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【TRPG】ブレイブ&モンスターズ!第十章

1 ◆POYO/UwNZg:2024/02/04(日) 21:15:57
――「ブレイブ&モンスターズ!」とは?


遡ること二年前、某大手ゲーム会社からリリースされたスマートフォン向けソーシャルゲーム。
リリース直後から国内外で絶大な支持を集め、その人気は社会現象にまで発展した。

ゲーム内容は、位置情報によって現れる様々なモンスターを捕まえ、育成し、広大な世界を冒険する本格RPGの体を成しながら、
対人戦の要素も取り入れており、その駆け引きの奥深さなどは、まるで戦略ゲームのようだとも言われている。
プレイヤーは「スペルカード」や「ユニットカード」から構成される、20枚のデッキを互いに用意。
それらを自在に駆使して、パートナーモンスターをサポートしながら、熱いアクティブタイムバトルを制するのだ!

世界中に存在する、数多のライバル達と出会い、闘い、進化する――
それこそが、ブレイブ&モンスターズ! 通称「ブレモン」なのである!!


そして、あの日――それは虚構(ゲーム)から、真実(リアル)へと姿を変えた。


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ジャンル:スマホゲーム×異世界ファンタジー
コンセプト:スマホゲームの世界に転移して大冒険!
期間(目安):特になし
GM:なし
決定リール:マナーを守った上で可
○日ルール:一週間
版権・越境:なし
敵役参加:あり
避難所の有無:なし

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64カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2024/03/25(月) 22:58:17
>「それが分かったら……手分けして、さっき挙がった四箇所を全部確認したい。
 ヤツらのベータテスト同様、俺達の戦いも時限イベントみたいなもんだ。
 時間をかければ負傷者の生存率は下がるし……SSS撤退後は拾えないアイテムとかも落ちてるかもしれない」
>「それに、俺達が生存者を救助していると分かればヤツらもそれを逆手に取ろうとするだろう。
 つまり二回目以降の救出作戦は襲撃される可能性が高まるだろうって事だ。俺ならそうする。
 そういう意味でも、まとまって行動するのは効率的とは言えないんじゃないか?……と、俺は思う」

4か所全てを手分けして一斉に探索する、というのがエンバースさんの意見のようだ。
確かに、全員で1か所ずつ回っていては悠長すぎるかもしれない。

「間をとって、3か所手分けして探索した後に残りの一か所を全員で行くのは?」

分散行動と団体行動の折衷案を出してみる。

「フレモント・ストリート・エクスペリエンスとマンダレイ・ベイは
建物の中中心で行動すればいいから戦闘になる可能性は少ない……と思う。
生存者の救出を目的にするなら目立つ大人数で行くよりも小回りの利く少数でいったほうがいいかも……。
ザ・ストリップはそれよりは戦闘になる確率が高そうだから前2か所よりはちょっと大目の人数を割り振ってさ……。
こちらから攻め込むとしたらストラトスフィアは最後に全員で行った方がいいんじゃないかな?
他の場所で運よく戦力になる生存者とか攻略情報が見つかったら生かせるし……
反撃の拠点なら、やっぱり全員で行きたいじゃん!?」

そこまで言って、付け加えるように言う。

「飽くまでも籠城戦だから、積極的にこちらから攻め込むのが得策かは検討しなきゃだけど……」

まあ、多分聞く耳持たないんだろうけど!? 様式美なので仕方がない。

65明神 ◆9EasXbvg42:2024/04/01(月) 05:04:29
>「そもそも…人間はゲームという媒体を通せばほとんどの場合同じ人型を殺す事は売上やゲーム人気に殆ど絡まないと思うんだ…… 
大抵の場合はね。どれだけ現実味を帯びてようと…胸糞悪い設定でもそれは技術や製作者の上手さであって現実じゃない…
 そして相手はNPCか中身に人間がいようと関係ない。対人ありのゲームならなおさらさ…相手を半殺しにして屈伸…煽り…
 された経験あるんじゃないか?なんならした経験も…結局それの延長線上に過ぎないんじゃないかな」

「プレイヤーと敵が"対等"って前提ならその理屈も分かるんだよ。俺もプレイヤー相手になら屈伸しまくるしな。
 ただ、このクローズドβにおける前半戦の相手は装備に大きな格差のある米軍や、ラスベガスの無抵抗の市民。
 やってることはただの"弱いものいじめ"だ。何が楽しいんだそれ……」

気持ち悪いのは、SSSの連中の"目的"が一向に見えてこないこと。
弱い敵をひたすらボテクリ回すだけの底の浅いゲームなのか?
無双ゲーにしたって『自軍を勝利に導く』とか『拠点を守る』とかシナリオを通じた大義みたいなものがあるはずだろ。
野放図に虐殺するだけのゲームなんざ30分もやりゃ飽きが来る。……ってのが、ゲーマーとしての見解だ。

うーん……結局『上の世界』の価値観や倫理観は地球とは根本的にズレてて、
アリの巣に水を注ぎ入れるような暗い楽しみがメジャーな感じなのか?

まぁしかし、ここでイクリプス共の内面を考察しててもなんの結論も出るまい。
結局米軍無双はあくまで前菜で、ボス敵であるブレイブとの戦いに比重を置いてると考えりゃ矛盾もないしな。

「……うん、やめとこう。半端に敵を想像すりゃ足元掬われんのはこっちだ。
 先のことを考えるにはもうちょっと情報が要る。目先の火の粉を払うことから手をつけるべきだ」

>「現実とゲームがごっちゃになって精神がゲームにとらわれた本物のやべー奴もいるだろうし……
 そんな奴をテスターに選ぶ畜生じゃないと願いたいね」

「……そういう、ゲーマーの類型に当て嵌まらねえ頭のおかしい例外がいるかもしれねえしな」

なにせ敵は50万人。その全員が真っ当にゲームを楽しむプレイヤーとは限るまい。
ジョンが触れたような基地の外に居る奴や、マジで虐殺を楽しめる奴もいるだろう。
こればっかりはサイコロを何度も振るしかない。

>「えーと…本音を言うなら回復するまで全力で今すぐ逃げたいけど…それができないのなら
 エンバースの水着を脱がす作戦と…明神の少女達の弱い所を突く作戦…同時進行でいくべきだと思う
 ATBゲージを貯めて集中砲火は…出たとこ勝負でかますのは…余りにもリスクが高すぎるから…
 最後の手段にしてほしいな…そもそも僕はもうカード残ってないし」

「オーケー。リソースが絶対的に足りてねえのは俺も同じだ。
 水着を脱がすか……いいなそれ。あっ、違うよ?他意はないよ?ないけどね?
 美少女ゲーなら武装の大破とかで服が脱げてもおかしくない。いや、あるべきだ!!
 "イクリプスの水着は脱げる"……そういう機能は、かなり高確率で実装されてると考えられる」

むかーし艦これとかDMM系列で流行ってた擬人化系のブラウザゲームでは、
流血とか欠損を伴わないダメージ描写として『脱衣』がよく使われていた。
ようは特殊な衣服が肉体的なダメージを肩代わりして破損するって設定だったわけだな。
まぁ実際はなんていうかこう、お色気的なサービスの面もあったんだろうが……。

>「強いていうなら装備をはがすのを優先気味にして……一部の兵装…僕達が使えたりしないかな?
 ブレモンのデータの一部使われたりしてれば兵装のちょっとした機能だけ使えたり…さすがに望みすぎか」

「……いや、俺はお前の賭けに乗るぜ、ジョン。武装の鹵獲は積極的に試すべきだ。
 そういうハクスラ的なシステムはゲームを面白くするうえであってもおかしくない。
 ハクスラでなくても、例えば死んだ味方がドロップした武器を引き継いで使うみたいなシステムがあるかもだ。
 武装の破壊がイクリプスにどういう影響をもたらすか、検証の項目に加えよう」

>《私からも一言、いいかしら》

喧々諤々やってるところに、不意に虚空にウィンドゥが出現した。
表示されたのはウィズリィちゃんだ。

66明神 ◆9EasXbvg42:2024/04/01(月) 05:05:27
>《『星蝕者(イクリプス)』のアクセス履歴と干渉の痕跡を辿って、大賢者の居場所を特定できるかもしれないの》

「……マジか!」

確かシャーロットによれば、ローウェルはアバターを介してしかこの世界に干渉できないみたいな話があった。
つまり、どんだけデータを好き勝手弄ろうが、別ゲーを強引にコンバートして融合させようが、
その全ては必ずミズガルズのどこかで行われているということ。
管理者権限があればアクセスログの追跡ができるってわけだ。
言うほど簡単な作業ではあるまい。必要なのは人手と、権限と、そして――

>《貴方たちには、大賢者の居場所を突き止めるまでの時間稼ぎをしてほしいの》

――『時間』。
50万人のイクリプス、まともにぶつかりゃ秒で溶かされる究極の武力を相手に、
十分な時間を稼ぎ切る。それが俺達に課せられたミッションだった。

>「みんなの対『星蝕者(イクリプス)』戦術を聞きながら、わたしも考えてたんだ。
 今回の戦いは、持久戦。それがたぶん一番いいんじゃないかって」

ウィズリィちゃんの提案を受けて、なゆたちゃんが俺達を振り返る。

>「どうしてそう思ったのか、根拠はふたつ。
 まず、あのナイとかいうキャラはSSSの襲来を『抽選に当選したプレイヤー限定のクローズドβテスト』って言ってた。
 それはつまり『増援はない』ってことだと思う。 まぁ……それでも50万とか、バカげた数ではあるんだけど」
>「……どうでもいいっちゃどうでもいいんだが、アイツらって全く同じ存在があの船の中に50万人いるのか?
 アイデンティティとか平気なのかよ。俺は結構気にしちゃうけどタイプなんだけどな、そういうの」

「SSSがキャラクリするタイプのゲームなら、案外船の中でオシャレ装備の品評会でもやってるかもな」

しかしまぁ連中が船の中でどう生活してんのかは気になる……。
50万人だぜ。大航海時代の奴隷船みたく、起きて半畳寝て一畳でぎっちり詰め込まれてんのか?

>「あと、βテストっていうのも大事だよね。そういうのって、大抵期間限定でしょ?
 だから、きっと『星蝕者(イクリプス)』の侵攻には時間制限があるんじゃないのかな」

「ナイの野郎も言ってたな、『βテストの時間は限られています』って。
 ……βテストが終わった後のこの世界がどうなるのか、わかんねえのが怖いところだが」

普通はテスト結果のフィードバックのためにサーバーを閉じて作業を行うわけだが、
シャーロットの言を信じるならサーバーの電源をオンオフするレベルの根本的な権限はローウェルにはないはずだ。
流石にSSSの正式サービスをこのバックアップサーバーでやるってこともないだろう。
データを丸ごとコピーして本番機に移し替える腹づもりなのかもしれない。

>「わたしたちだけで50万の『星蝕者(イクリプス)』を全員撃退するのは、とても無理だよ。
 でもね……このワールド・マーケット・センターを砦にしながらの籠城戦なら、できなくもない……かもしれない」

「プレイヤーが手出しできない場所に籠城する……ひひっ、ワールドツアーじゃん。
 リオレウスに死ぬほどイライラさせられた記憶が蘇ってきたわ」

最近の作品ではだいぶ改善されたが、昔のモンハンじゃ空飛んだモンスターがいつまでも降りてこずに、
攻撃の届かないマップ外周を延々と回り続ける遅延行動が頻発していた。
ついたあだ名が『ワールドツアー』。言うまでもなくクソ行動だが、時間稼ぎにはピッタリだ。

>「俺に異論はない……が、やるなら一回一回の戦闘を効果的にしよう。
 こちらの思惑がバレる前に色々と検証しておきたい事がある」

「持久戦には賛成だな。50万人相手に殲滅戦なんざやれるとも思えん。
 っつーかさ、イクリプス……仮に倒せてもそのうちあの船からリスポーンしてくるんじゃねえの」

67明神 ◆9EasXbvg42:2024/04/01(月) 05:07:00
流石にアクションゲーで死んだらキャラロストですお疲れ様でしたってことにはなるまい。
なにがしかのデスペナはあるだろうが、拠点で復活するシステムはあると考えるべきだ。

>「これ言ったら身も蓋も無いんだけど……
 相手が本当に建物の中に入ってこれないんならずっと引き籠ってたら時間稼ぎだけなら出来るんじゃ……」

「実際、建物っつう絶対安全な領域に居続けるなら時間は稼げるだろうぜ。
 ただ、ローウェルに安易な安地潰しはさせたくない。ある程度ゲームを成り立たせる必要がある」

俺達が建物に引き籠もって一向に出てこなければ、ユーザーからの不満を受けてローウェルはパッチを当てるだろう。
例えば建物内のマップデータの実装。あるいは、『建物そのものを完全にデリートする』とかな。
逆に言えば、ゲームとして成立しているうちはそういう極端なパッチを当てることはないと考えられる。
なんの制約もなくひたすらにプレイヤーに有利なパッチを当て続ければ、βテストの意味をなさなくなるからだ。

>「もちろん、戦うのはわたしたちだけじゃない。
 ――ここにいる人たち。全員に頑張って貰わなくちゃ」 

なゆたちゃんがローウェルの指環を使い、アシュトラーセを回復する。
回復したアシュトラーセがさらに回復魔法を使って、全員の傷が癒えた。
黒刃の頭突きに砕かれた右手をグッパする。問題なく動く。

>「……なぁーんか、ボクが寝てるうちにまぁーたメンドクセーことになってンなぁ……」
>「起きて早々呑気過ぎやろ!?」

「ガザーヴァ……!復活したみてーだな、良かった……」

カザハ君との慣れないセッションで力尽きたガザーヴァも、ボヤきながら目を覚ます。
枯れた喉も癒えたようだった。

>「あのリューグーナントカをやっつけりゃ、残るは大ボスのクソジジーだけじゃなかったのかよ?
 ったく、次から次へと……やっつける方の身にもなれってんだよ! なー、明神!」

「わかるわ……。わんこそばみてえにホイホイ戦力を逐次投入しやがって。
 メインディッシュまでにお腹いっぱいになっちまったらどうすんだよ」

死闘を繰り広げてリューグークランに勝利しても、状況は一向に好転しない。
それでも、絶望じゃなく強気に由来したガザーヴァのボヤきは、俺にもう一度立ち上がる力をくれた。

>「もし、リューグークランの人たちが味方になってくれてたら心強かったんだけどね」
>「……そうか?アイツら絶対、リベンジマッチしに勝手にそこら辺ほっつき歩いてるぜ」

「ひひっ、黒刃の野郎がイクリプス相手にどこまでトロール突っ張れるかみてやりたかったな」

もういなくなってしまった連中のことを、少しだけ思う。
エンバースがそうであるように――奴らならきっと、新規実装の強敵相手にテンション上げてただろう。

>「まだ、外には生き残りの人たちやニヴルヘイムの魔物がいるかもしれない。
 それを見つけてセンターの中に保護して、同時に戦力も拡充していこう」
>「戦力……魅力的な響きではあるが、ヤツらは俺達がちょこっとだけ苦戦するレベルの相手だぜ。
 かなり上手く運用しない限りは、無駄な死傷者を増やすだけになるぞ。
 勿論……かなり上手い運用法についても心当たりはあるが」

「どっかで足切りは必要だろうな。参戦させるならレイド級……最低でも準レイドは欲しい。
 ワンパンで即死せず、退避して回復して再出撃――ゾンビ戦法ができるモンスターが望ましい。
 その辺の選定と具体的な指揮はイブリース、お前に任せるぞ」

同胞の生存を第一に考えるイブリースなら、戦力外を戦線に投入して無駄死にさせる愚はおかすまい。
最悪、ニヴルヘイムについては後方支援に徹させても構わない。
持久戦、籠城戦の良いところは、砦自体が戦力として機能するが故に、寡兵だろうが多兵だろうがやることが変わらない点だ。

68明神 ◆9EasXbvg42:2024/04/01(月) 05:08:24
>「しっかし、相手は50万。対してこっちはモンスター合わせても20人以下。
 そのうえ相手はクソジジーの肝煎りで常時バフが掛かってる状態なんだろ?
 バランスもクソもあったモンじゃねーなー! やっぱブレモンはクソゲー!」
>「大丈夫! できるよ! だってもうわたしたちよりずっと前に、半年以上もの長い間、
 地上を埋め尽くす量の敵を相手に籠城して持ち堪えた『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』がいるんだもん!」  

「……持ち堪えただけじゃない。ユメミマホロは、籠城戦に『勝った』。
 俺達がマホたんを勝たせたんだ。アコライトで出来たことを、もう一度ラスベガスで再現すれば良い」

>「……まだ、戦意を喪ってないのかい。あれだけのものを目にしても」

士気を高める俺達の横合いから、不意に声が飛んできた。
振り返れば、いつのまにかミハエルが会場から出てきていた。

>「破滅は避けられない。君たちが儚い力をいくら振り翳したところで、絶対的な戦力と性能の差を縮めることは出来ない。
 誰にだって理解できる、単純な話だというのに……それでも抗おうとするだなんて、まったく理解できないよ」

「お前バトル前に自分で言ったこと忘れたのかよ。『真のデュエリストなら云々』ってやつ。
 考えるんだよ、どんなに絶望的な状況だろうが……相手にどうやって勝つか、最後まで」

――>『真のデュエリストなら! 例え身の回りで何が起こっていようと!
 自身の足許にまで火が迫っていようと! いいや凶弾に斃れ、或いは化け物に生きたまま身体を貪り食われようと!
 意識が途切れる最後の瞬間まで自分のデッキの構築! パートナーモンスターの育成!
 自らのスキルツリーのビルドを考えているものだろう!!』

ミハエルのあの言葉は、発言の経緯はともかくブレイブのスタンスとしては間違っちゃいないと思ってる。
思考はブレイブの武器だ。武器は最後まで手放すな。諦めるのは、死んだ後でもできるんだから。

>「だが――絶望的な戦力差を見せつけられ、死を間近に宣告されて。
 それでもなお運命を受け入れることはできないと、最期の最期まで戦ってみせようというのなら……。
 これを持って行くといい。きっと君たちの役に立つだろう」

「急にNPCみたいなこと言うじゃん……」

ミハエルが差し出したのは、4つの指環だった。ローウェルの指環。
……ローウェルの指環!?なんでこんなもん4つも持ってんだよこいつ!

>「これは……僕のものじゃない。 本来、リューグークランに与えられたものだ」

曰く、リューグークランの連中はローウェルから一つずつ指環を受け取り、
それをそのままミハエルに投げつけて放棄したらしい。

>「彼らは言っていたよ。もし君たちアルフヘイムの『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』が自分たちに勝つようなら、
 此処よりもっと先へ進むつもりなら……これを渡してほしいと。
 ほんの一時的にでも、うわべだけでも……仲間になった者たちの遺言だ。持って行きなよ。
 ……彼らも、きっと喜ぶだろう」

ミハエルとリューグークランの関係は、俺が思うようなドライな感じではなかったらしい。
指環を差し出すミハエルの感情は伺い知れない。
ハイバラを通じたなにがしかのシンパシーめいたものがあったのかもしれない。

「……エンバース、そこのチャンピオンのケツ叩いてやれよ。
 イクリプス相手にビビってんじゃねえよって。戦力って意味なら、こいつ以上に頼りになる奴ぁ居ねえだろ」

ミハエルのウルレアパートナーならイクリプスに手も足も出ずにワンパンされるってことはあるまい。
指環でリキャストを戻せば、半端な魔物より遥かに強力な戦力になるはずだ。
いつまでフニャフニャしてんだよこのチャンピオンは!ローウェルに見限られてショボくれてんのか!?

