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辺獄バトル・ロワイヤル【第3節】

1 ◆2dNHP51a3Y:2021/06/25(金) 21:22:55 ID:riCoyL6w0
―――ソラを見よ、血染めの月が、世界を侵食(おか)す

2灰色の世界の下で ーAwake and Aliveー ◆ZbV3TMNKJw:2021/06/25(金) 23:29:25 ID:4rGGmn7.0



「止めておけよ」

僕をよびとめる声がきこえた。

そこには僕がいた。灰色のかいぶつになった僕が、かつて見た時と同じように壁に背をあずけて座っていた。

「ソレが本当に彼女の声なのか?お前が都合よく受け取ってるだけじゃないのか?」
「何にも見えないこんな世界でどうしてソレが彼女だと言い切れる」

かつての『僕』は問いかけ警告するだけだった。
けれど、今回は何かが違う気がする。

「もう一度言うよ。止めておけ。きっとまた見間違える。深くなっていく不安から目を逸らして善意に流されれば、また誰かの命を海に沈めることになる」

『僕』ははっきりと僕を止めている。
その言葉に僕の不安は増していき、それでも僕は口にした。

―――僕はもう見間違えない!

3灰色の世界の下で ーAwake and Aliveー ◆ZbV3TMNKJw:2021/06/25(金) 23:29:59 ID:4rGGmn7.0





鳴り響く轟音、轟音、轟音。
激しい戦闘痕に怯えつつもまどかは戦場へと向かった。

(あの人を止めなくちゃ)

自分を斬った男、堂島が未だに怯え、誰かを手にかけようとしているならば必ず止める。
その意志を胸に秘め、彼女はやがて戦場へとたどり着く。

そこで見たものは、堂島が剣を投げ黒ゴスロリ服の少女を殺そうとした場面。
少女は間一髪回避したものの、第三者の目線で戦場を見ていたまどかは気が付いた。
地面に落ちた剣が宙に浮かんだことに。
そこから先の光景は戦闘経験が豊富とはいえない彼女でもわかる。
理屈はわからないが、あの剣は少女を斬るのだろう。

そう判断した瞬間、まどかは自然と弓を構えていた。

―――武器の軌道と位置を読め。

その英吾の教えを頼りに、意識を剣のみに集中し、矢を放つ。
果たして矢は剣の腹にあたり、少女の眼前にまで迫っていた剣は軌道がそれて主のもとへと帰る。

「大丈夫ですか!?」

成功にホッと胸を撫で下ろすよりも早く、まどかは少女へ駆け寄り安否を確かめる。

「―――る、―げろっ!」
「助けてくれてありがとぉ!」

堂島の叫びをかき消すように、ミスティがまどかに抱き着き礼をする。
突然の抱擁にまどかは困惑し慌てふためく。

「えっ、ちょ、あの」
「あなたがいなかったらきっとあの怖い男に殺されていたわぁ。だからこれは...お礼のチュー♡」



ちゅるっ

4灰色の世界の下で ーAwake and Aliveー ◆ZbV3TMNKJw:2021/06/25(金) 23:30:25 ID:4rGGmn7.0

「!!??」

突如口内に侵入した甘い感触に思考が止まり、一拍置いて己がされていることに理解が追い付くと瞬く間に顔が真っ赤に茹で上がる。
魔法少女は魔力さえ込めれば身体能力が高くなる。常人であれば逆立ちしても勝てないほどにだ。
そのはずなのに、拒絶の意思を抱いていてもなぜかミスティを突き飛ばすことができない。魔力は乱れ、ただの女子中学生としてでしか抗えない。
嫌がる思考と与えられる快楽に従う身体が正しく直列反応していないのだ。
首筋に軽い刺激が走ると共に、ようやく唇が離されまどかは息を荒げつつミスティを突き飛ばし距離をとる。

「なっ、ななななにをするんですか!?」
「その反応、ひょっとして大人のキスは初めてだったかしらぁ?ごめんなさいねぇ、お礼のつもりがあなたの"初めて"奪っちゃったみたぁい」

口角が吊り上がり、細められるミスティの目にまどかの背筋がゾクリと粟立つ。
茹で上がった顔から一気に血の気が引くほどの悪寒。
捕食対象を見つけた爬虫類のような、冷たく見下ろす瞳。


咄嗟に弓を構えようとするまどか。
しかし、突如身体を奔った甘い稲妻に照準が定められなくなる。

「ふわっ!?」
「初めて与えられた快楽を求めて身体が嫌でも疼いてしまう...初心な子の反応は可愛いわねぇ」

鼻歌でもひとつ歌いだしそうなほど軽やかな足取りでミスティはまどかへと歩み寄る。

「こ、こないでくだ...ひゃあっ!?」
「安心しなさぁい。あなたは命の恩人だものぉ。エスデスちゃんたちみたいな無茶な改造はせずに優しく愛して快楽漬けに堕としてあげるわぁ」

改造。
その無害とは無縁な単語にまどかの喉が鳴る。

―――なにしてる、逃げろっ!

先ほどの堂島の叫びが脳内で補完され訴えかける。
危険なのは堂島ではなく、ミスティだったということ。
自分はまた間違えてしまったということを。

離れなくてはいけない。なのに動こうとするだけで身体に甘い稲津が走り、けん制することすらできない。
捕食者に頬を撫でられる感触すらもまどかの身体は快感に変換される。

「可愛い顔は好きよぉ。何度も、何度も味わいたく―――」

再び唇を重ねようとしたミスティは、しかし飛び退き距離をとる。

「シッ!」

5灰色の世界の下で ーAwake and Aliveー ◆ZbV3TMNKJw:2021/06/25(金) 23:31:05 ID:4rGGmn7.0

微かに遅れて、彼女のいた空間に拳が放たれた。
後からまどかを追っていた真島が到着し、状況からまどかが危険だと判断したのだ。

「だいじょうぶか鹿目」
「ひゃひっ!?」
「!?」

真島の手が肩に触れた途端、まどかは嬌声を上げ背筋がピンと伸びる。

「どうした鹿目...っ!?」

真島はまどかに比べて身長が高い。それ故にすぐに気が付けた。
まどかの首筋に細い針が刺さっていたことに。

真島が咄嗟にそれを引き抜くと、まどかの身体の疼きは消え、体力の消耗に伴いがくりと崩れ落ちる。

「あらあらもうバレちゃったのねぇ」
「鹿目になにをした?」
「ちょっと感度を弄っただけよぉ。命を助けてくれたお礼を兼ねて。針が身体に馴染む前にとられちゃったから打ち切りだけどぉ」

その言葉に真島が鋭い目でミスティを睨みつける。
命を救われた礼がこのような悪辣なことではミスティに対して嫌悪感しか抱けない。

とん、とん、とん、と一定の間隔で地を蹴りボクシング特有の足取りで戦闘態勢に入る。

「悪いが女相手とはいえ容赦はしない」
「ふぅん、ボクサーねぇ。スポーツ選手は性欲が強い人が多いと聞くけどあなたはどうかしらぁ?」

ミスティが掌をかざすと同時、地面から真島目掛けて三本の水の槍が襲い掛かる。
真島はボクシングで鍛え上げたフットワークで迫る二本を躱し。

「シッ!」

残る1本を右のジャブで破壊した。
次いで放たれる水の槍も同様に躱し、ジャブで破壊し対処していく。

「ふぅん、中々やるわねえ。ならこれならどうかしらぁ?」

ミスティが号令をかけると水の槍に変わり、今度は津波が真島目掛けて押し寄せる。

(点が駄目なら面でということか!)

この面の広さで攻められれば真島のフットワークでも避けきれない。
一か八か、全力のストレートで波を破れる可能性に賭ける。

「真島さん!」

真島の横に復帰したまどかが並び波を見据える。

「鹿目、なぜ逃げなかった!?」

ミスティの狙いは真島一人だ。復帰できたのならまどかがこの場を離れることはできたはずだ。

「真島さんを置いていけませんよ!」

だが彼女に、鹿目まどかに大切な者が傷つくのを合理的に眺めていることなどできるはずもなかった。

6灰色の世界の下で ーAwake and Aliveー ◆ZbV3TMNKJw:2021/06/25(金) 23:31:38 ID:4rGGmn7.0

「―――ああそうか、ならいくぞっ!」
「はいっ!」

もはや説得も警告もままならない切羽詰まった状況だ。
ならば打ち破るしかない。共に信じあい、共に呼吸を合わせて。

「「はああああああああ!!」」

眼前にまで波が迫ったその刹那、二人の叫びが重なる。
繰り出された拳と弓が一点に集中し波へと放たれる。

パァン、と小気味いい音と共に、波は弾かれまどかと真島の視界が広くなる。

「すごいすごい、よくできましたぁ。これはとっておきのご褒美よぉ」

その先で視界に飛び込んできたのは更なる絶望。
小馬鹿にするように嗤うミスティの頭上に溜まる、半径5メートルはある巨大な水の弾。
その圧力を身に受ければただでは済まないだろう。

「ほう、中々見事に使いこなしているではないか私のご主人は」
「くっ!」
「そう急くな。こちらはこちらで楽しもうじゃないか」

まどか達のもとへと向かおうとする堂島だが、エスデスに進路を塞がれ足止めされる。

(クソッ!回避が間に合わない!)

全力の攻撃を放った直後の真島とまどかに水球を避ける余裕はなく。
ならばせめてと真島はまどかを抱きしめ、水球に背を向け己の身体を盾にする。

「真島さん!」
「衝撃に備えろ鹿目!!」

真島はまどかを抱きしめる力を強め、歯を食いしばり来る激痛に備える。

バチリ、と激しく肉を打つような音が響く。
人が津波に打たれたらこんな音がするのだろうかと真島はなんとなく思った。

7灰色の世界の下で ーAwake and Aliveー ◆ZbV3TMNKJw:2021/06/25(金) 23:32:15 ID:4rGGmn7.0

「......」

だが、来ると思っていた痛みが来ない。疑問のままに真島は瞼を開ける。

「怪我はありませんか」

バサリ、とたなびく漆黒のマントが真島とまどかの視界いっぱいに広がる。
周囲には真島たちを護るかのように小魚のような形の影が蠢いている。


「これ、は...!」

信じられぬものを見たかのようにミスティは目を見開き。

「ふふっ、まったく貴様という男は...!」

既視感ある光景にエスデスはこれ以上なく口角を釣り上げ。

「ハッハッハッ」

いつもの乾いたような、しかしどこか喜色の混じった笑い声を堂島があげる。




「ようやく目を覚ましたようだね、佐神くん」



佐神善。その瞳に宿る信念は微塵も揺らぐことなく、救える命を救うため、再び戦場へと帰還した。

8灰色の世界の下で ーAwake and Aliveー ◆ZbV3TMNKJw:2021/06/25(金) 23:32:59 ID:4rGGmn7.0



目を覚ます。

見知らぬ少年が益子さんを介抱しつつこちらを覗き込んでいた。

彼が何者か。いま自分はどうなっているのか。なぜこんなことになっているのか。

『まだ戦う意思はあるか』

疑問がぐちゃぐちゃに渦巻く中、真っ先に思い出したのは、斬る前にあの人が僕に問いかけてくれたその言葉だった。






「あり得ないわぁ...善くんは殺したとあの男が...」

困惑するミスティだが、しかし己で口にして気が付く。

『情報収集は複数人と照らし合わせなければ正確性は増さない』
まさしく堂島自身が言っていたことだ。
それはつまり。

疲弊しきった吸血鬼は脳を斬られれば死ぬというのも。
善がもうじき死ぬと言ったのも。
なにもかもが堂島のでっちあげた嘘だということ。
最初のミスティの予想通り、堂島は善が復活するための時間稼ぎをしているにすぎなかったのだ。

「エスデスちゃん、堂島を殺しなさぁい」
「言われるまでもない。闘争の果てにあるのはどちらかの死のみだ!」

エスデスの掌が地面に触れ、足元から巨大な氷柱が堂島の足元から生やされる。
確実に心臓部を狙った一撃。しかし、ミスティが命じたからといってすぐに殺せるほど、堂島とエスデスの実力差は無い。
氷柱を捌きつつ、逆にそれを足場にして跳躍し善のもとへと降り立つ。

9灰色の世界の下で ーAwake and Aliveー ◆ZbV3TMNKJw:2021/06/25(金) 23:33:54 ID:4rGGmn7.0

「...先生」

善は隣に並び立つ堂島をジッと見据える。
いまの二人はかつて相談事を持ち掛けたり昼食を共にとったり、そんな和やかな時間を過ごせるような間柄ではない。
堂島は善を戦いから降ろすために遠ざけ、善は堂島の正義に狂った犯行を止める為に斃すことすら考えている。
敵対関係としか言いようがない間柄だ。

「ありがとうございました」

それでも善は礼をする。
堂島正という男が二度も自分の命を救ってくれたヒーローであることに変わりはないのだから。

「まったく、あんな形で君を斬ることになるとは思わなかったよ」

吸血鬼の再生はそのすべてが切り離された箇所を着けるのではなく、イチから組織を作り上げる場合もある。
後者の再生の場合は、当然ながら再生させられるのはミスティの黒針で変化させられた肉体ではなく、健全な善の肉体である。
堂島はミスティの黒針を刺された箇所、脳の一部と局部を再生に使えないほど重点的に切り刻み、カモフラージュの為にその他の箇所を再生が可能な程度に切り刻んだ。
無論賭けだ。
善の吸血鬼としてのポテンシャル、なにより彼自身の生存への意思が必要不可欠だった。
堂島はずっと善を吸血鬼の抗争から降ろしたかった。
彼の命を守るために。彼には守るべきものを護ってもらいたいために。
その堂島が、吸血鬼としての能力と善の信念を信頼して斬ることになるとはなんたる皮肉だろう。


「この際に戦いから降りてくれれば肩の荷が下りるというものだがね」
「降りませんよ。少なくともあなたを止めるまでは」
「そういうと思ってたよ」

仮面の下からも苦笑しため息を吐くさまがありありと想像がつく堂島。
まどかは、彼が自分を斬った者と同じだとは思えなかった。

「あの...堂島さん、でいいですか?」
「...ああ」

おずおずと話しかけるまどかと堂島の間に張り詰めた緊張感が走るのを善と真島は肌で感じ取る。

「そのっ、ごめんなさい!」

10灰色の世界の下で ーAwake and Aliveー ◆ZbV3TMNKJw:2021/06/25(金) 23:34:28 ID:4rGGmn7.0

真っ先に頭を下げたのはまどかだった。
糾弾されるかと思っていた堂島は思わず面を食らう。

「わたし、勘違いしてて、堂島さんの邪魔をしちゃって...!」

もしもあの場面でまどかが邪魔をせずミスティを倒せていれば事態はかなり良い方向へと進んでいたはずだ。
それがわからぬほどまどかは己の正義に盲目的ではない。

「...参ったな。先に謝られると立つ瀬がないというかなんというか...」
「あんたは俺たちの味方になった、ということでいいんだな?」
「事情が変わってね。まあ、私が信じられないというのも無理な話だが」
「信じますよ。その為に私たちはここまで来たんですから」
「...だ、そうだ。俺も鹿目と同じだ。尤も、俺は鹿目ほど寛容じゃないからなにか一言あるべきだと思うがな」
「そうだね。...先ほどはすまなかった」

善には三人の間になにがあったはまだ知らない。
しかし、後で事情は聞かせてもらうにせよ、これで堂島は確かに自分の味方だと強く確信する。

「ハァァァァ...」

そんな彼らを見て、ミスティはこれみよがしに深いため息を吐く。

「バカな子...大人しく従ってれば痛い目にも怖い目にも遭わずにすんだのにぃ」
「聞くわけがないだろ、あの子をあんな目に遭わせた奴のいうことなんて...!」
「あなた彼女とは初対面でしょう?あっ、ひょっとしてたくさんまぐわってる内に情が湧いちゃったのかしらぁ」
「ッ!」
「見え見えの挑発に乗るなよ佐神くん」
「...大丈夫ですよ。あの手の挑発はもう身内で慣れてますから」

「善くん。あなたは優秀なザーメンタンクだったわぁ。でもね、ご主人様に逆らう奴隷は要らないの。
戦闘員はエスデスちゃんにお父様で十分。あなたと堂島さん以外の子を目の前でたっぷり調教してあげるから覚悟をなさぁい。
先に逃げた女の子も、そこにいる二人も。―――そこに隠れて隙を伺っている誰かさんも」

ミスティが掌を校舎の方角へと翳すと、水流が勢いよく湧きだし傍にある壁を破壊する。

11灰色の世界の下で ーAwake and Aliveー ◆ZbV3TMNKJw:2021/06/25(金) 23:35:18 ID:4rGGmn7.0

その破壊の痕から赤い月光を背に浮かび上がる影が一つ。

ミスティはその存在を予め知っていたわけではない。
堂島が一芝居打って善の再生時間を稼いだのを考慮しても、彼の復帰は早すぎた。
しかし、堂島が斬ってからすぐに戦闘に移行したため、遺灰物を使うような余裕はなかった。
つまりは第三者。何者かが弱り切った善に遺灰物かそれに類するものを提供した―――そう推理したのだ。

「...いまのぼくはジョルノ・ジョバーナに最も近い存在。ワザップじゃあないが...しかし、敢えてこの言葉を言わせてもらう」



〜〜〜〜♪(ジョルノが無駄無駄する時のBGM。ワザップジョルノの動画でも流れている)



影―――ジョルノは己の存在が暴かれたことにも微塵も動揺せずに凛として言い放つ。

「貴女を強制性交等罪及び名誉毀損罪で訴えます。理由はもちろんお分かりですね?」

犯した罪状を確かめるように静かなトーンで語り掛けるように。


「あなたが純朴な青少年たちの純潔を奪い、心身を傷つけたからです!」

罪を犯した愚者への怒りを解き放つように力強く。


「覚悟の準備をしておいて下さい!ちかいうちに訴えます。裁判も起こします。裁判所にも問答無用できてもらいます。慰謝料の準備もしておいて下さい!貴女は性犯罪者です!刑務所にぶち込まれる楽しみにしておいて下さい!いいですね!!」

決して許されないことをした者への怒りをぶつけるように、烈火のごとく激しく。


ワザップジョルノはいまここにミスティたちへと宣戦を振りかざした。

12灰色の世界の下で ーAwake and Aliveー ◆ZbV3TMNKJw:2021/06/25(金) 23:36:35 ID:4rGGmn7.0




「グワバア"ア"ア"ア"ア"ア"!!」
「ていっ!」

梨花が杖を振ると、累の父は遥か後方へと吹き飛ばされる。

「便利なもんだなその杖」
「そうは言ってもあと一回しか触れないけれどね...あなたのこのインパスの指輪があって助かったわ」

英吾と梨花は共に移動しながら累の父を引き付けている。
生命エネルギーを生み出すことの出来るジョルノが善の再生をサポートし、その後、増援を連れてくるまで杖を活用し英吾と梨花の二人で粘る。
それが梨花の考えた作戦だった。

「...三島。あなたはジョルノの方へ向かってもよかったのよ?」
「ハッ、子供一人にこんなこと押し付けられねえさ」
「...そう。仮に死んでも後悔しないことね。あなたが死んでも涙は流せないから」
「冷たい嬢ちゃんだな...ま、そんだけの口が聞けりゃあもう自殺しようなんて思わねえだろうな」
「ええ。私にはやることがあるもの。それまでそう簡単にこの命をくれてやるわけにはいかないわ」

梨花の目的は目下沙都子の保護である。
その為には善や堂島のように強力で全量な参加者が必要不可欠だ。

そして、彼らのもとに累の父を向かわせれば戦況は悪化するのみだ。
絶対にミスティたちのもとへ向かわせてはならない。

梨花と英吾は決意と共に、文字通りの命がけの鬼ごっこへと挑む。


【古手梨花@ひぐらしのなく頃に 業】
[状態] 精神復調、後頭部にたんこぶ
[装備] いつもの服、インパスの指輪@トルネコの大冒険3(英吾の支給品)
[道具] 基本支給品、不思議な杖三本セット(封印の杖[3]、ボミオスの杖[3]、ふきとばしの杖[1])@ドラゴンクエスト外伝 トルネコの大冒険 不思議のダンジョン
     ランダム支給品(0〜1)
[行動方針]
基本方針:繰り返しを脱する手がかりを掴む
0:累の父を止める/倒す
1:沙都子を保護する。ジョルノの推察により僅かな疑念
2:頑張れるだけ、頑張る。

[備考]
※参戦時期は16話で沙都子に腹を割かれている最中(完治はしています)
※ワザップジョルノ、プロシュート、三島英吾を危険人物と認識しています


【インパスの指輪@トルネコの大冒険3】
装備している者は如何な道具の正体も見破ることができるようになる。
このロワにおいては触れた支給品の杖の回数のような支給品説明書に記載されていない情報がPDAのフォルダに送られる。


【三島英吾@リベリオンズ Secret Game 2nd stage】
[状態]顔面に激痛(傷はGEにより完治)
[装備]なし
[道具]基本支給品、ランダム支給品0〜1、拳銃@現実、ライフル銃@現実(梨花の支給品)
[行動方針]
基本方針:殺し合いを止める。
0:累の父を止める/倒す
1:彰、悠奈との合流。
2:貴真には要警戒。
[備考]
※参戦時期は死亡後





【累の父@鬼滅の刃】
[状態]:満腹
[装備]:
[道具]:なし
[思考・状況]
基本:家族を守る
0:家族(ミスティたち)を守るために眼前の連中をつぶす。
1:オ゛レの家族...イダヨ!!!!!!
2:あの人間、うまがったあ゛あ゛あ゛
[備考]
※参戦時期は36話伊之助との戦闘中、脱皮する前
※ホワイトの精神操作はドレミーによって解かれました。
※しかし、ドレミーに何か”しこまれている”かもしれません。詳細は後続の書き手様に委ねます。
※ドレミーと夢の世界で出会いました。
※殺し合いのルールを理解できておりません。
※一般・ランダム支給品はドレミーに奪われました。空のデイバッグは捨てられています。
※夢の中での啓示により、ホワイトの首輪を所持しましたがミスティに回収されました。

13灰色の世界の下で ーAwake and Aliveー ◆ZbV3TMNKJw:2021/06/25(金) 23:37:42 ID:4rGGmn7.0




「なるほど...こいつが益子ってやつを甚振ってたやつか」
「そのようですねェ。荻原さんの夢で見た男は彼ですね」

プロシュートたちが結衣の案内でたどり着いた先にいたのは地面に転がる鷲鼻の男。精力を使い果たし力尽きた村田勉の遺体である。

「で、ゴスロリ娘とやらはどこに行った?」
「仲間割れですかねェ。益子さんをどうするかでモメてゴスロリさんがズドン!と」
「あり得る話だな。益子って娘をわざわざ連れ去ってるならなおさらだ」

「それで、益子さんはどこに行ったんですかあ?」

結衣の間延びした声が疑問を投じ、プロシュートたちは考える。

益子にしてもあそこまで派手にやられていれば体力の消耗はかなりのモノのはず。
ならばそんな女を連れ歩くならばどこかの施設で休息をとるはずだ。
地図上、近場にある主な施設は

「学校か」

その答えに相槌を打つかのように、轟音がプロシュートたちのもとへと届いた。



【プロシュート@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:負傷(中) 疲労(中)
[装備]:ニューナンブ@ひぐらしのなく頃に 業
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜2
[思考・状況]
基本方針:?????
1:益子とかいう女を助ける。...賭けに負けちまったからには文句は言わねえ。
2:ユイ・オギハラ……兄貴……か
3:レオーネの知り合い(アカメ)を探す。あったら言伝を伝える。※C3の貸本屋のこと
4:オレは死んでるのか?それとも、まだ生きているのか?
5:ワザップジョルノ……オメーは一体何者だ……
[備考]
※参戦時期はブチャラティVSペッシを見届けてる最中です。
※此処が死者、特にロクデナシの連中を集めたものだと思っていましたが、結衣の存在やドレミーとの情報交換から今は生者死者入り交えていると推測しています。
また、自分はまだ死んではいないのかとも思い始めています。
※ドレミーとの会話で幻想郷について簡単に知りました。
※ワザップジョルノが護衛チームのジョルノなのか結論を下せず、半信半疑中です。

【ニューナンブ@ひぐらしのなく頃に 業】
雛見沢の謎を追っている刑事大石に支給されている銃。
日本のお巡りさんのほとんどが、この拳銃を携帯している。
「この村のせいじゃぁぁぁ!!」by大石蔵人

【荻原結衣@リベリオンズ Secret Game 2nd stage】
[状態]:疲労(小)、後悔、睡眠中、プロシュートに黄金の希望を見出している
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜3、氷
[思考・状況]
基本:益子さんのためにもまずは生き延びる(可能なら益子さんとお買い物をしたい)
1:益子さんを助けに行く。
2:益子さん、ごめんなさい……!
3:兄貴にドレミーさんと私……これが続いてほしいな
[備考]
※参戦時期はepisode Cから 小屋の地下で黒河と心が通じ合う前
※プロシュートが裏の世界の人間だと理解はしています。
※スタンドなどはまだきちんと理解できていません。(なんか、よくわからないけど凄い程度)
※ドレミーの世界(幻想郷)について簡単に知りました。
※この殺し合いが終わったら、益子薫と買い物をする約束をしています。

【ドレミー・スイート@東方project 】
[状態]:疲労(極小) 
[装備]:夢日記@ 東方project
[道具]:基本支給品×2、ランダム支給品0〜5 氷
[思考・状況]
基本方針:この殺し合いと言う酔夢が導く結末を見届ける
1:とりあえず、プロシュートの後をついていく(襲い掛かってきた者には対処する)
2:参加者が寝たとき、夢の世界へ介入する
3:妖怪とは気まぐれな者ですよ
[備考]
※参戦時期は東方紺珠伝ED後
※メフィスとフェレスも管理者であると気付きました(何の管理者かは、まだつかめていません)
※リリア―ナの刻を止める能力を知りました。
※夢日記より、サーヴァント達や第一部での顛末、・鬼滅の刃の鬼の体の構造・リベリオンズの首輪の解除方法、ギース・ハワードを知りました。
※プロシュートとの情報交換でプロシュートの世界について簡単に知りました。(スタンドの存在など)
※プロシュートのグレイトフル・デッドの能力を理解しています。
※累の父から基本・ランダム支給品を奪いました。

14灰色の世界の下で ーAwake and Aliveー ◆ZbV3TMNKJw:2021/06/25(金) 23:38:16 ID:4rGGmn7.0




決死の戦い。

いま、傍にドミノ達がいない初めての戦い。

それでも、こんなにも共に戦ってくれる者たちがいる。そして、あの先生と肩を並べている。

だから信じていた。

誰も欠けることなく、この殺し合いそのものを終焉まで導けると。

―――けど、そうはならなかった。

15灰色の世界の下で ーAwake and Aliveー ◆ZbV3TMNKJw:2021/06/25(金) 23:40:47 ID:4rGGmn7.0


【真島彰則@リベリオンズ Secret Game 2nd stage】
[状態]:疲労(小)
[装備]:Jのメリケンサック(両拳)@魁!男塾
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本方針:正しき道を歩む。
0:状況に対処する。
1:堂島からは後で話を聞く。
2:荻原結衣との合流。
3:蒔岡彰に興味。やはり玲の弟のようだな

[備考]
※参戦時期はBルート死亡後より
※魔法少女やまどかについて大雑把に聞きました。

【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:腹部にダメージ(大、魔法で治療中)、出血(中〜大、止血済)、疲労(中)、魔力消費
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜3
[思考・状況]
基本方針:誰も死なせず殺し合いを止める。
0:状況に対処する。
1:堂島とは後で話をする。
2:荻原結衣という人を探す。
[備考]
※参戦時期は3週目でマミを殺した後。






【佐神善@血と灰の女王】
[状態]:負傷(大) 疲労(絶大) 脱童貞 闘争心
[装備]:闇征拳アジェルノッカー@ファンタシースターオンライン2
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2
[思考・状況]
基本方針:もう、見失わない。
0:ミスティを倒し薫を助ける。いま、この時だけは先生とも協力する。
1:ドミノや明との合流
2:沙都子と鉄平が心配。早急に合流を。
[備考]
※参戦時期は燦然党決戦前。
※初めての相手はミスティで脱童貞しました。
※名簿によりドミノ達がいることを知りました。
※ゴールドエクスペリエンスの生命エネルギーで身体が補填されています。
※再生の際に益子薫の血を取り入れたことで彼女の【本音】を聞きました

【ワザップジョルノ@ワザップ!】
[状態]:主催者への怒り(極大)、ミスティへの怒り(絶大)
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜3
[行動方針]
基本方針:主催者を訴え、刑務所にぶち込む
0:善たちと共に性犯罪者(ミスティ)を刑務所にぶち込み訴える。
[備考]
※外見はジョルノ・ジョバァーナ@ジョジョの奇妙な冒険 です。記憶も五部完結まで保持しているようです。
※ゴールド・エクスペリエンスも使えますが、矢をスタンドに刺してもレクイエム化はしないと思われます。
※CVは想像にお任せします。
※古手梨花、北条鉄平、プロシュート、三島英吾を犯罪者と認定しています。
※犯罪者の認定は完全な主観です。罪が重いほど対象に対する怒りは大きくなります。
※犯罪者対応は拘束が目的ですが、対応時に手加減はあまりしないようです。
※ワザップ状態が完全に解けてもジョルノ・ジョバーナ@ジョジョの奇妙な冒険にはならないようです。




【堂島正@血と灰の女王】
[状態]:精神的な疲労(大)、まどかを斬った罪悪感、善とともに戦う高揚感(?)
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本方針:生き残り正義のヒーローになる。
0:善たちと協力しミスティたちを討つ。いま、この時だけは....
1:日ノ元士郎を討つ。そのあとは...?
2:善を死なせたくはない

[備考]
※参戦時期は101話より。

16灰色の世界の下で ーAwake and Aliveー ◆ZbV3TMNKJw:2021/06/25(金) 23:42:03 ID:4rGGmn7.0

【ミスティ@変幻装姫シャインミラージュ】
[状態]:疲労(中〜大) お肌つやつや
[装備]:帝具『ブラックマリン』@アカメが斬る!(エスデスの支給品)
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜1、ホワイトの首輪、電撃蟲@対魔忍アサギシリーズ ハイグレ光線@クレヨンしんちゃん アクション仮面VSハイグレ魔王
[思考・状況]
基本:殺し合いの状況を見極める(今のところ、反逆・優勝共に半々)
0:服従する者には蜜を...反逆するものには死を...
1:奴隷候補のおもちゃがこんなにもたくさん...ふふっ♪
2:糸見沙耶香と古波蔵エレン、その子達も手に入れたい
3:この首輪を何とかしたい所
4:あの双子の関係者と接触したい
5:おチンポミルク奴隷にできなさそうな参加者とは同盟を組む
6:ハイグレ光線は奥の手としましょうか……
[備考]
※参戦時期はノベル版から『ゴスロリ少女の魔の手』終了後より
※シャインミラージュがいないことを名簿で知りました。
※エスデスから帝具やアカメなどについて知りました。
※佐神善からヴァンパイアについて理解しました。(日ノ元士郎、日ノ元明、ドミノ・ザザ―ランドについても)



【エスデス@アカメが斬る!】
[状態]:ハイグレ人間 自我消失(半) 負傷(大) 疲労(大) 内臓損傷(治療済) 乳首母乳化 アナル拡張済み ふたなり化 処女喪失 自我喪失
[装備]:はかぶさのけん@ドラゴンクエストビルダーズ2 破壊神シドーとからっぽの島  中長ナス(タツミ)@現実
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]
基本方針:ミスティ様の命令に従う ハイグレ!ハイグレ!
0:ミスティの指示のもと堂島たちと戦う。
1:私はハイグレおチンポミルク奴隷エスデスだ!
2:タツミ(ナス)もうお前を二度とはなさないぞ!野菜オ○ニーだ
3:タツミ(ナス)もうお前を二度とはなさないぞ!野菜オ○ニーだ
4:タツミ(ナス)もうお前を二度とはなさないぞ!野菜オ○ニーだ
5:タツミ(ナス)もうお前を二度とはなさないぞ!野菜オ○ニーだ
6:タツミ(ナス)もうお前を二度とはなさないぞ!野菜オ○ニーだ
7:タツミ(ナス)もうお前を二度とはなさないぞ!野菜オ○ニーだ
8:タツミ(ナス)もうお前を二度とはなさないぞ!野菜オ○ニーだ
9:タツミ(ナス)もうお前を二度とはなさないぞ!野菜オ○ニーだ
10:そろそろ飽きてきたな、これ。
[備考]
※参戦時期は漫画版死亡後より。
※ナスで処女喪失しました。
※ハイグレ光線銃によりハイグレ人間となりました。
※摩訶鉢特摩は使用したため、2日目以降でないと使用できません。
※戦闘は支障なく行えます。
※デモンズエキス本来の効果により自我が戻ってきています。



【校舎内】

【益子薫@刀使ノ巫女】
[状態]:精神崩壊、性感倍増、白濁液塗れ、衣服の乱れ、ノーパン ふたなり化、頭部出血(止血済み)、気絶。
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2(支給品の一つである遺灰物@血と灰の女王を消費しました。
[思考・状況]
基本:ミスティ様に従う
1:沙耶香とエレン達を見つけたら自分と同じくミスティ様のペットにしてもらう
2:あのビリビリ気持ちよかった、もう一度味わいたい
3:あのビリビリ気持ちよかった、もう一度味わいたい
4:あのビリビリ気持ちよかった、もう一度味わいたい
5:あのビリビリ気持ちよかった、もう一度味わいたい
6:あのビリビリ気持ちよかった、もう一度味わいたい
7:あのビリビリ気持ちよかった、もう一度味わいたい
8:あのビリビリ気持ちよかった、もう一度味わいたい
9:あのビリビリ気持ちよかった、もう一度味わいたい
10:善のザーメンもっと!もっとくれ!!
11:だれかおれをとめてくれ
[備考]
※精神崩壊によりミスティの命令に従うだけの狗と化しています
※御刀がないので写シ等の能力は使えません
※名簿にエレン達、顔なじみの刀使がいることを知りました。
※善のおチンポに夢中になっております。

17 ◆ZbV3TMNKJw:2021/06/25(金) 23:43:01 ID:4rGGmn7.0
ここまでで投下を中断します。
予約を延長して後半はまた来週中には投下します

18 ◆s5tC4j7VZY:2021/06/29(火) 21:28:19 ID:dvgEaJBw0
途中までの投下お疲れ様です。

結衣の覚悟にそれに応える兄貴がカッコイイ……!
そして、ドレミーも実にらしくて3人のやり取りにニヤニヤしちゃいました。
また、助けてくれたまどかの唇をお礼に奪ったり、累の父の一物を手さぐりしたりとミスティが輝いて個人的には嬉しいですね。
そして、大人数を相手にエスデスのサポートもありながらも対峙するミスティの風格がまた良いですね。
ワザップの言動には笑いとカッコよさが入り混じっていて正に”ワザップジョルノ”ですね!
とりあえず、保護観察になった英吾さんにはホッとしますし、ジョルノに出会った瞬間にふういんをするのにも笑っちゃいました。
真島さんの「シッ!」にワザップに敬意をはらわせたまどかの行動に感動しました。
意識を取り戻した善君に必死に彼を救おうとした先生はやはり良いですね。
ですが、最後の後編に繋がる善君のモノローグにはマジか……と思いました。

後半がとても楽しみです。

針目縫、服部静夏、植木耕助で予約します

19 ◆EPyDv9DKJs:2021/07/01(木) 19:13:15 ID:jyLOBDo.0
投下します

20 ◆EPyDv9DKJs:2021/07/01(木) 19:14:01 ID:jyLOBDo.0
「ライム、ユズ……」

 放送の後、即座に日菜子は名簿を確認した。
 記憶を取り戻した今なら二人のこともわかる。
 だからショックだ。こんな形で再会できるかもしれない可能性に。
 此処で二人が誰と出会ってるか、敵と出会ってるかも分からない。
 二人も簡単にやられるほど弱くはないが、先程の紫の女性は危険だ。
 三人揃っていれば彼女にも勝てたかもしれないが、一人では難しい。
 できるなら合流したいところなのだが、

(でも、流石に起こせないよね。)

 隣でスヤスヤと眠っている沙耶香の寝顔。
 モノメイトで回復してこそいるものの、それでも重傷だ。
 無理に起こすわけにはいかないし、一先ず動かずともできることを、
 そして何よりも考えなければならないことがある。

(なぜ指輪が使えるの?)

 指輪を窓から見える赤い空へ翳しながら思う。
 リフレクターに変身することは指輪も必要だが、
 何よりコモンの中か、原種が現実に出現したときの二択になる。
 先ほどは戦いもあって殺し合いに調整しただけで済ませてしまったが、
 これを調整するなんて早々できるものではないはずだ。
 とは言え、その二つの条件も満たしているようには思えない。

(此処がコモンじゃないのはほぼ確定だよね。)

 前者のコモンとは、人の集合的無意識でできた世界になる。
 本来は特異点となる場所からリープする必要があるが、
 それについては考えようがない現状一先ず考えないでおく。
 人によってはこういう禍々しい世界もなくはないものの、
 怒りの感情に近いようで違うし、誰の世界かもわからない。
 そも沙耶香も指輪をつけてない以上、リフレクターではない。
 リフレクターでもないのに生身の人間が入れるとは思えないし、
 それに魔物の類が一匹もいないと、今までのコモンと状況が違いすぎる。
 コモンと言う可能性は低い……と言うのが彼女の結論ではあるのだが、
 同時にそれはリフレクターの力となるフラグメントの回収も難しくなる事実。
 先ほど逃がした彼女がいる中で相手に力をつけにくいとは、厄介な問題だ。

(かといって、原種がいるわけでもなさそう。)

 もう一つの可能性となる原種がこの場にいる。
 これは前提に、この舞台のどこに原種が存在してると言うこと。
 此処はG-7と東南。全体を見渡せないので見えないとも限らないが、
 原種ほどのサイズを参加者に見つからないよう隠すのは容易ではない。
 百十九名の参加者を集わせて、自分にも変身できる環境まで整えている現状。
 その点で行けば少なくとも相当な力を有していることは分かるので、
 最悪何処かに原種を見えない形で隠す技術があったとしても不思議ではないが。

(と言っても、原種を制御なんてどうしてるんだろ。)

 今一つ現実味がなかった。
 手間暇かけてするとも思えないし、
 そもそも原種をどうやって制御してるのか。
 なにより、原種を倒したのは紛れもなく自分達だ。
 他に原種が残ってるとも、復活させる手段がある可能性も低いと思えた。
 ……どちらかと言えば『復活しないで欲しい』と言う願望でもあったりするが。
 特に原種がメフィスたちの切り札の一つだったら、倒すのも骨が折れる。

(こういうのは、ライムや有理が頼れるんだけど。)

 日菜子は頭が悪いわけではないが特別いいわけでもない。
 現実的思考を持つライムや、頭のいい有理の方が結論を出しやすいか。
 此処がコモンか、或いは原種がいる。精々その程度の考えしか浮かばない。
 身も蓋もなく、此処ではリフレクターの力が使えるの方が解決しやすいことだ。

(地下に原種がいるなんてこと、ないよね。)

 突拍子もないことを考えつくが、
 逆に地下にいないと言う確証も存在しないのは事実。
 冗談交じりに地下空間でもないかと調べてみようと考えた瞬間。
 家の戸が開かれる音と人の足音。

(参加者! なんでピンポイントでこの家に!?)

 此処を選んだのは偶然なのか意図的か。
 もしアナムネシスのような乗った人物であれば、
 寝ている沙耶香を守りながら戦わなければならない。
 仮に起きたとしても、彼女の負傷では無茶をさせるのは酷な話だ。
 足音を殺しながら、静かに玄関を覗く。

(ぐ、軍人?)

 所謂迷彩柄ではなく、旧日本軍における服装。
 最初こそコスプレイヤーか何かかと思いかけたが、
 自分もリフレクターで変身中は所謂魔法少女みたいなものだ。
 リフレクターではないにせよ、何かしら理由があるのかもしれない。

「どうやら手負いの参加者を連れているか、負傷者らしいな。」

(え、なんで───)

 独り言か、此方の存在に気付いているのか。
 此方の状況を理解してるような発言に戸惑うが、
 考えてみれば当たり前のことではある。
 彼が見ていたのは足元、

(血痕……!)

21 ◆EPyDv9DKJs:2021/07/01(木) 19:15:49 ID:jyLOBDo.0
 点々と続く血の雫。
 民家に入ってから本格的に沙耶香の止血をした。
 だったら当然、血は相応に流れているのだから当然道中に残る。
 元々助けるのが理由だった以上、そこまで気を回す余裕はない。

「血はまだ濡れている上に、負傷者を助ける行動。
 となれば、連れ回して容態を悪化させるとも思えない。
 複数いるならばこの血痕にも気づくはず。此処には二人か。
 さて、出てきてもらおうか。こちらは聞こえるように言っている。」

 出てこないならば踏み込んでくる。
 なら日菜子は素直に物陰から姿を見せた。
 長引かせても退却する状況に持ち込めないし、
 沙耶香と距離を取らねば、最悪戦闘の時に危険に晒す。
 入り口で話を進める方が戦闘が起きてもリスクは少なく済む。
 だからリフレクターの姿の状態のままでいる。

「貴方は殺し合いに乗ってる人、ですか。」

「それを私が証明する手段がないな。武器を捨てれば認めるとでも?」

「……いいえ。多分ですけど、乗ってないと思うので。」

「理由は。」

「負傷者がいるのに踏み込まないから。」

 負傷者がいるとすでに認識済み。
 相手からすれば足手纏いがいる状況と分かる。
 最悪、負傷してる側を人質として取られる手段もあるのだから。
 数の利がかえって不利にさせている状況下で、敵が利用しない手はないだろう。

「では最初かあ聞く必要はなかっただろう。」

「変に誤魔化そうとするなら、戦うつもりだったから。」

「……なるほど。客観的に物事は見れるし覚悟もしてるな。
 私はムラクモ、話し合いに応じてもらえると助かるのだが。」

「わかりました。私は白井日菜子って言います。」





 ◇ ◇ ◇





 二人は机を挟む形で席に向かい合って情報を交換し合う。
 沙耶香がこの場にいないのもあって、まずは敵の情報の共有を優先とする。

「紫の衣装と髪に、眼を隠した女か。」

「はい。なんでも、魂を集めてるとか。」

「……突拍子のないことを尋ねるが、君は別世界を信じるか?」

「え? えっと、質問の意図がよく分からないんですが。」

 いきなりの質問ではあったが余り戸惑わない。
 別に信じる信じないかで言えば、日菜子は信じる。
 コモンの世界を知ってる以上別の世界は見慣れたのだから。
 ただ、それを尋ねる理由が今の彼女には理解できない。
 まだ彼のことは名前以外殆ど分からない現状では。
 疑問に思ってる中、村雨がテーブルへと置かれる。

「例えばこの刀は帝具と呼ばれているものだ。
 私は初めて聞くが、君に聞き覚えはないだろうか。」

「いえ、特には。」

「このように此処にはそういう私達が知らない、
 或いは技術的に再現不可能なものも支給されている。」

「ひょっとしてこれも……?」

 ムラクモが村雨を置いたように、
 日菜子もモノメイトを机に置く。

「このモノメイト、アークスって場所で使われるみたいですけど私にはわからなくて。」

「私にも覚えがないな……とりあえず、別の世界があることは確実だ。
 数は見当もつかないが、少なくとも魂を集めた女も異なるだろうから、
 帝具、アークス、そして私達を合わせれば、少なくとも四つはあるな。」

「えっと、ムラクモさんはリフレクターについては?」

22 ◆EPyDv9DKJs:2021/07/01(木) 19:16:49 ID:jyLOBDo.0
 そう言いながら、変身を解く日菜子。
 普段のセーラー服へと姿を戻すものの、
 ムラクモにはその知識はなく、だよねとごちる。
 元々表立って事を解決してるわけではないリフレクターでは、
 二人が違う世界なのかどうかを証明する手段としても難しい。
 (ムラクモの恰好から過去の人間では、と言う説も無きにしも非ずだが)
 とりあえず、軽くリフレクターのことを説明しておくだけに留める。

「それで、複数の世界をがある場合どうするんですか?」

「首輪の解析が進められる可能性がある、というわけだ。」

 ムラクモの発言に日菜子は強く反応する。
 殺し合いをどんな理由であれ強制せざるを得ないのは、
 何よりもこの首輪と言う存在があるからだ。
 それに対抗しうる存在がいるのは心強い。

「私は軍で多くの技術開発に携わった。
 機械を弄ることなどそう難しいことではない。
 だが、それを許さないのが紋章と言う概念になる。」

 ルールにも書かれている。
 『紋章への干渉を行えば首輪が爆破される』と言うもの。
 この紋章が科学的要素であることはまずありえない。
 もっと超自然的な、それこそ魔法とかそういう類になる。

「あの、こんなこと言って大丈夫なんですか?
 ルールには『主催の意思一つで爆破できる』みたいですけど。」

「解除の目途すら立ってない現状で、
 連中が慌てふためくとでも思うのか?」

 これだけの計画をしておきながら、
 工具もなければ確証すら得られない机上の空論。
 その程度の物に怯えるような器も、構造でもないはず。

『生憎と、先に私は殺し合いに乗る宣言をした。
 恐らくだが首輪には声ぐらい拾えるようにしてるはずだ。
 言うなれば、私は獅子身中の虫の役を演じていることになる。
 無論、盗聴以外の手段を確立してるならこの認識は別だろうが。』

 口にはできないことは紙に記して提出しておく。
 優勝を狙うが積極的には動かない役割ともなれば、
 殺し合いに抵抗する陣営に取り入って潜むのは当然の帰結。
 口八丁で丸め込んでいる行動、そう受け取られても違和感はない。

「もっとも、首輪も超自然的な要素のみの可能性もないわけではないが。
 表面だけ機械で覆いながら、中は謎の物質と言う可能性もある。」

「確かに……」

「白井。私は手を組むつもりはあるが、甘い人間ではない。
 技術開発をした以上、ある程度非人道的な開発も進めていた。
 必要であれば君の知人の死体すら利用する。それに納得できるか?」

 首輪を解除するならぶっつけ本番はまずありえない。
 必ず試行錯誤の為のサンプルが必要となる。
 即ち他の参加者を殺すか、死体から回収する必要がある。
 同時にこれは首にある。首を切断しなければ回収もできない。
 死者の冒涜……人によっては他の参加者との衝突も絶対あるだろうし、
 それがユズやライムなら日菜子も割り切れるかどうかと言われると、
 絶対に納得は出来ないことだ。

「……善処はしてみます。」

 全てに同意はできないが、
 首輪を解除しなければ全滅は確実。
 殺し合いをする理由の筆頭の芽を摘むのは大事だ。
 最悪のことだけは覚悟しつつそのことに同意する。

「さて、脱線しすぎたな。
 元々これは危険な敵の情報共有、
 私が出会った敵の説明に戻るとしよう。」

 彼が平安京に入る直前の道で、
 ある二人の参加者……呼び合ってたお陰で誰かは分かる。
 スキャッターとオフェンダーに襲われていたところを、
 別の乱入者によって手にかけられたことを彼は語る。

「あれは、助けられたわけではない。
 私も逃げなければ恐らく命はなかっただろうな。
 容姿については黒のストレートでロングヘアー、緑色の制服で刀剣を───」

 話の途中、何か重いものが落ちる音。
 二人は即座に立ち上がって臨戦態勢に入りながら音の方を見やる。
 大きな物音から隠れる気がない様子で二人は訝るも、

「姫、和……?」

 そこにあるのは床に転がる村正、その傍に立つ沙耶香。
 感情があまり表に出ない彼女が驚嘆な表情で立ち尽くす。

「沙耶香ちゃん、起きて大丈夫なの?」

 無言でコクリと頷く。
 だが今の彼女にとって問題は自分ではない。

「姫和……十条姫和のことだな。知り合いか?」

「大事な、友達。」

23 ◆EPyDv9DKJs:2021/07/01(木) 19:17:30 ID:jyLOBDo.0
 沙耶香から姫和についての情報を得る。
 ……コミュニケーションが下手な為得るのには時間はかかったが。
 似た人物の可能性もあったものの、情報の一致から彼女だと確定。
 本来であれば殺し合いに乗る性格ではないはずなのだが、
 タギツヒメにより不安定な状態であって話は変わっている。

「厄介な話だな。」

「暴走してるけど本来は味方……」

「それもだが、もっと根本的なことだ。」

「え?」

「彼女の性格や情報を纏めるに、
 そうなりかければ自決を選ぶと思っただけだ。
 又聞きの情報による客観的な意見で、実際は違うのかもしれないが。」

「姫和なら、そうしようとしてた。」

 殺し合いへ来る以前の話。
 姫和がタギツヒメと融合した後、
 それはとても抑えきれるものではなかった。
 辛うじて保てたが、本人も今にも決壊しかねなかった程だ。
 だから隠世へ、自分ごと消える道を選ぼうとしていたのだから。
 もし彼女がその状態であれば、すぐにでも決めていたかもしれない。

「しなかったかできなかったか……性格の悪そうな双子のことだ。
 暴走させた状態にして参加者として紛れ込まれた、そう考えてもいいか。」

「そんな……」

 無理矢理参加させられたどころか、
 暴走するように意図的に調整された。
 殺し合いを盛り上げるための要因として使われる。
 ただ巻き込まれた自分やライム達の比ではない行為に、
 手へとに力がこもる。

「だが、止められる参加者がいるのか?」

 沙耶香のいた世界で起きた相模湾大災厄。
 曰く死者は三千人以上の被害を出したとされていて、
 それ以上の被害すら懸念されるほどの状態だった彼女だ。
 まともに太刀打ちできる人間なんて存在するとは思えない。
 沙耶香も優れた刀使だが、それでも彼女には勝てると言えない程に。

「普通は、いない……でも、可奈美なら。」

 ただ一人だけ。
 折神紫に憑依してた大荒魂を相手に、一人で戦えていた可奈美なら。
 彼女なら勝てる可能性はあるかもしれない。

 一応、現状候補はもう一人いる。
 もう一人、沙耶香が戦った相手───アナムネシス。
 少なくとも自分では勝てなかった彼女なら分からなくはないが、
 協力関係を結べる相手でなもないし、暴走を止めるではなく確実に殺す。
 そういう意味もあって彼女を頼ると言うのは除外する。

「衛藤可奈美か。では一先ず、彼女を捜索が主な方針になるな。」

「可奈美、いるの?」

「そっか。寝てたから名簿見てないんだっけ……これ見て。」

 名簿を見ている沙耶香を尻目に、二人は話を進めていく。

「我々の目的は主に四つ。
 一つ、衛藤可奈美の捜索ならびに保護。
 そして彼女を保護してからの十条との戦闘が望ましい。
 二つ、他の世界の情報を取り入れる。
 敵以外の参加者と接触が必要な以上、少々厄介になる。
 できることなら帝具の調査もしておきたいところだ。
 三つ、和解不可能の敵の排除すること。
 だが排除とは、即ち殺すこと。そこだけは留意するように。
 全員が殺し合いに否定的ではない。先の二人の男のようにな。
 四つ、道中で首輪のサンプルを確保。
 三つ目、或いは二つ目と並行可能だが数は一つや二つでは済まないと思うべきだ。
 参加者の制限云々をあの二人は謳っていた。特殊な首輪のある可能性もあるとみていいはず。
 そうなると五つは持っておくのが望ましい……一先ずは、こんなところか。」

「あの。余裕があれば、ユズやライムを探したいんですけど。」

「断るとまではいかないが、あくまで余裕があればだ。
 確証を持てる情報があれば、向かう程度にとどめておくように。」

 格好に違わぬ軍人らしい冷静な判断を下す。
 合理的で事態の解決を優先してるところはライムと似ている。
 同時にそういうドライな思考は余り好きではないが、
 此方の意も汲んでくれてる相手に余り無理は言えない。

24 ◆EPyDv9DKJs:2021/07/01(木) 19:18:26 ID:jyLOBDo.0
「分かりました……ところで沙耶香ちゃんの知り合いは何人いるの?」

「六人。」

「えっ。」

 予想をはるかに上回る知り合いの数に思わず声が出る。
 沙耶香にとってあの場に居合わせた折神紫以外の全員、
 そして可奈美の友人で、時折任務でそれなりに縁のある安桜美炎。
 少なくとも七人の刀使がこの舞台の何処かにいる事実。

「ちょっと、流石に多くない?」

「確かに、合計で七人は多すぎるな。」

 ムラクモの見解では知り合いは多くて二人、自身を含めて三人が目安だ。
 自分と日菜子の知り合いがそれぐらいだと想定していたのだが、想像以上に多い。
 姫和は暴走状態だ。殺し合いを加速させると言う意味においては最適だろうが、
 他の刀使のことを聞いても、殺し合いに乗るような性格ではないと言う答えが出た。
 並の人間ではなく刀使を七人。下手をすれば殺し合いが停滞しかねない可能性もある。
 それだけ他の参加者に強力なのがいるのか、ということは十分にありうるが。
 当てれば殺せる村雨が支給されると言うことは、その裏付けなのだろう。

「刀使が多く必要だった可能性もあるか?」

 荒魂を祓う巫女、つまり神聖な力を持ち神秘そのものになる。
 メフィスとフェレス、或いはそれに協力してる関係者の誰か。
 それらがその力を必要か、何かしらに利用したいのではないか。
 であればある程度人数を多く含んでいてもおかしくはない。

「荒魂を祓う巫女、その力が必要か研究してる人物がいる可能性ね……」

「或いは、此処で有力な刀使を一掃しようと目論んでる奴か。」

 二人が理由を考えていると、
 沙耶香の脳裏に一人の人物が思い浮かぶ。

「高津学長……?」

「心当たりはあるか。」

 嘗て袂を分かった鎌府女学院の学長、高津雪那。
 今はタギツヒメをリーダーとした刀剣類管理局維新派として活動。
 タギツヒメの復活を目論んでいる人物ならば納得ではある。

「だが十条はタギツヒメと融合している。
 タギツヒメの復活を目論むにしても既に討伐済みだ。
 仮にその人物が関わってるならば、最早呼ぶこと自体に意味はないだろう。」

「姫和が融合したの、此処に来る数分前。」

 あの場にいたのは自分含む七人だけだ。
 タギツヒメが倒されていることを知らないまま、
 タギツヒメの為にと七人を殺し合いへと引きずり込んだ可能性。
 言葉が足りないが、彼女はそう言いたいのだと察する。
 ……参加者が別々の時間軸から招かれてる情報はない都合、
 このような結論に至ってしまうのは仕方ないことではあるが。

「流石にそれはちょっと、間抜けに感じるんだけど。」

 タギツヒメ復活の為邪魔な刀使を引きずり込んだ。
 その結果、参加させた十条姫和がタギツヒメそのものでした。
 なんてものを想像すると、随分間抜けな話になる。
 彼女が執着してた折神紫だけいないのは私怨を晴らす為あえて残した、
 と考えれば別段おかしいものでもないが……他と比べると今一つだ。

「否定できる要素もないが……一説程度にはとどめておこう。」

 刀使そのものを目的にしているのではなく、
 十条ことタギツヒメが討伐されることに意味があるのかもしれない。
 タギツヒメの力を手に入れる、なんて可能性も無きにしも非ずだ。
 要するにタギツヒメは神なのだから、その力は計り知れない。

「さて。話は変わるが、名簿に完全者……ペルフェクティがいる。
 私の知人だが奴は乗るか乗らないか、どちらを選ぶか分からない女だ。
 味方であれば頼もしいだろうが、敵であれば厄介だ。用心に越したことはない。」

「どういった関係なんですか?」

「利害の一致で技術開発の提携の関係を築いていたが、
 所詮はそれだけだ。奴からすれば私は用済みで利用価値もない。」

「軍ってドライですね……」

「同胞ではなく利害の一致だからな。
 薄氷の上の協力関係は存外そんなものだ。
 ……さて、情報交換に時間を割きすぎたな。」

 席を立ち、そろそろ移動することにする。
 情報交換に時間を食ってしまった。
 動くにしては大分遅れた状態だ。

「衛藤が何処へ向かうかの判断がつかない。
 今は外方面を徘徊し、端のエリアからくる参加者との接触だ。」

25 ◆EPyDv9DKJs:2021/07/01(木) 19:19:24 ID:jyLOBDo.0
 物資の調達、隠れられる場所、人と出会う確率。
 それらを吟味すれば端の森等に潜む理由は少ない。
 勿論それを理由に向かう敵となる参加者もいるだろうが、
 多少リスクを背負ってでも平安京へ向かう方が安全だ。

「私はG-6にて十条と接触、紫の女も遠くない場所で遭遇。
 それらを吟味すると、西ではなく北上するのがいいだろう。」

 戦力は十分ではあるが、
 それでもアナムネシスを相手するには面倒だ。
 確実に勝てる戦力を用意してから挑みたい。
 ムラクモの持つ村雨があれば勝てそうなものではあるが、
 集めた魂が、村雨の一斬必殺を妨害する可能性もある。

「移動手段となりうる支給品は二人にはあるか?」

 現状は平安京の外を回る形で移動する。
 しかし歩いて移動するにしてもまともな移動手段なしでは、
 時間がまるで足りない。

「私にはなかったかな……」

「車なら、ある。」

 沙耶香が外へ出てからデイパックから出したのは何かのカード。
 それを空へ翳すと、目の前の空間に一人の道化師が姿を現す。

「ボンジュ〜ル! お初に御目にかかるかな?」

 初めて見る顔だが三人には誰かは分かった。
 その声は、放送で全参加者に行き届いていた声なのだから。

「貴方、放送の!」

「ディメーン……!」

「ほう、貴様が運営の一人か。」

 三人が臨戦態勢に入る。
 突然主催者陣営が現れたのでは、
 身構えるのは当然の行動だ。

「ンッフッフ。覚えていてくれて光栄だね。
 でも、今回は支給品を持ってきただけさ。
 別に君達とは戦うつもりはないよ?」

 戦うつもりはないと言うが、油断してるわけではない。
 特にムラクモへの注意を強く、それが何かは分かっている。
 村雨の殺傷能力を考えれば一番厄介なのは間違いなくムラクモだ。
 とは言え、三人は首輪と言う生殺与奪の権利を握られている状況。
 抵抗したところで意味はなく、ムラクモが構えを解けば二人も続く。

「素直でよろしい。じゃ、支給品を贈るとしよう。
 流石に大容量だと、デイバックに入れられないからね。
 こういう時シャンバラがあれば便利だったのに、参加者に支給されて残念だ。」

 ごちりつつ指を振るうと、四人の間に突如現れる黒塗りの車。
 いや、確かに形は車なのだが、その上に乗っかってるものが異様だ。
 黒塗りの車体の上に鎮座しているのは、刀のような黒く長い何か。
 霊柩車で言う金色の煌びやかな屋根と言ったような代物になる。

(なにこれ。)

 奇抜なデザインに日菜子は複雑な表情だ。

「じゃ、存分に堪能したまえ。アデュ〜。」

 本当にただ支給品の提供をしただけで、
 何事もなくディメーンは何処かへと消えてしまう。
 ついでに、沙耶香が翳したカードが粒子となって消える。

「見た目は奇抜だが最大二百キロは出る……移動手段としては最適だな。」

 説明書を沙耶香から受け取りつつ先に乗り込む。
 運転手は二人が運転できないので当然ムラクモになる。
 二人は有事の際に即座に動けるよう後部座席のほうで待機して、
 支給された家紋タクシーは走り出す。

 平安京を駆ける家紋タクシー。
 見事に場違い極まりない光景だが、
 殺し合いを打破すると言う願いを乗せる。

(ユズ、ライム……待ってて。)

 大事な親友の安否を願う日菜子。

(皆……)

 親友の暴走に不安を募らせる沙耶香。
 ───そして。

(一先ずは潜り込めたか。)

26 ◆EPyDv9DKJs:2021/07/01(木) 19:19:45 ID:jyLOBDo.0
 唯一向いている方角が同じようで違う男、ムラクモ。
 殺し合いをしない参加者との遭遇、戦力の確保、情報網の拡大。
 一度にそれらを得られたのは大きく、既に一割の参加者の情報がある。

(リフレクター、刀使……空回りではないと思うが、どうだろうか。)

 リフレクターがこの舞台に密接な関係の可能性は否定できない。
 刀使がこの殺し合いに意味を持たせてる可能性はあるかもしれない。
 まだわからない。いくつの世界が関わってるか分からない現状では、
 事態の解決へとつなげるのは難しいと言わざるを得ない。
 他の参加者との接触なくしては首輪解除はおろか、
 この殺し合いの目的すら見つけられないのだから。

『こういう時シャンバラがあれば便利だったのに、参加者に支給されて残念だよ。』

(探してみる価値はあるか?)

