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変身ロワイアルその6

1名無しさん:2014/08/07(木) 11:23:31 ID:V1L9C12Q0
この企画は、変身能力を持ったキャラ達を集めてバトルロワイアルを行おうというものです
企画の性質上、キャラの死亡や残酷な描写といった過激な要素も多く含まれます
また、原作のエピソードに関するネタバレが発生することもあります
あらかじめご了承ください

書き手はいつでも大歓迎です
基本的なルールはまとめwikiのほうに載せてありますが、わからないことがあった場合は遠慮せずしたらばの雑談スレまでおこしください
いつでもお待ちしております


したらば
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/15067/

まとめwiki
ttp://www10.atwiki.jp/henroy/

2名無しさん:2014/08/07(木) 11:26:02 ID:V1L9C12Q0
参加者

【魔法少女リリカルなのはシリーズ】1/7
●高町なのは/●フェイト・テスタロッサ/●ユーノ・スクライア/●スバル・ナカジマ/●ティアナ・ランスター/○高町ヴィヴィオ/●アインハルト・ストラトス

【仮面ライダーW】1/7
○左翔太郎/●照井竜/●大道克己/●井坂深紅朗/●園咲冴子/●園咲霧彦/●泉京水

【仮面ライダーSPIRITS】1/6
●本郷猛/●一文字隼人/●結城丈二/○沖一也/●村雨良/●三影英介

【侍戦隊シンケンジャー】1/6
●志葉丈瑠/●池波流ノ介/●梅盛源太/○血祭ドウコク/●腑破十臓/●筋殻アクマロ

【ハートキャッチプリキュア!】1/5
○花咲つぼみ/●来海えりか/●明堂院いつき/●月影ゆり/●ダークプリキュア

【魔法少女まどか☆マギカ】1/5
●鹿目まどか/●美樹さやか/○佐倉杏子/●巴マミ/●暁美ほむら

【らんま1/2】2/5
●早乙女乱馬/○天道あかね/○響良牙/●シャンプー/●パンスト太郎

【フレッシュプリキュア!】2/5
○桃園ラブ/○蒼乃美希/●山吹祈里/●東せつな/●ノーザ

【ウルトラマンネクサス】2/5
○孤門一輝/●姫矢准/○石堀光彦/●西条凪/●溝呂木眞也

【仮面ライダークウガ】0/5
●五代雄介/●一条薫/●ズ・ゴオマ・グ/●ゴ・ガドル・バ/●ン・ダグバ・ゼバ

【宇宙の騎士テッカマンブレード】0/4
●相羽タカヤ/●相羽シンヤ/●相羽ミユキ/●モロトフ

【牙狼−GARO−】1/3
●冴島鋼牙/○涼邑零/●バラゴ

【超光戦士シャンゼリオン】1/3
○涼村暁/●速水克彦/●黒岩省吾

【14/66】

※主催陣営の記録

3名無しさん:2014/08/07(木) 11:26:42 ID:V1L9C12Q0
ルールが長くなってしまったため、特徴的な部分だけ抜粋
詳細が知りたい方は、下記リンク参照してください

ttp://www10.atwiki.jp/henroy/pages/19.html

【変身用アイテムのデフォ支給】
基本支給品やランダムアイテムに加え、変身用アイテムがデフォルト支給されます

ガイアメモリ、デバイス、ソウルジェム等があたり、これらはランダムアイテムとは別に必ず本人に支給されます
照井竜のガイアメモリやスバル・ナカジマのデバイスのように、変身用アイテムが複数存在している場合も全て本人に支給とします
ただし、参戦時期によってはその限りではなく、例えば照井竜の場合、トライアルメモリを得る前からの参戦ならば、トライアルメモリは支給されません
また、変身アイテム以外の武装、例えば暁美ほむらの銃火器等は全てランダム支給へと回されます

固有の変身アイテムを持たない人間には、この枠でのアイテム支給はされません

※ハートキャッチプリキュアのプリキュア達には、プリキュアの種とココロパフュームを支給。妖精は支給されません。
※左翔太郎、ウルトラマンネクサスのデュナミストについて特殊ルールが存在

4名無しさん:2014/08/07(木) 11:28:29 ID:V1L9C12Q0
前スレがまだ50レス分くらい残っていますが、ちょっと長い作品が投下される可能性があるので先にスレ立てしました。
実際、どれくらいレスを消費するのかわかりかねるので、とりあえず完成分の一部を投下します。

前スレ:変身ロワイアル5
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/14759/1395464461/l50
こちら埋めていただけたら幸いです。

5 ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 11:34:02 ID:V1L9C12Q0
いまからそれじゃあ、今から投下します。
今回は196話〜200話までざっと5話分投下しますね。

6最後の六時間 ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 11:35:15 ID:V1L9C12Q0



『皆の衆、ご機嫌いかがかな? 拙者は脂目マンプク。第五回放送を担当する者だ。
 今回は重要な報告があるが、まずはいつも通り、死亡者の報告から始めさせて頂く』

 天道あかねが山道を歩いていると、ふとそんな放送が耳を打った。
 今度の放送もまた別の人間が担当するらしい。あかねにとって、放送は命綱だ。
 多くの参加者にとっては、現状辛うじて聞き逃しても問題はない物だが、死亡者や禁止エリアに関する情報を一切得ていないあかねにとっては、情報を得るのに必要不可欠である。
 彼女自身は知る由もないが、現状、単独行動をしているのは彼女のみで、繋がりを一切持っていないのも彼女だけであった。

 とにかく、彼女は名簿と地図を出して、一体どんな内容の放送が行われるのか待っていた。
 今頃そんな体勢で放送を待っていたのは、おそらく彼女のみである。
 既に他の参加者は自分以外の参加者のスタンスも把握し、生者死者も一目でわかるほどである。禁止エリアに関する下調べも全く不要であった。
 彼女自身も、自分がどれほど道化であるのかも知らぬまま、ペンを取り出していた。

『今回の死亡者は、三名。ゴ・ガドル・バ、冴島鋼牙、結城丈二──以上だ。
 残る人数は十四名。前回と同じく、禁止区域はない』

 あかねは、ペンを持つ手をいずれかの名前に近づけようとしていたが、その手をすぐに止める。

 ────ゴ・ガドル・バ?

 ダグバの仲間であるあの怪物が、もう既に殺されてしまった? この放送が本当ならば、そういう事になる。
 あかねにとって、ガドルこそが残る最後の「仇」であった。ゴオマもダグバも死んだ現状、唯一、あかねが自らの手で必ず殺さなければならない相手であった。
 グロンギを殺し、仇を討つ事が当面のあかねの目標であった。
 結局、あかねは誰も「仇」を殺せていないというのか──?
 自分は今も、ガドルを殺す為にホテルを出て、こうしてここまでやって来たのだ。

最初の一人の名前を聞いて、そこから先の名前は耳に入らなかった。残りの二人の名前は彼女が意識を向けるほどではなかった。

(嘘……うそ……)

 それならば、何故……自分はこんなに……。
 頭の中が真っ白になるが、それでも放送は重要な情報を伝え続ける。

『さて、ここからが本題だ。
 多くの者はわかると思うが……積極的に殺し合いをしている参加者は、最早少数。このままでは殺し合いの続行そのものが危ぶまれる状況でござる。圧倒的多数が首輪を解除し、殺し合いを拒否している状況では、こちらもどうする事もできないのだ。
 不服だが、この状況だ。拙者たちもおとなしく負けを認めよう。この殺し合いは、現在生き残っている人間たちの勝利でござる』

 勝利。
 聞こえのいい言葉だが、あかねはまだ勝利と呼べるような事は何もしていない。
 あるのは、むしろ敗北感だ。殺し合いに乗り、首輪もつけているあかねはかなりの少数派なのだという。ゴオマもダグバもガドルも、どこか見知らぬ場所で死んでいってしまった。
 これから戦っていく事に、価値はあるのだろうか?
 これまでの戦いにはどれだけの価値があったのだろう。……ガドルも結局、誰かが殺してしまったという。
 自分から仇を奪う何者かがいた。
 許せるはずがない。……そう。



『──────即ち、最後の一人が決まらない状況でも、生きている全員で元の世界に帰還する権利を与える』



 生還? ……いや、自分はそんな事は望んでいない!
 一つの大いなる目的があって、そのために殺し合いに乗っているのだ。
 殺し合いがどんな目的で行われているかは全くわからないが、向こうの提示した目的の為に必死で働いて来た。

7最後の六時間 ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 11:35:37 ID:V1L9C12Q0

 ある意味、殺し合いに乗るという事自体は主催への奉仕でもある。
 その厚意を突き放して、勝手に殺し合いを中断するなど許されるはずがない。
 今生きている人間が全員生き残ってどうする? 仮に全員が生き残ったとして、死んでしまった人間はどうなる?
 死んだ人間の為に殺し合いをする自分は、利用するだけ利用されて捨てられてしまうのか?


『皆の衆には嬉しい報告だろう。これぞ勝者の証だ。
 ……ただし、これまた最後に、たった一つだけ、ちょっとした条件がある。
 その条件とは、【残り人数が正午までに十名以内になった場合に限る】という事だ。
 それから、もし、その方法で生き残った場合、こちらからの報酬は残念ながら与える事はできない。報酬を受け取ろうという意思ある者は、正午までに全員を殺せば報酬を与える』

 その瞬間、思わずあかねは叫んだ。
 空中に映る脂目マンプクの肥満体に向けて、声を張り上げて叫んだ。
 喉の奥から、叫びは自分の意思に反して押し出されていく。

「報酬が与えられない!? それってどういう事よ……!!!! 私が欲しいのは、ただの生還じゃない……!!!! こんなの、裏切りじゃない!!!!!!!!!!」

 ただ帰るだけではない。
 誰かの為に戦わなければならない。
 あかねの目的は優勝。
 それだけは揺らがない。

 残り参加者は何人だ?
 あと六時間でそれを全員?
 無理だ。どう考えても。
 しかしやらなければならない。
 時間が惜しい。
 何でもいい。
 全部殺さなければ。

「うわあああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!!!!!!」

 あかねの中の憎しみが膨らんでいく。
 あかねの体を、一瞬で黒き戦士に“変身”させる。

「ウワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」

 伝説の道着は、その瞬間を見て、思わず逃げ出そうとした。
 邪気があかねの体を変貌させ、非人へと変える。

「ヴヷォ゙ア゙ル゙ァ゙ァァァァァァァァァァァ」

 あかねはプロトタイプアークルの力を無意識下に発動したのである。
 あかねの体が白いクウガへと変身した後、今度は黒へ。
 凄まじき戦士、と呼ばれた新たなる体へと。
 刺々しくなった体つきは、既にあかねの面影などどこにも残していなかった。
 人間としての理性を残さず、ただ参加者を狩るべく、己の意思を捨てた姿。
 真っ黒な瞳が朝方の森に小さな闇を作る。



「…………ッガァァァ!!!!! ウガアアアアアアアアアアアアアアァァァッ!!!!!!」



 ────あらゆる物への憎しみが、すぐに彼女を怪物へと変えていくのに時間はかからなかった。
 既にそこに天道あかねはいない。
 天道あかねを取り込み、伝説の道着を取り込み、メフィストの闇を取り込み、その瞬間に巻き起こった裏正の無念や後悔さえも全て取り込み、飲み干した。
 まさしく、それは狂戦士。

 彼女を救える物はどこに────。

8最後の六時間 ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 11:37:14 ID:V1L9C12Q0

