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ソラの波紋

1心愛:2012/09/16(日) 15:52:23 HOST:proxy10006.docomo.ne.jp



こんにちは、または初めまして。
心愛(ここあ)と申します。

拙くて見るに耐えない駄文ですが精一杯頑張りますので、よろしくお願いします。
感想等戴ければ泣いて喜びます。
ですが、ここあは非常に小心者です。一つの批判にもガクブルしてしまうと思われます。
なので、厳しい御言葉はできるだけオブラートに包んで戴けると嬉しいです(>_<)

また、ここあが不要と判断した書き込みは、誠に勝手ながら反応しないことがあります。申し訳ありません。

内容は完全にファンタジーで、他のスレのこともありますのであまり長引かせないように心掛けるつもりです。





【心愛(元 月波)の過去作品】



『紫の乙女と幸福の歌』

『紫の乙女と愛の花束』



【関連作品】



『紫の歌×鈴扇霊』(上記作品のピーチとのコラボ)

『パープルストリーム・ファンタジア 幸運の紫水晶と56人の聖闘士』(同じく彗斗さんとのコラボ)

173ピーチ:2013/03/16(土) 20:51:20 HOST:EM114-51-179-122.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

文化祭長かった! でも面白かった!←

忘れない忘れない!

い、今までが前振り……!?

紫の歌ラストに近いってあれシリアスだけじゃありませんでしたかね…?←

174心愛:2013/03/18(月) 17:15:52 HOST:proxyag096.docomo.ne.jp
>>ピーチ

ありがとうごぜえます…!
デート(?)は短めだから、あと秋あたりに長いイベント一回はさんで、冬で事件起こして終わりかなぁ。


ソラの波紋は今からがメインです!
ドシリアスいきます! ここあなりに!
ミレーユのポジションがソフィアに近い感じになるかもね←

175ピーチ:2013/03/19(火) 05:40:00 HOST:EM114-51-37-149.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

デート短めなんだー←

あれ、冬の事件とやらが無性に気になるのは何でだろう←

ドシリアス頑張って! 応援するよ!

ソフィア様のポジション? 一番最初の?

176矢沢:2013/03/19(火) 13:53:17 HOST:ntfkok217066.fkok.nt.ftth4.ppp.infoweb.ne.jp
すごいね。

177心愛:2013/03/19(火) 20:21:39 HOST:proxy10051.docomo.ne.jp
>>ピーチ

ここあ作品の流れは、

主人公や中心人物が色々苦労する

出会い

コメディ入れつつ日常

急にシリアス展開、日常が揺らぐ

解決、ハッピーエンド


みたいなパターンだと思ってくれればw


邪気眼少女の冬の事件もシリアス予定だよー。

ソフィアのポジション…囚われの姫的な?←
これ以上言うとネタバレなのでやめとくw

178ピーチ:2013/03/19(火) 22:03:33 HOST:EM114-51-160-122.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

了解! 分かった!

な、何か美羽ちゃんの目の前でシリアス起こったらどーなるんだろ…←

ミレーユちゃんが囚われって印象は……あんまり浮かばないかも

179心愛:2013/03/20(水) 10:14:07 HOST:proxy10056.docomo.ne.jp
>>ピーチ


美羽は微シリアスな過去背負ってますので、その関係かな←

囚われっていうか囚われる前に敵をぶちのめしそうだよねw

180ピーチ:2013/03/20(水) 19:30:54 HOST:EM1-114-57-214.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

それか!

あれ、何でだろう、何かミレーユちゃんが空牙くんに八つ当たりしそうなイメージが←おい

181心愛:2013/03/20(水) 23:27:49 HOST:proxyag095.docomo.ne.jp
>>ピーチ

「空牙がふらふらふらふら頼りないボウフラな所為でミレーユがこんな目に遭ったです! 責任取りやがれですクソ虫!」…みたいな?←

ただ、今回はどうだろう(~_~;)



邪気眼少女が一区切りついたんで、こっちを優先的に進めたいと思いますw
ただ内容が重いとスローペースになっちゃうかも←

182心愛:2013/03/22(金) 20:19:23 HOST:proxyag112.docomo.ne.jp





ミレーユの消耗はたいしたことはないが、彼女に魔力を供給する空牙の方が限界だった。



「ごめんね、アレクってばドSで、つい愉しんじゃうんだよね……。刺突剣(レイピア)を持ち出さなかっただけましだけど」



「まだ何かあるのかよ……」



「あはは。それにしても、相手がぼくじゃなくてよかったよ」



シルヴィアは手に持っている銀色の十字架に唇を押し当て、柘榴石(ガーネット)の瞳を妖艶に細めた。




「―――うっかり殺しちゃうかもしれないから」




ゾクッ―――と冷たいものを感じ、空牙とミレーユが一様に顔を引き攣らせる。



「でも、アレクとこれだけやり合うなんてすごいよ。冥界でも五指に入るんじゃない?」



「……あ、はは……そ、そうかな」



最強の名を冠するシルヴィアに誉められた嬉しさより、純粋な恐怖が勝る空牙だった。



「仕方ないですね。今日のところは勝ちを譲ってやるですよ」



「うん。君はかなり強いけど……今度も負けないよ」



敵意の火花を散らすミレーユに、アレックスは悠々とした笑みで応える。



「ふう。空牙が役立たずな所為で不本意な結果になりましたが、思い切り暴れてゴミ虫との二人旅の間のストレス発散ができたですから、良いとしますですか」



「酷い言われよう……」



空牙が回復してきたとほぼ同時にミレーユの毒舌も復活。
ふわりと浮き上がり、ミレーユは空牙のコートを引っ張って彼を急かす。



「さっさと行きますですよ、空牙」



「そんな急に!? み、ミレーユさーん? 俺、まだ動きたくないなー、なーんて」



「このまま引きずって行くです?」



「やめてお願いだから!」



渋々立ち上がった空牙に、シルヴィアがにこやかに微笑んでみせる。



「二人から奪っちゃった仕事については、目を瞑ってくれるようリリスに頼んでおくよ」



「それは助かる。……あー、ところでアレックスさん、最後に訊いておきたいことが」



「俺に?」



アレックスが器用に、片眉だけを上げる。
空牙は、己を打ち負かした彼をしっかりと見て言った。



「はい。貴方はかなりの才人のようなので」



「……へぇ。逢ったばかりなのに、案外良く見てるね」



アレックスが感心したように。



「その通り。永い刻を生きているから、それなりに物は知っているんだ」



「それじゃあ」



不思議そうにしているシルヴィア、ミレーユ。
同時に彼女らの反応をも窺うように―――




「―――“ネクタル”って、ご存知ですか」




瞬間、悪魔の双眸に不穏な光が輝いた。



「何処でその名を?」



「姫―――リリス姫から聞いたんです。気をつけろ、って」



アレックスはしばらく黙って考えている様子だったが、



「……なるほど」



やがて、納得したように呟く。



「そういう、ことか。流石は彼女」



「アレク? どうしたのさ」



「……ああ、ごめん。話の途中だったね」



何もない風を装い、空牙に再度向き合う。




「ごく小さな魔術組織だよ。機械人形(マシンドール)の生産や開発に関わっているらしい」




「機械人形……!?」



空牙は息を呑む。


あのリリスが、意味のない忠告をするはずがない。
おそらく―――いや、間違いなく、ミレーユに関係があると考えるべきだ。



「ネクタル? 機械人形? ……何の話です?」



当のミレーユは何も知らないようで、金の瞳をぱちくりさせている。



「どうする、空牙」



アレックスは、にやりと野性味溢れる笑みを浮かべた。
上品さが漂う絶世の美貌も相俟ってか、そのような表情も妙に様になる。



「本部の研究所は、此処から割と近いよ?」



彼がつらつらと述べた座標は、確かにこの地点から遠くはない。



「……ミレーユ」



空牙は訝しげな顔のミレーユを見つめた。



「お前の謎が、分かるかもしれない」



ミレーユが緊張で身体を強ばらせる。


―――圧倒的な美しさと機能性、さらには確固たる自我の所有。激しすぎる魔力の消費量。

彼女を取り巻く、数多の謎。

183ピーチ:2013/03/23(土) 09:46:40 HOST:EM1-114-3-215.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

シルヴィア様怖いよ!? 何か怖いよ!?

ミレーユちゃんの謎…楽しみだ!←おい

184心愛:2013/03/23(土) 18:40:46 HOST:proxyag099.docomo.ne.jp







「姫の忠告を無駄にすることになるけど……」



空牙は真剣な顔で。




「―――行ってみないか」




彼の言葉を受け、ミレーユはほんの一瞬だけ間を取ると。



「……仕方ないですね」



腕を組んで尊大に胸を反らし、ふんっと鼻を鳴らした。



「良く分かりませんが、空牙は頼りなくて一人では何もできない唐変木でタコスケで虫ケラですから、ミレーユが特別に付いて行ってやるです。感謝するです」



「あーはいはい感謝感謝」




耳慣れた罵倒を聞き流す。
彼女はむっとしてむくれていた。



「決まった?」



「ああ。このまま、その……“ネクタル”ってとこに、行ってみることにするよ」



首を傾げて見上げてくるシルヴィアにそう答えた後、空牙はアレックスに向き直った。



「色々教えて下さって有難う御座います。あと、手合わせも。良い経験ができました」



「こちらこそ。久々に楽しませてもらったよ」



柔らかに笑むアレックスに手を差し出され、握手を交わす。



「シィもまたな」



「うん!」



歩き出す空牙たちに、幼き姫君は愛らしく無邪気な微笑みを浮かべて手を振った。



「いつかぼくと、妥協も引き分けも一切なしの真剣勝負しようね!」



「の、望むところですっ! ミレーユは準備万端です、いつかと言わず今すぐにでも―――」



「いやほんと勘弁してください!」



ミレーユを引っ張って猛ダッシュで走り去る空牙。



彼らの姿が地平線の彼方に消えるまで見送り、シルヴィアはくるりと己の眷属を振り返った。



「ねぇアレク。ぼくたちまた、リリスの手のひらの上ってこと?」



「珍しい、シィも気づいたか」



「なんとなくね」



立てた十字架に寄りかかって、視線だけをアレックスに向けるシルヴィア。



「わざとぼくたちと逢わせて、アレクから情報を掴ませて。空牙たちとその組織を引き合わせるように仕向けて……。何がしたいんだろう、リリスは」



「それだけじゃないよ」



片手で主の美しい銀髪を梳き、アレックスはくすりと笑った。



「彼女は、ずっと後のことまで視通してる」



不思議そうに見てくるシルヴィアの頭をごく軽く、ぽんぽんと叩く。



「とにかく、俺たちは一体でも多く、魔獣を倒そう」



「もちろんだけど……また、空牙たちの仕事の邪魔しちゃうかな」



まったく、この娘は。とアレクは苦笑した。
幼いゆえの冷酷さと未熟さを兼ね備えた、何処かアンバランスで危うい少女。



「大丈夫だよ、シィ」



アレックスはそんな主に言い聞かせるように、声を潜めて微笑む。




「空牙たちも―――それに、俺たちも。じきに、それどころじゃなくなるからね」







+.。.:*・゚+.。.:*・゚+.。.:*・゚+ +.。.:*・゚+.。.:*・゚+.。.:*・゚+







それから半日後。
寂れた街に、賑やかに話す二つの影があった。



「参ったな……このへんで合ってるはずなんだけど―――おいこらミレーユ、勝手に誰かの屋根に乗ってくつろぐなよ」



「此処からなら簡単に、空牙を見下(くだ)せるです」



「見下(お)ろせるの間違いだよな!?」





「―――ミレーユッ!?」





突然後方から発せられた叫び声に驚き、空牙とミレーユがそちらを見る。



「や、っ……と、見つけた……!」



ミレーユを真っ直ぐに映して輝く、暗い色合いの紅い瞳を驚愕と歓喜に見開いた、深紫色の髪を持つ青年。
知的に整った相貌とくたびれた白衣は、近寄りがたく独特な雰囲気を放っていた。



「知り合いか?」



「……」



ミレーユがふるふると頭(かぶり)を振る。
どうやら、以前の主でもないらしい。



「えーと、すみませんが……どちら様ですか?」



「これは失礼!」



ハッと我に返ったように瞬いてミレーユから目を離し、男は空牙に向けて丁寧な礼をした。




「申し遅れました。私は《ネクタル》所属の研究者、サミュエル=ノヴァと云う者です」

185心愛:2013/03/23(土) 18:45:13 HOST:proxy10069.docomo.ne.jp
>>ピーチ


シィは怖いよねw
可愛いのに怖い、を目指しつつ←


やっとのことで《ネクタル》登場!
サミュエルの名前は今テキトーに考えたことは秘密ですw

186ピーチ:2013/03/23(土) 22:05:12 HOST:EM49-252-247-164.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

可愛すぎるせいで怖さ倍増w

ネクタルーw←

こ、ここにゃんそればらしてる秘密じゃなくなってる!

187心愛:2013/03/23(土) 23:51:37 HOST:proxy10055.docomo.ne.jp
>>ピーチ

サミュエルは超重要キャラのはずなのになぜだろう…。

ここあ初・極悪非道なるか!

