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変身ロワイアルその6

1名無しさん:2014/08/07(木) 11:23:31 ID:V1L9C12Q0
この企画は、変身能力を持ったキャラ達を集めてバトルロワイアルを行おうというものです
企画の性質上、キャラの死亡や残酷な描写といった過激な要素も多く含まれます
また、原作のエピソードに関するネタバレが発生することもあります
あらかじめご了承ください

書き手はいつでも大歓迎です
基本的なルールはまとめwikiのほうに載せてありますが、わからないことがあった場合は遠慮せずしたらばの雑談スレまでおこしください
いつでもお待ちしております


したらば
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/15067/

まとめwiki
ttp://www10.atwiki.jp/henroy/

37切札 ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 12:12:17 ID:V1L9C12Q0
【血祭ドウコク@侍戦隊シンケンジャー】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(大)、苛立ち、凄まじい殺意、胴体に刺し傷、ほぼ泥酔状態
[装備]:昇竜抜山刀@侍戦隊シンケンジャー、降竜蓋世刀@侍戦隊シンケンジャー
[道具]:大量のコンビニの酒
[思考]
基本:その時の気分で皆殺し
0:仕方がないので一也たちと協力し、主催者を殺す。 もし11時までに動きがなければ一也を殺して参加者を10人まで減らす。
1:マンプクや加頭を殺す。
2:杏子や翔太郎なども後で殺す。ただし、マンプクたちを倒してから(11時までに問題が解決していなければ別)。
3:嘆きの海(忘却の海レーテ)に対する疑問。
[備考]
※第四十八幕以降からの参戦です。よって、水切れを起こしません。
※第三回放送後の制限解放によって、アクマロと自身の二の目の解放について聞きました。ただし、死ぬ気はないので特に気にしていません。


【外道シンケンレッド@天装戦隊ゴセイジャーVSシンケンジャー エピックon銀幕】
[状態]:健康
[装備]:烈火大斬刀@侍戦隊シンケンジャー、モウギュウバズーカ@侍戦隊シンケンジャー
[道具]:なし
[思考]
基本:外道衆の総大将である血祭ドウコクに従う。
[備考]
※外見は「ゴセイジャーVSシンケンジャー」に出てくる物とほぼ同じです。
※これは丈瑠自身というわけではありませんが、はぐれ外道衆なので、二の目はありません。

38 ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 12:12:47 ID:V1L9C12Q0
199話は以上です。
じゃあ、本日ラストの記念すべき第200話を投下します。

39怪奇!闇生物ゴハットの罠 ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 12:13:18 ID:V1L9C12Q0



『────健闘を祈る』

 その言葉が終わると同時に、涼村暁は考えた。

 ──そう、誰を生贄にしようか、と。
 さて、現在十四人ほど参加者がいる。自分は帰りたい。とりあえず、十四人いる内の十人が残れば全員返してもらえるわけだ。自分と自分以外の四人、天秤にかけるまでもない。
 それなら、勿論話が早い。
 十人も生き残れるなら、四人くらい犠牲になってもらう方針でいくほかないだろう。

「よし、死ねーっ、石堀!」

 暁は即座にスタンガンを構えて石堀の体を狙うが、石堀が暁の方を見もせずにひらりと躱した。ヴィヴィオとレイジングハートは一瞬、何が起こったのかわからずに、目を点にしてその様子を流し見していた。
 そして、数秒遅れて、慌てて止めに入る二人であった。信頼という盾が一瞬で崩壊する瞬間であった。

「ちょ……駄目〜!! 何やってるんですかー!!」
「う、うらぎりもの!! 裏切り者です、ヴィヴィオ!!」

 レイジングハートが後ろから暁を羽交い絞めにした。暁の脇から肩から、レイジングハートの両腕が絡んでいった。

「あら?」

 それに対して暁が反抗する様子はなかった。石堀の方に手を振り回す事はあっても、その力もだんだんと弱くなっていく。
 暁としては、背中にぴったり女性のおっぱいがフィットしているのが心地よく、このバトルロワイアルの最中、わりと楽しめる現状に密に満足していたのだろう。レイジングハートとしては本気で暁を止めなければならない状況下で、自分のおっぱいが降れていようが振れていまいが関係なかった。
 ヴィヴィオは、とにかくあたふたするのみである。
 石堀は冷静に、溜息半分に言った。

「……やると思った」
「はぁ……はぁ……なかなかやるな、だが次は外さえねぞっぱい!」
「まあ待て。お前の考えはわかっている。俺含め四人くらい犠牲にして十人くらい生き残る方針なんだろう。それから、語尾で今の心境が筒抜けだぞ」

 ほとんど石堀の直感通りだ。今の放送のせいで、彼も一瞬で心変わりしたのである。
 まあ、あえてフォローしておくなら、彼はヴィヴィオほか、石堀・ドウコク・あかね以外に取り立てて犠牲者を作るつもりはなかったようである。ここにいる石堀がただ単なる無条件な味方でない事は、暁も黒岩の言葉によって承知しており、当然、彼がその抹消対象に入るのは言うまでもない。
 石堀は、暁を無視してコンピュータの方を注視していたが、そちらからも暁に怒号が轟いた。

『コラ〜〜〜ッ!! シャンゼリオン、今ので殺し合いに乗っちゃ駄目でしょうが!! おたくは「全員で生きて帰ってやる!!(キリッ」と言わないと駄目なのっ!! 仮にも正義のヒーローでしょ!!』

 ゴハットはめちゃくちゃ怒った様子で手を振り回している。
 それが不幸にもテレビカメラに当たったらしく、画面が大きく傾いて沈んでいくが、それに気づいて慌ててゴハットが画面を直して修正。
 ゴハットがこちらに反応している事から考えても、これは録画ではないらしい。どう考えても説明だけなら録画が最も効率的だが、このゴハットとかいう怪人はそれを好まないタイプの人間なんだろうか。

「……まさか、これリアルタイムでこっちに接続しているのか。しかし、主催陣にこうまで言われたらおしまいだな」

 石堀はまた至極冷静にそう言ったが、一方の暁はスタンガンを持ったままレイジングハートに取り押さえられて暴れている。
 視界に映っているものが、石堀アンドゴハットで不快な物体ばっかりなんだろう。
 ……いや、やもすると背負っている物がもう少しぷにぷにと背中に当たるように体勢を変えている物凄く邪な理由で暴れているのかもしれないが、これは邪推でしかないのでこのまま放っておくべきだろうか。

40怪奇!闇生物ゴハットの罠 ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 12:14:09 ID:V1L9C12Q0
 どちらにせよ、ゴハットサイドとしては暁が仲間に襲い掛かろうとしている事は憤らずにはいられない出来事である。

『おたくたちはシャンゼリオンにどういう教育をしているんだ、全く!!! 折角、紆余曲折あってシャンゼリオンがヒーローになったんだから、またマーダーにしちゃ駄目でしょうがっ!!!!』
「……すまん」
『と・に・か・くっ!! 僕はおたくたちにこの施設を使ってほしいからこうしてテレビ電話に接続しているから、こっちの指示をちゃんと聞いてよね!!』

 ゴハットの説教に真顔で謝りつつも、石堀は「こいつマジうぜえな」と内心で思い始めた。宇宙人の石堀は知る由もないが、それは小学校の頃の中年女性教師、又は自動車教習所のヤンキーみたいなオッサン教官のウザさによく似ていた。かなり理不尽に、被説教者の人生経験の範囲ではわからないような事で咎めるあの不快さをよく再現している。
 ただ、相手は仮にも主催側の人間であるゆえ、ここでは機嫌を損ねづらい。何か用があってこちらにこうして映像を繋げているらしいので、その用とやらを教えてもらわないわけにはいかないのだ。
 イライラしつつも、ただ相手の返事を待っていると、ゴハットは謝罪の言葉一つで気を取り直したらしく、施設に関する説明を始めた。

『じゃあ、まず超光騎士だけど、それは全部適当に電気を流せば動くから、それで何とかしてね』

 ……と、恥を忍んで待った返事があまりにも適当な解説であった事に、石堀は本気でキレそうになった。
 いかんいかん、冷静にしなければならない。とにかく、ゴハットには丁寧に訊くのだ。怒らせてどうする、──と思って、石堀は訊き返す。

「どこにどう電流を流せばいいのかさっぱり検討もつかないんだが」
『だから、それは適当に盛り上げながら上手く超光騎士に電撃技をぶつけるんだよ!! そうすれば動いてくれるから!! そういうのは深く考えずに雑な感じでいいんだよ!! おたく、そこんとこわかってる!? 常識でしょ、JOUSHIKI! 今更使うのもどうかと思うけど、このまま超光騎士を使わなかったら、超光騎士が玩具屋のワゴンで半額セールだよ!?』
「……仕方がない。本当に適当にやるしかないのか」

 レイジングハートは、暁を取り押さえつつも、「とりあえず適当にやればいいのか」と考える事にした。実際にやるのは彼女と石堀なのだ。
 暁も大分収まって来たらしいが、今の一言には何故か半ギレの様子である。彼も沸点がよくわからない。

「てめえの常識なんか知るか、オタク野郎!! ……適当に、って言われたって、高圧電流を適当に使ったら大怪我するぞ!! 良い子が真似したらどうしやがる!!」
『あー、もう。変なところだけ几帳面なんだから……まったく。じゃあ、ハイ。僕が教えるからそれに従って、どうぞ』
「てめえ! 何様のつもりだこのヤロ!」
「……暁、堪えろ。お前もキレたいかもしれないが、俺もキレたい」

 あまりにも暁が暴れるので、レイジングハートは思わず暁を放した。
 彼はスタンガンを地面に叩きつけて、ゴハットまで至近距離で詰め寄る。
 今は石堀よりもゴハットに対する怒りが強いらしく、暁は石堀を無視してカメラを探した。それらしき物に向けて睨みつけながら、彼は怒鳴る。

「……わかったから、さっさと教えろ!! お前の好きなように!!」
『じゃあ、ハイ。わかったから僕の言う通りにやってね』
「……!」

 思ったよりは遥かに暁が自制しているも、こっちを向いた暁の顔は般若と化していた。
 世界三大ストレスの一つにゴハットを加える事を暁の中で可決する。

『じゃあ、まず電撃技いくよ。石堀さんはアクセルに変身、レイジングハートはフェイト・テスタロッサの恰好になって』

 ゴハットも、嫌々説明を強いられているせいで、雑だ。初心者相手に全部教えるのが苦手なんだろう。ヒーローについての知識が浅い者は、彼にとっては、ダークザイドを凌駕する邪悪に認定されているのかもしれない。
 まあいい。多少のストレスは抑えて、石堀は仮面ライダーアクセルに、レイジングハートはダミーメモリでフェイトに変身する。
 変身の掛け声とかは飛ばされるが、正直その辺りは今回どうでもいい話である。いちいちプロセスを書いていくとキリがない。

『ハイ、じゃあそのまま必殺技の準備に入って〜。シャンゼリオンとヴィヴィオちゃんは危ないから離れてね』

41怪奇!闇生物ゴハットの罠 ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 12:14:27 ID:V1L9C12Q0
「はい」
『……あー、もうちょっと離れた方がいいかも。あんまり近づくと危ないからね。か弱い女の子たちは体をもっと大事にしないと!』

 ここだけ、敵にしてはちょっと丁寧だ。
 割と良い人なのかもしれないとヴィヴィオは内心思った。

『エンジンメモリの使い方やバルディッシュの使い方はわかるね?』

 既にアクセルと偽フェイトは準備を整えている。
 ガイアメモリの力を使って攻撃するのみだ。室内なのでやや控えめにする。
 というか、室内でこの巨大武器を使うとなると、それはそれで少し難しいのだが……。

『ハイ、じゃあ大きな声で言ってみよう!! わかってると思うけど、必殺技の名前を叫ぶ感じで!! 動いた時のリアクションは「こいつ、動いたぞ……!」みたいに盛り上げていこうか。3、2、1、アクション!!』

 掛け声の途中で、アクセルのエンジンブレードがエレクトリックを発動、偽フェイトのバルディッシュがサンダースマッシャーを展開する。
 両者はその手のエモノを使って、ゴハットに対して抱いていたストレスをぶつけるかのように超光騎士を叩きつける。
 超光騎士の体表は頑丈で、そのまま崩れ去ってしまうような事はなかった。

「……」
「……」

 部屋中が閃光──真っ白な光に包まれ、暁とヴィヴィオは反射的に腕を顔の前に回して、眼球にその強烈な光が照射されるのを防いだ。耳鳴り響く轟音を防ぐ術はなかったが、とにかく目の前で起きている現象が一定の安全を保っている事は理解している。
 室内で電撃技を使っている事自体に相当な心配があるが、それでもまだ彼ら二名がこのタイミングで危険な扱い方をしないであろう信頼は持っていたのだろう。

 しかし、ご立腹なのはゴハットだ。轟音が止むと同時に、彼の説教がまた画面越し、ひいてはマイク越しに伝わった。

『ハア!? なんで叫ばないの!? これまでの戦いではおたくら、ずっと叫んでたでしょ!? なんでここぞって時に、まったくもう……おたくらを見ていると本当にストレスが溜まるよ!!』

 今のにはレイジングハートも怒りを覚えたようだが、とにかく抑えた。姿は人間になろうとも、相変わらず自制心は働いているらしい。
 目の前の光が晴れると、三体の超光騎士の目が光り、とりあえず上手い具合に彼らが動く。
 本当に適当にやる感じで良かったのだな、と気が抜けたようだった。

「成功か……?」

 なんだかよくわからないが、三体の超光騎士は煙の中から現れ、暁に近づいていった。
 うぃーん、うぃーん、という感じのロボットっぽい音を出している。
 うむ、いかにも彼らはロボットだ。
 赤、黄、青。わかりやすい信号機の三色を貴重としたカラーを持つ、カッコよさげなシャンゼリオンの味方であった。
 彼らは、主人に挨拶しようと近寄ってきているらしく、右手を差し出して言う。

『アナタタチガ私タチノ主人デスネ。初メマシテ。私ノ名前ハ陸震輝(リクシンキ)』(※カタコトはイメージです)
『私ハ砲陣輝(ホウジンキ)……』
『私ハ……』
「あー、はいはい。初めまして。わかったから。もうそういうのいいから。はーい、とにかく超光騎士の誕生編終わりました、解散。次行こう、次!」

 暁、返答。
 あまりにもドライすぎる態度に、超光騎士たちはキョトンとした。
 普通、こういう時はなんかこう、もっと喜ばれる物だとプログラムされていたような気がするが、暁は流れ作業を終えたような感じである。
 なんだか突き放されているような孤独感に苛まれる。

『……ナンデショウ、折角、目覚メタノニ、コノ扱イ。私タチ、何カ悪イ事シタンデショウカ……?』

 超光騎士──特に自己紹介さえ許されなかった蒼の超光騎士こと空裂輝(クウレツキ)は、激しくしょぼくれた。
 いじけて半分倒れそうになっている。

42怪奇!闇生物ゴハットの罠 ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 12:14:47 ID:V1L9C12Q0

『おたくら、何やってるの!? そんなんじゃ折角目覚めた超光騎士ちゃんが可哀想でしょうが!!』
『……何ダカワカリマセンガ、私ニ優シクシテクレタノハ、アナタガ初メテデス。実ハアナタガ本当ノしゃんぜりおんトイウ事デ間違イナサソウデスネ』

 画面の向こうにいるゴハットの方へと、リクシンキたちはゆっくりと動いて行った。
 しかし、現実は彼らに残酷である。彼ら超光騎士の肩に手を当てて声をかけるのは、先ほどから妙にニヤついていた長髪のチャラ男である。

「ちょっと待て。シャンゼリオンは、どう見てもこの俺様だ。ちなみにそいつ敵だからあんまり話をするな。……冷たくして悪かったな、後で雑炊を奢るから俺に従え」
『アノ……私タチハロボットダカラ、雑炊ハチョット……』

 何となく予想がついていたせいもあり、超光騎士はがっくりと肩を下ろした。
 レイジングハートは何故だか物凄く彼らが可哀想に見えていた。
 勿論、人間社会をある程度知っているヴィヴィオや石堀にとっては、お詫びの印が雑炊だという事実が何より可哀想だ。あからさまに誠意の欠片もない。
 まあ、暁自身が貧乏すぎて、雑炊かカップラーメンくらいしか奢れる物がなさそうなので仕方ないかもしれない。

『……あ。そうだ、シャンゼリオン』

 ゴハットが何か思い出したように切り出した。

「あ!? なんだよ!? まだ何か用があるのか? とっとと消えろ、お前はもう用済みだ!!」

 暁は悪役みたいな台詞をゴハットにぶつけた。
 結局、ゴハットの事は用が済んだらもういらない相手として認識しているらしい。

『まだあるでしょうが!! おたくが持っているパワーストーンの事とかさぁ!! なんで貰ったのに使わないの!? 使うでしょ、普通!!』
「……パワーストーン? 何だっけ、それ。何か聞いた事があるような……」

 暁が遠い目をする。
 ほんわほんわほんわぁ〜……という音とともに回想。

 ずっと昔、三年くらい前に聞いた名前だ。確か、怪しげな占い師の彼女に売りつけられそうになった十万円くらいの丸いガラスの玉が確かパワーストーンという名前だった気がしてきた……。
 だが、あれは流石に買わなかったはずだ……。
 いや、もしかすると押し売られて買ったかもしれない。どっちにしろ引き出しの奥に箱に入れたまま放置しているだろう。
 なるほど、あのパワーストーンがまさか今になって話題に挙がってくるとは、暁も思わなかった。しかし、どうして……。

『違うでしょうが!!!!!!!!! おたくの昔の彼女の事なんか知らないよ!!!!!!!!!!!』
「ほえ? どうしてあんた、俺の回想がわかったんだ?」
『そんな事はどうでもいいの! あれは大事なパワーアップアイテムなんだって、話聞いてないの!? 信じらんないよ、まったく!!!!!!』
「そんなものあったっけ?」
『あるんだよ! ポケット見てよ!!』
「あ、ほんとだ」

 暁はポケットからパワーストーンを取り出した。故・梅盛源太の支給品であり、故・フィリップからの託され物だが、彼は半分忘れかけていたようである。
 何せ、ここまで色々ありすぎたのだ。
 パワーアップも何も、彼がシャンゼリオンになったのはちょっと前の話である。戦闘経験は計三日だ。それで、ヒロイン死んで、ライバルをもう倒して、ハイパー化とかいうパワーアップまで果たして、次のパワーアップとか、ヒーロー史上類を見ないハイスピードすぎる展開だろう。
 そんな話が作られたら日本の特撮番組の歴史が変わりかねない。打ち切りを待たずして三話で終わってしまうだろう。

『あー……まったくもう。腹立たしいけど、まあとにかく話を進めようか』

 これに関してはゴハットの方が正しいかもしれないと石堀は内心思った。
 大事な武器を一つ忘れるほどバカだったとは。

43怪奇!闇生物ゴハットの罠 ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 12:15:05 ID:V1L9C12Q0

『じゃあ本題ね。……この前、おたくはハイパーシャンゼリオンになったけどさぁ、あんな盛り上がりもなくあっさりパワーアップされるとこっちとしても困るんだよねぇ』

 まあ、この言葉でもう石堀はゴハットに対する共感を彼方へ投げ捨てる事になった。
 何が困るのか問い詰めたい。

『しかもさー、使った技がちまちまと首輪のカバーを外すだけって……そんなのでチビッ子は喜ばないよ。玩具買ってくれないよ? 出てないけど』
「チビッ子? どこにそんなもんがいるんだよ」
『いるでしょうが!! 変身ロワイアルを楽しみにしているチビッ子たちがたくさん!!』

 ゴハットがテレビカメラから少し退く。
 すると、後ろにキャスター付きの台の上に、大量の手紙が入った四角い透明な箱が置いてあるのが見えた。

(いつ用意したんだコレ……)

 周りには、シャンゼリオンのフィギュアや絵本まで用意されており、準備万端という感じである。

(本当にいつ用意したんだコレ……)

 ゴハットは、テレビカメラの様子を見つつ、ゆっくりとその台の方に歩いて行って、箱に手を突っ込んだ。上に丸く穴が開いているのである。
 そこから出した手紙を、読み上げるゴハットからは司会者のオーラが出ていた。

『こちらのファンレターは島根県の五破田五派郎くん(9)から。いつも変身ロワイアルを楽しみに見ています。僕は参加者の中では、シャンゼリオンこと涼村暁さんが一番好きです。ぜひとも生き残って欲しいです。しかし、この間のハイパーシャンゼリオンの回だけは流石に擁護できません。文句なしのクソ回です。この回の脚本家は死ねばいいと思います』
「は?」

 あの中にはどうやらファンレターが入っているらしい。視聴者からの生の声が暁に届く。
 そのいきなりの辛辣な意見に思わず暁もショックを隠し切れない一方、こうも突然の出来事に首を傾げずにはいられなかった。

『お次は島根県のダーク斎藤くん(8)からのお手紙。暁さん、ゴハットさん、こんばんは。……ハイ、こんばんは。……えー、いつも変身ロワイアルを楽しみに見ています。書き手の皆さんは頑張っているな、と思います。しかし、最近思った事があるので言わせてください。変身ロワはいつも長くて途中で眠くなります。タイトルの(前編)を見ると一気に読む気がなくなります。シャンゼリオンがもうちょっとカッコよければ眠くなっても楽しみに見るのにな、と思います。シャンゼリオンにはぜひともカッコよくパワーアップしてほしいです。ちなみに僕は変身ロワとトッキュウジャーならトッキュウジャーの方が好きです。烈車戦隊トッキュウジャーは毎週日曜朝7時半からテレビ朝日系列にて放送中です』
「なんだそりゃ……」

 まさか、これがプロパガンダか……と石堀は内心で思った。
 暁の戦意高揚を目指すつもりなのだろうか。あからさまにパワーアップに誘導する為の内容ばかり。この大量の手紙は全部ゴハットの自作自演である可能性が高いのではないか、とダークザギの高度な知能が察知を始める。

『はい、じゃあ今回はこれで最後の手紙にしようか。暁帆みむらさん(14)からのお手紙。ちなみに島根県出身だそうです。変身ロワイアルを毎回楽しみに見ています。次の話が読みたくて待ちきれません。しかし、暁がウザくてムカつきます。他の人が真剣にやっているのに、あの人が出てくるといちいち場の空気が乱れてテンポも悪くなりますっています。この人には真面目にやってパワーアップしてもらうか、死んでもらうかしてほしいんですけど、何とかなりませんか?』

 暁と石堀の隣で、レイジングハートがぼけーっとしていた。
 とにかく、何か口を出してはいけない空気だけは掴んだようである。

「島根ばっかりじゃねえか! 許さねえ! 若すぎる年齢が嘘臭く見えるぞ」
「……暁、そこじゃない」

 どこから突っ込んでいいのか迷っている内に時間が浪費されていきそうだ。
 石堀は俯いて哀しげに首を横に振りながら暁の肩をとんとんと叩いた。
 暁も怒りの矛先を間違えてしまったのだろう。

『……でもさぁ、恥ずかしいと思わないの? じゃあ、次は変身ロワ!板のシャンゼリオンアンチスレの書き込みを……』
「もういい! もうたくさんだ! アンチスレの書き込みなんてどうでもいいっ! 何がしたいんだ、お前は!」

 えへん、とゴハットが胸を張って言った。

44怪奇!闇生物ゴハットの罠 ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 12:16:02 ID:V1L9C12Q0

『そんなわけで、今回は特別にこの僕が、こんなチビッ子たちの声にお応えするために、シャンゼリオンがパワーアップするシチュエーションを考えて、セッティングしといたよ! これでアンチスレの数が本スレの数を超える最悪の事態はギリギリ避けられるはずだ!』
「ハァ!?」

 ゴハットのペースに乗せられながらも、暁たちはストレスゲージがマッハで高まっていくのを感じた。
 腹を立てているのをこちらであって、向こうに腹を立てられる筋合いはない。
 まるでこちらが悪いような言いぐさである。
 挙句、パワーアップのシチュエーションを勝手にセッティングするなど許せない。

『じゃあ、もうこれからは有無を言わさず、今からファックスでシャンゼリオンパワーアップ計画の資料を送るから、その通りにしてねー!! じゃないと酷い事になるよ? グッバーイ!!』

 そう言うと、ゴハットが画面から消え、パソコン画面は真っ暗になった。
 うぃーん、とどこかからファックスの音が聞こえてくる。
 全員、そこを注視した。見れば、変な紙がゆっくり排出されてくる。







【覚醒!新戦士────シナリオ第一稿】


新戦士の名前は!? 姿は!?
それは次回までわからない……。


○配役

涼村暁
 今まで超光戦士シャンゼリオンとして戦ってきた軟派な私立探偵。
 前作『超光戦士シャンゼリオン』に引き続き、主人公として登場する。
 第一話でパワーストーンの力によってパワーアップし、新たなるスーパー戦士へと進化。
 仲間や超光騎士たちとともにバトルロワイアルを打ち砕く!

石堀光彦
 ある世界から来たナイトレイダーの隊員。仮面ライダーアクセルに変身する。
 コンピュータが得意で、いつもクールなナイスガイ。
 暁に協力する素振りを見せるが、実はその正体は……!?
 第一話ではゴハットにボコボコにされていた所を暁に助けられる。

高町ヴィヴィオ
 魔法の力を持ったヒロイン。セイクリッドハートを使って大人になれるが戦闘はしない。
 心優しいが、実は誰よりも怪力な格闘少女。ロリっ子。暁の事が大好きなツンデレ。
 第一話では人質になっていた所を暁に助けられる。

レイジングハート・エクセリオン
 機械っ子。暁が引き取った機械の少女。魔法が使える。
 最初は感情がなかったが、暁たちとの交流でだんだんと感情が生まれ始めた。
 この気持ちは一体何……!?
 第一話ではゴハットにボコボコにされていた所を暁に助けられる。

ゴハット
 ダークザイドの残党で、新組織の誕生を暁たちに知らせてきた怪人。
 その姿は醜悪で、どんな残忍な手段も厭わない。
 第一話でヴィヴィオを人質に暁たちを呼び出すが、パワーアップしたガイアポロンに倒される。
 胸のダークタイマー(丸い奴ね)が弱点。

45怪奇!闇生物ゴハットの罠 ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 12:16:29 ID:V1L9C12Q0


○第一話のストーリー
 倒したはずのダークザイド残党・ゴハットによってヴィヴィオが捕まってしまった。
 D−6エリアまで呼び出された正義のヒーローたちは慌ててそこに向かう事になる。
 石堀とレイジングハートが真っ先に、ヴィヴィオを助けるべく立ち向かうが、二人ともボロボロに負けてしまう。
 ゴハットはダークザイドに変わる新たな組織の存在をほのめかす。
 二人は絶体絶命のピンチに陥った!

 だが、そんな時、暁がリクシンキに乗って、ちょっと遅れて颯爽と現れた!
 彼は宗方博士によって研究されていたシャンゼリオンのパワーアップアイテム・パワーストーンの完成を待っていたのだ!
 パワーストーンを使って新戦士・ガイアポロンが誕生し、圧倒的なパワーでゴハットを倒す!!


 ……他、ゴハットが色々指定していたけど、ここでは省略。







 ……暁たちは、それを見て、しばらく固まった。
 一秒、二秒、三秒……ならず、三十秒近く固まっていただろう。テレビならば放送事故になりかねない無音と無心の時間が過ぎ去った後、暁がふと息を吹き返した。

「……ふざけてんのか!? 行くわけないだろ……」

 勢いに任せ、暁がその紙を破り捨てようとした。一応、紙破りマニアの為に細かく描写すると、A4の紙を縦に重ねて構え、右手と左手の間隔を一センチまで縮め、そこから指先に力を込めて半分に裂こうとしていたのである。
 しかし、指先に力がこもったあたりで、レイジングハートがその手を止めた。

「ちょっと待ってください、暁!!」

 レイジングハートは酷く焦った様子である。暁がファックスを破いてしまうのを寸前で防いだ彼女は、上目遣いで暁に言う。
 ちょっぴりセクシー、暁も止まる。

「よく見たら……さっきからヴィヴィオがいません!!」

 言われて、慌てて暁が振り返る。ヴィヴィオがいた場所はすっからかんであった。
 ヴィヴィオが、マジで攫われていたのである。
 全員が色んな出来事に気を取られていた隙に、ゴハットがヴィヴィオを攫っていったのである。

「ああああーーーーーーーっ!! クソッ、やられたっ! このクソ忙しい時に!」

 暁は、力余って思わずA4用紙をぐちゃぐちゃに丸めてしまうが、とにかくヴィヴィオ救出作戦はなんとか立てなければならない。
 A−10からグロンギ遺跡は、なかなか遠い。バイクで行く事はできるが、それでも途中で色々と連絡し合わなければならないのだからかなりしんどい話である。
 レイジングハートは、先が思いやられると思いながら、暁についていくしかない状況である。

「……暁。このゴハットの指定通りなら、ヴィヴィオちゃんを助けたうえにゴハットも倒せるぞ。というか、あいつそんなにやられたいのか? 理解に苦しむ……」

 石堀が、至極真面目な顔をして言った。
 実のところ、これが最も簡単な手である。ゴハットは、天元突破するレベルの変わり者であり、敵であるシャンゼリオンに狂気の愛情を注ぐだけでは飽き足らず、最終的にはカッコいいシャンゼリオンに倒されたいとまで願う何ともヤバげなダークザイド怪人だ。
 この場合、おとなしく相手の要求を呑めば、ヴィヴィオに危害は加わらないと考えていい。
 しかし、そのまま要求を受けるのも癪であった。

「アホたれが! こんな馬鹿臭い話に誰が乗るか。俺はアンチスレが本スレ超えるくらいロックな生き方がしたいんだ。視聴率もスポンサーも興行収入も玩具売上もいらないの。わかる人だけわかればいいんだから」
「何を言っている? だいたい、そんな狭い範囲の人間にしか楽しめない自覚がある時点でお前はプロ失格だぞ」
「何の話ですか?」

 レイジングハートとしては、まさしく一刻を急いている時だったのだが、他二名がこの調子である。とにかく、何の台詞もなく、突然消えるようにして攫われてしまったヴィヴィオを一刻も早く救わなければならない。

46怪奇!闇生物ゴハットの罠 ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 12:18:05 ID:V1L9C12Q0

「……だが、暁。奴の思い通りになるべきではないというのは同感だ。シナリオ通りと見せかけて罠をしかけてくる可能性もある。自ら悪役を買って出て、悪の醜さを知らしめ、最後に自分が倒される事で正義の素晴らしさを証明しようなんていう酔狂な奴はそうそういるもんじゃないからな」
「なんだか妙に具体的ですし、そこまで言っていないと思うのですが……」

 石堀としても、この内容を見ると溜息が出かねない。
 確かに、ヒーローの強さを引き立てる為のシチュエーションというのは大事だと、ダークザギたる彼でもやや──ほんの心の片隅で思う。
 しかし、それはあくまでテレビの中だけの話である。
 ましてや、殺し合いの状況下、強い悪も強い正義も望まない。必要なのは、己に屈する相手のみだ。

「……よし、決めた。この作戦でいこう」

 暁が作戦を石堀とレイジングハートに話した。
 とにかく、指定された場所にだけは行かなければならないが、そこからの問題だ。

 さて、それが彼らにとっての、最後の六時間の始まりであった。








 三人は、C−8あたりで一度、それぞれのマシンを止めて連絡を受けていた。
 仮面ライダーアクセルに変身した石堀にレイジングハートが騎乗し、リクシンキに暁が騎乗していた。
 そんな最中、暁の所持していたスシチェンジャーに連絡が入ったのである。元々は石堀が持っていたが、アクセルに変身して移動する都合で暁に渡っている。
 着信は、沖一也や左翔太郎らのチームからであった。

「……もしもし、こちら、涼村です」

 内心では少し焦りつつも、あくまで冷静に答えた。
 クリスタルステーション内の問題はすぐに解決したというのに、また新しい問題ができてしまって、電話で報告できない状況だ。とにかく、ヴィヴィオを取り戻すまではこちらから連絡しようという気は起きなかったのである。
 しかし、どう考えても数十分あれば終わるはずの作業を報告しなかったので、怒りの着信なのではないかと思っていた。まさか、こちらから事実を報告するとその方が遥かにまずい事など誰も知る由もないだろう。

「手術成功? ああ、そりゃ良かった……」

 左翔太郎の手術の成功に関しての報告らしい。
 まあ、よくこんな状況で手術が上手く行ったものだと思いながら、暁はこちらの様子について聞かれないか心配した。

「え? こっちの様子? うーんと……」

 ……が、あっさりとすぐにそれが訊かれてしまい、暁は内心で焦る。
 学校のガラスを割った日に家に電話がかかってきたような気分だった。
 とにかくヴィヴィオの件は解決してから話そうかと思っていたが、そうもいかないらしい。

「いや、超光騎士は大丈夫なんだけど、問題が発生したんだ」

 話さなければならないのだと思うと気が重いが、相手の質問で、隠し通すのも無理そうだと確信した。いざとなったら電話を切ればいい(クズの発想)。

「……ヴィヴィオちゃん、攫われちゃった」

 仕方がなく、そう答えた。
 ちょっと軽く。いや、軽く言ってはいけないのだが、今のところ大きな実害もないので能天気っぽく……なるべく相手の機嫌を損ねないように。
 だが、相手が大きな声で叫んで暁の耳元に衝撃が来る。

