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121/78:2013/08/28(水) 06:47:31 ID:D15qh95o0
(・(・),「ま、おいどんも気にしないだすナリ。そんなことより……」
∀'「そのチンケなダガー一本で、どうやって俺を楽しませてくれるんだ、クソアマ」

lw´‐ _‐ノv「……」


シューは答えず、“自ら”の左の掌に短剣を当てた。

白く柔らかい彼女の肌に、赤く禍々しい直線が走る。
滴が落ち、地面を濡らす。否、地面に波紋を起こす。

シャーミンは驚きに小さく声を上げた。
彼女を中心に、放射状に"黒"の波紋が広がってゆく。


lw´‐ _‐ノv「『我が名において命ずる。金色に輝く豊穣、此の地に息吹を満たせ』」
,(・)(・),「……!」

131/78:2013/08/28(水) 06:53:42 ID:D15qh95o0
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黄金の稲穂が実る、光の大海原。
呪いに満ちた樹海の地が、その表情が、シューの言葉で色付きを変える。

――"黒"の親和。
彼女がその得意とするのは、心に触れる禁忌の術。
対峙する二人を取り巻く黄金の波が、彼女の奥義。
立ち昇る幾千万の光の中に、呪式士は静かに佇む。

眼窩を飛び出した双眸を、シャーミンは眩しそうに細める。

141/78:2013/08/28(水) 06:57:34 ID:D15qh95o0
,(・)(・),「これは……稲穂……?」
lw´‐ _‐ノv「ご名答。美しいだろう?」


シャーミンは輝く稲穂の一つに手を伸ばした。
触れた感覚は無く、ただ微かに温かく感じる。
灯火に手を翳したように、立ち昇る光は遮られて止まる。

心の中の世界を現実とリンクさせたのか。
足元すら見えない光の海を、シャーミンはそう結論付ける。


,(・)(・),「呪式士お得意の幻覚じゃあないみたいだすね。精霊が現実に干渉してるなりだす」
 ∀'「流石に驚いたな。お前の親和が作り出したのか?」

lw´‐ _‐ノv「あぁ、これが私の切り札だよ」


稲穂の海を、シューは悠然と進んだ。
立ち昇る光に遮られ、互いの姿は半ばまでしか見えない。

158/78:2013/08/28(水) 07:00:10 ID:D15qh95o0
,(・)(・),「大した手品だが……それだけだすか?」


シャーミンは腰元のトラッカー・ナイフを引き抜く。
元々は皮と服と同じく、殺した猟師の持ち物だった。

短っぽい挑発の文句に、シューは冷笑を浮かべた。


lw´‐ _‐ノv「あぁ、これだけだよ、魔導師。お前は手品一つで不様に消滅するのさ」

,(・)(・),「へぇ……そりゃ楽しみ、ナリだす、ね!」


黄金の海を蹴って、シャーミンが飛びかかった。
――簡単には殺さない。魔人は考える。
この生意気で愚かな女を、どうやって苦しめてやろうか、と。

そうして踊りかかったシャーミンは――


lw´‐∀‐ノv


――残忍に笑む獲物の……狩人の目の前で不様に崩れ落ちた。

168/78:2013/08/28(水) 07:02:12 ID:D15qh95o0
,(゚,,(゚,, );,「え、な……?」

lw´‐∀‐ノv「どうした魔導師、元気が無いじゃないか」


倒れたシャーミンの頭を、まるで虫けらにする様に踏みつけながら、シューは言う。
哀れにその身体を地面にへばり付かせた魔術師の身体から、どす黒い血が滲み出る。

シャーミンは驚きに目を見開いた。


,(゚,,(゚,, );,「な、なんで……」

lw´‐ _‐ノv「何を驚いているんだ、これは私の切り札だと言ったろ?
       ――この領域の"黒"の精霊は今、すべて私の支配下だ。意味わかってる?」

,(゚,,(゚,, );,「……!」

lw´‐ _‐ノv「ほら、不様に命乞いして見せろ!」

,( ,,( ,, );,「ブビャっ!」


生命が身体と魂を結びつけるのであれば、その役割を別のものに代用させれば良い。

"黒"の精霊を命の代用として蘇った魔人にとって、シューの宣告は生者が心臓を握られているに等しい。
顔面を分厚いブーツの底で蹴り飛ばされ、身を捩って逃れようとする彼を、呪式士は冷酷に見下ろした。

178/78:2013/08/28(水) 07:03:20 ID:D15qh95o0
lw´‐ _‐ノv「おいおい、何処に行くんだよ――『命ず。悠久に座す静寂、永劫の時を此処に開け』」

,(゚,,(゚,, );,「ヒッ……!?」


二つ目の呪言。
シューの宣告を受け、シャーミンの身体が強張った。
うつ伏せに転がった姿勢のまま、振り返る力ことすらままならず、彼はシューの足音を聞く。

ごりっ。左肘の裏に、硬く冷たい感触。


lw´‐ _‐ノv「そうやって這ってろ。それがお似合いだ、よ!」
,( ,,)( ,,),「――、――ッ!」


悲鳴すら上げられずに、シャーミンは目だけを動かし、激痛が走った己の左腕を見た。
シューの濃茶色のブーツと光にぼやけた地面との間に、自身のねじ曲がった腕が覗く。


lw´‐ _‐ノv「……やっぱり私には理解できないね。どう楽しめばいいのさ、こういう拷問って」
,( ,,)( ,,),「ひ……やめ……」

188/78:2013/08/28(水) 07:04:53 ID:D15qh95o0
シューは答えず、シャーミンの強張った身体を蹴って転がした。
仰向けになった魔導師を、呪式士の瞳の冷たい"黒"の輝きが射抜く。


lw´‐ _‐ノv


――美しい。
痛みに喘ぎながらも、シャーミンは自らを見下ろす彼女の姿に目を奪われた。

だから、思い出した。
『カロン』、かつて屠った彼ら、その一人。


,( ,,)( ,,),「ひ……は……素直、キュート……!」
lw´ _ ノv「……ッ!」


呟いた彼の顔を、シューは容赦なく蹴り飛ばす。
首の骨が嫌な音を立てて折れ曲がり、捻じれた口からは血の塊が飛び出し。
それでもシューは構わず、虫けらのように蹲る魔人に足を踏み下ろし続けた。

198/78:2013/08/28(水) 07:07:33 ID:D15qh95o0
lw#´‐ _‐ノv「調子に乗るなよ、このクソ虫が! 貴様が、キュー姉の名前を、口に出すな!」
,冫,,) (゚;;);.,,"「ビョッ――ブゲッ」


生命を持たない死者は、その精霊の供給先――核を破壊しなければ、いくら屍肉を痛めつけても死なない。
激高したシューが折れた首を踏みにじり、肋骨を割って肺腑を裂き心臓を潰しても、魔導師は生きている。

……生きている、それだけだ。
力を生み出す筋肉を根こそぎ踏み壊され、わずかな自由すら呪言に奪われた、ただ生きているだけの死者。

グチャグチャの肉塊を、シューは荒い息で見下ろした。
痙攣を繰り返す身体に、精霊が集中する一点が見える。

核。
この魔導師をこの世につなぎとめる、特異点。

ちょうど腎の辺りにある"それ"に、シューは手を伸ばした。


冫,,) ( ;;);.,,「ッ、お、あ……」
lw#´‐ _‐ノv「苦しいか? 今、楽にしてやるよ……ッ!?」

 ∀"「いや、その必要は無い」


はっきりと届いた重い声に、シューの背筋が凍る。
離れる時間は、無い。
完全に死んだはずの腕が動き、驚く呪式士の細い手首を掴んだ。

208/78:2013/08/28(水) 07:08:35 ID:D15qh95o0
……

ミセ*゚ー゚)リ樹海を征く者のようです

最終話 亡霊王の事情 前


……

218/78:2013/08/28(水) 07:15:06 ID:D15qh95o0
ミセリが引き受けたキュートの依頼は、二つ。

一つは、『カロン』を葬る事。報酬は、200枚の金貨。
ミセリ達三人は、屍術師オサムの繰る数十もの屍を激闘の末に打ち破り、彼に引導を渡した。

ミセリ達に仇敵シャーミンの居場所を示し、彼は祝福された永い眠りにつく。
彼の棺桶に収められていた"遺書"には、金銀の貨幣と種々の増幅器を、これを読む者にすべて譲る旨。
彼が調べ上げ、図らずもその身で体感した宿敵シャーミンの用いる"魔導"とその弱点が記されていた。


そして、もう一つの依頼は。
無謀にも己が命を顧みず、単騎シャーミンに挑む彼女の妹・素直シュールの復讐を止める事。

「シューは既にこの森の深部に到達した」
『根の国』に帰る前に、キュートはミセリに伝えた。

彼女の身を案じたミセリ達三人は、呪いに満ちた湿林を急ぐ。

黄昏の刻は、逢魔が辻。
……そして、先頭を走るミセリは一つの人影の前に足を止めた。

2215/78:2013/08/28(水) 07:16:01 ID:D15qh95o0
('、`*川「……こんばんは、ミセリちゃん。やっぱり来ちゃったか」

ミセ*゚−)リ「ペニサス……さん……」


ペニサス、ギルド『エメロン』が一角。
素直家の召使にしてシュー専属の護衛。
どこか儚げな主を陽に陰に支え続ける、彼女の右腕。
絶対の忠誠と信頼を捧げ、影のように寄り添う従徒。

長い髪を後ろで纏めたもの静かな彼女は暗き森の中、見知った顔に表情は無く。
その手に握られた長柄の画戟は、その穂先の三日月を冒険者達へと浮かばせる。


……シャーミンを追うミセリ達は、樹海の開けた一角で彼女と邂逅した。
行く手を塞ぐように立ちはだかる彼女に、ラウンジで見た優しげな雰囲気は無い。
シューと揃いのアンプは"黒"に輝き、手にした画戟には飾りでない闘気が灯る。

彼女の後ろでは、相方のシラネーヨが大樹の根元に座り込み、顔を伏せていた。

2315/78:2013/08/28(水) 07:16:59 ID:D15qh95o0
(*‘ω‘ *)「っぽ、どうしたミセリ……ッ!」
  _
( ゚∀゚)o「ペニサス……それに、シラネーヨか?」


続いて地面に降り立った二人に、ペニサスは緩やかに視線を移す。
困惑の色を見せたジョルジュも、彼女の手に握られる長柄の狂気を見て押し黙った。

風の音は、無い。
緊迫した沈黙が、空間を満たした。


('、`*川「わかってるけれど、一応聞いておくわ。何をしに来たの?」

ミセ*゚−)リ「……シューさんを助けに来た。シャーミン松中を倒すよ」

('、`*川「そう。本気で言っているの、わかる」

2415/78:2013/08/28(水) 07:17:47 ID:D15qh95o0
('、`*川「でも、引き返して。ここは通してあげられない」

(*;‘ω‘ *)「……どうして」
('、`*川「キューさんに聞いたんでしょ、シャーミンの事。それに、私達の事」

ミセ*゚−)リ”「!」


ごめんなさいね、ペニサスは申し訳なさそうに言う。

三日月の横刃が揺るがずにミセリを見据え、暗い樹海に浮かぶ。

その姿はまさに無慈悲な夜の女王そのもので。
ミセリはその銀の光にシューの姿を幻視した。


ミセ*゚−)リ「シューさんも、そこに居るんだよね」
('、`*川「ええ。私達は反対したんだけれど、どうしても一人で戦るって」


無表情を崩さないままに、ペニサスは答えた。

2515/78:2013/08/28(水) 07:18:36 ID:D15qh95o0
(*;‘ω)「……なんで、アンタは此処に居るんだっぽ」

('、`*川「なんでって、あの娘が『誰も通すな』って言うから」


それだけ。ペニサスは事も無げに答える。

シューが言ったから、シューが命じたから。
画戟の三日月に乗っているのは、それだけ。

シューを助けたい、ミセリ達三人の願いよりも、シューの言葉が優先する。ただそれだけだ。


ミセ*゚−)リ「――」

('、`*川「おかしい、と思うわよね。でも、ミセリちゃん、私達は、あの娘の為に生きているの」


シューを助けたい、ペニサス自身の願いよりも、シューの命令が優先する。ただ、それだけだ。
だから、盲従の使徒として、ただ言命を守るのみ。
はっきりと言い切ったペニサスに、ミセリは唇を噛んだ。

"黒"の親和に目覚めたミセリには、ペニサスに纏わりつく'靄'が見えている。

2615/78:2013/08/28(水) 07:20:06 ID:D15qh95o0
ミセ* −)リ「……それ、シューさんの呪式だね」
('、`*川「さぁ、どうかしら。……あぁ、ここを迂回するつもりなら止めないわよ」


底無しの泥沼を泳ぎきる自信があるならね、ペニサスは冷たく言い添える。

彼女は両手を広げて見せた。その両手の先の地面はじっとりとぬかるんでいる。
陽が傾いて夕闇がますます深まる今、あるかも分からない迂回路を探すのは賢明だとは思えない。

何より、三人が辿ってきた濃密な"黒"の気配の中心はすでに遠くないのだ。

シューが既にこの樹海の奥に向かっている事は、キュートの幽霊から知らされている。
ここで回り道をする時間の余裕など、ミセリ達三人には無い。


ミセ*゚−)リ「……ううん、ここを通るよ」
('、`*川「いいえ、ここは通さないわ」
  _
( ゚∀゚)「……話し合いの余地は、無いんだな」

('、`*川「……」


ごめんなさい、ペニサスは繰り返す。

2715/78:2013/08/28(水) 07:23:59 ID:D15qh95o0
  _
( ゚∀゚)o「だったら、話は早い。倒して、通るぜ」

('、`*川「……そう」

ミセ*゚−゚)リ「!」


背負った大剣に手を掛け、ジョルジュは親和を起動した。
集める精霊は"白"、その圧力にミセリは息をのむ。

その怪力を知るペニサスは、僅かに目を細め、画戟を低く構えなおす。


('、`*川「へぇ、その剣を使う事もあるのね」
  _
( ゚∀゚)o「おう。……まぁ、手加減が難しいから普段は使わねぇけど、な!」


大人の背丈ほどもあるその大剣をジョルジュは無造作に持ち上げ、軽く振って見せた。
ペニサスは目を細め、画戟の握りを僅かに引く。

2820/78:2013/08/28(水) 07:26:31 ID:D15qh95o0
  _
(# ゚∀゚)o「っらぁああああ!」
('、`*川「……」


先に仕掛けたのは、ジョルジュ。
一直線にペニサスに飛び掛かり、剣を無造作に打ちおろす。

豪。
振り下ろされる大剣を、ペニサスは画戟で迎え撃った。

ジョルジュは驚きに目を見張る。
彼の一撃は、ペニサスの脇の地面に落ちた、否、落とされた。


  _
(# ゚∀゚)o「へっ、本当にそこそこ強かったんだなッ!」
('、`*川「お世辞にしか聞こえないけどね。そちらこそ、殺すつもりで来なさい」


言いながらも、ジョルジュは渾身の当て身を繰りだしていた。

肘、肩口から打ち出してゆく、筋肉の砲弾。
至近距離からの一閃は目の前に居たはずのペニサスには当たらない。
たゆたう布を掴もうとしているかのように、彼女は目の前をすり抜けてゆく。

お返しとばかりに、画戟の柄がジョルジュを殴りつけた。

2920/78:2013/08/28(水) 07:29:38 ID:D15qh95o0
ペニサスの渾身の打ちこみは確かにジョルジュを真芯に捉え、その額を強かに打った。
特殊な加工が為された鉄柄は見かけよりもずっと丈夫で、殴られたジョルジュの額に真っ赤な血が滲む。

しかし、それだけだった。

  _
(# ゚∀゚)o「ッ、しゃらくせぁあッ!」
('、`;川「ッ!」


地面に突き立った大剣を引き抜き、怒号と共に振り回す。
往なす事も避ける事もままならない、不利を悟ったペニサスは一足早く飛び退き、間合いの外へ。

ジョルジュは更に一歩踏み込み、その背後が大きく空いた。
そして、その空間こそが、彼の狙いだった。

二つの影が、一気に駆ける。


(*‘ω‘)「! チャンス!」
ミセ*゚ー)リ「ごめんジョルジュさん、ありがと!」
  _
( ゚∀゚)o「おう」


駆け抜ける二人を、無言で見送るペニサス。
ジョルジュは眉根を寄せた。

3020/78:2013/08/28(水) 07:33:50 ID:D15qh95o0
  _
( ゚∀゚)o「おいおい良いのか、ただ見逃したりして」

('、`*川「だって、追おうとしても貴方がそれを許さないでしょ?」
  _
( ゚∀゚)o「まぁな」


ペニサスは手の上でくるくると画戟を回した。

刃の煌きが宵闇を踊り、複雑な軌道を残す。


('、`*川「だから――貴方を倒してから、ゆっくり仕留めるわッ!」
  _
(;゚∀゚)o「っと!」


目の前に迫る三日月の刃を、ジョルジュは左腕で受け止めた。
鍛え上げられた鋼の筋肉を裂いて、鋭い刃が微かにめり込む。

3120/78:2013/08/28(水) 07:36:37 ID:D15qh95o0
  _
( ゚∀゚)o「おいおい良いのか、ただ見逃したりして」

('、`*川「だって、追おうとしても貴方がそれを許さないでしょ?」
  _
( ゚∀゚)o「まぁな」


ペニサスは手の上でくるくると画戟を回した。

刃の煌きが宵闇を踊り、複雑な軌道を残す。


('、`*川「だから――貴方を倒してから、ゆっくり仕留めるわッ!」
  _
(;゚∀゚)o「っと!」


目の前に迫る三日月の刃を、ジョルジュは左腕で受け止めた。
鍛え上げられた鋼の筋肉を裂いて、鋭い刃が微かにめり込む  _
(;-∀゚)o「ったく、一日に二人も俺の身体に傷を……今日は厄日だ」

('、`*川「あら、私以外にも居たの?」


ジョルジュは大剣を捨て、ペニサスの画戟に手を伸ばした。

もともと彼の大剣は、巨大な樹海の生物を斬り倒し、大群を凪ぎ払う為の装備だ。
こうしてテクニカルな動きを見せる冒険者との一対一の戦闘には、向いていない。
彼の膂力の前では小枝同然とはいえ、小回りの利いた立ち回りが出来ないのは、流石にマイナスだ。

ペニサスの反応は素早かった。
阻まれた刃が進まない事を知ると直ちに身を引き、武器もろとも彼の手の届く範囲を抜け出す。

  _
( ゚∀゚)o「っち、チョロチョロと……そんな逃げ腰で、本気で俺を倒せると思ったのか?」
('、`*川「……自信が無い、わね。でも、頑張るしかないと思わない?」


引き戻した戟を、ペニサスは再び鋭く突きだす。

3220/78:2013/08/28(水) 08:14:13 ID:y780oguI0
――挑発的な態度と裏腹に、その戦闘は極めて堅実。
ラウンジの工作兵を瞬殺した時に、ペニサスは彼の本質を見抜いていた。

ジョルジュは首をひねって刺突を避け、再びその得物を掴みとらんと手を伸ばす。

画戟は一瞬早く引かれ、その手は再び空を掴む。
一進とも一退ともつかぬ攻防は、ジョルジュが予想したよりもずっと長く続いた。


('、`;川「っと……私の方が、自分の身を守るだけで精一杯ね」
  _
( ゚∀゚)o「じゃあ諦めろよ。俺はまだ全力じゃないぜ?」

('、`*川「……でも貴方の親和能力では、"今"はそれが出力は限度でしょ?」
  _
(;-∀)o「なんだ、バレてたのか」


ジョルジュは諦めたように肩を竦める。
彼の親和能力――彼自身が名付けた親和の、その弱点は、ペニサスは言い当てた通りだ。

3320/78:2013/08/28(水) 08:14:53 ID:y780oguI0
  _
( ゚∀゚)o「確かに、お前が相手じゃ俺の"巨人狩り"は今この程度が限度だ。だが――」
 ('、`*川「『それはつまり、親和無しでもお前には負けないって事だ』、かな」
  _
(;-∀)o「……お前みたいなのの相手は本気で苦手だよ」
('、`*川「よく言われるのよね。失礼しちゃうわ」


斬りつける一閃、突き刺す一閃。
ペニサスの鋭い、素早い攻撃は、ジョルジュの肌に線を残すに留まる。

互いに決定打を欠きつつも、やはり戦いの結末は見えているようなものだ。
疲れたようにジョルジュが溜息を吐く。

  _
( ゚∀゚)o「……それで、まだ続けるつもりか?」

('、`*川「そうね、あっさり負けるわけにもいかないから」
  _
( ゚∀゚)o「まぁ別に構わんが、それじゃ時間稼ぎにしか――」


時間稼ぎ、そう言い掛けて気付いた。

――シラネーヨは、何処に消えた?

焦燥に息を飲んだジョルジュの前で、ペニサスはその身を地に這わせた。
反応するよりも早く、水面を切るような蹴りが軸足を襲う。

3420/78:2013/08/28(水) 08:16:33 ID:y780oguI0
(、 川「――もう気付いたのね。残念」
  _
(;゚∀゚)o「う……おぉお!」


油断した。
仰向けに受け身を取ったジョルジュを、三日月の刃が襲う。

威力を跳ね上げたペニサスの攻撃は、鋭く、躊躇なく急所、眼を狙ってくる。
顔の前で両腕を交差させ、ジョルジュはその牙を受け止めた。

  _
(;-∀-)o「時間稼ぎをされていたのは、俺の方だったってか」
('、`*川「そう言う事。知ってるわね? ネーヨは私よりもずっと――」


ペニサスの言葉を遮って、凶悪な咆哮が鳴り響いた。
樹海の静穏を引き裂き木霊したのは、恐怖それ自体。
身体の芯を揺さぶる衝撃に、ジョルジュは凍りつく。


('、`;川「始まったか――って、待ちなさい!」


ペニサスの言葉も聞かず、ジョルジュは大剣を掴んで駆け出す。
ジョルジュの心には、追い縋るペニサスは既に存在しなかった。

3520/78:2013/08/28(水) 08:20:00 ID:y780oguI0
……

行手の暗い地面に泥のあとを見つけてからは、二人は樹上を伝って移動していた。

見下ろすと、ぬかるみは一歩ごとに深まっているらしく、進む先では泥海へ変わっている。

樹々の数が、泥海を前に一気に減っていた。それに、よく見ると泥は僅かに流れを持ち、動いているようだ。
おそらく普段は雨水をクラシカ河に送り込む水路なのだろう、生物の気配すら無い泥塊を見てミセリは思う。

……枝上を渡れそうな道は、目の前で泥河を裂いて立つ一本の大樹しか無かった。
迂回しようにも、広がる泥の大河はどこまで続いているかもからない。

その一本の大樹の上で、ネーヨは二人を待っていた。



(∮ − )「……」
(*`ω` ;*)「っ……ぐ……!」
ミセ*;゚−)リ「ぐぬぬ」


ワイヤーで紡がれた刃先を、ぽっぽはワンドで受け止める。
体重の軽い彼女は空中でいとも容易く突き飛ばされ、後方の木々に激突した。

隙を突いて彼に接近したミセリも同じく、変幻自在に舞う刃片に阻まれて引きさがる。

3630/78:2013/08/28(水) 08:21:24 ID:y780oguI0
……強い。二人掛りでも、まるで脇を抜ける気がしない。
ぽっぽの顔に、焦りが浮かんだ。

蛇のように唸る刃片は樹上に立つ持ち主の手元に戻り、大剣の形を為す。


(∮ − )o"「……」ヒュッ,


シラネーヨ、ギルド『エメロン』が一角。
素直家の用心棒にしてシュー専属の護衛。
どこか儚げな主を陽に陰に支え続ける、彼女の左腕。
絶対の忠誠と信頼を捧げ、影のように寄り添う従徒。

右頬に緑の刺青を彫り込んだ大柄な彼は暗き森の中、見知った顔に表情は無く。
その手が振り回す大柄な蛇剣は、連なる数十数百の鱗刃を樹海の空に泳がせる。


(*;‘ω‘)「っく……」
ミセ*゚−)リ「ネーヨさん……か」

3730/78:2013/08/28(水) 08:59:31 ID:y780oguI0
(∮ − )「すまねーな。お前ら二人には大人しくしていてもらうーよ」


剣の形に戻った得物を手に、ネーヨは一気にミセリの立つ枝端へと距離を詰める。
巨体からは想像もつかないほどのスピード、ミセリは身を翻し、足場を飛び降りた。
ネーヨの手の中で何百の小さな欠片に分割された刃が、主の意を辿る様に舞い、踊る。

間合いが長く防ぐことが難しい鞭の利点と、重く殺傷力に長けた大剣の利点。
狙われた太い枝を刃片の激流が舐め尽くし、大樹の生皮を根こそぎ剥ぎ取る。


ミセ*;゚−)リ「っと!」
(∮´ー`)「逃がさんッ!」


ミセリは空中で長剣を引き抜いた。
剣の大河はネーヨの手元でその流れを変え、体制の崩れた彼女に向いている。

目の前に迫った刃片の一群に、ミセリは無我夢中で剣を合わせた。

3830/78:2013/08/28(水) 09:01:06 ID:y780oguI0
(∮#´ー`)「おぁらッ!」
ミセ*;-−)リ「〜〜ッ!」


硬い音が弾ける。
身体を引き裂かれる事は避けた、が、衝撃は殺しえない。
ミセリは一気に真下へと叩きこまれた。

真下……樹下に広がる、泥の海へ。


ミセ*;д)リ「……ぶ!」


深く暗い濁り泥の中に、半身までが一気に埋まる。
身体に纏わりつく泥は重く、極端に手応えが薄い。
身動きを取ろうともがく程にその身は沈み込んだ。

一方で、叩き落としたネーヨはそれ以上の追撃を行わず、ぽっぽの方に狙いを移す。

3930/78:2013/08/28(水) 09:03:43 ID:y780oguI0
(*;‘ω)「っとと……畜生、ちょ、待てや!」

(∮´ー`)「待たねーよ。覚悟決めろ」


砕けた鈍色の刃が集まり、また一つの剣を為す。

どう対処したものか、ぽっぽは低く唸った。

ミセリは視界の外れ、枝下で苦しそうにもがいている。
援護を求める事はできそうになく、むしろ、助けなければ泥に溺れて死ぬ。


(*;-ω- *)「はぁ……覚悟決めたっぽ」


ぽっぽは精霊を棍に集めた。
重量の捩れたバランスの悪い武器が、その意に応じて低く唸る。

4030/78:2013/08/28(水) 09:20:00 ID:y780oguI0
(∮´ー`)「ああ、それじゃ早速」
(*#‘ω‘ *) 「ぽぉいァ!」
  ⊂_彡   ≡"∫゚∫


降りあげられたネーヨの蛇剣が、刃片の幕を広げた瞬間。
攻撃に移るその一瞬は狩人が獲物に見せる最大の無防備。
ぽっぽはその隙を狙って戦棍を振りかぶり、渾身の力で投げつけた。


(∮;´ー`)「うおっ!」


眼前に迫った鈍器に、ネーヨは慌てて腕を振り変えた。
大蛇に巻き付かれた戦棍は大きく削られ、勢いを無くして沼地に落ちてゆく。

4130/78:2013/08/28(水) 09:20:18 ID:y780oguI0
(∮;´ー`)「ッ、得物を手放して何を――あん?」


目を戻した彼の目の前には、既に誰も居ない。

視界を奪った互いの得物が消えた時には、既にぽっぽは視界から消えている。
慌てて刃片を引き戻したネーヨ、その背中を弾丸のような跳び蹴りが襲った。


(*#‘ω‘ *)「喰らえっぽ!」
(∮;´ー`)「ちぃっ!」


蹴られたネーヨは、よろめく足を踏ん張って、辛うじて耐えた。

武器を目晦ましにしてまで大樹の裏を回って、背後を取った目的は。


(∮;´ー`)「俺も、叩き落とすつもりかーよ!」
(*#‘ω‘ *)「正解だっぽ!」


たたらを踏んだネーヨの足に、ぽっぽは渾身のタックルを掛ける。
丸太のような足はよろめき、一歩後退する。

あと一歩。枝上からネーヨを落とすには、あと一歩が足りない。
ネーヨは足を蹴り上げ、纏わりつく少女を鬱陶しげに振り払う。

4230/78:2013/08/28(水) 09:21:34 ID:y780oguI0
(∮#´ー`)「う……おぉおおお!」
(*;‘ω‘ *)「うっげ……マジか!?」


ぽっぽは慌ててネーヨの枝から跳び退いた。
振り下ろされた大剣は空中で刃鞭へと変わり、ぽっぽを襲う。


(∮#´ー`)「鬼ごっこは終わりだーよ!」


避ける術もない空中で、大蛇が唸った。

彼女を守る戦棍は、今は彼女の手元には無い。
捉えた、ネーヨは確信する。

しかし。


(*#‘ω‘ *)「まだまだだぁっぽッ!」

4330/78:2013/08/28(水) 09:28:41 ID:y780oguI0
(∮;´ー`)「……ちッ!」


 ∧ ∧
(*‘ω‘ *)  
 (   )
  v v 
   川
 ( (  ) )


ネーヨは息を飲む。空中で、ぽっぽはもう一度'跳ね'た。
大蛇は空しく牙を噛ませ、獲物は空高く舞い上がる。

原理は単純だ。
ぽっぽの持つ親和は"赤"、純然たる破壊の色。
"赤"の爆発力で、自身を大砲のように撃ち出しただけだ。


(∮´ー`)「だが、流石に連続では――!?」


――連続では跳べまい。刃片を大剣へと引き戻して、終わりだ。

頭の中で組み上げられた展開は、しかし、実現を見なかった。
彼の手元で、大剣に、そして再び大蛇に化ける刃の、その切先はぽっぽに届かずに失速する。

4430/78:2013/08/28(水) 09:34:23 ID:y780oguI0
(∮;´ー`)「な……何だーよ!?」 
(*‘ω‘ *)「フィィーッシュ……!」


刃先が思うように動かなかった、その原因はすぐに見つかった。
蛇剣のワイヤーに、異物――鉤爪付きのロープが巻き付いている。


(∮;´ー`)「あ、く……!」


ネーヨの顔が驚きに引き攣った。
ピンと張られた硬質な鉄紐は、ネーヨの背後、彼が枝に立っている大樹を通し、中空へ。
先ほど背後から急襲を掛けてきた時には、既にこのロープは張られていたのか。

樹々の一本に着地したぽっぽが不敵に笑い、再びネーヨに突貫する。


(*‘ω‘ *)「さぁさぁ、一本釣りだっぽ。覚悟せぇい!」
(∮;´ー`)「はっ、こんなモン速効で引き千切って……え?」


引き千切ろうとしたロープは意外にも、あっさりと手繰り寄せられた。
木々に固定されているんじゃなかったのか、ネーヨは思わず繋がれた先に眼をやる。


ミセ*゚皿゚)リ「ふはへたふはー!」
(∮;´Д`)「うおおおー!?」

4540/78:2013/08/28(水) 11:24:50 ID:y780oguI0
(*‘ω‘ *)「はっは、釣果一点だっぽ?」
(∮;´ー`)「てめ――くそっ!」


釣り上げられた勢いで飛び掛かってくるミセリと、上空から降ってくるぽっぽ。
ロープが絡みついたまま蛇剣はまともに振れず、ネーヨは焦りに身を固くした。


(∮;´ー`)「……ッ!」

(*‘ω‘ *)「お前の負けだっぽ!」
ミセ*゚皿゚)リ「おひおッ!」


二人分のとび蹴り、一人分の落下音。

叩き落とされたネーヨは、身動きの取れ根い泥の中で、茫然と樹上の二人を見上げた。

4640/78:2013/08/28(水) 11:26:04 ID:y780oguI0
……


ミセ*;-д-)リ、「ぺっぺっ……あぁもう、口の中が泥だらけだよ……」

(∮;´ー`)「……あぁクソ、くっそ、納得いかねーよ」
(*‘ω‘ *)「だが負けは負けだっぽ。ほら、沈んで死にたく無かったらそれに掴まれ」


ミセリを釣り上げたロープを、泥面に腰までを漬け込んだネーヨに投げ落とす。
ネーヨは答えず、無言でそれを掴んだ。

上端は、鉤爪が絡んだままの蛇剣でもって、枝にぐるぐる巻きにされている。
手繰り寄せて枝に上がる頃には、二人の少女はずっと先に進んでいるだろう。
奥歯を噛み締めるネーヨを尻目に、ぽっぽは引き上げた戦棍を検めた。

刃片の大渦を真っ向から叩きこまれた相棒は、無残にもその鉄軸をさらけ出していた。


ミセ*゚−)リ「はぁ……ねぇ、ネーヨさん」

(∮´ー`)「あぁ?」

4740/78:2013/08/28(水) 11:27:37 ID:y780oguI0
ミセ*゚−゚)リ「ネーヨさんはどうして、シューさんを助けに行かないの?」


ネーヨは顔を上げた。
既にその身体は胸元まで沈みこんでおり、独力では這いあがれないだろう。


(∮´ー`)「どうして……か。そう命令されたから、だーよ」

(*;‘ω)「またソレかっぽ! なんでそうまでして命令とやらを守ろうとするんだ?」
(∮´ー`)「なんで……ああ、なんでだろうな」


掴んでいたロープから、手を離す。
驚くぽっぽの前で、彼の身体はゆっくりと泥沼に沈んでいった。


(*;‘ω‘ *)「! おい、死ぬ気か!? 早くロープに掴まれ!」
(∮´ー`)「……姐さんは、俺の恩人だ。俺を拾ってくれたから、だーよ」
ミセ*゚−゚)リ「……」

(∮´ー`)「群れに捨てられて、顧みる者も無いまま処刑されてゆく俺を、姐さん達が変えてくれた」

4840/78:2013/08/28(水) 11:29:49 ID:y780oguI0
「姐さん達だけが、俺を人間として扱ってくれた」

泥は既にネーヨの肩を飲み込み、首元を浸している。
顔を上げた彼の瞳に、ミセリは静かな狂気を見る。

シューの呪式に与えられた"命令"、それに劣らぬ自戒の号令。


(∮´ー`)「だから俺は――」


最後の言葉は、泥に飲まれて消えた。
ネーヨを飲み込んだ泥沼は、何事も無かったかのように波紋を消した。

(∮₤゚ )
だから俺は――たとえ姐さんに頂いた人間を捨ててでも、姐さんの意思に従い続ける


……泥の海を裂いて、漆黒の翼が舞いあがった。

4940/78:2013/08/28(水) 11:44:19 ID:y780oguI0
ミセ*;゚д゚)リ「」
(*;‘ω‘ *)「」


黒い一対の翼を持った、巨竜。
全樹海で、全世界で、最強と伝えられる一族。
ミセリは、ぽっぽは、ただその姿を見上げた。


            ∧ ∧  
    /\<\,  (∮₤ −)
 /| <,,,,,,,,,\,\,  > /  
 | \___>\|/./
  \        /
    ∪∪ ̄∪∪



翼の巻き起こす暴風が、二人を、樹々を揺さぶる。
美しい、見とれるミセリの前で、"彼"は大きく首をもたげた。

5040/78:2013/08/28(水) 11:46:55 ID:y780oguI0
(∮₤ д)<3  スゥー…

ミセ*;゚−゚)リ「! 耳を塞いで!」
(*;‘ω‘ *)「ッ!?」

(∮₤ д), …ーッ、



息を吸い込んだ彼の竜に、ミセリは慌てて叫んだ。
――二人が耳を塞ぐと同時、超音量の咆哮が樹海に響き渡る。


ミセ∩; −)リ「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っく、」
(*∩; ω)「ッ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」


身体の芯が、ビリビリと震える。
もし耳を塞ぐのが少しでも遅れて、この大音量をまともに貰っていたら、恐らく一撃で気絶していた。

衝撃から立ち直る間もなく、二人は枝からバラバラに跳び退いた。


ミセ*;-д)リ「ッ……んな、常識外れな……!」


黒竜が羽ばたき、その巨体を打ちつける。
たった一回のその突撃で大樹は抉れ、砕け、傾いで倒れた。

竜は満足げに、まるで巨大な敵を打ち倒したとでも言わんばかりに、岸まで戻った二人を振り返った。

5140/78:2013/08/28(水) 11:48:15 ID:y780oguI0
ミセ*;゚ー゚)リ「ちょっと目の前の光景が信じられないんだけど、あれ、ネーヨさんだよね?」
(*;‘ω‘ *)「知らんっぽ。本人に聞いてみろよ」

ミセ*;゚ー゚)リ「……おーい、ネーヨさーん! どう鍛錬したら私もドラゴンになれるのー!?」

(∮₤;´ー) 「しらネーヨ……イヤ、なれネーヨ!」

ミセ*;゚ー゚)リ「なれないってさ……参ったね。どうする?」
(*;‘ω‘)「どうって、そりゃ逃げる一択だろ。戦って何とかできるか?」
ミセ*;゚ー゚)リ「無理。絶対無理。百回死んでも無理」


ミセリは溜息を吐いて、あたりを見渡した。

打ち倒された大樹のほかには、やはり泥の海を越える"道"など無い。
泥に沈んだ真新しい"切り株"を挟んで、向こう岸の巨竜と睨みあう。

あの竜を何とかする以外には、今のところ、ここを突破する手段は無い。


(*;‘ω‘ *)「……よし。それじゃ諦めて、ごめんなさいして引き返すっぽ」
ミセ*;゚ー゚)リ「嫌。それは、絶対に嫌」
(*: -ω -*)「はぁ、聞いてみただけっぽ……さっきから、なんで楽しそうなんだっぽ」

5240/78:2013/08/28(水) 11:49:03 ID:y780oguI0
(∮₤´ー)「相談は終ワッたか?」


ミセリは息を吐いた。
精霊が身体を満たし、瞳を染め上げる。


ミセ*゚ー゚)リ「うん。通るって決めた」
(∮₤´ー)「通さネーヨ?」
ミセ*゚ー)リ「だから、通るってば」

(∮₤ д)「……だッたら、止めるだけだーヨ……!」


巨竜は力強く吠えた。
泥の沼が揺れ、波紋が広がる。

遠く離れているはずのミセリ達ですら、その恐怖に足が竦んだ。
膝を震わせる二人に、巨大な影が迫る。

5340/78:2013/08/28(水) 11:50:49 ID:y780oguI0
ミセ*;-−)リ「ッ……」
(*;‘ω‘ *)「来たっぽ!」

(∮₤#´ー`)「オォオオオオオオオオオオオ!!」


初撃、最初の一撃を避けて背中に回れば、あの巨体では対応しきれないはずだ。
迫りくる両翼の突撃を、二人はそれぞれ全力で避ける。

……ミセリは確かに、ネーヨの翼を掻い潜った。
しかし、彼女の身体に自由が利いたのはそこまでだった。

'まるで見えない何かに引っ張られるように'、ミセリの軽い身体が後ろ向きに吸い寄せられる。


ミセ*;゚−)リ「――ッ!」


暴風、巨大な翼が巻き取る気流、竜巻。
そう気付いた時には、大渦の'目'に引き込まれたミセリを、大きな手が捩じ伏せていた。

5440/78:2013/08/28(水) 11:51:58 ID:y780oguI0
ミセ*; д)リ「ッ……!」
(∮₤´ー)「捕まエた」


両腕諸共ミセリを握りしめる、ゴツゴツと鱗ばった巨竜の右前肢。
軽鎧越しの圧力に、傷ついていた左腕が激しく痛む。

どう抵抗しようと、太い指はびくともしない。
一方で、ミセリを気絶させ、あるいは潰し殺すほどの力は込められていない。


ミセ*; д)リ、「待……ッて」


撒き餌。ミセリは自分の置かれた状況を直感した。
しかし、頭に血が上った相方の方はそうではない。


ミセ*; д)リ「ダメ、ぽっぽちゃん、逃げて……!」

5540/78:2013/08/28(水) 11:53:11 ID:y780oguI0
(*#‘ω‘ *)「てめェ、待てやゴルァ!」

(∮₤´ー)「ァア?」


"赤"の精霊を集め、ぽっぽはネーヨに飛びかかった。

打撃、破砕音。
蛇剣の洗礼を受けて削れた戦棍は、黒竜の鱗鎧を打つに耐え切れず、真っ二つに圧し折れた。


(*;‘ω‘ *)「ッ……んな……」
(∮₤´ー)「イッてェ」


ぽっぽの顔は驚きに歪む。
戦棍一本を犠牲にしたにも関わらず、殴られた巨竜の方は平然と鎌首を擡げた。
漆黒の竜尾が振るわれる。
回避する術も無く、ぽっぽの身体はパチンコ弾のように弾かれて吹き飛ばされた。

5640/78:2013/08/28(水) 11:54:04 ID:y780oguI0
(*; ω)「が、げほ……」
ミセ*;゚д)リ「ぽっぽちゃんッ!」


はるか遠く、受け身も取れずに地面を転がされたぽっぽは、仰向けに苦痛の息を咳き込む。

まるで抵抗の目が無い。
ネーヨは、倒れたぽっぽから必死で暴れるミセリへと目を移す。


(∮₤´ー)「済まネー。だが、大人しくしてイて貰エなきャ困るンダーヨ」

ミセ*;゚д)リ「ッ!」
(∮₤´ー)「……アとで仲間と一緒に、ヨツマまで送ッてヤる。今は寝てロ」


ミセリを握る五指に力が入る。

5740/78:2013/08/28(水) 11:55:02 ID:y780oguI0
骨が歪み筋肉が軋み、呼吸と身体を巡る血とが潰される。

悲鳴ひとつまともに上げられない。
逃れえない圧力に声すらも潰れた。

ぼんやりと薄れ、消えてゆく意識。
その片隅で、


「おい」
≡O (∮₤´ー)"「?」


力強い声が聞こえた。

58以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/08/28(水) 12:10:24 ID:y780oguI0
  _
(#゚∀゚) "   ∧ ∧
(⊂ 彡, .∴ '#メ)´Д)
   ,r⊂ ⊂ `ソ /  
 ∠イと.,_と.,__,ノ


(∮₤;´Д)「ウ、がァ……!」
  _
(#゚∀゚)o「てめぇ、俺の目の前で二人に手を出すたぁ、いい度胸じゃねぇか……!」

ミセ*;-д)リ「う……ッ!」


ジョルジュ、長岡。
その拳は竜の巨体を軽々と跳ね飛ばし、ミセリを解放した。

5950/78:2013/08/28(水) 12:11:48 ID:y780oguI0
<_プд゚)フ だいじょうぶ ミセリちゃん しっかりして
ミセ*; д)リ「ッ、ジョルジュさんッ、それに、キューさん……!?」


巨竜を殴り飛ばしたジョルジュが、ミセリを庇うように立ちはだかる。
膝を突いて咳き込むミセリの前に、白い幽霊が舞い降りた。


(∮₤´ー)「ッ……ジョルジュ、長岡……!」
  _
(#゚∀゚)o「ミセリ、動けるなら下がってろ。コイツはお前らの領分じゃない」


ネーヨの振り下ろした右の前肢に、ジョルジュは片腕を振り上げて応えた。
岩崩れのような衝撃を受けた両足は地面にめり込み、ジリジリと後退する。

一撃を止めきられたネーヨの方は、驚きもせずに左を横凪ぎに打ちはらう。
ジョルジュは大剣を振りかぶり迎撃する。顔を顰めたのは、ネーヨの方だ。


  _
( ゚∀゚)o「俺達の――『竜殺し』の領分だ!」

6050/78:2013/08/28(水) 12:23:59 ID:y780oguI0
(∮₤#´Д`)「オ……ガァッ!」
  _
(#゚∀゚)o「立て、走れ! 足手纏いだ!」

ミセ*;゚−゚)リ「……!」


前肢を振りかざし、ネーヨは乱入者に襲いかかった。

ジョルジュは大剣を盾にその打撃を受け止めた。
筋肉が軋み、殴られた剣は激しく悲鳴を鳴らす。

黒竜は間髪いれずに逆足を振り上げ、殴りつける。

  _
( -∀)「……!」
(∮₤#´д`)「カアッ…!」


冷静に、冷徹に、ジョルジュは双腕の嵐を防いだ。
いくらうまく防ごうとも、防戦一方では分が悪いのは間違いない。
やがて激しさを増す巨竜の猛攻のうち、一撃がその頬を捉える。


ミセ*;゚−)リ「……ごめん!」


ミセリは弾かれるようにその場を離れ、ぽっぽに駆け寄った。
ジョルジュが敢えて攻撃を受けているのは、後ろに倒れていた自分の為だと分かったから。

邪魔が消えたことを確認して、初めてジョルジュは黒竜と距離をとった。

6150/78:2013/08/28(水) 12:26:56 ID:y780oguI0
  _
(#゚∀゚)o「よぉーし……存分にドツき合おうぜ、このクソガキ」
(∮₤´ー)"


答える代りに、ネーヨは大上段から爪を振り下ろした。
まともに受ければ普通の人間ならば即死程度で済むだろう、その一撃は空を切る。

ジョルジュが踏み込んだのは撃ち下ろした右前足の、その肘の外側。
ネーヨはこれには少なからず驚いた。
絶対的なタフネスを持つジョルジュならば、この手をも受けると計算していたのだ。

反撃も防御も利かない死角から、ジョルジュの大剣が巨竜の顔面を襲った。

6250/78:2013/08/28(水) 12:27:51 ID:y780oguI0
(∮₤//´Д`)「オ、が」
  _
( ゚∀゚)o「チッ、目を貰うつもりだったんだが……流石に良い反応しやがるな」


一撃、同時に下がったジョルジュのすぐ目の前を、ネーヨの裏拳が通り過ぎる。

追撃は、届かなかった。
ジョルジュは既に反対側、左脇をくぐって背中へ。

漆黒の翼に、大剣が踊った。


(∮₤// Д)「オォォァァァアッ!」


黒竜が痛みにのたうち回る。
千切れこそしなかったが、高速で飛ぶ力は削ぎ落とした、はずだ。

ジョルジュは振り回された尾を剣の腹で防ぎ、衝撃を利用して距離を取った。

6350/78:2013/08/28(水) 12:47:54 ID:y780oguI0
  _
( ゚∀゚)o「お前らの再生能力の高さは知っている。悪いが、これからは容赦なく削ぐぞ」
(∮₤// Д)「オ…ア…!」


ジョルジュは剣を手に、ゆっくりとネーヨの周りを回った。

視界を奪うか翼を奪うか。
"竜殺し"の定石は、常に冷静に戦力を削ることだ。

対するネーヨもまた、翼を傷つけられた事でかえって冷静さを取り戻していた。
痛む左翼にも構わず、無理やり突風を起こして距離を取る。

  _
( ゚∀゚)o「!」
(∮₤// Д) <3 コォォ…ッ


ネーヨは大きく息を吸い込んだ。
彼ら竜族が最強種たる所以、その身体能力と並ぶ、もう一つ。


                              (巛ミ彡ミ彡ミ彡ミ彡ミ彡)ミ彡ミ彡)ミ彡)
                            ,,从.ノ巛ミ   彡ミ彡)ミ彡ミ彡ミ彡)ミ彡)''"
                           人ノ゙ ⌒ヽ         彡ミ彡)ミ彡)ミ彡)''"
                   ,,..、;;:〜''"゙゙ /;:"     )  从    ミ彡ミ彡)ミ彡,,)
                        /;:"     )  从    ミ彡ミ彡)ミ彡,,)         
  ∧ ∧     _,,..、;;:〜-:''"゙⌒゙     /".,".     彡 ,,    ⌒ヽ      彡"
  (∮₤´Д):゙:゙             \":; ..    '"゙         ミ彡)彡'
   \ <   `゙⌒`゙"''〜-、:;;,_       .\;::        )  彡,,ノ彡〜''"  
    \.\____/ /      ⌒`゙"''〜-、,,    , ,彡⌒''〜''
      \       /
       ∪∪ ̄∪∪


大剣を盾に構えたジョルジュを、爆炎が包み込んだ。

6450/78:2013/08/28(水) 12:48:34 ID:y780oguI0

  _
(  ∀)o

常人ならば一瞬でケシ炭に変わるような灼熱が、ジョルジュの全身を撫でる。
"白"は拒絶の色。ジョルジュを守る精霊が輝き、業火の深紅を一時的に遮る。

優れたパワーとリーチを生かす、豪快さ。
優れたタフネスに頼り切らない、冷静さ。

何より、遭遇した強敵を侮らない、竜族らしからぬ慎重さ。
  _
( ゚∀)o

竜を狩る者の最も大きな武器は、剣や矢、槍ではない。

狩られる竜が自ら抱えている、膨れ上がった傲慢さだ。
時に新世界を統べる五竜すらも滅ぼす、その傲慢さだ。

そして、このネーヨは、最強種の本能が冒険者の悟性と混じり、彼自身を完成に導いている。
大陸で狩ってきたドラゴンと比べ '非常に年若く、小柄な' ネーヨを、ジョルジュは高く評した。

とはいえ、それでも。

6550/78:2013/08/28(水) 12:58:32 ID:y780oguI0
  _
(#゚∀゚)o「てめえはまだ俺には届かねぇよ、このバラガキが!」

(∮₤;´д`)「!」


途切れた炎の吐息の向こうで、ジョルジュが敢然と吠える。

ネーヨは初めて恐怖した。
初めて出会った、竜種の一端たる彼を駆逐し得る存在に。


(∮₤;´д`)「冗談じャ、ネーヨ…!」
  _
( ゚∀)o

(∮₤;´д`)「ブレスを破られた程度デ、俺が負けるカーヨッ!」


大きく咆哮を返し、ネーヨは身を固めた。
ジョルジュは満足そうに笑うと、大剣を手に駆けだす。

6660/78:2013/08/28(水) 12:59:29 ID:y780oguI0
……

ミセ*;゚−゚)リ「ぽっぽちゃん、大丈夫!?」
(`ω` ;*)「ぽ……ミセリ……だ、大丈夫だっぽ」


弱弱しく答え、ぽっぽは身を起こした。

意識ははっきりしているし、大きな傷もないようだ。
手の中に残った鉄木の破片に目を落とし、彼女は舌打ちする。


(*;‘ω-)「アタシは大丈夫っぽ……それより……」


見渡す限りの湿地で唯一の道だった大樹は、既に泥の底に沈んだ。
泥の海を渡り切る方法は、残っていない。


ミセ*゚−゚)リ「……うん。キューさん、この沼を抜ける一番近い道は?」
<_プ−゚)フ シューはもうシャーミンと戦ってる 迂回するの時間は無いよ
ミセ*゚−゚)リ「だったら!」

<_プー゚)フ アタシが道を作るよ 実はその為に来たんだ

ミセ*゚−゚)リ「……!」

6760/78:2013/08/28(水) 13:01:19 ID:y780oguI0
<_プ−)フ 十五秒後に 対岸に向けてまっすぐ走って
ミセ*゚−゚)リ「え、何を……?」
<_フ-д)フ


キュートは答えず、代わりに彼女は目を閉じて、詠唱を始めた。

ミセリは驚きに目を見開いた。

神話の世界から連なる、精霊への言葉。
その意を知る者は精霊の他に無く、その音の届く所は精霊の他に無い。

白い幽霊を中心に、"白"の精霊が集い、強烈な冷気を形作る。

キュートの姿が見えず"白"の親和も持たないぽっぽが、苛々とミセリに訊いた。


(*;‘ω‘ *)「なんだ、素直キュートは何をしてるっぽ?」
ミセ*゚−゚)リ「道を作るって――」


言いかけたミセリの背に、長柄の刃が振り下ろされる。
三日月の刃がその背を裂くより先に、ミセリはその気を感じ取り、咄嗟に飛び退いた。

空気を引き裂き、月牙が落ちる。


('、‘*川「楽しそうな事してるのね。悪いけど、それは許してあげられないわ」

6860/78:2013/08/28(水) 13:02:28 ID:y780oguI0
(*;‘ω‘ *)「……行け、ミセリ! こいつはあたしが相手するっぽ」

('、‘*川「勝手に話を進めないでよ」


ぽっぽが"赤"の親和を起動し、ペニサスの懐に飛び込んだ。

長柄の画戟を自在に操る技術、戦局に応じた計算力。
総合的な戦闘能力を比較すると、ペニサスの方がずっと上だ。
しかし、スピードと爆発力だけを比べるならば、ぽっぽの方が高い。

垂直に抉りあげるような蹴りを、ペニサスは緩やかに下がって避ける。
画戟の反攻が襲う前に、ぽっぽは膝を沈めて身体を回転させた。

狙いはペニサスの下手――画戟の柄尻に近い方を握る右手側から、側頭部への後ろ回し蹴り、続けて水面蹴り。
あえて奇襲的な動きを選んでいるにも関わらず、ぽっぽの一撃必殺の猛槌は、読まれているように空を切った。


(*;‘ω‘ *)「くっ……」
('、`*川「ん、若い割には結構がんばるわね」


お返しとばかりに画戟の柄が振るわれ、ぽっぽの横っ腹を打つ。
殴られて地に伏せたぽっぽは、休む間もなく身を転がし、迫り来る三日月の刃を避けた。

6960/78:2013/08/28(水) 13:03:10 ID:y780oguI0
ミセ*;゚д゚)リ「ぽっぽちゃん……!」
(*;‘ω‘ *)「良いから、行け! どのみち"赤"しかないあたしじゃ役に立たないっぽ!」
<_プд゚)フ ミセリちゃん 早く


言いながらも、ぽっぽは鋭く踏み込み、身体を捻って次の蹴りを繰り出した。
ペニサスは涼しい顔で避け続け、時折画戟を振るって牽制を返す。

反撃の暇を許すまいと攻め続けるぽっぽ、ただ淡々とかわし続けるペニサス。
手にした長剣に、じっとりと汗が滲む。術式を構えたキュートが歯噛みするミセリを急かした。


ミセ*;゚−゚)リ「……信じるよ」


親和を起動し、"緑"の精霊を集める。
泥の河は静かに揺れ、獲物を求めるように唸る。

ミセリは川岸を蹴って、流れの中に踏み出した。
ペニサスが驚きに声を上げた。彼女には、ミセリの行動は自殺にしか思えなかった。

しかし――踏み出したミセリの足元の泥は、しっかりと彼女の体重を支えている。

7060/78:2013/08/28(水) 13:04:33 ID:y780oguI0
('、`;川「な――!?」

ミセ*;゚−゚)リ「わ、とと、何これ!?」
<_プー゚)フ へっへ こいつぁジブンの術ですぜ


踏みしめた泥は、まるで石のような感触。
驚くミセリの爪先の下で、硬質な泥は少しずつ沈んでゆく。


ミセ*;゚д゚)リ「うわわ……ッ!」
<_プー)フ ほら 走って 長くはもたないよ


"緑"の親和、それに、ハインの鍛錬で培われたバランス感覚を生かし、二足目を踏み出した。
進む先の泥を氷が固めているのだと、ミセリは走りながら気付いた。

即席で作られた浮島の道は踏み抜くとあっさりと割れて沈み、後には痕跡すら残らない。
慌てて追おうとしたペニサスの足は、そこで止まる。


<_プー゚)フ へっへ 『カロン』のジブンが渡し守なんて ちょっとオシャレだよね

ミセ*;゚д゚)リ「ちょ、ごめん、待って……今、あんまり返事する余裕無い」


振り返ることも、立ち止まることも出来ない。
死の河を渡る細道は、前にしか続いていなかった。

7160/78:2013/08/28(水) 13:12:57 ID:y780oguI0
('、`;*川「ま、待ちなさい!」
(*‘ω‘ *)「残念、行かせないっぽ!」


自らの親和を使い、何とか追い縋ろうとするペニサスを、ぽっぽの踵が襲う。
大斧を思わせる鋭い蹴撃に彼女は咄嗟に腕を合わせ、その軌道を逸らした。

致命的な隙だった。もはや、ミセリは彼女の手出しできる範囲には居ない。
出し抜かれた、苛立ちに歪んだペニサスの顔を、ぽっぽが覗き込む。


(*‘ω‘ *)「もうミセリには届かないけど、今どんな気持ちっぽ?」

('、`#川「……イラついてるわ、そりゃあもう――」
m9(‘ω’ *)「ざまぁああああッ!」
('、`#川「――速やかに貴女を泥の底に沈めて、追いかけます」


軸足を外に捻り、身体を開いた横蹴り。
弧を描くような鋭い一撃をペニサスは画戟の柄で受け止め、横刃で斬り返した。

横薙ぎの剣閃は、手応えを返さない。
ぽっぽは地を這うように身を伏せ、身体を回転させて踵をペニサスに叩きつける。

一撃毎に、一足毎に、ぽっぽの動きは速く、鋭く、重くなっている。
ペニサスは冷静に打ちこまれた踵を捌く。

72以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/08/28(水) 13:17:34 ID:6011ZuWoO
支援支援!

