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係争の異能力者(アビリター)

1ライナー:2011/05/06(金) 23:48:30 HOST:222-151-086-008.jp.fiberbit.net
今回は名前を変えて新たな気持ちで投稿させて貰います。
今までは勉強不足であまり良い作品にならなかったので、これからの作品に力を入れていきたいと思います。

〜注意事項〜
・題名の通り異能力が出てくるファンタジーものです。こういうのが苦手な方はお勧めしません。
・少々グロテスク表現があります。最小限に控えますが、不快に感じられたらすみません。
・本作は人の作品を真似るような事はしておりません。もし似ていて、盗作されたと感じられたら、行って貰えればそれ以降なるべく離れた設定で進めさせて頂きます。
・本作を真似るのも止めていただきたいです。
・チェーンメール、アスキーアート等をやるのは一切控えて下さい。
・気をつけますが、誤字脱字等の可能性がありますのでご了承下さい。
・まだまだ未熟な部分がある駄作なので温かい目で見守って貰えると光栄です。

コメント、アドバイスも受け付けますので是非来て下さい!

2ライナー:2011/05/07(土) 15:29:07 HOST:222-151-086-019.jp.fiberbit.net
 −プロローグ−
科学はもはや魔法に等しい、なんて言われている時代に人間の考える『魔法』に一番近い科学が誕生していた。
その科学というものは漫画やアニメでもよく見るような魔術のような科学。ある科学者が微生物学によって生み出したものらしい。実際、魔術のような能力を持ち合わせているのは微生物自体だが、それを人間の体内に移すだけでその人間は微生物の持つ能力を自由に使用することが出来る。しかし、欠点もあり、自分の中から微生物が死んだり、いなくなったりすると自分が死に至る。
これらの微生物が持つ能力をミクロアビリティという。また、その能力を持つ人間をアビリターと呼んでいる。
しかし、ミクロアビリティのことで一つの事件が起こった。
ミクロアビリティによる動物実験でいくつかの動物が逃げ出し、沢山の人々から死者や怪我人が出た。
これにより、ミクロアビリティの対策が増え世界観が変わってしまった現代。
 −異能時代− の始まり・・・・・

3ライナー:2011/05/07(土) 18:59:50 HOST:222-151-086-019.jp.fiberbit.net
 −第一章−
1、悪夢の始まり

雲一つ無い晴れた日の事だった・・・・
「はぁ〜。今日もかったるかった〜!」
いかにも学校帰りの少年だ。着ている学ランはホックと第一ボタンが外しており、カバンを持っている左手は格好を付けるように手の甲を肩に置いている。髪は少々癖があり、黒っぽい群青色をしていた。他も見るからに純な日本人。
少年は学ランの胸ポケットに手を入れ、生徒手帳を取り出した。予定を確認しているようだ。手帳には、辻 啓助(つじ けいすけ)と記されていた、どうやら少年の名前らしい。
啓助は予定を確認すると、「明日もきつッ!」なんて独り言を言いながら近くの小さな公園のベンチに腰を掛けた。世間様が言う「寄り道」というヤツだ。啓助は今度はカバンから音楽プレイヤーを取り出し、音楽を聴きながらくつろいでいた。
辺りも少し暗くなり、ようやくベンチから腰を上げると、遠くから大きな物が崩れ落ちるような爆発音が鳴り響いた。
驚いて音の鳴った方向を見てみると、高く聳え立った高層ビルがツタに絡まれたように火に晒されている。
暫く啓助は圧倒していたが、そんな余裕も与えてくれない事態が起こった。
交差点の向こうから幾つかの大きな影が走ってくるのが見えた。少し気を取られているのも束の間、黒い影がこちらに向かって走ってくるのが見えた。啓助は全力で走った、だが圧倒的に向こうの方が素早く、気が付くとほとんど差が縮まっていた。
だが、差が縮まるごとに相手の正体にも気付き始めた。全身は黒いがオオカミのような体をしていて、目は赤く光っている。口からは鋭いキバが見える、ここまではまだ変わった猛獣と言い表せるがその猛獣の口からは煙が吹き出している。さらに近くにいればいるほど熱気が伝わってくるのだ。
必死に走っている啓助に本性を現すように猛獣は口から火の玉を吐き出した。
火の玉は啓助の右肩擦れ擦れに過ぎ寄った。
どんどん加速してくる猛獣に対して啓助は隙を見て交差点の曲がり角で上手く巻いた。

4ライナー:2011/05/08(日) 13:05:00 HOST:222-151-086-008.jp.fiberbit.net
啓助は暫くその場を動くことが出来なかった。
胸の辺りがズキズキ痛み、咳と一緒に血が出てくる始末だ。
辺りは時が経つにつれ、容赦なく火の海へと化していく。もう消防隊がどうとかの問題ではない状態になっていった。
啓助は火の前に自分が参ってしまうと感じた。いや、実際に目がかすみ、意識がもうろうとしている―――

気が付くと啓助は寝袋の中だった。体をゆっくり起こし辺りを見渡すと同じように寝袋の中で何人もの人々が寝かされていた。この光景はまさに‘第二次世界大戦‘のようなものだった。
「怪我人は黙って寝ていろ」
突然低い声が掛かった。丁度、啓助の前に座っていて、男は背を向けラジオをいじっていた。ラジオからは雑音とともに各地から異能力を使う猛獣が出現するというニュースが流れた。多分、啓助が見た物もその中の一部だろう。
「お前、行く所あるのか?」
男は振り返り啓助に問いた。顔立ちは少し西洋人っぽく、目つきが鋭い、髪は茶毛でオールバックにしている。服装は地が灰色の紫のラインが入ったゴアテックパーカーとズボンを着用している。
「と言ってもこの辺はかなり荒らされたからなぁ、この近くに住んでいるなら帰る場所は無いだろう」
「えっ!?」
啓助は驚いて外に出てみると、煙が立ちこめる荒れ地が広がっていた。荒れ地に化した街だったが、学校や住宅街の雰囲気が残っていた。
「この辺の人はほとんど亡くなったよ。とりあえず君の名前も聞いておこうか、家族が助かっているかもしれん」
「・・・・辻、啓助です。あの、どうなってるんすか?今何が起こってるんすか?」
「ハハハ、起きた度に同じ事を聴かれるのはつらいな。俺も詳しいことは聞かされていないが、何らかの動物実験で実験台にされた動物が暴走したらしい。その実験が、ここまで被害が広がるとはな」
そう、これが異能時代の切っ掛けとなる最初の事件だった。

5ライナー:2011/05/10(火) 22:47:49 HOST:222-151-086-009.jp.fiberbit.net
男はラジオの電源を切り、静かに立ち上がった。
「では、調べてくるか。辻・・・・で合ってたよな?」
啓助が浅くうなずくと、収容所を出て行った。
啓助は信じられなかった。今、自分の前で起きている事態を。謎だらけだった、あの火を吐く猛獣も、こんな世界になった理由も。幾度となく不安が頭をよぎり、今まで味わったことのない絶望感というものを経験した。
何日か経ち、またあの男が啓助の元へやってきた。
「君の親御さんや兄弟の事なんだが・・・・・」
ここまで聴いて相手の表情を見上げた。どう反応したらいいか分からないような感じだ。ただ確かなのはこの表情で「助かった」はあり得ないことだ。そして案の定発せられた言葉は、
「先日、遺体が見つかったそうだ・・・・」
啓助はその瞬間絶望の極地に立たされた。頭の中には限りなく真っ白な光景が漂っていた。
悲しむ余裕さえない啓助に対し、男は言葉を発した。
「それなら、ウチに来ないか?」
「?」
「この世界を虫食んだ獣を駆除する連盟だ。まあ、ちゃんと入団試験は受けて貰うが・・・」
こんなしっかりしていない箇条書きのような説明だったが、この瞬間、啓助はこれしかないと思った。啓助自身はっきりした理由は自分でも見つからなかったが、行くところの事を考えてもこれしかなかった。
このことで異能力検定になぞった入団試験が行われることになった。

6ライナー:2011/05/13(金) 23:50:34 HOST:222-151-086-017.jp.fiberbit.net
2、レッドリング
「覚悟はあるか」
男は啓助の言葉にためらい問いただした。
しかし、啓助の考えは変わるはずもなく、「行きます」の一言だった。
男は少し黙っていたが、車を出し試験会場まで走らせた。
試験会場まで小1時間かかり、啓助は少し待ちくたびれた様子だ。
言うまでもなく試験会場は荒れていた、荒れた建物の中で行われたのだ。会場には啓助以外にも6人いた。
「すまない、こんな時だからこそこういう場所しか使えんのだ。」
男は咳払いをして話し始めた。
「俺は堂本、今回の試験の試験管だ。今回の試験では建物の中に隠された赤いリングを探して貰う。リングの数は7つ、リングのある場所には必ず罠が仕掛けてある、それを死なずに持って戻れたら合格だ。制限時間は30分。では、開始!」
唐突な説明と開始予告に啓助は少し戸惑ったが、迷いを捨て建物の階段を1コ飛ばしで上がっていった。ほとんどの階は他の挑戦者で埋まっていた。おそらく同じ階にリングはないだろう。探すのだけでも手間取らせるなら尚更だ。啓助は8階にたどり着き奥に進んでいった。すると、いかにも取って下さいと言っているかのようにリングがテーブルの上に置いてあった。
しかし、これはおかしい。「罠は必ず仕掛けてある」のだから注意が必要だ。そう察した啓助は、胸ポケットの手帳をリングに向かって投げつけた。するとテーブルの辺りの壁や床から鋭い槍が一瞬にして手帳を貫いた。啓助は何となく危険を察し、ズボンのポケットにあった音楽プレイヤーを投げた、すると周りからは熱線が飛びだし音楽プレイヤーは灰と化した。啓助は槍のすき間からリングを取ると「まだ10ページ以上残ってたな」と少し手帳のことだけを悔やみ1階に下りていった。
1階に下りていくと6つの死体が運ばれていた。堂本はそれを見送った後、振り返り啓助に言った。
「おめでとう、合格だ。しかし、こんな簡単な仕掛けが分からないとは・・・・人が死ぬのを見るのは嫌なもんだな」

7ライナー:2011/05/14(土) 16:29:05 HOST:222-151-086-017.jp.fiberbit.net
「辻、お前を採用する。いっしょに本部に来てくれ」
堂本が車を出すと今度は本部へと向かった。本部に着くと全体がコンクリートで出来た大きい建物が建っていて、周りには防衛システムが完備されていた。中に入ると通路は狭く、やはりコンクリートの壁で覆われていた。
「お前は、俺が率いる第6番隊に所属して貰う。悪いが他の上官は出回っているので挨拶は省かせてもらう」
狭い通路を抜けると、堂本は奥の突き当たりのドアを開けた。すると同年代くらいの男女4人が椅子に座っていた。
「辻、これがお前のチームメートだ。皆も新しいチームメイトの辻を歓迎してやってくれ。それじゃあ、俺はまだ仕事が残っているから辻を頼むぞ」
そう言い残すと、堂本は部屋を出て行った。
「あー、俺は辻啓助。宜しく・・・」
啓助の挨拶に対して誰も反応しなかった。さっきよりも嫌な雰囲気が流れている。4人は座っていながらも、別々のことをしている。とても同じチームメイトだったとは思えない。
1番左に座っている少年は事務机の上に足を置きながら座って腕を頭の後ろで組んでいる。フーセンガムを膨らませる事に至っては、不良にしか見えない。髪は短めで前髪は眉に掛かるか掛からないかくらい、後ろ髪は変な癖が付いており跳ねている。しかし目や髪の色は夕日のようにキレイな朱色だった。
左から2番目の少女は目は澄んだ水色で、薄い桃色の髪をしており2つに結んである髪は少しカールが掛かっている。その髪をいじりながら鏡を見つめている。
その隣の少年は山吹色のバンダナを被り、黒い前髪が少し出ている。目はとても細く開けているかどうか分からない。多分自前だろうが、袋にたっぷり入ったロールパンを一人でバクバクと平らげている。肥満気味なのが気付いていないくらい集中している。
最後の少年はメガネを掛け、本を読んでいる。いかにも真面目なオーラが漂っている。髪は眉が少し隠れるくらいで全く癖がない黒髪。少しアンバランスなのが親の遺伝と思われるエメラルドグリーンの瞳だった。
団体服ということか、全員、堂本と同じゴアテックの姿だった。少女の方は同じ柄のスカートに紺のスパッツという配慮がしてあった。
少しして、メガネの少年が本を閉じ、話しかけてきた。
「皆さんが遠慮深いようなので僕から先に自己紹介を、僕は黒沢 乃恵留(くろさわ ノエル)趣味は読書、以後宜しく」
乃恵留は啓助の「宜しく」を聴かずに本を再び読み始めた。今度はバンダナの小太り少年がロールパンを食べ終え、話しかけてきた。
「ふー、じゃあボクも自己紹介だ。ボクは井上 洋(いのうえ よう)趣味は食べること〜。よろしく〜」
さっきの素っ気ない挨拶から一変少しだけ場が和んだ。重苦しい空気に耐えきれなかった啓助はホッと胸をなで下ろした。しかし、その後から2人は挨拶する様子が見られなかった。
「あれ〜?2人とも言わなくて良いの?」
洋が2人に呼びかけると渋々少女が話し始めた。
「私は水野 零華(みずの れいか)宜しく」
また素っ気ない挨拶だ、何だかもう聴く気にもなれない状態の啓助はもううんざりしていた。
「趣味とかは良いの?」
「話して何になるのよ」
小規模なケンカまで起こってきた。横にいる乃恵留と不良っぽい少年はいつものことのように無視している。啓助は嫌な雰囲気を止めようと、不良少年に話しかけた。
「えっと・・・君は・・・?」
不良少年はガムを包み紙に吐き、その紙を見事にゴミ箱にシュートさせると話し始めた。
「俺は、城嶋 煉(じょうじま れん)あんな簡単な試験受かったくらいで調子乗るなよ。本来は第5次試験まであるんだからな」
何だか大変な生活になりそうだ。そう思う啓助だった。

8ライナー:2011/05/15(日) 17:11:46 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
3、初任務
与えられた小さな個室で啓助は1夜を過ごした。ベッドとクローゼットしかない6畳くらいの部屋だったが、あんなチームメートと一緒にいるよりはずっと良い。そんなことを思いながら啓助は眠りについた。
翌日、啓助が起きると昨日与えられた携帯がバイブ音を鳴らしている。
「ハァ、何も携帯まで共同にしなくてもなぁ・・・」
啓助は携帯を開くと着信メールをチェックした。洋からだ。
〜チームルームに集合。D班なので間違いなく!〜
どうやら洋とは仲良くできる雰囲気だ。啓助は素早く着替え、自分の個室を後にした。
チームルームに入ると、もうしっかり4人揃っていて今まで一緒にやってきた感じが少し分かった。
「皆、おはよう・・・」
案の定洋だけが挨拶を返した。
「あ、啓助君おはよ〜」
「で、何で集合掛かったんだ?」
「この時間は任務報告があるから、毎日この時間に集合なんだ。覚えといてね」
すると、部屋のスピーカーから堂本の声が聞こえた。
「第6番隊D班聞こえるか?今回は1番隊の援護として2人ほど頼みたいのだが・・・」
「黒沢乃恵琉、行きます」
乃恵琉が真っ先に声を上げた。後は嫌そうな顔をして黙っている。
「黒沢か、よし分かった。じゃあ新人の辻も連れていけ。軽く予行練習だ」
「はい、分かりました」
「以上、後は各自次の任務を待て」
そう言うとスピーカーの電源がプツリと切られた。
「では啓助君、行きましょうか」
乃恵琉とは転送ルームで集合となった。
「武器を持ってけとは言われたが、エアライフルしかないよな用意されてんの・・・」
仕方なく啓助はエアライフル一丁で転送ルームへと向かった。乃恵琉は待ちくたびれたのか、また本を読んでいる。
「悪い悪い、待たせたか?」
しかし乃恵琉は黙ってこちらを睨んでいる。
「ん?どうかしたか?」
「君、エアライフルしか持ってこなかったんですか?」
「え?そうだけど・・・」
乃恵琉はため息をつくと厳しくこう言った。
「確かに、ここのエアライフルは使い勝手が良い道具ですが、ほとんど補助にしか用いりませんよ。レンタルぐらい出来るので他に持ち合わせたほうが良いかと・・・」
啓助は何も言い返せなかった。ここまで言われると、むしろ言い返したく無くなる。
「見ているようじゃ君もアビリティを持っていないようですね、まぁ選ばれた人以外使えないことになっていますが・・・それなら尚更優秀な武器が必要なのでは?」
「『君も』って事は乃恵琉もか?」
「・・・僕は能力のために命を落としたり、体の環境に気遣ったりするのが嫌なだけです。それに、この僕の作った銛の方が使いやすいですから」
そう言われて啓助は、乃恵琉の後ろの方を見てみると深緑のシンプルな大きい銛があった。
「それのことか?」
「ええ、これは僕の愛用している『ナチュラルランス』という銛です。空気中のマイナスイオン、プラズマなどを動源力として動き、地面に突き刺せば植物の生長を操り攻撃したりも出来ます」
「へぇ〜。俺、理科とか科学とか良く分かんないけど、凄い銛だな」
すると突然、乃恵琉が吹き出して笑い出した。真面目な感じからはとても想定が出来ず、啓助も驚いた。
「ハハハ、君は面白い人ですね。エアライフルしか持ち出さないのに僕の『ナチュラルランス』の良さが分かるなんて」
「し、失敬な!俺だってそのぐらい分かる!」
「他のチームメートもこんな感じだと良いんですけどね・・・」
「え?」
「他のチームメートは僕のお陰で成功できた様な任務も、自分の手柄のように言ってちっとも遠慮深い人たちではないので・・・・その替わり自己紹介は遠慮深いようでしたが」
「確かにそれは言えてるな、そうか、だからあんなにギスギスした感じだったのか」
「まぁ、雑談はさておきそろそろ行きますか、戦闘は笑って出来るものではありませんし。仕方ないので君はなるべく後ろの方で身構えて下さい危ないので」
「オーケー、分かった」
そう言って、転送装置のボタンを押し、2人は光に吸い込まれるように消えていった。

9ライナー:2011/05/15(日) 21:27:57 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
済みません。今気付きました^^;
≫6の試験官の所が試験管になっていました。申し訳ありません。

10ライナー:2011/05/16(月) 23:14:10 HOST:222-151-086-009.jp.fiberbit.net
光が消え、目を開けるとそこは荒野のど真ん中だった。乃恵琉は背中の鞘からあの銛、『ナチュラルランス』を取り出し、辺りを見回した。
「どうやら、北西あたりでゴタゴタが起こっているようですね。では、啓助君はエアライフルでなるべく高位置から獣を狙って下さい」
そう言うと乃恵琉は北西に向かって走り出していった。啓助もなるべく高い位置を見つけ出そうと北西へと進んでゆく。しかし、高位置を探すが、こんな荒れ果てた荒野には1つも高位置の場所なんか無く、平地ばかりが佇んでいた。啓助はあきらめ、そのまま進んでいくことにした。しかし移動している最中どうも服のポケットから何か違和感を感じる。啓助は立ち止まりポケットに手を突っ込んで確かめてみる、すると1本の試験管が中に入っていた。試験管の中身には青い液体が入っている。
「ん?この試験管、何か見覚えが・・・・・」
 〜回想〜
啓助は乃恵琉との約束の転送ルームに待ち合わせになっていた頃、啓助は慣れないユニオンの中でさ迷っていた。
「ここは通路が狭いくせに、難しい構造になッてんな〜!」
暫くいろんな場所をさ迷っていると、1つの自動ドアが目に留まった。
啓助は恐る恐る部屋の中へ入っていくと、そこには金属系の棚がある間隔開けて並んでおり、棚の中にはビッシリと試験管が並べられていたのである。
「間違ったな・・・」そう言うと啓助は同じようにドアの前に立つ、しかしピクリともドアは反応せず、電子蛍光板には「ロックON」と記されている。
「え、マジで!?ねらい打ちじゃないロックオンだなんて久々に見たぞー!てか、頼むから開いてくれー!」啓助はドアを両手で強く叩き付ける、しかしドアの蛍光板の「ロックON」は消えず、また同様に自動ドアも動く気配すら見せなかった。さらには、叩き付けた振動で棚に並べられた試験管が1つずつ勢いよく落ちてくる。
「嘘だろ!?」
啓助はユニオンで用意されたゴアテックパーカーを素早く脱ぎ、それをクッションとして上手い具合に試験管を全て受け止めることが出来た。
すると突然、今までうんともすんとも言わなかったあの自動ドアが開き、その目の前には白衣を着た青年が立っている。
「あっれ?君、ここは立ち入り禁止のはずなんだけど・・・」
「あーっと、すいません・・・ちょっと道身迷っていまい、気が付いたらこんな事に・・・」
啓助は先程受け止めた試験管を指さし、そう言った。
「ん?てことは新人君か。それに紫のラインって事は6番隊の辻啓助君かぁ!堂本君から話は聞いてるよ。まぁ、彼も隊長としては新人だからねいろいろ大変なんだろうけど・・・・」
「は、はあ・・・(堂本隊長って隊長としては新人だったのか・・・)」
「僕は3番隊隊長の矢杉、宜しくね」
さっきの話からも連想すると、矢杉は白衣の下に緑のラインのゴアテックパーカーを着ている。隊ごとにラインの色が決まっているらしい。しかしこの男隊長としては随分軽い・・・・・
「おーっと、話なんかしてる場合じゃなかった。ここのドアの修理を任されていてね。あ、それとその試験管そこに置いといて」
「分かりました・・・」啓助はそう返事をすませると、さっさとその場を去っていった。
「なんだあの人?隊長なのに軽い、軽すぎる・・・・もはやヘリウムレベルの問題じゃねぇ・・・」
 〜回想終了〜
「ま、後で返しとくか・・・」
そう言って啓助は試験管を元のポケットの場所に戻し、任務へと戻った。早々走っていると、目の前にゴリラのような体型をした獣が立っていて、近くにいた乃恵琉が見事な銛裁きで次々と獣を倒していく。乃恵琉の話していた植物を操る力は出すまでもない、という感じだ。
「あれ?啓助君そんなところで何をしているのですか?もう引き上げますが・・・」
「え、もう引き上げんの!?」
「引き上げると言っても、ここでいったんキャンプを張るそうです。何せ、今の時期獣は発生期らしいので」
そうこうしている間に辺りはもう夜だ。啓助と乃恵琉は同じテントで寝ることになり、乃恵琉は遅くまでユニオン全体のこと、アビリティのことなどを指導してくれた。啓助が乃恵琉の話しにウトウトしてきていると、遠くの方からなにやら爆発音のような物音がした。
「何だぁ?今の音?」
「何でしょうか?落石の音とかですかね?」
「ふぅ〜。なんかのど乾いてきたな・・・お、そういや飲み物がポケットに〜♪」と、鼻歌なんて歌いながら、昼間の試験管を取り出しふたを開け、そのままグイッと飲み干した。
「うっ!何とも言えないこの変な後味・・・・良薬口に苦しってやつか?」
「え、啓助君それは・・・!」
乃恵琉が言いかけると、さっきの物音がすぐ目の前で起きていた。一瞬にしてテントの屋根が吹き飛ばされ、昼間見た獣がこちらを睨んでいる。しかも昼間のやつらよりも何倍も大きいものと見られる。

11ライナー:2011/05/18(水) 15:54:14 HOST:222-151-086-009.jp.fiberbit.net
4、異能力(アビリティ)発動!
獣は太く丈夫そうな腕を振り上げ、攻撃体勢に入っている。乃恵琉と啓助は素早く躱すが、不幸なことに乃恵琉の『ナチュラルランス』は獣の足下にあり取れそうにない。
「しまった!僕の武器が!」
さらに、今キャンプを張っている場所は第一番隊のキャンプの補助として決められた数キロ離れた場所なのだ。啓助達は必死にエアライフルで応戦する。しかし、獣の方は何ら反応もせず、痛くもかゆくもないようだ。
「くっそ!エアライフルが効かないなんて・・・・・」
獣はまた腕を振り上げ殴りかかろうとしてくる。エアライフルが効かない今逃げまどうしか方法がない。2人は暫く獣の攻撃を躱し続ける、だが逃げるだけでも着実に体力は消耗してゆく。
「乃恵琉!なんか方法はないのかよ!」
「僕の武器は取りに行けないし、エアライフルも効かないとしたらちょっと・・・」
さすがに獣の方も疲れてきたのか、少しのインターバルで目線を下に落とす。そしてついに足下のナチュラルランスに気付き、それを持ち上げる。ナチュラルランスは全長150センチくらいの長い銛だったが獣が持つとフォークのような大きさに見える。
「まずいです。このままでは、2人共八つ裂きに・・・・・」
「ど、どうすんだよ乃・・・・」
啓助が言いかけると、乃恵琉の方向に獣がナチュラルランスを向ける。乃恵琉は瞬時に気付き、躱そうとするが、躱しきれずに腕を負傷する。その上、ナチュラルランスを刺した部分から棘の付いた蔓が乃恵琉を襲う。これがナチュラルランスの能力らしい。
「くぅっ!・・・・」
「の、乃恵琉!」
乃恵琉は全身に擦り傷や切り傷を負い、意識を失ってしまった。そうなるともう戦えるのは啓助1人のみだ。しかしエアライフルさえ効かない今、為すすべがない。そんなとき容赦なく獣の腕が啓助に向かって飛んでくる。
「・・・どうすりゃいいんだよ」
啓助は諦めかけると―――――。

12ライナー:2011/05/21(土) 10:39:21 HOST:222-151-086-009.jp.fiberbit.net
啓助は目を閉じ半ば無謀な守りの体勢になっていた。・・・・しかし何者も動く気配はない、啓助はゆっくりと目を開け獣の方に目を向けると・・・・・獣は片手を上げた状態で凍り付けになっていた。そして氷が割れると共に獣の身体も砕け散った。
「おい!大丈夫か!?」
衝撃音に気付き、第一番隊の面々が押し寄せてきた。傷だらけの乃恵琉を治療し、面々の目に入ってきたのは巨大な獣の凍り付けの死体と、その目の前に立っていた啓助の姿だった。
「つ、辻君。これ君一人でやったのか?」
「え?あ、これは気が付いたら凍り付・・・・」
啓助が言い切る前に相手は話を進めた。
「この大きさは恐らく獣達の親玉と言ったところだろうか。いやぁ〜!新人がここまでやれるとは、これは新人にしてはかなりの実績だよ!」
「はぁ・・・・」
「君はアビリティ持っていないんだろ?だったらすぐにでも貰いに行け!俺の認証着きだ!」
相手の男は啓助の背中を力強く叩くと、大きく声を上げて笑った。
「苑寺さん、確かに新人では凄いことですが、気前よすぎですよ!」
第一番隊の仲間はしょうがないな、と言うように苑寺という男に注意した。後に明らかとなるが苑寺(えんじ)は第一番隊隊長である。
翌日、乃恵琉の怪我も治りユニオンに帰還することになった。
「にしても啓助君。どうやってあの獣を凍り付けなんかに出来たんですか?」
「・・・・それが自分でも分かんないんだよなぁ。気が付いたら凍り付けになってやがんの」
2人はチームルームに戻り一息ついた。
「2人ともお帰り〜。どうだった?」
洋が穏やかに迎えてくれる。昨日まで緊迫していた雰囲気があったのに洋は凄いヤツだ、と啓助はつくづく思った。
「なかなかに手強いものでしたよ。・・・では1番隊隊長の薦めもあるのでアビリティ貰ってきたらどうです?啓助君」
「ん?あぁ、そうだった。んじゃあ行ってくる」
啓助はドアを開け、チームルームを後にした。乃恵琉はテーブルに着きゆっくりとコーヒーを飲みながら呟いた。
「今後が楽しみですね。第6番隊D班は・・・」

13ライナー:2011/05/21(土) 13:46:14 HOST:222-151-086-009.jp.fiberbit.net
啓助はまた迷路のようなユニオンの通路を何度か迷い、指定された場所へたどり着いた。
「はぁ、また道何本か間違えたな・・・・てかみんな地図でも持ってここを歩いてんのかな・・・・」
指定された場所は、なんと任務で転送ルームに行くとき間違えたあの部屋だった。すると自動ドアが開き、3番隊隊長の矢杉が出てきた。
「やあ!遅かったね。もう準備できてるよ」
「いやー、また何回か道間違えて・・・・」
「ハハハハ、まぁ新人ならここの通路覚えるの少なくとも1年ぐらいは掛かるかな。じゃあ、まず検査するからこっちに来て」
「(1年かよ!てか迷っている人が見あたらないのは、ここ1年新人が来ていないって事なのか?それよりもなぜ1年だと分かる?)」
試験管が立ち並ぶ棚を背に2人は奥に進んでいく。1番奥にはまた自動ドアがある、どうやらあそこで『検査』が行われるらしい。
「じゃあ、君はこの中に入ってて、じっとしていてよ検査が長引くから」
啓助はドアの前に立ち開くドアの向こうに向かって進んでいく。中は円形で、円形の壁は殺風景な映像が流れている。
「じゃあそのままじっとしててね」
頭上のスピーカーから矢杉の声が聞こえる。啓助はいわれたとおり円状の室内の中心に立ってじっとしている。暫くしてまたスピーカーから矢杉の声が聞こえた。
「よーし、オッケ−!出て良いよ」
啓助が機械から出ると矢杉が隣でコンピューターを動かしていた。
「啓助君、今君の体の条件に合うアビリティを検索していた所なんだけど、君アビリティを持っているみたいだよ?」
「え?」
「まあ、ちゃんと許可証が出てるから良いけど・・・・君の体に合うのかなぁこのアビリティ」
矢杉は試験官を振りながら呟く。
「ど、どんなアビリティだったんですか?」
「冷気を操るアビリティ、フリーズっていうものなんだけど、まだしっかりしたデータが揃っていないんだよ。とりあえずその能力は、油分に弱いから脂っこい食生活をしていなければ大丈夫。まあ幸い君はスマートだし大丈夫かな」
啓助は心当たりがあった。あの初任務の時、テントを張って休んでいたら大きいゴリラのような獣に襲われ、気が付いたら凍り付けになっていたことを。
「(ま、まさかあれが自分のアビリティだったとは・・・)あ、じゃあそれなら失礼します・・・・」
啓助は部屋を後にしてチームルームに戻る。チームルームには乃恵琉1人が座って本を読んでいた。
「あ、乃恵琉、実は俺能力持ってたらしいんだ・・・・」
乃恵琉は啓助の持っていたあの青い液体が入った試験管をテーブルの上に置いた。
「やはり・・・・ですか。この試験管の中身はフリーズのアビリティだったようですね」
「あ、それ!」
「詳しく話す必要があるようですね・・・・」

14ライナー:2011/05/22(日) 15:55:32 HOST:222-151-086-017.jp.fiberbit.net
5、コントロール
「君が持ち出したこの試験管はあの研究室の物で、このアビリティは採取が難しいと言われる物の一つです」
「マジで!どーしよ・・・・っていうか、ミクロアビリティって獣達によって流出したんじゃ?なんでユニオンにあるんだ?」
「説明すれば簡単でアビリティを持つ獣の体内から採取しているんです。今でこそ増殖研究が進んできていますが、そのアビリティ『フリーズ』は採取しにくい上に増殖能力も低いんです」
「じゃあ、持ち出したと知れれば・・・・」
啓助が言い切る前に乃恵琉が呟いた。
「大騒ぎって事ですね」
乃恵琉はため息を一つ吐き喋り始めた。
「まあ、このことは僕が証拠湮滅するか言い訳でも作るかして何とかします。それよりも第6番隊D班にフリーズの能力を持った人物がいるんです。有効的に使わせて貰いましょう」
「・・・・お前案外現金なヤツだな」
「とにかく、これを有効的に使わない手はないです!そこで相談なんですが、ユニオンのトレーニングルームで使いこなせるようにやってみてはどうでしょう?どの道使えないと不便ですし・・・」
「おお!やるやる!」
「そうですか、しかし僕はアビリティを持っていませんし、洋と煉は任務中ということで、零華に教わって下さい」
確か、零華とは初対面の時、煉くらい態度の悪いヤツだった。啓助の頭から暫く離れていた仲間との険悪な雰囲気が再び蘇ってきた。
「ああ、分かった・・・」
「では僕はやることがあるので失礼します」
そう言うと乃恵琉はチームルームを出て行った。しかし啓助は座ったままじっとしていた。なぜなら、すぐ後ろには零華が壁に寄っかかりながらまた髪をいじっているのだ。
すると突然、零華が話しかけてきた。
「私ならいいわよ」
「え?何が?」
「だから使いこなすんでしょ、フリーズってアビリティ」
「(へぇ〜。厳しい人かと思ったら案外いいとこあるじゃん)それじゃあ、頼むよ」
零華はムスッとして啓助に言った。
「仲間だからって、あんまり馴れ馴れしくしないでよ」
「なんだよいきなり・・・(少しでもいいヤツだと思った俺がバカだった・・・)」
啓助と零華はトレーニングルームへと向かった。
「(やっぱ道分かんねー、どうなってんだここのシステムは!?)」
トレーニングルームに着くとそこはほとんど何もない殺風景な場所だった。
「え、ここでやんの?」
「そうよ、じゃあ始めましょうか。アビリティっていうのは共通点があってアビリティごとの『オーラ』があること」
「オーラ?」
「例えば・・・そうね。この木箱が丁度いいかしら」
零華は自分の周りに木箱を置くと大きく息を吸った。すると木箱が宙に浮き始めた、木箱は宙に浮いたまま零華の周りを回り続けている。
零華が息を吐くと、木箱はゆっくりと地面へ落下していった。
「これが私のアビリティ、『サイコキネシス』のオーラ、主に物を宙に浮かせることが出来る能力よ」
「す、凄いな・・・・」
「こんなんで驚いてちゃ上達しないわよ。あんたは冷気を操るアビリティを持っているんだから冷気がこの辺を漂えばいいんじゃないの?」
啓助も零華の真似をして大きく息を吸う。すると周りからヒンヤリとした空気があるのが分かる。が、まだ物を凍らせるような威力ではない。啓助はため息と一緒に息を吐く。
「その調子じゃまだまだ掛かりそうね、私はちょっと向こうで休んでくるから続けててね」
そう言うと、零華は啓助のコーチを放棄して行ってしまった。

15ライナー:2011/05/25(水) 22:52:35 HOST:222-151-086-021.jp.fiberbit.net
「(え!?マジかよ!俺何一つ覚えられてないってのに!?)」
啓助は驚きを隠せない表情で零華の後ろ姿をボォ〜っと見ている。心の中で何度もクエスチョンマークが浮かぶ、やろうと言われてすぐにコーチを放棄されてはたまったもんじゃない。
しかし啓助は反論は出来なかった。また、あの険悪な雰囲気に晒されるのはまっぴらゴメンだ。
仕方なく啓助は練習に戻る。息を大きく吸い全身に力を込める、しかしそう上手くはいかず強張るほどの冷気は出せずにいた。こんな練習が1時間ほど続いた・・・・
「っはぁ〜!全っ然出来ねェ〜」
啓助は地面に寝そべりながらため息を吐く。
すると、まだ朝だということなのか、木箱ばかりが立ち並ぶトレーニングルームへと何人か入ってきた。やはり木箱しかないせいか、個人で道具を持参しているようだ。そりゃ木箱ばかりが積んであってもどうにもならない。最もそれを上手く使いこなせれば問題はないが・・・・
人気のない木箱に不満なのかまた啓助はやる気をなくした様子だ、そんな状態でいると・・・・・啓助の目に入ってきたのは1人の少女の上に何個もの積まれた木箱が落ちようとしている。木箱の角には固定洋の金具まで取り付けられている。
とっさに啓助は飛び起き少女の方へ向かって走る。「危ない!」と呼びかけても「え?」という表情で少女はこちらを向くだけ。啓助は少女を助けようと走るが、言うまでもなく木箱の落ちるスピードが速く全く持って追いつけない。啓助は息を呑み思いっきり手を伸ばす―――。
「駄目だ・・・・追いつけない・・・・」
啓助は諦めかけると―――。

一瞬、『強張るような冷気』で覆われていた。

16ライナー:2011/05/27(金) 08:54:42 HOST:bc31.ed.home.ne.jp
≫15の固定用が固定洋になっておりました^^;
申し訳ありません

17ライナー:2011/05/29(日) 12:18:41 HOST:222-151-086-009.jp.fiberbit.net
啓助は少女の前に立つ・・・・いや立てた。なぜ立つことが出来たのか?啓助は頭上を見上げる、すると倒れてきた木箱がアーチを描くように凍っていたのだ。
「あ、出来た・・・・」
啓助は氷のアーチに圧倒してるが、少女のことに気付き素早く振り返る。少女は驚いて尻餅をついている。
「大・・・丈夫?」
啓助は少女の方へと手を伸ばす。
少女は驚きから覚めて、慌てて啓助の手を掴む。
「あ、あ、あの、あの、ありがとうございましたっ!」
慌てふためく少女の瞳は透き通った紫色で、肩まで伸ばした白髪は赤いリボンでポニーテールのようにして結んでいる。
「あ、いや、どういたしまして」
啓助がぎこちなく礼を言うと、少女が啓助に問う。
「あ、あの、お名前は・・・?」
「俺?俺は辻啓助。最近入団した、6番隊D班のメンバー。よろしく」
少女は俯いた顔を上げ啓助に言った。
「わ、私は第3番隊の・・・せ、関原 恵(せきはら めぐみ)です。よろしくお、お願いしますっ!」
確かによく見ればゴアテックのラインは矢杉と同じ緑だ。
恵は啓助と目が合うと赤面して2,3歩後ずさりをして去っていった。
すると今度は同じ方向から麗華がリンゴを囓りながら歩いてくる。
「どう?調子の方は?」
「いいわけないだろ!いきなりコーチを放棄しやがって!」
麗華はリンゴを芯まで残すとその芯を窓から投げ捨て言った。
「辻って、ああいうの好きなの?」
「ああいうの?(それにお前リンゴの芯・・・)」
「恵のこと好きなの?」
「は!?お前挙句の果てに何言ってるんだよ!それにそんなんじゃ・・・」
すると麗華は涼しげに言った。
「顔赤くなってる」
啓助は一瞬ドキッとして自分の頬を触る。
「冗談よ。とりあえず物を凍らすことが出来たならいいんじゃない?」
麗華は凍り付けになった木箱を背に言う。
「ま、短く言えば合格って事」
何とも喜びづらい合格発表だった。

18ライナー:2011/05/29(日) 12:51:54 HOST:222-151-086-009.jp.fiberbit.net
話の途中だが、少しユニオンのことについて説明しておこう。
アビリターユニオンは主にレンジャー活動をしている組織で、災害などから人々を守る役目を果たしていた。
ユニオンにはミクロアビリティを持つ者達が多くいるが、それはミクロアビリティを作り出した科学者と関わり合う人間が多かったからだ。
また、なぜ多いかというとユニオンの創立者がその科学者と面識を持っているからと言われている。
そして、そのユニオンには大きく分けて9つの隊に分けられている。
1番隊(赤) 2番隊(青) 3番隊(緑) 4番隊(黄)
5番隊(桃) 6番隊(紫) 7番隊(白) 8番隊(茶)
特別専攻部隊(金)
と分けられ、それぞれ隊ごとに隊長が1ずつ付く。
隊はさらにA〜Fの6班に分けられる。班や隊で強さは変わらないが、特別専攻部隊は、1〜8番隊の中から実力のある者の集いで、皆はそこに行けるよう目指す。
特別専攻部隊を目指す者は収入や社会での高い地位を確保する者もいる。
それがアビリターユニオンだ。

19ライナー:2011/05/29(日) 15:00:41 HOST:222-151-086-009.jp.fiberbit.net
第2章
6、SPと殺戮軍隊「キルブラック」
啓助のアビリティ訓練は暫く続き、啓助がまともにアビリティを使えるようになったある日。
朝のチームルーム、啓助が入ってから少し賑やかになったのか喋り声が幾つか聞こえる。
「えぇ〜!お前そんな事してたのかよ!」
「うるさいわね、別にいいじゃないまともに使えるようになったんだから」
すると乃恵琉が仲裁に入る。
「啓助君、麗華さん。朝に静かな一時を邪魔してはいけません。たとえ啓助君のためにサイコキネシスで木箱の山を崩したとしても・・・」
すかさず啓助が反論する。
「でも、すぐ側に人がいる状態でやるなんていくら何でもやりすぎだろ!」
麗華もさらに突っかかる。
「乃恵琉に聞きに行ったときの状況からして、こうでもしなきゃアビリティなんて一生出せなかったわよ」
「だから二人とも・・・・」
乃恵琉が言いかけると煉が大声で言う。
「うるっせーんだよ!」
全員が驚いて暫く沈黙が続く、すると煉が言う。
「そんな甘ちゃんなんかの指導なんてしなくていいんだよ。チーム内では空気だ、空気!」
さすがに今のは頭に来たのか啓助が一歩前に出る。しかしそれを静めるように乃恵琉が啓助の肩をポンと叩き、煉の目の前に出る。
「君はいい加減にチームとしての心構えを気をつけた方がいいですよ。昔から君は団体行動が出来ず、チーム内がギクシャクしていた。しかし啓助君が来てから一変したとは思いませんか?」
「けっ!そん何分かんねーよ!」
煉はそう言うと乃恵琉から目をそらした。
「君もいい加減素直になったらどうですか?君のように勝ちに拘る人なら、尚更団結力を深める必要があるんじゃないですか?」
「う、うるせぇ!」
煉は大声を上げ壁に拳を勢いよく叩き付ける。
すると間の悪いことにスピーカーから堂本の声が聞こえてくる。
「第6番隊D班取り込み中すまんが任務の依頼だ」
「お騒がせして済みません。続けて下さい」
「今回は世界企業フォーベスの社長の一人娘アンちゃんを護衛せよとの依頼が来ている」
「隊長。質問ですが、大企業ならSPが付いているので問題ないのでは?」
「今回の災害による被害で人数不足だそうだ。とりあえずスリーマンセル(3人1組)で向かって欲しいのだが・・・・」
「では、僕と井上と水野、辻と城嶋で分けます」
「そうか、じゃあ2組は後一人付け足しておくぞ」
スピーカーの電源が切れる。と、同時にまた険悪な雰囲気が流れる。
「乃恵琉てめぇ・・・・」
「君も啓助君と組めば、何か掴めるかもしれませんよ」
そう言い残すと乃恵琉、洋、麗華はチームルームを出て行った。
「俺は・・・・俺は絶対にお前なんかを信じねェ!」
煉は啓助に大声で暴言を吐くと走ってチームルームを出て行った。それを追いかけるように啓助も煉の後を付いていく。

20ライナー:2011/06/02(木) 19:13:19 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
啓助は煉を追う、しかし煉は驚くほどに足が速く一瞬にしてその姿は見えなくなった。
仕方なく啓助は歩いて転送ルームに向かう。
さすがに慣れてきたのか、それともその道しか進まないせいか今度は入り乱れずに着くことが出来た。
すると、「あ、あの・・・・」と聞き覚えのある声が聞こえてきた。
啓助が振り向くと恵が後ろに立っていた。
「え?お前何で?」
恵はまた俯き話し始める。
「そ、そのスリーマンセルの一人として・・・・」
「ああ、そういうことか。じゃあ行こう、煉のヤツ突然走って先に行っちまったけど」
恵は黙って頷くと、啓助もまた黙って機械のスイッチを押した。
今回は場所が遠いせいかワープに時間が掛かった。ワープの間、2人は硬直していた。移動空間でも何でも一つの空間に男女二人という環境は非常に身が持たない。
「あ、あの・・・・」
「・・・な、何?」
「・・・えっと、任務頑張りましょうね」
「え?あ、ああそうだな」
恵の喋る姿は少し啓助から目をそらしていた。その少し赤い頬に啓助は何となく恵の方へ目が留まる。啓助の中で何か疼くものがあった。
啓助は重い口を開いて恵に話しかけ―――。
ようとすると、移動空間は消え替わりに荒れ地とD班の4人が目の前に立っていた。
「遅かったですね」
乃恵琉の一言に啓助は少し目が覚める。任務開始(ミッションスタート)だと自分に言い聞かせて・・・・

21kalro:2011/06/04(土) 17:24:18 HOST:nttkyo007103.tkyo.nt.ngn.ppp.infoweb.ne.jp
面白いよ^^
これからも頑張ろうね。応援してるぜ!
俺のも見てね^^

22ライナー:2011/06/05(日) 00:38:10 HOST:222-151-086-019.jp.fiberbit.net
「では、簡単に任務の配置を言います。僕達はアン様の後ろを、君たちはアン様に着いていて下さい」
簡単な説明を終えると、乃恵琉は一歩後ろへと下がる。すると後ろにいたのは、歳5、6位の女の子だった。麦わら帽子を深く被り、赤と白のチェックのワンピースを着ている。腕には力強くウサギの縫いぐるみを抱きしめていた。
「よろしくね、アンちゃん」
警戒心を解こうと、恵は早速話しかける。しかしアンは警戒心を解くどころか余計に警戒して縫いぐるみが張り裂けそうなくらいギュッと抱きしめている。
「いつもの通り言っておきますが、失敗は許されません。くれぐれも気をつけて」
3人がバラバラに返事をすると、かなりの後方へと下がっていきアンを啓助達に任せた。
任務は任務だからと煉が真っ先に進んで行く。それを追うように啓助、アン、そしてアンにくっつくように進む恵も歩いて行く。

小一時間経つと歩きでもさすがに疲れたのかアンが黙って地べたに座り込む。アンの状態を確かめると恵が発する言葉と一緒に休憩時間が始まった。
「アンちゃん、大丈夫?」
恵が再度話しかける。しかし、アンは深く被った帽子の鐔をにぎりさらに深く被る。金持ちだと人と話さないのだろうか?
暫くして、さあ行こうと言うことになったとたん異変は起きた。周りには何人もの黒装束をまとった連中が、揃って啓助達のいる中心部分へと目線をやる。
「もうお出ましか、護衛のしがいがあるぜ」
煉は余裕の表情で指の骨をボキボキと鳴らしている。
「その少女を渡して貰おう・・・」
どうやら早くも危険が迫っているようだ、黒装束の連中はジリジリと迫ってきている。
「だから相手をしてやるって言ってんだろ!!」
煉は強気で相手の言葉に反抗している。
「やはり口で言っても伝わらんか・・・・行くぞ!」
連中はシンクロして構えを見せてくる。
煉は相手が構えた瞬間、一気に足を踏み出した。

23ライナー:2011/06/05(日) 09:28:19 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
書込みながら気付いたんですが、ファンタジーでなくSFですね。これ^^;
なんかジャンルが意味不になってしまいましたがSFということでよろしくお願いします。

24ライナー:2011/06/05(日) 10:53:29 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
それは一瞬の出来事だった。
啓助も戦おうと踏み出した途端に何故か連中はうなり声を上げて倒れてしまった。
「口ほどにもねェな、こいつら・・・」
煉が後ろから呟く。まさかあの一瞬で事を成したのか?啓助は自らの目を疑う。
「え?今何が起こったんだ?」
「鍛え方が甘いと見えねェんだよ、甘が。しょうがねェから教えてやる。俺のアビリティ『ファスト』は速度マッハで移動できる代物だ、覚えておけよ」
今の発言でやっとつじつまが合う。しかしここまで速いと驚きだ、瞬時に相手の急所を突きその後また同じ場所に戻っているのだから。
すると今度は後ろからやけに短い拍手が聞こえてくる。
「お見事だ。マジで素晴らしい速さだ事だ、評価するなら100点満点中30点くらいってとこだな」
「何だてめぇ?勝手に俺のスピード評価してんじゃねーぞ」
突然、煉の速さを評価した男は赤いマゼルショートの髪をしており、赤いシャツの上に黒いジャケットを着用していた。
「まあ落ち着けよ、俺の速さもなめたもんじゃないぜ?後ろの3人トリオをやったんだからな」
3人が男の後方を目をこらして見てみると血の跡が点々と付いている。
「テメェ・・・!」
煉は男に向かって足を踏み出す。そしてまた瞬間移動をするように男の目の前まで走り着き、煉の右の拳が男の顔面に向かっていくのがかすかに見えた。
しかし煉の拳は男の鼻先で止まる。煉の右腕はガッシリと男の左手に捕らえられていたのだ。
「くっ・・・」
「惜しかったな、じゃあ暫くおねんねしていて貰うぜ」
男はそう言うと空いた右手で煉の腹部に突きを食らわす・・・・・が、その腕は同じように煉の左手で押さえつけられている。
「まだ、終わってねぇだろ・・・・勝負はこれからだ!」

25ライナー:2011/06/05(日) 17:05:24 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
「ほぉ、やるなお前も」
2人は互いの腕を掴みながら、汗を流している。
「当たり前だ、乃恵琉達だってどうせ不意打ちだったんだろ?」
「彼奴らのことか、まあ不意打ちと言えばそうだな。しかし、不意打ちぐらい対処出来なくてどうする?」
「ケッ、これだから俺の実力が疑われるんだ。おい!啓助!手出すんじゃねえぞ、俺の獲物だ!関原も手出すなよ」
啓助は驚いた、もしかしたら負けるかもしれない相手にたった1人で立ち向うことが。
「煉、冗談言ってる場合じゃないだろ!?」
「いいから黙って・・・・・」
そう言うと煉は右足を上げる。
「見てやがれ!!」
その瞬間、煉は上げた右足を思いっきり男の腹部に蹴り下ろす。男は掴んだ手を離し捕まれた手を振り払う、そして蹴りを繰り出される煉の足を紙一重のところで後ろに下がり躱す。
「煉っていうのか、お前・・・・」
「それがどうした!」
「いや、明かされたならこっちも明かそうと思ってな、その方がフェアだ」
「・・・・・」
「俺の名はキルブラック後陣隊長の赤羽だ」
その後、暫く2人の睨み合いが続く。
「キルブラックだか何だか知らんが始めるぞ、赤羽」
赤羽はフッと笑い、「オーケーやろうぜ」と一言交わした。
2人は信じられない速度でぶつかり合う。右から突きを出すとあちらも右で、左から出すと左から。一進一退の攻防戦が続いた。
そして何十回目かぶつかり合う瞬間、煉が素早く突きを繰り出す、赤羽は今度は同じ突きを出さずに煉の突きを振り払い、足蹴りを食らわした。
煉は一気に後方10メートルほど飛ばされる。煉は素早く体勢を立て直そうとする、が、
「残念だったな、煉」
煉の首筋には赤羽が握りしめるナイフがあざ笑うかのように光っていた。
「ちっ・・・・」
「死ねぇぇ!」
赤羽がナイフを煉の方に向かって突き刺そうとする。だが、赤羽のナイフを持つ腕は凍り付いていた。
赤羽が振り向くと、啓助が両手を前に出して赤羽を睨む。
「こっちの人材を忘れないで欲しいな、赤羽」

26ライナー:2011/06/08(水) 22:54:48 HOST:222-151-086-017.jp.fiberbit.net
「貴様ら、一体何がしたい?1人で来るんじゃなかったのか?」
赤羽は腕の氷を砕き、啓助を睨み返す。
「今度こそ1人で行かせて貰う、だいたい戦い慣れてるならそちらこそ覚悟は出来てるんじゃないのか?」
啓助も果敢に睨み付ける。
赤羽はフッと笑い、静かに言った。
「今日は随分名で呼ばれるもんだなぁ・・・」
煉は煉でもう戦意を自ら捨てているようだ。
「啓助、お前の実力見せてみろよ。俺は向こうで黙ってみてるから」
「ああ、本格的な実践だ。やってやる!」
啓助はそう言うと赤羽の方へと突進して行く。赤羽はそれを見切り、啓助の頭上を跳び越える。
「良い機会だ、お前らに教えてやるよ。キルブラックを」
そう言えば赤羽はキルブラックの後陣隊長とか言っていた。啓助は警戒しながらも赤羽の話に耳を傾けた。
「キルブラックはこの異能時代を切っ掛けとする事件で動き出した軍隊。お前らも色々あるだろ?実力が学力だけで問われたり、数字ばっかりで順位を決める世の中の嫌な部分が」
「・・・・・何が言いたい?」
「要するにこうよ、数字で表す世の中を消して皆に平等に仕事が回る世界。ホームレスだっていなくなって公園も平和になるゼ?」
「それはお前らキルブラックの雑用と言う訳か・・・」
「聞き捨てならんなぁ、お手伝いだっての。だいたい今はキルブラックって脅し入れた名だがよぉ、それは邪魔なヤツが入らないようにしてるだけだってのに」
「だからといって逃げるつもりはない」
「俺は忠告したぜ、危ねぇってな。でもやるならとことんやるぜ・・・・ちっとは話の分かるヤツだと思ったがちっと過ぎたなガキ」
そして2人は即座に走る足を踏み込んだ。

「ちょっと、良いんですか?加勢しなくて?遊びじゃないんですよ?」
「関原、そう心配すんな。弱点が見つかり次第援護に向かう、俺だって少しは頭使うんだぜ?」

27ライナー:2011/06/09(木) 22:41:30 HOST:222-151-086-017.jp.fiberbit.net
啓助と赤羽は、互いにぶつかり合い突きや蹴りなどの攻防を続けていた。
「啓助、あいつやけに戦い慣れてるな・・・・」
「そうですね煉さんと同じくらいですかね?」
攻防を続けている中で段々と相手方の攻撃スピードが増し、啓助はほとんど防戦一方になった。
「(くっ・・・・このままじゃやられる・・・)」
啓助は防御をしながら、殴り合いであることを思い出す。

その頃啓助は一つの中学校に通っていた。
啓助はクラスでは目立つか目立たないか微妙なキャラだった。
そんな啓助には多くいる中でも1人の親友がいた。その親友とはいつも張り合ってばかりでよくケンカをして指導室に何度か呼ばれもした。これが啓助が我流で突きや受けを学んだ切っ掛けとなった。
その親友とは、とても仲が良いがその分ケンカも多いと言う訳だ。いつも殴り合ってケンカをしていて啓助はいつもギリギリのところで負けてばっかりだった。
沢山ケンカをした中でも一番悔しかった思い出がある。
いつものように些細なことでケンカをして殴り合っていた。お互いが体勢を立て直して次の一発に力を込める、2人とも右ストレートに近い構えだ。スピードはほぼ互角、啓助が殴ろうとした瞬間に親友の右手が啓助の右腕を押さえ、啓助が呆気に取られている隙にその親友は左アッパーを食らわしてKO負けとなった。
あの時、躱せていればと今でも悔しく思う。いるかは定かではない親友・・・・

必死の防御にさすがの赤羽も疲れが出たのか、強い蹴りで啓助を後方へと飛ばし距離を置いた。
「フー・・・・守ってばかりじゃどうにもならんぞ?掛かって来いよ」
啓助は黙って痣だらけの腕をボクシングガードから突きの構えへと変え赤羽の方へと素早く足を運んだ。
赤羽も軽いインターバルを終え素早く足を運ぶ。
互いに右ストレートのポージングを作る。
「(・・・!これは!)」
そうあの時と同じ右ストレートを・・・・・
同じように互いに顔の近くまで接近する。そして右の拳を相手の顔面へと双方が送り合う、そうすると啓助の目に一瞬赤羽の拳が開くのを見た。あの時とまるっきり同じだ。
啓助は姿勢を低くし勢いを付けた右手を重心として前転し、その勢いで冷気をまとった回し蹴りを赤羽の腹部に食らわす。
「ぐはぁっ!」
赤羽は後方10メートル程飛ばされ、凍った血を光らせた。

28ライナー:2011/06/11(土) 00:50:47 HOST:222-151-086-018.jp.fiberbit.net
7、新隊員
「か、勝った・・・・」
啓助はホッとして座り込むように力が抜ける。
すると、煉と恵が近くに寄ってきた。
「啓助お前少しはやるじゃねーか!甘は撤回してやるよ」
「け、啓助さん凄かったです。か、格好良かったです・・・」
「ああ、ありがとう。それより乃恵琉達はどうなった?
「あ、それは私が治療しておきました。それで今の状態じゃ足手まといになるから先に行っていて下さいって・・・」
その言葉を聞くと煉は進行方向を変え、
「行くぞ」
とだけ言った。
後は苦もなく何とか任務を終わらせることが出来た。

 翌日
啓助は朝起きて真っ先にチームルームに入っていった。
「お早う御座います。今日はやけに速いですね、啓助君」
乃恵琉がほとんど全身に包帯を巻いて椅子に腰掛けていた。病室に行かないのはユニオン隊員の意地と言うことだろうか?
啓助はいつものように挨拶を返すと、何か足りないことに気付いた。煉がいない。
「あれ?煉は?」
すると今度は洋が両手にいっぱいのパンを抱えて奥から出てきた。
「何だか、特別専攻部隊に選ばれてこの班を離れるんだって」
「啓助君には宜しくと言っていましたよ。まぁでも、特別専攻部隊と同じ仕事を受けられれば大丈夫ですし、僕達の頑張り次第ですね」
「そ、そうか・・・・」
するとチームルームのドアが突然開く。そこに立っていたのは堂本だった、横にはなにやら赤いニット帽を被っていて、目は鋭く茶色と言うよりオレンジに近い瞳をしてる少年がポケットに手を突っ込んでこちらを見ていた。
「柿村これからはこのメンバーがお前のチームメンバーだ。いいな?乃恵琉達も済まんな人手が多すぎて配分も大変なんだ、速くも煉が抜けて辛いだろうが頼んだぞ」
そう言い残すと堂本は素早く部屋を出て行った。
「わいは柿村熱也(かきむら あつや)ま、仲良うしてや」
ヒップホップでもやっていそうな姿は大阪弁をギャップとして目立たせた。

堂本は狭い通路をひたすら歩いていた。するとポケットから携帯の着信音が鳴る。
「もしもし俺だ。赤羽をやった所に俺は監視役をある班に送らせた、なんとしてでも氷のアビリティが必要なんだ。次はしくじるなよ・・・・」

29ライナー:2011/06/11(土) 18:26:08 HOST:222-151-086-009.jp.fiberbit.net
「では、今日は隊長から任務を預かっていないので柿村君と交流を深めましょう」
「お前そんな体して、あんまり無理しちゃアカンで?」
それから暫く、熱也の思い出トークなど冗談を交えて聞かされた。いつもなら楽しめるんだろうが、啓助は煉の替わりが熱也だと思うと少し胸が痛むようだった。
翌日、啓助はチームルームに10分程遅れて入った。
「おっ、おはよう」
「こういう場合は遅よう御座いますと言ったところでしょうか?」
乃恵琉に朝から笑顔でどぎつい言葉を浴びせられる。慌てて席に着くと1人足りないのに気付いた。
「あれ?熱也は?(なんか昨日も似たようなこと言ってたような)」
「柿本君は朝早々から隊長に呼ばれていきましたよ」
乃恵琉は飲み終わったコーヒーカップを食器洗浄機に置き、スイッチを押した。一日でだいぶ包帯が取れている様子だ。
「それよりも任務の連絡が来ていますよ。キルブラックの動きをユニオンもキャッチしたようで、専攻部隊と同行だそうです。」
「え!じゃあ、煉に・・・・」
「早速会えますね。僕達は傷が完全に癒えていないので啓助君一人ですが大丈夫ですか?」
「え?ああ、大丈夫。じゃっ行ってくる!」
啓助は張り切った感じでセカセカと部屋を出て行った。
「ねぇ、なんか変じゃない?」
麗華がまたもや部屋の奥から出てきて言った。
「そうですね、僕も思います」
「え?何が?」
どうやら感づいていないのは洋だけのようだ。
「煉がこんな急に昇格するなんて・・・・それに柿村の方もなんかおかしいと思わない?」
「うーん、普通じゃないかな?」
「あんた本当に鈍感ね、何に対しても・・・・」
「柿村君を入れるために煉を昇格させた・・・・と言うことですかね?」
「恐らくね・・・・」

「ボス、なんか用ですかいな?」
暗い部屋の中で堂本と熱也の姿が見える。
「柿村、隊を適当な所に動かした。辻のヤツに隙を生ませるためにやって貰いたいことがある。専攻部隊の・・・・・・」
「・・・・はいはい、承知しましたで」

30ライナー:2011/06/12(日) 10:29:00 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
啓助は急いで転送ルームへと足を運んだ。
転送が終わり現地に到着すると赤いゴアテックパーカーのラインが光を帯びていた。
「ん?おお、辻じゃないか」
気配に気付き振り返ったのは第一番隊隊長の苑寺だった、会うのは初任務以来だ。
「お前らが戦ったキルブラックだっけか?そいつらが暴れてるッてんで俺も行ってみたが、ホレ」
苑寺は両手に掴んだ気絶した黒装束の人間を見せた、あの黒装束の連中はやはりキルブラックだったらしい。
「他にも下っ端らしき奴らしかいねぇ・・・・・にしてもこの俺がたった10人やるだけでも苦労するとは、幹部は相当強いらしいな」
10人も!と啓助は驚いたが、隊長にしてみればこのぐらい普通なんだと思うとあの時の煉の強さが身に染みた。
「あの、煉はどこにいますか?」
「煉のヤツか?あいつは入ったばっかりで使い回されていねぇからキャンプの方にいるだろ」
その言葉を聞くと啓助は急いでキャンプの方へと駆けていった。すると、少し歩いてから煉の姿が見えた。
「煉ーッ!」
「ああ?何だ啓助か」
「何だとは何だ!」
煉は相変わらず雰囲気は変わっていなかった、しかしただ一つ変わった点と言えばゴアテックパーカーのラインが金色に輝いていたことだ。
「煉、お前金色似合わねェな」
「うっせーよ!全員着用なんだからしょうがねーだろ。にしてもお前は何でここに?」
「任務で呼ばれた以外何があるんだよ」
「何にせよ残念だったな、ここには下っ端共しかいねぇよ。あんな洞窟に何しに行くんだか知らねえけどよ」
煉が見上げた先には巨大な岩山があり、幾つもの穴が開いていた。
「俺は最終チェックにいくことになっているんだが、お前も来る?」
「煉、お前が失敗しない様に着いてってやるよ」
「お前も言うようになったな、啓助・・・」
そうして2人洞窟へと足を運んだ。

31ライナー:2011/06/12(日) 12:10:27 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
「下っ端はもうほとんど倒したからちょっと見たら帰るぞ」
洞窟の中はやけにひんやりしていた、進む度滴の落ちる音も聞こえる。
暫く大きい一本道を進んで行くと2つの分かれ道と遭遇した。
「俺は右手に行く、啓助お前は左の方へ行ってくれ。後でここ集合な」
「分かった、後で戻ってこないとかミステリアスな事すんなよ」
「する訳ないだろ」
そうしてお互い別々の道へと進むことになった。
「・・・・ハァ、啓助の奴大丈夫かな・・・?」
煉は細い道を通り抜けると、洞窟の広間へと出た。
「この先・・・・は無さそうだな」
煉がこれ以上進めないと認識し、回れ右をすると後ろから声が掛った。
「ちょっと待たんかい!」
煉が思わず振り向くと、赤いニット帽と紫のラインのゴアテックパーカーを着た少年が立っていた。
「何だぁ?第6番隊・・・・?見ねェ顔だな」
「そりゃそうや、この前入ったばかりやからな」
煉の前に立っているのは、なんと柿村熱也の姿だった。
「悪いが、死んで貰うで」

その頃啓助は同じように細い道を歩いていた。
「気味悪ィな、早いとこ終わらせてサッサと戻るか」
すると穴から少し太陽の日差しが差す洞窟の広間へと出た。
「んーと、これ以上進めないな・・・ってええ!?」
何とその広間内には先行隊員の血だらけになった死体が幾つも転がっていた。
啓助は床に転がる死体を見ながら奥へと進んでいく。すると和服を着た男が胡坐をかいて座っていた。
男は黒く長い髪をしていて片手には長刀を持っている。雰囲気からしても『侍』がにじみ出ていた。
「拙者もしたくて殺したのではない、正当防衛というやつだ」
そういうと男は刀を杖代わりにして立ち上がり、刀を腰の鞘にしまった。
「ここまでして正当防衛はないだろーが!」
今の啓助には何故か恐れはなかった、今までの自分の心の弱さがどこかに吹っ飛んでいたのだ。
「恐れを知らん眼だな、良いだろう。正々堂々お主には新刀で楽にしてくれる」
男はしまった刀とは別にもう1つの刀に手を掛けた。
「拙者の名は沙斬キルブラック前陣隊長。お主は?」
「俺はアビリターユニオン第6番隊D班所属、辻啓助だ!」
沙斬はかすかに笑う。
「行くぞ、若造!」

32ライナー:2011/06/18(土) 08:59:27 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
8、ファスト
沙斬は足を踏み出した、だがもうその瞬間から遅かった。
啓助は沙斬が踏み出してくる瞬間しか見ることが出来なかった。
「鈍いぞ、御主!」
沙斬の声が聞こえ、その方向に目を向ける。すると、右肩が出血の音をあげて一直線に刀傷が付いた。
「グゥっ・・・!」
啓助が肩を押さえ痛みを堪えていると、その背の幾らか先に沙斬の姿が現れた。沙斬は横目で啓助の傷を確認すると、刀を鞘にしまった。
「その程度の素早さで拙者に挑むなど無意味、命を無駄にするだけだ」
しかし啓助は、笑みを浮かべている。
「どーかな、それは?」
沙斬は目を疑い振り向くと、啓助の右肩からは凍った血の塊が見えた。
「止血くらいなら容易いぜ」
「しかし、いくら止血が出来たとしても所詮は素早さがなければ無意味だ」
「勝負はまだ始まったばかりだ。ファストくらいどおってことねぇよ」
「ファストの能力を知っておったか・・・・」
沙斬は啓助の方へと向きを変え、刀に手を掛ける。
「だが、拙者の速さを見破れるかな?」
沙斬は同じように気配と一緒に姿を消した。
「(ふー、流石に速いな。もしかしたら煉より速いかも)」

「確か、城嶋煉って言うたなお前」
煉は大量の血を流しながら地面に倒れている。
「・・・・お前は・・・・何・・・・モンだ・・・・」
「済まんなぁ、わいキルブラックの一員やねん。お前が追い詰めた赤羽っちゅうヤツの仲間なんや」
「貴様ぁ・・・・・!」
「お前が死ぬ前に早くアビリティ取り出さんとなぁ」
熱也はなにやらポケットから奇妙な機械を取り出し、煉に取り付けた。
「・・・・!」
機械音と一緒に煉は声を出せずに苦しみ、周りをのたうち回った。
機械音がやむと、煉はぐったりして目を瞑った。
熱也は機械から1本の試験管を取り出すと、その場に煉を残して去っていった。
「煉、命と引き替えにアビリティ有り難く頂いたで・・・・」

33ライナー:2011/06/18(土) 12:01:51 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net

「結局はただ早く動いて姿が見えないだけ・・・・」
啓助は目を凝らして辺りを見渡す。ゆっくり構えながら両手に冷気をため込む。
すると、不意に背中に刀傷を負う。
「くっ・・・・」
啓助が後ろを振り向くときにはもう姿は見えなくなっていた。
「(やっぱ速いな、全然見えねェ・・・)」
次の瞬間、さっきよりも勢いよく刀が飛んでくる。次々と連続で啓助の全身に傷を付けていく。
啓助は歯を食いしばり、痛みをはね除け冷気を纏った突きを繰り出す、が、沙斬の驚くほど速い動きに追いつくことが出来ない。
「(これ以上冷気で止血すると体温が・・・・)」
啓助が疲れ行っている瞬間、沙斬の刀の峯に後頭部を襲われた―――。

啓助は目を覚ますとテントのベッドの上にいた。起き上がろうとすると激痛が走った。ほとんど全身に包帯が巻かれていたのだ。
「痛っう・・・!」
すると、テントから苑寺が暖簾くぐりをするように入ってきた。
「あ〜、動くな動くな。その体じゃ歩くのを大変だぞ」
「あの・・・俺・・・・」
「何も言うな、分かってる。あの幹部のことだろ?」
そう言った苑寺の左腕は白い包帯で包まれている。
「傷を負ったが、何とか追い払うぐらいはやった。にしてもとんでもなく強ぇなキルブラックの奴ら・・・」
「・・・・・」
啓助が園児の顔を見ると突然顔が曇った。
「実はお前に話しておきたいことがある」
この言葉を聞いた瞬間、嫌な予感がした。煉の事だ。
「城嶋のことだが、アイツ・・・・死にやがった」
「・・・・・・・!」
啓助は信じられなかった、あのキルブラックでさえ追い詰める実力がある煉が何故死んだのか考えたくもなかった。
「恐らく、キルブラックの連中か、それとも獣にやられたか・・・・」
啓助は、アビリティで家族が死んだことが頭からまた蘇ってきていた。

34ライナー:2011/06/18(土) 17:05:16 HOST:222-151-086-013.jp.fiberbit.net
済みません、≫33の園児は苑寺です。
毎回毎回済みません^^;

