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『劇場版プリキュア』を楽しもう!
1
:
運営
:2013/02/17(日) 18:03:31
プリキュアシリーズの映画及び、オールスターシリーズの映画について語り合うためのスレッドです。
ネタバレな話題もOKです。また、これらの映画に関するSSと感想もこちらにてお願いします。
掲示板のローカルルール及び、保管庫【オールスタープリキュア!ガールズSSサイト】(ttp://www51.atwiki.jp/apgirlsss/pages/1.html)のQ&Aを読んで下さい。
※映画の視聴が未だといった方は、閲覧されないようにご注意お願いします。
52
:
名無しさん
:2014/10/21(火) 21:44:57
>>51
おひさです。
そうか〜面白そうとは感じてたけど、やっぱり面白いのか。
BD販売まで待とうかと思ったけど、観に行くかなあ。恥ずかしいけど・・・。
53
:
名無しさん
:2015/03/08(日) 10:04:56
今日の姫プリのオープニング、映画仕様になってたけど、そこにイース様の映像が!
もうこれだけで三回は観に行く理由が出来た。
54
:
名無しさん
:2015/03/09(月) 22:07:49
イース様は映画初登場ですよね!
個人的には舞の体操着姿がツボです。オールスターだと等身が伸びてスタイルアップ!
せっちゃんはなんか幸薄そうなんですけど……
のぞみ、髪伸びた?女らしくなったというか、去年に引き続き絶好調のような気がします。
きっと、シャンプーを変えたんだと思います。
55
:
makiray
:2015/04/15(水) 23:35:16
どうも、makiray です。
毎年恒例 (ぇ)、オールスターズ映画にキュアエコーが登場するパラレル版を投下させていただきます。
いつものごとくダラダラと長いので分割しますが、大量投下になる見込みですので (汗)、二週間ほどかけてチビチビと、という感じで行きたいと思います。
保管は一括でやっていただけると嬉しいです。
タイトルは「Echo, Next Stage -プリキュアオールスターズ 春のカーニバル V1.1-」。
しばらくお付き合いください。
56
:
makiray
:2015/04/15(水) 23:36:43
Echo, Next Stage (1/17)
-----------------------
「おひとり様ですか…」
オドレンは坂上あゆみに対して不躾な視線を投げてよこした。
「一人じゃない。三人だ!」
グレルが怒鳴る。エンエンは隣でハラハラしていた。
春のカーニバルに招待されたあゆみとグレル、エンエンはハルモニア王国に到着したところである。
「お前、まさか、天下のキュアエコーを知らないって言うんじゃないだろうな!」
「天下の、って…」
あゆみが困ったように笑う。
オドレンは上を見て考えているようだった。
「確かに、聞いたことはあります。横浜の街を救ったんだとか」
「この人はちゃんと覚えててくれてるよ、グレル」
エンエンが嬉しそうに言った。
「じゃぁ、通っていいんだよな」
「それは、まぁ」
「歌って踊っていただくことになりますが、大丈夫ですか?」
「あ、それはちょっと…」
ウタエンの同じく不躾な言葉に尻込みするあゆみ。
「なんだよ。招待しておいて、そんなことまでやらせるつもりか」
「グレル、落ち着いてよ」
「まぁ、結構です。
妖精のブースに席をご用意しましょう。一緒にご覧になってください」
「わかればいいんだよ、わかれば」
こちらへ、と案内されて歩き出す。
「あゆみ、帰ったら歌とダンスの練習するぞ」
「え、あたしが?!」
「そうだよ。あんなやつらにバカにされて悔しくないのか。俺がみっちり仕込んでやる」
「グレルが…?」
「文句あんのか?」
あゆみの母が外出しているときに、ダンスのゲームをやってみたことがある。グレルのダンスは、ダンスというより元気に暴れているだけのようにしか見えなかった。それはそれで可愛いらしいのではあるが。エンエンは動きが軽やかで意外に上手い。
「じゃぁ、教わろうっかな」
「おう。覚悟しとけよ」
あゆみとエンエンは顔を見合わせて笑った。
ブースに入ると、既に着席していた妖精たちがざわめいた。
「キュアエコー…」
「キュアエコーだ」
「え?」
あゆみが、その雰囲気に困惑している間に、わーっと妖精たちが殺到した。皆が「こんにちは」「はじめまして」と口にする。あゆみはそれをおうむ返しにするのがやっとで、名前を覚えるのは無理だった。
「あゆみちゃん、すごい人気だね」
「そりゃそうだ。俺たちのキュアエコーだからな」
グレルが胸を張る。
キュアエコーが活躍することは多くないし、プリキュア教科書に載ったのも最近のこと。グレルやエンエンと出会ったことで意識して変身することができるようにはなったのだが、キュアエコーは文字通りの「伝説の戦士」なのだった。
「グレルだ」
「エンエンだ」
自分たちでプリキュアを探し、自分たちでプリキュアの妖精となった二人も同じように人気者だったらしい。エンエンは照れていたが、グレルはますます胸を張ることとなった。
57
:
名無しさん
:2015/04/16(木) 09:44:22
>>56
待ってました、makirayさんのエコーSS!
続き正座で待機しておりますw
58
:
makiray
:2015/04/17(金) 00:02:50
Echo, Next Stage (2/17)
-----------------------
「すげーっ!」
「すごいよ、グレル!」
ステージが中休みに入る。
あゆみも拍手が止まらない。
なんて素敵なんだろう。こんなに人を楽しく、こんなに人を笑顔にすることができるなんて。
(私もあんな風に歌ってみたい。ダンスをしてみたい)
以前のあゆみだったら「私になんかできるはずない」と言って何もせずに諦めたに違いない。だが、今は違う。やってみたい、やってみよう、と思っていた。グレルやエンエンと一緒に練習をして、来年のカーニバルには三人で出よう、そう決めていた。
「この俺を唸らせるなんて、大したもんだぜ」
「そう言えば、グレルの歌は聞いたことがないよ」
「バ、バッカ野郎。俺はダンスも歌もすごいんだぞ!
よし、聞かせてやる」
しかし、「あー」と言いかけたグレルはいきなり咳込んだ。
「グレル、大丈夫?」
「喉が渇いて調子が出ないんだ。歌は今度な」
「えぇぇ…」
「なんだ、その疑いのまなざしは」
「ジュース貰ってくるね」
あゆみが立ち上がった。
「俺が行くよ」
「いいよ。ここで待ってて」
ホールの外に出ると、オドレンが悠然と歩いていた。その後から、大きめの箱を持ったウタエンがついてくる。あゆみは、あの人たちは裏方もやってるのか、と驚いた。
「おや、キュアエコーさん。
楽しんでいただいてますか」
「はい。
一緒に歌って喉が渇いたので、飲み物を貰おうと思って」
「飲み物ですか。プリキュア自ら」
「友達の妖精がはしゃいで歌いっぱなしなんです」
「なるほど」
オドレンとウタエンがなぜか視線を交わす。
「あの。
飲み物はこちらの部屋ですよね」
「あ、えーっと」
なぜかウタエンが慌てているように見えた。
「こちらは妖精専用のお部屋なんですよ。ちょっとプリキュアには狭いので」
「はぁ…」
「こちらへどうぞ」
オドレンが恭しくドアを開けた。
「灯りが」
何も見えない。真っ暗だった。
「高級店の雰囲気を狙ってみたんですよ。さぁ、どうぞ中へ」
お香を焚いたような匂いがする。あゆみの足がなぜか動くことを拒んだ。この中に本当にジュースやお菓子が並んでいるのだろうか。
「遠慮せずに、どうぞっ!」
不意に背中を押されて、あゆみの体が中に飛び込む。そこに何があるのかを見て取るより先に、ドアが閉められた。また暗闇。そして、鍵をかける音。
「オドレンさん、ウタエンさん!
開けて!
出してください!」
扉は思っていたよりも重い。ビクともしなかった。靴音と、低い笑い声が遠ざかっていく。あゆみは何度もドアを叩いた。
「開けて!
開けてください!
開け…て…」
59
:
makiray
:2015/04/17(金) 22:55:17
Echo, Next Stage (3/17)
-----------------------
「兄貴、いいんですか。あのドアを叩く音で誰かが気づいたら」
「あそこは元々、城の衛兵どもを閉じ込めておこうと思って、春眠草の鉢を並べてある。いつまでも起きてはいられんさ」
「それにしても面倒なプリキュアですねぇ」
「まったくだ。妖精から離れようとしないんだからな。まぁ、逆に言えばグレルとエンエンは放っておいてもよくなったってことだな。ほかのプリキュアどもへの目くらましになるだろう」
「手間が省けましたね」
「さて、変身アイテムは後いくつだ」
「もう少しです」
「いくつだって聞いてるんだ!」
「あ痛」
「遅いな。俺はもう喉がカラカラどころかガラガラだ」
「どうしたんだろう」
エンエンは周囲を見回した。ステージが一段落したのは確かだが、なんだか静かすぎる。
「俺はあゆみのことは大好きだけど、もうちょっとキビキビして欲しいと思うことはあるぞ。これは一度ビシっと言ってやらないとだめだな」
「ねぇ、グレル。妖精の数が減ってるような気がするんだけど」
「え?」
言われて見てみると、いくつかのブースに分かれて座っている妖精たちの何人かの姿が見えなくなっている。どのブースにも空席が目立つようになっていた。
「失礼な奴らだな。せっかくプリキュアが俺たちのためにショーを見せてくれてるのに」
「グレル…」
エンエンがじっと見ている。その目は不安のために濡れ始めていた。
「泣くなよ、こんなとこで!」
「でも」
グレルは腕を組んだ。改めて周りを見る。確かに妙だ。それと、あゆみが戻ってこないこととは関係があるのだろうか。
「臭いな」
「あゆみちゃんを探しに行こうよ」
「そうするか」
そのとき、オドレンとウタエンがホールに飛び込んできた。大きな袋を持っている。その後から、プリキュアたちが追いかけて来る。
「私たちの変身アイテムが盗まれたんです!」
「なんだって?!」
グレルとエンエンは顔を見合わせた。あのふたりは悪い奴だったのだ。そして、あゆみが戻ってこないこととは何か関係がある。
「エンエン、行くぞ!」
立ち上がると同時に床が動いた。妖精たちのブースが壁に吸い込まれていく。向かいのブースの妖精たちはその中に閉じ込められてしまったようだが、すでに立っていた分だけ、グレルとエンエンの動きは早かった。足元の床が滑る中、バランスを取って外に出る。他の妖精たちもそれに続いた。
「あゆみちゃん!」
「俺たちが行くからな!」
60
:
makiray
:2015/04/18(土) 22:51:47
Echo, Next Stage (4/17)
-----------------------
〈許…ん〉
その声は突然、頭の中に響いた。
〈許さ…ぞ!〉
「!」
あゆみは飛び起きた。だが何も見えない。不愉快な甘さの香りが充満している。頭の中の靄を払おうと振ってみたが、頭痛が増しただけだった。
(そうだ。
オドレンさんとウタエンさんに閉じ込められたんだ)
あのふたりは何か企んでいる。みんなに知らせなければ。
体が重い。あゆみはゆっくりとあたりを見まわした。光が漏れている場所がある。言うことを聞かない体を引きずって近づいてみると、そこはどうやら扉だった。隙間から外の光が差し込んでいるのだった。幅はほんの数ミリというころか。叩こうにも体が動かない。力が入らないまま押してみたが、扉はびくともしなかった。
(さっきの声は)
怒りを帯びた恐ろしい声。あれは何だったのだろう。
キュアエコーとなってから、人の強い気持ちが飛び込んでくるようになった。それは怒りであったり、悲しみであったりと様々だったが、あそこまで強い怒りは初めてだった。
〈春…カーニバ…は古来……受け…がれてきたもの。儂はそれと……換えにこ…ハ…モニ……国を外…から守っ……た。それ…蔑ろにす……はどう……つもりだ、人間…も!!〉
あゆみは息苦しさを感じた。それはこの不快な匂いのせいだけではない。この声の持ち主が発する激しい怒りがあゆみの呼吸を奪ったのだ。
とぎれとぎれの言葉の中からその意味を想像してみた。どうやら声の主は、「春のカーニバル」を楽しみにしていたのだが、それに不満を持っているのだ。
あゆみは扉に体を押し付けた。この隙間から入ってくるわずかな風がこの部屋の匂いを薄めてくれるのではないかと思った。考えなければ。
「春のカーニバル」を台無しにしたのは誰だ。これははっきりしている。オドレンとウタエンだ。彼らが何をしようとしたのかはわからないが、招待した相手を閉じ込めておくことが「カーニバル」の本来の姿であるはずがない。
〈…!!〉
一瞬、呼吸が止まったかと思った。その怒りに強さに喘いだあゆみの口の中にまた甘い匂いが飛び込んできた。あゆみは朦朧とし始めた意識を取り戻そうと唇をかんだ。この怒りを放っておけば恐ろしいことが起こる。
(待って!
お願い! 待ってください!!)
〈なんだ〉
(…届いた)
あゆみの声が届いたらしい。
〈何者だ。
なぜ姿を隠している。儂から隠れようとはいい度胸だ〉
(私の名前は、坂上あゆみ。
あなたの声が聞こえたので――)
〈人間か。
人間風情が儂と話をしようなどと、笑止千万。
己の不遜を思い知るがいい!〉
(やめて!!)
61
:
makiray
:2015/04/19(日) 22:59:31
Echo, Next Stage (5/17)
-----------------------
「グレル!」
城を出て走り回る妖精たち。エンエンの悲鳴に足を止めると、城のはるか遠くに、遠近感を失わせる巨大な影があった。
「ドラゴン…」
頭が空転する。泥棒の次は怪獣か。ハルモニアでは一体、何が起こっているのだ。
〈滅びよ、人間ども!〉
その声自体が破滅をもたらす災いだった。
ドラゴンが声とともに発した息は、まるで壁が迫ってくるかのような勢いでやってくる。
「みんな、捕まるんだ」
「手をつないで!」
グレルとエンエンが叫ぶ。他の妖精たちは慌てふためいていたが、そう言われてある者は柱に抱き付き、届かない者はお互いに手をつなぎあった。そこはやはり、プリキュアとともに戦いを経験したふたりにしかない余裕だったのかもしれない。
「来るぞ!」
それは嵐のようだった。妖精たちの体は枯葉のように翻弄されたが、その小さな体は逆に荒れ狂う風に逆らわず、うまく力を逃がしていた。
だが、その嵐は石で造られた頑丈な建物をも崩してしまう。
「あ!」
「こっちだ!」
妖精たちが必死に手を伸ばす。その手が奇跡的につながった。歯を食いしばる妖精たち。それはまるで折り紙で作ったリボンのようだったが、激しい嵐の中でその飾りを見ることができる者は誰もいなかった。
やがて、何時間も続いたかと思われる嵐が収まった。どうやら、飛ばされてしまった妖精はいないようだった。エンエンはほっと息をついた。
だが、城の様子は惨憺たるものだった。高い塔は倒れ、頑強だった塀は崩れ落ちている。プリキュアは、ほかの妖精たちは一体どうなったのだろう。
「あれ…なんだ?」
何かが光っている。瓦礫の隙間から金色の光が漏れていた。グレルとエンエンはゆっくりと近づいた。
「掘ってみるぞ」
「危ないよ」
「誰かが埋まってるかもしれないだろ」
「でも、その光…あれ、どこかで見たような」
62
:
makiray
:2015/04/20(月) 22:51:24
Echo, Next Stage (6/17)
-----------------------
「俺が掘り出す前に思い出せよな」
グレルはその小さな山によじ登ると瓦礫を取り除き始めた。他の妖精も手伝い、バケツリレーのようにしてよけていく。
「あ、わかった!」
「何の光だよ――あ!」
「フーちゃん!」
「あゆみ! うわっとっと」
がれきの中から金色の光に包まれたあゆみが姿を現した。丸い光は自ら瓦礫を押しのけていく。グレルは慌てて飛び降りた。
「あゆみ!
あゆみ!!」
「…。
グレル、エンエン。
無事だったのね」
「こっちのセリフだ!
どこほっつき歩いてたんだよ。妖精に心配かけんじゃねぇよ!」
あまりの剣幕に目を丸くしていたあゆみだが、グレルの目じりが濡れていることに気づいて頬を緩めた。
「ごめんなさい。
ありがとう」
「何言ってるんだよ。こっちも大変だったんだぞ!」
「そうだ。
ウタエンさんとオドレンさんは?」
「あいつら、泥棒だったんだよ。プリキュアの変身アイテムを盗んで」
「グレル、今はそれよりドラゴンの方が」
「ドラゴン?」
あゆみはエンエンの視線をたどって振り向いた。そして理解した。そのドラゴンが、あの怒りの声の主だった。
ゆっくりと立ち上がる。その動きにつれてあゆみの体から金色の光がこぼれた。
「あのドラゴンは、このハルモニア王国の守り神。
毎年行われる『春のカーニバル』が邪魔されたことで怒っているの」
「そんなことで?!」
小さな妖精があゆみのもとにかけよった。
「言い伝えでは、あのドラゴンは昔のハルモニア王国を滅ぼしかけたことがあるルモ」
どうやらハルモニア王国の妖精らしかった。その恐ろしさを知っているのか、声が震えている。
「ドラゴンの大好きな歌とダンスを毎年捧げることで、ハルモニアの守り神になることを約束したのよ。
それを裏切られた、と思っているの」
「まったく肝っ玉の小せぇやつだな」
「でも、約束を破られたら怒るのも当然だよ」
「話を聞いてもらわなくちゃ。
グレル、エンエン、お願い」
「おっ、やっとキュアエコーのお出ましだな!」
「行こう!」
(フーちゃんも、お願いね)
あゆみは、フーちゃんが姿を変えた胸元のキュアデコルに手を当てた。
それには多くのエネルギーを必要とした。そのためキュアデコルになってから眠り続けていたフーちゃんは、あゆみが閉じ込められていた部屋が崩れたときにその危機を察知して目覚め、金色の光であゆみを守った。その一瞬、それまで切れ切れにしか聞こえなかったドラゴンの声がはっきり聞こえた。ドラゴンの激しい怒り、深い悲しみと絶望が伝わってきた。
できるだろうか。いや、やらなければ。
ハルモニア王国の妖精たちは震えながらも祈りをささげていた。それは、崩れ落ちた建物を透かして見えるハルモニアの人々たちもそうだ。彼らにはドラゴンを裏切るつもりなどなかった。逃げ出そうともせずに、膝まづき、許しを請おうとしている。
(その気持ちを届けるのが、私の役目。
キュアエコーの力はそのためにある!)
手を伸ばす。右手にグレル、左手にエンエン。
フーちゃんのキュアデコルから滲み出す光が金色のトライアングルを形作る。
それが破裂した。
「思いよ届け!
キュアエコー!」
63
:
makiray
:2015/04/20(月) 22:53:05
Echo, Next Stage (7/17)
-----------------------
「え?」
「あれ、なに?」
お城のテラスに集まっていたプリキュアの視線が空に向かった。
「泥棒とドラゴンの他にまだ誰かいるの?!」
キュアフローラがパニックを起こして叫ぶ。
「あの光は、敵ではないようです」
「プリキュアっぽいよね」
キュアマーメイドとキュアトゥウィンクルが言った。
白いドレス、淡いクリーム色の髪。
「キュアエコーではありませんか?」
「あゆみちゃん!」
キュアビューティが指をさす。キュアハッピーの目が輝いた。
「あゆみちゃんもカーニバルに来てたんだ」
キュアピースが言うと、キュアマーチとキュアピースがキュアハッピーを睨んだ。
「え」
「せやから、あゆみも誘おて言うたやろ!」
「だって、招待状を見たらすぐにでも行きたくなっちゃって…ごめんなさい」
キュアマーメイドとキュアトゥウィンクルが振り向いた。
「キュアエコーは何をしようとしているのですか?」
「キュアエコーは、思いを届けるプリキュア。
きっとドラゴンを説得しようとしてるんだと思う」
キュアハートが答えると、キュアフローラが力んだ。
「私も行く」
「いえ、様子を見ましょう。
大勢で行くと、ドラゴンを刺激することになるかもしれない」
キュアマーメイドに止められ、キュアフローラは不満そうだった。
「任せていいのかな」
キュアトゥウィンクルの問いに、すべてのプリキュアが頷いた。
64
:
makiray
:2015/04/21(火) 22:48:02
Echo, Next Stage (8/17)
-----------------------
〈生きていたのか〉
「お願いです。聞いてください」
〈聞かん〉
「ハルモニアの人たちは、あなたを裏切るつもりはなかったんです」
〈だが、春のカーニバルは穢された〉
「それは泥棒が」
〈ハルモニアはその悪事がなされることを許したのであろう〉
「…」
〈過ちは償われねばならん〉
「私は、あなたの」
〈気持ちがわかるとでも言うのか〉
キュアエコーはまた口をつぐんだ。
フーちゃんとつながった瞬間に流れ込んできたドラゴンの意思。それは、深い悲しみと絶望で満たされていた。
腕をほんの少し振っただけでも家が倒れ、尻尾のうねりだけで町がひとつ破壊されてしまう。ドラゴンは自分の居場所を求めていた。だが、求める行為そのものが人々の暮らしを脅かすのだ。ドラゴンは、矢を射かけられ、体を焼かれた。仲間もいない。それどころか、自分がいつどこで生まれ、なぜそのような姿をしているのかもわからない。心がささくれだっていくのは当然のことだった。やがてドラゴンは、人々から「怪物」「化け物」と呼ばれるようになった。
そしてさまよい続けたある日、ハルモニアの外れにたどり着いた。音楽があふれ、人々がダンスを楽しむ、常にどこかで祭が行われている喜びの国、ハルモニア。そのメロディを耳にし、リズムを感じたドラゴンは、自分でも知らない内に祭が行われている広場に近づいて行った。
人々が恐慌状態になったのは言うまでもない。母親は子供を守るために安全な場所を求めて走り、夫は妻を守るために武器を手に取った。
ドラゴンは言った。
〈歌は終わってしまったのか〉
65
:
makiray
:2015/04/21(火) 22:49:35
Echo, Next Stage (9/17)
-----------------------
「なんだと?」
国王は自分の耳を疑った。いや、その声は耳から聞こえたのではなく、心に直接響いたのだから、間違っているはずはない。しかし、怪物が音楽を求めているなど誰が信じられるだろう。
信じられないでいるのはドラゴンも同じだった。音楽がこれほど自分の心を明るくするものだとは。ダンスがこれほど気持ちを浮き立たせてくれるものだとは。もっと聞きたい。もっと見たい。歌ってくれ。踊ってくれ!
