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( ^ω^) ブーンが雪国の聖杯戦争に挑むようです

102 ◆IUSLNL8fGY:2012/04/14(土) 13:55:37 ID:nqepu3F.0

('A`) 「こいつがマスターだな」

その言葉にインビジブルワンの傭兵達は目をギラつかせると、
己の標的を見定めて"部隊長"であるドクオに指示を乞う。
 _、_
( ,_ノ` ) 「ボス、指示を」

('A`) 「恐らくはこいつが白いやつのマスターだ。
    バーサーカーに襲われ逃走中、ってとこだろうな。
    バーサーカーのマスターが見えないのが気にかかるが、マスターには違いない」

('A`) 「このマスターの位置と動きから察するに、
    西から下山してそのまま10丁目方面に逃げ込むつもりだな。
    俺とジョルジュが追跡する。お前達は――――――――」

ドクオは情報をまとめ、仲間達へと指示を下していった。

目,`゚Д゚目 「どれ、我が主の手並みを拝見させて頂くかのう……」

103 ◆IUSLNL8fGY:2012/04/14(土) 13:56:26 ID:nqepu3F.0

******

(*;゚ー゚) 「はぁ……はぁ……っ」

シィは走っていた。

アサシンにその場を任せて逃走し、既に10分ほどが経過している。
その間一切速度を落とさずに全力で走り続けることで、
剣を交える金属音は途絶えたが、未だに木々を破壊する爆音は耳に届く。

(*;゚ー゚) (アサシンは大丈夫なのかしら)

森を抜け、市街に面した場所に到達したシィは、
ようやくサーヴァントの身を案じる余裕が生まれた。

背後を振りかえり山を見渡すと、土煙が立っているのが目立ち、
それは一般人には微かな変化にしか思われないだろうが、
彼女にはそこでサーヴァント同士の剣劇が繰り広げられていることが分かる。

(*;゚ー゚) 「アサシン、早く戻ってきて」

アサシンは充分に時間稼ぎの役割を果たした。
後は撤退し、シィの元に戻るのみだ。

サーヴァントを召喚した以上戦いの権利を放棄しない限り、
シィは狙われ続けることになる。

バーサーカーから逃げおおせたと言ってもアサシンが彼女の傍にいない以上、
残る5人のマスターに狙われた場合成す術も無く殺されてしまうだろう。
そんな状況で夜の街を歩くのは、シィには危険極まりない行為であった。

104 ◆IUSLNL8fGY:2012/04/14(土) 13:57:24 ID:nqepu3F.0

(*;゚ー゚) (とりあえず、どこかに隠れていなきゃ)

そう思ったシィは止めていた足を動かし、ひとまずどこかに隠れることにした。
魔術を使っているところを一般人に見られるのは、魔術師にとって禁忌である。
もっとも"証拠"さえ残さなければ問題はないのだが、人混みとあってはそうもいかない。

だからシィは、深夜でも人の多い場所を探して歩き続けた。
ビルの林立する10丁目通りを歩き続け、アスファルトに積もった雪に足跡を刻むシィ。

彼女は交差点に迫るとまだ灯りのつく場所を見つけた。

ほとんどの店はシャッターを降ろしていたが、
まだコンビニや一部のファーストフード店は開いている。

(*゚ー゚) 「そういえば!」

シィはここまでやって来る時、左側に曲がった先に、
コンビニがあったことを思い出すとスピードを上げた。

口からは荒い息が漏れ、心臓はもはや限界を迎え早鐘を打っていたが、
生き残る為に全力で走り続けた。
コンビニへ逃れようとする彼女はもはや縋りつく思いだ。

(*;゚ー゚) (人前じゃ、他のマスターも下手なことはしないでしょう)

交差点に差し掛かり、シィが後少しだと思った途端、胸の内に安堵が生まれた。
自分はサーヴァント同士の戦いに、生き残ったのだ。
これでかつての恋人と、ギコと合流できれば、聖杯を手にするのも夢ではない。

105 ◆IUSLNL8fGY:2012/04/14(土) 13:58:18 ID:nqepu3F.0

(*゚ー゚) 「大丈夫、私はまだ戦える……これからも」

確かな自信を手にしたシィは笑みを作り出そうとすると、

(*゚ー゚) 「え……?」

音が響いた。
生々しい音だ。

衝撃が左肘から右半身へ響いていくと、次に強烈な熱量を左腕に感じる。

(*゚ー゚) 「なに……?」

走ることで生まれた熱ではない。
熱源へ目を配らせるが、彼女は事実を否定したくなった。

(*;゚ー゚) 「なん……なのよ……これ?」

灼熱を感じる左肘から先が地面に転げ落ちていたのだ。
血液がだくだくと流れ出る真っ赤なそこからは白い骨が飛び出していて、
それを目にしたシィは反射的に絶叫を上げそうになるが、

('A`) 「……」

濃緑色のモッズパーカーを羽織ったドクオに顔面を殴りつけられ、
口まで出かかっていた声は掻き消されてしまった。

自分の腕から噴出した血によって出来た水溜りに倒れ、
シィの白いダウンは赤黒く汚れていく。
血に塗れた彼女の傍らには、吹き飛ばされた己の腕がぽつりと並んでいる。

106 ◆IUSLNL8fGY:2012/04/14(土) 14:04:03 ID:nqepu3F.0

(*;´ー゚ナ) 「な……に……?」

('A`) 『狙撃は成功だ。これより移植を行う。周囲の警戒を怠るな』

シィは未だに事態が飲み込めていない様子だ。
だが、インカムを装着したドクオは彼女と打って変わり、
冷静に状況を仲間へ報告し、進めていく。
  _
( ゚∀゚) 「ボス、本当にそんなこと出来るのか?」

反対側、交差点から回り込んできたジョルジュがドクオに尋ね、
その間にも彼は雪の上に転がった令呪の宿るシィの左手を掴むと、

('A`) 「出来るさ、霊媒治療術は心得ている」

(*;´ー゚ナ) 「うっ……!」

身動きを取れぬよう彼女の身体を蹴りあげ、
踏みつけながらも魔術を練り上げて呪文を唱え出す。

シィはその様をただ眺めていることしか出来なかった。
ドクオの魔術によって、奪われてしまった自分の左手に宿る令呪が輝きだし、
  _
(;゚∀゚) 「……つッ!」

痛みと共にジョルジュの右手へと移植されていった。
今や、シィに宿っていた令呪は彼の手の甲で赤々と輝いている。

107 ◆IUSLNL8fGY:2012/04/14(土) 14:05:53 ID:nqepu3F.0

(*;´ー゚ナ) 「あっ……あぁ……」

言い知れぬ喪失感にシィは苛まれた。
サーヴァントも、聖杯も、ギコの力になるという想いも、
全て姑息な手で奪い取られてしまったのだ。

('A`) 「ジョルジュ、命じろ。令呪を使って、あの白いサーヴァントに」
  _
(;゚∀゚) 「……どうすればいいんだ?」

('A`) 「簡単だ。『マスターの変更を認め、前マスターを殺害せよ』と、
    令呪を意識して念じればいい。急げ、マスターの危機をサーヴァントは察知してくるぞ」
  _
(;゚∀゚) 「あいよ……」

言われた通り、ジョルジュは令呪の宿る手を抑えつけ、集中していく。
ドクオはシィの動きとサーヴァントの襲来に備え、警戒しながら彼を一瞥する。
  _
(;-∀-) 「令呪を以って命ずる……マスターの変更を認め、前マスターを殺害しろ……」

ジョルジュの言葉と共に令呪は一際大きな光を放ち、一画が失われた。
そして、残り二画となった令呪の前に――――

|/▼) 「……」

稲妻が生じたかと思ったその瞬間、サーヴァントが現われた。

108 ◆IUSLNL8fGY:2012/04/14(土) 14:06:49 ID:nqepu3F.0

('A`) 「ふん、アサシンだったか……」

マスターだけが持つサーヴァントのステータスを見る眼で、
疑問だった彼のクラスをドクオは確認した。
しかし、興味の無いような声で呼ばれたアサシンのサーヴァントは、

|/▼) 「……」

(*;´ー゚ナ) 「ひっ……あ、アサシン……嘘よね?」

淡々とシィの元へ近づいていき、ドクオは離れていく。
フードに隠れた顔を拝んだ彼は笑みを浮かべ、
アサシンは感情を窺わせぬ冷たい眼でシィを見た。

|/▼) 「……すまん、シィ」

(*´ー;ナ) 「いや……いやよ!」

横たわった彼女は涙を流し、必死に訴えかけた。
それでも、アサシンは令呪で命じられた通りに行動するしかなく、
その場で跪くとシィの首を掴んだ。

(*´ー;ナ) 「―――――」

何が起きたのか、掴まれた首には短刀の刃が突き立っており、
それはアサシンの右手の籠手から伸びていた。
引き離された白刃は血に塗れ――――

109 ◆IUSLNL8fGY:2012/04/14(土) 14:07:42 ID:nqepu3F.0

(* ーナ)

シィの命はその短刀によって奪われてしまった。
アサシンは首から離した手でシィの開きっぱなしの瞼を閉じてやり、

|/▼) 「眠れ、安らかに……」

亡骸へそう言葉をかけた。

その言葉は万人に等しく訪れる、死出の旅立ちが安らかであることを祈るものだ。
生前にアサシンが多くの暗殺対象へ向けて放った言葉でもある。

('A`) 「よくやったジョルジュ、アサシン。作戦は終了だ」

ドクオは仲間達へそう呼び掛けると、二人は速やかにその場を離れていく。

その迅速さは彼らが戦闘のプロフェッショナルであることの証明に他ならない。
死体や現場の後片付けは、聖堂協会と魔術協会の仕事だ。
死体一つ片付けることくらい、彼らにとっては造作もない。

ドクオがどのような汚いやり口でマスターを殺害しても、
聖杯戦争で生じた戦闘の後始末をするのは両教会の仕事であり、彼は利用しているのだ。
  _
( ゚∀゚) 「了解」

|/▼) 「……」

新たなマスターにジョルジュを迎えたアサシンは何も語らず、
実体を失って霊体へと変化していった。

110 ◆IUSLNL8fGY:2012/04/14(土) 14:09:06 ID:nqepu3F.0
第二話 問おう、お前が私のマスターか? 投下終了

次回は未定です
まとめありがとうございます

111名も無きAAのようです:2012/04/14(土) 14:19:54 ID:rp64bvng0
ドクオエグいことするな

112名も無きAAのようです:2012/04/14(土) 15:34:17 ID:vz1eRMck0
えっげつねぇ…
乙面白いよー

113名も無きAAのようです:2012/04/14(土) 15:58:44 ID:KCxdRVpc0
乙。しぃ……

114名も無きAAのようです:2012/04/14(土) 21:58:20 ID:J66INDbo0
遅れたが乙

115名も無きAAのようです:2012/04/15(日) 01:07:25 ID:rLZpVoYQO
乙。しかし「兵は神速を尊ぶ」や「敵を知り、己を知れば百戦危うからず」は孫子の兵法だ。

