニア:、::::\:.. }{,′r――― 、:.:}.{ }.{/:::: /ニニi|ニニニニニニ=-
ニニニニニニニ|=/ニ \:::::: 、 ..{{/ } {ハ}.{ }イ:::::/二ニ|ニニニニニニニニ ふざけるな!
ニニニニニニニ|/二二 }八{ \{∨ j./..{ /|/}:イニ\ニi|ニニニニニニニニ ふざけるな!
ニニニニニニニ|ニニニニム \\ー――/ / /ニニニ=ヾlニニ/ニニニニニ ばかやろー!
ニニニニニニニ|二ニニニニム \ 二二. / ハ二二二二i|二 /ニニニニニニ
ニニニニニニニ|二二二ニニム ー―‐ ′ {ニニニニニ|ニ.′ニニニニニ
291
:
名も無きAAのようです
:2012/10/30(火) 15:40:23 ID:Il.CQKPQ0
www
切嗣わろたwww
待ってるよ
292
:
名も無きAAのようです
:2012/10/30(火) 20:11:10 ID:b5B5XIxU0
まぁ落ち着けよケリィ
293
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/10/31(水) 22:57:13 ID:TimGRJiI0
******
円山と呼ばれる街は住宅地と山が密接し、
自然と都市が入り混じった混沌としたその町外れには、
深夜ということもあり人気というものが無く、しんと静まり返っていた。
ほんの―――数分前までは。
蒼と銀の影は巨大な黒を中心として踊り、光が弾ける。
遅れて大気の爆発と共に激しい音が街中を震わせ、夜の闇を街灯よりも鮮やかに彩っていく。
影は甲冑を纏う少女の姿をしており、両腕には黄金に輝く西洋剣が握られていた。
黒は巨躯の男の姿であり、民族風の衣装と特異な鎧で身を覆う。
そして、丸太の如き右腕には漆黒の片刃剣が構えられ、
先程の光は西洋剣との衝突によって生まれたものだった。
再び、西洋剣が振るわれ、少女は連続して斬撃を男へと浴びせていく。
男は巨岩のようにじっと構え、沈着に全ての攻撃を防いでいった。
轟音に次ぐ轟音が休むことなく発せられ、彼らのいる地点だけ嵐がやってきたかのようだ。
全ての動きは音速の域に達しており、その速度を以て放たれる一撃が激突しあうことで暴風が生まれ、
人知を超えた、人ならざる者が繰り広げる戦闘の激しさを物語っていた。
彼らは古の英雄であり、聖杯の招きによって現世へ再び現れたサーヴァントである。
蒼のドレスと白銀のプレートアーマーを纏う少女、
セイバーは体格で勝るバーサーカーへ技を凝らして斬りかかっていく。
294
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/10/31(水) 22:58:03 ID:TimGRJiI0
彼女の小柄な身は巨躯のバーサーカーの死角へと回り込み易く、
そこにセイバーが付け入る隙があった。
力任せに振り下ろされる片刃剣をセイバーは屈んでかわし、
息吐く間もなく右足の蹴りが繰り出されるが、
その頃には既に身を転げさせて背後へと回っていた。
遅れて、バーサーカーの左足から血飛沫が吹き出していく。
すれ違いざまにセイバーが両刃剣で切りつけていたのだ。
以#。益゚以 「―――――――ッ!!」
痛みによるものか、それとも怒りか。バーサーカーが咆哮を上げる。
以前よりも荒々しさを増した彼は片刃剣を振り回し、セイバーへ叩きつけた。
輝く剣で彼女は防いで見せるが、バーサーカーの勢いは尚も止まらず、
その剛力が刀身を通して身を震わし、ほんの一時怯んでしまう。
すかさずバーサーカーは狂ったように斬りかかっていき、セイバーには防ぐことしか出来なかった。
徹底的に叩き潰さんとする、猛襲である。
一撃、もう一撃と目にも止まらぬ速さで繰り出され、
去なし、避け、辛うじて防いでいたが、このままでは押し切られ、
いずれ切り捨てられてしまうことは必至であった。
窮したセイバーへ、地を強く踏みしめたバーサーカーの、
膨れ上がった全筋力が渾身の一撃を叩きつけられていく。
295
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/10/31(水) 23:00:30 ID:TimGRJiI0
理性を失い狂暴性のみで行動するバーサーカーに、
少女を切り捨てる躊躇いなどはなかった。
轟、と風が唸りを上げ、両刃剣が金属音を一際けたたましく響かせる。
神々しく輝く剣はその輝きに値する程の名声があるのだろう。
騎士達がその輝きに魅せられ、我も我もと戦場へ勇んで足を踏み入れることもあっただろう。
しかし如何に名剣と言えども、こう休む間もなく打ち続けられれば金属疲労により砕けてしまう。
黒刃を受けた黄金の剣はあらぬ方向へと吹き飛んでいき―――
バーサーカーの首筋へと返っていく。
以#。益゚以 「ッ!?」
星の煌きの如く走った刃が肉を裂き、血が飛沫を上げる。
セイバーは全身の力を抜いてバーサーカーの攻撃を受け、
その際に生じた衝撃を利用して身を一転させ、斬りかかったのだ。
己の全筋力を用いて放った剣の威力を、
その身に受けたバーサーカーの首が切断されていき、
痛みに声を上げる間もなく宙へと舞っていった。
夜空に血と首が月明かりで映し出され、
今までの戦闘行動の速さからは信じられぬ程の穏やかな時間が流れ、
やがて肉がアスファルトを跳ねる生々しい音が響き渡る。
黒き巨躯が、倒れていく。
セイバーの手に敵を打ち倒した感触が残っていた。
だというのに、周囲は不気味な静粛に包み込まれてしまっている。
296
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/10/31(水) 23:03:09 ID:TimGRJiI0
達成感はすぐに違和感へと変化し、
<人リ゚‐゚リ 「……!」
それは形となって現れた。
カザ
地に伏した巨体が首を逸したまま立ち上がり、闇雲に剣を振り翳し始めたのだ。
あまりにも突飛な出来事に腰を抜かす者もあるだろうが、流石は英霊である。
即座に足を引き、距離を置いてバーサーカーの出方を伺ったセイバーは、
<人リ゚‐゚リ 「……ッ!?」
川 ゚∀゚) 「うがぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
背後から襲いかかるクーに不意を打たれてしまった。
狂気に染まった笑みで襲いかかってきた彼女は、
セイバーに取り付こうとしていくが、
(,,゚Д゚) 「逃がさん」
追跡してきたギコがそれを阻んだ。
両手に持った黒白の中華剣をクーへ投擲する。
夜闇を切り裂いて進む刃はしかし、あらぬ方向へと飛び去ってしまう。
297
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/10/31(水) 23:05:06 ID:TimGRJiI0
振り向きざまに、クーが魔術を用いたのだ。
一体、どのような術を?その疑問を浮かべる間もなく、
(,,゚Д゚) 「trace―――on」
呪文を唱え、再びギコの両手に黒と白、対となる剣が現れる。
中国の歴史を思わせるような、小振りな曲刀だ。
構え、対峙したクーは右腕を翳し、掌へと走らせていく。
刹那、それは蒼いエネルギーの奔流となってギコへと押し寄せた。
魔力を物理的な形に変換して放つ、という魔術である。
雷鳴じみた音が轟き、閃光が周囲を満たす。
ほぼ同時に莫大な火花が散った。
(,,゚Д゚) 「ふん」
双の剣を交差させることでクーの飛ばした雷を防いだのだ。
そのままの姿勢でギコは疾走していき、間合いを詰める。
接近を許さぬと、破竹の勢いで魔力で出来た雷弾を雨霰の如く飛ばすクー。
しかしギコの動きは留まらぬばかりか、益々速度を上げて懐へ入り込み、
構えた剣を頭上へ振りかぶり、敵を捉えた。
交差し、膂力を活かした二重の斬撃が、クーへと襲いかかる。
かと思われたが、刃が切ったものは虚空であった。
二度目の空振りに肩透かしを食らい、直ぐさま反対方向へと振り返る。
己が、先程まで向いていた位置へと。
焦燥が危機意識と共に脳内を駆けてゆき、何か冷たいものが背筋を撫ぜた。
298
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/10/31(水) 23:06:24 ID:TimGRJiI0
川#゚ -゚) 「あぁぁぁぁあぁぁぁぁぁッ!!」
眼を真っ赤に染め上げたクーが、ギコの首筋へと噛み付かんとしていたのだ。
彼女の両手からは電流のように魔力が駆け巡っており、
先程の投擲を避けたのと同じ魔術を行使したことが察せられた。
右手が彼の左肩を掴んでおり、咄嗟に右足をクーの胴へと叩き込んでやると、
革靴がドレスごしに肉を打つ生々しい音が響き渡る。
くの字に折れ曲がった彼女の身体は三、四歩仰け反り、
もう数秒遅れれば首に食らいついていたはずの八重歯が遠ざかっていった。
警戒し、ギコも同じく下がり、敵の動きを観察しようとするが、
(,;゚Д゚) 「ぬうぅぅぅッ」
何事が起きたのか、口内が鉄の味で満たされ、
左腕が膨れ上がりあらぬ方向へと曲がっていくと、
破裂した水風船の如く血が飛び散った。
だらり、と力なく左腕は垂れ下がり、無事な右手で口を拭う。
すると右の手にべったりと赤い物がこびりついた。
どうやら、吐血したようである。
何故、と自らに問うまでもない。これがクーの扱う魔術だ。
299
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/10/31(水) 23:07:20 ID:TimGRJiI0
(,,゚Д゚) 「死徒め」
一見しただけでギコは彼女の正体を見極めていた。
常人であればただの猟奇殺人者にしか思えぬはずだが、
この類の生物を彼は何度か相手取ってきたことがある。
吸血鬼ドラキュラと言えば、一般的にもよく知られる存在であり、
それは伝説や創作物でのみ語られる想像上の怪物でしかない。
だが、そのイメージに近い生物がこの世には存在しているのだ。
それが、死徒である。
死徒は他の死徒によって血を吸われ、死亡して脳が溶け、
魂が肉体より解放されることで食屍鬼(グール)になる。
食屍鬼は腐り落ち欠けてしまった肉体を取り戻すべく、他の肉体を喰らう。
そうして新たな脳を構築することで、食屍鬼は吸血鬼と呼ばれる存在になることが出来る。
全ての人間が死徒となれるわけではなく、
肉体的ポテンシャルや魂の強度が優れた者のみが不老不死の化物になれるのだ。
今、ギコと対峙しているこの女は、紛れもない吸血鬼である。
肉体を取り戻すべく食欲だけで動く食屍鬼などではない。
その能力の高さは、推して測るべしである。
300
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/10/31(水) 23:09:53 ID:TimGRJiI0
右手に構えた剣の柄を、彼は更に力を込めて握った。
何度か吸血鬼との戦闘経験はあるものの、
初めて命の駆け引きをした時のような、耐え難い緊張をギコは味わう。
(,,゚Д-) (この吸血鬼は莫大な魔力を抱えている……)
戦闘が開始してからというものの、隠しきれぬほどの魔力を彼は感じ取っていた。
吸血鬼の身体能力は一般に伝わっているように超人的であるものの、
魔術などは人間とさして変わらない。
真祖と呼ばれる吸血鬼がおり、文字通り祖である彼らは超越的な力を持つが、
それは不老不死を活かして長年魔道を探究し続けた結果であり、
人間が同程度の時間を掛ければ彼らと同等の能力を得られる。
では、果たしてこの女は、クーは真祖であるか否か。
何故吸血鬼なぞが聖杯戦争に紛れ込んできたのか。
疑問は多々あるが、確実なことはクーが絶対的な強者である、ということだけだ。
(,,゚Д゚) (次は、抜からん)
左腕を右手で強引に元の位置へ戻し、魔術によって筋繊維を再生させる。
魔力が糸のようになり、神経を繋ぎ止めることで激痛が走るが、
ギコは決してクーへ注ぐ視線を外しはしない。
301
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/10/31(水) 23:18:51 ID:TimGRJiI0
苦痛に眉根を歪めながら睨みつけ、彼女の所作一つ一つを観察する。
間合いは八歩ほど離れていたが体制は既に立て直されていた。
蹴りを食らわされたクーの表情は憤怒に歪み、すぐにでも飛びかかってくることだろう。
地を強く踏みしめ、一点へと集められる魔力に大気が歪む。
来る、とギコが確信したその時、
<人リ゚‐゚リ 「――――――!」
主の危機を察したのか、セイバーがクーへ斬りかかった。
輝く剣が柔らかい肉体を大きく切り裂き、
内蔵を晒した胴をクーはセイバーへと晒すこととなった。
その顔には、不敵な笑み。
止めを刺さんとギコが駆けるが、セイバーの背後にはバーサーカーが迫っていた。
失われたはずの首が生え、獰猛な獣そのものの表情に衰えはない。
首と左胸にはサーヴァントの心臓たる魔力の核があるはずなのだが……。
バーサーカーの真名へ迫りつつある高揚感と、
何か恐ろしい物に対峙するような絶望を抱きながらも、
ギコは構えた剣を振るった。
バーサーカーへ、だ。
302
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/10/31(水) 23:20:58 ID:TimGRJiI0
シンギムケツニシテバンジャク
(,,-Д-) 『―――鶴翼、欠落ヲ不ラズ』
詠唱開始。
上空へ、高く、
チカラヤマヲヌキ
(,,-Д-) 『―――心技、泰山ニ至リ』
バーサーカーの頭上へと飛び上がったギコは構えた名剣、
干将莫耶(カンショウバクヤ)を掲げ、詠唱が続く。
ツルギミズヲワカツ
(,,-Д-) 『―――心技黄河ヲ渡ル!』
黒白の剣へ魔力が集い輝き出す。
陽光の如きその光に包まれた剣は太刀にも劣らぬ大剣となり、
ギコの持てる全力を以て叩き込まれた。
バーサーカーの漆黒の鎧ごと剛健な肉体は断ち切られ、
鈍痛じみた手応えを得たギコは剣を離すと、
軽業のような動きで宙へと再び舞上がった。
