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FFDQかっこいい男コンテスト 〜ファイナルファンタジー5部門〜

1名無しの勇者:2002/10/18(金) 20:12
FF5の小説専用スレです。
書き手も読み手もマターリと楽しくいきましょう。

*煽り荒らしは完全放置。レスするあなたも厨房です*

2ECLIPSE:2003/03/18(火) 20:40
「クソッ!!」
怒りのあまり、近くにあった樹に拳をぶつける。あんなに悔しい思いをしたのはガキの頃以来だな。
痛みよりも苛立ちが身体を支配している今は、ただ、こうするしかなかった。

オレ、バッツは今、一人で旅をしている。理由を言うと……修行なんだ。
敵の本拠地に飛び込んでみたのはいいけど、敵があまりに強すぎた。
流石にこれではまずいだろうとクルルの提案で、自分達で修行して、強くなってから
改めて敵の本拠地に殴りこもうということになった。他の三人は知らないけど、
オレは自然の中で集中したいから今、とある山の森で一人鍛錬を重ねていた。
最初はまだ良かった。それなりに自分のどこが悪いのかがわかるから。
けど、今は何だ。自分のどこが悪いのかがわからず、ただ闇雲に剣を振ってるだけだ。
しかも、なぜか知らないけど不安が付きまとう。こんなことは初めてだ。
負けたこと、まだ引きずっているのかなぁ。

3ECLIPSE 2:2003/03/18(火) 20:42
満月の夜。この日は星空がキレイで、虫の音が心地いい。
そこでふと、あの夜のことを思い出す。初めて剣を握った、あの夜を。
あの日も満月で、星空がキレイだった。戦いについて何にも知らないオレに
親父、夜通しで構えとか教えてくれたっけ。あの時、いろいろ聞いてパニックに
なってたなぁ。そのとき、いろいろと大事なこと言ってたけど……
なんて言ってたっけなぁ。霧がかかったみたいでハッキリと思い出せない。
それさえ思い出せれば何とかなるかも−−−−

4ECLIPSE 3:2003/03/18(火) 20:42
「!!」
気配がした。人間とは違う、邪悪な何かの気配。
確かに気配はするのだが、それがどこからするのかがはっきりと読み取れない。
オレは目を閉じて、その気配を探った。ケルブの村のときのように。
背後?正面?それとも脇か?……いや、違う。すべての方向からだ。
その事を悟った刹那、強烈な光がオレにめがけて飛んできた。
何とか避けてはみたものの、少し左腕が熱い。かすったようだ。
「ふん。これくらい避けることはたやすいか。」
あの声は……!!!
「テメェ!どこにいやがる!!」
はっきり言って今、一番聞きたくなかった声だった。
暗黒魔道師エクスデス。あいつは確か次元のはざまにいるはずだが…?
「ファファファ。こんなところにいるとはな。てっきりバル城にいるのかと思ったぞ。」

5ECLIPSE 4:2003/03/18(火) 20:43
「何しに来やがった!!」
「貴様らを生かすわけにはいかん。だが、お前達は強い心を思っている。」
楽しそうな口調でオレに話し掛けるあいつ。姿を見せないまま。
「そんな心を持ったままでは流石にこちらがやられると思ってな。」
「意外に根性ねぇな、強ぇ力持ってるくせによぉ。」
「根性が無いからこそだ。その心をへし折らせてもらう。」
「面白れぇ!!やってみやがれ!!」
力勝負でへこたれることは無い。現にオレはガキの頃から
親父にへこむことが無いようにシゴかれてきた。だから、根比べでは負けない。
「自信たっぷりだな。その自身がいつまで続くか楽しみだ。」

6ECLIPSE:2003/03/18(火) 20:44
いきなりの攻撃には慣れているつもりだった。正面きって、横からの攻撃、
果ては背後からの攻撃なんてこの旅で何度も経験してきたつもりだった。
だが……背景に徹するつもりだったであろう木々がオレめがけて根を振り下ろす。
これは初めての経験だった。その容赦の無い攻撃は幾度と無く続いた。
「忘れたわけではあるまい?私は元々植物から生まれた存在だということを。」
植物から生まれたからって植物を操れるわけが無いとツッコミたいところだが
そうも言ってられない。コッチは避けるのに必死だったから。
迫りくる木の根は避けられ、あるいは斬り飛ばされた。

7ECLIPSE 6:2003/03/18(火) 20:45
木々を避けながらオレはそう考えていた。流石に少し体力が奪われていった。刹那!!
「!!」
一本の枝にオレは足を取られた。同時にオレに迫ってきた樹々の動きが止んだ。
そして、オレの身体はある樹木の方へ引き寄せられていった。
「さて、どうしてくれようか。身体を切り裂いても良いのだが…。」
その聞き覚えのある声はオレを手繰り寄せる樹から聞こえてきた。
この声…まさか……嘘だろ!?
「何……で…?」
「何故私がココにいるかだろ?」
間違いない。この声は――エクスデス。
「簡単だ。空間を渡った。それだけのことだ。」
オレの考えを見透かすかのように答えるあいつ。
「空間から枝を伸ばし、それから樹木と化した私が現れただけだ。驚くことはあるまい。」
空間を移動するなんて聞いたことが無い。テレポのように洞窟から脱出する魔法ならともかく…

8ECLIPSE 7:2003/03/18(火) 20:47
「フフフ。驚いているようだが恐れは抱いていないな。
なら、恐れを植え付けてやろう。屈辱という恐怖を、な。」
その言葉の意味を理解するより早く、エクスデスの枝がオレの服の中に進入してきた。
「な!?」
枝はオレの胸を、腋を、足を・・・とにかく肌という肌を這いずり回った。
「楽しむには少々邪魔だな。」
そういって他の枝でオレの服を脱がしてきた。下着も、だ。
「テメェ、何する気…ふあっ!?」
ただでさえガマンしているオレを嘲笑うかのように、一本の枝がオレ自身を弄ぶ。

9ECLIPSE 8:2003/03/18(火) 20:47
上下に扱かれ、先端を弄られるたびにオレは抗議の声を、淫らな音を混ぜて発する。
「少しは素直になったらどうだ?」
「誰が…ひあっ……なるか、ぁ!!」
「なら、素直にしてやろうか。」
何かを企むような口調で呟くエクスデス。
「何…気……だぁ…はあっ…ぐうっ!!」
突然、太い枝がオレの口の中に侵入してきた。少し、オレの口の中で暴れた後、その枝は
何か得体の知れない液体を吐き出した。吐き出すことも出来ず、否応無しに侵入する。
オレが飲み込んだのを確認し、しばらくしてからその枝はオレの口から引きずり出された。
体が……熱い。
「さぁ、続きを楽しもうか。」

10ECLIPSE 9:2003/03/18(火) 20:48
次にその枝はオレの後ろをつついてきた。
「んくうっ!」
湿ったそれはオレの後門を少しずつほぐしていく。まるで融けるようだ。
少しずつ、そして慈しむようにそれはオレの中に侵入してきた。
「く、あ、あああああああっ!」
侵入してはそれはオレの中で何かを探るような動作をしていた。
「さて、どの辺にあるのかな?」
さも楽しむかのように、焦らすように何かを探る。前の刺激でも辛いのに、
十分後ろの刺激はオレを快感の渦に陥れるのに時間はかからなかった。
「ああっ、があっ……やあっ!」
とある場所を触られたとき、オレは一際大きな声を出していた。それが、悪夢へのカウントダウンだった。
「ここか。十分ココもいい具合になったし…存分に楽しませてもらうか。」

11ECLIPSE 10:2003/03/18(火) 20:49
そして、オレ自身を慰めていた枝が、中に侵入した枝が、肌を這いずり回っている枝、
すべての枝が一層動きが激しくなった。
「うあああああああっ!!」
その突然与えられた強烈な快感はオレの頭を少しずつ切り崩していった。
もうそろそろ限界――そう思ったとき、少し変わった枝がオレの先端に吸い付いた。
「あ、がっ…んんっ!!」
その枝は白濁した液を吸い取り始めた。こぼさぬように、味わうように。
これで開放されると思い、意識を手放そうと―――
「まだだ。これくらいで済むと思ったのか?」
凶器ともいうべき快楽は、またオレを蝕んでいった。

12ECLIPSE 11:2003/03/18(火) 20:49
気が付いたら、太陽はすでに高く上っていた。起き上がろうと思ったら、腰が痛かった。
夢じゃ……無かった。アレは、紛れもない現実。忘れることが出来ない悪夢。
思い出した瞬間、背筋が凍る思いがした。早く、忘れたい。
そして、この恐怖に打ち勝たなければあいつに勝てない、そんな気がした。
「強く…ならなきゃ。戦闘も、心も。」
誰かに聞かせるわけでもないがオレはそう呟いた。
足を引っ張ることになるなんて嫌だ。もっと、闘わないと。
自分自身の中にある負の感情そのものにも。

13名無し厨房:2003/03/18(火) 20:55
初めての触手モノ、マジで緊張しました。
流石にただの強引系ではアレなので、本編のバッツたんへ
バトンタッチできるような結末にしてみました。
こういうのもありですかね?(w
流石にこういう小説はバッツスレに書けないよなぁ・・・。

14本スレ147:2003/03/19(水) 20:07
乙でした!すばらしいSSをどうも有り難う。
昨日は一晩中(´Д`;)ハァハァしておりました。
辱められるバッツたん…(´Д`;)イイ!!
震えそうなくらい萌えです。
自分の脳内でもバッツたんが大変なコトに(笑)なっているのに、文才が無くSSなど
書けないので、絵を描きます。
というか描いています(昨日の深夜からずっと描いているのにまだ描き上がらない…)。
出来上がったら、よかったら見て下さい。

ホント、今自分が描いているイラストも含めてバッツスレの方には書けないですねf(^_^;)

15名無し厨房:2003/04/07(月) 22:30
>>14
自分もバッツスレ住人ですがハァハァしますたw

16民明</b><font color=#FF0000>(lCkiZBBs)</font><b>:2003/04/26(土) 10:46
バッツの本格的な801は初めて見ますた
本来の性格を壊さず書かれてるのがすごいっすね。萌え。

17民明</b><font color=#FF0000>(lCkiZBBs)</font><b>:2003/04/26(土) 10:48
トリップがおかしい・・・

18a:2003/08/21(木) 15:10
いっそギルガメッシュ×バッツで!!

19名無しの勇者:2003/12/14(日) 03:55
ギルガメッシュ×バッツかぁ・・・。萌えだね。

20名無しの勇者:2005/11/14(月) 14:51:04
コソーリバッツ受リク消化いきます
ギルガメッシュ×バッツ心意気は誘い受
チョト暗めエチはチョト痛め?苦手な方ご注意

21ギルバツ 1/16:2005/11/14(月) 14:52:43
 年代物と呼ぶには新しすぎる、空駆ける魚と呼ぶにふさわしい船体は動くたびにギリギリと物言わぬ声を上げ、長旅の疲れを訴える。
がくん、と船全体に衝撃を感じたかと思うと、血相を変えて部屋に飛び込んできたのはファリスだった。
「バッツ、来てくれ!潜水艇のスクリューに何か引っかかってる!」
船の運転をファリスに任せ、船内の一室でクルルとトランプをしていたバッツは、何の役もできていない手札をテーブルに放り出して操縦室に向かった。
魔物の出ない深海の移動はどうしても退屈で、皆それぞれ仮眠をとったり、武器の手入れをしたり、時にはカードなどをして暇な時を過ごしている。
錆びた鉄のような匂いの漂う操縦室では、仮眠室で休息していたはずのレナがドアのそばに立っていた。
張りつめた空気が無数の糸となり、網のように部屋全体を覆っている。
「何があったんだ?何が……何が引っかかってんだ?」
操縦席の背もたれに体重を預けているファリスに声をかけた。
「多分……海草かなんかだと思う。よく分かんねえけど、ひらひらしてんのがスクリューに絡まってんだ。おかげで船が進まねえ」
足の爪先をこつこつ鳴らしながら、ファリスは小さく舌打ちした。
「海の真ん中、それも深海で立ち往生かよ……。飛行はできるのか?」
「無理だろうな。さっき機関室の方を見てきたんだが、どうも潜水用のスクリューと飛行用のプロペラが連動してるらしい」
青ざめたレナがびくりと肩を震わせる。バッツはそんな彼女の肩を軽く叩くと、ファリスの方に向き直った。
「心配すんな、レナ。……ファリス、浮上はできるか?」
「あ、ああ……それは大丈夫だと思う。移動は無理だろうけどな」
「よし、じゃあ一旦船を上げてくれ。俺が見てくる」
言いながらバッツはおもむろに服を脱ぎ始める。
スクリューは船底の部分に張りつくように設置されているため、船体の下に潜り込まなければ状況の確認すらできないのだ。
「バカ、危ねえぜ!?」
「危険よ、バッツ!」
レナとファリスが目を見開き、ほぼ同時に叫ぶ。
「……心配してくれんのは嬉しいけど。他にどうしようもないだろ?」
二人に言い聞かせるように、バッツは優しく笑った。
「バッツ……でも……」
今にも泣き出しそうな眼で、レナはバッツを見上げた。
「じゃあ、せめて俺に行かせてくれよ。お前より泳ぎには自信がある」
レナの頭を慰めるように撫でながらファリスが声を上げた。
バッツは聞こえないふりをして、上着を操縦席に着せると静かに部屋を出ていった。