「あー、ゴハットがちょっと出てきて。それで、グロンギ遺跡に呼ばれてるんだけど、まあそれは何とか。援護がなくてもこっちで何とかできるはずだから」

 とにかく、大丈夫である事をアピール。
 これで何とかなるはずだ。一押し、一押し、慎重に暁が言っていると、何とか向こうも収まったらしい。

「ふー……とりあえず説教はなかった」

 安心した様子で答えると、もう時刻は朝八時に近づき始めていた。
 ああ、既に二時間近くもこんな事に時間を費やしていたのか。
 馬鹿らしい話だが、もう行かなければならない。

47怪奇!闇生物ゴハットの罠 ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 12:22:04 ID:V1L9C12Q0



【2日目 朝】
【C−8 森】



【涼村暁@超光戦士シャンゼリオン】
[状態]:疲労(小)、胸部に強いダメージ(応急処置済)、ダグバの死体が軽くトラウマ、脇腹に傷(応急処置済)、左頬に痛み、首輪解除
[装備]:シャンバイザー@超光戦士シャンゼリオン、モロトフ火炎手榴弾×3、恐竜ディスク@侍戦隊シンケンジャー、パワーストーン@超光戦士シャンゼリオン、リクシンキ@超光戦士シャンゼリオン、呼べば来る便利な超光騎士(クウレツキ@超光戦士シャンゼリオン、ホウジンキ@超光戦士シャンゼリオン)
[道具]:支給品一式×8(暁(ペットボトル一本消費)、一文字(食料一食分消費)、ミユキ、ダグバ、ほむら、祈里(食料と水はほむらの方に)、霧彦、黒岩)、首輪(ほむら)、姫矢の戦場写真@ウルトラマンネクサス、タカラガイの貝殻@ウルトラマンネクサス、スタンガン、ブレイクされたスカルメモリ、混ぜると危険な洗剤@魔法少女まどか☆マギカ、一条薫のライフル銃(10/10)@仮面ライダークウガ、のろいうさぎ@魔法少女リリカルなのはシリーズ、コブラージャのブロマイド×30@ハートキャッチプリキュア!、スーパーヒーローマニュアルⅡ、グロンギのトランプ@仮面ライダークウガ
[思考]
基本:加頭たちをブッ潰し、加頭たちの資金を奪ってパラダイス♪
0:時間がねえのに誘拐とかすんじゃねえよクソが。でもヴィヴィオちゃん助けにいかなきゃ。
1:石堀を警戒。石堀からラブを守る。表向きは信じているフリをする。
2:可愛い女の子を見つけたらまずはナンパ。
3:変なオタクヤロー(ゴハット)はいつかぶちのめす。
[備考]
※第2話「ノーテンキラキラ」途中(橘朱美と喧嘩になる前)からの参戦です。
つまりまだ黒岩省吾とは面識がありません(リクシンキ、ホウジンキ、クウレツキのことも知らない)。
※ほむら経由で魔法少女の事についてある程度聞きました。知り合いの名前は聞いていませんでしたが、凪(さやか情報)及び黒岩(マミ情報)との情報交換したことで概ね把握しました。その為、ほむらが助けたかったのがまどかだという事を把握しています。
※黒岩とは未来で出会う可能性があると石堀より聞きました。
※テッカマン同士の戦いによる爆発を目にしました。
※第二回放送のなぞなぞの答えを知りました。
※森林でのガドルの放送を聞きました。
※第三回放送指定の制限解除を受けました。彼の制限は『スーパーヒーローマニュアル?』の入手です。
※リクシンキ、ホウジンキ、クウレツキとクリスタルステーションの事を知りました。
※結城丈二が一人でガドルに挑んだことを知りました。

48怪奇!闇生物ゴハットの罠 ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 12:22:16 ID:V1L9C12Q0

【石堀光彦@ウルトラマンネクサス】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)、首輪解除
[装備]:Kar98k(korrosion弾7/8)@仮面ライダーSPIRITS、アクセルドライバー+ガイアメモリ(アクセル、トライアル)+ガイアメモリ強化アダプター@仮面ライダーW、エンジンブレード+エンジンメモリ@仮面ライダーW 、コルトパイソン+執行実包(6/6)
[道具]:支給品一式×6(石堀、ガドル、ユーノ、凪、照井、フェイト)、メモレイサー@ウルトラマンネクサス、110のシャンプー@らんま1/2、ガイアメモリ説明書、.357マグナム弾(執行実包×10、神経断裂弾@仮面ライダークウガ×2)、テッククリスタル(レイピア)@宇宙の騎士テッカマンブレード、イングラムM10@現実?、火炎杖@らんま1/2、血のついた毛布、反転宝珠@らんま1/2、キュアブロッサムとキュアマリンのコスプレ衣装@ハートキャッチプリキュア!、スタンガン、『風都 仕置人疾る』@仮面ライダーW、蛮刀毒泡沫@侍戦隊シンケンジャー、暁が図書室からかっぱらってきた本、スシチェンジャー@侍戦隊シンケンジャー
[思考]
基本:今は「石堀光彦」として行動する。
0:癪だがとにかくヴィヴィオを助けに行かなきゃならない…。
1:「あいつ」を見つけた。そして、共にレーテに向かい、光を奪う。
2:周囲を利用し、加頭を倒し元の世界に戻る。
3:都合の悪い記憶はメモレイサーで消去する
4:加頭の「願いを叶える」という言葉が信用できるとわかった場合は……。
5:クローバーボックスに警戒。
[備考]
※参戦時期は姫矢編の後半ごろ。
※今の彼にダークザギへの変身能力があるかは不明です(原作ではネクサスの光を変換する必要があります)。
※ハトプリ勢、およびフレプリ勢についてプリキュア関連の秘密も含めて聞きました。
※良牙が発した気柱を目撃しています。
※つぼみからプリキュア、砂漠の使徒、サラマンダー男爵について聞きました。
※殺し合いの技術提供にTLTが関わっている可能性を考えています。
※テッカマン同士の戦いによる爆発を目にしました。
※第二回放送のなぞなぞの答えを知りました。
※森林でのガドルの放送を聞きました。
※TLTが何者かに乗っ取られてしまった可能性を考えています。
※第三回放送指定の制限解除を受けました。予知能力の使用が可能です。
※予知能力は、一度使うたびに二時間使用できなくなります。また、主催に著しく不利益な予知は使用できません。
※予知能力で、デュナミストが「あいつ」の手に渡る事を知りました。既知の人物なのか、未知の人物なのか、現在のデュナミストなのか未来のデュナミストなのかは一切不明。後続の書き手さんにお任せします。
※結城丈二が一人でガドルに挑んだことを知りました。

49怪奇!闇生物ゴハットの罠 ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 12:25:18 ID:V1L9C12Q0
【レイジングハート・エクセリオン@魔法少女リリカルなのはシリーズ】
[状態]:疲労(大)、魔力消費(大)、娘溺泉の力で人間化
[装備]:T2ダミーメモリ@仮面ライダーW
[道具]:バラゴのペンダント、ボチャードピストル(0/8)、顔を変容させる秘薬、ファックスで届いたゴハットのシナリオ原稿(ぐちゃぐちゃに丸められています)
[思考]
基本:悪を倒す。
0:ヴィヴィオを助けに行く。
1:ヴィヴィオや零とは今後も協力する。
2:ケーキが食べたい。
[備考]
※娘溺泉の力で女性の姿に変身しました。お湯をかけると元のデバイスの形に戻ります。
※ダミーメモリによって、レイジングハート自身が既知の人物や物体に変身し、能力を使用する事ができます。ただし、レイジングハート自身が知らない技は使用する事ができません。
※ダミーメモリの力で攻撃や防御を除く特殊能力が使えるは不明です(ユーノの回復等)。
※鋼牙と零に対する誤解は解けました。


【2日目 朝】
【??? ???】

【高町ヴィヴィオ@魔法少女リリカルなのはシリーズ】
[状態]:上半身火傷(ティオの治療でやや回復)、左腕骨折(手当て済+ティオの治療でやや回復)、誰かに首を絞められた跡、決意、臨死体験による心情の感覚の変化、首輪解除、誘拐された
[装備]:セイクリッド・ハート@魔法少女リリカルなのはシリーズ、稲妻電光剣@仮面ライダーSPIRITS
[道具]:支給品一式×6(ゆり、源太、ヴィヴィオ、乱馬、いつき(食料と水を少し消費)、アインハルト(食料と水を少し消費))、アスティオン(疲労)@魔法少女リリカルなのはシリーズ、ほむらの制服の袖、マッハキャリバー(待機状態・破損有(使用可能な程度))@魔法少女リリカルなのはシリーズ、リボルバーナックル(両手・収納中)@魔法少女リリカルなのはシリーズ、ゆりのランダムアイテム0〜2個、乱馬のランダムアイテム0〜2個、山千拳の秘伝書@らんま1/2、水とお湯の入ったポット1つずつ、ライディングボード@魔法少女リリカルなのはシリーズ、ガイアメモリに関するポスター×3、『太陽』のタロットカード、大道克己のナイフ@仮面ライダーW、春眠香の説明書、ガイアメモリに関するポスター
[思考]
基本:殺し合いには乗らない
0:え…?その2
1:生きる。
2:レイジングハートの面倒を見る。
[備考]
※参戦時期はvivid、アインハルトと仲良くなって以降のどこか(少なくてもMemory;21以降)です
※乱馬の嘘に薄々気付いているものの、その事を責めるつもりは全くありません。
※ガドルの呼びかけを聞いていません。
※警察署の屋上で魔法陣、トレーニングルームでパワードスーツ(ソルテッカマン2号機)を発見しました。
※第二回放送のボーナス関連の話は一切聞いておらず、とりあえず孤門から「警察署は危険」と教わっただけです。
※警察署内での大規模な情報交換により、あらゆる参加者の詳細情報や禁止エリア、ボーナスに関する話を知りました。該当話(146話)の表を参照してください。
※一度心肺停止状態になりましたが、孤門の心肺蘇生法とAEDによって生存。臨死体験をしました。それにより、少し考え方や価値観がプラス思考に変わり、精神面でも落ち着いています。
※魔女の正体について、「ソウルジェムに秘められた魔法少女のエネルギーから発生した怪物」と杏子から伝えられています。魔法少女自身が魔女になるという事は一切知りません。

50 ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 12:27:49 ID:V1L9C12Q0
以上で本日分は投下終了です。
また明日、「昼前」のSSを投下します。
ただ、「昼」のSSが未完成状態なので、一応土曜いっぱいの期限に間に合わせるつもりですが、一日一区間分のSSを投下しようと考えています。
どれも短いですが、まあ塵が積もって山となった形で今回全体の分量がめちゃくちゃ多いです。
のんびり見ていってください。

51名無しさん:2014/08/07(木) 14:36:41 ID:zR.9AOQgO
投下乙です。

新たな罪を数え、左翔太郎、仮面ライダーに復活!
戦う強さは無くとも、守る優しさならある!

52名無しさん:2014/08/07(木) 17:04:51 ID:CyC4Cryg0
投下乙です

うおおおおおおおおっ!?
左翔太郎、仮面ライダーに復活!
だが、状況は混沌としてる中、ヴィヴィオが…

53名無しさん:2014/08/07(木) 18:25:51 ID:gV8uaFho0
スレ立て&投下乙です。
ああ、あかねがもっとヤバくなっていく……どうか彼女に幸あれ

54名無しさん:2014/08/08(金) 06:53:16 ID:tjBYZ6FM0
投下乙です
翔太郎は復活したか。でもあかねの暴走にヴィヴィオ誘拐とまだ問題は残ってるんだよな
沖さんはドウコクを何時まで騙し通せるのかも不安だな

55名無しさん:2014/08/08(金) 20:31:08 ID:tY0kT6Lo0
投下乙です。
翔太郎は復活できたけど、そこに来るまで本当に苦しそうだったな…
実際、麻酔なしの手術ってヤバいだろうし。

56 ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:34:10 ID:o1PzPQC60
遅れましたが、本日分を投下します。
今日は201話〜203話です。全部分割話です。
まず201話から投下します。

57覚醒!超光戦士ガイアポロン(Aパート) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:35:19 ID:o1PzPQC60



 ────このあとすぐ、新番組!!







※このSSにでてくるじんめいは
 かくうのものでじっさいのひと
 とはかんけいありません



 ♪『OVER THE TIME 〜時(いま)を越えて〜』の二番


 第1話
 覚醒!超光戦士ガイアポロン


 涼村 暁 シャンゼリオン/ガイアポロン
  萩野 タカシ

 高町 ヴィヴィオ
  水橋 カオリ

 石堀 光彦 仮面ライダーアクセル/ダークザギ
  加藤 コウセイ

 レイジングハート・エクセリオン ダミードーパント
  ???

 おたく 闇生物ゴハット
  石黒 ヒサヤ

 暁美 ほむら(友情出演)
  斎藤 チワ

 原作
  八手 サブロー

 シリーズ構成
  井上 トシキ

 脚本
  荒川 ナル……じゃなくて木下 ケン

 プロデューサー
  白倉 シンイチロー

 監督
  蓑輪 マサオ

 ※以上のクレジットは全部嘘です。







「あー、楽しみだなぁ、シャンゼリオンのパワーアップ」

 D−6。グロンギ遺跡。殺し合い終了までの残り時間は四時間。
 この怪しげな山の頂上で、高町ヴィヴィオは謎の十字架型の置物に磔にされて、落ち着かないゴハットを見下ろしていた。

58覚醒!超光戦士ガイアポロン(Aパート) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:35:42 ID:o1PzPQC60
 とりあえず、台本のようなものの内容をヴィヴィオに細かく説明して、それから先は全部この調子である。突然後ろから捕まえられてここまでワープさせられた時はどうなる事かと思ったが、案外紳士的だった。
 場を盛り上げる為だから大人モードよりも子供モードでよろしく、とか色んな指定をしている時に少しでも口を挟むと怒る彼だったが、今はヴィヴィオの緊張を察してくれている。ミスをしないように、とまで声をかけてくれて……まるで殺し合いである事を忘れて気遣っているようだ。
 人質であるヴィヴィオに対してはわりとフランクで、特にヴィヴィオも不快感を得る事はない。確かに不気味ではあるが、それでもゴハットからは邪気のような物が見られないのである。

「じゃあ、君も打ち合わせの通りによろしく。あんまり危害は加えないからね。暴れたら別だけど」

 とはいえ、ヴィヴィオは今まで生きてきた中でも、物凄く混乱しているようだった。磔にされて人質にされているはずなのに、物凄く優しい。更にゴハットは、クリスやティオを優しく撫でてから磔にしたくらいである。
 ……こんな複雑な人間には初めて会った。優しいのに、他人を人質にする人間なんて今まで見たことがない。

「あ、あの……それは良いんですけど。こんな事して、ゴハットさんの方は大丈夫なんですか? だって、本当にこのシナリオ通りなら、ゴハットさん、死んじゃうんじゃ……」

 見せられたシナリオのラストでは、ゴハットが弱点を突かれてシャンゼリオンに倒されてしまうとある。それは即ち死ぬという事なのである。
 そもそも、こうやって参加者に積極的に介入してくるのも意外であった。
 彼ら主催陣は、この殺し合いを円滑に進めていこうとする為にある程度、介入してきてもおかしくはないかもしれない。しかし、こうまで話の展開を変えて介入してくる事など、あっていいのだろうか。
 主催者たちに殺されても、おかしくないんじゃないか……? と、彼女は思うのだ。

「いいんだよ! 僕は! ……だって、夢みたいじゃないか〜♪ あんなにカッコいいシャンゼリオンに倒されるなんて」
「どうして、そんな……。そんなの、悲しすぎます。どうして、あの人の事がそんなに好きなのに……。それなら、力になってあげようとか考えるのが普通なんじゃないですか!?」

 ヴィヴィオが、割と真っ当な事を言った。
 シャンゼリオンはゴハットを嫌っているが、ゴハットの方は割とシャンゼリオンに対して親身に接しているようでもある。
 ヴィヴィオにも、暁より数倍良識のある人間に見えた。……まあ、ゴハットも多少デリカシーがなく、ちょっとおかしい所もあったが。

「君は優しい良い子だねぇ……。きっと君が大人になったら、スーパーヒロインとして、君のお母さんみたいに活躍できるよ、うんうん」

 そう言うゴハットの横顔は、どこか物憂げでもあった。
 結局は、後に活躍する事になるはずだった魔導師の少女を犠牲にしているのがこの殺し合いだ。その殺し合い運営の一端を担っていたのがゴハットである。

 実際のところ、ゴハットとしては、「ヒーローは死なない」という危ない幻想を持っており、それに則って考えるならば、「高町なのははヒーローじゃなかった」と割り切って考えるのが自然である。だが、その娘こと高町ヴィヴィオの様子を見ていると、やはり彼女はヒーローだったのではないかという思いもあるのだろう。彼は間近で見せられてきたドラマに関してケチをつけるほど悪質ではない。
 死して尚、生きている人間に影響を与えていくのもまたヒーローなのだ。
 それもよく、彼はこの戦いで理解し始めた。考えてみれば昭和ヒーローも戦死者は多い。

 一人の偉大なヒロインとしてのなのはの死には、それなりに敬服の意を表し、胸を痛めているゴハットである。

「……でも、僕たちダークザイドはね、人間の天敵としてしか生きられないんだよ。人間のラームを食べる事で命をつなげていくだけの儚い生物さ」

 ダークザイドという生物は、人間の魂をエネルギーに生きている生物だった。
 即ち、人間側にとって悪事にも見える殺傷行為は、全て彼らの生理現象の中に納まっている至極当然の行為なのである。
 ゴハットはその中でもとりわけおとなしい方で、あまり積極的に人間を喰らおうとはせずにヒーロー番組に夢中になる変わり者だったが、それでも時折人間を食わなければ彼も生きてはいけないのだ。
 本当は、人を襲うよりも幼稚園バスをバスジャックするとか、貯水池に毒を流すとか、そういう悪さをしたかったのだが……。

59覚醒!超光戦士ガイアポロン(Aパート) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:36:00 ID:o1PzPQC60

「ある時、君たちの世界のテレビを見ていたら、僕たちみたいな奴らを倒して、人間を守るヒーローがいたんだ。……カッコよかったなぁ。現実にあんなヒーローがいたら、僕たちなんて一ひねりだろうと思っていた。でも、実際にいたんだよ。人間の世界にもヒーローが」
「まさか、それが……」
「うん。僕たちの世界には、シャンゼリオンというヒーローがいたんだ! ……それから僕は、シャンゼリオンに倒されたいとずっと思っていたんだよ。ああ、シャンゼリオンに倒された先輩たちが羨ましいな〜……」

 ヴィヴィオは、ゴハットの哀しすぎる事情に、思わず声も出なくなった。
 そう、彼は優しすぎるが故に、倒されなければならないのだ。
 そして、そんな悲しすぎる夢を見るようになってしまったのだ。
 とか、割とストックホルム症候群紛いな状況に陥っているヴィヴィオであったが、元来の優しさゆえの騙されやすさであった。

「ずっとずっと、僕の夢なんだ。カッコいいヒーローのシャンゼリオンに倒されるのが……。ましてや、もっと強くなったシャンゼリオンに倒される事ができるなんて、本望じゃないか」

 夢──という言葉が、そのまま死に直結する事が悲しかった。
 夢を持っている事は良い事かもしれないが、それが死ぬ事だなんていうのは悲惨だ。

「……違うと思います」

 ヴィヴィオは、無意識にそう返してしまった。

「何も知らない私がこんな事を言うのも何ですけど、ゴハットさんは、本当はシャンゼリオンと友達になりたいと思っているんじゃないんですか? 本当はヒーローになりたくて……だけど、それが絶対にできないから……あなたは人間と暮らせないから、そんな悲しい事を思うようになってしまったんじゃないですか?」

 何度も言うが、ヴィヴィオは、優しかった。優しく、ゴハットの気持ちを覗こうとした。
 彼とは分かり合えないのだろうか──いや、そんな事はない。
 彼を倒すしかないなんて嘘だ。ヴィヴィオは彼と分かり合いたい。
 だが、ゴハットは、ヴィヴィオの言葉を見て、眉を顰めたらしい。

「……残念だなぁ。それはちょっと違うよ。……僕はね、やっぱりシャンゼリオンに倒されたいんだ、一人のダークザイドとして! それが嬉しくてたまらないんだ! その展開を妨害するなら、君のような相手でも容赦はしないよ!」

 彼はそう答えた。
 ゴハットは、優しいように見えて、こういう厳しい部分もある。ある意味では、度を越したオタクの狂気であった。多少の傲慢もある。
 しかし、これほど小さな少女に声を荒げそうになった事は彼もすぐに反省したらしく、少し声を抑えた。

「……だんだんわかってきたんだ、これがシャンゼリオンに倒される最後のチャンスなんだって。夢の中の存在でしかない、全てが終わればまた夢の中に戻ってしまうような僕にはね……」

 彼は、倒されたがって、死にたがっている。
 それを前に、ヴィヴィオは何もできない。何も言う言葉がなかった。
 夢の中の存在、というのがどういう事かはわからないが、とにかく彼はそう言った。
 そんな一言一言を、ヴィヴィオは噛みしめる。
 彼をどうするのが正解なのか、ヴィヴィオにも答えなど出るはずがない。

「……あ、来た来た。じゃあ、後は打ち合わせ通りよろしく〜」

 ヴィヴィオは、その時、息を飲んだ。
 バイクフォームになったアクセルに乗って、レイジングハートが山を登ってくるのが見えたのだ。
 まだ判断がつかない内心。そして、正しく演技できるのか緊張する想い。

「……」

 そして、彼らはすぐにグロンギ遺跡の前で止まった。
 ヴィヴィオは深呼吸の後、打ち合わせ通りの台詞を叫んだ。

「た、助けてー!! 悪い奴に人質にされちゃいましたー!! あ……で、でもシャンゼリオンにだけは助けてほしくないんだからねっ!(←申し訳程度のツンデレ要素)」

 その内面には、少し悲しい気持ちもあったに違いない。ヴィヴィオはゴハットも助けたかったが、まずはこうして話を進めなければならないのである。
 ゴハットは、まずヴィヴィオの第一声を聞いて、まず満足そうにすると、そのまま続けた。

60覚醒!超光戦士ガイアポロン(Aパート) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:36:17 ID:o1PzPQC60

「フッハッハッハッハッハッハッハッ!!! ようこそ諸君!!! 君たちに倒された同胞の雪辱、忘れてはいないぞ……って、ゴボェァッ!!!!!!!」

 そんな折、ゴハットを後ろからレーザー攻撃で砲撃する者があった。ゴハットを背中から貫いた光の束は、容赦なくゴハットの体を蝕む。
 どういう事だ、こんな物は台本にはない。

 レーザーが放射された所を見ると、空に青色の合金が見えた。──先ほど見た覚えのあるロボットだ。
 超光騎士、クウレツキ。
 彼がシャンゼリオンの命令でゴハットを後ろから砲撃したに違いない。
 思わず、ヴィヴィオはそちらを見て顔を顰めてしまう。悲鳴のような声も出ていたかもしれない。

「な……卑怯な、誰だ!? こんな……台本にはないぞ……!!」

 そう言ってゴハットがもがき苦しんでいる所に、仮面ライダーアクセルはエンジンブレードを持って容赦なく走ってくる。ゴハットが膝を立てて立ち上がろうとすると、真上からエンジンブレードが振り降ろされる。
 やっとの思いでの行動だった。

「真剣白羽取りぃっ!!」

 ゴハットが咄嗟に頭の上のエンジンブレードを両手で押さえる。両手の先がぶつかって跳ねた。
 防御のつもりだったが、やはりエンジンブレードの重量は相応に重いので、このまま更に力を込められると不利だ。重力+エンジンブレードの重量+アクセルの腕力の合計が明らかにゴハットの腕力より上である。しかも指紋がないのでつるつると滑り、指先の力を相当強めねばならない。

「お、おたくら、恥ずかしくないのっ!? 正々堂々戦ってもらわないと……! ちゃんと台本通りにやってくれないとさぁ……」
「お前の書いた台本通りに戦う必要はない。俺たちがしたい事はただ一つ、お前をこの世から消して人質を助ける」
「……そんな……! ……はっ! まさか、おたく、正体を知っている僕が厄介だから消そうと……!!」

 図星であるが、アクセルは構わずゴハットに向けて力強くエンジンブレードを握り続けた。
 石堀にとって、自分の正体を知るゴハットは生かしておけない相手なのは間違いない。
 そして、台本やシチュエーションなどを無視して、一刻も早くゴハットを消してやるのが彼のすべき事である。

「ぼ、僕から教えるなんて、そんなつまらない展開にするわけないだろう!? ヒーローは自分たちの手で悪の魔の手に気づかなきゃいけないんだ!!」
「教える? 気づく? さて、何の事やら……」

 アクセルは、レイジングハートが接近してくるのを感じて、恍け始めた。
 さて、アクセルは優雅にそこから待避する。

「はあああああああああああああッッ!」

 次にレイジングハートはフェイトの姿に変身して、ゴハットに突撃してくる。
 レイジングハートにはザ・ブレイダーのデータをファックスで教えておいただが……。
 バルディッシュがハーケンモードになり、ゴハットの体に向けて叩きつけられる。

「この魔力反応……あなた、まさか──」

 ふとレイジングハートが何かに気づくが、アクセルがそこに向かっていき、エンジンブレードでゴハットの肩に一撃斬撃を放つ。

「ぐあっ……!! そんな……こんな卑怯なやり方……!! いやだ、こんな死に方はしたくない……!!」

 ゴハットの叫びも無意味とばかり、次々とゴハットの体は痛めつけられていった。時折、無慈悲に怪物の息の根を止めるのもまた正義。情を切り棄て、理を掬った結果の行動であった。
 冷酷な男と冷静と女とが、同時にゴハットを──冷淡に削っていく。彼の言葉など耳に入れる価値もなく、当然、彼に従う道理もない。
 ヴィヴィオはその様子を呆然と見つめていた。声さえ出てこなかった。

61覚醒!超光戦士ガイアポロン(Aパート) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:36:35 ID:o1PzPQC60

「……ヴィヴィオちゃん! 助けに来たぜ」

 そんなヴィヴィオの後ろからシャンゼリオンが現れ、ヴィヴィオを縛っていた磔の鎖を解いた。彼もまた、平然とした様子で何か言っていた。
 冷淡というよりも、面倒だから従わないといった様子だ。

「まったく……馬鹿馬鹿しいったらないぜ。あんな中学生の妄想みたいな展開で助けると思ったら大間違いだっての。さあ、ゴハットの馬鹿はあいつらに任せて、俺たちは逃げようか」

 あまりにも突然の出来事に、ヴィヴィオは何も言えない。
 確かに、シャンゼリオンたちも悪意があってやっているわけではない。──それはわかっている。厭という程、それをわかっているから、彼らに何も言えなかったのだ。
 だが、それでも彼女は一方的甚振られていくゴハットを放っておけなかった。とにかく、彼女は、そのまま、感情に任せて、ようやく言葉を発した。

「──そんな……みんな、やめて」
「え? 何? 聞こえない」

 ヴィヴィオは、悲しげな表情で、俯いてちゃんと声も出せないまま、小刻みに震えてそう言った。
 しかし、それでは誰にも声が届かない。無慈悲な戦闘音とゴハットの悲鳴がそれを掻き消していた。それなら、もっと大きな声で言うしかない。
 ここにいる暁にさえ届かないのだ。
 それならば、もっともっと大きな声で──。



「やめてーーーーーーーーーっ!!!!」



 それは、偶然その中に生じた無音の一瞬に響いた。
 ゴハットを取り囲む人間たちが、五月蠅い戦場に舞い降りた、優しくも険しい女神の声に、動きを止める。
 それはある意味、この場においては一つの攻撃であったと言えるかもしれない。
 人質による制止。人質を救う大義名分が為に殺し合っている者たちに、それほど効果的な一撃はない。

「やめて……やめてください!!」

 今度は確かに、それだけ小さな声でも響き渡った。
 ここまで巻き込まれて大事な人を奪われてきた怒りは、確かにヴィヴィオの中にある。主催者は憎いかもしれない。
 それでも、この時、ゴハットに感じていた気持ちは違う。

「私、こんなやり方で助けてほしくなんてありません!! この人の言う通りにしてあげて!! ゴハットさんの夢を……」

 ヴィヴィオは、ただ、やられているゴハットを黙って見ている事ができなかった。
 ゴハットには夢がある。その夢を叶えさせずに死なせてしまうのは、彼女にとっても後味の悪い結果になるだろう。
 ゴハットが抱えている孤独や悲しみだって、ヴィヴィオは理解しているつもりだった。
 だから──

「ゴハットさんの夢を、みんなで叶えてあげて!!」

 彼女は、無音の戦場にそう叫んだのだった。

 シャンゼリオン的には、今までで一番わけがわからない方向に話に持って行かれた気分だった。
 誰も彼もが目を点にしながらヴィヴィオの方を凝視していた。

「ヴィヴィオ、ちゃん……」

 ただ一人、ゴハットだけが、思わず呆然と彼女の方を見上げていた。



シャンゼーリオン







【超光騎士のCM】

 超光戦士シャンゼリオン!
 超光騎士たちよ、戦闘準備!
 リクシンキ!
 クウレツキ!
 そして、ホウジンキ!
 完全変形! 誕生! 超光騎士!

 走る! クリスタルステーション

※現在は取扱いしていません。





62覚醒!超光戦士ガイアポロン(Bパート) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:37:18 ID:o1PzPQC60


シャンゼーリオン



Take 2



「た、助けてー!! 悪い奴に人質にされちゃいましたー!!」

 ヴィヴィオが先ほどよりも少し気合を入れてそう叫んだ。脚本に手直しでも入れたのか、急にツンデレ設定が消えて普通のヒロインになっている。
 ゴハットが磔にされているヴィヴィオたちの前で仁王立ちし、その影が石堀とレイジングハートの体を包む。
 とりあえず攻撃してくる様子がない事に安心しながらも、ゴハットが高らかに叫ぶ。

「フッハッハッハッハッハッハッハッ!!! ようこそ諸君!!! 君たちに倒された同胞の雪辱、忘れてはいないぞ……」

 ゴハットはわざとらしく、またそう言った。むしろ倒されたのは同胞ではなく、ゴハット自身なのだが、シチュエーション的にはこれで良いらしい。

「貴様、ダークザイドの生き残りかぁっ! ヴィヴィオちゃんを人質に取って何のつもりだ!」

 石堀は、少し恥ずかしそうにしながらも、とにかくゴハットに向けて人差し指を指して叫んだ。まるでヒーローだが、そのフリをしてやるのも仕方がない。
 状況が状況である。

「フン……この子供は貴様らをおびき寄せる為の餌なのだ! 今日は諸君たちにダークザイドに代わる新たな組織を紹介する為に現れた!」

 ゴハットが高所から飛び降り、石堀とレイジングハートの前に降り立った。
 フィンフィンフィン……と、昭和らしい変な音を立てながら。
 この音が何を示しているのかはよくわからないが、それを考える必要はなさそうだ。

「……おや? シャンゼリオンがいないようだな? ……まあいい。まずは貴様ら二人から、我々が手にした新たな力を味わってもらおう!」

 二人は、険しい表情で彼を見つめながら、それぞれの変身アイテムを体の前で構えた。
 天に手を掲げたり、体の横で手を振り回したりしながら、彼らは派手に変身ポーズを取る。
 後ろで暁がスタンバっているのはここにいる全員が知っているがゆえ、余計に茶番臭かったが、まあ良いという事にした。

「どんな組織が現れようとも、貴様らがどれだけ強くなろうとも、俺たちが必ず叩き潰してやる! ……発身(ハッシン)!」

 ──発身とは! 石堀光彦がアクセルメモリーのエネルギーを全開にしてその身をアクセルテクターに包む現象である!(※嘘です)

「バージョンアップ!」

 ──バージョンアップとは! レイジングハートのリンカーコアに残留した超魔法エネルギーがダミーメモリーの能力と結合し、ザ・ブレイダーへと変身させる現象である!(※大嘘です)

 二人は仮面ライダーアクセルとザ・ブレイダーへと体を変身させた。

「仮面ライダーアクセル!」
「ザ・ブレイダー!」

 わざわざ自分の名前を言ってポーズを決めた二人。
 アクセルは剣を構え、ザ・ブレイダーはその足に力を込める。
 攻撃を開始する前の「ため」であった。これをやると強そうに見えるのである。

「「はぁぁぁぁ……」」

 と、あるタイミングで同時に前に出た。
 技の発動である。

「エンジンブレードッ!!」
「ザ・ブレイダー・キック!!」

 だが、ゴハットは手を後ろに組んだまま、それを巧みに避ける。まるで挑発しているかのようだった。アクセルもザ・ブレイダーも全く本気ではないが、本気で戦っているフリをしながら何とか演技を頑張っている。
 ゴハットは実はそこそこ強いダークザイドなので、アクセルやザ・ブレイダーがある程度本気でかかっても倒せたかもしれないが、なるべく死なないように気を付けたのだろう。

「フッフッフッ……その程度かザコめがっ!! 喰らえぇっ!!」

63覚醒!超光戦士ガイアポロン(Bパート) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:37:46 ID:o1PzPQC60

 ゴハットが体の前に両手を突き出すと、二人の目の前で火薬が爆発する。
 何か念力的な技なのだろうが、そこにはあらかじめゴハットが用意した火薬があった。
 誰がスイッチを押したのかはよくわからないが、上手くこのタイミングで爆発したのだった。

「うわああああああああああああああああ!!!」

 巨大な爆発とともに吹き飛ばされた二人の体は、土の上で変身が解除されてしまう。
 地面をわざとらしく悶え、苦しそうな表情をする石堀とレイジングハート。
 とにかく、他のどこでもない──“顔”に力を込める。苦渋に満ちた表情の演技スキルは上がったかもしれない。

「くっ……なんて強いパワーなんだっ!!」
「このままじゃ勝てません……」

 もがく二人の体にゴハットは近づいていった。
 アクセルの方に行ったゴハットは、アクセルの背中にぺちぺちと触手を叩きつける。
 ……のだが、アクセルとしては別にさほど痛くないので、触られている感覚しかなかった。それが気持ち悪いというのもあるが、まあ放っておく事にしておこう。

「駄目だよ、もっと苦しむ演技にしてもらわないと! そんなんじゃあ、宮内ヒロシの足元にも及ばない!」
「うっ……ぐわあああああっ!! やられた〜〜っ!!」
「そうそう……! それでこそ『やられの美学』だよ! ヒーローはねぇ、一度負けてその口惜しさをバネに強くなっていくんだ!! 学校でいじめられている子供たちの希望にもならなきゃいけないんだよ、ヒーローは教育番組なんだからさぁ!!」

 このままおとなしく従っていなければ、全部バラすとまでゴハットに言われたのである。
 仕方がないので、ダークザギこと石堀光彦もゴハットに従ってこの茶番を演じ切らなければならない。
 さて、いつまでこんな事を続ければいいのか……と思っていた時である。
 ようやく、救いの手は現れた。

「……待てぇいっ!!」

 高らかに響く声。人間の声がどうしてこれほど響くのかはわからない。
 バイクの音が聞こえてくる。ぶおおおおおおおおおん………………うぉんうぉん、くぃききぃぃっ。
 そんな無駄にカッコいいバイクの音とともに上手に山を登ってくる一人の男がいた。

「おおっ! おのれシャンゼリオォォォォォォン! まさか貴様、ちゃんと正統派ヒーローとして更生してやって来たなァッ!?」

 ゴハットはそれを見て、思わず歓喜の声をあげてしまう。
 ベストを着た、ややちゃらんぽらんなように見える長髪の男──彼の名は涼村暁。
 超光戦士シャンゼリオンとして、ダークザイドと二日ほど戦ってきた正義の戦士である。

「……じゃなかった。……フン、まあいい。今頃やって来たか、シャンゼリオン! キサマの仲間はもう虫の息だぞッ!」

 ゴハットがすぐに切り替えた。
 レイジングハートとアクセルは死んだように倒れていたが、内心では「早く終われ」と思っている。
 とにかく、暁がちゃんとバイクで来る所までやってくれただけに、まあこれからこうして待っていれば話が進むのだろうと彼も思っていた。

「待たせてすまない、みんな……!(迫真)」
「うう……暁ぁ……(棒)」
「後は俺に任せてくれ……!! 俺が決着をつけてやる!!(迫真)」

 よく聞くと、ちょっとノリノリな暁であった。
 顔を見ると、さらにノリノリっぷりが凄い。彼は顔までヒーローじみた顔にしている。
 この人は今ならどんな役柄でもこなしてくれそうな勢いだ。

「フッフッフッ……何人来ようと同じ事だ!!」
「フン、随分と余裕だなァッ!! だが、お前たち悪党どもが新しい力を得ると聞いて、俺も新しい力を手に入れてきたのさ!!」

 満足そうにゴハットはそれを聞いていた。うんうん頷いている。
 シャンゼリオンがこういう登場の仕方をしてくれたのが余程嬉しかったのだろう。
 折角だからラッパを吹いて出てきて欲しかったが、贅沢は言っていられない。この登場の仕方もヒーロー的にはアリだ。

64覚醒!超光戦士ガイアポロン(Bパート) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:38:15 ID:o1PzPQC60

「俺のこの体の輝きは、闇を蹴散らす正義の光……見よッ!! 燦然ッ!!」

 再び、今度は無意味にリクシンキを走らせながら、いつものように燦然する。
 宮内ヒロシよろしく、バイクに乗った状態での変身である。リクシンキが姿勢を制御してくれているのだ。
 一応ナレーションを入れておこう。

 ──燦然。それは涼村暁がクリスタルパワーを発現させ、超光戦士シャンゼリオンとなる現象である!