祭の中心である祭壇にいた国王は進み出た。
「歌が好きか」
〈あぁ〉
「ダンスが好きか」
〈あぁ〉
「しかし、お前が歌えば嵐が起こる。お前が踊れば大地が裂ける」
〈お前たちの美しい歌と、朗らかなメロディを聞かせてくれ。飛びまわるお前たちの笑顔を見せてくれ。俺はそれで十分だ〉
国王は、彼の背中で武器を取り怯えている人々を見た。
〈俺はもとより化け物。詩を紡ぎだす舌も、軽やかに跳ねる爪先も持ってはおらん。
だが、歌はいい。ダンスは素晴らしい。それがあれば、俺は自分が化け物であることを一時だけでも忘れることができる。
頼む。祭を続けてくれ。その間、動くなと言えば動かぬ、石になれというのなら石にもなる。
祭の間、俺がここにいるのを許してくれ〉
王はドラゴンを見ていた目を怯えている人々に移した。そして、もう一度、ドラゴンを見る。
「ドラゴンよ。
この国にとどまる気はないか」
人々は抗議の声を上げた。
「ハルモニアにはお前の好きな歌とダンスがある。
しかし、この喜びに満ちた国を脅かすものも少なくない」
〈俺に、この国の盾となれと言っているのか〉
「難しいことではあるまい。その巨体を見せれば、大抵の者は怯えて引き下がろう」
〈この醜い体が人間の役に立つのなら。
この化け物が、歌を聴く場所を用意してくれるのなら〉
「ドラゴンよ」
国王は周りを見渡した。むしろ、人々に向かって話しているようだった。
「自分を化け物と言うが、お前が本当に化け物だとは私には思えん。
化け物が、歌が止まったと言って泣いたりするものか」
〈ナイタリ…それは俺の知らない言葉だ〉
ドラゴンは自分の目から涙が流れていることに気づいていなかったのだった。それは、ハルモニアの人々の歌とダンスが呼び覚ました、ドラゴンの中の傷を洗い流すための涙だった。
国王が笑う。人々もそれに気づいて武器を置いた。
「さっきも言った。この国には歌とダンスがあふれている。
だが、毎年春に、お前のためにカーニバルを開こう。人々がただひたすら歌い、踊り、笑顔となるカーニバルだ。
あるいは、遠来の客が一緒に声を揃えることもあろう。新しい踊りをもたらしてくれることもあろう。
お前のためのカーニバルだ。それと引き換えに、このハルモニアを守ってくれ」
〈王よ。
その祭を千年も繰り返せば、お前たちの歌と踊りで俺が浄められ、俺が化け物でなくなる日も来るのだろうか〉
「わからんやつだな。
お前は化け物ではない。
ハルモニアの守り神になるのだ」
66
:
makiray
:2015/04/21(火) 22:52:54
Echo, Next Stage (10/17)
------------------------
キュアエコーは唇をかんだ。
そのすべてが否定された。ドラゴンはそう思っているのだ。
また再び居場所を失い、人々の憎しみの対象となる日が来る、それを恐れているのだ。
そう。ドラゴンは、怒っているのではない。悲しいのだ。絶望しているのだ。
(どうすれば…!)
ドラゴンは口を開けた。その奥に真っ赤な炎が見える。
〈あゆみ!〉
大きな火の玉がキュアエコーの体を包んだかに見えたが、フーちゃんの金色の光がその直撃をかろうじて防いでいた。しかし、自らキュアデコルになるために力を使ったフーちゃんはまだ十分に回復してはいない。その光はか弱いものだった。
〈あゆみをいじめるやつは許さない!〉
「フーちゃん、無理しないで。私、大丈夫だから」
〈あゆみ…〉
「大、丈夫…」
「エコー!」
真っ赤な炎に包まれたキュアエコーの体が支えを失って落下し始めた。
「あゆみ!」
「グレル、あゆみちゃんが!」
「行くぞ」
その小さな体でどうしようというのか。それでも黙ってはいられない。走り出そうとしたグレルとエンエンの後ろで声が上がった。
「ルモー!」
ハルモニア王国の妖精たちだった。彼らは、さっきと同じように手をつないでいた。
違うのは、そうしてできた輪の上を光が流れていることだった。
「キュアエコーはハルモニアのために頑張ったルモ!」
「だから今度は僕たちが頑張る番だルモ!」
「キュアエコーと一緒に!」
光の輪は大きく太くなった。七色の渦を巻き、そのまぶしさに辺りが暗く見えるほどだった。グレルとエンエンもその輪に加わった。
「キュアエコー!」
「俺たちの力を!」
「受けとって!」
ポン、と音がしてその光の輪が浮かび上がった。それは落下してくるキュアエコーの体を迎えるように飛んでいく。
「!」
キュアエコーの体はその輪の中央で落下を止めた。光の輪は脈動しながら、小さくなっていった。キュアエコーの体の周りをまわっている。そして、まばゆい閃光があたりに飛び散った。
「あれは…」
67
:
makiray
:2015/04/22(水) 23:04:39
Echo, Next Stage (11/17)
------------------------
キュアエコーの白いドレスがまっすぐに伸びる。それは青い空の上でたなびいた。
クリーム色の髪の周りで金色の輪が太陽の光を反射する。
「あれって…」
「妖精たちの力で、キュアエコーが」
「キュアエコー プリンセス・フォームです!」
「キュアエコー プリンセス・フォーム?」
キュアエコーの体は再びゆっくりと浮かび上がった。ドラゴンの顔の正面で止まる。
〈お前は、一体、何者なのだ〉
「私はキュアエコー。
思いを届けるためのプリキュアです」
〈思い、だと?〉
「ハルモニアの人たちが見えますか。
あなたのために祈っているのが」
〈儂に見えるのは、儂の姿に怯える弱い人間の姿だけだ〉
「違います。
望んだことではなくとも、あなたとの約束を破ってしまってことを悔いて、謝るために祈っているんです」
〈儂をたばかるつもりなら〉
「あなたを恐れていたら、あそこにとどまったりはしません!」
もろくなっていたレンガが崩れる。人々は、それに巻き込まれることを恐れて場所を変えたが、そこを離れようとはしなかった。
「私は感じます。
ハルモニアの人たちの、自分たちを守ってきてくれたあなたへの感謝と、それに報いることができない口惜しさ、カーニバルを穢してしまった自分たちへの憤り」
〈…〉
「これを言ったらあなたは怒るかもしれない。
私も自分が一人だと感じていたことがありました。誰も私を見てくれない、私なんかいなくなってもいいんだって。それがもとで大きな過ちを犯してしまいました。
でも、それはただの間違った思い込みだった」
〈…〉
「自分が心を閉ざしていただけだったんです。
お母さんはいつも私のことを考えてくれていたし。
新しい学校のクラスメートたちは、私に話しかけるきっかけを探してくれていた。
そして、フーちゃんは、私のためならどんなことでもすると言ってくれた。
グレルとエンエンは、私と一緒に戦おうと言ってくれた」
〈同じだというのか〉
「気づいてあげてください。
ハルモニアの人たちは、あなたのことが大好きなんだっていうことに」
王が祈っている。女王が両手を合わせている。ふたりは、ひとたびドラゴンが口を開けば、今度こそ崩れてしまうに違いないテラスにとどまっていた。
ハルモニアの人たちは、形を失ってしまった自分の家のそばで頭を垂れていた。
閉じ込められてしまった妖精たちは、必死にその声を届けようと頑張っていた。
そして、それを支え、助けようとしている四十人の光の使者たち。
〈そうか…〉
「わかって――」
〈だが、遅すぎたようだ、キュアエコー〉
「どういう…ことですか」
〈ひとたび咆哮を上げて絶望と怒りに委ね、獣に戻ってしまったこの身はどうにもならん〉
「え…」
〈見えぬか。
儂の心の臓で生まれた、この世を煉獄に変える炎が〉
ドラゴンの胸を透かして赤い光が脈打っているのが見える。
〈所詮、儂は化け物、理屈の通らぬ怪物だ。お前の言うことはわかったし、今ではハルモニアの者たちの後悔もわかる。
だが、この炎を消すことは、もはや儂にもできん〉
「待ってください。私たちが」
〈いや、儂はもう儂ではなくなろうとしている。この邪悪…炎は、な……してもこの世…焼き尽…さんと、わ…の体を乗…取ろう……ている。こ…してお前と話…て……間にも、わ…の心をむしば…、内…から突…崩そ……〉
「守り神様」
〈す…ぬ。ハルモニア…裏切る…は儂…方じゃ。
下…れ。お前…で焼か…てし……ぞ〉
「守り神様!」
〈のけ、キュアエコー!〉
68
:
makiray
:2015/04/23(木) 22:14:22
Echo, Next Stage (12/17)
------------------------
「キュアエコーが!」
「マーメイド、トゥウィンクル!」
「待ってください、飛び出してはみなさんまで」
キュアフローラは止めるキュアブロッサムに言った。
「キュアエコーが言ったじゃないですか。私たちは同じなんです。ときどきは失敗して迷惑をかけちゃうこともあるけど、歌とダンスが大好きで、それがあれば元気をもらってまたやり直せる。
きっとわかってくれます」
「行こう」
プリンセスプリキュアの三人がジャンプした。
ドラゴンの口を裂くようにして、巨大な火球が飛び出した。それはあたりの景色を蜃気楼のように揺らしながら次第にスピードを増して襲い掛かってくる。
「プリキュア ハートフル・エコー コルティーナ!」
波打つ光のカーテンがキュアエコーの前に生まれる。カーテンは一時、その火球を柔らかく包みこみ、力を逃がそうとするかのように揺れたが、火球の威力は想像以上だった。光のカーテンを支えるキュアエコーの顔が歪んだ。
「プリキュア ミント・プロテクション!」
「プリキュア サンフラワー・イージス!」
「プリキュア ロゼッタ・ウォール!」
「プリキュア ビート・バリア!」
地上のプリキュアたちがバックアップする。キュアエコーのカーテンは厚みを増したが、火球の力は衰えなかった。
「マリン、ビューティ、ダイヤモンド、プリンセス、私たちの力で」
「前に出てはだめです!」
キュアアクアたちはその火球を冷却することを考えたが、キュアエコーの声に止った。見れば、ドラゴンの足元は黒く焦げて煙を上げており、火球の真下の海は沸き立ち始めていた。
「なんてエネルギーなの…」
キュアホワイトが呆然とつぶやいた。
「あたしたちの力、ぶつけてみる?」
キュアルージュはキュアドリームを見る。
しかしキュアソードが、危険すぎる、とつぶやいた。力と力がぶつかって大爆発が起こるか、あるいは、逆にあの火球に取り込まれてしまうかもしれない。
「クローバーボックスで動きを止められるかも」
「完璧に止めてみせる」
「できるって、私信じてる」
「精いっぱい頑張る!」
「通用しないかもしれません」
「どうして?!」
キュアエースの言葉に、キュアピーチがかみついた。
「悪意がないからですわ」
「え?」
「プリキュアの光は癒しと浄化の光。
キュアエコーの言うとおり、本当にドラゴンが怯えているだけであり、あれが邪悪な意思を持っての行いではないのであれば、プリキュアの力は通用しません」
「どうすればいいんですか!」
キュアレモネードが叫んだ。
「守り神様!」
キュアフローラたちがキュアエコーに並んだ。
「私たちも歌とダンスが大好きなんです!」
「みんなの歌声をハルモニアに響かせたい!」
「素敵なステップでハルモニアを埋め尽くしたい!」
答えはなかった。
今やドラゴンの目は濁った赤で塗りつぶされている。そこに「守り神」の面影はなかった。
「お願い、負けないで」
キュアエコーの頬を涙が伝った。
「私にだってできたんです。
あなたにできないはずがない。
自分に負けないでください!」
「ハルモニアの人たちもあなたが大好きなの!」
「みんな、あなたが戻ってくれるのを待っています!」
「わかんないの? みんなの声が聞こえないの?!」
「く…」
キュアエコーがまっすぐに伸ばしていた腕は、火球の勢いに押され、曲がっていく。体勢を変え、右手で左腕を支えようとしたが、その一瞬が隙となった。
69
:
makiray
:2015/04/24(金) 22:49:36
Echo, Next Stage (13/17)
------------------------
「エコー!」
禍々しくも燃え上がる火球は、光のカーテンの中へ潜り込み、まるで包み紙の中のキャンディのように見えた。だがそのキャンディは、光のラッピングを燃やしていく。ミントの緑が消え、ヒマワリの花びらが散り、金色の壁が砕けた。
「エコー!!」
キュアフローラが空を蹴った。キュアマーメイドが続き、キュアトゥウィンクルが追いかける。
「!」
「みんな!」
地上のプリキュアたちと妖精たちは言葉を失った。
「え」
「消えた」
そこには何もなかった。
火球も、光のカーテンも。
「どういうこと?!」
「フローラ!」
「マーメイド!」
「トゥウィンクル!」
「エコー!!」
「そんな」
「…。
あれ。あれ見て!」
空中の小さな点が大きくなってくる。キュアフローラだった。キュアマーメイドとキュアトゥウィンクルと一緒に、キュアエコーの体を支えている。
「大丈夫なの?」
言うまでもない、キュアフローラの安堵したような笑顔が、キュアエコーが無事であることを示している。
「ハニー、お願い!」
キュアラブリーがそれを迎えようとジャンプした。キュアハニーのバトンは優しい光でキュアエコーを癒していく。
「エコー。
エコー!」
「あゆみちゃん!!」
グレルとエンエンが駆けだす。
キュアフローラたちはゆっくりとテラスに着地した。キュアエコーの体を横たえる。
「エコー、大丈夫?」
「あゆみ!」
「うん…」
「あゆみちゃん…あゆみちゃん…あゆみちゃん!」
「すげぇよ、やっぱ、俺たちのキュアエコーは最高だぜ!」
エンエンが泣き出し、グレルも泣き顔のまま手を天に突き上げた。
「フローラさん、光は、無事ですか?」
「光?」
キュアフローラが、キュアエコーの言ったことを理解できず、近づこうとしたとき、足元でかすかな音がした。
70
:
makiray
:2015/04/25(土) 22:49:00
Echo, Next Stage (14/17)
------------------------
「あれ」
それを拾い上げる。
「ドレスアップキー?」
キュアフローラたちが変身の時に使うドレスアップキーによく似ている。
振り向くと、キュアマーメイドとキュアトゥウィンクルも同じようなキーを手にしていた。
「いつの間に」
「エコーからのプレゼント?」
「それは、ドラゴンの光です」
「ドラゴンの…光?!」
キュアフローラが意味を理解できずに叫ぶ。それはほかのプリキュアも同じようだった。
「わかった」
エンエンだった。涙も拭かずに話し始める。
「きっと、ドラゴンの火球に込められていた絶望と恐れがそれに変わったんだ」
「…。
そうか、エコーだから!」
グレルがうれしそうに飛び上がった。
「どういうこと?」
キュアトゥウィンクルが覗き込む。
「だから、エコーだからだよ」
「わかんないよ」
「鈍い奴だな!」
「なんですって?!」
「こういうことですか。
エコー、つまり、山びこは、私たちの声が山肌に跳ねかえってきたもの。
ドラゴンの火球がハートフル・エコー コルティーナで跳ね返されて逆転してできたのが、このドレスアップキーだ、と」
「あ、絶望が希望に、ってこと?」
キュアマーメイドの説明に、キュアトゥウィンクルが答えた。
「そして、恐れが思いやりに、怒りが優しさに変わったんだ」
キュアフローラは自分の手の中のドレスアップキーを見つめた。
「みなさん」
キュアエコーはグレルとエンエンの力を借りながら立ち上がった。
「ドラゴンは、自分の中にはまだ、ドラゴン自身が制御できない邪悪な部分が残っている、と言っていました。恐れもまだ完全には消えていないはず。
それを浄化してあげることはできませんか」
プリキュアたちは海の向こうのドラゴンを見やった。確かに、さっきと同じように、まだ小さくはあるが、胸の部分に赤い炎が透けて見えた。放っておけば、さっきのような大きな火球になる。今度こそ防ぎきれないかもしれない。
「やろう」
キュアフローラが言った。
「守り神様だって、こんなことしたくないんだもん」
「王陛下も、ハルモニアにはなくてなならない存在だとおっしゃっていたわ」
「それに、このドレスアップキーはドラゴンの中から出てきたようなもんなんでしょ。返さなきゃね」
「うん!」
71
:
makiray
:2015/04/26(日) 22:15:43
Echo, Next Stage (15/17)
------------------------
「フローラ」
キュアブラックの声に、みなが道を開けた。
「あたしたちの力も使って」
腕を伸ばすキュアブラック。その手から滲み出した光がキュアフローラの周りをめぐった。
シャイニールミナス、キュアブルーム、キュアイーグレットが続く。すべてのプリキュアの光が城のテラスを満たし、ドレスアップキーに吸い込まれていく。
「俺たちの力も使っていいぜ。なぁみんな?」
「使うルモ!」
そしてすべての妖精たちの光もそれに加わる。キュアフローラは、ドレスアップキーから伝わってくるぬくもりに目を閉じた。
「あたたかい…」
「フローラ」
「行こう」
「うん。
エクス-チェンジ」
「モード・エレガント!」
プリキュア、そして妖精たちは伸ばした手をドラゴンに向けた。
(お願い。
歌とダンスが大好きだったあなたに戻って)
(みんな待ってるの)
(そして一緒に歌おう!)
「プリキュア サンテーヌ・ルミエール!!」
光はテラスの上で破裂したかと思うと、ドラゴンの頭上で凝集した。雨のように光の粒が降り注ぐ。ドラゴンは突然のことに驚いたようだったが、やがて手の鉤爪をおさめ、太い尻尾を横たえ、両手をおろした。瞳に光が戻り、胸から透けて見えた炎も小さくなっていく。
そして、その姿自体も、まるで空に青い絵の具を塗ったように消えていった。
「ごきげんよう…」
72
:
makiray
:2015/04/26(日) 22:16:32
Echo, Next Stage (16/17)
------------------------
代わりに、ハルモニアの町に花びらが舞った。白、ピンク、黄色、青、紫。
「きれい」
キュアミューズが言った。
「ドラゴンの中にも、ちゃんと素敵なメロディがあるんだよ」
キュアメロディの言葉にキュアリズムが頷く。
その花びらが繋ぎ合わせたかのように、城や家、橋や道路が元に戻っていく。花びらが消える頃には、さっきまでのハルモニアが姿を現していた。
「やった…」
「後は」
「ギク!」
「あんたたちの始末よね」
ミルキィローズが見下ろす。すっかり腰を抜かしていたオドレンとウタエンは後ろずさった。何かにぶつかる。キュアムーンライトとキュアフォーチュンだった。
「あ…きれいな、おみ足で」
「ありがとう」
「王様のご機嫌もうかがった方がいいかもしれないわね」
「はは…。
ごめんなさいぃ!」
73
:
makiray
:2015/04/26(日) 22:18:01
Echo, Next Stage (17/17)
------------------------
「エコー」
エンエンが指差した。
「花びらがのってるよ」
「うん、きれいだよね」
「その肩のだよ」
グレルがにやっと笑った。
肩に手をやるエコー。広げてみると、カラフルな中に金色の花びらが混じっていた。
「こら、フーちゃん」
〈ふふふ〉
「疲れてるから休んでると思ってたのに」
〈なんだか楽しそうだから起きた〉
キュアエコーが笑う。
グレルとエンエンも嬉しそうに飛び跳ねた。
〈ドラゴンの声、聞こえたか?〉
「うん」
ありがとう。
ドラゴンはそう言った。
本当に、ドラゴンの中の「獣」の部分が消えたのかどうかはわからない。
だが、ハルモニアの人々は今度こそ「春のカーニバル」を大事に守り続けるだろうし、ドラゴンがそれに対する感謝を忘れることもないだろう。もう心配はない。
〈フーちゃんが時々遊んであげることにする〉
「うん」
「エコー、歌おうぜ!」
「みんなで踊ろう!」
〈フーちゃんも歌う!〉
「え、でも、まだ練習してないのに」
グレルとエンエンに手を引かれていくエコー。その後を金色の花びらが追いかけていく。
「パフも歌うパフ」
「お兄ちゃんを置いていくなロマ!」
城で。
町で。
家の中で。家の外で。
ドラゴンが守る大地で。
春のカーニバルがまた始まる。
74
:
makiray
:2015/04/26(日) 22:19:07
以上です。
長々と失礼しました。
75
:
名無しさん
:2015/04/27(月) 06:50:20
楽しませて頂きました。面白かった!
あゆみがドラゴンの気持ちに気づくシーン、こだまが返って来てから最後の浄化技、って辺りが特に好きです。
また来年の映画の時も書いて下さいね!!(気が早い(笑))
76
:
名無しさん
:2015/04/30(木) 22:14:42
>>74
「じゃぁ、教わろうっかな」←ここ好き。。
77
:
名無しさん
:2015/05/01(金) 22:21:31
>>73
読むの遅れました。面白かったです!
本編(NS3)以上にやんちゃなグレルが好き。フーちゃんとか、makirayさんの設定に繋がりがあって、いかにも続きって気がするのも嬉しい。
映画ではやや活躍の場が少ないというか、「登場する意味あるの?」って気がしたドラゴンさんが実にいい役回りで……。
とにかくキャラクターの魅力に溢れたSSでした。GJ!
78
:
名無しさん
:2015/08/06(木) 09:02:31
姫プリの映画予告に、ちゃんとゆいちゃんが登場してた。
今度は置いていかれないらしい。
良かった〜♪
79
:
名無しさん
:2015/12/23(水) 01:03:06
オールスターズ映画CMにエコー居た! 嬉しい。
80
:
名無しさん
:2016/04/28(木) 22:14:06
デラックス一作目のエンディング曲、くどまゆさんが歌う「プリキュア、奇跡デラックス」の
2番のサビと最後のサビの「♪脈々つながる〜」が「♪ニャプニャプつながる〜」に聴こえたので、報告いたします。
81
:
makiray
:2017/02/01(水) 23:43:25
どうも、makiray です。
「プリキュアオールスターズ」をキュエアコー視点で描く毎年恒例のシリーズ、諸事情により大幅に遅れて今頃の公開となりました。えぇ、一年前のお話です。
競作企画の前座を(勝手に)務めさせていただきますが、例によって長いので、一日一編という感じで行きます。しばらくお付き合いください。
では「Echo, Back and Forth - みんなで歌うo/~ 奇跡の魔法! Ver.1.1 -」、12 スレ、お借りします。
82
:
makiray
:2017/02/01(水) 23:44:52
Echo, Back and Forth (1/12)
---------------------------
「今のは…」
学校からの帰り道。
あゆみは足を止めた。
歌が聞こえたような気がした。
(ル…ラ…)
周囲を見渡す。
人々は、忙しそうに、あるいは楽しそうに歩いている。早足で、スキップで。
今の歌が聞こえたのは自分だけらしかった。
耳を叩く強い木枯らしがそう聞こえたのではない。今のは確かに歌だった。
(ということは)
自分にだけ聞こえた、ということは、これは普通の「歌」ではない。CD ショップや配信サイトで聞ける種類のものではないということだ。そして、これはきっと良い知らせではない。
(誰…あなたは誰?)