69明神 ◆9EasXbvg42:2024/04/01(月) 05:09:47
>「これでみんな、ますます負けられなくなっちゃったね。何が何でも生き残って、希望を未来へつないで……。
 ローウェルの喉元に迫ってみせなくちゃ、ゲーマーとしての沽券に拘わるよ!気合入れていこーっ!」
>「あ……、あれ?」

なゆたちゃんが右腕を振って気炎を上げる。
しかしすぐにふらつき、膝を折ってしまった。

「あっ、おい!大丈夫かよ――」

言ってから、自分の無慮を俺は呪った。
大丈夫なわけがあるかよ。ニヴルヘイムからこっち、連戦続きじゃねえか。
そうでなくともこいつは管理者メニューの解放のために身体に負担をかけまくってる。
瀕死を発動条件としたシャーロットモードを何度も発動してるってことは――
何度も死にかけてるってことじゃねえか。

>「ご、ごめんね……一番気合入れなきゃいけないのはわたしだったみたい、エヘヘ……」
>「いいや逆だ。お前は少し気を抜け。管理者メニューを開いた時から一番無茶してるんだ。ほら、歩けるか?」

なゆたちゃんの介抱をエンバースに任せて、自分の額を拳で打つ。
……いつの間にか俺は、なゆたちゃんとシャーロットを同一視していたのかもしれない。
ピンチになりゃ勝手にシャーロットが降りてきていい感じに回復させてくれると――
そんな風に割り切ってたのかもしれない。

違うだろ。ここに居るのはなゆたちゃんだ。俺の仲間だ。
この期に及んで会社クビになったプログラマのことなんざ当てにすんなよ。
この世界のことは、俺達が自分で考えていかなきゃいけないことだろ。

>「ここにいろ。座って、楽にするんだ……よし。それじゃ、ええと……何の話をしてたんだっけ。
 あー……そうだ。まず生存者を保護するとして、それらをどう探すんだ?居場所の目星は付けられるのか?」
>《周辺地域をスキャンして、大まかな生物反応をマップ上に洗い出してみたわ。
 こちらの青い点は私たちの世界……『ブレイブ&モンスターズ!』由来の生物を示している。
 赤い光はそれ以外。つまり『星蝕のスターリースカイ』由来のユニット、つまり敵……ということになるわね》

「うへぁ、すげえ量……でも50万って感じではねえな。大半はお船ん中でβテストの感想でも語り合ってるのかね」

俺達が戦場から撤退した以上、イクリプスの多くもまた一時撤収していると見ていいだろう。
今市内を飛び回ってる赤い点は、殺し足りない連中が残党狩りでもしてるって感じか。
青い点、ブレモン由来の生体反応も点在してる。こっちは固まって動かない。
俺達と同じように、建物内が安全だと気付いた籠城組ってところだろう。

>「この青い点を全部回るってのは、ちょっと骨が折れるな……」
>「ならば複数の部隊を編成し、手分けして救援に当たればいい。
 寡兵ならば個々に役割を設け、無駄のない効果的な運用をするのが戦術の基本というものだ」
>「いや、万一『星蝕者(イクリプス)』と戦闘になった場合、人数を分けてしまっては確固撃破される恐れがあろう。
 ここは固まって行動すべきではないか? 人命救助しようとして我らがやられてしまっては、それこそ本末転倒じゃ」

イブリースとカテ公がそれぞれ分散と集中の二案を投じる。
具体的な方針は後で決めるとして、大まかな目標地点の情報も欲しいところだ。

>《どういった形態で作戦行動に移るかは、そちらで考えて貰うとして……。
 目下のところ、マップ上で重要とされる箇所は四ヶ所ね。ブック、表示して頂戴》

求めに応じて、ウィズリィちゃんは4個所の目標地点をそれぞれ示した。
フレモント・ストリート、マンダレイ・ベイ、ザ・ストリップ、ストラトスフィア。
それぞれに戦術的な意義と……危険度の違いがある。

70明神 ◆9EasXbvg42:2024/04/01(月) 05:11:30
>「門が駄目でも、とりあえず落ち着いてメトロや……あまり気は進まないが下水道のマップを用意しよう。
 管理者メニューを使えばそう難しくないよな?その後は……方法はなんでもいいんだが、検証しておきたい事がある。
 ヤツらはメトロや下水道には侵入可能なのか、地形や建物を破壊出来るのか、その辺をハッキリさせとかないと」

「確かラスベガスって下水道の暗渠を不法占拠したスラムみたいなのがあったよな。
 人が住めるサイズのトンネルが街のそこかしこに伸びてるなら、比較的安全にどの目標地点にもアクセスできるはずだ。
 最悪……攻撃魔法で即席のトンネルをこさえりゃ良い。ブレモン側の住人なら構造物の破壊は可能だろうしな」

>「それが分かったら……手分けして、さっき挙がった四箇所を全部確認したい。
 ヤツらのベータテスト同様、俺達の戦いも時限イベントみたいなもんだ。
 時間をかければ負傷者の生存率は下がるし……SSS撤退後は拾えないアイテムとかも落ちてるかもしれない」

「4つのうちどれか一つを選ぶってのは俺も賛成できんな。ぶっちゃけ全部重要だろこれ。
 生存者の救出は最優先の大前提として……得られる情報も時間経過で腐ると考えるべきだ」

>「それに、俺達が生存者を救助していると分かればヤツらもそれを逆手に取ろうとするだろう。
 つまり二回目以降の救出作戦は襲撃される可能性が高まるだろうって事だ。俺ならそうする。
 そういう意味でも、まとまって行動するのは効率的とは言えないんじゃないか?……と、俺は思う」

エンバースは分散案を支持した。
やるなら全部の地点で同時多発的に行動を開始すべき……これは連中のタゲを散らす意味でも重要だろう。

>「間をとって、3か所手分けして探索した後に残りの一か所を全員で行くのは?」

カザハ君は折衷案を提じた。

>「フレモント・ストリート・エクスペリエンスとマンダレイ・ベイは
 建物の中中心で行動すればいいから戦闘になる可能性は少ない……と思う。
 生存者の救出を目的にするなら目立つ大人数で行くよりも小回りの利く少数でいったほうがいいかも……。
 ザ・ストリップはそれよりは戦闘になる確率が高そうだから前2か所よりはちょっと大目の人数を割り振ってさ……。
 こちらから攻め込むとしたらストラトスフィアは最後に全員で行った方がいいんじゃないかな?
 他の場所で運よく戦力になる生存者とか攻略情報が見つかったら生かせるし……
 反撃の拠点なら、やっぱり全員で行きたいじゃん!?」

「んー確かに。4つの中じゃストラトスフィアが一番後回しにできる。
 つうか敵のお膝元だし、積極的に攻勢をかける理由は今んとこないな。
 生存者救出のために行くとしても、地下を使った安全な退路が確保できたのを確認後だ」

あそこはクソでかいホテルタワーだから、他よりも籠城はしやすいと考えられる。
生存者には申し訳ないが、待っててもらうしかあるまい。

「俺はカザハ君の案を推すぜ。ストラトスフィア以外の3地点に同時に部隊を投入する。
 目的は生存者の救出と情報収集。そして地下の安全性の確認。
 地下が安全なら、ストラトスフィアから順次生存者を搬出していく――。
 カザハ君は例のボイチャ魔法を全員に頼む。
 手分けするにせよしないにせよ、ドンパチやってる中じゃ声も届かねえだろうしな」

反攻作戦を開始すれば、ラスベガスは再びビームと弾丸の飛び交う地獄と化すだろう。
船で暇こいてる連中も出てくるはずだ。

「……実際んトコ、βテスター50万人が一度にラスベガスに投入されるってことはないと思う。
 フィールドの面積に対して人が多すぎる。空を自由に飛び回るならなおさら広い空間が必要だ。
 仮にイクリプスが僚機とのニアミス回避のために10メートル四方の空間を確保するとして、
 マップもう一回出せるか?……ラスベガスの都市部面積は約30万平方メートル。
 どんぶり勘定になるが、大体3000人くらいが同時にフィールドに存在できる上限だろ。
 どうですかこの出血スーパーお値引き!多少は希望が見えてきたんじゃないですか?」

71明神 ◆9EasXbvg42:2024/04/01(月) 05:12:51
少なくとも、50万人をいっぺんに相手することはまずあり得ないと考えられる。
イクリプスの中身がプレイヤーだとして、βテストの期間中ずっとログインしてるはずもない。
飯を食う、風呂に入る、寝る。クソだってするし仕事や学校……に相当するタスクのあるプレイヤーもいるだろう。
テスターが50万人いるってのはフカシじゃねえだろうが、同時接続数はもっと少ないと見て良いはずだ。

「情報収集については……ローウェルの指環には発信機の機能があったよな。
 連中はおそらくボス標的のマーカーとしてこれを追って来る。
 うまく誘い込めばイクリプスに無駄足踏ませたり、一体を孤立させるチャンスがあるはずだ。
 装備の破壊とドロップ、そして……鹵獲が可能かどうかを検証しよう」

ジョンの言ってた『剥ぎ取った装備の利用』が可能であるなら、
イクリプスを一体でも倒せば持久戦の継続に大きく寄与する。
俺達が使っても良いし、救出した戦力に持たせたって良い。

「『倒したイクリプスがどうなるか』も知りたい。死ぬのか。死体は残るのか。リスポーンの有無や地点は。
 デスペナで装備ドロップっつうのが一番ありがたいが……。
 なんらかのスコアやボーナスが敵側である俺達に加算される可能性も低くはない」

リスポーンできるにせよ、ゲームとして最低限の緊張感を持たせるならデスペナは必須だろう。
仮に重いデスペナが課せられるなら、助命を引き換えにした交渉の余地が出てくるかもしれない。

「それから、イクリプスの戦術目標を確認したい。
 ゲームである以上、勝利条件と敗北条件があるはずだ。
 目標としているものが分かれば、それを阻止する形で持久戦もやりやすくなる」

単に敵対勢力を殲滅するのが目的か。敵拠点を一定時間制圧したり、巨大爆弾でも仕掛けようとしてるのか。
逆に連中にとって制圧されたら敗北の拠点もあるかもしれない。ストラトスフィアとかな。

「最後に……手分けするなら、激戦区のザ・ストリップには俺が行く。
 『俺のやり方』には、敵の多い場所の方が望ましい」

俺のやり方――アンチのやり方。
ブレモン運営との長きにわたる闘争で培われた、他人のモチベを下げる術。
プレイしてきたゲームをクソゲーだと主張する、ロジックの技術。

「βテスターは、テスターであると同時に潜在的な顧客と言って良い。
 テストしたゲームの出来の良し悪しで正式版をプレイするか決めるわけだからな。
 『クソゲーだからやめる』ってのもβテストとしては重要なフィードバックだ」

72明神 ◆9EasXbvg42:2024/04/01(月) 05:16:58
50万人もいれば、当然運営に対して好意的なプレイヤーばかりとは限らない。
ただでさえローウェルはブレモンの唐突なサ終でユーザーからの信頼を失ったばかりだ。
気合入ったローウェル信者を除けば、テストに参加しつつも猜疑的なプレイヤーは一定数存在するはずだ。

「持久戦は……イクリプス側から見れば著しく爽快感を損なう。
 かといってゲーム自体は成立してるから、極端なテコ入れでゲームを根本から覆すことも出来ない。
 積み重なった不平・不満はいずれ、『SSSはクソゲー』という評価に着地する。
 嫌気がさしてプレイするのをやめるテスターも出てくる。
 ……戦って倒す以外にも、イクリプスの数を減らす方法があるってことだ」

ゲームをクソゲーだと感じる瞬間。百戦錬磨のアンチの俺なら、そいつを余すことなく汲み取れる。
敵に何をやられたらクソかを判断し、最大限プレイヤーをイラつかせる立ち回りが出来る。
籠城戦で例に挙げたワールドツアーの他にも、アクションゲーをクソゲーに変えるムーブはいくつかある。

「敵は50万人も居るんだ。全員の意思を統一出来てるわけがねえ。
 このゲームに不満を抱えてる奴は必ず居る。そいつを見つけ出して教えてやるのさ。
 『SSSってクソゲーだよな』ってな。そしてその情報をテスター間で共有させる」

ゲーム運営にとってアンチの最も厄介な点は、その『伝染力』だ。
論理を伴ったアンチの言葉は共感を生む。潜在的な不満を顕在化させ、新たなアンチを生む。

原点回帰だ。見せてやるぜ。フォーラムに2年粘着し続けた、うんちぶりぶり大明神の面目躍如を!

「――俺が奴らをSSSのアンチにしてやる」


【提案:指環の発信機機能を使ってイクリプスを誘い込む。手分けするならザ・ストリップで持久戦しつつアンチ活動
 検証項目:イクリプスの装備の破壊と鹵獲の可能性、デスペナとリスポーン、勝利・敗北条件】

73ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2024/04/03(水) 20:59:01
>「システム上のレベルやステータスはさておき……経験値不足って事か?
 ヤツらが当て勘や駆け引きのノウハウに乏しいとすれば……大分やりやすくなるけど」

「とりあえずボタン押してるだけっていうか…うーんどううまく言えばいいのか…」

僕達は知恵を出し合う。
今までも圧倒的な不利を何度も…話し合い団結する事で乗り越えてきた。

相手にはない僕達の圧倒的なアドバンテージ…絆
うわなんか思っててちょっと恥ずかしくなってきた!

>《私からも一言、いいかしら》

作戦がある程度固まりつつある中…今まで沈黙を続けてきたディスプレイの向こうにいるウィズリィが話を始める。

>《ミズガルズに『星蝕者(イクリプス)』が干渉することを阻止できなくて、ごめんなさい。
 大賢者様……いいえ、大賢者の方が管理者としての力量も、権限も強かったから……。
 ただし、私とミノリもやられっぱなしではないわ》

まさか相手がブレモンの範疇を超えてくるなんてだれが想像できただろうか?
今回の件はまさに相手のほうが一枚上手だっただけだ…だれが悪い事なんてない。

>《『星蝕者(イクリプス)』のアクセス履歴と干渉の痕跡を辿って、大賢者の居場所を特定できるかもしれないの》

「それは…!」

>「ローウェルの居場所を……!? 本当!? ウィズ!」
>《貴方たちには、大賢者の居場所を突き止めるまでの時間稼ぎをしてほしいの》
>「わかった! 任せておいて!」

「そう言うのは簡単だがなゆ…」

いつ相手がこの場所に踏み込んできてもおかしくないこの状況で時間稼ぎなんて…
それに50万?さっきみたいなのが?…うーん現実的ではないのでは…。

>「みんなの対『星蝕者(イクリプス)』戦術を聞きながら、わたしも考えてたんだ。
 今回の戦いは、持久戦。それがたぶん一番いいんじゃないかって」

むしろそれしかできないと言ったほうがいい気がするが…言葉はとりあえず飲み込んでおいた。

>「どうしてそう思ったのか、根拠はふたつ。
 まず、あのナイとかいうキャラはSSSの襲来を『抽選に当選したプレイヤー限定のクローズドβテスト』って言ってた。
 それはつまり『増援はない』ってことだと思う。
 まぁ……それでも50万とか、バカげた数ではあるんだけど」

>「わたしたちだけで50万の『星蝕者(イクリプス)』を全員撃退するのは、とても無理だよ。
 でもね……このワールド・マーケット・センターを砦にしながらの籠城戦なら、できなくもない……かもしれない」

>「俺に異論はない……が、やるなら一回一回の戦闘を効果的にしよう。
 こちらの思惑がバレる前に色々と検証しておきたい事がある」
>「持久戦には賛成だな。50万人相手に殲滅戦なんざやれるとも思えん。
 っつーかさ、イクリプス……仮に倒せてもそのうちあの船からリスポーンしてくるんじゃねえの」

「持久戦って簡単に言うけど…僕達だけじゃ無理だ!せめてなにかしらのバックアップが無ければそれこそ遊撃戦を仕掛けても各個撃破されて終わるぞ」

>「もちろん、戦うのはわたしたちだけじゃない。
 ――ここにいる人たち。全員に頑張って貰わなくちゃ」 

なゆはそう言うとローウェルの指環を嵌めアシュトラーセに向かって高回復を唱えた。

>「ぅ……」

生きるか死ぬかの瀬戸際をさ迷っていた者でさえ瞬間的に回復する。
超上位のヒーリングカードならあり得ない事じゃないんだろうが…少なくとも一度のヒールでは治しきれない傷だった。

ローウェルの指環…人数分あったりしないかな…せめてリキャスト24時間だけでも解決すれば…いやない物ねだりしても仕方ないか…。

アシュトラーセは起き上がり事情を把握すると…この場にいる戦える者…イブリースとエカテリーナ…そしてガザーヴァを回復させるのだった。

74ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2024/04/03(水) 20:59:18
>「……なぁーんか、ボクが寝てるうちにまぁーたメンドクセーことになってンなぁ……」

戦えるものが次々と起き上がり、事情を聴き…準備を整える。
相手が50万に対して総動員してもなお…不安な数ではある…いくら全員が実力者といえども…だ。

「早いとこと水着をはぎ取って自分達で使えるか試してみるか…明神も賛成してくれたしうまく一人だけ誘い出せれば…いやでもそんなうまい事運ぶわけないよな…」

旗からきいたら犯罪者にしか聞こえない…いや実際女の子の水着を剥いで自分できようと言っているので間違ってはない…
そんな危険が危ない独り言を呟いていたら後ろからカザハに声を掛けられた。

>「ジョン君……」

どうした…?とは聞き返さなかった。
カザハが何を聞きたいのか…何を言いたいのか言い出す前から…検討はついていた。

>「もしもあの美少女と遭遇しても後先考えずに突撃したら駄目だよ!?」

思えばカザハとの付き合いも結構長くなってきた。もちろん心のつながりも。
だからだろう…僕が逃げ遅れたのではなく…強制的に連れ戻されるまで自分の意志で最後の最後まで戦っていたことがわかったのだろう。もちろん…その理由も。

「…………あぁ」

なんともやる気のない…生返事だけが僕の口からでた。
決してカザハの事が大事じゃないとか…そんなわけじゃない。

ただ…初めてなんだ。初めてゲームやおもちゃを買ってもらった子供のように…それしか考えられなくなるような…あの気持ちが。
僕に制御できるだろうか…もし誘われたらフラフラとついていってしまうんじゃないか…自分で自分を信用するなんて…今の僕には…。

「あっ…」

カザハと目が合う。うまく言えないけど…純粋な目で見つめられるだけで…。

「…意外と問題ないかも」

カザハはなにそれ!っと僕の体をぽかぽかと叩く。
僕もなんでそういったか分からないのだから仕方なかった

>「しっかし、相手は50万。対してこっちはモンスター合わせても20人以下。
 そのうえ相手はクソジジーの肝煎りで常時バフが掛かってる状態なんだろ?
 バランスもクソもあったモンじゃねーなー! やっぱブレモンはクソゲー!」

「…相手はブレモンどころかよそ様なわけだが…ま…でもいくら不利とはいえだ」

>「大丈夫! できるよ! だってもうわたしたちよりずっと前に、半年以上もの長い間、
 地上を埋め尽くす量の敵を相手に籠城して持ち堪えた『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』がいるんだもん!」  

「そうだね」

歌と踊り…そして希望で本来死の運命しかない人々を導いた前例を僕達を知っている。
こんな事でいちいち絶望してたら…ブレイブとして恥じだよ…それは。

とはいえ…僕達…ブレイブは継続戦闘に向いていないのは問題だ。
相手がザコならシンプルに肉体が強い僕やエンバース…それにイブリースがカードを一切使わず応戦すればいいが…、

一人一人が圧倒的なステータスを誇り、その上50万という圧倒的戦力を誇っている水着少女達…。
外で生き残ってる戦闘できそうな人手を探せるとは言えども…その為に一々カードを使っていては本末転倒だ。

75ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2024/04/03(水) 20:59:31
>「……まだ、戦意を喪ってないのかい。
 あれだけのものを目にしても」

>「手伝ってくれるの……!?」

「カザハ」

僕は手でカザハを引っ張る。
ミハエルの心はとうに折れている。もし言葉だけでも手伝うと言っても…こんなのについてこられても足手まといだ。

>「破滅は避けられない。君たちが儚い力をいくら振り翳したところで、絶対的な戦力と性能の差を縮めることは出来ない。
 誰にだって理解できる、単純な話だというのに……それでも抗おうとするだなんて、
 まったく理解できないよ」

「やる気を下げたいだけならさっさと黙ってくれないか?ゾンビに言葉をかけてあげれるほど僕達に余裕ないんだ」

これ以上この場の雰囲気を下げる発言を繰り返すなら…しかたない気絶でもさせるか…そんな事を考える。

>「だが――絶望的な戦力差を見せつけられ、死を間近に宣告されて。
 それでもなお運命を受け入れることはできないと、最期の最期まで戦ってみせようというのなら……。
 これを持って行くといい。きっと君たちの役に立つだろう」

しかしミハイルはふっ…と卑屈な笑みをみせ…自分のポケットからあるアイテムを取り出し…僕達に見せた。

>「ローウェルの指環……! 確かに、あなたが持っていたとしても不思議ではないけど……」

僕達の懸念だった継続戦闘力のなさ…それを解決するアイテム…
これがあれば希望が…かなり濃くなる…そんな夢のようなチートアイテムが…4つも…

>「これは……僕のものじゃない。
 本来、リューグークランに与えられたものだ」

>「彼らは言っていたよ。もし君たちアルフヘイムの『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』が自分たちに勝つようなら、
 此処よりもっと先へ進むつもりなら……これを渡してほしいと。
 ほんの一時的にでも、うわべだけでも……仲間になった者たちの遺言だ。持って行きなよ。
 ……彼らも、きっと喜ぶだろう」

>「まあ、アイツららしいな……カッコつけの、バカ野郎どもだ」

指輪を一つ受け取り…指にはめようとする。
リューグークラン…自分達が死んだ後の事すら考えて用意してくれていた。

自分達で使えば自分達の命だけでも助かっただろうにそれをせず…僕達に残してくれたのだ。

「エンバー」

僕はエンバースにこれをつけてもいいのか?もらっていいのか?…そう声を掛けようと思ったけど…エンバースから発せられる圧に押されて言葉を途中で飲み込んだ。
指輪から…表情こそみえなかったがエンバースから覚悟を感じる。それを確認するなんて行為は…余りにも無粋だと…気づいた。

「それでも…この指輪を付けるのは…今の僕には…中々難しいな…」

僕はぼそりとそう呟くと指輪を見つめる事しかできなかった。

76ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2024/04/03(水) 20:59:47
>「これでみんな、ますます負けられなくなっちゃったね。何が何でも生き残って、希望を未来へつないで……。
 ローウェルの喉元に迫ってみせなくちゃ、ゲーマーとしての沽券に拘わるよ!
 気合入れていこーっ!」

>「あ……、あれ?」

「なゆ!?」

>「……立てないのか?」
>「オイオイ、なーにやってんだよモンキン! これから大一番ってときにさぁー!」

なゆが極度の疲労からか体勢を崩す。
無理もない…今日に入ってから今までどれだけの死線を乗り越えて来たかを考えれば。

なゆは決してか弱い女の子ではない…だが超人でも…僕のようなジャンキーでもない。
こんな少女を旗印にしなければいけない自分の無力を…僕は噛みしめる事できない。

>「ご、ごめんね……一番気合入れなきゃいけないのはわたしだったみたい、エヘヘ……」

休めと言えない状況が…行ってあげられない自分が…悔しい。
言えないならせめて…これからの戦いで…なゆの負担を軽くしよう…僕にできる事はそれしかなかった。

>《周辺地域をスキャンして、大まかな生物反応をマップ上に洗い出してみたわ。
 こちらの青い点は私たちの世界……『ブレイブ&モンスターズ!』由来の生物を示している。
 赤い光はそれ以外。つまり『星蝕のスターリースカイ』由来のユニット、つまり敵……ということになるわね》

