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係争の異能力者(アビリター)
1
:
ライナー
:2011/05/06(金) 23:48:30 HOST:222-151-086-008.jp.fiberbit.net
今回は名前を変えて新たな気持ちで投稿させて貰います。
今までは勉強不足であまり良い作品にならなかったので、これからの作品に力を入れていきたいと思います。
〜注意事項〜
・題名の通り異能力が出てくるファンタジーものです。こういうのが苦手な方はお勧めしません。
・少々グロテスク表現があります。最小限に控えますが、不快に感じられたらすみません。
・本作は人の作品を真似るような事はしておりません。もし似ていて、盗作されたと感じられたら、行って貰えればそれ以降なるべく離れた設定で進めさせて頂きます。
・本作を真似るのも止めていただきたいです。
・チェーンメール、アスキーアート等をやるのは一切控えて下さい。
・気をつけますが、誤字脱字等の可能性がありますのでご了承下さい。
・まだまだ未熟な部分がある駄作なので温かい目で見守って貰えると光栄です。
コメント、アドバイスも受け付けますので是非来て下さい!
234
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/12/03(土) 10:10:35 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp
コメント失礼します。
いやー、啓助君がかなりヤバイ状況ですな。
恵と洋は動くだろうけど、乃恵琉と麗華はどうなんでしょうね?
しかしツン九割増しの麗華のデレがちょい見てみたいなー((
続きも楽しみにしております^^
235
:
ライナー
:2011/12/03(土) 11:00:26 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
竜野翔太さん≫
コメントありがとうございます!
やばいですね、こっから啓助君がどうなるか楽しみにしていただけたらと思います。
麗華さんは怪我してますからね〜。
なるほど、ツン9:デレ1、参考にさせて貰います!
少し後半になりますが、第四章では、麗華の過去を書こうと計画しております!
さらに、出てきます、あのメイ……伏せておきましょう(笑)
これからも頑張りますので、宜しくお願いします。
236
:
ライナー
:2011/12/03(土) 14:27:07 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
柄井との会話は、音も無く切断された。
「ったく、私達より面倒臭いアビリティを背負っていたなんて! さっ、行くわよ……」
麗華の活発な声調は、一気に静まっていった。
何故なら、麗華及び乃恵琉の2人は大怪我現在無変化中で、ハードな動きは出来ずにいたのだ。
「れ、麗華、無理しちゃ駄目だよ。私が行く」
そう言って、恵は椅子から立ち上がる。
すると、一瞬恵の足が震えた。
「ッ……!!」
前回の板東逮捕の任務で、恵は足首を怪我していたのだ。
「アンタも無理しちゃ駄目なんじゃないの、恵。でも、助けるって言ったって、辻はもうユニオンにはいられないって事でしょ?」
麗華は恵から乃恵琉に視線を変えながら言う。
そう、仮に啓助を助け出すとしてもユニオンに居る事は不可能となる。不可能となるどころか、指名手配とされて追い回されることも確かだろう。
「……しかし、助け出さなければどちらにも転がりません。ですが、僕や麗華達が行けないとすると……」
乃恵琉、麗華、恵の3人は、揃って洋の方を振り返る。
「え、何?」
状況が把握仕切れていないのか、洋はポカンとしていた。
「行けるのは、洋だけですか……」
何か諦めたように、乃恵琉は呟く。
「アンタなら、自分の体を機械化させればバレないでしょ!」
麗華は洋の胸座(むなぐら)を掴み、怒鳴りつけるように言った。
「お願いっ! 井上君、啓助君を助けてあげて!」
恵は両手を顔の前で合わせ、泣き声が混じった声で言う。
確定はしてはいないが、指名手配となると他のチームにも頼めないだろう。それもあって、最後の頼みの綱は洋だけだった。
「えー……でも、僕強くないし……」
曇った表情で洋は言った。
確かに洋自身は強くはない。しかし、洋(ひろし)の方は戦闘力に優れていた。ちなみに、洋(ひろし)はアビリティによる特殊攻撃を受けないと出て来ないというリスクもあった。
「今は、強さが問題ではありません。それに、僕達の中でも一番弱くても、一番潜入技術に優れているのは誰ですか? 『メター』のアビリティを持つ、君だけです」
237
:
ライナー
:2011/12/04(日) 19:55:33 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
31、鋼の心で
洋は、ユニオンの通路をひたすら走っていた。
「(ボクがあんなことできるんだろうか……?)」
走らせている洋の足は、戸惑いと迷いで、何度か立ち止まりそうになっていた。
洋が乃恵琉達から命じられた任務は、3つ。捕らえられた啓助を救出する事と、啓助の剣『氷柱牙斬(つららげざん)』を受け渡すことだ。
『氷柱牙斬(つららげざん)』は、洋の『メター』のアビリティを生かして洋の体内へと収納されていた。しかし、それは問題ではない。問題なのは、啓助をどう助けるかにあった。
助けると一言言っても、啓助が今、どんな状況にあるか分からない。つまり、助けられるかどうかは、洋の実力以前の問題だったのだ。
そうこう戸惑っている間に、洋は20階に来ていた。
竦んだ足でここまで来られたのは、頭が呆然としていたせいだろう。
「うう……」
洋の竦み掛けた足は、完全に竦んで動かなくなった。
20階に着いた途端、乃恵琉達からの期待と言葉がプレッシャーに感じてくる。
―――笑って送り出せ。
それが、第3番隊B班のチームメイト全員を背負った洋の3つ目の任務。
沢山の不安が洋の全身を包み込み、これ以上進むな、と言う信号に変わってしまう。
「………」
突然、研究室の方向から洋は目を背ける。
「……ゴメン」
竦む足で回れ右をし、洋は手の握力を強めた。
自分には出来ない、自分では力不足だ。そんな言葉が考えたくもないのに浮かんできてしまう。
そして、洋は研究室から遠ざかった。
洋は悔やんだ、自分の力が物足りないことを。
自分の勇気が足らなかったことを。
研究室から遠ざかり、5、6歩歩いたところで、洋は頭痛に襲われた。
「ッ……!」
「ボクが分かるかい? 洋」
頭痛と共に、洋に声が掛かる。
声が反響するように頭痛が強まるような気がした。だが、声の主の驚き、洋は体型に似合わないスピードで辺りを見回す。
「君は何故立ち止まった?」
その声は、柄井の『テレパシー』でも、チームメイトの声でもなかった。
「……返事がないが、忘れているのかい? それとも頭痛が痛いのかな?」
3度目の声で、洋は声の正体に気付く。
「―――洋(ひろし)だよ」
そう、洋の中でもう1人生き付く存在、洋(ひろし)だった。
「君は今の状況から逃げるのか、洋」
少し頭痛に慣れてきたのか、洋は僅かに頭を上げる。
「ぼ、ボクには無理なんだ。きっと、啓助を助けられずにみんなに恨まれる……」
「それは、啓助を助けなかった時も同じ結果になるんじゃないのかい?」
言われて洋はハッとする。
「どうせ同じ結果なら、やって後悔しようじゃないか。今、君に大切なのは、君が啓助を助けようと思う気持ちじゃないのか!」
普段、声を上げない洋(ひろし)が、信じられないほどの怒号を放った。
「君の勇気は、失敗したって認めてくれるさ。君、及びボクのチームメイトはそんなことで怒る人じゃないだろう?」
怒号を放った洋(ひろし)が、今度は笑顔でも見えてきそうな声で洋に言う。
ふと、洋(ひろし)の言葉が洋を変えた。
やって後悔する。
その言葉が、洋の背中を後押しした。仲間を助ける勇気と共に―――
「分かった、やってみよう!」
そして、洋は乃恵琉達の言葉を再び思い出す。
―――笑って送り出せ。
238
:
ライナー
:2011/12/10(土) 16:22:23 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
洋は頭の痛みを堪え、20階研究室前まで来た。
「えーと、どうしたらいいのか……」
無い知恵を絞って、洋は頭を悩ませる。考えれば考えるほど、頭痛も増していったが、今はそれどころではなかった。
「う〜ん……」
時間がないというのに、暫く頭を悩ませていると、洋の思考に何年かに1度しかないくらいの電撃が走った。
自慢げな笑みが洋の顔に表れると、洋は自分の体を綱変化させていく。
「歯車!」
そう言って、洋は無数の歯車に化ける。洋の考えは、歯車に化け、狭い通気口を侵入しようと考えたものだったのだ。
歯車と化した洋は、研究室に繋がる通気口から慎重に侵入した。
通気口に入っていくと、微かに啓助の姿が見えた。
啓助は何本ものカラーコードに繋がれており、その近くには霞浦が腕組みをして立っている。
「(うーん、霞浦隊長がいると面倒臭いなぁ)」
霞浦は確かに面倒臭い。隊長達の中でも1位2位を争うほどの強さだったのだ。
それに、洋の場合は1位2位を争う弱さだと言うから、面倒臭いでは済まないだろう。だが、ここはやはり洋の性格だからか、随分と暢気に聞こえるのが癪に障った。
しかし、時間は無い。洋に残された選択肢は、戦う。それだけだった。
洋は歯車に変化したまま、通気口を研究室側に飛び出す。
「ッ!? 誰!」
霞浦は、鋭い目つきで洋に振り向いた。
高い金属音を響かせ、歯車の洋は機械チックな床を転がる。
「こんな時に邪魔が……!」
先の尖ったブーツで歯車の洋を蹴飛ばすと、霞浦は警報スイッチを強く押した。
赤いランプが点滅し、甲高いサイレンが鳴り響く。
歯車の洋は、霞浦に蹴飛ばされたものの、回転を続け、啓助の近くまで転がった。そして、歯車同士を繋ぎ合わせ、啓助に繋がれたカラーコードを契り取る。
「何なの、この歯車!」
転がって行く歯車を忌々しく見つめながら、霞浦は両手の掌を歯車に向ける。
すると、霞浦の掌から弾丸のような水が放たれた。
しぶき雨のような音を立てて撃たれた水は、まるで射撃ゲームのように歯車を内飛ばしていく。
「うわっ!」
歯車の全てが打ち抜かれ、研究室の隅に転がった。
「うっ……! ん!?」
すると今度は、啓助がサイレンの音で目を覚ます。
「啓助、屋上へ逃げるんだ!」
歯車の体をカタカタと動かしながら、洋は声を発した。
啓助は、その声を一瞬で洋だと聞き取り、急いで研究室を出る。
それを止めようと、急いで霞浦はその背中を追った。しかし、その動きは研究室のドアの前で止まった。洋が歯車の状態で、立ち塞がったのだ。
「クッ……! 貴方は一体誰なの!?」
どうやら、洋の正体は霞浦にはバレていないらしい。
洋は自分の正体を極力明かさないよう、黙って歯車同士を繋ぎ合わせた。
「……問答無用って訳ね。いいでしょう、ユニオンを襲ったらどうなるか、貴方に教えてあげるわ」
霞浦は、洋に再び掌を向けた。
239
:
ライナー
:2011/12/11(日) 13:41:02 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
歯車の洋に、弾丸のような水が襲う。
「綱変化、鉄水車!」
言葉と同時に、洋の体が歯車から水車へと変わった。
水車の体は勢いよく回転し、飛んでくる水の弾丸を霞浦へ跳ね返す。
「クッ! 『メター』のアビリティね……!」
霞浦は、両腕で自分の攻撃を防ぐと、今度は掌に水を溜める。
「{水回鋸(アクアチェーンソー)}!」
掌に溜った水は、段々と流れを帯びて水で出来たチェーンソーのようになった。
水のチェーンソーは霞浦の右手に宿り、まさに木を切るように、水車の洋に襲い掛かる。
洋は水の刃が迫る最中、水車の形を崩していった。
「逃がさないッ!」
しかし、霞浦は隙を逃さず、ガラス細工のように溶けていく洋の体に水の刃を食い込ませた。
「グアァッ!!」
形にならない鉄の塊が、四方に飛び散る。
すると、警報機のサイレンに呼び出された警備ロボットが、洋の周りを囲った。
「これで終わりよ」
霞浦が右手を挙げると、それに合わせて警備ロボットが鉄の塊を回収する。
鉄の塊と言っても、パラパラとした粉のような物ではなく、サッカーボールくらいの大きさを持つ重たい物であった。しかし、ユニオンの警備ロボットはそんな重さは関係無しに、洋の体である鉄の塊をショッピングカートのような籠に次々と回収してしまう。
「(ま、まだだ…… ボクは、もうあの頃のボクじゃないんだ……)」
そう、それは洋がミクロアビリティと言う存在に初めて出会った頃だった。
洋、11歳。
この頃もまだ貧乏で、2ヶ月に一度、やっと溜ったお小遣いでおやつ代わりのラーメンを食べようと、ラーメン屋に立ち寄った時だった。
「フー、ラーメンラーメンっと!」
腹を鳴らしながら、洋はラーメン屋の戸をガラガラと音を立てて開ける。
いつもなら、入ってすぐに「へい、いらっしゃい!」と言う店員の元気な声が聞こえてくるのだが、店の様子がどうもおかしかった。
「ちょっと、お客さん! お勘定ないってんじゃ無いだろうな」
カウンター越しに、ラーメン屋の店員は一人の客に何か言っている。
そして、細い目つきで定員に睨まれている客は、額に汗を浮かべながらポケットに手を突っ込んでいた。
「あれー、おかしいのぉ。確かこの辺財布が……」
焦りに焦っている客は、度の強そうな丸眼鏡を掛け、セーターの上から少し薄汚れた白衣を着ている。形振り構わない感じから、本物の科学者らしい感じだった。
「警察呼びますかぁ〜、お客さん」
ジト目で店員は科学者らしき客に言う。
「あー! ちょっと待ってくれぃ! もうちょっと待ってくれんか! 気になる2人の関係を見届けるまで!」
「誰だそのカップル!」
「あの〜……」
何だか無視されている感じがして、思わず洋は店員に声を掛ける。
「あ、いらっしゃい! ちょっと待ってて下さいね〜、警察呼びますんで」
「すまん! だから警察だけはやめてくれんか!」
「だったらどうすれば良いんだ、このエセ博士!」
段々と、言い逃れる口論が悪口に変化していった。
「あの〜……」
洋はもう一度、店員に声を掛ける。
「すいやせん! すぐに警察呼びますから」
「いや、そうじゃなくて、ボクが払うので〜……」
「「え?」」
店員と科学者、2人の声が重なり、おかしなハーモニーを奏でた。
240
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/12/11(日) 17:41:19 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp
ライナーさん>
コメント失礼します。
ようやく洋が活躍し始めた……と思ったらいきなり危機的状況だし!
霞浦隊長が強いことがよく分かります。いや、洋が弱いだけなのk((
それと、僕から初めてだと思われるアドバイスがあります。
多分この作品の主要人物は啓助、乃恵琉、麗華、洋、恵の五人だと思ってるんですけど……、洋だけ過去話が展開されてますよね?
普段出番がないので、活躍する場面で盛り上げるのはいいと思いますが、他のキャラも過去話を混ぜた方がいいかと……。
単に見落として説明しているかもしれませんが、例えば、お嬢様の麗華がユニオンに入るきっかけだとか。
洋だけ、二回目の過去話ですし……。
出来たら他のキャラのも見てみたいな、という一読者としての意見です。
やるつもりだったのなら、申し訳ありませんが、参考までにしてくれたらありがたいです^^;
241
:
ライナー
:2011/12/11(日) 18:42:46 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
コメントありがとうございます!