【2日目 朝】
【D−7 森】
【天道あかね@らんま1/2】
[状態]:アマダムの力暴走、アマダム吸収、メフィストの闇を継承、肉体内部に吐血する程のダメージ(回復中)、ダメージ(極大・回復中)、疲労(極大)、精神的疲労(極大)、胸骨骨折(回復中)、 とても強い後悔と悲しみ、ガイアメモリによる精神汚染(進行中)、自己矛盾による思考の差し替え、動揺、「黒の二号」に変身中(自分で解除できない)
[装備]:伝説の道着@らんま1/2、T2ナスカメモリ@仮面ライダーW、T2バイオレンスメモリ@仮面ライダーW、二つに折れた裏正@侍戦隊シンケンジャー、ダークエボルバー@ウルトラマンネクサス、プロトタイプアークル@小説 仮面ライダークウガ
[道具]:支給品一式×4(あかね、溝呂木、一条、速水)、首輪×7(シャンプー、ゴオマ、まどか、なのは、流ノ介、本郷、ノーザ)、女嫌香アップリケ@らんま1/2、斎田リコの絵(グシャグシャに丸められてます)@ウルトラマンネクサス、拡声器、双眼鏡、インロウマル&スーパーディスク@侍戦隊シンケンジャー、紀州特産の梅干し@超光戦士シャンゼリオン、ムカデのキーホルダー@超光戦士シャンゼリオン、滝和也のライダースーツ@仮面ライダーSPIRITS、『長いお別れ』@仮面ライダーW、ランダム支給品1〜2(溝呂木1〜2)
[思考]
基本:"東風先生達との日常を守る”ために”機械を破壊し”、ゲームに優勝する
0:暴走
[備考]
※参戦時期は37巻で呪泉郷へ訪れるよりは前、少なくとも伝説の道着絡みの話終了後(32巻終了後)以降です。
※伝説の道着を着た上でドーパント、メフィスト、クウガに変身した場合、潜在能力を引き出された状態となっています。また、伝説の道着を解除した場合、全裸になります。
また同時にドーパント変身による肉体にかかる負担は最小限に抑える事が出来ます。但し、レベル3(Rナスカ)並のパワーによってかかる負荷は抑えきれません。
※Rナスカへの変身により肉体内部に致命的なダメージを受けています。伝説の道着無しでのドーパントへの変身、また道着ありであっても長時間のRナスカへの変身は命に関わります。
※ガイアメモリでの変身によって自我を失う事にも気づきました。
※第二回放送を聞き逃しています。 但し、バルディッシュのお陰で禁止エリアは把握できました。
※バルディッシュが明確に機能している事に気付いていません。
※殺害した一文字が機械の身体であった事から、強い混乱とともに、周囲の人間が全て機械なのではないかと思い始めています。メモリの毒素によるものという可能性も高いです。
※黒岩が自力でメフィストの闇を振り払った事で、石堀に戻った分以外の余剰の闇があかねに流れ込みメフィストを継承しました(姿は不明)。今後ファウストに変身出来るかは不明です。
 但し、これは本来起こりえないイレギュラーの為、メフィストの力がどれだけ使えるかは不明です。なお、ウルトラマンネクサスの光への執着心も生じました。
※二号との戦い〜メフィスト戦の記憶が欠落しています。その為、その間の出来事を把握していません。但し、黒岩に指摘された(あかね自身が『機械』そのものである事)だけは薄々記憶しています。
※様々な要因から乱馬や良牙の事を思考しない様になっています。但し記憶を失っているわけではないので、何かの切欠で思考する事になるでしょう。
※ガミオのことをガドルだと思い込んでいます。
※プロトタイプアークルを吸収したため仮面ライダークウガ・プロトタイプへの変身が可能になりました。
※自分の部屋が何者かに荒らされていると勘違いしています。おそらくガドルやガミオだと推定しています。
※どこに向かうのかは後続の書き手さんにお任せします。

9 ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 11:38:18 ID:V1L9C12Q0
196話は以上です。
続いて197話を投下します。

10崩れ落ちた教会の真横で ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 11:40:04 ID:V1L9C12Q0



 孤門一輝が運転するシトロエン2CVの中にも、当然脂目マンプクの放送は響いた。
 放送内容によれば、なんでもゴ・ガドル・バはあの時点で確かに死亡したらしい。それについては安心して良いらしく、冴島鋼牙や結城丈二といった犠牲者には申し訳なく思いながらも、ガドルの死を彼は、少しくらいは喜んだ。これ以上、自分や周囲が犠牲になる状況は防げる事になる。
 ガドルが死んだならば、ドウコクが仲間になった現状では、危険になるのはあかねだけだ。
 残すところ、十四名。──そう、それを聞いたまでは良かった。

「十人……」

 正午までに残り人数を十人まで減らさなければならない、という条件が伝えられた。

 この条件が、孤門たちにとって最悪なのである。
 実は条件そのものが孤門たちの精神に及ぼす影響はそこまではない。ここまで築かれた信頼関係を崩壊させようという気はさして無いからだ。孤門たちの多くは、相互的に犠牲を強いたりする人物ではない。
 だが、唯一の問題は血祭ドウコクである。

 志葉屋敷に置いてきたドウコクが、果たしてこの条件に乗らないでいてくれるかが孤門たちにはわからない。──いや、むしろ、乗る可能性の方が高いだろう。
 あの時点でドウコクを仲間に引き入れたとはいっても、こうした条件が提示された時にドウコクがどう行動するのかは想定の範囲外なのだ。これまでドウコクが自分たちを何度も襲撃してきた記憶は嘘をつかない。
 ドウコクが求めるのは効率の良い帰還方法である。そして、その理念に基づいて最も効率的なのかを考え、結果的に仲間になったのが彼だ。この状況下、敵側の条件で勝利を得ようとする確率も否めない。

 引き返す、という手段も孤門にはある。
 だが、孤門はこのまま引き返す気はなかった。アクセルを緩めず、車は真っ直ぐ前に走っていく。窓は外の景色を置き去りにした。

「ラブちゃん、沖さんに連絡を頼む。ドウコクが暴れていないか、少し心配だ」

 真横からラブの名前を呼んだ。
 孤門はフロントガラスの向こうを見ていた。向こうには、倒壊した建物の姿が見えた。おそらく、それは教会だ。道路沿いにある施設は、他にない。
 崩落した建物の横を走っていると、まるで地震やビースト災害の現場に来ている気分である。人里離れたこの平原に、教会が一つ、支柱を失い傾いていた。
 こんな状況では、地に落ちた十字架が何かを暗示しているようにも見えて恐ろしい。

「それなら、引き返したら……」
「悪いけど、今から引き返す余裕はない。こっちもなるべく六時間以内で決着をつけなきゃならないんだ」

 シトロエンが走る最中、二人は不安を抱えていた。
 引き返さないのには理由がある。
 今から引き返したとしても明らかに手遅れなのだ。ここまでの道のりを考えればわかる。何十分かかけて走って来た道なのだ。引き返すのには同等の時間がかかり、その間に物事の決着がつく余地がある。
 一也ならば、説得するか、防衛するかのどちらかに成功できるかもしれない。──それに賭けるしか手はないのだ。
 残り十名まで減らす、というのは案外難しくない話であるのは少し問題だ。
 ここまでの死亡人数を考えれば、六時間に減る人数として妥当でもある。
 ドウコクも満身創痍であるが、こちらも同様だ。多くの参加者は傷を抱え、負担を背負い、更に頭の上から疲労と汗を被っているような状態である。隙を突けば脆く崩れるのはお互い様だ。有利なのは、最初から非人にして、科学でも埋められないような圧倒的な身体能力を持っているドウコクだろう。

 たった十人が生き残れるとしても、彼らガイアセイバーズは十二人いる。それに加えて、あかねやさやか、マミも助けたいという欲が張っている状況なのが実情だ。
 目的全てを果たすと、どう考えてもマイナスが生じてしまう。
 それでも彼らは、救える限り全員で生還する必要がある。この殺し合いの黒幕だって捕まえなければならない。────残り六時間で、すべて解決して脱出するのだ。
 その為には、まず、それぞれが今すべき事をして、冴島邸に全員で集合するのがベストな手段である。

 孤門たちは、すぐに教会の横を通りすぎ、その先へ進んでいく事になった。





11崩れ落ちた教会の真横で ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 11:40:21 ID:V1L9C12Q0



 佐倉杏子の耳には、全て聞こえていた。
 彼女は、後部座席で目を閉じながらも、脂目マンプクの言葉を全て頭の内に留めたのである。紙とペンでメモライズする必要はまるでなかった。

(私たちの中から、十人選んで、残りは死ななきゃならない……)

 彼女は確かに、死にたくないと思っている。自分の命は当然惜しく、今持っている意思が消えさえる事にも抵抗がある。だが、どっちにしろ近々死ぬ道しかないのが──彼女たち、魔法少女だ。
 ソウルジェムの仕組みがその理由である。ソウルジェムが濁れば、元の世界に帰ろうが結局は碌な道を辿れない。他人の犠牲を強いて得た生もまた儚く、ましてそれが次の生を妨害する。それならば、いっそここで命を絶つのも一つだ。
 魔女になる前に死ぬ──という最後の機会である。

 正午までは時間がある。それまでに犠牲になるべきは、まずドウコク。それから自分自身。本当にあの時に会ったままなら、あかねもそうだ。そして、残念ながらあと一人強いるべき犠牲が要る。
 ただ、あと一人という所まで残せば、きっと誰かが犠牲になるだろう。
 それが美希やヴィヴィオじゃないのはまず確実だ。それに、つぼみやラブでもない。彼女たちは「女」であり「子供」でもある。守られるべき存在としては至極わかりやすい特徴を持っている。犠牲になるのはおそらく成人男性。名乗り出てくれるであろう男として、一人だけ杏子の頭の中に候補が浮かんだが、──あの男は自分の命を惜しむのだろうか。

(クソ……)

 彼女の中に浮かんだのは翔太郎であった。それは今でも全く間違いなかった。もし、彼もまた死にたがりであったのなら、ある意味、彼と心中する羽目になるのだろうか。
 いや、今の彼とそうなるのは御免だが──考えてみれば、杏子も本質的には、今思い描く彼と同様の死にたがりであったのかもしれない。同族嫌悪というやつに似ているかもしれないが、その死にたがりな性質が無性に腹立たしくなった。

(──)

 この状況ならば自分が犠牲になっても良いと、本気でそう思っている自分がいた。
 そんな自分が嫌じゃない。
 しかし、仮にもし、翔太郎がそれと全く同じ事を考えるのは何故か嫌になる。

(……)

 杏子は、目を閉じたまま、外の景色はわからないまま、車の流れに揺られていた。
 懐かしい仲間や家族に会うまでの時間が、刻一刻と迫っているのを彼女は感じている。

 そうだ。今は何をしなければならないのだったか。
 そう、これから、できる限りの手段を尽くしてマミを助けに行くのだ。

 救済──それがラブの選んだ手段である。

 プリキュアらしい思考であった。ある限りの物は心の隅まで幸で満たそうとする。しかし、今というのは本当にそれが実利的に正しいのかわからない事態だった。マミが救われれば、また一人、犠牲にならなければならない命が増えてしまうのである。
 ……だが、杏子の場合、もしかすればマミを救いたいと思うのは、マミにまた生きてほしいからじゃないのかもしれないとも思っていた。だから、ほんのひと時生きていて貰えればいい。昔の事を少し謝りたいのと、マミが人に害を加える存在として散っていくのが許せないからだ。それなら、ひと時でも正気を取り戻してほしい。
 それだけなのだ。
 一瞬でもいい。その後、一緒に逝くのでもいい。杏子はきっと、未練があるから、その未練を晴らしたいだけなのだ。

 車体が緩やかなカーブを走っていく時……ふと、昔死んだ家族の声が聞こえたような気がしてきた。
 眠りにつく杏子には、自分の真横で見覚えのある教会が倒壊している事など気づく余地もなかった。





12崩れ落ちた教会の真横で ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 11:40:41 ID:V1L9C12Q0



 桃園ラブは、ショドウフォンでスタッグフォンに電話をしようとしていた。
 リンクルンが通信機能を妨害されている以上、使用できる携帯電話はこちらのショドウフォンである。少し使いづらいデザインの携帯電話だが、まあ主な用途が通話と変身ならば仕方がない。
 ラブが思い切って使う事は難しそうだ。

「もしもし……」

 pllllllllll……。
 pllllllllll……。

 何度か鳴った後だが、一向にスタッグフォンは応答しなかった。
 これがラブの中で、焦りを加速させる原因になる。今、ラブたちが突き進んでいる真後ろでは、ドウコクが暴れ、知っている人たちが死んでいるかもしれない──その不穏が一瞬にして説得力を持った。
 電話に出られないという事は、向こうも相応の問題が発生した証だ。一度目ならば、まだ気づいていないだけという事もある。

「もしもし……」

 二度発信したが、応答はなかった。
 この状況で全く応答がないというのは、一也の身に何かあった証である。一也ならば常に電話を注視するだろうし、何もなければ反応に気づかぬはずがない。ドウコクの首輪を解除している真っ最中という可能性も考えられるが、それならば、翔太郎でも最低限の電話連絡はできるのではないだろうか。実際に彼は片腕で杏子に電話をかけた事もある。
 しかし、──仮に何があったとしても、それでもラブたちはこの先にいるマミを助けなければならない。これから先に向かうとして、残り六時間の尺をマミと一也の二つの事に裂く事は難しい話であった。
 どちらかを助ける為にどちらかを捨てなければならないジレンマがラブを迷わす。


「応答、ありません……」

 そう寂しそうに言うラブの真横で、孤門はいっそう辛さを噛みしめて前を向いていた。
 ハンドルを握り、アクセルを踏み、フロントガラスの向こうを見つめている。彼は、車を運転しながらも、一也への心配が晴れぬまま、不安そうであった。しかし、それをかみ殺していた。

「……メールを、入れておいてくれ」

 メールが届いたところで、彼らはどうなっているのかわからない。
 ただ戦闘中のゴタゴタがあっただけで、ともかく生存はできているかもしれない。
 それなら、おそらくメールがちゃんと返ってくるはずだ。小手先の希望を抱きながら、彼らは走った。

「……」

 少しだけ、不安の方が大きかった。







 蒼乃美希は、全て聞きながら、ドウコクの性格について考えていた。
 果たして、血祭ドウコクは本当にこの放送を機に行動するだろうか。──結論から言えば、彼女にはそうは思えない。
 確かに、最も効率的な判断ができる人間かとは思うが、ドウコク自身、極力、周囲の人間を殺さずに行動しようとしているきらいはある。
 彼は殺戮を好んでいるだろうが、同時に自分にとってマイナスな殺戮はせずに済ませられる種であった。だから、美希は以前、アインハルトとともにそんなドウコクの性格を突くような作戦を一つ練る事ができたのである。
 直感レベルの話だが、説得の範囲で何とかなりそうな相手だとは思えた。

(どっちにしても、最悪の状況という可能性は低そうね……)