116 ◆IUSLNL8fGY:2012/04/15(日) 13:30:51 ID:mWGjqv/A0
>>115
すまん、誤解してた……

まとめさん、まとめた際に>>98のセリフを修正して頂けると嬉しいです
>目,`゚Д゚目 「ほう、現世にも孔子を知る者がいるのか。貴殿は軍師で御座るか?」
×

目,`゚Д゚目 「ほう、現世にも孫子を知る者がいるのか。貴殿は軍師で御座るか?」



何か指摘や質問があればレスお願いします

117名も無きAAのようです:2012/04/15(日) 19:56:38 ID:Ke/Jo88Q0
>>116
修正しました

118名も無きAAのようです:2012/04/15(日) 21:56:38 ID:qH2PoAXU0
面白い

119 ◆IUSLNL8fGY:2012/04/15(日) 22:43:47 ID:mWGjqv/A0
>>117
ありがとうございます
指摘し忘れた部分まで、助かりました

120名も無きAAのようです:2012/04/26(木) 07:02:10 ID:yQOLQPO60
キリツグなみの外道…だが、そこがおもしろい乙

121 ◆IUSLNL8fGY:2012/05/05(土) 16:20:44 ID:Xm/VcOpw0

深夜を迎え、空が白み始めてきたその頃、山を降りる女性がいた。

黒のドレスを身に纏い、夜そのものと同化したような彼女は木々を抜け、
コンクリートに囲われた10丁目通りを進む。

川 ゚ -゚)

その姿は幽鬼さながら、生気といった物が感じられなかったが、
女性の相貌は花も恥じらうほどの美しさといった様で、
裸足でアスファルトの上を歩く彼女は見る者があれば魅了したことであろう。

人外の美貌を持つ"吸血鬼"、クーは交差点まで歩き続けると目的の物を見つけた。

(* ー )

川 ゚∀゚)

道端に打ち捨てられたシィの亡骸を見つけると、
クーは口を大いにに歪め、人ならざる笑みを浮かべる。

妖しくも邪気を発露させる笑顔で、一言。

川 ゚∀゚) 「イタダキマス」

そう発するが早いか、遺体に跨ると首へかぶりついた。
真っ赤な口から覗かせる白い八重歯は獰猛な肉食獣を思わせ、
体温を失った柔肌を食い破り、肉の味を堪能しながら租借する。

122 ◆IUSLNL8fGY:2012/05/05(土) 16:21:34 ID:Xm/VcOpw0

川 ゚〜゚)

ぐっちゃぐっちゃ。

野性味の溢れる音を響かせて、喉を鳴らせるなりもう一口。
1分と経たずにシィの顔は"顔"を失っていき、
目玉まで食らわれて白骨をクーへ晒した。

川 ゚〜゚)

目玉を口の中で弾けさせ、濃厚な鉄の味と弾力を楽しんだ彼女は、
シィの頭蓋を路面に叩きつけてかち割っていき、
そこから露わとなった紫色の血管が張り巡らされ、皺の刻まれた黄土色の脳を拝む。

租借していた物を飲み下すと、ぶよぶよとしたそれを手にとって、
脳幹を引きちぎって口の前へと持っていった。

川 ゚ -゚)

丸っこいそれは弱々しく脈を未だに打っており、
鼻を突くような異臭を放つ。
鼻腔を満たすのは吐き気を催すような濃密な血の臭いだ。

123 ◆IUSLNL8fGY:2012/05/05(土) 16:22:34 ID:Xm/VcOpw0

しかしクーにとっては肉汁ほとばしるステーキのジューシーな香りと同意である。

川 ゚∀゚)

芳しい匂いを嗅いだ顔からは笑みがこぼれ、
血液と肉片を散らせて彼女は脳を貪っていった。

川 ゚ー゚)ー3 「ゲフゥ……」

満腹となったのか、彼女の血に塗れ赤黒くなった顔からは幸福さが読み取れた。

まるで、腹をすかした子供がご馳走を平らげたかのよう。
いや、人間にとってはおぞましい光景にしかすぎないのだろうが、
彼女にとってはシィの遺体は紛れもないご馳走に違いなかった。

川 ゚ー゚) 「マジュツシダッタノカ。ドウリデウマカッタワケダ。
      マリョクガメグッテイクノヲカンジル」

魔術師を食らう事でクーの身体に魔術刻印と回路が取りこまれ、
それがそのまま彼女の力となっていったのだ。

魔術刻印は魔術師の家に生まれ、家督を継いだ者へと代々譲渡されていき、
先祖の作り出した魔術回路や魔術を引き継いでいく。
そして受け継いだ者は己の研究の成果をまたそれに刻み、次の代へと託していくのだ。

次代を繋いでいくにつれ魔術刻印は強化され、より強力な物となって魔術師の家系を支えていく。

長い歴史を持つ家系ほど優秀な魔術師を生み出すことが出来るということで、
その事実は歴史の浅い家系を持つ魔術師達が軽視される実体を作り出していた。

124 ◆IUSLNL8fGY:2012/05/05(土) 16:23:28 ID:Xm/VcOpw0

しかし、そんなことはクーにとっては関係なく、
シィの家、ルボンダールの魔術刻印を体内に取り込んだことで、
パワーアップ出来たという結果だけが重要だった。

川 ゚ -゚) 「ムシドモ、ザンパンハキサマラニクレテヤル」

魔術師の肉は美味い。

そう学んだ彼女は食い散らかした遺体の残りを体内に巣くう、
"魂蟲"という魔術によって生み出された虫達に食わせてやる。

蛆が湧くように遺体へ群がる魂蟲達を傍目にし、

川 ゚∀゚) 「サテ、イッスイシタラマジュツシドモヲクイニイコウカ」

朝陽の昇り始めてきた空に舌打ちをするとクーは笑みを浮かべた。

美味い食事を人間と同じく吸血鬼も好む。
骨まで虫に食らわせ、地面に零れた血の一滴まで吸い尽くさせた彼女は、
太陽の届かぬどこか暗い所へと消えていく。

シィの敗退とアサシンのマスター交代。
そして、クーの食事によって聖杯戦争の第一夜は明けていった。

125 ◆IUSLNL8fGY:2012/05/05(土) 16:24:27 ID:Xm/VcOpw0

******

カーテンから微かに漏れ出る朝陽がブーンの目を刺激する。

( ´ω`) 「……」

眩しさに瞼を抑えながら、彼は気だるい身体をベッドから起こした。

4畳ほどの空間にはベッドや机、テレビなどが置かれており、
本棚の空いたスペースには少林寺拳法の大会で取ったトロフィーや、
家族や友人達との思い出の写真が飾られている。

昨夜アーチャーを召喚したものの、戦力外通告を彼に突きつけられ、
家を飛び出されてしまった後、ブーンは自室に籠りきっていたのだ。

数々の自問自答を繰り返し、苦悶している内に彼はこうして朝を迎えてしまった。

( ´ω`) 「僕に……マスターになる資格はなかったのかお?」

ブーンは自らのサーヴァントにかけた言葉の一言一句を思い返しては、後悔して過ごした。
サーヴァントは使い魔と言えども元を辿れば英霊であり人間だ。
アーチャーという人間が生きた時代への理解が、彼には足りなかったのだ。

英雄と呼ばれた者であれば己の戦いを誇りに思っていてもおかしくは無い。
だが、アーチャーと対面した時にブーンは肌で"何か"を感じ取ったのだ。
この英霊ならば己を理解してくれるのかもしれないという、錯覚に陥るような"何か"を。

だが、それに甘えたブーンの直情的な言葉が引き金になったのは確かなことであった。

126 ◆IUSLNL8fGY:2012/05/05(土) 16:25:25 ID:Xm/VcOpw0
( ´ω`) 「学校……行くかお」

苦悩していても時間は過ぎていく。

ブーンは習慣に従い、制服に袖を通していくと身だしなみを整え、
教科書など必要な物をメッセンジャーバッグにしまっていくと一階へ降りる。

J( 'ー`)し 「おはよう、ブーン」

( ´ω`) 「おはようだお、かーちゃん……」

リビングには彼の母がいた。

いつものように朝食を並べたテーブルに向かって座る彼女の表情は穏やかで、
息子を見る瞳は一見しただけで彼の異変に気付いたのか、

J( 'ー`)し 「サーヴァントの召喚、上手くいったのかい?」

( ´ω`) 「召喚は出来たお……でも……」

J( 'ー`)し 「でも?」

( ´ω`) 「……」

「学校で何かあったのか?」とでも言うような口振りで尋ねる。
そんな母にブーンは昨夜の失態を語ることは躊躇われた。

父を失って以来、自分に夫の望みを託し、
期待して見守ってきてくれたはずの母に申し訳が立たないのだ。
ブーンの胸を薄暗いものが覆っていき、己へ更なる嫌悪が募っていく。

127 ◆IUSLNL8fGY:2012/05/05(土) 16:26:09 ID:Xm/VcOpw0

J( 'ー`)し 「ブーン、アンタはね、とーちゃんとかーちゃんの自慢の息子だ。
      私はねぇ、アンタを信じてるよ。命がある限り何度だってやり直しは効くよ」

( ´ω`) 「かーちゃん……」

J( 'ー`)し 「だけどね、アンタがそんな顔をしてる内はやり直しなんて出来るわけがない。
      シャンとしなシャンと! 背筋曲がってるよ!? 猫背は折角の男前を代無しにしちまう」

( ´ω`) 「……ごめんお」

J( 'ー`)し 「だから背筋ピンとして、ごはん食べて気分でも変えなさい。
      さっ、冷めないうちに食べましょう」

( ´ω`) 「わかったお……いただきます」

叱咤されたものの、ブーンの顔にさした影が消え去ることは無い。

しかし、言われたままに彼は箸をとり、ほかほかと湯気を立てる白米を口へ運ぶ。
重い気持ちのまま租借していくと口の中にほのかな甘みが広まっていった。

( ´ω`) 「……」

無言のまま食事を進めていくが、食卓に並べられた味噌汁の香りや、
鮮やかな鮭の紅色が彼の五感を刺激していき、
それらの旨みは疲弊していた心に微かな喜びを味わわせる。

128 ◆IUSLNL8fGY:2012/05/05(土) 16:26:53 ID:Xm/VcOpw0

( ^ω^) 「……」

いつも通りの母の味だ。

何の変哲もないただの朝食の風景。
だが、掛け替えの無い物である。

ブーンは穏やかなこの空気に癒され、料理に食欲を掻きたてられた。
人間とは単純なもので、食事によって与えられる幸福感で嫌なことを一時忘れられるのだ。
立ち直った、とまでは言えない物の、彼は普段通りの表情を作れるようにはなった。

J( 'ー`)し 「ブーン、美味しかったかい?」

母は、人間と言う物を良く知っていた。
何より、自分と夫の息子の持つ強さをよく理解していた。
彼女は絶望に打ちひしがれた時の夫のことを思い返しながら、ブーンへ尋ねる。

( ^ω^) 「うん、美味しかったお。ご馳走さま」

朝食を平らげたブーンは微笑みを返し、立ち上がると、

( ^ω^) 「それじゃあ、学校へ行ってくるお」

J( 'ー`)し 「そうかい、まだ寒いから暖かい格好していくんだよ」

わかったお、と短く答えたブーンは自室へ上がり、
青と白のスタジアムジャンパーを羽織り、
茶色のメッセンジャーバッグをかけて戻ってくると、玄関へ進んでいく。

129 ◆IUSLNL8fGY:2012/05/05(土) 16:27:41 ID:Xm/VcOpw0

( ^ω^) 「いってきます」

J( 'ー`)し 「いってらっしゃい」

背筋を真っ直ぐと伸ばして外へ出ていくブーンを、母は見送った。
聖杯戦争の行われる土地で、平素通りこうして日常は繰り広げられていく。

だが、ブーンの脳裏にはやはりアーチャーのことが引っかかっていた。

( ^ω^) (学校に向かったは良いもの、途中で他のマスターに襲われたら……)