188心愛:2013/03/23(土) 23:52:50 HOST:proxy10055.docomo.ne.jp






話したいことがある、と男―――サミュエルは言った。


《ネクタル》が本拠にしているという研究所は、灰色の小さな建物だった。

錆び付いた扉が、ギギギ、と甲高く耳障りな音を立てる。



「散らかっていて悪いね」



優れた弦楽器のように澄んだ声が、沈黙の中響いた。


足元に幾つも転がるのは、人形のものと思しき部品(パーツ)―――否、残骸。


ミレーユが怯えて竦み上がり、空牙は不快感も露わに眉を寄せた。


サミュエルは二人を奥のソファへと招き、自分はその正面に座る。
助手らしい若い女に茶を淹れさせ、彼女が退出するのを見届けた後に脚を組み、こう切り出した。



「話というのは他でもない」




「ミレーユを売れ、ってことですか」




「――――ッ!!」




ミレーユが、今にも泣き出しそうな表情で空牙を見る。
『黙ってろ』と視線で命じた。



「話が早いね。もしかしてエルゼリア出身かい?」



「そんなことが今、関係あるんですか?」



「いや、特にないな」



くっくっと愉快そうに喉の奥で笑い、サミュエルは長い脚を組み替えた。



「そう、君の言う通りだ。其処のミレーユを、私に譲ってほしい」



「どうしてミレーユを? こいつのことを知っているんですか?」



矢継ぎ早に尋ねると。



「あまり急かさないでくれよ。だが、その問い自体は意義があるな」



ミレーユを見つめるサミュエルの暗い双眸に、強い光が宿った。




「―――私が、ミレーユの製作者だからだよ」




ミレーユの肩が跳ねる。

空牙はすかさず、目の前の男を観察した。

まだ若い。
空牙と十も変わらないように見える。

本当に彼がミレーユを造った張本人だとして、ミレーユが他の人形遣いに使役されていた時間を考えると、計算が合うとは思いがたい。



「ミレーユ、記憶はない? 君の生みの親だよ?」



数秒遅れ、こくりと弱々しく頷いたミレーユの透き通る頬は、僅かに青ざめているようだった。



「何か証明できるものは」



「証明……か」



サミュエルは薄く笑い、立ち上がる。



「私がこれからする説明が、きっとそのまま証明となる。ミレーユを造り出した私の、研究成果がね」



こっちに、と誘われて、空牙とミレーユは彼の後に続いた。


サミュエルは再び助手の男を二人呼び、設置されていた本棚をずらすように押させる。
何をしているのかと訝しんでいると―――本棚の裏にあった壁に、古びた扉が出現した。


隠し扉だ。



「君たちをこの部屋に入れる前に、ひとつ約束がある。これから見るものの存在を、他の誰にも言わないでくれ」



二人が頷くのを確認し、サミュエルは白衣のポケットから鍵を取り出し、扉を開けた。
現れた空洞の中へ、空牙たちを先導して歩き出す。


ひんやりとした冷気が空牙の身体を包み込む。


サミュエルの持つおぼろげな灯りに照らされ、闇の中浮かび上がったのは整然と並べられたガラスの円筒。

そして。




―――液体の満たされた容器に、生物標本のような少女の裸体が、収められていた。




「………っ、!」



吐き気が込み上げ、ミレーユが口を押さえる。
空牙も顔を険しくした。



無惨に切り裂かれた胸から覗くのは新鮮な色の肉、内臓。
造り物では有り得ない。



「ご覧の通り、私は禁術の使い手」



サミュエルだけが、心底楽しそうに微笑んでいた。



「研究内容の情報が流出したら大惨事だからね。それゆえの少数運営、それゆえの隔離施設だ」



可笑しくてたまらないとでも云うように。
サミュエルはくすくすと声を零す。




「私は禁じられた魔術を扱う研究者―――そして、一種の魔術師(ツァウベラー)だよ」

189ピーチ:2013/03/24(日) 00:21:12 HOST:EM49-252-247-164.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

空牙くーん! ミレーユちゃん売らないよね? ね!?

製作者とか何とか関係なくないですかねぇ!?

190心愛:2013/03/24(日) 18:11:53 HOST:proxyag089.docomo.ne.jp
>>ピーチ

そっか、この時点では製作者がミレーユを欲しがってるとか、関係なく思えるよね…!

ありがとうピーチ!
そういう疑問とか不自然なとことかあったら、遠慮なく言ってくれ!
後で分かるようにするつもりだから!


なんかもうバレバレな気もしなくもないけど、引っ張りに引っ張ったミレーユの正体ばらしいくぜー↓

191心愛:2013/03/24(日) 18:12:25 HOST:proxyag089.docomo.ne.jp





……禁断の魔術。

嫌な汗が滲む。



「おかしいと思わないか?」



魔術師は、まるで役者がするように大袈裟な動作で両腕を広げ。



「ミレーユには自我があり、魔法が使える―――そう、我々魔族―――特に最も、ミュシアの王族に近い」



ミュシアの王弟、ユリアスを思い出す。
魔族の身でありながら異能を宿さず、その代わりに魔法を行使する極めて異例の存在。


……と、いうことは。


空牙が一つの、途方もない推測を弾き出すと同時、ミレーユが声を上げた。



「そんなことはどうでもいいですっ」



おそらく、恐怖が理性を上回ったのだろう。
冷静な思考を失ったミレーユは、カタカタと震えながら叫ぶ。



「答えて下さい! どうしてミレーユを欠陥品にしたのです!?」



彼女の金色の瞳には、うっすらと涙が溜まっていた。



「ミレーユは、ずっとずっと、ミレーユを造ったひとを憎んできました……! いくら強くても、主の魔力を大量に吸い取ってしまうミレーユは、空牙と出逢うまで……、凄く、つらい思いをしてきたのですよ……っ?」



「お前は欠陥品ではない」



否定するサミュエルの静かな声が、部屋中に広がり、沁み渡る。



「話を戻せば、それどころか。元々、人形でさえもない」



「な―――」



「兵器だよ、ミレーユ」



歪んだ愛情を彷彿とさせる慈しみの視線に、背筋が泡立つ。



「これを見てごらん」



少女たちの遺体が浮かぶ透明な容器を、サミュエルは笑顔で振り仰いだ。



「ミレーユ、お前はこれらと同じ」



自らの成果を誇る研究者の顔。
ミレーユはただ困惑し、空牙は黙ってサミュエルを鋭く睨みつけた。


ふふっとたまらず笑みを漏らし、サミュエルは高らかに声を張る。




「魔族の肉体に、禁断の魔術を注ぎ込んだ―――私の最高傑作さ!」




そして、ミレーユは。

ようやく、理解した。



この少女たちは―――空っぽの《容器》なのだ。


生きものを《容器》として、機械の《部品》を組み込むことで、必要な養分や水分を生体に供給させ―――《容器》が死ぬまでの時間、極めて完成度の高い機械人形(マシンドール)として、稼働させることができる。


つまり。


ミレーユも、彼女らと同じ。



かつて魔族の少女として生まれながら、サミュエルの手によって人形に改造されたもの。


肉を裂かれ、部位を切り落とされ、機械人形として機能するために必要な《部品》を埋め込まれた―――実験動物。


数ある禁忌の中で最も嫌悪される、存在さえも赦されぬ、罪深き仮想生命。




『ふふっ……最高だね。噎せ返るように濃厚で甘美な、禁忌の薫りがするよ』




『人形というよりは―――』




背筋を痺れるような恐怖と嫌悪感が走り抜け、手足が強張り、呼吸が止まる。
毒を塗った爪で、心臓―――《核》を鷲掴みにされたような感覚に、悲鳴を上げそうになる。


ミレーユはたまらず空牙のコートにすがりつき、怯えながら彼を見上げた。



「……まどろっこしいな」



対する空牙は冷静だった。
サミュエルを射るが如き炯眼で睨み、低い声で言う。



「まだ一番大事なこと、話していないんじゃないですか? 勿体ぶってないで、さっさと言ってほしいんですけど」



「ははっ、本当に君は話が早い! その頭の回転の良さ、是非ともうちにスカウトしたいくらいだよ!」



サミュエルは一通り笑い、それから恍惚とした双眸でミレーユを映した。




「おそらく君の推察通り。かつてのミレーユは、魔族の中でも異例の存在―――」




最もミュシアの王族に近い、という言葉。
複数の魔法のストックを持つこの身体。


ミュシアの永い永い歴史の跡―――その系譜を遡れば、やがて辿り着くのは―――



いやだ。


嫌だ。


これ以上、何も聞きたくない!



ミレーユが瞼をきつく閉じ、歯を食い縛り、耳を押さえるその前に。
無情にも、彼女の優秀な聴覚は、男の声をはっきりと捉えた。





「―――魔女」





ミレーユの全身を、稲妻のような衝撃が貫いた。

192心愛:2013/03/25(月) 11:06:28 HOST:proxy10017.docomo.ne.jp






「お前は魔女の中でもさらに規格外の、恐ろしく強大な力を持った実力者だったんだよ」



サミュエルは、膝が崩れて空牙に支えられているミレーユを、かつての彼女の面影を重ねるように熱い眼差しで見つめる。



「……今最強と謳われている、あの身の程知らずの小娘よりも、ずっとね」



今の最強。シルヴィアのことだ。
一瞬だけ鋭い憎しみに凍りついた双眸が、再び心酔に潤む。



「彼女は己の力に溺れ、殺戮を繰り返し、暴虐の限りを尽くした。すぐに冥界は荒れ果て、魔獣の処理どころではなくなってしまった」



空牙は自分に寄り添って力なく震えている、人形の少女を見る。
もしミレーユの人格が残忍で、闘争心がより強く、今は眠っている力を、自分の意志で全て生かすことができたなら―――。



「そしてついに、彼女の行いを見かねた王家が手を打った。三人の王直々に、彼女を捕縛する為戦線に立ったんだ」



それぞれ当時のエルゼリア王、ミュシア王、ファローズ王。
リリス、ユリアス、シルヴィアの祖先に当たる人物か。



「彼女は、それはそれは強かったからね。かなり苦戦したものの、冥界中に罠を張り巡らせ……やっとのことで彼女の身柄を拘束することに成功した」



サミュエルは可笑しげに肩を揺らし。



「彼女は勿論、即煉獄行きの運びだったのだが―――刑吏の目を盗み、牢に忍び込んだ輩がいた」



くすくす、くすくすと小さく笑って。



「そう、ファローズ王家直属の研究者として勤務していた、私たち《ネクタル》だよ」



美しく、狂喜に満ちた微笑を湛えた。




「これほどまでの逸材を、このまま殺すなんてできない。だから私たちは魔術と知恵を総動員して、連戦で弱った彼女を抑えつけ、生きた肉体を改造したんだ。
機械人形として、その力を引き継ぐ為に―――」




―――彼の口によって明かされたのは、あまりに凄惨で、残酷な過去だった。


ひっ、とミレーユが喉を鳴らし、両腕で戦慄く自分の身体―――犯罪者の肉体を抱きしめる。



ミレーユがごく当たり前のように魔法を使えるのも、膨大な量の魔力を欲するのも、自身がそれだけの力を持つ魔女だったから。
造り物の人形とは思えぬ美しさも、はっきりとした自我も。《容器》として使われたのが、かつて確かに生きていた、ひとりの魔族だったから―――。




「……ちょっと待って下さい」




衝撃を受けて黙り込んでいるミレーユに代わって、声を発したのは空牙だった。



「魔術師も魔女も所詮魔族。生もあれば死もあります」



サミュエルを真正面から見つめ、言葉を連ねる。



「魔女はとうの昔―――数千年前に滅びたはず。なら、ミレーユも、魔女がいた時代に生きていた貴方も、どうして今生きていられるんですか?」



ミレーユも、はっとしたようにサミュエルを見る。

そう……この話は、どう考えてもおかしい。

悪魔と違い、魔族には定められた寿命がある。
人間よりは長寿とはいえ、数千年もの間、この魔術師が生きていられるはずがない。



サミュエルは若々しい美貌で、「至極当然の疑問だね」と微笑んだ。




「彼女の改造手術が見つかってすぐ、勿論私たちも煉獄に幽閉されたんだけど……くくっ、少し前に這い出して来たんだよ」




―――お前に逢いたくてね。



サミュエルの微笑を絶やさない顔を、空牙は戦慄と共に凝視した。



この男は……《ネクタル》の研究者は、死者。


正真正銘の《咎人(アウフルーフ)》だ!



部外者にする作り話にしてはあまりに出来すぎている。
真実と受け取るべきだ。



……とにもかくにも、これで二つの理由ができた。
《ネクタル》は法で禁じられた魔術を扱っており、さらには煉獄を抜け出した罪人、《咎人》の集団だ。


どうにかして、彼らを捕らえてしまえば―――
……いや、その結論に至るにはまだ早い。




「それから、ミレーユの方だけど―――魔力が断絶したら仮死状態に陥るように、特殊な保護封印(プロテクト)をかけておいたからね。魔力が供給されている間は普通の少女として生きるけれど、魔力が切れた途端に刻は止まり、ミレーユは只の、完全な人形となる。良い保存方法だろう?」

193たっくん:2013/03/25(月) 11:27:46 HOST:zaq31fa52d6.zaq.ne.jp
 【貴方がフィギュアをおごってくれなければ即フリーザに乗り換えます】

貴方はフリーザと悟空どちらを愛しますか。
16号と18号どちらを欲しますか?
雑談しましょう。
フリーザの身体をなめまわせよお前ら

まあそれは置いておいて・・
単刀直入に言いますが、18号のフィギュアを私におごって下さい。
貴方のおこづかいで。

もし買っていただけない場合は、 18号のこと諦めます。
フリーザに乗り換えます。フリーザのほうを好きになります。

私がフリーザを好むか、18号を好むかは
>>1さんのサイフにかかっているのです。

それにしてもいつも18号のフィギュアだけ入手できないのだろうか・・?
何度入札しても落札できない。

超サイヤ人孫悟空およびフリーザのほうが比較的簡単に入手する事ができます。
この文をご覧になってもし、18号のほうを愛せよとおっしゃる方がいらっしゃいましたら
フィギュアを私に譲って下さい。お願いします。
寸法20cm以上希望。最低でも20cmは欲しいです。

でなければ即フリーザに乗り換えますからね
フリーザでも別にいいんですよ私は
元々、超サイヤ人覚醒時の孫悟空が好きでしたから。
フリーザのエピソードです。

194たっくん:2013/03/25(月) 11:57:49 HOST:zaq31fa52d6.zaq.ne.jp
サイフから金出たか?
早く出さないとフリーザになるぞ

やっぱりフリーザのフィギュアを買う事にします。
では

195ピーチ:2013/03/25(月) 20:51:57 HOST:EM1-114-34-228.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

サミュエル意味わからん!

まさかここにゃんキャラでこんな悪役が登場するとは夢にも思わなかった!←

ミレーユちゃんが只の人形になるわけがないっ! ミレーユちゃん大丈夫だよ!

196心愛:2013/03/25(月) 22:29:42 HOST:proxyag113.docomo.ne.jp
>>ピーチ

う、うん、魔力途絶えるとほんとに人形化するんだ…。
空牙との出逢いのときのミレーユを思い出してみてくれ!


そんなわけで、ミレーユ(の身体)は魔女でしたw
しかも悪い魔女です…←


サミュエルは冷酷非道で性格がちょっとクレイジーなんだね、うん。
ここあ頑張ってるよ…! 優しさの片鱗も見せないように頑張ってるよ…!

197ピーチ:2013/03/25(月) 22:39:02 HOST:EM1-114-34-228.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

出逢いのときのミレーユちゃんはまだ意識(?)あったぞー!←

ミレーユちゃんあんなに優しいのに!? あれで悪い魔女!?

……まぁ、空牙くんに対する言葉は除いてね!

サミュエルだけはどーやっても好きになれない…

198心愛:2013/03/26(火) 11:00:12 HOST:proxy10043.docomo.ne.jp
>>ピーチ

さすがピーチ、そうきたか!

意識が残ってたのは、そこらへんに漂ってる物質のマナ(空気中の酸素みたいなもの)を吸い込んで、自分で細々魔力を作ってたからなのね。

完全に密閉された空間なら、マナがなくて機能停止しちゃいますw
ケースに入れられるとかね←


ミレーユの人格は新しく生まれた別のものだよ!
悪い魔女なのは身体だけだよ!


うん、サミュエルは好きにならなくていいと思いますw
まず好きになれる要素ないしね!

199ピーチ:2013/03/26(火) 13:54:05 HOST:EM114-51-147-230.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

マナのおかげで意識残ってたの!?