303
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/10/31(水) 23:22:58 ID:TimGRJiI0
続けざまに干将莫耶を両手の内へ作り出すと、瞬く間に投擲する。
が、手元が狂ったのか、虚しくそれはバーサーカーの背後へと流れてしまう。
するとまたしてもギコは新たに干将莫耶を作り出し、放り投げる。
バーサーカーの首元を跳ねんとした双剣はしかし、
両肩から胴まで達する刀傷を受けたにも関わらず、
力強い剣の薙払いで跳ね除けられてしまう。
あらぬ方向へと飛んでいく干将莫耶へ目もくれず、
更なる干将莫耶を出現させ、バーサーカーの頭部へと放つ。
剣を振ったことで隙の生まれたバーサーカーへ見事に直撃したが、
まるで金属板にぶつかってしまったかのように跳ねてしまい、虚しく音を残した。
次いで、ギコは着地をとる。
好機と見たバーサーカーは巨体を戦車の如く加速させ、肉薄していく。
セイメイリキュウニトドキ
(,,-Д-) 『―――唯名別天ニ納メ』
以#。益゚以 「ッ!?」
しかし、バーサーカーは異変を察知する。
風を切る羽音が聞こえてくるのだ。
それも一つや二つでは効かぬ、折り重なった音が規則的なリズムを刻み、
己へと近寄ってくるのだ。足を止め、周囲を見た。
304
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/10/31(水) 23:25:02 ID:TimGRJiI0
その時には既に、バーサーカーは取り囲まれてしまっていた。
先程、尽く防ぎきって見せた六つの剣にだ。
ワレラトモニテンヲイダカズ
(,,゚Д゚) 『両雄、共ニ命ヲ別ツ!!』
干将莫耶は中国に伝わる名剣であり、宝具にも数えられる。
黒と白のこの夫婦剣は互いに惹かれあう性質を持ち、
ギコはこれを利用してバーサーカーを取り囲む剣の結界を作り出したのだ。
技の名を、鶴翼三連と呼ぶ。
今、それがバーサーカーへと炸裂した。
逃げ場を逸したバーサーカーには六つの剣を受ける他なく、
全ての刃がほぼ同時に身体へ突き立ち、爆発した。
地面は大気と共に震え上がり、粉塵が舞っていくが、
ギコは涼しげな目でその光景を睨みつける。
305
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/10/31(水) 23:27:58 ID:TimGRJiI0
間を置かずして呪文を呟き、
(,,゚Д゚) 『trace―――on』
背後へ向けて無数の剣を出現させる。
これらは一振りずつが天下に名だたる名剣であり、
形も西洋から東洋まで様々な物が取り揃えられていた。
先程から干将莫耶を何度も作り続けることが出来たのは、
単にこれが彼の魔術であるからである。
投影魔術。
ギコの扱うこの魔術は物を複製するというものであり、
絵画から宝具まで多様なものを模倣出来るのだが、
その性質ゆえに魔術協会からは異端扱いされていた。
もっとも、ギコほどの高度な投影を通常は行えぬ為、
魔術師の常識では投影魔術は非常に効率が悪い、という意味ではあるが。
投影品であるこの宝具達はその例に漏れず、ランクがオリジナルよりも一つ下げられている。
しかし、これほどの数を長時間に渡って存在させられているという事実は、
ギコを知らぬ魔術師達にとっては驚嘆に値するものだ。
おまけに、この数である。
セイバーと対峙するクーの目には、彼女の背後に剣の林が出来ているように映った。
名剣、宝剣の数々はどれもが現代の魔術を凌駕する神秘に包まれており、
その威力はただの刃物など比べるべくもない。
306
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/10/31(水) 23:29:51 ID:TimGRJiI0
その威容は言葉では表せられぬような、畏れを見る者へそれは与えた。
吸血衝動に駆られ異常な食欲に気を狂わせている、
クーにすら一拍の間を与えたほどだ。
停滞した空気を察し、好機と見たセイバーは飛び出した。
同時、剣の林が彼女と共に空を翔ける。
機関銃掃射の如き苛烈さで迫る刃を両の手に掴むセイバー。
見れば、先程まで握っていた黄金の剣は地面へ突き刺されており、
そこまでを目に収めた彼女は、虚脱した意識を取り戻し、
例の魔術を用いて剣の軌道を変える。
西洋剣は見事に明後日の方角を切り裂くも、
逆の腕により振るわれた剣までは避けられなかった。
辛うじて左頬を薄く裂かれるに留まるが、
遅れてやってきた荒波の如き剣の群を避けることは出来なかった。
川 -) 「グァァァァァァァァァァッ!?」
鈍い音を立てて、彼女の身体は続々と貫かれていく。
抜かりなく、背後へと回っていたセイバーが、
クーから外れていった剣を二振り手に取るとX字に斬りかかった。
307
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/10/31(水) 23:31:53 ID:TimGRJiI0
以#。益゚以 「―――――――――ッ!!」
が、咆哮と共に現れたバーサーカーがクーの前へ躍り出て、盾となる。
金属の砕ける音が響き渡り、漆黒の鎧を前に剣は散っていく。
跳ね除けられ、地面に伏せてしまったクーはそのまま、
疾走を続けセイバーへ突っ込んでいくバーサーカーの姿を見送った。
彼女の二回りも三回りもの巨体を誇る男の肩が、ぶち当てられる。
魔術でも宝具でもない、単なる質量の違いからくる力の差がこの場面で発揮された。
子供がダンプカーに撥ねられたかのように、セイバーは空中へ吹き飛ばされてしまう。
(,;゚Д゚) 「ちぃッ」
突進を避けて身を転げさせていたギコは、片膝を突くとクーを見た。
セイバーを援護すべく、彼は干将莫耶をその手に駆ける。
瞬間、その目に収めていたクーの顔が破裂した。
(,;゚Д゚) 「な……に?」
響くものはアスファルトに水滴が跳ねる、生々しい音だけであった。
一体、何者による攻撃だ? 何による攻撃だ?
ギコの疑問は、被害者自身の手で解消されることとなる。
魔力の気配が一層濃密な物となるのを彼は感覚で理解した。
砕け散り、脳の破片までも地面に零した顔が、即座に再生されていったのだ。
魂によって生を得る、死徒ならではの頑丈さである。
308
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/10/31(水) 23:33:13 ID:TimGRJiI0
川 ゚ -゚) 「……そこか」
元に戻った顔で、平然と言ってのけたクーは振り返る。
攻撃された方向へと。
遅れてやってきた高い音により、ギコも何とか銃声だと理解したものの、
具体的な方角まで割り出すことは不可能だった。
だが、クーはそちらへと走り出す。彼女は把握していたのだ。
(,;゚Д゚) 「貴様ッ!? まさか!!」
一拍遅れてギコも駆ける。獲物を狩ろうとして追うわけではない。
クーの纏う莫大な魔力の気配に、懐かしい匂いが紛れていたのだ。
望郷の想いに駆られ、円山で探し求めていた人物の足取りが彼女の魔力にある。
――――嫌な予感が脳裏を過ぎった。
新たなる敵へ向かっていく死徒の魔力から、
かつての恋人シィの魔力と似た感覚が漂ってくるのだ。
信じたくない気持ちでギコの頭は一杯になった。
嘆きも怒声も、口から溢れるかのように吐き出されそうだった。
奥歯を音が鳴るほど噛み締めるギコ。
抑えきれず、クーへと突進していくもバーサーカーによって阻まれてしまう。
以#。益゚以 「―――――――――ッ!!」
309
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/10/31(水) 23:34:06 ID:TimGRJiI0
(,,#゚Д゚) 「退け! 木偶めッ!!」
構わずに干将莫耶を左右から振るおうとするが、
割り込んできたセイバーによってそれは止められてしまう。
疾走の速度を乗せた刃は、あっさりと絡め取られセイバーの手に移る。
<人リ゚‐゚リ 「……」
少女は何も口にはせず背で語る。
干将莫耶を構え蒼のプレートアーマーを纏う、
この少女にしか見えぬ英雄は、バーサーカーとの戦闘を受け持とうと言うのだ。
いや、それだけではない。
ここで合力してバーサーカーの排除に当たるか、という問いも与えられている。
310
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/10/31(水) 23:35:35 ID:TimGRJiI0
(,;゚Д゚) 「くっ……」
今回は円山にシィを探しに来たのみであったが故、
このバーサーカーのような規格外の化物を倒しきれる礼装はない。
並大抵のサーヴァントならまだしも、耐久にこれほど優れる者では手古摺るだろう。
よって、セイバーと共同してバーサーカーを討つことは、
死徒による新たな被害者を生むのみであろうと判断し、ギコは駆け出した。
クーを狙撃した者は一体何者だろうか、という疑問もある。
ある人物の姿が一瞬、頭にちらついた。
あの男であるのならば――――
恋人の仇に宿敵。
両者を一辺に相手取る覚悟をして、ギコは夜の街を走り抜ける。
その背後で、黒と蒼の輝きが再び乱舞を始めていた。
夜の静粛などもはや、どこにも存在しない。
時を超えて現れた英雄と魔術師によって、札幌は今や乱世と化していた。
311
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/10/31(水) 23:40:58 ID:TimGRJiI0
******
_
(;◎∀゚) 「なっ、馬鹿な! 急所のはずだぞッ!?」
戦場となった場所から2km程離れたビルの上、
灰色に淡い青色などを塗り、都市迷彩を施した布を被ったジョルジュは、
バレットM82A1という狙撃銃のスコープを覗いたまま驚嘆した。
M82A1は1mを優に超える長大なライフルであり.50BMG弾を使用する。
これは現行機関銃弾最大の口径であり、コンクリートを障子紙のように貫く威力を持つ。
2km先の装甲車を撃破したという逸話を持つほどの銃だ。
ただの狙撃銃などではなく、あまりに過剰すぎる威力から、
国際条約で人に対して使用するのを禁ぜられており、"対物狙撃銃"というカテゴリーに属する。
そんな桁違いのライフルによる狙撃を頭部へ受ければ、即死してしまうことだろう。
無論、ジョルジュもそう確信しており、つい先程まで対象は死亡したものだと思っていた。
頭部を粉微塵に吹っ飛ばされて生きていられる者などいるはずもない。
しかし、狙撃された対象は跡形も無くなった頭部をまた生やして見せた。
聞けば冗談だと笑い飛ばすような突飛もない話だが、ジョルジュは現にその様子を目に焼き付けていた。
信じられないのは当人とて同じである。
312
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/10/31(水) 23:42:27 ID:TimGRJiI0
すぐさまジョルジュは第二射へ移ろうとするが、
何せ発射煙が凄まじい為に、ターゲットをスコープの十字線へ収めることは困難だった。
M82A12を使用した後に生じる煙は、
緩やかな気候の土地で使用しても通常の狙撃銃の比ではないが、
何せ雪国で発砲した為、周囲の冷気が火薬の燃焼により発生した煙との温度差から、
通常よりも多くの発射煙が湧き出てきて、更にジョルジュの視界を悪化させる。
この悪状況がジョルジュの焦りに拍車を掛けた。
―――あの女だけは決して生かしてはおけない。
アサシンを連れて円山内へ巡回に出たところ、発見出来たのは僥倖であろうか。
ジョルジュは、二度と出会うこともないだろう女を見かけたその瞬間から、彼女の抹殺を決意していた。
彼のボスであるドクオにその存在を知らせるわけにはいかないのだ。
ましてや、対面させるなど言語道断である。
もしそんなことがあれば彼は躊躇うだろう。揺らぐだろう。
折れはしないが、己の理想を捻じ曲げてでも女を救うはずだ。
共に聖堂協会を抜け出して傭兵稼業を始めたほどの付き合いだ。
ジョルジュには、いともたやすく想像のつくことであった。
救いたい者がいれば、彼は何処へだって向かうのだ。
そこに、どんな困難や苦痛が待ち受けていたとしても。
どんな手段を使ってでも彼は救う。
313
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/10/31(水) 23:43:38 ID:TimGRJiI0
人は彼を大悪党とも英雄とも呼ぶように、評価は両極端である。
誰よりもドクオは人間でありすぎるのだ。聖人君子などとは程遠い。
弱さも強さも持つ、魔術と戦闘の術に少しだけ長けるだけただの人だ。
そんな彼だからこそ、支えてやらねばと人が集った。
ジョルジュ自身は、彼に付き異端を片っ端から狩れれば良いのだが、
ここで動揺されてしまえば目的の達成が危うくなる。
発射煙が晴れていくまで、やけに長く感じられた。
「人ならざる者に、そんな玩具が通じるものかね?」
ふと、背後より声を掛けられた。
_
(;◎∀゚) 「黙れアサシン、黙って敵に備えていろ」
彼のサーヴァントとなったアサシンは、少々おしゃべりが過ぎる。
腹立たしさに拍車をかけられ、つい引き金にあてた指へ力がこもりそうになった。
敵はまだ見えない。
あの再生能力から、死徒となったのであろう女相手に、
現代兵器などでは心許ないが無駄弾は避けたい。
何より、こちらの位置を探る材料をこれ以上与えたくはなかった。
314
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/10/31(水) 23:44:37 ID:TimGRJiI0
|/▼) 「いや、私は何も言っていないが?」
霊体化を解いて隣に現れたアサシンの言を聞き、ジョルジュの心は乱れた。
_
(;゚∀゚) 「はっ!?」
思わず背後へ振り返るも、夜空と暗闇に包まれた街並みが見えるだけだ。
「アンタらはよく訓練され武器も揃っているが、束ねる者は如何なものか?