背筋に冷たいものを覚えるが、アーチャーの言葉が蘇る。


(<`十´> 『ではな、マスター。何かあれば令呪で呼ぶがいい』


手袋を脱ぎ、令呪を隠す包帯を見やる。
たしかに令呪をいつでもアーチャーをこの場にすぐさま呼びだす事が出来るが、
そんなことの為に貴重な三回限りの令呪を使用していいものなのか……。

溜息を吐かざるを得なかった。

三回とは言えども、サーヴァントへの命令権を失えば制御することは出来なくなってしまう。
同時にマスターとしての資格を失うことになるからだ。

実質、二回限りの絶対命令権。これをただ呼ぶ為に使うなど、愚の骨頂と言っても良いだろう。

130 ◆IUSLNL8fGY:2012/05/05(土) 16:30:07 ID:Xm/VcOpw0

( ^ω^) (まぁ、仕方ないおね)

そう断じることが出来るようになるほど、今のブーンは前向きな姿勢を取り戻せた。

「我に従え」などという、漠然とした命令では令呪の効力を最大限に発揮するには至らないのだ。
「次の攻撃を全力で放て」というような単純明快な命令であって、初めて令呪は十全に機能する。

( ^ω^) (でも、いざとなったら背に腹はかえられないお。
       それにアーチャーを呼んだら、説得のチャンスだお。
       気持ちを切り替えないと……)

胸の内に決意を固めると、ブーンは北24条通りにある
東区役所方面と栄町駅方面に分かれる交差点に友人の姿を見かけた。

( ^ω^) 「おはようだお、ショボン!」

駆け寄って声を掛けるとショボンは振り返り、

(´^ω^`) 「昨夜はお楽しみのようでしたね」

にやけた憎たらしい面を見せてきた。
昨夜、という単語にブーンは動揺するが、
魔術師でも魔術使いでもないショボンが聖杯戦争を知る筈がない。

(;^ω^) 「な、なんのことだお……?

(´^ω^`) 「付き合った翌日にセックスするのは当たり前じゃないですか〜。
      最近の若者の性は乱れてますからね〜。で、どやったんや? どやったん?
      あのツンデレ娘は夜はどんなデレを見せてくれたんや?」

131 ◆IUSLNL8fGY:2012/05/05(土) 16:30:50 ID:Xm/VcOpw0
(;^ω^) 「し、知らんお。昨日のことかお?」

昨日、ツンに呼びだされたことをショボンは誤解していた。
しかし、昨日と言ってしまったはいいものの、
どう誤魔かせばいいのかブーンは困ってしまう。

(´^ω^`) 「おう? おうおう、そうかそうか。
      "付き合ってるのは二人だけの内緒ね!"
      パターンですか。それじゃあ話せないのも納得ですな」

(;^ω^) 「誤解だお! ちゃんと話せばわかってくれるお。
        だから、ちょっと黙って話を聞いてくれお!!」

三(´つω;`) 「裏切ったな! 僕の気持ちを裏切ったな!!」

嘘泣きを交えて学校へ走り去るショボン。

立ちつくすブーンを見た登校途中の生徒は口々に、
「ホモ?」「カップルだったの?」「キモッ」「ホモォ……」など、
更なる誤解を招きかねない言葉を連ねていった。

(;^ω^) 「まっ、待つおショボン! 勘違いさせるようなことすんなお!!」

見事にショボンの策にかかったブーンは、慌てて後を追った。
短距離走では校内一の記録を保持する彼は、あだ名の起源となる、

⊂二二二(;^ω^)二⊃ BoooooooN!!

"ブーンフォーム"と呼ばれる姿勢を取って、校内最速を誇る全力疾走を道行く人々へ見せつけた。
ショボンに追いつくのに5秒も掛からず、

132 ◆IUSLNL8fGY:2012/05/05(土) 16:31:57 ID:Xm/VcOpw0

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                                   i   < /
───────                          ヽ,  \
         _  _                          / ヽ_  )
────  // | | 巛             r、  r、       i (~_ノ
       //   | |    ===┐     | |  | |      ノ  /
      //   | |        | |     !」  !」      ノ  /
      ~    ~        | |      O  O   (~   ソ
               ===┘            ~ ̄

133 ◆IUSLNL8fGY:2012/05/05(土) 16:33:54 ID:Xm/VcOpw0

背を捉えるなり速度重視の飛び蹴りを横っ面に炸裂させた。

綺麗な弧を描いて宙を舞ったショボンは、柔道を幼い頃から学んでいる経験から、
これまた綺麗な受け身をとり、

(メ;)´^ω^`)v 「許してだっちゃダーリン☆」

足跡をつけた頬をブーンへ向けて笑みとピースを送る。

(;^ω^) 「呆れて物も言えないお……」

その後、紆余曲折あって校門の前で登校途中の生徒を待ち構え、
選手宣誓のごとく彼らは「僕達はホモじゃありません」宣言をするのだが、

ξ゚⊿゚)ξ 「あぁ、そう」

ツンの残冬にも負けぬ凍てつく視線と言葉を浴びせられると、
元通りのテンションになってとぼとぼと教室へ向かい、
何事も無かったかのようにホームルームを待った。

( ´ー`)「はーい、日直ー」

間延びした声でクラス全員に、教室に入ってきた担任のシラネーヨは言う。

日直が起立と礼と言い放つとクラスメイト達は従った。
規律のとれた、模範的な高校生と言えよう。

134 ◆IUSLNL8fGY:2012/05/05(土) 16:36:07 ID:Xm/VcOpw0

( ´ー`)「おはようだーよ」

ほぼ自動化されたように黒い出席簿を開いて点呼をとると、
ホームルームを始めていくがなんら変わり栄えもするものはない。

しかし、

( ´ー`)「昨日の夜、寝ようと思ったらクマかなんかの鳴き声が聞こえたんだけど、
      お前達にも聞こえたか? 大きかったんだけど、ニュースにもなってないし……」

ξ゚⊿゚)ξ 「……ッ」

シラネーヨの何気ない、もしかしたら寝ぼけて聞こえただけかもしれない、
そんな話にツンは引っかかるものがあった。

シラネーヨの自宅は聖杯の設置された札幌神宮の近くにあり、
その一帯となる円山はマナが一際豊富なので、サーヴァントの召喚にはもってこいの場所だ。

聖杯は魔方陣と器によって、大聖杯と小聖杯によって分かれる。
大聖杯となる魔方陣は札幌神宮の地下に敷かれており、
今は亡き父、モララーの推測では円山のマナがそこに流れ込んでいるのだという。

聖杯の異常か、召喚されたサーヴァントによる物か。
ツンには、シラネーヨの口振りからして後者であると判断した。

で、あるのならば、クマの鳴き声といった情報から、
恐らくは、理性を失ったバーサーカーが獣じみた叫びを上げたのだろうと答えを導き出す。

135 ◆IUSLNL8fGY:2012/05/05(土) 16:37:38 ID:Xm/VcOpw0

ξ゚⊿゚)ξ (たぶん、円山のほうにバーサーカーとそのマスターがいるのね。
      所構わず叫び出すバーサーカーなんて、一体どれほどの狂化スキルなのかしら)

更に推測していき、ちらっとブーンのほうを見て溜息をついた。


( -ω-) Zzz


ξ∩⊿-)ξー3 (バカ……)


彼は既に眠っていたのだ。

他のマスターがいるにも関わらずのこのこと学校に現われ、こうして無防備を晒す。
自分はなめられているのだろうか、とツンは憤りそうにもなったが、
呆れてそんな気にもなれなかった。

一晩中葛藤し、眠れなかったブーンは睡魔に勝てなかっただけなのだが、
それを抜き差ししても彼には緊張感が足りなかった。

136 ◆IUSLNL8fGY:2012/05/05(土) 16:38:27 ID:Xm/VcOpw0

ツンはそんな背景は知る由もなかったのだが、

ξ゚⊿゚)ξ (私が手段を選ばないような輩だったらどうするってーのよ。
        アンタ今頃、私の魔術かサーヴァントにミンチにされてるのよ?)

ξ゚ー゚)ξ (全く、抜けてんだから……)

幼馴染の情ゆえか、彼に敵愾心を抱くことはなく、
それどころか自分自身のささくれ立った気持ちが癒されているのを、
心のどこかでは感じていた。


だが―――――


ξ゚⊿゚)ξ (聖杯を取るというのなら、話は別よ)

冷たい仮面で優しさの暖かみを覆い隠し、ツンは決意を固めていた。

137 ◆IUSLNL8fGY:2012/05/05(土) 16:39:49 ID:Xm/VcOpw0

*******

('A`) 「状況を確認する」

円山のマンションの一室。

リビングに置かれたテーブルへ向かい、
ドクオ達インビジブルワンはソファに座っていた。

('A`) 「聖杯戦争の概要について、まずはおさらいしていこう」

('A`) 「聖杯戦争とはあらゆる願いを叶える聖杯という魔術礼装を奪い合う戦いだ。
    聖杯は地脈から魔力を溜めこみ、7人の魔術師に令呪を与え、サーヴァントを各々に与える。
    サーヴァントのクラスは7つだけだ。それぞれ――――」

<人リ゚‐゚リ セイバー


('A`) 「このクラスは剣を武器にするサーヴァントが該当し、
    ステータスが最も優れ、これまでの聖杯戦争を全て終盤まで戦い抜いた実績から、
    最優のサーヴァントと呼ばれている」


(<`十´> アーチャー


('A`) 「アーチャーは弓。遠距離武器を使用するサーヴァントがこれに該当する。
    弓、と言いきってもいいのだが、英霊によっては大量に所持する宝具を投げつけるような奴もいる。
    気をつけておけ。このクラスは単独行動スキルを持ち、魔力供給を行わずとも数日は現界していられるぞ」

138 ◆IUSLNL8fGY:2012/05/05(土) 16:41:13 ID:Xm/VcOpw0
目,`゚Д゚目 ランサー


('A`) 「ランサー」

目,`゚Д゚目 「応!」

('A`) 「……は、見ての通りだ。ジョルジュ、わかるか?」
  _
( ゚∀゚) 「あぁ、ステータスが見えるぜ。変な感覚だ」


【ランサー】 目,`゚Д゚目
【マスター】穏田ドクオ
【真名】???
【性別】男性
【属性】中立・善
【ステータス】筋力B  耐久C 敏捷A++ 魔力D 幸運D 宝具A++
【クラス別スキル】耐魔力A
            Aランク以下の魔術をキャンセル。

【保有スキル】  直感B
           戦闘の"流れ"を読むことの出来る能力。
           敵の攻撃をある程度予測することも出来る。
    
           騎乗D
           騎乗の才能。馬であるならば人並み以上に乗りこなすことが出来る。
           知識を与えられれば現代の乗り物を扱う事も可能。

【宝具】    ???