………まさかサミュエル、本気でミレーユちゃんをケースに入れようとしてるんじゃ……

じゃあミレーユちゃん別に負い目感じる必要ないよね! ね!←

200心愛:2013/03/26(火) 16:57:35 HOST:proxyag073.docomo.ne.jp






「そして彼女―――ミレーユは、忠実な家臣の手によって代々厳重に管理されてきたはずなのに、私たちが冥界へ戻り、城に侵入したときには既に、何処かに持ち去られた後だった。おそらく、金目のもの目当てに潜り込んだ盗賊の仕業だろうけれど」



ミレーユは、この世界に現存する唯一の魔女。
となれば、彼女の力を“保存”した研究機関《ネクタル》は、おそらく躍起になってミレーユを探し回ったのだろう。


しかし彼らの尽力にもかかわらず、かくしてミレーユは何者かの手によって持ち出され、人形遣いによって使役される、機械人形となったのだ。

自我が目覚めても過去を思い出すことはなく。
複雑すぎる魔術回路を持つ不良品の、ただの戦闘特化型の機械人形と自分で思い込んで。
何人もの魔族の手に渡っては、捨てられることを繰り返し。
最後に、空牙と出逢って―――



「そうそう、それにね。魔女を滅ぼしたのも彼女……お前なんだよ、ミレーユ。彼女は自分以外の魔女を嫌っていたからね」



青ざめるミレーユに、サミュエルは笑顔で、容赦なく追い討ちをかけた。


それでミレーユは、もう何も、信じられなくなる。
空牙と過ごすうちに忘れかけていた、自分は生まれてきてはいけなかったものなのだという思いが燃え上がり、一気に膨張し、破裂しそうになる。




「さて、君……空牙君と言ったかな? 此処まで話を聞いて―――君に、ミレーユの主であり続ける気は、まだあるかい?」




はっとして、ミレーユが空牙を見上げた。
そして―――新たに生まれた恐怖に、涙の溜まった瞳が凍りつく。



「ミレーユが暴走したら、とても君の手には負えない。それに、そんなミレーユを所有していることが公になれば、君だってただじゃおかないだろう」



不敵な笑みを浮かべるサミュエルが話している間中、空牙は一人で考えていた。


―――こいつらを捕らえて訴えても、ミレーユのことを話されたら終わり。


ミレーユは違法の、禁忌の魔術によって生まれた機械人形だ。
加えてかつての王家、冥界の敵。
危険視され、十中八九押収されるだろう。


しかしサミュエルは知らないだろうが、空牙はミレーユの主であると同時、エルゼリア王リリスの眷属でもある。

だからきっと、空牙は助かる。
何も知らずにミレーユを所有していたのだと、リリスが口添えしてくれればそれであっさりと赦されるから。

だから結局は―――サミュエルを捕らえることを選べば、ミレーユが処分されることになるというだけの話。



「其処で、この提案だ」



サミュエルと空牙、二人の視線がぶつかる。




「協定を結ばないか。ミレーユは、製作者である私が責任を持って管理する。お互い、この話は聞かなかったことにする」




それは一番手っ取り早く、安全な選択肢だった。


サミュエルの言う通り、何かの間違いでミレーユの巨大な力が暴走したなら、下手をしたら所有者である空牙の死に直結する。

さらに、ミレーユに愛着を持っているサミュエルなら、彼女を始末したりは決してしない。

あらゆる意味での危険性を孕むミレーユを、彼に返却する。

ミレーユ本人にとっても、最も自然で、幸せなこと……なのかもしれない。



「人形遣いに人形を手放せというのも酷な話かな。望むだけの金は払うし、代わりにミレーユより遥かに使いやすい機械人形をプレゼントするよ。……ほら、良いことだらけじゃないか」



―――つうっ。


ミレーユの頬に、絶望に染まった瞳から転がり落ちた、ひとつの雫が伝う。


それを見て。



空牙は、決断を下した。



「……指名手配犯になっても良いのかい? 君にだって、立場というものがあるだろう?」



刃の如き鋭さを宿した紅い瞳で、サミュエルを射抜く。




「―――それがどうした?」




サミュエルが怪訝な顔になる。


ミレーユが息を呑む。



「密告したけりゃすればいい。嫌われるのは慣れてるよ」



「な……、っ」



「逃げ足はこれから鍛えるさ」



ミレーユは愕然とした。


彼女の正体を知った今でも。

ミレーユという爆弾を抱え、リリスを、冥界全体を敵にしてでも逃げ回ってやろうと―――空牙はそう言っているのだ。

201心愛:2013/03/26(火) 17:03:46 HOST:proxyag105.docomo.ne.jp
>>ピーチ

や、サミュエルの目的はミレーユを完全な人形にしようってことじゃないんでw
だいたい予想つきそうですけども←


うん、ミレーユに悪気はなくても、こればっかりは仕方ないよね…。


ミレーユを手放さないっていう空牙の決断は、リリスとの敵対に繋がっちゃうんですがはたして!

202ピーチ:2013/03/26(火) 22:17:54 HOST:EM114-51-188-154.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

空牙くん優しいよー!!

そーだよサミュエルに渡したら絶対ダメ!

リリス姫なら物分かりいいから大丈夫! …って思う反面、容赦なく追っかけてきそうな気もするよね←

203心愛:2013/03/27(水) 12:55:16 HOST:proxy10065.docomo.ne.jp
>>ピーチ

そのとーり!
リリスも切ないよねー、ミレーユに空牙取られるって分かってたもんね…。

これで、前半で思わせぶりなこと言ってたのがようやく分かっていただけたかと!

204心愛:2013/03/27(水) 12:55:35 HOST:proxy10066.docomo.ne.jp







「長々と説明どーも。お陰で腹が括れたよ」



ミレーユと同じく唖然としているサミュエルに、空牙は太々しい笑みを向けた。



「っつーか、あんな脅しに屈するとでも思ったのか? 俺も甘く見られたもんだな」



「君は―――」



「昔が極悪人だったって? こいつが今も、危険だって? そんなこと関係ないね。相棒を売る馬鹿が何処にいる?」



ミレーユの冷たい、剥き出しの肩を引き寄せ。




「俺の相棒はミレーユただ一人」




サミュエルに向けて、言い放つ。




「誰にどう言われたって―――こいつは世界最高の機械人形(マシンドール)だ」




ひっ、とミレーユが小さくしゃくりあげた。
とめどなく、溢れる涙の雫が次々と転がり落ちる。



サミュエルは空牙を見つめ、しばらく押し黙っていたが、



「……分かった」



仕方ないとでも云うように、こくりと頷く。



「今はまだ、内密にしておこう」



視線で助手に扉を開けるよう命じてから、再び空牙に向き直って。



「三日間、待つ。心変わりしたら、此処を訪れてほしい」



「誰がするかよ」



ハッとせせら笑い、空牙はミレーユの手を引いた。



「ミレーユ、行くぞ」



「……は、はいっ」



慌てて頬を拭い、ミレーユがさっさと歩き出した空牙の後に続く。


背中にサミュエルを含む研究員たちの不穏な視線を感じながら、外に出た。


しばらくの無言の後、空牙がぽつりと呟く。



「……確かにお前、あのときよりちょっとだけ伸びてるもんな。身長」



今のミレーユは、魔術回路を埋め込まれた機械人形であると同時に魔女。
魔族の少女の肉体は、時間が経つにつれ、少しずつだけれど成長していた。



「今まで、何で気づかなかったんだろうな」



「空牙……」



「姫は、ずっと前から知ってたのに」



空牙の紅い双眸が、遠くを見るように霞む。



「つらかっただろうな。俺たちの為に一人で秘密を抱え込んで、知らないふりをしてくれた」



リリスは王で、常に正しくあらなければならない。
すべてを知りながらも真実を隠し、空牙とミレーユに接する。
その葛藤は大きかったはずだ。



「ほんとに一生、あの人には敵う気がしないよ」



ミレーユをわざと傷つける言葉をかけて、空牙の反応を見て。
安心したように、微笑んでいたことを思い出す。


きっとあのとき、空牙の覚悟、ミレーユへの想いを確かめていたのだろう。
これなら、大丈夫だと。

いくらその結末が“視え”、想像がついても、自分自身できちんと確かめたかったのだろう。



「姫は真実を自分たちの力で知るように仕向け、選択肢を俺たちにくれた」



この線を越えたら、敵同士。
今までの関係ではいられない。


リリスは慈悲深くも、賢明な君主だ。
その判断には一片の曇りもない。
たとえ対立相手が、自分の眷属であろうとも。


尊敬する主君だからこそ、その優しさに甘え、特別な待遇を求めるわけにはいかない。それはリリスも望んでいない。


たとえエルゼリア―――いや、冥界中から追われて、主と敵対することになっても。



―――掴み取った自分の意志、自分だけの答えを貫いて見せろ。



それが、リリスからの言葉(メッセージ)。



「……ごめんなさい」



力なく俯いたミレーユの震える謝罪に、空牙は笑って言う。



「俺がしたいことしてんのに、お前が謝ることなんかねーよ」



乱暴にがしがしと頭を撫でられ、ミレーユが反射的に、抵抗するように手を伸ばして上を向いた。


視線が合う。




「だから。お前が負い目に感じる必要なんて、まったくない」




「……………っ」



くしゃりと、情けなく表情が歪む。


空牙が苦笑した。



「そんな顔すんなよ。お前らしくない」



「はい……」



ぼろぼろ泣きながら、ミレーユはしっかりと頷いた。

205ピーチ:2013/03/28(木) 07:07:39 HOST:EM114-51-160-221.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

優しいよ空牙くんっ!

…こんなに優しいのになんで遊ばれるんだろう←

206心愛:2013/03/29(金) 09:17:32 HOST:proxy10049.docomo.ne.jp
>>ピーチ

優しさゆえ、かなぁ。
みんな、特にミレーユは空牙の安心できる優しさを感じ取って、色々好き放題言ってるんだよw

信頼感ってやつさ!



次でキリがいいので、いったん止めようかなと←
やたら長い最終決戦は近いですよ(`・ω・´)

207心愛:2013/03/29(金) 09:18:11 HOST:proxy10049.docomo.ne.jp






「……空牙。寝ましたです?」



すう、と穏やかな寝息。

ミレーユはそっと上半身を起こし、眠る空牙の顔を覗き込んだ。

彼女の表情が、柔らかに―――少し切なげに、綻ぶ。



「……空牙は優しすぎるのです」



純白の新雪よりも透き通る髪に、伸ばした指先で触れて。



「馬鹿で、外道で、どうしようもない、役立たずのくせに……」



瞼を閉じる。

恐ろしさを感じる程に整った彼女の横顔を、零れる月の光が淡く彩る。




「馬鹿みたいに、優しくて」



名残惜しさを感じながら、指を離す。
金色に輝くふたつの瞳を和ませ、



「空牙」



ふわりと、微笑む。



「ミレーユは……もう、十分ですよ」



静まり返った闇の中、ミレーユの静かな声だけが響く。



「こんなに想ってもらえて、今、こんなに幸せで」



胸に手を当てる人形の少女のあたたかな眼差しは、何処までも美しく、水面のように澄み渡っていた。




「生まれてきて……良かった、です」




悪と罪に塗れたこの身体は、彷徨の果てに、眩しく尊い、一筋の光を見つけた。


貴方と、出逢うことができた。



この命より、ずっとずっと、大切なものがあるのだと、貴方自身が教えてくれた。



「だから」



するりと、髪を結んでいたリボンを解く。

それが宙に舞い、地面に落ちるその前に―――





「―――さよなら、です。空牙」








+.。.:*・゚+.。.:*・゚+.。.:*・゚+.。.:*・゚+.。.:*・゚+.。.:*・゚+








「ミレーユ?」



扉を開けたサミュエルは、驚いて目を見張り、ミレーユを中へと招き入れた。



「どうしたんだい、こんな時間に。空牙君は?」



「寝てますです」



今にも震え出しそうになる脚を必死に踏ん張り、ミレーユは顔を上げて、サミュエルを睨んだ。



「ミレーユは……ミレーユの意志で、此処に来ました」



「……話を聞こうか」



拳を握る。
ぎゅっと、強く。痛いくらいに。



「空牙には、もう、逢いません」



「と、言うのは?」



「空牙は多分、気づいたらあちこちミレーユを探し回って。最後には怒って、此処に来ると思うのです。そのときには……ミレーユが望んだことだと、伝えて下さい」



サミュエルが、ゆっくりと顎を引く。
負けるものかと、強い視線で見返す。



「それから空牙に、一切の迷惑を掛けないで下さい」



空牙に、自分よりも使い勝手の良い機械人形を付けること。
ミレーユの情報を、部外者に流さないこと。



「だったら、ミレーユは……虫酸が走りますが、貴方たちの言いなりになってやるですよ」



真っ直ぐ顔を上げ、凛と声を張る。




「―――ミレーユは……空牙を守る、機械人形(マシンドール)ですから」




ミレーユの決意をしっかりと聞き、サミュエルの表情が和らいだ。



「優しいんだね」



くくっ、と笑いを零す彼。



「お前も、彼も」



「………」



「でも、私はね。決してお前を苦しめたいわけではないんだよ、ミレーユ」



ミレーユの正面で、サミュエルはにこやかな笑みを作る。



「それにどうせ、煉獄から抜け出している以上、この身体は長くは保たない。無理をしてこの世界に留まっているから、実を言えば結構なダメージなんだ」



だからね、と前置きし、身を乗り出して。



「お前にはひとつの、ある研究に付き合って貰いたいんだ」



「……ひとつ」



「そう。私がお前を造った目的でもある研究。それが終わったら、すぐにでも君を解放しよう」



「―――え」



信じがたい台詞に、ミレーユは硬直する。



「それ、は……どのくらい、かかるのですか」



「一日。……と言いたいところだけれど……お前の頑張り次第だから、こればかりは分からないな。でも、五日はかからないだろう」



ミレーユの耳に、吹き込まれた低い囁きが反響した。




「―――約束するよ」

208ピーチ:2013/03/29(金) 21:10:07 HOST:EM114-51-148-105.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

優しすぎるのもアレだよね! 特に空牙くんは!

確かに、ミレーユちゃんはいい代表例かも←

空牙くん大丈夫だよね! 何があってもミレーユちゃん取り返してくれるよね!

あ、ヒナさんたちのコラボ進めてからソラの波紋とのコラボ、そろそろスレ立てていいですかね…?

209心愛:2013/03/30(土) 15:02:08 HOST:proxyag074.docomo.ne.jp
>>ピーチ

うん、ただミレーユいないと空牙完全無力だけどね!
…と、ここで空牙の人脈が役に立つわけだようん。


もちろんだよー!
待たせてごめんね←
ただ、ミレーユのこと知ってるのと知ってないのとじゃ、それに触れなくてもキャラの見方が全然違うと思ってさw

大丈夫? キャラの説明とかしなくていい?

210ピーチ:2013/03/30(土) 20:59:34 HOST:EM114-51-184-84.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

無力じゃないよ空牙くん! 大丈夫だよ!

