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1以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/08/05(金) 20:22:45 ID:R4QiEhY.O


2以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/08/07(水) 09:16:00 ID:dfIzZ0lQ0
占領した。構わんね?

3以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/08/19(月) 00:21:20 ID:gXDB7J2I0
開けた
楽しみにしてるよ

4以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/08/21(水) 14:04:19 ID:0QmVWcBM0
ジョルジュやハインの過去が気になるぜ!

5以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/08/21(水) 21:27:37 ID:J10H2vS60
次はいつくらいになるかなー
待ちきれない

6以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/08/23(金) 17:05:16 ID:HSPSAPDE0
誘導補助でageます

今月中くらいに来るつもりですが、ちょっと回線が心配なので、遅ければ9/1辺りでお願いします

7以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/08/24(土) 00:14:02 ID:1f2iO3L60
やったー!全裸で待ってる

81/78:2013/08/28(水) 06:43:11 ID:D15qh95o0
,(−)(−),「んっ、んっ、あー……久しぶりの外気ナリ」
/└―(;;;┓;;=;/;;.,)"
lw´‐ _‐ノv「……」


顔にへばり付いた男の抜けがらを、シャーミンはべりべりと引き剥がした。
首、腕、胸、千切れた皮の隙間からはじくじくと血が流れ出す。

シューはただ、彼の不格好な脱皮を見送った。
猟師の着ていた黄土色のシャツは主から染み出る血に塗れ、今やどす黒い赤に染まっている。


lw´‐ _‐ノv「……形は人間なのか」

,(・)(・),「あぁ。結局、生前の姿が一番便利が良いだすからね」


一通りの皮を剥いだ姿は、筋肉質だった猟師よりも一回り小さい。
最後に哀れな犠牲者の被っていた帽子を頭に乗せ、彼はようやくシューを振り向いた。

91/78:2013/08/28(水) 06:44:06 ID:D15qh95o0
,(・)(・),「……コレでよし、お待たせしただすね」


“魔導師”、シャーミン松中。
ラウンジ先王バジリオの元で数千の民を生贄に捧げた、異端の精霊術師。

探し求めた仇敵の姿に、シューは静かに目を細める。


lw´‐ _‐ノv「不潔だね。"それ"、いつから着てたって?」

,(・)(・),「あー、三日前? 最近はお客様がおおくてねぇ」


おかげで剥ぎ取る皮に困らなくて、最高ナリ。
シャーミンの返答に、シューは無言で返した。

数歩の距離を、互いの殺気が埋める。

101/78:2013/08/28(水) 06:44:24 ID:D15qh95o0
,(・)(・),「さて、ブチ殺す前に聞いときたいんだすが、お嬢さんは何故おいどんを恨んでるナリか?」

lw´‐ _‐ノv「……『カロン』。八年前にこの森を訪れた、伊藤オサムのギルドは?」

,(,, ゚) ゚),「んっんー、何だったかな? 悪いけど、おいどんは野郎の事はすぐ忘れちゃうナリ」

lw´‐ _‐ノv「……別に構わないけどね。もうお喋りは終わりだ」


シューは何も気にしていないかように、顔色を変えずに言った。
代わりに、ローブの懐から細やかな装飾の施された短剣を引き抜く。

――儀式刀。独特の飾り彫りを見とめ、シャーミンは目を細めた。

シューの胸元のオニキスに、"黒"の輝きが揺れる。
淀んだ呪いの森は彼女の求めに応じ、精霊を差し出した。

11以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/08/28(水) 06:46:30 ID:D15qh95o0
a,
wasureteta

konosureddoha,
miseri
jukaiwo
yu
ku
monono
youdesu
ga
nottorimasita

121/78:2013/08/28(水) 06:47:31 ID:D15qh95o0
(・(・),「ま、おいどんも気にしないだすナリ。そんなことより……」
∀'「そのチンケなダガー一本で、どうやって俺を楽しませてくれるんだ、クソアマ」

lw´‐ _‐ノv「……」


シューは答えず、“自ら”の左の掌に短剣を当てた。

白く柔らかい彼女の肌に、赤く禍々しい直線が走る。
滴が落ち、地面を濡らす。否、地面に波紋を起こす。

シャーミンは驚きに小さく声を上げた。
彼女を中心に、放射状に"黒"の波紋が広がってゆく。


lw´‐ _‐ノv「『我が名において命ずる。金色に輝く豊穣、此の地に息吹を満たせ』」
,(・)(・),「……!」

131/78:2013/08/28(水) 06:53:42 ID:D15qh95o0
wvwvwvwvwvwvwvwvwvwvwvwvwvwvwvwvwvwvwvwvwvwvwvwvwvwvwvwvwvwvwvwvwvwvwvwvwvw
v w v w v w v w v w v w v w v w v w v w v w v w v w v w v w v w v w v w v w v w v w v w v w v w v w v w v w
V /V /V /V /V / V /V /V /V /V / V /V /V /V /V / V /V /V /V /V / V /V /V /V /V / V /V /V /V /V / V /V /V /V /V / V /V /V
|| || || || || || || || || || || || || || || || || || || || || || || || || || || || || || || || || |


黄金の稲穂が実る、光の大海原。
呪いに満ちた樹海の地が、その表情が、シューの言葉で色付きを変える。

――"黒"の親和。
彼女がその得意とするのは、心に触れる禁忌の術。
対峙する二人を取り巻く黄金の波が、彼女の奥義。
立ち昇る幾千万の光の中に、呪式士は静かに佇む。

眼窩を飛び出した双眸を、シャーミンは眩しそうに細める。

141/78:2013/08/28(水) 06:57:34 ID:D15qh95o0
,(・)(・),「これは……稲穂……?」
lw´‐ _‐ノv「ご名答。美しいだろう?」


シャーミンは輝く稲穂の一つに手を伸ばした。
触れた感覚は無く、ただ微かに温かく感じる。
灯火に手を翳したように、立ち昇る光は遮られて止まる。

心の中の世界を現実とリンクさせたのか。
足元すら見えない光の海を、シャーミンはそう結論付ける。


,(・)(・),「呪式士お得意の幻覚じゃあないみたいだすね。精霊が現実に干渉してるなりだす」
 ∀'「流石に驚いたな。お前の親和が作り出したのか?」

lw´‐ _‐ノv「あぁ、これが私の切り札だよ」


稲穂の海を、シューは悠然と進んだ。
立ち昇る光に遮られ、互いの姿は半ばまでしか見えない。

158/78:2013/08/28(水) 07:00:10 ID:D15qh95o0
,(・)(・),「大した手品だが……それだけだすか?」


シャーミンは腰元のトラッカー・ナイフを引き抜く。
元々は皮と服と同じく、殺した猟師の持ち物だった。

短っぽい挑発の文句に、シューは冷笑を浮かべた。


lw´‐ _‐ノv「あぁ、これだけだよ、魔導師。お前は手品一つで不様に消滅するのさ」

,(・)(・),「へぇ……そりゃ楽しみ、ナリだす、ね!」


黄金の海を蹴って、シャーミンが飛びかかった。
――簡単には殺さない。魔人は考える。
この生意気で愚かな女を、どうやって苦しめてやろうか、と。

そうして踊りかかったシャーミンは――


lw´‐∀‐ノv


――残忍に笑む獲物の……狩人の目の前で不様に崩れ落ちた。

168/78:2013/08/28(水) 07:02:12 ID:D15qh95o0
,(゚,,(゚,, );,「え、な……?」

lw´‐∀‐ノv「どうした魔導師、元気が無いじゃないか」


倒れたシャーミンの頭を、まるで虫けらにする様に踏みつけながら、シューは言う。
哀れにその身体を地面にへばり付かせた魔術師の身体から、どす黒い血が滲み出る。

シャーミンは驚きに目を見開いた。


,(゚,,(゚,, );,「な、なんで……」

lw´‐ _‐ノv「何を驚いているんだ、これは私の切り札だと言ったろ?
       ――この領域の"黒"の精霊は今、すべて私の支配下だ。意味わかってる?」

,(゚,,(゚,, );,「……!」

lw´‐ _‐ノv「ほら、不様に命乞いして見せろ!」

,( ,,( ,, );,「ブビャっ!」


生命が身体と魂を結びつけるのであれば、その役割を別のものに代用させれば良い。

"黒"の精霊を命の代用として蘇った魔人にとって、シューの宣告は生者が心臓を握られているに等しい。
顔面を分厚いブーツの底で蹴り飛ばされ、身を捩って逃れようとする彼を、呪式士は冷酷に見下ろした。

178/78:2013/08/28(水) 07:03:20 ID:D15qh95o0
lw´‐ _‐ノv「おいおい、何処に行くんだよ――『命ず。悠久に座す静寂、永劫の時を此処に開け』」

,(゚,,(゚,, );,「ヒッ……!?」


二つ目の呪言。
シューの宣告を受け、シャーミンの身体が強張った。
うつ伏せに転がった姿勢のまま、振り返る力ことすらままならず、彼はシューの足音を聞く。

ごりっ。左肘の裏に、硬く冷たい感触。


lw´‐ _‐ノv「そうやって這ってろ。それがお似合いだ、よ!」
,( ,,)( ,,),「――、――ッ!」


悲鳴すら上げられずに、シャーミンは目だけを動かし、激痛が走った己の左腕を見た。
シューの濃茶色のブーツと光にぼやけた地面との間に、自身のねじ曲がった腕が覗く。


lw´‐ _‐ノv「……やっぱり私には理解できないね。どう楽しめばいいのさ、こういう拷問って」
,( ,,)( ,,),「ひ……やめ……」

188/78:2013/08/28(水) 07:04:53 ID:D15qh95o0
シューは答えず、シャーミンの強張った身体を蹴って転がした。
仰向けになった魔導師を、呪式士の瞳の冷たい"黒"の輝きが射抜く。


lw´‐ _‐ノv


――美しい。
痛みに喘ぎながらも、シャーミンは自らを見下ろす彼女の姿に目を奪われた。

だから、思い出した。
『カロン』、かつて屠った彼ら、その一人。


,( ,,)( ,,),「ひ……は……素直、キュート……!」
lw´ _ ノv「……ッ!」


呟いた彼の顔を、シューは容赦なく蹴り飛ばす。
首の骨が嫌な音を立てて折れ曲がり、捻じれた口からは血の塊が飛び出し。
それでもシューは構わず、虫けらのように蹲る魔人に足を踏み下ろし続けた。