感情のままに生きる、人間らしい生き方かもしれぬが、果たして王たる器と呼べるか?」
もう一度、振り返る。虚空へと。
( <・>w<・>) 「テメエの待望を託すに、相応しき人物なのかね?」
先程まで自分が見ていた場所、狙撃位置にそれはいた。
宙に浮かんでいるそれは、奇妙と表現する他ない。
人のような外見をしているが人ではなく、足には蹄があり、
細長い顎鬚の生えた面などは人間だが、二つの角が額から伸びている。
極めつけは、背についたコウモリの黒い翼だ。
悪魔である。
聖堂協会の代行者を勤めていたジョルジュは、経験から即断した。
発見から引き金を引くまで、1秒とかからなかっただろう。
しかし、突如として現れた悪魔の姿は霧のように消えていき、
315
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/10/31(水) 23:45:46 ID:TimGRJiI0
川#゚ -゚) 「――――――――ッ!!」
代わりにいつの間にか接近してきた女、クーが現れた。
弾丸が放たれる刹那、宙に飛び上がった彼女はM82A1の銃身を片手で押しのけ、
弾丸は明後日の方角へ飛んでいき銃声が虚しく響く。
_
(;゚∀゚) 「テメェッ!?」
唐突すぎるきらいはあったが、積み重ねてきた経験から、
ジョルジュが取る行動は迅速そのものだった。
銃を捨ててバックステップを行い、身に纏った蒼い僧衣とコートから、刃のない剣を取り出す。
両手に三つずつ掴んだかと思えば瞬く間に柄から先が出現した。
左右に六つ伸びた、黒鍵という剣を構えた様はまるで異様に長い爪のよう。
十字架を模したそれは切れ味こそ鈍いものの、霊的な干渉力に関しては優れている為、
悪霊や悪魔といったものと戦う代行者にはおあつらえ向きの武器である。
霊体であるサーヴァントに対しても、いくらかは有効だ。
もちろん、死徒に対しても同様である。
ビルの屋上に着地したクーと、ジョルジュは対峙した。
相手の隙を伺うという真似をするようなクーではない。
真っ先に駆け出し、右手を翳すと雷となって魔力が放たれる。
亜光速に達する指向性を持った魔力は雷鳴を響かせ、
身を屈ませたジョルジュのコートの肩を焼け焦がしていく。
316
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/10/31(水) 23:46:51 ID:TimGRJiI0
間一髪で避けたように思われたが、それは本命などではない。
陽動にしか過ぎず、クーは息つく間もなくジョルジュに飛びかかった。
無論、容易に接近させるジョルジュではない。
_
( ゚∀゚) 『jesus―――christ』
魔術の基礎中の基礎、強化の術を使用し、
代行者として鍛え上げられたジョルジュの肉体は今や、音速の世界の住人となっていた。
肉体のみならず視神経に反射神経をも強化した彼は、
光速で移動する物体すらも捉えられる。
ジョルジュは魔導の素養には恵まれてはいなかったが、強化だけは行えた。
唯一使用出来る魔術をドクオと出会ってから鍛えに鍛え、
既に極めたと言ってもいいレベルに達していた。
生死をかけた戦場を行き来してきたことで、磨きぬかれた集中力による賜物である。
突っ込んできたクーを避ける必要などはない。
ただ、右の膝を突き出してやるだけでことはすむ。
ジョルジュの膝蹴りが炸裂するかと思われたその時、クーは突如として宙を舞った。
それも不自然に、まるで重力が逆さになったかのように、
足が天へ引っ張られたかのようなアクロバティックな動きでだ。
膝蹴りを空振り、隙の出来た背後に回ったクーは、脇腹から臓物を引き出すべく左手を繰り出す。
317
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/10/31(水) 23:47:50 ID:TimGRJiI0
|/▼) 「……」
が、更にその背後から音もなくアサシンが現れる。
気配遮断スキルによって隠密行動をとっていた彼は、この時を待っていたのだ。
クーが魔術を囮に使ったように、ジョルジュもまた自ら囮になったのだった。
雪のように美しき首筋へ、アサシンの抜いた両刃剣が喰らいかかるも、
それは何らかの力を受けて虚空を割くのみに留まってしまう。
|/▼) 「魔術か、面妖なッ」
危険を感じ、アサシンは深追いせずにジョルジュの傍へと身を転がせていく。
ビルの縁に足がかかり、ふと背後を伺った。
すると、
(,,゚Д゚)
以前のマスター、シィに見せられた写真の男がバイクに跨って走っていた。
深夜に、もはや人気の無くなった通りをひた走る彼は、
千里眼を持たぬアサシンの目にもはっきりと映る。
こちらへ向かっているとなれば、尚更だ。
|/▼) (シィによれば、あの男もマスターのはず。
あれがセイバーのマスターか。あの女がバーサーカーを連れていないということは、
セイバーに足止めでも食らっているのか? 令呪を使用すれば、一瞬だが……)
318
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/10/31(水) 23:49:03 ID:TimGRJiI0
思考を巡らせ、どの対処法が最も効率が良いか、
暗殺者の論理から解を導き出そうとするアサシン。
両者とも、サーヴァントを連れぬマスターだ。
ならば、サーヴァントであるアサシンに対抗できるわけもない。
|/▼) 「マスター、新手だ。セイバーのマスターが来るぞ」
_
( ゚∀゚) 「マジか、だったら―――」
|/▼) 「私が仕留めてこよう。その間、お前にこの女を任せるぞ」
ギコがやって来ぬ内に、早々にクーを片付けてしまおう。
そう続けようとした己のマスターに有無を言わせず、アサシンは縁の上へ立った。
_
(;゚∀゚) 「なっ! ちげぇだろ!!」
クーから目は離さぬまま荒い口調でジョルジュは言うが、
アサシンは自分の力量に絶対の自信があるらしく、既に行動を開始していた。
_
(;゚∀゚) 「待―――」
瞬間、轟と音が走り、雷がジョルジュを貫かんとして言葉を遮られてしまう。
間一髪で避けるものの、視界の端にはアサシンがビルから飛び降りる姿がちらつき、
クーへの集中力が削がれてしまう。
319
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/10/31(水) 23:49:44 ID:TimGRJiI0
元から、強引に鞍替えをさせたサーヴァントである。
令呪によって服従を強いているが、効力は薄く、
そう易々と言うことを聞いてはくれぬだろう。
半ば諦めにも似たような想いで、ジョルジュはクーとの戦闘を続行していく。
一方のアサシンはと言えば、傍から見れば身投げをしているようにしか見えなかったであろう。
両腕を大きく広げ、およそ30m程の高度から飛び降りる者など自殺者そのものである。
しかし、彼の優雅ささえ感じさせる鳥のようなポーズを見れば、その印象はがらりと変わる。
ギコとの距離は、既に40mにまで縮まっていた。
大型スポーツ車のバンディットのエンジンをもってすれば、
あっという間にビルにまで辿り着くはずだ。
投げ出されたアサシンの身は夜空へ溶け込み、目標へと接近していく。
凍てつくような風が頬を刺し、白いローブは荒々しく翻る。
ビルの高度と己の体重から割り出した落下予測地点と、
ギコのバイクの速度から想定した通過地点は重なっており、その計算は恐ろしい程正確だった。
既に、ギコの首筋が彼の目にはっきりと映し出され、手を伸ばせば届く位置にまで来ていた。
ギコはクーのいるビルへと血走った目を向けている為、アサシンの接近にまだ気づいていない。
|/▼) (仕留めた)
籠手に仕込まれた小刀が腕を突き出すと共に飛び出し、
ギコの首へとその切っ先が叩き込まれていった。
320
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/10/31(水) 23:54:34 ID:TimGRJiI0
第六話 「jesus――――christ」part 乱世エロイカ4
終
アーチャーとライダーのステータスを第五話で表記しようとしたのですが、
忘れていた為、おまけという形で投下します
ついでに、おさらいとしてランサーとアサシンも並べておきます
321
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/10/31(水) 23:56:14 ID:TimGRJiI0
【クラス】アサシン |/▼)
【マスター】長岡ジョルジュ
【真名】ハサン・サッバーハ
【性別】男性
【属性】混沌・善
【ステータス】筋力C 耐久C 魔力E 敏捷B 幸運E 宝具B
【クラス別スキル】気配遮断A+
サーヴァントとしての気配を遮断する。完全に気配を絶てば発見することは不可能になる。
ただし、自ら攻撃を仕掛けると気配遮断のランクが低下する。
【保有スキル】投擲(短刀):B
短刀を弾丸として放つ能力。アサシンが保有する短剣は40余り。
風除けの加護:A
中東に伝わる台風避けの呪い。
【ランサー】 目,`゚Д゚目
【マスター】穏田ドクオ
【真名】???
【性別】男性
【属性】中立・善
【ステータス】筋力B 耐久C 敏捷A++ 魔力D 幸運D 宝具A++
【クラス別スキル】耐魔力A
Aランク以下の魔術をキャンセル。
【保有スキル】直感B
戦闘の"流れ"を読むことの出来る能力。
敵の攻撃をある程度予測することも出来る。
騎乗D
騎乗の才能。馬であるならば人並み以上に乗りこなすことが出来る。
知識を与えられれば現代の乗り物を扱う事も可能。
322
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/10/31(水) 23:57:52 ID:TimGRJiI0
【クラス】アーチャー (<`十´>
【マスター】内藤ホライゾン
【真名】???
【性別】男性
【属性】秩序・中庸
【ステータス】筋力C 耐久B 魔力D 敏捷B 幸運A 宝具A++
【クラス別スキル】単独行動A
マスターからの魔力供給が無くなっても現界していられる能力。
ランクAならば五日間は行動可能である。
耐魔力C
第二節以下の魔術は無効化する。大魔術や儀式呪法などを防ぐことはできない。
【保有スキル】千里眼C
純粋な視力の良さ。遠距離視や動体視力の向上。
高いランクの同技能は透視・未来視すら可能にするという。
猟師の手腕A
残留魔力や魔力の痕跡を元にサーヴァントの動きを把握する追跡術。
不可視の死神A
霊体化している時は気配が遮断され、マスターにしか感知出来なくなる。
しかし魔力供給のパスが切れるとマスターにも把握出来なくなってしまう。
【クラス】ライダー ( ゚_ノ゚)
【マスター】津出ツン
【真名】???
【性別】男性
【属性】秩序・悪
【ステータス】筋力C 耐久A 魔力E 敏捷D 幸運A 宝具A
【クラス別スキル】対魔力D
一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。魔力避けのアミュレット程度の対魔力。
騎乗A
幻獣・神獣クラスを除く全ての獣、乗り物を乗りこなす事が出来る。
【保有スキル】破壊王A+
敵を倒すたびに全ステータスが1ランク上昇していく。
戦闘続行A
瀕死の傷でも戦闘可能。決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。
323
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/10/31(水) 23:59:53 ID:TimGRJiI0
宝具と真名は本編の進むと明らかになるという感じで
今回は投下これで終わりです
大幅に遅くなってしまい申し訳ありませんでした
次回は11月末に投下する予定です
324
:
名も無きAAのようです
:2012/11/01(木) 00:44:42 ID:cR45g.z2O
乙、安定して面白い
ところで、この話は元ネタであるフェイトとの繋がりはあるの?
真祖とか、一応型月らしい話は出てきてるけど……
325
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/11/01(木) 01:23:14 ID:DXl/paDA0
>>324
fateとは繋がりがありません
設定を使わせて頂いているだけです
色々と繋がりがあるんじゃ?という所が多々ありますが、
そこは物語が進んでいくにつれて、疑問が解消されるかと思います
真祖については、死徒という設定を説明する上で必要だと判断したので記述しました
326
:
名も無きAAのようです
:2012/11/01(木) 01:32:37 ID:cR45g.z2O
>>325
なるほど、つまり型月の世界観にブーン達を放りこんだって感じなのね
判りやすい説明をありがとう
327
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/11/01(木) 01:36:34 ID:DXl/paDA0
>>326
あ、その説明が一番簡潔で分かりやすいです
こちらこそありがとうございます
328
:
名も無きAAのようです
:2012/11/01(木) 02:26:42 ID:CO0TiRXM0
交信が楽しみですわ
英霊のまなよそくとかは控えた方がいい?
329
:
名も無きAAのようです
:2012/11/01(木) 07:05:46 ID:3A2cL9..0
ライダースキルランク底上げとかやべぇなwww
330
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/11/01(木) 10:38:50 ID:DXl/paDA0
>>328
真名や展開の予想はおkですよ
投下まで時間がかかるので、待ってるまでの間どんどんやってください
331
:
名も無きAAのようです
:2012/11/02(金) 15:08:04 ID:JijkyPyg0
>>330
おk、把握。
とはいってもほとんど分かってないけど。
とりあえずアーチャーはシモ・ヘイヘだと思う
332
:
名も無きAAのようです
:2012/11/02(金) 16:57:26 ID:QmC3C5YoO
アチャとランサーは判るけど、ライダーが全く判らない
ワルサーやら敬礼やらでドイツ軍って事は判るけど
スキル的に戦車かUボート乗り?
言動からして、ナチっぽくは無いんだよね
333
:
名も無きAAのようです
:2012/11/02(金) 19:00:31 ID:BYnBUXMs0
やっぱりあれじゃないの
ルーd
334
:
名も無きAAのようです
:2012/11/07(水) 21:48:13 ID:SiCVK5jE0
( <・>w<・>) これもサーヴァントかな
335
:
名も無きAAのようです
:2012/11/10(土) 11:06:15 ID:EFQInQtY0
悪魔だって書いてあったよ!
336
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/11/27(火) 01:53:47 ID:G7Pq2aBk0
申し訳ありませんが、今月末の投下は難しそうです
ですので予定を変更して12月の8日か9日あたりに投下したいと思います
度々遅れてしまって申し訳ありません、必ず完結だけはさせますので、どうかしばしお待ちを
337
:
名も無きAAのようです
:2012/11/27(火) 07:25:58 ID:fWWrVuoEO
Vitaでステイナイトしながら待ってるよ
338
:
名も無きAAのようです
:2012/12/09(日) 21:44:48 ID:mXLUZPNc0
遂に今日か・・・
339
:
名も無きAAのようです
:2012/12/09(日) 22:23:39 ID:ncdL14qg0
来るか……
340
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/12/09(日) 23:32:36 ID:o.JuIvjw0
すまない……バイトが予想以上に立て込んでしまい間に合わなかった。
申し訳ないがこの際、12月24日まで延期させてもらおうと思う。
上手くいけば2、3話書きためられてpart乱世エロイカの終わりまで書けるはず。
本当にごめんなさい。
341
:
名も無きAAのようです
:2012/12/09(日) 23:36:48 ID:ncdL14qg0
おk、把握。ムリしないで下さいねー。待ってます。
342
:
名も無きAAのようです
:2012/12/10(月) 00:13:24 ID:bfrvo0Wk0
報告だけでもありがたい
クリスマスプレゼント待ってる
343
:
<^ω^;削除>
:<^ω^;削除>
<^ω^;削除>
344
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/12/21(金) 23:47:12 ID:dh/5vEkw0
アルバイトが忙しく、なかなか時間が取れないが、24日に必ず投下させて頂く。
途中からながらになるかもしれないが、必ず投下させて頂く。
345
:
名も無きAAのようです
:2012/12/21(金) 23:59:45 ID:3OCDKS4.0
投下してくれるのはもちろん有難いが、あまり気負い過ぎずに楽しく投下してれれば良いと思うよ
346
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/12/22(土) 22:43:19 ID:je3G2qoA0
暖かいお言葉をありがとうございます
ながらでも楽しんで投下出来ればと思っております
347
:
名も無きAAのようです
:2012/12/22(土) 23:06:59 ID:BzmwS2.gO
俺、伏古六条五丁目に住んでたよ(笑)伏古公園でマラソン大会したわ
作者がんがれ
348
:
名も無きAAのようです
:2012/12/24(月) 00:59:36 ID:.p1nYNcE0
わくてか
349
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/12/24(月) 23:11:25 ID:Se0v3M7c0
******
空気が張り詰めていた。
冬の寒気によって凍てついてしまったせいではない、
周囲の者が放つ鋭利な殺気によるものだ。
歴戦の英雄であるサーヴァント達が睨み合っていればそうもなろう。
初めて殺し合いの場に立つことになったツンがいかに気丈に振舞おうとも、
この経験の差は埋められようにもない。
( ゚_ノ゚) 「マスター、指示を」
ξ;゚⊿゚)ξ 「……わかってるわよ!」
ライダーも場慣れしているらしく、呑気にも思える冷静さで言うが、
恐怖にも似た緊張を自覚しているツンの声には苛立ちが交じる。
状況から見ればツン達はさほど危険に晒されているというわけではない。
むしろ、下手に動かぬ方が安全である。突如乱入してきた黒い甲冑のサーヴァント、
ランサーの猛攻に襲われているのはブーンだ。
それを遠距離から彼のアーチャーが狙撃することで妨げているのだが、
ランサーの敏捷性に翻弄され、攻撃の手が追いつかず、
ブーンの逃走をサポートすることもままならない窮地に陥っている。
このままじっとしていれば、それともこのまま撤退すれば、
彼女らは何一つ危険を犯さずにここから脱出できることだろう。
350
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/12/24(月) 23:14:23 ID:Se0v3M7c0
ただ、その判断をツンは下せずにいた。
望めばランサーと共にブーンを討つことも可能だ。
隙を突いてアーチャーがツンを狙うかもしれないが、
ブーンの守りが手薄となるためこれは暴挙とも言える。
彼らにとってはライダーがランサーに加担するなど詰みにも等しい。
追撃か、傍観か、撤退か。
いずれにせよライダーは彼女から命令が与えられるまで待たねばならなかった。
それはサーヴァントであり軍人であった彼の性質とも、
ツンに自分で選択させ後悔を味わわせぬ配慮とも呼べるであろう。
目,`゚Д゚目 「敵に背を向けるは万策尽きた者のすること!