リリス姫辺り? もしくはシルヴィア様?

ありがとー! あたしなんかとのコラボOKしてくれてありがとう!

だいじょーぶだよ! たぶん分かるよ!

…でも分かんないときはその都度聞くかも、ごめんね←

211心愛:2013/03/31(日) 20:47:58 HOST:proxyag111.docomo.ne.jp
>>ピーチ

さて、空牙はどうなってしまうのか!


うん、シルヴィアとかそのあたりw
リリスはちょっと一筋縄ではいかないけどね、建前があるから(o^_^o)


いつでも訊いてくれたまえー!

212ピーチ:2013/03/31(日) 20:51:00 HOST:EM114-51-186-14.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

空牙くんだから大丈夫だよ絶対!

シルヴィア様優しいし可愛いもんね!←

ありがとうほんとにありがとうございますー!

213心愛:2013/04/11(木) 22:31:54 HOST:proxyag115.docomo.ne.jp






―――白亜の神殿。
ミュシア領に属するこの壮麗な建造物は、冥界の丁度中心部に位置する。


純白に金のラインが入った法衣を身に着けるユリアスは、緊張に震える拳をぎゅっと握った。

自分の力を最大限にまで拡張させ、冥界全体を覆う結界を作る。
煉獄という猛毒の海に囲まれた冥界に生きる、民全ての命を担う大役だ。


―――こんなことでどうする。もう何度もやってきたことじゃないか。


瞼を閉じ、心を鎮め、清めていく。



誰よりも純粋な願いを抱き、祈り、想え。
永い永い刻をかけてこの世界を支えてきた、ミュシアの血を継ぐ者として。



「ユリアス様」



「……はい」



時間だ。



ダークエルフの女に促され、ユリアスは前へ進み出る。

結界を徐々に弱める兄の後ろ姿へと歩み寄り、それを引き継ごうと手を伸ばして。




「―――待て」




ユリアスを止めたのは他でもない、今まで黙って結界を維持し続けていた兄だった。
眉間に、深い皺が刻まれている。



「兄、さ……?」



「何かが、おかしい」



ユリアスが問い返そうとした、その刹那。



―――ぞくり。



凄まじい悪寒が、背筋を駆け上がった。






……リッィィ、ィ……ィィッ……






ガラスが砕け散ったような、切ない泣き声のようなか細い音色。




「――――――ッ!!!」




「う、そ……っ」




掠れた声を漏らし、ユリアスは口を両手で覆う。





―――結界が、破られた?




「くそっ、やられた……!」




煉獄を封じていた結界が、突破されたのだ。



結界の統制権が譲渡される、それの効力が最も弱まる瞬間を狙った襲撃。


この僅か十数秒の間に、開いた小さな綻びから無数の獣が、この世界へと躍り出た。


彼らに好き放題暴れられては―――



冥界は、ひとたまりもない!



「兄さん!」



忙しない足音、悲鳴が反響する中。



「ユリアス」



瞬時に冷静さを取り戻した兄だけは額に汗を滲ませ、既に結界の修復を始めていた。



「今、この手を離すわけにはいかない。お前に託すのはもう少し後だ」



「で、でも、っ……そんな、無茶ですっ」



此処五日間、兄は不眠不休で魔力を消費してきたのだ。
いくら回復の早い魔族の身体でも、もう体力の限界のはず。



「馬鹿、何の為の訓練だ」



瞼を閉じながらユリアスを一蹴し、



「一刻も早く安全な場所へ避難せよと、外に伝えろ。それから、既に逃がした魔獣の対策を考えてくれ。……俺も、あと一日は保たない」



驚異的な集中力。
ほぼすべての意識を結界維持に注ぎ込みながらも自分に指示を出す兄の凛々しい姿に、ユリアスは。



「行け!」



「……分かりました。リリス姫に指示を仰ぎます!」



彼に見えていないのを承知で頷き、法衣の裾を翻す。
淡い金髪を揺らし、神殿の外へと駆けた。







*・゚゚・*:.。..。.:*・゚゚・**・゚゚・*:.。..。.:*・゚゚・**・゚゚・*:.。..。.:*・゚゚・**・゚゚・*:.。..。.:*・゚゚・*







「……おかしい。いくら何でも、早すぎますわ……」



エルゼリア王宮の私室で、リリスは一人佇んでいた。

美しい光を湛えるワインレッドの瞳が、物憂げに沈む。



「これでは、対策が……」




「―――何の騒ぎだ!?」




ふわり。


突如として、開いていた窓から銀髪の美少女が現れた。

強い意志を秘めた柘榴石(ガーネット)の双眸、甘やかで耽美なゴシック・ロリータの衣装。



「シルヴィア様」



「リリス! これは一体―――」



幼げな美貌を硬く強ばらせたシルヴィアがまくし立てる前に、彼女らの後方に新たな客人が舞い降りる。




「リリス姫、いらっしゃいますか!」




「……ユリアス様まで」



かくして、冥界を統べる三大王家の筆頭が集った。
リリスは翳りを帯びた表情で息を吐く。



「率直に言って……とても、まずいことになりましたわ」

214心愛:2013/04/11(木) 22:34:18 HOST:proxyag115.docomo.ne.jp
>>ピーチ

一週間ぶりー!

大丈夫…だと、いいよね…!
シルヴィアも何だかんだで優しいからねw



そんな感じで冥界が大変なことになってきたようわぁい←
…このタイミングってことは…ね?

215ピーチ:2013/04/12(金) 05:59:28 HOST:EM114-51-151-123.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

久しぶりー!

いーやーだぁー! 何だってこのタイミングでぇー!?

シルヴィア様は優しいのー! アレックスも大丈夫なのー!

ユリアス様だって絶対大丈夫なのー!←

216心愛:2013/04/12(金) 19:02:03 HOST:proxy10029.docomo.ne.jp
>>ピーチ

役立たずな空牙を庇って数名に頑張ってもらう予定!
でも最後は決めてくれるよね、主人公…! と淡い期待をしつつ←

217ピーチ:2013/04/13(土) 19:24:31 HOST:EM114-51-187-34.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

役立たずじゃないよ空牙くん!

淡い期待じゃなくて頑張ってくれるよね!

……え、ちょっと待ってこれまさかミレーユちゃん関わってないよね?←

218心愛:2013/04/16(火) 20:15:52 HOST:proxy10040.docomo.ne.jp
>>ピーチ

さてさてどうでしょう(o^_^o)

なんといってもこのタイミングだからね!

219心愛:2013/04/16(火) 20:16:18 HOST:proxy10039.docomo.ne.jp





数百、あるいは数千体―――過去最大規模の魔獣がこの世界に解き放たれた。

圧倒的な戦力差、迎撃態勢が十分に整わない現状を鑑みれば、



「……エルゼリア兵の第一隊は向かわせたものの……このままでは……」




―――魔族が壊滅の危機に陥ることは、明白だった。



唇を引き結ぶリリスを見て、ユリアスが力なく俯く。

対照的に、シルヴィアは幾分冷静なように見える顔を上げた。



「とにかく、最善を尽くそう」



揺るぎない実力ゆえの自信か、この場で最も年少の彼女は大粒の瞳に、不屈の輝きを灯していた。



「ぼくの異能なら、一人でもかなりの数を始末できる。アレクや他の家来にも前線で戦わせて―――」



「……いいえ、シルヴィア様」



リリスが首を振り、艶やかなストロベリーブロンドの髪をふわりと揺らした。



「実は……シルヴィア様には他に、やって戴きたいことがありますの」



「他に?」



シルヴィアが訝しげに訊き返すと同時、




「―――失礼しますッ」




純白のロングコートを羽織る少年が、突然扉を開け放った。
擦り傷をつけた顔に汗を浮かべ、苦しそうに肩で息をしている彼。



「空牙!」



「シィ、ユリアス様!?」



空牙は部屋にいた先客に驚き、鋭い双眸を大きく開いた。



「く、空牙くんっ? その怪我は!?」



「ミレーユは? 姿が見えないが」



矢継ぎ早に質問を繰り出す二人に、空牙は「すみません、少し待ってくださいっ」と頭を下げ、改めて主君に向き直る。



「姫―――」



「……そう。知ってしまったのね」



ふっと切なそうに微笑んだリリスは手を伸ばし、空牙の傷口から滲む血を拭った。



「いくら予測ができても、わたくしの異能では未来を視ることはできない―――……ごめんなさいね、空牙。最善の選択というものが、どうしても……わたくしにも、分からなかったのです」



空牙は黙り込み、自分より幾分下の位置にあるワインレッドの瞳を見つめた。



「それも……これも。此処まで辿り着く途中、ミレーユがいなくなってしまったから身を守る術がなくて、魔獣に付けられた傷でしょう?」



互いに困惑の視線を交わすシルヴィアとユリアス。

空牙はリリスの指先をそっと外し、深く腰を折った。



「姫。こんな事態にも関わらず、馬鹿なことを言っているのは分かってます。でも、どうかミレーユを―――」



「……その話は後ですわ」



空牙が悔しげに俯く。
ユリアスが魔法で空牙の治療を始めるのを確認してから、リリスは再びその唇を開いた。



「あまりお二人を待たせる訳にはいきません。とにかく……まずは、わたくしの意見を簡潔にお話しさせて下さいませ」



「……君の、とは……何か分かったのか?」



「ええ。この件には、確かな計画性が感じられる。魔獣でなく、《咎人》が中心と考えるべきでしょう」



ユリアスが頷く。



「確かに、結界が弱まった瞬間を狙うなんて今までの魔獣とは明らかに違いますよね。僕たちが交代で結界を維持することも、把握していたということですし」



「そうです」



煉獄という名の檻にひしめく彼らは、自分たちの計画を実行に移す絶好の機会を窺っていた。
とすれば、知能の点で劣る魔獣による仕業とは考えにくい。



「それでわたくし、《散華魔鏡》で、反逆の首謀者の特徴を探ってみましたの」



あっさりと言ってのけるリリスに、驚愕の視線が集中する。

たとえ優秀な彼女とはいえ、冥界全体にその能力を広げ、意識を飛ばして膨大な情報の中から一定の人物像を特定するなど、決して簡単なことではないはずだ。

リリスは淡く微笑んでみせてから、



「……その《咎人》は、わたくしたちと同じ魔族。少し前からこの世界に潜り込んで、結界にまつわる情報を入手していたようですわね」



「その者の素性は?」



そこで、リリスは空牙をちらと見上げるようにしてから。




「……禁術に溺れた、曰く付きの魔術師、ですわ」




空牙の表情が強張る。

そして新たに宿ったのは、厳冬のように厳しく、剣呑な眼差し。




「その名を―――サミュエル=ノヴァ」

220ピーチ:2013/04/17(水) 05:14:34 HOST:EM114-51-166-96.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

ミレーユちゃーんっ!! もどってきてよー!

あ、とうとうサミュエルの存在気付いちゃった←

空牙くん大丈夫? 傷っていってもそんなにひどくはないよねきっと!

221心愛:2013/04/18(木) 21:32:42 HOST:proxy10047.docomo.ne.jp
>>ピーチ

うん、魔族はそこそこ回復力あるから、よっぽどの致命傷でない限りはすぐに治るよ! 大丈夫!


そんなこんなで黒幕だったサミュエルがしゃしゃり出てきたけど、ミレーユはどうなるのかな…?

すぐに戻ってはこなそうだね←

222ピーチ:2013/04/20(土) 21:59:59 HOST:EM49-252-202-34.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

良かったそーだよね!

そんなこんなで出て来なくていいですサミュエル…←

すぐ戻ってきてよー! 空牙くんが怪我するよー!

223心愛:2013/04/21(日) 20:39:28 HOST:proxy10004.docomo.ne.jp
>>ピーチ

捕らわれたお姫様を助け出せ! 的な意味で紫の歌要素がでてきたねw

みんなで協力してがんばってもらおう(*´д`*)

224心愛:2013/04/21(日) 20:39:53 HOST:proxy10003.docomo.ne.jp






「……あいつだ……ッ!」



ギリッと歯軋りし、空牙が拳をきつく握った。



「あいつ、まさかミレーユを使って……ッ!?」



「……空牙」



リリスがいたわるような視線で、彼を促す。



「お待たせしてしまいましたわね。わたくしたちに、全てを正直に聞かせて戴けるかしら?」



迷っている暇はなかった。


空牙はサミュエルに会い、彼からミレーユの過去、素性を教えられたこと、そして今朝からそのミレーユが行方不明になっていること、おそらくは《ネクタル》に捕らえられているだろうということを、血を吐くように苦々しい声で三人に話した。



「ミレーユさんが……」



少なからずショックを受けたようで、動揺を隠すこともせずに複雑な反応を返す二人。



「かつて冥界を混沌に陥れた魔女についての文献を読んだことがあるが……まさかそれが……」



「……とにかく空牙の話をもとに、これからの対策を考えましょう」



リリスが腕を組み、瞳を細める。




「ミレーユが、何らかの形で奴らに利用されていることは確かですわ」




彼女の明らかに確信しているような口振りからして、おそらくすでに、その事実は《散華魔鏡》で視ていることが窺えた。



「敵の目的はおそらく冥界の破壊、煉獄との同化。何かしらの方法でミレーユの強大な力を引き出して、戦況をさらに有利に導く……。勝手知ったる製作者なら、難しいことではないのかもしれません」



「……っ」



自分が不甲斐なかった所為で。


ミレーユによって、冥界が滅亡する……?



絶望感に襲われる空牙。
彼を見て、ユリアスがそっと口を開いた。




「ミレーユさんを助けに行かなきゃ」




「―――え」



思いがけない台詞に、唖然とする。

そしてユリアスに続いて、シルヴィアまでもが当然のように。



「ミレーユを奪い返すのが、解決への近道なんだろう?」



「それは、……」



「それに、首謀者がそんなに執着しているのなら、ミレーユの傍にいると考えるのが妥当だ。つまりそいつを叩けばこの茶番も終わる」



シルヴィアの言葉にユリアスがこくりと頷き、



「危険な目に遭ってるのかもしれないのに、友達を放ってはおけないよ。……あっ、ミレーユさんにとっては分からないけど、少なくとも僕はそう思ってるっていうか……っ」



わたわたと慌てる彼に、目頭が熱くなる。


意を決して、胸にあたたかく広がる感謝の念を二人に伝えようとしたとき。




「―――……わたくしは、悪と罪を見過ごすことはできない」




厳しく冷たい、リリスの声。
はっとして、空牙は己の主を仰ぎ見た。


リリスは道理を重んじる、明哲な君主。


無事にミレーユを救出することができたと仮定しても、その後の処遇は分からない。


最悪の場合、彼女の敵に回ることは―――すでに、覚悟しているけれど。


黙って空牙を見つめたのち、リリスは表情を緩め、おかしそうに笑った。



「……ふふ。冗談でしてよ」



空牙の心を読み取ったのか、そうでないのか。

そんな顔をしないで、と優しく微笑む。



「姫……?」



「確かに、わたくしは王として、公正な判断しかできない。それがわたくしの誇り」



唇の端を、僅かにつり上げて。




「つまり―――証拠がなくなってしまえば、わたくしのすることは正、ということですわ」




「ええ、と?」



混乱し始めた空牙に、リリスは詠うように言う。



「今の状況、ミレーユの秘密を知っているのは、この四人。それぞれ、口の固さはわたくしが保障します」



ユリアス、シルヴィアが顎を引き、肯定の意を示す。

満足げにリリスが微笑。



「かつてのミレーユについての書類を跡形もなく焼き尽くして、《咎人》の一味を反抗する気をなくすまで徹底的に痛めつけて。彼らを煉獄送りにしてしまえば、ミレーユは今までと同じ、ただの機械人形でいられるというわけですわ」



「はっ。何とも君らしい、物騒な意見だな」



「あら、それをシルヴィア様が仰るの?」



鼻で笑うシルヴィアに、リリスは眩しい笑顔を向けた。

225ピーチ:2013/04/22(月) 03:27:40 HOST:EM114-51-23-74.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

そういう意味か!←

リリス姫が物騒に見えるー! シルヴィア様よりもずっと物騒に見えるー!?