「……このラスベガスに…もうこれだけしかいないのか?」

外の惨状はなにも水着少女達だけが作ったわけじゃない。
イブリースの配下と…米軍が大なり小なり戦闘していたはずだ。

元々いた民間人の数…戦争行為を行ってた数…合わせればこのマップが青色で埋め尽くされてなければいけない。
それなのポツリポツリと青点があるだけ。 一つの青点が何十人も重なっていようとも元の人数と比較するまでもない。
分かっていたことではあるけど…。

>「この青い点を全部回るってのは、ちょっと骨が折れるな……」
>「ならば複数の部隊を編成し、手分けして救援に当たればいい。
 寡兵ならば個々に役割を設け、無駄のない効果的な運用をするのが戦術の基本というものだ」
>「いや、万一『星蝕者(イクリプス)』と戦闘になった場合、人数を分けてしまっては確固撃破される恐れがあろう。
 ここは固まって行動すべきではないか? 人命救助しようとして我らがやられてしまっては、それこそ本末転倒じゃ」

どんな案でいくにせよ…安全に生存者を移動させる手段がほしい所ではある。
僕達だけなら気づかれたら逃げる・隠れる・戦う…まあいろんな手段を取れるとは思うが生存者を引き連れていたらとれる手段は殆どない。

しかし大人数になればなるほど隠れる事もまた難しい。

>「門が駄目でも、とりあえず落ち着いてメトロや……あまり気は進まないが下水道のマップを用意しよう。
 管理者メニューを使えばそう難しくないよな?その後は……方法はなんでもいいんだが、検証しておきたい事がある。
 ヤツらはメトロや下水道には侵入可能なのか、地形や建物を破壊出来るのか、その辺をハッキリさせとかないと」

「メトロ…下水道…たしかにありだな」

直接この避難所まで地下鉄や下水道までを掘ってもいい。
普通の人間なら不可能だが…僕達だけなら今すぐにでも実行できるだろう。

77ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2024/04/03(水) 21:00:35
>「それに、俺達が生存者を救助していると分かればヤツらもそれを逆手に取ろうとするだろう。
 つまり二回目以降の救出作戦は襲撃される可能性が高まるだろうって事だ。俺ならそうする。
 そういう意味でも、まとまって行動するのは効率的とは言えないんじゃないか?……と、俺は思う」

「そうだな…多くても1チーム3人までが…いいと思う
先頭を行き、非常事態になっても先導を続ける奴が一人。殿を務めるのが一人。両方こなす中間管理が一人…それ以上はいても邪魔になるだけだと思う」

>「間をとって、3か所手分けして探索した後に残りの一か所を全員で行くのは?」

>「フレモント・ストリート・エクスペリエンスとマンダレイ・ベイは
建物の中中心で行動すればいいから戦闘になる可能性は少ない……と思う。
生存者の救出を目的にするなら目立つ大人数で行くよりも小回りの利く少数でいったほうがいいかも……。
ザ・ストリップはそれよりは戦闘になる確率が高そうだから前2か所よりはちょっと大目の人数を割り振ってさ……。
こちらから攻め込むとしたらストラトスフィアは最後に全員で行った方がいいんじゃないかな?
他の場所で運よく戦力になる生存者とか攻略情報が見つかったら生かせるし……
反撃の拠点なら、やっぱり全員で行きたいじゃん!?」

カザハのいう事は…理には適っている。
どれだけの戦力が揃うかはわからないが…

>「俺はカザハ君の案を推すぜ。ストラトスフィア以外の3地点に同時に部隊を投入する。
 目的は生存者の救出と情報収集。そして地下の安全性の確認。
 地下が安全なら、ストラトスフィアから順次生存者を搬出していく――。
 カザハ君は例のボイチャ魔法を全員に頼む。
 手分けするにせよしないにせよ、ドンパチやってる中じゃ声も届かねえだろうしな」

「場所がどこであれ…やっぱり生存者最優先にして…を目視…魔法…スキル…その全部で確認するまで戦闘は最小にしてほうがいいと思う
反撃と生存者救助はやはりわけるべきでは?…別にこのマップの精度を疑ってるわけじゃないんだけど…ただ…万に一つでも…
もしかしたら生存者がいるかもしれないと頭に過ぎったら…僕達は全力を出せない。これじゃせっかくの力を腐らせる事にもなる
敵につまらない揺さぶりを掛けられない為にも…そんな状況になるわけにはいかない」

生命力が低下している人間や魔物…つまり命が消えかけているような存在は…もしかしたらレーダーに映らないかもしれない。
どれだけウィズリィが自信を持っていると言ってもほんの1%でも…脳裏を過ぎる心配事は戦闘に影響を及ぼす。
なゆ達は…嘘だと分かっていてももしかしたらって思ってしまうほど…お人よしだから

「心配しすぎ?…そうは思わないな。普通の魔物や人間は…ちょっと距離を取った程度じゃ…僕達の全力戦闘の余波だけでも死ぬぞ」

状況を整理がひと段落したところで明神がさらに思いついたようにしゃべり出す。

>「……実際んトコ、βテスター50万人が一度にラスベガスに投入されるってことはないと思う。
 フィールドの面積に対して人が多すぎる。空を自由に飛び回るならなおさら広い空間が必要だ。
 仮にイクリプスが僚機とのニアミス回避のために10メートル四方の空間を確保するとして、
 マップもう一回出せるか?……ラスベガスの都市部面積は約30万平方メートル。
 どんぶり勘定になるが、大体3000人くらいが同時にフィールドに存在できる上限だろ。
 どうですかこの出血スーパーお値引き!多少は希望が見えてきたんじゃないですか?」

「確かに…メタな事いうなら…いくら僕達はお目当てネームドボスとはいえ…50万も一気に襲い掛かるのはお祭りゲーとしてはいいかもしれないけど…
普通のゲームだったらわけわからないままボスが討伐される…まさにクソゲーだもんな…」

>「情報収集については……ローウェルの指環には発信機の機能があったよな。
 連中はおそらくボス標的のマーカーとしてこれを追って来る。
 うまく誘い込めばイクリプスに無駄足踏ませたり、一体を孤立させるチャンスがあるはずだ。
 装備の破壊とドロップ、そして……鹵獲が可能かどうかを検証しよう」

本当は戦闘その物を回避したいところではあるけど…全部回避するのは難しい。
なら逆に情報を相手に与えて抜け駆けしてきた奴を捕まえる事ができれば…いろんな検証ができる。
水着少女達との決戦前にその情報が手に入る入らないはかなりの差がでる。

「でもやはり生存者を率いてる間はしずらいし…捕獲班を別途に用意するのはどうだろう?それだと人数別れすぎか…?
そもそもそんな都合よく一人だけでくるようなアホがいるとは…」

ドヤッ!!!と明神のドヤ顔が僕の言葉を吹き飛ばす。…ちょっとうざい

78ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2024/04/03(水) 21:00:54
>「持久戦は……イクリプス側から見れば著しく爽快感を損なう。
 かといってゲーム自体は成立してるから、極端なテコ入れでゲームを根本から覆すことも出来ない。
 積み重なった不平・不満はいずれ、『SSSはクソゲー』という評価に着地する。
 嫌気がさしてプレイするのをやめるテスターも出てくる。
 ……戦って倒す以外にも、イクリプスの数を減らす方法があるってことだ」

みんなが必死に頭を使い唸っている中…明神はあくどい顔をしていた。
どこかでみたなあんな顔…テレビで…なんだっけ…時代劇の…。

>「敵は50万人も居るんだ。全員の意思を統一出来てるわけがねえ。
 このゲームに不満を抱えてる奴は必ず居る。そいつを見つけ出して教えてやるのさ。
 『SSSってクソゲーだよな』ってな。そしてその情報をテスター間で共有させる」

クックックと我慢できない邪悪な笑みが明神から零れ落ちる。

>「――俺が奴らをSSSのアンチにしてやる」

「どこかでみたことあると思ったら…この邪悪さ……悪代官だ…」

明神の長年の経験からくる笑みと思考は邪悪そのものだ。
後輩ゲームを潰しますと宣言しているのだから当たり前なのだが…理にはかなっていた。

たしかに僕が戦った褐色肌の女も戦闘を楽しんでいた。そして邪魔をされていた事に怒っていた。
テストに参加したのに楽しめないなら遊ぶ事をやめるのは…プレイヤーとしては当然の選択ではある。

「明神の言った通り徹底して焦らし続ければ…リスクを冒してわざわざ誘導しなくても向こうから飛び込んでくる確率はぐっとあがる…
ゲームをやめさせて敵の数を減らすことも…相手が一人なら水着を引ん剝く事も…
…そこまでうまくいかないまでも捕まえてごうも…んんっ!………あ〜……
尋問して口割らせれば敵のある程度の弱点やスキルの情報を吐かせることだってできる…!」

事前に口裏を合わされないように別々の場所で同じ時間に同じ情報を聞き出す事ができれば情報の正確さも格段によくなる
とはいえ…生存者救出が最優先なのは変わりがないので…できたら嬉しい目標に止めるのがいいんだろうけど。

「すごいよ明神…一気に希望も…やる事も明確化してきた…!」

だが希望ってのは大事だ…これから戦うメンバーが増えれば増えるほど目に見えてる希望ほどいい物はない。
僕達の士気が高いだけじゃだめだ…一致団結する為にはこれから一緒に戦うメンバー全員の士気も重要だ。

「方向性がある程度決まってきたけど…まずは…だ。何するにしてもとりあえず生存者の事を第一に考えたいよな…
出来る限り水着少女達と戦えるような人材以外で…生存者を迅速に安全地帯まで運ぶことができる人材を優先的に集めたいところではあるけど……
イブリース…君の仲間で心当たりとかないのか?」

いくらイブリースに移動適正がありなおかつ移動するスキルがあったとしても身一つではとてもじゃないが足りない。
アシュトラーセやみんなも移動させるの魔法やスキルの類は持っているだろうが…そも戦闘面で強い人材を生存者誘導だけに使う事自体は非効率だし…
捕獲作戦を実行する時にできる限りその場で仲間になったメンバーより技をお互いに知り尽くしている相手と組みたいというのもある。

そんなに都合よくいかないだろうけど…

「…うーん…ない頭で僕が考えるよりこの手の作戦はできる人に任せよう!
僕はゲリラ戦…ローウェルの指環に頼らず比較的静かにゲリラ戦を仕掛けられるし…それにアイドル業で忘れられがちだけど
自衛隊…殺す数より救う数が多い軍隊出身だから応急処置やその場の判断はある程度慣れているつもりだ
まぁ………魔法があるような環境だとちょっと微妙かもだけど…うまく使ってほしい!必ず期待に応えよう!」

できる事ができる仲間に任せる。

前の僕ならそんな無責任な事をするなんてあり得ないと自分である程度勝手に考え行動していただろう。
でも今ならわかる。困難を前に自分一人でできる事などたかが知れている。

人間には成長する時間も、才能も限られている。
だからお互いを頼り合うのだ…自分にないものを妬むより…自分もそうなろうと無理な努力を続けるのではなく補い合う。



まだちょっと口に出すのは…僕には無理だけど…そこは少し許してほしいかな

【全力で戦う為に生存者救助最優先案を提案】

79崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2024/04/12(金) 00:09:24
《それじゃ、こういうのはどうかしら。
 ジョンさんの言う通り、チームはスリーマンセルが三つ。
 ナユタとエンバースさん。カザハとジョンさん。それからミョウジンと――》

ウィズリィが提案する。
ただ、アルフヘイムの『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』は五人パーティーだ。二人ずつで組むとなるとどうしても端数が出る。
ミハエルはエントランスのエンバースたちよりやや離れたところにいるが、相談に加わろうとはしない。
希望的観測だけではミハエルを動かすことは難しい。彼も戦力として当て込むなら、
SSSを向こうに回しても充分に戦える――という証拠を提示してやらなければならないだろう。

「別に『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』でペアになんなきゃダメってワケでもねーだろ。
 トーゼン、ボクは明神についてく。明神だろ、ボクだろ、んでマゴット!
 それでスリーマンセル成立だ。ヤマシタとガーゴイルはいつでも呼び出せるから除外で」

《んん……、何かバランスが悪い気がするわね……。
 それに、マゴットもミョウジンのパートナーモンスターでしょう?》

「細かいこと言うなよな魔女子。別にそれでいーじゃん、戦力的にはボクたちチーム明神だけで充分!」

意地でも明神派の身内だけで固めようとするガザーヴァであったが、そんな中、

「では、妾もザ・ストリップへ同道させて貰おうかの」

『虚構の』エカテリーナが名乗りを上げた。

「ザ・ストリップはこの地で最大の激戦区。今現在うろついておる敵も多い。
 此方としても頭数は少しでも多い方がよかろう、どうじゃ? 明神」

「え〜?」

「そんな顔を致すでない。
 人命優先で逃げながらの持久戦を展開すればよいモンデンキントやカザハらと違い、
 其方らは戦いながらアンチを増やす持久戦を展開せねばならぬ。
 ならば、必ずや妾の虚構魔術が役立つであろう。多数の敵を翻弄し手玉に取る、それが虚構魔術の真骨頂ゆえ」
 
ヤダヤダ、とあからさまに嫌な顔をするガザーヴァであったが、明神に説得されると渋々といった具合で納得し、
エカテリーナの同行を認めた。

《うん、それならバランスもいいんじゃないかしら。どう?ナユ――》

ディスプレイの中のウィズリィはなゆたに視線を向けた。最終的な判断はリーダーであるなゆたに委ねられるが、
肝心のなゆたはといえば、

「…………」

眠っていた。
目を閉じ、隣に座るエンバースの身体にやや凭れ掛かるようにして、静かな寝息を立てている。
エンバースによって半ば無理矢理椅子に座らされた途端、すとんとまるで電源が落ちるように眠ってしまったのだった。

「……寝かしておいてやろうかの」

エカテリーナが小声で呟く。
実際に、今まで短時間で幾度も死ぬような戦いを繰り返してきたのだ。
作戦開始までせめて少しでも休ませておいた方がいい、と継承者たちは頷いた。
イブリースも文句はないらしく腕組みして沈黙している。
最終的にチームはなゆた(ポヨリン)、エンバース(フラウ)、『黄昏の』エンデのチーム。
カザハ、カケル、ジョン(部長)のチーム。
そして明神(ヤマシタ、マゴット)、ガザーヴァ(ガーゴイル)、『虚構の』エカテリーナの三チームに決まった。

「私と兇魔将軍はこのワールド・マーケット・センターにいるわ。
このラスベガスで一番大きな収容施設がここになるから、生存者はどんどんこっちに運んできて頂戴。
怪我人がいれば治療するし、休ませる場所だってあるでしょう。
道中、医薬品や治療道具、食糧……なんでもいいから、役立ちそうなものがあればそれも送ってくれると嬉しいわ」

「オレも打って出たいところだが、已むを得ん。
 ニヴルヘイムの同胞たちを発見したら、これを見せてやれ。
 大人しく貴様らに従うはずだ。その者たちも此処へ連れてきてもらおう。
 保証は出来んが、作戦に有用な力を持っている者も確保できるやもしれん」

イブリースは鎧の懐から三分の一に分割された鎖付きのメダリオンを取り出すと、ジョンに差し出した。
それを見てガザーヴァが声を上げる。

「三魔将の割符! あったなぁー、そんなの! オマエまだ持ってたんだ?
 パパから貰ったものなんか全部捨てたと思ってた!」

三魔将の割符。
ニヴルヘイム最高戦力たる三人の魔神が持つ、支配者の証。

「……まあ……な」

イブリースはほんの僅かに目を細めた。
仲間意識の強いイブリースのこと、袂を別ったかつての上司に対しても、何らかの情は残っているのかもしれなかった。

80崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2024/04/12(金) 00:14:01
《みんなのスマートフォンからも、マップを閲覧できるようにしておいたわ。
 それから、この回線も常時開放しておくから。生存者がいたら報告して頂戴。
 こちらから『門』を開いて、ワールド・マーケット・センターに収容できるようにするわ》

ウィズリィが全員に指示する。
これで、パーティーを三つに分割した後でも各自がマーカーの標示されたマップを適宜確認することが出来る。
ニヴルヘイム謹製の『形成位階・門(イェツィラー・トーア)』は術者が一度行った場所にしか門を開けない。
だが、世界を俯瞰して見ている管理者であるウィズリィならその問題は解決だ。

《探索の際は、こまめにセンターに戻ってきて適宜補給と回復を受けて頂戴。
 それから、連絡は密にね。どんな小さなことでも、何か異常があればすぐに報告して。
 こちらからも常にモニターはしているけれど、相手は未知の敵よ。
 何が起こるかまったく予想できないから》

虚空に表示されたディスプレイ、そこに複数のウインドウが開きマップを指し示す。

《スキャンしたところによると、このラスベガスにはメトロ――魔法機関車みたいなものかしら? が地下に走っており、
 地下街もあるわ。その下には更に下水道も存在している。
 地上を通らずとも、それらを使用すればラスベガス全体を行き来することは可能そうね。
 ただし――》

ウィズリィが一瞬口籠もる。
ラスベガスは世界有数の一大観光地である。当然、観光客を楽しませ利便性を追求することに特化している。
砂漠の暑い日差しの下を行かなくとも、冷房の効いた地下を進んでいけるということだ。
だが、地下鉄自体は存在していても運行は当然止まっているし、移動するなら徒歩で行く必要があるだろう。

《このワールド・マーケット・センターやマンダレイ・ベイなどのホテルは外から攻撃されても破壊されないと思うし、
 『星蝕者(イクリプス)』に侵入されることもないと思う。
 彼女らにはマップ上の敵を倒すことはできても、障害物として配置された建物を壊すことは出来ない。
 だから、戦闘の際は地形も効果的に使うことが出来るわね。ビルなどで射線を切れば、相手の攻撃は届かないということ。
 でも、先程の戦闘を見るに……マップ上のオブジェクトに干渉することは出来そうだったわね。気を付けて頂戴》

ジョンと交戦した『星蝕者(イクリプス)』は、墜落した戦闘機の残骸を鈍器代わりに振り回していた。
建物などと違い、動かせるものは『星蝕者(イクリプス)』でも動かせるということか。

《それと……メトロや下水道は通常のマップとして認識されているとの結果が出たわ。
 つまり、『星蝕者(イクリプス)』にとっても侵入は可能、ということね。残念だけど》

マップが切り替わる。まるでアリの巣のように何層にも入り組んで構築されている、
それはメトロと地下街、下水道の複合配置図だった。やはりと言うべきか、メトロと地下街にも赤い光点がまばらに見える。
ただし、鹵獲を試みるにはちょうどいい数と言えなくもない。
下水道に光点は皆無と言っていい。いくら異界のゲームプレイヤーと言っても、わざわざ汚い場所には行きたくないのだろう。

「基本は下水道を通っていくことになりそうね。スラムがあるのだったかしら?
 ……エーデルグーテで私たちが『永劫』の賢姉に対抗していたときと同じようなものかしら。
 あのときも、私たちは聖罰騎士の手を逃れて信徒たちを隠し村へ保護するのに、地下に広がる万象樹の根を使っていたから」

アシュトラーセが右手を顎先に添え、マップを見ながら呟く。

「んじゃ、モンキン焼死体チームとバカザハジョンぴチームが下水道を進む間、
 ボクらは真正面から打って出ればいーってコトだな。
 コソコソすんのはボクの流儀じゃないから、ちょーどイイや!
 いっちょド派手にブチかましてやんよ!」

ガザーヴァが暗月の槍を高く掲げる。
根拠のない強がりではない、ガザーヴァにはガザーヴァなりの勝算があるらしかった。
ただ、明神の作戦を成功させるにはひとりでも多くの『星蝕者(イクリプス)』の目を引く必要がある。

「作戦は決まりじゃな。
 ならば、善は急げじゃ。さっそく出立を――」

エカテリーナが軽く周囲を見遣る。
なゆたは、まだ眠っていた。

「ぅ……ん、んん……。
 ……はっ!? わ、わたし、寝てた? ゴメン! こんな大事な話してるときに……!」

仲間たちの誰かが揺り起こすと、なゆたはすぐに目覚めた。

「……マスター」

『ぽよぉ……』

傍らのエンデが心配そうな表情を浮かべる。ポヨリンもなゆたの膝の上で不安そうに主人の顔を見上げている。
他のメンバーよりも疲労が蓄積しているのは、誰の目にも明らかだった。

81崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2024/04/12(金) 00:17:44
「モンデンキント……貴方」

アシュトラーセも眉をひそめている。
とても十全な状態とは言えない。本来ならば、救助活動よりも自身の回復を待つ側であろう。
しかしなゆたはエンバースに肩を借りてゆっくり立ち上がると、ガッツポーズをしてみせた。

「大丈夫、大丈夫! 今ちょっと寝られたから、元気いっぱい! 体力マックスだから!
 ね、カザハ、わたし寝てる間に寝言とか言ってなかった? ヨダレ垂れてない?」

口許をゴシゴシと右腕の袖で拭い、誤魔化すように笑ってみせる。

「その状態で外へ出るのは危険だ。
 ……オレがお前の代わりに行く。お前はここで継承者と一緒に、生存者の保護に当たってくれればいい」

見兼ねてイブリースが交代を提案する。
なゆたとシャーロットを同一視するほど愚かではないが、といって別人とも思えずにいるイブリースにとって、
やはりなゆたは見捨てておけない特別な存在ということらしい。

《そうね……。その方がいいかもしれないわ。みんなはどう?》

ディスプレイのウィズリィも特に反対しない。
『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』達が各々の意見を出すと、なゆたは小さく微笑んだ。
今にも泡沫のように儚く溶け消えてしまいそうな、淡い笑み顔だった。

