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避難用作品投下スレ2

1管理人★:2007/04/24(火) 01:55:07 ID:???0
新スレが立たない、ホスト規制されている等の理由で
本スレに書き込めない際の避難用作品投下スレッドです。
また、予約作品の投下にもお使いください。

399A Tair:2007/05/27(日) 12:07:21 ID:BFLsCE7Q0
「てめえ、ふざけんじゃねえ! 俺達は殺し合いするつもりなんかねえよ!」
あらぬ疑いを掛けられた浩平が、怒りで大きく目を見開きつつ叫ぶ。
しかし名雪はその怒号を一笑に付した。
「……皆最初はそう言うんだよ月島さんも最初は殺し合いに乗っているようには見えなかったでも突然掌を返して襲い掛かってきたんだよ。
 人間なんて裏で何考えてるか分からないし何が切っ掛けで心変わりするかも分からないだから私はお母さん以外絶対に信用しない!!」
「なゆきっ……」
矢継ぎ早に繋がれる異常な理論。
それは秋子の知らぬ人物だが――狂気に取り憑かれた向坂雄二と同じ、最早癒しようの無い人間不信。

秋子の口元がわなわなと震えた。
認めなければならない……本当は昨晩、優勝を懇願された時に認めなければならなかった。
――娘はもう、完全に狂ってしまったと。
こうなる事は、予測して然るべきだった。
昨晩あれ程名雪の狂態を見せ付けられた自分なら、十分予想出来た筈だった。
ただ自分の目が眩んでいただけなのだ。
子供達を守り続けるという道が、互いを想い合う浩平と七海の姿が、余りにも眩し過ぎたから。
最初から他に選択肢など無かった。
人間不信に陥った娘を引き連れ、他の者と協力し続けるなど到底不可能だ。

――だから秋子は、

「私、優勝して祐一を生き返らせる為に頑張るから、お母さんも頑張ろ?」
――ジェリコ941を構えて、

「……了承。後は私がやるから、名雪は安全な場所に隠れていなさい」
――そう言った。



400A Tair:2007/05/27(日) 12:08:31 ID:BFLsCE7Q0
浩平は唾を飲み込みながら、目の前で展開されている事態を呆然と眺め見ていた。
名雪は最初から口数が極端に少なかったので、何か違和感を感じてはいたのだが――
狂っている。
あの少女は間違いなく、このゲームの狂気に飲み込まれてしまっている。
そして間違いを正すべき存在である筈の秋子すらもが、名雪に同調したのだ。

浩平は怒りと驚愕に震える叫びを上げる。
「秋子さんまで何言ってるんだよ! アンタまで俺達を疑うってのか!?」
「いいえ……そんな事はありません。ただ私にとっては名雪が最優先であり、全てなだけです」
秋子の冷たく冴えた目が、じっと自分を捉えている。
その視線に気圧されながらも、浩平は必死に頭脳を回転させていた。
追い詰められてる状況にも拘らず――いや、だからこそかも知れないが、驚くべき速度で結論を弾き出す。

視線は秋子に固定させたまま、横で震えている七海に声を掛ける。
「七海……逃げろ」
「……え?」
「此処は俺が何とかするから、お前は高槻達の所へ逃げ込め。高槻なら……あいつならきっと、お前を守り抜いてくれる」
説得は不可能。ならば自分が敵を引きつけ、その隙に七海を逃がす。

当然七海がその作戦を認める筈も無く、反論の言葉が返ってくる。
「そんなっ……こ〜へいさんを置いていくなんてっ……」
そう――七海は自分よりも人の事を第一に考えてしまう少女だ。
それが分かっているからこそ、浩平はわざと強い口調で吐き捨てた。
「勘違いするな、お前の為なんかじゃない。七海を連れたまんまじゃ俺まで逃げ切れないから……先に行けって言ってるんだ」
とどのつまり浩平は、『お前がいると足手纏いになって逃げ切れない』と言っている。
お前が逃げなければ自分まで危なくなってしまうと、そう言っているのだ。
こうなってしまっては、七海も素直に従う他無くなる。
「……分かりました」
「何があっても決して振り向くな……どんなに疲れても決して足を止めるなよ。さあっ、行け!」
浩平が叫ぶと同時、七海が出口に向かって走り出す。

401A Tair:2007/05/27(日) 12:10:27 ID:BFLsCE7Q0
ゲームに乗っている事を広められたくはないであろう秋子が、七海の背中に銃口を向けようとする。
その行動を予期していた浩平は、素早くS&W 500マグナムの銃口を持ち上げ、その時にはもう撃っていた。
「させねえよっ!」
「くっ――――」
すんでの所秋子が横に飛び退いた為に銃弾は命中しなかったものの、七海が建物外に脱出する時間を稼ぐ事は出来た。
しかしまだまだ足りない。
怪我もしており子供でもある七海が完全に逃げ切るには、もう暫く敵を此処に釘付けしておく必要がある。
浩平は横に走りながら、一発、二発と引き金を絞った。
銃弾が敵の体を捉える事は無かったが、構わずそのまま机の影に滑り込む。
ポケットから取り出した銃弾を装填しながら、冷静に計算を巡らせた。

この大口径の銃――S&W 500マグナムは、余りにも反動が大き過ぎる。
自分の傷付いた両手では、後数回しか弾を放てまい。
このまま時間稼ぎの撃ち合いを続けるような余力などないし、一撃で敵を仕留める技能も自分は持ち合わせていない。
ならば――
浩平は机の影から飛び出し、また一発撃った。
続けて二階へと繋がる階段に向けて疾駆しながら、叫ぶ。
「くそっ、裏切りやがって!電話して島中にお前達の事を言いふらしてやるからな!」
「…………っ!」
秋子が青ざめた顔をして、疾風の如き勢いで追い縋ってくる。
それを見て取った浩平は、こんな危険な状況にも拘らずニヤリと笑みを浮かべた。

予想通り敵は、自分達がゲームに乗ったと広められるのを恐れている。
当然だ――此処まで主催者打倒への道程が明らかになった今、ゲームに乗ったと知られれば多くの者から集中攻撃を受けるだろうから。
これで良い。
七海を追うのなんて後回しにして、こっちを追って来てくれれば良い。
少しの間で良いから鬼ごっこでもして、楽しく時間を過ごそうじゃないか。

402A Tair:2007/05/27(日) 12:12:09 ID:BFLsCE7Q0
浩平はもう銃と予備弾以外の荷物は投げ捨てて、全力で階段を駆け上がった。
その最中背後から銃声がして、左脇腹に灼けつくような痛みを感じた。
(大丈夫、まだ動ける!)
脇腹の端を抉り取られ血が噴き出したが、それでも浩平は足を止めない。
階段を昇りきった後、すぐ横に見えた扉を半ば体当たりする形で開ける。
部屋――応接室の中に飛び込んだ瞬間、直ぐ様扉を閉め、鍵を掛けた。
これで少しは時間を稼げるが、ここで一息つくという訳にはいかない。
今や敵の狙いは、自分一人に集中している。
敵はすぐにドアを破り、中に侵入してくるだろう。
今度は自分自身が、どうにかしてこの危機的状況から脱さなければいけない。
選択肢は二つ。
窓を破って一階へのダイブを敢行するか、此処で息を潜めて迎え撃つか。
見た所隠れる場所は無い――部屋の中には、大きなソファーが四つあるだけだった。
即ち迎え撃つなら正面勝負という事になるが、岸田洋一と主催者以外の相手に命懸けで挑むつもりは無い。

此処は逃亡すべきだと判断し、窓を開いて身を乗り出し――驚愕した。
(な、何だよこれっ……!?)
二階とは言え、役場の二階は予想を大幅に上回る高さだったのだ。
これでは、飛び降りて逃げるなど無謀も良い所だ。
良くても足を骨折してしまい逃げられなくなるだろうし、頭から落ちれば確実に死ぬ。
自分の頭がトマトのように潰れた姿を想像してしまい、浩平の背に氷塊が落ちた。
その余分な思考、余分な感情が、行動の切り替えを大幅に遅らせる。

背後より聞こえる、ドアを蹴破る派手な音。
「――――っ!!」
浩平は弾かれたように振り返って、S&W 500マグナムを構えようとするが、余りにも遅過ぎる。
秋子の冷たい視線が自分を射抜いた次の瞬間、聞こえる銃声、腹に響く強烈な衝撃、激しい痛み。
「あっ……?」
何より今自分が立っている位置が、致命的に不味かった。
浩平の身体は撃たれた衝撃で後ろ――窓の外へと、押し出されていた。

403A Tair:2007/05/27(日) 12:13:01 ID:BFLsCE7Q0
まだ頭が現実を理解し切れていない中、強大な風圧と重圧が容赦無く身体を絞る。
浩平は重力に抗う事も適わず空中を急降下し、背中から地面に叩きつけられた。
「ぐっ……があああ……!!」
表面積の大きい背中から落ちたお陰で即死には至らなかったものの、脊椎の一部を傷付けてしまったのか体が動かない。
広い平地の上に寝そべった体勢のまま、撃ち抜かれた腹から止め処も無く血が流れ出てゆく。
もう、とても戦えないし、とても逃げれない。
間もなく追撃に来るであろう秋子に、抵抗も出来ず殺されてしまうだろう。
それにこのまま放置されたとしても、自分はもう余命幾ばくも無いに違いない。

そんな絶望的状況下であったが、浩平は血に塗れた口元を笑みの形に歪めた。
死ぬのが恐くないと言えば嘘になるが――少なくとも、最優先目標は果たした。
これだけ時間を稼いだのだから、最早敵は七海に追いつけまい。
後は上手く高槻と合流出来さえすれば、七海は助かる。
首輪を解除する方法も判明したのだから、この島から生きて脱出出来るだろう。
一番やらなければならない事を成し遂げたのだから、自分の死は決して無駄なんかじゃない。

浩平は死の恐怖よりも大きな満足感を覚えていたが、そんな中で足音が近付いてくるのを聞き取った。
まだ浩平が叩き落されてから、三十秒も経っていない。
(……幾らなんでも早すぎないか?)
どう考えても変だ。まさか飛び降りては来ないだろうし、秋子が追ってきたにしては早過ぎる。
まさか――

404A Tair:2007/05/27(日) 12:14:16 ID:BFLsCE7Q0
頭の中に浮かび上がる、最悪の推論。
「こ〜へいさんっ!!」
聞こえてきた声に首を向けると、先に逃げた筈の七海がこちらに向かって駆けて来ていた。
浩平は狼狽した表情となり、殆ど泣きそうな声を上げる。
「七海…………お前……どうして……」
「やっぱり駄目です……。こ〜へいさんを残して逃げるなんて出来ませんっ!」
七海はきっぱりとそう言って、浩平の身体を持ち上げようとする。
「こ〜へいさん――私頑張りますから、強くなりますから……一緒に逃げましょう」
しかし決して小柄とは言えぬ浩平の身体は、七海程度の膂力ではとても支え切れない。
すぐにバランスを崩してしまい、二人は地面に倒れ込んでしまう
それでも再度同じ挑戦を繰り返そうとしている七海に対し、浩平は諭すように言った。

「いいから……」
「え?」
七海の――妹のような、健気な少女の頭に、優しくぽんと手を乗せてから続ける。
「俺の事はもう良いから……お前だけでも逃げてくれ……。俺は七海を守って死ねるんなら、本望だから……。
 七海さえ生きていてくれれば、俺の死は無駄にならないから……」
死にゆく自分の事など放って、早く逃げて欲しかった。
でないと、何の為に自分は命を懸けてまで敵に立ち向かったのか、分からなくなる。
七海が大きな瞳に涙を溜め込みながら、唇を震わせる。
「こ〜へいさん、私……私――」

そこでパンッ、という乾いた銃声が一度だけ鳴り、浩平の目の前で、七海の額に穴が開いた。
七海の身体が、浩平の胴体の上に折り重なる形で崩れ落ちる。
七海の額から噴き出た鮮血が、浩平の腹部に生温い感触を伝えた。
何が起こったか、考えるまでも無い。
狩猟者――水瀬秋子が遂に此処まで来てしまい、七海を撃ち殺したのだ。
浩平の心は、人生最大の絶望と無力感により押し潰されそうになってしまう。
(守れなかった……自分自身も、みさき先輩も……そして、七海も……)

405A Tair:2007/05/27(日) 12:15:35 ID:BFLsCE7Q0
だが身体に伝わる七海の暖かさが、浩平に最後の闘志を与えてくれた。
指先に伝わる硬い感触が、最後の目標を与えてくれた。
浩平は最早動かぬ骸と化してしまった少女に目をやった。
(七海……お前、本当に優しい奴だったよな。守ってやれなくてごめんな。でも――)
残された全生命力を振り絞って、手元に落ちている七海の銃――S&W M60を拾い上げる。

(お前が来てくれた事、絶対無駄にはしねえ――――!!)
上半身を起こし、近付いてくる足音の方へと振り向くと同時に、引き金を思い切り絞る。

鳴り響く銃声を認識した時にはもう、浩平の身体は再び地面に吸い込まれていく所だった。
湿った土の感触を頬で感じ取りながら、思う。
(は……は……もう動けねえや…………。最後の一発……当たったかな…………)
秋子の姿を視認している余力すら、残されてはいなかった。
全生命力を振り絞って尚、先の動作で限界だったのだ。
(長森……高槻のオッサン……お前らはまだまだ頑張ってくれよな。悪いけど俺と七海は少し疲れたから……もう休ませて貰うよ……)
瑞佳は無事に生き延びれるだろうか? 秋子の話――今となっては本当かどうか分からないが、危険な男と一緒に行動しているようだし心配だ。
高槻は無事に生き延びれるだろうか? きっと大丈夫、高槻なら自分の代わりに、主催者に怒りの制裁を加えてくれる筈だ。
そして最後に思ったのは――
(長森や七瀬とまた一緒に学校に行って、馬鹿騒ぎしたかったな……)

そして、折原浩平は死を迎えた。
浩平に覆い被さっている七海の目から、一滴の涙が零れ落ちていた。

406A Tair:2007/05/27(日) 12:18:02 ID:BFLsCE7Q0
    *     *     *

名雪は役場の女子トイレで、八徳ナイフにこびり付いた血を洗い流しながら、先の出来事について考えていた。
敵に騙されてしまった母の目を醒ます為とは言え、先程は少しやり過ぎてしまった。
今後はもう少し慎重にしなければならない。
秋子は自分の願いを何でも叶えてくれる最高の母親だが、島中の人間に狙われてしまっては流石に分が悪い。
鎌石村に向かうまでの道中で秋子が言っていたように、ゲームに乗っている事を悟られないように動くべきだ。
この島に居る人間の誰もが何時ゲームに乗るか分からないのだから、信頼など出来る筈が無いのだが――ともかく、表面上だけでも取り繕わねばならない。
大丈夫、秋子の指示に従っておけば、きっと祐一を取り戻せる。

(……そろそろ終わった頃かな?)
最後の銃声が聞こえてから、既に十分以上が経過している。
自分は指示通りに身を隠していたのだが、そろそろ決着が着いた――即ち、秋子が浩平と七海を殺害せしめた頃だろう。
名雪はトイレを後にし、軽い足取りで広間へと歩を進める。

そこに待っていたのは頬から少し血を流している、しかしそれ以外は何時もと変わらぬ秋子の姿だった。
「お母さん、折原君と七海ちゃんは?」
訊ねると、秋子は少し表情を曇らせながらも静かに答えた。
「……安心して、ちゃんと二人とも殺したわ」
その返答を確認した途端に、名雪は可愛らしい――しかし何処か不気味な笑みを浮かべた。
「私やっぱり、お母さんの事大好き!」
名雪はそう言って秋子の胸に飛び込もうとする。

しかし秋子はそれを手で制して、子供を諭すように言った。
「駄目よ名雪、今はそんな事してる暇は無いわ。さっきの銃声は辺り一帯に響いているでしょうし、すぐに移動しないと危険よ」
「何処に行くの?」
「ロワちゃんねるに載ってた番号に電話を掛けてみたらね、どうやら平瀬村工場に人が集まってるみたいなの。
 まずはそこに行ってみましょう」
親子は手を取り合って、二人で運ぶ。
希望を持って生きている者達へ、死を届けに往く。

【残り21人】

407A Tair:2007/05/27(日) 12:19:00 ID:BFLsCE7Q0



【時間:3日目5:40】
【場所:G−2平瀬村工場屋根裏部屋】
柳川祐也
 【所持品:イングラムM10(24/30)、イングラムの予備マガジン30発×6、日本刀、支給品一式(食料と水残り2/3)×1】
 【所持品2:S&W M1076 残弾数(7/7)予備マガジン(7発入り×3)】
 【状態:左上腕部亀裂骨折・肋骨三本骨折・一本亀裂骨折(全て応急処置済み・若干回復)・内臓にダメージ、首輪解除済み】
 【目的:主催者の打倒。最優先目標は佐祐理を守る事】
倉田佐祐理
 【所持品1:レミントン(M700)装弾数(5/5)・予備弾丸(10/10)、レジャーシート、吹き矢セット(青×3:麻酔薬、赤×3:効能不明、黄×3:効能不明)】
 【所持品2:二連式デリンジャー(残弾0発)、暗殺用十徳ナイフ、投げナイフ(残り2本)、日本刀、支給品一式×3(内一つの食料と水残り2/3)、救急箱】
 【状態1:留美のリボンを用いてツインテールになっている、首輪解除済み】
 【状態2:右腕打撲。両肩・両足重傷(動かすと痛みを伴う、応急処置済み)】
 【目的:主催者の打倒】
姫百合珊瑚
 【持ち物①:デイパック、コルト・ディテクティブスペシャル(2/6)、ノートパソコン×2、ノートパソコン(解体済み)、発信機、コルトバイソン(1/6)、何かの充電機】
 【持ち物②:コミパのメモとハッキング用CD、工具、携帯電話(GPS付き)、ツールセット、参加者の写真つきデータファイル(内容は名前と顔写真のみ)、スイッチ(0/6)】
 【持ち物③:ゆめみのメモリー(故障中)】
 【状態:中度の疲労、首輪解除済み】
 【目的:主催者の打倒】
向坂環
 【所持品①:包丁・ベアークロー・鉄芯入りウッドトンファー】
 【所持品②:M4カービン(残弾7、予備マガジン×3)、救急箱、ほか水・食料以外の支給品一式】
 【状態①:後頭部と側頭部に怪我・全身に殴打による傷(治療済み)、全身に軽い痛み、脇腹打撲(応急処置済み)、首輪解除済み】
 【状態②:左肩に包丁による切り傷・右肩骨折(応急処置済み・若干回復)、軽度の疲労】
 【目的:主催者の打倒】
春原陽平
 【装備品:ワルサー P38(残弾数5/8)、ワルサー P38の予備マガジン(9ミリパラベラム弾8発入り)×2、予備弾丸(9ミリパラベラム弾)×10、鉈】
 【持ち物1:9ミリパラベラム弾13発入り予備マガジン、FN Five-SeveNの予備マガジン(20発入り)×2、89式小銃の予備弾(30発)】
 【持ち物2:鋏、鉄パイプ、工具】
 【持ち物3:LL牛乳×3、ブロックタイプ栄養食品×3、支給品一式(食料を少し消費)】
 【状態:右脇腹軽傷・右足刺し傷・左肩銃創・数ヶ所に軽い切り傷・頭と脇腹に打撲跡(どれも治療済み)、首輪解除済み】
 【目的:ゲームの破壊、杏と生き延びる】
藤林杏
 【装備品:ドラグノフ(5/10)、グロック19(残弾数2/15)、投げナイフ(×2)、スタンガン】
 【持ち物1:Remington M870の予備弾(12番ゲージ弾)×27、辞書(英和)、救急箱、食料など家から持ってきた様々な品々、缶詰×3】
 【持ち物2:カメラ付き携帯電話(バッテリー十分、全施設の番号登録済み)、支給品一式】
 【持ち物3:ノートパソコン(バッテリー残量・まだまだ余裕)、工具、首輪の起爆方法を載せた紙】
 【状態:右腕上腕部重傷・左肩軽傷・全身打撲(全て応急処置済み)、首輪解除済み】
 【目的:ゲームの破壊、陽平と生き延びる】
ボタン
 【状態:健康、杏の鞄の中にいる】
久寿川ささら
 【持ち物1:電磁波発生スイッチ(作動した首輪爆弾の解除用、残電力は半分)、トンカチ、カッターナイフ、救急箱(少し消費)】
 【持ち物2:包丁、携帯用ガスコンロ、野菜などの食料や調味料、支給品一式】
 【状態:軽度の疲労、右肩負傷(応急処置及び治療済み)、首輪解除済み】
 【目的:麻亜子と貴明の分まで一生懸命生きる】

408A Tair:2007/05/27(日) 12:21:39 ID:BFLsCE7Q0

【時間:三日目・05:50】
【場所:C-03・鎌石村役場】
水瀬秋子
 【持ち物1:ジェリコ941(残弾6/14)、トカレフTT30の弾倉、澪のスケッチブック、支給品一式】
 【持ち物2:S&W 500マグナム(5/5 予備弾2発)、ライター、34徳ナイフ】
 【状態:マーダー、腹部重症(傷口は塞がっている・若干回復)、頬に掠り傷、軽い疲労、首輪解除済み】
 【目的:優勝して祐一を生き返らせる。名雪の安全を最優先。まずは平瀬村工場へ】
水瀬名雪
 【持ち物:八徳ナイフ、S&W M60(5/5)、M60用357マグナム弾×9】
 【状態:精神異常、極度の人間不信、マーダー】
 【目的:優勝して祐一のいる世界を取り戻す】
折原浩平
 【状態:死亡】
立田七海
 【所持品:フラッシュメモリ、支給品一式】
 【状態:死亡】

【備考】
・屋根裏部屋の床に『主催者(篁)について書かれた紙』『ラストリゾートについて書かれた紙』『島や要塞内部の詳細図』『首輪爆弾解除用の手順図(本物)』
が置いてあります。詳細は後続任せ。
・ささらの持っている電磁波発生スイッチは一度使用するごとに、電力を半分消費します。その為最高でも二回までしか連続使用出来ません。
・珊瑚が乗っ取っているのは、首輪遠隔操作装置のコントロールシステムであり、装置そのものではありません。
主催者の対応次第では、首輪遠隔操作装置が再び機能してしまう可能性もあります。
・『ロワちゃんねる』はネット上にある為、珊瑚が完全に掌握しています。
・主催者の居る地下要塞の出入り口は、全てロックが外されています。
・『ロワちゃんねる』の内容は書き換えられました。作中で言及されている内容以外は後続任せ。載せてある番号は藤林杏が持っている携帯電話のものです
・(島内のみ)全ての電話が使用可能になりました
・だんご大家族(残り100人)、日本酒(残り3分の2)、支給品一式(食料は二人分)は鎌石村役場内に放置