226心愛:2013/04/22(月) 23:01:19 HOST:proxyag069.docomo.ne.jp
>>ピーチ

結局理由つけて庇っちゃうあたり、リリスも大概空牙に甘いよね…←

言うこと物騒なのも、わざと茶化したからってのもあるw

227ピーチ:2013/04/23(火) 04:36:13 HOST:EM114-51-23-101.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

やっぱり眷属には優しいよねリリス姫!

ミレーユちゃーん早く帰ってきてー!←

茶化すために物騒なこと言うんだ!?

228たっくん:2013/04/25(木) 14:21:42 HOST:zaq31fa48ea.zaq.ne.jp
アホのピーチさん
クソスレ立て過ぎです。

今度またアホソング歌いますね。

229心愛:2013/04/29(月) 21:55:23 HOST:proxy10067.docomo.ne.jp
>>ピーチ

うーん、っていうかやっぱり空牙だからってゆーのもきっとあるよねw
恋愛感情持ってる相手を見捨てられないんだよ!

で、そんな自分に自己嫌悪してぐるぐるしちゃう系?←
リリスはやっぱり普通の女の子ですw



久々だからかいつもよりさらに低クオリティな気が↓

230心愛:2013/04/29(月) 21:55:59 HOST:proxy10068.docomo.ne.jp






「空牙」



絶句する彼へと、リリスが一歩近づいた。



「ミレーユが暴走したなら、その身で喰い止めればよいのです。彼女が間違ったことをしたなら、今からでも、その手で正せばよいのです」



間違ったこと―――とは、ミレーユの身体の持ち主がかつて犯した過ちのことか、それとも。



「できないとは言わせませんよ」



柔らかに、にこりと微笑む。



「貴方とミレーユの絆は、そんなにも脆いものなのかしら?」



強く優しく背中を押す主君に、空牙は頭を垂れた。



「姫……有難う、御座います」



見放されると思っていたのに、空牙とミレーユを救ってくれると言うリリス。
どんなに感謝してもしきれない。



「本当に、貴女に逢えて良かった」



ほんの一瞬だけ、切なげな光がリリスの瞳をよぎって、しかしすぐに消えた。



「覚悟は決まりましたわね?」



「はい」



空牙から視線を放し、ぐるりと見渡す。



「ミレーユの事情を部外者に知られないよう、内密に動く必要があります。護衛をつける訳にはいかないということは、分かって下さいましね」



長い話に苛立っている様子のシルヴィアに微笑みを返してから、リリスは再度口を開いた。




「そこで、本題。単刀直入に言いますと―――わたくしは指揮を離れることができない。ですから空牙、貴方を直接助けることは不可能」




こくりと頷く空牙に対し、ユリアスが「そんなっ」と青ざめた。



「ミレーユさんがいないのに、リリス姫まで……そんな、無茶ですっ」



「ふふ。ユリアス様はやはりお優しい」



大丈夫ですわよ、とリリスはユリアスに向けた輝くような笑顔の対象を、シルヴィアへと移して。




「―――シルヴィア様。わたくしの代わりに、空牙に付いて行って差し上げて」




「……え」



予想外の台詞に、空牙とユリアスが揃って目を丸くする。



「……ぼくが?」



それはシルヴィアも同様で、訝しげに頭一つ分背の高いリリスを見上げた。



「それは……構わないが。しかしぼくの異能は魔獣相手に有効なのだから、そちらの討伐に生かした方がいいのではないか?」



「敵が魔獣を引き連れている可能性は捨て切れませんし、並大抵の戦力では勝ち目はありません。最強の名を冠するシルヴィア様であるからこそ、こうしてお願いできるのですわ」



優雅に一礼するリリスの動きに合わせ、艶やかなストロベリーブロンドがさらりと揺れる。

ふう、とシルヴィアが嘆息した。



「リリスに其処まで言われては、仕方ないな。……分かった。空牙、君に協力しよう」



「シィ……本当に良いのか?」



「ああ。ファローズ軍の統率は、アレクに任せることにする」



そう言うシルヴィアは酷く頼もしく、空牙は安堵に顔を緩ませた。

「決まりですわね」とリリスが話を纏めに入り、




「―――ぼ、僕も行くよっ」




「ユリアス?」



それを遮って、焦ったように宣言したのはユリアスだった。
きゅっと両の拳を握る。



「……ユリアス様」



すぐに立ち直ったリリスが、彼を視界に映した。



「貴方は《黎明の歌(トレーネ)》を使う、ミュシアの王族。たとえ他の誰を犠牲にしても、結界を支える為に生き延びなくてはならない存在なのですよ」



「た、確かに、そう、ですけど」



所々つっかえながらも、必死に訴えるユリアス。



「でも、皆が頑張っているのに僕だけが安全なところで、何もしないでいるなんて……耐えられない、ですから。―――戦えない僕がいたって、まるで役に立たないし足を引っ張るだけだろうけどっ」



空牙を見ながら、遠慮がちに―――しかしはっきりと、その意志を表した。




「こんな僕でも、守ることなら、できる……から」




決心は固いようだ。
仕方ない、とでも言うようにリリスが微苦笑、黙って肩を竦めて了承のサイン。



「……ユリアス様」



「ユリアスでいいよ」



淡い色の双眸が和やかに綻ぶ。



「僕たちは、ミレーユさんを助ける仲間なんだから。こんな状況で、身分なんて気にしていられないでしょう?」

231ピーチ:2013/05/01(水) 04:20:20 HOST:em1-115-125-169.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

あ、空牙くんじゃなかったら分かんなかったんだ!

リリス姫かわいーw

全然低クオリティじゃない! 続きすごく気になる!

というわけでこーしん待ってるねー←

233心愛:2013/05/02(木) 23:14:43 HOST:proxyag053.docomo.ne.jp
>>ピーチ

分かりにくいけど可愛いとこもあるリリスw
恋敵のはずのミレーユをやっぱり助けちゃうとこもリリスならではだよ……。


次は、空牙たちを送り出してお城に残ったリリスサイドでお届けする予定! あくまで予定!
ゆっくりいきます…w

234ピーチ:2013/05/03(金) 16:08:29 HOST:EM114-51-9-68.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

分かりにくい優しさ可愛さ、何かオスヴァルト様みたいw

リリス姫サイドか! じゃあいつもみたく楽しみにしてます!←

235黒ネコ:2013/05/05(日) 09:02:23 HOST:softbank220024115211.bbtec.net
 どうも、黒ネコです^^
 っあ、荒しとかではないのでご安心下さい←

 えぇ、私……この掲示板を使用したくてコメントをいろんな処に書き込んでいます←
 心愛さんの作品は、他にも拝見する予定です。
 そして、本日読ませて頂いたこの小説は
 時に面白くっ! 時にシリアスなっ! とっても、充実感あふれる面白みたっぷりの作品だと思います^^
 これからも、更新頑張って下さい^^

236心愛:2013/05/07(火) 22:15:08 HOST:proxy10053.docomo.ne.jp






「―――プリンセス・リリス」



ノックの音と自分の背後から発せられた声に、リリスは驚くこともなく振り返った。



「お待ちしておりましたわ、羽音様。久しいですわね」



青みの強い灰色の髪と瞳を持つその少女の名は、羽音=リン=エルミール。
冥府の辺を統べる由緒正しき家柄の令嬢―――否、姫君と称した方が的確か。

何しろエルミールと云えば、今やファローズ、エルゼリア、ミュシアの三大王家と並んで数えられる血統の名家。
領民からの絶大な支持を得る彼女らの協力は有難い、とリリスは素直に頬を緩めた。

ゆっくりと再会の挨拶をしたいところだが、この状況でそれを許す余裕はない。言葉少なに、最低限必要な会話を交わす。



「何か、私たちにできることは」



「……有難う御座います。そうですわね―――」



背筋を伸ばして立つ彼女の真摯な思いが滲む眼差しに応えるように、リリスも真剣な口振りで現在の戦況、それに対する対策などの情報を伝えていった。



「では、全面的に『そちら』は任せましたわ。頼みにしています」



「はい」



お気をつけて、と互いに慌ただしい挨拶を交わして羽音と別れる。


自身を落ち着かせたいときにいつも一人で籠もる、広々とした部屋。
膨大な情報を整理し、新たな突破口を見出す戦略を組み立てる作業に戻ろうとしたが―――リリスは複雑な思考を放棄して、ふっと宙を見上げた。


エルミール家を始めとした数々の有力者の協力を取り付けた今、一番の問題は。



……クウガ、と唇に淡く音を乗せる。
その切ない響きに、リリスは歯を噛み締めた。


彼には『あの』シルヴィア、そしてユリアスが付いている。
しかし敵の力が計り知れない以上、決してこちらにとって楽な戦いにはならないだろう。
それを承知で、既に手は打ってある、が―――




「―――……報われませんね」




突然すぐ隣に出現した姿に、動揺を顔に出す寸前で耐える。
……全く気配を感じなかった。この、リリスが。


やはり、悪魔(この男)は苦手だ―――と、リリスはシルヴィアの番犬をきつく睨みつける。



「……わたくしの許可もなく上がり込むなんて、全く無礼な男ですわね。ふらふらとほっつき歩いていても大丈夫なのかしら?」



「その心配は要りませんよ。シィからの頼み事は済ませましたし、彼女の身に危険が迫ったらすぐに分かります」



漆黒の悪魔、アレックス=リーヴィがわざとらしく優雅に微笑む。
その飄々とした態度が気に食わなくて、リリスは黙って眼光を強めた。


《散華魔鏡(フォル・モーント)》で“視”ようにも、永い年月を生きてきた彼は読み取るべき情報量が多すぎ、リリスの限界を優に超えてしまう。

リリスの異能が通じない切れ者。彼女との相性は最悪と言っても過言ではない。



「少し、気になることがあったもので」



「……手短に頼みますわ」



「そのつもりですよ」



薄い笑み。
アレックスの血塗られた紅い双眸が、僅かに細められ。




「最初から“こうなった場合”にシィの協力を取り付けるつもりで、わざわざ事前に空牙と俺たちを引き合わせて”―――つまり、“こんな展開”になることを、知恵者の貴女はとっくの昔に予期していた」




リリスが息を詰める。
酷く愉しげに、アレックスが首を傾げた。




「なのに、どうしてでしょうね? 今回のやり方は、どう考えてもスマートじゃない。予め知っていたのだから、他に策はいくらでもあるはずなのに―――頭の切れる貴女らしくもない」




揶揄うような口調で、アレックスが微笑。




「貴女が彼に、ミレーユを廃棄せよと命じて、それを断行していたなら、冥界は魔獣の侵攻に遭うこともなかった」




「……黙りなさい」




「しかも邪魔者がいなくなれば、貴女は晴れて愛しの空牙と―――」




「黙りなさいと言っているのです」




王者の誇りを傷つけられた怒りに、ワインレッドの瞳が燃える。
悪魔の囁きに屈するなど、彼女の矜持が赦さない。




「相変わらず、余計なことばかりぺらぺらと喋るお口ですわね。わたくしの決定に刃向かうつもり?」

237心愛:2013/05/07(火) 22:22:38 HOST:proxy10054.docomo.ne.jp
>>ピーチ

最初だけ羽音ちゃんに御登場戴きました(*´д`*)
ちょっとだけ、だけどね!


微妙にオスヴァルトちっくなリリスさんの天敵登場ですw
アレクは思考を読もうとするとリリスの方がパンクしちゃう的なイメージ?←

なんでもお見通しアレクー!




>>黒ネコさん

初めましてー!
こんなド下手な素人小説に目を通して戴きまして有難う御座います…!
ちょっとずつ精進致します(o^_^o)

238ピーチ:2013/05/09(木) 04:47:22 HOST:EM114-51-29-243.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

ありがとうございますわざわざ羽音を出してくれてありがとうございます!

あ、まさかのリリス姫の天敵さん←

…まぁ、アレックスの方がずっと永く生きてるからね! しょうがない!