 ディメーンがいったシャンバラと呼ばれるもの。
 状況と発言から察するに、何かの移動用の支給品とみていい。
 もしかしたら主催の拠点へ移動できる可能性もなくはないものだ。
 無論、そんなものを支給してるなら制約をかけられてそうなもので、
 余りに当てにはせず、記憶の片隅程度にとどめておく。

(後は奴の存在か。)

 完全者。一応二人にはどっちに転ぶか分からないとぼかしたが、
 転生の法を手に入れた今となっては、此方としても最早用済みの関係。
 元々利害の一致で協力関係を築いていたにすぎない以上、彼女は障害だ。

(だが奴がどちらかを選んだかで話が変わってくる。)

 奴とて双子の悪魔を信用していないだろう。
 だが、自分と同じ力の奪取を目的とした立場の場合は厄介だ。
 自分と同じように自分の立場が危うくなるようにするはず。
 故に完全者を完全な黒と言わずグレーな人物として紹介した。
 味方にも足りうるが要注意……嘘ではないし判断はある程度委ねている。
 完全な敵と刷り込めば情報の齟齬で最悪自分が孤立しかねなくなるが、
 『信用できるかもしれない』と言う中途半端な方が孤立する可能性は低い。

(奴は此処で始末する。)

 完全者の目的は旧人類の肉体的死亡、即ち抹殺による救済。
 ムラクモ同様の人類救済を掲げてはいるが、あくまで彼は間引くだけ。
 全員殺されては困る。この場ならば転生の法も無力化されてる可能性は高い。
 此処でならば確実に殺せるだろう。特に、人体ではなく魂を殺す村雨ならばより確実に。

(さあ勝負だ完全者。私か、貴様か。人類を救う神はどちらかを決めよう。)

 首輪の解除と言う、ある意味では誰よりも殺し合いの舞台で抗おうとする男。
 だがその胸中は、誰よりも身勝手の善意で人類を救済する現人神の心を持つ。
 さながらその思想は、日菜子が倒した原種にしてコモンの化身『ダアト』の如く。

【G-7 家紋タクシー/一日目/黎明】

【白井日菜子@BLUE REFLECTION 幻に舞う少女の剣】
[状態]:健康
[装備]:リフレクターの指輪@BLUE REFLECTION 幻に舞う少女の剣
[道具]:基本支給品一式、モノメイト(3/5)@ファンタシースターオンライン2、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]
基本方針:殺し合いになんて乗らない。こんなふざけた事は止めてみせる。
1:ユズ、ライム……
2:衛藤さんの捜索。そこから十条さんを止める。
3:それとあの人(アナムネシス)は止めないと。
4:此処はコモン? もしかして原種がいる? 後者はいやかな……
[備考]
※参戦時期は第12章「最後の一歩 the First Step」で、
 ユズとライムとの最後の別れをしてリフレクター絡みの記憶を全て忘れた後から。
※忘れていた記憶は思い出しました。
※帝具や刀使について知識を得ました(ただし帝具は浅く、村雨の性能も知りません)
 
【糸見沙耶香@刀使ノ巫女】
[状態]:不安、ダメージ(大・止血済み)、疲労(大)
[装備]:妙法村正@刀使ノ巫女
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×0〜2
[思考・状況]
基本方針:殺し合いには乗らない。
1:みんなが心配。特に姫和。
2:今は二人(ムラクモ・日菜子)と一緒にいる。
3:もっと、強くなりたい。
4:高津学長……?
[備考]
※参戦時期は21話、可奈美が姫和に勝負を持ちかける前から。
※帝具、リフレクターについて知識を得ました。(ただし帝具は浅く、村雨の性能も知りません)

27 ◆EPyDv9DKJs:2021/07/01(木) 19:24:06 ID:jyLOBDo.0

【ムラクモ@アカツキ電光戦記】
[状態]:健康、家紋タクシー運転中
[装備]:ブラッディピアース@グランブルーファンタジー、一斬必殺村雨@アカメが斬る! 六〇式電光被服+六〇式電光機関@アカツキ電光戦記、家紋タクシー@ニンジャスレイヤー
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜1(確認済み)
[思考・状況]
基本方針:メフィス達を始末して願いの力を手にし、悪用を避ける。すべては人類救済の為だ。
1 :北上しつつ衛藤可奈美の捜索。そこから十条姫和の制圧、或いは討伐。
3 :司城夕月、司城来夢、益子薫、古波蔵エレン、柳瀬舞衣、安桜美炎の捜索。
4 :電光機関の無駄遣いは避けなければならない。
5 :紋章を知る、或いは他の世界の住人を探して首輪解除の手段を模索。
6 :完全者は此処で確実に始末したいが、徹底するのは控える。
7 :紫の女(アナムネシス)に要警戒。
8 :高津と言う女については多少は懸念しておくか。
9 :シャンバラ、探してみる価値はあるか?
[備考]
※参戦時期は不明。(少なくとも完全者を一度殺害後でエヌアイン完全世界ED前)
※六〇式電光機関をそのままの代わりに支給品の枠を使ってます。
※村雨がアニメ版か漫画版かは後続の書き手にお任せします。
 (どちらか次第で奥の手の内容が変わります)
※刀使、リフレクターの知識を得ました。

【家紋タクシー@ニンジャスレイヤー】
日本の霊柩車めいたタクシー。
ソウカイヤに限らずヤクザクランの移動の足としても使われる。
上に長い刀のような装飾があったりと存在感は異様な外見だが、
市民の足、文字通りタクシーとしても使われるとか。ナンデ!?
運転席、助手席含めて六人は乗れる。最速200キロは出る。ハヤイ!
サイズの都合直で渡すと事故の恐れもある為ディメーンのカードを翳し、
直接渡すと言う形で支給することになっている。
ディメーンのカードは原作におけるのカードショップで手に入るデザイン

≪三者の考察≫

・リフレクターの変身について
①コモンの可能性:フラグメントも魔物もいない為低い。
②原種が存在する:現状ではなんとも。移動ついででいるかどうかを調べてみる。

・刀使の多さについて
①刀使の力をメフィス達か関係者が必要としている。
②タギツヒメを倒せる刀使が必要だったから(タギツヒメの力を手に入れる為)。
③高津雪那が運営関係者で、タギツヒメの障害となる刀使を参加者にした。
 (折神紫はいないが、私怨を晴らす為か?)

・他
①首輪が科学と魔術ではなく魔術のみの可能性。
 念には念を入れて紋章を知る参加者を探しておく。
②シャンバラと呼ばれるものが使えるかもしれないが、現状はついで。

28 ◆EPyDv9DKJs:2021/07/01(木) 19:28:02 ID:jyLOBDo.0
以上で『束の間の遭遇と新たなる道筋』投下終了です

29 ◆s5tC4j7VZY:2021/07/04(日) 19:09:09 ID:oNoR3MM20
投下お疲れ様です。

束の間の遭遇と新たなる道筋
血痕から潜む参加者に気付くのは流石は軍人のムラクモですね!
そして首輪の解除を目指すが思想は正しく危険といってもいいのがもどかしい……
日菜子や沙耶香もそれぞれ考えたりして様々な考察から目的を決めるなど考察組としての活躍が期待できますね。
車のような巨大な物は入らないから支給品を手渡すのに現れる主催者は、なるほどたしかに!と感心すると同時に今後の展開にも活かせそうな気がします。
まさかの高津学長の名が出たのには笑っちゃいました。
それでは、投下します。

30一緒にできること ◆s5tC4j7VZY:2021/07/04(日) 19:10:40 ID:oNoR3MM20
染みーーーー液体などが部分的にしみついて汚れること。また、その汚れ。
:デジタル大辞泉(小学館)より引用。

『じゃあ、第一回放送の時にでもまた会おう、ボン・ボヤージュ!』

ディメーンによる放送が終わると、静夏と植木は直ぐに名簿のチェックをした。※静夏はまだ操作がいまいち理解できず、植木のタブレットをのぞいた

結果は―――

「そんな!?宮藤さんまでいるなんて!」
「……」
静夏には知り合いがいて、植木にはいないという結果だった。

「宮藤さん……」
静夏は敬愛する宮藤芳桂が同じくこの殺し合いに呼ばれていることにショックを隠し切れない。
両手をギュッと握りしめ、体を震わせる。

「よし、まずは服部のいう宮藤と合流しよう」
静夏の関係者がいることを知った植木は迷いなく行動指針を定める。

「植木さん……いいんですか」
「ん?当たり前だろ。オレの知り合いは一人もいねぇし。それに、大切な奴と会えなくなるってことが……どんだけ辛い事かオレはわかってるからな」
植木の顔が真剣になっている。

その脳裏に浮かんでいるのは、自分を庇ったことで地獄に落とされた恩師の姿か―――――

「ありがとうございます」
静夏はそんな植木にお辞儀を行う。

「気にすんな。それよりも、放送で中断していた支給品の確認をしておこうぜ」
植木は静夏に支給品の中身を確認することを促す。

「そうでしたね……はい!至急、確認しましょう!」
2人は中断していた支給品の確認を始めた―――

☆彡 ☆彡 ☆彡

31一緒にできること ◆s5tC4j7VZY:2021/07/04(日) 19:11:18 ID:oNoR3MM20
「そ、それは震電!?」
「うお!?」
植木の支給品に震電があることに静夏は驚きの声を上げ、植木はその声に体をビクッと震わせる。

「ど、どうした?」
「す、すみません。大きな声を上げて!でも……どうしてここに震電が!?」
静夏が驚くのも無理はない。
なぜなら、その震電は自らが決死の覚悟で宮藤さんに届けたはずなのだから。

「おそらく、オレらに関係する道具などは支給品として回収されているみたいだな」
「……くッ!ウィッチの道具をこんなことに利用するなんて!」
静夏の反応から、支給品には自分達に関わりがあるのを選ばれていると植木は推測し、静夏は利き手を固く握りしめる。

「なぁ……これ、両足にはめれば使用できるのか?」
植木は震電の使用方法を静夏に尋ねる。

「いえ、無理です。ストライカーユニットは魔法力がないと起動することはできません。起動できるのは私のように魔法力を持ち、ウィッチといわれる者達だけです」
静夏は植木の質問に答える。

「さらにいうと、その震電は起動するのに膨大な魔法力が必要です。……おそらく私の知る限りでは、宮藤さんでしか起動できないでしょう」
そう、故に震電は、実質”宮藤芳桂”専用のストライカーユニットとなっている。

しかし―――

「おお!?空に浮かんだぞ!」
なんと、両足にはめ込んだ植木は宙に浮かび始めたのだ。

「そんな!?ありえません!魔法力を持たない民間人の植木さんが使えるなんて……」
静夏は魔力力を持たない植木がストライカーユニットを操作できていることに絶句している。

「おー!すげー!花鳥風月(セイクー)みたいだな!」
(服部の反応からすると、支給品とされたものは、本来の使い手じゃなくても、使うことができるみたいだな。……すると神器もか?それに……”空白の才”が勝手に支給されていたらマズいな)
植木は宙に浮きながらいくつか推測する。

☆彡 ☆彡 ☆彡

「これは、服部が持っていたほうが良いな」
宙に浮いていた植木は地面に降り立つと装備していた震電を脱ぎ、静夏に渡す。

「え?よろしいのですか?植木さんも使用することができますし……何より植木さんに支給されたんですよ」
渡された静夏は戸惑う。
しかし、理由が”支給”されたのは自分ではなく植木であるということを指摘するところは真面目で実直な静夏らしいが―――

「ああ。オレも使用できるけど、服部の方がもっと上手にこれを使いこなせるだろうからな。それに……大切な人のなんだろ?だったら、その人に早く渡してあげたほうがいいだろ」
植木はニコッと静夏に笑顔を向けて話す。

「……植木さん。そのご配慮ありがたく頂戴します!」
植木の言葉に静夏は感動に目が涙で溢れると敬礼をした。

「それでしたら、こちらの支給品をどうぞ!」
静夏は自身の支給品の一つを植木に手渡す。

「これは?」
「なんでも、立体起動装置といって、ガスの力を利用して扱う道具のようです!」
手渡された支給品に首をかしげた植木に静夏は説明を付け加える。

「へー……」
「その付属しているブレードを上手く使うことで空間を利用した攻撃ができるみたいなのですが……私にはいまいち使いこなせそうにありませんし、代わりにこんぼうがあります。よろしければ植木さんが持っていた方が有効に使えるかと思いまして……」
静夏に支給された残りは、食事用なのかキノコが入っている缶にぶっそうな棍棒。しかも、その棍棒は重火器としても使えるようで、銃を扱う静夏にはピッタリで、逆に剣が主体の立体起動装置は静夏の手に余るらしい。

「……」
(オレの残りの支給品は人形に変わった色のカレー。神器が上手く使用できるかも分からねぇ今、武器は装備しておいた方がいいよな)
そう、植木に支給された残りの2つは正義のヒーローの人形に食料扱いの変わったカレーだった。
魔王を使い切った状態でここに呼ばれた現状、闘える武器は必要不可欠と判断した植木は―――

「サンキュ。じゃあ、ありがたく使わせてもらうわ」
静夏の気遣いに感謝した。

「はい!仲間なんですから協力していきましょう!」
植木が受けったことに喜びの色を隠せない静夏。

☆彡 ☆彡 ☆彡

32一緒にできること ◆s5tC4j7VZY:2021/07/04(日) 19:11:49 ID:oNoR3MM20
ーーー静夏と植木が名簿のチェック及び支給品の確認をしていた頃ーーー

『じゃあ、第一回放送の時にでもまた会おう、ボン・ボヤージュ!』
ディメーンによる空からの放送が終わり―――

「へぇ〜。てっきり皐月様か流子ちゃんぐらいは、いるのかなと思っていたんだけどな〜」
名簿の確認を終え、そう呟くと生命戦維を解除して縫は明から元の自分の姿に戻る。

「ボクのことを知っている人がいないなら、明ちゃんの姿で参加者と接触してもないよねー」
そう、針目縫が先ほど相対していた日ノ元明の姿でいたのは、あくまで自分を知っている関係者に対する対策だったからだ。

「でも……ま♪、明ちゃんには悪役にもってもらおうかな」
縫はそう呟くと邪悪な笑みを浮かべる。

(名簿を見る限りだと、……日ノ元士郎。おさらく、名前からいってお父さんかな?つまり、明ちゃんはボクと違って一人ではないことは確か。なら、殺すときは”明ちゃん”の姿で行えば明ちゃんは勿論、お父さんにも悪評が広まるよね☆)
そう―――

縫が立てた作戦はこうだ。
利用できそうな参加者の集団に混ざりこみ、殺し合いに乗った敵対する参加者との戦闘中に”明の姿”で一人殺す。
そして、明とその関係者を危険人物だと集団に思い込ませるというものだ。

そんな吐き気を催す邪悪な計画が練られていたら―――

「あれあれ☆さっそく利用できそうな参加者を発見できたよ!」
目の前に男女のペアを発見した縫はスキップしながら近づくのであった―――

☆彡 ☆彡 ☆彡

「へぇー、静夏ちゃんに耕介ちゃんね。よろしくね☆」
縫は2人と自己紹介を交わす―――

「糸目さんも災難でしたね。いきなり乗った人物と遭遇するなんて」
あれから、互いの状況を交換した後、縫が危険人物に襲われたと聴き、静夏は同情する。

「ほんとほんと、明ちゃんっていう子なんだけど、ひどいよねー。……ところで、なんで静夏ちゃんはパンツ姿なの?露出狂なの?」
静夏からの心配に応えると同時に縫は静夏の格好にツッコむ。

「ですから、これは”ズボン”で”パンツ”とやらではありません!」
静夏は耕介に続いて縫にもパンツと誤解されることに顔を赤らめると否定する。

「ふーん?けど、まぁ耕介ちゃんのいう別々の世界から集められたってのは間違ってないと思うなー。だって私の世界では、静夏ちゃんの”ソレ”はパンツだもん☆……でも、新しいファッションとして取り入れるのもアリかな♪」

「糸目さん!!」
茶化す縫に静夏は少し声を荒げつつ嗜める。

「ごめんごめん☆……」
縫は舌をペロッとだすと静夏に謝罪する。

「もう!……それでは、行きましょう!植木さんに糸目さん!」
静夏は2人に声をかけると先頭を歩きだす。

「……おう」
「はいはーい☆」
縫と静夏のやり取りを黙って聞いていてかつ先ほどのまじめの顔が嘘に見える、けだるそうな声の植木にハイテンションの声の縫はそれぞれ返事を返すと歩きはじめる。

スタスタ―――

(静夏ちゃんと耕介ちゃん……殺すなら耕介ちゃんかな?)
縫は先ほどの2人とのやり取りを通じて2人の内、先に始末する標的を植木耕介に定めた。

(静夏ちゃんは典型的な頭カチカチの真面目ちゃん。だから簡単に騙せそう♪一方、耕介ちゃんはボケーッとしている様子に見えるけど、私の事を疑っているような目をみせてるからねー。あぶないあぶない☆)
そう、縫は植木耕介の冷静に敵を分析できる能力に気づいていた。

故に先に静夏を始末すると、厄介なことになると察した縫は植木耕介に狙いを定めたのだ。

こうして静夏に植木のペアに縫が加わった
2人から3人になり一見、団結が強固になったかに見えるが、縫という染みがジワリジワリと広がる―――

このトリオの行く末は如何に―――

【G-6 /一日目/深夜】

33一緒にできること ◆s5tC4j7VZY:2021/07/04(日) 19:12:29 ID:oNoR3MM20
【針目縫@キルラキル】
[状態]:健康
[装備]:片太刀バサミ@キルラキル
[道具]:基本支給品一色、不明支給品0〜2
[状態・思考]
基本方針:優勝して元の世界に帰還する
1:とりあえず静夏ちゃん。そして耕介ちゃんと行動を共にする。
2:利用できそうな参加者は利用する。そうでない参加者については明の姿で殺していく。
3 : アーナスちゃんに関しては要注意だね☆
4 :静夏ちゃんと耕介ちゃん。先に始末するなら耕介ちゃんかな☆
※参戦時期は少なくとも鬼龍院皐月と敵対した後からとなります。
※名簿に関係者がいないことを把握しました。
※静夏・植木の世界について簡単に知りました。

【服部静夏@ストライクウィッチーズシリーズ】
[状態]:健康、決意
[装備]:特殊棍棒(エクスカリバー)@ドキュンサーガ 
[道具]:基本支給品、ストライカーユニット震電@ストライクウィッチーズシリーズ じわじわキノコカン×5@スーパーペーパーマリオ
[思考・状況]
基本方針:殺し合いを止める
1:宮藤さんなら…きっとこうします!
2:まず、やるべきことは宮藤さんと合流ですね!
3:植木さんは…何というか…不思議な人、という感じがします。
4:縫さんは…何というか…独特な喋り方をする人、という感じがします。
5:植木さんや縫さんといい、これは”パンツ”とやらではありません!
[備考]
※参戦時期は「RtB」ことストライクウィッチーズ ROAD to BERLINの最終話「それでも私は守りたい」にて、宮藤芳佳にユニットを届けた後意識を失った直後からです。
※作中にて舞台になっている年代が1945年な為、それ以降に出来た物についての知識は原則ありません。
※「うえきの法則」世界についてある程度の知識を得ました。
※「キラルキル」世界についてある程度の知識を得ました。
※互いが別々の世界もしくは別々の時代から会場に呼ばれたと推測から確信になりました。
※自分が死亡後参戦だと勘違いしています。
※縫から日ノ元明は危険人物だと伝えられています。

【特殊棍棒(エクスカリバー)@ドキュンサーガ】
王都ザイダーマに店を構えている武器屋喫茶キャッツアイにて売られている特殊棍棒。
装備するとただの棍棒で攻撃力は20程度。しかし、”アイテム”として使用すると棍棒の先端からマシンガンのように弾を発射する銃器になり敵を粉々に粉砕する。
ちなみに値段は200万G(ガバス)
「特殊棍棒はただ今キャンペーン中でな。通常なら200万Gだが、今ならなんと…同じく200万Gする鋼の鎧(オリハルコンアーマー)とセットで300万G!!!」by店主

【筑紫飛行機 震電@ストライクウィッチーズシリーズ】
最新鋭ストライカーユニット。植木耕介に支給されていたが、現在は服部静夏が所有している。起動には膨大な魔法力が必要であり、魔法力の消費も激しいため、事実上芳佳の専用機であるが、この平安京においては悪魔の双子たちの手によるものか、魔法力がない者でも装着すれば起動することは可能となるように改造された。

【じわじわキノコカン@スーパーペーパーマリオ】
しばらくの間、HPがじわじわとかいふくするかわったキノコ。

34一緒にできること ◆s5tC4j7VZY:2021/07/04(日) 19:13:25 ID:oNoR3MM20
【植木耕助@うえきの法則】
[状態]:健康
[装備]:立体起動装置@進撃の巨人(ガス満タン)
[道具]:基本支給品、アクション仮面人形@クレヨンしんちゃん 優木せつ菜のカレー@ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会
[思考・状況]
基本方針:自分の正義を貫く
1:森達のところに戻りたい…とは思うけど、殺し合いには乗らねぇ。
2:服部、糸目と行動を共にする。
3:服部の知り合いの宮藤を探す
3:空白の才が支給されていたらヤバイな……。
4:糸目の奴……目の奥が笑ってねぇ。
[備考]
※参戦時期は16巻の第153話「最終決戦!!」にて、アノン相手に最後の魔王を撃った直後からです。
※「ワールドウィッチーズ」世界についてある程度の知識を得ました。
※互いが別々の世界もしくは別々の時代から会場に呼ばれたと推測から確信になりました。
※自分が死亡後参戦だと勘違いしています。
※神器やゴミを木に変える能力のレベル2にはある程度制限がかけられていますが、どれぐらいの制限がかかっているかは後続にお任せします。
※「キラルキル」世界についてある程度の知識を得ました。
※糸目縫を少しだけ警戒しています。(確たる証拠がないため、静夏には伝えていません)
※縫から日ノ元明は危険人物だと伝えられています。(半信半疑)

【立体起動装置@進撃の巨人】
立体機動を再現する機器。服部静夏に支給されていたが、現在は植木耕介が装備している。ワイヤーを射出して巻き取り引き上げる動作と高圧のガス噴射による推進力で装着者に高低差を無視した立体的な機動力を与える。
本来は同時に装備される着脱式の刃を用いて体格差のある巨人に白兵戦を行うものである立体機動の衝撃に立体機動装置が耐えられず破損する場合があったり、またガスを補給できる環境と補給ラインが整っていなければガス切れを起こした時点で戦闘能力が事実上消失するなど欠点も見られる。
ガスの補給はこの平安京に存在している可能性があります。
ブレードの予備は左右3本の計6本。

【アクション仮面人形@クレヨンしんちゃん】
嵐をよぶ5歳児が憧れる正義のヒーロー。……の人形。この世には子供に正義を教えてくれるヒーローがいる。
植木に幼い頃、正義を教えたのは……
「私も火事になるかもしれんが、アクションビームをつかわせてくれ!」byアクション仮面

【優木せつ菜のカレー@ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会】
 優木せつ菜が調理したカレー。紫色のルーは独創的な香りがする。
 味ですが”せつ菜そのまま”か”近江彼方による手が加えられた方”かは後続の書き手様に委ねます。

35一緒にできること ◆s5tC4j7VZY:2021/07/04(日) 19:13:37 ID:oNoR3MM20
投下終了します。

36 ◆ZbV3TMNKJw:2021/07/05(月) 00:18:16 ID:yt90KjCk0
すみません、まだ途中までですが投下します

37灰色の世界の下で ―所詮、感情の生き物― ◆ZbV3TMNKJw:2021/07/05(月) 00:19:38 ID:yt90KjCk0
「さあ、始めましょうか」

ミスティが掌をかざし水の槍を作り、その背後でエスデスが氷柱を精製し宙に滞在させる。

それに対抗して、堂島、まどか、真島の三人が迎撃態勢に入る。
しかしその一方で、善とジョルノは頷き合い、互いに掌を地面に着ける。

ゴールドエクスペリエンスの能力で急成長した木が5人の前に聳え立ち、それを中心として善の『影』が円形に回り五人を囲む。

「木と影の二重の壁...ふぅん、勢いのままくるかと思ったのに冷静ねぇ」

戦場には場の『流れ』というものがある。この『流れ』が存外にも馬鹿にできたものではなく、これを掴むことも勝利への一歩だ。
増援に次ぐ増援に善の復帰。流れとしては完全に五人の方にある。しかし、だからこそ彼らは踏みとどまった。
流れに身を任せるのではなく、掴まなければならないと彼らは知っていた。


「時間がないので手短にいいます。真島さんとまどか、あなたたちはこの場を離れ古手さんたちへの増援に向かってもらいたい」
「どういうことだ?ここで一斉にかかって奴らを叩いてしまった方がいいんじゃないか?」
「向こうにも奴らの手駒の怪物がいるんですよ。物理攻撃の効果が薄い、特別に厄介な怪物がね」

ジョルノが梨花の『あの鬼を相手に英吾と二人で時間を稼ぐ』という一見無茶な提案を承諾したのには理由がある。
エスデスやミスティと違い、傷を負わせようがすぐに完治する再生能力にほとんどの状態異常の無力化。
自分が累の父との相性が悪いのもあるが、相手の陣営で最も厄介なのがあの鬼だと理解しているからだ。

「奴がこの戦場に来てしまえば恐らく僕らはおしまいです。奴が誰かを抑えて性犯罪者(ミスティ)たちが能力で丸ごと押しつぶす。たったそれだけの力押しで僕らは壊滅してしまう」
「それを俺たちが引き止めつつ、お前たち三人であの女たちを倒すということか」
「ええ。数の利は僕らにある。その利を活かして僕らが『栄光』を掴むッ!」
「......」

真島とジョルノが話を纏めている最中、まどかは唇を噛み締め俯いていた。
堂島がミスティを倒そうとしたあの時の横やり。あれさえなければこんな状況にはなっていなかった。
ジョルノはひょっとして自分が足手まといだからそれらしい理由をつけてこの場から離そうとしているんじゃないか?
こんな事態を引き起こしてしまった己の愚かさにとめどなく後悔が胸の内にあふれだしてくる。

38灰色の世界の下で ―所詮、感情の生き物― ◆ZbV3TMNKJw:2021/07/05(月) 00:19:56 ID:yt90KjCk0

「まどかちゃん...でいいかな」

そんな彼女を見ていた善は、目線をまどかに合わせて声をかける。

「失敗をまるで気にしないなんてことはたぶん僕にもできない。いいや、きっとこの中のみんながそうさ。でも時間は止まってくれない。
状況は絶えず動き続けている。だったらもう、自分の役割を全うすることだけに集中するしかない。それに―――僕らの中に足手まといなんかいない。こんな異様な状況でも抗い続ける君たちを信じるからこの作戦を任せるんだ」
「......!」

善がまどかという人間を観たように、まどかもまた善の瞳を見る。
強い意志が宿っていた。かけた言葉がまどかへの同情や気休めの慰めではなく、本当にそう思っていると訴えかける強い意志が。
その期待と信頼は重荷以上に応えたいという気持ちをかき立たせる。

「わかりました。佐神さん、ワザップさん、堂島さん」

まどかは湧き出る後悔を仕舞い込み、ここに残る三人を見渡し強く言い放つ。

「ここは任せます。絶対に生きてください!」

三人の微笑みすら浮かべる強い相槌を受け、まどかと真島は背を向け梨花たちのもとへと駆け出していく。

(まるで三流の戦隊ヒーローショーだな)

一連の流れを見ていた堂島はふとそんな感想を抱いていた。
堂島の憧れた『ヴィクティマン』は常に孤独でありそれでいいと思っていた。
ヒーローは増えすぎれば安っぽくなり輝きを損ねてしまう。だから堂島は戦隊モノよりも独りでも戦い続けるヴィクティマンの方が好きだった。

なのに。

互いに信頼し、励ましあうという行為に肩を軽くしている自分がいる。
零れた微笑みが取り繕ったウソではないと自覚している自分がいる。

「佐神くん、ワザップくん。作戦は?」
「僕の生命を生み出す能力は氷点下の中では使いにくい。それにあの身体能力の前では僕は無力に近いでしょう。なのでハイグレ女は佐神くんと堂島さんに任せて、僕は性犯罪者をブチのめします」
「私と佐神くんで、か...ハハッ」
「?」
「いや、あれだけ降りろと言った私が君と手を組む...こんなこともあるもんだなと思ってね」
「僕も同じ気持ちですよ、先生」

こういうのも悪くないと思っている自分が、確かにここにいる。

「さて。そろそろヤツらも痺れを切らす頃でしょう。改めて問いますが...覚悟はできていますか?僕は出来ている」
「「当然だ!」」

堂島と善の叫びが重なると同時。
氷柱と水槍が影を貫き戦いの狼煙があがった。

39灰色の世界の下で ―所詮、感情の生き物― ◆ZbV3TMNKJw:2021/07/05(月) 00:20:29 ID:yt90KjCk0




「オ"レ"の家族に手を出すナア"ア"ア"ア"ア"!!」

ドッ

累の父の剛腕が英吾の腹部を捉える。

「三島!」

梨花の悲痛な叫びがあがるのと同時。

「ヴア"ア"ア"ア"ア"ア"!!」

累の父が英吾を殴りつけた腕を抑えてもがき始める。
その腕は鈍器か何かで殴りつけたかのように凹んでいた。

「心配無用。コロネからもらったこいつをちゃんと挟んだ...本当に効くんだなこのカエル」

英吾と梨花はジョルノからそれぞれカエルを1匹ずつ受け取っていた。
ゴールドエクスペリエンスが生み出した生物には攻撃を反射する特性が備えられている。
英吾はこのカエルを盾に使い累の父へとダメージを反射したのだ。

「だが、こいつは良心が痛むぜ...」

英吾の掌の中のカエルは爆裂四散し息絶えていた。
このロワにおいてはダメージを反射できる許容量が設けられており、累の父の剛腕によりそこまで達してしまったのだ。

あの雑な大振りでも当たれば瀕死は確定。
その攻撃力だけでなく、ジョルノが累の父との相性が最悪と評したのは彼の特性にある。

「ブウ"ウ"ウ"ウ"」

累の父の腕の凹みが瞬く間に戻り、彼自身ももがくのを止める。
これがジョルノにとって最悪の特性。反射ダメージも即座に回復してしまうほどの自己再生能力。

「くそったれ、これじゃあジリ貧だ」
(もうこれ以上杖は使えない...どうする...!?)

このままでは数分ともたず累の父に捉えられてしまう。
梨花と英吾に焦燥と絶望が燻りだす。

そんな彼らにまさに救いの一矢が訪れる。

40灰色の世界の下で ―所詮、感情の生き物― ◆ZbV3TMNKJw:2021/07/05(月) 00:20:53 ID:yt90KjCk0

ドドッ

「ガ!?」

桃色の矢が累の父の双肩にそれぞれ突き刺さり、微かによろける。

「真島さん!」
「ああ!」

その叫びと共に真島が累の父の懐に入り込む。

「シッ!!」

左右のジャブが累の父の腕を弾き、顎への道をがら空きにする。
放たれるは渾身のアッパーカット。
正確に急所を捉えられた累の父はたまらずたたらを踏む。

「来たか増援ッ!」

現れた真島とまどかに英吾は顔を綻ばせる。

「ようやくこれで終わらせられる。どきなさい真島っ!」

梨花の合図と共に真島は累の父から離れる。
それを追おうとする累の父へと梨花がボミオスの杖を振るい動きを遅くする。

「ガ ア ア ア アッ!?」

己の身体の不調を感じながらも累の父は傍にいる真島へと殴り掛かるも、真島はそれをフットワークで避け続ける。

「やっぱり遅くなった割には普通に早いわね」

ボミオスの杖は行動を遅くするものであり、一般人以下までに落とすものではない。
今までこれを受けたワザップとミスティは身体能力が人間の範囲であったためかなりの遅さになったが、累の父は素が超人的な身体能力を有している。
そのため、ボミオスを受けた状態であっても常人以上には早く動けるのだ。

「...けどあんたもこれでおしまいよ。時間は15分、それまでに決着を着けるわよ!」
「「おうっ!」」
「はい!」

梨花の叫びと返事と共に真島が累の父への懐へと入り込み、まどかと英吾が散会し距離を置いて累の父を囲い込む。

41灰色の世界の下で ―所詮、感情の生き物― ◆ZbV3TMNKJw:2021/07/05(月) 00:21:24 ID:yt90KjCk0

「オレの家族ニィィ」
「その程度の速さならば問題ない」

ボクシングは距離感の支配力を強要される格闘技である。
相手の拳の速度。リーチ。それらを見極め己の力を最も振るえる距離まで持ち込む。
故に必然的に養われるのは動体視力。
敵の攻撃を死線で躱し最速で己の拳を叩き込むための基礎にして最大要素。

累の父の拳は確かに強力である。
しかし、今の早さでは真島が相手どってきたボクサーの誰よりも劣る。

「シッシッ」


当たれば致命的な拳にも怖気づかず、己にとって最適な距離で最速の拳を振るう。

「ガヴァッ」

ならば足、と言わんばかりに放たれる蹴りは、真島の後方にいるまどかの弓で弾かれる。

(パンチへの援護は要らない...必要なのはそれ以外の攻撃だけ...!)

真島から頼まれた援護を反芻しながらまどかは狙いを定め続ける。
いくらまどかの弓が残弾が無いとしても魔力が尽きれば撃てなくなり、なにより即座に連射できるわけではない。
加えて、累の父にはいくら撃ち込んでもダメージはほとんどない。
だからまどかは必要最低限の援護に絞らざるをえなかった。
本当ならば今すぐにでも撃って援護したい衝動を抑え、腕だけならば躱し続けて見せるという真島を信じながら。

(よーし、そのまま抑えてろよ...)

累の父と真島が交戦する最中、英吾は息を潜めてゆっくり、ゆっくりと距離を詰めていた。
いま、累の父の意識は真島とまどかに向けられている。

(ここで外すわけにはいかねえ...焦るんじゃねえぞ、俺)

その手には拳銃。狙うは累の父の首輪。

(首輪が爆発すりゃあこいつは死ぬ。それは間違いねえ)

もしも首輪が爆発しても生きていられるというなら殺し合いが成立せず、主催側も参加者を確実に縛れる鎖を持っていないことになる。恐らくそれは無いはずだ。
当然、ここで焦って外せば累の父はその枷を狙わせるようなことはしなくなるだろう。
ボミオスで動きを制限され、真島たちに気をとられ、英吾の存在が頭から消えているであろう今だからこそ狙えるチャンス。
射程距離まで残り5歩、4歩、3歩...
累の父はまだ気づいていない。緊張と重圧に英吾の鼓動が耳に響くほどに大きくなる。
2歩、1歩...
鼓動が失せ、意識を己の腕と目標だけに集中する。

0歩。
侵入。真島が飛び退くのを合図に、英吾が銃を構える。

2歩、3歩とバックし真島は累の父から距離を置く。これで首輪が爆発しても被害は避けられるだろう。

瞬間。

それを見ていたまどかの背筋がゾワリとささくれ立つ。

経験値。
人間相手の戦闘経験しかない真島と英吾とは違い、魔女という異形と戦ってきた彼女だからこそ感じ取れた違和感。
累の父は離れようとする真島を追わなかった。
拳と矢のダメージが想像以上に溜まっていた―――そう捉えることもできるかもしれない。
だがまどかの経験は別の解を出していた。
累の父は追わなかったのではなく、追えなかったのではないか?
ダメージの蓄積などではなく次の攻撃に入るための準備をしていたために。

その悪寒が正しいと証明するかのように。ズルリ、と累の父の頭部から身体にかけての皮がずり落ちる。

構わず放たれた英吾の銃弾は、しかし空を切った。

42灰色の世界の下で ―所詮、感情の生き物― ◆ZbV3TMNKJw:2021/07/05(月) 00:22:26 ID:yt90KjCk0


(バカな、あいつは動きがノロくなってるはずだ!)

仮に英吾の奇襲に気づいたとしても既に遅い距離だったはずだ。
だが累の父は跳躍し躱した。
そして英吾の眼前に着地した時、その異変は誰の目から見ても明らかだった。
ただでさえ大きかった身体は更に一回り大きくなり、両腕の文様からは突起が生え。
なによりただでさえ蜘蛛のようだった異形の頭部は巨大な牙と細かく立ち並ぶ歯が際立ち更に蜘蛛そのものに近づいていた。

(脱皮した!?)

脱皮。累の父がしたのは蜘蛛や爬虫類が成長する際のソレである。
そして累の父の脱皮はただ成長するだけではなく身体能力が飛躍的に増す技でもある。
故に、累の父はボミオスの杖がかかった状態でありながら常人以上のパフォーマンスを披露できるのだ。

メキメキと腕に筋を張らせて振りかぶられる拳にも英吾は全く動けない。
それは生物としての『格』。累の父が放つ"圧"。
常に身を前線に置き、『鬼』という異形たちを相手取ってきた鬼殺隊の隊士ですら動けなくなるほどのソレに英吾の本能が敗北を認めたのだ。
それは真島と梨花も同じだ。
彼らも戦いを、惨劇を乗り越えてきた者たちではあるが、その相手はあくまでも人間。
野生動物以上の圧倒的な『暴』の前には蛇に睨まれた蛙のように立ち尽くす他なかった。

「バニエロケット!!」

ただ一人、魔女と戦ってきたまどかを除いて。
身体を風船のように膨らませ高速で飛行するまどかの体当たりが累の父の頭部へと当たり、意識がまどかの方へと逸れる。

瞬間、放たれていた"圧"が英吾から離れ、本能に支配されていた身体は自由を取り戻す。

「ッ、ふきとばしっ!!」

それは梨花と真島も同じだ。
まどかへと追撃をかけようとする累の父へと梨花はふきとばしの杖を振るい、真島は空に投げ出されたまどかを両腕で受け止めダメージを減らす。

「助かったぜ嬢ちゃん。よく動いてくれた」
「なんとなく嫌な予感がしてたんです。うまく言えないけど...」
「まさか一番弱いと思っていたふきとばしの杖が最適解だったなんて...誤算だったわ」
「古手、まだその杖は使えるか?もしくはまた動きを遅くするか...」
「ふきとばしの杖はもう打ち止めよ。ボミオスも重ね掛けはできないと説明書に書いてあったわ」

累の父はほどなくして戻ってくるだろう。
新たな作戦を考えている暇はない。

43灰色の世界の下で ―所詮、感情の生き物― ◆ZbV3TMNKJw:2021/07/05(月) 00:24:27 ID:yt90KjCk0

(この作戦は最終手段だったんがな...!)

「古手、『ゾンビ鬼の時間』だ!」
「ゾンビ鬼...っ!!」

ゾンビ鬼。雛見沢の『部活』で行われている遊戯の一つ。
一人の鬼から始まり、その鬼が参加者に触れることで鬼が増えていくというその名の通りにゾンビ映画のような鬼ごっこ。
しかしこのゲームにはある種禁じ手が存在している。
それは『相手が鬼であるかどうかを確かめる術はない』ということ。
つまり、鬼になっていない者でも自分が『鬼である』と噓をつきそれをバレずに貫き通せば鬼から逃れることができるのだ。
ここで騙す『鬼』は累の父ではなくミスティたち。
真島とまどかを増援に向かわせたことで梨花と英吾を含めた四人への意識が逸れている隙に、ボミオスの杖とふういんの杖という一発逆転の支給品を持った梨花を投入するという作戦だ。
その為に梨花はギリギリまでボミオスの杖とふういんの杖を使わなかった。

ゾンビ鬼という名称は梨花がジョルノへとその作戦を伝える時につけたものであり、ジョルノは別れる際に真島にその旨を伝えたのだ。

「でもそれだと誰があいつを止めるのよ?」

だが、この作戦ができるのは累の父を止めるか倒すことができるのが前提である。
脱皮前ならまだしも今の累の父はもはや敵なし。残るものが誰であれ、この中の四人では早々に食い散らかされてしまうだろう。

「殿は俺と鹿目が務める。三島、あんたも古手について行ってくれ」
「無茶言ってんじゃねえよ。あの化け物相手に二人でどうするつもりだ」
「大丈夫です。わたしたちにはまだ奥の手があります。ただ、それは二人じゃないと使えないんです」
「そうは言うがよ」
「行くわよ三島」

残ろうとする二人を説得しようとする英吾の手を引き梨花は背を向ける。

「言い争っている時間はない。あの怪物には無力同然な私たちが、ワザップや堂島たちの決着を着けさせてここまで戻ってくるのが理想...そうでしょう?」
「クソッ...おいお前ら、死ぬんじゃねえぞ。絶対だからな!」
「あんたらもだ。向こうは向こうで気は休めれないからな」

遠ざかっていく気配を背中で感じながら真島とまどかは戻って来る累の父へと向かい合う。

「来るぞ。用意はいいな?」
「はい」


まどかが真島の背中に掌を当てる。
すると掌から淡い光が放たれ真島の両手と両足からも淡い光が零れ始める。

「オレの家族ニィィィ!!」
「シッ!」

累の父の腕が振り下ろされるその間際に、真島の拳が累の父の顎を捉える。
それにとどまらず、次いで放たれるジャブとストレートのコンビネーションが次々に炸裂する。
まどかの流した魔力が真島の両手足を強化し、累の父の拳の速度を凌駕したのだ。
これが彼らの奥の手。魔力の強化による一時的な身体能力の強化である。

(わたしの魔力があとどれだけ持つかわからない...それでも...!)
「止まる訳にはいかん!」

このまま続ければ、ほどなくしてまどかの魔力は尽き、最悪魔女になってしまうだろう。
それでも彼らは諦めない。絶望しかない運命にも抗い続ける。

たった一つの揺るぎない信念を胸に、戦い続ける。

44灰色の世界の下で ―所詮、感情の生き物― ◆ZbV3TMNKJw:2021/07/05(月) 00:25:07 ID:yt90KjCk0




「さっき面白いことを言ってたわよねえ。私が性犯罪者だから刑務所にぶちこむだとかなんとか」
「それがなにか」
「別にィ。ただあなたのような正義漢ぶってる子が情けなく腰振ってる姿を思い浮かべたら面白くてしょうがなくてぇ」


水と氷の槍を凌ぎ、ミスティの前へと転がり出てきたジョルノは幾分か傷つき地に片膝を着きながらもその眼光だけは決して衰えず。
嘲り嗤うミスティを真っすぐに見据えている。

「残念だったわねぇ。善くんか堂島さんと一緒に私のところに来ていたらどうにかなったかもしれないのにぃ」
「問題ありませんよ。同じことを言うのは嫌いですが、『貴女は僕がぶちのめし刑務所にぶち込む』。その結末は揺るぎませんから」
「そぅ。ならどうやって私にお仕置きするのか見せてもらおうかしらぁ」

ミスティの足元から水流が噴き出し水の槍がジョルノに襲い掛かる。

「そう何度も見せられれば対策も思いつく。『ゴールドエクスペリエンス』!」」

ゴールドエクスペリエンスが、ミスティの水流により生じた地面の瓦礫に触れ水流目掛けて投擲する。

「僕のゴールドエクスペリエンスは物質に命を与え変化させることができる。僕の与えた魚!その中でも突出した突進力を持つ魚とは...」

生命を得た瓦礫は瞬く間に姿を変えていく。
槍のように尖った鼻。魚特有のつぶらな瞳。

「ご存じ『カジキマグロ』だッッ!!」

生み出されたカジキマグロたちは水流を辿り泳いでいく。

カジキマグロは最大速時速110kgほどまで出せるという。
その速度で貫かれたモノがどうなるかは考えるまでもない。
ビィン、とカジキマグロが地面に刺さり直立する。



「...ふぅん。この敵意の塊...本気ってことかしらねえ」
ミスティがカジキマグロの破壊力に感心している最中にも、ジョルノは次々に瓦礫に命を与えカジキマグロを生み出していく。

「水流を魚で支配する。中々イイ考えねぇ。けれど」

ブラックマリンが仄かに輝くと、水流はピタリと止み速度に乗り切れなかったカジキマグロたちがぼとぼとと地面に落ちていく。
ミスティがそのマグロに近づき、脳の部位と下腹部に黒針を刺す。
するとピチピチと暴れていたカジキマグロはピタリと動きを止め、下腹部からは二本の美脚が生える。
呆気にとられるジョルノを他所に、計五体のカジキマグロに同様の処置を施していく。

「ウフフ、私の黒針はこんなこともできるのよぉ。さぁマグロさんたちぃ、貴方を身勝手に産んだ親御さんへと反撃の時間よぉ」

ミスティの号令に従いカジキたちはジョルノへと突進していく。
速度こそ水中の比ではないが、頭部の硬く鋭い鼻は健在であるため、ジョルノもそれを無視はできない。

45灰色の世界の下で ―所詮、感情の生き物― ◆ZbV3TMNKJw:2021/07/05(月) 00:25:31 ID:yt90KjCk0
『無駄ァ!!』

ゴールドエクスペリエンスが殴りつけたマグロ兵は生命を失い瓦礫へと姿を戻す。

残る四体のマグロ兵は先方がやられたと見るや否や、直線に向かっていた軌道を変えジョルノの周囲を取り囲むように陣形を組む。

「生命は死を突きつけられる度に学び強く進化する...己の生み出したモノに小賢しく反逆される気分はどうかしらぁ?」
「悪趣味な女だ...そうやって意趣返しのような口ぶりで相手の尊厳を傷つけようとするのがお前のやり方か」
「命を好き勝手に弄ぶ貴方に悪趣味だなんて言われたくないわねぇ」

ミスティがパチンと指を鳴らし、マグロ兵が一斉にジョルノへと襲い掛かる。
同時に。
ジョルノの足元から噴水が湧き出て、マグロ兵ごとジョルノを取り込み水牢の如く宙に浮かぶ。

「これは...溺れるっ!」

浮かぶ水球に閉じ込められたジョルノはマグロ兵たちに四方を囲まれ、ミスティは帝具の連続使用による疲労を回復するために突き刺さっていたカジキマグロの脳に黒針を刺しその場に硬直させ背もたれにする。

『無駄無駄ァ!』

ゴールドエクスペリエンスが傍にいるマグロ兵を殴ろうとするも、マグロ兵は容易く回避し代わりに肩を切り裂き通り過ぎていく。

「水牢マグロ責めの刑...その中ではロクに動けないでしょう?でもマグロちゃんたちは違う。その中を縦横無尽に泳ぎ回り貴方をジワジワと追いつめる。失血死、酸欠、一思いに刺殺...生殺与奪は彼らが握っているぅ」
「......!」
「でも貴方の能力は惜しいわぁ。その生命を生み出す能力は私の黒針ととても相性がいい...今からでも貴方が私に傅くなら特別待遇で迎え入れてあげてもいいわよぉ」

ミスティはベロを出しながら挑発するように己の唇の前で手で作った輪をシュッ、シュッと前後させる。
決死の状況に置いての勧誘―――俯くジョルノは、しかしすぐに顔を上げ目で訴える。

『何度も同じことを言わせるな性犯罪者。貴様は僕がぶちのめし刑務所にぶち込む』と。

「..そう。残念だわぁ」

ミスティがパチンと指を鳴らし、マグロ兵を一斉に襲い掛からせる。
四方八方を囲まれた状況でもジョルノは微塵も恐怖を抱かない。
なぜなら避ける必要もないのだから。

(ゴールドエクスペリエンス)

ゴッ。

「ガッ...!?」

水中でのつぶやきと共にマグロ兵たちが一斉に瓦礫へと戻り、ミスティの頭部に痛みが走る。
ジョルノは浮かぶ四つの瓦礫を抱え、その重さで沈み込み水球から脱出する。

「ゴールドエクスペリエンスの解除は殴らなくてもできる。きみが呑気に背もたれにしていたカジキも例外じゃあない...ようやく一撃ってところかな」
「クッ...フフッ、やってくれるじゃない」

頭部から流れる血を抑えながらミスティはジョルノを睨みつけた。

46灰色の世界の下で ―所詮、感情の生き物― ◆ZbV3TMNKJw:2021/07/05(月) 00:26:15 ID:yt90KjCk0

「ふむ。私の相手はお前たち二人か」

エスデスは腕を組み善と堂島を迎える。

「しかもよりにもよって貴様らとはな...私をそこまで高く買ってくれるか」

くつくつと笑みをこぼすエスデスに反して善は顔を強張らせる。

「手心なんて加えれませんよ、貴女には」
「佐神くん。きみ、彼女に勝ったんだろ?実際どうなんだい」
「僕よりも数段格上ですよ。もう一度勝てと言われても厳しいかもしれません」
「ほう、君にしては珍しい弱音を吐くな。だが引くつもりはないんだろう?」
「当然です」
「ハハハ、だと思ったよ」

「さあ、おしゃべりはここまでだ。私とて貴様ら相手に遊び心を交えるつもりはない」

エスデスは組んでいた手を解くと、掌を合わせ指で正方形を作りフゥ、と息を吹きかける。
指の合間から漏れる氷の結晶がエスデスの眼前に瞬く間に積み上がり人の形を象る。

「氷騎兵―――これは私の能力で生み出した兵隊でな。即興であるため一万の兵力とはいかないが、代わりに精度を高めさせてもらった」

氷の結晶が象るのは女体。表情のないエスデスそのものである。

「もうなんでもありだな...」
「時間も止められるんです。なにをやってきても驚きませんよ」
「安心しろ、摩訶鉢特摩は今日はもう使えん。ここからは死力を尽くした殺し合いだ」

エスデスが地を蹴るのと共に氷騎兵エスデスも駆け出す。

エスデスの氷を伴う蹴りを善は腕で受け止め、氷騎兵の剣を堂島が剣で受け止める。

思っていたよりも重い。
氷騎兵の攻撃を受け止めた堂島はそう評価する。
ただの操り人形かと思えば剣筋はしっかりとしているし、動きも身軽。
先ほど戦った本体ほどではないがすんなりと勝てる相手でも無さそうだ。

(グッ...やっぱり重い。相変わらずどうなってるんだこの人は!?)

数時間前にも受けた攻撃だが、彼女の攻撃は依然衰えることもなく。
吸血鬼顔負けのパワーで善の身体に負荷を刻んでいく。

剣と剣、徒手と徒手が暴風のように荒れ狂い周囲に衝撃が波及する。

47灰色の世界の下で ―所詮、感情の生き物― ◆ZbV3TMNKJw:2021/07/05(月) 00:26:43 ID:yt90KjCk0

だが戦況は拮抗せず。先んじて有利を取ったのは、一番消耗の少ない堂島だ。

カッ

堂島の剣が袈裟懸けに振り下ろされ氷騎兵が切裂かれる。
その勢いのまま善のもとへと向かおうとする堂島だが、しかし剣に纏わりつく重さに足を止める。
パキ、パキ、と音を鳴らしつつ、氷騎兵が剣をその身に取り込んでいた。

(最初からこれが狙いか)

堂島の強さの大本は真祖をも断てる剣にある。
堂島の戦闘センスは確かに優れているが、剣が使えなければ攻撃力は善やエスデスに比べて大幅に下がる。
氷騎兵はその為の駒だ。
いくら何物をも両断する剣といえど、腹を抑えられればその真価を発揮することはできないからだ。

(ならば)
「佐神くん!」

善の名前を呼ぶのと同時、堂島は氷の纏わりつく剣を善目掛けて振るう。
善はその気配を察し、アジェルノッカーを振るい剣に纏わりつく氷を殴りつける。
粉砕された氷は再び元の形に戻るも、善が首元を掴み地面にたたきつけ、剣が解放された堂島はそのままエスデスへと切りかかる。

エスデスは反射的に一歩退き、頭頂へと振り下ろされる剣を間一髪避ける。
が、避けきれなかった部位へと袈裟懸けに一筋の線が走り血化粧が舞う。
浅い。
手ごたえから察し、与えた傷にも油断せず追撃を放つもエスデスの氷の壁が眼前に聳え立ち進路を妨害される。


「向かい合う相手の切り替えをこの早さで為すとはな...その状況判断力の早さには敬服すらするぞ」

エスデスが掌を身体に刻まれた傷に合わせてなぞれば、氷が纏わりつき出血が収まる。
彼女の敬服に限らず、善と堂島も彼ら自身に驚いていた。

堂島はなぜか解っていた。善ならばこの早さで解凍を頼んでも成し遂げてくれるだろうと。
善はなぜか解っていた。堂島ならばこのタイミングで相手を切り替えてもすぐ対応してくれるだろうと。

「このまま押し切るぞ佐神くん」
「はい!」

善にとって初めてだった。
かつて自分を救ってくれて、その真似をしたいと背中を追っているヒーロー。
今も倒すしかないと思っている彼に背中を預け、なのに微塵も疑わず戦えるこの気持ちを抱くのは。

堂島にとって初めてだった。
戦いから遠ざけたくて様々な手段を考えていたというのに。
尊厳を破壊されて。心が折れかけて。それでもなお立ち上がる姿に安堵すら覚えて。
そして今は彼に背中を預けられることに心が奮い立っている。そんな奇妙な気持ちは。

救ってくれた命と救われてくれた命。
善も堂島も。
互いに手を組んで戦い、面白いほどに噛み合うことに紛うことなき喜びを感じている。

―――この瞬間が、ずっと続くといいなあ。

どちらが言ったのか、思ったのかはわからない。
けれど、そんな淡い喜びを、二人は確かに共有していた。

48灰色の世界の下で ―所詮、感情の生き物― ◆ZbV3TMNKJw:2021/07/05(月) 00:28:07 ID:yt90KjCk0



「オレの家族ニイイイィィィ!!!」
「うおおおおおお!!」

互いの叫びが、肉を撃つ音が周囲に響き渡る。

真島の身体には未だに目立った外傷はなく、一方的に攻撃を与え続けている。
しかしその心中は全く穏やかではない。
累の父はいくら拳を受けようともすぐに傷を癒し休息もなしに即座に反撃してくる。
なにより最大の敵は時間だ。
今はまだまどかに分けられた魔力で凌いでいるが、果たしてこの強化があとどれくらい保てるのだろう。
保てたとして、累の父にかけられているボミオスの杖の効果が切れた時にどれほど抵抗できるのだろう。
その緊張感と不安感に、いま、自分がどれほどの時間を稼げているのかも不明瞭だった。

「ジャアッ!!」

放たれたジャブに対する累の父の大振りの拳。
この僅かな時間で幾度となく交わされてきた攻防。

しかし、鼻先に走る灼熱と共に真島の眼前に血しぶきが舞う。

(クソッ、掠めたか!)

外傷としては大したことではない。
しかし、これはまぐれではなく、徐々に真島の攻撃に適応してきているという証左である。

魔力の時間切れ。
ボミオスの時間切れ。
更に加えて累の父の適応力。

カウントダウンのようにどんどんと塞がれていく真島は崖際に追い詰められたような錯覚に陥る。
退けば死。引かずとも死。

ちら、と横目で木に背を預けるまどかを見る。
彼女は荒い息遣いで、しかし、決して戦闘から目をそらさずに見据えている。

そんな彼女に真島はふっと口元を緩め、迫る死への脅威へと改めて向き合う。

(どの道引くわけにはいかんな)

魔力も尽きかけているであろう彼女がまだ折れていないのだ。
ならば自分が諦める訳にもいかない。

「家族に手を...出すなァァァァァ!!」
「俺にも護りたいものがある...そいつは譲れんっ!!」

振り下ろされる右こぶしを避け、素早いフットワークで回り込み空いた右側頭部へと左ストレートを放つ。
が。瞬間、時間が止まっているかのような錯覚に陥る。
アドレナリン。死を感じ取った脳が真島の目に映る光景をひどくスローモーションにしていた。
真島がストレートを放つその直前。累の父の左拳は既に右の脇を通して放たれていた。
腰も入っていない無茶苦茶な体勢からの拳。しかし、累の父の身体能力を考えればそれだけでも致命傷になりうる。

(すまん、みんな、鹿目)

いくら動きがゆっくりに見えても身体が動かなければ意味がない。
累の父の左拳が真島の腹部へと吸い込まれていき―――








「その人は『味方』です!思う存分助けちゃってくださぁい!!」
「命令してんじゃあねーぞオギワラ!『ザ・グレイトフル・デッド』!!」

49灰色の世界の下で ―所詮、感情の生き物― ◆ZbV3TMNKJw:2021/07/05(月) 00:30:08 ID:yt90KjCk0

直撃の寸前、飛び出してきた影が真島を突き飛ばし累の父の拳は空を切る。
まどかは見た。累の父と真島の横合いから飛び出してきたスーツの男を。
その男が、ジョルノのように奇妙な異形の像を操り真島を救ったのを。

「間一髪でしたね真島さん」
「荻原、無事だったか!」
「はい、兄貴たちが助けてくれたので♪」
「オギワラ。オメーはソイツ連れて下がってな」
「はぁい」
「待て、その化け物はただものじゃない!俺も戦うぞ!」
「大丈夫ですよぉ、さっきもドレミーさんがやっつけたばかりですしぃ」

結衣は疲労する真島をぐいぐいと押しながら息を切らすまどかのもとへと運んでいく。

「あのぉ、大丈夫ですかぁ?」
「なっ、なんとか...あの、あなたが荻原結衣さんですか?」
「はい。あたしが荻原結衣です!あなたのお名前は?」
「鹿目、まどかです」
「まどかちゃん!可愛い名前ですねぇ。そうだ、氷あるんでよかったら使ってください」

呑気な自己紹介をしながら、氷をまどかの額に当て、彼女なりに休ませようとする結衣。
そんな若干の苛立ちすら覚えそうな結衣の調子に、真島はむしろ安堵する。
彼女は変わっていない。新たに巻き込まれた殺し合いでも相変わらずの能天気なお人よしでいてくれる。
それが真島にとっては喜びであり、同時に『兄貴』と呼ばれているスーツの男にきっと苦労しているだろうなと微かな同情も抱く。

「邪魔ずるナ"ア"ア"ア"ア"ア"!!!」
「ちょっと見ねえうちにデカくなりやがって」
「ここは私にお任せを...先ほどぶりですねぇまがい物の鬼さん」

プロシュートの背後からのそりと現れたドレミーが累の父へと向かい合う。

「約束通り首輪を受け取りに来たのですが」
「シャア"ア"ア"ア"ア"!!」
「お持ちではないですか。残念ですね。ではさようならといきましょう」

ドレミーが手を翳すと同時、大小さまざまな弾幕が累の父へと襲い掛かる。
それにも怯まず累の父は拳を振り下ろす―――が、ドレミーは既におらず。
頭上へと跳びあがったドレミーは掌を累の父に向け、すれ違いざまに艶めかしくささやく。

50灰色の世界の下で ―所詮、感情の生き物― ◆ZbV3TMNKJw:2021/07/05(月) 00:31:25 ID:yt90KjCk0

「今は眠りなさい。貴方の槐安は今作られる」

ドレミーの掌から黒色の靄が放たれ累の父に纏わりつく。
これがドレミーの能力。
対象を眠りに落とし夢の世界へともぐりこむ程度の能力だ。

「ジャア"ア"ア"ア"ア"ア"!!」
「あらぁ?」

全く眠りに落ちる気配のない累の父にドレミーは首を傾げる。
鬼舞辻無惨に作られた鬼は基本的に気絶することはあっても眠ることはない。
先刻の戦いではホワイトの完全なる洗脳下にあったため、『鬼』としての性質に隙間が生まれていたが今はそうではない。
ミスティが齎したのはあくまでも自分たちを家族に見せるという認識のみであり、鬼としての思考や性質には一切手を加えていない。
故に、ドレミーの催眠にも鬼としての耐性が勝り、その効力を鈍くしたのだ。

「ごめんなさいプロシュートさん。私では無理みたいです」
「問題ねえ。仕込みはもう終わってる。―――おい、化け物」

ドレミーにそっと耳打ちをした後、プロシュートはそっと三歩下がって累の父へと人差し指を突きつける。

「オメーに俺の能力が大して効かねえのもわかってる。身体能力じゃあ勝ち目なんざ猶更ねえ。恐らくまともにやりあえば俺もドレミーもあっさりやられちまうだろうよ」

プロシュートの言葉を無視して累の父は勢いのままに殴り掛かる。

「そんだけのパワーを出すにはどうしても『体重』が必要だ...体重があるってことはよぉ」

プロシュートへと拳が振り下ろされる刹那、累の父の視界がガクリと傾く。

「柔らかい地面なら容易く沈んじまうってことだぁ!『グレイトフル・デッド』はここに来てからずっと地面に触れていた...地面を支えてる木の根や葉を腐らせるためになあ!」

プロシュートのスタンド『グレイトフル・デッド』は能力の周囲への細かい調整はできない。
しかし、ばら撒くのではなく範囲を両腕にのみに絞ることは可能。『グレイトフル・デッド』の両腕から放たれた老化ガスは土の中に眠る木や散らばり埋もれる葉にまで届き老化させ腐らせた。
結果、生じるのは隙間ができたことによる地面の陥没。決して大規模ではないが、踏み込めばつま先が沈み込む簡易的な落とし穴。

「俺が作ったのは『腐葉土』だ!農家みてェに手が込んでねえからガーデニングには使えねえが、てめえを躓かせるくれえなら充分...そしてぇ!」

プロシュートは飛び退き『グレイトフル・デッド』は左右の木に触れ能力を発動する。

「木の重さってのは案外馬鹿にできねえんだぜ!木が老いて腐るには時間がかかるが...「直」ざわりなら問題ねえ!」

ボロリ、と気が根元から折れ、体勢を崩す累の父へと降り注ぐ。
その重量に累の父の身体が押されますます地面に沈んでいく。

「ガアアアアア!!」
「まあたかだか一本や二本でオメーを抑えられるとは思ってねえさ。だからよぉ...何本でも叩き込む!」

プロシュートは移動した先の木に手をかけ同じように累の父へと木を倒していく。

「そして軌道修正は私の出番ですね」

ドレミーが微かに逸れかけた木へと弾幕を放ち、正確に累の父の背中へと落ちるように軌道を直す。
そして計10本の大木が累の父にのしかかり身体を埋め動きを固定した。

(できればここで殺しておきてえが...チッ、木で隠れて首輪が狙えねえ)

累の父の身体は木で隠れてしまっており、しかしこれ以上減らせば拘束が解け再び襲い掛かってくるだろう。
とりあえずはこの場を凌げただけでもよしとするしかない。

プロシュートとドレミーは、累の父へと背を向け結衣たちのもとへと振り返る。

51灰色の世界の下で ―所詮、感情の生き物― ◆ZbV3TMNKJw:2021/07/05(月) 00:31:46 ID:yt90KjCk0

「す、すごい...」
「ふふん、兄貴たちは凄いんですよぅ♪」

累の父を拘束したプロシュートたちの手腕を見て、まどかは思わずポカンと開口し、結衣は自慢げに胸を張った。

「では改めまして。私はドレミー・スイートです」
「か、鹿目まどかです」
「真島彰則だ。荻原を護ってくれたこと、礼を言う」
「...プロシュートだ。礼は必要ねえ。コイツが勝手についてきてるだけだ」
「もう、兄貴はすぐにそういうこと言うんですからぁ。あたし、兄貴が励ましてくれたことすごく嬉しかったんですからね!」
「イチイチ言いふらすんじゃあねえオメーはよお―――!」

こめかみに一つの筋を浮かべながら結衣の額に指をグリグリと押し付けるプロシュートを見て、やはり苦労しているんだなと真島は妙な親近感を抱いた。

「さてさて。気を抜くのはまだ早いですよ皆様方」

ドレミーがパン、と掌を打ち鳴らし、結衣に乱された場の空気を立て直す。

「私たちはまだ目標を達していません。この辺りで探している人がいるんですが、あなたたちは知りませんか?黒いゴスロリ娘と益子薫という小さな女の子です」

『黒いゴスロリ娘』『益子薫』。
その二つの単語に真島は目を見開く。

「どうやらご存じのようですねぇ。それでは聞かせていただきたいのですが―――」

ドレミーが真島から答えを聞き出そうとしたその時だった。
耳をつんざくほどの轟音が鳴り響いたのは。

52灰色の世界の下で ―所詮、感情の生き物― ◆ZbV3TMNKJw:2021/07/05(月) 00:32:46 ID:yt90KjCk0



「クッ...ハハハハ...」

地面に這いつくばるエスデスは血反吐を吐きながらも口角を釣り上げる。

「かつては幾万もの兵を蹂躙したエスデスとあろうものがたった二人にここまで圧倒されるとはな...」
「過去の栄光に縋るかい?その姿も合わせて惨めなものだね」
「惨めか...ふふっ、構わんさ。むしろ新鮮だ...初めて私が挑む側になれたのだからな」

自嘲の笑みすら浮かべるエスデスに対し、堂島は侮蔑の感情すら視線に込めて見下ろす。
しかし一方で、善はエスデスに対して違和感を抱いていた。

(戦況は僕たちが有利だ。なのになんだこの不安感は..!?)

