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    企画もの【バトル・ロワイアル】新・総合検討会議
    
      
        
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 雑談、キャラクターの情報交換、
 今後の展開などについての総合検討を主目的とします。
 今後、物語の筋に関係のない質問等はこちらでお願いします。
 
 規約はこちら
 >>2
 
 
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半日以上伸びましたが、とりあえず投下終了です。
 五人が揃っている状態であれば、時間帯は問題ないので構わず投下してください。
 
 一応、今後の展開の一つでメール欄を考えております。
 出来れば今日中に東の森の続きを本スレに投下したいと思います。
 
 
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今日中には無理でしたorz
 
 
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いい感じでネタが少し被ったので続ける形で少し改訂加えてます。
 もしかしたら前のシーン+後のシーンの二部構成になるかもしれませんが。
 二日程休みなので余裕たっぷりっす。
 
 
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ちょっと質問なんですが>>157のメル欄は小屋につく前と後のどっちでしょう?
 
 
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まだ書いてます。
 メール欄は小屋についた後です。
 
 
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了解しました。
 小屋につく前「経路思索」の後だと思ってたので……。
 修正してきます。
 
 
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誘導・前半部分投下します。
 
 
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投下終了。
 一週間以上、間が空いてしまいました…
 今日中に続きを投下できるといいなあ。
 
 
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 (二日目 PM5:30 東の森・西部)
 
 二人の女性が横に並んで立っている。
 場所は主戦場となっている楡の木広場から多少離れた所だ。
 風が吹いた。
 それは無数の木々を音をたてて揺らし、多くの枯れた葉と枝を地に落とし続ける。
 その量は不自然な程、多かった。
 
 《警告は?》
 「(必要ない。ザドゥが既に行っているはずだからな)」
 智機は透子の能力を通じ、心で会話をしていた。
 智機はグレーのフードと手袋を装着し、首輪と袋の中身を吟味していた。
 透子はそれを見て、微かに眉をひそめる。
 「(オマエは他の参加者の捜索を続けろ)」
 智機はそれに気を留めず、指示を出す。
 透子は視線を改めて、智機の眼に合わせ伝える。
 《忘れてました……伝言です。これから参加者に対しての直の支援、及び運営者による薬物投与は禁止との事です》
 「……っ! (解った……他には)」
 透子はしばし考えるそぶりを見せていたが、それ以上の反応は見せず、すっと姿を消した。
 「(ゲームを成功させる気があるのか、あいつは?)」
 
 
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 予想通りの反応をとった透子に呆れながら、次に智機は薬品の入ったビンをじっと見つめた。
 特に警告内容に不満はなかった。
 用途は何も参加者を誘導するだけではない。
 「(ま、呼び出しに間に合っただけでも、今回は良しとするか)」
 ケイブリスとの交渉の後、智機は透子に計画に
 必要な道具を持って来させようとしたが、それに応じたのは呼び出しから五分以上経ってからのことだった。
 透子への苛立ちを覚えながら、智機は道具の確認作業を終え、巨木が見える方角を見る。
 「(下手すれば……ザドゥ以外、共倒れになりかねんな。)
 どうしたものか…)」
 創造神がこの戦いに注目していることが確実である以上、不用意に手を出すわけにはいかない。
 かと言って、参加者にバレないように素敵医師等だけに介入する器用な真似は
 ここにいる戦力ではできそうもない。
 「(透子なら出来るだろうが……あの三人の能力を考えると、過信はできないか)」
 智機は双葉としおりの発言も注意深くチェックしていた。
 「(ザドゥは性格上、『黒い剣』を放置しかねない。
 後から回収してもいいが、仁村知佳や魔窟堂が戦闘中にここに来ないとも限らない)」
 
 
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 思案する智機を他所に、強化体も前方の木の陰に隠れている注意深く、決着の時を待ち続けている。
 透子から、知佳はシークレットポイントの調査を断念したと伝えられた。
 力のコントロールができずに、それを破壊してしまうことを危惧したからだと言う。
 その後、東の森の入り口に移動しそこで立ち止まったままだ。
 「(仁村知佳ならこいつで対応できるが、紗霧が他の参加者を率いてここに来れば、透子の力を借りない限りアウトだ)」
 自らの分身でもある赤い機体を見ながら、智機は対策を考え続ける。
 「(…紗霧の発信機はまもなく停止するだろう。
 戦闘後、生き残った参加者がうまく分散すればいいのだが……)」
 人質を取ろうかと考えたが、それは無駄だった。
 唯一の例外であるアズライト除いて、参加者に対し、直に人質を取ったり、監禁したりすることは最初から禁止されている。
 何故なら、それが許されると最初から二人拘束すればゲーム運営を簡単に進められるからだ。
 「(早目にデータの継承と解放を行った方が良さそうだな)」
 と、智機はまたも赤い機体を見る。
 分身に向けたその眼差しは、どこか冷ややかだ。
 「(流石に神鬼軍師も余裕がないと考えるべきなのか……)」
 智機は口を歪ませ、空を見上げ苦笑しながら思った。
 
 
 「(……一方を切り捨てるのが得策と判断したんだろうな)」
 
 
 ↓
 
 
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 【主催者:椎名智機】
 【所持品:レプリカ智機(学校付近に10体待機、本拠地に40体待機 、6体は島中を徘徊)
 (本体と同じく内蔵型スタン・ナックルと軽・重火器多数所持)】
 【スタンス:素敵医師の薬品の回収、アイン・双葉・しおりを利用・捕獲、ケイブリスと同盟・鎧修繕・腕の補強機具作成】
 【能力:内蔵型スタンナックル、軽重火器装備、他】
 【備考:楡の木広場付近にレプリカ一体と強化型一体を派遣】
 
 
 【レプリカ智機】
 【所持品:突撃銃二丁、ガス弾一個、ヒートブレイド、アタッシュケース
 筋弛緩剤などの毒薬、注射3本、素敵医師の薬品の一部
 変装用の服、アイン用の首輪爆弾、解除キー】
 
 【レプリカ智機強化型(白兵タイプ)】
 【武装:高周波ブレード二刀、車輪付、特殊装甲(冷火耐性、高防御)
 内臓型ビーム砲】
 【備考:レプリカは智機本体と同調、強化型は自動操縦 強化型は本拠地に後3体い
 る】
 
 【監察官:御陵透子】
 【現在位置:東の森:戦場付近→???】
 【スタンス:ルール違反者に対する警告・束縛、偵察。戦闘はまだしない】
 【所持品:契約のロケット、通信機】
 【能力:中距離での意志感知と読心
 瞬間移動、幽体化(連続使用は不可、ロケットの効果)
 原因は不明だが能力制限あり、
 瞬間移動はある程度の連続使用が可能。他にも特殊能力あり】
 【備考:疲労(小)】
 
 【追記:楡の木広場から離れた位置に智機待機】
 
 
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まだ続きを書いてます。
 『誘導』が完成した後、『経路思索』を投下しても宜しいでしょうか?
 
 
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>>169
 OKっす。
 やっとフォーマット固まった所で。
 道中-小屋でやってたら致命的なミスを発見してしまったので
 小屋シーンオンリーに直してました。
 これで最後のプロットからの改訂と思って気合入れてます。
 
 
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毎度、遅れてしまってすいません。
 誘導・後編、かなりの量になりそうです。
 一旦、残りをここに投下するかも知れません。
 
 
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新作の本スレ投下は今日の午後以降になりそうなので、完成した分だけ今から試験投下します。
 
 
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 (二日目 5:15 楡の木周辺)
 
 幼い少女の足元に微風で散らされた落ち葉が近づき、一瞬で燃え落ちた。
 強風のごとき音をたてながら、薄いオレンジ色をした熱波は上へと立ち昇り続ける。
 戦いの当事者たちの怒りを具現するかのような熱波の壁は、互いの敵の姿を歪ませて見せた。
 幼い少女――しおりは肩で息をしながら前かがみの姿勢で、壁の向こうのアインを
 睨み付ける。
 その闘志の源は凶としての使命感だけではなく、内なるさおりの声によって膨れ上がった
 敵意によって培われていた。
 
 
- 
          
 「カオス」
 《ん?》
 「あなた、あの娘を知ってるの?」
 アインは小さな声で魔剣に問いかけた。
 「素性は知らんな。じゃが、どういうタイプの……怪物かは心当たりがある」
 「怪物?」
 「正確にはそれに変化した奴じゃがな…」
 『……』
 飛空していた式神が、ゆっくりとアインの方に近寄って来た。
 「…」
 アインはすぐにそれに気づき、無造作に剣を振り上げようとする。
 「!」
 しおりはその動作を見、好機と見て突撃しようと刀を振り上げた。
 「……」
 アインは攻撃を諦め、ゆっくり剣を下ろす。
 しおりもそれを見て、刀をゆっくりと下ろして隙を伺い続けた。
 式神は刃が届くか届かないかの位置で止まった。
 アインの敵が攻撃してくる様子は、今はない。
 それを認めたカオスの目が動く。
 《………。続けてええか?》
 「……構わないわ」
 アインはしばし迷うが、同意した。
 《その前にだ、あの娘は参加者か?》
 「間違いない筈よ。ゲーム開始時に見た時には、何かの力を持ってるようには見えなかったけれど」
 《ゲームの途中からか……。…あいつはな…魔王が進化させる魔人、もしくは魔人が進化させる
 使徒によう似とるんじゃ》
 
 
- 
          
 「魔人?使徒?」
 《知らんのか?》
 アインは僅かに頷いた。カオスはその反応にある確信を持ちつつも、言葉を続ける。
 《そうだな……嬢ちゃんがこの島で見かけた者の中に、ピンクの髪の…美樹って名前の小柄な
 女の子はおらんかったか?》
 「…いなかったわ」
 
 隙を見せない様、警戒しながらも両者は淡々と会話を続けていく。
 
 『……』
 双葉は人型の式神を通じて、しおりの様子を見た。
 「…………」
 今のしおりには会話を盗み聞く余裕はなさそうに見えた。
 少々休んだくらいでは、疲労は消えないのだろう。
 アインの強さに焦りつつ、ただ火の勢いを絶やさないよう、気をつけながらアインの動きを
 見てるのがやっとの様子だった。
 次は飛行型の式神がアインの方をじっと見た。
 数秒後、式神の目が突然瞬きをした。
 それは双葉の心の動きと同調しているようだった。
 
 
 『(剣と会話をしてるの!?)』
 
 
- 
          
 ●
 
 
 かさり…と巨木の幹が又、剥がれ落ちる。
 式神の星川はさっきから目を瞑って、徐々に朽ち果てていくその巨木に手を当てていた。
 星川は顔を上げ、巨木に対して何かを呟く。
 ザァ…と巨木から涼風が吹き、僅かな光がこぼれた。
 光は少しずつ、星川に吸収されていく。
 
 
 ●
 
 
 ぎゅばっ!! どずっ!
 白銀色の気を纏った拳が芹沢の側頭部を掠めたのと、ブーツの踵がザドゥの腹に
 食い込んだのは同時だった。
 攻撃を受けた両者は一瞬身をびくんと震わせたものの、すぐさま戦闘態勢を整える。
 ザドゥの額から汗が流れ落ち、髪を更に濡らす。
 芹沢は水を被ったかのように、汗を全身から飛び散らせた。
 そして両者は互いの得物を構えながら接近し、攻撃を繰り返す。
 がッ…がッ…がッ…ががんっ……
 虎徹と鉄扇とが幾度もぶつかり合う音が続いた。
 
 
- 
          
 素敵医師は慎重に間合いを計って、銃口をザドゥに向けて、トリガーを引く。
 カチッ…カチ…カチ…
 「………」
 弾切れだった。
 素敵医師は弾丸を素早く充填し、少し考えてから、銃を鞄に仕舞った。
 弾数は残り少なかった。それ以上無駄に消費するわけにはいかない。
 それに加え、ザドゥのスピードが落ち、爆弾を当てて斃す事ができそうになって来たのも
 そう判断した理由の一つだった。
 