何でもお見通しw

239たっくん:2013/05/14(火) 01:02:41 HOST:zaq31fa543a.zaq.ne.jp
私が書き込んだ後、回答下さい。

つかぬ事をお聞きしますが、どなたかピーチさんのウンコ
所有されていないでしょうか?在庫等御座いましたらお取引しましょう。
迅速に対応しますので宜しく。

前置きが長くなったけど
アホのピーチの小説なかなかおもろいわ

と言っても文筆業界には程遠いか(笑)

240心愛:2013/05/15(水) 16:27:23 HOST:proxy10058.docomo.ne.jp






「まさか。姫君のことは敬服していますよ」



薄っぺらい笑み。
自分を見透かされていることに、言葉にしようもない羞恥と悔しさを覚える。


報われない、とアレックスは言った。

空牙を想い、自分の信念をねじ曲げてまで、彼の望みを叶えても。
リリス本人に見返りは、ない。



「―――『彼女』に、情でも移りましたか?」



揶揄うように声を転がすアレックスを、リリスは再び睨みつける。




「ミレーユもわたくしの民。彼女を犠牲にしてこの世界を救う、という下劣極まりない考え方をわたくしは軽蔑します」




模範的すぎる答え。綺麗事。本心とは違う言葉。
それがどうした、とリリスは屹然とアレックスを見据えた。

空牙だけでなく、ミレーユ本人のことを思う気持ちだって、それがどれほどのものだとしても、決して嘘ではないから。


口が悪くて可愛げの欠片もないけれど、どうにも憎めない―――魔術師の手によって機械人形(マシンドール)にされた少女。

どんな危険を冒してでも、優しい空牙は精一杯に、リリスにとっても大切な、彼女を救い出そうと足掻いてくれるだろう。

なら、自分の為すべきことは一つだけ。



「これ以上何か言うのであれば、ミレーユとわたくしへの侮辱と受け取りますわよ」



「これは手厳しい」



完全に面白がっている表情で、アレックスが腕を組む。


何てことはない、リリスの所にやってきたのも、暇つぶしにリリスの反応を見て楽しみたかったからだけなのだろう。
つくづく悪趣味な男だ。



「これで話はお仕舞い? では、わたくしはこれから会議がありますので」



「……会議、ねぇ」



唇の端を吊り上げるアレックス。



「自分たちも戦え、なんて命令、頭の固い家臣が納得するとは思えませんが」



また、読まれている。


シルヴィアがいない今、リリス自身も参戦し、冥界全体を挙げての総力戦に持ち込むつもりだった。
その為には兵士以外の魔族、手始めに直属の臣下の協力が必須。
だが、確かにエルミール家の令嬢のように親切な者ばかりというわけではない。
相手のほとんどは自尊心の高い貴族だ、渋る輩の方が多いだろう。



「臣下の気持ちを理解するのは良いことです。でも、自分が臣下になってはいけない」



既に扉へと爪先を向けていたリリスはくるりと振り返り、口元に淡い笑みを浮かべた。



「足元ばかり見て『利益にならない』と言うことなら彼らにもできる―――けれど」



「……」



「王の立つ場所は誰のものよりも高い。だから誰よりも遠くまで見渡せる」



そう。リリスのすべきこととは。




「一度決断したらそれが正しいのだという顔をし続ける。そして、実際に正しいものにしてみせる。それが、王の役目ですわ」




この世界を守る為に必要なら、どれだけ反対されようが卑怯と罵られようが、どんな手でも使って自分の判断を現実のものにしてみせる。正しいと証明する。
それが、全てを背負う者としてのプライド。



「この冥界では、わたくしが絶対」



リリスは一度、空牙の飾らない心と言葉に救われた。

恋心なんて関係ない。
今度は、リリスが彼を信じ、助ける番だ。



「忠誠には富を、裏切りには罰を―――。良く覚えておくことですわね」



仕返しとばかりにリリスは微笑み、追い抜きざまに小さな一言を残した。
ほんの僅か、アレックスの柳眉がぴくりと動く。



―――貴方こそ。
シルヴィア様を泣かせたら、容赦しませんわよ?



「……食えない女だ」



扉が閉まる重苦しい音が、部屋に響く。

くくっと喉を鳴らし、悪魔は愉しげに笑った。

241心愛:2013/05/15(水) 16:31:40 HOST:proxy10058.docomo.ne.jp
>>ピーチ

ちょっとでごめんね羽音ちゃんー!


空牙とミレーユだけじゃなく、最終的にはアレクとシィの関係が変わるとこまでなんとか書きたいのよね←

とりあえずこれからラストバトルだ! がんばってくれ戦闘員!

242ピーチ:2013/05/16(木) 05:33:44 HOST:EM114-51-35-209.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

ちょっとでも出せてもらえたからいいんだよー!

お、何か今回主従関係の変化が多いぞ?

家臣を納得させるのがリリス姫なんですアレックスさん←

243心愛:2013/05/24(金) 15:10:51 HOST:proxyag044.docomo.ne.jp
>>ピーチ

家臣を口八丁で丸めこんだり、リリスはわりとしたたかでいいと思ってる←
そんなリリスを、シィとはまた違った意味で面白がってるアレクはちょっかいかけるというねw


次から急に空牙たちサイドだよあの人が出てくるよ!

244心愛:2013/05/24(金) 15:11:26 HOST:proxyag044.docomo.ne.jp






空一面に、視界を埋め尽くす無数の影。
目を凝らせば、その魔獣一体一体が放つ爛々と輝く眼光が確認できる。



「んー……リリスによると、あそこみたいだね。敵が立てこもるには分かりやすい場所だけど」



彼らに見つからないよう低空飛行する三人の先頭、シルヴィアがすっと指を差した。
その遥か先の前方には、悠々と聳える砦。



「要塞、みたいだね。この辺にあんな建物があるなんて、聞いたことないけど……」



「敵の異能のひとつかも。物質創造能力、ってとこ?」



ユリアスの素朴な疑問にシルヴィアが答え、



「とにかく、迷ってる暇はないね」



銀色の十字架を片手でくるくると回し、弄ぶ。



「ミレーユを助け出すっていうのももちろんだけど。いくらあいつらをリリスが食い止めても、親玉を叩かないことには冥界の煉獄化は防げない」



高く愛らしい声を紡ぐシルヴィアの隣で、ユリアスが此処まで乗ってきた有翼馬(ペガサス)―――ミュシアの聖獣で、彼と仲が良いそうだ―――の頭を撫でて微笑む。



「そう、ですね。……お願い、もう少し力を貸して」



同じくその背に跨る空牙が、シィ、と呼びかけた。
緊張で固く強ばらせていた頬を緩め、こちらを向いた彼女に笑ってみせる。



「頼りにしてるぜ」



「……とーぜん!」



にこりと微笑んだその瞬間。
シルヴィアの幼げな美貌から、無邪気な笑顔がスッと消える。




「―――さぁ」




十字架を再度くるりと回し、静かな決意を秘める紅い瞳を妖艶に細めた。
見る者に畏怖すら抱かせる、完全な美を体現する姫君の唇が開かれる。




「始めようか」




たっ、という軽やかな音からは想像もできない速度で、シルヴィアは弾丸の如く突進。
紫電のように空を裂き、瞬く間に門前でたむろする魔獣たちへと突撃する。




「殲滅せよ―――《赫き煉獄の宴(ローゼン・クランツ)》」




深紅の妖気が全身から噴き上がる。

雪の結晶よりも小さい光の粒。
花吹雪が覆うように、淡い輝きが渦巻いて風を起こし、裾のフリルを揺らした。



「邪魔を、するなッ!」



敵を認知した魔獣が雄叫びを上げ襲いかかるその一瞬前。シルヴィアが威勢良く吼えると同時に、彼女の妖気が一際大きく膨れ上がる。




【ッッッギャアアアァアァァァアアア!!】




シルヴィアが操る、万物を灰燼に帰す猛毒の薔薇。


降り注ぐ花弁の弾雨が群れを一度に吹き飛ばし、消滅させ、眩い閃光を生み出した。
視界が暴力的な程鮮烈な紅に染まる。



「……超破壊力と、繊細なコントロールの両立」



ぽつりと呟く、ユリアスの横顔。
厳しく研ぎ澄まされたその表情は、年下の少女であるシルヴィアへの憧憬、そして、“守る”者としての精神的な強さを感じさせる。



「それこそが、高貴な血統の証明」



シルヴィアの猛攻。
剣呑な稲妻を思わせる大量の花びらを放ちながら、飛び越え、蹴って、殴って打ち倒す。
血飛沫をかいくぐり、十字架で攻撃を弾き、薙ぎ払う。


最強の名に相応しい、一方的で圧倒的な戦いぶり。


しかし、その凶悪な力を以てしても―――



「数が、多い……っ」



シルヴィアの後についている二人は確実にじわじわと前進してはいるものの、シルヴィアが消しても消してもなお奥から新たな魔獣の群が出現する。



「くそ、キリがねーな……!」



「! ――……っ避けて!」



背後からの襲撃に、空牙が息を呑む。
極めて高い知能を持つ有翼馬(ペガサス)は、主の悲鳴じみた突然の命令にも忠実に従おうとすぐに身体を捻ったが、



「しまっ―――」



間に合わない。


完全に不意を打たれ、短くも詠唱を必要とするユリアスの結界魔法も無意味。
攻撃の術を持たない二人へと、大きく振り下ろされた鉤爪が迫る。


シルヴィアの冷たく整った顔に初めて焦燥が浮かんだ、


―――そのとき、だった。





「燃やし尽くせ―――《緋焔の神解け(レーツェル)》」

245ピーチ:2013/05/24(金) 22:36:45 HOST:EM1-114-1-127.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

まさかのシルヴィア様に多いって言わしめるか魔獣さんたち!

…え、ちょっと待って最後のこの呪文ってまさか……

何か予想つく気もするけどだとしたら何で!?←

246心愛:2013/05/26(日) 10:01:28 HOST:proxyag119.docomo.ne.jp
>>ピーチ

せっかくだし、シルヴィアにも苦戦してもらおうかとw
魔法バトルは味方が必死じゃないとつまんないしね←



…リリスに抜け目はない!

247心愛:2013/05/26(日) 10:02:12 HOST:proxyag119.docomo.ne.jp






ごうっ!


突如として現れた緋色に燃える茨の鞭が、鉤爪を魔獣ごと吹き飛ばした。
熾烈なる狂炎が燃え盛り、シルヴィアを阻んでいた群れを一気に焼き尽くす。



「なっ」



「間一髪、でしたね」



声の主は天女の如く、風に乗ってゆっくりと舞い降りてきた。

炎そのもののように猛る緋色の妖気に、透明感のある純白の髪が激しく靡く。




「―――……兄様」




滑らかな肌に、朱鷺色の唇。小動物のように愛くるしい胡桃型の瞳を縁取る真珠色の睫。
幼さが抜け、僅かながら大人びた相貌が懐かしげにふわりと和む。
レースの半衿をつけた撫子紋様の矢絣に、牡丹と菊の花丸紋。頭頂部で結んだ幅広のリボン。
爆ぜる火の粉を纏う、清楚可憐を絵に描いたような立ち姿。

こちらに向けて微笑む彼女は間違いなく、数年ぶりに目にする―――




「お前っ……綺紗(キラサ)!? どうして―――」




「はい。お久しぶりです、兄様」




空牙の窮地を救った和装の少女が唖然としているシルヴィアとユリアスの方を見て、深く腰を折る。



「非礼をお赦し下さいませ。私はキサラギ家現当主、綺紗(キラサ)=凜(リン)=キサラギと申します」



「……君が、キサラギの……。危ないところを助かったよ、有難う」



「ぼくからも礼を言わせてくれ。シルヴィア=ファローズ、そしてそちらがユリアス=イ=ミュシアだ」



「存じ上げております。お目にかかることができて光栄です」



キサラギは伝統ある古株の一つ、冥界全体でも屈指の名家。
またとない才を授かり“神童”と謳われる正当な後継者の話は、一国の君主のような立場にあるユリアスとシルヴィアにも行き届いていたようだ。



「ちょっ、待てよ! な、なんでお前が此処に!?」



当然のように挨拶を進める三人に、空牙が耐えきれず割って入る。



「そんなこと、決まっているじゃないか」



「兄様。腐ってもエルゼリア臣民たるもの、鈍いのは異性関係に関してのみで十分ですよ?」



シルヴィアに当然のように言われ、ユリアスに困ったように苦笑され、再会を果たしたばかりの妹にまでさらりと遠まわしに馬鹿にされたような気もするが、空牙はまだこの状況を理解していなかった。


「……本当に分からないのですか?」と愛らしい仕草で唇を尖らせ、綺紗が仕方なくといった様子で答えを言う。




「リリス姫の命令で、綺紗……私が、兄様たちの支援をすることになったのです」




「姫、が……そんなことを?」



「はい。間に合って良かったです」



無論、綺紗もリリスの眷属のうちの一人。
兄妹といっても、空牙は自分の意志で家を出た身。しかもミレーユを連れて旅をしていたから、今まで直接会うことも主から話を聞くこともなかったけれど―――彼女も空牙と同じくリリスに忠誠を誓い、同じ主に仕えているのだ。



「つまり、リリスが遣わした援軍というわけだな。一人ながら、下手な兵の数倍の戦力になる」



キサラギの血が持つ異能《緋焔の神解け》は、エルゼリアよりファローズの特徴に近い攻撃型。
つまり、綺紗を投入することでシルヴィア一人の負担を減らし、勝率を上げることができる。

そして何より、リリスが彼女を選んだだろう最大の理由は。




「……ミレーユさんの秘密は、守ります」




ミレーユと面識があり、空牙を慕う実妹である綺紗は、ミレーユの生い立ちを聞いても二人を裏切ることはない。
それどころか理解を示して力を貸してくれる、これ以上ない程心強い味方だ。



「黙って兄様を見送ることしかできなかった綺紗に代わって、ミレーユさんは今日まで、兄様の助けとなってくれました」



「……綺紗」



「ミレーユさんがただの機械人形(マシンドール)であろうとなかろうと、何処の誰であろうと、関係ありません。受けた恩は返さなくては」



穏やかに微笑する綺紗。
空牙が声を震わせた。



「……本当に……お前はこんなダメ兄貴には勿体ない、良くできた妹だよ」

248ピーチ:2013/05/26(日) 13:00:15 HOST:EM114-51-191-143.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

やっぱ綺紗ちゃんだった!

へー! 綺紗ちゃんもリリス姫の眷属なんだー!

……だとしたら綺紗ちゃん大変だよね←

249心愛:2013/06/03(月) 19:03:17 HOST:proxyag061.docomo.ne.jp






「……惜しいところだが、感動の再会はこれくらいに留めておこうか」



シルヴィアが肩を竦める。



「敵は待ってはくれないようだからな」



―――囲まれている。


ユリアスが空牙と自分を守るように結界を展開し、シルヴィアと綺紗が油断なく身構える。




「これ以上、悠長に話している訳にはいきませんね。……参りましょう」




数体の魔獣と共に、行く手に立ちふさがるのは研究者風の男三人。
そのうちの一人が前へと進み出る。



「申し訳ありませんが、此処は通しませんよ」



精緻で冷たい美貌に刃物のように酷薄な微笑を浮かべ、シルヴィアが彼らをまっすぐに見た。



「―――では、力ずくでどいてもらおう」



「っ!?」



威嚇代わりの、ごく単純な魔力の放出。
シルヴィアの身から溢れ出す深紅の妖気が三人の足元へ槍の如く突き刺さった。
さらにそれは龍のようにうねった軌道を描きながら瞬時に駆け抜け、内部を蹂躙―――する前に細かな粒子となって霧散。

直撃を受けた硬質の床は焼け、焦げ、深く抉られていた。


―――格が違う。


三人が一様に青ざめるが、すぐに表情を引き締める。せめてもの抵抗とばかりにそれぞれ妖気を放出し、戦意を示した。



「シルヴィア様、そちらは任せます!」



突然上がった火柱に呑み込まれ、取り囲んでいた魔獣が断末魔の悲鳴を上げた。

阻もうとする男たちが異能を使う前に十字架を振るって蹴散らし、なお追いすがろうとする者を容赦なく攻撃して地に沈め、シルヴィアが突き進む。

ひとつひとつの威力が凄まじい花弁や火の粉が飛び交い、作り出した結界に衝突するたびに、ユリアスが苦しそうな声を漏らした。



「ユリアス―――」



「だ、大丈夫だよっ。気にしないで」



額に汗を滲ませ、慌てて笑顔を取り繕う彼。



「僕より、二人の方が大変なんだから」



「……限界がきたら、見捨ててくれて構わないから。……悪いな」



周囲に意識を配りながらの高度な集中力を求められるユリアスは、肉体的な面だけでなく精神的な疲労も激しいだろう。
彼は冥界を支える柱だ、空牙などを庇ってこんなところで倒れてもらう訳にはいかない。



