したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

【TRPG】ブレイブ&モンスターズ!第四章

1 ◆POYO/UwNZg:2019/03/18(月) 20:11:11
――「ブレイブ&モンスターズ!」とは?


遡ること二年前、某大手ゲーム会社からリリースされたスマートフォン向けソーシャルゲーム。
リリース直後から国内外で絶大な支持を集め、その人気は社会現象にまで発展した。

ゲーム内容は、位置情報によって現れる様々なモンスターを捕まえ、育成し、広大な世界を冒険する本格RPGの体を成しながら、
対人戦の要素も取り入れており、その駆け引きの奥深さなどは、まるで戦略ゲームのようだとも言われている。
プレイヤーは「スペルカード」や「ユニットカード」から構成される、20枚のデッキを互いに用意。
それらを自在に駆使して、パートナーモンスターをサポートしながら、熱いアクティブタイムバトルを制するのだ!

世界中に存在する、数多のライバル達と出会い、闘い、進化する――
それこそが、ブレイブ&モンスターズ! 通称「ブレモン」なのである!!


そして、あの日――それは虚構(ゲーム)から、真実(リアル)へと姿を変えた。


========================

ジャンル:スマホゲーム×異世界ファンタジー
コンセプト:スマホゲームの世界に転移して大冒険!
期間(目安):特になし
GM:なし
決定リール:マナーを守った上で可
○日ルール:一週間
版権・越境:なし
敵役参加:あり
避難所の有無:なし

========================

267五穀 みのり ◆2zOJYh/vk6:2019/08/12(月) 20:42:21
その砂嵐の中、みのりは駆けていた
サブスマホに残ったクリスタルは7ではあるが、メインスマホに残ったクリスタルを全てをサブスマホに移した
これによりパズズを召喚、4秒の現界を実現したのだ
バトル開始早々に脱落したので1秒分のクリスタルが確保できたという事だ

とはいえたかが4秒、何もできずに耐えるだけならば耐えられる時間であろう
しかし、パズズを知る者ならばそうはいかない
4秒で消えるという事を知らない以上、パズズに対する対策を考え始める
それによって答えが導き出される頃にはパズズは消えてしまうのだが
実は何もできずに耐えるだけの方が被害が少ないという罠なのだ

みのりは確信していた
なゆた程のプレやーならば、ブレモンの戦いに則った戦闘思考がぬぐえないはずだ

倒したと思っていた自分が新アカウントで再参戦したことに理解が追い付くか
パズズを所有している事実自体に驚き
更にその危険性を即座に理解し対策を練る

クリスタル残量からパズズで戦う事はできない、が出現させる事だけもなゆたの思考のリソースを奪う事ができる
それがみのりの明神に贈る3秒間のサービスだった

砂嵐の中から突如としてなゆたの目の前にみのりが現れた
風を受け加速した状態で

単純な身体能力で言えばみのりとなゆたは大差はない
しかし、反射速度や体捌き、運動能力では大きく差がある
普通に飛び掛かっても躱されてしまうだろうが、この状況下、そして思考リソースを奪った状態での不意打ちだからこそそれは成功した

なゆたに飛びつき抱きしめ動きを封じる
「ズルやって云ってもええんやよ?
それが生き死にかけた戦いでどれだけ役立つかは知らんけど
これからの戦いってこういう事なんやで?」

自分でもありえないと思っていた
明神へのサービスならばパズズを出すだけでよかった
にもかかわらず、今や身一つで命ともいうべき残存クリスタルを全て投げ打ってなゆたに飛び掛かっている

なゆたと明神を中心とし、カザハとカケル、エンバース、そしてジョン
それぞれの本気の戦いはみのりの心に大きな影響を与えていたのだった

クリスタルも、切り札も、保身も、全て投げ打つほどに

しかし、リバティウムでクリスタルの大半を失った時とは違い、後悔も不安もない
むしろ満足感に満たされている
判り合えないと断言したジョンと同じ、身を挺してでも戦いたいと思い実行してしまう程に

なゆたに絡みつきながら砂嵐の向こうに見えるバルゴスから這い出て漆黒の閃光を放つマゴットとポヨリンを見ていた

最初は自身の生存率を上げるためにPTの蟠りを解消させる荒療治のつもりだった
その中でそれぞれの腹の内を探ろうとも思っていた

だが、今はそれらの目的も全て頭から消し飛び、ただ一プレイヤーとして
「届きぃやあああ!!!」
明神の叫びに重ね、みのりもまた叫んでいた


【バロールとチクチクやり合いながら観戦】
【明神に応え天威無法乱入パズズ召喚、フィールドは砂嵐に包まれる】
【混乱に乗じてなゆたにタックルして絡みつく】

268ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2019/08/13(火) 20:36:47
-------------------------------------------------------------------------------------------

やり直しができる失敗はできる限り経験しておけ。

そう唐突に試合帰りの僕に言い放ったのは僕の父。

「僕にわざと負けろって事?」

「そうはいってねえ、やり直しができるってわかってるならちょっと無茶をしろって事だよ」

この頃高校生だった僕はスポーツ・格闘技等、あらゆる体を動かす物事に置いて負けしらずであった。
格闘技のプロにだって負けなかったし、公式記録じゃないが100m走の世界記録だって抜いている。
"バケモノ"と呼ばれた当時の僕には、負けて得るものがあるなんて、いくら父の言葉でも信じられなかった。

「世界は広い、お前より強い奴なんて一杯いるんだぞ」

自分が天狗になりつつあるという自覚はあった。
だがそれは圧倒的な実力を伴ったある意味当然の自信である、天狗になるなというほうが無理なのだ。

殴ればパンチングマシーンを破壊できるし、蹴れば鍵の掛かっているドアを蹴り破る事だってできる。
指の力だけで崖を上る事だってできる、拷問のような訓練で培ってきた力が、肉体が、あらゆる事を可能にしてくれている。
だから。

「僕は体を鍛え続けるだけさ」

別にプライドが高いわけじゃない。
ただ負けるビジョンが見えないのだ、だれかに負かされる自分が見えないのだ。
傲慢と思われてもいい、自信過剰だと罵ってくれてかまわない。

だがみんなこの肉体を見れば黙る。
周りにいる友達という名のなにか達も。
画面の向こうにいる文句だけを垂れ流す連中も。

本当は体を鍛え続ければ周りが離れていく事はわかっていた。
でも止められなかった、受け入れてほしかった、素の僕でいいといってほしかった。


傲慢な僕を
天狗な僕を
孤独な僕を


認めてほしかった。

-------------------------------------------------------------------------------------------

269ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2019/08/13(火) 20:37:06

「・・・ハッ!・・・あれ・・・ここは・・・?」

周りを見渡すと、展開されたフィールドの外だった。
足元を見ると、不安のそうな部長が居た。

「よしよし・・・すまない無茶をさせてしまったね」

部長をなでながらフィールドの内部に視線を戻す。
そこには巨大化したスライム・・・もとい、ゴッドポヨリンさんがいた。

「あれがなゆの・・・ポヨリンなの・・・かッ!?」

その時轟音が鳴り響く。
そしてGポヨリンさんからレーザーが射出される。

>「わたしは負けない! 絶対に……この戦いに勝ってみせる!
 明神さん、わたしだってあなたに負けないくらい……ううん! あなたの何倍も、ブレモンが好きだから!
 この戦いが終わった後も! 世界を救っても! 何年経ったって、変わらずブレモンをやり続けるために!
 あなたともっともっとデュエルするために! あなたに失望されないデュエリストであり続けるために!
 ……あなたに……、勝つ!!」

>「いっっっっっっっけぇぇぇぇぇぇぇ――――――――――――――――ッ!!!!!」

フィールドの外じゃなかったら直視できないほどの眩い輝きが明神、もといバルゴスに向って放たれる。
部長とジョンの一人と一匹の技とは文字通り次元が違う光景だった。

ボロボロに負けて、今自分以上の圧倒的な力の世界を目の当たりにして。
自分の父親がいってたことを、全部ではないが少し理解できた気がした。

僕は特別じゃないんだ、この世界では僕はバケモノじゃない。
この世界なら・・・この人達となら・・・本当の友達に・・・。

「うう・・・グス」

涙がでてくる、泣いたのなんて幼稚園のとき以来だろうか。
近くに年下の、それも女の子の、みのりがいるにも関わらず涙が止まらない。

「二人ともがんばれええええええ」

流れた涙を拭きながら、なゆでも明神でもなく・・・二人を応援していたのだった。

270ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2019/08/13(火) 20:37:34

すっきりした僕は観戦状態に入っていた。
用意されてた飲み物を飲み干し、フィールドに視線を戻す。

>「バルゴスの攻撃!遍く全てを掻き毟れ、至道の珠剣――『アルティメットスラッシュ』!!」

なゆと明神の戦いはもう最終局面に突入していた。
しかし状況は明神リード、このままではなゆの負けで終わるだろう、しかし。

「まだあの二人が残っている!」

>「ぐああっ!」

空中から落ちてきたのはエンバース。
なんだが彼らしい・・・のギャグのような再登場である。

>「ノリ”だけ”では世界は救えない――でもノリで動く奴が一人ぐらいいたっていいよね!」

あー・・・うん、彼?彼女?ならやりかねないな、うん。

>「またお前かぁぁぁあああっっっ!!!」

うん、まあそんな反応にだれでもなるよね。

なんだがギャグのような、この最終局面の状況に相応しくないようなやり取りである。

一応身内の戦いとはいえ今後の人間関係を決定付けるようなこの場に。
カザハのどっちつかずのこの反応は、カザハにとっても、明神にとっても、そしてそのほかのPTメンバーの為にもよくない事である。

これから世界を救うという使命の為に旅するということは。

手ごわいモンスターを殺す、この世界の人間を殺すという事であったり。
僕達のだれかが志半ばで死ぬかもしれないという事であったり。
もしかしたら僕達と同じ世界からきた人間を殺す事になることもあるかもしれない。

ノリという曖昧な言葉では片付けられない事なのだ。
僕も明神からしてみれば曖昧といえば曖昧なのだが、カザハのは、自前の緩い感じと人間ではない外見が相まって軽さに拍車をかけている。

>「予言しても良いぜ。ノリで動く奴は、危なくなったら逃げるし旗色が悪くなりゃ裏切る。
 きつくてもやばくても頑張ろうっていう意思がねーからだ。気分がノらねえからな。
 でも俺は、お前がそういう奴だとはどうにも思えねえんだ」

そうカザハがそうゆう人間?妖精?じゃないというのは分っているのだ。
だからこそ本人の口から覚悟が伴った言葉を聞きたいのだ。

「大丈夫だカザハ!君は君が思った事を言えばいい!」

フィールドの中に聞こえるかどうかはわからないが、僕は叫ぶ。
迷って偽りの言葉を吐くのではなく、不恰好だが本物の言葉のほうが心に響くから。
正直心配はしてない、明神なら、カザハなら大丈夫という根拠のない自信があるから。

>「俺は腹の裡をぶち撒けたつもりだ。お前のも見せろよ、男同士なんだからよ、裸の付き合いしようぜ、男同士」

ほら僕の目に間違いはなかった。

271ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2019/08/13(火) 20:38:20

>「――万策尽きたって言うなら、代わりにあいつを倒してやってもいいぜ」

会話の流れを切るようにエンバースが明神との戦闘を開始する。
驚異的な身体能力を駆使しバルゴスを、明神を追い詰めていく。

「相変わらず凄いな・・・さすがに僕でもあれは無理だ」

後日手合わせを願えないだろうか。
自惚れと思われるかもしれないかもしれないが、部長に頼らなくたってそれなりの強さがあるつもりだ。
しかしあそこまで人間離れした動きはできない、いやどうだろうか。

この世界にきて本格的に体を動かした事がないからわからないだけで、実は元の世界の自分より強化されてる可能性もなくはないかもしれない。
その意味でもやっぱり後日エンバースに稽古、もとい手合わせを願えないだろうか。

びっくりするくらいの戦闘狂ぶりに自分の事ながら少し驚いたが。
自分の力の限界を知りたいという気持ちは抑えられそうにない。

>「マジかよ。準レイド級だぞ!?」

そうこう考えてる内にエンバースがバルゴスをダウンさせる事に成功させる。
そしてそのまま心臓を一突き・・・とはならなかった。

「最後の最後で油断したなエンバース・・・」

バルゴスの手に捕まったエンバース。
素早さで翻弄していたが捕まってしまえば素早さというステータスはなんの意味も為さない。

>「――今日のところは、これくらいにしといてやるよ」

>「新喜劇じゃねーかっ!」

なんとも彼らしい・・・一言を残し地面に叩きつけられた。
だが彼が残した傷は決して浅くない、そしてまだカザハが・・・なゆがいる。

>「楽しいなぁ、なゆたちゃん。ずっとクソゲー呼ばわりしてきたのに、面白いじゃねえか、くそったれ。
 こんなに楽しい世界が、侵食されて消えちまうってんなら、救ってやらなきゃならねえな」

突然明神もそんな事わかっているわけで。

>「言ったよな。――腹の中身、全部見せるって」

明神の目はまだ死んでいなかった。

272ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2019/08/13(火) 20:38:43
>「明神さんも腹の内全部曝け出して、羨ましいわぁ」

となりでいっしょに観戦していたみのりから零れた言葉。

「あぁ・・・本当に羨ましいよ」

そんな事を話しているとみのりは立ち上がる。
完全に傍観者を決め込んでいた僕とは違い、覚悟を決めた様子で立ち上がった彼女は。
僕にスマホを預け「これお願いするえ?」と一言。

「え、ちょっと・・・みのり?」

理解できずにただスマホを受取る事しかできない僕を気にせず。
フィールドに向って歩いていくみのり。

「お、おいどうするんだ?」

戦闘不能になった事で中に戻る事、参加権利は剥奪されているはずだ。
中に戻ろうと思っても戻れないはず、なのになぜ?。

>「なゆちゃん!うちは認める!あんたがリーダーの資質を持つことを!!」

>「ジョンさん、エンバースさん、カザハちゃん、そして明神さん、あんたらも最高な仲間や!」

みのりはもう一つのスマホを取り出す。

まさか・・・

>「ほやけどな、まだ足りひん!
この先に待つんは命を懸けた戦いや
そういう戦いに足を突っ込むのなら、不屈の更に先の力がいるもんや
精魂尽き果てた限界の先を超える力を!
うちが命を懸けられるだけの力を!
それを引き出せるのならっ、うちの全部を曝け出してもええ!
五穀豊穣改め天威無法、参戦するえ!
いでませい!パズズ!!!!」

「そ、そんなのありなの!?」

まさかの復活である。

みのりが召喚を宣言すると中央に砂嵐が発生し、中から超レイド級の邪神パズズが現れる。
そして砂嵐、パズズに導かれるようにバトルフィールドに、砂嵐に、みのりの体は吸い込まれ消えてしまった。

やっぱりみのりは最初から怖いと思ってたけど、やっぱりだったなあ。
あの手の女性は本気になると凄まじいと、経験が、本能が悟っていた。

「おいバロール!明神のグレー技時から思ってたけど、これって反則じゃないのか!?
 殺し合いの場ならそりゃありなんだろうけど!」

スマホはブレイブが持つ特権だから二つもってるならそれも実力といわんばかりの強引な技。
バロールは軽口を叩きながら首を横に振るだけだった。

反則かどうかはひとまず置いておいて。

パズズの圧倒的なパワー。
バルゴスの腹部から出現したワームのような生物から発射されようとしている尋常じゃないエネルギー。

有利を取っていたと思ったら一瞬で形勢逆転してしまった。

273ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2019/08/13(火) 20:39:14

今僕はとても現実とは思えない光景を見ている。
人は自分の想像を超えた場面に遭遇すると開いた口がふさがらないというが、生まれた初めてそれを経験しているかもしれない。

「これがブレイブ・・・この世界が、救いを求める為に異世界から呼んだ力・・・」

僕には・・・部長にはできない圧倒的な力の世界。
たしかに僕には元の世界ではバケモノと呼ばれていた力が、肉体がある、だがそれはあくまでも人間基準の力だ。
こんなお伽話のような世界で生き残れるほどの力ではない。

「凄い・・・凄すぎる」

アニメのキャラクター達が絶望するとしたらこんな状況なのだろうか。
自分の力は凄いと、信じて止まなかった自信が打ち砕かれ、自惚れていた自分に絶望するのだろうか。

「この世界じゃ僕はちっぽけな一人の人間に過ぎないんだね」

傲慢な僕は
天狗な僕は

この世界ではただのちっぽけな人間。

今までの人生、体を使う事に関しては常に上から見下して生きてきた。
それが今、僕は一番下から世界を見ている。
なんて・・・なんて・・・。

「なんて素晴らしい世界なんだ!」

元の世界ではこれ以上強くなる必要ないと思っていた、そんな自分の中の常識が根本から覆され、さらなる強さを求められている。
僕以上に強い人、モンスターが沢山いるこの世界なら僕はまだまだ強くなれる、その確信がある。

「ニャー」

「もちろん強くなるのは部長といっしょにだよ」

部長の頭をなでる。
戦闘狂の性か、今からでもフィールドの中に再参加したい気持ちでいっぱいだったが。
さすがに明神となゆの戦いに水を差せないので、心に押し留めて置く。

「なあ・・・バロール、これが終わって落ち着いてからでいいんだが・・・
 メイドさんと一度本気で手合わせを、出発する前にこの世界の強さを実感したいんだ・・・だめかな?」

バロールにメイドさん事、水晶の乙女と戦えるように手配してもらうよう頼み込む。
僕は油断していたとはいえ彼女に投げられている、それでいて彼女達は魔法も使える。
そんな相手ならいい練習になると考えた。

バロールは頭を悩ませる、当然無理にとはいわないけれど、と付け足しておく。

「さて・・・そろそろ中も決着が付くころかな」

僕とバロールが会話してる間にも中の戦闘の熱は増していく。
最高潮になるにつれこの戦闘の最後が近づいている事を示していた。

「みんながんばれえええええええええええええええ!!」

もうこの戦いでどっちが勝利しようとも、もう関係がぎくしゃくすることはないだろう。
僕には応援する事しかできないが、応援するかには全力でしよう!。

【自分の弱さを自覚】
【バロールにメイド貸し出し要請】

274<削除>:<削除>
<削除>

275崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/08/18(日) 12:02:52
ゴッドポヨリンの放った裁きの閃光がバルゴスへと迫る。
ぽよぽよ☆カーニバルコンボを開発して以降、ゴッドポヨリン召喚に成功したなゆたが負けたことはない。
つまり、この流れはなゆたにとって必勝のパターン。
光属性の『審判者の光帯(ジャッジメント・クエーサー)』が、バルゴスを跡形もなく消し飛ばす――

はず、だった。

>……だが!そいつは予測済みだ!!

明神が叫ぶ。
なゆたがこの局面でG.O.D.スライムの二大スキルのうち『審判者の光帯(ジャッジメント・クエーサー)』を使うこと。
それは、既に想定の範囲内であった――と。

>『寄る辺なき城壁(ファイナルバスティオン)』――プレイ!

明神がカードを切る。それは彼がみのりの『万象法典(アーカイブ・オール)』で拝借した三枚のカードのうちの一枚。
すべての魔法攻撃を無効化し、なおかつ一ヵ所に収束させる『寄る辺なき城壁(ファイナルバスティオン)』。
ユニットカードの発動と同時にバルゴスの前方に出現した城壁が、必殺の閃光を問答無用で吸い寄せてゆく。

「……な……!?」

なゆたは瞠目した。
『審判者の光帯(ジャッジメント・クエーサー)』は不破の攻撃。出せば必ず相手を倒す、文字通りの『必殺技』だ。
それが、明神の使用したユニットによってなすすべもなく無力化されてゆく。
今まで幾度となくデュエルし、ゴッドポヨリンによって勝利を収めてきたなゆただったが、こんな状況に陥ったことはない。
だが、現実は厳然とその場にある。やがて吸収した光を出し尽くしたゴッドポヨリンは口を閉ざした。
『審判者の光帯(ジャッジメント・クエーサー)』が破られた。文句のつけようがない完封だ。
しかし、明神のターンはそれだけでは終わらなかった。

>飛べっ、バルゴス!!

バルゴスがその巨体をものともしない身軽さで跳躍し、上空に陣取っているゴッドポヨリンに肉薄する。
必殺スキルを放った直後のゴッドポヨリンは身動きが取れない。ここは、甘んじて一撃受けるしかない。
とはいえ、レイド級モンスターであるゴッドポヨリンのHPはきわめて多い。一撃喰らった程度では沈むまい。
今はバルゴスから攻撃を貰い、クールタイムが明けてから改めて反撃すればいい――なゆたはそう戦術を組み立てた。

が。

>『虚構粉砕(フェイクブレイク)』――プレイ!

明神は攻撃をしなかった。代わりに切るのは、やはり『万象法典(アーカイブ・オール)』で手に入れたカードの最後の一枚。
すべての虚構を打ち砕く『虚構粉砕(フェイクブレイク)』。
ゴッドポヨリンの前に、ドレスを着た妙齢の女性がまるで陽炎のように、蜃気楼のように出現する。
なゆたはその姿をよく知っている。ゲームの中でも、そして少し前にこの世界でも見た顔だ。
十三階梯の継承者のひとり、『虚構の』エカテリーナ。
エカテリーナが妖艶な仕草で、ふぅ……と煙を吹き出す。
煙を浴びたゴッドポヨリンは一度身じろぎすると――そのとたんに、まるで風船が割れるかのように呆気なく弾けた。
どんなに強力な、堅固なバフであろうと強制的に解除するスペルカード『虚構粉砕(フェイクブレイク)』。
それはゴッドポヨリンも例外ではない。無数のスライムの集合体であるG.O.D.スライムは、元の有象無象に戻った。

「そ……んな……」

なゆたはまたしても驚愕した。それは『審判者の光帯(ジャッジメント・クエーサー)』が破られる以上の衝撃だった。
血の滲むような練磨と研鑽の果てに生み出した『ぽよぽよ☆カーニバルコンボ』は無敵無敗。
コンボデッキはWikiに公開され、既にありとあらゆる対策が取られていたが、そんなことは関係ない。
例えどんな小細工を用いられたところで、すべて跳ねのけよう――。
そんな絶対的自負があるからこそ、なゆたは明神との決戦で迷いなくこの戦法を取った。
だというのに、まさか――ここまで完璧にこのコンボを封じられるとは。
それは或いは、なゆたがブレモンを始めて以来最大の衝撃だったかもしれない。

276崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/08/18(日) 12:03:10
まるで雨のように、バラバラとスライムたちが上空から降ってくる。
しかし、まだバルゴスの攻撃は終わらない。――いや、むしろここからが本番だった。
バフを根こそぎ強制解除されたポヨリンは、まだクールタイムが明けていない。
バルゴスが無防備に落ちてゆくポヨリンに狙いを定める。大上段に振りかぶられた大剣が、ポヨリンに炸裂する。

>バルゴスの攻撃!遍く全てを掻き毟れ、至道の珠剣――『アルティメットスラッシュ』!!

「ポヨリン!!」

バギィンッ!!!

バルゴス必殺のスキル、漆黒の波動を纏った剣がポヨリンに叩きつけられる。なゆたは歯を食いしばった。
金属質の炸裂音が鳴り響き、ポヨリンは弾丸のように猛烈な速度で地面へと激突した。
ポヨリンの着弾した床がクレーター状に抉れる。

『……ぽ、ぽ……ょ……』

普通のモンスターならば、この一撃で決まっていただろう。そのくらい完璧な、非の打ち所のない一撃だった。
けれど、ポヨリンはまだ倒れていない。クレーターの爆心地から、ずる……と傷だらけの状態で這い出してくる。
ありとあらゆる手を尽くし、極限を突破して鍛え込んだ素のステータスの高さが、ここで皮一枚の生命を繋ぎ止めた。

「ポヨリン……!」

なゆたは安堵する。が、依然として絶体絶命なのには変わりない。
大技を発動した直後で、なゆた自身のATBもまだ溜まっていないのだ。もう一度バルゴスに攻撃されれば、今度こそ決まってしまう。

>回復の隙を与えるな!決めろバルゴス!!

明神もそれはとっくに織り込み済みとばかり、バルゴスに追撃を命じる。
先ほど発動させた『奥の手』は、まだ使えない。
ポヨリンはまだ動けない――勝負が、決してしまう。

そう、思ったけれど。

>ああ、クソ。俺の手足は……まだちゃんとくっついてるな

声は、横合いから聞こえた。
見れば、『焼き上げた城塞(テンパード・ランパード)』に囚われていたはずのエンバースが復帰している。
いったい、どういう手段を用いたのか――それは咄嗟には分からなかったが、ここでエンバースが復帰するとは思わなかった。
エンバースはなゆたの前に立ち、ゴリアテと対峙したダビデの如くバルゴスの巨体を見上げると、

>……それで?

と、言った。

>次の指示はどうした――リーダーは、お前なんだろう?

「……ぁ……ぅ」

突然のことに思考が追い付かない。エンバースの背中を見ながら、なゆたは目を白黒させた。
さらに、エンバースはなゆたを叱咤するように言葉を紡ぐ。

>時間を稼げばいいのか?それとも――
>――万策尽きたって言うなら、代わりにあいつを倒してやってもいいぜ

「……さ……。
 3ターン、3ターンだけ時間を稼いで! お願い、エンバース!
 それで勝つ! わたしの最後の攻撃は――それで、全部組み立てられるから――!」

なゆたの指示を受けたエンバースの罅割れた瞳で、蒼焔が瞬いた。

277崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/08/18(日) 12:03:28
>明神さん、悪いな

エンバースが口を開く。

>誰か一人だけを選ぶなら――俺は、あいつを守るよ

「…………!!!」

どくん、と大きく心臓が鼓動を打つ。なゆたは我知らず、胸元でぎゅ……と強く右拳を握り込んだ。
リバティウムで出会って以来、エンバースとはずっと仲たがいしてきた。
お互いの主張は平行線で、まったく交じり合おうとしなかった。相互理解など到底無理だと思っていた。
パーティーの中で、彼と一番相容れないのは自分だろうと――。
だというのに。
エンバースはなゆたを選んだ。それがどんな心境によるものかなゆたには察することもできなかったが、大事なのは理由ではない。

――そんなこと、真ちゃんにだって言われたことない。

ドキドキと、自分でも恥ずかしくなってしまうくらいに心臓が鳴り響いているのが分かる。
きっと、顔も真っ赤になってしまっていただろう――しかし、そんなこと気にしている余裕なんてない。
なゆたはエンバースを見つめた。
それからのエンバースの戦いは、まさに鬼神の如きと言うべきか。
圧倒的すぎる体格差をものともせずに、エンバースはバルゴスと互角以上の戦いを展開してゆく。

>うおおおっ!!!

体格差のある相手に対し、五体の末端を狙うのは基本中の基本である。
ゲームでも、巨大なレイドボスに対しては最初に部位破壊を試みるのがセオリーだ。
とはいえ、それは理屈である。頭では理解していても、なかなか実践できるものではない。
というのに、エンバースはこともなげにそれをやってのけた。恐るべき実力とセンス、と言わざるを得ない。
これも、死体となるまで闘い続けた戦闘経験のなせる業――ということだろうか?

しかし、いくらエンバースが善戦しても、やはり圧倒的な差がある。
バルゴスの心臓部、コアであるヤマシタにあと一歩と迫ったエンバースは、バルゴスに捕えられた。
そして、そのまま地面に猛烈な勢いで叩きつけられる。
エンバースはこれで本当にリタイヤだろう。だが、時間稼ぎは充分にできた。そして――
なゆたには、そんなエンバースの行動が敢えてなゆたに花を持たせたように見えた。
手許のスマホのATBゲージを見る。現在溜まっているのは二本と三分の一程度。
たったひとりでそれだけの時間を稼ぎ切ったエンバースは、文句なしの殊勲賞と言ったところだろう。

――もう少し……! もう少しで、ゲージが溜まる……!