→854
→857

409復活の時:2007/05/27(日) 16:43:28 ID:uxXKYAuw0
月島拓也はこれからの行動を思案していた。
消防署に瑞佳の知り合いがいるということは頼もしい限りである。
何しろ出会い自体が少なく、他の地区でどのようなことが起きているのかさっぱりわからない。
情報がまったく入らず時間を追うごとに参加者が減っていく。
第三回目の放送までに、四分の三近くの人間が死んでしまったことはゆゆしきことであった。
なるべく早く合流した方がいいのは言うまでもない。
できれば坂上智代の方から来て欲しくはあるが、いずれは村の中心部へ行くことになるだろうからこちらから出向いてもいいだろう。

「行っちゃ駄目かな?」
「外はまだ暗い。安全面を考えれば夜が明けてからの方がいいと思う。そうだなあ……放送後に行こう」
「お兄ちゃんの言う通りにするよ」
「ところで瑠璃子や長瀬君を知っている人はいたかい?」
「ううん、残念ながらいなかったよ」
まるで我がことのようにしょんぼりとする瑞佳。
頼まなかったが長瀬祐介のことも尋ねてくれたのだ。つくづく心の優しい女の子だとつくづく思わざるをえない。
「まあ仕方ない。瑞佳の方は……折原君の消息はどうなんだ」
「又聞きなんだけど、初日の夕方に七瀬さん──留美の方だけど、彼女が消防署で暫くいっしょにいたんだって」
初めて聞いた折原浩平の消息を瑞佳は目を潤ませながら話した。
「おとといか……。もう鎌石村にはいないかもしれないな」
生き残りのうち脱出を目指す者はそれぞれ仲間を集めに動き回り、彼らを殺そうとする者が追う。
通信手段がほとんどないのは実に厳しい。
「でも、今はお兄ちゃんの傍にいて一生懸命頑張るのみだよ」
「ありがとう。僕も瑞佳のために最善を尽くすことを誓うよ」
長い髪を撫でながら一際強く抱き締める。
瑞佳は拓也の腕の中で浩平の無事をひたすら祈り続けた。

410復活の時:2007/05/27(日) 16:45:08 ID:uxXKYAuw0
水瀬秋子からは何ら情報を聞くことなく別れてしまった。
拓也の気持ちを考えれば秋子の誘いに乗らなかったことは理解できなくもない。
「名雪さんのお母さんが無学寺にお出でって言ってたけど、どうする?」
拓也を弄り殺しにしかけた恐ろしい一面があったが、普段ならとてもいい人のようだ。
「おのれ、あの親子絶対に許さない」
「今は好き嫌いを乗り越えて協力し合わないと駄目だよ」
「消防署の方が近いんだからまずは坂上さんに会うとしよう。そのうち水瀬さんとはどこかで会うだろうから」
──親子同士で交じわらせて狂い死にさせてやる! 否、母親を娘の手によって始末させてやる。
裏切った代償とはいえ、拓也は水瀬母子に深い憎しみを抱いていた。
秋子には通用しなかったが、精神的に参っている名雪なら毒電波でやりたい放題で操れるに違いない。
痛みをものともせず拳を握り締めていると、瑞佳が両手でそっと包んだ。
「力入れると傷口が開いちゃうよ」
「気遣ってくれてありがとう。瑞佳といると本当に癒されるなあ」

拓也は思い出したように洗った瑞佳の衣類を差し出した。
「制服が、ブラウスが皺になってるぅ〜」
「情けない声出さないでくれよ。血を落とすのに大変だったんだから」
ブラウスを広げると脇腹のあたりに指が入るほどの穴が開いているのが見えた。
まーりゃんにボーガンで射たれ、生死を彷徨う危機に陥らせた矢傷である。
瑞佳は穴をしみじみと眺め、おもむろに着替え始めた。
「恥ずかしいんだから、後ろ向いててくれない?」
「見ちゃ駄目かい?」
「だーめ。お兄ちゃんとそんな仲になったわけじゃないもん」
「今からなろう」
拓也に唇を求められ、瑞佳は体中の力が抜けて行くのを感じた。だが──
「ん……痛ぁっ!」
下腹部を弄られ身をよじったところ、脇腹の傷口に激痛が走った。
「しまった、ごめん。痛かったね」

411復活の時:2007/05/27(日) 16:47:03 ID:uxXKYAuw0
気まずい雰囲気になり、拓也は部屋の片隅へと歩み寄ると、湾曲した木切れとナイロンの紐で何かを作り始めた。
「気にしないでいいよ。お兄ちゃん好きだから……ねえ、何作ってるの?」
瑞佳は着替え終えると隣にちょこんと座った。
「せっかく矢があるんだから半弓を作るんだ。何もないよりはマシだからな。小さいから座ったままでも射ることができるよ」
建物の裏側にあるゴミ捨て場から拾ってきた廃材で、手製の武器を作ることにしたのである。
「でも矢はどうするの? 一本しかないよ」
「さすがに矢は作れないからなあ。一本で十分。回収できなかったらそれまで。射ったら後は逃げるのみだ」
瑞佳は興味深げに見入っていたが、ふと目を伏せた。
「もし彼女──まーりゃんに会うことがあっても、わたし、射てるか自信ないよ」
「この期に及んで何を言ってるんだ。まーりゃんを前にして躊躇うことがあれば、今度こそ死ぬよ」
脱出するためには殺し合いに乗った人間を実力で排除するしか方法はない。
そのためにも瑞佳にはやむなく殺しをせざるを得ないという考えに改めてもらわなければならない。
「まーりゃんが憎いって言ったけど、殺すとなるとやっぱり──」
「君の大事な折原君も命が危ないかもしれないんだ。彼に会えなくなってもいいのかい?」
「……わかったよ。浩平のためにもお兄ちゃんのためにも戦うしかないんだね」
瑞佳は暫し俯き考え込んでいたが顔を上げた時、瞳には強い闘志がみなぎっていた。

「下に下りるよ。足元に気をつけて」
階下に降りるとまずは詰所に立ち寄り、智代に出立の予定時間を伝えておいた。
車庫の明かりを点け弓の訓練を行うことにする。
壁に的の板を掛け、まずは五メートルほどの距離から狙う。
だが弓道をやったことがない者が放っても当たるわけがない。
矢はあらぬ方向に飛び、その都度拓也が回収して渡すということが繰り返された。
「はう〜、当たんないよう。もう疲れちゃった」
「まっすぐに飛ぶようになっただけでも精進の甲斐があるよ。上達したら飛距離を伸ばそう」
「うん、わたし頑張るよ」
病み上がりの体で弓の練習をさせるのは酷なことだが、殺人鬼は待ってはくれない。
可愛そうだが引き続き訓練をさせることにした。

412復活の時:2007/05/27(日) 16:49:08 ID:uxXKYAuw0
訓練の甲斐あってどうにか的に当たるほど上達することができた。
「ここらで休憩しようか」
気を集中していたせいか、瑞佳は構わず半弓を引き絞る。
脳裏にまーりゃんと名乗っていた少女に射たれたことが思い起こされた。
あの時撃っていれば芳野祐介は死ななかったに違いない。
──芳野さんが死んだのは自分ののせいなのだ。
気持ちを鎮め的の中心めがけて静かに矢を放つ。
ヒュッという音と共に飛んだ矢は今までの中でもより中心に近い所に刺さった。
「わっ、いい所に当たっちゃったよ。まぐれにしても上出来でしょ? ……あれ? いない」
喜びも束の間、振り返ると拓也の姿はなかった。
気持ちの良い汗が一瞬にして冷や汗に変わり、体が凍りつく。
もしかして驚かそうと隠れているのだろうか。
二、三分経っても拓也は現れない。
独り残され瑞佳は寂しさと恐怖におののいた。

車庫の入り口を凝視していると、暗がりから突然拓也がリヤカーを引いて現れた。
「裏にリヤカーがあったんだ。これは何かと便利だぞ」
「もうー、怖かったんだよっ。どうして置いて行っちゃうんだよう」
瑞佳は拓也の胸に飛び込みしゃくりあげた。
「心配かけてごめん。一声かけておくべきだったな」
泣きじゃくる瑞佳を抱き締めていると、置き去りにしてしまったことを後悔の念にさいなまれる。
「お兄ちゃんも浩平と同じなんだから酷いよ。わたしを放っといてどこかに行っちゃうんだからっ」
「申し訳ない。これからはずっといっしょだよ」
「本当に?」
長い睫毛が震え、泣きはらした顔が更に美しさを増している。
「ああ本当だとも。トイレもお風呂も寝る時もいっしょだ」
拓也は顔を近づけ唇をそっと重ねた。

413復活の時:2007/05/27(日) 16:52:06 ID:uxXKYAuw0
「リヤカーは何に使うの?」
「回復するまではリヤカーに乗って移動するんだ。お尻が痛いから後で座布団を敷こう」
「え〜? もう普通に歩けるよ。なんだか売られる家畜みたいで嫌だよ」」
想像してみるといかにも格好悪いような気がしてならない。
「いや、いざという時には走らなくちゃならないから、体力を温存してもらおう。ところで走るのは得意かい?」
「うーん、早くはないけど浩平に鍛えられてるから、どちらかといえば長距離は得意な方かな」
「それはいいことだ。危険と判断したらとにかく走るんだ」
拓也は荷台の掃除を終えると部屋に戻ろうとした。
「これ、使えないかな?」
瑞佳の声に振り向くと、目の前には消火器が。
「うわっ、それはやめてくれ。頼むから向けないでくれ!」
「なんで消火器を怖がるの?」
「ちょっと悪い思い出があってね。ほら、瑞佳にも一つぐらいあるだろ、苦手なものとか」
「そっか。お兄ちゃん消火器が苦手なんだあ。いいこと聞いたっと」
瑞佳は異様に怯える拓也を不思議そうな顔で見ていた。

夜は白み始めたが放送まではかなり時間があった。
二人は部屋に戻り時間まで静かに待つことにした。
髪と梳いていると背後から拓也が抱き締める。
「ストレートのままでいいよ。瑞佳は変わったのだ。僕に染められてな」
「もう〜、意味深なこと言ってー、あっ」
手が胸に宛がわれ瑞佳は体をビクッと震わせた。
「以前の瑞佳は山の中で死んだんだ。これからは瑠璃子の代わりとしてずっと傍にいてほしい」
「うん。でもみんなの前で、ベタベタしちゃ、駄目だよ。お願いだから……恥ずかしいことしないでね」
「わかってるって。今はこのひとときを楽しもう」
瑞佳を向き直らせると再び唇を重ねる。
気だるいひと時はおごそかに過ぎて行くかに思われた。
何かにとりつかれたように拓也は突然立ち上がる。
「いきなりどうしたんだよっ」
「気が変わった。今から行こう」

414復活の時:2007/05/27(日) 16:53:25 ID:uxXKYAuw0
鎌石村消防署の真っ暗な一室にて、智代はソファーに寝転がり暇を持て余していた。
瑞佳から二回目の電話で放送後に行くということを聞き、少々がっかりしていた。
「すみませんが……」
ソファーの背もたれから突然の声。
「うわっ 誰かと思えば葉子さん。はぁ……」
ヌゥーッと現れたのは鹿沼葉子だった。
気配を感じさせぬよう近づかれたものだから、たまったものではない。
「私服を洗濯してもらえませんか? 制服だと目立ってしまうものですから」
「洗濯機は乾燥までやってくれる全自動式なんだけど……まあいいや、やっておきます」
異状の有無を聞くと葉子は自室へと戻って行ってしまった。
瑞佳と拓也の来訪のことは伝えず、後のお楽しみということにしておいた。

冷や汗を拭っていると、ほどなく入れ替わりに柚木詩子が現れた。
「長森さん、まだぁ〜? チンチン」
「何をそんなに興奮しているんだ。果報は寝て待てと言うでないか」
「だってさあ、長森さんにトイレフラグ立ったら襲ってあたしの下僕にするんだもぅん」
「寝ぼけてるのか? 永遠にお寝んねしてろ」
「ワクワクテカテカしてもう寝れないんだあ」
話によると瑞佳は同性でも惚れ惚れするいい女の子だとのこと。そんな素晴らしい同級生と彼女のいとこがやって来るという。
葉子のいう通り六人もの集団になれば戦力としては十分なものになる。
気分は大船に乗ったようなものだ。
「今日はサプライズ・パーティになるぞ」
智代は口元を綻ばせ、一日の始まりが幸先の良いものになると信じて疑わなかった。
「廊下で葉子さんとすれ違ったけど、お茶飲みにでも来たの?」
浮ついた気分に詩子が水を差した。
「なあ詩子。葉子さんのこと、どう思う?」
「あら、のめり込んでたくせに妙なこというんだね」
「さっき私服を洗ってくれって来たんだけど、声かけられるまで全く気づかなかったぞ。敵だったら私は死んでたなあ」
ただ頼み事を言いに来ただけらしいが、それにしても気配を殺して近づくのは異様である。
小声で忌憚のない意見を交わし、これまでの葉子に対する姿勢を大幅に転換せざるを得ない智代であった。

415復活の時:2007/05/27(日) 16:55:05 ID:uxXKYAuw0
葉子は布団に入り再びまどろみに浸りつつあった。
不信感はほとんど抱かれず、何もかもが上手くいっている。
このまま智代達とは適当に協力し、危険な時は盾代わりすればよいのだ。
いずれ主催者は何らかの動きを見せるだろう。
(亀の甲より歳の功とはよくいったものです。不可視の力が使えなくても私はやっていけますわ)
次の放送で何人生き残っているだろうか。
殺す側の人間もかなり死んでいるに違いない。
──願わくばで篠塚弥生と藤井冬弥の名があらんことを。
あの二人は重武装していたようで非常にやっかいだった。
だが一夜のうちに診療所で会った人間が殆ど死に絶えたなどとは、想像もできないことであった。


【時間:三日目・05:20】
【場所:C-06鎌石村消防分署】
月島拓也
 【持ち物:消防斧、リヤカー、支給品一式(食料は空)】
 【状態:リヤカーを牽引。両手に貫通創(処置済み)、背中に軽い痛み、水瀬母子を憎悪する】
 【目的:瑞佳を何としてでも守り切る、智代達と合流したい】
長森瑞佳
 【装備品:半弓(矢1本)】
 【持ち物:消火器、支給品一式(食料は空)】
 【状態1:リヤカーに乗っている。リボンを解いて髪はストレートになっている、リボンはポケットの中】
 【状態2:出血多量(止血済み)、脇腹の傷口化膿(処置済み、快方に向かっている)】
 【目的:拓也と一緒に生き延びる。まずは詩子達と合流したい】

416復活の時:2007/05/27(日) 16:57:05 ID:uxXKYAuw0
【時間:三日目・05:20頃】
【場所:鎌石村消防署(C-05)】
坂上智代
【装備品:ニューナンブM60(5発装填)、予備弾丸2セット(10発)】
【持ち物1:専用バズーカ砲&捕縛用ネット弾(残り1発)、38口径ダブルアクション式拳銃用予備弾薬69発ホローポイント弾11発使用、手斧】
【持ち物2:ブロックタイプ栄養食品×3、LL牛乳×3、支給品一式(食料は残り2食分)】
【状態:見張り中。健康、意気揚々、葉子に不審の念を抱く】
【目的:同志を集める】
里村茜
【装備品:包丁、フォーク】
【持ち物:LL牛乳×3、ブロックタイプ栄養食品×3、支給品一式(食料は2日と1食分)、救急箱】
【状態:たぶん就寝中、健康、簡単に人を信用しない、まだ葉子を信用していない】
【目的:同志を集める】
柚木詩子
【装備品:鉈】
【持ち物:ブロックタイプ栄養食品×3、LL牛乳×3、支給品一式(食料は残り2食分)】
【状態:見張りに付き合っている。健康、葉子にやや懐疑心を持つ、瑞佳の来訪を喜んでいる】
【目的:同志を集める】
鹿沼葉子
【所持品:メス、支給品一式(食料なし)】
【状態1:消防署員の制服着用、マーダー】
【状態2:就寝中、肩に軽症(手当て済み)、右大腿部銃弾貫通(手当て済み、全力で動くと痛みを伴う)】
【目的:何としてでも生き延びる、まずは偽りの仲間を作る】

【備考1:ニューナンブM60と予備弾丸セットは見張り交代の度に貸与】
【備考2:智代、茜、詩子は葉子から見聞きしたことを聞いている(天沢郁未と古河親子を除く)】
【備考3:葉子は智代達の知人や見聞きしたことを聞いている(古河親子と長森瑞佳を除く)】
【備考4:拓也は予定を早めたことを智代に伝えていない】

→843

417あしたの勇気/受け継ぐもの:2007/05/27(日) 19:07:38 ID:mtJ9QK0c0
空が、悲しみに包まれたような青色になっていた。
すっかり夜も明け、太陽の光が、まばらになっている雲の隙間から差し込んでいるというのに決してそれは温かみのあるようには思えない。
少なくとも彼女、るーこ・きれいなそらにとってそうは思えなかった。
るーこは泣いていた。泣きながら走っていた。
ここに来てから、いやこの星に来てから一度たりとも流した事のないはずの涙が、後から溢れて仕方がなかった。
あの民家から逃げ出して、もうどれほど時間が経っただろうか。永遠よりも長い時間が過ぎたようにさえ思えるが、実際は数十分かそこらだろう。まだ少しひんやりとした空気の匂いが、その証拠だ。
せっかく着替えたはずの衣服は涙と汗でまた濡れていた。以前着ていた服に比べれば防水性能は良かったので、身体に服が張り付くということはなかったがそんな事をとやかく思う余裕はるーこにはない。ただただ彼女はどこへともなく走るだけだった。
けれども、るーこの身体は限界を感じていたようで。
走る速度がだんだん落ちていって、最後には歩くくらいの速さにまでなってしまっていた。
歩き始めると、途端に肺が空気を求めてるーこに呼吸を催促する。それに伴って動悸も激しくなり、たちまち激しい疲労感が彼女を覆った。肩にかけられたデイパックが、訳もなく重く感じる。
走るために前を向いていた顔が徐々にうなだれていって、寥々とした黄土色の地面が視界を占拠する。たまに見える緑色の雑草が、やけにもの寂しく感じられた。
「…うーへい」
つい先程まで共に行動していた、お調子者で、少し臆病なところもあって、だけどこんな無愛想な自分にも良くしてくれた仲間の名前を口にする。感じてしまった寂しさをどうにか紛らわせる為だった。
「…うー…へい…」
けれども、それは彼女にとって逆効果だった。口に出せば出すほど、春原陽平の姿、仕草、表情、声…そして僅かな時間だったが共に過ごした思い出が蘇ってくる。
そして、その人を呼ぶ声は、もう届かない。届けられるとすればそれは遠い先の、空の向こうの世界へと行かなければならないのだ。
つたなく歩いていた足も少しずつ歩幅が狭くなって…そして、とうとう一軒だけぽつんと寂しく佇んでいる倉庫の前で足を止めてしまった。
涙は、未だに止まらなかった。
「…るーは…どうすればいい…?」
地面へと顔を向けたまま誰に言うでもなく問う。答えてくれる仲間が、みんないなくなってしまった(正確には、浩之とみさきはまだ生きているが)。ここに来た当初の自分ならそんな事を尋ねもしなかっただろうが、るーこは知ってしまったのだ――
「教えてくれ…うーへい、うーへい…うーへいっ…!」

418あしたの勇気/受け継ぐもの:2007/05/27(日) 19:08:05 ID:mtJ9QK0c0
――自分が、春原陽平という人間を好きだったという事を。
けれども、全てが手遅れだった。
何もない。大切なものをなくしてしまった。
大事にしていた宝物を、奪われてしまった気持ちだった。
「…休もう」
一時間前まで眠っていたというのに、一日中重労働していたかのように心身ともに疲弊していた。
運がいい事に目の前の倉庫には鍵がかかっていなかった(そこは夜が明ける前まで坂上智代と里村茜が使っていた倉庫で、今はもぬけの空だ)。
ぎぃ、という重苦しい音と共に薄暗い倉庫の中へと入る。誰かがいるかもしれないとも思ったが、今のるーこにはたとえ誰かがいたとしても逃げるだけの余力がなかった。
いっそのこと、ここに誰かが潜んでいて、自分を襲って殺してくれてもいい――そんな風にさえ思っていた。
ところが、倉庫の中には人の気配が感じられない。もう既に出て行ってしまったのかあるいは開けっ放しになっていただけなのか――るーことしては、もうどうでも良い事だった。
少しだけ死ぬ時間が遅くなった、その程度の事である。
とぼとぼと歩いていき、見るからにみすぼらしいソファに身を投げ出すようにして寝転がる。安物らしく、寝心地はよろしくなかった。
るーこは仰向けになり、シミのついた倉庫の天井を眺める。とても空虚で、静かな空間だった。

『そう言えば自己紹介がまだだったね。僕は春原陽平。君は?』
『るーの名前はるーこ。るーこ・きれいなそら』
『るーこちゃんか。これから先よろしくな?』
『るー』

『やめなよ』
『……うーへい?』
『こいつ…泣いてるよ。 そんなやつが殺すわけ無いよ。……少なくとも、こっちの女の子は』

『僕はこういうのには慣れ…いやいや、風邪を引かない鋼鉄の肉体なのさっ! バカは風邪を引かないってね…って、僕はバカじゃねぇよっ』
『ああもうとにかく! しばらく着てていいから! ほら行くよ! こうなったら、まず着替えから探すぞっ』
『…ありがとう』

じっとしていても、思い出すのはこれまでの事ばかり。思い出す度に、また涙が溢れる。
出来事は、だんだん現在へと近づいていく。

419あしたの勇気/受け継ぐもの:2007/05/27(日) 19:08:36 ID:mtJ9QK0c0
『くそっ! るーこ、こらえてくれっ! 僕が必ずなんとかするっ』
『好き勝手にされてたまるか!』

るーこの脳裏に描き出される、あの民家での惨事。この先の結末をるーこは知っている。
「やめろ、やめてくれ…」
思い出すまいとして耳を塞ぐが、響いてくる声を押し留める事など出来はしない。