198/78:2013/08/28(水) 07:07:33 ID:D15qh95o0
lw#´‐ _‐ノv「調子に乗るなよ、このクソ虫が! 貴様が、キュー姉の名前を、口に出すな!」
,冫,,) (゚;;);.,,"「ビョッ――ブゲッ」


生命を持たない死者は、その精霊の供給先――核を破壊しなければ、いくら屍肉を痛めつけても死なない。
激高したシューが折れた首を踏みにじり、肋骨を割って肺腑を裂き心臓を潰しても、魔導師は生きている。

……生きている、それだけだ。
力を生み出す筋肉を根こそぎ踏み壊され、わずかな自由すら呪言に奪われた、ただ生きているだけの死者。

グチャグチャの肉塊を、シューは荒い息で見下ろした。
痙攣を繰り返す身体に、精霊が集中する一点が見える。

核。
この魔導師をこの世につなぎとめる、特異点。

ちょうど腎の辺りにある"それ"に、シューは手を伸ばした。


冫,,) ( ;;);.,,「ッ、お、あ……」
lw#´‐ _‐ノv「苦しいか? 今、楽にしてやるよ……ッ!?」

 ∀"「いや、その必要は無い」


はっきりと届いた重い声に、シューの背筋が凍る。
離れる時間は、無い。
完全に死んだはずの腕が動き、驚く呪式士の細い手首を掴んだ。

208/78:2013/08/28(水) 07:08:35 ID:D15qh95o0
……

ミセ*゚ー゚)リ樹海を征く者のようです

最終話 亡霊王の事情 前


……

218/78:2013/08/28(水) 07:15:06 ID:D15qh95o0
ミセリが引き受けたキュートの依頼は、二つ。

一つは、『カロン』を葬る事。報酬は、200枚の金貨。
ミセリ達三人は、屍術師オサムの繰る数十もの屍を激闘の末に打ち破り、彼に引導を渡した。

ミセリ達に仇敵シャーミンの居場所を示し、彼は祝福された永い眠りにつく。
彼の棺桶に収められていた"遺書"には、金銀の貨幣と種々の増幅器を、これを読む者にすべて譲る旨。
彼が調べ上げ、図らずもその身で体感した宿敵シャーミンの用いる"魔導"とその弱点が記されていた。


そして、もう一つの依頼は。
無謀にも己が命を顧みず、単騎シャーミンに挑む彼女の妹・素直シュールの復讐を止める事。

「シューは既にこの森の深部に到達した」
『根の国』に帰る前に、キュートはミセリに伝えた。

彼女の身を案じたミセリ達三人は、呪いに満ちた湿林を急ぐ。

黄昏の刻は、逢魔が辻。
……そして、先頭を走るミセリは一つの人影の前に足を止めた。

2215/78:2013/08/28(水) 07:16:01 ID:D15qh95o0
('、`*川「……こんばんは、ミセリちゃん。やっぱり来ちゃったか」

ミセ*゚−)リ「ペニサス……さん……」


ペニサス、ギルド『エメロン』が一角。
素直家の召使にしてシュー専属の護衛。
どこか儚げな主を陽に陰に支え続ける、彼女の右腕。
絶対の忠誠と信頼を捧げ、影のように寄り添う従徒。

長い髪を後ろで纏めたもの静かな彼女は暗き森の中、見知った顔に表情は無く。
その手に握られた長柄の画戟は、その穂先の三日月を冒険者達へと浮かばせる。


……シャーミンを追うミセリ達は、樹海の開けた一角で彼女と邂逅した。
行く手を塞ぐように立ちはだかる彼女に、ラウンジで見た優しげな雰囲気は無い。
シューと揃いのアンプは"黒"に輝き、手にした画戟には飾りでない闘気が灯る。

彼女の後ろでは、相方のシラネーヨが大樹の根元に座り込み、顔を伏せていた。

2315/78:2013/08/28(水) 07:16:59 ID:D15qh95o0
(*‘ω‘ *)「っぽ、どうしたミセリ……ッ!」
  _
( ゚∀゚)o「ペニサス……それに、シラネーヨか?」


続いて地面に降り立った二人に、ペニサスは緩やかに視線を移す。
困惑の色を見せたジョルジュも、彼女の手に握られる長柄の狂気を見て押し黙った。

風の音は、無い。
緊迫した沈黙が、空間を満たした。


('、`*川「わかってるけれど、一応聞いておくわ。何をしに来たの?」

ミセ*゚−)リ「……シューさんを助けに来た。シャーミン松中を倒すよ」

('、`*川「そう。本気で言っているの、わかる」

2415/78:2013/08/28(水) 07:17:47 ID:D15qh95o0
('、`*川「でも、引き返して。ここは通してあげられない」

(*;‘ω‘ *)「……どうして」
('、`*川「キューさんに聞いたんでしょ、シャーミンの事。それに、私達の事」

ミセ*゚−)リ”「!」


ごめんなさいね、ペニサスは申し訳なさそうに言う。

三日月の横刃が揺るがずにミセリを見据え、暗い樹海に浮かぶ。

その姿はまさに無慈悲な夜の女王そのもので。
ミセリはその銀の光にシューの姿を幻視した。


ミセ*゚−)リ「シューさんも、そこに居るんだよね」
('、`*川「ええ。私達は反対したんだけれど、どうしても一人で戦るって」


無表情を崩さないままに、ペニサスは答えた。

2515/78:2013/08/28(水) 07:18:36 ID:D15qh95o0
(*;‘ω)「……なんで、アンタは此処に居るんだっぽ」

('、`*川「なんでって、あの娘が『誰も通すな』って言うから」


それだけ。ペニサスは事も無げに答える。

シューが言ったから、シューが命じたから。
画戟の三日月に乗っているのは、それだけ。

シューを助けたい、ミセリ達三人の願いよりも、シューの言葉が優先する。ただそれだけだ。


ミセ*゚−)リ「――」

('、`*川「おかしい、と思うわよね。でも、ミセリちゃん、私達は、あの娘の為に生きているの」


シューを助けたい、ペニサス自身の願いよりも、シューの命令が優先する。ただ、それだけだ。
だから、盲従の使徒として、ただ言命を守るのみ。
はっきりと言い切ったペニサスに、ミセリは唇を噛んだ。

"黒"の親和に目覚めたミセリには、ペニサスに纏わりつく'靄'が見えている。

2615/78:2013/08/28(水) 07:20:06 ID:D15qh95o0
ミセ* −)リ「……それ、シューさんの呪式だね」
('、`*川「さぁ、どうかしら。……あぁ、ここを迂回するつもりなら止めないわよ」


底無しの泥沼を泳ぎきる自信があるならね、ペニサスは冷たく言い添える。

彼女は両手を広げて見せた。その両手の先の地面はじっとりとぬかるんでいる。
陽が傾いて夕闇がますます深まる今、あるかも分からない迂回路を探すのは賢明だとは思えない。

何より、三人が辿ってきた濃密な"黒"の気配の中心はすでに遠くないのだ。

シューが既にこの樹海の奥に向かっている事は、キュートの幽霊から知らされている。
ここで回り道をする時間の余裕など、ミセリ達三人には無い。


ミセ*゚−)リ「……ううん、ここを通るよ」
('、`*川「いいえ、ここは通さないわ」
  _
( ゚∀゚)「……話し合いの余地は、無いんだな」

('、`*川「……」


ごめんなさい、ペニサスは繰り返す。

2715/78:2013/08/28(水) 07:23:59 ID:D15qh95o0
  _
( ゚∀゚)o「だったら、話は早い。倒して、通るぜ」

('、`*川「……そう」

ミセ*゚−゚)リ「!」


背負った大剣に手を掛け、ジョルジュは親和を起動した。
集める精霊は"白"、その圧力にミセリは息をのむ。

その怪力を知るペニサスは、僅かに目を細め、画戟を低く構えなおす。


('、`*川「へぇ、その剣を使う事もあるのね」
  _
( ゚∀゚)o「おう。……まぁ、手加減が難しいから普段は使わねぇけど、な!」


大人の背丈ほどもあるその大剣をジョルジュは無造作に持ち上げ、軽く振って見せた。
ペニサスは目を細め、画戟の握りを僅かに引く。

2820/78:2013/08/28(水) 07:26:31 ID:D15qh95o0
  _
(# ゚∀゚)o「っらぁああああ!」
('、`*川「……」


先に仕掛けたのは、ジョルジュ。
一直線にペニサスに飛び掛かり、剣を無造作に打ちおろす。

豪。
振り下ろされる大剣を、ペニサスは画戟で迎え撃った。

ジョルジュは驚きに目を見張る。
彼の一撃は、ペニサスの脇の地面に落ちた、否、落とされた。


  _
(# ゚∀゚)o「へっ、本当にそこそこ強かったんだなッ!」
('、`*川「お世辞にしか聞こえないけどね。そちらこそ、殺すつもりで来なさい」


言いながらも、ジョルジュは渾身の当て身を繰りだしていた。

肘、肩口から打ち出してゆく、筋肉の砲弾。
至近距離からの一閃は目の前に居たはずのペニサスには当たらない。
たゆたう布を掴もうとしているかのように、彼女は目の前をすり抜けてゆく。

お返しとばかりに、画戟の柄がジョルジュを殴りつけた。

2920/78:2013/08/28(水) 07:29:38 ID:D15qh95o0
ペニサスの渾身の打ちこみは確かにジョルジュを真芯に捉え、その額を強かに打った。
特殊な加工が為された鉄柄は見かけよりもずっと丈夫で、殴られたジョルジュの額に真っ赤な血が滲む。