 ※シャンゼリオンの真似は、危ないですから絶対にしないでね!

 宗方博士と青森シンさんのナレーションが入ると、ゴハットは更にテンションを上げた。

「おおっ! ……なんだ? いつもと変わらんではないかっ!!」

 先ほどから明らかにゴハットの素の歓喜の声が聞こえているが、それを周囲が突っ込むとまた怒るのが目に見えているので、彼らは何も言わなかった。
 無性に怒りたくなったが、それは堪えよう。
 自分は素を入れるくせに、他人が台本以外の台詞を言うと怒るのが彼だ。

「まあ見てなって。……戦う事が罪なら、俺が背負ってやるぜ!! 輝け、希望の光、パワーストーン!!」

 リクシンキに乗ったまま、シャンゼリオンは頭上高くパワーストーンを掲げる。スーパーヒーローマニュアルⅡに載っていた台詞を強引に入れているあたり、相当ノリノリなのだろう。
 東の太陽と重なり、反射し合い、怯えるほど綺麗なパワーストーンの輝きがゴハットの目に涙を浮かべさせた。カメラーワークまで完璧である。
 ゴハットは、すぐにその涙を触手で拭う。

 ──パワーストーン。それはクリスタルエネルギーを結晶化させた、宗方博士の新たなる発明である! これを使用する事でシャンゼリオンは新たなる戦士に変身するのだ!

 今度のナレーションは政宗イッセイ氏のイメージだった。
 ちなみに、先ほどから流れているナレーションは、暁とゴハットの脳内でのみ聞こえて、他の人間には全く聞こえていないナレーションである。

「なな、な〜〜〜〜〜〜に〜〜〜〜〜〜〜!?」

 ゴハットは、涙を堪えてそんな驚きの言葉をあげた。これもわかっている。

 この新しい戦士に、いちばん最初に倒されるのが自分である事!
 シャンゼリオンに倒されたダークザイド怪人の先輩はいくらでもいるが、これからシャンゼリオンが変身する新たな戦士に倒されるのは自分だけだ。
 それは、あの暗黒騎士ガウザーでさえ果たせなかった事。──これが自分だけの敵なのだ。
 その事実に改めて感動するゴハットであった。

「朝日に映える伝説の超人、超光戦士ガイアポロンッッ!!!! 本当の戦いはこれからだぜ!!!!!」

 超光戦士ガイアポロンの真っ赤なボディが太陽の下、輝いていた。
 ガイアポロン──それは、シャンゼリオンの2号として用意されていたデザインしか残っていない戦士である。炎をまぶしたように真っ赤に輝き、相変わらずの重量感を感じさせ、シャンゼリオンの意匠を残した全身──。おそらくこれも次郎さん以外が着たら首の骨が折れるんじゃないかという代物である。
 本編では犬に食われ使われなかったパワーストーンの使用という事で、どうしても強化変身のしようがなく、彼は仕方なしに没デザインを流用してガイアポロンとなったのだ!

「ガイアポロンだと……っ!? フン……!! 姿が変わったところで変身者は所詮涼村暁!! この俺の手にかかれば赤子の手を捻るようなものだ!! うーん! それにしても、やっぱり2号やパワーアップは赤が一番だよ、赤!!」

 感動を隠して、悪役台詞を言う。赤、いいよね。
 ガイアポロンは、ゴハットの方を見ながら、次なる一手を考えた。
 とにかく、ゴハットは色々な技を指定してきたので、それを上手い具合に調節して繰り出さなければならない。

「いくぞ!! ガイアポロン、アタック!!」
「ぐああああああ!!!(←嬉しそうに)」
「ガイアポロンきりもみシュート!!」
「ぬああああああ!!!(←嬉しそうに)」
「ガイアポロン・Zビーム!! ビビビビビビビ〜(声だけ)」
「ぎゃあああああ!!!(←嬉しそうに)」

 ゴハットは、ガイアポロンが放つ攻撃の一つ一つを味わった。
 全てゴハットが考えた技である。正義のヒーローが自分に向けて全力で攻撃してくれる。
 ゴハットは、そのたびに楽しそうに火薬の配置されている場所に飛び込んでいった。

65覚醒!超光戦士ガイアポロン(Bパート) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:38:33 ID:o1PzPQC60

 爆発。ドカーン。
 ガイアポロンの一撃と、おそらくテレビカメラで見れば良い画が撮れているであろうシーンたち。何もかもが完璧であった。
 いや、もはや実際のヒーロー番組でさえ絶対にこんなにしつこくないくらいだ。

「ぐあああああああっ!! なんて事だ……!! おのれ、ガイアポロン……!!」

 圧倒的な強さが嬉しかった。
 ヒーローが悪の怪人を倒す文法に全く背を向けない、このストレートなストーリー。
 やられの美学もあるが、ゴハット論ではもっとヒーローは強くなければならない。
 こうして悪の怪人を一方的に倒し、悪の愚かさを教えてこそのヒーローだ。
 そう、どう考えても完璧だった。
 子供たちが憧れる、スーパーヒーローそのものである。

「そろそろ弱点ついていいか!?」
「どうぞ!!」

 ガイアポロンの質問に、ゴハットは即答した。
 朝日の背景が夕焼けっぽくなった。夕焼けをバックにした死、それはまさしく悪の怪人──しかも、めちゃんこ強い奴が散る時の情景である。
 まさか一怪人に過ぎないゴハットがこんな演出で戦えるなど、誰も思っていなかった事だろう。
 なお、この背景は完全にゴハットにしか見えていない。

「おおっ! これは岡本さんが散る時のバックの感じだ! 岡元ジロウVS岡本ヨシノリ、夢のスーパーバトル、いいじゃないか!!」
「なんだかわからんが、殺っちゃっていいんだよな?」
「どうぞ!!」

 歓喜のゴハットに向けて、ガイアポロンはちょっとためらうが、とにかくゴハットが促した。今まさしく、ゴハットは伝説のスーツアクター・岡本ヨシノリの気分であった。
 散る美学を再現できる。
 あの美しき死を演出できるのだ。
 ガイアポロンが、胸の前に手を翳し、新たな武器の名前を叫ぶ。

「シャニングブレード!!」
「そうじゃないでしょっ!! おたくの使う剣はチーム名にちなんだ【ガイアセイバー】でしょうがっ!!」
「音声認識なんだよ!! 仕方ないだろ!! ……シャイニングブレード、改め、ガイアセイバーだ!!」

 明らかにシャイニングブレードにしか見えない剣をそう呼びながら、ガイアポロンが前に出る。
 そう、ガイアポロンには設定上、これといった武器がない。何せ、没デザインしか存在していないのだから。
 だから、やむを得ずシャンゼリオン時代の武器を流用しているのだ。しかし、パワーストーンで赤くなっているので威力等が三倍になっている。

「じゃあ遠慮なく。ガイアクラッシュ!!」

 ガイアポロンは、シャイニングブレードを構えたまま、前につき進んでいった。
 シャイニングブレードを構えて一歩、一歩と着実に地面を強く踏みつけるシャンゼリオンの姿は何と凛々しい事か。
 心なしか、今回、また暁美ほむらの幻影が申し訳程度にガイアポロンの後ろに重なる。
 これはそういう必殺技なのか──。


 ああ、これで全てが終わる。
 ゴハットにとって、夢が叶う。
 そんな瞬間だった。こんな、カッコいい倒され方が待ってくれているなんて……。



 ─────────怪人に生まれて良かったァァァ…………。



 CMのあと、ヴィヴィオにまさかの事態が!?



テッテレー♪ テレレレ♪(←初代ライダーのアイキャッチの音)







【DXシャンゼリオンのCM】


 燦然! デラックスシャンゼリオン!
 クリスタルなフォルム! 可動する21のジョイント!

『シャイニングアタック!』←明らかに暁じゃない声

 光る! 叫ぶ! デラックスシャンゼリオン
 超光騎士もよろしく!


※現在は取扱いしていません。





66覚醒!超光戦士ガイアポロン(Cパート) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:39:09 ID:o1PzPQC60



テッテレー♪ テレレレ♪



 ──と、思ったはいいのだが。

 ゴハットがそのままガイアポロンに突き刺される事はなかった。
 ガイアポロンは何をしている? ──いや、ゴハットの前にあるこの影は何だ?
 そう、それは、またも戦場に現れた女神の姿なのだった。
 戦いを見守りながら、彼の夢が成就する事を願いながら、それでも止められずにはいられなかった矛盾。
 高町ヴィヴィオが、やはり、この瞬間、ゴハットの前に立っていた。

「……あの。もう、いいですよね?」

 そう言ったのは、ガイアポロンに対してではなく、ゴハットに対してだったに違いない。
 ゴハットが殺されたがりである事を理解しながらも、それに納得しきれなかった。
 ガイアポロンとゴハットが戦っている最中、彼女はレイジングハートとアクセルによって助けられ、磔から解放された。
 彼女はクリスの力で大人モードに変身し、ティオを抱いて、ここまで距離を縮めてきたのだった。
 絶対に戦いを止めなければならないと思ったのだ。

「どうして邪魔をするんだよ! あと一歩だったのに!」

 ……こんな台詞を言うのが、やられる側であるというのはかなり珍しい話だろう。
 ゴハットは今、本気で怒りを抱いていた。折角叶うはずの夢をあと一歩で妨害されてしまった事に──そう、それが前に夢を後押ししてくれた少女である事が彼の期待を裏切ったようだった。

「おい……」

 ガイアポロンは、シャイニングブレードを構えたまま、呆然と構えるのみだった。
 足は深く前に降ろされているが、それでも目の前に現れたヴィヴィオに急ブレーキをかけて、少しバランスを崩しかけていた。

「これ以上、戦う必要なんて、ありません! 私は、どんな理由があっても……こんな戦いなんて認めたくありません!!」

 彼女は格闘に命を懸けている。
 戦う事は好きだが、それはルールを伴い、相手を尊重した戦いであった。自分の技術を全力でぶつけ合うゲームであって、こうしてやられるのを待つのは、格闘ではない。
 殺し合いの現場であっても、その想いは揺らがない。こうしてわざと負けて勝敗を決し、知っている人が死んでしまう姿を見たくはなかった。

「君が認めるか認めないかはどうでもいいのっ!! 僕はシャンゼリオン……いや、ガイアポロンに倒してもらいたいんだ!!」

 怒り新党で地団駄を踏むゴハットの姿に、ヴィヴィオは恐れる事もなかった。
 この最高の盛り上がり時をヴィヴィオに邪魔された事で、相当腹を立てている様子である。──その中でも、ゴハットの中には思うところがあったようで、どこかヴィヴィオに優しい目をしていた。
 それでも──それでも、ゴハットの夢は、まさしく叶う直前だった。
 それに対する怒りがゴハットの声を荒げさせる。

「前にもちゃんと言ったでしょうが! いくら君でも、邪魔をすると容赦はしないって!!」
「でも……!! ゴハットさんだって、優しくて……そんな人が、死んじゃうなんて……」
「でももヘチマもないんだよ! あー、もう!!」

 ゴハットは怒りとともに、ある決意に拳を握った。
 ヴィヴィオは何もわかっていない──。

「私は何も知らないけど、それでも言わせてください……。ヒーローが好きなら、ヒーローになれば……その為に自分を鍛えれば、きっとヒーローになる事ができると思います」

67覚醒!超光戦士ガイアポロン(Cパート) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:39:27 ID:o1PzPQC60

 ヴィヴィオの言葉をかみしめる。
 彼の脳裏に浮かぶのは、高町なのはやフェイト・テスタロッサ、アインハルト・ストラトス、早乙女乱馬、園咲霧彦、山吹祈里──この一人の少女とかつて交流した参加者たち。
 その姿が彼女に重なる。
 いくつもの試練を超えて生き延び、死線さえも超えた一人の少女。

「……悪いけど──」

 ゴハットは、俯き、まるで力を失ったように言った。
 ヴィヴィオの説得が少しでも心に響いたように見えた。
 だから、ヴィヴィオ自身もどこか力を抜いて、次の一句を口に出そうとした。

「なれるんですよ、ゴハットさんだって──」



 ────しかし。



「悪いけど、僕が倒されるのを邪魔するなら、消えてなくなってもらうよ!!」

 帰ってきたのは、無慈悲なる一言。
 ゴハットは、怒りに任せて前に出た。不意打ちであった。
 一瞬でも、心を許した隙を狙ったのだ。そう、彼とて本質はダークザイドの怪人。
 たとえヒーローにあこがれていたとしても、その手段に悪しきは付きまとう物であった。
 豹変したゴハットを前に、ヴィヴィオの背筋が凍る。

「ああっ!」

 ゴハットは特殊な力を発動すると同時に、ヴィヴィオに肉薄した。
 刹那、強力な魔力反応を確認する。
 ゴハットの両腕の触手が発した青い光は、次の瞬間──ヴィヴィオを呑み込む。

「なんだってんだ、クソ……!!」

 ガイアポロンが前に出るが、眩い光が彼を弾き返してしまった。

「これは……!! まさか……!! やっぱり────」

 レイジングハートがその瞬間、何か異変に気づいたようであった。
 レイジングハートがよく知る魔力反応である。──まさか。
 彼女がそう思うよりも早く、ヴィヴィオの悲鳴が聞こえた。

「きゃあっ!!」

 それは、確実にヴィヴィオの危険を示す警告のサインであった。
 青い光の向こうで、ヴィヴィオの生命がかなり危険に晒されているようだったのだ。
 聞こえるのはゴハットの悪役笑いである。

「フハハハハハハハハハ……!!」
「てめえっ!! おい、どこに……っ!!」

 ガイアポロンが前に出ようとするが、ゴハットは妙に焦った様子であった。
 視界を暈す閃光の中で、ゴハットがヴィヴィオの体を抱え、彼女に何かを施したのである。
 光の中でぼやけながらも見えていたヴィヴィオの形が消え去っていく。
 小さくなり、形を失い、やがて完全にそこにヴィヴィオの姿はなくなった。
 ヴィヴィオを包んだ光、それが何かはわからないが、ゴハットの暴走がヴィヴィオに何らかの危害を加えた事実は明白だった。



 直後──光がゆっくりと晴れていく。

「なっ────」

 光が晴れると、ヴィヴィオの体が、そこから消えていた。
 どこを探しても、ヴィヴィオの姿はなかった。



「マジかよ……」

68覚醒!超光戦士ガイアポロン(Cパート) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:39:45 ID:o1PzPQC60

 ────死んだ。


 そうとしか思えなかった。

 あまりに突然、そこからいなくなった一人の少女。
 今、ゴハットの為に尽くしたはずの優しき少女の姿は、もうそこにはなかった。
 よりにもよって、悪人・ゴハットの手によって、少女は──。

「そんな……」

 ヴィヴィオも、クリスも、ティオも、全て体ごと、塵一つ残らず消滅したという事なのだろうか。
 その何もない場所には、ゴハットが何らかの特殊な力を発動した結果、「ヴィヴィオが跡形もなく消滅した」という事実だけが残っていた。

「……てめえ……!!」
「フッフッフッ……僕の邪魔をするからこうなるんだ!!」

 ヴィヴィオがいとも簡単に消滅させられた事実。
 ──それが暁の中で、強い怒りとして燃え上がる。
 目の前のゴハットは、一切気にしていない様子であった。だからこそ、暁の怒りのボルテージが鰻登りに上がっていく。
 この男を打ち砕く。
 所詮はダークザイドであり、この殺し合いの主催者であった。彼を許そう気持ちなど、もはや暁の中のどこにもない。

「────俺はもう怒った! これ以上、お前のシナリオなんかに付き合うつもりもない!! 望み通り、今すぐあの世に逝かせてやるぜ!!」

 有無を言わさず、ガイアポロンはガイセイバーを強く構えた。
 ガイアセイバーが、そのまま光輝き、ゴハットの弱点のコアを狙う。そこに着き刺す絶対の意思。──ゴハットもそれを回避する気などなかった。

「来いっ! ガイアポロン! 続きをしよう!」

 ゴハットは、甘んじてそれを受け入れるべく、両手を広げる。抵抗の様子はなく、やはりその一撃を欲しているらしかった。
 それこそが彼の目的。ヴィヴィオがその現実を受け入れられたのなら、きっとゴハットを既に葬っていたであろう──その一撃である。

「ッッッ!!!!」

 一貫。ゴハットの胸が刃に屠られる。
 眩しいほどの火花が大量に地面に散らばっていき、蜘蛛の子が逃げていくように地面を駆け巡ってやがて、大気に溶けて消えていった。
 ゴハットの中に熱い炎が入り込んでくる。

 自分に終わりが来るのを、ゴハットは妙に優しい気持ちで待っているのだった。
 夢は叶った。
 このまま消えていく事に、彼には未練はない。

「────ありがとう、シャンゼリオン、いや……ガイアポロン」

 ガイアセイバーの刀身をゴハットは、掴む事もままならぬ両腕で握った。妙に安らかな表情の彼に、その時は戻ったのだった。より深く、それを自分の中に差し込むべく、強い力で引いていく。
 その暖かさを感じながら、しかし、跳ね返ってくる火の粉の熱さも時折受けながら、彼は死の睡魔を呑み込んでいく事になった。

「ッッッ……」

 怒るガイアポロンの耳には、尚も魔物の一声が流れ込んできた。

「良かった。ずっと夢だったんだ……君に倒されるのが……これからもカッコいいスーパーヒーローでいてくれよ…………じゃあ、帰ったら、ヴィヴィオちゃんの事をよろしく……」
「何!? じゃあ、まさかヴィヴィオちゃんは……」

 ガイアセイバーを包む握力が弱まる。
 だが、もはや手遅れだった。ゴハットのコアは確かに深々と彼の体を貫いており、もはや手の施しようがないほどにゴハットの命を消し去ろうとしていた。

69覚醒!超光戦士ガイアポロン(Cパート) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:40:02 ID:o1PzPQC60

「……彼女の事は、安心しなよ。ただ、これからも絶対、彼女が生きている事は悟られないようにね。全部内緒にするんだ……」

 ゴハットが、ゴフッと、血のような火花を吐き出した。
 もう終わりだった。
 最期は、ゴハットが最も言いたい最後の言葉を告げ、美しく散っていくしかない。
 しかし、その最後の中でも、彼には教えたかったのだ。

(────これで僕も、ヒーローに倒されるんじゃなくて、誰かのヒーローになれたかな……ヴィヴィオちゃん……ヒーローって、本当にいいものだよね……)

 そう、ある“力”をゴハットは有していた。
 その力によって、ヴィヴィオは殺されたと誰もが思い込んでいた。しかし、現実は逆だ。
 この場において、ヒーローたる資質を持った少女を、その“力”を駆使してゴハットが生かしておいたと──それが真相であった。

 彼は今、その事を、シャンゼリオンに伝え、少しでも彼を安心させようとしていた。
 ゴハットの持つ“力”は、同じ主催陣の一人であるサラマンダー男爵から託されたものだった。──おそらく、プレシアの追放と、主催陣の撤退のゴタゴタの中で、男爵が拝借し、そこから流出した物だろう。
 ゴハットにはそれを使う予定は一切なかったのだが、思わず、その能力を使えば参加者の生還さえ果たせるのではないかという事を思い出した。
 男爵には、「これを使えば、参加者を一人、一瞬で外の世界に放り出す事だって出来る」と言われただ。だが、その力を使う事は絶対にないと思っていた。──おそらく、男爵の目論見では、誰かを生還させるのではなく、参加者が“この場にとどまるため”に、石堀光彦を外の世界に放り出す為に渡された力だったのだろう。

 だが、男爵の意思に反して、ゴハットは「ヒーローたちは、自分の力でダークザギに気づき、倒さなければならない」という厄介な信念も抱え込んでいた。そんな意思が、ゴハットが石堀を外に捨てるのを邪魔させたのだ。
 結果、この“ジュエルシード”というアイテムの力は、一人の少女の生還の為に利用される事になった。

(……元気でね)

 まさか、男爵も、外の世界に善なる者を放るとは思わなかっただろう。
 外に捨て去るのは、善の心を持つ者ではなく、悪の心を持つ者であるのが必然だった。
 外の世界はもう、支配と崩壊の一途を歩み始めている。この僅かな期間で、どれだけ多くの世界が支配に屈しているのだろう。
 そんな世界に善人を放るなど、男爵の感覚ではありえなかった。外の世界に放り出させるのは、もはや罰でしかない。
 ヒーローをここに残して生かし、外に悪を放り棄てるのが自然だったはずだ。まさか、外の世界に自分が愛する者たちを放り棄てるほど、ゴハットの思考が追い付いていないとは男爵も思っていなかっただろう。
 しかし、ゴハットは、ここでも男爵の意図を無視した。

 ヒーローは外の世界でも希望になり、支配や絶望なんて打ち砕くと、──────彼は本気で信じていたのだ。

 己の最期の時を、ゴハットは確信し始めた。



「────ゴハット死すとも、ベリアル帝国は死なずゥゥゥゥッッ!!」



 そして、爆発間際、最期に彼が遺した言葉は、この殺し合いに巻き込まれた人間全てに通じる重大な手がかりになる一言となった。
 石堀もレイジングハートも、その高らかな叫びだけは聞き逃さなかっただろう。
 台本の中には全く別の言葉、【ネオダークザイド】と書かれていたはずの部分を掻き消して、ゴハットは最後にそんな言葉を残した。
 ベリアル帝国。
 ベリアル。────。

「……ッ」

 怪物を貫いたガイアポロンの手には全く後悔はなかった。
 ただ、自分の耳だけに最後に聞こえたゴハットの言葉をこれからも胸に隠し、レイジングハートの感じている怒りと困惑を背に受けながら、これから殺し合いを脱出する事について考える事にした。
 いずれ、全てレイジングハートにも明かす事になるだろう。
 ヴィヴィオは元の世界に帰った──その言葉は不安だったが。





70覚醒!超光戦士ガイアポロン(Cパート) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:40:24 ID:o1PzPQC60



 全てが収束し、爆発の中からガイアポロンは帰って来た。
 パワーストーンを解除し、シャンゼリオンの姿に戻ると、また涼村暁へと戻っていく。
 めらめらと燃える炎をバックに、暁はゆっくりと歩いていた。

「暁……!」

 暁は、呆然とした表情だった。
 また隠し事を一つ増やさなければならない。
 ヴィヴィオは生きている。それを知るのは暁だけだ。それを隠さなければならない理由も彼は理解している。
 彼女が死んだ事になれば、生き残れる人数が変わる。──残り三人いなくなれば十人が生き残る事ができ、実質的にはヴィヴィオを含めた十一人が生き残れるのだろう。
 それから、外に逃がせば石堀やドウコクに殺される事もなくなる。

「暁、ヴィヴィオの最期に、かつて見たジュエルシードの魔力反応が……」
「──」
「……彼女は、ジュエルシードの力で死んでしまったのでしょうか」

 レイジングハートは問う。
 しかし、暁は知っている事実を答えなかった。

「俺に訊かれても、わからないさ……。諸悪の根源は倒しちまった」

 暁は、何も言えないのが少しもどかしい。
 ヴィヴィオは生きている、と叫びたい。
 あー、早く言いたい。悲しいフリとかマジ疲れる。とか思いながら、暁はとにかく、冷淡に次の行動を決めなければならないので、物凄く嫌な役割だ。

「……いつまでも、ここにいても仕方ないぞ。まずは電話で仲間に連絡だ……」

 疲弊しながら石堀が言うのを見た。
 こいつの演技力を少し分けてほしい、と暁は内心で思っていた。
 こいつの正体についてはいずれ暴かなければならない。台本にも「石堀の正体が……」と書かれていたが、レイジングハートは今のところそれについて問わず、あくまで暁の胸の中にしまわれている事でしかなかった。
 ふと、そのレイジングハートが聞いた。

「そういえば、ゴハットが死後にこの場所に置いておいてほしいと言っていたカードがありましたよね?」

 さて、ここで暁は思い出した。
 ゴハットの指定では、『この者、少女誘拐犯人!』と書かれたカードを用意せよとの事であった。ファックスには、切り取って使える紙が渡されていたのだ。ぺらぺらだが、これがカードという事でいいらしい。名称はゴバットカードだ。

 それを一応、丁寧に切り取り線通りに切って、ゴハットの死後にそれをヒーローっぽく残しておいてくれとの事だった。

「ああ、そうだったな……一応置いといてやろう」
「はぁ……」

 と、暁がその切り取ったカードを手に取った瞬間だった。
 ──その裏面。白紙だったはずの部分に、何やら文字が浮かび上がっていた。
 表面よりも少し文字の量が多く、一瞬どちらが表でどちらが浦なのかわからなくなりそうであった。

「……ん? なんだこりゃ? こんな文章、最初からあったか?」
「いえ、こんな物があった覚えは……もしかすると、自分が死んだら浮き上がる仕組みとか」
「え? どんなインク使ったらそんな事になるんだよ……」

 まさしく、暁の言う通りだが、これはゴハットの心臓部と連動した超凄いインクで書かれた文字であった。ゴハットの死と同時に文字が浮かび上がる仕組みになっていたのである。
 文章をよく見ると、暁の知っている人物の名前が書いてある。
 暁はすぐにそれに目を通した。

71覚醒!超光戦士ガイアポロン(Cパート) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:41:04 ID:o1PzPQC60


『桃園ラブと花咲つぼみなら、花咲つぼみ。
 巴マミと暁美ほむらなら、暁美ほむら。
 島の中で彼女たちの胸に飛び込みなさい』


 ……全く理解ができない内容だった。
 しかし、ラブとマミ、つぼみとほむらの共通点というのが少し頭に引っかかる暁であった。

「変な文章書きやがって。やっぱり頭おかしいんだな……アイツ」

 名探偵、涼村暁はその文章を怪文書としか捉えられなかった。
 それがいかに重大な意味を持っているかも彼は知らない。

 ……ただ、暁はその場にカードを置いていくのを躊躇った。
 もしかすると、何かの手がかりを残したのかもしれないと思ったからだった。
 内心、ゴハットに謝りつつも、暁はゴバットカードをポケットの中にいれた。


【ゴハット@超光戦士シャンゼリオン 死亡】
【高町ヴィヴィオ@魔法少女リリカルなのはシリーズ 主催陣営のデータ上、死亡】
【残り13人】







【2日目 昼前】
【D−6 グロンギ遺跡付近】



【涼村暁@超光戦士シャンゼリオン】
[状態]:疲労(小)、胸部に強いダメージ(応急処置済)、ダグバの死体が軽くトラウマ、脇腹に傷(応急処置済)、左頬に痛み、首輪解除
[装備]:シャンバイザー@超光戦士シャンゼリオン、モロトフ火炎手榴弾×3、恐竜ディスク@侍戦隊シンケンジャー、パワーストーン@超光戦士シャンゼリオン、リクシンキ@超光戦士シャンゼリオン、呼べば来る便利な超光騎士(クウレツキ@超光戦士シャンゼリオン、ホウジンキ@超光戦士シャンゼリオン)
[道具]:支給品一式×8(暁(ペットボトル一本消費)、一文字(食料一食分消費)、ミユキ、ダグバ、ほむら、祈里(食料と水はほむらの方に)、霧彦、黒岩)、首輪(ほむら)、姫矢の戦場写真@ウルトラマンネクサス、タカラガイの貝殻@ウルトラマンネクサス、スタンガン、ブレイクされたスカルメモリ、混ぜると危険な洗剤@魔法少女まどか☆マギカ、一条薫のライフル銃(10/10)@仮面ライダークウガ、のろいうさぎ@魔法少女リリカルなのはシリーズ、コブラージャのブロマイド×30@ハートキャッチプリキュア!、スーパーヒーローマニュアルⅡ、グロンギのトランプ@仮面ライダークウガ、ゴバットカード
[思考]
基本:加頭たちをブッ潰し、加頭たちの資金を奪ってパラダイス♪
0:とりあえずヴィヴィオちゃんが生きているのはわかったが隠し通す。暗号?知らん。
1:石堀を警戒。石堀からラブを守る。表向きは信じているフリをする。
2:可愛い女の子を見つけたらまずはナンパ。
3:変なオタクヤロー(ゴハット)はいつかぶちのめす。
[備考]
※第2話「ノーテンキラキラ」途中(橘朱美と喧嘩になる前)からの参戦です。
つまりまだ黒岩省吾とは面識がありません(リクシンキ、ホウジンキ、クウレツキのことも知らない)。
※ほむら経由で魔法少女の事についてある程度聞きました。知り合いの名前は聞いていませんでしたが、凪(さやか情報)及び黒岩(マミ情報)との情報交換したことで概ね把握しました。その為、ほむらが助けたかったのがまどかだという事を把握しています。
※黒岩とは未来で出会う可能性があると石堀より聞きました。
※テッカマン同士の戦いによる爆発を目にしました。
※第二回放送のなぞなぞの答えを知りました。
※森林でのガドルの放送を聞きました。
※第三回放送指定の制限解除を受けました。彼の制限は『スーパーヒーローマニュアル?』の入手です。
※リクシンキ、ホウジンキ、クウレツキとクリスタルステーションの事を知りました。
※結城丈二が一人でガドルに挑んだことを知りました。
※ゴハットがヴィヴィオを元の世界に返した事は知りましたが、口止めされているので死んだ事にしています。

72覚醒!超光戦士ガイアポロン(Cパート) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:41:14 ID:o1PzPQC60