 ガギィーーン!
 「グ……」
 衝撃に負け、地面を擦りながら後退したのはザドゥの方だった。
 「…素手の…方が強いじゃん………」
 優位に立っているはずの芹沢は不満げに愚痴をこぼす。
 ザドゥはそれに応えるかのように、すぐさま身を沈め攻撃態勢を取った。
 その動きはさっきと比べて、明らかに遅かった。
 芹沢もそれに習うかのように、身をかがめる。
 その動きの迅さはさっきと変わらなかった。
 ザドゥはローキックを、芹沢は飛び蹴りを同時に放った。
 「遅いよ!」
 ゴッ……、芹沢の飛び蹴りがザドゥの顎に命中する。
 ザドゥは仰け反り、手から虎徹が離れた。
 「ウグッ…」
 ザドゥは何とか踏みとどまるが、芹沢の追撃は止まらない。
 バっ……と彼女の鉄扇が開く。
 刃が露になったそれは、明らかにザドゥの首筋を狙っていた。
 「…!」
 芹沢の右手が突如、ぶるぶると震え始める。
 「か、カモミール! ささ、下がるぜよ!」
 素敵医師の警告。
 芹沢は口を尖らせつつも、それに従いザドゥから離れた。
 ザドゥは自ら動き、更に距離を置く。
 
 
- 
          
 「ほひ…ほひひひ……」
 金属片を構えつつ、素敵医師は気の抜けたような笑い声をあげた。
 「にゃははは……素っちゃん〜クスリきれはじめたみたい〜」
 芹沢は少し困ったように苦笑しながら、震える片手をひらひらさせた。
 「(も、もう時間切れがかっ!?)」
 素敵医師にとって、状況は急激に悪化した。
 投薬しようにも、自分と芹沢との距離は大分離れているし、仮に接近できたとしても
 ザドゥの間合いに入るのは確実だ。
 双葉に足止めを頼むもうにも、彼女はゲームに乗ったと智機から聞いていたのでザドゥ相手では
 支援は期待できそうもない。
 ザドゥを芹沢もろとも爆死させようとも考えたが、仮に相打ちに持ち込めたとしても
 今度はしおり等の手から彼の身を守れる者がいなくなる。
 仕方なく素敵医師は、少しでも状況を良くしようとザドゥに話を持ちかける。
 「大将……そろそろ、カモミールにおクスリやらんとまずいき……きへへ…」
 「………」
 ザドゥは答えず、無言で虎徹を拾い上げる。
 「で、ほれほれ……禁断症状…おこっちゅうたら、大将もつつ、都合が悪いと思うきね…」
 「何故だ…?」
 「センセのおクスリはき、効き目もばつぐんやき、じゃじゃが副作用もちくときついがよ」
 「……………」
 「へへへ、下手したら、カモミールはショック死してしまうが…。
 ここ、ここは休戦して、カモミールをセンセのおクスリで……」
 「………………」
 「…………。けひゃひゃひゃ……もも、もしかして、た、大将はカモミールを
 見捨てるっちゅうがか?」
 素敵医師はくしゃみを堪えるかのような声色で言った。
 
 
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 ザドゥはそれに答えなかった。
 そして虎徹を持ったまま構え、またも気を練り始めた。
 「む、無駄がよ。いくらショック療法やかか、躰のツボついたとこで、こんてーどでは
 元には戻らんが……へきゃきゃきゃ……」
 ザドゥは芹沢と素敵医師を交互に見る。
 「それに…あん時のカモミールをざんじ助けるにぁ、これしか方法はなかったんじゃか」
 ザドゥはそれを聞き、目を細める。
 「死んだら、ねね願いをかなえるちゅう事はできんが……センセはいいことを…」
 「今の状態で本来の願いを口に出せるとは思えんがな」
 「…………。へへ、へへへうへうへうへ……。大将……せ先日の放送の前をつごーよく
 忘れとらんがか?」
 「……」
 「カモミールは、せせセンセのおクスリを欲しがってたがよ。
 大将と違って、ここ心やさしいセンセは望みを叶えてあげたんやき。
 ひひひひひ……非難されちゅうのは心外ぜよ」
 「………。俺の部下に幽幻という、貴様と同じ薬剤師がいたが……」
 「………?」
 「伺いも無しに、勝手に投薬するような下品な奴では無かったな」
 「……失礼なが……それは…ま、まるでセンセに品がないよーな言い方がね」
 無数の糞尿垂れ流しのジャンキーを飼っていた男の言う台詞ではない。
 「気付かないからこそ下品なのだ。カモミールは半ば自暴自棄に陥っていたに過ぎん……
 貴様はそんなカモミールをわざとこうしたのだ。自らの手駒欲しさにな……」
 ザドゥの口元には嘲笑ともとれる笑みが浮かんだ。
 
 
- 
          
 「なな、何言ってるがっ!?せせ、センセの何処が下品がよっ」
 素敵医師は思惑を見破られた上、侮辱され腹を立てて怒鳴る。
 「素っちゃん〜、おクスリまだ〜」
 「………。ザドゥの大将が邪魔であげることはできんき……」
 「ザっちゃん邪魔しないでよ〜」
 ザドゥはゆっくり歩きながら、素敵医師の鞄を見た。
 素敵医師はその様子に気付き、まだ勝機は自分らにあると確信し笑みを浮かべた。
 「あーあー、大将の読みは大体、当たりぜよ……。じじ、実はオクスリの副作用をおさえる薬も
 ちゃ、ちゃんと用意してあるきね」
 と、素敵医師は鞄から薬品の入った二本の注射器を取り出す。
 「だだ、だがよ……センセがこれを捨てりゃあ…どう……」
 ザドゥは素敵医師の虚言に取り合わず、芹沢の方へと駆けた。
 立ちながら身体を痙攣させている芹沢を見つつ、先日のアインと遙の対決の報告を思い出す。
 それから、この島に来る前の出来事も思い出した。
 「………………っ!」
 ギリッ……と、芹沢は震える身体を歯を食いしばってなんとか抑えた。
 芹沢は凄絶とも言える笑みを浮かべ、ザドゥを迎え撃とうと地を蹴った。
 
 素敵医師と芹沢の二重攻撃を凌ぎつつ、ザドゥはチャンスが来るのを待った。
 
 
- 
          
 ●
 
 熱波が空気を震わせ、飛び散ったわずかな炭が散る。
 その中で魔剣は淡々と語り続けた。
 《本来なら魔人は不死身でな。その上、自らの血を与える事で手下を増やす事ができるんじゃ》
 「……そんな存在をゲームの参加者に加えるとは考え難いわ」
 カオスの話によれば人間にとって魔人とは、カオスともう一方の武器か、高度な特殊魔法を
 もってしか倒すことができない、非常に高い戦闘力を持つ存在だという。
 『(吸血鬼……?まさか…ね)』
 双葉は両者の会話を盗聴していた。
 口を挟みたい衝動に駆られながらも、黙って聞く。
 《だろうな……。じゃが、あいつは使徒にしては強すぎるんじゃ。
 元の素質が高かったようにも見えんし、武術や魔法の腕前も素人以下にしか感じんしな》
 「………。似てるけど、別の存在ではないかしら?」
 そう返答したアインだったが、そうだとしても疑問は消えそうもなかった。
 力を与えるのが参加側にせよ、主催側にせよ、それができるのならゲームの進行を自らの
 都合の良い様に進められるだろう。ゲーム企画者がそんな存在を許すのだろうか?
 たとえ、手下を増やすごとに主の力が減じるとしてもだ。
 《かもな……。現にあいつは儂の力抜きでもダメージを受けとるようだ》
 しおりの能力に加点にならないだけマシだが、それでは攻略の糸口にはなり得ない。
 アインはしおりの精神面から弱点を探ろうと考えた。
 
 
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 「魔人や使徒に変わった場合、当人が受ける代償は何?」
 《……………》
 カオスは返答に詰まった。
 自分の知る限り、魔人や使徒そのものには欠点らしい欠点は見あたらなかったからだ。
 「………」
 アインは無言で構えた。
 向こうのしおりの呼吸が落ち着いてきて来たからだ。
 《欠点と呼べるものかどうかは、解らんが…》
 「早く言って…」
 《奴等は主に対して、無条件で服従せねばならん》
 「……他には?」
 アインの表情が僅かに曇った。
 《使徒の場合、主が行動不能……例え、死んだとしてもそれは続く》
 「!。それで……それから、どういう行動を取るの?」
 《自らの主を復活させようとする》
 「……!。あなたの世界では死者を蘇らせる事ができるの?」
 昂ぶった感情を必死に抑えながら、アインは言った。
 《……ほとんど不可能だが、魔人だと多少、確率は上がるじゃろうな》
 アインは気持ちを静めながら、しおりを注視した。
 しおりはいつこちらに攻撃を仕掛けてきてもおかしくない様子だった。
 だがこちらの会話の内容には未だ気付いていないようだった。
 《使徒は殺されるとそれまでじゃが、魔人は倒されると魔血玉というもんを残す。
 これには元の魔人の意識が残っておってな、それを消し去らん限り本当の意味では死なん。
 もっとも身動きは取れんがな》
 
 
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 「…あなたがこの島にいた理由が解ったような気がするわ」
 
 カオスがいつからこの島にいたのかアインには知る由もない。
 だがゲームの歯車に、魔人に類似する者が混ざっているのであれば、企画者が他の参加者に
 何らかの救済措置を行うのはおかしくないとアインは思った。
 仮に彼等がカオスを入手することがあったとしても、扱うこと自体にリスクが生じれば
 そこに付け込む隙が出てくる可能性だってあると考えた。
 《言っておくが……魔人や使徒も儂を扱えるからな。気をつけろよ》
 それを聞いてアインは頷く。
 《……。ところで、嬢ちゃんは儂とは別の世界に住んでるじゃろ?》
 「……。その話は後にして」
 唐突なカオスの質問に少し詰まりながら、アインはにべもなく言葉を返した。
 カオスはやはりな、と思った。
 彼は以前から幾度か、別世界の人間を見てきていた。
 彼の住んでいた世界も、稀ではあるが別世界の生物が漂着して来る事があるのだ。
 そもそも現魔王も、先代魔王の手によって召喚されてきた異世界の人間だったと聞いている。
 だがカオスがその事実に気付いたのは、アインの自分への反応だけではなかった。
 「!!」 しおりが刀を振りかぶり、熱波の壁を突っ切ってこっちに向かってきた。
 その呼吸は整っていた。今度こそはと、しおりはアインに挑む。
 アインも同時に気を解放していた。
 《(日光も、あの違和感を感じてたんじゃろうか?)》
 しおりの全力の斬撃を、アインは難なく受け止める。
 火花が散って、地面に落ちる。
 地面に落ちた其れは鉄粉。
 また、刀の刃こぼれが増えた。
 それに対し、魔剣は無傷のままだ。
 数瞬、遅れて式神達もしおりに加勢しようと動く。
 《(今、儂の体内を駆け巡っとる違和感……。今の使い手からも伝わってたんだろうか?)》
 自分と同じ運命を辿って来た同胞と、現魔王と同じように異界から漂流してきた、ある青年を
 思い浮かべながら、カオスは心で呟いた。
 
 
- 
          
 ●
 
 数本の注射器がザドゥ目掛けて飛ぶ。
 ザドゥはマント翻らせ、それを何本かガードした。
 「!」
 ガードを掻い潜った一本の注射器が左腕に突き刺さっていた。
 シリンダーが自動的に押し出され、薬物を体内に―――
 「ふん」
 ―――注入される前にザドゥは気付き、注射器を手刀で破壊し事なきを得る。
 「……」素敵医師はすぐさま、手に持った金属片をザドゥ目掛けて投げた!
 
 キュボっ!!
 