139 ◆IUSLNL8fGY:2012/05/05(土) 16:42:23 ID:Xm/VcOpw0
  _
( ゚∀゚) 「敏捷に一際優れ、高い白兵戦能力を持つ槍使いってのが、このクラスの特徴か?」

('A`) 「その通りだ。全クラス中ランサーは最高の敏捷を持つ」

目,`゚Д゚目 「恐らくは、拙者の逸話によるものでござろう。
       拙者は身のこなしで事なきを得てきたからのう。それ故の当世具足で御座る」

('A`) 「なるほどな、重装備では取り回しづらく、逆に負傷してしまうわけか」

目,`゚Д゚目 「然り!」

('A`) 「このランサーのように、敏捷が特に高い者でなければこのクラスには該当しない。
    少々、ステータスが高すぎる気もするが……」

目,`゚Д゚目 「主の補正と日の本における拙者の知名度の恩恵であろう。
       本来ならば、A++のような評価を受けることは無いで御座る」

('A`) 「俺もそれほど落ちぶれてはいないということか……。
    次のクラスについて説明しよう」

140 ◆IUSLNL8fGY:2012/05/05(土) 16:44:31 ID:Xm/VcOpw0

(???)ライダー


('A`) 「このクラスは敏捷くらいしか目を見張る物はないものの、、
    固有スキルに騎乗A+以上を持ち、強力な宝具を数多く所有する。
    何らかの乗り物に乗って戦闘するのが特徴だな。耐魔力スキルも持っているぞ」

(???)キャスター


('A`) 「キャスターは魔術に特化したクラスで、魔術A以上がキャスターの条件だ。
    しかし、魔術に攻撃を頼り切るキャスターは耐魔力を持つサーヴァントには滅法弱く、最弱と呼ばれる。
    一見脅威には思えんが、道具作成と陣地作成のスキルを活かして戦術を組んでくることだろう」

('A`) 「相手は常に自分に有利な状況に持ちこんで戦闘をしかけてくるはずだ。
    結界を用い籠城する戦術も非常に有効で、手ごわい相手に違いない。攻城戦も想定しておけ」


|/▼) アサシン


('A`) 「アサシンのサーヴァントはステータスは貧弱もいいところだ。
    白兵戦においては勝ち目は無いと言っていい」

|/▼) 「随分な言われようだな」

('A`) 「だが、事実だ。お前もわかっているはずだが?」

|/▼) 「あぁ、マスターが変わりステータスが降下してしまったのでな」

141 ◆IUSLNL8fGY:2012/05/05(土) 16:45:29 ID:Xm/VcOpw0

【クラス】|/▼)
【マスター】長岡ジョルジュ
【真名】ハサン・サッバーハ 
【性別】男性
【属性】混沌・善
【ステータス】筋力C 耐久C 魔力E 敏捷B 幸運E 宝具B
【クラス別スキル】気配遮断A+
           サーヴァントとしての気配を遮断する。完全に気配を絶てば発見することは不可能になる。
           ただし、自ら攻撃を仕掛けると気配遮断のランクが低下する。
         
【保有スキル】投擲(短刀):B
         短刀を弾丸として放つ能力。アサシンが保有する短剣は40余り。

         風除けの加護:A
         中東に伝わる台風避けの呪い。

142 ◆IUSLNL8fGY:2012/05/05(土) 16:46:32 ID:Xm/VcOpw0

('A`) 「確かに、低下しているが、お前には虎の子の気配遮断スキルがあるだろ。
    マスターを暗殺出来ればサーヴァントもいずれ消える、まだ活躍してもらうぞ」

|/▼) 「まずは、お前を殺してみせようか?」

アサシンは冗談めかした口調で言ったのだが、
        
 ( ^Д^) ( ><)
 _、_   
( ,_ノ` ) 「……!」(゚、゚トソン

 ('、`*川  ( ^Д^)

言葉を聞いた途端、皆が一斉に懐に忍ばせていたハンドガンに手を伸ばし、
魔術を使える者は詠唱の準備を、ジョルジュは令呪を使用する構えをとった。

|/▼) 「冗談だ、貴重な令呪、無駄にはするなよマスター。
    不本意な契約だが、聖杯を取れるのならば構いはしない。
    俺を存分に使うが良いマスター、ドクオ」

('A`) 「そうさせて貰おう。ジョルジュ、よろしく頼むぞ」
  _
(;゚∀゚) 「任せとけよ。お前とは長い、魔術も他の奴より使えるつもりだ」

さて、と仕切り直し、ドクオは最後のクラスについて解説していく。

143 ◆IUSLNL8fGY:2012/05/05(土) 16:47:32 ID:Xm/VcOpw0

以#。益゚以 バーサーカー

('A`) 「次はバーサーカーだ。こいつには制約が無い。
    どんな英霊でも狂化を許諾すればバーサーカーになれる。
    呪文に一節加えるだけでクラスを指定することも可能だ」

('A`) 「狂化は理性を失う代わりにステータスを強化することが出来る。
    ただし、一部の宝具が使えなくなったり、理性を失って戦闘の技術に支障をきたす、
    消費魔力量が膨大になるなど、デメリットも多く抱えている」

('A`) 「宝具と真名さえ割れれば、このクラスは大して恐ろしくもないんだが……。
    アサシン、お前は実際に交戦したんだよな?」

|/▼) 「いかにも。だが、真名は判明せず、宝具を使う事も無かった。
    常時開放型なのか、使えなくなってるのかもわからん」

('A`) 「そうか……マスターは見かけたか?」

|/▼) 「いや、残念ながら。マスターらしき人物は現われなかった」

('A`) 「もう一度、探る必要があるな……」

|/▼) 「分からないことばかりだが、奴は強い。
    これだけはたしかだ。狂化などされなくても、
    奴は充分に聖杯を狙える器であったのだろう」

('A`) 「強力な英霊を更に強化したか。
    魔力消費が莫大な物になるはずなんだが……。
    マスターは一体どんな化物なのやら」

144 ◆IUSLNL8fGY:2012/05/05(土) 16:48:55 ID:Xm/VcOpw0

(-A-) 「もう一度整理しよう。サーヴァントのクラスは7つ。
    セイバー、ランサー、アーチャー、アサシン、キャスター、バーサーカー、ライダーだ」

('A`) 「サーヴァントは聖杯より魔力を得て現世に現われる。これが現界だ。
    現界したサーヴァントは実体と霊体を使い分ける事が出来る。
    実体化と霊体化だ。霊体は目視は不可能で、普段はこの形態をとることになるな」

('A`) 「実体化したサーヴァントには魔力の核となる器官があり、そこを潰せば魔力を保てなくなり死ぬ。
    人間と同じく、心臓や脳を潰してやればいい……が、神秘を伴った武器でなければ、
    奴らにダメージを与えることは出来ない。魔術による攻撃ならば通用するが……」

(-A-) 「耐魔力スキルがあるサーヴァントには通用しないと思ったほうがいい。
    スキルのランクにもよるがな。正直、俺の魔術ではサーヴァントには敵わないだろう。
    だが、前にも言ったようにマスターの魔力供給が無ければサーヴァントは姿を保てない」

('A`) 「よって、俺達はマスターさえ倒せばいい。マスターを失ったはぐれたサーヴァントは、
    サーヴァントを失ったマスターと再契約するケースもある。その場合は少々厄介だ。
    だからアサシン、ランサー。討ち漏らしはなしにしてくれよ」

目,`゚Д゚目 「御意」

|/▼) 「了解だ」

(-A-) 「さて、次は具体的な話しに移っていこう」

('A`) 「聖杯は召喚した英霊の魂を取りこみ、万能の願望機となる。
    つまり他の6騎を倒す必要があるのだが、5騎のみを倒しその力を分ける事も出来る。
    どの程度の願いを叶える事が出来るのかはわからんがな」

145 ◆IUSLNL8fGY:2012/05/05(土) 16:50:09 ID:Xm/VcOpw0

('A`) 「ランサーとアサシンを擁する俺達は、他のサーヴァント達を倒し聖杯を狙う。
    血の気の余った奴や情報を欲した奴らが、今日から動き出すことだろう。
    基本的に戦闘行為や魔術の行使を一般人に見られてはならない」

('A`) 「発見された場合は目撃者を即時に抹殺し口封じするのがルールだ。
    だから真夜中に行動を開始するのがセオリーだ。
    俺達がどのマスターがどのクラスを従えているか知るチャンスでもある」

('A`) 「昨夜の帰還後、使い魔を放ってもバーサーカーはもう見えなくなっていた。
    しかし、奴とそのマスターが円山にまだ残っているのは確実のはずだ。
    ……トソン、内藤と津出の情報を教えてくれ」

(゚、゚トソン 「了解です」

トソンはテーブルの端に置いていた地図を取り出し、
拡大図を広げていくと赤枠で囲んだ場所を指で示していく。
慎み深い紅色の唇を動かした彼女は、

(゚、゚トソン 「札幌の東区に区分され、北24条方面にある……この敷地の広い家が津出の所在地です。
      内藤の家はここから2丁離れて、西の方にある一軒家です。
      両者とも東区役所方面のVIP高に通い、幼い頃から面識がある模様」

(゚、゚トソン 「なお、昨日。内藤はどうやら聖杯戦争に迷いを持っているような会話を津出としていました。
      それを津出はなじっており、決別したかのように思われます」

('A`) 「盗聴器でも仕掛けたのか?」

146 ◆IUSLNL8fGY:2012/05/05(土) 16:51:49 ID:Xm/VcOpw0

(゚、゚トソン 「いえ、この子がやってくれたのですよ」

∧ ∧
(=^o^=) にゃあ〜

トソンが呼んだのか、窓際に立っていた猫が駆け寄ってきて、
そっと灰色の毛で覆われた身体を両手で抱いたその姿は、
ペットを抱く可憐な少女のように見えた。

('A`) 「使い魔か。お前は、この中で一番使い魔の扱いに長けていたよな」

(^ー^トソン 「ふふ、ありがとうございます」

にっこりとほほ笑むその姿は少女っぽさに拍車を掛ける。
その様に、彼女の恋人であるジョルジュは見惚れていた。

('、`*川 「アンタより先にこっちに着いてから、ちゃんと仕事してたのよ?
      でも、内藤と津出の情報はあっさり掴めたものの、他のマスターについてはまだなの。
      ごめんなさい。どうやら、外部の連中が今回は多いみたいね」

('、`*川 「……一応、魔術的な仕掛けが施していそうな所は見かけたんだけども」

('A`) 「どこだ?」

ペニサスは拡大図の別のページを開き、印を付けた場所を指差す。

('、`*川 「伏古の7条にある、公園のお隣のこのお屋敷。
      結界が張られてる感じはするんだけど、
      偽装されてるからか詳しいことわからないのよ」

147 ◆IUSLNL8fGY:2012/05/05(土) 16:52:46 ID:Xm/VcOpw0

('、`*川 「危険だと判断して、それ以上の調査は打ち切ったわ」

('A`) 「ただの進入を阻む魔術結界ではなく、トラップの類か。
    それだけ分析出来れば十分だ、賢明な判断だった」

('A`) 「後は、俺が直接調べに行こう。帰還次第、作戦を改めて立案する」

目,`゚Д゚目 「応! では拙者が供を」

('A`) 「いや、ランサーはここに残ってこいつらを守ってくれ」

目;`゚Д゚目 「主っ! 何故で御座るか!? それでは主の身が危険に晒されよう」

('A`) 「俺は問題ない。俺の魔術は隠密行動に特化している。
    サーヴァントに通常兵器は通用しない、いくら武装していても敵に襲われればこいつらでも一溜まりもないんだ。
    だからランサー、こいつらを守ってくれ。サーヴァントに対抗できるのはサーヴァントだけだ」