>楽しいなぁ、なゆたちゃん。ずっとクソゲー呼ばわりしてきたのに、面白いじゃねえか、くそったれ。
 こんなに楽しい世界が、侵食されて消えちまうってんなら、救ってやらなきゃならねえな

「そうだね……。本当に楽しい。こんな楽しいこと、滅んじゃうから終わりですなんて言われて納得なんてできない!
 わたしたちが頑張ることで、サービス終了が撤回されるなら――どんなことだってやってやる!」

明神が笑う。なゆたもそれに笑みを返す。
彼には憎しみしかないのだと。怒りと恨みしかないのだと、かつてなゆたはパソコン越しに思っていた。
しかし、違った。その憎しみも、荒らしに傾倒する怒りも。すべてすべて、ブレモンへの愛ゆえのこと。
それが今はよくわかる。やっぱり――明神は最高のプレイヤーだと。

バルゴスがずずぅん……と地響きを立てて片膝をつく。
エンバースの部位破壊攻撃によって、バルゴスの機動力はほぼゼロになった。
もう、バルゴスは身軽に跳躍したり立ち回ったりすることはできない。その場から大剣の届く範囲でしか攻撃できない。
だというのに、明神は笑っている。追い詰められているのはお互い様だというのに――。
そして。

>――相棒!

明神が叫んだ。その直後、リタイヤしたはずのみのりもまた叫ぶ。

>なゆちゃん!うちは認める!あんたがリーダーの資質を持つことを!!

「……みのりさん……」

いつものおっとりはんなりした声音とは違う、凛とした声。
その声が告げる。なゆたをリーダーとして認める、と。

なゆたは、一度大きく震えた。

278崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/08/18(日) 12:21:54
>ジョンさん、エンバースさん、カザハちゃん、そして明神さん、あんたらも最高な仲間や!

みのりはなゆたの資質を見極めるため、敢えて明神とコンビを組んだ。
そのみのりが、認めると言っている。なゆたの選択は、戦いは、みのりを納得させるに足るものだったと言っている。
じんわりと、安堵の気持ちが全身に行き渡ってゆく。なゆたは無意識に深く息を吐いた。
だが、みのりの言葉はそれだけでは終わらなかった。

>ほやけどな、まだ足りひん!
 この先に待つんは命を懸けた戦いや
 そういう戦いに足を突っ込むのなら、不屈の更に先の力がいるもんや
 精魂尽き果てた限界の先を超える力を!
 うちが命を懸けられるだけの力を!
 それを引き出せるのならっ、うちの全部を曝け出してもええ!
 五穀豊穣改め天威無法、参戦するえ!
 いでませい!パズズ!!!!

みのりが高らかに叫ぶと同時、フィールド内に砂嵐が出現する。『命たゆたう原初の海(オリジン・ビリーフ)』が上書きされる。
フィールドが土と風の混合属性に変化すると、激しさを増した砂嵐の中から巨大な影が姿を現した。
暴風と砂塵の邪神パズズ――ブレモン正式稼働1周年記念イベント【六芒星の魔神の饗宴】で実装された、超レイドの一体。
Wiki編纂者のなゆたさえ手に入れた者がいるという話を聞いたことのない、幻のモンスター。

「……なんて、こと……」

なゆたは今回幾度目かの瞠目をした。
まさか、みのりがこんな奥の手を隠し持っていたとは。
リタイヤしたはずのみのりがフィールドに復帰する。

>おいバロール!明神のグレー技時から思ってたけど、これって反則じゃないのか!?
 殺し合いの場ならそりゃありなんだろうけど!

みのりの突拍子もない行動に、ジョンが声を荒らげる。
だが、この戦いの見届け人であるバロールは一度かぶりを振っただけだった。

「反則? 何がだい?
 彼女たちが言っていたじゃないか、この戦いは何でもありだと。
 何でもありと言った以上は、どんなことをしてでも戦う。勝つ。そうでなければいけない。
 むしろ、私は嬉しいよ……ここまで来てゲーム気分では困る。五穀豊穣君も言う通り、ここからは命を懸けた戦いだ。
 いかなる犠牲を払っても勝つ、勝利への執着。それを持ってもらわなければ、到底この世界を救うことなんてできないのさ。
 でも……その心配はないみたいだね?」

ふふ、とバロールは目を細めて笑った。

>なあ・・・バロール、これが終わって落ち着いてからでいいんだが・・・
 メイドさんと一度本気で手合わせを、出発する前にこの世界の強さを実感したいんだ・・・だめかな?

「ええー? 彼女たちは単なるメイドでしかないよ。要人警護の護身術程度なら使えるけれど、とても実戦向きじゃない」

ジョンの提案に、元魔王は難色を示した。

「どうしてもって言うのなら、王宮の近衛騎士の方がいいんじゃないかなぁ。
 でも、その必要はないと思うよ? なぜなら、君たちは明日にはアコライト外郭へ赴かなければならない。
 手合わせなんかじゃない、正真正銘の実戦だ。そして……君が十全に実力を出せるのも、手合わせなんかじゃない実戦の中。
 絶体絶命の火事場でこそ、君の個性は輝くと私は視ているんだけれど、ね」

そう言うと、バロールは茶目っ気たっぷりにウインクをしてみせた。

>うちの全部、受けてみぃや!
 まずはカザハちゃん、風の精霊やゆうても邪神の砂嵐は乗れるもんとちゃうで!

一方みのりが――パズズが最初に狙ったのは、明神となゆた以外で唯一場に残っているカザハとカケルだった。
荒れ狂う砂嵐がカザハを襲う。重量のないカザハとカケルはこの暴風には抗えまい。
まさに超レイド級と言うに相応しい攻撃だ。

「……ぐっ!」

なゆたは歯を食いしばった。
みのりがパズズなどという超ド級の隠し玉を持っていたというのは、まったくの想定外だった。
だが、よく考えてみればみのりは『万象法典(アーカイブ・オール)』のオーナーであり、石油王の称号を持つ。
金に飽かせて超レイドを手に入れていたとしても、まったく不思議ではない。
なゆたの脳内で、超レイド級モンスターへの対処法が猛烈な勢いで組み立てられてゆく。
そして、それこそがみのりの用意した『3秒』の罠だった。

279崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/08/18(日) 12:22:33
パズズは恐ろしいモンスターだ。いくらポヨリンが限界まで強くしている規格外のスライムだとしても、一瞬で消し飛ぶ。
その窮地を凌ぎ切り、逆転に漕ぎつけるにはどうすればいいか?
しかし、その答えを出す前に――やがて砂嵐は徐々にその勢いを弱めて消えてしまった。
パズズの巨大な姿も、すぐに跡形もなくなってしまう。

――消えた……!?

それが、みのりの策。ハッタリだと気付いた時には、なゆたは渾身の力を込めて抱き着いてきたみのりによって拘束されていた。

>ズルやって云ってもええんやよ?
 それが生き死にかけた戦いでどれだけ役立つかは知らんけど
 これからの戦いってこういう事なんやで?

農作業で鍛えているからだろうか、みのりの力は存外強い。
そのみのりが全身全霊で組み付いてきているのだ。なゆたの膂力では容易には脱出できない。

「……みのりさん……」

しかし、なゆたはみのりの存外な力強さよりも、みのりがこんな行動に出たこと自体に驚いていた。
今までの戦い方から、なゆたはみのりが最初に自分の身の安全を確保してから初めて事に及ぶタイプと思っていた。
逆に言えば、自分の身に危険が迫るような手段は絶対に避ける、ということだ。
だというのに、この状況はどうだ。
みのりは自分の身の安全も何もかも振り捨て、ただ明神を勝たせるためだけに吶喊し、身体を張ってなゆたを押し止めている。
パーティーを一歩引いたところから俯瞰して眺めていたような、言ってしまえば部外者感を出していたみのりが。

>なゆちゃん!うちは認める!あんたがリーダーの資質を持つことを!!
>ジョンさん、エンバースさん、カザハちゃん、そして明神さん、あんたらも最高な仲間や!

あんなにも熱い言葉で、みんな仲間だと。そう言ってくれている。
……それなら。

>言ったよな。――腹の中身、全部見せるって

明神の言葉に同調するように、リビングレザー・ヘビーアーマーの腹部装甲が展開する。
そこに納められていたのは、いつも明神がかいがいしく世話をしていた『負界の腐肉喰らい』マゴット。
いつもは明神の肩に乗っているのに、デュエルが始まってからは姿を消していたのだが――そんなところに潜んでいたのだ。
そして、これこそが。明神の最後の一手なのだろう。
マゴットの吻部に黒い波動が収束してゆく。『闇の波動(ダークネスウェーブ)』の前兆だ。
まだ、ポヨリンはクレーターから出終わっていない。『闇の波動(ダークネスウェーブ)』を浴びれば、間違いなく沈む。

>……届けぇぇぇぇえええっっ!!!!
>届きぃやあああ!!!

明神とみのり、ふたりの声が重なる。
こんなにも真剣に、すべての知恵と力を結集し、束ね、出し尽くして、勝利をもぎ取ろうとしている。

――嗚呼。

それなら、それならば。
自分もそれに応えたい。モンデンキントの、崇月院なゆたのすべてで、ふたりに報いたい。
なゆたは自分に抱き着いているみのりを見た。

「不屈の更に先の力。精魂尽き果てた限界の、先を超える力……。
 そうだよね。わたしたちに必要なのは、そんな力。
 例えどんな理不尽が立ちはだかったとしても、どれだけ傷ついたとしても、乗り越える力。
 それを持たなきゃいけないんだ」

ぎゅ……となゆたはスマホを持つ指に力を込める。

「みのりさんは、身体を張ってそれを教えてくれたんだね。ありがとう。
 今のみのりさんの姿は、これからのわたしたちの戦いに待ち受ける障害そのもの。
 だったら――そうであるのなら、わたしは。それを『越える』よ」

静かに告げる。それからなゆたはみのりの左耳に唇を近付けると、

「―――――――――」

ぽそ、と小さな声で何かを囁いた。

280崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/08/18(日) 12:22:58
だんッ!!

砕けた床を渾身の力で踏みしめると、なゆたは全力で走り出した。
行先は、ポヨリン。満身創痍のポヨリンは『闇の波動(ダークネスウェーブ)』を回避できない。
ならば、パートナーを守るのはマスターの役目だ。
だが、なゆたはモンスターではない。ただの人間である。
例え身を挺してポヨリンを守ったとしても、『闇の波動(ダークネスウェーブ)』を喰らえば只では済まない。
マスターが倒れれば、ポヨリンが生き残ったとしても意味がない。そこで決着だ。

>グニャフォォォォォォォォォ!!!!!

マゴットの吻部に集まっていた漆黒の波動がチャージを終え、ポヨリンめがけて放たれる。
すべての決着をつける、明神の最後の手段。
なゆたは飛びつくようにポヨリンを胸に抱くと、迫り来る『闇の波動(ダークネスウェーブ)』を睨みつけ――

間一髪、ふわりと避けた。

『闇の波動(ダークネスウェーブ)』が目標を失い、なゆたのはるか後方で消滅する。
幼虫の放った不完全なものであっても、『闇の波動(ダークネスウェーブ)』は『闇の波動(ダークネスウェーブ)』だ。
レイド級の大悪魔ベルゼブブのメインウェポンとしての破壊力、とりわけ速度は常人の動体視力を遥かに上回る。
ライフルから発射された弾を目視で躱せと言っているようなものだ。そんなことは到底不可能である。
だというのに、なゆたはそれを避けた。まぐれや偶然ではない。『見て避けた』。
それはあたかも、“ひらひらと宙を舞う蝶のような動き”で――。

明神には理解できただろう。もちろん、なゆたは自前の運動神経で『闇の波動(ダークネスウェーブ)』を避けたのではない。
それはなゆたが波動を回避した瞬間、その全身に鱗粉のようなエフェクトがかかったことでも一目瞭然だろう。
レイド級モンスター『煌めく月光の麗人(イクリップスビューティー)』の持つ、ふたつの専用スキルのうちのひとつ――

『蝶のように舞う(バタフライ・エフェクト)』。

「明神さん……! あなたがこのアルフヘイムで、色んなものを手に入れてきたように。
 わたしも、たくさんのものを貰ってきたんだよ……!」

肩で息をしながら、なゆたは明神を見据えて言った。
ミドガルズオルム戦が終わり、リバティウムの復興が始まったとき、なゆたはステッラ・ポラーレから連日に及ぶ特訓を受けた。
けれど、それは『異邦の魔物使い(ブレイブ)』としてポラーレと特訓をしていたわけではない。
そう――なゆたはポラーレの持つふたつのスキルを習得すべく、彼女を教師として特訓を繰り返していたのだ。
当然なゆたはモンスターではない。現実世界なら、こんな魔法のような技術を習得するのは到底不可能だろう。
しかし、ここは幻想世界アルフヘイム。真一がドラゴンに乗って空を舞い、エンバースが死してなお戦うというのなら。
自分がこの世界由来のスキルを習得することだって不可能ではないはず――なゆたはそう考えたのだった。

「ポラーレさんは、快くわたしにスキルを伝授してくれたよ。
 たった一週間だったけど……コツは掴んだ。まだまだ雑だと思うけど、それは今後の課題かな……」

傷ついたポヨリンを胸に抱き、不敵に笑う。
さすがに、一週間程度の修業でレイド級モンスターのスキルを完全に習得することはできない。
ただ、不完全なスキルであっても何とかポヨリンを守ることはできた。それができれば何も言うことはない。
みのりの拘束から逃れたのも、言うまでもなく『蝶のように舞う(バタフライ・エフェクト)』の能力だ。
みのりはなゆたを逃すまいと全力で抱き着いてきた。
ゲーム内の判定では、それは『組み付き(グラップル)』という攻撃として判定される。
こと攻撃ならば、いかなるものでも回避するのが『蝶のように舞う(バタフライ・エフェクト)』の特性である。
もし、みのりがなゆたに抱き着かず、言葉だけでなゆたを場に縛り付けていたなら、このスキルは発動できなかった。
みのりの耳元でこのスキルを発動させ、なゆたはポヨリン救出に走ったというわけだ。

「……楽しい。楽しいよ、明神さん。こんなに楽しい戦い、わたしがブレモンを始めて以来かもしれない。
 でも……終わらせよう。
 これからも、一緒に楽しい戦いを続けるために。みんなで旅をするために。
 新しい一歩を踏み出すために……この戦いに決着をつけるときだよ」

なゆたはポヨリンを床にそっと下ろすと、静かに明神と向き合った。

281崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/08/18(日) 12:23:13
「……ね……明神さん。
 あなたはすごいよ。お世辞なんかじゃなくて、本当にすごいと思う。
 わたしが考えもしない戦術で、戦法で。数の有利を覆して、わたしのゴッドポヨリンを倒して――。
 やっぱり、あなたは何も持ってないなんてことない。
 あなたはたくさんのものを持ってるし……色んな人から、色んなものを貰ってきた。
 この戦いで、それがよく分かったよ」

明神の目をまっすぐに見つめながら、言葉を紡ぐ。
ジョンが倒れ、エンバースが戦闘不能になり、カザハが吹き飛ばされ、みのりがすべての手を出し尽くしたフィールドで。
ただふたり雌雄を決するべく、明神に語りかける。

「だから。だからこそ、わたしはあなたを倒したい。あなたに勝ちたい!
 フェスティバルはもうお開き? でも――カーニバルはまだ終わらない! まだまだ踊るよ、わたし!」
 
高らかに言い放つと、なゆたは胸当ての中から何かを取り出した。
それは、ふたつめのスマートフォン。
元々持っていたスマートフォンに加え、胸当ての中に隠していたスマートフォンが一台。
ただ、それはミハエル・シュヴァルツァーが万一の予備として持っていたものでも、みのりのようサブ垢のものでもない。
そう――

これはスペルカード『分裂(ディヴィジョン・セル)』で分裂させたスマホだった。

「明神さんが『万華鏡(ミラージュプリズム)』でスマホを増やした戦術。
 真似させてもらったよ……。使える戦術は真似る、それがブレモンの基本でしょ?」

明神がリビングレザー・ヘビーアーマー召喚のために使った『マジックチート』。それを模倣したのだ。
なゆたは『分裂(ディヴィジョン・セル)』でスマホを二台に増やした後、ゴッドポヨリン召喚のためさらに分裂を三枚使った。
つまり、合計四枚の『分裂(ディヴィジョン・セル)』を使っている。
同じカードは三枚までしかデッキに組み込めない――そのルールを無視して、である。
それはこのマジックチートを使用していたからだった。
有用な戦術は、例え敵のものであったとしても利用する。それは、相手に対する最大のリスペクトであろう。
そして――

「エンバースが稼いでくれた時間と、今までの時間。それでわたしのATBは3本『ずつ』溜まってる。
 いくよ――明神さん! この場にもう一度『神』を喚ぶ!!」

二台のスマホで同時にオーバーチャージしたATBゲージは、合計6本。
なゆたの正真正銘、最後の攻撃を仕掛ける下地は整った。

「『命たゆたう原初の海(オリジン・ビリーフ)』プレイ!
 『限界突破(オーバードライブ)』プレイ!
 『毒散布(ヴェノムダスター)』プレイ!
 『麻痺毒(バイオトキシック)』プレイ!
 『形態変化・液状化(メタモルフォシス・リクイファクション)』プレイ!」

なゆたは爆速で次々とカードを切ってゆく。G.O.D.スライム召喚と同じムーブだ。……しかし、切るカードがまるで違う。
『毒散布(ヴェノムダスター)』も『麻痺毒(バイオトキシック)』も。
『形態変化・液状化(メタモルフォシス・リクイファクション)』も、G.0.D.スライム召喚には必要のないスペルである。
だというのに、なゆたの表情には迷いがない。ポヨリンの全身が複数の毒を帯び、濁った灰色に変化してゆく。
液状化のスペルカードによって楕円の身体が崩れ、不定形の液状に変わる。

なゆたの最後の策。最後のコンボ。

それは、G.O.D.スライム再召喚のコンボなどではなかった。

282崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/08/18(日) 12:23:30
スライムが最弱の魔物という不名誉な称号を獲得したのは、いつからだっただろう。
グミキャンディーのような楕円形の、コミカルな姿になったのはどの時期からだっただろう。
トンネル&トロールズやダンジョンズ&ドラゴンズなどの、古いTRPG。
ファイティング・ファンタジーシリーズといった往年のゲームブック。
それらのゲームに出てくるスライムは、そんな取るに足らない雑魚敵などではなかった。
ゲル状の不定形のため、刀剣類は効かない。打撃武器も言わずもがな。
精神のない生物ゆえ、幻術なども通用しない。猛毒、麻痺毒、強酸などを持ち、獲物をどこまでも執拗に追跡する。
一度身体に張り付いてしまうと、張り付いた肉体の部位ごとスライムを焼き払わなければ倒せない。
殺気も、気配も、物音もない。ダンジョンの暗がりに潜み、その攻撃はすべて不意打ち判定によって行われる。
迷宮の壁いっぱいに広がり、触れるものをなんでも溶かしてしまう凶悪な種族もいる――。

そう。

スライムは『強い』のだ。

ぽよぽよ☆カーニバルコンボはWikiにも記載されている、有名なコンボデッキである。
公開された直後から、それは様々なプレイヤーによって議論され、また手を加えられてきた。
そんな中『毒散布(ヴェノムダスター)』と『麻痺毒(バイオトキシック)』は、不要なものとして真っ先に削られた。
ふたつのスペルカードはG.O.D.スライムの召喚材料ではない。レイド級のビルドには必要のないものだ。
それらを入れるなら、まだ回復を持ったり『限界突破(オーバードライブ)』を増やしたりする方が効率がいい。
モンキンチルドレンと呼ばれるモンデンキントのフォロワーたちも、そんな理由でこれらのスペルを削除してきた。
そう――誰も気付かなかった。誰も思い至らなかった。

『毒散布(ヴェノムダスター)』と『麻痺毒(バイオトキシック)』もまた、モンスター召喚のための素材だということに。

「『融合(フュージョン)』プレイ!
 リバース・ウルティメイト召喚……銀の鍵をもて、ン・カイを去りて無窮の門より出でよ!」
 
砕けたフィールドにはまだ、G.O.D.スライム召喚時に使った『民族大移動(エクソダス)』のスライムたちが残っている。
そのスライムたちが、液状化したポヨリンと融合する。その全てがみるみるうちに形をなくし、粘液の塊に変わってゆく。
そして――

「不浄の源、外神――アブホース!!!」

フィールドに、ふたたび『神』が降臨した。

『オオオオオオオォォォォォォォォ――――――――――――ム…………』

地の底から響くかのような哭き声が聞こえる。
口に出すことさえ憚られる、おぞましくも名状しがたい伝承の中にその名が記される『外なる神』の一柱。
宇宙の果てより星の海を越えて飛来した、意思を持つ粘液の海。
G.O.D.スライムと共にスライム系統樹の頂点に君臨する、二体のモンスターのうちのもう一体。

外神・アブホース。

「地球にいたころのわたしなら、きっと明神さんに負けてた。
 みんながわたしに力をくれたから、手を貸してくれたから、わたしはあの頃よりも強くなれた……。
 そして。その中にあなたもいるんだよ、明神さん」

今や、アブホースの躯体はフィールド全域に広がっている。
『命たゆたう原初の海(オリジン・ビリーフ)』がアブホースの肉体そのものとなり、酸と毒がバルゴスにDotを与えてゆく。
奇しくも、明神の提唱したDot最強理論が裏打ちされた形だ。

「明神さん……、これ……これが、わたしの最後の技……。
 これを最後に、わたし……倒れると思う……。
 そのとき、あなたとバルゴスがまだフィールドに残っていたなら――」

はぁー……、となゆたは息を吐いた。
なゆたもポヨリンも、もう限界だ。精神力を、体力を使いすぎた。
正真正銘、これが最後の攻撃であろう。長かった勝負を決する、終焉の一撃。

「あなたの、勝ちよ!!」

最後の力をふり絞り、なゆたは高々と右手を掲げると、それを前方へ――明神とバルゴスの方へ突き出した。
そして、叫ぶ。

「ゴッドポヨリン・オルタナティヴの攻撃! 圧壊せよ、原初の混沌!」

『オオオオオオオオオ―――――――――――――――――ム…………』

フィールドと完全に融合していたアブホースが、なゆたの号令に応じてゆっくりと身を起こす。
ざあ……と明神とバルゴスの元までさざなみが立ち、それは徐々に大きくなってゆく。
粘性の強い液体がうねり、のたうち、蠢動する。それはまさに、荒れ狂う海さながらだ。

そして。

「――――『混沌大海嘯(ケイオス・タイド)』!!!!」
 
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――――――――――――…………!!!!』

アブホース、ゴッドポヨリン・オルタナティヴがその巨大なあぎとを開き、バルゴスめがけて押し寄せる。
その姿はまさに津波だ。フィールド全体を覆うその攻撃を回避することはできない。
ゴウッ!! と耳を劈く轟音を立てながら、スライムの神の津波がバルゴスを呑み込んだ。


【もう一体のスライム最上級種、レイド級モンスター“外神”アブホース召喚。
 『混沌大海嘯(ケイオス・タイド)』によるファイナルアタック】

283カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2019/08/20(火) 02:55:56
>「ノリで動くなとは言わねーけどよぉ!説明をしろ説明を!エンバース腰打っちゃってんじゃねーか!
 みんながみんなお前みてーに当意即妙以心伝心ってわけじゃねーんだぞ!」
>「予言しても良いぜ。ノリで動く奴は、危なくなったら逃げるし旗色が悪くなりゃ裏切る。
 きつくてもやばくても頑張ろうっていう意思がねーからだ。気分がノらねえからな。
 でも俺は、お前がそういう奴だとはどうにも思えねえんだ」

「き、君の相手はモンデンキント先生でしょ!? なんでウチなんかにこだわってんのよ!」

予想外に関心を向けられ、明らかに焦りはじめるカザハ。
その姿がノイズが走ったように揺らぎ、人間だった時の姿が断続的に垣間見える。
シルヴェストルは自己認識に準じた姿を取っているので、動揺するとこういう揺らぎも発生するのだろう。

《姉さん、人間界にいた時のキャラが出てますよ!?》

幸いというべきか、戦場は未だ霧が覆っているので向こうからはよく見えないだろう。
それはそうと、カザハの言う通り、飽くまでも明神さんの目的はモンデンキント先生との対決のはず。
オマケのはずのカザハになんでここまでこだわっているのだろう。
いや、本当にそうならなゆたちゃんに1対1の勝負を申し込めばよかったはずだ。
にも拘わらず、わざわざ絵に描いたような悪役っぽい言動で、よく事情を知らない私達新入りをなゆたちゃん側に付くように仕向けた……ようにも思える。
エンバースさんを勧誘していたのも「こっちに来い(訳:向こうに行け)」という高度な振りだったのだろうか。
更に、リタイアして場外で観戦中のジョン君が追い打ち(?)をかける。

>「大丈夫だカザハ!君は君が思った事を言えばいい!」

「場外から包囲してくんな! この天然タラシ野郎がーっ!
君だって最初止めようとしてたよね!? 瞬時に適応して熱いムーブかましてんじゃねーっ!
か、体を張って守ってもらったからってときめいちゃったりしないんだから!」

>「バロールと何があったのかなんざ俺には関係ねえ。お前の前世にも興味はねえ。
 俺が見たいのはお前の腹の中身だ。お前が何の為に俺たちに力を貸すのか。世界を救うのか。
 それが知りたい」

全方向から包囲されて返答に窮したカザハは私に助けを求める。

(えっ、何!? この状況で世界を救いに行くのってそんなに変!?
放っといて世界滅びたら結局自分も死ぬじゃん!? だったら危なくても世界救いに行くしかないじゃん!?)

《普通は出来れば都合よく他の誰かが救ってくれたらいいなーって思うもんかと……》

(……そりゃそうだ!)

いや、そこで物凄い名案を聞いたみたいな反応しないで!?
カザハは普段の掴みどころのないキャラはすっかりどこかに吹っ飛んで逆ギレっぽく動揺しまくっている。
怒ったり気が動転するのは本心が引き出される一歩手前、とどこかで聞いたことがあるので、
これも歴戦のレスバトラー明神さんからすれば予想内の反応かもしれない。

284カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2019/08/20(火) 02:58:16
「折角なんとなく場に馴染んでる賑やかし役路線でいこうとしてたのに何故にそこを鋭くツッコむ!?
つーか君達こそなんで揃いも揃って少年ジャ○プみたいな台詞がポンポン出て来るの!? 本当に地球人類!?」

>「俺は腹の裡をぶち撒けたつもりだ。お前のも見せろよ、男同士なんだからよ、

「ああもう、いきなりそんな事言われたってこのパリピキャラは異世界転生デビューだから! 地球では陰キャだったの!
だって地球で努力!友情!勝利!みたいなこと言ったら
何熱くなっってんの(笑)とかマジメか!とか厨二病wwwとか言われるだけじゃん!?
だったら余計なこと言わずに気配消しとくのが一番じゃん! ん? 男同士……?」

カザハは一瞬何か考える素振りを見せ、そして衝撃の事実に気付いた。

「そういえばボクは美少年だったしここは地球じゃなかった――ッ!」

《今頃気付いた――ッ!?》

今更何を言っているのかという感じだが、本当の意味でここは地球ではない――
もはや地球で生きていた時の流儀に則る必要は無いことに気付いたということだ。
私達は地球に馴染んでいないと思っていたが案外ある意味地球に適応し過ぎていた。
余計なことを言わずに気配を消している陰キャとなんとなく場の流れに乗ってまあいいかとスルーされている陽キャ。
一見正反対に見えて根本的には同じである。
意気揚々と異世界転生デビューしたつもりが今の今まで根底の部分ではウン十年に渡る地球生活の呪縛に捕らわれ続けていたのだ。

>「裸の付き合いしようぜ、男同士」

「何故に二回言う!? しかも絶妙に生々しい表現で! ……あっ、そういうことか!
しめじちゃんとは純粋な友情みたいだったしなゆとは純粋なライバルみたいだし
エンバースさんにツッコミ入れる時は妙に楽しそうだしつまりそういうことだよな……」

《ねーよ! 120%ねーよ!》

謎の勘違いが最後の一押しになったのかは分からないが、カザハは観念したように微笑んだ。
いつの間にか姿の揺らぎもおさまり、元通りの少年型で安定している。

「君はボクの前世に興味はないっていったけど、多分切っても切り離せない。
ボクは小さい頃勇者になりたかったんだ――きっと昔一度世界を救えなかったから……。
一度かどうかも分からない、もしかしたら何度も何度も失敗してるのかもしれない。
だからこそ、世界を救う勇者に憧れたんだ」

バロールさんが全てを語っている保証は無いが、少なくとも全くの嘘ではない気がする。
だとすれば、私達が昔世界を救い損ねたのは事実なのだろう。

「カケル――ごめんね、ボクは勇者なんかじゃない」

《何を……!?》

「リバティウムの闘技場でなゆを見た時――何故かは分からないけど思ったんだ。やっと、勇者に出会えたって。
今思えばあの時ミドガルズオルムの前に出て行けたのも、彼女達なら必ず助けに来てくれると思えたから――
だからね、ボクが危険を冒してまで世界を救いに行く理由はもう無いんだ。
君達なら必ず救ってくれる、そんな気がするから。君達に出会えた、それでもう充分……」

285カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2019/08/20(火) 02:59:35
《駄目だ! 私が君を勇者にして君が私を美少女にする約束はどうなったーッ!》

「……のはずなんだけど。次の願いが出来てしまったんだ。今度は勇者達が世界を救うのをこの目で見届けたくなった」

――これが、ずっと共にいた私ですら知らなかったカザハの本心。
それを会ったばかりの明神さんが引き出してみせた。

「歴史になんて残らなくたっていい。お荷物にはなりません」

――そりゃ重さが無いからね

「荷物運びなら喜んでします」

――実際に運ぶのは私だけどね!?

