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11Make a Pledge to Survive その1:2005/04/28(木) 20:10:00 ID:Hw7b583Y
オドー生存または飯を食う時間があったらこっちだった。
結局はもう片方を投下したわけだが。

「よし、とりあえずメニューはこんなものね。」
紙にメニューを書き意気込む千鳥、その量はかなりのものだ。
「こんなに食べるんですか?」
「え、いや、その…ほら、どうせなら夜の分まで作っちゃお〜かな、みたいな。」
あは、あはははははと乾いた笑い声を漏らす。
本当はよく考えもしないで作ったなどと言えるはずがない。
「ああ、確かにいい考えですね。」
真意を知ってか知らずかしずくが同意する。
「よし、じゃあ早速始めましょうか!」
気合十分、腕を捲り上げながらかなめが言った。

彼女たちに料理を任せている間、宗介とオドーはこのゲームについて考えていた。
「軍曹、君は、君はこのゲームの規模についてどう思うかね。」
「はっ…このようなことを黙認させようとするならば
最低でも一つの国家規模、最悪の場合世界規模の組織が絡んでいる危険性が。」
そう言いながらも宗介は頭の中でこの考えを否定していた。
仮にそんな組織があるとしたらミスリルの情報網に必ず引っかかるはずである。
それに仮に隠しとうせたとしてもそもそもこの島にどうやってあれだけの人数を連れてくるのか、
目の前で死んだガウルンがどうしてこの島に来ていたのか、
彼の常識では計り知れない力が働いている気がする。
『魔法とでもいうのか…ナンセンスだ。』
彼はラムダドライバのことを思い出した、あの装置はまさに魔法のようだが
それでもまだ確実な理論のうえに成り立っているらしい、
その理論を理解できるものは限られているが。
「軍曹、君は、君は本当にそう思っているのかね?」
見抜いているかのようにオドーが言った。
「・・・・・」
宗介は沈黙する。
「軍曹、笑わずに、笑わずに聞いてくれ、
私はこのゲームの規模を世界を遥かに超えていると思っている。」
オドーが切り出した。
「と、申されますと?」
「一つの世界では収まらないのだよ。根拠は君と、君と私の世界の違いだ、
私の世界に君の言う《アームスレイブ》なるものは存在しないのだよ。
そしてこれはおそらくだが、君の世界に私のようなものは存在しないはずだ。」
「…肯定です。」
認めたくはないがといった調子で宗介が答えた。
「つまり、つまり我々はこれから未知の相手と闘わなければならないのだ、
彼女の前でやるのは気が引けるかもしれんが…敵と判断したら躊躇わず殺せ。
でないと我々は生き残ることは出来ん。」
冷たい響きの言葉が告げた。
「了解しました、サー。」
宗介も冷たく答える。
またカシムと呼ばれたあの頃に戻ることになるかもしれないと思いながら。
ちょうどそのときキッチンから千鳥としずくが現れた、手は料理で塞がっている。
「できたわよ〜、ほら、テーブルの上さっさと片付けて。」
「おお、こいつは、こいつは旨そうだ。」
この話は終わりといった感じでオドーはテーブルを片付けながら言う。
「まだキッチンにあるから持ってくるの手伝って。」
「分かった、軍曹、軍曹行くぞ。」
「ハッ!」
オドーの後に宗介がついていく、そんな二人を見て千鳥は
『なんだか、親子みたいね。』
とか思っていた。

12Make a Pledge to Survive その2:2005/04/28(木) 20:10:50 ID:Hw7b583Y
テーブルの上には料理が所狭しと並べられている。
それぞれのグラスにはオドーのみブランデー、他の3人のにはジンジャエールが入っている。
「大佐、よろしいのですか?このような状況でアルコールを摂取するのは…。」
宗介が言った、自分の仲間には酒飲みが多くそれをたしなめるのは彼の役目だった。
(ただテッサは彼が勘違いしているだけなのだが。)
「固いことを、固いことを言うな軍曹。
それにこうして皆と会えたのだ、こういう節目は酒に限る。」
オドーが言った、その言葉に宗介と千鳥はクルツのことを少し思い出した。
『もしクルツがここにいたら、奴も同じようなことを言っただろうな。』
少し悲しそうな目をした宗介を千鳥は見過ごさなかった。
「しずく、もう1つコップ取って。」
「え?はい。」
意図が分からないしずくだがコップを渡す。
そのコップに千鳥はブランデーを注いだ。
「これは誰の、誰のぶんだ?」
オドーが尋ねる。
「…私たちの友達に、酒と女が大好きな人がいたから…。」
千鳥が答える。
オドーとしずくもその意味を悟った。
「そうか…それは、それは済まなかった。」
「大丈夫よ、こういうの好きな人だったから、むしろもっと騒ぎましょう。」
千鳥が微笑みながら言った。
「自分もそう思います大佐、騒ぐほうがやつへの供養になるかと。」
宗介も同意する。
「そうか…では、我々の、我々の出会いと、
帰らぬ友に…必ず、必ず生き延びるという誓いをこめて、乾杯!」
カウンターの上に置かれたコップに向けて、皆がグラスを掲げた。

【C3/商店街/11:15】
【正義と自由の同盟】
残り88人

【相良宗介】
【状態】健康
【装備】ソーコムピストル、スローイングナイフ、コンバットナイフ
【道具】荷物一式、弾薬
【思考】大佐と合流しなければ。

【千鳥かなめ】
【状態】健康、精神面に少し傷
【装備】鉄パイプのようなもの(バイトでウィザード/団員の特殊装備)
【道具】荷物一式、食料の材料。
【思考】早くテッサと合流しなきゃ。


【しずく】
【状態】機能異常はないがセンサーが上手く働かない。
【装備】エスカリボルグ(撲殺天使ドクロちゃん)
【道具】荷物一式
【思考】BBと早く会いたい。

【オドー】
【状態】健康
【装備】アンチロックドブレード(戯言シリーズ))
【道具】荷物一式(支給品入り)
【思考】協力者を募る。知り合いとの合流。皆を守る。

13Make a Pledge to Survive  </b><font color=#FF0000>(wh6UNvl6)</font><b>:2005/04/28(木) 20:11:43 ID:Hw7b583Y
トリップ付け忘れてた。

14森の中、物部景の決意 </b><font color=#FF0000>(mruv2jXQ)</font><b>:2005/04/30(土) 00:22:02 ID:JdwCcAMg
 ラノベロワ最初のかぶり作品。
 まさか第一話とかぶるとは思わなんだ。
 

(……状況は厳しい)

 物部景は沈痛な面持ちでこの馬鹿馬鹿しい現実を受け入れた。
唇の端を強く噛みしめ、拳に力を込める。
 否応なく全身が緊張し、心臓の鼓動が速くなる。
 
 100人以上による殺し合い。

 ラリったジャンキーの戯言だってここまでぶっとんではいないだろう。
 人を殺せば殺人罪だ。
 現代日本でそのような催しを行うなど不可能以外の何物でもない。
 しかし、現在景がいる場所は日本ではなく、同様に殺人者を裁く法もない。
 あるのはただ冷酷な現実だけだ。

 荷物を渡され門をくぐると一瞬の酩酊感。
 酔いから醒めたときには既に森の中だった。
 その場で素早く確認した支給品はホルスターに入ったナイフだった。
 刀子に似た、薄い刃のナイフだ。
 頼りないちっぽけなナイフが、文字通り、景の生命線となる。
 胸の位置でホルスターを固定。
 ナイフを納め、景は移動を開始した。

15森の中、物部景の決意 </b><font color=#FF0000>(mruv2jXQ)</font><b>:2005/04/30(土) 00:22:46 ID:JdwCcAMg
 それから既に1時間が経つ。
 依然として辺りは鬱蒼とした森だ。
 木々が密集していて、例え昼間でも光はほとんど入らないだろう。
 足元には根が縦横無尽に這い回っており、足元に注意を払いながらも、景は何
度もつまずいていた。
 暗い視界と足場の悪さに苦労しながらも、身を低くして移動を続ける。

(他の参加者について。島の全体像。食料と水。行動の拠点。把握しなければな
らないことは多い……)

 歩きながらも思考は休めない。
 考えて考えて考えろ。
 自分に命じる。
 思考することこそが今の物部景の最大の武器だ。
 簡単に死ぬ気はない。自分に誰かを殺せるとも思えない。まずは落ち着ける場所
を探す。情報を整理する。全てはそれからだ。

16森の中、物部景の決意 </b><font color=#FF0000>(mruv2jXQ)</font><b>:2005/04/30(土) 00:24:06 ID:JdwCcAMg
 ふと。
 濃い緑の匂いに、あの王国を思い出す。
 そこから繋がる連想に、思わず足が止まる。

 もしカプセルがあったなら。
 もし《影》を使えたのなら。

 ……状況は、幾分マシになるだろう。
 《影》は幾多の悪魔持ちを葬ってきた最強の剣だ。
 景の手足のごとく動き、景の統制の下敵を討つ。
 例えこちらから他者を傷つける気はなくとも、襲い掛かってくる者はいるかもしれ
ない。身を守る武器として、《影》は、ナイフなどよりもはるかに頼れる存在だ。

「僕は……」
 景は止めていた足を再び動かした。
 無愛想に引き締められていた唇が、自然と笑みをつくる。
 胸の中に生まれたのは、わずかな寂しさを伴った、穏やかな感情だった。
  
 もう、夜の時間は終わったのだ。
 自分と傍若無人な幼馴染が、大勢の力を借りて閉会の幕引きをした。
 彼女は眠りにつき、カプセルは消え、自分もただの少年に戻った。
 
 だから。

「今ある力で、足掻くだけだ」
 もう一度、幼馴染の笑顔を見るために。
 
 静かに。力強く。
 景は東へと歩を進めた。

17森の中、物部景の決意 </b><font color=#FF0000>(mruv2jXQ)</font><b>:2005/04/30(土) 00:24:57 ID:JdwCcAMg
【残り117人】

【F-3/森林地帯/1日目・01:00】

【物部景@Dクラッカーズ】
[状態]:正常
[装備]:刀子に似た薄刃のナイフ
[道具]:なし
[思考]:落ち着ける場所を探す/東へ移動中

18名も無き黒幕さん:2005/05/01(日) 05:00:46 ID:vgwsycBk
没り投下。

 ミズー・ビアンカは眠っている。苦悶の表情を浮かべ、汗をかく。
 新庄はタオルで流れる汗を拭いてやり、一息つく。
 ……ガユスさん、大丈夫かなあ。
 咒式士、龍理使いと自称する彼は、自身の武器を入手しに行き、ここには居ない。
 ひとまず偵察の為に屋上に行くと言っていたから、安全なルートを確認したら戻ってくるはずだ。
 ……戻ってくるよね?
 まさか一人で向かったりはしないだろうと、新庄は思う。
 ガユスは聡い人間だ。ビルの中を移動するぐらいはともかく、単独で島を移動するような真似はしないだろう。
 現状で、自分達の最大の武器は“剣”だ。大概の攻撃を防ぐ事が出来、攻撃にも使える。
 が、実を言えばそれ以外に武器はない。
 隻眼の男が落としていったナイフはある。が、新庄は後衛砲手であるし、ガユスも近接戦は『それなりにこなせる』程度であるという。
 新庄はミズーの汗をぬぐった。
 赤髪の彼女こそが、三人の中で最も秀でた近接戦技能者だ。
 その彼女も、今は気絶している。
 新庄は困ったような表情でミズーの顔を見て、

19名も無き黒幕さん:2005/05/01(日) 05:01:39 ID:vgwsycBk
「死なない……よね?」
 一つ呟き、天井を見た。こちらを照らすのは蛍光灯の光だ。
 その光は弱く、頼りない。
「……はぁ……」
 息を吐いた瞬間、ミズーが動いた。
「っ!」
 跳ね起き、動きの結果で痛みを感じる。
 左肩の傷口を押さえてうつむくミズーに、
「ミズーさん!?」
「平気……」
 押し殺した声でミズーが言う。
 そのまま動きを止めて少しして、ミズーが傷口から手を放した。
 血のにじんだ包帯を見て、新庄は眉を寄せた。
「ごめんね。鎮痛剤とかあれば良かったんだけど、なくて」
「平気よ。大分、楽になってきたから」
 答えて、ミズーが周囲を見回した。視線の先を見て、新庄は言う。
「あ、ミズーさんが気絶してる間に、使えそうなもの集めたんだけど」
 床に毛布を敷いただけのミズーの寝床の周り、幾つもの物品が転がっている。
 缶詰。タオル。食器。斧。救急箱。ロープ。蝋燭。懐中電灯。マッチ。糸。輪ゴム。

20名も無き黒幕さん:2005/05/01(日) 05:02:48 ID:vgwsycBk
 色々とあるが、全てを持っていく事はできない。
 それらを見回す中、ミズーの視線がある箇所で止まった。
「……そこの斧は、どこから持ってきたの?」
「火事の時に使うみたい。武器にはならなくても、何かに使えるかと思って」
 新庄は意外に軽い手斧を持ち上げ、ミズーに手渡した。
 ミズーは右手でそれを受け取り、軽く振ってみる。
 すっぽ抜けた。
「あ」
「きゃっ」
 ミズーの手を離れた斧は縦回転の動きを持ちつつ新庄の横を通過。そのままドアへと向かう。
 と、ドアが開いた。入ってきたのは眼鏡の男。
「あー!」
 新庄の叫びに、ガユスが飛来してくる斧を視認した。
「おおおっ!?」
 全力で背を反らしたガユスの上、胴のあった部位を斧が旋廻して飛び去った。
 続いて響いたのは、刃が壁に突き刺さった鈍音。
 静まり返った室内、動くのはのろのろと体勢を元に戻すガユスだけだ。
 気まずい沈黙の中、ミズーが言った。
「……何処へ行っていたの? ガウス」
「ミズーさん、それ磁力」
「名前ぐらい覚えてくれ……」
 脱力してガユスはへたりこみ、新庄は溜息をついた。

21名も無き黒幕さん:2005/05/01(日) 05:04:31 ID:vgwsycBk
「……人の名前を覚えるのは苦手なのよ」
 気まずそうに、ミズー。ガユスは手を顔に被せ、
「てっきり、状況無視した寒い冗句かと思った」
「言わないわよ」
「ところで俺はガユスの弟のガユセです。いつも兄がお世話になっています」
「え、……そ、そうなの?」
「新庄、名簿を見てみなさい」
「新庄、ボケにボケで返すとは流石だな」
「からかわないでよっ!」
 軽く怒気をこめて叫ぶと、ガユセ(嘘)が両手をあげた。
「すまんすまん。新庄が純情だから、つい」
「それで、ガユス。何処へ行っていたの?」
 ミズーの問いに、ああ、とガユスは答えた。
「俺の魔杖剣と咒式弾……説明はしたよな? それがある場所が分かったんだ」
「えっと、この地図」
 新庄が手渡した地図にミズーはざっと目を通し、
「詳細な地図ね。数字は何?」
「最後の紙に、文字がある。それと対応してるらしい」
「……私の知っているものは、特にないわ」
 ミズーは地図を返し、言う。
「一人で取りに行ってきたの?」
「いいや。まずは屋上から道を確認しようと思って向かったんだが」
 そこでガユスは言葉を切り、なにやらジェスチャーをして、
「狙撃された。いや当たってないから心配しなくてもいい新庄」
「良かった……」
 新庄はほっと胸を撫で下ろす。
「弾の飛んできた方角から推測すると、東南のビルから狙撃してるみたいだ」
「なら、このビルを背にして動けば問題ないわね」
 ミズーの言葉にガユスが頷き、思い出したように口を開いた。
「言い忘れてたがこのビル、俺達の他にもう一人いるぞ」
「え? ……ど、どこに?」
「二階だ。どうも怪我をしてるらしい」
「じゃあ、助けに行かないと――」
「――放って置きましょう」
「……ミズーさん?」
 静かに放たれたミズーの言葉。
「わたしもガユスも怪我をしている。これ以上足手まといが増えても不利になるだけよ」
「ミズーに同意」
「なん、で……」
 何故、と新庄は思う。
 何故、そういう事を言うのか。
 何故、見棄てるのか。
「だ……駄目だよ! もしかしたら、ボクらの知り合いかもしれないし……」
「その可能性はあるけどな……」
 複雑な表情でガユスは呟く。
「――では、こうしましょう」
 顔色を曇らせる新庄に、ミズーが提案する。
「まず、会いましょう。誰の知り合いでもないのなら、包帯と消毒液でも渡して恩を売っておく。相手が信用できて同行したいと言うなら連れていく」
「そ――」
 それなら、と言おうとした時だ。
「――相手が襲ってきた時は?」
「!」
 新庄はガユスを見る。眼鏡の奥に覗く彼の瞳は、冗句を言っているものではなかった。
 新庄の動揺を無視して、ミズーは答えた。
「動けなくなるまで痛めつけるか、殺すか。どちらにせよ、武器を持っていたら奪う」
「二人とも……なんで、そんなこと……」
「新庄」
 新庄の額に指を突きつけ、ミズー。
「わたしを信用しないで」
「…………?」
「わたし達は元々赤の他人よ。互いのことを良く知らない。いつ裏切るかも分からない。だから、信用してはいけない」
「ミズー、さん……」
「今は協力している。でも、裏切るかもしれないのよ? わたしも、ガユスも」
「そうだな。咒式士を手放しで信用すると寿命が縮まる」
 口々に言う、二人。
 うつむき、唇を噛み、新庄は呟いた。
「……でも」
 でも、の言葉を皮切りに、言う。強く。
「ボクは、信じたいよ……!」


【B-3/ビル一階/1日目・09:10】

【ミズー・ビアンカ】
 [状態]:左腕は動かず。
 [装備]:グルカナイフ
 [道具]:デイバッグ(支給品一式、支給品の地図にアイテム名と場所がマーキングされています)
 [思考]:1.二階の人物との接触。2.フリウとの合流
【新庄・運切】
 [状態]:健康
 [装備]:蟲の紋章の剣  救急箱
 [道具]:デイバッグ(支給品一式、支給品の地図にアイテム名と場所がマーキングされています)  部屋で発見した詳細地図
 [思考]:1.二階の人物との接触 2.佐山達との合流 3.殺し合いをやめさせる
【ガユス・レヴィナ・ソレル】
 [状態]:右腿は治療済み。戦闘は無理。疲労。
 [装備]:リボルバー(弾数ゼロ) 知覚眼鏡(クルーク・ブリレ)
 [道具]:デイバッグ(支給品一式、支給品の地図にアイテム名と場所がマーキングされています)
 [思考]:二階の人物との接触。

《メッセージ:三人の信頼度があがりました》

22名も無き黒幕さん:2005/05/11(水) 00:20:13 ID:f.0Fr1Nk
天候を変化させようって案が出てたから、参加者に伝えるためじゃなくて
書き手さんに現在の天候を探しやすくするつもりで書いたもの。
主催者側が出るのは不味いので結局没ネタに。

気象精霊天気予報その1

ミリィ「ミリィ」
ユメミ「ユメミの」
二人『気象精霊的天気予報ー』
ミリィ「って、緊急出動で呼び出しといて何をやらせるのよ、まったく」
ユメミ「まぁまぁ。とりあえず、これからの天気をお知らせするねぇ」
ミリィ「一日目13:00から18:00まで、A-1からG-4の地域で豪雨でしょう」
ユメミ「この予報は100%的中するので皆注意してねぇ」
ミリィ「私達が操作するからね。……何をやってるの? ユメミ」
ユメミ「宴会の準備をするのぉ。新しい亜空間通路通って疲れたからぁ」

パコン!!

ユメミ「いったぁ〜!」
ミリィ「仕事が先! ほら、計算しといてね」
ユメミ「わかったわよぉ。でもぉ、お酒飲みながらでも別にいいよねぇ」
ミリィ「はいはい。参加者にケガさせないように注意してね」
ユメミ「それぐらいわかってるわよぉ」

ミリィ「それでは皆、頑張ってね」
ユメミ「頑張ってねぇ」

【1日目・13:00〜18:00の間、A-1からG-4の範囲が豪雨になります。】

23タイムアウト・ビースト(彼女の喪失):2005/05/15(日) 19:34:06 ID:9HUQQCw6
先を越されたんで投げ捨てとこう。


 D-1、公民館。
 そこの玄関の前に、二人はいた。
「ガユスさんは――」
「まだ来てないようね」
 新庄の言葉にミズーは言い、コンクリートの床に腰を下ろした。
 先の放送では。
「ガユスの名は、呼ばれなかった」
「うん……だから生きてる、よね」
「ええ。だから待ちましょう」
 うん、と新庄は頷いた。剣を下に置き、ミズーの隣に座り込んだ。



 この時、二人は自分達が疲労していた事に、気付いていなかった。
 ゆえに、二人の死角から近付いていた者に、気付いていなかった。
 それが、二人が道を違える原因となる事に、気付いていなかった。



 ――いつだって、その瞬間はこともなくおとずれる。
 その瞬間の始まりは、たった一つの鈍い音でしかない。
 “きゅぼっ”と音を立てた熱線が、新庄の肩をかすめた。
「な――」
 に、という声を発する前に、現れたのは。
「――待っていた――」
 手に銃を持った隻眼の男。建物の影から抜け出るように、その男は現れた。
 新庄は剣を拾おうと、ミズーは立ち上がり迎え撃とうと、それぞれ動く。
「この時を待っていた! ミズー・ビアンカ!」
 だがその動きは絶望的なまでに遅かった。
 男――ウルペンの拳はミズーが立ち上がるよりも早く新庄の頬を捉え、
「っ――!!」
 殴り飛ばした。
 地に殴り倒された新庄を見やることもせず、ウルペンは足元の剣を離れたところに蹴る。
 その時にはミズーの念糸が炭化銃に繋がれていて、

24タイムアウト・ビースト(彼女の喪失):2005/05/15(日) 19:35:45 ID:9HUQQCw6
「ウルペン!」
 名を呼ぶと同時に思念が流し込まれ、それより一瞬早く手放した炭化銃が宙で火球に変じた。
 舌打ちもせず、ウルペンは腰に差したナイフを手に取って構え、後ろに跳び退りながら念糸を紡ぐ。
 紡がれた念糸が自分に繋がれるのにも構わず、ミズーは斧を構えた。
(剣ではない……)
 斧。剣とは違う武器。形状的に見て、投げるに適しているとはいいがたい。だが、
(この距離――)
 知らない距離。必中を予感できず、まともに投げれるかどうかも判らない。だが、
(念糸の技量では)
 負けている。しかも既に念糸を繋がれ、一呼吸で水分を奪い取られる状態。だが、
「新庄は関係ないでしょう!?」
 殴り倒されて気絶したのか……気配が全くわからない少女の名を叫び、ミズーは右腕一本で斧を投擲した。
 横回転で投擲された斧は、当然の様にウルペンを仕留めなかった。
 だが容赦の無い金属の刃は、彼の右腕を斬り落としていった。
「お……!」
 鮮血が砂地を染め、繋がれていた念糸が消える。痛みで集中を失ったのだろう。
 ウルペンの――蒼白の顔がこちらを見据えた。声無く口を開き、搾り出すような叫びが来る。
「――無様な!」
 侮蔑するような、それは叫びだった。
 流れ出る血に構わず、ウルペンが駆け出した。どうしようもない、彼の憤怒が大気を満たす。
「俺の呼びかけに答えろミズー・ビアンカ! 俺の信じた確かたるものを――」
 彼の左手。血を浴びて黒ずんだ刃がある。誰かを殺したか、傷つけた刃が。
 それを、ウルペンは構えた。記憶にある――最後の、イムァシアの廃墟での構え。
「――確かであると、信じるために!」
 彼の言葉の一つ一つを受け止めて、ミズーは念糸を紡いだ。
 銀の糸が、炎の意志を持って伸びる。
 それよりも早く、刃は飛んだ。刺さる。
 鉄が肉を穿つ感覚。
 胸に突き立った刃を見て、ミズーは体温が冷めていくのを感じた。
「本当に無様だ、ミズー・ビアンカ」

25タイムアウト・ビースト(彼女の喪失):2005/05/15(日) 19:36:53 ID:9HUQQCw6
 ウルペンの声が飛んでくる。それは酷く――遠い場所のように感じられた。
 霞む視界が、下がる。膝をついたらしい。放った念糸は当然の様に消え失せている。
「二度目の最後。だが結果が違う、か。俺は泣かずに逝けたが……」
 声は、既に聞こえなかったのかもしれない。鐘の音が聞こえていたから。
 遠く、遥かな彼方でイムァシアの弔鐘が響く。
 胸に突き立つ刃に圧力がかかった。
 ウルペンが、刃の柄を踏んでいる。
「……お前はどうなのだろうな。あの娘の為に、泣くか?」
 あの娘。
 それが誰を指しているのか――フリウ・ハリスコー、マリオ・インディーゴの名前を順に思い浮かべて――ようやく思い出す。
 新庄・運切。
 薄れる意識を無理矢理に集め、彼女の事を思い出した。
 無力な少女だった。あの剣がなければ生き残ることなど到底無理なほどに。
 意思の強い少女だった。純真な少女だった。少年でもある少女だった。
(わたしが殺されたら……新庄は?)
 切れ切れの思考が、それを想像した。
 瞬間――
 獣が起きた。
「――あ」

26タイムアウト・ビースト(彼女の喪失):2005/05/15(日) 19:40:23 ID:9HUQQCw6
 ウルペンを跳ね飛ばし、ミズー・ビアンカは飛び起きた。
 跳ね飛ばされたウルペンが何かを喋る。だが聞こえない。
 胸に突き刺さっていた刃を引き抜き、右手で構える。
「ああああああああああっ!!」
 絶叫の響き渡った刹那、ミズーの手から刃が消えた。
 飛来という過程を無視したかのように、刃は――
「……獣か……」
 ウルペンの胸に刺さっている。
 音も無く、糸が切れた人形のように倒れる、男。
 敵が倒れても獣の時間は終わらない。
 痛み。出血。疲労。
 すべてを無視して獣となったミズーは動く。
 その視線の先には――

「ミズー、さん……?」

 顔に青痣を浮かべた、新庄・運切がいる。



この後、獣の瞬間状態のミズーは新庄に襲い掛かる。
新庄は蟲の紋章の剣の障壁で防ぐが、ミズーは無数の念糸を紡ぎ、障壁を作る“虫”の一匹一匹に繋げて焼却。
新庄に切りかかろうとした瞬間に意識が戻り、終わクロ1上の人狼のような死に様で死亡。
最期の台詞は「――いきなさい」。
あとは新庄とフリウを合流させて、新庄からフリウのミズーの遺髪を渡させるつもりだった。

ふー。すっきり。

27<管理者より削除>:<管理者より削除>
<管理者より削除>

28名も無き黒幕さん:2005/05/23(月) 14:58:52 ID:hNdeEao2
ミズ―に「私たちのルールを決めましょう」と言わせたかった…
ミズーをウルペンかフリウに会わせたかった
ミズーにギーアをあげたかった
ミズーにスィリーと会わせたかった
ミズーをオーフェン(以下略

29ムンク没ネタ ◆eUaeu3dols:2005/05/26(木) 01:19:24 ID:S9PygSVg
11時55分。
ピピピピピピピピピピ……
テッサがセットした携帯電話の素っ気ない目覚まし音が鳴り響くと、
シャナはパチリと目を覚まし、即座にベッドから身を起こした。
「……おはよう」
「あ、シャナさん……」
「あら、おはよう。寝起きが良いのね」
「寝てられるわけないじゃないっ!」
言葉の端に有った軽い言葉にシャナが噛みつく。
「……悪かったわ。茶化せる事ではないわね」
ダナティアは素直に謝罪した。
テッサは別人のように引き締まった顔で。
リナは何も感じない様子で待っていた。
正午の放送を。

シャナは内心で怯えていた。噛みついていなければ不安だった。
そう、寝ていられるわけが無い。
この島がどれだけ危険な場所かは6時間前に既に証明されている。
リナとテッサの死んだ知人、ゼロスやクルツの話など最たる物だ。
物理的器が仮初めの物でしかない、紅世の王の如き強大な魔族も。
ただの人間だが、精密無比な狙撃の腕を持つ戦いのプロフェッショナルも。
等しく死んだ。
この島の何処かで、6時間以上前に殺された。
ならば、坂井悠二が生き残っている保証など何処にも無い。
ダナティアから聞いた、アラストールがコキュートスから生存を確認した話も、
7時まで……既に5時間も前の話なのだ。
(だいじょうぶ。悠二なら、きっと……きっと!)
頑なに信じる。
彼は大丈夫だ。彼なら、大丈夫だ。
何の力も無いくせに、少し優れた目と機転、後は僅かの勇気だけで、
紅世の従の企みを見通し、圧倒的強者相手にも助けが来るまで凌いだ事がある、
坂井悠二ならきっと大丈夫だと信じようとする。

30ムンク没ネタ ◆eUaeu3dols:2005/05/26(木) 01:20:37 ID:S9PygSVg
リナは、そんなシャナを見て、ぽつりと呟いた。
「――人の死なんて、呆気ない物よ」
「!!」
打ち砕かれた。
たったそれだけ、その一言だけで。
「悠二は死んでない! 生きてる! きっと生き延びてる!」
「どうしてそう思うの?」
喪失感と嫉妬から来る苛立ちが、リナに少女を追い打ちさせる。
「悠二は……だって、悠二は……」
凄いから、と。
まだ未熟で、戦いになっても敵を倒せないだろうけど、時々凄いから。
彼よりずっと強い自分が、何度も助けられているから。
「あたしとガウリイは、元の世界じゃ魔王を倒した事も有ったわ」
唐突に、リナが言った。
「魔王は、強さで言えば薔薇十字騎士団の連中なんて相手にならない程に強かった。
魔王の配下でも彼らよりずっと強かった。
この刻印みたいに、発動するだけで死ぬ仕掛けを組み込まれた事も有った。
それでも、幸運も有ってだけれど、あたしもガウリイもそれらに打ち勝った」
「………………」
話している内に、沸々とリナの心の奥底から鬱屈した感情が湧きだしてきた。
なのに……自分が憎んでいるのか、それとも悲しんでいるのかすら判らなかった。
「そんなに激しい戦いを続けてきたのに。
……あたしが見た死は、どれもこれも呆気ない物ばかりだったわ」
「……言うな。話すな」
自らの中に封印されていた魔王を目覚めさせてしまったルーク。
彼が堕ちたのは、彼の仲間で、あたしとガウリイのような関係だった女性が死んだから。
その死は、彼女はそれまで戦ってきた敵に比べればとてもちっぽけで、
傷を負った時にもまだ助かると、助けられると思っていた。
「人は、前兆すら無く唐突に、呆気なく死ぬわ」
「言うなぁ!!」
シャナにも判っていた。そもそも、坂井悠二は“人ですら無い”のだから。
体内に蔵された秘宝“零時迷子”を奪われれば、それだけで細り消え去るトーチだから。