 それから、美希がドウコク以上に評価しているのは、沖一也だ。沖一也は彼らが考えているより、もう少し冷静に行動できる素質のある人間であった。

13崩れ落ちた教会の真横で ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 11:40:59 ID:V1L9C12Q0
 たとえば、「放送が終了するまで首輪を外さない」という判断は容易にできる。
 禁止エリアそのものは解除されていないからだ。結局のところ、残り参加者全員が禁止エリアに留まってしまえば、首輪付のドウコクはその後、参加者を十人に減らす行動ができない。そもそも禁止エリアの存在が首輪を装着した参加者には厄介である。首輪という枷がある限り、彼も自由は保障されないだろう。
 一也も、放送終了まではドウコクの首輪を外さずに様子を見ていた可能性が高い。

(可能性として考えられるのは、今が首輪を解除している真っ最中か、あるいは説得の真っ最中か……っていうところかしら)

 美希は眠りそうな頭でも考える。
 放送からすぐは返事が来ないのも無理はないが、ひとまず心配はいらないだろう。
 孤門もラブも心配しているようだが、少なくとも問題はないと考えていた。
 薄目で杏子を見ると、そちらも少し眠ったフリをしながら、どうも落ち着かない様子で指先を微かに震わせていた。
 シートに隠れて見えない場所で、まるで自分が起きているアピールをしているかのようでだった。







 それから、間もなくの出来事である。

「……孤門さん、沖さんからメールが返ってきました!」

 ラブが嬉しそうに言うのを、美希は「やはり」と思いながら聞いた。
 ほっと一安心というところだろうか。彼女は、暗いムードから明るい方向へと変わった転機を見計らって、ぱっと目を覚ました。

「あー、よく寝た……」

 本当は寝ていないが、美希は車内の狭さに気を使いながら伸びをした。正直、この車は狭すぎてストレスも溜まる。女子中学生三人と運転手一人でも随分と狭い。これでマミが加われば余計に大変な事になりそうだ。

「あ、美希たんおはよー」
「おはよう。……で、何が返って来たの?」
「うん? ああ、沖さんからのメールだよ」

 二人が心配しているほどではなかったらしく、実際、一也から返って来たのは『心配するな』という内容で、ひとまずラブたちは安心するのであった。そして、そのメール内の一也からの指示通り、バットショットから送信された動画の方にも目を通し、彼女たちもこちらの物語が動いている事を充分に実感していた。
 これから戦いに向かう車の中の、ちょっとした出来事であった。



【2日目 朝】
【F−2 倒壊した教会付近】

14崩れ落ちた教会の真横で ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 11:43:09 ID:V1L9C12Q0
【孤門一輝@ウルトラマンネクサス】
[状態]:ダメージ(大)、ナイトレイダーの制服を着用、精神的疲労、「ガイアセイバーズ」リーダー、首輪解除、シトロエン2CV運転中
[装備]:ディバイトランチャー@ウルトラマンネクサス、シトロエン2CV@超光戦士シャンゼリオン
[道具]:支給品一式(食料と水を少し消費)、ランダム支給品0〜2(戦闘に使えるものがない)、リコちゃん人形@仮面ライダーW、ガイアメモリに関するポスター×3、ガンバルクイナ君@ウルトラマンネクサス、ショドウフォン(レッド)@侍戦隊シンケンジャー
[思考]
基本:殺し合いには乗らない
0:ラブの案内で図書館の方へ向かう。
1:みんなを何としてでも保護し、この島から脱出する。
2:ガイアセイバーズのリーダーとしての責任を果たす。
[備考]
※溝呂木が死亡した後からの参戦です(石堀の正体がダークザギであることは知りません)。
※パラレルワールドの存在を聞いたことで、溝呂木がまだダークメフィストであった頃の世界から来ていると推測しています。
※警察署の屋上で魔法陣、トレーニングルームでパワードスーツ(ソルテッカマン2号機)を発見しました。
※警察署内での大規模な情報交換により、あらゆる参加者の詳細情報や禁止エリア、ボーナスに関する話を知りました。該当話(146話)の表を参照してください。
※魔法少女の真実について教えられました。


【桃園ラブ@フレッシュプリキュア!】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)、左肩に痛み、精神的疲労(小)、決意、眠気、首輪解除
[装備]:リンクルン@フレッシュプリキュア!
[道具]:支給品一式×2(食料少消費)、カオルちゃん特製のドーナツ(少し減っている)@フレッシュプリキュア!、毛布×1@現実、ペットボトルに入った紅茶@現実、巴マミの首輪、工具箱、黒い炎と黄金の風@牙狼─GARO─、クローバーボックス@フレッシュプリキュア!、暁からのラブレター
基本:誰も犠牲にしたりしない、みんなの幸せを守る。
0:図書館の近くで魔女になるマミの事を──。
1:マミさんの遺志を継いで、みんなの明日を守るために戦う。
2:犠牲にされた人達のぶんまで生きる。
3:どうして、サラマンダー男爵が……?
4:後で暁さんから事情を聞いてみる。
[備考]
※本編終了後からの参戦です。
※花咲つぼみ、来海えりか、明堂院いつき、月影ゆりの存在を知っています。
※クモジャキーとダークプリキュアに関しては詳しい所までは知りません。
※加頭順の背後にフュージョン、ボトム、ブラックホールのような存在がいると考えています。
※放送で現れたサラマンダー男爵は偽者だと考えています。
※第三回放送で指定された制限はなかった模様です。
※暁からのラブレターを読んだことで、石堀に対して疑心を抱いています。
※結城丈二が一人でガドルに挑んだことを知りました。
※魔法少女の真実について教えられました。

15崩れ落ちた教会の真横で ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 11:43:20 ID:V1L9C12Q0

【蒼乃美希@フレッシュプリキュア!】
[状態]:ダメージ(中)、祈里やせつなの死に怒り 、精神的疲労、首輪解除
[装備]:リンクルン(ベリー)@フレッシュプリキュア!
[道具]:支給品一式((食料と水を少し消費+ペットボトル一本消費)、シンヤのマイクロレコーダー@宇宙の騎士テッカマンブレード、双ディスク@侍戦隊シンケンジャー、リンクルン(パイン)@フレッシュプリキュア!、ガイアメモリに関するポスター、杏子からの500円硬貨
[思考]
基本:こんな馬鹿げた戦いに乗るつもりはない。
0:ラブの案内で図書館の方へ向かう。
1:ガイアセイバーズ全員での殺し合いからの脱出。
2:杏子たちの隠し事については…。
[備考]
※プリキュアオールスターズDX3冒頭で、ファッションショーを見ているシーンからの参戦です。
※その為、ブラックホールに関する出来事は知りませんが、いつきから聞きました。
※放送を聞いたときに戦闘したため、第二回放送をおぼろげにしか聞いていません。
※聞き逃した第二回放送についてや、乱馬関連の出来事を知りました。
※警察署内での大規模な情報交換により、あらゆる参加者の詳細情報や禁止エリア、ボーナスに関する話を知りました。該当話(146話)の表を参照してください。
※魔女の正体について、「ソウルジェムに秘められた魔法少女のエネルギーから発生した怪物」と杏子から伝えられています。魔法少女自身が魔女になるという事は一切知りません。


【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、ソウルジェムの濁り(中)、腹部・胸部に赤い斬り痕(出血などはしていません)、ユーノとフェイトを見捨てた事に対して複雑な感情、マミの死への怒り、せつなの死への悲しみ、ネクサスの光継承、ドウコクへの怒り、真実を知ったことによるショック(大分解消) 、首輪解除、睡眠?
[装備]:ソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ、エボルトラスター@ウルトラマンネクサス、ブラストショット@ウルトラマンネクサス
[道具]:基本支給品一式×3(杏子、せつな、姫矢)、リンクルン(パッション)@フレッシュプリキュア!、乱馬の左腕、ランダム支給品0〜1(せつな) 、美希からのシュークリーム、バルディッシュ(待機状態、破損中)@魔法少女リリカルなのは
[思考]
基本:姫矢の力を継ぎ、魔女になる瞬間まで翔太郎とともに人の助けになる。
0:ラブとともにマミの死地に向かい、魔女と戦う。 だが、その後はどうする?
1:翔太郎達と協力する。
2:フィリップ…。
3:翔太郎への僅かな怒り。
[備考]
※参戦時期は6話終了後です。
※首輪は首にではなくソウルジェムに巻かれています。
※左翔太郎、フェイト・テスタロッサ、ユーノ・スクライアの姿を、かつての自分自身と被らせています。
※殺し合いの裏にキュゥべえがいる可能性を考えています。
※アカルンに認められました。プリキュアへの変身はできるかわかりませんが、少なくとも瞬間移動は使えるようです。
※瞬間移動は、1人の限界が1キロ以内です。2人だとその半分、3人だと1/3…と減少します(参加者以外は数に入りません)。短距離での連続移動は問題ありませんが、長距離での連続移動はだんだん距離が短くなります。
※彼女のジュネッスは、パッションレッドのジュネッスです。技はほぼ姫矢のジュネッスと変わらず、ジュネッスキックを応用した一人ジョーカーエクストリームなどを自力で学習しています。
※第三回放送指定のボーナスにより、魔女化の真実について知りました。

16 ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 11:44:53 ID:V1L9C12Q0
197話は以上です。
続いて、198話を投下します。

17The Little Mermaid ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 11:46:07 ID:V1L9C12Q0



 花咲つぼみ、響良牙、涼邑零の三名は変わらず森の中を進行中であった。
 先頭はつぼみ、その後に良牙を挟んで零がいる。良牙を迷子にしない為の見事な隊列である。これ以外の形があろうか。
 つぼみが行くべき場所は、さやかの死地、あの砂利石の川岸であった。アマリリスの花が一輪──おそらくもう枯れてしまっただろうあの花とともに川のほとりで風を受け続ける一人の少女に会う為に。
 その後、冴島邸でさやかの生存を報告できたら、と内心では思うが、「絶対」と口に出しつつ不安は内面に少しあった。
 その歩みの真っ最中、脂目マンプクによる放送が響いた。

『────健闘を祈る』

 三人はそれを隅々までよく聞いた。ガドルの死が確定し、新たなルールが彼らに伝えられる。マンプクによる放送は、これまでの放送と違い、ゲームそのものの終了を予告する内容であった。
 ゲーム終了の時刻は六時間後の十二時。しかし、安心はできない。現在生き残っている数は十四人。生き残れる数は十人に増えたが、それでも犠牲を作らなければならないという点で変わりはない。
 それは絶対に避けなければならない事態である。自分たちは全員で生き残らなければならない。犠牲などという言葉は使う気はないのだ。

「……この悪趣味なゲームももう終わりか。だが奴ら、逃げる気だ」
「逃がしたらこっちの負けだ。一刻も早く用を済ませて殺し合いを終えなきゃならねえ」

 良牙は腕をぽきぽきと鳴らした。
 つぼみも、二人とおおよそ意見は同じだった。残り六時間の仕事としては多すぎるが、それでも果たす為に努力を惜しんではならない。このまま怠けていれば、脱出など不可能だ。おそらくだが、人生で最も真剣な働きが期待される六時間である。

 まずは、人魚の魔女のもとへと向かい、その後でこの殺し合いの主催者のもとに向かうのがおおよそのルートだろう。
 この殺し合いを起こした主催者たちを逃がすつもりはない。少なくとも、向こうがタイムリミットを設定したからにはそれまでは平気だと思われる。
 ……そして、仮にタイムリミットを過ぎたとしても、勿論、外に出る方法は捜すしかない。そうなってしまう可能性も高そうだ。
 少なくとも、殺し合いが行われていない内なら助けを待つ事も助かる方法を探す事も造作もない。──まあ、それは去り際に何の危害も加えなかった場合に限定されるのだが。

「問題はドウコクだな」

 血祭ドウコクが沖一也や左翔太郎と一緒にいる事を思い出す。
 そう、ドウコクが今の言葉を聞いて殺し合いに乗っていないとは限らない。一也だけならまだどうにか反撃できるだろうが、左翔太郎はあの状態だ。更に、ドウコクは外道シンケンレッドを引き連れている。
 ドウコクが、主催逃亡後に脱出を目指すような悠長な考えができる人間とは思えない。

「……沖さんたちに一度連絡を入れて無事を確認しましょう。良牙さん、電話を貸してください」

 つぼみが提案して、良牙から特殊i-podを借りようとした。
 良牙が何の気なしにポケットを弄り、それを取り出す。画面は少し濡れている。しばらく歩いた分の汗である。良牙はそれを服の袖でふき取って、電源を入れた。
 ワンタッチでこれだけ綺麗な画面が出る事は、彼の時代の人間からすれば相当驚きの事態なのだが、実際のところ、彼はもうその程度の事態には慣れ始めていた。

「よし」

 とりあえず、不器用ながらも発信までの作業は行う。アドレス帳に登録されている名前にタッチするだけだ。ちゃんと一也たちの方に発信されているようで、二人とも安心した顔色であった。
 まだi-podなどない時代に生まれた良牙である。最低限度の使い方ができるかさえ怪しいのだ。それは出来たようで安心する。
 特殊i-podがつぼみの手に渡っていった。

 ……が。

「……あの、良牙さん」
「ん?」

18The Little Mermaid ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 11:46:27 ID:V1L9C12Q0
「これ……」