目;`゚Д゚目 「しかし……」

目,`-Д-目 「否、主の命に従おう」

('A`) 「悪いな、ランサー。槍を振るう機会は今夜にでもやってくるはずだ。
    それまで我慢してくれ。じゃあ――――」

('A`) 「最後に確認しておきたいんだが、監督役はどうなっている?」

( ´∀`) 「それは僕から」

148 ◆IUSLNL8fGY:2012/05/05(土) 16:53:57 ID:Xm/VcOpw0

( ´∀`) 「今回の聖杯戦争の監督役は、杉浦ロマネスク。
       杉浦はここのロマネ札幌教会の神父モナ。
       10年前に父親が死去して引き継いで以来、一人で切り盛りしてるモナ」

( ´∀`) 「それで聖杯戦争が札幌で行われるにあたって、聖堂協会に所属している彼は、
       能力を買われてる事もあって今回の監督役に任命された」

('A`) 「あぁ、よく知ってる。神父の動向は?」

( ´∀`) 「聖杯戦争が始まる前となんら変わりないモナ。
       内藤が昨日、教会に訪れていた。教会内にしかけた盗聴器から会話を聞いた限り、
       どうやら参戦するのを渋っていたらしい。それよりも耳寄りな情報があるモナ」

('A`) 「なんだ?」

( ´∀`) 「ドクオが入手した情報通り、刃児耶ギコが参戦していたことが判明したモナ。
       奴は神父と会話した後、消えたモナ。追跡は不可能だった。
       それよりも会話の中でギコは自分のサーヴァントが"セイバー"であることを明かしたモナ」

('∀`) 「そうか……来たか、"便利屋"」

モナーの報せを聞いたドクオの頬は自然と綻び、声からは薄っすらと喜びが感じられる。
部下達は敵の名を聞き微笑むボスに、言い知れぬ恐怖を覚えた。

('A`) 「それは良いことを聞いた。セイバーのマスターがもう判明するなんて。
    運の良いことにこちらにはアサシンが居る。暗殺の脅威はもう無い。
    じゃあ、更なる情報を集めに伏古にある屋敷へ行ってくる」

149 ◆IUSLNL8fGY:2012/05/05(土) 16:54:59 ID:Xm/VcOpw0

ソファから腰を上げて玄関へ向かうドクオは、

('A`) 「引き続き、監視を怠るな。特に監督役の教会をな。
    聖杯戦争中は教会一帯に使い魔を放つことを禁止されている。中立地帯だからな。
    渋澤、プギャー。二人一組で監視に当たれ。不審な動きが見えたら俺に連絡しろ」

ポケットからケータイ電話を取り出して見せ、そう付け加えた。
人員を二名割いてまで監督役に監視をつける理由とは。

 ( ^Д^) 「ボス、どうして監督役なんぞをそんなに警戒するんだ?」

何故そこまで執着するのか、プギャーは説明を求める。


('A`) 「奴は―――前回の聖杯戦争の勝者だ」


短く、それだけを告げてドクオは部屋から出ていった。

150 ◆IUSLNL8fGY:2012/05/05(土) 16:55:59 ID:Xm/VcOpw0

******

部屋を出たドクオはトレードマークとなりつつある、
濃緑色のモッズコートを右手で翻すと袖を通していった。

真っ白なロングスリーブTシャツをコートで覆っていき、
両脇のガンホルスターをファスナーを閉じて隠すと、
ダメージを受けた青いジーンズを履く彼はもはや一般市民にしか見えない。

階段を下りて地下にあるガレージへと向かう。

そこにはドクオ達インビジブルワンの所有する車両が二台あり、
その内の黒いパジェロVR−Ⅰへドクオは乗り込み、キーを差し込む。
重厚ながらも滑らかな車体がエンジンの稼働に震えていく。

ギアをニュートラルから1stへ。

('A`) 「さて、伏古とやらにいってくるか」

呟き、アクセルを踏み込もうとしたその時、

('、`*川 「ボスー!」

エンジンの呻りにペニサスが足音を加える。
彼女は黒い長髪を振りみだしてパジェロへ駆けより、

('A`) 「どうした?」

ミラーを開けてドクオはペニサスのほうを覗きこむ。

151 ◆IUSLNL8fGY:2012/05/05(土) 16:56:59 ID:Xm/VcOpw0

('、`*川 「アンタにちょっとプレゼントしたいものがあってね」

(;'A`) 「プレゼント?」

⊂('ー`*川 「そっ、これこれ」

右手に掴んでいた物を窓越しドクオの首へ巻きつけ、
彼はそちらへ視線を落としていった。

(;'A`) 「お前、これ目立つだろ……」

彼の首には赤いマフラーが巻かれ、言葉の通り、
濃緑色のコートにこれでは目立ってしまうに違いない。

('、`*川 「良いの良いの。この方が冬にあってるし、パンピーに見えるでしょ?」

(;'A`) 「あぁ……あぁ……その通りだけど……まぁいいか」

暖かいしな、そう付け加えたドクオはミラーを締めていく。

('A`) 「サンキューな」

('ー`*川 「似合ってるわよ。少しは陰気な顔が紛れそう」

(;'A`) 「うるせー……」

('、`*川 「それ、こっちに来てからジャパネットってとこで買ったの。
      おまけでもう一個ついてきたんだけど、アンタに似合ってよかったわ」

152 ◆IUSLNL8fGY:2012/05/05(土) 17:00:13 ID:Xm/VcOpw0

('A`) 「……?」

ペニサスの言葉は閉まり切ったミラーに遮られ、彼には届かなかった。

手で離れろと告げられ、ペニサスが数歩後ろへ下がるが遅いか、
黒のパジェロが発車していった。

幸いなことに空は快晴で、太陽が札幌の市街を照らしていた。
予報ではここ一週間の天気は安定する模様。

円山を降り、新聞社を抜けて北一条の通りへ入ると赤い塔が目に入る。
147mにもなり天を貫かんとするこの電波塔はテレビ塔と呼ばれ、
夜にはイルミネーションで飾られて観光名所の一つとなっている。

北海道にとって、東京の東京タワーのような存在だ。
近年改修され、より鮮やかな表示となった時計の表示枠は11時36分を告げる。

('A`) (内藤と津出は学生だったな。通学していないとしたら、
    遭遇戦になることもあるだろうな)

ハンドルを握る右手の令呪を見やり、最悪の場合これを使ってランサーを呼ばねば、
ドクオは敵サーヴァントに対抗できずに命を奪われることになるだろう。

もっとも、ドクオの魔術は隠密行動に優れた物なのだが、
アクシデントというものはどうしてもついて回ってしまうものだ。

雪の残る道ではあるが、ここは交通量などが多い為かアイスバーンではない。
軽自動車ではまだハンドルを雪に取られることもあるだろうが、
スーパーセレクト4WDⅡという駆動システムは苦も無くパジェロを走らせる。

153 ◆IUSLNL8fGY:2012/05/05(土) 17:02:15 ID:Xm/VcOpw0

隠田ドクオは魔術師である以前に、傭兵でもある。
渡り歩いてきた紛争地帯の中には雪国もあり、雪道での運転経験も豊富だ。

そんな彼とパジェロは日本の交通法に従い、安全運転で走り続け、東区へとさしかかる。
ここまで来るとアイスバーンが増え、環状通りへ入ると路面には氷が張って輝いていた。
氷の道を走行する自動車の中には時折スリップする物もあった。

(;'A`) 「うおっ、危ねぇな……」

目前の車両がスリップした時にはドクオも流石に肝を冷やす。

車間距離を適切に保っていたことが幸いだった。
そのまま環状通東駅を右折し、伏古通りに向かっていく。

すると、サイクリングロードを発見した。
木々が生え揃えられ、舗装されたスペースを持っていたのだが、
雪が大量に積っている為それらは覆い隠され、ドクオには細長い雪原にしか見えなかった。

('A`) (反対車線に見える公園が伏古公園か?)

中央分離帯のように設置されたサイクリングロード。
そこを左折して、サイクリングロード越しに見える公園を覗くと、
これもまた雪原じみた公園を見かける。

('A`) (広い敷地だ。中央には噴水、球状のスペース。右には木々に覆われたジョギングコースと、
    左にはフェンスと野球場と小山。奥には遊具コーナーか……ここで待ち構えれば、
    スナイパーも設置でき、ランサーの得物を充分に活かしてやれるだろう)

154 ◆IUSLNL8fGY:2012/05/05(土) 17:03:29 ID:Xm/VcOpw0

伏古公園を見たドクオの頭は、自然と戦略を組み立てていた。

もしこの目的地の屋敷にいる者が魔術師で、マスターであるのならば、
ここが戦場になる可能性は十分にあるだろう。

他に、スナイプポイントになりえる場所はないか探しながら、
パジェロを走らせているとペニサスが目を付けていた屋敷らしい物を見かけた。
標識を見やると、伏古7条と記されており、ここで間違いないと確信した。

北24条通りへ向かう道路と分かたれる、交差点が前方に映り、
ドクオはパジェロを転回させて反対車線に入り込んだ。

屋敷の傍には公園があり左折して路肩に停車させる。

公園にはまたしても小山があり、今は雪に埋もれているが砂山やベンチなど、
ささやかな遊具が設置されているのが雪原の凹凸から察せられた。

('A`) 「へぇ、こんな田舎にも立派な屋敷はあるもんだな」

ベンチに腰かけたドクオは不審さを感じさせぬよう、
さもドライヴの休憩に立ち寄った者のように自然と振舞いながらも、屋敷を盗み見ていく。

赤レンガで作られた、一見古風な屋敷だが、
覗ける内装から近代化されていることは明らかだ。
門も構えられており、玄関まで石畳で覆われ、ロードヒーティングが成されているのか雪は無い。

155 ◆IUSLNL8fGY:2012/05/05(土) 17:06:48 ID:Xm/VcOpw0

歴史と科学が融合し、様式美と性能美を併せ持つ無駄の無い屋敷だった。

また、別館と一体化しており、別館にはガレージが備えられている。
ここ一帯の住居としては破格の広さで、一区画を丸ごと屋敷にしていた。
赤レンガ庁舎を彷彿とさせるレンガ屋敷だ。

ドクオはその端から端へと視線を走らせていき、ポケットからタバコを取り出す。
黄色のソフトパッケージにはハトが描かれ、バニラの甘い香りが鼻腔を撫ぜる。

白いフィルターを口に加え、ジッポーで火を付けると濃厚な甘みとは裏腹に、
どっしりとした重みが肺にパンチを効かせていった。

(-A-)y━~~ (正解だよ、ペニサス。もし使い魔を入り込ませていたら、
         お前の魔術回路は焼かれていたことだろう。こいつは単純な術式じゃあない)

煙を吐き出し、ドクオは屋敷全域に掛けられた結界を分析していく。

有効範囲は大したものではなく、索敵に向く結界ではない。
しかし、侵入者を呪う術式が組まれ、更には交霊を司る術も合わせられている。

おまけに術式それぞれに念入りに偽装の術式が組まれており、
そうとも知らずに使い魔が入りこんだ途端、魔術を供給する術者へ膨大な魔力を送り込む仕掛けだ。
                         マナ            オド
魔力には二種類あり、自然の生み出す"大源"と、生物に宿る"小源"に分かれる。
生物が自ら生成するオドと自然が生成するマナでは、絶対量こそ変わるが性質は同じ魔力である。

大まかに言えば魔力とは出力機であり、魔術師は入力機だ。
一度に大量の魔力を送りこまれると魔術回路は処理しきれずに暴走し、
魔術師の神経やら内蔵をズタズタに引き裂いてしまうのだ。