「ありがとう、みんな。
 わたし……行くよ。何があっても、ここは行く。後ろで待ってるなんて出来ない」

「マスター、でも」

「最後まで歩きたいんだ。みんなと、一緒に」

《ナユタ――》

「……連れて行って。エンバース」

エンデとウィズリィの心配をよそに、なゆたはエンバースの袖を軽く掴むと、短く懇願した。
決然とした、不退転の意志の籠もった声。

「やれやれ……これは梃子でも考えを曲げぬ覚悟じゃな。
 妾たちの知っておる『救済』の賢姉は、このような強情な御方ではなかった筈じゃが……」
 
「そうね。いえ、むしろ引っ込み思案でほとんど自らの意見も出さなかったような」

エカテリーナとアシュトラーセが十二階梯の継承者として、姉弟子であったシャーロットとなゆたとを比較する。
ゲームの中でも『救済の』シャーロットは自身に関係するイベント以外ではあまり発言しない、
物静かで影の薄いキャラクターだった。そんな性格に反して性能的には光属性の人権キャラのため、
戦闘においては引っ張りだこであったのが皮肉なところだが。
そんなふたりの会話に、なゆたはアハハ、と笑うと、

「そうかもね。でも、それって当たり前のこと。
 だって、わたしはシャーロットじゃない。あくまで普通の女子高生!
 モンデンキントこと崇月院なゆた、だから――」

そう、なゆたは『救済の』シャーロットではない。単にシャーロットの記録とスキルを移植されただけの、
なんの変哲もない人間だ。
そんな人間が幾度も瀕死となり、本来上位者が用いるべき技能『銀の魔術師』を用い、
限界以上の体力と精神力を消費して激戦を潜り抜けている。
で、あるのなら。

「さあ――行こう!
 わたしたちの助けを待ってる人たちを保護して、『星蝕者(イクリプス)』も倒す!
 そして最後にはローウェルをやっつけて、ブレモンがまだまだ伸びしろのあるコンテンツだってことを教えてあげなくちゃ!」

ばっ! となゆたは右手を大きく横に振ると、大見得を切ってみせた。
その拍子に、さらり……と光の粒子がまた、ほんの少しだけその身体から零れ落ちる。

まるで、砂時計の中の砂が落ちていくかのように。

82崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2024/04/12(金) 00:23:09
眼前に、凄惨な破壊の光景が広がっている。
崩れ落ちたビルに、墜落した戦闘機。
砲塔が融解し履帯の外れた戦車が、あたかも巨大な獣の骸のような残骸を晒して横たわっている。
捲れ、ひび割れたアスファルトのせいで歩きづらいことこの上なく、至る所にクレバスのように大きな裂け目が出来ている。
噎せ返るような火薬と死のにおいもきつい。ニヴルヘイムの魔物が吐いたブレスか、米軍のミサイルか。
それとも『星蝕者(イクリプス)』たちの用いる未知の兵器の発したものか、いまだに空気は熱せられており、
時折熱い風が一行の髪や衣服を撫でてゆく。
いわゆるアポカリプス系映画のような光景。しかし、目の前のこれは映画のセットでもなければCGでもない。
紛れもない本物――そもそも上位者のゲームであるところのこの世界において、
本物というものが存在するならば、の話だが。

「あーあ、ハデにやってくれちゃって、まぁ」

槍を水平にして両肩に担ぎながら、大通りを闊歩するガザーヴァがぼやく。
煌びやかだったはずのネオンは砕け、オブジェは倒壊し、ビルの壁面に設けられていたディスプレイはもう何も映していない。
かつての一大観光都市であった面影はもはや欠片もなく、ただただ死と破壊だけが蔓延する世界。

「なぁ、明神。
 この街、スッゲーキレイなとこだったんだろ?
 瓦礫を見ただけでも分かるよ。きっとスッゲェキラキラ光ってて、ピカピカに輝いてる街だったんだろうな」

瓦礫や横倒しになった車、爆発し黒焦げになった戦車などの近くには米兵や人間の一般人の亡骸の他、
サイクロプスやワイバーン、ゴブリンなどニヴルヘイム由来のモンスターの死体も無数に転がっている。
視界に生存者の姿はなく、またマップにも青色の光点は表示されていない。
無慈悲かつ徹底的な虐殺の後。『星蝕者(イクリプス)』の仕業に違いない其れに、ガザーヴァは眉を顰めた。

「……壊される前に来たかったな」

ぽつり、と呟く。
一巡目の世界で自分の終焉の地となった、アコライト外郭。
そこから先の世界を見る、それを何よりの楽しみとしていたガザーヴァだ。
世界の境界を飛び越えてアルフヘイムでもニヴルヘイムでもない世界に行くというのは、
きっとさぞかし心躍る気持ちであったことだろう。
だというのに、視界に入るのは一面の破壊の跡ばかり。落胆するのも無理からぬことだろう。

「管理者としての力を用いれば、破壊される前の状態に戻すことも出来るのではないか?
 それこそ『機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)』の技術を応用するなどしてじゃな。
 師父ローウェルをお止めし、侵食を取り除くことが出来さえすれば、そういった研究も出来るようになるであろうよ」

エカテリーナが仮説を口にする。
消えゆくデータを丸ごとバックアップしコピーできるくらいなら、
街ひとつのデータを破壊される前に復元することも可能なのでは、と言っている。

「そーだよな。ん! じゃあ、サッサとスクラップどもをやっちゃって!
 クソジジーもバーン! って吹っ飛ばして! このキレーな街、元に戻そーぜ!
 この街はミズガルズいちのカジノの街だったんだろ?
 んじゃ、一切合切終わった暁にはカジノでギャンブル三昧だー!」

「これこれ、カジノで遊ぶと申しても、元手がなければ遊べまい。
 ミズガルズでルピは使えるのか? クリスタルは? でなければ妾たち、素寒貧ぞ」

「んーなの、どーとでもなるって!
 それこそ石油王に頼んで、管理者メニューでサイフの中身いじってもらえばさ!」

なー! と明神の方を振り返って笑う。
管理者メニューで所持金を設定できるのなら、そもそもカジノで稼ぐ必要などないのでは? と思ってはいけない。
ガザーヴァにとっては明神と一緒にカジノで遊ぶ、それが一番重要なのだから。
がんばるぞー! と槍を高々掲げ、元気いっぱいに鬨の声を上げる。
まるで、これから数十万の『星蝕者(イクリプス)』を相手に絶望的な持久戦を展開する身とは思えない。

「ま……何か目標を持つということは善いことじゃな。
 目的のため、何としてでも生き残らねばという気になる。
 何にせよ――先ずは連中を何とかせぬことには始まらぬが、な……!」

小気味よさそうに笑うと、エカテリーナは軽く肩を竦めた。
そして、長煙管を手に空を仰ぎ見る。
視線の先には、既に十騎ばかりの『星蝕者(イクリプス)』が出現していた。

「……やっと出てきたのね。
 建物の中に閉じ籠って、ブルブル震えてるだけの相手じゃ埒もないと思っていたんだけれど――
 死ぬ覚悟が出来た、ってことかしら?」

穂先がビーム刃になった長大な槍を持ち、中華風の意匠を加えたセーラー服を着たお団子髪の少女が、
すう……と音もなく地上へ降り立つ。
『星蝕者(イクリプス)』側には他にも日本刀持ちや巨大なドローンのようなプロペラ付きの機械に乗った少女などもいる。
姿はずいぶん異なるが、皆SSSの七つのクラスいずれかに相当するキャラクターたちなのだろう。
どうやらキャラメイクはオープンワールドRPGばりに自由らしい。

「ヘッ。そりゃこっちの科白だってーの。
 ザコを殺して最強気取りのテメーらに、ホントの最強ってのがどういうモンか教えてやるよ!
 お代は――テメェらの命でなァッ!」

狂暴な笑みを顔にへばりつかせ、ガザーヴァは上空の少女たちを挑発した。

83崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2024/04/12(金) 00:28:05
「ははッ! 久しぶりの運動だァ! 明神――ボクは『遊ぶ』ぜえッ!
 命令はその後にしろよな!」

戦術も作戦もあったものではない。
ドンッ! と土煙を立て、ガザーヴァが槍をしごいて『星蝕者(エクリプス)』へと襲い掛かる。
槍使い以外の『星蝕者(エクリプス)』が散開する。が、戦闘は仕掛けてこない。
SSS側にとっても、これは初めての『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』との戦いである。
先ずは相手がどれ程の実力を持っているのか、どのような戦い方をするのかを見極めたいということなのだろう。

「オォラァァッ!!」

ガザーヴァが空中から大振りに暗月の槍を振り下ろす。
槍使いの少女――クラス・シューティングスターは半身をずらすと、苦もなくそれを避けてみせた。
しかし、ガザーヴァの攻撃は終わらない。卓越した身体能力をフルに発揮し、矢継ぎ早に刺突や斬撃を繰り出してゆく。
それに負けじとシューティングスターも迎撃に打って出る。互いの槍が幾度もぶつかり合い、
激しく競り合うように火花を散らす。
高く跳躍し、柔らかな肢体を縦横に躍動させてのそれは、まさしく達人同士の戦いだ。
人知を超えた戦闘能力の持ち主同士の戦闘は、それ自体がまるで示し合わせた演舞のように華麗で、目を瞠るほど美しい。

「ボクの動きについて来られるなんて、ちょっとはやるじゃねーの。褒めてやんよ」

「……フン」

愉しげに笑うガザーヴァに対して、シューティングスターはあくまで無表情を貫いている。
が、といって何も感じていないという訳ではないらしい。鍔迫り合いから一旦間合いを離すと、
槍使いは今までに倍する速度で手数を増やしてきた。

ボッ!!

「おっ?」

ガザーヴァが一瞬驚いた表情を見せる。
ビーム刃での薙ぎ払い二連に、六本の小型槍を展開しての多重攻撃。波動を纏いながらの強烈な突撃。
目にも止まらぬコンビネーションだ。そのどれもが必殺の威力を秘めている。
出力を上げたシューティングスターのビーム刃から発せられる熱気が、明神のところにも伝わってくることだろう。
今までの一進一退の攻防から一転、ガザーヴァは瞬く間に防戦一方の状況に追い込まれてしまった。

「おっととっとっとっ! アブネーアブネー!」

ガザーヴァの米神を汗が伝う。
巧みに暗月の槍を取り回し、柔軟な肉体を駆使して防御と回避を成功させているものの、
攻撃までにはまったく手が回らない――といった状態だ。

「ふ……、手も足も出ないでしょう!? 旧作のボス敵程度が、身の程を知りなさい!」

ドッ! ドドッ! と大気をどよもしてシューティングスターがラッシュを続ける。
ガザーヴァはそんな相手の一挙手一投足にピジョンブラッドの双眸を向け、ただただ回避に専念しているように見えた。
状況は圧倒的に不利だ。いかなガザーヴァでもいつかは集中力が途切れ、体力が尽きて致命的な一撃を貰ってしまう。

「そろそろ頃合いかしら……! ――さあ、死になさい!」

「うわぁ! もうダメだー!」

今まさにガザーヴァへとどめ刺そうと、シューティングスターが全身にオーラを纏っての突進を繰り出してくる。 
穂先を前方に構え、蒼白いオーラの尾を引いて飛翔するその姿はまさしく流星、シューティングスターだ。
ガザーヴァは哀れっぽく悲鳴を上げた。そしてガザーヴァは成す術もなく『星蝕者(エクリプス)』の槍に貫かれ――

……たりは、しなかった。

「――なワケねーだろ、バーカ」

突進してくる死の流星を真正面から迎え撃つと、ガザーヴァは大きく上体を捻って身構える。
そして少女の突き出す槍を紙一重で躱すと、絶妙のタイミングでその喉元にカウンターの右ハイキックを叩き込んだ。

「ごっ!?」

まったく予期せぬ反撃に対処するいとまもあらばこそ、
シューティングスターは自らの突進のスピードもそのままに、喉元へ炸裂したガザーヴァの右脚を支点に勢いよく一回転すると、
ダダァァァンッ!! と地響きを立てて地面へうつ伏せ叩きつけられた。
信じられない光景だった。様子見を気取っていた『星蝕者(イクリプス)』たちは皆、呆気に取られている。
中でも一番信じられないのはシューティングスター自身だろう。盛大に吐血し、がりり……と地面に爪を立てる。

「ガハッ! ……い、いったい何が……」

「オイオイ、頭コカトリスかよ。三歩動いたら聞いたコト全部忘れんのか?
 ボクは『遊ぶ』って言ったんだぜ?」

相変わらず天秤棒のように槍を両肩で担ぎながら、ガザーヴァが呆れたようにシューティングスターを一瞥する。

「遊ぶ……ですって……?」

「せっかくのオモチャ、すぐぶっ壊しちゃったら面白くねーじゃん。
 でももういいや、分析も終わったし……オマエの攻撃は全部見切っちゃったからさ」

もう引っ込んでいいぞ、とばかり、シッシッと右手を振る。

84崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2024/04/12(金) 00:33:48
「……見切った? 見切った、と言ったの?
 この私の攻撃を? 最強の『星蝕者(イクリプス)』の攻撃を……?」

「おーよ」

「ふざ……けるなァァァッ!」

シューティングスターは奇襲の痛手もまったく感じていないような素早い動きで起き上がると、
端正な面貌を憤怒に歪めてガザーヴァへと飛びかかった。
先程の戦いで見せた怒涛のラッシュに輪をかけた激しい攻撃は、あたかも流星雨のよう。
が、当たらない。
破壊の嵐めいたシューティングスターの攻撃が、まるで功を成さない。
先程まではガザーヴァが防御行動を取る程度には当てられていたのだが、今はそれすらない。
しかも、ガザーヴァは必死なふうでもない。鼻歌交じりにシューティングスターの猛攻を往なしている。

「なっ」

言ったろ? とガザーヴァがにんまり笑う。
どうやら、見切ったというのはガザーヴァ流のブラフでも何でもない、紛れもない事実らしい。

「お、おのれェェェェッ!」

「何回やったって無駄だって……の!」

侮辱され、激怒したシューティングスターが槍を突き出す。しかしガザーヴァはそれを予想通りとでもいうように先回りすると、
穂先ではなく槍の石突で横殴りにシューティングスターの左頬を痛撃した。
まるで未来視、予知能力でも持っているかのような反撃の手際に、シューティングスターは再度攻撃をまともに受けると、
横回転しながら吹っ飛んだ。
どしゃり、と音を立て、SSSの槍使いは地面に横倒しになるとそのまま動かなくなった。
そして、その姿が武器の槍もろとも霧のように掻き消える。

「ンー。鹵獲作戦は無理かぁー。ま、そりゃそーだよな」

つまらなそうに呟く。戦いは序盤こそ『星蝕者(イクリプス)』優勢かに思われたが、
終わってみればガザーヴァの完全なワンサイドゲームだった。
どうして、こんなことになったのか。

「ふん、旧作のキャラだからといって舐めて掛かるからこうなる。
 次は私だ、格の違いというものを見せてやろう」

「いーぜ、いーぜぇ。
 明神、コイツの動きをよぉーく見てろよ。そしたら、コイツらの弱点がすぐ分かるハズだから」

様子見していた『星蝕者(イクリプス)』のひとりが前に進み出る。ガザーヴァは連戦だが、まったく疲労の色はない。
むしろウォームアップが終わった程度だ。
そして――シューティングスター戦と同じように最初は防御と回避に徹し、少しすると攻勢に転じて、
最終的にはやはり『星蝕者(イクリプス)』に一撃の有効打も許すことなく完封してしまった。
ドシャア! と音を立て、次鋒が沈む。『星蝕者(イクリプス)』たちは声もない。

「分かったか? 明神?」

槍を地面に立て、ガザーヴァが明神の方を見る。

「コイツら、攻めのパターンが少なすぎンだよ。バリエーションに広がりがなくておんなじ技ばっか使ってくるから、
 それさえ見切っちまえば当たるワケねー、ってコト!」

大抵のアクションゲームにおいて、初撃――攻撃の起点のモーションはキャラクターごとに固定で決まっている。
そこから弱攻撃に行くか、強攻撃に派生するか、必殺技を繰り出すかでコンボを組み立てていくわけだが、
SSSは爽快感を重視したゲーム性のためゲーム初心者でもボタンを連打しているだけでコンボができるようになっている。
システム上、格闘ゲームのようにありとあらゆる状況から技を選択して、という形には成り得ないのだ。
結果、どうしても攻撃が単調になる。ガザーヴァはそれを看破し、完璧に凌いでみせた――ということらしい。
 
「ミズガルズの人間たちやウチのザコ相手ならそれでも良かっただろうケド、ボクには通じないぜ。
 ひとりひとりなんてまだるっこしい、全員でかかってこいよな!
 ボクはレイド級なんだよ、レイド級ってのは元々、一対多で戦うようにできてンだ。
 そら……人間相手に無双してたオマエらに、今度は――ボクが無双してやンよ!」

暗月の槍を構え、さも愉快げに不敵な笑みを浮かべると、
ガザーヴァは『星蝕者(イクリプス)』を前に啖呵を切ってみせた。

85崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2024/04/12(金) 00:40:28
「先程は不覚を取ったが……。此度はそうは行かぬぞ。
 妾の虚構魔術、その精髄を見せてくれよう!」

エカテリーナがおもむろに長煙管を吸い、紫煙を吐く。
魔力を含んだ紫煙は瞬く間に周囲へ拡散すると、まるで霧のように皆の視界を覆った。
明神の得意とするスペルカード『迷霧(ラビリンスミスト)』に似ているが、ただ視認性を悪くするだけでは終わらない。
エカテリーナの煙は中にいる者の目を惑わせ、自分以外はすべて敵であるかのように誤認させてしまう。
結果、『星蝕者(イクリプス)』たちは同士討ちを始めてしまうことになる。
難点といえば『星蝕者(イクリプス)』だけでなくアルフヘイム側にも効果が及んでしまうという点だが、
煙の有効範囲にいるのがガザーヴァだけなら問題はない。元々自分以外は全員敵である。

「……どうやら、連中に此方の魔術へ抵抗(レジスト)する術はないようじゃな」

ふぅっ、と紫煙を吐き、エカテリーナが状況を観察する。
煙の範囲内に入っている『星蝕者(イクリプス)』たちは例外なく虚構魔術の影響を受け、
少なからず同士討ちを始めてしまっている。
その混乱に乗じてガザーヴァが怯んだ者たちを狩って回る。効果は抜群のようだった。
同様、明神の持つ妨害に特化したスペルカードも命中すれば十全な効果を発揮する。
SSSは3DアクションRPGである。従って純粋なRPGであるブレモンと違い、
デバフ効果を齎す地形やトラップは基本的に『回避する』という方式で防ぐしかないのである。
ひょっとしたらそういったアイテムも存在するのかもしれないが、
見たところこの場にそういった物を持ち込んでいるプレイヤーはいないようだった。
事前にネットで攻略法を見ていたり、攻略本をあらかじめ読んで対策を練っていない限り、
特殊効果を打ち消すアイテムというものは、基本的には一度負けて再戦する際に二の轍を踏まぬよう持ち込むものであろう。
スペルカードや魔法によって行動を阻害された『星蝕者(イクリプス)』の攻撃ならば、
一般人の明神であっても回避や防御は容易だろう。手駒にはヤマシタもマゴットもいる。

「最初はヤベー連中が来たと思ったケド……なーんだ、大したコトねーなァ! あっははははははッ!!」

自分のターンとばかりに縦横無尽に跳ね回り、気持ちよさそうに槍を振り回して敵を駆逐しながら、ガザーヴァが笑う。
ガザーヴァが『星蝕者(イクリプス)』を倒すたび、まるで雲霞のように後続のプレイヤーが参戦し、襲い掛かってくる。
だが、その誰もガザーヴァを倒すことは出来ない。どころか皆、
ガザーヴァの槍や暗黒魔法によって蚊トンボか何かのように墜とされてゆく。
確かに、『星蝕者(イクリプス)』は恐るべき手合いである。
その力は通常の人間やモンスターを遥かに凌ぎ、命を容易く蒸発させる超兵器を持っている。
が、その反面リリース前のβ版ということでプレイヤーに技術の蓄積がなく、
スキルや武器の解析も進んでいない。
何より、『星蝕者(イクリプス)』たち自身がおのれの力を使いこなせていない――。
反面、ブレイブ&モンスターズ! はフォーラムやWiki、各種動画によって徹底的な分析や研究が行われ、
モンスターやスキル、アイテムの性能をほとんど完全に発揮することが出来るのだ。

「く、くそッ、どういうことだ……!? 先程とは動きがまるで別物だ!
 チートでも使ってるのか!?」

『星蝕者(イクリプス)』のひとりが混乱の中で呻く。
緒戦で敗北したイブリースやエカテリーナらのことを言っているのだろうが、
単に彼らは初めて対峙した『星蝕者(イクリプス)』の手の内が分からず、わからん殺しで遅れを取ってしまっただけなのだ。
何も、兇魔将軍や十二階梯の継承者の実力が『星蝕者(イクリプス)』より劣っているという訳では決してない。
だから。

充分な準備と冷静な判断力、今までの長い旅で培ってきた経験を用いれば、
決して『星蝕者(イクリプス)』は倒せない相手ではないのだ。
尤も、それは一対一や少数と戦った場合である。何せ、SSS側には50万人とさえ言われる圧倒的な頭数がいる。
少数の『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』だけでは、とても太刀打ちできるものではない。
だからこそ。

「明神、頼むぞ。此処に居る者ども、皆アンチにするのじゃろう?」

新たな虚構魔術で更に戦場を混乱状態に陥れながら、エカテリーナが明神を見る。
そして長煙管を軽く振ると、明神に魔法を付与する。
『扇動(アジテーション)』――魔力で拡声し広範囲に声を届ける魔法だ。