『そんな…仕込みナイフかよっ…ついてねえや』

頭の中の春原が、ゆっくりと、まるで映画のスローモーションのように動き、そして床に倒れた。
床に広がっていく血の色と匂いが今もそこにあるかのようにリアルに蘇ってくる。
どうしてああなってしまったのか。
記憶の中の自分は、ただ立っているだけで何もすることが出来ない。
誰も守れない。
誰も――救えない。
澪も、春原も、放送で呼ばれてしまった雪見も。
あまりにも、自分は無力だった。
「もう…るーには何もない…こんなるーなんて…」
消えたい。この世からいなくなってしまいたい。何も出来ない、こんな無力な自分など――死んでしまえばいい。
るーこはソファからのそりと起き上がると、自分のデイパックを持ち上げて中にあったウージーサブマシンガンを手に取る。
特有の金属光沢が、やけに凶暴な光を放っているように見える。獲物を、欲しているのだ。
だが、その欲求はすぐに満たされることだろう。何故ならその標的は、るーこ自身なのだから。
喉にウージーの銃身を押し当てる。後は軽く、引き金を引くだけ。
トリガーに指をかけた瞬間の事だった。また、頭の中にあの出来事の続きが出てきたのだ。

『――言ったろ、好き、勝手に、させるか…って』

 + + +

――ああ、そうだ。うーへいは、死に掛けた身体を引き摺ってまでるーの命を救おうとしてくれていた。他の誰でもない、るーの為に。
無力なるーは、ただ駆け寄って意味を為さぬ言葉をかけるだけで…
『るー』の力も、使えないというのに…

420あしたの勇気/受け継ぐもの:2007/05/27(日) 19:08:58 ID:mtJ9QK0c0
ただ根拠もなく、助けると言っていた。
けど、うーへいはそれを知ってるかのように笑って、怒ったりもしないで、ただ一生懸命に伝えるべき言葉を伝えようとしていた。
そう、まるで、想いをるーに託したかのように…うーへいはこう言った。

『――最後まで、戦ってくれよっ』

その言葉を口に出すまで震えていた声が、その時ばかりはまるで震えず、明瞭な、強い意志を含んだ声になっていて、そして――また笑った。
このひとならきっとそうしてくれる。そんな期待と信頼を込めた笑いだという事のように、今は思える。
うーへいは、自分が為すべき事を、出来る限りの事をして死んでいった。
なのにるーは、その想いを受け止めようとせず逃げて、逃げて、最後には死のうとまで考えている。
悲劇のヒロインだと自分に酔って。
何もしていないくせに誰も守れないと言い捨てて。
そんなのは――あまりにも自分勝手だ。
「そうだ…約束した。生き残る、って」

  + + +

るーこは銃身を喉から放し、それを近くにあった机の上へと乗せる。木製の机の上で凶暴な光を宿していたウージーが、ほんの少しだけその光を弱めたかのように見える。
命拾いしたな――そう言っているようにも思えた。
「ああ、まったくだ…また、助けられた」
もう一つ、春原陽平には借りを作ってしまった。きっと、それは一生をかけても返しきれないほど大きいものに違いなかった。
「るーは、もうこれで2度も死んだ。…だからるーは、もう『るーこ・きれいなそら』じゃない」
いつもつけている髪飾りを外す。『るーこ』の名残だ。だから…それと、決別する。
最後に一度だけぎゅっ、と力強く握り締めた後、どこへともなくそれを放り投げた。
小さな花が二つ、くるくると空中で回転する。それは途中でちんっ、と小さな音を立ててぶつかり、しかしぴたりとくっつくようにして離れないまま落ちていった。
それを見届けてから、彼女は呟く。
「これから、ずっとこの地に足をつけて生きていく。あの人と出会った星で、生きていく。
私は…『ルーシー・マリア・ミソラ』だ」
デイパックを拾い上げ、ウージーを手に持ち、踵を返してルーシーは倉庫を後にする。その瞳にはもう、後悔や悲しみは残されてはいない。

421あしたの勇気/受け継ぐもの:2007/05/27(日) 19:09:26 ID:mtJ9QK0c0
澪と、春原の想いを宿して。
その目は、最期まで戦い抜く事を決意していた。
だけど――せめて、思い出の中のあの人だけは、『うーへい』と呼びたい。
一番、大切にしたい呼び名だから。
「…構わないよな、うーへい?」
倉庫から出たときには、眩しすぎるほどの陽光が世界を照らし出していた。
また、長い一日が始まる。
きっと春原がいるであろうその青空へと顔を向けて、ルーシーは微笑む。
「…行ってくるぞ、うーへい」

【時間:2日目7時30分】
【場所:F−02倉庫前】

ルーシー・マリア・ミソラ
【所持品:IMI マイクロUZI 残弾数(30/30)・予備カートリッジ(30発入×5)、支給品一式×2】
【状態:生き残ることを決意。服の着替え完了】
【備考:髪飾りは倉庫の中に投げ捨てた】

→B-10

422復活の時修正:2007/05/27(日) 19:59:33 ID:uxXKYAuw0
>>412>>415において誤字がありました。
まとめサイト収録の際は、
>>412
>──芳野さんが死んだのは自分ののせいなのだ。

──芳野さんが死んだのは自分のせいなのだ。

>>415
>──願わくばで篠塚弥生と藤井冬弥の名があらんことを。

──願わくば篠塚弥生と藤井冬弥の名があらんことを。

と修正をお願いします。
お手数をかけまして、大変申し訳ありません。
感想避難スレの571氏、ご指摘ありがとうございました。

423久瀬の戦い:2007/05/28(月) 13:47:13 ID:Bu0PslSQ0
部屋に並べられたモニター、そして目の前に置かれたディスプレイから浮かび上がる薄暗い光が久瀬の身体を包んでいた。
深く椅子に身体を預け、思案するように腕組みをしたまま規則正しく首が縦に揺れる。
密室には一定の音階から外さぬパソコンの稼動音と、深い闇に意識を落とした久瀬の呼吸音が共鳴するように響いていた。
ディスプレイは彼の苦悩の証とも言えよう、画面上を覆い尽くすように開かれたファイル達で覆い尽くされていた。
彼に与えられた観測者と言う役目。
望んでもいないその責務から一時的に開放された久瀬だったが、時折顔をゆがませ苦しそうに喘いでいた。
僅かな休息をも許されず、彼も殺し合いという舞台の裏側にいながらも苦しんでいるのがはっきりと見て取れた。

小刻みに揺れていた久瀬の頭の揺れがだんだんと大きくなっていく。
ゆっくりではありながらその幅は深さを増し、一際大きくなったかと思った瞬間久瀬の首が上半身ごと前に倒れこみ、衝撃に久瀬の瞳が薄く見開かれる。
朦朧とした意識が現状を忘れさせ、瞳をボンヤリとさせたまま久瀬はあたりを見渡した。
正面にありながら認識できずに何度も通り過ぎた視線が目の前のディスプレイにようやくたどり着き、そこで久瀬の意識は鮮明に現実へと戻された。
「――くそっ、僕は一体何をやってるんだ! 暢気に寝てる場合じゃないだろう!!」
苛立ちを隠そうともせず自身の頬を叩き、すぐさまメールボックスを開く。
だがそこには久瀬を落胆させるにはありあまるほどの無慈悲な文章が表示されていた。

『新着メールはありません』

メールを送信してから数時間が経過していた。
良い悪いに関わらず、さすがに何らかの進展があってもいいはずである。
一向に返って来ない返事に久瀬の顔に焦りの色が浮かび、唇を軽く噛みながら思わず項垂れる。

幾つもの人の死を見せ付けられ、死者の名前を読み上げさせられる。
そんな精神的疲労の中で作業をしつづけた久瀬。
久瀬が睡魔に負け、一時的に意識を閉ざしてしまったとして誰が責められるものか。
事実久瀬の助言によって何人もの人間が首輪と言う悪意から開放される事になる。
さらに言えば久瀬もまだ知りえない情報――『この殺し合いを仕組んだ人物の正体』すらも探り当てることに成功せしめえるのだ。

424久瀬の戦い:2007/05/28(月) 13:47:46 ID:Bu0PslSQ0
――だが、そのことを久瀬は知らない。
「まさかあいつらに殺されたなんて事は無いよな!」
――だから彼は叫ぶ。自分の不甲斐なさを悔いながら。
島内を映し出すモニターに飛びつきながら必死に目を凝らす。
「誰か、誰か生きていないのか!?」
首を、顔を、瞳を、瞳孔を、全てを動かしながら画面を凝視しつづけた。
だがみな疲弊しきった中での深夜と言う非活動的な時間であること、あたりを覆い尽くす闇、
そして20数名にまで減ってしまったことによって、生きて動いている人間達の姿を久瀬の視界で捕らえることは出来なかった。
切り替わるたびに映し出されるのは死体、死体、死体――。
それだけでも久瀬の精神を消耗させていくには十分な代物だった。
にも関わらず追い討ちをかけるように彼に突きつけられた現実。
ソレは画面の割合に対してとても小さく、無惨にも原型の半分以上が欠けており、赤い液体と薄黒い土砂により汚れ、簡単には判別をつけることも難しい。
切り替えられたモニターから視界に飛び込んできたのは、爆発であろう何かによって深くえぐられた地面、そしてその隅に転がるモノ――。
久瀬はそれが何なのか、いや誰だったのかを知っていた。
名前を見た後ですぐに開いた参加者一覧表。
そこにはどこか中性的な顔立ちの少年が写っていた。
同姓でも思わず顔が緩んでしまいそうな優しい笑顔を浮かべていた顔。
もはや再び動くことは二度とありえない――河野貴明の頭部だった。
爆発らしきものによりえぐられた地面。
身体から離れてしまった頭。
理由を想像するのに数秒とかからず――

「うああアぁァぁぁぁぁっっっ!!!!」

久瀬は感情を口から吐き出すことしか出来なかった。





425久瀬の戦い:2007/05/28(月) 13:48:12 ID:Bu0PslSQ0
椅子に腰をかけ、組んだ足を一度上げ逆に組み直しながら篁は目の前の光景を見て口元を緩めた。
(――うああアぁァぁぁぁぁっっっ!!!!)
目に映る絶望に打ちひしがれる表情。
耳に届く悲痛な叫び。
人とはこのようにして足掻き、そして朽ちるのか。
人の『想い』、その華奢さと儚さに篁の心は躍っていた。
久瀬の一挙一動に篁の顔は愉悦にに満たされる。
唯一悔やまれるのはここに青い石が無い事であった。
あれほどの『想い』であればまた一歩道が開けたに違いないであろう。
久瀬の姿は篁にそう確信させるには十分なほどであった。
「ふむ……少し試してみるとするか」
言いながら篁は眼前に置かれたマイクを持ち、スイッチを一つ押した。
『総帥! 何でございましょうか!!』
同時に島内で『想い』を集めているはずの醍醐の声がスピーカーから響き渡ってきた。
「その後はどうなっておる?」
『――は……それが、その……思ったよりも人間の姿があらず……その、……難航しております』
しどろもどろになりながら答える醍醐の声に、篁は椅子を激しく叩き不満げに呟いた。
「……お前は主人の使いもすぐにこなせないような木偶だったのか。期待しすぎてしまっていたのだろうか?」
明らかに不機嫌になった篁の声に醍醐が慌てて弁明の言葉を返す。
『め、めっそうもございません。ただちに! 必ずや総帥をご満足させてごらんにいれます』
「く……」
『……?』
「くはははは……」
慌てふためく醍醐の声に、篁は打って変わって清々しいまでの声で大きく笑い声を上げた。
『そ、総帥……?』
「少しからかってみただけだ、気にするでない。お前の忠義は良く知っておる」
『は、はぁ……』
「なに、少々面白い趣向を思いついたのでな。青い宝石が必要となった。早急に戻ってくるが良い」
『はっ! 仰せのままに!』





426久瀬の戦い:2007/05/28(月) 13:49:20 ID:Bu0PslSQ0
時はまもなく5:00を指そうとしていた。
第4回放送の時間も近い。
篁がモニターに映る久瀬を見やると、魂が抜け落ちたかのように呆然と椅子に座り込んでいる姿が映し出されていた。
思い出したようにパソコンに触れては、変化の無いことに絶望し、再び塞ぎこむのをただずっと繰り返していた。
それも仕方の無いことかもしれない。
久瀬が貴明の死を認識してからさらに数時間、一向に変化が訪れないのだから。
そうした久瀬の行動や表情を逐一観察しながら篁はゆっくりと時を待つ。
もうじき青い石が手元に戻る。
そしてそれによりまた一歩自分の理想が近づくのだ。
湧き上がる笑いを抑えようともせずモニターを眺めつづけていた。

「――それにしても」
先刻、慌しい声で聞かされた報告。
首輪遠隔操作装置のコントロールシステム・ロワちゃんねる・地下要塞のロック。
それらが再び行われたハッキングによって破られたと言うことだった。
「此度の参加者達は私の期待以上の働きをしてくれるものだ」
世辞ではなく、心の奥底から沸き起こる笑いを隠そうともせずに篁はボソリと一人ごちる。
笑いながらであるにも関わらず暗く心に突き刺さるその声に、それを聞いた隣に立つ部下の一人が畏れながらに身を震わせる。
それも仕方の無いことではあった。
ハッキングの事を報告したのは彼であり、その時の狼狽振りに篁に叱責されたばかりの事であったからだ。
普段であったら篁の機嫌を損ねた場合、どうなっていたか想像するのはたやすいことだ。
だが、今の篁はそれを鑑みても余るほど上機嫌であった。

427久瀬の戦い:2007/05/28(月) 13:49:51 ID:Bu0PslSQ0
「遅くなり、申し訳ございません!」
篁が無言で画面を眺めつづけるという緊迫した空気を破り、醍醐が扉を開いて姿をあらわした。
待ちかねたと言わんばかりに篁は椅子をくるりと回し、醍醐に身体を向ける。
「気にするな。それで、青い宝石は?」
「ハッ、しかとここに」
懐から醍醐が取り出した宝石を手に取り、天井に掲げながら見つめる。
ライトの光が薄く反射し、篁の目に注がれていた。
紛れも無い。ようやく我が手に戻ってきた。
篁が喜びに打ち震え顔を顰める。
それは醍醐が今までに見た事も無いような妖絶な笑みだった。
「よくやった」
簡単な、たったそれだけのねぎらいの言葉。
儀礼でもなんでも構わない。
それだけで高槻との戦いで溜まった欲求不満が抜け落ちた、そんな気分にさせてくれる主の笑みに醍醐の心は喜びに打ち震えていた。
「……総帥、お喜びのところ申し訳ありません。
 任務を中止してまでこれを必要とするなど……一体何があったのでしょうか?」
たとえ水を刺す事になろうとも聞かねばならなかった。
『想い』を集めると言う最優先事項である任務を差し置いてまで自分を、いや、青い宝石を呼び戻した理由が一体何なのか。
「そう怖い顔で睨むでない。言ったであろう? 面白い趣向だと」
言いながら篁が向けた視線。
釣られるように醍醐もそちらに目を向ける。
モニターに映し出される久瀬の姿に、やはり久瀬を泳がせて問題でも起きたのだろうかと言う疑念が沸き起こっていた。
「ハッキングしてきたものどもの頭と思われる少年が死んだのだよ」
今まで浮かべていた笑みを消し、普段の重く深い声が篁の喉から発せられる。
「……なるほど、それでショックを受けている、と言ったところですな」
「そう言う事だ」
「それで、その石と久瀬とどのような関係が?」
「まだわからぬのか……」
呆れたように溜息をつきながら篁が椅子を立ち上がる。
「まあよい、ついてくればわかることだ」
そう言い放つと醍醐にくるりと背を向け歩き出し、扉を開け放つ。
威厳に満ちた足取りに、慌てながらも醍醐はその後を小走りについていった。

428久瀬の戦い:2007/05/28(月) 13:50:18 ID:Bu0PslSQ0




何もする気力が沸かず、久瀬は項垂れていた。
最初のうちは可能性を信じていた。
だがそれは空回りでしかなかったのではないか?
メールボックスを確認するたびに久瀬の心は喩えようも無い悲しみに襲われていた。

――絶望。

その言葉の重さが今なら本当にわかる。
結局自分がしたことはなんだったのか。
いたずらに参加者を惑わし、結果死なせただけではないのだろうか。
だったら最初から何もしなければ……。
数時間前の決意に満ちた久瀬の姿は、もうどこにも無かった。

『だいぶ落ち込んでいるようだね』

聞きなれた、しかし聞きたくも無いウサギの声が流れ始め、久瀬は思わず硬直する。
「……放送の時間ですってところか」
久瀬が力なくそう答えるものの、まだ放送時間までは間があった。
だがそんなことを確認する気力も無いほど久瀬の精神は疲弊しきっていた。

『時間にはちょっと早いけどね、あまりにも落ち込んでいるからどうしたものかと思ってね』

「何を今更わかりきったことを……」
ウサギの台詞に激しい嫌悪感を覚える。
「これがお前の計画だったんだろう?」
……こんな奴と会話なんかしていたくない。
「僕をけしかけて邪魔者を排除したってところか」
……もう僕を放って置いてくれ。

429久瀬の戦い:2007/05/28(月) 13:50:53 ID:Bu0PslSQ0
『落ち込む必要はまったく無いと思うんだけどね。まあこれを見てごらんよ』

同時にパソコンのディスプレイが切り替わり、見るだけでも吐き気を催す赤色に染め上がっていった。
そして次々と浮かび上がる人名。
見間違いではない……その中にやはり河野貴明の文字はあった。
もうすでに100人以上の人間がこの島で、こんなウサギの戯れの犠牲になっている。
でも何も出来なかった……むしろ片棒を担ぐ羽目になってしまった自分に怒りが湧いてしょうがなかった。
そしてそれ以上にどうしようもなく久瀬の心を深く抉ったものがあった。
あっては欲しくなかった名前。
それだけは望んでいなかった名前。
そう、ずっと片思いを続けていた倉田佐祐理の名前がそこには書かれていたのだった。
全身から力が抜ける。
立っている気力さえ沸かなかった。
倉田さんが何をしたと言うんだ。
もはや声を発するという行為すら億劫になる。

だが、次のウサギの言葉に久瀬の全身は敏感に反応していた。

『この中にね、生きている人間がいるんだよ。何故だかわかるかい?』

……生きている?
ウサギが何を言いたいのか必死に頭をめぐらせる。
だが沈みきった心は頭をうまく回せない。

『生きているか死んでいるか。それは首輪で判定を行っているんだ。つまり――』

「首輪を外せば生きているか死んでいるかお前達にはわからないって事か?」
最後のウサギの言葉に頭がクリアになっていくのがわかった。
空っぽで冷たい風が吹きっぱなしだった心に、暖かな何かが流れ込んで来た感覚にとらわれる。
だったら可能性が無いわけじゃない、もしかしたら、もしかしたら――。

430久瀬の戦い:2007/05/28(月) 13:51:05 ID:Bu0PslSQ0
――パチパチパチ
突如久瀬の後ろから響いた手を叩き合わせる音。
その音に久瀬は慌てて振り返る。
固く閉ざされていた扉が開け放たれ、廊下の光が部屋に差し込む。
そこには二人の男が立っていた。
一人は軍服に身を包んだ、如何にも軍人といった恰幅の良い男。
そしてもう一人――
「その通りだよ、久瀬君。そして首輪を外すことが出来たのは君の功績が大きいのだから何も落ち込むことは無いんだ」
『その通りだよ、久瀬君。そして首輪を外すことが出来たのは君の功績が大きいのだから何も落ち込むことは無いんだ』
目の前の男の口と後ろの画面から、同時に声が響いた。
「そして君の思い人もおそらくは首輪を外すことに成功している、安心したかい?」
『そして君の思い人もおそらくは首輪を外すことに成功している、安心したかい?』
それの意味するところはつまり――
「そう、私がこの殺し合いを主催した人間だ」
――目の前の初老の男……篁はマイクを懐にしまいこむと、再び手を叩きながらそう呟いた。





431久瀬の戦い:2007/05/28(月) 13:51:48 ID:Bu0PslSQ0
「……ここに来たって事は良い様にやられた腹いせに僕を殺しに来たって所なのかな」
久瀬は膝についた埃を払いながら立ち上がると、ゆっくり口をついた。
そこにさっきまでの彼の姿は無く、自信に満ち溢れた口調ではっきりと発せられていた。
「ふむ、なんでそう思うのかね?」
だが、久瀬の豹変振りを嘲笑うかのように、篁は口元を上げ尋ねる。
返された言葉に久瀬は自分の身体が勝手に震えているのを感じた。
どう見ても外見だけ見れば年寄りであるにも関わらず、その口調も、立ち振る舞いも、見るものを怯ませる迫力を感じさせられた。
「そりゃそうだろ? 僕を……いや僕らを舐めてたんだろうけれど、遊び心を出して足元を掬われちゃ間抜け以外の何者でもないからね」
「貴様! 総帥になんて口を――」
久瀬の、主に対する明らかな侮蔑の言葉。
醍醐が顔を紅くしながら久瀬に飛び出そうとしたのを、篁の右手が構わんとばかりに制していた。
「良いのだ醍醐」
「そ、総帥……」
そう言われては掴み掛かるわけにもいかず、やり場の無い怒りをかみ殺しながら醍醐は久瀬を睨みつけた。
「ふむ……舐めていたのとはちょっと違うな」
「……?」
「どちらかと言うと期待していたのだよ」
「期待……だって?」
予想もしていなかった言葉に久瀬の眉がピクリと痙攣した。
「ああそうだ、そして君は。いや言い直すならば君達は、か。私の期待以上だった。それ故に私は喜びに打ち震えているのだよ」
何かを誤魔化しているような風でもない。
篁の言葉には喜びという感情が確かに感じ取れた。
かと言ってそれが何故かなどと久瀬には分かるはずも無かった。
「言ってる意味がさっぱりわからないな。首輪を外されて嬉しい?」
「わからずとも良い。所詮愚鈍な凡俗には私の考えなぞ理解することも出来まい」
再び口元を歪め、そして久瀬を見つめる瞳に苛立ちが沸き起こる。
こいつは何を言っているのだろうか。
「負け惜しみにしか聞こえないね。それじゃあんたはここに何をしに来たって言うんだ?」
「どうしても直接礼を言いたくてね」
「礼だって?」