竜野翔太さん≫
まあ、用はヘタレの中のヘタレですからね^^;
霞浦隊長、言うの忘れましたけど、『アクア』のアビリターなんですよね。まあ、洋は弱いな。
久々のアドバス、有り難いです!
そうなんですよね、洋だけ過去2回目なんですよね〜。
1回目は、洋がユニオンに入った理由がなかったので、今回少し……それとこれからメンバーチェンジの都合で出番無くなると思うのでやってみた次第です。
麗華に関しては、ラフに既に過去編を書いているので、楽しみにしていただけたらと^^
ちょっと早すぎるかな、なんて思いながら進行していたらホントに過去編少ないですね、気を付けたいと思います。
アドバイスありがとうございました!!
242
:
名無しさん
:2011/12/12(月) 08:35:29 HOST:wb92proxy14.ezweb.ne.jp
エアロさん
これからもめげずに頑張って下さい
大人は辛いね。
243
:
ライナー
:2011/12/17(土) 11:11:56 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
31、鋼の心で 〜Ⅱ
ラーメン屋の戸を妙なコンビが潜り、外を出る。
「いやー、お世話になった。お礼と言っては何じゃが、これを」
科学者らしき人物は、白衣のポケットから1本の試験管を取り出し、洋に渡した。
試験管と言うより、渡したいのは試験管の中身だろうが、その中には銀色をした妙な液体が入っていた。
「あ、どうも……」
洋は辿々しく言いながらも、試験管を受け取る。
「この液体は水銀ではないから、飲んでも大丈夫じゃ。と言うより、飲んで作用するもんじゃ。困ったときにお使いになりなさい」
白衣のポケットに手を突っ込むと、科学者らしき人物は洋の前を去っていった。
受け取った試験管を見ながら、何か、藁しべ長者が悪い方向に物を受け取っていくような感じを洋は感じた。
木枯らし吹く中、とりあえず、することもないので洋は家へ帰る。
家に帰ると誰も居らず、洋はそのまま自分の部屋へと向かった。
「……水銀って何だっけ?」
部屋の色あせた畳の上で、胡座をしながら考える。
無理もないだろう。水銀なんて中学校で習う内容であって、小学6年生の洋には知るよしもなかった。それに、もし洋が中学校に入って理科の授業を受けていたとしても、洋だから覚えているはずもない。
瞬間、洋の腹の虫が鳴く。
「………」
ゆっくりと洋は立ち上がり、台所へと足を運んだ。そして、台所の棚の中や引き出しの中を色々と漁ってみる。
しかし、食べられるものは1つもない。
今度は、冷蔵庫の方へ糸に引かれるようにして、足を運んだ。
冷蔵庫の戸を開けてみると、その中はとても殺風景で、めんつゆやマヨネーズ、マーガリンと言った調味料系の物しか置いていない。
それもそのはず、今、両親が出かけているのは今週1週間分の買い物をしに行っているからだ。
いくら洋が大食いだからと言って、マヨラーがマヨネーズ単独で食(しょく)すような調味料単独で食べられる人間ではない。
洋はその場に凍り付いた。
まるで、山で遭難して食糧が尽きてしまった登山家のように。
「………」
思わず洋は、手に握った試験管に目が行く。
「この液体は水銀ではないから、飲んでも大丈夫じゃ」
科学者らしき人物の言葉が、洋の頭を過ぎった。
ちなみに、冷蔵庫の中では飲み物さえもなかった。水道で水を飲んでも良いのだが、この寒い季節、飲んだら腹を冷やすのは目に見えている。
洋は試験管の蓋を開け、匂いを嗅いでみた。
特に、それと言って独特な匂いも、刺激臭もしない。
「いただきます」
躊躇うことなく、銀色の液体は、洋の体内に吸い込まれていった。
244
:
ライナー
:2011/12/17(土) 12:14:19 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
「ッ!!」
銀色の液体は、洋の舌に触れると、辛さとは違う痛覚を感じさせた。
あまりの痛さに、洋は咳き込む。
「ゲホゲホッ! 今までにない味覚だ〜……って、毒じゃないよね……?」
洋はその場に固まり、唾を呑んだ。
体に変化は―――無い。
ホッと息を吐き、洋は台所に床に大の字になって寝そべった。
「ハァー! 飲んだは良いけど、水だけじゃやっぱりお腹空くな〜」
長い溜息と言う余分な二酸化炭素が、洋の口から出ていく。
すると、何やら右手に違和感があるのを感じる。何か重いような感じだ。
寝そべったまま、右手の方へ顔を向ける。すると、向いた先には右手ではなく、包丁が落ちていた。
「こんな所に包丁置きっぱなしなんて、危ないコトするな〜」
ヤレヤレと思いながら、視界に少し外れているであろう右手を動かす。それと同時に、包丁が右手の動きに合わせて移動した。
「?」
包丁は手品を見ているように動いているが、右手は見えない。
洋は、恐る恐る自分の右肩から腕を目で辿ってみた。
肩、腕、手首、包丁。
「………」
一部何かが違っている。手首の上は、確か手のはずだ。洋だってそのくらい分かる知能は持っていた。
目を擦って、もう一度やり直してみる。
肩、腕、手首、包丁……
さらに目を擦り、手首からやり直す。
手首、包丁。
「ホウチョウ……包丁!?」
驚いて、洋は上体を起こす。自分の右手が包丁になっているのだ。
慌てふためいた洋は、右手を大きく振る。だが、その程度の事で当然の如く右手は変わらない。
「初めまして」
右手が包丁と化し、慌てふためく中、頭痛と何者かの声が洋に聞こえた。
「だ、誰……」
「すこーし頭痛がするけど、ちょこっと我慢してくれ」
何やら陽気な口調が頭に響く。洋からすれば、喋らなければ我慢してやると言った立場だろう。
これが、洋と洋(ひろし)の出会いだった。
洋は洋(ひろし)から、包丁を右手に直すやり方を教わり、何度か失敗してハンマーやドリル、扇風機や電子レンジなどに変化しながらも、なんとか右手に辿り着いた。
「とりあえず、頭痛いから喋らないでくれるかな〜……」
洋が正体も分からない相手に下手(したて)に出ながら、交渉する。
言われた相手は、最後に大きい返事と大きい洋の頭痛を残して、声だけ去っていった。
それからというもの、洋が出掛ける先々で洋(ひろし)は洋の中に現れた。
そして、洋が洋(ひろし)を追い出す理由として、洋(ひろし)という名前が自然に付いていった。
ある日、洋はいつものように空腹を紛らわすために外に出掛け、いつものように洋(ひろし)が出てきた。
「い、痛いんだけど」
「まあ、そう言わないでくれって」
洋(ひろし)の一言一言が、洋の脳天に響く。
そして、ある人間が洋の前に現れた。
「ユニオンで働いてみませんか? 貴方、アビリターでしょ」
その人物は帽子を深く被り、顔を隠していた。その人物は名刺を差し出し、洋はそれを受け取った。
アビリターユニオン。
そう、記されていた。洋は何となく、こんな体質の自分を認めてくれる場所が欲しかった。それと同時に、もう親に迷惑は掛けたくなかった。
そんな気持ちから、洋はユニオンに入った。
245
:
ライナー
:2011/12/18(日) 15:47:32 HOST:222-151-086-008.jp.fiberbit.net
それからというもの、洋はユニオンの中で落ち零れになった。
しかし、訓練生に成り下がることはなく、崖の上を何とか踏み留まっている感じだ。
それというのも、同じチームメイトのお陰で、任務を共にすると足ばかり引っ張るが、とりあえずやるだけやっていた。
任務をクリアし、忙しい毎日を続けていく度に洋(ひろし)からの応答は少なくなり、いつしか消えていた。
「洋、アンタってたまに変な格好になるわよね」
「え?」
麗華の言葉、これが気付く切っ掛けだった。
―――洋(ひろし)が、自分の体を使っている事。
次第に洋は、洋(ひろし)になった時でしか使われなくなった。まるで、時代の移り変わりと共に捨てられていくブラウン管テレビのように。
そして、洋にはこんなあだ名が付いた。
最弱力士。
力士、と言うのも見た目の通りで、遠回しにデブと言っているに等しかった。
しかしながら、今は違う。
確かに最弱かも知れないが、気持ちが違う。
「(絶対に……勝つんだ!)」
瞬間、警備ロボットが危険を知らせる赤ランプを照らす。
「何……?」
警備ロボットは異常な動きを見せ、黒板を引っ掻くような高い音を出した。
赤ランプが消えると、警備ロボットはガラス細工のようにドロドロと溶け出す。そして、銀色の塊と化すと、4つに分かれた警備ロボットの残骸は、1つの銀色の塊になる。
霞浦が、呆気に取られ体を怯ませていると、その銀色の塊はなめらかなラインをガッチリとした堅いラインに仕上げていた。
「綱変化、大鎚(おおづち)!」
言葉と同時に、巨大な金槌がユニオンの通路擦れ擦れまで膨れ上がる。さらに、金槌は霞浦の周りに大きく影の縁を作った。
咄嗟に、霞浦は躱そうとする。
「ッ!!」
しかし、動かそうとした足は鉄の錠に繋がれ、身動きが出来ない。
―――金槌は、半円を描くように振り下ろされた。
アビリターユニオン、南雑舎屋上。
啓助は、行き場を失い、敵となった複数のユニオン隊員に取り囲まれた。
「(何してんだ、洋の奴……!)」
そう思っていると、隊員の列の後ろで悲鳴が聞こえる。
目を凝らして啓助は見てみると、直径170センチメートルくらいの鉄球が転がり、隊員達を蹴散らしている。その姿は、あたかもボーリングのピンを倒しているボールのようだった。
その光景が見えた途端、啓助は分かった。
「(遅いぜ、洋……!)」
鉄球はそのまま、啓助以外の人間を押し潰したり、跳ね飛ばしたりして、全ての隊員達を倒していった。
一仕事終わると、鉄球は啓助の前にゆっくり転がり、洋の姿に戻る。
「啓助、君の剣」
言いながら、洋は自らの体から針を抜くように剣を抜き出した。
啓助にとっては、いつ見ても痛々しい光景だ。
「おう、サンキュウな」
先程までコードに繋がれていた腕を必死に持ち上げ、自分の剣『氷柱牙斬(つららげざん)』と受け取った。
「言わなくても分かるだろうけど、君は自分のアビリティをどうにかしないと、ユニオンには戻れないみたいだね」
洋に発言に、啓助は剣吊り帯を肩に掛けて、そうだな、と一言返した。
「どうなるか分からねぇけど、みんなには必ず帰ってくるって、第3番隊B班のチームルームに帰ってくるって、言っておいてくれ」
そう言い残して、啓助はユニオンの壁を擦るように降りていった。
見送りながら、洋は呟いた。
「絶対に戻ってくるんだよ、啓助…… 鋼の心で」
246
:
ライナー
:2011/12/18(日) 15:56:35 HOST:222-151-086-008.jp.fiberbit.net
〜 作 者 通 信 〜
不規則恒例、作者通信でございますm(_ _)m
啓助君がついにユニオンを離れましたね。さて、ここからどうなる事やら……
そして、洋の過去編。これで終わりですよ!
しかし、洋の過去が2回も公開されているのにも関わらず、他は全然出てないし……と言うことで企画させていただきました!
メインキャラクター全員、過去編2回お送りいたします!
これはフェアに、と考えたものですので、駄目出しあったらお願いします^^;
これからの進行ですが、啓助君は2人の仲間を従えて(?)逃亡生活、ディシャスアビリティ習得に励みます。
そして、2人の仲間とは今までにストーリー出てきたキャラクターですよ〜。
ではではwww お楽しみにw
247
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/12/18(日) 16:46:06 HOST:p6105-ipbfp4104osakakita.osaka.ocn.ne.jp
コメントさせてもらいますね!
洋が来たってことは霞浦隊長はどうなったことやら。
まさか、洋が勝ったのか!?いや、僕は霞浦隊長を信じまs((
おお、過去編やってくれるんですか!
自分的には麗華と恵が何故ユニオンに入ったか気になります!
にしても、啓助君大丈夫か((
今までまともに勝った事ないのに、一人とか不安すぎるよ……。
二人?もしかして、水野家のメイドと執事だったりしt((
続きも頑張ってくださいね^^ノ
248
:
ライナー
:2011/12/18(日) 17:18:59 HOST:222-151-086-008.jp.fiberbit.net
竜野翔太さん≫
コメントありがとうございます!
このパターンは、洋勝っちゃいましたね。
霞浦さん、ユニオン強さ1位2位を争う人のレッテルが剥がれt((殴
過去編はすぐに、とは行かないかも知れません^^;
ですが、恵はともかく(いや、ともかくでいいのか)麗華はもうラフに書いているので、もう少しで書けると思います!
啓助君、これからもまともな勝ち方しないと思います(笑)
不安ですよね〜、次のレスにすぐさま書いちゃいますよ!
1人は当たっt((殴
さて、忘れられているかも知れませんが、奴が仲間になりますよ〜!!