「自分では世界は救えなくたって、世界を救う手助けぐらいなら出来るかもしれない。
少しは役に立つから―― 一番近くで見届けさせてください!」

>「明神さん、悪いな」
>「誰か一人だけを選ぶなら――俺は、あいつを守るよ」

一方、ポーションを体に突き刺すという斬新な方法で回復を果たしたエンバースさんが快進撃を始める。

「そしてみんなが地球に帰った後も……もし帰らなくても先にみんながいなくなった後も……
世界を救った勇者達の物語が忘れ去られてしまわないようにずっとずっと語り続ける――幸いボク達は人間じゃないからさ!
……カケル、エンバースさんの援護を! ”カマイタチ”!」

的確に部位破壊を狙うエンバースさんから少しでも気を逸らすべく、私たちは上空から援護に入る。
カマイタチは鎌状の風の刃を放つ攻撃スキルだ。
しかし明神さんがエンバースさんをいつまでも野放しにしているわけは無く、拘束されてしまった。

>「まぁ……俺が全部やっちまっても、つまらないからな――」
>「……遺言がありゃ聞いとくぜ。いつもみたくかっこいい決め台詞言ってみな」
>「――今日のところは、これくらいにしといてやるよ」
>「新喜劇じゃねーかっ!」

真剣勝負のはずなのにコントのようなやり取りと共に、エンバースさんは今度こそ脱落。
カザハはどこか楽しそうだ。やっぱりこの二人はこうじゃないと、と思っているのだろう。
そしてこちらはまだ私達が残っているのに対して向こうはすでに明神さんだけ。
数の上ではまだこちら側が有利だ。――と思っていたのだが。明神さんは唐突に叫んだ。

>「――相棒!」

相棒って何!?と考える暇もなくみのりさんの声が響いた。

>「なゆちゃん!うちは認める!あんたがリーダーの資質を持つことを!!」
>「ジョンさん、エンバースさん、カザハちゃん、そして明神さん、あんたらも最高な仲間や!」

「みのりさん……!」

カザハは、みのりさんがなゆたちゃんをリーダーとして認めたことに歓喜した。
しかし彼女の言葉にはまだ続きがあった。

286カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2019/08/20(火) 03:00:53
>「ほやけどな、まだ足りひん!
この先に待つんは命を懸けた戦いや
そういう戦いに足を突っ込むのなら、不屈の更に先の力がいるもんや
精魂尽き果てた限界の先を超える力を!
うちが命を懸けられるだけの力を!
それを引き出せるのならっ、うちの全部を曝け出してもええ!
五穀豊穣改め天威無法、参戦するえ!
いでませい!パズズ!!!!」

「天威無法!? あれ? パズズって……リバティウムで使ってた……」

>「うちの全部、受けてみぃや!
まずはカザハちゃん、風の精霊やゆうても邪神の砂嵐は乗れるもんとちゃうで!」

フィールド全体に強力な砂嵐が巻き起こる。

「カケル――2秒だけ耐えて! 《烈風の加護(エアリアルエンチャント)》!」

私は場外に出ないように必死に抗い、カザハは私にしがみつきつつ、スペルを発動。
この砂嵐の中でフィールド内に留まるのは不可能。それならせめてポヨリンさんに置き土産を託そうという判断だ。
2秒も経つか経たないかの間に、私たちは傷だらけになって吹っ飛ばされ場外の壁に叩きつけられた。
ポヨリンさんを見てみると風をまとっている。《烈風の加護(エアリアルエンチャント)》は何とかかかったようだ。
しかし、バルゴスの腹部から現れたマゴットがポヨリンさんに今まさに必殺技を放とうとしていた。
その上、なゆたちゃんはみのりさんに取り押さえられていて身動きが出来ない。

>「こいつで最後だ、気張れよマゴット!……『闇の波動(ダークネスウェーブ)』ッ!!!」
>『グニャフォォォォォォォォォ!!!!!』

「しまったぁあああ!! 《癒しの旋風(ヒールウィンド)》にしとくべきだったぁああ!」

頭をかかえて叫ぶカザハ。
ポヨリンさんはすでに満身創痍。いくら強化したところでこの一撃を耐えられなければ意味がない。
とっさのことで適切なスペルを選んでいる暇すら無かったのだろう。
しかし次の瞬間、私たちは驚くべき光景を目にした。
拘束されていたはずのなゆたちゃんがポヨリンさんを抱き、闇の波動(ダークネスウェーブ)を避けたのだ。
その姿はさながら、戦場に舞う華麗な蝶。

「今スキルみたいなの使ったよね……!?」

人間であるはずのなゆたちゃんがスキルらしきものを使って攻撃を避けた。
一見信じがたく思えるが、シナリオ上でボスキャラとして立ちはだかる人間も
レイドモンスターという扱いになっているのを考えると、そういう事も出来るのかもしれない。

>「ポラーレさんは、快くわたしにスキルを伝授してくれたよ。
 たった一週間だったけど……コツは掴んだ。まだまだ雑だと思うけど、それは今後の課題かな……」

人間の身でありながらモンスター用のスキルをたったの1週間で習得するとは只者ではない。
※ただしスキルは尻から出る にならないか心配になってしまう程である。

287カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2019/08/20(火) 03:02:13
>「……楽しい。楽しいよ、明神さん。こんなに楽しい戦い、わたしがブレモンを始めて以来かもしれない。
 でも……終わらせよう。
 これからも、一緒に楽しい戦いを続けるために。みんなで旅をするために。
 新しい一歩を踏み出すために……この戦いに決着をつけるときだよ」

今やフィールド内に立っているのは明神さんとなゆたちゃんだけ。
それぞれの仲間達はすでに全員脱落し、正真正銘のうんちぶりぶり大明神VSモンデンキントの対決となった。
なゆたちゃんが作り出したのは、G.O.D.スライムとは異なるもう一柱のスライムの頂点。

>「不浄の源、外神――アブホース!!!」
>「地球にいたころのわたしなら、きっと明神さんに負けてた。
 みんながわたしに力をくれたから、手を貸してくれたから、わたしはあの頃よりも強くなれた……。
 そして。その中にあなたもいるんだよ、明神さん」


「明神さん、大事なことに気付かせてくれてありがとう。
明神さんが真面目に向き合ってくれなかったらずっと気付かないままだったよ。
でも……ごめんね、今はなゆを応援させてね!」

全域がアブホースに埋め尽くされた戦場を食い入るように見つめながら、カザハが言う。

>「明神さん……、これ……これが、わたしの最後の技……。
 これを最後に、わたし……倒れると思う……。
 そのとき、あなたとバルゴスがまだフィールドに残っていたなら――」
>「あなたの、勝ちよ!!」
>「――――『混沌大海嘯(ケイオス・タイド)』!!!!」
>『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――――――――――――…………!!!!』

スライムの大津波がバルゴスに押し寄せ、ついに決着の時が訪れる。
この世界の仕様上、叫んで応援しても攻撃が強くなったりはしない。
何の意味も無いと分かっていながら、それでもカザハは叫んだ。

「いっけぇええええええええええええええええ!!」

288embers ◆5WH73DXszU:2019/08/23(金) 06:14:51
【ブレイキング・ドーン(Ⅰ)】


――本当に、これで良かったのか。

脳機能による制限を受けない思考は巡る――焼死体が地面へ落下する速度よりも、ずっと速く。

――俺一人で全部片付ける方法は、あった筈だ。

ゲーマーとしての戦い方に選択肢を限定したとしても、より安全な戦術はあった。
例えばもっと時間をかけて、バルゴスのもう片方の脚を破壊してもよかった。
脚の次は、崩れた姿勢では反撃不可能な角度で腕を破壊すればいい。

――なら、何故そうしなかった。

それを実行しなかった理由は――油断でも謙遜でもない。
焼死体の迅速な撃破が困難になれば、明神の取れる戦術は限定される。
恐らくは、勝利条件を満たす為に強行的攻勢に出る――つまり、ポヨリンに狙いが絞られる。

――これは、ゲームだ。キングが堕ちれば、対戦は終わりだ。

そして、もしもそうなった場合、焼死体にはバルゴスを確実に止める手段がなかった。
最も危惧するべき展開は、大剣や瓦礫による投擲を行われる事だった。
より容易く倒せる相手を、狙い撃つ――焼死体の常套戦術。
その発想を模倣される危険性は無視出来なかった。

――だから、そうだ。これで良かったんだ。

「俺は……正しい選択をしたんだ」

そして――焼死体は、地面に強かに叩き付けられた。
全身に亀裂の走る音――右腕で体を起こそうとして、出来なかった。
体が動かない――不死者とて、四肢が打ち砕けては、ただの屍と変わらない。
焼死体に残された、唯一可能な行動は――ただ首を回して、戦況を見守る事だけだった。

『楽しいなぁ、なゆたちゃん。ずっとクソゲー呼ばわりしてきたのに、面白いじゃねえか、くそったれ』

――まだ、何か隠してるな。でなきゃ、そんなに余裕ぶっていられる訳がない。

『――相棒!』
『なゆちゃん!うちは認める!あんたがリーダーの資質を持つことを!!』

――みのりさん?馬鹿な、スケアクロウなら既に……いや、何らかの策があったと見るべきか。

『ジョンさん、エンバースさん、カザハちゃん、そして明神さん、あんたらも最高な仲間や!』

――仲間、か。そんなもの、もういらないと思ってたけど。なかなか、どうして――

『いでませい!パズズ!!!!』

「――なん……だと?」

『うちの全部、受けてみぃや!
 まずはカザハちゃん、風の精霊やゆうても邪神の砂嵐は乗れるもんとちゃうで!』

――パズズ、パズズだと?カードの殆どを消費した、このタイミングで……不味いぞ。
取り得る対策は限られてくる――最も、勝算が高い戦術は……伏兵だ。
みのりさんがした事を、こっちもそのままやり返せば――

289embers ◆5WH73DXszU:2019/08/23(金) 06:17:15
【ブレイキング・ドーン(Ⅱ)】

「出来るのか……今の、俺に……違う、迷うな……やるしかないん……だ?」

『ズルやって云ってもええんやよ?
 それが生き死にかけた戦いでどれだけ役立つかは知らんけど――』

――パズズを、アンサモンした?……違う、端からブラフだったんだ。
幻を生み出すスペルなんて幾らでもある……何故、その可能性を考えられなかった。
……思わされたんだ。あれほどのコレクターなら、パズズを蒐集していても、不思議じゃないと。

『言ったよな。――腹の中身、全部見せるって』

――クソ、戦況は……どうなってる。ここからじゃ、もう、よく見えない。

焼死体が右手に力を込める――魔物の自然治癒力は、既に最低限の身体機能を復元していた。
懐を漁る/薬瓶を取り出す/栓を抜く――ひび割れた己の胸部に突き立てる。
響く液体の蒸発音/エアロゾル化した水薬が体内に満ちる。

『……届けぇぇぇぇえええっっ!!!!』
『届きぃやあああ!!!』

そして――焼死体は、体を起こした。
よろめきながらも見上げる先には――なゆたがいた。
【闇の波動(ダークネスウェーブ)】の射線上に晒された、なゆたが。
焼死体に出来る事は何もない――ひび割れた手足では、なゆたに駆け寄る事は出来ない。

「――――マリ」

双眸に揺れる蒼炎の奥に、思い出したくもない/忘れられない過去が蘇る。
この後に何が起きるのか、焼死体は全て覚えている/そして覚えていない。
誰よりも愛した者が死んだ/だから――それに関わった全ての者を殺した。

だが――焼死体の幻視した未来は、訪れなかった。
崇月院なゆたが、蝶のように舞う/漆黒の波動を、ひらりと躱す。
その光景は――焼死体に、脳裏に焼き付く過去を忘れさせるほど衝撃的で、美麗だった。

『今度はなゆちゃんは守られるだけでなく、一緒に戦うに足る女やゆうところを見たってえな』

ふと――曖昧な意識の中で聞いた言葉の一つを、思い出す。

「……怯える必要はない、か」

『……楽しい。楽しいよ、明神さん。こんなに楽しい戦い、わたしがブレモンを始めて以来かもしれない――』

――いいや。俺には、そんな事は出来ない。
みんな最高の仲間だって、そう言ったよな――みのりさん。
だけど――だけど、俺の仲間だって、そうだったんだぜ。最高の、仲間だったんだ。

『……ね……明神さん。
 あなたはすごいよ。お世辞なんかじゃなくて、本当にすごいと思う――』

――それでも駄目だったんだ。どんなに強いプレイヤーだっていつかは負ける。
平等なルールの下で戦うゲームですら、そうなんだ。本物の戦いなら、尚更だ。

『だから。だからこそ、わたしはあなたを倒したい。あなたに勝ちたい!』

――だけど、ただ怯えていたって、仕方ないんだよな。
人は、どんな理由でも死ぬ――道を歩いていたって、何をしていたって。
それでも生きているなら、死ねなかったなら――どこかに向かって、歩かなきゃいけないんだ。

『フェスティバルはもうお開き? でも――カーニバルはまだ終わらない! まだまだ踊るよ、わたし!』



「――ああ、そうだ。仕方ないんだ。守ってばかりじゃ、あいつのあんな顔、見られないもんな」



最終局面――既に戦線から脱落した、主なき魔物の事など、誰も気にも留めない。
そんな中、眩しげに顔を伏せる焼死体は――無意識の内に笑みを、浮かべていた。

290embers ◆5WH73DXszU:2019/08/23(金) 06:19:07
【ブレイキング・ドーン(Ⅲ)】

『リバース・ウルティメイト召喚……銀の鍵をもて、ン・カイを去りて無窮の門より出でよ!』

「……もう一つの神、か。従来のG.O.Dコンボの弱点は、これで完全に消え去った訳だ」

【ぽよぽよ☆カーニバルコンボ】は必殺の戦術だった――そして、故に誰もがその死を追い求めた。
[■■■■/焼死体]もまた、神の死を想う、戦士の一人であり/その解法を見出した一人でもあった。

『自由の翼(フライト)』にて宙空へ逃れ、焼死体は思考する。
理論的には、【ぽよぽよ☆カーニバルコンボ】にも弱点は存在する。
例えば【民族大移動(エクソダス)】を広域殲滅型のスペルで無力化する。
DPS度外視の速攻で【限界突破(オーバードライブ)】を単独使用させ、除外する。
ATBを温存し【命たゆたう原初の海(オリジン・ビリーフ)】を即座に他属性で塗り潰す、等だ。

――もっとも、どれも言うは易く行うは難しの典型、と言った域を出なかったけどな。
【民族大移動(エクソダス)】は、カードを切る順番を後回しにするだけでいい。
実際、あいつは今回のデュエルでも、そのようにカードを切っている。

――【限界突破(オーバードライブ)】を単独使用させる?
【虚構粉砕(フェイクブレイク)】未満の除外スペルは、どれも即時発動型じゃない。
ステータスを底上げされた、あのスライムと、除外スペル分のゲージ喪失を背負いながら戦えるかよ。

――【命たゆたう原初の海(オリジン・ビリーフ)】の封殺にしたって、そうだ。
モンデンキントの戦闘勘なら、封殺用のゲージ二本の温存を見逃さない。
【限界突破(オーバードライブ)】からの電撃戦で、終わりだ。

――そうだ。【ぽよぽよ☆カーニバルコンボ】は構築途上でも、不完全な形に終わっても、強い。
万が一上手く妨害出来ても、バフを帯びた超ポヨリンさんとタイマンを張るか。
神未満の怪物――ヒュージスライムと対峙する必要があった。

――その不完全な時点の強さが、リバース・コンボによって更に強化された。
新たに追加された二種のコンボ・パーツは、除外を恐れずに切る事が出来る。
つまりコンボを阻止する為には――猛毒ポヨリンとの戦いを余儀なくされる。

「大したビルドだ――俺もスマホさえ壊れてなけりゃ、一戦交えたいくらい……」

『明神さん……、これ……これが、わたしの最後の技……。
 これを最後に、わたし……倒れると思う……。
 そのとき、あなたとバルゴスがまだフィールドに残っていたなら――』

「……おい、待て。フィールドに、残っていたら?お前、一体何をするつもり――」

『ゴッドポヨリン・オルタナティヴの攻撃! 圧壊せよ、原初の混沌!』
『オオオオオオオオオ―――――――――――――――――ム…………』

アブホースが、その不定形の肉体を、隆起させる。
宙空に浮遊する焼死体と、目線が合うほどに高く。

「あー……やあ、ポヨリンさん。暫く見ない内に随分とでかくなったじゃないか。
 一つ相談があるんだけど、最後の一撃、あと数秒だけ待ってもらう事って――」

『――――『混沌大海嘯(ケイオス・タイド)』!!!!』
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――――――――――――…………!!!!』

「あ、クソ!あいつ、よくも――ぐあああああああっ!?」



毒と酸の津波に飲み込まれた焼死体は――そのまま対戦フィールド外へと押し流され、気を失った。

291うんちぶりぶり大明神 ◆9EasXbvg42:2019/08/26(月) 00:59:19
バロールの空気読まないカミングアウトでなゆたちゃんがモンデンキントだとわかった時、
そりゃまあ驚いたし奇声も上げちまったけれど、それでも瞬時に納得はできた。
というか今だから言うけど、前々からうっすら気づいてたんじゃねえかと我ながらに思う。

多分ブレモン界隈でモンデン野郎と一番多く会話してきたのは俺だ。
二年くらい帰ってない実家の親よりも、外回りばっかでろくにデスクに居ない直属の上司よりも。
あいつの回りでピーチクさえずってるチルドレンズよりも、中立面したフォーラムの連中よりも。
真ちゃんは……どうかわかんねえけど。あいつそんなお喋りさんじゃないしなぁ。

だからまぁなんとなくだけれど、普段の言動からなゆたちゃんの正体には見当がついてた。
口調こそスレの投稿とは違うけど、自信と責任に満ちた物言いは確かに、モンデンキントだったからだ。
流石に中身が女子高生ってのは想定の範囲外過ぎて、全然しっくりこなかったけどよ。

俺はモンデンキントが嫌いだ。憎い、と言ってしまうことさえできる。
ネットの向こうであいつが吠え面かくのをずっと心待ちにしてたぐらいだ。
エンバースの加入に端を発するパーティの内部崩壊は、俺にとって奴を失脚させるまたとない好機だった。

だけど――これも今だから言うけど、こんな終わり方は、納得出来なかった。
俺はモンデンキントが嫌いだが、同時に他のどんなプレイヤーよりもあいつに敬意を感じてる。
憎悪と崇敬は、俺のなかに矛盾することなく同居している。

モンデンキントを倒すのは、他の誰でもない、俺であって欲しい。
俺が、俺自身の培った力で、邪智暴虐で、奴を跪かせる。そうでなくてはならない。
こんな訳分からん横槍で、勝手に自滅されてたまるかよ。
お前にはまだまだ俺の前に立ちはだかってもらう。どんな手を使っても。クーデターをぶちかましてでも。


……これまで色々自分の中で言い訳してきたけど、これで終わりだ。
全ての積み重ねは完了し、出せるものは出し尽くした。


これでいい。

例えどんな結果になったとしても――残った悔いは、もう何もない。


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

292うんちぶりぶり大明神 ◆9EasXbvg42:2019/08/26(月) 01:00:06
>「君はボクの前世に興味はないっていったけど、多分切っても切り離せない。
 ボクは小さい頃勇者になりたかったんだ――きっと昔一度世界を救えなかったから……。
 一度かどうかも分からない、もしかしたら何度も何度も失敗してるのかもしれない。
 だからこそ、世界を救う勇者に憧れたんだ」

俺の問いに、カザハ君はひとしきり奇声を上げて、そして静かになった。
静かに……どこか諦めたような面持ちで、俺に微笑む。

こいつもまた、デウスエクスマキナの例外。ループ前の記憶保持者――
バロールに比べりゃかなり断片的ではあるが、『前回』を知っているのだ。
だから、俺たちのようにあれこれ理屈をつけなくても、真っ先に世界を救おうと動けた。

あるいは。『世界』ってのは地球だのアルフヘイムだのとは無関係のものなのかも知れない。
こいつが享年何歳なのか知らんが、子供にとっては目に映る範囲が世界の全てだ。
友達か、親兄弟か、そういうミクロな世界を救おうとして、救えなかった。そういう解釈も出来る。

いずれにせよこいつの謎のモチベの高さがなんとなく納得出来てきた。
何考えてんのか分かんねえってのは撤回しよう。こいつの目的は、俺が思うよりずっと等身大だ。

抱え込んできた勇者への憧憬と、失敗してきた自分への失望。
その二つを支えにして、カザハ君は今、三たび立ち上がろうとしている。

>「今度は勇者達が世界を救うのをこの目で見届けたくなった」

折れた翼でもがいて、足掻いて……新しい光を見つけた。

>「自分では世界は救えなくたって、世界を救う手助けぐらいなら出来るかもしれない。
  少しは役に立つから―― 一番近くで見届けさせてください!」

これを安易な第二希望と、切って捨てることは俺にはできない。
挫折と絶望を前にして、それを飛び続ける為の支えに変えたカザハ君。
憧れを憎悪に塗り替えちまった俺には、どうしようもなく眩しい。

>「そしてみんなが地球に帰った後も……もし帰らなくても先にみんながいなくなった後も……
 世界を救った勇者達の物語が忘れ去られてしまわないようにずっとずっと語り続ける――幸いボク達は人間じゃないからさ!

「へっ、歴史に名を刻まれる方じゃなくて刻む方になるってか。
 最高じゃねえか。省略せずに語り継いでくれよ……うんちぶりぶり大明神の名前をよ!」

善悪の違いはあれど、俺とカザハ君が辿った心の変遷は、多分同じだ。
同じように挫折を経験して、同じように……前へ進むやり方を変えた。

だから理解できる。こいつが吐露した本心を、俺は信じられる。
ジョンと同様に――信頼に足る仲間だと、ようやく言うことができる。

さあ、問答は終わった。
肉体言語なんざ野蛮人の嗜みだと思ってたけど……今だけは、拳で語り合おうぜ。
なぁ、相棒。

>「なゆちゃん!うちは認める!あんたがリーダーの資質を持つことを!!」

背後から石油王の声が轟いた。
……そう、轟いた。いつものあの、間延びした穏やかな口調は影も形もない。
一言ごとに鼓膜を震わせるような、張りのある、声色。

>「ジョンさん、エンバースさん、カザハちゃん、そして明神さん、あんたらも最高な仲間や!」

思えば、石油王がこうして俺たちを『仲間』と呼ぶのは、初めてだったかも知れない。
言ってしまえばただの青臭い言葉。共闘関係にある者を、どう呼称するかの違いでしかない。

それでも、捉えどころのない浮雲のような存在だったこいつが、俺たちを仲間と認めた。
なゆたちゃんが、エンバースが、カザハが、ジョンが、そして俺が……認めさせた。
値千金の言葉だ。

293うんちぶりぶり大明神 ◆9EasXbvg42:2019/08/26(月) 01:00:37
>「ほやけどな、まだ足りひん!この先に待つんは命を懸けた戦いや
 そういう戦いに足を突っ込むのなら、不屈の更に先の力がいるもんや
 精魂尽き果てた限界の先を超える力を!うちが命を懸けられるだけの力を!
 それを引き出せるのならっ、うちの全部を曝け出してもええ!」

叫びにも似た宣言は続く。
腹の底から迫り上がってくる身を震わせるような快さは、多分俺が石油王と同じ気持ちだからだろう。
これが最後の正念場。俺たちが、この先の過酷な旅に、残酷な現実に、立ち向かえるかを今から決めるのだ。

>「五穀豊穣改め天威無法、参戦するえ! いでませい!パズズ!!!!」

――そして、魔神が顕現した。
石油王の虎の子、とっておきの奥の手。リバティウムでミドやん相手に渡り合った懐刀。
未完成の、それでも現行パッチにおける最強の邪神、パズズ。
プレイヤーが手にできる、唯一無二の超レイド級だ。

同時に、石油王の膨大なゲーム内資産を枯渇させ得る……諸刃の剣。
自傷も厭わず握って見せるのは、奴なりの覚悟に違いない。

>「うちの全部、受けてみぃや!
 まずはカザハちゃん、風の精霊やゆうても邪神の砂嵐は乗れるもんとちゃうで!」

パズズが出現した瞬間、フィールド内を激しい砂嵐が埋め尽くした。
一部のレイド級以上が持つパッシブスキル、フィールド属性の強制転換!
土と風の混合属性が生み出す旋風は土砂を巻き上げ、あらゆる物を地面から剥がしていく!!

結構呑気してたカザハ君も視界を塗り替える嵐の回転圧力にはビビった!
二つの属性の間に生じる圧倒的破壊空間は、歯車的砂嵐の小宇宙ッ!(意味不明)
その猛威、まさしく神の砂嵐!!