7360/78:2013/08/28(水) 13:20:31 ID:y780oguI0
(*`ω` *)「まぁ頑張れ。どの道、残念ながら、シュー様のゴメイレイは失敗だけどな」
('、`#川「……少しは言葉を選んだらどうよ」


足首の骨を粉々に砕くような、容赦のない水面蹴り。
ペニサスは足を浮かせてその鎌をかわし、長柄を顔の横、縦に構える。

狙い澄ました上段蹴りが、ペニサスの構えた画戟に吸い寄せられ、弾き返された。


(*‘ω)「お前を相手にそんな配慮しても無駄だろ?」
('、`*川「へぇ、気付いてたんだ」


素早く距離を置いたぽっぽに、ペニサスは画戟を突き付けた。
スピードに優れるぽっぽが本気で時間稼ぎを狙えば、防御的なペニサスの戦闘では、追い付かない。

速さで翻弄しようとするぽっぽの魂胆を知りつつ、ペニサスには現状を打開する手立てが無いはずだ。
作戦勝ちを確信しつつも、ぽっぽは油断なくステップを刻む。


(*‘ω‘ *)「おかしいとは思っていたんだ。お前の"読み"は鋭すぎるっぽ」

('、`*川「へぇ?」


変則的な攻撃を受ける時と、直情的な攻撃を受ける時。
ペニサスの反応は、前者に対する方がずっと安定している。


(*‘ω‘ *)「お前の親和能力が"読心"だからだっぽ。違うか?」

7460/78:2013/08/28(水) 13:22:50 ID:y780oguI0
('、`*川「……正解。あなたが"今考えている事"は、大体合ってるわ」


ペニサスは諦めたように画戟を下げた。
そのまま数歩、ゆっくりと左へ。

ぽっぽは眉を潜めた。
ペニサスは足を止めず、川下、ジョルジュ達の戦っている方へと、緩やかな足取りで歩く。


(*‘ω‘ *)「それで、どうする? 諦めるか?」

('、`*川「……いいえ、私達のすることは変わらない。速やかにあなた達を倒すわ」

(*‘ω‘ *)「どうやって? 頼みのネーヨはこのままジョルジュに負けるぞ?」

('、‘*川「ネーヨも私も、B級ギルド『エメロン』の冒険者よ? "奥の手"の一つ位は持ってるわ」


ネーヨのドラゴン変身の時点で、十二分に"奥の手"だっぽ。
ぽっぽの思考が伝わったのだろう、ペニサスは声を上げて笑った。

7560/78:2013/08/28(水) 13:24:16 ID:y780oguI0
('ー`*川「そうね……補足してあげる。私の親和能力は、言うなれば心の声――」
(*;‘ω‘ *)「――("受信"するだけじゃなく、"発信"することもできる)――!」


ぽっぽの頭に、ペニサスの言葉が直接流れ込んだ。

たった一言の言葉、だけじゃない。
――"右足を"、"左足を"、"右足を"、"左足を"――"踵に"、"爪先に"、"膝に"、"腰に"――"ネーヨの近くへ"、"ジョルジュの近くへ"――"二人を射程に入れる"
――"命令を守らなくては"、"動かなくする"、"追い掛けて仕留める"、"命令を守らなくては"、"殺してはいけない"、"命令を――"
激しい"声"の奔流に、ぽっぽは思わず耳を押さえて蹲った。


('、`*川「あー……ごめんね、やりすぎちゃった? まぁ、ヒトの声くらいなら、すぐに慣れるわ」
(∩;-ω-)「や、やめてくれっぽ――(そのまま気絶しててよ)――もう止めろ!」

('、`*川「まったく……その程度、私は生まれた時から聞き続けてたのに」


ペニサスは溜息をつきながらも、歩み続ける。

ぽっぽは、一歩も動くことが出来なかった。
"声"は幾重にも折り重なり、積み上がって、ぽっぽを圧迫する。

――"それじゃあ、このまま"声"の範囲にヒトよりもずっと"声"が強い生物が入ったら、どうなると思う?"

その答えは、ペニサスが"そこ"に足を踏み入れた瞬間にぽっぽを襲う。

7660/78:2013/08/28(水) 13:29:56 ID:y780oguI0
(∮₤メд`) コォアアァア…
――引き裂け、叩き潰せ、踏み躙れ、噛み割れ、焼き尽せ。
――骨肉を喰らえ、血潮を飲み干せ。
――殺せ。

(*; ω  *)「――――――――ッ!」


あまりに強大な、苛烈な、剥き出しの本能。
圧倒的な"咆哮"、最強種への恐怖が、ぽっぽを貫いた。
そして、それよりも深く彼女を圧倒したのは。


('、`*川「……」
(*; ω  *)「なんで、こんな……!」


――"憎 い"、"憎 い"、"憎 い"、"憎 い"、"憎 め"、"憎 め"、"憎 い"、"憎 め"、"憎 い"――
――"殺 す"、"殺 す"、"殺 す"、"殺 す"、"殺 せ"、"殺 す"、"殺 せ"、"殺 せ"、"殺 せ"――
  _
(;゚∀゚)o「うおッ、何だこりゃあッ!?」


竜へのどす黒い憎悪で心を満たした、ジョルジュの"呪詛"だ。

7760/78:2013/08/28(水) 13:35:25 ID:y780oguI0
('、`*川「……悪く思わないでね」


動けくなるのも仕方ない、弱い人間ならば廃人と化すか自殺を図るくらいだ。
頭を押さえて蹲るぽっぽに目もくれず、ペニサスはネーヨに駆け寄った。

今まさに剣爪を交えるジョルジュは、頭に直接響いた怒号に驚きこそすれ、隙を作る様子は無い。

とんだ化物も居たものだ、ペニサスは内心で舌を巻く。

ネーヨの"咆哮"を心に直接叩きこまれたら、普通はぽっぽのように立ち向かう心が粉々に砕かれる。
だと言うのに、ジョルジュは平然と立ち向かい、大剣を振るっている。
人獣を問わず持っているはずのドラゴンへの根源的な"畏れ"が、この男には全く残っていないのか。

ペニサスは即座にジョルジュを"ネットワーク"から外した。
意識を逸らせないのであれば、情報が筒抜けになるだけだ。


('、`*川「ネーヨ、プラン『S−P』!」
(∮₤メд`)"

7860/78:2013/08/28(水) 13:36:09 ID:y780oguI0
('、`*川「……悪く思わないでね」


動けくなるのも仕方ない、弱い人間ならば廃人と化すか自殺を図るくらいだ。
頭を押さえて蹲るぽっぽに目もくれず、ペニサスはネーヨに駆け寄った。

今まさに剣爪を交えるジョルジュは、頭に直接響いた怒号に驚きこそすれ、隙を作る様子は無い。

とんだ化物も居たものだ、ペニサスは内心で舌を巻く。

ネーヨの"咆哮"を心に直接叩きこまれたら、普通はぽっぽのように立ち向かう心が粉々に砕かれる。
だと言うのに、ジョルジュは平然と立ち向かい、大剣を振るっている。
人獣を問わず持っているはずのドラゴンへの根源的な"畏れ"が、この男には全く残っていないのか。

ペニサスは即座にジョルジュを"ネットワーク"から外した。
意識を逸らせないのであれば、情報が筒抜けになるだけだ。


('、`*川「ネーヨ、プラン『S−P』!」
(∮₤メд`)"

7960/78:2013/08/28(水) 13:37:31 ID:y780oguI0
(∮₤メд`) ヒュー…ッ

  _
( ゚∀゚)o「あん?」


ジョルジュが打ち払った大剣を、ネーヨは一歩下がって避ける。

牽制の袖払いから、本命の大上段。
ジョルジュの狙いは、返しの一撃。

大ぶりで落とされた一閃は地面すれすれまで空を裂き、返礼とばかりに竜の爪突がジョルジュを襲う。

  _
(;゚∀ )「んぐ」


親和、"白"の精霊を生かして衝撃を軽減。
胸を強かに打つ一撃に、ジョルジュはたたらを踏む。
呼吸が一瞬止まる、が、すぐに剣を構えて次の攻撃を防ぐ姿勢に。

果たして振るわれた裏拳は、ジョルジュの読みを外れ、盾と構えた大剣のすぐ前を通り抜けた。

ネーヨの動きが、変わった。
急なフェイントに虚を突かれたジョルジュに、尾の一振りが叩きこまれる。

8070/78:2013/08/28(水) 13:49:25 ID:y780oguI0
  _
(; ∀)o「ぐぁッ、……!!」


したたかに尾を打ちつけられたジョルジュの身体は、ゴム毬のように弾かれて飛んだ。
格段に動きが狡猾になった相手に驚く間もなく、樹々を真っ赤な閃光が照らした。

灼熱の、火球。

  _
(;゚∀゚)o「う……おぉおッ!」


                ;:"゙':;,         ,;:'"゙:;
               '':;  ',,;..;;:::''''''':::;;..;,,'  ;:''
               . "',:;'' ';:,     ,:;' '';:,'"
           ............:;::;;;';:,;;;;;;・  _ ,_;';;;::;:.............
     ,,,,,,,;;;;;;''''''''"""".:;; ; ';:・(д##ヽ),:;'    ;:.""""'''''''';;;;;;,,,,,,,,
  """""'''';;;;,,,,,............. ・ :;  ∵ と`';:;;ヽ;  ; ;: . .............,,,,,;;;;''''"""""
          """"''''':;'':::::::;;;,;_/⌒ヽ;,ノ・,;:::::'';:'''''""""
               .:; ,:;'.(;:;;:ノ;:;/ .';:, .;:
               .'::,;; ,:;'(;:;;:ノ.';:,  ;,::'.
              :;" ",'';:::::..,,,,,..::::;''," ";:
               ';..,,.;:'        ':;.,,..;'

8170/78:2013/08/28(水) 14:00:31 ID:y780oguI0
竜の体内で巻き起こせる限りの火炎を凝縮した、光の塊。
盾と構えられた大剣に着弾した光球は、熱と閃光を撒き散らし、一気に爆発した。

衝撃。炸裂音。
真っ白に染められた視界を焦げ臭い真っ黒な煙が覆う。


(*;‘ω )「じょ、ジョルジュ……ッ!」


ぽっぽは茫然と、一時的に失われた眼で、ジョルジュの立っていた爆心地を見た。

巻きあがった炎は大渦を為し、天へとかけのぼる。
ぽっぽの網膜には、木々を照らし上げる閃光の残映がくっきりと焼き付いていた。


(∮₤メー`)「ヤッたカーヨ!?」
('、`*川 「……いいえ、まだ"声"はあるわ。流石にダメージは大きいみたいだけど……」


やがて煙が晴れ、閃光に眩んだ目が戻る。

駐屯兵が誇る城塞火砲が直撃したかのような凄まじい抉れ跡、その傷跡の上に。
根元まで溶かされ、圧し折られた大剣。真っ黒に焦げた鎧の断片。

そして。

8270/78:2013/08/28(水) 14:04:56 ID:y780oguI0
  _
(##゚∀ )o「、……いってぇ」


腕を盾に立つ、狂戦士の姿。
全身を焼かれ、焦げた体から煙を吹き上げながらも、"竜殺し"はなおも己の足で立っていた。


(∮₤;メー`) 「……冗談じャネーヨ」
('、`;川「ッ……! どれだけ化物なの!?」
  _
(##゚∀)o「お前らが言うなよ。俺じゃなきゃ蒸発してる。それより、さっきのはどういうカラクリだ?」


答えずに画戟を構えるペニサスに、ジョルジュは諦めたようにぽっぽを振り返った。

ぽっぽは脱力してその場に尻もちを突く。
先ほど戦棍を交えた竜人が、彼の前に立ちはだかった剣士が。
ラウンジで短い時間を過ごした二人が、自分とまるで次元の違う戦いを見せている。

8370/78:2013/08/28(水) 14:07:38 ID:y780oguI0
  _
(##゚∀゚)o「ぽっぽ、お前見てたろ? シラネーヨの動きが化けたの、なんでか分かる?」
(*;‘ω‘ *)「……ペニサスだ! お前の心を読んで、ネーヨと共有してるっぽ!」
  _
(##゚∀)o「さんきゅ、それだけ分かれば充分だ」


ジョルジュは拳を打ち鳴らして、二人に向き直った。
左足の火傷は見た目にも重く、少し引き摺るように歩いているのが分かる。

画戟を持つペニサスの手が、僅かに震えた。


('、`;*川「……カラクリを知っただけで勝てると? 丸腰の貴方が?」
  _
(##゚∀)o「馬鹿言うんじゃねぇよ。俺は初めから、お前ら三人纏めたよりもよっぽど強い」

(∮₤;メд`) 「!!」


一歩、また一歩。
幽鬼の如き足でゆっくりと進むジョルジュ。

ネーヨは慌てて息を吸い込んだ。
もう一度火炎弾を叩きこむために、そして、この戦場の重圧から逃れたいために。

そして――ジョルジュという天敵の前で、その焦りが致命傷となる。

8470/78:2013/08/28(水) 14:12:46 ID:y780oguI0
('、`;*川「待って、ネーヨ! 駄目!」
  _
(##゚∀)o「遅い!」


ペニサスが制止した時に、既に手遅れだった。
ネーヨの口内にある炎晶体――火炎を生み出す器官は、既に灼熱している。
もはや彼自身にも、止める事は出来なかった。
思考を読む力が無くても、今この場限りにおいて、ジョルジュにも少し先の展開は見えている。


(∮₤;メд`)「な」


光弾が放たれる、直前。ジョルジュは焼け焦げた足を引き摺って、大きく一歩を踏み込む。
口腔内で維持しきれなくなった豪火球がネーヨの口を溢れ出し、苦し紛れに飛びだす。
叩きつけられた猛炎弾を掻い潜るように、ジョルジュは大きく斜め前へと飛んだ。

再びの轟音、閃光。熱の爆風。
思わず目を覆ったペニサスは、ネーヨの"恐怖の悲鳴"の、その"声"を聞いた。

8570/78:2013/08/28(水) 14:15:14 ID:y780oguI0
熱の閃光が通り過ぎた後、覆った眼を開いたペニサスの前で、死闘は終わりかけていた。

黒竜の鱗ばった右前肢を、ジョルジュのゴツゴツした左手がしっかりと掴んでいる。
純粋な力比べで、若いとは言え最強の竜種を相手に、身体中を火傷に覆われたまま。
それでも、ジョルジュの腕力は、その相手が逃れることを許さない。


('、`;*川「ネーヨ――ッ!?」


相方の窮地を見たペニサスが慌てて画戟を振りあげた、その手首を鉄木の固まりが殴り抜いた。

"声"の外から投擲された折れた戦棍の片割れ、増幅器付きの先端部分。
"赤"の精霊が生んだ衝撃で画戟は彼女の手を離れ、遠く地面を転がる。


(*‘ω‘)「……お前の相手はあたしだ、って、言ったっぽ」
('、`;*川「くっ、この……」


得物を失ったペニサスには、二人の怪物の戦いに僅かでも介入する力は無い。
痛む腕に構わず画戟を拾い上げようとした時には、既に勝負は決まっていた。

8670/78:2013/08/28(水) 14:16:35 ID:y780oguI0
(∮₤;メд`)「放セーヨ……ッ、放セッ!」
  _
(##゚∀゚)o「お断りだね」


巨竜の胸元に、ジョルジュは右手を伸ばした。
胸筋を覆う、黒く鋭い鱗の隙間に手を掛け、しっかりと掴む。

ペニサスを介して、巨竜はその狙いを知り、抵抗しようと足掻いた。
自由な左前肢が数度、ジョルジュの頬を打つ。しかし、狂戦士は揺るがない。


(∮₤;メд`)「放……ッ!」
  _
(##゚∀゚)o「長いこと、良く頑張ったが……ガキはお寝んねの時間だよ!」


怒号と共に、ジョルジュは両腕に全力を掛けた。
漆黒の竜の巨体を背負い込むように、両足を踏ん張る。
巨体が宙に浮き上がり、受け身すら取れないままに、一直線に地べたに落ちる。


(∮₤メ д )「ガァぁッ!」


強かに頭を打ち付けたネーヨは、完全に脱力し、その場に伸びきった。

8770/78:2013/08/28(水) 14:24:46 ID:y780oguI0
……


(*‘ω‘ *)「……終わった、っぽ?」
  _
(##゚∀゚)o「多分な」

地面に大の字を描いて倒れたネーヨ、ジョルジュはその喉元にしゃがみ込み、手を触れた。

呼吸はしているが、反応は無い。
どうやら、完全に意識を失くしているようだ。
油断なく勝利を確認するジョルジュの背後に、手首を押さえたペニサスが立った。


('、`*川「……まさか、ここまで手も足も出ないなんてね」

  _
(##-∀)o「流石に火球はキツかったよ。あんたは、もう良いのか?」

('、`*川「ええ、降参よ。シューには"ネーヨが負けたら諦めろ"って言われてるから」


脱力した様子で言いながら、彼女は腰のポーチを探った。
警戒するジョルジュに構わず、漆塗りの薬筒を彼に差し出す。

8870/78:2013/08/28(水) 14:33:49 ID:y780oguI0
  _
(##゚∀゚)o「本当に?」

o ('、`*川「本当に。ほら、火傷に使いなさい」


彼女の様子は確かに、戦闘中のそれとは違う。
ジョルジュは受け取った薬筒に目を落とした。

蓋を開けると、白い、強烈な腐敗臭を放つ膏薬。
毒とも薬とも取れる悪臭に、思わず顔を背ける。


('、`*川「毒じゃないわ。一応だけど薬術の心得はあるから、効果は保障する。
     何より、そもそも貴方には普通の毒じゃまともに効かないでしょ」
  _
(##;-∀)~o「いやだって、この匂いはなぁ……」

('、`*川「ま、信用ならないと思うとしたら、それも当然ね。気持ちはわかる」


ペニサスはそれだけ言うと、倒れたネーヨに向き直り、懐から別の瓶を取り出した。

8980/78:2013/08/28(水) 14:49:16 ID:y780oguI0
(*‘ω‘ *)「そりゃ信用するわけ……って、ジョルジュ!?」
  _
(##゚∀゚)d~「うわぁ、これを顔に塗るのは流石に嫌だなー……」


言いながらも、ジョルジュは一掬いの軟膏を指に取って、顔の火傷に塗った。
まだ熱の冷めない傷跡に、ジクジクと薬効が染み込んでゆく、気がする。

臭いを気にしなければ、それなりの効果は有りそうなものだ.
ジョルジュはその場に座り込み、黒焦げになった薄手のズボンの裾をぺりぺりと肌から剥がした。

熱で崩れた左足の組織から、ぽっぽは目を逸らした。

  _
(##゚∀゚)「そう気張るなよ。敵じゃないなら喧嘩腰になるだけ無駄だろ」

(*;-ω-)「はぁ……あたしの感覚の方が普通なんだよな?」
('、`*川 「そうね、自信持っていいと思うわ」

9080/78:2013/08/28(水) 14:53:57 ID:y780oguI0
(*‘ω‘ *)「それで、この泥沼を渡る方法は無いのか? ミセリ達が心配だっぽ」


ぽっぽは小瓶の口を開けようと苦戦するペニサスに尋ねた。
ミセリが泥河の向こうの森に消えてから、まだそう長くは経っていない。
しかし、非道を極める"魔導師"の死霊が相手とあっては、一刻の猶予すら無いと思った方が良い。

ペニサスは彼女に目を向けると、諦めたように小瓶をジョルジュに差し向け、答える。


('、`*川「方法は……一応、ある」
  _
([#]∀゚)o「?」 ポンッ…


彼女の腫れあがった手首を見て、ジョルジュが代わりに瓶口のコルクを抜いた。

膏薬の腐敗臭を大きく上回る、強烈な刺激臭。
ペニサスはその劇物を壜を仰向けのネーヨの口に差し込み、一気に逆さにした。

とんだ罰ゲームだ。ジョルジュが小さく呻く。

9180/78:2013/08/28(水) 14:56:59 ID:y780oguI0
  _
(##゚∀゚)o「その方法ってのは?」

('、`*川「……すぐに荷物を纏めて」
(∮₤;メд`),;/ ・゚ ガハッ


劇物を流し込まれたネーヨが咳き込み、その巨体を大きく痙攣させた。
巨体をのた打ち回らせて苦しむ彼の頬を、ペニサスは容赦なく平手で張る。


('、`*川「ほら、起きなさい。仕事よ」

(*;‘ω‘)「……まさか……!」
('、`*川「正解」


三発、四発目の平手で、痙攣する竜が小さく唸り声を上げた。
頬を押さえた彼は、虚ろな目で身を起こす。

視界の端でジョルジュの目が少年のように輝いたのを、ぽっぽは見逃さなかった。

92以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/08/28(水) 15:01:28 ID:y780oguI0
今日の深夜に来ると言ったな? すまん、ありゃ嘘だった。

半端と言えば半端ですが、長いので、ここで区切らせて頂きます。申し訳ない
纏まったご挨拶は後編の後に差し上げますので、よろしくお付き合い下さい

93以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/08/28(水) 15:05:29 ID:y780oguI0
あと一応、ジョルジュやハインをしっかり書くのは最初の予定ではハ章と五章でした。
よろしければ気長にお付き合い頂けると幸いです

94以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/08/28(水) 20:40:31 ID:1rQBwQ260
ショシルジュつええええ


95以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/08/29(木) 04:24:45 ID:mkZu2z2oO
乙でした、後編はいつかな

96以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/08/29(木) 08:00:41 ID:yCR66cUk0
乙です!
ちんぽっぽも強くなってきたな

97以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/08/30(金) 01:26:21 ID:ESwA5dls0
ネーヨすげええええええええええええええええええええ

98以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/08/30(金) 21:19:05 ID:ESwA5dls0
次が待ち遠しいぜ

99以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/01(日) 14:56:22 ID:877ikvNA0
先日は御迷惑お掛けして本当に申し訳ない

後編の書き溜めは半分くらい終わってるので、遠くないうちにまた参ります、と報告します

100以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/02(月) 07:11:49 ID:9Hg6DXlI0


101以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/02(月) 21:58:48 ID:7LWJTYpc0


102以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/10(火) 04:42:43 ID:Cf9Ea7DY0
待ってます

103以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/11(水) 01:54:49 ID:xP7cMZao0
おつ
この作品のジョルジュ好きだ
おっぱい言わないけど

104以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 00:57:47 ID:BxExUQ.Y0
回線が……
取り敢えず投下します、がいつまでもつやら

105以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 01:13:48 ID:BxExUQ.Y0
……


泥の大河を越えて対岸に渡り付いたミセリは、肩で息をする

泥上を走っている間は、まるで生きた心地がしなかった。
何しろ、一歩でも踏み外すと、即座に底無しの泥沼だったのだから。

なんとか呼吸を整えたミセリの目の前にキュートが降り立ち、その顔を覗き込む。


<_プー゚)フ ナイスラン 感動したよ

ミセ*;-ー)リ「あー……ありがと」


振り返ると、遠く泥沼の向こう、三つの人影と一つの竜影が見える。
呼吸を整えたミセリは、進む先、樹海の奥の"黒"に目を戻した。


ミセ*;゚ー゚)リ「あの"黒"の真中、だよね」

<_プー゚)フ そ 道案内は要らないみたいッスね

ミセ*;゚ー゚)リ「ん、ありがと」


安心した、そう言い残し、キュートは道を譲る。
彼女の透き通った白い半透明の手がその色を薄めている事に、ミセリは気付いた。

10680/140:2013/09/14(土) 01:15:05 ID:BxExUQ.Y0
ミセ*゚ー゚)リ「え」
<_プー゚)  ええとですね ジブン 見ての通り大した無理ができない体でして


親和を起動するなんて、そうそう出来ないんですよ。
既に半ばまで消えかけた身体で、キュートは笑った。


_プー   暫く"下"で休んでるから あとはお願いね

ミセ*;゚ー゚)リ「お、おう! またな!」

 _フー    あーい


気の抜けた声を残し、少女の幽霊は姿を消してゆく。

彼女が闇に溶けきった後は、暗い夜色の森で、ミセリは独りだった。
風も、光も、空も、暗き湿林には無い。

ビロード、ぽっぽ。ハイン。ジョルジュ。
ブーンやドクオ、ダイオード、フォックス。ツン、なち。そして、キュート。

肩を並べて戦った誰も、ミセリの側には居ない。

10780/140:2013/09/14(土) 01:15:45 ID:BxExUQ.Y0
ミセ*;-ー)リ


心臓が急激に高鳴る。
汗が噴き出て止まない。
ミセリは、己の心を締め付ける"それ"の正体に思い当たった。

これは、"恐怖"だ。

そして、それが"恐怖"だと分かった時、ミセリは躊躇わず、樹海の奥に駆け出していた。
今、一人で戦っているのは。今、一人で"恐怖"に挑んでいるのは、自分じゃない。


ミセ*;゚ー゚)リ「……根性ッ!」


友の元へ、仇の元へ。
……ミセリがその凄惨な死闘の場に辿りつくまで、そう時間は掛らなかった。

死闘の場。より正しくは――

10880/140:2013/09/14(土) 01:16:31 ID:BxExUQ.Y0
ミセ*゚−)リ「シャーミン、松中……」

,(,,・)・)",「あん? またお客様だすナリか?」


ミセリは"黒"の中心に辿りついた。

斜めに傾いだ首の上の鍔広の帽子を猟銃に掛けた親指で押し上げ、血塗れの男が振り返る。
地面には三つの死体。いずれも内側から引き裂かれたように、無残に腐った傷口を大きく晒している
そして、唯一その場に立つ男、彼がくるくると指し向ける猟銃の先に。



lw´ _ ノv


――そう、より正しくは、凄惨な死闘が終わった痕に辿りつくまでに、だ。

頭部を布袋で包まれ、大樹に十字磔された呪式士を、ミセリは茫然と見上げた。
ローブを赤黒く染めたその姿はまるで、標本に縫いとめられた黒い蝶のようで。


ミセ*;゚д)リ


左胸の黒い痣が熱く鼓動を打った。
喉の奥で潰れた声が悲鳴を上げる。

10980/140:2013/09/14(土) 01:17:51 ID:BxExUQ.Y0
ミセ*;゚д゚)リ「――な、」

,(,,・) ),  y[≡]======== 「すまないだす、今ちょっと盛り上がってるなり。要件は後で聞くなりだす」
 ,∀ /ミシ            「それともてめーもオレに混じるか、え?」


言いながら、シャーミンは猟銃の引き金を引いた。

止める暇すら無かった。
火薬が爆ぜる不快な音と臭い。銃弾は真っ直ぐに飛び、張り付けられた蝶の左腕を撃ち抜く。

真っ赤な血が流れ、黒いローブを斑に染める。


lw;´ _ ノv「――ッ!」
ミセ*;゚д)リ「や、やめろ、撃つな! そのヒトを撃つな!」


そのヒト。
自分の口を突いた言葉に、ミセリは自分で驚いた。

素直シュール、シューさん、シュー姐さん。
頭の中に有る言葉が、堰止められたように、胸で止まって固まった。

激しい痛みに、磔にされたシューは声も無く震える。
シャーミンは混乱するミセリに目を戻すと、口の端を持ち上げて見せた。

11080/140:2013/09/14(土) 01:18:44 ID:BxExUQ.Y0
,(,,・) ・),  y[≡]======== 「……まぁ、お客人が言うなら考えてもいいだすが……」
 ,∀   /ミシ           「どの道"赤"を使えない俺じゃ大した威力は出ねーしなあ」


銃。旧世界の遺した兵装技術。

その希少さを裏付けるのは、その生産に必要な技術の『高度』さ。
その希少さを裏付けるのは、その使用に必要な火薬の『貴重』さ。

ラウンジに優れるこの"高貴"なる兵装が、長く続くヨツマとの"度重"なる抗争の目的であり、手段だった。

ミセリは長剣を握り、親和を起動した。

銃は"赤"の精霊の加護があって初めてその威力を発揮する。
もし相手にクーやなち程の親和があれば、シューを跡形も無く消すこともできたはずだ。

――警戒が僅かでもこちらに逸れた隙に、踏みこんで銃身を切り飛ばす。


ミセ*゚−゚)リ「それ以上そのヒトを狙うなら、容赦なく叩き斬る……!」

11180/140:2013/09/14(土) 01:20:08 ID:BxExUQ.Y0
,(;,,-)-),「それは怖いナリだすね、ちょっと考えさせてほしいだす」
 ,∀ 「それじゃあ、ここで俺が銃を捨てれば見逃してくれるか?」


銃口を動かさないまま、シャーミンは目をあちこちに這わせる。。

視覚、それに、聴覚も奪われているのだろう、痛々しい姿のシューは、
二人の会話に何の反応も示さず、ただその身を強張らせていた。

……ミセリは怒りを必死で呑み込み、彼の申し出に、躊躇いながらも頷く。

シャーミンはそれを確認し、ゆっくりと磔の蝶に目を向けた。


,(,,・) ・),「……じゃあ、考えた結果だすが」


そして、ミセリの甘さを嘲うように、彼は笑った。


 ,∀「やだプー」


不格好な長槍は、その円筒形の穂先を呪式士を向けたまま、短く火を噴いた。
磔の蝶の、その左足に深紅の華が咲く。

11280/140:2013/09/14(土) 01:21:01 ID:BxExUQ.Y0
lw;´ _ ノv「ッ!」

ミセ#゚д゚)リ「お……お前、お前は――!」

,(・)(・),「あひゃ、怒った? 怒っちゃったなりだすか!?」
 ,∀  「はははあははあはあッ! おら掛って来いよチビガキ!」


シャーミンは弾切れの銃を投げ捨て、腰のナイフを抜いた。
一直線に飛び掛かったミセリがその長剣を振り下ろすと同時に、彼の腐りかけた足が動く。

長剣は空を切り、地面を断ち割った。


,(・)(・),「ぶぁぁぁか、まともに受けるワケねぇだろ?」


ナイフを抜いた迎撃の姿勢は、それ自体が罠。
失策だった、頭が理解すると同時に、素早く体制を立て直しつつ敵影を目で追う。

よろよろと凭れ掛かるように、彼が行き付いた先は。


ミセ*;゚−゚)リ「!」

,(・)(・),「動くなよ。人質ゲェムの再開ナリだす」
lw;´ _ ノv「ッ……ッ……!」

11380/140:2013/09/14(土) 01:22:01 ID:BxExUQ.Y0
ミセ*;゚−)リ「んの卑怯者ッ……離れろ!」

,(・)(・),「卑怯って、別に正々堂々戦うなんて言った覚えはないだすが……」
 ,∀  「離れるのはてめーだ。まぁ、この女を見殺しに出来るなら近寄って来ても良いが」


ナイフの先端を首筋に押しつけられ、その冷たい感触にシューは身体をビクッと震わせる。

視力も声も、恐らく聴覚も奪われたシューには、その肌に触れる恐怖だけが感覚の全てだ。
彼女の胸元の増幅器は光を発しておらず、抵抗する力も、その意思も無い事を示していた。


,(・)(・),「ほら、下がるだす。おいどんは先端恐怖症だから、長剣とか怖くて仕方ないナリよ」
 ,∀  「でないと、この女がどうなっちゃうかも分からないなぁー……!」

ミセ*;゚−)リ「……私が下がったら、お前もナイフを下げて、そのヒトから離れろよ」

,(,,~),~),「あ〜あ、良いだす。あい分かった、約束するだす」
 ,∀  「"魔導師"シャーミン松中の名に誓って、そうする」


ミセリは、一歩、また一歩、静かに下がった。
酷薄さ、狡猾さ、不快さ、どれをとっても、目の前の魔導師を上回る者など見たことがなかった。

11480/140:2013/09/14(土) 01:23:36 ID:BxExUQ.Y0
ミセ*;゚−)リ「……これで、満足? だったらナイフを下げて」

,(・)(・),「よぉーし良い子だ、きっと長生きするだすね。もう五年もしたら食い頃の良い女なりよ」
 ,∀  「ちょうどこのアマみてーにな」
lw;´ _ ノv「!」


ナイフを下す、どころでは無い。
シャーミンはむしろ、刃先のフック部分をシューの顎に押し当て、のけ反らせた。

自由な方の手が、シューの形の良い胸を鷲掴みに掴み、乱暴に揉みしだく。
驚きと恐怖に強張る彼女の身体を、シャーミンは楽しむように弄り続けた。

長剣を握る手が、抑えきれぬ怒りに震えた。


ミセ#゚−)リ「ふざけるなよ、"誓い"とやらはどこに消えた!?」

11580/140:2013/09/14(土) 01:24:26 ID:BxExUQ.Y0
,(・)(・),「まぁ、落ち着くなり。おいどんが満足したら、すぐにその"誓い"とやらに従うだす」
 ,∀  「指くわえて見てろよ。参加したくなったら何時でも言ってきな、ケヒヒ」

ミセ#゚д)リ「今すぐだ! 今すぐその汚い手をどけろ! それ以上そのヒトに触れるな!」


ミセリの怒号に、シャーミンは肩をすくめた。
奇妙に捻じれた首を縦に戻しながら、下卑た笑いをその顔に張り付かせる。

その目はミセリを通り越し、樹々の合間に投げかけられていた。


,(・(・,,),「……お嬢ちゃん、この森が『呪い』に沈んだ経緯は知ってるだすか?」

ミセ#゚−)リ「……?」

11680/140:2013/09/14(土) 01:25:08 ID:BxExUQ.Y0
,(・)(・), 「『呪い』って、何だと思うだす? 草木が病に歪んで、瘴気が満ちて、死霊が這いまわる――」
 ,∀  「――俺達みたいな半端な死体どもにとっての楽園は、いったいナニから作られると思う?」
lw;´ _ ノv「ッ! ……ッ!」

ミセ#゚−゚)リ「何が言いたいの?」


シューの身体を這う手はやがて、彼女の服の首元を引き下げ、その奥へと侵入しはじめる。

一歩、ミセリはシャーミンに詰め寄る。
たった一歩、それ以上はならなかった。
シューの首元のナイフが己の存在を誇示するように煌めき、ミセリは奥歯を噛み締めて歩みを止める。


,(・)(・),「……おいどんの研究は、不死の追及だす。生命を精霊に置き換えて、魂を取り出す実験」
 ,∀  「ラウンジの先代、バジリオの元、俺は日夜を費やし研究を重ねた。成果はすぐに上がった」

ミセ#゚−゚)リ「だから何? 悪いけど、自慢話なら木にでも向かってやってくれない?」

,(・)(・),「まぁ聞くだす。研究の過程でおいどんが生み出した副産物は幾つもあるだすなり」
 ,∀  「『魂転移』を初め、『屍兵』、『人造森人』、『魂魄喰らい』、そして……『呪砲』!」

11780/140:2013/09/14(土) 01:27:01 ID:BxExUQ.Y0
ミセ#゚−゚)リ「『呪砲』……?」

,( 。 )( 。 ),「そう、『呪砲』! 精霊と生命の融合を強制的に起こす、至高の大砲ナリ!」
     「たった数人の火種で、ヨツマの精鋭部隊数千をこの呪いの森に沈めた、決戦兵器ナリだす!」


狂ったように高らかに叫ぶシャーミンに、ミセリは思わず息を飲んだ。
焦点の合わない虚ろな両目は樹海を彷徨い、その声はまるで獣じみた咆哮。

口角に真っ赤な血の泡を飛ばしながら、興奮した魔人は叫び続ける。


ミセ*;゚−゚)リ「……"数人の"火種? 数千の精鋭を、呪いに沈めた?」

,( ゚)(。),「あひゃは、知らなかった? 知らなかっただすか! んじゃあ教えてやるだす!」
 ,∀   「――数十年前、ラウンジとヨツマの大戦はほぼ決着していた。忌々しい、ヨツマの勝利にな」

ミセ*;゚−゚)リ「……?」

 ,∀「クソ天使サマとやらの加護を受けたヨツマの騎士に、ラウンジの兵団は手も足も出なかったのさ。
   ダットの支流に掛けられた要塞群は悉く突破され、ここ朱琴平原に至った。その数、実に数千!
   ラウンジを滅ぼすに足るその数千の兵団を、一瞬で滅ぼし返したのが俺様の『呪砲』さ!

11880/140:2013/09/14(土) 01:30:11 ID:BxExUQ.Y0
,(・)(・),「『呪砲』の仕組みは至って単純だす。『呪』の毒を着弾点に撒き散らし、感染させる」


ミセ*;゚−゚)リ


実に、単純だろう。
それじゃあ――その『呪毒』を浴びた人間は、どうなると思う?