 金属片が破裂し、虚空に炎が発生する。
 ザドゥがいた場所を中心に数メートルを業火が覆った。
 閃光が辺りを包み、程なくして収まる。
 「………」
 爆発から十数メートル離れた所にザドゥがいた。
 「はー…はー…」
 呼吸こそ乱れているものの、彼は無傷だった。
 「………!」
 素敵医師は思わず顔を引きつらせた。
 「さっすが!こここここ…これでやられちゃ…つまんないよねねね」
 呂律が回らなくなってきた芹沢が喝采をあげる。
 
 
- 
          
 「(そろそろだな……)」
 呼吸を整えながら、ザドゥは構えた。
 「!!」
 素敵医師はこれをチャンスと見た。
 さっきのでザドゥと芹沢との距離は離れているからだ。
 素敵医師は鞄から注射器数本と取り出した。
 「カモミール!こっちに来るがよ!」「!」
 ザドゥは弾かれた様に駆けた。
 芹沢はぷるぷると身体を震わせながら、素敵医師の方へと歩み寄る。
 ザドゥは虎徹を振りかぶった。
 素敵医師は構わず、芹沢の方へ走る。
 ザドゥは虎徹を投げた。
 びゅん!がっ……
 虎徹は素敵医師に命中したが、刃によるダメージは無い。
 その代わり体勢を崩し、動きは止まる。
 ザドゥは脚に力を入れ、芹沢に向けて頭から飛び掛った。
 注射器が芹沢に刺さる前に、押し倒す事に成功する。
 芹沢が抵抗し、地面をごろごろ回る。
 ザドゥは芹沢を立たせ、体当たりで距離を置き、気を練り始めた。
 芹沢はザドゥに近づき、素手で殴りつけて来る。
 ごっ…ごっ…がすっ…
 ザドゥは抵抗せず、黙って耐える。
 
 
- 
          
 「!?」
 素敵医師は迷う、ザドゥを殺すか、芹沢に薬物を投与するかを。
 ばがっ…!
 芹沢のハイキックがザドゥの左側頭部を強打した。
 「………っ」
 ぐらりと、ザドゥの身体が傾いた。
 素敵医師は自分の欲求に従い、芹沢に注射することに決めた。
 「オクスリがよっ!」
 注射器をかざし近寄る素敵医師。
 禁断症状に耐えていた芹沢は攻撃を止め、彼の方を振り向く。
 ザドゥの手が大地を着いた。
 注射針と芹沢との距離が縮まっていく。
 ザドゥの拳はもう芹沢には直撃しそうにない。
 素敵医師はニタリと笑いながら言った。
 『生き物っちゅうのは、化学反応で成り立ってるが。
 いくら大将が小細工しても、センセが塗り潰してやるがよ」
 嘲りに構わず、ザドゥは奥義を放つ。
 
 『死光掌!!』
 
 注射針と芹沢の肌との距離数センチの所だった。
 ザドゥの掌は素敵医師と芹沢の腕に命中し、気の奔流は二人の間を通り過ぎた。
 「ウグッ……」
 ザドゥから苦悶のうめきが漏れた。
 
 「なな、何度やったちムダだとゆーのが……」
 勝ち誇ったかのように素敵医師は声をあげ、注射器を芹沢に投与しようとする。
 
 
- 
          
 「!?」
 腕を動かせない。
 「な、なななっ…なな…」
 それどころか彼は、身体さえ満足に動かせないでいた。
 「はーはー……貴様にも効いたようだな」
 
 ザドゥは自らの身体に鞭打ち、距離を置き、虎徹を拾う。
 それを地面に突き立てて、またも気を練り始めた。
 「何したがっ!」
 「……」
 ザドゥは答えなかった。そんな余裕は無かったからだ。
 「かか、カモミールの命がおよけなくないがかっ」
 と言いつつ、素敵医師は目を動かし芹沢を見た。
 「!?」
 芹沢は座り込んでいた。
 ところが素敵医師の予想とは逆に痙攣は少し治まっており、呼吸も弱くなってるような事はなかった。
 ザドゥはそれを見て、思わず安堵の息を漏らしそうになった。
 「こここ……こ答えるがよっ!」
 自身が動けないのは、タイガージョーが食らった技を受けたからだというのは
 素敵医師にも解っている。
 だが芹沢の禁断症状が沈静化してる現象は理解できないでいた。
 「…………」
 
 ―――十数秒経過した
 
 びくっ…びくんっと芹沢の身体が痙攣し始めた。
 素敵医師の右腕が動き始める。
 それを険しい表情で見つめ、ザドゥは言い放つ。
 「来い!!」
 気はまだ練り切れていない。
 麻痺が収まった素敵医師は注射器を両手で構え、宣言した。
 「こーなったら、大将をセンセのおクスリの虜にしちゃる……」
 飛び道具を使ったところで時間を与えるだけだ。
 ならば、自らの再生能力に賭けつつ、相手の目標が芹沢であることを逆手に取って
 攻めるまでと素敵医師は判断する。
 
 
- 
          
 「け、け、け、けぇ、けひゃぁぁぁああああああああっっ!!」
 奇声を発しつつ、八本の注射器を武器に素敵医師は踊りかかった。
 マントで注射針を防ぎつつ、ザドゥは攻撃を回避し続ける。
 「………!」
 その攻撃はザドゥの予想よりも正確で早かった。
 奥義を放てるだけの気は防御しながらでも溜めることができる。
 だが、今のザドゥに素敵医師を掻い潜れるだけの隙を見つけることは困難だった。
 「へけけけけけけけけけ……さっきのの威勢はどうしたがかッ!?」
 「っ……!」
 いつまでも、防ぎきれるものではない。
 狂撃掌を撃てば、攻撃ごと簡単に素敵医師に大ダメージを与えることができるかも知れない。
 だが、今撃てば死光掌を使うのにまた気を溜める必要が出てくる。
 それに素敵医師の見た目から察するに、不死身の怪物が持つような特殊能力を持っている
 可能性があるのをザドゥには容易に想像できた。
 ザドゥは素早く後方へ下がった。
 それに素敵医師が追従し、注射器を突き出す。
 ザドゥの右腕に針が刺さる。
 左手で虎徹の柄を握り締め、右腕を素早く振る。
 針は皮膚と肉を切り裂き、抜けた。
 ザドゥのミドルキックが飛び、素敵医師は後方に跳んで避けた。
 ザドゥは両手で虎徹を下段に構える。
 ダァンっ!
 
 銃声がした。
 
 
- 
          
 「「!」」
 弾丸はザドゥにも素敵医師にも当たらなかった。
 芹沢がガクガク震えながら、闘志を漲らせながら銃をザドゥに向けて撃っていた。
 「き、きへへへ、きひゃひゃひゃひゃっ……流石がよ!新撰組局長ォ!!」
 芹沢は焦点の合わない目で、ただし切羽詰った表情で尚も銃弾を放とうと構えていた。
 「かはっ…かはっ……アタシがやややっらないと…」
 ザドゥはすぐさま下がりながら虎徹を地面に降ろした。
 「そうがよっ。はは、はようしやせんとセンセと新撰組のみんなが死きしまうぜよ!」
 素敵医師は芝居がかった様子で芹沢を鼓舞した。
 ザドゥは一瞬の隙を突いて、素早く素敵医師の背後に回った。
 「…!?」
 素敵医師の首が180度回って、ザドゥを見た。
 ザドゥは死光掌の構えを取った。
 銃弾を避ける自信はない。
 芹沢は銃を構え、狙いを付け、大声で叫ぶ。
 「あああああああ、アタシがやややらなきゃきゃ、みんながーーー……!!」
 「くっ……」
 
 
 ズゥンっ………
 
 
 ――――地面が揺れた
 
 
- 
          
残りは午後に。
 
 
- 
          
 ●
 
 
 アインはゆっくりとした足取りでしおりの方へ歩み寄る。
 ズ…ズ…ズ……。しおりは左足を引きずりながら、後退する。
 「(い、いたいよぅ……)さおりちゃん…しっかり…」
 左アキレス腱を踏み砕かれた痛みに耐えながら、しおりはさおりを励ます。
 その光景に表情を変えないまま、アインは近づく。
 その身体は小刻みに震えていたが、カオス以外誰も気付かなかった。
 式神達は二人の周囲を囲んでいる。
 内一体は右肩から斜めへ亀裂が入っていた。
 ふっと一瞬、アインの視界が真っ暗になる。
 彼女は疲労を表に出さず、しおりに語りかけた。
 「わたしは参加者じゃないわ…」
 「?」いきなりなアインの発言にしおりは困惑した。
 飛空型式神が二人に近づこうとする。
 「あなたの目的がどちらにしろ、これ以上、わたしと戦うべきではない」
 『な、何寝ぼけた言ってんのよっ!』
 双葉の激昂した非難の声が飛ぶが、アインはそれを無視して言葉を続ける。
 「…あなたは生きて、望みを適えたいのでしょう?」
 『アンタ!あれだけの事をこの娘にしといて、よくも、ぬけぬけとっ!!』
 「…………」しおりはアインを黙って見つめていた。
 「あなたは何の為に戦っているの?」
 しおりにはアインに、今の所は攻撃するつもりが無いように見えた。
 本来ならさおりが攻撃を急かしてくるはずだが、今はおとなしくしている。
 しおり自身、短時間で消えないくらい疲労が溜まっている。
 少しでも休みたかったし、何より話の内容に興味がある。
 それに聞き慣れない怒号の主にも興味が出てきたのだ。
 
 
- 
          
 「…マスターに生き返ってもらうの……それで、さおりちゃんともいっしょに……いっしょに…」
 「………………」
 しおりは上目遣いに、たどたどしく自らの希望を口にした。
 それを聞いたアインの目の光が一瞬、消えた。
 「それで…それで…」
 「………………。あなたは参加者を斃したいのね」
 「! う、う……」
 即座に返答しまうところだった。
 だがその反応でアインには目的が解った。
 『………!』 双葉もそれを察し、息を呑んだ。
 「なら、わたしを殺せたとしても徒労に終わる。ゲームの外にいるから…」
 『…!あんたも参加者でしょうが!あの娘を殺そうとしてたじゃない!!』「………」
 しおりは何か言いたそうにアインを見た。
 「その証拠にわたしは首輪を着けてない。わたしはあなたが攻撃してきたから反撃したまで。
 …強いから手加減できなかった。ごめんなさい。」
 そう言いつつ、アインは表情も声色も変えないまま、式神達を一瞥する。
 「けれど彼らが参加者だと解った以上、あなたと戦い続ける理由は無い」
 
 
- 
          
 「え?」しおりは式神達を見た。
 『ぐ…』式神達がぎぎぎ…という音と共に動き出す。
 しおりはしばし迷い、言った。
 「まって!……本当なの!?」
 「本当よ…ただし彼らは本体じゃない。彼らを操っている首輪を着けた参加者が、ここの近くにいるはず」
 『!』 式神が一斉に襲い掛かった。アインはそれらを避け続け、時折視線をしおりに向けた。
 式神達の動きはさっきと比べ乱雑で今のアインにも容易に躱せた。
 しおりが半ば呆然とそれを見守る。
 やがて式神達の攻撃が止むと、すぐさまアインの近くへ移動した。
 「じゃ、じゃあ、この人たちは…?」
 「ゲームに乗った参加者があなたを利用してるんでしょうね」
 『!! ち…、あたしはっ……!」
 「だったら何故、声色を変えて協力を申し込んだのかしら? どうして自ら姿を現さないのかしら?」
 