ではではwww
249
:
ライナー
:2011/12/18(日) 19:10:54 HOST:222-151-086-008.jp.fiberbit.net
39、橙桜のスイーパー
少し乾いた荒れ地を蹴りながら、啓助は逃げていた。
「(チッ、まだ追って来やがる!)」
啓助の走る何メートルか後ろでは、3人のユニオン隊員が啓助を追っていた。
壁を伝ってユニオンを降りた啓助は、降りた早々に追われて今に至るのだ。
ちなみに、何故荒れ地を走っているか言うと、ユニオンは科学研究を行われると同時に、戦闘訓練を行う場所だ。そのため、なるべく住居や人々に爆発などの被害が及ばないよう、人里離れた荒れ地に住所が置かれているのだ。
しかし、荒れ地と言うことは、見晴らし抜群で障害物はほとんど無い。啓助はどうしても振り切ることが出来ないのだ。
「ンナローッ!!」
叫びながら、啓助はさらに足を速める。
ユニオンに来てからというもの、体力が著しく向上して行くのは感じられた。もちろん脚力もその1つなのだが、あっちもあっちで同じかそれ以上の訓練をしているので、全く差が開かない。
息が荒く、限界に達しそうになる啓助の前に、幸運と思えるものが現れた。
「ま、街だ!」
その街はレンガ造りの建物が多く、ロシア辺りの風景に似ていた。
ともかく、街に入れるのはラッキーだ。街の十字路を上手く工夫すれば、何とか撒けるかもしれない。
しめしめと思いながら、啓助は街の入り口へ入った。
ユニオン隊員の3人も列を作って、啓助を追っている。
1人、また1人、十字路を利用した逃走は成功していった。
「(最後の1人か……)」
啓助は後ろをチラリと見やって、相手の様子を伺う。相手は少し余裕そうだ。スピードを落とすでもなく、上げるでもなく、あちらもこちらの様子を伺っているように見えた。
これはすぐには撒けなそうだな、啓助はそう思いながら、目線を前へ戻す。
すると、目の前にドームのような大きな建物が見えた。
何かのコンサートでもあるのか、と思いながら、啓助は逃げるためにその建物に入って行く。流石に建物の中と言えば、中が複雑になっていて逃げやすいのは確かだ。出入り口に待ち伏せしていても、非常階段などの逃げ道もある。
「(よし、このまま……!!)」
人混みを押し退けて、啓助は走る。
暫く走り続け後ろを振り返ると、ユニオン隊員はもう追っていなかった。
心の中でガッツポーズを決める啓助。しかし、胸の前で握った拳は何やら異様に光っていた。
「?」
突然、白い光に包まれた。
視界が完全に遮られ、慌てふためく啓助に白い光は消えていった。
目の前に広がった光景に、啓助はただ立ち尽くすしかなかった。
先程居た、あの人混みのある場所ではない。
足下には大理石の床が敷かれ、その上にはレッドカーペットが真っ直ぐに敷かれていた。
辺りを見渡せば、立派に彫刻された柱や、純白の壁紙を貼ってある壁が見える。
まるで、中世ヨーロッパの侯爵辺りの屋敷ではないか。
屋敷なんて、麗華救出以来だなと思いながら、啓助は本題に入る。
「(ここはどこだー!!)」
かなり不審に思いながら、啓助は心の中で叫んだ。
すると、不意を突くようにアナウンスが入る。
『次の挑戦者はこの方でーす!』
挑戦者? アナウンスの向こうに、疑問符付けて言ってみた。
『改めて、説明させて貰います。ドームロワイヤル!』
何だかとてもハイテンションな奴だ。啓助はそう思う。
『ドームロワイヤルのルールは至って簡単! ランダムに選ばれたドーム内の選手が、1対1で戦う勝ち抜き戦ダー! 現在の記録保持者は42勝目の神宮寺麻衣選手ダー!」
鬱陶しいな、と思うがそうも思っていられない。
面倒臭いところに忍び込んでしまったのだ。恐らくここから抜け出すには、負けるか勝つかどっちか。
時間がない中、啓助の目の前に人影が現れる。
それは1人の少女だった。
「アレ? 久しぶりだね、癖ッ毛君!」
「お、お前は……!」
250
:
ライナー
:2011/12/18(日) 19:47:06 HOST:222-151-086-008.jp.fiberbit.net
訂正です^^;
249≫の 39、橙桜のスイーパーですが、39でなく32です。
粋な死飛びまくって済みませんm(_ _)m
251
:
ライナー
:2011/12/18(日) 22:28:59 HOST:222-151-086-008.jp.fiberbit.net
啓助は見覚えがある。
随分前だったが、あることが鍵になって、次々と記憶の扉をこじ開けていく。
まず最初の鍵となったのは屋敷、麗華の屋敷以来だな〜と思って―――
「思い出した! お前、あの時のメイドか!」
啓助に指さ差されると、少女はウンウンと首を上下に動かす。
この少女は、かつて麗華救出に出向いた時、巨大な炎の箒を持って乃恵琉と戦ったメイドだったのだ。
「ホント、久しぶりじゃまいかー! それとアタシは、神宮寺 麻衣(じんぐうじ まい)という立派さんなお名前があるのら」
神宮寺麻衣、と名乗った少女は、相変わらずのメイド姿で、そのメイド服の胸ポケットにはオレンジの桜の花弁が刺繍してあった。そして、頭にはカチューシャと一見見間違えそうな髪に隠れたヘッドホンが付けられている。
「……とりあえず、俺は速いとここっから出なきゃいけないんだ。痛いの嫌だから倒れてくんない?」
「もちろん無理だお」
当然の答えが、啓助の心に矢を刺した。
「説明しよう、辻啓助は今までまともに勝利したことがないのだ」
「どっかの必殺技説明してるナレーションみたいに言ってもダメだお」
啓助、全身全霊を費やした土下座モードに移行する。
「お願いしますッ!」
「ダメだお」
分かってはいるのだが、麻衣の語尾である「だお」がとても気になる啓助だった。そして、同時にとても苛つく。
『おーっと! 飛び込み参加の選手が土下座を始めているぅ!』
極めつけには、とんでもなく格好悪いところを実況されている始末だ。恐らく、会場内は笑いの嵐だろう。
しかし、名を名乗らなかったのは正解だろう。あまりにも恥ずかし過ぎる。
「分かった、倒れるのは男として許せないから、絶対に倒してやる」
何かを諦めた啓助は、背にある剣の柄に手を掛ける。
麻衣も麻衣で、後ろ腰に鉄骨のようなものを刀みたいに差しているようで、同じく手を掛けていた。
啓助が剣を抜く前に、素早く麻衣が動き出す。
「ッ!!」
そのまま、啓助は反応しきれずに腹部に衝撃を走らせた。
衝突のためか、大理石の床から土煙が上がる。
「今度は、メイドらしく箒じゃないのかよ……」
土煙が晴れると同時に、啓助は呟いた。
「だってさ、緑目眼鏡君がさ、箒の箒草切っちゃったからさ、使えなくなっちゃったんだもん!」
何やら半泣きの様子で、麻衣は言った。緑目眼鏡君とは、恐らく乃恵琉の事だろう。
さらに、麻衣が片手に持っていたのは、鉄骨のような大きさの扇だった。
八つ当たりでもするように、麻衣は扇を開き、力強く扇を仰ぐ。
すると、そこからは大風が吹き、再び啓助を吹き飛ばす。
「うわたッ!」
大の字に回転しながら、純白の壁紙を貼った壁に、啓助は背を打った。
相手は以前よりも実力が上がっている。啓助はそう思った。
啓助は直接乃恵琉の勝負は見ていないが、最初にあったときと、同じ重量級の武器を扱うスピードが違う。
何とか状態を立て直そうと、啓助は壁を蹴って麻衣へ跳び掛かった。
「『風華乱扇(ふうからんせん)』で〜、敵をお掃除ッ!」
麻衣は、『風華乱扇(ふうからんせん)』と名の付いた扇を振り上げ、さらに風を吹き付ける。
扇の起こした風は、その場の景色を歪め、床を滑空するように啓助に吹き付けた。
跳び掛かったのにも関わらず、啓助はビデオの巻き戻しをするように再び壁へ叩き付けられた。
風だというのに殴られたような痛みが、啓助に残る。
「掃除っつうより……」
大理石の床に足を付け、啓助は走り出した。
「埃、撒き散らしてんじゃねーか!!」
叫びと一緒に、鞘から抜け出た剣の切っ先が、水に浸けるように大理石の床に刺さる。
切っ先からは、水か漏れるように氷が生まれて、吹き付ける風を防いだ。
氷の壁が突風を2手に分け、啓助の肩ギリギリを殴りつけるように吹き抜ける。
「ホントだ! 埃が残ってる!」
麻衣は、啓助を指さしてバカみたいに驚いていた。まるで、手品を初めて見た子供のように。
「誰が埃だコノヤロー! 今度はこっちの番だ、覚悟しろ!」
252
:
ライナー
:2011/12/23(金) 18:48:55 HOST:222-151-086-004.jp.fiberbit.net
意気込んだ啓助は、床に刺さった剣を抜き、睨み付けるように構えた。
そして啓助は、さながら居合い斬りの如く素早い足取りで、麻衣に接近して行く。
麻衣の目の前まで走った啓助は、相手の表情を一瞬伺った。
「(笑ってやがる……!)」
距離が数センチしかない状況で、面白げな笑みを麻衣は浮かべていたのだ。
その感嘆符を怒りに、そして怒りを力に変えながら、氷を纏わせた剣を一気に薙ぐ。
氷柱のような刀身は、大きい円の半円を描くように綺麗に回り、麻衣の体に直撃した―――ように思えた。
『氷柱牙斬(つららげざん)』の刀身は、半円を描く前に止まる。
何故なら、その前に麻衣の扇の要(かなめ)が、啓助の腹に食い込んだからだ。
扇の要は大きく突き出ていたため、背と腹が触れてしまいそうな程の衝撃を与えた。
「グハァッ!!」
驚愕の叫びと共に、啓助の口から滲むような赤が飛び出る。
信じられないほどに啓助は撥ね飛ばされ、僅かな回転を見せて宙を舞った。
「勝負はまだまだ〜……」
突き出た要を掴み、麻衣は素早く扇を開く。
「これからなのら!!」
そう言葉が放たれた途端、勢いよく扇が振り上げられた。それと同時に、先程と同様、景色を歪めるように突風が吹き荒れる。
ゴゥッ、という激しい風声が啓助の体を通り抜け、単調なエオルス音を奏でた。
宙に飛ばされていた啓助は、音と同時に突風の波に呑まれ、押し付けられるように壁へと叩き付けられる。
「グッ……!」
勢いよく背を叩き付けられた啓助は、力が抜け、床へと大きく尻餅を付いた。
「まだまだだね〜、癖ッ毛君。これでもまだ本気じゃないおー?」
広げた扇を畳んで、扇を鉄骨のような状態に戻す。
「俺にはちゃんとした名前があんだよ……!」
啓助は震える足を押さえながら言った。
「辻啓助って名前がなぁ!!」
次の瞬間、啓助が力強く剣を振るう。そうして半円を描かれた空間からは、矢が放たれるように氷柱が飛び向かった。しかし、その氷柱は啓助の体力もあって、放たれたのはたったの2本だった。
氷柱は空気を切り裂くように麻衣に飛び、2本あった氷柱は1本は麻衣の頬を切り、もう1本は腕を襲った。
「アウッ!」
麻衣は思わず悲鳴を上げる。その瞬間、剣の柄頭が麻衣の鳩尾で落石のような打撃音を響かせた。
「ヒアァッ!!」
くぐもった反響を残すようにして、再び高い悲鳴が続く。
大きめの武器を使うにしては随分軽く、ドミノ倒しでもするように即座に倒れた。しかし、麻衣はそれを上手く利用し、床にバウンドした反動で飛び上がり、軽やかに着地する。
「……フゥ。侮ってたー、やっぱり油断は良くないね」
麻衣は氷柱によって傷付けられた頬を服の袖で拭き、大きく扇を振り上げた。啓助の素早い追撃は、全く持って効いていないような元気が溢れているように思えた。
「やるじゃねーか、鳩尾に食らってすぐに立ち上がれるなんてな」
啓助は剣を逆手持ちから、通常の持ち方に握り直す。
「そりゃそうだお、戦うメイドだもん。んじゃ、次で終わらせちゃうよーん!」
そう言うと、麻衣は振り上げた扇を開き、頭上で扇風機のように回し始めた。しかし、回しているのは傷が付いていない方の手で、腕にはしっかりダメージを受けているようだった。
啓助は、相手がそんな状態だと分かっていても、麻衣の余裕の笑みが同情を一瞬にして吹き飛ばした。
そして一気に足を踏み出す。
―――ゴゥッ
再び風が吹き荒れ、啓助の足を押し返すように吹き付けた。
「(な、何だこの風圧は……!!)」
麻衣の掌では、扇がスピードを上げて回転している。恐らく、あそこから吹き付ける風が啓助を押し戻しているのだろう。
にしても、方向が外れているにも関わらず、この風圧は中々に強い。そんな考えを巡らしている内に、危機は迫ろうとしていた。
「これでお仕舞いだお、{花乱吹(はなふぶき)}!!」
253
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2011/12/23(金) 19:55:46 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
コメント失礼いたします。
おー、ついに待望のメイドさんが再登場だー!
こっから乃恵琉達の出番が減りそう……
もう一人の仲間は……一人思い当たってますが違う可能性が大((
こっちから恐縮ですが、アドバイスです。
メイドさんの口調についてなのですが、『〜だお』『〜のら』といった可愛らしい口調ですよね。
とてもいいと思うのですが、初登場時は語尾を伸ばす、という口調になってます。
口調を変える、というのは個人的な意見になりますが、あまり好ましくないかと。
口調や語尾、口癖などの話し方に関する特徴は人柄を表すものと思っているので、口調を変えてしまうと、人柄も変わってしまうように思えます。
まあ、あくまで個人的な意見ですので……。
254
:
ライナー
:2011/12/23(金) 22:22:38 HOST:222-151-086-004.jp.fiberbit.net
竜野翔太さん≫
コメントありがとうございます!