156 ◆IUSLNL8fGY:2012/05/05(土) 17:07:43 ID:Xm/VcOpw0

本来、人間には魔術を操る器官など存在しない。魔力とは身体にとって異物にしかすぎない。

それだけならば魔術師の力量如何によっては制御してみせることだろう。
だが、呪いによって送り込まれる魔力は指向性を持ち、魔術回路をかき乱す。

(;'A`)y━~~「相当な魔術師が住んでいるに違いあるまい……」

ドクオですら、このまま足を敷地内に踏み入れれば一瞬で魔術回路を焼かれることだろう。

('A`)y━~~ (これほどの術式、一体誰が……無名の魔術師の筈がない。
        しかし、高名な魔術師がやってくるのなら容易に情報が手に入るはずだが……)

脳内に記録された魔術師のリストを読みあげるも、
その誰もが今回の聖杯戦争に参戦するとの情報は得ていない。

いや、目ぼしい魔術師は皆この地にやってくる前に全て消した。

('A`)y━~~ (そのはずだ……)

まさか、とドクオはある考えに至るが、

('A`) 「ッ!」

側頭部を貫くような鋭利な殺気を感じて飛び退る。
タバコを吐き捨て、雪の上に膝を突いて着地するとベンチが爆ぜた。
同時、甲高い銃声が空を走っていく。

157 ◆IUSLNL8fGY:2012/05/05(土) 17:09:58 ID:Xm/VcOpw0

('A`) (着弾と銃声がほぼ同時か、近いな)

聞き覚えのある音だ、とドクオは感じた。
未だにスナイパー達に根強く支持される木製ライフルから立つやけに甲高い音。

(;'A`) (モシンナガンか)

ベンチは粉々に砕け、今や雪の上に木片と金属片を晒している為、狙撃位置は割り出せない。
モシンナガンに使用される7.62mm×53R弾は貫通力には優れるが、これほどの衝撃を与えるはずがなく、
即座にこれはサーヴァントによる攻撃だとドクオは判断した。

ここまで至るのに要した時間は一秒にも満たず、彼は既に次の行動に移っている。

戦場を越えてきた数だけドクオは戦士として鍛え上げられ、
磨きぬかれた状況判断能力と行動力がそうさせたのだ。

    インビシブル    ウロボロス
('A`) 「invisible―――uroboros」


呪文の高速詠唱。


――――隠匿の魔術。


背に掘られた穏田家の魔術刻印が輝き、全身に魔力を覆わせたドクオは飛び出していく。
先程まで彼がいた位置に弾丸が飛び込み、雪煙を上げた。
姿勢を低く、そして全力で足を振りあげて駆け抜ける。

158 ◆IUSLNL8fGY:2012/05/05(土) 17:11:24 ID:Xm/VcOpw0

先程の狙撃でドクオはスナイパーの居場所を特定していた。

小山にいるはずだが……そこには人の姿など見当たらず、

('A`) (気配遮断のようなスキルか。見えんが、いるのは確実だ)

ドクオはパジェロのほうへと駆けこんだ。
途端に銃声は止んだが、これはひとえに彼が行使した魔術のおかげだ。
隠田家が秘術であるそれは気配を隠匿するというもの。

今の彼の姿は外界から隠匿されており、何人たりとも視界に納めることは敵わない。
これが、この魔術こそがランサーを伴わずに出てきたドクオの自信の源である。

隠密行動に特化した魔術。
隠田家に授けられる隠者の属性がそれを実現させたのだ。

この隠匿の魔術を使われては、サーヴァントと言えども彼を捉えることは不可能だ。
しかし、サーヴァントとはかつての英雄である。
戦いのセオリーというものを、彼らが理解していないはずがない。

ドクオがパジェロのドアを開けた、その途端。
ガラス片が雨霰となって散っていった。

気配遮断スキルにも匹敵するほどの魔術ならば、長時間行使出来るはずもない。
そう踏んだ敵サーヴァントは自動車を逃走に使うと踏み、
見えないながらもドアが開く瞬間を狙って、頭部があるはずの部位へ弾丸を放ったのだ。

159 ◆IUSLNL8fGY:2012/05/05(土) 17:13:22 ID:Xm/VcOpw0

が、

(;'A`) 「危なかった……」

ドクオのほうが一枚上手であった。

その一瞬を狙われることを予期して、わざわざ反対側へと回りこみ、
地面に伏せた状態で手を伸ばしてドアを開けたのだ。

背の上に粉々になったガラスが降り注ぐが、
シャツの下にきていた防弾ベストが身体を守り、幸いなことに無傷で済んだ。
ドクオは座席に伏せたままキーを挿しこみ、片手でギアをチェンジして蹴りを放つが如くアクセルを踏み込む。

それよりも早く、蜘蛛の巣状になっていた反対の窓ガラスが完全に消し飛び、
背のほんの数センチ上をサーヴァントの放った弾丸が通過していった。

背筋に冷たいものが走ったが、パジェロは獰猛な呻りをエンジンから上げて急発進する。
他人から彼の姿が見えていれば間抜けな格好に見えただろうが、
九死に一生を得たドクオは速やかに姿勢を正して運転していく。

まだ、安心は出来ない。

追跡を避けるべく、ドクオは全速力でその場を抜けた後、
遠回りをしてから帰路へと就くことにした。

160 ◆IUSLNL8fGY:2012/05/05(土) 17:14:05 ID:Xm/VcOpw0

―――彼が睨んでいた公園の小山の上。


(<`十´> 「……逃したか。魔術師の分際で、中々やる」

雪に埋もれたサーヴァント……アーチャーは呟く。

その姿は、彼の宝具の一つによって雪と同化していた。
限定的な能力ではあるが、アサシンの気配遮断スキルと同等の効果を発揮する宝具。
ドクオには見えなかったが、しかしその正体を見破られる日は遠くは無いだろう。

確実に仕留められるとアーチャーは踏んでいたのだが、
今回行われた戦闘は吉と出るか、凶と出るか。

彼のマスターである内藤ホライゾンは、その事を知る由も無かった。

小山の上でライフルを構えていたアーチャーはそのまま霊体化していき、
次なる標的を求めて歩き出していく。

161 ◆IUSLNL8fGY:2012/05/05(土) 17:16:26 ID:Xm/VcOpw0
ブーンが雪国の聖杯戦争に挑むようです
第三話 「invisible―――uroboros」part"乱世エロイカ"
以上で投下終わりです

少々忙しいので、次回も少し遅れるかもしれません

162名も無きAAのようです:2012/05/05(土) 19:42:20 ID:qjSrwb9A0
おつ

163名も無きAAのようです:2012/05/06(日) 01:54:41 ID:dj6TV37o0

ドクオかっこいいな

164名も無きAAのようです:2012/05/07(月) 01:12:08 ID:7X8dDWl.0
乙。わくわく

165名も無きAAのようです:2012/05/07(月) 21:03:09 ID:g6ApKFEA0


166名も無きAAのようです:2012/05/08(火) 20:05:24 ID:0QR9ENqs0
乙乙

167 ◆IUSLNL8fGY:2012/05/30(水) 23:13:00 ID:0SErUlTU0
申し訳ありませんが
しばらく投下が出来ません
プロットを書きなおすのに難航してまして


fate/zeroが最終回を迎える前には投下します

168名も無きAAのようです:2012/05/30(水) 23:23:11 ID:urOBYd/w0
約束された支援の剣
待つべき黄金の剣

169名も無きAAのようです:2012/05/30(水) 23:31:41 ID:5rQDM1ZE0
期待すぎる がんがれ

170 ◆IUSLNL8fGY:2012/05/31(木) 22:45:06 ID:zvBq.XBc0
>>168

遥かなる長編完結

作者は未完にして死せず

171名も無きAAのようです:2012/06/18(月) 18:59:18 ID:vs5qusk60
おいそろそろ最終回なるぞ

172名も無きAAのようです:2012/07/03(火) 20:04:21 ID:j.P9Rmuk0
うぇい、

173名も無きAAのようです:2012/07/03(火) 22:44:05 ID:nh2hwTKA0
令呪を持って命ずる
続き投下しろ下さい

174名も無きAAのようです:2012/07/03(火) 23:10:26 ID:4xgPgeqU0
重ねて令呪をもって命ずる
続きをお願いします……

175名も無きAAのようです:2012/07/04(水) 13:58:08 ID:wwODdNuU0
せっかく復活したのに逃亡現行増やしただけってのは笑えんぜ?
がんばれよ

176 ◆IUSLNL8fGY:2012/07/08(日) 22:56:54 ID:1fsBmsng0
すまぬ……すまぬ。
近頃忙しくて中々時間をとれないんだ。
少しずつではあるが書き溜めは進んでいる。

今月中に投下できるよう努力するので、申し訳ないがもう少しだけ待っておくれ。

177名も無きAAのようです:2012/07/08(日) 23:00:09 ID:dueMCOaQ0
構わん
気負わずに書くがいい雑種

178名も無きAAのようです:2012/07/09(月) 13:48:08 ID:lEhO9gjY0
我様乙

179 ◆IUSLNL8fGY:2012/07/24(火) 00:58:34 ID:EJcW5b1g0
次の日曜日に投下する。
第四話は完成した。

180名も無きAAのようです:2012/07/24(火) 17:21:51 ID:ZCOgngGk0
おおお期待!

181名も無きAAのようです:2012/07/24(火) 18:12:13 ID:CO1nukFk0
よしこい

182 ◆IUSLNL8fGY:2012/07/29(日) 00:59:29 ID:TZdjw55g0

昼の西日を浴びてロマネ札幌キリスト教会は、白亜の輝きを放っていた。

小さな建築物の鐘の下、入口であるドアに手をかける者の姿がある。
赤いスポーツバイクを停車させ、茶色のライダースジャケットを羽織った男、

(,,゚Д゚) 「ロマネスク」

ギコは、教会に入るなりそう言った。

日焼けした肌と短く刈られた黒髪が、
彼の肉体の強靭さを牛皮繊維の上からでも主張し、冷ややかな雰囲気を放つ。
               ハニヤ
( ФωФ) 「何かね、刃児耶ギコ」

呼ばれたロマネスク神父は礼拝堂の椅子に座り、湯気立つ湯呑みを傍に置いて、
詰襟の藍い僧衣を着た身体をギコのほうへ向けていく。

( ФωФ) 「貴様がここを再び訪れるとは思いもしなかったよ。茶でも飲むか?」

立ち上がった彼は湯呑みを右手に取り、差し出すと、

(,,゚Д゚) 「いらん、貴様と馴れ合うつもりはない」

拒否されてしまうが、表情も変えずにロマネスクは湯呑みを椅子に置く。
感情を窺わせない透明な瞳をギコへと向けて、
対照的に彼は刃の如く鋭い眼をロマネスクに突きつけた。

(,,゚Д゚) 「聖杯戦争の参加者、全員の名前を教えろ。
      事前に教会から参加表明がされているはずだ。
      監督役なら、把握しているのだろう?」

183 ◆IUSLNL8fGY:2012/07/29(日) 01:03:25 ID:TZdjw55g0
( ФωФ) 「いかにも。しかし私が把握しているのは参加を表明した者だけだ」

(,,゚Д゚) 「実際にサーヴァントを召喚した者、ではないということか?」

( ФωФ) 「そうだ。此度の聖杯戦争ではどうやら、既に異常が起き始めているようなのでな。
         現状、私の力不足もあり全てのマスターを把握しているわけではないのだ。
         サーヴァントが全て召喚されたことに変わりは無いのだがね」