 
- 
          
 『…………………………………』
 双葉にはその理由を口に出せなかった。
 ほぼ確実に殺されると予想できたから、姿を現せなかった。
 彼女の意地がそれを口に出す事を許さないでいた。
 この状況で運営者をも相手にする余裕がないから、真意を口に出せなかったのだ。
 「……それにあなたの『マスター』は完全には死んでないかも知れない」
 「え?」
 「知らないようね。あなたのマスターは別の世界の住人でしょ?」
 「ど、どうして知ってるの!?」
 「わたしの目的の一つはゲームの調査。参加者は一部の例外を除いて、それぞれ別の世界を生きているわ。
 常識は必ずしも通用しない。もう一度、その人を調べれば見なければ生死は判断できないわ」
 「…………」
 初めて病院で魔窟堂らと話した結果出た推測と、まりなの情報。
 アインはそれらを合わして交渉の材料として使ったのだ。
 「で、でも放送で…」
 「主催者が本当の事を言うとは限らないわ」
 『……この、うそつき…』かすれた声で双葉は言った。
 アインは構える。
 「!」しおりがはっと息をのんだ。
 「この話を聞いても、まだわたしとの戦いを続けるのなら…」
 震える手でしおりは刀を構える。
 「わたしは最期まで、全力であなた達姉妹に抵抗するわ」
 
 
- 
          
 「…………!」
 アインの言葉と眼差しに、しおりは思わず唾を飲み込む。
 『上等…じゃない』
 「仮にわたしを殺せたとしても、直後に彼らが裏切ったらあなた達はどうするの?」
 「!?」
 『!。あ、あたしは…そんなこと…』
 「彼らはいくら傷ついても、それを操っている参加者は無傷のままよ。
 あなたはそんな人を信用できるの?」
 双葉の言葉を遮り、アインは続ける。
 「…………」
 「…それにもし、あなたがマスターを本当に想うのなら、よく考えなければ駄目」
 アインは構えたまま、しおりの脇を見た。
 「…………?」
 「わたしはこの先に用があるの。おとなしく道を譲るなら、あなた達に危害を加えない。
 譲らないのなら、あなたの願いはもう適えられない」
 「で、でも…」しおりは迷った。
 『…………』 式神達が動き始める。
 「あなた一人の問題ではない筈よ。生き残らなければならないのでしょう?
 それにわたしの方が上手く行けば、あなたの願いも早く適えられるかも知れないわ」
 アインの身体から闘気がうっすらと湧き出る。
 「(…………)」しおりは首を下げた。
 
 
- 
          
 「これが最後」その言葉と共に、アインは大地を蹴った。
 式神達が走り出す。
 しおりは顔を俯かせたまま動かない。
 式神達の動きは乱雑なままだ。
 「…!」「………」
 アインがしおりの横を通り並んだ。
 『!』 こぅっ…と式神が発光し、追跡スピードが上がった。
 しおりの背後に控えてた式神二体が、アインへと向かう。
 「!」『!』 しおりが動く。
 「…」アインは気を完全には解放しなかった。
 
 
 ―――アインは式神の包囲網を抜けた
 
 
 『…………え…?』
 一体の式神が炎上していた。
 しおりの目には惑いがあった。だが…
 ざんっざんっざんっざんっざんっざん…
 手に持った日本刀はもう一方の式神を無常に切り裂き続ける。
 『…………!』バラバラになった式神は白い炎をあげて消滅した。
 炎上を続けていた式神が強く発光した。
 包んでいた炎は掻き消え、式神が元の姿に戻る。
 『はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…』
 しおりは深呼吸した。
 「ね、言ったとおりでしょ、楽になるって」『さおり』はしおりに言った。
 「さおりちゃん……。
 これはあいつほど強くないから、きりぬけられるよ。
 でも…でも……しょうがないよね…」
 しおりは式神達を見て、おずおずと攻撃態勢をとった。
 「(このままじゃ…さおりちゃん、もたなかったもん)」
 互いに慎重に、対峙するしおりと四体の式神達。
 時間は刻々と流れる。双葉はしおりに言った。
 『あんた……後でアイツに……殺される…よ…』
 泣きそうな声。
 「……………」しおりはこたえなかった。
 
 ―――それから大地が震え、それが互いの攻撃への合図となった。
 
 
- 
          
 ●
 
 「……」星川は自らの左手に持った棒状のものを見た。
 それから自分の手を視認する。
 安堵のため息をついた。
 彼の顔色はあまり良くない。
 彼は右手を自らの胸に突き立てた。
 姿が揺らぎ、顔が苦痛に歪む。
 その時、右手は棒状の物体を掴んでいた。
 
 ●
 
 
 ダァン!
 ザドゥの頭上を弾丸が通り過ぎた。
 「「「………!」」」
 突然、起こった地震に彼等の足元はすくわれていた。
 ザドゥを除いては。
 彼は素敵医師に飛び掛かり、マントを顔に巻き付ける。
 「っ………」
 それから、マントの上から顔を掴み、横に回した。
 めきめきめき……と音がする。
 「…」ザドゥは素敵医師の首を一周させても、なお回し続ける。
 時折肘鉄も入れた。音が少し小さくなっていく。
 ごぽっ…とヘルメットの中で素敵医師は吐血した。
 ザドゥは油断なく首を回しもって、身体にも蹴りを打ち込みながら芹沢の様子を確認する。
 「ふん……」
 手を離し、地面に崩れ落ちる前に、念の為に素敵医師の右足に渾身の蹴りを入れる。
 ばきッ…。骨が折れ、素敵医師は言葉もなく地面に倒れこんだ。
 ザドゥは芹沢の方へ駆ける。彼の拳は握られていない。
 
 
 数十秒のち、意識を失った素敵医師の頭部から赤い蒸気が立ち昇り始めた。
 
 
- 
          
 
 ●
 
 吐く息は荒い。
 だが走るスピードはまだ、落ちていない。
 これなら、まだ主催者と戦える。
 アインはそう実感しながら、楡の木に向かって走る。
 《…………。気は生命力でもあるからな、使いすぎに気をつけろよ》
 カオスの忠告に、アインは頷く。
 《どうした…?》
 アインは顔を青ざめさせていた。
 カオスの問いにも答えられなかった。
 「………。こんな手に引っかかるなんて…」
 どちらかといえば、切り抜けるわずかな隙を作るための方便で、同士討ちまでは期待してなかった。
 アインの脳裏に数年前の出来事が浮ぶ。
 
 夜。
 そこには三人の男女がいた。
 腹を撃たれ、意識を失った自分。
 自分を抱えながら嘲笑する、銃を持った銀髪の中年男。
 デザートイーグルを手に持ち、自分達に向かって叫ぶ少年。
 
 「っ……」アインは顔をしかめながら、見えてたはずの無い光景を頭から振り払おうとした。
 「…………」それくらいでは消えなかった。どうして、頭に浮かんだのかもよく解らないでいた。
 《…油断するなよ》
 アインは記憶を取り戻した直後の玲二とのやり取りを思い出す。
 「(彼も、こんな気分を何度も味わったの?)」
 身体の内部に冷たく重い何かが残留するような嫌な違和感。
 アインはそれを消し去るべく、素敵医師への憎悪を呼び起こした。
 「……」芥が焼却されるかのように徐々にソレが消えていくのを感じた。
 アインは深いため息をついた。
 相手が単独ならカオスの力抜きでも充分対処できる。しおりでもだ。
 《…………》
 走るスピードを上げる。
 
 「………………」
 
 
 苦肉の策だった。
 
 
- 
          
 ●
 
 真っ赤に染まった視界。
 素敵医師は被ったヘルメットを取り、芹沢の姿を探した。
 がくんっ…ぶらぶら……
 「……………」
 首が背中の方へ折れ曲がり、意識が飛んで、仰向けに倒れる。
 一瞬だけだが、ザドゥが芹沢の背中に両手を当てている光景が見えた。
 素敵医師の首の回りには、ぶくぶくと高熱の泡が吹き出し続けている。
 
 
 ―――何分か経った
 
 意識がはっきりとしてきた。
 素敵医師は立ち上がった。折れた足も完全に治っていた。
 ザドゥはそれに気付き、息を切らしながらもこちらを見据えた。
 次に素敵医師は芹沢の姿を探した。
 「………!?」
 芹沢の姿を発見した素敵医師は目を見張った。
 彼女は倒れていた。
 だが痙攣は治まり、呼吸も規則正しく動いていた。
 有り得ない…と、素敵医師はもう一度、芹沢を見た。
 「!?」なんと彼女の身体から、ザドゥのような気が湧き出ていた。
 
 
- 
          
 ●
 
 しおりの刀が式神を貫く。
 それに笑みを浮かべていたさおりの顔が驚愕に歪む。
 式神が発光し始めたのだ。
 とっさに突き刺さった刀を抜こうとするが、抜けない。
 式神は突如、駒のように回転し始める。
 さおりは刀を掴んだままふんばるが、木に二回激突し、離してしまう。
 刀を持った式神は動きを止め、ぶるぶると震えた。
 その現象はさおりが再び動くよりも早く起こった。
 ビキィィィンッッ!と音がして刺さっていた日本刀が砕け散った。
 
 破片がぱらぱらと地面に落ちるのを見て、さおりはザドゥの言葉を思い出す。
 
 『……ならば参加者を殺せ。その方が遥かに容易い。貴様の能力ならば
 今残っている参加者の多くを屠る事ができる筈だ』
 
 「うそつき……」
 さおりの拳に火が点った。
 『ッ………』式神は動こうとするものの、急激に気を消費し動けない。
 さおりは高速度で式神の懐に潜り込み、火炎拳を連打した。
 式神は一瞬で炎上し、崩れ落ちる。
 「うそつき」さおりは残る三体の式神を睨み付けた。
 
 
- 
          
 ●
 
 地震が収まるのを確認し、アインは周囲の様子を探った。
 「……」誰もいないようだ。
 これは神が起したものなのだろうか?
 アインはそう思った。
 《近いぞ》
 言われて、アインは気配を消し、足音を消しながら慎重に歩く。
 「………」
 視界が少し開けた。
 
 
 ―――ザドゥと素敵医師が対峙していた。
 
 
 ↓
 
 
- 
          
 【アイン(元№23)】
 【現在位置:楡の木広場付近】
 【スタンス:素敵医師殺害】
 【所持品:スパス12 、魔剣カオス、小型包丁4本、針数本
 鉛筆、マッチ、包帯、手袋、ピアノ線】
 【能力:カオス抜刀時、身体能力上昇(振るうたびに精神に負担)】
 【備考:左眼失明、首輪解除済み、肉体にダメージ(中)、肉体・精神疲労(中)】
 
 
 【しおり(№28)】
 【現在位置:楡の木広場付近】
 【スタンス:しおり人格・参加者殺害、さおり人格・隙あらば無差別に殺害、双方とも慎重に行動】
 【所持品:なし】
 【能力:凶化・身体能力大幅に上昇、発火能力使用 、回復能力あり】
 【備考:首輪を装着中、多重人格=現在、さおり人格が主導
 全身打撲で能力低下、ダメージ(中)疲労(大)】
 
 【朽木双葉(№16)】
 【現在位置:楡の木広場】
 【スタンス:アイン打倒、首輪の解除、素敵医師と一応共闘】
 【所持品:呪符10枚程度、薬草多数、自家製解毒剤1人分
 ベレッタM92F(装填数15+1×3)、メス1本】
 【能力:植物の交信と陰陽術と幻術、植物の兵器化
 兵器化の乱用は肉体にダメージ、
 自家製解毒剤服用により一時的に毒物に耐性】
 【備考:双葉は能力制限の原因は首輪だと考えている、首輪装着
 楡の木を中心に結界を発動、強化された式神三体を使役
 疲労(大)、ダメージ(小)、士気低下
 (内一体ダメージ(大)、内二体ダメージ(中))】
 
 
- 
          
 【式神星川(双葉の式神)】
 【現在位置:楡の木付近→しおりのいる場所】
 【スタンス:???】
 【所持品:植物兵器化用の呪符10枚】
 【能力制限:幻術と植物との交信】
 【備考:幻術をメインに使う】
 
 
 【主催者:ザドゥ】
 【現在位置:楡の木広場付近】
 【スタンス:素敵医師への懲罰、参加者への不干渉、カモミール救出】
 【所持品:ボロボロのマント、通信機】
 【能力:我流の格闘術と気を操る、右手に中度の火傷あり、疲労(大)、ダメージ(小)】
 【備考:疲労により若干身体能力低下】
 