>「カケル――2秒だけ耐えて! 《烈風の加護(エアリアルエンチャント)》!」

あっという間に飲み込まれたカザハ君はあがきとばかりにスペルを手繰る。
だが健闘むなしく砂嵐の前には軽すぎるユニサスとシルヴェストルは、戦闘領域外まで吹っ飛んでいった。
フィールドアウト。HP全損とは別途の敗北条件を満たし、サブのスマホで開いてた参戦者リストからカザハ君の名が消える。

げに恐るべきはあの状況で生き残ることを即選択肢から除外し、ポヨリンさんへの支援に努めたカザハ君の即断力。
スペル効果が続く限りは、たとえ自分が倒れようとも仕事はできる……パーティ戦の鉄則だ。
カザハ君はそれを半ば直感で理解し、極小の猶予で実行して見せた。

本来ならば、カザハ君は何も出来ずに場外負けするはずだった。
石油王はそういう戦略を組んでいたし、パズズの召喚は思考を残らず奪い取るだけのインパクトがあった。
それは、カザハ君よりずっと対戦馴れしてるはずのなゆたちゃんの顔を見れば明らかだ。

>「……なんて、こと……」

そして石油王の真の狙いも、そこにあった。
なゆたちゃんが硬直を強いられる3秒――4秒。石油王が確約した万難を排す時間。
誰よりも早く動き出したのはやはり石油王であり、彼女はあろうことかダッシュしていた。

……え、マジで?
理解が追いつくより先に、消えゆくパズズの残り香めいた風を受けて石油王は飛ぶ。
跳躍の先には、動けないできるなゆたちゃんが居た。

勢いそのままに二人の女は激突し、なゆたちゃんは石油王の両腕に抱きすくめられる。
――生身を使った、拘束攻撃だ。

294うんちぶりぶり大明神 ◆9EasXbvg42:2019/08/26(月) 01:01:29
>「ズルやって云ってもええんやよ?
 それが生き死にかけた戦いでどれだけ役立つかは知らんけど
 これからの戦いってこういう事なんやで?」
>「……みのりさん……」

パズズは、戦闘行動を取れずとも召喚するだけで意味があった。
パッシブによってポヨリンさんに有利なフィールド効果は消え、カザハ君は退場。
なゆたちゃんの思考も奪い、俺が完全にフリーでトドメを決められる条件は成立した。

この吶喊。必要があるかないかで言えば、なかったはずだ。
全ての手持ちが消え、無防備な生身を晒してまで、石油王自身が飛びかかる合理性はない。
どんな時もまず自分の安全確保を徹底してきた石油王のこの行動は、不可解ですらある。

……効率厨だった昔の俺なら、そう切って捨ててただろう。
だけど今の俺には分かる。不合理を覆してなお叩き込みたい想いって奴が。
もはや疑いの余地もなく、こいつもまた、俺たちの最高の仲間。
この戦いで、真の意味での『仲間』に……なったのだ。

だったら、応えねえとな。
こいつと一緒に、なゆたちゃんに、届けねえとな。

>「届きぃやあああ!!!」
「……届けぇぇぇぇえええっっ!!!!」

二人分の号声が、マゴットの背中を押す。

>「みんながんばれえええええええええええええええ!!」

外野からジョンの声が聞こえる。
こいつもまた、この戦いで『仲間になった』一人だ。
どっちに対する応援なんだか分かりゃしねえけど、俺は勝手に受け取るぜ。

さあ、これで都合三人分の応援だ。
気張れよ、マゴット!

蛆虫の口吻から放たれた闇の波動は、一条の黒い光となって空間を貫く。
リバティウムじゃバフォメットの足元掬う程度の威力だった。
だが成長を重ね、倍以上の大きさの波動を撃てるようになった今なら、瀕死のポヨリンさんを削り切れるはずだ!

狙い過たず迫る波動。
ポヨリンさんを消し飛ばすまで秒も要らない、その刹那。
二つを隔てるように、飛び出す影があった。

「なゆたちゃんっ!?」

如何なる手品か、石油王の拘束を抜け出したなゆたちゃんが、ポヨリンの元に辿り着いて拾い上げる。
身を挺して庇う――?無駄だ、生身の人間の防御力で闇の波動を凌ぎ切れるわけがない!
ポヨリンさんごとHP消し飛ぶのがオチだ。勝負はもう……決まってる。

だが、闇の波動を見据えるなゆたちゃんの眼に、動揺や――まして諦めなんて、なかった。
なゆたちゃんの身を焦がすベルゼブブ一子相伝の必殺技が、その威力を解き放つ。
そして、波動が着弾……しなかった。

295うんちぶりぶり大明神 ◆9EasXbvg42:2019/08/26(月) 01:02:10
「んな馬鹿な……!」

なゆたちゃんはポヨリンさんを抱えたまま、波動を『避けた』。
それこそ音を置き去りにする速度で、銃弾の如く飛来する闇の波動を。
どう考えたって人間が可能な動きじゃない。いつの間に人間辞めたんだこの女子高生!

――いや、俺は知ってる。
なゆたちゃんが回避の際に踏んだステップと、その身に纏う蝶の鱗粉めいたパーティクル。
『蝶のように舞う(バタフライ・エフェクト)』――マスターのお姉ちゃん、レイド級としてのあいつが持つ固有スキルだ。

ん?え?なんで!?マジで人間辞めちゃったのなゆたちゃん!?
『虚構粉砕』や『影縫い』など、NPCの固有技能をスペル化したカードはある。
レイド級のスキルだろうがプレイヤーが使えないって道理は、確かにない。
だが、なゆたちゃんがスペルを手繰った様子はなかったし、なんならスマホを構えてすらいない。

つまり――

「――生身で!スキルを再現しただとぉっ!?」

>「明神さん……! あなたがこのアルフヘイムで、色んなものを手に入れてきたように。
 わたしも、たくさんのものを貰ってきたんだよ……!」

体力の消耗はあったのか、なゆたちゃんは荒く呼吸する。
ありえない、話ではなかった。地球ならいざしらず、アルフヘイムは剣と魔法の世界だ。
例えば生前のバルゴスは間違いなくただの人間だったが、足音を消す『忍び足』をはじめスキルを習得していた。
街の雑貨屋には生活や狩猟用途にコモンスペルが売られている。

スキルや魔法はモンスターの専売特許じゃない。
人間にもそれを習得し、扱うことは可能なのだ。

>「ポラーレさんは、快くわたしにスキルを伝授してくれたよ。
 たった一週間だったけど……コツは掴んだ。まだまだ雑だと思うけど、それは今後の課題かな……」

「ウソだろお前……何さらっとコツ掴んでんだ。お姉ちゃんもびっくりだろそれ」

これは完全に、思いつきもしなかった。
自分の肉体の貧弱さは嫌ってほど知ってるし、パートナーが居れば白兵戦は避けられると思ってたからだ。
というか今更自分の身体をどうこうしようなんて考えなかったわ!

理論上可能だからと言って、それが容易であることにはならない。
確かに真ちゃんはレッドラと一緒に肉弾戦演じてたし、直近にはジョンという実例も居る。
ダイレクトアタック対策に自分自身の戦闘能力を高めておくってのはそりゃ重要だろう。

思い付いてサっとやれちまうその行動力と学習能力は何なの?学生ってすげえな……。
石油王の拘束から抜け出したのもこれかぁ……。

だが、これもまたブレイブとしての戦い方だ。
俺が仕様の穴を突いてマジックチートを完成させたように、なゆたちゃんも彼女なりに世界を紐解いた。
そして努力を重ね、それを形にしてみせた。

>「……楽しい。楽しいよ、明神さん。こんなに楽しい戦い、わたしがブレモンを始めて以来かもしれない」

「奇遇だな。俺もたった今、もっと楽しくなってきやがった。ブレモンの楽しみ方には、まだ先がある。
 俺の知らないことが、思いつきもしないやり方が、まだまだたくさん眠ってる!
 まるで底の見えない玩具箱だ、アルフヘイムって奴はよ」

>「でも……終わらせよう。これからも、一緒に楽しい戦いを続けるために。みんなで旅をするために。
 新しい一歩を踏み出すために……この戦いに決着をつけるときだよ」

「……そうだな。ずいぶん遠回りをしちまったけれど、俺たちの戦いに幕を引こう」

296うんちぶりぶり大明神 ◆9EasXbvg42:2019/08/26(月) 01:03:17
このバトルだけでも、色んなことがあった。
酷いことも言っちまったし、クーデターなんざ銃殺刑ものだ。
だから、そろそろ終わりにしよう。バトルは手段であって目的じゃない。
決着をつけるために、俺たちは戦ってきたんだ。

>「……ね……明神さん。あなたはすごいよ。お世辞なんかじゃなくて、本当にすごいと思う。
 わたしが考えもしない戦術で、戦法で。数の有利を覆して、わたしのゴッドポヨリンを倒して――。
 やっぱり、あなたは何も持ってないなんてことない。
 あなたはたくさんのものを持ってるし……色んな人から、色んなものを貰ってきた。
 この戦いで、それがよく分かったよ」

「ありがとよ。お前がそう言ってくれるおかげで、俺は自分を認められる。
 今更謙遜はしねえよ。今、お前の目の前に立ってる男は……すげえ奴だ。
 俺と、俺に手を貸してくれた奴らは……俺の仲間たちは。世界だって救える、すげえ奴らだ」

その中にはもちろんお前も入ってるぜ、モンデンキント。いや、なゆたちゃん。
ずっと抱え込んできた恨みも、つらみも、憧れも、全部吐き出した。
モンデンキントとなゆたちゃんが、ようやく俺の中で完全に一致した。

>「だから。だからこそ、わたしはあなたを倒したい。あなたに勝ちたい!
 フェスティバルはもうお開き? でも――カーニバルはまだ終わらない! まだまだ踊るよ、わたし!」

「負けねえよ。昔の因縁なんざもう関係ねえ。バトルには勝ちたいのが……プレイヤーだからな。
 さぁ、カーニバルの続きをしよう。俺たちで、最高のフィナーレを踊ってやろうぜ!」

俺となゆたちゃんは同時に、己の武器たるスマホを構えた。
これが最後の打ち合いになると、直感ではなく実感があった。

バルゴスの修復は済んでる。残りのATBゲージは2本×ダブルで計4本。
リビングレザー・ヘビーアーマーの操縦に2本使うから、撃てるスペルは2発切りだ。

なゆたちゃんのATB残量は測れないが、ぽよぽよコンボで一度使い切ったと見て良いだろう。
そのあとエンバースが稼いだターンを考慮しても、最大で3本までしか溜まってないはずだ。

ぶりぶりコンボの最大の利点は、消費するスペルが極めて少ないこと。
代わりにATBゲージを大量消費するわけだが、バトル終盤ではこの差が活きてくる。
手札のほとんどを使ったなゆたちゃんに対し、俺のデッキにはまだ余裕があるのだ。

取り得る戦術の幅――段違いのこいつを活用して、トドメを決める。
さあ考えろ。俺の残弾で、どうすりゃあいつに王手をかけられるか――

眼前、なゆたちゃんもまたスマホを手繰る。
……俺は眼を疑った。なゆたちゃんの手にあるスマホが、『2台』に見えたからだ。

え。
ちょっと待て。錯覚じゃない。あいつスマホ2台持ってやがるぞ!
ミハエルや石油王みたくサブ機を隠してたのか?いや、参戦者リストに石油王以外のサブ垢は存在しない。
そして二台目のスマホは、一台目のものと瓜二つだった。

――まさか。

>「明神さんが『万華鏡(ミラージュプリズム)』でスマホを増やした戦術。
 真似させてもらったよ……。使える戦術は真似る、それがブレモンの基本でしょ?」

「こ、この女!他人の戦術パクりやがった…………!!!!」

297うんちぶりぶり大明神 ◆9EasXbvg42:2019/08/26(月) 01:04:46
『分裂』によるスマホの複製。
それはまさに、俺が使ったマジックチートの基本骨子だ。

信じらんねえ!こいつ!月子先生ともあろうお方が、クソコテの技パクってんじゃねえよ!
まぁそもそもポヨポヨコンボパクったのは俺だけども!俺だけども!!!
でもそれはこの際棚に上げよう!俺は誰よりも自分に甘い男!!!

>「エンバースが稼いでくれた時間と、今までの時間。それでわたしのATBは3本『ずつ』溜まってる。
 いくよ――明神さん! この場にもう一度『神』を喚ぶ!!」

「ハッタリだっ!ゴッポヨ降臨のコンボパーツはとっくに品切れ、神なんざ降りてくるわけがねえ!
 行けバルゴス!死に体のポヨリンさんを神の身許に送り返して差し上げろ!!」

バルゴスに指示を出しつつ、片手でスペルを手繰る。
速攻で決めるなら、Dotには頼れない。俺の持てる最大の瞬間火力を――

>「『命たゆたう原初の海(オリジン・ビリーフ)』プレイ!
 『限界突破(オーバードライブ)』プレイ!
 『毒散布(ヴェノムダスター)』プレイ!
 『麻痺毒(バイオトキシック)』プレイ!
 『形態変化・液状化(メタモルフォシス・リクイファクション)』プレイ!」

「なっ……デバフを自分自身にだと!?」

『毒散布』も、『麻痺毒』も、対象を指定してバッドステータスを与えるデバフスペルだ。
やはりハッタリ、時間を稼ぐつもりか――だが、二つのスペルはバルゴスをタゲってなかった。
対象は、ポヨリンさん自身。

知らない。こんなスペル回し、Wikiはおろか対戦動画にも出てきやしなかった。
自慢じゃないが俺はモンデンキントの出てくる動画には全部目を通してる。
あいつのフィニッシュムーブはポヨポヨコンボ、それは揺るがないはずだ。

――だがそもそも、この2つをモンデンキントがデッキに入れてる理由はなんだ?

デバフで対応力を増やすって理屈はまぁ分かる。実際ミハエル戦でも活躍したもんな。
でも、あいつは典型的なコンボアタッカーだ。貴重なデッキ枠に単独スペルを入れる合理性はない。

それだったらパーツを増やして、ゴッドポヨリンさんを2回分召喚できる編成にしたって良い。
今回俺がやったように、コンボの成立を阻害するメタ戦術だってあるのだ。
モンデンキントがそれを理解していないはずがない。

ゴッポヨには、召喚した時点で勝負を決められるだけの戦闘力がある。
コンボデッキなら、コンボの成立と運用に主眼を置いてレシピを組むべきだ――

そう。なゆたちゃんのデッキはコンボデッキ。
回復なんかの例外はあっても、基本はコンボパーツで構成されている。
であれば、二つのデバフスペルは……

>「『融合(フュージョン)』プレイ!
 リバース・ウルティメイト召喚……銀の鍵をもて、ン・カイを去りて無窮の門より出でよ!」

――別ルートでの、コンボパーツ。

大気が震える。何かが『来る』。
液状化したポヨリンさんのもとに、散らばった無数のスライム達が集まっていく。
ゴッドポヨリンとはまるで違う様相の、異形――その名を、なゆたちゃんが呼んだ。

298うんちぶりぶり大明神 ◆9EasXbvg42:2019/08/26(月) 01:06:29
>「不浄の源、外神――アブホース!!!」
>『オオオオオオオォォォォォォォォ――――――――――――ム…………』

それは、『海』だった。形を得た、酸と毒の海。
ラブクラフト先生が草葉の陰から助走つけてぶん殴りそうなくらい冒涜的な神威。
GODスライムと対を成す、スライム系最上位種にして、レイド級モンスター。

――外なる神、『アブホース』。

「2つ目の、レイド級召喚コンボ、だと……」

ゲームですら見たことがない、完全初見のレイドコンボだ。
こんなものが、こんなものを、隠し持ってやがったのか……!?

いや、そうじゃない。
モンデンキントは有力なプレイヤーだが、最強じゃあない。ランキングの頂点を獲ってるわけじゃない。
上位ランカーにはこいつを真っ向から下せるプレイヤーだっている。
さしものゴッドポヨリンさんも、相性次第では普通に負けることだってあるのだ。

>「地球にいたころのわたしなら、きっと明神さんに負けてた。
 みんながわたしに力をくれたから、手を貸してくれたから、わたしはあの頃よりも強くなれた……。
 そして。その中にあなたもいるんだよ、明神さん」

ポヨポヨコンボはその人気から研究され尽くして、すでに対処法だって見つかってる。
洗練を重ねているにせよ、日進月歩のソシャゲの世界じゃいつメタが変遷してもおかしくない。

だから、こいつは新しい試行錯誤を始めたのだ。
エポックメイキングをこの国にもたらしてなお、飽き足らず!さらなる力を磨き上げた!
『ポヨポヨコンボ・リバース』は、モンデンキントが積み重ねてきた進化の証明にほかならない!!

「ふひっ」

変な声が出た。
何よりも先に心に満ちたのは、純粋な称賛。
すげえな、モンデンキント。ここまで上り詰めて、まだ成長の途上だってのかよ。

>「明神さん、大事なことに気付かせてくれてありがとう。
 明神さんが真面目に向き合ってくれなかったらずっと気付かないままだったよ。
 でも……ごめんね、今はなゆを応援させてね!」

フィールドの外からカザハ君が言葉を投げる。
見てるかカザハ君。これがなゆたちゃんだ。お前が間近で見たいって言ってた、勇者の姿だ。

「この戦いを覚えておけよカザハ君。最強のブレイブ、その勇姿をな。
 こいつを語り継ぐのはきっと、お前でなきゃならねえ」

>「明神さん……、これ……これが、わたしの最後の技……。
 これを最後に、わたし……倒れると思う……。
 そのとき、あなたとバルゴスがまだフィールドに残っていたなら――」

>「……おい、待て。フィールドに、残っていたら?お前、一体何をするつもり――」

ふわふわ浮かんだ焼死体がなんか喚いている。
ああそっか、こいつアンサモンもクソもねえからずっとフィールド内に残ってたのか……。

「わはははは!ざまぁねえな焼死体!お前にはFF無効なんてねえかんな!
 俺と一緒に仲良くあの毒津波に……呑まれ……呑まれ……」

299うんちぶりぶり大明神 ◆9EasXbvg42:2019/08/26(月) 01:08:03
ギチギチと音がしそうなくらいぎごちなく首を回す。
引き潮のように粘液が引いていくのと同時、鎌首をもたげるアブホースの肉体。
津波――そう形容するほかない、暴力的な巨大質量。

>「あなたの、勝ちよ!!」

「うおおおおお!バルゴス!バルゴス戻ってこい!!俺を!護れええええええ!!!!」

スマホを手繰り、攻撃指示を中断してバルゴスを退かせる。
だが遅い。軽量な革鎧のはずが、その疾走は遅々として進まない。
HPが急速に減ってる。毒と酸によるDotダメージだ。

バルゴスの身体の大部分を占める革鎧は、当然生き物の革、タンパク質で出来ている。
硫酸で皮膚が爛れるように、強い酸はタンパク質を変性させ、ボロボロにしてしまう。
ほとんど自壊しながら走るバルゴス。彼我の距離は、永久のように長い。

>「ゴッドポヨリン・オルタナティヴの攻撃! 圧壊せよ、原初の混沌!」

「お、俺が悪かった!話し合おう!一旦アブホース君お座りさせて!な!な!?
 ごめん!ごめんて!ごめんって言っとるがや!!」

>「――――『混沌大海嘯(ケイオス・タイド)』!!!!」
>『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――――――――――――…………!!!!』

大口開けたアブホースが、食らいつくように倒れ込んで来る。
健気にも俺を助けんと走っていたバルゴスが、まず飲み込まれた。

じゅっ……とあまりにも情けない音を立てて、準レイド級の外装が消し飛ぶ。
積み重なったDotにトドメを刺されて、一瞬でHPが全損したのだ。

スペルを手繰る。どうすりゃ良い?
「奈落開孔(アビスクルセイド)」――あの巨大質量だ、吸い込み切る前に俺を飲み込むだろう。
「座標転換(テレトレード)」――このフィールドのどこに逃げ場がある?
「工業油脂(クラフターズワックス)」――この状況で脂撒いて何になるってんだ。

あれ?もしかして俺、詰んでいるのでは?
そしてあの津波が直撃した場合、俺が喰らう緩和ダメージはどんなもんになるんだろう……。

「あ、謝ってんだから許せよ!謝ってんだから許せよ!!」

押し寄せる津波の轟音の中、非難の声が届くはずもなく。
迫ってくるアブホースと、至近距離で目が合った。

ああ……眩しい。
自然と目を眇めてしまうのは、眩しいからに違いない。

モンデンキント待望の新作コンボだ。
きっとなゆたちゃんはこいつに、華々しい舞台でデビューを飾ってほしかったことだろう。
だけど彼女は、こんな野良試合でそれを使った。……使ってくれた。

言い訳のしようもないくらい、完膚なきまでに、自身の強さを証明するために。
俺たちの覚悟に、応えるために。

「――くそ。やっぱ強えな、モンデンキント」

最後にスペルを手繰って、そこで俺の意識は途絶えた。

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

300うんちぶりぶり大明神 ◆9EasXbvg42:2019/08/26(月) 01:08:40
目はすぐに覚めた。五体投地で石畳の上に転がっていた。
そして覚悟していたようなダイレクトアタックによる苦痛は、なかった。
多分麻痺毒で痛覚が馬鹿になってたからだと思うんですけど。名推理。

焼死体は押し流されて場外に運ばれていったが、俺はまだフィールドに残ってた。
最後のスペル、『濃縮荷重(テトラグラビトン)』で重量を増し、水圧に耐えたのだ。
バルゴスからベイルアウトしたヤマシタが俺を抱え、剣を地面に突き刺して水流を凌いだ。

悪あがきだった。
なゆたちゃんが言葉通りに限界を迎えたのなら、あとはどっちが先に倒れるかの勝負だ。
俺のHPが尽きるのが先か、なゆたちゃんの精神力が尽きるのが先か。
問答無用で敗北の場外負けだけはしたくなかった。

ボロボロになったヤマシタの輪郭がラグり、燐光となって消えていく。
HPが1まで削られきったことによる強制アンサモン。
これで俺の敗北条件は満たされた。

あとはなゆたちゃんが倒れているかどうかだ。
俺はとっくにHP尽きてるけど、両者が倒れているのなら、あとは判定勝負になる。
コンマ1秒でも俺の方が長く生き残っていれば、俺の勝ち。これもなゆたちゃんの言葉どおりだ。

だけど――まぁ、結果はもう見なくたってわかってた。
ここでぶっ倒れるようなヤワな女が相手なら、俺だってここまで本気にならなかったよ。
採光窓から差し込む光に照らされて、なゆたちゃんはフィールドに立ち続けていた。

お前は強い。俺よりも……誰よりも。
全部出しきった結果、力及ばず負けたのなら、もう議論を差し挟む余地はない。
俺が問うた、なゆたちゃんのリーダーシップは……十分、見せてもらった。

「俺の負けだ。認めるよなゆたちゃん、お前が俺たちのリーダーだ。俺達を引っ張ってほしい」

対戦終了の合図と共にスマホにリザルトが表示される。
敗北。その二文字が、今だけは輝いて見えた。
役目を終えた対戦フィールドが解除され、半透明のドームが晴れていく。

「クーデターは失敗した。悪いな石油王、戦犯に巻き込んじまってよ。
 主犯は俺、うんちぶりぶり大明神だ。煮ても焼いても美味くはねえけど、処断はパーティリーダーに任せる」

301明神 ◆9EasXbvg42:2019/08/26(月) 01:09:38
そこまで言って、俺はかぶりを振った。
首が動く。対戦モードが終わって麻痺が解除されたんだな。
すげえ虚脱感に見舞われてるから、まだ飛んだり跳ねたりはできそうにないけれど。

「カザハ君。お前がこの先も、語り手として俺達と旅をするのなら……うんちぶりぶりじゃ締まりが悪いよな。
 みんなも覚えといてくれ。――瀧本俊之(としゆき)。カザハ君が歴史に刻む、俺の名前だ」
 
明神の名は、俺がこのパーティに対して引いてた最後の線だ。
本名を明かしちまったからにはもう後戻りはできない。こいつらと、最後まで仲良しチームをやるしかない。
自分で逃げ道を塞いじまったってのに、俺はどうにも心晴れやかだった。

「本名なんて呼ばれ慣れてねえから、今後も明神って呼んでくれりゃ良い」

ようやく四肢がまともに動くようになった。
起き上がって、身体の調子を確かめてから、ひとつ咳払いをした。

「寄り道かました俺が言うのもなんだけど、俺達の戦いはマジでまだ始まったばかりだ。
 明日にはここを発って、アコライト行って、先輩ブレイブの救援クエストをこなさなくっちゃならねえ。
 こっから先は対戦じゃない。命をやり取りする実戦だ。誰一人死なせることなく……世界を救ってやろう」

だから、その、なんだ。
どうにも歯切れが悪くって、俺はもう一度咳払いをする。
長い社畜生活で死にかけの表情筋に活を入れて、ぎごちなく笑顔を作った。

「――なゆたちゃん、クエストに行こうぜ!」


【敗北】

302五穀 みのり ◆2zOJYh/vk6:2019/08/31(土) 23:59:37
みのりはあっけにとられその背中を見ていた
光の粒を纏ったような煌めく背中を

しがみついていたのはなゆたの胴体
しかし当然ただくっついているだけではなく、スマホを操作させないように常にスマホを持つなゆたの手に手を伸ばしていた
故にこれはスペルによる脱出ではない
いいや、ここに至ってそんな事にあてるATBが残っているとも思えない
にもかかわらずどうやって?