善はエスデスを観て思考を巡らせる。
今の状況。これまでの状況。エスデスの人間性。この目で観たものすべてを総動員して推測する。

そして違和感の正体に気が付いたその時。

「―――この、サイコ女...!!」

善の怒りは殺意へと変わるほどに沸き上がった。

53灰色の世界の下で ―所詮、感情の生き物― ◆ZbV3TMNKJw:2021/07/05(月) 00:34:01 ID:yt90KjCk0


「ハアッ、ハアッ」

ミスティは胸を抑え、息を切らしよろめきながらもどうにか体勢を立て直す。

「どうやらその道具、体力と引き換えに力を発揮するもののようだな」

対するジョルノは多少の手傷はあれど、ミスティほどには息が上がっておらずどこか余裕さえ滲ませている。
ジョルノの推測は正しく、ブラックマリンは使えば使うほどに使用者の体力を削っていく。
ミスティ以上に適正を持ち、ナイトレイド最強のブラートと肩を並べるほどの猛者であるリヴァですらその制約からは逃れられなかった。
故に体力も体格も劣り、頭部にもダメージを受けたミスティではここまでの疲労が出るのも当然である。

「うふふっ。もともと私は直接戦闘向きじゃない...それに、あなたたちに容易くは勝てないことくらいは私も弁えているわぁ」

口から出る弱音とは裏腹に、ミスティの顔からは笑みが消えていない。
ジョルノは油断なく構え、しかし早々に勝負を決めるために徐々に距離を詰めていく。

(もうすぐ古手さんのふういんの杖の効果が切れる...それまでに決めなければ!)

このままふういんの効果が切れワザップが表面化してきた時にはどうなるかは彼自身にもわからない。
故にこれ以上は時間をかけられない。最低限、ミスティだけでも始末しておかなくてはならない。

不敵な笑みを絶やさぬミスティに不安要素を抱くも勝負を決めるためにジョルノは駆ける。
ミスティは力を振り絞り、両手で印を結びジョルノへと見せつける。
幾度となく繰り返された湧き出る水流。しかし今までと違い、ジョルノを無視して上空へと舞い上がる。

「......!?」
「ねぇ。あなたは不思議に思わないかしらぁ。こんな状況でなぜ私がこんなに余裕を保ててるのかぁ」

突如、ゴロゴロと空気を震わすほどの轟音が鳴り響く。

「雷...バカな!?」

この会場にも雲はある。しかし、雨は降っておらず前兆もなかった。
なのになぜこんなタイミングで!?

「ふふっ、なぜ私が馬鹿みたいな一つ覚えでブラックマリンを使っていたかわかるぅ?」

ミスティの言葉にジョルノは咄嗟に足元を確認する。

「濡れている...いつの間にか、地面に乾いた場所がほとんどないほどに!」
「それと、今まで隠してたけど私は闇のエナジーで属性を付加できるのよぉ。炎や氷...電気」
「...!」
「もちろん特別な道具がないととってもちっぽけなものだわぁ。多少火傷をつけたり痺れさせたりが限度。エスデスちゃんみたいに実戦で使えるようなものじゃないわぁ。でも条件さえ整えればそれなりの武器になる」
「―――佐神くん!堂島さん!すぐにエスデスから離れて防御態勢をとれ!」

ミスティの狙いに気づいたジョルノは声を張り上げる。

「奴らは"雷"を作るつもりだあああああ!!!」

54灰色の世界の下で ―所詮、感情の生き物― ◆ZbV3TMNKJw:2021/07/05(月) 00:38:36 ID:yt90KjCk0

「もう遅いわぁ。さっきの電撃属性を付加させた水流でスイッチは入っているの。仮に私を殺せてももう止まらないわぁ」

雷とは積乱雲の中の氷の粒がぶつかり合うことで起きる放電現象である。
エスデスの氷による寒暖差と放電素材。
闇のエナジーにより属性を付加させたブラックマリンによる、温水と冷水により生じる気温調整。
そして、両者の能力で水浸しになった地面。

条件は全て整っている。

ジョルノの叫びを聞いた善と堂島はすぐに退避の姿勢に入る。
二人とも電撃を操る吸血鬼は知っている。
狩野京児。彼の操る電撃は強力ではあるものの、善や堂島のような強い力を持つ吸血鬼を殺せるほどの威力は有さない。
だが自然発生する雷を受けたことは無く、それがどれほどの被害を及ぼすかは想像もつかない。

「今更逃がすわけないでしょおう?」

ミスティが指を動かすと、校舎から水流が飛び出し渦巻くように善たちの眼前へと立ちはだかる。
邪魔だ―――善と堂島は同時に波を攻撃しようとするが、その腕がピタリと止まる。

「優しい貴方たちなら彼女を見捨てて逃げ出さないわよねえ?」
「あいつ...!」

水流の中に囚われた益子薫の姿に、善と堂島の表情は怒りに歪む。
その一瞬の間が彼らの運命をわけ―――雷は遂に降り注ぐ。

「受けなさい、私とエスデスちゃんの合体技(あいのけっしょう)...『建御雷神(タケミカヅチ)』!」

まさに一瞬の出来事だった。
ジョルノも。善も。堂島も。薫も。ミスティも。エスデスも。
光は存在する者すべてを飲み込み雷が荒れ狂う。

轟音が鳴り響き、水を伝い草木を焼き切り、地面を抉り取る。

55灰色の世界の下で ―所詮、感情の生き物― ◆ZbV3TMNKJw:2021/07/05(月) 00:39:20 ID:yt90KjCk0
夥しいほどの硝煙の中、ゆらりと影が蠢く。

「...ゲホ、ゲホ...」
「無事かご主人」
「えぇ。なんとかねぇ」

立ち上がったのはミスティとエスデス。
彼女は善とジョルノが影で姿を隠した隙に、自分とエスデスの身体を黒針で改造し電撃耐性を付与しておき雷を凌いだのだ。

「どうやら今のが奥の手だったようだね」

その声にミスティは目を見開く。
煙が晴れ、浮かび上がるは四つの影。
小さな呻き声を上げつつもほとんど外相のない薫、目を瞑り、身体に刻まれた焦げ跡が痛ましくも未だ息のあるジョルノ。
その二人を庇うように被さり、全身に火傷が刻まれ片目を失いながらも微塵も揺らがぬ闘争心を瞳に宿す善。
そして、白の装甲を土気色に汚し、左腕を失いながらもその三人を庇うように立ちはだかる堂島。

雷が降り注ぐその寸前、善は薫を水流から掬いだすと共に、ジョルノへと分裂体を放ち、すぐに戻すことでジョルノを回収。
堂島は剣で地面を穿ち土をカーテンを作るように巻き上げ、三人を庇うように来る雷へと向き合う。
その背に隠れた善がジョルノと薫を抱え込み二人への衝撃を引き受け、しかし無防備のままに雷を受ける薫が一番危険だと判断したジョルノが己にもまわされる防御を薫へと向けさせるために彼女を押し付け、己はスタンドによる防御に賭けた。
あまりにも足りない時間と備え。しかし、各々ができる範囲で抗った結果、可能な限りダメージを抑えることができたのだ。

「...驚いたわぁ。まさかこれまで防がれるなんて」
「悪の必殺技を打ち破るのはヒーローの役目だからね」
「惜しいわぁ...ほんとうに貴方たちを失うのが惜しい...ねぇ。最後に提案させてもらうけどぉ、貴方たち、私と組むつもりはないかしらぁ?」

56灰色の世界の下で ―所詮、感情の生き物― ◆ZbV3TMNKJw:2021/07/05(月) 00:39:58 ID:yt90KjCk0

己の首元に手を這わせながらミスティは続ける。

「このまま戦えば終焉はどちらかの死でしかありえない...私には技術力がある。闇のエナジーに精通する超能力の造詣がある。この枷を外すのに一役買えると思うけれどぉ?」

それはあまりにも魅力的に思える提案だった。
ミスティはあくまでも優勝よりも脱出によるゲームクリアを重視している。
加えて、機械に強いという点も善たちにはない強みだ。
黒針による調教と洗脳も、エスデスのような強く殺し合いに乗る参加者相手に限れば善たちにも得しかない。

堂島と善は互いに目を合わせ、相槌を打ち言葉を返す。

「「お断りだ!!」」

その益を足蹴にしてでも譲れないモノがある。
彼女は薫を蹂躙し傷つけた。ジョルノを傷つけた。
意味もなく。理不尽に。己の欲を満たすためだけに。そのことに関しても微塵も反省や後悔をしていない。
そんな彼女を信用も信頼もできるはずがない。許せるはずもない。
これ以上の被害者を増やさないためにも彼女はここで倒す。
ぶつけられる二人の殺意にミスティは心底残念そうに眼を伏せる。

「そう...残念。ならあなたたちとはこれでさようならねえ」












「ハイ、ミスティ様ぁ♡」

57灰色の世界の下で ―所詮、感情の生き物― ◆ZbV3TMNKJw:2021/07/05(月) 00:41:12 ID:yt90KjCk0

―――まさに刹那の出来事だった。
伸ばされた手が善の首元にかかる。

その攻撃が善は見えなかった。
片目を潰され視界が狭まっていたから。それはあり得ないはずの攻撃だったから。
彼女―――益子薫は助けてほしいと叫んでいたのを聞いていたから。

己になにが起きるかを察した時にはもう遅い。
彼女を突き飛ばす暇もなく。なにか言葉を遺すこともなく。
薫の指は善の首輪を掴み、全力で引き抜き―――爆発。

セレモニーで見せしめとされた少女のように善の首と胴体が泣き別れる。

落ちていく視界に映るのは、こちらを見つめて放心するヒーロー、爆発に巻き込まれた両手を無くし、涙を流しながらも歓喜に満ち溢れる薫。

―――だから言ったじゃないか。

最期に届いたのは、どこかで聞いたような、そんな声。

58灰色の世界の下で ―所詮、感情の生き物― ◆ZbV3TMNKJw:2021/07/05(月) 00:43:04 ID:yt90KjCk0

なにが起きた。

ミスティが首輪を引くような動作をしたと思った瞬間、背後から小さな爆発音が響いた。

咄嗟に振り返れば、目に映るのは頭部と胴体が泣き別れた善と、両腕を無くしながらも歓喜する薫。

「アハ、アハハハハハ!!ミッ、ミスティ様ぁ!オレやったぞ!またいっぱいご褒美くれよぉ!ビリビリするやつくれよぉ!」

爆発に巻き込まれた影響で顔は半分以上焼けただれ、両手を肘から先を無くし、涙を流しながらも。
薫は歓喜する。奉仕と褒美という信頼で繋がれた快楽を求め続ける。

堂島はわかっている。彼女もまた被害者であり、これが本心でないことは。
彼女が善を××したのも、洗脳され自意識を奪われていたからにすぎない。
精神分析に則っても法律に則っても、彼女が悪いと判断する者はいないだろう。
そんな者がいれば、その者こそが人の痛みが解らぬ悪党だ。

けれど。気が付いた時には生首が増えていた。
堂島が吸血鬼となった時と同じだ。
頭が真っ白になり、剣が血に濡れていた。

悲しむでもなく。怒るでもなく。
ただどうしようもなく空っぽだった。
だからドスリ、となにかが腕の切断面から入り込む感触がしてもなにもできず。
ミスティが自慢げに「私の熱属性を付与した水流があなたの心臓目掛けて昇っている」とのたまっても何も感傷を抱けず。
ボン、という音と共に心臓部が弾け、激痛と共に身体が前のめりに倒れこむ。

―――今、私が殺さずとも戦いを続ければ必ず誰かに殺される。君は死ぬ。必ず死ぬ。

かつて善へ向けた言葉が脳髄で反芻される。

―――激痛の中で、後悔し、血をまき散らし、死ぬんだよ。灰だけを残してね。

灰になっていく彼の身体に手を伸ばし、残骸を握りしめる。

―――先生。

閉じていく視界に映るのは、穏やかな日差しの下でシスカの乗る車椅子を押し微笑み合う善と、それを微笑み見つめる自分の背中。

そんな、あまりに穏やかだったかつての記憶。


【佐神善@血と灰の女王 死亡】

【益子薫@刀使ノ巫女 死亡】

【堂島正@血と灰の女王

59 ◆ZbV3TMNKJw:2021/07/05(月) 00:43:53 ID:yt90KjCk0
何度も投下をわけて申し訳ありません。
次の投下で最後になります。

60名無しさん:2021/07/05(月) 06:16:18 ID:/JA/7wqU0
征史郎、はるな予約します

61 ◆EPyDv9DKJs:2021/07/05(月) 22:25:28 ID:/JA/7wqU0
あ、すいません自分です。はるなと征史郎予約します

62 ◆ZbV3TMNKJw:2021/07/07(水) 23:56:16 ID:ZKQm6gF20
投下します

63灰色の世界の下で ―敗者の刑― ◆ZbV3TMNKJw:2021/07/07(水) 23:57:24 ID:ZKQm6gF20
梨花と英吾がたどり着いた時には全てが終わっていた。
灰と化していく善と堂島。倒れ伏すジョルノ。首と胴体が泣き別れになった益子薫。
そんな彼らを嘲笑うミスティと、傍に付き添うエスデス。

彼らは負けた。それは一目瞭然の事実だった。

(...潮時ね)

梨花はこの場からの逃走を視野に入れる。
沙都子が無事であるのは確認できた。
貴重な杖をほとんど使いつぶして時間も稼いだ。
ならばこれでもう自分の役割は充分に果たしたと言える。

今ならミスティたちに気づかれず離れることも可能だろう。
鬼の元に残した真島たちにしても、あそこで引き受けた以上は犠牲になるのも覚悟しているはず。


(知り合って間もない彼らの為に命を捨てるなんて非合理にもほどがある)

梨花はまだ死ぬわけにはいかない。
死ぬにしても可能な限り『次』への情報を持ち帰らなければならない。
ここで余計なリスクを背負う必要は一切ない。

善にも。堂島にも。ジョルノにも。大した情なんてない。
ただ、見ず知らずのはずの沙都子を助けてくれて。
自分を気遣い逃がしてくれて。
自分を信頼して場を預けてくれただけの男たちだ。

「...ハァ」

ため息とともに、杖を握る力を強く籠める。

(そんなふうになにもかもを割り切れたら楽だったのにね)

百年の繰り返しで精神を摩耗しきっていた時も。
繰り返しを終えた後に再び巻き込まれた惨劇の数々の時にも。

もはや手遅れなほどに進行した雛見沢症候群患者にも、無駄だと諦めながらも救いの手を伸ばそうとした。
彼らに自分が幾度となく殺されようとも、それが彼らの本性なんかじゃないと信じ続けてきた。

結局のところ、梨花は人間としての情を捨て去ることができなかった。

64灰色の世界の下で ―敗者の刑― ◆ZbV3TMNKJw:2021/07/07(水) 23:57:51 ID:ZKQm6gF20

(どの道、ミスティとは対峙することになる。なら消耗している今のうちに叩いてしまった方がいい)

ミスティの改造や性技による洗脳は非常に厄介だ。
放置しておけばこれからもどんどん駒が増え手が付けられなくなっていくだろう。

「三島」
「言われねえでもわかってる。このライフル銃ならこの距離でも届く」


梨花がなにかを言う前に英吾はライフル銃を構え了承の意を示す。
累の父と違いミスティは生身だ。
無理に首輪を狙わずとも体に当てれば次につなげられる。
なによりも、英吾自身許せなかった。
貴真のように己の悦楽の為に人を弄ぶ外道の存在が。

(ミスティ)

地面に転がる者たちの末路を目に焼き付ける。
涙は流せない。流すにはかかわった時間が短すぎる。

代わりに怒りを胸の奥で燃やし杖を握る力をさらに籠める。

ミスティを明確な"敵"だと認識し梨花はボミオスの杖を振り、英吾は狙いを定める。

(今度はあんたが失う番よ!)

放たれた光がミスティへと迫るも、疲弊しきったミスティでは躱せない。
だが、光がミスティへと着弾するその瞬間―――光は裏返った。

「なっ!?」

驚愕に目を見開き光に撃たれ、ボミオスの効果はミスティではなく梨花に発揮される。

「ざぁんねん。もう少し来るのが早ければ狙い通りにいったかもしれないのにねぇ」
「なぁぁぁ」
「『どうしてここにいるのがバレた』『どうやって杖を跳ね返した』って顔してるわねえ。あれだけ派手な雷を落としたんだもの。誰かしらは不意打ちを狙いに来ると予想していたのよぉ」

ミスティは掌に収められた氷の破片をチラつかせる。
それを見た梨花と英吾は察した。
光は鏡で反射する。手鏡サイズのエスデスの氷の破片は見事に鏡の役割を果たし、ボミオスの杖は跳ね返されたのだ。

65灰色の世界の下で ―敗者の刑― ◆ZbV3TMNKJw:2021/07/07(水) 23:58:54 ID:ZKQm6gF20

「みいぃぃぃぃぃ」
「嬢ちゃん、おい!?...クソッタレ!」

動きが遅くなった梨花に呼びかけるも、このまま連れて逃げるのは無理だと判断した英吾はライフル銃の引き金を引く。
放たれた弾丸はミスティの肩を撃ち抜き上体をぐらつかせる。

「カハッ...ゲホッ、ゲホッ」

肩を抑え咳き込むミスティを見て英吾は確信する。
ミスティはもう限界に近い。ロクに動かないところをみるに、エスデスもそうなのだろう。
ならば―――ここで決着を着ける。
ミスティを確保する、なんて選択肢はもう存在しない。
ミスティとエスデスの両者を斃し、今も戦っているであろう真島たちの応援に向かう。
それが英吾の決断だった。

距離を保ったままライフル銃を再び構える英吾。

「―――血針殺」

ミスティが指輪をかざすと、背後にある薫の死体から血が競り上がり幾多もの針と化す。
これが最後、と言わんばかりにミスティは両腕を前方へと突き出し、それを合図に血の針の群れが英吾へと高速で迫る。
なにかわからないが、これはマズイと判断する英吾。
しかし、退こうとした視界に入り込むのはボミオスの杖で動けなくなった梨花。

(クソッ、嬢ちゃんを連れて避ける暇なんざねえ!)

梨花の前に壁のように立ち、英吾は降り注ぐ針の嵐に立ち向かう。

「ぐっ、オオオオオオオ!!!」
「にいいいいぃぃ」


雄たけびと共に傷ついていく英吾へと逃げろと訴えかけようとするも、たった三文字すらい言えない現状をひどく恨めしく思う。
また自分を護ろうとしてくれた者が傷ついている。死のうとしている。
それでも、舞台が村から変わろうとも、結局自分は無力な存在でしかない。

「心配すんな嬢ちゃん」

己の非力さに嘆く梨花の視線を感じ取った英吾は前を見据えたまま声を張り上げる。

「こんなチンケな注射をいくら打たれたところで大したことはねえ。現役刑事を舐めんじゃねえぞ!」

英吾は針の雨に撃たれながらも、シャツを素手で破り、突き刺さる血の針を包み込み地面に叩きつける。
地面にぶちまけられた血の針は染みを作り動きを完全に停止した。

「どうだ嬢ちゃん。おっさんもまだまだ捨てたもんじゃねえだろ」

振り返り、笑みを向けてくる英吾に梨花は安堵する。
ミスティはもう尻餅すら着き、エスデスは今もなおこちらに攻撃する気配を見せず。
今度こそチャンスだ。
自分のことはいいから彼女にトドメを。

―――ゴポリ。

突如、英吾の口から血が溢れ、胸を抑え激痛に悶え苦しむ。
ミスティはフラつきながらもその様をみて口角を邪悪に釣り上げる。

66灰色の世界の下で ―敗者の刑― ◆ZbV3TMNKJw:2021/07/07(水) 23:59:34 ID:ZKQm6gF20

「あんな風に針を潰したのは驚いたわぁ。でもそれじゃあ駄目なのよぉ。薫ちゃんの血でできた針はブラックマリンの力で貴方の心臓へと巡り、大きな傷をつけたぁ。
頑張ったけれどざぁんねん。貴方はどう足掻いてもここでおしまいよぉ。もう聞こえていないでしょうけれど」
「ガ、ア、ア、ア」

倒れこみ、地面を悶え狂う英吾に梨花はなにもできない。
ふういんの杖で処置を試みることも。慰めの言葉をかけることも。気休めに頭を撫でることも。
自殺からも。ここでも。自分を護ってくれた男に対して、梨花はなにもできない。
ゆっくりと梨花の目じりに涙が溜まっていく。

やがて英吾の呼吸はか細いものとなっていき悶え狂う動きも収まっていく。

そのタイミングに合わせてエスデスが歩み寄り、梨花を抱え上げるとミスティのもとへと運んでいく。

「さすがに...力の使い過ぎで死ぬかとおもったわぁ...」
「うううぅぅ...ぅううううう...」
「そんな怖い目で睨まれたら困るじゃなあい。屈服させたくなっちゃぅわぁ」

ミスティは震える手で黒針を生み出し、梨花の舌に突き刺した。

「ぁがぁ...!?」
「ちょっとびっくりしたわよねぇ。でも大丈夫よぉ。痛みはないどころか甘くなってきたでしょぉ?」

ミスティの言葉の通り、梨花の口内に甘い感覚が走り唾液がトロトロとあふれ始める。

「なぁぁぁぁにぃぃぃぃ」
「ウフッ、たくさん溢れてきたわぁ。それじゃぁ...いただきまぁす」

ちゅっ

「...!?」

徐にミスティが梨花の唇を塞ぎ、舌を蛇のようにからめ、余すことなく唾液を掬いとっていく。

「むぅぅぅぅぅ...!?」
「...ぷはっ、ん、おいし...♡」

唇を離したミスティは梨花の唾液を咀嚼するように堪能しゴクリと飲み込む。
するとどうだろう。先ほどまで疲弊しきっていた彼女の顔色がみるみるうちに回復していくではないか。

67灰色の世界の下で ―敗者の刑― ◆ZbV3TMNKJw:2021/07/07(水) 23:59:59 ID:ZKQm6gF20

「ふふっ。あなたの舌を改造して、分泌される唾液が体力を回復できるドリンクになるようにさせてもらったわぁ。
流石に全回復とはいかないけれどぉ、即興の回復薬としてみれば充分なの」
「なぁぁぁぁ」
「なぜって?決まってるじゃなぁい。あなたを薫ちゃんと善君の代わりのタンク奴隷にするためよぉ」

体力がある程度回復したため、ミスティの機嫌は目に見えてよくなる。

「エスデスちゃんも頂きなさぁい」

ミスティの指示のもと、エスデスもまた梨花の唇を蹂躙し始める。

「ほんとはエスデスちゃんや薫ちゃんみたいにふたなりか豊乳化してもよかったんだけれどぉ、その未発達な絶壁を開拓するのは骨が折れそうだったから口から改造したのよぉ、ふふっ」

自慢げに語るミスティの説明も梨花には半分も入っていない。
沙都子を甚振り。
善や堂島を殺し。
英吾やジョルノを傷つけた女たち。
殺したいほど憎んでいる奴らなのに、口内を蹂躙される快楽に身体は反応してしまう。

「感度も頭がおかしくならない程度に弄ってあげたのよぉ。あんまり発情されて勝手に死なれても困るものぉ」

体力の補給を堪能したエスデスが梨花から口を離す。

「あなたの唾液は体力と引き換えに抽出されてるのよぉ。だからあんまり発情されてどろどろ出されちゃうと無駄打ちになっちゃうのよぉ。
そんなのごめんですってぇ?いいじゃない、どうせか弱い貴女は放っておいても無様に殺されてしまうだけだしぃ、だったら気持ちいい内に死ねる方がうれしいでしょぉ?」

クスクスと笑みを零すミスティとこちらなど興味もないかのように彼方を向くエスデスに梨花は己の末路を見てしまう。
きっとこのまま自分は慰み者として命の一滴まで吸われ尽くすのだろう。
こんな異様な世界に来ても結局こんな最期か。
誰も救うことができず。何を変えることもできず。

「さてもう一回補給したらお父様を探しに行こうかしらぁ。ボクサーさん達を殺してないといいけれどぉ」

顎を掴み無理やり口を開けられ再び舌が絡みついてくる。
あらゆるものを吸われ、吸われ、吸われ。
梨花の頭の中は真っ白になっていく。

(どうせ死ぬなら気持ちいいうちに、ね...)

ミスティの言葉が麻薬のように梨花の意識に入り込む。
今までの惨劇では一度たりとも心地よい死などなかった。
いつの間にか眠らされ殺されているか虐めぬかれた先に殺されるか絶望に沈んだ果てに殺されるか。
眠った状態での死以外のどれもに苦痛が伴い決して受け入れられるものではなかった。
ならば、彼女の言う通り、どうせ死ぬならば苦しまない方がいいのではないか。
そんな与えられる不幸に堕落する気持ちすら抑えられない。

(沙都子、せめて貴女だけでも救いたかった...)

瞼が閉じられ、涙が頬を伝い落ちた。

ビシャリ、と生暖かいモノが梨花の顔面にへばりつく。
その不快な感触と鉄くさい臭いにに梨花は目を開く。

「か、ハ...ッ」

梨花の眼前には、ミスティの胸元から突き出した剣先が突きつけられていた。
その剣先が高速で引っ込むと、ミスティは梨花から手を離し後方へとたたらを踏む。

「そん、な、ありえない。この、剣は...」

梨花と、振り返ったミスティは驚愕に目を見開く。

そこにはいるはずのない者がいたから。

「知らないのかい?ヒーローは悪党を殺すまでは何度だって蘇ると」

灰と化していた筈の堂島正が、ミスティの血に濡れた剣を手にそこに立っていた。

68灰色の世界の下で ―敗者の刑― ◆ZbV3TMNKJw:2021/07/08(木) 00:01:33 ID:Dnc/6Ljo0



「ガ...ゴホッ、ゲホッ」

喉元からこみ上げる血反吐をまき散らし、胸元から流れる夥しい量の血液が地面を瞬く間に赤く染める。

「どう、してあなた、が」
「今から死ぬ君に答えは必要ないだろう」

カツ、カツ、と靴の音を響かせ堂島はミスティのもとへと歩み寄る。

(これは、致命傷ね...)

背中から胸まで貫通する激痛に耐えながらも思考は冷静にまわす。
なぜ堂島が生きているのか。
今はそれどころではなく、とにかく己の生命をつなぐのが第一優先だ。
彼の剣は心臓を的確に捉え、甚大な傷跡をつけた。

このまままともな処置を続けてももって五分といったところだろう。

(けれど私にはまだ奥の手がある)

心臓が壊れて使い物にならないというのなら、新しく適合する心臓を移植すればいい。
性技と人体改造に精通しているということは人体に精通しているということである。
エスデスに堂島の相手をさせて時間を稼ぎ、その間に梨花の心臓をミスティの心臓と同じものに改造し交換すればいい。
無論賭けではあるが、手術という工程を省く黒針改造であれば成功率は決して低くはない。

「エスデスちゃん...あの男をしばらく私に近づけないでちょうだぁい」

ミスティの指示にエスデスは薄く微笑み返事を返す。






「断る」

「...は?」

69灰色の世界の下で ―敗者の刑― ◆ZbV3TMNKJw:2021/07/08(木) 00:02:26 ID:Dnc/6Ljo0

その予想外の返答に、ミスティも敵である堂島も思わず放心する。

「耳が遠くて聞こえなかったか?ならばもう一度、老人でもわかるようにゆっくりと言ってやろう。『こ・と・わ・る』と言ったのだ」

エスデスの口角が嗜虐的に吊り上がる。
馬鹿な。あり得ない。
ミスティの思考がそんな否定的感情で占められる。
ハイグレ光線銃の効果は確かだったはず。
現に、今の今まで指示に従い戦っていたではないか。

(...けど、待って。なら、どうして)

もしもエスデスが従順だったならば。なぜ堂島の復活になにも言及がなかった?
種が解らなかったにせよ、彼女が剣による投擲すらも触れなかったのが不可解だ。
堂島にしてもそうだ。不意打ちにわざわざ外す可能性のある剣の投擲を選んだのはなぜだ?
エスデスに見られていたから、接近戦では止められる可能性を考慮して投擲を選択したのではないか?

つまり、彼女は堂島に気づいていながらそれを見逃したのではないか?

それをするならば考えられるのは一つ。
洗脳が解けている―――そう察したミスティは咄嗟にハイグレ光線銃を抜き放つ。

「そんなものが何度も通用すると思うな」

だが、瀕死のミスティではエスデスの速さに追いつけず、掌を叩かれ光線銃は地に落ちる。

「堂島!」

エスデスは動けない梨花を堂島へと投げつけ、堂島はそれを難なくキャッチする。

「向こうで倒れている男はまだ息があるぞ。一応見てやったらどうだ」
「きみは...」
「心配するな。背後から撃つようなつまらん真似はせんさ」
「......」

70灰色の世界の下で ―敗者の刑― ◆ZbV3TMNKJw:2021/07/08(木) 00:02:52 ID:Dnc/6Ljo0

堂島は仮面の下からエスデスを不信の眼差しで見つめるも、梨花を抱えたまま英吾のもとへと跳躍する。

「まだ意識はあるかい?」

既に虫の息となっている英吾に堂島は呼びかける。

「...嬢ちゃんは無事みてぇだな」
「ああ。すまない、私の復帰が遅れたばかりにこんな目に」
「ハッ、一般市民を護るために身体を使えたなら刑事の勲章もんだろ...」

これから死ぬというのに他者を気遣って微笑みすら浮かべる英吾に堂島は敬意すら示し仮面の下の表情は更に暗くなる。

「古手くんに言葉をかけてやってくれ」

動けない梨花を英吾の視界に入るよう置き、堂島はミスティたちへと警戒と共に向き直る。

「...わりぃなぁ。おっさんの死に際看取らせるようなことさせちまって」

ボミオスの効果により梨花は会話ができない。したくても何拍も遅れてしまう。
それでも、梨花のその表情から心境を読み取るよう努め、英吾は言葉を紡ぐ。

「...なあ、嬢ちゃん。百年も頑張ってきたやつにいうことでもねえのかもしれねえがよ...最後まで抗ってやれ。
ずっと、ずっと抗って...最後にゃあの主催連中も、嬢ちゃんの件の黒幕とやらも、全員ぶちのめして笑ってやろうぜ」

上手く言葉が纏まっていたかはわからない。
けれど、言いたいことは伝わっている。梨花はもう自殺なんて真似はしないだろう。不思議と、そんな確信が英吾の中にはあった。

(彰...悠奈...真島...まどか...コロネ...ヒーロー...俺はここでリタイアだ...嬢ちゃんのことを頼む...)

かつてと今、共に戦った者たちへと内心で託すのと共に、瞼が徐々に閉じていく。
瞼が落ちきるその寸前、彼は見た。
梨花の目尻から涙がこぼれていたこと。

―――仮に死んでも後悔しないことね。あなたが死んでも涙は流せないから

そんな憎まれ口を叩く彼女の言葉が脳裏を過る。

(...ははっ、なんだ、泣いてくれるんじゃねえかよ)

瞼が落ちきるその時まで、英吾の心中はとても穏やかなものだった。
彼の心中を知る者がいればその死は救いあるものだったと評するだろう。
けれど梨花には知りえない。
古手梨花にとって、自身はただの無力な踊り手でしかなかった。

71灰色の世界の下で ―敗者の刑― ◆ZbV3TMNKJw:2021/07/08(木) 00:03:58 ID:Dnc/6Ljo0


「どういう...つもりかしらぁ...」

絶え間なく押し寄せる激痛に耐えながらミスティは苦痛と怒りで顔を歪ませる。
そんな彼女とは対照的に、エスデスはニタニタと挑発的な笑みを浮かべている。

「洗脳が解けたのが不思議か?お前には言っていなかったが、私の帝具『デモンズエキス』には使用者の精神を蝕む危険種の血が潜んでいる。普段は飼いならしているそいつがあの光線銃を食らったのだ」

ハイグレ光線銃は確かに強力な洗脳武器である。
しかし、だからこそこの事態を引き起こしてしまった。
エスデスの自我と精神を崩壊させてしまったがゆえにデモンズエキスは正当な適合から外れ本来の効果を取り戻し、ハイグレ光線銃の洗脳を上書きし、そのデモンズエキスをエスデスは再びねじ伏せたのだ。

「なかなかの演技だっただろう?善には途中でバレてしまったがな。まったくあいつは本当に私のことをよく見てくれる男だったよ」

善が抱き、怒りを沸かせた違和感の正体。
それは、エスデスがあまりにも笑みを浮かべていたこと。
もしも本当にエスデスが洗脳されミスティを護るために戦っていたなら、己が不利な場面であれば笑うのではなく焦り怒るところである。
己が敗北すればミスティに危害が及ぶのは火を見るよりも明らかなのにエスデスは戦いを楽しむように笑っていた。
つまり導き出される答えは、『エスデスの洗脳は既に解けており、彼女は己の意思で善たちと戦っている』という解。
そこに思い至ったからこそ、善は殺意に変わるほどの怒りを燃やしたのだ。


「なぜ...そんな真似を...」

ミスティは困惑する。
洗脳が解けたエスデスが自分を殺しに来るならわかる。
決着に横やりを入れ、前と後ろの穴を犯し尽くし、身体を無意味に改造したのだ。殺しに来ない理由がない。
もしそうなればジョルノや善たちを含めた4対1で囲み、彼女の好きな虐殺拷問ができたはずだ。
だがエスデスはわざわざ善や堂島と戦いミスティと合体技まで披露して見せた。
洗脳が解けていたというのならなぜそんな真似をする必要があったというのか。

「勘違いしているようだが、別に私は貴様を恨んでいるわけではないぞ。最後まで消耗しきったところを狙うのは狩りの基本だし屈服させるためなら如何な手段をも行使するのは当然のことだ」

エスデスの返答にますますミスティの困惑は深まるばかりだ。

「少々気になったんだ...私に新たな悦びを刻んだ女が信頼を裏切られたときどんな顔をするのかがな」

疲弊していくミスティの頬に両手を添えながら、エスデスは妖艶な眼差しで見つめる。

「あの時、貴様は殺しておくべきだったのだ。私の意思をはく奪しなければ手中に収められぬと理解した時点でな。だから自我が戻ればこんな裏切りにあうことになる」
「......!」
「なかなかいい顔だ...なるほどこういう顔も中々に趣深い」

その己を観察するようなエスデスの目に、ミスティは思い知らされる。
振り返れば、いつの間にか自分はエスデスを居て当たり前のものとして扱っていた。
それこそ合体技に組み込むほどに。
支配するつもりが、いつの間にか彼女に支配されていたのだ。

72灰色の世界の下で ―敗者の刑― ◆ZbV3TMNKJw:2021/07/08(木) 00:04:17 ID:Dnc/6Ljo0

「イイものを見せてくれた礼だ。チャンスをくれてやる」

エスデスは己のはかぶさの剣をミスティに手渡す。

「私の主人たろうとするならばその証を示せ。その剣で堂島相手に意地の一つでも見せてみろ。そうすれば私の心臓でもなんでもくれてやるさ」

ミスティの背筋に怖気が走る。
彼女は決して肉弾戦を得意とするタイプではない。それを知ったうえでやれといっている。
近接戦においては誰よりも優れる堂島正と戦い、残り少ない時間を必死に足掻いてみせろと。

「ふ、ふふふふふ」

笑う。嗤う。哂う。
ミスティはまるで壊れた玩具のように剣を握りしめ、カタカタと剣先が震える。
どれだけ絶望的でも。現状を嘆いても。この剣を振らなければ生き残れない。
たとえ勝率が零でも戦わなければ生き残りの芽すら出てこない。

「ごめんよぉ、そんなの」

けれど、彼女は己の生を切り開くためのものを放り捨てた。

「今の私が彼にいい勝負もできるわけないし...仮にあなたに認められてもそれは支配されてるのと同じじゃない...」

エスデスはきっと彼女の告げた条件をこなせば約束通りに力を貸してくれるだろう。
けれどそれでは生殺与奪を彼女に委ねる、つまりは奴隷になるも同然だ。
そんな生など彼女は必要としない。

「この痛みも...敗北も...死も...すべて受け入れて...私はミスティ(わたし)として死に...あの世で見届けてあげるわぁ」

ゴポリ、と口から血塊がこみ上げ地面に落ちる。
そろそろ限界のようだと自覚する。
自分はなんて怪物を産んでしまったのだろうと笑みを浮かべ、最期の力を振り絞り、エスデスの頬に両手を添える。

「行きなさい...私の可愛い『究極の変態ちゃん(さいこうけっさく)』」

ずるり、とミスティの手が力なく落ち、かくりと首を垂れエスデスへともたれかかる。

「...最期まで誇りを捨てずに逝ったか」

穏やかな顔で眠るミスティの身体を氷で閉じ込める。
その姿はまさにアート。美しささえ感じられるその姿を目に焼き付け、かつて己が散った時のように粉みじんに粉砕した。

「見事―――お前の勝ちだミスティ」

エスデスはミスティの首輪を拾いハイグレの中へと仕舞い込む。

「この場はお前たちの勝ちだ。勝負は預けるぞ堂島」
「このまま逃げられると思っているのかい?」

踵を返すエスデスに堂島は剣の切っ先を向けるが、エスデスは意にも介さず歩いていく。

「逃げられるさ。貴様とて全快ではなかろう。それに、せっかく守った小娘の命を失うわけにはいかんのだろう?」
「......」
「貴様とは互いに傷を癒した後で決着をつけたい。また会おう、堂島正」

梨花にも堂島にも一瞥もせず、エスデスは歩き去っていく。

「―――ああ、そうだ」

ふと、なにかを思い出したかのように足を止める。

「善のやつに伝えようとしていたことがあったのを思い出した。実はだな―――」

73灰色の世界の下で ―敗者の刑― ◆ZbV3TMNKJw:2021/07/08(木) 00:04:37 ID:Dnc/6Ljo0




「俺ニ家族ヲ守護ラセロオ"オ"オ"ォ"ォ"ォ"!!!」

累の父はどんどん沈み込んでいく地面を利用し、空いた隙間を縫ってどうにか脱出をしようと試みている。
彼には明確な知識や知性がない。
故に敵を見失おうとも怒りに満ち溢れることはない。
ただひたすらに『家族を護る』という一念のみで彼は動き続ける。
たとえその家族が偽りだとしても。偽りの家族がいなくなったとしても。
ただひたすらに家族の為に戦い続ける。


【C-3/一日目/早朝】



【累の父@鬼滅の刃】
[状態]:疲労(小、回復中)、黒針による認識改ざん、木にのしかかられ地面にうずまっている。
[装備]:
[道具]:なし
[思考・状況]
基本:家族を守る
0:家族(ミスティたち)を守るためにとにかくここから脱出する。
1:オ゛レの家族...イダヨ!!!!!!
2:あの人間、うまがったあ゛あ゛あ゛
[備考]
※参戦時期は36話伊之助との戦闘中、脱皮する前
※ホワイトの精神操作はドレミーによって解かれました。
※しかし、ドレミーに何か”しこまれている”かもしれません。詳細は後続の書き手様に委ねます。
※ドレミーと夢の世界で出会いました。
※殺し合いのルールを理解できておりません。
※一般・ランダム支給品はドレミーに奪われました。空のデイバッグは捨てられています。
※黒針の効果でエスデス、ミスティ、善、薫が家族の面々に見えています。
※夢の中での啓示により、ホワイトの首輪を所持しましたがミスティに回収されました。。

74灰色の世界の下で ―敗者の刑― ◆ZbV3TMNKJw:2021/07/08(木) 00:05:10 ID:Dnc/6Ljo0




「クククッ....ハハハハハハハハ!!!!」

凶悪に大口を開けてエスデスは笑う。

「私は全てを失った...ここに連れてこられる前に持っていた全てをだ!」

帝国最強という肩書は善に敗北したことで失った。
護ってきた純潔は前も後ろもミスティに奪われた。
女の尊厳も改造により破壊された。
築き上げてきた将軍という肩書も威厳もすべてをハイグレと共に穢された。
初めて己に単独で土をつけた男へリベンジする機会ももう手に入らない。

「だがなミスティ。私はお前に感謝するぞ!今までのように蹂躙するだけではこの愉しみは味わえなかった!」

今までは蹂躙し己のモノにし飽きたら壊すだけだった。
しかしミスティから受けた仕打ちにより傷つけられ奪われる快感を得てしまった。

「元の世界では頂点を極めたつもりだったが...なんだ、世界はこんなにも広いではないか!」

支配しかしなかった今までの自分は間違いなく井の中の蛙大海を知らずという言葉が相応しい。
こうしてどん底まで落ちてしまえば世界はいくらでも広がって見えるではないか。

失って。手に入れて。また失って。また手に入れて。
そうしてかつての己を超えれば、そこにはどれほどの快感が待っているだろうか。
それを思い浮かべるだけでエスデスの胸は高鳴ってしょうがなかった。

―――極端に嗜虐性の強い者をドS、極端に被虐性の強い者をドMという。
両社とも突き詰めれば変態志向と呼ばれるが、しかし最も位の高い変態と呼ばれることはない。
なぜか。理由は単純。ドSの者は打たれる側になれば攻撃性を発揮できずあまりにも脆く、ドMの者はいざ攻撃側に回ろうにも嗜虐への牙を持たぬため温く単調な攻めになってしまう。
ならば。
その両方を愛し使いこなすものがいればそれはまごうことなき究極の変態であろう。
生来の嗜虐性と残虐性を備えたドS、そしてミスティがレイプによって付加したドM。
その両方を極めた今のエスデスは誰もが疑うことなき最強の変態といえよう。

赤く輝く月に照らされる氷の女傑。
しかし、もはや彼女は帝国の女将軍エスデスに非ず。

言うなれば危険種。
ドSとドMを極め貪り尽くす真正の怪物(へんたい)。
悪食ハイグレおチンポミルク獣ドHデスの誕生である。

【C-3/一日目/早朝】


【エスデス@アカメが斬る!】
[状態]:ハイグレ人間  負傷(大) 疲労(大) 内臓損傷(治療済) 乳首母乳化 アナル拡張済み ふたなり化 処女喪失
[装備]:はかぶさのけん@ドラゴンクエストビルダーズ2 破壊神シドーとからっぽの島  中長ナス@現実
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]:ドSもドMも愉しみ尽くす
0:殺し合いという名のSMプレイを愉しみ尽くす。
1:堂島とは再戦したい。が、仮に再戦できなくてもその虚しさを堪能できればそれはそれで...
2:優勝出来たら善かミスティでも蘇らせるとしよう。
3:北条沙都子と北条鉄平は別にどうでもいいが見つけたら狩る。
4:せっかくふたなりになったことだし帰ったらタツミに使ってみるか。

[備考]
※参戦時期は漫画版死亡後より。
※ナスで処女喪失しました。
※ハイグレ光線銃によりハイグレ人間となりました。
※摩訶鉢特摩は使用したため、2日目以降でないと使用できません。
※戦闘は支障なく行えます。
※デモンズエキス本来の効果によりハイグレ光線の洗脳効果を食らいつくしました。

75灰色の世界の下で ―敗者の刑― ◆ZbV3TMNKJw:2021/07/08(木) 00:05:58 ID:Dnc/6Ljo0




堂島正には奥の手がある。
心臓部である遺灰物を吹き飛ばされても特定の条件下であれば復活できるという、彼しか知らない奥の手が。
それはこの殺し合いにおいても『一日一回、首輪の爆破以外の死亡』という制約のもとに発揮したのだ。

「...そろそろ起きろよ佐神くん」

かつて佐神善と呼ばれた灰の山に呼びかける。
堂島正は知っている。
佐神善はどれだけ苦境に陥ろうとも、心を抉られようとも、その命が尽きるまで立ち上がり続ける男であることを。

「きみは守れる命を護るために戦うんだろ?この会場にはきみを必要とするものはまだ大勢いるんだぞ。ワザップくんに古手くん。さっき別れた二人に...ドミノ達もだ」

この殺し合いでもそうだった。
その身を穢され尊厳を破壊されても、闘志を問えば再び燃え上がり迷わず立ち上がった。

「彼女は...どうなる...シスカ君は、ずっと、ずっと君を待っているだろう...!」

けれど、佐神善はもう立ち上がらない。その身体と命が灰になった以上、二度と戻ることはない。

「......」

いつものことだ、と己の中で言い聞かせる。
生きてほしいと願った命がほどなくして消える、なんてことは医者であれば日常茶飯事だ。
それをすべて背負い込んでいては心身がもたない。だから救える時もあれば救えない時もあると割り切った。
今回もそうだ。
善も自分も必死に頑張った。けれど、現実にはかなわなかった。ただ、それだけのこと―――

「納得できるわけ、ないだろ...!」

歯を食いしばり、血が滴り落ちるほどに拳が握りしめられ、ブルブルとその手が震える。

『善が助けた金髪の小娘...沙都子とか言ったか。最初に仕掛けたのは私ではなく、奴だ』

別れ際にエスデスが言い残した言葉を思い返す。
あんな女の言葉を信じたいわけではないが、しかしもし真実であれば沙都子は殺し合いに乗った者ということになる。
それを知った上でも善のやることは変わらなかっただろう。
そんな彼がどうしてあんな最期を遂げなければならない。
あんな、あんな惨めな――――!!

「益子さん!!」

突如響いてきた声に堂島は振り返る。
栗色の髪をした見知らぬ少女が泣いていた。

善を殺した少女の遺体を抱きしめなくその姿が、堂島にはひどく煩わしく思えてしょうがなかった。

(そいつは佐神くんを殺したんだぞ...!自分の欲望の為に!)

黙らせたいと思った時には、気が付けば剣を握りしめる手に力が籠っていた。

「ごめんなさい、ごめんなさい...あたしを助けたばっかりに!!」
「な、に...」

少女の涙の入り混じる叫びを聞いた途端、堂島の目が見開かれる。

(彼女も、護ろうとしていた...!?)

あり得ない。あってはならない。
だってそうだとしたら彼女は―――

「...なにが、あったんですか」

震えながら問いかけられる声。

「教えてください...堂島さん...!」

振り返った先にあったのは、様々な感情を孕む、己を見つめる幾多もの目。

76灰色の世界の下で ―敗者の刑― ◆ZbV3TMNKJw:2021/07/08(木) 00:06:26 ID:Dnc/6Ljo0



『善が助けた金髪の小娘...沙都子とか言ったか。最初に仕掛けたのは私ではなく、奴だ』

あんな女の言葉なんて信じない、信じられないと梨花は思いつつもどこか否定しきれずにいた。

沙都子は一定時間以内に治療薬を注射しなければ、無差別に他者を疑う雛見沢症候群のLv.5に達してしまう。
もしも彼女が症候群を発症していればエスデスに攻撃を仕掛けていてもおかしなことではない。
けれど、それでは見ず知らずの善に助けを求めた理由の説明がつかない。
エスデスが嘘をついていると考えるのが妥当だろうが、しかしそれ以上に引っかかるのはジョルノが触れた考察だ。

『梨花を惨劇に陥れている黒幕は鉄平か沙都子である』

仮に正解だとしたら鉄平が黒幕だと思いたいが、彼とははっきりいって接点が薄すぎる。
となれば、己の意思でエスデスを殺そうとした沙都子が暗躍していたと考える方がしっくりくる。

(そんなわけない...沙都子が...私をあんな地獄に陥れたなんて...!)

仲間を信じたいのに、状況全てが彼女への疑心暗鬼を募らせていく。

(っ...なんにせよいまはこの状況を...ああもう、早く解けなさいよ、ボミオスの杖!)




一人の少女の殺意から始まった戦いは多くの犠牲を出しひとまずの終焉を迎えた。

けれど、この戦いに勝者などいないと嘲笑うかのように、赤き月光に照らされた学校の廃墟は三日月状の影を映し出していた。





【三島英吾@リベリオンズ Secret Game 2nd stage 死亡】

【ミスティ@変幻装姫シャインミラージュ 死亡】

77灰色の世界の下で ―敗者の刑― ◆ZbV3TMNKJw:2021/07/08(木) 00:06:53 ID:Dnc/6Ljo0

【B-3/一日目/早朝】

【古手梨花@ひぐらしのなく頃に 業】
[状態] 精神復調、後頭部にたんこぶ、精神的疲労(大)、疲労(大)、ボミオス状態、舌を改造
[装備] いつもの服、インパスの指輪@トルネコの大冒険3(英吾の支給品)
[道具] 基本支給品、不思議な杖三本セット(封印の杖[3]、ボミオスの杖[1]、ふきとばしの杖[0])@ドラゴンクエスト外伝 トルネコの大冒険 不思議のダンジョン
     ランダム支給品(0〜1)
[行動方針]
基本方針:繰り返しを脱する手がかりを掴む
0:この状況をどうにかしたいが...早く解けなさいよボミオス!
1:沙都子と会って真実を確かめる。
2:頑張れるだけ、頑張る。
3:三島...ごめんなさい

[備考]
※参戦時期は16話で沙都子に腹を割かれている最中(完治はしています)
※ワザップジョルノ、プロシュートを危険人物と認識しています
※ミスティの黒針の効果で興奮すると感度が増して体力と引き換えに他者の体力を回復させる唾液が分泌されるようになりました。



【ワザップジョルノ@ワザップ!】
[状態]:主催者への怒り(極大)、ミスティへの怒り(絶大)、全身にダメージ(絶大)、全身やけど、疲労(絶大)、気絶
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜3
[行動方針]
基本方針:主催者を訴え、刑務所にぶち込む
0:気絶中
[備考]
※外見はジョルノ・ジョバァーナ@ジョジョの奇妙な冒険 です。記憶も五部完結まで保持しているようです。
※ゴールド・エクスペリエンスも使えますが、矢をスタンドに刺してもレクイエム化はしないと思われます。
※CVは想像にお任せします。
※古手梨花、北条鉄平、プロシュートを犯罪者と認定しています。
※犯罪者の認定は完全な主観です。罪が重いほど対象に対する怒りは大きくなります。
※犯罪者対応は拘束が目的ですが、対応時に手加減はあまりしないようです。
※ワザップ状態が完全に解けてもジョルノ・ジョバーナ@ジョジョの奇妙な冒険にはならないようです。






【堂島正@血と灰の女王】
[状態]:精神的な疲労(絶大)、疲労(絶大)、まどかを斬った罪悪感、左腕破壊(再生中)
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本方針:生き残り正義のヒーローになる。
0:???
1:日ノ元士郎を討つ。そのあとは...?