 【素敵医師(長谷川均)】
 【現在位置:楡の木広場付近】
 【スタンス:アインの鹵獲+???、朽木双葉と一応共闘】
 【所持品:メス2本・専用メス2本、注射器数十本・薬品多数
 小型自動小銃(予備弾丸なし)、謎の黒い小型機械
 カード型爆弾二枚、閃光弾一つ、防弾チョッキ】
 【能力:異常再生(限度あり)、擬似死】
 【備考:独立勢力、主催者サイドから離脱、疲労(小)
 肉体ダメージ(小)】
 
 【カモミール・芹沢】
 【現在位置:素敵医師に同じ】
 【スタンス;???】
 【所持品:虎徹刀身(魔力発動で威力増大、ただし発動中は重量増大、使用者の体力を大きく消耗させる)
 鉄扇、トカレフ】
 【能力:左腕異形化(武器にもなる)、徐々に異形化進行中(能力上昇はない)、死光掌4HIT】
 【備考:気絶。禁断症状沈静化。中度の脱水症状だが、一応戦闘可能。疲労(大)、薬物の影響により腹部損傷】
 
 
 【追記:しおりVS双葉。 離れたところでザドゥVS素敵医師。少し離れてカモミール芹沢が気絶。
 近くにアインが潜伏。式神星川移動中。更に離れた位置に智機待機 現在PM5:35】
 
 
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試験投下終了。
 時間の都合で本スレに投下できませんでした。ごめんなさい。
 誘導の後半部分が異様に長くなってしまいました。
 これでは本スレに投下しきるのに時間がかかりますね。
 
 
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今から誘導後編と経路思索を投下します。
 
 
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投下終了致しました。
 智機・透子パートは次の作品で肉付けして新作として投下します。
 
 今回は半月以上、間を空けてしまいました。
 短くても、間隔を短くして投下した方がいいかもしれませんね……。
 
 
 >>170
 西の森の五人の作品投下を先延ばしにしてしまってすみません。
 
 東の森決着まで、あと少し。
 
 
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新作投下します。
 
 
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 「既に死亡した№34アリスメンディと同行し、クレアと遭遇した場合のケースだな」
 台詞と共に、別枠でアリスのデータも映し出される。
 「…この女悪魔も奴と同じように死ぬのかよっ?」
 「あー…その可能性は高かったな」
 「……。この女のくすりってなんだ…?」
 「薬物調合にそれなりに長けていたという事実が信じられんのは無理は無いな……。
 ま、大方酔っ払っていたんだろ」と、どうでもいい感じで呟く。
 「……」
 ケイブリスは怪訝な顔でモニターを見続けたが、少しして用を思い出し食料庫へと向かっていった。
 「………」
 二度目の地震が起こってから、智機は待ち続けている。
 
 呼び出した透子から連絡が来るのを。
 
 ●
 
 暗く狭いマンホールの下に其れはあった。
 硬く閉ざされた木の扉が。
 周囲の壁をよく調べれば、扉の向こうにある空間が狭いのが解るだろう。
 扉には鍵穴がある。合う鍵があれば開けられる。
 もしくは扉を破壊するだけの力があれば、向こうにあるものが何であるのか確かめられるかも知れない。
 
 
- 
          
 
 ただし向こうにあるものを使うには、扉だけを破壊しなければならない。
 ここに最初に来た仁村知佳は、今の自分にはそれが出来ないと解っていたから、立ち去ったのだろう。
 透子は扉の前で座り、向こう側を凝視しつつそう推測していた。
 「……」 地震が起こってから、ロケットが小刻みに振動している。
 智機からの呼び出しなのは解っていた。
 それを無視していたのは、時空の歪みの原因を突き止めたかったからだ。
 透子が上を見上げる。
 扉の前から彼女の姿が消え、校庭の真ん中へに姿を現す。
 透子は崩れた校舎を見る。
 「…」そこに隠されているものをまだ参加者が見つけていないのを確認し、透子は東の森へと転移した。
 
 
 ●
 
 「………!」
 素敵医師が立ち上がったのを見て、ザドゥは背後の芹沢を庇う様に移動し、身構える。
 彼の疲労の色は濃い。
 「あー…あー…あー……」
 素敵医師は右の眼を大きく見開き、呻く。
 首を横に振ると、固まった体液がパリパリと剥がれ落ちた。
 捻れた首は元に戻っていた。
 
 
- 
          
 ザドゥと素敵医師はしばし見つめ合った。
 「おお、おだねのようがね……たいしょぉ……」
 先に口を開いたのは素敵医師だった。
 「センセの薬が欲しかったががやないがか……?
 かか、カモミールになな何をしたがよ?おらぁに教えてくれが……」
 「…………。貴様のやり方は涼宮遙の件で知ってたからな」
 「……?」
 「死ぬんだろう?貴様に投与された薬品のおかげでカモミールが生きている以上、解毒などされればな…」
 自分と芹沢に向けられる攻撃を警戒しつつ、ザドゥは淡々と答える。
 「へ、へひへひ……まいったが…最初から…センセを信用しとらんだったがか……」
 素敵医師は珍しく素直に嘘を認め、注射器を出して構える。
 「ふん。貴様の言う通りだ」
 「な、何がいうとーりか?」
 「生物は科学反応で成り立っていると言ったな。その通りだ。
 だからこそ薬物を警戒できたのだ」
 「そそ、それとカモミールとなんの関係がる?」
 「貴様は知っているか?気功の本来の使い方を」
 「…………?………っ!?」
 素敵医師は芹沢が中毒者にも関わらず武術を使えた事と、『気』の意味を思い出しハッとする。
 「そ、そそそ、そこまで都合よく使えるわけが、ないぜよっ!」
 素敵医師が居た世界でも稀ではあるが気を身体の治療に使える者は存在している。
 
 
- 
          
 だが、自分の薬物の副作用を中和できる方法は彼の知る限り存在しなかった。
 「貴様が居た世界ではそうかもな…」
 ザドゥが死光掌の本来の使用法を使う戦法を取った理由は5つ。
 一つ目は、素敵医師のやり方を知っていたから。
 二つ目は、今の芹沢が武術を扱えたことで、正気に戻れる目があると思った。
 三つ目は、自らの知識に自信を持っていたこと。
 四つ目は、昨日双葉がランスに掛けられた呪いを解いたという報告を受けていたこと。
 呪いの力を陰の気と考えれば、陽の気をぶつける事で中和できるという推測だ。
 五つ目は、タイガージョー相手に死光掌を成功させたことで、コントロールできる自信が生まれたこと。
 これだけの材料が揃っていたから、ザドゥはこういう行動に出たのだ。
 「……ま、ま、まだカモミールが正気にもんたと決まったわけじゃーないが……」
 素敵医師は震える口調でザドゥに言う。彼は不安だった。
 そして、同時に期待もしていた。
 もし芹沢を正気に戻すことができるなら、彼が長年追い求めてきたものが目の前に存在することになる。
 彼は警戒をしつつ、ザドゥに話を持ちかけた。
 
 
- 
          
 ●
 
 其処には二人の女性が横に並んで立っていた。
 場所は主戦場となっている楡の木広場から多少離れた所だ。
 風が吹く。
 それは無数の木々を音をたてて揺らし、多くの枯れた葉と枝を地に落とし続けた。
 
 「(そうか。仁村知佳は手をつけなかったんだな)」
 《はい…》
 透子は楡の木の方に目を向けながら言う。
 《彼女らに対する警告は?》
 「(必要ない。ザドゥが既に行っているはずだからな)」
 智機は透子の能力を通じ、心で会話をしていた。
 智機はグレーのフードと手袋を装着し、首輪と袋の中身を吟味している。
 透子はそれを見て、微かに眉をひそめた。
 「(オマエは他の参加者の捜索か、仁村知佳の監視を続行していろ)」
 智機はそれに気を留めず、指示を出す。
 透子は視線を改めて、智機の眼に合わせ伝える。
 《忘れてました……伝言です。これからは参加者に対しての直の支援、及び運営者による薬物投与は禁止との事です》
 「………。(解った……他には?)」
 透子はしばし考えるそぶりを見せた。
 だがそれ以上の反応は見せず、すっと姿を消した。
 「(ゲームを成功させる気があるのか、あいつは?)」
 
 
- 
          
                  
 ●
 
 
 素敵医師は両手を挙げた。
 「何のつもりだ?」
 「ふへ、へへへへへ……。降参やき……」
 ザドゥは首を捻り、口元を皮肉げに歪めて言う。
 「………。それは、俺におとなしく殺される覚悟ができたってことか?」
 「ち、違うがよっ!か、カモミールはおとなしく渡すがっ。そその代わりにセンセを見逃して欲しいが」
 「言いたい事はそれだけか?」
 「待つがっ!たた、大将にとっても、ざん……すぐにここから離れられるのは、わわわりぃ話じゃーないがだろ?」
 「…………」
 「いつ参加者に狙われるか解らんき、こここはお互い離れるが賢明ぜよ」
 「俺が参加者に遅れを取ると思うのか?」
 「ひ……か、カモミールは遅れをとったきね…」
 「………」
 今の素敵医師の言葉に嘘偽りはない。芹沢が倒れ一人である今、彼を守れる者はいないからだ。
 勝機が全く無い訳でもなく、この場で満たしたい欲もある。
 だがアインやしおりの生死が不明である以上、不用意にリスクを背負いたく無いのも事実だった。
 「センセが憎いなら、ちょ、ちょ懲罰は後にするのが得策ぜよ。せっかく助けたのが、ぱーになってしまうがよ」
 「…………」
 ザドゥが黙って聞いているのを脈ありと見た素敵医師は畳み掛けた。
 確かに素敵医師は憎いが、ザドゥにとって芹沢の救助は懲罰以上に重要だ。
 「そそそその内、すぽんさーからもセンセについて連絡が来ると思うが…。それまで見逃しとーせ」
 「見逃すと、今後のゲーム運営に支障が出る」
 「た、大将は主催者のリーダーやき、アインとぶっち…同じやり方ではいかんが……」
 
 
- 
          
 「……どういう意味だ?」
 「へけけけ……ぶっちゅ……おなじやり方でいけば、たた大将も、カモミールも全員破滅すするがで?」
 「…貴様が死ねばどちらも起こりえない事だ」
 「………。しょうまっことそう、思うか?」
 「何?」
 素敵医師は皮肉げな笑みを浮かべた。
 「大将は……ああああ、あの女が高原美奈子を殺したがを知っちゅうか?」
 「………」
 「どーやら……知らんようじゃ?」
 「それがどうしたんだ?」
 「知ーらんがなら話にならんがっ。大将も自己満でカモミールを殺さないよーに、気をつけるがとしか言えんきね」
 「………」
 芹沢を見る。呼吸は整ってはいるが、正気に戻れるか迄はまだ、解りそうもない。
 「も、もしセンセと戦うがなら……」
 素敵医師は黒い薬品が入った注射器を取り出す。
 それに加え、彼の身体からは微量ながらも気が放つのがザドゥには見えた。
 「…………」
 素敵医師への敵意を込めた眼差しをそのままに、ザドゥはじりじりと芹沢の方へと後退を始めた。
 「賢明がよ大将。せ、センセも下がらせて貰うが」
 