しかし、それだけだった。

  _
(# ゚∀゚)o「ッ、しゃらくせぁあッ!」
('、`;川「ッ!」


地面に突き立った大剣を引き抜き、怒号と共に振り回す。
往なす事も避ける事もままならない、不利を悟ったペニサスは一足早く飛び退き、間合いの外へ。

ジョルジュは更に一歩踏み込み、その背後が大きく空いた。
そして、その空間こそが、彼の狙いだった。

二つの影が、一気に駆ける。


(*‘ω‘)「! チャンス!」
ミセ*゚ー)リ「ごめんジョルジュさん、ありがと!」
  _
( ゚∀゚)o「おう」


駆け抜ける二人を、無言で見送るペニサス。
ジョルジュは眉根を寄せた。

3020/78:2013/08/28(水) 07:33:50 ID:D15qh95o0
  _
( ゚∀゚)o「おいおい良いのか、ただ見逃したりして」

('、`*川「だって、追おうとしても貴方がそれを許さないでしょ?」
  _
( ゚∀゚)o「まぁな」


ペニサスは手の上でくるくると画戟を回した。

刃の煌きが宵闇を踊り、複雑な軌道を残す。


('、`*川「だから――貴方を倒してから、ゆっくり仕留めるわッ!」
  _
(;゚∀゚)o「っと!」


目の前に迫る三日月の刃を、ジョルジュは左腕で受け止めた。
鍛え上げられた鋼の筋肉を裂いて、鋭い刃が微かにめり込む。

3120/78:2013/08/28(水) 07:36:37 ID:D15qh95o0
  _
( ゚∀゚)o「おいおい良いのか、ただ見逃したりして」

('、`*川「だって、追おうとしても貴方がそれを許さないでしょ?」
  _
( ゚∀゚)o「まぁな」


ペニサスは手の上でくるくると画戟を回した。

刃の煌きが宵闇を踊り、複雑な軌道を残す。


('、`*川「だから――貴方を倒してから、ゆっくり仕留めるわッ!」
  _
(;゚∀゚)o「っと!」


目の前に迫る三日月の刃を、ジョルジュは左腕で受け止めた。
鍛え上げられた鋼の筋肉を裂いて、鋭い刃が微かにめり込む  _
(;-∀゚)o「ったく、一日に二人も俺の身体に傷を……今日は厄日だ」

('、`*川「あら、私以外にも居たの?」


ジョルジュは大剣を捨て、ペニサスの画戟に手を伸ばした。

もともと彼の大剣は、巨大な樹海の生物を斬り倒し、大群を凪ぎ払う為の装備だ。
こうしてテクニカルな動きを見せる冒険者との一対一の戦闘には、向いていない。
彼の膂力の前では小枝同然とはいえ、小回りの利いた立ち回りが出来ないのは、流石にマイナスだ。

ペニサスの反応は素早かった。
阻まれた刃が進まない事を知ると直ちに身を引き、武器もろとも彼の手の届く範囲を抜け出す。

  _
( ゚∀゚)o「っち、チョロチョロと……そんな逃げ腰で、本気で俺を倒せると思ったのか?」
('、`*川「……自信が無い、わね。でも、頑張るしかないと思わない?」


引き戻した戟を、ペニサスは再び鋭く突きだす。

3220/78:2013/08/28(水) 08:14:13 ID:y780oguI0
――挑発的な態度と裏腹に、その戦闘は極めて堅実。
ラウンジの工作兵を瞬殺した時に、ペニサスは彼の本質を見抜いていた。

ジョルジュは首をひねって刺突を避け、再びその得物を掴みとらんと手を伸ばす。

画戟は一瞬早く引かれ、その手は再び空を掴む。
一進とも一退ともつかぬ攻防は、ジョルジュが予想したよりもずっと長く続いた。


('、`;川「っと……私の方が、自分の身を守るだけで精一杯ね」
  _
( ゚∀゚)o「じゃあ諦めろよ。俺はまだ全力じゃないぜ?」

('、`*川「……でも貴方の親和能力では、"今"はそれが出力は限度でしょ?」
  _
(;-∀)o「なんだ、バレてたのか」


ジョルジュは諦めたように肩を竦める。
彼の親和能力――彼自身が名付けた親和の、その弱点は、ペニサスは言い当てた通りだ。

3320/78:2013/08/28(水) 08:14:53 ID:y780oguI0
  _
( ゚∀゚)o「確かに、お前が相手じゃ俺の"巨人狩り"は今この程度が限度だ。だが――」
 ('、`*川「『それはつまり、親和無しでもお前には負けないって事だ』、かな」
  _
(;-∀)o「……お前みたいなのの相手は本気で苦手だよ」
('、`*川「よく言われるのよね。失礼しちゃうわ」


斬りつける一閃、突き刺す一閃。
ペニサスの鋭い、素早い攻撃は、ジョルジュの肌に線を残すに留まる。

互いに決定打を欠きつつも、やはり戦いの結末は見えているようなものだ。
疲れたようにジョルジュが溜息を吐く。

  _
( ゚∀゚)o「……それで、まだ続けるつもりか?」

('、`*川「そうね、あっさり負けるわけにもいかないから」
  _
( ゚∀゚)o「まぁ別に構わんが、それじゃ時間稼ぎにしか――」


時間稼ぎ、そう言い掛けて気付いた。

――シラネーヨは、何処に消えた?

焦燥に息を飲んだジョルジュの前で、ペニサスはその身を地に這わせた。
反応するよりも早く、水面を切るような蹴りが軸足を襲う。

3420/78:2013/08/28(水) 08:16:33 ID:y780oguI0
(、 川「――もう気付いたのね。残念」
  _
(;゚∀゚)o「う……おぉお!」


油断した。
仰向けに受け身を取ったジョルジュを、三日月の刃が襲う。

威力を跳ね上げたペニサスの攻撃は、鋭く、躊躇なく急所、眼を狙ってくる。
顔の前で両腕を交差させ、ジョルジュはその牙を受け止めた。

  _
(;-∀-)o「時間稼ぎをされていたのは、俺の方だったってか」
('、`*川「そう言う事。知ってるわね? ネーヨは私よりもずっと――」


ペニサスの言葉を遮って、凶悪な咆哮が鳴り響いた。
樹海の静穏を引き裂き木霊したのは、恐怖それ自体。
身体の芯を揺さぶる衝撃に、ジョルジュは凍りつく。


('、`;川「始まったか――って、待ちなさい!」


ペニサスの言葉も聞かず、ジョルジュは大剣を掴んで駆け出す。
ジョルジュの心には、追い縋るペニサスは既に存在しなかった。

3520/78:2013/08/28(水) 08:20:00 ID:y780oguI0
……

行手の暗い地面に泥のあとを見つけてからは、二人は樹上を伝って移動していた。

見下ろすと、ぬかるみは一歩ごとに深まっているらしく、進む先では泥海へ変わっている。

樹々の数が、泥海を前に一気に減っていた。それに、よく見ると泥は僅かに流れを持ち、動いているようだ。
おそらく普段は雨水をクラシカ河に送り込む水路なのだろう、生物の気配すら無い泥塊を見てミセリは思う。

……枝上を渡れそうな道は、目の前で泥河を裂いて立つ一本の大樹しか無かった。
迂回しようにも、広がる泥の大河はどこまで続いているかもからない。

その一本の大樹の上で、ネーヨは二人を待っていた。



(∮ − )「……」
(*`ω` ;*)「っ……ぐ……!」
ミセ*;゚−)リ「ぐぬぬ」


ワイヤーで紡がれた刃先を、ぽっぽはワンドで受け止める。
体重の軽い彼女は空中でいとも容易く突き飛ばされ、後方の木々に激突した。

隙を突いて彼に接近したミセリも同じく、変幻自在に舞う刃片に阻まれて引きさがる。

3630/78:2013/08/28(水) 08:21:24 ID:y780oguI0
……強い。二人掛りでも、まるで脇を抜ける気がしない。
ぽっぽの顔に、焦りが浮かんだ。

蛇のように唸る刃片は樹上に立つ持ち主の手元に戻り、大剣の形を為す。


(∮ − )o"「……」ヒュッ,


シラネーヨ、ギルド『エメロン』が一角。
素直家の用心棒にしてシュー専属の護衛。
どこか儚げな主を陽に陰に支え続ける、彼女の左腕。
絶対の忠誠と信頼を捧げ、影のように寄り添う従徒。

右頬に緑の刺青を彫り込んだ大柄な彼は暗き森の中、見知った顔に表情は無く。
その手が振り回す大柄な蛇剣は、連なる数十数百の鱗刃を樹海の空に泳がせる。


(*;‘ω‘)「っく……」
ミセ*゚−)リ「ネーヨさん……か」

3730/78:2013/08/28(水) 08:59:31 ID:y780oguI0
(∮ − )「すまねーな。お前ら二人には大人しくしていてもらうーよ」


剣の形に戻った得物を手に、ネーヨは一気にミセリの立つ枝端へと距離を詰める。
巨体からは想像もつかないほどのスピード、ミセリは身を翻し、足場を飛び降りた。
ネーヨの手の中で何百の小さな欠片に分割された刃が、主の意を辿る様に舞い、踊る。

間合いが長く防ぐことが難しい鞭の利点と、重く殺傷力に長けた大剣の利点。
狙われた太い枝を刃片の激流が舐め尽くし、大樹の生皮を根こそぎ剥ぎ取る。


ミセ*;゚−)リ「っと!」
(∮´ー`)「逃がさんッ!」


ミセリは空中で長剣を引き抜いた。
剣の大河はネーヨの手元でその流れを変え、体制の崩れた彼女に向いている。

目の前に迫った刃片の一群に、ミセリは無我夢中で剣を合わせた。

3830/78:2013/08/28(水) 09:01:06 ID:y780oguI0
(∮#´ー`)「おぁらッ!」
ミセ*;-−)リ「〜〜ッ!」


硬い音が弾ける。
身体を引き裂かれる事は避けた、が、衝撃は殺しえない。
ミセリは一気に真下へと叩きこまれた。

真下……樹下に広がる、泥の海へ。


ミセ*;д)リ「……ぶ!」


深く暗い濁り泥の中に、半身までが一気に埋まる。
身体に纏わりつく泥は重く、極端に手応えが薄い。
身動きを取ろうともがく程にその身は沈み込んだ。

一方で、叩き落としたネーヨはそれ以上の追撃を行わず、ぽっぽの方に狙いを移す。

3930/78:2013/08/28(水) 09:03:43 ID:y780oguI0
(*;‘ω)「っとと……畜生、ちょ、待てや!」

(∮´ー`)「待たねーよ。覚悟決めろ」


砕けた鈍色の刃が集まり、また一つの剣を為す。

どう対処したものか、ぽっぽは低く唸った。

ミセリは視界の外れ、枝下で苦しそうにもがいている。
援護を求める事はできそうになく、むしろ、助けなければ泥に溺れて死ぬ。


(*;-ω- *)「はぁ……覚悟決めたっぽ」


ぽっぽは精霊を棍に集めた。
重量の捩れたバランスの悪い武器が、その意に応じて低く唸る。

4030/78:2013/08/28(水) 09:20:00 ID:y780oguI0
(∮´ー`)「ああ、それじゃ早速」
(*#‘ω‘ *) 「ぽぉいァ!」
  ⊂_彡   ≡"∫゚∫


降りあげられたネーヨの蛇剣が、刃片の幕を広げた瞬間。
攻撃に移るその一瞬は狩人が獲物に見せる最大の無防備。
ぽっぽはその隙を狙って戦棍を振りかぶり、渾身の力で投げつけた。