恐れからくる逃走であるならば、なおのこと!!」
反面、ツンは焦っていた。
状況は刻一刻と進んでいき、逃げ出したブーンへとランサーが槍の柄を叩きつけたのだ。
地面を転げてうつ伏せになった彼に、ランサーは穂先を突きつける。
鋭き刃は殺意そのもので己の喉元に押し当てられた気持ちだった。
ツンの胸を何かが締め付けて息が詰まる。
ブーンの命は今やランサーの手の内にありほんの少し力を加えるだけで、
それは呆気なく砕け散ってしまうことであろう。
ガッと瞼が開かれ、碧眼が剥き出しとなり、ランサーを見た。
咆哮を耳で聞いた。
351
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/12/24(月) 23:15:21 ID:Se0v3M7c0
目#`゚Д゚目 「無駄だ! アーチャーよ、遠矢からでは拙者を討ち取れぬぞ!?
出て参れ!! 主君の危機を眺めるだけの臣があろうか!?」
忠節の士であったのであろうランサーには、
アーチャーの主の危機に馳せ参ぜぬ忠義の無さに堪えられず怒声を浴びせたのだ。
このままひと思いにブーンを刺殺しかねぬ剣幕で、思わずツンは拳を握った。
選択が迫られている。
あるいは選択の後に起こる出来事への覚悟を試されている。
ここで一つの命が奪われようとしているにも関わらずツンは冷たい目とも、
傍観の極みとでも言うべき気持ちで見ていた。
思考があまりにも複雑すぎて処理しきれずに脳が停止してしまっているのだ。
取るべき行動方針は四つのいずれか。
第一に、ライダーは動かさずランサーにブーンを仕留めさせ、その後の様子を窺う。
ランサーの能力を探るにはこれが一番であり、下手に動くよりは効果的で理性的と言える。
第二に、敵にこちらの情報を一切与えぬ為、追跡の手を伸ばせぬように即時に撤退。
最も安全な手でありリスクが少なく、臆病風に吹かれたと見られるかもしれぬが利口ではある。
第三に、ランサーと共闘を計りブーンとアーチャーを排除する。
ランサー乱入当初から考えていたことではあるが、勝負が決しようとしている今や、
手助けなど却って邪魔になるだけであり、ツンからライダーが離れることで危険が増す。
愚策であり頭の片隅に残ってはいるが取るべきではない行動だ。
352
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/12/24(月) 23:16:21 ID:Se0v3M7c0
では、残る第四の方針とは――――
何秒経ったのであろうか、あるいは何分たったのであろうか。
1秒か、1分か。時間の感覚すら曖昧であるが、ランサーは待ってはくれない。
目#`゚Д゚目 「アーチャー、貴様! 腑抜けめッ!!」
怒声が上がった。
ついにランサーが動き出す。
ξ;゚⊿゚)ξ (駄目ッ!!)
反射的に叫びそうになるツンだったが、
(#゚_ノ゚) 「答えよマスター! 私が取るべき行動とは!?
貴様が与える命令とは!? 一体なんだ! "マイスター"ッ!!」
ランサーに負けじと吠えたライダーに掻き消された。
そして新たに、それこそ本命であった思いが口を突いて出た。
――――最も効率が悪く危険であるが、情に絆され友を救う手段である。
ξ#゚⊿゚)ξ 「ブーン!!」
先程の焦燥しきった顔はどこへやら、
一転して鬼の如き表情になったツンは彼へと叫んだ。
353
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/12/24(月) 23:17:02 ID:Se0v3M7c0
(;^ω^) 「ッ!?」
槍を突きつけられ絶対絶命の窮地へ陥ったところに、
馴染みぶかい怒声で名を呼ばれたブーンはふと、
恐怖に凍てついた身に暖かいものが流れ込んでいく気がした。
ξ#゚⊿゚)ξ 「私と同盟を組みなさい! 早く!! 馬鹿!!」
白き鋼がブーンの喉元を貫く刹那、ランサーは少女の声を歯牙にもかけぬ。
戯言と一蹴し、耳にすら入れてはいなかった。
ブーンにはその返答をよこす間もなく、槍は肉を突き破るのみ。
しかしこの少女の傍若無人さはここで真価を発揮した。
ブーンはツンのほうへと、ほんの少しだけ首を傾けただけにしか過ぎなかったというのに、
ξ#゚⊿゚)ξ 「仕方ないわね、仕方ないわ。同盟相手が危険に晒されている。
盟約を結んだというのにその相手が目の前で殺されたとあっては私の面目が立たないわ!
仕方ないから私が助けるしかないわね、ブーンッ!!」
それを強引に肯定とみなしてツンは早口でまくし立てた。
ξ゚⊿゚)ξ 「ライダーッ、アンタの宝具であいつを蹴散らしなさい!!」
ランサーを指差し、どこまでも合理主義者である彼女は命じる。
救いたければ救いたいと、そう言えばいいものを。
354
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/12/24(月) 23:18:36 ID:Se0v3M7c0
ライダーはそれを口にはせず、ただ苦笑を浮かべて応えた。
ヤヴォールヘアマイスター
( ゚_ノ゚) 「Jawohl Herr Meister(了解したマスター)」
途端、空が割れた。
この世ならざる雷が幾重もの層となって門を成していく。
自然が超常の力によって歪められ"あちら"への道をこじ開けられると、
目を貫かれんがばかりの光量が襲いかかり、鼓膜が破られんばかりの大音が響いた。
目,`゚Д゚目 「ッ!?」
尋常ならざる気配に、ブーンへ槍を向けたランサーは思わず視線を寄せる。
ほんの一秒にも満たない些細な間でしかなかったが、
その些細な間は状況が引っ繰り返るには充分すぎるものであった。
死神がランサーに生まれた停滞を見逃すはずがなかったのだから。
雪風よりもなお凍てついた十六の風が吹き荒ぶ。
放った者の殺意と等しき必殺の風はランサーの首を狙った。
ライダーが引き起こした何ごとかへ目を傾けた彼に、気付けるはずもなく、
鋼鉄の死神は甲冑の最も薄い所へと突き立つ。
中世の日本で作られた金属が穿たれる硬い金属音が響き、
灼熱を帯びた飛沫が散った。確実に撃ち抜いたにも関わらず、
残る十五の弾丸がランサーを狙う。
355
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/12/24(月) 23:19:16 ID:Se0v3M7c0
しかしランサーは撃たれてもなお健在であった。
鋭い眼光を宿すランサーの面は不可視の死神へ振り向き、
笹の葉を模した槍の切先をそれへと突きつける。
と、同時に火花が散り、巧みに槍を操作するともう一度音が鳴った。
彼の目にはこの死神達が見えていたのだ。
真っ二つに切り裂かれて弾丸は雪の上に叩き伏せられた。
するとランサーは足に力を込めて飛び立つ。
暗き空に漆黒の武者が舞い踊り、追うようにしてアーチャーの弾丸が軌道を変えた。
夜空に光の筋が伸びていきその先をランサーが駆ける。
グリムリーパーバレット
これがアーチャーの宝具“白き死神の魔弾”である。
かつての大戦で150mの距離から1分間に16発の射的に成功した逸話から、
アーチャーの放つ弾丸は必中であるという概念が成立されたため、
宝具として具現化したものだ。
その為、この宝具はランサーに命中するまで追尾し続ける。
ランサーは自慢の敏捷性を活かして逃れるが、
356
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/12/24(月) 23:19:58 ID:Se0v3M7c0
目;`゚Д゚目 「ぬぅッ!?」
頭上には時代遅れの機体であるにも関わらず、今世の冬空を我が物顔で飛ぶ、
夥しい魔力の塊となって現れた爆撃機があった。
ランサーが状況をする間もなくハッチが開き、
視線を覆い尽くすほどの黒い塊が現れていくと、
ファーツァーヘレッ
( ゚_ノ゚) 「地獄に落ちろッ!!」
金属の軋む音と共にランサーへ1000kg爆弾が叩き込まれた。
巨大すぎる爆炎はライダーの爆撃機をも飲み込む勢いで猛っていくが、
ライダーはその爆発ですら予め計算し、機体は爆風に載って悠然と羽ばたいていく。
月光に映し出されたその爆撃機はかつての大戦の空を跋扈していた、
第三帝国のものである。札幌の夜空に響き渡る甲高い風切り音は、
“死のサイレン”と仇名される所以だ。
――――ユンカース Ju-87
通称ストゥーカと呼ばれるこの機体は数多くの空のエースを輩出し、
ライダーもまたそのエース達の一人なのだ。
それも、大戦では比類なきほど戦車を撃破してきたスコア故に、
“破壊王”とまで恐れられた名パイロットだ。
ライダーが一度飛び立った以上、もはや誰も止めることなど出来ぬであろう。
357
:
名も無きAAのようです
:2012/12/24(月) 23:21:22 ID:noZfhVJE0
うはきてる!
358
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/12/24(月) 23:21:38 ID:Se0v3M7c0
火の玉となって落下していくランサーを見下ろすライダーは険しい、
油断のない瞳で敵の撃破を見届けていく。
更に止めを刺さんとアーチャーの魔弾が突きたち、
地面に激突していくのをアーチャーもまた氷のような目で確認した。
が、しかし、次の瞬間には両者とも目を見張ることとなる。
目,`゚Д゚目 「笑止」
爆撃を、弾丸をものともせずにランサーは受身を取ってみせたのだ。
その鎧には焼け焦げた跡や何かが擦れたような跡が残ってはいるが、
ランサー自身は一切の傷を追ってはおらず、血の一滴足りとも流されてはいない。
(<`十´> 「おかしいのは貴様の方だ……」
全くの無傷である。
(;゚_ノ゚) 「ちっ! マスター!!」
流石に虚を突かれたようでライダーが叫ぶ。
ξ;゚⊿゚)ξ 「これ! どうすればいいのよ!!」
(;゚_ノ゚) 「十字に合わせてトリガーを引けばいい!!」
複座に乗ったマスターは初めて乗る爆撃機に戸惑っているようで、
それも承知の上だったのだが、まさか後方の機関銃を使用するとはライダーは思いもせず、
ツンは土壇場で初めて銃を撃つ羽目になってしまった。
359
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/12/24(月) 23:22:25 ID:Se0v3M7c0
魔力の篭った弾丸を暴風雨の如く乱れ撃ちにするツン。
(;^ω^) 「おぉーんッ!?」
照準もデタラメで、流れ弾がブーンの足元に命中し死に物狂いで逃げる羽目になった。
高空から降り注ぐ弾が公園を蜂の巣にしていく。
地面に命中した弾が雪を続々と大量に散らせて粉塵となり、
ライダーにもツンにも公園の状況を窺えなくなってしまう。
(;゚_ノ゚) 「この劣等人種め! 粉塵でランサーが見えん!!」
公園は局所的な吹雪が訪れているのではないかと言うほどの雪に覆われた。
それをもたらしているのはツンの放つ機銃弾なのであるが、
彼女は敵を倒さんと躍起になってトリガーから指を離そうとはしない。
攻撃側からも見通すことが出来ないほどの銀幕の中、
アーチャーは某かの光を発見する。
謎の光は連続して散っていき、耳が馬鹿になるほどの銃声の中で音を混じらせる。
硬い、金属質な音だ。
アーチャーはそれを騒音を苦ともせずに聞き取っていた。
ストゥーカの弾が切れたのか、唐突に銃弾の嵐が止む。
散っていた大雪が粉雪となって消えていき、光と金属音の発生源が姿を現す。
黒き鎧に、鹿の角をあしらった兜を被った武者姿が槍を乱舞させていた。
その周辺には無数の金色の欠片が、まるで武者には近寄れないかのように転がっている。
360
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/12/24(月) 23:23:09 ID:Se0v3M7c0
目,`゚Д゚目 「これで終いに御座るか?」
漆黒の武者が、ランサーが槍を構え直して声を発した。
先程の一体何発放たれたとも知れぬ弾丸を自分へ命中するものだけを見切り、
その全てを切り払って弾かれた破片が、周囲に転がる金属片だったのだ。
何という槍捌きか。
この槍捌きこそ戦国の世を生きてきた武士が技術である。
世界に名だたるランサークラスの英霊達の中でもその実力は非凡であり、
綺羅星の如く輝くほどだ。
彼の強さを前にして己自身も英霊であるに関わらず、
ライダーとアーチャーは息を飲んでいた。
高高度からでも、遠距離からでもその威圧感は肌を焼くほど苛烈である。
第二次大戦で活躍した両者と言えども、
肉眼で“武者”というものを初めて目にしたからだ。
鎧兜で戦う蛮人など歯牙にもかける必要はないなどと、
20世紀を生きていた彼らは聖杯戦争に望む以前はタカをくくっていたのだが、
その評価は妥当ではなかったと思わざるを得ない。
槍術の究極系が、そこにはあったのだから。
361
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/12/24(月) 23:24:11 ID:Se0v3M7c0
まさに神武と言えよう。
ランサーが構えた槍の切っ先から放たれる純白の輝きが、
この場にいた全員の脳裏にそんな言葉を浮かばせる。
目,`゚Д゚目 「では――――」
( ゚_ノ゚) 「ッ!」
(<`十´> 「……」
ライダーがぎらりとブーンを見据え、槍を向けていく。
(;^ω^) 「おっ……」
雪原の上で尻餅を突いていたブーンは立ち上がろうともせず、
ただランサーに視線を釘付けにされていた。
ランサーの次なる行動にサーヴァント二騎が身を強ばらせ――――
362
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/12/24(月) 23:25:05 ID:Se0v3M7c0
目,`゚Д゚目 「――――ぬぅ、ならば仕方があるまい」
先の言葉を飲み込み、独り言のように呟いたランサーが跳躍の姿勢を取った途端、
(;^ω^) 「おぉっ!?」
ブーンの左足から血の花が咲いた。
(;゚_ノ゚) 「何ッ!?」
ξ;゚⊿゚)ξ 「何が起きたのよ!?」
彼に起きた異変に空にいるライダーは何となく察しはついたが、
ツンには姿すら見えず全く理解することができなかった。
(<`十´> 「狙撃か」
この場で事態をよく理解出来たのはランサーを除くとアーチャーだけである。
それどころかアーチャーは狙撃位置とおおよその距離をたったの一発で割り出していたのだ。
モシンナガンの銃口をそちらへと向け、裸眼で望遠していくと姿が見えた。
363
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/12/24(月) 23:26:01 ID:Se0v3M7c0
( A )
背格好からして男であろう。
既視感を覚える姿であった。
ほんの僅かな間ではあるがアーチャーにとっては常人の1分ほどにも感じられる。
遠距離の敵へ照準を定める時に溢れ出す脳内麻薬がそんな時間感覚の遅延をもたらすのだ。
――――あれはたしか昼間に。
角度、風向き、湿度、その全てが絶好のタイミングであり、
アーチャーは思考をかなぐり捨てて引き金を引いた。
相手が何であろうと、関係はない。あれはただの標的である。
が、しかし。
目,`゚Д゚目 「無礼は承知であるが、君命である。御免!」
ランサーが地を蹴って駆け抜けるが早いか、唐突に濃い煙が辺りを満たしていった。
アーチャーの"照準"に収められていた男の姿も、白煙によって包まれていく。
(;<`十´> 「ちっ」
もはやなりふり構わず引き金を引いたアーチャーだったが、
モシンナガンの銃身に火花が弾けて狙いがズレた。
銃声は虚しく響き渡り、弾丸は明後日の方角へと飛んでいってしまう。
364
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/12/24(月) 23:28:34 ID:Se0v3M7c0
ぎり、と思わずアーチャーは奥歯を噛んだ。
先手を打たれた屈辱からではない、敵の術中にはまってしまっていたことに、
全てのことが終わってから気づいた己の不甲斐なさ故にである。
敵は、ずっとこちらを監視し、こちらを全滅させる機会を伺っていたのだ。
ブーンとアーチャー、そしてライダー達をもランサーのマスターは一網打尽にしようとしていた。
あまつさえ非常時の撤退方法まで確保していた。
ランサーは既に霊体化しているのか見えなくなっており、
追跡しようにもマスターであるブーンが負傷してしまった為、
同盟を申し出てきたと言えどもツン達をまだ信頼出来るはずもなく、放置しておくわけにもいかない。
(<`十´> 「貴様が、そうなのか。貴様がランサーのマスターか。
これは……厄介なことになった……が、代償は高くつくぞ」
サーヴァントの武器となり現代兵器では決して傷をつけられなくなった、
愛銃モシンナガンに撃ち込まれ弾かれた弾丸を、雪の中から拾い上げたアーチャーはそう呟いた。
(<`十´> 「7.62……NATO弾……」
敵の使用火器と戦略、ランサーの戦闘能力、
そして、現状の自戦力を冷静に分析し、アーチャーは新たな戦略を組み立てていく。
―――もはや、己が全ての敵マスターを撃退してみせる。
などと大言壮語を吐く余裕は彼に無かった。
(<`十´> (しかし、何故敵は撤退したのだ……?)