22ギルバツ 2/16:2005/11/14(月) 14:54:20
 見慣れぬ白い天井が視界を埋め尽くしている。
黒い斑点がいくつも浮いた、年代物の電灯の明かり。自分の体温で暖まった毛布。清潔なシーツ。
(――……どうなってんだ…………?)
自分の置かれた状況を何一つ理解できないまま、男――ギルガメッシュは目覚めた。
妙に身体が冷えていて、寒気がする。ギルガメッシュはぶるりと動物のように身を震わせた。
(そうだ、たしか)
オレは、エクスデス様に……、奴に、次元の狭間に飛ばされたのだ。
(それで、それで、オレは)
徐々に頭が冴えてくる。ギルガメッシュは周りの状況を探ろうと、軋んですっかり重くなった身体をどうにか起こした。
「!?」
霞がかった意識のせいで、今まで全く気付かなかったが。
ベッドの傍の椅子に、手足を組んで座っている男。頭が微かに、上下に揺れているのは、眠っているからだろうか。
俯いているので、その表情までは見えなかったが。
間違いなかった。
「お、お、おま、お前っ、ば、ばばばばバッ……ぶえーっくしゅん!!」
「フニャッ!?」
風に溶けるように流れる髪が、草原を駆けるチョコボを彷彿とさせる。
今床に尻から落ちた人物……彼こそが、自分がかつて、いや、今の今までその姿を追い続けていた――
「バッツ!!お前、ほんとにバッツか!?」
腰をさすりながら、涙目でこちらを睨んでくる。そんな彼の仕草に、ギルガメッシュは思わず息を呑んだ。
(……あれ?)
「お前な……もうちょい静かに起きろ」
「す、すまねぇ……」
いってえ、と呻きながら、バッツが椅子に座りなおす。
身体をまっすぐこちらに向けて、バッツとギルガメッシュは正面から向かい合った。
「…………で?」
「…………で?」
フウ、とバッツはわざとらしくため息を洩らす。何を問われているかすらよく分からないギルガメッシュは、ただ眼を丸くするばかりだ。
「なんだってお前あんな所にいたんだ、ギルガメッシュ」
「あんな所、って……そりゃこっちのセリフだぜ。なんでお前がここにいるんだ?」
ここは一体どこなのか、なぜ自分はこんなベッドで寝ていたのか……聞きたいことは山ほどあった。
「なんも覚えてないのか?」
「次元の狭間に飛ばされて……出口を探して暴れまくってたとこまでは覚えてんだが」
後はさっぱりだ、と両手を挙げるギルガメッシュに、バッツは半ば呆れ顔でここまでの経緯を説明した。
潜水艇のスクリューに、ギルガメッシュの赤い外套(中身付き)が引っかかっていたこと。
虫の息のギルガメッシュに応急処置を施して、奇跡的に命をとりとめたこと。(水上生活の長いファリス曰くまさに“奇跡”だったらしい)
船の整備も兼ね、ちょうど現場から一番近かったクレセントに上陸したこと。
「……で、ここはそのクレセントの宿屋。んで俺はお前の看病、兼……見張りってとこかな」
「見張り?」
そう尋ね返したところで、ギルガメッシュはふと我に返った。
(そういやオレ一応、バッツ達の、敵だったんだよなあ……)
これって平和ボケ?(厳密には世界の危機なのだが)などとぼんやり考えながら、一方でそんな穏やかな気持ちに心地好さを覚えている自分を否定できなかった。

23ギルバツ 3/16:2005/11/14(月) 14:55:19
「俺の顔がそんなにイケてるか?」
「えっ、あっ、いや……」
無意識にバッツの顔を凝視してしまっていたらしい。ギルガメッシュはあわてて目を逸らした。
完全に意識が覚醒すると、ベッドの中が窮屈で暑苦しく感じてくる。
ギルガメッシュは身体を覆っていた毛布を取り払い、ベッドに腰掛けたままぺたりと床に足をつけた。
足の裏からひんやりと伝わる温度差が気持ちいい。
(……あ)
服。
いつもの外套や鎧は見当たらない。ギルガメッシュが身につけていたのは、室内用のゆったりとしたチュニックだった。
……バッツの、だろうか。
(なんだ。なに考えてんだ、オレは)
首を振り、身体のどこからか湧いてくる思いを全力で否定する。
(どうかしてるぜ……)
そんなギルガメッシュの様子を黙って見つめていたバッツだったが、ふと何か思い立った様子で立ち上がった。
「ちょっと待ってくれよ」
そう言って、ベッドの足元に投げ出していた大きな皮袋をごそごそとやりはじめた。
随分使い込まれた袋だ。ただ物臭なだけなのか、意外に物持ちがいいのだろうか。
「お、おい、バッツ……」
ぺたりと床に座り込み、袋を漁っている。どうやら整理はあまり行き届いていないらしい。
ふと目線を移すと、ちょうどギルガメッシュの膝辺りにバッツの顔があった。
(あ、なんか、これは)
やばいかも。
背中を押されるような衝動が全身を突き抜ける。
おちつけ。
おちつけ。
相手は男だ。バッツだ。オレはどうかしてるんだ。
女性と全く縁のない生活を長く続けたせいで、脳細胞がほんのちょこっとメダパニかかってるだけだ。
あ、やっべメダパニじゃねえコンフュだ。コンフュ。
……こりゃ相当キてるぜ。平常心。平常心。無の世界。
だが焦れば焦るほど、視線を目の前の青年から逸らすことができなかった。
今までにも何度か剣を交えたことはあるが、こんな至近距離で彼の表情を眺めたことなどもちろんない。
普段はあのじゃじゃ馬な王女たちに押され気味で、あまり自己主張のない青年だと感じていたのだが。
こうして近くで見ると、随分整った顔立ちをしている。
紺に近い蒼黒の瞳。三日月のような唇。長い睫毛は彼がまばたきをする度に蝶のように揺れている。
体質だろうか、旅をしている割にはあまり日焼けの跡もない。そして裾から覗く腕は驚くほど細い。
服の下には、その強さに見合うだけの筋肉が隠れているのだろうか。
……なるほどこれなら、あの美しい女性たちと並んでも決して見劣りはしないだろう。――
「………メ…シュ。ギルガメッシュ!」
「!」
目の前にバッツの顔があったので、ギルガメッシュは文字通り飛び上がった。
「ば、ば、バッツ……あんま驚かせんなよ」
「なんだよもう、さっきから……頭打ってんのか?はい、これ」
バッツの手に握られたのは、茶色の酒瓶と、木製の小さなゴブレットが二つ。
眼をしばたかせているギルガメッシュに向かって、バッツは強気な笑みを浮かべていた。

24ギルバツ 4/16:2005/11/14(月) 14:56:21
「何が悲しくてレインボードレスとか着なきゃなんねんだよ……俺お姫様か?ああ?だったらメンバー全員お姫様だな。すげえの。お姫様なのに二刀流でさ。みだれうつの。全員で。一斉に。天のむら雲でさ。クリティカルでシュバババッ!とかいうの。笑っちゃうよな。つうか笑うしかねえよな。だったら笑わねえとな。はっはっは」
「…………バッツ………………」
「洗濯してたらさ。パンツとか出てくんだよな。そりゃ最初はな。どきどきしてたもんだけどな。男だもんな。あ、俺お姫様か。今は何ともないの。何も感じねえの。お姫様だし。レースのパンツって洗うの気ぃ使うんだぜ。紐つきのと一緒にしてたら絡まるしな。あいつらそんなん何も考えねぇの。お姫様だから。だから俺洗濯係。料理係兼買い物係兼洗濯係。俺すげえよな。シンデレラだな。ああ、だから俺お姫様なんだな。ドレス着てもなんともねえんだな。すげえな。ばっちりだ」
「……………………」
逆紅一点、というのはとかくストレスのたまるものらしい。
大して強い酒でもないのにこの乱れ様……疲労時の酒は普段より効くというが、彼の場合まさしくそれなのだろう。
出会ってすぐの頃は見目麗しい女性たちに囲まれて羨ましい位にしか思わなかったが、どんなものにも裏はあるということか。
この細くてどこか陰のある青年に、ギルガメッシュは心からの尊敬と同情の念を覚えた。
「やっぱ男がいいな。こうやってつるんで飲んでさ。だべってさ。だらだらしてさ。すげえ楽ちんだ。あいつら酒飲まねぇからな。なんでガラフは死んじまったんだろうな。いつもこうやって飲んでたのになぁ。今頃なにしてんのかな……」
ぎくり、とギルガメッシュは肩を震わせた。
バッツは相変わらず窓の外の欠けた月を見つめたまま、椅子の上に両膝を立てた恰好でエールを舐めている。
ギルガメッシュは手元のゴブレットに視線を移した。
「……なぁ、バッツ、これ…………」
バッツはちらりと横目でこちらを見たが、すぐに興味なさそうに顔を戻した。
「今はお前が使ってんだからさ。お前のもんだよ」
しばらく使ってなかったから、しまいこんでいただけだ。
悪ィ、洗うの忘れちまったな。ごめんな。そう言ってバッツは笑った。
こちらが泣きたくなりそうなほど、痛々しい笑顔だった。
手を伸ばせば届くところにバッツの横顔がある。
……触りたい。バッツに触れたい。
ギルガメッシュは確信した。
(オレは、コイツに惚れてる…………)
なんでだ。なんでバッツなんだ。男女比1:3じゃねえか。なんでピンポイントでバッツなんだ。
美女が後ろで三人も(うち一人は年齢的に犯罪くさいが)控えてるってのに、オレの本能はこんなひょろっこい男を選ぶのか。
だがそんな葛藤も、この妙に線の細い青年を目の前にしては藻屑のように消えていく。
(だめだ、だめだ!今、ここで手を出したら)
今の関係でなくなる。いやだ。そんなのはいやだ。
こうやってたまに酒を飲んで、たまに戦って、一緒に笑ってられるなら、それで満足じゃねえか、なぁ?

25ギルバツ 5/16:2005/11/14(月) 14:57:19
 そろそろ瓶も空になろうかという頃。
バッツの愚痴は続いていた。ギルガメッシュは適当に相槌を打ちながら、脳内で己の欲望と闘っていた。
「なんで結婚とかするんだろうな。男と女ってめんどくせぇだけじゃん。なぁ?ガラフに言ったら延々説教されたけどな。分かんねえや。多分俺はまだガキなんだろうな。男同士で遊んでたほうが楽しいもん。ああ、そっか。だめか。男じゃ子供作れねぇもんな。そりゃだめだ。だめだよなぁ。……だめ……だ……」
既に呂律も怪しく、椅子の上で子供のように丸くなり、傍の壁にもたれかかるバッツ。
もう自分が何を言っているのかも分からないのかもしれない。
なにぶん肌が白いものだから、赤く染まった頬が一層その色を強調している。
とろんと潤んだ瞳はどこを見ているかも分からない。もう何も映していないのかもしれない。
「………………バッツ?」
少しだけ開いた窓の隙間から差し込む風が言葉をさらっていく。
栗色の髪がさわさわと揺れるリズムに合わせて、バッツの唇から規則的な呼吸の音が聴こえてくる。
閉じた瞼から伸びた睫毛が、白い頬に影を落としていた。
子供のようにあどけなく寝息を立てるバッツは全く無防備で、とても歴戦の戦士には見えない。
「てめェから誘っといてよぉ……」
細い指に絡まったゴブレットを傍のチェストに避難させ、ギルガメッシュは椅子の上で危ういバランスを保っているバッツの体を抱き上げた。
(う…………っわ……)
身長は年相応にあるため足がいくらか余っていたが、それでもバッツの細い体はギルガメッシュの逞しい腕にすっぽりと収まった。
…………軽い。
なんだ。なんなんだこれは。
これが、自分が生涯ただ一人のライバルと認めた男の体なのか。
思考が交錯する。
理性が飛んでいく。
酒気の混じる、バッツの甘い香りに酔いそうだった。
腕に思わず力がこもってしまい、バッツが苦しそうに息を漏らした。
「…………くっそ」
昂ぶる興奮を抑え、今まで自分が座っていたベッドにバッツの体を横たわらせる。
体勢の変化にバッツは刹那身を捩らせたが、すぐに落ち着いたらしく再び眠りの世界へと旅立ったようだ。
「どうしろってんだ、オレに」
ベッドの傍に立ちすくんだまま、ギルガメッシュは思案した。
このままここから立ち去ればミステリアスでイケてる男ギルガメッシュを演出できるだろう。
だが、ギルガメッシュはあいにく目の前の据え膳を放置するという紳士の選択肢を持ち合わせていなかった。
(……ちょっとだけなら)
気付かれやしないだろう。夢のせいにできるだろう。
思考が一点に到達しないうちに、ギルガメッシュは仔猫のように丸くなったバッツの体に覆い被さると、吸い寄せられるようにその湿った唇に口付けた。