「この者たちが一斉にSSSを見限り、撤退する様はさぞかし壮観であろうな。
 師父の呆気に取られた顔が目に浮かぶわ……そら、見事為遂げてみせい!」

同士討ちを恐れてか、『星蝕者(イクリプス)』たちは煙の中での攻撃を手控えしている。
皆が皆戦闘に集中している状態なら明神の声も届かないかもしれないが、
今ならばきっと有効に作用することだろう。
そして、首尾よく明神のプランが成功すれば、SSS側の戦力を大幅に削減することが出来る。

百騎以上いる『星蝕者(イクリプス)』の視線が、明神へと集まった。

86崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2024/04/12(金) 00:46:12
カザハとジョンは青い光点のもっとも多いフレモント・ストリート・エクスペリエンスの人命救助を担当することになった。

《地下道を通って、ストリート内の青い光点……アルフヘイムとニヴルヘイム由来の人々を、
 このワールド・マーケット・センターへ避難誘導して頂戴。
 転移門はこちらで開くから、貴方たちは要救護者がいる場所まで行って、私に報告してくれればいいわ》

スマホの液晶画面でウィズリィがふたりに指示する。
大量の避難民を、地下道をいちいち歩いて誘導し搬送するというのは想像を絶するほど骨が折れる仕事だが、
ウィズリィが転移門を任意の場所に出現させられるというのなら話は早い。
薄暗く臭い下水道を歩き、マップ上の青い光点が密集している場所へ赴く。
地下駐車場を経由して大きなリゾートホテルのひとつに入り、エントランスに到着すると、
ホテルの宿泊客らしい人々が身を寄せ合って外の爆発音や震動に怯えているのが見えた。

「あ……、あんたたちは……?」

明らかに普通とは異なる人間が魔物を率いて現れたことに対して、人々が怯えた反応を見せる。
しかし、ジョンやカザハが説明すれば、もっと安全な場所があるということで皆おとなしく指示に従うだろう。

《転移門を開くわね》

ウィズリィが管理者権限でエントランスに転移門を開く。
門を潜れば、ホテルからマーケット・センターまで一瞬で移動することが出来る。
マーケット・センターのブレモン世界大会会場などは避難所にはもってこいだろう。
ぞろぞろと人々が列をなして転移門を潜ってゆく。
一軒目のホテルの救助が完了すれば、次の場所だ。転移門を消し、
ジョンとカザハはまた下水道を通って別のホテルや建物に行くという行動を繰り返すことになる。
そうして、マップに標示された青い光点の半分ほどを救助し、また下水道を移動していると、

「おやおやおやぁ〜?
 ドブネズミみてゃぁーに下水道を伝って悪さしとるヤツがいると思ったら――」

不意に、非常灯の微かな光に照らされた下水道の中で、声が聞こえた。

「アンタらかにゃ。アルフヘイムの『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』たち」

「よーっ! こんなトコでまで会うだなんてキグーだなぁー! ははッ!」

見れば、狼耳にふさふさした尻尾の女と、ごつい籠手に脛甲を装備した短躯のホビットが前方に立っている。
十二階梯の継承者『詩学の』マリスエリスと、『万物の』ロスタラガム。

「ナルホドにゃァ……『星蝕者(イクリプス)』の寄り付かない下水道を使って人命救助とは、
 なかなか考えたもんだにゃ。
 ただにゃぁ……そんな小細工、アタシたちには通用しにゃーて。
 アタシもロスやんも、地下を通るのは得意だで」

ロスタラガムが能天気にカザハたちへ右手を大きく振り、マリスエリスがゆっくり狼咆琴(ブラックロア)に触れる。
マリスエリスは吟遊詩人の他に斥候(スカウト)、暗殺者(アサシン)のスキルを持っているし、
ホビットであるロスタラガムは元々大地の精霊ノームの眷属で地下にはめっぽう強い。

「そーゆーコトだ!
 でもさ、よかったー! 師匠のめーれーでこの世界に来たんだけど、何が何だかわかんなくてさ!
 イスリクプ? ってやつらも、おれたちのいうことぜんぜん聞いてくれないし……。
 おもしろくないなーっていってたんだよ! なー、エリ!」

「ちょっ、ロスやん! そういうコトはペラペラ喋ったらいかんでしょぉ!? 連中は敵だがね!」

「えー? そうなのか?」

シーッ! と右手の人差し指を口許に立てるマリスエリスに対して、ロスタラガムはキョトンとしている。
INTの著しく低いロスタラガムにとっては、敵だとか味方だとかの概念はよく理解できないことらしい。
このふたりもローウェルによって何かに使えるかもしれない駒として地球へ連れてこられたのだろうが、
案の定と言うべきか別ゲーム由来の『星蝕者(イクリプス)』とは折り合いが悪く、苦労しているらしい。

「とっ……とにかく、おみゃーさんらを見つけてまった以上、見過ごすことはできにゃぁンだわ。
 大人しく観念してちょぉ?」

気を取り直したマリスエリスがパチン! とフィンガースナップを鳴らすと、
その途端虚空に『形成位階・門(イェツィラー・トーア)』が出現する。
むろん、遭難者救助のためのものではない。門の奥から、凄まじいまでの殺気が溢れてくる。
そうして――門を通り、やがて二十名ばかりの『星蝕者(イクリプス)』がジョンたちの前に現れた。

「こんなところに隠れていたとは……地上をいくら虱潰しにしても、下らない雑魚しか出てこない筈ですね」

スチームパンク風の意匠のセーラー服にとんがり帽子、表紙に多数の歯車のついた分厚い書物を手にした少女――
恐らくは魔術師のクラス・ゾディアックが口を開く。

「でも、もう終わりですよ。ここには二匹だけですか? まぁ、物足りないですがいいでしょう。
 皆さん、スコアは早い者勝ちで……いいですね」

ちら、と背後の『星蝕者(イクリプス)』たちへ目配せする。
よかろう、だとかいいと思いまーす、などと他プレイヤーが発言する。『星蝕者(イクリプス)』にとって、
ジョンとカザハはスコア稼ぎをするためのターゲットにしか見えていないらしい。
それはあたかも、ブレモンのプレイヤーがモンスターの討伐数を競うときのように。

87崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2024/04/12(金) 00:50:40
「あ、あの……」

今にも攻撃を開始しようと『星蝕者(イクリプス)』が身構える中、マリスエリスが恐る恐るといった様子で声を掛ける。

「何ですか」

「え、ええと、その……『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』を見つけて、『星蝕者(イクリプス)』の皆さんに報告したのは、
 アタシたちだで……どうか、ナイ様にはよしなに……」

「褒美にありつきたいと? 浅ましい……やはり時代遅れの旧作のキャラは思考が低俗ですね。
 いいでしょう。忘れていなかったら伝えますよ」

「……あ、ありがとうございます……にゃ」

眉を下げて愛想笑いをすると、マリスエリスはロスタラガムを伴って後方へ退いた。

「さて。では、始めましょうか。誰が殺しても恨みっこなし――ですよ!」

ドンッ!!

『星蝕者(イクリプス)』たちが一気にジョンとカザハへ襲い掛かってくる。
その攻撃は相変わらず強烈だ。盲滅法に乱射される銃や、ライトセーバーじみた光刃をまともに喰らえば、
ブラッドラストで強化したジョンであっても大ダメージは免れない。カザハやカケルはもっとだろう。
ただし、冷静にその攻撃を見極めれば、決して避け切れないものではない。
また、狭い下水道での戦闘になったというのも『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』にとっては結果的に有利に働いた。
『星蝕のスターリースカイ』は自在にフィールド内を駆け回り、空を飛んでド派手なエフェクトの攻撃で雑魚を薙ぎ倒す、
爽快感重視のゲーム性であった。
従って、下水道のような狭いマップではどうしても動きが阻害され、性能を存分に発揮することが出来ない。
例えば多少のダメージを覚悟のうえで接近すれば捕えるのは不可能ではないし、殴り倒すことも可能だろう。
とはいえ、拘束までは出来ない。例え首根をひっ掴み、無力化に成功しても、
『星蝕者(イクリプス)』はすぐに掻き消えてしまう。
理由は簡単――プレイヤーがもはやこれまでと判断し、自らログアウトしたのだ。
当然、武器も拾って使うようなことは出来ない。確かにその場にはあるのだが、ジョンやカザハが触れることは出来ず、
やがて消滅してしまう。

「ええい、こんなβテストのエネミーにどれだけ手古摺っているんです!?」

ゾディアックが魔法の光弾を乱射しながら叫ぶ。
ジョンとカザハがどれだけ倒しても、『星蝕者(イクリプス)』はまったくその数を減らさない。
マリスエリスの出現させた『形成位階・門(イェツィラー・トーア)』から、無尽蔵と言っていいほど続々と出現してくる。
このままではジリ貧だ。
『星蝕者(イクリプス)』のビーム刃の槍がジョンの左腕を穿ち、腹筋を光の剣が薙ぐ。
カザハの頬をレーザーライフルの閃光が掠め、カケルの胴に魔術の衝撃が炸裂する。
まるでハーメルンの笛吹きのように、新たな『星蝕者(イクリプス)』が列をなして続々と門から出現する。
一対一では『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』に分がある。が、敵には『数』という最大の武器がある。
『大軍に兵法なし』と言うように、単純な物量差はいかなる戦術や身体的優位をも凌駕するのである。
圧倒的多数を前に、ジョンとカザハに勝ち目はないように見えた。
せめて、もう少しだけでも味方が居れば――。

「……なぁ、エリ」

「何にゃ」

「いーのか? 加勢しなくて」

「アタシたちはあくまで『星蝕者(イクリプス)』の補佐にゃ。それ以上のことは越権行為だがね。
 それに、アタシらが加勢しなくたって『星蝕者(イクリプス)』が勝つに決まっとるにゃ」

「いや、じゃなくてぇー……『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』にさ」

「はぁ? なんでアタシらが『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』に加勢なんて――」

突然の相棒の言葉に、戦闘範囲外で戦いを眺めていたマリスエリスが思わず声を荒らげる。
が、ロスタラガムは斟酌しない。

「だってさ、アイツらはおれたちとおんなじセカイの奴らなんだろ? でもイスリスプはちがう。
 んならおれたちも『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』に手ぇー貸してやったほうがいいんじゃないのか?
 エリだって、イクリスプは気に入らないーってゆってたじゃんか」

「……ロスやん」

マリスエリスはロスタラガムの前に屈み込むと、視線の高さを合わせた。

「もう、ブレモンは終わりなのにゃ。アタシらの世界は消滅する。それは神さまが……いんにゃ、
 神さまより偉い師父が決めたことなんだわ。
 『創世』の師兄も、『救済』の賢師も、師父には敵やぁーせん。みんな、みんな消えてまうがや。
 でもアタシとロスやんはそうじゃにゃあ。アタシらは生き残る……そして新しい世界に居場所を見つけてみせる。
 そのためには、今はあの『星蝕者(イクリプス)』やら、ナイやらの言うことを聞いとくしかにゃぁも」

「んー……」

世界は侵食に冒され、十二階梯の継承者は崩壊した。
そんな中、マリスエリスはロスタラガムと是が非でも生き残る道を選んだ。そのためにローウェルの走狗となり、
見返りにSSSに拾い上げて貰おうとしたのだ。
例え、他の何を捨ててでも。
そんなマリスエリスを、ロスタラガムは不得要領といった表情で見詰めていた。

88崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2024/04/12(金) 00:54:42
マンダレイ・ベイ・リゾートは天空を貫く塔ストラトスフィアを除き、ラスベガスで最も目立つ建物である。
東南アジアの黄金郷をイメージした、金色に輝く巨大なホテルは遥か遠くからでもよく見え、存在感を放っている。
世界的にも有名なリゾートホテルであるから、毎年何十万人という利用客が訪れるのだが、
今回もその例に漏れず多くの人間が利用し、その末にSSSの襲撃を受けていた。
ホテル本館に加えて多くの新館、プール、水族館にサーカス、アリーナ会場、ライブハウス等、
複合リゾート施設であるだけにその施設は多岐に渡っており、マーケットや病院なども併設されている。
ここを押さえることが出来れば、人命救助はもっと楽になるはずだ。
そんな巨大へホテルへ、なゆたとエンバースは地下街を通って潜入していた。

「来るよ、エンバース!」

地上に比べ、地下街を闊歩している『星蝕者(イクリプス)』の数はずっと少ないものの、
皆無という訳ではない。此方の姿を見ると、サーフボードのような物に乗った『星蝕者(イクリプス)』と、
黒衣に身を包み短刀を二振り逆手に持った暗殺者めいた『星蝕者(イクリプス)』が此方へ突っ込んでくる。
なゆたは身構えた。

「こんなに綺麗な街をメチャクチャにして……絶対に許さない!
 ポヨリン! スパイラル頭突き!!」

『ぽよよよっ!』

なゆたの号令一下、ポヨリンが弾丸のように『星蝕者(イクリプス)』へ肉薄する。
が、当たらない。『星蝕者(イクリプス)』の中でも特に速度と機動力に特化したクラスのキャラクターらしく、
屋外と違って行動に制限のある地下街でもまるで問題ないとばかりに俊敏に動き回っている。

「死ね……ッ!」

暗殺者めいた『星蝕者(イクリプス)』、クラス・ブラックホールがエンバースとフラウに飛びかかってくる。
素早い上に隙が少なく手数の多い攻撃は確かに脅威だが、しかしエンバースとフラウのタッグならば凌ぎ切ることが可能だろう。
攻撃の幅が少なく、起点がいつも同じモーションだというのも、数合打ち合えば理解できるはずである。
ブラックホールはコンビネーションの最後に自らの持っている両手のダガーをブーメランのように投擲する。
そして、ダガーが弧を描いて戻ってくるまで動けない。その隙を狙って攻撃することは難しくあるまい。
また、『火酒(フロウジェン・ロック)』を用いた攻撃やデバフ魔法などにも抵抗力がなく、
避ける以外に対処法はないらしい。
エンバースがブラックホールを倒すと、『MISSION FAILED』の表示と共にその身が装備品もろとも消滅する。
恐らく宇宙船の中にあるであろうベースキャンプ的な施設まで強制送還されたのだろう。
ワールド・マーケット・センター前で戦闘した相手と比べ、今の『星蝕者(イクリプス)』は明らかに動きに甘さがあった。
が、それは別に不思議なことではない。
50万人もプレイヤーが存在するのなら、上手な者と下手な者の差が顕著になるのは当然のことだ。
どうやら、最初に遭遇した『星蝕者(イクリプス)』たちはプレイヤーの中でも相当な上澄みであったらしい。
しかし――

「く、ぅ……!」

エンバースがブラックホールを倒した後も、なゆたはもうひとりの『星蝕者(イクリプス)』を相手に苦戦していた。
サーフボードに乗った『星蝕者(イクリプス)』――クラス・ネビュラノーツが素早いということもあるが、
それ以上になゆたの行動が精彩を欠いている。

「ッ、『形態変化・硬化(メタモルフォシス・ハード)』プレイ……!」

ネビュラノーツがポヨリンに体当たりを仕掛ける。
なゆたはなんとかスペルカードを発動し、ポヨリンを鋼の塊に変えて凌いだが、
いつもならばもっと余裕を持って対処できていたはずだ。
エンバースが加勢すると、ネビュラノーツはすぐにエンバースとフラウへ標的を変えた。
弱い相手と戦うよりも、強い者を倒した方がスコアが稼げる――とでも思っているのだろうか。
ネビュラノーツの強みはまるでサーフィンでもするように空中を縦横無尽に翔ける機動性と、そこから放たれる衝撃波である。
まるでひとりだけシューティングゲームでもやっているかのように、
ネビュラノーツのサーフボードの先端から衝撃弾が放たれ、マシンガンのように掃射してくる。
だが、高い機動力と俊敏性を獲得した代償として、サーフボードを駆る本体そのものはそこまで高性能ではないようだった。
一旦捕まえてしまえば、ネビュラノーツをサーフボードから引き摺り下ろすことは容易い。
得物を喪失した『星蝕者(イクリプス)』は、そこで終わりだ。すぐに『MISSION FAILED』という文字列が表れ、
フィールドから消滅した。

「あ、ありがと、エンバース……。助かっちゃった」

戦闘終了後、なゆたがエンバースに礼を述べる。

「チョコマカ動き回る敵って、そんなに闘ったことなかったから……。
 わたし、アクションゲーム苦手なんだよね。っていうかそもそもゲームを本格的に始めたのなんて、
 ブレモンが初めてだったし……」

あははと元気があるように振る舞い笑っているものの、その表情には疲労の色が濃い。
ポヨリンが心配そうに寄り添うのをひと撫ですると、なゆたはスマホをポケットに仕舞った。

「……大丈夫だよ、なんともない。
 これから、沢山やらなくちゃならないことがあるんだから……頑張らなくちゃ。
 エンバース、行こう。大勢の人たちが困ってる。救助の手を求めてるはずだから――」

なゆたは地下街の前方を右手で指すと、長い髪とマントを揺らして歩き始めた。
さらり……と、またほんの僅かに金色の粒子を零して。

89崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2024/04/12(金) 00:58:08
マンダレイ・ベイに到着し、エントランスホールに入ると、
やはりそこには『星蝕者(イクリプス)』の攻撃から逃れてきた人々が大勢避難していた。

「皆さん、落ち着いてください! これから皆さんを安全なところに誘導します!」

避難している人々に大声で説明し、次いでウィズリィに頼んで転移門を開けて貰う。

「二列に並んで、落ち着いてゆっくり進んでくださーい!」

ぞろぞろと人々が転移門を潜ってゆく中、懸命に誘導を試みる。
だが、素直に指示に従う者ばかりではない。中には我先にと他の人間を押しのけて門を潜ろうとする者もおり、
そういう人間はなゆたでは手に負えずエンバースに協力してもらう他なかった。
また、怪我をしている者や足腰の弱い老人もいる。
なゆたはそういった者を見かけるたびに駆け寄り、インベントリの中からあらかじめ用意していた救急キットを使って、
負傷者に簡単な応急手当をしたり、しきりに声を掛けて励ましたりした。

「大丈夫、絶対にみんな助けてみせるから……。
 だから元気出して。全部、救って……ハッピーエンドに……」

そう言って怪我人を慰めながら、包帯を巻く。
ぽた、ぽた、と額から顎を伝い、汗が点々と床に落ちる。
なゆたの顔は蒼白だった。これではどちらが要救護者なのか分かったものではない。
といって、避難誘導を疎かにすることもできない。普段はなゆたに寄り添うばかりで基本的に何もしないエンデまでが、
主人の体調を見兼ねて誘導のため徒列整理に当たっている。
そんな中。

「お、お願いです……息子を、息子を探してください……!」

五十代くらいの女性が、不意になゆたとエンバースにそんなことを言ってきた。
話を聞くと、持病のあるその女性のため薬を手に入れようと、
息子がマンダレイ・ベイに併設されている病院区画へ薬を手に入れるために単身行ってしまったのだという。
ホテルも病院も建物内で『星蝕者(イクリプス)』は侵入できないが、
両者を繋ぐ通路はその限りではない。
もしその息子が病院への移動中、『星蝕者(イクリプス)』に見つかっていたとしたら――。

「……わかりました。おばさんはここで待っててください。
 わたし、すぐに見つけて……きます……!」

なゆたは即答した。
しかし、体力が精神に付いて来ない。病院へ続く連絡通路に足先を向けるも、すぐにふらりと大きくよろめくと、
エンバースの胸に身体を預けるように崩れ落ちた。

「ぅ……」

熱がひどい。よくも、こんなコンディションで人命救助などと言ったもの――といった状況だ。
救護が必要なのはなゆたの方である。
だというのに、なゆたはエンバースの腕を掴むと、なんとか立ち上がって自力で歩こうとする。

「ゴメン……ちょっと、眩暈がしただけ……。
 何も、心配いらないから……早く、おばさんの息子さんを……探しに行こう……」
 
はぁはぁと浅く短い呼吸を繰り返しながら、なゆたは立ち上がろうと無駄な努力を繰り返す。
探し人も重要だが、その前になゆたの治療をしなければならないだろう。

「早く……、早く……行かな、きゃ―――」

なんとか気力だけで意識を繋ぎ止めていたものの、それさえもやがて尽きたらしく、
なゆたはエンバースの腕の中でかくり、と項垂れると、意識を失った。

「……ここは僕たちが受け持つ。だから、エンバースはマスターを病院へ。
 病院には医師もいるだろう。ミズガルズの医療が今のマスターにどれほど役立つかは分からないけれど」

エンデがエンバースに提案する。
といっても、エンデとポヨリンだけでは大勢の人々を御するには限界がある。
今はひとりの頭数でも欲しい。フラウもここへ置いてゆくことになるだろう――つまり。
エンバースは、ひとりでなゆたを病院に連れて行かなければならない。
しかもその道中には『星蝕者(イクリプス)』が徘徊している可能性が高く、見つかれば戦闘は避けられない。
けれど。それでも。

崇月院なゆたの命運は、エンバースに委ねられた。


【三隊に部隊編成してそれぞれ作戦開始。
 明神・ガザーヴァ・エカテリーナ組:ザ・ストリップ
 カザハ・ジョン組:フレモント・ストリート・エクスペリエンス
 なゆた・エンバース組:マンダレイ・ベイ
 
 明神の時間稼ぎのため、ガザーヴァとエカテリーナが『星蝕者(イクリプス)』と対峙。
 ジョンとカザハ、マリスエリス&ロスタラガムと遭遇。大量の『星蝕者(イクリプス)』と交戦。
 継承者二名には思うところがある模様。
 なゆた昏倒。】