「綺紗、お前は? 無理はしてないだろうな」



「……いつまでも子供扱いはやめて下さい、兄様。綺紗だって、自分の限界くらいわきまえています」



彼らの後ろを守る妹が不満げに訴えた後、「ですが」と付け足して。



「普通の方より消耗が激しいので、長期戦は不利です。あくまでシルヴィア様の補佐役といったところでしょうか」



“神童”と呼ばれる彼女は、生まれ持った異能の何倍もの威力を引き出すことができる能力者。
ただし、その代償として身体に掛かる負担は並大抵のものではない。


実際、綺紗の存在は大きかった。
背後を気にせずにいられる分、シルヴィアも心置きなく自分の力を奮うことができる。



「無茶はするなよ」



「……兄様らしくありませんね。ミレーユさんを助けるのでしょう?」



和服の袖を靡かせて立つその姿は、昔のものからは想像もつかない程に凛々しく、勇ましく。



「綺紗は、一度決めたら梃子でも動かないくらい頑固な兄様の妹です。……少なくとも今は、無理はしていませんが」



燃える茨が追撃を見舞い、突進してきた魔獣の一体を叩きのめす。
頬にかかる髪を払いのけながら、綺紗は冷然と言い放った。




「必要があれば、限界などいくらでも超えてみせますよ」




不敵で頼もしい微笑みを浮かべる妹を見て、空牙は本当の意味で、肩の力を抜いた。


「……そう、か。確かに、俺らしくなかったな」



空牙とミレーユが原因となった騒ぎに三人を巻き込み、にもかかわらず自分自身が何もできずにいることに、まだ申し訳ない気持ちを感じていた。


先頭に立ち、驚異的なまでの実力差を見せつけながら道を切り開いているシルヴィア。
共に空牙を有翼馬(ペガサス)に乗せ、彼に怪我をさせないよう必死になって結界を維持してくれているユリアス。
キサラギの持つ攻撃魔性を生かして他の三人をサポートし、兄の背中を押す綺紗。


たとえリリスを介する形ででも、自分の意志で、空牙とミレーユの危機に立ち上がってくれた仲間たちだ。

250心愛:2013/06/03(月) 19:32:38 HOST:proxyag061.docomo.ne.jp
>>ピーチ

キサラギの当主様だからねw

綺紗はいつかまた登場させよーって決めてたんです(`・ω・´)

251ピーチ:2013/06/04(火) 03:41:58 HOST:em114-51-5-253.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

綺紗ちゃん強ぇ!←

あのシルヴィア様が心置きなくってよっぽど強いんだよね綺紗ちゃん!

強いだけじゃなくて優しいっていうか優しすぎないですかみなさん!

252【下平】:2013/06/04(火) 04:03:24 HOST:ntfkok293007.fkok.nt.ftth4.ppp.infoweb.ne.jp
【モブ共わ、零がヤッつけるからよ、ピーチちゃんわ安心しろよ。不安になるなよ、キュアピーチ。】

253心愛:2013/06/09(日) 19:14:42 HOST:proxy10054.docomo.ne.jp
>>ピーチ

綺紗は強いよ!
ふんわりした大和撫子が実は強いってなんかいいよね←


それでこそここあキャラ! 基本みんなお人好し!
その数少ない例外がサミュエルさんなわけですがw

254心愛:2013/06/09(日) 19:15:12 HOST:proxy10054.docomo.ne.jp





今更何を迷っている。
冥界を守る為、空牙とミレーユを助ける為に集まってくれた、彼らの厚意を無にしてどうする。



「俺にできるのは、信じること……か」



仲間を信じる。
情けない話だが、空牙にできることはそれしかない。

だから、彼らの協力に絶対の信頼を返す。
申し訳なさや後ろめたさではなく、心の底からの信頼を。




「―――早かったね」




研究員を倒し、魔獣を撃退し、彼らが出たのは見上げる程高い天井のある、大きく開けたホールだった。



「これはこれは。随分と豪華なパーティじゃないか」



石柱に悠然と腰掛けていた深紫の髪の男―――サミュエルが乱入してきた空牙たちを認めるなり、麗しく笑む。



「やあ、空牙君。久しぶり……でもないかな。君のことだから、“彼女”を探しに来たんだろう?」



「……ミレーユ!」



彼の傍らにあるものを見て、空牙が顔色を変えた。


ガラス製の円筒の中、瞼を閉じる美しい人形の乙女。
手首を高い位置で吊られ、ぐったりと意識のない様子。滑らかさを失った肢体からは数本の配線が伸びており、その上を途切れ途切れに弱い光が伝っていく。
《ネクタル》の研究所で目にした少女の肉体と同じような有様で、ミレーユの身体は容器の中に閉じ込められていた。


全身の血が沸騰する。



「ミレーユに、何をした……っ!」



死んだように眠る今のミレーユは空牙と出逢ったときと同じく、原動力たる魔力を絶縁され。しかも他者の手によって、無理矢理機能を停止させられている状態だ。


鋭利に凍てつく視線をものともせず、サミュエルが「さあ?」と肩を竦め。



「そんなに気になるのなら……私から奪い返して、自分で確かめてみたらどうかな?」



挑発的な台詞に歯噛みする。
自分の手では何もできないことが、悔しくてたまらない。



「シィ。……頼む」



シルヴィアは全てを察した表情で一度だけ頷いてみせ、次に綺紗の方を向いた。



「綺紗は此処にいてくれ。空牙とユリアスに万一何かあったら困る」



「はい。この身に代えても二人をお守りします。……どうか、お気をつけて」



唇の端に不敵な微笑を刻んだシルヴィアが彼らから視線を外し、ふわりと浮き上がる。
空中を滑り、ホールの中央、サミュエルのもとへ。

ルビーの瞳を不穏に細め、十字架を構えた。



「空牙の怒りはぼくが引き受けた」



お相手願おう、と言い放つシルヴィアを眺め、サミュエルが僅かに首を傾けた。
その眼差しは穏やかだが、何処か剣呑な色を孕んでいる。



「やはり。ファローズの小娘……か」



「……何?」



シルヴィアが眉を跳ね上げる。
サミュエルは笑った。



「しぶといものだね。折角皆と一緒に逝けるチャンスを作ってあげたのに、勿体無いことをした」



「………」



「何を思ったのか知らないけれど、悪魔などと契約して、“最強”を気取って。まさか本当にそうだと―――」



「……待て」



相手を射殺さんばかりの眼光。
小鳥の囀りを思わせる愛らしい声が、地を這うように低くなる。



「……答えろ。何故……あのことを知っている?」



ファローズの王族全員が幼い姫君一人を残し、魔獣によって惨殺された数年前の事件。
シルヴィアが体験した悲劇の内容を、この男は手に取るような口振りで話した。


『死ぬチャンスを作った』とは、何だ。
どうしてそんな話ができる。



「まさか、」



「その通り」



肯定し、サミュエルが可笑しげに喉を鳴らす。




「あの日、内側から煉獄を封じる結界の一部を破り、王城に魔獣を差し向けたのは私だ。当時のファローズ王には世話になったし……今日の為の様子見に、ね」




シルヴィアは、その事実を黙って受け止めた。
瞼を閉じ、十字架を胸に抱く。
亡くなった者たちから受け継がれ、その身に流れるファローズの血を、感じる。




「……ではぼくは、この機会(チャンス)に感謝しよう」



ふ、と唇が綻んだ。
顔を上げる。




「―――ぼくの全てを懸けて、貴様を倒す」




プラチナの輝きを放つ美しい銀髪が翼のように広がった。


―――瞳に狂気を宿す有毒の花が、今、咲き誇る。

255ピーチ:2013/06/10(月) 02:36:09 HOST:em1-114-98-115.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

基本になっちゃったよここにゃんキャラのお人好しがー!←

数少ないどころか今まで見たことありませんよサミュエルさんほどの極悪人!

256【下平】:2013/06/10(月) 07:53:41 HOST:ntfkok293007.fkok.nt.ftth4.ppp.infoweb.ne.jp
【玄(boku)も話たいよ(・ω・)】

257【下平】:2013/06/10(月) 07:55:53 HOST:ntfkok293007.fkok.nt.ftth4.ppp.infoweb.ne.jp
【荒らしは全滅しろ。零わトリックスターだぞ。零の真似すんなよ。】
【心愛ちゃんマジ熾天使】

258心愛:2013/06/15(土) 19:27:46 HOST:proxyag062.docomo.ne.jp






ユリアスが、空牙と綺紗を覆う結界を展開する。

それでもなお、ビリビリと肌を刺すような刺激が空牙を襲った。
それは周囲に満ちた魔力、攻撃の意志だ。




「―――出でよ、《雷毒針(クーゲル)》」




サミュエルの声がホール全体に響き渡るその前に、地に亀裂が走った。

既に身構えていたシルヴィアは、真下から繰り出された鋼の針を危なげなくかわす。
しかし息をつく間もなく、足元から無数の針が突き出してきた。
弾丸のような速度で、彼女を串刺しにせんと繰り出される突起物。
シルヴィアは避けるのを諦め、自ら生み出す薔薇の鞭で薙ぎ払う。
鋼の針は先端から黒焦げにされ、モロモロと砂のように崩れ、塵と化して空気に溶けた。



「……成程。これが極限まで強化されたファローズの異能……なかなかに、厄介だな」



ふむ、と顎に指を当てるサミュエルを、シルヴィアはせせら笑う。



「そんなことを考えている余裕が?」



サミュエルはくすりと笑い、迫る薔薇の鞭を防ぐ為、更なる針を呼び起こす。
即座に十字架で一閃し、シルヴィアはそれらを斬り捨てた。

そうしたやり取りが数秒の間に数百回と繰り返される。
そして針の一本がシルヴィアの頬を掠め微かに傷をつけるのと、花弁の槍がサミュエルを狙ったのは、ほとんど同時だった。



「《反逆の盾(クローネ)》」



サミュエルも読んでいる。攻撃を中断し、とっさに防御に専念。新たな魔法を紡ぎ出す。
サミュエルの眼前に堅固な盾が展開され、花弁の渦はそれに激突し、軌道を変える。結局、床を焦がしたにとどまった。

両者がそれぞれ後方に跳び、距離を取る。

シルヴィアが身構える間もなく四方八方から大量の針が突き出した。
針の乱打。直撃すれば、少女の身体など即座に穴だらけだ。
が、黙ってやられる彼女ではない。機敏な反応―――左右の数本を叩き落とし、とんぼを切ってかわしにかかる。

最強を自負するシルヴィアにとって、怒りで我を忘れるなど有り得ない。
激情を凍れる殺気と気迫に変え、眉間に迫る一本を撃ち落とす。
心臓を狙う一本を十字架で薙ぎ、飛来する方向を冷静に見極め、肌に突き刺さる寸前に最小限の動きで防ぐ。さらに攻撃の隙をついて新たな花弁を放出した。

紅い奔流と鋼鉄がぶつかる。火花が散り、凄まじい轟音が生じる。
歪な蛇のようにうねった輝きは目にも留まらない速度で空間を切り裂き、迫り来る針の群れを撃ち落とし、真正面―――サミュエルへと真っ直ぐに突き進む。

これは決まるか―――とシルヴィア自身思ったが、再度盾が弾雨を弾いた。
その後ろには、流石に苦しげに顔を歪めるサミュエル。詠唱の為、唇が開く。魔力の集中。

―――この男、まだストックがあるのか。

シルヴィアは表情には出さず驚く。
生粋の王族たるユリアスでさえ、使える魔法は二種類だというのに―――




「―――《穢れ亡き幻想(シュピーゲル・シュロス)》」




その声が耳に入り込んだその刹那、ふ、と一瞬意識が急速に遠のく。
気がつけば、シルヴィアは一人、見覚えのある城の内部に立っていた。



「……何……?」



眉を潜め、周囲を見回したところで―――名を、呼ばれた。
懐かしい声。はっとして振り返る。

こちらに向けて微笑んでいるのは、亡くなったはずの父、母、兄だった。

シルヴィアは息をするのも忘れて呆然とし、彼らを見つめ―――




「……幻影、か。なかなか精度が良い」




禍々しい嘲笑を、その唇に浮かべた。


これがおそらく敵の切り札。
弱さにつけ込み、戦意を喪失させるのが目的か。
いや―――靄がかかったようにぼんやりと霞む頭では、普通の者ならあっさりと騙されて夢に溺れることは安易だろう。


だが、相手はこのシルヴィアだ。
幼い日に悪魔と対等に渡り合って契約を交わし、誰よりも誇り高く、栄えある三大王家の筆頭として君臨し続けてきたこのシルヴィアだ。




「残念だったな。その程度で、ぼくの心は揺らがない」




十字架を握る。
渾身の魔力を込めた斬撃が、愛する者たちの姿を斜めに切り裂いた。

259心愛:2013/06/15(土) 19:32:46 HOST:proxyag062.docomo.ne.jp
>>ピーチ

ありがとう、そう言ってもらえて嬉しいよ!((いい笑顔
サミュエルこそここあキャラ唯一の極悪人かつ明確な憎まれ役なので!


で、シィ対サミュエルは一段落ついた感じだけど…これで終わりじゃないんだな(=_=;)

260ピーチ:2013/06/15(土) 19:33:33 HOST:em49-252-234-80.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

シルヴィア様が凛々しい!←

その上強いよやっぱり!

小さい頃から悪魔と契約してただけあるよね!

261心愛:2013/06/16(日) 20:10:50 HOST:proxyag080.docomo.ne.jp







「口ほどにもないな」



幻を破ったシルヴィアの冷ややかな視線の先には、うずくまるサミュエルの姿があった。
倒された魔獣と同じく、こうなれば煉獄行きは免れない。
シルヴィアは着地すると、サミュエルに降伏を宣言させる為十字架の先端を彼へ突き立てようとして。


初めて、この期に及んでも魔術師が口角を上げ、不敵な笑みを湛えていることに、気づいた。




「……これで終わりだと思った?」




くくく、と喉の奥で笑う男。



「私は強欲なんだよ、お姫様。すべてを手に入れて、すべてを壊したい」



サミュエルはふらつきながらも、手をついて立ち上がる。
ごぽ、と傷口から大量の血が溢れ、床を不吉な色に濡らした。



「私は魔術師……。もう少しだけ、この肉体を此処に留めておくことができる」



「シィ!」



いち早くサミュエルの変化に気づき、固唾を呑んで見守っていた空牙が声を上げた。
シルヴィアも危険を察し、素早く後方に飛び退る。



―――ごうっ、と音を立てて、サミュエルの肩から、瞳から、魔力の炎が噴き上がった。
同時に、容器に閉じ込められた人形の少女の身体が、強く発光し始める。魔術回路に魔力の火が入る。


まさか!




「さぁ、目覚めの時間だよ。……ミレーユ」





―――リィィィッッッィィィ……!