31ムンク没ネタ ◆eUaeu3dols:2005/05/26(木) 01:22:13 ID:S9PygSVg
この後に放送が来て、リナが静かに虚無感に包まれたりする他、
リナの暴走を危惧して釘を刺すダナティア、
リナとシャナで確執少々、それらにテッサを幾らか絡めて、という話だった。
4人娘の心理描写を重視したお話。
移動まで組み込むつもりが無かったし、そもそもまだ書き始め状態だったし、
◆Sf10UnKI5Aさん爽やかにGJですよ〜。

32アマワ黒幕化計画:2005/06/20(月) 22:13:16 ID:TU177Bgk
 ……新庄君。
 胸中の呟きに応えるように、眼前の少女は一つの動作を行った。
 抱擁をねだるように、両腕を開いたのだ。
「――――」
 佐山は目を細め、胸に手指を突き立て、彼女に歩み寄り、
「――不愉快な物真似はやめたまえ」
 腹に蹴りを入れた。
 かは、と息をついて身を崩した“それ”を、佐山は再度蹴りつける。蹴り足に込める力は容赦のないものだ。
 声と瞳に冷徹さを乗せ、佐山は言う。
「私以外の者が新庄君の姿形を真似て良いと思っているのかね? ――肖像権の侵害だよそれは」
「新庄・運切は奪われた」
 “それ”の姿が歪んだ。歪み、たわみ、広がり、縮み、既知であり、そして未知である姿を取る。
 “それ”が言葉を放つ。指向性なく放たれる音は、どこから響いているのか判別不能だ。
「奪われたのなら……私が使っても問題はあるまい?」
 胸の軋みを無理矢理に押さえ込み。
「――君は、何だね?」
 佐山は問いを発した。声音に込める意思は敵意に他ならない。
 “それ”は答えた。
「私は御遣いだ。これは御遣いの言葉だ」
「御遣い? 何の遣いかね?」
 隠せぬ苛立ちを怒気へと変え、佐山は声を放つ。
「証明だ……証明してみせろ」
「何を」
 “それ”は答えた。簡潔に。
「心の実在を」
 “それ”の言葉はもはや、己のうちから響いているようだった――どこから聞こえるのか、“それ”が実在するのかすら分からない。
 違和感を感じつつ、声を出す。
「それに答える代償は何かね?」
「新庄・運切を返そう」
「……彼女は死んだよ。私の知らぬ間に、私の知らぬ所で、私の知らぬ者の手によって」
「君は彼女の死を証明できない。ならば彼女は死んでいない」
「言葉遊びだ。ならば言おう。この場には君と私しかいない。私は君を認識しない。ならば君は存在しない」
「先ほどの不恰好な物真似を、かね? ――不要だよ。それは新庄君ではない」
「確かに君の言うように、新庄君が生きている、という可能性はある。だがね、私は聞いたのだよ。――彼女の死と、彼女の言葉を」
「今ならば判る。“吊られ男”君には感謝をせねばならないね」
「然るべき行動には然るべき代価を」
 一息。
「それが交渉だ」
「去るがいい、私の知らぬ者よ。――私は君を必要しない。君とは契約できない」

33◇E1UswHhuQc:2005/06/20(月) 22:16:13 ID:TU177Bgk
というわけでとりあえず佐山vsアマワとかやってみて投げ。

真っ当な思考回路をしてる自分にはこんなキのつく連中は書けませんでした。まる。

34名も無き黒幕さん:2005/07/16(土) 14:27:13 ID:gze6IUQc
 ハック神父が、「放置されてる食料をいただくだけでも神の教えに反する」
 と考える人になったっぽいので没。 


 気絶から立ち直った後、ハックルボーン神父は、城の厨房に向かった。
 栄養補給は活動の基本だ。おろそかにしては、神の愛を充分に伝えきれない。
 厨房の中からは、幾つかの食材に混じって、パンと葡萄酒が出てきた。
(もう二度と、私が負けるわけにはいかない)
 神に祈りを捧げた瞬間、神父の全身から七色の聖光がほとばしった。
(神よ、感謝します)
 それを受けたパンと葡萄酒は……祝聖されていく、聖別されていく。
 聖なるパンは神の体であり、聖なる葡萄酒は神の血だ。
 神父は大きく口を開け、迅速に聖餐をたいらげた。
(これで準備は万端)
 穏やかな微笑みを浮かべながら、彼は外を目指して歩きだした。

35合わせ鏡の物語〜悠二の章〜完結編:2005/07/22(金) 19:47:05 ID:x0jj.buk
あちゃあ。後一日おいてから試験投下に落とそうと思ってたら先越されてるや。
と、言うわけで没ネタの方に落とします。
内容としては神野は詠子を手伝わないことの確認。
神野が異界議論の結果に異界発生時の効果を変える。
詠子ロワ内に戻るといった話。
悠二を出す必要性0だけどすぐ死んじゃうからいいかなと。

36合わせ鏡の物語〜悠二の章〜完結編 1/7:2005/07/22(金) 19:47:55 ID:x0jj.buk
 進路を決めると後は動くだけ。
 坂井悠二は慎重に歩を進める。
 ただ、先ほどから体がおかしい。眩暈がする。時々物が二重に見える。
 それは水の煌き。研磨され鏡のような石。そして水面。
 自身の変化に戸惑い小さな水溜りの側に座りこむ。
「どうなってるんだろう。僕の体は」
 悠二は考え込む。先ほどの制限の解除の影響だろうか。
 いや、それでも二重に見えるのは特定の物。その特徴はなんだろうか。
 水の煌き。研磨され鏡のような石。そして水面……
「まさか……鏡?」
 脳裏に浮かぶは合わせ鏡の物語。鏡、鏡……水鏡……
「異界の形成が始まっているのか? 何故僕に見える? まだ2日目になってないのに」
 あの話と内容が違う。何故……いや、僕が物語を拾ったのはどこだった?
 そのときに拾った物はなんだった?
「水……ペットボトルの水」
 ガラスの剣を水で洗った時血の落ちが異様に早かった。
 そしてかすかな鉄錆の匂い。これが意味することは、あの水に何かが入っていたということ。
「この現象は、あの水に……血が混ざっていたのか……?」
 ふと水面を見る。そこは相変わらず二重に見え、
 平衡感覚が歪むような強烈な眩暈を襲われて目の前の景色が"ぐにゃり"と歪んだ。
        
「うぁ…………」

 動けない、体が傾く。

 ぱしゃ!

 意外に軽い音を残して底の浅いはずの水溜りに悠二は沈み込んだ。

 ――鏡は死者の国につながっている

 その脳裏には物語の一文を浮かべながら。

37合わせ鏡の物語〜悠二の章〜完結編 2/7:2005/07/22(金) 19:48:51 ID:x0jj.buk
「……ここはどこだ」
 気がつくと悠二は見知らぬ建物の前にいた。
 確か強烈な眩暈がして、水溜まりに落ちて
「これは……灯台?」
 しかし何かがおかしい。まるで左右が反転しているような……
「ここは……まさか異界」
 悠二の声は驚きを表す。しかし心はただただ冷静に、さざ波すら立たない。
 そう、それはまるで自分が危険な状態にいるときのように冷静だった。
「異界……自分を自分で認識しなくてはならない世界。僕は……」
 悠二は自分という存在を認識する。その行為はすでに慣れたものだった。
 悠二は存在の力を感得している。自分という存在を自分だけで認識することは難しくなかった。
 自分という存在を落ち着け、次に悠二は気配を感じ取ろうとする。
「灯台の上に誰かいるのか?」
 零時迷子が自分以外の誰かの存在を感じ取る。
「よし、行こう」
 異界について知っておく必要がある。そしてそこにいるのが誰かはなんとなく分かってもいた。

 そこには一人の女性がいた。その様子は落ち着いていて、そして童女の無垢さを持っていた。
 その女性は唄を詠う。その唄は合わせ鏡の物語。その唄を詠い続ける。

38合わせ鏡の物語〜悠二の章〜完結編 3/7:2005/07/22(金) 19:50:06 ID:x0jj.buk
 その様子は日常という場所であるならただの唄に聞こえただろう。
 ただ、この場、この雰囲気においてはただ違和感だけが生じている。
 悠二がその様子をただ見、聞いている。悠二は詠い終えるのを待っていた。
 女性は詠い終わる。そしてなんともなしに女性は振り向く。
「こんにちは、今は"道しるべ"君……かな」
「あなたが、十叶詠子さんですね」
「うん。そうだよ。私からの招待状、受け取ってくれたんだね」
「物語の事? それとも水の事?」
「物語は異界の招待状。水は魔女になるための補助教材かな」
「そっか。だから僕はここに来れたんだね」
「やっぱりできそこないになるのはかわいそうだからね。良かった、あなたは魔女になれたんだね」
 二人はこの異界においてまるで日常会話と同じように話す。その会話の内容は異常に満ちていたが。
 しかし二人は気軽な日常会話のように話している。
「僕は魔女なのかな。ま、元から人間じゃなかったけど」
「"道しるべ"君は自分の物語を持ってる"人"だよ。
君は、君と関わった人たちを導くの。まるで灯台の灯りのようにね」
「そうだね……今僕はこの異界に皆を導こうとしてる。この世界から脱出するために。
君はどう思う? できると思うかな」
「それは言えないかな。この世界皆の"必然"は私の"必然"に影響してしまうから」
「そっか、それじゃしょうがないか。それで皆を呼ぶ準備は終わったのかな?」
「うーん。こっち側でやることは終わったよ。後は皆に招待状を配るだけ」
「少し安心したよ」
 異界発生の準備が終わった事を悠二は理解する。これで脱出の希望が繋がる。そう悠二は考える。
 だが、次の詠子の言葉の意味を悠二は理解できなかった。
「ただ『彼』が介入するかもしれないの」
「『彼』?」
だれがこの異界に介入などできるのか。その思いが悠二に疑問を放たせた。
「挨拶ぐらいはしてもいいんじゃないかなあ。ね」
 しかし自分以外に誰かに掛けられた言葉に、さらに意味を捉えかね悠二は首を捻る。

39合わせ鏡の物語〜悠二の章〜完結編 4/7:2005/07/22(金) 19:50:49 ID:x0jj.buk
 その問いに"闇"が答えた。
「それぐらいはいいだろうな」
「こんにちは」
 それは悠二の鋭い感覚において『負の方向性』として伝わった。
 恐ろしいほどの圧迫感に悠二は思わず身をすくめる。
「……あ、あなたは?」
「神野陰之。君には『負の方向性』に見えるのかな」
「……」
 喉が掠れる。これ以上の声が出せない。ただその巨大な『負の方向性』に圧倒され、
今は自分を自分として存在することだけで精一杯だった。
 そんな中、詠子は全く調子が変わらない。ただ事実を確認する。
「邪魔するのかな」
「望まれれば」
「そうだね」
 たったそれだけの会話。これだけで今は彼らは協力関係にないことを確認する。
「本当は残念なんだけどねえ」
本当に、純粋に残念そうに詠子は言う。そしてその口調のまま詠子は告げる。
「これで、さよならだね」
「さようなら"魔女"よ」
 そして神野は消える。その強烈な存在感を残して……

40合わせ鏡の物語〜悠二の章〜完結編 5/7:2005/07/22(金) 19:51:31 ID:x0jj.buk
「"道しるべ"君、大丈夫かな?」
「うん、もう大丈夫」
 詠子の調子は変わらない。神野にあの『負の方向性』に相対しても変わらない詠子の様子に、
悠二は彼女が狂人であることを認識することになる。
 ただ、自分も少しずつおかしくなっていくのかもしれない。
 この世界にいるということはそういうことなのだろう。
 後ろ向きな思考を振り払い、悠二は今やるべきことを確認する。
「そろそろ僕は戻ろうかな。探さないといけない人もいるし」
「そっか。私も戻らないとね。いつまでもここにいたら『彼』に失礼だよね」
 そう言って詠子は無邪気に微笑みを見せる。
 詠子の微笑みにつられ悠二も微笑み、そして現界に戻るため後ろを向く。
「あ、そうだ。一つおまじないしてあげる。ちょっといいかな」
 その戻ろうとする悠二の背中に詠子は何気なく呼び掛ける。
「え、うん。いいけど」
 悠二が返事をしながら振り向くと、すでに詠子は目の前にいた。

 悠二の頭に温かい物が絡みつく。
「え、ちょっと」
 少しだけ動揺する悠二に構わず、まるで母親が子供にするように優しく抱きしめながら詠子は詠う。

   身は大地に縛られる
   魂は鏡に縛られる
   心は何にも縛られず
   願いを叶えに道示す

 詠子は優しさに満ちた声で詠う。異界において違和感を感じるほどに。
(……アタタカイ)
 その唄を聴きながら、悠二は温かさと共にまどろみ意識が闇に落ちた。

41合わせ鏡の物語〜悠二の章〜完結編 6/7:2005/07/22(金) 19:52:15 ID:x0jj.buk
「あれ、ここは……」
 そこは灯台の頂上。そこで悠二は目を覚ます。
「ああ、僕は異界から還ってきたのか」
 すでに周りには詠子はいない。眩暈も治まり普通に動くこともできる。もう大丈夫だろう。
「早く港に行かないとな」
 悠二はふと外を見る。そこに詠子の後ろ姿が見えた気がした。
 数秒後、悠二は外に出るため視線を戻す。

 悠二は灯台に括り付けられた反射鏡に字を見つけ、それをなんともなしに読んでいく。

 そこには全ての"鏡"の怪談が血色で描かれていた――――



【A-7/灯台頂上/1日目・13:55】
灯台の頂上に全ての鏡に関する怪談が描かれています。

【坂井悠二】
[状態]:健康(感染)/制限並程度に緩和
[装備]:狙撃銃PSG-1、水晶の剣(オフレッサーの遺留品)
[道具]:デイパック(支給品一式、地下水脈の地図 (かなり劣化)、
保存食10食分、茶1000ml、眠気覚ましガム、メロンパン数個)
[思考]:1.シャナ、長門の捜索。2.異界に耐性ある人に物語を知らせる。3.北回りに港C-8に移動
[備考]:悠二のMAP裏に零時迷子のこと及び力の制限に対する推論が書いてある。
ただし、制限の推論が正しいかは不明。
IAI製缶詰はC-3のスーパーの奥に放置されました。
水晶の剣が、魔女の水により洗い浄めらた事による影響の有る無しは不明。
制限が他の参加者と同程度に緩和され、感知能力がある程度復活しました。

42合わせ鏡の物語〜悠二の章〜完結編 7/7:2005/07/22(金) 19:53:23 ID:x0jj.buk
【十叶詠子】
[状態]:健康
[装備]:魔女の短剣、『物語』を記した幾枚かの紙片
[道具]:デイパック(支給品一式、食料が若干減)
[思考]:多くの人をさかしまの異界に連れて行く。

おまじないは特に意味を設定してません。(この後、悠二死にますし)
悠二についてはクビキリロマンチストに続きます。



ふー。すっきりした。

43名も無き黒幕さん:2005/08/02(火) 00:11:22 ID:1GtPWHOs
クエロが起きる前に贖罪者マグナスをこっそり返して弾丸だけ調べた事にして……
という方向で書いていたが、問題点に気づいて軌道修正。
……クリーオウの前で剣と弾丸を調べるって宣ってたし。
修正するだけだから今の所は没ネタではないけど、ここに書き捨て。

44レインボウ・ビーム(溶ける身体):2005/08/03(水) 18:37:13 ID:RNzazAXc
 というわけで、傷ついたウルペンに草でできた獣が巻き付いていた。
 その全身が彼の疲労を喰らい、空気中へと逃がしていく。
「ふむ? 草精霊とでもいうのか。愛らしいものだ」
 鼻先に触れると、その物体は草の感触に反して本物の獣のように体を揺らす。
 その姿を見、ウルペンは帝都での己の生活を振り返る。
 郊外の一軒家。貞淑で美しい妻。
 幸福と言っても決して大げさではあるまい。だが付け加えるならば、
「あとはこの愛らしいペットが居れば完璧ではないか……!」
 その激しい思いは炎に似ていた。身体の隅々に飛び火し、延焼していく。
 草の獣を小脇に抱えて喜びのあまり野原を駆け回ろうとすると、
「やくそく! やくそく!」
「……何?」
 獣が喋った。これが獣の瞬間というものだろうか。
(違う。まあ、どうということもないが)
 そう一人ごちると、2匹に増殖した草の獣が再び言葉を発した。
「やくそく! はじめてのやくそく!」
 4匹に増え、8匹に増え、16、32、飛んで256匹によって約束の一語が輪唱される。
 約束。契約。未来精霊との契約。未来から放たれた言葉は必ず果たされる。( ゚д゚)アマワー。
「――約束などという言葉は、もはや皮肉にしか聞こえんな!」
 ウルペンの目から七色の念糸が飛び出した!
「やくそqあwせdrftgyふじこlp」
 それを受けた草の獣たちの身体は…溶けていく、溶けていく。

【ウルペン】
[状態]:七色
[装備]:なし
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:( ゚д゚)アマワー


ごめん。

45足なんて飾りです:2005/08/24(水) 22:52:16 ID:9PeVQCyI
なっちゃん撃退→商店街で休憩→人の居るところへ→公民館だ!

公民館のドアがゆっくりと開いた。
中にいた全員──臨也、子荻、ガユス、ベリアルがはっと振り向いた。
ゆっくりと開いたドアから全てを閉める言葉が響いてきた。
 オヒラキ
「閉塞にきたぜ──策士」

間髪いれずに子荻のライフルが火を噴いた。その冷静な顔は恐怖で固まっていた。
ライフル弾は微妙なところで軌道を逸れ、哀川潤近くの壁に突き刺さった。
「今宵の超絶勇者剣は血に飢えているぞ…!」
彼女は初速800Mにも達するライフル弾を刀で軌道をそらしたのだ。
「あ──」
ここは公民館の部屋。窓はあるが自分より哀川潤が近い。逃げ場はない。自分の無策に絶望した。
子荻は信じられないような顔をして再度撃った撃った撃った弾かれた弾かれた弾かれた。
撃って撃って撃って撃って撃って撃って撃って撃って撃って撃って撃って撃って
撃って撃って撃って撃って撃って撃って狂って狂って狂って狂って狂って狂って──
そんなに弾は無かったため、実際は僅か数発で弾切れを起こしたのだがそれでも彼女はボルトアクションを繰り返していた。
「な、なんやあのねーちゃんは」
「……そんな……ありえません。こんな、死に掛けのはずなのに、戯言です。
 策は無くとも、この位置から弾くなんて、想定外です──最悪です」
「どうした? もう終わりかよ」
その言葉と共に哀川潤の仲間が入ってきた。
アイザック、ミリア、シロを抱いた高里、そしてフリウ。
フリウとベリアル、あとガユスの視線が合った。

46足なんて飾りです:2005/08/24(水) 22:52:56 ID:9PeVQCyI
「あ──」
「あかん!」
咄嗟に鬼火を作り出し、哀川潤の視界を遮る。
同時にベリアルは窓を突き破り逃げ出していた。
(なんであの鬼ッ子が──!)
近くにいたら今度こそ殺される。振り向かず呼吸も忘れて走り去った。
「待──」
「待ってくれ。君はフリウだな?」
ガユスがフリウに話しかける。
「ミズーの言葉を伝えたい」
「ミ…ズーの?」
「おいそこのメガネと優男、てめぇらは『乗った』のか?」
哀川潤が臨也とガユスに問いかける。
こっちに好奇心を抱いたような視線を送りつつ首を横に振る臨也。
「いや、俺はこのフリウの知り合いのミズーって人に世話になった。彼女の意志は尊重したい」
「そうかそうか──どうした策士。てめぇは人を駒のように使うんだろ? こいつらは駒を降りたぞ。
 てめぇの策なんて精々理屈常識だ。30秒やるから逃げてみろよ──策を使って、な」
「──っ!」
「カウント始めるぞ。ああお前ら出口開けろ。あとてめぇらあたしの仲間に手ぇ出したら殺すからな。いーち、にーい」
萩原子荻は逃げ出していた。外に、地図は持ってきている。デイパックにはまだライフル弾が入っている。
逃がした事を後悔させてやる。いったん隠れて、罠を仕掛け、今度こそ眉間を打ち抜く。走っているが公民館からは大声が聞こえてくる。
「じゅーご! じゅーろく! 飽きてきたな。やや飛ばしてにじゅーなな!」
走った。走った。走った。隠れ場所を。身を完全に隠せてある程度スペースがあり逃げ道が多数確保できるところ。
そう考えを巡らした瞬間地面とキスしていた。
足先の感覚がない。見ると石が──一抱えほどの石が足を潰していた。

47足なんて飾りです:2005/08/24(水) 22:53:38 ID:9PeVQCyI
そんな。
ひどい。
理不尽だ。
私は。
策など。
通用しない。
相手がいることを。
ようやく理解した。
目が白くなってくる。
最後に聞こえた言葉はこうだった。<諦めずにもがいて見せろ>

はっと起きた。
生きている。しかし場所が移動させられている。
コンパスと地図と周囲の景色を見る。おそらく──D-3.
何で哀川潤が殺さなかったのか。その理由はすぐ分かった。
いま14:58分。禁止エリアまで後二分。
少し先に学校が見えている。あと少し走れれば抜けられる──
何で足が動かないのだろう。

【萩原子荻 死亡】

48まえがき:2005/09/10(土) 17:25:05 ID:2SF39t2A
 ドクロちゃんの六巻を読んでいるうちにどうしても夜仮面が書きたくなったので
ちょいとネタとして書いてみました。
 勿論、桜くんはラノロワに参加していないので、おもいっきり『もしも』の話になりますが、
どうしても読んでほしかったので没ネタスレに投下します。
 『おもしろかった』『つまらなかった』『こんなんいくら没ネタだからって投下するんじゃねぇ』『氏ね』
 などなど、なんでもいいので感想をいただけると幸いです。

49夜の支配者:2005/09/10(土) 17:26:50 ID:2SF39t2A
上げてしまったスマソ

放たれた弾丸は、一直線にドクロちゃんへと向かいます。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ドクロちゃん!!」
 
 その瞬間、僕の中で何かが弾けました。

〈ボスッ! ボスボスッ!〉
 その凶悪な鉛の玉は、何か白いものに阻まれドクロちゃんまで届きません。
「なっ!?」
 弾丸を撃った張本人である少年は、ソレをみて驚愕の声を上げました。その白いものとは――
「ふ、布団?」
 そう、床に敷き詰められていた幾枚もの布団たちが、まるで要塞のゴトク、ドクロちゃんを包み込んでいたのです。
「――布団隠れ・零式……」
 声と共に部屋を覆っていた硝煙が晴れ、積み重なっていた布団がバサバサッと地に落ちます。
 そしてその向こうに現れたのは、驚愕に目を見開くドクロちゃんと――
「桜、くん?」
「ノー」
 そう答えたのはアイマスクをつけた一人の紳士。その名も――
「アイム、夜仮面」
「夜仮面様っ!!」
 彼――夜仮面はドクロちゃんににっこりと笑って見せました。

50夜の支配者:2005/09/10(土) 17:28:08 ID:2SF39t2A
「夜……仮面?」
「そう――」
 夜仮面はビッと少年を見据え、シュババッ! とスキなく構えます。
「布団の上なら常勝無敗――!!」
 そう、今の僕は、
「夜の帝王〈ばっ! しゅばばばっ!〉“夜仮面”! 寝ない子、だれだ!?」
 今、布団の上に舞い降りた一人の紳士、“夜仮面”。
 彼の姿に一瞬動揺したものの、少年は「チッ」と舌打ちし夜仮面に銃を向けます。しかし――
「遅いッ!」
 夜仮面が床に落ちた枕を拾うほうが一瞬早く、
「喰らえっ!『夜ブゥゥゥゥメランッ!!』」
 そして一瞬早いまま、その手の枕を投げました。
 放たれた純白の枕は吸い込まれるように少年の手に当たり、彼の銃を弾きながら後方へと流れていきます。

51夜の支配者:2005/09/10(土) 17:29:33 ID:2SF39t2A
ッ――!!」
 しかし少年も、その程度では怯みません。腰からナイフを引き抜き、夜仮面へと走りました。
 少年は一瞬にして夜仮面へと近づき――――しかしそこまででした。
 後方から、速度を数倍に加速させて帰ってきた『夜ブーメラン』が少年の右肩にクリーンヒット! 彼を地に這わせたからです。
「今だ! ドクロちゃん逃げて――」
 夜仮面は後ろを振り向いて言いましたが、しかし彼女は消えていて、窓の外には全力で走るドクロちゃんの姿が。
「――ってもう逃げてる!? は、薄情者―――――!!!」
 叫ぶ夜仮面。しかし下からの殺気を感じ取り“夜神経超融合”〈ブレイク〉を発動、間一髪で弾丸を避けます。
「チッ!」
 ホルスターから新しい拳銃を引き抜いていた少年は起き上がりながら後ろへと下がります。
「なかなかやるじゃないか……」
 殺意をみなぎらせる少年に、夜仮面は不敵な笑みを浮かべて言いました。
「本気を出さなくてはいけないようだなッ!!」
 夜仮面は吼え、姿勢を低くします。
 彼の覚悟を悟ったのか、少年も銃口を夜仮面へと向けます。
「行くぞ!! 奥義――」
 少年が発砲。
 同時に、夜仮面が爆発的なスタートダッシュをきりました。
「ミッドナイト・パーティ!!」
 弾丸が床に着弾、床を抉り木の粉を撒き散らす頃にはもう、夜仮面はそこにいません。

52夜の支配者:2005/09/10(土) 17:31:41 ID:2SF39t2A
 漆黒の“夜オーラ”を纏った夜仮面を止めることは、もはや誰にもできません。彼が超高速で部屋を駆け巡ると、そこに異変が生じます。その異変とは、
「なっ! 竜巻!?」
 少年が叫びますが、時すでに遅し。巻き起こった夜色の竜巻は敷き布団を、枕を、少年を、掛け布団を次々と宙に巻き上げました。
 部屋の中で散々暴れまわった竜巻は徐々に小さくなってゆき、順番に落ちてくる敷布団、枕、少年、掛け布団。
 そこで少年は自分の置かれている状況に気付きます。
「!!」
 そう、少年は布団の中で寝る寸前の状態にされていたのです。
「フフッ “おやすみなさい”(ゲーテナハト)、少年」
 呟き、夜仮面は窓の外へと消えていきました。
 残されたのは少年一人のみ。
 しかしその少年も、布団のあまりの気持ちよさに、そのうち静かな寝息を立て始めました。

 そのとき一階の植え込みに、二階だったのを忘れて窓から飛び降りた僕が気絶していたのは、また別のお話。

53名も無き黒幕さん:2005/09/11(日) 00:50:57 ID:4X8OOs9Q
>>48-52
GJ。個人的には面白く読ませてもらった。
ただこれ、敵の少年って誰? 最初はキノかと思ったけど違うっぽいし。

54名も無き黒幕さん:2005/09/17(土) 21:20:50 ID:iqg/Nvbc
グランドワロスw

>53
自分もキノだと思っていたが…違うのか?

55名も無き黒幕さん:2005/09/21(水) 20:58:31 ID:fmBZ14cE
本企画では全体的にドクロちゃんが不憫だよな。
ぜんぜん撲殺してねえ!