26ギルバツ 6/16:2005/11/14(月) 14:58:39
「……………………」
こうやって、最後に他人の体温に触れたのは果たしていつだったか。
魔の道に身を投じてから、そんな機会も余裕すらもなかったように思う。
今こうして人の、しかも男の唇を吸っているという事実が、遠い世界の絵空事のような気さえしてくる。
そんな現実離れを錯覚させるほど、バッツの唇は柔らかくて、温かかった。
(やっべぇ…………やべぇ、やべぇ、やべぇ)
気持ちいい。止まらない。
角度を変えて何度も啄ばむ。食む。滴る唾液がバッツの唇をさらに湿らせる。
「んぅ………………」
「っ!?」
思わず舌を侵入させようと勢い余ったところで、バッツの喘ぎを乗せた吐息がギルガメッシュの消えかけた理性を奮い立たせた。
ドア側の壁際まで文字通り飛び上がるギルガメッシュ。
体の内側から動悸を奏で続ける胸を軽く押さえつつ、呼吸を整えながら、眠るバッツを見下ろす。
(お、お、お、お、オレは…………)
オレは一体何をしていたんだ。
オレは、オレは、オレは…………。
(バッツに、…………チュウ、しちまった)
顔を合わせるたびに剣を取っていた、バッツに。いつも差し向かいで戦っていたバッツに。
好敵手。友達。仲間。
密かに、自らそう認めていた相手は、もうそこにはいなかった。
今ここにいるのは、あえて品のない言い方をするなら、自分の性的対象へと成り果てたバッツのあられもない肢体だった。
幸い目を覚ます気配を見せないバッツの寝顔に目をやると、自分の唾液で濡れたバッツの唇が、電灯の白に反射して艶やかな光を帯びていた。
(………………あぁ)
もう一回。
もう一回、したい。
脳を巡る回路が早いのか急き立てる本能が早いのか、己の足は思い悩むこともなくバッツに歩み寄っていく。
風が吹いた。ギルガメッシュは音を立てないようゆっくりと窓を閉め、それからバッツの栗色の前髪をするりと撫ぜた。
錆びかけたスプリングを仕込んだベッドに膝をかけると、ぎりぎりと嘗めるような音を立てながら、バッツの体が僅かにシーツの海に沈む。
――もう一度互いの唇が出会うまで、あと――――……
二人の呼吸は、ギルガメッシュの首の後ろに回る手の平の温度に引き寄せられて、再び繋がった。

27ギルバツ 7/16:2005/11/14(月) 14:59:37
 時計の音がする。
電灯が、無音とも区別し難い空気の波を進む音を鳴らし続けている。
ギルガメッシュの思考は既に凍結し、胸を打つ鼓動はその間隔を狭める一方で、身体中の熱が出口を求めて下半身へと集まっていく。
(なにが………………なにが)
何が起こってるんだ。
この、首の後ろに感じる汗ばんだ手。この手はオレのものじゃない。ここにはオレとバッツしかいない。
じゃあこの手は誰のだ。オレか。いや、だからオレのじゃなくて……。
(……………………バッツ?)
瞼をゆっくり開けると目の前にバッツの顔があって、ギルガメッシュは再び飛び上がりそうになった。
(と、と、当然だ……チューしてんだから)
重ねた唇から漏れるわずかな空気を求め合い、互いの唾液の零れる水音が狭い室内に響く。
一か八か、おそるおそる舌を侵入させていくと、それに応じるようにバッツが己の柔らかな舌を絡めてくる。
(う……っそだろ…………)
目は瞑ったままだったが、間違いなかった。
バッツの意識は覚醒している。
その上で自分の仕掛けたキスに応えているのだ。
バッツが。
あのバッツが。
考えただけで脳味噌がメテオの溶岩になっているのに、相手が自分の首に回した腕の力がみるみる強くなってきて、心なしか抱きつかれている気がするものだから。
この首の後ろの、この己の体を拘束する腕がなかったら、空くらい飛んでいそうだった。
「……………………ふ」
さすがに息が苦しくなってきて唇を離したが、バッツの手は相変わらずギルガメッシュの首に巻きついている。
無言だった。
密着した体が互いの鼓動を数え、熱を与え、言葉を溶かしていった。
思わず逸らした目線の先に、二つのゴブレットが並んでいる。
自分で並べておいたはずなのに、その片方は倒れ、中にわずかに残った液体がチェストに零れていた。
いつの間に倒れたのか、誰が倒したのか、その時音がしたのか、ギルガメッシュは知らなかった。
「……バッツ。なぁ、バッツ……?」
顔を肩口に埋めたバッツの表情は見えなかったが、絹糸のような髪が微かに震えているのを、ギルガメッシュは見逃さなかった。
「……!おっ、おいっ……バッツ!泣いてんのか?寒いのか!?」
慌ただしく問い質しても返答はなく、彼はただ震えるばかりだ。
「だめ…………ギル……もう」
「バッツ!?」
囁くような声が耳元で響く。
何かを押し殺したような、堪えているような、絞り出すような声だった。
「だめ、だめ…………これ以上……ぷっ」
堪えていた何かが吹き出したようだった。

28ギルバツ 8/16:2005/11/14(月) 15:00:40
「も、もうだめだ……っ……あははははははははっ」
タカが外れたようにゲラゲラと笑い出すバッツを、ギルガメッシュはただ呆然と見守るばかりだ。
さっきまでの濃厚なキスは一体何だったのかと、思わず泣き笑いになりそうなギルガメッシュの下で、バッツはとり憑かれたように腹を抱えている。
「はぁっ……もう……なんなんだよ、お前は」
バッツは笑いすぎて目の端から溢れた涙を指ですくいながらまっすぐギルガメッシュを見つめていたが、その顔にはにやにやと意地の悪い笑みが浮かんでいる。
「魔族ってのは男女の見境がないのか?発情期?」
「なっ…………おっ、オレはそんな」
やましい気持ちでやったんじゃねえ。そう続くはずの言葉は喉元で留まった。
……やましいもなにも、寝込みを襲った時点でやましさ大暴走じゃねぇか…………。
欲望の象徴がチュニックの下で張り詰めている。これではどんな言い訳も通用するはずがない。
「お、オレはだな、オレは、その」
「溜まってんの?」
「うおっ!?」
バッツは軽い動作で起き上がりギルガメッシュと向かい合う姿勢になると、服の上からギルガメッシュの股間を指で掠めるように撫でた。
「な、な、な…………」
「だったら早く言えばいいのに」
言うが早いか、バッツが猫のように四つん這いになり、ギルガメッシュの立ち上がったものを服ごと掴み上下に扱きはじめた。
「おっ、おいっ…………バッツ、バッツ!」
「なんだよ、もう。抵抗すんなよ、俺が抜いてやるって言ってんだから」
「抜くって、あっ、ちょ、マジ、待って、待て、待て、待て、待てって!バッツ!おすわり!」
「…………なに」
バッツが心なしか名残惜し気に手を止め、こちらの顔を上目遣いで覗き込んでくる。
…………コイツ、分かっててやってんのか!?
「俺のことなんて気にすんなよ。自分でやるより人にやってもらった方が気持ちいいだろ?」
「……いや、だからな。その、抜くとか、そんなん…………」
オレはこんな、エロいこと覚えたばっかの男子中学生みたいなノリで事を進めたいわけじゃない。
そんな、出るから出すみたいなもんじゃなくてだな。ちゃんと、二人の愛を確かめ合うからこその行為であって……。
…………。
そもそも先に体に訴えたのはオレだ。
しかしなんだ、自分はともかく、バッツはオレのことどう思ってやがるんだ?
少なくとも嫌われてはいないはずだよな。嫌いな奴とのチューなんざ乱れ打ってでも抵抗するだろうし、ましてやそんな野郎のモノなんて触りたくもねえ。
…………望みはあるのか?
自惚れちまっていいのか?
いやしかし、オレとバッツの間には愛とか言う以前に男同士であるという狭く果てしなく深い溝が――
「……なぁ、もう考えるのよそうぜ」
ギルガメッシュの葛藤を見透かしたように、痺れをきらしたバッツが沈黙を破った。
「見かけの割に神経質なんだな。溜まったから出す、それでいいだろ」
あわや唇が触れ合いそう、というところまで顔を近づけられ、ギルガメッシュはその意識的なのかそれとも無意識なのか分からない色香に卒倒しそうになった。
「いや、でも、その、オレは」
「やるのか、やらねえのか、どっちなんだ」
「……………………………………やります」

29ギルバツ 9/16:2005/11/14(月) 15:01:49
 なんでこんなことになっちまったんだろう。
いや、今のこの状況は正直なところ大歓迎なのだが、ちょっと想像してたのと違うというか……。
第一、キスのひとつで激しい葛藤の渦に飲み込まれる男が、いきなり「手と口どっちがいい?」なんて聞かれたら、ひょっとしてこれってドッキリ?とか思うわけである。
「じゃあ下の口で」とか言える性格ではないのだ。
周りにはわざと馬鹿をやっているようにしか見えなくても、本人はいたって真剣だったりするのだ。
だから、「口って言ったらマジでやってくれんのか?」などと素で大真面目に聞いてしまうのである。
ギルガメッシュはそういう男だった。
バッツも彼のそういう性格は了解しているらしく、言葉の代わりに天使のような無償の笑顔で応えた。
そして、今に至る。
「魔族つっても、妖怪サイズってほどじゃねえな。俺よりはでかいけど」
クスクス笑いながら衣服を探り相手のものを取り出すバッツは、けして天使などではない、精を食らう妖艶な魔物のようだった。
四つん這いになり、顎や首元に唾液が滴るのもお構いなしで、立膝のギルガメッシュの昂りを口に含むバッツ。
「っく…………バッツ…………」
「んんん……」
ちゅぷ、ちゅぷという淫猥な水音が痛くない針のように耳を刺す。
この世界でこの部屋だけが、全てから隔離された異空間のようだ。
バッツがオレのものを咥えている。舌を這わせている。
その事実だけでギルガメッシュは達しそうだった。
さすがに心得た男同士だけあって、的確に感じる部分を突いてくる。
バッツの上気した頬は酒のせいか?オレのものを口に咥えて、お前も感じてくれているのか?
「はっ……はぁっ、っぐ、バッツ、バッツ……」
限界を知らせる息遣いが、バッツの舌の動きを性急なものにする。
先端をきつく吸われ、ギルガメッシュはその刺激に促されるままにバッツの咥内へ精を放った。
「んんっ……っくぅ、ふ…………はぁっ」
覚悟はしていたものの、想像を絶するほどのおびただしい量がバッツの喉を犯す。
受け止めきれなかった熱が、バッツの頬や顎、髪の上にまで飛び散った。
しばし呆然と、荒い呼吸をしながら絶頂の余韻に浸っていたギルガメッシュだったが、熱を全て吐き出して萎縮したモノをじっと見つめ、無言でその場に佇むバッツに気が付くと、慌てて衣服を整えた。
「あっ、いや、その、あの……バッツ」
ここまでやっておきながら今更何の言い訳がある、と内心思わないでもなかったが、場の空気に圧され、つい体裁を取り繕わずにはいられなかった。
「え………………っと」
なんだこの空気。
冷たい汗が背を伝う。
どう声をかけるべきか……あれこれと思案しているうちに、相手がゆっくり目を閉じたかと思うと、一瞬の間を置いてバッツの喉が波打った。
「……………………あ」