【石堀光彦@ウルトラマンネクサス】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)、首輪解除
[装備]:Kar98k(korrosion弾7/8)@仮面ライダーSPIRITS、アクセルドライバー+ガイアメモリ(アクセル、トライアル)+ガイアメモリ強化アダプター@仮面ライダーW、エンジンブレード+エンジンメモリ@仮面ライダーW 、コルトパイソン+執行実包(6/6)
[道具]:支給品一式×6(石堀、ガドル、ユーノ、凪、照井、フェイト)、メモレイサー@ウルトラマンネクサス、110のシャンプー@らんま1/2、ガイアメモリ説明書、.357マグナム弾(執行実包×10、神経断裂弾@仮面ライダークウガ×2)、テッククリスタル(レイピア)@宇宙の騎士テッカマンブレード、イングラムM10@現実?、火炎杖@らんま1/2、血のついた毛布、反転宝珠@らんま1/2、キュアブロッサムとキュアマリンのコスプレ衣装@ハートキャッチプリキュア!、スタンガン、『風都 仕置人疾る』@仮面ライダーW、蛮刀毒泡沫@侍戦隊シンケンジャー、暁が図書室からかっぱらってきた本、スシチェンジャー@侍戦隊シンケンジャー
[思考]
基本:今は「石堀光彦」として行動する。
0:電話する。
1:「あいつ」を見つけた。そして、共にレーテに向かい、光を奪う。
2:周囲を利用し、加頭を倒し元の世界に戻る。
3:都合の悪い記憶はメモレイサーで消去する
4:加頭の「願いを叶える」という言葉が信用できるとわかった場合は……。
5:クローバーボックスに警戒。
[備考]
※参戦時期は姫矢編の後半ごろ。
※今の彼にダークザギへの変身能力があるかは不明です(原作ではネクサスの光を変換する必要があります)。
※ハトプリ勢、およびフレプリ勢についてプリキュア関連の秘密も含めて聞きました。
※良牙が発した気柱を目撃しています。
※つぼみからプリキュア、砂漠の使徒、サラマンダー男爵について聞きました。
※殺し合いの技術提供にTLTが関わっている可能性を考えています。
※テッカマン同士の戦いによる爆発を目にしました。
※第二回放送のなぞなぞの答えを知りました。
※森林でのガドルの放送を聞きました。
※TLTが何者かに乗っ取られてしまった可能性を考えています。
※第三回放送指定の制限解除を受けました。予知能力の使用が可能です。
※予知能力は、一度使うたびに二時間使用できなくなります。また、主催に著しく不利益な予知は使用できません。
※予知能力で、デュナミストが「あいつ」の手に渡る事を知りました。既知の人物なのか、未知の人物なのか、現在のデュナミストなのか未来のデュナミストなのかは一切不明。後続の書き手さんにお任せします。
※結城丈二が一人でガドルに挑んだことを知りました。

73覚醒!超光戦士ガイアポロン(Cパート) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:43:40 ID:o1PzPQC60


【レイジングハート・エクセリオン@魔法少女リリカルなのはシリーズ】
[状態]:疲労(大)、魔力消費(大)、娘溺泉の力で人間化
[装備]:T2ダミーメモリ@仮面ライダーW、稲妻電光剣@仮面ライダーSPIRITS
[道具]:支給品一式×6(ゆり、源太、ヴィヴィオ、乱馬、いつき(食料と水を少し消費)、アインハルト(食料と水を少し消費))、ほむらの制服の袖、マッハキャリバー(待機状態・破損有(使用可能な程度))@魔法少女リリカルなのはシリーズ、リボルバーナックル(両手・収納中)@魔法少女リリカルなのはシリーズ、ゆりのランダムアイテム0〜2個、乱馬のランダムアイテム0〜2個、山千拳の秘伝書@らんま1/2、水とお湯の入ったポット1つずつ、ライディングボード@魔法少女リリカルなのはシリーズ、ガイアメモリに関するポスター×3、『太陽』のタロットカード、大道克己のナイフ@仮面ライダーW、春眠香の説明書、ガイアメモリに関するポスター 、バラゴのペンダント、ボチャードピストル(0/8)、顔を変容させる秘薬、ファックスで届いたゴハットのシナリオ原稿(ぐちゃぐちゃに丸められています)
[思考]
基本:悪を倒す。
0:ヴィヴィオ……。
1:零とは今後も協力する。
2:ケーキが食べたい。
[備考]
※娘溺泉の力で女性の姿に変身しました。お湯をかけると元のデバイスの形に戻ります。
※ダミーメモリによって、レイジングハート自身が既知の人物や物体に変身し、能力を使用する事ができます。ただし、レイジングハート自身が知らない技は使用する事ができません。
※ダミーメモリの力で攻撃や防御を除く特殊能力が使えるは不明です(ユーノの回復等)。
※鋼牙と零に対する誤解は解けました。







 ────時空管理局。

 アースラの医務室・白いベッドの上で、ヴィヴィオは瞼を開いた。

 強力で、どこか懐かしい魔力の反応とともに、自分は殺されたはずだったが、かつての死とは全く別の形で誰かが彼女を迎えたのだった。
 見れば、ヴィヴィオの視界には真っ白な天井があった。
 右横を見ると、隣のベッドの上でセイクリッド・ハートとアスティオンがこちらを見ていた。二人とも元気そうであった。

 左横を見ると、知っている顔がある。
 フェイトの、まだ幼い時の顔がある。彼女はやや心配そうにこちらを見た。
 椅子に坐して、こちらを看病しているようだった。

「ここは……」

 思わず、ヴィヴィオは体を思いっきり起き上がらせる。すると、体が激しく痛んだ。
 やはり、今日まで無理を通してきたのが余程引きずったのだろうか。
 生きている、そんな──感覚だった。
 そんな折、ヴィヴィオの耳に、誰かの声が聞こえた。



「おめでとう、君は生還したんだ。あの殺し合いからね」



 ヴィヴィオはまだ知らないが、白い服の若い男がそう言った。
 祝福にしては、少し皮肉のこもった言い回しにも聞こえた。決して、心からの歓迎には見えなかった。
 それが不審だったが、ともかくヴィヴィオは状況を知りたかった。

「生還……? ……私以外のみんなは生きているんですか?」

 そんな事を心配している内には、まだヴィヴィオは知る由もなかっただろう。
 今自分がいる殺し合いの外の世界がどうなっているのか。

「……」

 吉良沢は少し俯いてそこから先を言うのを躊躇った後でヴィヴィオに言った。

「……まずは、僕たちについてきてくれ。落ち着いて、外の様子を見てほしい」

 ヴィヴィオが、その様子の不審さに、顔色を変えた。
 ただ不思議そうに吉良沢を見つめるヴィヴィオであった。



【高町ヴィヴィオ@魔法少女リリカルなのはシリーズ 生還、しかし────】
※セイクリッド・ハート、アスティオンも纏めて送還されました。

74 ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:44:12 ID:o1PzPQC60
じゃあ続いて202話を投下しましょうか。

75ありがとう、マミさん(前編) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:45:00 ID:o1PzPQC60



 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。







 さて、朝方の平野で車を走らせていた孤門一輝がそのドンヨリとした空気にブレーキを踏み込みました。
 魔法少女でなくとも、その場所の異様に気が付いたのでしょう。孤門は誰の合図もなく、一人でに車をその道の真ん中に止めたのです。

 魔女がこの先にいるのです。ええ、そうです。その魔女は、寂しがりやの魔女なのです。
 魔女は、パーチーの準備をしていますが、生まれてから今日まで、誰もそのパーチーに足を運ぶ事がなかったのです。
 だから、この場に来るどんな人間にもわかるように、ずっと自分の寂しさを外に向けて吐き出していたのです。
 孤門が車のドアーのロックを開けますと、順番に、桃園ラブも、佐倉杏子も、蒼乃美希も、そのドアーを開けて外に出ました。
 外へ出ると、朝の空気とともに、一部分だけが異様なその空間の邪気が、喉から胸になだれ込んでくるようでした。

 魔女の結界。──それがラブや杏子の友人たる少女が作り出した異変の空間でした。ソウルジェムを濁らせてしまった彼女には、そこに人を呼ぶしか、誰かと仲良くする術はないのです。

「これが……魔女の結界?」

 孤門が、鍵穴のように小さな魔力の出どころを指さしました。それらしいとは思いつつ、ラブと美希も孤門の横につきました。孤門も微かに震えているのが見えました。

「そうだ、ここに魔女がいる」

 杏子の言葉を聞くと共に、ラブは唾を飲むのに手間取るほどの緊張を感じました。

「マミさんが……ここに」

 ようやく呑み込んだ矢先にも、まだ喉が渇いて来るのでした。
 むしろ先ほどより渇いているほどです。

「……入るぞッ」

 杏子が彼女たちの前に出て行きました。
 この魔女の結界は、魔法少女がこじ開けるしか入る方法はありません。本来ならば、杏子がソウルジェムを使って切り開くのが当然です。
 しかし、魔女の正体が果たして、本当に彼女たちならば、そんな事をする必要は全くありませんでした。寂しがりやで、仲間の来訪に安心した彼女は、すぐに自分の暗闇を彼女たちに知って欲しいと、招こうとするに違いないのです。
 杏子がこじ開ける時間さえ惜しいと思うのが、この魔女でした。



「──なッ!?」



 意外でした。
 魔法少女が魔女の結界に呑み込まれる、引き入れられるなど滅多にある事ではありません。そもそも、魔女は魔法少女の来訪を好みはしないはずなのです。
 それでも彼女は呼ばれました。





76ありがとう、マミさん(前編) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:45:17 ID:o1PzPQC60



 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。







 ……そして、彼女たちは、気が付けばその異様な空間の中にいました。

 空間の中では、金淵の巨大な皿が浮かんでいます。おそらくは四畳ほどの皿です。ここに招かれた人間は、皆その上にいました。虹の橋が星座のように皿と皿とを結んでいて、その上を歩かなければ先に行けないようです。
 彼女たちは、起き上がると自分の足場よりもまず周囲に目を向けました。周囲には、果実が実り、花が咲いた綺麗な木々がありました。
 桃の木です。桜の木です。杏の木です。誰が作ったのでしょうか。誰が咲かせたのでしょうか。──ええ、魔女自身です。魔女自身の望みや乾きがこの木を育て、実を作っているのです。
 魔女はそうして、自力で実を生み出しながらも、他から与えられる何かを求めているようでした。

「……この空間が、魔女の結界?」

 美希がそう訊きました。三人は魔女の結界に入るのは初めてです。
 一帯は、なんだか冬場の緑黄色野菜を剥いて皮だけを並べたような、どこか昏い色をしていました。
 彼女たちは、恐る恐る周囲を見回しましたが、杏子はお構いなしに前に進みました。
 見れば、彼女は既に魔法少女の姿へと変身していました。肢体を真っ赤でぴっちりとした魔法服で包みながら、呆然とするラブたちを促します。

「ああ、行くぞ。それから、変身もしておけよ。……本当に油断がならねえぞ」

 ラブと美希にそう言うと、彼女はただ前に進んでいきました。少しは焦っているようですが、一方でどこかそれを冷静に隠している様子でした。それでも、そんな冷静の裏側を、他の三名は正確に読み取っていました。

「あ、ああ、うん……」

 ともかく、言われたので、虹の橋の上を、そっとラブが踏んでみました。どうやら、透けて落ちてしまう事はないようです。虹の橋は人が渡る事ができる頑丈な橋ではあるようです。
 しかし、物体を踏んでいるような感覚ではありませんでした。まるで空中を歩いているような感覚で、気が気でないところがありましたが、彼女たちは意外と素早く歩いて行きました。
 一番歩くのに苦戦していたのは孤門でした。彼には、虹の上を歩くほど非現実に即した想像力はありませんでした。子供の頃の小さな夢が最悪の形で叶ったようで、複雑な表情です。
 二人のプリキュアは、その後変身しました。

 ともあれ、おめかしの魔女──Candeloroは、四人の客人を自分の内に招待したのです。





77ありがとう、マミさん(前編) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:45:34 ID:o1PzPQC60



 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。







「どこか、気味が悪いわね……」

 キュアベリー──蒼乃美希がそう呟きました。
 空はよく見れば薄暗く、木々はよく見ると健康的な肌をしていませんでした。
 葉も少し薄暗いのです。
 曇り空に真っ黒い雲が浮かんでいますが、これはこの時偶然こんな色をしているというわけではないようです。ずっと、この色でこの木は育ってきたのです。

「もっと向こうに魔女がいるはずだ。強い魔力を感じる……」

 杏子が言いました。
 マミは一体、どこにいるのでしょうか。それ、捜してみましょう。
 見回してみて、キュアピーチ──桃園ラブが何かに気づきました。

「もしかして、あの木のお家?」

 木々の中に、どうやら木でできた家があるようです。見れば、それはドアーを拵えていました。一つだけ太く、小さく、まるで何かを主張しているようでした。
 きっと、彼女が招待したい場所はその家なのです。しかし、そこに行くまでにはいくつもの試練があります。

 魔女の精神は複雑でした。本当は自分のもとに来てほしいのに、そこから人を突き放す癖もあるのです。人に接したい気持ちと、人を巻き込みたくない不安とが、彼女の中に両方あるのです。
 今、彼女たちの前に進軍してくる怪物が誰かを巻き込みたくない気持ちなのでした。
 自己の矛盾の中で、魔女は一人戦っているのです。

「……チッ」

 杏子は、進軍を見つけて舌打ちをします。キュアピーチが見つけたのは確かに魔女の根城のようですが、それを守るために敵がやって来たのです。
 それは、使い魔でした。
 赤と桃色の髪で顔を隠した小さな少女が彼女たちの前にやってきます。こんなのが魔女の使い魔です。

「敵が来たッ、戦う準備だッ」

 杏子は槍を構えました。
 真っ直ぐ前に来ている使い魔もまた、赤色で槍を持っていました。
 杏子は眉を顰めました。

「おいおい、あたしの真似事か?」

 マミが繰り出した使い魔は、色と槍との特徴が、杏子にとても似ていました。
 どうやら、マミの心の中に在る杏子は、こんな野蛮な怪物だったようです。
 その使い魔は、「あかいろさん」と云いました。
 あかいろさんが杏子に向けて槍を突き放ちました。しかし、槍は、杏子の体の横を掠めていき、そのまま杏子の左手に掴まれてしまいます。

「槍ってのはな、こう使うんだよ!」

78ありがとう、マミさん(前編) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:45:50 ID:o1PzPQC60

 杏子があかいろさんの槍を突き返しました。
 そして、もう一遍、相手が槍を突いて来る前に、杏子はいつもの如く、自分のやりであかいろさんの体を引き裂きました。あかいろさんの体はすぐに消えていきました。
 やはり、槍を使う者としても、使い魔を狩る者としても、年季が違うようです。
 まるで杏子と瓜二つのあかいろさんを、容赦なく無に返し、杏子は次の敵を探しました。

「きゃあッ」

 すると、杏子の耳に誰かの悲鳴が聞こえてきました。キュアベリーに、小さな小さな「ももいろさん」が矢を放ってきたのです。
 ベリーが矢を間一髪、上手く回避すると、また横から杏子がももいろさんを槍で一撃突きました。ももいろさんもすぐに消えてしまいました。
 魔女や使い魔との戦いには、プリキュアよりも魔法少女の方がずっと慣れています。

「ぼさっとするなッ」
「だって!」

 小さく、少女にも似た姿の彼女たち使い魔を倒す事を一瞬でも躊躇った所為でした。
 キュアベリーは、全くそれに対応できずに、置いて行かれます。少女のような外見の敵に容赦なく戦う事が難しかったのでしょう。
 使い魔の危険性というのをよく認知していなかったのも一因かもしれません。

「はぁぁぁッ」

 キュアピーチは、そこに住んでいたもう一体の「ももいろさん」に、真っ直ぐパンチを放ちますが、それはすぐに真横に避けられました。パンチは虹の橋を叩き、大きな音を放ちます。この「ももいろさん」はキュアベリーを襲った「ももいろさん」とは少し違うようでした。
 彼女は、一本のスティックを持っていました。
 スティックの先端から、魔法のように光のシャワーを浴びせる使い魔でした。
 今もまた、避けた拍子に横からキュアピーチに向けてその技を放とうとしてました。

「あぶないッ」

 キュアベリーが咄嗟に、その攻撃を放とうとするももいろさんを蹴り飛ばしました。彼女たちの体はとても軽いのです。
 ももいろさんの攻撃は空中で全く的外れな所に放たれました。
 しかし、それをカヴァアする為に、孤門が、空中のももいろさん目がけて、ディバイトランチャアの銃丸を当ててやりました。
 ももいろさんは空中で爆ぜて、弱った四肢で必死に空中もがきます。
 最後に、それを杏子が槍でついてトドメを刺し、消滅させました。どうやら、それで今回の使い魔は全部終わりのようです。

「これでひとまず全部かな?」
「そうだな……兄ちゃん、なかなかやるな」

 ここにいた使い魔は、全て倒したようです。
 ほっと一息ついて、彼らは先に進む事にしました。
 杏子は、今の孤門の銃の腕を見て、暁美ほむらのやり方を思い出しました。

「あの家に着いたら、打ち合わせ通りにやるんだぞ」

 杏子が、仲間たちにそう確認しました。
 予め、算段を立てておいたのです。その算段にのっとって、ラブが上手くマミを救うよう、杏子は願っていました。
 今の様子では、ピーチとベリーに少し不安が残るのです。
 もし、Candeloroとなったマミを救える術がなく、彼女が一切構わず仲間を襲うなら、杏子は自分の手でマミを先ほどの「あかいろさん」のように引き裂くしかありません。
 最後の手段として、杏子の判断でマミの最期を彩るしかないのです。
 彼女たち魔法少女にとっては、それは全く造作もない事でした。







 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。





79ありがとう、マミさん(前編) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:46:12 ID:o1PzPQC60



「チッ……」

 また杏子が舌を打ちました。
 更に歩速を早めて彼女たちが進んでいくと、今度は彼女たちの前に、「あかいろさん」や「ももいろさん」が軍勢として現れてきたのです。
 目の前には、何体かの使い魔たちがバリケェドを作っています。
 彼女たちは正面突破に対して、少しの躊躇を感じました。

「さっきの奴らは偵察、今度のが主要戦力だ」

 結界の中には、たくさんの使い魔がいます。
 ただ、その使い魔はこれといって人間のエネルギィを吸収できたわけではないので、力はさほど強い者ではありません。
 あくまで、彼女たちは軍勢になって固まって、向かってくる客人から最深部を防衛しようとしているのです。使い魔の兵隊たちは、こちらに向けて一斉に矢を放ってきます。

「うわあッ」

 杏子に推されて、孤門が回避。他の二人はバック・ステップで後退します。
 四人が先ほどいたところに、十本以上の矢が突き刺さっていました。
 虹の橋に、いくつもの矢が深々刺さっています。矢は先端から真ん中半分まで潜り込んでいます。

「三十人はいるよ!」
「たかが三十だろ。それなら、こっちも数を増やせばいい」

 杏子は、そう言って、ロッソ・ファンタズマを発動しました。ロッソ・ファンタズマは杏子が持つ幻影の技です。自らの体を幾人にも増やし、進軍する事ができます。
 すぐに三体まで分身した杏子は、そのまま敵兵の矢をものともせず、前に進むのでした。
 矢は、三体の杏子が全て避けています。

「正面突破しか手がないわけ!?」

 そう言いながらも、後ろから、ピーチとベリーもついて行きました。
 孤門は、もう少し遅く、ディバイトランチャアを構えながら五人の姿を追いました。

「そうだ、迎え撃てッ!」

 先頭にいる杏子が指揮を執るように言いました。
 あかいろさん、ももいろさんの集団に向かって、杏子たちはそれぞれの武器を構えました。
 一人の杏子は多節棍、一人の杏子は鎖分銅、一人の杏子は槍を使いました。

「おらっ!」

 杏子が多節棍を交わして、ももいろさんの体を消していきます。
 一体、二体。優雅に消えていくももいろさんでした。前方の弓矢の兵団はまず先頭の杏子が、多節棍で消していくのです。
 三体、四体。弓矢はこう伸縮自在の武器が前方に来られては使いづらいのです。
 五体、六体。杏子が多節棍を振り回し、体をくねらせ、それを丁寧に消していきました。
 七体、八体。しかし、一本の矢が偶然、杏子の体に命中しました。
 九体、十体。それでも、その杏子はまず前方の弓矢の軍勢を全て消し去ってから、幻想の世界に帰っていきました。
 本当の杏子は、まだ後ろにいます。

「次ッ!」

80ありがとう、マミさん(前編) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:46:33 ID:o1PzPQC60

 二陣として、杏子がまた鎖分銅を振り回し、次のももいろさんに投げました。
 十一体、十二体、十三体。同時に三体纏めて分銅の犠牲になりました。
 十四体、十五体。杏子がももいろさんを鎖で束ねて巻き込みました。
 十六体、十七体。杏子が鎖で束ねたももいろさんは、別のももいろさん達に投げ当てられました。
 十八体、十九体。分銅の重みが二人ほど使い魔を消しました。
 二十体。残ったももいろさんの華美なスティックから放たれた光が、杏子に振りかかりました。彼女は、それで一瞬体ごと消えそうになりましたが、それより前に杏子は自分に光を浴びせるももいろさんに鎖分銅を叩きつけて消し去りました。
 本当の杏子は、まだ後ろにいます。

「最後だッ」

 二十一体。杏子が真正面のあかいろさんの頭を突きました。
 二十二体。キュアベリーがキュアスティックで叩きました。
 続けて、二十三体、二十四体。肘鉄と爪先があかいろさんを消しました。
 二十五体、二十六体。キュアピーチが槍を掴んで敵を無力化し、拳を当ててみせました。
 二十七体、二十八体。高く飛んだキュアピーチは、蹴りを繰り出しました。

「さあ、本当の最後よっ」
「はあああああああッ!」

 二十九体。キュアベリーが残るあかいろさんが投擲してきた槍を手で捕って、あかいろさん本体を蹴り、消しました。
 三十体。キュアピーチが最後のあかいろさんを、キュアスティックで叩きました。
 これにて、目の前にいた全ての使い魔は消えたようです。
 彼女たちの目の前には、ドアーがありました。少し見上げる程度のツリーハウスが目の前にあります。
 ようやく孤門が追い付きました。

「遅ぇぞ、あんた隊長だろ。何やってるんだよ」
「ごめんごめん、……ていうか、君たちが早すぎるんだよ」

 息を切らしている孤門でしたが、まだ戦う余力はあるようで、不器用に笑って見せました。
 さて、残る準備は充分のようです。
 四人は、ドアーの向こうに行く事にしました。







 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。







 杏子が、ラブが、美希が、孤門が……ドアーの先の奇ッ怪な空間に呑み込まれました。ドアーの向こうには自分たちから行ったはずですが、まるでそこに吸い込まれたような気がしました。
 そうです。彼女たちが来るのを心のどこかで待ちわびていた彼女は、自分から引き込む事にしたのです。

「ここは……」

 四人は薄暗いパーチー会場を見回しました。
 これが魔女の結界の最深部です。
 カラフルな輪飾りが天井や壁を飾っています。来訪者たちに向けて、たくさんのプレゼントが用意されています。テーブルの上にはお茶の準備ができているようです。
 香ばしい匂いが漂っていますが、それが危険な蜜のようなつんとした刺激も混ぜ込んでいるのが彼女たちにはすぐにわかりました。飲んではいけない茶です。

「マミさん……」

81ありがとう、マミさん(前編) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:46:58 ID:o1PzPQC60

 そんな彼女たちを真っ先に襲ったのは、プレゼントでした。
 彼女たちを囲むように供えられたプレゼントの箱が、一つ彼女たちに向けて飛んできたのです。

「危ないッ」

 孤門が真上から降ってくる箱をディバイトランチャアで打ち抜きました。
 プレゼントは空中で爆発します。どうやら、爆弾のプレゼントだったようです。一つのプレゼントが彼女たちに贈られると同時に、次々またプレゼントがやってきました。
 きりがないほどにたくさんのプレゼントがこちらへ向かってきます。
 杏子は跳ぶと、それを空中で爆発させ、猛スピードで急降下しました。

「これ……さっきの使い魔が投げてきたんだッ」

 見れば、プレゼントの影には、使い魔たちがいたのです。
 あかいろさん、ももいろさん。使い魔たちが物陰に隠れてプレゼントを投げて襲ってきます。しかし、彼女たちを絶つ為に真ッ向からプレゼントごと彼女たちを消そうとすれば、プレゼントが爆発してこちらも被害を受けてしまいます。
 一刻も早く、マミの魔力の正体を見つけてどうにかしなければなりません。

「仕方ねえ……おい、ラブッ! 来い!」

 杏子がやむを得ずにそう言いました。

「あたしたちが一刻も早く魔女を探さないと、キリがない。このままじゃ、この結界から出られねえぞッ」

 どこかに潜んでいる使い魔が、また矢をこちらに向けて放ってきます。
 隠れている場所からの距離が遠く、命中精度は低いのですが、万が一綺麗に的を射たのなら、孤門などは避ける暇もなく串刺しになるでしょう。
 それだけに、彼らは運任せにして、早々に杏子が魔女を見つけ、ラブが説得しなければなりません。

「美希、兄ちゃん……悪いけどここは任せたッ」
「……行くの?」
「ああ! ちょっと野暮用を済ませにな……!」

 杏子は、この攻撃にどこか懐かしいマミの面影を感じているのでした。
 使い魔たちは全て、黄色いリボンに結ばれているのです。おそらく魔女が逃げないように捕まえているのでしょう。
 この技は、マミの物でした。
 これだけの元気があるのなら、間違いなくマミの意思がどこかにあると思うのです。
 仕方なしに、杏子たちはマミを探す事にしました。

「じゃあ、わかったから行って。ここは私と孤門さんで何とか上手く持ちこたえるわ」

 キュアベリーはそう答えました。

「ラブ、ここまでつき合せたんだから、無駄にしないでよね」

 友達二人への激励の言葉が放たれると、二人はその先に行かざるを得なくなりました。
 置いていく事になる二人が不安ですが、それでもこの一室を隅々まで調べ、魔女の本体を探すしかありません。







 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。





82ありがとう、マミさん(後編) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:47:21 ID:o1PzPQC60



 HAPPY BIRTHDAY

 杏子とキュアピーチは二人で縦横無尽にこの空間の中を飛び交っていました。

 HAPPY BIRTHDAY

 跳躍しながらマミの姿を探します。普通なら、もっと魔女は大きいのですが、稀に大きい敵もいるようで、マミはまさにそれでした。

 HAPPY BIRTHDAY

 しかし、魔力は正直に自分の居場所を教えるのでした。

 HAPPY BIRTHDAY

(……来る)

 HAPPY BIRTHDAY

 杏子は直感しました。来るべき魔女が、どんな姿をしているのか、彼女には想像のしようもありませんでしたが、それが来た瞬間、少し驚きました。

 HAPPY BIRTHDAY

 見逃してしまいそうなほど小さな──子供のような魔女がそこにいました。

 HAPPY BIRTHDAY

「ラブ、こいつがマミだッ!」

 HAPPY BIRTHDAY

「打ち合わせ通りに……いくぞ!」

 HAPPY BIRTHDAY







 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。







『マミはまだ生きている』

 あの時、杏子は念話でラブにマミの事を告げた。
 杏子は、真摯な顔でラブにそう言いながら、暁や美希の様子を伺っていたのだった。

『生きているって──』
『マミが動かなくなったのは、あたし達の持つソウルジェムが濁って砕けたからなんだ。……でも、ただそれだけじゃ、あたし達は死なない』

 そう聞いた時のラブは、意外そうだった。少なくとも、嬉しそうではなかった。
 何よりも驚きが勝っている。疑っているわけではないが、現実味というのが薄かった。
 確かに見送った一人の人間の死が、ただの勘違いや誤解だったというのだろうか。

『あたし達は、魔法少女になった時から肉体じゃなくて、ソウルジェムが本体になる。だが、ソウルジェムが濁ると、あたし達は魔女になっちまうんだ……』
『!?』

 魔女──確かに、マミは魔女と戦っていると言っていた。
 つまり、それは魔法少女と戦っている魔女が魔法少女という事で──ラブは少し混乱する。それがどういう事なのか、理解し難かったのだろう。

『……マミは今日、魔女としてどこかで生まれるんだよ。あんた、もしそうなってるとしたら、どうする?』

 その言葉が返すべき答えは一つだった。
 ラブには、考える隙もなかったのだろう。まるで温めていたかのように自然な答えが口から滑り出て行った。

『勿論、絶対にマミさんを助けるよ。だって、友達だもん』
『……本当にそんな事ができるのか、わからないんだぞ? あたしだって、ここで知ったんだから、どうすれば魔女を助けられるのかなんて全然知らないし……』

 その言葉が、杏子から彼女たちへの試験だった。

『でも、私は助けられないってわかるまで、諦めたくない。……バカだって、思われるかもしれないけど』

 杏子が思っている以上に────『正義の味方』な言葉が、ラブの口から出てきた時、杏子は呆気にとられたほどだった。
 しかし、つぼみやラブのその願いを叶える為に出来る限りのサポートをしたいと、杏子は内心で思ったのだ。
 彼女自身も、そんな物語に憧れていたのだから──。





83ありがとう、マミさん(後編) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:47:44 ID:o1PzPQC60



 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。







「ロッソ・ファンタズマ!」

 十三人の杏子が駆けていきました。
 その姿を追って、黄色いリボンが杏子の体をすり抜けていきます。これが算段でした。Candeloroに対する時間稼ぎを杏子がしている内に、キュアピーチがマミを説得するのです。
 彼女たちにとって、それが唯一の作戦でした。
 ただ、意思ある魔女の「感情」を探し、そこに訴えるのです。少しでも心を動かし、元のマミがどんな人だったのか、この魔女に知らせるのです。
 そうすれば、もしかすれば愛や勇気が全てに勝り、マミはマミに戻ってくれるかもしれないと思っていたのです。

「マミさんッ! 話を聞いて!」

 キュアピーチは、マミにそう言いました。
 叫び声を、Candeloroは聞いているのか、聞いていないのか──なおも攻撃を続けます。
 それでも、キュアピーチは必死でマミに声を届かせようとします。

「私だよ! 桃園ラブだよ!」

 杏子や、キュアベリーや、孤門が今頑張っている中で、キュアピーチはできる限りの大声で、友達に言葉を贈ります。
 その言葉が届いたのか、リボンがラブを捕縛しようと一直線に向かってきました。
 それを杏子の一人が庇い、十三体の内の一体の杏子が捕縛されてしまいました。

「怯むな! 呼び続けろ!」

 そう言う杏子の姿は幻に溶けて消えてしまいました。
 しかし、まだ本物の杏子が戦っているはずです。残り十二体の杏子が、時間を稼ぐ為だけに必死で戦っていました。
 キュアピーチはその姿を確かに胸に焼き付けました。

「う……うん! 無理しないで、杏子ちゃん!」
「わかってるッ!」

 ラブとマミの為に、誰もが頑張っています。
 目の前での杏子の奮闘を見ていると、ラブも絶対に自分の役割を果たさないわけにはいかないのです。

「マミさん! あの時、一緒に約束したじゃないですか! 幸せな世界を作るって……」

 また、杏子が一体消えてしまいます。
 残りの杏子は十一体です。

「これから作る幸せな世界の中には、私や杏子ちゃんたちだけじゃなくて……マミさんだって、そこにいていいんですよ!? 自分を犠牲にして戦うんじゃない、みんなで一緒に帰りましょうよ!!」

84ありがとう、マミさん(後編) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:48:08 ID:o1PzPQC60

 その言葉に────ほんの一瞬、Candeloroが動きを止めました。
 杏子を捕縛しようとした腕が少しだけ止まったのです。

(……!)