56名も無き黒幕さん:2005/09/27(火) 18:19:57 ID:ylx2tbwg
ドクロちゃんが活躍できないのはギャグ路線だからだと思われ
手刀で鉄を切り裂く、水鉄砲で岩を砕くetcとかかなり強いんだけどな

57名も無き黒幕さん:2005/10/22(土) 12:45:31 ID:RB9CPqq.
小ネタか毒吐きか没ネタか、どこに書くか迷ったがここに。

佐山が悠二の死体からPSG−1を回収しててくれれば、
銃口でもってベルガーを交渉の場に着かせられたのになあ。
前の話で完全否定されちゃったし。

58名も無き黒幕さん:2005/10/22(土) 15:52:02 ID:aE2NJB4s
佐山の目的を考えればあれで正解。
銃で始めた交渉は、銃でしか決着しないぞ。

59守る力と救う力:2005/10/25(火) 12:05:39 ID:Z8LiZ8TM
 平和島静雄の肉体には異常がある。
 本来なら抑制されるはずの『力』が、どういうわけか無制限に出てしまうのだ。
 彼は己を制御できなかった。激怒した瞬間に、自分の筋力を抑えきれなくなった。
必要以上の、限界に達するほどの『力』が発揮され、彼自身の体が真っ先に壊れた。
 怒りを爆発させるたび、彼の体は何度も壊れた。繰り返される破壊と再生の中で、
やがて静雄の肉体は、彼の生き方に合わせて成長の仕方を変化させていった。
 強固で強力で強靱な、池袋最強の体が作りあげられた。
 それでも静雄は、自分の『力』が嫌いで嫌いで仕方なかった。
 彼の『力』は多くの相手を恐怖させる。静雄自身、自分の『力』に怯えていた。
 様々な人間が、彼のそばから離れていった。守りたかった相手が去り、好きだった
相手が去り、わずかな例外を除いて、たくさんの人々が彼の前からいなくなった。
 故に彼は、自分の存在を心底から認めることができず、苦悩していたのだった。
 だが、その忌まわしい『力』は今、大事な友人を守るために必要なものとなった。
 ただ嬉しくてたまらなくて、静雄は満面の笑みを浮かべる。

60守る力と救う力:2005/10/25(火) 12:06:28 ID:Z8LiZ8TM
 城の外に出た静雄は、腹から抜いた神鉄如意を杖がわりにして道を歩いていた。
 大怪我をしている上に血が足りないので、ゆっくりとしか移動できない。
 腕時計の針は12:05を指している。まだ城門からほとんど離れられていなかった。
 周囲は草原で、見通しがいい。ところどころに幾つか岩があるが、数は多くない。
 幸か不幸か、静雄の視界内に人影は見えなかった。
 ずれてきたサングラスを元の位置に押し上げ、額の汗を拭いながら静雄は思う。
(万が一あの赤毛野郎がセルティと会っちまったら、何の根拠もないくせにセルティを
 襲うような気がするな)
 一言も喋らずヘルメットを外さない黒ずくめのライダー。それが普段のセルティだ。
一見しただけでは、危険な不審人物だと思われても不思議ではない。
 実際にはヘルメットまで奪われてしまっているので、大概の参加者が誤解しそうな
外見になってしまっているわけだが、そこまで詳しく静雄は知らない。
(セルティのことだから、『顔を見せろ』って言われたら馬鹿正直にヘルメット取って
 自分がデュラハンだってバラしちまうかもしれねえ。『きっと話せば解ってくれる』
 なんて呑気に考えてるとしたら、ちょっと危ないかもな。正義の味方にでもなった
 つもりのバカが相手なら、何か勘違いしてケンカ売ってきそうじゃねえか?)
 この場にセルティがいれば、『私の心配をしている場合か!』と反論するだろう。
静雄の腹に穿たれた傷は深い。このままでは、そう遠くないうちに間違いなく死ぬ。
(市街地には人が集まってくるはずだ。当然、情報も集めやすいよな)
 まずはセルティと合流した方がいい、と静雄は判断した。
 今から港町へ向かい、C-6の小市街を経由し、道に沿って都市部へ行く予定らしい。
 静雄は宣言するように、決意を込めてつぶやいた。
「とりあえず襲ってくる奴は殺す。それを邪魔する奴も殺す。ついでに臨也も殺す」
「待て、哀れな迷える子羊よ」
 言った途端に、誰かが背後から現れた。
「あぁ?」
 こめかみに血管を浮かべて静雄が振り返ると、そこには傷だらけの巨漢がいた。
 静雄よりも少し遅れて目を覚まし、彼を追ってきたハックルボーン神父だ。

61守る力と救う力:2005/10/25(火) 12:07:35 ID:Z8LiZ8TM
「さぁ、安らかに眠るがいい。その魂、この拳で天上へ送り届けよう」
 全身が怪我だらけなのに、神父は微笑している。実に楽しげな殺害予告だった。
 救うべき罪人を発見できた喜びで、ついつい頬が緩んでしまっているらしい。
(神よ、感謝します)
 ハックルボーン神父は、思わず聖歌を口ずさみたくなるくらい上機嫌だ。
 静雄と神父の視線が交錯する。今にも二人の中間で火花が散りそうな雰囲気だ。
「おいおい、おっさんよぉー。手前、今さりげなく万死に値すること口走ったよな?」
 穏やかな口調で笑いながら静雄は言う。しかし、鋭い視線が殺意を表現していた。
 沸点は低いが冷めるのも早い――静雄はそういう怒り方をする。どんなに怒っても、
ちょっと気が変わればどうでもよくなる。例外といえば、せいぜい折原臨也が何かした
ときくらいだろう。けれど、冷めるのが早くても沸点は低いのだった。改めてケンカを
売られれば、改めて怒るし改めて暴れる。
「そうか、リターンマッチがお望みか。そうかそうか、殺す」
 いつ昏倒してもおかしくない怪我人だという自覚は、一瞬で吹っ飛んだようだ。
「恐れることはない。神はすべてを赦される」
 厳かな声で語りかけながら、神父は拳に力を込める。もう既に臨戦態勢だ。
「なんで手前はそんなに偉そうなんだ? 『自分は絶対に正しい』って顔しやがって。
 何様だ? 何様のつもりだ? 救世主気取りか? ああ?」
 静雄が神鉄如意を構える。再び興奮状態になったせいで、また痛覚が麻痺している。
「神を疑うなかれ。神は常に正しい。そして、神の愛を伝えることこそ私の使命」
 平然と答える神父を見て、静雄の怒りは溶岩のように煮えたぎっていった。
「なあ、おっさん。俺は暴力なんか使わずに生きていたかったんだ。それなのにこんな
 ふざけた『ゲーム』に巻き込まれるし、手前らバカ野郎どもが俺を怒らせやがるし、
 この刻印とかいうのがある限り『さぁ殺し合え』とか言ってる連中を殺そうとしても
 先に俺が殺されるし、そう考えたら滅茶苦茶ムシャクシャしてきてなぁー。とにかく
 今から手前は殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す……!」
 神父は優しげな笑顔のまま、鬼のような形相の静雄を凝視している。
「私は救いたい。この島で苦しんでいる者たちも、この殺し合いを企てた者たちも」
「意味不明なこと語ってんじゃねえぇぇぇっ!」
 静雄と神父の第二回戦が始まった。

62守る力と救う力:2005/10/25(火) 12:08:32 ID:Z8LiZ8TM
 ハックルボーン神父の肉体には異常がある。
 痛みや苦しみを感じることが彼にはできなかった。そのように生まれついていた。
 苦痛を感じない体質であるが故に、他人の苦痛を理解することなく彼は成長した。
十人以上の人々を惨殺したのは、あるいはそれを理解するためだったのかもしれない。
 十三人目を殺したとき、奇跡が起きた。昇天していく魂と同調した彼は、神を見た。
歓喜の涙を流しながら、己のすべてを神に捧げようと彼は決心した。
 それ以来、ハックルボーンは神と人々のために尽くしてきた。
 過酷な鍛錬は聖職者のたしなみ。脆弱な肉体では神の愛を伝えきれない。
 彼が苦痛を感じるのは、救うべき者を昇天させながら同調する、そのときだけだ。
 ハックルボーンは廃教会を修繕し、聖書をひもとき、一日も欠かさず朝晩にミサを
行った。訪れる者の悩みを聴き、彼らのために祈り、彼らを苦痛から解放した。
 ハックルボーン神父は、超弩級聖人の称号に相応しい信仰心を持っている。
 先刻、神父は己の未熟を恥じ、今度こそ皆を救ってみせると神に誓った。
 万人に神の救いを。それこそが神父の願いだった。

63守る力と救う力:2005/10/25(火) 12:09:21 ID:Z8LiZ8TM
 戦闘開始と同時に神父が動いた。一瞬の間に、静止状態から全力疾走してみせる。
傷だらけの巨躯が、砲弾のごとく猛然と静雄に突っ込んでいく。
 対する静雄は、大槍を軽々と持ち上げ、両手で横方向に一閃した。神鉄如意の穂先が
地面と水平に弧を描く。何故か一本足打法だった。
「!」
 とっさに足を止めた神父めがけて、神鉄如意が飛んでくる。静雄の腕力と遠心力で
勢いよく放り投げられた大槍は、熊でも殺せそうな威力を想像させた。
「……!」
 神父は躊躇なく回避を選んだ。急な制動で崩れていた体勢を利用し、背中から地面に
倒れ込む。神父の鼻先を凶器が通過し、大槍の生んだ風が神父の顔をなでた。
 神鉄如意は城壁まで飛んでいって突き刺さり、後には素手の二人だけが残った。
 大の字に寝ていた神父が素速く起きあがる。その間、静雄の追撃はなかった。
 静雄は左手で腹を押さえ、片膝をついて神父を睨んでいる。呼吸が荒く顔色が悪い。
脂汗が頬を伝い、顎の先から落ちる。怪我人が無茶をすれば反動が凄まじくて当然だ。
痛みを無視して動けても、傷が消えてなくなるわけではない。
「ちっくしょおおおおおおおおおッ!」
 失われた体力を気力で補おうとするかのように、大音声で静雄が叫ぶ。弱った体に
力がみなぎっていく様子を、静雄は必死に想像する。
(まだだ、まだ俺は立てる! こんなところで終わってたまるかぁぁぁッ!)
 死相の出た顔の中で、見開かれた目だけが生命力に満ちあふれている。
(あのとき私が救っていたならば、あのような苦痛を味わわせずに済んでいた)
 自責の念に表情を曇らせながら、神父は再び説得を試みる。
「迷う必要はない。どんな悪人であろうとも、神は分け隔てなく愛してくださる」
 力が抜けていくことより、手足が震えることより、その言葉が静雄を苛立たせた。
「俺も、臨也も、同じくらいに、か? あの赤毛野郎や、手前と、同じくらいに、か?
 そんな、ふざけた愛なんざ、誰が、欲しがるかよ!」
 呼吸が乱れ、声が途切れがちになる。けれども静雄は闘志を捨てない。
 神父は悲しげにかぶりを振り、眉間にしわを寄せて、両の拳を強く握った。
(愛を疑い、救いを拒むか。なんと哀れな……今すぐにでも救わねばなるまい)

64守る力と救う力:2005/10/25(火) 12:10:07 ID:Z8LiZ8TM
 捨て身の反撃を警戒しつつ、神父は猪のごとく走りだす。
 その動きを目で追うが、静雄は動けない。動くことができない。
 うずくまる静雄の姿を見据え、神父が弔詞を唱えて駆ける。
「あなたに――」
 間合いに入るまで、あと三歩。
「神の――」
 拳が頭に届くまで、あと二歩。
「祝福あれ!」
 死が確定するまで、あと一歩。
「ああああッ!」
 立った。静雄が立った。
 神父の拳がまばゆく光る。静雄を救えと響いて唸る。
 聖光は静雄のサングラスに遮られ、目潰しにならなかった。
 反射神経と動体視力を駆使して、静雄は左拳を突き出す。
 神父の拳が静雄の拳に打ち払われた。
 左拳を引き戻すと同時に静雄は一歩前進し、右拳を放つ。狙う場所は、神父の顎。
「っ」
 静雄の拳が神父の頭突きで迎撃された。
 一歩後退した神父が、半身に構えて腰を落とす。体当たりをするための挙動だ。
 しかし、そのときには静雄が一歩前進しており、神父の肩に蹴りを入れていた。
「!」
 神父の体勢が崩れる。ほんのわずかに隙が生まれた。
 静雄の平衡感覚が一瞬だけ狂い、連続するはずだった蹴りが微妙に遅れる。
 今度の蹴りは、軌道上に腕を差し出され、受け止められた。
 蹴りの衝撃によって、二人の距離が遠ざかる。
 両者が呼吸を整え、再び身構えるまでに一秒が経過。
 静雄が瞬時に突進し、神父の腹に拳を叩き込む。技でも何でもない、ただの殴打だ。
だが、それで充分に強い。普通の人間に直撃させれば、悶絶か失神かの二者択一だ。
 静雄が神父よりも重傷でなければ、この時点で静雄の勝ちだったはずだ。
 神父は両腕を振り上げていた。両の掌が固く組み合わされ、鉄槌のように落下する。
攻撃されながらの反撃だった。避けられるだけの余裕が静雄にはない。
 聖光効果が残像の尾を引き、神聖和音に続いて、鈍く重い音が鳴る。

65守る力と救う力:2005/10/25(火) 12:11:15 ID:Z8LiZ8TM
 静雄の頭上で交差された両腕に阻まれ、神父の一撃は止まっていた。
「あぁぁああぁぁぁあぁぁあああぁあぁぁあ――――ッ!」
 静雄の咆哮が大気を鳴動させる。靴が地面にめり込むほどの大打撃を、池袋最強の
体が堪えきった。けれど両腕からは痺れが消えない。拳の打撃力が半減した。
 静雄は全身の筋力を使い、神父の両手を跳ね上げる。酷使された四肢が悲鳴をあげる
ように震え、再び片膝をつく。揺れる腕には、まだ力が戻らない。
(こんな程度か? これくらいのことで死ぬような奴なのか俺は? ああ!?)
 神父が蹴りを連発する。草原の上を転がって、静雄は靴の裏をかわし続ける。
(違うだろ!? まだまだ俺には、やり残したことがあるだろうがよぉー!)
 異様に凹んだ足跡が、歪な点線を大地に穿っていく。どの蹴りも致命的な破壊力だ。
足音に重なって、聖なる光と音が発生している。
 痺れた両腕を無理矢理に動かして、腹筋に開いた穴から血を滲ませながら、静雄は
全力で立ちあがった。
 神父の拳が、聖光効果と神聖和音を撒き散らしながら静雄を狙う。
 静雄が背後に跳躍し、着地した直後に右後ろへ、さらに左後ろへと退いていく。
(ちッ! こんな痺れた腕じゃ殴っても効きゃしねえし、蹴りは隙がデカすぎる!)
 跳躍。空振り。跳躍。空振り。跳躍。空振り。
 光と音によって周囲が浄化され、戦場は清らかな空気に包まれた。無駄に爽やかだ。
(ああくそ、何かねえのか!? この状況をどうにかできる何かは!?)
 そのとき静雄の視界の隅に、求めていた物が見えた。
 何の変哲もない岩だ。高さは成人男性の腰くらいだろうか。かなり硬そうに見えた。
 静雄が岩を見て口の端で笑い、怪我人だとは思えない勢いで移動し、高く跳んだ。
「!」
 岩を踏み台にした跳び蹴りが、神父の顔面に命中する。
 動きの止まった神父の胴を、着地した静雄が抱え込んだ。
「うおりゃぁぁぁぁぁッ!」
 静雄は神父を、岩に向かって自分ごと押し倒す。
「「…………!」」
 神父の額と、静雄の脳天が、硬そうな岩に激突した。

66守る力と救う力:2005/10/25(火) 12:11:57 ID:Z8LiZ8TM
 空は青く、雲は白く、倒れた二人は動かない。そんな時間が過ぎていった。
 やがて、かすかに神父が揺れる。無造作に神父を押しのけて、静雄が嘆息した。
いくら静雄とはいえ非常に疲れたのか、這いずるように身を起こし、岩にもたれて
空と雲を眺める。脳天から血が流れていて、後頭部を赤く染めていた。
 ふと思い出したように、静雄は足元の巨躯を一瞥し、面倒くさそうにつぶやく。
「……このおっさん、どうするかな」
 神父は生きていた。気絶しているだけで、怪我が全体的に増えた以外は変化もない。
 今ここで殺しておいた方が世のため人のためになりそうな雰囲気ではある。
(でも、ひょっとして殺しても死なないんじゃねえか……?)
 確かに、尋常な生物ではないような気配がしないでもない存在だった。
(だとしたら試すだけ時間の無駄だな。また襲ってきたなら、また殴り倒しゃいいか)
 友人にデュラハンがいたりすると、未知の生命体くらいでは驚かなくなるらしい。
 静雄は大きく深呼吸し、怪我の痛みに顔をしかめながら立った。
「セルティを探しに行かねえとな」
 そう言って道の方へ歩きだそうとして、静雄は意識を失った。

 そして、神父が目覚めたときにはもう、平和島静雄は息絶えていた。
(神よ……私は、彼を救うことができませんでした……)
 膝をつき、両手を組んで神父は懺悔した。聖罰によって古傷から血が噴き出す。
(もう二度と、誰かを救えぬまま死なせたりはしない)
 静雄の亡骸を前にして、神父は無力な己に怒り、救えなかった魂を哀れんで泣いた。
「万人に神の救いを」
 誓いの言葉は、以前よりも重く大きく響いた。


【037 平和島静雄 死亡】
【残り ??人】

67守る力と救う力:2005/10/25(火) 12:18:13 ID:Z8LiZ8TM
【G-5/北西部の草原/1日目・13:00頃】

【ハックルボーン神父】
[状態]:全身に打撲・擦過傷多数、額から出血
[装備]:なし
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:万人に神の救い(誰かに殺される前に自分の手で昇天させる)を

※神父はこの後「421:神将と神父の閃舞」を経て「422:死色の抱擁」で死亡します。
※城門付近の城壁に宝具『神鉄如意』が突き刺さっていますが、神父は回収しなかった
 と思われます。上記の2話では、神父が宝具『神鉄如意』を持たずに戦っています。
※静雄の死体と荷物(支給品一式と山百合会のロザリオ)は放置されています。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
以上、静雄が神父と戦って死ぬ話でした。静雄が神父に殺される話ではないつもりです。
『「俺の神父TUEEEEEEEE!」な話にならないよう書いた上で静雄を死なせること』が
目的だったと言って、信じてもらえるかどうか……それだけが気になります。

68名も無き黒幕さん:2005/10/25(火) 17:04:51 ID:.P5ml7Hc
>>59-67
お疲れ様。上手いと思いますよ、GJ!
「ブラッドジャケット」も「デュラララ!」もよく読み込んでるのが伝わってきますし、
キャラらしさを活かした描写もできてて面白い。

真に惜しむらくは、書き上がりが遅かったことだけですね。残念。

69名も無き黒幕さん:2005/10/25(火) 18:34:35 ID:RB9CPqq.
>67
>以上、静雄が神父と戦って死ぬ話でした。静雄が神父に殺される話ではないつもりです。
>『「俺の神父TUEEEEEEEE!」な話にならないよう書いた上で静雄を死なせること』が
>目的だったと言って、信じてもらえるかどうか……それだけが気になります。

そういうこと言うと、『所詮展開ありきじゃん』とか言われますよ。黙ってるが吉。
俺も経験者なんで。

70タイトル無し:2005/10/27(木) 00:26:08 ID:ZVgXzSyo
「えー、これから書き手の皆さんにはメフィストを殺しあってもらいまーす」

それを聞かされたメフィストの刻印から、七色の光線が飛び出した!
メフィストの体が、溶けてゆく、溶けてゆく…………

71名も無き黒幕さん:2005/10/27(木) 16:25:34 ID:J1I4idLA
>>70
どこで笑えばいいのかさっぱりわからんのだが。

72名も無き黒幕さん:2005/10/28(金) 13:22:57 ID:ebISFUiE
教会やらかなめやらの没ネタ。
ライトすぎるかなーと思って考えてる間にあの投下が来た。

1:メフィスト達、宗介をふんじばって教会へと向かう
2:美姫に出会い、捕虜交換に来たのだとのたまうダナティア。
  敵対者であり仲間であるテッサの死の一員となった宗介より、
  千鳥かなめの方を選ぶのは当然だろうという建前。
  美姫は最初は交換する理由は無いというが、宗介の首とならどうかと返す。
  宗介もそれが認められるならそれで頼むと言う。
  首五つの約束は最早不可能、俺の首一つでかなめを手放してくれと。
  美姫笑い、宗介を前に出すように言い、かなめも前に出す。吸血衝動を強めて。
3:美姫はこの時点で如何なる結果に終わろうと手放すつもり。
  メフィスト達はいざとなったらメフィストが美姫を、終がアシュラムを牽制し、
  ダナティアが止めるという算段をする。
  かなめが自害しようとする事でそれが実現しなくても美姫が満足するのを狙う。
4:かなめ、吸血衝動に苦しむ。宗介、血を与えようとする。
  かなめ、それを止めようと苦心する。
  美姫、おまえの生はもはやその衝動から逃れられないという。
  死ねば、という思考に流れそうになるも……
5:かなめ、自分の腕に牙を突き立てる。
  どっちかなんてふざけないでと言い放つ。
  美姫は笑い、ならばこの島でその生き方を証明してみせよと言う。

…………という、ネタ段階だったネタを埋葬。

73名も無き黒幕さん:2005/10/30(日) 03:10:48 ID:JJoUko3U
72の人と同じように没にした話の供養。
同じようにとは言うが、プロット見た限りでは72のほうが面白そう。「ライトすぎる」というほどのことはなかったと思うのですが

アシュラム対ギギナ(第二稿 仮題「竜殺したちの剣舞」)
1.城を後にしたギギナ、戦う相手を求めて港町方面へ向かう。
  罠を回避しつつとおりがかかった教会でアシュラム発見。
  アシュラム「……魂砕きか……」
  ギギナ「おまえの剣か? これは」
  アシュラム「かつて、それを振るっていたこともあったが……それだけのことだ」
2.アシュラムに対し、自分と戦うことを要求するギギナ。
  「オレの役目は主を守ること。貴様との戦いに興味など無い」
  「なら、無理にでも理由を作ってやる。貴様を倒した後、“主”とやらにこの刃を向けると言えばどうだ?」
  ヒルルカと荷物をその場に置き、魂砕きを大地に突き刺して突進するギギナ。
3.第一ラウンド開始。
  ほぼ互角の戦いを演じるアシュラムとギギナ。
  しかし、身体能力のおよび武器の練度の差(青龍刀ではね……)でアシュラムが徐々に追い詰められていく。
  横薙ぎの一撃をかわし、間合いを詰めてとどめをさそうとするギギナ。
  その一撃が届く前に石突で相手を突いて距離を再びとろうとするアシュラム。
  なにを思ったか、ギギナは後方に跳躍し魂砕きをアシュラムに向かって投げつける。
  そのあまりにも(人間として)非常識な攻撃をぎりぎり避け損ね、左腕にかすり傷を負うアシュラム。
  魂砕きの効果が洗脳の解除につながり、一瞬隙のできるアシュラム。
  しかし、ギギナは攻撃をしてこない。それをいぶかるアシュラム。
  「……何のつもりだ」
  「このままではつまらないからな。その剣を取れ」
  「……いいだろう」
  アシュラムの戦意再燃。
4.第二ラウンド開始。
  当然、身体能力の差は埋まりようが無いし、屠竜刀を手にしたギギナにはがある。
  一方のアシュラムも影纏い+魂砕きの最強装備。独力ではないが最強の幻獣にして魔獣たる老竜や古竜を葬ってきた。
  互いに振るう一撃一撃が必殺の威力を持っている。それをかわしつつ戦闘は続いていく。
  フェイントの後、再び横薙ぎの一撃をかけるアシュラム。
  第一ラウンドと同様にそれをぎりぎりで回避し、止めを刺すつもりのギギナ。
  しかし、アシュラムの攻撃の鋭さは前回以上。完全な回避は無理とはいえ、致命傷にはならないとばかりにそれを体で受け止める。
  たしかに、肉を裂いた一撃は内臓には達しないかったが、ギギナの精神に衝撃を与えて気力を消耗させる。
  振り下ろす太刀筋がわずかに鈍る。
  生じた隙に魂砕きを振りぬいたまま右肩からタックルするアシュラム。まともにそれを受けて倒れるギギナ。
  漆黒の大剣が風を切り裂いてギギナの首に迫り……そこで止まる。

74名も無き黒幕さん:2005/10/30(日) 03:11:53 ID:JJoUko3U
5.「何をしている。止めを刺せ」
  「この剣は魂砕きとよばれている」
  「それがどうした。嬲る気か、貴様」
  噛み付くギギナ。苦笑するアシュラム。
  「そんなつもりはないのだがな……刃を受けてその由来は分かっただろう」
  「何が言いたい」
  「礼だよ。この剣の効果を知った上でもう一度戦う機会をやろう。これで五分のはずだ。ただし……」
  時間をおいて、と言おうとしたアシュラムの目の前でギギナの傷が回復していく。
  「私の準備は万全だ」
  「失われた気力まで回復できたとは思えんな。それに、オレにも都合がある」
  どうしても先に決着をつけたい相手がいることを説明するアシュラム。
  ギギナはごねるが、誇りをかけて誓わせることで一応納得しヒルルカを連れてその場を去る。
6.六時。地下への階段を下りていくアシュラムがいた。
  その手には魔神王の剣にして、その不滅の魂すらをも破壊した漆黒の魔剣が握られている。
  『誇りか……今のオレにはそのかけらも残ってはいないが、約束は果たそう。それまで生きていられたならな』
  『だが、その前にあの女と決着をつける。そうしなければオレはどこにも行くことができない』
  『……これもまた、あの女への“礼”かもな』
  もし、美姫と、そしてあの銀髪の剣士と戦い、それでなお生き残れたとして自分はどこへ行くのか。
  答えは無い。しかし、生きている限りは敗者ではない。
  身に纏う影よりも、手にした刃よりも、その髪よりもなお暗い闇の中へとアシュラムは進んでいく。

  了

この後、美姫戦。それで生き残れば同じ場所でギギナ戦。それまでにピロテースとの“再会”があってもいい。

ここの多くの人は反対意見をお持ちのようですが、「王達の聖戦」を再読した限りでは
僕は、アシュラムの腑抜け状態はパーンとの戦いや女性陣の説得でしか解消できないとは思っていません。
その性質も「過去と向き合うのが怖い」という類のものではなく目的を見失っているだけと解釈しました。
そんなわけで、試験投下してみて反応を見ようともくろんでいたのですが、何故か図書館でされ竜が人気で予約してもなかなかまわってこない。
もたついている間にギギナがネトレーを拾ってしまうわ、オーフェンと一緒に行動しそうになるわ。
とどめに最近投下された話で
1.「六時」のタイムリミットを過ぎてしまった。
2.アシュラムに対する解釈が違いすぎて後に続けようとしても不自然になる。
3.ギギナとオーフェンが分かれた直後でないとギギナがここにくるのが不自然すぎる。
4.魔界都市もフルメタも未読なのでその後に責任が持てなさ過ぎる。
というわけで完全に没。さらば幻の四作目、三作目とともに眠るがいい。
ああ、嘆くべきはエントリー作品に対する自分の未読率の高さと時間の無さと遅筆さ加減よ。剛力招来風雲児でも何でもいいやい。

取り乱したようで、失礼。
もっとも、この自分の文章力ではどっちにしろ試験投下どまりだったんでしょうけれど

75名も無き黒幕さん:2005/10/30(日) 03:29:14 ID:JJoUko3U
没ネタに修正を出すのもむなしいけれど
>74の「ギギナにはがある」の「は」と「が」の間に入るのは咒式。
書けない理由のもう一つに「咒式を使用した戦闘を書けるか不安」というのもありました。

76後継者に愚神を天の御遣いに語り部を:2005/11/18(金) 23:38:23 ID:qP3EC.QQ
 俺はオーフェン。隣に飛んでるのはスィリー。
 なんだかよく分からんが、開始して面倒な奴や面倒な奴や面倒な奴をやり過ごして、いまこの倉庫っぽい建物の前に居る。
 まぁ長く生きてれば死にそうな目にあったりすることも有るだろう。それが人生だ。
 そんな事より今はクリーオウを探しているんだ。
 さっきギギナと出会って協力を約束してもらったものの安心できるわけが無い。
 捜索を再開して近くの倉庫に来たわけだ。
 しかしねぇ。何十人も死んでるのに、クリーオウが1人だけで生き残れるとも思わんが。
 考えるに、何人かの徒党を組んでて、そこに組み込まれているのではないか。
 とは思うものの、特にその徒党の場所に心当たりが無いのでとりあえず城に来た。
「ここか……なんか所々へこんでないか?」
「うむ。人間という奴はとかく権力を形で表そうとする。それもまた人生。
権力が大きいものは奇抜で大きなものを作ろうとするわけだな。
要するに人間の人生なんて蜂の一生とあまり変わらん」
 とりあえずスィリーを近くにあった蜂の巣に投げつけた。途中で戻ってきたが。ちっ。
 中に入る。霧の湿気を十分に含んだ生ぬるい空気があたりを漂っている。雨に濡れた肌は少し寒い。
 と、いうかなんというか。
「どこのアホが室内で焚き火をしたんだ?」
「暗闇を恐怖したものを例え自分の部屋にさえ放火する。
未知への恐怖で死ぬより炎で焼かれ死ぬことを選ぶわけだ。
そんなことでその想像力のない馬鹿者の死体はどこだ?」
 知らねぇよ。
 それにしても無茶をする。まるであの。ボ、ボボ、ボル──なんだっけか?
 そう。ドーチンの兄を思い出す。そうかアイツの仕業か。あの福ダヌキめ。空気まで汚染しやがって。借金に追加しておいてやる。
 しかし真ん中で燻っている焚き火跡以外異常は無さそうだ。誰かいた証拠だが。
 とりあえず辺りが薄暗いので鬼火を出す。

77後継者に愚神を天の御遣いに語り部を:2005/11/18(金) 23:39:07 ID:qP3EC.QQ
「……我は生む小さき精霊」
「む? なんだ? 精霊使いか?
まず挨拶をせねばな。いや俺がではなくその精霊が俺に」
「黙れ」
 スィリーに冷たい返事を返すと俺は無言で倉庫内を探索しだした。
 見るからに散らかってる。まるでクマが争ったようだ。主柱にヒビまで入っている。
「いないな」
「探し人がそう簡単に見つかっては存在理由に関わるだろう。
見つかってしまった探し人はもはや探し人では無くなるのだ」
「そうかよ」
 ため息をつく。この精霊はいつまで憑いてくるつもりだろうか。
──ぴぴるぴるぴる
「ん? なんか言ったかスィリー」
「かなり無口なほうのこの俺が無駄口を叩くと思うのか」
 でも今変な擬音が──
「ぴぴるぴー───っ!」
 その瞬間俺の視界は暗転した。足元がいきなり吹き飛んだのだ。
 空中を二回点半捻りで回っている間はやたら昔の事が思い出された。
 そういえば走馬灯を見るのも何度目かな…とかなんで俺はトトカンタのノリなんだろうな…とか考える時間すらあった。
 それでも構成を思い浮かべるのはトトカンタでの異常な経験のおかげだろうか。
「我は跳ぶ天の銀嶺っ!」
 綺麗に正座の姿勢で着地。すると目の前に大穴が空いていた。ぽっかりと。
 正座したまま眺めていると大穴からバット、手、わっか、顔の順で少女が這い上がってきた。
「あれぇ? お兄さんなにしてるの?」
「……人生について色々と考えたいことがあるので休ませてくれないか」

78後継者に愚神を天の御遣いに語り部を:2005/11/18(金) 23:39:53 ID:qP3EC.QQ
 少女は首をかしげて頬に指をやり、いいよと答えた。
 俺はその場にぐったりとうつ伏せになり、地面についた額の冷たさを感じていた。
「このお兄さんどうしたの?」
「若者も人生を考える時期に為ったのだろう。まさしくモラトリアム」
「疲れたんだったら、ボクが目をぱっちりさせてあげるよ!」
 むくり。起き上がった。
 目の前にはバットを構えた少女。ありがとう常日頃の経験。
「なぁんとなく性質は分かったけど、あえて聞こう。君は誰だ」
「ボクは三塚井ドクロ! 天使なの!」
「嘘だが」
「嘘同盟か」
 スィリーが付けたし俺が補足する。
「違ぁうもん! ボクちゃんした天使だもん! そういうお兄さんは何なの!」
「俺はオーフェン。魔術士だ」
「嘘?」
「嘘同盟だな」
 ドクロが付けたしスィリーが補足する。なんかむかつく。
「じゃあお兄さん手品やって見せて。ボクは天使の力で同じ事するから」
「手品──ってまぁいいけどよ。我は放つ光の白刃」
 熱衝撃波が近くのガラクタを打ち砕く。
 ドクロも違うガラクタの近くに立ちバットを構える。

79後継者に愚神を天の御遣いに語り部を:2005/11/18(金) 23:40:57 ID:qP3EC.QQ

 ぴぴるぴるぴるぴぴるぴ〜♪

 轟音を出してガラクタを近くの柱ごと無数の破片に分解。埃が立ち上りドクロは親指を立てて笑顔を見せる。
「ほらほら、ボクだって天使なんだから──」
「我は癒す斜陽の傷痕」
 俺の壊したガラクタが組み合わさって元の形を作る。
 ドクロはむっとした顔になり、再びバットを構えた。