432久瀬の戦い:2007/05/28(月) 13:52:17 ID:Bu0PslSQ0
「ああそうだ、願いを叶えてやろうと言うんだよ。君の願いはなんだ? 何でも言ってみたまえ」
篁の口から出た言葉に呆れながら久瀬は答える。
「馬鹿馬鹿しい。そんな嘘を僕が信じるとでも?」
「何故嘘だと思う」
そう返されるのが信じられないといったような表情を浮かべ篁は久瀬に尋ね返した。
「常識的に考えて普通の人間ならそう思うのが当たり前だと思うけどね」
「普通の人間ならな。だが違う。私はそのような矮小な存在ではないのだよ」
「……会話すら成立しないね、くだらない。何でも願いを叶えてくれると言うのならあんたの命をくれよ。
 あんたの自己満足で何人もの人間が死んだ。僕は絶対許せな――」
「いい加減にしろ、小僧!」
久瀬の言葉を最後まで許すことなく、憤慨した醍醐が一瞬で久瀬の背後に回りこんでいた。
自身の右手で久瀬の左腕を背中に回して掴み上げ、左腕でしっかりと久瀬の頭を挟み込む。
久瀬が必死に抵抗しようと身体を動かそうとするも、その怪力にピクリとも動かすことが出来なかった。
だが、その醍醐の行動に憤慨し、 篁は醍醐に歩み寄ると顔面を殴りつけ言い放った。
「醍醐! 私は黙っておれと言っている!!」
「し、しかし……」
「くどいッ! もう良い、お前は下がっておれ!!」
「グッ……し、失礼しました」
忌々しげに久瀬を睨みつけたままではいるものの、篁の言葉に従い醍醐は久瀬の身体を離すとおずおずと踵を返し、部屋を出た。
残された久瀬は痛みに身体を抑えながらも篁の目から視線を外さず無言で睨みつける。

「部下が興をそいで申し訳なかったな。ふむ……しかし確かに何でも願いをかなえるとは言ったが、それは難しいことでもある」
いきなり180度変わった言葉に久瀬は鼻で笑いつけた。
「やっぱり口だけか。結局あんたも自分で卑下した存在でしかないじゃないか」
「そう言う意味ではないのだよ。叶えてやりたいのは山々なのだが……そうだ、これならどうだ」
篁の言葉と共に取り出した一本の銃。
それは篁の手を離れ、久瀬の足元へとコロコロと転がっていった。
「自由に使って良い」
「は? ……あんたほんとにボケてるんじゃないか?」
これを使って自分を撃てとでも言うのか?
願いを叶えるということを実現するために殺されても良いと言うのか。たった今嫌だと言ったじゃないか。
目の前の老人の行動の真意がまったく読めない。
「人間とは哀れな生き物だな……。自分の理解できないものを認めようとしない。本当に醜く、卑しい、なんと悲しいことか」
戸惑いを感じていたものの、篁が発したその言葉に久瀬の中で何かが切れた。
「こんな気が触れたような爺さんのお遊びに川澄君も……相沢君も……何人もの人が死んだと思うと反吐が出る」

433久瀬の戦い:2007/05/28(月) 13:52:44 ID:Bu0PslSQ0
真っ直ぐと銃口を篁に向ける。
「出来ないとか思ってるんだろう? でも僕は撃つさ。皆の仇だ」
目の前に立っているのは全ての元凶の男。
こんなキチガイのせいで。
そう、何人も死んだ。
誰も望んでなんかいなかったはずの殺し合い。
生きるため。守るため。
目的は人それぞれだったけれど、本来ならばする必要の無い、日常の自分から見たらB級ホラーにもならないただの愚考。
身体が震える。
当たり前だ、銃なんか持ったことが無い。
人を撃つ……いや人を殺す?
この僕が?
何を躊躇う必要があるものか。
画面の前で流した悔し涙を忘れたのか?
お前は幾つもの悲劇を見てきただろう。
手を差し伸べることも出来ず、声をかけてやれるわけでもなく、観測者としてこの殺し合いに参加してきた。
だからこそ今のこのチャンスがあるんだ。
全ての人の想いをお前が背負ってる。
だから引け。その人差し指にゆっくり力を込めるだけでいい。迷うな――!

434久瀬の戦い:2007/05/28(月) 13:53:07 ID:Bu0PslSQ0
ドンッっと鈍い音が部屋の中にこだまする。
思わず閉じてしまった目を恐る恐ると見開いていく。
「……え?」
火薬の匂いが鼻につきクラクラと振るえる意識の中、変わらずに立ちつづける篁の姿が久瀬の目に映った。
「私の言ってる意味がわかってもらえたかな」
落ち着いた口調で、哀れむように声をかけてくる。
「て、手元が狂っただけだ」
もう引き金を引くことに怯まなかった。
ちょっと手を伸ばせば届く距離……ちゃんと目を開けて撃てば外すわけが無い。
だから今度こそしっかりと狙いをつける。
一発……そしてもう一発……。
久瀬は固い決意と共に引き金を絞った――だが、結果は何も変わってはいなかった。
篁の身体に確かに当たってはいた……はずだ。
火薬の匂いが弾丸が出たことを証明してくれている。
「すまんな、その程度じゃ死ねないのだよ……わかってもらえたかな」
申し訳なさそうに語る篁の言葉にビクリと震え、久瀬は取り付かれたように引き金を引き続けた。
「馬鹿な、馬鹿な……」
全弾を打ち尽くし、なおも引き金を絞る銃からは、カチカチとした音だけが鳴り続けていた。
――銃が効かない……嘘だろ……化け物か? こんな相手を倒すことなんて出来るのか!?
「良い顔だ」
先ほどと変わらぬ篁の顔が急激に恐ろしく冷たいモノに見えた。
手が震え力が抜け、久瀬は思わず銃を取り落としていた。
「今まで君の考えて来た事全てが私の目的だ。人は小さく弱い。だが人の『想い』は何よりも雄雄しく素晴らしい。
 だから本当に君には感謝しているよ。この篁がここまで敬意を払ったのは君が初めてだ。
 誇りに思いながら――眠りたまえ」
そう言いながら篁がポケットから取り出したもの。
宮沢有紀寧に支給されていたものと一緒の形状の物体。
多少の違いはあれどその用途はまったく一緒である。
違いとは使用回数制限が無いこと、そして爆破までに猶予が無い――つまりはすぐさま殺す為のスイッチであった。
その機械はゆっくりと久瀬の首輪へと向けられ、淀む事の無い動きで親指にかかったスイッチは押された。

435久瀬の戦い:2007/05/28(月) 13:53:28 ID:Bu0PslSQ0
久瀬の首輪が紅い光点を灯し、点滅を始める。
「僕は死ぬのか……」
久瀬の口から淡々と言葉が吐き出された。
「そうだ。これが私なりの礼だ。君をこのゲームから除外してやろう。もう何も苦しむことも無くなる」
やはり自分の考えなんて目の前の男の言う通りちっぽけなものでしかなかったのだろうか。
いや、違う。確かに自分の力は小さいけれども諦めたら、諦めたらそこで全てが終わってしまう。
首輪の解除だって一人の力じゃない。皆で力を合わせたから起こしうることが出来た。

覚悟はしていた。
僕に出来ることはここまでだ。
悔いは……無い。
きっと、後はきっと他の人間がこいつらを倒してくれる。
僕はそれを信じれる。
だから――

その瞬間久瀬は篁に向かって走り出していた。
そして同時に抱きつくように篁の身体を全身で押さえつける。
だが篁はその動きを眉一つ動かさず見つめ許容していた。
「逃げないんだな、やっぱり」
「残念だが、その必要が無い」

わかっている。
銃がまったく効かなかった相手だ。
この首輪が爆発したところで自分が死んで終わるだけだろう。
だからといって何もせず終わることなんかやはり出来やしなかった。
最後の最後まで自分に出来ることを。

436久瀬の戦い:2007/05/28(月) 13:53:49 ID:Bu0PslSQ0
――出会ったことも無い参加者達へ。

僕はここで死ぬ。

僕に出来たことは本当に小さなことだったけれど、みんなが僕の遺志をついでくれると信じている。

たとえ見知らぬ相手でも。

僕達は仲間だったと……そう、信じてる。



――倉田さん。

ずっと言えなかったけど、僕は君が好きだった。

もう言えなくなるけれど、いつか直接絶対君に告げるよ。

でもそれが出来るだけ遠い未来であることを祈ってる

だから絶対に――

437久瀬の戦い:2007/05/28(月) 13:54:19 ID:Bu0PslSQ0
――川澄君、相沢君。

いつも衝突していたけれど、君達が倉田さんの本当の友人だったって知っている。

僕は倉田さんを守れたのかな?

胸を張っていいのかな?

(――はちみつくまさん)

(――ああ、勿論だ。俺が保証するぜ)

……もうこの世にいないはずの二人の声が聞こえた気がした。

笑って、僕に向かって真っ直ぐ手を伸ばしてくれていた。



――……ありがとう



部屋の中に響き渡る爆音と、全てを消し去るようなまばゆい光と共に。
久瀬は自らの役目を終え生涯を閉じた……。






438久瀬の戦い:2007/05/28(月) 13:55:08 ID:Bu0PslSQ0
久瀬がいた部屋。
主人を失った部屋に立ち上った煙が少しずつ晴れ、そこには少し前まで久瀬であったモノが横たわっていた。
首から上にあるべきものはついておらず、もはやピクリとも動かない。
篁は傷一つ負うこともなく、そのカラダを悠然と見下ろしてながら笑っていた。
見つめる視線の先にはふわふわと漂う光。
その眩いばかりの色に目を奪われながらも、篁は懐から宝石を取り出す。
同時に久瀬から飛び出た光が宝石へと吸い込まれていった。

「そう言うことだったのですか」
篁の行動をようやく理解した醍醐が、傍らでかしづきながら納得したという表情を浮かべていた。
「理解したか?」
「はい」
「ならばこれを持って再び『想い』を集めてくるのだ。島に点在しているもの。これからもなお生み出されるもの。それは多種多様である。
 勿論、お前からの参加者への直接的接触は今までどおり禁じるが、首輪を解除しレーダーに映らない人間達……こやつらが問題ではある。
 気を抜いて不用意に近づかれることの無いようゆめゆめ気をつけることだな。とは言えお前ほどのものに言うことでもない事でもあるが」
「とんでもございません! この醍醐、総帥のお心使いありがたく頂戴いたします」
「もしもそれがより強い『想い』を得るために必要であると感じたのであれば、遠慮はいらん。思う存分腕を振るうことを許そう」
「ハッ! ありがとうございます」
「醍醐、私を失望させるなよ?」
「無論であります」
その言葉を最後に、醍醐の姿がその場から煙のように消えていった。

「さて……観測者がいなくなってしまったか」
気づけば放送時間が差し迫っていた。
首輪を外したものがいる以上生死判別が出来ないこともあり、死者放送として不鮮明なものになることは間違いない。
だが死んだと思われていたものが首輪を外して生きていたとしたらどうだろう。
それでまた大きく動きが起こるかもしれない。
もしくは死者の発表は中止して死者をわからなくし、参加者の不安を煽るのも面白いかもしれない。
どちらにせよ全ては崇高なる目的の為……如何に効率よく事を進められるか、だ。
もうじきこの殺し合いも終わるだろう。そしてそれが全ての始まりであるのだ。
その時の事を考えるだけで、篁の顔からは笑みが消えることは無かった。

439久瀬の戦い:2007/05/28(月) 13:55:29 ID:Bu0PslSQ0
【時間:三日目・5:55】
【場所:不明】

【所持品:不明】
醍醐
 【所持品:高性能特殊警棒、防弾チョッキ、高性能首輪探知機(番号まで表示される)、青い宝石(光5個)、無線機、他不明】
 【状態:右耳朶一部喪失】
 【目的:島に散在する『想い』を集める
     自分からの参加者への接触は禁止されている(ただし、接触「された」場合は自己判断にて行動)
     篁の許可が降り次第高槻を抹殺する】

久瀬
【死亡】

440心を求めて〜成果のカタチ〜:2007/05/28(月) 15:31:07 ID:8dhqo5zA0
防弾性の割烹着を着た三人組は雨の山道を一目散に駆けていた、目的地は鎌石村と平瀬村の山道の中にある廃墟のホテル跡、
目的地までの道中…雨が降っているのは分かっていた所為か一応に三人は雨合羽は着ているが、
首筋や襟元…靴の中や靴下からの雨水の浸入は免れないことだった。
「雨降りすぎだぁ!」
「にょわっ!ヒドイ雨だぞ。」
「ああっもう何なのこの雨!!」
三人は衣服に付いた雨水を不快に感じ口を言いつつも黙々と進んでいた。
そしてホテル跡へと到着する。

――――――――鎌石村から平瀬村に通じる山道の脇にあるホテル跡のロビー

「雨の山道ほど最悪なものは無いわね…しかも雨!!」
三人はホテルに付くなり雨合羽を脱いでいた、泥だらけの靴と靴下、濡れた割烹着と頭巾は雨水が滴り落ち、
雨水対策はあまり役に立たなかったと言っても過言ではない
雑巾の容量で頭巾に含んだ雨水を絞りながら広瀬真希はご立腹だ。
「はぁ…誰だろうなぁこんな無茶なスケジュールを組んだ奴は…。」
無茶なスケジュールを組んだ張本人こと北川潤は、真希のご立腹加減を見つつ社交辞令のように軽口を叩く。
勿論、北川はこの先何が起こるのかはお見通しだ

「家政婦の所為だぞ〜!!」
「そうよ!!うら若いレディに無茶させないでよ!!」

――――ペシーン!!――――スパーン!!――――
「ぎゃぁぁぁ!!!!!!」
絶妙のタイミングで北川の頭上に真希のハリセンとみちるのちるちるキックが同時に炸裂する
頭を抱えながらホテルの床に突っ伏して頭を抱えて悶絶する北川、対する真希とみちるは『決まった』と二人でガッツポーズをしていた。

441心を求めて〜成果のカタチ〜:2007/05/28(月) 15:31:52 ID:8dhqo5zA0
三人の目的は美凪の心を探すこと…無論何の手がかりも無い処からの捜索

そして今三人はホテル跡に着いた、北川潤と広瀬真希の二人はつい昨日の事を昔の事のように感傷に浸っていた
ここでは湯浅皐月や保科智子達と出会い…前回参加者の重要な手がかりを手に入れた場所

そして――――柚原このみの首輪が作動した惨劇の場所

「このみとエディさんのお墓にお参りにいかないとな…。」
北川は昨日の事を鮮明に思い出す…誤解とは言え保科智子に撃たれた腹の弾痕がずしりと痛み、
雨水濡れた割烹着の上から傷口に手を当てていた。
「うん…そうだね。」
横にいる真希は北川の傷口に手を沿え、このみやエディと同じくこの世にいない智子や花梨、幸村の冥福を祈る。
(このみ…智子達も逝ったけどせめてそっちでは楽しくやってね…あたし達はこっちで苦しむわ…。)
この島で生き残っている限り苦しみは続く…ある意味生きていることに対する矛盾だった。
(皐月は何処にいるのかしら…。)
昨日の朝、別れたきり消息のつかめない湯浅皐月の事を心配する真希
自分たちと同じように【生きて苦しんでいる】、一人になっても上手くやっているのだろうかと…。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

442心を求めて〜成果のカタチ〜:2007/05/28(月) 15:32:47 ID:8dhqo5zA0
昨日の夜に美凪と一緒に泊まった時と同じ部屋に入る三人、
部屋にはシングルのベッドが三個とソファーと椅子、バスルームと一通り完備されている、多少ホコリっぽいが一晩寝るのには支障は来たさない。
このホテル…外見は廃墟そのものだが、中はしっかりした作りで水道や電気は使え、はてまた食料の類まで備蓄されていると言う変な造りだった。
主催者の趣向と一言で片付けるのが無難だった。
流石に部屋にあかりを灯すのは無用心なので支給品の懐中電灯を点ける三人。
雨水に濡れた三人はずぶ濡れの割烹着や靴下を脱いでバスタオルで頭を乾かしていた、
バスルームではバスタブの中にお湯が溜まっていく音が聞こえてくる。
「じゃあレディファーストで失礼するわよ。」
「覗くんじゃないぞ〜きたがわぁ」
そう言って軽装になった真希とみちるはタオルと治療セットを持ってバスルームの中へと入っていく
「ハイハイッ!ごゆっくりと…。」
真希たちのいるバスルームに背を向け手をヒラヒラと扇ぐ北川、彼は自分と真希の銃の手入れをしている。
(だぁぁぁっ!!!誰が覗けるかいっっ!!)
心の中で欲望よりも良心がスンナリと勝ってしまう北川だった。

443心を求めて〜成果のカタチ〜:2007/05/28(月) 15:34:15 ID:8dhqo5zA0
バスルームの中では真希がみちるのツインテールを下ろしていた、
島の中を一日中ずっと動き回れば汗もかくし汚れもする、みちるぐらいの長い髪の毛になるとヨゴレも付着してくる
真希はみちるの長い髪の毛を丁寧に洗う
「長い髪の毛ねぇ、羨ましいわ。」
自分のボブカットを触りつつ真希はみちるの長い髪の毛に感心する。
「マキマキも伸ばせばいいのに。」
「あたしは似合わないわよ…美凪みたいに身長があれば別だけど」
女の子同士のお風呂での何気ない会話、
そういってみちるの耳の裏を洗う、さわり心地がいいのか真希は石鹸のついた手でみちるのおなかや胸をぺたぺたプニプニと擦る。
「マキマキはえっちだぞ〜…。」
みちるはくすぐったいのか涙目になりながら「にょわにょわ」とちるちる語を連発する
「特にお尻が良いのよね、あんたたちって。」
最後の締め括りにとみちるのおしりをさわりと擦る
美凪の制服のライン越しから見えるお尻の形は同じ女性の真希にも魅力的だった、そしてみちるのお尻…流石は姉妹
みちるも純粋に自分と美凪のチャームポイントを褒めてもらってるのでとても嬉しそうだ
「やったな!!お返しだぞ〜!!」
全身石鹸だらけのみちるは振り向いて真希に闘いを挑む!!
「ちょ…みちる、そこは駄目だって、くすぐったい、あははははっ!!」
「マキマキのお尻も良いおしりだぞ〜♪」
みちるの凶悪なボディマッサージで真希は絶頂の笑いの彼方だ。
「あひゃひゃひゃっ!うひゃひゃひゃっ!!」
違う意味で壊れる寸前の真希、しかし峠を越える寸前の処でみちるはピタッと止めてしまう

444心を求めて〜成果のカタチ〜:2007/05/28(月) 15:34:59 ID:8dhqo5zA0
「うひひひっ………ん…どうしたの?」
うつ伏せで馬乗りにされた真希はみちるの手が急に止まったので様子を見ている、
「真希…背中痛くない?」
真希の腰に馬乗りしているみちるは真希の背中…丁度心臓の裏辺りを横薙ぎに撃ちぬかれた数発の治療済みの弾痕を気に止める
「ああ…これね。」とむっくりと立ち上がり「見事に撃ちぬかれたもんだ」と鏡越しに自分の背中を見る
チョッキ越しに背中に弾痕とは言っても無傷ではいられない…例え傷が塞がってもこの傷は一生残るだろう、

――――美凪が助けてくれた証でもあった。

「痛いわよ〜…でもへっちゃらよ」
心配してくれているみちるを気遣う真希、みちるをぎゅっと抱きしめる。
「…真希のからだ…美凪と同じであったかいぞ。」
自分を素直に受け入れてくれるみちる…。
真希は思った…本来ならここでみちるを抱きしめる役割は美凪がするものだったんだろうと、美凪がくれたロザリオの重みを感じざるおえない…。
こうして知り合って一日も経たない自分を受け入れてくれるみちるを愛しく思う真希。
「みちる、お湯を流すわよ目を瞑りなさい。」
手にシャワーを持った真希の威勢のいい声がバスルームに響く、目を瞑るみちる
「このあとは真希が北川を悩殺だぞぉ〜。」
目を瞑ったみちるが直ぐに目を開いて意地悪な顔で真希を見る、自分と北川の関係にいつの間にか気が付いているみちるに思わずドキッ!とする真希…。
「ませた事言ってないで、さっさと流すわよ///」
真っ赤な顔をしてみちるにシャワーを流す真希、そんな顔を見てニコニコ笑うみちる。
とても微笑ましい光景…日常がここにあった。

445心を求めて〜成果のカタチ〜:2007/05/28(月) 15:43:14 ID:8dhqo5zA0


真希とみちるが風呂に入っている間に、銃の手入れを終えた北川潤は鎌石村で手に入れたノートパソコンでロワチャンネルを覗いていた、何か情報があるか探るためだ。
(あいつらは、何つう凶悪な会話をしとるんだ……って…これは!)
出歯亀はしてないが、二人の会話はしっかり聞いている(聞こえてしまう)北川そして
ロワちゃんねるの書き込みを見て驚愕する、珊瑚達の首輪解除の書き込みだ…。
ホテルの中にも工具ぐらいはず…そして北川は真希たちが風呂から出てくるまでに必要な工具を探し終えていた。
(…やるっきゃないか…。)
北川の決意と同時に風呂場の方からドアが開く、バスタオル一枚の凶悪な姿の真希とみちるが風呂場から出てくる、
「あ〜いい湯だった、潤も入ってきなさいよ。」
「ポカポカだぞ〜。」
気分を落ち着けるために風呂に向かう北川、
「あ、ああっ。」
素っ気無くバスルームに向かった北川に真希は不満な様子。
「みちる…もしかしてあたし魅力ない…?」
涙目になってみちるに話しかける真希
「そんなことないぞ〜。」
真希を励ますみちる「ありがとう」とみちるの頭をなでる真希、そして北川が座っていたベッドの上のノートパソコンを見る真希
(…なるほどね、潤が落ち着いていられないのも無理はないか…。)
ロワちゃんねるの中身、珊瑚のハッキングの成果…自分達のやって来た事の確かな成果がここに見えたのだ。
あとは北川がいつの間にか持ってきた工具で実行するだけ、でもリスクは伴う…。
そんな事をあれこれ考えてる間にいつの間にか北川は風呂から出てくる。

446心を求めて〜成果のカタチ〜:2007/05/28(月) 15:54:28 ID:8dhqo5zA0
「さ〜て、家政夫さん心の準備は良いでしょうか?」
「たのむぞ〜。」
「わかったよ、二人とも。」
工具を持つ北川、そうそうと真希は言い忘れずに付け加える
「もし上手く言ったら、さっきあたしをいろ〜んな意味で辱めた潤くんにいろ〜んな意味で…フッフッフッ。」
「ちょ…御姑さん!」
「責任とれよ〜!きたがわぁ!!」