30ギルバツ 10/16:2005/11/14(月) 15:02:49
「…………」
「…………」
静寂が時を支配する。ギルガメッシュはへなへなとその場に座り込んだ。
「…………飲んだ?」
「飲んだ」
「…………あ、その、えと……あの……………………うまい?」
「そういうこと聞くか」
バッツは頬まで飛んだ欲の残骸を手の甲で拭うと、なんでもないように舐めとった。
その姿がひどく煽情的に映り、ギルガメッシュは再び脳に血の気が集まるのを感じた。
同時に立ち上がる下半身の雄。
隠す間もなく、己の分身は服の下で寂しく天を仰ぎ、再び熱を吐き出そうと涙の訴えを主人に向けている。その様子は特に意識していなかったバッツの目にも留まった。
バッツは呆れたように溜息をついた。
「……なんだよ。やっぱ発情期かよ。さっきまではサービスだったけど、こっからはそれなりに見返り要求するぜ」
「み、見返りって……金取んの?」
「そうだなぁ、お前どうせ金なんて持ってねぇだろうから、この前盗み損ねた源氏の盾でいいよ」
「ああ、源氏の…………って、お前なぁ!」
「なにそのベッタベタなノリツッコミ」
バッツは笑っていた。
(………………あぁ)
ギルガメッシュはふと、胸にあたたかな安堵の念を覚えた。
そうだな、オレたちの友情は、たとえ体の関係になったところでそうそう壊れるもんじゃねぇ。
あのときの葛藤はどうやら杞憂だったようだ。
「……なに、ニヤついてんだよ。気色悪い」
「…………バッツ」
「…………」
ギルガメッシュは無言で両手を軽く広げた。
バッツは一瞬目を逸らして考えているふうだったが、すぐにこちらに向き直った。
そろそろと体をずらし、ギルガメッシュの首に腕を回す。
ギルガメッシュはバッツの背中を捕まえるように掻き抱くと、ゆっくり顔を近付けていく。
互いの唇が触れ合うと、あとはもう成り行きだった。
貪る、という表現が一番適している、そんなキスだった。

31ギルバツ 11/16:2005/11/14(月) 15:03:40
「待て、待て、待てって!間違ってる!お前は根本的に間違ってる!バカ、聞け、聞いてんのかコラ、バッツ!」
「うっさいなぁ……オッサン、更年期?」
「だれが!」
バッツの細い手足に組み敷かれたギルガメッシュが悲痛の叫びをあげた。
互いに相手のことしか考えられないくらいに夢中でキスをして、シーツの波に倒れ込む。
――――そこまではよかったのだ。
「なんでお前が上になってんだよ……」
ギルガメッシュは片手で己の頭を抱え込んだ。
もともと……いや、最初にチューしたのはオレだが、ここまでのコトに及ぶまでのきっかけとなった、直接的な行為を最初に仕掛けたのはバッツの方だ。
世には女性上位という言葉もあるし、さっきサービスがどうこう言っていたから、これもその一環なのかな……と、呑気にバッツのされるがままになっていたのだが。
腰に跨るような恰好で、バッツがオレの服に手をかける。
チュニックの襟紐を解かれ、胸が露出するまで捲り上げられる。ここまではいい。
乳首を色々されるのもまぁ、百歩……いや、二百歩譲って問題ないだろう。
だが、オレの息子を弄っていたバッツの手がだんだん下におりてきて…………。
あと一秒、バッツの腕を掴む手が遅かったら、オレはめでたくバックバージンを手放していたことだろう。
当のバッツはなぜ怒鳴られているのかも分からない、とでも言いたげに片手で頭を掻いている。
「そう言ってもなぁ……俺男だぜ?」
「オレが女に見えるか!?」
「……無理すれば」
「どんだけ無理してんだそれは!」
真夜中のベッドの上で繰り広げられる漫才。……あんまり、うれしくなかった。
「い……いいかバッツ、ちょっとそこ、座れ」
乱れた息を整え、肩を掴み、その場で正座させる。
素直にそれに応じ、上目でこちらを見上げるバッツを可愛いと思ってしまった自分が憎かった。
一度深呼吸したあと、早口でまくし立てる。
「お前もう何もすんな。全部オレがやるから。いいな。作戦はおれにまかせろだ」
「ん?……ああ、別にいいけど」
とりあえず貞操の危機は免れたようだ。
「お前下手そうなんだもんなぁ……すぐ余裕なくなりそうで」
何の反論もできなかった。むしろ怖いくらい正確な未来予想図だ。
「そっ、そういうお前はどうなんだよっ」
苦し紛れに聞いてみたが、バッツの床の腕はついさっき身をもって知ったばかりだった。
「……もういいわ。そういや、さ、バッツ」
さっきからずっと、聞くのが怖いと思いつつ、怖いもの見たさの好奇心からどうしても聞いてみたいことが、喉の奥に引っかかっていた。
「お前、さっき、その…………やたら……上手かった気するけど、その……いささか慣れてらっしゃるという感がしなくもなかったような気がしないでもないんですが。……バッツ、お前さ、したこと……あんの?男と」
「俺?ないよ。男は」
女ならあるけど、という無言の主張を感じなくもなかったが、そんなことを気にしている余裕は微塵もなかった。
「ほんとかよ!?路銀が尽きたとかでそこらのオッサンに体売ったりしてねぇだろうな!?」
「しつこいな。ないつったらないの。男となんてキスもしたことねぇよ……あ、さっきやったか」
親父のお休みのキスとかは数に入るの?などと聞きながら、バッツは無邪気に笑っている。
「じゃ、じゃあ……なんで、さっき…………抵抗しなかったんだよ。嫌がるだろ、普通……」
肝心なところで漢になりきれない自分が嫌だ。
バッツはギルガメッシュの様子が思いの外真剣であることに一瞬呆気にとられたようだったが、その表情はすぐ笑顔に変わった。
「べつに……お前なら、いいかなって。そんだけだよ」

32ギルバツ 12/16:2005/11/14(月) 15:04:39
 時が止まったのかと思った。
なんでもないような顔をして、さらりと物凄いことを言う。
ギルガメッシュのバッツの肩を掴む手に力が込もった。
「ばば、ば、バッツ…………おま、お前、い、今自分が一世一代の大告白してること気付いてるか?」
「え?……………………あ」
どうやら本当に無意識だったらしい。
ぷいと横を向いてしまったバッツは耳まで赤くなっていた。
「………………」
「………………」
あれだけのことをしておきながら、今ここでようやく恥という感情を思い出したように、ふとした沈黙が落ちる。
だがさっきのように気まずい空気ではなく、無理に話題を探す必要のない、けだるく居心地のいい沈黙だった。
(今この瞬間、オレより幸せな奴はこの世界にどんだけいるんだろうなぁ……)
そんなことを考えつつ、俯くバッツを手招きする。
逞しい腕に抱かれながら、バッツはギルガメッシュの耳元で囁いた。
「なぁ。やっぱ…………痛い、よなぁ」
「ん…………え、えーと」
痛くない、とは言い切れない。いやむしろ痛いだろう。
それに先程バッツも指摘した通り、最中にどんどん余裕がなくなっていく自分を容易に想像できる。
「なるべく、痛くないようにはする……つもり、だが、辛かったらそう言ってくれりゃ無理強いは」
果たしてそこまで気を回せるだけの理性が残っているかどうか、だが。
「いや……いいんだ、べつに、痛いのは」
「……バッツ?」
バッツの声色はいつになく真面目だった。自然と体が強張る。
「なぁ、ギルガメッシュ。多分、俺は……すごく、痛がると思う。でも……途中でやめたりは、しないでくれ……」
「バッツ……?どうした?」
「お前は、優しいから……。頼むよ、遠慮なんかしてくれんなよ……ギルガメッシュ」
さっきまでの威勢はどこへいったのか、ギルガメッシュの胸に顔を埋め、弱々しく呟くバッツの体は微かに震えている。
ギルガメッシュにはバッツの言葉の真意が汲み取れなかった。
まさかバッツは痛いのが好きとかいうそっちの次元の人なのかと、あらぬ方向へ思いを巡らせていた。
無論、その考えが的を射ているとは当のギルガメッシュ自身も思っていないのだが。――

33ギルバツ 13/16:2005/11/14(月) 15:06:29
 どうやらバッツは、受身の快感というものにからきし慣れていないらしかった。
体のどこを触っても、面白いくらい反応が返ってくる。
身に着けていたものを全て剥ぎ取られ全身を晒したバッツの肌は、ある程度鍛えられているとは分かるものの、それでも常に戦いの中に身をおいている戦士の肉体には見えなかった。
それよりも驚いたのは、布に隠れて普段は見えない、日焼けしていない部分の肌の白さだった。
本人も密かに気にしているらしく、今は風呂が一人で助かってるよ、と寂しそうに笑った。
無理に作った笑顔があまりに痛々しくて、ギルガメッシュは内心苛立っていた。
――バッツにではない、そんな表情をさせてしまう自分自身に。
幸せなはずなのに。
バッツの目に、自分は映っていない気がする。そんな漠然とした不安が鉛のように胸に留まっている。
「バッツ、バッツ……」
「んっ……あ、あ……」
バッツを抱く手の動きが、迫り来る苛立ちと不安のせいで手荒なものになる。
「う、っあ……あぁっ……ギ……ル……」
胸の突起に軽く歯を立てながらバッツ自身を上下に扱くと、バッツはあっけなくギルガメッシュの手の中で果てた。
「……バッツ」
「……ギルガメッシュ…………」
涙目でこちらを見上げるバッツの視線は、ギルガメッシュの支配欲を煽るのに充分だった。
(――お前が、オレの名前を呼んでくれるなら)
今はそれだけでもいい。ただ、今この瞬間だけは、お前をどうかできるのは、このオレだけだ。
忘れろ。今だけは。全部。ここにあるのは、互いの熱を求める体温だけ。
手の中に残ったバッツの欲を指に取り、焦らすように後ろの秘部に塗りこんでいく。
何物も受け入れたことはないであろうバッツの内部は、そう短時間で異物の侵入を許そうとはしなかった。
「っは……く、ぅ…………」
呼吸もままならない様子で、バッツは開いた唇の隙間から微かな呻きをあげた。
先程のバッツの懇願が脳裏を掠める。
――バッツは、苦痛を望んでいるのだろうか。
できるだけバッツに負担をかけないようにという気遣いは、迷惑なんだろうか?
「う……あっ!?」
どうすりゃいいんだと考えながら後ろを探っていると、突然バッツの全身が、波を打つようにびくりと震えた。
「…………あ?」
なんだ、いまの。
「なっ、なに……さっき……」
バッツも驚いているらしい。息も切れ切れに尋ねてくる。
「え、っと。……」
アレか。男には後ろの穴にもなんかの性感帯があるって、どっかで聞いたことあるけど。
「……気持ち、よかった?」
「……っ」
照れているのか、枕に顔を埋めてしまった。隠せなかった方の目がこちらを睨みつけてくる。
(うわ…………)
やばい。すげぇ可愛い。
オレの息子が限界を訴える。
「ば、バッツ…………い、いい、か?」
形だけの問いだった。入り口にあてがった猛りは、たとえ言葉で拒絶されてもその勢いを抑えることはできないだろう。
バッツが静かに頷くを認めると、ギルガメッシュは一度深呼吸して、思い切ったように侵入していった。

34ギルバツ 14/16:2005/11/14(月) 15:07:40
「息吐け……ゆっくり、そう……っく」
「は……あ、あ……」
ギルガメッシュの雄がバッツの体内へ埋め込まれていく。
まるで始めからひとつのものであったかのように、二人の体が繋がる。
バッツの苦悶に歪む表情に、ギルガメッシュは思わず腰を引いてしまうが、バッツの締め付けがそれを許さなかった。
「っ……バッ……」
「だめ、だめっ、だ……ギル……!」
「あ……ああ…………」
「んっ……ギル……ギルガメッシュ……」
惜し気もなく晒されたバッツの痴態。
ギルガメッシュのものを根元から呑み込み、他人の熱を要求するその姿は、彼が本来クリスタルに選ばれた光の戦士である、ということが遠い夢の世界の幻ではないかと錯覚させるほど、艶かしかった。
「う、動くぜ……」
「ん」
バッツの両手が、唇を求めていた。ギルガメッシュはそれに応えてやると、バッツの中で、少しずつ、慣らすように律動を開始していった。
「っは、あぁ……ギル、ギル…………もっ、と……」
「バッツ……バッツ……」
「だめ……ギルガメッシュ、もっと、奥……」
「で、でもっ……バッツ、これ以上は」
これ以上奥まで進んだら怪我をさせてしまいそうだった。
ただでさえ、雄を受け入れることに何の耐性もないそこに、無理やり倍以上の質量を押し込んでいるのだ。これ以上の侵入を許したら、……きっと、壊してしまう。
それでもバッツは、足りないのだと、更なる熱を欲した。
「い、いいから……あっ、は……もっと……」
「っ…………くそ……」
バッツの締め上げる内側がギルガメッシュを誘う。
理性の糸が、耳の奥で弾けた風船のように乾いた音を立てて切れた。
「知らねぇぜ、どうなっても…………!」
バッツの足を抱え上げ、更なる侵入を許す体勢をとる。
抜けてしまう、というぎりぎりのところまで腰を引き、バッツの最奥をめがけ一気に貫いた。
「うあぁっ……!あっ、あっ、っく……んっふ」
バッツの唇から漏れる声が、痛みを訴える叫びなのか、嬌声なのかはもう分からなかった。
結合部から血が滲んでいたが、バッツは痛いという感覚を言葉にすることもなく、ただ、もっと、と繰り返すばかりだった。
(分かんねぇ……分かんねぇよ……バッツ……)
一体なにがお前に、こんな、苦痛だけの律動を求めさせている?
(どうすりゃいい……オレは、どうすれば)
お前を楽にしてやれるんだろう。
「あっ、あ、あ、ギル、ギル、ギルぅ……!」
「くっ…………はっ、はぁっ、はぁっ、バッツ、バッツ…………!」
びくん、と体が震え、バッツが己の腹の上に精を吐き出した。
一歩遅れて、ギルガメッシュもバッツの体内に思い切り欲望の熱を注ぎ込んだ。