365
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/12/24(月) 23:30:10 ID:Se0v3M7c0
第七話前編、ここで終了です。
26日が休日なので続きはその日に。
明日も仕事があるので今日はここで切らせてもらいます。すいません。
366
:
名も無きAAのようです
:2012/12/24(月) 23:38:06 ID:noZfhVJE0
乙ー
367
:
名も無きAAのようです
:2012/12/24(月) 23:52:44 ID:u602xFKsO
乙ー
ライダーはエーリヒ・ハルトマンかと思ったけど・・・
そういえばこっちもチートだわな・・・
368
:
名も無きAAのようです
:2012/12/24(月) 23:55:33 ID:Se0v3M7c0
乙ー
ブーンこれでいいのか……主人公……
369
:
名も無きAAのようです
:2012/12/25(火) 00:02:46 ID:ThT8KJC60
乙乙!
370
:
名も無きAAのようです
:2012/12/25(火) 00:23:36 ID:xQnRz6A.0
乙ー
ライダーの歴代相棒達も出ないかなー
このランサーさんって1万人相手に無傷だった人だよね・・・?
371
:
◆IUSLNL8fGY
:2012/12/27(木) 22:40:56 ID:79dFdAXY0
すまん、昨日は寝落ちして投下できなかった
明日も早いので今日はもう寝るが
明後日には出来れば投下しようと思う
372
:
名も無きAAのようです
:2013/01/02(水) 00:23:12 ID:PHHb2tpY0
あけおめー
投下待ってるよー
373
:
名も無きAAのようです
:2013/01/04(金) 23:24:27 ID:/Hw.cJIo0
どうせ言った日に投下しないんだし報告いらね
374
:
名も無きAAのようです
:2013/01/11(金) 02:28:37 ID:Sm8VdI6Y0
投下はよ
375
:
名も無きAAのようです
:2013/01/11(金) 22:24:29 ID:JOYM5TYU0
生存報告だけでも・・・
376
:
名も無きAAのようです
:2013/01/18(金) 23:52:30 ID:wJf4x7u.0
投下マダー?
377
:
名も無きAAのようです
:2013/01/28(月) 21:41:56 ID:ew.Lsz1Q0
もう1ヶ月か
378
:
名も無きAAのようです
:2013/01/28(月) 23:34:34 ID:vJNk1RScO
のんびり待つさ
379
:
名も無きAAのようです
:2013/02/02(土) 14:31:48 ID:RP.JQISQ0
ギコかっけえ
380
:
◆IUSLNL8fGY
:2013/03/25(月) 00:13:34 ID:1oiKVfdg0
******
空気が張り詰めていた。
冬の寒気によって凍てついてしまったせいではない、
周囲の者が放つ鋭利な殺気によるものだ。
歴戦の英雄であるサーヴァント達が睨み合っていればそうもなろう。
初めて殺し合いの場に立つことになったツンがいかに気丈に振舞おうとも、
この経験の差は埋められようにもない。
( ゚_ノ゚) 「マスター、指示を」
ξ;゚⊿゚)ξ 「……わかってるわよ!」
ライダーも場慣れしているらしく、呑気にも思える冷静さで言うが、
恐怖にも似た緊張を自覚しているツンの声には苛立ちが交じる。
状況から見ればツン達はさほど危険に晒されているというわけではない。
むしろ、下手に動かぬ方が安全である。突如乱入してきた黒い甲冑のサーヴァント、
ランサーの猛攻に襲われているのはブーンだ。
それを遠距離から彼のアーチャーが狙撃することで妨げているのだが、
ランサーの敏捷性に翻弄され、攻撃の手が追いつかず、
ブーンの逃走をサポートすることもままならない窮地に陥っている。
このままじっとしていれば、それともこのまま撤退すれば、
彼女らは何一つ危険を犯さずにここから脱出できることだろう。
381
:
◆IUSLNL8fGY
:2013/03/25(月) 00:14:16 ID:1oiKVfdg0
ただ、その判断をツンは下せずにいた。
望めばランサーと共にブーンを討つことも可能だ。
隙を突いてアーチャーがツンを狙うかもしれないが、
ブーンの守りが手薄となるためこれは暴挙とも言える。
彼らにとってはライダーがランサーに加担するなど詰みにも等しい。
追撃か、傍観か、撤退か。
いずれにせよライダーは彼女から命令が与えられるまで待たねばならなかった。
それはサーヴァントであり軍人であった彼の性質とも、
ツンに自分で選択させ後悔を味わわせぬ配慮とも呼べるであろう。
目,`゚Д゚目 「敵に背を向けるは万策尽きた者のすること!
恐れからくる逃走であるならば、なおのこと!!」
反面、ツンは焦っていた。
状況は刻一刻と進んでいき、逃げ出したブーンへとランサーが槍の柄を叩きつけたのだ。
地面を転げてうつ伏せになった彼に、ランサーは穂先を突きつける。
鋭き刃は殺意そのもので己の喉元に押し当てられた気持ちだった。
ツンの胸を何かが締め付けて息が詰まる。
ブーンの命は今やランサーの手の内にありほんの少し力を加えるだけで、
それは呆気なく砕け散ってしまうことであろう。
ガッと瞼が開かれ、碧眼が剥き出しとなり、ランサーを見た。
咆哮を耳で聞いた。
382
:
◆IUSLNL8fGY
:2013/03/25(月) 00:15:17 ID:1oiKVfdg0
目#`゚Д゚目 「無駄だ! アーチャーよ、遠矢からでは拙者を討ち取れぬぞ!?
出て参れ!! 主君の危機を眺めるだけの臣があろうか!?」
忠節の士であったのであろうランサーには、
アーチャーの主の危機に馳せ参ぜぬ忠義の無さに堪えられず、怒声を浴びせたのだ。
このままひと思いにブーンを刺殺しかねぬ剣幕で、思わずツンは拳を握った。
選択が迫られている。
あるいは選択の後に起こる出来事への覚悟を試されている。
ここで一つの命が奪われようとしているにも関わらずツンは冷たい目とも、
傍観の極みとでも言うべき気持ちで見ていた。
思考があまりにも複雑すぎて処理しきれずに脳が停止してしまっているのだ。
取るべき行動方針は四つのいずれか。
第一に、ライダーは動かさずランサーにブーンを仕留めさせ、その後の様子を窺う。
ランサーの能力を探るにはこれが一番であり、下手に動くよりは効果的で理性的と言える。
第二に、敵にこちらの情報を一切与えぬ為、追跡の手を伸ばせぬように即時に撤退。
最も安全な手でありリスクが少なく、臆病風に吹かれたと見られるかもしれぬが利口ではある。
第三に、ランサーと共闘を計りブーンとアーチャーを排除する。
ランサー乱入当初から考えていたことではあるが、勝負が決しようとしている今や、
手助けなど却って邪魔になるだけであり、ツンからライダーが離れることで危険が増す。
愚策であり頭の片隅に残ってはいるが取るべきではない行動だ。
383
:
◆IUSLNL8fGY
:2013/03/25(月) 00:16:50 ID:1oiKVfdg0
では、残る第四の方針とは――――
何秒経ったのであろうか、あるいは何分たったのであろうか。
1秒か、1分か。時間の感覚すら曖昧であるが、ランサーは待ってはくれない。
目#`゚Д゚目 「アーチャー、貴様! 腑抜けめッ!!」
怒声が上がった。
ついにランサーが動き出す。
ξ;゚⊿゚)ξ (駄目ッ!!)
反射的に叫びそうになるツンだったが、
(#゚_ノ゚) 「答えよマスター! 私が取るべき行動とは!?
貴様が与える命令とは!? 一体なんだ! "マイスター"ッ!!」
ランサーに負けじと吠えたライダーに掻き消された。
そして新たに、それこそ本命であった思いが口を突いて出た。
――――最も効率が悪く危険であるが、情に絆され友を救う手段である。
ξ#゚⊿゚)ξ 「ブーン!!」
先程の焦燥しきった顔はどこへやら、
一転して鬼の如き表情になったツンは彼へと叫んだ。
384
:
◆IUSLNL8fGY
:2013/03/25(月) 00:19:18 ID:1oiKVfdg0
(;^ω^) 「ッ!?」
槍を突きつけられ絶対絶命の窮地へ陥ったところに、
馴染みぶかい怒声で名を呼ばれたブーンはふと、
恐怖に凍てついた身に暖かいものが流れ込んでいく気がした。
ξ#゚⊿゚)ξ 「私と同盟を組みなさい! 早く!! 馬鹿!!」
白き鋼がブーンの喉元を貫く刹那、ランサーは少女の声を歯牙にもかけぬ。
戯言と一蹴し、耳にすら入れてはいなかった。
ブーンにはその返答をよこす間もなく、槍は肉を突き破るのみ。
しかしこの少女の傍若無人さはここで真価を発揮した。
ブーンはツンのほうへと、ほんの少しだけ首を傾けただけにしか過ぎなかったというのに、
ξ#゚⊿゚)ξ 「仕方ないわね、仕方ないわ。同盟相手が危険に晒されている。
盟約を結んだというのにその相手が目の前で殺されたとあっては私の面目が立たないわ!