成功しても天国と地獄、失敗しても天国と地獄…北川に最早、逃げ場は無い
そしていよいよ首輪の解除をする三人、最初は真希、みちる、そして北川の順番で作業は行われた。

―――――――ロワちゃんねるの情報は正しかった…。

―――――――つまり珊瑚がホストコンピューターにハッキングして情報を仕入れたのだ。

―――――――そこにたどり着くまでにいくつもの犠牲があったのかもしれない。

―――――――ちゃんとした結果を出した珊瑚…今度は自分達の番だ。

首輪の解除が無事に終わり、三人は自分達の目的
――――この島と心の光の秘密、そして美凪の心を見つけようと決意を新たにするのだった。

447心を求めて〜成果のカタチ〜:2007/05/28(月) 15:55:39 ID:8dhqo5zA0
時間:3日目・5:50】
【場所:E−4、ホテル跡】


北川潤
 【持ち物①:SPAS12ショットガン8/8発+予備8発+スラッグ弾8発+3インチマグナム弾4発、支給品】
 【持ち物②:インパルス消火システム スコップ、防弾性割烹着&頭巾(衝撃対策有)携帯電話 お米券】
 【状況:チョッキ越しに背中に弾痕(治療済み)】
 【目的:美凪の『想い』、『心』を探す】
広瀬真希
 【持ち物①:ワルサーP38アンクルモデル8/8+予備マガジン×2、防弾性割烹着&頭巾(衝撃対策有)】
 【持ち物②:ハリセン、美凪のロザリオ、消防斧、救急箱、ドリンク剤×4 お米券、支給品、携帯電話】
 【状況:チョッキ越しに背中に弾痕(治療済み)】
 【目的:美凪の『想い』、『心』を探す】
みちる
 【所持品:包丁 セイカクハンテンダケ×2、防弾性割烹着&頭巾(衝撃対策有)食料その他諸々(ノートパソコン、真空パックのハンバーグ)支給品一式】
 【状況:健康】
 【目的:美凪の『想い』、『心』を探す】

備考
三人は首輪の解除をしました

448第四回放送(ルートB-18):2007/05/29(火) 18:53:46 ID:rYwBV.xw0
薄暗い部屋の中に、黒い、闇が結晶したような男の姿があった。
血が変色したようにも見える漆黒のスーツを全身に纏った、酷く人間味に欠ける存在。
男が携える異形の瞳に睨み付けられてしまえば、並の人間など秒を待たずして屈服してしまうだろう。
この殺戮ゲームの主催者にして、今や全てを統べる存在になりつつある究極の人外――篁は、放送の準備に取り掛かっていた。

放送を取り止めるという考えも一瞬浮かんだが、それは直ぐに打ち消した。
枷を外した者達を全て死者として数えれば、生き残り扱いとなっている人間の数は僅か一桁となる。
実際にはまだ二十名以上の人間が未だこの島で足掻き苦しんでいる筈だが、その事実を知り得る者は多くない。
此度の放送は首輪の事を知らぬ者にとって、正しく絶望と憎悪を振り撒く鐘になるだろう。
親しき者達の死を報された事による悲しみと怒り、打開不可能となってしまった状況を受けての葛藤と猜疑心。
そこから生まれる想いがどれだけの物になるか――想像するだけでも口元が吊り上る。
絶望に打ち拉がれた後に生ずる昏い想いこそが、幻想世界への道を拓く鍵となるだろう。

「では始めるか」
マイクを手に取り、スイッチを押し、言葉を紡ぐ。
未だ何も知らぬ愚鈍な者達に、神罰を与えるかのように。


『――参加者諸君、ご機嫌如何かな?これより四回目の定時放送を行う。
 尚観測者は舞台から退場してしまったので、僕が直接取り仕切らせて貰うよ。
 ではこれまでの死者達を発表するから、良く聞き給え。

449第四回放送(ルートB-18):2007/05/29(火) 18:55:05 ID:rYwBV.xw0
3番 朝霧麻亜子
12番 岡崎朋也
14番 緒方英二
16番 折原浩平
21番 柏木初音
25番 神尾観鈴
30番 北川潤
34番 久寿川ささら
36番 倉田佐祐理
38番 来栖川綾香
39番 向坂環
42番 河野貴明
45番 小牧愛佳
54番 篠塚弥生
58番 春原陽平
64番 橘敬介
65番 立田七海
73番 長瀬祐介
79番 七瀬留美
85番 姫百合珊瑚
87番 広瀬真希
88番 藤井冬弥
90番 藤林杏
93番 古河秋生
95番 古河渚
100番 美坂栞
101番 みちる
102番 観月マナ
103番 水瀬秋子
104番 水瀬名雪
108番 宮沢有紀寧
111番 柳川祐也 
117番 吉岡チエ
119番 リサ=ヴィクセン
120番 ルーシー・マリア・ミソラ

450第四回放送(ルートB-18):2007/05/29(火) 18:57:17 ID:rYwBV.xw0
 ――以上35名だ。
 生き残りは後一桁、いよいよゲームも大詰めだ。
 今一度言っておくけれど、勝者はただ1人、例外は無い。
 愚かな希望に縋って現実から目を背けた所で、待っているのは裏切りと冷たい死のみ。
 殺し合いを肯定した人間がいなければ、これ程多くの犠牲者は生まれないのだからね。
 勇気を持って戦う者こそが褒美で全てを手に入れ、臆病者は動かぬ骸と化すだけだ。
 何、倫理観などという下らない物は捨て去ってしまえば良いさ。
 この島で犯した罪は何者にも裁けないし、僕達以外には知られる事すら無いのだから。
 これらの事項をよく踏まえた上で、これからの戦いに挑むと良い。
 それでは此処まで生き残った勇者達の健闘を祈る』

篁はマイクを元に戻し、邪悪な笑みを形作る。
様々な人間の想いが交錯したこの遊戯、実に愉快だった。
後は――最後の詰めを行うだけだ。
枷を外した者達が虎視眈々と自分の命を狙っているにも拘らず、邪神は哂い続ける。

【時間:三日目・6:00】
【場所:不明】

【所持品:不明】

ルートB18
→862

451運命の選択:2007/05/30(水) 20:47:49 ID:KFETsNV20
あれ程激しく降り注いでいた重い雨粒は、何時の間にか鳴りを潜めていた。
空はすっかり晴れ渡り、海から流れてきたであろう潮の香りが、輪郭を持たずに辺りを漂っている。
そんな中、長森瑞佳をリヤカーで護送していた月島拓也は、呆然と立ち尽くしていた。

「な……何だって……」

拓也の心は驚愕で覆い尽くされていた。
先程流れた第四回放送で告げられた、余りにも絶望的な現実。
心の何処かで頼りにしていた長瀬祐介も死んだ。
瑞佳の幼馴染である折原浩平も死んだ。
あの忌々しい水瀬親子も死んだ。
瑞佳が電話で聞いた情報だが――このゲームを打倒し得る最有力勢力――姫百合珊瑚の一団も全滅した。
要するに自分達が知り得る限りの味方も敵も、殆どが死に絶えてしまったのだ。
生き残りはごく僅か――そして、自分達は未だ大した武装も情報も持ち合わせていない。
自分には瑞佳が絶対必要なのだから、今更ゲームに乗るなどという選択肢は有り得ないが、これから先の事を考えるとどうしても弱気な考えしか浮かんでこない。
仮に生き残った人間が全員友好的な者であったとしても、十に届かぬ程度の人数でこのゲームを覆せるのだろうか?

拓也が苦悩に頭を抱えていると、唐突に横から腕を引かれた。
視線をそちらに移すと、瑞佳が神妙な顔付きをしていた。
潮風に揺れる長い髪が、太陽の陽射しに輝いてとても美しく見えた。

「お兄ちゃん……今の放送おかしいよ」
「――え?」
「余りこんな考え方はしたくないんだけど……。
 戦いは規模が大きければ大きい程被害者が増える――逆に規模が小くなれば、その分だけ被害者も減ると思うんだよ。
 第三回放送が終わった時点で四十四人しか生き残りがいなかったのに、たった半日で三十五人も死ぬなんて有り得ないよ」
「あ……」

452運命の選択:2007/05/30(水) 20:49:27 ID:KFETsNV20
瑞佳の的確な指摘を受け、拓也は思わず言葉を失った。
そうだ――そもそもこの広大な島に於いては、他者と出会う事すら容易で無いのだ。
にも拘らず僅か十二時間程度で、生き残っていた者の四分の三以上が死ぬという事態は明らかに異常だ。
そう考えると先の放送は信憑性が皆無であると言わざるを得ないが、そこで新たな疑問が拓也の脳裏を過ぎる。

「……どういう事だ? 主催者は何の為にそんな嘘を吐いたんだ?」
「それは私も分からないよ。けどとにかく今は、坂上さん達の所へ行くのが先決なんじゃないかな」

――その通りだった。
大人数で考察した方が良い考えも浮かぶだろうし、こんな所で立ち止まっていては何時襲撃されるか分からない。
瑞佳の身体では逃げ切るのは殆ど不可能だし、自分の武装程度では敵を迎え撃つのも難しい。
今の自分達はこの島の中で、恐らく最も不利な状態にあるという事を決して忘れてはならないのだ。
拓也は気を引き締め直し、坂上智代達が滞在しているであろう鎌石村消防署に向かって再び進み始めた。

    *     *     *

「そ、そんな莫迦な……」

過去最多の名前が読み上げられてた第四回放送を受け、消防署の一室で坂上智代は掠れた声を絞り出す。
――全ては上手く行っていた筈だった。
鹿沼葉子という強力な仲間も得て、更に二人同志を加え、万全の状態で対主催の人間が集まっている教会に行けると思っていた。
しかし現実は厳しく、首輪解除の任務に就いていた珊瑚や春原陽平も、そして岡崎朋也までもが死んでしまった。

「なあ、私達はこれからどうすれば良いんだ……?」

酷く重苦しいその呟きに、里村茜も柚木詩子も、鹿沼葉子も答えられなかった。
生き残りは自分達といずれ此処に来るであろう瑞佳達を除けば、僅か三人。
その三人の中に、首輪解除し得るだけの技術を持った者がいる可能性は極めて低い。
幾ら仲間を集めた所で、首に着けられた悪魔の枷を外せなければどうしようもない。
そして――この中で唯一『鬼の力』を目の当たりにしている詩子が、途切れ途切れに言葉を紡いだ。

453運命の選択:2007/05/30(水) 20:51:53 ID:KFETsNV20
「姫百合さんも柳川さんも皆、死んじゃったね……。姫百合さん達は銃を何個も持っていたのに……。
 柳川さんは、千鶴さんと同じ『鬼の力』を持っていたみたいなのに……」
「そうだな……私達よりもずっと戦力が整っていたにも拘らず、彼女達は殺されてしまったんだ。
 殺し合いに乗った、そして恐ろしい異能力を持った何者かに」

ウサギの言葉通り、殺し合いを肯定した人間――それも想像を絶する怪物が居なければ、こんな事態は起こり得ない。
珊瑚達は徒党を組んでいたのだから、並大抵の事で全滅したりはしないだろう。
それに『鬼の力』と強力な武装を有する柳川は、こと直接戦闘に於いては桁外れの実力を発揮する筈。
まだ姿の見えぬ殺人鬼は、その双方を倒してのけたのだ。
それが智代と詩子の結論だったが、茜はゆっくりと首を横に振った。

「そうとも限りませんよ。強力な人間や集団を倒す方法は、圧倒的な力による正面勝負だけではありません。
 どれだけ強い人間だって、後ろから撃たれてしまえば死んでしまいます。
 どれだけ強力な武器を揃えた集団だって、内部に裏切り者がいれば崩壊してしまいます」
「――姫百合達や柳川さんは何者かの騙まし討ちを受けてしまったと、そう言いたいのか?」
「怪物などといったものがいると考えるよりは、そう判断する方が現実的です。騙まし討ちなら、特別な力を持っていない人間だって出来ますから」
「ふむ……」

そこまで言われて、智代は思った――今回は茜の言い分の方が正しいと。
幾ら『鬼の力』などといった非現実的なものが存在するからといって、何もかもを異能力の一言で片付けるのは間違いだ。
この世には科学で説明出来ない異常な現象よりも、人智の範疇に収まる物の方が圧倒的に多い。
ならばまずは異常な要素を排した上で、整合性が取れる推論を模索してみるべきだった。
ようやくその結論に達した智代はがっくりと項垂れ、沈んだ声を洩らす。

「そうか……私はまた、早とちりをしてしまったんだな……」

454運命の選択:2007/05/30(水) 20:54:20 ID:KFETsNV20
自分はこれまで度重なる失敗を犯し、その度に茜に諫められてきた。
初めて出会った時はゲームを止めると宣言した自分が、ずっと茜の足を引っ張ってばかりいる。
そんな自分がどうしようも無いくらい情けない存在に思えた。
――しかし智代はこの時、気落ちしている時間があるならば、もっと茜の様子に注意しておくべきだった。
そうすればきっと気付けた筈だ。
いつもは抑揚の無い茜の声に、今は明らかな苛立ちの色が混じっていると。

「……そして裏切り者が一人とは限りません。大人数の集団にとって一番怖いのは、外部からの襲撃者よりも内紛の種です。だから」

茜が一歩、二歩と歩みを進め、机の上に置いてあったニューナンブM60を拾い上げる。

「――内紛の種と成り得る人間を、これ以上生かしておく事は許容出来ません」
「…………っ!?」

茜以外の人間は例外無く、驚愕に目を大きく見開いた。
茜が冷たい目で――これまで一度も見せた事の無かった暗殺者のような顔で、葉子に銃口を向けていたのだ。
鬼気迫る尋常でない様子に、修羅場を何度も経験している葉子ですらも唾を飲み下す。

「茜! あんた何やってるのよ!?」
「――――詩子。私は、貴女や智代の事は信用しています。ですが葉子さんは別です。
 葉子さん、貴女は何故一人で此処に来たんですか? 診療所には生き残っている仲間がまだいたのに、何故?
 『土地勘のない所を夜間、無闇に移動するなど自殺行為』と分かっているにも拘らず、何故夜中にこの村を訪れたのですか?」
「…………」

突然の蛮行を押し留めるべく詩子が叫ぶが、それに構う事無く茜は自身の内に巣食った不信を吐き出してゆく。
その疑念を一身に受ける事となった葉子は、何も言い返す事が出来ず、ポケットに忍ばせたメスへと手を伸ばすだけで精一杯だった。
葉子の反応を見て取った茜はますます疑惑を深め、次々に言葉を紡いでゆく。

455運命の選択:2007/05/30(水) 20:56:40 ID:KFETsNV20
「この島では普通集団で行動します――殺し合いに乗った人間以外は。
 葉子さん。貴女の行動には不審な点が多過ぎる。貴女の言動には不審な点が多過ぎる。貴女に関する全てには、不審な点が多過ぎる。
 ですから私は此処で貴女を殺し、内紛を未然に防ぎます」


最早茜の中で、葉子は限りなく黒に近い灰色だった。
確実に裏切るとまでは言い切れないが、余りにも怪し過ぎる。
このまま葉子を放置しておけば、いずれ自分も珊瑚や柳川の二の舞となってしまう可能性が高い。
そして生き残りが僅かとなってしまった以上、何時葉子が本性を見せてもおかしくは無いのだから、もう一刻の猶予も無い。

「ちょっと待て、お前は焦り過ぎてるんだ! ちゃんと話し合えばきっと……」
「――話し合えば分かり合えるとでも言うつもりですか? 冗談も大概にして下さい。そんな事をしていれば、いずれ裏切られてしまうだけです」

予想通り葉子を庇い制止を呼び掛けてきた智代に対し、茜は苛立ち気味に返事を返す。
智代の言葉は何の根拠も無い、ただの希望的観測だ。
あれだけ多くの人間が死んだにも拘らず未だそのような妄言を吐くなど、余りにも愚鈍過ぎる。
そんな愚か者の意志に従っていては自分まで、無意味に、惨たらしく殺されてしまう。
だから茜は、立ち塞がる智代を灼き切らんばかりに睨み付け、告げた。

「智代。止めるつもりなら、貴女も殺します」
「え……?」
「約束した筈です――失敗した時にはゲームに乗れば良いと」
「なっ――」


一瞬にして智代の意識が凍り付く。
仲間の――ゲーム開始以来ずっと行動を共にした相棒の放った、俄かには信じ難い宣告。

456運命の選択:2007/05/30(水) 20:59:36 ID:KFETsNV20
智代からすれば、残り少ない生き残り同士で殺しあうなど有り得ない事だった。
自分だって葉子に対し多少の疑念を抱きはしたが、それは些細なものでありいずれ時間が解決してくれると思っていた。
にも拘らず茜は突然葉子を殺害するなどと言い出し、事もあろうに邪魔をするならゲームに乗るなどと言ってのけたのだ。
智代は狼狽に支配されながらも、必死に言葉を返す。

「な、何を言っているんだ! まだチャンスはある! 疑念を捨てて皆で協力し合えば、きっと道は見えてくる!
 こんな時だからこそお互い信じ合わないと駄目なんだ!」
「智代……今の貴女は目が曇り切っているし、目的の為に人を殺す覚悟があるようにも見えません。
 この期に及んで不審人物の一人も殺せないようでは、もう主催者の打倒など不可能です。
 ですからもし此処で貴女が決断を誤まるようなら、私は優勝する事で生還を果たそうと思います」

茜の言葉に、嘘偽りは一切含まれていない。
自分だけが銃を保持している以上、今この場に居る人間達を屠るのは容易い。
そして瑞佳達が来るのはもう少し先の事である筈だから、準備して待ち伏せする余裕はある。
そうやって智代と瑞佳の一団を排除すれば、生き残りは自分を含めて僅か4名――もう優勝は目前だ。

「選びなさい智代。私と出会った『あの時』の聡明な智代に戻って、何としてでもゲームを破壊するか――それとも口先だけの女と成り果てて、此処で死ぬかを」

少女は突きつける。
堕落してしまった友に、運命の選択を――

457運命の選択:2007/05/30(水) 21:00:48 ID:KFETsNV20

【時間:三日目・06:10頃】
【場所:鎌石村消防署(C-05)近く】
月島拓也
 【持ち物:消防斧、リヤカー、支給品一式(食料は空)】
 【状態:リヤカーを牽引。両手に貫通創(処置済み)、背中に軽い痛み、水瀬母子を憎悪する】
 【目的:瑞佳を何としてでも守り切る。まずは鎌石村消防署へ。放送の真相を確かめる】
長森瑞佳
 【装備品:半弓(矢1本)】
 【持ち物:消火器、支給品一式(食料は空)】
 【状態1:リヤカーに乗っている。リボンを解いて髪はストレートになっている、リボンはポケットの中】
 【状態2:出血多量(止血済み)、脇腹の傷口化膿(処置済み、快方に向かっている)】
 【目的:拓也と一緒に生き延びる。まずは鎌石村消防署へ。放送の真相を確かめる】

【時間:三日目・06:10頃】
【場所:鎌石村消防署(C-05)】
坂上智代
【装備品:専用バズーカ砲&捕縛用ネット弾(残り1発)】
【持ち物1:38口径ダブルアクション式拳銃用予備弾薬69発ホローポイント弾11発使用、手斧】
【持ち物2:ブロックタイプ栄養食品×3、LL牛乳×3、支給品一式(食料は残り2食分)】
【状態:動揺、葉子に不審の念】
【目的:今後の行動方針は不明】
里村茜
【装備品:ニューナンブM60(5発装填)、予備弾丸2セット(10発)】
【持ち物:包丁、フォーク、LL牛乳×3、ブロックタイプ栄養食品×3、支給品一式(食料は2日と1食分)、救急箱】
【状態:苛立ち、簡単に人を信用しない】
【目的:葉子を殺害する。邪魔をするようなら智代と詩子も殺害して、優勝を目指す】
柚木詩子
【装備品:鉈】
【持ち物:ブロックタイプ栄養食品×3、LL牛乳×3、支給品一式(食料は残り2食分)】
【状態:動揺、葉子にやや懐疑心を持つ】
【目的:今後の行動方針は不明】
鹿沼葉子
【所持品:メス、支給品一式(食料なし)】
【状態1:焦り、消防署員の制服着用、マーダー】
【状態2:肩に軽症(手当て済み)、右大腿部銃弾貫通(手当て済み、全力で動くと痛みを伴う)】
【目的:今後の行動方針は不明】

【備考1:智代、茜、詩子は葉子から見聞きしたことを聞いている(天沢郁未と古河親子を除く)】
【備考2:葉子は智代達の知人や見聞きしたことを聞いている(古河親子と長森瑞佳を除く)】
【備考3:拓也は予定を早めたことを智代に伝えていない】
【備考4:拓也と瑞佳は第四回放送の内容を信じていない】

→860
→864

45863番目のマルタ:2007/05/31(木) 03:41:26 ID:W2QwV58E0

「なあ」

あくび交じりの無気力な声が、狭いコクピットの中に響いた。
ブーツの足をどっかりとコンソールの上に投げ出し、自ら腕枕をして寝そべっている女性、神尾晴子の声だった。

「なあ、て」
『―――何でしょう』

理知的な声が、どこからとなく問い返していた。
神像、ウルトリィである。
半眼になって目やにを掻き落としながら、晴子が顎をしゃくる。

「撃たれとるで」
『そのようですね』

打てば響くような声。
ほぼ間を置かず、閃光が迸った。
全方位モニタに映るその光は直下、神塚山山頂からの砲撃だった。
高空からでも補正なしで視認できるほどの巨大な何かが、間断なく周囲に光線を放っている。
その内の幾つかは、上空に浮かぶウルトリィを目掛けて飛んでいた。

「ええんか」
『問題ありません。生半可な術法ではオンカミヤリューの結界を抜くことなど叶いません。
 まして光の術法で、このウルトリィを狙うなどと』
「ほぉ……ご大層なもんやな。さっすが神さんや」

どこか得意げなウルトリィの声に、晴子はぼりぼりと頭を掻きながら答える。
狭いコクピットに隔離されて数時間。
さすがに語彙の限りを尽くしたスラングをがなり立てるのにも疲れたか、悪口雑言は鳴りを潜めていた。
朝方、開き直ったように一眠りした後からは、投げやりな言動ばかりが目立っている。

「なら……アレも心配いらんねんなあ?」

45963番目のマルタ:2007/05/31(木) 03:41:44 ID:W2QwV58E0
はだけたシャツの胸元に鼻先を突っ込んで顔をしかめながら、晴子が言う。
つまらなそうなその視線の先、モニタに映っていたのは、黒い影だった。
島の北西部、高原池の畔に佇むそれは、跪いてなお周囲の木々より頭一つ抜きん出ている。
木々の緑と紺碧の池、そして漆黒と銀の機体という色彩のコントラストはまるで一幅の絵画のようで、
その周辺だけ時間が静止しているかのようにも感じられた。