円筒が内側から破壊され、ガラスの破片となって砕け散った。


なめらかな白磁の肌が淡い光を放ち、翠に輝く髪が爆風に煽られて波打つ。


固く閉ざされていた瞼が今、カッと大きく開かれた。
かつて美しい金色だった瞳は一面、毒々しい紅に染まっている。



「ミレーユ!」



「無駄だよ。君の声は届かない」



手負いの身体で無茶をした為だろう。負荷に耐えきれず膝をついた体勢で、サミュエルは空牙を視界に入れて笑む。



……油断した。
この男にとって、空牙から奪い取ったミレーユこそ真の切り札。
シルヴィアとの戦闘は、最初からこの本命を生かす為の時間稼ぎでしかなかったのか。




「私による数々の調整を経て、魔女だった頃の力を完全に受け継ぐ機械人形(マシンドール)として復活したんだよ。―――嗚呼、この時をどんなに待ち望んだことか!」




時折血を吐きながら、恍惚とした表情でサミュエルがミレーユを眺める。
その愉悦に酔いしれた口調は、神を崇拝する信者のようでもあった。



「“最強”対“最凶”。是非とも、最高のゲームを楽しませてくれ」



シルヴィアは、胸中で空牙と、それからミレーユに謝罪した。


―――悪い、手加減はできそうにない。


ミレーユの全身から発せられ、ひしひしと感じる威圧感。これまで会ったどんな者よりも、強い。

感情の色をなくした瞳に映され、背筋を悪寒が這い上がる。


確かに……化け物だ、これは。
本来の力を取り戻し古より甦った、魔女。


だが、空牙たちにとっても、冥界全体にとっても、シルヴィアが最初にして最後の砦。
こんな怪物を野放しにすれば、冥界の滅亡は免れない。
何としてでも、自分が此処で止めなくては。



「面白い」



内心の焦燥と裏腹に、シルヴィアは冷え冷えとした声で告げる。




「受けて立とう」




瞬間―――ふっ、とミレーユの姿が消えた。
瞠目する。有り得ない速度。音より速い!

本能で危険を感じ取り、シルヴィアは真上に十字架を寝かせて掲げた。
その直感は正しく、頭上にミレーユが唐突に出現。一回転し、重く鋭い蹴りを叩き込む。
シルヴィアはかろうじて受け止めたが、勢いを相殺しきれず吹っ飛ばされかける。空中でバランスを取り、体勢を立て直した。

ミレーユは止まらない。拳を繰り出す。緩急自在の動きに翻弄されまいと、シルヴィアは際どく対応しながら好機を待つ。


―――アレックスとやり合ったときより格段に、速い。
けれど、リズムは掴んだ。


不意を衝き、シルヴィアは大きく十字架を振るった。
衝撃波でミレーユのボディが軋み、白い肌がざっくり裂ける。

262心愛:2013/06/16(日) 20:15:50 HOST:proxyag080.docomo.ne.jp
>>ピーチ

うちの魔族の強さ=精神力の強さだからね!


そして、やっと真のラスボス・魔女版ミレーユさん登場(;゜ロ゜)
ミレーユを倒さない限り冥界滅ぶよどうするシィ!←

263ピーチ:2013/06/16(日) 20:28:00 HOST:nptka204.pcsitebrowser.ne.jp
ここにゃん〉〉

うそでしょミレーユちゃん!?

そしてサミュエルに対して純粋にいらっときたことは言わない←

シルヴィア様頑張って大丈夫だよねいざとなったらアレックス居るよね!

264たっくん:2013/06/18(火) 10:15:27 HOST:zaq31fa4b08.zaq.ne.jp
ちなみに貴方達をノックアウトするのは
アッコちゃんという女性です。

アッコちゃんが貴方達をノックアウトしてしまうんですよ。

アッコさんという方は私の味方です。
貴方達は敵です。

265たっくん:2013/06/18(火) 10:15:49 HOST:zaq31fa4b08.zaq.ne.jp
ちなみに私はアッコさんを応援します。

266心愛:2013/06/24(月) 16:02:00 HOST:proxyag080.docomo.ne.jp
>>ピーチ

サミュエルは嫌われるように書いてるから遠慮なくいらっとしちゃっていいのよ?w



…………(・∀・)

267心愛:2013/06/24(月) 16:02:23 HOST:proxyag080.docomo.ne.jp






瞬間、バランスを崩したミレーユの暗い双眸が、妖しい光に満ちた。




「―――……《黒き刃の夜想曲》」




虚ろな声と共に―――大気が凍結した。

俊敏な動きで咄嗟に飛び退いたシルヴィアのすぐ目の前に、巨大な氷柱がそそり立った。
空気中の水分を瞬時に氷結させたのか。冷気と共に死の凄みを放つそれは、シルヴィアの背筋を固く凍らせる。
仮面のような無表情のミレーユが突き出した拳は何もない虚空を切り裂き、衝撃波で氷を砕いた。
破片が膨張し、鋭い円錐となってシルヴィアを八方から襲う。まさに刃。
サミュエルのときと同じ要領で、シルヴィアは飛来する氷槍を焼き尽くしていく。




「……《煌めく星の狂詩曲》」




光の乱舞。
細く収斂した光の剣に貫かれ、衣装に穴があく。
シルヴィアは薔薇の花弁で威力を相殺し、身を守った。
その隙にミレーユが素早く跳躍。一瞬目標を見失い、シルヴィアが戸惑う。



「シィ、上だ!」




「……《紅き月影の輪舞曲》」




ミレーユの手のひらから放たれた光芒、それはさながら光の大砲。
下方に位置するシルヴィアへと巨大な光線が襲いかかる。
シルヴィアはこれもまた恐るべき反射神経を以て反応し、十字架で弾いた。
射線が反り返り、ホールを縦断。分厚い石の床が砕け、巨大な亀裂が蜘蛛の巣状に走り、大穴が穿たれる。

続けざまに真正面から猛烈な蹴りを放つミレーユ。直撃すれば間違いなく、シルヴィアの背骨がへし折れるような一撃だった―――が、それを万物を灰燼に帰す猛毒の薔薇が迎え撃つ。
ずばんっ、と空気を裂き、ミレーユのスカートを掠めた花弁の鞭はそのまま進む方向を転換し、後方からミレーユへと直進。




「《凍れる残影の奏鳴曲》」




突如、氷壁が出現した。
密度が高く、固く締まっている様子だ。シルヴィアの《赫き煉獄の宴(ローゼン・クランツ)》にも、一瞬なら耐えうる。

力の拮抗は僅か一秒未満。壁が破壊され、花弁の突進を氷の破片が迎撃する。

同時に、相手の懐に飛び込み十字架を振るったシルヴィアの重い一撃が、空中のミレーユをとらえた。
ミレーユは両腕を交差してブロックするが、空中では勢いが殺しきれず吹っ飛ばされて床に転がる。が、反転してすぐに起き上がった。息をつく間もなく新たな攻撃を見舞う。



「………っく、ぅ」



呼吸が荒い。骨がしなり、筋肉が悲鳴をあげている。
それでも、シルヴィアは魔力の収束を緩めない。限界を超えて、力を絞り出そうとする。



「………っ、!」



薔薇の渦が天を衝いて猛り、轟音を立てて荒れ狂う。荒れ果てたホールの中を旋廻し、爆風が砂礫を飛ばす。

僅かに怯み、ミレーユが身を退いた。
暴力的で圧倒的な美貌を体現するかのような深紅の奔流が、シルヴィアを中心に猛烈な激しさで渦巻く。



「……悪い、な。一方的にやられるのは性に合わないんだ」



ミレーユへ向け、凝集された花弁が解き放たれた。
シルヴィア渾身の一撃には流石のミレーユも無傷という訳にはいかず、ガードはしたものの少なからずダメージを負った。ふらりと身体の重心が揺らぐ。


華奢な肩を上下させながら、憔悴に歪む表情をぐっと引き締め、シルヴィアが再度魔力を練る。


その間に反撃に転じようと体勢を整えたミレーユの鼻先で―――
不意に、炎の花が咲いた。
緋色の猛火が一瞬にしてミレーユを包み込む。
予想外の事態に、シルヴィアが瞠目した。



「なっ」



背後を振り返れば、―――綺紗だ。
真珠色の髪と和服の袖とを風に煽らせ、手のひらを突き出し遠距離から炎をコントロールしている。

さらにその後ろでは、ユリアスが申し訳なさと心配が入り混じった眼差しで、空牙が厳しい顔で、こちらを見ていた。


ユリアスの結界を一旦解き、綺紗の力で奇襲をかけ、シルヴィアを援護しようというのか。
これ以上はシルヴィアの命に関わるという、彼らにとっても苦渋の判断だろう。

シルヴィアは悔しさに歯噛みした。



「ふぅん……それは少し、困るな」



ある程度まで回復し、今までミレーユに魔力を供給していたサミュエルの唇が、その形に動く。


その視線の先には、今度は空牙と自身だけを覆う結界を展開し始めたユリアスの姿があった。

268ピーチ:2013/06/25(火) 06:53:56 HOST:em114-51-24-71.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

あ、りょーかいですw

ていうかちょっと待ってユリアス様危ないじゃん!

逃げてぇー! 二人ともとりあえず逃げといてー!←

269たっくん:2013/06/25(火) 12:08:27 HOST:zaq31fa50e8.zaq.ne.jp
  [もしもピーチさんがお亡くなりになられたら]

ピーチさんが死んであの世へ旅立ったら・・どうしますか?
本人はおそらく自分が天国へ行けない・・。きっと地獄だろう・・?と思っているのでしょう。
しかし!しかしですね・・どうか御安心下さい。

もしピーチさんが地獄へ落とされそうになった
私が閻魔大王様に『閻魔様・・お願いします!どうかピーチさんを許してやって下さい。
ああ見えても根はいい奴なんです。お願いします!天国へ行かせてやって下さい』と
頼んであげます。

270心愛:2013/07/02(火) 15:42:29 HOST:proxyag057.docomo.ne.jp






「ふふ、そうだね。そちらが邪魔をする気なら」



つい、と、サミュエルは人差し指を上げて。




「こちらも、遠慮なくそうさせてもらおうか」




地面が割れた。
鋭い棘を持つ巨大な重量の塊が、此方へ向けて雪崩のように押し寄せる。


空牙は目を剥いた。
なんという力業。ミレーユの稼動に魔力の大半を割きながら、同時に自身の異能を発動させるとは!



「ユリアス!」



「ユリアス様っ」



狙われているユリアスは結界の構築途中で、集中する為に一切の物音を排除している状態だ。
立て続けにシルヴィアたちが激しく消費した所為でホール内のマナが薄く、魔法を発動させるのに時間がかかっているのだろう。
綺紗が慌てて炎の茨を差し向けようとするものの、彼女の攻撃系の異能では二人を巻き込む可能性がある。その、一瞬の迷いが命取りだった。


回避は不可能。
空牙は咄嗟にユリアスを自分の後ろへ突き飛ばし、全てを覚悟して固く目を閉じた。


肉を切り裂く鈍い音。

一秒、二秒……まだ痛みを感じない。
不審に思い、恐る恐る目を開く。

最初に視界に飛び込んできたのは、黒い影だった。それが少女の背中だと気づくのにさらに数秒を要する。




「―――シィ!」




シルヴィアの細い身体が、文字通り身を盾にして、空牙を庇っていた。
何本かの針が背中を破り、顔を出している。傷口からは鮮血が溢れ、衣装をぬらぬらと濡らす。


綺紗が声にならない悲鳴を上げ、瞼を開けたユリアスがその場に凍りついた。



「う……、っぁ」



小さな身震いと共に血を吐き、シルヴィアの瞳が焦点を失う。

銀色が儚く閃き。
ぐらりと傾いた身体は、為す術もなく針に貫かれたまま―――深い亀裂の中へと、吸い込まれた。




「シィ―――ッッッ!!」




眼下を見る。
一面に広がる闇。怪我の上にこの断崖から落ちては……到底助からないだろう。



「……な、んだよ、それ」




シルヴィア相手にやってのけたのだから、ユリアスや空牙の足元から針を出すこともできたはずだ。油断を狙うのならその方が確実に仕留められる。
にもかかわらずわざと隙を作ったのは、シルヴィアが空牙たちを守る為に動き、その身を犠牲にすることを計算に入れていたということだ。


全身の血が燃えたぎる。
頭が灼熱し、怒りと嘆き、感情が荒れ狂い、空牙を翻弄する。



「ふざけんなよ! ……シィ! シィ……っ!」



取り乱し、シルヴィアの後を追うように身を乗り出す空牙を、鋭い声が止めた。



「空牙くん!」



先ほど空牙に突き飛ばされたユリアスだった。
青ざめた頬を引き締め、つい、と人差し指を突き出す。



「……あれ、見て」



光を纏い、不意に出現したのは漆黒の羽。
シルヴィアの消えた闇へふわふわと落ちていくそれには、見覚えがあった。



「ア……レックス、さん?」



ミレーユと空牙を圧倒した美貌の青年悪魔。
彼の双翼から放たれた羽根それと、目の前のそれは明らかに酷似していて。



「彼がついてる。だから、シルヴィア姫はきっと大丈夫。……今は、そう信じよう」



やはり声は震えていたけれど、それでも、淡い紅の双眸には確かな信頼の輝きが灯っていた。

猛る心が、徐々に鎮められていくのが分かる。



「……そう、だよな。シィが、このくらいでくたばるわけねぇよな……」



一筋の希望を見いだし、精一杯平静を取り戻そうと努力しながら空牙が頷く。
流石は王族、窮地に陥った際の切り替えが見事だ。


今はとにかく、シルヴィアなしでこの最悪な状況を切り抜けなくてはならないのだから。




「……綺紗が、行きます」




動揺と身体の震えを必死に押し殺し、宣言する綺紗。
妥当で当然とも思える判断だったが、空牙は「いや、」と首を振った。




「俺にやらせてくれ」




予想外の台詞に呆ける綺紗とユリアスにも構わず、ミレーユと、その向こうに控えたサミュエルに向き直る。



「……まさか君が、ミレーユの相手を?」



驚いたように、または揶揄(からか)うようにサミュエルが笑う。
無言で返し、空牙は指輪に口づけた。





「導きを…………《偽りの空を歌う星》」

271心愛:2013/07/02(火) 15:44:51 HOST:proxyag057.docomo.ne.jp
>>ピーチ

二人は無事だったけど…(´・ω・`)


急ぎ足だけど、シルヴィア救済回も後でちょこっとやるんで大丈夫だよ!

あとはマジギレした主人公が頑張ってくれるはずさ! …異能魔法使えないけど!

272ピーチ:2013/07/05(金) 03:18:50 HOST:em1-114-73-103.pool.e-mobile.ne.jp
ちょっと待ってぇー!?

なんでシルヴィア様なのなんでアレックス羽しかないの!?←落ち着け

大丈夫だよね! 異能使えなくても空牙くんとミレーユちゃんの絆があるもんね!


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