(∮;´ー`)「うおっ!」


眼前に迫った鈍器に、ネーヨは慌てて腕を振り変えた。
大蛇に巻き付かれた戦棍は大きく削られ、勢いを無くして沼地に落ちてゆく。

4130/78:2013/08/28(水) 09:20:18 ID:y780oguI0
(∮;´ー`)「ッ、得物を手放して何を――あん?」


目を戻した彼の目の前には、既に誰も居ない。

視界を奪った互いの得物が消えた時には、既にぽっぽは視界から消えている。
慌てて刃片を引き戻したネーヨ、その背中を弾丸のような跳び蹴りが襲った。


(*#‘ω‘ *)「喰らえっぽ!」
(∮;´ー`)「ちぃっ!」


蹴られたネーヨは、よろめく足を踏ん張って、辛うじて耐えた。

武器を目晦ましにしてまで大樹の裏を回って、背後を取った目的は。


(∮;´ー`)「俺も、叩き落とすつもりかーよ!」
(*#‘ω‘ *)「正解だっぽ!」


たたらを踏んだネーヨの足に、ぽっぽは渾身のタックルを掛ける。
丸太のような足はよろめき、一歩後退する。

あと一歩。枝上からネーヨを落とすには、あと一歩が足りない。
ネーヨは足を蹴り上げ、纏わりつく少女を鬱陶しげに振り払う。

4230/78:2013/08/28(水) 09:21:34 ID:y780oguI0
(∮#´ー`)「う……おぉおおお!」
(*;‘ω‘ *)「うっげ……マジか!?」


ぽっぽは慌ててネーヨの枝から跳び退いた。
振り下ろされた大剣は空中で刃鞭へと変わり、ぽっぽを襲う。


(∮#´ー`)「鬼ごっこは終わりだーよ!」


避ける術もない空中で、大蛇が唸った。

彼女を守る戦棍は、今は彼女の手元には無い。
捉えた、ネーヨは確信する。

しかし。


(*#‘ω‘ *)「まだまだだぁっぽッ!」

4330/78:2013/08/28(水) 09:28:41 ID:y780oguI0
(∮;´ー`)「……ちッ!」


 ∧ ∧
(*‘ω‘ *)  
 (   )
  v v 
   川
 ( (  ) )


ネーヨは息を飲む。空中で、ぽっぽはもう一度'跳ね'た。
大蛇は空しく牙を噛ませ、獲物は空高く舞い上がる。

原理は単純だ。
ぽっぽの持つ親和は"赤"、純然たる破壊の色。
"赤"の爆発力で、自身を大砲のように撃ち出しただけだ。


(∮´ー`)「だが、流石に連続では――!?」


――連続では跳べまい。刃片を大剣へと引き戻して、終わりだ。

頭の中で組み上げられた展開は、しかし、実現を見なかった。
彼の手元で、大剣に、そして再び大蛇に化ける刃の、その切先はぽっぽに届かずに失速する。

4430/78:2013/08/28(水) 09:34:23 ID:y780oguI0
(∮;´ー`)「な……何だーよ!?」 
(*‘ω‘ *)「フィィーッシュ……!」


刃先が思うように動かなかった、その原因はすぐに見つかった。
蛇剣のワイヤーに、異物――鉤爪付きのロープが巻き付いている。


(∮;´ー`)「あ、く……!」


ネーヨの顔が驚きに引き攣った。
ピンと張られた硬質な鉄紐は、ネーヨの背後、彼が枝に立っている大樹を通し、中空へ。
先ほど背後から急襲を掛けてきた時には、既にこのロープは張られていたのか。

樹々の一本に着地したぽっぽが不敵に笑い、再びネーヨに突貫する。


(*‘ω‘ *)「さぁさぁ、一本釣りだっぽ。覚悟せぇい!」
(∮;´ー`)「はっ、こんなモン速効で引き千切って……え?」


引き千切ろうとしたロープは意外にも、あっさりと手繰り寄せられた。
木々に固定されているんじゃなかったのか、ネーヨは思わず繋がれた先に眼をやる。


ミセ*゚皿゚)リ「ふはへたふはー!」
(∮;´Д`)「うおおおー!?」

4540/78:2013/08/28(水) 11:24:50 ID:y780oguI0
(*‘ω‘ *)「はっは、釣果一点だっぽ?」
(∮;´ー`)「てめ――くそっ!」


釣り上げられた勢いで飛び掛かってくるミセリと、上空から降ってくるぽっぽ。
ロープが絡みついたまま蛇剣はまともに振れず、ネーヨは焦りに身を固くした。


(∮;´ー`)「……ッ!」

(*‘ω‘ *)「お前の負けだっぽ!」
ミセ*゚皿゚)リ「おひおッ!」


二人分のとび蹴り、一人分の落下音。

叩き落とされたネーヨは、身動きの取れ根い泥の中で、茫然と樹上の二人を見上げた。

4640/78:2013/08/28(水) 11:26:04 ID:y780oguI0
……


ミセ*;-д-)リ、「ぺっぺっ……あぁもう、口の中が泥だらけだよ……」

(∮;´ー`)「……あぁクソ、くっそ、納得いかねーよ」
(*‘ω‘ *)「だが負けは負けだっぽ。ほら、沈んで死にたく無かったらそれに掴まれ」


ミセリを釣り上げたロープを、泥面に腰までを漬け込んだネーヨに投げ落とす。
ネーヨは答えず、無言でそれを掴んだ。

上端は、鉤爪が絡んだままの蛇剣でもって、枝にぐるぐる巻きにされている。
手繰り寄せて枝に上がる頃には、二人の少女はずっと先に進んでいるだろう。
奥歯を噛み締めるネーヨを尻目に、ぽっぽは引き上げた戦棍を検めた。

刃片の大渦を真っ向から叩きこまれた相棒は、無残にもその鉄軸をさらけ出していた。


ミセ*゚−)リ「はぁ……ねぇ、ネーヨさん」

(∮´ー`)「あぁ?」

4740/78:2013/08/28(水) 11:27:37 ID:y780oguI0
ミセ*゚−゚)リ「ネーヨさんはどうして、シューさんを助けに行かないの?」


ネーヨは顔を上げた。
既にその身体は胸元まで沈みこんでおり、独力では這いあがれないだろう。


(∮´ー`)「どうして……か。そう命令されたから、だーよ」

(*;‘ω)「またソレかっぽ! なんでそうまでして命令とやらを守ろうとするんだ?」
(∮´ー`)「なんで……ああ、なんでだろうな」


掴んでいたロープから、手を離す。
驚くぽっぽの前で、彼の身体はゆっくりと泥沼に沈んでいった。


(*;‘ω‘ *)「! おい、死ぬ気か!? 早くロープに掴まれ!」
(∮´ー`)「……姐さんは、俺の恩人だ。俺を拾ってくれたから、だーよ」
ミセ*゚−゚)リ「……」

(∮´ー`)「群れに捨てられて、顧みる者も無いまま処刑されてゆく俺を、姐さん達が変えてくれた」

4840/78:2013/08/28(水) 11:29:49 ID:y780oguI0
「姐さん達だけが、俺を人間として扱ってくれた」

泥は既にネーヨの肩を飲み込み、首元を浸している。
顔を上げた彼の瞳に、ミセリは静かな狂気を見る。

シューの呪式に与えられた"命令"、それに劣らぬ自戒の号令。


(∮´ー`)「だから俺は――」


最後の言葉は、泥に飲まれて消えた。
ネーヨを飲み込んだ泥沼は、何事も無かったかのように波紋を消した。

(∮₤゚ )
だから俺は――たとえ姐さんに頂いた人間を捨ててでも、姐さんの意思に従い続ける


……泥の海を裂いて、漆黒の翼が舞いあがった。

4940/78:2013/08/28(水) 11:44:19 ID:y780oguI0
ミセ*;゚д゚)リ「」
(*;‘ω‘ *)「」


黒い一対の翼を持った、巨竜。
全樹海で、全世界で、最強と伝えられる一族。
ミセリは、ぽっぽは、ただその姿を見上げた。


            ∧ ∧  
    /\<\,  (∮₤ −)
 /| <,,,,,,,,,\,\,  > /  
 | \___>\|/./
  \        /
    ∪∪ ̄∪∪



翼の巻き起こす暴風が、二人を、樹々を揺さぶる。
美しい、見とれるミセリの前で、"彼"は大きく首をもたげた。

5040/78:2013/08/28(水) 11:46:55 ID:y780oguI0
(∮₤ д)<3  スゥー…

ミセ*;゚−゚)リ「! 耳を塞いで!」
(*;‘ω‘ *)「ッ!?」

(∮₤ д), …ーッ、



息を吸い込んだ彼の竜に、ミセリは慌てて叫んだ。
――二人が耳を塞ぐと同時、超音量の咆哮が樹海に響き渡る。


ミセ∩; −)リ「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っく、」
(*∩; ω)「ッ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」


身体の芯が、ビリビリと震える。
もし耳を塞ぐのが少しでも遅れて、この大音量をまともに貰っていたら、恐らく一撃で気絶していた。

衝撃から立ち直る間もなく、二人は枝からバラバラに跳び退いた。


ミセ*;-д)リ「ッ……んな、常識外れな……!」


黒竜が羽ばたき、その巨体を打ちつける。
たった一回のその突撃で大樹は抉れ、砕け、傾いで倒れた。

竜は満足げに、まるで巨大な敵を打ち倒したとでも言わんばかりに、岸まで戻った二人を振り返った。

5140/78:2013/08/28(水) 11:48:15 ID:y780oguI0
ミセ*;゚ー゚)リ「ちょっと目の前の光景が信じられないんだけど、あれ、ネーヨさんだよね?」
(*;‘ω‘ *)「知らんっぽ。本人に聞いてみろよ」

ミセ*;゚ー゚)リ「……おーい、ネーヨさーん! どう鍛錬したら私もドラゴンになれるのー!?」

(∮₤;´ー) 「しらネーヨ……イヤ、なれネーヨ!」

ミセ*;゚ー゚)リ「なれないってさ……参ったね。どうする?」
(*;‘ω‘)「どうって、そりゃ逃げる一択だろ。戦って何とかできるか?」
ミセ*;゚ー゚)リ「無理。絶対無理。百回死んでも無理」


ミセリは溜息を吐いて、あたりを見渡した。

打ち倒された大樹のほかには、やはり泥の海を越える"道"など無い。
泥に沈んだ真新しい"切り株"を挟んで、向こう岸の巨竜と睨みあう。

あの竜を何とかする以外には、今のところ、ここを突破する手段は無い。


(*;‘ω‘ *)「……よし。それじゃ諦めて、ごめんなさいして引き返すっぽ」
ミセ*;゚ー゚)リ「嫌。それは、絶対に嫌」
(*: -ω -*)「はぁ、聞いてみただけっぽ……さっきから、なんで楽しそうなんだっぽ」