「キレイなもんやなー、……ぴくりとも動かへん」

にたにたと気味の悪い微笑みを浮かべる晴子。
すぐにウルトの声が返ってくる。

『……カミュにも大神の加護というものがあります。それに、あの子ならこの程度の術法、
 容易くかわしてみせるでしょう』
「せやから動かへんねやろ」
『……』

沈黙が降りる。
狭いコクピットの中に小さく、奇妙な音色の咆哮が響いていた。
直下、巨大な少女たちの哭く声だった。
額にかかるほつれ毛をかき上げた晴子の視線の先で、光が膨れ上がっていく。

「ハ、ええ感じで気合入っとるやん。……黒んぼの方は、顔上げようともせぇへんな」
『……まさか、カミュの身に何か……』
「どうやろなあ。盛大にぶっ壊れてくれたら笑えるんやけどなあ」

言って、晴子が乱杭歯を見せて笑んだ瞬間。
太陽を思わせる光が、爆ぜた。
絶対の死を内包する蒼白い光芒が、その行く手に存在する何もかもを焼き尽くしながら、黒い機体へ向けて迸る。

『カミュ―――!』


******

46063番目のマルタ:2007/05/31(木) 03:42:04 ID:W2QwV58E0

その狭いコクピットの中には、沈黙だけがあった。
嗚咽も慟哭も、既にこの場から消えて久しい。
モニタは光を落としていた。
幾つかのランプが点灯しているだけで、あとは闇に包まれている。
外の陽射しも、この漆黒の空間を照らすことはなかった。
そんな中で、柚原春夏はかれこれ数時間もの間、抱えた膝に顔を埋めたまま、じっと動かずにいた。

『……』

その様子を、カミュは黙って見ている。
泣いて、暴れている内はまだ良かった。宥め、慰めることもできた。
だがこうして己の内に閉じこもられてしまえば、もうカミュにできることはなかった。
危険な状態だと、わかってはいた。
泣くにせよ、怒るにせよ、それは感情を発散するということだ。
既に起こってしまったことを、過去として処理するために必要なプロセスだ。
しかし、沈黙と抑鬱はいけない。
それは感情を渦巻かせる行為だ。渦巻かせ、どこにも逃がさないという行為だった。
行き場のない負の感情は沈殿し、やがて腐臭を放つ。
染み付いた臭いは、呼吸の度に全身を駆け巡り、容易くその人間を侵す。
それは端的に、破滅と呼ばれる状態の兆候だった。
手遅れになる前に、外部から、あるいは内部からの刺激で風穴を開けるべきだと理解していた。

しかしカミュには、声をかけることすらできなかった。
春夏の心中は、察するに余りあるものだった。
柚原このみという存在は、正しく春夏の生きる意味だったのだろう。
世界のすべて。己の半身。存在意義。それが、潰えた。
生きる意味、などと軽く言えてしまう自分には何を言う資格もないのだと、カミュは認識していた。
長い長い時間の中でも変わらぬ、否、長すぎる時間を旅するからこそ変われぬ己を、
これほど恨めしく思ったことはない。
だから声もかけられず、それでもただ春夏の傍にだけはいてやろうと、身動き一つすることなく
湖の畔に佇んでいた。

46163番目のマルタ:2007/05/31(木) 03:42:24 ID:W2QwV58E0
『……?』

違和感を感じたのは、そのときである。
見られている。どこからか、ねっとりとした視線を感じる。
ねめつけるような、舐りつくすような、生理的な嫌悪感を催させる視線。
反射的にセンサーを走らせる。
捕捉。視線の方向は神塚山山頂。そこに、巨大な熱源があった。

いつの間に、とカミュは内心で舌打ちする。
少し前に、山頂で大規模な戦闘があったのは観測していた。
それが収束した後、多数の熱源が再び山頂に集いつつあることも分かっていた。
しかしカミュはそれらに特段の注意を払うことはなかった。
高密度の思念体は先刻の戦闘で消えていたし、集まりつつあるのは極小規模の熱源体だった。
どうとでも対処は可能だと、高を括っていた。
それよりも春夏にこれ以上余計な負担をかけないことの方が重大だった。
判断を誤ったかもしれない、とカミュは苦々しく考える。
山頂には再び高密度の思念体が存在していた。
原理は分からないが、あの群れが変貌したと考えるのが妥当だった。

とはいえ、とカミュは己の身体機能をチェックしながら思考する。
今、己を見つめる思念体は先刻のものよりも一回り小さい。
先ほどの戦闘観測によれば、思念体の攻撃手段は光の術法に近いものだった。
攻撃自体は単調で、直撃を避けることは難しくない。
万が一被弾したとしても、現状では正面から受ける限り被害は軽微で済む。
春夏がこの状態では操縦は不可能だろう。
ならば一時的に制動権を己に戻し、自律稼動で回避を行う。
距離さえ取れば問題はないだろう。
と、思考と並行させていたチェックが終了する。

『え……?』

一瞬、カミュの思考が凍りついた。
返ってきた結果は、明らかな異変を示していた。
システム、オールレッド。

駆動系異常。飛行系異常。循環系異常。接続系異常。術法系異常。異常。異常。異常。
思考と、感覚。それ以外のあらゆる系統が、完全に沈黙していた。
回避機動どころか、指の一本、羽根の一枚に至るまでが自分のものではなくなったように、動かない。
どくり、と。
既に存在しない筈の心臓が鷲掴みにされたような感覚を、カミュは覚えていた。
背後に、熱を感じていた。

山頂の思念体は、確かにこちらを見ていた。
光の術法に似た力を振るう、それは敵だった。
無防備な背に、光が、迫っていた。


***

46263番目のマルタ:2007/05/31(木) 03:43:23 ID:W2QwV58E0

『死んでいく』

静寂の支配する暗闇に、声が響いていた。
ぼんやりと目を開けた柚原春夏が、小さく口を動かす。

「……」

拒絶を口にするはずの言葉は、しかし声にすらならず消えていく。
乾いた舌とひりつく咽喉が不快だった。
いつから口を開いていないだろうと考えて、春夏は思考を閉ざす。
何も考えたくなかった。
時間の感覚も曖昧なまま、春夏はただ膝を抱えていた。
このまま色々なものが曖昧になって、自分と自分でないものも曖昧になって、何も考えないまま
消えてしまえたら、いくらかは楽になるだろうか。
そんなことを思い、しかし思ったことは端からシャボンのように弾けて消えた。
何もかもが億劫だった。
感情も思考も、あらゆるものが不快で、曖昧で、苦痛だった。
ただ、微睡むように静寂の中にたゆたっていたかった。
再び目を閉じようとする春夏。

『死んでいく』

声は、はっきりと春夏の耳に届いていた。
ぴくりと小さく、本当に小さく、春夏が首を振る。
放っておいてくれという、それは意思表示だった。

『沢山のものが、死んでいく』

声は、止まない。
耳を塞ぐのも労苦に感じて、春夏は静かに目を閉じた。

『生まれるよりも早く死んでいく』

抱えた膝の間に、より深く頭を埋めた。
聞きたくなかった。

46363番目のマルタ:2007/05/31(木) 03:43:43 ID:W2QwV58E0
『生き終わる瞬間は、唐突に訪れる』

春夏の眉根が寄せられた。

『誰にもそれは止められない』

春夏の奥歯が、小さく鳴った。

『戻らず、戻れず、ただ押し流されるように生き終わる』

爪が、掌に食い込んで血を滲ませた。

『望むと望まざるとにかかわらず』

呼気が、小さな音を立てる。

『それは永劫続く、定命のさだめ』

……て、

『生まれ、生き、生き終わる』

……めて。

『誰の上にも訪れる、それは―――』
「やめてッ!」

叫ぶような、声が出た。

「もうやめて、カミュ! いったい何のつも……」

跳ねるように顔を上げた、その視界。

「……ここ、は……?」

つい先程まで春夏を包んでいたはずの暗闇は、どこにもなかった。
代わりにそこにあったのは、どこまでも冴え冴えと広がる蒼穹。
燦々と照りつける陽射し。風にそよぐ深緑の梢と大地の朱。

『はじめまして、契約者』

そして、その背に黒翼を戴く、一人の少女だった。

46463番目のマルタ:2007/05/31(木) 03:44:27 ID:W2QwV58E0

【時間:2日目午前11時過ぎ】
【場所:D−4】

 柚原春夏
【状態:絶望】

 アヴ・カミュ
【状態:システムオールレッド・焦燥】

 ムツミ
【状態:異常なし】


【場所:G−6上空】

 神尾晴子
【持ち物:M16】
【状況:軟禁】

 アヴ・ウルトリィ=ミスズ 
【状況:自律操縦モード/それでも、お母さんと一緒】

→526 594 678 840 ルートD-5

465夢の終わり:2007/05/31(木) 23:21:23 ID:veeaHzOE0
天高く昇った太陽の下で寄り添うように肩を並べながら、三つの影が突き進む。
北川潤とその仲間達の行き先は決まっていた。
北川達は目的地――平瀬村の何処かにある筈の、親友の『心』を追い求めていた。
遠野美凪の『心』がそこにあるという根拠はたった一つ。
思い当たる他の場所は全て探し尽くしてしまい、残るは平瀬村だけなのだ。

「…………」
黙々と足を進める北川の表情は優れなかった。
この地には辛い――余りにも辛過ぎる想い出がある。
自分は守れなかった。
何を差し置いてでも仲間を守るつもりだったのに、柏木一族という脅威から美凪を守り切れなかったのだ。
仕方無いと言えば仕方の無い事ではあったかも知れない。
敵は『鬼の力』などといった常識外れの能力を持った怪物達なのだから、たった一人の犠牲で済んだのは寧ろ幸運とすら言える。
……そんな事は分かっているのだが、だからと言って割り切れる筈も無い。
美凪は自分にとっても真希にとっても、掛け替えの無い仲間であり親友でもあったのだ。

「潤……ねえ、潤ってば!」
「ん、ああ……何だ?」
広瀬真希に呼び掛けられた為、陰鬱な想いに支配されていた思考を一旦中断させて、生返事を返す。
真希はこちらをじっと見つめながら、遠慮がちに言葉を紡いだ。
「今あんたの考えてる事が、手に取るように分かるわ……。美凪が……死んじゃった時の事を考えてたのよね?」
「――――っ!」
内心を一部の狂いも無く言い当てられてしまい、北川は大きく息を呑んだ。
真希は北川の手を握り締めてから、続ける。
「お願いだから一人で全部抱え込もうとしないで……。美凪はあたしにとっても――そして、みちるにとっても大切な親友なんだから」
「そうだぞーっ、みちるの方が美凪と付き合い長いんだからなーっ!」

466夢の終わり:2007/05/31(木) 23:22:29 ID:veeaHzOE0
付き合いが一番長い――逆に言えば、一番辛いのもみちるの筈だ。
しかしみちるは何時通りの元気な姿で、自分を気遣ってくれている。
彼女達の言う通りだった。
自分にはこれだけ心強い仲間達が居るのだから、一人で抱え込む必要など何処にも無いのだ。
「……そうだな、悪い。やっぱり俺達は明るく行かなきゃな!」
だから北川もそう言って、強引に笑みを形作ってみせたのだった。


背の高い門を押し開けて、民家の――美凪の亡骸が眠る家の、敷地内に侵入する。
比較的広い庭には雑草が鬱蒼と生い茂っており、その向こうで古ぼけた木造民家が陽光に照らされながら屹立していた。
北川を先頭としてその影に向かって歩いてゆき、玄関の扉を開け放つ。
時代遅れの木造建築物だという事もあり、陽の殆ど届かぬ民家内部は異質な世界であるように感じられた。
みちると真希と、三人で手を取り合って永い廊下を一心不乱に進む。
程無くして三人は一番奥にある広間の前まで辿り着く。
そこには薄闇の中に佇む木の扉が、行く手を阻むように立ち塞がっていた。
北川が冷たいノブに手を伸ばし、力を込めて押すと、扉が軋みを上げながらゆっくりと開いてゆく。

開けた視界の中、大きな窓から漏れる眩い陽光が部屋の中を照らし上げている。
そして部屋の中央――ベッドの上に、遠野美凪が昨日と変わらぬ姿で横たえられていた。
この島の特殊な環境のお陰だろうか、その亡骸は腐敗が進んだ様子も無く、穏やかな笑みを湛えたままだった。
「く……」
その余りにも安らかな死に顔に、北川は計らずして掠れた声を洩らす。
北川の横では真希が口元に手を当てて、弱々しく肩を震わせている。
そんな中、みちるが一歩、二歩と足を進め、美凪の前まで歩み寄った。
みちるはゆっくりと、美凪の頬に手を伸ばす。
そして手が触れた瞬間、辺りを眩い、そして暖かい黄金色の光が、包み込んだ。

467夢の終わり:2007/05/31(木) 23:23:19 ID:veeaHzOE0
「な――――っ!?」

誰もが言葉を失う。
それはどのような奇跡だろうか――光が止んだ時、自分達は夜闇に支配された学校の屋上に立っていたのだ。
そして、天に広がる星空を見上げる少女が眼前に屹立していた。
少女の美しい髪が、僅かに潮の香りを含んだ夜風を受けて優しく靡いている。
幻想的な状況の所為か、その姿は記憶にあった物よりも更に美しく感じられた。

北川はその少女を、星空に見守られた屋上の中、無言で見つめていた。
信じ難い状況の中、どれ程の時間そうしていたかは分からない。
砂時計の中で零れ落ちる砂のように、緩やかに流れてゆく時間かも知れない。
凄まじい勢いで全てを飲み込んでゆく灼熱のマグマのように、刹那の時間かも知れない。
やがて深い憂いを秘めた、酷く悲しい瞳が――
世界に満ちた全ての音を、漏らさず閉じ込めてしまうかのような瞳が、こちらに向けられた。
「み……なぎ……」
北川がやっとの思いで、掠れた声を搾り出す。
そこには在りし頃と全く変わらぬ瞳を湛えたまま、遠野美凪が存在していたのだ。

言いたい事、伝えたい想い、溢れてしまいそうなくらい沢山あったのに。
いざ本人を目の前にしてみると、北川も、真希も、何も言えなかった。
下手な言葉を口にしてしまえば、その途端に美凪が消えてしまうような気がして、何も言えなかったのだ。
そんな中、美凪が場の沈黙を打ち破るべく、ゆっくりと言葉を解き放つ。

468夢の終わり:2007/05/31(木) 23:24:23 ID:veeaHzOE0
「……ちっす」
「「「――――へ?」」」

余りにも場違い、余りにも軽快な挨拶を受け、北川達は例外無く間の抜けた声を洩らした。
北川達の驚きを意にも介さず、美凪は続けざまに口を開く。
「北川さん……きらきらの星、好きですか?」
「え……ああ、まあ嫌いじゃないけど……」
「……良かった」
北川が戸惑いつつも返事をすると、美凪はほっとしたように呟いた。
「……男の人も……綺麗な物は好き」
こちらをじっと眺め見る、限りなく広い母なる海を思わせる瞳。
片言の言葉では表し尽くす事の出来ない思いが、その瞳の奥に秘められている。

「あのね美凪……あたし――――」
ようやく硬直から解放された真希が、必死の想いで言葉を形作ろうとする。
しかし美凪は切実な声で、それを遮った。
「ごめんなさい、時間が無いんです……。星空を見ながら、どうか私の話を聞いてください……」
空を見上げれば、無数の星々の瞬き。
静かに――どこまでも澄んだ声で、言葉を紡ぐ。

469夢の終わり:2007/05/31(木) 23:26:27 ID:veeaHzOE0
「この島には様々な人の『想い』が……閉じ込められています」

「人の『想い』は、空に輝くあの星々のように強く美しい……。今の私達がこうして奇跡の中に居るように……とても大きな力を秘めています。
 ですがこの殺し合いを企んだ主催者は……その『想い』を悪用しようとしています……間違った方向に『想い』の力を向けようとしています」
 
「主催者の力は強大です……そこに『想い』の力まで加わってしまえば、全ての人間が等しく殺し尽くされてしまうでしょう……。
 ですから北川さん達が……『想い』を正しい方向に導いて下さい……。皆を助けて、主催者を倒して下さい……」

「私が死んだ後もずっと頑張り続けてくれた北川さん達なら、……きっとそれが出来るから……」

美凪はそこで言葉を切ると、ポケットの中から質素な包装紙に包まれた一つの白い箱を取り出した。
「これからも頑張りま賞……進呈します」
それを、そっと北川に手渡す。

北川がその箱を開けてみると、親指にも満たぬ小瓶に詰められた砂が出てきた。
手に取って凝視してみると、砂の一つ一つが微かな輝きを放っているようにも見えた。
「綺麗だな……けど、これは?」
「星の砂です……。その砂を持っていると……幸せになれるんです。必要な時が来たら……その砂に、願って下さい。
 一生懸命願えば……きっと『想い』は通じます。北川さん達なら……この島に囚われた『想い』を解き放てます」

みちるが上目遣いで美凪に視線を送る。
「美凪……もう行かなくちゃいけないの……? もう……終わりなの?」
「うん……ごめんね。私は此処にいてはいけない人間だから……もう死んでしまったから……。
 私の夢も……みちるの夢も……此処で終わり」
美凪はみちるの手を優しく握り締めてから、くるりと北川達の方へ振り向き直した。

470夢の終わり:2007/05/31(木) 23:30:06 ID:veeaHzOE0

「北川さん、広瀬さん、覚えていますか? 私達が出会ったときの事……」
――出会いは鎌石村の消防署だった。
出会ったばかりだったにも拘らず、三人仲良く同じ食卓を囲んだ。


「それから……ホテル跡に行った時の事……」
――ホテル跡では色々あった。
大変だったけれど、三人は力を合わせて乗り切った。
一段落着いた後は、束の間の、けれどとても安らかな時間を一緒に過ごした。


「みちるも、きたがわとマキマキと楽しい時間を過ごせたよ……暖かい気持ちにさせて貰ったよ……」
――みちると出会った時。
三人は障壁を乗り越えて打ち解ける事が出来た。
家族のように、親友のように、笑い合う事が出来た。


「最後に…………今この瞬間も、大切な思い出です」
そう言って、美凪はにこりと穏やかな微笑を浮かべた。
美凪もみちるも――黄金の光に包まれ、それに合わせるように彼女達の身体が揺らぎ、薄れてゆきつつあった。

真希が涙で緩んだ視界のまま、何かを訴えようとする。
「待って、美凪、みちる! あたしはっ……あたし達はっ……!」

471夢の終わり:2007/05/31(木) 23:32:42 ID:veeaHzOE0
それを押し留めて、美凪が口を開く。
強く、意志の籠もった声で。
「泣かないで下さい……。私は貴女達と暖かい思い出を一杯築けましたから……一杯笑えましたから……」

みちるが言葉を繋ぐ。
「そうだよ。夢が覚めても、思い出は残るから……。思い出がある限り、みちると美凪はマキマキ達と一緒だから――」

自分達の想いを、同じ気持ちを、代わる代わる口にしてゆく。
「二人共、笑って。みちる達との思い出を、ずっと楽しい思い出にしていてよ」

「笑顔は人の心を暖かくしてくれますから……」

「ずっとずっと笑い続けて……」

「世界が沢山の笑顔で一杯になって……」

「「みんなが暖かくなって、生きていけたら良いね……」」
言葉を重ねると同時に、辺りが閃光に包まれた。
二人は黄金の光と同化して、自ら星の砂へと飛び込んでゆく。
それが最後。二人の気配も、北川達の意識も、霧散していった。


気が付くと元の部屋に戻っていて――北川も真希も床に寝そべっていて――窓から降り注ぐ陽光が、そっと夢の終わりを囁きかけていた。

――皆さん、有難うございます。今まで……楽しかったです
――きたがわ、マキマキ、約束だよ。ちゃんと笑い続けていてね

そんな声が、聞こえた気がした。

472夢の終わり:2007/05/31(木) 23:34:53 ID:veeaHzOE0

【残り20人】

【時間:3日目・10:00】
【場所:G−2民家】

北川潤
 【持ち物①:SPAS12ショットガン8/8発+予備8発+スラッグ弾8発+3インチマグナム弾4発、支給品】
 【持ち物②:インパルス消火システム スコップ、防弾性割烹着&頭巾(衝撃対策有)携帯電話、星の砂(光二個)、お米券】
 【状況:チョッキ越しに背中に弾痕(治療済み)】
 【目的:今後の行動方針は不明】
広瀬真希
 【持ち物①:ワルサーP38アンクルモデル8/8+予備マガジン×2、防弾性割烹着&頭巾(衝撃対策有)】
 【持ち物②:ハリセン、美凪のロザリオ、消防斧、救急箱、ドリンク剤×4 お米券、支給品、携帯電話】
 【状況:チョッキ越しに背中に弾痕(治療済み)】
 【目的:今後の行動方針は不明】
みちる
 【状況:消滅】
遠野美凪
 【状況:消滅】

備考
・みちるの荷物
 【所持品:包丁 セイカクハンテンダケ×2、防弾性割烹着&頭巾(衝撃対策有)食料その他諸々(ノートパソコン、真空パックのハンバーグ)支給品一式】
は床に置いてあります

→863

473起死回生:2007/05/31(木) 23:50:24 ID:W7jX6MbI0
危機が去って幾ばくかの時間が経っていた。
高槻、湯浅皐月、小牧郁乃の三人は何をなすでもなく、ただ項垂れていた。
玄関のドアは壊れ外から風が吹き込むも皆動じることはない。
高槻と皐月は篁のことを知っているだけに、主催者の正体を知ったショックは大きかった。
(相手が悪かったなあ。篁総帥じゃどうしようもねえや)
高槻は皐月の肩を抱きなが失意の底にあった。
助かったとはいえ、お先真っ暗である。
変わり果てたぴろを撫でながら皐月は目を泣き腫らしていた。

「どこか他に移ろうよ」
重苦しい雰囲気を破るように郁乃がポツリと呟く。
高槻が目で促すと皐月は伏せ目がちに軽く頷いた。
郁乃を除けば二人とも負傷と疲労でかなり体力を消耗していた。
現状では醍醐でなくとも岸田洋一始め、殺し合いに乗った者に踏み込まれたら苦戦を余儀なくされてしまう。
それにしても──篁が集めようとする想いとは。そしてあの青い宝石はいったい何なのか。
高槻は喉にまで出かかった言葉を飲み込み、まずは避難を優先することにした。