35ギルバツ 15/16:2005/11/14(月) 15:08:35
 もう何度、互いの精を分け合っただろう。
バッツはギルガメッシュの腕の中で眠っていた。
その後もバッツは幾度となくギルガメッシュを求め、ギルガメッシュもただその要求に応えるようにバッツの体を貫いた。
――バッツにしてみれば、自虐とも言える行為だった。
真っ白だったシーツが、互いの体液と血で大惨事になっている。
ギルガメッシュはバッツを起こさないように汚れたシーツを取り払うと、ベッドの下から覗いていた替えのシーツを器用に敷いた。
湿らせた布で体を拭いてやる。
ケアルなどという女々しい魔法は使えないので、バッツの切れた部分をポーションで手当てした。
ひととおりの仕事が終わるとギルガメッシュは再びベッドに潜り込み、眠るバッツの体をきつく抱きしめた。
(バッツ…………)
自分はこうしているだけで、生の喜びを感じるくらい幸せなのに。
「お前は、どうして…………」
「こんなに可愛げがないんだろう、って?」
「!!ば、ば……おっ、おきおき、起きて……!?」
「横でそんなバサバサやられたら嫌でも起きちまうよ」
ギルガメッシュに抱かれた恰好のまま、バッツは小さく伸びをする。
擦れ合う肌が再び何かの感情を催しそうで、ギルガメッシュは慌てて上半身を起こした。
「あぁ、いやえと、その…………すまん」
「意外とマメなんだな」
枕に顔を埋めたまま、バッツは脇の椅子に置かれたシーツに目をやりながら楽しそうにギルガメッシュの浅黒い肌を指でなぞっている。
「お、おい、バ……」
「不安なんだ」
「…………あ?」
「戦ってるときとか、夢中になってるときが、一番気が楽なんだよ」
前髪を撫でるギルガメッシュの手にされるがまま、バッツも己の指の動きを止めようとはしなかった。
「なにかしてないと不安なんだ。痛いことでも、気持ちいいことでも、なんでもいい。終わる瞬間が一番怖い。終わる瞬間を考えるのが怖い。なにかしていないと、なにか考えちまう……」
「……バッツ」
「みんな死んじまったから……。親父、お袋、ガラフ、ゼザ王、かつての友達も、みんな……。もうどこを捜してもいない。でも俺は覚えてる……」
「バッツ」
「俺が生きてることが、あの人たちが生きてた証だ。リックスの街並みは今でも俺の胸に残ってる。忘れちゃいけない。でも本当は忘れたい……。死んだみんなのこと、残された自分のこと、何もかも、全部……。なぁ、ギルガメッシュ。俺は怖いよ。俺が死んでも、きっと風は吹いてる」
「バッツ!」
時計の音がする。

36ギルバツ 16/16:2005/11/14(月) 15:10:59
 バッツは泣いていた。彼の心から沼のように際限なく湧いて出る悲鳴が、針のようにこの胸を刺していった。
「あいつらがいないことが、今はもう当たり前だ。それがいやだ。そんな自分がいやだ。ギルガメッシュ。俺はもういやだよ。お前も俺より、先に」
「バッツっ!」
震えるバッツの肩を押さえ込み馬乗りになる。呼吸すら許さぬほど腕に力が込もった。
「喋るんじゃねぇ……!」
「っく……ギルガメッシュ……っ」
「てめェは何のために戦ってんだよ!?世界を救うんだろ!?あいつらの無念を晴らすんだろ!?あの暁の四戦士のよぉ!?」
「分かってるよ!分かってる!……でも…………っ」
淀みなく言葉を紡ぐバッツの口を、自分のそれで塞いだ。バッツの舌を、嗚咽ごと飲み込んだ。
「……っう…………」
「オレも、お前も、そう簡単に死ぬようなタマじゃねぇって、オレたちが一番知ってるはずだろ……!」
出会うたびに、互いの強さを確信した。交差する剣の音が、更なる再会を確信させたのだ。
「ギル……ギルガメッシュ…………」
バッツが己の腕をギルガメッシュの背中に回した。ギルガメッシュは、視覚を放棄するかのように、ゆっくりと目を閉じた。
触れているだけのキスが、バッツの微かな唇の動きを捉えている。
「もう、考えるの、疲れた……」
この頬の冷たさは、きっと、バッツだけのものではない。――

 目覚めたときには既に陽が高かった。
つい先程までこの腕の中にいた青年の姿はもうどこにもなく、枕元にはギルガメッシュの赤い外套がきれいに畳まれて置いてあった。
ベッドの傍に、愛用の鎧や武器などの装備品も並べてある。
「…………くそ」
乱暴に窓を開け放った。風が自ら愛する青年を運んできてくれないものかと、神の奇跡にも縋らずにはいられなかった。
(……柄じゃ、ねぇ)
チェストの上に、杯が一つ、差し込む陽光を受けながら佇んでいた。手に取って顔を近付けると、わずかに酒のにおいがした。
「バッツ……」
オレは、こんな、人の後ろ髪を引くような男じゃねぇよ。
自分を信じて、ただ――――前に進むだけだ。

なぁ、バッツ。
全てが終わって、二人とも生きてたら、オレたちだけでどっか旅にでも出ようぜ。
オレとなんかじゃ、お前は嫌がるかもしれねぇけどさ……。


窓の反射で移る飛空艇の影が、遠い空に、煙のように広がる闇の向こうへ消えていった。



《おわり》

37名無しの勇者:2005/11/14(月) 15:17:34
本編につづく、とかしてもいいですか。

飛空艇の構造は夢見させてください
シリーズの中でもとりわけおちゃめなポジティブシンキン主人公として扱われるバッツたんですが
本人にもそれなりに思うところはあるんじゃないかと、まぁ、たまにはこんなバッツたんもいいかなと……。
彼のテーマははるかなる故郷(+オルゴール)だと勝手に思ってるのでこんなんなりましたが
機会があればギル→バツ一方通行ギャグぽいのも書いてみたいです
読んで下さった方、リク挙げて下さった方ありがとうございました

38名無しの勇者:2005/12/06(火) 18:53:12
久々に来たら新しいSSが来てた・・・
かなり良かったよ、GJ!!

FF5の801ってやっぱギルガメッシュ×バッツが王道なんだろうか。
ファリス×バッツはたまに見かけるけど違うしなw

39名無しの勇者:2006/01/19(木) 04:01:03
うわあああああ…なにこれ…テラ萌えス…
気が向かれましたらぜひまた書いてください

40名無しの勇者:2006/01/30(月) 00:06:31
めちゃくちゃ萌えました…このあと自爆があるのかと思うと・゚・(ノд`)・゚・テラセツナス
ギャグもぜひ読んでみたいです神!!

41名無しの勇者:2006/04/04(火) 12:22:21
スゲェ…神降臨!!
このSSのバッツ、本気で惚れた…

42名無しの勇者:2006/04/04(火) 15:26:57
も・・・萌えス・・・( *´д`)
バッツたん受けって希少価値高いですね。
何度も読み返しちゃいました。神!

43名無しの勇者:2006/04/25(火) 22:31:33
職人さんカムバック…

44名無しの勇者:2006/05/05(金) 19:16:38
半年遅れながら
ギルバツネ申!! マヂネ申!!

ギルカワユス(*´д`*)ハァハァ

45名無しの勇者:2006/05/05(金) 22:28:56
自分の中でギルバツが今最高潮に盛り上がってる・・・
けど同志が少なくて淋しいorz
GBA版出たら少しは活気が出るんだろうか・・・。

46名無しの勇者:2006/06/04(日) 23:17:15
ギルバツ萌えですが、ギルガメッシュの外見をどう想像するべきか迷う…。

47名無しの勇者:2006/06/14(水) 00:41:28
とりあえず見た目だけは12のギルガメッシュにしてる

48名無しの勇者:2006/06/14(水) 23:18:17
うちのギルは5の変身前ダナー
程よくかっこよくw

4946:2006/06/17(土) 00:53:51
レスまりがとう

自分は5のギルガメッシュが好きなんだけど気がつくと8のギルガメッシュ想像しちゃってる…。
ドット絵と天野絵しか見たこと無いから、5のギルが上手くイメージ出来ないんだ。
己の想像力の貧困さを痛感するよ…ファンアートとかもほとんど見たこと無いし…。

50名無しの勇者:2006/08/20(日) 22:25:26
狭間スレ設定でギルバツ書いて下さる神はおりませんか?

51名無しの勇者:2007/04/04(水) 02:12:29
ギルバツ萌えは定期的に襲いくるなぁ
そのたびにここの小説読んで栄養補給させてもらってる。
何度読んでも萌えだ…

52名無しの勇者:2007/04/14(土) 17:40:27
ギルバツは萌えるよなぁ

53sage:2007/10/10(水) 18:10:27
よつべ動画でギルガメッシュに「じばく」をさせないで戦闘終了、っていうのにキュンとした。
実質じばくと変わらないみたいだけど。
その流れでED後に再会とかしないかな…ギルバツ萌へ……

54名無しの勇者:2007/10/10(水) 18:12:53
うは、まつがえた…
こうなったら自給自足しようかなorz

55名無しの勇者:2007/10/15(月) 21:39:47
>>54
是非とも頼みます!

自爆させない動画にはかなり感動した。
自爆してこそのギルガメッシュという意見もあるけど
ギルバツ好きーとしては、生きてまたバッツと再会して欲しい…。

56名無しの勇者:2007/10/26(金) 22:32:03
閉じ込めで書いてみたいけどスレのログがみつからない
ギルバツに飢え飢えです ああ…

57名無しの勇者:2007/10/27(土) 12:07:25
>>56
あなたが神か

ちょっと前までまとめサイトにログがあったんだけど消されちゃったんだよね…
新しい保管庫にはログが無いみたいだし
どなたかログをお持ちの方うpお願いします…

58名無しの勇者:2007/10/27(土) 13:30:35
>>56,57

1だけログを持っていたのでうpします。
自分もギルバツ読みたい……

ttp://watercolor.s41.xrea.com/cgi-bin/yaoi/img20071027132741.lzh

59名無しの勇者:2007/10/28(日) 00:21:36
56ですが
>>58 ログありがとうございます!
まだ読み途中だけど、ツンなバッツがたまらn…

>>57 食指がわきわきしてきたので山隠りしてきますヽ(´∀`)ノ

60名無しの勇者:2007/10/28(日) 00:57:34
>>58
あなたも神か
ありがとう…ありがとう…!

>>59
作品投下楽しみにしてます!