[備考]
※参戦時期は101話より。

78灰色の世界の下で ―敗者の刑― ◆ZbV3TMNKJw:2021/07/08(木) 00:07:15 ID:Dnc/6Ljo0

【真島彰則@リベリオンズ Secret Game 2nd stage】
[状態]:疲労(大)、鼻血(止血済み)
[装備]:Jのメリケンサック(両拳)@魁!男塾
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本方針:正しき道を歩む。
0:現状を把握する。
1:堂島からは後で話を聞く。
2:蒔岡彰に興味。やはり玲の弟のようだな

[備考]
※参戦時期はBルート死亡後より
※魔法少女やまどかについて大雑把に聞きました。

【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:腹部にダメージ(大、魔法で治療中)、出血(中〜大、止血済)、疲労(大)、魔力消費(大)
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜3
[思考・状況]
基本方針:誰も死なせず殺し合いを止める。
0:現状を把握する。
1:堂島とは後で話をする。

[備考]
※参戦時期は3週目でマミを殺した後。

79灰色の世界の下で ―敗者の刑― ◆ZbV3TMNKJw:2021/07/08(木) 00:07:41 ID:Dnc/6Ljo0

【荻原結衣@リベリオンズ Secret Game 2nd stage】
[状態]:疲労(小)、後悔、プロシュートに黄金の希望を見出している、悲しみ
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜3、氷
[思考・状況]
基本:益子さんのためにもまずは生き延びる(可能なら益子さんとお買い物をしたい)
1:益子さん...!
2:兄貴にドレミーさんと私……これが続いてほしいな
[備考]
※参戦時期はepisode Cから 小屋の地下で黒河と心が通じ合う前
※プロシュートが裏の世界の人間だと理解はしています。
※スタンドなどはまだきちんと理解できていません。(なんか、よくわからないけど凄い程度)
※ドレミーの世界(幻想郷)について簡単に知りました。
※この殺し合いが終わったら、益子薫と買い物をする約束をしています。





【プロシュート@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:負傷(中) 疲労(中)
[装備]:ニューナンブ@ひぐらしのなく頃に 業
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜2
[思考・状況]
基本方針:ひとまずゲームには乗らずやれるところまでやる。
0:現状を把握する。
1:益子とかいう女を助ける。...賭けに負けちまったからには文句は言わねえ。
2:ユイ・オギハラ……兄貴……か
3:レオーネの知り合い(アカメ)を探す。あったら言伝を伝える。※C3の貸本屋のこと
4:オレは死んでるのか?それとも、まだ生きているのか?
5:ワザップジョルノ……オメーは一体何者だ……
[備考]
※参戦時期はブチャラティVSペッシを見届けてる最中です。
※此処が死者、特にロクデナシの連中を集めたものだと思っていましたが、結衣の存在やドレミーとの情報交換から今は生者死者入り交えていると推測しています。
また、自分はまだ死んではいないのかとも思い始めています。
※ドレミーとの会話で幻想郷について簡単に知りました。
※ワザップジョルノが護衛チームのジョルノなのか結論を下せず、半信半疑中です。


【ドレミー・スイート@東方project 】
[状態]:疲労(極小) 
[装備]:夢日記@ 東方project
[道具]:基本支給品×2、ランダム支給品0〜5 氷
[思考・状況]
基本方針:この殺し合いと言う酔夢が導く結末を見届ける
0:現状を把握する。
1:とりあえず、プロシュートの後をついていく(襲い掛かってきた者には対処する)
2:参加者が寝たとき、夢の世界へ介入する
3:妖怪とは気まぐれな者ですよ
[備考]
※参戦時期は東方紺珠伝ED後
※メフィスとフェレスも管理者であると気付きました(何の管理者かは、まだつかめていません)
※リリア―ナの刻を止める能力を知りました。
※夢日記より、サーヴァント達や第一部での顛末、・鬼滅の刃の鬼の体の構造・リベリオンズの首輪の解除方法、ギース・ハワードを知りました。
※プロシュートとの情報交換でプロシュートの世界について簡単に知りました。(スタンドの存在など)
※プロシュートのグレイトフル・デッドの能力を理解しています。
※累の父から基本・ランダム支給品を奪いました。

80 ◆ZbV3TMNKJw:2021/07/08(木) 00:08:29 ID:Dnc/6Ljo0
投下終了です

ここまで長らくかかってしまい申し訳ありませんでした

81 ◆EPyDv9DKJs:2021/07/08(木) 05:31:19 ID:f/Z7Gb.o0
長編投下お疲れさまでした
第一回放送前なのにもう終盤戦レベルの密度で驚かされました
具体的な感想は、また纏めてさせていただきます

それはそれとして、投下します

82 ◆EPyDv9DKJs:2021/07/08(木) 05:31:52 ID:f/Z7Gb.o0
 お互いに死者同士。
 恐らくは死んだであろう大祐もいることは問題ではなく、
 それよりも関係者の有無……征史郎とはるなの知り合いの極端な差。
 瞳たち、残りのシークレットゲームの五人が参加してないことが逆に違和感になる程の数。

「蒔岡彰も面識はないけど知った名前だから、
 私含めて合計十人、シークレットゲームの参加者になるわ。」

「運営にシークレットゲーム関係者がいる可能性は……怪しいか。
 蘇らせてまでエンターテイメントに拘る意味も薄いだろうしな。
 まさか、僕ら男女をを引き合わせることで成立するブライダルゲームか?」

「流石にそれはないと思うけど。」

 飛躍しすぎではとは思うが、
 短い会話で征史郎と言う人物の性格は察した。
 大祐以上に珍妙なことを口にすることはあるものの、
 一方で思考は司や修平のように物事はしっかりと捉えていて、
 話を進める気がないのか、とまで至ることにはならなかった。
 なので適当にあしらいつつ、会話そのものはスムーズに進む。
 元々口数が多くない彼女故、と言ったところでもあるか。

「殺し合いは奴らの趣味としても手間暇をかけすぎだ。
 コスパは絶対に悪い。相応のメリットなくしてやってられん。」

 プリズナーゲームの比較ではないレベルの労力なのは間違いない。
 殺し合いを眺めるのが趣味にしても、此処までやるには目的があるはず。

「情報が足りないから、その辺は考えても仕方ないかも。」

 異能とかとは一切無縁の世界の二人だ。
 考えようにも相手は超常的な存在であり、
 目的の意図を今の状態では大して思いつかない。
 精々蟲毒のような儀式的目的、そんな程度のものだ。

「話を戻すけど、私達一部を知り合いで固めて、征史郎はその他の枠って可能性は?」

「ふむ……確かに、幡田や野原と言った複数の同姓がいるところを見るに、
 一定の人数はグループで参加させて、僕は関係者がいないポジションか。」

 明らかに浮いた名前もいくつか見受けられる。
 一人だけ参加は征史郎に限った話ではないとみていい。
 管弦部は問答無用の殺し合いで頼れる人材がいるかと言われると怪しいし、
 独り身であることについてはさしたる問題でもないのが救いか。
 身も蓋もないことを言うが、自分を参加させる理由も薄い、
 とはちょっぴり思ってたりもする。

「どちらにしても、情報収集が大変だな。」

 はるなのお陰でほぼ一割の参加者は分かった。
 一方で残り九割、双子の演説から超能力の類を使う参加者もいるはず。
 認めたくはないが、二人はこの殺し合いで下から数えた方が早い程に非力。
 超能力が入り乱れる可能性もある中、参加者との接触は中々に骨が折れる。

『ところで、この首輪なんとかできる奴心当たりあるか?』

 超能力の前では意味はないとは思うが、
 念のため盗聴に警戒して紙に記しておく。
 この殺し合いでの全参加者が持つ最低限の勝利条件。

『僕自身多少心得はあるが、
 一人で引き受けられるものでもない。』

 征史郎はマニア(狂人)だ。
 自分のしたいことを好きにやってしまう。
 だから疑似的な火炎放射器も作れてしまうわけだ。
 高校生らしからぬ変な知識も十分に取り込んでいて、
 中学時代から和馬を支えるブレインとしての役割を担っていた。
 故に多少の知識はあるものの、同じ管弦部の七緒程の知識でもない。
 専門家に任せる方が幾分かは安心できると言うものだ。

『城咲充が有力になるわ。勿論、人間レベルの話だけど。』

 シークレットゲームで従わざるを得ない状況を、
 切り返すことができたのは機械に強い彼がいたからこそ。
 紋章と言ったものに関しては現状不明ではあるものの、
 逆に紋章がはったりの可能性も視野に入れておく。

『一先ず充とやらを探すとして。』

「大祐だったか、あいつは探した方がいいよな。」

「余計なことしてそうで、もう頭痛いけどね……」

83 ◆EPyDv9DKJs:2021/07/08(木) 05:32:42 ID:f/Z7Gb.o0
 仮にも琴美達の命を救う形になったと言えども、
 初音に強姦未遂をした大祐はこの場でも理不尽に抗うかどうかは怪しい。
 運営からも刹那的快楽主義者と呼ばれるほどに今を楽しんでしまう男だ。
 なのでこの場で彼が女性に手を出そうとしてない、と言う保障ができない。
 人のことを言えない立場だが、彼の行動は一般人からすれば目に余る。
 彼と知り合い、と言うだけで変な目で見られそうだ。

「変人ならば管弦部に歓迎したいところだな。
 あの部ならば曲者揃いでそんなに違和感はない。」

「どんな部なの……」

「音楽をやらない吹奏楽部、とでも言っておこう。」

「それ、本当に管弦部なの?」

「プリズナーゲームで楽器を使ったから紛れもなく管弦部だ。」

 本来であれば強姦未遂はどうかと思ってしまう部分も、
 自覚の有無の関係なしに自分がやってしまった咎を思えば、
 そこまで彼が目くじらを立てることはできないものになる。
 人は咎を背負う。知らないだけでプリズナーゲームの全員が、
 何かしらの咎を背負っていたのかもしれない。

「それと、人探しの前にこれを処分してもいいか?」

「それは?」

「やばい薬とだけ。」

 その一言で何かを察する。
 精神的に参った参加者への束の間の幸福、
 とでも言いたいかのような嫌がらせ(サービス)だ。

「ただ捨てても、万が一拾われたりでもしたら最悪だ。
 とりあえず埋めるとしたいのだが、スコップもないのは困った。」

 下手に放流して何かあったでは困る。
 嘗ての咎も相まって、雑な処分はしたくない。
 かといって酸と言った、本来この手のものを処分する手段もなく。

「そっちにスコップか何かないか?」

「私の方はないけど……これ、使ってみる?」

 デイバックから取り出したのは、一枚のCDディスク。
 野ざらしのまま取り出されたそれと説明書を彼へと渡す。

「これを頭に挿し込むと『スタンド』って名前の力が使えるみたい。」

「手ごろに得られる超能力か。安売りされては超能力者が泣くぞ。」

 半信半疑に言葉通りに従えば、
 DVDプレーヤーのようにすんなりとディスクが脳へと入っていく。
 頭に入っていく光景は何とも不気味ではあるものの、本人は興味深そうに眺める。

「出来ると思えば出てくるんだな。
 よし、では鬼くびれ大羅漢を召喚してみせよう。」

 いや、スタンドの名前も書いてあるでしょ。
 突っ込みたくなるような珍妙な名前と謎の構え共に出てきたのは、
 当然そのような名前とは無縁の、手足などにジッパーがあしらわれてた人の像。
 本来の持ち主が付けたそれの名前は───スティッキィ・フィンガーズ。

「しかしスティッキィ・フィンガーズとは、因果なものだな。」

 スティッキィ・フィンガーズ。
 『粘着した指』から転じて『手癖が悪い』と言う意味とされる言葉。
 嘗て作ってしまったこの薬物を強奪された時を思うと、
 どことなく皮肉を感じさせてくるものがある。

「……すんなりと終わったな。」

 スタンド能力はジッパーを付けて開閉する能力。
 開いた地面の穴へと例の薬を投げ入れて、ジッパーを閉じる……それで終わり。
 埋めた跡は存在せず、変わらぬ姿である為埋めたと外見での認識は困難だ。
 ある意味彼にとっては極めて理想的な形での処分になるだろう。
 何もない場所を掘る奴など、まずいないのだから。

「あっさり解決するのは、自分の抱えてるものが小さく見えてしまうな。」

 自分が背負うことになった咎を思うと、
 驚くほど簡単に終わった状況に少しごちる。
 超能力の前では小さいこと、とでもいうのか。

「いや、ある意味これでいいのかもしれないな。」

 これは語られなかった物語。
 彼女と自分、二人の咎人のみが知ること。
 知られることなくひっそりとそれが終わる。
 きっと、それでいいのかもしれない。

84 ◆EPyDv9DKJs:2021/07/08(木) 05:35:41 ID:f/Z7Gb.o0
「何の話?」

「いや、此方の事情だ。大したものではない。
 助かった。それでディスクはどう外すんだ?」

「頭に衝撃を加えれば出るけど、それはあげるわ。」

「ん、いいのか?」

「皮肉にも、経験だけはあるから。」

 九回もシークレットゲームに参加した身だ。
 ある意味地獄のような経験をしてきたはるなと、
 狂人と言えどもどちらかと言えば日常を過ごした征史郎。
 二人を比較すれば彼女の方がよく立ち回れる方だ。
 であるならば、彼に持たせた方がいいと思えた。
 ボウガンと言った飛び道具の方が性に合う、
 と言うのも少なからず存在はするが。

「嫌な経験豊富だな。」

「そうね、本当に……」

「だが、ありがたく受け取ろう。
 スタンドをもっと知りたかったしな。」

 譲り受けたのならば早速使い込んでみるかと、
 さも当然のように自分の腕をジッパーで取り外す。
 何をしてるのかと流石にはるなも突っ込んでしまうが、
 スタンドでできることを調べておくのは大事なことだ。
 この男はマニア(狂人)。本来の所有者である男のような、
 多種多様な使い方を理解するのにそう時間はかからない筈だ。

「……移動の邪魔にならない程度にお願いね。」

「無論それは分かっているとも。
 それはそれとしてスタンドを使う奴にも気を付けよう。
 これは外見だけでは判断できないと相手にすると中々に厄介だぞ。」

 戦える力を把握するのは大事だが、
 それ以上に仲間を探すのが先決になる。
 足止めにならない程度の範囲で能力を確認しつつ、
 赤き空の平安京を舞台とした殺し合いに二人は叛逆する。

 彼が処分した同類となる麻薬を忌み嫌い、
 邪悪に叛逆した男の像(ヴィジョン)と共に。
 二人は困難に立ち向かう(​Stand up to)。

【E-2/一日目/深夜】

【城本征史郎@トガビトノセンリツ】
[状態]:健康
[装備]:スティッキィ・フィンガーズのDISC@ジョジョの奇妙な冒険
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜2(確認済み)、シンナーズ・チル@トガビトノセンリツ
[思考・状況]
基本方針:殺し合いに反抗する
1:はるなを支える。
2:彼女の知り合いを探す。城咲充優先で、伊藤大祐には少し気を付けておく。
3:スタンドでできることをためそう。できて当然と言う認知が大事だ。
4:ついでにスタンドを使える奴がいるか探す。それと警戒も必要か。
5:あっさりと終わったが、これでいい。語られなかった物語とは、そういうもので。

[備考]
※参戦時期は死亡後です。
※はるな死亡時までのリベリオンズ勢の情報を聞きました。

【細谷はるな@リベリオンズ Secret Game 2nd Stage】
[状態]:健康
[装備]:からっぽのピストル@Undertale
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜1(確認済み・武器になりうるものはない)
[思考・状況]
基本方針:殺し合いに反抗する。
1:征史郎と行動する。
2:シークレットゲームの仲間を探す。特に修平、琴美、充……それと大祐。
3:武器が欲しい。できればボウガンとかの飛び道具。

[備考]
※参戦時期はepisode Dで死亡した後です。



※シンナーズ・チル@トガビトノセンリツはF-2の地面に埋められてます。
 スティッキィ・フィンガーズの能力で埋めた為、通常の手段では発見そのものが困難です。



【スティッキィ・フィンガーズのDISC@ジョジョの奇妙な冒険】
細谷はるなの支給品。頭にDISCを差し込む形でスタンド『スティッキィ・フィンガーズ』を行使できる
DISCの破壊は基本不可能なほどに頑丈。頭に挿したまま対象の死亡による消滅が唯一処理できる手段。
頭に強い衝撃を与えられた場合DISCが外れることもある。相性次第で弾かれて装備すらできない。
ステータスは破壊力:A スピード:A 射程距離:E 持続力:E 精密動作性:C 成長性:D
※射程はEだがジッパーを使う形で五メートル近くは伸ばすことが可能
手で触れたものにジッパーをつける能力。移動、分解、傷の接合、壁抜け等多彩な使い道がある。
能力抜きにしても車を平然と破壊できる破壊力A、その力を弾丸レベルに叩き込むスピードAと高水準。
逆に言えば手で触れる必要がある為、触れられない相手は苦戦を強いられる。

85 ◆EPyDv9DKJs:2021/07/08(木) 05:36:12 ID:f/Z7Gb.o0
以上で『悪魔に背くと誓った時から』投下終了です

86 ◆2dNHP51a3Y:2021/07/11(日) 23:30:18 ID:RqYWhUYw0
蒔岡彰、日ノ元士郎、オフィエル・ハーバード、ジャギ、アルーシェ・アナトリア、司城夕月で予約します

87 ◆ZbV3TMNKJw:2021/07/20(火) 00:27:51 ID:hEdKv4F60
まずは感想から

ムラクモ、刀使の多さに着目して考察を進めるあたりが冷静な知能派の面目躍如といったところでしょうか
デイバックにデカすぎるものは入らないことが判明したり色々と進みましたね。
しかし彼は安全な対主催ではなくどちらかといえば危険人物寄り、果たして少女二人は彼の心を読み取ることができるのでしょうか。

素直な植木が頼もしく静香さんもほっこり。しかしそこに猫被って接触してくる針目が恐ろしい。
自身が強いのは理解したうえで油断のないムーブしてくるから対主催からしたらほんとに驚異的すぎる。
怖いやつに付きまとわれているが頑張れ植木

はるなちゃん常連リピーターだけあって一般人枠でもかなり冷静。
征史郎は大祐のことが気に入ったらしいですが、たぶん大祐は征史郎のことを嫌いそうではある。
手に入れたステッキィ・フィンガーズで理不尽に反抗するリベリオンたちは果たしてどこまで立ち向かえるのだろうか。



日ノ元明、佐藤マサオで予約します

88 ◆s5tC4j7VZY:2021/07/20(火) 19:28:56 ID:T3QE84y20
投下お疲れ様です!

灰色の世界の下で
後半戦!
「その人は『味方』です!思う存分助けちゃってくださぁい!!」
「命令してんじゃあねーぞオギワラ!『ザ・グレイトフル・デッド』!!」
↑いや〜、兄貴と結衣のやり取り良いですね……自分は好きです。
真島さんも変わらぬ結衣の姿を見れて嬉しく感じている姿は読んでるこちらも嬉しくなりました。
累の父はやはり、一般人にとっては脅威ですね。なんとか動きを封じることはできましたが、予断は許さないといったところですね。
「受けなさい、私とエスデスちゃんの合体技(あいのけっしょう)...『建御雷神(タケミカヅチ)』!」
「ほんとはエスデスちゃんや薫ちゃんみたいにふたなりか豊乳化してもよかったんだけれどぉ、その未発達な絶壁を開拓するのは骨が折れそうだったから口から改造したのよぉ、ふふっ」
↑ミスティが生き生きとしていて嬉しいです。
善君……!!正直、この展開は予想していなかったので衝撃でした!!!
薫は終始救いがなかったですが、壊れた精神の姿でエレナや結衣と会わないですんだのは、有る意味幸せではないかと……
英吾さん……!!カッコイイ生き様でした!
沙都子を信じたいが疑念が生まれた梨花。沙都子にとっては大誤算でしょうね。
悪食ハイグレおチンポミルク獣ドHデスの誕生である。
↑ミスティは大変な者を残していきました(笑)
性犯罪者(ミスティ)を討伐できましたが、これは……不穏を感じさせる引き。
この集団の次話が注目です!
各キャラ達の魅力を最大限に広げた長編の大バトルお疲れ様でした!

悪魔に背くと誓った時から
征史郎のノリをあしらうはるかとコンビの読んでて凄くいいな〜と思いました。
2人の反逆応援したいです!

フェザー、衛藤可奈美、絶鬼、ロック・ハワード、有間都古、(Zルートでソフィアに返り討ちにされた)軍服の男、藤田修平で予約します。

89 ◆EPyDv9DKJs:2021/07/21(水) 16:03:59 ID:Y33LMEvM0
投下します

90 ◆EPyDv9DKJs:2021/07/21(水) 16:09:12 ID:Y33LMEvM0
「アハハハハハッ! これは傑作ではないか!」

 完全者は歩きながら嗤う。
 これは嗤わずにはいられないことだ。
 先程の放送主であるディメーンはなんとノワール伯爵の部下であり、
 つまり彼は所謂謀反や叛逆されてしまったと言うことに他ならない。

「まったく、私の周りは反旗を翻すのが常識か?」

 これが嗤わずにいられるか。
 ムラクモもアドラーにエレクトロゾルダートと叛逆されたり、
 ついでに言えばアカツキもムラクモの元部下であることを考えれば、
 これで何度目の叛逆を彼女は目にしてきたか分かったものではない。
 此処まで人望がない連中ばかりだと、嗤わずにはいられなかった。

「しかも残りの腹心も総動員で参加とは、
 余程ディメーンとやらは貴様が気に食わんらしいな。」

 煽り散らすかのような発言にノワールは言葉を返さない。
 元々ディメーンは謎めいた行動は数多く存在している。
 とは言え、此処まで反旗を翻す行為は今までになかった。
 彼は何を求めてこのような行為をするに至ったかを考えるが、
 元々素性を晒さなかった以上、理由を探るのは不可能に近い。

(ディメーン……少なくとも、此処で全員仕留めるつもりか。)

 とりあえずわかるのは伯爵ズと自身を此処で根絶やしにする。
 そしてあわよくばコントンのラブパワーを手に入れる算段か。
 でなければ全員が揃っていることに対しての理由がつかない。
 マリオ達を全滅させ、残る敵はこちら側になったと言ったところだろう。
 この様子だとあの時のミスターLの死亡報告も、自分で仕留めた可能性すらある。
 もっとも、そのミスターLも名前を連ねてるのは少々疑問ではあったが。

「さて、嗤うのも程々にするとして。」

 すぐに熱が冷めたように表情が戻る。
 確かにディメーンは謀反こそあったものの、それ以外の部下は全員いる。
 既に四人が味方に対して、此方には味方となりうる人物は一人もいない。
 この時点で自分の立場は不利になっている。数の差は大事なのは、
 電光戦車にエレクトロゾルダートで散々理解している。

(そして貴様もいるとは、因果よなぁ。)

 加えて本当に奴が、ムラクモがいた。
 智慧のある男だ。まっとうに優勝など狙うはずもなし。
 此方と同様にあの双子達を信用しているわけではないだろう。
 既に友好的な参加者の中に潜り込んでるとみてよさそうだ。

(始まって間もない以上、材料も考察も進んではおるまい。
 早々に始末すべき相手と促したいところではあるが……)

 殺し合いを破綻させる可能性がある、
 そういえばノワールは協力するかもしれない。
 だが、互いに出し抜くつもりであろうこの状況下。
 此処で自分にとって敵になりうるムラクモの情報を渡しても、
 自分の陣営に奴を引き込んでおく可能性だってあるだろう。
 ムラクモもこちらを確実に仕留める為に行動してくるはず。
 利害の一致は十分にありうる話であり、故にこのことを伝えてはいない。
 都合よく部下の名前が多数あったことで話を逸らせたのは幸いか。

「してどうする黒き伯爵。腹心探しにでも勤しむか?」

「合流は考慮しておくべきことだが、
 逆にこれだけいるのであればある意味問題ないでワール。」

 ディメーンの裏切りはあったことだが、
 ナスタシアを筆頭に全員信用のおける部下だ。
 各々で此方にとって利のある行動をするだろう。
 もっとも、それは嘘の理由を信じているからでもあるが。

「ならば……ん?」

 平安京を歩けば、奇妙な場所へ辿り着く。
 いや、此処は平安京なのかと疑いたくなる光景。
 周囲の建物はおろか、土すらもぐずぐずに崩れた場所。
 戦いの跡にしたって、このような有様は普通見かけない。

「随分と酷い有様だな。これは硫酸か?」

 念のため触れて大丈夫かを軽く基本支給品の水を掛ける。
 特に何も変哲はないようだが、なるべく素肌で触れずに歩く。
 なおノワールは浮いて移動しており、地面を一切気にしない。

「犠牲者か。」

 藤原美奈都と呼ばれていた人の遺体。
 だが酸性雨でどろどろに溶けてしまい、
 人型で何かを握っていたか以外のまともな判断は付かない。

「支給品も、何もかも手遅れとみていいか……貴様の部下か?」

91 ◆EPyDv9DKJs:2021/07/21(水) 16:10:36 ID:Y33LMEvM0
「一応、マネーラならありうるか?」

 体格は全員該当することはないものの、
 肉体を変化させるマネーラなら話は別か。
 問題は死ぬとき変身が解けるかどうかだが、
 そんなもの当然検証したことがないのでわかるはずもなく。

「いや、流石にないか。」

 変身するのはあくまで騙す為。
 戦闘時は変身を解いて戦うのだから、
 彼女が変身したまま武器を握って死ぬことはない。
 此処に来て得られた情報は、精々硫酸を武器にした参加者がいて、
 殺し合いに乗ったとみていい参加者が近くにいることぐらいか。

「伯爵様!」

 歓喜の声に二人が先に反応する。
 人型ではあるものの人と呼ぶには憚れる組み合わせに、
 完全者は最初こそ訝るが、伯爵の方は別だ。

「ナスタシアか。息災でワールな。」

(奴の部下か。想像以上に人間離れしているな。)

 話には聞いてたが、随分異形の姿をしているようだ。
 自分が魔女と言うのもあるので、さして異質さは感じられない。

「この身は伯爵様に捧げるものですから。ですが、ドドンタスは……」

 先ほど見てたことの顛末を語るナスタシア。
 ドドンタスは何者かに殺害されており、
 童磨と言う氷使いに襲撃を受けていたことを。

「……そうか。」

 顛末を聞き終えて、帽子を深くかぶる。
 世界を滅ぼす為に嘘で利用してるのは事実だが、
 ノワール伯爵は基本的には部下を評価する人物だ。
 それにドドンタスも忠義に熱い男であり同時に力も相当。
 これほど早く退場するとは予想していなかった。

「ドドンタスは確か力自慢の持ち主だったか。
 どうやら、侮れない参加者もいるようだな。」

「……そちらの方は?」

「奴は完全者、協力関係を築いている者だ。」

 協力者とは意外な話だった。
 ディメーンはともかく他は伯爵に忠誠を誓った身。
 つまり世界が滅ぶことに肯定的なものであると言うこと。
 (厳密にはナスタシア以外には世界を再構築すると言う建前があるのだが)
 適当な理由で誤魔化しているのか思えてしまうが、眼を見れば軽く察した。
 チョーサイミンジュツの都合色んな人物を見てきたので人を見る目はある。
 だからわかる。あれはまっとう人間の瞳をしていないものだ。
 世界の崩壊を望んだところで、なんらおかしくない。

「返すようで悪いが、後ろの奴は誰だ?
 部下の誰とも一致しなさそうな外見だが。」

「ビバ! 伯爵!」

「……こいつは痴呆か?」

 挨拶どころか名前すらまともに名乗れない異形。
 エレクトロゾルダートだってまともな意思疎通ができるぞと、
 その光景に冷め切った表情で伯爵を見やる。

「ナスタシアのチョーサイミンジュツでワール。
 洗脳して間もないなら、割とこうなるものと言っておこう。」

「そうか……なんにせよ、
 色々と情報が得られたようで何よりだな。
 部下を喪ったことについては、同情するが。」

 ナスタシアから得た情報。
 どちらかと言えば僥倖な話だった。
 ドドンタスは真正面から戦うのは賢い選択ではない。
 首輪解除の手段を模索する要因としても役に立たないだろうし、
 最悪機械技術に長けたミスターLさえ生きてればそれでよい。
 頭の悪さは言い換えれば伯爵の為と言えば懐柔できそうではあったので、
 少しもったいない気もするが。

(とは言え、良いことばかりではないな。)

 どのような手段や展開で死んだかは別として、殺されたのは事実。
 ついでに童磨と言う氷使いや、それと戦っていた目の前の桐生。
 使える能力から近くの場所で戦っていたのも、恐らく彼の筈だ。
 元々完全者の戦術は魔剣ダインスレイヴと言う銃剣を用いつつ、
 自分の間合いに入れることなく遠距離から狙う戦術が得意になる。
 飛び道具が優秀な相手には苦戦を強いられるし、少なくとも両者も飛び道具は強い。
 余り相手にしたくない厄介さを持つ。

「黒き伯爵。一先ず武器の確認でもしておかないか?」

「そうでワールな。無手で行くほど容易くもない。」

92 ◆EPyDv9DKJs:2021/07/21(水) 16:12:08 ID:Y33LMEvM0
 名簿以外に興味がなかった二人だが、
 武器が入ってるともなれば流石に話は別だ。
 しかし、自分と伯爵のみ全てを開示することを完全者は禁じた。
 表向きは『すべて出して、高性能な支給品の奪い合いに発展しては叶わん』とのことだが、
 要するに『不確定要素を互いに持つことで攻撃を仕掛けられないようにする』暗黙の了解。
 中には『対象の死亡をトリガーとする支給品』の可能性も無きにしも非ずなのだから、
 なので双方からは一つだけで、ナスタシアと桐生の支給品のみの開示となる。

(ダインスレイヴはないか。)

 合計四人分の支給品と言う潤沢ではあるものの、
 機械に傘と多彩ではあるが、魔剣ダインスレイヴはなかった。
 もしかしたら開示してない支給品の可能性はあるものの、
 これ以上の追及はできないので放っておくこととする。

「この傘は貰うがいいか?」

 銃剣と呼ぶには大分違うが、銃の機構と突きができる。
 であれば、代替品としては他の品よりはましになるだろう。

「ならば代わりにこの杖を貰うでワール。」

 杖と呼ぶには東洋寄り……彼の世界で言えばモノノフ王国寄りではあるが、
 性能としては十分高いものであり、彼女も別段困らないので特に言うことはない。

「ナスタシアに武器は渡さんのか?」

「私はそもそも力仕事は向いてないので。
 そして桐生は徒手空拳と能力があるため事足ります。」

 あの惨状を起こせる桐生は、
 確実にこの殺し合いにおける上位の存在。
 戦力としては余りあるものであるのは間違いなく、 
 武器の取り合いをしてる此方よりもずっと大当たりとも言える。
 だからこそ、そのチョーサイミンジュツは制限されてるらしいが。

「ならば選別にこれと……ついでにこれも渡す方がいいか。」

 彼女に投げ渡される、手に持てるサイズのレーダーと二枚の紙。

「機械は『首輪探知機ら』しい。上のスイッチを押せば参加者の位置がわかる。
 この紙は記載されている参加者の位置がわかる紙だ。敵を探すには打ってつけだろう。
 残り半分は此方が受け持つことにする。」

「……礼は言わせてもらいます。」

 暗に『桐生をもっと使え』と言わんばかりではあるものの、
 単純な戦いに使える武器を渡されるより、こういうものの方が助かる。
 他の参加者からの奇襲を受けにくいと言うのは、不意打ちも少なくなるのだから。
 何より怖いのは奇襲。されては彼女の身体能力ではまともな抵抗も難しい。
 とは言え、それを完全者から率先して渡されたことは少し訝るが。

「残りはどうする?」

「それは伯爵様にお渡しします。」

 世界が滅ぼすと言う彼の事情を一番知る以上、
 伯爵が生き残ることが何より優先するべきこと。
 何かしらの理由で洗脳が解けて桐生の手に渡るのであれば、
 伯爵の生存に繋がることの方が大事だ。

「伯爵に身を捧げる覚悟は中々見上げたものだが、
 些か極端だぞ。自己の生存が伯爵の生存に繋がることを少しは考えろ。」

 人を気遣うような人物と言う認識はなかったのもあって、
 先程から生存を尊重する完全者の発言に内心ナスタシアは戸惑う。
 勿論そんなわけがなく、此処で伯爵に支給品が渡ればバランスが崩れる。
 ただでさえ部下が多いのに支給品でも差をつけられては、終盤で対処が困難になりかねない。

「それにこの中で足が遅いのは恐らく貴様だ。
 この風火輪は移動時の負担を軽減できて便利ではないか?」

「そういうのであれば……」

 無論ノワールも今の発言の意図はなんとなく察してはいた。
 だが此処で受け取ると言う選択肢を選ぶことはしない。
 ドドンタス亡き今、他のメンバーも無事かどうかは怪しい状況。
 既に雲行きが怪しくなってる中完全者との協力は切るわけにはいかない。
 絶対的有利ではない現状、無用な戦いは避けたいところだ。
 それにいずれ滅びる世界であろうとも部下は部下。
 ナスタシアを無碍に扱うようなことはしない。

「ですが、此方の杖だけでも。」

 先ほどは使う機会があったものの、
 本来戦闘は不得手であるナスタシアよりも、
 戦闘することが多い伯爵の方が祝福の杖を使うべきものだ。
 桐生は最悪使い捨てても問題はないのもある。
 念のため完全者へと視線を向けると、

「需要を考えれば、必要だな。」

 完全者からしても回復アイテムは希少だ。
 この先どれだけ戦うかを考えれば必須となる。
 特に断る理由もないため、これについては彼に任せることにした。
 最初の武器で杖を優先したことから、自分同様魔法に長けてる。
 任せても左程問題はないだろう。

93 ◆EPyDv9DKJs:2021/07/21(水) 16:12:32 ID:Y33LMEvM0
「支給品の振り分けも終わったことだ。
 このまま四人纏まって戦うのは得策だが、
 効率や集団形成のデメリットを考えると話は別だ。」

 舞台の広さと言うのも確かにあるものの、
 桐生の戦い方は普通にいては確実に巻き添えを受ける。
 集団戦闘を不向きなことを考えれば人数は極力少なく、
 洗脳が解ける可能性を考慮してナスタシアは離せない。
 つまるところ、お互い同じペアのままでの行動と言うことだ。

 伯爵も完全者も揃って単独行動での効率重視もいいが、
 予想だにしていない参加者の可能性は少々否定しきれない。
 ある程度情勢を理解するまで、単独での行動は避けたい。
 此処では今までの安全は通じないとみておく方がいいのだから。

「ワタクシ達は紙のとおり、南へ向かうことにします。
 東にはまだ童磨もいるでしょう、気を付けてください。」

「こちらの紙は西に向いているが、警戒はしておこう。」

 移動先は互いに決まった。
 特に憂うこともなく、ナスタシアは風火輪で空を舞う。
 それを追うように桐生も機敏な動きで彼女を追いかける。
 二人を見届けた後、伯爵たちも西へと向かって移動を始めた。





(悪くない展開だな。)

 西へ向かう中、完全者は内心でほくそ笑む。
 彼女に渡すように仕向けた支給品となる紙、ビブルカード。
 合計で四枚あったが、そのうちの一枚はあのムラクモのもの。
 説明通りであれば、確実に桐生とムラクモをぶつけられる。
 どれほど南にいるかは知らないが、態々首輪探知機も渡した。
 此処までお膳立てすれば大分すんなりと出会えるはずだ。
 まだ武装や集団が形成しきれてない中で奴を宛てれば、
 運が悪くとも集団を崩してムラクモにも被害が出せる。
 途中のアクシデントはあるかもしれないが、
 それはそれで桐生が消えれば御の字だ。

(しかし桐生と言ったか。)

 エヌアインどころか、
 そもそも器と呼べることはないだろう。
 しかし中々の存在なことには変わりはない。
 あれほどの力を有した参加者がいるのだ、
 これなら神の器足りえる人物にも期待がかかる。

(一歩と呼べるほどでもないが、
 此方の方が有利に進めているぞ、黒き伯爵よ。)

 チェスでいう駒を奪ったと言うよりは、
 先攻か後攻かを決めた程度のもの。
 ゲームが始まる前の段階でしかない。
 巻き返すどうこう以前のものではあるが、
 幸先としては部下を喪った向こうよりは大分いい。

(もっとも、チェスと言うものは先攻が圧倒的有利だがな。
 後手に回った貴様が勝つのは中々厳しいぞ?)

 見えることのない盤面を二人は立ち回る。
 白を纏った者達が、黒き理想を目指す為。

【B-5/一日目/黎明】

【ナスタシア@スーパーペーパーマリオ】
[状態]:顔にかすり傷
[装備]:首輪探知機@オリジナル、ビブルカード×2(針目縫、ムラクモ)@ONEPEACE、風火輪@封神演義
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本:伯爵様の為に参加者を減らしていく。
1:ビブルカードの方角へ行動する。
2:桐生はドドンタスの穴を埋める役割を担ってもらう。
3:直接戦闘は必要な敵以外は避ける。
4:童磨はまた会ったら殺す。
5:ディメーンは裏切り者として生かしておけない。
6:完全者は信用はしてないが、戦力であることには変わらない。
7:他の部下も一応探しておく。特にミスターLは本物? 洗脳の状態も確認が必須。
[備考]
※参戦時期は最低でもステージ7以降。
※チョーサイミンジュツに制限が課せられています
『以下チョーサイミンジュツの制約についての説明』
・洗脳可能な上限は一人まで
・絶対に洗脳できるわけではなく、相手の意志力自体では洗脳を解除されるか不完全な洗脳になる
・何か道具や技があれば、跳ね返すことが出来る

【桐生@ドキュンサーガ】
[状態]:ダメージ(大)、消費(中)、催眠状態
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×0〜1(ナスタシアも確認済み)
[思考・状況]
基本:強い人間と出会い、戦う
1:ビバ! 伯爵!
2:ナスタシア、ノワール伯爵に仕える
[備考]
※参戦時期は第九話④から
※ナスタシアによって操られています

94 ◆EPyDv9DKJs:2021/07/21(水) 16:12:59 ID:Y33LMEvM0
【ノワール伯爵@スーパーペーパーマリオ】
[状態]:健康
[装備]:祝福の杖@ドラゴンクエスト7、第六天魔王の錫杖@御城project:Re
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×0〜2(確認済)
[思考・状況]
基本情報:世界を滅ぼす。考慮の憂いを断つためにメフィスとフェレスは始末しその力を手に入れる
1:ペルフェクティとは手を組むことにはしたが、先にどちらが出し抜くかの戦いになりそうだ。
2:ビブルカードに従い西へ向かう。
3:他の伯爵ズの面々の様子は確認しておく。特にミスターL。
4:首輪の解除手段を模索。
5:……ドドンタス。
6:童磨に警戒。
[備考]
※参戦時期は最低でもマリオ達がディメーンに殺された後(ワールド7前後)
※コントンのラブパワーに制限が課せられています。最低でも無敵バリアは貼れません。

【完全者@エヌアイン完全世界】
[状態]:健康
[装備]:神楽の番傘@銀魂、ビブルカード×2(モッコス、プロシュート)@ONEPEACE
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×0〜2(確認済み)
[思考・状況]
基本情報:プネウマ計画の邪魔はさせん。メフィスとフェレスの扱いは対策が出来上がるまで保留
1:ノワール伯爵とは何れ水面下の出し抜き合いに成りうる。他に利用できる連中を手に入れておくか
2:ビブルカードに従い西へ行く。
3:エヌアイン以上に適した器の捜索。期待値は上がった。
4:首輪の解除手段の模索。
5:ムラクモを首輪を解除される前に始末しておく。
6:童磨に警戒。
7:はぐれた際は伯爵の部下でも探しておくか。
[備考]
※参戦時期は不明。


【首輪探知機@オリジナル】
完全者の支給品。本家バトロワでもお馴染み、参加者の存在を示すレーダー
①:参加者が画面内に点で表示される。数に上限はない
②:死亡者の表記はなし。高低差も表記されない
③:範囲は原作と違い、対象のいるエリアのみ
見た目はドラゴンレーダー@ドラゴンボール

【神楽の傘@銀魂】
桐生の支給品。夜兎族が所持している番傘。
弾丸や大砲を防げる丈夫さに加え、中にガトリングも仕込まれている。

【ビブルカード@ONEPEACE】
ノワール伯爵の支給品。別名命の紙。
爪の切れ端を混ぜたことでできる特殊な紙で、
燃えないし濡れることもなく、混ぜた爪の元となる対象の方角へと動く。
本当に僅かで力もないので紙がひとりでに逃げる、なんてことはない。
この性質を利用して対象を探すことができ、ちぎっても性質は残る。
対象が弱まると縮んでいき、死亡すると燃え尽きるように消滅。
一応紙としても使えて、裏には混ぜた対象の名前が書かれている。
対象の紙はモッコス、針目縫、プロシュート、ムラクモの四人分セット。
うち二枚(縫とムラクモ)はナスタシアへ、残り二枚は完全者が所持。

【第六天魔王の錫杖@御城project:Re】
ナスタシアの支給品。ゲーム上では法術に分類される安土城イメージ武器。
大六天魔王の名を冠する錫杖で、その音で滅せぬものは存在しない。
攻撃力は法術でトップクラスに高く、攻撃時に敵を短時間鈍化させる効果が他の法術より強い。
ノワール伯爵の場合は自分の魔法に鈍化が付与された形になる。

【風火輪@封神演義】
桐生の支給品。哪吒が所持する円盤状の宝貝(パオペエ)の一つで、
脚に装備(装備とは言うが、靴と繋がるものではない)することで空の飛行が可能。
なお見た目はタイヤのホイールで装備時はさながらローラースケートではあるものの、
高速移動する際は足元からロボットアニメで言うバーニアのような炎が噴出する

95 ◆EPyDv9DKJs:2021/07/21(水) 16:13:28 ID:Y33LMEvM0
以上で『ホワイトアウト』投下終了です

96名無しさん:2021/07/24(土) 16:08:54 ID:MiFZyWss0
乙です
真意はまだしも頼もしいリーダー達ですね
完全者の言動は打算ありきであるものの戦略的によく練られていて先が読みたくなるような魅力がありました
伯爵もミステリアスな穏やかさが底知れ無さを想像させ、同盟者との駆け引きの行方の不透明さを象徴させてるようでした

97 ◆s5tC4j7VZY:2021/07/25(日) 11:27:11 ID:VSdW3HwM0
投下お疲れ様です!

ホワイトアウト
伯爵と完全者の駆け引きに息をのむほどの構成の上手さを感じました。
そして、タイトルも凄くお洒落でいいなと率直に思いました。
チェスの攻防……果たしてチェックメイトを仕掛けるのはどちらなのか!
この2人の今後も楽しみです。
「ビバ! 伯爵!」

「……こいつは痴呆か?」
↑このやり取り最高で笑っちゃいました(笑)

投下します。

98辺獄平安討鬼伝 ◆s5tC4j7VZY:2021/07/25(日) 11:28:49 ID:VSdW3HwM0
鬼-----人に危害を加える空想上の怪物や妖怪変化。
歴史民俗用語辞典より引用。

G-4内に設置されている公園に男女4人が情報交換していた―――
公園の名は”童守公園”
男女の名はフェザー、衛藤可奈美、ロック・ハワード、有間都古。

平安京を駆け抜けていたフェザーと可奈美は向こう側から走ってきたロック、都古と出会い、情報交換を兼ねて近くの童守公園に立ち寄った。

「騎空士……か。悪いが聞いたことは一度もないな」
「私もないよ!」
フェザーと都古はフェザーの騎空士の単語に首を傾げる。

一方―――

「ロックさんは、アメリカ出身で、都古ちゃんは、私と同じ日本なんだね」
可奈美はロックのアメリカに都古の日本という国名に反応する。

「ってことは、カナミ、ロック、ミヤコは同じ世界なんだな!」
「そういうことになるね」
「おいおい……まさか本当にコミックみたいな世界があるなんてな」
ロックはフェザーの住む空の世界の存在に嘘だろといった風にボヤク。

「ロックさんと都古ちゃんの対峙した鬼……殺し合いにのっているんですね……)
可奈美は殺し合いに乗っている鬼の話を聞くと、顔に陰りが見える―――
先ほどの親友の死が頭をよぎるからだ。

「がおーっ!て、とってもきょうぼうだった!」
都古は両手を怪獣のようにモノマネをする。

「それで、2人の支給品には何か抵抗できそうなのがあるか?」
ロックは対抗できる支給品があるか尋ねる。
残念ながらロックと都古には対抗できそうな支給品はないからだ。

「俺の支給品はさっき食べちまったケーキとこのPADという機械と……よくわからん誰かの靴下だ」
「ハァ!?おい、マジかよ!外れも外れじゃねーか……」
ロックはまさかの”靴下”に開いた口が塞がらない。

「私は、武器だけど……あ、そうだ!都古ちゃんにこれあげるね。私の得物は刀だから」
可奈美は最後の支給品の手甲を手渡す。

「いいの!?わーい、ありがと可奈美お姉ちゃん♪」
都古は可奈美の申し出に喜び、抱き着く。
どうやら、可奈美は都古に姉と認定されたようだ。

「もう一つの武器はハンマーなんですが……」
可奈美は申し訳なさそうにウォーハンマーをロックに提示するが―――

「いや……俺も都古と同じく拳で闘うスタイルだ。遠慮しておく」
ロックは、可奈美の申し出を断る。

(あと……舞衣ちゃんの支給品だけど……)
そういえば、まだ確認を済ませてはいなかった。
本当ならここで確認するべきだが、舞衣の死をまだ引き摺っているため躊躇してしまう。

「そういえばフェザーの世界には、鬼はいるのか?」
「ああ、だけど人の姿から鬼に変形するのは見かけたことはないな。どちらかというとタンジローたち、鬼殺隊が対峙している鬼に近いと思う」
フェザー達の世界にもゴブリンといった鬼は存在するが、流石に人の姿から鬼に変化するのはフェザーは心当たりがない。

「ちなみにその鬼殺隊が追っている鬼の倒し方ってなんだ?」
「えーと、確か日輪刀という刀で頸を斬りおとすっていってたな……」
「おいおい、刀で頸を斬りおとすだと!?オレとすこぶる相性が悪いな」
「私もー……」
フェザーから聞いた鬼の倒し方は、格闘家である自分のスタイルと真逆であることに肩を落とすロックと都古。

「だけど、その鬼がタンジロー達の鬼とはまだわからねぇし、最悪、拳でなんとかなるだろ!」
「どうして?」
「……へっ!どうしてかって?たいていのことは拳で片付くってわかるからだ!」
都古の疑問にフェザーは力こぶを作りながら快活に答える。

☆彡 ☆彡 ☆彡

99辺獄平安討鬼伝 ◆s5tC4j7VZY:2021/07/25(日) 11:30:46 ID:VSdW3HwM0
それからも情報をいくつか交換していく最中―――

「?どうした、オレの顔になんかついてるのか?」
ロックはフェザーの様子に気づくと話しかける。

「ん?あ、ああ……なんでもない」
(ロックと手合わせしてぇな。拳と拳で語り合いたいぜ……)
メロメロケーキで体の傷が癒えたのもあり、フェザーの体はうずうずしている。
だが、可奈美の知り合いの死を間近に見て弔ったのもあり、手合わせを申し込むのを自重している。

「ふふ、ロックおにーちゃん。きっとフェザーさんはロックおにーちゃんと手合わせしたいと思ってるんだよ」
都古は公園のブランコを漕ぎながら指摘する。

―――ドキリ。

都古の指摘にフェザーは驚く顔を見せる。

「そうなのか?」
「……ああ。俺ってさ、強い相手を見ると拳で心を通じ合いたくなる性質なんだ。それにロックとなら拳を極められるのではないかなと思ってさ」
フェザーは恥ずかしいのか、ほんのり顔を赤くして頭をポリポリとかく。

「フッ……OK!このクソッたれな催しを開いた主催共をとっとめた後なら、相手してやるぜ!」
ロックは快くフェザーとのファイトを引き受ける。
実は、かくいうロックもフェザーから溢れる闘気を当てられ、ストリートファイトの血が疼き高まっている。

「本当か!よし……男と男の約束だぜ!」
ロックの承諾にフェザーは笑顔を浮かべると2人は拳をゴッ!とぶつけ合う。

「ふふ……」
可奈美はそんなフェザーとロックのやり取りを微笑ましく眺めている。

可奈美は剣術の立ち合いが好きで、剣を通じて相手を理解しようとする考えを持つ。
それは、フェザーのように拳と拳の会話と気質が似ている。
これが、日常のやり取りなら可奈美も喜んでその中に混ざっていただろう。

だが―――

(舞衣ちゃん……)
やはり、柳瀬舞衣の死は可奈美にとても暗い影を落とす―――
今の可奈美の胸中には焦燥、やり場のない感情が渦巻いている。

「……ねー。可奈美お姉ちゃん。無理してない?」
「……え?」
都古の言葉に可奈美はピクリと体を震わす。

「別に無理してなんかないよ」
可奈美は動揺を隠すようにその指摘を否定するが―――

「その……可奈美お姉ちゃん。仲の良かった友達を亡くしちゃたんだよね?そんな直ぐ気持ちを切り替えられるなんて無理に決まってるよ……それに悲しいときは思いっきり悲しんだ方がスッキリするんだよ」
可奈美は自分自身のネガティブな感情は殆ど漏らさず、悲しい時も明るく振る舞う癖があるいわゆる”言わない子”なのだが、感情を素直に出す小学生には見破られた―――

「都古の言う通りだな……」
「……カナミ」
(……くそッ!)
都古の指摘にフェザーとロックは自分の不明を恥じる。
特にフェザーは先ほどの可奈美の明るさ表情に気づくことができなかった己に怒る。

「むー。ロックお兄ちゃんとフェザーさんは、もっと”おとめ心”を理解しなきゃ駄目だよ!女の子は繊細なんだから!」
都古は可奈美が抱えている感情に鈍感な男2人を軽く諫める。

「可奈美、I'm sorry。空気を読まないで盛り上がって」
「わりぃカナミ……俺……」
「う、ううん。ロックさんとフェザーさんが謝ることじゃないよ!」
頭を下げるロックとフェザーに可奈美は手をブンブン振りながら気にしないで!と伝える。

(悪いことしちゃったな……そうだ……舞衣ちゃんの支給品を確認しなきゃ!)
可奈美は2人に申し訳ないという気持ちと都古に慰められたことで、舞衣の支給品を確認しようとする。

だが―――

それは中断することとなる―――

「見つけだぞッ!!!虫けらがぁぁああ!」

―――ズドン!

突如、上空から降りてきた怒りの形相の鬼。

―――絶鬼。

☆彡 ☆彡 ☆彡

100辺獄平安討鬼伝 ◆s5tC4j7VZY:2021/07/25(日) 11:31:51 ID:VSdW3HwM0
―――ゴゴゴゴゴ!!!!!

(これが……ロックさんと都古ちゃんがいっていた鬼。タギツヒメ以上に禍々しいオーラを放ってる……)
可奈美は目の前の鬼の放つ禍々しいオーラから感じ取る。

「ッ!?お前……!!」
(クソッ!気絶から覚めるのが早すぎるだろッ!)

ロックは再び出現した絶鬼から一旦、距離を置こうとするが―――

―――バッ!
バリバリバリィィィ!!!

「ぐあああッ!?」
(コイツ……こんなこともできるのか!?)
絶鬼の鬼の手が奇怪な形に変化すると雷が発生してロックの体を痺れさせる。

「コンサートの途中で席をたつのは、マナー違反だァァ〜!覚悟しろよォォ!」
人間に気絶させられたという屈辱からか、絶鬼は怒りのパンチを動けないロックにお見舞いする。

「ぅううあああああああ!!」
絶鬼のパンチを腹からモロに喰らい吹き飛ばされる。

―――ミシミシぃぃぃ!!!

(あ……あばら骨が!!)
吹き飛ばされた先には公園内の樹木があり、激突すると倒れる―――

「ロックお兄ちゃん!?」
都古はロックに急ぎ駆け寄ろうとするが―――

「行かせないよ!!!」
ビュッ―――

「あ゛う゛う゛!?」
絶鬼の伸びた人差し指が都古の左肩を貫く―――

―――ゲボッ!

「都古ちゃん!」
「そぉぉおら!」

―――ドガッッッ!!!

「あ゛ぐぅぅぅう!!!」
可奈美の声も空しく、都古はそのまま遠心力の勢いで投げ飛ばされると、ロックと同じく木に激突して倒れる―――

「ふぅ……。やっぱり虫けらがもがき苦しむ断末魔のメロディは、僕の心に安らぎを与えてくれる」

激昂していた絶鬼だが、怒りの根源であるロックをズタボロにしたことや都古の絶叫を聞いて冷静さを多少取り戻す。

「ロックとミヤコに何しやがるッ!!!」
フェザーは2人に対する絶鬼の蛮行に怒りを抑えきれない。

「許さねぇ……許さねぇぞおおお!」
フェザーの拳が絶鬼の体全体に打ち込む!

「君も拳で闘うのかい?やめなよ、僕の肉体を傷つけることなんて不可能だ」
絶鬼は真正面からフェザーのパンチを受ける。

「そんなこと……そんなことしったこっちゃねぇ!」
鬼がどんなに強固な体を有してようが、自分の拳を信じて叩き込むだけ!
フェザーの目標は晶星獣と拳で語り合う事。
絶鬼の言葉を到底容認することはできない!

「現実を直視できないのは愚かだよ」
絶鬼は先ほどのロックに行ったように鬼の手を変形させて電撃を放つ。
雷がフェザーの肉体を焦がす―――

しかし―――

「効かねぇ!!!」
「何ッ!?」
フェザーの持つ雷の力がフェザーを後退させない!
もちろん、ダメージは通っているはずだが、そこはフェザーの持つ根性だろう。

「この一撃で教えてやるぜ!ビリーブ・ブロー!」
猛打のラッシュを絶鬼のボディに叩き込む!

「う゛ぐ゛ッ!?」
強烈なブローにさしもの絶鬼も顔をゆがめる。
(オレの拳が効いている!……よし!)
フェザーは己の拳が通用していると確信する。

だが―――

「……ッ!ちょっと、暑苦しいよ君」
フェザーの両肩を掴むと―――

ゴバアアッ!!!

「ぐああああぁぁぁあああ!!」
絶鬼の吐く炎のブレスがフェザーの顔面を焼く―――

―――ブンッ!
絶鬼の太い上腕2等筋を有する腕がフェザーをぶん投げる。

「がっああ!」
フェザーは童守公園の入り口付近まで転げまわる―――

101辺獄平安討鬼伝 ◆s5tC4j7VZY:2021/07/25(日) 11:33:55 ID:VSdW3HwM0
「フェザーさん!」
「おっと、行かせないよ」
フェザーに駆け寄ろうとするが、目の前に絶鬼が立ち塞がる。

「おや?君の着ている服……見覚えがあるね」
絶鬼は可奈美を見ると服に見覚えがあるとジロジロと眺める。

(え……?)
絶鬼の言葉に可奈美の心臓の鼓動が速く

「それって、もしかして……舞衣ちゃんのこと?」
(舞衣ちゃんの服のことを言ってるの?だとすると……)
可奈美の額から嫌な汗が流れる。

「舞衣?……ああ、見たんだね。僕のアート(殺し)を」

―――ドクン。

「!!」
可奈美の脳裏に先ほどの舞衣の見るも無残な姿が想起される。
優しかった顔が血まみれで―――
暖かく受け止めてくれるお腹は腸が飛び散っていた、あの姿を―――

「とても美しかっただろ?題して『敗柳残花』一番気に入っている箇所は飛び散っている腸かな」
絶鬼は嗤う―――

「……」
可奈美は呆然と立ち尽くしている―――

「……ああ。そうそう、見物料は命だよ」
絶鬼は鬼の手を可奈美の脳天へ振り下ろす―――

―――ガキィィン!!

―――それを可奈美は孫六兼元で受け止める。

「貴方が……舞衣ちゃんをッ!!」
可奈美の瞳に渦巻くのは言葉ではとてもいい表せない感情―――

受け止めた鬼の手を捌き、胴をお見舞いする。

しかし―――

「へぇ……その刀。結構な業物みたいだけど、悲しいかなぁ。”パワー”が足りないよ」
そう、鬼の強固な肉体を相手に写シを使わない状態では斬撃を通すにはいささか困難である。

「……ッ!」
(やっぱり……千鳥じゃなきゃ……)
予想はしていたが、写シを使用できない非情の現実に可奈美は焦りを隠せない。

「それじゃあ、君のシンフォニーを聞かせてもらおうかッ!」

―――ブンッ!ブンッ!!ブンッ!!!
絶鬼が可奈美に向かい大ぶりなパンチを繰り返す。
それを可奈美は孫六兼元で捌き続ける。

「ちょこまかと動いて……イライラさせるね」
―――ブンッ!ブンッ!!ブンッ!!!

その重い一撃はまともに喰らえば一たまりもないだろう。
可奈美の超感覚と神眼によりなんとか、紙一重で絶鬼の猛打を避けきっている。

「鬼っていっても、大したこと……ないね!」
「へぇ……イラつかせるのが上手だね!!!」
(落ち着け!私に集中させなきゃ!)
可奈美は挑発する。
可奈美は絶鬼を自分に引き付ける―――
3人を守るために―――

―――よく見る!よく聞く!よく感じ取る!

102辺獄平安討鬼伝 ◆s5tC4j7VZY:2021/07/25(日) 11:35:49 ID:VSdW3HwM0
ズバッ!

孫六兼元が絶鬼の頬を斬る!
絶鬼の頬から血が垂れ落ちる―――

(肉体は強固だけど、顔はそうでもないみたい!)
可奈美は勝機を見出す。

だが―――

「僕の顔に……ゆるさないよ君ィィィ!!!」

「鬼の手!」
バリバリバリィ!!!

鬼の手による雷撃に―――

ドム!!!

妖力波―――

「あ゛う゛ッ!?」

雷撃に妖力波を受けた可奈美はフェザー同様、地面を転がりまわる。

「これでわかっただろ?人間と鬼の戦いはゾウとアリの戦いなんだよ!」
絶鬼は高らかに告げる。

それでも―――

―――バギィィ!!
「な……何!?」

「魂に響け!」
絶鬼の元まで急いで駆け戻ると、フェザーのライトニングナックルで絶鬼の顔をぶん殴る!

フェザーは絶鬼に立ち向かう―――

―――さっきはこの鬼の闘気に気圧されてしまった。それもこれもオレの力量不足……!

「このぉぉお!」
フェザーのストレートパンチが絶鬼の肩に強打する!

「グッ!?」
(なんだ……コイツのパワー……上がってる?)

絶鬼は顔ならまだしも肩に生じた痛みから、フェザーの打撃の威力が上がっているのではないかと推測する。
絶鬼の推測は間違ってはいない。
フェザーの”ファイトエフェクト”で攻撃力が上がっているためだ。

「はぁ!はぁあ!おらぁぁあ!」
フェザーのジャブ・ブロー・アッパーの3打撃が絶鬼のボディに痛みを与える。

「ガッ!?グッ!?ガハッぁぁあ!?」
モロに受けたため、情けない声を上げる絶鬼―――

―――それに加え、可奈美の奮闘に刺激を受けたフェザーの闘気はさらに高まりを見せるッ!

「響け!俺たちの想い!ボルティッシュブリッツ!」

顔・両肩・両胸・両脇・両膝・腹―――

目にもとまらぬ怒涛の10連撃―――

「うおらぁああああ!!!」
フェザーは絶鬼に己の拳を振るう―――

―――が。

鬼の手がフェザーの顔を掴むと―――

―――勢いよく地面に叩きつけるッ!

「ッ……!」
「調子にのるなよぉぉお!人間がぁあ!!」
続けさまにフェザーを踏みつけ、動きを封じる。

「ど……どきやがれ!」
「はぁ……はぁ……全く、馬鹿体力だね君……」
絶鬼はフェザーの挫けぬ精神力と体力に辟易する。

そして―――

「そうだ、いいことを思いついた」
しつこいフェザーに妙案を思いついたのかポンと手を合わせると―――

―――グググ……ガバァァアアア!!!
絶鬼は何もない空間を裂いて裂け目を作りだすッ!!!

「こ……れはッ!?」
「これは鬼門さ」
絶鬼は火傷に踏みつけられ苦しむフェザーの質問に答える。

103辺獄平安討鬼伝 ◆s5tC4j7VZY:2021/07/25(日) 11:36:48 ID:VSdW3HwM0
「僕たち地獄の鬼は地上に出る際、鬼門を通らなきゃならない。ちなみに地獄は8つの層からなっていてね。鬼は深い層ほど強いんだけど、僕はその6番目の灼熱からやってきた」

―――地獄。

それは絶鬼達、鬼が暮らす世界。
等活
黒縄
衆合
叫喚
大叫喚
灼熱
大灼熱
無間
なお余談にはなるがあくまでも”仏教においての地獄観”であるため、あしからず。

「長々と話したけど、鬼門に堕ちれば亜空間法則により一瞬で最下層の無間地獄に落ち、二度と這い上がることは不可能だろう。つまり、兄さん並の馬鹿体力の君もコーダ(最終楽章)ということだ。ああ、もっともこの首輪があるから爆発オチかもしれないけれどね」
はっはっはと絶鬼は嗤いながらフェザーの首元を掴む。

「は……離しやが……れ」
絶鬼はフェザーの言葉に耳を貸さず、鬼門へ落そうと歩きだす。

そのとき―――

絶鬼の背中に衝撃が走る―――
「なんだい……?」

そこにはダウンしていたロックが立ち上がっていた。

「OK……効き目はバッチリ……だ」
あばら骨を何本か損傷したが、ロックは支給品のスタミナドリンク100を服用したため、立ち上がることができたのだ。

「はぁ……はぁ……烈風拳!」
地を這う衝撃波は絶鬼に襲う。

絶鬼はそれをそよ風のように受け止める。

「おいおい……リフレインは一度でいいよ。君の声は聴き飽きた」
うんざりした表情でロックを見つめる絶鬼。

「し……「てつざんこー!」がッ!?」
絶鬼はロックへの止めの妖力波を放とうとしたが、不意を突く都古の鉄山靠による体当たりにより体勢が崩れる。

「あた……しも……いる……わ!五形拳!」
5A*n>5B>2B>2C>6C>236A>jcJA>JB>JC>jcJA>JB>JC>〆
拳と蹴りの流れるコンボが絶鬼の肉体にダメージを与える。

(馬鹿なッ!?こんな子どもの拳と蹴りが僕の肉体にダメージを与えているだとッ!?)
絶鬼は都古の八極拳に痛みを感じることに驚愕する。

その答えは、可奈美から受け取った支給品の”スピリット・オブ・マナ”の力だ。
夜空に煌めく星の風情を纏いし美姫の加護により都古の八極拳は鬼の強固な肉体を穿ち貫く。

「はぁぁ、せいやぁ!」
肩の痛みに耐えながらも都古は絶鬼への攻撃の手を緩めない。

(大丈夫!さっき、林檎を食べたから、こんな痛みへっちゃら!!)
どうやら、支給品の林檎を食したようだ。

フェザーといい格闘家は、食すれば痛みは平気な物なのだろうか?

さらに―――

「オレの……強敵(とも)に手を出した罪は重いッ!!覚悟しろ!!鬼!!」

―――ゴォ!!!

傷つきながらもフェザーの体から溢れる闘志はさらに輝きを放つ。

「オレはオレの限界を超える!」
フェザーの燃ゆる闘志は”燃え滾る闘志”へと変容する!!!!!

104辺獄平安討鬼伝 ◆s5tC4j7VZY:2021/07/25(日) 11:39:22 ID:VSdW3HwM0
「ダブル烈風拳!」
「蓮環腿!」
(な、なんだこの力…鬼の力とはちがう…それ以上の力だ…いったい…)
攻撃を捌きながら絶鬼の体が徐々に後退しはじめている。

鬼門の方へと―――

「ロック!ミヤコ!限界を超えるぞォォォ!!!」
「OK!オレに続け!フェザー!都古!」
「こうちょーこうちょー、ぜっこうちょー!」
フェザーの鼓舞がロックと都古の魂を高ぶらせるッ!!!

「オレの拳がカッカと滾る!」
「限界まで飛ばすぜ!」
「ファイトぉ!お〜!」

3人は怯む絶鬼に閃光のように突撃する。

「こっ、これは…どんな相手にも決して挫けない信念や何人もの人間への強い思い…絆だ…それを傷つけられた怒り…」

「私……も……!」
なんとか、痛みに耐えながらもフェザー達の下へ戻った可奈美。
3人に続いて可奈美も孫六兼元を握る。

―――そのとき。

スッ―――
(え……)
可奈美の握りしめる孫六兼元に手が添えられる―――

―――ま、舞衣ちゃん!?
それは、孫六兼元に残っていた理念の残滓か―――

―――さっ、可奈美ちゃん。行くよ……
―――うん。……うん!

握りしめる手はさらに強く―――

―――舞衣ちゃんのクッキー。私、もっとたくさん食べたかったなぁ……
―――うん……私も可奈美ちゃんにもっと食べてもらいたかった……

―――ねぇ、可奈美ちゃん。
―――なに?舞衣ちゃん。

―――生きて。私の分まで生き抜いて……可奈美ちゃん。
―――うん……わかったよ。麻衣ちゃん……約束する。

「シャインナックル!」
ロックの輝く右ストレートが絶鬼の右腕を粉砕し―――

「大震脚!」
都古の鋭い蹴りが絶鬼の左腕を粉砕し―――

「レイジング・ブラストナックル!」
フェザー渾身の拳が絶鬼の胸に大きな穴を穿つ。

「いまだ!カナミ!!アンタの拳を全力でアイツにブチかませッ!!!」
フェザーは叫ぶ。
その叫びは可奈美の魂をさらに湧き立たせるッ!!!

「うん!!!」
(舞衣ちゃん!フェザーさん!見てて……私の……一撃をッ!)
可奈美は絶鬼に孫六兼元を振り上げて―――

「お、おそろしい。これほどの力を生むとは…僕は、ふれてはいけないものにふれたのか…」
絶鬼は後悔する―――
人間をアリと侮っていたことに―――

絶鬼は恐怖を抱く―――
人の……”絆”に―――

―――ザンッ!

「ぐおおお!これが人間の力…こわい…こわいよよお」
可奈美の渾身の袈裟斬で絶鬼の体は一刀両断され、鬼門の中へ堕ちる―――

ピ……ピピ……ピピピ……ピピピピ―――――
首輪の警告音が鳴る―――

「ひいいい…」
ピピピピピピピ―――――
そして、首輪の警戒音が最大限に鳴ると―――

ボンッ!!!!!

首輪が爆破し、絶鬼の死体はそのまま無間地獄へおちた―――

【絶鬼@地獄先生ぬ〜べ〜  死亡】

☆彡 ☆彡 ☆彡

105辺獄平安討鬼伝 ◆s5tC4j7VZY:2021/07/25(日) 11:41:03 ID:VSdW3HwM0
「はぁ……はぁ……」
―――全身の一撃。
孫六兼元の切っ先を地面に突き立てなんとか倒れこまないよう可奈美は息を整える。

「……やったな。カナミ」
「……うん」
コツン♪―――
フェザーと可奈美は互いの拳を合わせる。

「……」
可奈美は孫六兼元を見つめる。

もう、そこには柳瀬舞衣の理念はなくなっていた―――

「舞衣ちゃん……私、負けないよ。絶対に生きて帰る」
紅き空に向けて可奈美は孫六兼元を誓いに掲げる。

可奈美は迷わない。
可奈美は挫けない。
可奈美は生き抜く。

無二の親友と約束したのだから―――

もっともその約束は”呪い”へとなるかもしれないが―――

「よーっし!!!!オレ達の勝利だ!!!」
フェザーの勝鬨。

「やっ……た……ね!お兄ちゃん!!」
「ああ……ここまで熱くなれたのは久しぶりだぜ!」
ロックも都古も拳を空に突き上げる。

かくして人が勝利し鬼は去った―――
辺獄を見下ろす悪魔達の嘲謔も沈黙する―――
死闘を経て魂に刻まれるのは不撓不屈の精神―――

―――勝利の美酒に酔いしれる。

【G-4 /一日目/早朝】 ※童守公園内に絶鬼がこじ開けた鬼門が存在しています。

【フェザー@グランブルーファンタジー】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、主に顔面を中心に火傷(中)
[装備]:けっこう焼け焦げた普段着(SSR時衣装)、黒河のPDA(機能使用可能回数:1回)@リベリオンズ Secret Game 2nd Stage
[道具]:基本支給品、靴下
[思考・状況]
基本方針:強い奴と戦いたい! だがまずは殺し合いを止めるべきだな!
1:カナミ、ロック、ミヤコと行動を共にする。
2:カインとはもう一度戦いたいが、私情を優先してる場合じゃないな。
3:みりあとは合流しておきたい。
4:アニって、あのアニだよな? 気を付けないとまずいな。
5:カナミ……やったな!
6:アーカーシャは……流石にないか。
7:全てが終わったらロックと拳と拳で語り合う
[備考]
※参戦時期はSSR3アビフェイト後。
※大体のコラボの人物と面識があります。
※殆ど信じてませんがアーカーシャを使ってる推測をしてます。

【黒河のPDA@リベリオンズ Secret Game 2nd Stage】
フェザーの支給品。元々は黒河正規の持っていたPDAで、ナンバーは8。
シークレットゲームで主軸となる機械、本ロワでは少し改造されておいる
条件:クリア条件はジョーカーの有無以外は全て同じで、クリアした場合は支給品が貰える
(1st、2ndでそれぞれ一回計二回。クリア条件を満たしたPDAは1st、2ndどちらでも可)
機能:現在位置のエリア内の死亡者の名前と現在位置が閲覧できる。二時間に一度使用回数が一増える
原作と違い所有者がこれを手放しても死ぬことはない。

106辺獄平安討鬼伝 ◆s5tC4j7VZY:2021/07/25(日) 11:46:09 ID:VSdW3HwM0
【衛藤可奈美@刀使ノ巫女】
[状態]:精神疲労(中)、ダメージ(中)、疲労(中) 左肩弾痕 気絶
[装備]:孫六兼元@刀使ノ巫女、白楼剣@東方project
[道具]:基本支給品、舞衣の支給品(基本支給品+ランダム支給品×0〜2)
[思考・状況]
基本方針:殺し合いはしない。姫和ちゃんやみんなを探したい。
1:姫和ちゃんは千鳥がないと……ううん。それでも私が止めないと!
2:舞衣ちゃん……私、”生きるよ”。
3:皆と早く合流しなきゃ
[備考]
※参戦時期はアニメ版21話、融合した姫和と戦闘開始直後です。
※舞衣の理念の残滓との影響で孫六兼元で刀使の力が使えるようにはなりましたが、千鳥と比べたら半分以下の制限となります。(人外レベルの相手は難しい)
※グラブルの世界を大まかに理解しました。
※荒魂のとこは話していないので、ロック、都古とは同じ世界だと思っています。

【ウォーハンマー@ドラゴンクエストビルダーズ2 破壊神シドーとからっぽの島】
可奈美の支給品。ビルダーハンマーを除いて一番高性能なハンマー。
ブロック破壊に特化した武器で、とてもかたいものでも破壊できる。
武器として使えなくもないが、見た目ほどの攻撃力は期待できない。
うごくせきぞうと言った硬い相手であれば威力が上がるので別かも?