あゆみは目を閉じ、その歌の痕跡を追おうとしたが、それはもう消えてしまっていた。
おそらく、今の時点であの歌が聞こえたのはあゆみ、キュアエコーだけだ。「思いを届ける」プリキュアは、人の強い思いを敏感に察知する。そのあゆみが見失ったのだから、誰にも追いかけることはできないだろう。今度、聞こえたときには逃さないようにしなければ。
あゆみは、バレンタインに浮かれる街を、それには似つかわしくない厳しい表情で歩きはじめた。
「あゆみ…」
自分の部屋で難しい顔で考えていると、エンエンが覗き込んだ。グレルも心配そうに見上げる。
あの歌声は、グレルやエンエンにも聞こえるようになってきた。
あゆみは、星空みゆきに連絡を取って遠回しに聞いてみたが、彼女たちはそういう歌声はキャッチしていないらしい。最初に聞いてから二週間、店先を飾る商品がチョコレートから雛あられに変わっても、あの歌声を感じ取れるのはキュアエコーだけのようだった。
「ありがとう。
私は大丈夫」
あゆみはグレルとエンエンに笑顔を返した。
「だけど…。
あの歌声が聞こえるのは私だけなんて。
寂しいね」
「あゆみには俺たちがついてる!」
「そうだよ。そんなこと言わないで」
「違うの。
あの歌を歌っている人が、寂しいだろうなって」
誰かに何かを伝えるために歌っているはずだ。だが、それを聞けるのは広い世界にこの三人だけ。その三人も、誰がどこで歌っているのかをまだ把握できないでいる。
「キュアエコーはまだまだだね」
「修行が足りないとは俺も思――」
「グレル」
エンエンは怒ると実は怖い、ということを知っているグレルは口を押さえた。
それにしても、どういうことだろう。
寂しい、とは言ったが、あの歌声にはそれは感じられない。むしろ温かい。
だが、あの歌を消そうとする力がある。あゆみがその歌の出どころを追えないでいるのはそのせいだが、あるいはそれが寂しいと感じさせる理由なのかもしれなかった。
なぜわからないのだろう。
自分が子供だからか。もし、この歌を聞いたのが月影ゆりだったら、すぐにわかったりするのだろうか。
逆に、調辺アコや円亜久里のように子供の純粋さをちゃんと持っていたら、すぐに感じ取れたりするのだろうか。
子供でも大人でもない自分の状態があゆみはもどかしかった。
「うん、わかった。行く!」
雛あられがキャンディとマシュマロに変わる頃、みゆきから連絡があった。プリキュア全員でお花見をするという。
相変わらず、歌声がどこから聞こえるのかはわからないが、聞こえる頻度は確実に上がっていた。電話での話しぶりではまだみゆきには聞こえていないようだが、集まった時にそのことを話してみよう、とあゆみは思った。
確かに、申し訳ないとは思う。みなが集まるのは友達だからであり、お互いの笑顔を見るためだ。だが、黙ってはいられない。自分一人では解決できないのであれば、先輩たちの力を借りるよりほかにない。そして、あの歌声と、その歌声を消そうとする力が感じさせる気配は、放置してよいものだとはとても思えなかった。
あるいは、そのことが大事な友人たちに危険をもたらすかもしれない。だが、彼女たちはそれを絶対にはねのけることができる。あゆみは、信頼と確信を持っている。
だが、その反対はどうだろう。あゆみにはまだ「私もプリキュアです」と胸を張る自信はなかった。
83
:
名無しさん
:2017/02/02(木) 00:34:22
>>82
待ってました、makirayさんのエコーのお話!
映画のシーンを思い出してしまいました。続き楽しみにしてますね。
84
:
makiray
:2017/02/02(木) 23:54:58
Echo, Back and Forth (2/12)
---------------------------
足を速めるあゆみ。人々の間を縫って進むため、時折、靴がキュっと鳴った。
「あゆみ…ちょっと苦しい」
肩から提げたトートバッグの中のグレルが言った。
「ごめん。もうすぐだから我慢して」
あゆみには珍しく、グレルとエンエンの声に構わず速足で進む。
胸騒ぎがする。
夕べ、最終的な待ち合わせの場所と時間を連絡してきた みゆきが、「こないだ言ってた歌声って、ルルルとかラララって感じのやつ?」と言った。
「みゆきちゃんにも聞こえるの?」
《うん。あかねちゃんたちも聞こえるんだって。なんだろうね》
そして、今伝わって来る、お世辞にも愉快とは言えない、みゆきの思い。ついにあゆみは走り出した。
都会にしては高い木に囲まれた公園の一角、あゆみはそこに飛び込んだ。
「みゆきちゃん!」
「サニー! ピース!」
そこにいたのはみゆきではなくキュアハッピーだった。
そして、茶色い泥のようなものがうごめいている。
「マーチ! ビューティ!」
キュアハッピーの悲鳴。四人はその中に取り込まれてしまったのに違いない。
そして、赤い目の道化師がキュアハッピーを見下ろしている。
「グレル、エンエン、お願い!」
「よし来た!」
(フーちゃん、私に力を貸して)
三人が手をつなぐ。グレルの左手、エンエンの右手、そしてフーちゃんが姿を変えたエコーキュアデコルからにじみ出した光がトライアングルの中心で破裂した。
「思いよ届け、キュアエコー!」
あゆみの栗色のツインテールが淡いクリーム色に変わる。胸のエンブレムが輝き、キュアエコーが姿を現した。
「ハッピー!」
「エコー!」
キュアエコーとキュアハッピーは二人でその泥に手を伸ばしたが、あとわずかのところで泥は地面に吸い込まれるようにして消えてしまった。
「みんな…」
「エコー、危ない!」
キュアハッピーの声に体を翻す。ふたりがいた場所に火球が炸裂した。
「あれは、ジョーカー?」
「よくわからない。急に頭が痛くなって、気が付いたらあそこにいたの。
ジョーカーに似てるけど、なんか違う気もする」
キュハッピーとキュアエコーは、よくわからないそれを睨んだ。何でもいい。キュアサニーたちをさらったのだから、味方ではありえない。
〈ハッピー…エコーや!〉
「…。
サニー?」
〈みんな、キュア…コーが来…く…たで!
今、ハッ…ーと一緒…たいや〉
「サニー!」
「エコー、どうしたの?」
「キュアサニーの声が聞こえるんです」
85
:
makiray
:2017/02/04(土) 00:16:47
Echo, Back and Forth (3/12)
---------------------------
ふたりは、ジョーカーらしきそれの攻撃をかわしながら叫んだ。
「サニー、今どこにいるんですか?」
〈であ…ば心強…で…ね〉
「ビューティ! 返事を」
〈…ッピー、…の泥には気…付けて!〉
〈ハッピ…の…が聞こえ…いよ〉
途切れ途切れだ。こちらの声もあちらの声も完全には届かないようだ。
「だけど、みんな無事なんだよね」
「はい」
「そうか。
エコーがいてくれてよかった」
「え…?」
「私の思いをみんなに届けて。
絶対に助けに行くからって」
「もちろんです――ハッピー!」
着地のタイミングを取れず、バランスを崩しそうになったキュアハッピーの手を引く。
その瞬間、強烈な思いがキュアエコーの中に飛び込んできた。そしてその思いは、四人へ瞬時に伝わった。まるで隣にいるかのようだった。
〈ハッピーが頑張ってる〉
〈あたしたちも頑張らなきゃ〉
〈このような牢など、すぐに脱出してみせます〉
〈よっし、みんな、行っくでぇ!〉
それが彼女たちの力を引き出す。同じことがふたりにも言えた。
「エコー、お願い」
「はい。
プリキュア ハートフル・エコー!」
「プリキュア ハッピー・シャワー!」
ハートフル・エコーの光のドームが辺りを包む。その中でジョーカーらしきそれは出口を探していた。邪悪なものはこの光のドームの中にいるだけで力を弱めてしまう。
そこをハッピー・シャワーが見舞う。それはうめき声を上げた。
光の粒子がドームを満たす。浄化が成功したのだろうか。
キュアハッピーの表情は厳しい。
キュアエコーも違和感を抱いていた。激しい戦いをしていながら、敵の「思い」が漏れて来ない。あるいは、あれは生きていないのかもしれない。
(つまり、どう出るもわからない、ということ――)
キュアエコーは身構えたが、遅かった。背後からあの泥が飛んできてふたりの体を捉えた。
「ハッピー!」
「エコー!」
抜け出そうともがく。だが、当然のこととはいえ、それはただの泥ではない。ゴムのように伸びて切れないし、逆に革のベルトのように締まって来る。
〈あか…、ハ…ピーが捕…った!〉
〈逃…て!〉
〈…コー!〉
〈こ……に来…は…けま…ん!〉
遅かった。
やがて、泥も見えなくなり、辺りは何事もなかったかのように静かになった。ジョーカーによく似たそれも姿を消した。
86
:
makiray
:2017/02/04(土) 23:59:50
Echo, Back and Forth (4/12)
---------------------------
「エコー。
エコー!」
キュアハッピーが肩をゆさぶると、キュアエコーは目を覚ました。
「…。
グレル! エンエン!」
「俺たちなら無事だ」
「ここはどこなんだろう」
曇った空。体の下にあるのはどうやら石畳のようだ。ふたりはゆっくりと立ち上がった。グレルは厳しい顔で、エンエンは不安げにあたりを見まわす。
「あの偽物のジョーカーを使ってる誰かが作った世界、なんじゃないかな」
キュアハッピーの言葉にキュアエコーは頷いた。彼女たちに覆いかぶさるようにそびえる石造りの建物は立派なものだが、住んでいる人の気配も、利用する人の気配も感じられなかった。
「みんなはここに捕まってるのかな…」
キュアエコーは目を閉じて息を吐き、気持ちを集中した。弱いものだが、プリキュアたちの「思い」が感じられる。
「そうだと思います」
「手掛かりは…あの歌?」
頷くキュアエコー。
ほかのプリキュアの声は弱くなったが、あの歌の気配は感じる。こうして話している間にも断片的に聞こえてきていた。
「それを追いかけよう」
キュアエコーは、しばらくそれに心の耳を傾けていた。
自分の知らない雰囲気をまとっているような気がした。この歌声の主が届けようと思っている思いがはっきりしないのは、声が途切れて遠いせいだけではないようだった。
「エコー…?」
「あ、ごめんなさい。あの歌声を聴いてて。
行きましょうか」
「うん――待って」
「あれは」
また空に浮いているものがあった。馬車のように見える。乗っているのは――
「カバさん?」
「いきなり失礼なことをおっしゃいますね、キュアハッピー」
「じゃぁ、お馬さん」
「お初にお目にかかります、トラウーマと申します」
「トラさんなの?」
トラウーマは歯を食いしばって何事かを我慢した。
「それは後にしましょう。
まずは、おふたりのことを知りたいのですがね。
特に、あなた」
トラウーマは杖でキュアエコーを指した。
「一応、プリキュア教科書に載ってはいるようですが、どうも情報量が少ないようでしてね」
「当たり前でしょ。エコーはあたしたちの秘密兵器なんだから!」
「秘密兵…」
キュアエコーは、照れとも困惑ともつかない顔でつぶやいた。
「そうだよ、どれだけ世界の危機を救ってきたことか!」
エンエンが叫ぶとグレルは剣を抜いた。
「お前みたいなトラだかウマだかわかんないやつには負けないぞ!」
「お前に言われたくないわ! タヌキだかイヌだかわかんないかっこしてっ!」
「俺たちはれっきとした妖精だ!」
トラウーマは怒りのせいか肩で息をしていたが、深呼吸をすると我を取り戻した。
「思い出しましたよ。グレルくんとエンエンくんですね。プリキュア教科書の端っこに載ってましたよ」
「そうだよ。よく覚えておけっ!」
「暇ができましたら。
話を元に戻しましょうか。
キュアエコーさん、あなたのことを教えていただきますよ。
では、ソルシエール様」
87
:
makiray
:2017/02/05(日) 22:29:36
Echo, Back and Forth (5/12)
---------------------------
「…。
あ」
「エコー」
キュアエコーの表情が歪んだ。額を手で押さえる。
「頭が…」
「さっきの私と同じ。
やめなさい、トラウーマ!」
「まぁ、すぐに終わりますから」
「プリキュア ハッピー――」
「あれは」
キュアハッピーがハッピー・シャワーの構えを取ると、エンエンが空を指さした。
トラウーマの横に黒い塊がある。それはうねうねとうごめくと大きくなり始めた。
「やっぱり、私の時と同じ。
きっと…」
つぶやくキュアハッピー。
「ほう、面白いですねぇ」
黒い塊は人の形をとった。
目が赤く虚ろなのは偽のジョーカーと同じ。
だが、その、身長が3mほどにも届く女性の姿は。
「…。
私?」
鈍い茶色のツインテール。
それは「坂上あゆみ」だった。
「ソルシエール様には、人が最も恐れるものを実体化させる魔法があります。
これまで何度も世界の危機を救ったという、歴戦の勇士であるキュアエコーが最も恐れているのは、どうやらあなた自身だったようですね。
どのような物語が隠されているのでしょう。興味深い」
トラウーマがいやらしく笑った。
〈リセット…リセット…〉
偽物のあゆみは、あゆみの言葉を誤解したフーちゃんが呟いていた言葉を口にしながらゆっくりと歩き出した。
「エコー…」
キュアハッピーは足元だけは確認したが、どうすればいいかわからずキュアエコーを見た。キュアエコーは歯を食いしばったまま自分を見上げていた。
「大分、困ってらっしゃるようですね、お二人とも。
キュアエコーさんは勿論、キュアハッピーさんも自分のお友達を攻撃するわけにもいかないでしょうし、これは大変だ。
では、しばらく困っていていただくことにしましょう」
トラウーマを載せた馬車が消えた。
「ハッピー」
「うん」
「先に行って」
「でも!」
「大丈夫」
キュアエコーは笑った。
「…」
言葉が出ないキュアハッピー。
「それより、サニーたちを早く」
「そうだ、行ってくれ、キュアハッピー。
ここは俺たちで何とかする」
「だけど、あゆみちゃん」
キュアハッピーは思わず、変身前の名前を呼んだ。
「大丈夫。
私」
キュアエコーはキュアハッピーの目を見た。
「わかってるから」
88
:
makiray
:2017/02/06(月) 23:03:16
Echo, Back and Forth (6/12)
---------------------------
「…。
わかった。
すぐに追いかけてきてね」
「うん」
キュアハッピーは駆け出した。一度だけ振り向いたが、そのまま仲間の元に向かった。
「エコー」
〈リセット…〉
「来るよ」
キュアエコーが石畳を蹴る。グレルとエンエンも続いた。「あゆみ」はゆっくりと歩いてくるだけで、突然、蹴り上げたりはしなかった。
その代わり腕を振ったが、キュアエコーは並んでいる建物の壁を蹴って方向を変え、難なくよけた。
「へっ。偽物は大したことねぇな!」
グレルが叫んだ。エンエンも余裕がある様子で「あゆみ」の周囲を走っている。
(違う)
キュアエコーの表情が曇った。
積極的な攻撃を加えたりしない。逃げたものを追いかけるほどの勢いもない。それは、かつての自分そのものだった。
内側にいら立ちをため込むだけ。母に文句を言ったことはあったが、あれは所詮、肉親への甘え。泣き言をつぶやくのがせいぜいで、そのことがフーちゃんに誤解を与えてしまった。
尤も、ソルシエールとかいう誰かに作られたこれが操り人形なら、苛立つということもないのかもしれないが。
キュアエコーは逃げ回るのをやめた。「あゆみ」の前に降り立つ。そして、両手を伸ばす。
「もう、いいんだよ」
「エコー…」
グレルとエンエンも足を止めた。
「私は、あなたが何に苦しんでるか知っている」
上からのぞき込むように「あゆみ」も止まった。
「でも、もうその必要はないの。
お母さんが私のことを大事にしてくれていることが分かった。
学校に友達がいる」
瞳のない目がキュアエコーを見ている。
「それだけじゃない。
私はプリキュアになった。
素敵な仲間が 40 人もできたんだよ。
そして」
キュアエコーは伸ばして両手を胸の前に置いた。胸元のエンブレムの前で重ねる。
「私は、きっと、誰かの役に立つことができる」
それがどういう形かはまだ分からない。でも、この「光の力」はそのためにある。いつか、きっと、苦しんでいる人のために、辛い思いをしている人のために、この力を役立てることができるはずだ。大した実績もないが、そのスタートラインに立っている事だけは確かだ。
「これが、あなたが欲しかったものでしょう?」
見下ろしていた「あゆみ」が動きを止めた。
信じられる友だち。
信じてくれる友だち。
誰かの力になれる、という確信。
「もう怯えなくていいんだよ」
単なるくぼみでしかなかった瞳に光が宿った。いや、その明るさはやがて全身を覆い、淡い黄色に変わったかと思うと音もなく飛び散り、「あゆみ」の姿は消えた。グレルが、やった、と指を鳴らす。
(でも)
キュアエコーはその光の粒を追うでもなくその場に立ち尽くした。
(あれが私のコピーだとしたら。
私は、あの頃の私から何も変わっていない、ということ。
この「光の力」を、きちんと使えてない、ということ…)
「エコー…。
エコー」
グレルが白いブーツを叩く。はっと気づいたキュアエコーが下を見ると、心配そうな瞳が四つ、そこにあった。
「あ、ごめんね」
「大丈夫?」
エンエンが目じりに涙をためている。
「うん」
キュアエコーが微笑むと、エンエンも笑顔になった。
「行こう」
あの歌はまだ聞こえている。
89
:
名無しさん
:2017/02/06(月) 23:27:14
>>88
おー、こう来るんだ!
あゆみが過去と向き合ってここまで言えるようになって、それでもまだどこか自信がない。
こういうところが、あゆみちゃんらしいなぁ。
続き楽しみにしてます!
90
:
makiray
:2017/02/07(火) 23:38:55
Echo, Back and Forth (7/12)
---------------------------
キュアマジカルが崖にたたきつけられる。鋭い悲鳴が響いた。
ソルシエールとトラウーマは、「プリキュアの涙」を手に入れようとしていた。そのため、プリキュアと妖精たちを捕え、助けに来たプリキュアにかつての敵のコピーを差し向けてきている。
そして、まだ戦いに不慣れなキュアミラクルとキュアマジカルに狙いを絞ったようだった。
キュアマジカルのドレスは汚れ、フリルが千切れている。
「あぁっ!
くっ…」
ピエーロの姿をしたものの手から影のエネルギーが打ち出される。キュアマジカルの体はそれによって巻き上げられ、山肌にたたきつけられた。
とどめを刺そうと次の奔流が放たれたとき、灰色の空に眩しい光が点をうがった。キュアマジカルの体がふわりと浮く。
「あれは…」
「キュアエコー!」
「来てくれたのね」
キュアエコーはキュアマジカルの体をゆっくりと横たえた。
影を感じて立ち上がるキュアエコー。プリンセスプリキュアの四人も、覆いかぶさるように見下ろしているピエーロのようなもの、ゴーヤーンによく似たものを睨み返した。
「さぁ、あなたも一緒に」
キュアマジカルに呼び掛ける。だが、その答えは予想もしないものだった。
「無理…」
「え?」
キュアエコーは驚いて振り向きかけた。それでは敵に背を見せることになると気付いて姿勢を戻す。
無理。
確かに、そうかもしれない。
助けに入りキュアマジカルを抱きかかえたとき、キュアマジカルが怯え、恐れているのがわかった。敵の攻撃ですっかり打ちのめされている。それは心身のどちらも同じようだった。
だが。
「キュアマジカル」
キュアエコーは、ゴーヤーンらしきものを見据えたまま言った。まだキュアマジカルの中の光は失われていないはずだ。
「なぜあなたは今まで戦っていたの」
「…。
私は…私は立派なプリキュアになりたくて。でも」
「立派な…プリキュア?」
それは予想外にキュアエコーの胸に刺さった。
(私は…)
立派なプリキュアだろうか。いや。それは考えるまでもない。とても胸を張って「私もプリキュアの一員です」などとは言えない。だが、それは――
91
:
makiray
:2017/02/08(水) 23:00:04
Echo, Back and Forth (8/12)
---------------------------
「お花見行くんでしょ」
キュアフローラが言った。キュアマジカルが顔を上げる。
別の空間では、キュアミラクルがルルンの涙の声を聞いていた。
(マジカル…!)
(ミラクル…!)
大事な友達を助けなければ。
そして、新しい友達と一緒に、お花見に行くんだ。
ふたりは、遠く離れた場所でそれぞれに立ち上がった。ここを乗り越えなければ、「立派なプリキュア」も何もない。
(つながっている…)
その思いがキュアエコーの胸に届いた。こんなに固く結ばれているふたり。
そして、あの歌。
(どういうことだろう)
「また新手?!」
プリキュアたちの肩が上下する。仲間と一緒で心強くは思うが、楽な戦いではない。
それでも、彼女たちの顔には笑みが浮かんでいる。キュアマジカルが立ち上がったから。絶望の淵から戻ってきてくれたから。
「歌は…?」
誰かが言い、視線はキュアエコーに集まった。それをたどれば、仲間たちに会えるはずだ。
「マジカルは先に行って。歌の聞こえる方へ」
「でも」
キュアマジカルがキュアエコーに振り向いた。
「私にはもう聞こえないわ」
「大丈夫。あの歌声は、まるであなたを呼んでいるようだった」
「私を…?」
キュアマジカルは、さっきまで歌声が聞こえていた方向を見た。そう言われれば、そうだったような気もする。いや、歌っている人を知っているとか、聞いたことがあるメロディだとか、そういうわけではない。だが、自分が全く知らないものではない、そういう気がした。
「『思いを届けるプリキュア』のキュアエコーが言うんだから間違いないよ」
キュアフローラが力を込めて言った。驚いたような表情のキュアエコー。
「わかりました」
キュアマジカルは深々と頭を下げると踵を返した。
「でも、エコー。
どうして、あの歌がマジカルを呼んでる、って思ったの?」
キュエアコーは、一瞬、視線を落としてから答えた。
「わかりません。
でも」
「でも?」
「あの歌…あれは、ただの歌ではないような気がします」
「どういうこと?」
キュアエコーは首を振った。
「でも、私たちが知っている歌とは違う、と思わせる何か、それが、キュアマジカルの空気と似ている、そう思ったんです」
「歌とは違う何か…」
彼女たちをプリキュアにする光の力。それは例えば、のぞみたちの前には蝶の形で現れた。ある時は花であり、あるときは音楽であり。キュアミラクルとキュアマジカルの場合に何だったのかは知らないが、その要素があの歌にも感じられる、ということだった。
(それに、私は…今のキュアマジカルとは一緒にいない方がいい)
キュアマジカルは、完全に立ち直ったわけではない。まだ、傷つき疲れている。その危なげな精神状態をキュアエコーが感じ取り、そしてほかのプリキュアに伝えてしまう心配があった。キュアハッピーと一緒に戦った時に、キュアハッピーとキュアサニーたちの気持ちの仲立ちをしたことと同じことが起こる。そして、今のキュアマジカルの精神状態は、他の人に伝えていいものではないように思えた。
(ごめんなさい。
私はまだそれをうまくコントロールできない)
「来るよ」
キュアエコーの思いを破るように、低い声でキュアトゥィンクルが言った。
92
:
makiray
:2017/02/09(木) 23:54:13
Echo, Back and Forth (9/12)
---------------------------
抵抗もむなしく、キュアエコーたちは囚われてしまった。
それはやはり、ソルシエールが生み出すコピーが、プリキュアたちが戦ってきた幹部や「ラスボス」のものだったからである。下っ端のスナッキーやウザイナー程度であればどうと言うこともなかったはずだが、意思を持たないコピーではあっても強敵だった。
どういう作用が働いているのかわからないが、この檻の中ではプリキュアの光の力は無効になってしまうようだった。さほど太くはない柵も、それほど大きくない錠前もびくともしなかった。
「外から壊してもらうしかない、ということですか」
「残ったのは、キュアミラクルとキュアマジカルだけか…」
「妖精は…アロマとパフ」
「あとは、ルルン」
「無事だといいんだけど…」
(ソルシエール…。
ソルシエール…)
キュエアコーは目を閉じた。
(ソルシエール。
わたしの声が聞こえますか、ソルシエール…)
答えはない。届いた、という手ごたえもない。
(どうして)
最初にあの歌を聞いたのはキュアエコーだった。つまり、ソルシエールの思いは、キュアエコーに届いていた。なぜ、今、それが聞こえない?
あの歌が流れ、少女の幻が見える以上、ソルシエールは心を閉ざしてはいない筈だ。だのになぜ、エコーの声がソルシエールに届かないのだ。
(立派なプリキュア…)
リコの言葉がよみがえる。それはキュアエコーの胸をチクチクと刺し続けていた。
元より、自分が立派なプリキュアだなどとは思っていない。だが、何度か大事な友達の力になれた、と感じられたことはある。「思いを届けるプリキュア」として役に立てたことがある。
だが、今回はその兆しが無い。思いが届かない。
(ソルシエール…!