35ライナー:2011/06/18(土) 18:47:44 HOST:222-151-086-013.jp.fiberbit.net
暫く啓助は怪我が治るまで治療を受け、完治するまで1ヶ月以上の時が過ぎた。
「キルブラックはここ最近動きがないようですね」
チームルームで乃恵琉はコンピューターを使い、ユニオン情報を調べていた。
「・・・・・」
乃恵琉は黙り続ける啓助を見て、ため息を吐いて言う。
「前から気になっていたのですが、柿村君のことについて調べたほうが良いかと・・・」
「まぁ、そりゃあんだけチームルームに来てなきゃ怪しいわよね」
「・・・・・・決まりですね、麗華も賛成のようですし洋も賛成ですよね?」
「僕はどっちでもイイケド〜」
「・・・・・では偵察しますか、洋この設計図通りにお願いします」
乃恵琉は何かの設計図を取り出し、洋に見せた。すると、洋はチームルームの隅に置いてあるゴミ袋を持ち出し手のひらに置いた。
洋はその手のひらに力を込め、もう片方の手のひらで上からゴミ袋を押さえる。するとゴミ袋は光を帯びて輝きだした。
「・・・・?」
光は見る見るうちに小さくなって行き、手のひらに収まる程度の大きさで輝きが消えていった。
「こんなんで良いかな〜?」
洋の手のひらにはボール型の小さく白い機械がちょこんと乗っていた。
乃恵琉は洋の手のひらから機械を取り上げると機械を一回転させるように確かめた。
「ええ、設計図通りの最高の出来です」
「これは・・・?」
「そう言えばボクのアビリティ知らなかったね〜。ボクのアビリティは『メター』って言って物質変化能力なんだ、物質変化能力にも色々あるらしいんだけどボクは金属を作り出すのが得意なんだ」
そして、本格的に熱也の監視が始まった。

36ライナー:2011/06/19(日) 11:05:03 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
乃恵琉は部屋の外にボール型の機械を置くと、コンピューターの画面に向かってキーボードを操作した。
啓助達も顔を揃えて画面に目を向ける、すると画面からはユニオンの廊下が映っていた。
「カメラに異常はないようですね」
乃恵琉は機械の異常を調べ終えると、不規則にキーボードのキーを鳴らし始めた。
「てか、洋ってこんな複雑なモンまで作れるって凄いな」
「作れるようになるにはだいぶ勉強したけど、あれ以上の小型機は作れない。て言うかあれしか作ったことがないんだ」
そう言っている間にも、コンピューターの中の映像は動き出している。
「でも乃恵琉さぁ、そんな簡単に柿村探せるの?」
「集団訓練ではグループごとに行われますが柿村君は僕らと1度もやっていません。すると、野外の出入り口から待ち伏せすれば、いずれかのグループに紛れて見つかる可能性大です」
暫く操作して、カメラは野外集団訓練所出入り口付近に着いた。しかしいくら待っても熱也の姿は見えてこない。
「ちょっと乃恵琉、完全に的外れじゃないの・・・・」
乃恵琉は必死にコンピューターの画面と睨めっこしている。
「しかし、これで分かったとおり推薦を受けて来ているのではと・・・・・」
流石の乃恵琉も予想できなかったのか、額に汗を浮かべている。
すると突然、カメラの画面から画面故障による白黒の砂嵐が映った。
乃恵琉はとっさにカメラの異常を確かめるために、チームルームのドアノブに手を掛ける。そして開けたドアの目の前には・・・・・・。
熱也が立っていた。

37Cruel crown:2011/06/19(日) 19:35:35 HOST:KHP222009082198.ppp-bb.dion.ne.jp
ご忠告ありがとうございます。
皆様の迷惑にならないよう、気を付けますのでこれからも宜しくお願い致します。

38ライナー:2011/06/25(土) 18:55:49 HOST:222-151-086-017.jp.fiberbit.net
「ど、どうしたんや?そんなに急いで」
その瞬間チームルームの時間が止まった。
乃恵琉はすぐさま正気に戻り、額の汗を服の袖で拭くと熱也に問いた。
「な、何でもないです。それより柿村君もどこに行ってきたんですか?」
「隊長に呼ばれっぱなしで肩が凝ってもうたんや」
乃恵琉はそうですかと一言言うと黙って部屋を出て行った。周りもとても静かにしている。
「・・・・・お前ら何でこんなに静かなんや?もっと明るくパァッとやろうや!」
「こっちは昔のチームメートが亡くなってそれどころじゃないのよ!」
麗華の少し悲しそうな叫び声はチームルームに微かにこだました。
「悲しんでたって何も変わらんやろ!」
そしてまた一つこだまが響いた。

39ライナー:2011/06/26(日) 09:35:01 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
9、遠征
ある日のチームルームで・・・・・
「僕は思うのですが、柿村君は怪しい者ではないと思うのです」
「え、何で!?」
乃恵琉の答えに対し、全員は声を揃えていった。
「あれから暫く聞き込みをしていたのですが、まともに訓練を受けていると言う情報や、任務にも参加してるようで・・・・」
「まぁ、確かにいっつもチームメイトと同じ行動ってのもある訳じゃないしな」
啓助は、乃恵琉の意見に賛同していたが、内心怪しいと感じていた。
すると急にスピーカーから応答が来た。
「第6番隊D班、遠征のことだが急に早まることになった。柿村もすぐに合流させるから準備に着いてくれ」
堂本は急いだ声調でそう言うと、スピーカーの電源が静かに音を上げて切れた。
「遠征?」
啓助は何も分からぬままノエルに問う。
「そう言えば啓助君は、遠征をまだ未経験でしたね。遠征とは2ヶ月に1回交代で行われ、遠くにキャンプを張りその地域の安全を確保することにあります。いざとなれば災害が起こってからじゃ遅いですからね」
「でもさぁ〜、ボク達ってあんまり仕事ないよね」
洋が遊びに行くが如く、暢気そうに話す。
「アンタ本当に馬鹿ね!仕事があるから呼ばれたんでしょうが!?」
麗華はいつものように洋のおちゃらけた所を鋭く言い返す。こう何回もあると怒ると言うより漫才のツッコミをしているように愉快だった。
だが、啓助はそうもしていられなかった。殺された煉の分も、あの時倒しきれなかった沙斬というキルブラックの幹部を今度倒すためにも・・・・・

40ライナー:2011/06/26(日) 11:00:34 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
遠征による地域転送が終わり、第6番隊D班一行は指定位置まで歩いている。
「荒らされてるって言っても、結構家建ってんな」
啓助は19世紀風の家々を見渡しながら言う。
「まぁ、原材料不足で電気などは使えませんがね」
啓助と乃恵琉が話しをしていると、後ろからは腹の鳴る音がした。
「なぁ、そこらでなんか食わへん?」
「そうだよ、もうおなか減っちゃって・・・」
麗華はだらしなく歩く二人を見て、鋭い視線を送る。
「アンタら、今は遊びに来ている訳でも食べ歩きしに来てるわけでもないのよ!?」
麗華のどぎつい姉御口調は、洋と熱也の背筋を思わず伸ばさせる。
「堪忍してぇや・・・・・」
「ハハハ、では適当に飲食店でも探しますか」
「あ、乃恵琉。俺はそこまで腹減ってないからその辺にいるよ」
「そうですか、では暫くしたらあそこの店で落ち合いましょう」
乃恵琉の指さす方向を確認すると啓助は分かったと一言言うと、互いは別々に歩いていった。
啓助は1人町中を歩いていると、左耳から強い刺激が走った。何だ何だと言わんばかりに刺激が走った方に駆け寄ると、木材で象られた吹き抜け窓から見えたのは老若男女がアビリティと思われる技の数々を駆使し切磋琢磨している姿だった。

41ライナー:2011/06/29(水) 22:33:29 HOST:222-151-086-012.jp.fiberbit.net
啓助はその姿にびっくりしていた。アビリティはユニオンでしか使われているところを見たことがなかったからだ。
「気になるかい?」
集中して見入っている中、突然後ろから声を掛けられ驚き振り向いた。すると目の前に立っていたのは黒縁のメガネを掛けた男だった。
その男は少し伸びた茶色い髪を後ろで束ね、ワイシャツに黒いズボンという格好だった。
「その服はユニオンの方だね、何のようですか?」
その男は笑顔を絶やさず、ただひたすらに笑っていた。
「いや、ただ見てただけなんですけど、アビリティってユニオンでしか使われていないんじゃ・・・・・」
啓助の問いに対して、男は表情一つ変えず笑って答えた。
「ああ、その件ですね。それは私がちゃーんとお偉い所に交渉して、免許さえ取れればアビリティを誰でも使えるようにしたんですよ」
啓助はそうだったんですかと言って、その場を立ち退こうとした。しかし、男は啓助の腕を掴み笑って言った。
「まあまあ、せっかく来てくれたんですから私の道場を見ていって下さいよ。ユニオンの方と知ったら門下生も喜びます」
男は啓助の話も聞かぬまま、道場へと引っ張り込んだ。
道場の中にはいると、やはり老若男女が組み手でもするように異能力を使っていた。
「みなさーんただいま戻りました!!」
男が門下生達に呼びかけると門下生達は一斉に動きを止め、その場に正座して「お帰りなさいませ、お師匠様」と声を揃えて言った。今時こんな風景は見ないと思っていたが、こんな所に出くわすなんてと二度三度啓助は驚きを隠せなかった。
「実は、ユニオンのお方が来て下さったのでこれから僕とこの方で一本試合をしようと思いまーす」
「え!?」
ちょっと見るだけのはずが、急展開になってしまった事にびっくりしている、それを見越したのか男は大丈夫ちょっとだけですからと啓助の耳元でささやいた。

42ライナー:2011/07/02(土) 00:29:30 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
啓助は相手のペースに乗せられたまま、1つの試合を始めようとしていた。
「そう言えば自己紹介がまだだったね、僕は黒沢英治(くろさわ えいじ)君は?」
「・・・・辻啓助です」
英治と名乗った男は啓助の名を聞くと、やり慣れたようにスッと構えた。男はさっきからずっと笑顔を絶やさなかったが、この瞬間は笑顔の中に少しの真剣な表情が漂っていた。
啓助も負けじと相手の顔を睨み付ける、そして男に向かって一歩を踏み出した。男は啓助がいくら接近してきてもピクリとも動かなかった、気のせいか先程よりも笑みが溢れている。
啓助は男へ向かう足を速まらせ、冷気を込めた渾身の突きを繰り出した。しかし男はそれを慣れた手つきで腕の方から簡単にはらう。
「どうしました?一発で終わりですか?」
わずかに苛立ちを見せた啓助は、連続で冷気を込めた蹴りや突きを繰り出した。しかしまた、最初に出した一発と同じように全て男の両手で防がれてしまった。
啓助は疲れが溜まり、思わず息が荒くなる。そして男の方は、さっきから気持ち悪いくらい攻撃を受けているのに足場も動いてなければ息一つ乱れていない。
「では、そろそろ私の方から攻撃させて貰います」
男はそう言うと啓助が息の荒いうちに先手に出た、そして啓助の目の前まで接近すると、手に冷気を込めて氷を纏った突きを繰り出した。
「ぐぅっ!!」
啓助はその場に腹を抱えて倒れた。
「はい、1本取らせて貰いました」
勝敗が付き、男は啓助に手を差し伸べる。啓助はその手を取って立上がり、負けましたと一言言って男と力強く握手を交わした。
「あの、そのアビリティは・・・・・」
「そうですよ、君と同じ『フリーズ』のアビリティですよ。しかし、君の敗因はアビリティにあらず戦い方にあります」
「・・・・・」
「戦い方に迷いが見えます。何か考え事ですか?」
男の言うことは啓助にとって百発百中当たっていた。

43ライナー:2011/07/02(土) 10:18:52 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
啓助は煉が亡くなってからというもの、そのことばかり気にしていたのだ。
「私も思えば迷ってばかりの少年時代を送っていましたねぇ。今でも後悔することが山ほどあるくらい・・・・・」
男は一息吐くと、啓助にこう問いた。
「君は強いとはどのようなことだと思いますか?」
突然の問いに啓助は不意を突かれる。しかし、男はその顔を見つめ答えを待っていた。
「・・・えーと、俺にはよくは分かりません」
「では、何のために強さが欲しいですか?」
男は再び笑って問いかける。
啓助は何故ユニオンに入ったのかを思い出してみた。家族を失い、生きる場所を取られ、ただユニオンに頼り縋り付くしかなかったことを。そして啓助が出した答えは・・・・・
「ありません」の一言だった。
男は啓助の言葉にあまり驚きを見せずに言った。
「君は本当に凄い人ですね」
啓助ははっきりと男の言っていることが分からず、頭にクエスチョンマークが浮かんだ。
「大抵の若者は、強いとは名誉であること、人を守るための強さ、などという人がいます。確かにそれは当たっているのかもしれませんが、それが全てではないのです。若いうちに迷う者が大成すると言いましょうか・・・・アビリティが出た世の中は戦いの価値観が変わると思うのです」
男は今まで浮かべていた笑顔を真剣な表情に変えた。
「そして君の答えは全て理に当たっています。どうでしょう?私の元で修行してみませんか?もちろん暇なときなどで良いですし、君ならこの世界をもっと良いものにしてくれる気がするのです」
「・・・・じゃあ、俺が世界を変えて見せますよ」
2人はその瞬間笑顔を交わした。

44ライナー:2011/07/03(日) 13:26:22 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
10、もう一人の洋
時は午前0時、啓助と洋は見回りをしていた。
「うぅっ・・・おなか減ったからあの売店でなんか買ってきていい?」
洋が腹を抱えながら、もう片方の手で指さして言う。
「あのなぁ、さっきもそんなこと言って食ってばっかりだったろーが!しかもお前のせいで獣なんて出なさそうな大通りに出てるし!」
そう、2人は見回りにも関わらず堂々とランプの灯が光る大通りにいた。
「確かに大通りでは何かと人間が犯罪を起こしたりするけど・・・・・」
「買ってきたよ〜」
啓助がふと洋の方へ目をやると、レジ袋いっぱいの片手にぶら下げてあった。
「早ッ!ていうか今日の昼だって待ち合わせしてたら食い過ぎで動けなくなったただろ!」
「大丈夫だよ〜そう簡単に獣が来るわけが・・・・・」
すると、大通りの向こうから爆発音が鳴り響いた。遠くを目を凝らして見てみると、黒く大きな狼の体と赤く光る目が見えた。
「ゴメン、来るわけ会ったね〜」
「そんな暢気に言ってる場合かー!!」
啓助は遠くにいる相手にも関わらず、その場で構えてしまっている。
そして啓助は気付いた、あの黒く大きな体と赤い目の正体を、啓助が一番初めに見たあの獣だった。それが分かった途端、啓助の中で無数の怒りが立ちこめた。
「アイツは・・・・!」
「啓助あの獣知ってるの?」
「知ってるも何もアイツが俺を絶望の淵に立たせやがったヤツだからな!」
「何だか良く分かんないけど、あの獣は炎狼(えんろう)って言って体内に『フレイム』っていうアビリティを持ってるらしいよ。でも何でアビリティを作った科学者はこんな能力作ったんだろ?」
「・・・・・何でもいい、俺は家族の恨みを晴らすためにあいつを殺す」
啓助はそう言って、炎狼に向かって走り出した。

45ライナー:2011/07/08(金) 17:55:36 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
啓助は、暴れる炎狼の目の前まで走り抜くと足に冷気を込め、その怒りをぶつけるが如く蹴りを繰り出した。その蹴りは炎狼の顔面に直打し、2メートルほどある全身は高く宙を舞い、後方5メートルほど飛ばされた。
炎狼の顔は凍結し、グッタリして動く気配はなかった。この瞬間近くにいた人々や啓助本人も勝利を確証した、しかし凍結した炎狼の顔は汗を流すように氷が瞬時に溶けていった。
「なっ・・・・!」
炎狼は再び立上がり啓助を睨み付けた。すると、口に溢れるほどの炎を溜め啓助に向かって一直線に吐き出した。吐き出した炎は玉のような形になり、急接近している。
啓助は間一髪のところで躱したが、その真後ろには洋が立っていた。洋はそれに気付かず、肉まんをバクバク食べてる。そしてそのまま洋は炎の玉と重なり爆発音を上げた。

46ライナー:2011/07/08(金) 18:00:02 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
訂正です。
≫44の9行目後半ですが、レジ袋いっぱいの肉まんがぶら下げてあった、です。
度々済みません。

47ライナー:2011/07/08(金) 22:49:02 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
「洋ッ!」
啓助が煙に上がる方に向かって叫ぶように呼びかける。しかしその煙の中の黒い影は動かず、また返事もしなかった。
「イッタイなぁ〜」
すると煙の中からは洋の声ではない別の声が聞こえた。
啓助が呆気に取られていると、煙は振り払われ洋ではない男が立っていた。その男は金髪をしていて、顔も西洋人のような顔つきでハンサムだった。
啓助は一瞬目を疑ったが、洋を思わせる決定的な証拠があった。あの山吹色のバンダナである。
「お前・・・・洋、だよな・・・?」
分かりながらも恐る恐る啓助は問いた。すると、洋と思われる男は啓助の方を向いて答えた。
「ああ、洋は洋だがボクはもう一人の洋だ」
「どういう事だ?」
「物質変化なんて出来る能力なんか持っているから、強い刺激を受けると自らを別の人間へと変化させてしまうのさ。ちなみにボクはヒロシって呼ばれている」
「ヒロシ?」
「洋ってヒロシとも書くだろう?にしても、ボクの顔に攻撃してくるなんて・・・・・女性と遊べなくなるじゃないか」
啓助はこの時確信した、変化後の洋は女好きだと・・・・
洋はゴアテックパーカーを脱ぎ、黒いランニングシャツを見せつけ、いかにも戦闘モードに入っていた。
そして、ランニングシャツ越しの肉体は驚くべき程鍛えられていた。
啓助はいつも見る様とは違う一面に驚きを隠せなかった。
洋は炎狼に向かって走り出していた。炎狼は先程と同じように、炎の玉を洋に向かって吐き出す。
洋はそれを棒高跳びのように華麗に躱し、炎狼の目の前に立つ。そして、自らの手を刀のように変化させ、炎狼の体を頭から一刀両断した。
「フウ・・・・片付いたしさっさと帰ろうか」
「そ、そうだな・・・・」
すると後ろから軽い拍手と啓助の聴いたことのある声が聞こえた。
「今の剣裁き、お見事」
声がする方に目をやると、そこには洞窟で啓助を死の窮地に追い込んだ沙斬の姿が目に入った。

48ライナー:2011/07/10(日) 16:14:27 HOST:222-151-086-012.jp.fiberbit.net
炎狼を倒した時の拍手喝采は一気に止み、険悪な雰囲気が流れた。
「お前は・・・・」
「フッ・・・・久しいな、若造。あれから少しは強くなれるよう努力はしたのか?」
「何なら今、ここでやってやろうか?」
沙斬は、啓助にまた見下すように笑いかけて言った。
「拙者は、御主のような半人前と遊んでやるほど優しくはないのでな。それよりもそこの御主、拙者と一つ立ち会わんか」
「ん?ボクかい?済まないね、ボクは女性の頼みしか聞かないもんでね」
すると、沙斬は刀に手を掛け洋に向かって言う。
「では、女遊びが出来ぬよう女芸者を建物ごと切り捨てても良いのだぞ」
洋は、一つため息を吐いて沙斬を睨んだ。
「ハァ、場所が悪かったなぁ。もっと人気のないところなら断れたのに・・・・」
「食い物に目が眩んで、ここまで連れてきたのは洋、お前だろっ!」
洋は渋々構え、啓助に背を向けながら言った。
「じゃあこの戦闘が終わったら、今回だけは寄り道せずに帰ってあげるよ」
そして手刀を鋭い鋼に変化させると、沙斬に向かって走り出した。
「遅いわ」
沙斬は一言そう残すと、洋の視界から消えた。
「あれ?・・・ああ、ファストか」
洋は相手のアビリティに気付いたようだが、それはもう遅かった。啓助の視界には沙斬が飛び上がって洋の首を狙うのがはっきりと見えていたのだ。
そして、刀が洋の首へと振り下ろされた。
「どちらにせよ、御主が女と遊べなくなるのは変わらんかったな・・・・」

49ライナー:2011/07/16(土) 17:18:00 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
沙斬の刀は既に洋の首に突き刺さっていた。しかし、一つ変だったのは鈍い金属音がしたことだ。
「・・・・!これは」
「ん?どうしたんだい?まさかこれで終わりって訳じゃないよね」
なんと、洋は首に刀が突き刺さったまま口を開いたのだ。よく見れば洋の首からは血液が一滴も流れていない。
「ボクのアビリティは『メター』ボクは特に金属が得意なんだ。悪いけど刀、取り込ませて貰ったよ」
「そ、そんな刀くれてやるわっ!」
沙斬は刀を洋に押しつけるように飛び上がり、距離を取った。
「にしても良い鉄だ、取り込んだ甲斐があったよ」
「それもそのはず、拙者の刀はなるべく堅くしようと合成金属使用を使った物。ダイヤモンドでも押しつぶせば真っ二つになる」
沙斬は二本目の刀に手を掛け、ニヤリと笑った。
「しかし次はそう出来まい」
沙斬は先程よりも素早く刀を抜いた。すると、火花が散り刀身が勢いよく炎を上げた。
「どうだ、これなら炎で刀を取り込めまい」
「・・・・なるほど、刀身と鞘に摩擦力を向上させる仕組みを入れ、刀身を燃やしたのか」
「よく分かったな、しかも燃えているのは刀の表面だけで、刀は絶対に溶けない。これが我が秘伝の刀『炎上鬼』」
洋は暫く黙ってから啓助にこう言った。
「啓助、ボクがやられたときは助けてくれよ。だけど今は手を出さないでくれ、こんな良い鉄の前で2対1なんて卑怯な真似は出来ないからね」

50ライナー:2011/07/16(土) 17:57:32 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
「今はそんなことを言っている場合じゃないだろ!俺も加勢する」
洋は金属に変換していた首を元に戻すと、沙斬の方へ進んでいった。
「啓助、君はアビリティを手に入れ急速にその腕を磨いてきた。だけど君には終えない敵だよ、逆に君にいられると邪魔になる」
「で、でも大丈夫なのかよ」
「ボクは今の洋(ひろし)だからこそ出来るんだ。悪いがやらせてくれ」
「・・・・分かった、でもこれ以上俺の敵持ってかないでくれよ」
洋はそれを聞いてほんの少しの笑みをこぼすと沙斬の前に立った。
沙斬は洋の姿にあざ笑うように言った。
「死ぬ用意が出来たようだな・・・・」
「やってみなければ分からないだろ・・・・」
その途端、沙斬は持ち前の速さで姿を消した。
洋は眉間に皺を寄せると、その場に飛び上がった。すると飛び上がった真下では沙斬が炎上鬼を地面に叩き付けていた。
「やるな」
「その刀のせいで行動が丸分かりだよ」
「炎の微かな光を捕らえたか、それなら・・・・」
沙斬はまたもや姿を消した。
洋も同じように眉間に皺を寄せるが、さっきより苦しそうな表情をしている。
そして次の瞬間、沙斬は洋の後ろを取り刀に火を灯した。そして真っ直ぐに洋へと刀を振り下ろした。
「ぐあぁぁっ!」
洋は叫び声を上げながら、地面に叩き付けられる。
「今度は火を攻撃時だけに付けた、どうだ分からんかったろう」
「くぅ・・・・今のは効いたよ。だけどこっちにも策がある」
肩を押さえている洋の顔は笑顔が溢れていた。
「啓助!悪いが手伝って貰いたい」
「・・・ホントお前って二言ありすぎだろ!」
「大丈夫、100%成功するからさ。そこに氷山を作り出してくれ」
「何をするつもりだ?御主ら・・・・・」

51ライナー:2011/07/17(日) 09:17:08 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
啓助は言われるがままその場に氷山を作り出した。
「これでいいのか・・・・?」
「ああ、ありがとう。後は任せてくれ」
「いや、いいけどさ、出番少ないなぁ・・・・・」
洋は何かを察し咄嗟にしゃがんだ。すると今度は洋の頭上で沙斬が刀を振り払っていた。
「おっと危ない、でも流石に目が慣れてきたよ」
「くっ・・・・」
洋は腕を鉄パイプのように変換し、その腕を沙斬の炎上鬼に押しつけ、そのまま啓助の作り出した氷山にぶち当てた。
沙斬の炎上鬼の炎は氷と一緒に音を上げて消えていった。
沙斬は氷から遠ざけようと刀を引き抜く、すると刀にヒビが入り先端から殻を破るように砕けていった。
「なに!?」
「残念だったね、あれだけ刀の温度が上昇していたら冷やしたときにヒビが入るのは当然。まあ刀を取り込めなくなったけどね」
洋は細かく沙斬に説明すると、鉄に変換させた腕で沙斬の炎上後頭部を狙い殴った。
沙斬はその場に倒れ気を失っていた。
「・・・・非情だが、キルブラックの者なら殺さなければならないね」
洋は鉄の腕を刀のように変換させると、沙斬の首目掛けて刀を下ろした。
すると、沙斬の首元で鈍い金属音が聞こえた。
「ここまでだ、沙斬様は引き取らせて貰う」
黒装束の男が小刀で洋の刀を防いでいた。すると沙斬は気が付き男に言った。
「・・・・く、無念だが勝負に負けては帰っても殺されるのは同じこのまま死なせてくれ」
黒装束の男は沙斬の元から遠ざかった。
「では・・・・ご報告しておきます」
啓助達は男を見送り、沙斬の首を討った。
「・・・・帰ろうか、啓助」
「・・・・・これが戦いの常か」
啓助達は沙斬の死体を処理し、キャンプへと戻っていった。

「もしもし、堂本さんでっか?沙斬の奴、殺されてしもたみたいです」
「案外やるな。もう氷のアビリティはいい、奴を片付けろ」
「承知しましたで・・・・・」

52ライナー:2011/07/17(日) 13:14:16 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
11、冷気と氷
熱也を抜いた第6番隊D班はキャンプで会議らしきものをしていた。
「また・・・・ですか」
乃恵琉が暗い顔して言う。
「キルブラックもしつこいよなぁ、俺と洋(ひろし)で何とか倒したけど」
「まぁ、でもボクが最初に特殊攻撃を受けて洋(ひろし)になっていたから良かったよね〜」
洋は空腹が起きると食い意地の張った洋に戻るらしく、翌日目が覚めたら元に戻っていた。
「ホント、面倒くさい奴らね」
麗華はキルブラックと一戦も交えていないのにもう疲れた顔をしている。
「これからは各自行動するとき細心の注意を払って下さい。まだ何があるか分かりませんから」
会議はこれにて終わり、啓助は地域の見回りをすることになった。
啓助は見回り中、上の空でよそ見ばっかりして歩いていた。フラフラとその辺を歩いていると、案の定、通行人にぶつかり我に返った。
「・・・・っと、すいません」
啓助が即座に謝り顔を上げると、道場の師範、黒沢英治が立っていた。
「あれ?啓助君じゃありませんか、二日ぶりですね。もしかして指導を受けに来てくれたんですか!待ってましたよ〜」
啓助は相手の一方的な会話のペースに乗せられ、腕を捕まれたまま道場に行くこととなった。
「僕は以前君に何のために強くなりたいか聞きました。しかし、迷うのは良いですが目標自体を持たなければ大成しません。今のところの目標は何かありますか?」
啓助は頭の中で自分自身の『目標』を探してみた。しかし、本来は義務で戦闘を行うしかないわけで別に思い当たる節はなかった。だが、その中でも唯一思いつくとしたらキルブラックを全滅させることだ。しかしそれは世間に多く知れ渡ってもいないことも事実、ハッキリは伝えられない。
「今は言えませんが、とりあえず・・・・」
「では、その今は言えない目標を達成するために頑張ろうとして下さい。女の子にキャーキャー言われたい事や、強さによって地位を高め、金を手に入れる事でも強くなりたいという原動力になりますから」
それを聞いた啓助は、英治の例の例え方が気にくわなかった。自分はそんな煩悩や欲にまみれたことはしないと思いながら、強くなって証明してやるという原動力になっていった。
英治は両手を差し出し、左手には冷気を、右手には氷を作り出した。
「左手の方は今君が使っている冷気です。冷気は氷とは違い物質に氷を纏わり付かせる利点があります、しかし欠点は物理的攻撃力が薄いと言うことです。右手の方は氷、冷気の次の段階と言ったところですかね。この状態で物に纏わり付くことは出来ませんが、相手方の障害物になったり物理的攻撃に優れています」
英治は左手の冷気を消し、右手の氷を差し出した。
「君にはこの氷を使ったトレーニングをして貰います」
英治は壁に立てかけてあった何枚かの板を啓助の元に持ってきた。その中から四角形の板を取り出し啓助の前に置いた。
「君には最終的に複雑な氷を作ってもらいます。まず手始めに一辺50㎝の立方体の氷を作ってもらいましょうか」
「(そんな無理難題いきなり出来る訳が・・・・)」

53ライナー:2011/07/18(月) 12:34:57 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
啓助は四角い板に向かって冷気を放った。冷気は板に命中し、氷へと変化していったがその形はメチャメチャで、また大きさも合ってはいなかった。
「・・・・では、暫く練習を続けていて下さい」
そうして啓助は何度も同じ事を繰り返し、練習に励んだ。しかし一向に成果は出ず、体力はほとんど限界まで来ていた。
「フゥ・・・・全ッ然出来ねェ・・・・『フリーズ』手に入れた時みたいにピンチでも作れってか?」
すると、向こうから英治が様子を見にこちらにやってきた。
「調子はどうですか?」
英治は啓助の作り出した妙な形の氷を覗き込んだ。
「・・・・では、少し条件を変えてみましょうか」
暫くして持ってこられた物はどっから購入したかも分からないようないびつな形をした壺だった。
「これと同じ形の氷を作り出してみて下さい」
いくら何でも最終目標の『複雑な形の氷』をいきなりやらされるとは絶対に不可能だ、啓助はそう感じた。
しかし啓助は、まあ、どうせ無理だろうとダメ元で実行してみた。すると、完全に同じとまではいかなかったが壺の形をした氷を作り出すことが出来たのだ。
「!・・・・出来てる・・・」
「君の場合は形より強度の方が全般的に高いんです、ですから逆に奇怪な形の氷をしていた方が奇怪な形の物に変えやすかったんでしょう、それに力を節約するためにこれを練習していますから大きな一歩といえましょう。すると、君の目標は今度からキチッとした氷の立方体を作ることになりますね」
「なるほど・・・・」
啓助はそれからというもの、時間があれば道場に通い詰め、練習を積み重ねた。
「惜しいですね・・・・」
啓助は完璧な立方体の氷を作ろうと専念していた、が、惜しいことに氷は一部がゆがんだりして完璧な物が作れずにいた。
「まぁ、そこまで完璧じゃなくても重要ではありませんし、これからは任務での実践を積みながら・・・・」
英治の言葉に啓助は途中で割り込み、言った。
「いえ!ここまで来たんで、絶対に諦められません!」
「・・・・しょうがないですね、ではここで実践をやって貰いましょう」

54ライナー:2011/07/23(土) 15:14:35 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
英治は暫くしてから一人の門下生を連れてきた。
「彼は私の門下生で、福井健二君です。彼との練習試合でやってみてはどうです?」
健二と名乗られた少年はオレンジの鉢巻きをして、Tシャツに短パンと少々子供じみた格好だった。それに比例して身長まで低いから余計に子供っぽさが目立つ。
試合は道場を全面的に使い、英治の「始め」の一言で開始された。
「それじゃあいくよ!啓助さん」
子供っぽい成りの健二の目は見ているだけで迫力が伝わってきた。その迫力に一瞬動揺した啓助は不覚にも健二の蹴りを食らった。
啓助も負けじと体勢を立て直し、攻撃しようとするが、そのとき健二は啓助の軸足になっていた右足を狙って蹴りを繰り出した。
再び地面に倒れ込み何とか立上がることは出来たが、気が付くともう目の前で健二が啓助に突きを繰り出そうとしていた。
啓助は擦れ擦れで攻撃を躱し、連続攻撃の最後と思われる跳び蹴りをしゃがんで躱す。しかし、しゃがんだ先には跳び蹴りとは逆の足で蹴りを食らった。
「(しまった!跳び蹴りがフェイントだなんて!)」
これでもう三度地面に倒れている。しかも立っている時間よりしゃがんでいる時間の方が多かったのに気が付いた。
「これじゃアビリティを使う暇もねェ・・・・」
健二は余裕を見せ、啓助が立上がるのを待つ。
「そう来なくっちゃ」
「く・・・・」
健二は啓助が立上がるタイミングを見計らい、またも追撃をしてくる。
啓助は飛び上がって躱し、距離を取った。そして両手に渾身の冷気を溜め、着地と同時に放った。
「なっ・・・・」
啓助の目の前には巨大な六角形の氷の壁が出来、健二の突きを受け止めていた。
「出来たぜ、完璧な氷が・・・・」
「そこまで!」
試合は英治の掛け声で終了した。
「結局は立方体じゃありませんでしたがこれでもう完璧ですね」
英治は啓助の前に手を差し伸べ握手を求めた。啓助は恐る恐る手を近づけ、握手をした。
「良い試合だったよ啓助さん」
健二は英治の強い握力で握りしめられた啓助の手を見て言う。
「ああ、良かった。ま、また機会があればやろうぜ」
「もちろんやるよ、そのときはね」
啓助は痛む手を押さえながら道場を後にした。

55ライナー:2011/07/30(土) 13:48:52 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
12、囚われの麗華
啓助達は長い遠征生活を終え、ユニオンに帰還していた。
「啓助君の言う福井健二という人物は、確か特別専攻部隊の一人だったと思いますよ」
乃恵琉は眼鏡を拭きながら話している。
「と、特専隊!?そんなすごい奴と戦ってたのか・・・・・」
「彼は特選隊唯一の武器もアビリティも持っていないユニオン隊員。武術は影着拳というものを習得しており、相手の影のように常に接近して連続攻撃を繰り出す技です」
乃恵琉が眼鏡を掛け直すと麗華が騒々しくユニオンに入ってきた。
「アンタら任務早く行くわよー!」
「大丈夫ですよ、今から行くところなので。だいたい一時間前から待たなくても良いでしょう」
乃恵琉は麗華のあまりの騒々しさにため息を吐いている。
「いつ何が起こるか分からないんだから急ぐわよ!」
麗華の騒々しさは変わらず、そのまま先にチームルームを出て行ってしまった。
「・・・・では、僕達も行きますか」
「お、おう・・・・」
啓助達もチームルームを出て、ユニオンの長い廊下を歩いていった。
「今回はある格納庫が荒らされるという事件で、またもや獣の仕業かと」
「わざわざ格納庫を狙うって航空機に何か良いもんでもある訳じゃないし、何が目当てで?」
「僕にもサッパリです、なんせ相手は獣ですからね。まあ、行ってみれば分かることです」
転送ルームにたどり着くと乃恵琉はゆっくりと転送ボタンを押した。
 同日 午後11時
啓助達は格納庫で獣を待ち伏せしていた。
「来ませんね・・・・」
乃恵琉の言葉に麗華は苛立ちを見せて言った。
「全然出てこないじゃないの!?夜更かしは美容の天敵なのよ!」
「・・・・つくづく呆れますよ。出る前にいつ何が起こるか分からないと言ったのは麗華でしょう?」
乃恵琉は先程より大きくため息を吐く。
「もう止めろってお前ら・・・・それで乃恵琉、獣ってどんなのだったっけ?」
乃恵琉は啓助に言われ我に返り、すかさずショルダーバックからノートパソコンを取り出し、キーボードを鳴らし始めた。
キーボードの音が止むと乃恵琉は啓助の方に画面を向けた。画面に映っていたのは全身が黄土色で、目が奇妙に光った蛙のような獣が映っていた。
「この獣は泥蝦蟇(でいがま)と言い土や、その湿度を操ることが出来る『サンド』のアビリティを持っています。目撃はほとんど夜ということで、来るとは思うのですが・・・・」
乃恵琉はノートパソコンを閉じると、それと同時に強い地響きが鳴った。そして、格納庫の床を突き破りあの泥蝦蟇が姿を現した。

56kalro:2011/07/30(土) 17:44:28 HOST:nttkyo204250.tkyo.nt.ngn.ppp.infoweb.ne.jp
ライナーさん
ども。kalroです!
物語が進むたびに面白いね!これからも読みたいから更新頑張ってください!
応援してます!

57ライナー:2011/07/31(日) 13:17:08 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
 出てきた泥蝦蟇は、体長2、3メートル程ありそれだけに及ばず3匹も出てきていた。
「で、デカイ・・・・ゲームで出てきそうな大きさだな」
「そう言えば啓助君、君まだ電子機器の私物を処分していなかったんですか?」
「・・・・」
「帰還次第、即刻処分します」
「アンタら、早くあの蛙ぶっ倒すわよ!」
 麗華のドギツイ一言で啓助と乃恵琉は我に返り、真剣な表情へと変えていった。
「・・・・では、冗談はこれくらいにして、泥蝦蟇は3匹、こちらも3人ということで1人1匹ずつ処理していきましょう」
 啓助と麗華は深く頷くと、3人は格納庫の2階部分から飛び降り、戦闘モードに入った。すると泥蝦蟇が突き破って出来た穴から人の声がした。
「おーい、待ちなさい」
 格納庫の中は暗く、姿までは見えなかったが声は老人男性のような声音をしていた。
「全く、こんな所まで来おって・・・・ん?そこに誰かおるのか?」
 すると、その声からは懐中電灯の光が差し、その光は一直線に麗華の方へと向かった。
「ちょ・・・眩しいじゃないの!」
 麗華は目が眩み両腕で光を遮る、それと一緒にかすかだが光を照らした声の正体も見えた。
 声の正体は声の通り老人男性で、黒いスーツに身を纏っていた。
「そ、その声は麗華お嬢様!?」
 麗華はその声に驚き、光の方を見て目を疑った様子だった。
「爺や!?何でここに!?」
「お、お嬢様ぁ?麗華が!?」
 啓助は老人の言葉に耳を疑い、大声で叫んでしまった。
「そこに誰かいるのか!?お嬢様を攫っていった者共だな!泥蝦蟇!奴らをやってしまうのだ!」
 2匹の泥蝦蟇は、乃恵琉と啓助に襲いかかり、残りの一匹は老人男性を乗せて麗華の方へと向かっている。
「爺や違うの!」
「そんなことより早く!」
老人を乗せた泥蝦蟇は麗華を口に咥え、そのまま跳び去ってしまった。

58ライナー:2011/07/31(日) 23:19:10 HOST:222-151-086-019.jp.fiberbit.net
「麗華!!」
 啓助は麗華を追い掛けようとするが、格納庫の出入り口には泥蝦蟇が立ち塞がる。
「どうやらこの泥蝦蟇をどうにかしないことには麗華を追うことは出来なさそうですね」
 啓助は舌打ちをしてから、泥蝦蟇の方を睨んだ。
 泥蝦蟇はそれに動じずに口から何発かの泥の玉を放つ。啓助はそれを難なく躱し、泥蝦蟇へと近づいて行く。
 そして、啓助が飛び上がった途端、泥蝦蟇は口を閉じ何かを含んでいる様子だった。啓助はその隙を突き、氷を纏った蹴りを繰り出そうとする。しかし、啓助が蹴りを繰り出す前に泥蝦蟇が口を開いた。
「何っ!?」
 泥蝦蟇の口内は泥が沢山含まれており、そこから無数の泥の玉が放たれた。
 啓助は現在空中で攻撃を繰り出そうとしているので身動きが取れない。そして案の定幾つかの泥の玉に当たってしまった。しかし、空中で上手く体勢を立て直し飛び交う泥の玉を次々と凍らしていった。
「くっ・・・・案外やるな」
 泥蝦蟇の追撃は終わらず、啓助に向かって突進してくる。
 啓助は向かってくる泥蝦蟇を跳び越え、泥蝦蟇の後ろに着地すると背中に向かって冷気を放った。冷気は見事に泥蝦蟇の背中に命中し氷山として現れた。そして泥蝦蟇に向かって手を握ると、氷山は砕け散り、その衝撃で泥蝦蟇は強く地面に打ち付けられた。
 啓助は自慢げに倒した泥蝦蟇を見つめ、乃恵琉の方に振り向いた。すると、乃恵琉も泥蝦蟇を棘のある蔓で縛り付け倒していた。
「・・・・流石だな、乃恵琉」
「まあ、当然ですかね」
 気が付くと乃恵琉の持っている武器が変わっていたようだ。槍の先は三本に割れ、中心の刃が菱形のように大きく尖り、反対側には黄色の透き通った珠があり、それを覆うように後ろの先端には一本の槍の刃が存在していた。唯一変わらなかった部分は外観の深緑の塗装だろう。
 乃恵琉もまた得意げに、眼鏡の奥に輝くエメラルドグリーンの瞳を輝かせた。
「啓助君の初任務の時、大きく邪魔だったので改造したのですよ」
 啓助は乃恵琉の言葉に耳を疑った。以前よりコンパクトに小さくなると言うより大きさが増していたからだ。
「以前より大きくなったとお思いでしょう?まあ、見ていて下さい」
 乃恵琉はそう言うと、ナチュラルランスの後ろの部分に付いている黄色の珠を回した、すると、深緑に塗装された部分は吸い込まれるように黄色の珠の中に消えていった。
「・・・おっとこんな事してる場合じゃねェ、行くぜ!新戦力眼鏡君!」
「新戦力は良いですが、眼鏡君は今後改めて貰いたいです」
 2人は麗華を追い、格納庫を後にした。

59ライナー:2011/08/01(月) 22:46:29 HOST:222-151-086-012.jp.fiberbit.net
「・・・・にしてもどうやって追うんだ?もうアイツらの姿が見えないが」
 乃恵琉は今度も得意げに笑い、眼鏡を中指で押し上げた。
「心配は入りません、隙を見て発信器を付けておきましたから。慎重に追いましょう」
 2人は発信器を頼りに歩いて行き、発信器の示す場所へとたどり着いた。
 たどり着いた場所にはユニオンと同等かそれ以上の大きさの屋敷が啓助達の視界いっぱいに建っていた。
「そういやアイツ、お嬢様とか言われてたな」
「麗華は元々お嬢様育ちで、屋敷から抜け出して今の生活になったらしいです。詳しいことは聞かされていませんが」
「にしてもあれは・・・・・」
「そうですねあれは・・・・・」
 2人が見据える先には屋敷を取り巻くようにいる警備隊と思われる人々がが見回りをしていた。
「あれを突破するには少々・・・・いえ、多々困難ですね」
「あの麗華が逃げ出したくなる様な屋敷だろ・・・・早くしないとちょっとヤバイかもな」
 乃恵琉は暫く黙っていたが、吹っ切れたように言い出した。
「強行突破で行きましょう!」
「大丈夫か?あんな大人数相手に・・・」
「僕達はユニオン隊員ですよ、それに免許があればアビリティを取れるとは言っても、そう大人数でアビリティを持っていることはまず無いでしょう」
「・・・・やるだけやってみるか」
 2人は屋敷の門に向かって走って行くと、警備隊の面々は罠に掛かったように気付き啓助達の前に倒れていった。
「倒せたには倒せたが、流石に疲れてきたな・・・・」
 息の荒い啓助の前には、次の試練が待ちかまえるように重々しい鉄門が目の前に立ちはだかった。
「今の騒ぎで門はロックがかかっているようですね、自力で押すのは不可能となりましたか・・・・」
 啓助は息が荒いまま、門に向かって手のひらを向けた。
「押して駄目なら凍らしてみろってな!」
 啓助は門に向けた手のひらから冷気を打ち出し、強大な門を凍り付けにした。そして、泥蝦蟇の時と同じように凍り付いた部分に向かって開いた手を握りしめた。
 そして次の瞬間、氷と一緒に門も砕け屋敷への道が開いた。
「正しくは、『押して駄目なら引いてみろ』ですが、まあ、結果オーライと言うことにしておきましょう。それより泥蝦蟇の時と同じように凍り付かせたアノ技・・・・」
「あれは、俺が自力で開発した技『氷結界』氷の結界で物体を包みそれを滅する技だ!」
「お互い新戦力は身についているみたいですね」
 すると、屋敷の中にある広い庭の向こうから声がした。
「あーあ、門をこんなに粉々にしてくれちゃって。駄目じゃなーい」
 啓助達が声の方を向くと、メイド服に身を包み、巨大な箒を持った女が出てきた。
「お掃除お掃除っとー」
 そのメイドは両手に持っている箒を凍り付いている門の破片に祓うように当てると、箒からは炎が吹き出、門の破片を溶かし、一つの鉄の玉へと変えた。
「それとー、あなたたちのお掃除も頼まれてるのー」
 その言葉を聞くと、乃恵琉は啓助の前に立ち、啓助に言った。
「ここからは、別行動となりそうですね」

60ライナー:2011/08/02(火) 22:28:45 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
済みません、訂正です。
今更ながら、≫15までの「零華」ですが、「麗華」が正しい方です。
自己紹介も「零華」だし・・・^^;

61ライナー:2011/08/03(水) 00:02:28 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
13、お屋敷バトル 乃恵琉vs水野家のメイド
「乃恵琉、俺も加勢するぜ!」
「いえ・・・・今は麗華を助け出すことが最優先です。二人で素早くやるよりも、一人ずつ効率的に対処しなければ」
「・・・・でも」
「いいから先へ行って下さい!」
 叫んだ乃恵琉の表情は強張り、目の前の敵のことでいっぱいいっぱいのようだった。
「・・・・分かった。気をつけろよ」
「百も承知ですよ」
 2人は言葉を交わすと、乃恵琉は目の前の敵のことに集中し、啓助は麗華を救うべく屋敷の庭奥まで走っていった。
「少ない戦力削って良いのー?」
「1対1がフェアですし当然です。それに女性なら尚のこと僕のプライドが許しませんよ」
「でも、屋敷の中には入れないねー、アタシが鍵持ってるから〜」
 そう言うと、メイドは服のポケットから屋敷の鍵を取り出し、乃恵琉に取れとでも言うように近づけて見せびらかした。
「では、僕が正々堂々あなたを倒し取ればいい話です」
「へー、鍵がこんな間近にあってもがっつこうとしないんだー。でも、後でその馬鹿正直な所で悔いを見るよ〜」
「では、馬鹿じゃない頭脳戦で正直に勝って見せますよ」
 乃恵琉はベルトに付けていた黄色い球を取り出し、ナチュラルランスに変形させた。そして槍の矛先をメイドの首筋に目掛けて一直線に突き出した。
 しかしメイドは、余裕の表情で躱し乃恵琉に取れとでも言った。
「もし眼鏡君がアタシから鍵を取れたとしてもダブルロックでそれぞれ違う鍵だから、あのクセッ毛君も戦うことになるかもよ〜?」
 乃恵琉は突き出したナチュラルランスをメイドに向かって横に思いっきり振った。すると今度は話の途中だったからか、メイドは乃恵琉の一撃で右腕に傷を負った。
「・・・・ったくもー、容赦ないなぁ〜」
「あなたのような戦地に立たされているのにも関わらず、ヘラヘラしている人には容赦ないくらいが丁度良いです」
 そう言う乃恵琉の頭には少々血が上っている。
「戦地に立たされいるからこそ、こうやって相手の心を乱してるんじゃーん」
 その言葉を聞き、乃恵琉の頭にはますます血が上り我を忘れたようにただナチュラルランスという槍を振っていた。
 乃恵琉はその状態のまま、暴れるように戦い続けた。
「フフフー、イライラしてるイライラしてるー」
 メイドは乃恵琉の攻撃をあざ笑うように躱し、乃恵琉を見た挑発している。
 乃恵琉はナチュラルランスで、地面に傷を付け、傷を付けた部分から棘の生えた蔓をメイドに向かって輪を描くように取り巻かせた。
「本来は冷静な男の子なんだろーけど、こうなったら扱いやすいねー」
 メイドはまたも余裕の表情で棘の生えた蔓を眺める。
「ぼ、僕はあのようなヘラヘラしている人は戦人なんて認めない!」
「御覧の通りメイドだから戦人じゃないんだなぁ〜。あ、こんな事言ったらまた怒っちゃう?」
 メイドは少しずつ迫ってくる蔓に、余裕の表情を見せ、箒を振り下ろした。振り下ろした箒は炎を帯び、輪を描いた蔓は跡形もなく焼失してしまった。
「植物に炎は相性悪いよー、『ファイアブローム』にはもっと別の攻撃しなきゃ」
「(攻撃がほとんど通用しない・・・・どうしたら・・・・!)」
 この時、乃恵琉は自分が相手のヘラヘラした言い方で翻弄し、挑発に乗ってしまった事に気付いた。
「・・・・自分を見失うところでしたよ。僕としたことがもっと冷静に事を運ばなくては」
「ありゃー?もう我に返ったのー?君みたいな冷静でくそ真面目な人は気付かずにお掃除されてったのにー」
 すると乃恵琉はナチュラルランスに付いている黄色の珠をしまうときとは逆側に回した。すると槍全体は光を帯び、見る見るうちに変形していった。
 帯びた光が消えると、ナチュラルランスは姿が変わっていた。形は十字型になり、その四方校からはそれぞれ槍の刃が並び、刀身は黄色に、珠は緑に色が反転していた。
「ナチュラルランス第二携帯、『エレクトリックナイフ』!・・・・勝負はまだまだこれからですよ」

62ライナー:2011/08/04(木) 23:56:48 HOST:222-151-086-012.jp.fiberbit.net
訂正です^^;(最近多いな)
≫61の四方校→四方向です。

あまりコメントがないので心配していたのですが(駄作だからだろ)、途中しか読んでないんですけどって人でもコメント&アドバイス&リクエスト募集ですのでお願いします! m(_ _)m

63ライナー:2011/08/05(金) 00:51:43 HOST:222-151-086-012.jp.fiberbit.net
「ちょっと武器変えたからって勝てると思っちゃ駄目だよー」
 メイドは燃えさかるファイアブロームを振り回し、乃恵琉に取れとでも向かって火炎放射が放たれた。
 乃恵琉の方はそれに対して真剣な表情を見せ、エレクトリックナイフの交差した柄の部分をV字型に取り外し、二つに分けられた武器をそれぞれ両手に握った。そして向かってくる炎に合計4本の刃を放った。
 刃は棘の付いたワイヤーで繋がれており、電気を帯びたワイヤーは網目状に交差し炎を防いだ。
「武器の相性はこれで五分五分ですね」
「へー、やるじゃん」
 メイドは炎を纏ったファイアブロームに跨り、炎を炎上させ魔法使いのように飛び上がった。
「今度はどのような面白い攻撃をしてくれるのやら・・・・」
「余裕ぶっこいて、後で泣きを見ても知らないよー」
「その言葉、2回目ですよ」
 今度はメイドの方がカッとなり、乃恵琉の頭上でファイアブロームの燃え盛る箒草を下にした。
「火の雨食らえー!」
 すると、箒草の部分からは無数の火の玉が降り、それが乃恵琉を見た襲った。
「くっ・・・・なるほど、攻撃範囲も広いですし申し分ありませんね、しかしエレクトリックナイフの前では何の意味もありませんよ!」
 乃恵琉はエレクトリックナイフを元の十字型に組み戻し、交差部分からワイヤーを伸ばした、そしてそのままエレクトリックナイフを回転させながら放った。回転したエレクトリックナイフは火の玉を防ぎ、そのままファイアブロームの箒草を一部刈り、バランスを崩させ墜落させた。
 メイドもバランスを崩し、そのまま地面へと倒れた。
「では、そろそろチェックメイトと行きましょうか」
 メイドは苦しみながらも立上がろうとしたが、どういう訳か立ったと思ってもすぐに尻餅をついてしまう。
「・・・・!!」
 乃恵琉は余裕の表情で眼鏡を外し、汗を拭くとメイドに言った。
「あなたを墜落させるときに極度に回転させて貰いました。実質、目が回っていなくても体内のリンパ液が揺れバランスが少々取りづらくなっております」
「な、なに・・・」
 空中で回転しているエレクトリックナイフをワイヤーで引き寄せると今度は電流を流し、メイドに向かって放った。そして、ワイヤーの勢いとともに大きな電磁音と爆発音が屋敷の庭に響いた。
 乃恵琉はワイヤーを引き、エレクトリックナイフを手元に戻した。
「僕の勝ちですね」
 そう言う乃恵琉のエレクトリックナイフには、一本の刃にぶら下がった鍵が光っていた。
「済みませんね、あれでも僕らの大切な仲間ですので」

64ライナー:2011/08/06(土) 10:39:27 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
 その頃、啓助は屋敷の扉の前で立往生していた。
「扉は鍵掛かってて入れねェし、窓からも侵入できねェし・・・・」
 すると、向こうから左手に鍵を握った乃恵琉が来た。
「啓助君、鍵持ってきましたよ」
 そう言うと乃恵琉は扉の右側の鍵穴に鍵を差し込み、解錠した。
「おお!これで入れ・・・・・ないじゃん!」
「どうやら、左右別々の鍵を使わなければいけないようです。確かこの庭にもう一人鍵を所有する人物がいるはずなのですが・・・・」
 しかし、屋敷を囲う庭には人の気配はなく草木が揺れる音しかしなかった。
「何にせよもうすぐ日が昇りますし、僕達は一睡もしていないわけで体力が限界に近づいています。慎重に、なるべく戦闘にならないように事を進めましょう」
 そんなことを話していると、近くから水の流れるような音がした。啓助達はすかさずその音のする方に行くと、執事服を着た青年が立っていた。
「おや、庭がやっと静かになって池の水を取り替えに来たら、まだ客人達がご在宅でありましたか」
「もう気付かれていましたか・・・・」
「まあ、落ち着いて。水を取り替えたらお相手いたします」
 庭の隅にある池の水は執事が手をかざすと、その動きとともに池の水は浮き上がった。そして、もう片方の手で大きな水滴を集めると集めた方を池に戻した。
「それは、水を操る『アクア』のアビリティ・・・」
「よくご存じで、まあ、あのメイドを倒したのはあなたと言うところですか・・・・」
 執事の見据える先には門の外に追い出された傷だらけのメイドの姿がいた。
「弱者は水野家に仕える必要がないですから。ちなみに『アクア』はお嬢様や、旦那様に快適なティータイムをお送りするために習得したのですよ」
「あれは、いくら何でも惨過ぎるだろ!」
「威勢がよいお坊ちゃんですね。では、少し眠っていただきましょう」
 執事はそう言うと、池にあった方の水を細かい粒にして啓助達に放った。放たれた水滴は体に纏わり付き、啓助達の体を包んでいった。
「二人仲良く、水死で良い睡眠を・・・・」
 啓助達はそのまま息が出来ずに気絶してしまった。

65ライナー:2011/08/06(土) 11:57:23 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
13〜Ⅱ、お屋敷バトル 恵VS水野家の執事
 執事は水の中で気絶している啓助達を見て、腕組みをしていた。
「まだ、息の根が途絶えていませんね。どちらともなかなかしぶといようで」
 すると、日の出途中の太陽から光が差すように、啓助達に纏わり付いている水に向かって二本の光線が当たり、水を蒸発させていった。
「まだ、侵入者が居たようですね」
 執事がそう言うと、上空から颯爽と一人の少女が舞い降りてきた。その少女の姿は啓助が初めてキルブラックと関わった時に同行していた関原恵の姿だった。
「私が、二人の替わりに戦いますからっ!」
「・・・・そう、ですか。しかし彼らも情けないですね、女性に救われるなんて」
 恵はその言葉にわずかな怒りを見せ、執事に言った。
「ユ、ユニオンレンジャーには、男性も女性もないんです!」
「おっと済みません、君を怒らせる気は無かったんですよ。ま、早いところ勝負付けないと麗華お嬢様救えませんけどね」
「え?」
「・・・・どうやらあなたは事情を知らないようですね。まあいいでしょう、麗華お嬢様と彼らの生死を賭けて勝負しましょう」
 執事は自ら勝負を仕掛けてきたにも関わらず、動く気配がない。
 恵はそれをチャンスだと思い、腰に装備していた二丁拳銃を手に取り執事に向かってビーム性の弾を撃った。
 執事はその弾に向かって水の幕を張り、弾を水の中で爆発させて防いだ。
「ふむ、運動エネルギーを弾丸に変換して撃つ構造だとお見受けしましたが?」
「え!?今の一発で『エナジーボント』の仕組みが分かっちゃうなんて・・・・・」
「なるほど、名は『エナジーボント』ですか」
 執事はそう言うと、手のひらに水滴を溜め恵に向って放った。恵の方はそれに瞬時に反応し、エナジーボントの引き金を連引すると、一瞬にして水滴は消し去られた。
「連射の威力もなかなかの物ですね」
 恵はそのまま執事に向かって連射を続けた。しかし、執事はそれを容易く水の幕を張り全てを防ぐ。
「一度失敗した攻撃は続けて使う物ではありませんよ」
「ううっ・・・・」
 恵は苦戦しながらも、銃に付いているダイヤルを回すとまた銃を連射した。
「だからその手は効か・・・・・」
 執事は水の幕を張って余裕の表情だったが、今度はビーム性の弾丸が幕を突き抜け執事の胸を焦がした。
「な、何を・・・・したんだ・・・?」
「あ、えっと、さっきの弾はクラッシュって言って物理的なダメージだったから水の中で破裂しちゃったけど、今度のはスペシャルって言って特殊的ダメージだったから・・・・って大丈夫?」
 執事は強く胸を押さえながら恵を睨み付けた。
「敵のことを気にするなんて、随分余裕ですね・・・・まあ、でも案外侮れないことは承知しました」
 すると、執事は両手の手のひらを上に上げ、大量の水を溜め始めた。
「これで、終わりですね」
 そして、執事が手のひらを恵の方へ向けると溜めてあった大量の水を一気に放出した。
 恵はそれを冷静に迎え、エナジーボントのダイヤルをまた一つ変えると重々しい感じで両方同時に引き金を引いた。エナジーボントの銃口は勢いよく強烈なレーザーを放った。

66ライナー:2011/08/06(土) 16:00:46 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
 レーザーと水泡は互いにぶつかり合った、ぶつかり合った瞬間レーザーの威力が少しだけ勝り、水泡を打ち破ると執事の体を貫くような勢いでレーザーが当たった。
「グハァッ!!」
 執事は胸を押さえながら膝を地面に付き、口から血を吐いた。
「あ、あ、どうしよう・・・・流石にダイヤルをキャノンにしたらまずかったかな・・・・」
「ゆ、許して貰えますか・・・・」
 執事は服の裾で口を拭くと、弱々しく立上がり恵に鍵を差し出した。
「こ、これは?」
「彼らが起きたら教えてもらって下さい、今一番必要な物でしょう・・・・それと、その鍵を使い終わったらその場に置いておいて貰えませんか?僕は、あの者のように落ちぶれたくはないのです・・・・」
 恵は執事が指さした方向を見ると、門の外で倒れているメイドの姿があった。
「僕は、ずっとここで・・・働きたいのです。主人に見捨てられたくないのです」
「じゃあ、あのメイドさんも助けてあげて。私も好きな人に会えなくなるのは寂しいって思ってるから」
 そう言うと恵は一瞬、無意識に啓助の方に目をやっていた。
「ありがとう・・・・ございます。鍵は後で取りに行きますので・・・」
 執事が涙を隠して去ろうとしたのが恵には分かった。そして見えなくなるまでそれを見送ると啓助達を起こした。
「啓助さん、黒沢君!起きて!」
 すると、2人は気が付き素早く起き上がった。
「しまった!早くアイツを倒さねェと!」
「だ、だ、大丈夫!私がちゃんと鍵貰ったから!」
 啓助が恵の方に目を向けると、恵の手にはしっかり鍵が握りしめられていた。
「おおっ!マジか!あ、でも何で関原が?」
「あ、な、何か帰還が遅いからって、私が様子見に行くことになって・・・・」
「そうか、にしてもホントありがとな!」
 恵は少し赤面して浅く頷いた。
「二人とも早くしなければ、麗華がどうなるか分かりませんよ!」
「そうだったな、急ぐか!」
 啓助と乃恵琉は扉に向かって走り、恵はそれに早足で着いていった。
「そういえば、その、麗華さんがどうって何なの?」
 乃恵琉は恵に任務中に何があったのか、そして屋敷がなんなのかを細かく説明した。
「そ、そんなことが!?」
「ええ、ですから急がないと」
 3人は扉の前に着くと、早々と解錠し、扉を押し開けた。

67ライナー:2011/08/07(日) 09:53:57 HOST:222-151-086-009.jp.fiberbit.net
14、真実と裏切り
 扉を開くと、そこには大勢のSPが啓助達の前に立ち塞がっていた。
「これはかなり時間が掛かりそうですね、啓助君!僕達が引きつけますから今度こそ麗華の所へ!」
「分かった!お前らもしっかりな!」
「頑張ってね!啓助さんっ!」
 啓助は恵のその言葉を聞くとこう言い返した。
「関原!」
「は、はいっ!」
「さん付け、もう無くて良いから」
「えっ・・・・」
 啓助は言い終わると、氷を踏み台にしてSPの大群の上を跳び越えていった。
「・・・・そういや、どこ行けば良いんだっけか?」
 啓助は闇雲に階段を上がったり、扉を開けたりを何回も繰り返し、最後に屋敷の中で大きな扉を見つけるとそれを足で押し開けた。
 そして、その扉を開いた先には鮮やかな色のドレスに身を包んだ麗華の姿と、茶色いシックなスーツを纏った男が立っていた。
「麗華!?お前・・・・」
「つ、辻・・・」
「麗華、お前・・・・その服似合わないと思うぞ・・・・」
「アンタ何しに来たのよっ!」
 すると、スーツを着た男が啓助の前に出てきて言った
「君が侵入者の一人か、全くうちのSP共らは役に立たんな」
「おっさん、仲間返して貰いに来たぜ」
「そちらこそ、娘を攫った犯人じゃないのか?」
「おい!麗華、どういう事だよ!」
 麗華は下を向きながら唇を噛み締めている。
「アンタらがここに来なきゃこんな事には成らなかったわよ」
「そう、君達がここに来た時から既に勝負は付いているのだよ」
 麗華の父はスーツのポケットから何かのスイッチを取り出した。
「君達の体内には小型爆弾が仕掛けてある。それが爆発すれば、君達の心臓ごと・・・ドッカーンという訳だよ」
 麗華の父は悪魔のような笑みを溢し、何のためらいもなくスイッチを押した。

68ライナー:2011/08/08(月) 15:52:21 HOST:as01-ppp10.osaka.sannet.ne.jp
「これで邪魔者は全て消える・・・・」
 しかし麗華の父が言う「ドッカーン」は起こらず、ただ静かに時が流れて行くだけだった。
「ど、どういうことだ!?」
 すると、今度は扉の向こうから乃恵琉と恵が走ってきた。どうやらSPの大群は早々と片付けられたらしい。
「お、お前ら大丈夫か!?」
「はい、SP達は一人残らず片付けましたが」
「いや、それもあるんだけど・・・・」
 麗華の父は乃恵琉達の平然な表情を見て、怒りの余りスイッチを床に叩き付けた。
「くそっ!何もかも計算違いだ!白銀の髪の女侵入者も爆弾も!」
 すると、恵は「あっ」と声を上げ、啓助たちの耳元でささやいた。
「そういえば、執事さん倒したときに爆弾は片付けといたって」
「やりますね、白銀の髪の少女 関原さん」
 麗華の父親は指を鳴らすと、天井から1人の人影が降りてきた。
「奴らをやってくれ」
「承知したで」
 その人影は、なんと柿村熱也の姿だった。
「熱也!お前なんで!?」
「まあ、まだ気付かへんのも無理は無いわ。わいはキルブラック潜入監視役の柿村だったちゅう事や!」
 啓助と恵はその言葉に耳を疑った、しかし、乃恵琉の表情だけは平然としていた。
「決定的証拠が無いから断定は出来ませんでしたが、やはり・・・・」
「乃恵琉の頭だけは少々切れるようやったな」
 そこに更にもう1人、影から出てきた。
「よお、ずいぶんと久しいじゃねェかフリーズのガキ!」
 またも驚くことに、キルブラック最初の事件で拳を交えた赤羽の姿があった。
「あの時は一撃悪い場所に入って脳を刺激され起き上がれなかったが、今度は違うぜ?」
「まだ居やがったのか・・・・」
「おい、柿村、ガキ以外片付けろ。ガキは俺が片付ける」
 赤羽の言葉で熱也は瞬時に動き出した。その速さは何度か姿が見えなくなる程で、素早く乃恵琉達の後ろへ回ると、後頭部を手刀で殴り2人を気絶させた。
「今回も2人さんは早々と眠ってくれるなんてな」
「テメェら・・・・」
 それもそのはず、乃恵琉と恵はSP達との戦闘で既に疲労が溜まっていた。
「柿村は横で見物してろ。・・・フッ、ガキ、今度こそあん時の仮を返せるな」

69ライナー:2011/08/11(木) 11:07:18 HOST:as01-ppp20.osaka.sannet.ne.jp
 赤羽は不意を付いて啓助に向かって急接近してくる。それに対して啓助は、相手のスピードを利用し懐に潜り込むと、氷を纏った突きを繰り出した。
「甘いぜ、ガキィッ!」
 赤羽は啓助の攻撃を、天馬のように飛び上がり躱した。そう、「跳んだ」のではなく「飛んだ」のだ。
「えっ!」
 啓助は頭上を見上げると、赤羽の背中からは2本の黒い翼が羽ばたいていた。
「驚いたろ?コイツは『フェザー』っつって・・・・ま、習うより慣れよだ」
 啓助は壁を利用し、赤羽の頭上より高く飛び上がると、足に氷を纏わせ赤羽に蹴り掛かった。
「同じように、くたばっとけ!」
 すると、赤羽は自分の翼を体に覆うように被せ、啓助の一撃を防いだ。
「掛かったな赤羽、翼で防げば浮力は無くなり真っ逆さまだ!」
 赤羽の全身は、啓助の自身と共にスピードを上げて落下していった。
「最初からイイ読みしてんじゃねーか。でもな、それくらい俺にだって想定済みなんだよ!」
 啓助はその言葉に驚いていると、下降速度は段々と失われ、空中でその動きを止めた。下を見ると、守備に使っていた翼とは別にもう2本の翼が真下で羽ばたいていた。
「なっ、何・・・・!」
「更に、こーんな事も出来ちゃうんだぜ」
 赤羽がそう言うと、啓助の攻撃を防いでいた翼からは無数の羽が飛び出し、矢のように啓助の体に突き刺さった。
「ぐっ・・・・!」
 啓助はそのまま、翼で叩き落とされ床に倒れた。
「諦めろ、お前の仲間は助からねーよ。こっちの頭数がひとつ余るくらいだ」
 身体から流血しながらも啓助はゆっくり立ち上がった。
「今はお前を倒すことしか考えてねェから、それに・・・・」
 すると、啓助の身体に突き刺さった羽は見る見ると凍結し始めた。
「こいつらだって、お前を倒せと言うはずさ!」
 凍結した羽は勢い良く啓助の身体から抜け、赤羽の身体の方へと飛び交った。赤羽は戦い慣れたように翼でまたも防ぐが、防ぎ終わり翼を開くと啓助の姿は見えなかった。
「・・・ガキめ、小賢しい真似を・・・!」
 赤羽が辺りを見回していると、背の方から素早く冷気が放たれ、4本の翼は完全に凍り付いていた。
「後ろかっ!」
 途端に振り向こうとするが、思いも寄らない氷の重さに振り向くことも出来なかった。
 そして、それに畳み掛けるように、赤羽の後頭部に目掛けて、足に氷を纏った踵落としを食らわせた。
「翼のせいで視界がかなり狭かったみたいだな、それよりも・・・」
 啓助は熱也の方に視線を変え、問いた。
「どういうことだ、熱也」

70明優:2011/08/11(木) 16:20:43 HOST:i114-182-217-152.s41.a005.ap.plala.or.jp
まだ全部読んでませんけど、コメントさせてください!!
前から読んでました!!
早く全部読みたいけど、一応受験生で読む時間が・・・って感じです。
ライナーさんの小説は1つの投稿が長いので、すごいなって思います。
私だったら何か書けないんで(苦笑
これからも応援するし、小説読みます♪

71:2011/08/11(木) 16:48:53 HOST:zaqdadc282e.zaq.ne.jp
さっそく読み始めましたが・・凄い上手いです!!!

私は・・土下手ですし・・・。

頑張ってください!!!

72ライナー:2011/08/11(木) 17:58:12 HOST:as01-ppp6.osaka.sannet.ne.jp
コメント有難うございます!

明優さん
お褒め頂有難うございます、自分としては1000いかないか不安で、なるべく1つにとどめています^^;
これからも読んでくれますか!では、ご期待に沿えて頑張りたいと思います。明優さんのように恋愛系も書こうと思っているので、宜しくお願いします!

燐さん
上手いですか?そう言って貰えると嬉しいです!
燐さんもすごく上手いと思いますよ!

二方様、これからもどうかごひいきに〜。m(_ _)m

73kalro:2011/08/11(木) 18:05:57 HOST:nttkyo204250.tkyo.nt.ngn.ppp.infoweb.ne.jp
ライナー君
こんにちは!!kalroだよ^^
ここで本題。雑談スレはどうやって書けばいいんですか?
教えてください!何故か書き込めない・・・;;
よろしくお願いします!

74ライナー:2011/08/11(木) 19:12:10 HOST:as02-ppp20.osaka.sannet.ne.jp
読者の読欲をそそるように、メインキャラデータを!
 辻 啓助(15)
身長 175cm
体重 55kg
 群青掛かった黒髪が特徴。活気はあるがやる事成す事全てが中途半端、ここぞという時に強い。
異能力(アビリティ) 「フリーズ」

 黒沢 乃恵琉(15)
身長 174cm
体重 52kg
 エメラルドグリーンの瞳と眼鏡が特徴。勤勉でとても秀才、計算しつくして戦う。
武器 「ナチュラルランス」

 井上 洋(15)
身長 162cm
体重 80kg
 山吹色のバンダナが特徴。穏やかで食べることが大好き、戦闘はほとんどしない平和主義者。

 水野 麗華(15)
身長 167cm
体重 非公開
 桃色のカールが掛かった髪が特徴。とても口うるさいが結構仲間思い、汚れるのが嫌いなので進んで戦闘はしない。
異能力(アビリティ)「サイコキネシス」武器 未公開

 関原 恵(15)
身長 165cm
体重 非公開
 白銀の髪とそれを結ぶ赤いリボンが特徴。控えめで、大和撫子、戦闘時になると結構天然癖が出る。
異能力 未公開 武器「エナジーボント」

まあ、次も何人か書き込みますので、ご参考までに!

75竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/08/11(木) 21:20:25 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>

最初から一気に読みました。
いいですね^^僕はこういう能力系の話が好きなので!
疾走感があって、物語がさくさく進むので読みやすいです!続きも頑張ってくださいね!
僕的には麗華とメイドさんが好きなのですが…メイドさんの名前が判明しなくてちょっと残念です((

76ライナー:2011/08/12(金) 07:48:44 HOST:as01-ppp8.osaka.sannet.ne.jp
コメントありがとうございます!
竜野翔太さん
一気読み感謝します!そう言って貰えると何回も推敲した甲斐がありました!
キャラの好みの教えてもらってもうどうお礼言ったらいいのか^^;次僕も書きますね
メイドさんはこれから出番なさそうなので名前はあえて書きませんでした。済みません^^;何か関連性があればまた出したいと思います!

77ライナー:2011/08/13(土) 20:04:30 HOST:as02-ppp2.osaka.sannet.ne.jp
 熱也はひとつため息をつくと話し始めた。
「わいは元々キルブラックなんちゅうとこ、入る気はなかったんや。しかし、そうも言ってられん事態になってもうてな、その為なら何度やって悪いことでも出来る覚悟や」
「熱也、お前は一体どんな事態に陥ったんだ?俺らなら解決出来るかもしれない・・・いや、絶対にしてみせる!だから、戻って来い・・・・・」
 すると、先程まで倒れていた赤羽がゆっくりと立ち上がった。
「・・・・てて、ちっと気を失っていたようだが、止めを刺すのを忘れていたようだな」
「・・・!まだ戦えるのか!」
「しかし、侮れんなぁ。まあ、コイツを試してみるか」
 赤羽はポケットに手を突っ込むと、白くて丸い錠剤を手に取った。そして啓助の方を見てニヤリと笑うと、その錠剤を口に放り投げるようにして飲み込んだ。
 途端に赤羽は飛び上がり、4本の翼から矢のような羽を再び放った。啓助は反応良くそれを氷の盾で防ぐ、しかし、今度の攻撃は恐ろしく強力で氷の盾が一瞬で傷だらけになってしまった。
「さあさあ!どこまで持つかな?氷の盾はよォ!」
 啓助も負けじと氷の盾を自らの力で修復させるが、防御は防御、相手の攻撃は一向に止まるはずが無かった。
「(チャンスは1回・・・・)」
 啓助は氷の盾を抑えていた片方の手を離し、その手に冷気を込め始めた。しかし、片手で相手の攻撃を抑えるのにはかなりの負担があった。
「(耐えろ!耐えろ、俺!)」
「これで消えろォォ!」
 赤羽はその瞬間翼から放つ矢のような羽を、放つ量と勢いを格段に上げて来た。
「お前が消えろっ!」
 啓助は氷の盾を赤羽の方へと蹴り、羽を刺したまま盾は赤羽の方へと急速に滑って行く。赤羽はそれを素早く左に移動し躱すが、躱した先には啓助の放った一直線の冷気があり、避け切れないスピードで赤羽の方に向かった。
 赤羽はそこで避け切る事は不可能だと悟った。しかし避けきることが出来ないだけで、防げばいい、しかし羽なら凍り付く、そこで赤羽がした行動は・・・・・熱也を身代わりにしたのだ。
「なっ・・・!」
「何・・・で・・・・赤羽・・・さん」
「上司が危険に晒されたら、部下が体張って守るもんだろーが!覚えとけ!」
 熱也は顔以外全てが凍り付き、見るからに苦しそうだった。啓助はそんな熱也の姿を見て、「氷解」と一言言うと熱也の体からは氷が消え自由の身となっていた。
 拍子抜けした赤羽と熱也はふと啓助の方を見る。すると、啓助の目は先程よりも真剣な眼差しとなっていた。

78ライナー:2011/08/17(水) 08:30:32 HOST:222-151-086-008.jp.fiberbit.net
15、空に舞う屈辱
「あぁ?随分真剣な表情をしているが、腹を括って死ぬ気になったか?」
 啓助は厳しい表情から一変し、赤羽に涼しげに笑いかけた。
「そんなんじゃ無いぜ。俺は熱也を助けるために解いたんだ」
「お前・・・・馬鹿か?こいつは元々こっち(キルブラック)の一員なんだよ」
「俺の師の言葉でこんな言葉がある。『迷いさ迷う者は大成する、しかし迷わない者はいつかまとめて幾つもの選択肢に迫られる』ってな、俺から見て熱也はただ迷っているだけ、どっちに付くか最後の選択肢を与えたまで」
「ガキ!粋がった事ほざいて・・・・」
 赤羽の言葉はそれきり続くことはなかった。そしてその頬からは打撃音が響いた。
 赤羽は90度傾いた首を元に戻すことが出来なかった。首を動かせないほどの痛みがあったわけではない、向いた方向に衝撃的な何かがあった訳でもない。
 そう、殴られたのだ、赤羽は強く頬を殴られていた。一番の問題だったのは殴った人物が啓助ではなかったのだ。殴ったのは・・・・・柿村熱也、熱也だったのだ。
「柿村・・・・テメェ・・・!」
「啓助・・・・・わいが今まで遣らかしてもうたこと、許して貰えるか分からんけど・・・・借りは返させて貰うで」
 啓助はただ笑って何歩か下がった。そして一つだけ悔いが残った、それは・・・
「(自らいい場面を寄越してしまった・・・・)」
「全く、お前はそう言う奴じゃないと思っていたが・・・まあいい。そう言う奴は速排除と言われているからな」
「上等や、最後のチャンス、物にする為には丁度ええわ」
 その瞬間、二人は天井を突き破り屋根の上へと飛び出した。
「この方が俺の本領を発揮できるぜ」
「わいはどんな状況でも怯まん!」
 ここから、勝負と啓助の屈辱が蘇ろうとしていた・・・・・

79kalro:2011/08/17(水) 12:23:27 HOST:nttkyo204250.tkyo.nt.ngn.ppp.infoweb.ne.jp
アドバイスありがとう!!
これからいい作品にする為の参考になったよ!
バトルシーンはこれから増えていくので助かります!!
ライナー君のは・・・言う事無いね(笑)
強いて言うならセリフが少し多いかな?もう少し情景を書くともっと良くなると思うよ。
これからもお互い頑張りましょう!!

80ライナー:2011/08/17(水) 16:01:17 HOST:222-151-086-008.jp.fiberbit.net
 赤羽は翼を羽ばたかせ高く上空に舞い上がると、翼を畳み一気に熱也の方へダイブしていった。
 熱也はそれをギリギリまで引きつけると姿が消えるような速さで躱した。そして赤羽が飛び過ぎると熱也は赤羽の後ろへ瞬時に赤羽の後ろに回り、素早い蹴りを繰り出した。
 不意を突かれた赤羽はまともに蹴りを食らうと、屋根のアスファルトルーフィングに向かって叩き付けられた。しかし、土煙の中からは余裕の表情で笑顔を見せる赤羽の姿があった。
「柿村、盗んだアビリティは使い心地が良いようだなァ」
「盗んだアビリティだと!?」
 赤羽は屋根の穴から見える啓助を見下ろした。
「そういやフリーズのガキは知らないんだったな。お前の仲間だった・・・・確か煉と名乗っていたな、そいつは柿村にアビリティを取られ今そのアビリティは、柿村の元にある」
 啓助はその言葉に耳を疑った。そして先程まで信じることの出来た熱也の姿も、敵としか見ることが出来なくなった。
「(熱也が・・・・煉のファストを・・・・)」
 屋根の穴から垣間見える熱也は啓助にとって屈辱を見せる鏡と化していった。
 その啓助の呆然な姿を見て、熱也は目線を赤羽へ戻し強く歯ぎしりをした。
「・・・・柿村、そろそろ続きをやるか?」
 熱也は苦しそうな表情で舌打ちをし、疾風のように赤羽に駆けていった。
 赤羽はその素早いスピードを相手に熱也の方腹部に翼撃を見事に命中させた。
「いい加減その速さに目が慣れてくるんだよ!もう少し頭を使ってアビリティを扱ったらどうだ?」
 後方に飛ばされた熱也は急いで体勢を立て直そうとするが、その瞬間赤羽の背後からは銃声が響き渡った。そうかと思うと赤羽は肩から血を流しそのまま俯せに倒れてしまった。
 そして赤羽が倒れた瞬間、銃声の正体が見えた。啓助が天井の穴を角度を変えて見ると、そこには第6番隊隊長堂本が立っていた。
「隊長!来てくれたんスね!」
 しかし堂本はその言葉に気付いていないようだった。
「赤羽の奴・・・・あの薬は所有時間40分と伝えたはずだ。俺が撃たなければ貴様、死んでいたぞ」
「隊・・・長・・・?」
 堂本は屋根下の啓助に気付くと、背を向けて告げた。
「辻・・・・最後に隊長として告げよう。最後に信じられるのは自分だけだぞ」
 そう言うと堂本は熱也の方へと視線を変えた。
「・・・・お前にはガッカリだ」
 堂本は最後にそう言うと、倒れた堂本を担ぎ屋根の向こうへと去っていった。
 キョトンとしている啓助に熱也は駆け寄るように屋根から下り、啓助に言った。
「啓助・・・・その、堂本隊長も・・・・キルブラックの一員だったんだ」
 啓助はその言葉を聞き、後退りした。そして啓助は裏切りを一度に2度も体験してしまった。
「・・・・わいは、やっぱ今は戻れんようやな」
 熱也はそう言って、啓助の屈辱を乗せたまま跳び去った。啓助はただ空に舞う屈辱を見送るだけだった。

81ライナー:2011/08/18(木) 18:36:28 HOST:222-151-086-008.jp.fiberbit.net
 〜 作 者 通 信 〜
 最近は自分の小説よりここの方々の作品が気になる一方なライナーです。作者通信・・・・たまーに書いていきたいと思います^^;
 いろんな方々の作品が気になり出すのはネタ切れ寸前だからですね〜^^;良いアイディアは盗作にならない程度に参考にしていきたいものです。

 さて、今回は僕がこの物語を書こうと思った動機をお教えします。
 元々は漫画を書くのが好きだったのですが、絵は美術部だからか水彩や鉛筆を使ったデッサンや風景画しか描けませんでした^^;(漫画絵は描くとかなり時間が掛かるし、さほど上手くない・・・)だから、話しだけで評価して貰える小説を思いついたのです。
 最初はファンタジーにこだわっていました、でも魔法などどうやれば存在するのか、そんなことまで詳しく書かないと我慢できなくなってしまいました(←変なところで几帳面な人^^;)だからSFにしたのです(1≫にはファンタジーと書いてあるけど^^;)
 たまに恋愛、ギャグ、シリアス系など書いてみますがなかなか上手くいかなくて・・・・・だからこそ、そう言った設定を取り込みやすいのはバトルがあるもの、だからバトルが中心となってしまったんですよね。
 まあ、いろいろな思いがありながらも頑張って小説を薦めていきたいので、読んでくださっている皆様、これから読もうかなと言う皆様もよろしくお願いします。コメントも嬉しいですが、褒められてばっかだと図に乗るのでアドバイスもガツンとお願いしたいと思います^^;

82ライナー:2011/08/18(木) 20:16:21 HOST:222-151-086-008.jp.fiberbit.net
 第3章
16、思い出のバンダナ
 麗華の騒動が終わり、啓助達のチームルームから何やら話し声が聞こえる。
「フー、にしてもいつどこで敵が潜んでいるか分かりませんね」
 乃恵琉は火傷している部分に軽く包帯を巻き付けていた。
 現場にいなかった洋はいつものように真剣にパンを頬張っている。
「お前ホントに暢気な奴だな・・・・ってか麗華何であの時助けてくれなかったんだよー・・・・」
 啓助は何か思い詰めたようにふて腐れていた。
「だから変な札のせいでアビリティが使えなかったって言ってるじゃない・・・・」
 麗華も同様に頬杖を付き、片方の手で長方形の紙をヒラヒラさせ、ふて腐れていた。
「その札にはアビリティを抑える効果があるようですね、実に調べ甲斐があります」
「にしてもさ、堂本隊長がキルブラックにいたなんて・・・」
 ユニオンの掲示板にはそのことが記載され、ユニオン中騒ぎが起こっていたのだ。発祥は言うまでもなく啓助の報告で。
 流石の洋もそのことを自ら口にすると、それきりパンを頬張るその手を止めた。
 暗い雰囲気の中、チームルームのドアが突然開き何者かが入ってきた。
「お、おはよう」
 扉を開けたのは恵だった。
 何故啓助達のチームルームに恵が入って来たのか、それはチームルームのドアに記されていたのは第6番隊D班ではなく、第3番隊B班という文字が書いてあったからだ。
 啓助達は帰還した途端に隊の移動を言い渡されていた。それは専攻隊が次々と倒され数が足りないから、そして全隊の班はDまでとなっていたのだ。
「あー!もうなんか空気重くなってるし!乃恵琉、何か面白い話しでもしてよ!」
 麗華は場の空気に耐えられず声を上げた、しかし乃恵琉は黙って首を横に振り、窓の向こうを見つめていた。
「あのー、ボクが話ししようか〜?」
 そう言いだしたのは、洋だった。

83ライナー:2011/08/18(木) 21:59:22 HOST:222-151-086-008.jp.fiberbit.net
 恵を除く全員は信じられなかった。洋は普段から食に対してしか興味を持たず、幼い頃は食べ物に釣られて誘拐までされるほどだったそうだ。
「私は是非聞いてみたいな」
 恵はそう言って行儀良く空いている椅子に腰掛けた。
 やはり、恵を除く全員は一斉に顔を見合わせた。そのとき啓助は思った、洋は食にしか執着心が無かったもののこの場を盛り上げようと頑張っているのだと、そして他の2人も同じ事を考えているのだと思った。
 それは、クスッと笑って洋の方に目線を戻したからだ。
「じゃあ話すよ〜、あれはボクがユニオンに入る前のことだったんだ・・・・」

 洋はその頃、少し貧しくてあまり豪華なものは口にすることが出来なかった。
「母ちゃん、おなか減ったよ〜。夕ご飯まだぁ〜?」
 小学生の洋は薄汚れたランニングシャツにベージュの短パンを穿いていた。その頃から洋は丸々と太っていた。
「まだ3時だよ?いい加減おし、全く丸々太っちゃって・・・・」
 洋は仕方なく外に出て、走り出していった。着いた先はその時でさえ滅多になかった駄菓子屋だった。
 その駄菓子屋には見た目は古いが、コンビニに普通に立ち並ぶような菓子が置いてあった。
「よっ!デーブ!今日の朝見たときよりも真ん丸になってるなぁ〜!」
 洋に悪口を言ったのは同じ学校のいじめっ子達、しかし悪口を言いながら去っていくいじめっ子達を見て洋は首を傾げていた。やはり鈍感なのもこの頃からだった。
「ボク今日のお昼はご飯3杯しか食べなかったけどな〜」
 洋はそう言って、並ぶ菓子袋を眺めていた。
 菓子が並ぶ向こうにはレジがあり、そこにはいつも居眠りをしている駄菓子屋のお婆さんがいた。学校ではそのお婆さんを「居眠り婆」と言い、眠っている間によく子どもたちに万引きをされていた。あのいじめっ子達もその犯人の一部だ。
 洋は暫くその場で固まっていたが、黙って駄菓子屋を出て行った。
「あれ?井上君?どうしたのこんなところで」
 洋に話しかけてきたのは同じクラスの細海 由香(ほそみ ゆか)洋がいつもいじめられる度に庇ってくれる水色のバンダナを被った正義感の強い女の子。
「うーん、お腹空いちゃって・・・」
「それで駄菓子屋にいたの?でも井上君お小遣い貰ってないんでしょ?万引きなんかしちゃ駄目よ」
「うん、だから見るだけにした〜」
 すると由香は口を軽く押さえて笑い、洋に言った。
「しょうがないなー、私の家に来なよ。パンご馳走するから」
 由香は洋の返事を聞く間もなく、腕を掴み走っていった。
 2人が足を止めると、焼きたてのパンの良い匂いがした。由香の家は少し洒落たベーカリーカフェで時たま由香は洋に家のパンをご馳走してくれたのだ。
「今日のおやつはバターロールだけどそれで良いよね?」
 洋が深く頷くと、由香はドアを押し開け中に入っていった。

84ライナー:2011/08/18(木) 23:08:08 HOST:222-151-086-008.jp.fiberbit.net
 由香の家にはいるとパンの良い香りが部屋中に広がっていた、その匂いを体中で感じることが出来るのは洋にとって、天にも昇る思いだった。
「ママ、井上君また連れて来ちゃった!」
 レジの近くには由香の母が腰掛けていて、中々に美人だった。
「こんにちはー、井上君が来てくれるとお客が絶えないのよね。食べっぷりが良いからかしらね」
 パン工房の奥からはコック帽を被って、由香の父が出てきた。
「今日も君の食べっぷり、見せて貰うよ!」
 由香の父は焼きたてのバターロールの入ったバスケットをテーブルに置き、にっこり笑い「さあ!召し上がれ!」と言った。
 由香と洋は洒落た椅子に腰掛け、バターロールを手に取った。
「いただきマース!」
 2人は声を揃えてそう言うと、パンを口いっぱい頬張った。
 由香の一口は小動物のような一口だったが、洋の一口は大きく見ているだけでこちらが満腹になってしまうような勢いで食べ続けた。
 食べ終わると、由香の母親は親切にコップに水を注ぎ2人の前に置いてくれた。
「今日も井上君のお陰で夕方だっていうのにお客が押しかけてきたわね」
 すると今度は由香の父がもう一つのバスケットをテーブルに置いて洋に差し出した。
「今日儲けさせてくれたお礼だよ!また来て儲けさせてくれよ!」
「もうっ!パパったら!」
 その瞬間、その空間には沢山の幸せが詰まっていた。笑う事の出来る空間、笑顔を作れる空間、それが洋には嬉しくて仕方がなかった。
「じゃ、気をつけてね。バイバイ!」
 ドアノブを片手に手を振る由香を見て、洋も2,3回振替すと背を向けて家まで走り出した。
 家に帰ると、洋の母は台所で夕ご飯を作っているようだった。

85明優:2011/08/19(金) 16:31:20 HOST:i114-182-217-152.s41.a005.ap.plala.or.jp
久々にコメントさせてください^^
私の小説を最後まで見届けてくれてありがとうございます☆
あんな下手くそな小説なのに・・・。新しい小説も書きましたのでお暇な時
読んでくれたら嬉しいです☆
ライナーさんは表現力とか上手ですね!!
良いところがたくさん出ている小説だと思います☆
大変かと思いますが、もっと見たいです☆(←読者の声
ずっとこの小説を見届けたいと思うので、頑張ってください☆

86ライナー:2011/08/19(金) 17:09:58 HOST:222-151-086-009.jp.fiberbit.net
明優さん≫
 コメントありがとうございます!
 僕は恋愛を物語に取り込んでみたいなと思って最初見ていたのですが、とても恋愛系の理解に苦しむ人間に分かりやすく書かれて、参考にっていうかいつの間にか物語に引き込まれていたのです^^だからそれが明優さんの実力ですよ!
 読んでますよ!僕も受験生なのでなかなかコメントする機会がなく疲れています(焦)
 お褒め頂きありがとうございます!表現力は結構自分でも力入れたつもりです^^褒められると調子乗ることがあるんで、アドバイスもビシッとして下さっていいですよ^^;
 今書いているストーリーはサブなんで恋愛入れてます。なのでこの話が終わり次第、恋愛小説のプロにアドバイスお願いしたいと思います^^

87ライナー:2011/08/19(金) 17:26:35 HOST:222-151-086-009.jp.fiberbit.net
訂正です
84≫の下から二行目の振替すは、振り返すです。

88ライナー:2011/08/20(土) 12:09:15 HOST:222-151-086-008.jp.fiberbit.net
 洋の至福の時も過ぎ、気持ちを切り替えるように静かに深呼吸をした。
 深呼吸を3回ほど繰り返すと、母親を背に抜き足で台所に接する部屋を通過して行く。そして、真っ直ぐに自分の部屋に飛び込むと貰ったパンを隅に隠した。
 その後、何食わぬ顔で母親の居る台所に足を運び、一言「ただいま」と声を掛けた。
「お帰り」
 洋の母は洋に一言言ってそのまま何も喋らなかった。洋にはその時間がとても苦しかった、次第に心臓の鼓動が早くなり冷や汗が出てきた。
「・・・・洋」
 母親に言われ、ドキッとして洋は母を見る目に力を入れた。すると、洋の母は炊事中の手を止めその手を拭くと、洋の方をゆっくり向いた。
「いくら隠したって、その匂いとアンタの行動で伝わってくるよ。また、細海さんの家に行ってたんだね?」
 洋はガッカリした顔で頷き、そのまま顔を下に向けた。
「もうご馳走になっちゃいけないって言ったわよね?」
「で、でも、貧乏だからってみんなと同じような事しちゃ駄目なのかな〜・・・・」
 静かに洋の母は台所から隣の居間に移ると、洋にここに座るように言った。
 そして洋が座ってから、洋の母はその向かい側に正座すると洋に言った。
「洋が今していることは、みんなと同じ事じゃないのよ。あんなに毎日毎日行っているのは洋ぐらいなもの・・・・」
 洋はその言葉を聞き、今まで自分がしてきた事が間違っていたと言うことにショックを受けた。
 今までの洋の生活は暮らしが貧しく、世間に冷たく見られることの無いよう普通に過ごすというのが決まりだった。しかし、洋の食い意地の前にはその決まりも脆く、この前も散々と注意されたのだ。
 その原因は由香の家に外出することだった。食い意地を張った洋はいくら食べさせても数分後にはまた腹が減り、世間には身なりのことも含め、ろくなものを食べていないと思われるのも無理はなかった。
「だからこれからは、なるべく給食でもおかわりの回数を減らすこと。いいわね?」
 洋は弱々しい声で「はい」と言うとその話しは、そこで切れた。
 その日の夜、洋はふとトイレに行こうと目が覚めた。そして部屋から出ると、居間の方から明かりが漏れ話し声が聞こえる。洋は無意識にその声に耳を傾けた。
「洋のことなんですけど・・・・・」
 洋の母の声がする、誰かと話している様子だった。
「ああ、分かっている。俺の給料で、ああも馬鹿みたいに食われちゃたまらんからな」
 もう一人の声は洋の父親だった。漏れる光に目を近づけると、ヨレヨレのスーツを着てコップに入った水をグイグイ飲んでいる。
「もう少し給料が上がれば晩酌くらい出来るのになぁ・・・・」
「それよりも、今日洋の先生から電話が掛かってきて、お子さんにはいつも何を食べさせているのですか?なんて聞かれちゃって。もうどうしたらいいのか・・・・」
 洋はそれ以上話を聞く気になれず、耳を遠ざけトイレに行くのも忘れ寝床に戻った。

89ライナー:2011/08/20(土) 15:45:41 HOST:222-151-086-008.jp.fiberbit.net
 次の朝、洋は目が覚めた瞬間大きな失敗を犯してしまった事に気付いた。布団がグッショリと水気を帯びていたのだ。
 久々の失敗に青ざめていると、それと一緒に昨夜の悲劇を思い出した。
 自分が居ると多くの人に迷惑が掛かる……せめてまともにならなければ、と。
 洋は濡れた敷き布団を窓に干し、何やら意気込んだ様子で自分の部屋を後にした。
「おはよう」
 洋は朝の挨拶をキチッとすると、顔を洗い朝ご飯に手を付けた。
「(まともに、まともに……)」
 朝ご飯はご飯に味噌汁、おかずには漬け物といった和食だった。洋にはいつもの半分以下の量で、おかわりを毎日のようにしていた。しかし、今日に限って用意されたものだけに食いつき、おかわりはしなかった。
 その後、歯を磨き準備を完璧に済ませると、勢いよく家を出て行った。
「あれ?今日は随分と飯が残ってるんだな」
 まだ家にいる洋の父はネクタイを締めながら朝の飯にありつこうとしていた。
「そう言えば、洋また食べた後二度寝してるみたいだから起こしてきてくれます?」
 台所では洋の母が洗い物をしながら頼み掛けていた。
 洋の父はヤレヤレと、いつもの家事に取り付こうとするように洋の部屋に行った。
 しかし、洋の部屋に残っていたのは窓から差す眩しい光と、その窓に掛けてある乾いた布団だけだった。
「おーい、母さん。洋どこにも居ないぞ?」
「え!?もしかしてもう出かけたの?しかも、おかわりしてないみたいだわ……」
 その頃、洋は強い日差しの中を建物の陰に隠れながら学校へ向かっていた。
「おーい、デブ!今日は朝も早い分、真ん丸度もアップしてるな!」
 いつもはいじめっ子達に合う時間にも家を出でなかった洋は、悪口より優越感が先走っていた。
 学校でも洋は自分に「まとも」という言葉を言い聞かせ、おかわりは何とか一杯に抑えた。
 難なく学校も終わり洋は腹を抱えながら家へ真っ直ぐ進んでいた。
「井上君!」
 洋が緊急事態の中、由香が手を振って洋の方へと走ってきた。
「今日、おかわり一杯だけだったでしょ!今日も家に寄って来なよ!」
 しかし洋はその言葉に首を横に振り、驚いて立ち止まっている由香を余所に歩き去っていった。
 家に着くとただいまも言わずに自分の部屋に飛び込んでいった。そして空腹を紛らわすために、宿題をしていた。
 空腹のあまりおかしくなっている洋は、晩ご飯前にグチャグチャの字で書いていた宿題を終わらせ、やはり晩ご飯はおかわりせずに平らげた。風呂から上がった後は急いで朝乾かした布団の中へ潜っていた。

90kokoro:2011/08/20(土) 22:02:11 HOST:d172.Osa8N1FM1.vectant.ne.jp
世の中には簡単で儲かる仕事があるもんだ(*・ω・)。 ttp://tinyurl.k2i.me/Xxso

91ライナー:2011/08/20(土) 23:55:45 HOST:222-151-086-013.jp.fiberbit.net
 次の朝、洋は布団から起き上がった。正確には空腹により眠れず朝が来たので仕方なく起きた、と言う方が正しいのであろう。何せ洋は1晩中腹を鳴らしていたのだから。
 昨日ほどの元気はないものの、驚く両親に挨拶をして顔を洗い、おかわりは無しのルールで朝を済ませ家を出た。
 眠いのか、それとも腹が減っているのか、もう何も分からない状態で家を出て行く洋に洋の父は急いで追いつき、歩く洋の腕を掴み引き留めた。
 洋の父は片手にゴミ袋を持ち、いかにも朝のサラリーマンを醸し出した様子で話しかけた。
「洋、お前最近元気ないな。どうかしたのか?」
 問い質す父親に洋は、細い目をさらに半開きにして振り向いた。
「僕は普通じゃないから〜……」
 洋の分かりづらい答えを聞くと、洋の父はため息を吐いた。そのため息はガッカリした様子ではなく、微かな笑みが見えたため息だった。
「母さんがさ、朝はしっかり食べないと力も出ないから朝だけならおかわりいいってよ」
 その言葉を聞いた途端、洋の重たい目は細いながらもパッチリ開き光を帯びて輝いた。
「ほら、もう一回食って来い!歯磨きももう一回、忘れんなよ」
 洋の父は洋の背中を家の方向に向かって力強く叩くと、ゴミ捨て場にゴミを置き会社へと歩いていった。
 洋は嬉しさのあまりその場を動くことが出来なかった。しかし、一回腹が鳴ると家の方向に向かってその足を踏み出した。
 そしてその日の学校だった。朝ご飯をいつも通りしっかり食べてきた洋は昨日より威勢が良くなっていた。
 洋はやっといつもの自分に戻れたと思い、由香に昨日のことを謝りに行こうと思った。昨日の自分はどうかしていた、と。
 しかし、由香の机の方へと近づくと周りには何人もの女子がいた。いつもなら由香の机の近くには誰も寄りつかず、別グループを作って話している女子しかいなかった。そう、由香にもまともに女友達が出来ていたのだ。
 洋のことばかりをヒイキするあまりに煙たがって誰も寄りつこうとはしなかったが、元は才色兼備で完璧な友達思いの優しい女の子だったのだ。
 その事に気付いた洋は何だか気が引けて、また自分の席に座り込んだ。
「(これで良いんだ……今まで由香ちゃんはボクに巻き込まれていたからみんなに相手にされなかったんだ……良いんだこれで……良いんだ……)」
 洋はその日の給食を我慢するどころか喉にも通せなかった。気付いたら、色々な大切なものを失っていたから。
 もちろん食べることだって好きだったし、明るい家庭を作り出すことも出来、良かった。しかし、それ以上に大切な友達……いや、それ以上に思っていた人を失っていた。
 この時、初めて洋が恋愛感情を知った。切なさを知った。失う事の辛さを身をもって知った。
 その日は夕ご飯になっても、洋は空腹を感じることは無かった。

92ライナー:2011/08/21(日) 12:54:33 HOST:222-151-086-009.jp.fiberbit.net
 洋はそのまま、何日経ってもおかわりをすることはなかった。周りで何が起きようとどんなに叱られようと、洋の耳には一言も一文字も入らずただボーっとしていた。
 そしてある日のことだった、洋は朝の食事を珍しく抜いた。それはもう辛い状況なのだが、それ以上に苦しみを訴える物には敵わなかった。
 ぼーっとしているまま時は、既に下校時刻。担任の先生の招集があり洋のクラスの面々は教室に集まっていた。
「今日は皆さんに悲しいお話があります」
 先生の話も早々に洋は机に伏せて寝ている。
「実は、細海さんの事なのですが、今日限りでこの学校とはお別れします」
 洋はその言葉を微かに耳で感じ取った。無意識に耳に入ってきてしまった。
「み、皆さん。今まで仲良くしてくれて有り難う御座いました!」
 由香の別れの挨拶で教室は拍手と様々な歓声が上がる。お別れの一言や、有り難うの一言などが……
 洋はここで敢えて拍手も何もしなかった、自分が出しゃばれば白けると分かっているから。心の中で今までにない苦しみを抑え、涙を堪えた。
 洋は自分が久々に感情的になったのに気付いた。自分は今まで鈍感でそんなことほとんどやったことがないから。
 その日、洋は由香に話しかけられる事はなかった。今までもずっと断り続けてきたし、関わろうとしていなかったから話したくないのも分かる。
 洋は家に着いてから、自分の部屋にこもった。
「(もう、会えないのか……)」
 その時に洋は思い出した、由香が引っ越すまでの色々な出来事を。楽しく笑ったり、遊んだり、楽しいことはあったがケンカは一度もしたことはなかった。洋は鈍感だったからだ。
 しかし、今では鈍感を振り払い、由香への気持ちを正直に伝えられるようになったのではないのか。
「………」
 洋は気が付くと体が勝手に動いていた。一直線に家を飛び出し、外へ出た。そして一番近い駅の方向目掛けて、今までにない力を振り絞り駆けていった。
 洋の居るこの街は京都ではないが、中々に碁盤の目のような形の道をしていて、道を一本間違うとドンドンずれていく厄介な代物だ。
 しかし洋は急ぐ且つ慎重に事を進め、いつもマイペースな状況では到底出来ない疾走ぶりを見せた。
「(よーし、このままなら余裕に間に合うぞ〜!)」
 駅に近づくに連れ、洋の足取りも軽くなり今までの悲しさが吹き飛んでいった。
 しかし、後一歩のところで洋は足が止まった。洋が真っ直ぐ見据える先には、3人のいじめっ子達が横一列に並び邪魔をしていたのだ。
「どこ行くんだよー!デーブ!」
「退いてくれないか!駅に行くんだ!」
 洋の凄まじい変わりように、いじめっ子達は驚いた。
「お、お前、何か最近変だな……暗くなったり、勢いづいたり……」
 すると、別のいじめっ子が言った。
「だーから、由香に嫌われるんじゃネ?」
 一人が言うと、他の二人も「だよな〜」と合わせ、洋の方を向いた。
「由香は今駅にいると思うけど、お前みたいな嫌われもんにはきっと会いたくねえんだよ!」
 その瞬間いじめっ子達は木の棒を振り上げ、洋に襲いかかった。

93ライナー:2011/08/21(日) 14:37:54 HOST:222-151-086-009.jp.fiberbit.net
16〜Ⅱ、思い出のバンダナ 
 洋は向かってくる棒に対し、躱すことが出来なかった。
 普段はそこまで動くこともあるわけではないし、体型のことも考えると太った体は命中しやすいのも目に見えていた。
 しかし洋はやられるだけでは留まらなかった。
「(由香に会うには痣だらけなんてみっともない……)」
 そう思うと、洋の体には見えない力が溢れていた。叩かれたまま、体をいじめっ子達に突っ込むと、いじめっ子達はまるでボーリングのピンのように吹き飛びアスファルトの地面へと倒れた。
 どうやら、洋のまん丸い体型も無駄ではなかったようだ。
 洋はそのまま駅に向かって走って行く、まるで友を助けに王城へ走るメロスのように。
 走れば走るほど辛く、時には血痰まで出てきたが、洋は諦めなかった。
 駅に着くと急いで家から持ち出した金を使い切符を買った。そして改札を抜けホームへと走っていった。
 しかし、そこには由香の姿はなかった。洋は急に今まで込めていた力がどこかへ消え、膝をついて座り込んでしまった。
 暫く黙っていると、洋はゆっくりと立上がった。そしてその瞬間垣間見えた、希望の光が、洋にとってここぞと思える希望が。
 なんと、不覚にも向こう側のホームに居たのだ。洋はそれ気付くと、急いで階段を上り、反対側のホームまでたどり着くと由香の方へ駆け寄った。
「おーい!」
 由香はその声に気付き、洋の方を向くと嬉しさと驚きが詰まったような顔をしていた。
「井上君!!」
 洋は立ち止まったときは息が荒く、とても喋れなかった。
「だ、大丈夫?」
 由香がペットボトルに入ったお茶を差し出すと、洋はそれを全て一気に飲み干した。
「……由香ちゃん、この前はごめん」
 由香は洋のその言葉を聞くと笑顔を見せ言った。
「いいよ、別に。今までケンカなんてしたこと無かったよね。最もケンカらしいケンカだったのか分かんないけど……」
 二人は急にキョトンとした表情になり、その顔を見合わせると自然に笑いが込み上げた。
「でも、よかったぁ〜!!いつもの井上君に戻ってて」
「え?」
「だってさ、食欲のない井上君なんて井上君じゃないもん」
 すると、ホームの向こうから電車のやってくる音が響いた。
「あ、あのさ〜。ボクも途中まで着いてって良いかなぁ?」
 電車が目の前に停車し、ドアが開くと由香は深く頷いた。
 電車の中では人が少なく、一番後ろの車両は洋と由香二人きりだった。
「パパとママが二人はこっちでおしゃべりしてればー、だって」
「まあ、由香ちゃんと会えるのも最後だからね〜」
「そんなこと無いよ!たまにはこっちに遊びに行くし、井上君だって私の所に遊びに来てくれるよね!?」
「うん」
 洋は今までこのような至福を感じたことがなかった。由香の家で至福を感じたのは今思えば、パンの香りではなく由香の優しさだったと洋は思った。
 そして洋の出なければならない時間が来てしまった。洋は次の駅で足を降ろし由香に言った。
「今までありがとう……まあ、いつか会いに行くよ〜」
「うん、じゃあこれ、私から」
 由香は洋に山吹色のバンダナを差し出した。

94ライナー:2011/08/21(日) 16:00:10 HOST:222-151-086-009.jp.fiberbit.net
「これ、私が被ってるのとツインだったんだけど、井上君にあげるよ」
「……ありがとう」
「井上君、じゃあね」
 由香がそう言うと、電車のドアは閉まった。そして走る音を響かせながら電車は去っていった。
 洋は山吹色のバンダナを受け取ったとき、由香の気持ちが分かった気がした。
 言葉には出来ない思いの伝達が――

「……ってこんな感じかな〜」
「君にしては中々に面白い話しでしたよ。君にとってそのバンダナ、飾りじゃなかったんですね」
 乃恵琉以外も少ししんみりした様子だったが評価が良かった。
「んじゃ、お前ら!張り切って任務行くぜ!」
「何アンタが仕切ってんのよ」
 洋のお陰でチーム全員が何やら吹っ切れた、そんな1日だった。

95ライナー:2011/08/22(月) 23:54:09 HOST:222-151-086-018.jp.fiberbit.net
17、乃恵琉の事情
 ある日のチームルームだった。名ばかりの物だが第3番隊B班として自覚を持った時だった。
「何て言うか……暇だな〜」
 丁度この日は2週に1度の定期的な休暇の日だった。
 啓助は早々とチームメイトや、別隊のチームから任務を取られほとんど仕事をしていなかった。
「アンタこれ以上サボると単位落ちて訓練生に落とされるわよ〜」
 麗華は余裕の表情で啓助をからかった。ちなみに単位とはユニオンに付属されたシステムで、単位が一定に上がると専攻隊や良くなれば隊長までも任されることがある。しかし、それとは逆に単位を落とすとほとんど一日を訓練で終える訓練生に落とされるのだ。そしてその下に待ち受けるのは最終的に脱退、一つ間違えれば過酷な運命を受け持つシステムだ。
 隊員が少なくなったせいで単位のレベルが下がり、ややさぼり気味の啓助は一言「ヨッシャ!」と気合いを入れるように立上がるとチームルームを出て行った。
「ちょっと、アンタどこ行くの?脱退すんの?」
「気が早すぎるだろ!っていうか同じチームなのにそれは無いだろそれは!」
 啓助はチームルームのドアから顔を覗かせている麗華を振り向き、咄嗟に突っ込んだ。
「じゃあ、どこ行くの?脱退届出しに行くの?アンタにしては潔いわね」
「だから違うって言ってんだろがっ!お前はどんだけ俺を脱退させてェんだよ!俺は心身共に鍛え直すため師匠の元にだな……」
 突っ込んだ後、啓助が誤解されないように真剣な表情で説明していると、麗華がチームルームのドア越しにポテトチップスを囓りながら言った。
「じゃあ、破門されに行くの?ってか破門するの?」
「破門するって自ら自分で破門する奴見たことねーよ!ってか破門されるために行くのもどんだけ無駄足なんだよ!」
 啓助が息継ぎしないで突っ込み終わり息を荒くしていると、麗華がチームルームからヒョコッと出て来た。
「んじゃ、私も着いていこうじゃない。破門の瞬間をこの目で見るため」
「だから破門じゃねェェェェェーー!!」
 啓助の叫びがユニオンの廊下中に響き渡った。

 結局啓助は麗華を連れ、師の所へ行くことになった。
「何で着いて来るんだよ……」
「いや、まともにザコの異能力者(アビリター)も倒せない奴がどんな師匠に教わってんだろうと思って」
「とても突っ込みたいが、言い返せないのは何故だ……あ、俺がまともにザコ異能力者(アビリター)倒せてないからか……」
 啓助は麗華の騒動後の任務で二度も違反を犯した異能力者(アビリター)を逃がしていた。その時麗華も同行していて、きっとその事を根に持っていたのだろう。
「にしても何で、狼火の里(ろうびのさと)に?こんな荒れたところにいるの?」
 狼火の里とは、啓助が以前遠征に出かけた街の名で、啓助が洋(ひろし)に悉く出番を奪われ炎狼を倒した時に付いた名だった。あれ以来、炎狼がこの街付近に生息するようになったととも言われている。
 しかしながら啓助は思った。しっかり家も建ち、電気がやや使えなく、地面のアスファルトが剥がれているだけで麗華にとって「こんなに荒れている」なのだから。
「居るよ、しっかりとな。お前みたいなお嬢様育ちじゃ分からないか」
 麗華は少しムッとして、言い返した。
「破門育ちには分からないわよ」
「なんだよ破門育ちって……」
 すると突然、前方から強い風が吹いた。啓助は驚いて2、3歩後退ると、麗華の騒動が終わりカールが掛かった桃色の髪が縦に螺旋を描き啓助の顔面に当たった。
「痛てて、お前の髪目に入っちまったよ」
「うっわ、最悪。後で洗い直さないと」
 麗華はそう言って、嫌そうに髪をハンカチで拭いた。
「俺はどこかのいじめっ子か」
「それよりも、今のただの風じゃないようね。衝撃波かしら」
 麗華は啓助の通う道場を一直線に見つめると、その中からは戦闘をしながら出てくる乃恵琉と英治の姿があった。

96:2011/08/23(火) 12:06:00 HOST:zaq7a66c196.zaq.ne.jp
コメしますw

凄すぎです!!!

また少ししか読んでませんけど・・←殴

でも、少しずつ読んでいきます!!!

これからも頑張ってください!!

97ライナー:2011/08/23(火) 22:00:35 HOST:222-151-086-013.jp.fiberbit.net
燐さんコメントありがとうございます!
出来たら凄い部分を教えて頂けると今後の参考になるのですが……^^;(欲しがるな)
そうですね、全然少しずつで良いと思いますよ。僕の小説なんかより良い小説いっぱいありますから(笑)

98ライナー:2011/08/23(火) 22:59:52 HOST:222-151-086-013.jp.fiberbit.net
「あれ?師匠何やってんだ?乃恵琉も門下生だったか……」
「あれって辻の師匠だったんだ。まあ、乃恵琉に余裕で遣り合っているから『弱い』は無いわね」
 2人は乃恵琉と英治の戦闘を見ながら会話を交わした。
 戦闘を続けている2人は通行人に関わらず危ない戦い方をしていた。道の端には窪みが出来、道場の隣の建物は外壁にヒビが入り大変だった。
 その戦いをまじまじと見つめ、15分ほど経ったときに啓助達は思った。この戦闘は試合じゃないと。
 気が付くと乃恵琉達が戦っている辺りは段々と荒れ地と化し、通行人や壊された建物に住んでいる人々は迷惑そうにその戦闘を見つめていた。
「辻、あれ何とかしなさいよ」
「あ、俺ちょっと用事思い出した」
 啓助は何とも態とらしく白を切っている。
「その用事があの人なんでしょ」
 麗華は何とも冷静に言い返すと、啓助は渋々乃恵琉達の方へ近寄った。
 啓助が近寄っても2人は気付かず、絶えず戦闘を行っている。その戦闘をしている中でも、やはり英治の方は笑顔が顕在していた。
 頃合いを見計らって啓助は氷を作り出そうとするが、双方中々距離を取らず難しかった。
「ホラ、辻ー!さっさとしなさいよー!」
 麗華の催促が聞こえ、啓助は少し焦りつつも頃合いを見計らう。そして両者の技同士がぶつかり合い距離を置いたその瞬間、啓助はその間に道幅半分くらいの氷山を作り出した。
 すると、啓助が見越したとおり両者の動きが止まった。乃恵琉はハッとした表情をしていたが、英治は恐れ入るほどに笑顔しか映っていなかった。
「師匠に乃恵琉。もっと状況見て判断しようぜ……」
 乃恵琉と英治は啓助の存在にやっと気付き、2人して同時に啓助を見た。
「こ、これは失礼。僕としたことが……またも冷静な判断力を失っていた……」
 乃恵琉は啓助の方に歩み寄り、反省した様子だったが英治は全くその様子が見られなかった。
「乃恵琉君、僕も必死で止めたのに聞いてくれなかったのかい?」
 英治はこの期に及んで言い訳をしてる。
「父さん、いい加減にして下さい。母さんが心配しておられます、家に戻って下さい」
 その時、啓助と麗華は自分の耳を疑った。乃恵琉は今、英治のことを父さんと言っていた。しかし、勤勉で真面目な乃恵琉と笑顔が眩しい穏やかな英治はあまりにも違いすぎた。唯一似ていると言えば、眼鏡を掛けているところだ。
 唖然としている啓助と麗華に乃恵琉は気付き、感づいたように紹介した。
「あ、こちらは僕の父、黒沢英治です。それと、啓助君。さっき父の事を師匠と呼びましたよね?この人に教わらないほうが良いですよ……」
 そして気付いた。啓助は、乃恵琉と英治の苗字が同じ事を。
「啓助君、久しぶりですね。また私の所に修行に来てくれましたか、先に道場に入っていてください」
「だから、父さん止めて下さい!いい加減母さんの所へ……」
 乃恵琉が言いかけると、英治はそれに対して笑顔で言い返した。
「大丈夫ですよ、お母さんには手紙をしっかり出していますし」
「だからそうではなく、たまには家に帰ってこいと言っているんです!母さんは父さんに強く言うのが怖くて僕の方に手紙をくれるんですよ!」
 英治がうーんと唸りながら首を傾げて考えていると、啓助と麗華が目に入った。その途端、いかにもマイペースな提案が英治の口から放たれた。
「じゃあ、帰るか帰らないか、啓助君達で勝負を付けて貰いましょう。詳しく説明すると、僕と乃恵琉君が啓助君かあのお嬢さんを鍛え、2週間後に対決させる。トレーナーバトルです」
 英治の自分勝手な提案に乃恵琉は「良いでしょう」と本人達の同意もなく引き受けた。
「では僕は啓助君を貰っていきますよ」
 乃恵琉はそう言って、啓助の腕を引っ張ると思い詰めたような顔で、ズンズンと歩いていった。
「(って、乃恵琉。あの壊した部分どうすんのよ……)」
 麗華が心の中で呟くと、同様に腕を引っ張られ英治に道場へと連れられた。
「啓助君を取られてしまったので、お願いしますよ。お嬢さん」
「あ、私麗華って言うんだけど……ってどうなってんのよぉ〜!!」

99ライナー:2011/08/24(水) 00:51:38 HOST:222-151-086-013.jp.fiberbit.net
 一方、啓助と乃恵琉の方では啓助が未だに乃恵琉に腕を捕まれたままだった。
「ちょ、ちょっと待てよ!展開早すぎて訳分かんないって!どういう事なのか説明しろよ!」
 啓助がそう言って乃恵琉の手を振り払うと、乃恵琉は啓助の方に振り向いた。
「しょうがないですね。じゃあ、落ち着いて聞いてください……」
 乃恵琉は歩きながら話し始め、啓助は2週間後に対決するのを覚悟してその後を追った。
 乃恵琉が言うに、英治は実の父親と同時に1人の優秀な武道家らしい。
 その頃の英治はある武道の四天王の1人に君臨する人材で、その名を世に轟かせていたらしい。
 その頃の英治は無口で勤勉な性格で人々からはその無言さでとても恐れられていた。
 しかし、珍しいことにフランスに四天王と互角に渡り合うという武道家が居たらしく、英治はその武道家に会うべくフランスに発った。だが、その先でエメラルドグリーンの瞳を持ったフランス人女性と恋に落ち、結婚した。それが後に乃恵琉の母となる人だった。
 それからというものの、英治の性格は一変し、無口から明るい性格になり「四天王は疲れました〜」とふざけたようにその座を降りたとか。
 そして、その性格ぶりは周りを振り回し今に至るという。
「よく、お前そんなこと聞き出せたな」
「父さんじゃありませんよ、四天王の方達にです。それに父さんに聞いても笑ってごまかすだけですしね」
 気が付くと、歩いた先は鉱山が一面に広がっていた。

100ライナー:2011/08/24(水) 15:53:51 HOST:222-151-086-015.jp.fiberbit.net
 〜 作 者 通 信 〜
 丁度良い数100≫と言うことで作者通信です^^
 物語はもちろんいろんな人々からのコメントや、誤字脱字の訂正(苦笑)キャラクター紹介などでレス番号100に到達しました。読んでくださっている皆様ありがとうございます! m(_ _)m
 99≫は何だか詰めるためにやった感じがもろに出ていますが^^;
 飽きっぽく何やっても1ヶ月以上続かない自分がここまで出来たのは読者の皆様のおかげだと思います!
 今回は何故この物語を出したのか、について書いていこうと思います。
 題材はこの前区切りが付いたばかりの、麗華救出編についてです。
 この話は本来、洋が洋(ひろし)の方に変化し、どこかのお嬢様と結婚する条件として屋敷の支配人を啓助達と戦わせ勝つ、という設定にしようとしました^^;
 何故そこで麗華の話しに変更したのか、それは本編で空気キャラと化しそうになったからです。(救出編でもかなり影薄くなりましたが^^;)
 でも、戦闘の部分は人数が減っただけで、全然問題ないはず!しかしバトルものとなると戦闘のバリエーションが中々思いつきません(焦)
 これからも読者が読みたくなるような、バトル、感動、恋愛、ギャグ、などなど入れていきたいので応援宜しくお願いします!!

101竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/08/26(金) 16:32:52 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

100レス到達おめでとうございます!
読んでる途中に思って、あまり言及されていなかったから気になっていたんですが、やっぱ英治は乃恵琉の肉親でしたか^^
ホントは兄と思ってたけど…。

まあそれは置いといて。
これからも頑張ってくださいね!
このコメントを僅かな力の足しにしていただければ幸いです。

続きも楽しみにしてますので、お互い頑張りましょう!

102明優:2011/08/26(金) 17:30:14 HOST:i114-182-217-152.s41.a005.ap.plala.or.jp
100突破おめでとうございます!!
これからも読者でいたいので、よろしくお願いします^^
これからも頑張ってください☆

103ライナー:2011/08/26(金) 23:10:19 HOST:222-151-086-018.jp.fiberbit.net
 二方様コメントありがとうございます!画面の向こうでモノホンの土下座もやらせて頂きます。m(_ _)m

 竜野翔太さん≫
 いつも読んで下さり、ありがとうございます!
 コメントの度に小説の内容まで語って頂けるので嬉しいです!!
 確かに、英治さんは年齢ハッキリと出してないんで兄にしようか親にしようか自分も迷っていた次第にごぜぇます(笑)
 はい、これからも頑張りますので仲間として、ライバルとして(敵うかどうかは分かりませんが)頑張りましょう!!
 ちなみに受けが良かったようなので、メイドさんのレギュラー化計画を今立てています^^

 明優さん≫
 またのコメントありがとうございます!!
 こちらこそ、これからも読者であって貰いたいので、宜しくお願いします^^
 明優さんの小説もちょくちょくコメしますのでお互い励まし合い、頑張りましょう!!

104ライナー:2011/08/27(土) 00:38:21 HOST:222-151-086-018.jp.fiberbit.net
18、武器の道程
 啓助は言われずともこの場で修行することは目に見えていた。鉱山は鉱山でもやはり山、山と言えば修行の原点なようなものだし、何よりそれ以外に鉱山に来る理由が無かった。
 乃恵琉は、暫く歩きながらモノクロに染まった鉱山の地面を見つめていた。そしてふとある所で足を止めしゃがんだ。
 しゃがむと、足元に転がっている野球ボールくらいの鉱石を片手に取り、その石を真上に軽く投げ重さを量っていると、突然、啓助にその石を投げつけた。
 啓助は慌てて両手を出し、その石を掴み取ると、大きさに似合わない重さが啓助の両手を襲った。
「なっ!何だこの石……!」
 乃恵琉は人差し指で眼鏡を押し上げると、啓助に言った。
「ここの石は物質その物は石ですが、密度が鉄並みにあり、筋力向上に持って来いかと……」
「なるほど!んじゃ、早速修行を……」
 啓助がそう言いかけると、乃恵琉が手のひらを目の前に出し待ったを掛けた。
「君にこれからは武器を握って貰います」
 面倒くさそうに「武器ィ……?」と呟く啓助に乃恵琉は1つ大きな溜め息を吐いた。
「……君は今、自分が補助として装備しているエアライフルで充分、なんて思っているようでは駄目ですよ。普通時の攻撃が素手だと、ちゃんとした武術を習っていない限り腕1本無くなるのは確実です」
 啓助は先程のやる気のない顔を強張らせ、唾を呑んだ。
 考えてみれば、乃恵琉は槍型のナチュラルランスとその第2形体のエレクトリックナイフを持ち合わせているし、洋は武器を装備していないが異能力(アビリティ)『メター』で体の部位を打撃系の武器に変換することが出来る。この前一緒のチームになった恵に至ってはエナジーボントという銃2丁も持っている、しかもあのタイプは確か銃把を逆さに持ち、撃鉄、銃身、銃口を突きのように繰り出す『銃拳術』が出来るタイプだと本人が目を輝かせながら教えてくれた。
「あれ?でも、麗華は?」
「麗華はチームで唯一、アビリティと武器を同時に使う事が出来、異能力(アビリティ)『サイコキネシス』を用いた『物体念動』を使います」
 物体念動というのは、麗華が独学で編み出したらしい術で、武器に念力を纏わせその武器の力を向上させるという術だった。啓助はその言葉に少々疑問符が浮かんでいたが、乃恵琉の丁寧な説明でとりあえずは理解をした。
「それで、まあ問題の武器の方ですが、麗華はジャックナイフを六刀流で使います」
「6ッ……!俺は一体どんな武器を持てば良いんだろうか……」
 六刀流と聞いただけで物凄く弱気になっている啓助に、乃恵琉はポンと肩を叩いた。
「武器は自ら動くことはありません、ですからそれを操る人間の素質と、その人間に合う武器を選ぶことが大事です」
 すると向こうから、啓助の聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「あれ?若と、啓助さんじゃないスか」
 啓助達がやってきた方向と同じ方向から聞こえた声の人物は、啓助が道場で一戦を交えた福井健二の声だった。

105竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/08/27(土) 08:53:11 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>

いつになったら言うのかな?みたいな感じで待ってましたw
迷ってたんですか?でも父という方が意外性あるかも?みたいな感じですよ^^

いやいや、ライバルんんて僕が敵うわけないじゃないですか…。
はい、お互いを励みにして頑張りましょうね!

おお、これは吉報!
今からもう楽しみです^^

106ライナー:2011/08/28(日) 13:50:27 HOST:222-151-086-011.jp.fiberbit.net
 竜野翔太さん≫
 正直、英治さんは出て来るときに乃恵琉も出そうと思っていました。ですが、何か訳分からん内にその設定から遠ざかってしまいまして^^;でも、父親設定を気に入って貰えたので良かったです^^
 ネタバレになるのであまり言えませんが、メイドさんが仲間になるのはだいぶ後になるかもです^^;その替わり、チョクチョクメインキャラの誰かを邪魔して現れますのでご期待下さい!

107ライナー:2011/08/28(日) 15:28:51 HOST:222-151-086-011.jp.fiberbit.net
 啓助は呼ばれて返事をしたが、一つの言葉が耳に引っ掛かった。そして目を瞑って、頭の中で記憶を巻き戻ししてみる。「あれ?若と、啓助さんじゃないスか」……
 若?若とは誰だろう?啓助は再び疑問符を浮かべたが、その答えは言うまでもなくここまで一緒に来た人物だった。
「福井さん、その呼び名は止めて下さいと申しておいたはずですが……?」
 乃恵琉が嫌物を見るような目で健二を睨んだ。
「ま、良いじゃないスか。ところでこんな何もないところで何してるンスか〜?」
 健二が問いかけると、乃恵琉はヤレヤレと言わんばかりの顔で先程まであった一部始終を漏れなく全て語った。
 啓助は、乃恵琉のアウトプット能力は優れているなと思ったが、近所の家々を壊したことを隠していたのが気に食わなかった。
「フーン、どおりで師匠は普段習っている門下生を差し置いて、一人の少女を個別指導をしていた訳だ」
 乃恵琉は嫌物を見るような表情は一切変えなかったが、健二に「父が申し訳ありません」と一言言った。
 この遣り取りを見て啓助は、麗華と洋を2人に照らし合わせた。何となくそう感じたのだ。キリキリした方と、それを宥めるように場を和ませる暢気者、人間とはこの2種類で構成されているのか、そうとさえも思っていた。
「ま、僕も暇ですし、次はちゃんとした試合をするためにも付き合うスっよ」
 健二はそう言うと、何歩か後ろに下がり、先程啓助が掴んだボールくらいの石を手に取り大きく振りかぶった。
「んじゃ、啓助さん投げますんでどちらか片手で取って下さいよ〜」
「え!?片手!無理無理無理無理、さっき両手でも大変だったんだぞ!!」
 啓助の言葉を耳に入れず、健二は剛速球を投げるピッチャーのように投球した。
 その速さは当然の如くプロ並みではなかったが、あの重い鉱石を100キロ近い速さで啓助に向かって飛ばしている。
 啓助は反応することが出来ずに、竦んだままその石を見据えていた。しかし、啓助の右手は反射的に石の目の前に出て、鞭を地面に叩き付けるような軽い音が啓助の手に響いた。
「……と、取れた」
「なるほどなるほど、啓助さんの場合は右手が反応しやすい手……つまり、武器の利き手ッスね」
「今のは偶然だっつの!大体両手使わないと無理だって!」
 啓助の意見に健二は、「あ、そう」と一言言うと続けて、これしかないと言わんばかりの声を上げた。
「左手で右手を補佐出来るように、洋剣を使ってみたらどうスか?」
 洋剣、またの名はサーベルだが、チーム内では誰も使っていないことから啓助は少し親近感を持った。
 しかし、親近感を持てた事と自分がそれに合う事で、乃恵琉の言う「その人間に合う武器」は決まった訳だが、肝心の「それを操る人間の素質」は未だ遠い存在だった。
「では、武器が決まったところでトレーニング開始と行きます」
 そして、洋剣を使うための修行が乃恵琉の掛け声で始まった。

108ライナー:2011/08/30(火) 00:07:10 HOST:222-151-086-015.jp.fiberbit.net
「では、武器を持つときの握力を鍛えましょう。そうしないと、簡単に武器を手元から外されてしまいますから」
 乃恵琉は先程と同じ、野球ボールくらいの鉱石を二つ持ってくると、啓助の手にそれぞれ一つずつ持たせた。
 ただ重量が二つ分になると言うだけのことなのに、二倍とは到底思うことの出来ない重さが啓助の両手を襲った。
「そして、武器で攻撃する場合は腕力の力は必要不可欠ですが、それを充分に支えるための足腰の強化も必要ですね、両足にも取り付けましょう」
 啓助が反論する前に早々と乃恵琉は動き出す。足にフィットする様な鉱石を見つけ出し、縄できつく縛り付けた。
 啓助は立ち止まっている時点で限界に近く、ただ地蔵のように立ち尽くすしか術がなかった。
「これほどにも……辛いものなのか……」
「これくらいでへバるようじゃ、二週間後はキツいっすよ〜?」
「まあ、最初はキツイでしょう。ユニオンの訓練ほどだとは思いますが……」
 啓助は苦笑いをして、ロボットのモノマネをやるように歩き、訓練を開始した。

 それからというもの、啓助は訓練でも乃恵琉に腕力、足腰を鍛えるようにと言われ、鉱石を手足に縛り任務に出かけた。啓助自身チームメイトとの実力の差がありすぎることが判明し、頑張ろうと思う気持ちがそこかしこに漲っていた。
 だからこそ、任務中でも脱水症状寸前で成果を出したり、ユニオンの通常訓練でも良い効果を残せた。
 しかし、一番大変だったもの、それは……寝起きに襲う筋肉痛だった。
「痛っ〜!この前の任務はホントに死ぬかと思ったぁ〜!でも、今じゃほとんど警察頼りに何ねぇみたいだし、俺も頑張んなきゃな!」
 啓助はベッドから飛び起きると、急いで着替え個室を出て行く。
 チームルームに入ると、乃恵琉が椅子に格好良く腰掛け、コーヒーを飲みながら本を読んでいた。洋は洋でいつもながらパンをこれでもかと押し込むように頬張っている。
「ハヨッす、あれ、麗華と恵は?まさか寝坊か〜?全くし方がないな〜」
 乃恵琉は白いカップに入れられたコーヒーを音無く飲み干すと、そのカップを静かにテーブルに置く。そして、本に栞を挟んで懐にしまった。
「啓助君じゃあるまいし、そんなことあるわけ無いでしょう。麗華はともかく、関原さんは寝坊はしませんよ」
 白いカップを食器洗浄機に逆さにして置くと、乃恵琉はチームルームのドアの前に立ち、そして言った。
「それに、いま女性達は水中戦訓練をしているところです。女性達が終われば、今度は僕達の番ですから僕は先に行っていますよ」
 乃恵琉は啓助達を背にそう言い残すと、チームルームを出て行った。
 洋もそれを追い掛けるように急いで出て行った。
「フー、にしても何日か錘を背負ってただけで、立ってるだけでも辛いとは……水中戦訓練大丈夫かな、俺……」
 弱音を吐いていても始まらない、啓助は自分にそう言い聞かせてチームルームをヨタヨタと出て行った。

 以前は迷宮だ、何て言っていたユニオンの廊下だが今はだいぶ慣れていた。そう言う場面での成長で啓助は自分を励ましていた、そうもしなければ精神的に参ってしまうのだ。
 しかし、その参ったことに……いや、今回は迷宮が啓助の中で復活してしまったことに参っている。
 元々、普通科・水中科・空軍科・潜入科などなど色々なグループがある中で、ほとんど水中科しか使わない訓練なのにと普通科の啓助は心の中で愚痴った。
 実は情けない話し、更衣室の場所を久々だからか、ど忘れしてしまったのだ。
「ヤベー!あの時洋に付いてけば良かったぁ……」
 啓助は慌てふためきながら、ユニオンの廊下という迷宮の奥へと進む。すると、奇跡かと思えるほどに偶然にも水中戦訓練室に繋がる更衣室を見つけたのだ。
 藁に縋り付く思いでそのドアを開けると、恵が視界に入ってきた。
 その姿は、完全にどこからどう見ても着替え真っ直中でユニオンで普及されていた水着を脱ぎかけている。
 啓助は暫く、その透き通るような肌と美しい白銀の髪に魅了されていた。
 突然、恵は「え?」という表情で啓助の方を振り向く。そして啓助は我に返り、自分のしてしまった行為に気付きドアを思いっきり音を立てて閉めた。
「(やっちまったー!よりによってチームメイトだとは……!)」
 啓助が更衣室を背に、心の中で何度も後悔した後、全力で恵への謝罪の言葉を考えていた。
 考えている途中、意外にも早く背後からドアの開く音がした。途端に啓助が謝ろうと振り向くと、二人の顔は互いの目の前にあった。

109ライナー:2011/08/31(水) 00:12:11 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
「あっ……」
 2人は声を漏らし、同時に顔を火照らせた。
 啓助は、自分の中で心臓がバクバク鳴っているのが聞こえた。恵に近づくほどに、何故かいつもと違う心境になってしまうのだ。
 暫くお互いの時間が止まったかのように思えた。
 咄嗟に恵は我に返ると、素早く顔を遠ざけひどく顔を赤面させた。
「……関原、ごめん!言い訳にしか何ねェけど、修行が思ったよりきつくてフラフラしてたんだ」
 啓助も少し赤面したまま、頭を深く下げた。
 恵は顔を真っ赤にしたまま、大丈夫と言うように、両手の手のひらを前に出した。
「あ、あ、あの、あの!ぜ、全然気にしてないからっ!しゅ、修行大変なんだね!が、頑張ってねっ!」
 そう言い残すと、恵は赤い顔を両手で隠しながら、素早くユニオンの廊下を走っていった。
 啓助はその姿を見送り終わると、遅刻しそうなのを思い出した。
「やべー!急がなねェと!」
 そして、女子更衣室でなく男子更衣室に飛び込むように入っていく。

 啓助が支給された水着を慌ただしく着た。しかし、ユニオンで支給した水着とはいえ、スクール水着とさして変わらなく素早く着替えることが出来た。
 水技室に入ると恐ろしく広いプールが啓助の目に広がった。今の今まで、啓助は水中戦訓練は重力コントロール室で仮想訓練することになり、任務の成果で実践的な訓練の許可を出されていたのだ。
「今日、調度入ってきた辻ね?初日から遅れるなんて良い度胸……罰としてクロール100m一本」
 水着姿で、首にホイッスルを提げた女が啓助に言った。この女性は、第二番隊隊長、霞浦(かすみうら)で薄紫色のショートカットという髪型に、細い目にはほんのり青が掛かる瞳を持っていた。
 啓助が渋々返事をし、プールの方へ振り向くと、幾人かの男子隊員が泳ぎながらこちらを覗くように見ていた。恐らく、霞浦の方を見ているのだろう、啓助はそう思った。
 顔立ちは実年齢30前半という情報とは裏腹に、10歳以上若い顔つきで、それにプラスされて大人っぽいスタイルがあるのだ。
 しかし、啓助はそれを好きにはなれなかった。鋭い目つきが異様に恐ろしく見えてしまうのだ。
 啓助はプールサイドを歩きながら、乃恵琉と洋に挨拶代わりのアイコンタクトを苦笑いの顔でする。
 向こうが気付くと、啓助は安心したようにプールに足を入れ、背後の壁を蹴った。
 水面と水中の間を手に行き来させ、クロールを泳ぐ。
 プールの底は下へいく度に黒が増した。実際の海をなるべく表現しようと、出来るだけプールの底を深くしたらしい。
 さらに凄いと思われるのは、プールの縦幅が霞浦に指定された、調度100mなのだ。しかし、啓助は修行の成果があったおかげか、早く泳ぎ、バテる事無く泳ぎ切った。
 啓助が水から上がると、霞浦が招集を掛けた。
 全員が集まると、座るように指示し、バケツに入ったゴムボールを前に出した。
「これから、実践的訓練を開始する。今から、ここにあるゴムボールをプール全体にばらまくから、それを一番多く取ってきた人が勝ちよ。ちなみに勝った人には、単位得点をあげる。ルールとしては、ボールの取り合い有り。それと、水中で遣り合うから、スイムチューブは着用オッケーよ。それじゃ開始します」
 霞浦は、ゴムボールをバケツごと放り込むようにして投げ入れた。
「啓助君、君の修行の成果を見せて貰いますよ」
 乃恵琉はそう言うと、啓助よりも先に深いプールの中へ飛び込んだ。
「……しゃ!やってやるぜ!」
 啓助も意気込んでプールへと飛び込んでいった。

110レイ@ヴァルガ:2011/08/31(水) 15:39:37 HOST:110-133-206-232.rev.home.ne.jp
読ませていただきました。
素晴らしい作品だと思います。
わざとらしくない程度にフォローが入れられているので
とてもいい文章力だと思います。

一つ言えば、乃恵琉の口調的に、もう一つ「、」などで
区切りを増やしたほうが似合うかと。

上から目線ですみません))ペコ
これからも応援させていただきますので、どうぞまた。
                            byレイ

111saorin:2011/08/31(水) 22:30:57 HOST:d219.Osa8N1FM1.vectant.ne.jp
不景気だと騒がれていますが・・・(#^^)b☆ ttp://tinyurl.k2i.me/Afjh

112kokoro:2011/09/01(木) 11:23:17 HOST:d219.Osa8N1FM1.vectant.ne.jp
不景気だと騒がれていますが・・・(・_・)!! ttp://tinyurl.k2i.me/Afjh

113ライナー:2011/09/02(金) 08:00:38 HOST:222-151-086-004.jp.fiberbit.net
レイ@ヴァルガさん≫
コメントありがとうございます!
アドバイス、参考になりました!しっかり活用していきたいと思います!