 ぴぴるぴるぴるぴぴるぴ〜♪

 おが屑のレベルまで分解された木片が一箇所に集まり、形を作っていく。
 構成は特に見えなかった。じゃあ魔術じゃないってことだが。
「──なんだこりゃ」
 出来上がったのはそこら辺に居そうな少年が、胸に大穴を空けて天を仰いでいる木像だった。
 ちなみに元のガラクタはハンガーと掃除機を合体変形させたような、どこかで見たことのあるものだったが。
「あれ?」
「出来てないが」
「何だこれは。超進化か? 超進化なのか?」
「そうだった! ボク、エスカリボルグが無いと上手くいかないの。お兄さん、ボクのバット知らない?」
 エスカリボルグ? しずくが持ってたバットの名前だったか?
 ……場所を教えていいものか。迂闊に信用するってのもな。
 いや、あのバットだけ俺が預かっとけば特に危険じゃない──か? 宮野はやたら尊大そうだったが、結構場慣れしていた。
 意味不明な所はあるが、敵対しているわけでも無い。というか俺に憑いてこられても困る。

80後継者に愚神を天の御遣いに語り部を:2005/11/18(金) 23:41:50 ID:qP3EC.QQ
「なんでバットを探すんだ?」
「そこにバットがあるからだよ!」
 意思疎通失敗。しかし慣れている。
 ため息を一つ吐き話しかける。
「……そのバットを俺にくれればエスカリ何某とやらの場所を教えてやらんことも無い」
「          ぃぃょ」
「なんだその間はっ!」
 渋々といった体で釘バットを渡してくる。
 ずしっとしたかなり重いバットだ。こんなもん片手で振り回してたのかよ。
 とりあえず武器は押収。デイパックも持ってないようだし、服にも小型武器を隠せるスペースは無さそうだ。
 これで大丈夫だろと思い、宮野たちの場所としずくが持ってることを教えてやる。
「じゃあ代わりにこれ持って行っていい? なんて名前なの?」
 ドクロがスィリーを掴んで俺に問いかけた。天使だ。
「名前という概念が曖昧になってきつつあるとか感じた秋の午後。
スィリーなどと呼ばれたりもするが好きに呼ぶがよい」
「じゃあ脳漿丸!」
「スィリーって名前気に入ってんだ。いや本当に。というか精霊権が無視されているような。強制連行か?」
 ダッシュで倉庫から出て行った。あーりーがーとー、とドップラー効果で遠ざかりながら。
 ……まぁなんとなくキースみたいな雰囲気の奴だったから心配要らないだろう。何とでも為るタイプだ。
 スィリーが居なくなっただけマシだと思おう。あと武器も手に入ったし。
「思ったより重いけど、バランスがいいな」
 もらった棘バットは振りやすく、十分武器になりそうだった。コミクロンが変なもの作ってたら粉砕してやろう。
 とりあえずスイング。もう一度。ばごっ。

81後継者に愚神を天の御遣いに語り部を:2005/11/18(金) 23:42:32 ID:qP3EC.QQ
「──?」
 ドクロが砕いた柱とは別の、あらかじめヒビが入っていた主柱にジャストミート。
 少しの抵抗のあとバットは柱を抉りぬいた。細い支柱が崩れる。建物が軋む音が聞こえた。
「嘘だろ?」
 そして俺に天井が降ってきた。

「我は─────!」

 なんでこんな目に遭うのだろうか。
 砕けたガレキの中心に立ち尽くして人生を振り返る。天井はなんとか吹き飛ばしたが。
 倉庫は完全に倒壊。自分の立っている場所と、目の前のドクロが出てきたトンネルだけが残っている。
 ため息と共に立ち去ろうとすると放送が聞こえた。今度こそ聞き逃さないようにせねば。
「──以上だ」
 今の俺の表情を誰かが見たら、どう思っただろうか。

【E-4/倉庫/1日目・18:00】

※倉庫が崩壊しました。
  ドクロちゃんの掘ったトンネルが地下のどこかから倉庫まで続いています

82メロンパン ◆eUaeu3dols:2006/01/19(木) 00:43:54 ID:RVQymlpQ
霧が流れる。
何も見えない濃密な白。
だが、純白ではない白。
夕焼けの前の僅かなこの時間、うっすらと赤い光が混ざり、世界は薄紅に染められる。
夜の時間はまだ訪れていない。
放送の時間はまだ来ていない。
その僅かな間隙は、参加者達に憎み争う機会を与えていた。

薄紅の霧を白い光と唸る音が引き裂く。
薄紅の霧の中を一台のモトラドが走り抜けた。
赤い炎をまき散らして火の鳥がそれを追う。
火の鳥はその紅の瞳でモトラドを睨み、鳴き声をあげた。
「死ね! 死ね! 死ね!」
怨嗟の声と共に炎の礫が迸り、火の鳥のクチバシがモトラドを襲う。
モトラドは左右に蛇行して続けざまに飛び交う礫をかわすと、
その間に追いついた火の鳥のクチバシを巨大な鋏で受け止めた。
クチバシは優美な刀だった。
火の鳥は長い赤髪と赤い目と炎の翼を持つ少女の姿をしていた。
炎髪灼眼の討ち手は憎しみと悲しみと怨みと絶望を篭めて叫ぶ。
「悠二を殺したおまえを! 生かしてなんかおくものか!!」
その叫びだけが少女を支えていた。
零崎人識はシャナの剣戟を凌ぎながら叫びを返す。
「だから謝ったんじゃねえか。ごめんなさいってよ!」
「ゆるせるわけがない!」
火の鳥と化した少女は全速でモトラドを追走し剣戟を繰り返す。
モトラドの運転手・零崎人識はモトラドを走らせながら振り返りその猛撃を受け流す。
圧倒的腕力は体勢の悪さに意味を失い、高い技量は感情の乱れに曇りその真価を見失う。
一方の零崎はその技量で不安定な体勢を補い、守りと逃げに専念していた。

83メロンパン(2/16) ◆eUaeu3dols:2006/01/19(木) 00:45:16 ID:RVQymlpQ
背後からの剣戟を零崎の鋏が受け止め、その力をモトラドに流し距離を離そうとする。
させじと道のすぐ右の林に逸れ、林立する木を蹴って推力に継ぎ足し加速する。
林が切れる最後の一蹴りで一気に加速。翼で空気を打ち更に加速、右に並ぶ!
右から襲うシャナの剣戟がモトラドを押し止め間合いを取り返した。
更にその勢いのまま上方に周りこみ剣戟を落とし込む。零崎が受け止める。
そのまま押し込む。
炎の翼から来る上方からの推力によりギリギリと刃が迫る。
零崎は薄笑いを浮かべて言い放つ。
「ハッ、そんなに殺したいってか!」
『ふと思ったんだけどさ……お前ってもしかして人を殺したいだけじゃねぇのか?』
「ッ!!」
その“二言”が内にある不安を呼び覚ましシャナの剣戟を鈍らせる。
次の瞬間『右折する道を直進した』モトラドが跳ね、反動でシャナは弾かれた。
零崎は即座にハンドルを握り直しモトラドの安定性を回復。
更にアクセルをフルスロットル。道を外れたのを気にせずシャナを引き離す!
「くそ、待て!」
シャナは慌てて炎の翼をはためかせ追撃に移る。
本来の力に程遠い炎翼の最大速度はモトラドにやや劣る。
だが地形の影響を殆ど受けないのは大きな優位だ。
霧で殆ど先が見えないとはいえ、相手はモトラドの快音を響かせている。
回り込むのは容易――
「一つ忠告しといてやるぜ、赤髪!」
――そう考え速度を上げようとした瞬間、零崎の声が響いた。
「禁止エリアにご用心、だ!」
「え? …………しまった!?」
その時ようやくシャナは自分達が走る場所に気づいた。
道の右脇の林が切れ、緩やかに右折する道から外れ直進した。
ここはF−6エリアの北端、13時に発動したE−6禁止エリアのすぐ脇だ。
50m足らず北に進めばそれだけで、刻印は参加者の命を等しく奪う。
「くれぐれも自殺したりすんなよ。佐山の奴、それでも怒りそうだからよ!」
「うるさいうるさいうるさい!!」
「ハハッ、殺人鬼が復讐者を心配するなんてまったく……傑作だぜ」

84メロンパン(3/16) ◆eUaeu3dols:2006/01/19(木) 00:45:56 ID:RVQymlpQ
零崎はエルメスを更に加速させる。
真っ暗闇の中でライトも付けずに切り立った絶壁の端を走る如き暴挙。
だが、禁止エリアは正確に東西に走っている。
F−8から真西へ真っ直ぐに走り続け、林が切れてからの速度は丁度時速90kmに保った。
林が切れてから秒速にして25mで真西へ25秒、F−5の東北端に到着。
そこでハンドルを右に切り90度の直角右折。
禁止エリアを肌に感じる錯覚を覚えながらE−5の東端を北へと走り抜ける。
命が惜しくないかの様に高速で、目印も無く最短経路を走破した。
「ふう、死屍一杯だったね」
「はは、それじゃ死んでるじゃねえか。危機一髪だろ」
「そうそう、危機一髪」
エルメスとの掛け合いを響かせて、零崎は霧の中を走り去った。
この暴挙によりシャナが零崎に追いつく手段は今度こそ完全に失われた。
霧の中モトラドの音はする。大雑把な方向も判る。
だが、その間には確実に禁止エリアが挟まっている。
飛び回りながら戦ったシャナは完全に方角を見失っていた。
追えば追いつく事さえできずに死ぬ。
かといって遠回れば絶対に追いつけない。
「ハァ…………ハァ…………」
そしてシャナにとっても、もう零崎を追う余力は残っていない。
使いすぎた存在の力は疲労を生んだ。
何か『力の素となるもの』を摂取すればすぐに回復するだろうが、
そうでなければ休息を取るしか手が無い。
そしれそれ以上の要因。
腹部の散弾銃の欠片が大きく暴れ回り内蔵を傷つけた。
もっともその傷は前の時より更に早く塞がっていく。
だがそれに伴い、疲労と再生はシャナにある要求を突きつける。

    血を啜れ

「うるさい」

85メロンパン(4/16) ◆eUaeu3dols:2006/01/19(木) 00:47:19 ID:RVQymlpQ
治りゆく傷はシャナを蝕む。
「うるさい」
進みゆく呪いはシャナに囁く。
「うるさい」
血を吸え。
血を啜れ。
血を飲め。
血を求めよ。
「うるさいうるさいうるさい!」
おまえにはもうそれしかないのだからと。
「ハァ……ハァ……おい、シャナ……」
「うるさい!!」
「シャナ!」

ハッと振り返ると、そこには僅かに息を切らせるベルガーが立っていた。
「ベルガー……」
「ったく先走りやがって。危うく見失う所だったじゃねえか」
「………………」
沈黙するシャナ。
「……エルメスは取られ、逃げられたか。踏んだり蹴ったりだな」
「ごめん」
「謝る事じゃない。それより」
ベルガーは袂に抱えたマントの包みを示した。
「……早く埋葬してやろう」
「――――っ」
シャナは唇を噛み、頷いた。
噛んだ唇はすぐに離した。
血の味を感じたら、それだけで心が折れてしまいそうだから。

86メロンパン(5/16) ◆eUaeu3dols:2006/01/19(木) 00:48:13 ID:RVQymlpQ
「ああ。シャナの捜し人だった坂井悠二は……死んだ」
ベルガーが携帯電話に向けて会話する。
その会話の一部にシャナはビクリと体を震わせた。
ベルガーはシャナを見下ろし、その様子を観察しながら言葉を紡ぐ。
「そっちには埋葬を済ませてから向かうよ。放送の後になるな」
シャナは俯き歯を噛み締めている。何かに耐えるように。
(裏を返せば、まだ抗う意志は有るって事だ)
それが保てる時間はずっと短くなったかもしれないが、まだ零にはなっていない。
それを確認して、ベルガーは通話を続ける。
「それから、悠二を殺したのは零崎という奴だ」
電話の向こうから問い掛けが返り、ベルガーはそれに答える。
「いや、自己申告だ。おどけた調子だったが謝りに出てきた。
 佐山御言という男の脱出&黒幕打倒同盟に入ったらしい」
電話の向こうに返事を返しながらもその視線はシャナに向いたまま。
「佐山は本気だろうな。奴と一緒に居る宮下藤花という娘も危険は無さそうだった。
 零崎がどうかは判らないな。
零崎はエルメスを奪って逃走……方角からしてそっちで見かけるかもしれない。
シャナにとっては吸血鬼より憎い相手だ。見かけたら気を付けてくれ。
零崎の特徴は――」
零崎の姿が脳裏に浮かび、シャナは歯を噛み締める。強く。強く。
「佐山は全ての参加者を纏め上げようとしている。
 殺人者とそいつに復讐しようとする奴でも纏めようって太っ腹さだ。
……奴にそれが出来るかは判らないね。
 俺達は埋葬の後でそっちに帰る。何かあったらまた電話するよ、じゃあな」
シャナが今にも口の何処かを噛んで――出血して血を飲んでしまいそうに見えたから、
ベルガーは早々に話を切り上げると電話を切った。
「行くぞ、シャナ」
「……うん」
シャナは死体の包まれた包みをしっかりと抱き締める。
悠二の死体を埋葬するにしても、この平原では都合が悪い。
だからせめて人気のない森。南西の森の入り口に埋める事にした。

87メロンパン(6/16) ◆eUaeu3dols:2006/01/19(木) 00:49:05 ID:RVQymlpQ
「ここで良いだろう。……たまたま、他にも墓が有るみたいだしな」
そこには既に一つ、死体が埋葬されていた。
その静かさ、地面の開け方や光景が、人を葬るのに適して見えるのかもしれない。
薄紅から闇に染まりゆく霧さえも、そこでは全てを包む優しさに満ちて見えた。
「……降ろすぞ」
「うん」
二人でそっと、病人を扱うように丁寧に、坂井悠二を包んだマントを地面に降ろす。
「…………あっ」
その時、二人の身長差と緊張がちょっとした失敗を生みだした。
少し傾いた包みから、何かがころりと転げ落ちたのだ。
一瞬『悠二だった一部』が転げ落ちたのかと緊張し、すぐにそれが勘違いだと気づく。
それは奇跡的に血に濡れてすらいなかった。
包みから転げ落ちた小さな包みを拾い上げ、ベルガーは首を傾げる。
「悠二の荷物だな。これは……」
シャナは驚愕に目を見開く。
別に有って絶対におかしい物というわけではない、それは……
「メロンパン、か?」
「…………私の、好物」
「……そうか」
ベルガーは包みを確認すると、シャナにメロンパンを差し出した。
重いほどに想いが詰まったそれを、そっとシャナに委ねる。
「食べるか?」
シャナは、震える手を伸ばして。
坂井悠二からの最後の贈り物を受け取った。

(……今の内に、遺品を整理しておくか)
シャナがメロンパンを食べている今の内に、それを済ましてしまいたい。
「他の遺品も、整理しておくぞ」
シャナに向けて一言だけ断ると、悠二の入った包みから悠二のデイパックを取りだした。
血に濡れ、悠二の体もろとも大きく引き裂かれたデイパック。
細切れにされたわけではないのだから、中には無事な物も入っている。
だがそれでも、メロンパンの包みが無事だったのは運が良いと言うべきなのだろう。

88メロンパン(7/16) ◆eUaeu3dols:2006/01/19(木) 00:49:46 ID:RVQymlpQ
(本当にこれは『幸運』な『偶然』なのかね)
佐山の言葉はあの時は少々極論に思えたが、今の状況が本当に偶然なのか、
そして本当に僅かでも幸いが混じっているのかは疑問に感じざるをえない。
疑問に感じた所で、自力で答えを出す材料も答えてくれる者も居はしないのだが。
ベルガーは静かに、そして速やかに遺品の整理を続ける。
デイパックには他にも幾つかのメロンパン――しかしこれは袋が破れ、血に濡れていた。
それにそれなりの量の支給品とは違う保存食と、眠気覚ましのガム。
ペットボトルはお茶の物に替わっていた。
どうやら坂井悠二は大量に食料を調達できる場所を通ったらしい。
島の中央西よりの市街地のどこかだろうと目星をつける。
保存食は血に濡れてない物もあった。
(死人さんの食べ物まで頂くのは気が引けるんだが……)
食料を調達できなくなる事も十分に考えられる。
血に濡れた物など大半を引き裂けたデイパックに戻し、幾らかは頂く事にする。
(それから……なんだ、これは?)
小さなスーパーのビニール袋の中に畳んで束ねてあった紙束を取り出す。
紙束は一枚と3つの紙束に分けられていた。

一枚は地図。しかし、それには薄ぼんやりと別の事が記載されている。
(……地下水脈の地図か)
酷く劣化してまともに見えないが、どうやらこの島の地下には空洞が広がっているらしい。
もしかすると地下通路や、それ以外の人工施設も有るのかもしれない。

紙束の一つ目は『物語』についての数枚の記述。
坂井悠二の信じる通りならば、刻印の無力化に繋がる……『かもしれない』。
(……さて、役に立つのかね)
僅かに“何かに憑かれたような”狂熱さえ感じさせる説明は、しかし最後に警告を付けていた。
『次の紙に物語の本体を記載します。危険性は上に書いた通りです。』
(まあ、持ち帰った後で相談するか)
ベルガーは『物語』の本体は読まずに次の束に進んだ。

二束目。

89メロンパン(8/16) ◆eUaeu3dols:2006/01/19(木) 00:51:05 ID:RVQymlpQ
この束は最も枚数が多い。
その内容は、世界への考察と、脱出への足掻き。
坂井悠二が書き残した、ゲームとの戦いの記録だった。
このゲームが始まってから自分がどんな道筋を辿り、どんな人間と出会ったのかという事。
城に現れたディードリッヒの事。自らの中にある零時迷子の事。
魔界医師メフィストと出会い、他の参加者より一つ多く施されていたという制限が外された事。
血だまりの中から拾い上げた水晶の剣の事。
(水晶の剣?)
死体の周辺にそんな物は見かけなかった。
佐山の武器は槍で、零崎は奇怪な鋏だ。
宮下藤花という少女は非武装で……武器を持っている様子は無かった。
(どこかに隠していたのか? それとも……坂井悠二があそこに着く前に手放したのか?)
少し疑問が湧いてその後を適当に流し読みしたが、関連する記述は見当たらなかった。
二束目をよく読み込もうとした時……三束目の見出しが目に飛び込んだ。
『※:この島の外について。』
(な……に……?)
二束目に比べれば少ない枚数の三束目の見出しにはそんな文字が踊っていた。
『二束目で書いた通り、僕はどうやら他と比べても過剰らしい制限が掛けられていた。
 更に後で気づいた事だけれど、その制限により僕はもう一つ封印されていた。
 いつの間にか体内に入っていた誰かの血が見せる物だ。
 今思えば、廃屋で手に入れたペットボトルの水に僅かに同じ物を感じていた。
 参加者の誰か……多分、そこに一緒に置いてあった『物語』の製作者の物だ。
 学校で出会った空目恭一の話から推測するなら“魔女”十叶詠子の物だと思う。』
記述は続く。
『その二つを封じていた制限が、ドクター・メフィストにより外された時の事。
 過剰な封印の反動からか、一瞬だけ凄く色んな物が見えた。』
ゲームの深層にある真相を抉りだす禁断の記述。
『だけど、ドクター・メフィストにも話せなかった。これを書く前も迷った。
 この事が“多くの参加者を絶望させて破局を加速させる”ように思えたから。
 それでもこのゲームの参加者達の中に希望が有る事を信じ、
 そして希望を知っている人に届く事を祈って、僕はその全てを記載する。』
ベルガーは最後のページをめくろうとし……ふと、背後のシャナを振り返った。

90メロンパン(9/16) ◆eUaeu3dols:2006/01/19(木) 00:51:49 ID:RVQymlpQ

      * * *

「………………」
シャナは受け取ったメロンパンの包みをじっと見つめ……ややあって、包装を破いた。
芳ばしい網目が入った、果汁の入っていないタイプのメロンパン。
ぴりぴりと開いた破り目からメロンパンを出すと、外側のクッキー部分を少しずつ囓る。
奇跡的に完全な気密を保った上に潰れてもいなかったメロンパンは、
シャナの大好きなカリカリという食感をしっかりと残し、
口の中に入ってすぐにメロンパン特有の甘い香りが鼻腔まで立ちこめた。
この香料臭さの無い自然な甘い香りもシャナが重視するポイントだ。
咀嚼すれば甘い味が口内いっぱいに広がって、香りと相まった適度な甘さを堪能する。
よく噛んで呑み込むと、今度は食べた所から覗いたパン生地にかぶりつく。
しっとりとしたパンが生み出すモフモフという食感が返り、
柔らかで落ち着いた甘みとパン生地の香りが口の中に広がった。
そのままメロンパンの円を直線に削るようにモフモフとした生地の部分を食べる。
その後でまた、カリカリとしたクッキーの部分を囓るのだ。
『こうすることで、バランスよく双方の感触を味わえる』
得意ぶって悠二にメロンパンの食べ方を講釈した時の事を思いだす。
(早く、食べないと)
本当はもっとゆっくり味わって食べたいけれど、こんな霧の中では、パンはすぐに湿気てしまう。
二口、三口、四口……もう、湿気出した。
どういうわけか、しょっぱさまで混じり始めている。
(潮風のせいだ)
ここだって海の近くだ。きっとそうに違いない。
湿気始めたメロンパンが不味くなってしまわない内に食べてしまおうと、
カリカリ、モフモフと、囓って、かぶりついて、メロンパンを平らげていく。
(いつもみたいに、笑顔で)
だってメロンパンを食べている時はいつも笑っていられた。
“育ち故郷”である天道宮に居る頃に養育係であるヴィルヘルミナがくれていた頃から、ずっと。

91メロンパン(10/16) ◆eUaeu3dols:2006/01/19(木) 00:52:31 ID:RVQymlpQ
(笑って……)
“育ち故郷”である天道宮を出た時のメロンパンも、旅立つのだと笑う事が出来た。
悠二と出会う御崎市に辿り着くまでの戦いの日々でも、メロンパンを食べる時は笑う事が出来た。
御崎市について、悠二に出会ってからは……
もっともっと、心の底から満足感を溢れさせて笑っていられた。
幸せの象徴だ。
今、こうしてメロンパンを食べている間は笑ってないと嘘だ。
(だから、私は泣いてなんかいない)
そう言い聞かせる。
湿気たのは霧のせいで、しょっぱいのは潮風のせいだ。
(ぜったいに、涙なんかじゃない)
「う……うう…………」
せっかくの、悠二に貰った、悠二が残してくれた、とびっきりのメロンパンなのに、
もうカリカリでもモフモフでもなくて、味も香りも何も判らなくなっている。
だけど残すなんて出来るわけがない。
もう悠二は居なくて、だからこれが悠二がくれる、最後の――
「……う…………ひっく…………」
ビショビショにふやけてしょっぱくなってしまったメロンパンを、必至になって呑み込む。
顔の表情を出来る限り笑顔にしようと引きつらせる。
「私は……泣いてなんか……」
口に出して自分に言い聞かせようとしたその時、脳裏に声が響き始めた。
「あ……」
『059テレサ・テスタロッサ――』
「やだ…………」
知っている名前が混じり、読み上げは進む。
呆然となる頭はその内容を理解できないのに、言葉は脳裏に焼き付いていく。
『082いーちゃん――』
「や…………」
呼ばれる事が判りきってる、その名前が呼ばれた瞬間……
『095坂井悠二――』
「やだあああああああああああああああああああああああああぁっ!!」
決壊した。

92メロンパン(11/16) ◆eUaeu3dols:2006/01/19(木) 00:53:13 ID:RVQymlpQ

ベルガーは、途中でメロンパンを食べながら泣き出すシャナに気づいていた。
(この涙を止める事なんてできやしない)
だから今は泣かせてやるしかないと、そう思って見守り続けた。
……この島は残酷だった。
始まった放送は、ベルガーからも余裕を奪い去った。

『006空目恭一――』
(悠二が学校で出会ったという奴か)
死者の連名は順々に続き
『059テレサ・テスタロッサ――』
「な……っ!」
このゲームが出会ってからそれなりに長く同行した少女の名と
『095坂井悠二 096マージョリー・ドー――』
「………………」
もう判りきってる死者やそうでない死者の名を連ね
『116サラ・バーリン ……以上――』
第一回放送を超える数の名を並べ、死者の羅列は終了する。
その後に禁止区域が流れ、放送は終わった。

(ダナティア・アリール・アンクルージュは何をしていた)
ベルガーは声に出さずに呟く。
判ってはいる。
彼女が身を挺してでも仲間を助けようとする人間だ。
その彼女が生き残りテッサが死ぬのはそれ相応の理由が有ったのだろう。
だからそれを責める事にはなんの意味も無い。
そして、目の前には一つ重要な事柄が転がっている。
死者を悼むその前に、ベルガーはシャナを見下ろした。
シャナは俯いて地面と……悠二の死体の包みを、じっと見つめていた。

93メロンパン(12/16) ◆eUaeu3dols:2006/01/19(木) 00:54:00 ID:RVQymlpQ
(そう。悠二は、死んだんだ)
裂かれた死体を見て。
殺人者に遭遇して。
遺品を手にして。
放送を聞いて。
完膚無きまでにそれを理解した。理解させられた。
(悠二が……死んだんだ……)
何よりも大好きだった少年はもう居ない。
そこにある残滓さえ、日を経れば全て消えてしまう。
紅世の関係者以外の全ての記憶から消え、死体や戸籍も消えていく。
後には何も残らない。
(そんなの、イヤだ)
悠二の死体が包まれたマントを見つめ、不意に心の奥から声が響く。
――血を啜れ。
(……いっそ、それでも良いのかもしれない)
もしも悠二の血を吸えば、悠二の何かを残せるだろうか。
もしも悠二の血を吸えば、その力で零崎を捜し出して殺せるだろうか。
それは彼女、フレイムヘイズが戦ってきた悪、紅世の従に等しい行為。
フレイムヘイズになるものとして生まれ、フレイムヘイズになる事を選び、
フレイムヘイズとして生きてきた彼女にとって死よりも最悪の行為。
だが同時に、一人の少女であるシャナは彼を求めていた。
強く、同時に弱いシャナの、その弱さはその行為を求めていた。
(アラストールの声は聞こえない。
 テッサは死んでしまった。
気高く、強さを感じたダナティアでもテッサを守れなかった。
ダナティアの大切な仲間だというサラも死んだ。弔詞の詠み手も、死んだ)
だけど、悠二は埋葬するべきではないだろうか。
一人で埋めるのは可哀想だ。
せめてここに居る誰かと一緒なら、……そう思った時、墓標が目に映った。
『朝比奈みくる』

94メロンパン(13/16) ◆eUaeu3dols:2006/01/19(木) 00:54:47 ID:RVQymlpQ

それは同情すべき、しかしあまり関わりのない話だった。
「あたくしはその少女を守れなかった。
 あたくしが少し離れた間にあの子は殺されてしまったわ」
ムンク小屋に女ばかりが残った後、なにかと会話を交わしていた時の事だ。
「SOS団の朝比奈みくるという娘よ。
 ……彼女とその仲間4人は既に半数が死んでしまったけれど」
悠二の事しか頭になかったあの頃にその名前が記憶に残った理由は些細なものだ。
「どんな子だったか? ……おっとりしていて優しくて子供なのに胸が大きかったわ」
(吉田一美みたいだ)
シャナは、元の世界で悠二を巡り競っていた恋愛のライバルを思い出した。
それは単なる連想だ。
無関係で、意味のない連想に過ぎない。
「…………やだ」
なのに、悠二の遺体をここに埋めることがどうしても許せなかった。
「取っちゃ、嫌だ」

死んで同じ場所に……という思考すら出来なかった。
シャナは悠二が消えて何も残らなくなる事を知っていた。
なにより死に殉ずるという思考はフレイムヘイズの物だった。
使命のためならば死ぬ事も良いだろう。
しかし、悠二を求める心は少女の想いだ。
そこに死に殉ずるという思考は想像すら出来ない。
いや、想像できたとしても意味はなかっただろう。
今のシャナは諦める形の死しか選べない。
そんな死を選ぼうとすれば、“もっと心地よい”吸血衝動に流れてしまう。
シャナは袋小路へと追いつめられた。
遂にシャナは悠二を包んだマントに屈み込み……

「――シャナ。おまえは、坂井悠二を二度殺すのか?」
まだ、僅かに食い下がった。

95メロンパン(14/16) ◆eUaeu3dols:2006/01/19(木) 00:55:37 ID:RVQymlpQ

「二度、殺す……?」
悠二はもう死んでいる。なのに何を……
「悠二の遺志が残っている」
「遺志……?」
ここにはアラストールもダナティア皇女も居ないが、まだダウゲ・ベルガーが居た。
「こいつは、誰かに殺された場合の事さえ考えていた」
ベルガーは“二束目”を取り出すと、シャナに投げ渡した。
「このゲームを打破するために出来る事は無いか。
 そう考えて……死ぬまでに自分が考えた事、通った道筋すら、
そのレポートには全部書き込んである」
「ぇ……!?」
このゲームが始まってから死ぬまでの間に、悠二がどんな道筋を辿り、
どんな事を考え、どんな人と出会ったかが、全て記載されたレポート。
物語と禁断の記述以外の全てが記載された二束目。
「悠二が何を考え、何を託したかはそれを読めば判るはずだ。
 ……答えを、見つけだせ!」
それは悠二から遺された何かと、ベルガーの言葉。
その二つはシャナに浸み入り、最悪の結果を……僅かに半歩だけしかずらせなかった。
それは一歩だけ足りなかった。

「…………ありがとう、ベルガー。でも……ごめん」
シャナはベルガーの思いやりに感謝すると同時に、怖れた。
今さっき、自分は完全に吸血衝動に身を委ねていた。
もう耐えられず……ベルガーの血をも求めてしまうかもしれなかった。
悠二以外の誰かに助けられるのも恐かった。
悠二を失って苦しんでいるのを悠二のせいだと言ってしまうようで嫌だった。
「悠二は置いていく。……でもベルガー。ここには埋めないで」
「……ああ、判った。別の場所に埋めておこう」
シャナは辛うじて、それを認めた。
だけど、レポート一束じゃあまりに心細かった。
だから……

96メロンパン(15/16) ◆eUaeu3dols:2006/01/19(木) 00:56:40 ID:RVQymlpQ
「ダメだ! 待て、シャナ!」
悠二の遺体に近づこうとしたベルガーの一瞬の隙を突いて、
日が暮れた霧の中、シャナは信じがたい速度で駆けた。
狙いは一つ……坂井悠二のデイパック。
理性的判断などではなかった。
単に悠二の物を一つでも多く持っていきたかった、それだけだ。
シャナは半ば裂けたデイパックを僅かに残された中身ごと抱えると、飛んだ。
跳躍ではない、真上への飛行だ。
炎の翼を翻し、出来るだけ上空へと飛びあがる。
「くそったれ!」
ベルガーは歯噛みし、耳を澄ました。
幾ら炎の翼をはためかすとはいえ、日が暮れた霧の中ではその姿は見えない。
音だけで判断するしかないのだ。
だが森の中ではそれさえも叶わず、未だ晴れぬ霧は全てを覆い隠していた。
シャナから零崎を包み隠したように、ベルガーにシャナを追う術は何もない。
最後に破れ血に濡れたメロンパンの包みを一つ落とし、シャナは何処かへと飛び去った。