 そう言うつぼみは困り顔であった。
 何故そんな顔をしているのだろうか、と気にしてつぼみの手の上を見てみる。
 つぼみの手の上にある特殊i-podを見てみると、これが驚くべき事に、半分に割れていた。
 超薄型の画面はほぼ二つ折り。

 ──良牙の顔が、猫目になる。

「あ゙っ……!」

 これを渡す時、最後の最後で力加減が間違ったのだろう。
 特殊i-podは、良牙の握力に見事潰されていた。──例によって、このタイミングで。
 いつこうなった? どうしてこうなった? この人バカか?
 とか、考えるのも無駄である。良牙がバカである以上に、バカ力だからこうなった……それだけであった。普通の物を使用する時にある程度のセーブが必要だが、このi-podなる道具は超薄型で、良牙にとっては折り紙同然の代物なのである。
 ちょっと油断するとこういう事になる。今まさに、緊張とちょっとした油断が絶妙なハーモニーで良牙の手に力を込めさせたのだろう。

「どうしよう……」

 折れたi-podを前に、良牙は零の方を向いた。
 音楽を聞けなくなる分にはまだしも、これだと通信ができない。
 その他のグループに連絡は取れず、この調子だと心配されるかもしれない。
 非常に困った状況だ。そのうえ、ドウコクの動向によっては一也たちの命も危険。連絡ができないのは痛い。
 ふぅ、と零が溜息をついた。

「……さて、どうする? 引き返すか」

 そう提案したのは零であった。彼としては、魔女を倒す事そのものにはさほど執着はない。あかねを探すという目的もない。
 あくまで彼がこうしてついてきた理由のは、何故これから魔女を倒さなければならないのか──その目的を知る事であった。好奇心以上の物は出てこない。

 だが、この問いは実際に引き返す事を望んでいるのではなく、まるでつぼみに発破をかける為の一言のようだった。

「……」

 つぼみは、深く思案した様子である。──その態度こそが零の望む答えであった。
 当然、この状況下、放っておいても大きな問題が出ないはずの魔女を退治しに行くのは不自然だ。あまり大きな事情がない限りは、「引き返す」と答えるのが自然である。
 何せ、魔女がいる場所を避けたとしても、大勢の参加者は魔女にそのまま合流せずに終わるだけである。残り六時間しか猶予がない状況でもそこに立ち寄らなければならない理由などない。
 彼女が答えないという事は、このまま魔女の方に進んでいくのには大きな意味があるという表明であった。零もそれを見越した上で、こう言ったのだった。
 さて、それじゃあ零の本題だ。

「……ま、引き返す気がないとは思っていたけどね。引き返さないのにはわけがあるんだろ? そろそろ教えてくれてもいいんじゃないか? 魔女って何なのか──」

 つぼみは言い返せなかった。

「じゃあこう聞こうか。魔女っていうのは、闇に堕ちた魔法少女じゃないか? って」

 零の問いは、ある意味核心をついていたらしく、つぼみは零を見上げる事になった。
 まるで、「知っていたのか」とでも聞き返したい顔をしていた。
 しかし、当の零はあくまでそれは知らない。あくまで推測の域を出ない言葉を、はったりのように口に出し、その結果として表れたつぼみの反応で確信へと変えただけであった。

「魔戒騎士も、99.9秒以上戦うと心滅獣身で鎧に食われ、闇に堕ちる。強すぎる力にはそれと同じような代償があってもおかしくないわけだ。今更答えを勿体ぶる必要はないだろ?」

 その言葉を聞いて、折れたi-podを手に乗せたままの良牙が呆然としていた。既にi-podの事など、彼の頭からは消えているだろう。その罪悪感にも勝る衝撃であった。
 彼もまだ、魔女とは何なのか詳しくは知らなかったが、どうやら図星らしく、黙っているつぼみの方を見た。観念したようにつぼみは応えたのだった。

19The Little Mermaid ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 11:46:57 ID:V1L9C12Q0

「……はい。そうですね。そこまで知っているならもう全て、お話します」

 それでようやく、彼女は説明を始める事にした。
 杏子には口止めされていたが、これからさやかの元に向かうのに、この後に及んで黙っている必要はない。
 むしろ、そんな戦いを前に何も言わずに協力させるのは取引としては最悪である。
 元々、隠し事が苦手なのがつぼみだ。白状する機会が来たのなら、そこからは大人しく曝け出してしまうしかない。

「……魔法少女の力の源であるソウルジェムが精神的な絶望や魔力の消費で穢れる事で起こるのが魔法少女の魔女化です。それが起こると、魔法少女は理性を失って魔女として暴れてしまいます」

 杏子から聞いた限りの情報の羅列だった。
 又聞きなので、確証を持って言う事はできない。全てを話すというには、手短で、ほとんど細部まで正しいかは話している本人でさえわからない。
 杏子でさえ、確証を持って言える事は多くはないだろう。

「ただ、この場では魔女化には制限がかかっていたらしくて、一日目の終了までは魔女として現れる事はなくなっていました。でも、それが解除されて、魔女が復活したんです」

 一応の事情はそんな所だった。これ以上はない。事実はおそらく、これよりずっとたくさんの情報でできている。しかし、知る限りではこうだった。
 魔女が復活したとしても、現状では積極的に暴れず、自分の結界の内部に人間を取り込むスタイルである以上、魔女に近寄りさえしなければあまり大きな実害はないはずだが、それでも魔女が現れた事自体には問題があった。

「これから行く場所には、ここで私と出会ったさやかという魔法少女がいます。私は、魔女になったさやかをこれから助けに行くんです。元のさやかに戻してあげるために……」

 そう、その魔女がつぼみの友人であるという事実。──これが、つぼみが魔女のもとへと向かわねばならない最大の理由であった。
 良牙と零はここに来て、初めてそれを知る事になる。

「助けられる保証は?」
「……わかりません。でも、私は諦めません。絶対に……」

 つぼみはその一点にだけは頑なな意思を持っている。

「……仕方ない」

 零は、そんな彼女の様子をしばらく見つめた後、体から空気を抜くようにして溜息をつくと、すぐに表情を柔らかく崩して言った。

「そういう事なら協力するか。俺も魔戒騎士だしな。……で、魔法少女って事は、あの杏子とかいう女の子も同じって事でいいのかな?」
「ええ。……でも」
「わかってる。魔女じゃない今のうちに潰すなんて野暮な真似はしないさ。俺たちだって心滅獣身のリスクはある。似た物同士さ」

 零は、かつてこの森の近くで冴島鋼牙に言われた事を思い出した。
 あの時、仮にもし零が怪物になっていたら──と思う。
 零も同じ危険を孕んだ人間であった。魔女になった人間を救える保障があるかはわからない。ないならば斬るしかないが、もしあるというのならば、それに賭けるこの少女にしばらくは付き合おう。

 少なくとも、その行動に協力して零にマイナスが来る事はない。
 魔女の結界とやらも一度経験させてもらおうと、案外気楽に考えていた。

 元来、零という男は、魔戒騎士としては甘すぎる男であった。ホラーを狩るたびにも、彼らとの和解の方法を探りたいと思う事がある。
 無論、ホラーが行う悪事も数えきれないほど知っているが、何も彼らも生まれたくてホラーに生まれたわけではないと、零も時折思っていた。現実にシルヴァのような優しいホラーも存在している。
 この場合、彼が魔女を救いだそうとするのも彼の心の内の一つであった。

「いずれにせよ、君が証明してくれればいいんだ。魔女になろうが何だろうが、魔法少女は助けられるって」

 零としては、恰好をつけたつもりなのだろう。
 しかし、つぼみは至極真面目にその言葉を受け止め、今からの自分の指標にした。
 さやかを助ける事で、これから杏子が魔女として覚醒した場合も止められると証明する──という事。
 なるほど、その考えは及ばなかったが、確かに一理ある。

20The Little Mermaid ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 11:47:42 ID:V1L9C12Q0

「あんた……意外と聞き分けが良いんだな」
「意外とは余計だ」
「ああ……」

 良牙は、魔女の真実自体にはあまり大きな驚きを見せない。
 魔女そのものに対しての知識がなく、実際的な副作用に実感がわかないせいなのか、それとも、死者だと思っていた人間が実は何らかの形で生きていた事の方が驚きだったのか、彼はそこまで忠実に驚いてはくれなかった。

(……元に戻す、か)

 しかし、それでも一度崩落した人間の精神を元に戻すというつぼみや零の意志には、少しばかり敬服する。彼とて、あかねを諦めかけた事も少しはある。──だが。

(おれも、これからあかねさんに会った時は……)

 良牙の中にも見習うべき二人の姿を見て、拳を硬く握った。
 これが夢ならば早々に覚めてほしい限りであるが、それでも──。



【2日目 朝】
【D−3 森】

【花咲つぼみ@ハートキャッチプリキュア!】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、加頭に怒りと恐怖、強い悲しみと決意、首輪解除
[装備]:プリキュアの種&ココロパフューム、プリキュアの種&ココロパフューム(えりか)@ハートキャッチプリキュア!、プリキュアの種&シャイニーパフューム@ハートキャッチプリキュア!、プリキュアの種&ココロポット(ゆり)@ハートキャッチプリキュア!、こころの種(赤、青、マゼンダ)@ハートキャッチプリキュア!、ハートキャッチミラージュ+スーパープリキュアの種@ハートキャッチプリキュア!
[道具]:支給品一式×5(食料一食分消費、(つぼみ、えりか、三影、さやか、ドウコク))、スティンガー×6@魔法少女リリカルなのは、破邪の剣@牙浪―GARO―、まどかのノート@魔法少女まどか☆マギカ、大貝形手盾@侍戦隊シンケンジャー、反ディスク@侍戦隊シンケンジャー、デストロン戦闘員スーツ×2(スーツ+マスク)@仮面ライダーSPIRITS、『ハートキャッチプリキュア!』の漫画@ハートキャッチプリキュア!
[思考]
基本:殺し合いはさせない!
1:さやかを助ける。
2:この殺し合いに巻き込まれた人間を守り、悪人であろうと救える限り心を救う
3:……そんなにフェイトさんと声が似ていますか?
[備考]
※参戦時期は本編後半(ゆりが仲間になった後)。少なくとも43話後。DX2および劇場版『花の都でファッションショー…ですか!? 』経験済み
 そのためフレプリ勢と面識があります
※溝呂木眞也の名前を聞きましたが、悪人であることは聞いていません。鋼牙達との情報交換で悪人だと知りました。
※良牙が発した気柱を目撃しています。
※プリキュアとしての正体を明かすことに迷いは無くなりました。
※サラマンダー男爵が主催側にいるのはオリヴィエが人質に取られているからだと考えています。
※参加者の時間軸が異なる可能性があることに気付きました。
※この殺し合いにおいて『変身』あるいは『変わる事』が重要な意味を持っているのではないのかと考えています。
※放送が嘘である可能性も少なからず考えていますが、殺し合いそのものは着実に進んでいると理解しています。
※ゆりが死んだこと、ゆりとダークプリキュアが姉妹であることを知りました。
※大道克己により、「ゆりはゲームに乗った」、「えりかはゆりが殺した」などの情報を得ましたが、半信半疑です。
※所持しているランダム支給品とデイパックがえりかのものであることは知りません。
※主催陣営人物の所属組織が財団XとBADAN、砂漠の使徒であることを知りました。
※第二回放送のなぞなぞの答えを全て知りました。
※良牙、一条、鋼牙と125話までの情報を交換し合いました。
※全員の変身アイテムとハートキャッチミラージュが揃った時、他のハートキャッチプリキュアたちからの力を受けて、スーパーキュアブロッサムに強化変身する事ができます。
※ダークプリキュア(なのは)にこれまでのいきさつを全部聞きました。
※魔法少女の真実について教えられました。