61名無しの勇者:2007/12/12(水) 16:24:38
こんな神スレがあったなんて…!
FF5はバッツと同年代の男があまり出てこないから801萌えしにくいのかな?
もっと見たいのに…

そして誰かこそ泥一匹狼×バッツとか書いてくれませんか?
恩を仇で返す悪党に襲われるバッツたん萌え。

62名無しの勇者:2007/12/16(日) 22:55:40
「地形」に「蔦地獄」なんて効果があるのを知ってから
混乱した仲間が地形攻撃→バッツに蔦が絡みつく→いつの間にか触手エチーに
という妄想が止まりません…orz

あと「色目」を使ったら敵が欲情してきて襲われるとか…

63名無しの勇者:2008/05/21(水) 21:51:34

FF5、エンディング後のギルとバッツの話を投下させていただきます。
エロなし、死にネタあり
長文21コマ失礼します。

641/21:2008/05/21(水) 21:52:22
森の向こうへ沈む夕日を浴びながら、バッツはゆっくりと歩いていた。
道連れは誰もいない、たったひとりきりの旅の途中だった。
世界が平和になって、仲間たちはみな王族の政務だの何だので忙しい。
友達のボコにも家族ができたから、もう気ままな放浪なんてしていられないのだ。
旅を続けるバッツはまたひとりになった。父親を失った時と同じように。
ひとりには慣れていたはずだったのに、やりきれない寂しさがこみ上げてくるのはどうしてだろう。
そんな切ない疑問だけを道連れに、バッツは大地を踏みしめ歩き続ける。
見上げれば、巣へ帰る鳥の群れが、長く尾を引く切ない鳴き声と共に
茜色の空を横切っていった。金色の雲がゆったりと流れ、風が頬を優しく撫ぜていく。
何も知らずにさすらっていた時も、穏やかな夕暮れにはこんな風が吹いていた。
色々なことが起こり、世界が大きく変わって、それはずいぶん遠い昔のことのように思えた。
けれどもバッツはよくわかっていた。――あの時と同じ風はもう吹かない。
色々な人と出会った。出会いだけではなく、悲しい別れもたくさんあった。
一つ一つかけがえのない記憶は心に刻み込まれ、もう決して消えることはない。
去っていった人々の名の数だけ胸にこみあげる思いがあり、風はその思いをはらんで遠く吹き渡る。
森から歩み出たバッツの視界が突然開けた。海からの強い風が髪をかき乱し、バッツは目を細める。
沈む夕日の名残が、この世の果てまで続いているような大きな橋を照らしていた。
かつてここで激しい戦いが繰り広げられたのが夢であるかのように、
訪れる者もないその場所はひっそりと静まり返っていた。
燃え立つような真紅の光の中、ひとつの記憶が鮮やかに呼び起こされた。
耐え難い程に胸がひどく痛み、バッツは一歩も動けなくなる。
最後の悲しい別れ。
勝手に、ひとりで格好つけて逝ってしまったあいつ。
自分を守ってくれた大きな背中。
体中から真っ赤な血を流しながら駆け去っていく背中。
(お前とは一度、一対一で勝負したかったぜ! いい友達を持ったな!)
場違いに明るい声が、その最期の言葉が、まるで昨日のもののように鮮やかに頭の中に響き、
バッツは思わず瞼をきつく閉じた。
噛み締められた唇が開かれ、一つの名前が風の中に紡がれた――

652/21:2008/05/21(水) 21:52:58

名前を呼ばれたような気がしてギルガメッシュは立ち止まった。
しかしその途端、足元が抜けたように体が落下していく感覚に襲われよろめく。
そして、目を開けた彼の前には今、海面があった。
「うおおおっ!」
なすすべもなくそのまま頭から海に突っ込んだ。
溺れそうになって必死で水をかきながら必死で考えをめぐらす。
(今度はいったいどこに来ちまったんだ?)
ギルガメッシュの身には妙なことばかり起こっていた。
確かにネクロフォビアと刺し違えたと思っていたのに。
大体、死んだはずなのにまたここで溺れて死にそうになっているのは何故なのか。
さっきは、何がなんだか分からずにさまよっていたらどこかから剣をくれたから、
バッツだと思って一撃を加えたら実は人違いだった、なんてこともあった。
自分でも意味がわからない。夢にしても脈絡が無さ過ぎる。
(しかし、バッツは金髪じゃねえのになあ。見間違えるなんておかしいぜ、オレ)
もがきながらやっと水面に顔を出す。
新鮮な空気を胸に吸い込むと、水平線の向こうに夕日が沈んでいくのが見えた。
その風景があまりにきれいで、思わずギルガメッシュは泣きそうになった。
今の自分の状況。いったい何がどうなっているのか。
次元の狭間で襲い来る敵と無茶苦茶に戦っていた時よりもわけがわからない。
第一、自分は死んだはずなのに。
ふと、想像したことに背筋が寒くなる。
まさか、しくじったのか。しくじって、おめおめと生きながらえて……
「嘘だろ、ちくしょー!」
叫びながら思わず頭を抱えるが、水をかくのをやめると途端に体が沈む。
とりあえず地面に上がろう、と思ってあたりを見回すと、意外にもすぐそばに陸地があった。
何か柱のようなものが目に入る。
運が悪ければ激突だったのか、と薄ら寒くなりながら、その柱に手をかける。

663/21:2008/05/21(水) 21:53:54

ギルガメッシュが泳ぎ着いたのは橋の支柱の一つのようだった。
橋の欄干が、見渡せないほど遠くまでどこまでも続いている。
よく見覚えのある長い橋。これは。
(ビッグブリッジだ、間違いねえ!)
先ほどの不安もどこかへ吹っ飛んだような気分になり、ギルガメッシュは勇んで柱をよじ登った。
少なくとも馴染みのある世界にたどり着いたのだ。何かわかるかもしれない。
それに、もしかしてあの四人の誰かに、……バッツに、会えるかもしれない。
淡い期待を抱きつつ、ギルガメッシュはやっと地面に手をかけ、頭を陸地の上に出した。
途端、自分を見下ろす青い瞳と目が合う。明るい茶色の髪が風にそよいでいる。
「……え、バッツ?」
夕焼けの光が、見間違えようも無いよく知った顔を照らしている。
「おまえ、ギルガメッシュなのか?」
聞きなれた声が名前を呼んだ。四つんばいになって下を見ていたのか、顔がずいぶん近い所にある。
(嘘だろ?)
けれども、この深く青い瞳は。この声は。
(いきなり会えるなんてそんなバカな夢かよ)
間違いない。本物でしかありえない。
途端に頭の中で何かが音を立ててスパークし、気づいた時には眼前のバッツに掴みかからんばかりに叫んでいた。
「信じらんねえ……信じらんねえよ!オレどんなにおまえに会いたかっ……!」
勢いあまって柱にかけた指が滑った。
思わずバッツの手を掴んだが、バッツの方も支えきれなかったらしい。
「ギルガメッシュ! 重いっ……!」
あえなく、二人一緒にまっさかさまに海へ転落してしまった。
水しぶきが盛大に上がる。
しかしギルガメッシュは水を必死でかきわけ、水面に顔を出したバッツの頬に両手を添えて無理やり向き直らせる。
「夢じゃないよな!?」
「ひっつくな沈む!」
「バッツおまえ本物だよな? 頼むからそうだと言ってくれえぇ!」
「ああそうだよ、おれだよ! 放せって! 本気で溺れる!」
「ホンモノなんだな!? 嬉しいぜちくしょおおおー!」
雄叫びの最後は水の中にぶくぶくと消えていった。

674/21:2008/05/21(水) 21:54:32

「食料もテントも何もかもびしょぬれだ」
「ホントに申し訳ございません」
「おまえが抱きつくからマジ死ぬかと思った。ウォルスの水没塔より死ぬかと思った」
「返す言葉もございません」
たらふく海水を飲んだ後、なんとか海から這い上がったギルガメッシュとバッツは、
ほうほうの体で近くの森にたどり着いた。
焚き火を起こし、近くの泉で塩と砂を落とした服を乾かしながら、
ギルガメッシュは反論もできずに縮こまっていた。
「もういいよ、別に」
借りるぜ、と呟き、バッツは焚き火の上に乾かしてあったギルガメッシュの外套を奪い取って
素肌に纏い、たっぷりとした布に埋もれるようにうずくまった。
「優しいなあ、おまえ……」
「これ以上何言っても体力の無駄かなと思って」
「そ、そっかぁ」
ギルガメッシュはちょっぴり泣きそうになりながら座り込んだ。
隣のバッツはどこからか林檎を取り出し、「今日の夕飯はこれだけかあ」などとぼやきながら、
ナイフで半分に切った。
「おまえも食べる?」
「オレはいいよ」
バッツは一瞬複雑な表情を浮かべたが、小さく頷いて林檎をかじり始める。
それを見つめながら、ギルガメッシュは体の奥から笑みが沸きあがってくるのを抑えることができなかった。
「なんだよニヤニヤして」
バッツが訝しげにギルガメッシュを見やる。
「オレはよう、おまえに会えて嬉しいんだよ」
「おれは災難だよ」
ギルガメッシュは一瞬凍りつくが、すぐに気を取り直してまた喋りだす。

685/21:2008/05/21(水) 21:55:12

「そ、それより悪いんだけどバッツ、今いつなのかと、ここはどこなのかと、
教えちゃくれねえかな。もう訳わかんねえんだよ。
知らない世界に飛ばされておまえかと思ってためしに切りつけたらやっぱりおまえじゃなくって。
そいつ、とばっちりくらって吹っ飛んでったよ。かわいそうなことしたよ」
「おれかと思って切りつけたって意味わかんねえよ」
「いや他意はなくって! 不用意に近づいてまたおっかねえ魔物だったらいやだなと思って!」
「あ、そ」
バッツは小さくため息をつくと語りはじめる。
二つの世界が一つになったこと。
エクスデスは倒され、世界が平和になり、四つのクリスタルがよみがえったこと。
ここから見える橋はまぎれもなくビッグブリッジであること。
今は最後の戦いから一年余りが過ぎたところで、
旅の途中でこのあたりを通りすぎようとした時に上空から何か落ちてきたから、
びっくりして海面を覗き込んでいたこと。
「なるほどな。世界は救われてめでたしめでたしってわけだなあ」
バッツの長い話を聞きながら、ギルガメッシュの頬に自然と笑みが浮かんできた。
けれど、バッツは無言のまま外套の前をきつく合わせ、沈んだ面持ちで焚き火をじっと見つめていた。
「どうした?」
「どうした、じゃねえよ」
バッツは林檎の芯を焚き火に放り込む。青い瞳が、はぜる火花を移してきらりと輝いた。
「なあ。こんなこと言うの悪いと思うんだけど」
「ん?」
「おまえさ、その……いっぺん、死んじまったんだよ」
「やっぱりそうなの?」
バッツは無言で頷いた。さっきの複雑な表情もそれを気にしていたためだと悟る。
どうりで妙なことばかり起こるわけだ、とギルガメッシュは逆に大いに納得して頷いた。

696/21:2008/05/21(水) 21:55:49

「そっかあ、ユーレイか、オレ」
「そうだよ」
「でも良かったかな、ユーレイで」
「なんで」
「仕損じてたんだったら、オレ死んでも死にきれなかったよ。ははは」
「……わけわかんねえこと言ってんじゃねえぞ」
笑ってごまかそうとしたギルガメッシュだったが、
バッツの声に本気の怒りが滲んでいるのに気づき、思わず黙った。
と、バッツが思い切り睨みつけてくる。
(な、なんで?)
心中慌てふためくギルガメッシュをよそに、バッツは俯いた。
「ユーレイでよかったって何だよ。おれがどんな気持ちでいたかわかるのかよ」
「バ、バッツ、どうして怒ってんだ」
「あの時!」
バッツは視線をそらした。
「あの時、おれ、おまえが何やろうとしてるのかわかって、でも体が全然言うこと聞かなくて。
ただ見てることしかできなくて!」
「……」
「爆風が収まったら嘘みたいに何も残ってなくって……おれ……」
バッツは言葉を詰まらせ、唇を噛み締める。
「ひでえよ。ひとりで格好つけて」
喉から搾り出すように呟き、嗚咽をこらえるかのように手で口を覆うバッツを、
ギルガメッシュは何も言えずに見つめるしかなかった。
思い定めてやったことを悔やんだりはしていないが、
こんな思いをさせたのは酷くかわいそうに思えてきて何も言えなくなる。

707/21:2008/05/21(水) 21:56:40

「……ごめん」
思わず呟いた途端、思い切り睨まれる。
「謝ってんじゃねえよ」
「は、はい!」
心なしか潤んだ目で凄むバッツのわけのわからない迫力に押され、
ギルガメッシュは思わず諸手をあげる。
と、座り込んだままのバッツは、ギルガメッシュに向かって深く頭を下げて言った。
「ごめんな」
「え?」
「おれ、ずっと謝りたかったんだ。だっておれたちのせいで、おまえ」
バッツはゆっくりと首を横に振った。白い腕が赤い外套から覗き、肩まで顕わになる。
「ごめん……」
聞いたこともないような、かすかに震える弱い声だった。
ギルガメッシュはようやく我に返った。
ため息をつくと、久しく忘れていた温かい感情が胸に溢れた。
「やっぱり優しいなあ、おまえ」
バッツの背中から今にもすべり落ちそうな外套に手をかけて肩を覆ってやる。
「確かに、おまえらにはこてんぱんにされたし、盾とかいろいろ盗まれたし、
その挙句が狭間送りだったし、結局はああなっちまったけど。
でもオレは、おまえを恨んだりしてないぜ」
うつむいたバッツの髪をさらりと撫ぜる。
「だってオレは、オレ……あの……その……」
浮かんできた言葉に自分で気恥ずかしくなってきて、バッツをそろりと見下ろした。
「……何か言ってくれよ」
バッツはただ、続く言葉を待ってじっと見上げてきた。何も言えなくなってしまう。空の色よりなお青い瞳に魂ごと吸い込まれそうになる。