     * * *

悠二のデイパックの中に残っていたのは、血に濡れた食料だった。
袋が破れ血を吸い込んだメロンパンが4つ。
同じく袋が破れた、血に濡れた保存食が5食分。
(これ……全部、悠二の血…………)
悠二の何かを求める想いと煮え滾る吸血衝動が混ざり合いつつあった。
僅かに正気を取り戻した心は吸血を否定する。だけど……
(でも、死人の血なら……?)
かつて出会った“屍拾い”ラミーを思い出す。
死者の力だけを集め、世界に影響を与えない無害な紅世の従。
(あんな風に、誰にも迷惑をかけなければ、それでいいじゃない。
 フレイムヘイズの役目は世界の歪みを正す事で化け物を狩る事じゃない)
弱った心に、その甘えが染み込んでいった。

97メロンパン(16/16) ◆eUaeu3dols:2006/01/19(木) 00:57:47 ID:RVQymlpQ
シャナは取りだしたメロンパンの包みをじっと見つめ……ややあって、包装を破いた。
芳ばしい網目が入った、果汁の入っていないタイプの……赤く濡れたメロンパン。
ぴりぴりと開いた破り目からメロンパンを出すと、外側のクッキー部分を少しずつ囓る。
包装が破れ斑模様に血を吸ったメロンパンは、カリカリという食感を僅かに残してくれた。
口の中に入ってすぐに濃密な血の匂いが鼻腔まで立ちこめた。
濃密すぎる血の香りは、それが悠二の物だと思うと……悲しく、なのに愛おしかった。
咀嚼すれば血の味混じりの甘い味が広がって、自分が何を食べているのかが判らなくなる。
よく噛んで呑み込むと、今度は食べた所から覗いたパン生地にかぶりつく。
しっとしとしたモフモフという食感に時折ニチャニチャという嫌な響きが混じる。
柔らかで落ち着いた甘みと濃厚で鉄の味のする血の香りが口の中に広がった。
そのままメロンパンの円を直線に削るようにモフモフとした生地の部分を食べる。
その後でまた、カリカリとしたクッキーの部分を囓るのだ。
『こうすることで、バランスよく双方の感触を味わえる』
得意ぶって悠二にメロンパンの食べ方を講釈した時の事を思いだす。
今ではカリカリにもモフモフにも血の嫌な、なのに気にならない食感が混ざる。
悠二はもう居ないけれど、悠二の血の味はシャナを甘く慰めてくれた。
(まるで悠二がギュッとしてくれているみたいで……)
ふと気づくと手が真っ赤に染まっていた。
口元も血だらけだった。
メロンパンに付いていた血が付いたのだ。
それだけだと判っていて、でも……悲鳴をあげた。

シャナはまだ、メロンパンを笑いながら食べてはいなかった。

     * * *

少しだけ、別の話をしよう。
坂井悠二の、最後の不幸についての話だ。
坂井悠二の最大の不幸は、シャナに巡り会う事も出来ず殺された事だろう。
だがその不幸には、死後にもう一つ追記される事となった。
それは、悠二のシャナの為に想いと優しさを篭めて遺した物が、
少女を奈落に突き落とす最後の一押しとなった事だった。

98メロンパン(報告) ◆eUaeu3dols:2006/01/19(木) 00:58:31 ID:RVQymlpQ
報告1:
【F-5周辺/??/1日目・18:10】
【シャナ】
[状態]:吸血鬼状態突入。憎悪・怒りなどの感情が増幅。吸血痕と理性はまだ有り。
[装備]:贄殿遮那
[道具]:デイパック(支給品一式(パン6食分・水2000ml))
    悠二の血に濡れたメロンパン4個&保存食5食分
    悠二のレポートその2(大雑把な日記形式)
[思考]:せめて人を喰らう事はしないように
[備考]:内出血は回復魔法などで止められるが、体内に散弾片が残っている。
     手術で摘出するまで激しい運動や衝撃で内臓を傷つける危険有り。
     吸血鬼の再生能力によっても自然治癒するが、その分だけ吸血鬼化が進む。
     ほぼ吸血鬼状態突入。吸血鬼化はいつ完了してもおかしくない。

【F-5/森/1日目・18:10】
【ダウゲ・ベルガー】
[状態]:平常。
[装備]:鈍ら刀、携帯電話、黒い卵(天人の緊急避難装置)
[道具]:デイパック(支給品一式(パン6食分・水2000ml・保存食5食分・眠気覚ましガム))
    PSG−1(残弾ゼロ)、マントに包んだ坂井悠二の死体
    悠二のレポートその1(異界化について)
    悠二のレポートその3(黒幕関連の情報(未読))
[思考]:マンションに連絡/悠二をどこか別の場所に埋葬し、その後マンションへ戻る。
    シャナを助けたいが……見失った。
 ・天人の緊急避難装置:所持者の身に危険が及ぶと、最も近い親類の所へと転移させる。
 ※携帯電話はリナから預かりました


報告2:

【E-5/森/1日目・18:00頃】
【零崎人識】
[状態]:全身に擦り傷 疲労
[装備]:自殺志願  エルメス
[道具]:なし
[思考]:港に戻るかそのまま佐山を捜すか
[備考]:記憶と連れ去られた時期に疑問を持っています。

99メロンパン ◆eUaeu3dols:2006/01/19(木) 01:00:13 ID:RVQymlpQ
>>82-98
一部再利用するかもしれないけどとにかくボッシュートだうりゃー

100名も無き黒幕さん:2006/01/19(木) 01:08:57 ID:.hR5T4JM
>99
危うく泣かされそうになった。超GJ。
シャナの選択が俺の考えてたのと同じ(悠二の血を吸う)だったから感動もひとしお。
もしこっちが……と思ってしまうなあ。

101名も無き黒幕さん:2006/01/19(木) 01:59:26 ID:8etlv20.
>>99
GJ。ちゃんと伏線も回収されてるし、なにより感動しました。
死んだ悠二は一般人レベルの能力で、よくここまで頑張ったなと思ったり。

ロワの悠二は死んだ後も裏目なんだな。
”凶運”の二つ名は伊達ではないということか。

102・──人の思いは通じる?  ◆l8jfhXC/BA:2006/02/05(日) 07:03:45 ID:nD6UKOhw
なかなか時間がとれず+出夢に難航して結局前半しか書けずに間に合わなかったので投下。
おとなしすぎるというのはわかっているのだがなかなか修正できず。
この後鬱にぶち落として死人を出す予定だった。

 島のほぼ中央に位置する倉庫。
 その中で、四人の男女が休息を取っていた。
「しかし雨が止んだはいいが……次は濃霧ときたか」
 白く塗りつぶされた窓の外を眺め、出雲は呟いた。
 女性陣と分かれて服を乾かした後、食事と情報交換をしつつ雨があがるのを待っていたが、一向にその勢いは衰えなかった。
 放送直前である今になってようやく止んだものの、入れ替わるように今度は白い霧が辺りを包んでしまった。
 外に出ても濡れる心配はなくなったが、視界はさらに悪くなっている。
「霧をどうこうできそうなものはねえしなぁ……」
 あまり広くない室内を見渡し、そう結論づける。
 ドラム缶に入ったオイルや、ダンボールに詰められた、先にいた二人が焚き火をするために使ったチャッカマンなどは
 何かに別のことには使えるかもしれないが、霧に対しては何の役にも立たない。
 フレームの曲がったコンテナや壊れた機材の山は言うまでもなかった。
「まぁ、放送が終わるまではこのまま休憩でいいんじゃねーか?
どうせ座り込んでメモを取る必要があるなら、ここにいた方が楽だろ」
 拘束着を着た眼鏡の少女──先に来ていたうちの一人である、匂宮・出夢が呟きに答えた。
 足を床に放り出して座り込み、窓の外を面倒そうに眺める姿は、とても自称“元殺し屋”には見えない。

103・──人の思いは通じる?  ◆l8jfhXC/BA:2006/02/05(日) 07:04:53 ID:nD6UKOhw
「そうだな、俺達も引き続き待機──っておい制服ロリ、話が終わる前に急ぐなって」
「わたしは一般にロリと呼ばれる区分には入らない」
 隅に置いてあった荷物を持ち上げているセーラー服の少女──長門・有希は、視線も合わせず否定した。
 自身のデイパックを背負い、出夢のものも手に取り立ち上がった後、やっとこちらの方を向く。
「霧はわたしの捜索行動の障害にはならない。行動再開は早めにすべき」
「でもよ、移動中に戦闘に巻き込まれたら聞けなくなるんじゃねぇか?」
「わたしは聞き逃さない。別タスクで記録を取れる」
 機械のような平坦な声で、機械のような答えが返された。
 浮かぶ表情もやはり機械のような無表情だったが、何となく焦りのようなものも感じられた。
「……別に僕はそれでもいいけどよ、やっぱおにーさん以外の死人を確認してからの方がいいんじゃねーか?」
 出夢の言葉に、彼女の方へ向かおうとしていた長門の足が止まる。死、という単語に反応したように見えた。
 ……知り合いの簡単な特徴などの情報交換をした際、本来彼らが向かうはずだった地点に、先程まで自分達がいたことを知った。
 そこでその場所には、“いーちゃん”と呼ばれていた青年の遺体しか残されていなかったことを伝えていた。
 他にいた三人の姿はどこにもなく、その生死は次の放送を聴かなければわからない。
「それになおねーさん。……あんた、ちゃんと休んでるか?」
「平気」
 ふたたび一瞬その動きを止めながらも、長門は出夢の前で立ち止まる。
 そして彼女に荷物を手渡そうと腰を下げ──なぜか、ふらついた。
「っおい、大丈夫か?」
「……へいき」
「やっぱな。何か疲れてる──っつーより、体調が悪そうに見えてたんだ。一番初めに会ったときと比べて少しな。
朝の時からずっと、何かやってんじゃねーか?」
 長門を難なく支えつつ、出夢が問う。
 数十秒の沈黙の後、ふたたび立ち上がって長門は口を開いた。
「シェルター製作は一つの場所に長時間留まることが不可能なため中止した。
現在は脱出路形成のための空間情報結合の解析と改変、及び情報統合思念体との再連結の申請を開始当初から恒常的に実行中。
内、改変と再連結申請は未だ失敗中。原因不明。これらによる負荷が大きいことは確かに否定できない」
 一息だった。
 その専門用語の羅列に対し、出夢は即答で返す。
「内容なんて言われてもわかんねーよ。
とにかく何かやってんだな? じゃそれをやめろ。今は坂井と古泉を捜すのが先だろ?」
 彼女は長門の手にある自身のデイパックを隅に放り、続けた。
「そいつらと会う前に倒れちまったら意味ねえじゃねえか。
おねーさんは僕と違って弱いんだから、無理すんのはやめろって。
脱出なんて、それこそ奴らと合流してから考えろよ」
「…………了解した、一時停止する。再開は両名との合流後に設定」
 ふたたび長めの沈黙を挟んだ後、長門は首肯し床に座った。
 デイパックも床に置き、元の状態に戻る。

104・──人の思いは通じる?  ◆l8jfhXC/BA:2006/02/05(日) 07:06:18 ID:nD6UKOhw
「じゃあ全員引き続きここで休憩だな。放送が終わった後は別行動でいいよな?
人捜しなら、お互い手分けした方がいいだろうしな」
「ああ。情報交換はしても、あんたらとつるむ気はこっちにはねえ。
あんたらの捜してるその三人に会ったら、一言伝えておくぐらいはやってやるが」
「そいつは助かる。俺達も見かけたら言っとくよ」
「……あの、ちょっといいですの?」
 と、今までずっと黙っていたアリュセが口を開いた。何かを言いにくそうな表情で、こちらを見ている。
 思い当たる行動を考え、問う。
「腹減ったならまだうまか棒があるが──違うのか?
まさかお前、バニーか? バニーなのか!? だめだ、これはまだお前には危険すぎる──!」
「…………空気を読むって言葉、ご存じですの?」
「ああ、いつも読まない馬鹿がそばにいるからよく知ってるぜ?」
「……その方もいつも大変ですわね。とにかく。──あたしは、今から別行動を取りたいと思いますの」
「──」
 驚くこちらを見据えたまま、彼女は言葉を続ける。
「あたしは最後に残ったあの人を、一刻も早く捜し出して守らなければいけないんですの。
どんなことがあっても、王子だけは絶対に失わせてはならない。
人捜しなら、手分けした方がいいですわよね? だから、あたしはここで別れますわ」
「さっきのおにーさんの言葉を繰り返すけどよ、放送はどうすんだ? 移動中に何かあったら聞けなくなるぞ」
「放送は殺人者にとっても重要で、聞き逃せないものですわよ?
もちろん、誰が死んだか何て気にしない人もいますでしょうけど──禁止エリアの情報だけは、誰にとっても必要ですわ」
「……禁止エリアは放送終盤だから、それまでに終わらせる自信がある奴は逆に隙をついて狙ってこねぇか?」
「こんな未知のものだらけの場所で、そんな無謀な短期決戦を狙ってくる人なんて返り討ちに出来ますわ。
……あの時、覚は止めてくれましたけど、あたしには人を殺す技術も覚悟も、ちゃんとありますのよ?」
 大人びた表情のままアリュセは答える。迷いのない、毅然とした覚悟のある強い口調だ。
「……本当はもっと早く──覚の休憩が終わってすぐに、出発するべきだったくらいですわ。
いえ、そもそも最初から…………とにかく、あたしはいかなければいけませんの」
 自責の念に満ちた声で、小さな呟きが漏れた。
 わずかに翳った水色の眼に対して、掛ける言葉が思いつかず、言いよどむ。

105・──人の思いは通じる?  ◆l8jfhXC/BA:2006/02/05(日) 07:07:42 ID:nD6UKOhw
 自責の念に満ちた声で、小さな呟きが漏れた。
 わずかに翳った水色の眼に対して、掛ける言葉が思いつかず、言いよどむ。
「……いーんじゃねーの? 行かせてやってもさ」
 と、黙り込むこちらに対し、出夢が口を挟んだ。
「元殺し屋が保証してやる。そいつ、ちゃんと覚悟出来てるぜ?
殺すべきときにきっちり殺して、その後もちゃんとやっていける奴だ」
 彼女はそこで一度溜め息をつき、続けた。
「別にさっきのおねーさんみたいに、無理したら確実にやべえ状態でもねえだろ。
さっさと行かせてやればいいじゃねーか。見てて苛々してくるぜ?
……ああ、それとも何か? あんたほんとにロリコンだったりするのか? ぎゃはは」
「……」
 出夢の哄笑と共に、こちらを見るアリュセが半眼になった。
「何でそうなる! 俺はロリコンじゃねえ……っていうかアリュセ、そこは同行者を信頼しとけよ!
だいたい何でロリに囲まれただけでロリコンと言われるんだ。あれか、新手の概念か!?」
「概念? 邪念の間違いか? しかし囲まれたって言うが、おじょーちゃんはともかく僕はロリじゃねえぞ?
精神的に僕は男で十八歳だし、この肉体の年齢だって二十二歳だ」
「……」
 二つも上の年齢を言われ、限りなく平たい彼女の上半身を三秒眺めて、
「詐欺か!」
「……これは理澄のためにも怒っとくべきか?」
「人それぞれ」
「確かにそうだがな長門。やはりパワーが千里並なんだから、身体の方も千里を見習ってだな……。
もっと、こう、何つーか……どうよ!?」
「どうでもいいですわよ!」
 返答と共に空のペットボトルが飛んできた。

106・──人の思いは通じる?  ◆l8jfhXC/BA:2006/02/05(日) 07:08:51 ID:nD6UKOhw
「なんだアリュセ……ああ、お前は俺の半分の年もいってないからこれからだろ? 心配しなくても大丈夫だ」
「っ、心配なんかしてませんわ!」
「おお、自信家だな。がんばれよ」
「そんなこと言われなくても──じゃなくて! ああもう……何で人が真剣に話してますのにこっちのノリに戻しますの!?」
「戻したのは俺じゃなくてそこの偽装ロリだと思うんだが……。まぁ、安心しろ。こんなこと俺んとこじゃ日常茶飯事だ」
「そんな異常な日常を基準にしないでくださいませ!
……とにかく! あたしはここで別れますわ。いいですわね!?」
 頬を膨らませ、アリュセはデイパックを持って立ち上がる。先程の大人びた雰囲気は微塵もない。
 立ち上がってやっと自分の座高くらいの小さな体躯が横を通り過ぎ、扉の方へと向かう。
 その背中からは幼さと、しかし同時に不退転の決意も感じられた。
「アリュセ」
「なんですの!? もう止めたって無駄──」
「これもってけ」
 不機嫌な口調のまま振り向いたその足下に、持っていた武器を投げた。
「ナイフ、ですの? 確かあいつが持ってた……」
「それ、柄にあるスイッチを押すと刃が飛ぶタイプだからな。お前でも不意をつけるだろ」
「……、ありがとうございますわ」
 しばしその刃を見つめた後、彼女は笑んで礼を言った。
 小さな手のひらが無骨なナイフを拾い上げ、その柄を強く握りしめる。
 不似合いな組み合わせとわずかに震えた右手のせいか、その所作がどこか辛そうに見えた。
「……気ぃつけろよ」
「ええ、あなたも。──縁があったら、またお会いしましょう」
 ひどく大人びた艶っぽい笑みを浮かべて、彼女は別れを告げた。
 そのまま前を向き、鉄扉を開けて外に踏み出す彼女の背中を見送り──
「──アリュセ!」
「な、何ですの?」
「いや、一つ言い忘れてたんでな」
「……?」
「一応バニーも持ってくか? もしかしたら何かの役に──」
 勢いよく鉄扉が閉められた。

107・──炎は全てを断つ。  ◆l8jfhXC/BA:2006/02/05(日) 07:12:32 ID:nD6UKOhw
以下後編予定だったものの冒頭。

                    ○

 森を包む狭霧は、白い闇と形容できそうなくらい深かった。
 その白に吸い込まれてしまったかのように辺りを包む音はなく、ただ静寂だけがあった。
 しかし、その白にまるで墨を差すように、一点だけ黒の色があった。
 肩より少し長く伸ばした黒髪を持つ幼い少女が、木々に飲まれるようにして座り込んでいた。
「……本当は、あなたの二倍は生きてますのよ?」
 少し前までの会話を思い出し、少女──アリュセは呟き、少し笑む。
 その呟きもすぐに白に吸い込まれ、辺りにふたたび沈黙が満ちる。
 音もなく流れる空気は肌寒く、また身を寄せている大地も雨に濡れて冷たかった。
 まるで自分を責めるかのように刺すその冷たさが、ひどく痛く感じられた。
(リリア、イルダーナフ様……)
 甘かった。すべてを甘く見てしまっていた。
 こんな時にこんなことに巻き込まれ、途方に暮れていたところを出雲に助けられ、安心してしまっていた。
 何の躊躇いもなく他者を信じ、守ることが出来る人間がいることがここにもいることを知って、楽観してしまった。
 一度目の放送の死者の数で、殺戮が進んでいることはわかっていたにもかかわらず。
 散らばる血痕や何かの壊れた破片、そして死体そのものという明確な光景を見たにもかかわらず。
 それでも彼らは強いと、彼らは死なないと、何の根拠もなく思っていた。
「……っ、……ぅ」
 彼の前では見せまいと、意味もなく我慢して強がっていた涙が溢れてくる。
 堰を切ってこぼれ落ちた滴が冷たい手のひらに落ち、その生ぬるさが伝わった。
 押し殺した自分の嗚咽がひどく滑稽に聞こえ、表情が自然と自嘲の笑みをつくった。
(覚は、泣きませんでしたのにね……)
 彼の仲間も二人、二回目の放送で呼ばれたという。内一人は後輩という、親しい間柄だったとも聞いた。
 あの男の攻撃を食らい休憩を取っていたときに、彼は少し彼らのことを話してくれた。
 そして自分が“辛くないのか”と聞いたとき、彼は“大丈夫だ”と即答し、その後にこう呟いた。
 『辛くはないが、寂しいもんだな』──と。
 強いな、と思った。
 自分も出雲のように乗り越え、この状況に抗い続けなければいけないと──彼がいなければ、そう思っただろう。

108・──炎は全てを断つ。  ◆l8jfhXC/BA:2006/02/05(日) 07:13:37 ID:nD6UKOhw
「王子……」
 涙を拭いながら、最後に残った一人のことを思う。
 仲間であり、大切に思っている人間なのは二人も変わらない。だが、彼だけは。
 彼だけは、個人的な感情を抜きにしても守らなければならない。
(もっと、焦らなければいけなかったのに)
 一番始めの時、気絶した出雲を見捨ててまでも、すぐに彼を探しに行くべきだった。
 リリアの死を知ったときに、失神なんて間抜けな真似をせずにすぐに自分の足で動かなければいけなかった。
 出雲に頬を張られたくらいで、彼女を殺した──そして彼を殺すかも知れない相手を殺める手を止めるべきではなかった。
 後悔だけが積もり、絶望している間に他の希望が次々と消えていく。
 そして残ったわずかな希望を信じるには、もしそれが果たされなかった場合の結末がひどすぎた。
 ゆえに、決めなければいけなかった。
(……そろそろ、ですわね)
 無意味な自責の思考を断ち切り、手元に置いた時計を確認する。──十七時五十五分。
 俯いていた顔を上げ、視線を背後の森の出口へと向ける。
 先程別れた彼らがいる、倉庫の方を。

109 ◆l8jfhXC/BA:2006/02/05(日) 07:14:28 ID:nD6UKOhw
終了。おそまつ。

110名も無き黒幕さん:2006/02/05(日) 08:50:11 ID:R.30INZg
うわ、出雲のバカさ加減がスゲエ(誉め言葉)。楽しそうだー。
イルダーナフって、アリュセ以外の生き残りにとっては「会ったことない人」か
「その他大勢の中の一人」かのどっちかでしかないのか、そういえば。
あー、リリアも似たようなもんか。いずれは追悼シーンが読みたいなぁ。
で、バニースーツ見ても長門の性格ならスルーしそうなんだよなぁ。
みくるのこと思い出しても、あからさまに動揺したりはしなさそうというか。
出夢が出夢っぽい言動してて良さげな感じ。

111名も無き黒幕さん:2006/06/09(金) 23:53:56 ID:WEwyCsfE
お目汚しすみません。
実現させられるチャンスがあればと、台詞回しだけ考えておいた話があったので、その供養に。

アシュラム復活話(仮題「黒衣の将軍」)

1.「アシュラム様!!」
  美姫一行に遭遇したピロテース。アシュラムに駆け寄ろうとするが、
  「ダークエルフ? ……オレを知っているのか?」
  「アシュラム様?」
  「それ以上近づくな。近づけば、わが主の敵とみなし、斬る」
  アシュラムはピロテースに刃を向ける。ピロテースは美姫が記憶を操作したのではないかと疑う。
  一方の美姫といえば、大体の状況を察するがピロテースに睨まれても思わせぶりに微笑むだけ。
  「主? いったい誰のことです? この島のどこにあなたが仕えるべき者がいるというのです?」
  「先帝を超えられるのではなかったのですか? あなたを信じ、付き従ってきた民を
   お見捨てになるおつもりですか? 目を覚ましてください」
  そんな美姫を無視して言い募るピロテース。
  「アシュラム!!」
  叫ぶ。だが、
  「オレは……」
  「オレは、すでに死した人間。敗者にすぎん」
  その言葉はアシュラムには届かない。肩を震わせうつむくピロテース。
  「わが、兄は……」
  「アスタールは、貴様のような人形のごとき男のために死んだのではない!!」

2.アシュラムの懐に飛び込み、その左目を狙って突きを放つピロテース。
  混乱していたアシュラムはその一撃をかわしきれずに頬を傷つけられる。
  ピロテースの振るうのは木の枝(せいぜいワニの杖)。
  一方、アシュラムの得物は青竜刀だが、すでに密着されているためにそれを振るうことができない。 
  「余計な手出し、するでないぞ」
  傍らの二人に釘を刺し、その様子を黙って見つめる美姫。

3.そのうちにアシュラムは冷静さを取り戻していくが、ピロテースを突き動かす思いの正体が分からず、
  戸惑い、攻撃に転じることができない。
  だが、徐々に鋭さを増していく攻撃に、アシュラム本来の闘争本能が目覚める。
  一撃をかわし青竜刀の柄で木の枝を跳ね上げるアシュラム。木の枝は手から離れて飛んでいく。
  ピロテースはバランスを崩ながらも転がってアシュラムの次撃をかわすが、その頭に青竜刀が振り下ろされる。

4.青竜刀はピロテースの目の前で動きを止めていた。見上げるピロテースにアシュラムは問う。
  「お前たち、ダークエルフは毒を好んで用いる。最初の一撃……」
  「あれが毒塗りの短剣なら、オレは死んでいたか?」
  「知るものか。私が持っていたのはただの木の枝、その問いに答えられる者などいるはずもない」
  アシュラムは再び問う。
  「今の一撃、オレが刀をそのまま振り下ろしていれば、お前は死んでいたか?」
  「知るものか。それより、早く止めを刺さなくていいのか?
   私はまだ生きている。まだ、できることはいくらでもあるのだぞ」
  その答えに笑みを浮かべるアシュラム。
  「そのとおりだな。……なるほど、オレもまだ死んだわけではないということか」
  そう言って、青竜刀をどける。
  「アスタールの妹と言ったな。名は何と言う?」
  やはり、自分のことを思い出してはくれないのかと、目を伏せるピロテース。
  しかし、その感情をおさえてアシュラムの顔を見つめ返す。
  「ピロテース……」
  「ピロテース、オレは生き残るぞ。ここから戻って、やらねばならんことがあるからな」
  「だが、その前に……」
  言って、ピロテースから視線をはずして美姫へと向き直るアシュラム。
  ピロテースはその背に、お供します、と声をかけ、アシュラムは、好きにしろ、と答える。
  「さて、どうされるおつもりかな? 我が“主”殿」
  美姫は答えず、ただ笑むのみ。

  了


この後は、他の方任せで、美姫VS二人をやるなり、手を組ませるなり好きにしておくんなさいというところ。
もちろん、ピロテースが他の連中に先んじてアシュラムに会える可能性は非常に低かったので、没になったのは予想通り。
それに、宮野の件をまったく生かせていないなど良くない点が多々あることも言うまでもない。

112タイトル無し(1/4)  ◆l8jfhXC/BA:2006/12/03(日) 19:21:35 ID:zoduIZi2
※舞台組+α没話。


「…………」
「…………」
 訪問者を受け入れたマンションの一室は、先程とは異なった静けさに満ちていた。
 その沈黙の中心には、椅子に座って向かい合う一組の男女の姿があった。
 双方共に長い黒髪を持つ長身で、白い外套を羽織っている。
 非常に整った顔立ちに、淡々とした無表情を浮かべているのもまったく同じだ。
 お互い黙り込んでいるだけで何もしていないのだが、それだけでも十分絵になる光景と言えた。
(いえ、この場合それだけ“ならば”と言うべきかしらね)
 重いというより奇妙な空気の中、ダナティアは二人を見つめていた。
 隣には終とベルガー、そして女性の同行者である古泉一樹の姿がある。
 彼らも何をするでもなく、二人を眺めている。別に見惚れているわけではなかった。
 むしろ、呆れていた。
「やっぱり嫌」
 その女性の方、パイフウと名乗っていた黒髪の美女が沈黙を破る。
「嫌、と言われましても。治療を最優先にすると言ったのはあなたでしたよね?」
 苦笑する同行者にもかまわず、彼女は首を振る。
 変わらぬ無表情を真正面の男性──メフィストに向け、
「こんな男に治療されるのは、絶対に嫌よ」
「この部屋に入る前に治療を申し入れたときは、医師が男性でも我慢すると言っていたじゃないですか」
「その医者がホモだなんて聞いてないわ」
 ぴしゃりと言い切った。
 言われた当人は、やはり涼しげな無表情を貫いていたが。
 ──さかのぼること数分前。
 二人に戦う意志がないことと、その片方が大怪我を負っていることを知り、ダナティア達はメフィストの治療を勧めた。
 武器とデイパックの一時没収にはあっさり承諾したのだが、肝心の“医師”の話になると、部屋に着くまでごねていた。
 男は嫌。それだけらしい。

113タイトル無し(2/4)  ◆l8jfhXC/BA:2006/12/03(日) 19:22:21 ID:zoduIZi2
 それでも一度は同行者の宥めに折れたのだが、部屋に入りその医師と向かい合うなり、突然顔色を変えた。
 この医師の美貌なら、陶酔するのはしかたない。しかし彼女の表情は、そんな好意的な感情を表していなかった。
 一種の勘で例えようもない違和感と嫌悪感を覚えた彼女に、さらにそれを察したメフィストがこう言った。
「安心したまえ。君がどんな悪癖を持っていようと、私にはまったく興味がない」
 その一言で何かを確信してしまったらしい。
 以後あの睨み合いが続き、現在の状況に至る。
「男に、それも男を好きな男なんかに触れられるなんて耐えられないわ」
「そこは患者と医者という関係上許容してくれたまえ。
私とて常に不快な柔らかい肉に埋もれる生物など、治療の時以外触れたくないのだよ」
「その気持ちとてもよくわかってよドクター。ええ、本当にこの脂肪は邪魔よね……」
「女の君が同意するなダナティア・アリール・アンクルージュ」
 一方は真顔、もう一方は仏頂面のまま、異性への暴論の投げ合いが続く。
「本当に、男なんてみんなくだらない」
「物事はもっと具体的に考えて発言したまえ。感情論だけで中身のない議論は女のする愚かな行為の一つだ」
「具体的に言うまでもなく全部くだらないって言ったの。
男の嫌なところを一つ一つ挙げるなんて途方もないことに体力を使いたくないわ」
「その程度のことに体力を惜しむなど、君の肉体はよっぽど腐敗していると見える。
その最たるものはやはりその胸郭にこびりつく乳房体か。希望があれば切除するが?」
「ええ、ぜひお願いするわドクター!
ああ、ようやくこの重いわ嵩張るわ蒸れるわ肩が凝るわ注目されるわいいこと無しの物体から解放されるのね……!」
「だから君が口を挟むなダナティア・アリール・アンクルージュ」