(,,゚Д゚) 「参加を表明した魔術師でいい、教えろ」

( ФωФ) 「事前に聖杯戦争への参加表明をしてきたのは、表明順に述べていくと、
        津出ツン、内藤ホライゾン、アニジャ・サスガ、ハインリッヒ・クーゲルシュライバー、
        ティーチャー・イブンラハド、シィ・C・ルボンダールと貴様の七名だ」

(,,゚Д゚) 「ロマネスク、シィ・C・ルボンダールと言ったな? 彼女もなのか?」

( ФωФ) 「知り合いかね?」

(,,゚Д゚) 「古い、な」

( ФωФ) 「六名の魔術師の参加表明は受けていたのだが、
         最後の一人が見つからなかった所、昨日彼女がやってきた。
         貴様を探しているようだったぞ?」

(,,゚Д゚) 「俺を……?」

( ФωФ) 「貴様を追ってこの地までやってきたようだった。
         北海道へ到着して数分後、令呪が宿ったと言う。
         聖杯が、彼女も自らを手にするに値すると認めた証だ」

184 ◆IUSLNL8fGY:2012/07/29(日) 01:04:50 ID:TZdjw55g0

(,,゚Д゚) 「幸運だった、というわけだな。では、異常とは?」

( ФωФ) 「昨日、アニジャ=サスガが到着するはずだったのだが、
        未だに私へ連絡が届いていない。サーヴァントが召喚されているところを見ると、
        マスターが七人いることは間違いないのだが……」

(,,゚Д゚) 「アニジャである、という確証はないわけだな」

( ФωФ) 「あぁ、私はこの目でアニジャを確認していないのだ。
        それに小樽で三名の焼死体が発見されたと聞く」

(,,゚Д゚) 「アニジャ含むサスガ家の者達がそこでやられ、参加表明をしていない、
      外来の魔術師がサーヴァントを召喚したと、そういう予測か?」

( ФωФ) 「アニジャとオトジャ、二人合わせて全属性を司るサスガブラザーズ。
        時計塔で教鞭を取りサスガファミリー稀代の天才と呼ばれたあの男を、
        倒せる魔術師などそうはいないのだが、可能性があることは否めない」

(,,゚Д゚) 「確かにキナ臭い。もし事故では無く、アニジャを打ち負かした上で席を奪い取ったとなれば、
      相当の手練で、正体不明ともなれば情報の収集にも骨が折れるだろう」

( ФωФ) 「世間では爆発事故で片付けられてしまっているが、聖堂協会は真相究明中だ。
        手口が分かれば、その魔術師が何者かおのずと判明してくるものだろう」

(,,゚Д゚) 「手口……?」

ギコはその言葉に引っかかったようで、口に手を当てて少し考え込んだ。
一分ほどの間が過ぎ去り、やがて答えを得たのか頬を緩めていく。

185 ◆IUSLNL8fGY:2012/07/29(日) 01:06:51 ID:TZdjw55g0

(,,゚ー゚) 「ロマネスク、気を付けておけ。敵は"アサシン"かも知れんぞ?」

苦笑じみたものを浮かべる彼は満足したのか、踵を返して玄関へ向かう。

自分を探すシィ、かつての熱い感情が懐かしくなり、会ってみたくなったのだ。
ここでロマネスクなどに油を売っている時間は無い。

    「最後に聞いておこう。昨夜、戦闘があったようだが死体は出たか?」

だが、去り際に背を向けたまま彼は再び問う。
腑に落ちない点があったのだろうか。
表情からはその意図は汲めそうにも無い。

( ФωФ) 「いや、こちらでも小規模の戦闘を確認したものの、死者は出ていない。
        霊器盤を見るにサーヴァントの脱落も確認されていない。
        恐らくは、互いに撤退したものと考えるべきだろう」

    「果たして、どうだろうな。納得した、感謝する」

( ФωФ) 「なに、これも監督役としての務めだ」

186 ◆IUSLNL8fGY:2012/07/29(日) 01:09:45 ID:TZdjw55g0

    「……そのまま変な真似はせず、励むことだな。
     俺は貴様が不審な動きを見せれば真っ先に"斬り"にくるぞ」

そう言い残したギコはドアを開いて姿を消した。
ロマネスクは脇に置いた湯呑みを取り、すっかり冷めきってしまった茶をすすっていく。

( ФωФ) 「ふむ……」

湯呑みを離した口元をきつく結び、鼻を鳴らした彼は呟く。

( ФωФ) 「聖杯を求めるほどの願いを持つ者が、諦めるはずもあるまいか。
        貴様がこの地に現われたとすれば、聖杯が貴様を選ぶのも道理」

                                          アサシン
( ФωФ) 「聖杯に魅入られるというのは、呪縛のようだな……"隠匿の魔術師"よ」

187 ◆IUSLNL8fGY:2012/07/29(日) 01:13:45 ID:TZdjw55g0

******

刃児耶ギコという男は便利屋を営んでいる。

正義の下にあらゆる依頼をこなす、人呼んで"正義の便利屋"。
依頼主は主に魔術協会や聖堂協会といった、神秘の絡んでくる組織だ。

ギコは己の正義を下にそれを遂行し人々を救う。

組織の利権や体裁など彼には関係なく、揉め事が起きた際に駆け付け、
多くの人々を救う為に正義と剣を振りかざす、それが彼の仕事であり信念なのだ。

魔術協会にも法はあり、一般社会で魔術絡みの事件を起こした者は処刑されるが、
神秘の漏洩を防ぐことが目的であり、決して正義や倫理の為に下される裁きなどではない。
刃児耶ギコという男の心は魔術師にしてはあまりにも純粋すぎた。

だからこそ彼は自分の信じる正義の為、自らの学び舎である時計塔を飛び出し、
今の便利屋稼業に勤しんでいるのである。
きっかけは12年前に行われた中東の聖杯戦争だ。

19歳の頃、聖杯戦争が行われる一年ほど前にそれを知った彼は、
聖杯戦争について一年かけて調べ上げ、参加表明と共にイラクへ降り立った。

「あんな若造が無謀な真似を……」

魔術師達は口々に彼を詰り、或いは若さゆえの過ちと同情もした。
しかし、彼は見事終局まで勝ち抜き、後に刃児耶ギコ生涯の宿敵とも呼べる、
あの"アサシン"と対峙することとなった。

188 ◆IUSLNL8fGY:2012/07/29(日) 01:16:53 ID:TZdjw55g0
若くして魔術協会の封印指定執行者に選ばれ、暗殺の術を極めた一族の跡取りは、
黄金の鎧を纏ったアーチャーを従え、赤き衣を羽織るセイバーとギコは激闘を繰り広げる。

結果はギコの勝利に終わったが、彼は結局敗者になってしまう。
杉浦ロマネスクにまんまと出し抜かれ、聖杯を横取りされてしまったのだ。
当時のことをそれ以上、彼は思い出したくは無かった。

苦い記憶だ。
      アサシン
辛くも"隠匿の魔術師"と刃児耶ギコは生き延びたが、
その出来事は彼らに深い傷を残してしまう。

ギコは中東の聖杯戦争を終え、便利屋となった。
数年戦い続け、多くの者を救い多くの者を殺し続けた。
理想の為だ。多数の命を救いたいという想いの為だ。

例え少数の犠牲が出ることになろうとも、大勢を救うためならば手を汚し続ける。

そして彼はこう呼ばれるようになった。
雇い主の都合の良い正義を振り下ろす"正義の便利屋"と。

皮肉な呼び名である。


彼は、ただ人々の命を守りたかっただけなのに……。


気付けばそんな名で呼ばれ、振り返れば死体の山が出来あがっていた。
そして以前よりも更に強く望むことになった。

189 ◆IUSLNL8fGY:2012/07/29(日) 01:18:08 ID:TZdjw55g0

"平和が永久に続く世界"が欲しい、と。

今度こそ望みを果たすべく、ギコはこの雪国の聖杯戦争に臨む。

己の正義を貫き通す、今度こそは。


だが今回の戦いにおいて不安要素が二つほどあり、もう一つ先程の会話で出来てしまう。
一つは今回の聖杯戦争の監督役が杉浦ロマネスクであるということだ。
監督役とは言え、以前自分から聖杯をかすめ取った男である。

信用出来る筈がなく、このまま大人しく傍観しているという保証はどこにもない。
彼の動きには注意を向ける必要があった。

     アサシン
次に、"隠匿の魔術師"が参戦しているという可能性だ。


あの男が野垂れ死んでいなければ聖杯を逃すはずがないと、
そうは思っていたのだが、本当に現われるかは半信半疑だった。
しかし、この不穏な空気は奴によるものだろうと、ギコは確信している。

予感めいた物が彼の胸にはあるのだ。
確証は無く、それらしい動きを掴めてはいないが、
恐らく近いうちに戦うことになるだろう。

正面から来るはずは無い。暗殺を人一倍警戒しなければ、
いかに正義の便利屋と言えども成す術も無く殺される。

190 ◆IUSLNL8fGY:2012/07/29(日) 01:19:37 ID:TZdjw55g0

相手はその道のプロフェッショナルなのだ。

他のマスターと比べればその手口を知っていることは強みであるが、
頭痛の種であることには違いない。

最後に、シィの存在である。

時計塔時代に出会い、意気投合した彼女とは、
自然な成り行きで恋人同士になったのだが、
ギコは時計塔を抜けると共に、一方的に別れを告げてしまったのだ。

シィは大切な存在だった。

そのことに嘘偽りは無く、それ故に別れた。

明日も生きていられるか分からないような道を自分は生きる。
そう覚悟を決めた自分に、魔道の探究を捨ててまで付いてきてくれるとギコは思わなかったし、
付いてきて欲しくも無かった。魔術を用いた闘争の日々はあまりにも危険過ぎる。

だが、心の片隅にはいつも彼女がおり、彼は後悔もしていた。
孤独の連続で、裏切られることもザラだ。

191 ◆IUSLNL8fGY:2012/07/29(日) 01:22:30 ID:TZdjw55g0
一人だから乗り越えられたのだろうが、やはり空虚だった。
支えてくれる者のいない虚しさを耐えきり、正義を貫き続けるギコ。

孤高な正義の使者。

そんな男を追ってシィはロンドンから遥々北海道までやってきた。
もう、10年以上の時が過ぎているにもかかわらずに。

もしそれが本当なら、早く見つけて保護してやりたい。
許されるのならばこの両の手で抱きしめ、温もりを得て空白の時を埋めたかった。
それがギコの偽らざる気持ちだ。

戦うことになったら……と考えると、背筋が凍りつく。

だがそのような事態になったとしても、ギコは迷わず剣を振るうしかない。

正義の為、理想の為、争いのない世界の為に。

(,,゚Д゚) 「さて、ではまず円山のほうを探してみるか」

敵対することになろうとも、探さずにはいられない。
刃児耶ギコは一人の男として、マスターとして行動を開始していく。

真紅のフルカウルに覆われた、バンディット1250Fのキーを回し、
水冷エンジンを唸らせると極太のマフラーが震え、無色の煙を吐き出す。
膨大な排気音はサイレンサーに殺され、教会からギコを乗せたバンディットは弾け飛んでいった。

目的地はマナが最も豊富な円山だ。

そこが、シィの殺害現場であるとも知らずに。

192 ◆IUSLNL8fGY:2012/07/29(日) 01:25:50 ID:TZdjw55g0

******

茜色に染まった空の下、ブーン達は下校時刻を迎える。

ショボンと共に校門を潜ったブーンは、夕方になり冷えた空気に身を震わす。
黒の詰襟をスタジャンとマフラーで防寒していても、雪国に吹く凍てついた風は厳しい。

生まれてから今日までこの地に住まうブーンにもそれは例外ではなかった。
現在の気温は−8℃。温度計を見られれば、
彼にとっては「暖かいもんだ」と呟ける程度の気温である。