シャーミンは、ナイフの先端のフック部分をシューの服に掛け、一気に引き裂いた。


ミセ*;゚д゚)リ「――」
lw;´ _ ノv

,(。,,)" ゚),
 ,∀  「"こう"なってゆくのさ!」


冷たい外気に地肌を晒され、シューは身体を震わせる。
大きく晒された豊かな白磁の胸、その肌の一部が、どろどろに溶けた昆虫のように変色していた。

11980/140:2013/09/14(土) 01:31:40 ID:BxExUQ.Y0
,(^)・・(^),「あひゃはひゃはひゃは! 如何なりだすか、おいどんの芸術は!?」
  ,∀   「最ッ高の見世物だろう! 病み付きになるねぇ!」

ミセ* д)リ「……なんで、こんな……」

,(,,・)・),「あー、っとぉ……勘違いしないで欲しいナリだすが、これはおいどんが生きる為でもあるだす」


魔人はゆっくりとナイフを動かし、シューのスカートを引き裂いてゆく。

扇情的な即席のスリット、その下には闇に映える雪色の肌。
ほっそりとした左の太股の真中に、真っ赤な銃痕が血を吐き出している。

残忍な笑みを浮かべたシャーミンは、傷口に指を這わせ、優しく撫でた。

シューが声もなく悲鳴を上げる。
痛々しい傷の周りの白い肌は、魔導師の指が触れた所から、『呪』に侵された部分と同じく腐っていった。


ミセ*;゚−゚)リ「! やめろ!」

12080/140:2013/09/14(土) 01:33:59 ID:BxExUQ.Y0
,(,,-)-),「っあぁぁあ、この絶望に浸された女の肌……癒されるなりだす」
 ,∀ 「こうして心痛む拷問を続けるのも、要はこの女を『呪』に変えるのが目的なのよ」

ミセ*;゚−゚)リ「……その手を、どけろ」

 ,∀ 「この"布晒"ってのは、目と耳鼻を封じて触覚を増大させる拷問法なんだが……。
   この女は随分と"黒"が強いらしい。かなり抵抗していやがる」


"黒"が強いって事は、それだけ強い『呪』に化ける可能性があるって事だ。
数百年に一人いるかどうかの逸材を、みすみす捨てる手は無い。
口の端を吊り上げるシャーミンに、ミセリは姿勢を低く構えた。


ミセ* −)リ「そう。それが分かれば、充分だよ」

,(・)(・),「……? 何をする気だすか? こっちには人質が居るなりだす」
 ∀"; 「おい、それ以上動いたらこの女を――」

ミセ*゚−)リ「これ以上動いたら、何をするって?」


シャーミンの脅しに構わず、ミセリは平然と歩み寄った。

――縞。
魔人の淀んだ視神経の奥で、ミセリの影は薄く焼けつく。
一瞬の後には彼の腕は樹海の闇に解けるように消滅し、ナイフが地面に落ちた。

12180/140:2013/09/14(土) 01:35:59 ID:BxExUQ.Y0
,(;・)(),「んぐぉあがッ、い、あ」

ミセ*゚−)リ「間抜け。簡単に殺すつもりが無いなら、人質にはならないじゃん」


地面を転げ回る魔導師を横目に、ミセリはシューの顔を覆う布を引き裂いた。
彼女の知覚を妨げる"黒"の精霊が、敗れた布の隙間から漏れ出る。

その顔にはまるで精気が無かったが、しっかりと呼吸している。
ミセリは安堵の息を吐いた。


lw;/_ -ノv「……うッ……?」

ミセ*゚−)リ「大丈夫、今この杭も――ッ!」
 ∀,「勝手な事してるんじゃねーよ、クソ」


気の杭に手を掛けたミセリの喉元に、透明な何かが巻き付いた。
不可思議な攻撃に驚く間もなく、一気に締め付けられる。

12280/140:2013/09/14(土) 01:37:05 ID:BxExUQ.Y0
ミセ*; д)リ、「か、は……何が……?」

,(;;〜) ;~)。「痛いなり、痛いなりだすぁぁ……!」


"何か"に触れようとしても感触が無く、それでもギリギリと首は締まってゆく。
足元のシャーミンは左手を押さえて蹲り、小さく呻いている。

ミセリは"緑"の精霊を込めた足を、背中を丸めた振りあげた。


ミセ*; д)リ、「なにを、したッ!?」
,(#) )。)「ギャあっ?!」


蹴り飛ばされたシャーミンは、血を噴きだしながらゴロゴロと転がる。
それでも、喉に纏わりついた不可視の感触はますます強まるばかりだった

空気が足りず、頭がぼーっとする。ミセリはその場に膝をついた。


ミセ*; д)リ「……ぁ……」

lw;´ _ -ノv「ッ、親和…… "黒"を通して見ろ……!」

12380/140:2013/09/14(土) 01:37:58 ID:BxExUQ.Y0
ミセ*; д)リ「!」

絞り出すようなシューの声に反応して、ミセリは"黒"の親和を起動した。
精霊に応じ、瞳の輝きが黒に染まる。

その目に映ったのは、半ばで千切れた不透明な左腕だった。
べったりとした血糊も爛れた皮膚も、斬り落としたシャーミンの腕と同じだ。

ただ、実体だけが無かった。


ミセ*; д)リ「な、に、これ……!」

lw;/ _ ノv「精霊を集めて……そしたら、触れる……ッ!」

ミセ*;-д)リ「〜〜!」


冷たく、ぶよぶよした腕。
渾身の力を、精霊を込めた右手で、ミセリはその腕を振り払った。


ミセ*;゚д゚)リ「っは、アブな……今、助けるから……」
lw;´ _ ノv「ダメだ! それより早く、逃げ――!」

  ∀' 「――逃がさねぇよ」

12480/140:2013/09/14(土) 01:38:45 ID:BxExUQ.Y0
ミセ*;゚−゚)リ「!」
,(。,,(゚”),「うびゃあああああッ!?」


シャーミンの身体が、ばね仕掛けのように跳ねあがる。

避けられない。すぐ後ろには、磔のままのシューが居る。
ミセリは長剣を斜めに振るい、襲いかかる影を斬り下ろす。

肉と骨が斬れる、鈍く不快な手応え。
身体の半ばまで長剣をめり込ませたまま、シャーミンは尚もミセリに、身体をぶつけた。


ミセ*;゚д゚)リ「え、ちょ……ッ!」

,(。,,(゚”),「あびょみょびょっびょみょッ」
“∀” 「死ね」

ミセ*; д)リ"「ッ!」


ミセリは咄嗟に、左腕を咄嗟に身体の間に挟んだ。
痛覚を通していない腕に、深い違和感。

12580/140:2013/09/14(土) 01:40:32 ID:BxExUQ.Y0
ミセ*;゚−)リ「ぐ……離れろ!」

,( ,,( ”),「びゃぶるら!」


緑の親和を駆使し、鼻面を蹴り飛ばす。
蹴り飛ばされたシャーミンは、どす黒い血を撒き散らしながら数歩下がった。

ミセリは彼の異様な風体に、吐き気を抑えられなかった。
首は完全に圧し折れて引っくり返り、片腕を失い、それでもなお平然とナイフを持ち上げてみせる。

その姿は、まさに亡者の王と呼ぶに相応しい。


  A,  「……あー……準備、完了だ」
'( ゚)(。)'「く、首ぃ!? おいどんの首がぁあ!?」

ミセ*゚−)リ「……準備?」


腕に突き立てられたナイフを引き抜こうとしたミセリは、自らの身体の異常に気付いた。
痛覚を遮断した型の先、その下腕は、数百もの蟲が溶け合ったように――

ミセ*;゚д゚)リ「! これは……!」

  A,  「ひゃははっはあはあああはッ! 勇敢なお嬢ちゃんにも『呪』のプレゼントってなぁ」
'(;;;゚)(。;;;)' 「痛い、痛い痛い、痛いよぉぉおぉ!?」

12680/140:2013/09/14(土) 01:41:51 ID:BxExUQ.Y0
ミセ*;゚−゚)リ「……くっ……!」


禍々しい紫の腐敗にどっぷりと侵された左腕から、強引にナイフを引き抜く。


左腕の傷口を中心に、『呪』はじくじくと広がっている。
親和をもってしても、その進行を止める事はままならない。

シャーミンは首を無理やり回転させて元に戻し、焦るミセリを嘲うように奇妙に捩れた声で笑った。


,(・)(・), 「ヒィーッ……残念なりだすが、それはもう治らないだす」
  ∀'  「『呪』が"心"に達したら、おめーもおしまいだよ」

ミセ*;゚−)リ「……そうなる前に、お前を倒すだけだ」


意識を剣に、視線を敵に。
額に汗を浮かべたミセリに、魔人は鼻で息を噴いた。

127100/140:2013/09/14(土) 01:44:57 ID:BxExUQ.Y0
,(・)(・), 「おいどんを斬ったとしても、その『呪』は二度と消えないぞ?」

ミセ*;゚−)リ"「!」

  ∀'  「事実だ。残念ながら、完全な解『呪』の方法は見つかってねえ」


呪式士の身体は既に半ばまでを黒い斑渕に浸され、呼吸は荒く掠れている。

誰の目にも、彼女に一刻の猶予すらない事は確実だった。
そして、もうしばらく放っておけば、間違いなくミセリ自身も同じ道を辿る。

口角を狡猾な笑みに釣り上げ、シャーミンは恍惚の表情で捩れた両手を広げた。


,(・)(・),「ま、そんなに嫌なら――ひとつ取引の提案があるナリだすが?」

ミセ*;゚−゚)リ「……断る、決まっているだろう!」


鋭く踏み込み、長剣を袈裟に振り下ろす。
シャーミンは、その一閃の前に身動き一つ取らなかった。

128100/140:2013/09/14(土) 01:45:59 ID:BxExUQ.Y0
――めり。

肩口から入った剣は、心臓の有るべき場所を引き裂き、崩れた背骨を抜けて身体を両断する。
シャーミンはそれすら想定内と言うように、己の腰を右手で掴み、バランスを取った。

真っ二つの身体を一つに保つ彼の姿はまるで、奇妙に捻じくれた腐肉の接ぎ樹。
吐き気のするような歪んだ芸術に、ミセリは無我夢中で剣を振り下ろす。

血飛沫は、上がらない。
解体される調理場の生肉のように、シャーミンの身体は細切れになってゆく

右腕を、両太股を、腰を、首を。
斬り刻まれたシャーミンはべちゃべちゃと崩れ落ち、潰れて飛び出した目玉が虚ろにミセリを見上げる。


,(−)(−),「そりゃあ断りたいナリだすね。だとしてするからに、お前が生き残る道が他にあるなりか?」
  ∀'  「死にたくなきゃ従え。いいか、俺は別に、おめーの生死には興味なんてねーんだ」

ミセ*; −)リ「……」


沈黙を承服とでも捉えたのだろう。
シャーミンは折れ曲がった右腕で首を支えたまま、不敵な顔で続ける。

129100/140:2013/09/14(土) 01:47:18 ID:BxExUQ.Y0
,(・)(・),「『呪』の強さは、種にした人間の"黒"の親和と、抱える絶望の深さで決まるだす」
  ∀'  「この呪式士の親和は逸材だ。生前の俺にも匹敵する。あとは絶望を深めるだけだ」


だから、
地面に転がった魔導師の顔がその先を言う前に、ミセリはそれの頭を思い切り蹴り飛ばした。
歪にひしゃげたボールは勢いよく飛び、遠くの樹に激突して汚らしく爆ぜる。

彼が何を要求しようとしているか、はっきりと分かった。

背後で別の猟師の死体がうぞうぞと蠢き、身を起こす。
何事も無かったかのように失った肉体を'挿げ替え'る魔導師に、ミセリは怒りのままに剣を向け直した。


ミセ#゚−)リ「ふざけるな、そんな取引……!」

,*(‐)(‐),「っあ゙ぁぁー、この蘇る瞬間が心地よいナリだす……」
  ∀'  「良いから、まずは話だけでも聞けよ」


絶望とは、希望が無いという事ではない。
絶望とは、希望が絶たれるという事だ。

嘲るような魔人の言葉に、剣を持つ手が震えた。


  ∀' 「おめーの持ってるその剣で、希望とやらを絶て。その女をナマス斬りにしろ」

130100/140:2013/09/14(土) 01:49:12 ID:BxExUQ.Y0
感情のままに、ミセリはシャーミンに斬りかかった。
誰かを殺したいと心から思ったのは、十六年の人生の中で、初めてだった。

鋭い剣閃は、今度は相手を斬り裂かなかった。

シャーミンの身体は見えない糸に操られるように飛び退き、ミセリの間合いから一気に離れる。
精霊を纏わりつかせた屍は、新しい身体を確認するかのようにごきごきと骨を鳴らす。


,(〜)(〜),「おぉおぉ怖い怖い、斬られるのは結構痛いなりだすよ」
  ∀'  「それならそれで良いがな。代わりにおめーの公開処刑レイプでショーに華を添えるだけだ」

ミセ#゚−゚)リ「……もういい、消す」

,(・)(・),「はは、どうでもいいだすが、あんまり熱くならないほうが良いと思うだすよ?」

ミセ#゚−゚)リ「何を――!」


腕に走った違和感に、言い掛けた言葉を飲み込む。
シャーミンが指したミセリの左腕で、『呪』は、もう肘に達していた。

進行が速まっている。ミセリは眉根を寄せた。


,(・)(・),「不思議そうだすね。……さっきも触れたけど、『呪』化の進行は絶望が深いほどイイだす」
  ∀'  「ということは、だ。メスガキ、おめー、本当はもう心のどっかで諦めてるんじゃねぇのか?」

131100/140:2013/09/14(土) 01:49:56 ID:BxExUQ.Y0
ミセ*;゚−)リ「何を……」

,(・)(・),「そりゃあ当然ナリだす。いくら斬っても死なない相手に、自分は不治の毒」
  ∀'  「たった今見かけただけの女ひとりの為に、お前が身を投げ出す事は無いと思うぞ?」

lw;´- _ ノv「……奴の言う通りだ、'名も知らぬ'剣士のお嬢さん」

ミセ*゚−)リ「!」


シューの掠れた言葉に、身体が強張る。
半ばまでを『呪』に侵し尽くされたまま、絞り出すように彼女は続けた。


lw;´- _ ノv「私はどの道、助からない。キミだけでも、生きるんだ」

ミセ* −)リ「……」

,(・)(・),「ほぉ、美しい自己犠牲なりだすね。泣っかせるぅー!」

lw;´- _ ノv「約束は……守れよ」

,(・)(・),「分かってるナリ。おいどんは契約を決して破らないだす」
  ∀'  「どうでも良いからサッサとやれよ。ほら」

ミセ* −)リ「……分かったよ」

132100/140:2013/09/14(土) 01:53:20 ID:BxExUQ.Y0
長剣、その切先は磔のシューへ。

――一閃。


ミセ*゚−)リ


斬り裂いたのは、シューの腕の。杭に縫いつけられたローブの、その両袖。
解放されたシューは立ち上がる力も無く、その場に崩れ落ちる。


ミセ#゚−)リ「ようやく分かったよ、呪式士。あなたの狙いが……!」

lw;´- _ ノv「何を言って……」
ミセ#゚−)リ「うるさい! 人の記憶を簡単に弄んで……!」

,(〜)(〜),「あ〜、期待通りなりだすね〜。都合が良い。纏めて『呪』にしてやるだす」
  ∀'  「……記憶? 何を言っているんだ、おめーら?」


"黒"の親和を通したミセリの目に、数本の、不可視の'影'が映る。
ボロボロの左腕を酷使し、ミセリはシューを抱えて飛び退いた。

シャーミンの足元から伸びたその'影'は二人を追うように自在に形を変え、迫る。

133100/140:2013/09/14(土) 01:54:24 ID:BxExUQ.Y0
ミセ*;゚−)リ「っと、これは何?」
lw;´- _ ノv「"黒"の、精霊……! 捕まるな、『呪』に……引き込まれる!」


幸いにも、'影'の動きはそう速くない。
シューを背中に庇いつつ、ミセリはその触手の先端に剣を振るった。

精霊を纏った剣は不透明に濁った影を斬り裂き、斬られた先は樹海の空気に消えてゆく。
一本一本の動きは遅く、さしたる脅威ではないものの、その数は次第に増していて、厄介きわまりない。

ミセリは再び一度シューを担ぎ、さらに後方へと引き下がった。


ミセ*゚−)リ「……それで、あいつは何をしたら倒せるの」

lw;´- _ ノv「……術式核、身体の中心あたりに有る。
      それと、感情的になるな。奴は、キミの憎悪をそのまま『呪』に変える」

ミセ*゚−)リ「……了解。あとは私がやるから、また人質にならないように気を付けてろ」


影はどうやら、そう遠くまで伸ばせないらしい。
どす黒い渦を挟んで、剣士と魔人が向かいあう。

静寂が樹海に落ちる。
ミセリは静かに親和を起動した。

その瞳は"緑"、春に芽吹く若草の色。

134100/140:2013/09/14(土) 01:55:30 ID:BxExUQ.Y0
ミセ* −)))リ「――」


"黒"に費やしていた容量を、全て"緑"へ。
ミセリの視界から、蠢く'影'が姿を消す。

緑に染まった瞳でシャーミンを見据え、ミセリは真っ直ぐに歩み寄る。

獲物を狙う豹のように、静かにしなやかに。
それは例えるなら、矢風吹き荒ぶ戦場で目を瞑って歩くに等しい行為。

狩られるべきシャーミンは、驚きつつも、己の手に不可視の'影'を集めた。


,(・)(・),「おいおい、自殺でもするナリだすか?」


'影'が為すは、触れた生者を『呪』と変える死の槍。
眼前に迫るそれは、"黒"を切ったミセリの目には映らない。

――殺った。
魔人が確信したその瞬間、剣士はその身を真横に振った。
シャーミンが突き出した'影'はそのすぐ脇を走り抜ける。


ミセ* −)リ ヒュ…

135100/140:2013/09/14(土) 01:56:07 ID:BxExUQ.Y0
lw;´ _ ノv「!」
,(・)(・),「うん……!?」


最小の、最短の。洗練された獣の動き。
虚を突かれたシャーミンは、唖然とする。

咄嗟に引き戻した'影'の触手を、精霊を纏った長剣が両断した。

引き裂かれた'影'は"黒"の精霊に帰し、樹海に四散してゆく。


,(・(・;;),「んぐおッ……!」


核を、守らなければ。意思が形を為し、『呪』の鎧を纏う。
魔人の胴体から噴出した新たな'影'を、剣士は深追いせずに避けた。

"黒"の精霊は樹海に満ちた『呪』からほぼ無尽蔵に得られるとはいえ、
再生の暇も無く攻め立てられては、流石に分が悪い。

焦るシャーミンに、再び長剣が迫る。

136100/140:2013/09/14(土) 01:57:24 ID:BxExUQ.Y0
,(・(・;;),「勘……だと、野獣め……!」

ミセ*゚−゚)リ「失礼な、レディーに対して――」


振り据える触手を、ミセリはやはり紙一重で避ける。
その身体を突き動かすものは、それこそ、勘としか表現しえない。

霧を風が引き裂くように、闇を光が引き裂くように。

本領に帰したミセリの猛攻に、シャーミンは押されてゆく。

そして。


,( )( ),「ンぎばッ!?」

ミセ*゚−゚)リ「――滅多な事を言わないでよね」


'影'を繰る両腕を、今度はその軸であった"黒"の精霊もろとも、鋭い剣閃が断ち落とした。

137100/140:2013/09/14(土) 01:58:26 ID:BxExUQ.Y0
シャーミン松中という魔人の存在は、実のところ、その『核』のみにすべての機能を預けている。

『核』は、高度で狂気的な術式印。
流し込まれた"黒"の精霊を呼び風に、かつて滅びた彼という存在を再構築する術式。

ゆえに、彼の根源は"黒"の精霊であり、ゆえに彼は"黒"の精霊そのものである。

『核』に与えられた術式は精霊をして『呪』を為さしめ、彼の親和は『呪』をして精霊を為す。
触れた者を『呪』と変える『呪』の性質ゆえに、自身を『呪』に構築する彼は、核と贄ある限りは不死である。

オサムの遺書に記された"魔導師"シャーミン松中の、これがその正体だった。

……そして、その性質ゆえ、こうして精霊もろとも核から斬り落とされた肉体は、再生にやや時間がかかる。


,( ;;)( ;;),「あが、おいどんの、腕……」
  ∀'  「こんな、クソがぁッ!」


失った腕を取り戻すまでの隙は、この局面において致命的だ。
返す刃は胴を深く引き裂き、裂かれた腹からは行き場を失った"黒"の精霊が溢れだす。

剥き出しになった精霊回路――核は、小さな色ガラスの玉だった。


ミセ* −)リ「――!」


剣に僅かな迷いが生じた。
その一瞬に、傷口から漏れ出た精霊は『呪』の'影'を為し、ミセリは慌てて距離を取る。

138100/140:2013/09/14(土) 01:59:12 ID:BxExUQ.Y0
,( ;;)( ;;),「貴様、如きニ……」

ミセ*゚−)リ「……」


シャーミンの肉体は、溢れだす精霊に押されるようにして、グズグズに溶けてゆく。

……彼は『核』。彼は『呪』。彼は『精霊』。
それゆえに、彼がやがてこうなってゆくのは必然だった。

精霊が、呪が、渦巻くようにその核を覆い、膨れ上がる。

繋ぎとめるべき身体を捨て、膨れ上がった黒い靄。それが彼の――

;;::;;:;    ヾツ/
;:;       lミ;;|
,   ,(:::::::;;;;)(::::::::;;;;), 
:・:'``:``…―,、..,,.,;´.~/;;;(  「――俺の、真の姿を見せる事になるとはなァァアアァ……」
:::。::‘`l;;:::::;;;;;;;;;・`/;;;;;;;;;;;
・.;:::::;;;;::`-、:::;;;;;メ.,;;;;;;;;;;_,,、
, `;;・.,;::::::::::`'\=~;;;;;;;;;;;ヾツ/
w     |シp}  ,   ミツ/
V     ミン/     ノツ/
::::::::::::::::: \ ::::::::::::::::::::

139100/140:2013/09/14(土) 02:00:59 ID:BxExUQ.Y0
産声を上げる異形に、ミセリは身体の芯を震わせる寒気を感じた。

その新たな身体を為すのは、もはや親和無しでもはっきりと視認できる程の、濃密な『呪』。
全身から瘴気を噴きだしながら、数十もの捩れ青褪めた手足を突き出し、それは巨体を持ち上げた。


,(:::::゚:;;;;)(::::::゚:;;;;), 「ふしゅううううううう……」

ミセ*;゚−)リ「……何それ、流石に聞いてないッスけど」


高さだけで自身の二倍を容易く超える、凶悪な芋虫。
その身体に粗雑に開けられた幾十の瞳が、やたら滅法に突き出された白い手足が、一斉にミセリを見る。


,(:;:::゚:>;;;)(:::・::゚。:;;;),「そりゃアそうだす。この姿を見て生き残った奴なんぞ居ないだすからね」

ミセ*;゚−)リ「ッ!」

,(:;:。:=;;)(l・::。;:;;;),「人間の、生物の脆い身体を捨てたおいどんに、敵うものなどはどこにも居ないィ!」


身体をくねらせ、奇妙な芋虫はミセリへと突進した。

140100/140:2013/09/14(土) 02:03:29 ID:BxExUQ.Y0
外見に惑わされるな、努めて冷静に剣を振るえ。
ミセリは己を奮い立たせた。

鈍重な巨体、その動きは、それが人型を取っていた時と比べても決して速くはない。
巨大な『呪』の突撃を、ミセリは余裕を持って避ける。

しかし、その余裕を埋めるように、巨体の中心近くから、一際長く青白い腕が伸びる。


ミセ*;゚−゚)リ「な――」

,(:::::゚:;;;;)(::::::゚:;;;;),「死ね」


突然の、想定の枠をぶち抜いた不様な奇襲。
咄嗟に剣を盾にしたミセリを、細長い手指が捕え、突き飛ばした。

節くれだったシャーミンの指が、纏めて宙を舞う。ミセリを握り取ろうとして剣に阻まれたものだ。
一方で左腕を痛めていたミセリは、受け身すら取れずに地べたを転がる。

141100/140:2013/09/14(土) 02:04:56 ID:BxExUQ.Y0
ミセ*;-д)リ、「いっつつつ……割かし速くて力も有るのな」

,(:::::゚:;;;;)(::::::゚:;;;;),「あぁあぁ、そりゃあもう、おいどんは復活以来数十年、不敗を保ったナリだすからね」

ミセ*゚−゚)リ「……ほざけ、卑怯者。お前なんて『カロン』の足元にも――」
lw;´- _ ノv「ば、馬鹿、止せ!」


慌てて制止するシューの声は、しかし、既に遅かった。

理由も分からず眉根を寄せるミセリに、シャーミンは身体の正面の、大きく引き裂けた口を歪めた。


,(::::: :;;;;)(:::::: :;;;;),「へぇ、お前もあの雑魚ギルドの仇討ちナリけるだすか」
‘`l;;:::::;;;;;;;;;・`/「ちゃぁんと覚えてるぞ。男の前で俺に犯されてひぃひぃヨがってた女だとかなぁ?」

ミセ#゚−)リ「……ッ!」


意識が一瞬で吹き飛んだ、気がした。
「冷静になれ」、頭の指令を心が跳ね付ける。

"黒"の精霊が身体から噴出するのがわかった。
そして、それが罠だということも。

それでも、心の波を抑えることなど、到底できなかった。

142120/140:2013/09/14(土) 02:07:08 ID:BxExUQ.Y0
lw;´- _ ノv「落ち着け、感情を抑えろ!」

,(:::::。:;;;;)(::::::。:;;;;),「手遅れだすよ」


――シャーミンの持つ、向けられた憎悪を吸収して『呪』に取り込む能力。
気付くとほぼ同時に、左肩に激痛が走る。

左腕の呪毒が、一気に上腕を染め上げ、胸にまで達していた。

体内に直接熱した鉄を流されたような強烈な痛みに、ミセリはその場に膝をつく。


,(:::・:。:゚:;;;)(::^::^:;;;;),「ひゃはは、馬鹿が! 簡単に釣られけるだす! お前はカモなりだす!」

ミセ*; −)リ「あ……」


蹲るミセリの首を、青褪めた腕が掴みあげた。
苦しさ、悔しさ。ミセリの両目に、透明な涙の珠が浮かんだ。

143120/140:2013/09/14(土) 02:08:13 ID:BxExUQ.Y0
,(:::::。:;;;;)(::::::。:;;;;),「んー……その声、顔、良いだすねぇ。生前なら間違いなく射精してたナリだす」


五指の鋭い爪に傷つけられた柔らかい肌から、血の代わりに膿が漏れる。

喉元までもが呪に侵されてしまった。
右手から滑り落ちた剣が、吊り上げられた身体の下で、乾いた音を立てる。

必死に腕を振り解こうとして初めて、ミセリは精霊の加護が自分の身体に残っていないと気付いた。
その瞳には親和を示す"緑"の輝きは無く、本来の薄茶色に戻っている。


ミセ*; −)リ「な……んで……親和が……?」

,(:::::。:;;;;)(::::::。:;;;;),「なんで? 簡単だ、お前さんが弱っちいからナリだす」


指の千切れた青白い腕が振りあげられる。

戦う力は、もう残っていなかった。
目前に迫る死を、ミセリはただ虚ろに見つめた。

144120/140:2013/09/14(土) 02:10:28 ID:BxExUQ.Y0
ミセ*; −)リ"

ミセ*; −)リ「……なんで……あなたが……」

,(:::::。:;;;;)(::::::。:;;;;),「おっと……邪魔を」


振り下ろされた長腕は、剣士に届かずに止まる。

彼女の背中を、ミセリはただ眺めた。
命を刈り取るはずだった死神の鎌を、己の冒険に鐘を鳴らす手を掴み止めたのは。


lw  _ ノv「悪いね。私は健気に待ってたんだよ。お前が"その"姿に戻るのを」


その身の殆どを呪毒に侵された、一人の復讐者。

145120/140:2013/09/14(土) 02:11:17 ID:BxExUQ.Y0
lw;*~/._ ノv「……キミは少し、身体を酷使しすぎたんだ。もう精霊を受け入れる余地が無い。少し休め」

ミセ*; д)リ「その、顔……!」

lw;*~/._ ノv「……ああ。もう、本当に保たないね――『我が名において、命ずる』」
ミセ*; −)リ「ッ!」

『金色に輝く豊穣、此の地に息吹を満たせ』


燭台の炎が揺らめくように、儚く、弱弱しく、そして、仄かに温かく。
ミセリを、シューを、シャーミンを包み込むように、金色の輝きが広がる。

シャーミンは小さく呻き、ミセリを握っていた手をはなした。
崩れ落ちたミセリは、黄金の温かさの中、肩で息をした。


,(:::::。:;;;;)(::::::。:;;;;),「そんなに、先に死にたかったナリだすかぁ?」

lw;*~/._ ノv「死ぬのは、私一人だよ。そして、お前も消滅して、ハッピーエンドだ」

ミセ*; д)リ「何、を……?」

lw;*~/._ ノv「すまない。もう少しだけ、我慢してくれ」

146120/140:2013/09/14(土) 02:12:03 ID:BxExUQ.Y0
地に伏したミセリの左腕に、シューはそっと手を触れた。
呪毒をなぞるように、彼女の遺した"黒"の精霊がその身体を押し包む。


lw;*~/._ ノv「『我が名において』――『命ずる』……ッ!」ゲホッ

,(:::::。:;;;;)(::::::。:;;;;),「何をしている……おい、その詠唱を止めるだす」


シャーミンの歪な腕が、強かにシューを打つ。

ミセリには、何も出来なかった。
無造作に拳を振り下ろすシャーミンに剣を向けることも、身を捨てて盾となるシューを止めることも。

血を吐き、歯を食いしばって詠唱を続けるシューをただ見上げることしか出来なかった。


lw;*~/._ ノv「『八重八十重の、花――』」
,(:::::゚:;;;;)(::::::。:;;;;),「……止めろ。詠唱を止めろと言っているだす! 」


精霊が渦を為し、シューの手に集まる。
止める事は、もはや叶うまい。
シャーミンは忌々しげに彼女を殴りつけた。

目や口、耳鼻から血を流しつつも、彼女は自ら生み出した金色の野に不死の王を振り返る。
ミセリは呪毒に苦しむはずの彼女の、満足気な、勝ち誇ったような顔を見た。

147120/140:2013/09/14(土) 02:12:34 ID:BxExUQ.Y0
"黒"の親和は、魂に触れる忌まわしき力。
心を繰り、情を繰り、果ては命にすらその手を触れる、異端の力。

魔人は、その力を命に触れる術に注ぎ込んだ。
死せる身体を、消えゆく魂を、精霊の"黒"を持って補う、酷薄たる死の取引。
得たものは消し得ぬ呪いに満ちた、病める生命を樹海にもたらす。

呪式士は、その力を心に触れる術に注ぎ込んだ。
内なる記憶を、刻まれた意思を、精霊の"黒"を持って書き換える、強欲な闇の取引。
得たものは――


『八重八十重の花――灰折り重なる空に咲け』


その命は、柔らかく、優しい言葉。
精霊は主の意に従い、彼女の手の中に薄く温かな光を灯す。

その姿は、春の風に眠る幼子の如き。

148120/140:2013/09/14(土) 02:13:52 ID:BxExUQ.Y0
,(:::::。:;;;;)(::::::。:;;;;),「……枝、と、花?」

lw;*~/._ ノv「……ああ。理知的な私らしく、なかなか洒落が利いているだろう?」


この花は、私なんだ。

呪式士の言葉を理解する前に。
鮮やかに柔らかく色付いた、紅色の蕾が花開いた。


,(:::::。:;;;;)(::::::。:;;;;),「え」
ミセ*; −)リ「!」


穏やかな光に、ミセリは身体がスッと楽になるのを感じた。
腕と首に刻まれた呪毒の苦しみが、ゆっくりと引いてゆく。

赤子の柔肌の白、色付けるは血潮の深紅。
己の身体を抜けてゆく呪毒、その行く先を、ミセリは見上げた。


ミセ*; −)リ「……何が……?」


その手に捧げ持った一枝が花開くと共に、呪式士は淀んだ『呪』に黒く染め上げられてゆく。
……そして、八重に咲く花に『呪』を奪い取られているのは、ミセリだけではなかった。

149120/140:2013/09/14(土) 02:15:00 ID:BxExUQ.Y0
シャーミンが断末魔に喘ぐ一方で、『呪』の苦しみから解放されたミセリの身体には、僅かに力が戻っていた。

必死に剣に手を伸ばすミセリを振り返り、シューは穏やかに微笑む。
呪毒に命を侵され、身体を引き裂かれ、それでもその二本の足で立つ彼女は、美しかった。


ミセ*; −)リ「止めろよ……もう、あなたは……」

lw;*;;;~/::._ ノv「……流石に私の呪毒までは消せないのさ。せめて、最期まで出来る事をさせてくれ」

ミセ*; ‐)リ「そんな、そんなの、それじゃ、私――私は、あなたを助けたかったのに――」


彼女はゆっくりと首を振った。

魔人となった魔導師の、シャーミンの身体が、日差しの中の湿り土のようにボロボロと崩れてゆく。
再び剥き出しになった術式核が、削れた芋虫の胴の下で断末魔の悲鳴を上げ、"黒"に明滅していた。

呪式士の枝には次々と新たな蕾が芽吹き、咲き誇ってゆく。

150以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 04:15:58 ID:JZ.kedSU0
きてたー!乙

151以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 04:16:44 ID:rb7556EcO
いいところで……、朝起きてPC直ってたら続きを!

152以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 07:37:24 ID:H2SISWgY0
lw;*;;;~/::._ ノv「……充分だよ。キミは私の……私達の旅を、見届けてくれた」

ミセ* ‐)リ「!」


呪式士の手の中で、かつて生命の輝きを失った魂達が再び淡い薄紅に光り、咲き誇る。
闇に舞う花弁の儚い色は、彼らの、そして彼女自身の旅の、その終着点を飾るように。


,(:::::。:;;;;)(::::::。:;;;;),「ヤメロ、やメ――」

lw;*;;;~/::._ ノv「『我が名において、命ずる――八重八十重の花、吹き抜ける東風に舞え――』」


幾千にも散った薄紅色が稲穂の海の金色を照り返し、暗い湿林を引き裂いて天へと昇ってゆく。

陰を消し飛ばす淡い光の大渦の中で、ひび割れてゆく術式核の声が聞こえた気がした。
それは寂しげな、安堵するような、小さな言葉。

十数年にも及んだラウンジの長い夜が、終わりを迎えた。

153以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 07:39:18 ID:H2SISWgY0
……

役割を終えた薄紅の花と金色の野が、静かに光を失い、消えてゆく。
人型に戻ったシャーミンは、術式核から精霊を噴きだし、膝を突いていた。

戦うだけの力は無いだろうが、それでも、まだその核は生きている。

静かに見下ろす呪式士に、シャーミンは背を向けた。


,冫,,)( ,,;; ノ",「あ、あぎぃ……おいどん、の身体がぁ……!」
  A"  「こんな、所でっぇぇええぇ……!」


ボロボロの身体を引き摺って、魔人の残骸は樹海の奥へ逃げてゆく。

呪式士は、それをただ見送った。
彼女の全身を覆う『呪』は今も緩やかに主の命を蝕んでいる。


lw;*~/._ ノv「あれのことは放っておけば良いよ。どの道、すぐに消滅する」

ミセ* −)リ「……すぐに、森の外に」
lw;*~/._ ノv「それも要らない。どの道、私もすぐに消滅する」


根っこのところまで『呪』にやられていて、もうどうしようもないのさ。

呪式士はミセリのすぐ側に腰を下ろした。

154以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 07:40:27 ID:H2SISWgY0
ミセ* ‐)リ「じゃあ……それじゃあ……!」

lw;*~/._ ノv「何もしなくて良いよ。もう終わったんだ」

ミセ* ‐)リ「だって、私、何も……!」

lw;*~/._ ノv「気付いてるかい? 最後の術のとき、シャーミンが私の憎悪を糧にできなかったこと」


キミが居たからだよ。
キミが居たから、私は憎しみのまま終わらずに済んだ。

呪式士は、ミセリの左胸で熱を持つ痣に、そっと指を触れる。

――術式印。
ミセリが気付いたのは、その痣が身体を離れ、精霊となって呪式士の元に戻ってからだった。

自分を為していた大切な何かが、そのまま抜け落ちたような感触。


ミセ* −)リ「……ヨツマで既に付けてたの?」

lw;*~/._ ノv「そ。なに、預けていたものを返してもらっただけだよ」

155以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 07:41:15 ID:H2SISWgY0
ミセ* −)リ「私の記憶を消したのも、それ?」

lw;*~/._ ノv「ちょっとだけ違うな。コメとライスくらい絶妙に違う」


言うなれば、魂の表面に薄い膜を付けておいたようなものだ、呪式士は説明する。
ミセリの中の彼女の記憶を、または、ミセリの魂を侵す呪毒を、表面に留める為の膜。
後にそれらを剥ぎ取りやすくする為の、言うなればただの下準備だ。


lw;*~/._ ノv「つまり、あれは言うなれば田植えの前の開墾だ。こう言えばわかるかな?」

ミセ* ー)リ「分かりにくいよ……」


汗と泥にまみれたミセリの頭を、細い指が梳く。
呪式士の優しい指に、身体に溜まっていた疲れは眠気を為す。

そうして微睡むミセリを置いて、彼女はスッと立ち上がった。

156以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 07:41:59 ID:H2SISWgY0
「私ももう行くよ、ここに居たらキミも新しい『呪』に巻き込んでしまうから」

ミセ* −)リ「……あ」


彼女の袖へと伸ばした右手は、何も掴めなかった。

――大丈夫、目覚める頃には、すべて忘れてるから。
名を呼ぼうとして初めて、ミセリは彼女の名前が既に思い出せないことに気付いた。


「ああ忘れてた、その腕輪はキミにあげるよ。心ばかりの報酬だ」

ミセ* ‐)リ「待ってよ……待って」

「『悠久に座す静寂よ――』」

ミセ*;−)リ「お願い、待って――」

157以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 07:42:53 ID:H2SISWgY0
……


,冫,,)( ,,;; ノ",「あひぃ……『呪』、『呪』を吸収、いや、人の、人を――核を交換しなければ……ッ!」


破れた魔人の残骸は、樹海をふらふらと逃げていた。

信じ難い、有ってはならない敗北。
歩みを進めるシャーミンの"心"は、怒りと憎悪に震える。

しかし、今はそれよりも。
彼は体内で明滅する核に目を向けた。

傷つきひび割れた'それ'は、もはや崩壊を待つのみだった。

――この身体は、じきに"死"ぬ。
狡猾な魔導師は手にした不老不死に早々に見切りをつけ、"生き残る"手段を必死に探す。


( )


彼が樹海をさまよう小柄な人影を見つけたのは、その手段を『憑依』に定めた丁度その時だった。

158以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 07:43:46 ID:H2SISWgY0
,冫,,)( ,,;; ノ",「お、あ……あの、そこの、方――頼む、助けて――」

( )「……」


シャーミンは出来る限りの哀れさを装い、よろめく足取りで影に近付く。

影は、答えない。
シャーミンは内心で舌打ちしつつも、尚も必死な素振りで話しかけた。


,冫,,)( ,,;; ノ",「すまねぇ、ちょっとでいい、近くに来て、ぐれッ」


もはや、核は崩壊し始めている。
これは彼にとって、事実上の最後のチャンスだった。

……縋るような声に答えるように、人影は緩慢に振り返る。

159以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 07:44:31 ID:H2SISWgY0
(` )「……待ってろ」

,冫,,)( ,,;; ノ",「は、はぁぁああ、恩にき――!!」
「――そうやってオサム達も騙して、『呪』にしたんだな」


背中に、衝撃。
血も痛覚も無い身体は、ただ違和感だけを訴える。

――核、核を守らなければ。
無意識に伸ばした手は、腹から突き出した人の腕に触れて止まる。

どてっ腹を突き破った腕の、その指先には、小さな女物の髪留め――シャーミンの術式核が握られていた。


,冫,,)( ,,;; ノ",「え……あ……おぁ、お前ぁッ!」

「久しぶりだな。再会早々で申し訳ないが……もう歳なんだ、そろそろお休みの時間じゃないか?」

,冫,,)( ,,;; ノ",「ま、待で、やめてぐれ! お前は俺の息子だろ――」


胴体から引き抜かれる腕、シャーミンはその主を振り返ろうとして、しかし出来なかった。
膝が、腕が、腰が、身体中が、支えを失った糸繰り人形のように崩れ、土塊と化してゆく。

小さな術式核は、小柄な影の手の中で粉々に砕かれていた。

160以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 07:45:09 ID:H2SISWgY0
,冫,,)( ,,;; ノ",「――おのれ――ド――ク、オ――」


それが、呆気ない終わりを迎えた魔人もどきの、最後の言葉だった。
遺された土の塊には、呪砲を発明し、ラウンジを隆盛せしめた、偉大なる魔導師の面影は無い。


('A`)「気安く呼ぶんじゃねぇよ、クソ親父。……じゃあな」


別れの言葉は、たった一言ですんだ。
踵を返し、男は独り暗い樹海を歩む。

161以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 07:45:43 ID:H2SISWgY0
……

エピローグ2/3-1/3-1/3

……

162以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 07:52:34 ID:H2SISWgY0
('(゚∀゚∩「肩と肘が見事に砕けてるよ。手首もきっと折れてる。で、それぞれ炎症のおまけつきと来た」


温厚なナオルヨ先生が冒険者を叱り飛ばす様子は、この薬方院の名物だ。
私はつい気になって、脇腹の傷に響かないようにそっと寝返りを打った。

今朝隣のベッドに入ってきた患者さんは、女性だった。
女性というか、まだ少女と呼ぶ方が良い年齢の冒険者。

肌着から伸びる彼女の左腕には、芍薬の甘い香りが染み込んだ包帯。
伝承のミイラを思わせるその腕に、先生は木彫りの腕甲を当てがう。

彼女が昏睡から目覚めたのは、確か数刻前だったはず。
つまり、彼女は数刻にも渡って先生に説教されている。


('(゚∀゚#∩「ここまで酷いのはそうそう見ないよ! どんだけ長い間感覚を遮断してたのさ!」

ミセ ;-ー)リ「ご、ごめんなさい」

163以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 07:53:07 ID:H2SISWgY0
痛みは身体の大事な信号云々、先生の怒りの説教はゴリゴリ続く。

私は思わず目を背けた。
先生は本当に、本当に優しい人だ。冒険者が無茶をすると、決まってああして説教に入る。
今日ほど怒っているとなると、誰かが止めなければ、朝までだって延々と話し続けるだろう。

今日この場についてその役を請負ったのは、彼女に付き添っていたもう一人の少女だった。


(*‘ω‘ *)「……で、どれくらいで治るっぽ?」

('(∀゚∩「……うーん、薬漬けで絶対安静にしてれば、たぶん一月ないくらいで治るよ。自信無いけど」


付き添いの少女の問いに、ナオルヨ先生は顔を顰めた。

先生のそういう様子は珍しいから、私もつい身を乗り出してしまう。
もしかして、よっぽど症状が重いのだろうか。


(*‘ω‘ *)「怪我の割にはえらく早いな。自信無い、ってのは?」

('(゚∀゚∩「"緑"持ちは自然治癒が馬鹿みたいに速いからね。有る程度処置したら、あとはほぼこの子次第だよ」

(*‘ω‘ *)「成程」


成程。

164以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 07:53:30 ID:H2SISWgY0
('(∀-#∩「全く、今はアイシス局長も戻ってないのに……」


ナオルヨ先生は頭を掻きながら個室を出てゆく。

人出が足りないというだけの事はあって、それなりに忙しそうだ。
恒例のお説教が若干短いのもそのせいだろう。

傷だらけの少女が、その背中に声を掛けた。


ミセ ゚ー゚)リ「そだ、ナオルヨ先生。渡辺さんは元気?」

('(゚∀゚∩「……渡辺さんって誰?」


不思議そうに問い返す先生に、ベッドの少女は驚いた様子。
彼女はそれ以上深く追及せずに、言葉を濁して先生を見送った。

先生の姿が敷居の向こうに消えると、付き添いの少女も首を振って、もたれ掛かっていた壁から背を離した。


(*‘ω‘ *)「……あたしも先に用事を済ませて来るっぽ。一人でも寂しくないな?」

ミセ ゚ー゚)リ「大丈夫だよ……あ、ぽっぽちゃん、ちょっと待って」

(*‘ω‘ *)「あん?」

165以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 07:54:11 ID:H2SISWgY0
ミセ ゚ー゚)リっ∮「このブレスレット、知ってる? すごく良い増幅器みたいだけど……」

(*‘ω‘ *)「……それは、依頼人からお前への報酬だっぽ。大事にしてやれ」

ミセ ゚ー゚)リ「……? うん」


当然だけれど、ほとんど盗み聞きしているような私には、二人の話が全く分からない。
ところが、それは寝ている方の少女も同じだったらしく、少し困惑したように頷いた。

二、三言葉を交わして付き添いの少女が出てゆくと、ベッドの少女は窓の外を眺めた。


ミセ ゚ー)リ「……あのさ。そこの樹だけど、あれってなんて名前?」


私ははじめ、それが私に向けられた言葉だとは気付かなかった。

この病室には、他に誰も居ない。
どうしたものかと悩む私に、彼女はちらっと視線を寄こす。

あれは、桜っていう樹だよ。

私はなるべく平静を装って答えた。


ミセ -ー)リ「……そっか。ありがとう」

166以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 07:56:59 ID:H2SISWgY0
少女は起していた上体をベッドに寝かせ、天井を仰ぎ見た。

窓の外では、秋の風に桜花が静かに揺れている。


ミセ ー)リ「なんでかなぁ」


一人きりの病室に、呟きが漏れる。
遠くの足音、話し声。窓の外で風が草木を揺らす音。

私は静かにベッドを抜け出した。
そのまま壁をすり抜けようとする直前、彼女はもう一度、私に声を掛けた。


ミセ ∩ー)リ"「……ごめんね、気を遣わせちゃって」


私はただ何も言えず、静かに中庭へと降り立った。

いずれ彼女にも再び武器を取り、樹海へと挑む時が来る。
血や涙を、心を失った私には、そんな彼女が羨ましかった。

……

167以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 07:57:39 ID:H2SISWgY0
……

親和で強化した目を通しても、一寸先も見通せやしない。
彼女は諦めて親和を切り替え、嗅覚に神経を集中させた。

微かな花の香りが潮の磯香に交じり、道標のように漂う。

……螺旋階段を下りた先は、光片一つすら無い、真の暗闇だった。
彼女はゆっくりと磯を辿り、やがて一つの独房の前で足を止める。


从'ー'从 ノ「よっす。不様ですなぁ」

「……嫌味でも言いにお出でなさったのかな」

从'ー'从「そんなんじゃないよぉ、追加のお仕事」

「っと、何これ……マメノキ?」

从 'ー从「外区画の素直別邸、五刻後。どっくんが潜伏してるから、補佐して」

「補佐……って、親和も殆ど無いあたしに何をしろって?」

从'ー'从「呪毒の除染治療だって。ラウンジとの重要な情報管だから、何としても死なせられないんだ」


独房の闇の奥から、溜息が暗闇に漏れる。

168以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 07:59:02 ID:H2SISWgY0
「無茶言ってくれるよね。ま、ドクオさんが居るなら何とかなるか」

从'ー'从「うん。それじゃお願いね、局長」

リハ*゚−リ「……はいはい、サクッと行って来ますよ」


音と光、風の無い独房に、背を向ける。
巻き添えになるのも、疑われるのも避けなければならない。

数刻の後、巨大なマメノキの蔓が地下牢を貫き、ラウンジはシハサ牢獄の屋根をぶち破った。

……

169以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 08:00:31 ID:H2SISWgY0
……


飛び散った欠片を拾い集めるように。

物語は、続く。


……

170以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 08:03:50 ID:lDx7oePY0
長らくのご静聴、ご愛顧、ご支援、誠にありがとうございます。
長くて重くて筆の乗らない第二章はここまでとさせて頂きました。

例によって、何かありましたらこちらにお願いします

171以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 08:09:17 ID:lDx7oePY0
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/link.cgi?url=http://www.youtube.com/watch?v=neibvJHm55Y

172以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 08:10:34 ID:lDx7oePY0
おっと、誤送信。参考資料でhttp://www.youtube.com/watch?v=neibvJHm55Y

引き続き、ミセリ樹海をよろしくお願い申し上げます。

173以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 08:22:34 ID:gG6dZ6fI0
おつ!

174以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 11:57:58 ID:tmj2j0qg0
乙!
さっさと仕事終わらせよう

175以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 17:43:16 ID:rb7556EcO
痣はレズシーンのときだろうが記憶はいつ消したんだろう 
誰か教えて!

176以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/14(土) 20:27:07 ID:cjYADz8.0
……あれ、レズシーンなんてあったっけ?
記憶はシャーミン戦の最後の方、地の文からシューって文字が減りはじめたタイミングを裏設定してました

177以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/15(日) 01:12:59 ID:.S/qUy860
おおう、シュー…
ドクオも複雑な生まれだったんだね
乙!!!!

178以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/15(日) 02:07:44 ID:Hi8l056UO
>独房の闇の奥から、溜息が暗闇に漏れる。 
 
誰が幽閉されてるか気になるがこれはネタバレだからだめな質問だろうな

179以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/15(日) 05:43:04 ID:Cfzo/lqk0
>>178 アイシスじゃない?
渡辺さんってラウンジで工作してたって下り、確かどこかにあったよね。読み返して来るか……

180以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/16(月) 04:04:09 ID:FT/CcP6U0
何気にクーが天涯孤独になってしまったなあ

181以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/16(月) 21:56:55 ID:DeX6v6sA0
え?
シュー生きてるんじゃ無いの?
俺の勘違いなのか?

182以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/16(月) 22:55:54 ID:HCt7uo5U0
そもそもクーの実家は普通に健在……だよな?
しばらく待てば拳マスタリーLv10のヒートちゃんも出して来るはず

183以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/28(土) 03:15:23 ID:6OHruua20
|ω・`)チラッ

184以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/10/03(木) 18:48:21 ID:/wB/xqdQ0
すんません、ちょっと職探しがですね。このままだと僕自身も樹海に入る事になってしまうのです
良ければまた月末を目処にお願いします

185以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/10/03(木) 22:57:46 ID:9hCeOGbU0
就活乙
俺もなんだぜ、お互いがんばろうな!

186以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/10/18(金) 10:51:04 ID:iVKaWUls0
作者「樹海で逝く者のようです」、か

187以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/10/29(火) 02:38:28 ID:NikpwrD60
月末やでー!就活どうよ?

188以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/10/29(火) 21:08:56 ID:NVbNvU6Q0
就活って一つ内定貰えると勢いつくよね
たまには息抜きも大事だよ

189以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/11/01(金) 21:44:57 ID:FRKYM5lw0
ごめんなさい実はまだ内定いっこも貰ってないんです

190以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/11/04(月) 01:59:10 ID:nGhtVsFw0
俺もなんだぜ…

191以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/12/18(水) 22:01:38 ID:otpZ82sk0
二つ、報告します

192以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/12/18(水) 22:03:38 ID:otpZ82sk0
まず一つ目。いいニュース

健闘の甲斐あり、というか、皆様のご支援の甲斐あり、無事に北海道のとある企業様から内定を頂きました!

193以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/12/18(水) 22:04:50 ID:otpZ82sk0
そして二つ目は悪いニュースですが。




内定もらったんだけどね。
卒論不受理で留年確定しましたorz

194 ◆LpPqFskzB6:2013/12/18(水) 22:09:37 ID:qByO7/qM0
いやー、本当ね。
地球、樹海に沈まねぇかな。マジで

こんなゴクツブシですが、来年もよろしくお願いします

195以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/12/19(木) 09:46:44 ID:.JWAQoOsO
あらー、色んな意味で乙ですな

196以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/12/19(木) 18:39:15 ID:wpM4QqA20
おっと、忘れるところだった
ミセリ誕生日おめでとう

197以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/12/20(金) 00:03:27 ID:W6U854Js0
おお、それは大変だったな・・・乙
俺もたまに隕石降ってこいとか願ってるぜ('A`)地球が樹海に沈むのもいいな

ミセリ誕生日だったのか、おめでとう

198以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/01/01(水) 20:59:45 ID:vlc7PjZY0
あけましておめでとう
今年も楽しみにしてるよ

199以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/01/14(火) 20:53:22 ID:AHUnCEGk0
元気ー?

200以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/01/15(水) 01:34:32 ID:sGS7gzoI0
風邪引いて死にそうだよー
作者は元気ー?