仕方ないから私が助けるしかないわね、ブーンッ!!」
それを強引に肯定とみなしてツンは早口でまくし立てた。
ξ゚⊿゚)ξ 「ライダーッ、アンタの宝具であいつを蹴散らしなさい!!」
ランサーを指差し、どこまでも合理主義者である彼女は命じる。
救いたければ救いたいと、そう言えばいいものを。
385
:
◆IUSLNL8fGY
:2013/03/25(月) 00:20:41 ID:1oiKVfdg0
ライダーはそれを口にはせず、ただ苦笑を浮かべて応えた。
ヤヴォールヘアマイスター
( ゚_ノ゚) 「Jawohl Herr Meister(了解したマスター)」
途端、空が割れた。
この世ならざる雷が幾重もの層となって門を成していく。
自然が超常の力によって歪められ"あちら"への道をこじ開けられると、
目を貫かれんがばかりの光量が襲いかかり、鼓膜が破られんばかりの大音が響いた。
目,`゚Д゚目 「ッ!?」
尋常ならざる気配に、ブーンへ槍を向けたランサーは思わず視線を寄せる。
ほんの一秒にも満たない些細な間でしかなかったが、
その些細な間は状況が引っ繰り返るには充分すぎるものであった。
死神がランサーに生まれた停滞を見逃すはずがなかったのだから。
雪風よりもなお凍てついた十六の風が吹き荒ぶ。
放った者の殺意と等しき必殺の風はランサーの首を狙った。
ライダーが引き起こした何ごとかへ目を傾けた彼に、気付けるはずもなく、
鋼鉄の死神は甲冑の最も薄い所へと突き立つ。
中世の日本で作られた金属が穿たれる硬い金属音が響き、
灼熱を帯びた飛沫が散った。確実に撃ち抜いたにも関わらず、
残る15の弾丸がランサーを狙う。
386
:
◆IUSLNL8fGY
:2013/03/25(月) 00:21:54 ID:1oiKVfdg0
しかしランサーは撃たれてもなお健在であった。
鋭い眼光を宿すランサーの面は不可視の死神へ振り向き、
笹の葉を模した槍の切先をそれへと突きつける。
と、同時に火花が散り、巧みに槍を操作するともう一度音が鳴った。
彼の目にはこの死神達が見えていたのだ。
真っ二つに切り裂かれて弾丸は雪の上に叩き伏せられた。
するとランサーは足に力を込めて飛び立つ。
暗き空に漆黒の武者が舞い踊り、追うようにしてアーチャーの弾丸が軌道を変えた。
夜空に光の筋が伸びていきその先をランサーが駆ける。
グリムリーパーバレット
これがアーチャーの宝具“白き死神の魔弾”である。
かつての大戦で150mの距離から1分間に16発の射的に成功した逸話から、
アーチャーの放つ弾丸は必中であるという概念が成立されたため、
宝具として具現化したものだ。
その為、この宝具はランサーに命中するまで追尾し続ける。
ランサーは自慢の俊敏さを活かして逃れるが、
387
:
◆IUSLNL8fGY
:2013/03/25(月) 00:24:35 ID:1oiKVfdg0
目;`゚Д゚目 「ぬぅッ!?」
頭上には時代遅れの機体であるにも関わらず、今世の冬空を我が物顔で飛ぶ、
夥しい魔力の塊となって現れた爆撃機があった。
ランサーが状況をする間もなくハッチが開き、
視線を覆い尽くすほどの黒い塊が現れていくと、
ファーツァーヘレッ
( ゚_ノ゚) 「地獄に落ちろッ!!」
金属の軋む音と共にランサーへ1000kg爆弾が叩き込まれた。
巨大すぎる爆炎はライダーの爆撃機をも飲み込む勢いで猛っていくが、
ライダーはその爆発ですら予め計算し、機体は爆風に載って悠然と羽ばたいていく。
月光に映し出されたその爆撃機はかつての大戦の空を跋扈していた、
第三帝国のものである。札幌の夜空に響き渡る甲高い風切り音は、
“死のサイレン”と仇名される所以だ。
――――ユンカース Ju-87
通称ストゥーカと呼ばれるこの機体は数多くの空のエースを輩出し、
ライダーもまたそのエース達の一人なのだ。
それも、大戦では比類なきほど戦車を撃破してきたスコア故に、
“破壊王”とまで恐れられた名パイロットだ。
ライダーが一度飛び立った以上、もはや誰も止めることなど出来ぬであろう。
388
:
◆IUSLNL8fGY
:2013/03/25(月) 00:26:39 ID:1oiKVfdg0
火の玉となって落下していくランサーを見下ろすライダーは険しい、
油断のない瞳で敵の撃破を見届けていく。
更に止めを刺さんとアーチャーの魔弾が突きたち、
地面に激突していくのをアーチャーもまた氷のような目で確認した。
が、しかし、次の瞬間には両者とも目を見張ることとなる。
目,`゚Д゚目 「笑止」
爆撃を、弾丸をものともせずにランサーは受身を取ってみせたのだ。
その鎧には焼け焦げた跡や何かが擦れたような跡が残ってはいるが、
ランサー自身は一切の傷を追ってはおらず、血の一滴たりとも流されてはいない。
(<`十´> 「おかしいのは貴様の方だ……」
全くの無傷である。
(;゚_ノ゚) 「ちっ! マスター!!」
流石に虚を突かれたようでライダーが叫ぶ。
ξ;゚⊿゚)ξ 「これ! どうすればいいのよ!!」
(;゚_ノ゚) 「十字に合わせてトリガーを引けばいい!!」
複座に乗ったマスターは初めて乗る爆撃機に戸惑っているようで、
それも承知の上だったのだが、まさか後方の機関銃を使用するとはライダーは思いもせず、
ツンは土壇場で初めて銃を撃つ羽目になってしまった。
389
:
◆IUSLNL8fGY
:2013/03/25(月) 00:28:24 ID:1oiKVfdg0
魔力の篭った弾丸を暴風雨の如く乱れ撃ちにするツン。
(;^ω^) 「おぉーんッ!?」
照準もデタラメで、流れ弾がブーンの足元に命中し死に物狂いで逃げる羽目になった。
高空から降り注ぐ弾が公園を蜂の巣にしていく。
地面に命中した弾が雪を続々と大量に散らせて粉塵となり、
ライダーにもツンにも公園の状況を窺えなくなってしまう。
(;゚_ノ゚) 「この劣等人種め! 粉塵でランサーが見えん!!」
公園は局所的な吹雪が訪れているのではないかと言うほどの雪に覆われた。
それをもたらしているのはツンの放つ機銃弾なのであるが、
彼女は敵を倒さんと躍起になってトリガーから指を離そうとはしない。
攻撃側からも見通すことが出来ないほどの銀幕の中、
アーチャーは某かの光を発見する。
謎の光は連続して散っていき、耳が馬鹿になるほどの銃声の中で音を混じらせる。
硬い、金属質な音だ。
アーチャーはそれをこの騒音を苦ともせずに聞き取っていた。
ストゥーカの弾が切れたのか、唐突に銃弾の嵐が止む。
散っていた大雪が粉雪となって消えていき、光と金属音の発生源が姿を現す。
黒き鎧に、鹿の角をあしらった兜を被った武者姿が槍を乱舞させていた。
その周辺には無数の金色の欠片が、まるで武者には近寄れないかのように転がっている。
390
:
◆IUSLNL8fGY
:2013/03/25(月) 00:32:36 ID:1oiKVfdg0
目,`゚Д゚目 「これで終いに御座るか?」
漆黒の武者が、ランサーが槍を構え直して声を発した。
先程の一体何発放たれたとも知れぬ弾丸を自分へ命中するものだけを見切り、
その全てを切り払って弾かれた破片が、周囲に転がる金属片だったのだ。
何という槍捌きか。
この槍捌きこそ戦国の世を生きてきた武士が技術である。
世界に名だたるランサークラスの英霊達の中でもその実力は非凡であり、
綺羅星の如く輝くほどだ。
彼の強さを前にして己自身も英霊であるに関わらず、
ライダーとアーチャーは息を飲んでいた。
高高度からでも、遠距離からでもその威圧感は肌を焼くほど苛烈である。
第二次大戦で活躍した両者と言えども、
肉眼で“武者”というものを初めて目にしたからだ。
鎧兜で戦う蛮人など歯牙にもかける必要はないなどと、
20世紀を生きていた彼らは聖杯戦争に望む以前はタカをくくっていたのだが、
その評価は妥当ではなかったと思わざるを得ない。
槍術の究極系が、そこにはあったのだから。
391
:
◆IUSLNL8fGY
:2013/03/25(月) 00:34:15 ID:1oiKVfdg0
まさに神武と言えよう。
ランサーが構えた槍の切っ先から放たれる純白の輝きが、
この場にいた全員の脳裏にそんな言葉を浮かばせる。
目,`゚Д゚目 「では――――」
( ゚_ノ゚) 「ッ!」
(<`十´> 「……」
ライダーがぎらりとブーンを見据え、槍を向けていく。
(;^ω^) 「おっ……」
雪原の上で尻餅を突いていたブーンは立ち上がろうともせず、
ただランサーに視線を釘付けにされていた。
ランサーの次なる行動にサーヴァント二騎が身を強ばらせ――――
392
:
◆IUSLNL8fGY
:2013/03/25(月) 00:37:41 ID:1oiKVfdg0
目,`゚Д゚目 「――――ぬぅ、ならば仕方があるまい」
先の言葉を飲み込み、独り言のように呟いたランサーが跳躍の姿勢を取った途端、
(;^ω^) 「おぉっ!?」
ブーンの左足から血の花が咲いた。
(;゚_ノ゚) 「何ッ!?」
ξ;゚⊿゚)ξ 「何が起きたのよ!?」
彼に起きた異変に空にいるライダーは何となく察しはついたが、
ツンには姿すら見えず全く理解することができなかった。
(<`十´> 「狙撃か」
この場で事態をよく理解出来たのはランサーを除くとアーチャーだけである。
それどころかアーチャーは狙撃位置とおおよその距離をたったの一発で割り出していたのだ。
モシンナガンの銃口をそちらへと向け、裸眼で望遠していくと姿が見えた。
393
:
◆IUSLNL8fGY
:2013/03/25(月) 00:38:34 ID:1oiKVfdg0
( A )
背格好からして男であろう。
既視感を覚える姿であった。
ほんの僅かな間ではあるがアーチャーにとっては常人の1分ほどにも感じられる。
遠距離の敵へ照準を定める時に溢れ出す脳内麻薬がそんな時間感覚の遅延をもたらすのだ。
――――あれは確か昼間に。
角度、風向き、湿度、その全てが絶好のタイミングであり、
アーチャーは思考をかなぐり捨てて引き金を引いた。
相手が何であろうと、関係はない。あれはただの標的である。
が、しかし。
目,`゚Д゚目 「無礼は承知であるが、君命である。御免!」
ランサーが地を蹴って駆け抜けるが早いか、唐突に濃い煙が辺りを満たしていった。
アーチャーの"照準"に収められていた男の姿も、白煙によって包まれてしまう。
(;<`十´> 「ちっ」
もはやなりふり構わず引き金を引いたアーチャーだったが、
モシンナガンの銃身に火花が弾けて狙いがズレた。
銃声は虚しく響き渡り、弾丸は明後日の方角へと飛んでいってしまう。
394
:
◆IUSLNL8fGY
:2013/03/25(月) 00:39:33 ID:1oiKVfdg0
ぎり、と思わずアーチャーは奥歯を噛んだ。
先手を打たれた屈辱からではない、敵の術中にはまってしまっていたことに、
全てのことが終わってから気づいた己の不甲斐なさ故にである。
敵はずっとこちらを監視し、こちらを全滅させる機会を伺っていたのだ。
ブーンとアーチャー、そしてライダー達をもランサーのマスターは一網打尽にしようとしていた。
あまつさえ非常時の撤退方法まで確保していた。
ランサーは既に霊体化しているのか見えなくなっており、
追跡しようにもマスターであるブーンが負傷してしまった為、
同盟を申し出てきたと言えどもツン達をまだ信頼出来るはずもなく、放置しておくわけにもいかない。
(<`十´> 「貴様が、そうなのか。貴様がランサーのマスターか。
これは……厄介なことになった……が、代償は高くつくぞ」
サーヴァントの武器となり現代兵器では決して傷をつけられなくなった、
愛銃モシンナガンに撃ち込まれ弾かれた弾丸を、雪の中から拾い上げたアーチャーはそう呟いた。
(<`十´> 「7.62……NATO弾……」
敵の使用火器と戦略、ランサーの戦闘能力、
そして、現状の自戦力を冷静に分析し、アーチャーは新たな戦略を組み立てていく。
―――もはや、己が全ての敵マスターを撃退してみせる。
などと大言壮語を吐く余裕は彼に無かった。
(<`十´> (しかし、何故敵は撤退したのだ……?)
395
:
◆IUSLNL8fGY
:2013/03/25(月) 00:40:59 ID:1oiKVfdg0
******
身に纏う白きローブが凍りつくほどの速度で落下するアサシンは腕を伸ばし、
鈍い輝きを放つ仕込み刃が、ギコの喉元へと吸い込まれるかのように飛び出していく。
気配遮断スキルによってアサシンは夜空と同化しており、
ギコから彼の姿を見ることは出来ず、
ただビルの頂上にいるクーだけを睨み、バイクのエンジンを唸らせていた。
一陣の風と化したギコはアサシンにとって火に飛び込んでくる羽虫も同然で、
その命を刈り取るなど熟練した暗殺者である彼にとって赤子の手を捻るほど容易いことだ。
しかし、刹那の間に予想だにもしなかったことが起きた。
それはまず音となってアサシンに伝わり、仕込み刃を通じてきた衝撃が驚愕をもたらす。
ロー・アイアス
(,,゚Д゚) 「熾天覆う七つの円環ッ」
静かに詠唱の声が響き渡り、ギコとアサシンの視線が重なった。
アサシンの瞳孔が見開かれていく。馬鹿な、とでも言いたげな表情で。
|/▼) 「宝具をッ!? 貴様ッ」
七つの花弁の如き盾が一瞬で目前に展開され、
仕込み刀を弾かれたアサシンは呟くが、その先の言葉を次ぐことは出来なかった。
敵の攻撃を瞬時に理解したギコが宝具を展開すると共にバイクの機首を上げ、
アサシンの胴体にタイヤを炸裂させたのだ。
雄叫びをあげるエンジンに力を与えられてタイヤがアサシンの肉体を食んでいく。
396
:
◆IUSLNL8fGY
:2013/03/25(月) 00:43:19 ID:1oiKVfdg0
肉を打つ音が街中を轟いてゆき、胴を衝撃が貫くも、
アサシンの左腕がギコの眼前に突き出される。
(,,゚Д゚) 「ッ!」
直感がギコの身体を突き動かしていた。
ハンドルを振るうが早いかアサシンの右腕から乾いた音が響き、
ギコの左頬を何かが掠めていく。
その何かが通過した後には赤い線が残り、硝煙と血の匂いが鼻腔をくすぐった。
(,,゚Д゚) 「仕込み拳銃とは、小賢しい」
呟き、アクセルを思い切りかけたギコはアサシンを捉えた愛車から手を離していく。
車体を蹴り上げ、宙に飛び上がった彼は、
(,,゚Д゚) 「―――I am the bone of my sword.」
黒白の二刀を作り出しアサシンへ投擲した。
空中へ大型バイクに押し上げられたアサシンの目には、
双刃が映ってはいるが、地に足が着かぬこの状況では身動きが取れない。
そしてその黒白の夫婦剣は更なる驚きをアサシンへ与える。
397
:
◆IUSLNL8fGY
:2013/03/25(月) 00:44:28 ID:1oiKVfdg0
|/▼) (またしても宝具をッ!)
アサシンには理解ができなかった。
彼の魔術の知識では到底追いつけぬ神秘がそこにはあるのだ。
何故、宝具を一介の魔術師如きが所持している?
アサシンは困惑せざるをえない。
宝具とは打ち立てられた伝説から生み出される、
人々の信仰によって宝具足る力を得る英霊と対となるものだ。
故に伝説の担い手でもないただの凡人が宝具を手にしたとて、
その真価を発揮することは出来ず満足に振るうことすら不可能であろう。
宝具を呼び出し、宝具を使用する、この男は一体?