114ライナー:2011/09/02(金) 18:16:55 HOST:222-151-086-011.jp.fiberbit.net
 訓練生降格が掛かっている啓助は、やけに気合いが入っていた。
 だが、その気合いの良さも束の間だった。スイムチューブのお陰で水中でも息は出来る、だが深いプールの底に着いて気が付いた。その水圧と、光の届かない世界に。
 水圧は水深50mと言うほどあって、中々に苦戦を強いられるようだった。背中には錘が乗せられるように。
 一方、明度の問題だが、太陽の光に照らされているのとは訳が違い、真っ暗で何も見えない。
「(これ以上単位を落としてたまるか……!)」
 恐ろしいほどの水圧を避けるため、そこの部分よりも少々高い場所へ浮かび上がる。
 そして、その場で暗さに目を慣らすと、そこの方に向かって睨み付けた。
 暗い中、何とか目を凝らすと、鮮やかな色のゴムボールから次々と見つかった。と言っても、たったの2個だったが。
 他のゴムボールを見つけるべく、再度啓助は目を凝らす。しかし、啓助はこちらに向かってくるアビリティのオーラを感じ取った。
 啓助が感じ取るに、アビリティのオーラは3つ。しかし、異能力者(アビリター)で無い者もこちらに向かっているかもしれない。
 既にボールを1個ほど持って行って、水面に浮かび上がっていった者もいたが、恐らく単位得点に余裕のある者。
 今、調度感じ取っているオーラは、専攻隊に行くことに憧れを抱く者、単位得点が厳しい者だろう。アビリティ使用禁止とはいえ、オーラでとても必死さが伝わってくる。
 こちらとしても、単位得点的には厳しい。そう考えた啓助はオーラの発生地を正確に感じ取り、挟み撃ちにならないよう水面近くへと浮かび上がった。
 そして、啓助が下を見下ろすと、水中でも破門を打つように激戦が繰り広げられていた。
「(フー、危ねェ……!)」
 啓助がホッと胸を撫で下ろす。そして激戦が落ち着くと、啓助はコソ泥の様に零れ球を探そうとした。
 が、その瞬間、啓助の左腹部に激痛が走った。
「(……!な、何だ!?)」
 水中だというのにも関わらず、その勢いで啓助はかなりの距離で飛ばされる。
 啓助は、驚き振り返ると、そこにいたのは乃恵琉の姿だった。
 乃恵琉は突き出した足を元に戻した、激痛は乃恵琉の蹴りだったのだ。
 得意顔になっている乃恵琉を見て、啓助はハッとした。自分の手のひらを見ると、先程まで握っていたゴムボールが消えていた。
 そして、乃恵琉の方を再び振り返ると、乃恵琉が持っているゴムボールの他に、啓助の持っていたゴムボールが握られていた。
「(乃恵琉……!俺を試そうとしているのか……!?それに俺の単位得点まで掛かってるってのに……)」
 得点を失い訓練生になりたくない、仲間にこれ以上負けられない、修業の成果を無駄にはしたくはない。啓助はその一心で乃恵琉を追った。
 乃恵琉は素早く水面へと浮上する、このまま啓助のゴムボールを持って行き、自らの得点にする気なのだろう。
 そして、乃恵琉が水面に顔が触れ、そこから顔を出そうとした途端だった。啓助は乃恵琉の足を掴んでいた。
 啓助は乃恵琉の足を掴んだまま、勢いよく水中に引き戻し、ゴムボールを持つ手に手を掛けた。
 乃恵琉はそれを両足蹴りで引き離し、体勢を立て直すと、距離を取り、逃げるように泳いだ。
「(させてたまっか……!)」
 再び乃恵琉を水面に近づけさせないよう、啓助は水面近くを泳ぎ、乃恵琉を追い詰めた。
 暫くして、逃げる乃恵琉の動きや、数々のフェイントをくぐり抜け、やっとの思いで壁際に追い詰めた。
 そして、勢いをつけて乃恵琉に蹴りを繰り出した。
 しかし、追い詰めた壁が仇となり、乃恵琉は壁を利用し素早く蹴りを躱す。
 啓助は不意を突かれ急いで乃恵琉を追うが、先程よりも素早さもキレも増した泳力が啓助を更に引き離した。
 現在、啓助の持つゴムボールの数は0。かなりの時間が経っていることから、余ったゴムボールはもうないだろう。しかし、ここで諦めては単位が下がり訓練生へ降格するのは確実だろう。
「(くそぉ……!)」

115yuri:2011/09/03(土) 07:14:16 HOST:7c294c75.i-revonet.jp
世の中には簡単で儲かる仕事があるもんだ(#^^)b! ttp://tinyurl.k2i.me/Afjh

116ライナー:2011/09/03(土) 11:39:44 HOST:222-151-086-015.jp.fiberbit.net
 yuriさん≫
 こういう一行レスは受け付けておりません。
 お仕事の宣伝は、別の場所でやってください。
 ちなみに、こういう事をする人間を荒らしというのですよ^^
 以後参考に。

117ライナー:2011/09/03(土) 13:35:28 HOST:222-151-086-015.jp.fiberbit.net
 しかし、その事が分かっていても啓助の体力は既に限界に達していた。
 一週間頑張った修行は、今まで啓助以上の修行を経験してきた乃恵琉達に比べたら、何の力も発揮しなかったのだ。
 啓助は自分の無力さを知り、乃恵琉を追うその動きを止めた。
 乃恵琉はそのまま水面へと浮上していった。そして、啓助の脱力した姿を目を細めて見ると、態とらしくゴムボールを啓助の真下に落とした。
 驚いた様子で、啓助は落ちてくるゴムボールを拾う。
 そして、何か思い詰めたように水面に浮かんでいった。
 水から体を上げると、全員がプールサイドで霞浦を囲むように座らされていた。
「これで全員ね。辻は……1個ね、じゃあ0の人が1単位取り上げって事で」
 霞浦の言葉で、啓助単位降格は免れた。
 啓助は一瞬乃恵琉の方へ目をやる。しかし、乃恵琉は何事もなかったような顔で体を拭いていた。
「じゃあ、今日はここまで。次の訓練では長距離水泳のタイム計るから、そのつもりでね」
 こうして、水中戦訓練は無事に終わった。
 訓練終了後、啓助はロッカーに急いで入れてしわだらけになった隊服を着ていた。
「啓助君」
 着替え中に、ふと乃恵琉が啓助に声を掛ける。
 乃恵琉は早々に着替え終わり、キチッとした着こなしが真面目さをより一層引き出していた。
「今回の事で、君の実力の方を、試させて貰いましたが……」
 啓助は思わず唾を呑む。
 あれ程やられっぱなしだと、お世辞にも結果がよいとは言えない。
「今の実力では、洋よりも、弱いです」
 乃恵琉の言葉に、啓助は石で殴られたような頭痛を覚えた。
 自分でも分かってはいたものの、ああもハッキリ弱いとだけ言われると、今までの修行の辛さや苦しみが蘇るようだった。
「それに、君は最後僕からゴムボールを取り返すことを諦めましたね。その時点で君は麗華に勝つことは不可能でしょう」

 一方こちらはチームルーム。
 訓練を終了し、恵と麗華が何やら話し込んでいた。ガールズトークというヤツだろう。
「で、何か進展あったの?」
 麗華が恵に問う。
「え?な、何のこと……?」
 恵は冷や汗を流しながら、引きつった顔で笑みを見せる。
「顔に書いてあるわよ、好きな奴がいるって」
 顔を引きつらせたまま、恵は目線を麗華から逸らし、斜め上に向けた。
「だから、筋とはどうなんだって聞いてんの!」
 麗華の言葉を聞いた途端、恵は顔を真っ赤にして慌てふためいた。
「ち、ち、違うよぉ!そんなこと無いよ!」
 麗華は恵の言葉を聞き、つまらなそうな表情で「あ、そう」と一言言った。
 しかし、恵の顔を見て思った、顔は正直者だと。
「……ま、誰かというのは置いといて、恵のアビリティは『ヴィーナス』なんだから上手く使わないとね」
 啓助の話から遠ざかると、恵の顔からは段々と赤みが消えていく。
 だが、その顔は薄く火照りが残り、恥ずかしそうな表情が残っていた。
「で、でも、『ヴィーナス』は動物と心を通わせる能力であって、べ、別にこんな事をするつもりは……」
「でも、出来ない訳ではないんでしょ?」
 麗華の問いに、恵の顔はまた少し火照り、浅く頷いた。
 すると、チームルームのドアが開き、訓練を終えた啓助達が戻ってきた。
 訓練は厳しいし、疲れるのは当然なのだが、明らかに啓助は乃恵琉や洋よりも元気がない。
「……麗華、お前は修行の方順調?」
「もちろん、辻は駄目なの?」
「ああ、ちょっとな……」
 啓助は、ため息を吐きながら視線を逸らすと、一瞬恵が視界に入ったのを感じた。
「関原、ちょっと良いか?」
 相手の返事を聞かぬまま、啓助は恵の腕を引っ張り、チームルームを出た。

118kokoro:2011/09/03(土) 13:40:24 HOST:7c294c75.i-revonet.jp
>>楽に稼げるアルバイトの件。情報載せておきます(^ω^)。 ttp://tinyurl.k2i.me/Xxso

119竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/03(土) 16:08:36 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
久しぶりです^^
進めば進むほど面白くなってきますね!
やっぱ僕はメイドさんと麗華ちゃんが好きでs((
ところで、文中に出てきた『金』に『垂』という字は何て読むのですか?

120ライナー:2011/09/04(日) 14:22:53 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
竜野翔太さん≫
お久しぶりですね^^読んでますよ小説、魁斗君が羨ましい所までですが(今から読みますよ!)
麗華は結構僕も好きです。ツンデレっぽく仕上げたいので(笑)
メイドさんの件は、少しレギュラー化に時間が掛かりますが、宜しくお願いしますm(_ _)m
錘ですか?あれは(おもり)と読みます。広辞苑見たんで、正確なはずです!
ではでは今後ともごひいきに^^

121ライナー:2011/09/04(日) 14:30:12 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
訂正です^^;
32行目の筋ですが、辻です。

122ライナー:2011/09/04(日) 15:12:27 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
「スキャン完了デスね」
 チームルームの外から、男がノートパソコンを広げていた。
 男は白いワイシャツの上に、青いスーツとオレンジのネクタイを身につけている。
 その男は一見どこかの正社員のように思えたが、足下だけがそのイメージを翻していた。
 足下にはバスケットボールのような灰色の玉があり、男を浮かび上がらせていたのだ。恐らく、ユニット系のロボットだろう。
 ユニット系のロボットは、男の両足に3つずつ付いていて、下半球の部分は青白い光を帯びていた。
 男はノートパソコンを閉じると、ユニット系のロボットを使い、上空に舞い上がった。
 舞い上がった先には、砲台などの武器が完備されたユニオンの屋根があった。
 そして、男はロボットを操りながら、砲台の上に腰掛けると、再びノートパソコンを開いた。
「ここの砲台センサーは範囲が狭すぎデスね。まあ、そのお陰で楽に侵入できマシタが……」
 男はノートパソコンのキーボードを鳴らしながら独り言を呟いている。
「にしても調べてみれば、あの井上洋という太めの人物、沙斬を殺したとは到底思えないデス。しかし、DNA検出で完全一致していマスし……」
 男は、ノートパソコンに刺さっているUSBメモリーを抜き出し、ポケットにしまった。
「やはり、ここのチームも戦闘力は低いが、侮れなさそうデスね。堂本さんに報告、報告」
 男はキーボードの音を暫く鳴らしたまま、砲台の上に座っている。
 キーボードの音を止ませると、男はロボットの方に目を移した。
「……磁場浮遊システムが狂っていマスね。やはり、もっと信用のおけるメーカーのものを使うべきデシタ」
 男は、ロボットの青白く光る半球を見つめて言う。
 そして、懐からマイナスドライバーを取り出すと、ロボットを分解し始めた。
 それでも何か物寂しいのか、再び独り言を呟く。
「そう言えば、この前雇ったスイーパーの少女。あの人は、水野家でまんまと黒沢乃恵琉にやられマシタね。彼も侮れないデス」
 男は分解した部品を他のロボットの上に置く。
「それに、水野麗華。あの少女も侮れないデス。この前修行らしい事をやっていたみたいデスが、あの動きは名前の通り華麗デスね」
 ロボットに持たせた部品を受け取りながら、独り言をまだ続ける。
「思い出せば、柿村君が裏切っていマシタっけ。行方が知れず、堂本さんが処分に困っていマシタね。まあ、雑魚は大きくなってから釣るものデスし……」
 男はネジを受け取ると、ロボットに付けた。どうやら修理は完了したらしい。
「では、そろそろ行きマスかね。ユニオン完全封鎖に……」

123ライナー:2011/09/04(日) 17:23:12 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
19、刺客はキルブラック
 啓助は、恵をチームルームのすぐ側に連れ出していた。
「あー、いきなり連れ出してゴメン。関原なら分かってくれると思って……」
 頭を軽く下げながら、啓助は言う。
「だ、大丈……夫!そ、相談事?」
 恵は顔を真っ赤にして、無理矢理な笑顔を作った。
「ああ、俺ってさ、チームの中でも……結構弱いじゃんか。だから、どうやったら役に立てるかなって……」
「え………?」
 何となく期待はずれな表情で、恵はキョトンとした。

 一方、ドアの内側では、麗華がドアに紙コップを付け、耳を澄ましている。
「……!辻ったら、こんな状況で……!」
 紙コップを耳に当てながら、麗華は文句を言っている。
 乃恵琉はコーヒーカップを片手に大きくため息を吐いていた。
「盗聴はいけませんよ、麗華」
「ど、ドアのメンテナンスよ!さっき辻達が出てったときに、変な音がしたような……」
 麗華の言い訳に乃恵琉はまたも大きなため息を吐く。
「蝶番が軋む音でしょう。僕が油を差しておきますから、麗華はどうぞ紙コップを引いて下さい」
 乃恵琉の完璧な推理に、麗華は渋々ドアから紙コップを引いた。
「こんな性格だから、女子にもモテないのよ」
 麗華は悔し紛れに、乃恵琉の嫌みを言い放つ。
 しかし乃恵琉はその言葉に動じず、涼しげな顔で言った。
「僕は、女性が嫌いなんです。特に話しが通じない女性は、絶対拒否です」
「ホントは女の子苦手なんだよね〜」
 洋の言葉に、乃恵琉はほんの少し頬を火照らせた。
 横では麗華がバレない程度に笑いを堪えている。

「……やっぱ、こんな質問答えらん無いよな」
 啓助の言葉に、恵は慌てて否定する。
「あ、いや、そうじゃなくて……その、啓助君は啓助君のペースで頑張れば良いと思う。だって、みんなより遅いスタートだし、そうと思えば修行の成果出てると思うよ!」
「………」
「あ、やっぱり駄目だった?」
 恵は、恐る恐る啓助の様子を伺う。
 すると、啓助は少し俯きながら嬉しそうな笑みを浮かべた。
「お前に話して良かったよ、ありがとな!」
 啓助は顔を上げ、恵に視線を向けた。
 恵は少し照れながら、戻ろうか、と一言言った。
 そしてドアノブに手を掛ける、が、何故か鍵が掛かっている。
 啓助は、ドアを叩きながら乃恵琉達の応答を待つ。
「こちらは大丈夫ですが、ドアは鍵が外れません。とりあえず、メインコントロールルームに向かって下さい。こちらのコンピューターは使えませんので」
 何とか乃恵琉の返事を聞き、啓助はひとまず安心した。
「分かった。じゃあ、とりあえず行ってみる。何かあったら、お前らもこっちに連絡しろよ」
 啓助は恵とアイコンタクトを取ると、恵の先導でコントロールルームへ向かった。

124竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/04(日) 17:57:15 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>

僕はツンデレ好きなので麗華を好きになったかもしれません((
もしかして語尾がカタコトの人が言っていた乃恵琉に負けたメイドって…いや、なんでもないです((

そうなんですか、ずっと読めなくてちょっと困りました…
難しい漢字とかはなるべくふりがなふった方がいいと思いますよ^^

125ライナー:2011/09/04(日) 18:41:24 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
 ユニオン廊下を走りながら、啓助達は周りの異変に気付いた。
 所々電灯が切れていたり、システムがダウンしているところが見られたのだ。
「関原、これって良くあることなのか?乃恵琉は随分冷静だったが、俺にはかなりの非常時にしか見えねェんだけど……」
「まあ、黒沢君はああいう性格だし……あ、それと、啓助君。私のこともファーストネームで良いから……」
 そう言う恵の顔はほんのり紅が差していた。
「え?ああ……」
 啓助は曖昧な返事で済ませる、そして気が付くとメインコントロールルームと書いてあるドアを見つけた。
 ドアに近づき、重たそうな自動ドアを引き戸のように開けようとする。
 しかしドアは鉛のように重く、鍵が掛かっているようにしか思えなかった。
「何で開かないか?それは僕が止めておいたからデス」
 声がする方に2人は振り向く。
 すると、そこには黒装束を来た下っ端らしき人物と、青いスーツを着た男がユニット系のロボットを操って浮かんでいた。
「僕はキルブラック右陣隊長、来待(らいまち)。宜しくデス」
 この、いかにも辛抱強そうな名前の持ち主、来待は片手にノートパソコンを手にしていた。
「また、キルブラックか……今度はユニオンに乗り込んで来やがったな!どういうつもりだ!」
 来待はノートパソコンのキーボードをいじりながら口を動かした。
「ユニオン全員をユニオン内に封鎖して、毒ガスをばらまいて全員殺す予定なんデス。でも、君達は一番動きやすい位置にいるので先に排除させて貰いますデス。危ないですから」
 手を払うようにして、来待は下っ端達に啓助達を殺すよう指示をする。
 下っ端の行方を分けて、啓助は右の下っ端を、恵は左の下っ端を分けて倒すことになった。
「軽く予行演習の相手になって貰うぜ!」
 啓助は自分の手元に氷で作った剣を出し、下っ端に向かって斬りかかる。
 しかし、下っ端は30cmほどの小刀を逆手持ちにして上手く防ぎ、啓助との距離を取った。
 相手のペースを作られないよう、啓助は氷の剣を右手に持ち、急接近していった。
 氷の剣が振り下ろされ、下っ端は小刀の刃を上に向ける。
 剣同士、鈍い音を立てながらぶつかり合うが、またも同じように距離を取られる。
 啓助は次こそ距離を取られないようにと、渾身の力を振り絞り、氷の剣を振り払った。
 今度は啓助の力が勝り、啓助のペースに持ち込めたと思えた。が、使用している剣が氷だったため、刀身にヒビが入ってしまう。
 仕方なく、啓助は身を引き自ら距離を取った。
「(こう距離を取られちゃ、攻撃するにも一苦労だ。それに歩かされてる気がする……下っ端だからって気は抜けないな)」
 氷の剣を啓助のアビリティ『フリーズ』で、ひとまず修復する。
「(こっちから近付けば適応に対処されるし、こっちが待っても近付きはしない。どうすれば……)」
 しかし、下っ端なんかに手こずっては駄目だ。啓助は自分にそう言い聞かせると、黒装束目掛けて氷の剣を突き出した。
 それでも、同じように小刀で弾き返されてしまう。それに相手はじっとその場で身を固めいるが、啓助の運動量は下っ端との距離、往復10以上しているため、息がかなり荒い。
 そして、思わず啓助の足下がふらついてしまった。

126ライナー:2011/09/04(日) 18:51:32 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
竜野翔太さん≫
ツンデレって良いですよね(笑)
まあ、存在感維持に……そんなところです^^;

そうですか?竜野さんも結構難しい漢字使ってるんで大丈夫かと思いました。
それに、自分で推測できる程度の漢字しか使用していないので、大丈夫かなと……
それではガンガン……というわけでもありませんが、ふりがな使っていこうと思います。
アドバイス、ありがとうございました!

127ライナー:2011/09/08(木) 00:04:54 HOST:222-151-086-020.jp.fiberbit.net
 足がふらつき、何とか一歩後ろに下がるところで、踏ん張りを効かせた。
 すると、啓助が後ろに下がったとき同時に黒装束は距離を詰めるように一歩踏み込んだ。
「(……!?)」
 啓助は試しに、もう一歩後ろに下がる。
 またも同じに黒装束は、同じ分だけ距離を詰めた。
「なるほどな……!」
 何かを悟ったように、啓助は笑みを溢し、距離のある相手に向かって氷の剣を突き出す。
 突き出された氷の剣は、剣先が砕け氷の破片が下っ端を襲った。
 下っ端は纏っている黒装束を、なびかせながら平行移動で躱す。
 しかし、下っ端の平行移動した先には啓助が駆け寄っていた。
 相手が気が付く間も無く、砕けて尖りが増えた氷の剣を腹部に食らう。
 地割れでも起こるような衝撃を与え、啓助はゆっくりと剣を引く。そして、倒れ込む下っ端を余所に来待の方へと視線を向ける。
「今のは勿論小手調べだよな?」
 その言葉が出ているときには、恵も勝負が付いていた。恵の足下で、黒装束の下っ端が寝そべるように倒れている。
 啓助の言葉に、来待はノートパソコンの画面を見つめながら言った。
「ええ、お陰で欲しいデータは集まりマシタ。データのため僕はそろそろおいとましマス」
 下っ端達をコテンパンに倒した啓助達に、来待は背を向ける。
「おい、逃げるのか!」
 来待は、去ろうとする動きを止め、背を向けたまま言った。
「僕は必ず、少なくとも四捨五入して100%の勝率がなければ戦いマセン」
「何故100%にこだわる!」
 来待は鼻で笑い、ヤレヤレというような声調で言った。
「僕は、キルブラックに就く前は平凡な株式会社で働いていマシタ。ある日、ある取引で、99,5%は確実でしょう、そんな言葉に騙されたばっかりにその会社は潰れマシタ。だから90%さえも僕は信じマセン」
 昔話を語る来待の声調は、進む度に険悪さを増していく。
 まるで、変身途中の狼男のように。
「共倒れした会社の人は、保証してくれる。そう言ったはずなのに、それにも関わらずその人は逃げマシタ。99,5%は人から全てを奪ウ、そうとしか思えマセン」
 啓助は、来待が敵だというのに心のどこかで同情をした。
 裏切られる辛さを、身をもって体験しているとどうも同じ心境になる。
「だから、運を加算して僕の勝率を計算すると、99,6%デスが、99,8%を超えなければ僕は戦い増せん」
 計算のことについては啓助はサッパリだったが、相手の勝率を上げればいい、その事だけは理解し来待に言った。
「さっきの戦いでバテ気味なんだが……」
 意外と平気をそうに啓助を見る恵は、キョトンとしている。しかし、来待は驚いたように啓助に笑みを見せた。
「……良いデショウ」
 そうして、互いに話がまとまり、戦闘態勢に入る。
 恵の方も啓助の後ろで、銃把を逆さに持ち、銃拳術の体勢を作っていた。
「では、僕の信用できる武器をお見せしまショウ」
 すると、来待は高く跳び上がり、床に足を付けた。
 その時に、来待の足の下に浮かんでいた、バスケットボールくらいの大きさのユニット系のロボットが動き出す。
「これは、僕の武器「リモートユニット」100%僕の理想が詰まってマス」
 合計六機のリモートユニットは、所々青白い光を照らし威嚇していた。まるで、生きているかのように。

128明優:2011/09/08(木) 12:25:12 HOST:i114-182-217-152.s41.a005.ap.plala.or.jp
久々のコメントさせてください☆
本当にライナーさんの小説って
いつ見ても面白いし、読みやすいし・・・。
文章力もすごいですね!!
でもたまに読めない漢字があります(泣
まぁ、これは私がバカなだけなのですが(泣
色々な漢字を知っているライナーさん、
小説が面白いライナーさん!!
本当にすごいと思います☆
前に、燐と2人でライナーさんの小説、すごいよね!と
話してました☆
これからも面白い小説を、書いてください☆
必ず見ます☆

129ライナー:2011/09/09(金) 14:48:41 HOST:bc31.ed.home.ne.jp
明優さん≫
コメントありがとうございます!
いつもお褒め頂き、書く意欲があがっております(笑)
とりあえず明優さんの小説も見ていますが、まだ読みが途中なのでもう少し待っていてください^^;
これからもよろしくお願いします!

130ライナー:2011/09/09(金) 20:44:58 HOST:222-151-086-011.jp.fiberbit.net
訂正です^^;
127≫30行目の増せんは、マセンです。

131ライナー:2011/09/09(金) 22:04:07 HOST:222-151-086-011.jp.fiberbit.net
 啓助はロボットの威嚇を跳ね返すように睨み返し、氷の剣を構える。
 次の瞬間、啓助は力の限り走りの一歩を踏み出し、ロボット達に斬り掛かった。
 しかし、啓助の渾身の一歩も空しく、変則的な動きでロボット達に斬撃を躱されてしまう。
「恵!そっち行ったぞ!」
 3機のロボットに恵は動揺しながら返事をすると、奇妙に動くロボットを銃口の対象にする。
 だが、銃口を向けても、あの変則的な動きに狙いがほとんど定まらない。
「あ、あわわ……」
 完全に動揺し、目が回っている恵を何とか助けようと、啓助はその3機に向かって駆け付けた。
 近くまで駆け付け、啓助は跳び上がってロボットを叩き落とそうとする。が、やはり変則的な動きにはほとんど無意味だった。
 攻撃はもう終わりか、そう言うようにロボットは青白い光を照らし付け、6機になるよう集まる。
 啓助は、相手に攻撃のペースは出来るだけ与えたくない、そう思い冷気を放つが、ロボット全機は青白い光を広げ、その冷気を防いだ。
 来待のロボットは、啓助に一瞬100%の強さを持っている。そう思わせた。
 冷気を防ぎ切ると、6機のユニット系のロボットは来待を取り囲むように輪を描いた。
「99,8%は、君にはやはり荷が重すぎマスデス」
 輪を描いたロボット達は、来待の周りを加速しながら回転し始める。
 加速回転したロボットは青白い光を再び放ち、光の一線は啓助に方にレーザー性の弾丸を無数に放った。
「くっ………!!」
 放たれたレーザーの弾丸は啓助の目の前で弾けて消える。
 来待と啓助は驚き、目を見開く。すると、啓助の前には、エナジーボントの銃口から煙を上げさせた恵の姿があった。
「大……丈夫ですか?」
 啓助は、まだ少し驚いた表情を残したまま、
「ああ」
 と、一言言った。
 ロボットは恵の銃撃に、周りから外装から電流を流し、変則的な動きを失っている。
 その隙を利用し、啓助は恵の横を風のように過ぎ去り、来待の目の前に跳び上がった。
「これで終わりだ!」
 氷の剣を片手に、啓助は来待に向かって振り下ろす。
 そして、ユニオンの通路には、鈍いガラスが割れるような音が響き渡った。
「正直、甘いデスよ」
 ロボットは外装から電流を流し、痺れているはずだった。しかし、それは甘い考えだったのだ。
 ユニット系のロボットはもう3機潜み、その姿を啓助の攻撃と一緒に現れたのだ。
「なっ……!!」
「これが終わりだというナラバ、終わるのは、あなたの……」
 氷の剣の一撃を防いだロボット3機は、啓助にとって危険信号な青白い光を放ち始めた。
 そして、来待は言いかけた言葉を続ける。
「人生デスね」
 その時、青白い光は啓助の全身を包み込んだ。

132竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/09(金) 22:22:22 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
どうも、コメントしに来ました。
来待強いですね!いや、ここはロボットが強いと言ったほうがいいのでしょうか…。
とりあえず、スピード感があって、一気に読めますね。
こういう世界観は僕には到底生み出せないものなので尊敬します^^

あと、擬音はあまり使わない方がいいですが、ちょっと使ってみてはどうでしょう?
その方が、どういう感じの音なのか分かりやすいと思うので…。
余計なお世話だったらすいません。

133ライナー:2011/09/09(金) 23:41:28 HOST:222-151-086-011.jp.fiberbit.net
竜野翔太さん≫
来待さんの強さは後に分かりますよ……!
スピード感はありすぎてバトル展開が早い原因かも知れません^^;

擬音ですか、擬音は本来使う場合はギャグ以外にはあり得ません。
やはり、チープに感じてしまうので、ギャグ入ってるときは使用可と言っておきましょう。
100歩譲ったとして、擬音絡めという裏技があります。
それは、擬音を無い擬音とある擬音で混合してしまうと言う技です。

この寒さは何だろう、まるでキンキンとする頭で、絶えずかき氷でもずっと口に含んだ状態と言えようか。

これが例ですね、キンキンは実際に出ている音ではありませんが、その場を凍らせるような心境を感じさせます^^
ですが、もう一度注意しておきます。多使用は禁止です!あくまで伝えづらいところで使うこと、それに限ります。
では、ご参考までに^^

134ライナー:2011/09/10(土) 00:18:05 HOST:222-151-086-011.jp.fiberbit.net
 啓助は微かに光の中で意識を保っていた。
「………」
 しかし、体の節々に痛みが走る。
 光の外からは、小さく恵が叫ぶ声が聞こえた。
 小さく聞こえるのは、多分、レーザーの中にいるからだろう。
「………」
 啓助は心中で呟いた。
「(俺は、俺は、俺の力は……)」
 途切れる心の呟きは、次第に啓助の体力を奪っていった。
 しかし、無力過ぎた。啓助は自ら思う。
 せっかく恵が与えてくれたチャンスをものにすることが出来なかった。
 仲間として、人間として、諦めきれない。しかし、体はもはや言うことを聞かなかった。
 力は出せない、そう、力は。肉体的な力だけは……
 啓助には、有力なミクロアビリティがあった。『フリーズ』という異能力が……
 微かな意識を保ちながら、啓助はオーラを放った。
 恐らく、啓助自身が今までで一番力強くオーラを出していただろう。

「僕は、頭脳コンピューターでこのユニットを9機バラバラに動かすことが出来マス。関原恵さんは動いたら狙い打ちできる状況デスからね」
 来待は、恵の周りに6機のリモートユニットを浮かばせていた。
「啓助君……」
 恵は青白い光に包まれた啓助を見て、泣きそうになっていた。
「では、そろそろ毒ガスを蒔かせて貰いマスかね」
 リモートユニットを操り、来待は恵の意識を飛ばす。
 恵には倒れた後、青白い発光が残った。
 来待は、恵から啓助に視線を移す。
「君は、今は殺せマセンね。アビリティを抜かなケレバいけマセンので……」
 応答のない啓助に、来待は語った。これも独り言の分類に入るのだろうか。
「まあ、死ぬことは変わりアリマセンガ」
 来待は、既に仕事が終わったように振る舞う。
「これでも、あの黒翼(カラス)の赤羽を追い詰めた人間なのでショウカ?まあ、勘の鋭さだけの問題だったようデスが」
 来待は、操るリモートユニットと、恵を背に靴の音を鳴らしながらゆっくりと去っていく。
 すると、突然。来待の背後から爆発音が聞こえた。
 驚いて振り向いてみると、群青色の光に包まれた啓助がその場に立ち、リモートユニットの3機が潰れ、煙を上げていた。
「システムを凍結させて毒ガスの放出を止めマシタね?その『フリーズ』のオーラで分かりマスよ」
 来待はリモートユニット6機を引き寄せ、戦闘態勢に入った。
「アビリティに呑まれマシタか……」

135ライナー:2011/09/10(土) 00:56:34 HOST:222-151-086-011.jp.fiberbit.net
 来待を睨む啓助の目は、完全に人の目をしていなかった。
 例えるなら、獣の目だろう。目の前の敵を、必然的に狩る獣の目。
「僕の勝率は82%と大幅に下がりマシタ。戦闘は放棄シマス……と、言いたいところですがそうもいかないようですね」
 啓助はただ、何も言わずに来待を睨んでいる。
 浮遊するリモートユニットを、来待はボーリングの球のように指を差し込んで握った。
「では、特別に君の行動から読み取る『気合い』でカバーさせて貰いマスかね」
 来待は足にもリモートユニットを両足に3機ずつ取り付け、光でブーストさせた。
 群青色の光に包まれた啓助に来待は接近するが、凍てつくほどの冷たいオーラに後退る。
 すると、啓助はオーラを広げ、来待をリモートユニットごと凍らせた。
「負けられマセンヨ」
 来待は負けじと体に付いた氷を弾き、啓助に殴り掛ける。
 しかし、啓助の身体に近付けば近付くほど、冷気の気流は寄せ付けない力を生み出した。
「白青光(ムーンライト)」
 来待がそう言うと、右手のリモートユニットは青白く光り、オーラを突き抜けた。
「まだデスよ、白赤光(サンライト)」
 今度の発言は、左手のリモートユニットを赤白く光らせ、突き抜いたオーラの中の啓助の身体に突きを繰り出した。
 啓助は、獣のような咆哮を上げ、唸った。
「キルブラック右陣隊長の力はこれで終わらないデス」

「(俺は……仲間のためだけに……力を……)」
 
 互いに距離を取り、同時に次の一歩を踏み出した。
「これで……」
「……最後デス」
 赤白い光と群青色の光は混じるようにぶつかり合った。

 啓助の目には、倒れた恵と機械の部品に取り囲まれ倒れた来待があった。
「……?」
 すると、第一番隊隊長堂本が後ろから歩いてくる音がした。
「またもやってくれたか、辻……」
 啓助の頭には疑問符が浮かぶ。
「お前は、一角を何回も崩す。そんな大物に成るんだろうな……」

136ライナー:2011/09/10(土) 10:30:05 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
訂正です^^;
135≫の28行目の堂本ですが、苑寺です。
と、ついでに作者通信もお送りします。レスもったいないので(笑)
 〜 作 者 通 信 〜
段々といろんな人が動き出していて、最近では小説書いてないと頭がボーッとして、イライラします(中毒か)
今回は、キャラクターのネーミングについて語ろうかと。
えー、ハッキリ言って名付けは適当です(笑)
一つ考慮したと言えば、乃恵琉君の名前ですかね。ハーフの名前なので、ちょっと良いものを探してきました^^
実を言うと、ラスボスの所まで全て名前は決まっていて、後は話しの動かし方だけなんです。
まあ、話しは本編を御覧頂ければ分かるかと……

137ライナー:2011/09/10(土) 11:15:20 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
「にしてもキルブラックの行動は読めんな……」
 苑寺は、首の骨を鳴らしながら言った。
「帰ってみれば、この有様。そんでシステムは誤作動起きるわ、何か面倒くさい奴いるわで大変なこっちゃ」
「俺……勝ったのか?」
 啓助は半信半疑になり、自分の両手の手のひらを見つめる。
「ああ、良くやったぜ、本当に」
 苑寺の声が届いていないのか、啓助はまだ手のひらを見つめていた。
「……信じられないなら、監視カメラのビデオでも見るか?壊れてるけどな」
 鼻で笑う苑寺の冗談は、無論啓助には聞こえていなかった。
「99,8%は何のためにあると思いマスか?」
 突然、来待の声が苑寺と啓助の耳に入った。
 しかし、来待は倒れているはず。2人の視界にはしっかりと入っていた。
 だが聞こえる、確かに来待の声が。
「ここデスよ」
 その声に2人は振り向いた。
 すると、そこにはもう1人来待がいたのだ。
「お、お前……何で……?」
 驚く啓助の前に、苑寺が立ち塞がる。
「辻、お前は隊員の救出に当たれ。ここは俺がやる」
 苑寺の両手は、来待に向かって炎を吹き上げていた。
「『フレイム』のアビリターデスか。精々時間稼ぎに成ればよいデスが」
 来待は、周りに浮かぶリモートユニットを苑寺の方へ向かわせる。
 苑寺は咄嗟に両手の炎を強め、リモートユニットを軽く突き飛ばし、来待に向かって拳を振り上げた。
 炎の拳は当たるかと思いきや、直撃寸前に来待の姿が消える。
「辻!早く行け!」
 叫ぶ苑寺の声は、戸惑いが重なる啓助に届いていない。
「余所見は禁物、デスよ」
 現れた来待は両手に青白い光を放っていた。何と、来待の手はリモートユニットと化していたのだ。
 それは両手に留まらず、両足までもがロボットだった。
 歯を食いしばって躱す苑寺に、来待は足を青白く光らせ、ブーストするように加速する。
 苑寺の両手の炎は、来待の青白い光に力負けし、空しく散った。
「何ィッ……!!」
「あなたの、負けデス」
 青白い光は、来待の拳から広がり苑寺を包んだ。
 その時、啓助の目に映ったのは、息を引き取った苑寺の姿だった。

138ライナー:2011/09/10(土) 14:17:57 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
「次は、辻啓助。あなたデス」
 来待は、機械と化した両手両足にリモートユニットを近づけた。
「てめェ……!!」
 啓助は亡くなった苑寺の姿を見て拳に力を入れる。
 リモートユニットを両手両足に付着させた来待は、操るように機械本体を身体に取り込んだ。
 取り込まれたリモートユニットは、もはや来待の身体を人間の体にはしていない。
 来待の両手両足は棘のように鋭く、そして全てを飲み込むような黒に変色していた。
「ここで問題デス。何故僕は2人いるか分かりマスか?」
 来待の言葉を聞かない内に、啓助は両手に氷を纏わせ殴りかかった。
 氷の拳が来待の鼻先で止まる。
 またも青白い光で攻撃を防がれていたのだ。
「時間切れデス。正解は……」
 氷の拳を止めた光は段々と広がり、啓助を押し出していく。
「50%程機械で出来ているノデ、向こうとこっちで50%真の体を持っていマス。だから、本来は1人だったのデス」
 そう言って、鋭く尖った右手を啓助に向かって突き出した。
 啓助は尖った右手を紙一重で躱すと、氷のように凍てつく目で来待を睨む。
「そう言うの、もう飽きたぜ」
 再び啓助は両手に氷を纏わせると、来待を狙った。
「100%とか100%じゃないとか、そんなのただ、失敗を恐れてるだけだろ」
 そう言うと、氷の拳は一直線に来待の頬に伸びる。そして、ユニオン通路には氷が砕ける音が響いた。
 来待はその勢いで吹き飛ばされ、壁に背をぶつける。
 しかし、煙が立ちこめる中からは来待が浮かび上がりながらゆっくりと現れた。
「その言葉には、あなたもそうでしょうと、返しておきマス。白赤光(サンライト)!」
 機械化した来待の鋭い左手は、赤白い光を上げ、啓助を襲う。
 啓助は頬に擦りながらも、直撃を避けるように躱した。
「俺だって失敗は避けたいさ、仲間に迷惑掛けてばっかりだしな、でも……」
 来待は啓助の言葉を無視して、攻撃に移る。
「白青光(ムーンライト)!」
 今度は、右手の青白い光が啓助を襲った。
 啓助は先程と同じように躱そうとするが、今度の攻撃は素早さが増していた。相手も相当力が入っている。
 右腕に負傷してしまった啓助は、左手で溢れる赤を抑えている。
「俺はだからこそ頑張ろうとなれるんだっ!!」
 全身に『フリーズ』のオーラを力一杯出し始めた。
 来待は啓助の言葉に眉を微かに寄せた後、両手を合わせ攻撃態勢に入った。合わせた両手は白青と白赤が混じり、白の入った紫へと光の色を変化させていった。
「白紫光(コスモライト)!!」
「氷結ッ!!」
 2つの技はぶつかり合い、スピーカーが壊れたときのような高い音を響かせた。

139ライナー:2011/09/10(土) 15:48:56 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
 両者、互いの技を受け合った。
 しかし、互いに技をぶつけたまま固まっている。
「や、やるじゃねーか!」
「そちら……コソ」
 そして、技同士は打ち消し合い雪のように白い光で力を失った。
 両者は力を出し切り、足下をふらつかせる。
 間を開けた2人は、足のふらつきを抑えることが出来ず、尻餅をついてしまった。
「やばいな、もう力がでねェや……」
「100%戦うことが出来マセンね。辻啓助、データに狂いを出し、侮り難し」
 すると、来待と啓助の間に影のようにボォッと誰かが現れた。
「……こ、黒明(こくめい)様」
 現れたのは小学生くらいの男の子で、黒の中に白が混ざった髪を持ち、モノクロのコートを身に纏っていた。
「駄目じゃん、負けちゃ。僕は君を推薦してあげてるんだけど、こんなんじゃ白闇(はくあん)に負けちゃうよ」
「も、申し訳ありません!!」
 来待はボロボロの体でぎこちなく土下座をした。
「いいよ、もう。叔父さんに役に立たないときは殺しておけって言われてるし」
 すると、黒明となぞられた少年はコートのポケットから黒い紐のようなものを取り出した。
 驚いて声も出ない来待に、黒明は黒い紐を振り下ろした。
 黒い紐が来待の背中にゴムを叩く様な音を響かせると、来待はその黒い紐に引き寄せられるように吸い込まれていった。
「これで、君の失態はチャラにするよ」
 黒明は、啓助のことなんか目にも留めず、ゆっくりと歩き去っていった。

140ライナー:2011/09/11(日) 11:22:15 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
20、剣を求めて三千里
 
「まあ、今回はユニオンの一件がありましたし、大目に見ましょう」
 第3番隊B班チームルームで乃恵琉が苦い顔で言った。
「それじゃあ、今日から剣を使わせてくれるんだな!!」
 啓助はユニオンに攻めてきた来待撃退で、実力を表彰されたのだ。
 そして、表彰と同時に単位得点まで上げて貰い、一番に評価されたのが、乃恵琉が以前否定した諦めない精神だそうだ。現に恵が証人となっている。
「しかし、以前より厳しい修行となります。そのつもりで気を引き締めて貰わなければ」
「分かってるって!お前だって父親説得したいんだろ?」
 啓助の言い方は、お世辞にも気を引き締めているとは言えなかったが、乃恵琉はただ冷静に「行きましょう」と一言言った。

 啓助達はユニオンの転送ルームを使用し、乃恵琉の言うある場所へと向かっていた。
 転送による光が啓助達の目の前から消えると、見るからに落ち着きのない世界が広がっている。
 そこは360度辺りを見回しても鉄ばかり見え、鋼の建物は所々スチームを上げていた。
「ここは、鉄という資源が豊富な綱板町(こうはんちょう)。生活のほとんどを機械で賄っている、そんな街です」
 乃恵琉の説明通り、ある意味での『銀世界』が広がっていた。唯一自然があるとしたら、頭上に見える雲の掛かった青空だろうか。
 それにしても、かなり国というのは世界観が変わってものだなと、啓助は思う。
「にしても、啓助君。昨日のこと覚えていないんですか?」
 啓助は頭を抱えるようにして言った。
「ああ、来待以外にも誰かいたような気はしたんだが、近くにいた恵だったかな?それともドッペルゲンガーか?」
「……まあ、別に思い出せなくても問題はありませんが」
 乃恵琉は啓助から顔を逸らし、黒鉄(くろがね)の地面を音を立てながら歩いていく。
 暫く2人は無言で歩き続け、乃恵琉が突然足を止めた。
「着きました。ここがかの有名な刀鍛冶、鉄幹門四十郎(てっかんもん しじゅうろう)のいる家です」
 威厳そうな名前を乃恵琉から聞いた啓助は、表情からして疑問符がいくつも浮かんでいる。
「……誰だそれ?」
 乃恵琉は呆れた顔でため息を吐いた。
「あれだけ剣、剣とうるさいから、自分で何らかの予習をしてきているのか、と思いきや何にも知らないんですね」
 笑ってごまかそうとする啓助を見て、再び大きなため息を吐く。
 そして、鉄の引き戸を軽く3回程ノックし、ゆっくりと開き始めた。
 引き戸の中からは、啓助達を押し返すように熱風が襲う。
 中では汗を掻きながら、赤く熱の籠もった鉄の塊を金槌で打つ老人がいた。
「御邪魔いたします、鉄幹門四十郎さんですよね」
 乃恵琉の挨拶を余所に、老人はただひたすらに鉄を打ち続けている。
 待つことに痺れを切らした啓助は、老人に怒鳴り掛けようとした。
 力強く一歩を踏みしめ、怒りを込めて次の一歩を踏み出そうとする。
 しかし、その一歩を踏みしめる前に、乃恵琉の平手が啓助の胸部に飛び、途端に立ち止まる。
 老人はまた暫くして手を止めた。
「で、何のようじゃい」
 金槌を床に置き、老人は問いた。
「(このジジィ、人をまた上に……)」
「鉄幹門四十郎さんに剣を作って頂きたく……」
 乃恵琉の発言は、鉄幹門の「駄目じゃ」という言葉に遮られる。
「剣と言えば、洋刀のこと。わしは洋刀は作らん」
 鉄幹門の言葉を最後に、啓助達は家内から追い出されてしまった。
「……どういう事だよ」
「剣も打てると聞いたのですが、これは何かありそうですね……」

141ライナー:2011/09/11(日) 14:10:23 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
 啓助達は、それから何件もの刀鍛冶を訪ねた。
 しかし、その全ては洋刀を作らないと言ったのだ。
「やはり、何かがあるようですね」
「何か?もしかして、冷蔵庫に取っておいた最後のアイスクリーム取られて意地張ってるとかか?」
「いや、そんな子供っぽい理由な分けないでしょう。とりあえず、この辺りの住人に聞き込みしてみましょう」
 乃恵琉はそう言うと、1人の通行人に声を掛けた。
「済みません、お訪ねしますがここでは何故洋刀を打つ刀鍛冶がいないのですか?」
 乃恵琉の問いに、通行人は驚いた顔をしている。
「君、こんなところでそんな事言っちゃ駄目だよ……!」
「失礼しました。何分ここには不慣れなので」
 通行人は、少し周りを気にしながら話した。
「ここ、綱板町でもちょっと前までは洋刀を打つ刀鍛冶がいたんだ。でも、新たな鉄素材を見つけるために、金属探知機が反応している鍾乳洞に入ったらしいんだ。しかし、そこで探知機の指す方向へ向かうと……」
 そこまで言うと、通行人は息が止まりそうな勢いで言う。
「巨大な獣に襲われたそうなんだ……!何でも、洋刀を持っていた人には過剰に反応し、洋刀と命を奪った。それで洋刀は不吉の象徴とされているんだ」
 乃恵琉は通行人から話を聞き終わると、頭を下げた。
 去っていく通行人を見ながら啓助は思った。また面倒くさいことが始まりそうだと。
「啓助君、今の話しに矛盾を感じませんか?」
 乃恵琉が不意に啓助に話しかける。
 啓助は、乃恵琉の言う「矛盾」に疑問符を浮かべた。
「あの通行人の話しでは、鍾乳洞で金属探知機が反応した、と言いましたよね?ですが、鍾乳洞の中には自然物で金属は含みません」
 そう言われて、啓助は何となく異変に気付く。
「……誰かが、金属を持ち込んだ以外にはあり得ないって事か」
「正解です」
 乃恵琉は指を鳴らして、涼しく笑った。そして言葉を続ける。
「ですので、人工的に作られた何かを、獣が守っている。そういう推理が出来ます」
 その言葉に啓助は再び悪寒が走る。
 それに感づいたように、乃恵琉は言った。
「困っている市民を助ける事も、僕達ユニオン隊員の役目です」
「お、俺、今日から困った市民になろっと……」

 啓助は強引にも乃恵琉に連れていかれ、噂の鍾乳洞に到着する。
 初めて来た場所のはずだったが、啓助には見覚えのある場所だった。
 何故ならそこは、キルブラック後陣隊長の沙斬と一戦を交え、煉が殺されたあの鍾乳洞だった。
 突然、来ることが嫌だった啓助は、真剣な表情になる。
 鍾乳洞に入っていくと、以前入った時とはほとんど変わりない。相変わらず足下が水浸しになっている。
 足音の替わりに、足で水を蹴飛ばしながら啓助達は先へ進んでいった。
 暫く啓助を先頭にして歩いて行くと、ある場所へとたどり着いた。それは、煉が殺されたというあの鍾乳洞の広間だった。
「啓助君、君の気持ちも分から無くは無いですが、ちゃんと真相を確かめなければいけませんよ」
 すると、啓助は軽く息を吐いて言った。
「満更、ここでも良さそうだぜ」
 微妙に光の差す広間で、乃恵琉は目を凝らした。すると、辺りには人間の死体と洋刀が散蒔くように倒れている。

142竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/11(日) 20:38:42 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
どうも^^コメントさせてもらいますね。
来待強ぇ!って思った途端に……アレって死んじゃったってことでしょうか?
にしても最近麗華が出ないのがちょっと残念です…。もっとも洋の方が出てない気が…。
恵も結構出てきましたね!
やっぱ惠は啓助が好きなのだろうか。キュンキュンします((殴
これからも頑張ってくださいね^^

143とよに:2011/09/13(火) 09:00:11 HOST:bc31.ed.home.ne.jp
いつも読ませていただいています。
主人公かっこよさすぎて、もうキュンキュンです。
とても面白いと思うので、これからもがんばってください。

144 ◆uXwG1DBdXY:2011/09/13(火) 13:37:59 HOST:KD027082037068.ppp-bb.dion.ne.jp

コメント失礼します、槙といいます。
以前自分の短編集にコメントしていただき有難う御座いました。ライナー様の作品は何度か見かけた事はあったのですが、長編だったので読む時間がなく断念してしまっていました。

ですが今回少し拝見させて頂いたのですが、とても興味がそそられるもので全部読んでしまいました。
個人的には主人公の啓助君、乃絵琉君、恵ちゃんが特に好きです。

続きがとても気になり次の更新が待ち遠しいです。
これからも頑張って下さい


それでは、乱文失礼いたしました

145ライナー:2011/09/17(土) 13:31:21 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
コメントがいつの間にか沢山……もうホント嬉しい限りです(涙目)

竜野翔太さん≫
その事につては……続きは未来で(オイっ!)
主人公が好きな女の子って良いんです!!主人公って作者の分身だから自分がそういう状況に成ってみたかったり何かしたりして……^^;

とよにさん≫
コメントありがとうございます。
リア友なんでレイ@ヴァルガさんなのは分かりますけど、これからも見て下さい!

槙さん≫
前から読んで頂いたなんて、本当に嬉しいです!!
主人公は作者の分身と言いながらも、自分は洋が大好きです。何故か^^;
頑張って更新しますので、これからも応援宜しくお願いします!!

皆さんコメントありがとうございました!

146ライナー:2011/09/17(土) 15:59:24 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
「ここに……スゲぇ鉄があるんだろ?」
 啓助は所々光の差す鍾乳洞で、微かに呟いた。
「君は、このような任務でも随分暢気ですね。もう、知らないふりをするのは疲れましたよ」
 乃恵琉は啓助の背に向かって声を上げる。
「戦闘以外のことは忘れた、と言いましたよね?本当は苑寺さんが亡くなった覚えているのではないのですか?」
 乃恵琉の問いに、啓助は耳を傾けたのか微量に震えた。
「……ああ、覚えてるぜ。だけど、ずっと落ち込んでるわけにもいかないだろ?役に立たなくて、仲間だって守れねェけど、今必死に頑張るしかないんだ」
 啓助の発言に、乃恵琉は思った。心は強くなっていると。
「君は強くなることだけが目標ですか、情けないです」
 ため息を吐いて言う乃恵琉だったが、その表情は笑っているように見えた。
 すると突然、夕日の光が差す鍾乳洞に、咆哮が響く。
 そうかと思うと、今度は夕日の光を全て塞いでしまうような、巨大な影が立ち塞がった。
「何だよ……コイツ……」
 立ち塞がった影は、夕日の光で段々とその姿を現す。
 その姿は、一見すると亀のような姿をしており、その甲羅は天空に向かうように螺旋を描いた形をしていた。
「この獣は甲水亀(こうすいき)ですね。『アクア』の能力を持っています。しかし、この大きさは今まで発見されたものより遥かに巨大なようですね」
 甲水亀は螺旋状になった甲羅を強く発光させると、再び咆哮を上げた。叫び、口を開けた状態で、口から物凄い勢いの水泡を放つ。その勢いは、滝が地面と平行に落ちていくかのようだった。
 啓助は咄嗟に手のひらを水泡に向け、凍結させる。
 しかし、水泡の水圧が強く今にも氷の壁は砕けそうになっていた。
「くっ……乃恵琉も手伝ってくれ!俺1人じゃどうにも仕切れないっ!」
 乃恵琉は、啓助の言葉を腕組みしながら聞き流した。
「今度やる試合の相手は麗華ですからね、これくらいはどうにかお願いします」
「今までに発見されてない大きさの獣をどうにかしろとぉ〜!!無理だっつの!!」
 全力の否定にも、乃恵琉は動く気配はない。
「いざ、という時は僕も参戦しますので、ご心配なく。では、僕は外に行って缶コーヒーでも飲んできますので」
「それじゃ、いざという時が分かんないだろ!」
 乃恵琉に大声で叫びつつも、啓助は必死に水泡を防いでいる。
 甲水亀の水泡は、時間が経つ度に威力が増し、啓助を苦しめた。
 啓助は水泡を防ぐことに精一杯で、その場を動くことが出来ない。しかし、攻撃をしなければこちらがやられてしまう。
 埒の明かない1人と1匹を見て、乃恵琉はため息を吐いた。
「仕方がありませんね、少しだけ力を貸すとしましょう」
 すると乃恵琉は、ベルトにしまった黄色の珠から深緑の槍身を伸ばす。
 黄色い球から伸ばされたナチュラルランスの槍身を掴み、乃恵琉は甲水亀に向かって走り出した。
 ナチュラルランスの槍先を、水の張った地面に擦りながら走ると、傷の付いた部分からはいつもの棘の付いた蔓とは違う植物が勢いよく生えてきている。
 乃恵琉は水泡に向かって、ナチュラルランスの3本の槍先を振るうと、それに同調して植物は水泡の方へと伸びていった。
「行きますよ!『リーフライド』!!」

147ライナー:2011/09/17(土) 17:20:02 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
 乃恵琉がそう唱えるように言うと、赤紫の花を咲かせた茎はナチュラルランスの槍身に、根まで巻き付き一体化していった。
 植物と一体化したナチュラルランスは、水泡を弾くように防いでいる。
「この植物はミソハギといって、水辺に咲く花です。だから撥水(はっすい)効果は勿論、『リーフライド』で槍の特殊攻撃まで強めます!」
 乃恵琉は啓助が技を聞くことを見越し、涼しい顔で説明を終えると、水泡を弾き退けた。
 啓助にとっては、別に聞く気もなかったが絶対に言ってくるだろうと見越して敢えて言わなかった。出会って半年ばかりでわかり合えるのは、以心伝心と言ったところだろう。
 甲水亀の水泡を弾いた乃恵琉は、ナチュラルランスの槍先を甲水亀に向け走り始めた。
 次の水泡を放とうと、甲水亀が咆哮を上げる。
 しかし、咆哮を上げたときにはもう乃恵琉がその頭上に跳び上がっていた。
 乃恵琉はしっかりと標的を見定め、ナチュラルランスの3本に分かれた槍先を甲水亀に目掛けて振り下ろす。
 地面に乃恵琉が着地すると、それと同時に水の張った地面に赤が染まった。
 甲水亀が水を跳ね上がらして、蹲(うずくま)るようにして倒れる。
「おっと、弱すぎて倒してしまいました」
 乃恵琉はナチュラルランスの槍身を黄色い球に込め、呟く。
 そして黄色い球をベルトにしまうと、啓助の方を振り向いて言った。
「このくらい倒せるじゃないですか、僕みたいに」
 余裕な表情で言ってくる乃恵琉に、引きつった顔で啓助は「お、おう」とぎこちなく言う。
「君の課題は、敵の攻撃の受け方ですね。真正面から受けて全てを防ごうなんて、防御主体のカウンタータイプの戦い方じゃないと死にます」
 啓助は先程から、乃恵琉の「死にます」という言葉をとても気になっていた。幾つ自分が死ぬような戦い方をしていたのか、分かったもんじゃない。
「物の流れを、いかに抵抗を少なく受け流せるかが重要ですよ。今回は特殊攻撃でしたが、打撃の場合受け流して攻撃を打ち込めなければ話しになりません。時によっては、耐え切って自分のペ−スに持ち込む人もいますしね」
 自分もだいぶ戦闘経験は積んでいるが、まだまだ戦闘術とは奥が深い、そう思う啓助だった。
 啓助は曖昧に返事をし、本来の目的、特別な金属を見つけ出す事に集中していった。
 場所的には事件が起こった場所に間違いは無いのだが、特別な金属が見つかりそうにない。
 乃恵琉を見てみると、倒れた人々の剣に紛れていないか探りを入れている。乃恵琉の推理だと、特別な金属は剣だという推理だろう。
「はぁ〜、どこだよ鉄」
 どこか諦め半分の啓助は、ポケットに手を突っ込んで辺りを忙しなく見回していた。
 すると、鍾乳洞の広間に続く空洞に、夕日の光が当たり何かが見える。
「おい、乃恵琉!何かあっちにあるぜ?」

 一方、こちらはユニオン自主トレーニングルーム。
 恵と麗華が練習試合を行っていた。
「ちょっとちょっとぉ〜!!真面目にやってるの恵?」
 麗華が何か物足りないように恵に言った。
「あ、ちゃ、ちゃんとやってるよっ!」
 恵は銃を持つ両手を微かに振るわせながら言う。
 麗華はため息を吐いて、指に握るように挟んだナイフの刃を折りたたむように持ち手部分にしまった。
「辻の奴とアツアツだったのは分かるけど、少しはマシな戦い方してよ」
 麗華の発言に、恵は赤面させて大声で言った。
「だ、だから違うよォ〜!!そんな事言うんだったら、井上君と練習すればいいよォ〜!!」
 恵は麗華の返事を聞く前に、顔を隠してトレーニングルームを走りながら出て行った。
「……洋は張り合い無いしなー。そういえば辻、アイツ大丈夫かしら?」

148ライナー:2011/09/18(日) 10:54:38 HOST:222-151-086-019.jp.fiberbit.net
21、凍界の剣

 啓助は乃恵琉を連れ、広間に続く空洞へ一歩一歩進んでいく。
 その空洞は光が全く差さず、広間からの光が頼りだった。
「ここに……ですか?」
 乃恵琉は半信半疑で啓助に問う。
「確かに夕日の光に反射して、見えたんだ」
 啓助は乃恵琉を背に、足下に張っている水を蹴飛ばすように歩いていった。
 空洞に入っていった2人は、広間の光を頼りに辺りを見渡す。
 しかし、空洞の奥までは光が届かず、手探りの作業以外方法がなかった。2人は同時にため息を吐き、姿勢を低くして探り始める。
 作業は何時間かに渡り、辺りは暗くなった。もはや夕日の光も差してこない。
 低い姿勢を保ち続けた2人は、腰をさすりながら姿勢を戻すとほんの僅かに月明かりが見える広間の方へと戻った。
「ありませんでしたね」
 乃恵琉が何か恨めしそうな声で啓助に呟く。
「暗いからな、見つからないだけだろ……」
 啓助は何か後ろめたそうな声で乃恵琉に呟いた。
 先程からため息の同調が途絶えない2人は、またも同時にため息を吐くと星空を見上げる。
「そういえば、今何時だっけ?」
 乃恵琉は啓助に言われ、携帯を取り出す。
「22時ですね」
「任務以外で外出してる時って、門限何時だっけ?」
 すると、乃恵琉は少しためらって言った。
「22時ですね」
 乃恵琉の言葉が寂しく、鍾乳洞の広間に反響する。
 「「………」」
 啓助は咄嗟に、行き先が分からぬまま走っていく。一方乃恵琉も同じように走りの一歩を踏み出した。
「うおー!!ヤベー!!」
「僕も気が付きませんでした。甲水亀を倒したらすぐに街の人々に報告すればいいものの……」
 走って行く2人は、僅かな月明かりを頼りに来た道を進もうとする。
 しかし、その僅かな月明かりは突然と消え、聞き覚えのある咆哮が響いた。
「……まさか」
 啓助はその瞬間言葉を失う。
「そのまさか、のようですね」
 乃恵琉は状況に動じず、冷静に言っている。
 そう、その咆哮とは、先程乃恵琉が倒した甲水亀だったのだ。
「では、僕は外で缶コーヒーを買ってきます」
「いや、それ門限が大事なだけだろ!!てか、それさっきも聞いた!!」
「大丈夫です、君のためにコーラも買ってきますから」
 啓助達が遣り取りしている間に、甲水亀は闇の中で水泡を放つ。
「そー言う事じゃねー!!」
 その発言は、水泡の勢いに掻き消されるように途絶えていった。

149ライナー:2011/09/18(日) 14:06:05 HOST:222-151-086-019.jp.fiberbit.net
 大きく水の弾け飛ぶ音が鳴る。それは、もう水なんてレベルではない程の衝撃音だった。
 啓助はその音と同時に身が飛ばされ、壁に窪みが出来てしまった。
 窪みの出来た壁を背に、啓助はゆっくりと立ち上がった。
「啓助君、大丈夫ですか?」
 乃恵琉が真顔で啓助に呼びかける。
 啓助は背筋を伸ばし、指の骨と肩の骨を荒々しく鳴らすと、暗闇に僅かに見える甲水亀に向かって構えた。
「……大、丈夫な、訳ねェだろ!お前の眼鏡は伊達眼鏡か!」
 啓助の安否が確認できた乃恵琉は、先程よりも冷静に言う。
「いや、『お前の目は節穴か』みたいに言われましても……」
 乃恵琉の言葉に、啓助は舌打ちをして甲水亀の方を見据えた。
 助走を付けて跳び上がった啓助は月光に影を生み、甲水亀の前頭部目掛けて、力一杯氷を纏った突きを繰り出す。
 甲水亀は、それを読んでいたかのように啓助の方に目線を向け、水泡を放った。
 啓助の突きは、甲水亀の水砲を凍結させ、次々と砕いていく。
「なめんなよ!!」
 啓助はそのまま甲水亀の前頭部に突きを繰り出そうと勢いを付ける。
 しかし、水砲の勢いは段々と増していき、今度は逆に水砲が氷を砕いていった。
 氷、冷気共に無効化された啓助は、再び空洞の奥へと吹き飛ばされいく。
 黒い景色しか広がらない空洞は、啓助に不安を与えた。まるで、怯えて檻に閉じこめられる小動物のように。
 広間に続く通路が、月明かりを失った。甲水亀がそこに立ち塞がったのだ。
「では、啓助君。僕は甲水亀を一度弱らせたので、これにて失礼します」
 甲水亀の後ろから、微かに乃恵琉の声が聞こえる。
「お、オイっ!門限と仲間で、門限取りやがったな!!」
 啓助の無謀な呼びかけは、空洞に大きく響き渡るだけだった。
 甲水亀はそれでも容赦なく、水砲を放つ。
 啓助は音しか聞こえない水砲に、為すすべもなく攻撃を受けた。
「クッ……!!」
 水泡の勢いで、啓助はまたも壁に体をぶつける。鈍い音を上げた壁は、落石の雪崩を起こすように崩れていった。
 啓助は足を蹌踉(よろ)めかせながらも、深呼吸しながら立ち上がる。
「これで死んだら、乃恵琉の奴を呪い殺してやる……!」
 両手に冷気を込め、闇雲に冷気を放った。
 放たれた冷気は甲水亀に当たる様子はなく、地面に張られた水が凍る音が反響する。
 焦る啓助に、甲水亀は大きく咆哮を上げた。そうかと思うと、暗闇に啓助に向かって水砲が飛び、啓助を襲った。
 その水砲は先程のものより威力は弱化していたが、インファイトを打ち込む拳ように啓助の身体を傷つける。
「(何でこんなに暗いってのに、俺の居場所が……!)」
 そして啓助は、その理由が分かった。甲水亀は地面に張っている僅かな水の波紋を感じ取っていることを。それ以外には考えられない。
 さらに、啓助は電撃が走ったように思い出した。
 最初に甲水亀の水砲を受けた時と、先程の水砲の威力を。
 水砲の威力は、打ち込む度に弱化している。それは恐らく、乃恵琉の攻撃が当たったときからの弱りによるものだろう。
 そう考えた啓助は、闇雲に闇の中を走る。
「(最初は、確か甲羅を発光させてやがったな。それなら、力を上げさせるには……)」
 走る波紋に気付いたのか、甲水亀は細かい水砲を辺りにはなっている。
 反響して、ハッキリ音の場所が分からないものの、啓助は水砲を自ら受けた。
 そして、その時乃恵琉の言葉を思い出す。
「(『時によっては耐え切って自分のペースに持ち込む』か……)」
 啓助は水砲を受けながらも、その発信源を読み取り、そこに向かって走り出した。

150美々:2011/09/18(日) 15:11:48 HOST:101-143-57-221f1.hyg2.eonet.ne.jp
小説書くんでよろしくお願いします。

151美々:2011/09/18(日) 15:12:23 HOST:101-143-57-221f1.hyg2.eonet.ne.jp
小説書くんでよろしくお願いします。

152ライナー:2011/09/18(日) 16:35:32 HOST:222-151-086-019.jp.fiberbit.net
 走り出した啓助は、再び両手に冷気を込める。
「(要は怒らせれば良いんだ……!!)」
 甲水亀に接近し、目が慣れほんの僅かに姿が見えると、啓助は水の張った地面を、跳ねる魚のように跳び上がった。
 そして、高く跳び上がると、冷気を込めた両手から無数の氷柱を放つ。
 今度は、水に落ちる音はせず、打撲音や切傷音が響いた。技が甲水亀に命中したのだ。
 傷つけられた甲水亀は、啓助の目論見(もくろみ)通りに咆哮を上げ螺旋状の甲羅を輝かせた。
「(掛かった……!)」
 甲羅の光で少しばかり明るくなった鍾乳洞の空洞は、プリズムの光を帯びたように美しかった。
 しかし、そうも言っていられない。甲水亀は再び激しい勢いの水砲を放つ。
 啓助はそれを受け流すように、凍結させ水の進行方向を屈折させた。
「(いかに物の流れを、抵抗少なく受け流せるかってな!)」
 乃恵琉の言葉は啓助の頭に焼き付いていた。
 何故なら、啓助は同僚に教えられるのが恥ずかしいと思わなくなり、ただ強くなりたいと願っていたからだ。
 そして水砲を受け流すと同時に、啓助の目にある物が留まった。それは、岩に挟まっている剣だった。
 甲水亀の水砲を全て受け流した啓助は、隙を見て剣の方へと走る。
「これが、噂の金属か……?」
 手にした剣は、鞘越しにでもその刀身がハッキリしていた。
 刀身は適当な横幅に長さが1メートル程と、いかにも重量がありそうだった。しかし、持ってみると案外軽く、刀身の付け根から短い刃が突き出ているのが見える。
 すると、辺りがほんの少し暗くなった。
 甲水亀に気付かれたのか、啓助はそう思い振り返る。しかし、そこには甲水亀の姿は無く、広い空間が広がっている。
 咄嗟に目を見張り上を見上げると、そこには甲水亀の姿の腹部が景色のように広がった。
「(跳んだのか!?)」
 状況を見ながらも、少し半信半疑に成る啓助。しかし、それを余所に甲水亀は少しの間も与えずのし掛かろうとしている。
 啓助はそれを防ごうと、無意識に剣を鞘から抜いた。

 啓助は気が付いた。
 いつの間にか意識を失っていたのだ。
 啓助は意識が戻り、ゆっくりと目を開ける。
 途端に痛みが背中を襲う。壁にぶち当てられ、しゃがみ込んだ状況だったのだ。
 手元には、剣と、その鞘が握られていた。
 剣の剣先は赤く染まっている。
 今度は前方を見てみる。甲水亀は甲羅を地面に付け、仰向けに倒れていた。その姿は先程の迫力を無くし、浦島太郎に出てくる亀のようにか弱く感じた。
 何故こんな状態になっているのか、これで分かった。
 剣で受け止めたのは良いが、重量に負け啓助も吹き飛ばされたのだろう。
 啓助は剣を杖代わりにして、ゆっくりと立ち上がった。暫くして、足がやっと言うことを聞くと、剣を鞘にしまう。
 微かに震える手で、啓助はポケットの携帯を取り出すと時間を見た。0時30分、日付がいつの間にか変わっている。
 力が出ない足を一所懸命に歩かせるが、またも言うことが聞かなくなった。
 足が効かないだけなら良いが、意識まで朦朧(もうろう)としてきた。
 そのうち、立っていられなくなり水の張った地面に膝をついた。そして意識がどこかへ吹っ飛び、そのまま倒れ込んでしまった―――。

 暗闇で何かが聞こえる。
「……貴様は、この私を上手く使いこなせるというか。ーーー様よりも強く、鋭く、素早く、しなやかに」
 暗闇で聞こえる声は、姿が見えない。
「だ、誰かいるのか……?」
 啓助はその声に呼びかける。すると、光が目に飛び込んできた。

「大丈夫ですか?」
 気が付くと啓助は畳の上に寝っ転がっていた。
 隣で聞こえる声は、着物を着た20代前半の女性だった。
「……夢か」
「は?」
「あ、いや、こっちの話しなんで……ってここは?」
 すると、隣の部屋から老人が現れた。
「あの怪物を倒し、まだ生きておるとは……運の良い小僧じゃ」

153ライナー:2011/09/18(日) 16:47:49 HOST:222-151-086-019.jp.fiberbit.net
 〜 作 者 通 信 〜
おなじみの作者通信です^^こんなの書いて無事に物語が終わるか不安ですが^^;
今のところ全体の2割程度終わっています(たぶん)
まだ3章の途中ですが、早く終わると良いです……
さて、実は本日、本作のキャラクター井上洋(いのうえよう)君の誕生日であります!パチパチ〜(暇人勃発)
これからも登場が増えるように願って下さい(洋のファンがいるかどうかですが^^;)

特に話すこともないので、次回予告予納な物を……
・剣を手にした啓助ですが、麗華とのバトルに勝つことは出来るのか!?(麗華ファンには麗華が勝てるかどうか!?)
・啓助にライバル出現!?
・奴が啓助達の元に返ってくる!?
こんな感じです^^;
まあ、これを見て楽しみにしていただけたらと(変更する恐れもあります)

154竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/18(日) 19:01:59 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
うお、新キャラですね!
にしてもいいですね、着物の女性ってw
乃恵琉は仲間意識があるのかどうか、よく分からない奴ですね。
もしかして麗華よ同じくツンデレだったり…。
啓助VS麗華が楽しみです!