まあ、乃恵琉達はしょうがないです。でも、最後の方は少し出ますよ^^
それなんですが、メインキャラに無理矢理の方向転換があったので、この口調はインパクト弱いかな?と思って変えました。
でも大丈夫です。とりあえず発動回数は少ないかも知れませんが、それも入れるので。
まあ、でも、いきなり語尾をここまで変化させるのはまずいですよね……
そして語尾を変えることで何か幼く見えちゃうし……
アドバイスありがとうございました!これからも宜しくお願いします! <(−A−)ビシ
255
:
ライナー
:2011/12/24(土) 14:11:40 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
麻衣の頭上で回転させられた扇は、床から水平な状態から、啓助の方へ少し倒されるように傾けられた。扇からは、波紋を描くように風が放たれ、橙の花弁を中で渦巻かせながら啓助を襲う。
「ッ……!!」
拳のような風が啓助を殴り付け、弾丸のような花弁がそれに続いた。
風と花弁に対し、前のめりになって踏み止まろうとする啓助。しかし、踏み止まるどころか、花弁という追加攻撃が加わったせいで前を見ることさえも儘(まま)ならない。
「負けるかッ!」
吹き付ける風に押し出されないよう、啓助は風が届かぬ位置へ跳んだ。
突風の域から脱出し、何とか上手く着地したものの、麻衣は再び啓助の方に扇を傾け、追撃を試みる。
「さーてさて、そう簡単には逃げられないおー」
風に乗せられた橙の花弁が大理石の床に窪みを付けながら、啓助の方向へ微調整されていった。
それを反復横跳びのようなステップで躱す啓助は、最後のステップで大きく間合いを取る。そして、その右手には冷気が溜った剣が握られていた。
「逃げられねぇなら、押し合いだ! {凍突冷波(とうとつりょうは)}!」
啓助は向かってくる風を見切りながら、剣の刀身を向ける。切っ先が風と向かい合うと、そこからは大量の冷気が一直線に放たれた。
辺りの空間を引き裂くような風音が、部屋全体を包み込む。
こうなれば、全ては力に差に委(ゆだ)ねられる。
啓助の方はアビリティなので、アビリティを存分に使えばそれを持続させればいい。それに比べ、相手は扇という武器、それに風を扱うとなると、風を起こすために何度も扇を回さなければならない。体力的に考えても、啓助の方が圧倒的に有利だと言えた。
「(俺の勝ちだ……!)」
調子付いて、啓助は一層剣に冷気を込める。
「うんうん、冷たい風って訳のら?」
勝利を自覚した啓助の考えとは裏腹に、麻衣は随分と余裕だった。
往生際の悪い奴だ、啓助はそう思う。だが、その考えはある出来事によって一気に裏返された。
―――冷気が押されている。
「ナッ……!!」
啓助は、驚愕の光景に言葉失った。そして、この時気付いていなかった。
確かに、体力的には啓助は男だし、ユニオンでの鍛錬は怠ったことがないので(怠るとトレーニングメニューを追加されるから)麻衣よりは強いはずだ。だが、冷気と風、これは相性が悪かった。
【フリーズ】を持つ啓助は、冷気を放つことは出来る。しかし、冷気を起こすと言うだけで、勢いがセットで付いてくるわけではない。つまり、剣を振るいながら勢いを付けなければ、攻撃力はだいぶ手薄になってしまうのだ。
今まで剣を突き出しながら技を放っていたが、麻衣の風はその暇を与えなかった。そのため威力が激減されたのだ。
その威力を激減された冷気は、割れる風船のように消え失せ、突風が床に切れるを走らせながら啓助に重なる。
「グアァッ!」
逃げ場のない攻撃に、啓助は咆哮のような悲鳴を上げた。
相手の風はあまりにも強すぎた。何故なら、大理石の床に亀裂を走らせるなど、風力階級でも9以上の風でしか出来ない事だったからだ。
風力階級が9というのは異常なことで、テレビなどでまれに見る大型扇風機でも最高の風力階級は7。つまり、科学的に起こせる風力を超えた風が今、啓助の目の前で起こされていたのだ。
四方から殴り付けるような突風にプラスされて、銃弾のような花弁が、啓助の身体を痛めつけていった。
途端、投げつけられるように啓助は撥ね飛ばされた。
「(クゥ……! 相手の攻撃範囲が広い上に、威力も中々。残る攻撃方法は……接近戦)」
上体を起こしながら、啓助は剣を構える。
しかし、簡単に接近戦と言ってみても簡単にはいかない。相手は攻撃範囲が広い上に、威力もそれなりにある。つまり、接近戦までに持ち込むことが困難なのだ。
そんな上体の中、容赦なく次の攻撃が迫る。
「まだまだだおー!」
大玉のような風が、啓助に向かって放たれた。
啓助は歯を食いしばり、力強く足を踏み込む。
「(俺の勝ちだ!)」
256
:
ライナー
:2011/12/24(土) 14:54:42 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
訂正です。
32行目の「切れるを走らせながら」ですが、「亀裂を走らせながら」です。
257
:
ライナー
:2011/12/24(土) 17:14:52 HOST:222-151-086-003.jp.fiberbit.net
頑なに啓助は、心中で勝利を宣言する。
それは、啓助が投げ遣りになったわけでも、判断が誤ったわけでもない。勝つための策が浮かんだのだ。
「ンナローッ!!」
大きく声を上げながら、啓助は床を蹴り上げ、風を跳び越えるように躱す。それは接近するごとに回数は増し、跳び越える高さも増していった。
「おおー、随分頑張ったけど、もう躱せないよね〜。{花乱吹(はなふぶき)}!」
距離はすでに2メートル程に縮まっていた。そして、この状態で相手の攻撃範囲の広い攻撃が来るとなると、躱すことは出来ないだろう。
素早く回転する扇。前へと踏み込む啓助。
啓助は剣のリードを利用して、切っ先を向けて―――
―――麻衣の扇が傾いた。
「甘いな」
啓助はそう呟く。
その一言に、麻衣の動きは大きくぶれた。
「えっ……!」
床には、氷が張ってあった。
氷の床に足を滑らせ、それと一緒に傾いた扇は啓助への位置を通り過ぎる。そして、大理石の床に大きく風が吹き付けた。
「ハワワッ!!」
風による反作用で、麻衣は大きく舞い上がった。
「掛かったなぁっ!」
啓助の顔に笑みが浮かぶ。これこそが啓助の作戦だったのだ。
あのような大きめの扇を振るえば、必ず足に体重が掛かる。それなら、そのバランスを氷の床で滑らせ崩せば、相手は攻撃を食い止めることが出来るというわけだ。
宙に舞い上がった麻衣に向かって、啓助は踏み出す。そして、氷の踏み台を作り出し、それを使って大きく飛び上がった。
「これで終わりだ!」
啓助が剣に氷を纏わせて、飛び上がりながらそれを振り上げる。まるで大きな氷柱を操るように。
「ッ!」
と、驚きに声も出ない。しかし、それは啓助のものであった。
突然、頭を針で刺されるような激痛が走ったのだ。
歪めるような風は起きていない。しかし、辺りは歪み、暗みを帯びていた。
限りなく暗い世界。啓助はそんな場所に佇んでいた。
このような世界は初めてではない。何度かこんな事があった。そして、根拠こそ無いがそれは次第にハッキリとした物になって行く。そんな気がした。
「またか……」
目で辺りを見回しながら、啓助は呟く。
「いるんだろ!騎士剣とか前に名乗ってた野郎!」
啓助の言葉に応答するように、暗がりから反響するような声が聞こえた。
「相変わらずのようだな」
「どういう意味だ。いっつも訳の分かんねぇこと言いやがって!」
啓助の怒りに、声は言った。
「それはお前が気付いていないだけの話。俺は騎士剣、俺は剣と同じ逸材だ」
相変わらず話がかみ合わない。にしても、相手の言っていることには何か訳がありそうだった。
「まだ気付かないようだな。俺はお前のアビリティ【フリーズ】だ」
その言葉を耳にした途端、啓助は何も言えなかった。自分を虫食む原因だったのだ。
「お前は……あの人のようには成れない。大人しく俺に呑まれるんだな」
啓助は言葉を掛けようとする。しかし、その言葉は光に掻き消された。
目の前に見えるのは、大理石の床、レッドカーペット、そして、倒れるメイド服の少女。
またもアビリティは暴走していたのだ。
「こんな勝ち、勝ちって言えねぇだろ……」
258
:
ピーチ
:2011/12/25(日) 15:04:48 HOST:i118-18-143-136.s11.a046.ap.plala.or.jp
あー・・・
じゃあそれ、多分姉だぁ^O^
へぇ、チェリーってお姉ちゃんだったんだ・・・ってじゃああたし自分の姉ほめてたって事!!!?
259
:
ライナー
:2011/12/25(日) 17:08:48 HOST:222-151-086-008.jp.fiberbit.net
33、バイクとオテンバ止めてくれ
「疲れたー……」
啓助は、ある街の人通りの多い大通りを歩いていた。
ドームロワイヤルとか言う場所での戦いの後、啓助は勝ちを収め、ゲームの続行を拒否して素早く逃げて来たのだ。
そして、隊服の状態のまま出て来てしまったため、通りすがりのコスプレイヤーに隊服を売り、その金で代りの服を買った。
服装は、勿論異能減力加工を施したもので、かつ十代らしい後半らしいものを選んだ。そうでもしないと、戦闘の度に服を繕ったり、買い換えなくてはいけなくなる。十代後半というのは、周りに溶け込むためだ。
その服装とは、灰色のTシャツに上は青のジージャンを着て、下にはダメージ加工(中古のための傷)を加えた黒いジーンズという容姿。まさに、流行の最先端を脱線した、オシャレ初めての中学生のようだった。上下色が違うとはいえ、ジーンズ物とは90年代を思わせる格好だろう。
別に、啓助が態と目立たないように選んだわけでもなく、これが啓助のファッションセンスだった。なんせ、ユニオンに入ってから私服など着たことも無かったのだから。
「やっと終わったな、これで少しは目を誤魔化せるぜ。にしても、あのメイドには悪い事したな……」
「どんな悪いことなのら?」
「いやさ、アビリティが暴走して攻撃を食らわせたから……」
啓助が不意に口を紡いだ。
横を振り返ると、あのメイドが飄々として立っているではないか。
「って、何でこんな所居るんだよお前!?」
横から啓助の前方へヒョコッと飛び出した麻衣に、啓助のノリツッコミが炸裂した。
「うーんと、水野家には追い出されちゃって、その後別の家にメイドとして仕えたんだお? でもー、その後ー、また追い出されちゃってー、唯一の収入源がドームロワイヤルの賞金だんだんだよねー……」
喋っていく内に、麻衣の溌剌とした声が陰険さがこもった声になっていく。
その声は上目遣いの可愛らしい仕草も、啓助を責め立てるような仕草にと変えていった。
「あ、何かすいません……」
思わず啓助は敬語になって話してしまう。
申し訳なさそうにしている啓助を見て、麻衣はポケットから丸い何かを取り出した。
「じゃあ、お供になっておー。岡山の吉備団子あげるからー、キジさん」
「キジじゃねぇ、辻だ!! お前は桃太郎かっ!」
と、ツッコミを入れた啓助だったが、一文無しの空腹状態だったため、暫くして吉備団子を受け取る。
「それじゃー改めて、ツジケ・イスケ君よろしくなのら!」
「何か切り方違う! 辻啓助だっての!」
啓助が良く言い聞かせ、麻衣が自信満々に頷くと、不安が残るまま言わせてみた。
「分かったお! ツジ……ケイスケべ君!」
「切り方には問題無いけど、後ろに余計な物付いちゃってる! ってか俺はそんな風に見られてたのか!?」
麻衣は自分が間違っていることに気付かない。そのため、全否定されたと思い込み、風船のように頬を膨らまして拗ねていた。
「ブー……だったら何がいいのら〜……!」
「だからよー、普通に「辻」だの「啓助」だの呼んでくれれば良いんだって」
面倒臭いなと思いながら、啓助は頭を掻く。まるで、気持ちの分からないペットを相手にしているかのように。
「じゃあツジケで」
「人の話を聞けェー!!」
啓助の叫びが、大きく空にこだました。
かくして、啓助はとりあえず罪償いのために神宮寺麻衣を仲間に加え、その仲間に「ツジケ」と命名されて旅立つのであった。
「にしても、お前の口調ってますます苛つくな」
啓助本人は、口調に苛ついているのか性格に苛ついているのか、もう何について苛ついているのか分からなくなっていた。とにかく理性を失いそうになるくらい苛ついていた。
「うん、人にもよく言われるおー」
言われるのかよ、啓助は心の中で呟く。
「アタシって、インパクトの強い人の影響を受けやすいって言うか何て言うか……そんなところだお?」
「いや、一体どんなインパクトがあるんだよ、その今のお前と同じ口調の人物って……」
すると、麻衣は首を傾げながら言った。
「教えてもいいお。でも、この前教えたアタシの友達のベンジャミンは、それ訊いて3日間眠れなくなったって言ってたお」
「じゃあいい! ってか、本当にどんなインパクトあるんだよ!? いや、知りたいけど訊けない……つーか、ベンジャミンって誰!?」
歩きながら、何やら漫才のように会話を繰り広げている。すると、向こうから誰かの悲鳴が聞こえた。
260
:
ライナー
:2011/12/30(金) 15:52:02 HOST:as02-ppp22.osaka.sannet.ne.jp
啓助達は悲鳴の聞こえた方向へ、素早く歩を踏む。
その場所には目立つように人混みが出来、啓助は警察の目を掻い潜って、同年代くらいの少年に尋ねた。
「何かあったのか?」
「引っ手繰りさ。しかも、警察の中でも有名な引っ手繰りらしいぜ。とんでもなくいいバイク持ってたって話だ」
啓助は少年の話を聞くと、バイクの向かって行ったという方向へ走り出した。
しかし、啓助も『ディシャスアビリティ』の暴走という理由があって追われる身である。つまり、犯罪に関係する部分は関わると自分の身も危ないという事。
だが、啓助にとってそんなことはもはや関係なかった。
目の前に犯罪がある。それを見逃せば、どんな犯罪だろうと家族を失った異獣事件や、煉と言う仲間を失った事のようになってしまうのではないのか、そんな不安が啓助の頭の中にあったのだ。
それ故、自分に危険があろうと助けなければいけない。これはユニオンで学んだ事にも繋がるだろう。
「ねーねー、相手はバイクだし、追い付くの無理なんじゃないのー?」
麻衣が、走る啓助の横をヒョコヒョコと付いてくる。
そう、ヒョコヒョコとであって、啓助の走りと速さが同等なのだ。それに加え、啓助にとっては麻衣の口調さえも苛ついている。
「んでも追いかけるしかねーだろ!」
未だ見えないバイクの方向に目をやったまま、啓助は言った。
「要は、バイクの位置が分かればいいんだお?」
「出来るのか!?」
麻衣の言葉に啓助は立ち止まり、半信半疑で振り向く。
「出来るけど、こっちを向いちゃ駄目だお? 見たら最後・・・・・・」
「あー、分かったからサッサとやってくれ」
そう言って、啓助は麻衣を軽くあしらい、麻衣の居る反対方向を体ごと向いた。
啓助が万全の体勢になったことを確かめると、麻衣はオレンジ色のヘッドホンを耳から浮かすようにして離す。
「ねえねえ」
麻衣からの応答があり、咄嗟に啓助は麻衣の方を振り向く。
「もう分かったのか!?」
溌剌とした問いに、火に水を掛けるが如く麻衣は言った。
「バイクって、どういう音のら?」
瞬間、啓助の唇が吊り上がり、顔が引き攣ったまま凍り付く。
バイクを知らない人間を、啓助は始めて知った。だが、麻衣が「音」と言った時点でバイクではなく、音自体を探ろうとしていたことになる。しかし、それもまた不可能。
車やバイクなんて、少し広い道路へ1歩足を踏み出せば、余裕に排気ガスやクラクションの音、走行音を撒き散らしている。それに、人の多いこの時間となれば、人声が混ざって余計に無理だろう。
そのようにいろいろな考えが思いつくが、それを押し退けて断言できる言葉があるのを啓助は思い出した。
「人間には無理だ」
呆れた声を出しながら、啓助は麻衣を取り残して1人走り出す。
「そんなこと無いおー。アタシの耳はちょっと変だけど、100キロメートルくらいの音は聞き分けられるんだもーん!!」
置いて行かれぬよう、啓助の歩調に合わせて麻衣は再び膨れっ面になって言った。
「今はそんな冗談言ってる場合じゃないだろ! とりあえず、赤いバイクってのを探すんだ!」
振り向きもしてくれない啓助に、麻衣は膨れっ面を継続させて訊いた。
「・・・・・・じゃあ、引っ手繰られたものになんか音として分かりそうなものないのら・・・・・・?」
あからさまに機嫌の悪そうな声を発している麻衣に気付いて、啓助はこれ以上悪化しないよう、まともな対応をすることにした。
「そうだな、引っ手繰られたバックには、2つ鈴が付いていたみたいだったが」
啓助が言い切る前に、麻衣はヘッドホンを浮かせ、再び耳を澄ませる。
「・・・・・・場所、分かったのら!!」
その叫びと同時に、啓助の腕は力強く引っ張られた。
261
:
ライナー
:2011/12/30(金) 17:55:33 HOST:as02-ppp22.osaka.sannet.ne.jp
「お、おい! 何すんだよ、離せ!」
意外にも力強い麻衣に、啓助は苦戦しながら言う。
「昔々ある所に……」
「そっちの話すじゃねー!! 手を離せ!」
「手が山へ芝刈りに行くと……」
「そっちでもねぇー!! 手がどうやって芝刈りに行くんだよ!?」
麻衣は啓助の言いたい事が初めから分かっているように見えた。しかし、麻衣自身、自分の聴力が確かであることを証明したいらしい。
暫らく啓助は引っ張られ続け、ある所で麻衣が足を止めた。
「居たお、バックを持った赤バイク」
啓助はその言葉をしっかりと耳にして、指の差された方向を見る。