 しかし、構わずにまたすぐ動き出して、杏子を狙います。杏子の体はすぐに貫かれて、泡と消えてしまいました。
 キュアピーチは続けるしかありませんでした。

「マミさん……! 一緒に帰ろうよ! 私だって、マミさんと一緒にいたい! もっと一緒にドーナツ食べたり、遊びに行ったり、お家に通ったり……!!」

 Candeloroは、空中から弾丸を飛ばし、杏子を二体葬りました。
 久々のロッソ・ファンタズマは制御の要領に手間取っているようなのです。

「マミさん! マミさんはこんな事をする人じゃない! 幸せな世界を作るんでしょう!」

 Candeloroに言葉は届きませんでした。
 そのまま、手下の使い魔に憑依すると、かつて見たティロ・フィナーレのような砲撃で一気に四体の杏子を消し去ってしまいました。
 残る杏子は四体です。しかし、もう一度ティロ・フィナーレを喰らってしまえば、本物の杏子も被害を受けてしまうでしょう。

「…………お願いだから」

 キュアピーチの腕は震えていました。
 このまま、ずっと説得するわけにはいきません。
 説得する事ができなかったら、もうトドメを刺すしかないのです。
 マミの為でなく、杏子や美希や孤門の為に──。

「やめて! マミさん!! ──」

 三体の杏子が、次々と痛めつけられ、弾丸がすり抜けて消えてしまいました。
 もう、既に後がない状態です。杏子はあと一体。魔力をかなり使ってしまった為に、既に疲労が激しい状態のようでした。
 槍を杖にして立ちながら、それでもなんとか食い止めようとしています。

「……」

 杏子の想いを無駄にしない為にマミを救うのか、
 それとも、杏子の為にマミを倒すのか、
 今のキュアピーチにできる事は二つに一つでした。

 最後の決断をしなければならない事が、ラブにもはっきりとわかりました。
 勿論ですが、その答えはすぐに決まりました。

「……やめてよ、マミさん……どうして、やめてくれないの……さっきみたいに止まってよ、ねえ、マミさん……」

 助けるべき優先順位が杏子にあるのは、至極当たり前の事でした。

「…………」

 諦めきれない気持ちもあります。
 ここで諦めてしまうには早いかもしれない、僅かな説得でした。
 でも、それしか時間は稼げなかったのです。

「…………」

 一瞬だけでも、マミはラブの言葉に動きを止めてくれた──それが少し、残念でした。
 まだマミはどこかにいる。生きられるはずのマミを、今倒さなければならないのは悲しい事でした。

「…………ありがとう、マミさん」

 キュアピーチは、Candeloroを倒す決意をせざるを得ませんでした。
 いや、本当は決意なんて全くできていないのでしょうが、それでも決意ができたフリくらいはしなければなりません。

「ごめんなさい……」

85ありがとう、マミさん(後編) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:48:28 ID:o1PzPQC60

 流れそうな涙を呑み込んで、震える足をどうにか立て直して、それでもって、前にいるCandeloroを魔女として葬り、杏子を助けるしか術はないのです。

「届け……愛のメロディ! キュアスティック、ピーチロッド!」

 キュアピーチは、キュアスティックを手に持ちました。

「馬鹿ッ! 諦めるなッ!! ──」

 隣で息を切らす杏子が、キュアピーチの様子を見て、思わずそう叫んだのでした。
 しかし、時すでに遅し、既に戦闘の準備が始まり、直後には光が真っ直ぐに魔女を包んだのでした。







 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。







 魔女の猛攻を前に、彼女はその判断をせざるを得ませんでした。
 このままでは、杏子や仲間たちが死んでしまいます。
 もし、この魔女を倒すとしたら、自分以外にいないと思いました。

「悪いの悪いの飛んでいけ!」

 そう言う心は、少し苦しくもありました。
 本人だって、暴れたくて暴れているわけではないのです。
 だから、悪い心なんて少しもありません。



「プリキュア・エスポワールシャワー・フレェェェェェェッシュ!!!!!」



 ──キュアベリーは、Candeloro目がけて、プリキュア・エスポワールシャワー・フレッシュを放ったのでした。

 一瞬、他の誰も、何が起こったのか理解しきれませんでした。
 Candeloroを呑み込んでいく青い光。それは、杏子の物でも、キュアピーチの物でもありません。
 彼女たちの後ろから出現した物でした。彼女たちを追い越して、Candeloroの体を呑み込み、いつまでもそこに在り続けるそのシャワーに、誰もが驚いた事でしょう。

「ベ、ベリー!?」

 エスポワールシャワーを繰り出すのは、当然キュアベリーです。
 振り向いたキュアピーチは、ただ何も考えずに彼女の名前を呼びました。

「はああああああああああああああああっっ!!」

 キュアベリーのエネルギーは、Candeloroの体の外で爆ぜました。
 あるいは、それが一つの区切りを作り出したのかもしれません。
 今、何が起こったのか気づいたのは、その瞬間が初めてでした。
 肩で息を始めているキュアベリーがそこにいました。

86ありがとう、マミさん(後編) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:48:43 ID:o1PzPQC60

「……はぁ……はぁ……」

 彼女は、杏子とキュアピーチの視線を受けていました。
 後ろでは孤門がディバイトランチャアを構えて立っていました。

「み、美希たん……どうして……」

 キュアピーチが訊きました。半分、まだ呆然としているようです。
 何故、キュアベリーがここまで来て、わざわざCandeloroを倒そうとしたのか、彼女たちには考えられませんでした。

「あの魔女は、ラブがやっちゃいけないわ……。勿論、杏子もよ……!」

 彼女は、どうやらあかいろさんやももいろさんを何とか倒した後のようでした。
 それはとても、エスポワールシャワーだけの疲労には見えません。
 孤門も、少し不安そうな顔をしていました。

「あれが本当に巴マミっていう人なら……彼女と親しかったあなた達がやるべきじゃない……。……もし、本当に倒してしまったら、あなたたちはこれからずっと苦しむ事になる」
「バカ野郎ッ! だからって、そうまでして……」
「私の痛みは一瞬よ……でも、あなたたちの苦しみは一生かもしれない……」

 この戦闘で、余程疲労が募っていたようです。
 対人戦はあっても、集団との戦いは久々なのでしょう。いくつかの爆弾を受けたのかもしれません。
 杏子は、すぐに彼女のもとまで行って、彼女の体を支えようとしました。

「……それに、大丈夫……助かると思って、放った技だから──」

 しかし、杏子が辿り着くより、一瞬前でした。
 孤門が倒れかけのキュアベリーを上手く支えました。

「『諦めるな』……そう言いたいんだ、美希ちゃんは」

 孤門は、彼女の体を支えながらも、杏子やラブの向こうを見つめました。
 果たして、これで本当に向こうにいるCandeloroが消えているのか、少し確認したかったのです。しかし、どうやら本当に撃退されたようでした。

「そう、きっと、まだ希望はあるはずよ……。……きっ、と……諦めないで……」

 そう言うと、変身が解け、美希は意識を失ったのでした。







 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。
 ぴん、ぽん、ぽろろろろん……。







 彼女たちは、既に魔女の結界から外に出ていました。
 まるで夢から覚めたような気分でした。──不思議の国のアリスの気分というのが、はっきりとわかった気がしました。
 ただ、不思議の国から帰って来た証は、そこにありました。

「……ありがとう、みんな。まるで浦島太郎の気分ね」

 ……いいえ、そこに確かにいたのです。
 金髪の少女が、驚くべき事に、桃園ラブと佐倉杏子の前に突然、現れたのでした。
 二人は周囲を見回しました。
 蒼乃美希を抱きかかえる孤門一輝も、その時ばかりは、美希の様子を伺うよりも、目の前の一人の少女に注意を向けました。

「君は、……巴、マミなのか?」

 少女は頷きました。





87ありがとう、マミさん(後編) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:48:57 ID:o1PzPQC60



 彼女の名前は、巴マミと云います。
 それは、Candeloroなる怪物ではありません。魔女と呼ばれるのも心外でしょう。
 彼女の作り出した結界から脱した杏子たちの前に、彼女は立っていました。

「桃園さん、あなたの声……ちゃんと聞こえたわ。またこうして、眩しいおひさまの下に立てる日が来るなんてね」

 マミが一度“死んだ”時もまた、こんな眩しい太陽が空に輝いていました。
 その時と全く同じ太陽の下、マミは再び生まれたのです。

「本当……? 夢じゃないですよね? でも、どうして……マミさんがここに?」

 勿論、ただその現実を受け入れるのは難しい話でした。嬉しそうながらも、どこかこれが夢ではないかと疑ったように、キュアピーチは震えました。
 先ほど、魔女はキュアベリーが倒したはずです。
 マミも、ちゃんと説明する事ができず、少し目線を泳がせてシドロモドロになりました。
 そんな彼女に事情を話すべく、孤門が答え合わせをしました。

「美希ちゃんのお陰だよ」

 そう言って、孤門が全てを話し始めました。

「ソウルジェムの汚濁は、魔法の使用か精神的な絶望で起きる。その結果、魔女が生まれる。……そのメカニズムは、僕から彼女に伝えておいたんだ」
「はっ!? 誰にも言わない約束じゃ……」
「……いや、彼女はとっくに勘付いていたよ。ラブちゃんが結界に入る時に確信に変わったみたいだから、あとの事情は全部僕の方から話しておいたんだ」

 杏子は、あの結界に入る時の事を思い出しました。
 そういえば、ラブはあの時、平然とマミの名前を口走っていた覚えがあります。
 ただ、杏子も、まさか美希はそれだけで全て気づく事はないだろうと、何となく安心していたのです。

「美希ちゃんにも、考えがあったんだよ。……そうだ、以前、彼女があかねちゃんと会った時、ガイアメモリの毒素を浄化する事ができたらしい。今回もそれと同じなんだ。それと同じく、ソウルジェムが持っていたマイナスエネルギー──濁りを自分たちの技で浄化できないかと彼女は考えた」

 ラブはふと思い出しました。
 プリキュアの力が、本来、悪を倒す為ではなく、悪を許す為にある力なのだと。
 ウエスター、サウラー、イース──様々な人たちと分かり合う事ができたのも、プリキュアの力がそんな性質を持っていたからでした。
 しかし、彼女たちは極力、それで人を救うより、コミュニケーションを使って人の心を見つけていくようにしたかったのです。その成果も今回は充分にあったといえるでしょう。

「そして、彼女はきっと、魔女の負の性質の力を浄化して、元のマミちゃんの心を取り戻す為に技を放ったんだ。でも、それが失敗して、もし魔女が消滅してしまった時の事を考えて、ラブちゃんには任せられなかった」

 彼女は、一応、魔女を救いだす希望を胸に秘めながら、あの行動をしたのでした。
 今は孤門の肩に意識を任せているが、こうして眠る直前まではきっと、相当な不安でいっぱいだったに違いありません。

「僕たちは、君たちが戦い、説得している最中に、あの結界の中で、マミちゃんの体を見つけた。使い魔に守られていたけど、マミちゃんらしき人がいたんだ」
「えっ? でも、土に埋めたはずで……」
「魔女自体が結界に引き込んだんだろう。そうだよね? マミちゃん」

88ありがとう、マミさん(後編) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:49:14 ID:o1PzPQC60

 孤門が訊くと、マミは頷きました。
 彼女自身が、自分の体を結界の中に引き寄せたのです。

「……私の体は、少なくとも魔女になるまでは誰かに魔力の供給を受けて鮮度を保っていたみたいです」
「それはきっと、主催側がやったんだろうと思う。……理由はわからないけど」

 これにも理由がありましたが、これは今の彼らの知るところではありません。
 ただ、一つヒントを差し上げるのなら、それは彼女たちと同じ魔法少女の仕業なのでした。

「いずれにしろ、そのまま魔女としての私を倒してしまえば結局、私の体は力を保てなくなります。肉体と精神の結合が上手くいかないかもしれません」
「だから、その為に、美希ちゃんがある手段を使ったんだ」

 マミは、その言葉を聞いて、すぐにそれを取り出しました。
 それは、ソウルジェムではなく、見覚えのある黄色い携帯電話でした。
 この携帯電話は、ある人物の持ち物でした。
 そして、ただの携帯電話ではなく、ある特殊な妖精が同化した携帯電話なのです。

 キルン──山吹祈里のパートーナーの妖精でした。

「この妖精──えっと、キルンの力を媒介にして、彼女の体を維持できるかもしれないって言っていた」

 東せつながかつて、ラビリンスの人間としての時を止めて蘇ったのも、アカルンの力によるものでした。
 ダークプリキュアが消滅間際、新たな体を保てたのもプリキュアの力です。
 そして、今はマミを救うべく、キルンがマミに力を供給しているのです。

「ブッキーが遺してくれたこの力が……」
「それは実は、殺し合いに乗った一人の女の子が持っていた時期がある物なんだ。それを取り戻してくれた人が、目の前にいるよ」
「……」

 孤門が見たのは、杏子でした。

「杏子ちゃん……」
「礼ならいらないぜ。せつなに言いな。せつながいなけりゃ、そいつを取り戻そうなんて考えなかっただろうさ」

 杏子は、ちょっと照れているのでしょうか。そう答えました。
 どうやら、プリキュアたちの力が巡り巡って、こうしてラブの前にいる少女の命を救ったみたいなのです。
 偶然なのか、必然なのかはわかりませんが、ラブにはそれが嬉しい事に思えました。
 彼女たちが生きてきた事は、決して無駄な事などではなかったのです。

「桃園さん、佐倉さん。お久しぶりね。……ありがとう、二人とも。それに、そちらの二人も」

 美希や孤門の活躍なしには、きっと彼女はこうして再び生きる事はできなかったでしょう。ソウルジェムが力を使い果たしたとしても、まだこうして再び生きる事が叶うなど、マミも思わなかったに違いありません。
 実際、ラブもまだ半分は今起きている現実が信じられませんでした。
 実際にこうなる前は、きっとこうなるだろうと信じていたのに、今こうして現実にありえなかったであろう事が起こると途端に真実味が感じられなくなってしまうから、人間の感覚は不思議なものです。

「……マミさん。もう一度確認します。本当に、嘘じゃないんですよね?」
「ええ。孤門さんが言ってくれた通りよ」
「また一緒に、いられるんですね!?」

 マミはそんな彼女に優しく頷きました。
 それに落涙しそうになったラブですが、何とかそれは堪えました。

「やったー!! マミさーん!!」

 ラブは、即座にマミに抱き着くのでした。マミの顔がやたらと巨大な胸にぶつかり、一瞬跳ねて押し出されそうになった後、また密着しました。
 嬉しそうに抱き着き、出かけていた涙を隠すのでした。紅茶の香りがラブの鼻孔をつきました。
 そんな彼女の後頭部を、やれやれと見つめながら、マミは杏子の方に目をやりました。

89ありがとう、マミさん(後編) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:49:29 ID:o1PzPQC60

「……佐倉さん」
「久しぶりだな、マミ。まさかまた、こんな風に会えるなんて」
「思い出したのね、ずっと昔の事……」

 マミは、今度は杏子に微笑みかけました。
 杏子はそんなマミの視線から目を外しました。目を合わせるのが余程いやだったのでしょう。

「……まあな。こういうあたしも悪くないだろ?」
「良かった……」

 それがマミにとっての心配でした。杏子が殺し合いに乗るような事はなかったのだと、マミは思ったのです。
 この杏子は、決してマミが知る杏子ではありませんでした。マミが知るよりも少し成長した杏子でした。
 しかし、杏子にとっての心配はまだ晴れていません。

「……にしてもお前、怒ってないのか?」
「……何を?」
「前の事だよ。あたしがあんたと別の道を行く時の事……あの時の事を謝りたくて、さ……」
「あれは、お互いさまよ。私はあなたに何もしてあげられなかった。結局、あなたを本当のあなたに戻してあげる係、誰かに取られちゃったわね」

 二人にとって、あの出来事はとうに昔の出来事のようでした。
 お互い、引きずり続けた昏い過去でした。気にせざるを得ません。
 どちらも──お互いに、その罪を抱えているのです。
 ラブたちには何の事なのかはわかりませんでしたが、二人の様子では、そえrで話は終わりのようでした。

「……よし。とにかく、これで僕たちの任務は終了だ。……みんな、よくやった」

 ふと、孤門が口を開きました。

「杏子ちゃん。君が戦ってくれなければ、ラブちゃんは彼女を呼び続ける事ができなかった」

 杏子の力が、ラブを魔女から守り続けたのです。

「ラブちゃん。君が呼びかけ続けなければ、マミちゃんは心を動かさなかった」

 ラブの想いが、魔女に届いたのです。

「美希ちゃん。……君がラブちゃんの言葉と希望を信じなければ、マミちゃんは元には戻らなかった」

 美希の機転が、魔女を救ったのです。
 眠っている彼女に、孤門はささやきました。

「何より、マミちゃん。君自身も彼女たちの想いに気づいたから、こうしてまた戻ってこられたんだ」

 そして、彼女がその孤独から抜け出す術を知れたから、こうして魔法少女でも魔女でもない巴マミとして、ここにいるのです。

「……って、あれ? 僕だけ何もしてないのかな?」

 と言った瞬間、その他がずっこけました。
 彼が充分、どこかで役に立っていた事を、彼女たちは知らないでしょう。

「みんな、本当にありがとう──」

 そう言うラブでした。
 彼女の、もしかすれば無茶かもしれない提案にみんなが載ってくれたから、こうして救う事ができたのです。

「でも、十四人が十人に減るどころか、十五人に増えちゃったな」

 杏子が笑いました。

「いいよ。……僕たちは生きている全員で還るんだ。多ければ多いほどいい」

90ありがとう、マミさん(後編) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:50:37 ID:o1PzPQC60

 ふと、その言葉が杏子の胸を打ちました。
 彼が当然のように言ってのけた言葉が、彼らの本質なのです。
 『命を粗末にしない事』──翔太郎にそう言われたのをふと思い出しました。
 そうだ、彼もまた……。

(そうだ、忘れてたな……あの時の事。でも、あたしはもう大丈夫だ。こういうストーリーを、ずっと見たかったんだ……これが見られれば、もう死のうなんていう理由はない。あとは、──────精いっぱい生きてやるよ)

 ふと、杏子は心の中で笑いました。
 しかし、そんな笑顔は外に漏れていたらしく、ラブが横で茶化しました。

「何笑ってるの? 杏子ちゃん」
「何でもねえよ」

 長い間ずっと抱えていた夢がかなえられたのです。
 もう、悔いはありません。

「あんたが作った条件、本当に役に立つじゃねえか。『諦めるな』、って……」

 孤門の元に、杏子がゆっくり歩いて行きました。
 孤門は、そういえばそんな事を彼女たちに広めていたっけ、と思い出しました。

「勇気と愛が勝つストーリーって、ちゃんとあるんだな……美希」

 杏子の手が、眠る美希の手を握りました。
 杏子の胸から何かが晴れていくような想いがありました。
 美希の手に、何か自分の意思を託すようにして、強く、強く握りました。
 小さな光が、杏子の手から美希の手へと────そっと重なって消えました。

「……」

 彼らは、こうして、一人の命が救われる事の大切さと、それに喜ぶ人たちを見ていたら、到底誰を犠牲にしようなどという話に頭を切り替える事はできません。
 今、孤門たちがすべき事は、冴島邸に向かう事です。

「とにかく、冴島邸まで急ごうか。マミちゃん、事情は後で話すよ。とにかく、車に乗ってもらえるかな」

 五人で乗る車は、少しばかり重いのでした。



【巴マミ@魔法少女まどか☆マギカ 生存】















 そして、美希は、夢の中で────、

「あなたは────」

 杏子が変身していたはずの、一人の巨人と会いました。
















 ……To be continued

91ありがとう、マミさん(後編) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:50:53 ID:o1PzPQC60



【2日目 昼前】
【I−3 平原】

【孤門一輝@ウルトラマンネクサス】
[状態]:ダメージ(大)、ナイトレイダーの制服を着用、精神的疲労、「ガイアセイバーズ」リーダー、首輪解除、シトロエン2CV運転中
[装備]:ディバイトランチャー@ウルトラマンネクサス、シトロエン2CV@超光戦士シャンゼリオン
[道具]:支給品一式(食料と水を少し消費)、ランダム支給品0〜2(戦闘に使えるものがない)、リコちゃん人形@仮面ライダーW、ガイアメモリに関するポスター×3、ガンバルクイナ君@ウルトラマンネクサス、ショドウフォン(レッド)@侍戦隊シンケンジャー
[思考]
基本:殺し合いには乗らない
0:冴島邸に向かう。
1:みんなを何としてでも保護し、この島から脱出する。
2:ガイアセイバーズのリーダーとしての責任を果たす。
[備考]
※溝呂木が死亡した後からの参戦です(石堀の正体がダークザギであることは知りません)。
※パラレルワールドの存在を聞いたことで、溝呂木がまだダークメフィストであった頃の世界から来ていると推測しています。
※警察署の屋上で魔法陣、トレーニングルームでパワードスーツ(ソルテッカマン2号機)を発見しました。
※警察署内での大規模な情報交換により、あらゆる参加者の詳細情報や禁止エリア、ボーナスに関する話を知りました。該当話(146話)の表を参照してください。
※魔法少女の真実について教えられました。

【桃園ラブ@フレッシュプリキュア!】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)、左肩に痛み、精神的疲労(小)、決意、眠気、首輪解除
[装備]:リンクルン@フレッシュプリキュア!
[道具]:支給品一式×2(食料少消費)、カオルちゃん特製のドーナツ(少し減っている)@フレッシュプリキュア!、毛布×1@現実、ペットボトルに入った紅茶@現実、巴マミの首輪、工具箱、黒い炎と黄金の風@牙狼─GARO─、クローバーボックス@フレッシュプリキュア!、暁からのラブレター
基本:誰も犠牲にしたりしない、みんなの幸せを守る。
0:冴島邸に向かう。
1:みんなの明日を守るために戦う。
2:犠牲にされた人達のぶんまで生きる。
3:どうして、サラマンダー男爵が……?
4:後で暁さんから事情を聞いてみる。
[備考]
※本編終了後からの参戦です。
※花咲つぼみ、来海えりか、明堂院いつき、月影ゆりの存在を知っています。
※クモジャキーとダークプリキュアに関しては詳しい所までは知りません。
※加頭順の背後にフュージョン、ボトム、ブラックホールのような存在がいると考えています。
※放送で現れたサラマンダー男爵は偽者だと考えています。
※第三回放送で指定された制限はなかった模様です。
※暁からのラブレターを読んだことで、石堀に対して疑心を抱いています。
※結城丈二が一人でガドルに挑んだことを知りました。
※魔法少女の真実について教えられました。

92ありがとう、マミさん(後編) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:51:07 ID:o1PzPQC60

【蒼乃美希@フレッシュプリキュア!】
[状態]:ダメージ(中)、祈里やせつなの死に怒り 、精神的疲労、首輪解除、ネクサスの光継承?
[装備]:リンクルン(ベリー)@フレッシュプリキュア!、エボルトラスター@ウルトラマンネクサス、ブラストショット@ウルトラマンネクサス
[道具]:支給品一式((食料と水を少し消費+ペットボトル一本消費)、シンヤのマイクロレコーダー@宇宙の騎士テッカマンブレード、双ディスク@侍戦隊シンケンジャー、ガイアメモリに関するポスター、杏子からの500円硬貨
[思考]
基本:こんな馬鹿げた戦いに乗るつもりはない。
0:冴島邸に向かう。
1:ガイアセイバーズ全員での殺し合いからの脱出。
[備考]
※プリキュアオールスターズDX3冒頭で、ファッションショーを見ているシーンからの参戦です。
※その為、ブラックホールに関する出来事は知りませんが、いつきから聞きました。
※放送を聞いたときに戦闘したため、第二回放送をおぼろげにしか聞いていません。
※聞き逃した第二回放送についてや、乱馬関連の出来事を知りました。
※警察署内での大規模な情報交換により、あらゆる参加者の詳細情報や禁止エリア、ボーナスに関する話を知りました。該当話(146話)の表を参照してください。
※魔女の正体について、「ソウルジェムに秘められた魔法少女のエネルギーから発生した怪物」と杏子から伝えられています。魔法少女自身が魔女になるという事は一切知りません。


【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、ソウルジェムの濁り(中)、腹部・胸部に赤い斬り痕(出血などはしていません)、ユーノとフェイトを見捨てた事に対して複雑な感情、せつなの死への悲しみ、ドウコクへの怒り、真実を知ったことによるショック(大分解消) 、首輪解除、睡眠?
[装備]:ソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ
[道具]:基本支給品一式×3(杏子、せつな、姫矢)、リンクルン(パッション)@フレッシュプリキュア!、乱馬の左腕、ランダム支給品0〜1(せつな) 、美希からのシュークリーム、バルディッシュ(待機状態、破損中)@魔法少女リリカルなのは
[思考]
基本:姫矢の力を継ぎ、魔女になる瞬間まで翔太郎とともに人の助けになる。
0:冴島邸に向かう。
1:翔太郎達と協力する。
2:フィリップ…。
3:翔太郎への僅かな怒り。
[備考]
※参戦時期は6話終了後です。
※首輪は首にではなくソウルジェムに巻かれています。
※左翔太郎、フェイト・テスタロッサ、ユーノ・スクライアの姿を、かつての自分自身と被らせています。
※殺し合いの裏にキュゥべえがいる可能性を考えています。
※アカルンに認められました。プリキュアへの変身はできるかわかりませんが、少なくとも瞬間移動は使えるようです。
※瞬間移動は、1人の限界が1キロ以内です。2人だとその半分、3人だと1/3…と減少します(参加者以外は数に入りません)。短距離での連続移動は問題ありませんが、長距離での連続移動はだんだん距離が短くなります。
※彼女のジュネッスは、パッションレッドのジュネッスです。技はほぼ姫矢のジュネッスと変わらず、ジュネッスキックを応用した一人ジョーカーエクストリームなどを自力で学習しています。
※第三回放送指定のボーナスにより、魔女化の真実について知りました。

【巴マミ@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:身体的には健康、キルンの力で精神と肉体を結合
[装備]:なし
[道具]:リンクルン(パイン)@フレッシュプリキュア!
[思考]
基本:ゲームの終了を見守る
[備考]
※参戦時期は3話の死亡直前です。
※魔女化から救済されましたが、肉体と精神の融合はソウルジェムではなくリンクルンによって行われています。リンクルンが破壊されると危険です。

93 ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:51:24 ID:o1PzPQC60
以上、投下終了です。

94 ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:51:48 ID:o1PzPQC60
続いて203話を投下します。

95私のすてきなバイオリニスト(前編) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:53:28 ID:o1PzPQC60



 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。







 さて、こちらの話もしなければなりません。花咲つぼみ、響良牙、涼邑零の三人と、人魚の魔女・美樹さやかとの話です。
 勿論、つぼみたちも魔女の在りかを探していました。

「さやか、開けてください」

 そして、その入口を見つけたのは、彼女でした。
 つぼみが、さやかに声をかけているのです。心を閉ざし、同時に己の不義と恋の終わりとを知った一人の魔法少女に、つぼみは優しく声をかけました。
 魔女がこの先に結界を作っているようです。
 つぼみにも内面では恐怖を抱えています。この先にいるさやかを果たして本当に救えるのか、それともやむを得ない判断をする事になるのか、あるいは自分がやられてしまうのか。
 しかし、つぼみは信じました。

「お願いです、さやか」

 つぼみが何度呼んでも、さやかは答えませんでした。
 魔女の方も、目の前の獲物を狩るつもりがあるのかないのか、判然としません。
 零が言いました。

「駄目だ、結界が張られている」
「あんた、入り方はわからねえのか?」
「まあ、普通の結界なら俺でも大丈夫なんだが、こういう特殊な結界は魔戒法師の力を借りない事には──」

 つぼみ自身の呼びかけで開くしか術はないのですが、どうやらそれも希望できそうにありません。さやかの方から出入りを拒否しているのです。
 さやかの感情による物ではありませんでした。
 何より、魔女にとっての天敵を中に入れる意味はありません。もっと力を持たず、エネルギィとして利用できそうな物を入れなければならないのです。

「────無駄だ、キュアブロッサム」

 そんな声とともに三人の後ろに誰かの姿が現れました。
 ふと、後ろを振り返ると、そこには三人にも見覚えのある男がいます。
 参加者ではありません。つまり、唯一統率下にない天道あかねではないという事です。

「男爵!?」

 かつて、最初の放送を彼らの前で読み上げた、サラマンダー男爵なる砂漠の使徒の貴族でした。エメラルドのような翠の瞳や、赤色のウェーブの髪は、近くで見るといっそう綺麗でした。もし普段ならば、高いシルクハットを外し、一礼してくれるのでしょうが、今の彼はそれほど余裕のある状況ではありませんでした。
 彼は、至極当たり前のような顔でそこにいます。

「てめえっ!!」

 主催者、という印象しか抱いていない良牙と零とは咄嗟に構えました。
 いつでもつぼみを守れる体制のようです。しかし、ここで主催側の人間が介入してくるのは不自然な話でした。制限解除というわけでもないようです。
 もし、本当に制限解除であれば、彼はこうして良牙や零の前には現れないはずなのです。

96私のすてきなバイオリニスト(前編) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:53:48 ID:o1PzPQC60

「おいおい、やめろよ。俺はこの中に入る手助けをしてやろうって思っただけだぜ」

 彼は崩した口調でした。
 もっと紳士的な口調で話す時もあるのですが、目の前の相手には騎士としてではなく、協力者としてやって来たのが今の彼でした。
 つぼみは、元々サラマンダー男爵が強い悪性の心を持っている人間ではないと信じています。ただ、積極的に人を守ろうと言うほどでもなく、あくまで中立的で周囲に無関心な人間とだけ考えていました。
 ただ、今回の場合は、自分に危害は与えないだろうという事だけ頭の隅に入れながらも、やや険しい表情と声色でサラマンダー男爵に言いました。

「男爵……お久しぶりですね」
「久しぶりだな、キュアブロッサム。さっきも言った通り、俺はお前たちを手助けする為にここに来てやった。さっさと用を済ませよう」

 サラマンダー男爵は、どうやら切羽詰まった様子でした。

「手短に話そう……この結界の中でな」

 そう言うと、サラマンダー男爵は結界とこの場所を繋ぐ宝玉を取り出しました。
 光輝く宝石ですが、それは彼女たちの知るソウルジェムという物ではありませんでした。
 ジュエルシード、と呼ばれる危険な宝石でしたが、それはその結界をこじ開けるのには充分な力を持っていました。







 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。







 そして、彼女たちもまた、気づけば魔女の結界の中にいました。

 彼女たちもまた、佐倉杏子たちとはまた違った形で、ここにいる人魚の魔女──Oktavia_Von_Seckendorffの世界に導かれたのでした。
 結界の中は、魔女それぞれで違いますが、その世界はオーケストラの音が鳴り響いていました。
 愛しい人への「恋慕」の情が、彼女の中の闇を作り出してしまったのです。
 その交響曲の音が、彼らの背筋を凍らせました。

「……罠じゃないだろうな?」

 水族館の中を歩くように、水槽で囲われたトンネルを歩く四人。その内、零が先頭のサラマンダー男爵を疑り、そう訊いたのでした。
 勿論、真っ先に疑うべきは罠の可能性です。
 この昏い海の底のような場所で、サラマンダー男爵は何をしようというのでしょうか。

「まあ、そう疑うな。もうちょっと、力を抜いて聞いた方がいい。お前たちの不利益な話はしない」
「どういう事ですか?」

 サラマンダー男爵の歩みは、少し遅くなりました。
 そして、完全に止まると、真剣に残りの三人の方を向き直し、真摯な瞳でつぼみの目を見つめました。

97私のすてきなバイオリニスト(前編) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:54:05 ID:o1PzPQC60



「……このゲームは、ここらでもう終えた方がいいって事さ」



 彼はそう、口に出したのです。
 ゲームの主催者が、ゲームの終了を宣言する────それは、先ほどの放送と同じでした。
 しかし、意味が違います。あの放送では、あと十人までは続けろと言いましたが、彼は今すぐにやめてほしいようでした。

「私たちは、傷つけあうなんて……そんな事は、元々するつもりはありません」
「……そうじゃない。殺し合いはしないだろうが、脱出するのもやめてほしいって事だ」
「何だと?」

 サラマンダー男爵は、続けました。
 彼にとって、殺し合いだけではなく、脱出も含めてこの実験はゲームなのです。
 しかし、そのゲームをする意味は主催側にとっても最早薄いのでした。

「お前たちには、この魔女を倒す以外、もう何もしないでほしい。俺は、残っている全員──いや、ドウコクやあかねは勘弁だな──とにかく、まともな奴全員でここに残る道を選んでもらいたいと思っている」

 それは、主催側が提示した敗北条件に他ならないのです。
 しかし、それにはいくらでも損が付きまわるものです。

「おいおい、まともな人間なら、そんな事ができるわけがないだろ。だって、街や村にある食べ物も、いずれは腐っちまう。食料も飲み物も尽きた島で生きるのは不可能だ」
「そうだ! おれだって、こんな場所になんて三日もいられない! おまえたちを倒して、すぐに帰らせてもらう!」

 零と良牙は、理と感情の二つの理由を告げました。
 食料の問題、精神衛生上の問題、……他には、医療の問題や、この狭い社会にでも存在しなければならない秩序や法の問題など、いくらでも問題は存在します。

「何もこの島にいる必要はない。この島の外には、果実や野菜の実っている島もある。人はいないが、十人以上いれば、案外暮らしていくには難しくないだけの設備はあるんだ。俺だって、ここに残ろうと思っている」

 それは、無人島で手探りな生活をするのと違わず、文明的とは言えません。ただ、良牙や零はふだん実際にそんな生活をしていましたし、食料問題さえ尽きれば実際のところ、二人は生きられるのです。
 それに、サラマンダー男爵のように文明の外で生きてきた非人に、日常生活の質の違いを理解するのは難しい話でした。
 むしろ、彼にとっては、そこの人がいるか、いないかの違いはどうでも良いのです。誰もいなくても街は街であり、電気があって動くならば、それは今の彼やオリヴィエよりもずっと豊かで楽しみのある生き方だと思えます。

「……俺はな、この世界にオリヴィエと住もうと思っているんだ」
「どうしてそんな──」
「ここには誰もいないが、だからこそ幸せな場所かもしれないと思ったのさ」

 彼は、だんだんと口から自分の機密を零していきました。
 しかし、一方である程度のストッパアのような物は内心にあるようで、目的の最重要事項だけは絶対に話さないようにしていました。
 少しごまかしながらも、少し本心とは逸れた事を口からペラペラと吐き出します。

「人間っていうのが、俺には結局わからなかった。絶対に殺し合いに乗らないと思っていた奴が、甘い願いに誘われて殺し合いに乗る事もある……そんな人間たちがな。……いや、あいつだけじゃない。殺し合いに乗っていた人間はいくらでもいた。とてもじゃないが、俺はそんな世界にオリヴィエを連れ出して生きていこうとは思わない」