21The Little Mermaid ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 11:49:18 ID:V1L9C12Q0
【響良牙@らんま1/2】
[状態]:全身にダメージ(大)、負傷(顔と腹に強い打撲、喉に手の痣)、疲労(大)、腹部に軽い斬傷、五代・乱馬・村雨の死に対する悲しみと後悔と決意、男溺泉によって体質改善、デストロン戦闘員スーツ着用、首輪解除
[装備]:ロストドライバー+エターナルメモリ@仮面ライダーW、T2ガイアメモリ(ゾーン、ヒート、ウェザー、パペティアー、ルナ、メタル)@仮面ライダーW、
[道具]:支給品一式×14(食料二食分消費、(良牙、克己、五代、十臓、京水、タカヤ、シンヤ、丈瑠、パンスト、冴子、シャンプー、ノーザ、ゴオマ、バラゴ))、水とお湯の入ったポット1つずつ×3、子豚(鯖@超光戦士シャンゼリオン?)、志葉家のモヂカラディスク@侍戦隊シンケンジャー、ムースの眼鏡@らんま1/2 、細胞維持酵素×6@仮面ライダーW、グリーフシード@魔法少女まどか☆マギカ、歳の数茸×2(7cm、7cm)@らんま1/2、デストロン戦闘員マスク@仮面ライダーSPIRITS、プラカード+サインペン&クリーナー@らんま1/2、呪泉郷の水(娘溺泉、男溺泉、数は不明)@らんま1/2、呪泉郷顧客名簿、呪泉郷地図、克己のハーモニカ@仮面ライダーW、テッククリスタル(シンヤ)@宇宙の騎士テッカマンブレード、『戦争と平和』@仮面ライダークウガ、双眼鏡@現実、ランダム支給品0〜6(ゴオマ0〜1、バラゴ0〜2、冴子1〜3)、バグンダダ@仮面ライダークウガ、警察手帳、特殊i-pod(破損)@オリジナル
[思考]
基本:天道あかねを守り、自分の仲間も守る
0:つぼみについていく。
1:あかねを必ず助け出す。仮にクウガになっていたとしても必ず救う。
2:誰かにメフィストの力を与えた存在と主催者について相談する。
3:いざというときは仮面ライダーとして戦う。
[備考]
※参戦時期は原作36巻PART.2『カミング・スーン』(高原での雲竜あかりとのデート)以降です。
※夢で遭遇したシャンプーの要望は「シャンプーが死にかけた良牙を救った、乱馬を助けるよう良牙に頼んだと乱馬に言う」
「乱馬が優勝したら『シャンプーを生き返らせて欲しい』という願いにしてもらうよう乱馬に頼む」です。
尚、乱馬が死亡したため、これについてどうするかは不明です。
※ゾーンメモリとの適合率は非常に悪いです。対し、エターナルとの適合率自体は良く、ブルーフレアに変身可能です。但し、迷いや後悔からレッドフレアになる事があります。
※エターナルでゾーンのマキシマムドライブを発動しても、本人が知覚していない位置からメモリを集めるのは不可能になっています。
(マップ中から集めたり、エターナルが知らない隠されているメモリを集めたりは不可能です)
※主催陣営人物の所属組織が財団XとBADAN、砂漠の使徒であることを知りました。
※第二回放送のなぞなぞの答えを全て知りました。
※つぼみ、一条、鋼牙と125話までの情報を交換し合いました。
※男溺泉に浸かったので、体質は改善され、普通の男の子に戻りました。
※あかねが殺し合いに乗った事を知りました。
※溝呂木及び闇黒皇帝(黒岩)に力を与えた存在が参加者にいると考えています。また、主催者はその存在よりも上だと考えています。
※バルディッシュと情報交換しました。バルディッシュは良牙をそれなりに信用しています。
※鯖は呪泉郷の「黒豚溺泉」を浴びた事で良牙のような黒い子豚になりました。
※魔女の真実を知りました。

22The Little Mermaid ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 11:49:32 ID:V1L9C12Q0

【涼邑零@牙狼─GARO─】
[状態]:疲労(小)、首輪解除、鋼牙の死に動揺
[装備]:魔戒剣、魔導火のライター
[道具]:シルヴァの残骸、支給品一式×2(零、結城)、スーパーヒーローセット(ヒーローマニュアル、30話での暁の服装セット)@超光戦士シャンゼリオン、薄皮太夫の三味線@侍戦隊シンケンジャー、速水の首輪、調達した工具(解除には使えそうもありません) 、スタンスが纏められた名簿(おそらく翔太郎のもの)
[思考]
基本:加頭を倒して殺し合いを止め、元の世界に戻りシルヴァを復元する。
0:つぼみについていく。
1:殺し合いに乗っている者は倒し、そうじゃない者は保護する。
2:会場内にあるだろう、ホラーに関係する何かを見つけ出す。
3:また、特殊能力を持たない民間人がソウルメタルを持てるか確認したい。
[備考]
※参戦時期は一期十八話、三神官より鋼牙が仇であると教えられた直後になります。
※シルヴァが没収されたことから、ホラーに関係する何かが会場内にはあり、加頭はそれを隠したいのではないかと推察しています。
実際にそうなのかどうかは、現時点では不明です。
※NEVER、仮面ライダーの情報を得ました。また、それによって時間軸、世界観の違いに気づいています。
仮面ライダーに関しては、結城からさらに詳しく説明を受けました。
※首輪には確実に異世界の技術が使われている・首輪からは盗聴が行われていると判断しています。
※首輪を解除した場合、(常人が)ソウルメタルが操れないなどのデメリットが生じると思っています。→だんだん真偽が曖昧に。
また、結城がソウルメタルを操れた理由はもしかすれば彼自身の精神力が強いからとも考えています。
※実際は、ソウルメタルは誰でも持つことができるように制限されています。
ただし、重量自体は通常の剣より重く、魔戒騎士や強靭な精神の持主でなければ、扱い辛いものになります。
※時空魔法陣の管理権限の準対象者となりました(結城の死亡時に管理ができます)。
※首輪は解除されました。
※バラゴは鋼牙が倒したのだと考えています。
※第三回放送の制限解除により、魔導馬の召喚が可能になりました。
※魔戒騎士の鎧は、通常の場所では99.9秒しか召喚できませんが、三途の池や魔女の結界内では永続使用も問題ありません。
※魔女の真実を知りました。

23 ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 11:51:33 ID:V1L9C12Q0
198話は以上です。
続いて199話を投下します。

24切札 ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 11:57:34 ID:V1L9C12Q0



「しゃらくせええええええええええええええっっ!!!!」

 生存者のうち、こんな声をあげる人間が血祭ドウコクを除いて他にいるだろうか。
 お察しの通り、この声の主はドウコクである。
 第五回放送とともに、こうして怒りの声をあげているわけだ。ここが何もない部屋だったがゆえに何もなかったが、もし箪笥や家具が置いてあれば、それを蹴散らして発散するだろう。傍若無人が彼の本質である。

 残り人数を十人に減らせという指示──この騒動の冒頭には、そんなわかりやすい理由があった。
 即ち、彼も沖一也と左翔太郎を抹殺する方針に切り替わったという事だ。

「ま、待てドウコク……!! マンプクの口車に乗せられてどうする!?」
「わぁってるが、帰ってから奴を捜して殺すのも手っ取り早ぇじゃねえか!!」

 剣を振り上げようとするドウコクに、とにかく必死で一也が止めようとする。
 もはや脊髄反射的に殺戮に走ろうとするドウコクをなだめるのは大変だ。
 ただ、何とかこれも説得できる方法は転がっている。

「捜すと言っても、おそらく奴はお前の知らない世界に逃げてしまうぞ! 二度とお前の前に姿を現さないかもしれない!」
「あぁ? 俺の知らねえ世界だと……?」

 ドウコクがそれを聞いて、少し黙り、ぴたりと動きを止めた。
 そんなレベルの話さえ殆ど知らないのだろうか。異郷の存在は知っているかもしれないが、それが人と妖との二世界に渡る程度の話しか知らないのかもしれない。
 これが説得の為の材料となりそうな事は間違いない。

「ああ、俺たちはそれぞれ別の世界から来ている。お前も未知の力を持つ敵と会った事もあるだろう? 主催側は、その世界を相互的に渡り歩く能力も持っているはずだ」

 まあ、単独行動を続けていた彼がそんな事知らないのは計算済みだ。情報差が彼を利用するのに都合が良い。
 とにかく、その言葉で黙ったからには、説得の余地がある可能性は非常に高い。

「だが、どっちにしろ俺は元の世界って奴に帰らなきゃならねえしな。こんな場所にいつまでもいるわけには──」

 ドウコクの反論前に、より手っ取り早い手段というのを見つけ出しかけている。
 総大将血祭ドウコクは元の世界に必要な存在だ。もしいなければ、外道衆の没落もあり得る。シンケンジャーもいないが、ドウコクもいない。
 アヤカシも大分死んだうえに、シタリが元の世界に残されている現状では、マンプクを殺すのも一つだが、何より帰らなければならないだろう。

「帰る方法だって、俺たちが残り六時間で見つけ出せば問題はない。方法はある」

 しかし、それでも一也は反論の余地を見つけた。
 ドウコクの情報不足を利用するのである。ハッタリでも何でも、その場をしのぐために使える方便は全て使う。
 マンプク殺しよりも帰還を優先するのが大局であると、彼も理性でわかり始めているだろうが、

「この島の外の様子を見せよう」

 一也が先ほどから様子を見ていたバットショットの映像も、だんだんと海以外の物が映り始めていたのである。先ほど、スタッグフォンを見ておいたのだ。
 そこには、一也も安心感で胸をなでおろすような映像が残っていた。
 別の島の外観だ。
 海岸線の向こうに、もう一つ別の島があるのが見え始めていた。確かに、外には考察通り、別の島が存在したという事である。ただ、それが目の錯覚である可能性も否めない。何せ、距離が離れるにつれ画質がだんだんと低くなっているのである。
 だが、仮に錯覚であるとしても、ハッタリの材料としては使える。
 その映像を見せるべく、彼はスタッグフォンを手に取った。

「うん……?」

 ……見ると、不在着信三件とメールが二通、入っていた。ショドウフォンからだ。つまり、孤門一輝たちのチームである。

25切札 ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 11:59:39 ID:V1L9C12Q0
 不在着信のうち一件だけは、特殊i-podから。これはつぼみたちからだろう。
 少しメールを開いてみたが、そこには桃園ラブから沖一也と左翔太郎を心配する内容のメールが入っていた。すぐにでも返してやりたいが、それはもう少し時間に余裕ができてからにしよう。
 まあ、今は、動画の方をドウコクに見せておこう。

「ドウコク、君に見てほしいのはこの映像だ。映像はさっきまでは海ばかり映していたが、今は別の島が映り始めている。もう間もなく島に着くはずだ。主催者の基地があるかもしれない」
「……てめえら随分凄ぇもん持っていやがるじゃねえか。俺たちがいねえ間に随分技術をつけやがったもんだ。前までは箱の中で活動を見るのが精いっぱいだったってえのに」

 ドウコクが興味津々にそれを見ていた。
 小さい箱の中にチカチカと物が映っている程度の認識しかないのかもしれない。
 ドウコクの興味が明らかにこの携帯電話に向いていて、映像がどんな意味を成しているのか理解していなさそうなのが辛い。

(こ、こいつ、この殺し合い内だけでなく、人間社会に対しても随分情報が遅れている……! くっ、外道衆の技術を最先端まで発展させたくなってきた……いかんいかん!)

 宇宙進出まで果たしている科学者ゆえの葛藤が内心で目覚める。彼らの技術を発展させても人間側が不利になるだけであるが、それでも思わず彼らの科学水準の発展を願ってしまうのが一也である。

「と、とにかく、この映像の通り、外には脱出のアテがあるんだ。まずはお前の首輪を解除する。それからは、せめてあと五時間、待ってくれ。五時間後までに解決できなければ、俺を殺してもらっても構わない」

 とは言うものの、内心ではあと六時間の内に脱出できるかというと微妙なのが現状だった。こちらの準備が整うまでには随分時間がかかったし、あとの五時間をバットショットの映像でどうにか判断しなければならないのだ。
 おそらくは、残り五時間で全て果たすのは無理である。──五時間後に起こるのは、ドウコクとの戦闘だ。
 もっと時間をかけて色々と行えれば良いのだが、タイムリミットが設けられた挙句、こうしてドウコクが近寄ってきてしまっては、それから先の行動も難しい。

 主催側は随分厄介な事をしてくれたものである。
 六時間以内に十人に減らせ、というのは、ただの額面通りな主催の敗北宣言ではなさそうだ。
 何せ、この六時間で十人まで減らすとなれば、不和が生まれるのは間違いない。十四人の殆どが味方である最中、生贄を四人ほど、誰かが薦めなければならないわけだ。

 この場合、生き残れる確率の方が高い事が、この場合の問題点だ。
 なまじ生き残る希望が高い分、そこに縋りたい気持ちが強くなる。自分は十指に入るだろうという期待と、そこから切り捨てられる四人になる不安がせめぎ合うだろう。これが残り一人になるまで……というなら、何故か諦めもつくのだが、ここまでの苦労を清算する機会があれば、犠牲になろうなどとは思いたくないに違いない。
 犠牲になる側も、そんな数少ない犠牲の側にはなりたくないと思うのが心理である。
 ……とはいえ、ドウコクのような人間を除けば、これはまだ何とかなる範疇である。今自分がいるのは、危機的状況下でも他者を尊重できる人間は寄り集まっていると自負できる集団だ。

 主催側の評価としては、最後のチャンスとして演出する意味も深いという点も一点だ。
 このまま十一名以上生き残れば、この孤島──いや、この世界に置き去りにされるというが、それが問題なのである。
 脱出ルートを、あくまで主催側への干渉によって果たそうとしていた対主催陣営にとって、確実に必要な存在となるのが、主催陣営だ。こうして、主催陣が殺し合いを諦め、そこにゲームメーカーがいるという前提を崩す事で、「このままでは帰れない」という状況にリアリティを持たせている。
 そして、無人の世界にたかだか十数名で放置されれば、大した時間を要さずに死なせてしまう。元の世界に帰りたいのが全員の本心だろうから、それも崩れてしまうわけだ。
 これも、なるべくならば主催逃亡後も全力を尽くして脱出計画を練るだろうが、今はそうもいかない。ドウコクはそう気が長い生物ではなさそうだ。

「……」

 とにかく、残り六時間で一也たちにできるのは、「希望を捨てずにベストを尽くす」という事だけであった。
 一也は己の鼓動が早まっていくのを感じた。
 ドウコクは短気である。五時間は長いと取るか、短いと取るかは彼にとってどうなのか──返答を待つ時間が妙に長く感じられた。