201以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/01/17(金) 22:18:01 ID:pP6gmeTM0
>>200
お大事にね

202以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/01/18(土) 01:23:22 ID:b057QQBA0
奥歯二本もぶっこ抜いたせいで色々と問題出てるけど元気です

後始末に手間取ったけれど、そろそろ投下します

203以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/01/21(火) 18:40:29 ID:.WGEbL1A0
wktk

204以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/01/21(火) 21:21:53 ID:Hxj0H7E20
おーついにか!
待ち遠しいわ

205以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/02/07(金) 20:21:16 ID:OW8ngGY.0
たまに、ありがたくも、創作でやってくれって意見を言って下さる方が居らっしゃいますね

ごめんなさい、もう少しこの廃墟板で頑張ってみたいんです。お引っ越しは、当面は行わない心積もりです
ご支援ありがとうございます

2061/50:2014/02/07(金) 20:29:01 ID:g96DFvxs0
据え付けられたノッカーを乱雑に数度打ち鳴らし、返事を待たずドアを押しあける。
歓迎は晩夏に似合わぬ異常な熱気と、所狭しと並べられた増幅器付きの武具の数々。

ぽっぽは重苦しい武具棚の間を抜け、店の奥、工房への扉を潜った。

店主を兼ねる工房主は、鉄輪付きの車椅子に腰かけ、鉱炉を覗き込んでいる。


(*‘ω‘ *)「よっす、久々」

(  ^)「……なんだ、お前か。ちょっと待ってろ」


鉱炉から引き出された金属細工は熱を吸った橙色、刻み針がその熱塊に表情を与える。

ぽっぽはただ、無言で彼の手元に見入った。
空色の石が金属の中心に浮かび、その澄んだ眼を開けてゆく。

2071/50:2014/02/07(金) 20:29:48 ID:g96DFvxs0
(*‘ω‘ *)「それは……アンプか?」


工房主は答えず、作業台の術式回路に精霊を流し込んだ。
壺型の冷却機巧が回転し、氷混じりの白い霧を噴きだす。

鉛鉄の覆いを乗せた増幅器の元型を壺の底に慎重に横たえ、主はようやくぽっぽを振り返った。


( ^Д^)「何しに来たんだ、チビガキ」


プギャー・ストロサス。
数十の職工を束ねる溶鉱炉の護主・ストロサス一門の、その落とし子。
貴族を名乗ることを王に許された唯一の工廠一家の、異端のはぐれ者。

不自由な足に代わる車輪を軋ませ、不機嫌そうな声で彼はぽっぽを出迎えた。

2081/50:2014/02/07(金) 20:30:46 ID:g96DFvxs0
(*‘ω‘ *)っ[ミ]


作業台に置かれた布の小包みに、プギャーは怪訝な顔を見せた。
拳大の包みを開くと鉄木の欠片、その中心には上質な大ルビー。

顔を上げると、客人は至極申し訳なさそうに目を逸らしている。


(;^Д^)っ「なんだ、これ。増幅器……付きの、ワンドの欠片?」

(* -ω)「悪い、折れたっぽ」

(#^Д^)「ふざけ、おま、何度目だよ! ウチの武器の評判落とすの止めろって!」

(*‘ω‘ *)「一応聞くけど、それ直るか?」


プギャーは無言でルビーを取り上げ、その脇に纏わりつく鉄木片に小刀の腹を押し当てた。

2091/50:2014/02/07(金) 20:31:14 ID:g96DFvxs0
( ^Д^)「ま、今回は長持ちした方か。……それで?」

(*‘ω‘ *)「蛇剣に芯まで削られて、そのままドラゴンの後ろ頭をおもくっそブッ叩いたっぽ」

(;^Д^)「はぁ? 随分ハデな冒険してるんだな」

(* -ω-)「そのワンドにはずいぶん助けられたっぽ」

( ^Д)「……ふん。それなら良い」


木片から削り出した赤い増幅核を、プギャーは片手で放った。
真球の宝玉が、受け取ったぽっぽの手の中で仄かに熱を放つ。


( ^Д^)「核が無傷なのは不幸中の幸いってところだな。下手に加工しなくても、転用できる」


プギャーは冷却機巧を止め、車椅子を巧みに操って店の方へ抜けた。
ぽっぽは無言でその後に続いた。床木が軋む音色が寂しく後を引く。

2101/50:2014/02/07(金) 20:31:56 ID:g96DFvxs0
( ^Д^)「それで、どうするんだ?」

(*‘ω‘ *)「代わりになる戦棍が欲しい。今ある品を見せてくれ」

( ^Д^)σ「そっちの、奥の棚だ」

(*‘ω‘ *)「さんきゅ」


ぽっぽは指された棚を見上げた。
下段は叩き潰すことに特化した大柄な槌棍から、上段は軽さを優先した細い鞭棍まで、数十の棍が並んでいる。

これらの得物はすべて、ストロサス家の工蔽で製造・量産されたものだ。

隣に並んだプギャーが棚下の引き出しを開け、掛け金の鍵を取り出した。

2111/50:2014/02/07(金) 20:32:22 ID:g96DFvxs0
( ^Д^)「ほら、好きなのを試しな」

(*‘ω‘ *)「ん」


前の一振りと大きさが近い一本を選び、手に取る。
見た目に反して、随分と軽い。

求めているものではない、ぽっぽは精霊を通すことなく棚に戻す。


(*‘ω‘ *)「これより重いのは無いのか?」

( ^Д^)「予算次第だな。基本的には重いほど頑丈で、頑丈なほど高い」

(*‘ω‘ *)「ほう」

2121/50:2014/02/07(金) 20:32:59 ID:g96DFvxs0
続けて手に取ったのは、一周り大きな槌鉄付きの棍。
先端部分にも増幅器が埋め込まれ、赤く輝きを放つ。

片手に持ち上げると、極端に偏った重さのバランスは存外に持ちにくかった。

首を捻り、棚に戻す。これもまた、しっくり来ない。


( ^Д^)「んで、予算の都合はあるのか?」

(*‘ω‘ *)「とりあえずは考えなくて良い。少なくとも前のと同じ位の額は出せるっぽ」

( ^Д^)「じゃあその打棍は明らかに力不足だな。三つ左隣りの、黒樫を取ってみろ」

(*‘ω‘ *)「これか?」


示されたのは、肉厚の鉈の形に整えられた、単純な作りのオールメイス。
皮を巻いただけの持ち手は馴染みが悪かったが、重みもバランスも悪くない。

ぽっぽは目を細めた。

2131/50:2014/02/07(金) 20:33:54 ID:g96DFvxs0
( ^Д^)「前の捩棍からだと慣れるまではかなり辛いだろうが、それがウチの売り物で一番良い棍だ」

(*‘ω‘ *)「ふぅん……確かに、これは悪くないな」


親和を通すと、先端の精霊機巧は精霊を推進力に変えた。

振り下ろすと、鋭い風切り音。
その形状ゆえだろうか、重さの割には速度が乗り、なかなか心地が良い。


(*‘ω‘ *)「……悪くないっぽ。ああ、悪くない」

( ^Д^)「じゃソイツはダメだな。最初に取った時『良い』と言えない武器は、肝心な時にぶっ壊れる」

2141/50:2014/02/07(金) 20:34:28 ID:g96DFvxs0
(*‘ω‘ *)「ん……すまんな」

( ^Д^)「良いさ。半端に選んで樹海で死なれるよりよっぽど良い」

(*‘ω‘ *)「……っぽ」


黒樫を棚に戻し、ぽっぽは棚を眺めた。
姿形はそれぞれで、しかし、「これ」と思うものは一つも無い。


( ^Д)"「ま、気に入るものが無いなら無理に買わなくても良い。気が済むまで試しな」

(*‘ω‘ *)「……なぁ、プギャー」


車椅子を反転させ、工房へと向かうプギャー。
ぽっぽはその背中に声を掛けた。


(*‘ω‘ *)「お前の工房に大事に飾ってある捩棍、アレは売り物じゃないのか?」

2151/50:2014/02/07(金) 20:35:17 ID:g96DFvxs0
(  ^)「……あれは、前の客の特注品だ。縁起が悪くて売るに売れないから、後ろに置いてるだけだ」


ちょっと待ってろ、プギャーはそう言って工房へと姿を消す。
戻ってきた彼の手には、黒鉄木の大戦棍が握られていた。

ビロード二人分にも迫るような大柄な柄材に、先端には精霊出力機巧。
握りの鋳鉄も本体に比例して太く、ぽっぽの手には大きく余る。

名棍の器を持ちながら、その巨大さゆえに常人には振りあげることも、振り下ろすことも困難なほど。


( ^Д^)「『黒天大王』、その棍の銘だ」

(*‘ω‘ *)「……重い、な。どんな客の注文だ?」

( ^Д^)「トカラス人の、バカでかい冒険者だよ。しばらく前、クフ高原のスタンピードで殉死した」

2161/50:2014/02/07(金) 20:35:48 ID:g96DFvxs0
親和を起動。
"赤"の精霊を、柄と先端の増幅器に通す。

埋め込まれた増幅器は決して質の悪いものではなかったが、相性が合わず、求めただけの出力は出ない。


( ^Д^)「その核は仕上げの際に交換する予定だった。もともと仮留めだ」

(*‘ω‘ *)「……良い」

( ^Д^)「あん?」

(*‘ω‘ *)「ここの棚の、他のどれより良い。これが気に入った」


金は言い値で払う。だから、売ってくれ。
ぽっぽの求めに、驚いたのはプギャーだった。

2171/50:2014/02/07(金) 20:37:39 ID:g96DFvxs0
(;^Д^)「な、何言ってるんだ。お前それ、持つこともできないだろうが」

(*‘ω‘ *)「それは……後で握りを削ればなんとか……」

(;^Д^)「そいつは黒鉄木だぞ、素人にそんな加工は無理だ。それに第一、重さだってお前の身体に合わない」

(*‘ω‘ *)「……くっ……」


ぽっぽは悔しげに引き下がった。

戦棍を選ぶ際に基準となるのは、何よりも重さと大きさだ。
腕力が足りなければ振り回す出来ないし、体重が足りなければ自分が振り回される。

切るように叩く鉈型の打棍ならばともかく、重心が先端に寄った捩棍を選ぶ際には、
そのバランスが絶対の条件として挙げられる。

黒天大王、その一振りは、ぽっぽが持つにはあまりにも大きすぎ、重すぎた。
あと、それを買うなら予算は金貨数十枚は下らないぞ。この言葉は、プギャーはなんとか飲み込んだ。

2181/50:2014/02/07(金) 20:38:16 ID:g96DFvxs0
( ^Д^)「だいたい、そんな異端品のどこが気に入ったんだよ」


モノの良さで言うなら、さっきの黒樫だってストロサス本家から取り寄せたものだ。

種別が少し違うとはいえ、使い易さも精霊効率も、段違いに向こうの方が上だ。


(*‘ω‘ *)「うまく言えないが……とにかく、気になるっぽ」

( ^Д^)「……そうかい。だが、それでも売れないな。お前には合わないんだからよ」

(*‘ω‘ *)「ぐぅ……」


ぽっぽは渋々と棍をプギャーに返した。
プギャーはそれを受け取らず、代わりに棚の端、空いた一枠を指差す。
立ち並ぶ棍の数々と比べても、この黒天大王は一周り以上は大きい。

ぽっぽは名残惜しげに示された棚に棍を立てた。

21915/50:2014/02/07(金) 20:39:12 ID:g96DFvxs0
(*‘ω‘ *)「どんな奴だったんだ?」

( ^Д^)「……変人。んで、ぶち抜けてバカだった。腕っ節は良かったんだがな」

(*‘ω‘ *)「……ふぅん」

( ^Д^)「放って置きゃいいのに、クフ高原のスタンピードに立ち向かって、喰われて死んだバカだよ」


車椅子を回転させ、プギャーは店の奥へと進んでゆく。
ぽっぽは棚から目を離し、その後を追った。


(*;‘ω‘ *)「なぁ、もしかしてあの黒天大王って……」

( ^Д^)「……ああ、俺の作品だ。昔のモノとは言え、褒められた出来じゃねぇ」

(*‘ω‘ *)「そんな事は無いっぽ。お前、調整だけじゃなくて精造もしてたんだな」

22015/50:2014/02/07(金) 20:40:53 ID:g96DFvxs0
( ^Д^)「その話は良いさ。それより、この先の武器はどうするんだ?」

(*‘ω‘ *)「……どうするかな。気に入ったものがアレしか無い以上、他の物を買う訳にはいかないっぽ」

( ^Д^)「ふぅん……ま、それなら一度、ストロサス本家の工房に行ってみろよ」


プギャーはカウンターの下から一枚の小さな柄付きの鉄判を取り出し、工房へと入った。

鉄判の印形は、ストロサスの銘。
鉱炉の竈に翳して灼熱したそれを、プギャーは小さな羊皮紙片に押し当てた。

獣臭い、皮素材が焦げる匂いが漂い、ぽっぽは思わず顔を顰める。


( ^Д^)っ□「ほら、こいつが紹介状だ」

(*‘ω‘ *)「いいのか? 助かるっぽ」

22115/50:2014/02/07(金) 20:41:13 ID:g96DFvxs0
( ^Д^)「いいか、ただの冒険者が工房に入れんのは日没後の一刻の間だけだ。遅れるな」

(*‘ω‘ *)「ほーん」

( ^Д^)「……さっさと行け。今から行けば、日没には間に合うだろ」

(*‘ω‘ *)「……っぽ。また来る。次は茶の一杯くらい用意しとけっぽ」


足音が遠ざかり、ドアが軋み、静寂。
プギャーは乱雑に印型を放った。

カラカラと、澄んだ、乾いた音が響く。


( ^Д^)「……ふん」


反響音が静まり、再び静寂。
工房の主は、空き手に相棒の鎚を取り上げる。

重く冷たい鉄塊が、炉の赤を照り返した。

22215/50:2014/02/07(金) 20:44:10 ID:g96DFvxs0
ミセ*゚ー゚)リ樹海を征く者のようです

幕間δ−表

22315/50:2014/02/07(金) 20:45:05 ID:g96DFvxs0
……

( ^Д^)っ“旦「……んで結局、本家じゃ何も買わなかったと」

(*‘ω‘ *)っ旦~「ぽ。どーにも肌に合わないというか、まぁ、とにかく、気に入らなかったっぽ」

( ^Д^)「贅沢な冒険者サマだな」


差し出された茶を一息に飲み干す客人に、主はあきれた声を出した。
熱気を逃すために開けた窓の外に、白昼の喧騒が遠く聞こえて来る。


( ^Д^)「親父の銘の入った作品なんて、手を触れるだけでも中々出来ないってのによ」

(*‘ω‘ *)「……すまん」

( ^Д^)「いや、良いさ。しっかし、そうすると、お前の気に入るような戦棍なんぞ誰も造れんぞ」


ぽっぽは静かに首を振った。

22415/50:2014/02/07(金) 20:45:59 ID:g96DFvxs0
(*‘ω‘ *)「悪くは、なかったっぽ。きっと、誰が扱っても“悪くない”だけの品だった」

( ^Д^)「……だろうな」


なにせ国王お抱えの貴族様だ。

自嘲するようなプギャーの声を背に、ぽっぽは棚を見上げていた。
立て掛けられた巨大な戦棍は物言わず、ぽっぽを見下ろしている。


(*‘ω‘ *)「お前は、貴族や冒険者に戻るつもりは無いのか?」

( ^Д^)「無い。というか、戻りたくても戻れねぇよ。この足じゃな」

(*‘ω‘ *)「……悪い」

( ^Д^)「いいさ。それだけじゃないし、何より……」


プギャーは言葉を切り、ぽっぽの視線の先の戦棍を見やる。
巨大な戦棍はやはり物言わず、プギャーを見下ろしていた。

22515/50:2014/02/07(金) 20:46:31 ID:g96DFvxs0
(*‘ω‘ *)「……?」

( ^Д^)「……いや。ソイツにきっちりケリ付けるまでは、ここを畳む気になれねぇんだ」

(*‘ω‘ *)「例の、トカラス人だったか」

( ^Д^)「……」

(*‘ω‘ *)「……なぁ」


車椅子を繰って、プギャーは捩棍に背を向けた。
そのまま工房へと引こうとする彼の背に、ぽっぽは声を掛ける。

22615/50:2014/02/07(金) 20:47:18 ID:g96DFvxs0
(*‘ω‘ *)「どうしても、アレを売ってくれるつもりは無いのか?」

( ^Д^)「ああ、無い。お前の身体に合わないし、死んだ客の為の武器なんぞ縁起が悪くて売り物にならん」

(*‘ω‘ *)「……仕方ない」



(*‘ω‘ *)「それなら売ってくれるまで通うまでだっぽ」

(;^Д^)「……あ? 何言ってんだ、お前……おい待てって!」



呼びとめるプギャーを無視し、ぽっぽは一足に店を飛び出した。

乱暴に扉が閉ざされ、再び静寂。プギャーの溜息が静かに蹲る。


( ^Д^)「……どうしろってんだ」


疲れた、そう言外に語る声を、巨大な戦棍は物言わず見下ろしていた。

22715/50:2014/02/07(金) 20:48:19 ID:g96DFvxs0
……


(*‘ω‘ *)「で?」
( ^Д^)「だめだ」

(*‘ω‘ *)「……ち」


堂々の宣戦布告から六日、両軍は膠着状態を打破できず。

片方が頼むと言えばもう片方は駄目だと返し。
片方が諦めろと言えばもう片方は嫌だと返す。

現在までのところ、両者共に根負けする予定などは無い。


( ^Д^)っ“旦「……ったく。ほれ」

(*‘ω‘ *)っ旦~「さんきゅ」


差し出された茶を一息に飲み干すぽっぽに、プギャーは片肘をついてあきれた視線を向ける。
もう三日も前から、彼はこの厄介な客人が来る定刻の直前に茶を用意するようになっていた。

鼻息荒く押し入ってくる彼女も、湯呑を机上に置く頃には随分と大人しくなっているものだ。
良い値段に釣り合う効能は出ているらしい、プギャーは目を細めるぽっぽから目を逸らした。

22815/50:2014/02/07(金) 20:49:42 ID:g96DFvxs0
( ^Д^)「毎日毎日、本当に御苦労なもんだ。糸目のチビはお守してなくて良いのかよ?」

(*‘ω‘ *)「問題無い。奴なら別のチビに任せてあるっぽ」

( ^Д^)「別のチビ、ねぇ……どんな奴?」

(*‘ω‘ *)「あー、えーと……腹黒で意地っ張りで、チビで癖っ毛でオカルト体質で、とにかく良い奴だっぽ」


ぽっぽの回答に、思わず呆れて額を手の甲に押し当てる。


(;^Д^)「良い奴だと思うんだったら少しは良いトコも挙げてやれよ」

(*‘ω‘ *)「いやだ。……んで、今は肘の骨をぐちゃぐちゃに折って入院してるっぽ」

( ^Д^)「肘って……お前の棍を折ったとかいうドラゴンか?」

22915/50:2014/02/07(金) 20:50:21 ID:g96DFvxs0
(*‘ω‘ *)「ドラゴンはまた別だっぽ。ミセリはラウンジの、よくわからん親和使いにやられた」

( ^Д^)「はぁ、そりゃまた何とも……」

(*‘ω)「もうあと数日で完治するらしいけどな。出来ればそれまでに心変わりしてくれると嬉しいんだが」

( ^Д)「残念ながら、そんな予定は無いな。今のところ、新しく別の品を入荷する予定も無い」

(* -ω-)「はぁ。……仕方ない、間に合わせに別のを売ってくれ。実はあまり時間も無い」


プギャーは驚き、顔を上げた。
目の前のぽっぽは、空の湯呑に眼を落したまま、動かない。


( ^Д^)「なんだ、依頼でも受けたのか?」

23025/50:2014/02/07(金) 20:51:07 ID:g96DFvxs0
(*‘ω‘ *)「D級の任務だがな。ガセウ遺跡へ向かう学者サマの護衛だと」

( ^Д^)「……ガセウか。お前らには縁の深い所でもあるな」


ガセウ。ヨツマの南、数日ほどの距離に広がる、旧時代以来の遺跡群。
完全にヨツマの勢力圏にあるその地下遺跡までは確かに、E級程度の実力があれば安全に旅できるだろう。

かつて自身の両足を完全に焼き殺した“眼”を思い出しながら、プギャーは眉根を寄せた。
十数年前にどこぞの冒険者が隠し通路を見つけて以来、遺跡の深部は探索し尽くされ、今は開かずの扉があるばかりだったはずだ。
確かに常駐の兵を置くほどの設備でもなく放置された遺跡内は様々な生物の“ねぐら”にされ、それなりに危険であることには変わりない。

23125/50:2014/02/07(金) 20:52:01 ID:g96DFvxs0
( ^Д^)「物好きな学者センセーも居たもんだな。今さら別の“オルガン”を探そうってんでもないだろうし……」

(*‘ω‘ *)「例の最深部の扉に発明を試したいんだとさ。病み上がりのミセリの、良い腕慣らしっぽ」

( ^Д^)「ふぅん……まぁ良いさ。好きなの持って行けよ」

(*‘ω‘ *)「……ん」

客は棚を見上げ、やがてその視線を両手に落とした。
掛け金の鍵をプギャーから受け取り、彼女は一本のオールメイスを棚から下ろす。

初日に手に取った、均整の取れた一振り。

プギャーは彼女の意図を測れず、ただ車椅子を繰って一歩引いた。
風切り音と共に振り下ろされた木鉈は淀んだ空気を縦に引き裂き、切り飛ばされた空間を返す刃が再び叩く。

美しく、鮮やかな武踏。
見惚れるプギャーをよそに、舞い手は真剣な眼でメイスの増幅器を覗きこんだ。


(*‘ω‘ *)「なぁ、プギャー。多分だけど、これもお前の作品だよな」

( ^Д^)「あん? ……それがどうした」

(*‘ω‘ *)「お前、コレを造った時は何を考えていたんだ?」

23225/50:2014/02/07(金) 20:52:31 ID:g96DFvxs0

( ^Д^)「……バランスと、トップスピード。軽めに仕上げて――」
(*‘ω‘ *)「――初心者にも扱いやすいように、だよな。だからこそ、捻くれ者のアタシには合わない」


プギャーは息を飲む。
ぽっぽはオールメイスを棚に立て掛け、その三つ隣の破砕鎚を掴んだ。

頑丈さにはやや劣るものの遠心力の乗りやすく攻撃力に長ける長柄、その鎚頭には数種の変換器。
ぽっぽが親和を起動する。"赤"の精霊が増幅器を通し、変換器を経てその形を変え――灼熱した。

大気が熱に歪み、鎚頭を覆う白い金属はその色を真っ赤に染め上げる。


( ^Д^)「……」

(*‘ω‘ *)「多くのギミックは、攻撃の選択肢を増やすため。手詰まりを避けるため。賢くないアタシには合わない」

23325/50:2014/02/07(金) 20:53:24 ID:g96DFvxs0
( ^Д^)「……確かにお前は、賢くはねぇな」


プギャーは親和を起動し、鎚の変換器へと精霊を通した。

発動した"白"の親和は拒絶の色。
衝動の"赤"を中和して削り取る。

朱橙の高熱はやがてその力を失い、輝きを白銀に抑える。

ぽっぽは完全に冷えた鎚を受け取り、棚に戻すと、その隣の大柄な一振りを手にした。

硬化熔土で覆われた蔦が双円形の柄を覆い、二段に組まれた護拳は連鉄鎖付きの折れ十字。
重心がやや低く寄った双頭の鋼棍棒の、その巨躯がぽっぽの手元で滑らかな二重円を為す。


(*‘ω‘ *)「これは受け手をより広く、堅牢に。使い手の退路を守るため。負けず嫌いのアタシには合わない」

( ^Д^)「……そうかい。それで? どういった戦棍なら気に入るってんだ?」


この厄介な客が何がしたいのか、まるで分からない。
プギャーは棚に残った武具を見渡すぽっぽに、やや苛々した様子で声を掛けた。

棚に残っている打撃器のうち、プギャー自身の作は――ストロサス本家の大工廠の作でないものは、一振りしか無い。
そして、客人の眼はまさに、その一振りを真正面に見据えていた。

23425/50:2014/02/07(金) 20:54:03 ID:g96DFvxs0
(*‘ω‘ *)「お前は良い職工だっぽ。今はアタシにもわかる。どの装具にも、魂が溢れてる」

( ^Д^)「……買い被るな。まだ鎚を振るい初めてたかだか二十数年だ」

(*‘ω‘ *)「……お前は、良い職工だっぽ。でも、分からないんだ、コイツだけは。
激しくて、強くて、深くて、――苦しくて、それなのに、どの一振りより真っ白だ」


言葉を切ったぽっぽが、つと振り返る。
小柄な彼女でも、こうして相対する限りでは車椅子のプギャーよりはやや目線が高い。


(*‘ω‘ *)「なぁ、プギャー。お前、コレを造った時、何を考えていた? 何を思っていた?」


鋭く問いかける客人の言葉に、主人は静かに彼女を見返す。
鉱炉を覗き込んでいる気分だ。体全部が焼けるように熱い。
プギャーは慎重に言葉を選び、灼熱の炉中へと放り込んだ。

23525/50:2014/02/07(金) 20:54:32 ID:g96DFvxs0
( ^Д^)「さぁな。受け取りに間に合わせようと必死だったから、それ以外は覚えていない」

(*‘ω‘ *)「それは嘘だっぽ。冒険者なら分かる」

( ^Д^)「……忘れたんだよ。ああ、そんな事は全部、ぜんぶ忘れたさ。
そんなどうでも良い事なんぞ、勝手にくたばりやがった身勝手なバカと一緒に、ぜんぶ忘れたんだ」


言い聞かせるような答えに、それでも客は目を逸らさず、ただ沈黙をもって主を刺した。

主は目を伏せ、車椅子を操って客に背を向ける。
床の軋む音。僅かに舞う埃が窓から差し込む陽光を受け、日陰に消える。

客人は踵を返し、店の入口のドアに手を掛けた。


(*‘ω‘ *)「……すまないが、やっぱり諦めきれないっぽ。また、来る。なぁプギャー」

( ^Д^)「……」

(*‘ω‘ *)「アタシは…その、お前に何があったかなんて知らないが、お前はきっと――」

23625/50:2014/02/07(金) 20:55:10 ID:g96DFvxs0
――ずっと後悔していたんだな。

その一言に、車椅子は動きを止めた。

23725/50:2014/02/07(金) 20:55:53 ID:g96DFvxs0
(#^Д^)「――消えろ、出て行け! 二度と俺の店に来るな、クソチビ!」

(*;-ω-)「……ッ!」


ぽっぽは思わず息を飲んだ。

過去一度として触れた事の無い程の、熱く根深い彼の激情。
己に向けられたそれに触れ、ぽっぽはその場に立ち尽くす。

息荒く怒声を轟かせた彼は、収まりの付かぬ感情に任せ、乱暴に車椅子を反転させた。
怒りにまかせてぽっぽに詰め寄ろうとした彼の足下で、床が激しく軋み悲鳴を上げる。

そして同時に車椅子の動きが、床の悲鳴に絡め取られるように、その進路を歪めた。

古びた床板の隙間が車椅子の車輪を絡め取ったのだと、ぽっぽはその瞬間に見てとった。
半端に勢いを付けた車椅子が主もろとも棚にその身を投げ出す姿を、直後に見てとった。

掛け金の外れた幾つかの打撃器が――皮肉にも、彼自身の作ばかりだったが――ゆっくりと棚から傾ぐ。


(*;‘ω‘ *)「お、おいプギャー、危なッ!」

23825/50:2014/02/07(金) 20:56:59 ID:g96DFvxs0
ぽっぽは咄嗟に、親和を起動した。

"赤"の精霊は衝動の色。増幅器を通して衝撃と化し、古びた床板を蹴る。


――轟音。

棚の上から倒れ込んだ超大型の捩棍が、木と薄鉄材の車椅子を踏み潰した。
ぽっぽがプギャーの身体を掴み、崩落のその場から連れ出した直後だった。


(#^Д)「う……っぐ、う」

(*;‘ω‘ *)「……ぐ……大丈夫、か?」


プギャーは小さく呻き、腕の力だけで身体を仰向けに反転させた。
手を差し出すと彼は意外なほど素直にその腕を掴み、身を起こす。


(#^Д^)「……ガキどもが、見透かしたような面しやがって……てめぇらに、何がわかるって……」


泥を吐き出すような小さな言葉が消えると、彼はそれきり、何も言わなかった。
ぽっぽは店内を見渡して来客用らしい椅子を見つけ、プギャーの側に運び、手を貸して座らせる。

ぽっぽもまた、何も言わなかった。
折り重なった武具の一つ、床板と車椅子とを叩き砕いた巨大な捩棍が、彼女を見返していた。

23925/50:2014/02/07(金) 20:57:54 ID:g96DFvxs0


( ^Д^)っ“旦「……すまなかった。それと、助かったよ。ありがとう」

(*‘ω‘ *)っ旦~「い、いや。こちらこそ、悪かったっぽ。無神経だった」


差し出された茶を一息に飲み干すぽっぽに、プギャーは片肘をついて静かな視線を向けた。

車椅子を失ったプギャーは、車輪の両脇にあって辛うじて無事だった二本の杖と動かない足を支えに使い、自身の身体を工房へ運んだ。
不便そうではあるが、彼の場合はそれなりの生活を送る程度は支障が無いらしく、ぽっぽはひとまず安堵した。

崩れた武具は一通り棚に戻したものの、店の床板には大きな穴が開き、車椅子の車輪は大きな後輪二つがダメになっている。
プギャーの方は、そんな店内の様子には特に気を置く様子も無く、火の入った炉とその上に吊った"やかん"を見つめていた。

やがて湯が沸くと、彼は椅子の上から手を伸ばし、急須の茶葉の上に注ぎ入れる。
そうして淹れた茶を手持無沙汰のぽっぽに差し出し、長い沈黙を破ったのが先の一言だ。

ぽっぽが空の湯呑を突き返すと、彼は慎重に言葉を選びながら、重い口を開く。

24025/50:2014/02/07(金) 21:00:11 ID:g96DFvxs0
( ^Д^)「お前の言った事は、半分はその通りだ。俺は、ずっと後悔していた」

(*‘ω‘ *)「……っぽ」

( ^Д^)「俺がもっと早く、あの黒天大王を完成させていれば。そりゃ確かに、そうだよ」

(  ^Д )「くたばったマリオルドが、この黒天大王を振るってりゃ生き残れたってのも……その通りだ」

( ^Д)「あいつが……クフ高原で、殉死した時に、使っていたのは……俺が、造った戦杖だった、から」

(*‘ω‘ *)「……それは」

( ^Д )「俺が造った、未熟、な杖が……索塔獣、に、圧し折ら、れ……」

(*‘ω‘ *)「……」

( ^Д;)「俺が、殺した。俺の未熟さが、マリオルドを、……むざむざ樹海に、喰わせちまった」

(* -ω - *)「……そうか」

( ;Д;)「死ぬ直前に泣いたんだ、あのヤロウ、薬方院で。腹ぁ半分も引きちぎられてんのに。
あの馬鹿野郎、もう死ぬの、分かっていて……悔しそうな、顔、それで、泣きやがった」

(* -ω - *)「……」


……

24125/50:2014/02/07(金) 21:00:49 ID:g96DFvxs0
( ^Д^)「……どうしても、樹海に戻るのか?」


再び店の入口の扉に手を掛けたぽっぽに、プギャーの声がかかる。

陽は既に傾き、窓を満たす空は赤。
ドアを僅かに押すと、入り込む空気は僅かに冷たかった。


(*‘ω‘ *)「ま、冒険者だからな」

( ^Д^)「……本当、羨ましいね。怖くねぇのかよ、他にいくらでも生き方はあるだろ」

(*‘ω‘ *)「お前みたいに、か」


問い返してから、その言葉を少し後悔した。
プギャーは苦笑しながら、首を小さく振る。

24225/50:2014/02/07(金) 21:01:26 ID:g96DFvxs0
(*‘ω‘ *)「アタシは、冒険者だっぽ。それに、チビ二人の面倒だって見なきゃならん」

( ^Д^)「……そうか」

(*‘ω‘ *)「また来る。……アタシ達は、五日後にガセウへ向かうっぽ」

( ^Д^)「……」


去りゆく客人を見送ると、プギャーは杖を頼りに彼女が並べ直した武具の棚の前に歩き、そこに座り込んだ。

それからしばらくの間、彼は冷たい床上に座ったまま、色彩を失ってゆく大振りの捩れ戦棍を見上げていた。
宵闇が店の中に入り込んだずっと後、再びドアノッカーが来客を告げる時まで、彼はそうして動かなかった。

24325/50:2014/02/07(金) 21:02:03 ID:g96DFvxs0
……

翌日、ぽっぽが訪れた時には、工房にはしっかりと鍵が掛けられていた。

いくらノッカーを鳴らしても返事は無く、しかし工房の煙突からは鉱炉の噴き上げる特徴的な黒煙が昇る。
窓も見える範囲は全て鎧戸が下ろされ、中を見通す事は出来ない。

結局その日、ぽっぽは肩を落として帰るしかなかった。

その翌日に出直した際にも、更に翌日にも、プギャーが呼び掛けに応じる事は無かった。

……

24425/50:2014/02/07(金) 21:03:41 ID:g96DFvxs0
……

その更に翌日になると、ぽっぽ訪れた際には、ドアの鍵は外れていた。

期待せずにノブを引いたぽっぽは、抵抗なく開いたドアに返って意表を突かれ、その場でたたらを踏む。
治安の良くない南東地区とはいえ、白昼のヨツマ市街にあって、窓の光を遮った店の奥は薄暗い闇の中。

これじゃまるで、御伽話に出てきた吸血鬼の根城だ。
キツネに抓まれたような心持ちのまま慎重に様子を窺うぽっぽに、カウンターの向こうから声が掛かる。


( ^Д^)「どうした、なにボーっと突っ立ってやがる。入って来いよ」

(*‘ω‘ *)「……あ、ああ。そうだな」


ぽっぽが躊躇う間に、プギャーは両腕の杖に頼りながら工房へと身体を運んでいた。

暗い店内を横目に見渡すと、叩き割られた床板は四日前のまま、さながら落とし穴のように傷を晒していたし、
その傍らに転がる車椅子の破片もまた、彼が使命半ばで大捩棍に叩き潰され、息絶えた時のまま転がっている。

ただ、その車椅子殺しの下手人たる戦棍、黒天大王だけが四日前に立て掛けた個所に無いと気付いた。

24525/50:2014/02/07(金) 21:04:18 ID:g96DFvxs0
( ^Д^)っ“旦「……さて、一応は要件を聞いておこうか」


工房に入ってすぐ、主は熱い茶を差し出しつつ、問う。

返事より先に、ぽっぽは差し出された茶を一息に飲み干した。
プギャーは例によって呆れた顔でテーブルに肘を乗せ、器用に半身を乗り出す。
空の湯呑を脇に寄せると、ぽっぽもまた彼に合わせて身体を乗り出し、触れあう程に額を寄せた。

部屋の暗さもありこの距離に至るまで気付かなかったが、よく見ると彼の目の下には大きな隈が広がっている。


(*‘ω‘ *)「戦棍を一振り、アタシに売ってくれ。できればあの黒天大王が良いんだが……どこにあるっぽ?」

( ^Д^)「アレはもうこの世に無い」


(*;‘ω‘ *)「そうか、そりゃ残ね――はぁぁぁああッ!!?」

24625/50:2014/02/07(金) 21:04:57 ID:g96DFvxs0
(;^Д^)「ッ、いきなり大声出すなよ。新しい武具の製造に黒鉄木が必要だったから、転用したんだ」

(*;‘ω‘ *)「ちょ、ちょっと待ってくれっぽ! そんな……!?」

( ^Д^)σ「……」


頭をブッ叩かれたような衝撃、驚愕のあまり絶句するぽっぽを見届け、プギャーは満足そうに表情を歪めた。
訳が分からない、混乱するぽっぽの背後を、彼は得意げに指差す。


(*;‘ω‘ *)「? え……あ……!」


振り返ったぽっぽは、再び言葉を失った。

彼女自身の身長に届くかと言うほどの、しかし件の『黒天大王』には及ばぬほどの、大柄な捩れ戦棍。
ぽっぽが求めていたまさにその一振りが、戸口の脇、大貂鹿角製の刀掛台に抱かれて横たわっている。

24740/50:2014/02/07(金) 21:06:17 ID:g96DFvxs0
(*;‘ω‘ *)「ぷ……プギャー、これは……!」

( ^Д^)「銘は……そうだな、お前に合わせて『黒天飛王』とでもしておくか」


美しい、そう思った。
武具に見とれたのは、二度目だった。
気付くと刀掛の前に歩み寄り、膝をついていた。

吸い寄せるような深い鳶色の棍身は現状最高硬度を誇る黒鉄木の磨き、大弓を思わせる"うねり"は最大のしなり。
並列する"握り"の材はやや暗さを落とした珠毬の接ぎ木、はるか大きく構える"柄"は真芯を捉えた削りの鉄添え。
鎚頭に覗く変換器から鉄木材の表面に流れる葉脈は、"握り"に並列した護拳部を経て柄上に構えた接合器へ続く。

ぽっぽはプギャーを振り返った。
どこか疲れた様子で、彼は口角を上げる。


( ^Д^)「持ってみろ。お前に合わせて造った、お前の為の武器だ」

(*‘ω‘ *)「ぽ……!」


ぽっぽはゆっくりと、幼子に手を伸ばした。
右手を"握り"に、左手を柄に添え、静かに持ち上げる。

24840/50:2014/02/07(金) 21:07:04 ID:g96DFvxs0
(*‘ω‘ *)「……重い」

( ^Д^)「もとは天国山脈から運びよせた黒鉄木だからな。そこいらの鉄木の数倍はある」


もっこを担ぎ上げる要領で、ぽっぽは両腕で棍を支え、肩まで引き上げた。
並みならぬ比重が担いだ肩に掛り、重心が後方、鎚頭側へと引き摺られる。

手強く、並々ならぬ相手だ。しかし、それゆえに、面白い。
ゆっくりと両腕に取り回すうちに新たな得物が身体に馴染み、あるいは、身体が新たな得物に馴染んでゆく。

一節を舞わせるごとに、一節を舞うごとに、ぽっぽの心はこの若木へと引き寄せられていった。

24940/50:2014/02/07(金) 21:17:20 ID:S5wWliLU0
(*‘ω‘ *)「……良い。最高だっぽ……!」

( ^Д^)「……そうかい。じゃ一回こっち寄こせ。あと、お前のアンプもだ」


ぽっぽは恭しくも両手を以て、幼子の造物主に差し出した。
主は左手一本で柄を取って膝の上に横たえ、空いた右手に大ルビーの増幅器を受け取る。

黒鉄木の柄に設えられた、純白の銀材で縁取られた空位の玉座。
王位と定められた大ルビーが、造物主の手でその不在を埋める。

客人が目を細める前で、彼は鉱炉から金色の瓶を引き上げる。
小瓶を満たす液体もまた、超高熱に溶かされた高純度の白銀。
造物主はその神酒を、玉座を占める王の御許へと注ぎ込んだ。

ぽっぽはどこか神々しい儀式を見るように、プギャーの手元を見つめていた。
冷却機巧の冷気を受けた黒天飛王の柄元で、白銀は既に固まり、接続器として輝きを見せている。

プギャーは続けて真白い獣皮の"なめし"を壁から下ろし、鉄釘を添えた柄の周りに巻き付けた。
粗くゴツゴツした柄の削りは"うねり"を僅かに残しながら、純白の衣のもとに押し隠されてゆく。


( ^Д^)「……まったくよ、お前らは揃いも揃って無茶を押し付けやがって」」

(*‘ω‘ *)「え?」

25040/50:2014/02/07(金) 21:18:13 ID:S5wWliLU0
成型を経た黒鉄木を穿ちうる釘など、世に殆ど存在しない。

膠の上を這って柄の下端まで到達した白皮の上に、プギャーは小さな樹脂の輪を嵌め、加熱した。
熱を受けた樹脂輪は限界まで収縮し、柔らかくしなやかな皮材を押しつぶして、そこに固定する。


( ^Д^)「なんだって俺はこんなクソチビに……」

(*;‘ω‘ *)「うぇ!? なんだいきなり……!」


先に熔銀を流しいれた、柄の接続器は既に冷え固まっている。
プギャーの手がそこにヤスリを押し当て、慎重に磨いてゆく。

……作業はすぐに終わった。
工具を全て机に下し、鉱炉の火を切った工房主が、改めて手元の我が子を見下ろす。

数秒、あるいは、もっと長かったかもしれない。

ぽっぽはただ押し黙って彼の姿を見ていた。
やがて彼はぽっぽの前に御子を差し出した。


( ^Д^)「これで調整は終わりだ。持って行け」

(*‘ω‘ *)「……ん」

25140/50:2014/02/07(金) 21:19:12 ID:S5wWliLU0
受け取った黒天飛王は、持ちやすくはなっているものの、やはり相当に重い。

ぽっぽは静かに親和を起動した。
増幅器を通して精霊が棍の全体を満たす。

不出来な武器にほど多い精霊の"抵抗"が殆ど無く、掛けただけの親和がそのまま力となって湧きだす。

最高だ、ぽっぽは思わず口に出した。
以前に一振りも使い勝手は良かったが、これは比べるべくもない。
ただ――唯一、鎚頭に設えられた変換器だけが、ほとんど反応しない事だけが気に掛った。


(*‘ω‘ *)「……なぁ、このエフェクターは?」

( ^Д^)「そいつは俺が開発した新型の衝撃装置だ。"赤"を流してみろ」

(*‘ω‘ *)「流してるけど……?」

( ^Д^)「足りねぇ。もっとだ」

(*;‘ω‘ *)「足りねぇって、今既にわりかし全力で……」

(;^Д^)「は、はぁ!? お前、その程度も満たせない親和容量でドラゴンに正面切ったのか!?」

(`ω` *)「……」


否応なく押し黙ったぽっぽに、プギャーは気まずそうに眉根を寄せ、慌てて言葉を続けた。

25240/50:2014/02/07(金) 21:19:55 ID:S5wWliLU0
(;^Д^)「ま、まぁ、いずれ使えるようにもなるだろうし、慣れればお前の力になるさ」

(`ω`*)「いいっぽ、別に……それより、代金は?」


プギャーは工房の向こう、店の方を手で指した。

商売の領域と鍛冶の領域は別だ。
ぽっぽは工房主の意を汲んで頷くと、棍を持って店へと戻り、カウンターを回り込んだ。

向かいあった店主は仕入れ値を記した皮紙を手元に広げ、指でなぞって数字をかぞえる。
文字を殆ど読めないぽっぽは、彼の手元を覗きこんでも、まるで意味が分からなかった。

やがて彼はもう一枚の皮紙に次々と文字を書き付けてゆく。


( ^Д^)「そうだな。まともに請求すると黒鉄木と変換器の代価込みで金貨7、80枚ってとこだが……」

(*; ω *)‘‘


……武具一つにしては、目玉が飛び出るような高額だった。
手元に用意した金貨は、せいぜいその三分の一にしかならない。
先に山分けした『カロン』の遺産の取り分を全て出しても、半分にしかならない。

ところが店主の方はぽっぽの目の白黒にも気付かない様子で、書き付けた皮紙の上に次々と横線を引いてゆく。

25340/50:2014/02/07(金) 21:20:46 ID:S5wWliLU0
( ^Д^)「ま、今回は“たまたま”使い道のない資材が揃っていたからな。加工手数料だけで良いさ」


ぽっぽは文字を殆ど読めない。
手元に差し出された皮紙の、数行の項目の右端に『53』、『14』などの数字、
そして、その隣に『金貨』を示す記号が書きつけられている事だけが読み取れる。

また、そうした数字付きの項目のうち幾つかは、横線が引かれて消されている。
消されていない数字は楕円で囲われているが、その数字はいずれも大きくない。

ぽっぽが困っていると、プギャーは無言で皮紙の右下、一際大きく書かれた数字を指し示す。

『金貨』の記号、そして、『3』の数字。


(; ω ) *‘‘ *「え、これだけで良いのか?」

( ^Д^)「いいさ。その代わり、今度は出来るだけ調整に来い」


そもそも、せいぜい前の戦棍程度の予算としか聞いていないからな。
プギャーは欠伸と共に、そう付け加えた。

25440/50:2014/02/07(金) 21:21:26 ID:S5wWliLU0
( ^Д^)「で、だ。実はもう三日も寝てない。眠いから、金置いたらサッサと帰ってくれねぇか?」

(*;‘ω‘ *)「……ぽ。済まない、世話を掛けた」


首に下げた巾着から、ぽっぽは金貨を三枚引っ張り出して、カウンターに並べた。
背負った『黒天飛王』の重みを考えると、硬貨のたかだか数匁程度はずっと軽い。

プギャーはややくすんだ金貨に指先を押し当て、その質を確かめて眉根を寄せた。


( ^Д^)「……ふむ、随分と古いラウンジ硬貨だな。まぁ構わないが」


念のため文字を分かる奴に渡して、よく確認してもらえ。
店主はそう言って、先の数字が書かれた皮紙を丸め、ぽっぽに押しつける。
受け取ったぽっぽは、店主の顔を見返した。

25540/50:2014/02/07(金) 21:23:37 ID:S5wWliLU0
(*‘ω‘ *)「プギャー、お前には本当に世話になったっぽ。どう礼を言っていいか」

( ^Д^)「言わなくて良いからサッサと帰れ。もう二匹のチビガキが心配してる頃だろ」

(*‘ω‘ *)「……そうだな。おい」


工房に引き返そうとしたプギャーに、ぽっぽは右手を差し出す。
プギャーは意図を測りかねたように、出された右手とぽっぽの顔とを見比べた。


(*‘ω‘ *)「いやいや握手だよ握手! お前、握手したことないの? あ、ひょっとして照れてる?」

(#^Д^)「バカか、寝言はベッドに帰ってほざけ! 誰がお前みたいなクソチビに照れるか!」


売り言葉に買い言葉。
ぽっぽの大きくないマメだらけの手を、プギャーの大きなマメだらけの手が握り返す。
朝夕にわたり戦棍を振るい続ける冒険者と、昼夜を問わず金鎚を振るい続ける鍛冶師。

……これは傷を癒した冒険者達が樹海へと舞い戻る、その前日の物語。


ミセ*゚ー゚)リ樹海を征く者のようです

幕間δ−表 了

25650/50:2014/02/07(金) 21:24:33 ID:S5wWliLU0
……

( ^Д^)「……ふぅ、これで良いんだろ?」


厄介きわまる客が帰った後。
店に鍵を掛けて寝室に戻ったプギャーは、"クローゼットに隠しておいた、もう一人の訪問者"に呼びかけた。


「はい、本当にありがとうございました」

( ^Д^)「別に、お前の為じゃねぇよ。これは俺の問題だったんだ。……出て来いよ。そんでサッサと帰れ」


ガタガタとクローゼットが揺れ、小さな人影が転がり出して来る。
プギャーは冷たく溜息を吐き、そのまま通りに面した窓を開けた。

冷たい秋風が吹き込みカーテンを揺らす。





( ><)「そうですね。マリオルドさんもきっと満足するでしょう」

25750/50:2014/02/07(金) 21:25:17 ID:S5wWliLU0
( ^Д^)「関係ねぇよ、くたばった奴なんか」


プギャーが吐き捨てた言葉に訪問者は肩を竦め、斜めに下げた鞄から丸めた羊皮紙を取り出し、ベッド脇の小卓に乗せた。
ベッドの反対端に腰掛けたプギャーからは、ひとまずはそれに手が届かず、投げ返すことすらできない。


( ><)「この手紙は、やはり貴方にお渡ししておきます。読むにしろ炉に投げ込むにしろ、貴方の自由です」


忌々しげに舌打ちするプギャーを意に介さず、訪問者は彼のすぐ隣、カーテンの外を見通した。
窓の外、プギャーの寝室の真下の通りは、階段が複雑に入り組んだ裏路地になっており、そこそこの高さがある。

窓枠に手を掛けた訪問者を、プギャーはイライラと見上げる。


( ^Д^)「……あのガキ、死なせるんじゃねぇぞ。あいつに売った武具にはしっかりウチの銘を刻んだんだ。
黒鉄木まで使った武器なんて、もし持ったまま死なれでもしたら、俺の店の評判が落ちるからな」


絞り出すように吐きつけられた言葉に、訪問者は静かに振り返った。

プギャーは暫くぶりに、背筋が凍りつく感覚を思い出した。
数年前、目の前に立つ少年に半身の機能を殆どを全て焼き殺された、その時以来だった。


( ><)「言われるまでもありません。"私"がいる限り、あの娘に傷一つだって付けさせる事はない」

25850/50:2014/02/07(金) 21:27:41 ID:S5wWliLU0
( ^Д^)「ちっ、あんなクソチビに……」

( ><)「……では、またお会いしましょう。くれぐれも、お体にはお気をつけて」


プギャーに背を向け、訪問者は窓枠に足を掛けて、飛び降りた。
足音はしばらく昼の裏路地に反響していたが、やがて表通りの雑踏に混じり、溶けて消えてゆく。

ひとり残されたプギャーは窓を閉めると、ベッドに身体を横たえ、目を閉じた。

数日も眠っていないどころか、冷却機構や溶鉱炉、ノミやヤスリの数々に親和を通すことも並々ではない。
そして何より、ほぼ不休で神経を張り詰め続けていた事が大きかった。

もう限界だった。目を閉じてすぐに、意識は深い闇に覆われていった。


( ^Д^)「……はぁーッ。なんだって、あんなクソチビに、俺はよ……」


答える者はなく、あるいは答えを望んですらいなかったのかもしれない。
小さな問いは狭い部屋に舞い、深い眠りに落ちゆく鍛冶師を優しく包む。

259以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/02/07(金) 21:32:25 ID:KvZwL3UM0
これより、小さな幕間は反転いたします。
願わくば、皆様が両の御“眼”をお逸らしになりませぬよう――


ミセ*゚ー゚)リ樹海を征く者のようです

幕間δ−裏

2601/60:2014/02/07(金) 21:43:56 ID:EWYWCO360

从 ゚∀从「――と、こんな感じだ」

ミセ*゚ー゚)リ「そっか。やっぱり、ヨツマの対応も素早いね」


隣のベッドに身を起こした、腕を折られた少女が、長髪の青年の話に何度か頷いた。
少女の傍らには青年の他には糸目の少年が一人いるばかり。
普段いつも少年とセットでいるもう一人の少女は、今日は来ていないようだ。

つまみ聞きした話によると、どうやら彼女は最近の記憶が虫食い状態に欠けているのだとか。
しばらくここに寝たきりだった身の私には、青年の語る情勢には随分と知らされる所が多かった。

曰く、ヨツマはラウンジとかなりの緊張状態にあること。
曰く、ラウンジがヨツマの外交使節を追放し、最前線を軍備で固めていると言うこと。
曰く、先の外交使節から報告を受けたヨツマは即日中に前線の軍備を固め、今は睨みあい状態とのこと。

これだけでも大変な状態であるのに、今回はそれに加えて。


ミセ*゚ー゚)リ「それに、南――トカラスで暴動が頻発か」

2611/60:2014/02/07(金) 21:44:34 ID:EWYWCO360
从 -∀从「恐らく、ラウンジの動きを見て便乗しようとし始めたんだろうな」


長髪の青年は小さく首を振った。

トカラス。私の故郷でもある、ヨツマ南方の植民市群。
数十年を超える統治でずいぶんと不満は落ち着いてはいるものの、当初はしばらく根強い反抗があったものだ。

これは随分やっかいな戦いになるぞ、私の胸のうちは複雑だった。
東はクフ高原に、南は『森の人』の領域に囲まれた自然の要害に、育った民はいずれも一騎当千の猛者となる。

厄介なのは、その統治形態だ。

ヨツマの支配下にある皇都トカラスにはヨツマの意向を反映する議会があり、ある程度の指令は出せる。
しかし実際の統治はそれぞれその下部にある藩領ごとに行われており、それぞれの領主の権限が非常に大きい。
言うなれば、皇都の元にそれぞれ数十の王がかしずき、それぞれの王に周辺都市一つ一つが従っている状態で。

青年の話を聞く限りだと、今回の暴動はこうした植民市の幾つかで市民が散発的に蜂起している程度だろう。


( ><)「あぅ……それじゃ僕たち冒険者にも、その暴動の討伐依頼とか来るんでしょうか……」

从 ゚∀从「んー……それは当分は無いと思うが……」

ミセ*゚ー゚)リ「なんで?」


なんで?

2621/60:2014/02/07(金) 21:45:16 ID:EWYWCO360
从 ゚∀从「冒険者そのものが、ほとんど信頼されてないからな」

ミセ*゚ー゚)リ「あ、そっか成程」
(;><)「え、僕達って信頼されてないんですか!?」


されている訳が無いだろ、私は心中で少年に言葉を添える。
今はどうなのか知らないが、私達の台の冒険者はみんな、市議に名前を届けるだけで許可が貰えたんだから。

青年は一仕切り少年に説明し、「よっぽど戦況が悪くならない限りは、騎士と駐屯兵が鎮圧するさ」と締める。
ベッドの少女は納得したとでも言うように頷いた。


ミセ*゚ー゚)リ「それじゃ当分は、私達みたいな下位の冒険者さんがする事には変わりは無いってことかな」
( ><)「依頼をこなして級位を上げて、とりあえずキャラバン行きを目指すんですね」

从 ゚∀从「……、こいつは姉者さんからお前らに、ってさ」

2631/60:2014/02/07(金) 21:46:12 ID:EWYWCO360
ミセ*゚ー゚)リ「? ……なにこれ、なんか嫌な予感がしてるんだけど」


青年はコートからシンプルな皮のケースを出して、ベッドの少女に手渡す。
私は腹の傷に響かないように気を付けながら、その包みをよく見ようと首を伸ばした。

市議会からの皮張りの贈り物など、そうそう受け取るものではない。
私が一度だけ同じものを見たのは、―――――――――――――――――――時だ。


慎重に封を切った少女は、驚きに声を上げる。


ミセ;゚ー゚)リ「え、これ……B級の級位証明? それも、私たち個人と『チェトレ』の両方!?」
(;><)「え!? 本当なんですか! 見せてほしいんです!」


見せてほしい!
私は必死に首を伸ばしたが、位置が悪く、辛うじて銅の赤茶色が見えただけだった。


从 ゚∀从「……まずは、おめでとう、と言っておこう。これでお前ら全員、泣く子も黙るBランクだ」

(;><)「あわわわ、本当に『ビロード=ベルベット・ミリオム』って……」
ミセ;゚ー゚)リ「で、でも、なんで? 飛び級だなんて、私達まだそんなに……」


なん……だと……? お前ら、私達が丸三年以上も苦戦してきたC級の壁に触ってもいないというのか……?