114タイトル無し(3/4)  ◆l8jfhXC/BA:2006/12/03(日) 19:23:10 ID:zoduIZi2
「……なぁ、おれ達は今まで集まってくる殺人者共を待ち受けるっていう割とシリアスな状況だったはずだよな?」
「そのはずだったさ竜堂終。どうやら俺達は何かの拍子で別時空に迷い込んだらしい。
今俺は世界で二番目に途方に暮れている人間だと思うんだがどうか」
「心中お察しします。僕もまさかこんなことになるとは」
「察してくれるなら早くあの女連れて帰ってくれ」
 溜め息をつく残りの男性陣。
(……確かに、いい加減に何とかしないと情報交換も出来ないわね)
 それを見て、ダナティアは少し冷静さを取り戻す。
 胸部にぶら下がる不愉快な脂肪分について、初めて同意見を得られ浮かれてしまったが、この場は何とかして収めなければいけない。
 意を決して、手を叩いて不毛な口論に割り込む。
「互いに感性の違いと言うことで矛を収めてくれないかしら。
パイフウ、あなたもそろそろ諦めてちょうだい。そんな大怪我、あたくしが代わりに治療するわけにもいかなくてよ」
 軽く諫めると、なぜかパイフウの方が無表情のままこちらをじっと覗き込み、
「そうね、あなたの診察なら受けてもいいわ」
 微妙に雰囲気が変わった黒髪の麗人を見て、なぜか某黒髪お下げがVサインを出す図が思い浮かんだが全力でスルーする。
「私としても、君よりも君の相棒の方に興味があるのだが」
 古泉少年の笑顔が固まったが、やはりスルー。
「と、とにかく素直に治療を受けなさい! 個人の嗜好を主張し続けるのなら同盟には入れられなくてよ!
ドクターもお願いだから煽らないでちょうだい!」
「嗜好じゃなくて体質の問題なんだけど」
「煽りではなく事実を述べたまでなのだが」
 ほぼ同時に反論が返って来るところを見ると、ある意味息が合っているのかもしれない。
 いっそ患者の意識を奪って押し付けるべきかと思い始めると、

115タイトル無し(4/4)  ◆l8jfhXC/BA:2006/12/03(日) 19:24:07 ID:zoduIZi2
「……まぁ、元からこの島の参加者すべてが私の患者だ。
個人的な主張を譲る気はないが、それを理由に病んだものを見捨てはしない。
誰であろうと、私の手の及ぶ限り治療しよう」
 メフィストが医者の鑑の様な言葉を告げた。
 当然視線を集めた患者側は、苦渋に満ちた表情でしばし黙り込んだ後、不承不承と言った口調で、
「……そこまで言うなら仕方な」
「もちろん本人が“心から”望めば、の話だが」
「…………」
 付け加えられた言葉にパイフウが正式な救いを申し出るのに、追加五分の時間を要した。


終了。
これ書いた時点では未読だったので突っ込みにしか出来なかったんですが、
ベルガーも実は結構アレだったんですね。

116名も無き黒幕さん:2006/12/23(土) 01:31:17 ID:lu55ftd.
シャナを暴走させて散々暴れさせた後に、それを抑え込んで殺さず確保する為に、
ダナティアでアラストールを簒奪契約して、
フレイムヘイズである事も、連鎖的にトーチ坂井悠二の想い出も後に失うという
シャナいぢめ極め展開は没ったようだ。

117名も無き黒幕さん:2006/12/26(火) 16:28:11 ID:ug.kuJgg
正直、セルティの死を知るだけでも結構な精神ダメージだと思う >シャナ
これで暴走して、ついでに大集団の二、三人も殺しちゃったら更に…

118イラストに騙された名無しさん:2007/01/25(木) 09:09:34 ID:Q7fgRENs
>>117
それを上回る事態が発生した件について

119Their Will  ◇MXjjRBLcoQ:2007/01/28(日) 00:53:23 ID:G30VWF.2
   たぶん壮絶な最期て奴なんだろう。
   彼の言葉が、まだ耳に残ってる。――“決して絶望してはならない”
   最期まで、彼はその言葉通りに生きたんだろう。最期まで戦ったんだ。
  「どうしてかな?」
   森を走りながらも、心はここにない。
  「なんであたし達は逃げてるのかなあ」
   わが身を振り返り、
  「あの子達は、何がしたいんだろ」
   悲しみさえも空っぽになって、死と破壊が残ったような一撃を思い出す。
   でも今ならわかる、ちょっとしたズレ。
  「あたしは何がしたいんだろ……」
   そんな疑問が、ホノカの心の中で渦巻いていた。
   逃げてたら、絶対にわからない。
  「……戦うよ?」
   決意の言葉があまりも自然にこぼれ出た。

「……戦うよ?」
 聞いて、正直、あほかと思った。
 見上げれば白亜の巨像は森を睥睨していた。おもむろに一打。森がまた、クレーターに侵食される。
 わざわざ回りこんで北西からこちらを虱潰しに来たのだ。敵はどうあってもこっちを始末したいらしい。
 足元がまた揺れる。定期的な衝撃がリミットを刻んでいる。
 戦う、その言葉はどこまでもヘイズの想定外だった。
 敵は確実に近づいている。
 少なくとも正気ではありえない。
 ヘイズは火乃香の顔を見て、巨像を見上げ、もう一度彼女の顔を見た。
「……マジか?」

120Their Will  ◇MXjjRBLcoQ:2007/01/28(日) 00:54:17 ID:G30VWF.2
「大丈夫、別に諦めてるわけじゃないよ」
 彼女はただ淡々とヘイズを見てそう告げる。
 一瞬、I-ブレインさえ止まった。
「ここで斃してしまおうって、いってるの。わかんないかなぁ」
 その一言でヘイズは言葉に詰まる。
 自分には策がない、ただそこにある道として逃げる、といってるだけなのだ。
 目の前で、火乃香はじれったそうにその短い髪をかきあげる。
 彼女は遠くを見て、そう言った。火乃香の目はどこかを見据えていた。
「倒す、というがどうするのだ、あのデカブツは数十年に一人の天才的魔術師の俺で……」
「それはあたしが何とかする、時間がないからあんたはしゃべるな」
 いわれて、コミクロンは押し黙った。
「敵は2人、こっちは4人。どこにも逃げる必要なんてない」
 唐突に目の前で、火乃香の騎士剣が跳ね上がった。へイズの首横の空間を凪ぐ。
 漂ってきた銀糸が、斬撃を受けて溶ように虚空に消える。
 見つかったな、と誰ともなくつぶやいた。ヘイズ自身が言ったような気もするし、他の誰かのような気もする。
 ただ白亜の巨像が、こちら見ていた。
「戦うよ。戦ってあの子に、あの赤い髪の女の子に聞きたいことがあるんだ」
 もう一度同じ台詞。言葉には力があって、瞳には意思があった。
 ヘイズにはない。
「任せていいんだな?」
 まだ状況が見えていないのは自分だというのはわかってた。走っていれば。もっといい打開策があるんじゃないかという思いがあった。
 たった一つの勝利の道を、粘って粘って手繰り寄せるのが自分の戦い方だということを、ちょっとしたピンチで忘れていた。
「あぁ、クソッタレが! 命預けたぜ」
 結句、ヘイズ自身の腹が決まっていなかったというだけの話。
 告げると、火乃香は笑った。
 わずかに八重歯の覗く、お世辞にも上品といえない、けれどヘイズにはこの上なく眩しかった。
「あーもう、なさけねぇな、俺」
「ぼやかないぼやかない。あたしはあの赤い髪の女の子を止める。ヘイズはあのデカブツの相手」
「へーい」
 ヘイズは頷く、元からそうなるだろうとは思ってた。当たってはいけない攻撃を避けきるのがヘイズの戦い方だ。
「コミクロンはあの銀色の子、さっき見た感じあの糸はヘイズかコミクロンの魔法で消せてた。
 先生はコミクロンとその子の注意をひきつけておいて」
 コミクロンも異議をさしはさまない。任された、というようなことをディスク半分ぐらいの言葉で表現する。
 まぁ、奴はこれぐらいでちょうどいい。最近殊勝で少し困る。
 女も、その無表情を一瞬しかめたが、素直にうなずいた。
 ヘイズには、女の事情がわからない。それでも、火乃香が何も言わない以上聞くのは憚られる。
 ただ、火乃香は彼女を信頼しているのはよくわかる。
 疑いの心がないわけじゃない。
 急ごしらえのチームだからこそ、呑み込むことも必要だ。ちょうど世界樹の時のように。
 ただ、その役をこの少女に託すのが、背負わせるのがヘイズには心苦しかった。
「まず赤い髪の女の子、次にあのデカブツを始末する」
 どうやってとは聞かない。細かな作戦は各自の頭で組み立てる。こと戦闘時に死線を読み間違える馬鹿は、ヘイズたちの中には居ない確信がある。
 火乃香は指針だ。そして、急ごしらえのチームだからこそ全員が、彼女の決意を信じるのだ。
「いくよ!」
 一斉に散開。
 直後、地響きとともに象牙の塔がその中心点に突き立った。

121Their Will  ◇MXjjRBLcoQ:2007/01/28(日) 00:55:14 ID:G30VWF.2
   ************

 赤い髪の少女めがけて、バンダナの少女は、火乃香は一直線に駆けた。
「っち」
 判断は瞬間の連続だ。赤い髪の少女は舌打ちひとつ、詠唱を放棄、自身の刀を構えた。
 踏み込み、一閃。刀身と刀身がぶつかり合う。
 一瞬の競り合い、受け流そうとした刃が、
「ぐ、」
 少女によってねじ込まれた。
 少年を真っ二つにしたときから予想はしていたが、それでもとんでもない膂力である。
「破!」
 思い切って後ろに飛ぶ、ねじ込む力も巻き込んでバックステップ。
「敵は!」
 刃が迫る。狙いは着地際。とっさに騎士剣を構える。
「コンビネーション4−4−2!」
 振り下ろされた剣が盾に止る。コミクロンに心の中で感謝。
「全部!」
 瞬間、少女の裂帛の気合が吹き荒れた。
 火の粉を顔に受け、背筋が凍る。
 紅蓮の炎に盾が一秒持たずに焼け落ちる。
「!」
「殺す!」
 驚愕する火乃香に向かって、刃が一気に振りぬかれた。
 滑るようにして一歩前へ。紅蓮色の風圧が半身を嬲る。
「くっ」
「まだだ!」
 少女はそのまま逆袈裟に切り上げてくる。
――速度が乗り切る前にはじく!
 打ち合う金属音が響いた。
「くあっ!」
 完全に受け流してもまだ腕に痺れが走った。
「そんな腕で」
 透明で、機械的で、温度のない声とともに、さらなる追撃が、あまりにも禍々しい白刃が迫る。
 受けることは出来ない、痺れが芯に残ってる。
「わたしを殺せると思ってるの?!」
 ぎりぎりで踏み込で、そのまますり抜けるように距離をとった。というか、とれた。

122Their Will  ◇MXjjRBLcoQ:2007/01/28(日) 00:56:03 ID:G30VWF.2
 話にならない。捌くだけで精一杯だった。
 技術はかなりのものだし判断速度も尋常じゃない。
 何よりそれらを支える力がとても人間のものとは思えない!
 不意に、少女の視線が流れる。
「!」
 鍛え抜いた足を踏み出す。しけった土が二人分弾ける。
 少女の一刀が、振り下ろされる。その先にあるのは銀髪の少女を狙うパイフウ。
 黒い外套の背中が見える。瞬発力でも、勝てない。
「ふうっ!」
 間一髪、銀の軌跡が虚空を凪いだ。
「下がって! 先生!」
――間に合え!
 ぎりぎりで、というか気合で二撃目に割り込んだ。
 一撃目は警告を発する暇もなかった。
 立ち居地が変わって再び、激突。
 よけて、捌いて、距離をとる。
 そして、パイフウに向かう攻撃をインターセプト。
 一撃目はまず追いつけない。
 ヘイズと、コミクロンのフォローに救われる。
 必死の、防戦が続く。
 防御、回避、防御、回避、回避、防御、防御、防御。
 回避の数が削れていくのがわかる。腕の痺れが激しくなる。
 それでも、火乃香は少女に張り付いて離れない。聞きたいことがあった。
 少女の顔にイラつきが走る。
「邪魔!」
 剣筋のかすかな乱れ。
――もう少しだ。
「いい加減に」
 攻撃のタイムラグが大きくなる。
――いける
「死ね!」
 大振りな攻撃が多くなる。
――もう少しで彼女の心が引き出せる!
「そんな腕で」
 さっきも聞いた台詞だ。
「わたしを殺せると思ってるのかぁぁ!」
 もう何合前のことだかわからない。
 でもその声はぎらついていて、彼女の焦りが見て取れた。
「何でさ」
 火乃香はつぶやいた。たとえ、数秒後には切り伏せられるかもしれなくても。
「じゃぁさ、何であんたは殺そうとするのさ?」
 それだけがどうしても聞かなければ納得できなかった。どんなに危険を冒しても、少女の声を聞きたかった。
「あんたも、放送を聞いたんじゃないの?」
 グレイブストーンのときと変わらない。助けを求めて縋る声を、火乃香は放って置く事が出来なかった。
「あんたははまだ諦めきれてないんじゃないの?」

123Their Will  ◇MXjjRBLcoQ:2007/01/28(日) 00:57:15 ID:G30VWF.2
 少女の顔が怒に歪む。紅く赤い瞳が燃え上がる。
 少女の心が、動いた。
「あたしが戦わなかったから、ダナティアは死んだ」
 幽鬼の瞳ではない、決意を持った人間の目が、
「あたしが殺さなかったから、死んだ」
 足掻きもがく火乃香を捕らえる。
「おまえが死ねば」
 それはひどく暗い、底冷えするような声だった。
「誰かが生き残る」
 それでも、そこには、
「わたしは、あんたを殺して道を作る」
 彼女の意思があふれていた。
「わたしは殺す。あの人達が生き残るように。そうすればきっとあの人達が元凶を殺してくれるから」
 ぎちり、と少女のこぶしが音を立てた。
「ダナティアを、セルティを、みんなを傷つけたおまえたちを一人残らず殺す為に」
「彼女の言う通りよ、ほのちゃん」
 唐突に、パイフウが割って入る。
「私はあのダナティアの仲間を奪おうとしたわ、そこのお嬢ちゃんの仲間を奪ったのよ」
 私が、貴方を巻き込んだ。
 そう、聞こえた。
「奪う事は憎しみを繋ぎ、喪う事は悲しみを繋ぎ、そして過ちは過ちを繋ぐ」
「!!」
「過ちを犯した者として告げる。悔い改めて進め」
「おまえ達が」
 声はあまりにもか細く震えていた。
「それを」
 彼女の激昂が火乃香には手に取るようにわかる。
「おまえ達が、それを口にするなぁぁぁぁぁ!」
 ここで、彼女の言葉を借りる自分はとんでもない卑怯者だと思う。
「わたしは、おまえ達を殺す! 全部! 全部だっ!」
 けどそれでも、
 どうあってもほのかは彼女を止めたかった。

124Their Will  ◇MXjjRBLcoQ:2007/01/28(日) 00:57:55 ID:G30VWF.2
「あんまりだよ、そんなの悲しすぎるよ!」
 彼女の間違いに気付いてしまったから。
「さっきの人達は、ダナティアって人の仲間だよ」
 彼女達は見えてなかった。
「さっき、あんたが切り飛ばした子も、あんたたちがまとめて吹き飛ばした綺麗な人も」
 彼女達には聞こえてなかったんだ。
「……!!」
 少女が一瞬言葉に詰まる。振り下された手が緩む。
 なぜ、あの綺麗な人があたし達を生かしたのか。
 彼は目の前の少女を仲間と思っていたから。
 過ちを犯させたくなかったから。
 だから、叫ぶ。
「みんなあんたを止めに来たんだよ!」
 逡巡に少女が固まる。
 刀は、振り下ろされるところで止まっている。
 地響きだけが、2人の間で時間を刻む。
「その人たちの言ってることは本当」
 証明は意外なところから示された。
「え?」
 呆然とする少女。
「わたしには聞こえていた、あの人たちがあなたを止めに来ていたの」
「な!」
「自分達はダナティアの仲間だと叫んでいたわ」
 あくまで淡々と、
「私が最初にウルトラプライドで潰した人は、黒尽くめの男の人は、ダナティアって人たちの仲間だった」
 窓のところから、見えてたよ。彼女は無表情にそう付け足した。
「でもそんなことはもういいの」
 そこに壊れた笑みが張り付いた。
 巨像が地面を叩き潰す。ヘイズが土煙の中から転がり出る。
「だって、全部壊すんでしょ」
 ただ、唄うように。
 念糸がパイフウの太腿を捕らえた。コミクロンの魔術がそれ焼き払う。
「私と貴方は同じだから」
 悲しみの残りかすを、狂気でつなぎとめた心が詠う。
「さぁ、壊すよ」
 赤い髪の少女は、動かない
「どうしたの?」
 少女の問いに答えない。
 ただみ水溜りを凝視していた
「っ! だめだ!」
 水面は、絶えず衝撃にさらされているのに、くっきりと彼女の姿を映していて……
「鏡に写るものを見ちゃだめだ!」
 ホノカの天宙眼が鈍く蒼い光を放つ。

    ************

125Their Will  ◇MXjjRBLcoQ:2007/01/28(日) 00:58:55 ID:G30VWF.2
 目の前に一人の女が落ちてきた。女は落下の勢いを殺しきれずに芝生に転がる。
「皇女!」
 懐かしい声が、女を呼ぶ。
 女は歯を食いしばって這い上がろうとする。
 落下の衝撃に喘ぎながら、それでも強靭な意志を以って。
「ダナティア、  アラストール……」
 シャナは呆然と立ち尽くす。
「ねぇ」
 少し離れたところからかけられる声があった。
「あなた、さっきの放送をかけた人?」
 これから何が起こるか、シャナには理解できた。
「よかった。あたし、伝えたいことがあってここに来たの」
 それでも目をそらせない。
「ルールなんてないの。
 もしかしたらあったかもしれないし、さっきあなたが言った瞬間に生まれたのかもしれないけど、ないのと同じなの。
 どんなに頑張っても、全部無駄になっちゃう」
 ただそれだけのことが出来ない。
「だって、あたしが全部壊すから」
 ただ、凄惨で、陰湿で、それなのに、あまりにも空っぽな声だったから。
「あなたは、何?」
「え?」
 戸惑うような少女の声、でも結末はもう知ってる。
「教えてあげない」
 女の首がねじれてとんだ。
 ショックはない、わかりきったことだった。
 ただ、疑問だけが首をもたげた。
 本当に、わたしはもあんなことが出来るのか?
 目の前にはまだ少女が立っていた。シャナが圧倒したときと、まったく変わらぬ表情で。
 あんな顔が出来るのか。
 彼女の姿は私の姿だった。さっきまでは自分と彼女の姿が重ねて見れていた。
 今はもうフリウには、何の使命も、希望も、感じられなかった。 
「わたしは、こんなふうにはなりたくないよ」
 シャナには希望があった。みんなを生かす。そのためならどんな非道にも手を染める覚悟ができた。
 でも、こんな戦い方に、シャナは意味を見出せない。
 ねじれた首が、紐のように伸びる。
「う」
 シャナの目の前に、落ちる。
「あ」
 死肉で作られた人形がダナティアの顔で、こちらを見ている。
「あぁあああああああああああああああ!」
 唐突に、世界が割れた。

126Their Will  ◇MXjjRBLcoQ:2007/01/28(日) 00:59:36 ID:G30VWF.2
「ッ!!」
 反射の域にまで達した感覚が、世界を切り裂いた何者かを受ける。
 一本の細身の短剣だった。バンダナを巻いた、眼前の敵。タンクトップの少女。
「くぅ」
 吸血鬼の膂力で押し返し、返す刀で切りつける。
「たしかにあんたの言うとおりだよ」
 ただの我武者羅な攻撃は、少女にはかすりもしない。
「戦わなかったら死ぬんだ。誰かが死んで、別の誰かが生き残る」
 返ってきたのは言葉だった。
「けど、それはこの島も、砂漠も、同じなんだ」
 裂帛の突きが、踏み込んでよけられる。
「あたしだって死にたくはないよ、でもさ、あたしは死にたくないから戦ってるんじゃないんだ」
 返す刀も避けられた。冷や汗が、流れる。
「黙れ! 五月蝿いうるさいうるさいうるさい!」
 敵は、火乃香は一切の防御行動をとってない。
「まだしたいことがあるんだ。終わってない仕事がある、まだやってない仕事もある」
 ひどく穏やかな声だった。見切られている、見透かされてる。剣を使わせることすら出来ない、反撃の一言も返せない。
 その言葉が胸を抉る。その下げられた手がシャナの決意についた瑕をぐしゃぐしゃにかき混ぜる。
「ミリィに、義母さん、先生、みんなと過ごしていたい時間があるんだ。イクスと、もっといろんなことを話したい。
 ヘイズの世界を、ヘイズのことをもっと知りたい。コミクロンは……まぁいいや」
 きん、とすんだ金属音が響く、唐突に、としか思えないタイミングで受けられた。
「ひ、」
 不意を撃たれたような緊張感、殺しを読まれたような危機感。
「あたしは生きていたいんだ。おやじさんも、シャーネも死んじゃったけど。みんな生きていたんだよ。一生懸命生きたんだ」
 それはあながち間違いでもなくて、鈍い衝撃が腕を伝って脳に響いた。
「!」
 彼女の腕がしなやかに伸びて、シャナの分身をつかんだ。奪われる。贄殿遮那が奪われてしまう。
「なんで! わたしから、何もかも奪うの! いやだ! 絶対に、この希望は奪わせない!」
 叫んで、引き寄せようとした腕も、
「あんたの大切な人たちはどうだった?」

127Their Will  ◇MXjjRBLcoQ:2007/01/28(日) 01:00:18 ID:G30VWF.2
 その一言で凍りついてしまった。
 思い出す。
 ダナティアは何をしようとしていたのか?
 何を願っていたのだろうか?
――決して絶望してはならない
 彼女の声が聞こえた気がした。自分のあの死地から救い出したあの力強い声。
 それは誰も死なないことじゃなくて。
 誰も死なせないという夢を叶えようとしていたのではなかったか。
「っつ」
 嗚咽が漏れた。
「ぅううううぅう」
 わたしがここに来る前、自分の使命を望んだように、悠二との日々を夢見たように。
 結局、ダナティアに全てを背負わせていただけだったことに気がついた。
「あたしは、戦うよ。今日の続きを見るために!!」
 つかんだ贄殿遮那をくぐるようにして少女が踏み込んだ。こちらの引き込む力さえ利用して飛び込んでくる。
 ぐ、と鳩尾に肘がめり込んだ感覚。存在の力も吸血鬼の力も無視して、衝撃が体中に浸透した。
「が、あ」
 前のめりに、倒れる。
 こぶしを握り締める。まだ立ち上がれる、フレイムへイズの体はまだ戦うことが出来る。
 それでも起き上がる気には、なれなかった。
 火乃香の言葉がが何よりも心に響いていた。涙が流れた。ずいぶんと長い間自分を見失っていた気がする。
 あの誇りと使命に満ちた日々から、ずいぶん離れたところに来てしまった。
 それでも結局、シャナはまだ希望に縋っていたのだった。夢見ることを諦められなかった。
「悠二、わたしはまだ、明日が見たいよ。そこにおまえはいないのにね」

   ************

 発射の衝撃は、近代理論銃に慣れた身には少し響く。
 髪には苔むした土がべったりとついている。気持ちが悪いな、と思う。最低だ。とも思う。
 ウルトラプライドの射程内で、ひたすらにその一撃をよけ続けた。
 シャナを撃ったのはヘイズだった。ウルトラプライドの足元に滑り込み、未来予測という名の必中の一撃を見舞った。
 この一撃に、このタイミングに全霊を注ぎ込んだ。

128Their Will  ◇MXjjRBLcoQ:2007/01/28(日) 01:01:10 ID:G30VWF.2
「は」
 ここが限界だった。
 地面をえぐる衝撃に体制を崩し、無様に転がる。
 土を吐いて見上げれば、眼前に真っ白な精霊が聳えていた。
「ははは」
 ここが終着だった。
 どんなに未来を読みきっても、ヘイズが避けに徹する限り、そこには肉片をなる以上の未来は存在しなかった。
「本当に最悪だ」
 ウルトラプライドの右腕が鎌首をもたげる。
 あれはどうしようもない。あれを向けられて今まで生きていた自分は本当にどうかしている。
「あんたの大切な人たちはどうだった?」
 こんな状況でも、火乃香の啖呵はやたらと鮮やかに響いた。
「はは」
 笑みがこぼれる。声は透明で、どこまでも澄んでいる。確かに彼女には刀が一番似合う。
 しかし、まったくもってたいした度胸だ。後数年もすれば、さぞかしいい女になるだろう。
 彼女ならどんな道も渡り切る。俺はルートを示すだけでいい。
 ヘイズは覚えている。火乃香は初めて出会ったとき、空気分子を乱すのではなく、確かに発動した理論回路そのものを切り裂いた。
 頼むぜ、そんな言葉が漏れた。I-ブレインが告げる。
 着弾まであと2.0×10マイナス1乗秒。回避不能、防御不能。
「あたしは、戦うよ」
 少女に贄殿遮那が構えられる。
「今日の続きを見るために!!」
 額には青く輝く天宙眼。輝きが、ヘイズにはすさまじい情報の奔流として見える。
 あそこからあふれ出ているものが、たぶん未来というものだと、ヘイズは思う。
「破――!!」
 白刃。
 その一閃を捕らえることは、I-ブレイン以っててしてもまだ不可能だった。
 人知を超える破壊の因果すらも突破して。青い輝きが巨人の背後から虚空に駆け抜けた。
 アレは実体があっても幻像に過ぎない、ヘイズにはわかる。『情報』としての知覚がそう告げている。
 それが、その『情報』の塊が、まるで象牙か大理石の像のように、鋭利な切断面を覗かせた。
「ウルトラプライド!!」
 銀色の少女の悲鳴。
 まったく持って化け物ぞろいだと思う。
 ただの塑像のように、崩れていく。
「そんな」
 『存在しないもの』としての理に従い、虚空に消える。
「あ、」
 少女の腹にパイフウの踵がめり込んだ。
 最後に、銀髪の少女が崩れ落ちた。
「とりあえずは、命拾いか」
 それでも戦いは終わらない、死ぬまでだ。
 脳内時計が時間を告げる。現在時刻午前零時ジャスト。
 バトルロワイヤル、二日目、開始。

129Their Will  ◇MXjjRBLcoQ:2007/01/28(日) 01:01:52 ID:G30VWF.2
【D-5/クレーター郡/2日目・00:00】
【戦慄舞闘団】
【ヴァーミリオン・CD・ヘイズ】
[状態]:全身擦り傷打撲(命に別状はない) 疲労困憊
[装備]:
[道具]:有機コード、デイパック(支給品一式・パン6食分・水1100ml)
    船長室で見つけた積み荷の目録
[備考]:刻印の性能に気付いています。ダナティアの放送を妄信していない。
    火乃香がアンテナになって『物語』を発症しました。

【火乃香】
[状態]:軽傷(多数) 疲労困憊
[装備]:贄殿遮那
[道具]:デイパック(支給品一式・パン6食分・水1400ml)
[備考]:『物語』を発症しました。

【コミクロン】
[状態]:かすり傷、腕は動くようになった 疲労困憊
[装備]:エドゲイン君
[道具]:デイパック(支給品一式・パン6食分・水1000ml) 未完成の刻印解除構成式(頭の中)
     刻印解除構成式のメモ数枚
[備考]:かなりの血で染まった白衣を着ています。
    火乃香がアンテナになって『物語』を発症しました。

【パイフウ】
[状態]:両腕骨折(動いたり打撃の反動で痛む)
[装備]:ライフル(残弾29)
    外套(数カ所に小さな血痕が付着。脇腹辺りに穴が空いている。
    偏光迷彩に支障があるかは不明)
[道具]:なし
[備考]:外套の偏光迷彩は起動時間十分、再起動までに十分必要。
    さらに高速で運動したり、水や塵をかぶると迷彩に歪みが出来ます。

【D-5/クレーター郡/2日目・00:00】
【地獄姉妹】
【シャナ】
[状態]:吸血鬼/放心
[装備]:神鉄如意
[道具]:支給品一式(パン6食分・ダナティアの血500ml)
    /悠二の血に濡れたメロンパン4個&保存食1食分/濡れていない保存食2食分/眠気覚ましガム
    /悠二のレポートその2(大雑把な日記形式)/タリスマン
[備考]:体内の散弾片はそこを抉られた事により吹き飛びました。
     18時に放送された禁止エリアを覚えていない。
     C-8は、禁止エリアではないと思っている。

【フリウ・ハリスコー】
[状態]:全身血塗れ。右腕にヒビ。正常な判断が出来ていない。気絶
[装備]:水晶眼(眼帯なし、ウルトプライド)、右腕と胸部に包帯
[道具]:デイパック(支給品一式・パン5食分・水1500mm)、缶詰などの食糧

130名も無き黒幕さん:2007/02/13(火) 15:34:51 ID:9yaTnsNo
あ、こっちも面白いなぁ
没とはいえ乙でした

131ブラック・アウト(決断)(1/11) ◆5KqBC89beU:2008/05/09(金) 18:18:01 ID:VkBVSF.Y
 島の西南、神を祀る社の東端に、一本の樹があった。
 どことなく威風堂々といった風情を感じさせる広葉樹だ。
 その樹には、太い縄と白い紙を組み合わせた物が巻きつけられている。
 巻いてあるのは注連縄で、巻かれている樹は神木だ。
 地面に根を張って枝葉を高く広げる姿は、大昔からそこにあったように見える。
 夜明け前の神社に人の気配はない。
 争う声も、戦う音も、今ここにはない。
 東の空は徐々に明るくなり始めている。闇の色は淡く薄い。
 放送が始まる頃には、光源が水平線から顔を出すのだろう。
 澄んだ空気の中、神木のそばには少女が無言で立っていた。
 体は傷つき、装束は血と泥に汚れ、あたかも幽鬼のようだ。
 禍々しくも儚げで、脆さと鋭さを等しく含んだ眼をしていた。
 夜明け前の神社に人の気配はない。
 人に似た存在ではあったが、それでも彼女は人ではなかった。
 少女の瞳の色は銀。凍てつくような双眸には、満月を思わせる美しさがあった。
 風が吹き、束ねられた長い髪が揺れる。黒髪の一部は銀色に染められていた。
 澱んで濁って凝って冷えた、濃密な想念の塊が、彼女の中には沈んでいる。
 心の奥底に沈めることはできても、決して静まることのない強い思いだ。
 泣こうが笑おうが憤ろうが、その思いを忘れることは絶対にできない。
 悲嘆も歓喜も憤怒もすべて、その思いの付属物に成り下がっている。
 独りになってからの彼女を支えていたのは、その思いだけだった。
 それは、おぞましいほどの失望と減り続ける希望でできていた。
 絶望ではなかった。悪化していくものを、絶望とは呼べない。
 最後に残った希望は、どんなに減ってもなくならなかった。
 希望が減り、失望が増し、それでも彼女は絶望できない。