すると、啓助の目には何事も無かったかのように、赤バイクが信号待ちしている姿が入ってきた。
犯罪側とはいえ、何故暢気に信号待ちをしているかと言うと、大型車がいくつも列を作って走っていたからだ。それにその大型車は偶然にもガスタンクを背負っている物ばかりだ。これでは飛び出そうにも飛び出せないはずだ。
チャンス到来と言わんばかりに啓助は、麻衣を走りぬいてバイクに接近する。すると――――
「おーい、そこの赤バイク止まれ〜! 盗んだバック返せー!」
麻衣がバイクに向かって手を振った。
「(おいッ、馬鹿ッ!)」
啓助が咄嗟に振り返り、小声で止めようとするが、それはもう遅かった。赤バイクのライダーはその声を察したらしく、車線を変えてUターンする。
悔し紛れに大きく舌打ちをすると、啓助はそのバイクの後を無謀ながらも追い駆けた。
様々な通りを右に曲がったり、左に曲がったり、啓助は自分が追われている身だと知りつつもひたすら追い駆ける。
狭い路地を通り、バイクでは行くことの出来ない塀や屋根の上を跳んで距離を詰めた。
ユニオンで鍛えたこの体は、バイクと言うハンデをも縮めてくれた。そのことに感謝しつつ、ついにその手がバイクへ触れようとする。
「(もう少し……!)」
そして、その手が触れようとした瞬間、啓助は手を引っ込めた。
―――多車線ある十字路。
「(これが目的か……!)」
赤いバイクは、交差して見える走行中の自動車の陰になって消えていった。
この時やっと分かったが、相手のバイクは電磁浮遊を応用した新型のバイク『リニオン』と言うもので、水上でも浅ければ移動できてしまうという優れもの。啓助が到底追い付けるような相手ではなかった。
そして、ここまで距離が取られては追い付けないだろう、そう察した啓助は追うのを諦め、悔し紛れにアスファルトを蹴り付けた。
「んー? どしたのー?」
後ろから、麻衣の空気の読めない声が掛かる。
啓助は、思わずカッとなって後ろを向くが誰も居なかった。
「ツジケはどこに耳が付いてるのらー! うーえー!」
ポカンとしている啓助に、麻衣の声が届き、何秒か遅れて啓助が首を上げる。
すると、啓助の見上げる上空には、麻衣が扇をグライダーのように開いて宙を舞っている姿が見えた。
「ッ!? お前……!!」
「アレ? バイクどこ?」
扇の止め紐に体を括り付けて、麻衣は辺りを見回している。
「(そうだ……!!)」
その時、啓助の思考回路が電流を帯びるようにフル回転し始めた。
地はバイクや車が忙しなく走り続け、赤信号が障害物のように立ち塞がっていた。だが、上空ならどうだろうか。ある程度高く飛べば、信号も走行中のバイクや車も関係ない。
「おい、エセ桃太郎! 上から赤バイクを追え! お前の確かな聴力があれば余裕だろ!」
啓助は言いながら、バイクが走り去った十字路の向こうを指差した。
麻衣は、やっと自分の聴力を認めてもらって上機嫌なのか、フフンと鼻を鳴らして言った。
「アタシの事は『スーパーマイタン』と呼ぶのら!」
「もう分かったから! 全然、聴力関係無いネーミングだけど分かったから早く行け!」
啓助の差す指に力が込められる。
「それでは行くのら!」
上空で上手く扇を仰ぎ、啓助の差す方へと前進する。そして、そのまま啓助の首を両足で掴んだ。
「ゲホッ! 何すんだよエセ桃太郎!」
啓助は咳き込みながら叫ぶ。
「女の子を1人にしてはいけないのら。それにアタシは『スーパー……」
「もう、いいっての!!」
262
:
ライナー
:2011/12/31(土) 09:45:35 HOST:as01-ppp21.osaka.sannet.ne.jp
一体どれだけの馬力があるのか、啓助の首を両足で掴み、そのまま空を飛んでいる。お陰で啓助は窒息寸前だ。
「……ってお前低く飛び過ぎなんだよ! 俺が車にぶつかる! 足捥げる!」
麻衣は、啓助を掴んで跳んでいる事を忘れているのか、啓助を態と車にぶつけようとしているくらい低く飛んでいた。
啓助は何度も叫び、窒息寸前になりながら目を白くする。
途端、苦しさの余り、顔を上げて楽な姿勢へなろうとする。が、上に居るのは麻衣。とりあえず、人間の中でも「女」と言う分類に入り、メイド服なわけで、中途半端に小心者の啓助は上を向きたくても向けなかった。
そんな状態を続けながら、啓助は死にそうになって、足をバタバタと苦しい事を表現する如く動かす。
「あ、居た赤バイクー」
不意に、麻衣の言葉が耳に入って、啓助は少し意識を取り戻す。
ほとんど無意識状態だった啓助は気付いていなかったが、麻衣はだいぶ進んでいたようだ。流石は風力階級9以上を出せる扇、と言ったところだろう。
「ツジケ、赤バイクのところに降ろすお」
「ッ!?」
ちょっと待て。そう返事をしようとした啓助だが、息苦しくて声すら出せなくなっていた。
声がただの呻き声なった状態で、それは麻衣に伝わり、何食わぬ顔で啓助を掴んでいた両足を離す。
「うおあっ!」
叫びながら、啓助は赤バイクへと落下してゆく。そして、痛烈なプラスチックの裂音がバイクの荷台で響き、啓助は首元の開放感と共に、尻への痛みが迸った。
「クソッ、追い付かれたか!」
赤バイクのライダーは、言いながらバイクを右に傾ける。どうやら啓助を振り落とそうとしているらしい。
啓助は、壊れ掛かったバイクの荷台にしがみつき、何とかバイクに乗り留まろうとする。
「テメェに教えてやるよ、電磁浮遊より冬タイヤが優れてるって事をな!」
啓助がそう言い放つと、隘路のアスファルトが氷の床と化した。
氷の床は、地面の電磁力を微量に屈折させて、『リニオン』の進行方向を狂わせる。
「何ッ!?」
赤バイクに乗った犯人は、咄嗟にブレーキを掛けるが、地震のように揺れるバイクに、思うように力が入らなかった。
バイクは、そのまま氷の床に踊らされ、狭い十字路へと放られる。
宙に舞う赤バイク。
それは、十字路のカーブミラーへと一直線に放たれた。
瞬間、地を抉るような爆発音がそこら中に響き渡る。その爆発音は、住宅地の塀に火を灯し、そこら一帯が灯篭のようになったかのようだった。
「うおーッ!!」
カーブミラーを取り囲む炎の中から、啓助1人が盗まれたバックを持って飛び出した。
「おー、やったじゃまいかツジケ!」
すると、反対側から麻衣がケンケンしながらやって来る。
麻衣の対応こそ暢気なものだが、啓助は炎の中から飛び出て来たわけで、啓助は現在炎を纏ったままだ。
「何でもいいから、火! 火をどうにかしてくれ!」
「燃え上がらせるのー?」
「お前の思考回路はどうなってんだ! 消せ! 消してくれ!」
異能減力加工をした啓助の服は、とりあえず啓助を守っているが、完全防御とは言わず、熱は余裕で通しているようだ。
啓助は啓助で、体に纏った火を消そうと、あちこちに体をぶつけている。
「もー、しょうがないなー」
その時、啓助に風力階級9の突風が襲って来たのは、言うまでもない。
263
:
ライナー
:2012/01/01(日) 12:50:03 HOST:as01-ppp17.osaka.sannet.ne.jp
〜 作 者 通 信 〜
えー、まずは最初に……
明けましておめでとうございます!!
何とか気まぐれで終わらず、半年以上続けることが出来ました、本作「係争の異能力者(アビリター)」でございますが、何時見ても題名が厨ニ病ですね^^;
いろいろとコメントを貰いながらここまで続けられたのは、皆様のお陰だと思っておりますm(_ _)m
さて、今後の進行ですが、だいぶグダグダが続いているので、こっから一気にキルブラック編終わらせます!まあ、第四章の終結と言う訳ですが。
ここでは、過去編や、やはりシリアスになってしまうような死がありましたから、それも少し……
とにかく小説らしい終わりにしたいと思います。
新年も宜しくお願いします、ではではwww
264
:
ライナー
:2012/01/01(日) 17:13:29 HOST:as02-ppp5.osaka.sannet.ne.jp
34、神速=双子=再会
啓助と麻衣は早朝の大通りを歩いていた。
車も少なく、人も少なく、涼しい風が吹いて爽やかな気分になる―――のは、麻衣だけだった。
先日、引っ手繰り事件の時にあった啓助火達磨事件(大したものではなかったが)では、消火のために起こしてもらった風であちこちに飛ばされ、啓助の全身にはかなりの痛みと筋肉痛が残っていたのだ。更には、泊まりにいった古ぼけた旅館で麻衣に食事の大半を食われるは、昨夜にタイミング悪く異獣が襲ってくるなど、諸々あって眠れないのも同様だった。
「ふ、不幸だー!!」
叫びと共に、電柱に泊まっていた小鳥が、驚いて飛び立つ。
「おー、異獣じゃない鳥だー! いい事あるかも〜」
麻衣は、そんな啓助の気も知らず、隣でハミングした。
ちなみに、現在では異獣以外の動物は珍しく、過去より動物保護がだいぶ強化されたとか。簡単に言うとすれば、食物連鎖のピラミッドに異獣を置くという事だ。要するに、植物→草食動物→肉食動物→異獣となる。
幸せそうな麻衣を横目で見つめながら、啓助は大きく溜め息を吐いた。
「(幸せな奴だ……)」
呆れた様に心中で呟くと、それは前言撤回されるほど不幸へと導かれる。
言葉で、では無い。状況にだ。
別に、これと言って啓助の心の声が状況を変化させるほど偉大な奴ではない。むしろ、嫌になるくらい中途半端人間なのだ。
では何か。それは、現在啓助や麻衣が分かりうる事ではなかった。
「あ?」
眠たそうな声を出して、啓助は目を擦る。
何故だろうか、啓助達は早朝の大通りに居ないのだ。啓助の目にぼんやりと映っているのは、灰色で大きい建物。先程まで灰色に水色をちょっと足した程度の早朝の空色が、赤にも青にも傾かない純粋な紫色に変貌していた。そして、その紫色には、まるで書道の時墨を溢してしまったような黒雲が掛かっている。
啓助の目は周りに慣れ、その風景をしっかりとキャッチした。
灰色の建物は、まるでドームのような形をしている。しかし、それは本物のドームとは言い難く、とてもサッカーなどを出来そうな雰囲気ではなかった。
空は、余り特徴性が無いからか、ぼやけた時と見たまんまだった。
「アレ? ツジケ、ここどこ? ネバーランド?」
麻衣は、この期に及んで暢気な事を言っている。聴力でしか優れないんだろうか。
まあ、麻衣の事は置いて、どう考えたっておかしい。先程まで平和な景色あったはずなのに。
そんなことをぼやきながら、啓助はいかにもゲームで言う魔王の城的なイメージの空色を見上げた。大体、ラスボスの居るところはこんな天気だ。
「「コングラッチュレーショーン!!」」
随分溌剌とした、それでいて幼い男女の声が聞こえてきた。しかし、声だけで姿が無い。
何やら反応し辛い啓助と麻衣は(麻衣はハミングを続行しているため気付かないだけだが)、することも無く黙ってしまう。
すると、両者の間で沈黙が起き、やるせない気分が啓助を襲った。
「……あー、ゴメンゴメン。姿見えないよね」
幼い少年の声がしたかと思うと、アナログテレビの画面から電源を付けられるようにして2人の子供が現れた。
2人ともお揃いのモノクロコートを纏い、前と後ろで白黒に分かれた髪を持っている。
恐らく少女であろう見当の付く方は、その髪をツインテールにしていた。
もう1人の方は、少年声だったので恐らく少年。その少年は寝癖なのか前髪がピョコンと上に跳ねている。
「「僕(私)達双子のキルブラック、陣位総司令隊長補佐(じんいそうしれいたいちょうほさ)の……」」
双子はそう言って言葉を区切る。
「ツインテールの白闇(はくあん)ちゃんと……」
「前髪跳ねてる黒明(こくめい)君さー!」
2人の声のタイミングは同じだった。まるで、同じ声を録音したICレコーダーを同時に再生させるように。
しかし、柄にも無く啓助はその時思った。黒明は寝癖を自覚しているんだと。
「って、白闇何やってんの!?」
急に、黒明が白闇の方へと振り返る。すると、少し大きめのモノクロコートは波打つように靡いた。
「しょうがないでしょ、大体これは黒明と共同作業なんだから!」
白闇は、どうやら自分の無実を証明するように言った。まるで、アレ、といえば分かる長年の夫婦のように。
265
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/01/03(火) 23:39:31 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
コメント失礼します!
メイドさんのあの性格はどうにもならんのですねw
ツジケ……。今度から僕も使おうかな((
さてさて、ちょっとだけ出てた白闇ちゃんと黒明君が登場か。
啓助く……ツジケとスーパーマイタンはどうなることやらw
続きも頑張ってください^^ノ
266
:
ライナー
:2012/01/03(火) 23:49:26 HOST:222-151-086-012.jp.fiberbit.net
モノクロコートを纏った双子は、何やら先の見えない会話を繰り広げている。双子だけあって、会話もそこそこ伝わりやすいのだろうか。
何か自分達が忘れられている空気になりながら、啓助は無言で2人を見据えた。何故かというと、先攻対後攻では、大体、後攻の方が勝率が高いと何かの本で読んだ事があるからだ。中途半端で、それでいて弱い奴のレッテルを自分で背負っていると、こういった状態が生まれる事がある。
そんなこんなで、麻衣を向こうで勝手にやらせておきながら、啓助は時を待つ。
と言うか、麻衣が向こう側で遊び、2人の相手が喧嘩を始めてしまっては、もう戦闘するような展開を踏めるのだろうか、啓助はそう思った。
「……〜〜!!」
双子の言い合いが終わり、やっと一段落したのかと思うと、今度は睨めっこが始まった。恐らく、互いに言い合う内容が無くなり、根拠のない威嚇合戦でも始まったのだろう。
啓助は、自分がどうしたらいいのか分からなくなり、とりあえずその場でジッとしてみる。
「ツジケ〜、あの2人何してんの〜? ネバーランド式の睨めっこかな〜!」
麻衣はクルクルと回り、歌うような口調で啓助に訊いた。
そんな麻衣に、啓助は、
「……ネバーランドはねえだろ」
と、一言言った。内心、「ここが何処か?」と訊かれたら、啓助は「ネバーランドです」と答える気でいた。
「「ま、いっか」」
双子は同時に呟く。すると、何事も無かったかのように、平然と2人で啓助の方を向いた。
「ちょこっと失敗。ホントは2対2で殺(や)るつもりだったけど」
「何か、余計に1人紛れ込んだみたいだから、ここで1人消えて貰うよ」
双子の言葉は、まるで、1人の人間が喋るかのようにスムーズに繋げられ、先程とは全く違う息の相方を見せる。
そして、黒明と名乗った少年は、懐から黒い紐のような物を取り出す。紐と言っても、子供の拳分の太さを持った綱のような物だった。
「唸れ、漆黒よ!!」
少年がそう叫ぶように言い放つと、黒い綱は波打たれるように靡き、地面に叩き付けられる。すると、黒い綱からはそれと同様の光が飛び出し、段々と人の形を象られていった。
「あ、アイツは!」
啓助は、思わず大きく声を漏らす。
黒い光が次第に消え、そこに現れたのは―――
「お久しぶりデス、辻啓助」
―――キルブラック右陣隊長の来待だった。
「サッ、どっちが戦う?」
白闇が腕を組み、余裕の表情で問う。
「どっちが戦う?」と、問いた時点で2人で一気に、と言う選択肢はどうやら与えてくれないようだ。それよりも一番気になるのは、先程言っていた「余計に1人紛れ込んだから……―――」というこの言葉だ。言葉から推測すると、あくまでスポーツマンシップに乗っ取ったような正々堂々した勝負を望んでいるらしい。
さらに、余計な1人と組ませるらしかった。言葉からここまで推測できても、相手が何をしようとしているのかは分からない。
「麻衣、頼んで良いか?」
啓助は、双子の方へ鋭い目付きをやりながら言った。
「うーん。しょうがないなー。その代りアイス奢って、それと、アタシのことは『マイマイ』と……」
「分かった、生きてたらアイス奢ってやるよ、それとお前の事をカタツムリかでんでん虫と呼んでやろう」
麻衣が言い切る前に、啓助は言った。麻衣が『スーパーマイタン』ではなく、『マイマイ』になったのは、自分でも呼び辛いためだろうと状況に似合わず啓助は思った。
そう言って、啓助は振り向くことなく前進した。それを察した双子は、余裕綽々にピエロのようなステップを踏む。
ピエロのようなステップは、ドーム型の建物に向かって歩き出していった。そして、啓助もそれに合わせて、建物の影に歩を踏んだ。
紫の空が見える下に残された、神宮寺麻衣、来待。
戦闘モードをスマートに決めている来待の向こうには、小さい唇の間からペロッと舌を出している麻衣の姿があった。誰が見ても分かるが、アイスの事を考えているに相違なかった。
ドームの中に入ると、以外にもそこは殺風景で、ドームと言うより闘牛場のようなサッパリとした所だった。
啓助が辺りをグルリと見渡す。
「(どうなってんだ、ここは……)」
視線を球形の天井から、お揃いのモノクロコートを纏った双子へと移した。
「それじゃ、もう1人に……」
「ドッキドキのご対面と行こうか……」
何やら、緊迫した雰囲気に、席替えのお見合い方式的な言い方で双子は言う。その言葉の後には、啓助と反対側の入り口から人影がやってきた。
瞬間、啓助は言葉を失う。啓助の姿を見た相手も、同様にその様子だった。
啓助の目の前に現れたのは―――
「お、おまッ、辻やないかい……!」
―――柿村熱也だった。
267
:
ライナー
:2012/01/04(水) 00:04:21 HOST:222-151-086-012.jp.fiberbit.net
竜野翔太さん≫
コメント有り難う御座います!!