アサシンが理解の及ばない不条理な事態を前に、
己へと迫る二刀の存在など彼にとっては些細な問題にしかすぎなかった。
白いローブに覆われた両腕を広げたアサシンの眼前で、火花が散っていく。
甲高い音と共に黒白の二刀はあらぬ方向へと飛び去った。
ローブの袖から伸びた、二つの仕込み刃によって弾かれたのだ。
難なく二刀を防いだアサシンは間を置かずしてバイクを蹴り上げた。
この上なく邪魔だったのだ。敵へと斬りかかっていくには。
398
:
◆IUSLNL8fGY
:2013/03/25(月) 00:45:21 ID:1oiKVfdg0
彼にとっては大した障害でも無く、大した攻撃でもなかった。
ただ、宝具を次々に繰り出してくるこの魔術師、
ギコの不可解さに思考を奪われ、合理的な解を導き出す時間が欲しかったのだ。
先程の夫婦剣の投擲も何ら危険を及ぼすものではなく、アサシンにとっては二の次であった。
蹴り上げられた赤い車体は持ち主のほうへ落下していき、
高速で迫ってくる愛車へとギコは向かっていった。
疾走し、跳躍する。
自分へと宙より落ちてくるバイクを、足場にして更なる跳躍。
高く高く飛び上がったギコは黒白二刀、干将莫耶を大上段に掲げアサシンを捉えた。
空中に浮かぶアサシンもまた彼を捉えている。
そして、抜き放たれたのは無数の短刀であり、その全てがギコへ切先を向けて殺到した。
ほんの一瞬で投擲された十を超える短刀を干将莫耶でギコは防ぐ。
あまりの速さで短刀が弾かれた為に、
連続して発された金属音が重なってほぼ一つに聞こえた。
399
:
◆IUSLNL8fGY
:2013/03/25(月) 00:46:10 ID:1oiKVfdg0
しかし、それでも左肩と右足に一つずつ短刀は突き立ってしまう。
迸る鮮血にギコは目もくれず、アサシンだけに目をやっていた。
アサシンもこれで仕留められるとは思っていないようで、
ギコから目を離さず、止めを刺すとでも言わんばかりにギコを睨む。
いつの間にか抜き放たれた大振りの両刃剣をアサシンは構え、
両者は渾身の力を込めて剣を振りかぶり、叫んだ。
(#゚Д゚) 「お前と遊んでいる暇はないッ!」(▼\|
互いに、優先するべき敵があった。
その的に比べれば、今己の眼前に立つ敵などただの障害でしかなく、
障害を排除するべく放った剣は激突しあい、街を震わせていく。
400
:
◆IUSLNL8fGY
:2013/03/25(月) 00:47:14 ID:1oiKVfdg0
川 ゚∀゚) 「ははっ」
紅い双眸は血に飢えた肉食獣の物に等しく、それが彼女の行動原理を物語っていた。
食欲を満たすにはまず獲物を仕留める必要がある。
罠を仕掛け、猟犬に追い立てさせ、銃で撃つというのが狩りであるが、
食欲を満たす為という目的を達する点において、
彼女が行おうとしていることは狩りに他ならず戦闘などではない。
食料を得るべく魔術という道具を用い、クーは魔力を最速で練り上げて右手をジョルジュへ向けた。
川 ゚∀゚) 「は?」
右腕は地面を向いたままだ。
掌へ凝縮された魔力は放たれようとしているが、手が動いてはいない。
ふと視線を腕へと落とすと、
川 ゚ -゚) 「なんだこれは」
細く、視認が困難な糸が二つ絡みついていた。
不思議そうに糸の伸びる先をクーが眺めていくと、ジョルジュが映る。
彼はコートの袖から伸びる何かを両手で握りしめており、
それがクーの腕を締め上げるピアノ線であることは明白だった。
401
:
◆IUSLNL8fGY
:2013/03/25(月) 00:54:18 ID:1oiKVfdg0
_
( ゚∀゚) 「"流体魔術"なら通じねーぞ?」
川 ゚∀゚) 「小癪な!!」
こんな非力なピアノ線など吸血鬼であるクーの怪力にすぐさま引きちぎられてしまうことだろう。
現に彼女はそうしようとしたが、魔術の発動直前であることが災いしてしまった。
光にも匹敵する魔力の雷が足場を破壊してしまったのだ。
容易にコンクリートを溶解させて大穴は広がり、音を立てて屋根が崩れ落ちていく。
その上に立つクーもまた溶解液と化したコンクリ片と共に落下していった。
七階建てビルの屋上から放たれた魔の雷は、最下層に到達してなお勢いを衰えさせなかったようで、
クーの落ちていった穴はまるで奈落の底まで続いているようにジョルジュには感じられた。
_
( ゚∀゚) (やはり真祖には遠く及ばねえ。スペックは匹敵するが、死徒共と変わりやしねえ)
数分ほどの戦闘を経てジョルジュはそう結論づける。
死徒、グールの上位に立つ存在、真祖。
他者の血液を得ることで悠久の時を生きる存在。
人の一生を凌駕する時間を以て身につけたその魔術は人知を超えた域に達する。
到底人間一人で手におえる相手ではないが、クーはまだその域には達してはいない。
真祖ほどではないが、グールほど劣ってもいない。
だからこそ、そこにジョルジュが付け入る隙があった。
そして彼女の扱う魔術を知っているからこそ裏をかけた。
402
:
◆IUSLNL8fGY
:2013/03/25(月) 00:55:25 ID:1oiKVfdg0
勝てる。
その確信がジョルジュにはあった。
_
( ゚∀゚) 「死んでもらうぞ化物。異教は排斥されるべきなんだよ」
黒鍵を再び構えたジョルジュは袖から伸びるピアノ線を辿り、
クーを追跡せんと焼き切られた穴へと向かって駆け出すが、腕が突然引っ張られた。
この強引で暴力的な力は明らかにクーのものだ。
_
(;゚∀゚) 「強化の魔術を使ってこれかよ。馬鹿げてやがる!」
万力で腕を押し潰されているのではないかと錯覚するほどの痛みに、
ジョルジュは素早くピアノ線を左手の黒鍵で断ち切ろうとしたが、
右腕に引っ張られて地面へと叩きつけられた為それは叶わなかった。
強化を施された肉体に大したダメージは被らなかったが、
地に這いつくばっているジョルジュの眼前には、より危険なものが広がることとなる。
川 ゚∀゚) 「ははっ」
クーが、ジョルジュのピアノ線を引っ張り上げることで屋上へと舞い戻ってきたのだ。
左手には莫大な量の魔力が込められており、それが今まさに放たれようと輝きを放っていた。
剣を複製するわけでもなく炎を巻き起こすでもなく、ただ単純に魔力に指向性を持たせて放つ術式。
魔力放出によってジョルジュは貫かれようとしていた。
瞬きする間もなく発動するそれを避ける術は彼にはない。
403
:
◆IUSLNL8fGY
:2013/03/25(月) 00:57:49 ID:1oiKVfdg0
_
(;゚∀゚) 「ホントに馬鹿げてやがるぜ」
ならばと、せめて致命傷を避けるべく身を捩らせて覚悟を決めるも、杞憂に終わった。
クーの左腕の肉と血が炸裂し、収束されていた魔力があらぬ方角へと向けて放たれたのだ。
夜空を一筋の雷光が照らしていき、ほんの少し遅れて銃声が二人の耳朶を打っていく。
続けざまにジョルジュの耳へある声が届いた。
(⊆、⊇トソン 『I(インビジブル)2、支援します。
速やかにランデブーポイントへ移動してください』
魔術を用いた一種のテレパシーによって乗せられた、トソンの声だ。
街中に放った使い魔から異変を感じ取ったのか、ジョルジュの帰還の遅れを察してか、
インビジブル1の傭兵達は既に戦闘態勢をとってクーを包囲しているようだった。
その証拠に、クーの目からジョルジュを逃れさせる為ビル屋上へスモークが散布されている。
狙撃とほぼ同時に白リン手榴弾を放っていたのだろう。
_
(;゚∀゚) 『I2了解。悪い、助かった。その後のプランは?』
念波で交信しながらジョルジュはピアノ線を切り落とし、駆け出していく。
戦闘中に咄嗟に思いついた、黒鍵と右腕にピアノ線を巻きつけ、
"流体魔術"を逆に利用してクーを縛り付けるという戦法は、発想は良かったが失策であった、
とジョルジュは肉に食い込んだそれを切り落としながら悔やんだ。
404
:
◆IUSLNL8fGY
:2013/03/25(月) 00:59:04 ID:1oiKVfdg0
_
(;゚∀゚) 「ちっ、アサシンの野郎は何してやがんだ!」
クーを挟撃し各個撃破に当たっていれば、こんな事態にはならなかっただろう。
ジョルジュ一人には荷が重すぎる役目であったのだ。
アサシンはサーヴァントであるが故にギコとクーの戦闘力を過小評価しすぎ、
連携もとれずギコも討ててはいないという体たらくである。
慢心と言われても弁解はできまい。
そのツケを一挙に回されたジョルジュはたまったものではない。
脱兎のごとく逃走する醜態を晒す事態に、舌打ちをついた。
だが、"煙幕をはられ狙撃を受けている"というだけの理由で、逃がすクーでもない。
(⊆、⊇トソン 「目標、左半身を仰け反らせ落下。ビル屋上へ着地までおよそ4秒。
ヘッドショットエイム――――」
_、_
( ,_ノ◎) 「ヘッドショットエイム」
スポッターを務めるトソンの傍ら、L96A1構えた澁澤がクーに狙いを定め、
引き金にかけた指へ力をこめたその時、
(⊆、⊇;トソン 「―――ッ!?」
トソンの目に異形が飛び込んできた。異形としか形容の出来なかった。
トソンもとっさにはそれが何であるか理解が追いつかず、ただ呆然とする他なかった。
クーの銃撃によって失われた肘から無数の黒く蠢く物が這い出てきたのだ。
405
:
◆IUSLNL8fGY
:2013/03/25(月) 00:59:57 ID:1oiKVfdg0
蟲である。
鎧のような甲殻で身を多い、鞭のごときしなやかさを誇る無数の触手を伸ばした“魂蟲”が、
女体より這い出てくる姿はトソンに生理的嫌悪をもたらし、それを認知することを心が拒んだ。
魂蟲の一部はそのままクーの血肉へとなっていき、腕を形成していく。
余った蟲達は甲殻を断ち割り、六枚羽根を広げて煙が立ち込める夜空を舞う。
群をなし、ジョルジュを発見するべく街中へと広がっていった蟲達を見て、
ようやっとトソンは己を取り戻したが、澁澤はとっくに銃弾を放っていた。
トソンが気付いた時にはもうクーの頭部から血飛沫が飛び散っており、命中したのだと彼は確信する。
(⊆、⊇;トソン 「ヘッドショットヒッ―――いえッ!」
澁澤が予想していた言葉は遮られ、代わりに起こるはずのなかった事態がスコープに映っていた。
弾丸がクーの眼前に現れた魂蟲が盾となり、蟲達の血飛沫が散ったのだ。
雪のように白い肌は無傷で、赤き瞳が澁澤とトソンを睨む。
川 ゚ -゚) 「そんなオモチャじゃ私は殺せやしない」
次の瞬間には、周囲に青白い光と蟲を纏わせたクーが立ちはだかっていた。
欠損した部位を黒々とした蟲が蠢き合い、それぞれが結集して一つの生物となったような奇妙な光景。
たまらずトソンは足に装着していたホルスターからハンドガンを抜き、乱射した。
406
:
◆IUSLNL8fGY
:2013/03/25(月) 01:01:25 ID:1oiKVfdg0
刹那の間に瞬いた銃火三つに遅れ、三つの虚しい金属音と火花が散っていく。
魂蟲達の甲殻がトソンの持つUSPの9mm弾を弾いたのだ。
本来、人間の体内に潜り込ませその者の生殺与奪を得、
魔術回路として与えられるこの蟲はこれほどの硬度を持たないのだが、
クーの吸血鬼としての体質と魔力を貪ることにより、
今や魂蟲達はより獰猛により狩猟に適した形に進化していったのだ。
その結果甲触手は剣の如く鋭く、甲殻は鎧の如く発達し、
拳銃弾程度ではもはや彼らは止められなくなった。
次いで、触手が鉄のような冷たい輝きを放ち、クーの腕から一斉にトソンへと蟲達が飛び立っていく。
_、_
( ;_ノ` )「ちっ!」
群をなして殺到する蟲達へ渋澤が冷静に手榴弾のピンを引き抜いて投げ込むも、
蟲の群れに飲まれた手榴弾は爆発する直前にズタズタに切り裂かれ、
その威力を発揮することはなかった。
小さな爆発が黒い塊となった蟲達の中で沸き起こるも、勢いを彼らが衰えさせることはなく、
トソン達は咄嗟に身を伏せた。這い蹲る形となった彼女らに蟲達が容赦するはずもなく、
降伏を示した獲物達を貪らんとするだけだ。
蟲達が羽音を一層耳障りに響かせ加速した直後、何かが飛来する音がした間もなく大爆発が巻き起こった。
火炎に飲まれた虫たちは六枚羽を燃え滾らせてぼとりと落ちていき、
爆発を避けた虫たちも鉄片によってズタズタに切り裂かれてしまった。
鮮血と炎の紅き乱舞がクーの目前で繰り広げられ、彼女は宙に尾を引いた白煙を辿っていく。
407
:
◆IUSLNL8fGY
:2013/03/25(月) 01:02:29 ID:1oiKVfdg0
川 ゚ -゚) 「またエサが増えたか。捕食出来ず少々焦れている、逃げるなよ?」
その先にはビルがあり、ちょうどこちらを見通せる階層の窓が割られているが、誰もいない。
既に、そこには。
('、`*川 「逃げるですって? 随分な口を聞くようになったじゃない。
逃げるのは貴女のほうよ、"クーちゃん"。
既に貴女は私達に囲まれ銃口に晒されている―――"逃げるなよ"?」
クーの目の前に彼女はいた。
炎の中に"隠れ"潜んでじっと隙を伺っていたのだ、ペニサスは。
気付いた時にはクーの身体は二つの黒鍵によって切り裂かれていた。
川 ゚ -゚) 「クー……ちゃん? 誰だ、貴様は?」
しかし両腕を切り落とされてなお、彼女は余裕を崩さない。
両腕を失うよりも、まるで己の名を知るこの女のほうが重大であるかというように。
('、`*川 「……何も、何も覚えてないのね。なら、何も思い出せぬままに死んで逝きなさい」
突如として幾重もの銃声が響き渡る。まるで一つの音のように感じられるほどそれは同時であった。
そしてクーの身体中に風穴が無数に空いていき蜂の巣となってしまう。
川.゚。-・゚o) 「ナ……ニ……ヲ……? ペ――――」
喉を撃ち抜かれた彼女の声は言葉にはならず闇へと消えていくが、
依然倒れるということはせず平然と立ち尽くしている。
だが、その目からは以前の貪欲な肉食獣の輝きが失われてしまっていた。
408
:
◆IUSLNL8fGY
:2013/03/25(月) 01:05:01 ID:1oiKVfdg0
かのように思われた。
四方八方より殺到する弾雨によりズタズタに引き裂かれたクーは、
肉片へと変貌していったが、いまだ銃火が止むことはなかった。
だが、吹きす荒ぶ弾雨の中彼女の砕けた足が、胴から溢れた臓物が、
弾け飛んだ腕が、穴だらけの顔が再生していき、立ち上がる。
歯をギリ、と噛み締めたクーは口から血反吐を漏らし、キッとペニサスを睨みつけ―――
川#゚ -゚) 「バーサーカー!!」
令呪を用いて己のサーヴァントを呼びつけた。
雷鳴と白光が辺りを包み込み、一瞬後に闇が現れる。
夜と一体化する、漆黒の巨躯と鎧。
浮かび上がる面は、怒り一色に染まった獰猛な獣のモノ。
以#。益゚以 「―――――――――ッ!!」
召喚と同時に振り上げられる邪悪な剣が、ペニサスを捉える。
慌てて仲間たちが銃撃を浴びせるもバーサーカーにそんなものは効かず、
虚しく火花を散らしていくのみだ。
409
:
◆IUSLNL8fGY
:2013/03/25(月) 01:06:42 ID:1oiKVfdg0
川 ゚ -゚) 「雑魚はお前にくれてやる。私は逃げた奴を追おう」
ペニサスに刃が振り下ろされるのを見届けもせず、
クーは身体中に青白い魔力を纏わせてその場を去っていく。
魔力をジェット噴射のように放出することで高速移動を行う、魔力放出を応用した移動法だ。
('、`*川 「時間を掛けすぎたようね……」
諦観の篭った瞳でバーサーカーを見届けるペニサスだが、
('、`*川 「"貴女”も、"私たち"も」
その諦めは全く別の次元へと向けられているようだった。
バーサーカーの凶刃が彼女の身に触れることはなく、
圧し切られた刀身が宙を舞った。
刹那、清澄な空を切り裂く音色がたつ。
刃は鏡のように曇りがなく、表がペニサスの顔を、裏がバーサーカーの紅き瞳を映し出した。
そしてその刃を備えた槍を構える者もまた、闇を纏ったかのような漆黒の鎧を身に包んでいた。
鹿角の兜を被った男は黒き巨人と対峙し、闘気が滾る眼で敵を貫く。
目,`゚Д゚目 「槍が英霊ランサー! 参上仕った!!」
構えた槍は切先を敵へと向けた。無論、己の敵へとだ。
連戦にも関わらずランサーの闘志は衰えることなく疲労もない。
いや、それどころか益々盛んである。
不完全燃焼で終えた先の戦いの凝りを、晴らさんかの如く彼は吠えた。
410
:
◆IUSLNL8fGY
:2013/03/25(月) 01:09:15 ID:1oiKVfdg0
ランサーと対峙するバーサーカーは新たに現れた獲物に歓喜し、
ただ叩き潰さんがため力の限り剣を振り払う。
腹から先が折れたその刀身は凄まじい風切り音を立て、虚空を裂いた。
手応えが感じられず、バーサーカーは本能的に上を見た。
ランサーはそこにいた。
槍を片手に持ち替え、もう片方の手でペニサスを抱えた彼は、
バーサーカーの顔面を脚絆で踏みつけて再び跳躍する。
理性など残っていないバーサーカーはその程度の痛みでは怯みもせず、
それどころか踏みつけられた衝撃を利用し、
振り返りざまに黒剣を叩きつけようとした。
しかし、折れた刀身ではもはや届かずランサーの具足を掠めることすら出来ない。
逃げる獲物に怒り、吠え、バーサーカーは屋上から飛び降りたランサーを追う。
その後ろ姿を息を飲んでトソン達には眺めることしかできなかった。
優先順位だ。トソン達はバーサーカーにとっては脅威に値せず、目もくれる必要はない。
いや、もしかしたら他のサーヴァントを倒すという目的を以て召喚された英霊としての、
意思がこの狂ったサーヴァントにほんの僅かにでも残っていたのだろうか。
411
:
◆IUSLNL8fGY
:2013/03/25(月) 01:09:55 ID:1oiKVfdg0
着地したランサーはペニサスを下ろし、
('、`*川 「私達は引き続きバーサーカーのマスターを狙うわ。ランサー、貴方は―――」
目,`゚Д゚目 「ペニサス、主は撤退をお望みである。引くのだ」
意気揚々と何か焦りのようなものを見せる彼女に、そう告げた。
('、`*川 「相手は死徒だと、ボスには伝えたはずよ?