【ロック・ハワード@餓狼 MARK OF THE WOLVES】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中) あばら骨数本骨折
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2(確認済) スタミナドリンク100×4
[思考・状況]
基本:主催をとっちめて、さっさとここから脱出する
1:都古、フェザー、可奈美と行動を共にする
2:ギース・ハワード、カイン・R・ハインラインの名前が気になる。
3:主催をとっちめた後、フェザーとストリートファイトをする。
[備考]
※参戦時期はグラント戦後
※グラブルの世界を大まかに理解しました。
※可奈美から荒魂のことはまだ聞いていないため、同じ世界だと思っています。

【スタミナドリンク100@アイドルマスター シンデレラガールズ】
ロックに支給されたドリンク。本数は5個で略称はスタドリ。

107辺獄平安討鬼伝 ◆s5tC4j7VZY:2021/07/25(日) 11:46:46 ID:VSdW3HwM0
【有間都古@MELTY BLOODシリーズ】
[状態]:疲労(中) ダメージ(中) 左肩貫通
[装備]:スピリット・オブ・マナ@グランブルーファンタジー
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2(確認済)、ニュートンの林檎×4@へんなものみっけ!
[思考・状況]
基本:殺し合いなんてしない! 元凶は全員コテンパンに叩きのめしてやる!
1:ロックお兄ちゃん、可奈美お姉ちゃん、フェザーさんと行動を共にする。
[備考]
※身体能力はタタリ影響下の時の状態です
※グラブルの世界を大まかに理解しました。
※可奈美から荒魂のことはまだ聞いていないため、同じ世界だと思っています。

【スピリット・オブ・マナ@グランブルーファンタジー】
衛藤可奈美に支給されていたが、都古の手に渡る。
夜空に煌めく星の風情を纏いし美姫は騎空士の武勇を讃え手甲を授けた。厳き岩をも削ぎし猛き水を思わす一撃は、あらゆる障壁を穿ち貫く。
都古自身には水属性は本来ないためスキルは使用できないが、代わりに八極拳での攻撃はあらゆる障壁を穿ち貫けるようになった。

【ニュートンの林檎@へんなものみっけ!】
かなでの森博物館に植えられていたニュートンの林檎の木。
ケントの花という品種は自家受粉しづらく30年間で初めて成った林檎。

―――が。

―――ヒュンッ
―――パンッ!パンッ!パンッ!

「がッ……!」「ッ……!」「グッ……!」「あ゛う゛……!」

―――殺し合いは止まらない。

☆彡 ☆彡 ☆彡

108辺獄平安討鬼伝 ◆s5tC4j7VZY:2021/07/25(日) 11:48:13 ID:VSdW3HwM0
突如、放たれたボウガンはフェザーの腹に刺さり、銃弾は可奈美・ロック・都古の肩をそれぞれ貫通して鮮血が舞い散る―――

「フェ……フェザー!」
ロックは肩の痛みに耐えつつフェザーに駆け寄ろうとするが―――

「来るなッ!!」
フェザーはそれを制止し―――

「このままだと全滅する恐れがある!だから、オレが殿をするからあんたたちは行け!」

「フェザーさん……」
「お前……死ぬ気かよ」
ここでの殿は死を免れない。

「オレ……なら、大丈夫だ!それに……ロックとは拳で語る約束したからなッ!」
フェザーは口から血を垂らしながら、笑みを浮かべる。

―――ビュッ!
ロックはフェザーが投げたPADを手にする。

―――パシッ!
「……」
(だったら、なぜ俺に支給品を渡すんだ―――)
フェザーからのPADはまるで形見に思えて、ロックは一瞬目を瞑る。

そして、目を開くと―――

「……わかった。死ぬんじゃねぇぞ」
男の覚悟をロックは止めることはできない―――
―――いや、止められない。

「可奈美、都古……走れるな?」
「う……うん」
都古は頷く。
幸いにも撃たれた箇所は肩だから走って逃げるには問題ない。

―――が。

「カナミ……あんたもいくんだ」
「ごめん……見捨てるなんて私にはできないよ」
可奈美も全身ボロボロの状態だが、孫六兼元を襲撃者の方へ構える。

―――ヒュンッ

「やぁあ!」
ボウガンの矢を打ち払う可奈美。

「ね!……こう見えても私、目は良い方だか……ッ!?」

―――ドサッ

フェザーの首トンで可奈美の意識は闇に落ちる。

「ロック、カナミを頼む」
「……」
ロックは可奈美を背負うと都古と共に殺し合いの場を立ち去った―――

109辺獄平安討鬼伝 ◆s5tC4j7VZY:2021/07/25(日) 11:50:27 ID:VSdW3HwM0
―――パンッ!パンッ!

「グッ!?」
フェザーの両足が撃ち抜かれる。
それでも、フェザーは両足で立つ―――

「……」
(悪く思わないでくれ……)
修平はそんなフェザーを見つめる―――

軍服と修平は童守公園でのフェザー達と絶鬼の死闘を隠れながら見物していた。

軍服と修平の下馬評では勝者は鬼であった。
当然だろう。なにせ、絶鬼の存在は軍服も修平も勝てるイメージが湧かないほどの存在だったのだから―――

しかし、彼らの読みは外れる―――
彼らは鬼に勝利した。

まさかの結末に驚愕したが、軍服は直ぐにこれはチャンスだと捉えた。

鬼に勝利はしたが、4人の心身はボロボロ。

「全てを出しきった勝利は、張り詰めた緊張はとたんに緩くなる。ここで全員、殺すぞ」
「ああ……」
軍服の言葉に修平は同意した。

彼らの存在は害でしかないからだ。

特に彼らを鼓舞し続けてきたフェザーは危険だ。

彼は、何処かの少年雑誌の謳い文句である”友情””努力”勝利”の体現者だ。

フェザーの存在は、双子に対抗する勢力を強固に纏めるだろう。
力なき参加者に夢を見させてしまう。
それは、主催を怒らせ、琴美の命を脅かせてしまうかもしれない。

―――だからこそ、ここで死んでもらわなきゃ困る。

(しかし……)
修平に全員を殺すことに同意しつつも一つの考えが過る。

「さっき……か……ら……こそこそ……男だ……ろ」
血という血を垂れ流しつつもフェザーは軍服たちの下へ歩く。
途中、コケそうにもなるが―――

「おれ……と……拳と……拳の勝負を……しよう……ぜ!」
フェザーは何度でも立ち上がる。

110辺獄平安討鬼伝 ◆s5tC4j7VZY:2021/07/25(日) 11:52:19 ID:VSdW3HwM0
「悪いが、俺は格闘家じゃない」

軍服はあくまでも、冷静にターゲットを狙いに定めて―――

軍服の放ったボウガンの矢がフェザーの脳天を貫く―――

―――まだまだ求道者の足元にも及ばねぇか……もっとオレは強くなりてぇ……なぁ、団長……ライネル……オレと手合わせしようぜ……

―――ドサッ……

生きるために殺す者の手により、拳で高みを目指す蒼き迅雷の闘士はこの平安京で斃れた。

【フェザー@グランブルファンタジー 死亡】

「……」
フェザーを仕留めた軍服はボウガンに新たな矢をセットする。

そして―――

「なぁ……逃げたやつらをおう……ッ!?」
修平は逃げたロック達を追いかけるのか軍服に尋ねるが、その言葉は途中で途切れる。
なぜなら、軍服は修平にボウガンを向けているからだ。
順平の顔から汗がタラリと流れ落ちる。

「どうして、逃げた奴らの胸や頭を狙わなかった」
軍服は鋭い目線で修平を刺す。

そう、フェザーとロック達のやり取りの隙に修平のコルトM1911A1ならスマートに始末することができたはず。

「お前は、ここで全員殺すことに賛同していたはずだ」
「……この男が持っていたPADは、俺には見覚えがある。下手に撃って破壊してしまうのを恐れたんだ」
そう、修平はフェザーがロックに手渡したPADに一瞬手が止まった。
あのゲームのことを想起させられたからだ。
それと、修平にとって、優先すべきことは琴美の生還である。
余り、対主催の人間を減らしすぎると、先ほどの鬼のような人外の参加者から琴美を守ることが難しくなる。
故に下手に希望を与え、双子たちを刺激させかねないフェザーのみの排除が最初から狙いだった。

「……」
軍服は修平の理由を聞き、黙り込む。

(PADか……くそ、嫌な思い出が蘇る)
修平のいうPADは軍服も見覚えがあった。
そして、忌々しいゲームに自分も参加させられたことがあるからだ。

―――スゥ。

「まぁあいい……」
取りあえずは納得したのか、軍服は修平に向けていたボウガンを下すと、フェザーの支給品のチェックをする。

「これは靴下……ミルクの匂いがする」
軍服は靴下の匂いを嗅ぐ。

「使えるかもしれんな」
軍服はそう呟くと神戸しおの靴下を押収した―――

111辺獄平安討鬼伝 ◆s5tC4j7VZY:2021/07/25(日) 11:52:38 ID:VSdW3HwM0
チラッ―――
次に軍服は、絶鬼がこじ開けた鬼門を眺める。

(この鬼門に落とせば、どんな力を持つ者だろうが、殺すことができる)
鬼門の力の効力は先ほど観戦していた戦闘が実証している。

「俺は生き残る……どんな手を使っても」
軍服はあらゆる手段を使う。

生存するために―――

【G-4 /一日目/早朝】 ※童守公園内に絶鬼がこじ開けた鬼門が存在しています。

【(Zルートでソフィアに返り討ちにされた)軍服の男@リベリオンズ Secret Game 2nd stage】
[状態]:健康
[装備]:ガッツの義手(ボウガン、大砲付き)、クロスボウ@現実
[道具]:基本支給品×3(フェザー・絶鬼)、ランダム支給品0〜4(絶鬼) 神戸しおの靴下
[思考・状況]
基本方針:生き残る。
1:参加者を襲撃し装備を増やす。
2:修平と組んで不要な参加者を減らしていく。
3:ここを拠点にして普通の武器では殺せそうにないと判断した参加者をここに誘導して鬼門の中に落として殺す

[備考]
※参戦時期は死亡後より

【神戸しおの靴下@ハッピーシュガーライフ】
フェザーに支給された神戸しおの靴下。
なぜか片方のみの支給で、脱ぎたてなのかミルクの匂いがする。
その匂いを嗅いだ少年M曰く『何でもします』とのことらしい。

【藤田修平@リベリオンズ Secret Game 2nd Stage】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(中)
[装備]:コルトM1911A1@サタノファニ
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0〜2、
[思考]
基本:琴美を生還させる。琴美が死んだ場合は優勝して彼女を蘇らせる。
0:琴美の生還に不必要な存在を排除していく。
1:軍服と組んで不要な参加者を減らしていく。
2:一体何だったんだあの女は……
3:木刀政には要注意。
4:あのPAD……もしかして他にも支給されているのか?
[備考]
エピソードA、琴美死亡後からの参戦です

☆彡 ☆彡 ☆彡

112辺獄平安討鬼伝 ◆s5tC4j7VZY:2021/07/25(日) 11:55:02 ID:VSdW3HwM0
「クソッ!……」
ロック達は悔しさに耐えながらも今は逃げるしかない―――

殺しに乗った者を一人斃しても―――
辺獄での殺し合いは止まらない―――
理念を集めようと紅き月が輝き見下ろす―――

【G-4 /一日目/早朝】

【衛藤可奈美@刀使ノ巫女】
[状態]:精神疲労(中)、ダメージ(中)、疲労(中) 左肩弾痕 気絶
[装備]:孫六兼元@刀使ノ巫女、白楼剣@東方project
[道具]:基本支給品、舞衣の支給品(基本支給品+ランダム支給品×0〜2)
[思考・状況]
基本方針:殺し合いはしない。姫和ちゃんやみんなを探したい。
1:姫和ちゃんは千鳥がないと……ううん。それでも私が止めないと!
2:舞衣ちゃん……私、生きるよ。
3:皆と早く合流しなきゃ
4:フェザーさん……!!
[備考]
※参戦時期はアニメ版21話、融合した姫和と戦闘開始直後です。
※舞衣の理念の残滓との影響で孫六兼元で刀使の力が使えるようにはなりましたが、千鳥と比べたら半分以下の制限となります。(人外レベルの相手は難しい)
※荒魂のことはまだ話してないので、ロック・都古とは同じ世界だと思っています。

113辺獄平安討鬼伝 ◆s5tC4j7VZY:2021/07/25(日) 11:56:01 ID:VSdW3HwM0
【ロック・ハワード@餓狼 MARK OF THE WOLVES】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中) 左肩弾痕 あばら骨数本骨折
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2(確認済) スタミナドリンク100×4
[思考・状況]
基本:主催をとっちめて、さっさとここから脱出する
1:可奈美・都古と他のエリアへ逃げる
2:ギース・ハワード、カイン・R・ハインラインの名前が気になる。
3:フェザー……死ぬんじゃねぇぞ!
[備考]
※参戦時期はグラント戦後
※グラブルの世界を大まかに理解しました。
※可奈美から荒魂のことはまだ聞いていないため、同じ世界だと思っています。

【スタミナドリンク100@アイドルマスター シンデレラガールズ】
ロックに支給されたドリンク。本数は5個で略称はスタドリ。

【有間都古@MELTY BLOODシリーズ】
[状態]:疲労(中) ダメージ(中) 左肩貫通・弾痕
[装備]:スピリット・オブ・マナ@グランブルーファンタジー
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2(確認済)、ニュートンの林檎×4@へんなものみっけ!
[思考・状況]
基本:殺し合いなんてしない! 元凶は全員コテンパンに叩きのめしてやる!
1:ロックお兄ちゃん・可奈美お姉ちゃんと他のエリアへ逃げる
2:フェザーさん……!
[備考]
※身体能力はタタリ影響下の時の状態です
※グラブルの世界を大まかに理解しました。
※可奈美から荒魂のことはまだ聞いていないため、同じ世界だと思っています。

【スピリット・オブ・マナ@グランブルーファンタジー】
衛藤可奈美に支給されていたが、都古の手に渡る。
夜空に煌めく星の風情を纏いし美姫は騎空士の武勇を讃え手甲を授けた。厳き岩をも削ぎし猛き水を思わす一撃は、あらゆる障壁を穿ち貫く。
都古自身には水属性は本来ないためスキルは使用できないが、代わりに八極拳での攻撃はあらゆる障壁を穿ち貫けるようになった。

【ニュートンの林檎@へんなものみっけ!】
かなでの森博物館に植えられていたニュートンの林檎の木。
ケントの花という品種は自家受粉しづらく30年間で初めて成った林檎。

114辺獄平安討鬼伝 ◆s5tC4j7VZY:2021/07/25(日) 11:56:15 ID:VSdW3HwM0
投下終了します。

115辺獄平安討鬼伝 ◆s5tC4j7VZY:2021/07/25(日) 16:54:28 ID:VSdW3HwM0
ロックの持ち物にフェザーから受け取った黒河のPADの表記が抜けていましたので、wikiの方で入れましたこと報告します。

また、wiki編集お疲れ様ですと同時にありがとうございます。

116名無しさん:2021/07/25(日) 23:05:39 ID:5/0LfnDE0
投下乙です。
フェザーとロックが似たものを感じて通じ合い、都古は幼いならではの洞察力で可奈美の精神状態を察する。
どことなく穏やかな雰囲気を醸し出していたところに、襲い来る絶鬼!
絶鬼のセリフ回し、ご無体な強さ、人間たちの「絆」に敗北し恐怖する姿、そして鬼門に落とされてしまうオチ(しかも、自分で開けた鬼門に!)まで含めて、原作の再現度が高くて脱帽です。
からくも生き延びた四人でしたが、漁夫の利を狙うペアに襲われてしまうとは。フェザーのフラグの建て方がすごい。
キャラクターたちの今後も楽しみです。
ありがとうございました。

117 ◆2dNHP51a3Y:2021/07/25(日) 23:49:49 ID:/rRXZyuE0
予約延長します

118 ◆ZbV3TMNKJw:2021/07/26(月) 23:18:59 ID:/EJ9oKNE0
投下乙です

洗脳漬けにされた上に痴呆扱いされる桐生さんが可哀想でならない
登場話ではあれだけイキイキしていたというのに...
ノワール軍団は水面下で策謀を交わしているとはいえ他参加者へのかなりの脅威になりそうですね


絶鬼、鬼の名に恥じぬ圧倒的な強さでしたが、その力が故に慢心が祟りましたね。
フェザー、ロック、都古の肉弾戦トリオに加えて友の舞衣の想いを継いだ可奈美の一閃で仇を討つ、王道胸熱展開...と思いきやここできたかリベリオンズマーダーズ。
未だに迷いの見える修平に対して軍服の男の手なれてる感がすさまじい。
フェザーを斃したことでスコア的にもトップランカーに入って貫禄が出てきましたね。
この男を原作でロクな手傷もなく返り討ちにしたソフィアの強さが窺い知れるというものです。


投下します

119逃げるは恥だが役に立つ ◆ZbV3TMNKJw:2021/07/26(月) 23:19:54 ID:/EJ9oKNE0
「はあっ、はあっ...ふぅ」

抉られた部位を抑えながら、明は一息を吐く。
明は吸血鬼であるため心臓部のクレメインを破壊されない限りは死なないが、善やドミノとは違い、硬い装甲の代わりに再生能力が低いタイプである。
アーナスに刻まれた傷は完治はしていないが、どうにか行動への支障が減る程度には再生ができていた。

「...私が貴様らの思い通りになると思うな下衆共...!」

明は公人であり続けることを心掛けている。
彼女にとっての公人とは民の為に血を流し悪を許さぬ存在である。
放送の声がセレモニーで見た男たちのものとは違った気もするが関係ない。
相手が何人いようが私は奴らの言いなりにならない。必ず殺し合いに乗らずこのゲームを叩き潰すと、彼女は誓う。

(ここに連れてこられているのはリーダーと善。それに...日ノ元、士郎...!)

リーダーこと、ドミノ・サザーランドと佐神善は信頼できる仲間である。
絶対にこんな催しには賛同しない。すぐにでも合流し力を合わせて悪鬼どもを打ち倒す。

日ノ元士郎―――己の実の父。
母を無情にも殺し、己の掲げる大義名分のもとに罪なき民の血を流す最悪の男。
奴はまかり間違っても力なき者を護るためになど戦わない。使いつぶすか殴殺するのが目に見えている。
許さない。主催諸共、奴だけは必ず討ち取る。それが明の戦う理由だから。


目下必要なのは身体の再生の完了である。
腹の底から滾る憎悪と怒りに耐えながら、明は呼吸を整え休息に専念する。

「ドカン!!」

響き渡る声と共に明の側頭部に衝撃が走る。

「!?」

突然の事態に明は顔をフルフルと横に震わせ視界を整える。

「オウオウ姉ちゃん!命が惜しけりゃ俺様のおやつを差し出してもらおうじゃねえか!」

ガサガサと豪快に茂みを掻き分け現れた少年、佐藤マサオは装着した空気砲を構え凶悪な笑みを浮かべていた。

120逃げるは恥だが役に立つ ◆ZbV3TMNKJw:2021/07/26(月) 23:20:55 ID:/EJ9oKNE0
「なんだ貴様は!?」
「ドカン!!」

明が言葉を発すると同時に間髪入れずに空気砲を放ち言葉を遮る。
正面からそれを額に受けのけ反る明を見てマサオは更に笑みを深める。

彼が泣きべそをかきながら我武者羅に逃げ回ること1時間以上。
ようやく先んじて見つけた参加者にマサオの気持ちは落ち着き、彼女の様子を伺っていた。
苦し気に息を荒げ、右半身の半分は吹き飛んだ様を見てマサオは思う。
この人は自分よりも弱いのではないか、と。

この殺し合いは数日にわたり行われるものだ。
だというのに開幕数時間であそこまでの重傷を負っている。
それに比べて自分はあの凄腕の黒髪女に遅れをとりながらもこうして五体満足に逃げ延びている。
即ち、自分はあの右半身を負傷した彼女よりも強い。そう結論付けたマサオは先ほどまでの泣きべそが嘘のように吹き飛び、調子づいた笑みを取り戻し早速奇襲を仕掛けたのだ。


(思った通りだ!この姉ちゃんはさっきの黒髪よりも雑魚!今度こそ勝ってあいちゃんへの武勇伝にしてやるぜ!)

2発目の射撃にも関わらず正面から受け止めたのを見てますますマサオは上機嫌になる。

「見てろよあい!俺様のモーレツにカッチョイイ姿を!」

ドカン、と三度目の空気砲をまたも明は顔面から受けのけ反る。

「ドカンドカンドカンドカンドカン!!!!!」

いくら撃っても避けない明に気をよくしてマサオは空気砲を連射する。
テンションの上がり切っているマサオは気づいていない。
空気砲を防御の構えすらなく受けている明が、最初に当てた初音とは違い苦悶の声すら上げていないことに。

ギョロリ。

仮面の奥から覗かせる鋭い眼光に、マサオはえっ、と小さく声を漏らす。
刹那。
一足飛びで明はマサオとの距離を一気に詰め、左手による当身で地面に叩きつける。
明は吸血鬼の中ではとりわけ素早いわけではない。しかし、マサオを相手取るにはそれでも十分すぎた。

「これで少しは落ち着くといいのだが」

沈黙したマサオを見下ろし、明はふぅと息を吐く。
明はもとより日ノ元一族由来の頑強さと日々の鍛錬により吸血鬼の力を抜きにしても桁外れな頑強さと力を有している。
それに加えて吸血鬼の装甲だ。人間一人を即死させられない程度の威力の空気砲では、せいぜいドッヂボールを顔面に当てられた程度のダメージにしかならなかった。

(このような幼子まで狂気に呑まれるとは...やはり奴らは許せん)

誰もが己のように異常事態においての誘惑を跳ねのけられるとは限らないのは解っている。
そんな民の光になるのが公人の役目であり責務。殺し合いに乗ってしまった者でも、恐怖からの肯定であれば説得を優先したい。
故に、明はマサオを殺さず無力化する方針で対処した。

その方針が彼女にとって仇となる。

さてこの少年をどこで捕縛しておこうかと明が考えたその僅かな隙。僅かにマサオから目を離した時間。
その隙間に、マサオの姿は明の視界から消え失せた。

121逃げるは恥だが役に立つ ◆ZbV3TMNKJw:2021/07/26(月) 23:21:21 ID:/EJ9oKNE0

「!?」

明の目が驚愕に見開かれ、キョロキョロと周囲を見回す。
マサオの姿は―――あった。
彼の姿は既に明の数十メートル先にあった。

「逃すか!」

明の体感上、マサオは格闘技経験などないズブの素人だ。
そんな彼があそこまでどうやって巧みに気配を消して逃げ出したかはわからない。
しかしそんな不安は頭から追いやりすぐにマサオを追いかける。
本来ならばすぐにでも距離を詰められるのだが、しかし、今の明はまだ右腕が再生しておらず身体の軸が嫌でもブレてしまう。
短距離ならば問題ないが、長距離となればその歪みは致命的なものとなり足を遅くする。
故に明は容易くマサオに追いつけない。

「ヒイイイイイイ、こないでえええええ!!」

マサオは追ってくる明の気配に恐怖し泣きながら逃げていた。
八将神特有の気配遮断スキルによりスタートダッシュを有利に決められたところまではよかった。
しかし、アカメの時とは違いマサオの姿は隠れておらず、周囲も開けている状況だ。
明がマサオを視界にとらえている以上、八将神の気配遮断スキルもほとんど意味を為さなくなっている。
故に完全に逃げ切ることはできず、明との鬼ごっこを余儀なくされてしまう。


本来は参加者を屠る為に生み出された八将神と、無辜の民を護る公人を志す吸血鬼。
そんな二人の立場を鑑みれば、珍妙にもほどがある鬼ごっこがいま始まった。




【F-7/一日目/黎明】


【佐藤マサオ(歳破神)@クレヨンしんちゃん】
[状態]:健康
[装備]:空気砲@ドラえもん、我妻善逸の日輪刀@鬼滅の刃
[道具]基本支給品、ランダム支給品0~1
[思考・状況]
基本行動方針:何もかもぶっ壊す
0:ひいいいいいい!!
1:黒髪の女の人(アカメ)や怪物みたいな女の人(日ノ元明)から逃げる。
2:うわあああああんなんで空気法効かないのおおおおお!?

[備考]
※映画の出来事などを経験しています



【日ノ元明@血と灰の女王】
[状態]:吸血鬼状態、全身にダメージ(中〜大・再生中)、右腕損壊(再生中)、頭部ダメージ(微小)
[装備]:
[道具]:基本支給品一色、不明支給品0〜3
[状態・思考]
基本方針:公人として殺し合いに乗るつもりはない。主催を打倒する。
0:日ノ元士郎を斃す。
1:身体を治しつつおにぎり頭の少年を追いかける。
2:針目縫とアーナスを警戒
3:善、ドミノとの合流。
※燦然党との決戦前からの参戦となります。

122 ◆ZbV3TMNKJw:2021/07/26(月) 23:21:45 ID:/EJ9oKNE0
投下終了です

123 ◆s5tC4j7VZY:2021/07/27(火) 18:28:47 ID:nnPG/aUc0
投下お疲れ様です!

逃げるは恥だが役に立つ
苦し気に息を荒げ、右半身の半分は吹き飛んだ様を見てマサオは思う。
この人は自分よりも弱いのではないか、と。
↑マサオ君(笑)でも、これでこそマサオ君ですね!
明はパパとの位置が近いですが、相対した時、果たしてどうなるのか……
そして、マサオ君は逃げ切れるのか!次話が楽しみです。

感想有難うございます。

辺獄平安討鬼伝
絶鬼はやっぱり、少年ジャンプの”友情努力勝利”で斃れるしかないなと思っていたので、原作の再現度が高くて脱帽です。のお言葉は感無量です。
フェザーの退場は最後まで迷いました。ただ、軍服・修平ペアが狙うのはフェザーかな(特に修平)と思い、泣く泣くといった感じです。
こちらこそロワで絶鬼を書けたこと嬉しく思います。ありがとうございました。

ジャンプキャラの悪役はやっぱり王道しかないでしょ!という気持ちで書きました!
Aルートの修平は琴美の死後、復讐の道を進みますが、何だかんだで最後の一線(殺し)はギリギリまで踏みとどまった印象があるので、代わりに軍服に頑張ってもらいました。
この男を原作でロクな手傷もなく返り討ちにしたソフィアの強さが窺い知れるというものです。
↑ですね!…実はただのサバゲーが趣味なだけでイキっていただけの男でした!だったらどうしようと密かに思っております(笑いと💦)
 いえ、彼は自○官で(たとえ、唯の趣味がサバゲですの男だったとしても強者だった)ソフィアが強いということにしておきましょう。

124 ◆s5tC4j7VZY:2021/08/04(水) 20:03:00 ID:p9D.HFGA0
ミスターL、藤堂悠奈、ギース・ハワード、レオーネで予約します。

125 ◆.EKyuDaHEo:2021/08/06(金) 18:00:02 ID:D8QCwJqI0
野原ひろし、宮下愛、相場晄、衛藤可奈美、ロック・ハワード、有間都古を予約します

126 ◆s5tC4j7VZY:2021/08/07(土) 06:12:10 ID:LjBNvBwI0
投下します。

127ナイトレイドを斬る ◆s5tC4j7VZY:2021/08/07(土) 06:14:30 ID:LjBNvBwI0
信念ーーーーーそれが正しいと堅く信じ込んでいる心。
Oxford Languagesより引用。

―――バシィィィ
ギースの稲妻蹴りとレオーネの蹴りが交差する。

―――ゴッ!
続けさまに左村雨打ちと右ストレートがぶつかる。

―――ズザァァァ……

拳と拳の反動で両者後ずさる。
そして、再び左右の村雨打ちと左右のストレートがぶつかり合い、火花を散らすッ!
互いの猛打は止まることを知らず―――

―――ゴッ!ゴッ!!ゴッ!!!ゴッ!!!!ゴッ!!!!!
(この籠手……上物だな)
(この男のパンチ。素手の癖に重い……この籠手がなかったら、直ぐにイカレちゃうかもしれないね)
互いの拳の猛打は互いの拳とぶつかり合う。
その最中、レオーネはギースのパンチの重さに額に汗を流しつつも猛打を止めず続ける。

「ふん。女にしてはパワーで攻めてくるとはな」
「女とか男とか関係ないとおもうけ……どッ!」
レオーネの回転しての右ソバット。

―――が。

それは腕でガードされ―――

「The blow is light!(一撃が軽い!)」
言葉と同時に繰り出されるのは、邪影拳。
レオーネの腹にヒットし、レオーネは吹き飛ばされ、吐血を吐きつつも、構えは何とか崩さずにいられた。

「……やるね」
(まいったね。ライオネルがないのがここまで響くなんて)
帝具『ライオネル』人間離れした身体能力と高い治癒能力はレオーネの戦闘スタイルにガッチリと嵌っていた。
その身体能力による格闘と治癒力を組み合わせた闘い方が主体であったため、治癒力がない現状での力責めはギース相手には厳しさがある。

(だけど……)
「そんな泣き言は言ってられない!」
たとえ不利な状況でもレオーネは立ち向かう。
不利な状況は今までも何度もあった。
だが、それでも闘い続けた結果、悲願を果たすことができたからだ。

「フン。こっち側の人間だから楽しめるかと思ったが……Lose it already!(もう失せろ)」
―――ブォ!

「あぐッゥ!?」
雷轟烈風拳による電撃で体を一瞬だけだが痺れるレオーネ。

そこへすぐさま―――
―――強烈なコンボが。

↗+×××←→×□→→←↓×□

128ナイトレイドを斬る ◆s5tC4j7VZY:2021/08/07(土) 06:14:55 ID:LjBNvBwI0
「〜〜〜ッ!?」
ギースの流水の如く流れる7コンボ。
繰り広げられるパンチに蹴り、掌底からの巴投げにより、コンクリートの地面に叩きつけられレオーネの背中は強く打撲する。

「貴様は闘いを愉しむ癖があるようだが……それは、強者がやれることであって、貴様のようなじゃく!?」

―――バギッ!
「グゥゥ!?」
すぐさま立ち上がったレオーネの左フックがギースの顔面にヒットする。

「……やるな」
言葉とは裏腹にギースは笑みを浮かべている。
多少は楽しませてくれる相手だと認識を改めたからだ。

「やたれたらやり返すのがあたし流なんでね」
片やレオーネもニッと笑みを浮かべやり返す。

再び繰り出されるパンチに蹴りの攻防が続く。

「いくぞッ!」
「ムウ……!?」
レオーネの気迫のアッパーがギースのガードを崩す。

そして―――

右拳をギュッと握りしめて―――

ドゴォ!!!!!

「グッ!?ぅぅぅ!!」
腰の入った一撃がギースの腹にめり込む。
鳩尾に近い箇所での一撃は流石のギースも体型を崩す。

さらに―――

ジャンプからの脳天へ向かってハンマーパンチ。
その後、ギースと距離を取り、再び構える。

「どうだいッ!」
へへッと左の人差し指で鼻を擦るレオーネ。

「……」
ギースは立ち上がると首を左右に動かす。
二ィと不敵な笑みを見せると―――

「その勇猛果敢な喰らいつき。女は女でも獅子か。……いいだろう。なら私の牙であの世へ行かせてやろう」
ギースは言葉と同時に両手を大きく振り上げ―――

―――ゾクッ
レオーネの全身の肌が危険を知らせるかの如く震える。

「レイジ―ング《パンッ!パンッ!》」

「「!?」」

相対する両者の耳に銃声が―――

銃声が鳴りやむと、銃痕が二人の足元に出来ている。

「―-そこまでよ!」
凛とした声。

ギースとレオーネが銃声の方角を向くと―――

爛々と照らす紅き月を背中に緑髪の女と緑服の男が民家の塀の上に立っていた。
藤堂悠奈とミスターLである。

☆彡 ☆彡 ☆彡

129ナイトレイドを斬る ◆s5tC4j7VZY:2021/08/07(土) 06:15:15 ID:LjBNvBwI0
「……勝負に横やりをしおって。女、覚悟は出来ているのか?」
ギースの鋭い目線は悠奈を突き刺す。
だが―――

悠奈は毅然とした態度を崩さない。

「覚悟?そんなのとっくに出来ているわ!それより、今すぐ争いを止めなさい!この場は私が預かるわ!」
死闘に乱入した悠奈は、高らかに宣言する。
その言葉には強い意志がそのまま込められていて、ギースとレオーネを睨む。

「そのまま動かないで。もし、武器を持っているなら捨てなさい。言うことに従わないなら……実力でいくわよ!」
「このミスターLもな!」
悠奈の挑発にもとれる言葉と同時にミスターLはクルクルと回転して塀から降りる。

「面白い。銃があるから私に勝てると思っているなら後悔するぞ?」
(コルトパイソンか……ちッ、緑娘には過ぎた威力の銃だな……)
悠奈のコルトパイソンを見つつもギースは心中で舌打ちをする。
.357マグナム弾は優れたストッピングパワーを有する。

ギースの鍛え上げられた肉体をもってしても、直撃は不味い。

「ねぇ、そこの緑髪のお嬢ちゃん。ちょいと質問したいことがあるんだけどいいかい?」
「……いいわ。何を聞きたいの?」
「この場を預かるといっていたけど、お嬢ちゃんは何が目的なんだい?」
(ふーん。どうやら漁夫の利をとろうって風じゃないみたいだ……なら一体?)
レオーネは緑髪(悠奈)の意図を探る。

「あいつ等の下らないゲームに乗る参加者は簀巻きにでもして、乗らない参加者を一つに纏めるだけよ」
「簀巻き……それは命は奪わないということ?」
「ええ」
「……それは、どうして?」
「私たちの目的は誰1人として死者を出さないことだから」
悠奈はレオーネの質問に一つひとつ淀みなく答える。

「……フン。興ざめだ」
(誰、1人として死なせないだと?……くだらん!こんな甘い思想を持つ女と相手をしている暇はない!)
横やりだけでなく、悠奈の目的はギースの闘争心を大きく損なわせた。
悠奈達並びレオーネに背を向けると歩きはじめる。

―――ザッザッ

「おや、逃げるのかい?」
「フン。そういうお前も続ける気がなくなってるだろう?」
「まぁ……ね。だけど、依頼を受けちまってるから悪いが、このまま逃がすわけにはいかないよ」
既にギースの戦意は失っている
レオーネも水を差されたこの状況には正直、辟易としているが、ユウと名乗る少女から助けを求められた。
ナイトレイドはロクデナシの始末を請け負う。
殺し合いに乗るロクデナシを見逃さない。

「待ちなさい」
銃口が背を向けるギースに向けられる。

「これ以上、行くつもりなら、悪いけど撃つわ……それと、私、結構狙うの上手よ。貴方、格闘家でしょう?足を撃たれたら、満足に闘うことはもうできなくなるわよ!」
悠奈の観察眼による脅迫。

「……」
(この女……ハッタリではなさそうだ。この状況は……ヌゥ)
ギースも悠奈の醸し出す雰囲気からそのまま立ち去るのは困難と感じ足を止める。

―――そして、怒りが爆発する。

「チッ……んんんんー、許るさーん!! 私の遊びを邪魔しおって!!」
悠奈たちをうっとおしいと感じるギースは怒りの声で叫ぶとデイパックからボールを取り出すと投げる。

―――ボシュゥゥゥゥ……

「きゃ!?」
「うおッ!?」
「煙幕かッ!!」
煙が辺り一面に充満する。

―――ゥゥゥゥゥ……

煙が晴れるとそこには―――既にギースは居らず、立ち去っていた。

☆彡 ☆彡 ☆彡

130ナイトレイドを斬る ◆s5tC4j7VZY:2021/08/07(土) 06:15:32 ID:LjBNvBwI0
「……チッ」
(逃げられたか……ライオネルを装備していたら逃がすことはなかったのに……)
先ほど述べた帝具『ライオネル』が強化するのは嗅覚も含まれているため、索敵も可能なのだ。

「逃げられたな」
「……そうね」
(しくった……支給品には逃走手段のもあるのね。次はトチらないようにしなきゃ)
ギースに逃げられ、悠奈は失敗したと悔やむ。

(それじゃあ、早くおい「待ちなさい」)
ギースを追いかけるため、レオーネもこの場を立ち去ろうとするが、それを見逃す悠奈ではない。

「私はあの金髪男と違って乗ってないけど」
両手で降参ポーズをとりながら悠奈に話す

「そう、それは重畳。だったら、私たちと行動しない?」
悠奈はレオーネを勧誘する。

「……あたしさ」
レオーネは悠奈とミスターLに自身の住んでいた国……帝都のことを話す。

☆彡 ☆彡 ☆彡

131ナイトレイドを斬る ◆s5tC4j7VZY:2021/08/07(土) 06:16:02 ID:LjBNvBwI0
「「……」」
レオーネの話が終わると、悠奈とミスターLは黙り込む。
自分の住む国と明らかに違う国の惨状に。

「ま、今はもう革命が成功したから”やさしい国”になるよう皆、頑張っているところさ。後は、さっきも話したけど、悪いけどさ……世の中には殺さなきゃ報われない民もいるのよ。あたしはそのドブさらいに適してる。だから、あたしはあんた達と行動できない」

―――ザッ!ザッ!ザッ!
レオーネは立ち去る―――

「……ッ」
(彼女……レオーネの住んでいた帝都の人間たちの行為は確かに許せてはおけない。それでも、私は信念を曲げない。だけど……彼女をどう説得すれば……)
悠奈の脳裏には、迷いが生じる。
ゲームには乗ってはいないが説得ができそうもない参加者の対処に―――

すると―――

―――ポミュ♪

「しっかりしろ」
「ミ……ミスターL」
悠奈のほっぺを両手で添えるミスターL。

「ユウナの目指すやり方、オレは正直懐疑的だった。だけど……ユウナの信念にオレは心を揺さぶられ、ついていこうと決めたんだッ!!!だから……迷うな。それと……オマエの良さは思い切りの良さ、行動力だ。あのライオン女にぶつけてこい!お前の信念を!」

―――スゥ……ハァ―――
悠奈は大きく息を吸い、吐くとミスターLの瞳を直視すると―――

「そうね!私は信念を貫く!ごめんなさいミスターL。……そして、ありがとう(ハート)」
悠奈は言い終えると、レオーネを追いかけるッ!!!

「……頑張れよ///」
ミスターLは照れを隠すため深く帽子を被り直す―――

☆彡 ☆彡 ☆彡

132ナイトレイドを斬る ◆s5tC4j7VZY:2021/08/07(土) 06:16:49 ID:LjBNvBwI0
―――ザッ

「はぁ……はぁ……待ちなさい」
「……ハァ」
追いかけてきた悠奈の呼びかけにレオーネは振り向く。

「なんだい?……いっとくけど、何度言われたってあんた達との行動はお断りだよ?」
(そう……あたしは正義のヒーローなんかじゃない。やっていることはドブさらいの殺し。そんなあたしがヒーローだなんて……)
悠奈とミスターLとはけっして交わらない道。
レオーネの態度は傍目から見ても膠着しているのが伺える。

「……私、肩がよく凝るのよね」
「……へ?」
まさかの悠奈の言葉に呆気にとられるレオーネ。

「だから……肩が凝りやすいのよ私」
ほんのりと頬を赤らめながら話す悠奈。

「へぇ……ならマッサージ店でも通ったらどうだい?ここには色々なお店もあるみたいだから」
「ええ。でも、ここのマッサージ店に人がいないから……貴方にお願いするわ」

―――ピクッ……

「「……」」
沈黙の風が流れる―――

「言っただろ!?あたしは生前、ロクデナシの殺し屋だったんだよ。今更……」
「聞いたわ。だったら、尚更いいじゃない。ロクデナシだった貴方は生まれ変わり、今度は正義のマッサージ師として活躍するなんてどう?」
ニッと笑顔で提案する悠奈。

「……」
レオーネは口をポカーンと開けて―――

―――プッ

「正義のマッサージ師!?……あっはっはっ!こりゃ笑えるわ!」
腹を抱えながら笑うレオーネ。
目には涙を添えて―――

「あ―――久しぶりに思いっきり笑ったよ」
(正直、緑髪の掲げるその”信念”は甘ったるい……だけど、それも……悪くないか)
天が裁けぬその悪を闇の中で始末してきた人生。
まさか、闇の中から出る人生を選んでもいいなんて―――

―――スゥ。
悠奈に向かってレオーネは手を差し出す。

「あたしの名前はレオーネ。よろしくね、ボス♪」
「私の名前は藤堂悠奈。あと、呼び名だけど、ボスじゃなくてユウナでいいわ」
―――両者は握手を交わす。

「……フン!」
(やったな!ユウナ……)
悠奈とレオーネのやり取りを微笑ましく眺めるミスターL。

☆彡 ☆彡 ☆彡

それから互いにいくつか情報交換を済ますと―――

「私たちは立ち止まってはいられない。さぁ、行くわよ!」
「ああ!」
「はいよ♪」

悠奈は己の目指す道を実現させるための仲間を増やした。

貫く信念が揺るぎない思いが闇を生きる殺し屋を斬り、光の舞台に立たせた―――

「ところで、あたしも髪の色、”緑”にしないとダメ?」
「……しなくてもいいわ💦」

133ナイトレイドを斬る ◆s5tC4j7VZY:2021/08/07(土) 06:17:34 ID:LjBNvBwI0
【D-3 北部/一日目/黎明】

【ミスターL@スーパーペーパーマリオ】
[状態]:健康、
[装備]:無し
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考・状態]
基本:悠奈のバカバカしい生き方とやらで主催共を叩き潰す
1:ユウナ・レオーネと行動を共にする
2:伯爵サマたちは一体何処にいるんだ?
3:ヒーロー……か
[備考]
※参戦時期は6-2、マリオたちに敗北した直後
※悠奈からリベリオンズの世界について簡単な知識を得ました。
※名簿から伯爵さまたちが参加していることを知りました。
※悠奈から”拳銃”の脅威を知りました。
※レオーネからアカメの世界について簡単な知識を得ました。

【藤堂悠奈@リベリオンズ Secret game 2nd Stage】
[状態]:健康 緑髪
[装備]:コルトパイソン@ リベリオンズ Secret game 2nd Stage
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜2 予備弾数多め
[思考・状態]
基本:なるべく多くの人を助け、殺し合いを止める
1:ミスターL・レオーネと行動を共にする
2:彰……私は……
3:殺し合いに乗っていない参加者達を一つにまとめる。乗った参加者は無力化して拘束する
4:もう少し、威力が低い銃もほしいわね……あと、逃走用の対策も練らないと……
5:たとえ、どんな状況でも挫けず信念を貫く
[備考]
※参戦時期はAルート、セカンドステージ突入語で修平達と別れた後
※緑髪に染めました。
※運営が死者を蘇らせる力を持っていると推測しています。
※ミスターLからスパマリの世界について簡単な知識を得ました。
※レオーネからアカメの世界について簡単な知識を得ました。
※金髪の男は簀巻きにするとケツイしました。

【コルトパイソン@リベリオンズ Secret Game 2nd Stage】
回転式拳銃 。これを使用するからといって、特にモッコリはしません
「ふ、ははは……シビれるな、この感触はよぉ。」by黒河正規

134ナイトレイドを斬る ◆s5tC4j7VZY:2021/08/07(土) 06:17:57 ID:LjBNvBwI0
【レオーネ@アカメが斬る!】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(小)、
[装備]:ホープナックル@グランブルーファンタジー
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜2(確認済み、ライオネルなし)
[思考・状況]
基本方針:メフィス達、覚悟できてんだろね。
1:民の為にもう一度戦いますかね。正義のマッサージ師として。
2:アカメを探……さなくても大丈夫だよね。親友を信じろって。
3:帝具なしでエスデスとかは会いたくねーな! あっても会いたくねーな!
4:優勝するしかなくなったらどうしよ。いや、正義のヒーローが勝つって決まってる。
[備考]
※参戦時期は死亡後(アニメ版意識ですが漫画版でも問題ないです)
 ただ漫画版であればライオネルと少し融合してるため状態表が変わります。
※悠奈からリベリオンズの世界について簡単な知識を得ました。
※ミスターLからスパマリの世界について簡単な知識を得ました。
※悠奈

【ホープナックル@グランブルーファンタジー】
眩き生命の奔流を表したかのように光り輝くその拳は、何度でも果てなき栄光へと挑む運命にある。
何度ままならぬ現実に地を叩くことになったとしても、不屈を貫いた先に使い手は真なる希望を掴むことだろう。
とされる、ゲーム上ではSSRフェザー解放武器の格闘(ゲーム上では主に籠手やかぎ爪に該当)武器。
光属性を強化する天光の攻刃のスキルがあるかどうかは後続の書き手にお任せします。
(第二スキルライト・ブロウについては再現が難しいと思われるので除外してますが、再現可能ならどうぞ)
因みにレオーネはディバインゲートコラボの際光属性にされましたが、
これが適応されるかどうかも後続の書き手にお任せします。

☆彡 ☆彡 ☆彡

「あの緑共……I do not like it(気に入らない)」
ギースの脳裏から悠奈達の姿が離れない。

「ああいう、The weak are dying(弱者が死んでいく)」
不快とイラつく気持ちをなんとか抑えて、新たな闘争相手を探しに往くギース。

―――惡の華はいまだ咲き誇る。

【D-3 /一日目/黎明】

【ギース・ハワード@餓狼伝説シリーズ】
[状態]:ダメージ(中) 疲労(極小) 不快
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2(確認済み)スモークボール@大貝獣物語2×4
[思考・状態]
基本:殺し合いに乗り優勝する。あわよくば主催すら越えて最強を示す
1:次の相手を探す。
2:カインにはそれなりの期待
3:ロックは少し程度は期待。
4:ホワイトはどうでもいい。
5:緑達には付き合ってられない。
[備考]
※参戦時期はリアルバウト餓狼伝説での死亡後です。
※ギースの向かう方向は次の書き手様に委ねます。

【スモークボール@大貝獣物語2】
投げ専用アイテム。ボス以外100%逃走
ここ、辺獄では100%ではないが、逃走を防ぐには、何かしらの対策が必要。

135ナイトレイドを斬る ◆s5tC4j7VZY:2021/08/07(土) 06:18:17 ID:LjBNvBwI0
投下終了します。

136 ◆s5tC4j7VZY:2021/08/07(土) 06:24:46 ID:LjBNvBwI0
司城来夢、不動明、野原みさえ、フェイト・テスタロッサで予約します。

137 ◆s5tC4j7VZY:2021/08/08(日) 07:40:18 ID:UH/4h6Tc0
投下します。

138誰が私を Who Called Me? ◆s5tC4j7VZY:2021/08/08(日) 07:41:58 ID:UH/4h6Tc0
母親ーーーーー親のうち、母である親。女親。
国語辞典ONLINE.より引用。

「……」
呆然とした顔つきでふらふらと歩いている来夢。
当てもなく歩く姿は普段の彼女を知る者が見たら驚くであろう。

「……」
(一体、ライムの身に何が起こってたの……?)
先ほどまで、自分の意識はまったくといっていいほど、失っていたような状態だった。

「……」
(おそらく、あの時に操られたんだ……)
原因として心当たりがあるのは、十字路で出会ったメガネをかけた肌が青い女性との邂逅。
なぜならそれ以降だ。意識が、チカチカとしただけでなく、自分の脳裏に『ビバ伯爵』という謎の言葉がリフレインされていたのは。
そして、来夢の読みは間違ってはいない。
そう、アナスタシアの異能「チョーサイミンジュツ」により意識が混濁していた。

(だけど、たとえ操られていたとしても……)

―――チラッ。

来夢は自分の両手と服を見る。

―――血まみれ。

「ライムが殺した……」
目を瞑っても消えない。
混濁した意識が戻った時、目の前にいた……アイドル……せつ菜という女の子のホッとした笑顔が。

さらに―――

「思い……出して……貴方の大好きなせか……いを……」
女の子の今際の言葉が脳内から離れない。

それに加え―――

「せつ菜ちゃんは、最後まで君を助けようとしていたよ」
「それと、せつ菜ちゃんはアイドルをしていたんだけど、もう二度とファンの前で歌えなくなったよ。……君のせいで」
せつ菜と同行していた少年が捨て台詞のように吐いて逃げた言葉―――
ライムが犯した罪の楔として心を貫き、未だ消えずに残る。

(ライムは……ユズやヒナちゃんにどんな顔で会えばいいの―――?)
これまで来夢は夕月、日菜子と共に世界を救うため、原種を倒していた。
夕月と比べると比較的ドライであるため、時には人の感情を利用したこともある。
だが、”人を殺した”ことはない。

だけど―――

―――殺した。

自分を助けようと奮闘し、笑みを浮かべた子の首をライムは刎ねた。
彼女の”大好き”を断ち切った―――ライムが。

「ユズ……ヒナちゃん……ライムは……」
頭痛が鳴りやまない。
来夢の心は阿修羅地獄に一人残されている―――

☆彡 ☆彡 ☆彡

139誰が私を Who Called Me? ◆s5tC4j7VZY:2021/08/08(日) 07:42:18 ID:UH/4h6Tc0
「何があったのかしら……」
(まるで、怪獣が暴れた後みたいだわ……)
「……」
(これは……魔力?いや、それとは別な力かな……1つ……いや、2つ?)

みさえとフェイトの瞳に映るのは廃墟と化したC-5。
絢爛豪華であった平安京の一画はみるも無残な街並みと化していることにみさえは呆然として眺めている。
片やフェイトは、廃墟と化した残骸に纏っている痕跡に魔力に近いのを感知し顔を顰める。

(あなた……しんのすけ……マサオ君。まさかここにはいないわよね?)
家族と息子の友達を探しているみさえだが、ここにいないことを祈っていた。
もし、この廃墟に愛する夫と息子または息子の友達がいたら?
そう―――
愛する者や見知った子の■■があったとしたら――――
みさえの心に影が落ちる。

その時―――

「なに、この悲鳴は……!?」
「みさえさん。あそこに人が!」
どことなく聞こえてきた悲痛な叫び。

そこに向かうと―――

―――少年が膝から崩れ落ちた格好で佇んでいた。

☆彡 ☆彡 ☆彡

―――ザッ。

「……誰だッ!!!」
明は自分に近づく気配に警戒して振り向き、いつでも戦闘ができるように構えを取る。

「安心して。私たちは怪しい者ではないわ。私は野原みさえ。この子は……」
「フェイト・テスタロッサです」
(この男の人……先ほどの魔力らしき力の持ち主ッ!?)
みさえは警戒している明を安心させようと自己紹介する。
フェイトもみさえに続いて自己紹介をするが、明の身に纏う悪魔の力を感知した。

「……」
(守る価値もない有象無象の人間共か……だが、政たちのことを知っているかもしれない。話だけでも聞くとするか……)
最愛の人、牧村美樹を失った今、政たちを除けば守るべき人間は既にいない。
しかし、何か手がかりを得られるのではと思った明は怒りを抑えつつ、みさえ達と情報交換をした。

「何だと?……本当にあんたたちは悪魔を知らないのか!?」
「え……ええ。それに198X年に悪魔がいたなんて聞いたこともないわよ」
明は悪魔を知らないみさえとフェイトに驚きを隠せない。

「……おそらく、明さんは私やみさえさんとは違う世界の住人のようですね」
(……そう。つまり、先ほどのは、魔力ではなくて悪魔の力なのね。……だけど、もう1つの力は……?)
フェイトは明の話から残骸の残っていた2つの力の源は魔力ではなく、1つは悪魔の力だと結論付けた。

「どういうことだ?」
フェイトの言葉に明は首を傾げる。

フェイトは明に自身の推測を話す―――

―――かくかくしかじか。

「別の世界だって!?そんな……バカな話があるのか!?」

「私も最初は驚いたけれど、あなたの悪魔の話を聞いて、フェイトちゃんの推測の裏付けができたわ。それに、フェイトちゃんがいう魔法少女という存在はあなたの世界にはいるの?」

「……」
(たしかに俺は魔法少女なんて存在は知らない。……だとするならば、主催の奴らは死者を蘇らさせるだけでなく、異世界の住人まで拉致する力があるといのか―――)
想像していた以上の主催の力に明は動揺を隠せない。

「……みさえさん。向こうから人が」
新たな来訪者の気配に気づくとみさえに知らせるフェイト。

フェイトの知らせを受け、みさえと明は視線を向けると確かに女の子が歩いてきた。

―――地獄にさまよう血まみれの少女、
―――司城来夢。

☆彡 ☆彡 ☆彡

140誰が私を Who Called Me? ◆s5tC4j7VZY:2021/08/08(日) 07:42:51 ID:UH/4h6Tc0
「ちょ……ちょっと、貴方大丈夫!?」
みさえは血まみれの少女に心配の声をかけながら近寄る。

「……」
(これは……返り血!」
フェイトは少女の服に付着している血痕が他人の血だと推測する。

すると、すぐさま―――

「みさえさん。離れてください!」
フェイトはみさえを少女から引き離すとバショー扇を構える。

「フェ……フェイトちゃん!?どうしたのよ!?」
みさえは訳が分からず、フェイトに理由を尋ねる。

「……」
(この女、誰か殺したな。こんな状況でも平気で殺し合う……やはり、人間は守る価値はないッ!)
明もフェイト同様、来夢が人を殺したと判断すると同時に牧村家での悲劇を想起したのか、抑えていた人間への憎悪があふれ出す。

―――その時。

「スト〜〜〜〜〜ップ!いい!とにかく一度、彼女の話を聞く!行動はそれからよ!」
みさえはフェイトと少女の間に立つと、フェイトを立ち留まらせる。
「でも、みさえさん……!」

「フェイトちゃん!!!」
焦りもあったのか、みさえは声を張ってしまう。

「……ッ!!」
みさえの張った声にフェイトは体をビクリと震わせる。

図らずも思い出したのだ―――

―――母、プレシア・テスタロッサから受けていた心に深い傷を残す虐待行為。むち打ちの痛さを。愛されなかった証を。

「……ッ!」
(しまったわ!?私としたことが……!)
その様子を見たみさえはすぐさまフェイトを抱きしめる。
今までのフェイトの言動からおそらく、実の母親から虐待、もしくはそれに近いことをされていたのではと、みさえは人の子を持つ母として察していたからだ。

「ごめんなさい、フェイトちゃん!嫌なことを思い出させて!……それと私のことを案じて起こした行動だとはわかるわ。でもね、訳も聞かずに争うなんて、嫌なのよ私は……」
「……みさえさん」
みさえの悲痛な言葉にフェイトは矛をしまい―――

フェイトを優しく抱きしめたみさえの行動に明も矛を自然と納めていた―――

「おねがい……何があったのか話してくれるかしら?」
みさえの優しい声に―――
それとも地獄から抜け出したいのか―――

「……実は」
来夢は3人にここまでの顛末を語りだした―――

☆彡 ☆彡 ☆彡

「「「……」」」
みさえ達は来夢の話が終わるまで、黙って聞いていた。

「そ、そう……そんなことが……」
(そんな……ッ!来夢ちゃんは悪くないわッ!悪いのはメガネをかけた青肌女よ!それに……せつ菜ちゃんと同行していたらしき男の子も怪しいわね)
来夢の話を聞く限りでは、何も過失はないことは明らかだ。
悪いのは、催眠術らしきのをかけた女。
それと、疑惑の行動を起こした男の子も気になる。
だが、怪しい男の子のことについては、いったん隅に寄せる。
そして、みさえは来夢に何て声をかけたらいいか悩む。

「……」
話すことを終えて、無言で佇む来夢。

「で、でも来夢ちゃんは、もう意識を取り戻したのよね。そうだ!なら、私たちと行動をしない?」
「……はい?」
みさえの提案に来夢は聴き返す。

「来夢ちゃんも自分の世界を救うために、その原種というのとフェイトちゃんや彼……明君みたいに闘ってきたのでしょう?それは、心強いわ!リフレクターっていう力を見たら、きっとうちの夫や子も目を輝かせるし、来夢ちゃんが一緒に行動を共にしてくれたら100人力よ」
(おそらく、来夢ちゃんはせつ菜ちゃんというアイドルの子を殺してしまった現実に……彼女の同行者の捨て台詞に心が縛られている。……なら、あえてそれ(殺害したこと)を安易に否定しない。それが……私にできること)
気休みは来夢に響かないと判断したみさえは敢えて、気が紛れられるような提案を選択した。

「……」
沈黙の来夢

やがて―――

口を開く―――

「……どうして貴方はそんなに楽観的なことを言えるのですか?」
「……え?」
来夢の呟きにみさえは体を膠着させる。

141誰が私を Who Called Me? ◆s5tC4j7VZY:2021/08/08(日) 07:43:08 ID:UH/4h6Tc0
「だってそうじゃないですか?話を聞く限り、今一番戦力にならないのは貴方なんですよ?そんな貴方がこの殺し合いに何の役が立つというのですか?大方、そこの少女や男の人の力を利用して家族を守ろうとしているんじゃないのですか?」
リアリストの来夢だからこそできる指摘。
それと、力を持つ者に庇護され、手を汚していないみさえに対する嫉妬……八つ当たりといった感情も含まれている。

「……」
みさえは黙って来夢の八つ当たりを……想いを受け止める。

「……」
(たしかに……あの女の言う通りだ。いくら、崇高な信念を掲げても力が伴わなければ、それは絵に描いた餅でしかない)
みさえの抱きしめると言うとっさの行動に明は呆気にとられて、行動を起こせなかったが、冷静を取り戻して話を聞くと、来夢の言い分の方に明は理解を示す。

―――そのとき。

(……ん?な、なんだ……?」
突如、明の脳裏に再び赤で染め上げられた大地が浮かぶ。
影たちが現れるまでは先ほどみた映像と大差ないが、違う映像も映し出した。
それは―――蠢く影たちに混じった見覚えがある影の追加―――

―――野原みさえ、フェイト、来夢の影が……

「あのね、来夢ちゃ「ッ!!!???う゛う゛ぉぉおおお!!!???」」
強烈な吐き気に明はえずく。

「明君!大丈夫!?」
来夢に応えようとしたが、明の苦しみにみさえは言葉を中断するとすぐさま、近寄る。

「……ッ!!??」
(な……今のは、何なんだ!?)
謎の映像に乱れ、息の動悸が止まらない―――

「大丈夫よ……落ち着いて」
みさえは必死に明の背中を優しく摩る。

☆彡 ☆彡 ☆彡

142誰が私を Who Called Me? ◆s5tC4j7VZY:2021/08/08(日) 07:43:28 ID:UH/4h6Tc0
「どう明君?スッキリしたかしら?」
みさえはデイバックから水を取り出すと明に飲ませる。

―――ゴク……ゴク。

「ふぅ―――……ああ。すまない……心配をかけた」
明は申し訳なさそうにみさえに謝る。

「いいのよ。この中では私が年長者なんだから、遠慮なく頼りなさい」
みさえは明に優しく微笑む。

「それじゃあ、明君が落ち着いたから、改めて来夢ちゃんの想いに応えるわ」
みさえは神妙な面持ちで話し始める。

「確かに私は普通の主婦よ。……来夢ちゃんのリフレクターや明君のデビルマンといった力を持ってはいないし、フェイトちゃんのように魔法少女でもない。闘う力はこの中で1番下……でもね、愛する家族を守るためならどんな相手にだって立ち向かう。それが母親ってものなのよ!その想いは参加者の中でも1番と私は自負するわ!だから私は殺し合いなんかに負けないし、他人の力を利用するなんてこれっぽっちも考えたこともない!」

みさえは来夢、明の目線から目を背けず言い切るッ!