5240/78:2013/08/28(水) 11:49:03 ID:y780oguI0
(∮₤´ー)「相談は終ワッたか?」


ミセリは息を吐いた。
精霊が身体を満たし、瞳を染め上げる。


ミセ*゚ー゚)リ「うん。通るって決めた」
(∮₤´ー)「通さネーヨ?」
ミセ*゚ー)リ「だから、通るってば」

(∮₤ д)「……だッたら、止めるだけだーヨ……!」


巨竜は力強く吠えた。
泥の沼が揺れ、波紋が広がる。

遠く離れているはずのミセリ達ですら、その恐怖に足が竦んだ。
膝を震わせる二人に、巨大な影が迫る。

5340/78:2013/08/28(水) 11:50:49 ID:y780oguI0
ミセ*;-−)リ「ッ……」
(*;‘ω‘ *)「来たっぽ!」

(∮₤#´ー`)「オォオオオオオオオオオオオ!!」


初撃、最初の一撃を避けて背中に回れば、あの巨体では対応しきれないはずだ。
迫りくる両翼の突撃を、二人はそれぞれ全力で避ける。

……ミセリは確かに、ネーヨの翼を掻い潜った。
しかし、彼女の身体に自由が利いたのはそこまでだった。

'まるで見えない何かに引っ張られるように'、ミセリの軽い身体が後ろ向きに吸い寄せられる。


ミセ*;゚−)リ「――ッ!」


暴風、巨大な翼が巻き取る気流、竜巻。
そう気付いた時には、大渦の'目'に引き込まれたミセリを、大きな手が捩じ伏せていた。

5440/78:2013/08/28(水) 11:51:58 ID:y780oguI0
ミセ*; д)リ「ッ……!」
(∮₤´ー)「捕まエた」


両腕諸共ミセリを握りしめる、ゴツゴツと鱗ばった巨竜の右前肢。
軽鎧越しの圧力に、傷ついていた左腕が激しく痛む。

どう抵抗しようと、太い指はびくともしない。
一方で、ミセリを気絶させ、あるいは潰し殺すほどの力は込められていない。


ミセ*; д)リ、「待……ッて」


撒き餌。ミセリは自分の置かれた状況を直感した。
しかし、頭に血が上った相方の方はそうではない。


ミセ*; д)リ「ダメ、ぽっぽちゃん、逃げて……!」

5540/78:2013/08/28(水) 11:53:11 ID:y780oguI0
(*#‘ω‘ *)「てめェ、待てやゴルァ!」

(∮₤´ー)「ァア?」


"赤"の精霊を集め、ぽっぽはネーヨに飛びかかった。

打撃、破砕音。
蛇剣の洗礼を受けて削れた戦棍は、黒竜の鱗鎧を打つに耐え切れず、真っ二つに圧し折れた。


(*;‘ω‘ *)「ッ……んな……」
(∮₤´ー)「イッてェ」


ぽっぽの顔は驚きに歪む。
戦棍一本を犠牲にしたにも関わらず、殴られた巨竜の方は平然と鎌首を擡げた。
漆黒の竜尾が振るわれる。
回避する術も無く、ぽっぽの身体はパチンコ弾のように弾かれて吹き飛ばされた。

5640/78:2013/08/28(水) 11:54:04 ID:y780oguI0
(*; ω)「が、げほ……」
ミセ*;゚д)リ「ぽっぽちゃんッ!」


はるか遠く、受け身も取れずに地面を転がされたぽっぽは、仰向けに苦痛の息を咳き込む。

まるで抵抗の目が無い。
ネーヨは、倒れたぽっぽから必死で暴れるミセリへと目を移す。


(∮₤´ー)「済まネー。だが、大人しくしてイて貰エなきャ困るンダーヨ」

ミセ*;゚д)リ「ッ!」
(∮₤´ー)「……アとで仲間と一緒に、ヨツマまで送ッてヤる。今は寝てロ」


ミセリを握る五指に力が入る。

5740/78:2013/08/28(水) 11:55:02 ID:y780oguI0
骨が歪み筋肉が軋み、呼吸と身体を巡る血とが潰される。

悲鳴ひとつまともに上げられない。
逃れえない圧力に声すらも潰れた。

ぼんやりと薄れ、消えてゆく意識。
その片隅で、


「おい」
≡O (∮₤´ー)"「?」


力強い声が聞こえた。

58以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/08/28(水) 12:10:24 ID:y780oguI0
  _
(#゚∀゚) "   ∧ ∧
(⊂ 彡, .∴ '#メ)´Д)
   ,r⊂ ⊂ `ソ /  
 ∠イと.,_と.,__,ノ


(∮₤;´Д)「ウ、がァ……!」
  _
(#゚∀゚)o「てめぇ、俺の目の前で二人に手を出すたぁ、いい度胸じゃねぇか……!」

ミセ*;-д)リ「う……ッ!」


ジョルジュ、長岡。
その拳は竜の巨体を軽々と跳ね飛ばし、ミセリを解放した。

5950/78:2013/08/28(水) 12:11:48 ID:y780oguI0
<_プд゚)フ だいじょうぶ ミセリちゃん しっかりして
ミセ*; д)リ「ッ、ジョルジュさんッ、それに、キューさん……!?」


巨竜を殴り飛ばしたジョルジュが、ミセリを庇うように立ちはだかる。
膝を突いて咳き込むミセリの前に、白い幽霊が舞い降りた。


(∮₤´ー)「ッ……ジョルジュ、長岡……!」
  _
(#゚∀゚)o「ミセリ、動けるなら下がってろ。コイツはお前らの領分じゃない」


ネーヨの振り下ろした右の前肢に、ジョルジュは片腕を振り上げて応えた。
岩崩れのような衝撃を受けた両足は地面にめり込み、ジリジリと後退する。

一撃を止めきられたネーヨの方は、驚きもせずに左を横凪ぎに打ちはらう。
ジョルジュは大剣を振りかぶり迎撃する。顔を顰めたのは、ネーヨの方だ。


  _
( ゚∀゚)o「俺達の――『竜殺し』の領分だ!」

6050/78:2013/08/28(水) 12:23:59 ID:y780oguI0
(∮₤#´Д`)「オ……ガァッ!」
  _
(#゚∀゚)o「立て、走れ! 足手纏いだ!」

ミセ*;゚−゚)リ「……!」


前肢を振りかざし、ネーヨは乱入者に襲いかかった。

ジョルジュは大剣を盾にその打撃を受け止めた。
筋肉が軋み、殴られた剣は激しく悲鳴を鳴らす。

黒竜は間髪いれずに逆足を振り上げ、殴りつける。

  _
( -∀)「……!」
(∮₤#´д`)「カアッ…!」


冷静に、冷徹に、ジョルジュは双腕の嵐を防いだ。
いくらうまく防ごうとも、防戦一方では分が悪いのは間違いない。
やがて激しさを増す巨竜の猛攻のうち、一撃がその頬を捉える。


ミセ*;゚−)リ「……ごめん!」


ミセリは弾かれるようにその場を離れ、ぽっぽに駆け寄った。
ジョルジュが敢えて攻撃を受けているのは、後ろに倒れていた自分の為だと分かったから。

邪魔が消えたことを確認して、初めてジョルジュは黒竜と距離をとった。

6150/78:2013/08/28(水) 12:26:56 ID:y780oguI0
  _
(#゚∀゚)o「よぉーし……存分にドツき合おうぜ、このクソガキ」
(∮₤´ー)"


答える代りに、ネーヨは大上段から爪を振り下ろした。
まともに受ければ普通の人間ならば即死程度で済むだろう、その一撃は空を切る。

ジョルジュが踏み込んだのは撃ち下ろした右前足の、その肘の外側。
ネーヨはこれには少なからず驚いた。
絶対的なタフネスを持つジョルジュならば、この手をも受けると計算していたのだ。

反撃も防御も利かない死角から、ジョルジュの大剣が巨竜の顔面を襲った。

6250/78:2013/08/28(水) 12:27:51 ID:y780oguI0
(∮₤//´Д`)「オ、が」
  _
( ゚∀゚)o「チッ、目を貰うつもりだったんだが……流石に良い反応しやがるな」


一撃、同時に下がったジョルジュのすぐ目の前を、ネーヨの裏拳が通り過ぎる。

追撃は、届かなかった。
ジョルジュは既に反対側、左脇をくぐって背中へ。

漆黒の翼に、大剣が踊った。


(∮₤// Д)「オォォァァァアッ!」


黒竜が痛みにのたうち回る。
千切れこそしなかったが、高速で飛ぶ力は削ぎ落とした、はずだ。

ジョルジュは振り回された尾を剣の腹で防ぎ、衝撃を利用して距離を取った。

6350/78:2013/08/28(水) 12:47:54 ID:y780oguI0
  _
( ゚∀゚)o「お前らの再生能力の高さは知っている。悪いが、これからは容赦なく削ぐぞ」
(∮₤// Д)「オ…ア…!」


ジョルジュは剣を手に、ゆっくりとネーヨの周りを回った。

視界を奪うか翼を奪うか。
"竜殺し"の定石は、常に冷静に戦力を削ることだ。

対するネーヨもまた、翼を傷つけられた事でかえって冷静さを取り戻していた。
痛む左翼にも構わず、無理やり突風を起こして距離を取る。

  _
( ゚∀゚)o「!」
(∮₤// Д) <3 コォォ…ッ


ネーヨは大きく息を吸い込んだ。
彼ら竜族が最強種たる所以、その身体能力と並ぶ、もう一つ。


                              (巛ミ彡ミ彡ミ彡ミ彡ミ彡)ミ彡ミ彡)ミ彡)
                            ,,从.ノ巛ミ   彡ミ彡)ミ彡ミ彡ミ彡)ミ彡)''"
                           人ノ゙ ⌒ヽ         彡ミ彡)ミ彡)ミ彡)''"
                   ,,..、;;:〜''"゙゙ /;:"     )  从    ミ彡ミ彡)ミ彡,,)
                        /;:"     )  从    ミ彡ミ彡)ミ彡,,)         
  ∧ ∧     _,,..、;;:〜-:''"゙⌒゙     /".,".     彡 ,,    ⌒ヽ      彡"
  (∮₤´Д):゙:゙             \":; ..    '"゙         ミ彡)彡'
   \ <   `゙⌒`゙"''〜-、:;;,_       .\;::        )  彡,,ノ彡〜''"  
    \.\____/ /      ⌒`゙"''〜-、,,    , ,彡⌒''〜''
      \       /
       ∪∪ ̄∪∪