 ザドゥの通信機から突如、小さなブザー音が鳴り始めた。
 
 
- 
          
 「!?」「(……この音量は)」
 ザドゥが隙を見せてないのを確認し、素敵医師は恐る恐るそのまま立ち去ろうとした。
 「………。どうやら互いに、都合よく物事は運ばんようだな」
 「!」
 その言葉を聞き、素敵医師は慌てて戦闘態勢を取る。
 ザドゥも遅れて戦闘態勢を取った。
 「…………」 実はザドゥは素敵医師と交戦する前、智機と連絡を取り合う直前に、直に透子から連絡を受けていた。
 智機が撃退された事。首輪を外した参加者に対して注意して欲しいとの警告。
 そして、自分の能力の及ぶ範囲内に参加者がいるなら、こうして支援するとの助言を。
 「…………」
 素敵医師は狙っていた。もし襲撃者が自分を狙うなら、そいつを。
 ザドゥを狙うのなら、ザドゥを。自分の奥の手の餌食にする為に。
 奥の手は素敵医師自身の身体に溜め込んだエネルギーを大きく消耗するので、普段は使わない。
 だが、自らの目的に大きく近づけるなら使用することに躊躇いはなかった。
 気力奪いの発展技―――『気力破壊』を使用するのに。
 
 
 不意打ちの機会を逃した襲撃者―――アインは木々に隠れ、周囲を警戒し続けていた。
 
 ↓
 
 
- 
          
 
 智機は予想通りの反応をとった透子に呆れながら、次に薬品の入ったビンをじっと見つめる。
 警告内容自体に不満はない。薬の用途は何も参加者を誘導するだけではないからだ。
 「(ま、呼び出しに間に合っただけでも、今回は良しとするか)」
 智機は透子に計画に必要な道具を持って来させようとしたが、それに応じたのは呼び出しから五分以上経ってからのことだった。
 透子への苛立ちを覚えながら、智機は道具の確認作業を終え、巨木がある方角を見た。
 「(下手すれば……共倒れになりかねんな。どうしたものか…)」
 創造神がこの戦いに注目していることが確実である以上、不用意に手を出すわけにはいかない。
 かと言って、参加者にバレないように素敵医師等だけに介入する器用な真似は
 ここにいる戦力だけではできそうもなかった。
 「(透子なら出来るだろうが……あの二人の能力を考えると、過信はできない)」
 智機は双葉としおりの発言も注意深くチェックしていた。
 「(ザドゥは性格上、『黒い剣』を放置しかねない。
 後から回収してもいいが、仁村知佳や魔窟堂がここに来ないとも限らないしな)」
 
 
- 
          
 「……」思案する智機を他所に、強化体は前方の木の陰に隠れて待機している。
 「(仁村知佳相手ならこいつで対処できるが、紗霧が他の参加者を率いてここに来れば、透子の力を借りない限りアウトだ)」
 自らの分身でもある赤い機体を見ながら、智機は対策を考え続ける。
 「(…紗霧の発信機はまもなく停止する筈。とりあえず奇襲狙いのセンが無くなった以上、来たとして次の放送から一時間後くらいか。
 戦闘後、生き残った参加者がうまいこと分散してくれればいいのだが……)」
 人質を取ろうかとも考えたが、それは無駄な思考だ。
 唯一例外が認められていたアズライトを除いて、参加者に対して直に人質を取ったり、監禁したりすることは最初から禁止されている。
 何故なら、それが許されると最初から二人以上拘束すればゲーム運営を簡単に進められるからだ。
 「(早目にデータの継承と解放を行った方が良さそうだな)」
 と、智機はまたも赤い機体を見る。
 分身に向けたその眼差しは冷ややかだ。
 「(流石に神鬼軍師も余裕がなくなったのか……)」
 智機は口を歪ませ、空を見上げ苦笑しながら思った。
 
 「(……はたまた、一方を切り捨てるのが得策と判断したかのどちらかだな)」
 
 
 ↓
 
 
- 
          
 
 【主催者:ザドゥ】
 【現在位置:楡の木広場付近】
 【スタンス:素敵医師への懲罰、参加者への不干渉、カモミール救出】
 【所持品:ボロボロのマント、通信機】
 【能力:我流の格闘術と気を操る、右手に中度の火傷あり、疲労(大)、ダメージ(小)】
 【備考:疲労により若干身体能力低下】
 
 【素敵医師(長谷川均)】
 【現在位置:楡の木広場付近】
 【スタンス:アイン・ザドゥ・仁村知佳への薬物投与、朽木双葉と一応共闘】
 【所持品:メス2本・専用メス2本、注射器数十本・薬品多数
 小型自動小銃(予備弾丸なし)、謎の黒い小型機械
 カード型爆弾二枚、閃光弾一つ、防弾チョッキ】
 【能力:異常再生(限度あり)、擬似死】
 【備考:独立勢力、主催者サイドから離脱、疲労(小)
 肉体ダメージ(小)】
 
 【カモミール・芹沢】
 【現在位置:素敵医師に同じ】
 【スタンス;???】
 【所持品:虎徹刀身(魔力発動で威力増大、ただし発動中は重量増大、使用者の体力を大きく消耗させる)
 鉄扇、トカレフ】
 【能力:左腕異形化(武器にもなる)、徐々に異形化進行中(能力上昇はない)、死光掌4HIT】
 【備考:気絶。禁断症状沈静化。中度の脱水症状だが、一応戦闘可能。疲労(大)、薬物の影響により腹部損傷】
 
 
- 
          
 【主催者:椎名智機】
 【所持品:レプリカ智機(学校付近に10体待機、本拠地に40体待機 、6体は島中を徘徊)
 (本体と同じく内蔵型スタン・ナックルと軽・重火器多数所持)】
 【スタンス:素敵医師の薬品の回収、アイン・双葉・しおりを利用・捕獲、ケイブリスと同盟・鎧修繕・腕の補強機具作成】
 【能力:内蔵型スタンナックル、軽重火器装備、他】
 【備考:楡の木広場付近にレプリカ一体と強化型一体を派遣】
 
 【レプリカ智機】
 【所持品:突撃銃二丁、ガス弾一個、ヒートブレイド、アタッシュケース
 筋弛緩剤などの毒薬、注射3本、素敵医師の薬品の一部
 変装用の服、アイン用の首輪爆弾、解除キー】
 
 【レプリカ智機強化型(白兵タイプ)】
 【武装:高周波ブレード二刀、車輪付、特殊装甲(冷火耐性、高防御)
 内臓型ビーム砲】
 【備考:レプリカは智機本体と同調、強化型は自動操縦 強化型は本拠地に後3体い
 る】
 
 【主催者:ケイブリス(刺客4)】
 【スタンス:反逆者の始末・ランス優先、智機と同盟】
 【所持品:なし】
 【能力:魔法(威力弱)、触手など】
 【備考:左右真中の腕骨折】
 【現在位置:本拠地・管制室】
 
 
- 
          
 【監察官:御陵透子】
 【現在位置:東の森:戦場付近→???】
 【スタンス:ルール違反者に対する警告・束縛、偵察。ザドゥへの支援。戦闘はまだするつもりはない】
 【所持品:契約のロケット、通信機】
 【能力:中距離での意志感知と読心
 瞬間移動、幽体化(連続使用は不可、ロケットの効果)
 原因は不明だが能力制限あり、
 瞬間移動はある程度の連続使用が可能。他にも特殊能力あり】
 【備考:疲労(小)、ザドゥへの支援後、何処かへ移動】
 
 
 【追記:しおりVS双葉。 離れたところでザドゥと素敵医師が。少し離れてカモミール芹沢が気絶。
 その近くにアインが潜伏。式神星川移動中。更に離れた位置に智機待機 現在PM5:30】
 
 
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連続投稿規制に引っかかって、これ以上投下できそうもありません(汗
 代わりに>>211-220までを本スレに投下していただける方がいれば助かるんですが…
 
 ここを見てる人はほとんど居無さそうだし、また夕方にでもトライしてみます。
 
 
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一読者ですが代理で投下させてもらいした。
 今後とも期待しています。
 
 
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>>222
 代理投下ありがとうございました!
 おかげで助かりました。
 こうして作品を読んでいただける方がいるからこそ、創作のし甲斐があります。
 期待に添えるよう頑張ります。
 
 アインと素敵医師の因縁は次かその次の作品で決着が付く予定です。
 作品の総文章量は過去最大になるかも知れません。
 ただ完全に書き終えるまで投下しないでおくと、また間隔が空いてしまったり、
 変に停滞する恐れがありそうなので、工夫して徐々に投下していきます。
 
 状態表は話が完結した場合と、投下待ちである『あの五人』の話等が間に入りそうな
 場合に挟みます。
 それまでは、本日のレス投下終了の印に ↓ を入れます。
 気が向けば投下待ちのとは別に、ユリーシャか恭也の短い話を投下するかも知れません。
 
 
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アイデアが浮かんだので、今から仁村知佳の小ネタを試験投下します。
 ほとんど進展もさせてませんが、差し支えが無ければ、今日の朝以降にも本スレに
 投下します。
 
 
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 (二日目 PM5:13)
 
 空は赤み始めていた。
 とぼとぼと歩き続けている、灰色のオーラを纏う小柄な少女の上を数羽の鳥が通り過ぎる。
 鳥の鳴き声を聞き、少女はふと顔を上げた。
 「……」少女――仁村知佳は途方に暮れていた。
 折角見つけた利用施設は自分では扱えそうもない。
 それに加え、場所を伝えるべき仲間もいなかった。
 「…わたしに…できること…ないのかな…」
 そう言い、知佳は右手に持った手帳をきゅっと握った。手が震えた。
 「(違う…できることが…ないんじゃない…)」
 手帳の中身はまだ見ていない。何処と無く不吉な予感がしたからだ。
 「(怖いから…何も)」
 向こうには病院が見えた。
 「(…あそこにいるのかな?)」
 逢いたい。けど、それ以上に逢う勇気が今の知佳にはなかった。
 知佳は不吉な考えをしないよう、恭也との明るい記憶を呼び起こそうとした。
 今日の日中のことはあえて記憶から遠ざけ、病院に来る前のやり取りを無理に思い出した。
 あの時、夜中の放送を聞いた時、自分は対してその事に気を止めていなかったんだなと知佳は思う。
 いざとなれば自分の力があると思ったから。今にして思えば、それは傲慢に違いなかった。
 
 
- 
          
 そもそも、自分はこの島から脱出さえできなかったではないか。
 『願い』がある以上、脱出という選択肢は知佳の中に存在していない。
 知佳は視線をやや上に移した。
 「(綺麗な…夕日…)」
 赤とオレンジが絶妙にブレンドされたような色彩を持つそれは、微妙に円形を崩していた。
 それを不恰好とは思わない。
 夕日はこれから一時間以上も、昨日よりも島を美しく彩るに違いないからと知佳は思った。
 何も夕日だけではない。この島は月も綺麗に見せてくれる。
 「…………?」知佳の心にふと疑問が浮かんだ。
 「(昨日の夜…)」放送直前だっただろうか?
 綺麗な月が欠けていく光景を恭也と一緒に見たのは。
 日本ではまだ月蝕が観測される時期ではないはずだ。
 「(…………ーん?)」
 知佳はこの島が何処であるかなんてまともに考えたことはなかった。
 「(月蝕……)」
 古来から月蝕は何かの怪異と関連つけられてきたという伝承があったのを知佳はぼんやりと思い出す。
 だが、その詳細まではうまく思考が纏まらず、答えが出なかった。
 「………」
 改めて、知佳は手帳と病院を意識した。このまま惑っていても、何も進展しない。
 今できる、何かをしないとますます鬱屈してしまうだろうと自らを叱咤した。
 知佳は服の裾で顔をごしごし拭うと、足取りも確かに目的地へと向かった。
 「(他の人なら……もっと詳しいこと知ってるかも)」と僅かに期待して。
 
 
 その頃、恭也とユリーシャも丁度、月蝕の事を思い出していた事を知る由も無く。
 
 ↓
 
 
- 
          
 【仁村知佳(№40)】
 【現在位置:学校・公園間道路→???】
 【スタンス:恭也が生きている間は、単独で彼らの後方支援へ
 主にアイテム探しや、できうる限りの情報収集、主催者への妨害行為】
 【所持品:???、まりなの手帳】
 【能力:超能力(破壊力さらに上昇中・ただし制御は多少困難に)飛行、光合成】
 【備考:疲労(小)】
 