90embers ◆5WH73DXszU:2024/04/21(日) 06:01:41
【ポジティブ・キャンペーン(Ⅰ)】

《それじゃ、こういうのはどうかしら。
 ジョンさんの言う通り、チームはスリーマンセルが三つ。
 ナユタとエンバースさん。カザハとジョンさん。それからミョウジンと――》

『別に『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』でペアになんなきゃダメってワケでもねーだろ。
 トーゼン、ボクは明神についてく。明神だろ、ボクだろ、んでマゴット!
 それでスリーマンセル成立だ。ヤマシタとガーゴイルはいつでも呼び出せるから除外で』

「そうとも。別にブレイブだけで固まる必要はない。ならイブリースをそこに混ぜても当然、問題ないよな」

《んん……、何かバランスが悪い気がするわね……。
 それに、マゴットもミョウジンのパートナーモンスターでしょう?》

『細かいこと言うなよな魔女子。別にそれでいーじゃん、戦力的にはボクたちチーム明神だけで充分!』

「とは言え、イブリースの戦闘スタイルは正直ヤツらと相性が良くなさそうだ。となると――」

エンバース=ガザーヴァの主張は何処吹く風――説得するよりさっさと結論を出してから丸め込んだ方が手っ取り早い。

『では、妾もザ・ストリップへ同道させて貰おうかの』
『ザ・ストリップはこの地で最大の激戦区。今現在うろついておる敵も多い。
 此方としても頭数は少しでも多い方がよかろう、どうじゃ? 明神』

「適任だな。それで決まりだ」

『え〜?』

『そんな顔を致すでない。
 人命優先で逃げながらの持久戦を展開すればよいモンデンキントやカザハらと違い、
 其方らは戦いながらアンチを増やす持久戦を展開せねばならぬ。
 ならば、必ずや妾の虚構魔術が役立つであろう。多数の敵を翻弄し手玉に取る、それが虚構魔術の真骨頂ゆえ』
 
「往生際が悪いぞガザーヴァ。いいか、こういう時は発想を逆転するんだ。
 ここは一度仕方なく折れてやった事にしておけ。実際はお前がひたすら駄々をこねてただけだが。
 とにかく一つ貸しにしておく。するとその貸しが後々――」

エンバースの双眸が一際紅く煌めく。

「虚構魔術を用いた明神さんの複製体逆ハーレムになって返ってくるんだ。
 確かに、所詮複製は複製だ。だがそれはそれとして――
 沢山の明神さんに囲まれるのはきっと楽しいぞ。分かったらここは大人しく退け」

もっとも実際の虚構魔術はエカテリーナ自身が虚構を纏うというもの。
仮に群体の形成が可能であったとしても、その逆ハーレムは甚く虚しいものになる。
が――しかしその虚しさこそが虚構魔術の妙味なのかもしれないなと、エンバースは勝手に納得してそこで話を打ち切った。

《うん、それならバランスもいいんじゃないかしら。どう?ナユ――》

「……どうした?まだ何か気になる点でも――」

視線を隣のなゆたへ――彼女は目を閉じて、小さく寝息を立てていた。

『……寝かしておいてやろうかの』

「正直あまりいい兆候ではないけど……そっとしておくって事には同意見だ」

91embers ◆5WH73DXszU:2024/04/21(日) 06:02:15
【ポジティブ・キャンペーン(Ⅱ)】

ブレイブは勇気というステータスでその性能を向上させる。
アルフヘイムのブレイブ一行はそのシステムを何度も体現してきた。
ただの日本生まれの一般人達が幾多の戦場を乗り越えて、今や世界を救うか否かの分水嶺にいる。

とりわけ崇月院なゆたの勇気はずば抜けている。
何の確証もない「目覚め」とやらの為に死地へと飛び込んでいった。
管理者メニューの起動では通常でさえ命取りになる筈の取り立てを二人分受け持つ事もした。

その崇月院なゆたが「疲れ果てて、つい居眠りをしている」。
これはゲーム的に解釈すれば極めて単純な事実を示していた。
「勇気によってもたらされていた補正値を、積み重なった消耗がとうとう上回った」のだ。

問題は――その事実を認識する事は出来ても、変えようがないという事だが。

『私と兇魔将軍はこのワールド・マーケット・センターにいるわ。
 このラスベガスで一番大きな収容施設がここになるから、生存者はどんどんこっちに運んできて頂戴。
 怪我人がいれば治療するし、休ませる場所だってあるでしょう。
 道中、医薬品や治療道具、食糧……なんでもいいから、役立ちそうなものがあればそれも送ってくれると嬉しいわ』

「……その事なんだが、一つ考えがある。長くなりそうだから、色々一段落した後にでも話すよ。
 でも、そうだな……ひとまずここ以外の避難所になりそうな場所を探しておいて欲しい。
 ほら……どんなものでも予備があった方が安全だろ?」

エンバース=何やら思わせぶり。

《みんなのスマートフォンからも、マップを閲覧できるようにしておいたわ。
 それから、この回線も常時開放しておくから。生存者がいたら報告して頂戴。
 こちらから『門』を開いて、ワールド・マーケット・センターに収容できるようにするわ》

「待った、どうせなら俺達のスマホをこの世界のインフラに接続出来ないか?
 ローウェルの妨害を受ける度に通信が不安定になるんじゃ危なっかしい。予防策を取っておこう」

《スキャンしたところによると、このラスベガスにはメトロ――魔法機関車みたいなものかしら? が地下に走っており、
 地下街もあるわ。その下には更に下水道も存在している。
 地上を通らずとも、それらを使用すればラスベガス全体を行き来することは可能そうね。
 ただし――》

イクリプスは建造物――およそ街/マップとして認識出来そうなものは破壊出来ない。
ただし自動車や街灯といった「地形に属さないもの」は例外になる。
メトロや下水道はイクリプスの侵入可能区域――エンバースは腕組みをして思索に耽る。

『基本は下水道を通っていくことになりそうね。スラムがあるのだったかしら?
 ……エーデルグーテで私たちが『永劫』の賢姉に対抗していたときと同じようなものかしら。
 あのときも、私たちは聖罰騎士の手を逃れて信徒たちを隠し村へ保護するのに、地下に広がる万象樹の根を使っていたから』

「問題は、下水道は万象樹の根ほど聖なる感じじゃないって事だ。言い出しっぺの俺が言うのもなんだけど」

「作戦は決まりじゃな。
 ならば、善は急げじゃ。さっそく出立を――」

エカテリーナの視線の先=未だ眠ったままのなゆた。
ふと、このまま寝かせておいた方がいいのでは――そんな考えが頭をよぎる。
なゆたの疲労は既に限界だ。今の状態で十分なパフォーマンスが発揮出来るとは思えない。

しかし一方で、起こした方がいい理由にも心当たりがない訳ではなかった。
差し当たって――無断で置き去りにするのは不実であるとか、そうした理由が。
エンバースはなゆたが枕代わりにしている肩を小さく揺すった。

92embers ◆5WH73DXszU:2024/04/21(日) 06:02:27
【ポジティブ・キャンペーン(Ⅲ)】

『ぅ……ん、んん……。
 ……はっ!? わ、わたし、寝てた? ゴメン! こんな大事な話してるときに……!』

「おはよう。世界最強のブレイブ様の右腕の寝心地はどうだったか、後で聞かせてくれ」

『モンデンキント……貴方』

『大丈夫、大丈夫! 今ちょっと寝られたから、元気いっぱい! 体力マックスだから!
 ね、カザハ、わたし寝てる間に寝言とか言ってなかった? ヨダレ垂れてない?』

「やめとけ。空元気なのは見れば分かる」

『その状態で外へ出るのは危険だ。
 ……オレがお前の代わりに行く。お前はここで継承者と一緒に、生存者の保護に当たってくれればいい』
《そうね……。その方がいいかもしれないわ。みんなはどう?》

エンバースは何も言わない。どうする事が合理的なのかは一目瞭然で、わざわざ自分が言うまでもないからだ。
やめておいた方がいいに決まっている――それでも、なゆたは決意を示すかのように微笑んだ。

『ありがとう、みんな。
 わたし……行くよ。何があっても、ここは行く。後ろで待ってるなんて出来ない』
『マスター、でも』

エンバースは何も言わない。結論は既に出ている。お互いに――後はそれを示し合うだけだ。

『最後まで歩きたいんだ。みんなと、一緒に』
『……連れて行って。エンバース』

なゆたがエンバースの袖を掴む/己を見上げる瞳と目が合う。

「……ポヨリンさんがイブリースにやられて、お前がパーティを抜けると言い出した時。
 あの時俺達はみんなでお前を引き止めたよな。俺もそうした」

エンバースの口元が僅かに笑みを描いた――安心しろよ、と促すように。

「だから今更――やっぱり今回は一緒に行けないなんて言い出すのはフェアじゃないよな」

己の袖を掴むなゆたの右手を掴み返す/強く引き寄せる――まるでダンスの一幕。

「今度は俺が応える番だ。好きなだけ俺を頼りにしろ。どこへだって連れて行ってやる」

『やれやれ……これは梃子でも考えを曲げぬ覚悟じゃな。
 妾たちの知っておる『救済』の賢姉は、このような強情な御方ではなかった筈じゃが……』 
『そうね。いえ、むしろ引っ込み思案でほとんど自らの意見も出さなかったような』

――そりゃそうだ。だってシャーロットってGMのアバターだろ。自己主張激しいの普通に嫌だろ。なあバロール。
なんて考えがエンバースの脳裏をよぎる――が、言葉にはしないでおいた。どうせ上手く伝わりもしないだろう。

『そうかもね。でも、それって当たり前のこと。
 だって、わたしはシャーロットじゃない。あくまで普通の女子高生!
 モンデンキントこと崇月院なゆた、だから――』

『さあ――行こう!
 わたしたちの助けを待ってる人たちを保護して、『星蝕者(イクリプス)』も倒す!
 そして最後にはローウェルをやっつけて、ブレモンがまだまだ伸びしろのあるコンテンツだってことを教えてあげなくちゃ!』

「……早くも、さっきまでのしおらしさが恋しくなってきたな。
 おい、威勢がいいのは結構だが装備をちゃんとチェックしろよ。下水道だぞ、下水道。
 毒耐性のアクセで諸々レジスト出来ると思うか?クソ、半分生身に戻る前なら良かったんだが――」

93embers ◆5WH73DXszU:2024/04/21(日) 06:04:04
【ポジティブ・キャンペーン(Ⅳ)】


エンバース/なゆたの目的地=マンダレイ・ベイ・リゾート。
暫しマップとにらめっこをした結果、目的地へは地下街を通るのが最適と結論が出た。
下水道を想定した装備の選出は徒労に終わったが、その事をエンバースが残念に思う事はなかった。

そうして暫く無人の地下街を進んでいくと――いた。イクリプスが二人が行く手を阻んでいる。

「……ベータテストの最中にわざわざこんな地下街をほっつき歩いているって事は、お前ら浅パチャ勢だな。
 とりあえずマップのあちこち歩き回ってみようとか思って来たんだろ?
 いいと思うぜ、そういう楽しみ方もあるよな。邪魔するつもりはないぜ。ここは見逃してやるから――」

『来るよ、エンバース!』

「――最後まで言わせてくれよ。さっさと失せろって」

『死ね……ッ!』

「悪いな。生憎もう死んでる」

迫る剣閃/剣閃/剣閃――同じ数だけ響く金属音=防御音。

「もっともお前が俺を殺せないのは、別にそんな理由じゃないらしい」

不敵に笑ってみせる――ものの、やはりイクリプスは速い。
3DアクションRPGというシステムに保証されたスピード感はエンバースにとっても脅威だ。

受ける分にはどうにかなっているが――問題は攻めだ。
実力の拮抗を時に「先に動いた方がやられる」と表現するように、先手を取るという事は存外難しいものなのだ。
特にこの相手――イクリプス・ブラックホールは見るからにスカウト型=スピード特化。

一方で――ブラックホールはそんな事はお構いなしに飛びかかってきた。
影をも置き去りにするかのような鋭いステップイン/右から弧を描き迫る剣閃。
それらを弾く/受け流す/躱す――今度はさっきよりも際どい。

エンバースは困惑を禁じ得なかったからだ。
自分が遅れを取りつつあるから――ではない。
ブラックホールの二度目の攻撃が――初手の連撃と殆ど代わり映えしなかったからだ。
あえて隙を見せてカウンターを誘われているのかとも思った。
それでかえって防御が際どくなっていたが――どうもそうではなさそうだ。

再三、ブラックホールがエンバースへ迫る――剣閃を躱す/躱す/躱す。
やはり斬撃は単調=今度は一転、ダインスレイヴで受ける必要さえない。

そして連撃の最後=両手のダガーを投擲する――その直前。
両手を振りかぶる瞬間に合わせてエンバースは反撃に出た。
ダインスレイヴの横薙ぎ――半信半疑/小手調べ程度の一撃だった。

まさかこんな安直なカウンターが通る筈がない。
そう思いながら放った刃が――いとも容易くブラックホールの首を刎ねた。

「……なるほどな。イブリースは相性が悪かったか」

イブリースは足を止めて敵と正面から合する戦闘スタイル――つまり単純なステータスの差を押し付けられやすい。
同胞を守るべく進んで敵の的にならねばならない状況であれば尚更だ。
もっとも――今倒したブラックホールは恐らくイクリプスの中でも下振れの部類なのだろうが。

「なゆた、そっちは――」

『く、ぅ……!』

なゆたを振り返る/見るからに防戦一方/攻めに転じる兆しも見えない――見かねたエンバースが加勢に入る。

94embers ◆5WH73DXszU:2024/04/21(日) 06:04:17
【ポジティブ・キャンペーン(Ⅴ)】

「よう。お前のツレはもう落ちたぜ。どうやらお前ら、やられるとログアウトされるんだな。
 折角のベータテストをログイン戦争で終えたくないけりゃ――」

イクリプス・ネビュラノーツは聞く耳持たず仕掛けてきた。
サイバーチックなサーフボードを乗りこなす遊撃手タイプ。
サーフボードの先端から放たれる衝撃波の弾幕――別に大した攻撃ではない。
威力はさておきその性質はダークネス・クラスターと大差ない。
つまり――

「オーケイ。少し遊んでやるよ」

エンバースが弾幕に真正面から飛び込む。
弾幕の濃淡を見極め/その最も薄いルートを選び抜き/潜り抜ける――弾幕渡り。
無傷のまま/最短距離でネビュラノーツへと詰め寄り――右手のフィンガースナップを一つ。
指先から火花が散る/それがたちまち激しく燃え盛る――閃光と化す。
目眩まし=効果は覿面――サーフボードの制御を失ったネビュラノーツが地下街のあちこちに激突する。

「なるほど。そうなるのか――なら、これはどうだ?」

エンバースが胸部の炎に左手を突っ込む/引き抜く/蒼炎が尾を引いて溢れ出す。
炎が海月のように/魚のように宙を泳ぐ=低速/空間制圧型の弾幕――というだけではない。
空間を回遊する超高熱の炎は周囲の気温を跳ね上げるのだ。

「冷たいお飲み物はお持ちかな?出発前にちゃんと持ち物をチェックしてきたか?
 ……なるほど、なるほど。ちゃんと辛そうだな。こういうのも効くのか」

まじまじと敵の様子を観察するエンバース。
その視線に耐えかねたか、ネビュラノーツが再びサーフボードを急浮上。
炎魚の弾幕を撃ち落とす/同時に側面へと急速に回り込み――だが不意にサーフボードが急停止した。
動揺するネビュラノーツがどう足掻いてもサーフボードはその意に従わない。
何故=炎魚を目眩ましにして周囲に張り巡らせたフラウの触腕に絡め取られているから。

「さて、それじゃ最後に……」

無造作にネビュラノーツへ歩み寄る/サーフボードから蹴落とす。
そうして主を失ったサーフボードへ乗ろうとして――足を踏み外してつんのめる。
ややバツが悪そうにネビュラノーツを睨むと――彼女は既にフィールドから退去されつつあった。

〈装備の鹵獲は出来なさそうですね〉

「いや、まだ分からん。分かったのは完全に無力化されたイクリプスは装備ごと消えるって事だけだ。それより――」

『あ、ありがと、エンバース……。助かっちゃった』

「気にするなって。連れて行ってやるって言ったろ」

『チョコマカ動き回る敵って、そんなに闘ったことなかったから……。
 わたし、アクションゲーム苦手なんだよね。っていうかそもそもゲームを本格的に始めたのなんて、
 ブレモンが初めてだったし……』

「……これが終わったら、箸休めに何か別ゲーでもするか?ちょっと気が早いけど……
 みんなで出来るヤツでさ。それこそマイクラとか……お前はどうだ?何か気になるゲームとかさ――」

他愛のない/ぎこちない雑談――休憩時間の捻出を試みる。

『……大丈夫だよ、なんともない。
 これから、沢山やらなくちゃならないことがあるんだから……頑張らなくちゃ。
 エンバース、行こう。大勢の人たちが困ってる。救助の手を求めてるはずだから――』

「……ああ、それもそうだな」

空元気なのは分かっている――そして空元気だと隠せていない事を、なゆたも分かっているだろう。
それでもこうして意志を貫くのが、なゆたのアイデンティティだとエンバースはよく知っている。
そこに口を挟む事は出来なかった。

95embers ◆5WH73DXszU:2024/04/21(日) 06:04:33
【ポジティブ・キャンペーン(Ⅵ)】


『皆さん、落ち着いてください! これから皆さんを安全なところに誘導します!』

マンダレイ・ベイ・リゾートには事前の情報通り大勢の避難民がいた。
エンバースはあえて抜き身のダインスレイヴを持ち込んでいた。
突然の来訪者が良くも悪くも「異常」である事を手っ取り早く証明する為だ。
群衆の制圧には――慣れていた。一周目ではそうした事が必要な時も多々あった。

それはそれとして、マスターアサシンローブのフードは目深に。
体の左半分が焼死体の姿は余計な混乱を招くに違いない。

「聞いての通りだ。今から『門』を開く。見た目は少し悪いが――
 詮索はなしだ。誰も質疑応答に時間をかけたくないだろ?」

『二列に並んで、落ち着いてゆっくり進んでくださーい!』

群衆がなゆたの呼びかけに応えて動き出す――多目に見積もって、半分くらいは。
残りは――押し合いへし合いだ。一刻も早くこの場を離れたいと我先に門を目指す。

「……フラウ」

呼びかけを受けたフラウの触腕が踊る/群衆の間を駆け抜ける。
蜘蛛糸のごとく細分化した触腕/だがそれは紛れもなく竜の腕――ただの一般人が抗える筈もない。

「急ぐ気持ちも分かるけど……心配しなくていい。大丈夫だ。門は勝手に閉じないし、俺達は逃げない」

避難誘導はフラウに任せ周囲を見回す――なゆたは歩行も覚束ない傷病者などを援助していた。
が――遠目にも分かるくらいに顔面蒼白だ。

『大丈夫、絶対にみんな助けてみせるから……。
 だから元気出して。全部、救って……ハッピーエンドに……』

見かねたエンバースがなゆたの右腕を掴む/応急処置に割り込んで手早く済ませる。
怪我人を最大限穏やかに見送ってから、なゆたの両肩を掴んで目を合わせる。

「……おい、ここは俺達に任せて少し休め。自分でも分かっているだろうが……ひどい顔色だぞ。
 考えてもみろ。ずっとここで息を潜めて生き永らえて、やっと助けが来たかと思ったら、
 ソイツはへろへろで今にもぶっ倒れそう。お前ならどう思う」

意地を張るのはいい。それがなゆたをなゆた足らしめているならもう仕方ない。
だが――だとしてもこんな風に擦り切れていくのは見過ごせない。

「お前は十分よくやってる。けど、無茶をするなら……今じゃないだろ。
 ここぞという時に備えるんだ。一回休んだくらいで置いていったりしないから――」

『お、お願いです……息子を、息子を探してください……!』

不意に、視界の外から聞こえた懇願の声/縋り付く右手――エンバースは一度深呼吸をして、そちらを振り返る。
そこにいたのは初老の女性/事情=息子が医薬品を求め病院区画へ独断専行――嫌な予感がした。

『……わかりました。おばさんはここで待っててください。
 わたし、すぐに見つけて……きます……!』

「おい……!」

なゆたが即答/すぐに歩き出す/すぐによろめき倒れかける――エンバースがそれを支える。

96embers ◆5WH73DXszU:2024/04/21(日) 06:04:54
【ポジティブ・キャンペーン(Ⅶ)】

『ぅ……』

「クソ、言わんこっちゃない……」

『ゴメン……ちょっと、眩暈がしただけ……。
 何も、心配いらないから……早く、おばさんの息子さんを……探しに行こう……』 

「……どうしたんだ、お前」

エンバースは困惑を隠し切れない――なゆたは自分が一番よく分かってる筈だ。
最早虚勢を張って誤魔化し切れる状態ではない――むしろ虚勢を張る事すら出来ていないと。

『早く……、早く……行かな、きゃ―――』

振り絞るようにそう言って――なゆたは意識を失った。
エンバースは――かえって安堵していた。
こうならなければ、どう止めていいかまるで分からなかった。

『……ここは僕たちが受け持つ。だから、エンバースはマスターを病院へ。
 病院には医師もいるだろう。ミズガルズの医療が今のマスターにどれほど役立つかは分からないけれど』

「……少なくとも、回復魔法よりは希望が持てるかもな」

エンバースがダインスレイヴを己の胸部へ格納/なゆたを抱き上げる――病院区画へ歩き出す。

〈その状態で行くつもりですか?一度門の向こうに彼女を返して、病院で改めて――〉

「フラウ。これは見るからに時限イベントだ。それに――」

〈何か気の利いた事を言おうとしてるんでしょう。どうぞ〉

「茶化すなよ……明神さんはヤツらをSSSのアンチにしてやるって息巻いてたけど。
 アレで気がついたんだ。それって別に――逆でもいいよなって」

〈逆、ですか?〉

「そう。シンプルにブレモンが面白そうだって思わせてやればいいんだ」

〈……どうやって?彼らは敵ですよ?〉

「こうやるんだ」

なゆたを抱えたままスマホをタップ/タップ/タップ。
フラウが増殖/増殖/増殖――融合=ナイツロード・イミテーションを特殊召喚。
ダインスレイヴをフラウへ格納/魔力刃が触手のファイバーを通して全身へ循環――血管めいた真紅の模様が浮き上がる。