お願い、私の声を聴いて。あなたの声を聴かせて!)
だめだ。逆に、様子を見守っている仲間たちのかすかな息遣いがこだまして耳鳴りのように響く。キュアエコーは力の感じられない目を上げると首を振った。
「焦らないで、エコー」
キュアムーンライトの優しい声が逆にプレッシャーとなる。キュアエコーはもう一度、深呼吸をした。
(ソルシエール!)
なぜ。
「エコー、座って」
「いえ」
「楽にして。顔色が悪いわ」
キュアアクアが言うと、プリキュアたちは狭い牢獄の中で場所を詰め、空間を作った。
「すみません」
「無理し過ぎよ。この牢は私たちの光の力を弱める作用があるみたいだから」
「…」
そのせいだ、と考える根拠がキュアエコーにはなかった。
(だめだ)
「え、どうしたの?」
「だめです…私」
「エコー…」
「私の思いは、ソルシエールには届かないんです!」
「落ち着いて。この牢は」
「できません!」
「泣き言いってんじゃねぇ!」
隣の牢から声がした。グレルだった。
「思いを届けられないんだったら、何ができるって言うんだよ!」
「グレル…」
「キュアエコーには、ほかにできることはないだろうが!」
「ちょっとあんた、いくらエコーのパートナーだからって」
キュアブラックが反論したが、グレルの口は止まらなかった。
「ブラックみたいにパワーはないし、ホワイトみたいに物知りじゃない。
ブルームやイーグレットみたいに空も飛べない。
ほかに何ができるか言ってみろよ!」
さすがに、同じ牢に閉じ込められている妖精たちが止めた。だが、エンエンが後を継いだ。
「あゆみは、あきらめなかったんでしょ?
あきらめなかったから、キュアエコーになって、フーちゃんとお話ができたんでしょ?
今度はあきらめるの? だめだよ、あゆみ!」
93
:
makiray
:2017/02/11(土) 00:05:18
Echo, Back and Forth (10/12)
----------------------------
キュアエコーの周りに金色の花びらがこぼれた。
「フーちゃん…」
〈あゆみはだめじゃない。フーちゃんは知ってる〉
「キュアマジカルだって傷だらけになっても頑張ってるんだよ」
「先輩のキュアエコーがそんな情けないこと言ってどするんだよ!」
キュアマジカル。その名前が頭に浮かんだとき。
〈考えてみて〉
「え…」
キュアエコーの目が焦点を失ったように見え、キュアハッピーたちは顔を見合わせた。そうではない。キュアエコーは、ふいに飛び込んできた声に集中していた。
「これは…マジカル」
「聞こえるのか?」
グレルがまた怒鳴った。
「うん。
マジカルはミラクルと会えたみたい」
やった、と声が上がる。キュアマーメイドが、しっ、と口に指をあてる。どうやら、キュアマジカルやキュアミラクルとのコンタクトに成功したらしい。キュアエコーの邪魔をしてはならない。
〈あなたに…あなたに…〉
はっきり聞こえる。一体、何が起こったのだ。キュアエコーは混乱したまま、二人の声に耳を澄ましていた。
(そうか…これは、私たちがプリキュアだから)
以前からプリキュア同士で、声を介さない意志の疎通は可能だった。多くは、なんとなくそんな感じがする、という程度で、明確に言葉の形で認識できるのはキュアエコーだけだったが、それはこれまでにもあったことだ。その鋭さの違いが、プリキュアの力を奪う牢の中で現れたに過ぎない。
今まで聞こえなかったのは、キュアミラクルとキュアマジカルがばらばらだったからだ。再会した二人は、今までよりも強く結びついている。それで、二人の声が聞こえるようになったのだ。
つまり、これは当然の結果である。キュアエコーが立ち直ったのでも、未知の力が覚醒したのでもなかった。だが、これはいい知らせだ。キュアミラクルとキュアマジカルが耳にするソルシエールの声が聞こえる。
〈だから…それは…〉
キュアミラクル、キュアマジカルとの「同調」状態はどんどんよくなっている。今では息遣いも聞こえるほどだ。そして、それに乗って来る、ソルシエールの「思い」。
〈闇の中も怖がらずに
安らかな夢見られたのはなぜ?〉
究極の魔法の奥義を教えて欲しい、という願いに子守歌で答える魔法つかい。ソルシエールは困惑し、戸惑い、子ども扱いされていると考えて落胆していた。それは、怒りでも憤りでもない。
つまり。
〈あなたは、先生に会いたいのでしょう!?〉
〈なんだ、貴様は〉
つながった。
〈あなたは亡くなった先生にもう一度会いたいと考えている〉
〈つまらぬことを〉
〈プリキュアの涙を使った魔法があれば、もっとすごいことができるはず。きっと、究極の魔法の秘密も解明できるわ。
それなのにあなたは先生を蘇らせることを考えている。それは〉
〈やめろ!〉
〈あなたは、大好きな先生にもう一度、会いたいと思っているのよ〉
〈やめ――〉
ソルシエールの声が途切れた。キュアミラクルやキュアマジカルの声も聞こえなくなり、キュアエコーは再びそこに崩れ落ちた。
「エコー!」
「エコー、どうしたんだ。大丈夫か!
「あゆみ。あゆみ!」
わかった。
ソルシエールの声が聞こえなくなる直前、彼女の心のひだに触れた。それでわかったことがある。
(ソルシエールは、意思が強い人ではないんだ)
それで色々なことの説明がつく。
プリキュアが恐れている者のコピーを作り出すほどの力がある。では、幼いころの不安を制御できているかと言えば、できていない。あの歌は、彼女の心から漏れたものだ。それがキュアエコーに届き、この世界に来てからは、プリキュア皆に聞こえるようになった。
今も、キュアエコーは無理やりに彼女の心をこじ開けたのではない。自信を失っているはずの自分が言うことではないが、ソルシエールとのコンタクトは簡単だった。彼女は、心を閉ざし続けるほどの強さも持っていない。
一方で、すべてのプリキュアが捕えられているという事実。
このことは、一つの仮説を導き出す。
ソルシエールは誰かに利用されている。
「みんな、聞いて」
94
:
makiray
:2017/02/12(日) 00:10:52
Echo, Back and Forth (11/12)
----------------------------
「いただきましたよ、プリキュアの涙」
トラウーマが本性を現した。
本来の目的は封印された能力を解放することだった。そのために、ソルシエールの魔法を利用したのだった。
自らの封印を解いたトラウーマは屋敷と一体となって、巨大な姿に変わり、世界を闇に閉ざそうとする。
だが、この世界にはまだ光があった。ミラクルライトが、捕らわれていたプリキュアたちを牢から解き放つ。
「それじゃ行くよ、みんな!」
そうだ。
キュアエコーにできることがある。
「グレル、エンエン、フーちゃん」
「どうした」
「私、ソルシエールのために戦う」
かつて、世界をリセットしてしまいそうになった。弱い心が犯す過ちの恐ろしさを知っている。
今、その罪を償い、次の一歩を踏み出そうとしている少女がいる。キュアエコーは、その手助けをしなければならない。それこそが、キュアエコーのもう一つの役割。
「トラウーマに騙されていたことに気づいた、その気持ちをみんなに届けたい。
ソルシエールの胸にあるみんなへの謝罪の気持ちを届けたい」
〈あゆみ…〉
「僕たちも一緒だよ」
「キュアエコー、復活だ!」
「うん。
まず、この闇を払おう!」
キュアエコーは地面を蹴った。
95
:
makiray
:2017/02/12(日) 08:51:21
Echo, Back and Forth (12/12)
----------------------------
究極の魔法、それは歌だった。
魔法つかいがソルシエールに歌って聞かせた、子守歌のような歌。それそのものが魔法だった。
トラウーマは、自分の過ちに気づいたソルシエールの歌に苦しめられ、同時にその歌はプリキュアに力を与えた。
光を取り戻したプリキュアと、光を取り戻そうと決心したソルシエールによって、トラウーマは消滅した。
改めて、お花見が催される。彼女たちは満開の桜の下にお弁当を広げた。
「あの、坂上さん…」
「え?」
あゆみが振り向くと、リコがペコリと頭を下げた。
「ありがとうございます。
あと、ごめんなさい。私」
「あ、坂上さん」
みらいが隣に並び、同じように頭を下げた。
「坂上さんがリコを助けてくれたんですよね。
おかげで私たち、また会うことができました!」
こちらは屈託のない笑顔だが、リコはすっかり恐縮している。
「私は、何も」
少し頬を染めながら、あゆみは手を振った。
掛け値なしに何もしていない。
確かに、あの歌と、キュアマジカルの雰囲気に共通点がある、と言ったのはキュアエコーだ。つまり、その共通点が魔法ということなのだが、それは例えば、一緒に戦ったときに、ソルシエールの歌と最もシンクロしていたのはキュアミラクルやキュアマジカルの技だった、と皆が言っている。別に、キュアエコーでなければ気づかなかった、というわけではない。
牢に捕えられた時も心が折れてしまい、投げだしそうになった。グレル、エンエン、フーちゃんがいなかったらどうなっていたかわからない。
本当に、キュアエコーはまだまだだ。修行が足りない。
隣に みゆきとあかねがやってきて、キュアエコーがどれだけすごいプリキュアか、とあることないことを言い、みらいとリコが感心してメモをっている。あゆみの頬はますます赤くなった。
一つ、わかったことがある。
キュアエコーは、「思いを届ける」プリキュアだ。誰かの思いを読み取る力はない、ということだ。
今まで、そう感じたことが何度もあったが、それは偶然だった。同じ「光の使者」同士だったり、ものすごく強い思いだったり、という特別なことがなければ感じ取ることができない。
ソルシエールは、師匠の魔法つかいに会いたい、ということしか考えておらず、そこをトラウーマに利用されただけなのだ。「プリキュアを倒す」「世界を闇に閉ざす」などという強い意志があったわけではないから、その思いが届かないのは当然だった。むしろ、そういう立場がストレスになったことで、子供の頃の思い出が漏れ出し、それがあのかすかな歌声となった。こちらの方がまだ強い、と言えた。
もう一つ、過ちを犯したことがある、という心の奥の傷。これがあるからこそ、できることがある。
キュアエコーがどのようにして人々の役に立つことができるのか、それがわかったことは大きい。この力を磨いていけば、きっと「立派なプリキュア」になれる。
「一緒に、『立派なプリキュア』になりましょう」
「いえ、坂上さんはもう『立派なプリキュア』です!」
「私たちのお手本になる人なんです!」
だから、やめてってば、と言って下がろうとすると、マナが逆に背中を押し、めぐみがはやし立てる。
「先輩として一言アドバイスしてあげたら?」
「ゆりさんまで…」
それにしてもこの二人は、この懇願を四十何回も繰り返す気なのだろうか。美墨さん、雪代さん、日向さん、美翔さん…そうだ。
「じゃ、一つ、いいかな」
「はいっ!」
「あゆみ、って呼んで」
「はいっ――はい?」
困惑するみらいとリコ。だが、ほかのメンバーからは一斉に笑顔がこぼれる。グレルは、そういうことだよ、とみらいに耳打ちをした。
「そういうこと、って」
「はい、握手」
エンエンがリコの手を引いた。
「私のお友達になってくれる?」
「よ、よろしくお願いします!」
あたしとも、私とも、とそれぞれが みらいとリコの手を取る。モフルンももみくちゃにされていた。
その光景を見ながら、案外これが「立派なプリキュア」になる近道なのかも、とあゆみは思っていた。
96
:
makiray
:2017/02/12(日) 08:52:02
長々と失礼しました。
97
:
名無しさん
:2017/02/12(日) 10:13:48
>>96
毎日少しずつ、まだちょっと自信ないなりに一生懸命なあゆみの気持ちに一喜一憂して、楽しませて頂きました。
グレルとエンエン、あゆみのいいパートナーになったなぁ。
またmakirayさんのエコーSS、読めるの楽しみにしています!
98
:
名無しさん
:2017/02/14(火) 21:44:01
>>96
読み応えがありました。
99
:
makiray
:2017/07/28(金) 22:14:27
どうも、お久しぶりです。
遅くなりましたが、毎年恒例(まだ言う)オールスターズ…もといドリームスターズ映画にキュアエコーが登場するパラレル版を投下させていただきます。
今回は、映画の直前のお話です。
タイトルは「プリキュア ドリームスターズ Ver.0.9 -Quartet Branche-」
16 スレ、お借りします。
100
:
makiray
:2017/07/28(金) 22:16:46
Quartet Branche (1/16)
----------------------
「なぎささん?」
《あゆみちゃん。久しぶり!》
「あの…今年はお花見しないんですか?」
《もちろん、やるよ。
今日、これから ほのかと下見に行くんだ。いいとこ見つけたらしいよ》
「そうなんですか。楽しみです!」
《決まったら連絡する》
「はい!」
坂上あゆみは笑顔で電話を切った。
「やるのか?」
机の上のグレルが言った。
「うん」
「みんなに会えるんだね」
エンエンが手を合わせた。
「うん!」
「よし、今年こそは俺の美声を披露してやるからな」
「あ…」
「なんだ、その顔は!」
あゆみとエンエンは顔を見合わせて笑った。
101
:
makiray
:2017/07/29(土) 10:13:10
Quartet Branche (2/16)
----------------------
《ほのか?》
「遅いよ、なぎさ。
私、もう神社に着いちゃった」
《ごめーん。
あゆみちゃんから電話があってさ》
「あゆみさん?
元気だった?」
《うん。お花見、楽しみにしてるって》
「よかった。
じゃ、私が一人で下見しておくわね」
《怒んないでよ。急いで行くからさ》
「はいはい」
雪城ほのかはその木を見上げた。大きく枝を広げた桜の木。まだ蕾だが、これが咲いたら壮観だろう。みんな喜んでくれるに違いない。
だが、ここまで見事だと花見客も多いかもしれない。何か別の楽しみ方も考えておいた方がいいだろうか、とほのかは辺りを見回した。
「先にお参りしておこうかな」
なぎさを待っていたらいつになるかわからない。そう言えば、どこにいるか聞かなかったな、と思いながら、ほのかは賽銭箱に五円玉を投げ入れて手を合わせた。
〈間違いないな〉
ほのかは少し顔を上げた。今の声は?
〈そうだ。間違いない〉
「ほのか…嫌な気配がするミポ…」
「うん…!」
ほのかは身構えた。狛犬が動いたような気がする。
〈あ、気づいた〉
〈お前が下手なんだよ〉
「あなた方、何者?」
石にしか見えなかった二体の狛犬が鮮やかな黒に変わった。
「ほのか!」
「まさか、ザケンナー」
〈ざけんなー?〉
〈知らんなー!〉
二体の狛犬が大きく口を開けた。
〈アーッ!〉
〈ウンッ!〉
「あっ」
風が起こった。台風のようだった。胸元のスカーフがバタバタと音を立てる。ミップルのコミューンも激しく揺れた。ほのかは本能的に体を低くしたが、靴はじわじわと地面を削って行った。
「く…あぁっ!」
ほのかの足は、ついに地面を離れた。高く巻き上げられたその体は、青い空に突然現れた「扉」に吸い込まれて行った。
やがてあたりは、そんな強風が吹き荒れたとは信じられないほどの静けさを取り戻す。タッタッタ、と聞こえてくるのは石段を上がって来る美墨なぎさの靴音だった。
だが、そこで待っているはずの ほのかの姿はなかった。鞄だけが落ちている。
「ほのか…?」
102
:
名無しさん
:2017/07/29(土) 12:09:21
>>101
待ってました!
あの狛犬二匹が早くも登場!?
続き楽しみにしています。
103
:
makiray
:2017/07/30(日) 03:38:06
Quartet Branche (3/16)
----------------------
日差しがまぶしい。鳥も鳴いている。
美翔 舞はスケッチブックの上で色鉛筆を滑らせていた。やがてその手が止まる。
「咲…」
「なに?」
「…面白い?」
「うん」
日向咲は満面の笑顔で答えたが、舞は苦笑した。咲は、舞が絵を描いているところをじっと見ているだけだからだ。
「舞が一生懸命に絵を描いてるところを見ると、あたしも楽しくなってくるんだ」
「でも…」
「ひょっとして、邪魔かな」
「あ、そういうわけじゃないの」
舞は慌てて両手を振った。
「咲が退屈じゃないのかなぁ、と思って」
「そんなことないよ。
そうだ、何か飲むもの買って来るね。鳥居を出たところに自販機があったはずだから」
咲が走っていく。舞は微笑んでいたが、また狛犬に視線を戻して手を動かし始めた。
「…え?」
狛犬が動いた…ような気がする。
〈また気づかれた〉
「チョピーっ!」
「あなた方、何者なの?!」
狛犬が真っ黒に色を変えて、台から飛び降りた。
「舞!」
「まさか、ウザイナー?」
〈うざいなぁ?〉
〈知らんなー…って、さっきも言ったな!〉
狛犬が口を開けると嵐が起こった。
〈アーッ!〉
〈ウンッ!〉
「あぁっ!」
舞は、電灯の柱をつかもうと手を伸ばした。だが、体は既に激しい嵐で滑り始めている。届かない。逆に少しずつ離れていく。
「くっ…きゃぁっ!」
舞の体は、空に開いた扉の中に吸い込まれて行った。
不思議な嵐だった。辺りの枯れ葉が飛び散ったりすることもない。咲が戻ってきても、何事かが起こったようには見えなかった。
しかし、舞はいなかった。スケッチブックも色鉛筆のケースも残っている。
「…。
舞?!」
104
:
makiray
:2017/07/31(月) 22:33:12
Quartet Branche (4/16)
----------------------
「あれぇ?」
それは、妙に高い声を上げた。
青白い顔。
ギョロリと大きな目。
そして、高い鼻。
辺りは雪が積もっている。だが、積もっているのはその区画だけだった。直径 5m ほどの円の外側には明るい緑色の芝が広がっている。
「…。
あなたは、誰」
その雪に体を横たえていた ほのかが目を覚ます。ほのかは、自分の体をさするより先に、舞を揺り起こした。ふたりは、それを睨みつけた。
「僕は、烏天狗」
「烏天狗…?」
本で見た「烏天狗」とは違うような気がする。だが、本人がそう言っているのだから、そうなのだろう。それに、後ろに黒い体を横たえているのは、あの狛犬だ。自分たちに害を加えるものであることは間違いがない。
「そぉんな怖い顔しないでよぉ」
烏天狗は体をくねらせながら言った。
「僕は、きれいなものや、可愛いものが大好きなんだ。
今はね、白いものがマイブーム」
本を取り出す烏天狗。
「それでぇ、これを参考にしてみたんだ」
「それは…」
烏天狗が手にしているのは「プリキュア教科書」だった。
「君は、雪城ほのか、キュアホワイトでしょ?」
ほのかは無言で睨み返した。
「で、君は美翔舞、キュアイーグレット」
舞の瞳にも同じ敵意がこもっている。
「でもおかしいなぁ、白くないんだよなぁ。これじゃコレクションの意味がないよ…」
「コレクション?」
「そういうこと…」
「せっかく、君たちのために雪を用意したんだよ。
白い雪の絨毯の上に白いプリキュアが勢揃いしたらきっときれいだろうなぁ…。
って思ったのに。
なんで白くないの?!」
(プリキュアをコレクション?)
「ねぇ、変身してよ。
白いプリキュアに」
105
:
makiray
:2017/07/31(月) 22:33:55
Quartet Branche (5/16)
----------------------
(ふざけないで)
ほのかと舞は知らずに手をつないでいた。変身できるものならしたい、という気持ちがそうさせたのかもしれない。
お互いの手からは、暖かさと強さが伝わってくるが、それはそれぞれのパートナーとは違うものだった。プリキュアになるには、ほのかには なぎさ、舞には咲が必要だった。
「早く変身してってばぁ!」
烏天狗は地団太を踏んだ。
「誰があなたなんかのために変身してあげるものですか」
「え?」
「そんなことしたって、あなたを喜ばせるだけだわ。お断りよ」
「意地悪だなぁ、もう」
プリキュアの癖に、とぶつぶつ言う烏天狗。
「あれ」
振り向く。
「ひょっとして、ふたり一緒じゃないと変身できない、とか」
握り合った手に一瞬、力がこもる。
「キュアホワイトにはキュアブラック、キュアイーグレットにはキュアブルーム。
お友達がいないとだめ?」
「どうかしらね」
「教えるわけないじゃない」
「ですよねー」
烏天狗はプリキュア教科書をパラパラともてあそんだ。
「呼んでみたらわかるかもしれないわよ」
ほのかが言った。舞は、意外な言葉にちらりとほのかを見た。だが、その意味はすぐに分かった。
「うーん。
黒とか紫をここに入れるのは本意じゃないんだけど、君たちが白いプリキュアになるためにはそれが必要だって言うんなら、しょうがないのかもしれないなぁ」
烏天狗は後ろの狛犬を起こした。
「お前たち、ちょっとさっきの世界に行って――」
(かかった)
ほのかが呟く。
「とか言うとでも思ったぁ?!」
突然、振り向く烏天狗。
その手を振ると、烏の翼で風を巻き起こす。
「人を騙そうとする子にはお仕置きだ!」
さっきの狛犬のものとはけた違いの嵐が吹き荒れる。それは足元の雪を巻き込んで吹雪となった。ほのかと舞は、息もできずにいたが、やがて風は起きたときと同じように唐突に収まった。
そこには、二つの白い繭が横たわっていた。
「そこでおねんねしてなさい」
烏天狗はまたプリキュア教科書を開いた。
「相棒がいないと変身できないんだとすると、面倒くさいなぁ。
でも、諦めるのも嫌だし。
とりあえず、集めるだけ集めるか」
ページをめくる手を止める。烏天狗は、あるページを狛犬に示した。
「今度は、これを持って来て。
あ、黄狗一人でいいよ。向こうは変身できないんだから」
黄狗が姿を消した。
「これは、なかなかのレアアイテムだよ」
烏天狗が舌なめずりをして笑った。
106
:
makiray
:2017/08/01(火) 23:03:50
Quartet Branche (6/16)
----------------------
「おぉ…」
グレルが思わず声を上げる。エンエンも、首が痛くなるのではないかと思われるほど見上げていた。
近所の神社に立っている桜の木。一足早く花をつけている。
「あの花も頑張ってるんだね」
口の悪いグレルも頷いた。エンエンもうれしそうだった。
「でも、あゆみ、先にお花見しちゃっていいのか? みんなで見るんだろ?」
「大丈夫だよ。ほのかさんたちも下見してるんだし」
「そうか。でもこれくらいにしておこうぜ」
「みんなと一緒がいいよね」
あゆみは小さく笑った。グレルとエンエンがこんなに義理堅いとは。それだけ、プリキュアや妖精たちに会えるのが楽しみだということだろうか。
「じゃ、帰ろうか」
「おう。
…?」
一緒に歩きだしたが、グレルは時折、後ろを振り向いた。
「どうしたの、グレル」
エンエンが言う。グレルが首をかしげているので、エンエンも後ろを振り向いた。別に変なものはない。狛犬がいるだけだ。
「なんか気配がするんだよな…」
「なぁに、グレルはお侍さんになったの?」
「なぁ、あゆみ。
狛犬って黒いのもいるのか?」
「うーん、石の種類に寄るんじゃないかな。大体は灰色だと思うけど、黒いのもあったりするかも」
「そうか…」
「地面に置いてあったりする?」
エンエンも狛犬が気になるらしい。
「どうだろう。普通は台の上にいると思うよ」
「ふぅん…」
「動いたりするか?」
「まさか、石の彫刻だよ」
「でもさ」
一体、どうしたというのだ。あゆみは振り返った。
「…」
グレルとエンエンが言ったとおりだ。
黒光りする狛犬が地面の上にチョコンと座っている。
「なんだろう…」
〈キュアエコーだな〉
あゆみは伸ばしかけた手を止めた。グレルが腰の剣を抜く。エンエンも身構えた。
「あなたは」
〈烏天狗様の命令で、お前をさらいにきた〉
体を起こす あゆみ。この狛犬は一体、何を言っている? いや、これはきっと狛犬ではない。
〈烏天狗様は、白いプリキュアをコレクションしている。
キュアホワイト、キュアイーグレットはゲットした。次はお前だ〉
「なんですって?!」
〈来てもらうぞ!〉
黄狗が口を開ける。
〈アーッ!〉
猛烈な風が起こった。胸元のリボンが暴れる。
「グレル! エンエン!」
「あゆみ!」
「あゆみちゃん!」
三人を手をつないだ。
〈あゆみ!〉
「フーちゃん、お願い!」
三角形の中心で光が破裂する。
107
:
makiray
:2017/08/02(水) 20:23:41
Quartet Branche (7/16)
----------------------
淡いクリーム色のツインテール、白いドレス。キュアエコーだ。
〈え?!