そうですね、麻衣ちゃんは口癖がミーハーですねw
さらに超天然ですねw
でも僕は、こういう女性キャラがドストライクでs((殴
啓助のあだ名は最初、「けーくん」と迷いました。しかし、苗字もそこそこ意識を持って貰いたいなと言う親心ですw 麗華さんしか苗字で呼ばないですし……(アレ? だったら「つーくん」でも良かったような……)
コイツら、白闇ちゃんと黒明君はかなり手強いです。そして、たった一回だけの啓助と奴との合体技が見れるかもしれないです((
そして、早速展開ですが、麻衣ちゃんは来待の相手に(汗)
ハイ、頑張りますので、これからも宜しくお願いいたします!!
ではではwww
268
:
ライナー
:2012/01/07(土) 22:46:36 HOST:222-151-086-019.jp.fiberbit.net
この関西弁を聞くのは久々だった。と言っても、良い思い出があるわけではない。ユニオンに潜り込み、チームメンバーを騙すどころかメンバーの1人「城嶋 煉(じょうじま れん)」を殺した少年なのだ。
「熱也……お前……」
啓助は、これ以上言葉が出なかった。こんな微妙な関係の人間にどう接すればいいのか、分かるはずもなかった。
「お互いお知り合いだしサー」
「どうせ来ちゃったんだからサー」
双子は、1人の人間が喋るように軽やかに声を繋ぎ言った。
「「君達で組んで、僕(私)らと戦わない?」」
その言葉は、恐怖に満ちていた。
「ゲーム感覚で戦闘語ってんじゃねーよ! 絶対にぶっ倒す!!」
剣の柄を握り締め、気迫のある声で啓助は叫ぶ。
そんな言葉は怖くない、双子はそう言うように目付きで表現してきた。
「そりゃ、ゲーム感覚だよ」
「だって僕達、ここにランダムに人連れて来て―――」
そして、双子は同時に言い放つ。
「「ぶっ殺してるんだもん!」」
これが、外見小学校中学年の双子が言う台詞だろうか。あまりにも血に飢えすぎている。いや、<キルブラック>陣位総司令隊長補佐の双子だから言える台詞なのだろう。
「ま、大体は下っ端スカウトだけど」
「実力のない奴は殺すだけだし」
この2人の言っている言葉は、家庭内暴力を言動で引っ繰り返す力があるように思えた。何とも、平和を偽ったような瞳をしている。
「にしてもさー、「陣位装(ジェネラルサークル)」の4人打ち破ってくれたよね、ま、来待ちゃんはさっき見て貰った通りだし、赤羽ちゃんも生きてるけどね」
「ナッ……!」
赤羽はまだ<キルブラック>にいたのか、啓助は正直驚いた。2回も作戦を失敗したくせによく居たものだ、啓助は同時にそう思う。
それよりも、「陣位装(ジェネラルサークル)」がこれまで戦ってきた赤羽、来待、沙斬、遠尾の4人を差すものだと啓助はすぐに感付いた。
「ま、どれもこれも道具に過ぎないけどね」
黒明は呟く。
すると、それを訊いた啓助は自然と青筋が立つのを覚えた。
赤羽、来待、沙斬、遠尾。どの人物とも、その戦いは苦しいもの。啓助は戦いの常と知りながら、殺したことに後悔もした。
「(なのに、それなのに、ど、道具だと……!)」
啓助の中で、怒りが込み上げた。
戦闘にとって、兵などは確かに消耗品に過ぎない。しかし、それを仲間と呼んでやらないのは、絶対に許せることでなかった。死んだ者の事を思えば尚更だ。
「だったら、熱也と組んでテメェらをぶっ倒す!!」
啓助は思わず声に出していた。
許し切れていない柿村熱也と組むなんて。しかし、啓助に悔いはなかった。
「辻、ワイは……!」
熱也は、顔を俯かせながら言う。
「ワイはお前と戦えへん。組んで戦う権利なんて……ないんや」
「んな事ねーよ」
啓助は、熱也の言葉を引っくるめるように言った。
「お前が煉の代りをやってくれりゃ、それでいい。死んだ奴の事、いつまでも引き摺ってんじゃねーよ! 俺らを繋ぐモンはそんな湿気たモンじゃねえだろーが!!」
そう、煉の代りを務めてくれればそれで良い。
これ以上、人を苦しめたくない。だから、熱也の苦しみを捨てて、煉の苦しみを償ってくれればそれで良い。
「戦おうぜ、明るい未来のためにな」
ベタだ、そう分かりつつも啓助は言った。
ドーム外。紫色の空の下で、麻衣は呟いていた。
「うーん、アイスどーしよーかなー? やっぱ王道を貫いて、バニラかなー」
戦う相手そっちのけで、麻衣は思考に耽(ふけ)っている。
「油断をすると、痛い目を見マスよ」
返事は無い。
「デハ、行きマス」
やはり返事はない、来る気配すらない。
流石の来待も呆れを見せて、空手に近い構えが少し緩んだ。
「ッ!」
その時だった、来待の頭上に畳まれた扇の骨が振り下ろされた。
来待はそれを機械化した左腕で、扇の骨を受け止める。
途端、巨大な鈍い金属音が辺りを包んだ。
「ありゃりゃん? 油断は禁物じゃなかったのー?」
扇の上には、何とも可愛らしい表情を浮かべた神宮寺 麻衣の姿がある。
「………」
来待のコンピューター頭脳に刻まれた。
この少女、侮り難し―――
269
:
ライナー
:2012/01/08(日) 00:48:05 HOST:222-151-086-019.jp.fiberbit.net
35、機械は奇怪
鈍い金属音が、鳴っては消え消えては鳴りの連続だった。
扇と鉄腕のぶつかり合い。金属音が鳴り響く度に、両者は相手を探るような目をしていた。両者がしているため、それは互いに露顕(ろけん)されていた。
「貴女のデータは、以前雇ったときに調査済みデス。神宮寺麻衣、貴女に勝ち目はありまセン」
機械が半分体を支配してるからか、来待は妙にトーンの高い男声を発する。
「それじゃー何で打ち合いの時に目をギュってしてるのー?」
麻衣の口調は、啓助のように来待を苛つかせることはなかったが、調べている訳は持っている武器だろう。雇う前は炎を繰り出す箒、ファイアブロームを持っていたのだから。
「{白青光(ムーンライト)}」
返事が攻撃で返ってくる。
来待の左手が青白く光り、槍のように鋭く尖って麻衣を襲った。
咄嗟に躱す麻衣だが、それは意外にも深く右肩を擦る。
「{白赤光(サンライト)}」
透かさず来待の右手が赤白く光り、麻衣の避けた方へ突き出された。
その光は、充分に勢いの付いた麻衣が方向転換できるはずもなく、左肩に突き刺さる。
「イィッ!」
注射針を撃たれたような痛みが麻衣の肩に残り、来待の右手は扇に叩かれた。
麻衣の肩に刺し傷はなかった。
「その服……以前とは違いマスね。スペクトラが縫い込んであるとお見受けしマス」
その言葉に麻衣は少々距離を取り、『風華乱扇(ふうからんせん)』と名の付いた扇を構え直す。構え直すと言っても、その構えはテニスラケットを持つように軽々しく、疲れを全く見せなかった。
「フフーン、すごいでしょー! そうそう、そのスペアリブが縫い込んであるんだよーん!」
「スペアリブは豚肉デスが……ともかく、武器の大きさ故に遠距離、中距離を得意とするようデスが、近距離はまるで話になりまセンね」
確かに来待の言う通りで、いくら大きめの武器を軽々と使い越なしたとしても、近距離になれば小回りが利かず、そこでの機動力も薄れる。
相手が距離を詰めてこちらが逃げても、その都度その都度に同じ対応をしなければならない。つまり、距離を取った今でも状況は厳しいと言うことだ。
荒れた地面を蹴り上げ、麻衣は距離を取る。
案の定、来待は急接近した。
麻衣も負けじと、それにシンクロするように後ろへ跳び下がる。それと同時に来待の方へと振り向いた。
空中で扇は展開され、それは大きく仰がれる。
『風華乱扇(ふうからんせん)』で生み出された突風は、辺りの空気を引き裂くかのような颯声を奏でて来待に直撃した。しかし、攻撃するどころか、接近スピードも変わっていない。
「ハレ?」
良く見れば、来待は僅かに宙に浮き、足下で何かが白く光っていた。
来待はスピードを落とすことなく、槍のような手を突き出す。
「{白青光(ムーンライト)}」
左手の光は、肩の上を貫くように過ぎた。多少姿勢を落とせば躱せる範囲内。
振り下ろした扇を素早く畳み、アッパーを繰り出すように振り上げられた。
「ていっ!」
掛け声と共に振り上げられた扇は、表現した如く、顎に直打する。
肉と金属の撥音は、大きく来待を放り上げ、失敗した紙飛行機のように地面へ叩き付けられた。
その隙を利用すべく、麻衣は扇の骨を振り下ろす。
―――ギンッ! 鳴り響く金属音。
「にひー! やーるぅー!」
「……!」
その金属音は、来待の体その物ではなかった。
「やはり、継続して雇えば良かったですね」
扇の骨を防ぐ物、それは、バスケットボールサイズの『リモートユニット』だった。
270
:
ライナー
:2012/01/08(日) 14:45:13 HOST:222-151-086-012.jp.fiberbit.net
気が付けば、そこら中に球体のロボット『リモートユニット』が中を浮いている。
この時点で多対一、麻衣は圧倒的に不利な状況に立たされた。だが、麻衣の余裕の表情は消えていない。それが持ち前の性格ならなのか、絶対的に勝利を収める自身があるからなのか。来待には知る由もなかった。
麻衣は機械に力負けして、その反動で後方へと飛ばされる。いや、むしろ麻衣が身を引くために取った行動に見えた。
飛び退いて麻衣はある程度の距離を取るものの、すぐさま『リモートユニット』が麻衣の懐まで迫る。
タイマーのような電子音が響き、直線上にレーザーが放たれた。
「ハウッ!」
瀑声の如きレーザー音が麻衣の身を貫く。防弾に一等優れたスペクトラでも、レーザーは守り切れなかったらしく、白い煙を上げながら麻衣はさらに後方へ飛んだ。
その間に来待は立ち上がり、地面を蹴り素早く麻衣に接近する。
「実力は少しは上がったようデスが、数が多ければ話にならないデショウ」
来待の左手が青白く、右手が赤白く光を帯びていった。来待の様子からして、止めと言ったところだろう。
光を帯びた両手がゆっくりと重なり、両手の色は互いに混じり合い紫に変わった。
「{紫白光(コスモライト)}……!」
一方、麻衣は飛ばされていたものの意識はあった。しかし、それは終わりの過程を告げる時間と化したのだ。
宙を飛ばされる麻衣に、合計十二機のユニットが綺麗に滑空しながら迫っていた。
それは、瞬く間に麻衣の両手足に三つずつ捕らえる。
行動不能。
身動きの取れない麻衣に、来待は一気に接近した。
「これで負ければ、僕は壊されマス。その土壇場の力、見せてあげまショウ」
紫の光が一層強まり、両手は鋭さを増した―――
―――瞬間、巨大な刃音のような轟音が響く。
「……ッ!!」
来待の言葉が詰まる。
鉄素材の両手で身体に攻撃しても、刃音や金属音と言った音は絶対響かないはずだ。つまり、直撃したのは麻衣ではない。
「『リモートユニット』ッ……!!」
怒りを噛み殺すような声と共に、『リモートユニット』の機械破片が飛沫(しぶき)のように飛び散った。
麻衣の両手が球体の中から顕(あら)わになる。縛られていたはずの両手が。
「エヘヘ〜、すごいでしょー」
笑みを溢しながら、麻衣は透かさず宙で回転している扇を掴む。
その扇は薪割りをするかのように両足の『リモートユニット』に振り下ろされた。
再び散る、機械破片の黒飛沫。
「……ッ!?」
強張ってゆく、来待の顔。
その顔をさらに強張らせるように、扇の骨が顔を襲った。
来待の体は後方へ吹き飛び、大きな崩落音と同時にドームの外壁を崩す。
「じ、磁場の力を……覆すなんて……ありえまセンっ……!」
外壁の窪みから体を起こし、来待は嘆くように呟いた。
「当たり前だよー?」
土煙の向こうから、麻衣の声が届く。
「アタシには、機械の心が分かるんだよー!」
瞬間、来待の目の前から土煙が晴れた。
「ッ!!」
そこに見えたのは、麻衣が扇を頭上で回転させている姿だった。この構えは―――
「{花乱吹(はなふぶき)}!!」
放たれた言葉のすぐ後に、天気予報さえも覆す突風が迫る。
来待は、途端に左手に力を込めた。しかし、先程のように光は帯びてこない。
「クッ……!」
途絶えた苦悶の声は、激しい突風によって放たれる場所さえも打ち壊した。来待という放たれる場所さえも。
「ウワアアァァッ!!」
絶叫と共に橙桜(とうおう)を乗せたソニックブームが機械を砕く。そして、凹凸のある機械部品が飛び、赤の液体が渦巻くように空に散った。
激しい颯声が止み、麻衣は大きめの扇を後ろ腰に仕舞う。
背伸びの後の第一声は、やはり暢気な物だった。
「チョコバニラミックスにきーめたっ!!」
271
:
ライナー
:2012/01/08(日) 15:05:46 HOST:222-151-086-012.jp.fiberbit.net
〜 作 者 通 信 〜
最近は更新率が高まっております、作者通信です(笑)
さて、麻衣さんが敵を倒したところで、次は熱也と啓助がタッグを組んで戦うのですが、もうだいぶラストのラストまで近付きました^^;ヤレヤレですね(汗)
そして、もうすぐ麗華さんの過去が登場しちゃいます。
お嬢様が何故その生活を抜け出したか、自分なりに描写を頑張りたいところです。
そして、キルブラックの次も手強い敵さんが……!!