97embers ◆5WH73DXszU:2024/04/21(日) 06:05:14
【ポジティブ・キャンペーン(Ⅷ)】

エンバースはそのままマンダレイ・ベイの外へ。
周囲には――先ほどの交戦がきっかけで集ったであろうイクリプスのパーティ。
互いが双方を認識する/エンバースが胸部に収めたダインスレイヴを右手で掴む――弁を開くように捻る。

「邪魔だ。通してくれ」

イクリプスが一斉に襲い来る/エンバースの全身から蒼炎が溢れる/周囲に大きく渦を巻く。
描き出される紅と蒼の炎魚の群れ――高速/低速/周期性/誘導性/爆発型/炎上型/閃光型=彩り鮮やかな弾幕。
燃え盛る火柱がイクリプスの進路を制限/爆発性の炎魚は機雷の役割を果たす。
それらを嫌って炎魚の駆逐を試みれば――閃光型の「当たり」を引く事になる。
ただでさえ煌々と瞬く炎の魚群は眩く、イクリプスの――ひいてはそのプレイヤー達の視界にさえ負荷をかける。

〈それで?これでどうやってブレモンを好きにさせるんです?〉

そして、その火柱/爆炎/閃光で埋め尽くされた視界=クソカメラの中をフラウが暗躍/暗殺。

「いいんだよ、これで。堂々とこいつらを圧倒しろ――ああ、だけど一つだけ忘れるな」

エンバースがふと空を見上げる/戦場を見下ろす「視点」があるだろう方へ。

「最高にカッコよくカメラに映るんだ――思わず、このブレイブ&モンスターズをインストールしたくなるくらいにな」

イクリプスの襲撃の中を、エンバースはまっすぐ病院区画へと歩いていく。
駆け抜けたり、急ぎ足になる事さえしない。

「……ウィズリィ、みのりさん。俺の付近の生体反応を精査する事は出来るか?
 別にコイツらを全員やっちまってから、のんびり探してもいいんだけどさ」

どうせ、なゆたを運ぶだけでなく人探しも並行しなくてはならないのだ。
であればとことん優雅に、悠々と、徹底的に見栄え良くやり抜くまでだ。

98カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2024/04/27(土) 00:30:31
【カザハ】
>《それじゃ、こういうのはどうかしら。
 ジョンさんの言う通り、チームはスリーマンセルが三つ。
 ナユタとエンバースさん。カザハとジョンさん。それからミョウジンと――》

頭脳派のウィズリィちゃんが、戦略的に有効と思われる組み合わせを考案する。
飽くまで戦略的に有効と思われる組み合わせであり、他意は無い。ここ重要。

>「別に『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』でペアになんなきゃダメってワケでもねーだろ。
 トーゼン、ボクは明神についてく。明神だろ、ボクだろ、んでマゴット!
 それでスリーマンセル成立だ。ヤマシタとガーゴイルはいつでも呼び出せるから除外で」

>《んん……、何かバランスが悪い気がするわね……。
 それに、マゴットもミョウジンのパートナーモンスターでしょう?》

うーん、まあ、マゴット君も辛うじて人型だけど……!

>「ザ・ストリップはこの地で最大の激戦区。今現在うろついておる敵も多い。
 此方としても頭数は少しでも多い方がよかろう、どうじゃ? 明神」

>「え〜?」

継承者が同行してくれるというありがたい申し出を、あろうことか駄々をこねて拒否するガザーヴァ。

「あのさあ! 我儘ばっかり言わないの! 修学旅行の班分けじゃないんやで!?」

仲良しグループだけで組みたいとか、こんな時にまで何を言っているんだこの子わ!
いや、修学旅行の班分けでも「内輪で組みたいからお前くんな」みたいな排他的なこと言ったらアカンと思う!
あれ? なんでだろう、涙出てきた……。

「泣いちゃった!」

「やかましいわ!」

しかしエカテリーナさんはへこたれずに食い下がる。流石継承者、メンタルの強さも半端ない。

>「往生際が悪いぞガザーヴァ。いいか、こういう時は発想を逆転するんだ。
 ここは一度仕方なく折れてやった事にしておけ。実際はお前がひたすら駄々をこねてただけだが。
 とにかく一つ貸しにしておく。するとその貸しが後々――」
>「虚構魔術を用いた明神さんの複製体逆ハーレムになって返ってくるんだ。
 確かに、所詮複製は複製だ。だがそれはそれとして――
 沢山の明神さんに囲まれるのはきっと楽しいぞ。分かったらここは大人しく退け」

(楽しいのか!? それ……!)

エンバースさんの丸め込み(?)が功を奏したのかはよく分からないが、
とにかく、スリーマンセルが3つという名目の実際は頭数バラバラなチーム分けが出来上がった!
え、待って。カケルは我のパートナーモンスターなのになんで人数に数えられてるんだろう……。
ガザーヴァは正式なパートナーモンスターじゃないから人数に数えるのは分かるとしても。
マゴット君は一応二足歩行だけど人数の算定外っぽいよ?
どうやら人数に数えるかの判定基準はある程度以上人間に近い姿をしているかということらしい。
でも、激戦区の人数が多めで、人命救助がメインで目立たない方がいいうちのチームが人数少な目になっているので結果オーライだ。

99カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2024/04/27(土) 00:33:08
【カケル】
>《うん、それならバランスもいいんじゃないかしら。どう?ナユ――》

なゆたちゃん、人数バラバラじゃないかーい!って突っ込んでくれませんかね……!?
……って寝てる!?

>「……寝かしておいてやろうかの」

「えーと、うちのチームは継承者さんは付いて来てくれないんですかね……?」

>「私と兇魔将軍はこのワールド・マーケット・センターにいるわ。
このラスベガスで一番大きな収容施設がここになるから、生存者はどんどんこっちに運んできて頂戴。
怪我人がいれば治療するし、休ませる場所だってあるでしょう。
道中、医薬品や治療道具、食糧……なんでもいいから、役立ちそうなものがあればそれも送ってくれると嬉しいわ」

「……ここを守る人員も必要ですよね。いえ、大丈夫です」

うちのチーム、これで大丈夫なのか――!?
最も戦闘になる確率が低いチームなので戦力的な意味ではなく、
私が心配しているのは「ちょっと部長さん、あれどう思います!?」な状況にならないかということだ。
世界が滅びるかの瀬戸際で呑気に乙女ゲー時空に突入しようものならローウェル大激怒でサ終待ったなしやわ!

>「オレも打って出たいところだが、已むを得ん。
 ニヴルヘイムの同胞たちを発見したら、これを見せてやれ。
 大人しく貴様らに従うはずだ。その者たちも此処へ連れてきてもらおう。
 保証は出来んが、作戦に有用な力を持っている者も確保できるやもしれん」

>「三魔将の割符! あったなぁー、そんなの! オマエまだ持ってたんだ?
 パパから貰ったものなんか全部捨てたと思ってた!」

効果としては水戸黄門の印籠みたいなやつらしい!

>《みんなのスマートフォンからも、マップを閲覧できるようにしておいたわ。
 それから、この回線も常時開放しておくから。生存者がいたら報告して頂戴。
 こちらから『門』を開いて、ワールド・マーケット・センターに収容できるようにするわ》

「行った先からこっちに帰る用の門はいつでも開ける……ってこと!? すごいじゃん!」

行きの行程を省略できないということは、メンバーが誰もいないところへ開くことは不可能なのだろう。
そうだとしても、物凄い効率アップだ。

100カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2024/04/27(土) 00:34:00
>《探索の際は、こまめにセンターに戻ってきて適宜補給と回復を受けて頂戴。
 それから、連絡は密にね。どんな小さなことでも、何か異常があればすぐに報告して。
 こちらからも常にモニターはしているけれど、相手は未知の敵よ。
 何が起こるかまったく予想できないから》

報告連絡を密にってどこかで聞いたことがあるようなフレーズ……!
ウィズリィちゃんよ、アルフヘイムの魔女っ娘なのに何故に地球の会社員みたいなことを言っているんですかね……!?

>《スキャンしたところによると、このラスベガスにはメトロ――魔法機関車みたいなものかしら? が地下に走っており、
 地下街もあるわ。その下には更に下水道も存在している。
 地上を通らずとも、それらを使用すればラスベガス全体を行き来することは可能そうね。
 ただし――》
>《このワールド・マーケット・センターやマンダレイ・ベイなどのホテルは外から攻撃されても破壊されないと思うし、
 『星蝕者(イクリプス)』に侵入されることもないと思う。
 彼女らにはマップ上の敵を倒すことはできても、障害物として配置された建物を壊すことは出来ない。
 だから、戦闘の際は地形も効果的に使うことが出来るわね。ビルなどで射線を切れば、相手の攻撃は届かないということ。
 でも、先程の戦闘を見るに……マップ上のオブジェクトに干渉することは出来そうだったわね。気を付けて頂戴》
>《それと……メトロや下水道は通常のマップとして認識されているとの結果が出たわ。
 つまり、『星蝕者(イクリプス)』にとっても侵入は可能、ということね。残念だけど》

>「基本は下水道を通っていくことになりそうね。スラムがあるのだったかしら?
 ……エーデルグーテで私たちが『永劫』の賢姉に対抗していたときと同じようなものかしら。
 あのときも、私たちは聖罰騎士の手を逃れて信徒たちを隠し村へ保護するのに、地下に広がる万象樹の根を使っていたから」

「そうだね。我々の行先は一番生存者がたくさんいそうだ……。
ジョン君、敵の情報収集は他のチームに任せてさ、敵がいない下水道で行こう。
一人でも多く助けようね……!」

>「んじゃ、モンキン焼死体チームとバカザハジョンぴチームが下水道を進む間、
 ボクらは真正面から打って出ればいーってコトだな。
 コソコソすんのはボクの流儀じゃないから、ちょーどイイや!
 いっちょド派手にブチかましてやんよ!」

>「作戦は決まりじゃな。
 ならば、善は急げじゃ。さっそく出立を――」

101カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2024/04/27(土) 00:35:13
【カザハ】
まあ、エンバースさんとなゆは敵からのドロップ品獲得等を目的に敢えて地下街に行く可能性もあるけど……。
――って、まだ寝てる!?

>「ぅ……ん、んん……。
 ……はっ!? わ、わたし、寝てた? ゴメン! こんな大事な話してるときに……!」
>「大丈夫、大丈夫! 今ちょっと寝られたから、元気いっぱい! 体力マックスだから!
 ね、カザハ、わたし寝てる間に寝言とか言ってなかった? ヨダレ垂れてない?」

皆が心配そうになゆを見ている。
だけどみんなで深刻な顔をしたら、余計無理して元気に振る舞おうとするのでは……。

「も、もう! なゆったらー! 無言で熟考してるように見えて寝てることに気付かなかったよ〜」

なゆの調子に合わせて軽いノリで気付いてなかった振りをしようとするも、無理があった。

>「やめとけ。空元気なのは見れば分かる」

>「その状態で外へ出るのは危険だ。
 ……オレがお前の代わりに行く。お前はここで継承者と一緒に、生存者の保護に当たってくれればいい」

>《そうね……。その方がいいかもしれないわ。みんなはどう?》

「な、なにもずっと引っ込んどけってわけじゃないから!
出撃メンバーがずっと同じである必要もないんだしさ。
もう少し休んで適当なところで交代すればいいじゃん。ね!?」

>「ありがとう、みんな。
 わたし……行くよ。何があっても、ここは行く。後ろで待ってるなんて出来ない」
>「最後まで歩きたいんだ。みんなと、一緒に」
>「……連れて行って。エンバース」
>「……ポヨリンさんがイブリースにやられて、お前がパーティを抜けると言い出した時。
 あの時俺達はみんなでお前を引き止めたよな。俺もそうした」
>「だから今更――やっぱり今回は一緒に行けないなんて言い出すのはフェアじゃないよな」
>「今度は俺が応える番だ。好きなだけ俺を頼りにしろ。どこへだって連れて行ってやる」

「ああ〜! やっぱこうなるのか……!」

尚、なゆは正統派美少女ヒロインなので公然ラブコメが例外的に許されるため、
この場合公然ラブコメ罪は成立せず、合法なのである。

>「やれやれ……これは梃子でも考えを曲げぬ覚悟じゃな。
 妾たちの知っておる『救済』の賢姉は、このような強情な御方ではなかった筈じゃが……」
>「そうね。いえ、むしろ引っ込み思案でほとんど自らの意見も出さなかったような」

>「そうかもね。でも、それって当たり前のこと。
 だって、わたしはシャーロットじゃない。あくまで普通の女子高生!
 モンデンキントこと崇月院なゆた、だから――」

102カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2024/04/27(土) 00:36:09
大見得を切っているが、神の力を与えられたのが普通の女子高生だから余計危なっかしいんやで!?
漫画とかのストーリーで、肉体のスペックを遥かに超えた力を与えられたせいで朽ち果てる例は枚挙に暇がない。
考えてみればシャーロットさんはなんで力の委託先を一般の人間にしてしまったんだ!?
そもそもゲーム内のシャーロットさんも上位魔族だったわけで。
素の肉体スペックが高いレイド級の人型モンスターとかにしとけばこんなことにはなっていないかもしれないのに!
……いや、でも待てよ? ブレイブじゃなければ「勇気」のパラメーターもないわけで……。
我やエンバースさんは例外中の例外で、ブレイブなら基本的に種族は人間に設定せざるを得ない。
それにゲームにおける一般的な傾向として、素の肉体スペックが高いキャラはそういう一発逆転的な補正値は低く抑えられがちなんだよな……。

>「さあ――行こう!
 わたしたちの助けを待ってる人たちを保護して、『星蝕者(イクリプス)』も倒す!
 そして最後にはローウェルをやっつけて、ブレモンがまだまだ伸びしろのあるコンテンツだってことを教えてあげなくちゃ!」

「――!?」

一瞬、なゆの体から光の粒子がこぼれおちたように見えた。
精霊族は時々元素が漏出することがあるが、それと同じような類……?
でも人間にそんなことがあるのか!? これってかなり危険な兆候では!?

(でも……この雰囲気で絶対行っちゃ駄目なんて言えないよ……!)

いや、雰囲気がどうとか言っている場合ではないほど危機的な状況だったらどうしよう……。
エンバースさんの様子をちらりと見るも、特に何かに気付いたような様子は無い。

>「……早くも、さっきまでのしおらしさが恋しくなってきたな。
 おい、威勢がいいのは結構だが装備をちゃんとチェックしろよ。下水道だぞ、下水道。
 毒耐性のアクセで諸々レジスト出来ると思うか?クソ、半分生身に戻る前なら良かったんだが――」

一瞬だったし、見間違いかな……? 照明の加減でそう見えただけかも……。

(気のせい……だよね……)

と、自分を無理矢理納得させた。

「ウィンドボイス・ネットワーク」

気を取り直し、明神さんの提言のとおりボイチャ魔法で全員参加可能のグループ通話回線を構築する。
そしてなゆに駆け寄って手を取って懇願する。

「生存者を救出して絶対無事で合流するんだからね! 約束だよ……!」

103カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2024/04/27(土) 00:37:43
【カケル】
こうして、それぞれのグループに分かれて出発した。

>《地下道を通って、ストリート内の青い光点……アルフヘイムとニヴルヘイム由来の人々を、
 このワールド・マーケット・センターへ避難誘導して頂戴。
 転移門はこちらで開くから、貴方たちは要救護者がいる場所まで行って、私に報告してくれればいいわ》

(なゆ……大丈夫かな……)

なゆたちゃんのことを心配して浮かない顔をしているカザハの足元に、いつの間にか部長さんが来ていた。

「羽根……生えてる。きっと、ジョン君のことを助けたくて進化したんだろうな……。
見て、カケルと似てる」

「本当だ、羽根のデザインが似てますね」

「うん。羽根以外も、いろいろ……。ずっと前からジョン君のことを見てることとか……」

「そういえばシェリーちゃんの飼い犬って言ってましたね……。
……って、それは名前が同じだけっていうか
ジョン君がパートナーモンスターに親友の犬と同じ名前を付けただけですよ!?」

「あっ、そうだった……!」

と、あっさり納得するカザハだったが、自分で突っ込んでおきながら思った。
もしかして、上の世界目線だと因果関係が逆!? エンデ君の言うところによると確か……。

『あのゲームは『君たちよりも先にあった』。
 リバティウムのマスターの箱庭も、キングヒルの五穀豊穣の箱庭も、君たち以前に存在していたんだ。
 君たちは、あれらの施設を最大限活用できるようにプログラムされたキャラクター。
 君たちが箱庭を作ったんじゃなく、箱庭に合わせて君たちが作られたのさ。
 つまり――
 君たちの知るゲームの『ブレイブ&モンスターズ!』は、君たちがミズガルズからこの現実のアルフヘイムに召喚された際、
 違和感なくスムーズに冒険が出来るようにと予め用意されたチュートリアルだったんだよ』

それと同じ理論でいくと、先に部長さんが存在して、
部長さんを最大限活用できるように作られたキャラクターがジョン君ということは
こっちの部長さんに合わせてシェリーちゃんの犬の名前が部長に設定された……ってこと?
もしくは名前が「部長」で固定ではないにしても、二つの存在の名前が連動するプログラムが予め組まれていた……?
その場合、連動するのは本当に名前だけなのか?
何故だろう、因果関係が逆転しただけなのに、何故か全くの無関係ではない気がしなくもなくもなくない気がしてきた……。
地球の生物←→アルフヘイムの生物 の換装の例も聞いたことが無くも無いような気がするし……(棒)
例えばの話、もしも順当に(?)私が地球人生の途中で死んでいたら……どうなっていたんだろう。
カザハはひょんなことからブレモンをやり始め、パートナーモンスターをカケルと名付けて、一般的なルートでブレイブとして召喚されていたのかも……。
うっかり生き残ってしまったから無理矢理辻褄を合わせるためにこういう特殊ルートになったとか……。

104カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2024/04/27(土) 00:38:36
「うっ、頭が……!」

なんだか訳が分からなくなってきた。
これ以上考えたらSAN値直葬されてしまう気がするからやめよう……!
私がSAN値直葬されそうになっているのを他所に、カザハは雑念を垂れ流していた……。

「あの羽根、モフりたい……」

ところで、私達が選んだルートは下水道。
ジョン君が警戒しながら前を進み、カザハはその後ろを付いて行く。
といっても、戦闘は皆無と言っていい。
ということは、道中で要らん会話をする余裕が生まれてしまうわけで……。
嫌な予感がする……!

「下水道ってなんかすごくファンタジーRPGのダンジョンっぽいね……!
ここ、地球のはずなのに変な感じ……!」

努めて場を和ませようとしているのか何も考えてないのかは謎だが、カザハは呑気なことを言っている。

「ジョン君……まだちゃんとお礼言えてなかったからさ。
リューグークラン戦のとき、ありがとね。
キミだって本当は人に生命力を分け与える程の余裕は無かったはずなのに……。
……思い返してみれば最初からずっと守って貰ってたよね。それこそ明神さんとデュエルした時から。
頑張って守ってくれるの、すごく嬉しいんだ。そんなの駄目なのに。
本当は間違っても我のために怪我してほしくないし無理させたくないのに……!
どうしよう、心が二つある……!」

呑気なことを言っていたかと思えばシームレスに私が危惧していていた路線に突入しちゃった……!
攻撃(?)を仕掛けてくるとしたらジョン君からかと思いきや、自ら地雷を踏み抜きに行っとる――!
大変だ! 早くこの雰囲気をぶち壊さねばローウェル大激怒でサ終してしまう!
どうする!? 背景で奇声を発しながら謎の踊りでも踊ってみるか……!?
と私が思考を迷走させている間にも行程は進み……

「何これ、くっさ!!」

私の心配を他所にカザハが自ら雰囲気をぶち壊し、私はずっこけそうになった。
といっても自分の台詞に耐えられなくなって自分でツッコんだ……わけではなく、リアルに匂いがキツめの区画に突入したらしい!
うん、そういえばここ下水道でした!
明神さんがいたらラスベガスの下水道事情についてひとしきり講釈してくれただろうに、いないのが悔やまれる(?)