変身できるなんて聞いてないぞ!!〉
「ホワイトとイーグレットを返して!」
強い風に腕で顔をかばいながらキュアエコーは叫んだ。
〈やなこった!
あ、痛!〉
エンエンが投げた石が当たり、黄狗は情けない声を上げた。
「エコー、こいつ、弱っちぃぞ。やっちまえ!」
キュアエコーは、両足に力を入れた。
「プリキュア ハートフル・エコー!」
真っ直ぐに天に届く光が嵐を止めた。
〈えっ?
えぇっ?!〉
黄狗はさらにうろたえている。
「さぁ、ホワイトとイーグレットを――」
〈おぼえてろー!〉
黄狗は小走りになったかと思うとやがて土煙を上げて走り去った。
「逃げるな!」
「逃げ足早いね…」
なんだったんだ、と思う。
「エコー、あいつ、プリキュアをコレクションしてるって」
我に返る。あれは確かにそう言っていた。
「助けに行こうよ!」
キュアエコーが頷く。
「その前に。
奏ちゃんに連絡してみる」
コレクションの対象は「白いプリキュア」らしい。キュアホワイトとキュアイーグレットはすでに「烏天狗」の手に落ちている。
もう一人の「白いプリキュア」、キュアリズムのことが心配だった。
108
:
makiray
:2017/08/03(木) 23:00:31
Quartet Branche (8/16)
----------------------
「レッツ プレイ、プリキュア モジュレーション!」
光が飛び散る。
「響け、四人の組曲!
スイートプリキュア!!」
狛犬は二匹。変身できないと思っていた あゆみがキュアエコーに変身してしまい、一匹では歯が立たなかったため、二匹に戻した。しかし、あゆみから奏に連絡が行っていたため、響たちが揃って迎え撃つ形になっている。四人は、狛犬が現れるとすぐに変身した。
「とっととやっつけて、ホワイトたちを助けに行くよ!」
「えぇ!」
〈アーッ!〉
〈ウンッ!〉
「プリキュア ミュージック・ロンド!」
赤狗が三色の光のリングに捕えられた。このまま浄化できる。
〈手のかかるやつだなっ!〉
黄狗は、赤狗の下に潜り込み、上半身を跳ね上げた。その力で、赤狗の体が黄狗の三色のリングから飛び出す
〈おお、よくやった〉
〈偉そうなんだよ〉
「ミュージック・ロンドが効かない…?」
キュアビートが言った。
「もう一度、行くわよ!
プリキュア シャイニング・サークル!
辺りに、金色に輝く音符が乱舞した。狛犬たちはその輝きに目をしばたたかせている。
「リズム、ビート!」
「はいっ!」
「プリキュア ミュージック・ロンド!!」
ふたたび、光のリングが飛んでいく。
何を考えたのか、狛犬はお互いに向かって走り出した。まるで相撲取りのように正面衝突をする。
「え?!」
二匹がぶつかったことで大きな火花が生まれる。それが三色の光のリングを弾き飛ばしてしまった。
「…。
なに、それ」
キュアリズムが呆然としている。ミュージック・ロンドが破られたのは事実で、呆然としている場合ではないのだが、頭をゴツンとぶつけて火花を生み出す、というやり方が冷静な反応を拒んでいた。狛犬は衝突のショックか仰向けになって足をひくつかせている。むしろ、笑いがこみ上げてきそうだ。それは、キュアミューズも同じらしく、呆れて顔をしかめていた。キュアビートなどは、感心したように何度も頷いている。
「リズム!」
キュアメロディが叫ぶ。
狛犬は突然、起き上がり、キュアリズムを挟んだ。
〈アーッ!〉
〈ウンッ!〉
これまでと同じように嵐が巻き起こる。至近距離から風を食らったキュアリズムはあっという間にバランスを崩し、空中に巻き上げられた。空に開いた扉に吸い込まれていく。
「リズム!
リズムーっ!」
それを追うように靴音が響く。なぎさ、咲、そして あゆみ。
「遅かった?!」
「グレル、エンエン! フーちゃん!」
「おう!」
〈あ、またキュアエコーだ〉
光が飛び散る。狛犬がキュアエコーに気づいた。やみかけた嵐がまた力を増す。キュアエコーの長いツインテールが風の中で暴れた。
「なぎさ!」
「あ…ありがとう」
変身できないため足元がおぼつかない なぎさと咲が手をつないだ。大事なパートナーを奪われた怒りは感じるが、やはり変身するパワーにはならない。
109
:
makiray
:2017/08/04(金) 22:26:28
Quartet Branche (9/16)
----------------------
〈もう、早くこっちこいよ〉
〈帰りたいんだからさぁ〉
狛犬が割れた声で言った。
「グレル、エンエン」
「なんだ」
「私、行くよ」
「エコー…え?」
「あの扉の向こうに行く」
その声は風に乗ってなぎさの耳にも入った。
「エコー、バカなこと言わないで!」
「ほのかさんも、舞さんも、奏さんも向こうで捕まっています!」
「だからって!」
「向こうに行けるのは私だけなんです!」
烏天狗は、白いプリキュアをコレクションしようとしている。求めているのはキュエコーだけ。キュアエコー以外のプリキュアを呼び込む気などさらさらないのだ。
「いいぜ、エコー」
「グレル」
「僕も行くよ」
「うん。
しっかり捕まってね」
キュアエコーは体の力を抜いた。足がふわりと浮く。
「エコー!」
「必ずみんなを助けます。
待っててください」
キュアエコーの姿も天空の扉の向こうに消えた。
110
:
makiray
:2017/08/05(土) 16:17:42
Quartet Branche (10/16)
----------------------
白い闇。
扉の向こうでは吹雪が渦巻いていた。何も見えない。風が耳元で騒ぎ立てる。キュアエコーはグレルとエンエンを抱いた腕に力を込めた。
「プリキュアたちはどこにいるんだよ!」
グレルが大きな声を出す。
わからない。探そうにもこの状態では。
「吹雪を払おう!」
エンエンも怒鳴った。エンエンのそんな声は初めて聴いたような気がする。
「でも」
「トラウーマのときにやったでしょ!」
そうだ。
あのときは黒い煙だった。それを、体を回転させることで吹き飛ばした。
「僕たちも手伝うから!」
「そうだ、三人一緒なら、こんな吹雪なんか!」
「…。
うん」
キュアエコーは足を止めた。ゆっくりと息を吐く。グレルとエンエンも同じようにした。
掌が暖かい。この吹雪の中で体は既に冷え始めているが、お互いにつないでいる手は別だった。
(いつもと、違う)
閉じていた目を開けると、自分の体がうっすらと光っている。グレルとエンエンの体も。キュアエコーの光の力が伝わったのか、それともグレルやエンエンがもともとそういう力を持っていたのかはわからない。
いや、それは、後だ。
キュアエコーの体は、ふたたびゆっくりと浮かび上がった。
猛吹雪のせいで体は時折、右に左にと揺れた。だが、ここに来たときのように巻き上げられたりはしない。まっすぐに上昇していく。
合図をする必要もない。キュアエコーの体が回転し始める。両手のグレルとエンエンが惑星のようにその周囲を回り、光の粒をまき散らした。
それは次第にスピードを上げる。
回転速度が上がる。キュアエコーの白に、グレルとエンエンの淡い黄色が加わった渦は、やがて当人たちの形を失い、一瞬、ソフトクリームのように見えたかと思うと、直ちに嵐の核となった。
その「ソフトクリーム」から生まれた風はあたりの吹雪を巻き込み、空に飛ばしてしまった。ゴウ、っという音が余韻を残す。
「あれは」
そこに横たわっている大きな繭。
「三つ…まさか」
キュアエコーは繭に駆け寄り、どうすればいいかわからないまま、それをこすった。
「リズム…」
まるで氷を磨いたように、繭の一角が透明さを取り戻した。その奥でキュアリズムが眠っている。
ということは、残る二つは ほのかと舞に違いない。
「だめだよ、そんな乱暴しちゃぁ!」
背後から甲高い声。キュアエコーは烏天狗をにらみ返した。
「リズムを元に戻して!」
「やだ、こわぁい」
「戻して!」
烏天狗は顔の両側で手をひらひらさせて笑った。
「はい、そうですか、なんて言うわけないだろ!」
キュアエコーが一歩踏み出す。烏天狗は、わずかに体をのけぞらせた。
グレルはキュアリズムが閉じ込められている繭の上に飛び乗った。腰につけている剣を抜く。
「えいっ!」
カツン、と固い音。
それでも簡単に割れるようなものではないらしかった。グレルは大きなかけ声とともに剣を繭に降りおろしていたが、繭には傷が付く様子すらなかった。
「グレル…痛くないの?」
「そんなこと言ってる場合か!」
「でも」
111
:
makiray
:2017/08/06(日) 07:30:41
Quartet Branche (11/16)
----------------------
(音が…)
グレルは一所懸命にキュアリズムが閉じこめられた繭をたたき続けている。その音が変わってきたような気がした。
(ひょっとしたら)
さっきもそうだった。烏天狗の吹雪を消すために三人で手をつないだ――もちろん、フーちゃんも一緒だった――とき、今までに感じたことのない力強さが伝わってきた。
グレルのおもちゃの剣は、あの繭を割れるのかもしれない。
「つづけて!」
「?」
グレルの手が止まる。キュアエコーはもう一度、叫んだ。
「グレル、エンエン!
繭をたたき続けて!」
「わかってる!」
心配そうに見ていたエンエンも繭に飛び乗った。
「僕もやる!」
「よし!」
二人は一緒に剣を握りなおした。その瞬間、剣が光を帯びた。
「やっぱり…」
何が理由かはわからない。グレルとエンエンが成長したということなのか、それとも、キュアエコーと一緒に戦ってきたことが理由なのか。そうだとすればきっと、今はキュアデコルとなっているフーちゃんの存在も重要なキーのはず。
確かに言えることは、グレルとエンエンが「光の力」を発揮することができる、ということだ。
「行くぞ!」
「えいっ!」
「やぁっ!」
「そんなことはさせないよっ!!」
危険を感じた烏天狗がじゃまをしようとする。だが、キュアエコーはその前に回り込んだ。
「がんばって!」
「任せておけ!」
「僕たちは、プリキュアのパートナーなんだ!」
「だから、俺たちがプリキュアを」
「助けるんだ!」
パリン、と。
想像していたのよりもきれいな音が響いた。
「割れた!」
足場を失ったグレルとエンエンが、それでもうれしそうな顔で落ちていく。ポコン、と今度はかわいい音がして二人が着地した。
「…。
あれ、私」
「リズム!」
キュアリズムは、なにが起こったのか、一瞬、わからなかったようだった。だが、烏天狗の前にいるキュアエコー、そして自分の目の前で得意そうにふんぞり返っているグレル、喜びを満面にたたえているエンエンを見て了解した。
「ありがとう!」
「いいってことよ」
「けがはないの?」
「うん、大丈夫」
キュアリズムはそう答えると、厳しい顔つきに変わった。そしてまだ冷たい地面を蹴る。
「やぁっ!」
キュアエコーと烏天狗の間に割って入る。烏天狗が驚いて一歩下がると、キュアエコーと一緒に距離をとった。
「よかった、リズム」
「助けにきてくれたのね」
「ほのかさんと、舞さんも?」
「うん。繭の中」
二人はそういうと無言で頷きあった。烏天狗よりも、二人の方が先だ。
だが、どうすれぱいい?
グレルとエンエンのおかげで、あの繭が割れることはわかった。だが、かなり時間がかかっている。
また繭を叩く音が響きはじめた。グレルとエンエンがさっきと同じように繭に飛び乗って割ろうとがんばっている。だが、その表情はさっきよりも厳しい。
112
:
makiray
:2017/08/07(月) 07:49:00
Quartet Branche (12/16)
----------------------
「私もやってみるね」
そういうとキュアリズムは下がった。
「ファンタスティック ベルティエ!」
だめだ。グレルの剣より音だけは大きいが傷すらつかない。
「えい。
えい!
えい!!」
いや、グレルのおもちゃの剣の方が効いているように見える。ぶつけたときにかすかに光が散っている。
「そうだ。
あたしたちは『光の使者』」
ふいに、足元が揺れた。
「エコー!」
キュアエコーが巨大な狛犬を必死で止めている。その腕も足も震えていた。
「プリキュア ミュージック・ロンド!」
キュアリズムが振り下ろしたベルティエから光のリングが飛んだ。それはブーメランのように狛犬の顔面をかすめていった。狛犬は、怯えたような声を上げると慌てて引っ込んだ。まるで猫のように自分の鼻先をさすっている。
「エコー、手伝って!」
「はい」
キュアリズムはキュアエコーの手を握った。そして確信した。できる。
キュアエコーが真剣な瞳を向ける。この、熱くて強い思い。それは彼女たちプリキュアが等しく持っているものだ。
「私たちの『光』であの繭を壊すの」
「それは、どうやって」
「わたしに合わせて――あっ!」
狛犬が突っ込んできた。ふたりはそれを避けるように後ろにジャンプした。着地。カッ、カッ、カッと靴音が響いた。キュアリズムが、まるで狙いをつけるように狛犬へ鋭い視線を投げた。
合わせろ、と言われただけだ。キュアエコーには何をどうすれぱいいのかわからない。
だが、強くつないだ手から、力が伝わって来る。それはキュアエコーの中の光を呼び起こし、増大させる。同じことがキュアリズムの中でも起こっている。
ふたりは、違う。キュアリズムが、キュアメロディ、キュアビート、キュアミューズとするのと同じ技を繰り出すことはできない。
だが、ふたりは同じプリキュアだ。それは決定的な問題にはならない。
つまり、新しいことができる。
「行くわよ!」
「はい!」
つないだ手から、小さな、しかし純白に輝く光の輪が生まれた。それは二人の前で回転しながら大きくなり、光を強めていく。
輪の成長が止まる。しかし回転速度ばますます上がり、巻き込まれた空気が風になって、キュアエコーとキュアリズムの長い髪を暴れさせた。
光の輪が辺りを照らす。強すぎる光に風景が白く染まった。
「プリキュア ハートフル・ハーモニー!」
それははじかれたように飛び出すと、二つの繭に向かって行った。白い風景が切り出されて移動していく。リングは繭を中に取り込むと天に向かって上昇を始めた。繭は花びらのようにリングの中で回っていたが、突然、弾けた。
「…」
「え」
「どういうことだ」
「なんだ、これぇ!」
当のキュアエコーとキュアリズムがあっけにとられている。エンエンは何も言えない。グレルの大きな声の後、烏天狗の悲鳴が響いた。
眉が割れ、その中から飛び出したのは、雪城ほのかと美翔舞ではなかった。
パラシュー卜でもつけているかのようにゆっくりと降り立つふたり。
「ありがとう、エコー」
「ありがとう、リズム」
「えーーーー!!」
烏天狗がまた悲鳴を上げる。
「変身できないんじゃなかったのか!」
キュアホワイ卜が静かに笑った。
「そんなことは言っていない筈よ」
「だって。
だって!」
「世界に光がある限り、私たちはいつでも現れるわ」
113
:
makiray
:2017/08/08(火) 22:57:37
Quartet Branche (13/16)
----------------------
「ホワイト! イーグレッ卜!」
パートナーがいなければ変身できないはずのキュアホワイ卜とキュアイーグレッ卜が目の前にいる。烏天狗だけではない。誰もが驚いていた。
キュエコーとキュアリズムの、新しい光が奇跡を起こしたのだ。
四人が並んだ。
「繭の中でいろいろ考えてわかったわ。
何もかもこの烏天狗の仕業なのよ」
キュアホワイトが言った。
「何もかもは言い過ぎだろ!」
烏天狗の抗議を相手にしない。
「どういうつもりか知らないけど、烏天狗は『白いもの』をコレクションしようと考えた。
まずは雪」
「そうか。
だから今年の冬は雪が少なくて暖かったんですね」
キュアイーグレッ卜も、すべてを理解したようだった。
「桜が咲かなかったのもそのせい」
桜だけではない。春に咲く花は、一定の寒さを経験しなければ花をつけられない。烏天狗が雪を奪ったおかげで気温が十分に下がらず、桜は蕾を成長させることができなかったのだ。
「そんなの僕の知ったことじゃない!」
「自然のリズムを壊すなんて、絶対に許せない!」
キュアリズムが激しく指を差して責め立てる。
「行くわよ、みんな!」
「はいっ!」
「光の使者、キュアホワイ卜!」
「煌めく銀の翼、キュアイーグレッ卜!」
「爪弾くはたおやかな調べ、キュアリズム!」
「思いよ届け、キュアエコー!」
「こ、こ、こ、狛犬!」
烏天狗は狛犬のお尻を蹴りつけた。狛犬は、四人の白いプリキュアから発せられる、彼らにとっては不快極まりない光に毛を逆立てて唸り声を上げた。
「はぁぁぁぁ――」
プリキュアの体から光が滲みだす。それは陽炎のようにゆらゆらと上昇すると、辺りを包み込んだ。
やがて、四人の中央に集まり始める。プリキュアたちが指差す先の一点に凝集した白い光は、さっきとは逆に、どんどん小さくなっていく。グレルとエンエンは眩しさに小さな手をかざした。
次の瞬間。
「プリキュア ホワイ卜・レインボー!!」
光の点が爆発した。その、光の爆風は、彼女たちが広げた手に従い、狛犬と烏天狗に殺到する。
烏天狗は慌てて狛犬の体の下に潜り込んだ。
「うわぁぁ、ぁぁぁ、ぁぁ!」
それは爆発であると同時に吹雪でもあった。光の吹雪は、狛犬と烏天狗の力を奪っていく。狛犬も、その下に隠れた烏天狗もまばゆい吹雪の中でガタガタと体を震わせていた。
永遠に続くかと思われた光の吹雪がふっと消える。そこにいたのは、小さな二匹の狛犬と、その下でぐったりしている烏天狗だった。
キュアイーグレッ卜が小さく息を吐き、キュアリズムと微笑みあった。グレルとエンエンがキュアエコーに駆け寄る。
「すごいメポ!」
「びっくりしたチョピ!」
と、キュアホワイ卜が足場を固めた。
「お前たち…」
烏天狗が体を起こそうとしている。なかなか起き上がれないのは狛犬が上に載っているせいだと気付くと、乱暴にそれをどけた。狛犬はその陰に隠れるように身を縮めている。
「お前たちなんか…。
あっちへ行けーっ!」
烏天狗は怒りに任せて、どこから取リ出したのか大きな扇を振った。その息も絶え絶えの様子とは裏腹に強い風が吹き荒れる。プリキュアたちの体が浮いた。
「あっ」
「グレル! エンエン!」
キュアエコーがグレルとエンエンを抱きかかえる。そしてキュアホワイ卜達もお互いに手をつないだ。
「みんな、しっかり!」
「手を放さないで!」
114
:
makiray
:2017/08/09(水) 19:44:39
Quartet Branche (14/16)
----------------------
「あ…あれ!」
なぎさが天を指さした。薄暗く曇った空に、突然、白い点が現れた。
点は少しずつ大きくなる。それはドレスだった。
「エコー」
「リズム!」
影はもうニつ。
「ほのか!」
「舞!」
キュアミューズがキュアモジューレを吹く。やわらかな音とともにたくさんの音符が飛び散り、落ちて来る四人の体を支えた。
「ほのか…ほのか!」
「舞ー!!」
なぎさと咲がふたりをハグする。
ふたりの姿はもうプリキュアではなかった。やはり、あれはいつもの変身ではない、ということだった。ほのかが決着を急いだのはその不安があったからだが、当たっていたようだった。キュアエコーとキュアリズムは自分で変身を解いた。そして、ふっと息をついた。
「烏天狗はどうなったの?」
再会の感激が収まった頃、咲が言った。
「多分、浄化はできてないんじゃないかな…」
「あたしたち、追い出された、っていう感じだと思うわ」
舞が言うとほのかが額いた。
「また何かしようとする、ってこと?」
「じゃ、みんなに知らせなきゃ」
響とエレンが慌てる。と、なぎさが手を上げた。
「はいはいはい、あたしにいいアイディアがある」
「なに?」
「みんなでお花見をしよう!」
ほのかがため息をつく。アコも肩をすくめた。
「なによ。あたしは、みんなに大事なことを知らせようと思って」
「はいはい」
咲がなだめるように肩を叩く。
「そもそも、みんなでお花見をする計画は前からあったんだから、改めて提案することじゃないでしょ」
「こんな事件があったからみんな忘れてるかと思って…」
「俺たちが集まろうなんて大事なこと忘れるはずないだろう」
「なぎさが大雑把だからってほかのみんなも大雑把だと思うのは間違いメポ」
グレルが言うとなぎさは更に体を小さくしたが、メップルに対しては大声で反論していた。
あゆみはそれをニコニコと見ていたが、ほのかと舞が近づいて顔を寄せてきた。
「なんですか?」
一応、気にして小さな声で聞いてみる。
「キュアホワイ卜に変身できたことは、なぎさには内緒ね」
「キュアイーグレッ卜もお願い」
「どうしてですか?」
「やきもちでへそを曲げそうな人がいるから」
「ハートフル・ハーモニーもね」
奏も加わる。
「…あぁ」
それはきっと、心配した上でのことだろうが、確かに、わざわざ言うことでもなかった。
「わかりました」
「私たち、ホワイ卜・プリキュアだけの秘密ね」
「はい」
四人で笑いあう。
「あー、ほのか、あたしの悪口言ってるでしよ!」
なぎさが矛先を変えた。
四人が苦笑すると、なぎさの口調はヒー卜アップした。
これは確かに、四人だけの秘密にするべきだ、とあゆみは思った。
115
:
makiray
:2017/08/09(水) 19:46:19
Quartet Branche (Epilogue)
----------------------
「嫌んなっちゃうなぁ…」
烏天狗は狛犬に体をもませていた。ときおり、あ痛たたた、とうめいては、もっと優しくやれ、と狛犬を小突いていた。
「もう、白いものなんかいらない。こっちで願い下げだ」
ゴロン、と仰向けになる。狛犬は枕にされてしまった。
「もっと可愛いものがいいな。
白はもう嫌だから、ピンク色。
あぁ、金魚なんかいいな」
烏天狗は、懲りる様子もなく、次のコレクションについて検討をし始めた。
116
:
makiray
:2017/08/09(水) 19:47:09
「プリキュア ドリームスターズ Ver.0.9 -Quartet Branche-」、終了です。
16 スレのつもりでしたが、15 でした。
長々と失礼しました。
117
:
名無しさん
:2017/08/09(水) 21:03:12
>>116
この四人の取り合わせってなかなか新鮮でした。
パートナーに黙っててね、という三人が可愛かったですw
本編の後、みんなでお花見したのかな。賑やかで楽しそうですね。
118
:
Mitchell & Carroll
:2017/08/21(月) 01:14:08
もしアウトでしたら、削除していただいて構いません。
投下させていただきます。
『びーえる!』18禁、BL注意。
あとはよろしくお願いします。
119
:
Mitchell & Carroll
:2017/08/21(月) 01:15:41
「――ダメだ、ナ○ツ。もう我慢できないよ」
艶っぽい低音で囁きながら、コ○はナ○ツの乳首をきゅっと抓る。
「だ、だめっ……だ、もし誰かに見られたらっ……!」
「仕方ないんだよ、もうこんなに滾ってるんだから」
コ○の色白の体に見合わない、黒く逞しいそれ。
「なあ、ナ○ツも本当は欲しくて堪らないんだろ?」
耳殻に舌を這わせながら、ゆっくりとそれを擦りつける。
「ぁっ……」
感じる箇所をふと通り過ぎ、思わずナ○ツは声を出してしまう。
「恥ずかしがらずにホラ、『挿れて下さい』って言えよ。『コ○の逞しい●●●で、俺の中をいっぱい掻き乱して下さい』って。ナ○ツのおねだりする声が聞きたいなぁ」
「そ、そんなっ……」
「ふーん、欲しくないのか?じゃあ、やめようかな」
耳元に感じていたコ○の吐息が、ゆっくりと離れていく。
「そんなことっ……言ってな……い」
今すぐ欲しい。欲しくて堪らない。
逞しいそれで思いきり貫いて、激しく突き上げて、自分の滾ったものも強く握り締めて、扱きあげてほしい!