( ^ω^) 「暖かいうちにとっとと帰るかお」

(´・ω・`) 「ゲーセンにでも寄って帰らないかい?
      前みたいにアリオのとこでさ」

学校から歩いて15分程の場所に大型ショッピングモールがある。
ここの生徒達にとっては最寄りにある娯楽の宝庫だ。

地下鉄に乗って札幌駅にで降り、街に寄っていく者達もいるが、
学校近辺に住む彼らにとっては遠すぎ、"寄り道"にはならない。

( ^ω^) 「いや、今日は他に寄りたいところがあるからやめておくお」

聖杯戦争に参加する魔術師7人が揃ったか否か。
ロマネスクに尋ねてみたかった。
単独行動を行うアーチャーとコンタクトを取れない今、状況を把握しなければならない。

状況如何によってどう立ち回るかが決まる。

193 ◆IUSLNL8fGY:2012/07/29(日) 01:27:30 ID:TZdjw55g0

(´・ω・`) 「お、デートかな?」

(;^ω^) 「誰とだお」

(´・ω・`) 「ツンとに決まっているじゃあないか」

(;^ω^) 「だから、ツンとはそういう仲じゃないお」

(´・ω・`) 「でも正味な話、中学くらいまでは仲がよかったんだろ?」

(;^ω^) 「最近は何だか付き合いが悪いんだお……昔みたいに話してくれないし」

ブーンとツンは幼少の頃よりの仲であった。
何故疎遠になったかは、理解は出来ているがショボンに語れる内容ではない。

聖杯戦争で敵同士になるから、彼の推測ではそんなところだ。

非情に徹しきれるよう、数年の時をかけて彼女はブーンへの情を捨てようとしているのだ。

(´・ω・`) 「ふーん。まぁ、デートじゃないっていうのなら、僕がついていっても良いかな?」

魔術の使用を一般人には見られてはならない。
秘匿されるべきことで、公になってしまえば魔術協会に粛清されてしまう。

社会へ混乱を招かぬ為の配慮だが、親しい友人にも明かせぬこの秘密に重責のようなものを感じていた。

(;^ω^) 「ロマネスクおじさんに稽古をつけてもらうんだお。だから……」

194 ◆IUSLNL8fGY:2012/07/29(日) 01:28:26 ID:TZdjw55g0

(´・ω・`)ノシ 「あぁ、なるほどね。お邪魔になるだろうし、また今度ということで」

やけにあっさりとショボンは手を振って去っていく。

寺生まれで将来僧侶になる道を志す彼はクリスチャンは嫌煙しているようで、
ロマネ札幌キリスト教会に近寄ることすら避けている節がある。

冷たさを感じられるほどの素っ気無さだ。

( ^ω^)ノシ 「おっおー」

ブーンは彼の気持ちを理解しているつもりである。
だから、この態度にも慣れたもので不快さを感じることは無かった。

足はロマネスクの元へと向いていく。

東へと進んでいくブーンの目には下校する生徒がちらほら目に付いた。
帰宅部生徒達の中には見知った顔もおり、

( ^ω^) 「お」

ξ゚⊿゚)ξ

ふわりとしたブロンドの後ろ髪が美しい、ツンもその一人だ。
視線に気づいたのかほんの一時だけ目が合うと、
ブルーの瞳は感情を窺わせまいとでもするかのように伏せられる。

金髪と共に赤いダッフルコートの裾は揺れ、ローファーが雪を踏みしめていった。

195 ◆IUSLNL8fGY:2012/07/29(日) 01:29:06 ID:TZdjw55g0

( ^ω^)ノ 「おーいツーン!」


ξ゚⊿゚)ξ 「……」

呼びかけるも、再び彼女が振り返ることはない。

( ^ω^) (やっぱり無視ですか)

まわりの生徒達の視線が突き刺さってくる気がして、
ブーンは気恥ずかしさを感じ、いてもたってもいられずツンの前へ出る。

( ^ω^) 「ツン」

ξ゚⊿゚)ξ 「付いてきなさい」

そうして名を呼ぶが早いか、ツンは無機質な声で言う。
命じられるがままにブーンは彼女の足取りを追い、建物の陰へ。

ξ#゚⊿゚)ξ 「アンタ! 昨日言ったことを全然理解していなかったみたいね!!」

(;^ω^) 「お……」

人目が無くなった途端に烈火のごとく怒声が上がった。
鬼気迫る表情でブーンへ詰め寄っていくツン。

ξ#゚⊿゚)ξ 「私達はもう敵同士なのよ! 敵だって言うのに、
        アンタはのこのこ学校までやって来て、間抜け面下げて私に付いてきて!!」

196 ◆IUSLNL8fGY:2012/07/29(日) 01:29:49 ID:TZdjw55g0

(;^ω^) (呼んでおいてそりゃないお)

うっかり口に出しそうになった言葉を喉奥へとしまい込む。
彼の経験上、こうなったツンに余計なことを言ってしまうと、
火に油を注ぐこととなってしまう。

ξ#゚⊿゚)ξ 「良い? アンタと馴れ合うつもりはないのよ私は!
       学校で攻撃しなかったのも、私はフェアに戦いたかっただけ。
       他にマスターがいるとしたら、アンタみたいに気が緩んでる奴なんかすぐに殺されちゃうんだから!!」

( ^ω^) 「学校に、僕とツン以外に魔術師はいないはずだお」

ξ#゚⊿゚)ξ 「そういうことを言ってるんじゃないの! 気をつけろって言ってんの!!
       サーヴァントを召還したその時から、私達は標的にされてんのよ。
       津出、内藤と札幌にいる魔術師の家系はもう聖杯戦争の関係者達には割れてるわ」

ξ#゚⊿゚)ξ 「お父様達が聖杯797号を発見したのだから、当然のこと。
       どんな姑息な奴が参加してるかもしれないんだから、気をつけてなきゃいけないじゃない。
       アンタ今日居眠りしてたでしょ? 私がその気ならいつだって呪いで殺せたんだからね!!」

(;^ω^) 「うぅ……」

たったの一言が三倍四倍となって返ってくるのだ。

右手で銃を作ったツンはブーンの喉元へ指先を突きつけ、
殺気の篭った声音で言い放つ。

ξ#゚⊿゚)ξy= 「今夜、アンタの迂闊さを思い知らせてあげるわ。
          早々に決着をつけてしまいましょう」

197 ◆IUSLNL8fGY:2012/07/29(日) 01:34:50 ID:TZdjw55g0
手首に嵌められた、金細工のブレスレットがキラリと光る。
津出家に伝わる、魔術礼装だ。魔の気配がブーンの肌を指すほどに濃く感ぜられた。

彼女がその気になればこのままブーンは殺されてしまうだろう。
しかし、そうしないのは先ほどの言葉通り"フェアに戦いたい"からだ。
この宣戦布告は一発の銃弾にも等しい。

戦いは既に始まっているのだ。
ブーンへそう告げるための攻撃であり、ツン自身にも覚悟を持たせる一撃。

ξ゚⊿゚)ξ 「寝首を掻かれないよう、今度は居眠りしないことね」

背を向けて路地を抜けたツンは下校路に再びつく。

赤いコートの生地に覆われた背中を見送ったブーンも、
少し間を空けてから目的地へと進み始める。

( ^ω^) (途中までは一緒なんですけどねー)

ツンとブーンの家は近く、通学路もほぼ一緒だ。

お互いを認識しあっているのに無視しあい、黙々と歩き続ているというのに、
ツンの背中はブーンの視界から離れることはずっと無い。

まるでストーカーのようだお。

断じてありえないことではあるが、ブーンは内心そう苦笑いを浮かべていた。

しかしそんな妙なシチュエーションも彼が途中でコースを外れることで、終わりが訪れる。
整形外科病院のある辺りへ曲がり、住宅街を進むブーン。

198 ◆IUSLNL8fGY:2012/07/29(日) 01:35:49 ID:TZdjw55g0

ξ゚⊿゚)ξ 「……」

彼へ振り返ったツンの瞳は暗く、どこか寂しげであった。

199 ◆IUSLNL8fGY:2012/07/29(日) 01:40:47 ID:TZdjw55g0

******

( ^ω^)

( ФωФ)「ブーン、来たか」

静けさに包まれた礼拝堂で茶を啜っていたロマネスクは、
ブーンが口を開くよりも早く声を上げた。

( ФωФ)「さて、何の用かな。監督役としてか、それとも神父としての私に用か?」

時刻は夕暮れ。

ギコが訪れてからこれまでの間、聖堂協会の者達を動員して調査を行っていたのだが、
有力な手がかりを得られないまま時が過ぎていき、
ロマネスクはこの件に関する調査を打ち切ろうかと考えていたところだった。

何も問題は起きてはいない。
だから彼はこうして休んでいたのだが、そこへブーンが現れた。

良いタイミングであったと言えよう。

( ^ω^) 「ロマおじさん、僕と組み手をして欲しいお」

200 ◆IUSLNL8fGY:2012/07/29(日) 01:41:52 ID:TZdjw55g0

( ФωФ)「何?」

ロマネスクの予想を反する要望であった。

聖杯戦争が開始された今さら、稽古をしてくれとせがまれるなど考えようも無い。

しかし、監督役としてではなく拳法の師匠として頼られることに、
ブーンとの変わらぬ絆をロマネスクは感じていた。

( ФωФ)「よろしい、では先に地下室で待っていなさい」

胸の内に微かな火がともり、頬を緩めたロマネスクは支度を始める。

紺色のコートを揺らし、扉の鍵を閉めるべく玄関へ向かうのを
ブーンは視界の端に収め、私室へと入り込んでいく。

休憩用のベッドと机、聖書などを収める本棚だけが置かれた、
小奇麗でいて殺風景な部屋の隅には階段がある。

地下室へと続く下り階段で、ブーンは慣れたように降りていくと、
教会には似つかない畳の敷かれた簡易な道場が視界に広がった。
壁はコンクリートで塗り固められており、壁紙は張られていない。

201 ◆IUSLNL8fGY:2012/07/29(日) 01:47:38 ID:TZdjw55g0

( ^ω^))

道場に入る前に一礼し、藁の青臭い香りを鼻腔で楽しむ。

ロマネスクの父は敬虔なクリスチャンであると同時に、求道的な武道家であった。
日本人で名のある空手家である父の元に生まれ、世界中のあらゆる武道を学んできたのだ。

ロシアでシステマの修練を行っている時に母と出会い、キリスト教徒である彼女を通じて入信したらしい。
当時のロシアでは宗教は弾圧されており、幾多の修羅場を潜り抜けた末に国外へ抜け出し、
こうして自らの教会を立ち上げることになったのだと。

ある時、ブーンはそう聞いたことがある。

この畳張りの部屋はその名残なのだ。
ロマネスクも父にここで鍛え上げられた。

そして、今はブーンが。

( ФωФ)「待たせたかね」

( ^ω^) 「ちっともだお」

武道家達が積み上げてきた歴史と、杉浦親子の間で結ばれてきた絆の温もりは、
弟子であるブーンの肌に道場へやって来る度伝わってくる。

スタジャンと制服を脱いでいき、部屋の隅に置くとブーンはTシャツ一枚になり、
ロマネスクは青い僧衣のまま対峙した。


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