その答えは、ポヨリンを抱き、マゴットの闇の波動が眼前に迫ったその瞬間に理解できた
「流麗やわぁ……」
思わず零れたその言葉を残しみのりはそこから姿を消した
バロールにより観客席へと転移させられたのだった

「ふふふぅ〜、ただいまさん〜」
滂沱するジョンに笑顔で声をかけ、用意された椅子に腰かけ、紅茶を手にする
「バロールさんも、サービスありがとなぁ」
本来パズズがクリスタルを消耗しつくしてアンサモンされた時点でみのりは強制送還されていなければいけなかった
しかし実際にはなゆたが抜け出し、そして『蝶のように舞う(バタフライ・エフェクト)』によりなゆたがポヨリンを救うところまで見届けさせて貰えた
これはバロールからのサービスという事なのだろうから

紅茶を手にしたのはみのりの戦いが暗躍を含め終了し、そしてバロールに気を許した事を意味していた
全てをやりつくした今、あとは二人の戦いを見守るだけだ


この後繰り広げられる明神となゆたの死力を尽くし、精魂尽き果てた限界の先で繰り広げられる戦い
なゆたの繰り出す新コンボ
どれも目を見張るものであったが、しかしそれはあくまでブレモンの戦略、ビルドの内の話し

みのりにとって考えるべきところはその外側にあった
明神の死者との対話、なゆたの使った煌めく月光の麗人(イクリップスビューティー)の専用スキル『蝶のように舞う(バタフライ・エフェクト)』だ

どちらも地球の現実世界の人間ができる事ではない
にもかかわらずやってみせた
それは世界の在り方を考える事を越え、このブレモンの世界の一部として存在を同一にしているという事なのだから

その事については大いに考えるべきところではあるが、今は二人の決着を静かに見守るのであった

カザハとカケルは吹きとばされ、エンバースは毒と酸の津波呑み込まれた
明神も混沌の大海嘯に飲み込まれながらも踏みとどまった明神もついには倒れた
最後に破壊されつくされ一周回って綺麗な更地となった試合会場に立っていたのはなゆた一人になったのだ

303五穀 みのり ◆2zOJYh/vk6:2019/09/01(日) 00:00:20
決着と共に空になったティーカップを置き、となりのジョンに声をかける

「ジョンさんどうやった?
2週間も牢屋に繋がれていた間、うちらはこういう戦いをしてきたんよ
ジョンさんは兵隊さんやし?体は丈夫やろうけど、この世界での人間の上限ってのはどういうもんか、わかってくれはったかねえ」

勿論みのりが言うまでもなく、それはジョンが身をもって痛感している事だろう
だからこそ、みのりはその先を見据えて
「タンクやってたうちからの私見なんやけど」
と言葉を続ける

タンクは誰よりも早く接敵し、誰よりも多く攻撃を受け、なおかつ誰よりも長く立っていなければならない
アタッカーが全リソースを攻撃に割り振るという事は防御が脆いという事なのだから
タンクが倒れる事は無防備な味方を攻撃に晒させるも同義
勿論倒されることもタンクの仕事の一つではあるが、無茶しての玉砕はそれと同一ではないという事を
自分を含め皆、味方の犠牲を必要な事と割り切る事は出来ないだろうし、もし犠牲になれば心理的負担が大きく却ってマイナスになる
それでは本末転倒なのだ
という趣旨の言葉を終え

「ほやから、無茶せんと戦える方法考えたってえな」

と締めくくるのであった
言葉を終えたところで、「それじゃ」とジョンと共に試合会場へと駆け出すのであった
戦い終えた皆と喜びを分かち合うために

「お疲れさまー!やっぱ強いなぁ!おめでとさん〜!」

精魂尽き果て立っているのもやっとな様相のなゆたを強く抱きしめる
先ほどの妨害のためのだき付とは違い、感謝と慈しみをもっての抱擁だった
ひとしきり抱きしめた後、パンパンとなゆたの両肩を叩き、まじまじと見つめる

「ふふふふ、なゆちゃん、いい子ちゃん過ぎるところがあるとは思ってたけどなぁ
いい子ちゃんのまま、汚いうちを越えていきおったわ」

なゆたは純粋で前向き
様々な事に思いを巡らすことができるが、あくまで人の良さを抜けきれない
それは強さでもあり、同時に弱さにもなる
悪意や汚さに染まっていないが故にそこを突かれると脆いと思っていた、が
伏兵不意打ち騙し討ち
明神の精神的な攻撃も含め、全てを跳ねのけて見せたのだから

>「クーデターは失敗した。悪いな石油王、戦犯に巻き込んじまってよ。
> 主犯は俺、うんちぶりぶり大明神だ。煮ても焼いても美味くはねえけど、処断はパーティリーダーに任せる」

なゆたを祝福していると、起き上がった明神が敗軍の将の弁を述べる
完敗したが、その表情を晴れ晴れとしているようだ

「ふふふ、巻き込んだやなんて安ぅみられたもんやねぇ
うちはうちの判断で明神さんに乗っかっただけやで?
お陰で見たいものは全部見れて満足やわぁ」

みのりが見たかったもの
PTメンバーの戦力、思惑、覚悟
これらは戦いの中で明神が問いかけ引き出したものだ
お陰で二つを除いて手間をかけずに見る事が出来た

304五穀 みのり ◆2zOJYh/vk6:2019/09/01(日) 00:01:17
見たかったものの残り二つのうちの一つは今みのりの目の前ですっきりした笑顔を浮かべている
そして最後の一つは……これから見られるであろう
PT全員の大団円で迎える笑顔なのだから

>「カザハ君。お前がこの先も、語り手として俺達と旅をするのなら……うんちぶりぶりじゃ締まりが悪いよな。
明神が向く方向にはカザハとカケルが降り立っていた

「最初何処から飛んできたかと思うてたけど、カザハちゃんもカケル君も大層な話になってたんやねえ」

ここで始めてみのりはカケルの名前を呼んだのだ
今までみのりはカザハはシルヴェストルとなった元人間と認識していたが、カケルについてはパートナーモンスターのユニサスとしか認識していなかったのだ
それもそのはず、カケルの言葉はカズハにしか聞こえないので、元人間だとは気づいていなかったが、バロールに教えられてようなく気付いたのだった
そして見届けたい、語り継ぎたいという言葉は二人の意志としてみのりに刻み込まれた

「空から着地地点にしてみたり、馬刺しにしたらおいしそうとか家畜を見る目で見てて堪忍やえ〜
これからは人としてみんなとよろしくやで〜」

みのりにとってパートナーモンスターはあくまでモンスターでしかない
手段の為の道具であり、優先順位は人、プレイヤー>モンスターの順位は覆らない
故に必要とあれば躊躇なく犠牲にするのだが、ここに至りカケルはその範疇から離れた
すなわちカケルもまたカザハと同じように仲間として認めたのであった

カケルの馬の顔を撫でた後、気絶状態から回復したエンバースが意識回復したのに気づき皆に知らせる
全員が揃ったところで、大きく息を吸い、満面の笑顔で



「それじゃ、みんな疲れたやろし、みんなで乾杯しよや〜!
バロールはん、お願いするわ〜」



ここにきてようやく王都で歓談が始まるのであった

呑み、笑い、語らい称え食べる
そんな中でみのりはエンバースの隣にいた

「ふふふふ〜ん
どうやった?うちらのリーダーなゆちゃんの強さ、見てくれはった?
凄かったやろ〜?」

まるで自分の娘を自慢するかのようににんまりと笑みを浮かべながらエンバースに尋ねる
そしてエンバースを頭からつま先、右から左と見回し首をかしげる

「ところでなぁ、エンバースさんはうちらの中で唯一ブレイブやあらへんやんなぁ
さっきの戦いも結局はブレイブ対策ができている燃え残りとしての戦い方やん?」

ブレイブ、それは元人間という意味だけでなく、スマホを操りパートナーモンスターとしての戦い
それがエンバースにはできない
なぜならばスマホを持っていないから
だから……

「うちはエンバースさんのブレイブとしての戦い方も見てみたいんやわ
というかこれから先、そちらの力も必要になるやろうやよってな」

そう言ってみのりは赤いスマホをエンバースに差し出した
それはパズズの入っていたみのりのサブスマホだった

305五穀 みのり ◆2zOJYh/vk6:2019/09/01(日) 00:02:59
みのりはスマホを二台持っているのは一人レイドをするため
またこちらの世界に来てからはATBの制限に縛られずに「手数」を増やす為である

タンクの仕事はATBをためてコンボを組み立てるものではない
なぜならば、仲間がATBを溜める時間を稼ぐのがタンクの仕事なのだから
故に単発でのスペルやバインドによる反射を主体とし、ATB自体それほど必要としないのだ
勿論隠し玉として、一台のスマホ、本来のATBゲージの溜まりではありえないカードの運用ができるという側面もあったのだが、既に二台目のスマホの存在が明らかになっている以上その意味は薄れるのだ

故にみのり自身が二台スマホを持っているより、エンバースがブレイブとしての力を取り戻すことがPTの総力のプラスとなるとの判断だ

「IDとパスワードは覚えてる?
忘れてるなら思い出したらつかいぃな
うちのサブスマホ、みんなこっちに移してすっからかんやし、エンバースさんが使った方がええやろ」

緑のスマホを振りながらそう言ってエンバースにスマホを押し付けると、全員に向き直り、大きく息を吸う

「さ、大団円で次はアコライトゆうところなんやけどな……
うちは王都に残ろうと思うてんねん」

それはこれからの戦いについて見据えた上での判断であった
PT内戦で多くのものを得たが、そもそもの世界の浸食、『機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)』、ニヴルヘイムの動向、ローウェルの思惑
判っていない情報が多すぎ、それを収集し分析、伝達する必要をかんじていたからだ

「だってこの魔王様、色々とガバガバの穴だらけで見てられへんのやもん
兵站管理や情報伝達とか、この人に任せてたら前線に出るうちらは命がいくつあってもたりひんわ
ほやからうちが王都でそこらへんお手伝いさせてもらおうと思うてなぁ」

そう肩を竦めて見せた
そして明神にそっと

「もううちのようなブレーキがおらへんでもこのPTは崩れへん、やろ?」

と囁いた後、ジョンの方を叩き

「タンクはジョンさんにお願いするわー
戦い見させてもろうたけど、有望株や
うちの太鼓判付きや、安心してええよ!」

と満面の笑みを浮かべるのであった

王都に残る決断
それは口に出して説明した通りなのだが、それだけではなかった

この戦いで自分に足りないものを見せてもらったと感じていた
それはモンスターとなったカザハ、カケル、エンバース、そして死者との対話を成した明神、モンスターとスキルを習得したなゆた
この世界との向き合い方、この世界との同調の仕方という面において自分はまだこの世界の外側に立っていると感じたのだから

自分も内側に踏み込むために、より詳しくこの世界の事を知らなければならない
そしてアルフレイムの中枢である王都、その頭脳ともいうべきバロールの元でそれは最も効率よく得られるとの判断からだった

これから王都より様々な分析とそれを元にした支援、伝達、そしてバロールの弟子として魔術を学んでいくことになるのだがそれはまた別のお話
今は皆と健闘をたたえ合い、喜び、楽しむのであった

306ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2019/09/03(火) 12:26:41
>「ええー? 彼女たちは単なるメイドでしかないよ。要人警護の護身術程度なら使えるけれど、とても実戦向きじゃない」

と、バロールにあっさり首を横に振られてしまった。

「そこをなんとか!ちょっとした練習相手だけだから!」

>「どうしてもって言うのなら、王宮の近衛騎士の方がいいんじゃないかなぁ。
  でも、その必要はないと思うよ? なぜなら、君たちは明日にはアコライト外郭へ赴かなければならない。
  手合わせなんかじゃない、正真正銘の実戦だ。そして……君が十全に実力を出せるのも、手合わせなんかじゃない実戦の中。
  絶体絶命の火事場でこそ、君の個性は輝くと私は視ているんだけれど、ね」

魔法が使える相手じゃないと意味がない。
前に牢屋に連れて行かれた時に少し試してみたが僕が望む結果が得られる相手だとは思えない。
あまりしつこくしてもしょうがないので、素直に今日はこの世界の知識をすこしでも得る事に専念することにした。

「さて中の様子はっ・・と」

フィールドの中に視線を戻すと、バルゴスの攻撃が今まさになゆを襲わんとしていた。
GODポヨリンさんを剥がされ、みのりに拘束され、僕じゃなくても終わった、だれしもがそう思うだろう。

だが僕は彼女がランカーで、強者である事を再確認させられてしまう。

明神の手によってコンボを中断され、みのりの手によって回避不能の状況に追い込まれた。
他の二人は戦闘不能、だれがどうみても詰みの状態から彼女は、なゆは。

>『蝶のように舞う(バタフライ・エフェクト)』。

>「明神さん……! あなたがこのアルフヘイムで、色んなものを手に入れてきたように。
  わたしも、たくさんのものを貰ってきたんだよ……!」

絶望的な状況を、攻撃を華麗に避けてみせた。
身体能力での回避ではない、蝶の名に恥じない・・・その舞いで。

>「ポラーレさんは、快くわたしにスキルを伝授してくれたよ。
  たった一週間だったけど……コツは掴んだ。まだまだ雑だと思うけど、それは今後の課題かな……」

スキルを伝授?人間でもゲームのようにスキルを使えるのか?
だとしたらこの世界の人間はトンデモ人間ばっかりなのか?
それとも一週間で不完全とはいえ習得したなゆが凄まじいのか?
やはりこの世界には強い人間が、モンスターたくさんいるという事、なゆはそれを目の前で証明してみせてくれた。

「本当にすごい・・・」

一方、僕は語彙力を完全に失っていた。

307ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2019/09/03(火) 12:27:01

そして、なゆはスライムを下ろすと不敵の笑みを浮かべる。
明神がやった掟破りのスマホ2台持ちを実行し、スライムを強化していく。
GODポヨリンさんではない禍々しい色のスライムでありながらスライムじゃない、そんな存在ができていく。

スライムは一番最初にだれでももってるモンスター、だから弱い。

wikiにはそう書いてあったし、それをだれも疑う事はない。
だがそれに異を唱えるものがいた、最初からいるから弱いは違うと。
そのプレイヤーは多くの人に笑われたらしい。

【なんでスライムなんか】【スライムを貴重な素材を使って強化している】【レベル高いスライムなんて無駄なのに】

後ろ指を差されながらもそれでもまっすぐに突き進んだ、そのプレイヤーは後にランカーと呼ばれるほどに強くなった。

>「『融合(フュージョン)』プレイ!
  リバース・ウルティメイト召喚……銀の鍵をもて、ン・カイを去りて無窮の門より出でよ!」

そして今、僕はそのランカーの実力を、底力を、執念を目の当たりにしている。

>「不浄の源、外神――アブホース!!!」

そしてなゆの掛け声と共に、スライムの『神』が降臨した。

>『オオオオオオオォォォォォォォォ――――――――――――ム…………』

>「明神さん……、これ……これが、わたしの最後の技……。
  これを最後に、わたし……倒れると思う……。
  そのとき、あなたとバルゴスがまだフィールドに残っていたなら――」

>「あなたの、勝ちよ!!」

アブホースという名の『神』はなゆの言葉に反応して身を震わせる。
それは、これから全てが終わるという事を示していた。

>「――――『混沌大海嘯(ケイオス・タイド)』!!!!」
 
>『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――――――――――――…………!!!!』

フィールド全体がまるで津波のように押し寄せる神によって蹂躙される。
怒り狂う神の圧倒的な質量はあらゆる物を破壊し、その体に含まれる毒で犯し、全てを滅ぼすだろう。

「神の名に恥じない・・・あれがスライムの最終系・・・?」

フィールドの外にいる僕でさえ、恐怖を感じるそれは、目の前で対峙した者にどれだけの恐怖を与えるのだろうか。
神の前ではあのバルゴスでさえも小さな存在に見えてしまう。

「これがランカーの実力・・・」

もし自分がフィールド内に残っていたら、もし自分にあの殺意が向けられていたら、そう思うとゾッとする、するが。

同時に向けられてみたいと思う自分も確かに存在していた。

308ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2019/09/03(火) 12:27:26
フィールド全体を飲み込むその攻撃は止まることなくフィールド内で荒れ狂っている。
そこでとある事に気づいた。

「エンバース?エンバースは!?」

ルールが適応されている他4人と違って、エンバースはその適応内ではない。
という事はこの神の攻撃を、エンバースは軽減されずにもろに食らっている可能性がある。

エンバースを必死に探す、よくみると濁流に飲まれその中でぐったりしているエンバースが見えた。

「エンバース!聞こえるかエンバースしっかりしろ!」

ぐったりとしているエンバースから返事はなく、ただ流されるだけのエンバース。

まずい!このままだと焼死体が溺死体に!・・・ってそんな事考えてる場合かー!。

じょんは こんらんしている!

テンパリすぎてもはや正常に思考できていないジョンを横目にエンバースは淡々と流されていく。
そして勢いよくフィールドの外に向って吐き出された。

「ちょ・・・!」

勢いよく射出されたエンバースをキャッチし、すぐにバロールの元に走る。

「バロール!エンバースを見てくれ!早く!」

どうやら命に別状はないらしい、今回の対決のなゆ陣営のMVPはよくも悪くもエンバースだ。
彼がいなかったら彼女は立ち直ることすらできず、明神に倒されていただろう。
途中ちょっと危ないところもあったが・・・それでもエンバースの功績は大きい。

魔法の効果もあってか、エンバースはすぐ意識を取り戻した。

「見えるかいエンバース・・・いやナイト様・・・いやこの場合は王子様かな?
 君の姫様は君のおかげで立ち直って、まっすぐ前を向いて歩き出したんだ」

ちょっとくらい茶化しても許されるだろう。

エンバースはフィールドにいるなゆを見つめたまま振り向かない。
どんな顔してるのか、どんな思いで見つめているのか、それはわからない。

「君が、どこを見て、何を想ってあんなになゆを過保護にしてたのかは、僕には分らない、でもね」

明神を圧倒し、決意に満ち溢れたなゆを指差す。

「そろそろ対等な仲間として、扱ってもいいんじゃないかな?」

出すぎた真似だっただろうか、お前に俺がなにが分る、と。
たしかに僕にはわからない、彼との付き合いも出会って数時間であるし。
エンバースがどんな経由で人間を止め、アンデットになったのかもわからない、けど。

「今のままじゃなゆが・・・君が想ってる誰かが・・・かわいそうだよ」

軍人になった時、色々な人を見てきた。
幸い僕自体は戦争に出向くような事にはならなかったが、色んな演習をする内に色んな人と出会い、話してきた。
中には戦争で、妻と子供を失った人もいた、彼は・・・今のエンバースによく似ていた。

彼は歪んだ心で正義を執行し続けた、でも結局歪んだ正義はどうがんばっても歪になる。
幻想に縋り付く方も、縋りつかれる方も、最終的に二人一緒に壊れてしまう、二人にはそんな風にはなってほしくなかった。

309ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2019/09/03(火) 12:27:48

>「ふふふぅ〜、ただいまさん〜」

と、軽い感じで帰ってきたのはみのりだった。
さきほどまであれほど白熱した戦いを繰り広げられていたにも関わらずそれを感じさせない。
しかし顔は満足感に溢れていた。

「おかえり、スッキリしたかい?」

みのりはにこっと笑うと、椅子に座る。

「それはよかった」

紅茶を飲みながら、みのりは僕にこう言う。

>「ジョンさんどうやった?
  2週間も牢屋に繋がれていた間、うちらはこういう戦いをしてきたんよ
  ジョンさんは兵隊さんやし?体は丈夫やろうけど、この世界での人間の上限ってのはどういうもんか、わかってくれはったかねえ」

この世界の人間の、モンスターの基準の凄さは凄まじい。
元の世界の野生の動物達や世界のプロの人間達も十分すごいが、こんなに常識はずれじゃない。
普通の人間ならこんな世界みたら、世界を救うとか以前に保身の為に逃げる事を選択するだろう。

「あぁ・・・強すぎてわくわくするね」

でも僕は違う、強くなりたい、今の自分の力がどこまで通用するか試してみたい。
・・・自分がこんなにも戦闘狂思考だとは思ってもみなかったけれど。

>「タンクやってたうちからの私見なんやけど」

みのりは言う、タンクはみんなの盾である、と、倒されてはいけないのだ、と。
だが部長はサポートタイプでありタンクではない、僕も大それた力やなゆのようなスキルがあるわけでもなく。
なぜ唐突にタンクの話を切り出されたのか、わからず聞き返そうとする。

>「ほやから、無茶せんと戦える方法考えたってえな」

「まってくれ、それはどうゆう・・・」

>「お疲れさまー!やっぱ強いなぁ!おめでとさん〜!」

僕の問には答えず、戦闘が終わったフィールドに向って、走り出したみのりに疑問を抱きつつ後を追うのだった。

310ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2019/09/03(火) 12:28:09
>「俺の負けだ。認めるよなゆたちゃん、お前が俺たちのリーダーだ。俺達を引っ張ってほしい」

まるで憑き物が取れたように清清しい顔で敗北宣言する明神がいた。
スマホを覗くとリザルトが表示されていた。

>「クーデターは失敗した。悪いな石油王、戦犯に巻き込んじまってよ。
 主犯は俺、うんちぶりぶり大明神だ。煮ても焼いても美味くはねえけど、処断はパーティリーダーに任せる」

>「ふふふ、巻き込んだやなんて安ぅみられたもんやねぇ
  うちはうちの判断で明神さんに乗っかっただけやで?
  お陰で見たいものは全部見れて満足やわぁ」

これをクーデターといってしまっていいものか、そう考えるがクーデターはクーデター。
なゆならひどい事にはならないだろう。

>「カザハ君。お前がこの先も、語り手として俺達と旅をするのなら……うんちぶりぶりじゃ締まりが悪いよな。
  みんなも覚えといてくれ。――瀧本俊之(としゆき)。カザハ君が歴史に刻む、俺の名前だ」

>「本名なんて呼ばれ慣れてねえから、今後も明神って呼んでくれりゃ良い」

「こちらこそ、よろしく、明神・・・ところで立ち上がるの手伝おうか?」

明神と熱い握手を交わし、ボロボロの明神が立ち上がるのを手伝う。

>「寄り道かました俺が言うのもなんだけど、俺達の戦いはマジでまだ始まったばかりだ。
  明日にはここを発って、アコライト行って、先輩ブレイブの救援クエストをこなさなくっちゃならねえ。
  こっから先は対戦じゃない。命をやり取りする実戦だ。誰一人死なせることなく……世界を救ってやろう」

ここからは命のやり取り・・・奪い合い・・・やり直しの聞かない戦いが始まる。
生まれて初めてできた、友達を失いたくないという気持ちと、早く自分の力を試したいという思いが混じる。

「どうしようもなく不安だけど・・・でも俺は軍人だ、必ずみんなを守ってみせる、な!部長」

「ニャー!」

なぜかドヤ顔決める部長。

本当は不安だ、でも俺がビビッていても世界も、みんなも救われない。
俺がみんなを守ればだれも失わない、そう気合を入れ直す。

>「それじゃ、みんな疲れたやろし、みんなで乾杯しよや〜!
  バロールはん、お願いするわ〜」

「よーし!じゃみんな体を綺麗にしてみんなで飯食べよう!」

後ろでメイドさん達がこちらを見ている気がするが気にしない!僕は絶対に目を合わせないぞ!

311ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2019/09/03(火) 12:28:30
久々に監獄のバランスが整っているがまったく味気のない、食事とは違う。
贅の限りを尽くした料理の数々に目を輝かせる。

「うまい!めっちゃうまい!うますぎるんですけど!」

一人で淡々と食べててもよかったが、友達と交流を深める為に周りを見渡す。
エンバースとみのりはなにやら二人で話している様子、そうなるとターゲットは・・・。

「やあ明神、となりいいかい?」

一人でゆっくりと飯を食べている明神の横に座る。

「いやー本当に凄かったね、なゆも、明神も、元の世界で一般人だったって話が信じられないほどだよ
 たぶん僕にはマネできないなあ、コツがあったら教えてほしいくらいだよ」

なゆと明神の二人は元々闘争の世界とは殆ど無縁の人生を送ってきたらしい、ゲームの世界を闘争に含めなければ、だが。
しかし先ほどの戦闘におけるモンスターに送る指示は二人とも迅速かつ正確だった。

「それはそうと、一応今回のって一応クーデターだろ?まぁ、クーデターって形にしなきゃいけなかったっていうのはわかるけど・・・」

明神がなにかを察した表情する。
聡明な明神な事だ、この後僕がなにを言うかわかっているのだろう。

みんなもちょっと聞いてくれ!とみんなを呼ぶ。

「クーデターはクーデターだ、なゆがいくら罰は必要ないといっても・・・はいそれじゃなしで!解散!でいい筈がない
 もしかしたら罰がなかったって事で後からわだかまりを残すかもしれない・・・だから・・・」

そんなことには絶対ならないと、僕もわかっているのだが。
そして、たぶん今僕は明神からしてみれば、悪魔な感じの笑みをしているかもしれない、でも間違いじゃない・・・なぜなら。

「罰として明神はご飯食べた後、僕の日課の『訓練』に付き合う・・・みのりの罰は・・・なゆに任せる!OK?」

PTリダに許可を求める。
その横で明神が青ざめた表情で口をぱくぱくさせていた。

「なんで俺だけ訓練なのかって?そりゃ僕が女の子用の護身術を知らないってのもあるけど・・・
 単純にその前の筋トレもハードだからやらせるわけにはいけないでしょ、体の負担もきついし
 後、明神・・・君はモンスターやカードに頼りすぎだ、君自身最低限自衛できなくては」

実戦になればモンスターを撃破するのではなく、本体を狙ったほうが効率的だ。
人間はモンスターより脆く、遅いのだから。

「筋肉痛?疲労?怪我?大丈夫!ここのメイドさんはそこらへんのサポートも完璧らしいよ!訓練中もずっとついててくれるって!よかったね!
 みんなも、もしよかったら鍛えてあげるけどやるかい?相当ハードになるけど・・・あ、明神は絶対だよ」

みょうじんは ぜつぼうしている!

「安心してくれ、この今日一日で暴漢から逃げれるくらいには護身術を教えてあげよう
 本当は最低限の体を作ってからがいいんだが、一日しかない以上そうはいってられないだろう?」

みょうじんは しんでしまった!

312ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2019/09/03(火) 12:29:22
明神とあーだこーだ喋っていると、みのりが全員を呼ぶ。

>「さ、大団円で次はアコライトゆうところなんやけどな……
  うちは王都に残ろうと思うてんねん」

「えっ!?」

みんなが似たようなリアクションを返す、当然だ、やっとこれからみんなでいこう。
という流れだったはずだ、確実に、それが突然の残る宣言。
驚くなというほうが無理な話だ。

>「だってこの魔王様、色々とガバガバの穴だらけで見てられへんのやもん
  兵站管理や情報伝達とか、この人に任せてたら前線に出るうちらは命がいくつあってもたりひんわ
  ほやからうちが王都でそこらへんお手伝いさせてもらおうと思うてなぁ」

たしかにそうだが・・・みのりが無理に手伝う必要があるのか?
僕個人としては女性はなるべくだが、最前線に出てきてほしくないというのはある。

「本気なんだね?みのり」

みのりは頷くと明神になにやら耳打ちする、その声は聞き取れなかった。
その後僕の肩を叩く。

>「タンクはジョンさんにお願いするわー
  戦い見させてもろうたけど、有望株や
  うちの太鼓判付きや、安心してええよ!」

さっきの話をようやく理解した、この事を言っていたのだ、と。
タンクの心得を教えてくれたのも、私の後を宜しく頼む、という意味だったのだ、と。

「部長はどっちかっていうとサポート寄りだけど・・・でもみのりに頼まれたからにはやるしかないな
 まかせてくれ!みんなを全ての敵から守ると誓おう!」

できるかどうかではない、頼りにされたからにはやるしかない。
他でもないみのりの願いを無碍にはできない。

「寂しくなるけど・・・永遠の別れってわけじゃないし、さよなら、とは言わないからね」

そう別に永遠に逢えないわけではないのだ、この事件を終わらせればまたみんなで集まればいいのだ。

「よし!みんなしんみりした雰囲気はなしだ!今日は派手にやろう!」


こうして騒がしく、僕が初めて牢屋と城以外の世界を見れた長い日は、終わりを迎えたのだった。

313崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/09/10(火) 18:54:37
『混沌大海嘯(ケイオス・タイド)』――
それは人知を超えた外宇宙の力によってフィールド上のすべてを押し流す、神の波濤。
強烈な毒と腐食酸で対象の防御力を低下させると同時にDotを加え、さらに超強力な全体ダメージを叩き込む、レイド級の一撃。
地水火風光闇の六属性のどれにも当て嵌まらない『混沌』属性は、属性有利ゲーとも揶揄されるブレモンで唯一の例外である。
相手がどの属性だったとしても関係ない。圧倒的な質量で呑み込み、喰らい、消化する。
それはまさに神の御業であろう。
正真正銘、これが最後の攻撃だ。力も、技も、策も、心も、すべて使い切った。
これを凌がれれば、もう後はない。

荒れ狂うゴッドポヨリン・オルタナティヴの大嵐が、徐々に収まってゆく。
攻撃が終わり、フィールドが静寂に包まれたとき――そこにリビングレザー・ヘビーアーマーの姿はなかった。
代わりに剣を床に突き立てたボロボロのヤマシタが立っている。が、そのヤマシタもすぐに消えた。
なゆたの視界にいるのは、四肢を投げ出して倒れた明神ひとり。
そして――明神のライフ表示は、0を示していた。

「勝負あり!」

見届け人のバロールが大きく右手を掲げ、朗々と宣言する。
デュエルは終わった。チームモンデンキントvsチームうんちぶりぶり大明神の戦いは、チームモンデンキントに軍配が上がった。
なゆたの、カザハの、ジョンの――そしてエンバースの勝利だ。

「…………っっっぷはあ〜〜〜〜っ!!」

バロールの決着の号令と同時に、なゆたは天を仰いで大きく息を吐いた。
緊張の糸が切れ、そのまま膝から崩れ落ちそうになる。
本当に紙一重と言っていい、ギリギリの勝負だった。どちらが勝ってもおかしくない、極限のデュエルだった。
でも、負けられなかった。負けてもいい、命のかかったものではない戦いだったけれど、負けたくなかった。
そして――勝った。

>お疲れさまー!やっぱ強いなぁ!おめでとさん〜!