 誰の事なのか、男爵はハッキリとは言いませんでしたが、それがキュアムーンライトこと月影ゆりを指しているのは明白でした。
 つぼみが、どこかしょげた顔になったのも、きっと彼女を連想したからでしょう。きっと、男爵の言い回しから、何となく彼女を指している事まで理解していたと思います。
 しかし、ふとそんな男爵の言葉で、思いなおしました。自分が俯くよりも、彼には聞かなければならない事が山積みです。

「じゃあ、あなたは、もしかして、その為にこの殺し合いに……?」

 男爵は、ニヤリと笑いました。少し、無理のある笑いでした。
 彼は、それを見抜いた(男爵の方が見抜かせたのですが)つぼみに、敬服して、あえてここは男爵らしく、仰々しい、礼儀を重んじた言葉で返しました。

98私のすてきなバイオリニスト(前編) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:54:26 ID:o1PzPQC60

「そう、この誰もいない世界に住むためだ。危険もなく、争いもなく、二人だけで、この殺し合いの夢の跡に住み、共に生きていこうと思っていたのさ! 私は、その為に力を貸した!」
「それだけの為に、みんなを犠牲に──」

 そんなつぼみの言葉が、男爵の士気を下げたのか、それともまた気まぐれなのか、彼はまた普段のように馴れ馴れしささえある口調で返しました。

「……馬鹿者。誤解するな。俺たちもまた、お前たちと同じく、無作為に選ばれた人間だ。一番偉い奴に選ばれ、ただ主催者という役割を任された。その結果、殺し合いが終わるまで、それぞれ何かの役割を任されたんだ。逆らえば死、従えば報酬。……お前たちはそれで乗らないのか? お前たちの条件は過酷かもしれないが、俺たちに課せられた条件は椅子に座っているだけのようなものさ」

 つぼみも、良牙も、零も返しませんでした。
 この三人ならば、確かにその条件に乗る事はないかもしれません。しかし、言葉を返そうとは思いませんでした。
 自分がそうであるからといって、彼もそうしない──反抗できる人間とは言えないのです。結局開かれる殺し合いに対して、あえて反抗して自分を傷つける必要はないと──男爵はそんな判断をしたに過ぎないはずです。
 零は、強いて言えば、結城の言葉がある程度的を射た発言であった事に驚きました。
 しかし、ふと良牙が疑問を抱きました。

「だが……この殺し合いはお前たちの負けなんだろ? おかしくないか? それなら、あんたたちの欲しい報酬なんていうのはもう貰えないのが自然だろう」

 ええ、そうです、良牙の言う通り、殺し合いは既に主催陣の「負け」が決定したのです。
 それは、殺し合いを円滑に行う人間がいなくなったからでした。誰も殺し合いの意思を持たないのです。
 これが一般人ならば、土壇場の暴走がありえるかもしれませんが、この殺し合いに選ばれた彼らは、決してその類の人間ではありませんでした。彼らは絶対に自分の得よりも他者を重んじ、自分の命さえ顧みずに平然と戦い続ける人間です。そんな人間ばかりが残って、これ以上殺し合いが進む者でしょうか。
 自然に任せて殺し合いを進めた結果、マアダー(殺し合いに乗る者)が減り、その反対に主催に反抗する人間ばかりが十人余りも残ってしまったという、主催者にとって面白くない終わり方になったのは違いありません。
 それでサラマンダー男爵を初めとする主催の末端にも報酬が行き渡る事があるのでしょうか。普通は、そういう物は「成功報酬」なのではないでしょうか。

 ……ですが、この後の男爵の言葉が、彼らにとっての衝撃でした。

「いや、主催の目的はこの殺し合いがどう転がろうが、もうじき達成されるんだ。これ以上むやみに殺し合いを続けるのはただの悪趣味な道楽にしかならない。……まあ、俺のお仲間にはそれを望む人間もいるがな。わざわざそれを望まない人間も主催側には多数いるから、おとなしく負けを認めて終えようっていうわけさ」

 主催陣の目的が、達成されているという事でした。
 おそらく、彼らが察するに、それは決して良い野望ではないはずです。
 少なくとも、世界平和の為に殺し合いを行っているはずはありません。ここまで見かけた主催陣営の財団XやBADANは、弱い者を糧にして無暗に人の人生を狂わせるような、誰もが明確に定義できるような「悪」の存在だと言われています。
 仮に正義が定義できない物であっても、彼らの悪は、確かな悪だと言えるでしょう。
 そんな人間ばかりが集って、殺し合いを強制させ、その結果が決して良い目的の果たされる終わりとは言えないでしょう。
 つぼみは、おそるおそる訊きました。返事は来なくてもいいのです。

「この殺し合いの本当の目的って、一体何なんですか……?」
「それを話す事はできない。それこそ、教えれば俺の報酬までパアだ。それに、知らない方がいい事もある」
「じゃあ、質問を変えます。何故、私たちが選ばれたんですか? 私たちの共通点、それって────『変身』する事ですよね?」

 当然、つぼみはそれを見抜いていました。
 変身に何か目的の関わりがあると、それを察していたのです。

「……」

 それをつぼみが口にした時、男爵はふと口を閉ざしました。
 それだけが、男爵にとって最も痛いところです。仮にもし、彼を支配している人間が、『変身』とこのバトルロワイアルの関わりについて教える権利を預けたとしても、男爵はそれを告げないでしょう。
 それによって傷つくのが誰なのかも、彼はよく知っているのです。

99私のすてきなバイオリニスト(前編) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:54:45 ID:o1PzPQC60

「……何があっても、お前たちの所為じゃない。お前たちは、状況を見て正しい行動をし続けた。それだけは言っておく」
「それは一体、どういう事ですか!!?」

 冷やかに、まるで微かに同情している男爵の姿が恐ろしく見えました。
 もどかしいヒントだけを告げて、そこから先は何も言わない彼の冷淡なマスクに、どこか哀愁や後悔という本心が被さっているように見えて、つぼみは悲しくなりました。

「……とにかくだ。キュアブロッサム、それにお前たちも。俺と一緒にこの星に残ってくれないか? 君がいるなら、オリヴィエだって、きっと喜ぶはずだ」

 男爵は、話題を逸らしましたが、それにつぼみたちは即座に応えました。

「……厭です! 元の世界には、心配している家族や、友達がいます!」
「おれもだ! 乱馬の死を伝えに行かなきゃならねえし、な」
「悪いけど、俺も。シルヴァを修復しなきゃならない」

 彼らは、元の世界に帰る事を絶対だと信じていました。
 仮に、ここで一生過ごしていけると知っても、それを望もうとはしません。
 普通に暮らしていた人間は、大事な人とのつながりをあっさりと切ろうとは思いません。
 これから家族や自分のいるべき世界と一生会えないのは、死んでしまうのと同じです。
 だから、自分の居場所は彼女たちにとっても、大事な物なのです。
 零には、帰って果たすべき目標だってありました。
 しかし、その答えこそ、男爵の苛立ちを加速させ、肩をわなわなと振るわせる理由になったのです。

「……ないんだよ」

 男爵は、彼らの言葉に、思わず大事な情報を伝えて憤怒しそうになりました。
 これを伝えてしまえば、これからのゲームは大きく流れを変えますから、男爵にとっては最悪の結果になるでしょう。

「もう、お前たちが帰りたい元の世界なんて物は────」

 そう言いかけた時でした。
 言葉と被さって、戦闘の狼煙が上がりました。

 ────使い魔たちがやって来たのです。







 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。







 使い魔の名前は、Klarissaと云いました。
 オレンジの皮を剥いたような肌の人形でした。女の子の姿をしていますが、顔は判然としません。髪は緑色で、まるで複数個体の脇役のようでした。
 一人一人が、全く同じ姿をしています。
 操られるように踊りながら、彼女たちは群れで襲ってきます。この群れの前には、大音量の音楽が響き続けていました。

100私のすてきなバイオリニスト(前編) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:55:02 ID:o1PzPQC60

「もう、お前たちが帰りたい元の世界なんて物は────」
「魔女の手下だッ!!!!!!」

 零が声をあげ、それで男爵が振り向きました。
 それでようやく気が付いたようです。更に男爵の言葉はヴァイオリンの音にかき消されてしまいました。
 手下が現れる瞬間に、零の声が響いたお陰で男爵はすぐにそれを回避しました。

「……ッ!!」

 男爵は、バックステップでつぼみたちのところへと戻りました。帽子がずれたのでそれを直しながら、零に言います。

「……魔戒騎士! 話は終わりだ! この空間ではいくらでも鎧を召喚できるから心おきなく使いたまえ!」
「あ!? 何か言ったか!?」

 聞こえていないようですが、零はお構いなく空中に二つの円を描きました。
 既に彼はガルムから情報を得ています。まずはお構いなしに鎧を召喚する事にしました。
 やれやれ、と思いながらも、男爵は自分なりの戦闘態勢を取りました。

「よし、俺たちも行くぞ!」
「はい!」

 良牙がロストドライバーとエターナルメモリを、つぼみがココロパフュームを構えました。すぐに彼らが掛け声とともに変身します。

「変身!!」
「プリキュア・オープンマイハート!!」

 良牙の体がエターナルメモリの力によって、真っ白な意匠に包まれます。
 更にその両腕に青く燃える炎がボワッと現れ、拳と同一化されました。
 背中に真っ黒なエターナルローブが現れた時、彼は仮面ライダーエターナルとなりました。

 つぼみは、花の力により、白と薄桃色の可愛らしい衣装を召喚しました。
 桜の花びらのようなスカートで足の上で咲き乱れ、彼女の周囲をスカートから生まれたような花吹雪が舞い散りました。
 髪はいっそう輝くピンク色に代わり、頭の後ろで両側の髪がクルクルと絡み合って一体になると、そのままポニーテールの髪型に変身しました。

「大地に咲く、一輪の花! キュアブロッサム!」
「地獄に迷った、一本の牙! 仮面ライダーエターナル!」
「ぶきっ!」

 二人がポォズを決め、並び立ちました。
 そして、デイパックから子豚が顔と手(前足?)だけを出しました。

「……って、良牙さん。あの後、ちゃんと決め台詞考えてたんですね」

 そういえば、以前、何か良牙が名乗る時に迷っていたのを思い出しました。
 どうやら、今までずっとそれを考えていたようなのです。

「そんな事はどうでもいい! さっさと全員叩くぞ!」

 目の前では、銀牙騎士ゼロが双剣を振るって敵を斬り裂き、サラマンダー男爵は器用に敵の攻撃をよけながら、上手い事彼らの腹や顔を蹴ったり杖で突き刺したりしていました。
 少なくとも、男爵にはやる気があるというわけではないにしろ、協力の意思はある程度あるようです。
 とにかく、キュアブロッサムと仮面ライダーエターナルもそこでKlarissaの大群を倒す事にしました。

「はあああああああっ!!」

 キュアブロッサムが、拳を真っ直ぐ突き出してKlarissaの顔を吹き飛ばしました。
 本当に人形のように脆いのです。一瞬で砕け散った彼らは、すぐに形をなくして消えてしまいます。
 体重も軽く、まるで中身の入っていない木くずの塊を殴っているような手ごたえでした。

「おりゃあっ」

101私のすてきなバイオリニスト(前編) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:55:19 ID:o1PzPQC60

 エターナルは、エターナルエッジを逆手で構えて、走りながら、すれ違いざまに次々とKlarissaを斬っていきました。
 必死で立ったままの姿勢を保とうと粘っていたKlarissaたちですが、エターナルがその先で屈むと、同時に全て糸の切れたように倒れて消えてしまいました。

「魔戒騎士! このままだとキリがない。魔導馬を使って蹴散らしながら進め!」
「なんだって!?」
「銀牙だ! 銀牙を使えッ!」

 男爵の指示が聞こえたらしく、ゼロはとにかくすぐに魔導馬を召喚しました。
 巨体を持つ銀の馬が突如として現れ、ゼロ以外は少し驚いたようでした。

「……乗れッ! 今なら触れる分には大丈夫なはずだ!」
「大丈夫だ。お前たちの鎧はちゃんと制限してある。ソウルメタルの鎧や馬に触れても皮膚が剥げたりはしない。遠慮なく乗らせたまえ」

 いの一番で乗ったのが男爵でした。一刻も早く楽がしたいようです。
 気づいたら載っている彼の様子は、まるで気配を消していると言われてもおかしくない物でしたが、ゼロは全く動じませんでした。
 とにかく、エターナルとキュアブロッサムを彼らの方をちゃんと見て、何人か襲ってきたKlarissaを撃退すると、魔導馬・銀牙の上に飛び乗りました。

「──定員オーバーか? いや」

 言いかけて、ゼロは笑いました。

「女の子を乗せ慣れてないだけか。そうだろ? 銀牙」

 なかなか動かない銀牙でしたが、ただ主人以外を乗せるのに慣れていないだけのようでした。後部座席もなかなかに狭い状態なので、ブロッサムなどはゼロの前で銀牙の首にしがみ付くような形になってしまっているのですが、零に茶化されて頭に来たのか、すぐに銀牙は走り出しました。
 銀牙が蹄の音を鳴らせば、そこからは使い魔がどれだけ大群で襲い掛かっても全く動じる必要はありません。
 道を塞いでいた使い魔たちも、全て、力及ばず吹き飛ばされて、理不尽に消されていきます。圧倒的な力を前に無力──そんなKlarissaの姿は、悲しいようでもありました。







 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。







 銀牙の力を借りてしまえば、もう人魚の魔女の居場所まではそう時間のかからない話でした。
 そこでは、先ほどからずっと流れていたようなオーケストラが、いつまでも流れていました。ただ、それは誰かに聞かせようと言う気はないらしく、小さく流れていました。
 本心では、その曲を、いつまでも自分一人のものにしたいのです。それが彼女の恋慕の情なのです。本来なら、たくさんの人に聞いてもらいたかったのかもしれませんが、いや、もっと心の奥では自分一人の物にしたい気持ちがあって、それに気づいてしまっただけなのでしょう。

「────さやか」

 愕然としたようなブロッサムでした。
 それが「魔女」だというのはわかりました。どことなくさやかの特徴が残っています。
 青いマントやその手の剣は、まさしく彼女の物が巨大になったと言っても過言ではないようでした。

102私のすてきなバイオリニスト(前編) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:55:34 ID:o1PzPQC60

「……残念だが、知る限りでは魔女になった人間を元に戻す方法はない」
「知っている限りでは?」
「だが、魔法少女やプリキュアの力は未知数だ。ガイアメモリやソウルメタルもそうだが、おそらくこの世界の誰にも測れない力だって持っている可能性がある。あるいは、作った人間ですらよくわかっていない可能性もあるかもな……」

 男爵が、一応口を出しました。
 彼としては、魔女が仲間になろうがなるまいが結局は関係のない話です。
 ただ、あえて彼女たちの目的に加担するのも悪くはないと思っています。これから積極的にこの魔女と戦おうという気はないのですが、それでも助言らしき物をやって希望を与えるくらいはしても良いと思うのでした。

「それなら、可能性は、全くないわけじゃないんですね」
「勿論だ。お前たちがどれほどの不条理を成し遂げたとしても驚くに値しない。ただ、残念ながら、データ上は前例がないから助言のしようがないが」

 強いて言うなら、それは激励でした。
 ただ、それで充分でした。
 男爵はそこに黙って立って、彼女たちの戦いを見届ける事にしました。
 キュアムーンライトとは対照的に、まだプリキュアとして戦う事で希望を得ようとする彼女のような人間を、ともかく一人、目につけておこうと思ったのです。
 彼はジュエルシードを使えばいつでも脱出できますが、ここにいる彼女や良牙、零たちは脱出の為に非情の決断を迫られるかもしれません。それでも、彼女たちは救おうとするのか、目に焼き付けようというのでした。







 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。





103私のすてきなバイオリニスト(後編) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:56:23 ID:o1PzPQC60



 LoVE・Me・Do\(*´3`*)/

 魔女は、旋律とともに蠢いています。

 LoVE・Me・Do\(*´3`*)/

 空に浮かび上がる旋律も、顔も見えない影のような楽団も、どこか寂しく映ります。

LoVE・Me・Do\(*´3`*)/

 ここにずっといる事は、さやかにとって良い事ではないようなのです。

 LoVE・Me・Do\(*´3`*)/

 ブロッサムは、その楽団が交響曲を奏でている場所に、真っ直ぐ走っていきました。

 LoVE・Me・Do\(*´3`*)/

「──さやか!」

 LoVE・Me・Do\(*´3`*)/

 ブロッサムの叫びはちゃんと魔女の耳に届いていました。

 Look at me







 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。





104私のすてきなバイオリニスト(後編) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:56:47 ID:o1PzPQC60



 魔女は構わず、曲を流し続けます。リズムに乗り続けます。彼女は、自分の音楽を邪魔してほしくない……とばかりに、剣を振るいました。
 凄まじいスピードで剣を振るう魔女に、ブロッサムは一瞬、体を硬直させてしまいました。
 まるで無感情な一撃が、ブロッサムの体を斬り裂こうとしたのです。
 しかし、ブロッサムの手前で金属と金属がぶつかるような音がしました。
 見れば、銀牙がそこまで走ったらしく、ゼロが双剣で魔女の剣を止めていたのです。

「俺に構うな! その子の名前を呼び続けろ!」

 苦しそうな声で、ゼロは叫びました。
 ブロッサムは、一瞬呆気にとられたようでしたが、すぐに凛とした顔で頷きました。
 零は結局、こうして協力してくれる優しい人間でした。
 この空間が持つ、ある意味で胸が溢れそうになるような「想い」の悲しみに、彼もどこかで共感していたのかもしれません。
 零も、良牙も、ここにいると胸が苦しくなるような感覚を抱く事になるのでした。
 この空間と、この魔女が持つ「意味」を感じられないのは、つぼみと男爵だけでした。

「……さやか! 正気に戻ってください! さやかは魔女じゃありません!」

 そんな言葉が響いた時には、ゼロが全神経を剣の切っ先に集中させて、その剣を跳ね返しました。
 魔女による膨大なパワーを、ソウルメタルの剣越しに感じていたようです。

「さやかは、私の友達です! あの時からずっと……!」

 この空間には、当然、さやかが持つ「恋慕」の性質も現れていました。
 自分が次々に過ちを犯し、最後には自分の意思と無関係に人を殺してしまった────その結果、遂には上條恭介という一人の少年の前に姿を現す事さえもできなくなってしまった彼女には、もうできる事はないのです。
 強い嫉妬と怒りの情に任せて、自分に寄ってくる物を消し去るのみでした。
 彼女は、自分の近くに来る者を傷つけるのが嫌いなのです。だから自分の近くに寄って欲しくないと思って、剣を振るって消し去ってしまおうとするのでした。
 だから、友達というのは無駄でした。

「でも、だからこそ言わせてください! 私とさやかは友達だから……だから、私から言わなきゃいけない事がたくさんあります!」

 つぼみは知っていたのでしょうか、真っ当な言葉だけでは彼女を口説けないと。
 いいえ、彼女は全く、ただ算段など無しに──真っ直ぐに、そんな事を言うのでした。
 それが最も効果的な物かもしれませんが、彼女自身はそんな事は知りません。

「さやかは自分勝手です! 痛みを負いたくないとか、好きな人に顔向けができないとか、そんな理由で死のうとするなんて、大きな馬の鹿と書いて大馬鹿です!!」

 銀牙騎士ゼロは、再び襲ってきた魔女の剣が少し弱弱しい──いや、力の入れ具合を迷っているような手ごたえである事に気づきました。
 もしかすれば、魔女の中にある心か何かに響いたのかもしれません。

「生きていたら、どんな悲しい事だってあります! でも、それで死んだら……さやかの事が大好きな人たちはどう思うんですか!?」

 魔女は出来損ないのパラパラ漫画のようにゆっくりと、大きく動きました。
 彼女は、喋れなくとも、声の中にある何かを感じているようでした。

「私は、五代さんに会った人たちを見てきました。五代さんがどんな人なのかも知っています!」

 その言葉が、完全に魔女の動きを止めました。
 魔女は、良い事か悪い事かはわかりませんが、何かをふと考えたようでした。
 五代雄介の名前が出た時です。──彼女にとって、今、最も悩ましい出来事は五代の死です。

「五代さんは、最後に……最後に、『さやかちゃんを助けてあげてほしい』って言ったんですよ!! 五代さんだって、私だって、みんなだって、さやかの事が大好きなんです!! さやかが、こんな形でも生きているって知った時────私は」

 五代の死が、彼女の中の絶望の引き金を引いたのです。
 この結界を作り出しているのは、五代の死によって全てが狂った絶望でした。
 だから、五代の名前が出てきた時──あの後の五代の言葉を知った時、彼女はきっと、何かを思い出したのでしょう。
 きっと、断片的ではあるのでしょうが、それが魔女の中の何かに触れるのでした。

「私は、とっても嬉しかったんです! また一緒に喋れるって、今度は、もっと普通にまた出会えるんだって……!!」

105私のすてきなバイオリニスト(後編) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:57:03 ID:o1PzPQC60

 ─────しかし、その時生まれたのは、戦いが終わった静寂ではなく、もう一体の使い魔でした。
 仮面ライダークウガによく似た、赤黒い使い魔が出現し、ブロッサムの横でその拳を叩きつけたのです。
 彼女の言葉は、さやかの中に新たな使い魔を誕生させてしまったのでした。







 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。







「さやっ……!」

 使い魔の一撃は強力でした。何せ、魔女が持っていた負のエネルギィの結晶のような使い魔なのです。
 真横から突如としてブロッサムの胸を殴りつけた不届きな使い魔は、もう一撃、キュアブロッサムを襲おうと拳を突き出してくるのでした。
 ブロッサムは、咄嗟に顔の前でガードを固めました。

「きさま、何をしているーっ!」

 その時、ふと横から飛んできたのはエターナルによる跳び蹴りでした。
 跳び蹴りは使い魔の体を吹き飛ばします。使い魔はそれでも受け身を取っていました。
 ブロッサムは、突然現れたエターナルの方を見つめました。彼は、ある物を胸の前に抱えていました。
 ……それは、間違いなく、美樹さやかの肉体でした。
 美樹さやかが眠ったようにぐったりして、そこに居ました。彼は、この体をどこかから見つけ出してきて、持ってきたのでした。
 この空間はさやかの精神の世界のようですが、その中に肉体が取り込まれていたのです。

「その姿で悪事を働くんじゃねえ……!」

 そんな言葉とともに、エターナルは何かを伝えに来たようでした。
 随分時間がかかったようですが、彼としては早い方です。

「良牙さん、それは──」
「向こうで見つけたんだ! この子の体だ。死んだ時と全く変わらない。安らかな寝顔だが、……これはきっと死に顔じゃない」

 さやかは、まさしく、あの時海岸に置き去りにしたさやかの遺体と全く同じでした。
 一輪の花が飾られた、安らかで綺麗な遺体なのでした。
 しかし、思ったほど固くなっていません。冷たい水辺で細やかな風を受け続けていたとはいえ、状態が良すぎるようにも見えました。
 それはまさしく、生きている証です。

「それより、……おまえも大丈夫か!?」

 エターナルは、ブロッサムの様子を見ました。
 不意に食らった一撃で、少しふらついているようでした。

「へっちゃらです……!」
「それなら良いが……」

 その姿は、無茶にも見えるのでした。使い魔としては、最大級の強さでしょう。あの一体の使い魔を作り出すのに、使い魔何体分の魔力が注がれているのかを、彼らは知りません。

106私のすてきなバイオリニスト(後編) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:57:23 ID:o1PzPQC60

「無理はするんじゃねえぞ。奴は任せてくれ。おれが足止めする」
「……はい」

 エターナルは、ブロッサムにさやかの体を託しました。
 それは、プリキュアに変身していても感じる命の重さが詰まっていました。冷たいけれど、また温かくなるかもしれない────そんな希望が残っていました。
 エターナルは、使い魔の方に向かって走っていきました。
 エターナルと使い魔とが、拳をぶつけ合いました。

「──さやか! 一緒に帰りましょう! さやかがみんなを大事に想っているように、みんなだってさやかを大事に想っているんです! もし辛い事があったら、私に話してください! どんな事でもいい、いつでも私に言ってください!」

 ブロッサムの声は、遠く遠くへ響きます。
 ずっと遥か遠くに呼びかけているようでした。
 きっと、こうして眠っているさやかの体から耳を通って、彼女の中に聞こえているかもしれません。
 目の前の魔女の耳に届いて、攻撃をやめてくれるかもしれません。
 どこかで聞こえているのです。彼女の声は届いているかもしれないのです。

「うわあッ!」

 遂に、拮抗していたゼロと魔女との剣の戦いが遂に崩れました。
 ゼロが押し負けたのです。ゼロと銀牙の体は数メートル吹き飛びました。
 何とか体勢を立て直すも、魔女の剣はブロッサムの体へと近づいていくのでした。
 蹄は傾き、車そのものが遠心力で立て直せない状態です。
 このままでは、ブロッサムの体は────。







 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。







 ゼロがそちらを見れば、ブロッサムの体は宙を飛んでいました。
 ただ宙を飛んでいるのではありません。サラマンダー男爵の腕にお姫様抱ッこをされながら、空へと回避していたのです。
 魔女の剣は、地面を抉り、斜めに突き刺さっていました。そこにブロッサムがいたら、容赦なく真っ二つになっていたかもしれません。
 ゼロはその光景に少し驚きました。
 あのうさん臭い男が、ちゃんと自分たちを助けるのに役立ったのが全く意外なのでした。
 ともかく、安心していいやら、驚くやらで、体勢を直してもどうすればいいのかわからないとばかりに呆然とするのでした。

「……間一髪だったな、キュアブロッサム」
「どうして……?」
「手助けすると言っただろう? いずれにせよ、お前がいなければオリヴィエも悲しむ」

 男爵としても、決死の判断だったようです。
 彼は、それでもあくまで冷静のマスクを取り外さず、地面に着地しました。
 人魚の魔女は、地面に突き刺さった剣を

「まあ、なんだ。キュアブロッサム、今彼女に必要なのは説得じゃない。お前の想いは充分にこの子に届いたさ」
「え? でも──」

107私のすてきなバイオリニスト(後編) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:57:37 ID:o1PzPQC60
「お前たちプリキュアの力は、ただの暴力じゃない。神か妖精か、あるいはこの世を本当に良くしたいと願う気まぐれな馬鹿が与えてくれた、誰かの心を救う為の力だ。……たとえ、どんな不条理で、悪い事ばかり起こる世の中でも、綺麗に世界を幸せにしようとできるのさ。──それがプリキュアの力だろう? それなら、その力を真っ向から使えばいいのさ」
「────」

 サラマンダー男爵は、何故、ずっと以前、プリキュアと出会った時に、あの怪物のような龍の姿から、本当の自分を取り戻せたのか。
 そして、何故オリヴィエとともに旅をする毎日を生きられるのか──。
 それを考えれば、当たり前の事でした。
 サラマンダー男爵が見て来たこれまでの彼女たちの動向から見ても明らかです。
 彼女たちは、人の心の悪の部分を浄化し、優しい心を見出して膨らませるような力を持つのです。
 その救済の力は、彼女たち自身の想いに応じて強くなります。
 本当に救いたいと思うのなら、当然、それ相当の力だって得られます。
 たとえ、魔女の救済であっても、彼女たちが本当に想いの力を持つのなら────。

「……ありがとうございます、男爵」
「礼を言われる筋合いはない。大事な事だから、二度と忘れるな」

 男爵は、そう言って、さやかの体を強引に引き取りました。

「さて、彼女の体はこっちで何とかする。……あとは自由にやりたまえ」

 そのまま男爵は後方へ下がりました。
 魔女が力を尽くして、剣を抜きます。
 その剣を、ブロッサムに向けて振り降ろそうとする魔女でした。

「集まれ! 花のパワー────」

 ハートキャッチミラージュが輝き、ココロパフューム、シャイニーパフューム、ココロポットもまた麗しく輝いていきました。
 キュアブロッサムの体が真っ白なヴェールに包まれ、ハイパープリキュアに覚醒します。

「プリキュア・ピンクフォルテウェイブ!!」

 それは、救心の光でした。







 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。
 りー、ららりー、らりー……。







 花咲つぼみ、響良牙、涼邑零、サラマンダー男爵の四名は、元の世界に戻っていました。
 世界は元に戻っています。あの不可思議な魔女の結界ではなく、夢から覚めたかのように、木漏れ日の森に立っていたのです。
 魔女との戦いは終わったようです。
 その結果は、単純でした。

「……つぼみ」

 ここにはいないはずの女性の声が、はっきりと聞こえました。つぼみより少し背丈が高い少女です。中学校の制服を着ているようでした。
 思わず、つぼみは駆け出してその女性に抱き着きました。
 もう二度と会えないと思っていた少女──美樹さやかに、また会えたのです。

108私のすてきなバイオリニスト(後編) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:59:12 ID:o1PzPQC60

「さやか! ……良かった……本当に……」

 ソウルジェムを砕かれた彼女には、代わりに「ジュエルシード」の力で肉体と精神を保っていました。魔女化した精神を肉体と結合させる手段として、サラマンダー男爵が使ってくれたのでしょう。
 彼にとっては、魔力を使って結界に入る事と、結界から出る事に使う予定だったのでしょうが、結界が消えるので、必要なくなったのです。

「……失礼」

 サラマンダー男爵が前に出て、至近距離でさやかの顔の様子を見ました。
 さやかは、放送で会ったきりなので少し怪訝そうでしたが、男爵が結界の中で何をしたのかも知っていたので、これといって彼の様子に違和感を持つ事はありませんでした。
 胸には、全く萎れた様子もないアマリリスがありました。

「なるほど、織莉────いや、彼女の仕業か……。なかなかやってくれるじゃないか」

 男爵も、ずっとさやかの体の不自然に気づいていたようです。
 普通の遺体ならば、もっとすぐにどこかで朽ちてしまうはずです。一日もすれば、それこそドライアイスなどを使わなければ、すぐに鮮度は落ちて腐り始めてしまいます。
 しかし、彼女の場合、そうした様子が一切見られませんでした。おそらく、魔力が供給され続けた為でしょう。その理由を、男爵は悟ったのです。

「──さて、私はこれで失礼しよう。残念ながら、これ以上ゲームに影響を与える事はできない。あとは自分たちで気づく事だ。私の要件は伝えた。先ほどの件は考えておいてもらおう」

 男爵は、そう言ってどこかへ消えていってしまいました。
 その後ろ姿を、彼女たちは黙って見つめていました。

「……つぼみ」

 とにかく、さやかはまた口を開き、彼女の名前を呼びました。
 長い眠りから覚めたような気分でもあり、浦島太郎にでもなったような気分でもあり……という感じでしょう。
 良牙には少し見覚えがあるかもしれませんが、零は全く見覚えがないでしょうし、現状殺し合いがどうなっているのか、彼女は知りません。
 それでも、彼女が今言いたい事は、そんなヤボな情報交換ではありませんでした。

「ありがとう、つぼみ。私を助けてくれて」
「私だけじゃありません、ここにいる皆さんのお陰です。……それに、私たちの想いにさやかが答えてくれたから」

 つぼみは周りを見回しました。
 ここにいる誰がいなくても、つぼみはさやかを救えなかったでしょう。

「私だって、お礼を言いたい事がたくさんあります。私と出会ってくれて、ありがとう、さやか……」

 何より、さやかがいなければ、さやかは救えないのです。
 この喜びや、この愛情はさやかなしには語れないものでした。
 だから、さやかを前につぼみは言いました。

「それから、良牙さんもさやかを見つけてくれてありがとうございます。零さんも私を守ってくれてありがとうございました」

 ここにいる人間、全員がつぼみを助け、さやかを救う事になったのです。
 このメンバーでなければ、どうなっていたかはわかりません。だから、彼女はそれぞれにお礼を言ったのでした。

「……ありがとう、ございました」

 さやかは、つぼみの隣にいる二人の男性にも頭を下げました。
 五代雄介はいませんでしたが、彼の親友と親しくなり、五代に励まされた男がそこにはいました。

「────そうだ、ごめんなさい。一人だけ、言い忘れていましたね。……ありがとうございます、男爵」

 どこへ行ってしまったかはわかりませんが、つぼみは男爵の背中があった場所に向けて、言葉を放り投げました。
 サラマンダー男爵──彼はオリヴィエの事を頼みたかったに違いありません。
 ただ、つぼみやここにいる三人は、男爵を許す気持ちくらいは芽生えたのでしょうか。
 あまり男爵を恨むつもりにはなりませんでした。



 また、ああして男爵に会える事を、彼女たちは願いました。



【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ 生存】

109私のすてきなバイオリニスト(後編) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 21:59:49 ID:o1PzPQC60