155ライナー:2011/09/18(日) 22:46:45 HOST:222-151-086-020.jp.fiberbit.net
竜野翔太さん≫
コメントありがとうございます!
新キャラの人は、キャラ的にサブの中のサブに入るので、これからはあまり登場しないと思います^^;
まあ、乃恵琉はスパルタ指導だと考えてください(笑)
ツンデレ……結構あり得る可能性が(笑)
啓助、体ボロボロですが頑張らせます^^(スパルタ指導者か)

156白井俊介:2011/09/22(木) 16:16:52 HOST:bc31.ed.home.ne.jp
読ませていただきました。とても面白い作品で、文体も好きです。
麗華のツンデレ具合がとても大好きです!!
やっぱりかわいいですよね〜ww
これからも応援させていただきますのでがんばってください。

157KIKKOMAN:2011/09/23(金) 10:35:26 HOST:pw126198146188.42.tik.panda-world.ne.jp
白井俊介って実名ですかwww

158ライナー:2011/09/23(金) 10:52:08 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
白井俊介さん≫
コメントありがとうございます!
やっぱツンデレ好きな人多いんですね、もっと麗華のシーン増やそうかな。
ご期待に添えて頑張りたいと思いますので、応援宜しくお願いします^^

159ライナー:2011/09/23(金) 11:56:06 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
 呆れ顔でため息を吐いている老人は、昼間訪ねた鉄幹門四十郎だった。
「あ、昼間のジジイ」
「ジジイとはなんじゃい!言葉には気を付けい!……しかし小僧、とんでもない物持ってきたな。いや、正確には駒子が持ってきたという方が正しいか」
 鉄幹門の言う『駒子』という名前は、隣にいる着物の若い女性だろう。歳からして孫か娘かどちらかと言ったところだろう。
 それともう一つ、『とんでもない物』も見当は付いていた。啓助の唯一の持ち物が、左手にしっかりと鞘に入った剣だったからだ。
「じーさん、この剣知ってんの?」
 啓助の問いに、鉄幹門は当たり前のように言う。
「わしは刀鍛冶じゃぞ、有名な物なら一目で分かる。小僧が持っているその剣は『凍界裂剣(とうかいれっけん)』と言うて、寒さが厳しい地方である騎士が使っていた剣じゃ。その能力は冷えれば冷える程に鉄の粒子が引き締まり、切れ味が増すもんじゃて」
 鉄の粒子が引き締まるとはどのようなことなのか、ほとんど知識のない啓助は質問しておきたかったが、そうもいかない。麗華との勝負は刻一刻と迫ってきているのだ。
 それに、自分のアビリティに合った武器を手に入れたのだ、使わずにはいられない。
「それじゃ、ちょこっと使ってみっかな!」
 啓助がその場で剣を抜こうとする。が、素早く鉄幹門にストップを入れられた。
「おい、小僧!剣はお前の拾得物じゃから何も言わんが、どこかへ用があるんじゃないのか?」
 鉄幹門の言葉に、啓助は青ざめる。
 慌てて携帯で時間を確認すると、既に時は6時30分と完全に朝方になっていた。
 そして、同時に着信履歴の方にも目を通す。
 するとユニオンからは10件以上の着信があったことが判明した。
 焦りに焦る啓助は、急いでユニオンに電話を掛ける。
 暫くユニオンの受付と言葉を交わし、通話を切った。転送帰還を願ったところ、転送システムが誤作動を起こしていて、帰還方法は徒歩かシステム復旧を待つしかないようだ。
「30分程度の短い間だったが、どーも」
 啓助は携帯を閉じ、剣を左手に持って立ち上がった。
「もう行くんですか?」
 呼びかける駒子に、啓助は背を向けたまま言う。
「とりあえず何処か泊まれる所探さないといけないんで」
「だったらここを使えばええ」
 鉄幹門は腕組みしながら啓助に言った。
 啓助はその発言に、思わず振り返る。
「マジ!?じーさんホントはいい人なんだな!ジジイって言ってごめんなさい」
「だがその代わり、家のことは手伝って貰う。いいな!」
「ハイ!」

「まだなんですか……?」
「もうちょっとですね」
 啓助は駒子の手伝いで山に来ていた。
 何故山なんかに来たかというと、綱板町では定食屋などはあるのだが、自分達で料理を作るとなると、街に買い出しに行くか近くの山で収穫するかのどちらかのようらしい。
 現在は火を起こすための薪集めをしている。
 ただ集めさせられるのならまだ良いのだが、朝から12時現在までやらされ、背中に登山リュックでも背負うように薪が乗せられている。その姿は差し詰め『二宮金次郎』と言ったところだろうか。
 一方駒子の方は、近くの川で魚を釣ったり、山菜などを集めていた。
 啓助はその光景を見据えながら、現代でこんな姿を拝めるとは思いもしなかった。
「そろそろ良いですよ、もうすぐお昼ですし」
 駒子の言葉で、啓助は一安心する。しかし、気を抜くと薪に押しつぶされそうになるので少し戸惑った。

 その後、啓助は鉄幹門の家で昼食をご馳走となった。
 食べるものは全て田舎料理だったが、とても美味しく感じる。栄養配分だけ考えられたユニオンの食料とは大違いだ。
 そして途端に、ユニオンに属する前の事を思い出した。家族や友人のことを今思うと、少し涙が溢れそうになる。
 鉄幹門達はその姿を見ていただろうが、きっと啓助に気を利かせたのだろう。ただ静かに昼食にありついていた。

160PANDORA:2011/09/23(金) 13:38:20 HOST:pw126198014032.42.tik.panda-world.ne.jp
こんにちわ

この小説の隠れファンな私ですwww
それにしても面白いです!!

自分は麗華と恵のガールズトークが
もう少しみてみたっかた!
麗華が恵をいじってる雰囲気が笑えました

長くなってすいません
今後も頑張って下さい。
楽しみにしてます!!

161ライナー:2011/09/23(金) 14:09:35 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
22、路地裏の戦域

「ごちそーさんでした」
 啓助は昼食を食べ終え一息吐くと、剣を持って外へ出かけた。
 街の大通りに出ると、時間はまだ昼時で定食屋の方からは賑やかな声が聞こえる。
 賑やかな声に紛れ、昼酒を呑み泥酔している中年の男などの風景が見えた。
 そんな風景を見て、啓助は視線を前方に戻す。
 すると前方に見えたのは、キルブラックの下っ端が身に纏うマントのような黒装束だった。
「……!!」
 黒装束を着た人物は啓助の姿を見つけると、逃げるようにビルの路地裏に去って行く。
 啓助もその姿を見ると、慌てて黒装束を追った。
 路地裏に入って行くとそこには、ビルの壁と換気扇くらいしか見あたらない。
 啓助は自分の目を疑いながら、キョロキョロと辺りを見渡す。
 すると突然、啓助の身体に矢が刺さる勢いで電流が流れた。
「グッ……!!」
 電流は啓助を縄で縛り付けるように身体に巻き付いている。
 苦しみながらも、啓助は流れる電流の発信源を目で追う。
 目で追った先には、ビルの壁に2匹の蜘蛛が糸を吐くように電流を啓助に流していた。
 そうかと思うと、今度は上空から何者かが舞い降りてくる。3人いる中の2人は先程の黒装束だ、そしてもう1人は裏切りを果たした堂本の姿だった。
「て、テメェ……!」
「ヨォ辻……随分と元気そうじゃねぇか。雷蜘蛛(らいぐも)の電気は気持ちいいか?」
 電気の磔(はりつけ)を受けている啓助に、堂本は笑って言う。
「雷蜘蛛はコイツで操られてんだ。スゲェだろ?」
 堂本は啓助の顔の前に、碁石でも挟むような持ち方で紙の札を差し出す。
 それは随分前、麗華救出の時に麗華のアビリティを遮っていたあの札だった。
「覚えてそうな顔してんじゃねぇか。じゃあコイツはどうだ?」
 次に差し出されたのは錠剤のような物。啓助はこれにも見覚えがあった。
 同じく麗華救出の時、赤羽との一戦で赤羽が服用した薬だ。
「札はお前が知っている通り、人間に付けりゃアビリティを封じ、獣に付けりゃ意のままに操ることが出来る代物。そしてこの錠剤は、服用すればアビリティの能力を短時間だけ強化するという薬だ」
 堂本は錠剤と札をコートのポケットにしまうと、話を続ける。
「これで分かるように、俺らキルブラックの科学力、戦闘力はとても優れている。これ以上刃向かうようなら次に使者を送り殺すことになる。ついでに雷蜘蛛の相手をしてやってくれ、辻」
 堂本はそう言い残すと、黒装束達を残して去っていった。
 堂本が去った途端、それが合図だったかのように黒装束は雷蜘蛛に命令を出す。
 雷蜘蛛の出す電流の電圧は段々と増し、突き刺さった矢が身体を剔(えぐ)るような痛みを啓助に感じさせた。
 啓助は痛みのあまり、獣のような咆哮を上げる。
 そしてその咆哮は、啓助の意識を掻き消していった。

 辺りは黒色に染まっていた、鍾乳洞の時と同じように。
 闇の中にはあの時と同じ声が響いていた。
「お前……中々に面白い力を持っているようだな。今回だけはその力を借りて助けてやろう。だが、次この力を使うにはお前がこの力を使いこなせるようになってからだ……」

 啓助は自分が意識を失っていることに気付いた。
 目が覚めた途端、剣を握り、前方の黒装束を切り裂いている。無意識にも戦っていたのだ。
 上を見上げると、雷蜘蛛が一目散に逃げていく姿が見えた。
 啓助は来待戦での疲れと同じ物を感じる。
 記憶を一部失っていた、あの来待戦と同じような感じだ。
 疲れを残しながらも、啓助は剣を鞘にしまう。
「ヒューヒュー!格好良いね啓助!」
 後ろから囃(はや)し立てるように声が聞こえてくる。
 何となく聞き覚えのある声に振り向くと、ヒロシ状態と化した洋の姿があった。
「お前……!何でここに!?」
「キルブラックの処理で派遣されたのさ。でも、君が処理っちゃったみたいだね」
 啓助は少し気がかりになることを、洋に問いてみる。
「じゃあ、転送システムで来たんだよな……?」
「いや、歩きさ。歩きじゃないとナンパ出来ないじゃないか」
 聞くんじゃなかった、啓助はそう思う。
 そう思い、拍子抜けした瞬間、それを狙っていたかのように矢が啓助の足下に降りた。

162ライナー:2011/09/23(金) 14:14:22 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
PANDORAさん≫
コメントありがとうございます!
良いですよね、二人のガールズトーク^^
やっぱり麗華の票が多いな、麗華の出番を増やそう。
これからも頑張りますので、応援宜しくお願いいたします!!

163PANDORA:2011/09/23(金) 15:26:03 HOST:pw126198014032.42.tik.panda-world.ne.jp
もう一人の洋のキャラと普段の大食いの洋キャラのギャップに
はまりましたwww

ライナーさんのキャラ設定が面白いです!!

164ライナー:2011/09/24(土) 18:38:23 HOST:222-151-086-004.jp.fiberbit.net
PANDORAさん≫
またのコメントありがとうございます!
キャラ設定は結構気を遣っている方なので、嬉しいです!
ではではwww

165ライナー:2011/09/25(日) 12:48:29 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
「だ、誰だ!」
 啓助の声に、颯爽(さっそう)と何者かが舞い降りてくる。
「ご機嫌よう」
 降りてきた人物は鉄幹門の娘、駒子の姿だった。
 駒子は背に矢を背負い、片手には弓を握っている。
「と言っても、私駒子じゃないんです」
 いきなり現れて何を言い出すんだ、啓助はそう思ったが、後ろでは筋肉質で女好きな洋(ひろし)が鼻息を荒くしてそれどころではなかった。
 啓助は、洋の居る背後からとても嫌な予感がする。
「お嬢さん、ボクと一緒にお茶しませんか?」
 案の定、洋は駒子の手を握ってナンパを仕掛けている。
「お、おい。洋……」
 啓助が呆れながら洋を止めようとしている。すると、駒子の姿が段々と光を帯びて姿形が変わっていった。
「これでも良いと申されますか?」
「……!!」
 次に言葉を発したときは、駒子の姿ではなくなっていた。
 着物姿は変わりなかったが、水色に輝く髪と、同じ色の瞳、そして整った顔つきに凜とした口元が見える。
「はい、良いですお姉さん」
 洋はそれでも動じなかった。年上でも、年下でも、相手から攻撃を仕掛けてきても女好きは変わらないらしい。にしても、洋の女好きには呆れた。
「では、妾を愛すと申しますなら、あの童をお消しになって下さい」
 女は啓助の方を指差す。
 焦った啓助は、洋を一瞬疑い一歩後退る。しかし、洋は女からソッと手を離し、クールな笑みを浮かべた。
「そう言うワイルドな女性は嫌いじゃないけど、仲間を傷つけることは絶対に出来ないな」
 この時、啓助は一瞬でも洋を疑ったことを反省した。どんなに女好きでも仲間は仲間なのだ。
 その言葉を聞いた女は、少し不機嫌そうな表情を浮かべて名乗りだした。
「妾はキルブラック左陣隊長、遠尾(えんび)。悲しゅうて仕方ありませんが、命令なので殺させて頂きまする」
「待て!じゃあ、本物の駒子さんはどうした!」
 啓助の問いに、遠尾は表情を変えずに言う。
「甲水亀を操って、人を殺したとき、その時……」
 言い方からして相手はあまり戦意がないようだ、しかし何かしら隠し持っているのも確か。
「それから妾が代わりを務めようと、変装して……」
 遠尾の言葉はそこで止まった。洋が一直線に金槌を打ったからだ。
「あんな綺麗な女性を、こ、殺しただと!!」
「(……女好きにも程があるだろ)」
 啓助は、洋が怒りを見せる趣旨が間違っているような気がする。
 そしてあまりの女への執着心に、先程の『仲間』という言葉を前言撤回したくなった。
 すると遠尾は途端に姿を消す。
「!!『ファスト』か!?」
 あまりの速さに、啓助はそう呟く。
「いや、啓助。走り出す様子がなかった事から推測すれば、これは……時を操る『タイム』」
 そう言っている間にも、様々な方向から矢が飛んで来た。
 直線上に伸びた矢は、勢いよく洋の背に刺さる。だが、いつものように平然な顔で矢の金属部分を身体へと取り込む。
「今回の鉄は、油の使い方が荒いね。刃物の武器を使うときは切れ味が落ちないように、適量の油を使わないと」
 洋は平然と鉄の批評をしているが、『メター』の能力者の鉄を取り込む部分を見るのは、あまり良い気持ちはしない。
 気が付くと、先程と同じ場所に遠尾が立っている。
 しかし今度は遠尾だけでなく、先程逃げていった雷蜘蛛も一緒だった。
 恐らく、先程の雷蜘蛛は時を戻して呼び出した物だろう。そうすると、『タイム』のアビリターはかなり厄介だ。
「啓助!考えていても始まらない、ボクは雷蜘蛛の方を担当させて貰うよ!」
 悩む啓助を余所に、洋は両腕を鎖へと変化させ、雷蜘蛛の体を縛り付けた。
 そうすると、啓助の敵は絞られる。『タイム』を使う遠尾だ。
 啓助は素早く剣を抜き、遠尾に向かって振り下ろす。
 だが、やはり『タイム』のせいで軽々と躱されてしまった。
 そして、啓助が呆気に取られていると、今度は四方八方から無数の矢が飛んでくる。
 矢の攻撃は何とか冷気によって凍らせられたが、これでは攻撃の隙が出来ない。
「さ、どうしまするか?童よ」
 先程よりも余裕の見える声が啓助の耳に入って来る、ただそれだけだった。
「啓助、洋刀の使い方が違うよ!」
 洋は縛り付けている雷蜘蛛に電流を流されている。
「いや、お前大丈夫なの?」
 電撃を受けながらも、洋は雷蜘蛛を叩き付け応戦していた。
「うん、脚が電流を流すアース代わりになっているからね。そのくらい啓助も分かるだろ?」
 啓助は少し痛いところを突かれた、が、話しを戻し紛らわす。
「で、洋刀の使い方って?」
「ああ、それは……」

166竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/09/25(日) 13:45:36 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
コメントさせてもらいますね^^

ああ、駒子さんが……結構好きだったのに…。
最近出番無いなー、と思ってたら洋くん出てきましたねw
それにしてもスパルタ少年とツンデ麗華はいつ出るのか((

続きが楽しみですw
頑張ってくださいね!

167ライナー:2011/09/25(日) 14:45:01 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
竜野翔太さん≫
コメントありがとうございます!
駒子さんは確かに急な展開となりました……^^;
洋はあまりにも出番ないんで、出させて頂きました。これからも出番が増えると良いですが(笑)
乃恵琉と麗華の登場はもうすぐです!
是非、啓助と麗華の戦闘シーンを楽しみにして下さい!

168ライナー:2011/09/25(日) 17:38:21 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
「洋刀って言うのは、切れ味を重視する日本刀とは違い、突き技が重視されるんだ。だから切っ先で斬りつけたり、そのまま突いたり、するのさ!」
「ああ、そうなんだ……」
 啓助は曖昧な返事を返す。
 何故かというと、洋はアドバイスをしただけで、全く助けようとする動きを見せなかったからだ。
 やはり、敵は敵でも女には手が出せないと言うことだろうか。
 そう考えている間にも、啓助の周りからは無数の矢が飛ぶ。
「(またか……!)」
 啓助は剣を真上に振り上げ、刀身に巨大な花を咲かせるように氷を作り出した。
 巨大な氷の花は、矢の全てを弾くと同時に消される。なるべくアビリティを節約しなくては、いつまで戦闘が続くか分からないのだ。
 剣をゆっくり下ろすと、今度は背後からオーラによる気配を感じる。
 気配に向かって気付かれないように、剣をゆっくりと持ち上げる。そして剣の切っ先を後ろに向けた。
「(切っ先で斬りつけ、突き技を重視………)」
 心の中でそう呟き、切っ先を徐々に上げて行く。
 剣の目測と、気配の感測を頭の中で計っていった。
 よく見てみると、剣の切っ先は刀身全体の3分の1ほどあり、戦闘方法は洋の言うとおり突きが主流らしい。流石『メター』の能力者と言うべきだろうか、伊達に鉄を扱っているだけのことだけはある。
 気配は気を反らせる為だったのか、前方に何十本かの矢が啓助に向かって来た。
 啓助は、冷気で矢を全て薙ぎ払うと視線を背後に向けた。
 それと同時に、剣の切っ先が遠尾の方へ伸びる。
 剣の突きは神速を思わせるような速さだったが、既に遠尾の姿はなかった。相手も状況に応じられるように、相当な反射神経を鍛え持ち合わせているようだ。
「(アイツ倒すには、相手が時間を止められない隙を作り、それを突く……)」
 再び啓助は心の中で呟く。
 すると、またも同じように辺りから矢の雨が降って来た。
「(……!同じ戦法なのに、面倒臭いな)」
 啓助の体力は、アビリティを使うごとに減っていく。
 そして段々と使う力を増していかなければいけないのだ。来待、甲水亀戦と同じように、多くのオーラを。

 黒い景色が浮かび上がった。
 その中で、青く丸い光が薄らかに見える。
「……お前は力をここまでも制御できないとはな」
「おい、どういう事だ?話しが読めねェよ!」
 啓助は声の相手に呼びかける。
「お前は自分の力を制御できなければ、いつか死ぬ」
「誰だよ、誰なんだよ一体!!」
 啓助の問いに、声の相手は最後に呟いた。
「……ただのしがない騎士剣だ」

 次の瞬間、啓助はもう啓助ではなかった。
 獣のように目をひん剥き、噛み締めた歯を見せながら物凄い量の冷気を纏っている。その冷気は本物の獣を思わせるような勢いだった。
「あ、アビリティに呑まれた……!?」
 今まで平然とした表情を見せていた洋は、ここで初めて驚きの表情を浮かべる。
「グオオオオオオォォォォォッ!!」
 獣のように咆哮を上げた啓助は、剣を片手に物凄い跳躍力で跳び上がった。
 人からすれば何故跳び上がったのかは不明だ。しかし、獣のようになった啓助は違った。跳び上がり剣を構えた先には、遠尾が現れたのだ。
「何っ!?」
 遠尾も驚きの表情を見せている。どうやら時間を止めて移動したものの、時間を戻した瞬間に啓助が立ちはだかったのだろう。
 啓助の持つ剣の切っ先には、強い冷気が込められいた。そして啓助が切っ先を遠尾の方へと突き出すと、大量のガラスが破片の破片まで割れるような音が裏路地を突き抜けて響き渡った。
 そこからは悲惨な光景が広がった。
 遠尾の着物には赤や、赤に染まった氷が取り巻き、アスファルトの地面にまるで流星のように落ちて行く。
 墜落した遠尾の体はアスファルトを削り取り、アスファルトの割れ目にその体を転がした。
「グオオオオオオオォォォォォッ!!」
 啓助は咆哮を上げ、地面に着地してもなお斬撃を遠尾に食らわせる。
 遠尾の体はバラバラになり、生きているかとかどうかではない。
「止めろ啓助!これ以上やって何の意味がある!」
 洋は啓助の方へと駆け寄って、その行動を止めようとする。しかし、啓助の纏っている冷気はとんでもない圧力で、近付けば近付く程身体が凍り付けになっていく。
 今、啓助を止められる者は誰もいなかった。

169ライナー:2011/10/01(土) 16:49:35 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
 洋は悲惨な光景の向こうに、何者かが歩いてくるのを察した。
 足音が徐々に近付いてくると、洋は悲惨な光景を余所に足音の方を振り向く。
 ゆっくりと路地の影から姿を現したのは、モノクロのコートを身に纏い、白と黒が混ざった髪をツインテールに結んだ小さな少女だった。
 少女は沈黙して人の原形を失った遠尾と、暴れ狂う啓助を見た。
「あーあ、オモチャじゃないんだからさー!」
 そう言うと、少女はコートの懐から白い紐を取り出す。
「白闇ちゃんの正義のテッツイ食らえー!」
 少女は羽のように軽そうな紐を、鞭のように大きく撓(しな)らせ啓助に向かって叩き付けた。
 叩き付けた白い紐は、啓助の体に吸盤のように張り付き、強大な冷気を吸い取っていく。
「フー、遠尾はいいや死体だし。せっかく黒明と差を付ける大チャンスだったのに〜!ま、『タイム』のアビリティは時間を戻しても使用回数少ないし、戻る前の時間の記憶がたまに残ってる人とかいるし、しょーがないか」
 独り言を立て続けに言う少女は、洋の方に視線を向けて言った。
「ねーねーそこのバンダナのお兄ちゃん、あの『フリーズ』のお兄ちゃんのお友達?」
 洋は戸惑いながら曖昧に返事を返す。
「だったら危ないかもね、あのお兄ちゃんのアビリティは頭脳を持っちゃったみたい」
 少女の言葉に、洋の顔がさらに曇る。
「……君は一体誰なんだい?」
 少女は、洋の問いに自信ありげに言った。
「私は、キルブラック陣位総司令隊長補佐(じんいそうしれいたいちょうほさ)の白闇(はくあん)ちゃんでーす!」
 洋はその返答を聞くと、右腕をハンマーに変え踏み出そうとする。
「今動いて大丈夫?沙斬を倒した井上洋君ってのは確認済みだけど、隊長補佐は一瞬で倒されないよ?」
 余裕の表情を見せる白闇に、洋は汗を掻き歯を強く噛み締めながらハンマーを右腕の形へと戻した。
「それじゃー、次戦う時を楽しみにしているから、その時は一緒に遊んでね、おにーいちゃん!」

 黒い世界に、電灯の白い光が降り注いでくる。
 気が付いて目をカッと開くと、啓助はカプセルのような物の中に入れられ、何本ものコードに繋がれていた。
 暫くして電子音がすると、啓助に繋がれたコードは外れ、カプセルが開く。
 啓助はカプセルから出ると、3番隊隊長矢杉がカルテを持って近付いてきた。
「やあ、お早う。良い睡眠は取れたかな?」
「あ、ええ、まあ……」
 矢杉はいつもと何ら変わりはない啓助を見て、カルテの方へ目を移す。
「で、気を失う前は何があったんだい?」
「え?えーと……」
 頭を掻きながら考える啓助に、矢杉は言った。
「ハハ、まだ疲れが溜まっているようだね。医務室で休んでくるといいよ」
 啓助は曖昧に返事をして、医務室へと足をヨタヨタさせながら向かっていく。
 医務室でベッドを借り、すぐさま潜ると暗闇の声のことを考えていた。
 すると、ベッドのカーテンの向こうから声が聞こえて来る。
「おーい、辻!大丈夫?」
 啓助の耳にそう言葉が届くと、暖簾(のれん)くぐりをするように麗華と乃恵琉が入って来た。
「洋から聞きましたよ、何やら大変だったようですね」
 2人はベッドの近くに備え付けてある椅子を、自分の側まで持ってきて腰掛ける。
「いや、そうにはそうなんだが、記憶がハッキリしてねぇんだ……」
 乃恵琉は持参した缶コーヒーのフタを開け、一口飲んで言った。
「洋からの話しだと、キルブラックの幹部との戦闘中にアビリティに呑まれたみたいですね。あ、コーラ入ります?」
 乃恵琉は、啓助にまだ冷え切っているコーラを差し出す。
「いや、いい……(この眼鏡マジでコーラ買って来やがったよオイ!)」
 啓助はそれを断った。
「話を戻しますが、アビリティに呑まれるということは滅多にありません」
 乃恵琉は近くのテーブルにコーラを置いて言った。
「んじゃ、どうやってアビリティに呑まれるんだよ」
「それは「それは、アビリティが頭脳を持って行動しようとするからよ」
 乃恵琉の言葉を、麗華が断ち切るように話しを持って行く。
 話しを持って行かれた乃恵琉は、目ならぬ眼鏡を曇らせ言葉を失っていた。
「アビリティは、頭脳を持つとドンドン強くなっていくけど、宿っている体の免疫や、身体能力よりも強くなるとその体を乗っ取ろうとするのよ。まあ、アンタは弱いからすぐに殺されるだろうけど、明日の試合楽しみにしてるから。じゃ」
 麗華はそう言うと、カーテンをもう一度暖簾(のれん)くぐりをし、去っていく。
 もう前日か、啓助はそう呆気に取られているが、ベッドの側には落ち込んだ乃恵琉がまだ座っている。
 啓助は、慰めようとテーブルに置かれたコーラを乃恵琉に差し出した。
「コーラ、いるか?」
「いえ、遠慮しておきます……」

170ライナー:2011/10/02(日) 17:46:23 HOST:222-151-086-020.jp.fiberbit.net
23、気強いあの娘は六刀流

 試合当日、午前5時と早朝だったが啓助と麗華は既に同情へと来ていた。
 東側の位置には、麗華が折り畳み式のナイフを出し入れし、慣れた手つきでジャグリングしている。
 西側では、啓助が丁寧に剣を磨いていた。
「あーら、今更になってメンテナンス?そんなの昨日のうちに終わらせておくのが普通でしょ。今の時間はウォーミングアップを優先するべきよ」
 余裕そうに麗華は言う。
 啓助は少しムスッとして、剣の付け根に付いた2本の刃を拭いて、素振りを始めた。
「昨日は体休めるだけで精一杯だったんだよ!」

 道場の端では沢山の門下生が並び、差し詰め野球観戦のような賑わいを見せている。
 その観客席のような端で、道場師範の英治が座り、その隣には睨み合うように乃恵琉が座っていた。
「いよいよですねー」
 英治は乃恵琉の隣で、相変わらずの笑みを浮かべ言う。
「本当、長かったですよ、この期間」
 一方、乃恵琉は英治に似ず、顔を顰(しか)めていった。
 そんな静かに火花を散らす隣で、洋はいつものようにロールパンを頬張り、さらにその隣では恵が可愛らしく座っている。
 しかし、恵は心なしか啓助の方へ微かに目線が寄っていた。

「ウィーッス!それじゃそろそろ時間なんで、両方とも定位置へお願いするッス」
 どうやら審判は、門下生と言うことで健二らしい。道場にいる面々は久しかったが、啓助はそのようなことは考えている暇もなかった。
「んじゃ、ヨーイ……」
 健二の右腕が振り上げられ、啓助は剣を片手に持ったまま唾を呑む。
「始めっ!」
 その途端、麗華は片手に3本ずつ握ったナイフを柄から突き出し、啓助に向かって走り出す。
 その合計6本の刃は白く輝き、まるで白鳥の翼を思わせるようだった。
 輝かしい光景も束の間、咄嗟に啓助は剣の新刀を向け、攻撃を防ぐ。
 ワイングラスを合わせたような高い金属音は、麗華の意気込みを表示していた。
「(当たりが軽い……なめて掛かりやがってる!)」

「麗華は本気を出していないようですね……」
 乃恵琉の言葉に、洋はロールパンを食べる手を止め聞いた。
「え〜、何でさ〜?」
「いくら刃物同士だからといって、あそこまで高い音を出すには力を抜くしかありませんから」
 今度は、恵が乃恵琉の言葉に反応する。
「それじゃあ、啓助君不利なんだ……」

 金属音と一緒に跳ね上げられた麗華の片手は、防御した啓助の目を一瞬奪った。
 そして、その一瞬の隙を狙い、もう片方の手で追撃を行う。
 白鳥の翼撃のような一発は、素早く啓助の懐を剔(えぐ)り込んだ。
「グッ……!!」
「詰めが甘いわね、辻! まあ、作戦に面白い具合で引っ掛かるから楽しいけど!」
 一撃を食らい後方に飛んだ啓助は、足に踏ん張りを入れ、飛ばされる勢いを止める。
 麗華と距離を取った啓助は、剣に冷気を込め、刀身に氷を纏わせた。
 その剣は、巨大な氷柱を思わせるほどの大きさを持っていた。
「良い物持ってるんじゃない!あの『凍界裂剣(とうかいれっけん)』ね!」
「『凍界裂剣(とうかいれっけん)』は騎士が持っていたときの名前、俺の手にあるときは本名で呼んで貰うぜ!」
 啓助は剣の切っ先を前方に向けた構えで、麗華に急接近する。
 麗華に氷を纏った切っ先が近付くに連れ、剣全体が氷の上からさらに冷気を帯び始めた。
「本当の名は……」
 氷と冷気の二重の威力を持った切っ先は麗華を襲った。
「『氷柱牙斬(つららげざん)』だ!」
 切っ先が襲った瞬間、結晶の吹雪が吹き荒れるような轟音を響かせると、2人は土煙ならぬ雪煙の中へ消えていった。

171竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/10/02(日) 19:11:05 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
コメントさせてもらいますね^^

啓助って結構暴走しますよね…何かそこが不安なんですけど…
そしていよいよ啓助VS麗華だー!
個人的には麗華に勝ってほしいけど、ストーリー的には啓助だろうな。うん。

この戦いで、麗華→啓助←惠
みたいになってくれたらいいな〜w

172ライナー:2011/10/06(木) 22:57:09 HOST:222-151-086-004.jp.fiberbit.net
竜野翔太さん≫
コメントありがとうございます!!

啓助暴走ですか、それはまた色々あってから解決させてやりたいですね(笑)
やっと啓助VS麗華になりましたね。ここまで来るの長かったー!
どうですかねー?分かりませんよ〜?ま、次の更新を楽しみにしていただけたらと思います。

おお!啓助両手に花!まさにウハウハじゃないでs((殴
作者なのに変な次元に飛び込んでしまいました(笑)
麗華→啓助←惠はリア友にも言われました^^;
どうなりますかね〜?恋愛風刺はそこまで考えていませんが、啓助ウハウハも良いk((殴
とりあえず、そちらも参考にさせていただきます^^
ではでは,コメントありがとうございましたwww

173ライナー:2011/10/07(金) 23:23:39 HOST:222-151-086-019.jp.fiberbit.net
訂正です。
≫170の3行目
同情→道場です

174ライナー:2011/10/08(土) 00:35:10 HOST:222-151-086-019.jp.fiberbit.net
 暫くして雪煙が晴れると、麗華は『氷柱牙斬(つららげざん)』の切っ先を片手に握った3本のナイフで抑えている。
「辻……アンタにしては、積極的に攻撃して来るじゃない……!」
 麗華はそう言い、抑えた剣を弾くと一緒に弾かれた啓助の身体に向かって、ナイフの刃先を迫らせた。
 咄嗟に啓助は刀身を前に突き出し、攻撃を防ぐ。
「それじゃ、丁寧に武器の名前教えてもらったし、私の武器も紹介しようかしら!」
 再び交わる刀身を弾き、麗華は言った。
「私の六刀ナイフは『白鳥夢掻(しらとりむそう)』よ!」
 弾かれた衝撃で、啓助は先程よりも後ろに飛ばされると、麗華は両手に持った6本のナイフを交差させた。

「おや、水野さんはもう必殺技ですか」
 英治は乃恵琉に微(かす)かに笑みを見せながら言った。
「もう……ですか」

 麗華の交差させたナイフは白い光を帯びて行き、まるで湖に住む白鳥を思わせるかのように美しかった。
「{白羽刈剔(しらはがいてつ)}!!」
 その言葉が麗華の口から放たれると、素早く啓助の剣を通り越し、交差したナイフを引き裂くように斬りつける。
 啓助の身体に白い×状のラインを付けて、その部分から剔り込まれるような痛みを痛感させられた。
「グァッ!!」
 啓助は痛みを耳で感じさせるような声を上げる。
 一方麗華は啓助に背中を見せるように着地し、白鳥が翼を休めるようにナイフの刃先を斜め下に向けていた。
 そして、その状態から動かない様子を見ると、勝ちを確定しているようだった。
 痛みのあまり、啓助は片手に握った剣を落石のように鈍い音を立てて落とす。
 さらにそこから膝を突き、攻撃された胸部の部分を必死に抑えていた。

「こ、これは……」
 乃恵琉が額に汗を浮かべ、眼鏡を掛け直す。
「この{白羽刈剔(しらはがいてつ)}という技は、腕を内から外に動かす力を利用した物です。腕を外から内へ動かすよりも効率的な上に、念動の威力も加わっている必殺技なんですよ。啓助君立てますかね、どうです乃恵琉?」
 笑って余裕そうにしている英治をチラッと見て、乃恵琉は言った。
「大丈夫ですよ、父さん」

 啓助は、微量に震えながらも剣を杖代わりにして立ち上がる。
 啓助が立ち上がったのを察したのか、麗華は振り向き強気な笑みを見せた。
「そう来なくっちゃね!これで終わりは悲しいわよね!」
 ゆっくりと啓助が立ってみせると、麗華は再び『白鳥夢掻(しらとりむそう)』を構え急接近してくる。
 白い念動を纏った刀身は、再び啓助の胸部に剔り込んだ。
 啓助は弱った体でダメージを受けながらも、攻撃の衝撃を利用し、幾らか距離を取る。
「どう?私の『白鳥夢掻(しらとりむそう)』の威力は……ってもう元気ないみたいね。そろそろ終わりにしましょうか」
 それもそのはず、{白羽刈剔(しらはがいてつ)}の威力は計り知れない物で、啓助のほとんどの体力を奪っていた。
 すると、麗華は指の間で握ったナイフを交差させ、白い念動を送り込む。{白羽刈剔(しらはがいてつ)}の構えだ。
 それを察した啓助は、力を振り絞り、剣に強い冷気を込めた。
「(こんなんでくたばれるか……!)」

175ライナー:2011/10/08(土) 16:17:51 HOST:222-151-086-004.jp.fiberbit.net
 啓助は冷気を込めた剣を前に構える。
 麗華の攻撃{白羽刈剔(しらはがいてつ)}を予想していたが、それは啓助の思いこみだった。
 {白羽刈剔(しらはがいてつ)}の交差させる構えから、麗華は大きく両腕を開き、翼のようなナイフを広げる。
「{白鳥飛術(しらとりひじゅつ)}!!」
 麗華の口からそう発せられると、翼を羽ばたかせるようにナイフの刀身を振り下ろした。
「………!!」
 啓助はその瞬間目を疑った。
 まるで、では無く、本当に白鳥の如(ごと)く飛んでいるのだ。

 観客席では、乃恵琉が苛立(いらだ)ちを見せ微(かす)かな貧乏揺すりをしている。
「ここまで技を教え込んでいるとは、流石ですね父さん……」
 見るからにも余裕の無い乃恵琉に、英治は笑みを見せ言った。
「ええ、彼女はとても筋が良いので技を伝授しやすかったですよ」

「今度は私の番よ、覚悟しときなさい!」
 麗華は広い道場内を巧(たく)みに利用し、急降下しては啓助の体を切り裂いていった。
 斬撃を受け、怯むに怯む啓助に、容赦なく麗華の『白鳥夢掻(しらとりむそう)』が剔り込む。
「(くそっ……!攻撃を食らえばまた攻撃、全く隙がない……!)」
 力強く握っている剣は、その役割も空しく斬撃一つ防いでいない。
 何故なら、『氷柱牙斬(つららげざん)』は洋剣、つまり片手剣のため柄が短く、両手で扱うよりも難しく防ぐことが出来ないのだ。
 そんな絶対不利的状況で、啓助の思考に電撃のようにひらめきが浮かぶ。
「(確か、洋剣は騎士などが使った物、片手剣ならもう片方の手を使うためには……!!)」
 麗華は啓助に空中で斬撃を与えると、再びターンして攻撃態勢に入った。
 斬撃の痛みを堪(こら)えると、剣を持たない左手に冷気を集める。
 その事を知らず、麗華は白い翼のような念動を纏うナイフを下ろし、啓助に急接近していた。
 そして、次の斬撃の瞬間、麗華の予想していなかった感覚が刃を下ろした片手を襲う。
「……!!」
「へっ、残念だったな!」
 啓助の身体へ剔り込むのとは違う、甲(かん)高い金属音を立てて、麗華は床に着地した。
 そして麗華はある状況に不意を突かれた。
 麗華の片手からは、2本の『白鳥夢掻(しらとりむそう)』が消えている。
 ゆっくりと立ち上がり、啓助に強気な笑顔を見せる麗華だったが、再び不意を突かれ表情が硬直した。
「ホント、しぶといわね、辻って……!」
 麗華の視線が向く方向には、左手に氷の盾を持った啓助がある。
 さらに麗華の視線をズームしてみると、啓助の氷の盾に麗華の『白鳥夢掻(しらとりむそう)』があるではないか。
「しぶとさだけが自慢だってな!」

「ほう、やりますねー、啓助君も」
 英治は意外な展開に歓声を上げる。
 そして、乃恵琉も同様に、歓声の声を上げた。
「これは僕にも予想外でしたよ、父さん。にしても普段は足遅い人が逃げ足だけ早いように、啓助君は機動力が備わっているようですね」
 しかし、性格なのか歓声を上げても、どことなくクールな雰囲気が乃恵琉を包んでいるような気がする。
「ハハハハ、面白いことを言いますね、乃恵琉。この勝負、差し詰め 念動の白鳥(サイキスワン)VS 氷の騎士(アイスナイト)と言ったところですかねー」
 英治も父の威厳を見せんとしているのか、冗談で張り合っている。
 そして、その光景を見て惠は思っていた。
「(本当は凄く仲良しなんだなぁ)」と。

 啓助は、自慢げな顔をしてから、氷の盾に刺さった『白鳥夢掻(しらとりむそう)』を抜き取り、麗華に向かって投げた。
 一直線に投げられた『白鳥夢掻(しらとりむそう)』は麗華の手の中に戻り、ナイフとして光を輝かせる。
「返してくれるの?随分と優しいのね」
「勝負はフェアじゃないとな!」
 啓助の一言に、2人は武器を構え直し、睨み合った。
 まるでこれからが勝負だと言うように。

176ライナー:2011/10/08(土) 16:45:39 HOST:222-151-086-004.jp.fiberbit.net
 〜 作 者 通 信 〜

随分と久々な作者通信です^^;
最近はバトル一辺倒になってしまい、そろそろ読者のことも考えなければと焦っております。
とりあえず、啓助VS麗華が終わったらコメディー、恋愛路線を走っていこうかと(笑)

では、今回はキャラクターの個性について語りましょうか……
啓助の個性をストーリーを作る前に考えていたのですが、何かごく普通の少年になってしまいました……^^;逆にそれが個性になっていれば幸いなのですが。
照れ性の恵、大食いの洋(よう)と変化後の女好きな洋(ひろし)、秀才几帳面な乃恵琉、姉御肌(ツンデレ)な麗華。
笑顔のさわやかなで乃恵琉の父親英治、何かと軽々しい健二……などなど、個性を作るのは非情に大変です。
仲間でこんなに性格があると敵はさらに考えるのが大変です^^;
しかし、これからも新たな個性を見いだしたりして、読者様を楽しませていきたいので、宜しくお願いします!
あ、コメントも……(オイッ)

177竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/10/08(土) 17:48:33 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
コメントさせていただきます。

まずは一言。
麗華ちゃんカワユス((死

何か武器の名前とか技名とかカッコよすぎて、惚れちゃいました!
恵も可愛いと思うけど、やっぱり。
麗華ちゃんカワユs((

とりあえず、啓助VS麗華と、この話の後に入るらしい恋愛路線に期待しています!

頑張ってくださいね^^

178ライナー:2011/10/08(土) 22:15:00 HOST:222-151-086-004.jp.fiberbit.net
竜野翔太さん≫

コメントありがとうございます!!

な、何か凄い熱狂ぶりですね!ここまで受けが良いとは……麗華の魅力恐るべし(笑)

武器名ですか?結構竜野さんと似た感じの作りになっていたので、少々焦っていたのですが、気に入って貰えて良かったです。
恵も可愛いですよね、もちろん麗華も……^^;

この後の恋愛路線はただいま試行錯誤中です!
麗華ちゃんだそうかな(笑)

ではではwww

179ライナー:2011/10/08(土) 23:40:44 HOST:222-151-086-004.jp.fiberbit.net
24、念動の白鳥(サイキスワン)VS氷の騎士(アイスナイト)

 睨み合った状態で、麗華は{白羽刈剔(しらはがいてつ)}の構えに入る。
「(………あ)」
 この時啓助はあることに気付いた。
 麗華には{白羽刈剔(しらはがいてつ)}、{白鳥飛術(しらとりひじゅつ)}という必殺技を持っている。しかし、啓助は今までに基礎体力作りや、剣術を1から学んだため必殺技を持ち合わせていない。
 真正面から当たるのはかなり危険だ、そう考えた啓助だったが、2つの技はどちらも攻撃範囲が広く躱すことが出来な事が言えた。
「(クッ……体力的にも次を受けるのは痛いな、どうすれば……)」
 考えている間にも、着々と麗華のパワーチャージは溜っていく。
「{白羽刈剔(しらはがいてつ)}!!」
 そしてついに技は解き放たれ、急接近した。
 遣り場のない啓助は、氷の盾に冷気を込め麗華にそれを向ける。
 それと同時に×状の白いラインは、氷の盾の中で光を多方に反射させた。
「(うぅっ……!!)」
 光が反射することとは余所に、技の威力は盾を通じて啓助に襲いかかった。
 足で踏ん張りを効かせ、左手には精一杯の冷気を盾に送っている。
 冷気は盾を修復しようとするが、それよりも先に{白羽刈剔(しらはがいてつ)}の威力が盾にヒビを入れて行く。
 ヒビが入っていった氷の盾は、次第に全体にヒビが通り、形を砕かれていった。
「んじゃ、オシオキされて貰うわよ!」
 氷の盾が完全に消え去ると、その衝撃で啓助は中に低く飛ばされる。
 そして、啓助のほんの少しの隙を見逃さなかった麗華は、攻撃のため下に下ろした刃をアッパーするように追撃した。
 さらに追撃された啓助は、顎(あご)を上げて高く宙を舞う。

「この試合の楽しみ様……僕達の目的忘れていますねー」
 観客席では、英治が絶えない笑みを見せて言う。
「あ、でも良いんじゃないですか?利用されてるって感じたら、麗華怒って止めちゃいそうだし……」
 恵は、啓助の無惨な姿から目をそらすように会話に参加する。
「そうですよ、こんなところで止められては困ります。僕が勝てば父さんは帰宅、父さんが勝てば引き延ばしという大切な試合なんですから」

 啓助は頭から床に落ちると、口から吐血し、掠(かす)れた呻(うめ)き声を発した。
「……吐血しちゃったし、この試合、私が勝ちよね?審判判定は?」
「!!」
 麗華の呼びかけに、健二は目を奪われた。一瞬で啓助をダウンに持ち込んだのだ、無理はない。

「どうやら僕の勝ちかなー」
 英治は満足そうに言う。
「あ、ああ、あああぁぁぁぁ……あれ大丈夫なのかな!?」
 恵は全身を振るわせて、半分涙目になっている。
「……母さんに何て言えばいいのか」
 乃恵琉は目線を下に向け、悔しそうな叫び声を上げた。
「うーん、ここで食べるパンも美味しかったんだけど、ってあれ血じゃないよね?」
 洋は吐血した姿に気付いていないのか、能天気な言葉を発している。
「ちょっと待って下さい、父さん。あの赤い液体……」

「待てよ、まだ終わっちゃいねぇ……」
 啓助は剣を杖にしてゆっくりと立ち上がる。
「何言ってんのよ!吐血は流石にまずいに決まってんでしょーが!」
 麗華は『白鳥夢掻(しらとりむそう)』の刃を柄の部分に折りたたみ、遠回しな勝ちを宣言していた。
 その宣言に啓助はフッと嘲(あざ)笑いを見せた。
「この赤い液体をよく見てみろ!」
 手に付いた赤い液体を、審判の健二に見せる。
「こ、この赤い液体は……」
 啓助がそう言い掛けると、道場内は一気に静まりかえった。

180ライナー:2011/10/09(日) 14:14:51 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
「これは、試合前の朝飯に食ってきたオムライスのケチャップだ!」
 確かによく見てみると、血というには少しドロドロした感じがある。
 その瞬間、道場内は凍り付くように静まりかえった。
 流石は『フリーズ』のアビリターと言うべきか。
「ケチャップだ!」
 周りの静けさに、啓助は再度言い放つ。
「いや、聞こえてるわよ! って言うか試合前に何重たそうな食べ物食べて来てんのよ! それに汚いし!」
「それがさー、ユニオン入ってから一度もオムライス食ってなかったなーって思ったら急に食いたくなっちゃってさー」
「『急に食いたくなっちゃってさー』じゃないでしょーが!! どんだけ私のことなめて掛かってんのよ! てかもう拭きなさい!」
 啓助は服の裾で適当に拭くと、健二に試合続行を志願した。
「あー、じゃ試合続行でー……」

「焦りましたよ全く……というか、むしろ負けて貰った方が清々(すがすが)しく終れた気がします」
 乃恵琉が呆れ顔でため息を吐く。
「オムライスかー、ボクも食べに行こっと」
 自前のパンを食べ終わったにも関わらず、洋は試合を余所に道場を出て行った。
「参りましたよ、全く……」
 そして、再び乃恵琉はため息を吐いた。

「……まあ、いいわ。その方が倒し甲斐があるわよね」
 麗華が、言葉を発する度に悪魔のような笑みを浮かべる。
 啓助はこの瞬間、負けた方が良かったと垣間見た。
 とにもかくにも試合は続行、麗華は『白鳥夢掻(しらとりむそう)』を握り直し戦闘態勢に入る。
「行くわよ!」
 刃をナイフの柄から素早く出すと、麗華は啓助目掛けて『白鳥夢掻(しらとりむそう)』の刃を薙ぎ払った。
 啓助は、それを見越したかのようにバク転して攻撃を躱す。
「でっかい剣持ってるくせに、身軽なんだから……!」
 麗華は『白鳥夢掻(しらとりむそう)』の刀身に念動を纏わせて、追撃を試みる。
 しかし、啓助は剣を背中に刺した鞘に戻し、挑発をするように紙一重で躱していった。

「なるほどなるほど、啓助君も考えましたね」
 英治は、いつもの笑顔と腕組みをしながら感心している。
 乃恵琉は、英治の言葉を分かっているとでも言うように黙って試合に目を向けていた。
 それとは裏腹に、恵は英治の顔を覗き込むようにしてクエスチョンマークを浮かべている。
「説明しましょうか?」
 恵がぎこちなく「ハイ」と言うと、再び試合に目を向けながら説明しだした。
「彼が今使っているのは『怒車(どしゃ)の術』という実際に使われていた忍術を使っています。その効果は相手を挑発させ、冷静な判断力を失わせる物なんですよ」
 恵は英治の説明で状況を理解し、感心していると、乃恵琉が今日何度目かの呆れ顔を見せて言う。
「まあ、啓助君は『怒車(どしゃ)の術』と分かって使っているとは思えませんがね」

 翼撃のような連続攻撃を軽々と躱されると、麗華は急にその行動を止めた。
「どうした、もう諦めたか?」
 啓助が声を掛けると、先程まで余裕を見せていたとは思えない息の荒い麗華がいる。
「フゥ……違うわよ。{白鳥飛術(しらとりひじゅつ)}!!」
 麗華は体勢を立て直し、両手を大きく開くと、ナイフを翼のように羽ばたかせた。
 飛び上がった麗華に啓助は剣を構え、視線をロックオンする。
 水を空中で切るように、麗華は片手のナイフを下ろし急接近する。ここまでは前回見せてきた攻撃方法とは同じだ。
 つまり、啓助は躱せないと判断し同じ方法で攻撃していると言うことだ。
「氷の盾を忘れちゃ困るぜ!」
 啓助はやはり前回と同じように、左手に冷気を込めて氷の盾を作り出す。
 そして、麗華の攻撃を見計らって氷の盾を『白鳥夢掻(しらとりむそう)』に突き出した。
 その瞬間、氷の盾に触れた『白鳥夢掻(しらとりむそう)』は、低く強く響いた金属音を鳴らし、まるで砂山を崩すように砕いていく。
「何ッ!?」
 咄嗟に『氷柱牙斬(つららげざん)』を構えた啓助は刀身に冷気を込め、柄の握りを強めて3本のナイフへとぶち当てた。

181ライナー:2011/10/09(日) 18:28:05 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
 互いにぶつかり合った武器は激しい金属の加音を響かせると、道場内に竜巻のような衝撃波を生み出した。
 両者はそこで武器を離し、試合直前と同じ幅で距離を取る。
 そして、両者は同時に武器を構え直した。
「ハァ……やるじゃねーか!」
「フゥ……当たり前でしょ、アンタより弱い奴なんて見たこともないわ!」
 しかし2人ともすでに息は荒く、激しく肩を上下させている。
 互いにその状況を確認すると、それと同時に同じ事を心の中で呟いた。
「「(最後の一撃で……決まる!)」」
 
「もう2人は体力が限界そうですねー」
 英治は笑みを浮かべながら言う。
「そうですね、しかし啓助君はよく麗華にここまで戦えましたよ」
 乃恵琉はここまで来て、少し弱気な言葉が出た。
「お、乃恵琉ギブアップさせますか?」
 乃恵琉の言葉に英治は問い質(ただ)す。
「ここまで出来たんです、もう後には引けないこと、啓助君が是が非でも引かない事は父さんもご存じでしょう?」

 両者は構えた武器にゆっくりとオーラを纏わせていた。
「(私をここまで追い詰めるなんて、辻の奴結構マシな修行したんだ。でも、今回も譲らせない!)」
 麗華は交差させた6本の『白鳥夢掻(しらとりむそう)』を段々と白い念動に包んで行く。
「(……正直ここまで出来るとは思ってなかったが、これが最後ならやるしかない! 思いつきの必殺技をなめんなよ!)」
 一方、啓助は剣の切っ先を前に出した構えで刀身全体に冷気を込めた。

「2人とも怪我しなければいいけど……」
 恵は試合を見つめながら握りしめた手を振るわせている。
「関原さん、これは真剣勝負ですから……多少の怪我はあると思いますよ」
 乃恵琉は何か言いづらそうに言葉を放った。
 この場で「もしかしたら大けがをし兼(か)ねない」なんて言えないからだ。
 にしても、洋は未(いま)だにオムライスを食べに行ってから返ってきていない。

 両者の持つ光り輝く武器は、互いを「試合終了」に持ち込ませるような鋭さがあった。
 そして、2人はアイコンタクトを交わすと同時に足を踏み出した。
「{白羽刈剔(しらはがいてつ)}!!」
 麗華の『白鳥夢掻(しらとりむそう)』は6本全てが強い白光に包まれ、白鳥のような翼を再び現し、啓助に接近して行く。
「{凍突冷波(とうとつりょうは)}!!」
 一方、啓助の持つ『氷柱牙斬(つららげざん)』には纏われるだけの冷気が纏わり、月のような青白い光が放たれる。
 互いの刃と刃がぶつかり合い、激しい金属音と念動と冷気による吃音が響き渡った。
 過ぎ去るように攻撃し合い冷気と念動は、互いを弾き合い道場内を光で包んだ。

 道場内を包む光が少しずつ消えていくと、2人は距離を取って背を向けている。
 ここからが問題だ。必殺技をぶつけ合ったは良いが、その威力に耐え相手を倒したのはどちらか一方になるのだから。
 道場の観客席では、見ている者全てが緊張感で息を呑む。
 そして、その静けさが漂った後、床に膝を突く音が鳴った。

182ライナー:2011/10/10(月) 16:51:25 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
 膝を突く音の後には身体が倒れる音が響く。
 そして、決着が付いた。
 勝ったのは―――

「う、ウィナー水野麗華!」
 健二の判定が道場内に響き渡る。
 その瞬間、観客席からは麗華を称(たた)える歓声がドッと沸き上がった。
 倒れたのは、啓助だったのだ。
「あ、啓助君、負けちゃった……」
 恵は悲しそうに呟く。しかし、一番悲しいのは乃恵琉だろう。拳をグッと強く握り、唇を噛み締めている。
「………」
 乃恵琉は暫く沈黙し、啓助の倒れた姿を見て呆れたようなため息をまた一つ吐いた。
 そのため息は、試合中の啓助を貶(けな)すようなため息ではなく、笑みが溢れているため息だった。
「乃恵琉君、僕の勝ちのようですね」
 英治は満足そうな笑み浮かべて、乃恵琉に言う。
「ええ、完敗ですよ、父さん」
 そう言う乃恵琉の表情に、勝負に負けた『悔しさ』はどこにも現れていなかった。
 一言父親と言葉を交わした乃恵琉は、ベルトから黄色い球を取り出し、『ナチュラルランス』へと変化させる。
 そして、『ナチュラルランス』の3本の巨大な槍先で啓助の服の襟(えり)を掴み、啓助ごと『ナチュラルランス』を肩に担いだ。そのぞんざいな扱い方は、試合の最後までもスパルタだった。
「では、敗者は去るとしますか」
 ゆっくりと道場の外へ足を歩ませる乃恵琉を見て、英治は呼び止める。
「待って下さい、乃恵琉君」
 麗華への歓声が響く道場内で、英治の言葉は掻き消されたが、乃恵琉はそれを聞き取ったのか立ち止まった。
 立ち止まった乃恵琉に英治は近付くと、その真後ろで呟く。
「僕は、明日帰宅します」
「……!!」
 あまりの衝撃的な言葉に、乃恵琉は素早く振り向いた。
「な、何故……」
「本当は明日帰ることになっていたのです。しかし、家はフランスですからね。暫く乃恵琉君にも会えなくなりますし、それに……」
 そう言いかけて、英治は初めて乃恵琉に笑み以外の真剣な表情を見せた。
「息子の実力、成長を親として確かめたかったんです」
「!」
「今回のことは、アンドレにも仕掛け人になって貰いました。お母さんの迫真の演技はどうでしたか、乃恵琉?」
「か、母さんが仕掛け人ですって!?」
 乃恵琉は自分の母、アンドレまでもが仕掛け人だと知ると、乃恵琉には珍しくフニャッとした気の抜けた表情を浮かべた。
「そして、このことは水野さん達には秘密ですよ。もちろん啓助君も」
 言葉を失った乃恵琉に、英治は続けて言う。
「本当に良かったですよー、乃恵琉君。これで安心して帰れます。こんな親のためにここまで成長してくれるなんて、僕の自慢の息子ですよ」
「家族と積極的に向き合わない人間に言われても嬉しくありませんよ。それに僕はあなたの息子なんかという格付けされた人間ではなく、1人の人間。自立が早かった1人の人間です」
 乃恵琉は体の向きを道場の外に向け、足を歩ませた。
 そして、英治はその姿を見送りながら、心の中で言う。
「(はいはい、分かってますよ。一人の人間、乃恵琉君)」
 家族という者は、離れていても関係は壊れない、そしていつでも通じ合える機会がある。乃恵琉の辞書にまた1つ、新たな項目が埋まっていった。

183竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/10/10(月) 17:16:37 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
コメントさせてもらいますね!

麗華勝ったー!!
ってちょっと意外なんですけど…。
思えば啓助君って暴走した時以外印象に残る勝ちがないような…いや、気のせいですよね
にしても乃恵琉と英治が仲良く(?)なって良かったですw
こういう家族との関係を表すようなストーリーは僕は出来ない分野なので…

戦い後の麗華の啓助に対する感情に変化があってほしいですね〜
続きが楽しみです^^

184ライナー:2011/10/10(月) 17:50:30 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
竜野翔太さん≫
コメントありがとうございます!!

以外でしたか?
まあ、啓助は基本40%のひらめきと50%の努力、後は雑念なので麗華さんには勝てないようです^^;
啓助の勝率は、赤羽のマグレの時を含まなければ一度も勝っておりません(笑)
乃恵琉は少しは父親の威厳を分かってくれたと思います(作者だろ)
家族ストーリーはあまり取り組んだ分野ではありませんでしたが、そう言って貰えると嬉しいです!

 〜 作 者 通 信 〜(プチ)
少しは麗華も啓助の実力を認めたと思うので、もしかすると進展が……!?
ご期待に添えて、書きながら恋愛を楽しみまs((殴

ちなみに書込めるか分からないので、今日言っておきます。
明後日、10/12(水)は乃恵琉君の誕生日でーす!パチパチ〜(二度目の拍手)
が、残念ながら乃恵琉君はこれからあまり出番無いと思います(今まで散々出まくったし……^^;)
乃恵琉推しの読者(槙さんなど)には乃恵琉のようにコーヒーでも飲んで気長に待って貰えればと思います。
ではではwww

185:2011/10/12(水) 16:23:05 HOST:zaq3dc00753.zaq.ne.jp
ライナーs>>

コメさせて貰います!!!

まだ少ししか読んでませんけど・・・。

何か冒険系?とかでテンションがあがりますw←

グロ入るんですよね・・。

覚悟しておきます(p_-)

1日では読まれないんで・・1週間前後で読んでいきます!!!

その時はまたコメさせてください!!!

186ライナー:2011/10/12(水) 21:01:47 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
燐さん≫
コメントありがとうございます!

どの辺まで読んでくれたでしょうか?
とりあえず、気長に待ちますよ^^

冒険と言っても、同じ場所に戻って来ちゃいますけどね。

グロ表現は、流血くらいはあるかもなのでそれなりに覚悟を(笑)

次のコメントお待ちしてます!

187:2011/10/12(水) 21:06:18 HOST:zaq3dc00753.zaq.ne.jp
ライナーs>>まだ全体の半分も読んでませんよ。

初任務の所で今日は終わって明日はその続きです。

流血ですか。それぐらいなら大丈夫です。

こう、目が抉り取られるとかは無理ですけど・・。

ではでは頑張ってください(@^^)/~~~

188ライナー:2011/10/15(土) 14:10:28 HOST:222-151-086-004.jp.fiberbit.net
燐さん≫
目が抉り取られるは無いと思います^^;
あったら自分が嫌になるかも(笑)

ハイ、コメントありがとうございました。

189ライナー:2011/10/15(土) 16:31:43 HOST:222-151-086-004.jp.fiberbit.net
25、ラブロマンス in ミッドナイト

 休日のチームルーム。
 恵と麗華のガールズトークが久々に繰り広げられていた。
「最近さー、異能防壁とか使った建物多いからオシャレなカフェとかなかなか無いわよねー」
 麗華が椅子に座り、テーブルに頬杖を付きながら呟く。
「あ、でも、服とかは異能減力加工してても可愛いのあるよ? でも私達休日以外は隊服着用だけど」
 缶ジュースを片手に恵は言った。
 しかし、2人では妙に静かだ。第3番隊B班の男3人組は、チームルームにいなかったのだ。
「っていうかあの男共はどこ行ったのよ!」
 麗華の大声に恵は少し驚きながらも、さりげなく呟く。
「多分……黒沢君は、自分の部屋でいつものように分厚い本を広げて、井上君はいつものように食べ放題に行って、啓助君は……いつものようにまだ寝てる」
 恵の言葉は、最後の方だけ妙に照れのあるアクセントが残った。
 そのアクセントを聞き逃さなかった麗華は、ふと悪戯(いたずら)心が芽生える。
「アッレー? 何でかなぁ、辻だけ名前呼びだよぉ? 教えて貰えますかねぇ恵お嬢さん……」
「い、いや、本人がそう呼んでくれって言ったから!!」
 途端に恵の白い肌は、果実が色付くように赤くなり、紫の澄んだ瞳は、何か隠し事をするように濁(にご)り、その目を泳がせた。
 両手の手のひらを出し目を泳がせている恵は、目が泳ぐと言うよりも回っているように見えた。
「私の記憶だと前は『さん』を付けていただけで、名前呼びが変わっていないような気がするんだけどぉ?」
 恵は言葉に詰まり、蒸気でも噴き出してきそうなくらいに赤面し、それは顔だけに収まらず、指の先まで真っ赤になっている。
「ええ、え、えーと、それは、やっぱりチームメートだし、仲の良いことは悪い事じゃないし、お互いこんな職業柄だから励まし合えたらいいなと思ったし……!!」
 すると、間が良いのか悪いのか、啓助が眠たそうな顔でチームルームに入って来た。
「はよーっす……ふぁ〜」
「何が『はよーっす』よ! もう十時過ぎでしょーが!」
 寝惚け眼の啓助の耳に、痛々しい声量が襲う。
「……! うっせーよ! 耳が壊れる、お口チャックしとけ!」
「私は男子小学生扱い!?」
「いや、麗華お前男みたいなも…「{白羽刈剔(しらはがいてつ)}!!」
 啓助が言い切る前に、麗華は腰に下げた『白鳥夢掻(しらとりむそう)』の刃を取り出し、白い念動をぶつけた。
 激しい打撃音が響き渡り、体をチームルームに接する廊下に飛ばした。
「ちょ、ちょっとー!! 麗華何やってるの、啓助君が!!」
「ゴメンゴメン、ついカッとなっちゃてー」
 麗華は少し申し訳なさそうに『白鳥夢掻(しらとりむそう)』の刃を柄に折り畳んだ。
「でも大丈夫、キスで目覚め…「いや目覚めないよ! 白雪姫じゃないんだから、それに男女逆!」
 そう突っ込む恵は、『キス』という言葉を聞いてから頬がまた赤くなっている。

 暫くして……
「痛たー! 死ぬかと思った……」
 チームルームの椅子に腰掛けている啓助は、きょうぶに包帯を巻いている。
「平気平気、次に辻が「男みたい」とか言わなければ死なないから!」
「「………」」
 微妙な沈黙に、麗華は再び言葉を発した。
「…何か3人ってのも暇よね〜。今日は休日だし、どっかあそびに行かない?」
「ああ、たまには修行を忘れて思いっきり遊ぶのも良いよな」
 啓助は、休日にはチームメイトとの差を埋めるために修行をしていたが、何やら少々乗り気だった。
 横目でそれを見ていた恵は、「じゃ、じゃあ私も」と静かな声で同意した。
「それじゃ、今日は思いっきり遊び倒すわよー!!」

「って何で僕まで来なければいけないんですか……」
 カラオケボックスの個室で乃恵琉が呟く。
「良いじゃないの、乃恵琉も勉強ばっかりしないでたまには遊びなさいよ!」
 麗華はコップに注がれたジュースを勢いよく飲み干していく。
 テレビ画面の近くでは、啓助が流行(はやり)の歌を歌い、その隣で座っている恵は備え付けであったタンバリンを片手に盛り上げていた。
 そして、洋はカラオケに来ても食べ物を注文している。
「……そう言えば、最近は忙し過ぎて全員で集まって遊ぶなんてしていませんでしたからね」
「そーそー、キルブラックの行動原理とか今調べてるらしいけど、そんなの関係ない!」
 そう言うと、麗華はジュースを注ぎに個室を出て行く。
 乃恵琉はこの時、麗華が大人になったら酒癖が悪くなりそうだと思った。
 すると今度は啓助が歌い終わり、ソファに腰掛ける。
「フー、次は誰が歌う?」
「じゃ、じゃあ私が……」
 恵がもじもじしながらマイクを受け取った。
「乃恵琉も歌えよ」
「え、僕は……いいですよ」

190ライナー:2011/10/15(土) 18:52:49 HOST:222-151-086-004.jp.fiberbit.net
 夜、啓助達はカラオケを1時間延長した後ボーリングに行き、最後に映画を見るというかなり満喫した休日を送った。
「「「「「 ハァ〜…… 」」」」」
 5人のため息が第3番隊B班のチームルームにこだました。
「何で洋までため息吐いてんのよ、アンタボーリングの時も何か食べてたし、映画の時もポップコーン3つも食べてたじゃない」
「ポップコーンは4つだけどね。胃もたれで苦しいんだ」
「……あっそ」
 麗華が呆れた声を出すと、乃恵琉がゆっくり立ち上がった。
「皆さん疲れが溜っているようなので、明日のため早めに寝ましょうか」
 乃恵琉の言葉を掛け声に、4人は重たい足を引きずって自分の部屋へと戻っていく。
「ハァ〜!本当に疲れたな……」
 啓助は自分の部屋に蹌踉(よろ)めきながら入り、ダイブするようにベッドに横たわった。
「疲れた、疲れた……でも、眠れねぇ」
 疲労感が溜った体があるにも関わらず、啓助は全く眠気が差して来なかった。
 その後、啓助は眠るために様々な努力を試みた。
 まず最初にホットミルクを飲んでみる。
「……美味い、けど眠れねぇ」
 次に大嫌いな勉強をしてみる。
「x=……えーと、って何か逆に目が覚めた」
 今度はベッドに潜り、羊を数えてみる。
「……ひ、羊が402匹……って無理だろこれ」
 啓助は仕方なく気晴らしにユニオンを出歩くことにした。
 出歩くと言っても、ちゃんと目的地はあった。戦闘を主とした職業だからか、ユニオンにはヒーリングのための施設が充実しているのだ。
 そして、啓助が辿(たど)り着いたのは、眺めの良い展望台だった。
 その展望台は木造建築で建てられており、見た目にも香りにも癒される空間だ。さらに親切心か、ベンチと自販機が備え付けてある。
「辻も来たんだ」
 展望台という空間で、綺麗な声が耳に届く。
 星などの明かりがあるものの、啓助は周りの暗さに少し目を慣らした。
 麗華だ。
 隊服の上にはシャレた赤いコートを羽織っている。
 季節的にも防寒と言うことだろう。啓助も防寒用にシンプルな青いコートを羽織っていた。
「ああ、お前も眠れねぇの?」
「まあ……ね」
 2人の頭上には晴れた夜空が広がり、星々が幾つもの輝きを見せている。
「あのさ……」
 麗華にしては穏やかな聞き方だ。
「ん?」
「辻って、好きな女子とかいるの?」
 意外な質問が啓助を混乱させる。
「何だよ急に」
「別に辻の事が好きとかそう言うんじゃないんだからね!」
「はいはい、分かってるって」
 夜空に雲を掛けるように、麗華の息が白く曇った。
 喋っている間は、2人は目を合わせなかった。ずっと夜空の星を見上げている。
「……好きな奴がいるってどんな気持ちなんだ?」
 言葉を発するごとに白い息が宙に浮かぶ。
「うーん、じゃ自販機でコーンポタージュおごってくれたら教えてあげる」
 啓助は渋々自販機の前に立った。
 本来ならば断ればいい話を、何故か聞いてみたくなったのだ。
 小銭を入れ、ボタンを指で押し付ける。
 取り出し口から聞こえる缶の落ちる音は、やけに騒がしく聞こえた。
「ホラ、んじゃ教えてくれよ」
 啓助が缶を麗華に差し出す。
「焦らない、焦らない」
 麗華はそう言って缶を受け取る。
 その瞬間、麗華の指がほんの少し啓助の指に触れた。

191ライナー:2011/10/23(日) 12:47:52 HOST:222-151-086-004.jp.fiberbit.net
何だか良い場面でストップしてしまいましたが、お知らせです。
最近こちらの方へ来づらくなっているので、更新は遅れるかと思います。
別サイト様の方でも更新をしている都合上もあります^^;
御了承下さい m(_ _)m

192竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/10/23(日) 13:21:39 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp

めっちゃ良い場面で続きが気になります!
お知らせ、とか書いてるからドキッとしましたが…。
啓助と麗華がかなり良い感じになってるので、この二人がどうなるのか気になります!
そこに恵が入って三角関係、というのも面白そうですし!

色々妄想が膨らんで続きが待ち遠しいです。
別サイトの方も頑張ってくださいね!

193ライナー:2011/10/23(日) 14:07:52 HOST:222-151-086-004.jp.fiberbit.net
竜野翔太さん≫
コメントありがとうございます!!
面白い恋愛状況を作り出せるよう頑張りたいと思います!

別サイトではレベルの高い人たちがいて結構大変ですが、頑張りたいと思います^^;
ありがとうございました!