「じゃあ言えるな?ナ○ツ」
じわじわ責められて、極限まで高められたナ○ツの身体は、もう拒む事はできなかった。
「コ○ので……いっぱい、掻き乱してくれ……」
「僕の、何で?」
「分かってて……訊かないでくれっ……」
真っ赤に染め上がったナ○ツの頬に、コ○はチュッと口付ける。
「分からないから訊いてるんだよ」
「う、嘘だっ」
「嘘じゃないって。焦らさないで、早く言えよ」
「焦らしてるのは……そっち……ぁっ……」
腰が無意識にいやらしくくねってしまう。早く欲しい。これ以上、我慢できそうもない。
「コ○の……逞しい●●●を、俺の中に……っ」
そう言うと、手首を掴まれ、後ろ手に彼に股間に導かれた、
「お前が欲しいのは……これか」
「そ、そう……はやく……っ」
これ以上焦らされたら、どうにかなってしまう。ナ○ツは我慢できずに自分から彼の滾ったそれを、自らの潤んだ窄まりにあてがった。
「アッ――!」
ぬぷりっ、と先端を受け容れた瞬間、まるで全身の血が沸騰するかのような、そんな快感に包まれる。
「んぅぅっ……」
何もかも埋め尽くすコ○の昂ぶり。ぐいぐいと押し広げられながら、どこまでも高められていく。呼吸はすっかり乱れ、ただただ彼を受け容れるので精一杯だった。
「食いしん坊だなぁ、ナ○ツは!」
「コ○……お、奥まで……来てくれ……っ」
壊れてもいい。滅茶苦茶に突き上げて欲しい。
「急かすなよ、ナ○ツ。せっかくのお前の体なんだから、じっくり味わわせてくれ」
焦らすように腰を引かれ、もどかしくて狂いそうになる。
「あぁっ、イヤだ、もっと……」
あゆみ「――ど、どうかな?初めて書いたから、何がなんだか分からなくて……」
やよい「いい!スゴくいいよ、あゆみちゃん!」
あゆみ「そ、そう?これ、こまちさんにも見せたほうがいいかな?」
やよい「うん。こーいうのもイケるクチかもね!」
あゆみ「オールスターで繋がるBLの輪、だね」
やよい「さて、この前の続きだけど……」
あゆみ「うん。ベタ塗りと消しゴム掛けだよね」
やよい「それと、今日はトーンもやってもらおうかなって」
あゆみ「えぇっ!?私なんかがそんな大役を!?」
やよい「いや〜、実は昨日、気合入れてカッター握ってたら指ケガしちゃって……ちょっと刃物とは距離を置こうかなって」
あゆみ「そうなんだ……。で、どこをやればいいの?」
やよい「この男性キャラの乳首のところと、あとお尻の――」
完
120
:
運営
:2017/08/21(月) 22:09:03
運営です。Mitchell & Carroll様、いつも楽しい作品をありがとうございます。
で、さすがにこれは問題あり……なんですが、内容はとても面白く、削除も惜しい(運営の一人が強く推しました)ので、特例で保管させていただくことにします。
ちょっと無理やりではあるんですが、保管庫Q&Aの3を適用します。まずヒロインと男性キャラとの絡みではないこと。及び、妄想オチであること。シリアスではないこと。ヒロイン同士のお話で終わっていること。でギリギリOKとします。
投下ありがとうございました!
121
:
Mitchell & Carroll
:2017/08/21(月) 23:25:01
>>120
どうもありがとうございました。
122
:
makiray
:2017/11/02(木) 21:31:06
一応、プリアラの映画がベースなのですが、映画を見てなくても OK ですし、ネタバレにもなっていません。
3スレ、お借りします。
123
:
makiray
:2017/11/02(木) 21:32:21
きらら星またたく (1/3)
----------------------
パリ7区のシャン・ド・マルス公園に店を構えたキラキラパティスリー。
そのドアがバタンと開く。次には、カツカツカツ、とヒールの高い音が響いた。
「あの、今日の営業はもう…」
「Des bonbons ou un sort」
「え?」
その少女が言ったフランス語を宇佐美いちかたちは理解できなかった。
なにせ世界パティシエコンテストへの参加は急に決まったもので、フランス語を勉強する時間などほとんどなかった。“Bonjour”と“Merci”、あとは自分たちが提供するスイーツの名前くらいがせいぜいである。
「Des bonbons ou un sort!」
「Pardon...」
有栖川ひまりがやっと思い出した言葉で、もう一度、と言う。年は彼女たちと同じくらいだろうが、姿勢もスタイルもよいその少女は、その外見に似つかわしくもなく、小さく舌打ちをしたように聞こえた。
「ったく。
じゃ、Trick or Treat!」
「あ、それはわかる」
立神あおいが言った。だが、別にハロウィンのフェアはやっていない。顔を見合わせているばかりだが、琴爪ゆかりが、あ、と口を開いた。何か思い出したらしい。
「シエルは? いるんでしょ?」
「シエルのお友達かな」
「パリに来て、このあたしをおもてなししないで済むと思ってるの? 大人しく出さないと、いたずらしちゃうわよ?!」
悪い人には見えないのだが、言っていることが物騒である。なんとかして帰ったもらった方がいいだろうか、と思っていると、キッチンからキラ星シエルが顔を出した。
「いた!」
「あ…」
ふたりは、お互いを認めると笑顔になった。
「シエル!」
「きらら!」
「きらら、って…あっ!」
いちかたちもそれが誰であるかを思い出した。五人一斉に指をさす。
少女は、からかうように笑った。
「ごきげんよう」
「そうか。
シエルが MON TRESOR にいたころ、きららちゃんと会ってたんだ」
その少女は、天ノ川きららだった。
「そ。駆け出し同士、傷をなめ合っていたわけ」
「わたしはちゃんと一人前のパティシエになってたわよ」
「えー、オーナーにダメ出しされてしょげちゃってたのは見間違いかなぁ」
「記憶にないわ」
「それは失礼」
きららは、にひ、と笑った。
「ところで」
剣城あきらが言う。視線は、きららといちかから、ひまり、あおい、ゆかり、と移動する。
「なに?」
シエルがそれぞれの顔を見た。どれも、困っている表情。このふたりは、お互いのことをどこまで知っているのだろう。
「どうしたの?」
「あ、きららちゃん」
いちかが立ち上がった。
「改めて紹介するね。
こちらは、キラ星シエル」
「知ってる」
「またの名を、キュアパルフェ」
「ふうん、どっかで聞いたような――え?」
シエルがいちかに駆け寄った。
「ちょっと、いちか、そんなこと、一般の人に」
「大丈夫。きららちゃんは――」
シエルはきららを見た。きららの唇が震えている。それはつまり、「キュアパルフェ」という名前が何を意味するかを知っている、ということだ。シエルの視線は、きららから、あきら、ゆかり、あおい、ひまり、いちか、と移動した。
「…」
「…」
「シエルがプリキュア?!」
「きららがプリキュア?!」
124
:
makiray
:2017/11/02(木) 21:34:00
きらら星またたく (2/3)
----------------------
さらに、シエルが実はキラリンという妖精である、という事実もきららに伝えられる。きららはしばらく頭を抱えていた。
「ていうか、いちかちゃんたちが言ってたキラキラルってそういうパワーも持ってるんだ」
「えぇ、まぁ」
「了解」
「わかったの?」
「理屈考えてもしょうがないからね。あたしたちだって似たようなもんだし」
「つまり、きららとは、駆け出し仲間であると同時に、プリキュア仲間でもあるわけね」
「さっきは違うって言ってなかったっけ」
「認めてあげたのよ」
「って言うか、違うよ」
きっぱりとした言い方に、一瞬、皆の表情が曇る。
「あたし、もう駆け出しじゃないし」
「…」
「シエルは知らないけどね」
また、にし、と笑う。またからかわれたのだ。シエルの顔が赤くなる。
「私の店の『スイーツのセーヌ川』は何度も見たでしょ?
また私のスイーツを食べられなかった、ってがっかりしてたじゃない」
「うーん、そしたら別の店にいけばいいだけだし」
「なんですって?」
「ここは花のパリ。おいしいお店はいくらでも」
「きららちゃん」
ヒートアップしそうな言い合いを いちかの言葉が止めた。
「ん?」
「きららちゃんって、そんな言い方する人だった…っけ」
きららの目がわずかに開いた。
「私、きららちゃんとシエルがどんな関係だったかは知らない。
きららちゃんだって、今年の春に会ったっきりだし。
でも、きららちゃんがそんな意地悪を言う人だなんて…思ってなかった」
一度落ちた視線を上げるきらら。どうやら、ひまりたちも同じことを考えているようだ。
「…。
ごめん」
きららは小さく頭を下げた。
「スイーツだけじゃない。モデルも一緒でさ。
スタイルが良くて、クールなウォーキングができるモデルなんて、パリにはいくらでもいるんだ。認めてもらって抜け出すんだ、ってみんな言ってるけど、そもそも見てもらう機会が少ない。
だから、ことあるごとに、『あたしの方がきれい』『あたしの方が上手い』ってアピールしていかないといけないんだよね。
あたし、もともと根性悪いけど、それが強くなってる、って日本のモデル友達にも言われた」
「根性悪くなんかないよ」
「いや、それは」
「根性悪い人が、プリキュアになれるはずないもん」
「…」
またきららの視線が落ちる。シエルは、次の言葉が出ないきららを見ていた。
「そんなときは、スイーツね」
シエルが立ち上がった。
「何か食べたいものある? 簡単なものなら作るよ」
「…。
ミルフィーユ」
シエルは、簡単なものって言ったのに、と笑いながらキッチンに向かった。
125
:
makiray
:2017/11/02(木) 21:34:47
きらら星またたく (3/3)
----------------------
「そんなすぐ帰っちゃうの?」
「学校、そんなに長く休めないし」
「そっか」
きららは笑っていたが、瞳の奥に寂しさが見えた。
「冬休みにでもまた――」
「ノーブル学園の近くに店、出せるかな」
「出せると思う…けど」
「はるはるとみなみんにさっきのミルフィーユ、食べさせてあげてよ」
「きらら」
「あたしがいなくなってすっごい寂しいらしいからさぁ。ちょっとはまぎれるんじゃないの?」
「…。
それは保証するわ」
「よろしく」
寂しいのは自分も同じだろうに、自分の事より、友達の方が先。
同じなのだな。
シエルは、自分を支えてくれる いちかたちのことを思った。
隠し事も一つなくなり、シエルときららの間もさらに近くなった。駆け出し仲間であり、プリキュア仲間であり。
「ね、日持ちのするスイーツなら日本から――」
「あぁ、久しぶりにマーブルドーナツ食べたいなぁ。シエル、日本から送ってくれない?」
「絶対にいや」
きららは、まぁまぁ、とシエルの肩をたたいて笑った。
「しばらくは、パリの No.2 のスイーツで我慢するよ」
「今頃おだてたって」
「どこが No.1 かなんて言ってないよ」
「…!」
そのやりとりを見ていた あおいが肩をすくめた。
「どこで入ったらいいかわかんないよ、あのふたり」
「でも素敵だよね」
「いい関係だと思います」
いちかの言葉に言葉にひまりが頷いた。
「こっちにも似た感じの人がいるけど」
「誰のことかしら」
あきらが苦笑する。
「ね、写真撮ろう。
ミルフィーユと一緒に、はるかちゃんたちに届けよう!」
いちかがカメラを取り出した。
きららが、写真は事務所通してほしいなぁ、と言ったが、もう誰も戸惑わない。気にしなくていい関係がまた一つ出来上がった。
126
:
名無しさん
:2017/11/03(金) 08:07:57
>>125
おー、早々と劇場版設定!
パリと言えばやっぱりこの人ですね。
翻弄されるいちかたちが、らしくてニヤけましたw
127
:
名無しさん
:2018/06/24(日) 21:43:01
今年はオールスターズ復活なのね!
55人声付きって凄いな。どうやってお話作るんだろう!
とにかく楽しみ。
128
:
makiray
:2018/09/22(土) 23:01:05
毎年恒例――だけど半年も経っている!――春映画にキュアエコーを登場させるお話、「プリキュア スーパースターズ Ver.1.1」をお届けします。
12 スレ、お借りします。
129
:
makiray
:2018/09/22(土) 23:04:05
Soliste Echo(01/12)
-------------------
「…」
一瞬、口を尖らせかけた あゆみに、エンエンが首を傾げた。
「どうした」
グレルがあゆみの勉強机から見上げながら言う。
「ほのかちゃんも出ない」
「なーにやってんだ、あいつら」
腕を組んだグレルが小さな指をパタパタさせている。どこでそういうポーズを覚えたのだ、とあゆみは思った。
春が近い。恒例の、プリキュア花見大会の計画も始まっているはずだ。学校の友人から穴場を教えてもらったので、そこを提案してみようと思って美墨なぎさに電話をかけてみたが通じない。最初にかけたときは夕方だったから、夜を待ってもう一度かけてみたが同じだった。そして、雪城ほのかも出ない。ラクロス部は練習が夜にかかることもあるかもしれないが、科学部はそんなことなさそうな気がする。九条ひかりは就寝が早い、と聞いたことがあるので、おそるおそるかけてみたが、やはり出なかった。
「みんな、忙しいのかな」
「お花見より大事な用事なんかないだろ!」
エンエンの言うことが気になる。たまたま三人とも忙しかった…。学年末で、試験もあるだろうし――それはあゆみも同じだが――暇を持て余している、ということはないだろうが、それは電話に出る暇も、コールバックする余裕もない、というほどのものだろうか。
「あゆみ、どうすんだ」
「明日、もう一回、電話してみる。もうこんな時間だし」
「早く決めてもらわないと困るぞ。俺だって忙しいんだ」
「何に?」
あゆみとエンエンの声が揃うと、グレルは悔しそうな顔でそっぽを向いた。あゆみとエンエンが顔を見合わせて笑う。
「明日まで待っててくれる?」
「しょうがねぇな。俺はもう寝るぞ」
「うん。おやすみなさい」
あゆみはスマートホンを置いた。
「あゆみ…」
さすがのグレルも大きな声を出さない。いや、出せない。エンエンは不安そうにあゆみを見上げている。
翌日、学校から帰ったあゆみは、なぎさとほのかが相変わらず電話に出ないことを確認すると、日向 咲、夢原のぞみ、桃園ラブ、花咲つぼみ、とかける相手を変えていった。最後が朝日奈みらい。誰も出ない。さらに、出なかった人と生活のリズムが違う仲間――例えば、高校生の月影ゆり、小学生の調辺アコや円亜久里、仕事で学校に行っていない可能性のある剣崎真琴――にもかけたがやはり同じだった。
(どういうこと)
最初のうちこそ、「あゆみに何かサプライズを用意していて、それで電話に出ないようにしているのではないか」などとからかっていたグレルとエンエンだが、あゆみがいくら相手を変えても一人も出ない、ということがわかると、笑いが消えて行った。
(何が考えられるだろう)
いや、「大丈夫だ」と思える答えは出てこない。
「ケータイじゃなくてうちにかけてみたらどうだ」
「それは…よくないかもしれない、って気がする」
想像の通りだとすれば家族はかなり心配しているだろう。そこに電話をすることはためらわれる。そして、もっと悪い想像として、家族も同じような目にあっていたり、ということはないか。
ふたたびスマートホンを手に取るあゆみ。ここは、あとで「心配し過ぎ」と笑われるのを覚悟のうえで、全員に連絡を取ってみるべきだった。
しかし。
あゆみは、名前を書きだしたノートを見ていた。何度コールしても出ないのが数人、「電源が切られているか電波の届かないところに」となったのが大半。
結論は出た。「プリキュアに何かあった」のだ。
「でも、そうだとしたら、どうして」
なぜ、あゆみ、キュアエコーが無事なのか。
それはわからない。単に順番の問題で、たまたま最後に一人残っているだけなのかも――
あゆみの背中を悪寒が走った。
(私が、最後のプリキュア?)
体がぶるっと震えた。
「あゆみちゃん」
「あゆみ!」
グレルとエンエンが机から見上げている。その温かい視線にあゆみは我に返った。
(しっかりしなきゃ)
あゆみは自分に言い聞かせた。電話が通じないだけだ、と。湧き上がってくる不安と恐怖を押しつぶすように胸の中で何度も繰り返した。
だが、それは気休めのための努力でしかない。
おそらく、このまま待っていれば、敵が姿を現すはずだ。それが何者なのかはわからないが、プリキュア全員を手にかけたのだとしたら目的があるはずで、黙っているはずがない。
だが、それを待っているわけにもいかない。何かが起こっているのだ。じっとしているのは間違いだ。どうすればいい? たった一人で――
あゆみの顔が上がる。グレルとエンエンはそれを追うように見上げた。
まだ、連絡を取っていないところがある。あゆみは力を込めなおすように手を握って開いた。
130
:
makiray
:2018/09/23(日) 23:02:14
Soliste Echo(02/12)
-------------------
スマートホンを手に取り、検索用の入力欄をタップする。思い出せ。名前はなんだった。まだ会ったことがないので、個人の番号は知らない。手がかりは店の名前だけだ。確か。
「あった、キラキラパティスリー」
あゆみは通話ボタンを押した。
呼び出し音が、一度、二度。
(出て。お願い)
三、四。
(お願い、誰か!)
五――
《お待たせしました、キラキラパティスリーです》
女の子の声。
「いた」
《もしもし?》
「あの、私、坂上あゆみって言います」
《はじめまして。宇佐美と言います》
「宇佐美いちかさん?」
《は…はい、そうですけど》
「あの、宇佐美さんの名前は、みらいちゃんとリコちゃんから聞いて」
《みらいちゃんとリコちゃん…あぁ。はい、えっと、それで》
「私も、プリキュアなんです」
《…》
「あの、もしもし?」
《なんですとーっ?!》
あゆみは駅を出ると走り出したが、坂の途中で足を止めた。
「すごい坂だね」
「これは…」
トートバックの中のグレルも、この長い坂を見て、早く行け、とは言わなかった。
あゆみは、いちかには異変の話をしていない。いちかが、みらいやリコから名前を聞いただけのプリキュアから電話がかかってきたことに興奮していたせいもあるし、翌日は出張販売の予定で忙しそうだったこともある。その出張販売の場所は横浜から行ける距離だったので、そこで会って話そうと考えた。花見のことは、いちかの方から、「はるかちゃんがそのうち連絡する、って言ったけど、どうなったかなぁ」と言ってきたので、ほかの誰かに聞いてみる、とかわした。
「上り切った…」
「あゆみちゃん、大丈夫?」
「うん。あとは下りだしね」
「どんなやつらなんだろうな」
「『やつら』とか言っちゃダメ」
あゆみはトートバックの上からグレルをこづいた。
この不安な状況にあっても、そこは楽しみである。
〈フーちゃんも楽しみ〉
今はキュアデコルに姿を変えたフーちゃんも楽しそうな声で言った。
「着いた…けど」
上りが長かったのだから、下りも相当に長い。その、下りきったところに広場があった。移動式の遊戯設備がいくつか並んでいる。どうやら何かのイベントをやっているらしい。奥に「キラキラパティスリー」の看板も見えた。
「賑わってるみたいだね」
「うん、いいにおい」
「あ、あゆみ!」
グレルが突然、大きな声を出す。
「どうしたの?」
「太陽マンだ!」
「たい…え?」
トートバックから身を乗り出して指さしている。キラキラパティスリーの建物とは反対の方向に小さなステージがあり、「太陽マン ヒーローショー」と書いてある。
「グレル、今はそれより」
「行ってみようか」
「でも、あゆみちゃん」
「今は、忙しくて難しい話を出来る感じじゃなさそう。それに、宇佐美いちかさんがいないみたい」
長いツインテールだと聞いた。そろいの制服を着た女の子は五人いるが、それに当てはまる人がいない。
「わたしも一休みしたいし」
「だろ。だろ?!」
「いいけど、興奮してバッグから飛び出したりしないでね」
あゆみは、笑顔を振りまいてスイーツを売っている立神あおいたちの横を通り過ぎて、ヒーローショーの会場に向かった。
131
:
名無しさん
:2018/09/24(月) 07:30:49
>>130
待ってました!
しかも他のプリキュアの描写も出て来るとは。続き楽しみにしてます!
132
:
makiray
:2018/09/24(月) 23:18:51
Soliste Echo(03/12)
-------------------
異変が起こったのは、しばらく後である。
「なに?」
立ち上がる あゆみ。
空に巨大な扉が現れたかと思うと、そこから黒い巨人がこちらに乗り込んできた。手と足、それに顔らしいものがあるから「巨人」と言ってもいいだろうが、それを「人」というのはためらわれる。あゆみは直感した。プリキュアたちに何かが起こったとすれば、あれと関係がある。
「あゆみ!」
「うん!」
一瞬、襟元のキュアデコルが熱を持った。
〈いやな感じがする〉
フーちゃんも同じことを感じている。
海に向かって走る。見たことのないプリキュアが戦っていた。
「あれが、いちかちゃんたち」
「すげぇぞ!」
軽やかに飛び回り、色のきれいなリボンを打ち出しては巨人を翻弄し、拘束している。
その姿が少しずつ大きく見えてくる。だが、護岸の向こうにプリキュアの姿が消えたかと思うと、巨人は扉の向こうに行ってしまった。
「どうしたんだろう」
〈プリキュアの光が消えた〉
フーちゃんがつぶやく。あゆみは浜に降りる階段に飛びついた。そこに、ふたりの少女が上がってくる。
「ごめんなさい」
赤ん坊を抱えた少女と、長いツインテールの少女が、ぶつかりそうになった謝罪もそこそこに走っていこうとする。
「待って!」
うるさいな、と言いたげな険しい表情で振り返る少女たち。
「宇佐美いちかさん、じゃないですか?」
「…そうですけど」
「何があったんだ!」
グレルがバッグから飛び出した。エンエンも続く。
「妖精…?!