ではではwww お楽しみに(してくれたら有り難いです;;)
272
:
ライナー
:2012/01/08(日) 17:13:21 HOST:222-151-086-012.jp.fiberbit.net
36、炎の両足 氷の両手
「明るい未来のために戦うなんてさー」
「僕達が悪いみたいじゃん」
1人が喋るタイミングで、双子は言う。
「やってる事は、悪い事に違いねえだろ」
言いながら、啓助は剣を構えた。
「んじゃ、一つ教えとこうか」
白闇が懐から白い綱を取り出す。
「キルブラックなんて、ダサイ名前使ってるけど」
黒明は、掴んでいた黒い綱を肩に担いだ。そして、二人は言った。
「「タダの会社だし」」
二人は声を揃える、当然の顔で。
今回ばかりは双子だからではなく、当たり前といったところで息があった、そんな気がした。
殺戮を繰り返した組織が会社か、啓助がそう問いても双子の顔に「当然」の二文字は消えない。どうやら言っている事は本当らしい。
「ま、何故こんな組織を作り出したかって言うと」
「この時代を生きて行くために、必須な訳だからだよね」
今、啓助と熱也を挟んで、白闇、黒明が立っている。
二人有無も言わず、背中合わせになって敵を凝視した。啓助達にとってその行動さえが有無のようなものだった。
「んな会社、いらへん! 辻、遅れてしもうたが、救ってやろうやないか未来!」
熱也は、何か吹っ切れたように言う。
そして、黒地に赤いラインが入ったパーカーのポケットに手を入れ、薄手の黒い指先まであるグローブを填め込んだ。その他の容姿は、パーカーの下に灰色のタンクトップを着、赤いキャップを鐔を後ろにして被っている。ズボンはゆったりをしていてかつ、動きやすそうな黄土色のズボン。そして、外見からして何か仕込んでありそうな素材不明(啓助にとってだが)のシューズを身に付けていた。
「っしゃあぁ!! 燃えてきたでぇ!!」
声を張り上げて、熱也はグローブのメリケンをぶつけ合わせる。
「俺もやってやるぜ!!」
啓助も同じように声を張り上げた。
一言ずつ叫びを上げた二人は、何か気合いの入った笑みを溢していた。そして、二人は振り向かずとも、背中を預けられると信じ合ったように見える。
そして、二人は踏み出す。倒すべき敵に向かって。
「いいよね」
「友情って」
途端に、啓助が薙ごうとした剣が白闇の強く張った綱に遮られた。
「何ッ!?」
一方、熱也の方も突き出した拳が黒明の綱に叩き落とされた。
「……! やるやないかいっ!」
双子は二人に何も返さず、無言で綱を撓らせる。
鞭声のような音を発し、双子の綱はシンクロしながら大きく鳴り響いた。すると、そこからは輪のような光が生まれ、白闇のものは啓助の両足に、黒明のものは熱也の両手に取り巻いた。
「……ッ!?」
その光が徐々に消えていき、白色のリングが啓助に、黒色のリングが熱也に現れる。
「クソッ! 足が動かねえ!!」
白いリングを外そうと、啓助はリングに向かって剣をぶつける。
しかし、『氷柱牙斬(つららげざん)』と白色リングは澄んだ金属音を奏でただけで、リングには傷一つ付いていない。
「なんやねんこのリング!!」
熱也の方は、黒いリングを外そうとして、足元の床に叩き付ける。
しかしこちらも同様で、余韻を残しながら金属音が響くだけだった。
「条件付けって大事だよね」
「これで少しは面白いでしょ?」
まるで、弱者を徐々にいたぶるいじめっ子ような悪質な行為。しかし、こんな事は言っても通じない、この戦闘には卑怯も何もないのだから。
「チクショー……! 状況的に不利すぎるだろ……!!」
啓助は、右手に握った剣の刀身に氷を纏わせ、左手には氷の盾を作り出す。―――が、動けない。
足と足がしっかりリングに束ねられているのだ。
「ハーハハハ! コッチから仕掛けさせて貰うよ」
白闇が白の綱を龍の如く撓らせ、啓助に向かって振り下ろす。
白の綱は湿った音を立てて、氷の盾に防がれた。しかし、衝撃を受けた盾は、綱が引かれると同時に真っ二つに割れていることが確認出来た。
「ッ! おいおい……」
啓助は力の抜けた声を発する。良く見ると、氷の盾が割れたのではない。厚みを帯びた中心部分がそっくりそのまま消失していたのだ。
273
:
竜野翔太
◆sz6.BeWto2
:2012/01/08(日) 18:09:27 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
コメントさせてもらいますね^^
スーパーマイタン勝ちましたねw
しかしチョコバニラミックスとは何と贅沢な……。僕ならチョコにしまs((
そして来待さんがログアウt((
啓助&熱也VS白闇&黒明の戦いもいよいよ始まりましたねw
麗華の過去も楽しみにしております!
まあ最近では白闇ちゃんも気に入ってきたr(( いや、ロリコンではないです((
続きも頑張ってくださいね^^
274
:
ライナー
:2012/01/09(月) 13:27:23 HOST:222-151-086-021.jp.fiberbit.net
コメントありがとうございます!
僕はチョコもバニラも好きですが、いつか食べた巨峰アイスが忘れられません(笑)
と言っても、僕もチョコ派ですが(巨峰アイスはいろんな意味で味薄かったですw)
今回は完全的なログアウトですね、来待さん。永遠の休暇をあげm((蹴
結構ダブルスは書きづらくて苦戦しております^^;
でも、何とか頑張りますw
麗華さんは自分でも話作りに苦労しました。ストーリーの資料はあまり使いませんでしたが^^;
白闇ちゃん、結構雑なような気がしたのですが、そう言って貰えると有り難いです!
ありがとうございます! 頑張らせていただきます!
275
:
ライナー
:2012/01/09(月) 16:21:20 HOST:222-151-086-021.jp.fiberbit.net
「なーにぃ? そんなに驚いた? 私のこの紐『闇丁紐(あんちょうひも)』って言うの。アビリティの吸収及び放出が可能な訳。ちなみに黒明も『明丁紐(めいちょうひも)』って言う効果の同じ物を持ってるわ。ネーミングが違うだけだけどね」
アビリティの出し入れが自在と言うことは、先程消された氷も必要な場面で放出されると言うことだろう。こうなると、【マッスル】や【ファスト】のような、人間の力を向上させるアビリティの方が有利と言うことだ。
にしても、白闇は先程から余裕に満ち溢れ過ぎている。啓助の方を眼中にないと思っているのか、それ以前に遊び道具のような存在でしかないのか。
「なら、これならどうだ! {凍突冷波(とうとつりょうは)}!!」
啓助は、剣の切っ先を前に向け、刀身を通じて冷気を放った。その冷気は、剣その物を延長したかのように白闇の方へ伸びる。
「だから効かないって」
白闇は綱サイズの紐を撓らせ、タイミング良く冷気へと重ねた。
紐と冷気が触れ合うと、吸い込まれるように『闇丁紐(あんちょうひも)』へ消えていく。
「ホラね。……!」
瞬間、白闇は思わず息を呑む。啓助が倒立前転をしながら接近してきたのだ。
「承知の上だっ!!」
そう、啓助はすでに相手の武器の効果を知っている。それ故にアビリティを使って冷気に出すのには理由があった。
ユニオンでの訓練のため、アクション映画などでも良く見る「倒立前転」「バク転」などはある程度訓練されている。しかし、当然ながら通常の走行よりも方向転換としての方が優れるため、スピードには優れない。つまり、僅かなインターバルが必要だったのだ。
啓助は、回転の勢いを付けたまま刀身を振り下ろす。
「食らえ!」
瞬間、湿った鍔音のような音が響いた。刀身が、先程の氷の一角に防がれている。
「やるね」
やはり白闇の表情は余裕。これは想定の範囲内と言うことだろう。
そして、白闇の反撃が繰り出された。
「火炎、召喚」
再び撓る白い紐。鞭声が響くと同時にそれは現れた。蜃気楼を呼び出すほどの熱気が、啓助の肌に伝わる。
「グッ!」
目の前が炎で赤く染まり、身体ごと啓助を吹き飛ばす。
「さて、戦えるかな」
一方、熱也と黒明。
「ふーん、白闇はもうすぐ片が付きそうだな。ま、当たり前か」
黒明の視線は熱也にあらず、遠くの啓助達の戦闘を見据えていた。
「余所見すんなや!」
言葉と同時に、束ねられた両手がグローブに炎を纏わせる。その拳は赤い流星を思わせるように黒明に向かった。
しかし、その拳が来る事を前から予想していたかのように黒明は伏せる。そして、熱也の反応よりも速く、『明丁紐(めいちょうひも)』が熱也の腹部を叩いた。
「ヴグッ……!」
詰まる苦悶と共に、激しい平手打ちのような音が熱也を数メートル先の壁へと打ち付ける。
「これでやられたって事は、要するにそれ程弱いって事だよね。にしても、君が火を使えるとは知らなかったよ」
静けた空間に、黒紐の鞭声が響いた。
「斬撃、召喚」
小さな囁きが放たれると、それが伝わるかのように紐は撓る。
ザッ!と言う風切音が、突進するように熱也へ向かった。
その音は姿を捕らえられぬものの、鉄製の床を捲り返して波のように迫る。
倒れている熱也は一所懸命に立ち上がろうとするが、倒れている体勢が辛く、手が思うように動かせないために中々立ち上がれない。
「ッ!!」
顔を上げ、前方の斬撃を目の当たりにした。しかし、体が動かない。
「グハアァッ!!」
驚愕の叫びと共に、赤いキャップが宙を飛ぶ。さらに、熱也の全身に切り込みを入れるように傷が現れ、血液が四方に飛び散った。
赤いキャップがフリスビーのように宙を舞い、羽毛が舞い降りるようにゆっくりと落ちる。
そのキャップが落ちた場所は―――
―――微かな震えを残した、熱也の倒れる身体だった。
276
:
ライナー
:2012/01/14(土) 12:00:52 HOST:222-151-086-012.jp.fiberbit.net
二人の体力は限界に達していた。相手が悪すぎるのだ。アビリティを吸収できてしまうなんて、あまりにも分が悪すぎる。
啓助は、焼けただれた体を必死に動かしながら、熱也の方へと向かう。
「おい、大丈夫か……!」
掠れた声が、熱也の身体を起こさせた。だが、傷だらけの体は、今にも倒れそうなくらいの雰囲気を出している。
「大丈夫や。こんなん、根性でどうにでもなるで」
熱也はそう言うものの、声からしてやはり辛そうだった。
そんな状況を余所に、白闇と黒明は余裕そうにこちらを見つめている。まるで、虫のようにすぐさま殺せると言っているかのように。
「クッ……!」
啓助は、悔し紛れに拳を地面に叩き付ける。もう、打開策は無いのか。
相手の武器は、アビリティ吸収可能な紐。こちらの攻撃パターンで許せる範囲は、啓助がアビリティを使用せずに剣で物理攻撃を繰り出すこと。そして、もう一つは熱也のアビリティ【ファスト】を使用した物理攻撃。どちらにせよ、物理攻撃でなければ効果がない。
しかし、物理攻撃と言っても、最初に繰り出した攻撃は簡単に防がれてしまった。これも簡単に征くとは限らないだろう。
「(アビリティの使用できる条件は、相手の吸収スピードを超える攻撃をすること―――)」
そこで、啓助は気が付いた。
吸収スピードを超えればいいのなら、アビリティを即使用するのではなく、溜めてからの攻撃を仕掛ければいい。だが、啓助に啓助にそれ程のアビリティを放出し、操る力は無い。出来るとしたら氷を全身に纏うくらいだろう。
「!」
そして啓助は、再び閃く。この期に第六感は冴えているようだった。
啓助は、この時だけは自分の中途半端な第六感を有り難く思った。最高の打開策を思いついてくれる、第六感を。
「熱也、まだ動けるか」
「当たり前や! この程度でくたばる柿村熱也とちゃうわ!」
熱也もどうやらまだ動けるようだ。と言っても、長持ちはしなさそうである。つまり、啓助が思いついた「体力の使う」打開策は一発勝負。
「いいか、お前は……」
啓助は熱也にその打開策を伝える。
それを聞いた熱也は少し驚いた様子だったが、聞き終わると満面の笑みを浮かべ、大きく頷いた。
「死ぬんやないぞ、辻!」
「あたぼうよ!」
二人は地面を蹴って、双子の方へと急接近する。
「白闇、3分トーキング終わったみたいだよ?」
「ま、結局格好いい死に方について語ってたのよ」
双子は軽く構えを作りながら、接近する二人を見据えていた。
瞬間、啓助の『氷柱牙斬(つららげざん)』が白闇に襲い掛かる。
「勇気って、大事だよね」
余裕の声が啓助に届いた。
途端に、『闇丁紐(あんちょうひも)』が素早く振るわれ、大きく刀身が弾かれる。
「でも、その勇気は空回りする無謀に過ぎないの」
啓助は、その刀身ごと一直線に飛ばされた。しかし、啓助は笑顔を見せる。
熱也の炎を纏った拳が、俊敏に黒明へと向かう。
「要するに、空気摩擦って事だよね」
余裕の声が熱也に届いた。
途端に、『明丁紐(めいちょうひも)』は素早く振るわれ、大きく拳が弾かれる。
「【ファスト】によるスピードで、摩擦熱で燃えやすい素材のグローブと靴。でもそれは、悲しく燃え尽きる灰でしかない」
熱也は、その拳ごと一直線に飛ばされた。しかし、熱也は啓助と同様、笑顔を見せる。
二人の飛び交う身体は、互いに接近し、両足を向こうの両足と合わせた。そして、大きく飛び上がるように、二人は互いを押し退ける。
それは、先程飛ばされた相手に向かい、急接近していった。
不意を突き、剣が白闇を切り倒し、炎の拳が黒明を急突いた。
「なっ……!!」
「うそっ……!!」
双子は紐を一度薙げば、その流れを変えるために僅かなインターバルが必要となる。だが、今のように二人が体勢を立て直せば別だ。機転が利かず、瞬間的に硬直したのと同じ事になる。
地面には、勢いよく土煙が上がり、その上を啓助と熱也が飛び上がった。
「止めだ」
宙に舞う啓助に、大きく冷気が纏う。それは急激に啓助に集まり、一つの巨大な氷の塊と化した。
熱也は大きく飛び上がり、回転して勢いを付ける。そして、その勢いで、氷の塊を双子の真下へ蹴り下ろした。
「氷蹴るのが、なんぼのもんじゃいーッ!!」
叫びと共に、氷は砲弾の如き速さで土煙を突き抜けた。
「要するに、河童の川流れか……」
「油断大敵って、大事だよね……」
この二つの言葉は、双子の最後を告げていた。
277
:
ライナー
:2012/01/14(土) 14:19:03 HOST:222-151-086-012.jp.fiberbit.net
〜お知らせ〜
いつも、本作「係争の異能力者(アビリター)」をご愛読の皆様、ありがとうございます。
二作目となった「赤瞳の不良」ですが、行き詰まってしまい、終了することとなりました。
この失敗を反省し、ノート一冊分のアイディアをまとめるまで新作は投稿しないよう心がけます。また、二作目をご愛読くださった皆様には本当に申し訳ありませんでした。
このような責任感の欠片もな自分でありますが、新作が出来た時には、読んで下さりますようお願い申し上げます。
278
:
月峰 夜凪
◆XkPVI3useA
:2012/01/15(日) 11:26:00 HOST:softbank221085012009.bbtec.net
コメントさせて貰いますね。私の小説にコメントして貰ってたのに遅くなってしまい、申し訳ないです;
まず最初に、戦闘の場面がスピード感があって面白かったし、読みやすかったです!