194ライナー:2011/10/23(日) 15:57:56 HOST:222-151-086-004.jp.fiberbit.net
 瞬間、麗華の手が微量に震えた。
 慌てて手から滑り落ちそうになる缶を両手で掴むと、啓助から目を逸(そ)らす。
「何やってんだよ」
 半分呆れた声で、啓助は言った。
 麗華は言われて猛烈に恥ずかしくなり、目だけでなく今度は体も半回転させて啓助に背を向ける。
「缶が予想以上に熱かっただけよ」
 そうは言うものの、現在麗華はしっかりと両手で缶を掴んでいた。
 そんな場面に啓助は笑いを堪(こら)えて、再び問いかける。
「んで、好きな奴がいるとどうなるんだ?」
 麗華はひたすら背を向けたまま、言った。
 自分の顔が熱いのが分かり、それをバレたく無かったからだ。
「その人に会えるだけで1日幸せな気分になれるものよ」
 震えた声で啓助に返答する。
 へぇ、と聞いた本人のくせにお粗末な返事を返した。
 そして暫く沈黙が続く。
「……お前、泣いてる?」
 啓助が沈黙の中にそう言葉を切り出した。
 後ろを向いている麗華はそれを聞き、カッとなって啓助の方を振り向く。そして啓助の胸ぐらを掴み、その顔を自分の目の前まで持ってくる。
「べっつに泣いてなんか無いわよ! アンタ私に蹴り入れられたいの!?」
 実はこの時、麗華は涙目になっていた。
 先程の失態に恥ずかしい気持ちは勿論だが、それ以上に啓助の前で失態を犯したのが悔しくてたまらなかった。それ故、物々しい震えた声が出たのも同様だ。
 その姿は顔を近づけたせいで完全にバレた。もしバレなくても啜(すす)り泣きをするような時の声でしっかり伝わってしまっただろう。
「ウッ……!」
 これで2つの失態を犯してしまったわけだが、今度は失態ではなく失敗だ。
 この失態を免(まぬが)れようと麗華は背負い投げの要領で啓助を投げようとする。
 しかしこれが間違いで、目測を誤ったせいで自ら啓助の頬に唇を触れさせてしまったのだ。
「……っ!!」
「イィッ!?」
 突然麗華の手からは力が抜け、啓助の足は軽く着地するように降りた。
 2人とも状況に混乱し、驚いた表情を残して硬直する。
 そして最初に動き出したのは麗華だった。硬直した表情を怒りの表情へと変え、勢いよく右の足で啓助の左腹部を薙ぐように蹴りを入れた。
 啓助はその次に動き出す……と言うより動かされる。
 蹴りを食らった啓助は勢いよく飛ばされ、木の床に転がるように倒れた。
「ちょ、何だよ……!」
 言いかけて再び麗華の蹴りが顔面へと飛ぶ。
 口内が切れて口から血が出る。そして同じ状態で床に倒れた。
 急いで上体を起こそうとすると、今度は顔面に麗華の拳が襲いかかる。
「や、止めて下さ……」
 思わず言葉遣いが敬語になる啓助を余所に、インファイトを嚼(か)ますように麗華の拳が連続で殴りかかった。
「あーっもうっ! 今日は何なのよォ〜!!」
 麗華は涙を流し頬を赤めながら、倒れる啓助の腹に腰を下ろし連続パンチをお見舞いする。

 夜空の下は再び静けさを取り戻した。
 その夜空の下の展望台には、体を丸めながらコーンポタージュを舐(な)めるように飲む麗華と、どっかのパン工場で作られたヒーローのように顔がボコボコになった啓助が倒れている。
「………」
 麗華は缶の中のコーンポタージュを飲み終わると、自販機の隣にある缶捨てに缶を捨てた。
 すると、麗華は啓助の倒れている姿の前で立ち止まる。
「ご、ゴメン」
 聞こえもしないがそう呟いて、重たい啓助の体をゆっくりと担ぐ。
「結構重いわね、コイツ……!」
 息を荒くしてゆっくりと1歩を踏み出すと、あることに気付いた。
「……『サイコキネシス』使えばいっか」

195ライナー:2011/10/23(日) 16:14:43 HOST:222-151-086-004.jp.fiberbit.net
 〜 作 者 通 信 〜
はい、作者通信ですね(笑)
最後が変な形でしたが、第三章終了しました!いやー長かったですね。
次はついに第四章! 啓助はこの章でかなり苦痛を味わいます^^;
さらにこの章だけメインキャラが変わります(最初の一話あたりを除いて)まあ、何故かは本編でお楽しみ頂けると幸いです。
ではではwww

196ライナー:2011/10/25(火) 18:49:24 HOST:222-151-086-011.jp.fiberbit.net
  第4章
 26、森も村もゲームのように

 闇の中に啓助は立っていた。
「また、か……」
 啓助にとっては「また」だった、最近はよく意識が飛んで闇が現れる。
 と言うのも異能力を持ってからなのだが、どうも変な幻覚が見えるようで、上から目線で訳の分からない言葉を浴びせられるのだ。
 すると、2つの鋭い光が飛び込んでくる。
「もうだいぶ慣れてきたが、俺の意識の裏に何でいるんだ?」
 啓助の声は狭い部屋に隔離されたように闇に反響した。
「これは貴様の空想のようなものでしかない。これを打ち切るには貴様の異能力による迷いを消すのみ……」
 闇の声は、再び意味になっていないクイズのヒントのように訳の分からない言葉を残した。
 そして、啓助が口を開こうとした瞬間、光が啓助を埋め尽くした。

「う……ん」
 啓助は枕からソッと頭を浮かす。
「夢、か……」
 ベッドの温もりを恋しく思いながらも、啓助はゆっくりと上体を起こした。
 目を半開きにしたまま、パジャマ代わりのTシャツを脱いで隊服へと袖を通す。
 隊服に袖を通しながら啓助は思った。これからまた、任務だと。
 背伸びと欠伸(あくび)を同時にし、自分の個室を出て行く。
 ゆにおん廊下を歩いているときもとても眠かった。悪い夢は見るものではない。
「はよーっす」
 チームルームのドアを開け、いつもの挨拶を口にする。
「ハイ、5分遅刻ー!」
 そして、いつもの麗華の厳しいタイムカウントが告知された。
「啓助は精神的に8ダメージ受けた▼」
「どこの大作RPGよ!」
 最後にいつものバカみたいな遣り取りを交わす。
 すると、乃恵琉が本を閉じて啓助に言う。
「では、全員揃ったようなので任務へ行きたいと思います」
「全員?」
 全員というのは何とも久しぶりな響きだった。
 啓助が今までチームメンバー全員で熟(こな)した任務など、金持ちお嬢様の護衛しかなかったからだ。
 何となくその事を思い出して、啓助はボーっとしている。
 それを見ていた乃恵琉は、「話を聞け」とでも言うように咳払いをし、眼鏡を掛け直す。
「今回の任務は指名手配犯の板東 鋳央沙(ばんどう いおさ)の件です」
 板東鋳央沙……
 最近、ユニオン中の噂となっている凄腕の盗賊異能力者(アビリター)だった。
 今まで板東に挑戦してきたユニオン隊員はザッと数えて40人程。それを板東は、返り討ちと言うには惨(むご)過ぎるくらいに血だらけにしてユニオンに送りつける戦闘鬼なのだ。
 現在ではその強さを耳にして、板東の手下となるものが多いとか何とか。
「その板東が今、潜んでいるアジトを襲撃しろとの事で……」
 乃恵琉の言葉がそこで詰まった。
 そんなにも危なっかしい場所にあるのだろうか。
「その場所が、グランドツリーだそうです」
 言葉を詰まらせた訳がようやく読めた。
 グランドツリーとは、その名の通り大規模な木なのだ。あの啓助が最初に巻き込まれた異獣事件の時に謎の自然現象で生まれたものと人は推測している。
 そのグランドツリーは、木層という空洞があり人は勿論のことロケットでさえ余裕で入れるほどの大きな空洞があった。
 ここまで来て分かるであろうが、その木はあのエベレストの高さを超える木だった。
「皆さん、心の準備はできましたか?」
「冒険の書に書き込んでいれば……何とかなる!」
「何ですか、そのいきなりやられるマイナス思考……」

197ライナー:2011/10/25(火) 21:43:53 HOST:222-151-086-011.jp.fiberbit.net
 第3番隊B班一行は、現地に向かうため転送システムを利用した。
「でかいな、木……」
 転送による光が消え、早々に啓助が声を漏らす。
 啓助の視線は、地面と垂直になって上を向いていた。しかし、啓助の目に入ってきたのはグランドツリーと呼ばれる巨木の木の幹だった。
 真上を向いても見えるのは幹、グランドツリーとの距離1000㎞辺りでやっと天辺が見えるらしい。
 恵なんて体を反り過ぎて尻餅をついている。
 そんな光景の後に危険が迫っていた。
「伏せて下さい!」
 乃恵琉の言葉に、全員は急いで地面に腹を付ける。
 すると、メンバーの頭上では一筋の電流が走り、轟音が一足遅れて響き渡った。
 その音が止むと、今度は啓助達のいる森林の木が木の葉を擦り合わせながらガサガサと音を立てる。
「くっそ! 何だ今の!?」
 啓助は途端に立ち上がり、背に背負った『氷柱牙斬(つららげざん)』を素早く鞘から抜く。
「啓助君、まだ立っては駄目です!」
 乃恵琉の発言は大きな足音に掻き消され、啓助の目には巨大な鋼の角を持った闘牛が突進してきた。
「あれは『メター』の能力を持つ綱角牛(こうかくぎゅう)です! 気を付けて下さい!」
 そう言う乃恵琉は、いつの間にか茂みの方から顔を出して言葉を放っていた。
「いや、何で人に戦闘任せてんだよ!?」
「それは、選択肢に ・攻撃 ・魔法 ・防御 ・逃げる と言うのがあったので、「逃げる」を選択させていただきました」
「こんな所まで本格RPG引っ張り込んで来なくていいんだよ! っていうか「魔法」って何!?」
 よく見ると、乃恵琉の後ろに全員隠れている。
「よりによって何でみんな「逃げる」選択してんだよ!? どんだけ平和主義者なんだよ!?」
 すると乃恵琉が茂みの方からメガホンを持って啓助に伝えた。
「よく見て下さい! 洋は「逃げる」でなく「防御」です!」
 茂みの奥を見てみると洋は1人自分の手を丈夫そうな盾に変化させている。
「いやどっちでも良いんだよ! ってか茂みにいる時点で「逃げる」だからね! アイコン2つ同時に作動しちゃってるからね!」
 そんな状況の中、綱角牛は物凄い勢いで突進してきている。
「コノヤロッ!」
 啓助は綱角牛の角に薙ぐように刀身をぶつけ、その動きを止めた。
 しかし、相手は異獣とは言えアビリティを抜いても闘牛。その勢いに啓助は足を擦らせながら後方に飛ばされる。
 啓助と綱角牛の間が空くと、再び綱角牛は前足を大きく振り上げ突進して来た。
「{凍突冷波(とうとつりょうは)}!!」
 突進してくる綱角牛を相手に、啓助は剣先から伸びる冷気を強く放つ。
 その冷気は綱角牛の角を凍らせ、頭部全体を凍らせた。
 だが、その足は動きを止めていない。
 啓助は歯を食いしばり、力強く横に走り出した。紙一重で通り過ぎた綱角牛は前が見えないのか、ターンもせずに真っ直ぐと走り去った。
「啓助は綱角牛を避けた▼」
 麗華が茂みから呟く。
「どーせ倒してねーから経験値貰えねーよ! お金も貰えねーよ!」
 しかしこの時、啓助だけが忘れていた。
 一番最初の危険は何だったか、一筋の電流だ。
 突然に啓助の後ろから電流が走る。
「グッ……!」
 そして、その方向の茂みから出てきたのは、雷蜘蛛だった。
「啓助は15ダメージを受けた▼」
 麗華が状況構わず言い放つ。
「いや、麗華……もう良いんじゃないかな……」
 恵が心配そうにして麗華を見つめる。
 しかし、3人は一向に動く気配がない。何か考えがあるのだろうか、洋を除いて。
 少しずつ啓助に迫る雷蜘蛛を見て、イライラしながら恵は乃恵琉と麗華を睨む。
 やはり動かない。
「もう! 私はいくからね!」
 等々痺れを切らした恵は、茂みから勢いよく飛び出した。

198:2011/10/25(火) 22:52:16 HOST:zaqd37c5e4d.zaq.ne.jp
ライナーs>>コメします!!!

最近・・小説を読む気にならない日々が続いております。

本当にごめんなさい(-_-;)

何か最近、自分の小説に没頭してるせいか・・

全然眠れない日が続いているので・・←関係ないやろw

でもいつか絶対読むのでよろしくお願いします!!!

目のあたりのくまっぽいのが治れば・・。

199ライナー:2011/10/26(水) 21:17:47 HOST:222-151-086-004.jp.fiberbit.net
燐さん≫
コメントありがとうございます!

そうなんですか……少し残念です^^;
そうですね〜。一度自分の小説から離れて他の作品に目を通すのも良いと思いますよ?
週に何度も書込みをして凄いとは思いますが、文章を考えてよりよい構成にするためにも必要なことです!
是非やってみて下さいね。

ではではwww

200:2011/10/26(水) 21:21:39 HOST:zaqd37c5e4d.zaq.ne.jp
ライナーs>>イエイエ。

そうですか(-_-;)

他の作品ですか・・・。

何かつい進めたくなってしまう人なもんで;;

書く時は書く!人なもんでw

分かりました。

出来るだけそうしてみます。

でも、小説は更新しまくるので(p_-)

そこらへんよろしくです。←何て自己中なんだw私はww

201:2011/10/26(水) 21:27:34 HOST:zaqd37c5e4d.zaq.ne.jp
後、200スレおめでとうございます!!!

これからも読者ファンとして居させてもらいます!!!(@^^)/~~~

202ライナー:2011/10/26(水) 22:52:08 HOST:222-151-086-004.jp.fiberbit.net
「あれで良いの、乃恵琉?」
 茂みの中で、麗華が呟く。
「まあ、良いんじゃないですか? 啓助君1人で強化トレーニングを兼ねようとしていたのですが、啓助君今動けませんし……」
 乃恵琉は眼鏡を掛け直しながら言った。
 このような任務中でもやはりスパルタは健在だった。

 一方、茂みから飛び出した恵は『エナジーボント』の銃口を雷蜘蛛に向けながら、睨み合いをしていた。
「えーと、雷蜘蛛は『エレキ』のアビリティを持っているから、ダイヤルをスペシャルに合わせなきゃ」
 呟きながら、恵はグリップのダイヤルを回す。
 『エレキ』は電気を操る異能力なので、同じ特殊エネルギーを持ったスペシャルの銃弾で打ち消そうという魂胆(こんたん)だ。
 こういう時に恵の武器は便利だった。銃に付いているダイヤル次第で、戦う相手に合わせた戦闘が出来る。
 恵がダイヤルを合わせ終わると、その隙を突くように雷蜘蛛が素早く電撃を放った。
「アッ!」
 その電流は後から静電気のような音を上げ、恵の2丁の銃の一つを上空に打ち上げた。
 上空に回転しながら舞う銃に気を取られていると、さらに雷蜘蛛はその隙をも突いてくる。恵の腹部目掛けて、再び電撃を放たれたのだ。
 上を向いたまま、恵は全身に電撃が走り絶叫を上げた。
「作戦変更です!」
 乃恵琉が茂みから飛び出す。
「ガンガン攻めるに変更かしら?」
 次は麗華が颯爽(さっそう)と飛び出してきた。
 が、洋は茂みの奥で盾を作っている。
「洋アンタいい加減にしなさいよ! どんだけ怖いのよ! まだ遊び人の方が勇気100%よ!」
 麗華が大声上げて洋に怒鳴りつける。しかし、洋は動かないのではなかった。
 茂みに隠れているのに関わらず、気絶している。
「………」
「もうほっときましょう、麗華」
 2人は呆れながらため息を吐くと、雷蜘蛛に視線を合わせた。
 雷蜘蛛は口の部分を奇妙に動かし、様子を伺(うかが)っている。獣とはあまり頭脳が発達していないが、危機察知能力はあるようだ。
「行きますよ!」
 乃恵琉は足を踏み出し、走りながらナチュラルランスを発動させる。
 そして、走りながら3本に割れた槍先を振り上げると、雷蜘蛛に向かって勢いよく振り下ろした。
 振り下ろされた矢印のような槍先は、紙一重で雷蜘蛛を逃し、地面を剔るように叩き付ける。
 緑の槍からは、地面を通じて棘の付いた蔓が雷蜘蛛を襲う。しかし、雷蜘蛛は正(まさ)しく雷光のように身軽に躱し、複数の蔓を電撃で焼き切って行く。
「麗華! そっちに行きました!」
「任せなさいって!」
 麗華は待っていました、と言うかのように『白鳥夢掻(しらとりむそう)』6本を全て握り、待ち構えていた。
 すると、飛び降りてくる雷蜘蛛相手にナイフの刃先1つ1つに白い念動を纏わせ、跳び上がり勢いよく掻き付ける。
 雷蜘蛛に網目(あみめ)状の傷を深く付けると、サスペンションのように足を着地させた。
 これがチームプレイというものなのか、2人で上手く異獣の隙を作った。
「フー、雷蜘蛛って話は聞いてたけど、案外早いのね」
 麗華がナイフの刃先を柄に織り込むようにしまい、一息吐く。
「異獣1つを1人で倒せないとは……僕も知識だけでなくトレーニングを増やさなければ……」
 乃恵琉は早速戦闘の反省を上げて、自分にも厳しいらしい。
 そして2人は渋々と、洋、恵、啓助を1人ずつ起こすのだった。

「おいおい、俺らの異獣やられちまったぜ?」
「キルブラックとかの落とし物は案外使えないな、板東さんに報告しとくか」
 啓助達のいる所より少し離れた茂みで、早々と作戦は行われていた……

203ライナー:2011/10/26(水) 23:00:36 HOST:222-151-086-004.jp.fiberbit.net
燐さん≫
文章の構成は僕としては、プロットを作り、そこに乗っ取ってよりよいものにする方が文章力も上がりますよ?
一度プロットに書いた文章は一日おきに確認すると、そこでこうした方が良くできる。ここの辺りはおかしいから修正しようなど、変えられるところは沢山あります。
読者により楽しんで貰えるよう、心がけてはいかがでしょう。
それと、思いついたアイディアは短く予告編っぽく書きまとめれば内容の変更もしやすいですよ^^

最後に、コメントするときはなるべく1つのレスにまとめて下さいね。

応援ありがとうございます! 全部目を通してくれる日を楽しみにしております!

204:2011/10/27(木) 17:20:38 HOST:zaqd37c5e4d.zaq.ne.jp
ライナーs>>構成はノートに書いてるだけなんですよね。

プロットなんて作ったら親に何て言われるか。

しかもコピー機が家に無くて・・・。

買いたくても親には「コピー機なんて買って何に使うんや?」って言われるもんなので・・。

買えないんですよね・・。

予告編っぽくですか・・・。

う〜ん。それは私の小説になかった一つですね(p_-)

・・考えてみます。

205ライナー:2011/10/27(木) 18:01:47 HOST:222-151-086-011.jp.fiberbit.net
燐さん≫

ノートで充分ですよ!
ノートの切れ端などに、その回の話を分けて書いたりするんです。

コピー機と言ってもコンビニにあるようなのでなくて良いですよ^^;プリンターって事ですよね?
予告編と言っても、メモ程度で書込みは別の方が良いですよ!

206:2011/10/27(木) 18:05:45 HOST:zaqd37c5e4d.zaq.ne.jp
ライナーs>>そうなんですか!?←良かった・・;;

そうです。プリンターですね。

予告編って・・小説に書き込んでもいいんですかね?

何か不安で・・;;

207ライナー:2011/10/27(木) 20:13:53 HOST:222-151-086-011.jp.fiberbit.net
「ウゥッ……!」
 啓助が頭を抱えながら起き上がる。
「何だか腕が痛くて、体が痺れて、あれ? 頬が痛いんだが……」
 確かによく見てみると、頬の晴れが目立っていた。
 乃恵琉が啓助の傷を見て眉間にしわを寄せる。
「戦闘中はそんな場所に打撲受けていませんでしたよね? 外見から推測すると昨日の夜あたりに出来たものでしょうか?」
 その瞬間、麗華の顔が引き攣(つ)る。
「昨日……? ああ、そう言えば…」
「{白羽刈剔(しらはがいてつ)}!!」
 啓助が言い掛けた時、麗華の『白鳥夢掻(しらとりむそう)』の刃が胸部を襲った。
「グハァッ!」
 巨大な吃音を上げて、啓助の全身は勢いよく地面に叩き付けられる。
 そして、地面に啓助が倒れると、麗華はそこに駆け付け連続で平手打ちを嚼(か)ます。
「いや、あの、れ、麗華……?」
 乃恵琉は冷や汗を流しながら麗華達の方を見る。
 10秒経った今、麗華は恨みを込めたような顔でひたすら啓助の頬を平手打ちしている。啓助はすでに声も出せない状況になっている。
 30秒経って、やっと麗華の動きが止まる。
「……啓助君、訂正します。昨日ではなく、今日に直して冒険の書に記録しておきます」
 眼鏡を掛け直しながら、乃恵琉は呟いた。

 暫くして……
 恵と洋を起こし、再び第3番隊B班一行は歩き始めた。
「あのさ……」
 恵が森地の地面を踏みしめながら言う。
「何で啓助君グッタリしてるの?」
 啓助の方を見てみると、麗華に隊服の襟を掴まれたまま、体を地面に引きずらしていた。
「いや、恵が気を失う前もグッタリしてたじゃないの!」
 麗華は、無理矢理と言っても過言ではないくらい笑顔を作っている。
「でもさっきより怪我が多くなっているみたいなんだけど、特に顔辺りに」
 そう言葉を発してから、恵は「黒沢君知ってる?」と、乃恵琉に問う。
 乃恵琉は説明しようと口を開こうとすると、麗華の方から途轍(とてつ)もない殺気を感じた。
 自分の動物的本能に、乃恵琉は心の中で目一杯感謝した後、「攻撃」でストレートに伝えるのでも無く、「魔法」で巧みに言い逃れする訳でも無く、さらに「防御」でオブラートに包みながら話す訳でも無く、「逃げる」で言う事を拒んだ。
「済みません、僕としたことがその部分の記憶が消えてしまったようです。恐らく一時的なショックで嫌な記憶をシャットアウトしているものかと」
 と、理に適(かな)っていない言い訳を並べその場を凌(しの)ぐ。
「そ、そっか……」
 恵達のそんな会話の向こうで、洋は空腹で腹を鳴らしている。
「も、もうボク駄目かも……」
 洋が嘆くように呟いていると、木に囲まれた世界が腫れた場所に出た。それは木造の家が立ち並ぶ場所。
 村だ。
 その瞬間、洋は真っ直ぐ伸びる木のように背筋を伸ばした。
「ボク、飲食店行ってくるから後宜しくお願いするよ!」
 そう言い残すと、洋は太った体には似合わないスピードで走り去ってしまった。
 すると、啓助がゆっくりと起き上がる。
「何か地獄を見ていたような……そんな気がする」

208ライナー:2011/10/27(木) 20:20:03 HOST:222-151-086-011.jp.fiberbit.net
燐さん≫

あまり書き込まない方が良いかもしれませんよ?
途中で書こうと思った本文が、内容変更できなく何てしまうので、自分的にはお薦めしません。

209竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/10/28(金) 18:40:41 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
コメントさせてもらいますね!

まず、200レスおめでとうございます!
相変わらずツンデレな麗華を可愛い、と思っていますが、流石に叩きすぎだろ……。
恵も頑張らないと、啓助くん取られちゃうぞー。
今では麗華も恵みも応援しています(恋愛的な意味で)。

さてさて、新しい敵の坂東さん。
坂東と聞くと、どうもゆでたまごが出てくるのはさておいて、啓助くん達は勝てるのでしょうか。
早速三人がやられてたから、とても不安です…。

それでは、頑張ってくださいね^^

210ライナー:2011/10/28(金) 20:22:28 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
「って、ああ? 村かここ?」
 啓助がズボンの土を払いながら立ち上がる。
「ねえねえ! ちょっと村で休んでいきましょうよ!」
 麗華も先程の洋と同様に何かのやる気が溢れていた。
「そうですね…… まあ、万全の準備をしてからの方が良いですよね。 では、明日グランドツリーに出発と言うことで、明日まで自由行動です」
 乃恵琉の許可が下りる。 ユニオンの決まりでは、4人以上の行動にはリーダーを付けるようになっていた。
 今回のリーダーは乃恵琉と言うことになったが、やはりスパルタ健在で休憩はほとんど与えられなかったのだ。
「それじゃ、私は宿屋に泊まるわ」
 麗華はそう言い残すと、素早く走り去る。
「では、僕はこの呪われた武器を取り外して貰うために、教会に行ってきます」
 乃恵琉は、発動させたナチュラルランスを片手に言い出した。
「いや、もうそれ完全にド○クエだろ! しかも緑の3本槍は、お前が大事に持っているだけだから! ってかリーダー!」
 同様に、乃恵琉去る。
「………」
「ま、まあまあ啓助君。 じ、自由行動なんだしさ、良いんじゃないかなぁ……? あ、それと、もし暇なら私と一緒に……行動出来たら、なんて……」
 恵は少し赤面し、手を揉みながらさり気なく言ってみる。
 啓助としても別にやりたいことは無かったし、精神的にも参っていた頃だろうと思い、恵の誘いをオーケーした。
「んじゃ、行くか」
「え! 良いの!?」
 そうして、村見物(本来の目的ではないが)がてらに恵に付いて行く。
 今啓助が達いる村は『円林村(えんりんむら)』と言って、グランドツリーを円状に取り囲んだ林の中にある事からこの名前が付けられた。
 しかし、この森林とグランドツリーはあの異獣事件による異常気象で生まれたものらしいから恐ろしい。
 にしても今まで啓助がいろんな場所を見て来て思ったのは、異獣事件が日本の価値観を変えてしまったことだ。運命もまた恐ろしいとその時感じた。
 すると、付いていった恵の足があるところで止まる。
「ん? どした、恵」
 下を向いて歩いていた啓助は、ふと前を見上げた。
 それは店の目の前で、さらに啓助は上を向く。
 看板に書いてあった文字は、カタカナで「カジノ」と書いてあった。
「……え?」
「いやぁ、腕が鳴るな! 実はユニオンに入る前にお小遣い足りなくて、ビリヤードで一回賭けたんだけど、それが切っ掛けでついつい趣味になっちゃって」
 恵が賭け事好きだとは知らなかった。いや、ビリヤードに惹(ひ)かれたと言った方が合っているようだ。
 だが、学校などでも修学旅行にトランプは持って行って良いものの、花札は賭け事を連想させるため駄目なんだとか。
「(にしても恵がよくビリヤードの出来る賭博場(とばくじょう)に入れたな……)」
 そう考えている内にも、恵はその入り口を開け入っていく。
 中にはいると、煙草を咥えて厳(いか)つい顔をした男達が屯(たむろ)っている。
 啓助はその状況に怯んでいると、それを余所に恵はズカズカと足を進めていった。
 そして恵は、ラシャ張りの長方形のビリヤード台で立ち止まる。
「お嬢ちゃん、お財布スッカラカンになるぜ?」
 恵と台を挟んで向こう側にいる男が言ってきた。
「そうなるのは、勝負が付いてから……」
 そう言って、恵は台に置いてある棒(キュー)を手に持つ。
 一言の合図で、勝負の相手は決まったのだ。

 ゲームを開始して約15分、勝負は付いていた。
「クッ……この俺が負けるなんて」
 男が4つんばいになり、悔しそうな声を上げている。
「いいからお金出して下さい」
 恵が棒(キュー)の先端を拭きながら言った。
 黙って男は恵に金を差し出す。
「足りない」
 急に恵の声が冷たく、鋭さを帯びた。
「……って何の現場だよ! 恵もう止めろ! あの人涙目だから! あっちの方が財布スッカラカンだから!」
 啓助は急いで恵の腕を引っ張り、外に連れ出す。
「ど、どうしたの急に連れ出して……」
 恵の声は元に戻っている。
 しかし、啓助は迂闊(うかつ)だった。 第3番隊B班のメンバーは1癖も2癖もある。
 それは啓助自身、人のことは言えないのだが止めなければ他方に迷惑が掛かるだろう。そう思って啓助は急いで足を走らせた。

211ライナー:2011/10/28(金) 20:37:18 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
竜野翔太さん≫
コメントありがとうございます!

麗華はまあ、自分の手が痛くなるほど叩いてますね^^;
恵も恵なりに頑張っているんですけど、ちょっと押しが足りませんよね! 押しの強い女性は大好k((殴
いやでも、大人しくて大和撫子な女性も好k((殴

板東さんは、読み切りっぽい感じなので、勝つか負けるか改心するか……
3人は軽い怪我なんで、頑張らせますが^^;

ではではありがとうございましたwww

212ライナー:2011/10/30(日) 16:27:06 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
27、突撃! グランドツリー

 啓助は最初に、麗華のいる宿屋に向かった。
 宿屋まで足を走らせると、真っ先にそのドアを押し開ける。
 すると、受付には麗華の姿があった。
「(間に合ったか……!)」
 しかし、啓助の見た麗華の姿は後ろ姿で、何故か後ろで片手に持った3本の『白鳥夢掻(しらとりむそう)』の刃をギラギラと光らせている。
 一気に啓助の嫌な予感バロメーターがマックスになった。
「もっと宿賃負けなさいよ……!」
 そう、麗華がしていたのは脅迫だった。
「麗華ー! もう止めたげて! 最近不況だから! 宿屋の主人涙目だから!」
 啓助は何とかその場を落ち着かせ、黒いオーラを放った麗華にしっかり宿賃を払わせる。
 そして、なるべく後ろを振り返らないようにして、今度は乃恵琉のいる教会へと向かった。
 「呪われた武器を取り外して貰うため」という言葉は冗談だとは思うが、嫌な予感バロメータがマックスになったまま止まらない。
 とりあえず教会の入り口前にまで辿(たど)り着く。
 拳を強く握り締め、乃恵琉がいなかったときの恥ずかしさを吹っ飛ばして教会の扉を開けた。
 教会には乃恵琉が聖書を広げて、その本の字を目で追っていた。
「どうも、啓助君」
 そして普通に挨拶をされ、啓助は自分の嫌な予感バロメーターを無視することにした。
 やはり自分の予感まで中途半端になってくると、啓助自身嫌気が差して来る。
「大丈夫なら大丈夫で、何だか空しい……」
「こんな所まで冗談引っ張ってくるわけが無いじゃないですか。 本当、バカですね」
 その瞬間、「バカですね」という言葉が啓助の心に矢になって突き刺さる。
 少し抜けている部分がある秀才だが、秀才はイコールで結べば真面目と言うことにもなる。
「今度は俺が涙目にされた……」

 ちなみに洋は食い過ぎでぶっ倒れていたので、全員(麗華を除いて)が雪達磨(ゆきだるま)を作る様にして転がしたのだった。

 翌日、啓助だけが疲れを残しいてグランドツリーへと向かっていた。
 しかし、ここでも洋が足を引っ張り、行動は予定よりかなり遅れていた。
「……洋、早くして下さい」
 乃恵琉が冷たい表情で言う。
 いつも無表情に近いのだが、この時の乃恵琉は雰囲気だけで苛立ち加減が伝わってきた。
「お、お腹が空いて力が出ない〜」
 洋は朝ご飯を、ご飯20杯という驚異的な早食いで食したのにも関わらずもう腹を鳴らしている。啓助は宿を出るときの後ろめたさを、充分に洋に教えておきたかった。
「ホラ! 新しいお腹よ、それっ!」
「いや、何だ新しいお腹って。 パン工場の誰かさんか」
 啓助は透かさず麗華のボケにツッコミを入れる。
 だが、ツッコミを入れながら思ったのが、全く持って麗華と洋の緊張感が感じられないことだ。それに、いつの間にか啓助がツッコミ要員と化している。
 そんなことを考えていると、緊張感とかどうとか言っている場合ではないような自体が起こった。
 啓助達の周りに円を描くように、何人もの男が立ち塞がっていたのだ。
 その男達は、薄汚れ所々破れた服を着ていた。返り討ちに遭えば「覚えてろ!」とでも言いそうな雰囲気を醸(かも)し出している。
 言われ無くても分るが、恐らく板東の手下だろう。
「早速のお出迎えでしょうか、客人はこのようなところで歓迎するものではありませんよ」
 乃恵琉は、冷静な表情を浮かべながらナチュラルランスを発動させる。
 そして、麗華は『白鳥夢掻(しらとりむそう)』と言う6本のナイフを、恵は『エナジーボント』と言う2丁の拳銃を構えた。
 ちなみに洋は茂みの中で盾を作っている。
「何だか1人だけアイコンの選択を間違った奴がいるぞ!」
 啓助が背に背負った『氷柱牙斬(つららげざん)』を鞘から出して言う。
「パーティが5人以上に増えると、5人目以降は戦闘に出ている誰か1人がやられるまで馬車に待機ですから」
 乃恵琉が啓助に背を向けながら言う。
 その時全員が背を向け、目の前の敵を睨み付けていた。
「……んじゃ、茂みという馬車から洋が出てこない内に、いっちょやってやるか!」
 啓助の掛け声で全員が動き出す。

213ライナー:2011/11/01(火) 19:55:06 HOST:222-151-086-012.jp.fiberbit.net
 西側にいる敵は、乃恵琉が『ナチュラルランス』のフォークのようになった3本の槍先で薙ぎ払い、東側の敵は恵が『エナジーボント』のグリップを逆手に持ち、トンファーのようにして殴り付けていく。
 南側の敵には、麗華が『白鳥夢掻(しらとりむそう)』の刃で引っ掻くように攻撃し、北側の敵は、啓助が『氷柱牙斬(つららげざん)』の刀身に冷気を込め、切っ先を使って大きく斬りつける。
 グランドツリーを囲う森林には巨大な吃音が響き渡り、小鳥達が羽ばたく音を残して、一目散に逃げていった。
 そして森には再び神聖な沈黙が戻った。
 それと同時に、洋が何気ない顔で茂みから出てくる。
「たいちょー、馬車から誰か出てきましたー」
 啓助がふざけ半分で乃恵琉に言う。
「洋、戦う気が無いならここにいても意味がありません。 帰るか戦うか、選択肢は2つですが」
 ふざけた口調で言った啓助は、乃恵琉の言葉に絶句した。
 言った内容に関しては全く間違っていないが、いつもながらスパルタ行為は絶えないようだ。
 ここまで出来る人材なのに専攻隊に属せ無いのは何故なのか、ふと啓助は思った。
 それと同時に、洋が戦いもしないのに何故アビリターユニオンに属したのかも謎めいていた。

 暫くし、洋は結局帰還することとなった。
 今回の任務で、「食ってただけじゃん!」と言いそうになるのを堪えて、啓助は任務に専念することにした。
「ここからはグランドツリーに近付くごとに、敵に遭遇(そうぐう)することが多くなるでしょう。体力保存のためにも、隠れて移動することにしましょう」
 乃恵琉に言われてからは、全員木に飛び移るようにして移動を試みた。
 移動中には会話もサイレントに行われ、当然の如く携帯はマナーモードで、メールでの状況確認が行われたのだ。

「くっそ! いくら敵に見つからないためとは言え、これじゃかなり時間ロスすんぞ!」
 啓助は、木の枝から枝に飛び移りながら文句を言い放つ。
 言い訳を放っていた啓助は、実のところ全員との距離を取り過ぎはぐれてしまっていた。そのせいもあって、未だに文句を言い放っている。
 すると、携帯がバイブ音を上げてメール着信を知らせる。
「こんな時に……まさか乃恵琉じゃ無いだろうな……」
 心配しながらも、啓助は携帯を開き着信メールを確認した。

 from : 健二
 title:無し
 本文 :今日空いてたら、飯でも食いに行かないスか?

 その瞬間、啓助の携帯を持つ手の握力が強くなる。
「何だコイツ!? 人の気も知らないでスッゴイむかつくメール送ってんだけど!」
 啓助は思わず、携帯の画面に向かって唾を飛ばす勢いでツッコミを入れる。
「こっちだって飯食いに行きてーよ! でも任務中! ってか健二のヤツ専攻隊だったよね、どんだけ暇なんだ専攻隊!?」
 携帯を閉じ啓助が一息吐くと、嫌な予感バロメーターを復活させるが如く、2度目のバイブ音が響き渡った。
「………」
 恐る恐る携帯を開く。
 と、それはタダの迷惑メールだった。
「中途半端、か……」

 一方、グランドツリー付近の木の上では、乃恵琉達が下を見ながらジッとしていた。
「あーもう、辻の奴何してんのよ」
 麗華が小声で呟く。
「大丈夫かな、啓助君」
 恵は心配そうに小声で呟く。
「どうしますかね……」
 さらに乃恵琉が小声で呟く。
 3人は何故小声で呟くのか、それは木の下に大量の板東勢が今か今かと待ち伏せしていたのだ。
「にしても僕達の存在を嗅ぎ付けるとは、それとも別の存在のせいなのでしょうか?」
「ま、ウロチョロしてても仕方が無いじゃない。辻のことはほっといてこの軍勢をサッサと片付けましょうよ、私が見たところ軍勢の中のアビリターは0%」
 麗華も戦える事にウズウズしているらしく、恐ろしい悪魔のような笑みを浮かべていた。
「……では、先に行きますか」
 乃恵琉がそう言うと、3人は木から飛び降り奇襲を掛けた。
 着地の勢いと共に3人は攻撃を仕掛ける。
「オイ! 敵が来たぞ!」
 軍勢の1人が大声で言い放ち、軍勢に軍勢を呼ぶ。
 そんな状態をものともせず、3人は攻撃を続けた。何せ相手はアビリティも持っていなければ、特別な武器さえ持っていない。
 暫くすると、厳(いか)つい男の体と短刀が転がり落ちる。
「では、先に進みましょうか」
 そして3人は、一度森の方を振り返ってからグランドツリーの木層へと走っていった。

214竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/11/05(土) 12:14:03 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
コメントさせていただきますね!

さてさて、へタレの洋は置いといて。啓助くんが本気で心配です。
彼の描写になると、不安で不安でしゃーないですw

にしても麗華が可愛くて悶絶しそうなこの気持ちを抑える方法を一緒に考えてはくれないでしょうk((

続きが気になります。
頑張ってくださいね!

215ライナー:2011/11/05(土) 13:46:24 HOST:222-151-086-004.jp.fiberbit.net
 木層の中では、激しい戦闘との応酬だった。
 何人もの下っ端が猟銃や短刀を持って襲いかかる。しかし、ユニオンではそんな状況は訓練済みであって、また想定内の戦闘スタイルだった。
 ユニオンで訓練を受けるときの戦闘スタイルはこうだ。
 短刀の場合は、充分に相手を引き付け、短刀を持つ手を払うように躱す。そしてその隙を利用し、蹴りなどの攻撃を食らわす。
 猟銃などの銃系の場合は、隊服を霧吹きなどで充分に湿らす。すると銃弾の貫通率はグッと下がり、躱しやすく、接近しやすくなる。猟銃などは接近戦に弱いので、簡単に倒せると言うわけだ。
 そんな戦闘スキルを駆使しながら、グランドツリーの上部へと上がっていった。
「だいぶ進みましたね」
 乃恵琉が呟く。
 もうほとんど敵は存在せず、木層の中はランプの光が良く通っていた。
「そろそろって所かしら?」
 麗華は暇そうに『白鳥夢掻(しらとりむそう)』の6本のナイフをジャグリングしている。
「で、でも油断は禁物だよね。今まで戦ってきた人達も板東って人に倒されたんだから……」
 恵は忙(せわ)しなく辺りをキョロキョロと見回している。
 ゆっくりと3人は丈夫へと上がって行くが、全く人の気配がして来なかった。
「やっぱり出てきませんね……」
 乃恵琉がいつもより真剣な表情で辺りを見張る。
 常時あまり表情を変えない乃恵琉だったが、見てみるとやはり迫力が違った。
「そういえば、辻の奴も全ッ然来て無いじゃない!」
 麗華が、影の薄い友人をかくれんぼで見つけられないようなイライラした声で叫ぶ。
 すると突然、大太鼓を鳴らすような打撃音が響き渡った。
 途端に乃恵琉は驚いて、巨大な音のする方へ振り返る。
「れい、か……ッ!」
 その時、乃恵琉の目に一番最初に飛び込んできたのは、麗華の姿だった。時が止まったように、何者かの拳が麗華の腹部を剔り込むのが見えたのだ。
 時が戻されたように乃恵琉は我に返り、麗華が飛ばされるのを確認する。
「麗華ッ!」
 2回目、乃恵琉が麗華の名前を呼んだ時はもう遅かった。
 飛ばされたまま、麗華は木の壁に強く衝突し、気を失って木の床へと体を倒している。
 木に滲(にじ)む赤、倒れた麗華、硬直する乃恵琉と恵、そして悲しくこだまする衝突音、全ては板東の手によって仕組まれていた。
「つまりはヨォ、灯台もと暗しってこったァ……」
 男は麗華の方へ視線を向けて言う。
「……貴方が噂に聞く、ユニオン隊員40人斬りの板東鋳央沙ですか」
 乃恵琉は冷静な声調で男に言った。
 男はその声で乃恵琉に振り返る。
「ホォ、俺はユニオンの方じゃそんな風に言われてんのかァ? 俺がここまで有名になるわけだなァ。んじゃ、自己紹介しとくかなァ、お察しの通り俺は板東鋳央沙ァ、指名手配犯能力者だぜェ……」
 乃恵琉の察した通り、男は板東であることが分かった。
 板東は軍勢の長(おさ)らしく体型はガッチリとした筋肉質、服装はダメージ加工を施(ほどこ)してあるGパンと黒い革ジャンと、ヤクザ者のボスのようだ。
 名が明かされると乃恵琉の表情は一気に厳しさを増し、『ナチュラルランス』を発動していた。
「話を戻すがァ、何故灯台もと暗しか分かるかァ?」
 眼(がん)を付けながら放たれる問いに、乃恵琉は無視するように槍を構える。乃恵琉に握られた『ナチュラルランス』は3本の槍先が板東を睨むようにギラリと光り、乃恵琉と同調しているかのようだった。
「んな怖い顔すんなってェ、まだお話してんだからよォ」
 板東は冷たく笑って、言葉を続ける。
「灯台もと暗しの意味は、手近の事情がよく見えないってこったァ。つまり灯台の光は上も向かない、これで分かったかァ?」
 乃恵琉は、表情に出さないで気付いた。板東の言葉から推測すれば、乃恵琉達の戦闘を木層の高い天井からずっと見ていた事になる。
 その時、乃恵琉は自分の迂闊(うかつ)さを責めた。
 自分の判断ミスで、麗華を危険な目に遭わせてしまったのだ。
「……そうですか、戦闘までの読み合いは僕の負けですね。しかし、麗華のお陰で分かることも増えましたよ。貴方のアビリティは『マッスル』、身体力向上能力」
 再び、板東は不穏な笑みを浮かべた。
「当ったりィー! んじゃよォ、そろそろ始めようぜェ!!」
 言い切る前に、板東の拳が乃恵琉へと飛ぶ。
 乃恵琉は咄嗟に『ナチュラルランス』の槍先で防ぐ。しかし、相手のアビリティは『マッスル』で武器よりも途轍(とてつ)もない破壊力が襲った。
 力負けして、乃恵琉は後方へと足を擦らせる。
 すると、板東の拳はすぐそこまで押し寄せてきていた。

216ライナー:2011/11/05(土) 13:54:12 HOST:222-151-086-004.jp.fiberbit.net
竜野翔太さん≫
コメントありがとうございます!!

そうですね、洋はヘタレの中のヘタレですがこの後頑張らせるつもりでいます(まだラフにも書いていませんが^^;)
啓助君は……まあ全体的に不幸ですからね。努力で実を結ぶタイプだと思います(焦)

え、えーと麗華は≫215で結構凄いことになってしまいましたが、こんな姿もまた可愛いんでしょうか?
華のあるキャラクターはどんな姿でも華がありますからね〜(そんなキャラ作りが出来ているだろうか^^;)
抑えなくて良いんですよ!爆発させて下s((殴

これからも頑張らせていただきますので、応援宜しくお願いします!
ではではwww

217ライナー:2011/11/05(土) 14:17:50 HOST:222-151-086-004.jp.fiberbit.net
訂正です。
≫215の15行目の「丈夫へ」は「上部へ」です。
そしてまたついでに作者通信やらせて貰います(笑)

 〜 作 者 通 信 〜
 今回で何度目でしょうか。作者通信です(面倒臭いので今度数えます^^;)
 第4章の序盤ではかなりギャグ要素が多く、グダグダ進行になってしまったと思います(しかもギャグが面白く無かった^^;)
 この章では今まで出てきた登場人物が多目に出ます、ですので途中の方も楽しめるはずです(?)
 さて、今回は異能力(アビリティ)の事について語りましょう。
 今まで出てきたアビリティを上げてみると、
 ・フレイム(火を操る) ・アクア(水を操る) ・フリーズ(冷気を操る) ・エレキ(電気を操る)
 ・サンド(土を操る) ・フェザー(翼を司る) ・ファスト(運動速度向上) ・マッスル(身体能力向上)
 ・タイム(時を操る) ・サイコキネシス(念力使用能力) ・メター(物質鋼変化能力)
 こんな感じですね。
 数えてみると11種と200スレ越えのくせにあまり出てきていませんね^^;
 武器が目立っているからでしょうか?
 まだまだ一般的な特殊能力しか出ていませんが、今挙げた11種を合わせて42種ありますので是非楽しみにしていて下さい。
 ちなみに1つ補足すると、良く場所移動で活躍する「転送ルーム」ですが、テレポート(空間移動能力)を持つアビリターで成り立っているんですね。
 最後に設定をこじつけてしまいましたが、楽しみにしていただければ幸いです。
 
 ではではwww

218ライナー:2011/11/06(日) 18:28:50 HOST:222-151-086-024.jp.fiberbit.net
28、迷いと変わること

 板東の拳は乃恵琉の『ナチュラルランス』の柄頭を押し上げ、乃恵琉の手から槍が離れた。
「ナッ……!!」
 乃恵琉が放り上げられた『ナチュラルランス』に目を奪われていると、板東のもう1つの拳が顔面を襲う。
 拳は、乃恵琉が声を上げる暇も与えず、眼鏡のレンズにヒビを入れた。
 レンズの結晶が宙に飛びながら、乃恵琉は後方に飛ばされる。
「黒沢君!」
 恵が叫ぶと、乃恵琉は木の壁に頭を叩き付けていた。
 そして乃恵琉は、擦(かす)れる声で「大丈夫です」と一言言うと、頭から流れる血を手で押さえながら立ち上がる。
「足りねェなァ……」
 すると、高く飛び上がった『ナチュラルランス』が槍先を下に向け、板東の足下に刺さった。
「こりゃ、50人……いや、100人斬りも夢じゃねェよォ……?」
 板東の強さは、圧倒的だった。
 戦闘を計算式のようにし、計算を解くように敵を倒すような乃恵琉に、計算の隙を与えなかったのだ。
 しかし、プライドの高さからなのか、乃恵琉はまだ戦う気である。懐から、常備していたエアライフルを取り出していた。
「んな、ちゃちなオモチャ俺にゃ効かねェよォ。それよりも、大事なオモチャが俺の手にあるぜェ……」
 足下に刺さった『ナチュラルランス』を、板東は軽々と片手で抜き取る。
「ぼ、僕は……負けま、せん……」
 乃恵琉は、両手で持ったエアライフルを肩の高さまで持ってくる。この時点で、すでに乃恵琉は限界を達していた。
 震える手の中で、エアライフルの引き金が引かれ、その銃口からは空気の銃弾が放たれる。
 しかし、その銃弾は板東の耳元を通り過ぎ、当たることはなかった。
「メガネが壊れちゃ、使いモンにはなんねぇぜェ!」
 そう、乃恵琉は攻撃を受け眼鏡にヒビが入っているのに気付いた。その事に気付かないくらいダメージが溜っているらしい。
 足をふらつかせている乃恵琉に、板東は素早く走り寄る。
 そして、『ナチュラルランス』の柄で腕を、片足で乃恵琉の脛(すね)を攻撃した。
「グッ……!!」
 呼吸をするのも苦しそうな声で、乃恵琉は再び叫びを上げる。
 叫びを上げながら、乃恵琉は飛ばされ背を壁に打つと、倒れた瞬間から動かなくなってしまった。
「ああっ!」
 恵が口を手で抑えながら悲鳴を上げる。
 倒れた乃恵琉は、攻撃された腕と脛を変な方向に曲げていた。どうやら骨を折って、大きく曲がってしまったのだろう。
 返り討ちと言うには惨(むご)過ぎるくらいに血だらけにして、ユニオンに送りつける戦闘鬼。ユニオンの噂は写真に撮ったようにそっくりそのままだった。
 さらにここで新たに浮かんだ状況は、恵しか戦えないと言うことだ。
「ユニオン隊員だろうがァ、女なら顔に傷作りたくねえだろォ? 好きな奴がいるならよォ、ここで引き返すんだなァ……!」
 板東は、脅すように指の骨を鳴らす。
「もし、顔に傷を作ったとしても、ここで逃げたら、もっと多くの、もっとたくさんの傷や仲間を失う」
 言いながら、恵は『エナジーボント』の銃口を板東に向ける。
「そんなの絶対に、嫌だから!!」
 恵の目は、いつも戦闘で天然癖の出るような目ではなかった。
 ただ、仲間を助けたい。そんな思いが一心に込められている、そんな力強い目だった。
 言い終わり、恵は隊服のポケットからマガジンの形をした機械部品を取り出した。
「(絶対に、嫌だから……)」

219ライナー:2011/11/13(日) 14:03:15 HOST:222-151-086-022.jp.fiberbit.net
 それは、任務前日の事だった。
 恵が、乃恵琉の部屋のドアを軽くノックする。
「啓助君の部屋なら隣ですが……?」
 乃恵琉はドアを開けた早々、恵にとっての爆弾発言を言い放つ。
「い、いや何それ!? そうじゃなくて、黒沢君に用があるんだけど……!」
「恋愛系の話は、僕の知識能力では不十分ですが……?」
 眉を顰(ひそ)めて乃恵琉は呟く、少しふて腐れたような声だった。プライドが高いからか、自分の答えられない問いは聞きたくないようだった。
「そ、そうじゃなくてぇー! 武器の事についてなんだけど……」
 恵は赤面して言う。
「それならお答え出来ます。立ち話もなんなので、どうぞ」
 乃恵琉の表情は少し軟らかくなり、恵に部屋に入るよう勧めた。
 とりあえず、同じチームという面識があるので、恵は少し躊躇(ためら)ってから入った。
 乃恵琉の部屋は、落ち着いた焦げ茶色と白のシックなインテリアで、辺りに置いてあるプランターの植物が妙に目立った。
「お茶でもどうぞ」
 そう言って、乃恵琉は恵が座ったすぐ側にレモンティーを差し出す。
 乃恵琉はコーヒーを注いで、恵と向かい側に座った。
 どうやら、来た客人ごとに出す飲み物を変えているらしい。流石は乃恵琉と言ったところだろう。
「で、武器の話とは一体如何なもので?」
 コーヒーカップに口を付けてから、乃恵琉は言った。
「あ、それなんだけど、最近銃の調子が悪くて……」
 そう言って恵は『エナジーボント』を床に置く。
「トリガー部分がまた緩んじゃって……最近ずっとこうなんだ」
 乃恵琉は床に置かれた『エナジーボント』を拾い、工具箱を取り出してきた。
「なるほど、強い攻撃ほどトリガーが緩みますからね」
 『エナジーボント』に目を向けて、ドライバーを使いながら分解していく。
 銃を分解してからは一瞬だった。壊れたパーツを素早く入れ替え、一瞬にして組み立てた。
「これで大丈夫です」
「ありがとう、助かったよ。でも、何でいつもこうなっちゃうのかな……」
 恵は『エナジーボント』を受け取りながら呟いた。
「……武器は時に人を選びます。武器の調子が悪い時、それは武器が主人の力に付いて来ていないのか、または主人が武器に見捨てられたのか」
 乃恵琉の言葉が恵に突き刺さった。「主人が武器に見捨てられたのか」……
 恵の表情が、凍てつくように凍り付いた。
 すると、それを見た乃恵琉が後付けするように言った。
「実のところ、僕も最近使いにくい訳では無いのですが、どうも苦戦しやすくてですね……」
 乃恵琉は『ナチュラルランス』の収納系になった黄色の珠を見て、軽くため息を吐く。
「……そう言えば、黒沢君って『ナチュラルランス』の方より、『エレクトリックナイフ』って方を使うことが多いよね」
「!」
 恵の言葉で、乃恵琉は頭に電撃が走るようにひらめいた。
 このところ乃恵琉は、ピンチになるといつでも第二形態の『エレクトリックナイフ』で戦っていた。思い出せば、水野家のメイドと戦った時もそれで戦っていた。しかし、それが間違いの1つだった。
 戦闘を主とする職業にとって、一番大事とされているのは機動力だ。
 機動力とは、その場の状況に応じて機敏に動く能力の事。つまり、乃恵琉がピンチの時『エレクトリックナイフ』を使うと言う事は、自らの考える力、機動力を奪っていたのだ。
「………」
 乃恵琉は下を向き、厳しい表情で考え込んでいた。
 恵はそんな乃恵琉の姿を見て、悪いことでも言ったかなと、少々焦った表情になる。
「……では、良い意見を貰ったお礼にこれを」
 『ナチュラルランス』を発動させた乃恵琉は、ドライバーで柄の部分を開き、何かを取り出す。
 そして、恵に差し向けたのは、銃のマガジン部分のような機械部品だった。
「これは、『エレクトリックナイフ』の心臓部分と言える帯電出力モーターです」

220竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/11/13(日) 16:38:57 HOST:p3161-ipbfp3105osakakita.osaka.ocn.ne.jp
コメント失礼します。

坂東さんが意外とかなり強かった。
麗華ちゃんはどんな姿でも可愛いです。それがたとえやられてる時でも((
そういえば乃恵琉って眼鏡してましたね。いきなりパリーンなんですけど……。
残りは恵だけなので、頑張って欲しいです。
あ、勿論啓助もねw

221ライナー:2011/11/19(土) 12:54:48 HOST:222-151-086-011.jp.fiberbit.net
竜野翔太さん≫

コメントありがとうございます!
そして、少し遅れまして申し訳ありません。

麗華さん……そろそろ出番無くなると思います^^; でも変わりに竜野さんが待ち望んでいた展開を入れる予定であります!
眼鏡の存在が薄くなるのは、やはり自分の力不足ですね(焦)
啓助はこの展開でどう出てくるのか不安ですね、恵……ガンバ(作者だろ)
ではではwww

222ライナー:2011/11/19(土) 14:06:58 HOST:222-151-086-011.jp.fiberbit.net
「そ、そんな大切な物貰えないよ」
 恵は乃恵琉のモーターを持つ手を押し返し、断る。
「いえ、これは僕にとっても大切な一歩だと考えています。僕は今まで、技にバリエーションを持たせることが良いと思っていました。しかし、それでは何もかもどっちつかずと言うことを教えられました」
 乃恵琉は、押し返された手を押し返す。
「お互い変わろうじゃありませんか、新しい武器の領域に」
 緑に輝く乃恵琉の瞳は、偽りのない澄んだ瞳だった。
 その瞳に何か逆らえないオーラを感じ取りながら、恵は躊躇(ためら)う気持ちを抑えて受け取った。
 不安な表情を隠せぬまま、恵は受け取ったモーターを見つめる。
 変わる、新しい武器の領域。
 その2単語が、恵の不安を泡のように掻き立てた。
「人間とは、日々変わるものです」
 恵の不安そうな顔を、覗き込むようにして言った。
「新たなことに挑戦すること、それは大きく言えば自分自身を変えることと言えます。しかし、人目を気にして変わることを恐れること、高い目標を持ちすぎてそれを断念した人は大勢います。でもその中で変わることの出来た人は、きっと素晴らしい物を手に入れられるでしょうね」
 話を聞きながら、恵はキョトンとした表情になる。
「変わるための仮定って、以外と大事な物ですよ」

「(変わる……大切な武器で、大切な物を守るために!)」
 恵は、銃のマガジン部分を捨て、乃恵琉から貰った物を差し込む。
 それと同時に、銃身の電光板の色が輝く白から、雷光のような眩い黄色に変わっていった。
 『エナジーボント』の構造は、改良されていった。いや、もう『エナジーボント』と言うべきではないだろう。
 恵が付けた『エナジーボント』の新名は―――。
「(今からこれは、『電磁干銃(ヘルツライフル)』!!)」
 『電磁干銃(ヘルツライフル)』は、2つの銃口を板東に向けた。
 その2丁の銃は、微かに揺れるランプの光を纏って黄色く光った。
「絶対に、負けない。負けられないから!!」
 もしも『ナチュラルランス』一筋で乃恵琉がやられたなら、恵には重大な責任がある。
 そして、仲間を守るために恵は重大な役目を背負わされた。
 汗の滲む手で、グリップを強く握り締める。
 その時の銃の引き金(トリガー)は、妙に軽かった。

223ライナー:2011/11/19(土) 15:03:52 HOST:222-151-086-011.jp.fiberbit.net

29、『電磁干銃(ヘルツライフル)』

 銃口からは、電気の銃弾が音を上げて放たれた。
 しかし、電気の銃弾は少し狙いを外して、板東が手を腰に当てて出来た三角形の隙間に吸い込まれる。
「おおっと? お嬢ちゃん、物騒なモン向けてくるねェ」
 板東は銃弾が外れることを知っていたかのように、余裕の表情を見せる。
「職業には逆らえないよ、私の選んだ道だから。それとオジサン、私を舐めて掛かると痛い目見るよ」

224ライナー:2011/11/19(土) 15:03:51 HOST:222-151-086-011.jp.fiberbit.net

29、『電磁干銃(ヘルツライフル)』

 銃口からは、電気の銃弾が音を上げて放たれた。
 しかし、電気の銃弾は少し狙いを外して、板東が手を腰に当てて出来た三角形の隙間に吸い込まれる。
「おおっと? お嬢ちゃん、物騒なモン向けてくるねェ」
 板東は銃弾が外れることを知っていたかのように、余裕の表情を見せる。
「職業には逆らえないよ、私の選んだ道だから。それとオジサン、私を舐めて掛かると痛い目見るよ」

225ライナー:2011/11/19(土) 15:05:43 HOST:222-151-086-011.jp.fiberbit.net
223≫、224≫はミスです。申し訳ありません。
とりあえず、224≫と考えて続きから掻かせていただきます。

226ライナー:2011/11/19(土) 15:58:36 HOST:222-151-086-011.jp.fiberbit.net
 
 今回の恵はいつもと一味違った。
 何か信念を抱えて、戦場へと降り立った1人の姿だった。
 その目にいつもの迷いはない。その目にいつもの慌てはない。
 仲間を守るため立ち塞がる、たった1人の戦人だった。
「オジサンじゃなくて、お兄さんと呼んで欲しいモンだなァ。自重してオジサマでもいいぜェ?」
 『ナチュラルランス』を手元で回しながら板東は言う。
 しかし、恵は動じない。
「ヘッ、問答無用って訳かァ。そんじゃあヨォ、その痛い目ってモンを……」
 板東は『ナチュラルランス』を大きく振り上げる。
「見せて貰おうじゃねェかッ!!」
 『ナチュラルランス』の3本に分かれた槍先が、恵を目掛けて飛ぶ。
 恵はそれを伏せて躱すが、矢印のように尖った槍先に、髪を束ねていた赤いリボンが攫われる。
「おおっトォ……リボンが八つ裂きだなこりゃァ……」
 帯のような赤いリボンは、板東の力故に八つ裂きに裂けた。
 一方、恵は白銀髪のポニーテールから、白銀髪のストレートへと髪型が変わる。
 すると、『ナチュラルランス』の効果で刺した部分から植物が生える。
 だが、いくら状況に応じた植物を生み出す事が出来るとしても、木に生み出す事は出来ないはずだ。
「(あの植物は一体……!!)」
 確かに木の幹に生える植物は存在しない。が、木に寄生する植物は存在した。
 宿り木。
 恵は宿り木から急いで距離を取る。
 しかし、宿り木の速度は恵の反応よりも素早く、恵の体に巻き付いてきた。
「んっ、くっ……!」
 瞬く間に恵は、腕も足も全ての動きを封じられた。
「こりゃあスゲェ! 最近のガキはこんな大層なモン持ってるとはなァ。俺が有り難く貰ってやるよ」
 板東は武器の効力を知ってしまった。
 これどういう事か、それはただ打撃で押しても辛いのに、さらに効力まで知ったらこれ以上不利な事はないだろう。
 相手とは武器を変えても、徹底的に力の差があった。それをさらに広げられたのだ。
 極めつけには、恵自身が行動できないのが不利であろう。この時点で負けを認めざる負えない。
「(そ、そんな。ここまで来て……)」
 動けない状態で、恵は絶望の淵に立たされた。
 宿り木に縛られ動けない恵に、板東はゆっくりと『ナチュラルランス』を振り上げた。まるで打ち首をする侍のように。
 恵は、ランプの光で何重にもなる『ナチュラルランス』の影の下で思った、申し訳ない悔しい気持ちで。
 仲間を守りきれなかった事を。
 自分を変え切る事が出来なかった事を。
 そして、今も森で迷っているであろう啓助の事を。
 今ここでやられれば、間違いなく全員皆殺しだ。
 悔し涙を浮かべながら、恵は腕の力を抜く。
 銃が床に滑り落ちた。
「(啓助君……)」
 板東が、涙を浮かべる恵に近付く。
 『ナチュラルランス』の槍先は、ランプの光を帯びて光る。何かを強く睨み付けるように。
「(啓助君……)」
 そして、『ナチュラルランス』は真っ直ぐ恵の首筋へと振り下ろされた。
「(助けて、啓助君……!!)」
「これで終わりだァ!!」
 瞬間、恵の首筋で激しい金属音が響き渡る。
 激しい金属音は、木層の中で大きく反響させて、その場の空気を凍り付かせた。
 そう、氷のような冷たいオーラで。
「大丈夫か、恵」
 恵の頭上で、聞き覚えのある声が聞こえた。いや、恵にとっては聞き覚えのあるでは収まりきらないだろう。
 その声は、啓助の声だったのだから。

227ライナー:2011/11/19(土) 17:35:39 HOST:222-151-086-011.jp.fiberbit.net

「啓助君!?」
 恵は思わず声を上げる。
 啓助は歯を噛み締めながら、恵に笑顔を見せている。しかし、相手の押しが強いためかその笑顔は一瞬で消えた。
 『マッスル』のアビリター相手に、啓助は押し返される。
「グッ……!!」
「お仲間とは、闇夜の灯火ってのはこの事だなァ」
 板東は突然の事態に、まるで全てを理解していたように余裕だった。
 言葉の後に、虫と人間の力比べをしているような圧力が啓助を襲う。
「……ッ、仲間なら当然だぜ!」
 なおも啓助は余裕に振る舞う。木層の床に足を埋めつつも、まだ余裕に。
「俺のアビリティは『マッスル』。さらに武器を持った鬼に金棒な俺に、力押しは効かねェよ!」
 『ナチュラルランス』は板東の手元で、啓助に圧力を加えていった。
 啓助の足下で、木層の床が吊り橋が大きく軋むような音が鳴る。
「ッ……! 何でテメェが乃恵琉の武器持ってんだ!?」
 すると、木の床が軋む音を止ませる。
「サッサと返しやがれ!!」
 叫びと共に、板東の足下を氷の粒が襲った。
「何ッ!?」
 氷の粒は足に直撃し、何かに躓(つまず)いたように板東を転倒させる。
 その時、板東に隙が出来た。
 それを突かんとばかりに啓助は動き出す。しかし、動き出したのは板東の方向ではなかった。
 踏み出した方向は恵の方だった。
「え……?」
 恵が呆気に取られていると、啓助は少し慌てた様子で恵に駆け寄る。そして、剣の切っ先で恵を捕らえていた宿り木を切り裂いた。
「よし、これで大丈夫だな」
 宿り木を取り払って、啓助は恵の手を取る。
 啓助と一緒に立ち上がった恵は、感謝の文字と、今まで募(つの)っていた思いが高ぶるのを感じた。
「ありがと……」
 恵の口が「と」の形になったまま、硬直する。
 何故なら啓助の頭上に、板東の振り上げた『ナチュラルランス』が影を作っていたからだ。
 言葉を失ったまま、恵は『ナチュラルランス』が振り下ろされる瞬間を目の当たりにした。
 途端に、啓助は木の床に頭からのめり込む。それと同時に、木屑が辺りを雪のように覆った。
「中々の判断だったがァ、一度やられそうになった仲間を助けるなんざァ、明後日を向いたなァ……」
 今度こそ恵を救ってくれる者はいない。それどころか、自分のせいで啓助がやられてしまったと、恵は深く後悔した。
 あの時、声を掛けていられれば……
 しかしそうも言ってはいられない。恵はそこらの女子学生とは違い、アビリターユニオンの1人の隊員であり、目の前の敵に立ち向っていかなければならない。それに、もし啓助が恵の犠牲になってしまったのだとしたら、恵は啓助の分まで戦わなければならなかった。
「じゃあ……」
 恵が手から滑り落ちた『電磁干銃(ヘルツライフル)』を拾い上げる。
「じゃあ、啓助君の判断が、本当に明後日を向いてたか教えてあげる!」
 啓助が明後日を向く、見当の違う答えを出したか、それを導き出すのもまた恵の役目だった。
「良いだろォ、教えてもらおうじゃねぇかァ!!」
 言葉と同時に、『ナチュラルランス』を握らない方の手の拳が向かう。
 その攻撃を、恵は左肩に擦らせるようにして受け流し、敵の懐へ足を走らせる。
 恵は走りながら銃をトンファーのように持ち替えた。そして、ハンマー部分を板東の鳩尾(みぞおち)目掛けて打ち込む。
「ヌッ……!」
 板東は低い厳つ声を上げて、ランプの灯る後方へと微かに足を擦らせた。
 すると、あたかも板東が足を擦らせ起こったように、木層に飾られたランプが怪しく炎を揺らした。

228ライナー:2011/11/20(日) 17:56:37 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net

「……クゥ、やるねお嬢ちゃん。まさかとんでもねェアビリティを、持ってるんじゃねェだろうなァ」
 くぐもった声に、恵は2つの銃口を向ける。
 一応、恵も『ヴィーナス』という心を動かす能力を持っている。だが戦闘には全く関係ない能力で、それを板東に教えるのもまた別の話だった。
 そう、今は自分の生まれ変わった武器を頼るしかない。
 恵はトリガーを握り締め、銃口から電気の銃弾を撃つ。
 電気の銃弾は、まさに光の速さと言っても過言ではないのだが、板東の手に握られる『ナチュラルランス』に帯電し攻撃が出来ない。
 電気の銃弾が効かないとすれば、エネルギーの銃弾も効かないであろう。すると、恵に残された攻撃方法は、打撃。しかも恵の場合だと「銃拳術(じゅうけんじゅつ)」と呼ばれる、トンファーを使うような接近戦だけになる。
 しかし、簡単に接近戦と言っても、恵より『マッスル』のアビリティを持っている板東の方が有利と言える。遠隔戦が唯一の頼みの綱だったのだから。
 そんな絶対不利的状況の中、容赦無く板東が振り下ろす『ナチュラルランス』が恵に襲い掛かる。
「今度は逃がさねェ!!」
 咄嗟に恵は銃身を槍先に向け、直接的な攻撃は防いだ。もし躱しでもしたら、また宿り木が襲って来るであろう。
 激しい金属音を痛々しく思いながら、恵は『ナチュラルランス』を放り上げる。
 『ナチュラルランス』が板東の片腕と一緒に上げられた。その瞬間、板東の胸部に隙が出来、恵はその中へ飛び込むように走った。
 グリップを透かさず持ち替え、ハンマー部分で再び板東の鳩尾(みぞおち)を打ち込む。
 しかし今度は、板東に変化が無い。
「……?」
 恵が疑問符を上げていると、板東の右膝が恵の腹部を激しく突いた。
「……ッ!!」
 瞬く間に、恵はくの字に曲がりながら後方へ飛ばされる。
 空中でバランスを取り、何とか足を地に着かせ、口元の血を拭った。
「へヘッ、同じ手は食わねぇんだなァこれがァ……」
 同じ手が通用しなくなった今、攻撃する度にその攻撃パターンを一々考えなければならない。だが、そこまでのバリエーションがあるかどうか、その攻撃で何回ほどで倒せるか分からない。場合によっては全て効かずに攻撃のバリエーションも無くなるかもしれないのだ。

「きっと素晴らしい物を手に入れられるでしょうね」

「仲間なら当然だぜ!」

 自分を守ってくれた仲間の声が、恵の頭を過ぎる。
「(みんなのために……!!)」
 恵は板東の方へと走った。
 板東は待ってましたと言わんばかりに、素早く3本の槍先を突き出す。
「サッサとくたばれあぁッ!!」
 一見、恵の走りはただ何も考えず、相手に向かっているだけのように思えた。しかし、それは違った。
 突き出された槍先は、先程と同じように『電磁干銃(ヘルツライフル)』の銃身によって防がれる。
「だから、同じ手は効かねえって……!!」
 板東の口は「て」の形を保って、それ以上発せられることはなかった。
 何故なら、恵は『ナチュラルランス』を押さえていたからだ。
 『ナチュラルランス』の矢印のような槍先に、『電磁干銃(ヘルツライフル)』の銃身を引っかける。そして、槍の長い柄に膝を重ねた。すると、最後に銃身を思い切り下に下ろす。
「ナッ……!?」
 これにはある原理が利用されていた。

 梃子の原理。

 膝を支点、銃身を力点として、恵は板東の方に向けられた『ナチュラルランス』の柄頭を上げた。
 シーソーのように上がった槍の柄頭は、勢いよく板東の顎に当たる。板東は柄頭を顎に乗せて動きが取れぬまま、アッパーを受けたように大きく宙を舞った。
 瞬間、板東の手から『ナチュラルランス』が離れた。と言うことは……
「(電気を防ぐ物は、もう無い!!)」
 透かさず、恵は『電磁干銃(ヘルツライフル)』の銃口を板東に向け、トリガーを引いた。
「{電圧波動(ボルトサージング)}!!」
 恵はそう言うと、銃口からは球体の形をした電気が勢いよく流れる。そして、そのまま板東に向かって一直線に放たれた。
 その速さはまさに雷光の如く速さで、2つの銃口から放たれた2つの電気の弾は1つに重なる。1つになった電気の弾は周りの物を蹴散らすような勢いで、板東の体を捕らえた。
「何イィッ!!」
 激しい電気の轟音は、グランドツリーを突き抜けた。

229ライナー:2011/11/22(火) 23:04:04 HOST:222-151-086-011.jp.fiberbit.net

 グランドツリーの木層内。
 木層内の一部は嫌に黒みを帯びて焦げていた。まるで、その部分だけが闇に囚われたように。
 恵は銃口を下ろし、トリガーから指を離す。
「う……あァ……」
 黄色掛かった白い電気閃光を帯びながら、板東は倒れ、微かな唸りを上げる。
 恵の息は荒かった。銃を持つ手は震え、澄んだ紫の瞳は泣き寸前の子供のように雫を溜めていた。
 震える手を押さえるように銃のグリップを握り締め、ゆっくりとベルトのカバーに収納した。