【2日目 昼前】
【D−5 森】

【花咲つぼみ@ハートキャッチプリキュア!】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、加頭に怒りと恐怖、強い悲しみと決意、首輪解除
[装備]:プリキュアの種&ココロパフューム、プリキュアの種&ココロパフューム(えりか)@ハートキャッチプリキュア!、プリキュアの種&シャイニーパフューム@ハートキャッチプリキュア!、プリキュアの種&ココロポット(ゆり)@ハートキャッチプリキュア!、こころの種(赤、青、マゼンダ)@ハートキャッチプリキュア!、ハートキャッチミラージュ+スーパープリキュアの種@ハートキャッチプリキュア!
[道具]:支給品一式×5(食料一食分消費、(つぼみ、えりか、三影、さやか、ドウコク))、スティンガー×6@魔法少女リリカルなのは、破邪の剣@牙浪―GARO―、まどかのノート@魔法少女まどか☆マギカ、大貝形手盾@侍戦隊シンケンジャー、反ディスク@侍戦隊シンケンジャー、デストロン戦闘員スーツ×2(スーツ+マスク)@仮面ライダーSPIRITS、『ハートキャッチプリキュア!』の漫画@ハートキャッチプリキュア!
[思考]
基本:殺し合いはさせない!
1:さやかを助ける。
2:この殺し合いに巻き込まれた人間を守り、悪人であろうと救える限り心を救う
3:……そんなにフェイトさんと声が似ていますか?
[備考]
※参戦時期は本編後半(ゆりが仲間になった後)。少なくとも43話後。DX2および劇場版『花の都でファッションショー…ですか!? 』経験済み
 そのためフレプリ勢と面識があります
※溝呂木眞也の名前を聞きましたが、悪人であることは聞いていません。鋼牙達との情報交換で悪人だと知りました。
※良牙が発した気柱を目撃しています。
※プリキュアとしての正体を明かすことに迷いは無くなりました。
※サラマンダー男爵が主催側にいるのはオリヴィエが人質に取られているからだと考えています。
※参加者の時間軸が異なる可能性があることに気付きました。
※この殺し合いにおいて『変身』あるいは『変わる事』が重要な意味を持っているのではないのかと考えています。
※放送が嘘である可能性も少なからず考えていますが、殺し合いそのものは着実に進んでいると理解しています。
※ゆりが死んだこと、ゆりとダークプリキュアが姉妹であることを知りました。
※大道克己により、「ゆりはゲームに乗った」、「えりかはゆりが殺した」などの情報を得ましたが、半信半疑です。
※所持しているランダム支給品とデイパックがえりかのものであることは知りません。
※主催陣営人物の所属組織が財団XとBADAN、砂漠の使徒であることを知りました。
※第二回放送のなぞなぞの答えを全て知りました。
※良牙、一条、鋼牙と125話までの情報を交換し合いました。
※全員の変身アイテムとハートキャッチミラージュが揃った時、他のハートキャッチプリキュアたちからの力を受けて、スーパーキュアブロッサムに強化変身する事ができます。
※ダークプリキュア(なのは)にこれまでのいきさつを全部聞きました。
※魔法少女の真実について教えられました。

110私のすてきなバイオリニスト(後編) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 22:00:04 ID:o1PzPQC60

【響良牙@らんま1/2】
[状態]:全身にダメージ(大)、負傷(顔と腹に強い打撲、喉に手の痣)、疲労(大)、腹部に軽い斬傷、五代・乱馬・村雨の死に対する悲しみと後悔と決意、男溺泉によって体質改善、デストロン戦闘員スーツ着用、首輪解除
[装備]:ロストドライバー+エターナルメモリ@仮面ライダーW、T2ガイアメモリ(ゾーン、ヒート、ウェザー、パペティアー、ルナ、メタル)@仮面ライダーW、
[道具]:支給品一式×14(食料二食分消費、(良牙、克己、五代、十臓、京水、タカヤ、シンヤ、丈瑠、パンスト、冴子、シャンプー、ノーザ、ゴオマ、バラゴ))、水とお湯の入ったポット1つずつ×3、子豚(鯖@超光戦士シャンゼリオン?)、志葉家のモヂカラディスク@侍戦隊シンケンジャー、ムースの眼鏡@らんま1/2 、細胞維持酵素×6@仮面ライダーW、グリーフシード@魔法少女まどか☆マギカ、歳の数茸×2(7cm、7cm)@らんま1/2、デストロン戦闘員マスク@仮面ライダーSPIRITS、プラカード+サインペン&クリーナー@らんま1/2、呪泉郷の水(娘溺泉、男溺泉、数は不明)@らんま1/2、呪泉郷顧客名簿、呪泉郷地図、克己のハーモニカ@仮面ライダーW、テッククリスタル(シンヤ)@宇宙の騎士テッカマンブレード、『戦争と平和』@仮面ライダークウガ、双眼鏡@現実、ランダム支給品0〜6(ゴオマ0〜1、バラゴ0〜2、冴子1〜3)、バグンダダ@仮面ライダークウガ、警察手帳、特殊i-pod(破損)@オリジナル
[思考]
基本:天道あかねを守り、自分の仲間も守る
0:つぼみについていく。
1:あかねを必ず助け出す。仮にクウガになっていたとしても必ず救う。
2:誰かにメフィストの力を与えた存在と主催者について相談する。
3:いざというときは仮面ライダーとして戦う。
[備考]
※参戦時期は原作36巻PART.2『カミング・スーン』(高原での雲竜あかりとのデート)以降です。
※夢で遭遇したシャンプーの要望は「シャンプーが死にかけた良牙を救った、乱馬を助けるよう良牙に頼んだと乱馬に言う」
「乱馬が優勝したら『シャンプーを生き返らせて欲しい』という願いにしてもらうよう乱馬に頼む」です。
尚、乱馬が死亡したため、これについてどうするかは不明です。
※ゾーンメモリとの適合率は非常に悪いです。対し、エターナルとの適合率自体は良く、ブルーフレアに変身可能です。但し、迷いや後悔からレッドフレアになる事があります。
※エターナルでゾーンのマキシマムドライブを発動しても、本人が知覚していない位置からメモリを集めるのは不可能になっています。
(マップ中から集めたり、エターナルが知らない隠されているメモリを集めたりは不可能です)
※主催陣営人物の所属組織が財団XとBADAN、砂漠の使徒であることを知りました。
※第二回放送のなぞなぞの答えを全て知りました。
※つぼみ、一条、鋼牙と125話までの情報を交換し合いました。
※男溺泉に浸かったので、体質は改善され、普通の男の子に戻りました。
※あかねが殺し合いに乗った事を知りました。
※溝呂木及び闇黒皇帝(黒岩)に力を与えた存在が参加者にいると考えています。また、主催者はその存在よりも上だと考えています。
※バルディッシュと情報交換しました。バルディッシュは良牙をそれなりに信用しています。
※鯖は呪泉郷の「黒豚溺泉」を浴びた事で良牙のような黒い子豚になりました。
※魔女の真実を知りました。

111私のすてきなバイオリニスト(後編) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 22:00:18 ID:o1PzPQC60

【涼邑零@牙狼─GARO─】
[状態]:疲労(小)、首輪解除、鋼牙の死に動揺
[装備]:魔戒剣、魔導火のライター
[道具]:シルヴァの残骸、支給品一式×2(零、結城)、スーパーヒーローセット(ヒーローマニュアル、30話での暁の服装セット)@超光戦士シャンゼリオン、薄皮太夫の三味線@侍戦隊シンケンジャー、速水の首輪、調達した工具(解除には使えそうもありません) 、スタンスが纏められた名簿(おそらく翔太郎のもの)
[思考]
基本:加頭を倒して殺し合いを止め、元の世界に戻りシルヴァを復元する。
0:つぼみについていく。
1:殺し合いに乗っている者は倒し、そうじゃない者は保護する。
2:会場内にあるだろう、ホラーに関係する何かを見つけ出す。
3:また、特殊能力を持たない民間人がソウルメタルを持てるか確認したい。
[備考]
※参戦時期は一期十八話、三神官より鋼牙が仇であると教えられた直後になります。
※シルヴァが没収されたことから、ホラーに関係する何かが会場内にはあり、加頭はそれを隠したいのではないかと推察しています。
実際にそうなのかどうかは、現時点では不明です。
※NEVER、仮面ライダーの情報を得ました。また、それによって時間軸、世界観の違いに気づいています。
仮面ライダーに関しては、結城からさらに詳しく説明を受けました。
※首輪には確実に異世界の技術が使われている・首輪からは盗聴が行われていると判断しています。
※首輪を解除した場合、(常人が)ソウルメタルが操れないなどのデメリットが生じると思っています。→だんだん真偽が曖昧に。
また、結城がソウルメタルを操れた理由はもしかすれば彼自身の精神力が強いからとも考えています。
※実際は、ソウルメタルは誰でも持つことができるように制限されています。
ただし、重量自体は通常の剣より重く、魔戒騎士や強靭な精神の持主でなければ、扱い辛いものになります。
※時空魔法陣の管理権限の準対象者となりました(結城の死亡時に管理ができます)。
※首輪は解除されました。
※バラゴは鋼牙が倒したのだと考えています。
※第三回放送の制限解除により、魔導馬の召喚が可能になりました。
※魔戒騎士の鎧は、通常の場所では99.9秒しか召喚できませんが、三途の池や魔女の結界内では永続使用も問題ありません。
※魔女の真実を知りました。

112私のすてきなバイオリニスト(後編) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 22:04:47 ID:o1PzPQC60
【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:身体的には健康、ジュエルシードの力で精神と肉体を結合(調整あり?)
[装備]:ジュエルシード@魔法少女リリカルなのはシリーズ
[道具]:アマリリスの花@宇宙の騎士テッカマンブレード
[思考]
基本:ゲームの終了を見守る
[備考]
※参戦時期は8話、ホスト二人組の会話を聞く前です。
※魔女化から救済されましたが、肉体と精神の融合はソウルジェムではなくジュエルシードによって行われています。
 精神的な要因によりこれが暴走した場合、更に大変な事になる可能性があります。

113私のすてきなバイオリニスト(後編) ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 22:05:43 ID:o1PzPQC60















「──サラマンダー男爵、一体結界の中で何をしていたのですか?」

 帰ってくるなり、加頭順が訊いた。それは疑っているのか、それとも大した事はしていないと理解しているのか、実のところわからなかった。

「何、ちょっとした野暮用さ」

 彼の言葉に、サラマンダー男爵は応えた。
 しかし、返って来たのは静寂だ。その静寂に疑いの眼差しを引き立てる意味があるような気がして、男爵は慌てて弁解をする。

「……おいおい、まさか俺を疑っているのか? ……安心しろ。もし、俺が余計な事を吹き込んだなら、これから奴らは俺が与えた情報を話し合うさ」

 サラマンダー男爵は、後からそう付け加えたのだった。彼とて、死にたくはない。これから先、オリヴィエと暮らしていかなければならない。彼の面倒を見るのはほかならぬ男爵だ。
 自分が殺し合いに影響を与えたのが発覚すれば不味い事になるのだ。

「残念ですが……『疑わしきは、罰せよ』が我々の鉄則です」
「殺し合いが終わったのに、か……? 意味がないだろう。だいたい、これから奴らの様子を見ていればわかる。俺は何もあんたたちに不都合な事は話していない!」

 しかし、加頭はその腰にガイアドライバーを巻いていた。
 ユートピアメモリを取り出し、相変わらず冷徹な表情で男爵を見る彼の瞳。
 そこに、男爵もただならぬ殺気を感じた。

「……関係ありません。言ってみれば、あくまであなたに死んでもらう、良い方便です。……つまり────お前は、我々にとってではなく、私にとって邪魔だ、という事です」

 ユートピア・ドーパントのサウンドとともに、男爵の目の前で男は豹変した。















 ──サラマンダー男爵は力を失い、倒れていた。

 ユートピア・ドーパントの理想郷の杖で叩きつけられ、炎と雷を受け、男爵の体は反撃も許されぬままに一方的な甚振りを受けた。
 そうされただけの理由がある。もし、これから先、男爵が加頭に逆らったともなれば、それこそオリヴィエに危害が加えられるのは間違いなかったのである。
 そして、彼は暗く、あらゆる物が置かれているだけの部屋で、ゴミのように捨てられたのだった。

(……ああ、全く、生きている限り、何で恨まれるかわかった物じゃないな)

 彼は思った。
 加頭が何を恨んでいるのかはわからないが、それが人と接する難しさだと。
 知らないうちに他人の恨みを買い、邪魔に思われるのも人間だ。

(オリヴィエが生きる世界は、奴らに賭けるしかないらしい)

 あとは、これから支配されていく世界が、少なからずの希望が救ってくれる事を祈るしかないらしい。
 いや、それで終わってもらえれば、良い。

(じゃあな、後は任せたぞ、プリキュア。オリヴィエは頼んだ────)

 エメラルドの瞳を閉じ、サラマンダー男爵は消えていった。



【サラマンダー男爵@ハートキャッチプリキュア! 死亡】

114 ◆gry038wOvE:2014/08/08(金) 22:06:15 ID:o1PzPQC60
以上で今日の分を投下終了とします。
正直、明日の分が投下できるんだかできないんだか微妙です。

115名無しさん:2014/08/08(金) 23:13:06 ID:tY0kT6Lo0
投下乙です!
プリキュアの奇跡がまたしても起きましたか! それによって、彼女達は再びこの世界に戻ってこれるなんて凄い!
主催陣営からも死者が出てきて、参加者もベリアル陛下の事について知り始めましたし、どんどん物語が進んでいきますね……

116名無しさん:2014/08/09(土) 13:49:25 ID:M.mn.YiEO
投下乙です。

ヴィヴィオがいなくなって、これからレイハはどうするんだろう。
仮に10人になったとして、レイハ達「非参加者」は帰してもらえるんだろうか。

117名無しさん:2014/08/09(土) 13:55:40 ID:J0SqWFB.0
投下乙!
石堀の一転攻勢がいつ起きるかずっと怖かったが、ネクサスの光がさらに継承されたということは…

118名無しさん:2014/08/09(土) 14:47:56 ID:5B0clWfc0
投稿乙です

文体が童話を読んでいるみたいで新鮮でした

翔太郎復活、魔女組救済で安心してたところで男爵の退場……世の中そんなに甘くはなかった
ところで人質にされてるオリヴィエは一体どこにいるんだろう

119名無しさん:2014/08/09(土) 14:56:13 ID:qM.T6r6s0
投下乙です

おおおおおおおおっ!?
全部が全部すげえw

120 ◆gry038wOvE:2014/08/09(土) 16:58:37 ID:ii6Lryhg0
今日中に次のSSを投下するのは進行的に絶対無理なので、今回予約分はここまでで投下終了します。

121名無しさん:2014/08/16(土) 02:07:16 ID:6Yor7iKk0
なんだかとんでもないことになってたw

122 ◆gry038wOvE:2014/08/22(金) 21:27:00 ID:KyLliesc0
投下します。

123White page(前編) ◆gry038wOvE:2014/08/22(金) 21:27:46 ID:KyLliesc0



 二日目、昼。
 ゲーム終了まで、残り二時間。







 過程の一部を省く事になるが、既に冴島邸には、既に沖一也、左翔太郎、血祭ドウコク、外道シンケンレッドらが揃っていた。彼らの道中では、高町ヴィヴィオの死の連絡もあり、翔太郎と一也がやや浮かない表情をしている事であった。
 ドウコクは酔いこそ覚めている様子だが、人間の目からは彼が酔っているやら酔っていないやら判別がつかない。顔色は酔っ払いより赤く、その素行も酒の力を借りずとも十分に乱暴な怪物なのだ。外道シンケンレッドの方は、戦い以外に関しては無関心といった様子で、戦いのない時は置物の一つと変じる事ができた。所詮は魂なき従者である。

『本当によくできていやがるな……』

 家の中を観察してそう呟いたのは翔太郎の左中指にはめ込まれたザルバである。
 この家の中を一番よく知っているのは彼であった。ザルバ専用の寝床もある。確かに、鋼牙たちが住まったあの家と何一つ変わらないようだった。──『Sleeping elderly woman』というあの絵に至るまで。
 ただ、これはザルバの勘だが、参加者や支給品こそ現物そのものだが、建造物は実物が持つリアリティとはどこか気色が異なっていた。

「あ、ああ……そうだな」

 翔太郎が知りもしないのに適当な返事をした。園咲家ほどではないが、やはり豪邸と言っていいランクの家である。緊張もある。
 彼らは他チームに連絡を行った後、他のチームがやって来るまで、次の行動を冴島邸で待っていたのだった。冴島邸の周囲には戦闘痕があったが、冴島邸の中身はほとんど無傷と言っていいほどに内装は手がかかっていない。志葉屋敷という和の豪邸を離れてみれば、今度は冴島邸という洋の豪邸にいるのだから、凡人の翔太郎としては気が気でない様子でもあった。家具一つ壊してしまえば、依頼何度こなせば元が取れるのかわからないほどである。
 ただ、既にその心配の原因となるはずの、この邸宅の主がいないのが切ない限りだった。

(……まずい。非常にまずい)

 と、こう思考するのは翔太郎だけではない。実際、翔太郎も確かに家具に座るだけで少したどたどしいが、これほど緊迫した内心ではない。
 焦燥感に鼓動を速めているのは沖一也であった。
 先ほどから少しずつ、スタッグフォンを通してバットショットの観察を行っているが、到底そこにある映像はドウコクに見せられる物ではなかった。ほんの二時間半ほど前に映ったバットショットの映像だが、これが一也にとって極めて問題になる映像だったのである。


 ──あの時だ。







 翔太郎に右腕の移植手術を終え、電話連絡も終えて、バットショットの映像を確認した時。
 その映像の中で、うっすらと見えたのは、妙な黒い実線だった。実線は地上から空のかなたまで続いていた。大気圏内に終わりがあるとは思えなかった。「軌道エレベーター」というものを彼は思い出した。しかし、最初は、ただ画面が荒れて、実際にはない物が映っているだけなのだろうと思った。
 荒れた画面からは想像もつかない物であったが、時間を経るにつれ、それが確固として地上から生えている物だと気づいた。線ではなく、塔と呼ぶべき代物──。
 何か嫌な予感が始まる。
 バットショットも、それを察知し、反応し、意識し、やがてそれを目指して飛行しているように見えた。
 バットショットが進んでいく。
 目的なき旅が悪の根城を探る正義感の旅へと、──そう変わった事で、少し使命感を固めたようである。バットショットは心なしか、スピードまで速まっていた。

124White page(前編) ◆gry038wOvE:2014/08/22(金) 21:28:47 ID:KyLliesc0
 あれが何キロ先にあるのかはわからない。
 しかし、バットショットはその一メートルでも近くに接近し、画面の中の塔を一層巨大に映してやろうと目論んでいたはずだった。
 まっすぐに、
 まっすぐに、
 まっすぐに、

 そして、────次の一瞬、バットショットの映像は途絶えた。

 一也が肝を冷やした。
 今一度、一也はその瞬間の事を思い返した。
 画面の端に黒い影が映ったかと思いきや、コンマ一秒でその黒は画面全てを覆い尽くした。それが何とは一也も考えなかったが、次の一瞬にはバットショットも既に、音も立てぬ間にスクラップである。
 心臓の肝が温まる前に、映像は砂嵐へと変わった。見知らぬ世界を見せてくれるスコープは二度とその視線を見せてはくれなかった。それから先はどれだけあがいても雑音だけが聞こえ、白と黒の不快なモザイクがかかるだけであった。
 驚いたとしても、もう既に手遅れだったのだ。

 おそらく物理攻撃を可能とする巨大な「闇」がバットショットを潰し、海に廃棄したようだ。己の根城に向かってくる不審な物体を破壊し、己の場所を守ったらしい。

 ……あったはずの手がかりは、今はもう、どこにもない。
 一機、優秀な機械がその使命を終え、機能を停止した。最後にバットショットが送った映像がこちらに届いたのは不幸中の幸いだが、今となっては、一也だけが見たあの地上から伸びている謎の物体の「記憶」だけが手がかりであった。







 あれを誰かが隠しているのだ。それこそ、地平の反対側にでも行かなければあの物体には近寄れないだろう。
 ……主催の基地とはおそらく違う。あんな巨大で歪なものを基地にする必要はどこにもない。

(……手がかりとして翔太郎くんにも伝えたいが、口にしたところでどうにもならない。バットショットが破壊されたと知れば、ドウコクはおそらく──)

 一也はしばらく悩んでいたが、悩みながらも前に進もうと考察していた。バットショットの主である翔太郎にその最後を伝えられないのは心苦しい話だが、やむを得ない。
 今に至るまで、翔太郎に伝える機会は一切なかった。
 ともあれ、こうなれば一也の方針は一つで、ひとまずゲーム終了を待つ事であった。元の世界への帰還方法をあの黒い実線に賭けるくらいしか手立てはない。

「……おい、落ち込むなよ、沖さん……」

 ふと、翔太郎が一也に対して、申し訳なさそうに声をかけた。
 ヴィヴィオの事を気にかけていると思ったのだろう。──それもまた、事実である。
 いくら経験しても、人の死は慣れないものだ。あの少女も死んだと聞くと、頭を抱えて唸りたくなる。そんな衝動も今は抑えなければならないのだ。
 仮にも、仮面ライダーである。如何なる悲しみも見せてはならない。一筋の涙や叫びが人を救えた事は、一也の人生では一度もなかった。
 そして、今、悲しみと同時に強く感じている怒りを向ける矛先は主催陣営にある。彼らを倒す為には、申し訳ないがヴィヴィオの死に追悼する時間さえ惜しいのだ。それができるのは全てを終えてからである。
 翔太郎も同じく、フェイトやアインハルトと関わりのあるヴィヴィオの死を悲しんでいないはずはないが、その想いを噛みつぶしていた。

 この先、短時間でどう生還の術を得るのか、という策を練らねばならない。
 悩めば悩むほどにその術が見つからなくなっていく。

「……いや。大丈夫だ。考え事をしていただけだ。すまないがしばらく話しかけないでくれ……」

 思案の表情を感じ取ったのか、翔太郎は声にならない声を漏らして、倒れるように椅子に坐した。
 まずはドウコクの対処である。
 味方にはなったものの、タイムリミットから後、ドウコクとの離反はほぼ確定する。あの口約束はおそらくこれ以上撤回できない。島の外に行くのに、主催撤退後が最も良いタイミングであるのは一也とて承知の上である。

125White page(前編) ◆gry038wOvE:2014/08/22(金) 21:29:23 ID:KyLliesc0
 しかし、その悠長な作戦をドウコクは許さない。長たる者の宿命として、ドウコクは結局効率的な脱出方法を選ぶ。──。



 ヴィヴィオが減るも、驚くべき事に“代わりに巴マミが仲間に加わり”、残りは十四人。







 こちらは孤門一輝一行である。
 残すは、冴島邸に向けて車を走らせるのみの彼らであった。
 先ほど通った道と同じ道を引き返しているが、乗車定員と速度は随分異なっている。今は時速100kmで走行していた。眠気が視界と判断能力の邪魔をするが、それでも辛うじて何時間かの睡眠はとっていたので、頭がぼうっとする以上の弊害はない。
 普段ならば勿論、運転ができる状態ではないので控えるべきだが、今この時は違った。
 あらゆる違法や無理も通して、前に進まなければならない。

「……というわけなんだよ」
「なるほどね……だいたい状況は理解したわ」

 全ての話を聞き終えた時点で、とにかくマミが顔を顰めた。既に彼女は魔法少女という存在ではなくなっている。だが、それでも、彼女の持つ正義感は衰えず、いまだ敵を救おうという気持ちは変わらない。
 彼女にとっては、殺し合いはまだ、六十六人の参加者を巻き込み、最後の一人を決めるゲームだった。しかし、既に大半の参加者が死亡し、生存者は僅か十四人。──あるいは、さやかが助かれば十五人。それでも五十余名もの人間が、死亡している事になる。その大半が他殺というのだから、普段の常識が通用しそうにない状況だ。
 鹿目まどか、暁美ほむら、山吹祈里、東せつな、ノーザ、来海えりか、明堂院いつき、月影ゆり、それからマミたちを襲ったモロトフなどといった面々の死に関しても情報を得て、少し落ち込みつつも、まずは自分がどんな状況にいるのかを理解する事にした。

「みんな……疲れているだろうけど、頑張って。私も出来る限りの事はするわ。もし、残り時間が少なくなって、人数が十一人以上いたら──」

 と、そこまで言ったところで、そんなマミの言葉に舌打ちを被せる杏子であった。
 鋭い眼光がマミを横目で睨む。彼女は些か気が立っていた。

「……おい。折角、こっちが命がけで助けた命、無駄にしようなんて話はやめろよ」

 その不快の根源には、確実に高町ヴィヴィオの死という現実があった。
 涼村暁と石堀光彦の二名は、一体何をしていたというのか。──大の大人二名が揃いも揃って、主催に油断をして仲間の少女を殺されたという。この車の空気も、その事実が原因で少し重たい。孤門の右足も、強くアクセルを踏み込む事で内心のわだかまりを散らせているようにさえ思えた。勿論、状況を見ていない以上、安易に二人を責めたてる気はないが……。
 そして、孤門や杏子は、ヴィヴィオの死を悲しみながらも、この場にとって利となるであろう行動を優先し、今も杏子はマミへの状況説明を行っていたが、一言、命を投げ捨てるなどという余計な覚悟──あるいは諦観──が杏子の堪忍袋の緒を引きちぎった。
 命の軽視が、この瞬間には何よりも気に入らなかったのだろう。

「こっちはな、お前の為にあんな所まで行って、お前の為に戦って、お前の為に傷を作り、──そして、お前の為に隊を分散させてヴィヴィオを死なせちまった! だが、その事を責めてるんじゃない。それを軽く捨てようっていうのが気に入らねえ」
「────」
「なんで、全部お前の為だったのか、少しは考えろ」

 マミは、ふとラブの方を見た。それでようやく、なるほど、と思った。
 こうまで言った杏子も少し前まで、マミと同じく、最終的には自死する事を考えていた事など誰も知る由もない。だが、この期に及んでまだ生きたい、という生理本能を沸かす者がいた。
 杏子とて死にたがりではない。ただ、生の先にある絶望を回避するのに最も効果的な手段が「死」であっただけである。全く別の手段があるならば、生理的本能が勝るのも無理はない。
 その術が見つかった事は嬉しかったはずなのだが、今はまた違った意気であった。

「……そうね。ごめんなさい。でも、私が力になれる事なんて、今はありそうになくて」

 マミをどこか気重にさせるのは、劣等感だ。

126White page(前編) ◆gry038wOvE:2014/08/22(金) 21:29:39 ID:KyLliesc0
 確かに彼女は魔女でなくなり、魔法少女という柵からは解放されている。だが、それは同時に戦力としての巴マミの有用性がなくなった事でもある。
 今のマミは無性にそれが耐えられなかった。

 彼女が常に守る側として生きてきたからだろう。守られる側の立場になる事で、──最近の例で挙げるなら左翔太郎のように──自分の居場所を失ったような錯覚をするのだった。誰かを守る事が誇りだった人間は、守られる側に回るのが苦手なのである。
 戦力を失ったマミは、是が非でも何かの役に立とうと必死な様子でもあった。

 周囲の目が恐ろしくもある。
 戦場で棒立ちする少女を、周りは疎ましくは思わないだろうか──。声援くらいしかできず、命がけで戦っている間にもあたふたするだけのマミを。
 役に立つ事ができない不甲斐なさは、今そんな強迫観念にも繋がっていた。
 何をしてでも役に立たなければならない。戦いの役に──。
 しかし──。

「マミさん。もう、誰かが死ぬのは嫌です……何もできなくても、何もしなくても、それでもいいから、ずっと生きていてださい……」

 ラブが、俯いて言った。潤んだ瞳を容易に想像させる震えた声だった。
 山吹祈里や東せつなを喪った事実は、まだ何度でもラブを苦しめる。まだ色鮮やかな友人の死の記憶──その思い出と遺体のフラッシュバック。
 役に立つ人など全く欲しくない。生きていて暖かい人が近くにいれば、それだけで十分なのだった。

「……」

 孤門がルームミラー越しに彼女たちの様子を見て、それから口を開いた。

「……マミちゃん、僕だって力はないよ。役に立とうと必死になる気持ちはわかる」

 孤門が半ば自嘲するような落ち込んだ口調だった。
 しかし、一言でも何か、マミを元気づけるような言葉が出れば、せめて口を挟む価値もあるだろうと思った。

「僕なんてこれまでずっと、人間以上の力は出せないんだから。戦いなんて全然できないし、……多分、ここに来てからみんなほど命を張った事だってない。だけど、力がないならないなりにできる事はあるし、ここにいるのはみんなそれを受け入れてくれる仲間たちだ。だから、自分がやれる事だけに全力を尽くせばいいと思う。……君は前にラブちゃんを助けたんだろう。それで今の僕たちがあるんだから、落ち込む必要はない」

 孤門は言わば、ただの人間だ。
 巨悪に立ち向かえるだけの力もなく、何かをなしえるだけの知恵もない。全て誰かが貸してくれた力と知恵で、孤門は人間としてそれをサポートするだけでしかない。今も車を動かすしかできず、他人の役に立っている感覚を実感するのは難しい。誰かを助ける為にレスキュー隊に入った彼が、今もまだ助けられる事の方が多いというのは因果な話である。
 しかし、そんな孤門だからこそ、ガイアセイバーズはリーダーとして彼を迎えたのかもしれない。人間の常識から外れた存在である周囲からしてみれば、孤門は羨望の対象でもありえるのだ。人の身でここまで誰かを救っている彼だからこそ、周囲は彼を適任と判断したのだろう。
 彼の懸命な救助がなければ、ヴィヴィオだって息を吹き返さなかったのだ。それが今の生をつなげている。

「……そう、ですね」

 さっと周りを見て、マミは言った。それは決して、脊髄反射で出された空っぽの返事ではなかった。意味を解し、納得した返事だった。
 マミも、この車の中を見て、孤門という男の役割がわかった気がした。いくら孤門とは別の経験をしているからといって、ラブや杏子は精神的に未熟で不安定だ。ラブや美希や杏子ほど人生経験があるわけではない。
 孤門もまだ若いが、それでも中学生に比べれば十分につらい経験を乗り超えているはずの年齢である。
 しかし、孤門には唯一決定的に、年下のマミにも適わぬ点があった。それは、マミが「ラブや杏子や美希より一年だけ年上の『女』である事だった。それは意外にも十分な取り柄であるともいえた。その視点から彼女たちの支えとなればいい。
 というところで、大まかには纏めである。

 ところで、全く言い忘れていたが、この後部座席には空席がなく、明らかに最大乗車人数をオーバーしている。シートベルトの数も合っていない。右に揺れたり左に揺れたりするとふらふらと横にシェイクされて危険である。

「おぶっ!」

127White page(前編) ◆gry038wOvE:2014/08/22(金) 21:30:12 ID:KyLliesc0

 たまに、全魔法少女中最も大きなマミの胸が横にいる杏子やラブの顔に当たる。女性としての飽くなきコンプレックスと、ひと肌の暖かさが各々の胸を焦がす。ラブも、“つぼみなどに比べれば”全く胸が小さい方ではないが、マミに比べればどうしても劣るのだった。
 まあ、わざわざ強引に描写したこの瞬間は、実にどうでも良い一幕なのだが。
 またすぐ場面を強引に切り替え、今度はルームミラー越し、孤門が時計を見つめた。

 タイムリミットは二時間を切っていた。
 ────その時である。

「ん!?」

 カスッ……しゅるしゅるしゅるしゅる……。

 シトロエン2CVが嫌な音を立てた。エンジンの音が弱まり、ゆっくりと減速して完全に路上に止まった。これはかなり悪い予感がする。
 ガソリンのメーターを見てみたが、これはまだちょっと残っていた。だというのに、エンジンキーに手を伸ばし、捻って見たが、これは全く動く様子を見せなかった。

「……あれ!? どうしたんだ!?」

 孤門がかつてないほどの焦りを見せながら、エンジンキーを何度も回すが反応がない。
 急いでいる時だというのに、何という事だろう。自分が役立てる場所に限って、こういう不幸は起きるのだ。突然のハプニングに慌てる孤門であった。何より、女性陣の前で運転に関する失態である──この気恥ずかしさはしばらく、運転席に座るたびに孤門の中に残りそうだ。
 幸いなのは、これが帰りである事。行き途中ならば洒落にならない話である。

「……どうした?」

 後部座席で、杏子が前に乗り出た。当然、異常には誰もが気づいたのだが、杏子は少し異常に対する素養があった。機械は詳しくないが、時折ながら「叩いて直す事ができる」ような人間でもある。ふとこうしてトラブルがあると、思わず前に出てしまう。

「車が動かないんだ」
「エンストか?」
「違うらしい。もしかして、この車、もうガタが来てるんじゃ……」

 そう孤門が言っている真っ最中に、他の三名も取り乱し始める。
 こんな辺鄙な場所で置き去りにされ、気づいたら十二時──などという最悪な事態が待っている可能性も否めない。

「……」

 涼村暁のシトロエン2CVは本来、こういう車であった。
 この一台の車は、持ち主のお気に入りではあるのだが、既に機械としての限界を迎えている。車検通っているのかも謎だ。
 辛うじてE−2エリアに帰ってくるまでは保ったようだが、あとの3エリア、何とか急行しなければならない。
 とはいえ、やはりエンジンは音を立てる事を許さず、車体の振動もみるみるうちになくなり、平衡になっていった。この車はもう、移動手段ではなく、金属やアルミで出来た芸術品である。鑑賞くらいしか役目はなく、刻一刻と迫りくる時間を縮めてはくれない。

「……仕方がない。この車は乗り捨てよう」
「それでどうやって移動するんだ……?」

 孤門には、一応、対処方法としては考えが一つあった。杏子の疑問に、孤門は躊躇いながらも、その唯一の方法を教える事にした。
 さて──そうなると一層プライドが剥げ落ちてしまうが、それでもこの状況下、方法は一つだ。

「……ごめん。みんな、変身して連れて行ってくれないか!」

 孤門が両手を合わせて頼んだ。変身した魔法少女やプリキュアの力ならば、車並の速さで冴島邸まで駆けられるはずである。ただ、少し情けないのがネックだ。
 言っている傍からこうなるものだから、マミも思わず呆然とする。
 杏子とラブが顔を見合わせ、やれやれと笑った。





