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139ブラック・アウト(決断)(9/11) ◆5KqBC89beU:2008/05/09(金) 18:26:15 ID:VkBVSF.Y
 口元を歪め、地面に膝をつき、淑芳は前のめりに倒れ伏した。
 体に張られた細い根は、切れることなく樹と繋がったままだ。
 額に貼ってあった呪符が神通力を失い、剥がれて風に舞った。
 不完全な融合の術が、彼女の魂に無数の亀裂を走らせていた。
(『世界』に挑む者たちは、奇跡を起こしてくれますかしら……)
 肉体から乖離した幽体の破片が、細い根を通じて神木に吸い込まれていく。
 徐々に薄れつつある意識の中では、昔の記憶が走馬燈のように見えている。

 鳳月と星秀がくだらないことで口喧嘩を始めて、それを緑麗が両成敗している姿を、
麗芳と淑芳は並んで見ていた。鳳月が身の潔白を主張し、星秀が屁理屈をこね、緑麗が
溜息をつき、麗芳が呆れて苦笑していた。

 神仙とは、全知全能の存在ではない。
 彼女にできることは、もう何もない。
(誰でもいい……わたしたちの、仇を……)
 天界最強の武宝具・雷霆鞭と、最高機密である秘術の知識を、アマワは得ていた。
 淑芳の故郷を滅ぼすことさえ、おそらくアマワにとっては容易いことなのだろう。
 天界からの救援がないのは、既に滅ぼされてしまっているせいなのかもしれない。
 アマワを討つためには、奇跡が要る。
(まったく……こういうときに神頼みできないのが、神仙の辛いところですわね……)
 彼女にできることは、もう何もない。
 自我が軋みをあげ、思考が暴走し、精神が崩壊していく。
 記憶が断片化し、無秩序に再構成され、鮮烈な幻が意識を埋め尽くしていく。

 ある日、淑芳が天界を歩いていると、いつもの散歩道に見慣れない青年と犬がいる。
青年の優しげな微笑を見て、淑芳は彼に一目で惚れる。青年は照れたり困ったりするが
どこか嬉しそうな様子だ。淑芳と青年の恋物語を、犬が生温かい目で見守っている。
 淑芳が皆に青年(と犬)を紹介すると、皆は揃って驚き、からかったり悔しがったり
しつつも祝福してくれる。皆の笑顔に囲まれて、淑芳たちも笑みを浮かべる。

 涙が一粒、大地に染みて、少女は呼吸と鼓動を止めた。


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