「みさえさん……」
フェイトは改めてみさえ……母親という存在の温かさを感じ取る。

「「……」」
来夢と明はみさえの熱のこもった啖呵に黙る。

「つらかったわね、来夢ちゃん」
「……え?」
みさえの不意の声かけに来夢はキョトンとする。

「大丈夫。殺してしまったアイドルの知り合いの子達はあなたを許さないかもしれない。でも、私は……来夢ちゃんの味方よ」
「ッ!?」
みさえの言葉に来夢は体を震わせる。

「せつ菜ちゃんは、最後まで君を助けようとしていたよ」

「な、なにを……ど、同情のつもりですか!?ライムはそんな憐れみを「ううん。そうじゃない」
来夢の言葉を優しく遮るみさえ。

「確かに、来夢ちゃんがしてしまったことをなかったことにはできないわ。でもね、貴方はまだ学生なのよ。やり直しのチャンスぐらいあっていいじゃない」
「ッ!?」
みさえは来夢を優しく抱きしめる。

「それと、せつ菜ちゃんはアイドルをしていたんだけど、もう二度とファンの前で歌えなくなったよ。……君のせいで」

「本当に……ライムにやり直しのチャンスがあると思いますか?」
「ええ、もちろんあるにきまってるじゃない。……ね。今は思いっきり泣きなさい。大丈夫、それを邪魔するのはここには誰もいないわ」

「み……みさえさん……う……うう……うわぁぁぁぁぁあああああ!!!!!」
(なんて……なんて温かいエーテルなの―――)

みさえの言葉に、来夢は普段のドライな一面を捨て、感情を露わに―――

―――みさえの胸で泣いた。

まるで本当の子のように―――

☆彡 ☆彡 ☆彡

143誰が私を Who Called Me? ◆s5tC4j7VZY:2021/08/08(日) 07:43:45 ID:UH/4h6Tc0
「あの……みさえさん。ありがとうございます。本当に」
来夢はみさえに感謝の言葉を述べた。
完全に吹っ切れたわけではない。
だが―――

その顔は阿修羅地獄から抜けだした顔だった。

「いいのよ、来夢ちゃん。また寂しくなったらいつでも私の胸を貸すわ」
「……はい」

「……」
(何なんだ?この女は……?)
明は信じられないという顔をしている。
さっきまで、心がほぼ死んでいた女が生き生きとした表情になっていた。

―――それも”力”といった手段を使わずに。

「じゃあ次は、明君の番ね」
みさえは明を抱きしめようとする。

「なッ!?や、やめてくれ!俺はもう子供じゃないんだ!」
明はみさえの行動を制止しようとする。

―――が。

「な〜に、恥ずかしがってるのよ。明君まだ未成年でしょ?なら充分子供よ!……ほら!遠慮しない」
(デビルマンのことを話ていた明君の表情に陰りが見えた。きっと明君も何か悲しい出来事があったみたいね。でも、無理に聞きだすのは止めておきましょう……)

「ちょっ……」
みさえは恥ずかしがる明を包み込むように抱く。

「……」
(なんて……暖かい。これが、人の……母親の愛情というものなのか……おれは……人間をもう一度信じたい……)
牧村家の悲劇を通して守るべき人間に絶望した明だが、みさえの母性を感じる。そいて今一度、悪魔人間(デビルマン)として戦いぬくという思いが生まれ、密かにケツイを深めた。

鬼の目にも涙ならぬ悪魔の目にも涙。
明の目から静かに一筋の涙がタラリと流れ落ちた―――

☆彡 ☆彡 ☆彡

144誰が私を Who Called Me? ◆s5tC4j7VZY:2021/08/08(日) 07:44:08 ID:UH/4h6Tc0
「みさえさん。これを受け取ってください」
牧村家の家族に話しかけるときのように多少柔らかい口調で、そう言いながら明がみさえに手渡したのは―――

―――猟銃だった。

「え?これって……猟銃じゃない!?どうして私に!?」
いきなり猟銃を渡され戸惑うみさえ。

「もし、俺が理性を亡くしたら迷わず、心臓を撃ち抜いてほしい」

「「「!!!???」」」
明の申し出に3人は驚愕する。

「おそらく、今の俺はやつ……アモンに意識を乗っ取られている可能性が高い。今は人間不動明としてあなたがたと接することができているが……いつアモンと意識が変わるのか分からない。そして……アモンとなったおれは、あなたがたを容赦なく殺すでしょう」
(そうではないと、願いたい……だが、あの脳裏に浮かぶ光景……あれが真実あたは現実となるのだったとしたら俺は……)

明の言葉に静寂の時が流れる―――

「そ……そんなの”ええわかったわ”と言えるわけないじゃない!」
みさえは、怒りつつも明から手わされた猟銃を突き返す。

「みさえさん。俺はあなたがたを殺したくない」
そう、悪魔人間としての純粋な想い。
もっとも正確には”野原みさえ”だが。

「だからって……!」
「それから、フェイト、来夢。2人もいざというときは、迷わず俺を殺せ」
悪魔人間として悪魔に堕ちることだけはなんとしてもさけたい。
明は納得していないみさえを余所にフェイトと来夢にも想いを託す。

「……」
来夢は即答できない。
ただ、今の来夢にとって野原みさえはユズやヒナちゃんと同じぐらい大切な人となっている。
故にみさえをみすみす殺させたくない感情が大きい。

「……わかりました。その時は私が」
(そうはいうものの、明さんの悪魔人間としての力は今の私では到底敵わない。せめて、バルディッシュがあれば……)
片やフェイトは了承した。
”野原みさえ”という人の温かさを感じた者同士だからこそ明のシンパシーに同調したのかも知れない。

「ありがとう」
明は承諾したフェイトに礼を言い頭を下げる。

「フ……フェイトちゃん!?……駄目よ!そんな……子供が殺しだなんて!」
まさかのフェイトの意思表示にみさえは戸惑いを隠せない。

「……みさえさん。私もできることなら、殺しなんてしたくありません。でも……明さんの想いを私は尊重したいです」
(きっと、私が殺しをしたら、アースラの皆は悲しむよね)
フェイトの脳裏に浮かぶのは巡航艦『アースラ』に搭乗している面々。
母が犯した事件の重要参考人となったフェイトを一日も早い社会復帰を手伝ってくれた。

(そして―――なのはも)
戦って―――
戦いながら触れ合って―――
伝え合ってわかりあった最高の親友。

だが、フェイトの親友である『高町なのは』も明同様に八神将とされていることを知らない。

「とにかく!この話はもうお終い!ネガティブなことばかり考えてたら本当に起こっちゃうものなの!いい!?わかったかしら!!!」
「「「……」」」

みさえはこの話題を無理やり打ち切った。
3人もみさえの剣幕に近い表情と声に話題を渋々ながらも打ち切るのに同意した。

(人が人を殺すなんて……絶対に間違ってるわ。アモンだかアンコだか知らないけれど、明君は人間よ!アンタなんかの好きになんてさせないわ!)

だが、みさえの想いと裏腹に現実は非常である。
既にこの舞台に居るデビルマンこと不動明は宿業を埋め込められ、魂を弄り回されている。
今は、元の人格である”不動明”が表に出ているが、既に”狂気”に落ち、”本来の有り方を捻じ曲げられている”。

不動明が八神将としての役割を放棄することは、ほぼ無いといっていいだろう。

近い内にみさえは決断を迫られる―――

――とても惨酷で悲痛な決断を選択するのかどうか。

145誰が私を Who Called Me? ◆s5tC4j7VZY:2021/08/08(日) 07:44:41 ID:UH/4h6Tc0
【C-5/一日目/廃墟/早朝】

【野原みさえ@クレヨンしんちゃん】
[状態]:健康 アモンに対する怒り
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、如意棒@ドラゴンボール、ランダム支給品1~2、飛鳥了の猟銃@デビルマン(漫画版)
[思考・状況]
基本行動方針:家族を探す
0:しんのすけ達はどこにいるのかしら...
1:フェイトちゃん・来夢ちゃん・明君と行動する
2:本当に魔法が存在するのね...
3:この世界はパラレルワールドなのかしら...?
4:たとえ、明君がアモンってやつに意識を奪われたとしても死ななくて済む方法があるはずだわッ!
5:たとえ、許してもらえなかったとしても、私は来夢ちゃんの味方をするわ……

【備考】
※映画の出来事を経験しています
※来夢の事情を知りました。(せつ菜を殺めた顛末)
※来夢からブルリフの世界について簡単な知識を得ました。
※明からデビルマンの世界について簡単な知識を得ました。(最愛の人である美樹を人間に殺されたことは知りません)

【如意棒@ドラゴンボール】
主人公の孫悟空の武器の一つで「伸びろ」や「縮め」というと如意棒がその通りに伸縮する物
※伸びる長さは最大25mまで

【飛鳥了の猟銃@デビルマン(漫画版) 】
デビルマンこと不動明に支給されていた猟銃。今の所有者は野原みさえ。
改造された猟銃でデーモンであるシレーヌの肉体を貫く威力を有する。
「ピストルは手に入りにくくてね。猟銃を改造したものです」by飛鳥了

【フェイト・テスタロッサ@魔法少女リリカルなのは】
[状態]:健康 みさえに対して安らぎの心情
[装備]: バショー扇@ドラえもん
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~2
[思考・状況]
基本行動方針:みさえさんの家族を探す
0:みさえさん・来夢さん・明さんと行動する
1:家族って...良いものなんだね...
2:他の人達もそれぞれ別々の世界からつれてこられてるのかな...
3:みさえさんには申し訳ないけど……もし明さんが意識を奪われたら、私が―――.
4:バルディッシュ……誰かに支給されているのかな….

[備考]
※参戦時期は少なくとも第一期のプレシア事件の後です
※デバイスのバルディッシュは装備していません
※来夢の事情を知りました。(せつ菜を殺めた顛末)
※来夢からブルリフの世界について簡単な知識を得ました。
※明からデビルマンの世界について簡単な知識を得ました。(最愛の人である美樹を人間に殺されたことは知りません)

【バショー扇@ドラえもん】
どんな種類の風でもだすことのできる扇。握りの部分のダイヤルで風の吹き続ける時間、マイクで香りなどの風の種類、扇の振り方で風向きや強さを自在に操ることができる。

146誰が私を Who Called Me? ◆s5tC4j7VZY:2021/08/08(日) 07:45:27 ID:UH/4h6Tc0
【司城来夢@BLUE REFLECTION 幻に舞う少女の剣】
[状態]:疲労(小) 負傷(小) 罪悪感 服全身血まみれ みさえに対して安らぎの心情
[装備]:火車切広光@11eyes -罪と罰と贖いの少女-
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜2
[思考]
基本:殺し合いには乗らない。そして、殺してしまったせつ菜さんの知り合いの子達を探し出して謝る
1:リフレクターの指輪を探したい
2:せつ菜を殺した事実を受け止めて、関係する人達に謝罪する※ユズとヒナにも事実を隠さず伝える。
3:もし、明がアモンに人格を乗っ取られたら……ライムは―――
4:みさえさんのエーテル……とても温かい

[備考]
※参戦時期は11章『ある姉妹の始まり Why Do People Believe in Ghosts?』、原種イェソド1戦目終了後から
※優木せつ菜を殺めたことで精神が不安定になっていましたが、みさえの愛情で頭痛は鳴りやみ、落ち着きました。
※みさえからクレヨンしんちゃんの世界について簡単な知識を得ました。
※明からデビルマンの世界について簡単な知識を得ました。(最愛の人である美樹を人間に殺されたことは知りません)

【火車切広光@11eyes -罪と罰と贖いの少女- 】
司城来夢に支給され分厚い刀身を持つ刀。
呪を唱えることで炎を纏うことができる
なお、付属の紙に呪が記されているため、この殺し合いの舞台のみ使用可能となっている。

【不動明@デビルマン(漫画版)/歳殺神】
[状態]『人間』への憎悪(若干薄れている)、精神不安定 みさえに対して安らぎの心情
[装備]なし
[道具]基本支給品、ランダム支給品1〜2
[行動方針]
基本方針:仲間たちを探す。
0:政達との合流。最悪、あいつらだけでも逃がしたい。
1:この記憶が本物か確かめるために放送を待つ。
2:襲ってくる者がいたら容赦しない。
3:俺は...不動明なのか!?悪魔族のアモンなのか!?
4:みさえさん……俺にはまだ守るべき人間が残っている。なら、俺は……悪魔人間だ!
5:もし、俺が.アモンに人格を乗っ取られたら迷わず殺してほしい。

※参戦時期は牧村美樹死亡後
※八将神としての人格はアモンと統合されています。その為、アモンとしての人格と不動明としての人格が不定期に出たり引っ込んだりします。
※ドス六たちを殺した記憶が朧気ながらフラッシュバックされています。
※自分が八将神だと自覚していません。
※ドミノとの戦いはほとんど覚えていません。
※来夢の事情を知りました。(せつ菜を殺めた顛末)
※来夢からブルリフの世界について簡単な知識を得ました。
※みさえからクレヨンしんちゃんの世界について簡単な知識を得ました。

147誰が私を Who Called Me? ◆s5tC4j7VZY:2021/08/08(日) 07:45:40 ID:UH/4h6Tc0
投下終了します。

148 ◆s5tC4j7VZY:2021/08/08(日) 07:50:59 ID:UH/4h6Tc0
古波蔵エレン、高咲侑、間久部緑郎、ギャブロ、藤丸立香で予約します。

149 ◆2dNHP51a3Y:2021/08/08(日) 23:30:25 ID:mt5BgD5o0
再度予約延長します  ご迷惑をおかけして申し訳ございません

150 ◆.EKyuDaHEo:2021/08/09(月) 16:10:50 ID:i4QkZ6Zg0
投下します

151 ◆.EKyuDaHEo:2021/08/09(月) 16:11:12 ID:i4QkZ6Zg0
「二人とも何か見つかったか?俺は包帯とか集めておいた」
「アタシも包帯を、後は絆創膏とかを集められるだけ集めたよ!」
「僕は一応熱が出たときのために風邪薬と頭痛薬を」

あれからどれぐらい経っただろうか、しばらく歩いていたひろし、宮下、相場の三人は病院にたどり着いていた
そして病院内で使えそうな物をそれぞれ探して再び合流した

「にしても他に誰も来なくて良かったね、正直誰か来るんじゃないかとひやひやしたよ...」
「あぁ、確かにな...」

途中までバラバラで行動していたのもあり、殺し合いに乗った参加者と遭遇するかもと思ったと宮下は話し、ひろしもそれに同感した

「にしても結構探したけどしんのすけ達はここにはいなさそうだな」
「ゆうゆ達も見当たらなかったな...」

病院にきたのには他にも理由があり、ひろしと宮下の知り合いがいるかどうか確かめるためでもあった
しかし探してみたものの二人の知り合いはどこにも見当たらなかった

その時だった


ガチャ...


入り口の扉が開く音がした

「...誰かきたみたいですね...」
「ど、どうする?逃げた方がいい気が...」
「いや、ひょっとしたら怪我をして病院に来たのかもしれない...おれが様子を見てくるから二人はここで待っててくれ」
「わ、分かったわ...くれぐれも気を付けてね、ひろしさん」
「あぁ、任せろ!」

心配する宮下に対し笑って言葉を返すひろし...しかし実際は...

(とは言ったものの...いざとなると怖ぇな...)

一応銃は構えてるものの全く使ったことなどない...それに相手が殺し合いに乗った参加者で自分と同じように銃を持っている可能性もある、そんなことを思いながらもひろしはじりじりと入り口の方へ近づく
この角を曲がれば入り口が見える、ひろしは深呼吸をして飛び出した

「く、来るなら来い!俺は空手部のやつと友達だったんだぞ!後一応言っておくけど俺は殺し合いには乗っていない!」

空手部の友達だということを告げて相手をビビらせようと考えたひろしはそう言葉を発した
しかし、入り口の所にいたのはひどい怪我をした三人組だった

152 ◆.EKyuDaHEo:2021/08/09(月) 16:11:52 ID:i4QkZ6Zg0
◆◆◆



「ねぇお兄ちゃん、フェザーさん大丈夫かな...」
「...あぁ、あいつならきっと大丈夫さ...」
「うん......」

都古の質問にロックは渋々返した、正直大丈夫だとは言い難い状況だったからだ、恐らく都古も薄々気づいているだろう...
フェザーの傷はあまりにも酷かった、自分達を逃がしたということは...フェザーが身代わりになったということなのだろう...
絶鬼とかいう鬼は倒すことはできた...だがしかし、それで終わりな訳はなかった、今自分達がいる場所は殺し合いの場であり例え殺し合いに乗った者を一人倒してもまた別の殺し合いに乗った参加者が出てくる、気を抜く暇などないのだ...
そしてロックがふと思い出したのは...



───フッ……OK!このクソッたれな催しを開いた主催共をとっちめた後なら、相手してやるぜ!───
───本当か!よし......男と男の約束だぜ!───



フェザーとの約束だった...

(主催共をとっちめた後にフェザーと手合わせするはずだった...約束したっていうのに...くそ!)

フェザーと手合わせするという拳と拳を交わせて約束をしたロックは怒りの感情を露にしていた
間違いなくフェザーとは良い勝負ができただろうし気が合っていた...しかし殺し合いというデスゲームのせいでその仲間はもうこの世には...

(絶対に主催共は許さねぇ...この俺の拳で必ずぶっ飛ばす...!)

ロックは再び主催を倒すことを決意した
しかし先程の戦闘と襲撃で体力も身体もボロボロだ、今は一先ず休戦しなくてはならない

「何処かに休めそうな場所はねぇか...?」
「あ、お兄ちゃん!彼処に病院があるよ!」
「good...病院なら手当てもできるな...とりあえず其処に行くか」
(可奈美のこともあるしな...)
「......」

可奈美は今もまだ気絶したままだ...可奈美が今のフェザーのことを知ると間違いなくショックを受けるだろう...そうなると戦闘するのはますます厳しくなる...

「OK、着いたな...都古、扉を開けてくれ」
「うん!」

153 ◆.EKyuDaHEo:2021/08/09(月) 16:12:17 ID:i4QkZ6Zg0

そしてロック達は何とか病院にたどり着いた

「よし、一先ずは安心だな...後は手当てする物を探すか、都古は可奈美とここで待っててくれ、すぐ戻ってくるからな」
「うん、分かった!」

そう言いロックは他の参加者がいるかどうかの確認も兼ねて入り口から一番近くの病室に入った

「...ここには誰もいないみたいだな...手当てできるものは......包帯とか色々あるな」

とりあえず手当てに使えそうな物を全部持っていくことにした
そして直ぐに都古達の元に戻った

「手当てに使えそうな物持ってきたぞ」
「さすがお兄ちゃん!!」

しかし、その時だった

「!!」

足音が聞こえて振り返るとそこには一人の男が銃を構えて警戒していた
ロックも直ぐに身構える

「く、来るなら来い!俺は空手部のやつと友達だったんだぞ!後一応言っておくけど俺は殺し合いには乗っていない!」

男はそう叫んだ
ロックは一瞬唖然とした

(空手部のやつと友達だったって...何の関係があるんだ...?)

心の中でそう思ったが一先ず向こうが殺し合いに乗っていないことが分かり落ち着かせる

「あ〜...OK、一先ず落ち着くんだ、俺達も殺し合いに乗っていない」
「そ、そうなのか...?...って怪我してるじゃねぇか!大丈夫かよ...」

どうやら殺し合いに乗っていないということを理解してもらったみたいだ、男は銃を直しロック達の怪我の心配をした

「正直大丈夫ではないな...」
「まぁだろうな...別の病室で俺の仲間がいるからそこに案内するよ」
「あぁ、そうしてくれると助かる、あんた名前は?」
「俺は野原ひろし、サラリーマンで係長やってる」
「俺はロック・ハワード、格闘家だ」
「私は有間都古!んで今は気絶しちゃってるけどこのお姉ちゃんが可奈美お姉ちゃんだよ!よろしくねひろしおじさん!」

互いに自己紹介をし、ロックは再び可奈美を抱える

「ほら、都古ちゃんもおじさんがおんぶしてあげるから」
「大丈夫!私はまだ元気だよ!」
「無理すんな都古、お前も怪我してるんだからな」
「そうそう、別におじさんに気を使わなくていいから」
「...ほ、本当にいいの...?」
「あぁ、大丈夫だから、ほら」
「うん...///」

照れながらもひろしにおんぶしてもらう都古、普段は活発な子だが年齢を考えるとやっぱり甘えたい年頃なのだろう

「じゃあ今から案内するぞ」
「あぁ、頼む」

こうしてひろしはロック達を宮下と相場の待つ病室まで案内した

154 ◆.EKyuDaHEo:2021/08/09(月) 16:12:39 ID:i4QkZ6Zg0
◆◆◆



あれ...此処は...?皆は...


───カナミ...───


あ!フェザーさん無事だったんですね!良かったです!ロックさんと都古ちゃんは何処に行ったんでしょうか?


───カナミ、お前の気持ちに気づいてやれなくて本当にごめんな...───


まだ気にしてたんですか?そんなに気にしなくて良いですよ!言わなかった私も悪かったんですから!


───でも今のお前なら......俺がいなくても大丈夫だ───


え...?何言ってるんですか...?冗談言うなんてフェザーさんらしくないですよ!


───カナミ、最後にお前に告げておくぜ───


さ、最後だなんて...何言って...


───お前なら大丈夫だ、絶対に挫けるな!そして絶対に負けるな!お前なら必ずやり遂げられる!───


ふぇ、フェザーさん、そんなこと言わないでくださいよ...それじゃあまるで...本当にこれで最後みたいじゃないですか...!


───...そろそろお別れみたいだな...名残惜しいが仕方ねぇか...じゃあな、カナミ......頑張れよ!!!───


ま、待ってフェザーさん!!フェザーさあああああああん!!!!

155 ◆.EKyuDaHEo:2021/08/09(月) 16:13:16 ID:i4QkZ6Zg0
◆◆◆



「フェザーさん!!!」

可奈美が目を覚ますとベッドに横たわっていた

「お姉ちゃん大丈夫?」
「都古ちゃん...?此処は...?」

突然起き上がった可奈美に都古が心配して声を掛ける

「此処は病室だよ、ロックお兄ちゃんがお姉ちゃんを運んだんだ!」
「そうだったんだ...後...えっと...」
「あ、自己紹介がまだだったね!このお姉ちゃんは宮下お姉ちゃんだよ!お姉ちゃんの手当てを手伝ってくれたんだ!」
「よろしくね〜!」
「あ、そうだったんですね、ありがとうございます!衛藤可奈美です」
「そんな気にしなくていいよ!」

手当てをしてくれた宮下にお礼を言った、そして可奈美は都古に質問した

「あれ?でもロックさんは?私を運んでくれたんでしょ?」
「ロックお兄ちゃんはひろしおじさん達と隣の病室で手当てしてるよ」
「ひろしおじさん...?」
「ひろしさんとはあたしと一緒に行動してたんだよ、後相場晄っていう子も一緒にね、あたしはみっつーって呼んでるけど」
「そうだったんですね」

色んな人に助けられたんだなと可奈美はありがたく思った、しかし可奈美はハッとし再び質問する

「そうだ!フェザーさん!フェザーさんは何処に!?」
「フェザーさんは...」

都古の表情が曇った、まさかと思い可奈美の息が上がる



───じゃあなカナミ...頑張れよ!!!───



「!!」

ダッ!!

「お姉ちゃん何処行くの!?」
「フェザーさんを...助けに...!!」

フェザーを助けるために飛び出し病室から出た...すると...

156 ◆.EKyuDaHEo:2021/08/09(月) 16:13:28 ID:i4QkZ6Zg0
「何処に行くんだ?可奈美...」
「...ロックさん...」

病室から飛び出すとロックが壁に体を預けて立っていた

「決まってるじゃないですか!フェザーさんを助けに」
「可奈美...恐らくフェザーは...もう...」
「そ、そんな...」

可奈美は絶望し崩れ落ちた...フェザーは自分達を逃がすために犠牲になってしまった...可奈美は舞衣の時に支えてくれたフェザーを助けることができなかった自分に腹が立ち悔しがった
ロックはそれを黙って見ていた、しばらく沈黙が続きロックは口を開いた

「可奈美、何でフェザーが俺達を逃がしてくれたか分かるか?」
「......」

可奈美は今でも黙ったままだ...しかしロックは続ける

「あのままじゃ皆やられてたかもしれねぇ...だからフェザーが庇ってくれたんだ」

可奈美は少しだけ顔を上げる

「確かに辛いかもしれない...だが、本当にフェザーのことを思うなら絶対に生き残って主催のやつを倒すことがフェザーのためだと俺は思う、ここで挫けていたらフェザーに合わせる顔がないと思うぞ...」
「ロックさん...」

ロックの言葉に可奈美は考える

(生き残って主催を倒すことが...フェザーさんのため...挫けちゃいけない...)



───お前なら大丈夫だ、絶対に挫けるな!そして絶対に負けるな!お前なら必ずやり遂げられる!───



可奈美は夢の中でフェザーに言われたことを思い出しハッとする

(そうだ...夢の中でフェザーさんは私のことを応援してくれた...こんなところで挫けちゃいけない!!)

可奈美はフェザーの気持ちは無駄にはしてはいけないと思い立ち上がった

「ありがとうございますロックさん、そうですよね...私、フェザーさんのために挫けず頑張ります!そして必ず生き残ってこの殺し合いを打破して見せます!」
「...ふっ...OK!その意気だ!だが、一先ず今は体力の回復が先だ、今はゆっくり休んだ方がいい」
「はい、分かりました!色々ありがとうございます」

ロックにお礼を言った可奈美は再び病室に戻った

(にしても...可奈美のやつすげぇな...俺でも大分ダメージ残ってるっていうのに...俺も負けてらんねぇな!)

ロックも負けじと気合いを入れた、その時...相場がこっちを見ていることに気づいた

「どうした?晄?」
「いえ、別に何でもないです」

そう言って相場は再び病室に戻った...

(...晄のやつ...何だったんだ...?何だか嫌な悪寒を感じるぜ...)

しかし、ロックは相場から嫌な悪寒を感じていた





(やれやれ...この人達ときたら...手間が掛かる...)

相場は影で密かに怒りを露にしていた...

157 ◆.EKyuDaHEo:2021/08/09(月) 16:13:48 ID:i4QkZ6Zg0



そしてあれから六人は一つの病室に集まった

「これからどうするか...」

ひろしがそう口にだした

「とりあえず、ひろし達には申し訳ないが今はこの病院で休んでおきたいな...俺達はさっきの戦闘でかなり体力を消耗しちまっているからな...」
「仕方ないさ、そんなに怪我してたら俺達だって心配だしな」

こうして彼らは病院で休戦することを決めた
挫けずに頑張って生きる、それが庇ってくれた大切な人へのせめてもの恩返し...



【F―4 病院/早朝/一日目】
【野原ひろし@クレヨンしんちゃん】
[状態]:健康
[装備]:ハイドラ@バイオハザードシリーズ
[道具]:基本支給品、予備のショットガンの弾、ランダム支給品0〜2、包帯×5
[思考・状況]
基本方針:殺し合いはしない
1:しんのすけ達を探しつつ首輪も何とかしたい
2:とりあえず今はロック達と病院で休む
[備考]
※少なくとも「嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦」までの映画版での出来事は経験しています。


【宮下愛@ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会】
[状態]:健康
[装備]:レッドカード@ポケットモンスターシリーズ
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2、包帯×3、絆創膏×5
[思考・状況]
基本方針:殺し合いには乗らない
1:ゆうゆ達を探しつつ首輪も何とかしたい
2:みんな...無事でいてね...
3:ロックさん達と病院で休む
[備考]
※参戦時期はアニメ最終回後。


【相葉晄@ミスミソウ】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3(カメラ類は無い)、風邪薬、頭痛薬
[思考・状況]
基本方針:とりあえず首輪を解除したい
1:優勝するか脱出するかは首輪を解除してから可能性の高い方を選ぶ
2:俺には野崎がいる...それ以外はどうでもいい...
3:あまりにも足手まといな参加者は排除したい...が、今は我慢
4:全くこの人達は...
5:できれば自分のカメラが欲しい
[備考]
※参戦時期は14話以降〜最終話以前。

158 ◆.EKyuDaHEo:2021/08/09(月) 16:13:58 ID:i4QkZ6Zg0
【衛藤可奈美@刀使ノ巫女】
[状態]:精神疲労(小)、疲労(小)、左肩弾痕(処置済み)
[装備]:孫六兼元@刀使ノ巫女、白楼剣@東方project
[道具]:基本支給品、舞衣の支給品(基本支給品+ランダム支給品×0〜2)
[思考・状況]
基本方針:殺し合いはしない。姫和ちゃんやみんなを探したい。
1:姫和ちゃんは千鳥がないと……ううん。それでも私が止めないと!
2:舞衣ちゃん……私、生きるよ。
3:皆と早く合流しなきゃ
4:フェザーさん……私、頑張ります!
5:今は体を休める
[備考]
※参戦時期はアニメ版21話、融合した姫和と戦闘開始直後です。
※舞衣の理念の残滓との影響で孫六兼元で刀使の力が使えるようにはなりましたが、千鳥と比べたら半分以下の制限となります。(人外レベルの相手は難しい)
※荒魂のことはまだ話してないので、ロック・都古とは同じ世界だと思っています。


【ロック・ハワード@餓狼 MARK OF THE WOLVES】
[状態]:疲労(小)、左肩弾痕(処置済み)、あばら骨数本骨折
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2(確認済) スタミナドリンク100×4、黒河のPDA(機能使用可能回数:1回)@リベリオンズ Secret Game 2nd Stage、包帯×3
[思考・状況]
基本行動方針:主催をとっちめて、さっさとここから脱出する
1:一先ず今は休戦する
2:ギース・ハワード、カイン・R・ハインラインの名前が気になる。
3:晄のやつから妙な悪寒を感じるぜ...
4:フェザーの気持ちを無駄にしない
5:俺も負けてられないぜ!
[備考]
※参戦時期はグラント戦後
※グラブルの世界を大まかに理解しました。
※可奈美から荒魂のことはまだ聞いていないため、同じ世界だと思っています。


【有間都古@MELTY BLOODシリーズ】
[状態]:疲労(小)、左肩貫通・弾痕(処置済み)
[装備]:スピリット・オブ・マナ@グランブルーファンタジー
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2(確認済)、ニュートンの林檎×4@へんなものみっけ!
[思考・状況]
基本:殺し合いなんてしない! 元凶は全員コテンパンに叩きのめしてやる!
1:とりあえず今は休戦する
2:フェザーさん……
[備考]
※身体能力はタタリ影響下の時の状態です
※グラブルの世界を大まかに理解しました。
※可奈美から荒魂のことはまだ聞いていないため、同じ世界だと思っています。

159 ◆.EKyuDaHEo:2021/08/09(月) 16:14:26 ID:i4QkZ6Zg0
投下終了します、タイトルは「生きて、生きて、生きて、生きて、生きろ」です

160 ◆EPyDv9DKJs:2021/08/10(火) 06:09:38 ID:Bz7lZzO.0
モッコス、アカメ、初音、琴美で予約します

161 ◆s5tC4j7VZY:2021/08/10(火) 10:37:56 ID:l82kFWZo0
投下お疲れ様です!

「生きて、生きて、生きて、生きて、生きろ」
ひろし、みさえと同じようにグループ内の年長者として頼りがいがありますね!
「く、来るなら来い!俺は空手部のやつと友達だったんだぞ!後一応言っておくけど俺は殺し合いには乗っていない!」
↑正直、知らなかったので、驚きました!ですが、その後のロックの(空手部のやつと友達だったって...何の関係があるんだ...?)に笑っちゃいました。
夢の中でのフェザーとの別れ、とても丁寧に描写されていて凄く感動しました。
あと、タイトルにグッときました……!
ロワらしい不穏な引きもあり、今後の展開が気になります。

投下します。

162死中の閃き ◆s5tC4j7VZY:2021/08/10(火) 10:38:32 ID:l82kFWZo0
死中に活を求めるーーーーーほとんど助からないような状態のなかで、なおも生きのびる道を探し求める。
デジタル大辞泉より引用。

―――したたたた

「……」
「……」

―――したたたた

「……」
「……」

―――したたたた

―――ぐう〜〜〜〜〜

「……お腹すいた」
「きりのいいところで一度休憩を取るから、今は我慢しろ!」

ギャブロと立香は京都を駆け足で駆けている。
間久部緑郎こと『ロック』を探しているためだ。

「……うん」
ギャブロに休憩を却下され悲しい目をする立香。

―――したたたた

―――チラッ

ギャブロは並走する立香に視線を向ける。

「……」
(……ったく、本当に緊張感を感じない男だな。でも……息も乱れず、ボクのスピードについてきてる。人は見かけに寄らないって、こういう意味なのかな?)
出会った時から相変わらず、掴みどころがないように見えるが、自分の脚力に追いついていることにギャブロは内心驚く。

―――モゾモゾ

「?、なんだろう。ごめん!ギャブロ君。デイバッグが動いているんだ。一度、中身を確認しても良い?」
背負っているデイバッグが動きだし、立香は一度、デイバッグの中身を確認しても良いか尋ねる。

「デイバッグが?……仕方がないな」
ギャブロは立香の要望を聞くと、一度移動を止めると立香に近づく。

―――ジィィィィィ

立香がデイバッグを開けると―――

―――キラキラキラ

虹色の蝶がひらりヒラリと舞いながら姿を見せたのだ。

「わ〜〜〜キレイ」
「あ、ああ……確かに」
蝶の綺麗さに立香のみならずギャブロも見惚れる。
立香とギャブロの周囲を舞っていた虹色の蝶はやがて―――

―――ひらりヒラリと別の場所へと飛んでいった。

「ど、どうしようどうしようどうし(汗)」
「追いかけるしかないだろ!いくぞ藤丸!!」
虹色の蝶が飛んでいったのを慌てる立香にギャブロは追いかけるぞと話すと急いで走り始める。

2人は虹色の蝶を見失わないように後を追いかけるように走り続けると―――

やがて、屋敷が見えてきた。

「わ!お屋敷だ〜」
「ああ……そうだ《チュド―ン!》」

なんと!屋敷が見えたと思ったら重々しい音と風が―――

「これは……ロックか!?藤丸!突入するぞ!」
(爆発だって!?もしかしてロックの仕業か!?)

「うん」

「ロック―――!!!そこにいるのか!?」

2人は熱気と煙に怯むことなく、屋敷の中へ突入していった―――

☆彡 ☆彡 ☆彡

163死中の閃き ◆s5tC4j7VZY:2021/08/10(火) 10:39:56 ID:l82kFWZo0
少し時間が遡り―――

「……エレンさん。無事かな……?」
屋敷のとある一室。
その部屋のソファーに座りながら侑はエレンの無事を祈っていた。

「雑魚は早々に失せろ。巻き添えになりたければ別だが。」
「ゆんゆん。流石に今回は離れた方がいいデス。」

(私にも戦う力があれば……エレンさんを一人にすることはなかったのに……!)
確かにあの金髪の男の人の言う通り、私は戦う力を持っていない。
エレンさんも言葉こそ私の為に言ってくれたことだけど、逆に考えればお荷物といってもいいのではないだろうか。
侑は自分の無力さにただただ落ち込む。

「……」
(レオーネさんといったっけ。見た感じとても強そうだったな……お願いします!エレンさんを助けてください……ッ!)

コツコツコツと時計の針の音が鳴り、ただ静寂の時が流れる。

―――ギィ……バタン!

出入り口の扉が開く音がした。誰かがやってきたのだろう。

―――ギィィィィ……

侑のいる部屋の扉が開く―――

「エレンさん?」
侑は期待を込めて顔を見上げると―――

「フフ、がっかりさせて申し訳ない。ぼくはエレンという人じゃないよ」
部屋の扉を開けたのは間久部緑郎。

☆彡 ☆彡 ☆彡

164死中の閃き ◆s5tC4j7VZY:2021/08/10(火) 10:40:50 ID:l82kFWZo0
「あ、貴方は……」
「ぼくは間久部緑郎。……ロックとでも呼んでくれよ」
ロックは侑に名前を名乗ると握手しようと手を差し出す。

「私は高咲侑です」
侑も自己紹介をしつつ手を差し出して握手しようとするが―――

―――!?

とっさに握手するための手を引っ込める。

「?どうしたんだい?」
「い、いえ……そのなんでもないです」
ロックはキョトンとした顔で、侑は一瞬だが、青ざめた顔を見せた後、なんでもないといった顔を見せる。

「ふ〜ん。どうやら、ぼくを警戒しているみたいだね。いいよ、それじゃあ、互いの親密を深めてから握手をしようか」
ロックは対面するための反対側のソファーに座る。

それから、互いにしっている情報について話した。

―――かくかくしかじか。

「じゃあ、もし”みらい”という子に出会ったら伝えておいてくれるかい?」
「は、はい……」

「それにしても、スクールアイドル……一度、歌を聴いてみたいね」
「え、ええ……」

「大丈夫さ。エレンって子は強いみたいだし、レオーネって人も何だろ?だったら、君は遠慮せず、彼女らに庇護されると良いよ」
「……」

「フ、フ、フ、ウフフフーフフフ……」

突如ロックは笑い出した。

「……ッ!?」
侑は急いで部屋から出ようとするが―――

後一歩足りず、組み伏せられる。

「どうやら、その頭につけている支給品の効果なのかな!?ぼくの心の中を読んでいるのは」
「……」
ロックは侑の額のスペクテッドが心を読めたと指摘する。
ロックの指摘にドキリとしつつも侑はだんまりを決め込む。

「へぇ〜だんまりかい?悪いけど、ぼくは女だからといって手を抜いたりなんかはしないぜ?」

そう―――
間久部緑郎は―――
ヘビのようにざんにんな心の持ち主。

165死中の閃き ◆s5tC4j7VZY:2021/08/10(火) 10:42:25 ID:l82kFWZo0
―――ゴキッ

「〜〜〜〜〜ッ!!!!!」
ロックは侑の右肩を脱臼させる。
余りの激痛に声にならない悲鳴を上げる侑。
幸運といってもいいのか、気絶はしていない。

「ふん!とっととぼくの質問に答えないからだ」
ロックは多少イラつきながら侑のスペクテッドを奪い取る。

―――ギィ……バタン!

屋敷の出入り口が開く音がした。

「―――え?」
「おや?もしかして、君がいっていたエレンもしくはレオーネかな?なら、予定変更しよう」
ロックは侑を爆弾化するのを止めた」

「……え?」
侑はロックの意図が読めず、困惑する。

「どうして今まで君を爆弾化しようと考えていたのに不思議だろう?冥土の土産に1つ良い事を教えてあげるよ。キラークイーンは人を爆弾にして爆発させるだけじゃない。”爆弾化した物体に触れた者”も爆発することもできるんだ」
邪悪な笑みを浮かべながら侑に話すロック。

―――物体に触れた者を爆発させる……?

(……ッ!!??)
侑は血の気が引いた顔になる。

「ゆ……ゆんゆん……そこの部屋にいるの……デスかー?」
部屋の扉の向こうからエレンの声が聞こえてきた。

「エレンさん!!!!!!その扉開いちゃダメ!!!!!!」
扉を開こうとするのを大声で制止する侑。

「え―――――?」

「『キラークイーン』はすでにドアノブに触っている」
ロックは邪悪な笑みを浮かべる。

―――カチャリ

エレンがドアノブに触れた瞬間―――

カチッ

―――けたたましい爆音が鳴り響いた。

☆彡 ☆彡 ☆彡

166死中の閃き ◆s5tC4j7VZY:2021/08/10(火) 10:45:52 ID:l82kFWZo0
爆風と煙が充満する―――

「げほッ……ゲホッ……」
(い……イタタ。腰をタンスにぶつけたみたい)
ドアノブを爆弾に変えられ、ロックの思惑通り、”それ”は最悪のタイミングで爆発した。
体ごと吹き飛ばされた侑は腰を痛める。

(けど、痛いだなんて……言ってられないよね)
何とか体を起こすと、粉々に破壊された扉の周辺まで歩く―――

「……エ、エレンさん!?大丈夫ですか!?」
侑は、破壊され粉々となった場所へ歩くと―――

そこには―――

爆弾で吹き飛ばされたであろう黒こげのエレンの左腕が―――

「あ、ああ……」
侑は体をガタガタと震わせて崩れ落ちる。

「君が弱いから、その子は死んだんだよ」
ロックは冷めた目で侑を見下す。
侑に絶望を与えるため、体の一部が残るようにわざと威力を調整したのだ。

「……どうして、貴方は平気で人を殺せるんですか?」
侑は今までのロックの心の声を想起する―――

(さて、この女をどうする?もしもの為に爆弾に変えておくか?……)

「?どうしたんだい?」
(何だ?この女……爆弾にすることに気づいているのか?)

「ふ〜ん。どうやら、警戒しているみたいだね。いいよ、それじゃあ、互いの親密を深めてから握手をしようか」
(やっぱり、この女……気づいてるな!まぁ、いい。とりあえず、情報交換だけでもしておくか……)

「じゃあ、もし”みらい”という子に出会ったら伝えておいてくれるかい?」
(やれやれ色々聞いたがほぼ無収穫か。時間の無駄だったかな……でも、この女はどうやってぼくの企みに気づいたんだ?)

「それにしても、スクールアイドル……一度、歌を聴いてみたいね」
(はっ!アイドル?くだらないね。馬鹿な群衆に媚びて歌って自己満足に浸る虚像に満ちた職業の人間じゃないか!)←アイドル並びにアイドルファンの読み手・書き手の皆様ごめんなさい。

「大丈夫さ。エレンって子は強いみたいだし、レオーネって人も何だろ?だったら、君は遠慮せず、彼女らに庇護されると良いよ」
(まるで弱かったからイジメられていた昔の自分を観ているみたいでムカつくな。……ん?そうか!)

「フ、フ、フ、ウフフフーフフフ……」
(わかったぞ!この女、心の中を読めるんだな!おそらく、あの額につけている眼みたいのヤツでだ!もう、この女は必要ない!)

「どうやら、その頭につけている支給品の効果なのかな!?ぼくの心の中を読んでいるのは」
(ははは!すっとぼけても無駄さ!!ずいぶんと手こずらせたな!!!お礼に爆弾に変えた後、エレンとかいう女と一緒にあの世に送ってやるよ!!!!)

ロックは今まで出会って来た中で怖ろしいと感じる男の人だ。
あの白服の男の人や金髪の男の人よりも―――
まるで悪魔の申し子だ―――

「はっ!つまらないことを……おれは、おれのやりたいことをやってるだけだーっ!!」

グワ―――

キラークイーンが姿を現すと侑を殴り殺そうとする。

そのとき―――

「ロック―――!!!そこにいるのか!?」

「……ッ!?」
(この声は……クソッ、ここは一旦、退却を……がッ!?」
窓の外からギャブロの声が聞こえたロックはキラークイーンを引っ込めてこの場を離れようとするが、頭を蹴られ、うめき声を漏らす。

ロックの頭を蹴り飛ばしたのは―――

―――ロックのキラークイーンにより左腕を無くした古波蔵エレン。

☆彡 ☆彡 ☆彡

167死中の閃き ◆s5tC4j7VZY:2021/08/10(火) 10:46:30 ID:l82kFWZo0
「おまえ……生きてたのか!?」
頭を抑えつつ、エレンと対峙するロック。

「yes!……正義のヒーローは悪にまけまセンからネ♪」
(か……間一髪デシタ……)
エレンは不敵に笑う。

しかし、紙一重の奇跡。
屋敷の居間に、武士の鎧とその傍に日本刀が置かれていた。
支給品ではなく、おそらく屋敷の住人のだろう。
御刀ではなく無名の日本刀だが、刀使として念のためちょっとお借りした。
その行動が結果的にエレンの命を救った。
侑の叫び声を聞いたエレンは部屋の向こうが危険だと判断したため、ドアノブに触れた瞬間、左腕が異変したと同時に、とっさに腕を斬りおとしたのだ。

ロックの爆発の調整もあり、無名の日本刀は粉々に壊れ、左腕を失うこととなったが―――

怪我の状態から、間に合わなかったら死んでいたであろう―――

―――見事エレンは死中に活を求めた。

「だけど、その木刀……片手となった今、自由に扱えるのかな?」
ロックは余裕の態度を崩さない。
なぜなら、西洋の剣なら片手で扱うことはあるが、木刀や日本刀ならやはり”両手”が好ましい。
故に初手は油断を受けたが、問題なしと判断した。

「それに関しては問題ありまセン。私の流派、タイ捨流は、剣だけじゃなくて、パンチやキックも全部使って戦う流派デス。なんなら……その身で味わってみますか?」

―――ゾクッ

(このぼくが……震えている?)
エレンの身に纏う闘気にロックの体が身震いする。

(怯むな……所詮はハッタリだ……だが)
ロックはエレンの強がりだと感じるが、もしものことを考え―――

「だったら、”コイツ”の能力を試してみるか」
「あッ!?エレンさん!気を付けて!」
ロックは先ほど侑から奪い取ったスペクテッドを額に装着する。

(おい!この女の心を読み取れ!)

―――カッ!

ロックはスペクテッドの力を発動する。

(マズいデス……早く決着をつけないと……私の体力はもう限界……デス)

―――はは。やっぱりやせ我慢か!なら、とっととキラークイーンで仕留めてやるよ!
エレンの心を読み、やはり自分の読みは間違っていなかったと確信する。

―――が。

誤算が起きる―――

グラ―――

―――な、なんだ?体が急にダルくなった……?

168死中の閃き ◆s5tC4j7VZY:2021/08/10(火) 10:47:15 ID:l82kFWZo0
ロックは全身に疲労を感じる。
その正体は”拒絶反応”。
帝具は持ち主との相性が悪ければ、扱うことはできない。

「チッ……コイツが原因か!使えない!」
ロックは疲労の原因に気づくと、スペクテッドを外すと放り投げる。

(不味い!予想以上に疲労が身体から抜けない。これでは、あの女を仕留めるには時間がかかるッ!それに……クソ!これ以上時間をかけるのは不味い!)

―――そう、このまま時間をかけるとアイツ(ギャブロ)が来る……!

ロックは次の一手をどうするか悩んでいると―――

ゆら―――

「……許さない」

ロックとエレンの間に侑が立つ。

その目には怒りや憎しみと言ったおよそアイドルが見せていい目ではない。

「ゆ……ゆんゆん?」
(侑の様子がおかしいデスねー……)
エレンは侑の身体から放つ雰囲気に息を呑む。

「許さないだって?ははは!キミに何ができる?そもそも、この女の腕が吹っ飛んだのはキラークイーンの能力を完全に読み取れなかったキミのマヌケさと戦う力を持っていない無力さの所為じゃないか!」
ロックは鼻で嗤う。

「……」

―――スチャ

侑は黙ったまま、先ほどロックが放り投げたスペクテッドを再び額に装着した。

「それで、ぼくの心の中を読んでどうするつもりだい?いっておくけど、”ソレ”はおススメしないぜ。君がもっと傷つくだけだから」
余裕ぶるロック。
”ソレ”の能力は既に把握している。
心の中を読むのは一転脅威だが、戦う術を持たない者が所有者なら怯えることはないからだ。

しかし、彼の表情は一転する。
なぜなら―――

「な……な……」

―――さ、西郷!!!!!?????

「?」
(変デスねー。男の様子がおかしい……?)
エレンは突然様子が変わったことに首を傾げる。
無理もない。ロックにしか見えていない人物の姿がいるのだから。
それも、最愛の人物。

―――西郷風介。

「ば……ばかな。おまえは……死んだ……はずだ?。……う……うわーッ!」
ロックは叫び声を上げると窓ガラスの方へ走り―――

―――ガッシャン!!!

なんと、ロックは、窓ガラスを突き破り、2階から飛び降りたのだ。

169死中の閃き ◆s5tC4j7VZY:2021/08/10(火) 10:47:37 ID:l82kFWZo0
―――スタッ!

ロックは上手に着地に成功すると、一目散にこの場から離れた。

「ロック!」
運が悪い事にギャブロが部屋に到着したのは、そのときだった。

「きゃ!?」
「新たな敵デスかー!?」
(これは……不味いデスねー……そろ……そろ、限界デス)
ギャブロの登場に侑は驚き、エレンは必死に意識を保ちながら構える。

「お、おい。オマエ……その腕は!?」
ギャブロの目に映るのは左腕を失ったエレンの姿。
そして、それを行ったのは探しているロックの仕業だと直ぐに理解した。

「ッ!ロックのやろォォォ!!ゆるせねェェェ!!!」

「ねぇ、ギャブロくん」
「なんだ!!!いっておくけど、今はふざけている場合じゃ……!?」
この惨状を見れば、いつもの立香に付き合っている余裕はギャブロにはない。
声を荒げつつ、返事を返して振り返ると―――

「―――治療をするから、どいてくれるかな?」

その言葉は怒気が込められつつもとても低く冷静だった。

―――ゾクッ!

「あ、ああ……」
(おい……オマエ……本当にあの藤丸か?)
立香のただならぬ姿にギャブロはただ頷き、この場を任せることしかできない。

「……大丈夫。ボクに任せて」
「―――え……ええ。お願いシマス」
立香とは初対面だが、エレンはなぜかはわからないが、委ねても良いと判断し、立香に身を任せる。

「―――浄化回復」
立香はエレンに対してスキルを発動させる。

「……」
(温かい光……きもちよくて眠ってしまいそうデス……)
温かな光に包まれたエレナは身に任せ目を瞑る。

☆彡 ☆彡 ☆彡

170死中の閃き ◆s5tC4j7VZY:2021/08/10(火) 10:48:14 ID:l82kFWZo0
ホワイト・ギースそしてロックと連戦に次ぐ連戦で受けたエレンの疲労と怪我はそうとうなものだった。

―――時間はかかったが、無事に治療が終わり。

「……ふぅ」
無事に治療を終えた立香は額の汗を腕で拭う。

「……エレンさん」
どうやら立香の治療により、大方の怪我は回復されたようだ。
だけど、侑は素直に喜べない。
なぜなら、視線の先にいるエレンさんは―――

―――左腕を失っているからだ。

―――ああ。エレンさんの雪のように白い手が。

そこにはもうない―――

「ごめんね。本当なら、腕の接合もできる筈なんだけど……」
(スキルが制限されている?……あの、双子ちゃん達の仕業かな?)
立香は、エレンに腕の再接合ができなかったことを詫びる。

「oh!私は気にしていません。それより、疲労や怪我が、この通り回復してもらったおかげでこんなにピンピンとなりました。治療……ありがとうございマス」
エレンは立香が自分の治療に全力であたってくれたことに感謝する。

「……」
(さっきの戦いでは見栄を張りましたが、戦い方を考えないといけませんネ)
ロックに少しでも優位に立とうと見栄を張ったが、やはり片腕では、刀での袈裟蹴りや間接技を完璧に極めるのは難しい。
とっさに自分の腕を斬りおとせたのも火事場の馬鹿力と奇跡が重なったからであり、同じことが続くとは限らない。

(ですが、タイ捨流は雑念を捨て去ること。これぐらいでヘコたれる私ではありまセン……!)
片手になろうと、タイ捨流を流派として持つ者として、荒玉を祓う刀使として、エレンの闘志はいまだ消えていない。

「……!」
(侑……?悲しい顔をしてマスね……ここはやはり私が)

エレナはそんな侑の視線に気づくと―――

「oh!別にゆんゆんはこれっぽっちも悪くありません。……仕方ありません。命があっただけでも儲けもの……こういうのを”日頃の行いが良い”というんデスよー♪」
エレナは侑を不安がらせないよう普段通りの陽気な声で大丈夫だと伝える。

「……はい」
(エレンさんは優しいから……私に気をつかってくれている……なら、その想いを私はしっかりと受け止めないと)
侑はエレンの気遣いを尊重して、頷く。

「……やっぱり、ゆんゆんは優しいデスネー☆」
またエレンもそんな侑の優しさに微笑む。

「それにしても……ちくしょォォォォ――!ロックのやつ。早くアイツを何とかしないと、被害が増える一方だ!」
ギャブロはロックの蛮行に怒りを隠しきれない。

「……そうだね」
ギャブロに同意する立香。
彼もロックの行った行動に憤りを感じている。

―――キラキラキラ

ちょうどそのとき、立香のデイバッグから飛び出た虹色の蝶が再び姿を現した。

「キラキラした……蝶?」
「oh!キレイな蝶デス」
侑とエレンも始めて見た時の立香とギャブロと同じ反応を見せる。

「皆さん……」

「「「!?」」」

なんと!虹色の蝶が人語を喋りはじめたのだ!

侑・エレン・ギャブロが驚く中―――

「わ、わ、ちょうちょが喋った……!」

立香は嬉しそうだ。

171死中の閃き ◆s5tC4j7VZY:2021/08/10(火) 10:54:10 ID:l82kFWZo0
【D-2の境界線/一日目/早朝】

【高咲侑@ラブライブ! 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会】
[状態]:疲労(大) 腰打撲 右肩脱臼 ロックに対する怒り エレンに対する自責の念(大)
[装備]:五視万能スペクテッド@アカメが斬る!
[道具]:なし
[思考・状況]
基本:みんなの事が心配。
1:みんな無事かな……レオーネさんも。
2:ごめんなさい、エレンさん……私のせいだ……
3:レオーネさんもエレンさんも、愛さんみたいな……
4:帝具……オーバーテクノロジーすぎない?
5:ロックさん……私は貴方を許しません。
6:え?蝶が喋った!?
[備考]
※参戦時期は少なくともアニメ版五話以降ですが、
 具体的なのは後続の書き手にお任せします。
→参戦時期は11話〜12話の間
※デイバックや基本支給品、ランダム支給品(×0〜2)は、
 侑が待機してる屋敷の中に放り出されてる状態です。
※ギャブロ・立香の世界について簡単に知りました
※ロックから零の妹について知りました。

【五視万能スペクテッド@アカメが斬る!】
元々は首切りザンクが所持していた帝具。
額に付ける巨大な瞳で、五つの視界に関する能力を有している。
心が読める洞視、霧でも夜でも関係なく遠くにいる相手が見える遠視、
筋肉の動きから動きを見通す未来視、服の上から中を確認できる透視、
唯一相手にかけるタイプとして幻覚を見せる幻視の能力を有している。
帝具には相性がある為相性次第では疲労や使用を受け付けなくするが、
侑は第一印象は悪くなかったので遠視、洞視は使用可能でそれなりの適性がある。
(ブラート曰く帝具とは、第一印象で相性が大体わかる模様)
また帝具は適性があれども精神や体力の摩耗が激し同時に使うのは厳しい。
ロックとの邂逅で幻視が使用可能となりました。

【古波蔵エレン@刀使ノ巫女】
[状態]:健康、左腕欠損
[装備]:神木・黒那岐丸@Re:CREATORS
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2(確認済み)
[思考・状況]
基本:殺し合いに乗るつもりはありまセーン。
1:片腕でも私のやることはかわりまセン。
2:薫や可奈美達が心配デスが、特に不安なのは姫和デスね。
3:ゆんゆん……あのとき身に纏っていた雰囲気は一体?……ちょっと心配デスね
4:oh!蝶が喋りました!?
[備考]
※参戦時期はアニメ版21話、可奈美が融合した十条姫和との戦闘開始直後です
※御刀がないので写シ等の能力は使えません
※ギャブロ・立香の世界について簡単に知りました
※ロックの危険性について知りました。

172死中の閃き ◆s5tC4j7VZY:2021/08/10(火) 10:56:10 ID:l82kFWZo0
【ギャブロ@大貝獣物語2】
[状態]:ダメージ(中) 疲労(中) MP消費(小) 左腕噛みつき跡
[装備]:メタルナックル@FINAL FANTASY VII
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本方針:殺し合いには乗らない
1:ロックを探す(他の参加者にはロックの危険性を伝える) 北側ABCDを中心に
2:藤丸のおもりをする
3:伯爵さまに出会ったら、E3のかなでの森博物館で合流することを伝える
4:二日目の昼にはE3のかなでの森博物館へ戻り、キヨス達と合流して手にした情報を交換する
5:あの蝶、喋れるのか!
[備考]
※参戦時期は暴走するダークを命と引き換えに止めた直後
※ロックの爆発する能力は完全には把握できておりません。(侑から事情を聴き、少し把握が進みました)
※回復魔法で回復するのに時間がいつもよりもかかることを把握しました。
※キヨス・マネーラ・藤丸の世界について簡単に知りました。
※自分の世界の建物もあるのでは推測しています。
※侑・エレンの世界について簡単に知りました。

[メタルナックル@FINAL FANTASY VII]
ギャブロに支給されたグローブ。
腕にはめて使えば、物理攻撃力が上がる。頑丈だが、特にこれと言った性能はない。

【藤丸立香@藤丸立香はわからない】
[状態]:疲労(中) 若干の空腹 おめめスッキリ ウキウキるんるん ちょうちょが喋って嬉しい
[装備]:極地用カルデア制服@Fate/Grand Order
[道具]:基本支給品、黒獣脂(まだまだあるよ)、アンナ@スーパーペーパーマリオ
[思考・状況]基本行動方針:殺し合いの打破。特異点とかなら修正する。
1:とりあえずギャブロ君・侑ちゃん・エレンちゃんと行動を共にする。(特異点か調査)
2:マシュ〜〜〜どこ〜〜〜?
3:カルデアと通信できる方法が他にないか探す
4:お腹がすいた……でもちょうちょが喋りだした!嬉しい!
5:二日目の昼にはE3のかなでの森博物館へ戻り、キヨス達と合流して手にした情報を交換する
6:腕の接合ができなくてゴメンねエレンちゃん。そして、ロック君―――メラメラ。
7:わ、わ……ちょうちょが喋った!嬉しいな

[備考]
少なくともノウム・カルデアに着いた時よりも後から参戦です。
※ロックの危険性について知りました。
※キヨス・マネーラ・ギャブロの世界について簡単に知りました。
※寝ている間に誰か(ドレミー)と出会ったような記憶があります。
※侑・エレンの世界について簡単に知りました。
※スキルに制限がかけられていることを知りました。

【極地用カルデア制服@Fate/Grand Order】
魔術礼装の一種。
極限環境での活動を想定している。
使用できるスキルとして、浄化回復、幻想強化、予測回避というものがある。
浄化回復―――対象者の疲労と怪我を回復させる。時間をかければ全回復も可能だが、スキルを使用すると自身の疲労は溜まりスキルでの回復はできない。また、体の欠損などは接合できない。

【黒獣脂@Fate/Grand Order】
魂を喰らう獣の体表から採れるドロドロとした脂。
蒸留により生成を幾度も繰り返すことで、上質の魔術資源となる。
「触りたくない素材ナンバーワンだよ!」by藤丸立香

【アンナ@スーパーペーパーマリオ】
虹色の蝶の形をしたフェアリン。
正体はエマという人間の女性。ヤミ一族の族長の息子であるルミエールに恋心を抱くようになるが、人間とヤミ一族の者同士が恋をすることはタブーであった。それでも彼女は彼を愛し続けた。
しかし、ルミエールの父親によって強大な呪いをかけられ、2人は離れ離れとなってしまう。
彼女はハザマタウンに流れ着き、彼女を発見したデアールによって魂を転生され今の姿に至っている。記憶を失っていたが、物語が進むにつれて徐々に記憶を取り戻していく。
現在、どこまで記憶を取り戻しているのかは後続の書き手様に委ねます。

☆彡 ☆彡 ☆彡

173死中の閃き ◆s5tC4j7VZY:2021/08/10(火) 10:57:03 ID:l82kFWZo0
―――すたたたた……どてっ

走りながら逃げている最中、小石に躓き転ぶロック。
これまた普段の彼を知る者ならば見られない醜態。

「西郷……フーッ……クソッ!してやられた!」
ロックは自身を躓かせた小石を爆弾に変えると苛立ちながら爆発させる。

「おそらく、あの支給品の効果だな」
(人の心を読むだけじゃなかったのか……!!)
しかし、そこはロックである。
乱れた息を整えると、先ほどの西郷の幻影?らしきの正体を推測する。

「それにしても、ウアッハハハハハハハ……よく考えれば、死んだ人間が蘇る筈がないじゃないか!そう、西郷はぼくが殺した。だから……生きてぼくの前に現れる筈はない……ないんだ……」
それは、どことなく乾いた虚しさがある独り言。

―――しばらく歩くと。

「……?。あれは学校か……」
正直、学校にはいい思い出はない。
”くに”をとびだして東京へ行った際、お別れと称して教室中……教壇からつくえ……クラスメイトの教科書までしょんべんをひっかけたほどだ。

「ん……あの木造校舎……!」
―――ぼくが、かよっていた学校じゃないか!?

そう、その年季の入った校舎は間久部緑郎が通っていた学校だった。

「……」
先ほどの西郷の幻影を見たのも影響したのか、ロックは学校へと足を向ける。

ロックの親友、西郷はロックに”おンしは悪魔でも気が狂ってもいないただの気のよわい人間だ”と言い放った。

果たして、ロックは”気のよわい人間”なのか”悪魔の皮を被った人間”なのか―――

紅き月が爛々と輝きながらロックを見下ろす。

【B-3/一日目/早朝】

【間久部緑郎/ロック@バンパイア】
[状態]:ダメージ(小)、疲労(中)、汚れ、零に対して少しだけ同情 侑に対してイラつき(大)
[装備]:キラークイーンのDISC@ジョジョの奇妙な冒険
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜2(確認済み)
[思考・状況]
基本方針:秩序なきこの場を楽しむ
1:とりあえず北を散策。殺しを唆すもよし、殺すもよし。
2:トッペイと出会ったときはどうしたものか。
3:アナムネシスとみらいに警戒。ただみらいは利用できるかも。
4:零、千は利用できるか?
5:……西郷……
6:学校……寄ってみるか
7:アイツ(ギャブロ)がうっとおしいな。
[備考]
※参戦時期はバンパイア革命に失敗し、西郷を殺害した後。
※クライスタの世界を(零視点から)大まかに把握しています。
※侑とエレンの世界を(侑の知識)大まかに把握しています。
※侑の額の支給品(エクステッド)の効果は洞視だけでなく幻視も使えるのだと思っています。

[キラークイーンのDISC@ジョジョの奇妙な冒険]
ロックに支給されたスタンドDISC。頭に挿入すると、このスタンドが使える
スタンドパラメータ
 破壊力:A
 スピード:B
 射程距離:D
 持続力:B
 精密動作性:B
 成長性:A
能力:触れたものを爆弾に変える

※このスタンドは原作と異なり、非スタンド使いでも見えます。
また、シアーハートアタック、バイツァ・ダストは使えません。

174死中の閃き ◆s5tC4j7VZY:2021/08/10(火) 10:57:14 ID:l82kFWZo0
投下終了します。

175 ◆s5tC4j7VZY:2021/08/11(水) 22:20:13 ID:.QIe6/uI0
野原しんのすけ、アリサ・バニングス、宮藤芳佳、佐藤マサオ、日ノ元明、マシュ・キリエライト、アニ・レオンハート、白井日菜子、糸見沙耶香、ムラクモ、針目縫、服部静夏、植木耕助、カイン・R・ハインライン、ナスタシア、桐生で予約します。

176名無しさん:2021/08/12(木) 07:58:24 ID:g6CCbim.0
八将神を知るカインはいるが、トッペイは所在不明か

177 ◆2zEnKfaCDc:2021/08/12(木) 23:09:12 ID:oj8df.L60
幡田零、清棲あかり、マネーラ、パンドラボックス予約します。

178 ◆EPyDv9DKJs:2021/08/13(金) 16:24:36 ID:ccPlLFUY0
では再び感想を

>ひぐらしのなく頃に〜沙都子ワシ編〜
タイトルのネタ性能高めとは裏腹にしっとりとしたお話
しっかりとネットミームを混ぜ込んでどこかシリアスな笑いに
鉄平は安全圏、沙都子は中々地雷を踏み抜きそうなピリピリした編成、
と言うのも中々対になっている感じ。とは言え東にやべー奴らがいて、
果たして大丈夫でしょうか

>大好きを叫ぶ
貴真一人勝ち。さらりと精神的なとどめを刺して逃げる姿、
普通なら捨て台詞を吐いた小物がするムーヴなのにえげつなさがあります
生き残って無事洗脳は解けたものの、解けたことで寧ろ精神的にあれでしたね

>みんなの夢、わたしの夢
南のアーナス集団、北のノワール集団とでもいうべきやばい面子勢ぞろい
こんなの相手してたら命いくつあっても足りませんわと言うぐらいギスギスかつ戦力過多
そして支給された時点で、まあそうなるよね。悲しいけどこれがアンプルの役目なの
沼の鬼に癒されるときが来るとは思いませんでした

>笑顔のカタチ
なんてものが支給されてしまったんだ(苦笑)
使い方次第で無敵に至れる代物をしょうもないことに使うところはやはりドキュンサーガや……
ギリギリ事なきを終えましたが、女性多めの集団が多くてどこ行っても波乱待ったなし

>王道を歩む者、正道を歩む者、そして――
彰君はぶれませんね。正義感とかも勿論ですが、妹程アホではないにせよ割と天然
評価は高いけど失望と言うのは、正直出会えばそう言われるよなぁって感じがします
(まあ火ノ元の場合、このロワにおける参加者でお眼鏡にかなう相手は少なさそうですが)
ジャギ様弱くはないけど武器も本体も特別強キャラでもないので、かなりピンチ。大丈夫?