大剣を盾に構えたジョルジュを、爆炎が包み込んだ。

6450/78:2013/08/28(水) 12:48:34 ID:y780oguI0

  _
(  ∀)o

常人ならば一瞬でケシ炭に変わるような灼熱が、ジョルジュの全身を撫でる。
"白"は拒絶の色。ジョルジュを守る精霊が輝き、業火の深紅を一時的に遮る。

優れたパワーとリーチを生かす、豪快さ。
優れたタフネスに頼り切らない、冷静さ。

何より、遭遇した強敵を侮らない、竜族らしからぬ慎重さ。
  _
( ゚∀)o

竜を狩る者の最も大きな武器は、剣や矢、槍ではない。

狩られる竜が自ら抱えている、膨れ上がった傲慢さだ。
時に新世界を統べる五竜すらも滅ぼす、その傲慢さだ。

そして、このネーヨは、最強種の本能が冒険者の悟性と混じり、彼自身を完成に導いている。
大陸で狩ってきたドラゴンと比べ '非常に年若く、小柄な' ネーヨを、ジョルジュは高く評した。

とはいえ、それでも。

6550/78:2013/08/28(水) 12:58:32 ID:y780oguI0
  _
(#゚∀゚)o「てめえはまだ俺には届かねぇよ、このバラガキが!」

(∮₤;´д`)「!」


途切れた炎の吐息の向こうで、ジョルジュが敢然と吠える。

ネーヨは初めて恐怖した。
初めて出会った、竜種の一端たる彼を駆逐し得る存在に。


(∮₤;´д`)「冗談じャ、ネーヨ…!」
  _
( ゚∀)o

(∮₤;´д`)「ブレスを破られた程度デ、俺が負けるカーヨッ!」


大きく咆哮を返し、ネーヨは身を固めた。
ジョルジュは満足そうに笑うと、大剣を手に駆けだす。

6660/78:2013/08/28(水) 12:59:29 ID:y780oguI0
……

ミセ*;゚−゚)リ「ぽっぽちゃん、大丈夫!?」
(`ω` ;*)「ぽ……ミセリ……だ、大丈夫だっぽ」


弱弱しく答え、ぽっぽは身を起こした。

意識ははっきりしているし、大きな傷もないようだ。
手の中に残った鉄木の破片に目を落とし、彼女は舌打ちする。


(*;‘ω-)「アタシは大丈夫っぽ……それより……」


見渡す限りの湿地で唯一の道だった大樹は、既に泥の底に沈んだ。
泥の海を渡り切る方法は、残っていない。


ミセ*゚−゚)リ「……うん。キューさん、この沼を抜ける一番近い道は?」
<_プ−゚)フ シューはもうシャーミンと戦ってる 迂回するの時間は無いよ
ミセ*゚−゚)リ「だったら!」

<_プー゚)フ アタシが道を作るよ 実はその為に来たんだ

ミセ*゚−゚)リ「……!」

6760/78:2013/08/28(水) 13:01:19 ID:y780oguI0
<_プ−)フ 十五秒後に 対岸に向けてまっすぐ走って
ミセ*゚−゚)リ「え、何を……?」
<_フ-д)フ


キュートは答えず、代わりに彼女は目を閉じて、詠唱を始めた。

ミセリは驚きに目を見開いた。

神話の世界から連なる、精霊への言葉。
その意を知る者は精霊の他に無く、その音の届く所は精霊の他に無い。

白い幽霊を中心に、"白"の精霊が集い、強烈な冷気を形作る。

キュートの姿が見えず"白"の親和も持たないぽっぽが、苛々とミセリに訊いた。


(*;‘ω‘ *)「なんだ、素直キュートは何をしてるっぽ?」
ミセ*゚−゚)リ「道を作るって――」


言いかけたミセリの背に、長柄の刃が振り下ろされる。
三日月の刃がその背を裂くより先に、ミセリはその気を感じ取り、咄嗟に飛び退いた。

空気を引き裂き、月牙が落ちる。


('、‘*川「楽しそうな事してるのね。悪いけど、それは許してあげられないわ」

6860/78:2013/08/28(水) 13:02:28 ID:y780oguI0
(*;‘ω‘ *)「……行け、ミセリ! こいつはあたしが相手するっぽ」

('、‘*川「勝手に話を進めないでよ」


ぽっぽが"赤"の親和を起動し、ペニサスの懐に飛び込んだ。

長柄の画戟を自在に操る技術、戦局に応じた計算力。
総合的な戦闘能力を比較すると、ペニサスの方がずっと上だ。
しかし、スピードと爆発力だけを比べるならば、ぽっぽの方が高い。

垂直に抉りあげるような蹴りを、ペニサスは緩やかに下がって避ける。
画戟の反攻が襲う前に、ぽっぽは膝を沈めて身体を回転させた。

狙いはペニサスの下手――画戟の柄尻に近い方を握る右手側から、側頭部への後ろ回し蹴り、続けて水面蹴り。
あえて奇襲的な動きを選んでいるにも関わらず、ぽっぽの一撃必殺の猛槌は、読まれているように空を切った。


(*;‘ω‘ *)「くっ……」
('、`*川「ん、若い割には結構がんばるわね」


お返しとばかりに画戟の柄が振るわれ、ぽっぽの横っ腹を打つ。
殴られて地に伏せたぽっぽは、休む間もなく身を転がし、迫り来る三日月の刃を避けた。

6960/78:2013/08/28(水) 13:03:10 ID:y780oguI0
ミセ*;゚д゚)リ「ぽっぽちゃん……!」
(*;‘ω‘ *)「良いから、行け! どのみち"赤"しかないあたしじゃ役に立たないっぽ!」
<_プд゚)フ ミセリちゃん 早く


言いながらも、ぽっぽは鋭く踏み込み、身体を捻って次の蹴りを繰り出した。
ペニサスは涼しい顔で避け続け、時折画戟を振るって牽制を返す。

反撃の暇を許すまいと攻め続けるぽっぽ、ただ淡々とかわし続けるペニサス。
手にした長剣に、じっとりと汗が滲む。術式を構えたキュートが歯噛みするミセリを急かした。


ミセ*;゚−゚)リ「……信じるよ」


親和を起動し、"緑"の精霊を集める。
泥の河は静かに揺れ、獲物を求めるように唸る。

ミセリは川岸を蹴って、流れの中に踏み出した。
ペニサスが驚きに声を上げた。彼女には、ミセリの行動は自殺にしか思えなかった。

しかし――踏み出したミセリの足元の泥は、しっかりと彼女の体重を支えている。

7060/78:2013/08/28(水) 13:04:33 ID:y780oguI0
('、`;川「な――!?」

ミセ*;゚−゚)リ「わ、とと、何これ!?」
<_プー゚)フ へっへ こいつぁジブンの術ですぜ


踏みしめた泥は、まるで石のような感触。
驚くミセリの爪先の下で、硬質な泥は少しずつ沈んでゆく。


ミセ*;゚д゚)リ「うわわ……ッ!」
<_プー)フ ほら 走って 長くはもたないよ


"緑"の親和、それに、ハインの鍛錬で培われたバランス感覚を生かし、二足目を踏み出した。
進む先の泥を氷が固めているのだと、ミセリは走りながら気付いた。

即席で作られた浮島の道は踏み抜くとあっさりと割れて沈み、後には痕跡すら残らない。
慌てて追おうとしたペニサスの足は、そこで止まる。


<_プー゚)フ へっへ 『カロン』のジブンが渡し守なんて ちょっとオシャレだよね

ミセ*;゚д゚)リ「ちょ、ごめん、待って……今、あんまり返事する余裕無い」


振り返ることも、立ち止まることも出来ない。
死の河を渡る細道は、前にしか続いていなかった。

7160/78:2013/08/28(水) 13:12:57 ID:y780oguI0
('、`;*川「ま、待ちなさい!」
(*‘ω‘ *)「残念、行かせないっぽ!」


自らの親和を使い、何とか追い縋ろうとするペニサスを、ぽっぽの踵が襲う。
大斧を思わせる鋭い蹴撃に彼女は咄嗟に腕を合わせ、その軌道を逸らした。

致命的な隙だった。もはや、ミセリは彼女の手出しできる範囲には居ない。
出し抜かれた、苛立ちに歪んだペニサスの顔を、ぽっぽが覗き込む。


(*‘ω‘ *)「もうミセリには届かないけど、今どんな気持ちっぽ?」

('、`#川「……イラついてるわ、そりゃあもう――」
m9(‘ω’ *)「ざまぁああああッ!」
('、`#川「――速やかに貴女を泥の底に沈めて、追いかけます」


軸足を外に捻り、身体を開いた横蹴り。
弧を描くような鋭い一撃をペニサスは画戟の柄で受け止め、横刃で斬り返した。

横薙ぎの剣閃は、手応えを返さない。
ぽっぽは地を這うように身を伏せ、身体を回転させて踵をペニサスに叩きつける。

一撃毎に、一足毎に、ぽっぽの動きは速く、鋭く、重くなっている。
ペニサスは冷静に打ちこまれた踵を捌く。

72以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/08/28(水) 13:17:34 ID:6011ZuWoO
支援支援!