「……まあいいだろう。どっちにしろ、五時間もあればてめぇらも手がかりを得る」

26切札 ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 12:00:01 ID:V1L9C12Q0

 ドウコクが迷った挙句に剣を鞘に収める事になり、一也は内心ほっと溜息をついた。
 どうやら、説得自体は上手に終了したらしい。悪い言い方をすれば、上手く騙せたというところだろう。
 幸いにも、ドウコクはこちらの技術の底を知らなかった。どの程度が一也たちの技術で可能な範疇なのかを理解していないのだ。その為、六時間以内の脱出がほぼ不可能である事など彼は知る由もない。
 一也が、自分たちの技術の限界を悟り始めていようとも、せめてそれを表情に出さなければドウコクは騙せる。

 上手い具合に持って行けたとは言い難いが、それでも五時間の猶予が得られた。
 今のところは、それで充分だ。

「……ふぅ。それじゃあ、ドウコク、首輪を解除するからおとなしくしてくれ。解除は五分で済む」
「五分だと!? まさか、あいつら、そんなチンケな物で俺を縛ってやがったのか!」
「ああ、腹立たしい事かもしれないが、今は落ち着いてくれ。落ち着かない事には首輪も解除できない」

 元々、ドウコクの期待は主催と参加者のどちらにも向いていないはずだ。
 面と向かって対話できる方に信頼のバランスが寄るのは至極当然の事である。
 それこそ、ちょっとした説得でも口説けるほどだ。

(……さて、この仕事を終えたら)

 一也は、翔太郎の方をちらと見た。
 彼は、まったく、脱出にもドウコクにも一切興味がなさそうだった。
 一也も、そんな彼を温かく見守ろうとは全く思わなかった。
 ただ、ドウコクが首輪を解除した後が彼に発破をかける時だ。

 一也は、素早くメールでショドウフォンに『心配ない。バットショットが周囲の様子を映し始めたから、一端、目を通してくれ』という内容のメールを送り、ドウコクの方に工具を持って行った。







 さて、ドウコクの首輪の解除には、やはり全くといっていいほど、時間はかからなかった。
 ドウコクとて、本当に五分もしないうちに自分の首を縛っていた鉄の輪が解除されるとは思いもよらなかっただろう。
 なるほど、ここまで随分と長い間、この首を縛っていてくれたが、どうやらその事も含め、すべて茶番の材料だったらしい。──そう思うとドウコクの胸にも苛立ちが湧いて来る。
 マンプクの首を頭に描きながら、彼はともかく口を開いた。

「……チッ。とにかく首輪が解除された所で────」

 一也が身構える。
 この瞬間が恐ろしいのだ。
 ドウコクにとって、首輪が解除された後の一也たちは邪魔だと判断されまいか、その一点。
 邪魔者は勿論、殺される事になるだろうと思い、緊張の一時が流れる。

「────酒でも飲むか」

 と、思ったが、案外ドウコクは聞き分けが良いタイプの怪物であるようだ。

 少なくとも、今ここで一也たちを殺す事には意味を感じていないと判断していい。
 あとの五時間の猶予は確実に保証されているものらしい。
 外道シンケンレッドが、一升瓶をドウコクに向けて手渡しており、まさしく彼の方は酒宴の気分のようだった。
 今の彼にとって必要なのは、口にアルコールの苦味や辛味を広げさせる事なのである。その摂取によって、一也や翔太郎たちと慣れ合うストレスを発散し、しばらくマンプクを殺せる万能感に酔い浸るのが目的らしい。
 まあ、実際のところ、ドウコクの実力ならばマンプクなど取るに足らない相手であるが、現状、相手が積極的に姿を現さないゆえに怒りが溜まっているようだ。

 アルコールは正常な判断を鈍らせるので、一也たちの目からしても安全とまでは行かない。こんな状況下で他人に飲ませないのが最良の判断である。
 だが、あのまま酒を飲むのを妨害させると、それこそこちらに危害を加えかねない厄介さだ。まあ、ある程度酔いに強い体質である事を祈ろう。

27切札 ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 12:00:26 ID:V1L9C12Q0

 ドウコクには背を向けた。その背に切り傷の残る事はなかった。

「さて、ドウコクの首輪の解除は終わったな」

 一也は、何か言いたげに翔太郎の方へと歩いて行ったのだった。
 その様子に気づいたようで、翔太郎は顔を上げた。虚ろなまなざしで一也を見上げる。
 しかし、一也の眼は、そんな翔太郎の心に突き刺さるほど鋭く、先ほどドウコクと対峙していた時よりも数段、「敵に相対する目」に近い眼光であると感じた。
 まさしく、心眼でその危険性を翔太郎は感じたのである。

「翔太郎くん」
「……っ!」

 思わず、一言呼ばれるだけで翔太郎が目を逸らす。
 まるで、これから熊でも倒そうと言う格闘家の気概。それが翔太郎の精神になだれ込む。
 格闘家、ゆえの眼力であった。翔太郎の弱さを責め立てる意思があるのは確かだ。だからこそ、翔太郎は更なる弱さでそれを覆い隠そうとする。

「……放っといてくれ! ……もう俺は仮面ライダーじゃない!」

 仮面ライダーである事。──それが、左翔太郎の誇りであった。
 街をドーパントから守って来たのは、フィリップがいて、仮面ライダーダブルにもなれたからこそだ。
 だが、今この腕で何が救える? この場所でこれ以上、翔太郎に何ができるというのか。それを思えば、その誇りが打ち砕かれるのも当然であった。この先、戦うイメージが湧かず、苦難の道が脳裏をよぎる。

「仮面ライダーでなくなったくらいで戦う意志を失うならば、お前は最初から仮面ライダーじゃないッ!!」

 だが、そんな翔太郎の耳に、あまりにも大きすぎる声が鳴り響いた。
 ドウコクも、酒を飲もうとしていた体を止める。
 気迫は誰にも負けない。──赤心少林拳の使い手たるこの男である。
 翔太郎は、それでも反論をするくらいの怒りがあった。勇気ではなく、苛立ちが咄嗟に弁解の余地を作る。

「ッ! そんな事言ったって……俺にはフィリップも、この腕もないんだ! 仮面ライダーじゃなくなっただけじゃない! 人間として戦う事だって、もう……!」

 語尾が下がっていた。明らかに、一言を口に出すのを躊躇う彼であった。
 彼らしくはなかったが、自分らしくないと自覚しているからこそ、実際の現状を口に出す時に偉く弱気だったのだろう。
 自分の状況を考えるならば、仮面ライダーとして戦う事に既に限界があるのは容易にわかる話だ。

「沖、放っておけ、そいつにはもう、何もねぇ。このシンケンレッドと同じだ。……まあ、せいぜい、そいつがいなくなりゃあ残り十人に近づくだけ、って所か? 同情が欲しいなら、少しはしてやるぜ」

 一也の背中でドウコクが言うが、彼はそんな言葉を聞き入れる気がなかった。
 ドウコクの言う事は、かなり尤もであるとも一也は思っているが、同時にこうして喝を入れれば立ち直る可能性を、一也は信じていた。
 あくまで、一也はこの左翔太郎なる男を、まだよくは知らない。
 ただの軟弱な普通の青年かもしれなければ、底が深い人間かもしれない。それはまだわからないが、これまでこの男が仮面ライダーとして戦ってきた事だけが明瞭たる事実として一也に何かを残している。
 その経緯、その戦いの記録は一也も小耳に挟んでいた。

「……いや、左翔太郎は何も持っていないわけじゃない。師に憧れ、仲間を重んじ、仮面ライダーとして戦う為の魂を持っていたはずだ」
「……」
「お前はまだ戦える。俺はお前を再び、仮面ライダーとして戦わせる事だってできる。こいつを見てくれ」

 翔太郎の視界に、一也は自分の持つ切り札を見せた。
 翔太郎の瞳孔が広がる。
 まさしく、そこには「右腕」と呼ぶべきモノと、翔太郎自身もよく知っている「ロストドライバー」というベルトとメモリが在った。
 それは、まさしく、この翔太郎が必要としている物たちであった。

「沖さん……っ! こいつは────」

28切札 ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 12:00:50 ID:V1L9C12Q0
「知っているだろう。いくつものカセットアームを搭載した、結城丈二の右腕。そして、これが石堀光彦がお前の為に俺に手渡した新しい変身ベルト・ロストドライバー、俺が見つけたT2ファングメモリだ」

 まるで、少し息を吹き返した人間のように、翔太郎は羨望に近い眼差しでそれを見た。
 彼の男が、再び仮面ライダージョーカーとして戦う準備はある。翔太郎もジョーカーメモリを残しており、まさにその姿へと再誕する為にはおあつらえ向きであった。
 全てが揃っていた。翔太郎は、それを見て思わず、無いはずの右腕を伸ばした。

「こいつがあれば……」

 だが、一方で迷いもあった。右腕でそれを掴む事などできるはずないのに右腕を伸ばしたのは、おそらくその迷いが原因だろう。──左腕で、確実にそれを掴んでしまうのは本能的に避けたかったのだ。
 こうして戦う道を選べば、再び彼は痛みを受けなければならない。あのガドルのような強敵と戦う事だってあるかもしれない。
 ドウコクだってそうだ。彼と戦わなければならない。

 恐ろしい。

 こうして、守られる側でいる事がどれだけ楽か。──仮面ライダースーパー1のような戦士がいれば、それで充分ではないのか。
 そう思ってしまう。積極的に戦ったからこそ、鋼牙やフィリップは死んだ。自分もそうなるかもしれない。守るためには、自分の命さえ犠牲にする覚悟が必須なのだ。今こうしてぬるま湯に使った翔太郎が再びそれを手にするには、少しの抵抗がある──それも、無理のない話であった。
 彼は、普通の人生の中で偶然仮面ライダーになったただの人間である。一也とは違った。

「……だが、翔太郎くん。君にこれを、ただ渡すわけにはいかない。この右腕は、俺が尊敬した一人の戦士の物なんだ。……それに、この右腕を君の腕に移植するには、君の腕を丁度良い長さまで削り取る必要がある。神経を繋ぐ作業も、普通の人では耐えられないほどの地獄の痛みが伴うだろう。作業も俺が手探りで行うから、痛みがどれだけ長引くかもわからない。それを全て麻酔なしで行わなければならない」

 少しばかり優しい声色になった一也の説明を聞いたところでは、それはまさしく、移植だけでもこれまでの戦い以上の地獄が待ち受ける道であるように思えた。
 聞くだけで嫌になりそうな話だった。
 だんだんと、アタッチメントによって再び仮面ライダーになる幻想が遠ざかっていく。その為に必要な覚悟は、並大抵の物ではないのだろう。腕があるからといって、都合よく、何のリスクもなくそれを義手として使えるわけではないのだ。
 翔太郎の中で膨れ上がる恐怖は、それだけにはとどまらない。

「仮面ライダーに戻った後も覚悟が必要だ。君はまた、茨の道に飛び込む事になる」

 再び、フィリップたちの事を思い出した。
 彼らは戦いの中に消えていった。彼らが普通の人間ならばどうだろう。
 元々、こうして殺し合いに巻き込まれる事もなかったのだろうか。

 ……そう、この殺し合いに巻き込まれた人間は、大半がそうした特殊な能力を持っていた。
 改造人間、ガイアメモリ、魔法、クリスタルパワー、ラダム、モヂカラ、ウルトラマン、魔戒騎士──あらゆる理由で変身ができる戦士たち。それが今回のターゲットだったのだ。
 再び、仮面ライダーとなれば、己や周囲の人間が傷つく可能性も否めない。
 帰った後も、待ち受けるのは地獄の戦いの日々だ。その苦痛を受けながら、毎日生きられるだろうか。──翔太郎の中には、不安が広がっていた。

「……まあ、そうすぐには決心がつかないか。だが、悪いがこちらにも時間はない。ならば、こちらで手っ取り早く試させてもらおう」

 翔太郎もしばらく黙り込んでいたのだろうか。反射的に言葉を返せるほど、覚悟する行為は簡単ではなかった。
 しかし、時間が経るごとに、その「意思」なる物は弱まっていく。
 考える事もまた、時折、その人間が本来答えるべき「覚悟」を鈍らせ、殺してしまう一つの要因たりえるのだ。ゆえに、一也は待たなかった。考える時間を与えるくらいならば、いっそ、自分の手で彼を見極めようと、彼は構えた。

「変───身!!」

 梅花の構え、そして仮面ライダースーパー1への変身。
 敵にさえも美しいと評された、惑星開発用改造人間成功作の銀色のフォルムが輝く。
 電子音が鳴り、一也の全身に力が廻る。
 その異形に表情はなく、それが今回、無機質な非人間を象っていた。
 ドウコクが睨んだ。

29切札 ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 12:01:29 ID:V1L9C12Q0

「オイ、何のつもりだ?」
「御免!」

 スーパー1は、銀色の腕のまま、窓を叩き割った。この程度、パワーハンドを使うほどでもない。高く嫌な音が鳴り、窓が砕け、外の庭に散らばる。窓辺の細やかな風が部屋の中に入って来た。
 翔太郎もドウコクも、脊髄反射的に彼のその一瞬の行動に、驚愕する。
 この男、何をしようというのか。