>灰色の世界の下で
まずは改めて大作お疲れさまでした
誰が生き残るか分からない群像劇、まさにクロスオーバーのバトロワって感じです
敵も味方も必死にあがいている、それぞれが生きていたと受け取れる展開に感じました
ただ、やはり薫は最初から最後まで不憫と言うか……いえ、殆ど手遅れに等しかったですけども
ちょいちょいワザップを挟みこんだりジョルノしたり、ネタとシリアスのメトロノームで謎の感動もあったり
プロシュート兄貴の『農家みてェに手が込んでねえからガーデニングには使えねえが』のくだり、
ジョジョ節たっぷりの台詞につい変な声でてしまいました
そしてタツミ、逃げろ!

>一緒にできること
無事潜り込むことに成功したものの、
胡散臭い奴には直感で気づけてしまう植木は天敵ですね
そして日ノ元パパ、一番喧嘩売っちゃいけない相手で悪いフラグ立ってるこの

>辺獄平安討鬼伝
強いけど徹底してこない、彼らしいと言えば彼らしい油断ムーヴ
でもそれ込みでも妙に強い。絶鬼の再現度が本当に高い
仇たる存在を(疑似的に)討つことができたものの、
フェザーとの別れ……可奈美の参戦時期も相まって、
次から次へと仲良くなれた人物が退場してるんですよね
更に放送で薫に美奈都と、彼女への追撃がすでに待ってると言う

本編とはあまり関係ないことですし誤植なので言うのもあれですが、
誤植のライネルには思わず「誰!?」と検索してしまいました(苦笑)

179 ◆EPyDv9DKJs:2021/08/13(金) 16:25:03 ID:ccPlLFUY0
>逃げるは恥だが役に立つ
予約の時点で「まあこうなるでしょうね!」となった、ある意味予定調和第二弾
地味にお父さんと距離近いですけど、こんな状態の娘見たらパパ複雑な心境でしょうて……

>ナイトレイドを斬る
悠奈さんはいつも通りですが、悪い意味でもいつも通り
徹底的してるわけでもないので、ギースを放置したことがどうなるか少し不安です
レオーネの説得は、死んだ後だったからこそ成立したものだと思いましたね
生きてるうちの参戦だと、そこは絶対割り切らないでしょうから

>誰が私を Who Called Me?
ドライな考えを持った来夢や悪魔たる不動明を受け入れられるのは、
二児の母親とも言うべきですね。母は強しを体現してるみさえがいいなと思いました
とは言え、見えてる地雷を持ってるのもまた確か。放送が来てからが本番です。

>生きて、生きて、生きて、生きて、生きろ
やってきた面々と比べれば明らかに頼りない強さのひろしですが、
父親と言う貫禄を見せていて、みさえとも合わせて大人をしてるなと思いました
とは言えこの集団、瓦解を起こしそうな要因や周囲もあって夫婦そろって不穏です

>死中の閃き
心を読まずとも人の心を誘導できるロックだと、
スペクテッドは合わないだろうなと思ってたので個人的に好きです
どれだけ参加者を振り回そうとも、一人の男に振り回され続けるのもまたロックらしいです
登場するとは思ってましたがついに来ましたかアンナ。伯爵にある意味で一番の特効ですが果たして?

以上で感想終わります

180魔神降臨───魔族顕現 ◆EPyDv9DKJs:2021/08/13(金) 16:28:21 ID:ccPlLFUY0
投下します

181魔神降臨───魔族顕現 ◆EPyDv9DKJs:2021/08/13(金) 16:29:49 ID:ccPlLFUY0
 先ほどの場所から距離をおいて、アカメは足を止める。
 と言うよりも、琴美の体力的な都合で止めざるを得ない。
 小柄とは言え初音を抱えても息を切らしてないアカメが、
 いかに鍛えられてるのかがよくわかる光景だ。

(あの少年、何をしたんだ?)

 最初はただ一般人が暴れてるだけ程度のものと思っていたが、
 あれほどまでの気配がフッと消える感覚は一般人では出せない。
 そういう能力があれば最初からやっているだろうに。
 調子に乗りすぎて使うのを忘れてしまったのか。
 なんにせよ、あの場は離脱せざるを得なかった。

(……教会か。)

 平安京の景観を無視したかのような、
 動物を飼ってたとみられる小屋が隣にある教会を見つける
 中を見ると教会の外観をした一軒家、と言った方が正しいか。
 人がいないことをアカメが先行して確認を終えてから、
 琴美は初音を手当てしたのちに、ベッドに寝かせておく。

(佐神善?)

 偶然見かけた家主と思しき私物。
 そこには名簿に記載されてた名前と同じものがある。
 参加者の家を模した場所、と見てもよさそうだ。
 景観を無視した出来なのも十分にわかる。

(私達の由来の施設もあるかもしれないな。)

 景観を無視している以上、
 ナイトレイドの拠点や帝国の施設もあるのかもしれない。
 あの双子達がどれほどの技術を持ってるかは分からないが、
 改めてその危険さを理解する。

「琴美。初音について聞いてもいいか。」

「初音ちゃんのこと、ですか?」

 このタイミングでピンポイントに彼女だけ聞く理由があるのだろうか。
 死体を見てない琴美にはそのことに疑問ではあったが正直に答える。
 話を聞けば、大祐とは特にいざこざはあったようではあるが、
 特別殺し合いを進んで行動するタイプではないのがアカメの見解になる。
 (そのいざこざの内容は口にしなかったが、反応からおおよそは察した。)
 もっとも、彼女の手持ちの武器を見るにボウガンがないことと、
 そもそも彼女もボウガンの矢を受けた傷痕からすぐに予想は出来た。
 奪い合いになってしまったとかの例外もあるかもしれないが。

(金づちの方にも返り血はある。)

 琴美の反応から悪い人物ではないようには思うし、
 やむを得なかった可能性だって十分にあるだろう。
 やはり現状は彼女が目を覚ましてから尋ねるしかない。
 命に別状はないので、このまま寝かせておけば特には問題はない筈。

(しかし……)

 どちらかと言えば気になるのは彼女達が巻き込まれたゲーム。
 仲を深めてから殺し合いをさせる、悪辣極まりない催し。
 しかもルールはあっても運営が守るかどうかは運営次第のさじ加減。
 技術さえあれば、帝国もやっていただろう悪魔の所業だ。
 どこに行っても、その手の輩はいるのだと実感させられる。

(だが妙だな。)

 行動を遠くから監視するカメラ。それは最早帝具に近しい程の技術力。
 帝国ならまず軍事利用は当然するだろうし、それほどの技術があればまず目立つ。
 ではなぜその技術がないのか。別の世界と言う概念に至るには、それだけでは足りない。

「琴美。一つ聞きたいが───」

 何か違和感があったので、齟齬を確認できるようなことを尋ねることにる。
 例えば百万は殺したとされるエスデスならば、何処の国にいても悪名高いのは知ってるはずだ。

「ちくしょおおおおおッ!!!」

 確認をしようとしたところ、突然の地鳴りと共に男の絶叫。 
 怒りに満ちた叫び声に琴美は強く反応し、アカメは即座に動いて外へと出て様子を伺う。
 まただ。人の気配もないのに突然フッと現れた気配に内心では戸惑いがある。

「ふざけやがってあのメスガキどもぉッ!!!」

 外へ出れば男が彼女から背を向けた状態で、一人クレーターを地面へと作ってる。
 二度、三度と殴ればさらに深く地面が抉れていく。
 何かを守れなかった無力さに悔やむ参加者、などとは思わなかった。
 あれは苛立ちや怒りこそあればそこに高尚さなどは何処にもない。
 ただ単に思い通りにならなかった、それだけの怒りである。
 事情を伺わずとも、溢れ出る殺気からそうだと察せられた。

「!」

 姿を見た瞬間、警戒心をさらに高めた。
 本来であれば危険な相手だと認識して攻撃と言った思考になる。
 しかし、今は普段なら考えないような興奮が脳を支配しようとしていた。

(まさか、帝具使いか。)

182魔神降臨───魔族顕現 ◆EPyDv9DKJs:2021/08/13(金) 16:32:04 ID:ccPlLFUY0

 人の精神に干渉する帝具。タツミが回収したのもあったので身構える。
 煩悩に塗れた思考で鈍ってはいるが、そういう状況下でも戦えるのがアカメだ。

「どいつもこいつも……ぜってえ許さねえッ!!」

 目が合った。
 瞬間に、彼女はその場を逃げるようにサイドステップで避ける動作。
 その判断が正しかったと裏付けるように先程彼女がいたその位置には、
 既に右ストレートが迫っており、玄関のドアを派手な音と共に吹き飛ばす。
 中から琴美の悲鳴は聞こえたものの、玄関で待機させてたわけではないので無事だ。
 だから気にすることはなく相手と対峙する。

「あ? なんでオメー牝豚調教の才にかかってねえんだ?」

 モンスターに邪魔され、ガキはメガネと一緒に逃げられて、
 名簿は呼ばれたくない名前にされ、女子二人からも拒絶されて。
 怒りが限界を迎えたところにやってきたのはスタイルのいいアカメ。
 犯すにはもってこいの相手とも言えるが、美鈴たちと違って殆ど正常だ。

「? なんだそれは?」

「これのことだよ。」

 空白の才能をポケットから取り出し、印籠のように見せつける。
 文字が複雑だからか、人柄とは裏腹に存外読める文字だ。

「これがある限り女は全員発情した雌豚になるって検証済みだ。
 多少理性で自我は保てるみてーだが、お前冷静すぎだろ。マグロか?」

 先の二人と反応が明らかに鈍い。
 多少は頬が紅潮してるように見受けられるが、
 この赤い月下ではその程度は視認しづらいものだ。

「マグロ……? なんだかわからんが、いずれにせよ───」




「葬る。」

「あ? 消え───」

 瞬間、アカメが消える。
 この手の輩は帝国にはいくらでもいた。
 女を食い物にする外道など、何人いたか忘れた。
 手を取り合うのは無理だと判断するには十分だ。
 スイッチを入れると同時に、刀の間合いに入る。

「な、はえ───」

 思わぬスピードを前に、モッコスも対応が遅れた。
 少年法(プロテス)を使おうにも、空白の才を守ろうにも既に手遅れ。
 後は自分の鋼鉄並みの硬いとされる自分の肉体を信じる以外にない。
 その自慢の肉体も、ドドンタスに殺されかけて微妙に信じきれないものだが。
 刃は何にも遮られることはなく首を狙う。

「!?」

 はずだったが、明らかにおかしなことが起きた。
 振るった刃は逸れるように軌道を変えてしまう。
 変えてしまうというよりも、自分から外すようにしたとも言うべき現象。
 当てる攻撃を外し、ただでさえ煩悩塗れの状態で思考が更に鈍る。

「うっひょおぉ───ッ。これがある限り、女は俺に手が出せねえんだな!!」

 効果を理解しテンションを上げるモッコス。
 此処へ来る前の美鈴は欲情して動きが鈍ったから、
 と言う解釈をしたが今の攻撃の軌道を見れば空白の才の効果は絶大だ。
 あくまで空白の才から派生した代物であり、説明書も空白の才のもの。
 どのような効果が発揮できてるかの判断は全てがマスクデータであり、
 そも運営自体がこんな斜め上な使われ方をするとは想定しないだろう。

 少なくともモッコスにとって今わかるのは三つ。
 一つ、デイバックから出さないと効果が発動しないと言うこと。
 (でなければ、さっき出会った二人は最初から発情するはずだから。)
 二つ、女性である相手は強制的に発情すると言うこと。
 三つ、見てのとおり女性は自分に対して絶対に攻撃ができないことが分かった。
 (同時に認識してなければ先程の転移と言った害を与える行為は成立することも把握)
 つまり、アカメはあらゆる手段でモッコスへ攻撃できないと言うことだ。

「オラァッ!!」

 隙だらけの鳩尾へとボディブローを叩き込むも、
 即座に跳躍して腕に乗る形で難なく回避する。
 そこから今度は空白の才へ刃を奔らせてみるが、
 やはり自分から攻撃を外すような動きをしてしまう。

(あの木札そのものへ攻撃も難しいな。)

 向こうの発言から女性では手が出せない。
 となれば状況は最悪。今この場にいるのは女性だけだ。
 どうあっても攻撃できないのでは逃げる以外ないだろう。
 しかし、アカメだから容易に避けれた一撃ではあったが、
 常人ならあの速度はすぐに追いつかれてしまう。
 一人でならば逃げるのは難しくはないが二人は別だ。

(かと言って、逃げるように促すのも危険か。)

183魔神降臨───魔族顕現 ◆EPyDv9DKJs:2021/08/13(金) 16:32:57 ID:ccPlLFUY0
 相手は女性であれば防御や迎撃の必要すらないなら、
 逃げる相手の方を優先すればそれで済んでしまう。
 下手に呼び掛けてしまえば、そっちに狙いを定めるだろう。
 (まあ先程の悲鳴から、複数人いるのは既に露呈してるのだが)

(琴美が逃げてればいいが……)

 流石に都合よく動いてくれるとは思えない。
 流石に初音と言う無防備な人物がいては別だと思いたいが、
 献身的な性格からすれば逃げずに留まってしまうのもありうる。

「ああああああああああッ!!」

「!?」

 彼女の認識は少し甘かった。
 突然の叫び声。少なくとも琴美の声ではなく、
 声は教会から聞こえてきた。つまり───


 ◇ ◇ ◇


 初音はある意味、最も一般的な参加者とも言えた。
 この殺し合いにおいてではなく、シークレットゲームにおいての話。
 キラークイーンと言うクリア条件が極めて厳しい立場になると同時に、
 強力な特殊機能を得られるハイリスク・ハイリターンな立場なのもあるが、
 いい意味でも悪い意味でも、ゲームをよく理解した上で立ち回っていた。

 悠奈達のような信念を貫き続けられるような秩序を保つことはできず、
 しかし大祐達のような平然と人を攻撃できる混沌に沈みきることもできずに。
 基本的に手を汚していたのは、自分を慕ってくれていたファンである充だ。
 追い詰められれば心が逆転しうる、自我のあやふやな少女、
 彼女がたどった道とは別の世界では、ある男がそう彼女を評した。

 だからこの場でも殺し合いについ順応しそうになった混沌を持ち、
 ユカポンと共にあれば殺し合いを打開しようと考えられる秩序も持つ。

「……ッ!」

 アカメとモッコスの戦いの騒音によって、初音は意識を取り戻した。
 肩の傷は止血されており、ベッドに寝かされている。
 支給品もすぐそばに置かれていて少なくとも敵ではないと判断できた。

(誰かが初音を運んでくれた、ですか……)

 血まみれの金づちを持って倒れていた自分を見て、助けてくれる。
 さぞいい人なのだと思いながら、初音は金づちを手に取った。
 何の変哲もない、何の異能すら存在しないただのハンマー。
 ユカポンのファンの吸血鬼の血を浴びて汚れたソレは、
 これが今となっては自分を象徴してるのではないかと。
 ただの、特別でもなんでもないものが血にまみれている。
 嘗て殺しと無縁だった普通の自分が殺しに汚れたのと重なってしまう。

「初音ちゃん!」

 戦いの音も忘れて金づちを見ていると、
 琴美が勢いよく部屋の扉を開けた。
 ドアの破壊時に何かの破片でも飛んだのか、頬に傷がある。
 玄関口だったから大した影響はなかったが、
 次もこのまま家を破壊しに来ないとは限らない。
 扉が簡単に壊されるような力を持っている相手に、
 この家で籠城してもなんの意味もないのは分かり切ったこと。
 まずは気絶してる初音を連れて此処を離脱すること。
 ……だったが。

「あ、え……?」

 運が悪かったとしか言いようがなかった。
 この短時間で殺して殺されそうになっての連続。
 そこに現れたのが、目の前で充に殺させたはずの人物。
 手には血に汚れた凶器を握ってしまった状態。

「ああああああああああッ!!」

 追い詰められれば行動を起こしてしまうのが初音と言う人物像。
 パニックを起こしたことで、咄嗟に金づちを投げてしまう。
 なまじ身長差があったことによって投げることに繋がった結果、
 投擲されたそれを避ける動作も間に合わず、琴美の額に直撃する。

「アグッ……!」

 血を流して倒れる琴美を見ると、
 すぐに近くの窓から逃げるように飛び出す。
 彼女の知る初音からは考えられない行動だった。
 だがどうしようもない。彼女が辿った道(ルート)は、
 琴美とは全く違った、殺伐とした道を歩んだ彼女なのだから。

184魔神降臨───魔族顕現 ◆EPyDv9DKJs:2021/08/13(金) 16:33:18 ID:ccPlLFUY0
「待って、初音ちゃん……!」

 肩の傷もあって余計に力が余りなかったからか、当たり所がよかったか。
 見た目よりも軽傷で何とか立ち上がろうと声をかけるも、覚束ない。
 壁で身体を支えて、頭を押さえてないとまともに立てない彼女では、
 いくら身体能力が低い初音相手でも、とても追うことはできなかった。


 ◇ ◇ ◇


(悲鳴が気になるが、調べる暇がない。)

「ちょこまか逃げてんじゃねえぞおい!!」

 琴美のことが気掛かりではあったものの、
 モッコスの汚物消毒(ファイア)を何事もなく避け、
 動物を飼ってたところの木製の小屋は消し炭となっていく。
 室内で撃たれて火災になりかねないのでは、
 彼女の安否を確認しに行くことすらできない。

「先程から試して攻撃ができる見込みがないからな。
 どうにか攻撃できないかとずっと模索しているが、
 どうやらそれはすごい支給品だな。私の攻撃が一切入らない。」

 ありとあらゆる方角から攻撃を仕掛けてみた。
 正面、死角、無心……とにかく現状できる手段を。
 結果は何もなし。どうあっても攻撃を成立させない。
 完全な詰みであると言うことを実感させられる。

「だったらとっとと犯されやがれ! つか、
 発情してそこまで動けるのはおかしいだろうが!!」

「慣れてるからな。」

 嘗て捕虜になった際に同性愛者に目を付けられたの思い出す。
 波の女性では簡単に堕ちる程のものをアカメは耐え続けてきた。
 故に多少の耐性は付いているので、常人よりはずっと動けている。
 とは言え口にしたとおり、現状では勝ち目がないし、あくまで常人よりは。
 服の掠れだけでも段々と思考が鈍りつつあり、いつかは確実に敗北で決着がつくだろう。
 相手を煽って、二人が逃げるのを待つ以外の行動はとれないのも困っていたことだが。

「!」

 屋根へ飛び移って広がった視界の隅。
 走っている初音の姿をアカメは捉える。
 焦っている逃げ方でありつつも、琴美がいない。

(黒よりと見た方がいいかもしれない。)

 流石にセリューほど極端な思考ではないが、
 この状況下で琴美を放置して逃げる人物ではない筈。
 琴美が先程ので怪我をした、そういう可能性も十分にある。
 先の叫び声も彼女を見てパニックを起こしたとも受け取れる。
 そこから自分を背負うなんてことをさせずに逃げるよう琴美が促す。
 全てを見てない以上憶測でしかないが、故に判断材料が灰色。
 完全な黒と断定するには少し難しい所だ。

(他の参加者の助力……厳しいな。)

 琴美が死亡してるとはあまり思いたくない。
 しかし確認しようにも目の前の相手を引き付ける必要がある。
 加えて参加者を探す手段もなければ、殺しが目的ではないのは分かりきったこと。
 此方を狙わずとも、他の相手を狙うのでは自分は囮としても役に立たない。

 帝都の頃から助けられなかった命はいくらでもある。
 帝都の暗殺部隊も、ナイトレイドも任務の最中次々と命を落としていく。
 だが、これほどまでに戦うことさえもできず、自分が殿としても成立せず逃げるだけ。
 余りの無力さに武器を握る手により力が込められる。

185魔神降臨───魔族顕現 ◆EPyDv9DKJs:2021/08/13(金) 16:34:29 ID:ccPlLFUY0
「よそ見してんじゃねえよ。」

 周囲には飼育小屋が燃えたにしては明らかに煙が多くなっていた。
 SEVENSTAR(ブライン)による煙幕の呪文。
 モッコスの声はしていたが、姿は煙のせいでよくは見えない。

(粗暴な性格の割に、気配は消せているな。)

 本来ならば魔王ですら逃げたことにすぐに気取られることなく、
 一時撤退ができるぐらいにモッコスと言うのは出来る人物でもある。
 ドキュンだが天災のような存在と同時に天才。

(だが肝心の部分で素人か。)

 迫ってきた瞬間の殺気は隠せなかった。
 本来なら迎撃だが、素直に避けの一択を選ぶ。
 背後から迫るモッコスの手が腕を霞めるだけに留まるが、

(掠るだけでも反応する……)

 少し指が足に触れただけで、
 メラにされたことと似た感覚がする。
 発生する快楽はあのとき以上で眉をひそめる。
 ほぼ無駄なく避けてはいるものの、避けるしかない。
 触れること自体がアウトのためよりシビアになっている。
 次第に煙は晴れて、お互いがいた位置が逆転した状況だ。
 屋根からモッコスが下卑た目で見降ろし、地上からアカメが睨む。

「……あほくさ。」

 鼻をほじりながらそうつぶやく。
 モッコスはついに考えてしまった。
 これ以上アカメを相手する必要があるのだろうかと。
 さっきの悲鳴からまだ中に人がいることは確定。
 ならそっちを犯してしまえばいいじゃあないか。
 ストレスを溜めてまで狙う理由もないだろうし、
 なんならその光景を見せつけるのも悪くはない。
 魔王には人質とかいう余計なことをやられたせいで、
 やりそこねたシチュエーションでもあることだ。

 無防備にアカメの前へと降り立つ。
 攻撃が成立できないなら構いはしない。
 事実、何かができるわけでもないのだから。
 目の前に相対しても、その刃は振るうことはしない。

「アカメ、さん……!」


「琴美! 今すぐ逃げ───!」

 壊れた玄関口から、琴美が姿を見せる。
 逃げるよう促そうにも、壁に手を当てながらやってきた姿を見て言葉を失う。

「初音ちゃんが、パニックを起こしてます……だから、追ってください!」

 息を荒げているのはダメージと興奮両方が入り混じっており、
 彼女の姿は出血してる状態はともかくとして、妙に煽情的だ。
 元より一般人。空白の才の効果はアカメのような抵抗力はない。

「うっひょー。悪くねえじゃねえか。」

 これまた悪くない相手に舌なめずりと共に手を伸ばす。
 制服に触れる寸前に、アカメが彼女を抱えて距離を取る。
 今は完全にモッコスが隙だらけだったお陰で難なく救出できたが、
 次は此方の存在を意識した上で彼女を捕まえようとするだろう。
 自分一人なあともかく琴美を抱えては逃げ切れる保証はない。
 もし逃げきれても、初音を追う可能性もありうる。

「こいつの支給品の影響で女性は全員抵抗できない。
 琴美。それはつまりお前を見捨てろと言うことになるぞ。」

 攻撃行動は一切取ることができない。
 これではたとえエスデスであろうとも抵抗は難しい。
 ましてや怪我をしたただの一般人に一体何ができるのか。
 どんな支給品であっても打開できるとは思えない。

「……『私』じゃなければ、いいんですよね。」

 妨害されたことにモッコスの額に青筋が浮かぶ。
 少なくとも彼の中でアカメはメフィスとフェレスとほぼ同格、
 犯しながら殺さなければ気が済まない相手になる。

「やるのか? 無駄だからやめとけって。処女ってんならちったあ優しくしてやっからよ。」

「私は『貴方を攻撃する』つもりはありません。ただ『お願いする』だけですから。」

「あ? 誰にだ?」

 此処には男は自分しかいない。
 一体何をどうすると言うのか。

「───これに。」

 彼女がポケットから出したソレに二人の反応は対照的だ。
 モッコスにとっては、ただ穴の開いた円盤にしか見えないので呆れ気味、
 一方アカメにとっては別だった。何故それが此処にあるのか。
 それはもう、あるはずがない。

186魔神降臨───魔族顕現 ◆EPyDv9DKJs:2021/08/13(金) 16:35:54 ID:ccPlLFUY0
「琴美、まさかそれは!?」

(なにか! やべえッ!)

 アカメの反応から嫌な予感がした。
 今までマグロみたいな仏頂面だったのが初めて見せた顔。
 虫の報せを感じ、早急に破壊しようと右ストレートを掲げたそれを狙う。
 男女平等にはするが、あの程度の円盤なら破壊は容易だ。










 その寸前。その赤い円盤は光輝いた───










「───まさか、こんな時がくるとは思わなかったな。」

187魔神降臨───禍魂顕現 ◆EPyDv9DKJs:2021/08/13(金) 16:38:37 ID:ccPlLFUY0
 二人の間に一人の男性がモッコスの腕を掴む。
 がっちりと掴まれた腕は琴美に迫ることはない。
 琴美とモッコスだけでなく、アカメですら唖然とする。

「千年と長い時を生きた俺でも、この展開は初めてだ。」

 白を基調とした巫女装束を纏った巨躯。
 胸元には彼女が手にした円盤を付けており、
 青い髪の耳元からは人間離れした両角が目立つ。
 長柄の槌を背負っている彼は、見覚えのある存在だ。
 アカメにとってはもはや二度と見ることのなかった存在。
 彼女を見やれば、仏頂面にも見えた表情から笑みを浮かべる。

「生きてるようで何よりだ───アカメ。」

「───スーさん!」

 琴美の支給品の中に眠っていたそれの名はスサノオ。
 ナイトレイドの一人であり、生物型帝具電光石火『スサノオ』だ。
 支給品に臣具、あるいは帝具はあるのは想定してたつもりだ。
 だがスサノオはエスデスとの戦いで殿から帰ってはこなかった。
 どのような結末を迎えたかなど、最早語る必要はない。
 再会を喜ばしく思う反面、過去に見せられた幻覚もあることだ。
 クロメではなくスサノオでやる意義はともかく、偽物の類かと軽く疑う。 

「見当もつかないが、少なくとも俺はお前の知るアカメのつもりだ。
 アカメ、それはそうとその刀は何だ。無駄に削られた刃毀れが気になる!」

 几帳面を通り越して完璧主義者。
 左右非対称ですら気になってしまうところなど、
 再現しても隙を作るにしても必要のない行動だ。

「……本当にスーさんだ。」

 これはもう本物と断言してもいいだろう。
 肩の力が抜けてほっと安堵の息をつく。
 因みにアカメが持っている刀は一定の間隔で刃毀れした、
 刀なので当然だがより斬られると痛そうな形状をしている。
 とは言えこれは不良品と言うわけではなく、使用していたとある鬼殺隊の嗜好だ。

「おいミノタウロス。女とくっちゃべってねえでとっとと手ェ離せや。」

 感動の再会のところ水を差す。いや、当人は水を差すなんて認識すらないかもしれない。
 彼にとってはモンスターで、そんな奴に基本道徳を考える方がおかしいのだから。
 (元より基本道徳なんて殆どないだろうとは言ってはいけない)
 蚊帳の外にされていたモッコスは青筋をさらに浮かべながら、掴まれた左腕を引く。
 全力と言うわけではないにしても、スサノオの力でも引っ張られるだけの筋力は、
 並々ならぬと言うことが彼にも伝わるが、一瞥しただけでこれをスルー。

「だが俺は支給品としての扱いだ。主人が命じれば、
 アカメであっても攻撃せざるを得ない。今の主人は……」

 帝具としての繋がりで、
 言葉にせずとも誰が主人かはわかる。

「おいシカトしてんじゃねえぞ!!」

「少し待て。後、第二ボタンが外れそうなのが気になる。」

「んなこと知るか!」

 流石にやかましいので一言断ってから、再び琴美へと視線を向ける。

「命令を下せ。目覚めさせたお前にはその権限がある。」

「スサノオは自律行動で戦える帝具だ。大雑把な命令でも問題はない。」

 説明は既に読んでる。
 帝具の中でも自律行動できるのもあって、
 腕も関係ないし帝具使用時の負担も少ないとされる。
 一般人の琴美であっても十分使用に耐えうるものだ。

「───スサノオさんの思う通りに動いてください!」

 先ほどのやり取りから、
 少なくともスサノオはアカメの知り合いだ。
 殺し合いであっても進んでするような輩ではない。
 であれば、自分の命令と言う枷を与えるよりも、
 彼自身に自由に行動させる方が一番いいと判断した。

「承知した。」

188魔神降臨───禍魂顕現 ◆EPyDv9DKJs:2021/08/13(金) 16:40:22 ID:ccPlLFUY0
 そして、その命令はまさに最適解だ。
 モッコスを攻撃するように命じても空白の才の前では攻撃できない。
 だが自由にしていい、つまりスサノオの意志で戦うのであれば。
 性別の概念が(一応は)なく、琴美自身の意志とは無関係の行動。
 空白の才の状況下においても、何の隔たりもない動きができる。
 拳がモッコスの顔面へと直撃する。

「いいから手ェ放せつってんだろうが。モンスターは知能もねえのか?」

(硬いな。)

 人を殴ったような感触はせず、どちらかと言えば鋼鉄。
 流石に変化したDr.スタイリッシュの時ほどの強度ではなさそうだが、
 この状態の相手を生身で戦うには少し骨が折れる硬さなのは間違いない。

「生身では分が悪いか。」

 掴んでいたモッコスをそのまま投げ飛ばし、
 背中に背負った槌を手に左腕を殴り飛ばす。

「む。」

 鋼鉄であればと槌を使ってみたが
 明らかに殴った感触がさっきと違う。

「ヘヘヘ、効かねえな。」

 下卑た笑みと共に逆に槌を掴んで引き寄せる。
 尾田栄一郎(ラバーメン)の前に打撃は無力だ。
 そのまま接近したスサノオの額を、軽く顔面を掴む。

「燃えろ。」

 瞬間、全身が火達磨のようにスサノオが燃え上がる。
 根性焼き(フレア)は触れる必要はあれど、代わりに瞬時に燃やす。
 まず生きてはいられないだろう。

「スサノオさんッ!!」

「ハッ、モンスターがイキってんじゃねえよ。」

 火柱を尻目に、悠々とした歩きで二人へと迫る。
 身を強張らせる琴美に対して、アカメは何も動じない。
 寧ろ前に立ちはだかったりしようともしないので、逆に違和感があった。

「随分大人しいじゃねえか。」

「する必要がないからな。」

「あ? 何言って───」

 頬に伝わる衝撃。それに耐えきれず軽く数メートルは吹き飛ばされる。
 何が起きたかモッコスには分からないが、転がる中の姿を見て表情を変えた。

「モンスターではない、帝具だ。」

 そこにいたのは火達磨だったはずのスサノオ。
 火傷はおろか服すら元通りで、困惑せざるを得ない。
 生物型帝具は肉体を損傷してもすぐに再生して戦うことができる。
 肉体の半分近くを欠損しても問題なく再生してしまうのだから、
 全身が燃えた程度では殺せはしない。

「アカメ。先程からコアの状態でも話は聞いていた。
 お前はハツネと言う人物を探しに行け。」

「……分かった。だがスーさん。奴は下手な帝具使いよりも強い。」

「分かっている。頑丈さだけで言えばエスデス以上だろうな。」

 スサノオは帝具だけあってナイトレイドでも屈指の戦力。
 一方で相手は羅刹四鬼と同様、帝具なしでも帝具使いに匹敵する。
 エスデスほどどうしようもない相手ではないので十分に任せられるが、
 スサノオは時空を凍結させる、などと言う無茶苦茶な奥の手で倒された。
 僅かばかりに不安の表れのような忠告と共に、初音の逃げた方角へと向かう。

「琴美と言ったな。つかず離れずを保て。
 自律行動は出来るが俺は支給品。極端に離れることもできない。」

「は、はい!」

「テメエ、楽に死ねると思うなよ……生まれてきた事をを後悔させてやるぜ。」

「悪いが、俺は一度死んでいる上に帝具だ。楽に死ねると思ったことは一度としてない。」

 汚物消毒による牽制の炎。
 頭に血が上って琴美を完全に観点にいれてない攻撃で、
 スサノオは彼女を抱えながら射線を外れて攻撃を回避。
 余り遠距離攻撃をさせると彼女に流れ弾の可能性がある。
 そこを危惧してスサノオは降ろした後は接近して槌を振るう。

189魔神降臨───禍魂顕現 ◆EPyDv9DKJs:2021/08/13(金) 16:42:17 ID:ccPlLFUY0
「無駄だつってんだろうが!!」

 腕で防ぐが尾田栄一郎によって衝撃を吸収する。
 いかに帝具の腕力を以てしても、ダメージには至らない。

「そうか。『今は』柔らかいのか。」

「あ? 何言って───」

 槌の隙間から刃が展開と同時に回転。
 防いだ腕が切り刻まれて鮮血が吹き出す。

「ぎゃああああぁ!! ちょ、ま……!」

 いくら衝撃に強くとも今はゴム。
 斬撃には滅法弱い。本家もそう言っていた。
 自分から押さえつけてたのもあって引くのが遅れ、
 左腕が三つか四つほどに切り分けられた状態で周囲へと散らばる。

「畜生、やりやがったなテメエ……!!」

 シークレットゲームに参加したと言っても、
 此処までバラバラにされたものは見たことがない。
 仲間の死も全員それを見たわけでもないのもあり、
 凄惨な光景に血の気が引く。

「次は右腕か。」

「……有機溶剤(ケアル)。」

 腕から肉体がボコボコと再生していく。
 端から見れば異様な光景ともあり、より琴美の気分が悪くなる。
 趣味の悪いホラー映画か何かのように感じてしまう。
 対照的に同じような再生をするスサノオは動じることはない。

(あのメスガキ共、案の定やってやがったか。)

 有機溶剤による魔力の消耗が明らかに多い。
 この様子だと他の強力なのは制限されているとみていいだろう。

「お前、帝具なのか?」

「さっきからテイグテイグってなんだよ。貞操帯の仲間か?」

「……簡単に言えば兵器だ。俺もその兵器の人間になる。
 だが今の発言から、帝具人間と言うわけでもなさそうだな。
 同時にその再生力は人間ではなく危険種のようなものだと判断したほうがいいか。」

「ハッ、てめーに言われたくねえな、クソバケモンが!!」

 M93Rを抜いて即発砲。
 帝具ですらないただの拳銃。
 そのまま左目を貫通しても直進する。
 モッコスは逃げず、同じように接近。

「この距離ならその棒切れも使えねえなぁ?」

 下手に間合いを取れば槌か刃か、
 どちらか分からない択を取られるのは厄介だ。
 ならば至近距離で肉弾戦をしたほうがよほど懸命で、
 長い得物では接近された状態では使うことはできない。

「なら離れるだけだ。」

 棒高跳びの要領で槌を使っての跳躍。
 空中で旋回しつつ、再び顔面の側部へ叩き込む。
 斬撃か打撃か。完全な二択に本来は頭を抱えるものだ。

「だったら当たらなきゃいいんだろうが!」

 至極まっとうな理由と共に屈む。
 大ぶりな攻撃は盛大に外れたことで大きな隙を生む。
 屈んだ後跳躍し、鳩尾へと弾丸のようなストレートを放つ。
 叩き込むではなく放つ。もはやそれは大砲の弾に等しく、
 胴体は風穴を開け、空高く舞う。

「今度こそ燃え尽きやがれ!!」

 汚物消毒が空を舞うスサノオを焼き焦がす。
 念入りに、再生が追いつかないぐらいに。
 多少MP効率は悪いが、殺せればそれでいい。
 落下するまでの間、ずっと炎を放ち続けてスサノオが大地に伏せる。
 火達磨どころか、完全に炭化した焼死体の出来上がりだ。
 性別はおろか、それがスサノオだと言われても角以外で区別はつかない。

「ヘッ、いい花火だったぜ。」

190魔神降臨───禍魂顕現 ◆EPyDv9DKJs:2021/08/13(金) 16:44:35 ID:ccPlLFUY0
 炭化したそれを蹴り飛ばし、何度目か忘れた琴美へ歩み寄る。
 広々とした道は遮蔽物はなく邪魔するものは誰もいない。
 再び身を強張らせながらも後ずさりをするが、意味はなかった。

「少しは学習をしたほうがいい。」

 そんなことせずともなんとかなるのだから。
 冷徹な一言と共に、脳天へ槌が叩き込まれた。
 壊れた機械のようにぎこちなく首を向ければ、
 半裸で上半身の皮膚が再生途中のスサノオがそこにいる。

「再生力は落ちているが、あれでは俺は殺せない。」

「こんの、化け物が……ッ。」

 頭を叩き潰されて喋れたり認識できただけ大したものだが、
 それが限界。プツリと糸が切れた人形のように、逆にモッコスが大地に伏せた。

「大事はなさそうだな。」

 槌の刃で紐を切ってデイバックを回収しながら様子を伺う。
 制服に今の返り血を浴びた為スサノオとしては酷く気になってしまうが、
 今は手直しできるものがないためそれらについてはひとまず置いておく。

「……」

「どうした?」

「いえ。この人も助けられたら良かったなって。」

 空白の才の影響で、モッコスに対する感情がある程度歪んでるのはある。
 修平とは似ても似つかないのに、理由も分からず惹かれてしまってる状態だ。
 しかし、それを差し引いても殺し合いをしないと決めていた琴美にとっては、
 彼の死も決して心の底から喜べるものではなかった。
 可能なら共闘したくとも。

「甘いのは分かってます。でも……!?」

「? どうした。」

「スサノオさんう───」

 何かを察する前に先にスサノオは動いた。
 不気味な音と共にすぐそばで感じた殺気に反応し、
 迫る拳を受け止める。

「三人目だぜ……これを使うのはよぉ。」

 潰れたはずの頭部が元の形へと戻って行く。
 ギャグ補正(リジェネ)。モッコスが瀕死にならないと発動できないが、
 有機溶剤と違い魔力さえあれば自動的に発動するので、決して死ぬことはない。
 もっとも、消耗量はやはり明らかに多くされているが。

「魔力がある限り俺は死なねえ。今度は殺すまでテメエをぶっ殺してやる。」

「尽きれば死ぬと自白してるぞ。」

「いちいち突っ込んでじゃねえこのミノタウロスがッ!!」

 奪われたデイバックを奪おうとするが、
 寸前にスサノオが適当な方向へ投げて取っ組み合う。

「力比べと行こうじゃねえか……」





 ◇ ◇ ◇





 スサノオが戦ってる最中、もう一方では。

「ハァッ、ハァッ……」

 初音は必死に逃げていたが、
 それほどの距離は離れていなかった。
 運動が苦手な初音からすれば無理からぬことだが。

「!」

 空を駆ける炎。
 先ほどの場所は戦場と化してるのが目に見える。

(逃げないと───)

 このままだと自分も巻き添えを受けてしまう。
 息を切らした身体に鞭を打って歩くも、
 目の前の地面に突き刺さる刃毀れした刀。

191魔神降臨───禍魂顕現 ◆EPyDv9DKJs:2021/08/13(金) 16:45:42 ID:ccPlLFUY0
「え?」

 何処から来たのか。
 武器の向きから上以外にない空を見上げれば、
 赤い月をバックにアカメから目の前に降りてくる。
 吸血鬼と言う非日常的な存在を見たと言えども、
 人間離れした動きには不安の色は隠せない。

 咄嗟に何の考えもなしに初音は別の道へと逃げる。
 逃げたところで斬られるのは分かってるし、事実回り込まれた。

「聞きたいことがある。」

「な、なんですか……?」

 刀の凶暴さから不安がってるのもあってか、
 近くの地面に突き刺して無手の状態にしてから尋ねる。
 多少ではあるものの、緊張が解けたようにも見えた。

「お前を拾ったとき、近くに死体があった。
 女性と男性それぞれが一人いたが、何があったか教えてもらえないか。」

「き、聞いても初音を殺さないですか?」

 今行われようとしているのは尋問だ。
 身にまとう雰囲気は堅気の人間とは思えない。
 暴力的だった黒河でさえ比較にならない雰囲気がある。
 アイドルとして色んな演技に関わってきた彼女だから、
 そういうものに対する雰囲気は常人よりも一日之長がある。

「正直に答えれば害を与えるつもりはない。」

「えっと、初音はまず……」

 初音は始まってから起きた事を話した。
 ユカポンと共にファンと思しき参加者に襲われて撃退。
 共に行動しようとしたところを軍服の男にも狙われ、ユカポンが討たれたことを。
 自分が先に殺そうと武器を持ったことや琴美を攻撃した、ということは伏せたままで。
 少なくとも琴美とは協力関係。どんな話を聞かされてるか分からない。
 マイナス要素となりうるものは、できるだけ避けようと言わなかった。

(嘘、と言うわけではなさそうだな。)

 どこか委縮している様子は気掛かりだが、
 そもそも琴美と同じ殺し合いに巻き込まれた一般人。
 吸血鬼と出会って結果的に殺し、更に殺されそうになっての連続。
 割り切って振る舞える人間の方が少数派になるだろう。

「驚かせてすまなかった。私はアカメ、この殺し合いに反対の───」

 突如起きる爆発。
 派手な音に二人は強く反応する。

「今のはまさか……!?」

 此方にすら正垣が感じるほどの爆発。
 スサノオとて無事で済むかどうかは怪しく、

「私は一度琴美の安否を確認しに戻る。近くで隠れていてくれ。」

「は、はいなのです。」

「このカードも渡しておく。使い方はこれを。」

 四枚のカードと説明書を渡した後、
 アカメは爆発のあった場所へと走り出す。

「琴美! スーさん!!」

 爆発のあった場所へものの数分で辿り着くアカメ。
 そこには三人とも姿はあるが、その結末は───





 ◇ ◇ ◇





(千日手だ。)

 スサノオとモッコスの戦いは完全に持久戦だ。
 モッコスのMPか尽きるか、スサノオの供給が尽きるか。
 消耗が少ない帝具と言えどもあくまで元将軍のナジェンダであって、
 一般人の琴美では長時間の運用はとてもできないだろう。
 何時までもとはいかないので、一度蹴り飛ばして距離を取る。

192魔神降臨───禍魂顕現 ◆EPyDv9DKJs:2021/08/13(金) 16:47:22 ID:ccPlLFUY0
(奴の方に何かないか。)

 至近距離の間合いでは槌は使えず、
 肉体の強固さのせいで肉弾戦のダメージは今一つ。
 打開策はあるにはあるが、使うのを避けたいところ。
 蹴り飛ばしたのちに、モッコスの散乱したデイバックへ向かう。

「おい、人のモンとってんじゃねえぞ!!」

 すぐに反応して肉薄し、デイバックを蹴り飛ばしてスサノオは跳躍。
 空中で産卵する支給品の中で唯一取れた錠剤と、その説明書だけを空中でキャッチする。

「……薬物か?」

 説明書を見やれば中々にリスクのある危険物だ。
 相手が持っていながら使わなかったのはそう言うことだとも受け取れる。
 当然、これは自分にも言えることかもしれない危険物なことに変わりはない。

(奥の手を使っても、あの堅牢さは少し難しい。
 暴走の危険のリスクはあるが、やるしかないだろう。)

 カプセルを取り出し、飲み込む。
 効果が表れるのを待ちながら戦うことを想定するも、

「グッ!?」

 早くも来る疼きに目を見開く。
 こんなに効果が早い薬があってたまるか、
 などとは思うが、そもそもこれは人間用でもましてや帝具用ですらない。
 使用した瞬間効果を発揮するのは、これのあった世界では起きることなのだから。
 ───はかいのいでんし。最強を目指したポケモンの遺伝子が込められた薬で、
 攻撃性能が大幅に上昇する対価として混乱と言う名の暴走に陥る。
 幸い毒に耐性のあるスサノオのお陰で暴走はさほど起こしてはないが、
 見える者全てが敵に感じてしまう程の破壊衝動は起きており、
 琴美だけは視界に入れないように配慮して立ち回る。

「ぬおおおおおおおおおおッ!!」

 地面を陥没させる着地と同時に殴りかかる。
 モッコスも同じように殴りかかり、互いの拳がぶつかり合う。
 ぶつかり合った瞬間、凄まじい衝撃が周囲へと響き琴美が軽く吹き飛ぶ。

「キャアアアッ!」

 悲鳴の中、双方の腕に亀裂が入る。
 帝具に血はないので鮮血が噴き出すのはモッコスのみだ。
 殴る都合、拳だけはゴムよりも素の硬さの方が優れており、
 尾田栄一郎で柔らかい状態にするわけにはいかなかった。

「有機溶剤!」

(この頑丈さ、やっと貫けたようだな。)

 帝具にはかいのいでんしを使って、
 これだけ以てしてようやく生身でのダメージが通せるようになる。
 相手がいかほどの実力者かがよくわかる瞬間だ。
 ───だが、それでも足りない。

「勝ったと思ってんのかよ。」

 何度見たか分からない下卑た笑み。
 最初の数十回の拳のぶつかり合いは互いの拳が裂けつつも、
 互いに強引な回復を以って元に戻しながらの殴り合いを続けていた。
 だが途中から、スサノオだけが一方的にダメージを受けている。

(さらに硬くなっているだと。)

 元より鋼鉄並みの堅牢さは、少年法によってダイヤモンドに匹敵する。
 鋼鉄は貫けてもダイヤモンドを貫くには一歩だけ足りない。

「スサノオさん……!」

 何が起きてるか常人にはほとんど分からない。
 と言うよりまともに視認することも厳しい衝撃が襲ってくる。
 少なくともスサノオの方が劣勢なのはわかった。
 さっきから飛んできていたはずの血は飛んでこない。
 つまりモッコスの方はダメージを受けていないのだと。
 殴り続けていれば限界を迎えるのはどちらか。

 それを理解した瞬間、琴美は手を伸ばす。
 自分ができる最善は邪魔にならずにスサノオをサポートすること。
 そしてその一番の手段となる『奥の手』を彼女は使う。

「……禍魂顕現!!」

 手から気のようなものが彼女からスサノオへと伸びる。
 いくつかの帝具に存在する奥の手。スサノオは主からの生命力を糧に発動する。

193魔神降臨───禍魂顕現 ◆EPyDv9DKJs:2021/08/13(金) 16:48:58 ID:ccPlLFUY0
「その覚悟、受け取ろう。」

 できることなら彼女に使わせるのは避けたかった。
 ナジェンダは死を覚悟して反乱軍についていたが彼女は違う。
 守るべき民から貰うことに対して、相応の忌避感があったが故に避けた。
 だが彼女はそんなにやわな人間ではない。多くの人の命の上に助けられた彼女は、
 ナイトレイドと変わらない折れない志を持っていると。
 視界に入れると確実に攻撃しかねないので言葉だけに留める。

「おおおおおッ!!」

 スサノオが殴り合いの最中に姿を変えていく。
 上半身ははだけ、背中には光輪のようなものが現れ、髪は白髪に角は黒く変色。
 まさに禍々しい神へと変貌したとも言うべき風貌へと変わり果てた。
 これがスサノオの奥の手。ステータスを向上させる『禍魂顕現』だ。

「八尺瓊勾玉!!」

 能力以外にもさらに使用可能となるものが増える。
 八尺瓊勾玉は速度を向上させる効果を持っており、
 黄金のオーラを纏い、拳のラッシュは更に苛烈になる。

(お、押し切られる……!!)

 想像を超えるスピード。
 故にこれは負けるのではないか。
 なんてものがほんのちょっぴりだけ過った。
 そう、ほんのちょっぴりだ。負けるつもりはないし、
 勝てる気がしないと感じたわけではない。

「ヘ、ヘヘヘ……」

 劣勢になってるはずなのに謎の笑み。
 今までの下卑た物とは違う、どこか嬉しそうな。

「随分楽しそうだな。」

「あ? 今まで何もかもが簡単でつまらなかったんだよ。」

 誰も言わなかったし、理解されなかった。
 別に理解されたいとも思ったわけではない。
 子供の頃から思い続けてきたことだ。
 ドキュンたる彼の底に眠っていたルーツ。

「戦える奴(こういう)のも悪くねえってなぁ!!」

 ずっと思ってきたことだ。
 怪物を殺しても、警察をぶちのめしても、親父を殺しても。
 全てが簡単にできてしまい、全員が弱い。退屈で退屈で仕方がない世界。
 世界から色は消えた。イージーで退屈なモノクロの世界を彼は生き続ける。
 つまんないことをし続けるだけの世界かと思った時、彼はそれと出会った。

『そう? 私は退屈。』

 首を、頭を、股間を、全身を。
 いったい何度殺されるぐらいのダメージを受けたか。
 ただのガキと思えば、出鱈目に強い魔王と戦ったときのような。
 あの時抱いた感情のようなものが、今の彼にはあった。

 いや、魔王程の力はスサノオにはないとは思っている。
 一方的になぶり殺しにされた魔王と殴り合いがまだ成立するスサノオ。
 薬を使って、姿を変化させて、さらに強化して追いつくぐらいだ。
 どちらが強いかなんてことは、もはや語るまでもないことだろう。
 だがそれでもいい。あの時のように感じるあの瞬間の高揚感。
 苦境(こういうの)を彼は求めていた。

「……そうか。」

 漸く理解できた。
 元々スサノオは要人警護のため観察眼にも優れている。
 だから相手が、何処かつまらなさそうに感じることもあった。
 知ったところで所詮は敵だ、大した意味はない……だが。

「アカメ達の敵である以上お前を討つが、
 嘗て俺は戦士としてその名を下手人に覚えられた。
 故に俺も、お前を敵であると同時に名前だけは聞こう。」

 生前の影響のような彼女の真似事。
 はかいのいでんしを取り込んだことで、
 彼女と近しい間柄になっているのかもしれない。

「人間みてーなことくっちゃべってんじゃねえよ。
 だが名乗ってやるよ。俺様はエドワード・ハインリッヒだ。」

 モンスターである以上ぶっ殺す。
 それには変わりないものの、実力はある奴だ。
 気分も上がってたこともあって、珍しく名乗り返す。

「エドワードか……その名前、戦士として覚えておこう。」

194魔神降臨───禍魂顕現 ◆EPyDv9DKJs:2021/08/13(金) 16:49:30 ID:ccPlLFUY0
 互いに衝撃で距離を大きく取りながら拳のラッシュをやめる。
 全身全霊の拳を今から叩き込むべく、互いに拳を構えてからの肉薄。

≪うおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉッ!!!!≫

 殺し合いと言うよりも、
 戦いを楽しんでいるかのような光景だ。
 生き残ると言うよりも、勝つか負けるかの部分に重きを置いたかのように。

 互いの一番の拳が互いの身体に直撃する。
 爆発のような衝撃音が周囲へと広がっていく。
 嵐のような壮絶さがあった中に、突如静寂が周囲を包む。
 勝ったのは───




















「ゼー、ハー……老若男女平等拳(エクスカリバー)……!!」

 モッコスだ。
 胴体に風穴があく程の傷ではあったが、
 まだギャグ補正に回せる魔力は一回分は残っており治りつつあった。
 ではスサノオはと言うと、逆に身体が崩れつつある。

 モッコスが殴った箇所から、赤い欠片がボロボロと落ちていく。
 生物型帝具は何も無敵ではない。弱点は概ね二つ存在する。
 一つは使用者の死亡。これは単純だが、モッコスは選ばなかった。
 プライドの高い彼がそんなコスい手を使うはずがないのだから。
 もう一つは、核となるコアを破壊することだ。

 モッコスは違和感をずっと感じていた。
 琴美が翳した円盤。あれが胸元にあり続けたことを。
 燃やされて上半身だけになった時にもそれは形をとどめていて、
 消し炭になった時蹴り飛ばした際に胸元の円盤だけは炭化しておらず、
 変化した状態であってもそれが残り続けて、モッコスは気づく。
 知能は低い彼だが決して頭は悪くない。こいつにとっての心臓はそれなのだと確信した。
 故に殴り、砕いた。崩れていく姿を見て笑みを浮かべずにはいられない。

「スサノオだったか? まあ覚えておいてやるよ。」

195魔神降臨───禍魂顕現 ◆EPyDv9DKJs:2021/08/13(金) 16:51:37 ID:ccPlLFUY0
 崩れつつあるスサノオを見て今度こそ倒したと確信する。
 コアが砕かれた今や、再生することはできない。
 その上満身創痍の中で動けるものではなく倒れる。

「さ〜て、お楽しみの時間。」

 琴美へと視線を向けて歩き出す。
 流石に負傷のせいでゆっくりとした動きだが、
 長時間彼の近くにいすぎたことで雌豚調教の才の影響は強く、
 琴美は骨抜きに近い状態でまともに立って歩くこともできない。
 今度こそ守るものはいない。全てが終わった。








 だが琴美はそうは感じなかった。

「な───」

 背後の影を見てその存在に気付く。
 コアを破壊したはずのスサノオが再生を始めている。

「禍魂、顕現……カハッ!!」

 血反吐を吐きながらその生命力を差し出す。
 禍魂顕現は主人の生命力を奪って強化を施し、三回使用すれば使用者は死ぬ。
 だが、それはあくまでナジェンダが使った場合の話である。
 帝具には相性というものがあり、元々スサノオは将軍が使ってた帝具。
 琴美は守る為なら自分が傷つくことを厭わない精神を持ってると言えども、
 将軍やナジェンダと言った武人に並ぶ程の相性の持っているわけではなかった。
 加えてはかいのいでんしを取り込んだことでの消耗が跳ね上がったうえに重ね掛けの禍魂顕現。
 二度ですら血反吐を吐くことだって、決しておかしなことではない。

「天叢雲剣!!」

 復活したスサノオの手に握られるのは数メートルは余裕である長剣。
 琴美ぐらいなら簡単に組み伏せれると言えども、
 流石に奥の手を使った状態のスサノオを相手できる体力はもうない。

「ちょ、ま……!!」

 情けない遺言と共に、モッコスの上半身と下半身は分断された。
 ギャグ補正を生命力で賄おうとしても満身創痍の彼に当然なるはずもなし。
 搾り取るだけの分でさえなかった彼に、命の炎を燃やしつくすかのような一撃。
 どちらの命がまだ燃えていたか。言ってしまえばそれだけの結果に過ぎない。
 そして彼が死亡すること、即ち───










 メガンテのうでわはくだけちった!










「琴美、スーさん!!」

 三人の姿はあったが、凄惨な光景だった。
 上半身と下半身が分断されたモッコス。
 奥の手の姿でありながら右腕と左足を喪ったスサノオ。
 そして───四肢がバラバラにちぎれた状態の琴美。
 モッコスの死によってメガンテのうでわが発動した結果、
 スサノオは瀕死に、琴美は即死の結果を引き当ててしまった。

「アカメ、戻ったか……任された身でこの結果だ。すまない。」

 主からの供給がなくなった今、
 支給品であるスサノオは行動は許されなかった。
 次の主人と出会うまで、身体を動かすことはできない。
 それでも、アカメが戻って事情を説明するまで辛うじて意識だけは保っていた。

196魔神降臨───禍魂顕現 ◆EPyDv9DKJs:2021/08/13(金) 16:52:08 ID:ccPlLFUY0
「……私ではどうにもならなかった。スーさんに何か言える立場ではない。」

 言える立場だったとしても、何も言うつもりはなかった。
 これだけスサノオが負傷してようやく勝てた相手なのだから。
 犠牲なしで勝てと言えるわけがないし、自分でも成せるものではない。
 ナイトレイドの誰であろうとも言うことはないだろう。

「所有者が不在になったことで時期に俺は一時的だが眠りにつく。」
 核となる奴は持っていけ。琴美が自分の命を削って俺のを再生させた。
 無理のある形で復元したことで力は衰えてるかもしれんが……まだ使い道はあるぞ。」

「……分かった。」

 損壊してるとは言え大の男だ。デイバックに入れるのは難しく、
 コアの部分を日輪刀で抜き取り、スサノオは一度消滅する。

(これは琴美の遺志だ。)

 命を繋いでこれを残してくれた。
 守れなかった分、せめてこれを誰かに届けなければならない。

(そうだ。あの木札を……?)

 あの札が所有者で変わるのであれば、
 今のうちに破壊しておくべきだとモッコスの下半身を漁る。
 ポケットには確かにあったものの、そこに書かれてた文字はない。

(奴は自分の支給品の能力を把握しきれてなかった。
 と言うと、女性に対する効果は後付けか不明のまま支給されたか。)

 散乱していたデイバックを回収し、その中から空白の才の説明書を見つける。
 並の帝具を凌駕するそれは、使い方次第で千変万化の万能なものとなるだろう。

(『首輪解除の才』と書き込めば誰でも首輪解除が見込める、ということか。)

 万能な代物ではあるが、一先ずしまっておく。
 自分がするべきは敵の排除。首輪解除という重要なポジションでは、
 自身が前に出て戦うことができなくなってしまう恐れもある。
 誰かに信用のおける人物にこれを譲渡して其方へと優先するべきか。



 かくして勇者の肩書を冠した魔族と、
 神の名を冠した帝具の壮絶な戦いは終わりを迎える。
 仲間の遺志を継ぎ、アカメは一人その場から去った。

【モッコス@ドキュンサーガ 死亡】

【吹石琴美@リベリオンズ Secret game 2nd Stage 死亡】

【E-6/一日目 佐神善の家前/黎明】

【アカメ@アカメが斬る!】
[状態]:雌豚調教の才による興奮(現在回復中)
[装備]:嘴平伊之助の日輪刀@鬼滅の刃、灰皿×2@現実、スサノオの核@アカメが斬る!、空白の才@うえきの法則
〔道具]:基本支給品×6(自分、モッコス、琴美、充、ドドンタス、しお)、スサノオの槌@アカメが斬る!、閃光手榴弾×1、ランダム支給品×0〜10(琴美0〜1、ドドンタス0〜2、しお0〜2、モッコス0〜2、充0〜2、一部未確認)、M93R@リベリオンズ Secret Game 2nd Stage(弾薬まだ余裕あり)、空白の才@うえきの法則

[思考・状況]
基本方針:主催を悪と見なして斬る。
0:初音のところへ戻る。
1:殺し合い阻止の為の仲間を募る。
2:エスデスを斬る。
3:あのおにぎり頭の少年を探し出し、悪ならば斬る。
4:レオーネと合流する。
5:琴美の関係者を探す。それと謝らなければならない。
6:主催はスーさんを復元できるのか……
7:参加者に縁のある場所があるのか?

※参戦時期は漫画版スサノオ死亡後〜エスデス死亡前の間。
※琴美視点でのリベリオンズ勢の関係を把握しました。
 ただしDルート基準の為、他ルートとは齟齬があります。
 (話が完全に一致するのは春菜、充のみ)
※雌豚調教の才はモッコス死亡により空白の才に戻りました。
 少なくとも現時点でアカメは書いていません

197魔神降臨───禍魂顕現 ◆EPyDv9DKJs:2021/08/13(金) 16:52:47 ID:ccPlLFUY0
※スサノオが無理な禍魂顕現をしたことで、性能が落ちてるかもしれません

※E-6にモッコス、琴美の死体があります










 ……しかし、やはりアカメの認識は甘かった。
 あの後、初音は札を一瞥した後に走り出す。
 隠れる為に走ってるわけではなく、逃げるためだ。
 近くどころかすでにエリアすら跨いでしまっている。

(初音の事がバレたら、初音は……ッ!!)