まだ、不完全な吸血鬼。今なら充分、仕留められると教えたはず」
目,`゚Д゚目 「一体どれほどの死者を出せばその者を討てる?
主は損害を望んでいない。こちらの存在が他のマスター共に知れ渡ることも、現段階では」
目,`゚Д゚目 「各自の安全を確保し情報収集に努めよ、後は俺に任せろ」
目,`゚Д゚目 「との言伝を拙者は賜った。蛮勇は匹夫のすることぞペニサスよ」
"インビジブルワン"
('、`*川 「……ボスは、I1は今どこに?」
苦虫を噛み潰したような顔をして、去り際にペニサスが問う。
412
:
◆IUSLNL8fGY
:2013/03/25(月) 01:10:37 ID:1oiKVfdg0
目,`-Д-目 「見えぬが、既に到着しておられる」
( 、*川 「そう……“Holy shit”」
槍を構え直し、気を練り上げたランサーは上空を向く。
以#。益゚以 「――――――――――ッ!!」
天から響き渡る獣の雄叫び。
月夜に浮かび上がる黒き巨躯が、大上段に折れた剣を構えて降りかかる。
未熟な隠匿の魔術によって姿が消えていくペニサスに目をやらず、
ただランサーはそちらを一直線に向き、突きを放った。
刃と刃が激突し、衝撃波が周囲に轟いていく。
僅かの遅れで、鼓膜を突き破るほどの金属音が街中を震わせていった。
聖杯戦争開始二日目、第二夜の終局の始まりである。
413
:
◆IUSLNL8fGY
:2013/03/25(月) 01:11:26 ID:1oiKVfdg0
******
闇夜に咲く火花。火花に次ぐ火花。
それらは連続して咲き乱れる。
次いで音が来る。硬い、金属同士のぶつかり合う音だ。
電灯の薄明かりのもとで彼らの一帯だけまるで照明が当てられてるかのように、
二人の男は絶え間無い剣戟を繰り広げていた。
|/▼) 「ッ!」
翻るは両刃の剣。鉛色の刃が男の首を狙う。
風を薙ぎすすむ刃を相手のが白の短剣で受け止める。
(,,゚Д゚) 「シィッ!!」
息吐く暇なしに対となる黒の短剣で白ローブの男の腕を切りつける。
が、ローブの袖を覆う篭手から仕込み刃が伸びて、短剣を凌いだ。
その隙に片手で構えた剣を白ローブの男が一閃。
今度は黒白双刃を交差させて男が鉛色の両刃を受け止め、そのまま押し込めていく。
|/▼) 「ギコよ、無謀だぞ。サーヴァントに身体能力で敵うとでも?」
白ローブの男、アサシンはフードで見えなくなった顔を苦笑させ、
両刃剣を受け止められたにも関わらず落ち着いて言い放つ。
414
:
◆IUSLNL8fGY
:2013/03/25(月) 01:12:29 ID:1oiKVfdg0
(,,゚Д゚) 「なに……?」
ギコは驚きを隠そうともしなかったが、全身に篭った力を緩めはしなかった。
いや、それどころか強化の魔術を用いて益々力を強めていった。
無論ギコが驚いたのはそんなことではない。
アサシンが、彼の名を知っていたことが全くの予想外であったのだ。
(,,゚Д゚) 「何故、貴様が俺の名を?」
両者の力はなんと拮抗した。
三つの剣が停滞し、そのまま二人は凌ぎを削り合う。
四つの瞳が睨みを効かせ、
|/▼) 「わかるさ、シィは私のマスターだからな」
(,,゚Д゚) 「シィの? シィが俺の命を狙うとでも?」
|/▼) 「お前の命を狙うのはこの私で、もはやシィはこの世にはいない」
(,,゚Д゚) 「……貴様が殺ったのか?」
|/▼) 「殺ったのは穏田ドクオさ」
(,,゚Д゚) 「ほう……それで、それを伝えて貴様は何がしたい?」
アサシンはフードに隠れた顔を笑みで満たし、その場を飛び退った。
招かれざる客が現れ、アサシンに斬りかかったのだ。
415
:
◆IUSLNL8fGY
:2013/03/25(月) 01:13:22 ID:1oiKVfdg0
<人リ゚‐゚リ「……」
現れたのは甲冑を装備した金髪の少女。
セイバーである。
セイバーはギコを護るかのように立ちはだかり、剣を構えた。
最も優れたサーヴァント、セイバー。
アサシンが真っ向から対峙して敵うような相手ではなく、
その実力の差を身に纏う魔力の高さから彼は察していた。
故に彼は逃走を選択する。彼がもし、一人であったのならば。
だが彼は一人ではない。それを今知るのはこの場でアサシンのみであった。
同じ気配遮断の能力を持つ、"彼"をここで認識できるのはアサシンだけだ。
そして彼はいる。ギコの背後にいる。
(#'A`) 「ギコォォォォォォォォォォォォォ!!」
|/▼) 「ッ!?」
莫大な魔力を発露させて、ドクオは姿を現した。
(,,#゚Д゚) 「ドクオッ!!」
憤怒の表情をしたギコは、彼へと振り向き咆哮を轟かせていく。
積もりに積もった恨みと怒りを、数年ぶりの再会を果たした宿敵へ剣と共にぶつけていった。
416
:
◆IUSLNL8fGY
:2013/03/25(月) 01:17:02 ID:1oiKVfdg0
第七話「"holy――――shit"」乱世エロイカpart5
投下終了
417
:
名も無きAAのようです
:2013/03/25(月) 01:18:34 ID:ZZcIgyGI0
久しぶりだ!やっぱり面白いな。乙!
418
:
名も無きAAのようです
:2013/03/25(月) 01:20:40 ID:A/BG0Oig0
うおおおおおおおおきてたあああああああああああ!!!!!
419
:
名も無きAAのようです
:2013/03/25(月) 01:21:54 ID:zCr9S4fc0
おつ
420
:
名も無きAAのようです
:2013/03/25(月) 23:20:36 ID:7fSwMxTc0
おつおつ
421
:
名も無きAAのようです
:2013/03/26(火) 00:23:00 ID:r/Cx9MtQ0
乙ー。ランサー強い
422
:
名も無きAAのようです
:2013/03/30(土) 21:20:56 ID:/ahSQnZM0
来てたか・・・!乙
423
:
◆IUSLNL8fGY
:2013/04/09(火) 10:46:16 ID:p.TqZ4to0
******
ギコとアサシンが剣戟を繰り広げる傍ら、ビルの上では閃光が瞬いていた。
月光よりも輝かしきそれはクーから放たれており、少し遅れて鋭い音が響く。
光速にも匹敵する勢いで走ったものは雷だ。
雷の向かう先には男の姿がある。ジョルジュだ。
だが既にそこにジョルジュの姿はない。
クーの魔力の流れと挙動を魔術によって強化された動体視力で見切り、
地面を蹴ることで飛び上がっていたのだ。
発射直前で行われた回避動作を認識してはいるものの、
高速故にもはや魔力の流れを抑えられず、虚空を白光が貫いていった。
しかし宙に浮かんだ彼はあまりにも無防備であり、クーはにやりと笑みをつくり右手をかざす。
右手へ光が集まりだしていき、魔力が凝縮されていく。
雷が発生するまでのタイムラグは2秒とないが、
ジョルジュはコートの袖から刃を取り出し投擲してみせた。
二筋の鈍色が闇を走り、突き出された女の細腕をその切っ先に捉える。
肉を鉄が食い破るかと思われた、途端に黒鍵は軌道を変えてしまう。
その軌道変更にジョルジュの意思は全く介してはいない。
クーの魔術により防がれ、黒鍵は今や彼女の首筋を掠めもせずに飛んでいった。
黒鍵を投擲したことにより生じた隙をクーは見逃しはしない。
424
:
名も無きAAのようです
:2013/04/10(水) 01:11:15 ID:aGZgUn9k0
姿があるのかないのかはっきりしろよ
425
:
名も無きAAのようです
:2013/04/15(月) 17:11:17 ID:2DazmoCg0
どう考えてもギコが主人公
426
:
名も無きAAのようです
:2013/09/01(日) 16:44:02 ID:8w3AvPhY0
すんごい待つ
427
:
名も無きAAのようです
:2013/12/25(水) 16:53:39 ID:1w9rDKSg0
まだかーい?
428
:
名も無きAAのようです
:2014/10/28(火) 17:15:50 ID:yxszmN8c0
待ってるよ
429
:
名も無きAAのようです
:2015/11/03(火) 20:44:22 ID:51b1Pji20
一年やーん!
430
:
名も無きAAのようです
:2018/09/23(日) 22:42:43 ID:xsK9sR5M0
4年やーん!
431
:
宝イック辛い
:2023/07/27(木) 15:29:47 ID:TVVPfstg0
黒田はるひ
アホか渡辺を殺って
432
:
名も無きAAのようです
:2023/08/10(木) 11:35:57 ID:2t677z9w0
青山繁晴は夫婦でメタンハイドレート詐欺をしている詐欺師です
数年前に新潮の記事で、東大の理系の教授がメタンハイドレートの実用化は科学的に不可能だと説明していました
この教授はメタンハイドレートは公共事業だといってました
メタンハイドレートの開発に税金が年間100億円も使われていたんだけど、今では年間200億円もの税金が使われています
繰り返しますが科学的に実用化が不可能です
これを仕切ってるのが詐欺師、売国奴、税金泥棒の青山繁晴です
こいつ感情的な声を出すでしょ、感情的な声を出すのは障害者です、文系の低脳
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
武田邦彦は3年ぐらい前の秋か冬に、「いま地球は寒冷化しています。今年の夏のロサンゼルスは30度を超えてる日はないです」といってたので調べたらロサンゼルスは連日ほぼ30度を超えていた。
うそついていたんだよ、武田は。
武田のようにハスキーで感情的な声を出すやつは文系に大人気になるんだよなー。
武田はいい加減な人なので使うな。
マツダもダメだな。
武田は「自分は障害があり、体のバランスがわるくてまっすぐ歩けない」みたいなこともいってた。
こーゆう人は、@@者手帳をもらってる人だ。
こーゆう人は、感情的な声を出す。
健康で身体能力が高い人は武田のように異常な感情的な声は出さない。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
Q
長い目で見れば地球は寒冷化するってホント?
そろそろ氷期が来ると聞いたのですが、だとすると温暖化は心配しなくていいのでは?
A
少なくとも数万年は寒冷化しない
温暖な間氷期はあと数万年続く
回答者/木野佳音
東京大学工学系研究科 助教 古気候学
ht tps://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/features/z1304_00241.html
433
:
名も無きAAのようです
:2023/08/17(木) 16:51:02 ID:mdTtmh4w0
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