荷物をまとめ外に出ると雨は小降りになっていた。
警戒しながら奮死したぴろを懇ろに葬る。
「あたしも手伝わせて」
いたたまれずに郁乃がおぼつかない足取りで歩み寄り、布に包まれたぴろを穴の底に横たえた。
土を被せようとするとポテトが鼻を擦り付け最後の別れをする。
その様がいじらしく改めて三人の涙を誘う。

「さて、ねぐらはどこにするか?」
「隣の鎌石局にしようよ。探せばまだ弾があるかもしれない」
「なにぃッ、そうなのか? よし行くぜい」
三つの黒い影が粛々と移動し、隣の建物の中に吸い込まれていった。

474起死回生:2007/05/31(木) 23:51:37 ID:W7jX6MbI0
屋内に入るや否や、高槻と皐月はドアの前に備品を積み重ねた。
醍醐ならどうしようもないが、普通の人間なら侵入はできまい。
反撃の手段が限られていることから防御を固めるしか方法がなかった。
わずかな窓にも布で目張りをし、明かりの漏れを最小限にする。
「これくらいでいいかな。じゃ、明かり消すよ」
照明を消すと皐月はしゃがみこみ室内を見渡しながら感慨に耽った。

あたりは漆黒の闇に包まれ互いの息遣いのみが聞こえる。
前日の正午頃、ここで笹森花梨と物色したのが遠い昔のことのように思える。
左肩の傷──ここを出ようとした時黒服の少年に撃たれたもの。
少年との死闘と花梨の死。
思えばぴろはここでも奮戦したのだ。
胸にこみ上げるものがあり、両手で顔を覆った。
しかし高槻の一言で現実に引き戻されてしまう。
「ぼちぼちやろうぜい」
当てがあるようなことを言ったものの、実は気休めでしかなかった。
花梨と来た時、大方探し尽くしていたからである。
最後まで探さなかったのは十分な銃器と弾薬を確保できたからであった。
ここで何も入手できなければ今後の安全が極めて脅かされることになる。

「ごめん、もうちょっと休ませて」
「具合が悪いのか? さっきのゴリラに手酷くやられたからなあ」
「う、うん。まあね」
珍しく労ってくれるものだと感心する。
皐月は高槻の肩にもたれ安らぎに浸ることにした。
「ケツが痛いなら手浣腸が効くぞ、七年殺しがな。FARGOでもちょくちょくやってたなあ。女の尻の穴にズブッと……」
「落ちがあったのね。紳士らしいとこに惹かれたけど……さっさと始めるわ!」
素早く身を退き上目遣いに睨みつける。
「オイ、冗談だってば。こういう時はなあ、スキンシップが大事なんだぞぅ、ベイビー」

475起死回生:2007/05/31(木) 23:53:53 ID:W7jX6MbI0
皐月は二人にまだ探していない場所を指示し、自身も持ち場を探すことにする。
部屋の明かりは点けず、それぞれが懐中電灯で照明を確保する様は、さながら盗みを働いているようでもあった。
狭い密室でロッカーを開ける音、引き出しを開ける音が続く。
「ん? オモチャか」
とある引き出しから出てきたのはヨーヨーだった。
「わあっ、おもしろそう。あたしに貸して」
「ちぇっ、くだらん。いくのんにくれてやらあ。オモチャなんて……」
「オモチャがどうかしたの?」
「さあ。皐月さんも見てみたら?」
高槻がいじり回していると、片面の蓋が突然パカッと開いた。
「おおうっ! これはまさしく桜の代紋」
「このマーク、どこかで見たことある!」
皐月は高槻の肩越しに騒動の元を覗く。
「これ警察のじゃない」
開いた内側には交番で見かける桜の徽章が施されていた。

高槻は蓋を閉じると紐の輪を指にかけ、ヨーヨーを垂らす。
落ちては巻き戻るという、ごく普通の動き方をするが、紐が鎖チェーンでできている。
「思い出したぞ。これはなあ、昔鹿沼葉子が『おまん、許さんぜよ』、って言って投げてたスケバン刑事ヨーヨーだ」
「鹿沼葉子って人、おばさんなの?」
「えーと、いくのんよりいくつだったっけ。天沢郁未より上で……わからん、年齢不詳だ」
「くだらない嘘ばっか言ってないで、そんなことどーでもいいから、あたしに貸しなさいよっ」

手に取ってみるとオモチャでないことは間違いなかった。
ズッシリとした重みからしてステンレス製だろうか。
人に投げて当たれば痛いどころではない。本気で投げれば骨に罅が入るほどの衝撃があるかもしれない。
「いくのんには無理だろうから湯浅、お前が持て」
「あたしが? じゃあありがたく頂戴するわ。近接戦闘に使えるね」
皐月は押しいただくとポケットに仕舞いこんだ。

476起死回生:2007/05/31(木) 23:55:57 ID:W7jX6MbI0
その後も捜索をしたが目ぼしい発見はなかった。
探し尽くすと高槻と郁乃は疲労を覚え横になった。
「もう寝ろよ。体力を回復しないと明日がきついぜ」
「そうねえ。どっかにまだないかなあ。」
「もしかして隠し扉とかあったりしてなあ。その奥に金銀パールがザックザクと……」
「隠し扉……? あるかも」
俄かに活気が戻り、皐月は一人執念を燃やしながら物色を始めた。

郁乃はどうしても寝付けなかった。
起き上がると荷物を重し代わりに、車椅子の座席に乗せられるだけ乗せる。
そうして車椅子に掴まり膝に力を入れながら立ち上がった。
「今から出かけるの?」
皐月が怪訝な表情で尋ねる。
「違うの。あたしもいっしょに戦いたいから……車椅子なしでもやっていけるように、歩きたいの」
郁乃は先ほどの息を呑むような激戦の光景が目に焼きついて離れなかった。
暇つぶしの相手にしか見ていなかった猫、否小さな勇者──ぴろ。
二人と一匹が戦っている間、自分はただ物陰に隠れて見ているしかなかった。
──悔しい。あたしも戦いたい。
何もできない自責の念が郁乃を自立したい思いに駆らせたのであった。

郁乃はグリップを握り、そろそろと車椅子を押す。
狭い室内を何度も往復し、時には膝をつきながらもリハビリ励む。
(お姉ちゃん。あたしも頑張るからどうか無事でいて)
未だ会えぬ姉に想いを馳せながら脚力の弱さに喘ぐ郁乃。
床には汗と共に涙の染みがあった。

477起死回生:2007/05/31(木) 23:57:36 ID:W7jX6MbI0
【時間:三日目・02:00】
【場所:C-4鎌石郵便局】
湯浅皐月
 【所持品1:H&K PSG-1(残り0発。6倍スコープ付き)、ヨーヨー、自分と花梨の支給品一式】
 【所持品2:海岸で拾ったピンクの貝殻(綺麗)、手帳、ピッキング用の針金、セイカクハンテンダケ(×1個)】
 【状態:物色中。疲労大、首に打撲、左肩、左足、右わき腹負傷、右腕にかすり傷(全て応急処置済み)】
高槻
 【所持品1:分厚い小説、コルトガバメント(装弾数:7/7)、スコップ、ほか食料以外の支給品一式】
 【状態:就寝中。疲労大、全身に軽い痛み、腹部打撲、左肩貫通銃創(簡単な手当て済みだが左腕を動かすとかなりの痛みを伴う)】
 【目的:岸田、醍醐、主催者を直々にブッ潰す】
小牧郁乃
 【所持品:写真集×2、車椅子、要塞開錠用IDカード、武器庫用鍵、要塞見取り図、支給品×3(食料は一人分)、支給品一式】
 【状態:リハビリ中】
ポテト
 【状態:車椅子に乗っている、健康】

【備考:高槻のコルトガバメントは予備弾を装填。高槻達の翌日の行動は未定】

478彼にとっての復讐の意義と、彼女にとっての懺悔の対象:2007/06/02(土) 01:26:03 ID:KiKzaUIw0
「……笑えよ、お前を馬鹿にしていた俺がこのザマなんだからな」

浮かび上がったのは力のない笑み、別れる前の彼の様子からは想像できないくらい相沢祐一は弱っていた。
疲れきったその表情、廊下の壁にもたれかかる祐一の口から漏れる覇気のない台詞に柊勝平は呆然となる。
勝平が廊下の奥の方へと視線をやると、ポツポツと祐一が移動してきたであろう軌跡に垂れているものが目に入った。
血液だった、わき腹を押さえる祐一の手が赤く染まっていることから患部はそこだと勝平は判断する。

……ただ、出血自体は実際そこまでひどいものではなかった。
何せ名倉由依が所持していたのはどこにでもあるカッターナイフだったのだから、そこまで深く差し込まないかぎり内臓にも損傷はないはずだった。
しかしそんな事実を知識を持たない祐一に伝わるはずもなく、勿論勝平も分かるはずもない。
とにかく、祐一は精神的に参ってしまっているようだった。
消え去った威勢の良さ、祐一の変わり果てた姿に思わず勝平も顔をしかめる。

「その様子、だと……助けに来て、くれたわけじゃぁなさそうだな……」
「何で、そう思う」
「お前最初っから、そうだったじゃん……仲間意識、感じられなかったっつーか」

苦笑いを浮かべながら淡々と述べる祐一に対し、勝平は何も答えられなかった。
結局このような手負いの状態だが、祐一は生きていた。
真っ白なタートルの脇腹部分、そこだけ赤く染まっているという生々しさには勝平も思わず眉間に皺を寄せてしまう。
出血自体は既に止まっているのだろう、勝平が目を凝らし患部を見やると血がかぴかぴに乾いてしまっている様子が伝わってきた。

視線を上昇させる勝平、あの意地悪めいた台詞ばかり吐いていた祐一の唇の色は妙に紫がかっているように見える。
寒さが原因ではないだろう、顔色も非常に悪いことから貧血を起こしかけているのかもしれない。

「……で、何しに、来た……」

祐一が口を開く度に、言葉の間に入る息継ぎの回数はどんどん増えているようだった。
顔をしかめる勝平、どうやら錯覚ではないらしく祐一はしゃべる行為自体も負担に感じているのかもしれない。
少しずつ荒くなっていく祐一の呼吸を見つめながら、勝平は静かに右手を少しだけ振り上げた。
そう。手にした電動釘打ち機の先端が、ぴったり祐一の額に当たるぐらいに。

479彼にとっての復讐の意義と、彼女にとっての懺悔の対象:2007/06/02(土) 01:26:36 ID:KiKzaUIw0
「理由くらい、聞いても……いい、よな」
「お前が僕の邪魔をしたからだ」
「……邪魔?」

祐一の浮かべる不思議そうな表情、それは先ほど勝平自身が手にかけた藤林杏の様子を彷彿させた。
口の中に苦い味が広がっていく、しかし勝平はそれを無視して言葉を続ける。
祐一によって計画が崩れたこと、そして自分自身が命を落としたということ。
『あの世界』の、こと。

ただ、どんなに詳しく語ろうにも、祐一の顔に納得の色が浮かび上がることはなかった。
むしろ勝平が何か発する度に、ますます視線は疑惑を帯びたものになっていく。
……これでは、杏の時と同じだった。
あの時は激情に任せてトリガーを引いた勝平だが、同じことをしてあの苦い思いを繰り返すほど馬鹿じゃない。
あくまでも冷静に、勝平はこの根本的な世界のことすらも細かく彼に説明した。
少しでも祐一の中で、何か変化が現れないかと。勝平は、それに望みを賭けた。

そして全てを話し終えた勝平は、少し乱れた息を整えながらも祐一の出方を待った。
自分の知りえることは話しきった、これで分かってもらえないのなら……その先を勝平は考えようとしなかった。
じっと黙って祐一を見つめ続ける勝平、しかし祐一が視線を合わせてくることはない。
……何か言葉を選んでいるのだろうか、しかめっ面のまま祐一はついに唇をゆっくりと開く。

「悪い、けど……お前の話は……どう、聞いてもさっぱり、だ……」

答え。祐一の出したそれに、勝平は静かに目を閉じる。
怒りは沸かない、勝平の中を漂うのは行き所のない不快感のみだった。
はぁ、と一つ溜め息をつき勝平は項垂れる。
このまま祐一を殺すことは簡単であった、だがそれでは意味がない。
勝平の復讐の対象はあくまで『勝平の邪魔をした屑共』であり、その屑の犯した事柄に対し後悔させなければ何の気休めにもならないのだ。
しかしそんな勝平の心中を知らずか、祐一は意外な言葉を続けてきた。

480彼にとっての復讐の意義と、彼女にとっての懺悔の対象:2007/06/02(土) 01:27:03 ID:KiKzaUIw0
「でもな、それでも……お前が俺を消したいって、言うなら。
 どうせ俺は、こんなんなんだ……簡単に、殺せるだろ。良かったな」

一瞬、何を言われたのか勝平は理解できなかった。
垂れていた頭を上げる、勝平自身も自覚するくらいそれはかなりの間抜けなものだった。
でも、それよりも。目の前の祐一の表情は、もっと情けない……諦めに満ちた、ものだった。

「何だよ、それ」
「言ってんだろ、意味分かんねーって……でも、お前がそうしたきゃできる、状況は……揃って、んだ」

思わず漏らした勝平の声に対し、祐一も細々と言葉で返してくる。
開いた口が塞がらない……今の勝平の心境は、正にそれだった。
杏は言った。信じない、そんなことさっぱり分からないと。
祐一も言った。意味が分からないと、やっぱりさっぱりだと。
しかしその上で、彼は言う。自分を殺してもいいと。
祐一の真意が勝平には全く理解できないでいた。だが勝平の戸惑いに気づかないのか、祐一は一人話を続けてくる。

「でも……これだけは、頼む。神尾だけは……あいつだけは、何とか助けて……やって、くれ……」

神尾……神尾、観鈴。その名前が出てきたことで、勝平もはっとなり止りかけた思考回路に渇を入れた。
緊張感のない笑いを浮かべる少女、何の役にも立ちそうにない、付き纏ってきて鬱陶しい存在……そんな観鈴の印象が勝平の脳裏を駆け抜ける。

「俺……人を殺したことがあるんだ」
「は?」
「後悔も、したけど……それでも、仕方ないって思いの方が強かった……今も、そう思ってる……」

それは突然であり、意外な告白だった。
ただ、前後の話が繋がらないことで勝平は混乱する一方である。
観鈴を助けてくれということ、祐一自身が人を殺したということ。これはイコールで繋がらない。

481彼にとっての復讐の意義と、彼女にとっての懺悔の対象:2007/06/02(土) 01:27:28 ID:KiKzaUIw0
「何が言いたいんだよ……」
「あいつみたいなのが、絶対、こんな……くだらない殺し合いを、変えてくれる、はずなんだよ……。
 俺みたいな、殺すことを納得した人間じゃ……駄目、なんだ……」

自嘲を通り越した、あまりにも悲しい訴え。
わき腹を押さえていない方の手で髪をかき上げると、祐一は改めて勝平へと視線を送った。

「どうせ俺は助からねー……それに、神尾はずっとお前の、ことを気にかけてたんだ……頼んだ、ぞ」

笑顔を浮かべる祐一の表情は儚く、そこからは生きる渇望すら見いだせない。
精神的に参ってしまっているということ、もしかしたらそれは一日の積み重なった疲労も関係しているかもしれなかった。
誰だってそうである。こんな気味の悪い島に閉じ込められ殺し合うことを言い渡されて、ストレスを感じない者はいないだろう。
そして、祐一の辿ってきた経緯。そこで自らの手を汚したことなど、隠れた面での祐一の負担は大きかった。
止めとして肉体へのダメージを食らった祐一が、「諦め」てしまうのも無理はない。
……例えそれが、見た目が派手なだけなものだったとしても。
祐一は疲れきっていた、彼を自暴自棄にさせている原因は十代の少年にとってあまりにも過酷なものだった。

「……馬鹿野郎っ」

しかし、それを認められるかと言われたら話は別である。
納得した上で、ああ相沢祐一はなんてて可哀想なヤツなんだと同情するなんて考えに、勝平が首を縦に振るわけはなかった。
喉から絞り出された声は怒りに震えている、その対象はあの時勝平を陥れた「相沢祐一」に対するものではない。

振りかぶった電動釘打ち機を、勝平は力任せに振り降ろす。
狙ったのは目の前の祐一の頭部だった。
そして勝平は叫ぶ、そこにありったけの怒りを込め。

「甘えてんじゃねえよっ、僕は……僕は、こんな腐ったヤツに負けたなんて認めないぞ!!」

482彼にとっての復讐の意義と、彼女にとっての懺悔の対象:2007/06/02(土) 01:27:58 ID:KiKzaUIw0
それはここに来て勝平が初めて振るった、殺意を含まない暴力だった。
自分を追い詰めた祐一はこんな情けない男じゃないということ、こんな男を殺しても復讐になどなる訳がないということ。
ここで祐一からの反撃でも飛んでくれば勝平は満足だった。罵詈雑言の類が飛んできて、いつもの彼の調子に戻ってくれたらと期待した。
しかし、いつまで経っても祐一が口を開く様子はない。
むしろそのままずるずると祐一の体は沈んでいき……ついに、祐一は廊下に横たわるようにして身動きを止めるのだった。

「……くそっ!!」

頭部を強打されたことで気を失ってしまったのだろう、結局祐一が勝平の期待に答えることはなかった。
勝平の中の苛立ちは、収められる場所を失い発散の場所を求めてきた。
横たわる祐一、勝平の手にする電動釘打ち機を叩き込めばその命を散らすことなど造作もないことだろう。
そう、あの時のように。
勢いのまま杏の命を奪った時のように。
……だがあの後の苦い思いを経験した勝平が、同じことを繰り返すことなど……できる訳、なかった。
復讐という行為に対する意義を自覚した勝平にとって、この場でできることはなくなってしまった。





来た道をとぼとぼと、勝平は歩いて戻っていた。
別に祐一に言われたからではない、しかし彼の脳裏にふと浮かぶのは観鈴の朗らかな笑顔であり。
何故か、勝平はそれが恋しく感じ仕方なかった。
思い通りにいかない事態、祐一の覇気のない態度、それら全てが勝平の心に棘を増殖させ彼の余裕をなくしていた。
観鈴は、日常の象徴だった。
繰り返される緊張感のない会話、害のない穏やかな少女の存在自体がこの状況ではイレギュラーであろう。
ふと。祐一が言っていた観鈴の価値が、そういう面なのではないかと。勝平の中で一つの答えが導き出される。
その時だった。

483彼にとっての復讐の意義と、彼女にとっての懺悔の対象:2007/06/02(土) 01:28:24 ID:KiKzaUIw0
「……!」
「な、お前は……っ?!」

階段を上がり、勝平が二階の廊下に差し掛かったところで危うく誰かと衝突しそうになる。
形振り構わず疾走する少女が、勝平の脇を駆け抜けて行った。
すれ違い様でもその勢いは止まらない、一瞬目が合うものの少女は勝平を通り越しそのまま階段を降りて行く。
呆然と少女を見送る勝平は、その場で立ち尽くすしかなかった。
一体誰であったか、確認が一瞬しかできなかった少女の残像が勝平の脳裏を過ぎった。
見覚えがあるかどうか、すぐの判断は難しい。
だが、考えれば自ずと答えは浮かぶものである……何せ勝平は、先ほどまでその少女と同じ部屋にいたのだから。

「……! あいつ、起きたのか?!」

勝平が気づいた時にはもう遅い、少女の姿は既に階下へと消えている。
勝平の記憶が正しければ、その少女は職員室にて気を失っていたはずの名倉由依であった。
何故彼女が今ここに、いや、それよりもいつ気がついたのか。
ごちゃまぜになる頭の中、勝平は一つの事実にはっとなる。
―― 置いてきた観鈴は、どうなった。

「……馬鹿、何やってんだ僕は!」

あの時の勝平は祐一のことをとにかく優先し、彼の元へ一人で行くことしか考えていなかった。
置き去りにした観鈴が武器の類を所持していないことは分かりきっていたことだった、それなのに。
嫌な予感が回路を締める、勝平もまた形振り構わず走り出した。

484彼にとっての復讐の意義と、彼女にとっての懺悔の対象:2007/06/02(土) 01:28:51 ID:KiKzaUIw0




時間は少々遡る。
軽い鈍痛に襲われながら、由依はその意識を覚醒させた。
目元が歪む、由依はふわふわとした感覚にその身を任せながら自身が気を失っていた事実を自覚する。

(ん……)

体が重かった、精神的負荷と共に岸田洋一から受けた暴力が由依の体力を奪っていた。
秘部に感じる猛烈な違和感と痛みに、閉じられた由依の瞼からも自然と涙が零れていく。

(私、また……)

由依がレイプという行為を受けこと自体は、初めてではなかった。
それこそあの施設に潜入してからは、由依は数えるのも嫌になるくらいの辱めを受けていた。
それでも由依の心は折れなかった。
大事な、大事な姉を連れ戻さなくてはいけないという大切な目的が由依にはある。
姉と共に、また家族で暮らしたい。それが由依のささやかな願いだった。

(……お姉ちゃん……)

だが、由依の知らない事実がそこにはあった。
それは由依の誕生日に起きた、由依が強姦魔に襲われたあの事件のあった当時のこと。
姉である名倉友里に、由依は消えない痛みを与えた。
由依は幼い少女だった。また、それを責めるには余りにも由依は弱かった。
しかし、許されることではなかった。
どこにでもある一本のカッターナイフが凶器と化す、壊れかけた由依の心が求めたもの。
その先、その未来。由依は友里の未来を奪った。

485彼にとっての復讐の意義と、彼女にとっての懺悔の対象:2007/06/02(土) 01:29:15 ID:KiKzaUIw0
(お姉ちゃん……)

頭の中で小さく呟く由依、施設でも友里には邪険にあしらわれるだけで満足な会話をすることができないでいた。
真実を知ってからは、尚更である。
もう一度友里と話したかった、前のような仲の良い姉妹に戻りたいと由依は望み続けていた。
そんな時だった、由依がこの殺し合いの舞台に放り込まれたのは。

この島に来て、初めて遺体というものを由依は見た。
そして、性的な行為を持たない純粋なる暴力というのにも晒された。
その上で性的な暴力も、受けた。

由依はこの島で一人でも多くの人を救いたいと願った。
しかしその願いは届くことなく、由依の前に現れたのはあんなにも凶暴で狡猾な男であった。
神様は、意地悪だった。
由依は現実に絶望した、そしてあの時のようにまた心を殻に閉じ込めた。
由依は人形になった。人形になれば、今受けている以上の痛みを押し付けられることはなかった。
由依は道具になった。道具にならなければ、由依は自分を守れないと判断した。