2641/60:2014/02/07(金) 21:47:09 ID:EWYWCO360
从 ゚∀从「そうだな。お前らの実力と実績じゃあ、まだまだ早い。……要は、口止め料ってことだろうな」

ミセ*゚ー゚)リ「口止め」
(;><)「え、え? どういうことなんです?」


どういうことだ。返答如何によっては訴訟も辞さないぞ。


从 ゚∀从「お前らをラウンジで回収しなかった件。他にも、心当たりはあるが……」

ミセ*゚ー゚)リ「?」
( ><)「……あ」


……部外者の私にはわからないが、どうやら彼らとヨツマの間で何がしかの裏の取引があったらしい。

少しだけ安心した。
バカにするつもり無いが、頼り無さげな少年少女より実力と実績で追い抜かれたとは信じたくないのです。


从 ゚∀从「ま、A級も含むのギルドがほぼ全滅してる中で無事に帰還したんだ。これ位は受け取っても良いだろ」

ミセ*゚ー゚)リ「……それもそっか。受け取っちゃお、ビロ君」
( ><)「……あう」


貰えるものは何でも受け取ってしまえ、冒険者よー。

2651/60:2014/02/07(金) 21:48:15 ID:EWYWCO360
从 ゚∀从「それで、お前の傷の具合はどうなんだ? 身体に異常は出ていないか?」

ミセ*゚ー゚)リ「傷は大丈夫。精霊も、ちょっとずつ戻ってきてるよ。
ナオルヨ先生は、もうあと五日くらい薬漬けにしてれば冒険に戻れるだろうだって」


羨ましいねー、私の腹の傷はまだ暫く塞がらないよ。
入院当初から随分と小さくなった彼女の包帯を見ながら、三人に聞こえない程度の声で呟いた。
少女がちらっとこちらを見た所を考えると、もしかしたら彼女には聞こえていたのかも。

「そうか、それじゃ」、青年が続け、肩にかけていた鞄を下して少女の腹に落ろした。

ぐえっ、少女は苦しそうな声を出してから、片手で器用に鞄を開ける。


ミセ*゚ー゚)リ「え、何これ……依頼書、の束?」
( ><)「へ、こんなの持ってきて良いんですか?」

从 ゚∀从「お前らへ依頼だよ。一年目でB級に上り詰めた新進気鋭共の第二番手、『チェトレ』様方へのな」

(;><)「うえ!? それじゃ僕達、ついに名指しで指名されるようになったんですか!?」
ミセ*゚ー゚)リ「私達、B級の実力なんて無いのに?」

从 -∀从「……ま、上手いこと誤魔化しながらやってくれ。実力に見合った依頼を選んで受けるだけで良い」


そうだよ、依頼人の方はたいてい、他のギルドにも同じ依頼を出してるんだから。
青年は、ただし、そう置いてから続ける。

2661/60:2014/02/07(金) 21:48:47 ID:EWYWCO360
从 ゚∀从「名指しで呼び出されるようになったって事は、それだけ危険も増えるって事だ。わかるな?」

ミセ*゚ー゚)リ「……うん」
( ><)「えーと?」


ええと?


从 ゚∀从「お前らを消そうとする連中が、その依頼の中に居るかもって話だよ。
 小銭目当ての連中だって少なくないし、今はラウンジの工作員も居る」

(;><)「そ、そんな……」
ミセ*゚ー)リ「……気をつけるよ」


そんなことも有るんだな、私が関心する間に青年は帽子をかぶり直した。


从 -∀从「とにかく、まずは腕を治す事、そしてB級に見合うだけの実力を付ける事だな」

2671/60:2014/02/07(金) 21:49:23 ID:EWYWCO360

ミセ*゚ー゚)リ「ねぇ、ハイン。ハインも、級位はBになったんだよね」

从 -∀从「……ああ、なったよ」

ミセ*゚ー゚)リ「そっか」


短い、よく分からないやり取りのあと、青年は立ち去った。

冒険者にもいろいろ居るんだな、私がベッドに転がり直した。
目を閉じていると、残った少年少女の声だけが聞こえて来る。


「ねぇ、“もう一人”のビロ君」


なんだそれ。
私はまた目を開け、二人を窺った。

26810/60:2014/02/07(金) 21:53:50 ID:EWYWCO360
( ><)「成程、では、最初から気付いていたんですね」

ミセ*-ー)リ「……もう。いい加減に怒るよ。それ、嘘だよね?」

( ><)「……」

ミセ*゚ー゚)リ「ラウンジで再会した時には既に、ビロ君は君だったんでしょ」


少女の言葉で少年は固まった。
私には何の話だかまったく分からないのだが、どうやら彼はビロ君ではなかったらしい。

やがて彼は身体を震わせ――


( ><)「は……はは、はははははは、あはははは! これは傑作だ、まさか――」
   ('(゚∀゚#∩「うるっせぇぇええええええええええええええ、病室で騒ぐんじゃねぇええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!」


――そして、ナオルヨ先生に怒られた。あのひと怖いんだから、怒らせるなよって。


(;><)「……ま、まさか、ちんぽっぽでも気付かなかった演技が、真っ先に見破られるだなんてね」
ミセ;゚ー゚)リ「そ、そのまま続けるんだ……」

26910/60:2014/02/07(金) 21:54:50 ID:EWYWCO360
( ><)「……とにかく、見破ったのは君が初めてですよ。どうしてそれに?」

ミセ*゚ー゚)リ「んー、なんて言ったら良いのかな。"魂"の感じが同じだったから」

( ><)「同じ? 違う、ではなく?」

ミセ*゚ー゚)リ「私が"黒"を思い出したのは、ラウンジに着いてからだもん。ビロ君の魂は、私はまだ見てないハズ」

( ><)「……あなたが"黒"を使い始めてから、私とあなたはヨツマまで会っていないはずですが?」

ミセ*゚ー゚)リ「ううん。私はあなたを見ていたんだよ、『根の国』から、『天窓』越しに。君を見てやっと気付いた」

( ><)「……どういう事です? 記憶を取り戻したんですか?」

ミセ*゚ー)リ「それが、全然ダメ。虫食いだらけで、肝心な事は何もわかんない」

( ><)「そうですか」


この辺りの話は、まるで分からない。
よほど二人に事情を聞きだそうとしたほどだ。

少年は納得したように、ベッドの脇の椅子に腰を下ろした。

27010/60:2014/02/07(金) 21:55:48 ID:EWYWCO360
ミセ*゚ー゚)リ「君、ビロ君とは……ええと、どういう関係なの?」


少年は考え込むように軽く天井を見上げる。

双子か何かじゃないのか、私は気になって身体を乗り出した。
どうせもう既に私が興味を持っていることは二人に気付かれているようだし、きっと遠慮することも無いだろう。


( ><)「……お互いにお互いを必要としている、でしょうか。コインの裏表のようなものです」

ミセ*゚ー゚)リ「どうしてずっと君だったの? 君が出ていること、ビロ君はどう思ってるの?」

( ><)「本人に聞いてみます? 今は私の中で、悪戯がバレた子供のような顔でアタフタしていますよ」

ミセ*゚ー゚)リ「や、面倒だから要らないや。そんな事よりさ……」


出ているだとかアタフタしているだとか、どういうこと?
ますます訳がわからない、そんな私を少女が親指で指す。

27110/60:2014/02/07(金) 21:56:48 ID:EWYWCO360
ミセ*゚ー゚)リ「……私の後ろに居る人なんだけど……」

( ><)「え? ああ、彼がどうかしましたか?」

ミセ*゚ー゚)リ「その、なんていうか、私はあと五日ここに居なきゃいけないじゃん」

( ><)「……で?」

ミセ*゚ー゚)リ「ちょっと未練があって、それでまだ『根の国』に行ってない人なんだけど……。
その未練、私と君でなんとかできないかなーって」

ミセ*゚ー゚)リ「っていうか、もう既に手を貸す方向で話つけちゃったんだけど」

(;><)「はぁ!? 何を言って――あ、いえ、騒ぎません。すみません」


そう言えば、そんな話を前にした気がする。

これには少年ばかりでなく、私も驚いた。
私と話せる人がこの部屋に入ってきたのも初めてだが、私の未練をなんとかしようとした人も初めてだった。


ミセ*゚ー゚)リ「お話、聞いてくれる?」


少年は諦めたように首を振った。
この二人の関係は、これで決定した気がする。

27210/60:2014/02/07(金) 21:57:35 ID:EWYWCO360
――未練、というのも、さしたるものじゃないんですが。
生きてる時にちょっと世話した鍛冶師さんが、私が死んだ理由が彼の武器のせいだと思い込んでいるのです。
最後にあの索塔獣の額をぶん殴った時に折れたのは事実だけれど、それは下手に突角を叩いた自分のミスで。
私としては彼の打った武器は大好きで、振るうのが毎回楽しくて仕方なかったと言うことを伝えたいのです。
それと最後に彼に注文しておいた大捩棍が完成していて、でも受け取りに行けないのが何より悔しいのです。

掻い摘んで説明した私に、椅子の少年は頭を抱えた。


( ><)「要はその、貴方の知り合いの装具屋に話を付けたいんですね」

ミセ*゚ー゚)リ「そゆこと。直接ってのは無理だろうし、ここは何か、手紙の一通でも渡すのが良いんじゃないかと」

( ><)「はぁ……それくらいなら手伝っても良いでしょうけど、でも、なぜ私にそれを?」


少女は固定された左腕を見せた。
右手一本で羊皮紙を広げて押さえつつ文字を書くのは厄介だ、そういう意味だと思う。

少年は「そうでしたね」と一言呟いた。御迷惑をおかけして申し訳ない。


ミセ*゚ー゚)リ「それに、他に見える人も居ないし。あ、でも君って、字は書ける?」

( ><)「書けますよ、ビロとは違いますから」

ミセ*゚ー゚)リ「それじゃお願いしますー」

27310/60:2014/02/07(金) 21:58:15 ID:EWYWCO360
なにぶん手紙など書くのは初めてのことで、それも私自身がこんな姿になってからなど初めてのことで。
二人がさらの羊皮紙を用意し、インクと万年筆を調達しと、そうする間に伝えたい事は纏まらなかった。

少年少女が面接のように私を覗きこむ中、ええと、あの、なんて言葉をつっかえつっかえ気持ちをうろうろさせつつ、
そんなこんなで用意していただいた羊皮紙の半分にも満たない短い手紙を少年が代筆しきって下さった現在、既に陽は傾き始めている。


( ><)「完成、ですね。ところで、これが彼のものだと証明する手立てはあるんですか?」


二人の視線に晒されながら、申し訳なく思いながら、たぶんわかってもらえると思う、そうとだけ返した。
いちおう、自分と相手の名前と、注文した武器のことは書いてもらった。

それに……私のことを、彼が間違うはずが無い……と信じたい……んですけど……その……。


ミセ*゚ー゚)リ「要はなにも証拠は無いってことね」
( ><)「……はぁ。案外厄介だったかもしれませんね」


ごめんなさい、ごめんなさい。

27410/60:2014/02/07(金) 21:58:55 ID:EWYWCO360
ミセ*゚ー゚)リ「それじゃさっそく、届けて来ようか」


え、君は絶対安静って言われて入院してるんじゃないの?
私の質問を、少女は悪戯っぽく微笑みながら、完全に黙殺した。
少年は諦めたように鞄を取り、立ち上がる。


( ><)「……結局そうなりますよね、ミセリですし」


少女は手早く上着を着込み、帽子とマフラーを身にまとい、少し躊躇いつつも銀色の腕環を腕にはめた。

ナオルヨ先生が気付いたら目茶苦茶コワイよ、私が声を掛けると、少女はおびえたように身を固くした。


ミセ;゚ー)リ「や、それは、その……気付かれなければ大丈夫かなーって」

( ><)「たぶん気付かれるでしょうけどね。それでも行くんでしょう?」

ミセ*゚ー゚)リ「……うん」


少年は溜息を吐くと、青年が持ってきた荷物……見舞いの品や依頼書の束を少女のベッドに積み重ねた。
掛け布団で無理やり覆えば、即席のダミーだ。


( ><)「行きましょう。さっさと済ませて帰ってくるのが最良手です」

27510/60:2014/02/07(金) 21:59:55 ID:EWYWCO360
……

若者二人の作戦はシンプルなものだ。

屋根によじ登って、煙突から皮紙を投げ入れる。
差出人不明の巻物を見た受取人は中を見てビックリ、なんと故人からの手紙ではないか。
彼は感動に涙を流し、過去のしがらみから立ち直り、ヨツマ最高峰の鍛冶師へと大躍進。

助けて貰っている私が言うのも変な話だが、この二人、実は既にかなり飽きてきているんじゃないだろうか。


ミセ*゚ー゚)リ「……これで良し。重くない、君?」

( ><)「問題ありません。ビロとは違いますから」


少年が少女を肩車し、路地の外壁へと近付く。羨ましい。
作戦を決行するには、煙突の下の竈に火が入っていてはいけないので、部屋の様子を確認する必要がある。

ところがこの鍛冶師の工房の裏手の路地はやや複雑で、窓の下は階層ひとつ分程度に低くなっている。
小柄な少年少女の身長では、この路地に立つと、工房の窓を覗きこめないのだ。とはいえ、羨ましい。

少女は窓横の壁に手を付き、少年の肩に足を掛け、立ち上がった。


ミセ*゚ー゚)リ「位置よーし、高さよーし……ちょいと失礼しまして……」

27610/60:2014/02/07(金) 22:01:31 ID:EWYWCO360
部屋をそっと覗きこんだ彼女は、部屋に聞こえない程度に、「あっ」と小さく声を上げた。


ミセ*゚ー゚)リ「……ねぇ君」

( ><)「なんです?」

ミセ*゚ー゚)リ「部屋にぽっぽちゃんが居るんだけど」
(;><)「はぁ!?」
ミセ;゚ー゚)リ「わわ、あぶなっ、動かないで……!」


私はとっさに二人に手を伸ばしたが、その手は難なく二人の身体をすり抜けた。
少女は慌てながらも体制を維持し、静かに少年の肩から飛び降りる。

……気付かれただろうか?
部屋の様子を窺うが、特に反応は無い。
恐らく主人はぽっぽちゃん、確か少年と二人で少女を訪ねて来ていた娘だが、彼女との話が盛り上がっているのだろう。


ミセ;゚ー゚)リ「と、とにかく、一旦離れよう……」


二人は素早く路地を抜け、表通りへ逃げ込んだ。
焦る必要のない私は、もう一度だけ部屋を見上げる。
三年前と変わらない、工房特有の陰気な気配がした。

……考えてみると、わざわざ二人に肩車なんてさせなくても、私が壁抜けできたじゃん。

27710/60:2014/02/07(金) 22:02:31 ID:EWYWCO360
( ><)「……はぁ、驚いた……」
ミセ#゚ー゚)リ「それはこっちのセリフだよ……!」


表通りでは、肩から振り落とされかけた少女が、知らん顔の少年に鼻息荒く抗議していた。
少年の方は少女の抗議には目もくれず、件の装具屋の木彫りの看板を見上げている。

少女もまた彼のマイペースな態度を目の当たりにし、抗議を諦めたように深く息を吐きだした。


ミセ*゚ー゚)リ「……そういえば、ぽっぽちゃんも新しい棍を買いに行くって言ってたっけ」

( ><)「そうですね。まさか、ここの工房だったとは」

ミセ*゚ー゚)リ「……うん? 知ってたの、ここの事?」

27810/60:2014/02/07(金) 22:03:33 ID:EWYWCO360
( ><)「実はちょっと、店主とは顔見知りなので」


意外なこともあるもんだ、私はつい声にだしていた。
まさか、あの傲慢な貴族崩れの引きこもりが、こんな曰くありげな少年少女らと知り合いだったとは。
鍛冶師の顔を思い出していたそのとき、私は少女の背後を漂っていて、彼一人が店に背を向けていた。


( ><)「それより、ぽっぽに見つかるのは好ましくありませんね。見つかったら何と言われるか――」
ミセ*゚ー゚)リ「!」
「――それは頭の良いお前には分かってるだろ」


少年は雷に打たれたように振り返った。
間が悪いというか、あるいはお約束と言うか、そこに立っていたのは。


(*‘ω‘ *)「よ、ミセリ」


敵意を隠そうとすらしない、少年の相方だった。

27910/60:2014/02/07(金) 22:04:11 ID:EWYWCO360
( ><)「……はぁ。ぽっぽですか。久しぶりですね、直接お話しするのは灰毛の件以来でしたか」
(*‘ω‘ *)「楽しく話しこもうってつもりはアタシには無い。ここで何をしているっぽ?」

ミセ*゚ー゚)リ「……?」


あれ、昨日やその前は随分と仲が良さそうだったのに。
怪我している方の少女をみると、彼女も彼女で良く分からないといった表情。

少年は一瞬で平静を取り繕うと、わざとらしく両手を上げる。


( ><)「何と言う事も無い、ただの散歩の途中です」

(*#‘ω‘ *)「っち。二度と勝手にその面を出すなと言わなかったか?」


攻撃的なセリフに、少年は肩を竦めて黙りこむ。
少女は苛々した様子で、怪我の少女に矛先を移した。

……どうやら、彼女には私の姿は見えないらしい。
残念なことに、彼女の視線は私を素通りしてゆく。

28010/60:2014/02/07(金) 22:05:15 ID:EWYWCO360
(*#‘ω‘ *)「……ミセリ、お前も」
 ミセ*゚ー゚)リ「……」ビクッ

(*#‘ω‘ *)「コレにはもう構うな。コイツはビロに取り付く、寄生虫みたいなものだっぽ」

ミセ*゚ー゚)リ「……でも」

(*#‘ω‘ *)「何度も言わせないでくれ。コイツの相手なんて、しちゃダメだっぽ」


ぶちっとか、そんな空耳が聞こえた気がする。
恐る恐る怪我少女の顔を覗きこむと、予想通り、彼女もまた爆発寸前といった様子で。


ミセ#゚ー゚)リ「……」(‘ω‘ #*)


まだ若いと言えど、女性は女性。
私としてはこんな事情も分からない修羅場からは今すぐ逃げ出したいところではある。
逃げ出したいところであるとは言えど、流石に自分の頼みが発端とも有れば、そうはいかない。

私は助けを求めて少年に視線を向けた。
臆病な私とは対照的、問題の中心でもあった少年は、ここで勇敢にも声を上げる。


( ><)「わかりました、私はミセリと当面の縁を切りましょう。また“眼”が必要ならば、お声を」


なんだと。

28110/60:2014/02/07(金) 22:06:15 ID:EWYWCO360
ミセ#゚ー゚)リ「?」

(;><)「……え、えぇ!? ベル君、この状況で逃げないで欲しいんです!」
(*‘ω‘ *)「ビロ」


え、どういうこと。私の頭の上には何度目かの疑問符が乗った。
少年の様子が変わった、ということは、また演技を始めたのか?

しかし向かいあう憤懣冷めやらぬ少女の方も、平然とその演技に乗っかっているようで。


(;><)「はぃいっ!?」ビクッ

(*#‘ω‘ *)「アレを呼び出すのは、目を開ける時だけにしろと言ったはずだっぽ。二度とするな」

(;><)「で、でも……」

(*#‘ω‘ *)「……っち」


ドスの利いたの恐喝の前に、少年は小さくなって黙りこんだ。
余裕に満ちた先ほどまでの態度と比べると、まるで別人のように情けない姿だ。

少女ぽっぽはミセリに、「すまなかったな」と一言残し、怒りのままに踵を返した。


ミセ#゚ー゚)リ「……」
(;><)「……あうぅ」

28210/60:2014/02/07(金) 22:07:44 ID:EWYWCO360
(;><)「ご、ごめんなさい。ぽっぽちゃんは、その……ベル君の事が大嫌いみたいで……」

ミセ*゚ー゚)リ「それは、なんとなく気付いてたけどね、まさかここまでとは。ごめんね、無理に引っ張りまわして」

( ><)「たぶん嫌とは思ってないんです。彼は本当に嫌なときは意地でも出てきませんから」

ミセ*゚ー゚)リ「そだよね、もう彼の扱い方も分かってきたよ。……でも、ぽっぽちゃんめ」


ここまで聞いて、ようやく分かった。
そうか、このビロード=ベルベットという少年は、多重人格だ。

二人は私の存在など忘れたかのように話を盛り上げる。


( ><)「その、たぶん、ぽっぽちゃんは……あの……」

ミセ*゚ー゚)リ「うん?」

( ><)「彼と僕がバラバラなのが良くないと思っていて、それで……その……
つまり、僕らの事を何とかしたいと思ってくれているんです」

ミセ*゚ー゚)リ「何とかって、どうやって?」

28330/60:2014/02/07(金) 22:09:03 ID:EWYWCO360
( ><)「その、つまり……彼が僕の一部だから、僕が彼に頼らなければ、彼は消えてゆく、と……」

ミセ*゚ー゚)リ「……そうなの?」

( ><)「そんな訳ないんです。彼が僕の一部であるのと同じだけ、僕が彼の一部というか、その……」

ミセ*゚ー゚)リ「どっちが上とか、無いの?」

( ><)「無いんです。この"眼"を得た時から、私たちはただ二人でビロード=ベルベット・ミリオムでした」

ミセ*゚ー゚)リ「そっか……うん、私達?」


口調と雰囲気が、また一転した。
彼は確認するように私に視線を寄こし、また溜息を吐いた。
どうやら彼も、随分と幸せを逃がすような性格をしているらしい。


( ><)「まったく、私が折角チャンスを作ったのに、ビロードのヘタレは……」

ミセ*゚ー゚)リ「?」

( ><)「とにかく、現状はこんな感じです。
     ぽっぽはビロードが主人格だと思っていて、私の方を親和の副産物程度にしか見ていない」

28430/60:2014/02/07(金) 22:10:09 ID:EWYWCO360
( ><)「ビロードを苦しめる親和そのものとして見ている、と言った方が適切でしょうか。
     “眼”を移植されるより前の事は、実のところ、私達にも分かっていませんが……」

ミセ*゚ー゚)リ「……移植って?」

( ><)「おや、ビロードから聞いていませんか。……そうですね」

ミセ*゚ー゚)リ「……聞いて良かったの?」


私も居るけど、良いんですかね?
少年はここまでほぼ完璧に私を無視してきたが、この時は私にも視線を向け、「構いません」と告げる。


( ><)「特に隠していた訳でもないようですし。ええと、この眼ですが……」


少年は細い眼を指でゆっくりと押し開ける。

増幅器を思わせる、深紅の瞳。私は息を飲んだ。
親和を起動しているときともまた少し違う、作り物めいた人口の赤。


( ><)「これは“オルガンの眼”と言う、古代の変換器です。私達が七歳の頃に移植されました」

28530/60:2014/02/07(金) 22:11:10 ID:EWYWCO360
ミセ*゚ー゚)リ「……なんで、そんなものを。誰が」

( ><)「さぁ。最強の親和能力者を生み出すのが目的だとか聞いていますが、本音は知りません。
     施術は市議会の指示で、薬方院の者が担当したそうです。私達は何も覚えていませんが」

ミセ*゚ー゚)リ「……」


だいたい十年前、と言うと、私がヨツマに来る少し前くらい。
『VIP☆STAR』が天国山脈を踏破して帰って来た頃で、とすると、荒巻議長の治世に移った頃だったか。

当時は議会にも薬方院にもひたすら黒い噂が流れていたものだ。
ラウンジ辺りの工作員が混乱に乗じて流したものだと思っていたが、案外、ただの噂じゃないのかもしれないな。


( ><)「とにかく、何の影響か、私達はそれ以来、強力な親和と二人分の人格を持つようになった。
     一人は臆病で幼く、力の無いビロード。もう一人は冷酷で冷淡、力の制御が無いベルベットです」

ミセ*゚ー゚)リ「それじゃ、その移植の前のことは? 何か覚えてないの」

( ><)「記憶はあります。……ですが、その記憶の主体は思い出せません」

ミセ*゚ー゚)リ「ん? どゆこと?」

( ><)「例えば……そうですね、この腕の傷ですが」


少年は右の袖をまくって見せた。前腕、柔らかそうな白肌の上に、古く短い切り傷。

28630/60:2014/02/07(金) 22:13:04 ID:EWYWCO360
( ><)「これは私達が五歳の頃、ぽっぽに無理やり荷車に乗せられて、崖下に突き落とされた時のものです」

ミセ;゚ー゚)リ「……うわぁ」


うわぁ。少女ぽっぽは今と変わらず、苛烈なロリッ娘だったわけだ。


( ><)「記憶ははっきりしています。荷車の木目の形も小石を踏みつけるリズムも、ぽっぽの悲鳴も。
     壊れた台車の破片が飛び散る瞬間も、それが刺さった時の血の色も臭いも痛みも鮮明に覚えています。
     ……ですが、私達が何を考えていたのか、それだけがどうしても思い出せません」

( ><)「台車に乗っていたのがベルベットだったのか、それともビロードだったのか……わかんないんです」

28730/60:2014/02/07(金) 22:15:21 ID:EWYWCO360
ミセ*゚ー゚)リ「どっちでも良い、って言うのはダメ?」


そんな適当な。
私が口に出す前に、「構いません」、少年があっさり首肯した。

なんだよ、それじゃ別にどうでもいいじゃんよ。


( ><)「私もビロードも同じ意見ですから。ただ、それじゃ納得しない人も居ます」

ミセ*゚ー゚)リ「……ぽっぽちゃんか」

( ><)「ええ、ぽっぽです。理由は……必要なら、ぽっぽから直接聞いてください」


こういう場合、少女はあっさり引き下がる。
短い付き合いだが、彼女は見た目に反し、なかなか慎重だと傍目にもわかる。


ミセ*゚ー゚)リ「そーする。ありがと。それじゃさっきの、別の話だけど」

( ><)「はい」

ミセ*゚ー゚)リ「“オルガンの眼”って言うのは、どういうモノなの?」

28830/60:2014/02/07(金) 22:17:09 ID:EWYWCO360
( ><)「そうですね、あまり詳しくは知りませんが……“オルガン”というのは、古代大陸の人造兵士です。
      十数年前にブーン兄さん達が、ガセウ遺跡で停止していた一体を発見して再起動したとか」

ミセ*゚ー゚)リ「……知らなかった」

( ><)「一応は国家機密でしたからね。私もブーン兄さんから直接聞きました。
      ……それで、この両眼はその兵器“オルガン”が停止した際に残された遺品だそうです」


知らなかった。
それなりに長く冒険者していた分、知識もそこそこ蓄えてたつもりなんだけど。


ミセ*゚ー゚)リ「停止」

( ><)「はい。なんでも、強力な“森の人”を追い詰めた際に活動限界を超えるダメージを受けたとか。
ブーン兄さんもドクオ兄さんも、彼が、その……亡くなった時の事は詳しく話して下さいませんが」


そりゃ仕方ない。身内の死亡なんて語りたがる奴は居ないさ。

28930/60:2014/02/07(金) 22:18:45 ID:EWYWCO360
ミセ*゚ー゚)リ「あのさ、もう一つ聞いて良い? その、ブーン“兄さん”って?」

( ><)「……? 何かおかしいですか?」

ミセ*゚ー゚)リ「や、おかしいっていうか、なんで兄さんって付けてるの?」

( ><)「なんでって、血は繋がってないとはいえ、同じ孤児院で育った先輩ですし……」

ミセ;゚ー゚)リ「……それは完ッ全に初耳なんですけど」

(;><)「え、初耳って……ビロードもぽっぽも、今まで何をしてきたんですか……?」

ミセ;-ー-)リ「うう、耳が痛いです」


そう言えば確かに以前どこかで、ブーンさんが孤児院の出身だったとか聞いたことがあったような……

29030/60:2014/02/07(金) 22:19:32 ID:EWYWCO360
ミセ*゚ー゚)リ「それにしても、こんなに長く君と話したのは初めてだね。
今まで知らなかった事ばっかり教えてもらえて、なんか新鮮」

( ><)「今後しばらくは私がビロードのフリをしますし、何かあればまたいつでも聞いて下さい」

ミセ*゚ー゚)リ「え、なんで?」


少年は私を顎で指した。
そっか、少年ビロードのほうは怖がりすぎて私の前に出られないんだっけ。


ミセ*゚ー゚)リ「あ、そっか……今までもそうやって成りすましたりしてたの?」

( ><)「……実は。幽霊がビロードの視界に入る度に、ぽっぽに気付かれないように代わっていました」

ミセ*゚ー゚)リ「本当に、コインの裏表なんだね」


こっちとしてはたまったもんじゃ有りませんけどね、少年ベルベットは首を振って愚痴を漏らす。


( ><)「それで……この手紙ですけど」

ミセ*゚ー゚)リ「あ、忘れてた。うーん……」

( ><)「いえ、これは私が何とかしておきます。縁のある相手でしたから」

29130/60:2014/02/07(金) 22:24:07 ID:EWYWCO360
ミセ*゚ー゚)リ「……大丈夫?」


良いんですかね、お任せしちゃって。


( ><)「任せて下さい。それより、ミセリはもうそろそろ薬方院に戻った方が良いのでは?」

ミセ*゚ー゚)リ「あれ、もうこんな時間だったんだ……ねぇ、明日も薬方院に来る?」

( ><)「行きますよ。何か欲しいお土産はありますか?」

ミセ*゚ー゚)リ「市のみかんをお願いします」

( ><)「了解です」

ミセ*゚ー゚)リ「あ、あとさ……君の事ってどう呼べばいい?」

( ><)「……ベルベット。ベルベットでお願いします。
      ビロードとぽっぽは私のことを、昔はそう呼んでくれましたから」


ひとしきり話すと、少女ミセリは少年に手を振り、薬方院への道を引き返してゆく。

少し迷ったが、私は彼女を見送った。
その場に残った少年は私に視線もくれず、装具屋の看板を見上げている。

29230/60:2014/02/07(金) 22:27:35 ID:EWYWCO360
少年は、私が止める間もなく大股で店の入り口まで近づき、ノッカーすら無視してドアを無理やり引き開けた。

い、いかん。いかんよ少年、挨拶はなにより大事だ。


( ><)「お邪魔します」

( ^Д)「……ん、お前は……」


お、おじゃましまーす……。

恐る恐る声を掛けたが、私の声はやはり届かない。
落胆とも何とも付かない気持ちで、私は店主を窺う。


( ^Д^)「何しに来たんだ? ちんぽっぽの奴ならもう帰ったぞ」

( ><)「分かってます。今日は別の用事です」


少年はずかずかと店内に上がり、カウンターに件の手紙を置いた。
プギャーの方はさして興味無さそうにそれを見下ろし、続いて少年の顔をしげしげと見る。


( ^Д^)「なんだ、お前――もう一人の方か」

( ><)「はい。お会いするのは二回目ですね、プギャー・ストロサス」

29330/60:2014/02/07(金) 22:28:12 ID:EWYWCO360
( ^Д^)「まさか今さら俺にトドメを刺そうってんじゃないよな。これは何だ、ラブレターの類か?」

( ><)「それは読めばだいたいわかります。そんな事より、ちんぽっぽと何を話していたんですか?」


そんな事とはなんだ。
私の抗議の視線には一切の興味すら示さず、少年は言いきる。

プギャーは豆鉄砲を喰らったハトのような顔になった。


( ^Д^)「なにって、そりゃあ武器のことだよ。戦棍を売れって言ってきてる」

( ><)「それは知っています。どれを売るつもりなのかと聞いています」

(  ^Д)「……どれも売るつもりは無い。半端な武具はもう売らないことにしているんだ」

( ><)「それは――?」


私のせいだよ。

思わず口を挟むと、少年は意外にも、言葉を切って振り返った。
ややあってから彼は、心得たりと頷く。

29430/60:2014/02/07(金) 22:29:02 ID:EWYWCO360
( ^Д^)「なんだ?」

( ><)「いいえ。ですが、ぽっぽは数日ここに通い詰めているのでしょう? それは何故ですか?」

( ^Д^)「……さぁな。そっちの、そのデカい捩棍が気に入ったらしいが……」


私は、はっと眼を見開いた。
彼が指し示した先、棚の一角には、まぎれも無く私の注文した黒鉄木の大捩棍が立て掛けられている。

少年は棍を見るフリをしながら、私の顔を窺った。
だが、たとえ気付いていても、私には彼に視線を返す余裕は無い。

私は既に、あの『黒天大王』の虜になっていた。

29530/60:2014/02/07(金) 22:29:58 ID:EWYWCO360
 ^Д^)「なんにしても、アレを売ることはできねぇよ。あのチビには大きすぎるし重すぎる」

( ><)「へぇ、本当に客のことを考えているんですね」

( ^Д^)「……大事な金ヅルだからな。勝手に死なれちゃ困るんだよ」


プギャーは冷たく言い放ち、カウンターの上の羊皮紙に手を伸ばそうとした。
しかし――その手を遮ったのは、糸目の少年だった。


( ><)「……すみませんが、やはりコレはまだ貴方にお渡しする事ができません。手前勝手で申し訳ない」

( ^Д^)「あ……? まぁ、別に良いけどよ」


良くないよ、なんでだよ!

29630/60:2014/02/07(金) 22:31:44 ID:EWYWCO360
プギャーは黙って引き下がり、少年は私の手紙を片手に、殊勝にも、本当に申し訳なさそうに頭を下げる。

きっと彼の謝罪は、私にも向けられていたんだと思う。


( ><)「……すみません。でも、私にとって、ちんぽっぽほど大切なものは無いのです」

( ^Д^)「けっ、惚れてるってか」

( ><)「はい。惚れています」


プギャーは心底面白そうに笑い、車椅子を繰って私達に背を向けた。


( ><)「プギャー。くれぐれも、ちんぽっぽをよろしくお願いしますよ」

(  ^Д)「……けっ。せいぜいお前らからも、『黒天大王』は諦めろ、そう言い聞かせとけ」

( ><)「分かってます。それでは、また近いうちに」

( ^Д^)「お、おい、近いうちって」

( ><)「……後日あなたに一つ依頼をすることになります。報酬は……そうですね、“オルガン”の事」

(;^Д^)「あ? “オルガン”だと……待て、おい!」


言い終えるとすぐに店を出て行く少年、私は慌てて彼の後を追った。

29730/60:2014/02/07(金) 22:32:46 ID:EWYWCO360
表通りに出たあと、彼は再び私の存在を完全に無視し、足早に歩き続ける。
私がいくら声をかけても、あるいは追いこして目の前に立ちはだかって見ても、彼は鬱陶しげに眉根を寄せるだけだった。
そして、三つ目の角を曲がったところでようやく、彼は一言、「目障りです」、こう呟く。

……少年、それはちょっと、あんまりな態度じゃありませんかね。


( ><)「そもそも。なぜ私に着いてくるんですか? 私は家に帰って休みたい。邪魔するなら焼却しますよ」


や、お邪魔だなんてそんな、自分はちょっと、君がどうして手紙を取り返したのか気になっただけで……。

私がしどろもどろと言い終わる前に、すでに彼は再び歩きはじめていた。

後を追う勇気は無かった。あれは本気の眼だ。
どういう訳か、多分だけど、彼は私ひとりを無理やり『根の国』へ返すくらいの芸当は出来る気がした。

しかし、彼は数歩進むと、一度私を振り返る。

29840/60:2014/02/07(金) 22:34:42 ID:EWYWCO360
( ><)「一つだけ、聞いておきたいことが有ります」


は、はい、なんなりと!


( ><)「あの『黒天大王』……でしたか。貴方はなぜ、あの棍棒が気に入ったのです?」


少年の問いは、心の中心を握りしめるようだった。
私は言葉に詰まり、それでも、なぜかこの問いについて少年に失望されたくなくて、必死で答えを探した。


――あの棍棒は、なんていうか、響いて来るんだ。

( ><)「響いて、来る」

――良い武器ってのは、上手く言えないが、語りかけてくるんだ。
  俺をこう使え、俺が最高だ、俺と居ればお前は負けない、って。
  私の持論論だけど、この“声”には素直に従うのが一番良い。

( ><)「……それで?」

――あの棍は、その声が一番バカでかいんだ。何言ってるかよくわかんねぇ位に。それで……


私の答えを聞いた少年は、既に踵を返していた。
彼の表情が満足気だったのは、きっと私の気のせいではない。

かくして一日目のあれこれは終わり、私は薬方院の桜の元へと舞い戻るのである。

29940/60:2014/02/07(金) 22:37:04 ID:EWYWCO360
……

翌日。
隣のベッドの少女の、その様相はかなり重度の変容を遂げていた。


ノミノノ゚二]「おはよー、ぽっぽちゃん、に、ビロ君」

(*;‘ω‘ *)「お、おう、ミセリだよな……おはよう……」
(;><)「……昨日のミガワリ作戦がバレたんですね……」


視線だけを動かし、拘束帯で雁字搦めにされた少女が二人の訪問者に笑いかける。

視線だけを動かした。違う。視線しか動かせなかった。
さながら蜘蛛の巣に磔にされた蝶のごとく、あるいは、大陸の伝承に残るミイラと称された化物のごとく。


ノセノノ゚二]「本当、何もここまですることは無いよねー……」


今、彼女の身体のうち、自由に動かせる部分は顎しか存在しない。
それ以外の各箇所は拘束帯により、目釘一本すら動かせないほどにきつく締めあげられている。

30040/60:2014/02/07(金) 22:37:41 ID:EWYWCO360
ノミノノ゚二]「これ、すごいんだよ。力がまったく入らないの」


筋肉の動きを熟知したナオルヨ先生ならではの必殺技だからね。
病室を抜け出しても同じくミイラにされずに済む、私が命を落として良かったと思える数少ない事柄だ。

出来の悪い機巧人形のように、少女は目と口だけを動かし、覇気の欠片も無い声で話す。


(*‘ω‘ *)「……はぁ。確認するが、怪我の具合が悪くなった訳じゃないっぽ?」
ノミノノ゚二]「うん、それは平気。そだ、ぽっぽちゃん、それ」

(*;‘ω‘ *)「あん? なんだ、この高そうなケース……うおっ!?」

ノミノノ゚二]「びっくりだよねー。私達、もうB級なんだってさ」

(*;‘ω‘ *)「なんだって急に……ラウンジの時の詫びか口止め料のつもりか?」


……この少女は残りの二人より頭の回転が速いようだ。
ミイラ少女が首肯し、少女は納得したようにケースを畳んだ。


ノミノノ゚二]「で、それは良いんだけど、問題はそっちの羊皮紙の綴り束で……」

30140/60:2014/02/07(金) 22:38:19 ID:EWYWCO360
(*‘ω‘ *)「今度はなんだっぽ?」


少女はパラパラと束をめくり、目を通した。
糸目の少年は興味深げにその手元を覗きこんでいる。

おそらく、ビロード君ではなく、ベルベット君だろう。


(*‘ω‘ *)「あぁ成程、B級にもなれば名指しで依頼が来るのも当然か」

ノミノノ゚二]「そそ、それそれ。私もそう遠くない内に完治するから、先に次の冒険を決めておきたいなーって」

(*‘ω‘ *)「ふぅん、このご時世にねぇ……ま、ミセリのリハビリがてら、簡単なのを受けるのが良いか」


「お願いしますー」、ミイラ少女が弱弱しく同意する。

彼女が順調に快復してゆけば、冒険に戻るまで残り四日。
大抵の依頼には準備期間が用意されているから、ちょうど復帰戦には丁度いいだろう。

……ぺらぺらと束をめくる彼女の手が、ある一枚の羊皮紙の上で止まった。

30240/60:2014/02/07(金) 22:38:54 ID:EWYWCO360
( ><)「どうしたんです……って、それ」

(*‘ω‘ *)「『ガセウ』……と、あと『ビロード』、『護衛』、『D級』、までしか読めないっぽ。ミセリ、これは」

ノミノノ゚二]「ん……遺跡調査員さんの護衛、だって。ビロ君は特別に、調査に協力してほしいとか」

( ><)「へ、僕ですか? なんで?」


ビロード少年……に扮したベルベット少年は、わざとらしくも不思議そうに首を傾げた。

ガセウ遺跡と言えば、少年の話だと、“オルガン”が発見された場所だ。
そして今、その“オルガン”の眼はこの少年が持っている。

少女ぽっぽをみると、思い当りつつも口には出し難いといった表情でごにょごにょとやっている。

どうやらこれは、少年から少女への、ちょっとした仕返しのようだ。
気付いた私、それにミイラ少女は、つい可笑しくて噴き出してしまった。


ノミノノ゚二]「“オルガンの眼”だよね。ごめんぽっぽちゃん、もうベルベット君から聞いちゃった」

(*;‘ω‘ *)「んなっ、ベルが……いや、もういいや。ごめんっぽ」

30340/60:2014/02/07(金) 22:39:23 ID:EWYWCO360
ノミノノ゚二]「読んだ限りでは危険なことには協力させられないみたいだし、級位の割には報酬も良いね」

( ><)「うーん、僕はこれ、受けたいですけど……」
(*‘ω‘ *)「……は? なんで?」


実験台にします、そう言っているようなものなのに?
少女ぽっぽは不満げに少年を見返す。


( ><)「だって、これが“オルガンの眼”の関係なら、この依頼は僕しか達成できないじゃないですか」

(*‘ω‘ *)「ぽ……それは確かに、そうだけど……」

( ><)「僕は、僕にできることをしたいんです」

30440/60:2014/02/07(金) 22:39:54 ID:EWYWCO360
沈黙、見つめ合い。
糸目の少年、たぶんベル君だと思うけれど、彼は思いのほか粘って見せる。

やがて、目を逸らしたのは少女ぽっぽの方だった。


(*‘ω‘ *)「……はぁ、わかったっぽ。ミセリ、お前はどう思う?」

ノミノノ゚二]「うーん……良いんじゃない? それにしよっか」

(*‘ω‘ *)「じゃ決まりだな。……それなら、済まないが、ちょっと出かけてくるっぽ」
( ><)「あ、それじゃ僕は市議会に行くんです。依頼受領の報告に」

ノミノノ゚二]「あい、いってらっさい。私は解放されるまで寝ておくことにしますー」


少女と少年は、何事かを言いあいながら部屋を出て行く。

こうして二人は去り、少女ミイラと私ゴーストの奇妙なコンビが残された。

30540/60:2014/02/07(金) 22:40:51 ID:EWYWCO360

ノミノノ゚二]「悪いけどさ、こっそりあの二人に着いて行ってくれないかな?」


へ、私が? なんで?
私は思わず、間抜けな声でミイラ少女に答えた。


ノミノノ゚二]「そそ、あなたが。私、近くに人が居たら寝られないんだ。二人も心配だし」


そ、そうなのか。それは済まなかった。


ノミノノ~二]「いいよいいよ。それじゃベル君によろしくね」


あいあい。
眼を閉じた少女に返事を返しつつ、私は身体を滑らせた。

どことなく適当な感じとはいえ、少女は珍しくも私の話相手になってくれる。
その彼女のたっての願いを無碍に断るなど、この私にできようものではない。

……などなど、私自身の出歯亀根性に言い訳をしつつ、私は中庭を通り抜け、薬方院の門まで漂った。

30640/60:2014/02/07(金) 22:41:35 ID:EWYWCO360
左右の路地を見渡せど、ターゲットの姿は無し。
これは追いぬいたな、当たりを付けた私は近くの壁に身体を滑り込ませ、目元だけを透過させて様子を窺う。

私としては、何か仲睦まじい会話の一つでも交わしていてくれると嬉しかった。
しかし、私如きの願いを少年少女が知りうるはずもない。

かなり遅れて薬方院から出てきた二人は明らかに険悪で、いまにも殺し合いそうな雰囲気だった。

……おいおい、何があったって言うんですか?
私は興味をそそられ、目元を壁に引っ込め、代わりに耳を出した。

小さく二人分の声が聞こえて来る。


「……それで? アタシにその手紙を読み聞かせて、お前は何をしたいんだ?」
「答える義理は有りません。少しくらい自分の頭で考えたらいかがです?」

30740/60:2014/02/07(金) 22:42:22 ID:EWYWCO360
二人の声は、私が隠れている壁に沿って離れていった。
私は耳のみを出したまま、匍匐前進の姿勢で後を追う。

どうやら、少女ぽっぽは少年が少年ベルだと気付いているらしい。
というよりは、むしろ少年ベルが自ら正体を明かしたのだろうか。

気をそらしていた私の頭上で、壁に衝撃音。

慌てて目を出して確認すると、イライラした様子の少女が少年の襟首を掴んで、壁に押しつけていた。


(*#‘ω‘ *)「……調子に乗るなよ。理由が無いなら今すぐ消えろ。ビロードに身体を返せ。さもなくば――」
( ><)「はは、何をするって? 折檻しますか、ビロードの身体を? 貴女よりずっと強い私がわざと無抵抗でいる間に?」

(*#‘ω‘ *)「……く、そ、この寄生虫野郎が……」

( ><)「好きに言いなさい、ボウケンシャ。不満なら力で示せよ、無理やりにでも私を追いだして見せろ」

(*#‘ω‘ *)「……あぁそうだな! 方法が見つかればお前なんていつでも消してやるっぽ!」

30840/60:2014/02/07(金) 22:44:32 ID:EWYWCO360
……のっぴきならない。
おいおい、昨日の話では少女ぽっぽが一方的に勘違いしてるってはずなのに、見る限り少年ベルの方が油を注ぎまくってるじゃないか。

少年は少女ぽっぽを鼻で笑い、糸目のまま不敵な笑みを浮かべた。


( ><)「方法が見つかれば、ね。ガセウ遺跡の調査依頼に賛同したのも、その為でしょう?」

(*#‘ω‘ *)「……ッ!」

(*><)「方法が見つかれば、だなんて……はっはっはっは、それじゃお笑いも良いところだ!
     そもそも調査に協力するのは、“オルガンの眼”をより上手く使えるのは私です。私の力で、私を消す手段を探すと?」

(*#‘ω‘ *)「調査は……ビロードの力だけで、充分かもしれないだろ……!」


少年の高笑いが路地に響いた。
歯噛みする少女の顔は、見る見るうちに真っ赤に染まっていった。

30950/60:2014/02/07(金) 22:46:10 ID:EWYWCO360
( ><)「ま、せいぜい頑張ると良い。必要ならばいつでも“私”を頼れ、あの言葉は今まだ有効です」

(*#‘ω‘ *)「誰が、お前なんかに……!」

( ><)「そのセリフは何度も聞きましたよ。それでも貴女は、何度も私の力を頼ってきた」

(*#-ω-)「……」

( ><)「……さて、もういい加減にこの手を放せよ。
      忘れちゃいないよな、お前は俺がちょっと瞼を動かすだけでケシ炭なんだぜ?」

(*#‘ω‘ *)「……」


少女ぽっぽは、静かに手を離した。

肝が冷え切った。この場は完全に決着がついている。
脅しにしろ交渉にしろ、なによりも重要な“胆”の部分で、少年は完全に少女を圧倒していた。

31050/60:2014/02/07(金) 22:46:46 ID:EWYWCO360
(*#‘ω‘ *)「……くそが」

( ><)「とんでもない、貴女は賢明ですよ。それで、この後はどうするんですか? まだあの黒天大王を?」


少女ぽっぽは、きっと少年を睨みつける。
当然だ。彼女が黒天大王を求めていることを、からかうように口にしたのだから――?

ん、すると、彼はこの少女に読み聞かせる為に、私の手紙を差し戻したのか?
なぜ、そんな事を?

私の疑問の答えは、少女ぽっぽが出してくれた。


(*#-ω- )「……ああ、何としても売ってもらうっぽ。くそ忌々しいが……それは、お前に、感謝しなきゃならん」

( ><)「おや、殊勝ですね。一応、理由を聞いておきましょうか?」

(*#‘ω‘ *)「この手紙を、プギャーが先に読んでいたら。アイツはきっと、死ぬまで黒天大王を手放さなかっただろうからだ」


……え。

31150/60:2014/02/07(金) 22:47:36 ID:EWYWCO360

(*#‘ω‘ *)「お前は、ムカつくが、『チェトレ』を優先してるっぽ。アタシが上手く棍を買いつけられるように。
      プギャーよりも、見ず知らずのマリオルドよりも、『チェトレ』の利益を考えてる。だから……」

( ><)「……」

(*#‘ω‘ *)「だから、今回は、お前の外道な策に乗っておいてやる。アタシも外道になる。〜〜の気持ちを踏み躙る」

( ><)「そうですか。では、一つだけ助言を」

(*#‘ω‘ *)「……」

( ><)「武器を選ぶときは、その武器の声を聞くのが何より良い。これは、その〜〜の受け売りです」

(*#‘ω‘ *)「……おう。覚えておく」


少女ぽっぽは南東へと歩き去る。
私は茫然とその背中を見送った。

少年は少女ぽっぽが見えなくなるまで立っていたが、やがて、初めから分かっていたように、私を見下ろした。


( ><)「……と、こういう事です。最後まで協力できなくて、申し訳ありません」

31250/60:2014/02/07(金) 22:50:06 ID:EWYWCO360
――私は……どうしたらいい?
情けなく震えた私の声に、少年は顔色一つ変えずに、侮蔑的に私を見下したまま、答える。


( ><)「好きにしたらいい。出来るかぎりのことをしたらいい。貴方は――」


少年が語り終える。
私は彼に背を向け、走り出した。
家々も城壁も、入り組んだ路地も、身体をすり抜けてゆく。


そうだ、なぜ気付かなかったんだろう。

私は――私の名は榊原マリオルド、冒険者だ!