膝が笑っている。もう限界だ、座り込みたい……と思う。
しかし、それを駆け寄ってきたみのりがぎゅっと抱き着いて支えた。
みのりは心底から嬉しそうな表情を浮かべている。なゆたの前に立ちふさがり、そして負けたにもかかわらず、だ。
みのりの笑顔には一点の曇りもない。欲しいものはすべて手に入れた――そんな満足感がありありと浮かんでいる。

「……みのりさん……」

>ふふふふ、なゆちゃん、いい子ちゃん過ぎるところがあるとは思ってたけどなぁ
 いい子ちゃんのまま、汚いうちを越えていきおったわ

みのりは物理的にも精神的にも強大な壁として、今回のデュエルでなゆたの前に立ちはだかった。
なゆたがそれを乗り越えたことで、みのりの危惧していた諸々は解消されたということなのだろう。

「ありがと、みのりさん。みのりさんのお陰で勝てたよ。
 わたし……絶対、みのりさんの期待を裏切らない。どんなことがあったって、今回みたいに乗り越えてみせるから」

ぎゅぅ、となゆたもみのりを抱き締め返す。
その姿は、ただゲームで知り合っただけの知人という関係を超えた――本当の親友のように見えたことだろう。

>俺の負けだ。認めるよなゆたちゃん、お前が俺たちのリーダーだ。俺達を引っ張ってほしい

ジョンの支えで立ち上がった明神が言う。
元々、リーダーがやりたくて受けたデュエルではない。パーティーが壊れてしまうのが嫌で、守りたい一心で受けた勝負だ。
けれど、勝った者には責任が生じる。このパーティーを維持していくという義務が。
であるのなら、やはりなゆたがリーダーを務めなければならないのだろう。
真一が抜けたために緊急で務める、代理のリーダーではなく。
これからの戦いを生き抜くための、本当のリーダーを。

なゆたは真っすぐに明神を見つめ、小さく、しかしはっきりと頷いた。

314崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/09/10(火) 18:58:05
>クーデターは失敗した。悪いな石油王、戦犯に巻き込んじまってよ。
 主犯は俺、うんちぶりぶり大明神だ。煮ても焼いても美味くはねえけど、処断はパーティリーダーに任せる

「……わかった」

正式なパーティーリーダーとなり、最初にやらなければならない仕事。
それはパーティー崩壊の危機を招いた元凶の処断だ。
リーダーには果断な処置も求められる。足並みを乱す者に対しては、厳然たる対応で臨まなければ示しがつかない。
ただ、もうなゆたの気持ちは決まっていた。明神にどんな判断を下すべきか――
この戦いの最中、ずっと考えていたのだ。

>カザハ君。お前がこの先も、語り手として俺達と旅をするのなら……うんちぶりぶりじゃ締まりが悪いよな。
 みんなも覚えといてくれ。――瀧本俊之(としゆき)。カザハ君が歴史に刻む、俺の名前だ
>本名なんて呼ばれ慣れてねえから、今後も明神って呼んでくれりゃ良い

明神が居並ぶメンバーたちに告げたのは、自分の本名。
今までずっと、彼は自分の名前を打ち明けずに来た。それはきっと個人情報の漏洩だとか、そういう危惧の他にもうひとつ。
いつでもパーティーを抜けてもいい。他人になってもいい――そんな逃げ道を彼が用意していたからだろう。
しかし、彼は自分の本名を明らかにした。それは、彼が自ら逃げ道を手放したことの証左に他ならない。
ずっと一緒にいると。このパーティーで世界を救ってやろうと。
そう宣言しているに等しかった。

>寄り道かました俺が言うのもなんだけど、俺達の戦いはマジでまだ始まったばかりだ。
 明日にはここを発って、アコライト行って、先輩ブレイブの救援クエストをこなさなくっちゃならねえ。
 こっから先は対戦じゃない。命をやり取りする実戦だ。誰一人死なせることなく……世界を救ってやろう

確かに寄り道ではあっただろう。これからアコライト外郭に行こうという時に、精魂尽き果てるデュエルをしてしまった。
だが、それを無駄とは思わない。それどころか、やらなければならない大切な戦いだったと思う。
仮に明神が正体を隠し、またなゆたもモンデンキントと認識されないままアコライトや他の戦場に行ったとする。
そこでもし今回のようなことが勃発したら、足並みの乱れたパーティーは本当に全滅してしまいかねない。
なゆたと明神だけではない。他のメンバーたちにしたってそうだ。
なゆたとエンバースも仲違いしたままだろうし、明神だってカザハに疑念の眼差しを向けたままだっただろう。
みのりは疑心暗鬼に囚われ続けていたに違いなく、ジョンは戦う覚悟を持てなかったはずだ。

だから――

この戦いは。今ここにいる全員が心をひとつにし、同じ方向を見るためには避けては通れない戦いだったのだ。
クソコテとしての正体がバレたとき、明神はこう言ってなゆたを煽った。

>気付いてっか?リバティウムを出てからこっち、俺たちがみんな別々の方を向いてるの

それは事実だ。キングヒルに到着するまで、パーティーの足並みはバラバラだった。
だが、もうその心配はないだろう。今のパーティーなら、どんな困難があっても必ず乗り越えられるに違いない。

それから明神はゴホンと一度空咳を打った。
何かを言いたそうな、でもちょっとだけ躊躇っているような、そんな様子。
ばつが悪いというのは、きっとこういう顔のことを言うのだろう。
けれども、何も言わないままではいられない。明神は半ば無理矢理笑顔を作ると、

>――なゆたちゃん、クエストに行こうぜ!

と、言った。

ああ。
これだ。こんな光景を、自分はずっと望んでいた。
ブレモンは楽しくなければいけない。面白かったね、と。やってよかった、と。
みんながそう思えるゲームでなければいけないのだ。
もう、この場所はゲームじゃない――現実の世界で、待ち受ける戦いは遊びではないけれど。
それは。それだけは、忘れてはならないのだ。
なゆたの目に涙が浮かぶ。ただ、それは悲しみや絶望の涙ではない。
なゆたはぐいっと右腕で涙を拭うと、明神へありったけの笑顔を向け、

「……うんっ!」

そう、はっきり頷いてみせた。

315崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/09/10(火) 19:01:29
>それじゃ、みんな疲れたやろし、みんなで乾杯しよや〜!
 バロールはん、お願いするわ〜!

戦いが決着を見、パーティーの蟠りが解消されると、みのりが嬉しそうに提案する。

「もちろん! 任せておきたまえ!
 いやぁ〜、それにしても物凄い戦いだったね! みんなお疲れさま!
 パーティーの懸念は払拭されたようだし、私も間近で『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の戦いが見られたし。
 まさにいいことずくめ! ってやつだね! はっはっはっ!」

そう言うと、バロールは激しいデュエルで半壊したフィールドに右手を差し伸べる。
虹色の光彩が輝き、バロールの全身から夥しい魔力が迸る。
フィールドが薄ぼんやりと輝きだすと、戦いによって砕けた石畳や大きく穿たれたクレーターが修復されていく。
ほんの五分ほどで、フィールドは戦闘前の美しい王宮の姿を取り戻した。
世界さえも改変できる『創世』の力。その一端であろうか――継承者第一位の名に相応しい、桁外れの魔力だ。

「これでよしっと。みんな、疲れただろう? これから歓迎の準備をするから、それまでは休んでいるといい。
 部屋に案内するよ……お風呂に入るもよし、着替えてひと眠りするもよし。自分の家だと思って寛いでほしい!」

バロールの案内で、王宮内にある貴賓室に通される。
貴賓室はすべて個室になっていて、日本ならそのまま一戸建てがすっぽり入ってしまうような広さだった。
もちろん、贅の限りを尽くした豪奢な調度によって彩られている。
ヴェルサイユ宮殿もかくやといった様子は、まさにアルフヘイムの覇権国家の王宮といったところだろう。
実家が寺で広い敷地を持つなゆたでさえ落ち着かない部屋である。
バロールの言った通り、望めば広々とした大理石の浴場でのんびり湯に浸かることもできるし、ベッドで睡眠も取れる。
実際なゆたはその通りにした。元に戻ったポヨリンと一緒に風呂に入り、汚れを落として、渡された寝間着に着替えてぐっすり寝た。
風呂上がりの心地よさもあったが、それ以上にデュエルで心身ともに疲労していたらしい。枕に頭をつけると即落ちだった。

>うまい!めっちゃうまい!うますぎるんですけど!

王宮の客間で、ジョンがここぞとばかりに料理をむさぼっている。
目を覚ますと、ほどなくしてメイドが宴の用意が整いました、と知らせてきた。
どうやら、何時間か眠ってしまっていたらしい。外はもう夜になっていた。
ポヨリンを伴い、白いスタンドカラーブラウスとフレアミニスカートで客間へ行くと、すっかり歓迎の準備ができている。
貴賓室と同じく覇権国家の力を見せつけるかのような、山海の珍味。手間を惜しまない料理の数々。
ガンダラ、リバティウムと美食とは縁遠い旅をしてきただけに、その豪華さに目を瞠らずにはいられない。

「いやぁ、本当は我が国の諸侯も招いてもっと盛大な宴にもできたんだけどねぇ!
 なにせ戦時中だ。そこまでの余裕も時間もなくてさ……慎ましい宴だけれど、どうか許してほしい!
 その代わり、ここにあるものは遠慮なく食べたり飲んだりしてくれて構わないよ!
 明日には激戦地のアコライト外郭へ発ってもらわなければならないんだ。せめて今日は英気を養ってくれたまえ!」

ちゃっかり同席し、エールを満たしたジョッキを掲げたバロールが言う。
これでもまだ時勢に配慮して慎ましくしたと言っている。まったく底が知れない。

>ところでなぁ、エンバースさんはうちらの中で唯一ブレイブやあらへんやんなぁ
 さっきの戦いも結局はブレイブ対策ができている燃え残りとしての戦い方やん?

>やあ明神、となりいいかい?

みのりとエンバース、明神とジョンがそれぞれ話をしている。その姿は、すっかり打ち解け合っているようになゆたには見えた。

「……ふふ」

ポヨリンに豪華な食事を与えながら、なゆたは仲間たちの様子を微笑みながら眺めていた。
と、不意にジョンが全員に注目を促す。

>クーデターはクーデターだ、なゆがいくら罰は必要ないといっても・・・はいそれじゃなしで!解散!でいい筈がない
 もしかしたら罰がなかったって事で後からわだかまりを残すかもしれない・・・だから・・・

>罰として明神はご飯食べた後、僕の日課の『訓練』に付き合う・・・みのりの罰は・・・なゆに任せる!OK?

「え」

なんだかよく分からない提案が来た。
明神に罰を受けさせるのと、彼がジョンの特訓に付き合うのがいまいちイコールで結びつかない。
が、ジョンはジョンで明神を受け入れるための禊を考えていたのだろう。
それを否定するつもりはない。なゆたは小さく首肯した。

「まぁ……それは構わないけど。明神さんに任せるよ」

ふたりの話は二人が取り決めるべきものである。リーダーだからといって、罪滅ぼしにジョンの特訓に付き合え! とは言えない。
それに、明神の処遇についてはもうとっくに決めているのだ。

316崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/09/10(火) 19:05:09
「じゃあ……いい機会だから、わたしからも言っておこうかな」

椅子から立ち上がり、ちゅうもくー。と言いながらぽんぽんと手を叩く。

「えー。僭越ながら、これから正式にパーティーリーダーを務めさせて頂くことになりました。
 モンデンキントこと崇月院なゆたです。
 正式にリーダーをすることになったからには、しっかり! 役目を果たしてみせますから!
 皆さん、これからよろしくお願いします!」

迷いのない口調で宣言する。それからなゆたはみのりを見た。

「で……ジョンはみのりさんの罰、って言ったけれど。
 みのりさんは『対戦相手』ではあっても『敵』ではなかったので、罰を与える必要はないと思う。
 そして、明神さん。ジョンの特訓はさておき、わたしからも。明神さんを再度パーティーに加入させるにあたって条件があるの」
 
みのりから視線を外し、明神を見据える。
そして右手の人差し指で明神を示すと、

「条件はひとつだけ。わたしがパーティーリーダーを務めるにあたって――
 明神さんをサブリーダーに指名します。もちろんパーティーメンバーはみんな平等で、誰が偉いとか一番とかはないけど……。
 わたしがいなくて、何かを決定する必要があるときは。みんな明神さんの指示に従ってくれればって思う。
 ってことで! これはリーダー特権のご指名なので、明神さんに拒否権はありまっせぇーんっ!
 みんなも異論ないよね? もしあったとしても、デュエルで言い聞かせるだけですけどー!
 ハイ! 賛成の人は挙手ーっ!」

ばっ! と右手を挙げ、賛同者を募る。
明神なら選択を誤ることはないし、自分も安心して補佐を任せられる。
なゆたがリーダーとして舵取りし、明神はサブリーダーとして補助に回る。
これが、新しい『異邦の魔物使い(ブレイブ)』パーティーの編成というわけだ。
すべての懸念は払拭された。あとは、明日の朝にアコライト外郭へ赴くだけ――

そう思われた、が。

>さ、大団円で次はアコライトゆうところなんやけどな……
 うちは王都に残ろうと思うてんねん

「……は、ぇ?」

みのりの唐突に過ぎる提案に、なゆたは呆気にとられて目を丸くした。

>だってこの魔王様、色々とガバガバの穴だらけで見てられへんのやもん
 兵站管理や情報伝達とか、この人に任せてたら前線に出るうちらは命がいくつあってもたりひんわ
 ほやからうちが王都でそこらへんお手伝いさせてもらおうと思うてなぁ

「え!? 私!? ぐはぁ! やめるんだ、その攻撃は私に効く!」

突然水を向けられたバロールは仰け反った。

「そんな、みのりさん……」

なゆたは絶句して、自分の胸元をぎゅっと掴んだ。
確かにバロールのやり方は杜撰である。現在のところ、王都の動きはニヴルヘイムに対する対処療法だけに留まっている。
バロールのスペックによって現在はそれでなんとか敵勢力に抗しおおせているが、今後も大丈夫とは限らない。
それに、ひとりの情報処理能力に依存しきった体制は、当該者にもしものことがあった場合たちまち崩壊する。
万一を織り込んだうえで、侵食に対処し『異邦の魔物使い(ブレイブ)』をバックアップする体制を作らなければならないのだ。
だいいち、バロールを完全に信用してもいいのか――という点においても、一抹の不安が残る。
バロールが世界を案じているのは真実だろうし、援助してくれるという言葉にも偽りはないだろう。
ただ、こちらに話していない何かを色々と隠し持っていることも紛れもない事実であろうと思う。――カザハのことのように。
『まっすぐすぎる』なゆたでは、そんなバロールに対抗できない。
しかし、みのりなら。バロールのすぐそばで丁々発止の情報戦を繰り広げながら、その力を巧く利用することができるだろう。

>タンクはジョンさんにお願いするわー
 戦い見させてもろうたけど、有望株や
 うちの太鼓判付きや、安心してええよ!

みのりの決意は固いようだ。早くも自分の後任を見出し、役目を譲っている。
なゆたも、ジョンならみのりの抜ける穴をきちんと埋めてくれるだろうと――適材だと思う。
けれど――
せっかく、なんの蟠りもなくなったのに。本当の仲間になれたと思ったのに。
そんな気持ちに、胸がふたがれる。

317崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/09/10(火) 19:08:09
しかしながら、これはみのりが決めたことだ。
この決意は何もクリスタルが底をついたとか、これからの戦いにおじけづいたとか、そういうことではなくて。
なゆたたち『異邦の魔物使い(ブレイブ)』が、より確実に勝ち抜くための、生き残るための最善策なのだ。
だとするなら――

「……わかった。じゃあ、みのりさん……これからバックアップをお願いね。
 別に、みのりさんがパーティーを脱退するわけじゃないし! ただ、後方支援に回るだけだもんね!
 これからも頼りにしてるよ、みのりさん!」

なゆたはにっこり笑ってウインクすると、ぐっと右手の親指を突き出してサムズアップしてみせた。

「えー。私の意思っていうものは考慮してくれないのかい? ひどいなぁ!
 でも、確かに五穀豊穣君が私の手伝いをしてくれるなら心強いかな。なにせ、今は全部私ひとりでやってるものだから!
 睡眠時間もないし、愛しのメイドたちと愛を語らう暇もなかったんだよね!」

ははは! とナチュラルにセクハラ発言をする。
控えているメイドたちは全員ぷいっと顔をそむけた。

「五穀豊穣君の申し出はありがたい、では遠慮なくその厚意に甘えるとしよう。
 けれど、覚えることは無数にあるよ。そこは……覚悟を決めて取り組んでほしい。一度手伝うと決めたのなら、ね。
 その選択はあるいは――モンデンキント君たちと一緒に戦いに赴くより、ずっとずっと過酷な選択かもしれないけれど」

すい、と虹色の瞳を細め、バロールは微笑みながら告げた。
普段はゆるふわダメダメ元魔王だが、こういうときに告げる言葉は確かにローウェルの筆頭弟子としての知性と威厳を湛えている。
しかし、みのりはそんなん今更や、と朗らかに――しかし不退転の決意を滲ませて笑った。
これで今後の動向は決まった。
なゆたをリーダー、明神をサブリーダーとした『異邦の魔物使い(ブレイブ)』パーティーは、翌朝アコライト外郭へ向かう。
アコライト外郭では、なゆたたち以前にこの世界に召喚された『異邦の魔物使い(ブレイブ)』が戦っているという。
それと合流し、力を合わせてアコライト外郭をニヴルヘイムの脅威から解放する。
アコライト外郭はアルメリア王国防衛の要衝である。ここが万一陥とされれば、アルメリアはキングヒルの防衛手段を喪う。
まさに、ここが正念場というところである。
今日の戦いで消費したスペルカードは、外郭に到着するころにはリキャストされているだろう。
敵の数は多く、包囲され孤立したアコライト外郭の内部の様子は誰にも分からない。情報が来なくなって、もう何日も経つ。
敵の指揮官の正体も不明だが、きっとイブリース配下のモンスターなのだろう。一瞬たりとも油断はできない。
今日のような、フレンド同士の死なない戦いではない――
敗北がすぐさま死につながる、互いの生存を賭けた戦い。
それが、始まるのだ。

とはいえ――

>よし!みんなしんみりした雰囲気はなしだ!今日は派手にやろう!

ジョンがそう言ってジョッキを掲げる。
今は、明日のことは考えるまい。ただ、熾烈な戦いを繰り広げた今日を祝い、健闘を称え合うのがいい。

「そうしよう、そうしよう! みんな、かんぱーいっ!」

ジョンに触発されるように、なゆたもまたジョッキを大きく掲げて乾杯の音頭を取る。――もちろん、中身はジュースだ。
ファンタジー世界であっても未成年はお酒を飲んじゃダメ。生徒会副会長の面目躍如である。

侵食による消滅を防ぐための、激しい戦いの前夜祭。

パーティーの宴は、長く続いた。

318崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/09/10(火) 19:14:13
深夜。なゆたはエンバースの部屋の前まで来ると、そのドアをコンコンとノックした。

「エンバース……まだ起きてる……?」

エンバースが返事をすると、なゆたは緊張した面持ちをしてきゅっと胸元で右拳を握る。

「あの……、入っても、いい?」

たどたどと、どこかばつが悪そうに言う。
部屋の中に入ると、なゆたは扉を背にして所在なさそうに佇む。

「え、えと……。さっきはみんなもいて、ちょっと……その……話しづらかったものだから……。
 ごめんね、休んでるところお邪魔しちゃって。明日もあるし、すぐ帰るから……」

軽く俯き、もにょもにょと歯切れ悪く言う。
が、少しして意を決したように顔を上げると、口を開く。

「――あの! き……、今日は、ありがとう。わたしなんかに味方してくれて……。
 あなたは絶対、わたしの味方なんてしてくれないって思ってたから。当然だよね……わたしはずっとあなたに酷いこと言って。
 パーティーを抜けたっていい、なんて暴言吐いて。嫌われても当然だったから」

は、と息をつく。決意を固めて一度話し始めると、あとはもう止まらない。

「……わたしが間違ってた。さっきまでのわたしは……あなたのことを、真ちゃんの代わりだと思ってた。
 本当は真ちゃんがいるべき場所を、真ちゃんがいなくちゃいけない場所を、あなたが奪ったって。
 勝手にそう思い込んでた……全然、そんなことないのにね」

真一と入れ替わりにエンバースがパーティーに参入したのは事実だ。
両者とも炎を扱い、戦闘において自分の身体を酷使することを厭わない――というところも似通っている。
しかし。

「だから。わたし、勘違いしちゃってた。真ちゃんだったらこんなことないのにって。真ちゃんならこうだったはずって。
 あなたはあなたで。あなたの考えがあって。あなたの目的があるのに……そんなこと、全然考えようともしなかったんだ。
 だから――」

そこまで言うと、なゆたはエンバースへ向けて勢いよく頭を下げた。

「ゴメンなさい! わたしが悪かったです――!」

今日の午前中、キングヒルに到着するまでは、まさかこんなことになるとは想像さえしていなかった。
けれど今は違う。明神とのデュエルでエンバースの力は思い知ったし、どんな気持ちを抱いているのかも何となく察した。
彼の過去に、なゆたの想像を絶する過酷な体験があったらしいということも――。
彼の戦い方は自棄に等しい危なっかしさで、ときどき暴走めいたことさえしていたけれど。
それも理由があるのだろう。であれば、おいおい理解していければと思う。
何より、なゆたは信じたかった。エンバースに強く抱きしめられたときの、あの温かさを。
ひとりでもバルゴスに対処できたであろうはずなのに、敢えてなゆたに花を持たせた、その心を。

「……あなたが協力してくれなかったら、きっとわたしは明神さんに勝てなかった。
 あなたが活路を開いてくれたから、わたしは明神さんを倒すことができた。地球由来の因縁に終止符を打てた。
 ありがとう、エンバース。……嬉しかった、とっても」

なゆたは顔を上げると、そう言って小さく微笑んだ。

「あなたはわたしの身体だけじゃない、心も守ってくれた。わたしのプレイヤーとしての誇りを。
 ね。また、わたしを守ってくれる……?
 わたし、あなたに守ってもらいたい。あなたが守ってくれるなら――わたし。きっと、もっと頑張れる気がするから」

あれほど、エンバースに守られることを嫌っていたはずなのに。
けれど、今はそうは思わない。彼に守られることを、とても心強く感じる。
彼はきっと、そんなこと言われるまでもなく守ってやる、と言うかもしれないけれど。
そうではない。なゆたがエンバースに守られることを望む、そのことに意味がある。

「あー……ゴメンね! なんか、わたしばっかりまくしたてちゃって!
 頼み事するにも、やり方ってものがあるよね……こういうの、慣れてないもんで……あは、あはは……」

なゆたは左手で後ろ髪に触れると、気恥ずかしそうに笑った。そして――

「もっとかわいくお願いした方が、好みだった?」

そんなことを言って、ぺろりと小さく舌を出した。

「言いたいことはそれだけ! じゃ……わたし行くね!
 明日は激戦地へ行かなくちゃなんだから! 気合い入れていきましょ!
 エンバース、おやすみ!」

照れ臭さを誤魔化すように笑うと、なゆたはフレアスカートの裾を翻して部屋を出て行った。
『異邦の魔物使い(ブレイブ)』たちが思いをぶつけあった、長い一日は終わった。

そして――アコライト外郭へと赴く、戦いの刻が訪れる。


【正式にパーティーリーダー襲名、明神をサブリーダーに指名。みのりの戦線離脱を受諾。
 エンバースと和解を試み、一路アコライト外郭へ】

319カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2019/09/13(金) 21:44:56
脱落した皆が2人の決着を見守っている中、ジョン君がある事に気付く。一人足りない。

>「エンバース?エンバースは!?」

「あれ!? エンバースさんまだこっちに来てないの!? ということは……」

なんとなく私達と同じくすでに砂嵐で吹き飛ばされて退場済だと思っていたが……
案の定、程なくして焼死体兼溺死体のような状態になって混沌の濁流に乗って流されてきた。
ジョン君の慌てようは半端なかったが、幸い命に別状はない(?)ようだ。
バロールさんがなゆたちゃんの勝利を高らかに宣言する。

>「勝負あり!」

>「お疲れさまー!やっぱ強いなぁ!おめでとさん〜!」
>「ふふふふ、なゆちゃん、いい子ちゃん過ぎるところがあるとは思ってたけどなぁ
いい子ちゃんのまま、汚いうちを越えていきおったわ」

みのりさんがなゆたちゃんを抱きしめ、惜しみないねぎらいの言葉をかける。
最初は底知れない何かを隠し持っている感じがしていたが、本当の彼女は少しばかり財力と権謀術数に長けた、等身大の少女だった。
京都人ならまあそんなこともあるだろう。
そして、戦いに敗れたクーデターの主犯が敗北宣言をする。

>「俺の負けだ。認めるよなゆたちゃん、お前が俺たちのリーダーだ。俺達を引っ張ってほしい」
>「クーデターは失敗した。悪いな石油王、戦犯に巻き込んじまってよ。
 主犯は俺、うんちぶりぶり大明神だ。煮ても焼いても美味くはねえけど、処断はパーティリーダーに任せる」
>「カザハ君。お前がこの先も、語り手として俺達と旅をするのなら……うんちぶりぶりじゃ締まりが悪いよな。
 みんなも覚えといてくれ。――瀧本俊之(としゆき)。カザハ君が歴史に刻む、俺の名前だ」

「いい名前じゃん。よろしくね、瀧本さん。……カケル、背中貸してあげて。タッキー&ツバサ――なんちゃって」

そのネタ、明神さんは分かるだろうけどなゆたちゃんは分かるのか!?

>「本名なんて呼ばれ慣れてねえから、今後も明神って呼んでくれりゃ良い」

こうして明神さんはタッキーと呼ばれるようになりそうな危機(?)を華麗に回避した。

>「こちらこそ、よろしく、明神・・・ところで立ち上がるの手伝おうか?」

ジョン君が明神さんが立ち上がるのを手伝い、私の背に寄りかからせると、みのりさんが話しかけてきた。

>「最初何処から飛んできたかと思うてたけど、カザハちゃんもカケル君も大層な話になってたんやねえ」
>「空から着地地点にしてみたり、馬刺しにしたらおいしそうとか家畜を見る目で見てて堪忍やえ〜
これからは人としてみんなとよろしくやで〜」

初めてみのりさんに名前を呼ばれた――頭をなでる手は温かい。
一瞬馬刺しとかいう物騒な単語が聞こえてきた気がするんだけど――気のせいだよね!? 気のせいということにしておこう。

320カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2019/09/13(金) 21:46:01
「大丈夫、全然気にしてないって。みのりさんは乗ったことがあるんだけどみんなもよければカケルに乗ってみない? 楽しいよ!」

カザハはお近付きの印にということか、勝手に体験乗馬会ならぬ体験乗ユニサス会の勧誘をはじめた。
実際に乗せるのは私だけどね!? 別にいいけど。

>「寄り道かました俺が言うのもなんだけど、俺達の戦いはマジでまだ始まったばかりだ。
 明日にはここを発って、アコライト行って、先輩ブレイブの救援クエストをこなさなくっちゃならねえ。
 こっから先は対戦じゃない。命をやり取りする実戦だ。誰一人死なせることなく……世界を救ってやろう」
>「――なゆたちゃん、クエストに行こうぜ!」

>「……うんっ!」

カザハはそんな二人のやりとりを、満足気に、少しだけ眩しそうに見ているのであった。

「河原で殴り合って仲良くなる的な展開、実際にあるんだ……」
《あるんですねぇ……》

>「それじゃ、みんな疲れたやろし、みんなで乾杯しよや〜!
 バロールはん、お願いするわ〜!」
>「もちろん! 任せておきたまえ!
 いやぁ〜、それにしても物凄い戦いだったね! みんなお疲れさま!
 パーティーの懸念は払拭されたようだし、私も間近で『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の戦いが見られたし。
 まさにいいことずくめ! ってやつだね! はっはっはっ!」

バロールさんは戦闘でぶっ壊されたフィールドを一瞬で直すと、宴の準備をするという。

>「これでよしっと。みんな、疲れただろう? これから歓迎の準備をするから、それまでは休んでいるといい。
 部屋に案内するよ……お風呂に入るもよし、着替えてひと眠りするもよし。自分の家だと思って寛いでほしい!」

>「よーし!じゃみんな体を綺麗にしてみんなで飯食べよう!」

なゆたちゃんはバロールさんに勧められた通り、大浴場に行くらしい。

「なゆ、一緒に……ぐぎゃあ!」

《カザハ、アウト―――ッ!》

大浴場に行こう、というカザハの言葉の続きを察知した私はさりげなく足払いを仕掛け、カザハはびたーんと効果音が付きそうな勢いですっ転んだ。
そしてうっかり足が引っ掛かっちゃった的な何食わぬ顔をして誤魔化す。

(そうだった……! 明神さんと一緒に行かなきゃ!)