 ―――勝ったのだ。
 無力に感じた自分の力で、不安が襲った新たな武器で。
 勝ったのだ、様々なプレッシャーに足下を崩されながらも。
 途端に、雫を溜めた両目から涙が流れる。不安と言う鎖を破って、恵はいつの間にか、いつもの自分に戻っていた。
 あがり症な自分に、少し気弱な自分に。しかしその中にも揺るぎない自分があった、仲間を守りたいと思える自分だ。
 それでも涙は止まらない。嬉しいのか、悲しいのか、それさえも分からないくらいに。嬉しさや悲しさ、そんな感情を涙が全てを洗い流すように。
 隊服の裾で、顔全体に散らばった雫を全て拭い取った。
 ぐしょ濡れになった裾を少しスカートに擦り付けて、隊服の懐から携帯を取り出す。
「グランドツリー、板東鋳央沙捕獲任務、遂行しました。回収お願いします。それと、負傷者3人の手当の方もお願いします」
 僅かに震えた声で、オペレーターに任務遂行を告げた。
「了解しました。すぐに回収の者を派遣いたしますので、そこまでの切り盛りを宜しく願いします」
 恵が携帯を顔から離す前に、向こう側から通話を切った。
 不通音を3回ほど耳に入れ、やっと恵は携帯を離す。
 人の変わる時。
 何だかその一瞬だけ、その言葉を自分のものだと思えた気がする。そんな恵だった。

「あ、応急手当てしなきゃ!」

 パトカーの妙に間延びしたサイレンが、先程までの緊張感を和らげるようだった。そしてその座席には、手錠を掛けたボロボロの板東を乗せていた。
「えっと……啓助君、大丈夫なの?」
 僅かに俯き、顔を赤くしながら、恵は言う。
「ああ、頭にちょっと打撃を食らっただけだからな」
 啓助は頭に包帯を巻いただけで、他はあまり支障は出ていないようだ。しかし、恵には自分の応急手当がまともだったか、不安でたまらない。
 恵と啓助のやりづらい間に、タイミング良くユニオンの救護班が乃恵琉と麗華を運んで行く。
「「………」」
 救護班が去った後、結局同じ結果が待っていた。
「あー、あのさ、恵」
 沈黙に耐えられなくなったのか、啓助が頭を掻きながら話しかける。
「な、何?」
「良く倒せたな、あんなゴツイ奴」
 我ながら普通すぎる話題だな、と啓助は思う。
「う、うん。新しい武器が、役に立ってくれたから」
 言いながら、恵は『電磁干銃(ヘルツライフル)』の銃身を見つめた。
「そうか。まあでも、前より頼もしくなったな」
「ど、どうかな……」
 2人はそれぞれ微妙に視線をずらしている。合わせようと思っても、合うのが何だか恥ずかしいのか、磁石のS極同士が触れ合おうとしてはね除けるかのような光景だった。
「本当に安心して、背中預けられるって感じだな。これからも頑張ろうぜ!」
 恥じらいを振り切るようにして、動くことを躊躇(ためら)った首を無理に恵の方へ向ける。
 その時調度、恵も同じように顔を向けていた。
「う、うん!」

230ライナー:2011/11/23(水) 14:21:07 HOST:222-151-086-011.jp.fiberbit.net

30、危機は迫った

 何とか任務を成功させた啓助達(恵が成功させた)は、チームルームに戻っていた。
「簡単に手足を折られるとは、情けないです……」
 腕と足に、それぞれ片方ずつ包帯を巻き、松葉杖を脇に挟んだ乃恵琉が椅子に腰掛けていた。戦闘で眼鏡を割られたせいか、今日は眼鏡越しに見える緑の瞳がそのまま見えた。極めつけには、眼鏡がなくて髪を解かす余裕がなかったのか、旋毛の部分にアンテナのような寝癖が立っている。
「私なんてもっと最悪よ、姿さえ拝めなかったんだからね!」
 膨れっ面でご機嫌斜めな麗華は、乃恵琉と同様に椅子に座っている。しかし、その肩はガッチリと固定されていて、それは麗華の肩に怪我がある事を示していた。
 2人は重傷で暫く安静にしていたが、病室で使える体の部位を鍛えていたらしい。乃恵琉と麗華の2人はプライドが高かったため、余程負けが悔しかったのだろう。
 それを察しながら、啓助はユニオン隊員40人斬りなんだから仕方ねーよなー、なんて考えて、自分の登場の中途半端な悔しさを紛らわしていた。格好良く恵を守って、格好良く板東を倒せれば啓助にとって問題無いのだが、倒れてしまっては元も子もない。
「辻、苛つくから20回蹴らせなさい」
 突飛な言葉が啓助の耳に届く。いや、麗華ならば突飛ではなくこれが普通なのかもしれない。
 どちらにせよ、恵が戦闘状況を話し、その話の中で蹴りという言葉が多く使われていたためだろう。まあ、そう考える前に、麗華の両肩が使えないと推測する方が的を射ているだろう。
「苛つくのはカルシウムが足りていない証拠だ、牛乳でも飲んでろ」
 麗華は体の疲れとプライドの崩壊が限界に達したのか、それ以上何も言わなかった。
 無論、そんな麗華を気遣う余裕は啓助に残っていない。プライドを除けば、乃恵琉と麗華の2人の半分ダメージを負っているのだから。
「………」
 しかし、その会話が切れると、深海のような沈黙がチームルームを包んだ。唯一の音源、井上洋は、運悪く食堂でまだ食事をしているらしい。
「ただいま〜」
 暢気な声がチームルームの沈黙を救った。
 全員が静かなものだから、ユニオン所属直後のせっぱ詰まった空気に啓助は押しつぶされそうになっていた。
 一切会話がなかった恵もチームルームに居るには居るのだが、啓助との帰還途中で、一言も喋れなかったことが今に至った。
 啓助がホッと一安心すると、それを打ち消すように放送が入る。
 〜お知らせします。第3番隊B班所属の辻啓助隊員、20階研究室までお越し下さい、霞浦隊長がお呼びです。繰り返します……〜
「よ、呼び出しぃ!?」
 放送が終わる前に、啓助が叫びを上げる。
 いつもユニオンにいる時は運が無いな、と啓助は感じる。それに呼び出し人が第2番隊隊長霞浦と言うと、水中訓練以来だ。今でもあの姿が怖くてならない、薄紫色のショートカットという髪型、細い目の中に光る青い瞳……
 とにかく、乃恵琉や麗華よりも苦手意識に駆られて、疲れ切った表情で溜息が出てしまうほどなのだ。
「呼び出しですか。呼び出しと言えば、駄目隊員に説教をするためにしかやりませんが……」
 乃恵琉の言葉が啓助を駄目隊員と言っていることは、薄々啓助も感づいていた。それはそうだろう、啓助は今までまともに勝ちを収めたことが無く、やっと勝ちを収めたと思えば、それは自分のアビリティが暴走をしていたときのみなのだから。
 啓助は、恰(あたか)も行きたくないと言っている重たい足を動かして、渋々チームルームを出て行った。

 チームルームがある階は3階で、20階はとても遠い距離にあった。遠いと言っても、エレベーターを使えばそんなに時間が掛からないじゃないかと一見思う。しかし、不運なことに今日のこの時間帯はエレベーターの点検があると言うから面倒臭い。
 流石にユニオンで厳しい修行を熟していると言っても、17階の差は中々に辛いものだ。啓助は15階当たりまで全速力で走ったが、息が続かない。ビルなどより、ユニオンはそこまで甘くない。大きな敷地を利用しているために、ユニオン自体がそもそも大きい。そのため、階段の四角い螺旋も大きく、むしろ梯子で登っていきたいと思う人間もいるという話だ。
 行きたくないと言う感情よりも、もう持たないと言う感情が啓助の足を思わせる。
「つ、着いたーっ!」
 棒になった足で20階に着き、啓助は1人寂しく歓声を上げる。気分はもう、フルマラソン42、195キロメートルを走り終えたランナーのようだった。
 しかし、そのハイなモチベーションも、説教が待っているかも知れないと思い出すと、一気に右肩下がりに変化する。
 重たい足をゆっくりと手を添えて運びながら、研究室の方へ移動する。

231ライナー:2011/11/23(水) 16:28:00 HOST:222-151-086-011.jp.fiberbit.net

「(嫌だー、訓練生に降格とか言われたらどうするよ、俺!?)」
 本来、ユニオン正式隊員になるには、入団試験を受けて、訓練生になる。そしてある程度の成績で、正式なユニオン隊員になれる。その上には専攻隊、即ち特別専攻部隊というものがあるがそれは置いておいて。啓助は緊急時の入団で訓練生を飛ばして、いきなり正式なユニオン隊員になったのだ。事態が落ち着いてきた今、啓助が正式隊員になる確率は極めて低い。
 しかし、啓助が訓練生になりたくない理由は何なのか。それは今の訓練生の現状を見れば一目で分かる。
 訓練生はほぼ不良じみた者が多く、体も心も弱い奴は即パシリされるという噂が立っているからだ。
「辻、早くしなさい」
 啓助がそんな気持ちを過ぎらせていると、それを覚まさせるように第2番隊隊長霞浦の声が掛かった。
 初めて見る、青いラインの入ったゴアテックパーカーに硬い表情を見せながら、恐る恐る歩みに寄る。
「じゃあ、研究室の方で話があるから、入って」
 堅い動きをした啓助の背を押して、ゆっくりと研究室の方へ入って行った。

 中に入ると、研究室っぽく機械チックなイメージな部屋だ。啓助はその部屋の中をぐるりと見渡して、思い出した。確か綱板町付近の路地裏で、キルブラックの幹部に出会い、気を失って、目覚めたらこの研究室に居たのだ。
 思えば、何故あの時初めて入った研究室を出て、医務室に辿り着くことが出来たのだろうか。
「じゃあ、そこに座って」
 霞浦が勧めた席は、これまた機械チックなデザインで、座っているだけで何でもしてくれそうな便利グッズに見えた。
 啓助は言われた通りにその椅子に座り、テーブルを挟んで、霞浦と向かうように座る。
「突然だけど、貴方は『ディシャスアビリティ』って言葉はご存じかしら?」
 霞浦の澄んだ声は、戦闘部隊の隊長とは思えない様な声だった。
 しかし、それも啓助には恐ろしく聞こえ、緊張したまま言葉が耳に届く。耳に届いたのは良いが、言葉の意味自体啓助は知らない。『ミクロアビリティ』があるなら『ディシャスアビリティ』とは何の事だろうか。
 くしゃみが出る寸前のような、可笑しな疑問系の顔に啓助の顔が変形する。
「……知らないって顔してるわね。『ディシャスアビリティ』って言うのは『ミクロアビリティ』の一種で、異能の力が強いために、持ち主の体にも大きく影響するものなのね」
 霞浦は啓助用に分かりやすい説明をしたつもりだったが、啓助はあからさまに疑問符を浮かべていた。
 コイツは本当に日本人か、そう霞浦に思わせて、啓助はやっと分かったような顔になる。どうやら、言葉を理解するのに時間が掛かるらしく、それが階段のせいだと言うのは霞浦には知るよしも無かった。
 啓助はやっと頭で理解して、頭脳の整理が着くと、いつかの麗華の言葉を思い出す。

「アビリティは頭脳を持つとドンドン強くなっていくけど、宿っている体の免疫や身体能力よりも強くなると、その体を乗っ取ろうとするのよ」

 しかも再現された中で、「アンタは弱いからすぐ殺されるだろうけど」と言う毒舌も、啓助の記憶の箪笥(たんす)から蘇った。
「この間の検査で、貴方のアビリティが『ディシャスアビリティ』だと分かったの」
 霞浦がそう呟くと、啓助の座った機械チックな椅子から錠が出てくる。
「……ッ!?」
 啓助が声を上げたときは、肘掛けと椅子の足が啓助の両手両足を錠で縛っていた。
「悪いとは思っているわ。でも、貴方のアビリティ暴走すれば、ミクロアビリティの事で国家を揺さぶる事になる。そうならない内に、貴方のアビリティを抜き取る。つまり……」
 席から霞浦が立ち上がり、、指を鳴らす。
「死んで貰う」
 霞浦が言い終わると、啓助を繋ぎ止めていた椅子は、収納されるかのように下へ沈んでいく。
 考えてみれば不審な点が1つあった。

 何故、研究室で話す必要があったのか。

 そうだ、何で研究室で話す必要があったのか、話すだけなら会議室と言われる任務の会議をする場所でも充分出来たはずだ。何故研究室が必要か、それは、辻啓助という危険人物をこの世から追放するためだ。
 殺したくなくても、アビリティを抜き取る事で必ず死に至る。これは仕方がない事だったのだ。
 だが、啓助にとっては関係無い事では無い。自分の生死に関わるのだ。
 まさか偶然飲み込んだアビリティが、そんな危険なものだったなんて……
 啓助はそんな感情を乗せて、機械チックな椅子と共に床の下へ完全に沈んでいった。

232ライナー:2011/11/23(水) 17:09:49 HOST:222-151-086-011.jp.fiberbit.net
 〜 作 者 通 信 〜 
久々のオマケじゃない作者通信です(笑)
啓助君が今回かなりのピンチと言うことで、この後の展開にご期待下さい。
さて今回は、武器のことについてです。
今までに出た武器を挙げてみます。
 『電磁干銃(ヘルツライフル)』、『ナチュラルランス』、『エナジーボント』、『氷柱牙斬(つららげざん)』、『白鳥夢掻(しらとりむそう)』、『リモートユニット』、『ファイアブローム』
うーん、数えても7つと言うアビリティとのバランスの悪さ^^;
これからも武器の方も増えますので、よろしくお願いいたします。

233ライナー:2011/11/28(月) 16:59:13 HOST:222-151-086-011.jp.fiberbit.net

 チームルームでは、啓助以外の全員が、優雅なティータイムを送っていた。
 乃恵琉は、利き手である右手に包帯を巻いていたが、左手で器用にコーヒーを飲んでいた。
「やはり、ブレンドするものよりそのままの素材を楽しむのは良いですね」
「アンタさぁ、それ、私達が分かると思って言ってるの?」
 麗華は、呆れ顔をしながら乃恵琉に言う。
 それもそのはず、麗華はカフェラテを飲み、恵は砂糖を入れたレモンティーを飲み、そして洋は牛乳を飲んでいた。無論、牛乳と言っても生乳ではないので、3人とも「そのままの素材」ではない。
 隣の文句を、そんなこと張り合ってどうする、と反論したいのを押さえて、乃恵琉は時計に目をやる。
 啓助がチームルームを出てから、40分が経っていた。
 普通の説教でも、多くとも30分までと決まっていた。ユニオンでは時間がないため、そう定められていたのだ。
 30分に移動時間を加算しても、恐らく35分間しか掛からないだろう。啓助は、寄り道なんてする所がある訳ではないので、少し引っ掛かるものがあった。
「啓助君、少し遅いですね」
 何となくそんな話を持ち出してみる。たかが5分なのだが、啓助の場合、その5分が命取りになったりしそうだと考えた。
「な、何かあったのかな……」
 恵は時計に目をやって、何やらソワソワし出す。
 一方、麗華は動ぜず、カップの中のカフェラテを飲み干して言った。
「辻がどんなに不運だからって、流石にユニオン内ならどうにかなるでしょ。どうせ、ユニオンの通路で迷子になってるだけよ。迷子放送でも流しとけば?」
 すると、洋がアンパンの袋を開けながら言う。牛乳に、アンパン……まるで、張り込み中のベテラン刑事のようだった。
「食堂に寄ってるんじゃないかな?」
「それはアンタだけでしょ」
 麗華は洋に拳を向ける。と言っても軽くであって、今後の見せしめの様なものだった。
 緊張感があるような、無いような、そんな雰囲気のチームルームに声が掛かる。
「第3番隊B班の皆さん、良い情報を持っているんでやんすが、1000円くらいで買いやしませんか?」
 随分とユニークな口調が、チームルーム……いや、メンバーだけに聞こえた。
 その声は放送でもなく、またチームメイトの誰の声でもない。音源が見えないのだ。
「また、彼ですか……」
 乃恵琉が溜息を吐きながら言う。言い方からして、知り合いのようだ。
「あー、また面倒臭いのがやって来たわね〜!」
 麗華は少しキレ気味になっている。
 この音源不明の正体は、乃恵琉達がユニオンに入ってからの知り合い、柄井 君麻呂(からい きみまろ)。ユニオンの中では、「歩く掲示板」と称される少年。その名の通り、噂好きで様々な情報を持っている。知識的な所を除けば乃恵琉さえも超える情報持ちなのだ。
 そして、柄井のアビリティ、『テレパシー』という思考伝達能力で胡散(うさん)臭い宣伝をしている。
 特に金を掛けてきているのは、漏らしたくない情報で、取引によって成立する。
「君の情報は、今は必要としていません。帰って下さい」
「いや、帰るって言っても、アッシは自分の部屋で話しているでやんすからね。それに貴方達の今一番欲しい情報を持っているでやんすよ〜? 辻啓助の」
 柄井の言葉の最後で、チームメイト全員の目の色が変わる。
 これで確実となったのだ、乃恵琉の嫌な予想が。
「分かるでやんすよ〜、見えなくても知りたいというその気持ちがっ!」
 何かプロっぽい言い方を柄井は言い放つ。
 しかし、柄井の意見も一理あるわけで、今は否定したり、ツッコミをしている場合ではなかった。
「………」
 年下なのにと、イライラしている麗華を宥(なだ)めながら、乃恵琉は条件に応じた。
「良いでしょう」
「そうっこなくちゃあ!」
 『テレパシー』は声以外にも伝達するのか、指を鳴らす音が聞こえた。しかし、『テレパシー』は思考伝達能力。心の中で言っているようにしか思えないが、心の中で指を鳴らしていたとすると、少し痛々しく感じる。
「しかしです。情報に誤りがあった場合、メンバー全員で、ギッタギタのボッコボコにするので宜しくお願いします」
「ギッタギタって、どっかのガキ大将でやんすか!? まあ、話が分かる人達で良かったでやんす。一応緊急事態なんで、お支払いは後払いで結構でやんす。では、絶対に聞き逃さないで下せぇよ」
 チームメイト全員は、「緊急事態」という言葉に焦りを感じつつも、慎重に耳を傾けた。
「辻先輩は、今、20階の研究室にいるでやんす。しかし、アビリティの暴走を理由に、霞浦隊長に捕まり、アビリティを抜き取られようとしているんでやんす。つまり、辻先輩に待っているのは、死……。アッシの情報はここまででやんす。国家を優先するか、仲間を優先するかは皆さんの自由でやんすよ。では……」

234竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/12/03(土) 10:10:35 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp
コメント失礼します。

いやー、啓助君がかなりヤバイ状況ですな。
恵と洋は動くだろうけど、乃恵琉と麗華はどうなんでしょうね?
しかしツン九割増しの麗華のデレがちょい見てみたいなー((

続きも楽しみにしております^^

235ライナー:2011/12/03(土) 11:00:26 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
竜野翔太さん≫
コメントありがとうございます!

やばいですね、こっから啓助君がどうなるか楽しみにしていただけたらと思います。
麗華さんは怪我してますからね〜。
なるほど、ツン9:デレ1、参考にさせて貰います!

少し後半になりますが、第四章では、麗華の過去を書こうと計画しております!
さらに、出てきます、あのメイ……伏せておきましょう(笑)
これからも頑張りますので、宜しくお願いします。

236ライナー:2011/12/03(土) 14:27:07 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net

 柄井との会話は、音も無く切断された。
「ったく、私達より面倒臭いアビリティを背負っていたなんて! さっ、行くわよ……」
 麗華の活発な声調は、一気に静まっていった。
 何故なら、麗華及び乃恵琉の2人は大怪我現在無変化中で、ハードな動きは出来ずにいたのだ。
「れ、麗華、無理しちゃ駄目だよ。私が行く」
 そう言って、恵は椅子から立ち上がる。
 すると、一瞬恵の足が震えた。
「ッ……!!」
 前回の板東逮捕の任務で、恵は足首を怪我していたのだ。
「アンタも無理しちゃ駄目なんじゃないの、恵。でも、助けるって言ったって、辻はもうユニオンにはいられないって事でしょ?」
 麗華は恵から乃恵琉に視線を変えながら言う。
 そう、仮に啓助を助け出すとしてもユニオンに居る事は不可能となる。不可能となるどころか、指名手配とされて追い回されることも確かだろう。
「……しかし、助け出さなければどちらにも転がりません。ですが、僕や麗華達が行けないとすると……」
 乃恵琉、麗華、恵の3人は、揃って洋の方を振り返る。
「え、何?」
 状況が把握仕切れていないのか、洋はポカンとしていた。
「行けるのは、洋だけですか……」
 何か諦めたように、乃恵琉は呟く。
「アンタなら、自分の体を機械化させればバレないでしょ!」
 麗華は洋の胸座(むなぐら)を掴み、怒鳴りつけるように言った。
「お願いっ! 井上君、啓助君を助けてあげて!」
 恵は両手を顔の前で合わせ、泣き声が混じった声で言う。
 確定はしてはいないが、指名手配となると他のチームにも頼めないだろう。それもあって、最後の頼みの綱は洋だけだった。
「えー……でも、僕強くないし……」
 曇った表情で洋は言った。
 確かに洋自身は強くはない。しかし、洋(ひろし)の方は戦闘力に優れていた。ちなみに、洋(ひろし)はアビリティによる特殊攻撃を受けないと出て来ないというリスクもあった。
「今は、強さが問題ではありません。それに、僕達の中でも一番弱くても、一番潜入技術に優れているのは誰ですか? 『メター』のアビリティを持つ、君だけです」

237ライナー:2011/12/04(日) 19:55:33 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net

 31、鋼の心で

 洋は、ユニオンの通路をひたすら走っていた。
「(ボクがあんなことできるんだろうか……?)」
 走らせている洋の足は、戸惑いと迷いで、何度か立ち止まりそうになっていた。
 洋が乃恵琉達から命じられた任務は、3つ。捕らえられた啓助を救出する事と、啓助の剣『氷柱牙斬(つららげざん)』を受け渡すことだ。
 『氷柱牙斬(つららげざん)』は、洋の『メター』のアビリティを生かして洋の体内へと収納されていた。しかし、それは問題ではない。問題なのは、啓助をどう助けるかにあった。
 助けると一言言っても、啓助が今、どんな状況にあるか分からない。つまり、助けられるかどうかは、洋の実力以前の問題だったのだ。
 そうこう戸惑っている間に、洋は20階に来ていた。
 竦んだ足でここまで来られたのは、頭が呆然としていたせいだろう。
「うう……」
 洋の竦み掛けた足は、完全に竦んで動かなくなった。
 20階に着いた途端、乃恵琉達からの期待と言葉がプレッシャーに感じてくる。

 ―――笑って送り出せ。

 それが、第3番隊B班のチームメイト全員を背負った洋の3つ目の任務。
 沢山の不安が洋の全身を包み込み、これ以上進むな、と言う信号に変わってしまう。
「………」
 突然、研究室の方向から洋は目を背ける。
「……ゴメン」
 竦む足で回れ右をし、洋は手の握力を強めた。
 自分には出来ない、自分では力不足だ。そんな言葉が考えたくもないのに浮かんできてしまう。
 そして、洋は研究室から遠ざかった。
 洋は悔やんだ、自分の力が物足りないことを。
 自分の勇気が足らなかったことを。
 研究室から遠ざかり、5、6歩歩いたところで、洋は頭痛に襲われた。
「ッ……!」
「ボクが分かるかい? 洋」
 頭痛と共に、洋に声が掛かる。
 声が反響するように頭痛が強まるような気がした。だが、声の主の驚き、洋は体型に似合わないスピードで辺りを見回す。
「君は何故立ち止まった?」
 その声は、柄井の『テレパシー』でも、チームメイトの声でもなかった。
「……返事がないが、忘れているのかい? それとも頭痛が痛いのかな?」
 3度目の声で、洋は声の正体に気付く。

「―――洋(ひろし)だよ」

 そう、洋の中でもう1人生き付く存在、洋(ひろし)だった。
「君は今の状況から逃げるのか、洋」
 少し頭痛に慣れてきたのか、洋は僅かに頭を上げる。
「ぼ、ボクには無理なんだ。きっと、啓助を助けられずにみんなに恨まれる……」
「それは、啓助を助けなかった時も同じ結果になるんじゃないのかい?」
 言われて洋はハッとする。
「どうせ同じ結果なら、やって後悔しようじゃないか。今、君に大切なのは、君が啓助を助けようと思う気持ちじゃないのか!」
 普段、声を上げない洋(ひろし)が、信じられないほどの怒号を放った。
「君の勇気は、失敗したって認めてくれるさ。君、及びボクのチームメイトはそんなことで怒る人じゃないだろう?」
 怒号を放った洋(ひろし)が、今度は笑顔でも見えてきそうな声で洋に言う。
 ふと、洋(ひろし)の言葉が洋を変えた。
 やって後悔する。
 その言葉が、洋の背中を後押しした。仲間を助ける勇気と共に―――
「分かった、やってみよう!」
 そして、洋は乃恵琉達の言葉を再び思い出す。

 ―――笑って送り出せ。

238ライナー:2011/12/10(土) 16:22:23 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net

 洋は頭の痛みを堪え、20階研究室前まで来た。
「えーと、どうしたらいいのか……」
 無い知恵を絞って、洋は頭を悩ませる。考えれば考えるほど、頭痛も増していったが、今はそれどころではなかった。
「う〜ん……」
 時間がないというのに、暫く頭を悩ませていると、洋の思考に何年かに1度しかないくらいの電撃が走った。
 自慢げな笑みが洋の顔に表れると、洋は自分の体を綱変化させていく。
「歯車!」
 そう言って、洋は無数の歯車に化ける。洋の考えは、歯車に化け、狭い通気口を侵入しようと考えたものだったのだ。
 歯車と化した洋は、研究室に繋がる通気口から慎重に侵入した。
 通気口に入っていくと、微かに啓助の姿が見えた。
 啓助は何本ものカラーコードに繋がれており、その近くには霞浦が腕組みをして立っている。
「(うーん、霞浦隊長がいると面倒臭いなぁ)」
 霞浦は確かに面倒臭い。隊長達の中でも1位2位を争うほどの強さだったのだ。
 それに、洋の場合は1位2位を争う弱さだと言うから、面倒臭いでは済まないだろう。だが、ここはやはり洋の性格だからか、随分と暢気に聞こえるのが癪に障った。
 しかし、時間は無い。洋に残された選択肢は、戦う。それだけだった。
 洋は歯車に変化したまま、通気口を研究室側に飛び出す。
「ッ!? 誰!」
 霞浦は、鋭い目つきで洋に振り向いた。
 高い金属音を響かせ、歯車の洋は機械チックな床を転がる。
「こんな時に邪魔が……!」
 先の尖ったブーツで歯車の洋を蹴飛ばすと、霞浦は警報スイッチを強く押した。
 赤いランプが点滅し、甲高いサイレンが鳴り響く。
 歯車の洋は、霞浦に蹴飛ばされたものの、回転を続け、啓助の近くまで転がった。そして、歯車同士を繋ぎ合わせ、啓助に繋がれたカラーコードを契り取る。
「何なの、この歯車!」
 転がって行く歯車を忌々しく見つめながら、霞浦は両手の掌を歯車に向ける。
 すると、霞浦の掌から弾丸のような水が放たれた。
 しぶき雨のような音を立てて撃たれた水は、まるで射撃ゲームのように歯車を内飛ばしていく。
「うわっ!」
 歯車の全てが打ち抜かれ、研究室の隅に転がった。
「うっ……! ん!?」
 すると今度は、啓助がサイレンの音で目を覚ます。
「啓助、屋上へ逃げるんだ!」
 歯車の体をカタカタと動かしながら、洋は声を発した。
 啓助は、その声を一瞬で洋だと聞き取り、急いで研究室を出る。
 それを止めようと、急いで霞浦はその背中を追った。しかし、その動きは研究室のドアの前で止まった。洋が歯車の状態で、立ち塞がったのだ。
「クッ……! 貴方は一体誰なの!?」
 どうやら、洋の正体は霞浦にはバレていないらしい。
 洋は自分の正体を極力明かさないよう、黙って歯車同士を繋ぎ合わせた。
「……問答無用って訳ね。いいでしょう、ユニオンを襲ったらどうなるか、貴方に教えてあげるわ」
 霞浦は、洋に再び掌を向けた。

239ライナー:2011/12/11(日) 13:41:02 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net

 歯車の洋に、弾丸のような水が襲う。
「綱変化、鉄水車!」
 言葉と同時に、洋の体が歯車から水車へと変わった。
 水車の体は勢いよく回転し、飛んでくる水の弾丸を霞浦へ跳ね返す。
「クッ! 『メター』のアビリティね……!」
 霞浦は、両腕で自分の攻撃を防ぐと、今度は掌に水を溜める。
「{水回鋸(アクアチェーンソー)}!」
 掌に溜った水は、段々と流れを帯びて水で出来たチェーンソーのようになった。
 水のチェーンソーは霞浦の右手に宿り、まさに木を切るように、水車の洋に襲い掛かる。
 洋は水の刃が迫る最中、水車の形を崩していった。
「逃がさないッ!」
 しかし、霞浦は隙を逃さず、ガラス細工のように溶けていく洋の体に水の刃を食い込ませた。
「グアァッ!!」
 形にならない鉄の塊が、四方に飛び散る。
 すると、警報機のサイレンに呼び出された警備ロボットが、洋の周りを囲った。
「これで終わりよ」
 霞浦が右手を挙げると、それに合わせて警備ロボットが鉄の塊を回収する。
 鉄の塊と言っても、パラパラとした粉のような物ではなく、サッカーボールくらいの大きさを持つ重たい物であった。しかし、ユニオンの警備ロボットはそんな重さは関係無しに、洋の体である鉄の塊をショッピングカートのような籠に次々と回収してしまう。
「(ま、まだだ…… ボクは、もうあの頃のボクじゃないんだ……)」
 そう、それは洋がミクロアビリティと言う存在に初めて出会った頃だった。

 洋、11歳。
 この頃もまだ貧乏で、2ヶ月に一度、やっと溜ったお小遣いでおやつ代わりのラーメンを食べようと、ラーメン屋に立ち寄った時だった。
「フー、ラーメンラーメンっと!」
 腹を鳴らしながら、洋はラーメン屋の戸をガラガラと音を立てて開ける。
 いつもなら、入ってすぐに「へい、いらっしゃい!」と言う店員の元気な声が聞こえてくるのだが、店の様子がどうもおかしかった。
「ちょっと、お客さん! お勘定ないってんじゃ無いだろうな」
 カウンター越しに、ラーメン屋の店員は一人の客に何か言っている。
 そして、細い目つきで定員に睨まれている客は、額に汗を浮かべながらポケットに手を突っ込んでいた。
「あれー、おかしいのぉ。確かこの辺財布が……」
 焦りに焦っている客は、度の強そうな丸眼鏡を掛け、セーターの上から少し薄汚れた白衣を着ている。形振り構わない感じから、本物の科学者らしい感じだった。
「警察呼びますかぁ〜、お客さん」
 ジト目で店員は科学者らしき客に言う。
「あー! ちょっと待ってくれぃ! もうちょっと待ってくれんか! 気になる2人の関係を見届けるまで!」
「誰だそのカップル!」
「あの〜……」
 何だか無視されている感じがして、思わず洋は店員に声を掛ける。
「あ、いらっしゃい! ちょっと待ってて下さいね〜、警察呼びますんで」
「すまん! だから警察だけはやめてくれんか!」
「だったらどうすれば良いんだ、このエセ博士!」
 段々と、言い逃れる口論が悪口に変化していった。
「あの〜……」
 洋はもう一度、店員に声を掛ける。
「すいやせん! すぐに警察呼びますから」
「いや、そうじゃなくて、ボクが払うので〜……」
「「え?」」
 店員と科学者、2人の声が重なり、おかしなハーモニーを奏でた。

240竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/12/11(日) 17:41:19 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>

コメント失礼します。

ようやく洋が活躍し始めた……と思ったらいきなり危機的状況だし!
霞浦隊長が強いことがよく分かります。いや、洋が弱いだけなのk((

それと、僕から初めてだと思われるアドバイスがあります。
多分この作品の主要人物は啓助、乃恵琉、麗華、洋、恵の五人だと思ってるんですけど……、洋だけ過去話が展開されてますよね?
普段出番がないので、活躍する場面で盛り上げるのはいいと思いますが、他のキャラも過去話を混ぜた方がいいかと……。
単に見落として説明しているかもしれませんが、例えば、お嬢様の麗華がユニオンに入るきっかけだとか。
洋だけ、二回目の過去話ですし……。
出来たら他のキャラのも見てみたいな、という一読者としての意見です。
やるつもりだったのなら、申し訳ありませんが、参考までにしてくれたらありがたいです^^;

241ライナー:2011/12/11(日) 18:42:46 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
コメントありがとうございます!

竜野翔太さん≫
まあ、用はヘタレの中のヘタレですからね^^;
霞浦隊長、言うの忘れましたけど、『アクア』のアビリターなんですよね。まあ、洋は弱いな。

久々のアドバス、有り難いです!
そうなんですよね、洋だけ過去2回目なんですよね〜。
1回目は、洋がユニオンに入った理由がなかったので、今回少し……それとこれからメンバーチェンジの都合で出番無くなると思うのでやってみた次第です。
麗華に関しては、ラフに既に過去編を書いているので、楽しみにしていただけたらと^^
ちょっと早すぎるかな、なんて思いながら進行していたらホントに過去編少ないですね、気を付けたいと思います。
アドバイスありがとうございました!!

242名無しさん:2011/12/12(月) 08:35:29 HOST:wb92proxy14.ezweb.ne.jp
エアロさん
これからもめげずに頑張って下さい
大人は辛いね。

243ライナー:2011/12/17(土) 11:11:56 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net

31、鋼の心で 〜Ⅱ

 ラーメン屋の戸を妙なコンビが潜り、外を出る。
「いやー、お世話になった。お礼と言っては何じゃが、これを」
 科学者らしき人物は、白衣のポケットから1本の試験管を取り出し、洋に渡した。
 試験管と言うより、渡したいのは試験管の中身だろうが、その中には銀色をした妙な液体が入っていた。
「あ、どうも……」
 洋は辿々しく言いながらも、試験管を受け取る。
「この液体は水銀ではないから、飲んでも大丈夫じゃ。と言うより、飲んで作用するもんじゃ。困ったときにお使いになりなさい」
 白衣のポケットに手を突っ込むと、科学者らしき人物は洋の前を去っていった。
 受け取った試験管を見ながら、何か、藁しべ長者が悪い方向に物を受け取っていくような感じを洋は感じた。
 木枯らし吹く中、とりあえず、することもないので洋は家へ帰る。

 家に帰ると誰も居らず、洋はそのまま自分の部屋へと向かった。
「……水銀って何だっけ?」
 部屋の色あせた畳の上で、胡座をしながら考える。
 無理もないだろう。水銀なんて中学校で習う内容であって、小学6年生の洋には知るよしもなかった。それに、もし洋が中学校に入って理科の授業を受けていたとしても、洋だから覚えているはずもない。
 瞬間、洋の腹の虫が鳴く。
「………」
 ゆっくりと洋は立ち上がり、台所へと足を運んだ。そして、台所の棚の中や引き出しの中を色々と漁ってみる。
 しかし、食べられるものは1つもない。
 今度は、冷蔵庫の方へ糸に引かれるようにして、足を運んだ。
 冷蔵庫の戸を開けてみると、その中はとても殺風景で、めんつゆやマヨネーズ、マーガリンと言った調味料系の物しか置いていない。
 それもそのはず、今、両親が出かけているのは今週1週間分の買い物をしに行っているからだ。
 いくら洋が大食いだからと言って、マヨラーがマヨネーズ単独で食(しょく)すような調味料単独で食べられる人間ではない。
 洋はその場に凍り付いた。
 まるで、山で遭難して食糧が尽きてしまった登山家のように。
「………」
 思わず洋は、手に握った試験管に目が行く。

「この液体は水銀ではないから、飲んでも大丈夫じゃ」

 科学者らしき人物の言葉が、洋の頭を過ぎった。
 ちなみに、冷蔵庫の中では飲み物さえもなかった。水道で水を飲んでも良いのだが、この寒い季節、飲んだら腹を冷やすのは目に見えている。
 洋は試験管の蓋を開け、匂いを嗅いでみた。
 特に、それと言って独特な匂いも、刺激臭もしない。
「いただきます」
 躊躇うことなく、銀色の液体は、洋の体内に吸い込まれていった。

244ライナー:2011/12/17(土) 12:14:19 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net

「ッ!!」
 銀色の液体は、洋の舌に触れると、辛さとは違う痛覚を感じさせた。
 あまりの痛さに、洋は咳き込む。
「ゲホゲホッ! 今までにない味覚だ〜……って、毒じゃないよね……?」
 洋はその場に固まり、唾を呑んだ。
 体に変化は―――無い。
 ホッと息を吐き、洋は台所に床に大の字になって寝そべった。
「ハァー! 飲んだは良いけど、水だけじゃやっぱりお腹空くな〜」
 長い溜息と言う余分な二酸化炭素が、洋の口から出ていく。
 すると、何やら右手に違和感があるのを感じる。何か重いような感じだ。
 寝そべったまま、右手の方へ顔を向ける。すると、向いた先には右手ではなく、包丁が落ちていた。
「こんな所に包丁置きっぱなしなんて、危ないコトするな〜」
 ヤレヤレと思いながら、視界に少し外れているであろう右手を動かす。それと同時に、包丁が右手の動きに合わせて移動した。
「?」
 包丁は手品を見ているように動いているが、右手は見えない。
 洋は、恐る恐る自分の右肩から腕を目で辿ってみた。
 肩、腕、手首、包丁。
「………」
 一部何かが違っている。手首の上は、確か手のはずだ。洋だってそのくらい分かる知能は持っていた。
 目を擦って、もう一度やり直してみる。
 肩、腕、手首、包丁……
 さらに目を擦り、手首からやり直す。
 手首、包丁。
「ホウチョウ……包丁!?」
 驚いて、洋は上体を起こす。自分の右手が包丁になっているのだ。
 慌てふためいた洋は、右手を大きく振る。だが、その程度の事で当然の如く右手は変わらない。
「初めまして」
 右手が包丁と化し、慌てふためく中、頭痛と何者かの声が洋に聞こえた。
「だ、誰……」
「すこーし頭痛がするけど、ちょこっと我慢してくれ」
 何やら陽気な口調が頭に響く。洋からすれば、喋らなければ我慢してやると言った立場だろう。
 これが、洋と洋(ひろし)の出会いだった。
 洋は洋(ひろし)から、包丁を右手に直すやり方を教わり、何度か失敗してハンマーやドリル、扇風機や電子レンジなどに変化しながらも、なんとか右手に辿り着いた。
「とりあえず、頭痛いから喋らないでくれるかな〜……」
 洋が正体も分からない相手に下手(したて)に出ながら、交渉する。
 言われた相手は、最後に大きい返事と大きい洋の頭痛を残して、声だけ去っていった。
 それからというもの、洋が出掛ける先々で洋(ひろし)は洋の中に現れた。
 そして、洋が洋(ひろし)を追い出す理由として、洋(ひろし)という名前が自然に付いていった。

 ある日、洋はいつものように空腹を紛らわすために外に出掛け、いつものように洋(ひろし)が出てきた。
「い、痛いんだけど」
「まあ、そう言わないでくれって」
 洋(ひろし)の一言一言が、洋の脳天に響く。
 そして、ある人間が洋の前に現れた。
「ユニオンで働いてみませんか? 貴方、アビリターでしょ」
 その人物は帽子を深く被り、顔を隠していた。その人物は名刺を差し出し、洋はそれを受け取った。
 アビリターユニオン。
 そう、記されていた。洋は何となく、こんな体質の自分を認めてくれる場所が欲しかった。それと同時に、もう親に迷惑は掛けたくなかった。
 そんな気持ちから、洋はユニオンに入った。

245ライナー:2011/12/18(日) 15:47:32 HOST:222-151-086-008.jp.fiberbit.net

 それからというもの、洋はユニオンの中で落ち零れになった。
 しかし、訓練生に成り下がることはなく、崖の上を何とか踏み留まっている感じだ。
 それというのも、同じチームメイトのお陰で、任務を共にすると足ばかり引っ張るが、とりあえずやるだけやっていた。
 任務をクリアし、忙しい毎日を続けていく度に洋(ひろし)からの応答は少なくなり、いつしか消えていた。
「洋、アンタってたまに変な格好になるわよね」
「え?」
 麗華の言葉、これが気付く切っ掛けだった。

 ―――洋(ひろし)が、自分の体を使っている事。

 次第に洋は、洋(ひろし)になった時でしか使われなくなった。まるで、時代の移り変わりと共に捨てられていくブラウン管テレビのように。
 そして、洋にはこんなあだ名が付いた。
 最弱力士。
 力士、と言うのも見た目の通りで、遠回しにデブと言っているに等しかった。
 しかしながら、今は違う。
 確かに最弱かも知れないが、気持ちが違う。

「(絶対に……勝つんだ!)」
 瞬間、警備ロボットが危険を知らせる赤ランプを照らす。
「何……?」
 警備ロボットは異常な動きを見せ、黒板を引っ掻くような高い音を出した。
 赤ランプが消えると、警備ロボットはガラス細工のようにドロドロと溶け出す。そして、銀色の塊と化すと、4つに分かれた警備ロボットの残骸は、1つの銀色の塊になる。
 霞浦が、呆気に取られ体を怯ませていると、その銀色の塊はなめらかなラインをガッチリとした堅いラインに仕上げていた。
「綱変化、大鎚(おおづち)!」
 言葉と同時に、巨大な金槌がユニオンの通路擦れ擦れまで膨れ上がる。さらに、金槌は霞浦の周りに大きく影の縁を作った。
 咄嗟に、霞浦は躱そうとする。
「ッ!!」
 しかし、動かそうとした足は鉄の錠に繋がれ、身動きが出来ない。
 ―――金槌は、半円を描くように振り下ろされた。

 アビリターユニオン、南雑舎屋上。
 啓助は、行き場を失い、敵となった複数のユニオン隊員に取り囲まれた。
「(何してんだ、洋の奴……!)」
 そう思っていると、隊員の列の後ろで悲鳴が聞こえる。
 目を凝らして啓助は見てみると、直径170センチメートルくらいの鉄球が転がり、隊員達を蹴散らしている。その姿は、あたかもボーリングのピンを倒しているボールのようだった。
 その光景が見えた途端、啓助は分かった。
「(遅いぜ、洋……!)」
 鉄球はそのまま、啓助以外の人間を押し潰したり、跳ね飛ばしたりして、全ての隊員達を倒していった。
 一仕事終わると、鉄球は啓助の前にゆっくり転がり、洋の姿に戻る。
「啓助、君の剣」
 言いながら、洋は自らの体から針を抜くように剣を抜き出した。
 啓助にとっては、いつ見ても痛々しい光景だ。
「おう、サンキュウな」
 先程までコードに繋がれていた腕を必死に持ち上げ、自分の剣『氷柱牙斬(つららげざん)』と受け取った。
「言わなくても分かるだろうけど、君は自分のアビリティをどうにかしないと、ユニオンには戻れないみたいだね」
 洋に発言に、啓助は剣吊り帯を肩に掛けて、そうだな、と一言返した。
「どうなるか分からねぇけど、みんなには必ず帰ってくるって、第3番隊B班のチームルームに帰ってくるって、言っておいてくれ」
 そう言い残して、啓助はユニオンの壁を擦るように降りていった。
 見送りながら、洋は呟いた。
「絶対に戻ってくるんだよ、啓助…… 鋼の心で」

246ライナー:2011/12/18(日) 15:56:35 HOST:222-151-086-008.jp.fiberbit.net

  〜 作 者 通 信 〜
 不規則恒例、作者通信でございますm(_ _)m
 啓助君がついにユニオンを離れましたね。さて、ここからどうなる事やら……
 そして、洋の過去編。これで終わりですよ!
 しかし、洋の過去が2回も公開されているのにも関わらず、他は全然出てないし……と言うことで企画させていただきました!
 メインキャラクター全員、過去編2回お送りいたします!
 これはフェアに、と考えたものですので、駄目出しあったらお願いします^^;

 これからの進行ですが、啓助君は2人の仲間を従えて(?)逃亡生活、ディシャスアビリティ習得に励みます。
 そして、2人の仲間とは今までにストーリー出てきたキャラクターですよ〜。

 ではではwww お楽しみにw

247竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/12/18(日) 16:46:06 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp
コメントさせてもらいますね!

洋が来たってことは霞浦隊長はどうなったことやら。
まさか、洋が勝ったのか!?いや、僕は霞浦隊長を信じまs((
おお、過去編やってくれるんですか!
自分的には麗華と恵が何故ユニオンに入ったか気になります!

にしても、啓助君大丈夫か((
今までまともに勝った事ないのに、一人とか不安すぎるよ……。
二人?もしかして、水野家のメイドと執事だったりしt((

続きも頑張ってくださいね^^ノ

248ライナー:2011/12/18(日) 17:18:59 HOST:222-151-086-008.jp.fiberbit.net
竜野翔太さん≫
コメントありがとうございます!
このパターンは、洋勝っちゃいましたね。
霞浦さん、ユニオン強さ1位2位を争う人のレッテルが剥がれt((殴

過去編はすぐに、とは行かないかも知れません^^;
ですが、恵はともかく(いや、ともかくでいいのか)麗華はもうラフに書いているので、もう少しで書けると思います!

啓助君、これからもまともな勝ち方しないと思います(笑)
不安ですよね〜、次のレスにすぐさま書いちゃいますよ!
1人は当たっt((殴
さて、忘れられているかも知れませんが、奴が仲間になりますよ〜!!

ではではwww

249ライナー:2011/12/18(日) 19:10:54 HOST:222-151-086-008.jp.fiberbit.net

39、橙桜のスイーパー

 少し乾いた荒れ地を蹴りながら、啓助は逃げていた。
「(チッ、まだ追って来やがる!)」
 啓助の走る何メートルか後ろでは、3人のユニオン隊員が啓助を追っていた。
 壁を伝ってユニオンを降りた啓助は、降りた早々に追われて今に至るのだ。
 ちなみに、何故荒れ地を走っているか言うと、ユニオンは科学研究を行われると同時に、戦闘訓練を行う場所だ。そのため、なるべく住居や人々に爆発などの被害が及ばないよう、人里離れた荒れ地に住所が置かれているのだ。
 しかし、荒れ地と言うことは、見晴らし抜群で障害物はほとんど無い。啓助はどうしても振り切ることが出来ないのだ。
「ンナローッ!!」
 叫びながら、啓助はさらに足を速める。
 ユニオンに来てからというもの、体力が著しく向上して行くのは感じられた。もちろん脚力もその1つなのだが、あっちもあっちで同じかそれ以上の訓練をしているので、全く差が開かない。
 息が荒く、限界に達しそうになる啓助の前に、幸運と思えるものが現れた。
「ま、街だ!」
 その街はレンガ造りの建物が多く、ロシア辺りの風景に似ていた。
 ともかく、街に入れるのはラッキーだ。街の十字路を上手く工夫すれば、何とか撒けるかもしれない。
 しめしめと思いながら、啓助は街の入り口へ入った。
 ユニオン隊員の3人も列を作って、啓助を追っている。
 1人、また1人、十字路を利用した逃走は成功していった。
「(最後の1人か……)」
 啓助は後ろをチラリと見やって、相手の様子を伺う。相手は少し余裕そうだ。スピードを落とすでもなく、上げるでもなく、あちらもこちらの様子を伺っているように見えた。
 これはすぐには撒けなそうだな、啓助はそう思いながら、目線を前へ戻す。
 すると、目の前にドームのような大きな建物が見えた。
 何かのコンサートでもあるのか、と思いながら、啓助は逃げるためにその建物に入って行く。流石に建物の中と言えば、中が複雑になっていて逃げやすいのは確かだ。出入り口に待ち伏せしていても、非常階段などの逃げ道もある。
「(よし、このまま……!!)」
 人混みを押し退けて、啓助は走る。
 暫く走り続け後ろを振り返ると、ユニオン隊員はもう追っていなかった。
 心の中でガッツポーズを決める啓助。しかし、胸の前で握った拳は何やら異様に光っていた。
「?」
 突然、白い光に包まれた。
 視界が完全に遮られ、慌てふためく啓助に白い光は消えていった。
 目の前に広がった光景に、啓助はただ立ち尽くすしかなかった。
 先程居た、あの人混みのある場所ではない。
 足下には大理石の床が敷かれ、その上にはレッドカーペットが真っ直ぐに敷かれていた。
 辺りを見渡せば、立派に彫刻された柱や、純白の壁紙を貼ってある壁が見える。
 まるで、中世ヨーロッパの侯爵辺りの屋敷ではないか。
 屋敷なんて、麗華救出以来だなと思いながら、啓助は本題に入る。
「(ここはどこだー!!)」
 かなり不審に思いながら、啓助は心の中で叫んだ。
 すると、不意を突くようにアナウンスが入る。
『次の挑戦者はこの方でーす!』
 挑戦者? アナウンスの向こうに、疑問符付けて言ってみた。
『改めて、説明させて貰います。ドームロワイヤル!』
 何だかとてもハイテンションな奴だ。啓助はそう思う。
『ドームロワイヤルのルールは至って簡単! ランダムに選ばれたドーム内の選手が、1対1で戦う勝ち抜き戦ダー! 現在の記録保持者は42勝目の神宮寺麻衣選手ダー!」
 鬱陶しいな、と思うがそうも思っていられない。
 面倒臭いところに忍び込んでしまったのだ。恐らくここから抜け出すには、負けるか勝つかどっちか。
 時間がない中、啓助の目の前に人影が現れる。
 それは1人の少女だった。
「アレ? 久しぶりだね、癖ッ毛君!」
「お、お前は……!」

250ライナー:2011/12/18(日) 19:47:06 HOST:222-151-086-008.jp.fiberbit.net
訂正です^^;
249≫の 39、橙桜のスイーパーですが、39でなく32です。
粋な死飛びまくって済みませんm(_ _)m

251ライナー:2011/12/18(日) 22:28:59 HOST:222-151-086-008.jp.fiberbit.net

 啓助は見覚えがある。
 随分前だったが、あることが鍵になって、次々と記憶の扉をこじ開けていく。
 まず最初の鍵となったのは屋敷、麗華の屋敷以来だな〜と思って―――
「思い出した! お前、あの時のメイドか!」
 啓助に指さ差されると、少女はウンウンと首を上下に動かす。
 この少女は、かつて麗華救出に出向いた時、巨大な炎の箒を持って乃恵琉と戦ったメイドだったのだ。
「ホント、久しぶりじゃまいかー! それとアタシは、神宮寺 麻衣(じんぐうじ まい)という立派さんなお名前があるのら」
 神宮寺麻衣、と名乗った少女は、相変わらずのメイド姿で、そのメイド服の胸ポケットにはオレンジの桜の花弁が刺繍してあった。そして、頭にはカチューシャと一見見間違えそうな髪に隠れたヘッドホンが付けられている。
「……とりあえず、俺は速いとここっから出なきゃいけないんだ。痛いの嫌だから倒れてくんない?」
「もちろん無理だお」
 当然の答えが、啓助の心に矢を刺した。
「説明しよう、辻啓助は今までまともに勝利したことがないのだ」
「どっかの必殺技説明してるナレーションみたいに言ってもダメだお」
 啓助、全身全霊を費やした土下座モードに移行する。
「お願いしますッ!」
「ダメだお」
 分かってはいるのだが、麻衣の語尾である「だお」がとても気になる啓助だった。そして、同時にとても苛つく。
『おーっと! 飛び込み参加の選手が土下座を始めているぅ!』
 極めつけには、とんでもなく格好悪いところを実況されている始末だ。恐らく、会場内は笑いの嵐だろう。
 しかし、名を名乗らなかったのは正解だろう。あまりにも恥ずかし過ぎる。
「分かった、倒れるのは男として許せないから、絶対に倒してやる」
 何かを諦めた啓助は、背にある剣の柄に手を掛ける。
 麻衣も麻衣で、後ろ腰に鉄骨のようなものを刀みたいに差しているようで、同じく手を掛けていた。
 啓助が剣を抜く前に、素早く麻衣が動き出す。
「ッ!!」
 そのまま、啓助は反応しきれずに腹部に衝撃を走らせた。
 衝突のためか、大理石の床から土煙が上がる。
「今度は、メイドらしく箒じゃないのかよ……」
 土煙が晴れると同時に、啓助は呟いた。
「だってさ、緑目眼鏡君がさ、箒の箒草切っちゃったからさ、使えなくなっちゃったんだもん!」
 何やら半泣きの様子で、麻衣は言った。緑目眼鏡君とは、恐らく乃恵琉の事だろう。
 さらに、麻衣が片手に持っていたのは、鉄骨のような大きさの扇だった。
 八つ当たりでもするように、麻衣は扇を開き、力強く扇を仰ぐ。
 すると、そこからは大風が吹き、再び啓助を吹き飛ばす。
「うわたッ!」
 大の字に回転しながら、純白の壁紙を貼った壁に、啓助は背を打った。
 相手は以前よりも実力が上がっている。啓助はそう思った。
 啓助は直接乃恵琉の勝負は見ていないが、最初にあったときと、同じ重量級の武器を扱うスピードが違う。
 何とか状態を立て直そうと、啓助は壁を蹴って麻衣へ跳び掛かった。
「『風華乱扇(ふうからんせん)』で〜、敵をお掃除ッ!」
 麻衣は、『風華乱扇(ふうからんせん)』と名の付いた扇を振り上げ、さらに風を吹き付ける。
 扇の起こした風は、その場の景色を歪め、床を滑空するように啓助に吹き付けた。
 跳び掛かったのにも関わらず、啓助はビデオの巻き戻しをするように再び壁へ叩き付けられた。
 風だというのに殴られたような痛みが、啓助に残る。
「掃除っつうより……」
 大理石の床に足を付け、啓助は走り出した。
「埃、撒き散らしてんじゃねーか!!」
 叫びと一緒に、鞘から抜け出た剣の切っ先が、水に浸けるように大理石の床に刺さる。
 切っ先からは、水か漏れるように氷が生まれて、吹き付ける風を防いだ。
 氷の壁が突風を2手に分け、啓助の肩ギリギリを殴りつけるように吹き抜ける。
「ホントだ! 埃が残ってる!」
 麻衣は、啓助を指さしてバカみたいに驚いていた。まるで、手品を初めて見た子供のように。
「誰が埃だコノヤロー! 今度はこっちの番だ、覚悟しろ!」

252ライナー:2011/12/23(金) 18:48:55 HOST:222-151-086-004.jp.fiberbit.net

 意気込んだ啓助は、床に刺さった剣を抜き、睨み付けるように構えた。
 そして啓助は、さながら居合い斬りの如く素早い足取りで、麻衣に接近して行く。
 麻衣の目の前まで走った啓助は、相手の表情を一瞬伺った。
「(笑ってやがる……!)」
 距離が数センチしかない状況で、面白げな笑みを麻衣は浮かべていたのだ。
 その感嘆符を怒りに、そして怒りを力に変えながら、氷を纏わせた剣を一気に薙ぐ。
 氷柱のような刀身は、大きい円の半円を描くように綺麗に回り、麻衣の体に直撃した―――ように思えた。
 『氷柱牙斬(つららげざん)』の刀身は、半円を描く前に止まる。
 何故なら、その前に麻衣の扇の要(かなめ)が、啓助の腹に食い込んだからだ。
 扇の要は大きく突き出ていたため、背と腹が触れてしまいそうな程の衝撃を与えた。
「グハァッ!!」
 驚愕の叫びと共に、啓助の口から滲むような赤が飛び出る。
 信じられないほどに啓助は撥ね飛ばされ、僅かな回転を見せて宙を舞った。
「勝負はまだまだ〜……」
 突き出た要を掴み、麻衣は素早く扇を開く。
「これからなのら!!」
 そう言葉が放たれた途端、勢いよく扇が振り上げられた。それと同時に、先程と同様、景色を歪めるように突風が吹き荒れる。
 ゴゥッ、という激しい風声が啓助の体を通り抜け、単調なエオルス音を奏でた。
 宙に飛ばされていた啓助は、音と同時に突風の波に呑まれ、押し付けられるように壁へと叩き付けられる。
「グッ……!」
 勢いよく背を叩き付けられた啓助は、力が抜け、床へと大きく尻餅を付いた。
「まだまだだね〜、癖ッ毛君。これでもまだ本気じゃないおー?」
 広げた扇を畳んで、扇を鉄骨のような状態に戻す。
「俺にはちゃんとした名前があんだよ……!」
 啓助は震える足を押さえながら言った。
「辻啓助って名前がなぁ!!」
 次の瞬間、啓助が力強く剣を振るう。そうして半円を描かれた空間からは、矢が放たれるように氷柱が飛び向かった。しかし、その氷柱は啓助の体力もあって、放たれたのはたったの2本だった。
 氷柱は空気を切り裂くように麻衣に飛び、2本あった氷柱は1本は麻衣の頬を切り、もう1本は腕を襲った。
「アウッ!」
 麻衣は思わず悲鳴を上げる。その瞬間、剣の柄頭が麻衣の鳩尾で落石のような打撃音を響かせた。
「ヒアァッ!!」
 くぐもった反響を残すようにして、再び高い悲鳴が続く。
 大きめの武器を使うにしては随分軽く、ドミノ倒しでもするように即座に倒れた。しかし、麻衣はそれを上手く利用し、床にバウンドした反動で飛び上がり、軽やかに着地する。
「……フゥ。侮ってたー、やっぱり油断は良くないね」
 麻衣は氷柱によって傷付けられた頬を服の袖で拭き、大きく扇を振り上げた。啓助の素早い追撃は、全く持って効いていないような元気が溢れているように思えた。
「やるじゃねーか、鳩尾に食らってすぐに立ち上がれるなんてな」
 啓助は剣を逆手持ちから、通常の持ち方に握り直す。
「そりゃそうだお、戦うメイドだもん。んじゃ、次で終わらせちゃうよーん!」
 そう言うと、麻衣は振り上げた扇を開き、頭上で扇風機のように回し始めた。しかし、回しているのは傷が付いていない方の手で、腕にはしっかりダメージを受けているようだった。
 啓助は、相手がそんな状態だと分かっていても、麻衣の余裕の笑みが同情を一瞬にして吹き飛ばした。
 そして一気に足を踏み出す。
 ―――ゴゥッ
 再び風が吹き荒れ、啓助の足を押し返すように吹き付けた。
「(な、何だこの風圧は……!!)」
 麻衣の掌では、扇がスピードを上げて回転している。恐らく、あそこから吹き付ける風が啓助を押し戻しているのだろう。
 にしても、方向が外れているにも関わらず、この風圧は中々に強い。そんな考えを巡らしている内に、危機は迫ろうとしていた。
「これでお仕舞いだお、{花乱吹(はなふぶき)}!!」

253竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2011/12/23(金) 19:55:46 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
コメント失礼いたします。

おー、ついに待望のメイドさんが再登場だー!
こっから乃恵琉達の出番が減りそう……
もう一人の仲間は……一人思い当たってますが違う可能性が大((

こっちから恐縮ですが、アドバイスです。
メイドさんの口調についてなのですが、『〜だお』『〜のら』といった可愛らしい口調ですよね。
とてもいいと思うのですが、初登場時は語尾を伸ばす、という口調になってます。
口調を変える、というのは個人的な意見になりますが、あまり好ましくないかと。
口調や語尾、口癖などの話し方に関する特徴は人柄を表すものと思っているので、口調を変えてしまうと、人柄も変わってしまうように思えます。
まあ、あくまで個人的な意見ですので……。

254ライナー:2011/12/23(金) 22:22:38 HOST:222-151-086-004.jp.fiberbit.net
竜野翔太さん≫
コメントありがとうございます!
まあ、乃恵琉達はしょうがないです。でも、最後の方は少し出ますよ^^

それなんですが、メインキャラに無理矢理の方向転換があったので、この口調はインパクト弱いかな?と思って変えました。
でも大丈夫です。とりあえず発動回数は少ないかも知れませんが、それも入れるので。
まあ、でも、いきなり語尾をここまで変化させるのはまずいですよね……
そして語尾を変えることで何か幼く見えちゃうし……

アドバイスありがとうございました!これからも宜しくお願いします! <(−A−)ビシ

255ライナー:2011/12/24(土) 14:11:40 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net

 麻衣の頭上で回転させられた扇は、床から水平な状態から、啓助の方へ少し倒されるように傾けられた。扇からは、波紋を描くように風が放たれ、橙の花弁を中で渦巻かせながら啓助を襲う。
「ッ……!!」
 拳のような風が啓助を殴り付け、弾丸のような花弁がそれに続いた。
 風と花弁に対し、前のめりになって踏み止まろうとする啓助。しかし、踏み止まるどころか、花弁という追加攻撃が加わったせいで前を見ることさえも儘(まま)ならない。
「負けるかッ!」
 吹き付ける風に押し出されないよう、啓助は風が届かぬ位置へ跳んだ。
 突風の域から脱出し、何とか上手く着地したものの、麻衣は再び啓助の方に扇を傾け、追撃を試みる。
「さーてさて、そう簡単には逃げられないおー」
 風に乗せられた橙の花弁が大理石の床に窪みを付けながら、啓助の方向へ微調整されていった。
 それを反復横跳びのようなステップで躱す啓助は、最後のステップで大きく間合いを取る。そして、その右手には冷気が溜った剣が握られていた。
「逃げられねぇなら、押し合いだ! {凍突冷波(とうとつりょうは)}!」
 啓助は向かってくる風を見切りながら、剣の刀身を向ける。切っ先が風と向かい合うと、そこからは大量の冷気が一直線に放たれた。
 辺りの空間を引き裂くような風音が、部屋全体を包み込む。
 こうなれば、全ては力に差に委(ゆだ)ねられる。
 啓助の方はアビリティなので、アビリティを存分に使えばそれを持続させればいい。それに比べ、相手は扇という武器、それに風を扱うとなると、風を起こすために何度も扇を回さなければならない。体力的に考えても、啓助の方が圧倒的に有利だと言えた。
「(俺の勝ちだ……!)」
 調子付いて、啓助は一層剣に冷気を込める。
「うんうん、冷たい風って訳のら?」
 勝利を自覚した啓助の考えとは裏腹に、麻衣は随分と余裕だった。
 往生際の悪い奴だ、啓助はそう思う。だが、その考えはある出来事によって一気に裏返された。

 ―――冷気が押されている。

「ナッ……!!」
 啓助は、驚愕の光景に言葉失った。そして、この時気付いていなかった。
 確かに、体力的には啓助は男だし、ユニオンでの鍛錬は怠ったことがないので(怠るとトレーニングメニューを追加されるから)麻衣よりは強いはずだ。だが、冷気と風、これは相性が悪かった。
 【フリーズ】を持つ啓助は、冷気を放つことは出来る。しかし、冷気を起こすと言うだけで、勢いがセットで付いてくるわけではない。つまり、剣を振るいながら勢いを付けなければ、攻撃力はだいぶ手薄になってしまうのだ。
 今まで剣を突き出しながら技を放っていたが、麻衣の風はその暇を与えなかった。そのため威力が激減されたのだ。
 その威力を激減された冷気は、割れる風船のように消え失せ、突風が床に切れるを走らせながら啓助に重なる。
「グアァッ!」
 逃げ場のない攻撃に、啓助は咆哮のような悲鳴を上げた。
 相手の風はあまりにも強すぎた。何故なら、大理石の床に亀裂を走らせるなど、風力階級でも9以上の風でしか出来ない事だったからだ。
 風力階級が9というのは異常なことで、テレビなどでまれに見る大型扇風機でも最高の風力階級は7。つまり、科学的に起こせる風力を超えた風が今、啓助の目の前で起こされていたのだ。
 四方から殴り付けるような突風にプラスされて、銃弾のような花弁が、啓助の身体を痛めつけていった。
 途端、投げつけられるように啓助は撥ね飛ばされた。
「(クゥ……! 相手の攻撃範囲が広い上に、威力も中々。残る攻撃方法は……接近戦)」
 上体を起こしながら、啓助は剣を構える。
 しかし、簡単に接近戦と言ってみても簡単にはいかない。相手は攻撃範囲が広い上に、威力もそれなりにある。つまり、接近戦までに持ち込むことが困難なのだ。
 そんな上体の中、容赦なく次の攻撃が迫る。
「まだまだだおー!」
 大玉のような風が、啓助に向かって放たれた。
 啓助は歯を食いしばり、力強く足を踏み込む。
「(俺の勝ちだ!)」

256ライナー:2011/12/24(土) 14:54:42 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
訂正です。
32行目の「切れるを走らせながら」ですが、「亀裂を走らせながら」です。

257ライナー:2011/12/24(土) 17:14:52 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net

 頑なに啓助は、心中で勝利を宣言する。
 それは、啓助が投げ遣りになったわけでも、判断が誤ったわけでもない。勝つための策が浮かんだのだ。
「ンナローッ!!」
 大きく声を上げながら、啓助は床を蹴り上げ、風を跳び越えるように躱す。それは接近するごとに回数は増し、跳び越える高さも増していった。
「おおー、随分頑張ったけど、もう躱せないよね〜。{花乱吹(はなふぶき)}!」
 距離はすでに2メートル程に縮まっていた。そして、この状態で相手の攻撃範囲の広い攻撃が来るとなると、躱すことは出来ないだろう。
 素早く回転する扇。前へと踏み込む啓助。
 啓助は剣のリードを利用して、切っ先を向けて―――

 ―――麻衣の扇が傾いた。

「甘いな」
 啓助はそう呟く。
 その一言に、麻衣の動きは大きくぶれた。
「えっ……!」
 床には、氷が張ってあった。
 氷の床に足を滑らせ、それと一緒に傾いた扇は啓助への位置を通り過ぎる。そして、大理石の床に大きく風が吹き付けた。
「ハワワッ!!」
 風による反作用で、麻衣は大きく舞い上がった。
「掛かったなぁっ!」
 啓助の顔に笑みが浮かぶ。これこそが啓助の作戦だったのだ。
 あのような大きめの扇を振るえば、必ず足に体重が掛かる。それなら、そのバランスを氷の床で滑らせ崩せば、相手は攻撃を食い止めることが出来るというわけだ。
 宙に舞い上がった麻衣に向かって、啓助は踏み出す。そして、氷の踏み台を作り出し、それを使って大きく飛び上がった。
「これで終わりだ!」
 啓助が剣に氷を纏わせて、飛び上がりながらそれを振り上げる。まるで大きな氷柱を操るように。
「ッ!」
 と、驚きに声も出ない。しかし、それは啓助のものであった。
 突然、頭を針で刺されるような激痛が走ったのだ。
 歪めるような風は起きていない。しかし、辺りは歪み、暗みを帯びていた。

 限りなく暗い世界。啓助はそんな場所に佇んでいた。
 このような世界は初めてではない。何度かこんな事があった。そして、根拠こそ無いがそれは次第にハッキリとした物になって行く。そんな気がした。
「またか……」
 目で辺りを見回しながら、啓助は呟く。
「いるんだろ!騎士剣とか前に名乗ってた野郎!」
 啓助の言葉に応答するように、暗がりから反響するような声が聞こえた。
「相変わらずのようだな」
「どういう意味だ。いっつも訳の分かんねぇこと言いやがって!」
 啓助の怒りに、声は言った。
「それはお前が気付いていないだけの話。俺は騎士剣、俺は剣と同じ逸材だ」
 相変わらず話がかみ合わない。にしても、相手の言っていることには何か訳がありそうだった。
「まだ気付かないようだな。俺はお前のアビリティ【フリーズ】だ」
 その言葉を耳にした途端、啓助は何も言えなかった。自分を虫食む原因だったのだ。
「お前は……あの人のようには成れない。大人しく俺に呑まれるんだな」
 啓助は言葉を掛けようとする。しかし、その言葉は光に掻き消された。

 目の前に見えるのは、大理石の床、レッドカーペット、そして、倒れるメイド服の少女。
 またもアビリティは暴走していたのだ。
「こんな勝ち、勝ちって言えねぇだろ……」

258ピーチ:2011/12/25(日) 15:04:48 HOST:i118-18-143-136.s11.a046.ap.plala.or.jp
あー・・・

じゃあそれ、多分姉だぁ^O^

へぇ、チェリーってお姉ちゃんだったんだ・・・ってじゃああたし自分の姉ほめてたって事!!!?