……そこへは、すぐに辿りついた。

31350/60:2014/02/07(金) 22:50:52 ID:EWYWCO360
ノッカーに伸ばした手は、やはり触れることも無く通り抜ける。

主は工房に籠っているのだろう、出迎える者はなかった。
無人の店内を、私は音も無く滑る。

剣の棚、投擲器の棚、その向こうに、打撃器の棚。
何度も通い詰めた頃のまま、手入れの行き届いた武具が立ち並んでいる。

一振りの棍の前で、私は立ち止まった。

私の依頼品、私の未練。
私の手に収まるはずだった、私の相棒。

いくら手を伸ばしても、私は彼に触れることが出来ない。
ただ見上げることしか、身体を持たない私には出来ない。

私はそうして長らく、彼を見上げて過ごした。
……やがて工房から車椅子の音が聞こえ、私はそちらに顔を向ける。

31450/60:2014/02/07(金) 22:52:43 ID:EWYWCO360
主は二年前と同じ、覇気の無い様子でカウンターに着く。

懐かしく、そして、愛おしい、あの冒険の日々に帰ったようだった。
主は店内を見渡し、私の居る棚の方へと視線を向け、覇気の無い声で言う。


( ^Д^)「なんだ、また来たのか。何の用だ?」


私は声を張り上げ、叫ぶように答えた。
届いてくれ、祈るような気持ちだった。


――あの棍を、黒天大王を、俺に振らせてくれ!
一度だけでも、あの一振りに触れることができなければ、俺は死んでも死にきれないんだ!


……叫ぶように答えた私の声は、届かなかった。
彼の眼は一度だって、私を見ていなかったから。


(*‘ω‘ *)「……黒天大王。あの棍を、私に譲ってくれ」

31550/60:2014/02/07(金) 22:53:30 ID:EWYWCO360
( ^Д^)「やれやれ、今日もそれかよ」

(*‘ω‘ *)「で?」
( ^Д^)「だめだ」

(*‘ω‘ *)「……ち」


それからの二人の会話は、私の耳には入って来なかった。

どうやら二人の交渉が決裂したこと、少女が手を尽くしてプギャーを説得しようとしたこと。
棚が崩れてプギャーの車椅子が壊れたこと、……彼が私の死を思い出して今も苦しんでいること。

どれも私の耳には入って来なかった。
ただ黒天大王の声だけが響いていた。

叩く、殴る、潰す。固く、硬く、堅く。
乱暴に響き渡る棍の声は、どれも私のためのものだった。
私の妄執は、すでに私がどうこうできる域を超えていた。

私は既に、死者としてのヒトすら失っていたのだと思う。

……やがて、少女が店を出てゆく。
一気に静かになった店内に、ゆっくりと杖の固い音が響く。

私の隣に、プギャーが座り込んだ。
私と彼は、互いに言葉をかわせぬまま、彼の来訪まで、ずっと座り込んでいた。

31650/60:2014/02/07(金) 22:54:54 ID:EWYWCO360
……

( ><)「お邪魔します……って、これは一体、何があったんですか?」

( ^Д^)「……なんでもねぇよ。棚が崩れただけだ」


少年ベルベット。少年の姿をした、悪魔の様な男。

彼はプギャーを、その隣の私を見て、察したと言うように首を振る。
思えば、私がヒトを失くして妄執の塊となってしまうと、彼は気付いていたのだろう。

私に目をくれることも無く、彼はプギャーの隣に歩み寄る。


( ><)「プギャー・ストロサス。貴方に一つ、依頼があります」

( ^Д^)「昨日お前が言ってた件か」

( ><)「はい。ぽっぽに、武器を一つ用意して頂きたい」

( ^Д^)「……だが、あのチビはサイズの合ってない黒天大王以外には目も――」
( ><)「――その黒天大王を。ぽっぽに合わせて打ち直して頂けませんか?」


……この悪魔、今……なんと、いった?

31750/60:2014/02/07(金) 22:57:56 ID:EWYWCO360
(;^Д^)「あぁ? お前、それがどれだけの労力の要る作業だと思ってやがる?
      一度武器に成型した黒鉄木を素材とし直すのがどんだけキツいか……」

( ><)「貴方ならば不可能ではない、そうでしょう?」

(;^Д^)「……くそ、できないとは言えねぇよ。俺も一応は、ストロサスの鍛冶師だ」

( ><)「報酬は約束します。まずここに金貨を四十枚、それに加えて昨日の約束を果たします」

( ^Д^)「……“オルガン”の情報、か。そりゃ一体……」

( ><)「私の眼が“オルガンの眼”だとは知っていますね?」

( ^Д^)「……?」

( ><)「この眼のもとの持ち主、ヨコホリと名付けられた彼の、その躯の在処」

(;^Д^)「……! そりゃあ……」


プギャーの心が揺れ動く、手に取るように分かった。
“オルガン”の組織があれば、彼の二度と動かない足も、もしかしたら。

そうでなくとも、鍛冶師にとって“オルガン”は理想そのものだ。

31850/60:2014/02/07(金) 23:00:51 ID:EWYWCO360

( ><)「ストロサス一門の技術力ならば、あるいは、組織の複製は可能かもしれませんね」

(;^Д^)「……なるほどな、そりゃ確かに、充分すぎる報酬だ。だが……」


プギャーはもう一度、黒天大王を見上げた。
断ってくれ、私は祈るような気持ちで二人のやり取りを見つめた。

私はもう自分の気持ちにウソを吐くつもりはない。
あの『黒天大王』は、私の、私だけのものだ。
誰にも譲らないでくれ。私から、私の心の支えを取り上げないでくれ。

しかし、悪魔の手は、私の祈りを引き裂くように、狡猾だった。


( ><)「この手紙、これを今度こそ貴方にお渡しします」


ああ、こんな……ひどすぎる。

31950/60:2014/02/07(金) 23:02:15 ID:EWYWCO360
( ^Д^)「……これは」

( ><)「差出人は、マリオルドです。私が代筆しました」

( ^Д^)「……」


プギャーは無言で封を解き、読み始めた。

膝が崩れるような思いだった。
プギャーの心が、私の、私がヒトだった頃の思いによって、今の私の妄執とは逆の方向に動かされている。

私にとって最悪のタイミングで、私にとって最悪のカードが切られた。

読み終えたプギャーは封紐を巻き直し、悪魔に手渡した。


( ^Д^)「間違いないな、このバカ丸だしの言葉使い、こりゃマリオルドのもんだ」

32050/60:2014/02/07(金) 23:03:36 ID:EWYWCO360
( ><)「分かって頂けたようで何よりです」

( ^Д^)「だがな……この金貨、これは持って帰れ。“オルガン”の身体も今は要らない」

( ><)「……」


私は静かに首を振った。

私の、負けだ。


( ^Д^)「その代わり、お前も鍛冶を手伝え。車椅子が無いんだ」

( ><)「……それでは……!」

(  ^Д)「俺は鍛冶師だ。冒険者に、必要な武具を造る。それが鍛冶師だ」

( ><)「ありがとう……ございます……!」

32150/60:2014/02/07(金) 23:04:47 ID:EWYWCO360
悪魔の手が、鍛冶師に言われるまま黒天大王を掴み、妄霊の私から取り上げる。

絶望が、私の心を満たした。
二人の姿を、敗れた私はただ見送るしかなかった。

妄執が復讐へと姿を変えてゆく。

……この後に待ち受ける私の悪行について、ただ一つだけ言い訳させてほしい。

私はこのとき、私ではなくなったのだ。
誇りある冒険者としての私は、すでに『根の国』へと舞い戻っていたのだ。

やがて私の『黒天大王』は、その魂を残したまま『黒天飛王』への転生を終える。

32260/60:2014/02/07(金) 23:05:41 ID:EWYWCO360
……

ミセリはベッドに身を起こし、窓の外の桜を眺めていた。

あれは、桜っていう樹だよ。
教えてくれた幽霊は、もうずっと姿を見せない。

ナオルヨ先生が退院を言い渡したのが、今日の朝。
もう数刻をもって、ミセリは再び冒険の身に戻る。

足音が近づき、彼女はその主を振り返る。


ミセ*゚ー゚)リ「ん……ビロ君……じゃないや、ベル君だよね?」

( ><)「はい、私です。と言っても、もう私がビロの代わりに出て来る理由もありませんがね」

ミセ*゚ー゚)リ「……そっか。それじゃやっぱり……」

( ><)「〜〜の幻影は、消滅しました。私が消滅させました」

ミセ*゚ー)リ「……ん」


窓から見える桜が、風に静かに揺れる。


ミセ*゚ー)リ「聞かせてくれる? 彼の、最期」

323訂正:2014/02/07(金) 23:06:37 ID:EWYWCO360
……

ミセリはベッドに身を起こし、窓の外の桜を眺めていた。

あれは、桜っていう樹だよ。
教えてくれた幽霊は、もうずっと姿を見せない。

ナオルヨ先生が退院を言い渡したのが、今日の朝。
もう数刻をもって、ミセリは再び冒険の身に戻る。

足音が近づき、彼女はその主を振り返る。


ミセ*゚ー゚)リ「ん……ビロ君……じゃないや、ベル君だよね?」

( ><)「はい、私です。と言っても、もう私がビロの代わりに出て来る理由もありませんがね」

ミセ*゚ー゚)リ「……そっか。それじゃやっぱり……」

( ><)「マリオルドの幻影は、消滅しました。私が消滅させました」

ミセ*゚ー)リ「……ん」


窓から見える桜が、風に静かに揺れる。


ミセ*゚ー)リ「聞かせてくれる? 彼の、最期」

32460/60:2014/02/07(金) 23:08:06 ID:EWYWCO360
( ><)「……マリオルドは、黒天大王が黒天飛王に変わるのを、私達の近くで見届けました」


ベルベットの言葉を聞きながらも、ミセリの視線はただ窓の外へと注がれていた。
がらんとした部屋に、大柄で半透明の隣人は居ない。


( ><)「彼はすでに生前の彼ではありませんでした。黒天大王を手にしたい、その一心だけの、言わば残響に過ぎませんでした」

ミセ*゚ー)リ「……」

( ><)「大王の死と飛王の誕生を見届けた彼は、標的を飛王に替えました。
      飛王を手に入れることに、彼の妄執は自然と移り変わったようです」

ミセ*゚ー)リ「……そっか。当然だよね」

( ><)「はい。……そして、彼は当然、気付いてしまいました。飛王を己が手に収め、冒険に立ち戻る術に」

ミセ*-ー)リ「……この腕環、だね。マリオルドさん、一度だけここに戻ってきたよ」

( ><)「はい。彼はその腕環……生者と死者を曖昧にする、その腕環を使って……ぽっぽの身体を、乗っ取ろうとしていました」

32560/60:2014/02/07(金) 23:09:18 ID:EWYWCO360
閉ざされた目蓋をすり抜けて、柔らかな太陽の光が届けられる。

暖かく、優しい光。
ヒトを、精霊を、樹海を、生命すべてを平等に照らす光。


ミセ*-ー)リ「……どうやって、消滅させたの?」

( ><)「……“オルガンの眼”は、映るもの全てを焼き尽くします。
      例え相手が死霊でもただの妄執でも、この眼に映るものならば、例外などありません」

ミセ*-ー)リ「……」

( ><)「繰り返しますが、あれは最早、マリオルドではありませんでした。ただの抜け殻でした。
      本当の彼はきっと、すでに『根の国』に辿りついているでしょう」

ミセ*-ー)リ「……そっか。それなら、良かった。またいつか、この世界に芽吹いて来るなら……」


この暖かい光は、きっと彼の元にも届いているだろう。

32660/60:2014/02/07(金) 23:10:31 ID:EWYWCO360
( ><)「……さて、最近は出ずっぱりで疲れましたし、しばらく休みます」

ミセ*゚ー゚)リ「ん……ねぇベル君、いつか君も、ぽっぽちゃんと――」


――。
少年は静かに首を振った。


( ><)「……いいえ、その日は来ないでしょうね。それに、願う資格すら私にはありません」


何か言葉を掛けようとしたその瞬間、オレンジ色の玉が放り投げられる。

ミセリは咄嗟に、自由な右手でその玉を掴み取った。
手の平に収まる程度の玉、その正体は、小さな蜜柑だった。


ミセ*゚ー゚)リ「もう、ベル君……って、あれ、ビロ君?」

( ><)「は、はい。あの、ベル君はもう寝るって言ってて、その、それはお土産だそうです」

32760/60:2014/02/07(金) 23:13:11 ID:EWYWCO360
ミセ*゚ー゚)リ「……そっか、約束したっけ。もう、遅すぎるよ」


丁寧に皮を取り、実を一粒とって口の中に放り込んだ。
舌の真ん中が引っ張られるような、強い酸味が弾けた。


ミセ*゚ー)リ「……うぐぐ、酸っぱいー……」

( ><)「あの、伝言なんですけど……もし、酸っぱかったら、日頃の、行いのせいだ、って」

ミセ*-ー)リ「あんにゃろう……」

( 。><)「……ご、ごめんなさい……ごめ、なさ……マリオ、ルド、さん……」


ミセリは何も知らない風に、窓の外に視線を移した。
桜は静かに、吹き抜ける秋風に枝葉を揺らしている。

ビロードが大粒の涙を流し終えるまで、ミセリは枝葉を包む太陽の光を眺めていた。
……これは傷を癒した冒険者達が樹海へと舞い戻る、その前日の物語。


ミセ*゚ー゚)リ樹海を征く者のようです

幕間δ−裏 了

328以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/02/07(金) 23:21:15 ID:FLheXTJM0
以上で本日の投下は終了です。
正直に言うと、今日ばかりは感想聞くのが怖いですね。
でも、もし何かご意見その他おありでしたら、ご遠慮なくこのスレに書き込んでください

ご静聴ありがとうございました

329以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/02/07(金) 23:36:51 ID:LuybH03o0
追記、本編とは無関係のレスになりますが……

シベリア図書館様、開館四周年おめでとうございます。
このミセリ樹海、御図書館を愛する一人とし、心よりお祝い申し上げます。
51スレ目、ずいぶん大きくなったね。1スレ目の君に一つもレスがついてなかった頃から、ずっと見てたよ。
これからも誰かを支えたり、助けたり、そんな場所であり続けてください。
私の故郷へ、初代し記録より

330以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/02/08(土) 01:35:45 ID:nQbuq/Fc0
ミセリ、ポッポ、ビロ、B級昇進おめでとう

つかの間のチェトレの平和な日々の話だったけど、どんでん返しが新鮮だった
ビロとベルの関係とか過去話もおおー!ってなった
いよいよ新たな冒険って感じになってきたし次回も楽しみ!

331以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/02/08(土) 21:24:42 ID:fA9Z6xWU0
更新 乙!

今からじっくり読むわ

332以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/02/09(日) 13:15:08 ID:CvKUVRJk0
乙!!
冒険ものはこういう装備が強くなったりするところが良いね

333以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/02/09(日) 14:19:42 ID:RIgkgVlo0
乙ん

334以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/02/15(土) 00:45:33 ID:I.Lqr12.0
乙でござる

335以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/02/27(木) 11:08:18 ID:ikpr8sAo0
いやー全くwwwwww引越し作業が大変だなぁwwwwww
まだ働きたくねーよwwwwwwもう少し大学生で居たかったぜwwwwww
作者もきっとwwwwww新生活wwwwwwの準備が忙しくて大変だと思うけどwwwwww頑張ってくださいwwwwww

336以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/02/28(金) 23:51:16 ID:/MQH89ZE0
貴様絶対に許さん便所に追い詰めて肥溜めに叩き込んでやる

337以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/03/05(水) 00:12:50 ID:y2Q.9jFc0
大丈夫、俺は新社会人を1ヶ月半で

338以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/03/05(水) 00:14:16 ID:y2Q.9jFc0
間違えて途中で送った

挫折したんだぞと続けたかった

339以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/03/11(火) 00:17:51 ID:kZ8eqlOg0
思い通りにはならないだろうけどなんとかなるさ

340以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/04/09(水) 22:47:12 ID:pq1OR7wg0
調子どう?風邪引くなよ

341以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/04/14(月) 02:00:15 ID:dHloMDPA0
待ってる

342以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/04/15(火) 11:57:00 ID:iyi2s4bs0
元気ー?

343以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/04/19(土) 20:50:30 ID:y.4w/SSw0
待ってる

344以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/04/20(日) 00:46:37 ID:Ck30a9J.0
噂を聞いてやっと追いついた
頑張って

345以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/05/17(土) 01:53:33 ID:0PfqAgW60
何も書かないけど毎日確認に来てるよ
待ってる

346以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/06/08(日) 21:49:11 ID:T/t34FKA0
ごめんなさい 結局なんとか卒業して就職したのです
投げ出すつもりは無いんだけど、週あたり労働時間が80超えててですね

347以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/06/08(日) 21:51:49 ID:T/t34FKA0
ご声援ありがとうございます
じわじわ確実に頑張ります

348以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/06/09(月) 01:00:00 ID:1rhyE2fg0
おおお、おめでとうというかなんというか...頑張ってください!

349以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/06/12(木) 20:38:09 ID:SUnzeQ9I0
頑張れよ
もう頑張れ以外にお前に言ってやれる言葉はない

350以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/06/14(土) 01:29:58 ID:sGyRLshU0
おおお!卒業おめでとう!!就職おめでとう!!!!
一年目きついだろうけどがんばってくれよ
たまに生存報告してくれりゃ年単位で待てる

351以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/06/23(月) 00:52:32 ID:Bhz4tlw20
専ブラあれば年単位とか余裕で待てるよな
無理せずがんばってくれ

352以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/07/22(火) 23:55:55 ID:MQuMPRVY0
そろそろ仕事の疲れがどーっと出て来たりしてないかーい?

353以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/08/06(水) 17:23:14 ID:F.X2F3yQ0
返事が無い……五月病こじらせたか

354以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/08/13(水) 13:47:23 ID:dOyxWxDU0
そろそろお盆休みかい?
ゆっくり休んでくれーたまに生存報告くれー

355以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/09/30(火) 13:06:55 ID:kZGReycc0
生きてるかだけでいい・・・生存報告してくれええええええ

356以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2014/10/03(金) 23:39:49 ID:FooWx2C60
この物語を終わりまで読む為に
仕事頑張ってるんだ(´・_・`)

357以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2015/01/04(日) 19:40:53 ID:gLe8/J5E0
待ってるぞ!

358以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2015/01/14(水) 15:36:48 ID:XZzksaNY0
実生活頑張れよ〜
気長に待ってるぜ

359以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2015/01/15(木) 19:03:03 ID:AXd0w5N20
長いことすまない。春と夏と冬は吐くほど仕事が詰まるんです
もうしばらくのんびりしていてください

360以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2015/01/16(金) 12:30:17 ID:hpzN3pzs0
おう、のんびりしとくやで

361以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2015/01/25(日) 00:49:26 ID:GAkskQMA0
こっちはどんだけでも待てるがお前さんの体調だけが気がかりだぜ
忙しいだろうが、体を大事にな

362以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2015/02/03(火) 16:28:28 ID:0yDriEIY0
まっつよー

363以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2015/03/18(水) 00:23:16 ID:FNrkcUlw0
年度末だな
体調崩さないでくれよ

364以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2015/05/17(日) 15:00:33 ID:L5kyxxLw0
保守

365以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2015/05/23(土) 01:30:44 ID:uPUd.L9.0
辞表出してきたぜぇぇぇえええ!
待たせたな各々方!!

366以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2015/05/23(土) 07:32:50 ID:ehZuuOvU0
え、まじで!?
そうかー辛かったんだなあ
戻ってきてくれて嬉しいよ

367以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2015/05/23(土) 10:21:36 ID:0jvT86Ss0
おつかれさまでした…

368以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2015/05/24(日) 16:05:56 ID:Wgk0wJFk0
お疲れ様でした。
無理せず頑張って下さい。
楽しみにしています。

369以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2015/06/10(水) 22:34:07 ID:enE51CII0
マジか!
とにかく日々の生活を優先してくれw
いくらでも待てるぜ!

370以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2015/07/01(水) 14:33:35 ID:mqkiFbko0
物書き目指すのかな?
何にせよ気長に頑張っておくれ

371以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2015/07/24(金) 20:35:44 ID:wyk3/P3I0
予告スレに書き込んだの本物? 本物ならせっかくのツイッターも活用してくれ

372 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 14:04:52 ID:X0Vi2hP20
ガセウ遺跡。ヨツマ南方は距離にして数日。

新世界の古期に建造された四方数里の広域な廃墟群と、その地下に広がる旧世界の地下遺跡。

旧世界の人々が去ってから、再びその地に新世界の人々が住み着くまで。
そして、その地にこの廃墟群を打ち立てた人々が滅んでから幾百幾千年。

幾百年もの間、幾千年もの間、ヨツマの先人たちがその地を訪れるまで、遺跡はこの地に眠り続けた。

あるいは、その地は揺りかごに過ぎないのかもしれない。

373 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 14:53:05 ID:X0Vi2hP20
ミセ*゚ー゚)リ樹海を征く者のようです 第三章 風戦ぐ高原

374 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 15:19:40 ID:X0Vi2hP20
第一話 かつて死んだ世界の残り火

ミセ*゚ー゚)リ「……最ッ高!」


小高い丘を上がったミセリは、自らの足跡を振り返り、裾野に広がる野原を見下ろした。

紅葉した木々が風に揺れ、空に浮かぶ雲は大きな白。
大地を照らす日差しは弱く、視界の端には樹海の緑。

丘の向こう、行く先には草原の合間に剥き出しの地面、その上に折り重なる赤煉瓦の建造物。


ガセウ。
目指す遺跡の、その地表部分が見えた。

375 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 15:20:42 ID:X0Vi2hP20
ミセリは親和を起動し、聴覚を強化する。

風の声と草木や枝葉の声、鈴虫の声。
警戒が必要な相手は、居ないようだ。


ミセ*゚ー゚)リ「ガセウかー……」


纏亭を訪れる冒険者たちから、その名は何度も聞いていた。

旧世界の人々の技術は、新世界の人々のそれとは比べ物にならないほど高く、また精密だったという。

伝承では例えば、一日で大陸を渡り切る、空飛ぶ方舟。数千里の彼方まで一瞬で声を運ぶ、見えない回路。
およそ想像しうる殆どは旧時代の人々が、それも精霊を介することすらなく、為したことがあるんだとか。

このガセウにもその驚異的な技術は用いられ、例えば、地下深くにあっても昼の日差しが届き、木々を育んでいた、らしい。


(*‘ω‘ *)「ぽ……やっと着いたか」

ミセ*゚ー゚)リ「ぽっぽちゃん」

376 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 15:29:02 ID:X0Vi2hP20
(;TДT)「もうちょっと……あとちょっと……」
(;><)「ひぃー……疲れたんですー……」


振り返ると、依頼人とビロードが、それぞれ息を切らしながら斜面を登ってきていた。
とりあえず護衛の任務はひと段落だろう、ミセリは一旦、安堵の息を吐く。

依頼主、モカー・ロス。
護衛は『チェトレ』、ミセリ、ビロード、ちんぽっぽ。
そして、それに加えて今回は――


( ・(エ)・) ゴアッ
ミセ*゚ー゚)リ「よーし、よく着いてきた!」


ミセリがキャラバンから連れ帰った樹海熊、ポン太。
纏亭の番熊を務める若き樹海の拳闘士が、護衛の一旦として同行している。

377 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 15:31:13 ID:X0Vi2hP20
……

三日前。無事に腕を完治させて退院したミセリは、ビロードを引き連れ、纏亭に引き上げていた。

滋養に富んだ院内食も味は悪くなかったが、体力の落ちた身体は何よりもまず蛋白質を求めている。

牡丹の腸詰め、香草包みの鹿腿肉、雲羊の串焼き。
その日仕入れられた食材のリスト、量にして冒険者七人前を、ミセリは上から順に腹に放り込んでゆく。

最後に大貂皮鹿の炙りをバタービールで胃に流し込んだ時、まだビロードは一食分の干し肉をちびちびと食べていた。


ミセ*´ー`)リ「ふぃー……私もまだまだ母さんには遠く及びませんなー……」

(;><)「〜〜〜!」

ミセ*゚ー゚)リ「さて、そろそろ時間かな」

( ><)「……うぅ」

378 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 15:33:14 ID:X0Vi2hP20
纏亭は昼下がり。
客は数人、見知った腕利きが二人に達人級は一人、知らない顔が三人。

暗殺なり暗躍なり、こそこそ出来る環境ではない。とはいえ。


( ><)「その……依頼人の人は」
ミセ*゚ー゚)リ「ゴドフリート・モナロスさん、ランクは"銅"。だったっけ」


……そんな名前の冒険者は登録されていなかったけどね。
ビロードが軽く肩を震わせた。


ミセ*゚ー゚)リ「ま、大丈夫じゃない? ……わざわざ相手から“ここ”を指定してきたんだし」


さすがに何か起こすつもりはない、と、思う。

379 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 15:34:53 ID:X0Vi2hP20
( ><)「うーん……でも……」

ミセ*゚ー゚)リ「あんまりオドオドしてると、かえって危ないんじゃない?」

(;><)「うぇぇ!? そんな意地悪な……!」

ミセ*゚ー゚)リ「ま、ご指名があった位だし、どうせ逃げられるものでもないんだから――」


――堂々としてようよ。
言いかけたミセリはしかし、ふと言葉を切り、視線を脇に向けた。

彼女が机上のグラスを掴み損ねたことに、向かいに座るビロードは気付いた。


ミセ;*゚ー゚)リ「……いやいや」
(;><)「いやいやいやいや……」


( ■∀■)「『チェトレ』の二人モn……ゴドね?」
(;TДT)「……」


色眼鏡、長髪のカツラ、カラフルなジャケット、胸毛と大胸筋、そして中年太り。
依頼人のゴドフリート氏(仮)は、ビロードに見習わせたくなる程の、堂々とし過ぎた出で立ちで纏亭に現れた。

380 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 15:36:05 ID:X0Vi2hP20
( ■∀■)「はじめまして、モナの名はゴドフリート・モナロス。冒険者モ……ゴド。二人の先輩ゴド」


うぉっほん、だなんて、大げさな咳払いしちゃったくらいにして。
彼の唯一の肉親――研究仲間でもある弟、モカー・ロス氏すら隣で呆れた顔をしている。


(;><)「せめて語尾と一人称くらい徹底してほしいんです……ッ!」
ミセ;*゚ー゚)リ「お、おう……そうゴドね。モナーさんにモカーさん、最近忙しいって聞いてたけど……」

( ■∀■)「モ、じゃなくて、ゴドはモナーとは無関係ゴド!」
(;TДT)「……兄さん……」


ミセリは無言で片手を上げ、店員を呼び、人数分のビールと枝豆を注文した。
店員は怪訝な顔で常連の中年を見やった。どうせいつも通り、塩は少なめだ。

……この有様を見て、彼がB級ギルド“銅”どころか、七人しか居ないS級――“銀”の紋章を持つ者だと。
『VIP☆STAR』を導いた頭脳、青の精霊を統べる百識の司令官、モナー・ロス教授だと、誰が信じるだろう。

381 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 15:37:39 ID:X0Vi2hP20
ミセ*゚ー゚)リ「じゃあ、本題だけど、モナーさん」


切り出したミセリに、モナーがわざとらしく咳払いを返す。
若干イラッとしたので、大きめの声で、「モナーさんを! 護衛するの!?」と大声で言ってやった。


(;■∀■)「も、モナはモナーじゃないモナ! で、護衛するのはモナーじゃなくてこっちの……」

(;TДT)「兄が本当にすみません……モカー・ロスです。久しぶりですね、ミセリちゃん、ビロード君」

ミセ*゚ー゚)リ「うん、久しぶりだねモカーさん。ええと、どういう依頼?」

(;■∀■)「も、モナを、モナを無視するモn……ゴドっ!!」


モカーの話だと、ガセウ遺跡――ヨツマの南方の古代遺跡の調査に協力してほしいとのことで。
もう殆ど調べ尽くされた遺跡だが、唯一その最深部に未調査の、開かずの扉があるのだという。

長らくその“鍵”は失われたと思われていたのだが、まだ試していない方法を思い付いたとかで……。


(;TДT)「兄は議会の補佐で死ぬほど忙しいから、今回は私一人での調査です」

382 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 15:38:15 ID:X0Vi2hP20
ミセ*゚ー゚)リ「じゃあ、モナ……ゴドフリートさんは、その忙しい中、何しにここに?」

(;■∀■)「……周りに聞かれたくない事モn……聞かれたくない事ドフが……」


惜しかったな、正しい語尾はそれじゃない。
というか、今さらまだ隠しているつもりか。


( ><)「あ、あの、モナー先生……」
ミセ;-ー)リ「モナーさんの親和なら、近くで聞き耳立ててる人が居るかくらい、すぐ調べられるんじゃ……」

( ■∀■)「あ、そうか」


ムーンライトをあしらったゴドフリート氏(仮)のカフスボタンが、空色の輝きを放つ。
モカーが椅子を鳴らして立ち上がる。その顔は引きつっていた。

383 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 15:39:11 ID:X0Vi2hP20
モナーの親和は青。
青は空、青は風、青は大気の大渦。
千切れ、逆巻き、縒合う天の色彩。

司る力は、"知識"。
その本質は、人と人を繋ぐ、不可視にして可思たる意志の力。

……モナーが発動させたのは、彼の最も得意な術。すなわち、“知覚”の力だった。
会話も行動も精霊も、あらゆる"流れ"を認識するだけの、ただそれだけの無害な力。


(;TДT)「や、やめ、こんな所で……ッ!」
ミセ*;゚ー゚)リ「って、ちょ、待――ッ!」
( ><)「へ」


ただし、それは常人の親和総量での話。
腐っても"銀"を誇るモナーの力でそれをすると……。

モカーが制止を諦めて走り去り、ミセリが勘付いてその後を追いかけ、逃げ遅れたのはビロードだけだった。

ほんの数秒、"青"の大嵐が吹き抜ける。

384 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 15:42:10 ID:X0Vi2hP20
(;――)「きゅう」

ミセ*;゚ー)リ「……ビロ君? おーい……」
(;´∀`)「ご、ごめんモナ……完全に伸びてるモナ」


ミセリは手早くビロードの身体を抱え、椅子に預けた。
これ以上無駄な時間を掛けるつもりもない。


( ´∀`)「……で、とりあえず、ヨツマ城域内に怪しい親和は無いみたいモナ。話を続けるモナ」

ミセ*゚ー゚)リ「相変わらず、索敵範囲と精度はバケモノだね。『VIP☆STAR』はバケモノ揃いなの?」

( ´∀`)「はは、それなら君のお父さんだってバケモノモナ。やろうと思えば意外と簡単に出来るモナ」


で、話を戻すモナ。モナーは悠然と椅子にかけ直した。
ビロードの身体がゆっくりと身じろぎする。

385 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 15:43:34 ID:X0Vi2hP20
( ><)「……うぅ」

( ´∀`)「実のところ、"鍵"の存在にはもうずっと昔に気付いていたモナ。だけど」


その持ち主が移ってしまったあとだった。それも、年端もゆかぬ少年のもとに。
最早、取り返すことは出来なかった。"鍵"は自らの意思で少年を選んでいたから。


( ´∀`)「君に会いに来たモナ、ビロード・ベルベット・ミリオム。ヨコホリの"眼"を受け継いだ君に」

( ><)「……はぁ、どうせそんな事だろうと思いましたよ。私は下がっていた方が良いですか?」
ミセ*゚ー゚)リ「……って、ベル君?」

( ´∀`)「モナ、二人ともに会いに来たモナ。ヨコホリが遺した"オルガンの眼"は、今は君達のモノだモナ」


こうして会うのは君がプギャー君を焼いて以来モナね。
モナーはゆっくりと懐に手を伸ばし、真っ黒な"何か"をテーブルに置いた。

焦げ、煤け、ぼろぼろに溶け落ちた、一振りのナイフだった。


( ´∀`)「冒険者として生きる君達が、その力にふさわしく成長したかを、見に来ただけだモナ」

386 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 15:44:23 ID:X0Vi2hP20
……

道中で狩った貂皮鹿はまだ殆ど残っている。
上手に食い詰めていけば、三日分くらいの食料にはなるだろう。
携帯していた保存食と組みあわせれば、一週間は飢えとは無縁でいられる計算だ。
飲み水は、少し心配してはいたが、征服した丘を下れば東からの澄んだ流れも見えている。


ミセ*゚ー゚)リ「して、どの建物を目指せばいいの?」

「そうですね……奥の一際大きな遺跡は見えますか?」

ミセ*゚ー゚)リ「うん。あれは?」

「推測ですが……かつて集会場のような役割だった建物です」


他には首長の住居だとか、避難所のような役割もあったとか。

ミセリは静かに親和を起動した。
三人と一頭の息遣い、静かに風がそよぐ音、微かな水音。他に何も聞こえてこない。


ミセ*゚ー゚)リ「それじゃ、行こうか」

387 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 15:55:26 ID:X0Vi2hP20
ミセリは慎重に、建物の中を窺った。

大広間、いや、玄関ホールといった所だろうか。
物音と気配はなく、崩れた天井から差し込む昼の日差しが蔦の走った瓦礫を照らす。


ミセ*゚ー゚)リ「はー、綺麗なところだね」

(*;‘ω‘)「う……アタシはちょっと苦手かも」
(っ( ・(エ)・) ゴエ?


足元に気を配りながら、ミセリは一歩踏み込んだ。
数百年もの時を経た石畳が、乾いた音をミセリのブーツに返す。


ミセ*゚ー゚)リ「え、そうなの? ちょっと意外かも」

( ><)「ぽっぽちゃんは地下水路で迷子になって以来……痛ッ!?」
(*#‘ω‘ *)「黙るっぽ! 言っておくが! 別に暗い所くらい何でもないっぽ!」

(;TДT)「そうですね、苦手なのはネズミ……痛ッ!?」
(*;‘ω‘)「な、なんで知って……モナー先生か!? とにかく黙るっぽ!」

388 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 15:57:34 ID:X0Vi2hP20
ミセ*゚ー゚)リ「うーん、でも、私もネズミは得意じゃないなー……」

( ><)「え、そうなんですか? それこそ意外ですが……あ、待って欲しいんですポン君!」
(c(・(エ)・ ),,,, モーン


通路は二つ、広間の両端、手前と奥からそれぞれ北向き――向かって右側に伸びている。
モカーを振り返ると、「手前の通路を突き当りまで」との返答。

足元で踏みしめた蔦が折れる音。
うっすらとした土埃が、一足ごとに微かに舞いあがる。


(*‘ω‘)「ぽ、ミセリもネズミが苦手っぽ?」
ミセ*゚ー゚)リ「うん、食糧庫は荒らすし変な病気は持ってるし、美味しくないし」
(*‘ω‘)「……」ポッポー
ミセ*゚ー゚)リ「ポン太はよく美味しそうに齧ってるんだけどね。私は好きじゃないなー」

389 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 15:58:51 ID:X0Vi2hP20
(;><)「で、でも、この辺りの建物って意外と緑に覆われてないんですね!」
ミセ*゚ー゚)リ「そう言えば、確かにそうかも。なんで?」

(;TДT)「ええと、定期的に緑刈りをしているんです。この遺跡は周辺を探索する時の拠点にもなるので……」


さほど広くない通路にも、陽の光は恩恵を与えていた。

瓦礫が僅かに避けられた通路に一歩踏み出したその時、ミセリの耳が微かな音を捉える。
思わず長剣に手を掛けた。その瞬間、蔦と瓦礫の間を小さな獣の影がさっと走り抜ける。

ミセリはなるべく平静を装い、悠然と歩みを進めた。


(*‘ω‘ *)「……っぽ、この周辺ってことは、クフ高原にも?」

(;TДT)「はい。より近くにもベースキャンプがあるから、ここは専ら中継・補給地点ですが……」

390 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 16:00:54 ID:X0Vi2hP20
ミセ*゚ー゚)リ「補給もできるの?」

(;TДT)「季節によって、ですよ。『キャラバン』ほど本格的ではありませんし、ほぼスタンピード対策です」

(*‘ω‘)「……そうか」


突き当りに至り、ミセリは左右を見渡した。
向かって左、大きな下りの階段と、その向こうには左側への通路。
向かって右、通路の左右にいくつかの小部屋。突き当りはさらに左右への通路。

モカーは右側、扉の付いた一つの小部屋を指し示した。
ミセリは慎重に部屋に踏み入り、安全を確認する。


(;TДT)「この隣の部屋に、薬草や薬品、あとは薪なんかが少し保管してあります。ここは暖炉もあるので……」

(*><)「休憩! ご飯!」
(っ(*・(エ)・)ゴエェ
ミセ*゚ー゚)リ「おー!」

391 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 16:04:01 ID:X0Vi2hP20
……

どうやら暖炉の煙は直接外へ逃がされる仕組みのようだ。
ミセリは手早く貂皮鹿の腿を薄く切り裂き、香草を巻き込んで手製の串に刺していった。

火を起こす役目は、ビロードに譲った。唯一の役割を終えた彼は、満足気に樹海仔熊と戯れている。


ミセ*゚ー゚)リ「あのさ」

(*‘ω‘ *)「……ん」


ぽっぽは増幅器を磨く手を止め、ミセリに視線を向けた。

ミセリはそこで言葉を切り、淡々だけ作業を続けた。
いざ何かを言おうとすると、なかなか言葉が見つからない。
まだ獣臭い鹿肉から、香草の炙られる香りと混じった肉汁が火に滴る。

ポン太はビロードに飽き鹿肉に興味を移していた。今はミセリが投げ渡した大きな切り身に夢中になっている。


ミセ*゚ー゚)リ「……こうやって冒険らしい冒険するのって、久しぶりだよね」

(*‘ω‘ *)「ん、まぁ、な。ラウンジの時のは、なんていうか、別物だったし……」

392 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 16:07:50 ID:X0Vi2hP20
腿肉はすべて、香草巻に姿を変えた。
あとは火が近すぎないよう、じっくりと焼いて完成だ。


ミセ*゚ー゚)リ「なんて言ったらいいかわからないんだけど……すごく楽しいんだ」

(*><)「……」
(* -ω)「……少し休んどけっぽ。ミセリ、朝からずっと親和使ってただろ」

ミセ*゚ー)リ「ん……じゃちょっとだけ休憩を……ポン太、おいで」

,,,( ・(エ)・)っ[ミ] ゴェ?

ミセ*-ー)リ「あはは……気持ちは嬉しいけど……流石に生肉は食べないよ……」


少し獣臭い樹海の匂い。暖かな炎の匂い。
ミセリは柔らかなまどろみの中に両眼を閉じた。

そうして次に目覚めた僅か半刻の後、食べ尽された昼食を前に、ミセリは樹海の掟を思い出す。

……

ミセ#゚ー゚)リ「さて、お腹も膨れたし、行こうか」

(;><)「ごめんなさい」
(*;‘ω‘ *)「ごめんっぽ」
( っ( -(エ)-)=3 ゲフ
(;TДT)「あの、ええと……美味しかったですよ?」

393 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 17:06:47 ID:X0Vi2hP20


モカーは慣れた手つきで窓と煙突を御簾で覆った。
やがて迷迭香の煙が満ちれば小部屋全体が簡素な結界へと変わる。

ミセリは少しの水と干肉、簡素な装備を持って廊下に出た。


ミセ*゚ー゚)リ「どっちに行けばいいの?」

(;TДT)「西側――向かって左の階段です」

(*;-ω)「ついに地下か……おいミセリ、なんだその顔は」

ミセ*゚ー゚)リ「ううん、なんでも」


ぽっぽが身の丈程の戦棍を抱きしめる。
彼女の得物は、彼女の天敵とも言える超小型の四足獣と相性が悪い。

石造りの広い階段を降り切るまでの間、強化を受けたミセリの聴覚にはぽっぽの祈りの文句が途切れることなく続いた。

394 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 17:08:15 ID:X0Vi2hP20
階段の最下段、両開きの門扉を開けると、柔らかい陽の光に照らされた、さらに広い階段が目の前に現れた。


ミセ*゚ー゚)リ「おぉ?」
(*;-ω- *)「南無三……って、あれ?」
( ><)「地下じゃないんです」


見上げると青天井。吹き抜けの中庭に降り立ったのだとミセリはすぐに気付いた。

目の前に広がる下り階段は、扇状に広がる観覧席。
中央には黒曜石造りの演台、その背後の壁には五枚の石板。
石板にはそれぞれ、鮮やかな色彩で不可思議な絵画が彫り込まれている。


ミセ*゚ー゚)リ「へえ、てっきり『真っ暗な』『地下で』『ネズミの群に』襲われる事になるとばっかり」
(*‘ω)「本当によかったpp……おいミセリ」
(;><)「いやー、それにしても綺麗な所なんです!」


ヨツマの大講堂を思い出すんです、ビロードが呟く。


ミセ*゚ー゚)リ「大講堂か」


ミセリが――『チェトレ』が冒険者になってから、まだ半年しか経っていない。
いや、もう半年も経ってしまった、と言うべきだろうか。
いくつもの出会いがあったが、それでも、三人揃っての冒険は、多くはなかった。

395 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 17:09:46 ID:X0Vi2hP20
(*‘ω‘ *)「で、どっちに行くっぽ?」


ぽっぽが両手を広げた。

観覧席の両翼、東西の端にはそれぞれ門扉が口を広げている。
進むべき道はどちらかしか無いようだった。

しかし、モカーは首を横に振って南側――演台と五枚の石板を指し示した。


( ><)「え?」
ミセ*゚ー゚)リ「……ひょっとして、遺跡にお決まりの?」

( TДT)「はい、隠し通路です。十年ほど前の調査で発見されました」

396 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 17:11:26 ID:X0Vi2hP20
(*><)「隠し通路!? すごいんです!!」
(*‘ω‘ )「どこだ、どこにあるっぽ!?」

ミセ*゚ー゚)リ「おおう、すごい喰い付き……!」


無理もない。なにしろ、二人はずっとヨツマを楽しみにしていたのだから。
ぽっぽとビロードは、先を競うように行動の中央へと駆けだした。

(;TДT)「ええと、演台の――」
(*‘ω)「待て、言うなっぽ!! 自分で見つける! だな、ミセリ?」

ミセ*゚ー゚)リ「え、私も?」


一応は護衛任務の最中なんだけど、と、ミセリは逡巡する。
当のモカーはといえば、こちらも楽しそうに、早足で階段を下りてゆく。

親和を起動、耳に入る範囲に外敵の気配は無し。


ミセ*゚ー゚)リ「おっけー、今行く!」

397 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 17:12:32 ID:X0Vi2hP20
(*‘ω‘ *)「よぉっし、ビロ! まずはこの演台からだ! そっち持て!」

(;><)「応……いやいやいやいや無理無理無理無理!」


ミセリが追い付いた時には、ぽっぽはビロードを駆って演台に挑んでいた。
据え付けられた黒曜石の塊は、相方の非力もあってか、戦棍使いの怪力をもってしても微動だにしない。


ミセ*´゚ー゚)リ「やれやれですなぁ、ぽっぽ博士……君らしくない勘の悪さじゃあないですか」

(*"‘ω‘) イラ 「ほぉう、お言葉ですなぁ、エメリア先生……それでは、貴女には何かが分かっていると?」

......ミセ*´-ー)リ「造作も無い。どきたまえ、ミリオム調査官殿」

(;><)「その絶妙に腹が立つドヤ顔はやめて欲しいんです!」

398 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 17:17:55 ID:X0Vi2hP20
ミセ*´゚ー)リ「良いかね調査官殿。推理に必要なのは一にも二にも『洞察力』さ。ぽっぽ博士の、足元を見てごらん」

(;><)「……石畳に、金属の溝?」
(*;‘ω‘ *)「そ、それが何だと言うのかね!?」


半弧を描いて伸びる、一筋の溝、否、レール。
それが壁際まで伸びている、という事は……。

ミセリはわざとらしく首を振った。
三人を眺めるモカーが、秋空の太陽のように、暖かい眼をしている。


ミセ*´゚∀)リ「この演台は持ち上げるものじゃあないのさ。わかるね?」

(*;‘ω‘ *)「ぐ、ぐぬぬ……それっぽい気も……!」

ミセ*´゚∀)リ「見ていたまえ。こうして押してやるだけで簡単に、」


演台はびくともしない。


ミセ*;゚∀)リ「か、簡単に……ッ!!」


演台はびくともしない。

399 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 17:20:17 ID:X0Vi2hP20
(*;ω;)「ぶひゃははひゃはひゃっひゃひゃああははぁああぁっははは!」
(*><)「ぽ、ぽっぽちゃ、そんなに笑ったら、か、可哀そ……あはは!」
(*TДT)「ビロード君こそ、笑いすぎ……ふふふ、ふふふ」

ミセ* -)リ「……」

(* ;ω)「はひひ、腹ぁ痛い……と、とにかく、ひとまず演台は、置いといて、さ、先に、せ、石板っぽ……!」
(*><)「ちょ、調査……する、んです……!」

ミセ* -)リ「……」


石板は不思議な色彩だった。
相当の時を経ているだろうに、いまだ鮮やかさを失くしていない。

湖水に突き出す奇怪な触手。
七枚の翼を持つ純白の天使。
金雷を身に纏う双子の尖塔。
深紅の瞳を持つ浅黒い戦士。
空色の花が咲く庭園と祭壇。

400 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 17:29:23 ID:X0Vi2hP20
(*‘ω‘ *)「そ、それじゃ、とりあえず押してみるっぽ……?」
ミセ* -)リ ”


端から順に、二人は石板に力を入れてゆく。
しかし、二人の努力も空しく、五枚の石板は僅かにも動かなかった。


(*‘ω‘ *)「……ふぅ、ハズレか。それじゃあ、全く関係ない床とか壁に何かあるのか?」

( ><)「だとしたら、何か見つけるまで時間がかかりそうなんです」

(;TДT)「あー……そうですね、隠し通路があるのは、この石板の後ろですよ」


と言う事は、この石板を動かす何かの仕掛けがあるのだろう。

ミセリは改めて、五枚の絵を見上げる。
寡黙そうな戦士の深紅の瞳が、嘲笑っているようにさえ感じられた。

401 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 18:42:39 ID:X0Vi2hP20
ミセ*゚ー゚)リ「……、ねぇ、モカーさん。この絵に描かれてる戦士が『オルガン』?」

(;TДT)「恐らく、そうでしょうね。十年前に"発掘"されたヨコホリと、同じゴーグルですから」


額のゴーグル。
オルガン・ヨコホリが、"瞳"を使う際に、その威力を制御する為に用いたんだとか。
見上げると、戦士の額辺りにそれっぽい彫り込みが見える。

よく分かりましたね、モカーが感心したように言う。
もちろんミセリだって、予備知識が無ければ全くわからなかった。


ミセ* -)リ「わかるよ。ベル君と同じ眼だもん」
( ><)「へぇ、流石の『洞察力』ですね」






ミセ*#゚`益'゚)リ「……貴様の最期の言葉はそれで良いのか?」
(;><)「ひっ!? ちょ、ま、今のは僕じゃな、ベルくんがぁっ!?」


偶然、本当に偶然だった。
ビロードが後退りしてぶつかったその黒曜石の演台が、ガチリと音を立てて前方に滑る。
支えを失くした巨石は独楽のようにその身を回転させ、支えを失くした少年が、地面に投げ出された。

402 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 19:00:57 ID:X0Vi2hP20
ミセ*゚ー゚)リ「へぇー、回転するようにできてたんだね」
(*‘ω‘ *)「おっ、これでレールの上を動くようになったのか。ミセリ、さっきは笑ってごめん」
ミセ*゚ー゚)リ「ううん、気にしてないよ。とりあえず端まで押してみようか」
(*‘ω‘ *)「おう。ビロ、寝てないで手伝うっぽ」

(;><)「う、うう、不幸なんです……」


演台は壁際の端まで動き、止まった。
前方から石板の方へ押しつけると、再びガチリと音が鳴り、今度はその場で固定される。


ミセ*゚ー゚)リ「モカーさん」
(;TДT)「お見事。貴方達の勝ちです」


『演台を動かせば石板を固定するロックが外れる』

極めてシンプルで、かつ看破されにくい仕掛けだった。
何より恐るべきはこれを作り上げ、これをして数百年の時を守らせた、ガセウ人の建築技術だろう。


ミセ*゚ー゚)リ「これだけの技術をもってたのに、『森の人』に滅ぼされたんだね」

(;TДT)「はい。この地を占領していた蜥蜴型の樹人が、それだけ手強かったということでしょう」

403 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 19:02:02 ID:X0Vi2hP20
(;><)「……で、でも、その蜥蜴の樹人はヨツマが追いだしたんでしたよね?」

(;TДT)「はい。もう蜥蜴は絶滅したそうです。ですが、」


この地を追われたガセウ人が、痕跡すら残さず、どこに消えたのかがわからない。
ヨツマの伝承に彼らの歴史は記されていなかった。


(*‘ω‘ *)「ま、ひょっとしたらその謎も、今日で解明されるかもしれねーっぽ。な?」

(;TДT)「はは、そうできると良いですね。……進みましょう。戦士の石板を押して下さい」

ミセ*゚ー゚)リ「おっけー」


重厚な石板は力を入れずとも静かに壁にめり込んでゆき、ぽっかりと暗い穴だけが残った。

404 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 19:02:32 ID:X0Vi2hP20
( ><)「あれ、随分あっさり動くんです」

(*‘ω‘ *)「ん、こりゃすげぇっぽ。摩擦が無くなるまで磨いてあるのか」


ミセリは、息を飲む。
親和を起動したミセリの五感に、『旧世界』の気配が囁きかけてきた。

闇の彩り、埃の匂い、微かな命の囁き。

百代の栄華を極めたる終わりなき文明の終末。
百代の叡智を極めたる果てしなき発展の結果。

世界を欲し、世界を支配し、世界を創り、世界に拒絶された、終わってしまった世界の気配。


ミセ*゚ー゚)リ「この奥だね」
(;TДT)「はい。ガセウ遺跡の、『旧世界』部分です」


秋の風が微かに啼いた。四人と一匹は、"ガセウ"へと降りてゆく。

405 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 19:03:07 ID:X0Vi2hP20
(*‘ω‘ *)「ぽ、螺旋階段か。薄暗くて見えにくいな」

ミセ*゚ー゚)リ「何でできてるのかな。石じゃないんだけど、木とも違うし……松明、使うね」

(;TДT)「あ、待って。松明は温存しましょう。まだ必要ないですから」


精霊の力を借りたミセリの眼には、多少の暗闇は何の障害でもない。
同じく親和そのものであるビロードの眼も暗さには強いのだという。
モカーにとってはそれなりに慣れた土地なのだろう、その歩みには危なげがない。
残ったぽっぽにしても、瞬発力やバランス感覚が並はずれているだけ、心配はいらないだろう。