《いや、裸の付き合いは比喩的表現であって一緒に入る必要性はないと思いますよ!?》

明神さんと文字通りの裸の付き合いをしたかはともかく、私は大浴場でカザハに洗われ、ふわふわになった。
しばらく部屋で休んでいると、メイドさんが宴の準備が出来たことを知らせに来る。
行ってみると、豪華絢爛な料理の数々が並んでいた。

321カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2019/09/13(金) 21:47:26
>「いやぁ、本当は我が国の諸侯も招いてもっと盛大な宴にもできたんだけどねぇ!
 なにせ戦時中だ。そこまでの余裕も時間もなくてさ……慎ましい宴だけれど、どうか許してほしい!
 その代わり、ここにあるものは遠慮なく食べたり飲んだりしてくれて構わないよ!
 明日には激戦地のアコライト外郭へ発ってもらわなければならないんだ。せめて今日は英気を養ってくれたまえ!」

「慎ましい!? これで!?」

みのりさんがエンバースさんに話しかけ、ジョン君が明神さんに話しかけているので、哀れ、なゆたちゃんはワイングラス片手のカザハに絡まれた。

「突然のことで一時はどうなることかと思ったけど結果オーライってやつ?
それにしてもエンバースさんが味方してくれたのは意外だったね〜。てっきり向こうに付いちゃうかと思ったよ。
これはもしかしてもしかすると第一印象はサイアク!かーらーのー……って何でやねん!」

酔っぱらったらしいカザハが自分でボケて自分でツッコんでいる。
今回の戦いで私達がやったことといえば、ほぼエンバースさんの強化と救出だったわけで、彼が味方してくれなかったら勝てなかっただろう。
だからといって二人の仲がそっちの方向に進展するかは別問題だ。
なゆたちゃんには彼氏もとい仲が良さげな幼馴染がいるし、
エンバースさんは少し離れて見れば闇の狩人みたいで格好よく見えても至近距離で見たら焼死体そのものである。
君も同じのを飲むかい?と気を利かせてくれたバロールさんが平たいお皿にワインを注いでくれた。
……ってこれぶどうジュースじゃーん! ジュースで酔っぱらってんじゃねーよ!

「でもね……やっぱり最後までフィールドに立って戦い抜いたのは君だよ。もう超かっこよかった!」

今度はなゆたちゃんの両手を握って上下にぶんぶんしている。

>みんなもちょっと聞いてくれ!

幸いにも程なくしてジョン君の声が響き、なゆたちゃんはカザハの意味不明の絡みから解放された。

>「クーデターはクーデターだ、なゆがいくら罰は必要ないといっても・・・はいそれじゃなしで!解散!でいい筈がない
 もしかしたら罰がなかったって事で後からわだかまりを残すかもしれない・・・だから・・・」
>「罰として明神はご飯食べた後、僕の日課の『訓練』に付き合う・・・みのりの罰は・・・なゆに任せる!OK?」
>「なんで俺だけ訓練なのかって?そりゃ僕が女の子用の護身術を知らないってのもあるけど・・・
 単純にその前の筋トレもハードだからやらせるわけにはいけないでしょ、体の負担もきついし
 後、明神・・・君はモンスターやカードに頼りすぎだ、君自身最低限自衛できなくては」

言われてみれば、カザハやエンバースさんはモンスターで、なゆたちゃんはモンスターのスキルを習得し、
ジョン君は自衛隊マッチョで、みのりさんは農業で鍛えられているしイシュタルを装備することもできる。
魔物使いとしてではなく本人の戦闘力自体は明神さんだけ一般ピープル感が半端ない。
おそらく罰というのは建前で、明神さんが自衛できるように、というのが主な目的なのだろう。
元々モンスターを使ってバトルする前提のゲームの世界に転移したわけで、
本人の戦闘力という概念が出て来ること自体が想定外だったかもしれないが、パーティーメンバーが人外や超人だらけになってしまったのが運の尽きである。

322カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2019/09/13(金) 21:49:03
>「じゃあ……いい機会だから、わたしからも言っておこうかな」
>「えー。僭越ながら、これから正式にパーティーリーダーを務めさせて頂くことになりました。
 モンデンキントこと崇月院なゆたです。
 正式にリーダーをすることになったからには、しっかり! 役目を果たしてみせますから!
 皆さん、これからよろしくお願いします!」

「リーダー就任おめでとー!」

なゆたちゃんのリーダー就任を拍手で祝うカザハ。

>「で……ジョンはみのりさんの罰、って言ったけれど。
 みのりさんは『対戦相手』ではあっても『敵』ではなかったので、罰を与える必要はないと思う。
 そして、明神さん。ジョンの特訓はさておき、わたしからも。明神さんを再度パーティーに加入させるにあたって条件があるの」
>「条件はひとつだけ。わたしがパーティーリーダーを務めるにあたって――
 明神さんをサブリーダーに指名します。もちろんパーティーメンバーはみんな平等で、誰が偉いとか一番とかはないけど……。
 わたしがいなくて、何かを決定する必要があるときは。みんな明神さんの指示に従ってくれればって思う。
 ってことで! これはリーダー特権のご指名なので、明神さんに拒否権はありまっせぇーんっ!
 みんなも異論ないよね? もしあったとしても、デュエルで言い聞かせるだけですけどー!
 ハイ! 賛成の人は挙手ーっ!」

「はーい! 明神さんサブリーダー就任おめでとう!」

カザハはピッカピカの一年生のように手を真っ直ぐに挙げ、賛同の意を示す。

「ついでにボクは書記でいい? そしてみのりさんを会計、ジョン君を広報、エンバースさんを庶務に推薦します!」

《生徒会じゃねーよ!》

そんな中、みのりさんが突然爆弾発言を繰り出した。

>「さ、大団円で次はアコライトゆうところなんやけどな……
うちは王都に残ろうと思うてんねん」

>「えっ!?」
>「……は、ぇ?」
「えぇええええええええええええ!?」

皆が似たような感じで驚愕する。

>「だってこの魔王様、色々とガバガバの穴だらけで見てられへんのやもん
兵站管理や情報伝達とか、この人に任せてたら前線に出るうちらは命がいくつあってもたりひんわ
ほやからうちが王都でそこらへんお手伝いさせてもらおうと思うてなぁ」

確かにみのりさんの考えは一理ある。
でもせっかく打ち解けてこれから皆で冒険繰り出そう、という時に――とも思わざるを得ない。
カザハは、決断を委ねるようになゆたちゃんの方を見た。
なゆたちゃんも残念そうにしていたが、最終的にはみのりさんの選択を尊重することを選んだようだ。

323カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2019/09/13(金) 21:50:27
>「……わかった。じゃあ、みのりさん……これからバックアップをお願いね。
 別に、みのりさんがパーティーを脱退するわけじゃないし! ただ、後方支援に回るだけだもんね!
 これからも頼りにしてるよ、みのりさん!」

>「えー。私の意思っていうものは考慮してくれないのかい? ひどいなぁ!
 でも、確かに五穀豊穣君が私の手伝いをしてくれるなら心強いかな。なにせ、今は全部私ひとりでやってるものだから!
 睡眠時間もないし、愛しのメイドたちと愛を語らう暇もなかったんだよね!」

「あーはいはい! みのりさん、バロールさんを尻に敷く勢いでよろしく!」

>「寂しくなるけど・・・永遠の別れってわけじゃないし、さよなら、とは言わないからね」
>「よし!みんなしんみりした雰囲気はなしだ!今日は派手にやろう!」

>「そうしよう、そうしよう! みんな、かんぱーいっ!」

「なゆのリーダー就任と明神さんのサブリーダー就任とみのりさんのバロールさん補佐就任を祝ってかんぱーいっ!」

こうしてどんちゃん騒ぎは夜遅くまで続き、ようやく宴が終わった深夜――

「た、大変だーっ!」

眠れなくて暇だからと城内をうろついて見物していたはずのカザハが叫びながら部屋に駆け込んできた。

《一体何事ですか!》

「なゆがエンバースさんの部屋に入っていくのを目撃した!」

《深夜に美少女が襲撃(意味深)――それは大変だ……っていやいやいや。
だってエンバースさん焼死体だし……多分今日のお礼を言いに行ったとかでしょう……》

カザハは聞く耳持たずに紙とペンを取り出して謎の人物相関図を書き始めた。

「明神さんもなゆのこと大好きっぽいしジョン君も女の子を守りたい系だから美少女のなゆを放っておかないはず!
三人の男子が一人の美少女を奪い合う……これなんて乙女ゲー!?」

《人の話聞いてます!? 人じゃなくて馬だけど!》

「待てよ? でも明神さんにとってのなゆは強敵と書いてともと読む的なアレで本命はエンバースさんか!?
エンバースさんもそっちルートも満更でもなさそうだし……。まさか明神さんとなゆでエンバースさんを取り合う展開もある!?」

相関図に様々な線が書き加えられ、解読不能になっていく。

《ねーよ! ってかお前は一体どういう伝説を語るつもりだ!》

なんでもいいから人型に変身できるようになるまで進化しよう――私は密かに心に誓った。
コイツだけに伝説を語らせたら大変なことになる。

「乙女ゲー展開を本命、エンバースさんを巡る三角関係を対抗として……はっ」

何かに気付いたらしいカザハ。
おおかた、自分が美少年だったことを思い出して、大穴としてあぶれた明神さんが自分に来る展開に思い至ったとかそんなところだろう。
と思いきや、カザハは何故か私に注意喚起するのであった。

324カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2019/09/13(金) 21:52:03
「カケル――気を付けて」

《何に気を付けろと!? 事実無根の勘違いの上に更にマニアックな趣向を勝手に付与しないであげて!?》

妄想で遊ぶのにようやく飽きたのか、カザハはぐちゃぐちゃになった相関図を丸めてゴミ箱に放り投げると、ベッドにダイブした。

「あーあ、疲れたからもう寝よ!」

《さっさと寝ろ! むしろ永眠しる!》

暫し静寂の時が流れた後――もし起きていたら、程度の気持ちでなんとなく聞いてみる。

《ねぇ、明神さんと戦ってる時に”昔一度世界を救えなかった”って言ったよね?
姉さんは……改変前の記憶があるの?》

「そんなの無いよ。でも……小さい頃からずっと……昔大事なものを守れなかった気がしてた。
自分は主人公にはなれないって分かってて。それでいて何かの使命がある気がして。
それが何なのかずっと分からなかった。だからバロールさんの話を聞いてああ、そうだったんだって」

《鳥取砂漠でサンドワームが暴れてたのって……マジだったんだ……》

思い返してみればカザハは昔から不思議な言動が多かった。
奇しくもそれは後に一般化した概念である厨二病(重症)の症例と一致してしまったので、なんとなく流してきたけど。
間違いない、具体的なエピソードは忘れてしまっていても、確かに記憶の断片が魂に刻まれてる――

「もうお休み。勝手に荷物運びに立候補してごめんね」

《いいんですよ――なんてったって馬ですから》

こうして今度こそ私達は眠りについた。
そして、私は夢を見た――この世界ととてもよく似た世界を冒険する夢。
私の背に乗っているのは、カザハではない誰かだった。
少年だった気がするが、もしかしたら少女だったかもしれないし青年だったかもしれないし、要はよく分からない。
何人か仲間がいて、カザハもその中に確かにいた気がするが、何故だかどんな姿をしていたかは思い出せない。
それは失敗に終わった前の周回の記憶なのか、バロールさんやカザハの話を聞いたことによる単なる私の想像なのか――それすらも分からない。
ただ一つ確かなのは、皆楽しそうに笑っていたこと――私は確信した。
きっと、カザハにとって前回の過程は楽しいものだったんだ。だからこそ救えなかった結末がより強く魂に刻まれた――

願わくば――今回の旅は、必ずやハッピーエンドでありますように。

325embers ◆5WH73DXszU:2019/09/16(月) 21:26:26
【シーン・エンド(Ⅰ)】

焼死体の意識の有り様は、肉体の生理機能に依存しない。
意識を司る器官は固茹での脳髄ではなく、呪われた魂だ。
祝福という名の呪いが、焼死体を不死者たらしめている。

それはつまり不死とは――熱力学上における必然であるという事だ。
言い換えれば――死を上回る熱量がある間は、人は死なない。
これは決して荒唐無稽な机上の理論ではない。

試しに熱量を“寿命”と定義してみれば分かる。
死を上回る寿命がある内は、人は死なない――当然の事だ。
同様に死を上回る祝福が――未練/執念/憎悪/悲嘆がある間は、人は死なない。

そして――焼死体は意識を取り戻し、目を見開いた。

『――気が付いたかい?ああ、よかったよかった』

まず目に映ったのは、バロールの顔。

『君に根差す不死性は、些か特殊なものだったからね。正しく処置出来るか――』

「どけ……」

甘く微笑むその面を押しのけ、焼死体は戦場を振り返る。
荒れ果てた中庭には――勝者がたった一人、立っていた。
そして――焼死体は黒煙混じりの、安堵の溜息を零した。

『見えるかいエンバース・・・いやナイト様・・・いやこの場合は王子様かな?
 君の姫様は君のおかげで立ち直って、まっすぐ前を向いて歩き出したんだ』

「知った風な口を利くなよ――俺のお陰?なら、それはあいつのお陰だ」

『君が、どこを見て、何を想ってあんなになゆを過保護にしてたのかは、僕には分らない、でもね』
『そろそろ対等な仲間として、扱ってもいいんじゃないかな?』

「対等?冗談だろ――俺とあいつが、対等なものかよ」

『今のままじゃなゆが・・・君が想ってる誰かが・・・かわいそうだよ』

「――俺がそんな事を、言われなきゃ分からないくらい、馬鹿に見えるか?」

焼死体はそう言ったきり、一切の呼びかけに対する反応を放棄した。

326embers ◆5WH73DXszU:2019/09/16(月) 21:27:55
【シーン・エンド(Ⅱ)】


祝宴が始まって――焼死体は大人しく/静かに/非武装状態で、席に着いていた。
無論大人しくとは、即座に問題を起こす気はないが準備はある、という意味だ。

『ふふふふ〜ん
 どうやった?うちらのリーダーなゆちゃんの強さ、見てくれはった?
 凄かったやろ〜?』

「ああ。リバース・コンボは序盤中盤終盤と隙がない。優れたビルドだった」

『ところでなぁ、エンバースさんはうちらの中で唯一ブレイブやあらへんやんなぁ
 さっきの戦いも結局はブレイブ対策ができている燃え残りとしての戦い方やん?』

「確かに――だが、十分な戦闘力は示したつもりだ」

『うちはエンバースさんのブレイブとしての戦い方も見てみたいんやわ
 というかこれから先、そちらの力も必要になるやろうやよってな』

「心配いらないさ。俺は敵のスマホを奪って、そのスペルだけで戦う事も――」

『IDとパスワードは覚えてる?
 忘れてるなら思い出したらつかいぃな
 うちのサブスマホ、みんなこっちに移してすっからかんやし、エンバースさんが使った方がええやろ』

「――ありがとう、みのりさん。ありがたく受け取っておくよ」

焼死体はスマホを受け取る/左手でみのりの手を取る――そこに重ねるように、スマホを返す。

「ただし受け取るのは、その心遣いだけだ――これは、あんたが持っておくべきだ。
 パートナーを囮に逃げ延びるのは見事な作戦だったが、一つ問題点がある。
 そのままパートナーを死なせてしまっては、次がなくなる」

この世界では、死なせてしまったモンスターは生き返らない。
決闘ではない戦争において、持ち駒を失う事は余りにも多大な損失だ。
一度の勝利と引き換えに、それ以降の全て戦いでパーティ全体が弱体化する事になる。

「万象法典に集めたカード、飾っておくのもいいけど――こっちで使ってみたらどうかな。
 バッファー系のモンスターなら、育成が不十分でも運用は可能だろう。
 ……ビルドの相談なら、いつでもしてくれて構わない」

スマホを手放す/みのりの手を放す――ふと視界の端で動く影。
崇月院なゆたが立ち上がり/手慣れた所作で注目を呼びかける。

327embers ◆5WH73DXszU:2019/09/16(月) 21:30:31
【シーン・エンド(Ⅲ)】

『えー。僭越ながら、これから正式にパーティーリーダーを務めさせて頂くことになりました。
 モンデンキントこと崇月院なゆたです。
 正式にリーダーをすることになったからには、しっかり! 役目を果たしてみせますから!
 皆さん、これからよろしくお願いします!』

「異論はない。よろしく頼む」

『で……ジョンはみのりさんの罰、って言ったけれど。
 みのりさんは『対戦相手』ではあっても『敵』ではなかったので、罰を与える必要はないと思う』

「異論はない」
 
『そして、明神さん。ジョンの特訓はさておき、わたしからも。明神さんを再度パーティーに加入させるにあたって条件があるの
 条件はひとつだけ。わたしがパーティーリーダーを務めるにあたって――
 明神さんをサブリーダーに指名します。もちろんパーティーメンバーはみんな平等で、誰が偉いとか一番とかはないけど……。
 わたしがいなくて、何かを決定する必要があるときは。みんな明神さんの指示に従ってくれればって思う。
 ってことで! これはリーダー特権のご指名なので、明神さんに拒否権はありまっせぇーんっ!
 みんなも異論ないよね? もしあったとしても、デュエルで言い聞かせるだけですけどー!
 ハイ! 賛成の人は挙手ーっ!』

「――異論はない」

腕組みをしたまま、焼死体はそう言った。
かくして、パーティ新生の儀は終わり――

『さ、大団円で次はアコライトゆうところなんやけどな……
 うちは王都に残ろうと思うてんねん』
『……は、ぇ?』

「なん……だと……?」

終わり――ではなかった。

『だってこの魔王様、色々とガバガバの穴だらけで見てられへんのやもん
 兵站管理や情報伝達とか、この人に任せてたら前線に出るうちらは命がいくつあってもたりひんわ
 ほやからうちが王都でそこらへんお手伝いさせてもらおうと思うてなぁ』

『え!? 私!? ぐはぁ! やめるんだ、その攻撃は私に効く!』

――その点に関しては異論はない……とは言え、タンクがいなくなるのは問題だ。

『タンクはジョンさんにお願いするわー
 戦い見させてもろうたけど、有望株や
 うちの太鼓判付きや、安心してええよ!』

――確かに、コカトリスセットなら変則的なタンクロールが可能だ――だが、可能なだけだ。
新たなプレイスタイルには当然、順応する為の時間と経験が必要になる。
アコライトの状況も分からない今、そんなリスクは――

「みのりさん、待ってくれ。幾らなんでも話が――」

『……わかった。じゃあ、みのりさん……これからバックアップをお願いね。
 別に、みのりさんがパーティーを脱退するわけじゃないし! ただ、後方支援に回るだけだもんね!
 これからも頼りにしてるよ、みのりさん!』

「……パーティリーダーがそう言うなら、俺に異論はない」

『よし!みんなしんみりした雰囲気はなしだ!今日は派手にやろう!』
『そうしよう、そうしよう! みんな、かんぱーいっ!』

焼死体は暫しの逡巡の後、手元のグラスを左手で、ほんの僅かに掲げた。

「――ところで、バロール。睡眠不足のお前に朗報だ。
 このリストに記したアイテムを、明日の早朝までに用意してくれ。
 俺の戦法には下準備が必要だからな――お前の協力があれば、手札が増える」

328embers ◆5WH73DXszU:2019/09/16(月) 21:32:49
【シーン・エンド(Ⅳ)】


『エンバース……まだ起きてる……?』

「――モンデンキント?こんな夜更けに、何の用だ」

深夜――焼死体の寝室を尋ねる、少女。
呼びかけに対する返事と共に、夜闇の静謐に響く解錠音。
ドアが開く――目深に被ったフードより漏れる蒼炎が、客人を見下ろす。

『あの……、入っても、いい?』

「……好きにしろ」

『え、えと……。さっきはみんなもいて、ちょっと……その……話しづらかったものだから……。
 ごめんね、休んでるところお邪魔しちゃって。明日もあるし、すぐ帰るから……』

「気にする必要はない。用があったから来たんだろう」

焼死体がフードを脱ぐ/少女を振り返る。

『――あの! き……、今日は、ありがとう。わたしなんかに味方してくれて……。
 あなたは絶対、わたしの味方なんてしてくれないって思ってたから。当然だよね……わたしはずっとあなたに酷いこと言って。
 パーティーを抜けたっていい、なんて暴言吐いて。嫌われても当然だったから』

「なんだ、そんな事か。それこそ、気にする必要なんて――」

『……わたしが間違ってた。さっきまでのわたしは……あなたのことを、真ちゃんの代わりだと思ってた。
 本当は真ちゃんがいるべき場所を、真ちゃんがいなくちゃいけない場所を、あなたが奪ったって。
 勝手にそう思い込んでた……全然、そんなことないのにね』

不意に、焼死体は口を噤む/乾いた心臓が心因性の鼓動を口遊む。

『だから。わたし、勘違いしちゃってた。真ちゃんだったらこんなことないのにって。真ちゃんならこうだったはずって。
 あなたはあなたで。あなたの考えがあって。あなたの目的があるのに……そんなこと、全然考えようともしなかったんだ。
 だから――』

まるで――自分自身の過ちを、言い当てられたような気分だった。

『ゴメンなさい! わたしが悪かったです――!』

少女が頭を下げる――焼死体は咄嗟に、少女の肩を掴んだ。

「よせ。顔を上げてくれ。俺は……」

『……あなたが協力してくれなかったら、きっとわたしは明神さんに勝てなかった。
 あなたが活路を開いてくれたから、わたしは明神さんを倒すことができた。地球由来の因縁に終止符を打てた。
 ありがとう、エンバース。……嬉しかった、とっても』

「……耳が痛いな」

望み通りに、少女は顔を上げた――そして焼死体に微笑みかける。
罪悪感の刃が、胸に深々と突き刺さる――焼死体は、頭を振った。

329embers ◆5WH73DXszU:2019/09/16(月) 21:38:09
【シーン・エンド(Ⅴ)】

『あなたはわたしの身体だけじゃない、心も守ってくれた。わたしのプレイヤーとしての誇りを。
 ね。また、わたしを守ってくれる……?
 わたし、あなたに守ってもらいたい。あなたが守ってくれるなら――わたし。きっと、もっと頑張れる気がするから』

最早、告解は贖罪には成り得ない。
――実は、俺はお前を違う女と見間違えていたんだ。
そんな事を告白をして、何になる――少女の微笑みを、曇らせるだけだ。

「――ああ、言われるまでもない。お前が望む事は全て、俺が叶えてやる」

故に焼死体は――少女の願いに誓いを返した。
それは――贖罪と、報恩の為の、誓いだった。

『あー……ゴメンね! なんか、わたしばっかりまくしたてちゃって!
 頼み事するにも、やり方ってものがあるよね……こういうの、慣れてないもんで……あは、あはは……』

「……気にする必要はない。お前のお喋りにも、もう慣れた――」

『もっとかわいくお願いした方が、好みだった?』

「――――だが、そうだな。次からはそうしてくれると、助かる」

最大限に平静を保った返答は――しかし、その実、心からの懇願だった。
またも少女に最愛の面影を見て、焼死体は酷い自己嫌悪に灼かれていた。

『言いたいことはそれだけ! じゃ……わたし行くね!
 明日は激戦地へ行かなくちゃなんだから! 気合い入れていきましょ!
 エンバース、おやすみ!』

「なんだ、ここで一晩過ごしていくものと思っていたが……冗談だ。おやすみ、リーダー」

330embers ◆5WH73DXszU:2019/09/16(月) 21:39:51
【シーン・エンド(Ⅵ)】


恐らく少女は気付かなかっただろう――先ほどの焼死体には一つ、不自然な振る舞いがあった。
寝室へと招き入れた少女へ振り返る時、焼死体は被っていたフードを脱いだ。
だが――そもそも何故、寝室でフードを被っていたのか。

結論から言えば、焼死体は少女が訪ねてくる直前まで、寝室にいなかった。
王宮内を徘徊していたのだ――眼窩から漏れる炎を、フードで隠しながら。

焼死体は立ち上がると、懐から何かを取り出した。
淡い蒼光を帯びた、双角錐状の結晶体――成形クリスタル。
『異邦の魔物使い(ブレイブ)』への支援物資集積所からの、盗品だ。

バロールに火急の物資収集を依頼したのは、これが目的だった。
つまり、調達人の動線から、物資集積所の位置を特定する為だ。

自らの眼光に照らされたテーブルの上に、自身のスマホを置く。
ひび割れた液晶の上から、成形クリスタルを落とす。
画面に波紋が走る――クリスタルが沈む。

そして――液晶画面に、光が灯った。

「なるほどな――」

焼死体は、全てに得心が行った、といった風情で独り言ちた。




「――電池切れだったか」

331明神 ◆9EasXbvg42:2019/09/23(月) 23:42:54
温度のない静かな月明かりが、磨き上げられた石畳をおぼろげに照らす。
俺はその上を、酸欠の金魚みたいな顔で走っていた。
一歩ごとにぜぇとかひぃとか情けない声が漏れる。喉はとっくにカラカラだ。

「脇腹が痛ぇよぉ……そろそろ切り上げてもいいんじゃないっすかジョンさん!ジョンアデルさーん!?」

王宮の外周を走破する地獄のランニングに俺を引っ張り出しやがった張本人の姿は視界内にない。
奴は俺の数倍近いペースでさっさと走って行ってしまった。しかも息一つ乱さずにだ。
たぶんもうじき後ろから追いついてきて、周回遅れの俺を抜き去るだろう。
すでに二回くらい追い抜かれてる。

「クソ……自衛官ってみんなあんなペースで走ってんのかよ。どういう心臓してんだマジで」

これがフィジカルエリートってやつか……なんかもう生物的に別の存在じゃねえのアレ。
いや俺が普段から運動不足ってのもあるよ?たしかにね。俺もうアラサー手前だもんね……。
長距離走なんてやんの高校出て以来だしな。

明日のアコライト外郭出立へ向け、ジョンが提示した『訓練』を俺は履修していた。
それ自体に文句はない。降伏に条件が伴うのは勝者の権利であり、敗者の義務だ。
でも身体動かすのやだぁ……明神お部屋でゲームしたいです……。
しかし最近ゲームも長続きしなくなってきたんだな。疲れちゃう。老いか?老いなのか?

酸素の巡らない脳味噌で、走馬灯めいた記憶を思い起こす。
この訓練の発端となった、祝宴の席を――

 ◆ ◆ ◆

332明神 ◆9EasXbvg42:2019/09/23(月) 23:43:24
クーデターもといフレンド対戦を終えた俺達は、バロールの取り計らいで宴に招待された。
引っ込みざまにバロールは机の上でも片付けるような気安さで、破壊され尽くした大広間を修復する。
なんの気無しに見せたその所業は、アルフヘイム最強の魔術師の、面目躍如だった。

>「これでよしっと。みんな、疲れただろう? これから歓迎の準備をするから、それまでは休んでいるといい。
 部屋に案内するよ……お風呂に入るもよし、着替えてひと眠りするもよし。自分の家だと思って寛いでほしい!」

準備をするから待っててとか言われたので、ひとっ風呂浴びながらお沙汰を待つことにする。

>「なゆ、一緒に……ぐぎゃあ!」

「お前何ナチュラルに女湯行こうとしてんだ!こっちで裸の付き合いの約束だろ」

お馬さんに足払い食らったカザハ君の首根っこを掴んで男湯に引っ張り込む。
こいつマジか。普通になゆたちゃんとお風呂入ろうとしやがりましたよ。
とんだエロ妖精さんだぜ。こいつはちょっとおしおきが必要なんじゃないですか?