718/21:2008/05/21(水) 21:57:25

「ああ、もう!」
ついに耐えられなくなって、バッツの肩にかけてやった赤い外套を一気に引っ張り上げて顔までばさりと覆い隠してしまった。
「なにすんだよ!」
さすがに驚いて暴れるバッツの頬に両手を添えて、ギルガメッシュはやっと先ほどの続きを口にする。
「オレは後悔なんてしてないんだ。だから謝ったりしないでくれよ……な?」
急に大人しくなったバッツの布越しに額を合わせる。
「おまえを助けられて本当に良かったと思うし、いったいどういう巡り合わせなのか知らねえけど
ここでおまえに会えたのもすっげえ嬉しいよ。
オレ、オレはおまえの……仲間になりたかったんだから」
布の下でバッツが笑った気配がした。
「散々やりあっといておかしいんだけどよ、でもホントなんだ。
オレ、最後に……な、仲間を助けられて本当に良かったと思ってるんだ!」
そこまで言い終わると、ギルガメッシュはバッツの体から手を放して背中を向けた。
(シラフで恥ずかしいこと言っちまったよオレ)
頭を抱えていると、バッツが話しかけてくる。
「結構な告白してくれるじゃねえか」
からかうような言葉とは裏腹に、低い囁き声が優しく耳朶をくすぐった。
「そういうことはちゃんとおれの目を見て言えって」
「勘弁してくれよ……」
「意気地なし」
バッツが小さく笑い、背中にもたれかかってくる。すとんと預けられた体の重みは、涙が出そうになるほどに心地よかった。
(いつも正面きって切り合ってたけど、背中合わせもいいもんだなあ)
背中の温かさを噛み締めながらギルガメッシュはしみじみと思った。

729/21:2008/05/21(水) 21:58:07

「ギルガメッシュ」
「ん?」
「……おれもすっげえ恥ずかしいよ」
「バッツおまえ、かわいいところもあったんだ!」
振り向こうとすると、頭の後ろをぎゅうぎゅう押さえられた。
「何言ってんだよ。絶対こっち向くなよ」
「意地っ張り」
「うるせえ」
二人とも黙りこむと木々のざわめきだけが響いた。
静かな夜だった。何物にも代えがたい静寂だけがあった。
森の清浄な空気を吸い込みながら、ギルガメッシュは、
時間がこのまま止まってしまえばいいのにな、とふと考えた。
「なあ、ギルガメッシュ」
長い長い沈黙の後、眠そうな声でバッツが囁く。
「ユーレイが現世をさまようのは良くないよ。おまえ、ここにいちゃいけないよ」
バッツが自分のことを思って言ってくれているのはわかっているのに、突き放されたようで少し切なくなった。
「そう、だな」
「おまえ、朝起きたらいなくなってたりしない?」
「わかんねえ」
「でも、会えて嬉しかった。今夜だけの夢でもいいかなって……思ったんだ……」
「な、おまえ、何言って……バッツ?」
背中から体の重みが離れて行き、ギルガメッシュは振り向いた。
「おっと……」
傾いで地面に倒れこみそうな体を慌てて抱きとめ、ほっと息をつく。
バッツは、赤い外套にくるまって安らかな寝息を立てていた。
体勢を変えて火の側に寝かせる。縮こまって辛そうにしていたので膝を貸してやると、
バッツは気持ち良さそうな吐息をつく。
ギルガメッシュは苦笑しつつ呟いた。
「ったくよう、このオレを枕にするなんて世界におまえくらいだよ」
そろそろと手を伸ばして触れてみたバッツの髪は、まだしっとりと濡れていてほのかな潮の香りがした。

7310/21:2008/05/21(水) 21:58:47

ふとその体に目をやったギルガメッシュは思わず息を呑んだ。
バッツの体の上には無数の傷痕があった。
胸元に、背中に、体中の青白い肌に残るいくつもの戦いの痕。
もちろんバッツはこう見えて歴戦の戦士だし、戦士に傷痕がつきものなのは当然だった。
しかしギルガメッシュには、いま自分の膝の上で休むこのあどけない寝顔に、
このあまりにも多い傷痕は全くそぐわないものに思えた。
喉元に、治り切らない長く深い痕を見つけた。下手をすれば死に至るほどの傷だったかもしれない。
痛々しさを感じながら思わず指で傷痕をなぞった。首筋から肩、胸へ。
と、バッツが嫌がるように小さなうめき声を上げる。
その体のぬくもりに名残惜しさを感じながらも、ギルガメッシュは肌の上を滑る指を引いた。
露になった肩や胸をもう一度布で覆ってやりながらじっと考えた。
バッツはこの細い肩に重い運命を背負って戦い抜いたのだ。
たくさんの傷を負い、たくさんの涙も流しながら世界を救ったのだ。
「よくがんばったよ、おまえ」
髪をそっと撫ぜてやると、安心したように唇にかすかな笑みが浮かんだような気がした。
どうか安らかな眠りをバッツの上に。柄にもなく、ギルガメッシュはひそかに願った。

7411/21:2008/05/21(水) 21:59:27

翌日、一夜の寝床の森を発ち、ビッグブリッジに差し掛かった時には既に太陽が高く昇っていた。
二人は並んで、かつての戦場だった橋の上をゆったりと歩いていた。
陽光に青くきらめく海を眺める。風景は何も変わらないまま、自分たちの関係は驚くほど変わった。
眩しそうに目を細めるバッツの穏やかな横顔を見ていると、
最初に会った日から随分と長い時間が経ったように思えてならなかった。
最初にまみえた時を昨日のことのようにはっきりと覚えている。
長柄物を敏捷にかいくぐる身のこなし。迷いのない斬撃。思わぬ死角からの鋭い蹴り。
ギルガメッシュはバッツの戦い方が好きだった。
けれど、何よりも好きだったのは戦うバッツの目だった。
激しい攻勢に押された挙句、たまらずに身を翻して逃走を図ろうとした時、
追い討ちをかけてくるバッツと目が合った。
稲妻のような激しい斬撃とは裏腹に、バッツの青い双眸は信じられないほどに冷静そのもので、
冴え冴えと光りながら揺らぐことなく自分を見据えていた。
気を抜いたらやられる、と全身の細胞で悟った刹那、
背筋に走ったのは戦慄とも快楽ともつかないゾクゾクした感覚だった。
負け知らずだった身に降りかかった完膚なき敗北の記憶とともに、
その感覚は忘れたくても忘れようがなかった。
再戦のたびごと、雪辱をはらそうという大義名分に隠し、
更なる命のやりとりを求めずにはいられなかった。
冬の孤星のような冷たい輝きを求め続けて今、ギルガメッシュはここにいた。

7512/21:2008/05/21(水) 22:00:16

ふと視線を感じて隣を見下ろす。何やら神妙な面持ちで、バッツがじっと見つめてきていた。
視線が絡むと、バッツはふいと目をそらしてしまったが、
しばらくして意を決したように、ギルガメッシュを見据えて口を開いた。
「おまえさあ」
「なんだ?」
「おまえ、どうしておれたちを助けてくれたんだ」
真剣そのものの口調だった。ギルガメッシュはしばらく考えて呟く。
「おまえたちを死なせたくなかったんだよ」
「なんでだよ。散々今まで問答無用で切りかかってきてたじゃねえか」
バッツの問いに、ギルガメッシュはぐっと言葉に詰まった。
「あー、まあそうだけど。そうじゃなくて。まあ言ってみれば独占欲みたいなもん、かなあ」
バッツはぽかんとして、顔中に疑問符を浮かべている。
「おまえをやっつけるのはオレ以外に有り得ねえぞ、みたいな」
「意味わかんねえ」
「わかんねえよな。そうだよな」
ギルガメッシュはひとしきり笑ってため息をついた。
「オレだってわかんねえよ。体が勝手に動いたんだから。
でも、あのおっかねえ所でおまえに会えて、で、やっと何かわかったような、そんな気がするんだ」
眉をひそめてうつむくバッツに向かい、慌てて付け加える。
「何度も言うけどオレは納得してるんだって。おまえを助けられて本当によかったんだって」
「ギルガメッシュ」
「悪いけど説明とかは苦手なんだよ。もう勘弁してくれよ」
本当にもう言葉が出てこなかったので、ギルガメッシュは思い切り笑って見せた。
つられたようにバッツも唇にかすかに笑みを浮かべた。
二人の沈黙を柔らかく抱くように優しい風が吹く。

7613/21:2008/05/21(水) 22:01:02

満たされた気持ちでギルガメッシュは思った。
(このまま一緒に、おまえと旅がしたいなあ)
最初は旅慣れたバッツのお荷物になるかもしれないが、なんといっても自分は疲れ知らずの幽霊だし、
きっとそこまで邪魔にはならないだろう、とギルガメッシュはうきうきと考える。
「なあバッツ、おまえさあ」
オレと一緒にどこまでも行かないかと、ギルガメッシュは口を開きかける。
その時、ゆっくりと歩いていたバッツは橋の真ん中の堅牢な建物の前で立ち止まった。
「どうしたんだ」
問いかけてみると、うつむいていたバッツが意を決したようにギルガメッシュを見上げて言った。
「ギルガメッシュ。……おれは一度、死んだはずだった」
「嘘だろ」
ぎょっとして身を乗り出すギルガメッシュに向かい、バッツは首を振る。
「本当だ。最後の戦いでおれは死んだはずだった。なのに、おれはここにいる。生きてるんだ。
ガラフたちや、この風のクリスタルのおかげで」
バッツは唇を噛み締め、ギルガメッシュの目を射抜くように見つめる。
「なあ、こんなの不公平じゃないか? ギルガメッシュ、おまえは死んでしまったのに。
ガラフやレナの父さんたちも、みんな死んでしまったのに。どうしておれだけ生きてるんだ」
バッツは苦しげに声を絞り出す。
「わかんねえよ。目が覚めたら世界は平和になってた。みんな、それが当然みたいな顔して生きてた。
だけどおれは……」
バッツは一息に言い、黙り込んだ。自分の手を見つめながら呟く。
「おれにはわかんねえ……」
目を伏せた横顔がたまらなく弱々しく見えて、ギルガメッシュは焦った。
いま触れれば、あの『無』の中へと消えてしまいそうなほどに。
バッツは、こんなふうにずっと迷っていたのだろうか。
無と有、死と生の境目を危うく縫ってここまで歩いてきたのだろうか。
だとしたら、それはとても痛々しいことに思えた。どうしても考えてしまったのかもしれない。
――もし自分ではなく他の誰かが蘇っていれば、もっと幸せになれる人がいたのではないか、などと。

7714/21:2008/05/21(水) 22:01:39

けれどもギルガメッシュにとっては、ここにいるのはバッツ以外に有り得なかった。
他の誰も代わりにならなかった。
ギルガメッシュは、バッツの底知れない問いかけに対するたった一つの答えを見出した。
自らの魂を駆り立て、熱く揺さぶり、乱暴ながらもこの場所まで導いてきた切実な思いだった。
うつむき背を向けるバッツに向かい、ギルガメッシュは背負った剣をゆっくりと抜いた。
刀身がすらりと鞘から抜き放たれる音に、バッツはびくりと身を振るわせる。
ギルガメッシュは呟く。
「バッツ。……オレにとっては、おまえじゃなきゃ駄目なんだ」
バッツは背中を向けたままでいる。
「オレはおまえとずっと一対一でやりあいたかった! そのために、オレはここに来たんだ」
届かない切っ先が、海からの光を照り返し輝いた。
「だからオレと戦え。そんな顔するな。……頼むよ」
バッツは答えない。二人の間に風だけが吹く。
と、背中を向けたままのバッツが持っていた荷物を放り投げ、腰の鞘から二振りの短刀を抜き放った。
バッツはギルガメッシュに向き直り、両手に持った短刀を胸の前で交差させ、低く身構える。
向かい合う刃に緊張がぴりぴりと走る。愛しさすら覚えるその感覚。
「……ありがとよ」
ギルガメッシュが呟くと、バッツの瞳がほんの少し切なげに揺らいだ。
だがそれもわずかな間のことだった。
瞬きをし、もう一度目を見開いたバッツの青い双眸はますます冷たく、辺りの空気すら冷えていくようだ。
息をすることすらためらわれるほどの沈黙。