 
- 
          
すみません、もうちょっとで完成できるのでご容赦を……。
 本当にすみません。
 
 
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了解です。
 今、アインと素敵医師との決着話と、それから数分後(放送後)の話を書いてます。
 完成次第、一部分を本スレに投下し、残りはここに試験投下しますので。
 
 
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まだ執筆中。
 
 
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また間が開いてしまい申し訳ありません。
 新作の一部を投下します。
 まだ戦いは終わってませんけど。
 残りは明日の晩で。
 
 
- 
          
 ●
 
 もうすぐ範囲外ね……
 
 双葉は徐々ではあるが、確実に『さおり』を楡の木から遠ざけると同時に追い詰めていた。
 『さおり』が気力を振り絞って立ち上がり、走る。
 それは彼女が出せる最高の速さだったが、双葉は少しも動揺しなかった。
 『さおり』は式神達の背後に回りこみ、破壊しようと拳を振り上げた。
 突然、何体かの式神が地面に落下した。
 『さおり』は一瞬動きが止めたものの、攻撃を続行しようとする。
 落下してない式神が彼女の死角から現れ、肩にぶつかる。
 炎はかき消え、攻撃はまたも失敗に終わった。
 
 もし双葉の視点が人型の式神からなら、動きについて来れなかっただろう。
 視点は敵の攻撃が届かない上空に飛んでいる式神からだ。
 背後に回り込もうが関係ない。
 それに敵をはっきり見ないですむのでいろんな意味で攻撃しやすいのだ。
 
 
- 
          
 この子供がアイツだったら良かったのに
 
 双葉は追い詰められた少女を見て心底そう思った。
 技量はアインとは比べるまでもなく低く、双葉にも遠く及ばない。
 その証拠にちょっとしたフェイントにも何度も引っかかるし、手数も極端に少ない。
 ようするにスピードも火力も知能も冷静さも、しおりの時よりも格段に落ちている。
 その上、疲弊している。
 アインと比べればはるかに弱かった。
 もっとも直に対面すれば、殺される可能性は高いだろうが、この条件下なら話は別だった。
 
 
- 
          
 ●
 
 無理しすぎた所為か星川は意識を失っていた。
 星川は慌てて起き上がり、音もなく駆けた。
 『仲間』達の屍を乗り越えながら。
 あの少女を探すために。
 彼が今取っている行動は本来、与えられた役目を放棄しただけでなく
 彼らの主を更なる危険に曝すという愚行と言える。
 彼はその事にまだ気付いていなかった。
 
 
- 
          
 ●
 
 
 つう……と双葉の肩の傷から血が流れた。
 双葉は座り込みながら、それを感じた。
 
 あの子に掛けた二度目の幻術のときだ…
 あの時、身体中にまた痛みが走った
 ……原因は薬なんかじゃなかった……
 
 双葉は少し焦ったが、今の戦闘に影響を及ぼすほど慌てなかった。
 しおりに裏切られたショックからの虚脱感もほぼ消えている。
 『さおり』が引きつった顔で後退して行くのが双葉には見えた。
 式神達は動き、容易く敵を包囲した。
 
 このまま総攻撃を仕掛ければ、ミンチ状にまで破壊して敵を葬ることができる。
 もしくはこのまま彼女を十数メートル後退させれば、結界の範囲外。
 双葉が降伏を勧告し、それに従う気があるのなら簡単に校舎跡まで逃がせるだろう。
 
 双葉はどちらを選択しようかと迷っていた。
 同時に迷ってる時間もないと自覚している。
 ここまで追い詰めることができたのは
 幻術で動きを止めた上で、回復させる間もなく攻撃を続けたからだ。
 回復させてしまえば逆転されかねないのは解っている。
 彼女は冷静さを維持した。
 双葉は木を燃やした時の『さおり』の形相を思い出して、改めてこう思った。
 
 
- 
          
 野放しにできない
 
 式神が動き、『さおり』の横面を張り倒す。
 それを実行している術者の額から苦悩からくる汗が滴り落ちた。
 標的は自らが護り、共に助け合おうと情を注ごうとした相手だった。
 今度は大きく息を吐こうとした標的の背中を式神が殴打した。
 苦悶する少女の様子を双葉は見ていた。
 
 もう、どうでもいい……
 あたしも、あの子も……
 
 双葉はため息をついた。
 最初は『さおり』を幻術で足止めして、その隙にアインと決着つけようと双葉は考えてた。
 勝ち目がないのを承知の上で、だ。
 だが、その前に星川の所在を確かめたかった。
 楡の木の近くにはいなかった。
 その事に彼女は慌てた、次にアインや素敵医師の所在を確かめようとした。
 偶然、見つけたのだ透子と智機を。
 双葉は主催側にここを包囲されてる事実に恐怖した。
 気持ちを切り替え、やけくそ気味に攻撃してやろうかと思った。
 だが星川の所在確認が先だと自分に言い聞かせ、行動を控えた。
 首輪を爆破されるかも、という恐怖心があったのも要因だ。
 透子が別の位置に転移するのを確認し、すぐに彼女の周囲を確かめた。
 
 
- 
          
 その先にアイン達はいた。
 ザドゥと芹沢が明らかに疲弊している中、アインと素敵医師はまだ大丈夫そうに見えた。
 素敵医師が生きていることに希望を見出した双葉は、すぐさま式神の集合地帯に意識を移した。
 透子達がここに来ている事実を伝える余裕はなかったし、透子がここを離れたのを確認はできなかった。
 そして、その時見てしまったのだ。
 歪んだ笑みで嬉しそうに森を燃やそうとするしおりの姿を。
 双葉は確信した。
 
 もう駄目だ……あの子は…………
 そして、あたしも……
 
 むさい男相手だったら、こんな思いはしなかったと思う
 
 双葉はそう自嘲しながら、『さおり』を攻撃する。
 
 まともな奴から見れば、あたしが悪人以外の何者でもないんだろうな
 もっとも自分が善人だとは思ったことなんかないけど
 
 むしろ、今ではロクデナシ以外の何者でもないと確信していた。
 
 それはそうだ……
 恩人を……
 好きな相手を……いや、好きだと思っていた相手を二度も裏切ったんだから
 あの時、あいつはここから逃げようって言ってた
 逃げ場所なんかないし、アイツに負けたくないからという理由で、あっさりあたしはあいつを拒絶した
 だから、傍にいなくなったのかな
 
 ……もう少し言葉を選べばよかった
 
 
- 
          
 人型の式神がゆっくりと『さおり』を轢いていく。
 骨が肉が次々と砕ける音が聞こえた気がした。
 
 あの包帯男、やられたのかな……
 
 間抜けな思いつきだと自分でも思った。
 別にそれが滑稽とも何とも思わなかったが。
 淡々と攻撃を続ける。
 
 高い声が双葉の耳に入ったのは間もなくだった。
 声の主は血まみれで所々に骨を露出させた、もはや原型を止めていなかった。
 何を言ってるのか、双葉は聞き取ることができなかった。
 顎の骨が砕けているのだろう、もしかしたら気管も潰れてるかも知れない。
 ただ、何を伝えようとしてるのかは何となくわかった。
 
 ――――ごめんなさい
 
 命乞いしているのは明らかだった。
 懸命に同じ発音を少女は繰り返した。
 常人なら目を背けるその光景を前に双葉は目を背けなかった。
 自分が陰鬱になっていくのを感じながらも、どっちなんだかと心でぼやく。
 構えは解かず、用心深く準備する。
 目の前の少女を観察する。
 
 
- 
          
 時間が経ち、少女の顎の形が元通りになっていく。
 一体の式神がそっと近づき、手を差し伸べたように少女には見えた。
 初めて式神が柔かい声をだしたような気がした。
 少女は式神に抱きつき、おとなしくした。
 身体中は痛かったが、命拾いできたと安堵した。
 身体全体が徐々に回復していく。
 部位の中でも回復が早かったのは左手だった。
 少女は突如痙攣にも似た身震いをした。
 何かを押さえ込んでいるようだった。
 式神はそれに無反応だった。
 少女は口元を歪める。
 『さおり』だった。
 
 こいつがおやだまだ
 
 今なら鉄をも溶かす業火を生み出せる。
 少女は左手を動かそうとする。
 背中に激痛が走ったのは、その時だった。
 『さおり』の背に、いつのまにか三体の小型の式神が張り付いていた。
 
 
- 
          
 幻術を掛けられていたのだ。
 少女が言葉を紡ぐ前に、双葉は告げた。
 
 『本当に残念よ』
 
 無感情だが、心に残る声だった。
 式神達はそのまま躊躇いもなく、『さおり』の背骨を砕いた。
 想像を絶する苦痛の中、自らが急速に無にかえるのを感じながら、『さおり』は自分達の敗北を悟った。
 
 
- 
          
 ●
 
 もうすぐ放送かな……
 
 双葉はぼんやりとそう考えながら、耳を済ませた。
 二人以上の人間が近づいてくるのが解った。
 素敵医師の甲高い声と、何やら叫んでいるアインの声だ。
 もうすぐか……と双葉は思った。
 双葉はそれぞれの手を首輪と肩の傷に当てた。
 じんわりと後悔と未練が彼女の心を満たした。
 心の中でさえ、その全てを単語で表し切れそうもなかった。
 彼女は厳めしい顔をした男の姿をあえてを思い出す。
 それは彼女の父親だ。
 
 「こんな人間のまま終わるんだったら、もう少し言う事、訊けばよかったかな……」
 
 式神の方に意識を移した。
 そこには背骨を砕かれた、しおりが横たわっていた。
 瞳孔は開き、弱弱しく痙攣しながらも、まだ生きていた。
 
 
- 
          
 間もなくあたしはあの包帯男と組んでアイツと戦うことになる
 だけど……
 
 それを自覚したのはしおりに裏切られた時か、本物の星川が殺された時だったのか。
 その時期は今となってはどうでもいいと考えたかったし、はっきりと認める決心がついた。
 
 アイツには勝てない
 
 別にアインほどの修羅場を潜っている訳ではない。
 未来をはっきり予知できる異能力者でもない。
 ただ……理屈抜きで双葉の心が自らの敗北を既に告げていたのだ。
 彼女は泣き喚きたかった。
 だが、それを我慢し勤めて平静を装った。
 双葉はしおりを見て、二人の人間を思い出しつつ、自問した。
 
 
- 
          
 なんであたしはこの子を一思いに殺さなかったんだろう
 
 双子を守ろうとしているように見えた、既に死んだ名も知らない少女のためか。
 本物の星川の志を継ぎたかったからか。
 ギリギリまであの子の良心に期待してたのか。
 双葉にはもう解らなかった。
 
 なら何でこの子を守ろうとしたんだろ
 
 それに続く言葉はすんなりと浮かんだ。
 
 そうだ、あたしは誰かを守ろうとして死にたかったんだ
 その上でアインの苦しむ様を見たかったんだ
 
 双葉は深いため息とともに立ち上がる。
 彼女の眼はまだしおりを見据えている。
 あれほど壊れていたとは思っても見なかった。
 手を組めるなら生き残らせてやりたかった。
 あの様子だと、周りに死を振りまき、自滅するのが落ちだ。
 あんな状態でも時間が経てば動き出すに違いない。
 彼女の心に沸き起こるは、更なる自己憎悪だった。
 
 
- 
          
 それも言い訳よね
 反主催のために殺すなんて動機は要らない
 ……理由なんて、こんなのでいい
 
 『アンタはあたしの復讐の邪魔になるのよ』
 
 式神を通じて、しおりに言い放つ。
 しおりからは何の反応もない。
 双葉はうなだれ、自らの言葉を心に刻む。
 
 ……アイツ等と戦って、死のう
 
 もう、この戦いに生き残った後の事など考えたくはなかった。
 本物の星川を生き返らせたかったが、あんな神が相手では望み薄だと言い聞かせた。
 反主催に助けて貰うというムシのいい未来を思い浮かべたくなかった。
 勝利によってまた図に乗るのはもっと嫌だった。
 それは心の片隅で今も願っている願望だから、なお更だ。
 自らの憎悪と命をもって、アインに復讐するのみだ。
 