7360/78:2013/08/28(水) 13:20:31 ID:y780oguI0
(*`ω` *)「まぁ頑張れ。どの道、残念ながら、シュー様のゴメイレイは失敗だけどな」
('、`#川「……少しは言葉を選んだらどうよ」


足首の骨を粉々に砕くような、容赦のない水面蹴り。
ペニサスは足を浮かせてその鎌をかわし、長柄を顔の横、縦に構える。

狙い澄ました上段蹴りが、ペニサスの構えた画戟に吸い寄せられ、弾き返された。


(*‘ω)「お前を相手にそんな配慮しても無駄だろ?」
('、`*川「へぇ、気付いてたんだ」


素早く距離を置いたぽっぽに、ペニサスは画戟を突き付けた。
スピードに優れるぽっぽが本気で時間稼ぎを狙えば、防御的なペニサスの戦闘では、追い付かない。

速さで翻弄しようとするぽっぽの魂胆を知りつつ、ペニサスには現状を打開する手立てが無いはずだ。
作戦勝ちを確信しつつも、ぽっぽは油断なくステップを刻む。


(*‘ω‘ *)「おかしいとは思っていたんだ。お前の"読み"は鋭すぎるっぽ」

('、`*川「へぇ?」


変則的な攻撃を受ける時と、直情的な攻撃を受ける時。
ペニサスの反応は、前者に対する方がずっと安定している。


(*‘ω‘ *)「お前の親和能力が"読心"だからだっぽ。違うか?」

7460/78:2013/08/28(水) 13:22:50 ID:y780oguI0
('、`*川「……正解。あなたが"今考えている事"は、大体合ってるわ」


ペニサスは諦めたように画戟を下げた。
そのまま数歩、ゆっくりと左へ。

ぽっぽは眉を潜めた。
ペニサスは足を止めず、川下、ジョルジュ達の戦っている方へと、緩やかな足取りで歩く。


(*‘ω‘ *)「それで、どうする? 諦めるか?」

('、`*川「……いいえ、私達のすることは変わらない。速やかにあなた達を倒すわ」

(*‘ω‘ *)「どうやって? 頼みのネーヨはこのままジョルジュに負けるぞ?」

('、‘*川「ネーヨも私も、B級ギルド『エメロン』の冒険者よ? "奥の手"の一つ位は持ってるわ」


ネーヨのドラゴン変身の時点で、十二分に"奥の手"だっぽ。
ぽっぽの思考が伝わったのだろう、ペニサスは声を上げて笑った。

7560/78:2013/08/28(水) 13:24:16 ID:y780oguI0
('ー`*川「そうね……補足してあげる。私の親和能力は、言うなれば心の声――」
(*;‘ω‘ *)「――("受信"するだけじゃなく、"発信"することもできる)――!」


ぽっぽの頭に、ペニサスの言葉が直接流れ込んだ。

たった一言の言葉、だけじゃない。
――"右足を"、"左足を"、"右足を"、"左足を"――"踵に"、"爪先に"、"膝に"、"腰に"――"ネーヨの近くへ"、"ジョルジュの近くへ"――"二人を射程に入れる"
――"命令を守らなくては"、"動かなくする"、"追い掛けて仕留める"、"命令を守らなくては"、"殺してはいけない"、"命令を――"
激しい"声"の奔流に、ぽっぽは思わず耳を押さえて蹲った。


('、`*川「あー……ごめんね、やりすぎちゃった? まぁ、ヒトの声くらいなら、すぐに慣れるわ」
(∩;-ω-)「や、やめてくれっぽ――(そのまま気絶しててよ)――もう止めろ!」

('、`*川「まったく……その程度、私は生まれた時から聞き続けてたのに」


ペニサスは溜息をつきながらも、歩み続ける。

ぽっぽは、一歩も動くことが出来なかった。
"声"は幾重にも折り重なり、積み上がって、ぽっぽを圧迫する。

――"それじゃあ、このまま"声"の範囲にヒトよりもずっと"声"が強い生物が入ったら、どうなると思う?"

その答えは、ペニサスが"そこ"に足を踏み入れた瞬間にぽっぽを襲う。

7660/78:2013/08/28(水) 13:29:56 ID:y780oguI0
(∮₤メд`) コォアアァア…
――引き裂け、叩き潰せ、踏み躙れ、噛み割れ、焼き尽せ。
――骨肉を喰らえ、血潮を飲み干せ。
――殺せ。

(*; ω  *)「――――――――ッ!」


あまりに強大な、苛烈な、剥き出しの本能。
圧倒的な"咆哮"、最強種への恐怖が、ぽっぽを貫いた。
そして、それよりも深く彼女を圧倒したのは。


('、`*川「……」
(*; ω  *)「なんで、こんな……!」


――"憎 い"、"憎 い"、"憎 い"、"憎 い"、"憎 め"、"憎 め"、"憎 い"、"憎 め"、"憎 い"――
――"殺 す"、"殺 す"、"殺 す"、"殺 す"、"殺 せ"、"殺 す"、"殺 せ"、"殺 せ"、"殺 せ"――
  _
(;゚∀゚)o「うおッ、何だこりゃあッ!?」


竜へのどす黒い憎悪で心を満たした、ジョルジュの"呪詛"だ。

7760/78:2013/08/28(水) 13:35:25 ID:y780oguI0
('、`*川「……悪く思わないでね」


動けくなるのも仕方ない、弱い人間ならば廃人と化すか自殺を図るくらいだ。
頭を押さえて蹲るぽっぽに目もくれず、ペニサスはネーヨに駆け寄った。

今まさに剣爪を交えるジョルジュは、頭に直接響いた怒号に驚きこそすれ、隙を作る様子は無い。

とんだ化物も居たものだ、ペニサスは内心で舌を巻く。

ネーヨの"咆哮"を心に直接叩きこまれたら、普通はぽっぽのように立ち向かう心が粉々に砕かれる。
だと言うのに、ジョルジュは平然と立ち向かい、大剣を振るっている。
人獣を問わず持っているはずのドラゴンへの根源的な"畏れ"が、この男には全く残っていないのか。

ペニサスは即座にジョルジュを"ネットワーク"から外した。
意識を逸らせないのであれば、情報が筒抜けになるだけだ。


('、`*川「ネーヨ、プラン『S−P』!」
(∮₤メд`)"

7860/78:2013/08/28(水) 13:36:09 ID:y780oguI0
('、`*川「……悪く思わないでね」


動けくなるのも仕方ない、弱い人間ならば廃人と化すか自殺を図るくらいだ。
頭を押さえて蹲るぽっぽに目もくれず、ペニサスはネーヨに駆け寄った。

今まさに剣爪を交えるジョルジュは、頭に直接響いた怒号に驚きこそすれ、隙を作る様子は無い。

とんだ化物も居たものだ、ペニサスは内心で舌を巻く。

ネーヨの"咆哮"を心に直接叩きこまれたら、普通はぽっぽのように立ち向かう心が粉々に砕かれる。
だと言うのに、ジョルジュは平然と立ち向かい、大剣を振るっている。
人獣を問わず持っているはずのドラゴンへの根源的な"畏れ"が、この男には全く残っていないのか。

ペニサスは即座にジョルジュを"ネットワーク"から外した。
意識を逸らせないのであれば、情報が筒抜けになるだけだ。


('、`*川「ネーヨ、プラン『S−P』!」
(∮₤メд`)"

7960/78:2013/08/28(水) 13:37:31 ID:y780oguI0
(∮₤メд`) ヒュー…ッ

  _
( ゚∀゚)o「あん?」


ジョルジュが打ち払った大剣を、ネーヨは一歩下がって避ける。

牽制の袖払いから、本命の大上段。
ジョルジュの狙いは、返しの一撃。

大ぶりで落とされた一閃は地面すれすれまで空を裂き、返礼とばかりに竜の爪突がジョルジュを襲う。

  _
(;゚∀ )「んぐ」


親和、"白"の精霊を生かして衝撃を軽減。
胸を強かに打つ一撃に、ジョルジュはたたらを踏む。
呼吸が一瞬止まる、が、すぐに剣を構えて次の攻撃を防ぐ姿勢に。

果たして振るわれた裏拳は、ジョルジュの読みを外れ、盾と構えた大剣のすぐ前を通り抜けた。

ネーヨの動きが、変わった。
急なフェイントに虚を突かれたジョルジュに、尾の一振りが叩きこまれる。

8070/78:2013/08/28(水) 13:49:25 ID:y780oguI0
  _
(; ∀)o「ぐぁッ、……!!」


したたかに尾を打ちつけられたジョルジュの身体は、ゴム毬のように弾かれて飛んだ。
格段に動きが狡猾になった相手に驚く間もなく、樹々を真っ赤な閃光が照らした。

灼熱の、火球。

  _
(;゚∀゚)o「う……おぉおッ!」


                ;:"゙':;,         ,;:'"゙:;
               '':;  ',,;..;;:::''''''':::;;..;,,'  ;:''
               . "',:;'' ';:,     ,:;' '';:,'"
           ............:;::;;;';:,;;;;;;・  _ ,_;';;;::;:.............
     ,,,,,,,;;;;;;''''''''"""".:;; ; ';:・(д##ヽ),:;'    ;:.""""'''''''';;;;;;,,,,,,,,
  """""'''';;;;,,,,,............. ・ :;  ∵ と`';:;;ヽ;  ; ;: . .............,,,,,;;;;''''"""""
          """"''''':;'':::::::;;;,;_/⌒ヽ;,ノ・,;:::::'';:'''''""""
               .:; ,:;'.(;:;;:ノ;:;/ .';:, .;:
               .'::,;; ,:;'(;:;;:ノ.';:,  ;,::'.
              :;" ",'';:::::..,,,,,..::::;''," ";:
               ';..,,.;:'        ':;.,,..;'

8170/78:2013/08/28(水) 14:00:31 ID:y780oguI0
竜の体内で巻き起こせる限りの火炎を凝縮した、光の塊。
盾と構えられた大剣に着弾した光球は、熱と閃光を撒き散らし、一気に爆発した。

衝撃。炸裂音。
真っ白に染められた視界を焦げ臭い真っ黒な煙が覆う。


(*;‘ω )「じょ、ジョルジュ……ッ!」


ぽっぽは茫然と、一時的に失われた眼で、ジョルジュの立っていた爆心地を見た。

巻きあがった炎は大渦を為し、天へとかけのぼる。
ぽっぽの網膜には、木々を照らし上げる閃光の残映がくっきりと焼き付いていた。


(∮₤メー`)「ヤッたカーヨ!?」
('、`*川 「……いいえ、まだ"声"はあるわ。流石にダメージは大きいみたいだけど……」


やがて煙が晴れ、閃光に眩んだ目が戻る。

駐屯兵が誇る城塞火砲が直撃したかのような凄まじい抉れ跡、その傷跡の上に。
根元まで溶かされ、圧し折られた大剣。真っ黒に焦げた鎧の断片。

そして。

8270/78:2013/08/28(水) 14:04:56 ID:y780oguI0
  _
(##゚∀ )o「、……いってぇ」


腕を盾に立つ、狂戦士の姿。
全身を焼かれ、焦げた体から煙を吹き上げながらも、"竜殺し"はなおも己の足で立っていた。


(∮₤;メー`) 「……冗談じャネーヨ」
('、`;川「ッ……! どれだけ化物なの!?」
  _
(##゚∀)o「お前らが言うなよ。俺じゃなきゃ蒸発してる。それより、さっきのはどういうカラクリだ?」


答えずに画戟を構えるペニサスに、ジョルジュは諦めたようにぽっぽを振り返った。

ぽっぽは脱力してその場に尻もちを突く。
先ほど戦棍を交えた竜人が、彼の前に立ちはだかった剣士が。
ラウンジで短い時間を過ごした二人が、自分とまるで次元の違う戦いを見せている。