最近戦闘描写が上手い人が沢山いて焦り気味です((
読み始めたばかりのころは、いわゆる乃恵琉くん推しだったのですが、過去編の影響で洋(ヒロシの方も)好きになりました!(勿論乃恵琉くん今でも好きですよ!w
以前にアドバイスを頂きましたが、やっぱりギャップがあるキャラって魅力的ですね^^
ちなみに女性陣だったらマイマイこと麻衣ちゃんが特に好きです!戦うメイドさんってかっこいい←
それにしても、最後の白闇ちゃんと黒明くんの言葉が印象的ですね!二人も好きなのですがやっぱりログアウトしちゃうのかn((
それではこの辺りでノ 続き楽しみにしてます^^
279
:
ライナー
:2012/01/15(日) 14:20:13 HOST:222-151-086-008.jp.fiberbit.net
月峰 夜凪さん≫
コメントありがとうございます!! いえいえ、コメントいただけるだけで嬉しいですし、だいぶ長編なので読むのに時間が掛かりますよね^^;
戦闘シーンは、あまり諄過ぎてはいけないと思ったので、何度も読み直して自分なりに読みやすくしたつもりでした。ですので、面白いと言って貰えるのは本当に嬉しいです(涙)
僕もまだまだ半人前なので、上手いかどうか分かりませんが、戦闘描写も文章の一部。自分の納得のいくものが出来れば、それで良いと自分は考えたりしています(笑)
乃恵琉と洋ですか!? 僕もそのお二方は気に入っています^^
僕は、ギャップに関しては修行中でありますが、分かって頂けて嬉しいです!
双子さんですか。やはり、敵なのでどうしてもログアウトg((
ありがとうございました! 期待に添えるよう頑張っていきます!
280
:
ライナー
:2012/01/15(日) 17:00:27 HOST:222-151-086-008.jp.fiberbit.net
37、一難去ってまた一難
熱也は、土煙の残る地面に颯爽と着地する。
「おい、辻ー! 大丈夫かー!」
霧雲のように掛かった土煙に、当てずっぽうに声を上げた。
すると、その土煙からは影が映し出され、啓助が姿を現す。
「大丈夫なわけねーだろ! コッチは体張って攻撃してんだ、死ぬかと思ったぜ……」
辺りはゆっくりと土煙が消え、俯せになって倒れた白闇と黒明が現れる。
「クッ……!! 私達が」
「ま、負けるなんて……!」
双子は、掠れた声を出しながら、息ピッタリで地面に拳を叩き付けていた。
「お前らが何をしているのかは知らねえが、人を傷付けてまですることなら、俺は止める」
啓助は剣の刀身を鞘に収めながら言う。
「右に同じや」
啓助に続くように熱也も言った。
「……こうなったら」
「ボス本人に委ねるしか無いね」
双子の言葉を最後に、双子は土煙に紛れて姿を隠す。そして、土煙が晴れると同時に、その姿は消えていた。
「!?」
二人は拍子抜けしたように辺りを見回す。しかし、ドーム内には啓助と熱也しか存在していなかった。
すると、今度は景色が歪み始め、ある時間を境に景色が真っ黒に染まった。黒い景色は暫くして色味を帯び、旅館前の大通りに戻っている。
「戻った……のか」
「いや、ワイにとっては完全にワープ状態なんやけど……」
それもそのはず、熱也は啓助と共に行動していた訳では無く、別の場所に存在していたのだから。
にしても、ワープ前とは完全に何か違うものを感じた。
―――人が居ない。
もうすぐ昼時だというのに、ファミレスや食品専門店が多い大通りには人っ子一人存在していないのだ。これはどういう事なのか。啓助には、まだ〈キルブラック〉が関係しているとしか思えなかった。
「ねー、約束のアイス買ってよー。チョコバニラミックスがいいよー」
麻衣が後ろから啓助の服の袖を掴み、ユサユサと前後に振る。麻衣が無事だったことに気付き、啓助はひとまず安心した。だが、今はチョコバニラミックスのアイスを買っている場合でない。チョコバニラミックスでなくとも、コンビニに行ったところで店員さえも居ないだろう。
「ちょっと待て、今は街の様子がおかしい。……つか、お前右肩大丈夫か?」
啓助は振り向き麻衣の姿を確かめるが、その右肩は刺し傷と言うほどではないが、擦り傷のように赤く染まっていた。
「だからー、早くアイス……」
言い掛けて、麻衣の瞳から電源を切ったように光が失われる。そうかと思うと、啓助の服の袖を掴む握力は弱くなり、前のめりに体を倒した。
「お、おい! 大丈夫か!?」
一見するだけで全く大丈夫とは言えないが、啓助はそう言って麻衣の体を担ぐように持ち上げる。
「ヘッドホン娘やないか!? どないてこんな所に!?」
話は後だ。啓助は熱也にそう言うと、辺りを忙しなく見回す。
今の現状は街に人が全く居ない。居るのは啓助、熱也、麻衣の三人だ。すなわち医者さえもいないという事。つまり麻衣の完全な手当は今のところ望めないということだ。擦り傷だけで気絶したとは、到底思えない。
完全な手当が出来なければ、次に優先順位が来るものは「安静」だ。とにかく麻衣を一番安静な場所に移動させなければならない。
「熱也、悪いがここ周辺を捜索してくれねえか。誰か一人でもいたら心強い」
恐らく確率的には0に近いだろうが、調べてみなければ分からない。麻衣は旅館の中で安静にさせて、なるべく医療に関係した人物に見て貰えれば最高だ。
「おう」という返事と同時に、熱也は持ち前の【ファスト】を活かした捜索を始めた。
「参ったな……」
そう、参った。今、何処で、何が起きているのかサッパリ見当が付かない。いや、啓助自身考えるのが嫌な程困惑状態に陥っているのかもしれなかった。現在分かっているのは、この街から人が消えていると言う事態だ。
「………」
不穏な空気が啓助の肌を刺激する。
これから、何か嫌な事が起きる。そんな予感を過ぎらせていた。
281
:
ライナー
:2012/01/21(土) 14:47:31 HOST:222-151-086-008.jp.fiberbit.net
やけに静まった大通りは、腕時計の秒針の音さえも大きく表現する沈黙だった。
まるで、水中のような沈黙。
暫くして、捜索から熱也が戻ってきた。何処まで走っていったのか、少し息が荒い様子だ。
そして、戻ってきた後の答えはやはり―――
「居らんかった」
まあ、そうだろうとしか返しようがない答えだった。だが、啓助は何か考えるように間を置いて、そうか、と静かに言う。自分の想定が少し外れたような言い方だ。
その言葉の後に、熱也は付け足すように言葉を続けた。
「と言っても、直径1キロメートル位を隅々調べたんやけどな」
確かに街一つと比べたら、直径1キロメートルは小さい範囲内かもしれない。しかし、熱也の捜索時間は約25分。隅々まで調べると言ったら充分過ぎるほどの時間だ。
「ああ、それもう一つ。道路に車が投げ出されるようにあったんやけど、やっぱ人が移動したって言うより消えたっちゅうのが本命らしいな」
消えた。それなら意図的に誰かが消したか、消すような事態を起こしたに違いはない。人が自分から消えるようなことは出来ないし、存在自体を消すのは無理な話だ。
行方の真相を深く考え込みそうになって、啓助は思考回路にストッパーを掛けた。深く考える前に、まず麻衣を安静な場所に移さなければならない。
「ハァ……」
溜息を吐きながら、啓助は貴重品を扱うように麻衣を持ち上げる。状況が状況でなかったら、このお姫様抱っこは批判されていただろう。
現在地、旅館の一室。
啓助は勝手に旅館の布団を使い、その上に麻衣を寝かせる。
「ヌッ! 何やこの扇子! ゴッツ重いんやけど!!」
熱也はどうやら、麻衣の武器『風華乱扇(ふうからんせん)』を運ぶのに苦労しているようだ。というか、麻衣は啓助より小さいあの体にどのようにしてあんな扇を振り回す力を持っているのだろうか。腕を掴んでみてもそれ程筋肉があるとは思えないし、年齢としても啓助と同じ16、15歳くらいの外見だ。
扇を両手にした玄関前の熱也に、啓助は手を貸す。
二人で両端を持って、玄関の段差を越えたものの、長刀のような扇は重量としてはまあまあ。これほど重く感じるのは長さのせいだろう。二人で運ぶと案外軽かった。
「……ふー、外に調べて行きたいが、怪我人から目を離すわけにも居かねえな」
額にうっすらと浮かんだ汗を、啓助は服の袖で拭う。
「しゃーないから、ワイがヘッドホン娘の面倒見たるわ。さっきの出来事もそうやけど、〈キルブラック〉が関係しているのは明かや。ワイは結構な切傷負ってもうてるし、一番怪我の少ないお前が行ってくれ」
俺も相当火傷負ってるんだけどな、と一言言い返し、啓助は麻衣の手当を終えた。
麻衣の手当を終えた啓助は、今度は自分の手当に方向を変える。
「……今は何が起こるか分からねえ。呉々も気を付けろよ」
啓助は、自分の腕に包帯を巻きながら熱也に言った。言葉からして、行動に出ることは確かなようだ。
「分かっとるわそんな事! それよりも、ワイがここにワープして来てもうた分、キッチリ解決するんやぞ」
了解。そんな言葉と僅かな笑みを残して、啓助は旅館を去る。
必ず戻らなければ。第三番隊B班のメンバーのため、そして、残していった熱也と麻衣のために。
大通りに出ると、「当然」と言うべきなのだろうが、人が居ない。
辺りには、霊現象でも見えてしまいそうなカーブミラー、車道のど真ん中に不自然に止められた車。やり尽くされていないゴーストタウンを、啓助は当てずっぽうに走る。ちなみに路上の車は全てアイドリングストップされていないようだ。消えているのだから当たり前なのだが、何となく環境が気になる光景ではある。
それにしても、走っても走っても人の気配一つ感じない。一体何処までの範囲の人間が消えているのか。しかし、日本全国の人間が消されたという選択肢はない。不自然に路駐された車のラジオが通常に役割を果たしていたからだ。
すると、人の話し声をキャッチする。
「ん?」
その話し声は、カーブミラーから少し姿が見える。
話し声を立てている者の姿は、〈キルブラック〉の下っ端が纏う黒装束を着ていた。
282
:
ライナー
:2012/01/29(日) 14:48:43 HOST:222-151-086-012.jp.fiberbit.net
「いやー、白闇様と黒明様の技は凄いね」
声が聞こえると同時に、啓助はカーブミラーの死角に寄り、耳を澄ませる。
「そうだなー。この周囲の人間を全て異空間に収納とか……俺らには意味不明だよ」
やはり〈キルブラック〉の者の話らしい。それに、白闇と黒明がまだ動ける状態であったのが、啓助には酷く驚きを呼び起こした。
「ボスが異空間から人々を助け出すような演技をやって、今の時代に必要なアビリターをここに示す。そう言ったことで、会社を引き立てトップクラスの営業会社を作り出す。凄すぎて俺らには判断が付かないな」
黒装束の話を頭の中で整理しながら、啓助はあの言葉を思い出す。
「「タダの会社だし」」
白闇と黒明、あの双子が言った言葉だ。どうやら偽りではなかったらしい。
しかし、会社と言うからには今までも敵も雇われた人間が多数を占めるだろう。すると、〈キルブラック〉のボス堂本はたった一つの会社を引き立てるためだけに、多くの人間を巻き込んでいる。そうだとしたら、一刻も早く堂本を止めなくてはならない。
「〈キルブラック〉の下っ端にしては随分オシャレ脱線した格好してるじゃない」
突然、後ろから声が掛かる。
「……!」
唾を呑み、啓助はゆっくりと首を背後へ回した。すると、その目に入ってきたのは――――
「れ、麗華……!!」
啓助はそう声を漏らし、硬直する。
そこにいた麗華も同様に衝撃的だったらしく、『白鳥夢掻(しらとりむそう)』を握ったまま立ち尽くしている。
突如な再開。しかし、これは双方にとって重大なことだった。
啓助は逃亡者、麗華はユニオン隊員。この身分は、関係図で表すと「敵」という矢印で結ばれているのだ。つまり、今互いが出会うことは戦闘に発展してしまうという事だ。
思わず、啓助は背にある剣の柄に手を伸ばす。
「辻……アンタ、まさか〈キルブラック〉の一員なわけないわよね?」
そんなこと一目見れば分かるのだが、今はお互いを信用することは難しい。啓助は〈キルブラック〉の作戦現場にいて、麗華は恐らくそれを止めるために派遣されたのだろうから。
『白鳥夢掻(しらとりむそう)』を握る麗華の手が、ほんの僅かに力が込められる。
「ああ」
言葉と同時に『氷柱牙斬(つららげざん)』を鞘から抜き出した。
「(今はお互いやるべき事を優先するしか他ない。こうなったら――――
――――戦うしかない。
そう、選択肢は一つだけ。戦うことしか許されないのだ。
麗華は今ここでユニオンを裏切り、啓助を助けるようなことをすれば同罪になる。しかし、啓助はそんな迷惑掛けられるはずもなかった。
たとえ任務を任されても、指名手配犯などと遭遇した場合はそれを優先する。そうして、自分の出来る範囲内のことを実行する。それがユニオンのオキテだった。一見仲間を裏切るような行為に見えるが、それは仲間を信じて任務を任せるという事にも繋がる。そして、多くの仕事をこなさなければいけないプレッシャーでもある。
そして戦う。
――――仲間の元へ帰るため。第三番隊B班のチームルームに再び戻るために。
そのためには、麗華を戦闘不能に追い込まなければいけない。
以前の試合による負けがあり、緊張感がさらに増す。
「………」
啓助は剣を構える。仲間だった者に。
麗華はナイフを握る。任務を遂行するために。
戦うことは互いのため、これが神の作り出した越え辛い運命(さだめ)。
二人は同時に足を踏み出した。
互いの武器は激しくぶつかり合う。まるで、金属が奏でる交響曲が如く。
「(クソッ……!)」
そして、啓助は願った。
――――交響曲の中断を。
283
:
燐
:2012/02/19(日) 16:33:28 HOST:zaqdb739e54.zaq.ne.jp
コメしますねノシ
全体の4分の一を読み終わりました!!
いや〜ライナーさんの小説はハンパないですよね(*^_^*)
私の小説とは桁違いな上手さです!!
最終回まで読みますから、辞めないでくださいよ!!
こっちはこっちでとても楽しみなんですから!!←
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