128White page(前編) ◆gry038wOvE:2014/08/22(金) 21:30:33 ID:KyLliesc0



 D−4エリア。
 その場所を何とか見つけ出したつぼみと良牙であった。
 そこにあるのは、五代雄介という男の眠る墓である。かの男は、美樹さやかのサーベルに体を貫かれ、今は人間として土の下に眠っている。そこだけが唯一、柔らかい土に埋もれており、たとえ彼の友人であっても鼻をつまみたくなるような異臭の根源となっていた。
 そういえば、埋めた村雨良も、看取った一条薫や冴島鋼牙も、考えてみればもういないのだった。誰よりもそこに来るべき者は、一日以上の時を経て、ようやくこの墓前に立つ事ができたのだ。

「……」

 美樹さやかは、案内されるなり、その場所で口を閉ざした。
 勿論、この墓を作る原因となった事に、悪意はなかった。しかし、突発的に五代雄介という人間を殺害して、物言わぬ死体にしてしまった事を決して忘れてはならない。
 しかし、悪意の有無と、人殺しの事実は無関係である。正真正銘、そこに悪意が微塵もないならば、深く気に病み続けるわけにもいくまいが、平和に過ごした人間ならば、悪意の有無で自分の行いを正当化できないのだった。

(五代さん、ごめんなさい────)

 一人の人間の死に関わり、更にその周囲の人間の心を痛めつけた事実は決して揺るがない。さやかの握った刃が一つの命を奪い、またこの殺し合いの運命をいくつも変えていったのだろう。
 何か言葉をかける事もなく、少女はただそこで祈った。真っ白な頭の中で、必死で五代雄介の事を思い出そうとした。申し訳ない事だとは思うが、殺人という非現実の中で、目の前にない物は全て幻のように靄がかかるのだ。自分が殺人を行った事と結びついてしまう、五代の記憶が、まるで夢の中の存在のように曖昧だった。
 さやかは、必死で考えた。その名前だけを何度も唱え、ほくろの位置や少し長めの髪型といった身体的特徴を反復した。やがて、五代雄介の顔はふとさやかの脳裏で思い浮かんだ。

『さやかちゃんはゾンビなんかじゃない!』

 そうして苦労して絞り出した記憶の中の言葉が、嬉しかった一言であるのは、乙女の必然であった。
 思い出すと、頬に自然と涙が伝った。
 自分の罪は嫌というほど自覚しているから、そこから逃避する感情はいくらでも湧きあがる。そして良心の全てが、この一瞬を忘れまいと頭に全てをインプットする。
 彼女は、自分の罪ではなく、五代雄介がもうこの世にいない事を嘆いて、泣いていたのだった。自分の罪を自覚する涙では、こうも感情は揺れ動かなかった。
 あんな一言をかけてくれた五代という男が、人間として、どこか好きだったのだろう。
 まるで、大切な身内を喪ったような、そんな涙だった。後悔よりも、彼の死そのものに捧げられた涙だった。

「ッ……────」

 できる事はなかった。
 いずれそこで五代雄介に会う、その時まで──ここにいる仲間を守る。
 せめて、これからは運命を良い方向に変えていきたいと、そう願い、誓った。
 目にも、鼻にも、唇にまで涙や液体を留めた。その嗚咽をつぼみはよく聞き、しばらくさやかの肩を抱いて慰めた。
 さやかからは、言葉らしい言葉はなく、ただ、泣き声だけがせわしなく漏れていた。
 良牙と零は一歩離れた場所で、その様子を俯瞰で見ていた。

「──おい、良牙」

 第一声を投じたのは零であった。生前の五代雄介という人物に一切関係のない彼は腕を組んで木に凭れていたのである。彼は、良牙にだけそっと近づき、話しかけた。
 彼も関心がないというわけではないが、全くの他人の死に深く悲しめば、それこそ却って本当に悲しんでいる人間には失礼だと思えた。こういう時は、なんでもない振りをするのが一番の優しさなのだ。困った振りをするのも、同調して悲しんだ振りをするのも、何もかもが無礼そのものである。
 人間の成長を見届けた後は、彼も冷徹にそう言い払うしかない。
 人の死の悲しみを彼が知らないはずがないのである。──その時に最も失礼の態度を選んだつもりだ。

「なんだ?」
「先に俺だけで目的地に向かう。連絡が取れないままだと向こうも心配するだろ」

 零は、こうして無関係な自分がここで全て眺めている事に居心地の悪さも感じていたのだろう。気を使わなければならない人間がいる──という事に、気を使わせてしまうかもしれない。

129White page(前編) ◆gry038wOvE:2014/08/22(金) 21:30:48 ID:KyLliesc0
 彼女たちはここですぐに泣きやむ必要はない。泣き止むのを待って、それから行けばいい。
 しかし、零はそれを待つきはなかった。連絡が取れない現状、冴島邸の面々は心配しているかもしれない。幸いにも冴島邸はここからそう遠くないので、零の単独行動時間も短く済むだろう。

「あ、ああ……だが」
「二人は頼んだ。俺は一人の方が慣れてるし、何とかなる」

 良牙は出かかった言葉を仕舞い込み、「わかった」と返事をした。
 零は、何の気なしに、背中を向けたまま片腕挙げて、気障に去った。
 彼とて、急ぐのだろう。
 いや、急いでもらわなければ困る。

 良牙がいる場所に残されたのは、泣きすすぐ少女と、それをあやす少女。──良牙は物憂げに彼女たちを見つめていた。

(償おうとすれば、何度だってやり直せる……そう信じたいよな)

 たとえ、ここまであかねがどんな罪を重ねていたとしても。
 良牙は、あかねにこの少女の如く償おうという意思があるならば、ここにいる全員さえも敵に回してあかねを守ろうという気持ちがある。それはあかねを一人の女性として恋し、友人としても十二分に好きな相手だったからだ。
 乱馬への恩義でもある。


 しかし────。


 運命は、良牙が思っている以上の残酷を強いる時もある。







 涼村暁たち一行が冴島邸辿り着くまで、さほど時間はかからなかった。
 道中、苦難や障害は無く、ただエンジンを蒸してそこまで車両を走らせただけであった。
 リクシンキ、そして仮面ライダーアクセルの二機は、それぞれ涼村暁とレイジングハート・エクセリオンを載せて到着する。
 おおよそ、残り二時間が差し迫ったほどだった。
 あの後、あそこで少しでもヴィヴィオに関する何かが残されていないかと探っていたものの、それらしい物は一切見当たらなかった。

「────さて」

 仮面ライダーアクセルは装甲を解除し、再度、石堀光彦に姿を変えた。
 一行が辿り着いた冴島邸。
 連絡の通りならば、既にこの場には沖一也、左翔太郎、血祭ドウコク、外道シンケンレッドの四名がいるはずである。
 石堀という男は、この瞬間も胸を躍らせていた。引きつった笑みが思わず漏れる。
 携帯電話を通した連絡ではなく、石堀自身が持つ超常的な力のお蔭で飛び込んだビッグニュース。

「遂に来たか……」

 ああ、思ったよりも短かった。
 光が一人の女性の元に渡ったのである。



『────蒼乃美希』



 いかにも、多人数のパーティの中で目立たない、ごくごく普通の少女であるが、その実態はプリキュアの一人であり、新たなる光の継承者である。よもや、石堀がこの瞬間、裏切りのシナリオを組み立てたとは知らず、新たな光の継承を希望的にとらえている事だろう。

 姫矢准、千樹憐、佐倉杏子──そんなデュナミストたちでは駄目だった。彼らは絶望を知りすぎている。

130White page(前編) ◆gry038wOvE:2014/08/22(金) 21:31:05 ID:KyLliesc0
 表沙汰されない日本社会の闇を知り、その故国から離れた激動と狂気の紛争地帯を知り、その中で一筋の幸せを奪われた経験のある姫矢では駄目だった。
 危機を察知する為に悪戯に生み出された無数の命の一つであり、その中で唯一、確実な死期を待ちながら、絶望のカウントダウンを生きる憐では駄目だった。
 願いの代償に家族に疎まれ、やがて自分の宿命さえ賭けて守った家族が自壊していった絶望を知る杏子では駄目だった。
 石堀は、光を奪う時には、例に挙げた彼らよりも、数段「普通」の暮らしを生きる人間から得なければならなかった。その為、光を得る素養がある人の中でも、西条凪や孤門一輝のような普通の幸せを噛みしめていた人間を襲った。彼らが貯め続けた「アンノウンハンド」への憎しみを利用する為に。
 蒼乃美希は、彼らと同じであった。

 石堀の目的はその希望を一瞬にして絶望へと叩き落とし、確実にダークザギの力を得る事である。姫矢や憐の如く、耐性のある人間ではいけない。
 希望が絶望へと変わる時、光は闇に還元され、レーテを介して、ダークザギの力となる。────その時が、ようやく目前に控えているのだ。
 凪や孤門のように綿密を張るより、即席の行動に出なければならないが、彼女の場合は「プリキュア」の光も同時に有している。かつてキュアピーチを見た時に感じた、あの光の性質──ウルトラマンの光と同様、闇に返ればより一層の強さを引き出せる。即席でも十分だ。

 蒼乃美希の人間関係を頭の中でもう一度思い出す。──その周囲全てを殺し、後はその瞬間に美希が抱く憎しみの力をレーテに捧げよう。
 時はまだだ。残り二時間とはいえ、ダークザギにさえなれば時空など容易く破断できる。
 いわば、それこそが真なる「脱出」の時である。

 何ていう事のない三人の人間の内の一人として、石堀はその邸宅に足を運んだ。







 ゲーム終了まで、残り一時間四十分。







 冴島邸という豪邸の中で、涼村暁はぼけーっと周囲を観察していた。一体、どの家具が一番高く売れそうか、どれを借金のカタに貰っていけそうか、などといろいろ考えつつも、暁は楽しそうに歩いている。
 広い邸宅だが、まあ集まる場所といえば一つだろう。当然、机や椅子が揃ったリビング。それらしきドアを開けてみると、やはりそこには翔太郎と一也がいた。それから、どう見てもバケモノとしか思えない人相が二つあったが気にしない。

「うっす」
「おいっす。……ってなんだ、あんたかよ」

 暁の軽い挨拶に返事をした翔太郎の失望っぷりである。挨拶は意思疎通ではなく、あくまで友好関係の確認にしかならないので、実際のところ、こんなのでも十分だった。

 無事のご帰還と言いたいところだが、一也の視線は険しかった。
 それは、ヴィヴィオを守れなかった彼らを責める物ではないが、傍から見れば鬼の形相にさえ見えた。
 残り一時間四十分に達したが、ドウコクとは無言の戦闘が続いていると言っていい。残り四十分でドウコクは一也を攻撃するのである。とにかく、残りの仲間が来なければ、ドウコクと交戦する為に他を逃がすしかあるまい。現状の生存人数と照らし合わせて考えると、ドウコクが襲うのは一也だけではないだろう。
 この場所を集合地点に設定し、同時につぼみチームからの連絡が途絶えている以上は、とにかく急がねばならなかった。

「すまない……ヴィヴィオちゃんは──」

 石堀がさも申し訳なさそうに言うが、実のところ、彼にとってヴィヴィオの命など至極どうでもいい物であったが、顔付きだけはそれらしくしなければならない。

「……」

131White page(前編) ◆gry038wOvE:2014/08/22(金) 21:31:22 ID:KyLliesc0

 暁も少し黙った。いや、暁としては、全く、ヴィヴィオが生きていると知っているので、「ヴィヴィオの死」という悲しみは心のどこを探してもないのだが、彼ら全員がそれを知らずに心配している事実に、少し心を痛めたのだった。
 何も言えない自分の不甲斐ない事。流石に、勘違いで重たい気持ちを抱える彼らを小ばかにできなかった。

「……気に病まないでくれ」

 震えた声で言う一也。
 しかし、そんな彼の後ろから、坐するドウコクが野太く冷たい言葉を投げる。それは怪物らしく、人情とは無縁の言葉であった。

「いいじゃねえか、一人くらい死んだ方がこっちもやりやすいだろォ」
「何だと!?」

 激昂して立ち上がったのは翔太郎であった。誰もが不意に、テーブルを叩きつけた翔太郎の右腕に着目した。テーブルの木がめきめきと音を立てるほどの剛腕。──それがまさに、アタッチメントの力。
 二人が睨み、いがみ合う中で、一也がすぐに怒号のような一言で制止する。

「やめろ、二人とも! ……ドウコク、頼むからあと三十分は大人しくしてくれ。わざわざ火種を作る物じゃない」
『翔太郎、あんたももう少し冷静になれ。安い挑発に乗るな!』

 一也とザルバの両名に制されて、何とか翔太郎は再び坐した。
 ドウコクは、自らに命令する一也に悪態の一つでも付きたい様子だったが、一也の言う通り、今は抑えた。やはり、それなりの利口さはあった。
 しかし、結局、一也は残るタイムリミットが三十分近いという事に気づいて、拳を震わせた。

「………………あ、そうだ」

 気まずいので、暁は話題をそらす事にした。
 視線の先にドウコクの目線があったので一層気まずくなったが、またすぐさま真下を向いてポケットをまさぐる暁。情報開示である。石堀の電話連絡中の話だったので、おそらくこちらにはあのカードに関する情報が行き届いていないのだろう。
 ヴィヴィオの実際の生死については何も言えないが、これくらいの情報ならば何とか教えられる。

「あのゴハットの奴がこんなカードを俺に」

 ゴバットカード。……の裏面に記載されていたヒントである。
 ゴハットは主催者の側でも随一の変わり者で、参加者に対して時折協力的な態度を示す男だった。しかし、それはあくまでヒーローの勝利シナリオを演出する為のもので、あまりにも直接的なやり方はしない。
 ヒントを与えたり、表向きは悪魔の所業を行うようにして参加者を助けたり……といった有様である。それもその一貫であった。

「おい、俺は聞いてないぞ」
「悪い、ちょっとタイミングなくてさ、言い忘れてた」

 やれやれ、と石堀が肩を竦める。内心では暁に苛立っていたが、実のところ、暁は石堀に情報を伝える事に些か抵抗していたのだった。
 まあ、主催とはあまり直接関係がないだろうから、それ自体はどうでも良いのだが。
 翔太郎がそれをさっと横取りして、内容を読み上げた。

「桃園ラブと花咲つぼみなら、花咲つぼみ。巴マミと暁美ほむらなら、暁美ほむら。島の中で彼女たちの胸に飛び込みなさい……?」
「わけわかんないだろ? まあ、とにかくつぼみちゃんが来たらその胸に飛び込めって事だったら喜んで……」

 レイジングハートがつい手が滑って暁の高等部を殴る。ごつん、という鈍い音が立つとともに、暁は高等部を抑えた。暁が振り向くが、レイジングハートは表情一つ変えていない。

「いてて……冗談だっつうの」
「冗談に聞こえません」
「だいたい、俺はね。中学生のまだ小さい胸には────」

 ふと、その瞬間、暁と翔太郎の中でひと時、時間が止まった。
 一也や石堀にはほぼ、彼らがいま何を考えたのかは理解不能であった。ドウコクや外道シンケンレッド、レイジングハートは論外である。

132White page(前編) ◆gry038wOvE:2014/08/22(金) 21:31:40 ID:KyLliesc0

「なあ、今、何か頭の中で引っかからなかったか?」
「ああ。……お前も感じたか」

 翔太郎の言葉に、暁は共感した。きょとんとしながら暁と翔太郎を見守る他の数名。視線は何故か、不思議と心地よかった。
 翔太郎と暁。この二人だけが今、謎のシンパシーを感じたのである。
 なるほど、翔太郎と暁は、最近忘れかけていた自分たちの共通点を思い出した。

「「……わかったぜ。俺の中の探偵魂が、今、俺に何かを告げたんだ!」」

 探偵。──そう、二人は探偵であった。浮気を調査し、犬や猫や亀を探し、ある時はコーヒー牛乳を飲みながら張り込み、時折殺人事件や怪盗事件に巻き込まれるあの「探偵」である。
 この二人の探偵が出会ってしまったからには、どんな名推理が飛んできてもおかしくない。
 ホームズとルパン、金田一耕助と明智小五郎、コ○ンくんと金○一くん、レイ○ン教授となる○どくん、お○やさんと京都○検の女……あらゆる探偵は、いつも夢の共演を果たしながら難事件を解決していったのである。
 探偵と探偵が手を組めば、もう怖い物などどこにもない。

「おい、探偵」
「なんだ? 探偵」
「俺たちがこの暗号──」
「解決しようぜ、だろ? わかってるぜ」

 ガシッ。と手と手を握り合う、いまこの瞬間、二人の探偵が手を組んだのだった。
 このカードに示されている物が暗号であり、主催者に関する情報を漏洩したのだと、翔太郎も暁も直感したのだ。
 自分たちの中のいがみ合い精神は既にどこへやら。

 数時間前の事さえ鶏のように忘れながら、めぐりあった二人の探偵は、今作った決め台詞を颯爽と叫んだ。

「「この暗号……俺が絶対に解いてやる」」

 二人は同じ一点を見つめて言った。



「「────仮面ライダーW/超光戦士シャンゼリオンの名にかけて!」」







 ……ああ、まったく、なんという事だろう。

 杏子とマミは、内心でそう思っていた。マップに指示された「教会」という施設──今は脆くも崩れ去っているが、あれがまさか、あの教会だったなど。
 一帯はかつて杏子がいた教会の光景とは違い、それが、一瞬だけ別の教会とも錯覚させた。しかし、随所の特徴はほぼ確実に杏子の実家のあの教会と同じなのであった。風見野から、あの廃教会を持ってきたのだろうか。
 風都タワーや左探偵事務所、志葉屋敷に冴島邸と、実際に参加者ゆかりの場所が取り揃えられているのはよく知っていたが、まさか自分のよく知る場所もあったとは。

 あれの破壊が悪い運命を案じしていなければ良いのだが……。

 ────とはいえ。

「うりゃっ!」

 孤門を抱きかかえながら一歩十メートルというペースで疾走している杏子には、横目でそれを見るくらいしかできなかったが。
 突き出た地面を蹴り飛ばし、より一層の速度で彼女たちは進んでいく。
 彼女たちはその脚を速く動かすのではなく、立ち幅跳びで砂場の向こうまで跳べるような驚異的脚力を活かして、「歩幅」で高いスピードの走りを見せていた。

「ねえ、ちょっとどういう事よ!」

 後ろから声をかけるのはキュアベリーである。流石に二人で三人抱えるのは不可能と判断して、お休みの彼女を何とか起こしたのだ。
 キュアベリー、キュアピーチ、佐倉杏子の三人が森の中を、一歩一歩に力を込めて走っていく。

133White page(前編) ◆gry038wOvE:2014/08/22(金) 21:32:23 ID:KyLliesc0

「車がブッ壊れたんだよ! 仕方ないだろ!」
「いや、それじゃなくて──」

 ベリーが訊こうとしているのは、無論、ウルトラマンの力の事であった。
 エボルトラスターにブラストショット。いずれも、キュアベリーの手の中にある。この力が姫矢から杏子へと受け継がれたメカニズムを考えれば、次に美希に来ても全くおかしな話ではなかった。──しかし。どうして、このタイミングで。果たして、光がどのようにして回っていくのか、美希も知らない。

「──ウルトラマンの事か?」
「そうよ! それがなくなったら、あなたが困るはずでしょ!」

 魔法少女として戦闘する事に常にリスクが伴う杏子にとって、ノーリスクで変身できるウルトラマンの力は必要な物のはずである。美希はキュアベリーに変身できるが、杏子は別にキュアパッションに変身できるわけではない。ノーリスクのキュアベリーに変身できる美希ならば、わざわざウルトラマンに変身する必要はないのである。

「杏子ちゃん、美希ちゃん、一体どうしたんだい!? ウルトラマンって……」

 孤門が、困惑して口をはさんだ。ウルトラマンの話となれば、孤門が最も専門に近い。
 実際に姫矢や憐を見守っていた隊員は彼に他ならないのである。

「ウルトラマンの力、私に移り変わってしまったみたいなんです!」
「ええええええええええーーーーっ!!」

 孤門は動けないながらも驚いていた。
 新たに杏子に移ったデュナミストの力。──それが、まさかここに来て美希に移り変わるとは。
 例によって、またも女子中学生にウルトラマンの力が渡るのか。

「美希たんがウルトラマン!? ええっ!?」

 キュアピーチも驚いて声をあげた。
 彼女の腕の中でも、マミは果たしてウルトラマンがどんな物なのか現物を見ておらず、一切知らないので、ここでは口を噤んでいる。

「姫矢さんがセカンド、憐がサード、杏子ちゃんがフォースなら、美希ちゃんはフィフス……」

 セカンドデュナミスト、サードデュナミストに加えて、孤門の経験では杏子がここで新たなフォース(実質はサードだが)、美希はフィフスとナンバリングできる。孤門は抱えられながら指を折る。
 ……が、ここでこんな事を考えてしまった意図は本人さえ不明だった。案外、驚いた時はどうでもいい事が頭を支配してしまうようである。

「何数えてんだよ! いいから黙ってろ。舌噛むぞ!」
「……ほうはね(そうだね)」
「……なんだ、手遅れか」

 ガチンと舌を噛んで呂律が回らなくなった孤門を、杏子が嘆息しながら見下ろした。
 もう随分と進んだが、なるべく話しながら走るのはよくないのかもしれない。
 ……が、ベリーは疑問を投げかけ、構わず話しかけてくる。

「で、どうして私なの!?」
「知るかっ! 勝手に渡っていくんだ。別にこっちで決めたつもりはねえよ。質問があるなら、ウルトラマンに訊け! あたしはその事は何も────」

 と、まあそれを言った瞬間、杏子の体に痛覚が駆け巡った。

 やはり、というべきか。
 杏子は思いっきりベロを噛んだのだった。ただその先は、フンと顔を背け、誰も何も言わず、何かを口にする物理的リスクを察して黙々と走り進んでいくだけであった。







 しばらく、泣き止まなかったが、さやかも泣き止もうという努力はしたので、十分かそこらで、何とか落ち着いた。心臓が震える感覚はまださやかにある。
 内臓が生きている──機能している証、そのものだった。

134White page(前編) ◆gry038wOvE:2014/08/22(金) 21:32:41 ID:KyLliesc0

「……良牙さん────零さんは?」

 つぼみが訊く。零の姿が消えていたので、疑問を抱いたのだろう。
 どうやらつぼみとさやかは零の姿が消えた事に気づいていなかったようである。
 まあ、無理もないが、身の回りの事に気づかないほど何かに没頭するというのはこの場においてはまだ危険な事なのである。──いや、それほど良牙たち二人を信頼しての事なのだろうか。

「ああ、あいつなら先に冴島邸に行くってよ。……俺のせいで連絡もできてねえし」
「そういえば、そうでしたね……」

 他の数名と通信ができなかったので、周囲にかけた心配も大きいだろう。彼はここにいても仕方ないだろうし、それならばいち早く向かって報告をしてもらった方がいい。
 なるほど、それならば仕方がない。

「おれたちも、そろそろ行くか────っと、その前に」

 良牙が珍しく、冴島邸の方に自力で体を向けた時であった。
 折角、天文学的な確率で目的地の方に体が向いた瞬間であったが、さやかに伝えるべき事があるのを忘れてまた振り向いてしまった。結局、このような天性の不運もあって彼は道に迷うのだろう。
 良牙が思い出したのは、先ほど、さやかの居た奇妙な空間内ではバイオリンの音が絶えず響いていた事だった。芸術の素養が皆無皆無アンド皆無の良牙もあの弦楽器の音を聞いて、それを連想する事ができたのは不幸中の幸いか──。
 それが、良牙にとある支給品を連想させた。

「おい、さやか、だよな? あんた、バイオリンが好きなのか?」
「えっ? いや──別にあたし自身はそんな事はないけど……」

 バイオリンという単語で、やはり誰かを思い出したようである。
 良牙が何故、突然にそんな事を訊いたのかわからない。ただ、一応、良牙が少し年上らしき事を察して、口調を改めた。

「……でも、バイオリンが大好きな男の子がいました。その人の事が、私はずっと好きだったかな……」

 少し照れながら、素直に述べた。

 上條恭介。
 さやかの幼馴染であり、天才バイオリニストとして期待されていた男性だった。さやか自身は、別にとりわけクラシック音楽が好きなわけではない。ただ、恭介が好きな音楽だからと、何度も耳にして、心の奥底で何度も繰り返し流していた。
 しかし、今となっては、さやかはその人の事を思い出すだけで切ない気持ちになる。
 今流したよりも、もっとエゴに満ちた涙が流れそうになる。

「なーんて、片想い……だったんですけどね。あははははははは」

 甘酸っぱく、切ない気分になったのが一層、照れ臭かったのだろう。とにかく自嘲気味に笑う事で、なんとかそれを打開しようとしたのだろうか。

 恭介と仁美がくっついて、さやかはその間に入り込めなくなってしまったのが発端だ。
 さやかが恭介をしている程、恭介はさやかを必要としていなかったという事である。さやかの献身も、結局、恋するには繋がらなかった。見返りとして、少しでも親密になれればと思っていたさやかの少し卑しかった心も、予期せず裏切られたのだった。
 恭介も仁美も悪くないからこそ、さやかはこのどうにもできない気持ちを発散すべく、魔法少女として周囲の敵を刈り取り続けた。その日々がまた辛くさやかの心を締め付けていった。

「……」

 良牙もつぼみも押し黙った。恋にはこの二人も、苦い思い出がある。
 いや、良牙などは今も間違いなく、その恋という感情に誰よりも苦しめられているのだ。
 しかし、良牙が、さやかの気持ちをくみ取りつつも、あくまで無表情で、とある支給品をデイパックから取り出そうとする。

「……誰かの支給品の中に紛れ込んでいたんだ、こいつが」

 彼の瞳は、さやかの顔を真っ直ぐに見つめてはいなかった。ただ、事務的にそれをさやかに手渡そうという気持ちでいっぱいであった。感情を含ませると、爆発してしまいそうな想いが内心秘められていたのだ。
 恋。
 その一言が、今の良牙には重すぎる。どんな巨大な岩でも持ち上げてボールのように投げられるあの良牙でさえ、その重みに潰されそうなのだ。

135White page(前編) ◆gry038wOvE:2014/08/22(金) 21:32:55 ID:KyLliesc0

 さやかは、デイパックの口からそれが少し出てきただけでは、特に何も思わなかったのだが、実際にそれが全て晒されると、その物体が何なのかようやく理解したようだった。

「バイオリン……それ、恭介の……!」
「……やっぱりそうか」

 良牙は、只のバイオリンというつもりで差し出したが、これも参加者ゆかりの品の一つであったらしい。園咲冴子にハズレ武器として支給されていたが、どうやらこのさやかの友人・恭介の物で間違いない。
 さやかも、記憶はあやふやで、バイオリン一つ一つを区別できるほど観察眼に優れているわけではないが、ただそのバイオリンだけは忘れようはずもなかった。それはずっと、恭介の未練だった物である。しかし、このバイオリンが今は恭介の夢なのだ。

「おらよ」

 良牙は、それがさやかの知り合いの物だとわかった瞬間、押し付けるようにさやかにそれを渡した。
 少し戸惑ったが、さやかは、自分の両手が無理やり欠かせさせられたそのバイオリンの重さを突き返そうとした。

「……い、いらない! だって、あたしに恭介の大事な物に、触る資格はないし……」

 この楽器に込められた想いは、さやかにはもう重すぎる。
 本来なら、さやかにはもう触れる機会があってはならぬ物だ。血染めの腕が恋する人の夢に触れていいはずがない。もう自分がいた世界に帰れないような、そんな気持ちさえどこかにあるのだ。純粋に生きている人の前に姿を現したくなかった。
 元の世界に繋がる事物を全て忌避したくなるような感情があった。
 それに、さやか自身もこのバイオリンを見れば恭介を思い出して辛くなる。

「悪いが、こいつは絶対にあんたに受け取ってもらう。好きな人だか何だか知らねえが、そいつの物が受け取れるだけマシだ。あんたの手で元の世界の恭介とかいう野郎に渡さなきゃならねえ」
「でも……!」
「おれは!!!」

 良牙の怒号に、二人の少女はびくついた。
 一度心の根が震えたような感覚がして、そのまま言葉一つ返せなくなった。
 良牙は、ばつが悪そうに声を抑えながらも、後ろ髪を掻いて、心を曝け出した。

「おれが大好きだった人は、好きな人の為に殺し合いに乗って、今もどこかでエモノを求めているんだ……。それに比べれば、何かあるだけいいじゃねえか……」

 思い返せば思い返すほどに、胃液が吐き出されそうになるほど切なく胸を締め付ける全て。──あかねも、乱馬も、何もかもが遠い思い出となって、良牙を苦しめていく。
 良牙にとってかけがえのないはずだった物が崩れていく恐怖が良牙自身の拳を、これまでの人生のどんな時よりも強く握らせた。

「それに、そいつが……あかねさんが正気に戻って、償う気になって、それで乱馬の何かに触れようとした時に、おれはそれを止めたいとは思えねえんだ。いや、むしろ触れさせてやりたい。────あんただって同じだ。あんたがこいつに触れちゃいけない理由なんて、どこにもない」

 あかねを救いたいと願えばこそ、それよりも先にさやかという一人の少女に同じ事をしなければならないのである。この少女を許し、生きていく道を手助けしていきたい。
 それは、あかねを許そうという気持ちあればこそのやさしさであった。

「さやか。私からもお願いします。受け取ってください」

 つぼみがそれに乗るようにして言った。
 譲渡する側が頭を下げるのも変な話だが、つぼみはそれが良牙からさやかへのお願いなのだと理解していた。
 良牙はただの善意でバイオリンをさやかに渡したいのではない。いずれあるべきあかねの姿としてさやかを重ね、少しでも自分の中であかねの未来に対する安心を得たいと思っただけなのだ。
 だからこそ、今はせめて、このバイオリンを──。

「……うん」

 さやかが頷いた。このバイオリンを受け取ると決めたのだ。
 これを恭介に返すのは、さやかにしかできない事だ。せめて、ここから脱出してからさやかができるのは、それくらいの事だ。

136White page(前編) ◆gry038wOvE:2014/08/22(金) 21:33:11 ID:KyLliesc0

「ありがとう、二人とも」

 さやかが良牙に押し返そうとしたバイオリンを受け入れるように、それを抱こうとした。
 さやかの腕が、バイオリンを絡める。冷たいバイオリンの絃がさやかの腕に押し付けられる。音が鳴っているようだった。
 楽器とは不思議な物で、弾いていなくても、時折その楽器が声を発する時がある。
 あらゆる音楽がこの中に封じ込められ、この楽器の中で響いている。

「そうだよね……これはあたしの手で恭介に届けなきゃ」

 ────ただ、次の瞬間であった。

 さやかは、ふと目を見開いた。
 良牙とつぼみはその時、気づいていなかったが、森の闇の中に人影が隠れていたのが見えた。
 ……いや、それは人影というのではなかった。人のシルエットをしておらず、真っ黒で刺々しい体躯をしていた。空の向こうから黒い雲まで近づいており、間もなくここも光が雲に隠されそうになった時であった。
 まるで猛獣に対峙した時のような感覚。

「────!?」

 怪物。

 それをさやかは今、目にしていたのだ。
 さやかはその外形にも、どこか既視感があった。

「ウッ……」

 その猛獣は、よく目を凝らしてみれば五代雄介と同じく、仮面ライダークウガに酷似していた。金の角、黒い複眼、ありとあらゆる要素がそれに似ていたが、印象だけは全く違っていた。
 ──さやかは、声もあがらぬほど、そこから発される悪意に怯えたのだ。

「ウワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」

 吠えた瞬間、残るつぼみと良牙もそれに気づいたようだった。
 ふと感じたその野生の闘気──まるで猛獣と対峙した時のような気分だ。良牙は、あまりにも突然の出来事にその闘気を感じるのが遅れた。いや、あかねの事を考えてしまったがゆえだろうか。
 反射的に良牙は、背後の敵に隙の無い構えを見せた。
 ……が。

「……ウソだろッ! このタイミングで──」

 その外形を見た瞬間、良牙の両足から地面へと力が抜け落ちていくのを感じた。足が震え、まともな体制を取れない。反撃さえできそうにないようだ。
 なぜなら……そこにいたのは。
 そこにいたのは、天道あかねが変身した仮面ライダークウガに他ならなかった。

「あかねさん……ッ!!」
「!?」

 良牙の言葉につぼみが驚愕して、思わず良牙の方に顔を向けた。
 冷徹非情のクウガは、容赦なくその隙を狙った。──つぼみが気を抜いている隙に、クウガの手から紫の剣が投擲された。
 それは、物質変換能力によってクウガ自身の剣となった「裏正」である。
 つぼみが不意の攻撃に恐怖し、顔を歪めたのは一瞬の出来事。

「ひっ……!」

 変身さえできない一瞬の間に、こちらへ放たれた一撃につぼみは涙さえ浮かべた。
 つぼみの脳裏には、いわゆる走馬灯まで浮かんだのだった。高速で接近するソードが、つぼみに到達するまではおそらく一秒の間もない。
 しかし、その一秒の間に、つぼみは、父、母、祖母、友、あらゆる物の顔を思い出し、プリキュアとして巡り合った出来事や、これから生まれ来るはずの妹の事さえも考えた。
 あまりの恐ろしさに、つぼみは腕を顔の前に被せ、目を瞑った。

「……!」


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