8370/78:2013/08/28(水) 14:07:38 ID:y780oguI0
  _
(##゚∀゚)o「ぽっぽ、お前見てたろ? シラネーヨの動きが化けたの、なんでか分かる?」
(*;‘ω‘ *)「……ペニサスだ! お前の心を読んで、ネーヨと共有してるっぽ!」
  _
(##゚∀)o「さんきゅ、それだけ分かれば充分だ」


ジョルジュは拳を打ち鳴らして、二人に向き直った。
左足の火傷は見た目にも重く、少し引き摺るように歩いているのが分かる。

画戟を持つペニサスの手が、僅かに震えた。


('、`;*川「……カラクリを知っただけで勝てると? 丸腰の貴方が?」
  _
(##゚∀)o「馬鹿言うんじゃねぇよ。俺は初めから、お前ら三人纏めたよりもよっぽど強い」

(∮₤;メд`) 「!!」


一歩、また一歩。
幽鬼の如き足でゆっくりと進むジョルジュ。

ネーヨは慌てて息を吸い込んだ。
もう一度火炎弾を叩きこむために、そして、この戦場の重圧から逃れたいために。

そして――ジョルジュという天敵の前で、その焦りが致命傷となる。

8470/78:2013/08/28(水) 14:12:46 ID:y780oguI0
('、`;*川「待って、ネーヨ! 駄目!」
  _
(##゚∀)o「遅い!」


ペニサスが制止した時に、既に手遅れだった。
ネーヨの口内にある炎晶体――火炎を生み出す器官は、既に灼熱している。
もはや彼自身にも、止める事は出来なかった。
思考を読む力が無くても、今この場限りにおいて、ジョルジュにも少し先の展開は見えている。


(∮₤;メд`)「な」


光弾が放たれる、直前。ジョルジュは焼け焦げた足を引き摺って、大きく一歩を踏み込む。
口腔内で維持しきれなくなった豪火球がネーヨの口を溢れ出し、苦し紛れに飛びだす。
叩きつけられた猛炎弾を掻い潜るように、ジョルジュは大きく斜め前へと飛んだ。

再びの轟音、閃光。熱の爆風。
思わず目を覆ったペニサスは、ネーヨの"恐怖の悲鳴"の、その"声"を聞いた。

8570/78:2013/08/28(水) 14:15:14 ID:y780oguI0
熱の閃光が通り過ぎた後、覆った眼を開いたペニサスの前で、死闘は終わりかけていた。

黒竜の鱗ばった右前肢を、ジョルジュのゴツゴツした左手がしっかりと掴んでいる。
純粋な力比べで、若いとは言え最強の竜種を相手に、身体中を火傷に覆われたまま。
それでも、ジョルジュの腕力は、その相手が逃れることを許さない。


('、`;*川「ネーヨ――ッ!?」


相方の窮地を見たペニサスが慌てて画戟を振りあげた、その手首を鉄木の固まりが殴り抜いた。

"声"の外から投擲された折れた戦棍の片割れ、増幅器付きの先端部分。
"赤"の精霊が生んだ衝撃で画戟は彼女の手を離れ、遠く地面を転がる。


(*‘ω‘)「……お前の相手はあたしだ、って、言ったっぽ」
('、`;*川「くっ、この……」


得物を失ったペニサスには、二人の怪物の戦いに僅かでも介入する力は無い。
痛む腕に構わず画戟を拾い上げようとした時には、既に勝負は決まっていた。

8670/78:2013/08/28(水) 14:16:35 ID:y780oguI0
(∮₤;メд`)「放セーヨ……ッ、放セッ!」
  _
(##゚∀゚)o「お断りだね」


巨竜の胸元に、ジョルジュは右手を伸ばした。
胸筋を覆う、黒く鋭い鱗の隙間に手を掛け、しっかりと掴む。

ペニサスを介して、巨竜はその狙いを知り、抵抗しようと足掻いた。
自由な左前肢が数度、ジョルジュの頬を打つ。しかし、狂戦士は揺るがない。


(∮₤;メд`)「放……ッ!」
  _
(##゚∀゚)o「長いこと、良く頑張ったが……ガキはお寝んねの時間だよ!」


怒号と共に、ジョルジュは両腕に全力を掛けた。
漆黒の竜の巨体を背負い込むように、両足を踏ん張る。
巨体が宙に浮き上がり、受け身すら取れないままに、一直線に地べたに落ちる。


(∮₤メ д )「ガァぁッ!」


強かに頭を打ち付けたネーヨは、完全に脱力し、その場に伸びきった。

8770/78:2013/08/28(水) 14:24:46 ID:y780oguI0
……


(*‘ω‘ *)「……終わった、っぽ?」
  _
(##゚∀゚)o「多分な」

地面に大の字を描いて倒れたネーヨ、ジョルジュはその喉元にしゃがみ込み、手を触れた。

呼吸はしているが、反応は無い。
どうやら、完全に意識を失くしているようだ。
油断なく勝利を確認するジョルジュの背後に、手首を押さえたペニサスが立った。


('、`*川「……まさか、ここまで手も足も出ないなんてね」

  _
(##-∀)o「流石に火球はキツかったよ。あんたは、もう良いのか?」

('、`*川「ええ、降参よ。シューには"ネーヨが負けたら諦めろ"って言われてるから」


脱力した様子で言いながら、彼女は腰のポーチを探った。
警戒するジョルジュに構わず、漆塗りの薬筒を彼に差し出す。

8870/78:2013/08/28(水) 14:33:49 ID:y780oguI0
  _
(##゚∀゚)o「本当に?」

o ('、`*川「本当に。ほら、火傷に使いなさい」


彼女の様子は確かに、戦闘中のそれとは違う。
ジョルジュは受け取った薬筒に目を落とした。

蓋を開けると、白い、強烈な腐敗臭を放つ膏薬。
毒とも薬とも取れる悪臭に、思わず顔を背ける。


('、`*川「毒じゃないわ。一応だけど薬術の心得はあるから、効果は保障する。
     何より、そもそも貴方には普通の毒じゃまともに効かないでしょ」
  _
(##;-∀)~o「いやだって、この匂いはなぁ……」

('、`*川「ま、信用ならないと思うとしたら、それも当然ね。気持ちはわかる」


ペニサスはそれだけ言うと、倒れたネーヨに向き直り、懐から別の瓶を取り出した。

8980/78:2013/08/28(水) 14:49:16 ID:y780oguI0
(*‘ω‘ *)「そりゃ信用するわけ……って、ジョルジュ!?」
  _
(##゚∀゚)d~「うわぁ、これを顔に塗るのは流石に嫌だなー……」


言いながらも、ジョルジュは一掬いの軟膏を指に取って、顔の火傷に塗った。
まだ熱の冷めない傷跡に、ジクジクと薬効が染み込んでゆく、気がする。

臭いを気にしなければ、それなりの効果は有りそうなものだ.
ジョルジュはその場に座り込み、黒焦げになった薄手のズボンの裾をぺりぺりと肌から剥がした。

熱で崩れた左足の組織から、ぽっぽは目を逸らした。

  _
(##゚∀゚)「そう気張るなよ。敵じゃないなら喧嘩腰になるだけ無駄だろ」

(*;-ω-)「はぁ……あたしの感覚の方が普通なんだよな?」
('、`*川 「そうね、自信持っていいと思うわ」

9080/78:2013/08/28(水) 14:53:57 ID:y780oguI0
(*‘ω‘ *)「それで、この泥沼を渡る方法は無いのか? ミセリ達が心配だっぽ」


ぽっぽは小瓶の口を開けようと苦戦するペニサスに尋ねた。
ミセリが泥河の向こうの森に消えてから、まだそう長くは経っていない。
しかし、非道を極める"魔導師"の死霊が相手とあっては、一刻の猶予すら無いと思った方が良い。

ペニサスは彼女に目を向けると、諦めたように小瓶をジョルジュに差し向け、答える。


('、`*川「方法は……一応、ある」
  _
([#]∀゚)o「?」 ポンッ…


彼女の腫れあがった手首を見て、ジョルジュが代わりに瓶口のコルクを抜いた。

膏薬の腐敗臭を大きく上回る、強烈な刺激臭。
ペニサスはその劇物を壜を仰向けのネーヨの口に差し込み、一気に逆さにした。

とんだ罰ゲームだ。ジョルジュが小さく呻く。

9180/78:2013/08/28(水) 14:56:59 ID:y780oguI0
  _
(##゚∀゚)o「その方法ってのは?」

('、`*川「……すぐに荷物を纏めて」
(∮₤;メд`),;/ ・゚ ガハッ


劇物を流し込まれたネーヨが咳き込み、その巨体を大きく痙攣させた。
巨体をのた打ち回らせて苦しむ彼の頬を、ペニサスは容赦なく平手で張る。


('、`*川「ほら、起きなさい。仕事よ」

(*;‘ω‘)「……まさか……!」
('、`*川「正解」


三発、四発目の平手で、痙攣する竜が小さく唸り声を上げた。
頬を押さえた彼は、虚ろな目で身を起こす。

視界の端でジョルジュの目が少年のように輝いたのを、ぽっぽは見逃さなかった。

92以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/08/28(水) 15:01:28 ID:y780oguI0
今日の深夜に来ると言ったな? すまん、ありゃ嘘だった。

半端と言えば半端ですが、長いので、ここで区切らせて頂きます。申し訳ない
纏まったご挨拶は後編の後に差し上げますので、よろしくお付き合い下さい

93以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/08/28(水) 15:05:29 ID:y780oguI0
あと一応、ジョルジュやハインをしっかり書くのは最初の予定ではハ章と五章でした。
よろしければ気長にお付き合い頂けると幸いです

94以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/08/28(水) 20:40:31 ID:1rQBwQ260
ショシルジュつええええ


95以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/08/29(木) 04:24:45 ID:mkZu2z2oO
乙でした、後編はいつかな

96以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/08/29(木) 08:00:41 ID:yCR66cUk0
乙です!
ちんぽっぽも強くなってきたな

97以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/08/30(金) 01:26:21 ID:ESwA5dls0
ネーヨすげええええええええええええええええええええ

98以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/08/30(金) 21:19:05 ID:ESwA5dls0
次が待ち遠しいぜ

99以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/01(日) 14:56:22 ID:877ikvNA0
先日は御迷惑お掛けして本当に申し訳ない

後編の書き溜めは半分くらい終わってるので、遠くないうちにまた参ります、と報告します

100以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2013/09/02(月) 07:11:49 ID:9Hg6DXlI0



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