じゃ、あなたは、坂上あゆみちゃん!」
「どうしたんですか?
プリキュアのみなさんは?」
「みんなは――
みんなは…」
いちかの視線が落ちる。野乃はなは、それを心配そうに見やったあと、あゆみに視線を戻した。
「ウソバーッカ…さっきの化け物に捕まってしまいました」
「捕まった…」
「いちかちゃんの仲間も、私の仲間も…」
「せや、えらいこっちゃ」
「ネズミがしゃべった!」
「俺はハリハム・ハリー様や!」
赤ん坊のハグたんは、ふたりの曇った表情をよそに、グレルとエンエンに向かってハギュハギュと手を伸ばしていた。だが、今はそれに頬を緩める者はいない。
「つまり、二組のプリキュアが捕まってしまった、ということなんですね」
いちかと はなが頷く。
「変身して助けに行こうよ」
エンエンが言ったが、いちかと はなは弱々しく首を振った。
ポケットから何かを取り出す。石ころに見えたそれは、どうやら変身アイテムのようだった。
「変身できないってことか」
だまって頷くふたり。
「坂上さん、ほかのプリキュアの皆さんは」
いちかがやっと声を出した。
「え、いちかちゃんたちのほかにもプリキュアがいるの?!」
はなは驚いてそう叫んだが、この坂上あゆみという少女が最初に「プリキュア」という言葉を使っていたことを思い出した。
「それが…」
〈あゆみ…さっき、ウソバーッカがいなくなったらプリキュアの光も消えた〉
「だから、それは――え」
「プリキュアがみんなウソバーッカに捕まってる、ってことか!」
133
:
makiray
:2018/09/25(火) 21:05:51
Soliste Echo(04/12)
-------------------
「プリキュアがみんなウソバーッカに捕まってる、ってことか!」
グレルが叫ぶ。
「ひょっとして、それを伝えに、わたしのところに」
今度は、あゆみが頷いた。
それきり彼女たちは黙った。ハグたんも、不安げに はなたちの顔を見ている。
「せや、それで、どこ行くつもりやったんや、いちかはん」
「そうだ。
桜が原に行こうと思ってたの」
「桜が原…?」
三人は苺坂に向かった。そこにある神社の境内。
いちかはポーチから「スイーツ」のマークが描かれたカードを取り出した。
「桜が原は、この世界の町じゃないんだけど、サクラっていうコは、世界を渡っていく力を持ってるんだ」
その後、そのカードを通じて何度かコンタクトを取ったことがあるという。
「スマホみたいに使えるの?」
「っていうか、このカードを持って、サクラとお話ししたい、って思うと――」
いちかはそのカードを強く握って目を閉じた。
時が移る。いちかの眉間が険しくなり、汗が流れ、やがて歯を食いしばったが、やがて、はぁっと息を吐き出した。
「だめだ、サクラの声が聞こえない」
「いつもはすぐに聞こえるの?」
「そういうわけじゃないけど…今は、なんか、届いてる、って感じがしないんだ。呼び出し音も鳴ってない、っていうか」
「ちょっといいですか」
あゆみは、いちかのカードに手を重ねた。
「…」
確かに。なにかとつながる力を持っているもののような感じがする。言えば、キュアエコーの光の力と共通点がある、ような気がした。
「そのサクラっていうコに手伝ってもらう、っていうことですね?」
「うん。
ウソバーッカは、マホウ界に行く、って言ってた。でも、私たちはみらいちゃんやリコちゃんと一緒でないとカタツムリニアは乗れないから」
「わかりました」
「なにが…わかったんですか?」
はなとハグたんが一緒に首をかしげる。それを可愛いと感じている余裕は今はない。
「フーちゃん、グレル、エンエン。
お願い」
〈うん〉
「よしきた!」
「思いを届けるプリキュアの登場だね」
あゆみは、グレル、エンエンと手をつないだ。
胸元のキュアデコルが瞬き、三人のトライアングルが光を帯びる。
「思いよ届け、キュアエコー」
「…」
「キュアエコー…」
「すごい!」
「きれい!」
「かわいい!!」
いちかと はなはもちろん、ハグたんも、小さな体のままのハリーも飛び跳ねて喜んでいる。
「うけてるな…」
グレルがつぶやいた。かすかにほほを染めるキュアエコー。
「あの…カードを貸してください」
「よろしくおねがいします!!」
お辞儀をするようにカードを差し出すいちか。はなも覗き込む。
カードの縁が光っていた。キュアエコーがゆっくりと息を吐く。
はなはそれを、何か困っているのだ、と思ったらしい。突然、大きな声を出した。
「フレ、フレ、あゆみちゃん!
フレ、フレ、エコー!」
「あの…」
キュアエコーが苦笑気味に言う。
「ちょっと集中したいので…」
ハリーがはなの足をコンと叩く。はなは体を小さくして恐縮した。
134
:
makiray
:2018/09/26(水) 21:37:59
Soliste Echo(05/12)
-------------------
キュアエコーが手のひらを上に向けると、カードは浮き上がり、零れ落ちた光の粒が、キュアエコーの周りを舞った。やがて光の粒が空に吸い込まれていく。
「サクラさん…聞こえますか?」
〈誰?〉
「サクラの声だ!」
〈誰なんですか?!〉
キュアエコーの目がかすかに動く。
「私は坂上あゆみ、キュアエコーです」
〈プリキュアなの?! いちかのお友達?〉
「サクラ、私だよ。いちかだよ!」
やはり、サクラには、今のいちかの声が聞こえていないようだ。
キュアエコーはいちかに向かって手を伸ばした。わけがわからないまま、いちかはその手を握った。
「えっと…」
〈いちか!〉
サクラの声が明るさを取り戻した。
「どういうこと…?」
はながキュアエコーの顔を覗き込む。
「思いを届ける、それがキュアエコーの光の力なんだよ」
かわりにエンエンが答えた。
「だから、いちかちゃんはサクラってコとお話ができるようになったの?」
「そういうこと」
なぜかグレルがキュアエコーの代わりに威張っている。
その間にいちかはサクラへ事情を説明していた。
〈でも、あたし、そっちに行けないんだ〉
「どういうこと?」
〈ずっと試してたの。でも、この扉が開かない〉
〈うちも手伝ぅとるんやけど、びくともせんの〉
「シズク」
いちかは知っているようだったが、キュアエコーも はなもそれが誰だかはわからない。ひとまずは、サクラの仲間だろう、と理解した。
〈あ、扉が少し軽なったような気もする〉
「ひょっとしたら、キュアエコーの力のおかげかな」
それはありうる。声だけとはいえ、こちらの世界と桜が原との間がつながったせいかもしれない。
「ちょっといいですか」
キュアエコーはいちかの手を放すと、自分の両手を結んだ。それをカードの下に向けて伸ばし、すうっと息を吐いて手を開いた。
〈扉が動くよ!〉
できる。
「いちかさん、はなさん。
たぶん、桜が原への扉を開くことができると思います」
「キュアエコーの力で?」
「いえ、正確には、私とサクラさんの間の――」
「ありがとう!!」
いちかとはなが感謝に満ちた顔を寄せてくる。キュアエコーはまたほほを染めてのけぞった。
「あの、ちょっと離れてもらえますか?」
「はは、ごめんなさい」
ふたりが下がる。キュアエコーは、手で、もう少し、と示した。
2m ほどの距離になると、キュアエコーは正面にあったカードを下から跳ね上げた。カードは光の粒を残して、宙に舞い上がった。
「プリキュア ハートフル・エコー!」
キュアエコーの指から発せられた光が、カードに吸い込まれていく。ふっと光の脈動が収まると、まるでケーキにナイフを入れたように、目の前の空間が割れた。
「サクラ!」
「いちか!」
割れた空間は扉になり、中からかわいらしいピンク色のドレスを着た少女が飛び出してきた。おっとっと、とバランスを崩しそうになり、いちかに抱きとめられる。向こうで体ごと扉に力を込めていたのだろう。
キュアエコーは、よかった、と息をついた。
「サクラ、すぐで悪いけど、私たちをマホウ界に連れて行って」
「うん!」
サクラに続いて、いちか、はな、ハリーが扉の向こうに飛び込んだ。
「エコー、あなたも来て」
「いえ、私は残ります」
135
:
makiray
:2018/09/27(木) 22:45:10
Soliste Echo(06/12)
-------------------
「私は残ります」
「どうして?
みんなを助けるの手伝ってほしいんだ」
キュアエコーは首を振った。
グレルとエンエンも、どうした、と不思議そうに見上げている。
「残ります。
この世界にプリキュアはいないから」
「!」
そうだった。
プリキュアアラモードの五人も、HUG っとプリキュアのふたりも、そして先輩たちも皆、ウソバーッカの中に捕らわれている。みらいたちはまだ無事かもしれないが、それはマホウ界のこと。この世界、ナシマホウ界にいるプリキュアはたった一人、キュアエコーだけ。
昨夜の心配は現実になったのである。
「エコー…」
「心配するな。俺たちにドンと任せておけ!」
「大丈夫だよ」
グレルが胸をたたき、エンエンが微笑む。ポシェットから漏れた光は、フーちゃんも同じ気持ちだということだ。
「あんた…」
顔を上げる。扉の向こうに、きれいな青のキツネがいた。
「あなたは…」
「わたしの名前はシズク。サクラの友達。
あんたに、カードを一枚、預けましょ」
キュアエコーの前にカードが浮かび上がった。さっき、いちかが持っていたのと同じもの。ただし、中央のマークは「扉」だった。
「あんたにはなんや、うちらと近いものを感じる。きっと、このカードが役に立つ思う」
それがどういう意味かはわからない。だが、これからの一人きりの戦いの役に立つのであれば、それが何であっても欲しい、というのが偽らざるところだった。キュアエコーはカードを手に取った。
「すぐに戻ってくる」
いちかが表情を引き締めて言った。
「うん」
「ありがとう、キュアエコー」
走り出すいちかたち。その背中を隠すように扉が閉まる。切れ目はすぐに消え、あたりはなんの変哲もない神社に戻った。
「さて、俺たちの力の見せ所だぞ」
無言でうなづくキュアエコー。
いちかたちの言うとおりであれば、ウソバーッカはマホウ界だ。だが、いつ戻ってくるかわからない。それは、マホウ界で苦しめられてこちらに戻ってくるのかもしれないし、それはそれとしてこのナシマホウ界で悪事を働くのかもしれない。あるいは、狙い通りにみらいたちをも捕らえ、最後のプリキュアを始末しにやってくるのかもしれない。
〈あゆみ…〉
フーちゃんが小さな声を上げた。キュアエコーは手を必要以上に固く握っていた。
不安? ある。あるに決まっている。
だが、この世界にプリキュアは一人しかいないのだ。であれば、道も一つしかなかった。
マホウ界では、リコとことはがウソバーッカの中に飛び込んだ。魔法で中からみなを脱出させることができるだろう、と考えたからだったが、そうはならず苦戦していた。
はな、いちか、みらいの三人は辛うじて脱出に成功した。そこで、あのウソバーッカが、かつて はなが不思議な空間で出会ったクローバーという少年に「闇の鬼火」がとりついたものであることがわかる。はなは、クローバーを傷つけたことを謝り、闇の鬼火につけいらせないようにするため、六角塔の「時の扉」を目指す。
六角塔は見つかり、闇の鬼火にクローバーを利用させないようにすることはできた。だが、闇の鬼火は、中にプリキュアたちを抱え込んだまま巨大化してしまう。
はな、いちか、みらいは走った。まだアスパワワもキラキラルも魔法の力も戻ってこない。ハグたんを抱え、クローバーと一緒に走るしかなかった。
だが、巨大化した闇の鬼火は今にも追いつきそうだ。
もう足も心臓も限界だ。だが、止まるわけにはいかない。足をもつれさせただけでも捕まってしまうかもしれない。そう、頭に思い浮かべてしまったのがよくなかったのか、はながつまづいた。
「はなちゃん!」
みらいが戻ろうとする。
「立って!」
いちかが悲鳴を上げた。
ウソバーッカの大きな手が上から覆いかぶさってくる。はなは、はぐたんを腕の中に抱え込んだ。
「!
…」
ショックが来ない。はなは恐る恐る顔を上げた。
はぐたんを抱えたはなの体をかばっているのは。
「エコー。
エコー!」
ハートフル・エコーの光に怯えたウソバーッカは、熱いものにふれてしまった子供のように手を引っ込めていた。
136
:
makiray
:2018/09/28(金) 22:02:16
Soliste Echo(07/12)
-------------------
「ありがとう!」
キュアエコーは答えなかった。肩を大きく上下させて、荒い息をしている。
遅れてきたグレルとエンエンはその場へ大の字になって倒れこんだ。
「大丈夫?!」
いちかとみらいが走ってくる。キュアエコーはその場に崩れ落ちた。
「エコー!」
「――夫です」
それも声になっていない。
「遅くなってごめん」
みらいがその手を取った。エコーは、かぶりを振った。
ウソバーッカは、マホウ界でみらいたちを取り逃がした後、何度かナシマホウ界に侵入しようとした。キュアエコーにできることは、そのたびに扉を閉じるくらいだったが、「思いを届ける」プリキュアであるキュアエコーの力を逆に作用させることでしのいできた。つまり、この世界に入り込みたい、というウソバーッカの「思い」を妨害する、という方法だったが、それにはシズクがくれたくれた「扉」のカードが手助けとなった。
だが、それにも限度はある。五度目でついに突破され、侵入を許してしまった。それを追ってきたが、被害にあった人々を見なかったことにもできず、それを全部やろうとしたキュアエコーは文字通り、疲労困憊であった。まだ光の技を使うことはできるが、声を出す気力は残っていなかった。
震える足で立ち上がる。グレルとエンエンもお互いに助け合いながら立った。
「エコー…」
キュアエコーの胸の宝石はもう光を失いかけている。立っているのがやっとのはずだった。
クローバーと目が合う。彼は、その緑色の瞳でキュアエコーを見つめた。
今、彼が何者なのかをエコーに、あるいは、クローバーにキュアエコーについて説明できる余裕がある者はいない。だが、クローバーは今の様子から、キュアエコーが はなの友人であり、ウソバーッカと戦って弱っているのだ、ということを理解した。
「あの…」
クローバーは両手を差し伸べた。握手だろうか、とキュアエコーも手を伸ばした。
「…。
あ」
クローバーの手から淡い緑色の光がにじみ出した。それは暖かく力強い。疲れきったキュアエコーの体にしみていく。しかし。
「待って!」
キュアエコーはその手を振り払った。詳しいことはわからないながら、クローバーが何かキュアエコーのためにしてくれているのだ、ということを察していた はなたちも驚いた。
「どうしたの、エコー」
「その力は、ひょっとして、あなたの…」
クローバーの、いくらか傷ついたような表情が緩んだ。わかったのか、という顔だった。
「それは」
「いいんです」
クローバーは振り向いた。その足元に円陣が現れたかと思うと、クローバーは光になった。
「何をするつもりなの?!」
緑色の光は「芽」を出した。それはあっという間に双葉から本葉へと成長し、キュアエコーや はなたちの足元から茎を伸ばし、朝顔の蔓のように巻き付いてくる。
不快感はなかった。むしろ、その暖かさが安心をくれる。強張った体が緩み、しおれた心がほぐれていく。
一方、鬼火には逆の効果があるようだった。身もだえて苦しんでいる。
それだけではない。
(あれは…)
鬼火が腹部を押さえている。その指の間から緑色の光が漏れている。クローバーの光だ。それが突然、はじける。
「出れた!」
ずっと上の方、緑の光がはじけたあたりから声が聞こえた。
「リコ! はーちゃん!」
「あおちゃん! ひまりん! ゆかりさん! あきらさん! シエル!」
「さあや! ほまれ!」
「プリキュアが…」
脱出してきたのだ。
同じようにクローバーの光で力を得て、そうして得た力を合わせて。
再会の喜びもそこそこに全員が一斉に変身した。あたりが昼の光で埋まる。
これで――
「エコー、おかしいぞ」
(いない)
飛び出してきたのは9人。はなや いちか、みらいの仲間たちだけだ。
どういうことだ。プリキュアは全員、捕まっているのだと思ったのだが。
137
:
makiray
:2018/09/29(土) 22:00:40
Soliste Echo(08/12)
-------------------
「マジカル!」
キュアエコーは駆け出した。自分の体が軽くなっていることに気づく余裕はなかった。
「エコー!
エコーも一緒だったんですね。ありがとうございま――」
「ウソバーッカの中で、ほかのプリキュアを見なかった?」
キュアエコーは、彼女には珍しく、キュアマジカルの言葉を遮るように言った。
「ほかの…」
「ブラックやホワイトがいた筈なの」
「見てません…」
キュアマジカルの肩からキュアエコーの手が落ちる。
(思い違い…?)
その可能性はあるだろうか。
キュアエコーは顔を上げた。まだ腹を押さえている鬼火をにらみつけるように。
(誰か。
私の声が聞こえますか?!)
キュアエコーの思いが飛ぶ。
(…誰…?)
それは弱い。だが、戻ってきた声に全員が顔を上げた。
「今の声…」
「まだ、誰かが捕まってるの?」
「でも、みんないるよね…」
キュアエールやキュアホイップたちがお互いの顔を見る。
「まさか、フローラたちがこの中にいるっていうこと?」
キュアミラクルが叫んだ。頷くキュアエコー。
花見の計画があったことを知っているキュアホイップたちは、「全員と連絡が取れない」ということを聞いて、さすがに偶然とは考えられない、と思った。
「それに」
キュアエコーは視線をさらに上げた。プリキュアたちが変身したときの光はもう消え、ウソバーッカの大きな体の背後も、自分たちの後ろも、空全体が闇に閉ざされている。多くの人がその下で怯えているはずだ。
「この状態で、ブラックやホワイト、ハッピーやサニー…40人もいるプリキュアが一人も活動していないなんて。
ありえない」
以前のキュアエコー、あるいは坂上あゆみを知るものなら、その断言口調に驚いたかもしれない。
そして、再会と、もう解決も同然と喜んでいるキュアエールたちとは正反対の、頬が強張り、緊張をたたえたその目に。
「エコー…」
キュアホイップが小さな声で言った。
そうか、まだ一人なんだ。
キュアエコーは気づいた。
事態が好転してなどいないこと。そして、弱っているように見えるウソバーッカだが、まだプリキュアを内部にとらえていられるだけの力は持っていることに気づいていたのは、キュアエコー一人だった。
(まだだ)
「グレル、エンエン、行くよ」
「うん」
「おぉっ!」
「エコー、どうするの?」
キュアエコーが振り向く。
「みんなを助けに行きます」
「ウソバーッカの中に?」
「無茶だよ。
あの中は!」
「みなさんが出られたんですから、大丈夫です」
「だけど」
それに、限界が近い。クローバーの光で一時的に力は戻ったが、そう長くは持たないような気がする。今のうちに、みんなを助け出さなければ。そして、キュアミラクルたちにバトンタッチするのだ。
キュアエコーは、シズクからもらった「扉」のカードを取り出した。何度も使ったせいで縁が欠けている。
このカードを使えるのは、「思いを届けるプリキュア」、キュアエコーだけだ。役目を果たさなければ。
キュアエコーはそのカードをウソバーッカに向けて投げた。闇の中を白い線が伸びていく。
カードから溺れ落ちた光は小川のせせらぎのように揺れた。地面を蹴るキュアエコー。
「エコー!」
「こちらはお願いします!」
信じていないのではない。任せていく。シズクがあのカードを預けてくれたように。
「みなさん、もうすぐ行きます!」
138
:
makiray
:2018/09/30(日) 23:13:57
Soliste Echo(09/12)
-------------------
「咲…」
「うん…」
「咲、しっかりして!」
咲は球体の中に座り込んで頷くだけだった。舞が、自分が閉じ込められている球体をたたく。だが、相変わらずそこから出ることはできない。ふたりとも、膝まで石になってしまっている。舞は自分の勢いでバランスを崩し、やはり球体の中に座り込んだ。
「まずいわね…」
水無月かれんが辺りを見回す。鬼火の体内はサイケデリックな配色のまま。その中に閉じ込められている彼女たちも、ほとんどが膝まで石になっている。そこから先、腿がどうか、あるいは腕はどうなのか、というのは人によって違うようだった。
次に座り込んだのはラブだった。蒼野美希が球体越しに名前を呼んだが、ラブは手を上げて返事をしただけだった。
ひかりが深い息をつく。自分を落ち着かせるため、そして、実際に苦しい。
ゆりと菱川六花が視線を交わす。
この疲労感はしばらく前から強くなっている。外で何が起こっているのかはわからないが、はっきりと「力が抜けていく」という感触があった。
プリキュアの力が吸収されている。そしておそらく、その力は鬼火の力となっている。
「そんな。これは、闇の力なんでしょう?!」
「確かに。ウソバーッカにとってはプリキュアの光の力はマイナスでしょうね。でも、そのマイナスをプラスに転じることができれば」
40 人ものプリキュアの力を手にすることができる。
「だって」
「私、ウソバーッカの形が気になってる」
ゆりが言った。
「形?」
「ルビンの壺にそっくり」
「壺…?」
ウソバーッカの体そのものに目を向ければそれは壺だ。だが、そのアウトラインに目を向ければ、それは向かい合った人間の顔となる。
「ウソバーッカは二面性を体現しているんじゃないかしら。
光と影。
プラスとマイナス。
嘘と真実」
「早く出ないと」
真琴が力のない声で行った。
手がかりのない球体に手を押し付け、なぎさがやっとの思いで立ち上がる。
「プリキュアの力が、悪いことに使われるなんて冗談じゃない」
「なぎさ…」
「でも、どうすんの」
「全員、一度に脱出するのが理想ですが」
青木れいかが言った。賛同は得られたものの、その方法がない。
「出る元気がある人だけでも」
「みんなを残していくなんて」
「だけど」
「来る」
星空みゆきが言った。
「なんて」
「キュアエコーは絶対に来てくれるよ」
坂上あゆみがいないのにはみな気付いていた。
「あゆみちゃんは、絶対にこの異変に気が付く」
「そして、気付いたら、黙っているはずがありません」
最初に出会った「スマイルプリキュア」の全員が断言した。
「悔しいけど、エコーが来てくれるのを待つしかないんだね」
北条響は顔色の悪い南野奏を心配そうに見ながら、早いといいけど、とつぶやいた。
「来ましたわ」
「え?」
「私にはわかります。あゆみちゃんのあふれるような愛が――」
「亜久里ちゃん!」
アコの声が一条の光でかき消される。気を失いかけた亜久里もそのまぶしさに目を開けた。
「エコー!」
気味の悪い色がうねる中、真っ白い光を渡ってくるのはキュアエコーだった。
「みなさん、ご無事ですか?!」
139
:
makiray
:2018/10/01(月) 20:57:03
Soliste Echo(10/12)
-------------------
「ありがとう!!」
球体がキュアエコーの周りに集まってくる。キュアエコーはそれに押しつぶされそうになった。
「あの、ちょ、ちょっと待ってください」
「あ」
「みなさん、お揃いですよね」
「点呼!」
来海えりかが号令をかけると、それぞれのグループ毎に確認が始まる。全員いるようだった。
「では、早速――」
「その前に外の状況を教えて」
ゆりが言う。
「え、はい。あの」
さっきまで捕まっていたメンバーも含め、三組のプリキュアが変身していること、ウソバーッカだったものはクローバーと分離して今は「闇の鬼火」単体であることを伝える。
「野乃はな…誰か知ってる?」
手が上がらない。
「また新しいプリキュアが生まれたってことだね」
知らない名前。だが、それは朗報だ。みな、勇気づけられたように頷く。
「では――」
「どうするつもりなのですか?」
れいかが尋ねる。
「えと、外からここまでのルートはああいう風に見えているので」
キュアエコーが指さす。キュアエコーはシズクからもらったカードに導かれてこの奥に来たが、その痕跡が光の粒の流れとして残っていた。
「私の力で皆さんをそちらの方向に押し出します」
「エコーの力だけで?」
「大丈夫かな」
「それは…」
「いいんじゃないかな。あたしたちの力はまだ残ってるだろうし。力を合わせれば」
「はい。
それでは」
「あのさ――」
「お前ら、エコーの話を聞けーっ!」
ついにグレルが怒鳴った。一瞬、皆が口をつぐんだが、雰囲気は緩んだ。
「ごめんごめん」
なぎさがごまかすように笑う。
ほのかはキュアエコーの胸元のエンブレムが光を失いかけていることに気づいていた。
当然だ。「プリンセスプリキュア」までのプリキュアはここにいるのだし、「魔法使いプリキュア」よりも後輩たちはその手前に捕らわれていたことがわかった。みらいたちは外にいたが変身できない状態、つまり、ウソバーッカの外にいたのはキュアエコーだけだったのだ。
それは奥に捕らわれていた彼女たちの希望ではあったが、その結果が、この真っ白いドレスに傷をつけリボンの色もくすんだ、今のキュアエコーだった。助けてもらう必要はあるが、一刻も早く、キュアエコーを解放しなければ。
「お願い」
「はい」
キュアエコーが、今度は真剣な顔で頷いた。
球体は自然にキュアエコーの周りに集まった。
キュアエコーは「扉」のカードを見た。終わったらシズクに返すつもりだったが、最後まで原形をとどめていてくれるかどうか不安になる。
「グレル」
「おう」
「エンエン」
「うん」
「フーちゃん」
〈うん〉
キュアエコーはカードを投げた。自分が来たルートを反対になぞる。
「プリキュア」
全員の呼吸が一つになる。
「ハートフル・エコー!」
140
:
makiray
:2018/10/02(火) 21:36:13
Soliste Echo(11/12)
-------------------
キュアエコーが手を高々と掲げる。その指先から伸びる光は、上空からシャワーのように降り注ぎ、やがて光の川となって、プリキュアたちを閉じ込めた球体を運んで行く。全員の球体が動き出したのを確認するとキュアエコーもその後に続いた。何人かが球体の中で振り向く。キュアエコーは頷き返した。
みんなを闇の鬼火の中から助け出すことが私の役目だから。
ハートフル・エコーの光と、プリキュアたちの中の光は呼応しているようだった。球体はどんどん加速していく。
(早く)
(急がないと)
(助けるんだ)
(新しい仲間のプリキュアを)
(まだ会ったことのない友達を)
(みんなを助けるんだ)
(みんなを!)