「草花、木々……この庭にある全ての物を今から焼き尽くす。覚悟ある者ならば、この花たちの為にさえ、その命をかけられるはずだ」

 そう、翔太郎が振り向けば、外には、綺麗に庭を彩る細やかな園芸があった。──誰かが丁寧に育てた庭の植物たちであった。
 芝も誰も必要以上に首を伸ばさず整えられ、刺々しい松の葉や可愛らしい花々が風に揺れていた。
 その外の空間へと、スーパー1はゆっくりと歩いて出て行った。翔太郎の顔の横を、冷徹無比なマシンが焼き尽くそうとする。
 いくら翔太郎の為とはいえ、仮面ライダーがこうして、細やかな命を奪おうとして良いのか──。
 やめてくれ。
 俺の為に、そんな事──。命を奪うような事は──。

「チェンジ! 冷熱ハンド!」

 そう言って突き出した緑のファイブハンドは、炎を空に向けて吐き出した。
 彼は、今この男は本気であった。まさしく心を鬼にして、全てを業火に包む気概を持っていた。
 ──その一瞬だけでもわかる。誰が止められようはずもない。
 冷熱ハンドの超高温火炎が人間の命を、悲鳴もあげぬ間に殺せる威力を誇っている事は言うまでもないはずだ。
 灼熱の地獄。人の体など一瞬で焼いてしまう事は想像に難くない。

「まずは、あの花からだ……!」

 スーパー1が目を向けた先には、小さなコスモス花が、ただ一つ、はぐれて咲いていた。
 きちんと整えられたこの名家の庭園の中で、ただ一つそこに花があるのは全く不自然な話だろう。しかし、ここを整備する者たちが、偶然、はぐれてそこに咲いていたそれを排除するのを嫌ったに違いない。
 どこから種が運ばれたのかはわからないが、美しく生きる一輪の花が自ずと生えた事に感服し、気づかぬふりをしたのだろう。
 そんなドラマさえも想像できる、一輪の花。しかし、勿論焼かれればその命も尽き、今発しているような無用の美しさも醜く崩れ落ちる。
 それでも、スーパー1はやり遂げねばならなかった。

「すまない……! この試験の為に散ってもらう……!」

 灼熱の中に飛び込み、花を守る絶対の意思を持つ者などいようものか。
 ドウコクは、ばかばかしいと思いながら背を向けた。
 仮にもし、立ち向かったとしても、スーパー1に敵うはずがない。
 人間の生身でそれができない事くらい、誰でも一瞬にしてわかるはずだ。

「────ッッ!!」

 ……しかし、だ。
 人間の意思は、ドウコクの期待などを遥かに超える優しさも持ち合わせていた。
 ドウコクは、それを過小評価していたのかもしれない。
 さわやかな風がドウコクの体にそよがれる中、男の叫びがその間に響き渡ったのである。

「やめろォォォォォォッッ!!」

 ──圧倒的戦力さえ無視して、掴みかからずにはいられない“本能”の持ち主が、そこにはいた。たとえ無駄でも、命をかけなければならないと、そう思った男がいた。
 男は駆け出し、その花へと迫る悪魔の手を振り払おうとした。
 スーパー1は、予期こそしていたが、一瞬にしてその気迫に体を固めた。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおォォッ!!!」

 魂は、人を震わせる。
 男は、理屈ではなく、魂でそれを守る──困っている者があれば、放っておけない心を持っているだけであった。
 街を愛せるにはいられず、街にいる全ての物を守らずにはいられない、そんな男。

30切札 ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 12:01:57 ID:V1L9C12Q0

「……っつぅッ……!」

 ──左翔太郎は、自分でも気づかぬうちに、その左手でスーパー1の顔面にパンチを叩き込んだのであった。右腕から先がなく、スーパー1の腕を振り払う事はできなかった。
 しかし、ただ本能が、自分の拳が砕ける危険さえ無視して、スーパー1の顔面へと向かっていってしまった。
 自分の左腕に伝う、鉄を殴った感触とともに、この男は正気を取り戻していく。

 スーパー1は、変身を解除した。──コスモスの花は、元気に揺れていた。

「──翔太郎くん。やはり、君には確かに、仮面ライダーの魂がある。それを認めよう。しかし、残念だが、その魂や想いだけじゃあ、何も守れない……」

 炎がその命を焼き払う前に、翔太郎は前に出たのだ。無力な体で、彼は自分の左拳を見た。
 腫れている。痛んでいる。思わず、声をあげている。当然、一也がこのまま花を焼くつもりでいたならば、花の命はなかっただろう。

「その想いと、鉄の体を併せ持つのが仮面ライダーだ」
「ああ」
「鉄の体が必要か?」
「……ああ」
「それならば、お前にくれてやろう」

 それが今の翔太郎の中で燻っている想いを解放する術だというのなら、即答できた。このもどかしい想いを抱えたまま生きてはいけないのが、左翔太郎という短期な男なのであった。
 一也に言われたような「覚悟」というのは正直言えば、無い。痛みがある改造手術も、過酷な戦いも、仲間を喪うのも嫌だった。
 しかし、放っておけないと思う心があるならば、嘘をついてでも有ると答え、改造手術でも何でも受けてやろうと翔太郎は思ったのだった。──何かを守りたい気持ちならば、まだ胸の中に在る。







 志葉屋敷の一室。
 無菌室などあるはずもなかった。ただドウコクと外道シンケンレッドがいなければ少しは埃が立つ可能性が低くなるから、それで退いてもらった。
 麻酔もあるはずがなかった。ただ一口の酒を飲み、少しの酔いが麻酔代わりになれば、それで辛うじて、多少の気休めになる。
 消毒も手術道具もあるはずがなかった。機械を解体するための道具と部品だけがアタッチメントと同じにあるだけだった。
 刃は、支給品の一つを使い、ただありあわせの物で全て任せる。医者でさえ、ただ多少知識があるだけの、専門分野も異なる科学者だ。
 本郷猛や結城丈二はともかく、何故か一文字隼人、風見志郎などの歴戦の改造人間までもが辛うじて持っている謎の能力がこの人体改造である。水産大学に通っていた神敬介も後の世には医者なのだから驚きだ。沖一也がこの謎の医学能力を持っていないはずがないだろう。たぶん。

 即ち──

「ぐああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ…………!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 地獄の苦しみとともに、左翔太郎は、あまりにも粗雑な手術を受ける羽目になっていたのである。一也もこんな酷い環境で改造手術などしたくはなかったが、仕方がない。非人道的と罵られようとも、状況が状況であるため、本当にやむを得ないのだ。
 このバトルロワイアル中、おそらく最も無慈悲でグロテスクな解体を行うのが仮面ライダーであり、それを受けるのも仮面ライダーであるとは誰が想像した事だろう。

「うわああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!!!!!」

 散華斑痕刀なる刃が、翔太郎の体をマーカーの通りに切断する。血しぶきというほどではないが、少しだけ血が跳ねた。
 一也は、その血を布で拭うと、きわめて冷淡な顔で手術に臨んでいる。心を鬼にして行わなければならない。

31切札 ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 12:02:33 ID:V1L9C12Q0
 一也が翔太郎の悲鳴に申し訳なく思いながらも、力任せにその凶暴な刃を台に向けて押していく。肉が削げ落ち、骨に当たる。骨の周りを削いでいき、その柔らかい部位を翔太郎の体から外していく。
 その後、少し出っ張った骨をこの刃でまた削っていかなければならない。
 骨を刺激しても充分に痛みは伝う。翔太郎の叫び声はまたも伝う。

「やめろォォォォォォォッ!!!!! うわ、うわあああああああああああああッッッッ!!!!!!!!」

 結城と翔太郎は身長も体格もほぼ変わらず、二人ともおおよそ成人男性平均程度で差はない腕の太さだ。長ささえ調整すれば、適合する可能性は高い。アタッチメント自体、元々は結城丈二が装着する予定ではなかった物を流用しているくらいなので、太さに関しては、おおよそ調整が効く。

「さて、次は、神経を繋ぐ。歯を食いしばれ」

 しかし、一也は機械的に言うしかなかった。
 あまり優しい言葉をかける物ではない。自分自身も集中力を削がないよう、あくまで冷徹な機械として黙々と作業をする。あまり人間の悲鳴を聞きたいとは思わないが、本当に仕方がない事をしなければ仕方がない状況なので仕方がないし、まあとにかく仕方がない事なのだ。決して一也の趣味ではない。
 とにかく、発する言葉は、その工程の説明だけだ。自分が今何をされているのかを理解しながらであれば、翔太郎としても次への関心が湧くはずである。それが最低限の話。しかし、それが頭に入っているとは思えなかった。

「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああーーーーーッッッ…………!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 たかだか十分が数時間とさえ感じる強烈な痛みに支配されている。翔太郎時間では、とっくに五時間経っていてもおかしくないのではないかという気がしてくる。
 しかも進んでいる実感というのが薄く、ピンセットなどで神経と神経を繋げる作業は目で見るだけでも気持ち悪い。痛いという以上に、自分の体に新たなパーツが増えていく気味の悪さが嫌だった。
 吐きそうになる感覚を何とか払拭しようとしていた。意識を消し去りたい気持ちも生まれる。しかし、今はこの意識は消せない。
 頭の上に汗が溜まるような感覚。天井を見て、天井の向こうに喉の奥から、この痛みを伝えていく。声が枯れ始める。

「ッッッ…………!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 今日のいずれの戦いにも勝る身体的な痛みだ。それはあるいは、ドウコクに胸骨を折られた時よりも遥かに痛みが激しい。
 ガドルに吹っ飛ばされた瞬間の、一瞬の感覚とは桁違いに、──精密な作業は、その一つ一つが長い痛みを伴う。
 ただ、フィリップや照井などの仲間たちを喪った心の痛みに比べればずっとマシであり、フェイトやユーノが受けた痛みよりは生ぬるい物であろうと思い、彼は耐えていた。

『それに杏子……お前が魔女になったとしても何も心配はするな……
 お前が人々に絶望を振りまき泣かせる前に……俺がお前を殺してやる』

 そうだ。────不意に翔太郎は、一つの約束を思い出した。
 あの約束を忘れてはならない。
 痛みを感じているのは、自分や死んだ人間たちだけじゃない。

(……あいつも……)

 抜け殻になった翔太郎を、冷たい瞳で見つめた杏子。
 その瞳が不意に翔太郎の脳裏を掠め、一瞬、翔太郎は痛みを忘れた。
 杏子がああして怒ったのも無理はない。
 翔太郎は、約束さえ忘れて杏子の心を傷つけていた。────これも一つの罪ではないか。

「くっ……!」

 神経はまだ繋がれているのだろうか。
 翔太郎の腕に、一つ、一つ。コードが繋がれ、翔太郎に新たな腕を取り付けようとする。
 これがあれば、また戦える。一人の男の戦いの記録が、今度は翔太郎に繋がっていく。
 小指が、少し動いたが、作業中なので叱責された。





32切札 ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 12:03:03 ID:V1L9C12Q0



 それから、翔太郎の感覚では、とっくに六時間以上の時間が経ったように思えた。
 しかし、手術は急を要し、安全や正確さよりもいち早く終える事を目的としていたがゆえ、一時間半という短時間で全てが終わっていた。
 時計を見た時は、五時間分ほど人生を得したような気分にもなったが、後々考えてみれば、この手術によって、翔太郎は、五年分ほど健康寿命を擦り減らしただろう。やはり大損である。
 油断して右腕を失うなど、もう二度と御免だ。まだ嫌な汗をかいている気分だ。

 もしかして、半分、気を失っていたのだろうか。──そういえば、意識はあったような、なかったような、微妙な記憶だ。しかし、手術を終えた時は目を開けていたはずで、ほっと安心した気がする。
 それというのも、あまりの痛みに脳が何も考えなくなっていたのかもしれない。五感が贈る全てはリアルな映像として脳内に送られているが、それが何を意味しているのか考えるほどの効力を失っていたのだろう。

「はぁ……はぁ……」

 起き上がると、右腕が確かに動いた。
 つい数時間ほど前まで、自分の腕を動かしていたはずだったが、こうして動かしてみると、少し動きが硬く、違和感があった。
 アタッチメントというのは、そういう物なのかもしれない。

「──成功だ、翔太郎くん。よく頑張った」

 と、こちらに向ける一也の笑顔が、怖すぎて、翔太郎はひきつった笑いを返した。
 この人は優しく微笑んでいるが、翔太郎としては一也の存在そのものがトラウマである。
 ここまでのスパルタ教育が原因で、翔太郎としては苦手意識が芽生えてしまう相手だ。
 翔太郎は震えた声で言う。

「……あ、ああ。そうみたいだな」
「これがロストドライバーだ。使い方は君の方がよく知っているね?」
「……」

 翔太郎は、新たな腕でロストドライバーを掴んだ。その瞬間、一也に対する恐怖などという物は吹き飛んだ。
 ロストドライバーの重量は、思ったよりも幾分か軽い。

『よう、その様子だと、守りし者っていうのが本当にわかったみたいだな、翔太郎』
「あんたは……」

 ザルバが再び口を開いた事に翔太郎は気づいた。
 この魔導輪は、口うるさいが拗ねやすく、基本的には自分が認めた者としか言葉を交わさない。精神の弱い者には語り掛ける事さえない……などという場合もある。
 そんな彼が、一度見捨て、口を閉ざしたザルバだったが、今再び口を開いたようだ。