7815/21:2008/05/21(水) 22:02:30

その一瞬、風が止まった。
刹那、バッツが地面を蹴った。ガキン、と刃が合わさる重い手ごたえ。ギリギリと金属が軋む音。
バッツの両の短刀が絡むようにまとわりつき、武器を持っていかれそうな感覚に襲われ、
ギルガメッシュは剣を大きく横に薙ぎ払った。
後ろに跳び退るバッツに向かい追い討ちをかける。
踊るように軽やかなバッツの短刀裁きをかいくぐりながら、
ギルガメッシュは重い斬撃を加え続けてバッツを橋の欄干の方へじわじわと追い込む。
と、ギルガメッシュの一撃を受け止めたバッツが地面に膝をつき、体勢を崩した。
その隙を逃さず、ギルガメッシュはまっすぐに剣を振り上げ、打ち下ろそうとした。
鈍い音が響く。
しかし、ギルガメッシュの剣は振り下ろされることなく中空で止まった。
いつの間にかバッツが欄干の上に飛び乗っていた。
その足の下に、ギルガメッシュの剣の切っ先を強く踏みしめて。
はっとして、ギルガメッシュはバッツを見上げた。
両手の短刀が猛禽の爪のように鋭く光る。
夕日を背負ったその髪は燃えるような赤に染まり、逆光を背負ってなお青い瞳が冴え冴えと輝く。
ぞくりと背筋が震える。あの戦慄が駆け上る。
バッツはそのまま剣の上を走るかのように跳躍し、短刀を額めがけて振り下ろしてくる。
手甲でなんとか受け止め、バッツの体を力任せに投げ飛ばす。
地面を転がったバッツは受身を取り飛び起き、両手の武器を振りかざし再び打ちかかってくる。
「ギルガメッシュ!」
バッツが叫んだ。
名前を呼ばれた途端、ギルガメッシュの脳裏に一つの記憶が鮮やかに閃いた。

7916/21:2008/05/21(水) 22:03:23

「ギルガメッシュ……」
話終えたギルガメッシュは、背にかばったバッツが茫然と呟くのを静かに聞いた。
相対した時にはいつも真っ先に切り込んできた好敵手が、今は傷だらけの体で両膝をついていた。
剣を支えになおも立ち上がろうとするバッツを背に、ギルガメッシュはネクロフォビアへ向き直ったのだった。
次元の狭間に放り込まれた時の怯えなどない。忘れかけていた闘志が湧き上がってくる。
「なにをごちゃごちゃと。まずはお前から始末してやる」
冷たく言い放つネクロフォビアが詠唱の構えを取る。
刹那、剣を水平に構えてギルガメッシュは地を蹴った。
「うおおおおおっ!」
とっさにかわそうとする敵の一瞬先を捉えた。刃の食い込む手ごたえを確かに感じる。
だが、敵の顔が苦悶から嘲笑に変わった。
訝る間もなく、その手から無数の真空波が放たれた。眼前に刃が迫る。
今ならかわせる。かわせるが。
(避けたら、あいつらに……)
ギルガメッシュは避けなかった。とっさに腕をいっぱいに広げた。
鈍い音。右半身の鋭い痛み。繰り出された真空波に腕が巻き込まれる。
受身も取れずにギルガメッシュはしたたかに地面に打ち付けられる。
そこへ追い討ちで飛んでくる見たことも無い魔法の連撃に体の皮膚が爆ぜる。
爆音の向こう、自分の名前を呼ぶ声が聞こえた気がする。
痛みを堪えて何とか立ち上がるが、体が自分のものではないように力がどんどん抜けていく。
目がかすむ。傷口が熱い。呼吸が整わない。
カラン、と乾いた音を聞く。力の入らない拳から剣が滑り落ちた音だった。
背筋がぞっと冷える。おしまいか、と悟る。
このままでいても血を失って死ぬだけだ。
ならば。
無駄死にだけはしない。
ギルガメッシュは固く目を閉じ、生まれて初めて心から祈った。
(神様……!)
どうか、どうかしくじらせないで下さい!
最後の力を振り絞って目を見開き、敵を見据える。
「死ね!」
「それは! こっちのセリフだぜ!」
ギルガメッシュは駆けた。己の命一つを武器として。

8017/21:2008/05/21(水) 22:04:04

バッツの短刀を構えた剣で受け止める。
そのままつばぜり合いを押し切ろうとしたが、
ギルガメッシュの体の下に潜りこんだバッツが不意打ちで足払いをくらわせてくる。
間一髪、かわして渾身の一撃を加えるが難なく受け止められる。
しゃがみこんだバッツが、跳躍の勢いで短刀を下からえぐり上げてくる。
かわしきれなかったその切っ先がギルガメッシュの頬を掠めた。
久しく感じなかった痛み。熱い血が溢れる傷。――幻などではありえない感覚。
何度も切り合っては離れ、また刃を合わせる。
この命のやりとりを永遠に続けていたい思いにかられる。
幾度とも知れない打ち合いの中、いつしかバッツは笑っていた。子供のように。
ギルガメッシュも笑った。屈託なく心から笑い、叫んだ。
「バッツ! おまえは……おまえは本当にいい男だよ!」
「おまえに惚れられたって嬉しくもなんともねえよ!」
額の汗を乱暴にぬぐい、バッツは肩で息をする。
と、バッツの体が不安定にぐらりと傾いだ。
それが隙なのか罠なのか、もうギルガメッシュにはわからなかった。
しかし、それもどうでもよかった。
誘い込まれるようにギルガメッシュは走り体当たりをくらわす。
小さくうめいて倒れこんだバッツの体に覆いかぶさり、剣を振りかざす。
ギルガメッシュの腕が止まった。
剣の切っ先は真下のバッツの眉間を垂直に狙っていた。
しかし、バッツの短刀はギルガメッシュの鎧の隙間をかいくぐり、心臓の上にぴたりとあてがわれていた。
どちらかが動けば双方命が無くなる、ぎりぎりの体勢だった。
気づけば息がずいぶん上がっていた。顎を汗の雫が伝った。頬の傷がじんじんと痛みを訴えていた。
たまらなく懐かしい感覚だった。

8118/21:2008/05/21(水) 22:04:48

「ふっ。……ははははは!」
こらえきれず、ギルガメッシュは腹の底から笑った。
剣を置き、バッツの体の上からどいても笑いは収まらなかった。
いつしか目尻からこぼれてきた涙をぬぐいながら、ギルガメッシュは孤島の神殿の壁にもたれて座った。
海の向こうに沈んでいく夕日を眺めて思う。
神様。オレなんかにここまでしてくれるなんて、あんたはなんて偉大な方なんでしょうか。
「どうも、ありがとうございました」
心の中に自然に湧き上がって来た言葉を呟き、ギルガメッシュはそっと頭を垂れた。
いつの間にか、武器を収めたバッツが隣に座り込んでいた。
微笑みながらも、身を切るような切ない目をして見つめてくる。
目が合うと、バッツはうつむき、ぽつぽつと語り出した。
エクスデスが無に呑み込まれて誕生した『ネオエクスデス』と名乗る魔物との死闘の最中だった。
皆、満身創痍の状態で、立つのがやっとだった。しかし敵も弱っていた。
捨て身のつもりで攻勢をかけた時、確かな手ごたえとともに全身が千切れるような痛みを感じ、
刺し違えるようになってしまったという。
「力を使い果たして、とても眠くて、無から抜け出すことができなかった。
このまま消えていくんだと思った。なのに、……おれだけが戻って来ちまった」
かける言葉はどうにも見当たらなかったが、ギルガメッシュは明るく笑ってみせた。
「そんなこと気にするなよ」
「そんなことって……」
「だっておまえ、死にかけたところを爺さん達に助けてもらったんだろ?
ってことは、みんな向こうで元気にやってるってことじゃねえか」
うつむいたままのバッツは顔を上げようとしない。
「オレにはそうとしか思えねえがなぁ。案外、こっちの世界と向こうの世界なんて、
そんなに違わねえのかもしれねえぜ? 
まあ、オレがうろうろしてたところがあの世なのかはわかんねえけどよ」
それでも黙りこくっているバッツの肩を軽く叩きながら、ギルガメッシュは言う。

8219/21:2008/05/21(水) 22:05:23

「それに、こういうのはなんか照れるけど……おまえは一人じゃないんだ」
バッツが体を震わせ、はっと顔を上げた。
「オレも旅を続ける。そうだな、向こうの世界をゆっくり見て周るさ。
……そう、おまえと一緒だ。ずっと。だからそんな顔するのはやめろよ」
バッツは小さく頷き唇を薄く開くが、結局何も言わなかった。
そのかわり、バッツは腕を広げ、ゆっくりとギルガメッシュの体を抱きしめた。
「バ、バッツおまえ」
慌てるギルガメッシュをよそに、バッツはギルガメッシュの首筋に顔をうずめてじっと動かない。
おずおずと、ギルガメッシュはバッツの背中に腕を回してみる。
耳元で深い吐息が聞こえる。バッツの体温を味わいながら呼吸を聞いているうちに、
いつしか、陽だまりにいるような安らいだ気分に包まれる。
ギルガメッシュは考える。
自分は存分に生きた。
敗北の苦味を知り、命のやりとりの快感を知り、
そして誰かを守りたい思いの大切さを知り、守りきることができた。
今、最後の望みまで叶えられた。
思うように生き、もうこれ以上の望みはなかった。
ギルガメッシュは満足して、深い溜息をついた。

8320/21:2008/05/21(水) 22:06:39

やがてバッツが体を離して立ち上がった。
儚い迷いはどこかに吹っ切ってしまったように、大地を踏みしめて行く手を見つめるその姿はしなやかに強かった。
「もう行っちまうんだな」
「ああ」
頷いてみせるバッツに向かい、別れの言葉を告げようとして少し迷った。
迷った後、ギルガメッシュは言った。
「……またな」
バッツは驚いたように目をみはったが、すぐに小さく頷き微笑んだ。
五月の空のように晴れ晴れと明るく。
その笑顔は凛々しく強く、ギルガメッシュの脳裏に鮮やかに焼きついた。
バッツは踵を返し、橋を向こう側へと渡っていく。遠ざかるその背中を目で追う。
小さくなっていく後姿を惜しみながらも、ギルガメッシュは海を見つめた。
一日の最後の光が、水平線の向こうに赤々と灯っている。
息が止まるほどに鮮烈なその美しさは、まるで迷い人のための道しるべのようで、
自分のことをずっと待っているかのように海の上になおもとどまっている。
ギルガメッシュは目を閉じた。そうすると、指先から全身の感覚がなくなっていく。
体中に眠りが染みとおって行くようで、だんだんとすべてがぼやけていく。
一眠りするか、とギルガメッシュは考える。
けれども眠りで何もかもおしまいになる訳ではない。
この世界で自分がやるべきことを為し終えただけだ。
たぶん目覚めればまた、果てしない世界が広がっているのだろう。ここではない、もう一つの世界が。
そして旅の終わりに行き着く場所で、また会いたい。
ギルガメッシュは安らかに、全身を穏やかな眠りに委ねる。
海へと風が吹いた。すべてを運び去るように。

8421/21:2008/05/21(水) 22:07:22



風の向きが変わり、夕日の残照が海の向こうに消えた。
バッツは静かに足を止め、ためらいながらも振り返った。
あの姿はもうなかった。夕暮れの見せた幻が海へと吹き払われてしまったように。
闇が訪れる前のほのかな光の中、名もない草花が風にそよいでいるだけだった。
バッツは姿勢を正し、誰も居ないその場所へ、深く、深く頭を下げた。
やがて顔をあげたバッツの頬に涙が一筋伝った。
ゆるやかな風が、こぼれる一しずくの水滴を掬い取り、海の向こうへと運んでいく。
バッツは涙を振り払い、背を向け歩き出す。しっかりとした足取りで。
こことは違う大地を同じように踏みしめる足取りを思いながら、
新しい世界へと続く道をどこまでも歩き出す。
いつかたどりつく場所へ。はるかなる魂の故郷へ。
永い旅は、まだ始まったばかりだった。

85名無しの勇者:2008/05/21(水) 22:07:59



長々と失礼しました。
読んでいただきありがとうございました。
バッツとギル萌え。

86名無しの勇者:2008/05/22(木) 01:58:17
涙腺直撃されました
素晴らしいお話ありがとうございます

87名無しの勇者:2008/05/22(木) 21:28:04
作品来てたー!嬉し杉る。
ギルバツの微妙な距離感が最高に萌えました。
ギルはギャグも切ない系もこなせる心底かっこいい漢だと再認識。
すばらしい作品、堪能させてもらいました。
超GJ!!

88名無しの勇者:2008/06/04(水) 00:35:48
バッツもギルもめちゃくちゃカッコ良過ぎる…
戦いを通じての男の友情っていいなぁ。

今度再プレイするときこの話思い出して涙出そうかも…
職人さん有難うございました!!

89名無しの勇者:2008/07/07(月) 03:34:14
なんだこれ素晴らしすぎる!!
ありがとう!マジでありがとう!

90名無しの勇者:2008/11/17(月) 20:42:56
最近バッツ受けにはまって餓えてたらここ見つけてみなぎったよ。
萌えるし泣けるしで腹いっぱいだよ!
もっと盛り上がればいい!

91名無しの勇者:2010/07/31(土) 03:11:24
二年の時を超えて 職人さんGJ過ぎますですよ!!


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