(みんなを!!)
「行くよっ!」
出口が見えた。
40個の球体はその勢いのまま、鬼火の体から飛び出した。その瞬間に球体も割れる。
「出た!!」
着地。
「みんな、変身できる?!」
なぎさが叫ぶ。
彼女たちはいっせいに自分たちの変身用アクセサリを確認したが、まだ石のままだった。
「だめか」
「すいませ――」
言いかけたキュアエコーの足から力が抜ける。
「エコー」
わずかな光が飛び散り、キュアエコーは坂上あゆみの姿に戻ってしまった。
「あゆみちゃん!」
「大…丈夫…です」
限界だった。フーちゃんのキュアデコルも輝きを失っている。
「グレル! エンエン!」
ふたりとも みゆきの手の中でぐったりしている。
「みんな、お願い!!」
たまらず はるかが叫んだ。
キュアミラクル、キュアマジカル、キュアフェリーチェが頷き返す。
魔法使いプリキュア、プリキュアアラモード、HUGっとプリキュアが円を形作る。
「プリキュア スーパースターズ!!」
鬼火が浄化されていく。
それがわかったのか、あゆみの体から緊張が抜けて行った。その手の間から、扉のカードが零れ落ちたが、すでに模様の判別も難しくなっていたそれは、淡い光を放ったと思うと風に消えて行った。
はなの提案で、そのままハグたんのお花畑デビューに参加することになった。色とりどりの花が咲き誇り、視界のすべてがまぶしかった。
「あゆみちゃん」
いちかがかけよってきた。
「ありがとう」
「え?」
「私たちが変身できない間、世界を守ってくれて」
「いえ、そんな」
ふたりの足元ではハリィがグレルを肘で突いていた、
「お前、なかなかやるやないかい」
「ふふん。あったりまえだ」
グレルが胸を張る。エンエンが苦笑した。
「あゆみちゃん」
振り向くとリコの顔はそこになかった。彼女と みらいは深々と頭を下げていた。
「どうしたの?」
「お礼と…あと、ごめんなさい」
「え、なにが?」
「あゆみちゃんは、先輩たちを探してたのに、私、何の役にも立てなくて」
「そんな!」
141
:
makiray
:2018/10/02(火) 21:38:10
Soliste Echo(12/12)
-------------------
「お前が気にすることないだろう」
足元からグレルが言う。リコは、横柄な口調と裏腹に小さな体を目をパチクリさせて見ていた。
「僕たちはみんなを探してたんだから、リコちゃんたちが無事なら、何も悪いことなんかないんだよ」
エンエンが微笑んだ。
「そうだよ。
それより、私、ちょっと言い方がきつかったかも。ごめんなさい」
「そんな!」
さっきのあゆみと同じことを叫ぶリコとみらい。
「それに、ウソバーッカの中はとても苦しかったんでしょ? 私はずっとこっちだったから楽だったかも―――」
勢いをなして反論しようとしたふたりに、のぞみの声がかぶさった。
「ほんっとうに、あの中、つらかったよね。体が重くなってさー!」
「ダイエットさぼってるからじゃないの?」
夏木りんが憎まれ口をたたく。
「ウソバーッカのせいだもん!」
「体はつらかったけど、気持ちはそうでもなかったな」
「そうなんですか?」
ゆりの言葉に、みなが振り向いた。何人か、既に先回りをして頷いている。
「希望があったから」
「希望」
「そう。
あゆみが必ず助けに来てくれる、って」
「私――」
「ウソバーッカは、プリキュアを『一組ずつ』始末すると言って、それを実行に移した。
だとすれば、どのグループに属しているわけでもないキュアエコーはその網から漏れる」
あゆみは言葉がないようだった。
「あゆみさんが仲間外れだって言ってるんじゃないのよ」
秋元こまちが助け舟を出すように言う。
そして、愛乃めぐみの明るい声が続いた。
「あゆみちゃんは、みんなのプリキュアだからね!」
みなが頷いた。
「え…」
「あたしとひめが喧嘩したら仲裁してくれるし、いおなと ひめがもめてたら取り持ってくれるし」
「あんたんとこ、けんかばっかりかいな」
「しかも、あたしばっかり!」
大森ゆうこが、まぁまぁ、と 白雪ひめをなだめる。
「みんなの、なんて、そんな」
あゆみの頬が染まった。グレルがニヤニヤと笑っている。エンエンもうれしそうだ。襟のエコーデコルが瞬いているのは、フーちゃんが喜んでいるからだろう。
「坂上さん、わたしたちのこともよろしくお願いしますね」
さあやと ほまれが手を伸ばす。あゆみは、おずおずと二人と握手をした。
「私とも、お友達になって!」
はなとも握手を交わすと、もっと小さな手が伸びてきた。
「はぐたんも、あゆみちゃんとお友達になりたいって」
あゆみは、今度は、おそるおそるという様子ではぐたんの手を握った。その小さな手は、想像よりも強い力で握り返してきた。
「はぎゅ、はぎゅー」
「ふふふ」
ふーちゃんも同じように笑う。はぐたんの目があゆみの襟元で揺れるキュアデコルを追っていた。
「よっしゃ、はぐたんのお花畑デビュー、続けよか!」
ハリーが突然、人間の姿になって言う。あゆみが怯えて三歩下がった。
「あの、どちらさまですか?!」
「え、言うてなかったか。俺や、俺――」
「お前、ネズミじゃなかったのか!」
グレルが叫ぶ。
「お、れ、は、ハリハム・ハリー様やぁっ!」
なんぼ言うたらわかんねーん、という悲鳴が花畑に響き渡ったが、それは少女たちの笑い声にかき消されていった。
142
:
makiray
:2018/10/02(火) 21:40:41
以上です。長々と失礼しました。
143
:
名無しさん
:2018/10/03(水) 06:53:37
>>142
面白かった! キュアエコー愛がびんびん伝わるお話でした。あゆみちゃん、成長したなぁ! 歴代キャラの登場も嬉しかった。ハピプリメンバーの掛け合いに、ニヤニヤでしたw
144
:
名無しさん
:2018/10/07(日) 06:16:18
>>142
始まり方が完璧! 12話とあったので長いかと思ったけどそんなことなかった。引き込まれて一気に読みました!!
キャラクターも全員魅力的でした。「あんたんとこ、ケンカばっかりかいな」とか、えりかの「点呼!」とか映像が目に浮かびますw
欲を言えばもっと戦闘シーンの描写を見たかったんですけど、読みやすい長さを考えられたのでしょうね。
映画もう一度見たくなったのでレンタルして来ます! めちゃ楽しい作品をありがとう!
145
:
makiray
:2018/12/19(水) 22:00:32
毎年恒例…いや、秋映画がオールスターズなのは今回が初めてか。
で、オールスターズと聞いたら黙っていられず、それにキュアエコーを登場させるお話、「オールスターズメモリーズ Ver.1.1 〜origin〜」をお届けします。
7スレ、お借りします。
146
:
makiray
:2018/12/19(水) 22:02:52
origin (1/7)
------------
「!」
「戻れた」
ミデンに記憶を奪われ、子どもになってしまっていたプリキュアたちだが、はぐたんとメモリーズライトの力で元に戻ることができた。
「なんでキュアエールだけいないの?!」
キュアエールはミデンの心の中にとどまっていた。ミデンを独りぼっちにできなかったのだ。
「エールらしい」
キュアエトワールが笑うと雰囲気が緩んだ。
「あれ…」
キュアマジカルが辺りを見回した。
「どうしたの?」
「エコーは?」
プリキュア全員が同じように自分たちの顔を見る。確かに、キュアエコーがいなかった。
「そもそも、中にいたっけ?」
キュアハッピーが首をひねる。やはり同じように誰もが首をひねった。記憶を奪われて子どもになっていた時のことを覚えていないのだ。
「最初からいなかった可能性の方が高いんじゃないかしら。ウソバーッカのときもそうだったわ」
キュアアクアが言った。
春の戦いで、ウソバーッカはプリキュアたちをチーム単位で狙ったため、キュアエコーが網から漏れた。そのことが逆転する上で意味を持ったのだが、今回も同じではないだろうか。
「だといいんですけど…」
キュアマジカルはまだ心配そうである。
「ミデンがあのときのことを知っているとは思えないし、そうだとすればエコーを特別扱いして別のところに閉じ込めたりする理由もないと思うわ」
キュアミントの指摘はもっともだった。
「エールのところに向かいましょう。ほかのプリキュアが囚われていないか注意しながら」
キュアムーンライトの提案に皆が頷く。
キュアエールの言葉はミデンに届いた。
「ありがとう…」
ミデンの体が光の粒になって天に昇っていく。
「…」
キュアダイヤモンドが眉をひそめた。光の粒の下に何かが見える。
「…。
そうか!」
キュアホワイトが叫んだ。その声に何人かの視線が動いたが、多くのプリキュアは動けないでいた。
知っている。見たことがある。一度や二度ではない。
やがて光は消え、ミデンの姿はなくなった。そこに現れる、栗色のツインテールの少女の姿。
「あゆみちゃん!」
キュアマジカルが飛び出す。体を起こしていいのかどうかわからず、手を泳がせていた。あゆみは、何かを握りしめている。
「ホワイト、どういうこと?」
「…」
「さっき、『そうか』って言ったよね」
キュアホワイトは黙っている。
「ホワイト!」
「…。
まず、地上に戻りましょう」
147
:
makiray
:2018/12/20(木) 22:19:06
origin (2/7)
------------
「ほのか、話して」
野乃はなたちがピクニックをしていた原っぱに戻る。あゆみはレジャーシートの上に体を横たえていたがまだ目覚めなかった。
「ほのか」
美墨なぎさに問い詰められる形で雪城ほのかは口を開いた。
「たぶん、ミデンに最初に捕まったのがあゆみさんなんだと思う」
「あゆみちゃんが?」
「わたしたちがミデンに襲われたの、横浜だったでしょう」
「あ」
「でも、あゆみちゃんはミデンの中から出てきたように見えたよ」
日向咲が言う。
「行動を起こすには実体が必要だった、ということじゃないかしら。だから最初だけは、記憶を奪うだけじゃなくて、体ごと乗っ取ったんだと思う」
彼女たちが、あゆみ、またはキュアエコーが中にいなかった、と断言できないのはそのせいだった。ミデンがプリキュアの力を使うとき、その体はそれぞれの色に染まったが、その時、彼女たちはあゆみと「一心同体」になっていたのである。その感触のせいで、「いなかった」と言い切れないでいたのだ。
「ミデンが白かったのは…」
頷くほのか。あれは、キュアエコーの白だったのだ。
「あゆみちゃん!」
リコが叫んだ。あゆみが目を開いた。
「え、リコちゃん…どうして、ここに」
「大丈夫? 怪我はない?」
「え…!」
あゆみは突然、ジャージの襟に手をやった。
「え…え?」
何かを探している。リコがキュアデコルを差し出す。
「探しているのはこれ?」
「フーちゃん!」
あゆみはそれを両手で受け取った。
「フーちゃん…」
〈あゆみ…フーちゃんは大丈夫〉
「よかった」
あゆみの目じりがにじむ。
〈あゆみ…ごめん〉
「フーちゃんは悪くない」
〈ごめんなさい。
フーちゃんは、ちょっと疲れた。休んでもいいか?〉
「うん…」
あゆみはキュアデコルを胸に抱くと、聞こえるか聞こえないか、という声で「ごめんね」と言った。
みなは顔を見合わせていたが、剣城あきらが膝をついた。
「あゆみちゃん…何があったのか教えてくれるかな」
148
:
名無しさん
:2018/12/20(木) 22:26:25
秋映画でもmakirayさんのキュアエコーSSが読めるとは!
続き楽しみにしてます。
149
:
makiray
:2018/12/21(金) 22:24:38
origin (3/7)
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「あ、軍手忘れた」
あゆみは、友人たちに「先に戻ってて」と声をかけると校舎の裏手に戻った。後ろで「軍手くらいいいじゃん」「相変わらず真面目だなぁ」という声が聞こえた。
あゆみたちの学校では秋に廃品回収をする。近隣の住宅から不用品を集めて売り払い、文化祭の運営費用に充てる、というのが毎年のイベントだった。
廃品を置いてある空き区画に戻る。目印として甲側にピンクの縫い取りをした軍手がブルーシートの上に置いてあった。こんなところで役に立つとは、とあゆみは小さなため息をついた。
「?」
足元、ブルーシートの下から段ボールの箱が零れ落ちた
「なに…カメラだ」
“MIDEN”と書いてある。戻そうと拾い上げたが、箱はしっかりしているようだった。開けてみると、確かにカメラで、箱のデザインから考えて古いものだと思われるのだが、中はきれいだった。パーツ類はビニールの袋に入っており、ひょっとしたら未使用なのかもしれない。
「これだったら、ちゃんとしたカメラ屋さんに持って行った方がいいんじゃないかな…え?」
首筋に熱を感じる。
いつも一緒にいられるよう、ペンダントにしてあるフーちゃんのキュアデコルだった。
〈ミデン…〉
「たぶん、そう読むんだろうね。
フーちゃん、カメラに興味あるの?」
キュアデコルが熱を持ち始める。
「フーちゃん…?」
〈同じ…フーちゃんと…同じ〉
カシャ、と音がした。こちらを向いたレンズの奥、なにかがうごめいたようだったが、何も見えない。吸い込まれそうだ。それは「闇」、いや「無」と言った方がいいような気がした。
次の瞬間、あゆみは今度はまぶしさに目を細めた。キュアデコルが光り始めている。
〈ミデン、フーちゃんと友達になるか?〉
〈…こい〉
〈友達になるか?〉
〈来い〉
それは命令だった。であれば「友達」ではない。
「フーちゃん、だめ!」
背筋に寒気を感じたあゆみはカメラの箱を投げ捨てると、右手でジャージごとキュアデコルを握り、左手をその上に重ねた。
〈なら、お前も来い〉
カメラの奥から声が聞こえたような気がした。次の瞬間、あゆみの姿が消える。
白い軍手が音もなく落ちた。
「ミデンはフーちゃんの力を使おうとしたんだ」
ミデンが欲しかったのは、貪欲に力を求めるフュージョンの能力だった。
逆に言えば、ミデン自身はほとんど力を持っていなかった、ということになる。まさに廃棄処分される直前、記憶が欲しい、空っぽの自分は嫌だ、その思いが強くなったときに、フュージョンのかけらであるフーちゃんと出会ったのだ。プリキュアというものの存在を知ったのは、フーちゃんとあゆみを取り込んだ結果にすぎない。
「そして、フーちゃんを守ろうとしたあゆみちゃんも一緒に吸収してしまった、ってことか」
「同じってどういうことなんだろう」
春野はるかが首をかしげる。
「フーちゃんは…独りぼっちだったんです」
「え、あゆみちゃんは?」
「グレルとエンエンだっているじゃない」
「でも、フーちゃんと同じ存在はいません」
まだ腑に落ちない者が何人かいるようだった。
「私は、みなさんと会うのが楽しいし。
グレルやエンエンは、ミップルやメップルと会うのが楽しい。
フーちゃんにはそういう相手がいません」
「…」
「あゆみちゃんやグレルやエンエンじゃ埋められないところがある、っていうことか」
56人が黙る。花咲つぼみが口を開いた。
「フーちゃんは、疲れた、って言ってたみたいですけど」
「ミデンの中に取り込まれてすぐ、ミデンが友達を欲しがってたわけじゃない、ということに気づきました」
150
:
makiray
:2018/12/22(土) 22:06:37
origin (4/7)
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ふたりは、フージョンの力を要求するミデンに抵抗した。
だが、それはフーちゃん、あるいはフュージョンの「本質」である。宝石や現金のように、それを渡せばおしまい、というものではない。絶対に渡さない、という強い意志で抵抗し続けるしかなかった。
〈う…う…〉
〈フーちゃん!〉
〈あゆみ…苦しい〉
〈がんばって、フーちゃん!〉
学校だったのがまずかった。グレルとエンエンは、ぬいぐるみのふりをしてあゆみの家にいる。一緒であれば、キュアエコーに変身してなんらかの手を講じることができたかもしれない。
だが、あゆみの中にはプリキュアの光がある。それがフーちゃんの力によって引き出されて、あゆみはキュアエコーに変身するのだ。ふたりなら切り抜けられるはずだ。
〈がんばる。フーちゃん、がんばる〉
〈ミデン、あなたにフーちゃんは渡さない!〉
〈よ・こ・せ!〉
「あ、ミデンが最初、『よこせ』ってしか言ってなかったのは、フュージョンの口癖?」
あゆみは答えなかった。そのとき、あゆみとフーちゃんはミデンの中にいたので、ミデンがなぎさとほのかを襲った時に何を言ったのかは知らない。
「あの、私、何をしたんですか?」
「いや、あゆみちゃんが何かしたわけじゃ」
「みなさん、どんな目にあったんですか?!」
琴爪ゆかりが、頭のいい子ね、とつぶやいた。
「教えてください」
立ち上がる。
あゆみが諦めることはないだろう。誰が言う? 誰が説明するのがいいだろう、と顔を見合わせる少女たち。
「あのね」
はなが進み出る。輝木ほまれが止めようとし、薬師寺さあやが心配そうに見ていたが、はなはそのまま説明を始めた。
「…。
わかりました」
「あゆみちゃん」
説明が終わった。あゆみは何も言わない。フーちゃんのペンダントを首にかけなおすと、頭を下げた。
「迷惑をかけてごめんなさい」
「あゆみちゃんは悪くない!」
何人かの声が重なる。
「でも」
「だって」
「わたしがちゃんとフーちゃんを守れればこんなことにはならなかったかもしれない」
「いいえ」
海藤みなみが反論する。
「ミデンの思いは強かった。早晩、なんらかの力を得ていたと思う。
キュアエコー以外のプリキュアに出会って、その力を使っていたかもしれない」
「だったら、最初になっちゃった人は、やっぱり同じように謝ると思います」
「それは…」
当然だ。どの道、ミデンは暴れるんだから最初の一人だとしても自分は悪くない、などと考える者はここにはいない。
「すべてわたしのせいだ、とは言いません。ミデンの寂しさが起こしたことだから。ミデンの持ち主だった人たちにも、もっと大事にしてあげてほしかったとも思います。
でも、私は防げたかもしれないんです。
私は、プリキュアだから。
私は、防がなきゃいけなかったんです」
「それは違うと思います!」
151
:
makiray
:2018/12/23(日) 22:22:55
origin (5/7)
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「それは違うと思います!」
さあやの声は意外に大きかった。本人が驚いている。
「すいません。
違うというわけではなくて…あの」
「聞かせて」
あきらが促す。
「わたし、不思議だったんです。ミデンがどうして、何もしなかったのか」
「何もって」
「わたしたちの記憶を集めただけですよね」
「だけっていうか…」
「うん、はなは大変だったと思う。迷惑をかけてごめんなさい。
でも、それ以外は何もしなかった」
さあやはみなを見渡した。
「だって、プリキュアの力を手に入れたんですよ。
それを悪用すればこの世界を征服することだってできたかもしれない」
「ミデンは『思い出』が欲しかっただけなんでしょ?」
ほまれが口をはさんだ。
「それも事実。
でも、力を手にしたら人が変わってしまう、というのもよくあることでしょう。
それを止めていたのが、あゆみさんとフーちゃんじゃないのかな」
「そうだ。
あゆみちゃんとフーちゃんは十分にその役割を果たしていた、ってことだよ」
はなの言葉に、そうか、という空気。何人かがあゆみを見たが、あゆみは目を伏せた。
北条響が、珍しく難しい顔をしていた。
「確かにあたしたちも一度はフュージョンにやられそうになっちゃったからね。
あの勢いで来られたら大変なことになったかも」
「でも、ミデンはそんなことしなかった」
「自分の『思い出』が欲しい、それだけを…貫いたわけだよね」
「暴走を食い止めた…というか、あれをミデンの純粋な思いにとどめたのが、あゆみさんが持っているプリキュアの光。無理がある推測だとは思いません」
あゆみは目を伏せたままである。
「あゆみさんは、なぜそんなにつらそうな顔をなさっているのです?」
愛崎えみるだった。
「…」
「あゆみさんは、プリキュアとして立派に戦ったのです。
そして、友達であるフーちゃんさんのことも守ったのです!
これは、とっても素晴らしいことなのです!!」
「そんなこと」
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