259ライナー:2011/12/25(日) 17:08:48 HOST:222-151-086-008.jp.fiberbit.net

 33、バイクとオテンバ止めてくれ

「疲れたー……」
 啓助は、ある街の人通りの多い大通りを歩いていた。
 ドームロワイヤルとか言う場所での戦いの後、啓助は勝ちを収め、ゲームの続行を拒否して素早く逃げて来たのだ。
 そして、隊服の状態のまま出て来てしまったため、通りすがりのコスプレイヤーに隊服を売り、その金で代りの服を買った。
 服装は、勿論異能減力加工を施したもので、かつ十代らしい後半らしいものを選んだ。そうでもしないと、戦闘の度に服を繕ったり、買い換えなくてはいけなくなる。十代後半というのは、周りに溶け込むためだ。
 その服装とは、灰色のTシャツに上は青のジージャンを着て、下にはダメージ加工(中古のための傷)を加えた黒いジーンズという容姿。まさに、流行の最先端を脱線した、オシャレ初めての中学生のようだった。上下色が違うとはいえ、ジーンズ物とは90年代を思わせる格好だろう。
 別に、啓助が態と目立たないように選んだわけでもなく、これが啓助のファッションセンスだった。なんせ、ユニオンに入ってから私服など着たことも無かったのだから。
「やっと終わったな、これで少しは目を誤魔化せるぜ。にしても、あのメイドには悪い事したな……」
「どんな悪いことなのら?」
「いやさ、アビリティが暴走して攻撃を食らわせたから……」
 啓助が不意に口を紡いだ。
 横を振り返ると、あのメイドが飄々として立っているではないか。
「って、何でこんな所居るんだよお前!?」
 横から啓助の前方へヒョコッと飛び出した麻衣に、啓助のノリツッコミが炸裂した。
「うーんと、水野家には追い出されちゃって、その後別の家にメイドとして仕えたんだお? でもー、その後ー、また追い出されちゃってー、唯一の収入源がドームロワイヤルの賞金だんだんだよねー……」
 喋っていく内に、麻衣の溌剌とした声が陰険さがこもった声になっていく。
 その声は上目遣いの可愛らしい仕草も、啓助を責め立てるような仕草にと変えていった。
「あ、何かすいません……」
 思わず啓助は敬語になって話してしまう。
 申し訳なさそうにしている啓助を見て、麻衣はポケットから丸い何かを取り出した。
「じゃあ、お供になっておー。岡山の吉備団子あげるからー、キジさん」
「キジじゃねぇ、辻だ!! お前は桃太郎かっ!」
 と、ツッコミを入れた啓助だったが、一文無しの空腹状態だったため、暫くして吉備団子を受け取る。
「それじゃー改めて、ツジケ・イスケ君よろしくなのら!」
「何か切り方違う! 辻啓助だっての!」
 啓助が良く言い聞かせ、麻衣が自信満々に頷くと、不安が残るまま言わせてみた。
「分かったお! ツジ……ケイスケべ君!」
「切り方には問題無いけど、後ろに余計な物付いちゃってる! ってか俺はそんな風に見られてたのか!?」
 麻衣は自分が間違っていることに気付かない。そのため、全否定されたと思い込み、風船のように頬を膨らまして拗ねていた。
「ブー……だったら何がいいのら〜……!」
「だからよー、普通に「辻」だの「啓助」だの呼んでくれれば良いんだって」
 面倒臭いなと思いながら、啓助は頭を掻く。まるで、気持ちの分からないペットを相手にしているかのように。
「じゃあツジケで」
「人の話を聞けェー!!」
 啓助の叫びが、大きく空にこだました。

 かくして、啓助はとりあえず罪償いのために神宮寺麻衣を仲間に加え、その仲間に「ツジケ」と命名されて旅立つのであった。
「にしても、お前の口調ってますます苛つくな」
 啓助本人は、口調に苛ついているのか性格に苛ついているのか、もう何について苛ついているのか分からなくなっていた。とにかく理性を失いそうになるくらい苛ついていた。
「うん、人にもよく言われるおー」
 言われるのかよ、啓助は心の中で呟く。
「アタシって、インパクトの強い人の影響を受けやすいって言うか何て言うか……そんなところだお?」
「いや、一体どんなインパクトがあるんだよ、その今のお前と同じ口調の人物って……」
 すると、麻衣は首を傾げながら言った。
「教えてもいいお。でも、この前教えたアタシの友達のベンジャミンは、それ訊いて3日間眠れなくなったって言ってたお」
「じゃあいい! ってか、本当にどんなインパクトあるんだよ!? いや、知りたいけど訊けない……つーか、ベンジャミンって誰!?」
 歩きながら、何やら漫才のように会話を繰り広げている。すると、向こうから誰かの悲鳴が聞こえた。

260ライナー:2011/12/30(金) 15:52:02 HOST:as02-ppp22.osaka.sannet.ne.jp

 啓助達は悲鳴の聞こえた方向へ、素早く歩を踏む。
 その場所には目立つように人混みが出来、啓助は警察の目を掻い潜って、同年代くらいの少年に尋ねた。
「何かあったのか?」
「引っ手繰りさ。しかも、警察の中でも有名な引っ手繰りらしいぜ。とんでもなくいいバイク持ってたって話だ」
 啓助は少年の話を聞くと、バイクの向かって行ったという方向へ走り出した。
 しかし、啓助も『ディシャスアビリティ』の暴走という理由があって追われる身である。つまり、犯罪に関係する部分は関わると自分の身も危ないという事。
 だが、啓助にとってそんなことはもはや関係なかった。
 目の前に犯罪がある。それを見逃せば、どんな犯罪だろうと家族を失った異獣事件や、煉と言う仲間を失った事のようになってしまうのではないのか、そんな不安が啓助の頭の中にあったのだ。
 それ故、自分に危険があろうと助けなければいけない。これはユニオンで学んだ事にも繋がるだろう。
「ねーねー、相手はバイクだし、追い付くの無理なんじゃないのー?」
 麻衣が、走る啓助の横をヒョコヒョコと付いてくる。
 そう、ヒョコヒョコとであって、啓助の走りと速さが同等なのだ。それに加え、啓助にとっては麻衣の口調さえも苛ついている。
「んでも追いかけるしかねーだろ!」
 未だ見えないバイクの方向に目をやったまま、啓助は言った。
「要は、バイクの位置が分かればいいんだお?」
「出来るのか!?」
 麻衣の言葉に啓助は立ち止まり、半信半疑で振り向く。
「出来るけど、こっちを向いちゃ駄目だお? 見たら最後・・・・・・」
「あー、分かったからサッサとやってくれ」
 そう言って、啓助は麻衣を軽くあしらい、麻衣の居る反対方向を体ごと向いた。
 啓助が万全の体勢になったことを確かめると、麻衣はオレンジ色のヘッドホンを耳から浮かすようにして離す。
「ねえねえ」
 麻衣からの応答があり、咄嗟に啓助は麻衣の方を振り向く。
「もう分かったのか!?」
 溌剌とした問いに、火に水を掛けるが如く麻衣は言った。
「バイクって、どういう音のら?」
 瞬間、啓助の唇が吊り上がり、顔が引き攣ったまま凍り付く。
 バイクを知らない人間を、啓助は始めて知った。だが、麻衣が「音」と言った時点でバイクではなく、音自体を探ろうとしていたことになる。しかし、それもまた不可能。
 車やバイクなんて、少し広い道路へ1歩足を踏み出せば、余裕に排気ガスやクラクションの音、走行音を撒き散らしている。それに、人の多いこの時間となれば、人声が混ざって余計に無理だろう。
 そのようにいろいろな考えが思いつくが、それを押し退けて断言できる言葉があるのを啓助は思い出した。
「人間には無理だ」
 呆れた声を出しながら、啓助は麻衣を取り残して1人走り出す。
「そんなこと無いおー。アタシの耳はちょっと変だけど、100キロメートルくらいの音は聞き分けられるんだもーん!!」
 置いて行かれぬよう、啓助の歩調に合わせて麻衣は再び膨れっ面になって言った。
「今はそんな冗談言ってる場合じゃないだろ! とりあえず、赤いバイクってのを探すんだ!」
 振り向きもしてくれない啓助に、麻衣は膨れっ面を継続させて訊いた。
「・・・・・・じゃあ、引っ手繰られたものになんか音として分かりそうなものないのら・・・・・・?」
 あからさまに機嫌の悪そうな声を発している麻衣に気付いて、啓助はこれ以上悪化しないよう、まともな対応をすることにした。
「そうだな、引っ手繰られたバックには、2つ鈴が付いていたみたいだったが」
 啓助が言い切る前に、麻衣はヘッドホンを浮かせ、再び耳を澄ませる。
「・・・・・・場所、分かったのら!!」
 その叫びと同時に、啓助の腕は力強く引っ張られた。

261ライナー:2011/12/30(金) 17:55:33 HOST:as02-ppp22.osaka.sannet.ne.jp

「お、おい! 何すんだよ、離せ!」
 意外にも力強い麻衣に、啓助は苦戦しながら言う。
「昔々ある所に……」
「そっちの話すじゃねー!! 手を離せ!」
「手が山へ芝刈りに行くと……」
「そっちでもねぇー!! 手がどうやって芝刈りに行くんだよ!?」
 麻衣は啓助の言いたい事が初めから分かっているように見えた。しかし、麻衣自身、自分の聴力が確かであることを証明したいらしい。
 暫らく啓助は引っ張られ続け、ある所で麻衣が足を止めた。
「居たお、バックを持った赤バイク」
 啓助はその言葉をしっかりと耳にして、指の差された方向を見る。
 すると、啓助の目には何事も無かったかのように、赤バイクが信号待ちしている姿が入ってきた。
 犯罪側とはいえ、何故暢気に信号待ちをしているかと言うと、大型車がいくつも列を作って走っていたからだ。それにその大型車は偶然にもガスタンクを背負っている物ばかりだ。これでは飛び出そうにも飛び出せないはずだ。
 チャンス到来と言わんばかりに啓助は、麻衣を走りぬいてバイクに接近する。すると――――
「おーい、そこの赤バイク止まれ〜! 盗んだバック返せー!」
 麻衣がバイクに向かって手を振った。
「(おいッ、馬鹿ッ!)」
 啓助が咄嗟に振り返り、小声で止めようとするが、それはもう遅かった。赤バイクのライダーはその声を察したらしく、車線を変えてUターンする。
 悔し紛れに大きく舌打ちをすると、啓助はそのバイクの後を無謀ながらも追い駆けた。
 様々な通りを右に曲がったり、左に曲がったり、啓助は自分が追われている身だと知りつつもひたすら追い駆ける。
 狭い路地を通り、バイクでは行くことの出来ない塀や屋根の上を跳んで距離を詰めた。
 ユニオンで鍛えたこの体は、バイクと言うハンデをも縮めてくれた。そのことに感謝しつつ、ついにその手がバイクへ触れようとする。
「(もう少し……!)」
 そして、その手が触れようとした瞬間、啓助は手を引っ込めた。

 ―――多車線ある十字路。

「(これが目的か……!)」
 赤いバイクは、交差して見える走行中の自動車の陰になって消えていった。
 この時やっと分かったが、相手のバイクは電磁浮遊を応用した新型のバイク『リニオン』と言うもので、水上でも浅ければ移動できてしまうという優れもの。啓助が到底追い付けるような相手ではなかった。
 そして、ここまで距離が取られては追い付けないだろう、そう察した啓助は追うのを諦め、悔し紛れにアスファルトを蹴り付けた。
「んー? どしたのー?」
 後ろから、麻衣の空気の読めない声が掛かる。
 啓助は、思わずカッとなって後ろを向くが誰も居なかった。
「ツジケはどこに耳が付いてるのらー! うーえー!」
 ポカンとしている啓助に、麻衣の声が届き、何秒か遅れて啓助が首を上げる。
 すると、啓助の見上げる上空には、麻衣が扇をグライダーのように開いて宙を舞っている姿が見えた。
「ッ!? お前……!!」
「アレ? バイクどこ?」
 扇の止め紐に体を括り付けて、麻衣は辺りを見回している。
「(そうだ……!!)」
 その時、啓助の思考回路が電流を帯びるようにフル回転し始めた。
 地はバイクや車が忙しなく走り続け、赤信号が障害物のように立ち塞がっていた。だが、上空ならどうだろうか。ある程度高く飛べば、信号も走行中のバイクや車も関係ない。
「おい、エセ桃太郎! 上から赤バイクを追え! お前の確かな聴力があれば余裕だろ!」
 啓助は言いながら、バイクが走り去った十字路の向こうを指差した。
 麻衣は、やっと自分の聴力を認めてもらって上機嫌なのか、フフンと鼻を鳴らして言った。
「アタシの事は『スーパーマイタン』と呼ぶのら!」
「もう分かったから! 全然、聴力関係無いネーミングだけど分かったから早く行け!」
 啓助の差す指に力が込められる。
「それでは行くのら!」
 上空で上手く扇を仰ぎ、啓助の差す方へと前進する。そして、そのまま啓助の首を両足で掴んだ。
「ゲホッ! 何すんだよエセ桃太郎!」
 啓助は咳き込みながら叫ぶ。
「女の子を1人にしてはいけないのら。それにアタシは『スーパー……」
「もう、いいっての!!」

262ライナー:2011/12/31(土) 09:45:35 HOST:as01-ppp21.osaka.sannet.ne.jp

 一体どれだけの馬力があるのか、啓助の首を両足で掴み、そのまま空を飛んでいる。お陰で啓助は窒息寸前だ。
「……ってお前低く飛び過ぎなんだよ! 俺が車にぶつかる! 足捥げる!」
 麻衣は、啓助を掴んで跳んでいる事を忘れているのか、啓助を態と車にぶつけようとしているくらい低く飛んでいた。
 啓助は何度も叫び、窒息寸前になりながら目を白くする。
 途端、苦しさの余り、顔を上げて楽な姿勢へなろうとする。が、上に居るのは麻衣。とりあえず、人間の中でも「女」と言う分類に入り、メイド服なわけで、中途半端に小心者の啓助は上を向きたくても向けなかった。
 そんな状態を続けながら、啓助は死にそうになって、足をバタバタと苦しい事を表現する如く動かす。
「あ、居た赤バイクー」
 不意に、麻衣の言葉が耳に入って、啓助は少し意識を取り戻す。
 ほとんど無意識状態だった啓助は気付いていなかったが、麻衣はだいぶ進んでいたようだ。流石は風力階級9以上を出せる扇、と言ったところだろう。
「ツジケ、赤バイクのところに降ろすお」
「ッ!?」
 ちょっと待て。そう返事をしようとした啓助だが、息苦しくて声すら出せなくなっていた。
 声がただの呻き声なった状態で、それは麻衣に伝わり、何食わぬ顔で啓助を掴んでいた両足を離す。
「うおあっ!」
 叫びながら、啓助は赤バイクへと落下してゆく。そして、痛烈なプラスチックの裂音がバイクの荷台で響き、啓助は首元の開放感と共に、尻への痛みが迸った。
「クソッ、追い付かれたか!」
 赤バイクのライダーは、言いながらバイクを右に傾ける。どうやら啓助を振り落とそうとしているらしい。
 啓助は、壊れ掛かったバイクの荷台にしがみつき、何とかバイクに乗り留まろうとする。
「テメェに教えてやるよ、電磁浮遊より冬タイヤが優れてるって事をな!」
 啓助がそう言い放つと、隘路のアスファルトが氷の床と化した。
 氷の床は、地面の電磁力を微量に屈折させて、『リニオン』の進行方向を狂わせる。
「何ッ!?」
 赤バイクに乗った犯人は、咄嗟にブレーキを掛けるが、地震のように揺れるバイクに、思うように力が入らなかった。
 バイクは、そのまま氷の床に踊らされ、狭い十字路へと放られる。
 宙に舞う赤バイク。
 それは、十字路のカーブミラーへと一直線に放たれた。
 瞬間、地を抉るような爆発音がそこら中に響き渡る。その爆発音は、住宅地の塀に火を灯し、そこら一帯が灯篭のようになったかのようだった。
「うおーッ!!」
 カーブミラーを取り囲む炎の中から、啓助1人が盗まれたバックを持って飛び出した。
「おー、やったじゃまいかツジケ!」
 すると、反対側から麻衣がケンケンしながらやって来る。
 麻衣の対応こそ暢気なものだが、啓助は炎の中から飛び出て来たわけで、啓助は現在炎を纏ったままだ。
「何でもいいから、火! 火をどうにかしてくれ!」
「燃え上がらせるのー?」
「お前の思考回路はどうなってんだ! 消せ! 消してくれ!」
 異能減力加工をした啓助の服は、とりあえず啓助を守っているが、完全防御とは言わず、熱は余裕で通しているようだ。
 啓助は啓助で、体に纏った火を消そうと、あちこちに体をぶつけている。
「もー、しょうがないなー」
 その時、啓助に風力階級9の突風が襲って来たのは、言うまでもない。

263ライナー:2012/01/01(日) 12:50:03 HOST:as01-ppp17.osaka.sannet.ne.jp
 
  〜 作 者 通 信 〜
 えー、まずは最初に……
 明けましておめでとうございます!!
 何とか気まぐれで終わらず、半年以上続けることが出来ました、本作「係争の異能力者(アビリター)」でございますが、何時見ても題名が厨ニ病ですね^^;
 いろいろとコメントを貰いながらここまで続けられたのは、皆様のお陰だと思っておりますm(_ _)m

 さて、今後の進行ですが、だいぶグダグダが続いているので、こっから一気にキルブラック編終わらせます!まあ、第四章の終結と言う訳ですが。
 ここでは、過去編や、やはりシリアスになってしまうような死がありましたから、それも少し……
 とにかく小説らしい終わりにしたいと思います。

 新年も宜しくお願いします、ではではwww

264ライナー:2012/01/01(日) 17:13:29 HOST:as02-ppp5.osaka.sannet.ne.jp

 34、神速=双子=再会

 啓助と麻衣は早朝の大通りを歩いていた。
 車も少なく、人も少なく、涼しい風が吹いて爽やかな気分になる―――のは、麻衣だけだった。
 先日、引っ手繰り事件の時にあった啓助火達磨事件(大したものではなかったが)では、消火のために起こしてもらった風であちこちに飛ばされ、啓助の全身にはかなりの痛みと筋肉痛が残っていたのだ。更には、泊まりにいった古ぼけた旅館で麻衣に食事の大半を食われるは、昨夜にタイミング悪く異獣が襲ってくるなど、諸々あって眠れないのも同様だった。
「ふ、不幸だー!!」
 叫びと共に、電柱に泊まっていた小鳥が、驚いて飛び立つ。
「おー、異獣じゃない鳥だー! いい事あるかも〜」
 麻衣は、そんな啓助の気も知らず、隣でハミングした。
 ちなみに、現在では異獣以外の動物は珍しく、過去より動物保護がだいぶ強化されたとか。簡単に言うとすれば、食物連鎖のピラミッドに異獣を置くという事だ。要するに、植物→草食動物→肉食動物→異獣となる。
 幸せそうな麻衣を横目で見つめながら、啓助は大きく溜め息を吐いた。
「(幸せな奴だ……)」
 呆れた様に心中で呟くと、それは前言撤回されるほど不幸へと導かれる。
 言葉で、では無い。状況にだ。
 別に、これと言って啓助の心の声が状況を変化させるほど偉大な奴ではない。むしろ、嫌になるくらい中途半端人間なのだ。
 では何か。それは、現在啓助や麻衣が分かりうる事ではなかった。
「あ?」
 眠たそうな声を出して、啓助は目を擦る。
 何故だろうか、啓助達は早朝の大通りに居ないのだ。啓助の目にぼんやりと映っているのは、灰色で大きい建物。先程まで灰色に水色をちょっと足した程度の早朝の空色が、赤にも青にも傾かない純粋な紫色に変貌していた。そして、その紫色には、まるで書道の時墨を溢してしまったような黒雲が掛かっている。
 啓助の目は周りに慣れ、その風景をしっかりとキャッチした。
 灰色の建物は、まるでドームのような形をしている。しかし、それは本物のドームとは言い難く、とてもサッカーなどを出来そうな雰囲気ではなかった。
 空は、余り特徴性が無いからか、ぼやけた時と見たまんまだった。
「アレ? ツジケ、ここどこ? ネバーランド?」
 麻衣は、この期に及んで暢気な事を言っている。聴力でしか優れないんだろうか。
 まあ、麻衣の事は置いて、どう考えたっておかしい。先程まで平和な景色あったはずなのに。
 そんなことをぼやきながら、啓助はいかにもゲームで言う魔王の城的なイメージの空色を見上げた。大体、ラスボスの居るところはこんな天気だ。
「「コングラッチュレーショーン!!」」
 随分溌剌とした、それでいて幼い男女の声が聞こえてきた。しかし、声だけで姿が無い。
 何やら反応し辛い啓助と麻衣は(麻衣はハミングを続行しているため気付かないだけだが)、することも無く黙ってしまう。
 すると、両者の間で沈黙が起き、やるせない気分が啓助を襲った。
「……あー、ゴメンゴメン。姿見えないよね」
 幼い少年の声がしたかと思うと、アナログテレビの画面から電源を付けられるようにして2人の子供が現れた。
 2人ともお揃いのモノクロコートを纏い、前と後ろで白黒に分かれた髪を持っている。
 恐らく少女であろう見当の付く方は、その髪をツインテールにしていた。
 もう1人の方は、少年声だったので恐らく少年。その少年は寝癖なのか前髪がピョコンと上に跳ねている。
「「僕(私)達双子のキルブラック、陣位総司令隊長補佐(じんいそうしれいたいちょうほさ)の……」」
 双子はそう言って言葉を区切る。
「ツインテールの白闇(はくあん)ちゃんと……」
「前髪跳ねてる黒明(こくめい)君さー!」
 2人の声のタイミングは同じだった。まるで、同じ声を録音したICレコーダーを同時に再生させるように。
 しかし、柄にも無く啓助はその時思った。黒明は寝癖を自覚しているんだと。
「って、白闇何やってんの!?」
 急に、黒明が白闇の方へと振り返る。すると、少し大きめのモノクロコートは波打つように靡いた。
「しょうがないでしょ、大体これは黒明と共同作業なんだから!」
 白闇は、どうやら自分の無実を証明するように言った。まるで、アレ、といえば分かる長年の夫婦のように。

265竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/01/03(火) 23:39:31 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
コメント失礼します!

メイドさんのあの性格はどうにもならんのですねw
ツジケ……。今度から僕も使おうかな((

さてさて、ちょっとだけ出てた白闇ちゃんと黒明君が登場か。
啓助く……ツジケとスーパーマイタンはどうなることやらw

続きも頑張ってください^^ノ

266ライナー:2012/01/03(火) 23:49:26 HOST:222-151-086-012.jp.fiberbit.net

 モノクロコートを纏った双子は、何やら先の見えない会話を繰り広げている。双子だけあって、会話もそこそこ伝わりやすいのだろうか。
 何か自分達が忘れられている空気になりながら、啓助は無言で2人を見据えた。何故かというと、先攻対後攻では、大体、後攻の方が勝率が高いと何かの本で読んだ事があるからだ。中途半端で、それでいて弱い奴のレッテルを自分で背負っていると、こういった状態が生まれる事がある。
 そんなこんなで、麻衣を向こうで勝手にやらせておきながら、啓助は時を待つ。
 と言うか、麻衣が向こう側で遊び、2人の相手が喧嘩を始めてしまっては、もう戦闘するような展開を踏めるのだろうか、啓助はそう思った。
「……〜〜!!」
 双子の言い合いが終わり、やっと一段落したのかと思うと、今度は睨めっこが始まった。恐らく、互いに言い合う内容が無くなり、根拠のない威嚇合戦でも始まったのだろう。
 啓助は、自分がどうしたらいいのか分からなくなり、とりあえずその場でジッとしてみる。
「ツジケ〜、あの2人何してんの〜? ネバーランド式の睨めっこかな〜!」
 麻衣はクルクルと回り、歌うような口調で啓助に訊いた。
 そんな麻衣に、啓助は、
「……ネバーランドはねえだろ」
 と、一言言った。内心、「ここが何処か?」と訊かれたら、啓助は「ネバーランドです」と答える気でいた。
「「ま、いっか」」
 双子は同時に呟く。すると、何事も無かったかのように、平然と2人で啓助の方を向いた。
「ちょこっと失敗。ホントは2対2で殺(や)るつもりだったけど」
「何か、余計に1人紛れ込んだみたいだから、ここで1人消えて貰うよ」
 双子の言葉は、まるで、1人の人間が喋るかのようにスムーズに繋げられ、先程とは全く違う息の相方を見せる。
 そして、黒明と名乗った少年は、懐から黒い紐のような物を取り出す。紐と言っても、子供の拳分の太さを持った綱のような物だった。
「唸れ、漆黒よ!!」
 少年がそう叫ぶように言い放つと、黒い綱は波打たれるように靡き、地面に叩き付けられる。すると、黒い綱からはそれと同様の光が飛び出し、段々と人の形を象られていった。
「あ、アイツは!」
 啓助は、思わず大きく声を漏らす。
 黒い光が次第に消え、そこに現れたのは―――
「お久しぶりデス、辻啓助」
 ―――キルブラック右陣隊長の来待だった。
「サッ、どっちが戦う?」
 白闇が腕を組み、余裕の表情で問う。
 「どっちが戦う?」と、問いた時点で2人で一気に、と言う選択肢はどうやら与えてくれないようだ。それよりも一番気になるのは、先程言っていた「余計に1人紛れ込んだから……―――」というこの言葉だ。言葉から推測すると、あくまでスポーツマンシップに乗っ取ったような正々堂々した勝負を望んでいるらしい。
 さらに、余計な1人と組ませるらしかった。言葉からここまで推測できても、相手が何をしようとしているのかは分からない。
「麻衣、頼んで良いか?」
 啓助は、双子の方へ鋭い目付きをやりながら言った。
「うーん。しょうがないなー。その代りアイス奢って、それと、アタシのことは『マイマイ』と……」
「分かった、生きてたらアイス奢ってやるよ、それとお前の事をカタツムリかでんでん虫と呼んでやろう」
 麻衣が言い切る前に、啓助は言った。麻衣が『スーパーマイタン』ではなく、『マイマイ』になったのは、自分でも呼び辛いためだろうと状況に似合わず啓助は思った。
 そう言って、啓助は振り向くことなく前進した。それを察した双子は、余裕綽々にピエロのようなステップを踏む。
 ピエロのようなステップは、ドーム型の建物に向かって歩き出していった。そして、啓助もそれに合わせて、建物の影に歩を踏んだ。

 紫の空が見える下に残された、神宮寺麻衣、来待。
 戦闘モードをスマートに決めている来待の向こうには、小さい唇の間からペロッと舌を出している麻衣の姿があった。誰が見ても分かるが、アイスの事を考えているに相違なかった。

 ドームの中に入ると、以外にもそこは殺風景で、ドームと言うより闘牛場のようなサッパリとした所だった。
 啓助が辺りをグルリと見渡す。
「(どうなってんだ、ここは……)」
 視線を球形の天井から、お揃いのモノクロコートを纏った双子へと移した。
「それじゃ、もう1人に……」
「ドッキドキのご対面と行こうか……」
 何やら、緊迫した雰囲気に、席替えのお見合い方式的な言い方で双子は言う。その言葉の後には、啓助と反対側の入り口から人影がやってきた。
 瞬間、啓助は言葉を失う。啓助の姿を見た相手も、同様にその様子だった。
 啓助の目の前に現れたのは―――

「お、おまッ、辻やないかい……!」

 ―――柿村熱也だった。

267ライナー:2012/01/04(水) 00:04:21 HOST:222-151-086-012.jp.fiberbit.net
竜野翔太さん≫
コメント有り難う御座います!!

そうですね、麻衣ちゃんは口癖がミーハーですねw
さらに超天然ですねw
でも僕は、こういう女性キャラがドストライクでs((殴

啓助のあだ名は最初、「けーくん」と迷いました。しかし、苗字もそこそこ意識を持って貰いたいなと言う親心ですw 麗華さんしか苗字で呼ばないですし……(アレ? だったら「つーくん」でも良かったような……)
コイツら、白闇ちゃんと黒明君はかなり手強いです。そして、たった一回だけの啓助と奴との合体技が見れるかもしれないです((
そして、早速展開ですが、麻衣ちゃんは来待の相手に(汗)

ハイ、頑張りますので、これからも宜しくお願いいたします!!
ではではwww

268ライナー:2012/01/07(土) 22:46:36 HOST:222-151-086-019.jp.fiberbit.net

 この関西弁を聞くのは久々だった。と言っても、良い思い出があるわけではない。ユニオンに潜り込み、チームメンバーを騙すどころかメンバーの1人「城嶋 煉(じょうじま れん)」を殺した少年なのだ。
「熱也……お前……」
 啓助は、これ以上言葉が出なかった。こんな微妙な関係の人間にどう接すればいいのか、分かるはずもなかった。
「お互いお知り合いだしサー」
「どうせ来ちゃったんだからサー」
 双子は、1人の人間が喋るように軽やかに声を繋ぎ言った。
「「君達で組んで、僕(私)らと戦わない?」」
 その言葉は、恐怖に満ちていた。
「ゲーム感覚で戦闘語ってんじゃねーよ! 絶対にぶっ倒す!!」
 剣の柄を握り締め、気迫のある声で啓助は叫ぶ。
 そんな言葉は怖くない、双子はそう言うように目付きで表現してきた。
「そりゃ、ゲーム感覚だよ」
「だって僕達、ここにランダムに人連れて来て―――」
 そして、双子は同時に言い放つ。
「「ぶっ殺してるんだもん!」」
 これが、外見小学校中学年の双子が言う台詞だろうか。あまりにも血に飢えすぎている。いや、<キルブラック>陣位総司令隊長補佐の双子だから言える台詞なのだろう。
「ま、大体は下っ端スカウトだけど」
「実力のない奴は殺すだけだし」
 この2人の言っている言葉は、家庭内暴力を言動で引っ繰り返す力があるように思えた。何とも、平和を偽ったような瞳をしている。
「にしてもさー、「陣位装(ジェネラルサークル)」の4人打ち破ってくれたよね、ま、来待ちゃんはさっき見て貰った通りだし、赤羽ちゃんも生きてるけどね」
「ナッ……!」
 赤羽はまだ<キルブラック>にいたのか、啓助は正直驚いた。2回も作戦を失敗したくせによく居たものだ、啓助は同時にそう思う。
 それよりも、「陣位装(ジェネラルサークル)」がこれまで戦ってきた赤羽、来待、沙斬、遠尾の4人を差すものだと啓助はすぐに感付いた。
「ま、どれもこれも道具に過ぎないけどね」
 黒明は呟く。
 すると、それを訊いた啓助は自然と青筋が立つのを覚えた。
 赤羽、来待、沙斬、遠尾。どの人物とも、その戦いは苦しいもの。啓助は戦いの常と知りながら、殺したことに後悔もした。
「(なのに、それなのに、ど、道具だと……!)」
 啓助の中で、怒りが込み上げた。
 戦闘にとって、兵などは確かに消耗品に過ぎない。しかし、それを仲間と呼んでやらないのは、絶対に許せることでなかった。死んだ者の事を思えば尚更だ。
「だったら、熱也と組んでテメェらをぶっ倒す!!」
 啓助は思わず声に出していた。
 許し切れていない柿村熱也と組むなんて。しかし、啓助に悔いはなかった。
「辻、ワイは……!」
 熱也は、顔を俯かせながら言う。
「ワイはお前と戦えへん。組んで戦う権利なんて……ないんや」
「んな事ねーよ」
 啓助は、熱也の言葉を引っくるめるように言った。
「お前が煉の代りをやってくれりゃ、それでいい。死んだ奴の事、いつまでも引き摺ってんじゃねーよ! 俺らを繋ぐモンはそんな湿気たモンじゃねえだろーが!!」
 そう、煉の代りを務めてくれればそれで良い。
 これ以上、人を苦しめたくない。だから、熱也の苦しみを捨てて、煉の苦しみを償ってくれればそれで良い。
「戦おうぜ、明るい未来のためにな」
 ベタだ、そう分かりつつも啓助は言った。

 ドーム外。紫色の空の下で、麻衣は呟いていた。
「うーん、アイスどーしよーかなー? やっぱ王道を貫いて、バニラかなー」
 戦う相手そっちのけで、麻衣は思考に耽(ふけ)っている。
「油断をすると、痛い目を見マスよ」
 返事は無い。
「デハ、行きマス」
 やはり返事はない、来る気配すらない。
 流石の来待も呆れを見せて、空手に近い構えが少し緩んだ。
「ッ!」
 その時だった、来待の頭上に畳まれた扇の骨が振り下ろされた。
 来待はそれを機械化した左腕で、扇の骨を受け止める。
 途端、巨大な鈍い金属音が辺りを包んだ。
「ありゃりゃん? 油断は禁物じゃなかったのー?」
 扇の上には、何とも可愛らしい表情を浮かべた神宮寺 麻衣の姿がある。
「………」
 来待のコンピューター頭脳に刻まれた。
 この少女、侮り難し―――

269ライナー:2012/01/08(日) 00:48:05 HOST:222-151-086-019.jp.fiberbit.net

35、機械は奇怪

 鈍い金属音が、鳴っては消え消えては鳴りの連続だった。
 扇と鉄腕のぶつかり合い。金属音が鳴り響く度に、両者は相手を探るような目をしていた。両者がしているため、それは互いに露顕(ろけん)されていた。
「貴女のデータは、以前雇ったときに調査済みデス。神宮寺麻衣、貴女に勝ち目はありまセン」
 機械が半分体を支配してるからか、来待は妙にトーンの高い男声を発する。
「それじゃー何で打ち合いの時に目をギュってしてるのー?」
 麻衣の口調は、啓助のように来待を苛つかせることはなかったが、調べている訳は持っている武器だろう。雇う前は炎を繰り出す箒、ファイアブロームを持っていたのだから。
「{白青光(ムーンライト)}」
 返事が攻撃で返ってくる。
 来待の左手が青白く光り、槍のように鋭く尖って麻衣を襲った。
 咄嗟に躱す麻衣だが、それは意外にも深く右肩を擦る。
「{白赤光(サンライト)}」
 透かさず来待の右手が赤白く光り、麻衣の避けた方へ突き出された。
 その光は、充分に勢いの付いた麻衣が方向転換できるはずもなく、左肩に突き刺さる。
「イィッ!」
 注射針を撃たれたような痛みが麻衣の肩に残り、来待の右手は扇に叩かれた。
 麻衣の肩に刺し傷はなかった。
「その服……以前とは違いマスね。スペクトラが縫い込んであるとお見受けしマス」
 その言葉に麻衣は少々距離を取り、『風華乱扇(ふうからんせん)』と名の付いた扇を構え直す。構え直すと言っても、その構えはテニスラケットを持つように軽々しく、疲れを全く見せなかった。
「フフーン、すごいでしょー! そうそう、そのスペアリブが縫い込んであるんだよーん!」
「スペアリブは豚肉デスが……ともかく、武器の大きさ故に遠距離、中距離を得意とするようデスが、近距離はまるで話になりまセンね」
 確かに来待の言う通りで、いくら大きめの武器を軽々と使い越なしたとしても、近距離になれば小回りが利かず、そこでの機動力も薄れる。
 相手が距離を詰めてこちらが逃げても、その都度その都度に同じ対応をしなければならない。つまり、距離を取った今でも状況は厳しいと言うことだ。
 荒れた地面を蹴り上げ、麻衣は距離を取る。
 案の定、来待は急接近した。
 麻衣も負けじと、それにシンクロするように後ろへ跳び下がる。それと同時に来待の方へと振り向いた。
 空中で扇は展開され、それは大きく仰がれる。
 『風華乱扇(ふうからんせん)』で生み出された突風は、辺りの空気を引き裂くかのような颯声を奏でて来待に直撃した。しかし、攻撃するどころか、接近スピードも変わっていない。
「ハレ?」
 良く見れば、来待は僅かに宙に浮き、足下で何かが白く光っていた。
 来待はスピードを落とすことなく、槍のような手を突き出す。
「{白青光(ムーンライト)}」
 左手の光は、肩の上を貫くように過ぎた。多少姿勢を落とせば躱せる範囲内。
 振り下ろした扇を素早く畳み、アッパーを繰り出すように振り上げられた。
「ていっ!」
 掛け声と共に振り上げられた扇は、表現した如く、顎に直打する。
 肉と金属の撥音は、大きく来待を放り上げ、失敗した紙飛行機のように地面へ叩き付けられた。
 その隙を利用すべく、麻衣は扇の骨を振り下ろす。

 ―――ギンッ! 鳴り響く金属音。

「にひー! やーるぅー!」
「……!」
 その金属音は、来待の体その物ではなかった。
「やはり、継続して雇えば良かったですね」
 扇の骨を防ぐ物、それは、バスケットボールサイズの『リモートユニット』だった。

270ライナー:2012/01/08(日) 14:45:13 HOST:222-151-086-012.jp.fiberbit.net

 気が付けば、そこら中に球体のロボット『リモートユニット』が中を浮いている。
 この時点で多対一、麻衣は圧倒的に不利な状況に立たされた。だが、麻衣の余裕の表情は消えていない。それが持ち前の性格ならなのか、絶対的に勝利を収める自身があるからなのか。来待には知る由もなかった。
 麻衣は機械に力負けして、その反動で後方へと飛ばされる。いや、むしろ麻衣が身を引くために取った行動に見えた。
 飛び退いて麻衣はある程度の距離を取るものの、すぐさま『リモートユニット』が麻衣の懐まで迫る。
 タイマーのような電子音が響き、直線上にレーザーが放たれた。
「ハウッ!」
 瀑声の如きレーザー音が麻衣の身を貫く。防弾に一等優れたスペクトラでも、レーザーは守り切れなかったらしく、白い煙を上げながら麻衣はさらに後方へ飛んだ。
 その間に来待は立ち上がり、地面を蹴り素早く麻衣に接近する。
「実力は少しは上がったようデスが、数が多ければ話にならないデショウ」
 来待の左手が青白く、右手が赤白く光を帯びていった。来待の様子からして、止めと言ったところだろう。
 光を帯びた両手がゆっくりと重なり、両手の色は互いに混じり合い紫に変わった。
「{紫白光(コスモライト)}……!」
 一方、麻衣は飛ばされていたものの意識はあった。しかし、それは終わりの過程を告げる時間と化したのだ。
 宙を飛ばされる麻衣に、合計十二機のユニットが綺麗に滑空しながら迫っていた。
 それは、瞬く間に麻衣の両手足に三つずつ捕らえる。
 行動不能。
 身動きの取れない麻衣に、来待は一気に接近した。
「これで負ければ、僕は壊されマス。その土壇場の力、見せてあげまショウ」
 紫の光が一層強まり、両手は鋭さを増した―――

 ―――瞬間、巨大な刃音のような轟音が響く。

「……ッ!!」
 来待の言葉が詰まる。
 鉄素材の両手で身体に攻撃しても、刃音や金属音と言った音は絶対響かないはずだ。つまり、直撃したのは麻衣ではない。
「『リモートユニット』ッ……!!」
 怒りを噛み殺すような声と共に、『リモートユニット』の機械破片が飛沫(しぶき)のように飛び散った。
 麻衣の両手が球体の中から顕(あら)わになる。縛られていたはずの両手が。
「エヘヘ〜、すごいでしょー」
 笑みを溢しながら、麻衣は透かさず宙で回転している扇を掴む。
 その扇は薪割りをするかのように両足の『リモートユニット』に振り下ろされた。
 再び散る、機械破片の黒飛沫。
「……ッ!?」
 強張ってゆく、来待の顔。
 その顔をさらに強張らせるように、扇の骨が顔を襲った。
 来待の体は後方へ吹き飛び、大きな崩落音と同時にドームの外壁を崩す。
「じ、磁場の力を……覆すなんて……ありえまセンっ……!」
 外壁の窪みから体を起こし、来待は嘆くように呟いた。
「当たり前だよー?」
 土煙の向こうから、麻衣の声が届く。
「アタシには、機械の心が分かるんだよー!」
 瞬間、来待の目の前から土煙が晴れた。
「ッ!!」
 そこに見えたのは、麻衣が扇を頭上で回転させている姿だった。この構えは―――
「{花乱吹(はなふぶき)}!!」
 放たれた言葉のすぐ後に、天気予報さえも覆す突風が迫る。
 来待は、途端に左手に力を込めた。しかし、先程のように光は帯びてこない。
「クッ……!」
 途絶えた苦悶の声は、激しい突風によって放たれる場所さえも打ち壊した。来待という放たれる場所さえも。
「ウワアアァァッ!!」
 絶叫と共に橙桜(とうおう)を乗せたソニックブームが機械を砕く。そして、凹凸のある機械部品が飛び、赤の液体が渦巻くように空に散った。

 激しい颯声が止み、麻衣は大きめの扇を後ろ腰に仕舞う。
 背伸びの後の第一声は、やはり暢気な物だった。
「チョコバニラミックスにきーめたっ!!」

271ライナー:2012/01/08(日) 15:05:46 HOST:222-151-086-012.jp.fiberbit.net

 〜 作 者 通 信 〜
最近は更新率が高まっております、作者通信です(笑)
さて、麻衣さんが敵を倒したところで、次は熱也と啓助がタッグを組んで戦うのですが、もうだいぶラストのラストまで近付きました^^;ヤレヤレですね(汗)
そして、もうすぐ麗華さんの過去が登場しちゃいます。
お嬢様が何故その生活を抜け出したか、自分なりに描写を頑張りたいところです。
そして、キルブラックの次も手強い敵さんが……!!

ではではwww お楽しみに(してくれたら有り難いです;;)

272ライナー:2012/01/08(日) 17:13:21 HOST:222-151-086-012.jp.fiberbit.net

 36、炎の両足 氷の両手

「明るい未来のために戦うなんてさー」
「僕達が悪いみたいじゃん」
 1人が喋るタイミングで、双子は言う。
「やってる事は、悪い事に違いねえだろ」
 言いながら、啓助は剣を構えた。
「んじゃ、一つ教えとこうか」
 白闇が懐から白い綱を取り出す。
「キルブラックなんて、ダサイ名前使ってるけど」
 黒明は、掴んでいた黒い綱を肩に担いだ。そして、二人は言った。
「「タダの会社だし」」
 二人は声を揃える、当然の顔で。
 今回ばかりは双子だからではなく、当たり前といったところで息があった、そんな気がした。
 殺戮を繰り返した組織が会社か、啓助がそう問いても双子の顔に「当然」の二文字は消えない。どうやら言っている事は本当らしい。
「ま、何故こんな組織を作り出したかって言うと」
「この時代を生きて行くために、必須な訳だからだよね」
 今、啓助と熱也を挟んで、白闇、黒明が立っている。
 二人有無も言わず、背中合わせになって敵を凝視した。啓助達にとってその行動さえが有無のようなものだった。
「んな会社、いらへん! 辻、遅れてしもうたが、救ってやろうやないか未来!」
 熱也は、何か吹っ切れたように言う。
 そして、黒地に赤いラインが入ったパーカーのポケットに手を入れ、薄手の黒い指先まであるグローブを填め込んだ。その他の容姿は、パーカーの下に灰色のタンクトップを着、赤いキャップを鐔を後ろにして被っている。ズボンはゆったりをしていてかつ、動きやすそうな黄土色のズボン。そして、外見からして何か仕込んでありそうな素材不明(啓助にとってだが)のシューズを身に付けていた。
「っしゃあぁ!! 燃えてきたでぇ!!」
 声を張り上げて、熱也はグローブのメリケンをぶつけ合わせる。
「俺もやってやるぜ!!」
 啓助も同じように声を張り上げた。
 一言ずつ叫びを上げた二人は、何か気合いの入った笑みを溢していた。そして、二人は振り向かずとも、背中を預けられると信じ合ったように見える。
 そして、二人は踏み出す。倒すべき敵に向かって。
「いいよね」
「友情って」
 途端に、啓助が薙ごうとした剣が白闇の強く張った綱に遮られた。
「何ッ!?」
 一方、熱也の方も突き出した拳が黒明の綱に叩き落とされた。
「……! やるやないかいっ!」
 双子は二人に何も返さず、無言で綱を撓らせる。
 鞭声のような音を発し、双子の綱はシンクロしながら大きく鳴り響いた。すると、そこからは輪のような光が生まれ、白闇のものは啓助の両足に、黒明のものは熱也の両手に取り巻いた。
「……ッ!?」
 その光が徐々に消えていき、白色のリングが啓助に、黒色のリングが熱也に現れる。
「クソッ! 足が動かねえ!!」
 白いリングを外そうと、啓助はリングに向かって剣をぶつける。
 しかし、『氷柱牙斬(つららげざん)』と白色リングは澄んだ金属音を奏でただけで、リングには傷一つ付いていない。
「なんやねんこのリング!!」
 熱也の方は、黒いリングを外そうとして、足元の床に叩き付ける。
 しかしこちらも同様で、余韻を残しながら金属音が響くだけだった。
「条件付けって大事だよね」
「これで少しは面白いでしょ?」
 まるで、弱者を徐々にいたぶるいじめっ子ような悪質な行為。しかし、こんな事は言っても通じない、この戦闘には卑怯も何もないのだから。
「チクショー……! 状況的に不利すぎるだろ……!!」
 啓助は、右手に握った剣の刀身に氷を纏わせ、左手には氷の盾を作り出す。―――が、動けない。
 足と足がしっかりリングに束ねられているのだ。
「ハーハハハ! コッチから仕掛けさせて貰うよ」
 白闇が白の綱を龍の如く撓らせ、啓助に向かって振り下ろす。
 白の綱は湿った音を立てて、氷の盾に防がれた。しかし、衝撃を受けた盾は、綱が引かれると同時に真っ二つに割れていることが確認出来た。
「ッ! おいおい……」
 啓助は力の抜けた声を発する。良く見ると、氷の盾が割れたのではない。厚みを帯びた中心部分がそっくりそのまま消失していたのだ。

273竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/01/08(日) 18:09:27 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
コメントさせてもらいますね^^

スーパーマイタン勝ちましたねw
しかしチョコバニラミックスとは何と贅沢な……。僕ならチョコにしまs((
そして来待さんがログアウt((
啓助&熱也VS白闇&黒明の戦いもいよいよ始まりましたねw
麗華の過去も楽しみにしております!
まあ最近では白闇ちゃんも気に入ってきたr(( いや、ロリコンではないです((

続きも頑張ってくださいね^^

274ライナー:2012/01/09(月) 13:27:23 HOST:222-151-086-021.jp.fiberbit.net
コメントありがとうございます!

僕はチョコもバニラも好きですが、いつか食べた巨峰アイスが忘れられません(笑)
と言っても、僕もチョコ派ですが(巨峰アイスはいろんな意味で味薄かったですw)
今回は完全的なログアウトですね、来待さん。永遠の休暇をあげm((蹴

結構ダブルスは書きづらくて苦戦しております^^;
でも、何とか頑張りますw

麗華さんは自分でも話作りに苦労しました。ストーリーの資料はあまり使いませんでしたが^^;
白闇ちゃん、結構雑なような気がしたのですが、そう言って貰えると有り難いです!

ありがとうございます! 頑張らせていただきます!

275ライナー:2012/01/09(月) 16:21:20 HOST:222-151-086-021.jp.fiberbit.net

「なーにぃ? そんなに驚いた? 私のこの紐『闇丁紐(あんちょうひも)』って言うの。アビリティの吸収及び放出が可能な訳。ちなみに黒明も『明丁紐(めいちょうひも)』って言う効果の同じ物を持ってるわ。ネーミングが違うだけだけどね」
 アビリティの出し入れが自在と言うことは、先程消された氷も必要な場面で放出されると言うことだろう。こうなると、【マッスル】や【ファスト】のような、人間の力を向上させるアビリティの方が有利と言うことだ。
 にしても、白闇は先程から余裕に満ち溢れ過ぎている。啓助の方を眼中にないと思っているのか、それ以前に遊び道具のような存在でしかないのか。
「なら、これならどうだ! {凍突冷波(とうとつりょうは)}!!」
 啓助は、剣の切っ先を前に向け、刀身を通じて冷気を放った。その冷気は、剣その物を延長したかのように白闇の方へ伸びる。
「だから効かないって」
 白闇は綱サイズの紐を撓らせ、タイミング良く冷気へと重ねた。
 紐と冷気が触れ合うと、吸い込まれるように『闇丁紐(あんちょうひも)』へ消えていく。
「ホラね。……!」
 瞬間、白闇は思わず息を呑む。啓助が倒立前転をしながら接近してきたのだ。
「承知の上だっ!!」
 そう、啓助はすでに相手の武器の効果を知っている。それ故にアビリティを使って冷気に出すのには理由があった。
 ユニオンでの訓練のため、アクション映画などでも良く見る「倒立前転」「バク転」などはある程度訓練されている。しかし、当然ながら通常の走行よりも方向転換としての方が優れるため、スピードには優れない。つまり、僅かなインターバルが必要だったのだ。
 啓助は、回転の勢いを付けたまま刀身を振り下ろす。
「食らえ!」
 瞬間、湿った鍔音のような音が響いた。刀身が、先程の氷の一角に防がれている。
「やるね」
 やはり白闇の表情は余裕。これは想定の範囲内と言うことだろう。
 そして、白闇の反撃が繰り出された。
「火炎、召喚」
 再び撓る白い紐。鞭声が響くと同時にそれは現れた。蜃気楼を呼び出すほどの熱気が、啓助の肌に伝わる。
「グッ!」
 目の前が炎で赤く染まり、身体ごと啓助を吹き飛ばす。
「さて、戦えるかな」

 一方、熱也と黒明。
「ふーん、白闇はもうすぐ片が付きそうだな。ま、当たり前か」
 黒明の視線は熱也にあらず、遠くの啓助達の戦闘を見据えていた。
「余所見すんなや!」
 言葉と同時に、束ねられた両手がグローブに炎を纏わせる。その拳は赤い流星を思わせるように黒明に向かった。
 しかし、その拳が来る事を前から予想していたかのように黒明は伏せる。そして、熱也の反応よりも速く、『明丁紐(めいちょうひも)』が熱也の腹部を叩いた。
「ヴグッ……!」
 詰まる苦悶と共に、激しい平手打ちのような音が熱也を数メートル先の壁へと打ち付ける。
「これでやられたって事は、要するにそれ程弱いって事だよね。にしても、君が火を使えるとは知らなかったよ」
 静けた空間に、黒紐の鞭声が響いた。
「斬撃、召喚」
 小さな囁きが放たれると、それが伝わるかのように紐は撓る。
 ザッ!と言う風切音が、突進するように熱也へ向かった。
 その音は姿を捕らえられぬものの、鉄製の床を捲り返して波のように迫る。
 倒れている熱也は一所懸命に立ち上がろうとするが、倒れている体勢が辛く、手が思うように動かせないために中々立ち上がれない。
「ッ!!」
 顔を上げ、前方の斬撃を目の当たりにした。しかし、体が動かない。
「グハアァッ!!」
 驚愕の叫びと共に、赤いキャップが宙を飛ぶ。さらに、熱也の全身に切り込みを入れるように傷が現れ、血液が四方に飛び散った。
 赤いキャップがフリスビーのように宙を舞い、羽毛が舞い降りるようにゆっくりと落ちる。
 そのキャップが落ちた場所は―――

 ―――微かな震えを残した、熱也の倒れる身体だった。

276ライナー:2012/01/14(土) 12:00:52 HOST:222-151-086-012.jp.fiberbit.net

 二人の体力は限界に達していた。相手が悪すぎるのだ。アビリティを吸収できてしまうなんて、あまりにも分が悪すぎる。
 啓助は、焼けただれた体を必死に動かしながら、熱也の方へと向かう。
「おい、大丈夫か……!」
 掠れた声が、熱也の身体を起こさせた。だが、傷だらけの体は、今にも倒れそうなくらいの雰囲気を出している。
「大丈夫や。こんなん、根性でどうにでもなるで」
 熱也はそう言うものの、声からしてやはり辛そうだった。
 そんな状況を余所に、白闇と黒明は余裕そうにこちらを見つめている。まるで、虫のようにすぐさま殺せると言っているかのように。
「クッ……!」
 啓助は、悔し紛れに拳を地面に叩き付ける。もう、打開策は無いのか。
 相手の武器は、アビリティ吸収可能な紐。こちらの攻撃パターンで許せる範囲は、啓助がアビリティを使用せずに剣で物理攻撃を繰り出すこと。そして、もう一つは熱也のアビリティ【ファスト】を使用した物理攻撃。どちらにせよ、物理攻撃でなければ効果がない。
 しかし、物理攻撃と言っても、最初に繰り出した攻撃は簡単に防がれてしまった。これも簡単に征くとは限らないだろう。
「(アビリティの使用できる条件は、相手の吸収スピードを超える攻撃をすること―――)」
 そこで、啓助は気が付いた。
 吸収スピードを超えればいいのなら、アビリティを即使用するのではなく、溜めてからの攻撃を仕掛ければいい。だが、啓助に啓助にそれ程のアビリティを放出し、操る力は無い。出来るとしたら氷を全身に纏うくらいだろう。
「!」
 そして啓助は、再び閃く。この期に第六感は冴えているようだった。
 啓助は、この時だけは自分の中途半端な第六感を有り難く思った。最高の打開策を思いついてくれる、第六感を。
「熱也、まだ動けるか」
「当たり前や! この程度でくたばる柿村熱也とちゃうわ!」
 熱也もどうやらまだ動けるようだ。と言っても、長持ちはしなさそうである。つまり、啓助が思いついた「体力の使う」打開策は一発勝負。
「いいか、お前は……」
 啓助は熱也にその打開策を伝える。
 それを聞いた熱也は少し驚いた様子だったが、聞き終わると満面の笑みを浮かべ、大きく頷いた。
「死ぬんやないぞ、辻!」
「あたぼうよ!」
 二人は地面を蹴って、双子の方へと急接近する。
「白闇、3分トーキング終わったみたいだよ?」
「ま、結局格好いい死に方について語ってたのよ」
 双子は軽く構えを作りながら、接近する二人を見据えていた。
 瞬間、啓助の『氷柱牙斬(つららげざん)』が白闇に襲い掛かる。
「勇気って、大事だよね」
 余裕の声が啓助に届いた。
 途端に、『闇丁紐(あんちょうひも)』が素早く振るわれ、大きく刀身が弾かれる。
「でも、その勇気は空回りする無謀に過ぎないの」
 啓助は、その刀身ごと一直線に飛ばされた。しかし、啓助は笑顔を見せる。

 熱也の炎を纏った拳が、俊敏に黒明へと向かう。
「要するに、空気摩擦って事だよね」
 余裕の声が熱也に届いた。
 途端に、『明丁紐(めいちょうひも)』は素早く振るわれ、大きく拳が弾かれる。
「【ファスト】によるスピードで、摩擦熱で燃えやすい素材のグローブと靴。でもそれは、悲しく燃え尽きる灰でしかない」
 熱也は、その拳ごと一直線に飛ばされた。しかし、熱也は啓助と同様、笑顔を見せる。

 二人の飛び交う身体は、互いに接近し、両足を向こうの両足と合わせた。そして、大きく飛び上がるように、二人は互いを押し退ける。
 それは、先程飛ばされた相手に向かい、急接近していった。
 不意を突き、剣が白闇を切り倒し、炎の拳が黒明を急突いた。
「なっ……!!」
「うそっ……!!」
 双子は紐を一度薙げば、その流れを変えるために僅かなインターバルが必要となる。だが、今のように二人が体勢を立て直せば別だ。機転が利かず、瞬間的に硬直したのと同じ事になる。
 地面には、勢いよく土煙が上がり、その上を啓助と熱也が飛び上がった。
「止めだ」
 宙に舞う啓助に、大きく冷気が纏う。それは急激に啓助に集まり、一つの巨大な氷の塊と化した。
 熱也は大きく飛び上がり、回転して勢いを付ける。そして、その勢いで、氷の塊を双子の真下へ蹴り下ろした。
「氷蹴るのが、なんぼのもんじゃいーッ!!」
 叫びと共に、氷は砲弾の如き速さで土煙を突き抜けた。

「要するに、河童の川流れか……」
「油断大敵って、大事だよね……」
 この二つの言葉は、双子の最後を告げていた。

277ライナー:2012/01/14(土) 14:19:03 HOST:222-151-086-012.jp.fiberbit.net

 〜お知らせ〜

いつも、本作「係争の異能力者(アビリター)」をご愛読の皆様、ありがとうございます。
二作目となった「赤瞳の不良」ですが、行き詰まってしまい、終了することとなりました。
この失敗を反省し、ノート一冊分のアイディアをまとめるまで新作は投稿しないよう心がけます。また、二作目をご愛読くださった皆様には本当に申し訳ありませんでした。
このような責任感の欠片もな自分でありますが、新作が出来た時には、読んで下さりますようお願い申し上げます。

278月峰 夜凪 ◆XkPVI3useA:2012/01/15(日) 11:26:00 HOST:softbank221085012009.bbtec.net
コメントさせて貰いますね。私の小説にコメントして貰ってたのに遅くなってしまい、申し訳ないです;

まず最初に、戦闘の場面がスピード感があって面白かったし、読みやすかったです!
最近戦闘描写が上手い人が沢山いて焦り気味です((

読み始めたばかりのころは、いわゆる乃恵琉くん推しだったのですが、過去編の影響で洋(ヒロシの方も)好きになりました!(勿論乃恵琉くん今でも好きですよ!w
以前にアドバイスを頂きましたが、やっぱりギャップがあるキャラって魅力的ですね^^
ちなみに女性陣だったらマイマイこと麻衣ちゃんが特に好きです!戦うメイドさんってかっこいい←

それにしても、最後の白闇ちゃんと黒明くんの言葉が印象的ですね!二人も好きなのですがやっぱりログアウトしちゃうのかn((

それではこの辺りでノ 続き楽しみにしてます^^

279ライナー:2012/01/15(日) 14:20:13 HOST:222-151-086-008.jp.fiberbit.net
月峰 夜凪さん≫
コメントありがとうございます!! いえいえ、コメントいただけるだけで嬉しいですし、だいぶ長編なので読むのに時間が掛かりますよね^^;

戦闘シーンは、あまり諄過ぎてはいけないと思ったので、何度も読み直して自分なりに読みやすくしたつもりでした。ですので、面白いと言って貰えるのは本当に嬉しいです(涙)
僕もまだまだ半人前なので、上手いかどうか分かりませんが、戦闘描写も文章の一部。自分の納得のいくものが出来れば、それで良いと自分は考えたりしています(笑)

乃恵琉と洋ですか!? 僕もそのお二方は気に入っています^^
僕は、ギャップに関しては修行中でありますが、分かって頂けて嬉しいです!

双子さんですか。やはり、敵なのでどうしてもログアウトg((

ありがとうございました! 期待に添えるよう頑張っていきます!

280ライナー:2012/01/15(日) 17:00:27 HOST:222-151-086-008.jp.fiberbit.net

 37、一難去ってまた一難

 熱也は、土煙の残る地面に颯爽と着地する。
「おい、辻ー! 大丈夫かー!」
 霧雲のように掛かった土煙に、当てずっぽうに声を上げた。
 すると、その土煙からは影が映し出され、啓助が姿を現す。
「大丈夫なわけねーだろ! コッチは体張って攻撃してんだ、死ぬかと思ったぜ……」
 辺りはゆっくりと土煙が消え、俯せになって倒れた白闇と黒明が現れる。
「クッ……!! 私達が」
「ま、負けるなんて……!」
 双子は、掠れた声を出しながら、息ピッタリで地面に拳を叩き付けていた。
「お前らが何をしているのかは知らねえが、人を傷付けてまですることなら、俺は止める」
 啓助は剣の刀身を鞘に収めながら言う。
「右に同じや」
 啓助に続くように熱也も言った。
「……こうなったら」
「ボス本人に委ねるしか無いね」
 双子の言葉を最後に、双子は土煙に紛れて姿を隠す。そして、土煙が晴れると同時に、その姿は消えていた。
「!?」
 二人は拍子抜けしたように辺りを見回す。しかし、ドーム内には啓助と熱也しか存在していなかった。
 すると、今度は景色が歪み始め、ある時間を境に景色が真っ黒に染まった。黒い景色は暫くして色味を帯び、旅館前の大通りに戻っている。
「戻った……のか」
「いや、ワイにとっては完全にワープ状態なんやけど……」
 それもそのはず、熱也は啓助と共に行動していた訳では無く、別の場所に存在していたのだから。
 にしても、ワープ前とは完全に何か違うものを感じた。

 ―――人が居ない。

 もうすぐ昼時だというのに、ファミレスや食品専門店が多い大通りには人っ子一人存在していないのだ。これはどういう事なのか。啓助には、まだ〈キルブラック〉が関係しているとしか思えなかった。
「ねー、約束のアイス買ってよー。チョコバニラミックスがいいよー」
 麻衣が後ろから啓助の服の袖を掴み、ユサユサと前後に振る。麻衣が無事だったことに気付き、啓助はひとまず安心した。だが、今はチョコバニラミックスのアイスを買っている場合でない。チョコバニラミックスでなくとも、コンビニに行ったところで店員さえも居ないだろう。
「ちょっと待て、今は街の様子がおかしい。……つか、お前右肩大丈夫か?」
 啓助は振り向き麻衣の姿を確かめるが、その右肩は刺し傷と言うほどではないが、擦り傷のように赤く染まっていた。
「だからー、早くアイス……」
 言い掛けて、麻衣の瞳から電源を切ったように光が失われる。そうかと思うと、啓助の服の袖を掴む握力は弱くなり、前のめりに体を倒した。
「お、おい! 大丈夫か!?」
 一見するだけで全く大丈夫とは言えないが、啓助はそう言って麻衣の体を担ぐように持ち上げる。
「ヘッドホン娘やないか!? どないてこんな所に!?」
 話は後だ。啓助は熱也にそう言うと、辺りを忙しなく見回す。
 今の現状は街に人が全く居ない。居るのは啓助、熱也、麻衣の三人だ。すなわち医者さえもいないという事。つまり麻衣の完全な手当は今のところ望めないということだ。擦り傷だけで気絶したとは、到底思えない。
 完全な手当が出来なければ、次に優先順位が来るものは「安静」だ。とにかく麻衣を一番安静な場所に移動させなければならない。
「熱也、悪いがここ周辺を捜索してくれねえか。誰か一人でもいたら心強い」
 恐らく確率的には0に近いだろうが、調べてみなければ分からない。麻衣は旅館の中で安静にさせて、なるべく医療に関係した人物に見て貰えれば最高だ。
 「おう」という返事と同時に、熱也は持ち前の【ファスト】を活かした捜索を始めた。
「参ったな……」
 そう、参った。今、何処で、何が起きているのかサッパリ見当が付かない。いや、啓助自身考えるのが嫌な程困惑状態に陥っているのかもしれなかった。現在分かっているのは、この街から人が消えていると言う事態だ。
「………」
 不穏な空気が啓助の肌を刺激する。
 これから、何か嫌な事が起きる。そんな予感を過ぎらせていた。

281ライナー:2012/01/21(土) 14:47:31 HOST:222-151-086-008.jp.fiberbit.net

 やけに静まった大通りは、腕時計の秒針の音さえも大きく表現する沈黙だった。
 まるで、水中のような沈黙。
 暫くして、捜索から熱也が戻ってきた。何処まで走っていったのか、少し息が荒い様子だ。
 そして、戻ってきた後の答えはやはり―――
「居らんかった」
 まあ、そうだろうとしか返しようがない答えだった。だが、啓助は何か考えるように間を置いて、そうか、と静かに言う。自分の想定が少し外れたような言い方だ。
 その言葉の後に、熱也は付け足すように言葉を続けた。
「と言っても、直径1キロメートル位を隅々調べたんやけどな」
 確かに街一つと比べたら、直径1キロメートルは小さい範囲内かもしれない。しかし、熱也の捜索時間は約25分。隅々まで調べると言ったら充分過ぎるほどの時間だ。
「ああ、それもう一つ。道路に車が投げ出されるようにあったんやけど、やっぱ人が移動したって言うより消えたっちゅうのが本命らしいな」
 消えた。それなら意図的に誰かが消したか、消すような事態を起こしたに違いはない。人が自分から消えるようなことは出来ないし、存在自体を消すのは無理な話だ。
 行方の真相を深く考え込みそうになって、啓助は思考回路にストッパーを掛けた。深く考える前に、まず麻衣を安静な場所に移さなければならない。
「ハァ……」
 溜息を吐きながら、啓助は貴重品を扱うように麻衣を持ち上げる。状況が状況でなかったら、このお姫様抱っこは批判されていただろう。
 
 現在地、旅館の一室。
 啓助は勝手に旅館の布団を使い、その上に麻衣を寝かせる。
「ヌッ! 何やこの扇子! ゴッツ重いんやけど!!」
 熱也はどうやら、麻衣の武器『風華乱扇(ふうからんせん)』を運ぶのに苦労しているようだ。というか、麻衣は啓助より小さいあの体にどのようにしてあんな扇を振り回す力を持っているのだろうか。腕を掴んでみてもそれ程筋肉があるとは思えないし、年齢としても啓助と同じ16、15歳くらいの外見だ。
 扇を両手にした玄関前の熱也に、啓助は手を貸す。
 二人で両端を持って、玄関の段差を越えたものの、長刀のような扇は重量としてはまあまあ。これほど重く感じるのは長さのせいだろう。二人で運ぶと案外軽かった。
「……ふー、外に調べて行きたいが、怪我人から目を離すわけにも居かねえな」
 額にうっすらと浮かんだ汗を、啓助は服の袖で拭う。
「しゃーないから、ワイがヘッドホン娘の面倒見たるわ。さっきの出来事もそうやけど、〈キルブラック〉が関係しているのは明かや。ワイは結構な切傷負ってもうてるし、一番怪我の少ないお前が行ってくれ」
 俺も相当火傷負ってるんだけどな、と一言言い返し、啓助は麻衣の手当を終えた。
 麻衣の手当を終えた啓助は、今度は自分の手当に方向を変える。
「……今は何が起こるか分からねえ。呉々も気を付けろよ」
 啓助は、自分の腕に包帯を巻きながら熱也に言った。言葉からして、行動に出ることは確かなようだ。
「分かっとるわそんな事! それよりも、ワイがここにワープして来てもうた分、キッチリ解決するんやぞ」
 了解。そんな言葉と僅かな笑みを残して、啓助は旅館を去る。
 必ず戻らなければ。第三番隊B班のメンバーのため、そして、残していった熱也と麻衣のために。

 大通りに出ると、「当然」と言うべきなのだろうが、人が居ない。
 辺りには、霊現象でも見えてしまいそうなカーブミラー、車道のど真ん中に不自然に止められた車。やり尽くされていないゴーストタウンを、啓助は当てずっぽうに走る。ちなみに路上の車は全てアイドリングストップされていないようだ。消えているのだから当たり前なのだが、何となく環境が気になる光景ではある。
 それにしても、走っても走っても人の気配一つ感じない。一体何処までの範囲の人間が消えているのか。しかし、日本全国の人間が消されたという選択肢はない。不自然に路駐された車のラジオが通常に役割を果たしていたからだ。
 すると、人の話し声をキャッチする。
「ん?」
 その話し声は、カーブミラーから少し姿が見える。
 話し声を立てている者の姿は、〈キルブラック〉の下っ端が纏う黒装束を着ていた。

282ライナー:2012/01/29(日) 14:48:43 HOST:222-151-086-012.jp.fiberbit.net

「いやー、白闇様と黒明様の技は凄いね」
 声が聞こえると同時に、啓助はカーブミラーの死角に寄り、耳を澄ませる。
「そうだなー。この周囲の人間を全て異空間に収納とか……俺らには意味不明だよ」
 やはり〈キルブラック〉の者の話らしい。それに、白闇と黒明がまだ動ける状態であったのが、啓助には酷く驚きを呼び起こした。
「ボスが異空間から人々を助け出すような演技をやって、今の時代に必要なアビリターをここに示す。そう言ったことで、会社を引き立てトップクラスの営業会社を作り出す。凄すぎて俺らには判断が付かないな」
 黒装束の話を頭の中で整理しながら、啓助はあの言葉を思い出す。

「「タダの会社だし」」

 白闇と黒明、あの双子が言った言葉だ。どうやら偽りではなかったらしい。
 しかし、会社と言うからには今までも敵も雇われた人間が多数を占めるだろう。すると、〈キルブラック〉のボス堂本はたった一つの会社を引き立てるためだけに、多くの人間を巻き込んでいる。そうだとしたら、一刻も早く堂本を止めなくてはならない。
「〈キルブラック〉の下っ端にしては随分オシャレ脱線した格好してるじゃない」
 突然、後ろから声が掛かる。
「……!」
 唾を呑み、啓助はゆっくりと首を背後へ回した。すると、その目に入ってきたのは――――

「れ、麗華……!!」

 啓助はそう声を漏らし、硬直する。
 そこにいた麗華も同様に衝撃的だったらしく、『白鳥夢掻(しらとりむそう)』を握ったまま立ち尽くしている。
 突如な再開。しかし、これは双方にとって重大なことだった。
 啓助は逃亡者、麗華はユニオン隊員。この身分は、関係図で表すと「敵」という矢印で結ばれているのだ。つまり、今互いが出会うことは戦闘に発展してしまうという事だ。
 思わず、啓助は背にある剣の柄に手を伸ばす。
「辻……アンタ、まさか〈キルブラック〉の一員なわけないわよね?」
 そんなこと一目見れば分かるのだが、今はお互いを信用することは難しい。啓助は〈キルブラック〉の作戦現場にいて、麗華は恐らくそれを止めるために派遣されたのだろうから。
 『白鳥夢掻(しらとりむそう)』を握る麗華の手が、ほんの僅かに力が込められる。
「ああ」
 言葉と同時に『氷柱牙斬(つららげざん)』を鞘から抜き出した。
「(今はお互いやるべき事を優先するしか他ない。こうなったら――――

 ――――戦うしかない。

 そう、選択肢は一つだけ。戦うことしか許されないのだ。
 麗華は今ここでユニオンを裏切り、啓助を助けるようなことをすれば同罪になる。しかし、啓助はそんな迷惑掛けられるはずもなかった。
 たとえ任務を任されても、指名手配犯などと遭遇した場合はそれを優先する。そうして、自分の出来る範囲内のことを実行する。それがユニオンのオキテだった。一見仲間を裏切るような行為に見えるが、それは仲間を信じて任務を任せるという事にも繋がる。そして、多くの仕事をこなさなければいけないプレッシャーでもある。
 そして戦う。

 ――――仲間の元へ帰るため。第三番隊B班のチームルームに再び戻るために。

 そのためには、麗華を戦闘不能に追い込まなければいけない。
 以前の試合による負けがあり、緊張感がさらに増す。
「………」
 啓助は剣を構える。仲間だった者に。
 麗華はナイフを握る。任務を遂行するために。
 戦うことは互いのため、これが神の作り出した越え辛い運命(さだめ)。
 二人は同時に足を踏み出した。
 互いの武器は激しくぶつかり合う。まるで、金属が奏でる交響曲が如く。
「(クソッ……!)」
 そして、啓助は願った。

 ――――交響曲の中断を。

283:2012/02/19(日) 16:33:28 HOST:zaqdb739e54.zaq.ne.jp
コメしますねノシ

全体の4分の一を読み終わりました!!

いや〜ライナーさんの小説はハンパないですよね(*^_^*)

私の小説とは桁違いな上手さです!!

最終回まで読みますから、辞めないでくださいよ!!

こっちはこっちでとても楽しみなんですから!!←


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