『俺様にも見せてくれよ、あんたの変身とやらを』
「……言われなくてもな」

 軽量のロストドライバーを手にすると、そのまま翔太郎は腰にそれを据えた。
 ザルバに何も言われずとも、そういう展開になるのはわかっていた。

≪僕の好きだった街をよろしく。仮面ライダー、左翔太郎≫

 あの時と同じ。
 ハーフボイルドだった翔太郎が、一人の仮面ライダーとして戦わねばならない時が来た。
 そうだ、あの時の事を思い出す。
 フィリップがいなくても自分だけで戦おうと決意した、あの時の事を──。

「ふ……まさか、また俺だけで、コイツの世話になる時が来るなんてな」

 コネクションベルトリングが翔太郎の腰を巻き、ロストドライバーが装着される。
 これは、翔太郎が独り立ちしようと、せめて心の中だけではそう決意した証なのだ。
 翔太郎は、ジョーカーメモリを懐から取り出した。

≪帽子の似合う男になれ……≫

 スカル、エターナル、アクセル、あらゆる風都の仮面ライダーたちが、それぞれと惹きあったメモリを使って変身してきた。
 翔太郎と最も引き合うメモリは何か。

33切札 ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 12:03:26 ID:V1L9C12Q0
 JOKERのメモリである。これが彼に最も似合う帽子。

──JOKER!!──

 サウンドが鳴るとともに、翔太郎はそれをロストドライバーにはめ込んだ。
 スロットの奥にジョーカーメモリが装填される。
 電子音が鳴ると、彼はその音の心地よささえ感じてしまうのだった。
 地球のコアと全く同じ、その声が、翔太郎の中にある切り札の記憶を刺激する。



「見ててくれ、沖さん、結城さん、照井、フィリップ、おやっさん、それに杏子……仮面ライダーのみんなに風都のみんな、ガイアセイバーズのみんな。これが、俺の切り札だ……!」



 翔太郎にとって、切り札は常に自分の元に来るものであった。
 ガドルの攻撃を受けても、このジョーカーメモリは破壊されず、翔太郎の手元に残り続けた。
 ここまで死守してきたガイアメモリである。
 このガイアメモリがある限り、翔太郎は絶えず、仮面ライダーとしての力も発揮できる。



「────変身!」



 ──その叫びと共に、左翔太郎は、黒き仮面ライダージョーカーへと変身した。
 右腕には、アタッチメントを装着するスロットが残っている。ジョーカーでありながら、ライダーマンのようにアームまで変えられる、新たな戦士の誕生であった。







 ……と、ここまではカッコいい仮面ライダージョーカーであるが、その初仕事は汚れ仕事も良い所であった。
 志葉屋敷の一室で、外道シンケンレッドとともに血祭ドウコクを起こすのが今の彼の務めであった。というのも、この血祭ドウコク、疲労状態に重ねて酒を摂取したばかりに、もはや泥酔状態で眠りこけているのだ。
 暴れると危険な彼である。一也は一也で後片付けに忙しいので、翠屋に向かわせるのは翔太郎の仕事になる。

「起きろ、ドウコク……おい」
「うるせええええええええええっっ!!」
「お前の方がうるせえっ!! ……あー、まったく、だから酔っ払いは厭なんだよ……」

 大暴れしかねないドウコクを、何とか外道シンケンレッドと引っ張って、これから翠屋に向かい、すぐに冴島邸までワープしなければならない。
 こちらも先が思いやられる状況だ。
 ドウコクに受けた痛みは忘れないが、それでも今は協力するしかない。
 もう少し自分勝手でない男だったならば、どれほどいいか……。

(待ってろ、杏子。もうお前を失望させたりなんかしねぇ。いや、誰かに失望されたまま、俺は終われねぇよ)

 ドウコクをやっとこさ促して、立たせるまでに成功する。
 足元がおぼつかない様子であった。とにかく、物理攻撃をしかけるほど暴れまわらないのが不幸中の幸いだろうか。

(いずれ、コイツとの決着を一緒につけようぜ。俺もすぐに行くからよ)

 酔っ払いの相手などという汚れ仕事がジョーカーのここでの初仕事とは思わなかった。まるで警察官のようである。
 しかし、だからこそ、その仕事は妙に風都の仮面ライダーらしかった。
 再び街を守れる力を手に入れた喜び。
 それを背負っているようであった。





34切札 ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 12:03:59 ID:V1L9C12Q0



 こちらは沖一也である。
 とにかく、手術が無事成功したからには、他のグループにも報告をしなければならなかった。ホウレンソウはチームでも重要な事で、それを行う術があるのに行わないわけにはいかない。
 たとえ、隠したい事情があるとしても、持っている情報は全て包み隠さず公表するべきだと思う。
 幸いにも、一也の方からは不幸な連絡はない。

「ああ、こっちの手術は成功した。……ああ、それで、そっちはどうなっている?」

 電話は、石堀、暁、ヴィヴィオのチームに発信されたものだ。
 翔太郎は、既にこの場を去り、ドウコクを呼びに行っていた。手術が終わった以上、手際よく冴島邸に向かう準備をしなければならないのだ。

「どうした? 何故、黙っている? 超光騎士はどうしたんだ?」

 考えてみれば、超光騎士はもうとっくに回収されていてもおかしくない頃合いだ。
 何せ、一時間以上も時間が経過しているのである。ここまで時間がかかっているとなれば、それこそ何かトラブルがあったとしか考えられない。
 電流を流す作業によほどの精密性が必要なのか、それとも超光騎士が全く起動しないのか、戦闘に巻き込まれたのか……。
 と思ったが、実際のところ違うらしく、一也の表情は変わった。

「問題?」

 思わず、向こうの言葉に対して訊き返す。
 何か不穏な空気と予感がしたのであった。

「何!? ヴィヴィオちゃんが攫われた!? 一体どういう事だ!! どういう状況になっているんだ!?」

 一也は、思わず向こうの連絡に仰天しそうになった。
 ヴィヴィオが攫われた──というあまりにも酷すぎる事実が一也に突き付けられたのである。どうしてそんな状況になったのかはわからない。
 しかも、こちらの想いとは裏腹に、向こうが明らかに自分たちの不手際を隠す気満々だった事に一也は内心ショックを受ける。

「……そうか、わかった。また後で連絡する」

 とにかく、今は落ち着き、一也は連絡を切った。
 時間がない中でトラブルが立て続き、内心では苛立ちもあるが、起きてしまった事に対して怒りを露わにしても仕方がない。

(バットショットはどうなっている……?)

 一也は、ふとバットショットの事を思い出して画面を動画に切り替えた。
 これを見るのも大事な仕事ではないか。
 バットショットからリアルタイムで送られてくる動画の方も、先ほどの手術のせいでしばらく見られなかった。
 暁たちがあの状況では、バットショットの映像を注視するのは一也たちの仕事になるだろう。今、一番することが少なく、何より主催側に対する考察を行わなければならないのは彼らだ。

「……なっ!!!!!!!!!」

 不意にバットショットの画面に切り替えた一也だが、彼は思わずその画面を見て声をあげた。この状況で、まさかこんな事に……。

(隠さなければならない情報か……)

 一也は理解する。
 なるほど、それも時には必要だ。
 これは、少なくとも、ドウコクにだけは悟られてはならない。
 いや、その為には、他の誰にもなるべく知られないようにしなければならないだろう。



 そこに映っていたのは────

35切札 ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 12:06:54 ID:V1L9C12Q0



【2日目 朝】
【B−2 志葉屋敷】

【沖一也@仮面ライダーSPIRITS】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、強い決意、首輪解除
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(食料と水を少し消費)、ランダム支給品0〜2、ガイアメモリに関するポスター、お菓子・薬・飲み物少々、D-BOY FILE@宇宙の騎士テッカマンブレード、杏子の書置き(握りつぶされてます) 、祈里の首輪の残骸
[思考]
基本:殺し合いを防ぎ、加頭を倒す
0:なんて事だ……なんて事だ……
1:本郷猛の遺志を継いで、仮面ライダーとして人類を護る。
2:仮面ライダーZXか…。
[備考]
※参戦時期は第1部最終話(3巻終了後)終了直後です。
※一文字からBADANや村雨についての説明を簡単に聞きました
※参加者の時間軸が異なる可能性があることに気付きました
※18時に市街地で一文字と合流する話になっています。
※ノーザが死んだ理由は本郷猛と相打ちになったかアクマロが裏切ったか、そのどちらかの可能性を推測しています。
※第二回放送のニードルのなぞなぞを解きました。そのため、警察署が危険であることを理解しています。
※警察署内での大規模な情報交換により、あらゆる参加者の詳細情報や禁止エリア、ボーナスに関する話を知りました。該当話(146話)の表を参照してください。
※ダークプリキュアは仮面ライダーエターナルと会っていると思っています。
※第三回放送指定の制限解除を受けました。彼の制限はレーダーハンドの使用と、パワーハンドの威力向上です。
※魔女の正体について、「ソウルジェムに秘められた魔法少女のエネルギーから発生した怪物」と杏子から伝えられています。魔法少女自身が魔女になるという事は一切知りません。

36切札 ◆gry038wOvE:2014/08/07(木) 12:10:16 ID:V1L9C12Q0
【左翔太郎@仮面ライダーW】
[状態]:疲労(極大)、ダメージ(大)、胸骨を骨折(身体を折り曲げると痛みます・応急処置済)、上半身に無数の痣(応急処置済)、照井と霧彦の死に対する悲しみと怒り、首輪解除、フィリップの死に対する放心状態と精神的ダメージ、切断された右腕に結城のアタッチメント移植、仮面ライダージョーカーに変身中
[装備]:カセットアーム&カセットアーム用アタッチメント六本+予備アタッチメント(パワーアーム、マシンガンアーム+硬化ムース弾、ロープアーム、オペレーションアーム、ドリルアーム、ネットアーム/カマアーム、スウィングアーム、オクトパスアーム、チェーンアーム、スモークアーム、カッターアーム、コントロールアーム、ファイヤーアーム、フリーザー・ショット・アーム) 、ロストドライバー@仮面ライダーW、ダブルドライバー(破壊)@仮面ライダーW、T2ガイアメモリ(サイクロン、アイスエイジ、支給品外ファング)@仮面ライダーW、犬捕獲用の拳銃@超光戦士シャンゼリオン、散華斑痕刀@侍戦隊シンケンジャー、魔導輪ザルバ@牙狼、スモークグレネード@現実×2、トライアクセラー@仮面ライダークウガ、京水のムチ@仮面ライダーW
[道具]:支給品一式×11(翔太郎、スバル、ティアナ、井坂(食料残2/3)、アクマロ、流ノ介、なのは、本郷、まどか、鋼牙、)、ガイアメモリ(ジョーカー、メタル、トリガー、サイクロン、ルナ、ヒート)、ナスカメモリ(レベル3まで進化、使用自体は可能(但し必ずしも3に到達するわけではない))@仮面ライダーW、ガイアドライバー(フィルター機能破損、使用には問題なし) 、少々のお菓子、デンデンセンサー@仮面ライダーW、支給品外T2ガイアメモリ(ロケット、ユニコーン、アクセル、クイーン)、ふうとくんキーホルダー@仮面ライダーW、霧彦のスカーフ@仮面ライダーW、須藤兄妹の絵@仮面ライダーW、霧彦の書置き、スタッグフォン+スタッグメモリ(通信機能回復)@仮面ライダーW、スパイダーショック+スパイダーメモリ@仮面ライダーW、まねきねこ@侍戦隊シンケンジャー、evil tail@仮面ライダーW、エクストリームメモリ(破壊)@仮面ライダーW、ファングメモリ(破壊)@仮面ライダーW、首輪のパーツ(カバーや制限装置、各コードなど(パンスト、三影、冴子、結城、零、翔太郎、フィリップ、つぼみ、良牙、鋼牙、孤門、美希、ヴィヴィオ、杏子、姫矢))、首輪の構造を描いたA4用紙数枚(一部の結城の考察が書いてあるかもしれません)、東せつなのタロットカード(「正義」、「塔」、「太陽」、「月」、「皇帝」、「審判」を除く)@フレッシュプリキュア!、ルビスの魔剣@牙狼、鷹麟の矢@牙狼、ランダム支給品1〜4(鋼牙1〜3、村雨0〜1)、翔太郎の右腕
[思考]
基本:俺は仮面ライダーだ。
0:ドウコクを連れて冴島邸に行く。
1:杏子に謝る。
[備考]
※参戦時期はTV本編終了後です。
※他世界の情報についてある程度知りました。
(何をどの程度知ったかは後続の書き手さんに任せます)
※魔法少女の真実(魔女化)を知りました。
※第三回放送指定の制限解除を受けました。彼の制限はフィリップ、ファングメモリ、エクストリームメモリの解放です。これによりファングジョーカー、サイクロンジョーカーエクストリームへの変身が可能となりました。
※ダブルドライバーが破壊されました。また、フィリップが死亡したため、仮にダブルドライバーが修復されても変身はできません。
※仮面ライダージョーカーとして変身した際、右腕でライダーマンのアタッチメントが使えます。


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