物と化した由依が手にしたのは、偶然にもあの時にも由依が所持していたカッターナイフであった。

「ひぃ……っ!」

思わず漏れた声、カッと見開かれた由依の瞳が自分の起こした現実を認識させる。
人を刺したということ。
岸田の命の通り、殺意を持って武器を振るったということ。
フラッシュバックする光景は、駆け寄ってきた少年の心配そうに由依自身を見やる表情が、苦悶の物へと瞬時に入れ替わった時のものだった。

486彼にとっての復讐の意義と、彼女にとっての懺悔の対象:2007/06/02(土) 01:29:36 ID:KiKzaUIw0
「だ、大丈夫? どこか痛いのかな」

少し舌っ足らずな、幼さの残る可愛らしい声。
ゆっくりと由依が首を動かすと、ぼやけた視界に金色のウエーブがかった髪が入る。
少女だった。年頃は同じくらいだろうか、見た目だけなら由依の方が下かもしれない。

「うーん、熱はないね」

額に熱を感じ思わず目を瞑る由依、ゆっくりと瞼を開けると少女が手を引っ込める様が確認できた。

「ご、ごめんね。びっくりしたかな」

慌てて弁明してくる少女の姿には攻撃性といったものが全くなかった。
由依の中で戸惑いが生まれる。まだ何が起きたか上手く整理しきれていない思考回路をフルに動かし、由依は賢明に現状を把握しようとする。
あの男に命じられ、由依は「男」を殺し「女」を約束の地であるこの職員室へと連れ込んだ。

(あれ、でも私は……)

おかしい。由依の記憶が正しければ、由依が連れ込んだ少女は二人のはずであった。
ゆっくりと身を起こし、由依は改めて職員室の様子を確認する。
岸田におもちゃにされた場所、部屋の隅には由依の支給品であるデイバッグが放置されていることから間違いはないだろう。
一面だけ開けられた窓のおかげで喚起はできているものの、鼻を凝らせば感じ取れる生臭さが消えた気配は全くない。
……それは辱めを受けた由依自身に染み付いた臭いかもしれないが、その可能性を考えることを由依の頭は否定した。
そのまま立ち上がる由依の邪魔をするものはいない、少女は見ているだけで由依の行動に対し制限をつけてくるようなことをしなかった。

三百六十度余すことなく目をやる由依の視界に入る人物は、あくまでこの金髪の少女のみである。
どういうことか、しかし思い出そうとすると響く鈍痛に結局由依は考えることを諦めた。

487彼にとっての復讐の意義と、彼女にとっての懺悔の対象:2007/06/02(土) 01:29:59 ID:KiKzaUIw0
そして、違う方面へと思考を凝らすことにした。
由依の恐れるあの男は、今この場にはいない。
目の前の少女に攻撃性はない。じっと見やるものの、由依の視線に対し首を傾げるだけで少女から何かしてくることはなかった。
今、どうするべきなのか。冷静に物事を考えられる機会を得た由依がその中で答えを導き出す。
由依の最優先次項は。

「ごめんなさい!!」
「え、あ……ど、どこ行くのっ?」

この場から、一刻も早く逃げ出すことだった。
部屋の隅へと駆ける由依、自身のデイバッグを掴み取り由依は一直線に職員室の出口へと向かう。
背後から投げかけられた声、金髪の少女のものである。しかし由依はそれを無視して、一目散に廊下へと躍り出た。

それからはとにかく走り続けるだけだった、痛む体を駆使しながら由依はひたすら足を動かした。
途中人とすれ違った気もする、しかし由依は止まらずそのまま階下へと駆けて行った。
一階、見覚えのあるその景色に由依の鼓動は高鳴った。
このまま真っ直ぐ行けば中心のフロアに出る、そこから外に出れば逃げることができる。
由依はそれだけを考えた。それこそ廊下に設置されている窓を開けて逃げるという行為などは、思いつくことはないようだった。
由依は駆けた、途中転びそうになるものの何とか持ち直し外を目指した。

月明かりの照らす廊下を、走る由依の靴音だけが響き渡る。
その連続した音が止められたのは、突然のことだった。

「……ぁ」

廊下の隅に倒れ、身動きを取らぬ少年が由依の目の前に出現した。
視線を少年の後方へと送る、点々とした染みが由依の視界に入る。
黒かった。それは経過した時間を表しているのだろうか。
真っ白なタートルネックの一部が黒く塗られている様、由依の呼吸が一瞬詰まる。
それは、由依が「殺した」少年だった。
ポロポロと涙が自然に零れる、由依の起こした現実が痛みとなって彼女自身へと突き刺さる。

488彼にとっての復讐の意義と、彼女にとっての懺悔の対象:2007/06/02(土) 01:30:21 ID:KiKzaUIw0
「ごめ……なさい……」

顔を覆いながら由依が口にした謝罪の言葉に、少年が気づく気配はない。
ごめんなさい、それでも由依はもう一度言葉を口にする。
その時、由依は自身が身に着けている見覚えのない上着の存在を思い出した。
肩にかかった群青色のブレザー。そう、心配した少年が由依へとかけてくれたものである。
……そのぬくもりも何もかも、今では悲しいだけだった。

「こんな……こんな形で会いたくなかったですっ!」

吐き捨てた激情は、由依の思いと共に校舎の空気へ溶けていく。
人を殺してしまったという罪悪感。それは少年の優しさを踏みにじった由依の行為も付加となり、さらに彼女自身を追い詰めた。

「私達……きっと、違う形でも会えたと思うんです……」

ふと、由依の中に浮かんだ一つの可能性。
それは根拠のない言葉だった。
でもその直感を、由依は捨てることができなかった。

「ごめんなさい……」

信じられない、カッターで刺された少年はそう表情で語っていた。
その様子が由依の頭から離れることはない。消せない罪が、また一つ由依の心啄ばんだ。
しかしそれと共に、何故か和やかにこの少年と話す自身の様子が由依の脳裏に貼りついていた。
理由は分からない、それは由依の願望が作り出したただの妄想かもしれない。

「ごめんなさい」

もう一度口にして、由依は身に着けていたブレザーをその場で脱いだ。
近づき、由依は丁寧に折りたたみ倒れている少年の横へと上着をそっと置く。

489彼にとっての復讐の意義と、彼女にとっての懺悔の対象:2007/06/02(土) 01:30:48 ID:KiKzaUIw0
「こうしてると、まだ生きているみたいですね……そんなわけ、ないのに……」

覗き込んだ少年の顔つきもまた、金髪の少女と同じように由依と同世代のものだった。
それが、さらに由依の悲しさを煽る。
気持ちを振り切るように再び駆け出す由依の苦悶に満ちた表情を、確認した者はいない。
由依が鎌石村小中学校を脱出したのはそれからすぐのことだった。






神尾観鈴
【時間:2日目午前3時前】
【場所:D−6・鎌石小中学校二階・職員室】
【所持品:フラッシュメモリ・支給品一式(食料少し消費)】
【状態:呆然】


柊勝平
【時間:2日目午前3時過ぎ】
【場所:D−6・鎌石小中学校二階・廊下】
【所持品:電動釘打ち機11/16、手榴弾三つ・首輪・和洋中の包丁三セット・果物・カッターナイフ・アイスピック・支給品一式(食料少し消費)】
【状態:観鈴のもとへ】

490彼にとっての復讐の意義と、彼女にとっての懺悔の対象:2007/06/02(土) 01:31:08 ID:KiKzaUIw0
相沢祐一
【時間:2日目午前3時過ぎ】
【場所:D−6・鎌石小中学校・一階、左端階段前】
【所持品:S&W M19(銃弾数4/6)・支給品一式(食料少し消費)】
【状態:気絶、腹部刺し傷あり】
【備考:勝平から繰り返された世界の話を聞いている、上着が横にたたまれている】


名倉由依
【時間:2日目午前3時15分過ぎ】
【場所:D−6】
【所持品:カメラ付き携帯電話(バッテリー十分)、破けた由依の制服、他支給品一式】
【状態:学校を離脱、ボロボロになった鎌石中学校制服(リトルバスターズの西園美魚風)着用、全身切り傷と陵辱のあとがある】
【備考:携帯には島の各施設の電話番号が登録されている】

(関連・488・662・756)(B−4ルート)

491:2007/06/02(土) 21:21:03 ID:w8N0LcPY0
夢。
夢を見ていた。
そこには自分の理想とする世界。
追い続けて、求め続けて――けれど、決して届かぬ筈の美しき理想郷があった。

天高く昇った太陽は猛然と光を放ち、眼下に広がる孤島を照らし尽くす。
蓄積した熱を奪い去るべく吹き付けてくる風が心地良い。
そんな中高槻は水着を着て、海辺の砂浜に寝そべりながら、満面の笑みを湛えていた。
「参ったぁっ! 俺は参ったぁぁっっ! 見渡す限りの女共、これぞハーレムだぁぁぁっ!」
その言葉通り、高槻の周りには数え切れぬ程多くの女性達が集まっている。
天沢郁美、鹿沼葉子、久寿川ささら、小牧郁乃、湯浅皐月、そしてその他にも無数の女性達。
夢の世界の中で、高槻は女という女を全て手中に収めた絶対者として君臨していた。

くるりと背中を向けると、特に指示を出さずとも女性が優しくサンオイルを塗ってくれる。
その撫でるような手つき、柔らかい女性特有の感触が、高槻に快感を齎す。
「お前なかなか上手いな。褒美として俺様が直々にキスをしてやろう」
高槻はそう言って、女性の方へと首を向けた。
「……って何だ、湯浅じゃねえか」
女性――湯浅皐月は、顔を真っ赤にして接吻の時を待ち侘びている。
高槻は皐月の後頭部に手を回し、顔を引き寄せて――

492:2007/06/02(土) 21:23:25 ID:w8N0LcPY0

「ガッ!?」
そこで強烈な衝撃が頭部を襲い、高槻は目覚めた。
激痛を堪えながらも顔を上げると、皐月が斜め下目線でこちらを見下ろしていた。
その手には先の凶行に用いた道具であろう、涙目のポテトが握り締めらている。
「痛ってえなあ! てめえいきなり何しやがんだ!」
「ぴこっ! ぴこぉぉっ!」
怒りに震える高槻はポテトと調子を合わせ、猛烈な批難を浴びせる。
しかし皐月はポテトを地面に降ろした後、腰に手を当て事も無げに言い放った。
「あに、逆ギレ? あんたがなかなか起きないから悪いのよ。放送前の時間になったら絶対起こせって言ったのはあ・ん・た、じゃん!」
「む……」
頭の中を検索してみる。
すると確かに、昨晩鎌石局内部を捜索していた最中、そんな事を頼んだ記憶があった。

仕方が無いので怒りの矛を収め、ゆっくりと身体を起こす。
「もうそんな時間か……そんじゃそろそろ起きるとしますかね。あ――そうだ、湯浅」
「何?」
「あれから何か使えそうな武器は見付かったか?」
高槻とて裏の世界で生きてきた人間、寝起きの呆けた頭でも生き延びる上で重要な事柄だけは決して忘れない。
火力が圧倒的に不足している自分達にとって、新たな武器の入手は死活問題だった。
だからこそ高槻は期待の色が混じった声で問い掛けたのだが、皐月は申し訳無さそうに首を横へ振る。

493:2007/06/02(土) 21:24:39 ID:w8N0LcPY0
「残念だけど……これくらいしか無かったわ」
皐月がそう言って取り出したのは、五つの予備弾倉――コルト・ガバメント用の物――であった。
高槻はそれを受け取ると、ぐっと親指を立てて不敵な笑みを浮かべた。
「いや、ナイスだぜ。これなら弾の詰め替えもすぐだし、岸田や醍醐の野郎にだって一泡吹かせれるかも知れねえ」
その言葉通り、此処で予備弾層を発見した事は相当な僥倖である。
弾層に纏めて銃弾が詰められているのだから、弾切れの時も一瞬で補充出来るし、何より残弾数に余り気を遣う必要が無くなったのが大きい。
醍醐のような俊敏に動き回る敵を捉えるには、もっと手数を増やすのが殆ど必須条件であったのだ。
出来れば防弾チョッキを貫通出来、尚且つ高速連射が可能なアサルトライフルが欲しかったが、それは高望みというものだろう。
(身体の調子は……)
軽く左肩を動かしてみると痛みはしたが、昨晩程ではない。
大丈夫、この体調、この装備なら十分に戦える。

「おし、居間に集まって放送を待つとすっか」
高槻は意気揚々と居間に乗り込み――目前で繰り広げられている光景に、少なからず驚愕を覚えた。
「お前どうして……」

小牧郁乃が――あの車椅子の少女が、二本の足で直立していたのだ。

「私だってやれば出来るんだから……」
郁乃は額に付着した汗を拭ってから、こちらに向けてゆっくりと歩き始めた。
その足取りは余りにも不安定であり、次の瞬間には転んでしまいそうな程だ。

「おい、あんま無茶すんじゃ……」
「――来ないで!」
手を貸すべく歩み寄ろうとした高槻だったが、直ぐ様強い拒絶の声を掛けられる。
「私だって頑張れば歩けるんだから……戦えるんだからっ……!」
郁乃は鬼気迫る形相で、弱々しくも着実に足を進めていく。
そのまま高槻の眼前まで進んだ後、郁乃は誇らしげに言い放った。
「――これでもう、大人しく隠れてろなんて言わせないわよ」
「…………!」

494:2007/06/02(土) 21:26:47 ID:w8N0LcPY0
それで高槻は、ようやく郁乃の意図を察知する事が出来た。
とどのつまり、郁乃は守られてばかりいるのが悔しくてこんな事をしたのだ。
はっきり言ってまだまだ戦力になるレベルでは無い。
歩くので精一杯なのだから、過酷な戦闘には耐え切れる筈が無い。
こんな状態の郁乃が最前線に立ってしまえば、数秒と経たぬ内に殺されてしまうだろう。
しかしその努力は間違いなく本物だから、その健気な精神は尊重すべきものだから――
「わあったよ、次からはお前も戦闘要員だ。でもヘマはすんじゃねえぞ?」
高槻はぶっきらぼうに、そう言ったのだった。


そして十分後――第四回放送。
その内容は高槻達の意識を凍り付かせるに十分なものだった。
「何なんだ……一体何が起きたってんだ!?」
理不尽な報せを受けた高槻が声を荒げる。
知り合いが何人死んだだとか、そういう次元の話では無い。
人間が――この島に居る人間の殆どが、一気に死んでしまったのだ。
特に自分達と行動を共にした人間は、一人の例外も無く死に絶えてしまった。

雪崩の如く押し寄せる絶望が高槻の戦意を叩き折り、吹き荒れる悲しみの暴風が郁乃と皐月の顔から生気を奪い去る。
わざわざ口にするまでも無く、全員が分かっていた。
――終わった、と。
残った僅かな人間だけで、超巨大財閥を牛耳る怪物と対峙するなど、ただの自殺行為だ。
そして何より、親しい人間の悉くを殺し尽くされてしまったという事実が脳髄深くまで染み込み、何もせずとも神経が削り取られていった。





495:2007/06/02(土) 21:27:26 ID:w8N0LcPY0
静まり返った部屋、陽の光が届かぬ薄暗い場所で、高槻達は力無く座り込んでいる。
誰もが絶望し、涙を流す余力さえ奪い去られてしまい、放送から一時間以上経ってもまるで動けずにいた。
そんな時に突然、部屋の端に置いてある電話がけたたましく鳴り響いた。
その騒音により、朦朧としていた頭、曖昧だった思考が、半ば強制的に目覚めさせられる。
普段なら掛かってきた電話に対し疑念の一つでも抱いただろうが、生憎今はそのような判断力など持ち合わせていない。
高槻は重い頭、重い手足に力を込めて、どうにか受話器を手に取った。

「うっせえな……俺様は今気分がわりいんだ。誰だか知らねえが静かにしやがれ」
高槻は不快感を隠そうともせずに、毒々しく吐き捨てた。
すると受話器の向こうから、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
『高槻さん! 高槻さんですね!?』
「なっ――――その声……久寿川…………か……?」
『はいっ! 久寿川ささらです!』
「どうして……?」
訳が分からなかった――何故死んだ筈の久寿川ささらが、電話を掛けてこれるのだ?
受話器越しに高槻の疑問を感じ取ったささらが、事情を簡潔に説明する。
『実は……』
ささらは、自分達がハッキングや首輪の解除に成功した事。
そして盗聴されてしまうので、まずはロワちゃんねるを見て首輪を解除して欲しいとだけ伝え、電話を切った。
余りにも唐突な話だったが、高槻からすればささらの言葉を疑う理由など何も無い。
死んだ筈のささらが生きているという事実が、首輪の解除が嘘偽りで無い事をはっきりと証明していた。

高槻はすぐさま郁乃と皐月に指示を出し、ノートパソコンと工具――そして携帯電話を探すべく動き始める。
すぐ近くの民家で必要な道具は全て揃った為に、首輪の解除は滞りなく終了した。
起爆用のコードが外装の内側に張り巡らしてあったが、それさえ切らなければ何も問題は無かったのだ。
高槻は冷たい感触から解放された首を摩りながら、携帯電話を手に取った。

496:2007/06/02(土) 21:28:06 ID:w8N0LcPY0
「……高槻だ。言われた通り首輪を外したぞ」
『――有難うございます。まずはロワちゃんねるに載っている地下要塞詳細図を見て貰えますか?』
「おう、分かった」
高槻はまだ未確認だった地下要塞詳細図のファイルをおもむろに開いた。
するとそこには、高槻達の持っている要塞見取り図とはまるで異なる内容が記載されていた。
見取り図には、二本のトンネルにより地下要塞が構成されていると書いてあったが、それはフェイク。

詳細図によると、地中深くにある要塞は島の大半を占める程巨大であり、トンネルは地上近くの移動用通路に過ぎない。
要塞への出入り口は、鎌石村、平瀬村、氷川村の付近に複数ずつ設置されている。
そして『ラストリゾート』の発生装置はc-5地点、首輪爆弾の遠隔操作用装置はh-4地点、『高天原』はf-5地点にあるようだ。


『それでは――説明しますね』
盗聴の脅威が無くなった為、ささらは全てを包み隠さずに話し始める。
まずはこれからの事――即ち、主催者打倒の作戦について。
既に平瀬村方面には十分な戦力が集まりつつある為、高槻達はこのまま別行動を取って欲しいという事。
行動を起こすのは数時間後で、数箇所から同時に地下要塞へ侵入したいという事。
そして高槻達には鎌石村から近い位置にある『ラストリゾート』の発生装置を破壊して欲しいという事だった。

続いてその他の情報。
ささら達は現在平瀬村工場で休憩を取っており、仲間の大半が睡眠中である事。
首輪を外した人間は全て死亡者として扱われている為、先の放送は信憑性が薄いという事。
柳川祐也の一団と、ゲームに乗ったリサ=ヴィクセン一味が行った決戦の顛末。
そして――岸田洋一と相打ちを遂げたという、河野貴明の最期などについて話した。

497:2007/06/02(土) 21:29:09 ID:w8N0LcPY0
「貴明は……最期に岸田の野郎をブッ倒したんだな……」
話を聞き終えた高槻は、いの一番にそう呟いた。
自分は岸田洋一を自らの手で倒したいと考えていたが、今となってはどうでも良いように思えた。
そんな些事よりも、貴明やほしのゆめみが死んでしまった事の方が遥かに衝撃的だったのだ。
『はい……先輩も貴明さんも……私の所為で……』
「…………」
受話器越しに聞こえてくる翳りの混じった声を受け、高槻は返答に窮した。
二人同時に親友を失ったささらの喪失感がどれ程のものなのか、想像も付かない。
下手な励ましの言葉など逆効果だという事が分かってしまい、何も言えなかった。

高槻が黙り込んでいると、ささらが弱々しい――けれど確かに、強い意志の籠もった言葉を投げ掛けてきた。
『あの……余りお気になさらないで下さい。私はもう大丈夫ですから……涙なら一杯流しましたから……先輩達の分まで一生懸命生きるって決めましたから……』
「そうか……」
半分は強がりだろう。
親友を失った悲しみはそう簡単に癒えるものでは――否、どれだけ時間が経とうとも、決して癒し切れるものではない。
しかしこれ以上この話題に執着しても、ささらを苦しませるだけだ。
だから高槻は頭を切り替えて、言った。
「――良いか久寿川。俺様は絶対死なねえし、仲間も死なせねえ。
 だから俺様達が『ラストリゾート』をぶっ壊してそっちに行くまで――おめえも、死ぬんじゃじゃねえぞ」
『はい。高槻さん達こそ、どうかご無事で……』
お互いの無事を祈りながら、二人は通話を終了させた。

高槻は皐月と郁乃に視線を向けて、凛々しい声で告げる。
「話は聞いてたな? これからの俺様達が何をすべきかは決まった。まずは久寿川達と同時に要塞へ突入し、『ラストリゾート』を破壊する。
 その後要塞の奥へ進んで、『高天原』で踏ん反り返ってる主催者の野郎をブッ潰すんだ」
それで、間違いない筈だった。
主催者打倒への道程は、これ以上無いくらい明確な形で示されたのだ。

498:2007/06/02(土) 21:29:56 ID:w8N0LcPY0
しかし郁乃が多分に不安の色を含んだ顔で、ぼそりと呟いた。
「首輪を外した人は死亡者扱いにされたって話だったけど…じゃあ七海や折原……それにお姉ちゃんは無事なのかな……?」
「…………大丈夫だって。あいつらはそう簡単にくたばるタマじゃねえし、きっと何処かで首輪を外したんだよ」
高槻は励ますようにそう言うと、くるりと背を向けた。

――嘘だった。
本当は、分かっている。
特殊な技術を持たぬ者が首輪を外すには、ロワちゃんねるに載っている首輪解除手順図を用いるしかないだろう。
そしてロワちゃんねるには、ささら達の電話番号が書いてあった。
首輪を解除した者達は、ゲームを破壊する為に――もしくは寝首を掻く為に、ささら達へ電話を掛けてみる筈だ。
ささらへ連絡する事無く第四回放送で読み上げられた者達がどうなったのか、結論は一つしか有り得ない。
折原浩平も、立田七海も、小牧愛佳も、死んだのだ。
だがその事を郁乃達に伝えた所で、何のメリットも無い。
決戦の時は近いのだから、無意味に気勢を削ぐ様な愚行は避けなければならない。
全てを教えるのは、主催者を倒した後で良い。
そう、悲しみと憎しみを抱え込むのは、自分一人で良い。

(折原……立田……貴明……ゆめみ……俺様がてめえらの無念を晴らしてやるからな……!)
周りに悟られぬよう流した一粒の涙が、ポタリと高槻の足元に零れ落ちた。


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