 
- 
          
 人型式神が発光し、しおりを踏み砕かんと動き出す。
 そして、告げた。
 
 『だから死んで』
 
 誰かが叫んだ。
 双葉はハッとし、声の主を探す。
 
 『星川』
 
 そこには式神の星川が居た。
 そして、瀕死のしおりを悲しげに見つめていた。
 
 
 それは定時放送まであと10分の出来事だった。
 
 
 ↓
 
 
- 
          
 【朽木双葉(№16)】
 【現在位置:楡の木の洞】
 【スタンス:アイン打倒、素敵医師と一応共闘、可能なら主催者に特攻
 自己憎悪、まずは星川と会話からしおりを殺すつもり】
 【所持品:呪符10枚程度、薬草多数、自家製解毒剤1人分
 ベレッタM92F(装填数15+1×3)、メス1本】
 【能力:植物の交信と陰陽術と幻術、植物の兵器化
 兵器化の乱用は肉体にダメージ、
 自家製解毒剤服用により一時的に毒物に耐性】
 【備考:双葉は能力制限の原因は首輪だと考えている、首輪装着
 楡の木を中心に結界を発動、強化された式神三体に加え、
 偵察型の式神10体も攻撃可能
 疲労(中)、ダメージ(小)、
 (内一体ダメージ(大)、内二体ダメージ(中))】
 
 
 【式神星川(双葉の式神)】
 【現在位置:楡の木付近→しおりのいる場所】
 【スタンス:???、双葉と会話】
 【所持品:植物兵器化用の呪符10枚】
 【能力制限:幻術と植物との交信】
 【備考:疲労(小)、幻術をメインに使う】
 
 
 【しおり(№28)】
 【現在位置:楡の木広場付近】
 【スタンス:????、マスターに会いたい】
 【所持品:なし】
 【能力:凶化、発火能力使用 、大幅に低下したが回復能力あり】
 【備考:首輪を装着中、全身骨折・各内臓にダメージを受け瀕死の重傷
 意識不明、行動可能になるのには数時間単位の休憩が必要
 戦闘可能までには更に倍以上の時間が必要】
 
 【現在、PM5:50】
 
 
- 
          
仮投下終了。
 相変わらず連投規制に引っかかりまくります。
 どなたか本スレにコピペしていただければ非常に助かります。
 伸びに伸びて決着まで後2話。
 
 こんどこそ停滞させたくないので、完成の是非にも関わらず
 今週中にメール欄にてネタバレします。
 また今晩。
 
 
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ぶっちゃけると一つの運営クラスの重要なお仕事をうけたので、夜な夜な執筆の時間が取れないほど忙しい日々が続いていましたorz
 一度完成してあらかたできてるのに完成させる時間が全然取れないのが二週間前のソレが終わるまでの半年ほど続き……。
 明日、一度書き終えたとはいえ自分的にはまだ未完成である魔窟堂チームのを投下させて頂きます。
 スルーしても構いません。
 中々出てこれなかったのは申し訳ない気持ちでサイ悩まされていたのもあるとはいえ、結局は自分の都合で長い時間迷惑をかけてすみませんでした。
 
 
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昨日、全投下するつもりが時間がありませんでした……
 残りは用事が済み次第、投下します。
 
 >>248
 了解しました
 とりあえずネタバレのひとつはメール欄で
 
 
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全投下終了。
 今夜12時前後に一本ここに作品を投下するかも知れません。
 本筋に絡むかも知れない、ネタバレ話を。
 
 
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 (二日目 PM5:58 本拠地・管制室)
 
 管制室の中は熱気で蒸しかえりつつあった。
 そんな中、白衣の女八人が赤いロボット2機を運ぶ作業が続けられていた。
 その先にはかなりの小規模のカタパルトがあった。
 
 暑さを気にもせず、モニターを見ていたケイブリスは言った。
 「茶はねえのか?」
 間髪要れず、智機が返事を返す。
 「あるが……少し待ってくれ」
 「あぁ……別にいいぜ」
 
 智機はケイブリスの横に置かれているゴミ箱の中身を見て思った。
 「………………(摂取物は人間とそう変わらないのだな……あとで茶を振舞ってやるか)」
 加熱しているコンピュータの状態を気にしながら、そろそろオーバーホールが必要かと
 考える智機にケイブリスは更なる質問をする。
 「生き残ってる参加者の奴らで一番強えのは……ランスか?」
 「……基本的にはそうだな。ま、詳しい事は後で話そう……」
 「? ……まだ強い奴らがいるのか?」
 「……ああ」
 
 
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 ケイブリスは少し頭をひねり、ちょっとした疑問を口にした。
 「おめぇ……さっき病院で戦り合ってたよな?だったらよぉ……あの時、何で首輪を爆破しなかったんだ?」
 「…………。 神の許可が必要なんだ」
 まひる達との戦闘の事を言われた智機は、やや苦々しげに返答した。
 「なんだ…そりゃ?」
 「我々、運営者にも苦労して欲しいからだろうな。 透子は首輪の操作権を持ってるだろうがな」
 「……あいつが? それ意味あんのか?」ケイブリスはせせら笑いながら言った。
 「やはり君も彼女のやる気のなさは気になってたか」
 彼は言葉で返すのも面倒だというそぶりで、鼻から息を吐いて返答した。
 
 ●
 
 白衣の女達―――智機のレプリカ4機が作業を終えて、充電室に入っていく。
 強化型二機を発射する準備は整った。
 もし、反主催グループにランスが加入しているのなら、足止めがせいぜいかも知れない。
 本当はケイブリスを派遣したかったが、カタパルトで飛ばせるのはロボットだけだ。
 「そろそろ定時放送だ。 ケイブリス、悪いが引き続き放送をやってほしい」
 「死んだ奴、ゼロかよ。 ま、いいや……」
 「カンペはいるかな?」
 「いらねぇよ。適当にやっていいか?」
 「ああ」
 
 ↓
 
 
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いじょ。
 本スレで採用するかは未定ですが。
 出来れば明日は続きの作品の一部でここに投下を。
 
 
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「狭霧さんはどんな願い事をするの?」
 ふいにまひるがそんな事を言い出した。
 彼女には似つかわしくない内容、と思った狭霧は返答に詰まった。
 他の誰よりもまひるは欲望からかけ離れた存在に思っていたから。
 「……そうですね」
 そんな小屋の中、対極に位置する場所では時たま「ぐが」とイビキを出しながらランスが寝ている。
 気絶した後とはいえ、あれだけ睡眠をとったのに彼はまた寝ている。
 その横には今にも壊れそうといった感じのユリーシャがランスの胸元に頭を寄せて寝ている。
 彼女もまた心労と疲労が溜まっていたのだろう。
 
 「俺様はしばらく休む、任せた」
 西の小屋につくなり、そういうと彼は寝入ってしまった。
 余程、ケイブリスとの戦いで疲れていたのか、それとも生来からそんな感じなのか。
 主に狭霧が突っ込もうとする暇すらなく、ランスは横にぐてんとなってしまった。
 「仕方ありませんね」
 その様子を見た恭也はやれやれと行った感じで扉の前に立つ。
 (彼が駄目な以上、順当に行って見張りは俺かな)
 「いいの? 恭也さんも……」
 申し訳なさそうにまひるが恭也へ尋ねる。
 「俺も大分休ませて貰ったから大丈夫」
 「でも……」
 ランスに比べて薬を使い休んだとはいえ、元あった怪我の度合いは恭也の方が上である。
 「大丈夫、見張りって言っても扉の前に突っ立ってる訳じゃない。
 ちゃんと死角になってる所で気配を消しつつ周りに注意を払うから」
 それに彼を除けば俺が一番見張りに適してる。そう一言付け加えて恭也は外へと出て行った。
 「大丈夫ですよ。もう少しすればボケジジ……いえ魔窟堂さんも帰ってきますから」
 それでも心配そうにしているまひるを狭霧が諭した。
 彼女の言葉でようやくまひるも下がり、ゆっくりとだが腰を卸した。
 
 
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 それから間を置いた後での出来事である。
 (私の願い……)
 狭霧は考える。
 第一目標はこんな場所から生きて生還する事。
 だが、それは運営陣達を倒せれば狭霧以外の誰かが勝手に願ってくれるだろう。
 魔窟堂やまひるなら、間違いなくそうするはずである。
 では、純粋に願いとなるとどうか?
 『彼』への未練があるわけではない。
 だが、横にいる『彼女』を不幸にしてまで得たいものか?
 それはすなわち心弄くられた『彼』もまた不幸にすることだ。
 彼女にとってはその事の方が心を痛く締め付ける。
 (しいて叶うなら、平行世界の一つ、『私』が選ばれた世界への転移……でしょうか)
 創設とも一瞬思ったが、結局それは心を弄くった『彼』と何ら変わりない予定調和、ただの自己満足の玩具である。
 彼女自身が勝ち得たと結果なくしては、彼女は満足しない。
 だが……。
 (いくら同じ自分とはいえ功労を横取りするのはどうなのでしょうかね)
 普段やこの状況下では彼女はそれを厭わないとしても。
 それだけは何か侵してはいけないモノとして彼女の心につっかえた。
 願いが叶うなら叶うに越した事は無い。
 生き延び、そして願いも叶えて貰う。
 そう考えてあれから行動してきた。
 しかし。今この場においてまひるに問い掛けられると、自分でも意志が曖昧なのに気づく。
 それなら、それでこの場ははぐらかして適当に返そう。
 そう思って狭霧は言葉を続けた。
 「私の願いは……」
 「……あたしはね。もし本当に願いが叶うなら、みんなの願いを叶えてあげて欲しい」
 狭霧が答えようとした瞬間、まひるが先に口開いた。
 
 
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「運営の人達も、願いが叶うって言うので集められたんだと思う。
 どんなに悪い人たちでも叶えたい願いが、譲れない思いがあっていいなりになったんじゃないかと思う。
 でなきゃ、悪人だってこんなのの運営になろうなんて思うはずないしね……」
 (それは、本当に気が狂ってる人の場合は話が別ですけどね……)
 その考えは口に出さず、狭霧はまひるの言葉を黙って聞く。
 「あたし達と同じように参加させられた人たちも、運営の人たちも、みんな帰れて、みんな願いが叶えれたらきっと素敵だと思う」
 「それは……理想論だと思いますね」
 まひるの想いに対し、それだけは間違ってる、と狭霧は応える。
 「うん、解ってる。でもね、もしそうなれたら……こんな今だけど、みんなそんな事忘れて幸せになれると思うんだ。
 あたしもアインさんをまだ許せない……。けどそれだって参加してなかったら、そんな事もなかった。
 知り合う事もなかったと思うけどね」
 (何処までも甘いのか……それとも……)
 狭霧は考える。
 目の前の少女?は、言っている事だけを見れば甘い世間知らずのお嬢ちゃん?である。
 だが、その実は異形の化け物。
 今までのまひるの様子と話を聞く限りでは、彼女は極普通の世界で極普通の学園生活を送ってきた身に違いない。
 そんな彼女が異能力と異形の姿を持っていると言う事は、どういう事だろうか?
 狭霧にはソレが解らなかった。
 気づかず過ごしてきた?
 いや、まひるの様子から、少なくとも彼女?がこのような身であるという事は気づいていたようだ。
 それでも普通の生活を送ってきたのだろうという異常。
 きっと狭霧では経験した事も内容な、想像もできないような事を経験してきたのかもしれない。
 平穏の大切さを知り、望む人間と言うのは須くして頭に御花が咲いている人か……決して人には言えぬ物を見た、抱えた、知った者のみかだ。
 だとしたら、彼女は自分などより非常に心の強い存在だ。
 まるで目の前の自分がチンケな存在にされてしまう程に。
 
 
 
    
    
    
    
    
    
    
    
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