一足ごとに闇は深くなってゆくが、後ろを歩く三人の歩みに乱れは無いようだ。


ミセ*゚ー゚)リ「……どこまで続くの、これ?」

(;TДT)「もう少しです。到着したら、きっと驚きますよ」

(*‘ω‘ *)「ほぉ」


先頭を歩くミセリの眼は、やがて違和感を覚えはじめた。
闇が、浅くなっている。

406 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 19:03:38 ID:X0Vi2hP20
ミセ*゚ー゚)リ「……明るくなってきた?」

(*‘ω‘ *)「え、そうか? あたしにはわからないが……」


気のせいではなく、確かに光源には近付いていた。
無限に続くようだった螺旋階段の終わりが、ミセリの眼の前に姿を見せる。

……四角く切り取られた光が、螺旋階段に指し込んでいた。


(*‘ω‘ *)「うん……ヒカリゴケ? いや、まさか」

ミセ*;゚ー゚)リ「……え、何これ、どうなってるの!?」


先ずは眼を疑った。
無限に広がるかのような空中庭園の風景と、色とりどりの花々が咲き乱れる祭壇。

次いで正気を疑った。
青い空、その中心には眩い太陽が燦然と輝いている。

407 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 19:04:59 ID:X0Vi2hP20
(;><)「な、なんで? なんで地下なのに太陽が!?」

(;TДT)「偽の太陽です。本物の太陽と同じように昇り、傾き、沈みます。地上が曇りならば陰りさえする」


それに。モカーが庭園の中央――眼下にそびえ立つ花の祭壇を指した。

深い緑の荊、鮮やかな赤や黄色、白、紫の花弁、何より眼を惹きつけるのは、上段に咲き誇る深蒼の花。
ミセリの身体に生きる精霊がそれに呼応している。紛い物でなどあり得ない力強い生命の鼓動を感じる。


(*;‘ω‘ *)「おいおい、まさか、アレ……」

(;TДT)「はい。お伽話の中にしかなかったはずの、"不凋花"です」

ミセ*;゚ー゚)リ「あ、アマラントス!?」


心が震えた。

神話の世界で儚く咲いていた一輪の花が、手を伸ばせば届くほどの距離に佇んでいる。
永劫の命を与える。あらゆる病を癒す。影有る物と影無き物との境目に咲く、伝説そのものが。

408 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 19:05:28 ID:X0Vi2hP20
(;TДT)「知っている人間は、冒険者では発見した『VIP☆STAR』と植物に明るい『リンドウ』、それに貴方達が――」


『リンドウ』。
薬方院を開いたアイシス、彼女の護衛の三月ウサギ。
ラウンジ行きの際に出会った、たった七組しか居ないA級――天国山脈に挑んで生還した、"金"のギルド。

アイシスの声、夜の雨の冷たさ、『カロン』との別れ、『――――』との決戦、―――――との死闘。

全身を―――に浸された―――の姿が心に浮かび、形を為さずに掻き消されてゆく。
―――が最後に残した言葉が、ミセリから―――を全て消し去っていってしまった。


ミセ*;゚ー)リ「あれさえあれば、―――さんを、きっと……」
(*;‘ω‘)「……え、今なんて……って、待て、止まれミセリ!」


ぽっぽの声で、はたと気付いて足を止める。
気付けば、身体が勝手に手を伸ばしていた。

409 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 19:06:04 ID:X0Vi2hP20
(*;‘ω‘)「おま、なに考えて……足元みろバカ者!」
ミセ*;゚ー゚)リ「え……あ」


朽ちた金属の手すりが、足元に転がっていた。

吹き抜けになったホールの、中央に祭壇はある。
隔てるのは、底すら見えないほどの、深い谷。

手を伸ばしても、どころの話ではない。


ミセ*;゚ー゚)リ「ご、ごめん、ありがと……あれ、私、何を……」

(;TДT)「き、気をつけて下さい! あの花は"肉体"と"精霊"の境目をかき回すんです!」

(*;‘ω)「な、なんだっぽ、そのワケ分からん効果は!」

ミセ*;゚ー)リ「……ん。私はもう大丈夫、進もう」


歩きだしたものの、身体はどこかふわふわして現実の感覚が薄い。
長剣の重みだけが、鍛錬の重みだけがミセリの身体を繋ぎ留める。


( ・(エ)・)ゴェェエ
( つ><)「……あ、待って、"ミセリ"」

410 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 19:07:24 ID:X0Vi2hP20
ミセ*;゚ー゚)リ「うん?」


ビロードは、ミセリを呼び捨てにしない。
ミセリはベルベットを振り返った。眼が合ったのは小さな樹海熊だった。


( ><)「ミセリちゃんが連れて行って下さい。その方が落ち着くと思うんです」
( つ(っ・(エ)・)っ”


ミセ*;゚ー゚)リ「……うん、ありがと"ビロ君"」
( つ(・(エ)・ ) ゴェ?
(*‘ω‘ *)「ほー、ビロの癖に気が利くっぽ」


ぽっぽが何でもないように最前方に付く。モカーとミセリを、ビロードと二人で庇う位置取りだ。

( -(エ))
( ミ∪゚ー゚)リ「二人とも……本当にありがと」

411 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 19:09:01 ID:X0Vi2hP20
(;TДT)「どうやら、ここは『最上階』にあたる部分だったようです。谷の下は、同じような庭園が続いています」


以前、無理矢理ロープで降下した際には、幾つかの開かずの扉が見つかっただけだった、という。

庭園の端には、小さな鉄の扉があった。
飾り気の無い、ともすれば見逃してしまうような、無愛想な扉。

掛け金は朽ち果て、役割を放棄している。軽く押すだけで、扉は軋んだ音を立てて開いた。

庭園を穏やかに照らす偽の太陽ですら、この先には薄くしか届いていない。

(;TДT)「過去に調査隊が辿りつけたのは、ここまでです。……ここで松明を使いましょう」

( ・(エ)・)つ[ミ]
ミ∪゚ー゚)リ「うん。ぽっぽちゃん」

(*‘ω‘ )っ[ミ]「おう、サンキュ。ビロ、頼む」

( ><)「はいなんです」


ビロードが"眼"を僅かに見開いた。
松明に"赤"の精霊が集い、熱を帯びる。

……すぐに赤々とした炎が灯り、視界を明るく照らし出した。

412 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 19:09:45 ID:X0Vi2hP20
       .炎
(*‘ω‘ *)っ[ミ]「ここは……何と言うか、随分と味気ないっぽね」

(・(エ)・ )”
ミ∪゚ー゚)リ「……そだね、暗くて冷たくて、嫌なかんじ」


扉の向こうは真四角の小部屋だった。

さっきの螺旋階段のような、それでいて更に無機質な空間。
木でも石でも金属でもない不思議な感覚がブーツの底から返ってくる。

四方は平坦な壁、ばかりではなかった。
入り口側、扉の隣には金属板、小さな円形の水晶が埋め込まれている。


ミセ*゚ー゚)リ「これ、旧世界の言語だよね。解読できてるの?」
(つ( ・(エ)・)っ

(;TДT)「いいえ。読みとれたのはこの三文字――『鍵』という単語だけです」


モカーはビロードを振り返った。
ここからは未踏の領域だと、緊張に満ちた眼が物語る。

413 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 19:14:03 ID:X0Vi2hP20
( ><)「この水晶に、眼をかざせばいいんですね?」


ビロードが水晶を覗きこむ。しかし、何も起こらない。


ミセ*゚ー゚)リ「……あれ?」
(*‘ω‘ *)「何も起こらない?」

( ><)「僕の眼じゃなかったってことなんですか?」
(;TДT)「うーん……今回は失敗か……」


モカーは何事かを呟きながら長考に入る。
ミセリの頭からポン太が飛び降り、そのままふらふらと庭園に迷い出て行った。

    .炎
(*‘ω‘ *)っ[ミ]「……ま、そんな事もあるっぽ」
ミセ*゚ー゚)リ「……うん」


ミセリは小熊と、頭を掻き毟りながら出て行くモカーの背を眺めた。
ぽっぽはミセリに松明を預け、小熊を追い掛けてゆく。

ビロード一人が、どこか上の空の様子で水晶を眺めていた。

414 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 19:15:40 ID:X0Vi2hP20
ミセ*゚ー゚)リ「どうしたの、ビロ君……ビロ君だよね?」


ビロード=ベルベットはゆっくりと振り返った。
暗い闇の中で、細められた両眼が深紅の輝きを漏らす。


( ><)「ん……わかんないんです。きっと僕なんだけど、二人とも身体に居るみたいで……」

ミセ*゚ー゚)リ「……どういう事?」

( ><)「身体と精霊の境目が掻き回されている状態、ですね。アマラントスの影響なのはわかってます」


半ば混ざり合っているようだ、ベルベットの口調で"彼"が言う。

ミセリは部屋の外を窺った。
幸いにも、ぽっぽはポン太の相手に忙しいようだ。


( <◎><)「この機巧は"精霊"を求めている。"僕"でなく"私"が必要なのはわかってます」

ミセ*゚ー゚)リ「!!」


深紅の瞳が水晶を覗きこんだ。轟音、振動。小部屋全体が巨大な怪物のように唸り、身じろぐ。
本能が恐怖を訴え、理性が親和を起動した。

僅か数秒。二人を飲み込んでいた怪物は、あっけなくただの小部屋に戻る。

415 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 19:16:32 ID:X0Vi2hP20
( <●><)「……止まりましたか」

ミセ*;゚-)リ「今の、何……ッ!?」


ミセリは片手で素早く長剣を抜いた。
松明の火はいつしか消えており、周囲は漆黒の闇。
その中に、少し前には感じなかった、無数の殺気が息巻いている。

扉の外に光源は無く、太陽の光が注ぐ庭園の面影はどこにも無かった。


ミセ*;゚-)リ「な、何コレ!? ぽっぽちゃん達はどこ!?」

( <●><)「落ち着いて下さい。恐らく移動したのは私達の方です。部屋全部が移動装置だったのでしょう」

ミセ*;゚ー)リ「……一人で落ち着きはらってるけど、ベル君が原因じゃん」


気配は少しずつ包囲の輪を狭めている。

ミセリの精霊は"緑"。生命力の強化。
精霊そのものを見るビロード達の"オルガンの眼"と違い、光源が無ければ何も見ることはできない。

ベルベットの親和で、松明は再び煌々と燃え上がった。
殺気の群れが、小部屋の中、照らし上げられた二人目がけて殺到した。

416 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 19:17:10 ID:X0Vi2hP20
………

(*;‘ω‘ *)「お、おい、何だよコレは……!」


毒づきつつも、ぽっぽは戦棍を振り下ろした。
茶褐色の影は素早く身を翻し、その姿を"消し"た。

きしきしと刃が擦れる音、バタバタと石畳を蹴る音。
庭園に解き放たれた生物が、不可視の刃でぽっぽを攻め立てる。

モカーもポン太も、戦力にはならない。焦りがぽっぽを追いたて、生じた隙を刃が襲う。


(*#‘ω)「ッ、くそ!」


蹴り上げた脛当てに、軽い手応え。
少し遅れて、ぽっぽの頬から鮮血が飛ぶ。

ほんの一瞬だけ姿を見せた茶色の獣は、警戒するように距離を取り、また透明に戻った。


(;*‘ω)「くッ……」

417 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 19:18:02 ID:X0Vi2hP20
小部屋から響いた重低音に驚くぽっぽを出迎えたのは、奇妙な獣だった。

イタチに似た姿と臭い、残忍に光る眼、そして四本の足それぞれから飛び出す生物にはおよそ不釣り合いな刃。
ぽっぽがそれを敵と認めるより早く、その敵意を見止めるより速く、双の鎌刃がぽっぽを襲っていた。

……三度、不可視の刃が迫る。

(*;‘ω)「なんなんだ、コイツは! ミセリ達はどこ行ったっぽ!?」

(;TДT)「わ、わかりません……! 何が何だか、私にも全く……!」
( #・(皿)・) グァァ


不可視の刃、戦棍。鋭い金属音が、双方の得物を分つ。

"青"か、せめて"緑"があれば。ぽっぽは小さく舌打ちした。
回避などできようはずもない襲撃者に、ぽっぽは研ぎ澄まされた野生の勘で渡り合っていた。

418 ◆LpPqFskzB6:2015/07/26(日) 19:20:25 ID:X0Vi2hP20
(;TДT)「その獣はきっと"鎌鼬"です! 気をつけて下さい、幻獣種は知能が非常に高い!」


声を張り上げたモカーの、そのすぐ脇をぽっぽの戦棍が薙いだ。

金属音、獣の足音。
姿を現した"鎌鼬"は、ぽっぽの蹴りを巧みに避けてその場から"消え"た。


(* -ω-)「……分かった、先ずはコイツ等を片付けるっぽ」

(;TДT)「え?」


コイツ達。モカーははっと息を飲んだ。

自在に姿を消す能力、鋭い刃。幻獣の高い知能。
ぽっぽさんは自分と小熊を庇いながらで、一匹相手でも苦戦しているのに。


(*#‘ω)「心配するなっぽ。すぐに全部殴り倒して、花壇の肥やしにしてやる」


足音は、三匹分も響いている。

419以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2015/07/26(日) 19:34:23 ID:X0Vi2hP20
ツイッター忘れてました。なんとかします

420 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 04:29:49 ID:Ln1aNnPE0
参考資料 https://www.youtube.com/watch?v=Pb1gfq1h5kw

421 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 04:30:39 ID:Ln1aNnPE0
……

ミセ*゚-)リ「……ッ!」


振り下ろした長剣が、獣の骨肉を断った。
翼を奪われた巨大な蝙蝠は力無く墜落し、直後に炎に包まれる。これで合計7匹目。

獣群に怯む様子は無い。
闇に生きる彼らには、恐怖するだけの知性など無いのだろう。

ミセリは両腕を身体に巻き付け、弾丸のようにその場を離脱した。
松明はすでに手放してしまったが、獣たちから噴き上げる炎が地下を照らし出している。

混凝土の壁面に着地し、弾かれるように転換。
包囲を脱したミセリを、獣群が追い掛ける形。

これで良い。的は纏まった。


ミセ*゚ー゚)リ「ベル君!」
( <◎><)「分かってます」


ビロード・ベルベット・ミリオム。その最大出力が、数十数百の翼獣をまとめて焼き殺した。

422 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 04:31:32 ID:Ln1aNnPE0
ミセ*゚∩゚)リ「うええ、すごい臭いー……」

( <●><)「……あれだけの数を相手にして汗一つかかないとは、ね」


ミセリは剣に付いた血を払い、辺りを見回した。

無機質な壁に囲まれた広い空間。通路はどうやら一本だけ。
壁際には大小幾許かのコンテナがいくつか。覗いてみたが、どれも中身は空のようだ。

獣を焼き尽した煙は、どこかへ消えて行く。空気の流れはあるようだ。


( <●><)「貯蔵庫、ですか。蝙蝠が残されていた食糧を喰い尽して、そのまま居着いていたのでしょう」

ミセ*゚ー゚)リ「なるほど……さて、戻ろうか」


ミセリは松明を拾い上げた。
護衛対象、モカーの側には、今はぽっぽしか居ない。一刻も早く合流するべきだろう。

しかし、小部屋で水晶を覗きこんでいたベルベットが、不意に不吉なことを言った。


( <●><)「ふむ。困りましたね。動きません」

ミセ*゚ー゚)リ「……はい?」

423 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 04:32:10 ID:Ln1aNnPE0
( <●><)「動きません。壊れてはいないようですが……」

ミセ*;゚Д゚)リ

( <-><)「仕方ありませんね。別の出口を探しましょう」

ミセ*;゚Д゚)リ「え、ちょ、待ってなに、何それどういうこと?」


ベルベットは何も答えなかった。
既にその場に居なくなっていた。


(;><)「……閉じ込められたってことじゃないかなーって……思うんです……」

ミセ*;゚Д゚)リ


死骸から立ち昇る炎が勢いを失うにつれて、闇が濃くなってゆく。
この闇から、死ぬまで出られないかもしれない。

424 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 04:33:51 ID:Ln1aNnPE0
ミセ;*゚ー゚)リ「はぁーッ、はぁーッ……よし、落ち着いた! で、どうするって?」

(;><)「ここが貯蔵庫なら、きっとコンテナの"搬入口"があるはずなんです……ってベル君が」


どこか外に出られる道もあるいは、ビロードはうろたえた声で言う。
ミセリは溜息をつくと、松明に火を灯した。

どの道、進むより他に無い。ミセリは闇の奥に松明をかざした。
風の吹き抜ける気配。きっと通路はどこかで外に繋がっている。


ミセ*゚ー゚)リ「それで、ベル君は尻尾巻いて逃げたまま? 一発くらい殴らせてくれても良いんじゃない?」

(;><)「え、あ、その……え? ええと、あー……アリガトウゴザイマス……」

ミセ*゚ー゚)リ「?」

(;><)「その……今は本当に疲れているから、戦闘になったら呼んでくれ、って……」

425 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 04:34:19 ID:Ln1aNnPE0
ミセ*゚ー゚)リ「ん……じゃ仕方ないか。今は忘れておこう」


無機質な通路は、左右に分かれている。

ミセリは親和を起動した。
左右いずれの通路を選んでも、不気味な息遣いは耳にこびりついてくる。

ただし――左の通路からの息吹には、かすかな風の音も混じっていた。


ミセ*゚ー゚)リ「急いで戻らないと、ぽっぽちゃん達も心配だしね」

(*><)「……はいなんです!」


歩きだしたミセリの後ろを、ビロードが小走りに着いてくる。
この小動物じみた可愛らしさを独占しているようで、ミセリは少しだけぽっぽに申し訳ない気持ちになった。


( ><)「あ、でも」

ミセ*゚ー゚)リ「ん?」

426 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 04:35:07 ID:Ln1aNnPE0
( ><)「ぽっぽちゃんの事なら、きっと心配しなくてもいいと思うんです」

ミセ*゚ー゚)リ「幼馴染の一人くらいはどうなっても良いと?」

(;><)「んば、ちょ、ちがっ……!」


もちろん、冗談に決まっている。
それよりもミセリは、ビロードらしからぬ発言に驚いていた。


(;><)「ええと、それは……何と言うか、ぽっぽちゃん、今日はかなり調子が良いみたいだから」

ミセ*゚ー゚)リ「あはは……気分屋だもんね、あの娘も」


精霊は半ば生物のようなものだ。
その日の体調はもちろん、気分の上がり下がりによってすら親和は影響を受ける。
ぽっぽは人一倍、その気質が強い。その時の気分次第で強さが何倍にも膨れ上がるとすら言える。

性質としては、ジョルジュの"巨人狩り"に近いとも言えるだろう。


( ><)「不意打ちに弱すぎるのは不安と言えば不安ですけどね」

ミセ*゚ー゚)リ「でも、すごく信頼してるんだね」

427 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 04:35:47 ID:Ln1aNnPE0
松明に照らされた通路。
無機質な中に、赤を纏った輝きがいくつか、ミセリ達二人を覗き返している。

水晶。小部屋にあったのと同じものだ。
近付いてみると、一つ一つの水晶の隣には壁と同じ無機質な材質の扉が並んでいる。

今は検分していく余裕はない。藪を突くのも御免こうむりたい。
まずは、ぽっぽ、そして依頼人との合流を優先するべきだろう。

カツン、ミセリの足音が反響する。
カツン、ビロードの足音が反響する。


ミセ*゚ー゚)リ「ぽっぽちゃん一人ならともかく、モカーさんも一人で護衛しなきゃならないんだよ?」

( ><)「うーん、それは……それでも多分、大丈夫だと思うんです」

ミセ*゚ー゚)リ「なんで?」


カツン、ミセリの足音が反響する。
カツン、ビロードの足音が反響する。


( ><)「だってぽっぽちゃんは、もう十年も僕を護衛してくれてるんです。たった一人で。だから、」

428 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 04:36:17 ID:Ln1aNnPE0
(;TДT)「うおっ」
(*#‘ω‘)「シャァアッ!」


心配なんて要らないんです。
同じ時、地下深くでビロードが言った通り、庭園での死闘は数分と持たずに既に決着しかけていた。

ぽっぽの振るった戦棍が、鼬の鎌刃を、鎌刃が守る頭蓋を、頭蓋が守る脳漿を、まとめてブチ割った。

これで二匹目。
ぽっぽは親和を両脚に集め、跳ねた。

庭園をしなやかに駆ける四足の獣の眼前に、最短距離を跳び抜けた少女が着弾する。


(*#‘ω‘ *)「オラァ、三匹目ぇ!」

429 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 04:37:46 ID:Ln1aNnPE0
(;TДT)「……凄いですね、あんな厄介な奴らを瞬殺なんて……」

(*‘ω‘ *)「うむ」


ぽっぽは二・三度その場で棍を振るった。
変換器の真赤な輝きは、火花が飛ぶように四散する。

黒天飛王。使い手の意思をよく汲む、最高の一振りだ。


(*‘ω‘ *)「それより、ミセリとビロは? 何かわかったか?」

(;TДT)「え、あ、ええと……それが……」

モカーは小部屋を覗きこみ、ぽっぽを手招きした。

(*;‘ω‘ *)「な……なんだこりゃあ? どういう手品だっぽ?」

(;TДT)「その……小部屋全部が沈んだんじゃないかと」

(*‘ω‘ *)「はぁ……もうビックリが底を突きそうだっぽ」


小部屋は、姿を消していた。
代わりに現れていたのは、ぽっかりと口を開けた、真四角の縦穴だった。

430 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 04:40:11 ID:Ln1aNnPE0
(*‘ω‘ *)「で、どうするっぽ? 調査を続けるのか?」


モカーは即座に頷いた。
好奇心の前に、恐怖が逃げだしてしまったのだ。研究者も案外、冒険者と変わらないらしい。

縦穴からは、風の音が不気味に反響し、海魔の唸り声の様に突き上げてくる。


(;TДT)「まずミセリさん達と合流しましょう。すみませんが、護衛を続けて下さい」

(*‘ω)「……了解だ。だが、この穴……」
      .炎
( TДT)シ "[ミ]


モカーが闇に投げ込んだ松明は、無機質な壁面を照らしながら落ち、すぐに地面に行き当たった。

高さで言えば、大講堂の最下段から天井までの、数倍程度はあるだろうか。
ざっと見た感じでは、ヨツマで最も高い十階建ての鐘楼塔にでも匹敵する気がする。

とっかかりは幾らかはある。
ぽっぽの親和能力ならば、よじ登ってくる事も容易いだろう。

431 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 04:42:57 ID:Ln1aNnPE0
(*‘ω‘ *)「で、どうするっぽ? 調査を続けるのか?」


モカーは即座に頷いた。
好奇心の前に、恐怖が逃げだしてしまったのだ。研究者も案外、冒険者と変わらないらしい。

縦穴からは、風の音が不気味に反響し、海魔の唸り声の様に突き上げてくる。


(;TДT)「まずミセリさん達と合流しましょう。すみませんが、護衛を続けて下さい」

(*‘ω)「……了解だ。だが、この穴……」
      .炎
( TДT)シ "[ミ]


モカーが闇に投げ込んだ松明は、無機質な壁面を照らしながら落ち、すぐに地面に行き当たった。

高さで言えば、大講堂の最下段から天井までの、数倍程度はあるだろうか。
ざっと見た感じでは、ヨツマで最も高い十階建ての鐘楼塔にでも匹敵する気がする。

とっかかりは幾らかはある。
ぽっぽの親和能力ならば、よじ登ってくる事も容易いだろう。

432 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 04:43:35 ID:Ln1aNnPE0
(;TДT)「ぽっぽさん。コレ、使って下さい」

(*‘ω‘ *)「? ロープならアタシも持って――!」


ぽっぽは言葉を切った。
モカーの差し出す白い紐は、それ自体がぼんやりと不可視の光を放っている。

精霊が織り込まれているではない。
それ自体が精霊で形作られている。
モカーの眼が、"青"く輝いていた。


(;TДT)「"アリアドネ"、と呼んでいます。普通の紐とは違い、"物"で切れることはありません。そして、」


"アリアドネ"の輝きが、にわかに増した。
縦穴から風を切る音。身構えるぽっぽのすぐ脇を、何かが通り過ぎる。


(*‘ω‘ *)「……成程ね」

(;TДT)「ええ。この通り、私の意思で自在に縮めることができる」

433修正 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 04:45:10 ID:Ln1aNnPE0
(;TДT)「ぽっぽさん。コレ、使って下さい」

(*‘ω‘ *)「? ロープならアタシも持って――!」


ぽっぽは言葉を切った。
モカーの差し出す白い紐は、それ自体がぼんやりと不可視の光を放っている。

精霊が織り込まれているではない。
それ自体が精霊で形作られている。
モカーの眼が、"青"く輝いていた。


(;TДT)「"アリアドネ"、と呼んでいます。普通の紐とは違い、"物"で切れることはありません。そして、」


"アリアドネ"の輝きが、にわかに増した。
縦穴から風を切る音。身構えるぽっぽのすぐ脇を、何かが通り過ぎる。


(*‘ω‘ *)「……成程ね」
     .炎
(;TДT)っ[ミ]「はい。この通り、私の意思で自在に伸縮させることができる」

434 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 04:46:18 ID:Ln1aNnPE0
――"アリアドネ"は、専門とする遺跡調査の中で、モカー独自に編み出した親和能力だという。


(*‘ω‘ *)「ふぅん、これはなかなか便利だな。方向音痴のビロにも持たせてやりたいっぽ」
(;TДT)「あはは……ありがとうございます」


伸びることについては、精霊が続く限り無制限。
彼自身の意図によらず、また、力学的な抵抗も持たず、引っ張れば引っ張った分だけ勝手に伸びる。

縮むことについても、千切れていない限り無制限。
どれだけ長く伸びていようと、固定されてさえいなければ、彼の手元に巻き戻してくる事ができる。

"物"で切れることはない。
壁や瓦礫で擦り切れることはない。伸びるだけだ。
ナイフを使おうと、大斧で一撃入れようと、あるいは達人の一刀だろうと、切ることはできない。伸びるだけだ。

ただ、この薄光する不迷の糸は、無敵とは程遠い。


(;TДT)「気をつけて下さいね。この"アリアドネ"は、"触れるだけで"簡単に切れてしまいますから」


精霊を縒り合わせたその糸は、"青"以外の精霊が触れただけで効力を失い、四散してしまう。
樹海の生物が体躯に纏う微量の精霊ですら、糸にとっての例外ではない。
言ってみると、樹海に生きる生き物全てが"アリアドネ"を引き裂く刃となる。

要は、戦闘にはほとんど全く役に立たない、とのことだ。
長さの固定もできないため、二人は実物の鉤付ロープを用いて慎重に降下している。
"アリアドネ"は、言ってみれば、緊急脱出特化だ。

435 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 04:47:13 ID:Ln1aNnPE0
(*‘ω‘ *)「こらクマ吉、急に暴れちゃダメだっぽ!」
(;TДT)「どうしたんです? 何かあったんですか?」

"""( ・(エ)・)っ モーン


華をヒクつかせながら、彼は暗がりに歩み寄ってゆく。

ぽっぽは彼の向かう先に松明を向けた。
無機質な壁、の一部が、僅かに変色している。


(*‘ω‘ *)「……なるほどね、お手柄だっぽ、クマ五郎。よぉし、下がってろ」
(*・(エ)・) ゴエッ

(;TДT)「……え? ちょっと待って、ここは貴重な遺跡の――」


ぽっぽは戦棍を振りかぶった。

436 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 05:06:37 ID:Ln1aNnPE0
      ∩
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─── /⌒ヽ, ─────────
 ̄ ̄  / ,ヘ  ヽ∧_∧ ポァアアアアアッ!!
 ̄ ̄ i .i |\ (*#‘ω‘ *)ヽ,   ___,, __ _ ,, - _―" ’.  ' ・,  ’・ ,
── ヽ勿 | ヽ,__    j  i~""     _ ― _: i ∴”_ ∵,    
____∪_   ヽ,, |/ / __,,, -- "" ─ "ー ・, ; ; - 、・  
───────  ヽノ ノ,イ  ─── ― -          
───────  / /,.  ヽ,  ──               
______   丿 ノ |ヽ,__,ノ ___ _ _ _           
           j  i | |                      
_____    巛i=| |  ___ _            
             ∪                     
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────

437 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 05:08:26 ID:Ln1aNnPE0
(*‘ω‘ *)「っぷぅ。案外脆いっぽ」

(;TДT)「あ、あぁ……人類の歴史が……」

(*‘ω)「壁の一枚や二枚でグチグチ言うなっぽ。それより、ここは?」

(;TДT)「? こ、これは……!」

(*‘ω‘ *)「あ、ちょっと」


ぽっぽが止める間もなく、モカーはぶち破られた壁の向こうへ踏み込んでいった。

438 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 05:10:01 ID:Ln1aNnPE0
……

ミセ*゚ー゚)リ「風の音。かなり近付いてきたね」

( ><)「え……そうですか? よくわかんないんです」


カツン。ミセリの足音が反響する。
カツン。ビロードの足音が反響する。


( ><)「それより、獣や虫の気配も全く無いのが不気味なんです」

ミセ*゚ー゚)リ「ん……気配ならあるよ。隠れてるだけで」

(;><)「……聞かなきゃよかったんです!」


カツン。足音が反響する。
カツン。足音が反響する。

439 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 05:18:46 ID:Ln1aNnPE0
( ><)「でも……あー、そっか。虫とかはさっきのオバケ蝙蝠が喰い尽したのか」

ミセ*゚ー゚)リ「うん。夜になったら樹海に狩りに出てたのかもね」


ミセリは足を止めた。小さな反響が消える。
通路の先は、半ばまで瓦礫で塞がれていた。

ガセウの上層部と同じ、赤茶けた煉瓦。


ミセ*゚ー゚)リ「これは……ここから先は、新世界時期の遺跡ってことかな」

(*><)「! それじゃ、ここから出られるんですね!」

ミセ*゚ー゚)リ「うん。……出られたらいいね」

440 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 05:19:38 ID:Ln1aNnPE0
松明を瓦礫に手を掛け、両手両足を使ってよじ登る。
幸いにも、山が崩れて来ることはなかった。


ミセ*゚ー゚)リ 「っと……けっこう広いところに出たみたい。ビロ君、掴まって」

(*><)「え、あ、はい。……!?」


ビロードを引き上げると、彼の松明の明かりも瓦礫の向こうにも届く。
赤い光が届く範囲は、一面の瓦礫と土砂に覆われていた。


ミセ*゚ー゚)リ「こりゃ酷い。柱や壁が崩れただけじゃなくて、天井が落ちてきたんだね」

(;><)「うわぁ……埋まり切ってないのが奇跡なんです」

ミセ*゚ー゚)リ「……うん、そうだね」


風の音は、近い。
ミセリは辛うじて通れる場所を選び、歩みを進める。

左右と進む先には、生物の気配はない。
微かに光が漏れていることを、ミセリの感覚は伝えてきていた。

441 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 05:20:41 ID:Ln1aNnPE0
ミセ*゚ー゚)リ「……はぁ。なんとなく予想はしてたけどさ」

( ><)「え? なんですか?」


トン。足音が反響する。
トン。足音が反響する。


……やがて小さな広間で道は止まった。

ミセリは足を止め、上を指した。
吹きぬけ、というより、天井がまるごと数階分ほど崩落して抜けている。

相応の高さに、微かな光が漏れている個所があった。


( ><)「うわ、外の光なんです! でも……」

ミセ*゚ー゚)リ「……うん。遠いし、小さいみたいだね」

442 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 05:21:22 ID:Ln1aNnPE0
(;><)「うー……せっかく此処まで来たのに」

ミセ*゚ー゚)リ「登るのは難しそうだね。見てよ」


光源の真下、煉瓦の壁の一部を、松明が照らす。
ミセリの顔より幾分か上の方に、数十、数百の傷が縦に残っている。


(;><)「? ……剣か何かで引っ掻いた跡?」

ミセ*゚ー゚)リ「たぶん。ここに来た誰かが、なんとか登ろうとしたんだろうね。でも」


上手くいかなかったんじゃないかな。
ミセリは言葉を続ける代わりに親和を起動した。
脚力を一気に引き上げて壁に取り付く。


(;><)「わっ、わっ! 凄、もうあんな所まで!」

ミセ;*゚ー゚)リ「うぐ、ぐぬぬ……無理無理!」

443 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 05:26:25 ID:Ln1aNnPE0
ミセ*゚ー゚)リ「ひー……。くそぅ、ぽっぽちゃんが居れば……」

( ><)「うーん……やっぱり最初の、小部屋を何とかするしかないんですか」

ミセ*゚ー゚)リ「そうかもね。はぁ、戻るのすっごい嫌だなー……」


トン。足音が反響する。


(;><)「!?」

ミセ*゚ー゚)リ「ビロ君、ベル君を呼んで」


ミセリは親和を起動した。"緑"を聴覚に、反射神経に集める。

引き摺る音。足音。
時間を置いてもう一度、引き摺る音。足音。

明かりの届かない闇の奥から、何者かがゆっくりと近づいてくる。


ミセ*゚ー゚)リ「さて、どんな奴が――」
( ><)「――ミセリ、そこから離れろ!」

444 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 05:27:28 ID:Ln1aNnPE0
ミセ*゚ー゚)リ「へ――」


先に動いたのは、闇の中の何者かの方だった。

空気に漂う塵埃が、赤く放射状に色付く。
発生源は逆光の向こうで、よく見えない。

僅かな時間の間に赤い照射はその範囲を狭め、一筋程の濃赤の線が残る。

松明を置き捨て、ベルベットの手を掴んでその場を離脱したミセリは、横目にそれを見ていた。


ミセ*;゚-)リ「な、」


拳大の太さの光線、その一筋が照射した松明が。その後ろの壁が。どす黒い煙を噴き上げ、一瞬で蒸発した。

445以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2015/07/27(月) 05:59:05 ID:PVz1e0Uw0
しえん

446 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 11:41:48 ID:Ln1aNnPE0
ミセ*;゚д゚)リ「いやいやいやいや、何なの今の! 反則でしょ!」


ミセリは小声でベルベットに抗議した。
光線を放つ生物など、耳にしたことすらない。

柱の陰から覗くと、どうやら何者かはこちらを見失っているらしい。
赤い光は再び拡散し広範囲を索敵している。


( ><)「気付いていますか、ミセリ。今のは親和による攻撃でした」

ミセ*;゚-゚)リ「え、じゃあ、相手は人間!?」

( ><)「……いいえ、彼が人間でないのはわかっています」


どういうこと、聞こうとしたミセリを手で制し、ベルベットは瓦礫を二つ拾い上げた。
一つを赤い光の反対側、真っ暗な中に放る。

瓦礫は柱にぶつかり、激しく音を立てた。

447 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 11:42:50 ID:Ln1aNnPE0
( ><)「聴覚機能は死んでいるようですね。これは運が良い。流石に稼働時間が長すぎたのか」

ミセ*;゚-゚)リ「……えーっと……お知り合い?」

( ><)「いいえ。ですが、相手が何なのかは、最初の照射でわかりました」


見ていて下さい。ベルベットは柱の影に立ちあがった。

手にしたもう一つの瓦礫を、ベルベットは赤い光の中に投げ込んだ。
一秒ほどの間をおいて、瓦礫を光線が蒸発させる。


( <◎><)「私達と同じ"眼"です。ならば持ち主は――」


暗闇を裂く、赤の光線。
その根源を、今度はベルベットの"眼"が照らす。

最大火力。
闇の空間が高熱を上げて猛り狂い、彼の姿を照らし上げる。


(//‰ )


( <◎><)「――旧世界の人造兵器、"オルガン"」

448 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 11:43:16 ID:Ln1aNnPE0
ベルベットの火力を受け、"オルガン"は片膝を着いた。
遠目に見ると、既にもう片方の足は機能を失っていたと分かる。


ミセ*;゚ー゚)リ「やったか!?」

( <◎><)「いいえ、まだで――ッ!」


甲高い、ナキネズミの鳴き声のような音色。

ベルベットが柱の影に身を隠した。
慌てて抱きとめたミセリの手に、温かい何かの感触。


ミセ*;゚-゚)リ「――ッ!」

(;<◎><)「心配は、要りません。かすっただけです。ですが……」


少し厄介ですね。ベルベットは言う。
"瞳"以外の武装も、まだ残っているとは。

449 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 11:44:00 ID:Ln1aNnPE0
(;<◎><)「こちらの居場所も割れてしまいました。あとは嬲り殺しでしょうね」

ミセ*;-ー)リ「そんなに簡単に言われても……」

(;<◎><)「おそらく、思考機能も殆ど壊滅しているでしょう。まだ希望は……ぐ」

ミセ*;゚-)リ「……ごめんね、痛がってるとこ」


ミセリは足元の瓦礫を蹴り飛ばし、柱の陰から出した。
拡散していた赤い光は、飛来する瓦礫を敵と認識し、細く焦点を絞った。

ナキネズミの音色。
"瞳"による攻撃ではない。礫片は鈍い音を立てて吹き飛び、粉々に砕けた。

ミセリはそれを見ていなかった。
オルガンが迎撃を放つ瞬間に、ベルベットを引っ掴み、柱の反対側から飛び出していた。

450 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 11:44:33 ID:Ln1aNnPE0
ミセ*;゚-)リ「今の攻撃は!?」

(;<-><)「恐らく、"キイリネズミ"、です。手首の、衝撃波を射出する装置……!」


必死に逃げる二人の周囲が、赤く染まる。
広間を抜けるまではまだ距離があるし、何より、瓦礫と土砂で足場も悪い。

焦るミセリの背に、光が集中し始める。
背中が熱い。まだ、まだもう少し。
野性が全神経を支配し、研ぎ澄まされた感覚がその一瞬を捉える。


ミセ*゚-)リ「今ッ!」

(;<-><)「……!」


ベルベットを抱えて転がったミセリの、そのすぐ脇を死の光線が駆け抜ける。
ミセリは素早く、瓦礫の山の陰に滑り込んだ。

予想した通り、追撃は来なかった。光線を放つ瞬間、オルガンは視界を失う。

451 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 11:45:40 ID:Ln1aNnPE0
ミセ*;゚д゚)リ「……怖ッ! なにアイツ、怖すぎる!」

(;<-><)「……ッ」


トン。オルガンの足音が小さく響いてくる。
片足を引きずっている以上、素早く追いかけて事は出来ないだろう。


ミセ*;゚-゚)リ「ベル君、大丈夫?」

(;<-><)「問題、ありません。全く、"瞳"で焼いてくれてれば、止血の手間も、掛らなかったのに」

ミセ*;゚ー゚)リ「そんなバカな冗談が言えるなら、まだまだ大丈夫そうだね。ぽっぽちゃんに殺されるよ?」

(;<●><)「もし何か言ったら伝えて下さい。『できるもんならやってみろ、口だけ番長』と」



なんにせよ、致命傷になるほどの傷ではないようだ。
ベルベットは片手で脇の傷を押さえ、立ち上がった。

452 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 11:50:43 ID:Ln1aNnPE0
ミセ*;゚ー゚)リ「とにかく、逃げよう。アイツ、他に装備は?」

(;<-><)「わかりません。オルガンは過去にはヨコホリしか見つかっていないんです」


赤い光が拡散し、周囲を照らす。
ミセリ達の隠れている瓦礫を、光は一瞥し、通り過ぎる。
まだ見つかってはいないようだ。


(;<-><)「ヨコホリの装備は、高速振動ブレードと回転式銃砲、シールド、閃光弾、ワイヤー射出装置」

ミセ*;゚ー゚)リ「うっわ……本気で相手したくない……」

(;<●><)「見たところ奴は銃砲やシールド、ワイヤー装置は装備していない。警戒すべきは」


瞳、キイリネズミ、それに高速振動ブレード――"岩喰み"。
オルガンについての、知る限りの情報を、ベルベットはミセリに伝えた。

トン、足音が近づいてくる。ミセリは息を吐き出し、剣を抜いた。

453 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 11:51:52 ID:Ln1aNnPE0
ミセ*゚ー゚)リ「なんにせよ、考える力が無くなってるのは大きいね。囮やるから、先に逃げてて」

(;<-><)=3「……この傷じゃ逆らいようもありませんね。わかりましたよ」


ベルベットは溜息混じりに言う。


(;<●><)「余裕があれば、奴の"魂"を確認してください。あの様子だと、無いでしょうが」

ミセ*゚ー゚)リ「ん……わかった」

(;<●><)「それと、くれぐれも怪我はしないで下さいね。私がビロードに謝っても謝り切れなくなる」

ミセ*゚ー゚)リ「え、なんでビロ君……っと!」


足音が、また一歩近付く。
ベルベットが瓦礫の山を越えるために、これ以上近付かせたくはない。

ミセリは瓦礫を蹴り出した。
赤の光線が、即座に反応し、それを射抜く。


ミセ*;゚ー゚)リ「あとにしよっか。走って!」

(;<●><)「お願いします!」

454 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 11:52:51 ID:Ln1aNnPE0
ナキネズミの声。
ミセリは素早く身を伏せ、両手足を用いて加速。
オルガンは右足を引き摺っている。回り込むなら右側から。


(//‰ ゚)

ミセ*゚ー゚)リ「キイリネズミ。衝撃派発生装置、か。鳴き声がした後では、照準を変えられない」


"瞳"では質量ある攻撃を落とせないため、こちらを主に迎撃に用いる。らしい。
そして、"瞳"の弱点はもう一つ。


( //‰ )

ミセ*゚ー゚)リ「専用のレンズを付けると視界が極端に狭くなる。ので」


接近されると、かえって命中精度が落ちる。
ミセリが彼を間合いに入れる直前に、赤の光はさらに拡散し、ほぼ無色に感じるまで薄まった。

広範囲索敵モード。
咄嗟に地面を蹴って方向を切り替えたミセリの、その眼前を高速振動ブレードが薙いだ。

455 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 11:53:33 ID:Ln1aNnPE0
ミセ*;゚д゚)リ「っ……くそぅ、あれが"岩喰み"か」


体勢を立て直すより先に、甲高い音が響く。
慌てて身体を投げ出した、その背後で瓦礫が砕け散る音。

意図に反し、逃げの一方だった。

拡散していた光が絞り込まれ、周囲を赤く照らした。
ミセリは即座に呼吸を整え、機会に備えて身構える。

光線を放った直後の隙をついて死角に逃げ込み、脱出しよう。
あるいは、一撃か喰らわせられれば、大金星もあるかもしれない。

僅かながらも、余裕があった。油断と言い換えても良いほどの。
その僅かな空僻を、戦闘用の人造兵器は見逃さなかった。


(//‰ ) キュイン

ミセ*;゚ー゚)リ「はいはい、次は"瞳"ね……ッ!?」

456 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 11:56:39 ID:Ln1aNnPE0
 (//‰ ゚) ュ


僅かな隙。
オルガンの身体が、その一瞬でミセリの眼前に詰め寄ってくる。
親和を用いて機動力を底上げしたのだと、分析する余裕は無かった。


ミセ*;゚д゚)リ「うおっ! ちょ、待って……!」


岩喰みの一閃。

岩をも喰い破る、その異名は決して伊達ではない。
歴戦の皮鎧は、豆腐をスプーンで掬うように、容易に引き裂かれた。

受けることなど、とてもかなわない。


(//‰ ゚)"

ミセ*;゚д)リ「おうっ!?」


片足が死んでいるとはとても思えないほどの鋭い太刀筋が、ミセリを攻め立てる。

457 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 11:57:43 ID:Ln1aNnPE0
(//‰ )

ミセ*;゚д゚)リ「ん、ぐ、ぬ、ぬっ」


突き、薙ぎ、突き、突き、払い、突き、振り下ろす。
連撃がミセリを攻め立て、紙一重でかわすミセリを剣が纏う微風が撫でる。

ミセリはたまらず距離を取った。

剣撃の狭間で生じた一瞬の隙に、短剣の間合いの外へ。
そして――その一瞬の隙が終わる前に、思い知らされた。


(//‰ ゚)


短剣の間合いを逃れた所で、旧世界最強の人型兵器を前に、安全圏などはありえない。
キイリネズミの鳴き声。

親和を、精霊を、ありったけ集めたミセリの左腕を、衝撃派が撫でる。

458 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 11:58:27 ID:Ln1aNnPE0
ミセ*; д)リ「お……おぉおッ!」


立ち止まる、暇などは無い。
脚力を最大まで引き上げ、ミセリは地面すれすれを這うように跳んだ。
頭上を貫く深紅の光線。この一瞬、オルガンは光と音を失っている。

ミセリは無我夢中で剣を振るった。


(////‰ )"

ミセ*;゚д)リ「ッ、は、ァ……」


瓦礫が音を立てる。
振り返るほど心に余裕が無かった。
土砂に埋もれた柱を回り込み、暗闇を駆ける。

459 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 12:01:45 ID:Ln1aNnPE0
ミセ*;゚д゚)リ「はぁ、はぁ……ベル君、聞こえる!? 明かりを!」

「ミセリ、こっちです!」


自分の大声が反響する中、微かに聞こえる返答の方角に走る。
何度か瓦礫に躓いたが、途中、ベルベットが予備の松明で足元を照らしてくれた。

瓦礫の山を這いあがり、遺跡の旧世界部分に至るまで、ミセリは生きた心地がしなかった。


ミセ*;゚ー゚)リ「さんきゅ、ベル君!」

(;<●><)「み、ミセリ! その腕はっ!?」

ミセ*;-ー)リ「ごめん、ちょっとしくじっちゃった。お礼はしてきたよ」


足元の感触は、無機質な床。
走りやすい、だが、直線的すぎる道。


ミセ*;゚ー゚)リ「それより、あいつ一回すごいスピードで動いたんだけど!」

460 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 12:03:04 ID:Ln1aNnPE0
(;<●><)「それは……すみません、私にもわかりません」


まだ発掘されていない装備が眠っていたのかもしれない。
通路の両脇に立ち並ぶいくつもの扉を横目に、ベルベットは言う。

最初に昇ってきた階段が見えた、もうあと少しだった。


ミセ*;゚ー゚)リ「他にも、何を出してくるか分からないってことか……、!?」


復活した赤い光が、遠く二人を追い越す。

また正体不明の高速移動装置。
オルガンは、既に通路の入口まで来ている。


ミセ*;゚ー゚)リ「間に合――ッ!」
(;<-><)「ッ――!」


光線が通路を埋め尽くす寸前に、ミセリはベルベットを抱えて、階段に跳び込んだ。

461 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 18:24:53 ID:Ln1aNnPE0
……

(*‘ω‘ *)「モカーさん、危ないっぽ。何があるかも分からないのに……」

(;TДT)「あ、あぁ、すみません。そんなことより……」


壁の向こうに広がっていたのも、同じく無機質な、ただし少し広めの部屋だった。
これまでとの違いは、両脇に備え付けられた棚。所狭しと並べられた、大小様々な小箱。

モカーはその内の一つを手に取った。
中には、取っ手のような形状をした、金属塊。

親和。増幅された"青"の精霊が、金属を通し、短い刃を形成する。


(*‘ω‘ *)「うん? モカーさん、そんな事もできたっぽ?」

(;TДT)「い、いや、これは私の能力じゃない。信じられません……これは、変換器です!」

(*;‘ω‘ *)「エ、はぁ?」

462 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 18:26:22 ID:Ln1aNnPE0
(*;‘ω‘ *)「エフェクターって、"旧世界"のオリジナルってことっぽ?」

(;TДT)「はい。保存状態も悪くない。こんな事があるのカー……!?」

(*‘ω‘)「はぁ、こりゃ確かに大発見……って、ちょっと待てポン助、おい!」
,,,,,,(*・(エ)・) ゴェッ!


ぽっぽの戦棍『黒天飛王』の変換器も含め、"新世界"で生産される増幅器は、"旧世界"の応用である。
新たな増幅器が発掘されることは、そのまま世界中の技術力が上がることと同義と言っても構わない。

驚く二人を尻目に、ポン太は小部屋の奥へのそのそと歩いてゆく。


(*‘ω‘ *)「とと、出入り口もあるのか……って、そりゃそうだよな」

(*・(エ)・) ゴエッ!

(*‘ω‘ *)「うん? ……もしかして、ママの匂いでも分かるっぽ?」

(*・(エ)・) ゴエェッ!

463 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 18:27:02 ID:Ln1aNnPE0
 (*・(エ)・)っ" モーンモーン

(*‘ω‘)っ「わぁったわぁった、開けてやるからちょっと待つっぽ」


くの字に折れ曲がった、奇妙な形の取っ手を掴む。
しかし、押しても引いてもドアが開く気配は無い。


(*;‘ω‘)「あー、くそ。洞察力洞察力……!」
( っ(*・(エ)・) モーンモーン


苦戦するうちに取っ手が下方向に、正確には、ドア面に対して時計回りに少しだけ回転する事が分かった
そして、この状態で扉を押すと、重厚な扉があっさり開く。


(*;‘ω‘ *)「な、なるほど。取っ手を捻ればドアが開くようになってたのか」
( っ(;・(エ)・) !? ゴエェ!

464 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 18:28:02 ID:Ln1aNnPE0
扉の外は、左右に伸びる無機質な回廊だった。
警戒するぽっぽの後ろで、ドアが静かに閉まる。


(*;‘ω‘ *)「……おーい、ミセリ! 居るか!?」
( っ(・(エ)・;) ゴエェ、ゴエェ!


返事は無かった。
光の届かない闇の奥から、自分の声だけが跳ね返ってくる。

一度、部屋に戻ろう。伸ばしたぽっぽの手は、何にも触れなかった。


(*;‘ω‘ *)「あれ? は?」


外側には、取っ手がついていなかった。
アリアドネの青白い光が、閉ざされた扉の隙間に消えている。


(*;‘ω‘ *)「……危ね、アタシ一人だったら詰んでたっぽ。おおい、モカーさん!」


少し待つと、扉が再び内側から開く。

465 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 18:28:40 ID:Ln1aNnPE0
(;TДT)「これは面白いですね。掛け金が取っ手で操作できるのか……っと、あれ?」

(*‘ω‘ *)「ん、外側には取っ手が無いみたいだ。これじゃ締めだされたら入れないっぽ」


ポン太がかりかりとぽっぽの腕を引っ掻く。
おろせ、そう言っているようだ。無視する。


(;TДT)「あぁ成程、外からはこれを使えば入れるんでしょう」

(*‘ω‘ *)「ん? さっきの動く小部屋にあった、水晶か?」
(っ(;・(エ)・) ゴエェ! ゴエェエ!