「――プラズマクラスター! みんな半径2メートル以内を歩いて」

「逆ソーシャルディスタンス発令しちゃった……!」

術者から半径2メートル以内の空気が綺麗になる技らしい。
確かにカザハの近くを歩いていると臭くない……!
ああ、レクステンペストの無駄遣い――!! というか技名がまんま空気清浄機だし!
ちょっと待って、それ、リューグークラン戦で病原体撒き散らされた時に使えば良かったんじゃ……!?
と一瞬思ったが、あまりに強力な汚染には対抗できないか、もしくはあの戦いで得た経験値で習得したのだろう。
やがて下水道を抜けて、地下駐車場経由でリゾートホテル内に到着する。
そこではホテルの宿泊客らしき人々が身を寄せ合っていた。

105カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2024/04/27(土) 00:39:38
>「あ……、あんたたちは……?」

当然、普通の人間ではない私達に怯えた目が向けられる。

「落ち着いて聞いて。こんな姿だけど、敵じゃない。
広い意味ではあなたたちと同じ世界の存在で、サ終阻止……って言っても分かんないか!
えーと、要するにあの制服のやつらに対抗する勢力……!
我々が来たからにはもう大丈夫だからね! あいつらの好きなようにはさせない!」

カザハ達が事情を説明している傍ら、私は消耗が酷い者に回復スキルで応急処置を施していく。

「ワールドマーケットセンターを拠点にしてるんだけど、
そこにいけば仲間の高位の回復術士と強い護衛がいるから、ここより安全だと思う」

そんな事を言われてもどうやって行けばいいのか、道中でやられてしまうと口々にぼやく人々に対し――

>《転移門を開くわね》

カザハは、ウィズリィちゃんが出してくれた転移門を指さした。

「心配ご無用、その門をくぐるだけだよ」

人々は突如現れたど〇でもドアに驚愕しつつも、転移門をくぐっていく。
全員が転移門をくぐったのを確認し、次の場所へ急ぐ。
何度か移動と避難誘導を繰り返し、救助活動はこのまま順調に進むと思われていた。
下水道を進んでいると、カザハが驚愕の声をあげた。

「どういうこと!? こんなところに生存者……!?」

不意にマップ上に青い点が二つ現れたらしい。
青い点、ということはこちら側の世界の存在であることは確かだ。

「行こう! 襲撃を受けて下水道に逃げ込んだのかも……!」

そして生存者二名と相まみえる。が、それは下水道に逃げ込んだ避難民などではなかった。

>「おやおやおやぁ〜?
 ドブネズミみてゃぁーに下水道を伝って悪さしとるヤツがいると思ったら――」
>「アンタらかにゃ。アルフヘイムの『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』たち」

>「よーっ! こんなトコでまで会うだなんてキグーだなぁー! ははッ!」

(うわぁ……全力で逃げるべきだった……!)

カザハは激しく後悔していた。
ところで吟遊詩人と戦闘民族の組み合わせってどこかで見たような……(棒)
ついでににゃーと鳴く犬科生物もどっかで見たことあるような……(棒)

「まだローウェルの手下やってんの!? ローウェルが何やろうとしてるか、流石にもう知ってるよね!?」

確かにこの二人はローウェルの手下だったけど……
今のローウェルはもはや明らかに三世界全てを消し去ろうとしているのだ。
流石に袂を分かってるかローウェルの方からもはや無用と放り出されてるかどちらかだと思っていたが……。
カザハは平静を装いつつもビビりまくっていた。

106カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2024/04/27(土) 00:40:35
(どどどどどどうしよう!? 勝てるかな!?)

(トラウマを植え付けられちゃってる……!)

一応肩書は吟遊詩人だが、少なくとも私から見たマリスエリスは、冷酷無慈悲な暗殺者だ。
実質自殺幇助だったかもしれないとはいえテュフォンとブリーズに手を下した張本人で、
カザハ自身も心身に大ダメージを負って殺されかけたのだ。

>「ナルホドにゃァ……『星蝕者(イクリプス)』の寄り付かない下水道を使って人命救助とは、
 なかなか考えたもんだにゃ。
 ただにゃぁ……そんな小細工、アタシたちには通用しにゃーて。
 アタシもロスやんも、地下を通るのは得意だで」

狼咆琴(ブラックロア)に触れるマリスエリスに対し、カザハ達も身構える。
マリスエリスが手ごわいのは言うまでも無いが、ロスタラガムももしかしたらマリスエリス以上の強敵だ。
何せあのエンバースさんをギリギリまで追いつめたのだ。
あの時は最終的に二人ともストームコーザーで吹っ飛んで事なきを得たが、今回はそんな都合のいい助けは期待できない。
一触即発と思われたが……

>「そーゆーコトだ!
 でもさ、よかったー! 師匠のめーれーでこの世界に来たんだけど、何が何だかわかんなくてさ!
 イスリクプ? ってやつらも、おれたちのいうことぜんぜん聞いてくれないし……。
 おもしろくないなーっていってたんだよ! なー、エリ!」

分かりやすく敵対的な態度を取るマリスエリスに対し、
ロスタラガムの方はうまくいってない時に久々に知り合いに敢えてよかった、的な雰囲気なんですけど……。

>「ちょっ、ロスやん! そういうコトはペラペラ喋ったらいかんでしょぉ!? 連中は敵だがね!」

>「えー? そうなのか?」

どうやらアホすぎてこちらが敵ということも認識できてないらしい……!
そして、この二人は直接自分達で戦う気は無いようだ。

>「とっ……とにかく、おみゃーさんらを見つけてまった以上、見過ごすことはできにゃぁンだわ。
 大人しく観念してちょぉ?」

虚空に現れた門から、イクリプス達がぞろぞろと現れた。

>「こんなところに隠れていたとは……地上をいくら虱潰しにしても、下らない雑魚しか出てこない筈ですね」
>「でも、もう終わりですよ。ここには二匹だけですか? まぁ、物足りないですがいいでしょう。
 皆さん、スコアは早い者勝ちで……いいですね」

「うちのチーム、基本戦闘しない想定だったから手薄なんですよ……!」

107カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2024/04/27(土) 00:42:11
【カザハ】
フリーザ様みたいな口調のイクリプスが場を仕切っている。
それにマリスエリスが遠慮がちに声をかける。

>「あ、あの……」
>「え、ええと、その……『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』を見つけて、『星蝕者(イクリプス)』の皆さんに報告したのは、
 アタシたちだで……どうか、ナイ様にはよしなに……」
>「褒美にありつきたいと? 浅ましい……やはり時代遅れの旧作のキャラは思考が低俗ですね。
 いいでしょう。忘れていなかったら伝えますよ」
>「……あ、ありがとうございます……にゃ」

(めっちゃ下手に出てる……!?)

強気なドSキャラはどうした……!? キャラ崩壊でローウェルに怒られても知らんぞ!?
逆に言えばキャラを曲げてイクリプス達の機嫌を取ってまでも欲しい見返りがあるということだ。

「ウィズリーちゃーん! 門開いてー! 門!」

「早速逃げ帰ろうとしとるこの人……!」

と言ってはみたものの、あまりにゲームとして成り立たないことをやってしまうと、ローウェルに修正パッチをあてられてしまう。
「ターゲットが逃げ帰るんですけど」とか報告がいって、門使用不可にされてしまったら困る。

「今の冗談! 冗談だから! 開かなくていいよ!」

「本気でしたよね!? 今一瞬本気でしたよね!?
真面目にやらないと愛想つかされて鳥取砂丘にリリースされてまうで!?」

それは困る……! 鳥取砂丘に外来生物を放逐したら逮捕されてしまう!
真面目な話、みんなが一緒にいた今までとは違って、我とジョン君と、カケルと部長先輩だけでこの場を乗り切らねばならない。
最後列で守られながらバフをかけるポジションに甘んじていることは出来ないということだ。
一応、ウィンドボイスの回線をオンにして他のチームに状況を伝えておく。

「マリスエリスとロスタラガムに見つかっちゃった! イクリプス20人ぐらいと戦いになりそう……!」

回線を通して他のチームの状況もなんとなく伝わってくる。
明神さん達は、当初の予定通りイクリプス達と交戦している模様。
なゆ達のチームは……なゆがいよいよフラフラみたいなんだけど……。
思えば、素のステータスは決して高くは無いはずの普通の人間の身でありながら、
いつも最前線でぶつかっていってなんだかんだでどうにかなってしまうから、
こちらもいつの間にか、彼女ならどうにかしてくれると心のどこかで思うようになってしまったのは否めない。
が、それは気合と根性とか主人公補正とかいう漠然とした都合のいいものではなく、
この世界の厳然たるシステム――常人よりもあまりに大きい「勇気」の補正値の賜物だったのだ。

(早く片付けて手伝いにいかなきゃ……! こんなところで手こずってられない……!)

「ジョン君、大丈夫だからね……!
多分みんな忘れてるけど! 我、ゲームで言ったら多分レイド級か少なくとも準レイド級だから……! 知らんけど!」

108カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2024/04/27(土) 00:43:02
ヘタレキャラのせいで忘れられがちだが、最後列におさまっているのは別にかよわいからではなく
バッファーというロール上それが戦略的に有効だからである。
ぶっ壊れ規格外のジョン君とかエンバースさんには劣るにしても、本当は普通の人間よりはずっと丈夫なのだ。
そしてゲームとして成立しないとローウェルが困る、いうことは……

「敵があまりにすぐにやられたらゲームとして成立しない。
それなら、敵であるこちらは少数で大勢を迎え撃てるゲームバランスに設定されているはず……!」

50万人の的として設定されているのが、たったの数人なのだ。
2人(+パートナーモンスター二体)で20人を迎え撃てないはずがない……!

>「さて。では、始めましょうか。誰が殺しても恨みっこなし――ですよ!」

フリーザ様みたいな口調のゾディアックが開戦の号令をかけ、戦闘が始まった。
銃撃が弾幕のように飛び交い、ライトセーバーの光刃が舞う。

「ああああああああああああああ! やっぱりいいいい!
少数を大勢でボコるのはああああ! 良くないと思ううううううう!」

Z字状に走り回りつつ銃撃を避ける。
普通ならジョン君の後ろにいて守ってもらいつつ援護するのが有効なんだけど……。

(これ、ジョン君でもまともに受けたら駄目なやつ……!)

だったら、上げるべきは防御力ではなく回避力……!
ジョン君に素早さ上昇のスキルをかける。

「テンペスト・ヘイスト! 我のことは気にしないで基本避けてね!」

大丈夫!
ちょっと信じられないかもしれないけど自分、初期のロールは突撃バカの回避タンクだったんやで!?

「ぎゃあ!?」

(あんまり大丈夫じゃない……!)

繰り出された光刃を、とっさに傘の杖ではらう。
ビームソードはらっても壊れない傘ってよく考えると凄いよね……。
単純に破壊値が設定されてない武器、ということなんだろうけど。
格闘技術ド素人の我が適当にはらってどうにかなったということは、「拒絶」の術式が効いてる――妨害技の類は有効ということか。
この間、カケルのほうもなんとか敵の攻撃を掻い潜っていた。

(やっぱ強い! けど――)

強いの意味が、明らかに前回とは違う。
さきほど外で戦った時は絶望的な強さの相手だったが……今は頑張れば戦える程度の強さかも……!

(狭いフィールドのおかげで、動きが制限されてる……!?)

相手はアクションゲームなのでフィールドの広さ(狭さ)の影響をもろに受けるが、
対するこちらはゲージ制コマンドバトル、フィールドの広さはフレーバー程度なのである。

「カケル! 視覚の攪乱を試してみよう!」

109カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2024/04/27(土) 00:44:20
「はい! ――烈風分身(テンペストアバター)」

超速く動くことによって残像を作り分身しているように見せる、とかいう
無茶苦茶な設定のスキルが使えてしまうのも、コマンドバトルならではである。
飽くまでもそういう設定であって実際にそうしているかは別問題だとか(!?)
カケルを狙った攻撃が、逸れた方向に繰り出される割合が目に見えて増える。
相手の攻撃の精度が大幅に下がった……!
やっぱり、視覚の攪乱は効くんだ。ならば次は……

「アトモス・リフレクション!」

ジョン君が対峙しているイクリプスの背後に真空の層を作って光を屈折させ、
相手が見ている画面もしくはそれに相当するものの攪乱を狙う。
やはり、相手の命中率が大幅に下がる。
相手キャラ自体ではなくカメラの視界を攪乱させる利点は、こちらは攪乱の影響を一切受けないことだ。
あれぐらい相手の精度が下がれば、ジョン君なら押し切れる……!
視界が攪乱されたユニットが増えてきて相手方がだいぶん混乱してきた頃。

「エアリアルスラッシュ・オリジン!」

カケルの相手をしていたイクリプスの背後から、至近距離で真空の刃を叩き込むことに成功する。
くらったイクリプスは倒れ、ついに戦闘不能となる。

「やった……! ちょっと端っこで寝といてね……」

後で話を聞き出せないかとロープで簀巻きにでもしようと思ったが、すぐに姿が掻き消えてしまった。

「あれ!? これじゃあ装備はぎ取れないじゃん……!」

ジョン君の方も何人か倒しているようだが、相手は一向に減る様子が無い。
それもそのはず、門から無尽蔵に補充されてくるのだ……!

>「ええい、こんなβテストのエネミーにどれだけ手古摺っているんです!?」

「その服……いいじゃん。歯車の付いた本、欲しいな……!」

フリーザ様口調のゾディアック相手に精一杯強がってみせる。
敵が最初に入ってきた20人だけなら一瞬いけそうな気がしたのだが……
無尽蔵に補充されてしまっては、このままでは勝ち目はない。
長く戦っているとこちらは消耗してくるが、向こうは常に新鮮な戦力が補充されてくるのだ。
飛んできたレーザーライフルを間一髪で避け……きれない。
集中力が途切れ、避けきれなくなってきているのだ。このままでは直撃を食らうのは時間の問題だ。

「切れてなーい!」

「切れてますよ!? ぐはあっ!!」

我のヤケクソのボケに突っ込んでいる間にも、カケルが魔術の衝撃弾に吹っ飛ばされた。
しょうもないボケをかますんじゃなかった……!

「カケル……!」

ライトセーバーの光刃が腕を掠る。

「切れてな「いや切れてるから!」

110カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2024/04/27(土) 00:45:07
ジョン君達の方も満身創痍になっている。
なゆに絶対無事に合流するようにって言ったのに、自分達が出来なかったらシャレにならないよ……!
これは……いよいよ最終手段でウィズリィちゃんに門を開けてもらって逃げ帰る……もとい戦略的撤退するか!?
それすら出来るかももはや微妙だが……!
いったん撤退しようと言おうとした時だった。完全に背景と化している二人の会話が聞こえてきた。

>「……なぁ、エリ」
>「何にゃ」
>「いーのか? 加勢しなくて」
>「アタシたちはあくまで『星蝕者(イクリプス)』の補佐にゃ。それ以上のことは越権行為だがね。
 それに、アタシらが加勢しなくたって『星蝕者(イクリプス)』が勝つに決まっとるにゃ」
>「いや、じゃなくてぇー……『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』にさ」
>「はぁ? なんでアタシらが『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』に加勢なんて――」
>「だってさ、アイツらはおれたちとおんなじセカイの奴らなんだろ? でもイスリスプはちがう。
 んならおれたちも『異邦の魔物遣い(ブレイブ)』に手ぇー貸してやったほうがいいんじゃないのか?
 エリだって、イクリスプは気に入らないーってゆってたじゃんか」

(――!?)

意外すぎる発言に、驚愕する。が、ロスタラガムなら有り得るのかもしれない。
ロスタラガムはINTが低すぎて敵や味方といった立場を認識できないキャラらしいが、
それは裏を返せば、立場によるしがらみや過去の因縁とは一切無縁の、今この時の素直な気持ちに従った判断が出来るということだ。
“もしも、この二人がこちらに寝返ってくれれば――”そんな、在り得ない可能性が脳裏によぎる。
いや、マリスエリスは深い考えがあってローウェルの側についているのだ。今更寝返れるわけがない。
ロスタラガムに、マリスエリスは諭すように語り掛ける。

111カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2024/04/27(土) 00:45:58
【カケル】
>「もう、ブレモンは終わりなのにゃ。アタシらの世界は消滅する。それは神さまが……いんにゃ、
 神さまより偉い師父が決めたことなんだわ。
 『創世』の師兄も、『救済』の賢師も、師父には敵やぁーせん。みんな、みんな消えてまうがや。
 でもアタシとロスやんはそうじゃにゃあ。アタシらは生き残る……そして新しい世界に居場所を見つけてみせる。
 そのためには、今はあの『星蝕者(イクリプス)』やら、ナイやらの言うことを聞いとくしかにゃぁも」

マリスエリスだって、ブレモンが終わるのは本意ではないんだ……。
考えてみれば、彼女だってこの世界の存在なのだから、当然のことだ。
きっと、ローウェルに逆らったところで勝ち目がないと悟って仕方なく……。
ロスタラガムを諭すマリスあエリスを悲しそうな顔で見ていたカザハだったが……唐突にマリスエリスに詰め寄った。

「終わりだとかみんな消えるとか……そんな……そんな悲しい事言わないでよ!
吟遊詩人のキミなら分かるよね!? ブレモンの音楽が素晴らしいってこと!
だったら、そんな音楽が彩る世界もきっと素晴らしいんだ……!
大体キミはまだ本領発揮してすらないじゃん! 吟遊詩人のくせに最後まで本職で戦わずに終わるつもり!?
それとも何!? 看板に偽りあり!? 肩書だけのフレーバーだったの!?」

(あっ、長文を流暢に喋ってる……!)

カザハは自分の好きな分野のことだけは流暢に喋るTHE☆ヲタクであった。
なんかちょっといいことを言っている風だが、実際にはBGMだけ良いクソゲーというのは結構ある。
要するに、BGMが神のゲームはとことん判定が甘くなって神ゲー認定してしまうというゲーム音楽ヲタク特有のトンデモ理論である。
だけど、マリスエリスの吟遊詩人の肩書が、肩書だけのフレーバーでないのなら……
きっと、音楽ヲタク同士でちょっと通じる部分はあるのかもしれない。

「我、自分が吟遊詩人にクラスチェンジしてることにすら気が付かずに終わるところだったんだ……。
でも君は違うじゃん。始原の草原で君の歌聞いたよ? 
あの時暗殺者技能で戦ったキミに全然敵わなかったけど……
それでもきっと、その相方と一緒なら猶更、君は吟遊詩人技能で戦った方が強い。
敵を直接なぎ倒すだけが強さじゃないんだ」

肩書が吟遊詩人なのに、今のところ実際の戦闘においては専らアサシン兼レンジャーなのは、
特に深い意味は無いのか、はたまた何か理由があるのか――

「あっ……」

カザハは何か重要な事実に気付いて我に返った。

「ごめん……。ブレモンの音楽、聞いたことないよね……。
聞かせてあげたいところなんだけど……今は我も前線で戦わなきゃ……」

そう、ゲーム内の登場人物は、あろうことか普通は自分が出演しているゲームの音楽を聞けないのだ。
私達は、ゲーム内ゲームのブレモンのおかげでその一端を知ることが出来ているだけなのだ。
その時、ウィンドボイスの回線を通して、エンバースさんの声が聞こえてきた。

112カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2024/04/27(土) 00:47:26
>「茶化すなよ……明神さんはヤツらをSSSのアンチにしてやるって息巻いてたけど。
 アレで気がついたんだ。それって別に――逆でもいいよなって」
>「そう。シンプルにブレモンが面白そうだって思わせてやればいいんだ」

「あ、そうか……。呪歌、意外とアリかも……」

「どういうこと!? まさか……アイツらにも聞かせるってこと!?
でも……楽器ひいてる余裕はありませんよ!?」

「大丈夫、ブレモンのBGMならこれで流せる……!」

カザハがスマホを操作すると、もともとダウンロードしてあったのか、ネットに繋がったのかは分からないが、ブレモンのBGMが流れ始めた。
それはブレモンの通常戦闘曲。
攻撃・防御・素早さをセットで上げてコンボを成立させる、いつもの呪歌の曲だ。

(その手があったか……!)

これなら手がふさがらないので、歌いながらでもある程度敵の攻撃を払ったりできる。

「二人とも聞いて! これがブレイブ&モンスターズの通常戦闘曲「バトル1〜勇気の魔法〜」ヴォーカライズバージョンだ!
見てて! 吟遊詩人とパワーファイターは最高の組み合わせなんだ!」

それは、ブレモンプレイヤーとしてはド素人のカザハが、ブレモンの素晴らしさを表現する唯一の方法。
マリスエリスやロスタラガムは、この曲自体、聞くのは初めてになるだろう。
イクリプス達のプレイヤーは、以前ブレモンをやっていた人は知っているかもしれないが
ヴォーカライズバージョンを聞くのは当然初めてだ。
ところで、アクションゲームとコマンド式RPGでは、適したBGMというのが違う気がする……!
BGMが印象的な曲だと、思わず聞く方に集中してしまい、作業用BGMが作業妨害用BGMと化す現象が起こる。
コマンド式RPGは、極端な話コントローラーを置いてBGMを聞くことも許されるので、そうなっても問題がない。
それに対して、アクションゲームは気が散っては困るので、あまりに存在感のあるBGMは望ましくない。
ただでさえ主張の激しいブレモンのBGMをヴォーカライズバージョンにして流そうものなら、
アクションゲームのプレイヤーは気が散って集中できなくなるのだ。多分。

(えーと、つまり……
・普通にジョン君達の強化
・マリスエリスとロスタラガムにローウェルに立ち向かう闘志を呼び覚ましてもらえたらいいな
・イクリプス達がブレモンのBGMいいなってつい聞いてしまって気を散らしてくれればいいな
の一石三鳥を狙ってる……ってこと!?
待てよ? もしウィンドボイスの回線越しでも有効ならワンチャン他のチームにもかかる!?)

>「ジョン君! かっこいいところ、あの二人に見せてあげてください!」

歌が始まった。なんかいつもより滅茶苦茶効果高くね……!?
これが、ローウェルの指輪効果か……!

113バトル1〜勇気の魔法〜 ◆92JgSYOZkQ:2024/04/27(土) 00:48:33
ttps://dl.dropbox.com/scl/fi/5vlxho1be7tkscwk3gatn/.mp3?rlkey=ax4u1gr4fu9hec4irxx8766i4&st=hk576boi&dl

【闘いの唱歌(バトルソング)】
磨き抜かれた剣の 刃に映るのは
揺らがぬ決意を秘めた 美しき瞳

【護りの祝詞(ガードフォース)】
無敵の盾に刻まれた 数え切れない傷
それはいつも君が僕を守ってくれた証

【疾風の賛歌(アクセラレータ)】
まだ見ぬ未来を夢見て進みゆく
恐怖をも凌駕する憧れはいつか
どんなに高い壁も超えてゆく翼となる


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