132ブラック・アウト(決断)(2/11) ◆5KqBC89beU:2008/05/09(金) 18:20:24 ID:VkBVSF.Y
 少女は荷物を地面に降ろし、中から厚い紙の束を取り出した。
 この『ゲーム』に反逆する者へと宛てた手紙だ。
 表には様々な情報が記され、裏には呪文が書いてある。
 呪文を唱えて手紙を宙に撒くと、その一枚一枚が鳥に変化して飛び去っていく。
 手紙の置き場所を禁止エリアで塞がれないようにするための、苦肉の策だった。
 手紙の鳥は、非攻撃的な参加者を追い、攻撃的な行動をする参加者からは逃げる。
 監視の道具だと勘違いされ、炎や雷で撃たれたなら、手紙の鳥は灰になるだろう。
 術が解けるまで飛べたなら、手紙の鳥は手紙に戻り、生存者へ情報を託すだろう。
 できることなら、他の参加者を発見した直後に情報を託せるよう設定すべきだった。
 けれど、そのような機能は術に組み込めなかった。できない以上は諦めるしかない。
 誰が受取人になるのか、あるいは誰も受け取れないのか、もはや術者にも判らない。

 東の空から、光が射してきた。
 放送が始まり、そして終わる。
 また、多くの死が告げられた。
 だが、今もまだ生き残っている者がいる。
 氷のごとき銀の眼光が、その力を増した。

 右手の指先が口元に添えられ、犬歯が薄皮を噛み切る。
 少女の薬指から、赤い雫が滲み出た。
 右手が下ろされ、袖口から純白の紙片が一枚だけ落ちる。
 次の瞬間には、人差し指と中指が、紙片をつまんで眼前に運んでいた。
 紙片が手から離れ、ほんのわずかに滞空し、その表面を指先が素早くなぞる。
 ただの紙片が呪符になり、人差し指の付け根と親指の間に挟まれた。
 血文字で呪文を書かれた呪符が、少女の神通力を吸い取っていく。
 改良を重ねて完成された呪符は、異世界の技を取り入れた新型だ。
 書き間違いがないか確認し、彼女は額に呪符を貼る。
 すらすらと指先に印を結び、常人には聞き取れない旋律を、少女は口の中に紡ぐ。
 そのまま彼女は歩を進め、神木の幹に背を預けて、目を閉じた。

133ブラック・アウト(決断)(3/11) ◆5KqBC89beU:2008/05/09(金) 18:21:24 ID:VkBVSF.Y

 『神の叡智』はかく語る。
 とある世界には、死霊の魂魄と植物の精とを結びつけて人の姿を与える術がある。

 少女は今、己の魂魄と神木の精とを結びつけようとしていた。
 失敗に終わる可能性は低くない。
 この島に植物の精が存在しているかどうかさえ、試してみるまで判らない。
 だが、成功する可能性もまた低くはない。

 『神の叡智』はかく語る。
 とある世界には、知性を有した植物たちが数多く存在する。
 とある世界には、森の精霊に力を借りて魔法を使う者がいる。
 とある世界には、自身を樹と化すことで力を得た魔道士がいた。

 土中から細い根が伸び、少女の脚に絡みついて肌を破り、浅く食い込んだ。
 それでも眉一つ動かすことなく、術者は文言を繰り続ける。
 やがて、わずかに繋がった部分から、言葉にならぬ気配が伝わった。神木の意思だ。
 少女は呪文を中断し、神木の精に応答する。
「……いいえ。確かに本来この術は、あなたとわたしを対等に結びつけるものでした。
 けれど、既知の情報からは不完全にしか術を構築できませんでしたの。わたしの魂は
 すぐに壊れ、あなたに吸収されますわ」
 淡々とした、当然のことをありのままに伝えている者の口調だった。
「本当なのは判りますわよね? 繋がった部分から、わたしの心を読めるでしょう?
 そうです、わたしの意思は消滅します。怖くないと言ったら嘘になりますけれど、
 神が命を捨ててまで紡ぐ術ならば、覿面に効くような気がしませんかしら?」
 様々な感情が複雑に入り混じった声音だった。
「そういえば、名乗っていませんでしたわね。わたしは銀仙華児の李淑芳と申します。
 この社が祀る神とは毛色が違いますけれど、正真正銘の神仙ですのよ」
 少女の言葉が真剣味を帯びる。
「あなたを神木の精と見込んで頼みます……どうか力を貸してください」
 しばしの静寂を経て、淑芳がまぶたを開き、枝葉を見上げる。
「ありがとうございます。短い付き合いになりますけれど、よろしくお願いしますわ」

134ブラック・アウト(決断)(4/11) ◆5KqBC89beU:2008/05/09(金) 18:22:04 ID:VkBVSF.Y

 今の淑芳は、昨日の淑芳よりも、ほんのわずかに強い。

 それは、淑芳がカイルロッドと出会った頃のこと。
 焚き火に使う薪にするため、木片を拾っていたとき、カイルロッドが指先を切った。
 怪我というほどでもない、とても小さな傷だった。
 これは仲良くなる好機、と瞬時に淑芳は計算した。
 彼女は彼の手を取り、傷を殺菌するという名目で、彼の指先を口に含もうとした。
 カイルロッドが大慌てでそれを拒否し、異常なほどの嫌がり方に淑芳は驚愕した。
 嘘泣きしながら拗ねてみせる彼女に、困った顔で彼は事情を説明した。
 曰く、彼の血肉には親から受け継いだ超常の力が宿っている。
 曰く、彼を食らえば強くなれると言って魔物が襲ってきたことがあった。
 曰く、彼の力を迂闊に吸収したならどんな悪影響があっても不思議ではない。
 事情を聞いた淑芳は、仲直りするという名目で、カイルロッドに抱きついた。

 それは、淑芳が夢の中で御遣いと対峙した後のこと。
 まだ乾いていないカイルロッドの血を、淑芳は少しだけ飲んだ。
 優しい彼はそんなことを望んでいなかった、と承知の上だった。
 凶暴化などの兆候が現れたら、すぐに自殺する覚悟はしていた。
 仲間を守るために、仇を討つために、彼女は力を得ようとした。

 カイルロッドの血は、十数時間を経た後に、淑芳の力をほんのわずかに強化した。
 大幅に力が増すような効果はなく、その代わりに、どのような悪影響もなかった。
 カイルロッドに対する弱体化の細工が、彼の血に宿る力を弱めていたらしかった。

 今の淑芳は、昨日の淑芳よりも、ほんのわずかに強い。
 ほんのわずかにしか、彼女は強くなれなかった。
 彼女には、仇を滅ぼせるだけの力がない。

135ブラック・アウト(決断)(5/11) ◆5KqBC89beU:2008/05/09(金) 18:22:48 ID:VkBVSF.Y

 呪文が再開された。
 細い根は蔦のように伸び、淑芳の体を覆い、食い込んでいく。
 樹の中から発せられる木気が、彼女の魂魄に染み渡っていく。
 神木とは、神の依り代となる樹のことだ。
 神仙が同化するには相応しい植物だろう。
 これから淑芳が使おうとしている技は、雷の術だった。
 雷は神鳴り、すなわち“神の声”を象徴する。
 木の精は木霊、つまり“声を返すもの”とされている。
 神仙の放つ“神の声”に神木の精が“声を返して”唱和する、という趣向だ。
 また、雷とは八卦において震であり、属性は木だ。
 さらに、朝は木気が最も活性化する時間帯である。
 淑芳と神木は、一つのものになっていく。
 とある世界の流儀に従って表現するなら、術者自身と合一した神木を強臓式神形具の
代用品として使うことで遺伝詞を増幅する、ということになる。
 これらの見立てに超常的な力がほとんどなかったとしても、無意味ではない。
 自己暗示によって精神集中をしやすくするだけでも、充分に効果的ではある。

 神を祀る社に、新たな来訪者は現れない。
 呪いの刻印が発動し、彼女の魂を消し去る様子もない。
 『ゲーム』の支配者は、淑芳の行為を阻もうとしない。
 この程度ならば何の問題もないと判断されたのだろう。
 実際、今から彼女が使う術は、必ずしも『ゲーム』を妨害するとは限らなかった。
 そもそも、その術は『神の叡智』がなければ絶対に構築できなかったものだ。
 こうなることを最初から望まれていたとしか、彼女には思えない。
 けれど、これが最善手だと淑芳は信じた。

136ブラック・アウト(決断)(6/11) ◆5KqBC89beU:2008/05/09(金) 18:23:46 ID:VkBVSF.Y
 残っていた呪符が、すべて撒き散らされる。
 既に淑芳は神木の一部であり、もはや神木は淑芳の一部だった。
 結びついた両者は、一個の存在として呪符に神通力を供給する。
「臨兵闘者以下略! 電光来々、急々如律令!」
 そして、神社は閃光と轟音に包まれた。
 淑芳が右手を掲げ、神木の枝から、一枚の葉がそこに落ちる。
 光と音は天に向かって伸び、雷と化す。
 指先が木の葉の表面をなぞり、血文字がそれを呪符に変える。
 雷の軌跡が、空間に円陣を刻みつける。
 淑芳が呪文を唱え、木の葉の呪符は、一瞬で極小の竜となる。
 雷光と雷鳴が紋章を宙に描く。
 極小の竜が空へと昇っていく。

 『神の叡智』はかく語る。
 とある世界には、力ある紋章によって物理法則に反逆する術がある。
 とある世界には、“生きるために使われていた力の残滓”を再利用する魔法がある。
 とある世界には、対象を組み変えてから元に戻すことによって整調化する技がある。

 淑芳は呼びかける。意思を声に乗せ、解き放つ。
「戦場に漂う百二十八万の遺伝詞たち! 残響する断末魔の叫びと呪詛の囁きたちよ!
 届いていますか!? わたしの遺伝詞の声が!」
 雷で作られた小さな円陣の、その中央に、ちっぽけな木の葉の竜が激突する。
 声が、響く。
 最後の仕上げを打ち込まれ、紋章が起動した。
 完成した術が、周囲の空間に干渉を開始する。
 原因不明の不具合によって紋章の力が減衰し、それでも術は形を成す。
 死者の遺した“普通の人間には感知できない何か”が、虚空に集められていく。
 凝縮された“何か”は、紋章の記述に従い、木気を帯びた小竜として顕現した。

137ブラック・アウト(決断)(6/11) ◆5KqBC89beU:2008/05/09(金) 18:24:39 ID:VkBVSF.Y
 掛詞は竜、詞色は青葉の色、拍詞は力強い鼓動の速度――とある世界の風水師なら、
そんな言葉で理解するだろう。
 木は土から養分を吸い、朽ちた木は土に還る――とある世界の陰陽道を嗜む者なら、
そんな摂理を想起するだろう。

 集められた多くの“何か”は、生気の源として整調化され、あるべき場所に還る。
 小竜が高らかに咆哮し、島の上空を旋回しながら砕け散っていく。
 島全体に、優しく温かい力が降り注いだ。
 命の残滓が、生者の体内へと還っていく。
 すべての命に、等しく生気が与えられる。
 変換と返還。
 転化と添加。
 それこそが、彼女の望んだことだった。
 無論、他の参加者一人一人に対しては、ささやかな影響しか及ぼせていない。
 カイルロッドに救われた命を自ら捨てる行為は、裏切りであるかもしれない。
 故郷の皆も鳳月も星秀も緑麗も麗芳も、淑芳に生きていてほしかっただろう。

 けれど、これが最善手だと淑芳は信じた。

 仇を討てるだけの力が己にない以上、他者に力を与えて悲願を託すしかなかった。
 こうなることが仇の思惑通りだったとしても、やらないわけにはいかなかった。
 分の悪い賭けであると判っていても、賭けずに諦めることなどできなかった。
 淑芳の与えた力で誰かがアマワを討てるというなら、それで彼女は満足だ。
 淑芳の身にも生気は宿ったが、それらはすべて神木の精へと流れていく。
 不可逆的な変質が始まっており、後はただ死の瞬間を待つだけだった。
 死者の遺物も生者の意思も、彼女は復讐のための駒として利用した。
 見知らぬ誰かのためにではなく、私怨を理由にやったことだった。
 自分の命を惜しむ理由も資格も、もはや彼女には残っていない。

138ブラック・アウト(決断)(8/11) ◆5KqBC89beU:2008/05/09(金) 18:25:31 ID:VkBVSF.Y

 周囲を再び静寂が包む。
 夜が明けた今も、神社に人の気配はない。
 しかし、いつの間にか音もなく現れた者ならば、そこにいた。
 まるで女子高生のような姿をしてはいるが、彼女もまた尋常な存在ではなかった。
「なかなか興味深いものを見せてもらったわ。できることなら、あなたとはもう少し
 早く会ってみたかった」
 お世辞でも皮肉でもない、といった口調で来訪者は言う。
「わたしはもうすぐ死ぬはずですわ。それでも、わたしに用がありますの?」
 淑芳の声は呼吸音と大差ないほど弱々しかったが、意思の伝達に支障はなかった。
空気が振動したかどうかなど、人ではない来訪者にとっては何の関係もない。
「会ってもほとんど影響がないからこそ、こうして会えたんでしょうね」
 暗くなり始めた淑芳の視界の中で、彼女の輪郭だけが鮮明だった。
 空を見上げ、島に降る淡い力を、彼女は静かに眺める。
「まるで、四月に降る雪のようね」
 それだけ言って、来訪者は再び淑芳に顔を向けた。
「もしも『遺言を聞いてあげる』とでも言う気なら、余計なお世話ですわよ」
 淑芳の言葉に対し、彼女は左右に首を振る。
「悲しみは世界に付随する真実。だから、悲しいことはどうしようもない。あなたは
 思いを遂げられないまま世界から消える。どこへも辿り着けずに、ここで力尽きる。
 でも、これで最後というわけではない。あなたと同じ何かを求め、あなたよりも先へ
 進む者が、いつか現れるかもしれない。その可能性は誰にも否定できない」
 ただひたすらに純粋な笑みを浮かべて、彼女は告げる。
「それを、伝えたかっただけ」
 風が吹き、木々がざわめく。
 現れたときと同様に、いつの間にか来訪者はいなくなっていた。

139ブラック・アウト(決断)(9/11) ◆5KqBC89beU:2008/05/09(金) 18:26:15 ID:VkBVSF.Y
 口元を歪め、地面に膝をつき、淑芳は前のめりに倒れ伏した。
 体に張られた細い根は、切れることなく樹と繋がったままだ。
 額に貼ってあった呪符が神通力を失い、剥がれて風に舞った。
 不完全な融合の術が、彼女の魂に無数の亀裂を走らせていた。
(『世界』に挑む者たちは、奇跡を起こしてくれますかしら……)
 肉体から乖離した幽体の破片が、細い根を通じて神木に吸い込まれていく。
 徐々に薄れつつある意識の中では、昔の記憶が走馬燈のように見えている。

 鳳月と星秀がくだらないことで口喧嘩を始めて、それを緑麗が両成敗している姿を、
麗芳と淑芳は並んで見ていた。鳳月が身の潔白を主張し、星秀が屁理屈をこね、緑麗が
溜息をつき、麗芳が呆れて苦笑していた。

 神仙とは、全知全能の存在ではない。
 彼女にできることは、もう何もない。
(誰でもいい……わたしたちの、仇を……)
 天界最強の武宝具・雷霆鞭と、最高機密である秘術の知識を、アマワは得ていた。
 淑芳の故郷を滅ぼすことさえ、おそらくアマワにとっては容易いことなのだろう。
 天界からの救援がないのは、既に滅ぼされてしまっているせいなのかもしれない。
 アマワを討つためには、奇跡が要る。
(まったく……こういうときに神頼みできないのが、神仙の辛いところですわね……)
 彼女にできることは、もう何もない。
 自我が軋みをあげ、思考が暴走し、精神が崩壊していく。
 記憶が断片化し、無秩序に再構成され、鮮烈な幻が意識を埋め尽くしていく。

 ある日、淑芳が天界を歩いていると、いつもの散歩道に見慣れない青年と犬がいる。
青年の優しげな微笑を見て、淑芳は彼に一目で惚れる。青年は照れたり困ったりするが
どこか嬉しそうな様子だ。淑芳と青年の恋物語を、犬が生温かい目で見守っている。
 淑芳が皆に青年(と犬)を紹介すると、皆は揃って驚き、からかったり悔しがったり
しつつも祝福してくれる。皆の笑顔に囲まれて、淑芳たちも笑みを浮かべる。

 涙が一粒、大地に染みて、少女は呼吸と鼓動を止めた。

140ブラック・アウト(決断)(10/11) ◆5KqBC89beU:2008/05/09(金) 18:27:05 ID:VkBVSF.Y
【033 李淑芳 死亡】
【残り ??名】
【H-1/神社の東端/2日目・06:15頃】

※神木のそばに淑芳の死体と荷物があります。呪符はすべて消費されました。
※淑芳の手紙が鳥に変化して移動しています。非攻撃的な参加者を追跡し、攻撃的な
 行動をする参加者からは遠ざかるように設定されています。術が解けると、鳥から
 手紙に戻ります。手紙の内容は、『神の叡智』から得た知識、玻璃壇を元に描かれた
 島の詳細な地図、淑芳の経験談や推論などであると思われます。
※カイルロッドの死体から血肉を吸収することによって、摂取してから十数時間後に
 ほんのわずかな力が得られます。誰がどれだけの量を摂取した場合も、得られる力は
 ほんのわずかです。凶暴化などの悪影響はありません。
※死者の遺した“普通の人間には感知できない何か”が消費され、島の生物すべてに
 生気が与えられました。
※雷の紋章や砕け散る小竜は、普通の人間にも感知できるものでした。一連の現象は
 06:10頃から数十秒ほど発生していました。
※神木の精は、他の木の精とほぼ同じ程度の能力しか備えていませんし、普通の人間に
 意思を伝える能力がありません。神木の精に淑芳の意思が宿っていたりはしません。

141ブラック・アウト(決断)(11/11) ◆5KqBC89beU:2008/05/09(金) 18:27:54 ID:VkBVSF.Y

[補足]
・手紙を鳥に変化させる――少し改変してあるが基本的にはチキチキの符術
・樹の精が存在している――ピロテース関連の描写などから問題はないと判断
・植物の精と同化する――陰陽ノ京の“死霊と植物の精とを結びつける術”を応用
・見立てによる術の構築――陰陽ノ京やMissingなどに登場する方法論
・カイルロッドの血による強化――原作よりも無難な効果に改変
・雷を撃って意のままに操る――少し改変してあるが基本的にはチキチキの符術
・整調化作用のある紋章――伯林(というか都市シリーズ)に登場する風水紋章
・木の葉を呪符にして極小の竜を作る――チキチキの符術と風水紋章の応用
・死者の遺した“普通の人間には感知できない何か” ――事件シリーズの“呪詛”等

142嘘予告:2008/11/26(水) 23:03:28 ID:Fc72kk0o
 ――残り人数35名。
 その舞台は、確実に閉幕に近づいていた。

◇◇◇

「つまり我らと同盟を結びたい、と?」
「その通り。目的は先ほど放送を行った集団とほぼ同じ。まあ最終的にはあちらとも協力できたらいいとは思っているのだが」
「なるほど、の」
 そう呟き、美姫はしばらく値踏みをするように佐山の顔を覗き込んでいたが、
「ところで――お前が佐山なのだな?」
「その通り。何かね、先ほどの自己紹介では不足だったかね? ならばあと七通りの自己紹介方を――」
「要らぬ。それよりも、わたしはお前宛の言伝を頼まれていた」
 その発言で、場の空気が変わる。
 佐山がその言葉を気にするのは当然だ。
 彼宛ての伝言を残すのは、今まで殆ど情報が無かった自分の仲間達の可能性が高いのだから。
 だが、美姫の後ろに佇む三人の表情に緊張や疑惑が浮かんだのは――
「……ほう? 誰からかね?」
「名前は、知らぬ」
 ――その吸血鬼の顔が邪悪に歪んでいて。
「聞く前に、殺してしまったからの」


 悪役と、吸血鬼と。
 策謀を這わせ、相手を絡めとろうとするのが彼らの手管。
 ならば、此度絡め捕られるのは――



 ――銀光が、美姫と佐山の間を断つように突き刺さる。
 その場にいる誰もが気付かぬ内に、屋根の上に筒のような陰が隆立していた。
「君は世界の敵だ――」
 月光を背にしているため、そいつの表情を窺い知ることはできない。
 だけど、それでも不気味な泡はどこか寂しげに浮き上がり――
「――佐山・御言」
 敵の抹殺を宣言した。





 無名の庵。
 全ての世界から僅かにずれた位相にあるその場所で、彼らは対峙していた。
 この物語を終わらすために。

「……なるほど。正直、これは予測していなかった。さすがに魔神の心までは読めないか。
 贄はおろか、喚び手もなしに顕現するとはね。
 そうか、砕かれた石の名はデモンズ・ブラッド――君にも匹敵する魔王達を表すモノ。
 この場で、その全てを捧げた上での芸当というわけだ」

 その熱量は膨大。その威容は無限。
 審判と断罪の権能を持つ天罰神。故に、その名を、
「天破壌砕――王の中の王。紅世真正の魔神たる“天壌の劫火アラストール”」

 文字通り魂を燃やし、世界を灰とする。
 魔神にとってそんなことは容易いこと。世界を壊すことなど朝飯前。
 神野による呪圏・影。だが輝く炎を前に、それは触れることすら出来ずに消え去っていく。
 もとより勝敗は決まっていた。三千世界の闇と、その闇を打ち消す篝火。ならばどちらが勝つのか。
『――捕らえたぞ、神野陰之』
 そう。勝敗は、決まっていた。






 対主催。このゲームを終わらせようとする者。
 だが彼らもまた、盤上の駒に過ぎない。
 駒はルールに則って取り除かれる。例外なく。

143嘘予告:2008/11/26(水) 23:06:29 ID:Fc72kk0o
 殺戮の緞帳はゆっくりと閉じていく。
 だが、その舞台の上で未だに役割を演じ続ける者もいた。
 彼らは名優か、果てまた観客の慰みモノとなるただの道化か。


 彼らが転移し、そこに生きている者は居なくなった。
 ――もっとも、真っ当な生を諦めたものを生者と呼ぶならば話は別だが。

「……あはっ」
 千絵は緩みきった笑みを浮かべた。まるで決壊したダムのような、ある種の清々しさがそこにはあった。
 ――支払うべき対価はここに。あの女怪の記憶は留めている。
「『だが、おまえが私を見つけだして望んだならば、再び吸血鬼にしてやろう』」
 約束された言葉を吐き、自ら陵辱した男の残影を背負って。
 彼女はゆらりと立ち上がった。

 彼女が辿る未来は分かり切っている。
 きっと彼女は再び暗黒に堕ちるまで歪み続けるだろう。




「そうだな――」
 銃を突きつけられているという、傍目から見れば致命的な状況の中で、この男の態度は飄々としていた。
(そう。傍目から見れば……ね)
 体制と表情を崩さぬまま、風見は背筋を落ちていく冷や汗を感じていた。
 一般的に言って、指一本の動きで済む拳銃と最低でも手首以上の稼動が必要なナイフ。
 有利なのは拳銃に決まっている。撃つべき弾が込められていて、しかも相手が化け物でなければ、だが。
 最悪なことに、その条件は両方ともクリアできなかった。つまり、これは本当に張子の虎でしかない。
 この男はそれに気づいているのか。気づいていて、こちらを嬲っているのか。
 その弱気な思考を見て取ったかのように、怪物が口元を歪めた。




 これは賭けだ。臨也はポーカーフェイスのまま、悟られぬ程度に深呼吸をした。
 冗談抜きでそれは最後の呼吸になるかもしれない。
 だが持ち駒の無い今、使えるのは王将のみ。ならば躊躇っていても詰められるだけだ。

「俺はあの放送を行った集団の生き残りなんだけど――力を貸して欲しい。
 こっちの装備と情報は全部提供する。だから、仲間の仇討ちを手伝って貰いたいんだ」


 


「あの怪物を殺すのなら、私の協力は不可欠のはずよ」
 灰色の魔女カーラが差し出す禁断の果実。
 一見、グロテスクなだけのそれは、この場においては如何なる金銀財宝よりも価値がある。
「大した条件ではないはずだけど? ねえ――火乃香?」
 取引を持ちかけられた少女は、唇を噛みながら魔女を睨みつける。
「そんなに睨まないで欲しいわね――貴女が犠牲になれば、みんな助かるのよ?
 まあ最終的な決定権は貴女に任せるけど……全滅か、一人の死か。よく考えてみなさい」
 古来より、魔女との取引は破滅の予兆でしかない。
 そしてその取引を跳ね除けられるものがいないこともまた、常だった。

144嘘予告:2008/11/26(水) 23:07:17 ID:Fc72kk0o




「この世界は――最強の防壁です」
 涼宮ハルヒの作り上げた箱庭から帰還した古泉一樹はそう報告した。
「涼宮さんは知っての通り、ああ見えて常識人です。ですからこの奇妙な殺し合いの場においては普通の少女でしかない。
 だからこそ、彼女は夢想したのでしょう。平凡な日常。それまで当たり前のように続いていた平穏な日々を」
 早い話が現実逃避だ。
 別に彼女の精神が特別脆かったというわけではない。正常な人間ならば、大なり小なり誰もがそれを日常的に行っている。
 だが涼宮ハルヒには力があった。現実逃避を現実にしてしまう力が。
 故に、創り上げる。
 いつものように無意識無自覚、そして出鱈目な世界。閉鎖空間を。
「ですが、僕ら"機関"が処理していた通常の閉鎖空間がストレス解消の役目を担っていたのに対し、
 この閉鎖空間はいわば保身です。涼宮さんが亡くなる直前に、彼女が死を拒絶したことによって生まれた空間。
 それも未完成のね。彼女が望んだのは過去の日常。ありがたいことに、長門さんと僕はそこに含まれていたようです。
 僕達が進入すればこの世界は完成します」
 そして完成してしまえば、それはひとつの確固たる世界として機能する。
 涼宮ハルヒによる新たな世界創造。彼女を取り巻く組織が恐れていた終末がすぐ傍にある。
「単刀直入に言いましょう」
 古泉一樹は一度唇を舐めて湿らすと、決定的な言葉をつむいだ。

「僕達が涼宮さんの世界のピースになれば、このゲームからは逃れられます。
 この刻印による死も、管理者の手も届きません。彼女がそれを認めないのだから。
 僕達は――このゲームから労せずに脱出できます」





「なあおにーさん。するってーと、僕は置いてきぼりかい?」
「ふむ――知り合いのサーカス団員だとでも紹介しましょうか? 意外と認めてくれるかもしれませんよ?」
「ぎゃはは、殺戮奇術の匂宮雑技団ってか? 戯言にも程があるぜおにーさん」




 彼らは衝突し、騙し、暴走し、そして儚く散って行く。
 果たして血まみれの脚本を破り捨てることのできる者は存在するのか。





 走る、奔る、疾る。
 幾度も幾度も剣を振るった。
 敵は目の前。絶対に、何に代えても倒さなきゃいけない奴が手を伸ばせば触れられるような距離にいる。
「無駄だ。それは心の証明にならない。隙間は、暴力で埋まらない」
 ――だが届かない。
 斬撃の数はすでに三桁に届こうとしていた。だが、掠りもしない。
「……当たれ」
 呟く。呪いをかけるように。
 皆死んでしまった。
 こいつの元に辿り着くまでに、皆死んでしまった。
 じゃあ、ここで、自分がこいつを倒せないなら――
「誰一人として私を満足させられる回答を持たなかったのだ。そうだな。ならば、無駄死にといっても差し支えはあるまい」
「当たれぇぇぇえええっ――!」
「……そして君もか」
 パリン、というとても呆気ない、まるで飴細工が壊れたような音とともに、剣は砕けた。 






「君が、来たか」
「そう。私が、来たよ」

「魔女――十叶詠子」





 ラノベ・ロワイアル完結編。
 十二月三十二日に堂々の掲載決定!無論嘘だが。

145名も無き黒幕さん:2008/12/13(土) 21:58:42 ID:/R0v7P32
つーかその嘘予告最終回で良くね?
ほかにも作品の付足しもしなくちゃならないけど…

146名も無き黒幕さん:2008/12/14(日) 15:48:22 ID:6oUJwnDI
嘘予告乙!
断片とはいえ久しぶりにラノロワが読めて興奮したよ。
誰がどうなってるかはだいたい分かったんだけど、アマワに剣振ってる奴だけ分からなかった。ベルガー?
もしできるなら、こんな感じのダイジェストでもいいから完結を迎えられるといいなあ。

147エンジェル・ハウリング(弱虫の泣き声):2009/03/19(木) 00:37:53 ID:Fc72kk0o
一応のプロット完成記念に没ネタでも投下してみる。


 一度目は六歳の時。故郷の村で、何も知らずに大勢を殺してしまった。
 二度目はそれから八年後に起きた。やはり故郷の村で、だが今度はそうなることを承知で行った。
 三度目は帝都で。帝国の要、不死者の柩イシィカルリシア・ハイエンドを憎悪に任せて粉微塵にした。
 どれも自制が効かなかった瞬間。
一度目は無知の為、二と三度目は知識を得てもフリウ・ハリスコーという少女が賢者に成れないかったことの証明。
 制御できなければ、彼女の破壊精霊は何もかも根こそぎにしていく。
 だが制御がなんだというのか。フリウ・ハリスコーは壊すことしかできない。
 ならば、制御になんの意味がある?

(あたしはいま……制御できている?)
 