「ジョン、エンバース、風呂行こうぜ。俺いっぺん足の伸ばせるお風呂に入りたかったんだよ」

アルフヘイム来てからずっとシャワーばっかだったもんな。
なゆたハウスにはバスタブもあったけど、大人の男が浸かるにはちっとサイズが小さかった。
多分浴槽の内側に張り出したスライム彫刻のせいだと思うんですけど。
実用性皆無な部分はやっぱゲームのフレーバー建築だよなぁ。

「自衛隊のお風呂ってどんなもんなの?やっぱ『野外入浴車1号』とかそんな名前付いてんのかね」

とかなんとか益体もないことくっちゃべりながら誘うが、エンバースからは反応がなかった。
寝てんのこいつ?まぁ炎属性だし水引っ被るのはよろしくないのかもしれん。
お湯に浸して変なダシとか出たらイヤだしな……。

「うおーっ、すげえ。全部大理石張りかよ。やっぱアルメリアって儲かってたんだなぁ」

アルメリア王国の主要産業はガンダラで採れる良質な成形クリスタルだ。
そしてその潤沢な魔力資源、つまりは軍事力を背景に、アルメリアは大陸の覇権国家となった。
鉱山が枯渇したいま、世界の消滅とは別の意味でこの国は存亡の危機に立たされている。
この豪華なお風呂もいつまで入れるかわからない。今のうちに存分に満喫しておこう。

「あ、お馬さん……カケル君も入んの?いーよいーよ洗うの手伝うよ。こいつも仲間だからな。
 馬油で出来た石鹸でお馬さん洗うのってなんか倫理的にアレな気がするけども」

カザハ君と一緒に泡立てた石鹸でカケル君の毛並みを濯ぎ、ブラシをかける。
高校の頃、職場体験で行った地元の農場を思い出した。
こいつどこまで意思疎通できるんだろうか。カザハ君とはツーカーの仲みたいだけど。

「バロールはともかくメイドさんたちには絶対内緒な。
 浴場で馬洗ったとか知られたら背骨の形変わるまで背負投げされそうだ」

カケル君を洗ったあとはジョンと三人で背中を流し合ったりしながら、俺達は旅の埃を落とした。
部屋着に着替えてしばらくうとうとしているうちに、食事の時間だ。

>うまい!めっちゃうまい!うますぎるんですけど!

大卓にずらりと並んだ珍品美食の数々に、ジョンが舌鼓を打ちながらバクバク貪っている。
俺の前に供された大ぶりの海老は、背殻が綺麗に開かれて真っ白な身に鮮やかなソースがかかっていた。
……うめぇ。内陸のキングヒルでこんな海鮮が食えるなんて思ってもみなかった。
輸送やら保存やらめちゃくちゃ金かかるだろうに。

333明神 ◆9EasXbvg42:2019/09/23(月) 23:43:59
>「いやぁ、本当は我が国の諸侯も招いてもっと盛大な宴にもできたんだけどねぇ!
 なにせ戦時中だ。そこまでの余裕も時間もなくてさ……慎ましい宴だけれど、どうか許してほしい!
 その代わり、ここにあるものは遠慮なく食べたり飲んだりしてくれて構わないよ!
 明日には激戦地のアコライト外郭へ発ってもらわなければならないんだ。せめて今日は英気を養ってくれたまえ!」

出、た、よ!王宮式のご謙遜が!しまいにゃぶぶ漬け出してくるんじゃあねえだろうな。
バロールはんはそんな暗黙の批判などどこ吹く風で、宴会の音頭を取る。

>「慎ましい!? これで!?」

カザハ君は素直に贅を尽くした歓迎に驚愕していた。
こいつはホント良い反応するよなぁ。そりゃバロールはんも可愛がるわ。

>「やあ明神、となりいいかい?」

無心で海老の殻を剥いていると、いつの間にかジョンが俺の隣に座っていた。
俺は承諾の返事の代わりに、エールで満たされたグラスをジョンのものとぶつける。
乾杯して一杯飲み干せば、戦いの余韻は全部胃袋の中だ。

>「いやー本当に凄かったね、なゆも、明神も、元の世界で一般人だったって話が信じられないほどだよ
 たぶん僕にはマネできないなあ、コツがあったら教えてほしいくらいだよ」

「よく言うぜ。お前の部長砲弾の方がよほどビビりましたよ俺は。
 自衛隊じゃワンちゃん投げる訓練でもしてんのか?」

俺の戦い方は、言ってみればゲームの延長線の上でしかない。
マジックチートにしたって現実にある複垢って違反行為が下敷きだ。
モンスターを物理的に武器として扱うのも、生身でモンスターの攻撃を受けるのも、完全に想定外だった。

>「それはそうと、一応今回のって一応クーデターだろ?
 まぁ、クーデターって形にしなきゃいけなかったっていうのはわかるけど・・・」

昼間の一件を引き合いに出して、ジョンは笑った。
俺は背筋が毛羽立つのを感じた。ジョンの笑みは、俺が邪悪なことを考える時と同じものだったからだ。

「やめろよ!何思いついたんだその顔!」

>「クーデターはクーデターだ、なゆがいくら罰は必要ないといっても・・・はいそれじゃなしで!解散!でいい筈がない
 もしかしたら罰がなかったって事で後からわだかまりを残すかもしれない・・・だから・・・」
>「罰として明神はご飯食べた後、僕の日課の『訓練』に付き合う・・・みのりの罰は・・・なゆに任せる!OK?」

「なん……だと……?」

は?え?んん??訓練?訓練っておっしゃいましたか今?
自衛官が言うところの『訓練』。その意味が、その概要が、絶望感を伴って脳味噌を直撃する。

「はあああああっ!?お前っ、俺パンピーだよ!?自衛隊式の訓練なんかやったら秒で吐くよ!?
 バロールはんがせっかく用意してくれたこの美味しいご飯をリバースしますよ!?」

大学の頃、就活の一環で愛知地本の広報官から教育隊の概略説明を受けたことがある。
提示された一日のスケジュールは、とても運動不足の文系学生に耐えられるものじゃなかった。
そして俺はその時よりも遥かに、身体が鈍っている!

334明神 ◆9EasXbvg42:2019/09/23(月) 23:44:41
>「なんで俺だけ訓練なのかって?そりゃ僕が女の子用の護身術を知らないってのもあるけど・・・
 単純にその前の筋トレもハードだからやらせるわけにはいけないでしょ、体の負担もきついし
 後、明神・・・君はモンスターやカードに頼りすぎだ、君自身最低限自衛できなくては」

「うっ……そりゃ、そうだけどよ。俺の身体の負担についても考慮していただきたいんですけお」

ジョンの指摘は尤もだった。俺はおそらくPTの中で一番の貧弱一般人だ。
本体の戦闘能力の欠如。それは、クリスタルが尽きた際に完全な無防備となることを意味する。
それでなくても例えばスマホを奪われたり、どっかに置き忘れでもすりゃその時点で死亡確定だ。

プレイヤーへのダイレクトアタックが普通に飛び交う現状、自衛手段はあるに越したことはない。
なゆたちゃんが、お姉ちゃんのスキルを会得して回避能力を手に入れたように。
ジョンが、鍛え上げた肉体を駆使して人魔一体となって戦うように。

思えばミハエル・シュバルツァーも、堕天使だけじゃなく本人が強かった。
縫合者もといライフエイクを一撃で仕留めたのは、他ならぬあいつ自身の力だ。
長短二振りの槍をたぐるミハエルの体捌きは、引きこもりゲーマーのそれではなかった。

このアルフヘイムなら、地球人でも戦う力を鍛えられる。
鍛えられるのなら……鍛えるべきだ。使えるカードを増やす努力を、怠っちゃいけない。

>「筋肉痛?疲労?怪我?大丈夫!ここのメイドさんはそこらへんのサポートも完璧らしいよ!
 訓練中もずっとついててくれるって!よかったね!
 みんなも、もしよかったら鍛えてあげるけどやるかい?相当ハードになるけど・・・あ、明神は絶対だよ」

「絶対かぁー……絶対だったかぁー……」

俺があと10年若かったら、魔法やスキルが使えることにさぞ心踊ったんだろうけど。
まさかこの歳になって、肉体言語を学ぶ必要に迫られるとは……。

>「安心してくれ、この今日一日で暴漢から逃げれるくらいには護身術を教えてあげよう
 本当は最低限の体を作ってからがいいんだが、一日しかない以上そうはいってられないだろう?」

助けを求めるようにパーティーリーダーを見る。
言ってやってくださいよリーダー!おじさんに肉体言語は酷だってよぉ!
なゆたちゃんは俺とジョンの顔を交互に見て、それから小さく頷いた。

>「まぁ……それは構わないけど。明神さんに任せるよ」

リーダーァァァァァァァ!!!!

「……わかった。何かしらクーデターのケツは拭かなきゃならねえと思ってたところだ。
 やるよ、訓練。自衛隊式でビシバシ鍛えてくれ。……今日だけな」

まぁ?まぁ?一日くらいなら血反吐吐きながらでもなんとか乗り切れるだろう。
これで貸し借りがチャラになるなら安いもんや!いやあ明神はん商売上手ですわ!

たぶんアルコールが入って気が大きくなってたってのもあると思う。
俺はこのどんぶり勘定な取引を、あとで死ぬほど後悔することになる。
っていうか死んだ。すいーつすいーつ。

これ以上会話を重ねると墓穴を掘りそうなので、俺はススっとジョンの元から離れた。
なゆたちゃんとお喋りしていたカザハ君の首根っこを再び掴む。

335明神 ◆9EasXbvg42:2019/09/23(月) 23:45:22
「カザハ君、カザハ君よぉ。飲んでるか?カケル君はお酒いける口なの。
 お馬さんはビールが結構好きらしいぜ。もともと麦食ってるからかな」

俺はずっとこいつに聞きたかったことがある。
疑問が形になったのは、クーデター閉会式の時だ。

>「いい名前じゃん。よろしくね、瀧本さん。……カケル、背中貸してあげて。タッキー&ツバサ――なんちゃって」

「お前さ、ホントはいくつなの」

カザハ君がポロっとこぼしたセリフは、はっきり言ってオヤジギャグの類だ。
俺の本名とカケル君の翼をかけた、特に深い考えもない一言だったんだろうが――
ネタが、古い!マジで古い!二十年近く前のアイドルやぞそれ!
俺が小学生の時に流行った連中じゃねえか!タッキーなんか社長になっとるぞ!

「俺お前のことカザハさんって呼んだほうがいいのかな……」

そんなこんな、無軌道な話題で酒宴は続く。
べろんべろんになりつつある俺に、反逆者の慎ましさはもはやない。ないったらない。

>「じゃあ……いい機会だから、わたしからも言っておこうかな」

と、そこへ我らがリーダーがやおら立ち上がり、手を叩いて注目を集めた。
俺はカザハ君の首の戒めを解き、謹聴の姿勢を取る。

>「えー。僭越ながら、これから正式にパーティーリーダーを務めさせて頂くことになりました。
 モンデンキントこと崇月院なゆたです。
 正式にリーダーをすることになったからには、しっかり! 役目を果たしてみせますから!
 皆さん、これからよろしくお願いします!」

「よろしくリーダー。……神輿を担いだのは俺だ、最後までちゃんと支えるよ」

俺は、またしてもリーダーの責務をなゆたちゃんに課してしまった。
これまでみたいななあなあのなし崩しじゃなく、主張のぶつけ合いの果てに、彼女を推挙した。
17歳の女の子にとって、それがどれだけ重圧となるか、理解した上で。

だけど、これは決して消去法なんかじゃない。
他にやれるやつが居ないからなゆたちゃんにリーダーのお鉢が回ったわけじゃ、断じてない。

リーダーは俺にもできる。それは、俺がなゆたちゃんも認める凄いヤツだからだ。
そして……そんな凄い俺が認めるもっと凄いヤツが、なゆたちゃんだ。
能力、覚悟、資質――色んなことを勘案した上で、俺はなゆたちゃんに付いていくことを選んだ。
こいつに引っ張って欲しいと、こいつの背中を押したいと、偽りなく感じる。

だから……つまらん罪悪感はもう捨てる。
この選択を後悔しないよう。後悔、させないよう。全力を尽くそう。
それが、俺のなゆたちゃんに対する向き合い方だ。

>「で……ジョンはみのりさんの罰、って言ったけれど。
 みのりさんは『対戦相手』ではあっても『敵』ではなかったので、罰を与える必要はないと思う。
 そして、明神さん。ジョンの特訓はさておき、わたしからも。明神さんを再度パーティーに加入させるにあたって条件があるの」

なゆたちゃんは俺を指し示す。
クーデターの敗戦処理、先延ばしにしてきた因果応報の時間がやってきた。

こればかりは神妙に受け入れるしかない。
そもそも裏切り者の身分でこうして卓を囲んでられるのもわりと奇妙な話だ。
みんなが酔っ払ってる間、杯が乾かぬよう酒を注いで回る役目を任じられてもおかしくなかった。

336明神 ◆9EasXbvg42:2019/09/23(月) 23:46:04
>「条件はひとつだけ。わたしがパーティーリーダーを務めるにあたって――
 明神さんをサブリーダーに指名します。もちろんパーティーメンバーはみんな平等で、誰が偉いとか一番とかはないけど……。
 わたしがいなくて、何かを決定する必要があるときは。みんな明神さんの指示に従ってくれればって思う」

そうして敗軍の将に、裁定が下った。

「……マジで?」

煮るなり焼くなり好きにしろとは言ったけれども。
反逆者に次席のポストが与えられるとは想定すらしてなかった。

「いいのかよ。遺恨残らない?自分で言うのもなんだけど結構酷いことしたよ俺」

色々酷いことも言ったし、人事不省のなゆたちゃんに一方的に襲いかかりもした。
そもそも性根がクソコテ気質のうんちぶりぶり野郎だし、その性格を改めるつもりもない。
バトル自体はさわやかに終わったけれど、俺の根っこは依然邪悪なままだ。

>「ってことで! これはリーダー特権のご指名なので、明神さんに拒否権はありまっせぇーんっ!
 みんなも異論ないよね? もしあったとしても、デュエルで言い聞かせるだけですけどー!
 ハイ! 賛成の人は挙手ーっ!」

「うぐぅ……なんつうかその、なゆたちゃん。したたかになったな……」

もともとこんな感じだったような気もするけど。
こうして強権を遺憾なく振るえるようになったのは、この場の誰もが彼女の強さを認めたからだ。
だったら、俺に拒否する理由はない。

>「――異論はない」

クーデターで一番煽ったエンバースも普通に賛同した。
こいつホントに起きてるぅ?さっきから自動回答Botみたくなってんぞ。

まぁ、とはいえ――なゆたちゃんが指名したのなら、俺は自信を持てる。
俺を信じるなゆたちゃんを、俺は信頼している。
他のメンバーの誰よりも高く、俺は手を挙げた。

「うけたまわり。今この時よりサブリーダーを拝命しました笑顔きらきら大明神です。
 精一杯頑張る、とは言わねえよ。俺はサブリーダーだって楽勝な凄い奴だ。
 ……必ず世界を救ってやろう。このメンバーで。当代きっての、凄い奴らで」

なんだか言っててこっ恥ずかしくなってきたので、エールのグラスを思い切り呷った。
こいつらとなら世界だって救えると、今なら胸張って言える。
俺達が地球でやってたみたいに、デイリークエストくらいの気安さでやってやろう。

>「ついでにボクは書記でいい? そしてみのりさんを会計、ジョン君を広報、エンバースさんを庶務に推薦します!」

……こういう緊張感皆無な奴もいることだしな。
そりゃお前は書記だし、ジョンは広報だろうけど!焼死体に庶務はちょっと荷が勝ちすぎるんじゃないのぉ?
こいつブレイブ殺すか皮肉垂れるくらいしかしないじゃん。

>「さ、大団円で次はアコライトゆうところなんやけどな……
  うちは王都に残ろうと思うてんねん」

宴もたけなわとなった頃、エンバースと何事か話していた石油王が告げた一言に、俺達は騒然となった。
石油王は一行を離れ、王都に残るつもりだ。
リバティウムでのしめじちゃんとの別れが脳裏をかすめて、俺は泡を食った。

337明神 ◆9EasXbvg42:2019/09/23(月) 23:46:31
「ちょ、ちょっと待てよ!一体どういう風の吹き回しだ!?」

言うまでもなく石油王は俺達の防御の要、メインタンクだ。
こいつがいなけりゃ消し炭になってたことなんか一度や二度じゃない。
そしてタンクである以上に、俯瞰視点から戦況を見渡すこいつの冷静さには何度も救われてきた。

その石油王の離脱表明は、少なくない衝撃をもって俺達を襲う。
なんで。クリスタルを使い切って戦えなくなったってわけじゃないだろう。
バロールから物資提供の確約は取り付けてるし、石油王には万象法典のカードプールもある。

それなら。命がけの戦いを続けられなくなった?
いくつもの疑念が頭を擦過していくが、石油王の真意はそのどれでもなかった。

>「だってこの魔王様、色々とガバガバの穴だらけで見てられへんのやもん
 兵站管理や情報伝達とか、この人に任せてたら前線に出るうちらは命がいくつあってもたりひんわ
 ほやからうちが王都でそこらへんお手伝いさせてもらおうと思うてなぁ」

バロールが胸を押さえてのけぞるがそんなことはどうでも良い。
つまり石油王は、色々不安なバロールの第二のバックアップとして俺達を支えるつもりなのだ。

必要性は理解できる。
俺達の命綱を、バロール一人……ひいてはアルメリア一国に依存するのはリスクが大きい。
ついでに言えばバロール自体裏切りの前科がある以上、手放しに信頼することはできない。
お目付け役として石油王が王都に残ってくれれば、俺達はずっと安心して旅を続けることができる。

理屈では分かってた。多分これ以上の最適解はない。
情勢不安なアルメリアの抑えには、誰かが残るべきで……適任は、石油王だった。

だけど……だけど。俺はおいそれと受け入れられなかった。
支援とか情報とか、そんな実利的なものだけじゃなかったろ。お前がこのPTに占める大きさは。
YESもNOも言えないまま固まる俺に、石油王はそっと近寄って耳打ちした。

>「もううちのようなブレーキがおらへんでもこのPTは崩れへん、やろ?」

「石油王……」

こいつは理解しているのだ。自分が俺達にとってどんな存在だったか。
どんな役割を担っていて……どんな問題が解消されたか。
なゆたちゃんが舵なら、石油王は俺達のブレーキ役だった。
俺が頼んだから。こいつはずっと、PTが暴走しないよう抑えに回ってくれていた。

そして俺達は足並みを揃え、十分に制御が効くようになった。
もう大丈夫だと、自信を持って石油王が送り出せるようなPTに、俺達はなったのだ。

>「……わかった。じゃあ、みのりさん……これからバックアップをお願いね。
 別に、みのりさんがパーティーを脱退するわけじゃないし! ただ、後方支援に回るだけだもんね!
 これからも頼りにしてるよ、みのりさん!」

なゆたちゃんも思うところはあったようだが、それを飲み込んで石油王の離脱を承諾した。
もう止められない。いや、リーダーの承認があろうがなかろうが、止めることは出来なかった。
石油王の選択なら、尊重したいと……他ならぬ俺自身が、そう思ったからだ。

338明神 ◆9EasXbvg42:2019/09/23(月) 23:47:08
>「えー。私の意思っていうものは考慮してくれないのかい? ひどいなぁ!
 でも、確かに五穀豊穣君が私の手伝いをしてくれるなら心強いかな。なにせ、今は全部私ひとりでやってるものだから!
 睡眠時間もないし、愛しのメイドたちと愛を語らう暇もなかったんだよね!」

……ホントに大丈夫かなぁ?
このセクハラ魔王、テンション上げてんじゃねえよ。
メイドさんめっちゃ冷ややかな対応しとるがや。

>「寂しくなるけど・・・永遠の別れってわけじゃないし、さよなら、とは言わないからね」
>「よし!みんなしんみりした雰囲気はなしだ!今日は派手にやろう!」

ジョンが陽キャ仕切りで暗い空気を払底する。
俺も同感だった。送り出される側が辛気臭いツラしてちゃ、石油王も枕高くして寝れねえよな。

>「そうしよう、そうしよう! みんな、かんぱーいっ!」

なゆたちゃんの音頭で、宴は再び祝賀ムードに戻る。
俺は結局泥酔して、そのまま寝落ちした。

……したかったけど。
ジョンに叩き起こされて、バロールに解毒魔法をかけられて、シラフのまま訓練に突入した。
回想終わり。

 ◆ ◆ ◆

339明神 ◆9EasXbvg42:2019/09/23(月) 23:47:39
一日くらいなら、どうにかなると思ってた。
24時間ずっと訓練ってわけでもないし、いい感じのところで切り上げて英気を養うもんだとばかり。
だがジョンの『訓練』は俺の想像を超えるどころか、常軌を逸していた。

「はぁ……はぁ……ひぃ……」

ようやく課されたランニングのノルマが終わり、俺は石畳の上に五体を投げ出した。
本当に、本当にキツかった……。
ジョンの講義は護身術の座学に始まり、実戦組手でぶん投げられること数多。
何度ゲロ吐いたか数えてもないが、体中にできた青痣だけは治癒魔法ですぐに治った。

そして仕上げとばかりに王宮ランニング。
俺より5周近く多く走ったジョンは涼しい顔でタオルを手渡して、どっかに行ってしまった。
多分風呂だろうな。俺はしばらくここから動けそうにない。

だけど、やりきった……!!
本来の『訓練』より緩いメニューだったみたいだが、それでもジョン軍曹の地獄の教練を乗り切った。
身体をここまで酷使すんのは本当に久しぶりだ。心臓が筋肉痛になりそう。
誰だよ心地よい疲労感とか抜かした奴は!マジでしんどいからな、マジで!

「おや、戻ってきたのがジョン君一人だったから妙だなと思ったけれど……。
 君はお風呂に行かなくていいのかい?うんちぶりぶり大明神君。
 心配せずとも大浴場は24時間オープンだよ。私のように昼夜なく働く者もいるからね」

虫の息の俺の頭上に影が落ちる。
見れば、バスローブ姿のバロールが髪を拭きながら俺を見下ろしていた。
湯上がりらしく、露出した首筋からほこほこと湯気を上げている。
ちゃんと飯食ってんのかってくらい白い肌も、今は上気してほんのりピンクだ。

「今は、笑顔きらきら、大明神、だ……。名前変えたんだよ、登録しとけ」

「はは、ごめんごめん。私がうんちぶりぶりと言うとカザハ君が毎回笑うのが面白くてね。
 その様子だと、ジョン君の訓練は無事に修了したようだ。"禊"は、済んだのかな?」

「さぁな。それを決めるのは俺じゃねえよ。
 あいつらが俺の裏切りを赦せたら、そのとき初めて禊が終わったって言える」

バロールはふむ……とかううん……とか謎の悩ましい声を上げた。
なんなのこいつ。こんなところで死に体のブレイブに構ってるヒマあるんですかね。
睡眠時間ないとか言ってたくせによぉ。

「まぁ、私の狭見で恐縮だけど、彼女らとの今後の関係に問題はないと思うよ。
 君の真意がどうであれ、反逆行為には変わりないけれど……終わった話を蒸し返すほど狭量ではなさそうだ」

「だと良いけどな。で、本題はなんだよ?ただお喋りしにきたってわけじゃねえだろ」

「ひどいなぁ。私だってたまには世界の存亡と無関係の雑談を楽しみたいものさ。
 師匠に侵食対策の総代を任せられて以来、気の休まる時はなかったからね。
 生きて王都に辿り着いたブレイブと対面しても、皆私を拉致犯の親玉としてしか扱わなかった」

当然だけどね、とバロールは零す。
当然だろうが、と言ってやりたかったが、今日はもう色々ありすぎてそんな気も失せた。
そしてバロールも、今更そんなかわいそぶるつもりはないんだろう。

340明神 ◆9EasXbvg42:2019/09/23(月) 23:48:24
こいつが自分のしたことに自分で責任をとるのなら、俺はもう何も言わない。
こいつが呼び付けて、死んでいったブレイブ達の恨み節は、俺が代弁するべきじゃない。

「私の立場でこんなことを言うのは些か不義理かもしれないけど……。
 君たちには、死なないで欲しい。世界を救うだけではなく、生きて帰って来て欲しい。
 ――何より。君たちが戻らなければ、私は五穀豊穣君に絞め殺されてしまうからね」

「へっ、お前に言われなくたって死ぬつもりはねえよ。あいつらを死なせるつもりもない。
 生きて帰らなきゃ、お前がブレイブ達の墓参りすんの見れねえだろうが」

「ははっ!そういえば約束をしていたね。うん、それが良い。
 全部終わったら、私もまた旅に出られる。君と諸国を巡れる日を、楽しみにしているよ。
 ……そして見届けてくれ。私の、贖罪を」

何に満足したのかぴくちりわかんねえけど、バロールは微笑みだけ残して去っていった。
え?マジ?あいつホントに雑談だけして帰りやがったよ!?

「……あ、あれ?」

ふと、身体を締め付けるような酸欠の苦しみが、綺麗に失せているのに気付いた。
走り終わってからまだ5分も経ってない。
起き上がると、立ってるのもつらかった疲労感もまたさっぱりなくなっていた。

回復魔法?バロールがやったのか?いつの間にかけたんだアイツ!
呪文はおろか予備動作すら見えやしなかった。
これが十三階梯筆頭。これが、アルフヘイム最強……。

まぁでも疲れ取れたならもうけもんやな。お風呂入ってこよーっと!
上機嫌で大浴場に向かう道すがら、石油王の姿を見つけた。
宴が解散になったあとこいつはずっとバロールの所で議論していた。
バロールが風呂上がりってことは、一旦休憩に入ったってところだろう。

「石油王」

俺は夜風に当たる石油王に声をかけて、その隣の手すりに身体を預けた。
話しておきたいことは一杯あった。これからどうするのかとか。
……あるいは、これまでの旅の思い出話とか。

だけど、うまく言葉にならなかった。
どうやっても、こいつに翻意を促すような、引き止めの台詞が出てきそうで。
それが無意味なことくらい、俺にもわかった。

341明神 ◆9EasXbvg42:2019/09/23(月) 23:48:55
「……ジョンのことは任せとけ。俺も昔とった杵柄で、多少はタンクの心得がある。
 アコライト行ってからでも、お前の伝えた知識を俺が補完することは出来るはずだ」

タキモトとしてプレイしていた頃の俺は、本職こそアタッカーだったが、
サブロールとしてタンクも人並み程度には齧ってる。
戦線を維持する責任の重いタンクは基本的に人手不足の引く手数多で、足りないPTでは兼任も珍しくなかった。
あの頃から多少環境も推移したが、ロールとしての立ち回りは変わってないはずだ。

「あの野郎には訓練で貸しがあるからな。スパルタ式でビシバシ教え込んでやるよ」

だから心配するな。俺達はうまくやれる。
お前は安心して、バロールのところで支援に専念してくれ。
そんなようなことを、歯切れの悪い言葉で、俺は石油王に伝えた。

これで終わりでいいのか?
こうして顔を突き合わせて話すのは、最後になるかもしれない。
バロールにはああ言ったが、俺達が生きて再び王都の地を踏める保証はない。
もっと、なにか、かけたい言葉があったんじゃないのか。

石油王とは、荒野で出会ってからずっと一緒に旅をしてきた。
暴走しがちな高校生組の手綱を二人で握り、大人組として後見してきた。

俺がなにかを相談する相手は必ず石油王だったし、その度にこいつは十全の答えをくれた。
一方的で身勝手な信頼を、それでも受け止めて手助けしてきてくれた。
クーデターでは何も言わずとも俺の真意を理解し、命を張ってまでなゆたちゃんに言葉を届けてくれた。

魔を喰い魔に喰われるこのアルフヘイムで、明日の命も知れない過酷な旅路で。
石油王は常に、俺の良き理解者であり、掛け替えのない……相棒だった。

俺が今、言わんとしていることなんか、こいつはとっくに分かってるだろう。
それでも、じっと言葉を待ってくれている。

これから俺が言うのは、PTメンバーとしてじゃなく、共に死線をくぐった仲間としてでもない。
合理性も必要性も全部ぶん投げた、瀧本俊彦としての、気持ちだ。

「寂しくなるな」

そして……本来なら、信じて送り出してくれる奴に対してかけるべきじゃない言葉。

「お前とこの先旅を続けられないことが、寂しい」

だから、これを最後の弱音にする。
もう一度、次は世界を救った後に――ここで会おう。


【エピローグ】


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板