(;TДT)「そうみたいですね。すると、ビロード君が居れば調査は格段に……って、ポン太君?」

(*‘ω‘ *)「! 誰か、来るっぽ」

466 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 18:29:45 ID:Ln1aNnPE0
(;TДT)「ミセリさん? ビロード君?」

(*‘ω‘ *)「……残念ながら、違うみたいだな。部屋に入っててくれ、アタシが呼ぶまで開けるな」
( っ(((・(エ)・;) パス

(;TДT)「って、まさか、戦うつもりですか!?」
(っ(;・(エ)・)) キャッチ

(*‘ω‘ *)「向こうの出方次第だっぽ。どの道、ここしか進む道は無い」


ぽっぽは戦棍を構え、松明を闇に向けた。
背後で扉が閉まり、闇の中に、自分と、得体の知れぬ何者かだけが残る。

モカーのアリアドネは、この状況では邪魔なだけだ。
右手で触れると、触れた先からあっけなく四散した。


(*‘ω‘ *)「そこに居るのは何者っぽ? 敵意は無い、返事をしてくれ」

「――」


返事は、ない。
気配が近付く。

467 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 18:30:35 ID:Ln1aNnPE0
(*;‘ω‘ *)「おい、何か言え! それ以上近付くなら敵とみなすっぽ!」

「――た」


返事は、ない。
だが、近付いてくるそれを炎が照らす前に、先にそれの声がぽっぽの耳に届いた。


「――な、―んだ。ア――ィーも、―ー――スも、ひひ――儂を残――、――な、――でしま――」

(;*‘ω‘ *)「な、何? なんだっぽ?」

( )「みんな、みぃんな、――で――って、生き―――は、――……憎い――」


暗闇の中に、人影がゆっくりと輪郭を為してゆく。
強烈な腐敗臭に、ぽっぽは思わず後退った。

468 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 18:31:26 ID:Ln1aNnPE0
(;*‘ω‘ *)「ひっ……」

("゚,",々イ")「ひひ、ヨツマ人め……こんな穴倉すぐに這い出して……ぎひひひ」


彼は、小柄な老人の姿をしていた。
皺まみれの顔、眼球を失った窪み。
カラカラに乾き罅割れた皮膚は青白く、その口元を涎がとめどなく流れ落ちる。
纏う衣は黄色に黒を混ぜた様な汚らしい染みに覆われ、そのボロ衣からはくすんだ緑の鱗が覗く。

樹人。森の人。
人語を操る、されど人ならざる樹海の住人。

唾をのむぽっぽに、彼は光を、正気を失くした眼を向けた。
狂気に満ちた『森の人』の、その眼窩を赤黒い液体が滴る。


(*;‘ω‘)「……話を聞いてくれる様子じゃないっぽねッ!」

("゚,",々イ")「ヨォォツマァのサルどもォめァァァア! 儂らのガセウをォ返ェしてもらァウぞぉァアアァ!!!」

469 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 18:32:21 ID:Ln1aNnPE0
(*;‘ω‘ *)「んぐ……悪く思うなよッ!」


血と涎でベトベトの両手を、老人はぽっぽの方へ振りまわす。
視力をもたない故だろう、その攻撃はあまりに雑で、かわすのも容易い。

気絶させる程度に抑えた力で、ぽっぽは戦棍を振るった。
狙い過たず、一撃は老人の後頭部を殴り抜く。


("゚,",々イ")「ひぎゃ」


鈍い音、が、二発。
酷く打ち付けた壁に、黄と赤の混じった液体が糸を引く。

後味が悪い。ぽっぽは苦々しい顔で倒れ伏した老人を見下ろした。
打ちどころが悪かったのか、彼はピクリとも動かない。

470 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 18:33:45 ID:Ln1aNnPE0
(*;‘ω‘ *)「っぽ……死んでないよな?」

("゚,",々イ")「死なぬ。儂はヨツマ人どもとあの憎きオルガンを殺し尽くすまで死ねぬのだ」

(*;‘ω‘ *)「うおあ!」


森の人の強みは、二つ。
ヒトには持ち得ぬ身体の力。
ヒトのみ持ち得る親和の力。
ヒトにしてヒトにあらざる彼らは、その両方を併せ持つ。

身を伏せた老人はまるで蛇のような鋭さで身を起こし、再びぽっぽに掴みかかる。


(*;‘ω‘ *)「っ、その程度の奇襲があたるワケ……!?」

("゚,",々イ")「あァぁぁぁヴィィイィ……おぬしの痛みは……こんなもんじゃあぁなかったよなぁぁあ……」


這いつくばった老人の、その胴から流れ出す血が、うぞうぞと蠢く。

471 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 18:34:23 ID:Ln1aNnPE0
("゚,",々イ")「儂はぁ、忘れておらんぞぉぉ、サルどもめぇ……その血と痛みを以て償えェえぇ!!」

(*;‘ω‘ *)「う、うおお!」


恐怖に駆られ、ぽっぽは戦棍を振るう。

半端な手加減のあった一撃目とは違い、全力での攻撃だった。
鼻血と涎、前歯を撒き散らして、『森の人』は闇の中を転がる。

ぽっぽの判断は、一方では正しく、一方では誤っていた。

一つには、相手を気遣うべき余裕などは、この場には無かったこと。
それ故に、本気で相手を打ち据えた思い切りの良さは、正しいと言えよう。

472 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 18:35:14 ID:Ln1aNnPE0
(*;‘ω‘ *)「……今度こそ気絶して……うっ!」

("゚,",々イ")「るゥぅぅぅファス……おぬしはもっと、悔しかったじゃろうて……」


撒き散らされた血が、うぞうぞと蠢く。

二匹目。
ぽっぽは竦みあがった。

もう一つには、一撃を撃ち込まれた老人が、親和を持っていたこと。
そして、その親和が、流した血と受けた苦痛を糧に現界することが、ぽっぽの見誤った点である。

老人を締め落とす、それがその場を乗り切る最善手であった。
最も、それはぽっぽには知る由も無かった事だ。


("゚,",々イ")「彼奴等に思い知らせてやろうぞぉ……彼奴等のォ血ィとォ!! 痛みを以てなぁぁァア!!」


蠢く二つの血溜まりは、やがてゆっくりとその身を起こした。
血に塗れた鱗、骨の突き出した身体。
人間を模した出来そこないの上半身を持つ、巨大な二体のトカゲ。


("゚,",々イ")「なぁ!? アァァァアヴィィイィよッッ!! ルゥゥゥウゥウファスよッッ!!」

473 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 18:36:03 ID:Ln1aNnPE0
先に生み出された個体――アーヴィーとか言ったか――が、その腕を振りあげる。
ぽっぽは敢えて受けることをせず、跳び退いた。

大鉈の様な剣が、闇を断ち割る。

読んだ以上に間合いが広い。腕と肩の関節が伸び切っているとわかった。
間髪いれずに、二体目――ルーファスが詰め寄る。

ぼろぼろに朽ちた身体でも、極めて太い両脚は、その力を失っていないらしい。


(*;‘ω‘ *)「んがッ……こいつら、死骸の分際で……!」

("゚,",々イ")「死ぃぬのは貴様ぞぉぁあああ!!」


振り下ろされる鉈を避け、地面を蹴って壁へ。
壁を蹴った勢いで、戦棍を振るう。

防御すらしないトカゲ人間の頭に、渾身の一撃がめり込んだ。

474 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 18:36:42 ID:Ln1aNnPE0
(*‘ω‘)「どぉだゴルァぁッって!」


ルーファスは、平然と鉈を振るう。
まるっきり、ダメージを受けた様子は無い。

ぽっぽは剣撃を棍で受け止め、身体を後ろに流す。


("゚,",々イ")「ぎひひ、ひひゃひゃはぁ、死ねッ死ねぇ、殺せぇえぇえ!!」

(*;‘ω)「一撃で倒せるとは思ってなかったけどさぁ……ノーダメージは流石に……」


アーヴィーの剣が振り下ろされる。
伸びる腕を見越し、余裕を持って避ける。


(*;‘ω‘ *)「っつつ、畜生、厄介だっぽ」


一体一体はさして強くはない。
ラウンジで受けた竜族の一撃を事を考えると、むしろ可愛いものだ。
最も厄介なのは、得体の知れない老人の能力。


(*‘ω‘ *)「とくれば、取るべき手段はイッコだけっぽ」

475 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 18:37:17 ID:Ln1aNnPE0
("゚,",々イ")「ぎひひぃ、渡すものかぁ……儂らのぉ、ガセウをぉぉああ……」

(*; -ω)「あぁうん、やるやる、お前らにくれてやるっぽ。じゃな、ばいばい」


ぽっぽは松明を引っ掴み、弾かれたように駆けだした。
方向は、剣をだらしなく垂らすルーファスと、振りあげるアーヴィーの、正反対。

敵前逃亡そのものだ。


("゚,",々イ")「殺すェ殺せェ殺せェあぎひひゃひゃ!」


涎と共に飛ばされる指示で、トカゲ人間も走り出した。
追い縋る二匹を、ぽっぽの脚力は一気に引き離す。


(*‘ω‘ *)「ばぁか、お前らみたいなバケモン、正面切って相手するのは御免なんだっぽ……だって」

("゚,",々イ")「仇を討ってやるからなぁぁ、ユドぉぉお……彼奴とぉ、あの『オルガン』の首を、切り、切り落と、ぎひひぃッ」

(*;‘ω‘ *)(あいつ、超怖ぇぇもん……)

476 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 18:37:51 ID:Ln1aNnPE0
(*‘ω‘ *)「なんにせよ、考える力が無くなってるのは大きいっぽ。囮作戦成功っと……!」


追いかけっこは、すぐに限界を迎えた。
松明の炎が照らす一寸先に、突き当りの袋小路の壁が照らし上げられる。

ぽっぽは松明を捨てて一気に加速し、壁に両脚で跳び付いた。

二匹のトカゲは、すぐ後ろまで迫っている。
これも、計算通りだ。


(*‘ω‘ *)「バカでかい身体に得物してるから、隙だらけなんだっぽ!」


両脚に溜めこんだ親和は砲台、ぽっぽの身体を砲弾に変える。
圧倒的な爆発力を持った弾丸が二匹の巨体の間を潜り抜け、反対方向へとすっ飛んでゆく。

身を守る盾を捨てた、無防備なその主のもとへと。

477 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 18:38:24 ID:Ln1aNnPE0
("゚,",々イ")「ぎひひッ」

(*#‘ω‘ *)「ぶっ飛べッ……!」


渾身の力で、ぽっぽは戦棍を振るった。
全力の助走と回転の力。"赤"の精霊の力。
全てを込めた一撃を前に、老人は尚も笑う。


#}",々イ")「ひぎょぴ」


骨の砕ける音。
無抵抗の『森の人』は、ぽっぽ以上の勢いで吹き飛び、壁や天井にその血を擦り付け、高笑いを止めた。

闇に静寂が戻る。
どうやらアーヴィーとルーファスとやらも無力化したらしい。
活動を止めたか消滅したかはわからないが、足音は消えた。


(*;‘ω‘ *)「……あぁくそ、年寄り殺しちまったっぽ。胸糞悪――」


ぱしゃ。
足元の血が、音を立てる。
ぽっぽの背筋を悪寒が走る。

478 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 18:39:29 ID:Ln1aNnPE0
},",々イ")「ぎひ、ひぃ……ユドォォオ……お主の怒りは、もっと深かったじゃろうなぁぁあ」


三体目。
警戒する間もなく足元の血だまりが蠢き、ぽっぽの身体を巨大な掌が掴んだ。


(*; ω )「がッ!」


全身がバラバラになるような痛み。
目の前には、先ほどより二回りも大きな蜥蜴人間が、血の溢れる空疎な眼窩を向けている。

巨人は、ぽっぽを握る右手に、左手をも添えた。

――剣を持っていないのは、身体に見合うサイズのものが無いからだろうか。
血と酸素がまともに巡らず、痛みにマヒした頭で、ぽっぽはぼんやりと考える。

引き戻したのは、さらなる痛みだった。

479 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 18:40:19 ID:Ln1aNnPE0
(*; ω )「あ……あぁああぁぁああああッ!!」

},",々イ")「ぎひ、ひひぃ、絞り殺せぇ……道連れに……してやれぇ……」


黒天飛王、相方の戦棍が地面の血溜まりに落ち、カラカラと音を立てる。

骨や筋が無事なのか、判別するだけの余力すら残っていなかった。
激痛に苛まれ、目の前でチカチカと火花が飛び交う。

ぼろ雑巾のように引きちぎられる自分の身体を、ぽっぽは幻視した。

不意に締めつける力が弱まり、全身に血が巡る。
掠れ、急速にブラックアウトする視界いっぱいに、青紫が広がる。

鋭い牙がぞろりと並ぶ、死した蜥蜴の口蓋だった。

480 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 18:40:46 ID:Ln1aNnPE0
(*; ω )「――ッ」

},",々イ")「ひ……ひひ……ひ……喰い、殺せぇえぇえ!」


ぽっぽに意識は殆ど残っていなかった。
ただ、もう戦いは終わったということだけを『理解』していた。

彼女の目の前で、『それ』が炸裂した瞬間に。

ぼん。間の抜けた音が、巨大な蜥蜴の頭部を吹き飛ばした。
支えを失ったぽっぽの身体が、硬い地面に叩きつけられる。


(;TДT)「ぽっぽさん! 大丈夫ですか!?」
(・(エ)・;) モーイ…

(*; ω)「……う……」


目の前で煙を上げ、横倒しに倒れ込む強敵を、ぽっぽはただ茫然と見上げた。
戦いは終わった。それだけを理解していた。

481 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 18:41:21 ID:Ln1aNnPE0
},",々イ")「ぎ……ぎひひ、ひひひぃ……」

(;TДT)「こ、この野郎、まだ生きてるのか……ぽっぽさんには指一本触れさせないぞ!」
(#・(エ)・) ゴエェェ!

(*; ω)「よ、止すっぽ……もう、終わったっぽ」


蜥蜴の巨人の身体は急速に風化した土塊と化し、地面に吸い込まれるように消えていった。
老人もまた、這いつくばったまま時折痙攣を繰り返し、ただ不気味な高笑いを上げている。

恐る恐る覗きこんだモカーは、短く悲鳴を上げた。

首も手足も折れ曲がっている。
命を繋ぎ留めているのは、『森の人』の強靭な生命力だけだ。
それでも、死闘を演じたぽっぽには、分かる。彼はもう、長くない。


},",々イ")「ぎひ、ひひぃ……ガセウは、渡さんぞ……ヨツマのサルが……」

(;TДT)「ぽっぽさん、この人……いや、この『森の人』って」

(*; ω)「知らん。本人に聞いてくれ」

482 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 18:43:46 ID:Ln1aNnPE0
},",々イ")「あひひ……ひ……儂らの造った、ガセウを……貴様らサル共には、決して……」

(*; ω)「!」
(;TДT)「あなた方が、ガセウを作った……それじゃ、あなたは古代ガセウ人……!?」

},",々イ")「ぎひひ、ひひひひひぁ……? ぁ、あか、明るい……地上、太陽の光……!」


その盲いた眼で、『森の人』は折れた両腕を中空に伸ばす。

ぽっぽは思わず眼を背けた。
彼の腕は、既に石化しはじめている。

精霊の許容量が己の血を上回った、生命の終焉だ。

『森の人』の身体は一際激しく痙攣し、そして動かなくなった。
くすんだ緑の皮膚は灰色に褪め、見る間に硬化して砂と崩れる。


「ぎひひひぃ……アーヴィー、ルーファス、ユド……ようやっと、帰れるぞぃ……」


彼の身体全てが、砂と消える。
その後には血に塗れたぼろぼろの衣服だけが残されていた。

483台詞修正 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 18:45:06 ID:Ln1aNnPE0
},",々イ")「あひひ……ひ……儂らの造った、ガセウを……貴様らサル共には、決して……」

(*; ω)「!」
(;TДT)「あなた方が、ガセウを造った……それじゃ、あなた方が本当の古代ガセウ人……!?」

},",々イ")「ぎひひ、ひひひひひぁ……? ぁ、あか、明るい……地上、太陽の光……!」


その盲いた眼で、『森の人』は折れた両腕を中空に伸ばす。

ぽっぽは思わず眼を背けた。
彼の腕は、既に石化しはじめている。

精霊の許容量が己の血を上回った、生命の終焉だ。

『森の人』の身体は一際激しく痙攣し、そして動かなくなった。
くすんだ緑の皮膚は灰色に褪め、見る間に硬化して砂と崩れる。


「ぎひひひぃ……アーヴィー、ルーファス、ユド……ようやっと、帰れるぞぃ……」


彼の身体全てが、砂と消える。
その後には血に塗れたぼろぼろの衣服だけが残されていた。

484台詞修正 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 18:46:25 ID:Ln1aNnPE0
(;TДT)「ひ……ひぃ……終わったのカー……」

(*;‘ω‘)「その『ひひぃ』って感じのビビり方やめてくれっぽ。心に来るものがある」

(;TДT)「あ、す、すいません。そんなことより、ぽっぽさん、それ、血ッ!」


ぽっぽは己の姿を見下ろした。
全身に、血溜まりを這いずった汚れがべっとりと付いている。
なるほど、これじゃどっちがゾンビか分からない。


(*‘ω‘ *)「心配は要らないっぽ。こりゃ全部返り血みたいなもんだ。怪我は無い」

(;TДT)「うぇ、本当ですか……?」

(*‘ω‘)「あぁ、全身が軋むくらいだっぽ」


骨や筋を痛めているようでもない。
全部、返り血だ。乾いた笑いが漏れた。
その方が、よっぽど不気味かもしれない。
返り血で赤茶けた軽鎧は、さながら狂戦士だ。

485台詞修正 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 18:47:27 ID:Ln1aNnPE0
(*‘ω‘ *)「それで、さっきの爆発は?」

(;TДT)「ああ、アレは、これです!」


卵大の金属塊が二つ。
強いて近い物を上げるならば、信号弾がこんな形状だったか。
とはいえ、先ほどまでの爆発力を此処まで凝縮した火薬は精製できないから、とすると答えは。


(*‘ω‘ *)「……エフェクター?」

(;TДT)「はい。使い捨てのようですが、間違いなく『新技術』ですよ!」

(*; -ω)「今日初めて知ったよ。人間のびっくりが底をつく事なんてないんだな……ちょっと待て」

(・(エ)・*) ~♪

(*;‘ω)「お前、よく分かってない物を投げつけてきたの?」

(;TДT)「……あの……その時は……焦ってて……ですね」

エ)・*),,,, ~♪

(*;‘ω)「〜〜ッ! いや、いい……助かったっぽ。さて……」

486台詞修正 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 18:49:18 ID:Ln1aNnPE0
ぽっぽは戦棍を拾い上げた。

モカーの松明は、はじめの扉に挟んであった。
扉が勝手に閉まるのを防いでいるという訳だ。

隙間から一筋のアリアドネが伸びている事を確認し、ぽっぽは歩きはじめる。


(;TДT)「え? ミセリさん達の居場所が分かるんですか?」

(*‘ω‘ *)「わからん。だが、さっきの樹人は『オルガンを殺す』とか言ってたっぽ」

(;TДT)「そ、それじゃあ……!?」


この遺跡にはオルガンがあり、そして、ひょっとすると、まだ停止していない可能性すらある。
ミセリは、ビロードは、思ったよりもはるかに危険な状態かもしれない。

闇の中にのそのそと歩いてゆく、小さな仲間を指した。


(*‘ω‘ *)「手掛かりにできるかは知らんが、無いよりよっぽどマシだっぽ」

487 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 22:33:37 ID:Ln1aNnPE0
ミセ*゚ー゚)リ「……来ないね」

(;><)「……」


二人分の呼吸だけが、暗闇に響く。

引き摺っていた片足に渾身の一撃をくれてやったのだ。
機動力は間違いなく、さっきよりもいっそう落ち込んでいるに違いない。

恐怖の赤い光は、まだ追いついて来ていない。


ミセ*゚ー゚)リ「ふぃぃぃ……ビロ君、傷は痛まない?」

(;><)「うぇ? あ、あの、その、……痛いです。凄く痛いんです」

ミセ*゚ー゚)リ「そっか。我慢しよう」

488 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 22:33:57 ID:Ln1aNnPE0
結局、二人は最初の小部屋まで戻って来ていた。
ダメ元で装置を動かしてみたが、やはり反応は無い。

反対の通路に進んで、逃げ道を探るか。
あるいは、この場に留まり迎撃するか。

二人が選んだのは、迎撃の道だった。


ミセ*゚ー゚)リ「……それにしても、ベル君も酷いよ。私だけ拉致されちゃったみたいじゃない。ね」

(;><)「へ? ひゃい、そ、そうでッね!」

ミセ*゚ー゚)リ「……大丈夫? 痛みで朦朧としてきてるとか……」

(;><)「や、大丈夫、大丈夫なんです。いやぁベルベットは酷い奴なんです。ははは……」


身を隠した狭いコンテナの隙間からは、仕掛けた罠のみが視界に入る。
『狩り』は兵器が活躍すべき場ではない。冒険者の領分だ。

489 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 22:34:15 ID:Ln1aNnPE0
遠く離れた罠のコンテナの中で、目印の火種がチカチカと燃える。
二人の下には、微かな光も届いていない。

オルガン相手にはまるで意味を為さない脚甲や皮鎧は、小部屋に置き捨ててある。
薄い半袖のブラウス越しに触れるビロードの背中は、小さく小刻みに震えていた。

傷の痛みもあるだろうし、何より緊張しているのだろう。無理もない。
ベルベットの人格はこの隙間に潜り込むと同時に引っ込んでしまっていた。


ミセ*゚ー゚)リ「応急処置しかできなかったからなぁ……大丈夫だったら良いんだけど、無理は厳禁だよ?」

(;><)「ふひ」

ミセ*゚ー゚)リ「……。聞いておきたいんだけど……」


ミセリはビロードの横顔を覗きこんだ。
緊張に強張った顔が、暗闇にぼんやり浮かぶ。

490 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 22:34:33 ID:Ln1aNnPE0
ミセ*゚ー゚)リ「怒らないから正直に答えて。ぽっぽちゃんとモカーさんを置いてきぼりにしたの、わざとでしょ」

(;><)「!」


ビロードの身体がびくりと震えあがる。
嘘のつけない少年だ。
嘘をつける少年と入れ替わることは、ミセリの眼が"黒"いうちには叶わない。


(;><)「いや、その、ええと、あの……」

ミセ*゚ー゚)リ「隠しても無駄ですー、ビロ君、身体は正直なんだもん」

(;><)「……!?」

ミセ*゚ー゚)リ「ビロ君もベル君に協力してたでしょ。じゃないと、最初に小部屋の水晶が動かなかったことが説明できない」

(;><)「うう、ごめんなさいなんです。すごい『洞察力』なんです」

491 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 22:35:02 ID:Ln1aNnPE0
ミセ*゚ー゚)リ「怒らないから正直に答えて。ぽっぽちゃんとモカーさんを置いてきぼりにしたの、わざとでしょ」

(;><)「!」


ビロードの身体がびくりと震えあがる。
嘘のつけない少年だ。
嘘をつける少年と入れ替わることは、ミセリの眼が"黒"いうちには叶わない。


(;><)「いや、その、ええと、あの……」

ミセ*゚ー゚)リ「隠しても無駄ですー、ビロ君、身体は正直なんだもん」

(;><)「……!?」

ミセ*゚ー゚)リ「ビロ君もベル君に協力してたでしょ。じゃないと、最初に小部屋の水晶が動かなかったことが説明できない」

(;><)「うう、ごめんなさいなんです。すごい『洞察力』なんです」







ミセ*#゚`益'゚)リ「『オルガン』ってのは目玉一つ残さず殺しつくす必要があるらしいな?」

(;><)「ご、ごめ、ごめ、じょ、じょうだ、ゆる、許して下さい」

492 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 22:35:37 ID:Ln1aNnPE0
ミセ*゚ー゚)リ「それで? 君達は何を考えてるの? 何を狙ってるの?」
(;><)「そ、その……あの……お、『オルガン』を探して、その……」

ミセ*゚ー゚)リ「うん」

(;><)「ぼ、僕らのどっちがもともとの"僕"なのか、知っておきたくて……」

ミセ*゚ー゚)リ「……ふーん」


こう考えたのだという。
"魂"を見るミセリの"黒"ならば、二人のうちどちらがオルガンに近いのかが分かるんじゃないか、と。

ただ――見つかったオルガンには、"魂"は残っていなかった。


ミセ*゚ー゚)リ「けっこう気にしてるじゃん。ベル君め、また適当なこと言ったな」

(;><)「ち、違うんです! ……これは僕の我儘なんです」

ミセ*゚ー゚)リ「うん?」

( ><)「ガセウに来て確信したんです。ビロード・ベルベットに必要なのは僕じゃないって」

493 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 22:36:35 ID:Ln1aNnPE0
(;><)「僕は、その、ベル君みたいに"眼"も上手く使えないし、体術もダメダメだし、臆病だし」

ミセ*゚ー゚)リ「うん、そうだね」

(;><)「ひ、酷っ! と、とにかく、劣っている僕が居ても意味なんて無いんだって、」

ミセ*゚ー゚)リ「そう? ベル君だって今日はダメダメだったじゃん。ほとんど居る意味無かったよ」

( ><)「」

ミセ*゚ー)リ「勝手に機械いじって壊すし、たかだか蝙蝠ごときで息切れするし、オルガンには手も足も出ないし」

(;><)「そ、それは、アマラントスが……熱耐性が……」

ミセ*゚ー゚)リ「松明だってビロ君が居れば充分だったじゃん。思い出したらムカついてきた」


とにかく。ミセリは咳払いして言葉を切った。
ベルベットに対する文句はいくら言っても尽きないが、そんな事をしても仕方がない。


ミセ*゚ー゚)リ「ビロ君だって私達には必要なの。ビビリでヘタレのビロ君が居ないと、ベル君だけじゃ危なっかしいよ」

( ><)「……強いんです、ミセリちゃんは。親和だとかだけじゃなくて、そんな事を言えるなんて」

ミセ*゚ー゚)リ「うん? ビロ君達と変わらないと思うんだけどな」

494 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 22:36:56 ID:Ln1aNnPE0
大事なのはきっと、上っ面の強さなんかじゃないよ。
ぽっぽちゃんも、ベル君も、ビロ君も、誰が欠けても嫌なんだ。

ミセリは何も言わないことにした。


ミセ*゚ー゚)リ「心配しなくても、『チェトレ』には君のこと大好きな女の子だって居るんだから」

( ><)「!? それって――っとと。あなたもなかなかの鬼畜ですね、ミセリ」

ミセ*゚ー゚)リ「あ、ベル君?」

( ><)「はい。交代しました。ビビリヘタレにしてはよく頑張った方でしょう」


ですが、もう時間切れです。
ベルベットは、冷たい声で宣告する。
追跡者の足音は、ミセリの耳にも届いていた。

495 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 22:37:28 ID:Ln1aNnPE0
( ><)「ミセリ、私達は貴女に感謝しています。私もクソヘタレも、貴女のお陰で勇気を持てた」

ミセ*゚ー゚)リ「え? え? ……どういたしまして」

( ><)「さて、そろそろ始めましょう。今度こそ役に立たないと、何を言われるか分かりませんからね」

ミセ*;-ー)リ「あはは、そりゃバッチリ聞こえてましたよね。……じゃ、お願いするよ」


目印のすぐ真下、立て掛けてあった松明に、ベルベットが火を灯す。

カツン、ゴッ……カツン、ゴッ……
重い足音が、赤い光が、広間に押し入ってくる。

496 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 22:38:15 ID:Ln1aNnPE0
(//‰ )

ミセ*゚ー゚)リ「思いのほか早かったと思ったら……杖? よく見えないんだけど……」

( ><)「どこかで装備を拡張してきたのかもしれませんね。だとしたら厄介ですが……」

ミセ*゚ー゚)リ「……うん。でも、やることは一緒だよ」


ミセリはロープを握りしめ、耳をそばだてた。

カツン、ゴッ……カツン、ゴッ……
まだ、まだ遠い。


ミセ*゚-)リ「まだ……もうちょっと……もう少し……」

( ><)「……」


カツン、ゴッ……カツン、ドッ……ガタッ、

足音の質が変わる。
思考回路の吹き飛んだ人造の兵士は、愚直にも、"無人のコンテナに灯る"松明の明かりを確認しに行ったのだ。
少しの思考能力があれば罠だと分かる程度の、獣に対するような単純な罠に、彼は引っかかってしまう。

地面に垂らしていたロープを、ミセリは全力で手繰り寄せた。

497 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 22:38:42 ID:Ln1aNnPE0
ミセ#゚皿)リ「うおりゃぁあああああああッ!」


単純な、本当に単純な罠だ。
金属製の巨大な檻に獲物が入ると同時に、檻を横倒しにする。

見た目の割に軽いコンテナは、上部を鉤付きロープで引っぱるだけで、容易に転がった。

出入り口は、地面に向いている。
よほど余裕があれば脱出は難しくないだろう。

そして、そんな余裕を与えるつもりなど、二人には微塵も無い。


ミセ*;゚д゚)リ「ふ、ふぃーっしゅ……ベル君!」

( <◎><)「ええ、もう始めています」


金属製の熱しやすいコンテナが、見る間に赤く染まってゆく。
広間の暗闇は、灼熱した直方体が放つ、真っ白な熱気に歪む。

498 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 22:39:16 ID:Ln1aNnPE0
ミセ*;゚ー゚)リ「やったか!?」

( <◎><)「いいえ。まだまだ、だそうですよ」


瀑布に似た轟音が光源を得た広間に響く。
崩れ落ちた超高温のコンテナの中で、兵士はゆっくりと辺りを睥睨する。

コンテナの壁だった金属の合板がオルガンの真上で止まり、その身体を避けるように崩れ落ちる。
巨大な灼熱を受け止めた半透明の盾には、傷一つ付いていない。


ミセ*;゚д゚)リ「な、何あれ……!?」

(;<●><)「回転式銃砲"ワイバーン"、それに、シールド……完全武装、ですか」


片膝立ちの姿勢で、兵士は巨大な杖――ワイバーンをもたげた。
照準は、広間の入口付近。ミセリ達とは九十度も離れている。

499 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 22:42:40 ID:Ln1aNnPE0
ミセ*゚ー゚)リ「いったい何を……ッ!?」


轟音。
金属の獣の咆哮が、コンテナを、壁を、余さず粉砕してゆく。

火と鉄の雨に打たれたあとに、生きていられる生物など居るはずもない。回避などしようもない。

僅か数秒の水平掃射で、遮蔽物は残らず鉄屑と化した。


(//‰ ) キュゥ…

ミセ*;゚д゚)リ「お、終わった……!?」
(;<●><)「まだです。砲身の冷却が終わればすぐに撃ってくる!」

ミセ*;゚ー゚)リ「おっけ、わかった」


地面に身を投げ出していたミセリは、長剣を抜き、立ち上がる。
結局のところ、できることは限られている。いつも通りだ。


ミセ*;゚ー゚)リ「要は、それまでに壊せばいいんでしょ?」

( <◎><)「ええ、可能ならば鹵獲します。この私を役立たずに追い込んだ罪は重い……!」

500 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 22:43:15 ID:Ln1aNnPE0
ミセ*゚д゚)リ「おりゃぁッ!」


ミセリは一直線に飛び掛かった。
オルガンは右腕の砲身を下げ、シールドで斬撃を受け止める。

鋭く直情的な剣閃は、丸みを帯びた盾に触れ、軌道を逸らされた。


(//‰ ゚)

ミセ*;゚д゚)リ「うげっ……がふっ!」


体勢を崩したミセリの腹を、重い打撃が襲う。

501 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 22:44:03 ID:Ln1aNnPE0
ミセ*;゚д)リ「う、……」


高速移動、さっきも見た。
シールドをそのままに、片足だけで突き進むオルガンに「跳ね飛ばされた」のだと、崩れたコンテナ片に突っ込んでから気付いた。

視界の中心で、銃砲がこちらを向く。
無残に引き裂かれる己の姿を、ミセリは幻視した。

しかし、覚悟した衝撃は、襲ってこなかった。
代わりに、赤い光がミセリの周囲に収斂する。


ミセ*;゚д)リ「……ッ」


光線。こちらも一瞬でコンテナを貫通するだけの威力がある。
ミセリは素早く身を起こし、射線から身をかわした。

502 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 22:45:01 ID:Ln1aNnPE0
ミセ*;゚д)リ「な、なんでアイツ、今、あの銃砲……、!!」

( <◎><)

ミセ*;゚ー゚)リ「ベル君……やるじゃん!」


光線が拡散する前に。視界が回復する前に。
ミセリは盲目に等しいオルガンのもとへと、一気に距離を詰めた。

――銃砲が動かないのは、ベルベットの"眼"の能力だった。
排熱が終わらないように、外からの熱で無理矢理加熱する。

かくして火竜は、自らの炎に焼かれた。
ミセリにはその一瞬の隙だけで十分だ。


(//‰ ) ギ

ミセ*゚д)リ「おぉぉッ!」

503 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 22:45:37 ID:Ln1aNnPE0
(//‰ ゚) ギギ


ミセリが剣を振るうよりも、オルガンの視界が回復する方が一足早かった。

剣撃を逸らし、灼熱の鉄塊に耐える、半透明の盾。
その不敗の盾を、ミセリの飛び蹴りが襲う。


ミセ#゚д゚)リ「おぉぉおぉあぁぁあぁッ!!」

(//‰ ) ギ…


一瞬の衝突。
二つの影は反発しあい、小柄な一方が弾け飛んだ。

……猛禽を思わせる冒険者の一撃でも、不敗の盾を破ることは出来なかった。

504 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 22:46:15 ID:Ln1aNnPE0
ミセ*; ー)リ「……終わった、か」


ミセリは鼻を鳴らした。
立つ事もままならない。足を挫いたようだ。

この一瞬の攻防で、オルガンは、盾も、刃も、火竜も、瞳も、何も失っていなかった。

赤い光が、ミセリの額に収束する。


ミセ* ー)リ「いいよ、そのまま……ひと思いに――」


渾身の一撃ですら、オルガンの迎撃姿勢を僅かに崩しただけだ。

505 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 22:46:53 ID:Ln1aNnPE0
――ミセリの狙いは、そもそも、盾そのものではなかった。
片足を失った兵士が無理に立て膝を付いている、その姿勢を突き崩す事だ。

旧世界が生み出した最強の兵士は、不様に尻もちをつく。
そして、その姿勢では、真後ろへの対応が一切できない。


ミセ*゚ー)リ「ひと思いに――やっちゃえ、ベル君」


オルガンの胸を、その動力源を、岩喰みの高速振動ブレードが背後から貫いた。
ミセリに照準を合わせた赤い光が、ぶつんと色を失った。


( <-><)「決着、ですね」

ミセ*゚ー゚)リ「……はは、勝った……!」


崩れ落ちたオルガンを前に、ミセリは勝利の雄叫びを上げた。

506 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 22:47:35 ID:Ln1aNnPE0
……

小部屋の装置は、オルガンから強奪した瞳をかざすと、あっさり動きだした。
遺跡を守るあのオルガンは、何らかの制御をかけていたのだろう。

遺跡の上部に戻ると、既に偽の空は赤く染まっていた。


(* -ω-)「――成程な。事情は大体わかったっぽ」

( ><)「……」


"キイリネズミ"による傷は、言ってみれば、打撲を数倍酷くしたようなものだ。

ミセリの左腕も、腕甲を根こそぎブチ割られこそしたが、傷は筋肉まで至っていない。
傷の具合はむしろ、ベルベットの方が重かった。

大人しく治療を受けたベルベットは花壇に腰かけ、沈みゆく偽の夕日を眺めていた。


(*‘ω‘ *)「今回は両成敗だ。だから、遠慮なくやるっぽ。覚悟は良いな?」

( ><)”

(*#‘ω‘ *)「んの、バカ者がぁぁぁああ!!」
(   О彡 (#)><)

507 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 22:48:50 ID:Ln1aNnPE0
(*#‘ω‘ *)「今回はたまたま戻って来れたから良かったものを、これでてめぇも死にました、ミセリも巻き添えです、
      そんなことになったらどう責任取るつもりだ、あぁベルベット!? なめんのも大概にしろよゴルァ!!」

( ><)「……すまない」

(*##‘ω‘ )「すまない!? あぁそうだ、済まないっぽ!! だいたい、ビロの身体を間借りしてる分際で――」

ミセ*;-ー)リ「はは、ありゃ終わんないね」
っ(・(エ)・*) モヘ


ミセリの膝の上で、小熊はゴロゴロと背中を伸ばす。
合流してからずっと、ポン太はこの調子で、ミセリを離れなかった。

モカーは、持ちかえったエフェクターや『オルガン』のパーツを矯めつ眇めつしている。
身体一つ報告に持って帰るのはとても楽ではない。しかし、置いておくにも具合が悪い。

散々悩んだ結果、持ちかえるのは"瞳"のみとし、大部分は地下に隠しておくことにした。

508 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 22:49:19 ID:Ln1aNnPE0
(;TДT)「それにしても、みなさん、物凄く強いんですね。
    "ゴーグルとブレード、それに両脚が無かった"とは言え、あのオルガンを倒すなんて」

ミセ*-ー)リ「……運と、作戦が良かったんだよ」
 っ(*-(エ)-) ゴェゴェ


作戦が良かった。
少々ばかりの罪悪感が、ミセリの心を苛む。

「私の――ベルベットの狙いは、コレでした」
ぽっぽ達が階下に降りて来る前に、ベルベットはオルガンから幾つかの装備を奪い取った。

一つは、その"瞳"を覆う特殊ゴーグル。
一つは、無事に残された彼の右脚。
一つは、その右足を切り取った"岩喰み"

ベルベットが冒涜ともとれる略奪をする間、赤く澄んだ瞳が見返してきているようで、ミセリは眼を逸らした。
魂は既に、オルガンの身体には無かった。分かっていても、気分の良いものではない。

折りたたまれた金属の脚一本が入ったカバンは、どこか間抜けで不格好だった。

509 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 22:49:46 ID:Ln1aNnPE0
(;TДT)「とにかく、今回の探索は大成功です! 兄さんが知ったらどれだけ驚くか……!」

“( ><)

ミセ*゚ー゚)リ「……」


解放された小柄な少年は、今度は祭壇のアマラントスを見つめている。
ミセリは、その小さく寂しげな背中を眼で追い掛けた。

調査団にとって最大の収穫は、あの少年と二人で手に入れた、もう一組の"オルガンの瞳"だ。

少年ビロードは、己の存在意義を求めていた。
少年ベルベットは、己の存在意義を否定した。

二人の冒険者の歪な関係に決着を付けることは、出来なかった。
きっと、その捩れ縺れた糸がほどける時に、『チェトレ』の冒険が終わるのだろう。


(;TДT)「満足な成果です。ね、ぽっぽさん」

(*‘ω‘ *)「ん……まぁ、確かに結果は良かったか」

ミセ*゚ー)リ「……うん。でも、まだ足りないよ」
っ(*・(エ)・)

510 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 22:50:02 ID:Ln1aNnPE0
ミセ*゚ー)リ「このくらいの冒険で、満足できるわけ無いじゃん。まだまだ、これからだよ」

(* -ω)「はぁー、今度は無茶苦茶するんじゃねえぞ?」

(*><)「……」


秋晴れの空に、西日はゆっくりと沈んでゆく。
朱の空が過ぎれば、ほどなく星の夜が来るだろう。
紅葉の隙間を縫って吹く一陣の乾いた風が、ガセウの遺跡を抜ける。

混じる香りは、秋の実、落葉の薫陶。
そして――微かに紛れる、血の匂い。

冒険者達は、未だ知る由も無かった。
樹海の鳴動が、次なる冒険の序曲が。
既にヨツマに届いているという事を。

511 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 22:54:35 ID:Ln1aNnPE0
以上>>372-510

長らくお待ちいただき、また暖かいお言葉の数々を頂き、ありがとうございました。
今後とも、時々でも覗きに来ていただけると嬉しいです。
ご清聴ありがとうございました。

512 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 22:57:42 ID:Ln1aNnPE0
第一話 かつて死んだ世界の残り火 了

513 ◆LpPqFskzB6:2015/07/27(月) 23:31:54 ID:oxkKChE60
このトリップ割れてるから変えた方が…

514 ◆.LuforOUMA:2015/07/27(月) 23:56:26 ID:Ln1aNnPE0
ぐぐれば出てくるんですよね。確か割れてないのはこれだったかな。わざわざありがとう

515以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2015/07/28(火) 03:13:02 ID:mZMucREY0
おつ

516以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2015/07/28(火) 04:03:30 ID:V2OlgXag0
乙であった…!

517以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2015/07/28(火) 07:33:06 ID:vSIPO9KA0
おつでした。
まーた1から読み直そう

518以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2015/07/29(水) 15:33:21 ID:AFwaaMZY0
読み直し終わったら感想とか書いてくれると嬉しいな

519以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2015/07/31(金) 08:33:46 ID:q1Nwk3Eg0
おつ

520以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2015/08/07(金) 23:20:06 ID:W2gOW5lc0
祭り参加しないの?

521以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2015/08/08(土) 22:55:03 ID:gY6NrYuM0
うおー!きてた!
いまからじっくり読み直します!

522以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2015/08/17(月) 13:07:51 ID:2ASgmLKg0
百物語は、ごめんなさい、ホラー超苦手だから毎年不参加です。怪奇夜話のスレを開いたり閉じたり……

ちょっと相談なんですけれど、どなたか四・五年前の「土鳩が恩返しするようです」って総合短編のイラストお持ちじゃないですか?
パソコンぶっ壊れた時にデータが消えちゃって、なんとか取り戻したいのです

523以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2015/08/22(土) 00:54:09 ID:dkGMg3c.0
これで良い?
ttp://boonkusomiso.suppa.jp/esure110122/esure110122-1.html

524以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2015/08/22(土) 20:41:19 ID:xVf/HsAw0
うおお、そうそうこれこれ! ありがとう!

暇が出来ると、自分には物書き目指す体力は無いと改めて思いますね。この小さなスレで読んで貰えるくらいが丁度良いのかな
いつも読んでくれて本当にありがとう

525以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2015/08/24(月) 15:20:50 ID:juydLvys0
こちらこそありがたく読んでるよ

526以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2015/08/31(月) 08:47:05 ID:RAZ0uNIM0
乙でござった
また初めから読み直そうかな

527以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2015/10/06(火) 17:42:53 ID:xEyxI6mE0
おつおーつ!

528以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2015/10/15(木) 08:58:26 ID:oCLfv7jk0
おつ!最高に嬉しいよ。必ず読むから完結まで頑張ってね。

529以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2016/01/03(日) 03:01:38 ID:k7L9e9YM0
あけおめ!

定期的に見に来てるよ!

530 ◆LpPqFskzB6:2016/01/19(火) 17:31:31 ID:HpLQJQNw0
あけましておめでとうございます
今年もよろしくお願いします

531以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2016/01/19(火) 22:23:56 ID:zUlf680g0
続き楽しみにしてるよ

532以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2016/01/19(火) 23:38:07 ID:GIwQSFX20
あけおめ!

533以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2016/02/15(月) 19:06:36 ID:xL.X//X.0
参考までにだけどお気に入りのキャラとかいる?
俺はペニサス

534以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2016/02/16(火) 20:27:38 ID:86IQcGE20
モララー

535以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2016/02/16(火) 23:54:21 ID:HkXSTM7s0
しょぼん

536以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2016/02/18(木) 21:30:51 ID:Bqi3m4ow0
トソン

537以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2016/02/21(日) 01:01:58 ID:Bxg9gyE20
>>534-536
時間空きすぎてどこに出てたかパッと思い出せないな
読み返してくるか……

538以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2016/03/02(水) 07:35:21 ID:BqIaoabQ0
就職決まったから報告にk…なんだこれ
即日の復活は厳しいかもですが生存報告です

539以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2016/03/02(水) 12:47:01 ID:.V8TGmPw0
おー、おかえり

540以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2016/03/14(月) 01:53:37 ID:fJS2Fb560
支援絵を描かせていただきました 拙い出来ですみません
続き楽しみにしてます!!
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_1980.jpg

541以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2016/03/21(月) 07:01:37 ID:psNIS/A.0
うわあああ!拙いだなんてそんな!いつもありがとう!
総合でも見てました!テンション上がってお腹痛かったです!
本当にいつもいつも応援して頂いてお腹いっぱいです 投げるつもりは無いのでもう少々ばかりお待ちのほど

542以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2016/03/24(木) 04:01:53 ID:8rjFkA/M0
【悲報】サメ映画、もはやなんでもあり【画像あり】
http://bit.ly/1R5A4tS

543以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2016/03/29(火) 16:42:03 ID:Sbxf56WA0
【速報】日本人、エルフだった
http://bit.ly/1R5A116

544以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2016/04/04(月) 08:48:00 ID:kJwOJHYw0
しえ

545以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2016/04/04(月) 14:02:44 ID:eb.7nDdg0
丸亀製麺所で知らんガキにちくわ天食われたんだが
http://bit.ly/1R5Ab8X

546以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2016/04/10(日) 08:22:37 ID:a/uv.uoA0
本当に出会える出会い系ランキング
http://bit.ly/1OgYRt7

547以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2016/05/21(土) 23:51:16 ID:txMq1kHU0
支援!
頑張ってくれ!

548以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2016/08/02(火) 18:18:45 ID:hIplAYnU0
毎日覗いて楽しみに待ってるよー。ゆっくり頑張ってね。待ってる人たくさんいるからさ。

549以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2016/09/16(金) 00:11:55 ID:FNBtHj860
とりあえず生存報告だけでも頼む

550 ◆LpPqFskzB6:2016/09/16(金) 04:28:04 ID:aiQCfd2M0
ごめんなさい
生きてます。書いてます

551以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2016/09/16(金) 04:57:51 ID:KGry3eCk0
乙乙
ゆっくりで良いからね
続き楽しみにしてるよ

552以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2016/09/19(月) 12:41:01 ID:3B2s5ROs0
今週末あたり再開します
創作板に書けなかったからどなたか誰か予告スレに予告してきてくれると嬉しいです

553 ◆LpPqFskzB6:2016/09/19(月) 12:41:33 ID:3B2s5ROs0
忘れてた

554以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2016/09/19(月) 13:02:57 ID:ohtlHHh60
やってきたよー
楽しみにしてる

555 ◆LpPqFskzB6:2016/09/19(月) 13:19:58 ID:3B2s5ROs0
ありがとうございますー
じゃあ書き溜めに戻るね

556以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2016/09/19(月) 21:16:01 ID:dPUbPpos0
おおおお!待ってた!待ってたぞー!

557以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2016/09/23(金) 00:33:11 ID:1BXJtDTY0
本当に出会える出会い系ランキング!
http://deai.nandemo.de/ranking/type2

558以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2016/09/23(金) 16:18:06 ID:1BXJtDTY0
西日本限定でヤリまくれるサイト教えます
http://deai.nandemo.de/article/mintj1

559以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2016/09/25(日) 21:11:41 ID:5gAWluLk0
ごめんちょっち待って
書き溜め半分消えた

んでイラだちのあまり携帯投げたら今度は携帯の画面が割れた

560以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2016/09/25(日) 21:43:18 ID:yhbMpIhE0
なにやってんだww

561以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2016/09/25(日) 21:48:32 ID:5gAWluLk0
わけわかんねえ
もう全くわけわかんねえ

562以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2016/09/25(日) 23:31:33 ID:SYqy1.Dw0
おちつけ

563以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2016/09/26(月) 00:22:02 ID:Wn8L0GzA0
待ってるから一回落ち着け

564以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2016/10/31(月) 14:36:35 ID:.G7ndEcg0
ミセ*゚ー゚)リいつでも待ってまっせ

565以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2016/11/20(日) 12:24:29 ID:JdqZI/FM0
ttps://is.gd/VXdr2T

好きな身体のパーツは・・?

566以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2016/12/17(土) 12:11:37 ID:zczFXIE.0
楽しみに待ってるよー♪

567<削除>:<削除>
<削除>

568名無しさん:2017/07/13(木) 20:23:44 ID:ecPgdIWU0
生きてるかー

569以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2018/05/08(火) 16:37:35 ID:Ka/YnI9E0
待ってる

570以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2018/05/22(火) 23:20:31 ID:reJv0ZpY0
ここも樹海に沈んでしまったか...

571以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2018/08/30(木) 13:07:24 ID:SQ0uWS7I0
燃やせ

572以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2019/06/26(水) 11:03:00 ID:yqhrZbh20
もう3年経つのか・・・

573以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2019/06/26(水) 17:44:40 ID:./2SLkUI0
せやで

574以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2019/09/11(水) 12:41:44 ID:2KVVTTlY0
すまん
実はまだパソコン直してないんだ

575以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2019/09/30(月) 01:21:17 ID:c2xP7vJg0
まだ待てるぞ

576以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2019/10/11(金) 08:19:11 ID:r.PjOGJ20
何年待ってンだろうな俺は

577以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2020/01/19(日) 10:38:18 ID:Mu3w0bbo0
あけおめ

578以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2020/05/24(日) 19:03:05 ID:1426kYHg0
もう4年経とうとしてるのか

579以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2021/01/23(土) 16:29:40 ID:.V9GNNBA0
もうワイしか見てないやろなぁ

580以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2021/01/23(土) 23:25:08 ID:67WcWJyE0
終わるはずのない愛が途絶えた

581 ◆.LuforOUMA:2021/02/10(水) 15:58:38 ID:BIdRpKaM0
絶縁宣言かしら…

お久しぶりです。続き投下してないのにグダグダ言える義理もないから、取り急ぎ御礼のみ失礼します

いつもありがとうございます。嬉しいです。私は過分な幸せものです。

582以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2021/02/11(木) 21:36:55 ID:FwshX2yo0
お前・・・お前! いや生きてるだけで丸儲けだ!

583以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2022/06/01(水) 00:31:54 ID:VsF1pviA0
いつまでもまつぞー!


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