 最古の精霊ウルトプライド。卓越した念糸能力。ともに、世界で一番『弱い』力。
 だが、それでも世界は破滅する。脆い世界は指の一突きで崩れ去る。
 解放された破壊精霊は目の前の建造物を見上げ、衝動を存分に叩きつけられる大質量に歓喜しているようだった。
 咆吼が静寂を殴り飛ばし、夜気を刃のように凍らせる。
 制御に問題はない。それは自覚していた。精霊に引きずられることもなければ、閉門式を完璧に唱える自信もある。
 しかし、それでも、

(それでもあたしは壊す。壊さなきゃいけない)

 ミズー・ビアンカのように強靱だった女性。どこまでも陽気だった二人組。気弱な少年。
 破滅する光景しか映すことの出来ない左目に吸い込んだ、白くてとても美しい生き物の姿を思い出す。
 すべて自分が壊したものだ。だから、さらに壊す。全部壊す。制御した上で、臓腑に蠢く衝動をすべて物質に叩きつける――

(……それは、八つ当たりだよね。分かってる)

 熱いほどの狂気の中で、だがそれと反比例するような冷えた口調でフリウは呟いた。
 その囁きはとても小さく、すぐに狂気に埋もれて消えた。誰も聞いていないのなら、言葉に意味はない。人は独りでは生きられない。

(だけど、あたしはみんな壊しちゃうから)
 
 束の間の仲間すら、すべて失った。自分が遺体さえ残さなかった。
 ならば、きっと自分も孤独のまま死ぬに違いない。かつて単身で悪に挑んだ養父のように。
 もう戻れないだろう。独りではなにも信じることが出来ない。その事実が怖くなって、フリウ・ハリスコーは眠るように思考を停める。
 そしてそれに同調するように、破壊精霊の拳が建造物に打ち込まれた。

◇◇◇

148エンジェル・ハウリング(弱虫の泣き声):2009/03/19(木) 00:39:02 ID:Fc72kk0o
 異変が起きたのは、爆発が収まり、そしてダナティアが窓から落ちた直後である。

「――っ!」

 足下がおぼつかなくなるほどの衝撃を受けて、ダウゲ・ベルガーは危うく転倒しそうになっていた。
 だがここで衝撃に身を任してしまえば事態に対応できなくなる。
 反射的に“運命”を床に突き立て何とかそれを回避。
 辺りを見れば、茫然自失状態だった竜堂終も反射的に転ぶのを避けたらしく四つん這いになっていた。
 メフィストはなぜだか平然としたまま立っている。
 だが衝撃は一度だけではなかった。
 まるでドラムを激しく打ち鳴らすかのように、連続してマンションが揺れる。思わず舌を噛みそうになるが、歯を食いしばって耐えた。
 そして巨大な雄叫びが響いていた。冷鋭とした、まるで氷河に亀裂が入るような絶叫。

「敵……か!?」
「そうでなかったら、だいぶ野性的な特使かもしれねえな」
「冗談言ってる場合かよっ!?」

 終が天井を指差す――まるでそれが切欠だったかのように、マンションが崩壊しはじめた。
 コンクリートの壁が陥没し、鉄筋の柱が折れ、雨露を凌いでくれた天井は凶悪な凶器となって襲ってくる。
 最初の衝撃から十秒と経っていない。
 それだけの時間で巨大な建造物を崩落させられるだけの火力を、咆吼の主は持っているということになる。

(パイフウじゃない? ――ちぃっ、考えてる暇もないか!)

 崩落は止まらず、天井が抜け落ちる。
 思考よりも先に、ベルガーは激しく振幅する床を無理矢理に蹴り飛ばしていた。
 終の傍らに着地。
 だが、三人で寄り添ったところで死の予定は書き変わらない。
 故にダウゲ・ベルガーは“運命”を振るい、死神の手帳を書き換えた。

 《運命とは切り拓くもの》

 瓦礫による圧殺という運命が切断される。
 彼らに降り注ぐはずだったはずの元天井は、まるで透明な槍に貫かれたように自ら活路を開く。
 だが、まだ足りない。頭上の安全は確保できても、二階の床が崩れ落ちることは防げない。
 新たなテクストを紡ぐ時間は、もはやない。

149エンジェル・ハウリング(弱虫の泣き声):2009/03/19(木) 00:40:05 ID:Fc72kk0o
「――終!」
「……分かってるよ!」

 ――故に、竜堂終は怪力を振るう。
 直前までの動揺を押し込め、床が完全に抜け落ちる前に終はベルガーを抱えて跳躍していた。
 瓦礫を足場にし、再度の跳躍。風を操る竜の化身はそれこそ飛竜のように宙を舞った。
 浮遊感が終わり、着地した時には崩壊も収まっていた。
 “運命”により無理矢理機動を逸らされた瓦礫は彼らを取り囲むようしてに積み上がっている。
 まるでそこは外壁に隔離されたステージのようだった。あるいは牢獄か。
 マンションひとつ分の瓦礫だ。背伸びをしたって外の様子を窺うことは出来そうにない。

「なんなんだ……?」

 敵襲なのは間違いない。だが、刻印の制限下でここまでの大規模破壊を行えるというのなら、それはどのような敵なのか。
 ベルガーが"運命"に精燃糟を追加しながら自問するように呟いた、その瞬間を待っていたかのように。
 彼らを外界と隔離していた瓦礫の一部が吹き飛んだ。さらに細かく砕かれた礫が、彼らの全身に裂傷を作る。

「っぅ!?」

 痛みに呻く彼らの声は、やはり夜を恐慌させる叫び声が掻き消した。
 石礫が無数に飛来する中、それでもベルガーは目を開けていた。目をつぶっている内に殺されたなど、冗談にもならない。
 最初に見えたのは、瓦礫の壁から二の腕の中程まで突き出た腕だった。
 その腕がさらに前進し、壁を崩していく。腕の主が胎動するたび、物質は溶けるように崩れていった。
 瓦礫を踏みつぶしながら、巨大な影が彼らの前に立ち塞がる。
 背丈はベルガーの二倍はあるだろう。それは銀の巨人だった。
 傷一つ無い鋭い甲殻を全身に張り付け、ゆっくりと瓦礫で出来たコロシアムに入場してくる。

 交渉も、口上もなく。
 あらゆる言葉を発する前に、破壊精霊は雄叫びをあげながら走り出した。
 鈍重そうな見かけの割に、思いの外その突進は速い。一息で間合いを詰めると、大木のように巨大な拳を振り上げる。
 全員纏めて挽肉にするつもりらしい。
 反射的にベルガーは跳躍しようとしていた。他の二人も左右に散開している。
 纏めて殺しに掛かるような大雑把な打撃など、回避することは容易い。
 だがその中でベルガーの動きだけが致命的に遅れていた。
 心臓から喉まで、一直線に鉄串かなにかで貫かれたような痛みが行動を阻害する。
 意思の力でどうなるものでもない。単純に、それは呼吸が出来ないことを意味した。

(肺の傷が……!)

 最初の崩壊から脱するための一連の動作。跳んで剣を振るうという、たったあれだけの動作で自分の心肺機能は限界に達したらしい。
 見れば、巨人の振るう拳はすぐ目前にまで迫っていた。

(……っ!)

 死を身近にしてさえ、体は動かない。
 銀の拳弾が着弾する。
 それこそまさに大砲のような威力で、巨人は地面を陥没させた。
 拳が地面に完全に埋もれるほどの威力。骨と肉の塊など問題にさえならない。残るのは死体としての尊厳すらない、ただのミンチだ。

150エンジェル・ハウリング(弱虫の泣き声):2009/03/19(木) 00:41:29 ID:Fc72kk0o
「……済まないな」
「なに。むざむざ患者を死人になどしたくないだけだ」

 咄嗟にメフィストに引っ張られていなければそうなっていただろう事実に背筋が凍った。
 だが、破滅を回避した代価は大きい。
 紙一重とはいえメフィストの回避は完全に間に合っていた。それは確かだ。銀の豪腕は掠りすらしなかった筈である。
 だというのに、ベルガーは肋骨が折れるのを自覚していた。
 拳に衝撃波でも付随しているのか、よりにもよって怪我のある右肺の上、そのアバラのすべてが骨折している。
 一過性だったはずの痛みが、しつこく立ち去らない根深い物に変わる。
 メフィストの右脚にも罅が入っていた。ギリギリのタイミングで割って入った代償だ。
 無論能力を制限されているとはいえ、彼は死者すら蘇生させると謳われた稀代の魔界医師である。
 その程度の傷ならばどうとでも処置のしようがあるだろう。
 だが、銀の巨人がそれを許さない。動けなくなった二人に、今度こそ拳を叩き込もうと向き直る。

「させるかよっ!」

 ひとりだけ違う方向に跳んでいた終が、背後から巨人に襲いかかった。
 四メートル近くを飛び上がり、手加減無しに叩き折るつもりで首筋を蹴り付ける。
 もしも巨人が常人だったのなら、首を落としそうな延髄切り。
 感触は、ただひたすらに硬い。

「なっ……!」

 驚愕に硬直する終を銀の掌が包む。
 声が響く。慟哭するような、しかし悲しみのない、ただひとつの目的にのみ純化した声。

『我は破壊の主ウルトプライド――』

 終の体が放りあげられる。ふわりと、まるで敵意を感じさせないその動作。
 野球でノックをするために放られた球に、よく似ていた。

『全てを溶かす者!』

 空中で身動きの出来ない終を目掛けて、拳が文字通り殺到する。
 ――あの巨人からはとてつもない威圧感を感じる。
 それこそ魔王のような、何もかも根こそぎにしようという破壊意志だ。
 仮にあの化け物が制限を受けていたとしても、それは終も同じ条件。
 故に結果は同じ。終の竜鱗がそれを防げるかどうかは分の悪い賭けになる。

151エンジェル・ハウリング(弱虫の泣き声):2009/03/19(木) 00:45:01 ID:Fc72kk0o
(動け――)

 ベルガーは無言で己の体に命じた。叫ぶわけにはいかない。空気を無駄にはできない。
 震える手で、再度“運命”を振るう。掠れたテクストが運命を捻じ曲げた。
 精燃槽が足され馬鹿げた長さとなった剣の軌跡の延長上には拳と終。それが接触する運命を断絶する。
 僅かに巨人の拳が目標を逸れる。直撃は避けられたが、終もベルガー達と同じ道を辿った。
 打撃に付随する衝撃波が終の体を殴りつけ、瓦礫の壁に叩きつける。
 先の戦闘で見せた竜鱗の防御力を考えれば生きているかも知れない。少なくとも、この瞬間は。

(残りの精燃槽は……三つ)

 制限か、それともあの怪物がもたらす破壊の運命が相応に強固だったのか。フロギストンタンクの消費が激しい。
 しかも、体は酷く傷ついている。
 思い出した途端、再び痛みが痛覚を刺した。

「――っ!」
「動かない方が良い。折れた骨が肺を痛めている可能性がある――」

 言いながら、メフィストは抱えたベルガーの右胸をまさぐっていた。その指が、溶けるように沈んでいく。

「……いや、俺はいい。それよりもそっちはどうだ。走れそうか?」
「私の傷は他愛ない。痛覚を遮断し、補強しておいた。
 だが、君の方はそうもいかないぞ。……ふむ、やはり臓器を痛めているな。放っておけば、遠からず死ぬことになる」
「ここにいたらどのみち同じだ」

 銀の巨人の目が、再びこちらを捉えていた。そこに宿す破壊衝動は収まっていない。というより、あれは破壊の権化だろう。
 うんざりとして頭を抑えながらベルガーはぼやいた。

「あれは何なんだ……参加者か?」
「あんなものが最初の会場にいたのなら、それだけでこの盤上遊戯は始まらずに終わっていただろうさ」

 その応酬を皮切りにして、巨人が再度突進の構えを見せる。
 メフィストもそれに応じて、ベルガーを抱えたまま跳躍のタイミングを計り始める。が。
 巨人の頭部を投石が直撃した。やはり巨人は無傷だったが、それでも投石の犯人を見やる。

「こっちだ、化物っ!」

 終だった。瓦礫の海から起きあがり、体中血だらけだが、それでも気丈に立ち上がっている。
 愚弄されたと感じたのか、巨人は終に目標を変更した。凄まじい咆吼を浴びせる。
 それに張り合うように、終も叫んでいた。ベルガー達に向かって。

「行け! ここは任せろ――」

 ベルガーが何か言う前に、巨人は終に向かって駆けだしていた。
 健常であれば、終はその突進から逃げることも出来ただろう。だが、三メートル以上の高さから超剛力で叩きつけられた後では――
 そんなことをベルガーが考えていると、メフィストが彼を抱えたまま走り出していた。巨人が現れた瓦礫の切れ目に向かって。

152エンジェル・ハウリング(弱虫の泣き声):2009/03/19(木) 00:45:49 ID:Fc72kk0o
「なっ、おい!」
「彼の加勢に回れば全員が死ぬ。とりあえず君の応急処置が先決だ」
「そんな冷静な判断は――」

 反論を許さず、足が傷ついていることを感じさせない速度でメフィストは瓦礫の切れ目に到達していた。
 治療の出来る場所を探し、視線を走らせる。
 だがその前に、目に入ったものがあった。
 それはすぐ目の前にいた。血塗れの少女。ベルガー達の背後にいる巨人を呆然と眺めている。
 ベルガーは面食らったが、それでも彼女は被害者だろうと判断した。声を掛ける。

「見れば分かるだろう? ここは危険だ。とりあえず逃げろ――」
「危険なんて無いよ」

 血塗れの少女はそう呟いた。その声音は透明で、感情が一切含まれていない。
 訝しむ間もなく、少女はベルガーに焦点を合わせた。
 その顔に張り付けられた表情に、思わずゾッとする。少女はどこまでも壊れた笑みを浮かべていた。

「だって、私が壊すんだもの」

 奇妙な白一色の眼球に映し出された自分の顔を、メフィストに抱えられたベルガーははっきりと見ていた。
 変化は一瞬だった。彼らの眼前に、突如例の巨人が出現する。

「な――」

 振るわれた拳を、慌てて“運命”で防ぐが、巨人の一撃で体ごと吹き飛ばされる。
 抱えられている不安定な姿勢だったため、ベルガーとメフィストは転がるように吹き飛ばされた。
 落下の衝撃でまた肺が痛むのを自覚しながら、それでもなんとか地面に埋もれていた瓦礫を取っ掛かりにし、ベルガーは回転を止めた。

(まだ、だ。まだ死ぬわけには――!)

 向こう見ずな少女。呪いに犯され、大切な者を殺され、泣きそうだった顔が脳裏を掠めた。
 救いたい人がいる。そのためにダウゲ・ベルガーは立ち上がった。
 だが運命は彼の前にあった。強臓式武剣ではない。逃げられないほど近くに――死という運命が。
 ベルガーを追撃してきた銀の巨人が、再び拳を振り上げた。
 反射的に黒刃を構えようとするが、手の中にはない。先程の一撃で吹き飛ばされた!

(糞っ垂れ――)

 罵っても時は止まらない。救い手も顕われない。
 最後の感覚は肺の痛みと網膜に焼き付く光、そしてブツリという奇妙な音。それらを感じながら、ダウゲ・ベルガーの意識は途絶えた。

153エンジェル・ハウリング(弱虫の泣き声):2009/03/19(木) 00:47:41 ID:Fc72kk0o
◇◇◇

 破壊精霊の拳に、まずひとりが圧死した。残りの二人ももうすぐそうなるだろう。

(あたしは、また、人を殺した)

 無感動にそう確認する。破壊精霊が物質を壊すごとに思考の域は狭まっていった。
 まるで壊した物質がその分だけ脳を占拠しているようだ。
 白衣を着た綺麗な男性は先の一撃で転がっている。
 抱えていた人物を庇ったせいで、全身を強く打ち付けていた。立ち上がることさえ容易ではないはずだ。
 とりあえずそちらは無視して、フリウはもうひとりの少年を見た。
 特殊な力を持っているのだろう。破壊精霊と対峙してまだ死んでいない。
 とはいえ無傷でもない。体中に裂傷があり、左腕は手首の所から完全に折れている。
 他の骨にも罅くらい入っているかも知れない。
 口許からは血を流しているようだったが、それは口を切っているだけなのか、それとももっと深刻な状態なのか。
 フリウには判別できなかったが。

「関係ないだろう、フリウ・ハリスコー。君はどうせすべて壊すのだから」

 唐突に鼓膜を震えさせる声。我が耳を疑い、ぎょっとする。この声をフリウは知っていた。
 だが、それでもその声は未知のものだ……

「精霊……アマワ!」

 目を見開く。瞼を弛緩させていた分に隠れていたのだとでもいうように、奇妙な姿の精霊は目の前にいた。
 瞬時に狂気が掻き消え、思考が目覚める。
 未来精霊アマワ。存在していない存在。未来において必ず果たされる約束。
 それなのに再会は予期していなかった。それもこんな奇妙な箱庭での再会は。
 ふと、脳裏で閃くものがある。フリウは堪えもせずに、それを吐き出した。

「お前が黒幕! あたしを……仲間を殺させた!」
「それは違う。フリウ・ハリスコー。彼らを殺したのはあくまで君だ。私は関与していない」

 泰然としたアマワの声。本質が定められた精霊には、それ以外の感情はない。
 だからおそらく、それは正しい。
 怒りのやりどころを失い、フリウは再び狂気に埋没した。萎むような声音で、尋ねる。

「何なの……何が目的なの……」
「私の望みは君も知っているだろう。御遣いはその為に有る」
「……疑問を、無くすこと」
「その通りだ。果たして人は疑問の隙間を埋めることが出来るか? 埋めるための心を持ち合わせているのか?」

 首らしき部分を限界以上に捻りながらアマワは疑問を投げかけてくる。疑問しか投げかけてこない。
 フリウは呟いた。淀む感情に任せ、ほとんど譫言のような口調で言葉を紡ぐ。

「あなたには答えた。完全に信じられるものなんてない。人は、独りでは生きられない。でもふたりならきっと信じられる――」
「そう確信を持って言えるかね? 今の君に……」

154エンジェル・ハウリング(弱虫の泣き声):2009/03/19(木) 00:50:12 ID:Fc72kk0o
 瞬間、景色が入れ替わった。肌を刺す寒風が頬を撫でる。
 見慣れた風景だった。精霊の住む硝化の森。ハンター業に就いていた彼女にとって、そこは懐かしささえ覚える場所だ。いや――
 フリウは気づいた。ここはただの硝化の森ではない。その最奥。すべての疑問が発生した場所。

「水溶ける、場所?」
「さあフリウ・ハリスコー。かつてのように答えを召喚してみるがいい。君にとって信じるに足るものならば召喚に応じるはずだ」

 それが嬲るように聞こえるのは、彼女が負けを認めているからか。
 恐らくそうだ――フリウは首を振りながら認めた。自分はもう、信じることが出来ない。信じるに足るものをひとつも持っていない。

(サリオン……アイゼン、ラズ、マリオ、マデュー、マーカス、ミズー・ビアンカ……)

 もう会えない彼らの名前。そこにフリウはいくつか名を付け加えた。チャッピー、要、潤、アイザック、ミリア。
 失ったものは、取り返せない。この異界に来て、フリウ・ハリスコーはすべてを失った。
 十分だと判断したのだろう。さほど時間も掛けず、アマワは解答時間を打ち切った。

「フリウ・ハリスコー。君に解答は期待していない。君はもはや……未知を退けられない」
「なら、どうして来たの……」
「それでも君は有効な手段だ。この催しを計画したのも、少なからず君の影響がある」
「あた、し、が?」

(あたしが、原因――?)

 呆然と立ちつくす中、アマワが言葉を進める。

「君は正答をしなかった。だが、今までにない解答でもあった。
 故に私はそれを試すことにした。人は、どこまで人を信じられるものなのか。
 何故、君やミズー・ビアンカを用意したのかといえば、君たちの在り方や解答が正しかったのかを見届けるためだ。だが」

 そこでアマワは言葉を切った。嘲るでもなく、単に疑問を呈するような口調で続けてくる。

「ミズー・ビアンカは死んだ。私に奪えなかった筈の人間が奪えた。
 フリウ・ハリスコーは人を信じ切れなくなった。ひたすらに破壊を求めるようになった」
「……」

 アマワの姿がフィルムを回すように変わっていく。その中にはフリウが知らない人もいれば、知っている人影もあった。
 奪われてしまった人達。フリウ・ハリスコーが奪わせてしまった人達。全員が彼女を責めるでもなく不自然に微笑んでいる――

「やめて! もうやめて――」

 頭を抱えて絶叫すると、存外素直にアマワは虚像を騙るのをやめた。不定形の姿に戻ると、何事もなかったかのように宣告する。

「だから私は君の前に現れたのだ。フリウ・ハリスコー。君の答えが違っていたのなら、私はまた以前の方法に従う」
「……また、無意味なことを聞いて回るの?」

 精一杯の皮肉に、アマワは動じた様子もない。ただ静かに首を振った。

「言っただろう。もはや君に解答は期待していない」

155エンジェル・ハウリング(弱虫の泣き声):2009/03/19(木) 00:51:15 ID:Fc72kk0o
「それならもう消えて。壊せないお前なんかに興味なんて無い――っ!?」

 慌てて口を押さえる。だが、それで発してしまった言霊が回収できるわけでもない。

(いま、あたし何て……?)

 壊すことは八つ当たりだと、僅かに残っている意識は理解していた。あくまで甘え。代行手段のない感情の発露の仕方。
 ならば、いまの発言はおかしい。

「……思ったよりも侵食が速いか。ならば端的に言おう。フリウ・ハリスコー」

 動揺するフリウに耳を塞がせる隙も与えず、アマワは致命的な言葉を彼女に突き刺した。

「君は硝化している」

 その単語の意味を、フリウが完全に理解したわけではない。
 だが、分かる。それは敗北であると。
 呆然とするフリウを置き去りにして、アマワは次々と言葉で彼女を苛ませた。

「君は破壊という目的にのみ純化し始めた。かつての殺人精霊のように。
 しかし絶対殺人武器の最後には互いに殺し合うという性質と比べて、君は単独だ。止まることはできない。
 もうひとりの絶対者――フリウ・ハリスコー」

 絶対破壊者。彼女が嫌いだった力の名前。そして現在、何の気なしに行使している名前。
 息をすることも忘れているフリウを、アマワはじっと見据えていた。まるで何かを期待するかのように。

「完全に硝化してしまえば君は無敵だ。誰も君に触れることはできなくなる。
 このまま行けば、君はそう遠くない内にこの島を破壊しきるだろう」
「……あなたの計画もお終いね」

156エンジェル・ハウリング(弱虫の泣き声):2009/03/19(木) 00:52:37 ID:Fc72kk0o
 ようやく絞り出したフリウの呻き声に、しかしアマワは律儀にかぶりを振って反応した。

「それは違う。忘れたふりをするな、フリウ・ハリスコー。君が壊した後に残るもの。それがすなわち心だ。
 ゆえに私は君を存続させよう。君が不滅の存在になるその時まで――」

 ゆらめく不定形の影が、消えていく。言いたいことだけを喚き散らして、実在を愚弄しきりながら。
 だが、いまのフリウ・ハリスコーにそれを退ける言葉はない。
 口を突いてでたのは意味のない衝動だった。

「誰が、お前の手伝いなんかっ!」

 そして叫んだ時には、そこは硝化の森でなくなっていた。
 場所は再び瓦礫の山に戻っていた。満身創痍の少年も、地面に倒れ臥している男も、一瞬前となんら変わっていない。
 変わったのはフリウ・ハリスコーという少女の内面だった。
 心の狂気に浸食されていない部分、不毛の地に咲く一輪の花の如く僅かな面積の変化。

(アマワとの契約……)

 アマワは当人が一番触れられたくない物を奪っていく。
 フリウ・ハリスコーはかつてそれをはね除けた。
 だが、いまはどうだ。アマワの言ったとおり、フリウ・ハリスコーは何も信じることが出来ずにいる……

(ならあたしがどんなに壊したって――)

 アマワは奪っていくだろう。かつて彼女が帝都を破壊し尽した折、残ったのは全て奪われた硝化の森だけだった。
 ふと恐怖の念が鎌首を擡げる――ならば破壊は無意味だ。自分は無意味に破壊を振り撒いている!
 浮かんだのは故郷の村だった。彼女が壊した村。償いもできず、ただひたすら憎悪の視線の中で過ごしてきた――

(止まれ――!)

 必死で念じる。だが、無意味だった。
 すでにフリウ・ハリスコーの大部分が奪われている。狂気に没した彼女の体は命令を受け付けない。
 閉門式を唱えることもせず、ただ噎せ返るほどの破壊の中で楽しげに吐息を重ねていた。

(制御……できてない)

 フリウ・ハリスコーは狂っているのだから。
 その事実に凍り付く。
 精霊は常に御せる。かつてひとりの老人が彼女にそう教えてくれた。

(だけど、あたしはあたしを抑えることができなかったよ、爺ちゃん……)

 嗚咽を零そうとしても、泣けない。ただ彼女の表情は狂喜に濡れていた。

(止まって……止まって。止まってってば! 何で言うこと聞いてくれないのさ!?)

 胸中で自分自身を罵る。何度も何度も。
 勝手に動く体が瓦礫に躓いた時、ようやくその願いが届いたのだと思った。
 ガクリと体が傾く――だが、その上を何か光のようなものが過ぎ去っていくのを見て、自分がそれから逃れたのだと知った。
 都合良く、偶然に。

(もう……手遅れ、なの?)

 彼女は絶叫した。だがその声は声帯を震わせず、そして表情も相変わらず楽しげに笑っていた。

◇◇◇

157エンジェル・ハウリング(弱虫の泣き声):2009/03/19(木) 00:54:26 ID:Fc72kk0o
「光よ」

 リナ・インバースの囁きに従い、夜闇の中で光り輝く刀身が出現する。
 魔法は使えない。武器は相棒の忘れ形見のみだ。
 おまけに刻印と疲労のためか、具現化した刀身はショート・ソード並みにちゃちなものである。
 警戒して地下を使わずに遠回りをして来たが、リナは事態のほとんど一部始終を見ていた。
 万全の筈だった舞台は完膚無きまでに壊滅した。ベルガーが潰されるところを見て飛び出しそうになったが、何とか自制は効いている。
 あるいは足下に転がるダナティアの首を見た時点で、そんなものは無かったのかも知れない。
 リナの意識は犯人の抹殺にすべて傾倒していた。
 犯人を見つけるのは簡単だった。銀の巨人の傍らに、血塗れの少女が佇んでいる。
 返り血と首をもぐという殺害方法は一致するように思えた。
 だが、今の自分とあの巨人では戦力が圧倒的に違う。
 考えついたのは奇襲だった。
 リナはガウリイほどこの剣を扱い慣れていない。そのため奇襲は万全の用意をして行われた。
 足音を忍ばせ、ギリギリ気づかれない距離まで近づく。
 さらには光が漏れないように刀身をマントで覆い、マント越しに刀身を射出した。
 厚手の布地を突き破り、光の矢が一直線に血塗れの少女を狙う。

 だが、当たらない。運良く躓いて転んだらしい。こちらにとっては不幸でしかないが。
 舌打ちをひとつして、リナはマントを投げ捨てた。奇襲が失敗したのなら、残る手段は急襲しかない。

「メフィスト、待機組に連絡を! ダナティアが殺された!」

 叫び、了承を確認する前にリナは駆けだしていた。
 瓦礫でできた天井開きのドーム。その壁の切れ目にいる少女にリナは接近した。手には再び刀身を具現化した光の剣。
 だが、少女が振り返る方が圧倒的に早い。
 リナの前に巨人が立ち塞がった。破壊精霊は目標を選ばない。戸惑うこともなくリナに拳を打ち込む。
 ベルガー達の戦いを見て、完全な回避が難しいことは分かっていた。
 横に跳んで拳自体をかわし、衝撃波で吹き飛ばされる勢いを利用してドームの中に転がり込む。
 瞬時に体が擦過傷と打撲だらけになったが、代わりに終と合流できた。
 メフィストは、どうやらリナが攻撃されている隙にドームから抜け出せたようだ。
 この場から死なずに離脱できるのは彼だけだっただろう。目論見がひとつ達成できたことに安堵する。

158エンジェル・ハウリング(弱虫の泣き声):2009/03/19(木) 00:55:45 ID:Fc72kk0o
「……魔法は?」

 満身創痍の体で、息も絶え絶えに終が尋ねてくる。
 リナは首を横に振った。理解できたのだろう。終の顔に諦観のようなものが浮かぶ。

「大丈夫。勝算はあるわよ」

 呟き、リナは光の剣――異界の魔王の一部であるゴルンノヴァを軽く掲げた。

「時間がないから詳しい説明は省くけど、たぶんあの巨人にもこの剣は通じる。的も大きいしね。
 あたしが巨人の方を抑えるから、あなたはあの巨人を使役してるっぽい女の子をお願いするわ。できる?」

 終はひとつ大きく頷くと、ひとつだけ質問してきた。

「ダナティアが殺されたっていうのは、本当か?」
「……ええ。あっちに死体があったわ」
「……そうか」

 暗い声でそう呟くと、終はこちらを見据えた巨人に向かってふらふらと歩き出した。

「ちょっと!?」

 慌てて制止する。
 だが――すぐに気づいた。歩みを進めるごとにその体が変化していく。人の形はそのままに、肌が鱗へと変じていく。
 やがて折れた腕すら修復し、終は異形の竜人と化した。
 応えるように、巨人がこちらに向かって跳躍する。だが、竜人はそれを無視して下を潜り抜けていった。次の瞬間には血塗れの少女に肉

薄している。
 それを確認して、リナ・インバースも光の剣を構えた。目の前に巨人が着地する。
 さすがに斬り合うわけにはいかないので、後退しながら連続して光の剣を射出するつもりだった。
 だが、巨人の姿が一瞬で掻き消える。

「なっ!?」

 見れば、巨人は再び少女の近くに出現していた。
 終の方が危険だと少女が判断したのだろう。突進してきた終を、不意打ち気味に巨人の拳が打ちすえる。

「終!」

 叫ぶリナの元にも、脅威は迫っていた。
 少女から銀色の糸が一直線に伸び、リナの左腕にからみつく。
 慌てて振り払おうとするが、まるで蜘蛛の糸のようにどこまでも絡みついてくる。すぐにリナはこれに実体が無いことを看破した。
 しかし、それよりも早く念糸の効果は発動していた。左腕の肘関節が一瞬で限界以上の稼働を要求される。

「つっ!」

 魔族すら両断する光の剣で糸を切断するが、千切れていないだけで左腕は使い物にならない。
 さらに糸が伸びてくる。今度の狙いは首だった。これも光の剣で切り払うが、切った部分から際限なく糸は伸びてくる――


・ここまで書いたところで次話が投下されたので凍結と相成ったのですが、この後ベルガーが禁止エリアの近くでまだうだうだやってたシャナの所に飛ばされて何かかっちょいいこと言い残して死んだり、それでちょっとだけシャナが前向きになったり、リナと終コンビが破壊精霊とダンスったり、待機組までいこうとするメフィストとそれを狙撃するパイフウとの心理戦があったりと、書ききれる自信なんざこれっぽちもなかったので凍結で良かったと思います。メフィスト書きにくいし。むしろ書けないし。しかも今見直してたら致命的な欠陥があったし。


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