 先ほどアカメは『琴美の所へ戻る』と言った。
 となれば、琴美はあの時点では死んでいなかったと言うことだ。
 もしアカメに危害を加えたことを伝えられれば……想像したくない。
 だから逃げる。少しでも遠くへ逃げて充を探すために。

 アカメに落ち度があったかどうかで言えばないだろう。
 まだ異世界と言う概念すら理解しきれてない情報不足の中、
 平行世界と言うさらに別の概念もある場所にたどり着くのは。
 いち早く平行世界も関わってることに気づけているのは別世界のデビルマンを知った政、
 原型と言う概念があるワザップジョルノと割と限られた人物ぐらいだろう。
 ましてや、シークレットゲームの参加者は全員そのことに気づけてないのだから。

【D-7/一日目/黎明】

【阿刀田初音@リベリオンズ Secret Game 2nd stage】
[状態]:精神的疲労(大)、疲労(大)、出血(中)、全身にダメージ、不安(大)
[装備]:霊撃札×4@東方project
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜2(アカメ、琴美が確認済み。ボウガンや危険物以外)
[思考・状況]
基本方針:初音にどうしろというのですか……
1:充を探す。アカメから逃げる。
2:修平、はるな、大祐、アカメには要警戒する。
3:琴美……ユカポン……
[備考]
※参戦時期はBルート、充の死亡直後より。
※自分が琴美を殺したと思ってます。

≪佐神善の家@血と灰の女王≫
善の実家。教会でもあり捨てられた動物を飼ってるため、直ぐ近くに動物小屋がある。
現在は初音の支給品である金づち@現実が転がっていて、若干損壊。
善によるドミノですら噴き出すほどのまずい飯とかあるかも。

【嘴平伊之助の日輪刀@鬼滅の刃】
アカメが最初から使用していた支給品。
伊之助が那田蜘蛛山の後に新調した藍鼠色の日輪刀。
日輪刀の特性から太陽に弱い相手には有効な武器となる。
意図的に等間隔で刃毀れさせた。多分斬られるとすごく痛い。斬ると言うより裂けそう。
伊之助は二刀流だが一振りだけ。ひょっとしたらどこかにもう一振りあるかも。

【電光石火『スサノオ』@アカメが斬る!】
琴美の支給品。四十八の帝具の一つで意志を持った生物型帝具。齢1000歳。
高い戦闘能力に加え要人警護用の為料理を筆頭に、あらゆる家事どころか建築すらできる。
主を必要とする帝具だが従順ではなく、また自動で動くため帝具としては技術も消耗も少ない。
観察眼に優れ、動作による弱点も見抜ける(優れすぎて几帳面な性格が災いし集中できないことも)
生物型の帝具のため胸元の赤い円盤を破壊されない限りはあらゆる損傷から再生することが可能
長柄の槌を基本武器にしており、槌の隙間からは回転刃もでる。強化兵ですら余裕でスライス可能
奥の手『禍魂顕現』により、一定時間数メートルは余裕である超がつく長剣の『天叢雲剣』、
飛び道具反射できる鏡『八咫鏡』、基本能力を伸ばす『八尺瓊勾玉』が行使できる
使うには主人となる存在からの生命力を消費し、多くても三回使えば確実に主人が死ぬ
(相性やスサノオの状態次第で上限は下がる)
制限として
①使用者から離れられない(少なくとも使用者が認識してない範囲には出られない)
②禍魂顕現の使用回数は持ち主を変えても六時間に一回回復
③自我は残っているため進言も時にするが、主人の行動方針に絶対に従う。
④使用者が死亡した場合自動的に機能が止まる。
このスサノオが漫画版かアニメ版かは現時点では不明

198魔神降臨───禍魂顕現 ◆EPyDv9DKJs:2021/08/13(金) 16:53:23 ID:ccPlLFUY0
【はかいのいでんし@ポケットモンスターシリーズ】
元々はしおの支給品を、スサノオが使用したもの。
ポケットモンスターシリーズとは言うがマザーシップだと金銀のみの登場。
硬化のみで説明不要だったが、入手場所がハナダの洞窟があった場所であり、
名探偵ピカチュウでも登場したことから、ミュウツーの遺伝子を含んだ薬物。
使用すると攻撃力が非常に跳ね上がるが、ひんしになるまで混乱基暴走を起こす。
スサノオに使用した結果、ポケモンと同様に自分を攻撃する形で自制する形となった。
スサノオはコア=ひんしになったため再起動時は暴走しないが、攻撃力も戻っている。
原作では名前だけで形状は不明の為、名探偵ピカチュウに倣いカプセル型として扱う。

【霊撃札×4枚@東方project】
アカメの支給品を初音に渡したもの。
性能的には緋想天or非想天則よりで、掲げることで衝撃波が周囲の敵を吹き飛ばす防御向けのカード。
衝撃波によるダメージは雀の涙なので場所と組み合わせよう。

199魔神降臨───禍魂顕現 ◆EPyDv9DKJs:2021/08/13(金) 16:54:24 ID:ccPlLFUY0
投下終了です
意志持ち支給品でかつ人型とちょっとアレなので、
問題がありましたら破棄でお願いします

200 ◆2zEnKfaCDc:2021/08/19(木) 03:41:45 ID:SskQYQoc0
投下します。

201星屑ロンリネス ◆2zEnKfaCDc:2021/08/19(木) 03:43:43 ID:SskQYQoc0
 心臓の音が聴こえるのではないか――そう思えるほどに、幡田零の身体は悲鳴を上げ始めていた。誰かと戦い、外傷を負ったわけではない。それでも、枯れた瞳が写す世界は滲み始め、足取りも次第におぼつかなくなっていく。

 これまで、二人の人と出会った。幸いにもそのどちらも、問答無用で襲いかかって来る相手では無かった。もしかしたらそっちの方が、罪悪感なく殺すこともできたかもしれないが、それは置いておくとしよう。重要なのは――そのどちらも最終的には優勝を狙っていたということ。その見解に、主にロックのスタンスについて推測が含まれているのは確かだ。それでも、これまで出会ってきた相手がことごとく自分やみらいを傷付けかねないという想像は、出会っていない他の参加者にまで拡大的に膨れ上がり、確実に零の心の平穏を脅かしていた。

 さらには、まだヨミガエリに至っていないはずなのに殺し合いの名簿に名前が載っているみらいが幽鬼なのではないかというロックの指摘も零の心を乱した要因だ。それ自体信じたくもない仮説だ。しかし、確かに死んだ――否、自分が殺したみらいが、殺し合いに参加することができている状況。それだけを見ても、どうしてもそう考えざるを得ないのは確かだった。

 例え幽鬼であったとしても、みらいが大切な妹であることに変わりはない。そのヨミガエリに理念ではなく生者の魂が求められるというのなら、自分の魂だって迷わず差し出せるだろう。或いは、いくつもの屍を彼女のために積み上げることもできるだろう。

 零にとってみらいが幽鬼であるか否かは、感情の上ではともかくその意味の上では些末な問題だ。だが、自分以外にとってはそうではない。みらいが幽鬼と化したのであれば、唯一殺し合いに乗っていないと信じられる千さんだってみらいを害することが有り得るのだ。

 そもそも、みらいと千さんは面識がなく、幽鬼であるというだけでみらいは千さんに狙われる対象となり得る。仮にみらいが自分の妹だと、何らかの出来事の末に千さんが分かったとしても――千さんの正義は身内と他人を区別しない。幽鬼と化し、人の魂を喰らう存在と化したのならば、千さんはきっとみらいを殺す。どこまでも公正な正義こそが、千さんが辺獄で剣を取って戦う理由だから。その信念を尊敬こそしているが――ここでは、ただただ邪魔なだけだ。

 焼き切れそうなほどに廻り続ける脳が、焦燥に歪んだ結論を提示した。ここでは、仲間であったはずの千を含め、誰もがみらいの敵なのだと。すなわち、自分の敵なのだと。

 そんな想像に囚われながら落ち着いていられるはずもなかった。誰も信用できない疑心暗鬼は、零の中で着実に膨らんでいく。

(もう、疲れました……だけど……)

 不安から、いつしか始まっていた息切れ。しかしそれでもなお歩みを止めるわけにはいかない状況。酸欠に陥りながらも、焦燥に身を委ねて零は走り続けた。

(そんなこと……言ってられない……。)

 ただでさえ、不摂生な食生活や生活習慣から運動を苦手とする零である。昂る気持ちに身体はついていかない。特に誰とも交戦することのないままに、その肉体は限界を迎えることとなった。それでも、前に進もうとする。未だ影さえつかめないみらいのことだけを、ただ一心に念じながら。

(あ……れ……? 待っ……私……息、できてな……い……?)

 煩い事に意識を追いやっていた零は、自分の体調の自覚すら忘れていた。気付いた時には、その身体はすでに動かない。

――どさり。

 そのまま、零の意識は闇へと沈んでいった。

202星屑ロンリネス ◆2zEnKfaCDc:2021/08/19(木) 03:46:00 ID:SskQYQoc0



 夢を、みていた。

 何かの間違いであってほしいと、何度も目を背け続けてきた記憶。しかしこうして、たまに現実を突き付けに夢に出てくる。

 何の前触れもなく、鳴り響いた着信音。画面に映し出される、唯一の友達――水無乃有理の名。有理から電話がかかってくるなんて珍しいな、なんて思いながら通話を開始して。


『――ねぇ、どういうこと?』


 初めて聞いた声だった。ただし知らない人、というわけではない。いつも陰気さを感じさせない明るい口調だった有理の、怒ったような低い声。常日頃から何かと萎縮しがちな私だったが、きっと私でなくても気圧されるだろう。


『――あいつ、言ってた。こうなったのは、全部あんたが理由だって……。なんで……なんで私が、こんな目に合わないといけないの!? あんたのせいなんでしょ!? 助けてよ、零! 私、こんなところで……。』


 有理が語る内容は、まったく意味が分からなかった。だけど必死に、私を責めていることだけは痛いほどに伝わってきて。あまりの困惑に、何かを尋ねることも、言い返すことも、できない。

 一言も発することができないままに、次に会った時に聞こうと、疑問の解決を保留して。そして、その”次”は二度と訪れなかった。翌日、あのバス事故の報道を見て、私は有理の死を知った。発表された事故のあった時刻から、あの電話が死に瀕した有理の最期のメッセージだったのだと、気づいた。

 有理の真意は、今も分からない。あのバス事故と私に、何の因果関係があるというのか。

 現実的に解釈するなら、きっと有理は死に瀕していて混乱していたのだとは思っている。だから、私を糾弾するあの不可解な電話が、私と有理の楽しかった思い出すべてを汚すものではないのだとも、理解している。だから、有理とは今も変わらず友達だ。そう、何の気がねもなく言える性分だったらよかったのだろうけど。有理を友達として語ろうとすると、どうしてもあの電話がよぎってしまう。あの電話が私の人生の中で、特別意味のあることだったから。アナムネシスに辺獄に引きずり込まれ、魂の欠損が起こった時に垣間見た記憶も、この電話だったのだろう。理性で何を理解していようとも、最後のあの瞬間に私と有理はもう『友達』じゃなくなったのだと。私はあの瞬間に真に独りになったのだと。感情がそう訴えてくるのだ。



203星屑ロンリネス ◆2zEnKfaCDc:2021/08/19(木) 03:46:43 ID:SskQYQoc0
 複雑な心境を胸に、零の目に光が入ってくる。涙は、流れていない。

「ん……夢……ああ。私、倒れ……」

 そんな零を待っていた光景は、眼前いっぱいに主張する青いものだった。見慣れない光景に、少しだけ視線を上に運んでみると――真っ黒な影の中から零をぎょろりと睨みつける二つの目玉。

「――ひゃあああああああっ!!!」

「おや。目が覚めたみたいよ。」

「まったく、こんな時に寝ていられてるなんてバカなのかしら。」

 零の悲鳴を聞きつけて、一人の女性と、女の子が駆け寄ってきた――女の子……女の子? 否、よくよく見れば全身が四角形で構成された、人とは思えない異形の類。だが曲がりなりにも人の形を模したそれよりも、恐れるに足る存在が目の前にある。箱状の形をした化け物――パンドラボックスを前に、零は狼狽する。

「き……斬って! ヘラクレイトス!! で、出ない……どうして!?」

 右手をぶんぶんと振り回すも、その手には思装もなければ、盾となる守護者もいない。

「いっ……いやぁぁぁぁ!」

「ちょっと、落ち着きなさいよ。」

「あはは、元気だねぇ。」

 まもなく、この人たちに寝ているところを保護されたのだと冷えた頭で理解し、零は恥ずかしそうに縮こまった。

「あ、悪趣味です……。保護してくれていたのは感謝していますが……起きて早々こんなのを見せなくてもいいじゃないですか。」

「えー、カワイイじゃん。エルピスっていうの。」

「……可愛いというところには同意しかねます。」

 不機嫌そうに、エルピスを差し向けた女性にじっとりとした視線を向けると、笑顔で返される。アウトドア系の軽装から推測できるおおよその性格から、苦手なタイプだと零は直感的に感じ取った。特に、初対面からぐいぐいと距離を詰めて来るその距離感からは、どうしても有理のことが思い出されてしまう。

「さて、まずは自己紹介かな。」

 さっそくと言わんばかりに、その女性は切り出した。

「私は清棲あかり。博物館職員をやっているんだ。キヨスって呼んでいーよ。」

 たぶん、呼ばない。そんなに神経は図太くない。

「次はアタシの番ね。アタシは伯爵さまに仕えるモノマネ師、マネーラよ。」

 伯爵さま……? モノマネ師……? 浮かんだ疑問は、とりあえず追究しないでおいた。

「そして改めて、この子はエルピス。まだ大規模な調査に至れているわけじゃあないんだけど、箱に擬態して獲物を狩る習性がある生物かな。先の戦いを見るに、睡眠を促す気体を排出する可能性もあってね。図鑑が反応したってことはポケモンと呼ばれている生物だと思うんだけど、まだまだ謎に包まれているね。」

 清棲さんの自己紹介より長い……というかまんま危険生物じゃないですか。頭に輪っかがないので幽鬼ではないようだが、だとすれば幽者だろうか。ただひとつ言えるのは、決して可愛くはないということ。

「……幡田零です。」

 正直なところ、居心地が悪い。無防備な姿を晒した自分がまだ生きていることから、二人と一匹?が殺し合いに乗っていないのは確かなのだろう。それならば、わざわざ急いで排除する理由もない。

 しかし、だからこそ優勝を狙っている自分と相容れない。助けられたことを理由に殺すのを躊躇し、馴れ合えば馴れ合うほど、彼女たちを殺す決心から遠ざかっていくだろう。ちょうど、みらいと天秤にかければどっちを取るのかは明らかであっても、この殺し合いに参加している千さんを殺したくないと思っているように。

 ただ、さっきまで囚われていた、誰も彼もが自分やみらいを害するのではないかという幻想から解き放たれ、少しばかりは冷静になれたのも間違いない。

204星屑ロンリネス ◆2zEnKfaCDc:2021/08/19(木) 03:47:33 ID:SskQYQoc0
「お二人は、何をしてるんですか?」

「伯爵さまを探しているの! ノワールという方と出会わなかった?」

 零の質問に率先して答えたのはマネーラ。元より悪の側に立つマネーラが、イケメンでもなければそもそも男ですらない零をわざわざ保護したのは倫理観ではない。あくまで、伯爵の情報を欲してのことだ。

「いえ、会っていませんね。」

「ぬい〜……それはザンネンなの……。」

 ここで嘘をつく理由もなく、零は正直に告げる。時間のムダだったと、少し不機嫌そうに返すマネーラ。

「……すみません。」

「まあ仕方ないわよ。ちなみに、アンタの知り合いは呼ばれていたりしないワケ?」

「実は私も、妹のみらいを探しているんです。私と同じ髪の色をしたツインテールの女の子なのですが……」

「こんな感じ?」

 ボンッ。

 瞬く間に、マネーラの姿は等身大の少女のものに変わった。顔かたちは零を模しつつ、その髪型だけをツインテールに変えたものだ。衣服も零の代行者の衣装そのままであり、違和感が拭い切れない。自分の、代行者の派手な衣装を改めて目の当たりにした恥ずかしさも同時に襲ってきて、少しばかり俯きがちになりながら零は口を開く。

「……驚きました。そんなこともできるんですね……。」

「つまんない。思ったより反応が薄いのね。」

「……すみません。似たことのできる幽鬼が身近にいるので。」

「アラ、アタシの専売特許だと思っていたわ。」

 人格が魂に宿るなら、肉体の方は変化させることも可能ということなのだろうか。何であれ、マネーラの変身能力も、紛れもなく驚愕に値するものだ。

 しかし衝撃の度合いで言えば、自分たちの姿が777のものに変えられていた時の方がよほど大きかった。

 何より、現状のマネーラはツインテールにした自分でしかなく、どこか鏡を見ているような気分だ。

「……とりあえず、もう少し目つきはやわらかく、口は緩ませて。あと服は普通のにしてください、絶対。そして赤いリボンを……」

「わぷっ! ちょ……何すんのよっ!」

「えーと、私たちもみらいっていう子には会っていないかなぁ。」

 マネーラの輪郭を力づくで弄り始めた零を制止しつつ、キヨスは答える。マネーラも、キヨスと出会う前には誰とも出会っていなかったらしく、同じ答えだった。

205星屑ロンリネス ◆2zEnKfaCDc:2021/08/19(木) 03:48:35 ID:SskQYQoc0
「そう……ですか。ありがとうございました。」

 それなら、この人たちに用はない。すぐにでも、みらいの捜索を再開しないと……。

 一礼を終えると、零はくるりと踵を返した。

「ちょっと待って!」

 そのまま立ち去ろうとした零を、キヨスは呼び止める。

「何ですか?」

 用件はなんとなく想像がつく。少しだけ苛立たしさを覚えながら振り返った。

「ほら、大人数だと安全だしさ、零ちゃんもよかったら一緒に行動しようよ。」

「…………。」

 面倒だと思う反面、そうなるだろうなという納得があった。先ほど同行を最後まで持ちかけてくることのなかったロックを殺し合いに乗っていると推測したが、その対偶の理屈だ。殺し合いに乗っていないのであれば、同行を提案するのは当然だろう。でも、そのスタンスを自分に期待されても、困る。

「……嫌です。」

 せめて変に期待を持たせることのないように、ハッキリと断った。これまで物怖じ気味だった零が突然見せたその毅然とした態度に、キヨスもマネーラもただ事でない雰囲気を感じ取る。

「どうして?」

 重苦しい雰囲気の中、口を開いたのはマネーラ。事情があるのを無理に踏み込もうとする性分ではないが、この世界でのワケアリは人死にに直結し得る。そのため、強く問い詰めるような口調だ。しかし零も、気丈な振る舞いを崩さない。

「……もし、貴方の探している伯爵さんと、私の妹が殺し合っていたとしたら。貴方はどちらを味方しますか?」

「それはもちろん、伯爵さまよ。」

 マネーラは即答する。そこに建前は押し出さない。天秤にかけるのが零の妹でなくとも――何ならキヨスだったとしても。その忠誠心は、依然として変わらない。

「そうですよね。それでいいと思います。だけどそれが、一緒に行けない理由です。生き残れるのは一人だけなのだから、その時は間違いなく来るんです。」

 小衣さんや千さん、そして777と組んでいたのは、その誰もが障害とならないからだ。アナムネシスへの復讐を誓う小衣さん。自分の正義を成したい千さん。私についてきたい777。その誰も、みらいを助けたい私の目的を邪魔しない。仮に千さんの正義が小衣さんの個人的な復讐を許さなかった場合。仮に777が何の役にも立たないどころかお荷物になる場合。寄せ集めの協力関係なんて、直ちに瓦解するだろう。

 そして、ここは生き残れるのが一人だけの殺し合い。私が何を犠牲にしてでもみらいを助けたいと思っている以上は、協力関係なんて築けるはずもない。

「つまりアンタは、殺し合いに乗るの?」

「……必要なら。いつでも覚悟はできています。」

「……そ。助けるんじゃなかったわね。ま、アカリが勝手に助けていただろうケド。」

 ここには零とマネーラの、最後の一人になるまで殺し合う必要性への認識の差が表れている。

 主催者であるメフィスとフェレスという悪魔たちを、理念を集めるために裏で行っていた”演出”までは知らずとも、それでも他の者たちに比べ最低限を零は理解している。人間をおもちゃとしか――或いはおもちゃとさえ、見ていないこと。そして、勿体ぶったり曖昧な物言いで煙に巻いたりすることはあっても、明確な嘘で人をからかったりはしないこと。だから、この殺し合いは本当に、最後の一人になるまで終わらない。辺獄での行動は奴らに監視されているのだから、反抗することも非現実的だ。それが、零の認識である。

 一方のマネーラ。主催者であるディメーンは、零にとってのメフィスとフェレスとは異なり、高位の存在でも何でもない。位を同じくする存在であり、素直に従うのは癪でしかない相手だ。また、『敵も含め』あらゆる者をパワーアップさせてしまうディメーン空間の一件など、存外抜けているところがあるということも知っている。伯爵に仕えていた本当の目的は知らないが――むしろ知らないからこそ、この殺し合い自体につけ入る余地すら見出している。

 もしも、対話を重ねていれば。この認識の差が埋まることも、或いはありえるだろう。しかし、そもそもマネーラに、零を無理に連れていく道理などありはしないのだ。伯爵さまと共に元の世界に戻ること、それこそがマネーラの譲れない行動原理であり、殺し合いに乗らないことはその手段でしかない。マネーラの夢は、零を排除した上でも叶い得るのだ。

206星屑ロンリネス ◆2zEnKfaCDc:2021/08/19(木) 03:49:50 ID:SskQYQoc0
「――まあまあ、二人ともいったん落ち着こ?」

 されど――キヨスの夢は、そうではない。皆の生きた証を、未来に届ける――その”皆”の中に、例外などあってはならない。

 生物である限り、捕食・被食の関係にせよ共生・寄生の関係にせよ、他の生物といかなる関わりをも持たずに生きることは不可能だ。そして、その繋がりの把握に先行して、個の理解がある。個の理解を繰り返して、いずれ生態系の理解へと結びついていく。キヨスの専攻する学問に、研究対象とならない生物など存在しない。

 キヨスの夢は、この殺し合いのありのままを風化させず、後世に伝えること。そのために、個である零と分かり合うことを諦める選択肢はキヨスにはない。

「私はね、この殺し合い、誰も死なずに終わるとは思わない。仮に、協力して殺し合いを脱出できるとしてもね。」

 エルピスと出会った時に起こった戦闘は、文字通り"殺し合い"と呼んで差し支えないものだった。どこかで何かが噛み合わなかったら、誰かが死んでいてもおかしくなかった。ここ辺獄では、いち生物の攻撃本能でさえ何人もの命を危険に晒し得るのだ。そんな戦いが100人規模で行われているこの場で、誰も死なずにいられると思うほどキヨスは楽観主義ではない。

「……本気で、脱出できると思っているんですか?」

「さあね。」

 具体的なアテはない。しかし、マネーラの変身能力といった、人知を超えた力はここにある。ギャブロという人語を話す蠅のような生き物もいた。まだ観測していない範囲に、ポケモンをはじめとし、どんな神秘が待ち受けているかもわからない。

 だから、まったくもって脱出の希望がないとも思えないのがキヨスの現状。

「さあねって……無責任です、そういうの。」

「確証もないものをできるって言っちゃう方が無責任だと思うけどなぁ……。まあでも、これだけはハッキリしてるよ。」

 零にとって、みらいが譲れないものであるように。キヨスにも譲れない一線がある。

「……生き残った人たちが死んだ人たちのことを忘れてしまえば、その人が生きた証はこの世界から消えてなくなってしまう。」

 保存に失敗して廃棄することになった標本を、幾つも見てきた。

 死してなお残るその姿が。100年後の未来に伝わるはずだった彼らの生きた証が。価値を失ったゴミと化して誰の目にも届かないところへ沈んでいく光景。仮にも命だったものを扱う者として、ただただ悲しいから。

 だから、忘れない。喪失された命の証を胸にしまいこんで、代替なり得なくとも、次の標本の保存に努めるため。記憶というのは、寄る辺を失った命の、最後の拠り所だから。

「それが、清棲さんのやりたいことですか?」

「そう。だから、零ちゃんには独りになってほしくないって思うの。探してる人がいるなら、協力するから。」

「生きた証、ですか……。」

 キヨス本人だって、後世に語り継がれたいと思うまでの英雄願望はないが、それでも誰かの記憶に残りたいと思うことはある。

 博物館に展示されるのは、いつかを生きた標本だ。さまざまな動物たちの生きた証にスポットが当てられ、訪れる者にその存在は主張される。その一方で、その裏でスポットを当てている職員たちは、博物館という世界の中で意識の外に追いやられる。それがキヨスたち、博物館職員の仕事。決して表に出てはならない。主役であってはならない。その生き様は、やはり誇りに思いつつも――同時に、その虚しさも分かっている。

 目立ちたいというタチでなくとも。功績を主張するタイプでなくとも。それでも、博物館の生き物の魅力に惹かれた子供たちに、知ってほしい時もある。博物館という舞台の、その裏側を。標本研究やその保存に、限られた人生の時間を尽くしている人たちがいることを。

「ねっ、お願い……!」

 庇護欲を掻き立てるような上目遣いと、されど決意の籠もった真剣な目で、キヨスは念を押す。もしもこの殺し合いが開かれなければ、事あるごとに別の青年に向けられていたであろう、勢いで押し切るかの如き懇願の言葉――

207星屑ロンリネス ◆2zEnKfaCDc:2021/08/19(木) 03:50:50 ID:SskQYQoc0




「随分と、都合のいい解釈をするんですね。」




――相手が零でさえなかったならば。きっと、絆されていただろう。

「命だったものを奪って。死者の生きた証に涙を流して――それで、死者は報われるんですか?」

 反論なんて、いらないはずだ。別に討論がしたいわけじゃない。話し合いも和解の余地も振り切って、すぐにでもみらいを探しに行けばいい。そうまでして去る者を、問答無用で追いかけるほどの執着ではないはずだ。

 分かっている。ここで軋轢を生むことの無意味さは。

「私は知ってるんです。死者の、私たちを妬む声も、恨む声も。苦しみも、嘆きも。目を瞑っても、耳を塞いでも、ずっとずっと心の奥に溜まってる。」

 だけど、言い返さずにはいられなかった。

 みらいの、生きた証――どれほどの時間が経っても、あの子を突き刺した手にずっと、いつまでも、残り香のようにまとわりつき続ける感覚。私を蝕み、苦しめ続けているのは、その記憶に他ならないから。

 その苦しみを持ってしても、足りない。あの子を殺した罰には、到底。それでも赤の他人に、まるでそれが美談であるかのごとく語られるのは、どうしても我慢ならないんだ。

「彼らの声を忘れないことは大事です。それが、生き残った側にできるただ一つの償いだから……。でも――」

 零の右手が、支給されているデイバックに伸びる。その”意味”を即座に理解した者が、二人。

「――そんなあなたの『エゴ』に……私を巻き込まないでっ!」

 デイパックの中から現れたのは、一本の剣。まるで涙のように蒼く透き通ったそれは、そのまま真っすぐにキヨスへと突き付けられる。

 驚愕に目を見開くキヨス。そして、それとほぼ同時。

「――それ、引っ込めな。これ以上は、ジョーダンじゃすまないわよ。」

 紅く煌めく宝石を掲げたマネーラと、体躯に似合わぬ砲台の照準を零に定めたエルピスが牽制に入っていた。

「……。」

「……。」

 一触即発のその雰囲気は、硬直したまま数秒間流れ続ける。

「……もう、いいです。手を引きますから……これ以上、私に関わらないで。」

 真っ先に武器を下げつつ沈黙を破ったのは、零。

 怒りに呑み込まれながらも、理性がそれを抑え込んだ上での判断だった。

 殺し合いの優勝は、確かに最終的に目指すところではある。だが、それはあくまでみらいを守る手段に過ぎない。相手の手札も見えず人数差もある内にみらいを害する可能性が低い相手との避けられる戦いを強行し、わざわざ死ぬリスクを負う必要などない。

 それに、このまま感情の暴走のままにキヨスを殺してしまったならば、みらいを死なせてしまった時と何も変わらない。仮にマネーラとエルピスの制裁から逃れられたとしても、きっと更なるトラウマに苦しむこととなる。

「……アカリがかなしむから今は見逃してあげるわ。でも、覚えときな。伯爵さまにその刃を向けようものならその身体、八つ裂きにしてあげるから。」

「……あなたたちがこの殺し合いに反逆していること。それだけは、心の底から信頼しています。私と違ってみらいには何の罪はありませんから……どうか、出会った時はあの子をお願いしますね。」

 大切な人がいる者たちの邂逅。ここで戦火を交えることが互いの想い人に与えるリスクを、共に承知している。戦いの意思がないことを確認すると、零はそのまま立ち去っていく。

 これでよかったんだ、と。ずきりと痛む胸を押さえ込みながら。

208星屑ロンリネス ◆2zEnKfaCDc:2021/08/19(木) 03:52:26 ID:SskQYQoc0
――有理を、”二つの意味で”失ったあの日は、瞳が焼き切れるくらいに泣き通した。

 狂いそうなくらいに押し寄せて来る悲しみを前にしても、何故かみらいに縋った記憶がない。喧嘩をしていた記憶もないけれど、あの時の心の支えは生まれた日からずっと共に生きてきたセレマだけだったはずだ。

 でも、私はもう壊れているから。みらいをこの手で殺し、セレマも衰弱死するまで放置して――それだけの離別を前にしてなお。涙が、流れないから。悲しみを、孤独を、浄化できないから。

 だから、怖いんだ。これ以上、誰かの手を取ろうとするのが。抱いた希望を砕かれるのが、怖いんだ。

 ヒビが入って、壊れた器。涙の雫が、それを満たすことはない。まだ――心は眠ったまま。

【E-3/一日目/黎明】

【幡田零@CRYSTAR -クライスタ-】
[状態]:健康、涙は流れない、精神不安定(大)
[装備]:代行者の衣装と装備ㅤオチェアーノの剣@ドラゴンクエスト7ㅤエデンの戦士たち
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×0〜2
[思考]
基本:妹の優勝、或いは自身が優勝して妹のヨミガエリを果たす。
1:東でみらいを探す。みらいが私の知るみらいなのか不安。
2:千さんとはできれば会いたくない。
3:あの男(修平)とは、次にあった時は殺し合う事になる。
4:吹石琴美って、あの琴美さん?
5:立花特平のような参加者に化けた幽鬼に警戒。
[備考]
※参戦時期は第四章、小衣たちと別れた後です。
※武器は使用できますが、ヘラクレイトスは現在使用できません。
※参加者の一部は主催によって何か細工をされてると思っています。
 ただし半信半疑なので、確信しているわけではありません。

209星屑ロンリネス ◆2zEnKfaCDc:2021/08/19(木) 03:53:46 ID:SskQYQoc0
 零の背中を、キヨスは黙って見つめていた。夢が破れた――というと少し大げさかもしれないが――それでも、己の決意をエゴと一蹴されるのは堪えるだろう。

「アカリ。あんなヤツのことはもう忘れていいわ。だから元気を……」

 励ましなんて我ながららしくないと思いつつも、マネーラは黙ったままのキヨスに声をかける。

 それを受け、ようやく顔をマネーラに向けるキヨス。そして、細々と口を開いた。

「……ねえ、マネーラ。」

「な、なによ。」

 そして――たじろぐマネーラに、告げる。

「――ちょっとあの子のこと、こっそり追跡調査してきてくれない?」

「――はぁ?」

 ケロっとした顔でとんでもないことを言い出した。っていうか、さっきの気にしてないワケ? アタシの気遣い返しなさいよ。

「いやいや、アタシたちすっごい険悪だったじゃない!?」

「そこはほら、バレないよう変身してさ。」

「そもそも何であの子にそんなこだわるわけ!?」

 それを聞くと、キヨスの顔が少しだけ、曇って見えた気がした。

「剣を突きつけるあの子の手、震えてた。」

「え……?」

「たぶん、根は優しい子なんだと思うな。まあ、仕方ないよね。殺し合いの世界に独りだったら、私だって怖い。」

 殺し合いが始まってすぐにマネーラを文字通り”捕まえた”キヨス。何かと他人を巻き込みがちな彼女は、そもそもの生き方が違う零の孤独には触れられない。

「でも今は、私にはエルピスもいる。だからマネーラは、あの放っておけない子を見守ってあげて……お願い。」

 博物館職員として標本の保存やフィールドワークに生きる毎日。それだけでも、かなりの変わり者であるキヨスであるが――その前に、一人の大人である。ひと回り年下の零の言動に心を大きく乱されることもなければ、その非礼をことさら糾弾するつもりもない。

「はぁ……アカリ、人使いが荒いってよく言われるでしょ? まったく……仕方ないわね。」

 マネーラはぱっと見で警戒されない人物――ピーチ姫の姿へと変貌する。嫌いな相手であるが、その外面の良さは素直に評価するところだ。

 いつまでも零に付き添うわけにもいかないため、集合時間である昼には博物館に一旦戻ることを約束し――マネーラもまた、零の去った方向へと走って行った。

210星屑ロンリネス ◆2zEnKfaCDc:2021/08/19(木) 03:53:56 ID:SskQYQoc0
【E-3/一日目/黎明】

【清棲あかり@へんなものみっけ 】
[状態]:健康
[装備]:ポケモン図鑑@ポケットモンスター モンスターボール×8 ひかりのドレス@ドラクエ7
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1 Eー3かねでの森博物館から持ってきたフィールドワークや解体用の道具(双眼鏡・ハイヒール(大型動物解体・調理用刃物)など)
[思考・状況]
基本方針:参加者たちの生きた証を記しこの殺し合いの出来事を風化させない
1:伯爵さまを探しつつマネーラと行動を共にする※ 南側EFGHを中心に
2:参加者の生きた証を集め、もしもの時は”託す”※作業の中心はポケモン図鑑に登録
3:ロックに注意する
4:二日目の昼にはE-3のかなでの森博物館へ戻り、ギャブロ君達と合流して手にした情報を交換する
5:首輪の解除方法がないか、探しつつ考える
[備考]
※参戦時期は原作1話 事故死したカモシカを博物館に持って帰ったところ
※ロックの危険性について知りました。
※マネーラ・ギャブロ・藤丸立香の世界について簡単に知りました。
※パンドラボックス(エルピス)に戦闘の指示を出すことが可能となった。

【マネーラ@スーパーペーパーマリオ 】
[状態]:疲労(小) ピーチ姫の姿
[装備]:まじんのかなづち@ドラゴンクエストビルダーズ2 破壊神シドーとからっぽの島
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2 789ゴールド
[思考・状況]
基本方針:ノワール伯爵と合流して生きて帰る
1: 伯爵さまを探しつつ、零を追う。
2:とりあえず、あかりの夢に協力する
3:ロックには注意する
4:二日目の昼にはE-3のかなでの森博物館へ戻り、あかりやギャブロ達と合流して手にした情報を交換する
[備考]
※参戦時期は6-2ピーチ姫とバトルする前
※ロックの危険性について知りました。
※キヨス・ギャブロ・藤丸立香の世界について簡単に知りました。

【パンドラボックス(エルピス)@ドラゴンクエスト7】
[状態]:モンスターマスター(キヨス)に懐いている 健康
[装備]:壊砲ティシア@ファンタシースターオンライン2
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~2(強力な武具やアイテムです。)
[思考・状況]基本行動方針:マスターを守る
1:マスター(キヨス)と行動を共にして守る
※参戦時期は宝箱(パンドラボックス)を調べられる前
※キヨスの命名により”エルピス”と名付けられました。なお、名簿の記載に変化は起きません。
使える呪文 ザラキ マホトラ あまい息
※ザラキは参加者が”精神的に不安定” ”体力・気力が果てるような状況”などでないと効果が効きません。

211 ◆2zEnKfaCDc:2021/08/19(木) 03:55:21 ID:SskQYQoc0
投下完了しました。

212 ◆2dNHP51a3Y:2021/08/25(水) 19:45:57 ID:rlpCioJc0
予約を破棄します
長々と拘束した上でこのザマで申し訳ございません

213 ◆s5tC4j7VZY:2021/08/25(水) 22:25:08 ID:YWoMXdUw0
投下お疲れ様です!
魔神降臨
モッコスに色々とめんどくさい支給品を渡してリレーに投げてしまいましたが、スーさんという対策へのアンサーはお見事の一言です!
お前冷静すぎだろ。マグロか?や「さっきからテイグテイグってなんだよ。貞操帯の仲間か?」
↑実にモッコスらしくて好きです。
腕で防ぐが尾田栄一郎によって衝撃を吸収する。
↑普通に意味を知っていても読んでいたら笑っちゃいました。
また、モッコスの最後も実にモッコスらしく感じました。
誰も言わなかったし、理解されなかった。
 別に理解されたいとも思ったわけではない。
 子供の頃から思い続けてきたことだ。
 ドキュンたる彼の底に眠っていたルーツ。
↑特にここがなんというか、感動を覚えました。自分もこうした文を書けるようになりたいと素直な気持ちです。
また、琴美の覚悟が勝利への貢献となって正にDルートの琴美でした。
放送後の修平の叫びがもう聞こえてきそうです……
初音……アカメと離れたことが吉となるか凶となるのか、楽しみです。

星屑ロンリネス
まずタイトルがとても、好きです……
次に触れたら砕け散ってしまいそうな心境の零が丁寧に描写されていて儚くも感じられ、なんというか……好きです。
零は、ぐいぐいと来るキヨスは苦手だよな〜と確かに自分も思ってました。
そして、エルピスを可愛いと感じるキヨスとそれを否定する零に生きた証を標本として残す仕事のキヨスと死者となったミライのヨミガエリを目指す零とでは、やはり相いれないようですね……
また、キヨスは目的を”エゴ”と指摘されても零の様子に気づき、マネーラにお願いする姿は大人の頼もしさをとても感じられました!
マネーラと零は現状、水と油の関係ですがどうなるのか……今後が楽しみとなります!
紅く煌めく宝石を掲げたマネーラと、体躯に似合わぬ砲台の照準を零に定めたエルピスが牽制に入っていた。
↑なんといいますか”へんなもの”に愛されているキヨスが感じられてとても好きです。
あと、個人的なのですが、初めてコンペで通ったキャラ(キヨス)をリレーしていただいてとても嬉しく思います。

予約した作品ですが、今日中に投下しますが、時刻が遅れてしまいました。
申し訳ございません。

214 ◆s5tC4j7VZY:2021/08/25(水) 23:58:05 ID:YWoMXdUw0
投下します。

215 ◆s5tC4j7VZY:2021/08/25(水) 23:59:23 ID:YWoMXdUw0
かすかべ防衛隊ーーーーー野原しんのすけがアクション幼稚園の級友を誘って結成した「春日部の愛と平和を守る」ことを目的とした組織。
Wikipediaより引用。

序章 ある日のかすかべ防衛隊でGO!

今日は休日の昼下がり、かすかべ防衛隊の5人は遊ぶために公園に集まっていた。

「ねぇねぇ!今日は何して遊ぶ?」
「う〜ん、カン蹴りとかどうかな」
「かく……れん……ぼ」

ふむふむ、皆、それぞれ遊びたいのが違うようですな。

「しんのすけ。お前は何して遊びたい?」
「う〜〜〜ん。んじゃ、オラ”さなぎごっこ”」
「しんちゃん。”さなぎごっこ”って何?」
「んとね〜。木や電柱にとまり、途中で殻を破って蝶に変身するの」
「……みんなでする遊びでもなんでもないし、そもそもどうやって、殻を破るんだよ(怒)」

んもう、風間君ったら、相変わらず冗談が通じないんだから〜

「じゃあ、リアルおままごとはどう?」

「「「「……」」」」

どよ〜〜〜〜〜ん……

これから楽しく遊ぼうという空気が一気に重くなった。
そう、それは鼻で吸う空気がとても美味しく感じられていたのが、急にどこからもなくやってきた人のオナラを吸ってしまったような……

う〜ん、ネネちゃんは相変わらず”リアルおままごと”が好きですな……

ネネちゃんのおままごとは余りにもリアルすぎるから気軽な遊びではない。
はっきり言って”不評”な遊びだ。

―――チラ。

「「「……」」」
ほら……やっぱり、風間君もボーちゃんもマサオ君も渋い顔をしているゾ。

さて―――どうやって違う遊びに誘導するとしますか……

「今回のリアルおままごとはね〜……」

(そうだ!ネネちゃんが、ちゃぶ台を出したところで”ちゃぶ台鬼ごっこ”を提案してみよう!)
(どうしよう。どうせ、僕はうだつが上がらない夫の役をさせられるんだろうな……はぁ、どっちみちリアルおままごとが避けられないならそれに近い遊びの”三角関係ベースボール”がいいな……)
(あみだ……くじ……で、上手く……回避する……イケそう)

オラ……いや、おそらく皆。ネネちゃんのリアルおままごとをどう回避するか考える中―――

「うわ〜〜〜〜〜ん(涙)」

―――子供の泣き声がした。

お?泣いている子がいるゾ!

「ねぇねぇ、君どうしたの?」
泣いている子に直ぐに駆け寄る風間君。うんうん、流石は風間君だゾ。

「えっぐ……えっぐ。風船が木の上に……」
ほうほう……確かに風船が木の枝に引っかかってますな。

「可哀想……」
「うん、可哀想だね……」
「どうやって、風船を取ろう?」
「肩……車……!」
「そうか!皆で肩車をすればいいんだよ!」
「流石はボーちゃんですな〜」
「ええ!それなら届くわ!」
「それ……ほどでも」
「え〜〜〜。でも、危険じゃないかな……」
「あら、マサオ君。じゃあ、泣いている子をそのままにするの!?」
「そ……それは……」
「ねぇ!言い合っていても仕方がないよ!それより早く肩車しよう!」

「それじゃあ、泣いている子のためにお助けするゾ!かすかべ防衛隊、ファイヤー!」

「「「「ファイヤー!」」」」

☆彡 ☆彡 ☆彡

216 ◆s5tC4j7VZY:2021/08/25(水) 23:59:38 ID:YWoMXdUw0
無事に風船を救出できたかすかべ防衛隊。

「お兄ちゃん、おねえちゃんありがとう」
先ほどまで泣いていた子供ははじける太陽のような笑顔を見せる。

―――うんうん。やっぱり笑顔が一番だゾ!

「気にしないでいいよ!だって、僕たち」
「私たちは……」

お!これは……さて……やるとしますか!

「春日部の愛と平和を守るため!」
「勇気凛々!」
「悪と戦う!」
「そうだ、ぼくらは!」
「かすかべ防衛隊!」

ババ―――ン!!!!!とこれがTVだったら効果音が鳴っているであろう程の完成された決めポーズを披露する。

「……かっこいい」
それを観て子供は目をピカピカに輝かせる。

―――そして、それと同時に

―――わぁぁぁぁぁあああああ!!!!!
―――パチパチパチパチ!!!!!!

「か〜すかっべ、ぼ〜うえいたい!」
「「か〜すかっべ、ぼ〜うえいたい!」」
「「「か〜すかっべ、ぼ〜うえいたい!」」」
いつの間にか、公園に集まっていた他の子供たちから拍手とコールを浴びた。

夕日が沈み―――

「それじゃあ、また明日!」
「ええ、またね!」
「うん。さようなら!」
「バイ……バイ!」
「じゃ、そゆことで〜!」

晩御飯の時間が近づいてきたので、かすかべ防衛隊はそれぞれ自分の家へ帰宅する。

うんうん。今日もかすかべの平和を守ることができましたな。
……オラ、みんなと一緒に”かすかべ防衛隊”をやれて嬉しいゾ。
大人になっても、オラたちはいつまでも友達でいたいな―――

「おかえり〜♪」
「帰ったら”ただいま”でしょ!!」
「そうとも言う〜!」

しかし―――
そんな5歳児の望みは―――

「……自己紹介は、まあいいじゃろ。簡単な説明だけしておくなら……お主らは今から殺し合いをしてもらう為にここに呼び出させてもらった」

辺獄の悪魔により弄ばされる―――

☆彡 ☆彡 ☆彡

217 ◆s5tC4j7VZY:2021/08/25(水) 23:59:57 ID:YWoMXdUw0
第一章 歳破神『佐藤マサオ』 

―――はぁ……はぁ……

―――チラッ

―――あのお姉さん、まだ追いかけてくる……

―――でも、どうして僕のことが視えてるの!?

―――あの双子のお姉さんたちは、僕には”けはいしゃだん”という能力ができるから逃げてる時は、見つからないって言っていたのに

―――あの目……さっきの黒髪の女の人と同じぐらい怖いよぉぉぉ

(もし、あのお姉さんに捕まったら……!)
―――ゾクッ

考えただけで、背筋が凍るよ―――

「ひいいいいい!」

―――それだけは絶対に避けなきゃ!

―――やだやだやだよぉぉぉぉぉ

お姉さんと僕の鬼ごっこは続く―――

☆彡 ☆彡 ☆彡

「はぁ……はぁ……」
(何とか撒いたかな?)
走り疲れた僕は一度水分補給を摂ろうとデイバッグから水を取り出すと飲む。

―――ゴクッゴク……プハァ〜

「生き返ったぜ〜!」
充分な水分補給も出来て、乱れた息が整った。

「……」
(そういえば、ジャングルで道に迷ったときはつらかったな〜)
僕は、水を飲めた喜びから水に纏わる過去の出来事を想起した―――

―――せっかく、水飲めると思ったのに〜
―――しょうがない!誰かが囮になって、その隙に水を飲もう!
―――頑張れ!マサオ君!

それは、猿に連れ去られた大人たちを救うためにジャングルを探査していたときのこと。
飲物担当のしんちゃんがコーラではなく”醤油”をもってくるという信じられないミスを犯した。
しかも、残りは”枕”に”トランプ”に”野球のグローブ”といった役立たない物ばかり、リュックに詰め込んでいたんだ!!!
喉が渇いた僕たちは、大きな池を発見したんだけど……皆!僕を囮にして!!う、うう…おかげでワニにあと一歩で食べられそうになり、肝心の僕の水は……しんちゃんの口からだったんだ!!!

(大体よく、考えればしんちゃんがコーラと醤油を間違えたんだから、しんちゃんが囮として行くべきだったよ!)
僕はしんちゃんに対する怒りを込み上げる。

(そうそう、しんちゃんと言ったらあのときも……)
次に想起したのはカンフーを習っていたときのこと。

―――バスガ!?……バァ!?……ガァ!?……
ブブ―――!!
―――へぇ!?えええ……
―――まだまだ技は荒いが、初めてにしては上出来じゃ
―――やったー♪
―――マサオ、カチカチじゃぞ?
―――はい……
―――師匠〜、早く次の技〜〜〜!

とある時期、僕は”ぷにぷに拳”という拳法を師匠から習っていた。
あいちゃんを守れる男になりたいという純粋に強さを求めていたという気持ちと、泣き虫な僕に拳法を教えてくれる師匠に認めてもらいたいという気持ちで一生懸命練習に励んでいた。
なのに、皆……しんちゃんは、後から習い始めた癖に兄弟子である僕をあっという間に抜かした。嫉妬や自分の情けなさに僕はしんちゃんに対して酷い事を言っちゃった……友達に対して凄く悪い事をしたと凄く気にした。
それなのに、しんちゃんは”キレイなお姉さんのことしか覚えられないから〜”って!!僕の苦悩した気持ちをちっともわかってくれていない!

「はぁ……」
―――しんちゃんは、友達である僕の事なんとも思ってないんじゃないかなぁ

僕の心にしんちゃんに対する不信と疑念が生まれると更なる怒りと憎悪が―――
そんなとき―――

「ん?そこの”おにぎり頭”は、マサオくんじゃありませんか?」
「し、しんちゃん!?」
確かに僕はついさっきまで、しんちゃんに対する不満を述べてはいたけど―――

まさか、ここで”しんちゃん”に出会うとは思わなかった

☆彡 ☆彡 ☆彡

218嵐を呼ぶ辺獄平安大合戦 序 ◆s5tC4j7VZY:2021/08/26(木) 00:01:25 ID:Yt8uW6Co0
「アリサちゃん。芳桂ちゃん。紹介するね!このおにぎり頭の男の子がオラの友達のマサオくんだゾ!」
「へぇ〜、あんたがしんのすけがいう”かすかべ防衛隊”の一人ね。あたしはアリサ・バニングス。よろしくね♪」
「私は宮藤芳桂。よろしくね!マサオくん」
「あ、よ……よろしくお願いします///」
(うわぁ〜。二人とも可愛くてキレイだな〜……って、しんちゃん。僕が一人で戦っていたのに、二人と呑気に過ごしてたんだ……)

―――本当、しんちゃんばっかり、いい思いしてズルいなぁ……

「ところで、マサオくんはこんなところで何してたの?」
僕が悶々としていたところ、しんちゃんが質問してきた。

「え?僕は……あッ!?」
詳しくは話さず濁そうと思っていた僕の目線の先に先ほどのお姉さんが―――

「ひぃぃぃぃ!!!!ど、ど、どうしよう!?お姉さん!ここまで追いかけてきた〜!」
「まぁまぁ、マサオくん。とりあえずデラックス、デラックス」
「しんちゃん。それをいうならリラックスじゃ……」
「お!そうともいう〜♪」

しんちゃんとそんなやり取りをしていると……

「……ようやく、追いつけた」
とうとう、お姉さんが目の前まで追いついてきた―――

―――どどど、どうしよぉぉぉぉぉ
追い詰められた僕はどう切り抜けるか必死に考えているのに―――

「お姉さ〜ん(ハート)」
しんちゃんは僕を追いかけてきたお姉さんの姿を見ると一目散に駆け寄って―――

「お姉さんは、納豆にネギ入れるタイプ〜?」
「な、何なんだ!?この幼稚園児は!?」
ナンパをしだした。

「……」
(し、しんちゃん……)

―――しんちゃん。あいちゃんからあんなに好かれてるのにどうして、他の女性に平気でああしたことをできるのかな……

「まったく、しんのすけったら……」
「あはは、しんのすけ君は面白いね」
しんちゃんのナンパじみた行動をアリサちゃんと芳桂ちゃんは笑って眺めている。

「……しんちゃんばっかり」
―――どうして、しんちゃんばっかり”ちやほや”されるのかな

―――どうして……
僕の心はドス黒いもやもやした気持ちに包まれる。

―――ドクン!

宿業が鼓動をした――――

☆彡 ☆彡 ☆彡

219嵐を呼ぶ辺獄平安大合戦 序 ◆s5tC4j7VZY:2021/08/26(木) 00:01:57 ID:Yt8uW6Co0
―――それから、僕がお姉さんに追われている理由を話した。

「ふんふん……マサオくん。いけないことをしたら謝らなくちゃいけないんだゾ」
「う……うん。あの……その、ご、ごめんなさい!」
僕はお姉さんに頭を下げて謝った。

「……まぁ、何だ。悪いのは、この下らないことを企むあの双子が諸悪の根源だ。その、次からは気をつけるように」
―――どうやら、許してもらえたみたい。

僕はお姉さん……日ノ元明さんに許してもらえたことにホッとする。

「これにて一件落着ですな!それにしても、んも〜、マサオくんったら、イモが焼けますな〜」
「それを言うなら”世話が焼ける”でしょ……」
「そうともいう〜♪」
「ふふふ……」

―――ほら!また、しんちゃんばっかりちやほやされている。

―――そもそも、僕が他の参加者に攻撃を仕掛けているのは、あいちゃんの元に戻るためなんだ!

―――ぼくは、あいちゃん一筋で今もこうして頑張っているのに……

メラメラと憤慨?それとも嫉妬?の炎が燃え上がる。

「それにしても、マサオ君と会えるだけでなく、明お姉さんとも知り合いになれてオラ嬉しいぞ!わっはっはっはっは!」
「何、そのポーズは?」
「これは、オラのヒーローのアクション仮面の決めポーズ!」
「へぇ……かっこいいね」
「ふむ……決めポーズか……」
しんのすけのアクション仮面の決めポーズに感心して眺める一同。

「……」
―――ッ!そうだ!こんなのはおかしいよ!大体、しんちゃんはアクション仮面が大好きみたいだけど、僕だってアクション仮面は大好きなんだ!

―――それなのに、まるでアクション仮面は自分だけのヒーローみたいに……

―――しんちゃんなんて……しんちゃんなんて……

―――”大嫌い”だ

―――ドクン!

あれ?なんだろう?……そうだ!……僕はやらなくちゃ……八将神として。

―――ドクン!!

参加者の理念(イデア)を集めなきゃ―――

スチャ―――

僕は刀を構えると、デレデレしているしんちゃんの背中へ向かって刀を振り下ろした―――

―――ザンッ
「ウ゛ッ!?……ァァ……」

「あ……」
しんちゃんを狙って斬ったつもりが、アリサちゃんが間に入ってきたから斬っちゃった……ま、いいか別に。

「え?」
はは、しんちゃんったら、ボーちゃんみたいにぼーっとした顔をしているよ!
うん!僕!あの子を斬ってよかった〜♪

―――ドサッ……

「アリサちゃん!」
「マサオ……くん?何をしたの……?」
しんちゃんは事態を呑み込めていないみたいで呆然としていた。

「何って……しんちゃんを斬ろうとしたのさ」
「ええええ!?そ、そんなキャラは、マサオ君らしくない……ゾ」
キャラって……どうして僕のキャラをしんちゃんが決めつけるの!?

「そんなキャラって……一体、しんちゃんに僕の何がわかるっていうのさ!」
「え?オラ……」
何だい、しんちゃんったら急にオドオドしたような顔しちゃってさ……そういえば、健さんのソースを運んだときだっけ。風間君に責められたら急に皆も悪いとかなんとかって言いだしたし……以外にしんちゃんって責めには弱いんだ。

「大体、しんちゃんは僕のこと”おサル大臣マッキッキ”とかふざけた渾名を命名したり、僕の描いた絵の事を”下手だね”といったり見下す言動が多いけど、僕のこと本当に友達だと思ってんの!」
「!?オラ……確かに言ったことがあるけど、でも別にマサオくんのことを見下したりなんか……」
はん!なんだい、なんだい!急に言い訳かい?ふん!とにかく僕はもうしんちゃんとは絶交だ!

「それと、はっきりさせておくけど!僕はしんちゃんや他の人達とは違って、ヒーローとしての素質があったからメフィスちゃんとフェレスちゃんに選ばれたんだ!!それにンンンおじさんが言ってたもん!!!八将神へと改造を終えた僕には、最強の力を備わったって!」

―――そうだ!
僕にはまだ、ンンンおじさんからもらった切り札がある―――

☆彡 ☆彡 ☆彡

220嵐を呼ぶ辺獄平安大合戦 序 ◆s5tC4j7VZY:2021/08/26(木) 00:02:24 ID:Yt8uW6Co0
―――”ヒーロー”佐藤マサオ殿。貴殿にこれらをお渡し致しまする。

八将神とかいう改造が終わった後、ンンンおじさんが僕に道具を渡してきた。

「こ、これはなんですか?」
僕は正直、使い道がわからないから道具について質問をした。

「ンンンン!それでは僭越ながら拙僧が望むままに!説明してよろしいので?」
「う……うん。よろしくお願いします」
ンンンおじさんが本当によろしいのでと確認してきたが、とにかく説明してもらうこととした。
ところで、おじさんは何かのキャラづくりのつもりでンンンとかいっているのかな?
正直、ああいう大人には僕、なりたくないなぁ……

「まず、一つ目は空気砲。……ンンンッ!これは、『ドカン』と口に出せばあら不思議。目にも見えない空気の弾が貴殿の敵を鮮やかに仕留めるでしょう!正に気分は荒野のガンマン」
―――本当に!?目にも見えない弾なんて強すぎるよ。

「次に、二つ目は日輪刀。切れ味抜群の刀です。そしてなんと、この刀の持ち主は貴殿と同様に愛する者を守るためには命を張れる者が所持していた刀です。愛は何者にも勝りますぞ!ンン〜。いかがですマサオ殿」
愛に一途な人が使っていた刀だなんて……そんなの嬉しいにきまってるよ!……これなら、僕もあいちゃんを守れる男の子になれるかな。えへへ……

「そして、最後はこの―――」
ンンンおじさんがそういって紹介したのは―――

☆彡 ☆彡 ☆彡

僕は最後の支給品を手に持つ。
これを注射すれば、無敵の肉体を手に入れて誰にも負けない最強の男になれると、ンンンおじさんは言っていた―――

「危険種イッパツ!!」
―――ズドッ!

―――ドクン!

あ……これは、幼稚園児の僕でもわかるよ。

――ドクン!!

僕は最強の男になるんだってことが―――

―――ドクン!!!

「マ……マサオくん?」
ふふ、しんちゃんったら僕の様子に驚いているみたい―――
だから、教えてあげなくちゃ!僕はもう”佐藤マサオ”ではないってことを―――

ゴゴゴゴゴゴ―――――

「しんちゃん。僕はもう、ただのマサオじゃないよ……」
僕を中心に地面のコンクリートが剥がされ、周囲の家が崩落するとその破片が僕の肉体を包み込んで肥大化していく―――
”空気砲”に”日輪刀”も取り込まれてボクの血肉としてなっていく―――

―――これなら、もうさっきみたいに泣いて逃げ回ることはしないで済む!
―――これなら、あいちゃんを守ることができて、あいの隣を奪われなくて済む!!
―――これなら、もうしんちゃんの後ろを歩かなくて……済む!!!

「僕は、歳破神・巨大危険種佐藤マサオだぁぁぁぁぁあああああ!!!!!」

―――歳破神・巨大危険種佐藤マサオ 爆誕

☆彡 ☆彡 ☆彡

221嵐を呼ぶ辺獄平安大合戦 序 ◆s5tC4j7VZY:2021/08/26(木) 00:02:46 ID:Yt8uW6Co0
第2章 辺獄の悪魔とのお約束条項

―――ここは、辺獄の最奥。

「ねぇ、メフィスちゃん。”あの子”使ったみたいだよ……」
「ほう……それは、面白いのぉ」

辺獄の管理者、メフィスとフェレスはクスクスと笑う。

「ねぇねぇ、あの子はいくつ”理念”を集められるかな〜」
「……どうじゃろな。そもそもアヤツは”逃げ回る”倒しにくい”が目的として選ばれた八将神のはずじゃからな」

そう、道満が選定した八将神の枠として選ばれた佐藤マサオの役割は”平然と逃げ回りひたすらに倒しにくい”ただそれだけなのだ。

「それなのに使ったということは、それだけ、”あの家族”に恨みがあるという訳か……」
「ああ〜。あの理念!そうとうあの家族に恨みを持っていたもんね〜。負け負け負け……負け犬、わんわん」

そう、デビルマンこと不動明を八将神に推薦した者がいたように、佐藤マサオが八将神に選ばれたのは、とある一家に敗れた理念の強い意思が関わっていた。

その理念の並ならぬ恨みは、特に一家の息子に向けられていて、その友達の一人を八将神にしたらどうかとメフィスとフェレスに持ちかけてきたのだ。
全ては一家の息子……野原しんのすけを苦しめるために。
阿修羅地獄へと叩き落とすために。

☆彡 ☆彡 ☆彡

「あれ?ここ、どこ……?」
マサオは見知らぬ場所に戸惑いを隠せずオドオドしている。

「おかしいな。僕、いつものように皆とさよならをして、家に帰っていたはずなのに……なんだか暗くて、怖いよぉぉぉ!!ママ〜〜〜!!!」
マサオは余りの怖さに大声で泣く。

泣いていると―――
―――彼女らが姿を現した。

「ほれほれ、そんな大声で泣くんではない」
「泣き泣き泣き虫。ビエン、ピエン。クスクス……」
「ひっ!?お姉さん達は……誰?」

「ボクの名前はフェレス」
「ワシはメフィス。……良かったの、おぬしは選ばれた」
「え、選ばれた……?」
「そう、選ばれたの。マサオくんは”バトルロワイアル”に選ばれたんだよ〜パチパチパチ」
「バ……バトルロワイアル?」
フェレスが言った”バトルロワイアル”に首を傾げるマサオ。

「バトルロワイアルとは”殺し合い”という意味じゃ。つまり、おぬしが”ここ”から生きて帰るにはおぬしと同様に集められた者を全員殺すしか道はない」
「そ……そんなぁ。僕に人を殺すことなんかできないよ。ママ〜〜〜〜〜!!!」
バトルロワイアルの意味を知ったマサオは自分に出来るわけないと泣き喚く。

「可哀想なマサオくん。見るも無残にグチャグチャに殺されちゃうんだね。だけど、マサオくんは選ばれたの」
「え、選ばれた……?僕が?」
「そう、おぬしは選ばれた。なぜならお主にはヒーローの素質があるからじゃ」
「ぼ、僕にヒーローの素質が!?」
(ヒーローって……つまりアクション仮面のようなことだよね……)
「そう。ただし、ヒーローとしての素質を開花させるには八将神への改造を受け入れなければないない」

「改造……ヒーロー……」
(改造……何か、痛そうだなぁ……でも……僕……ヒーローになれる……アクション仮面のようなヒーローに……)

―――ズイ。

「では、選んでもらおうかの」

「ワシと」 「ボクと」

「「契約する?」」

「契約する」
「契約する」
「契約する」

「ぼ……ぼく……契約するよ!ヒーローになれば……八将神になれば、殺されないんでしょ!?だって、死にたくないもん!それに風間君やネネちゃんにボーちゃん。何より……”しんちゃん”とこれからも遊びたいから!!!

「「契約成立」」

―――パァァァ

「な……何?僕の手の平に変な模様が……?」

「契約が成立した証の紋章じゃ」
「あ、それもう、一生消えないから。うふふ。マサオちゃんの身体を僕が大人にしちゃった」

「さて……それでは、おぬしに会わせたい者がおる」
「僕に会わせたい人……?」
「そう。八将神への改造する担当はワシらではない。ワシらはあくまで、”契約”」
「うふふ……頑張って改造されておいで〜」

マサオはメフィスとフェレスに誘われると―――

―――コツコツ……

此度の儀式の協力者が姿を現した。

「え…えっと……」
「おお!”ヒーロー”マサオ殿!お初お目に掛かります。拙僧、キャスター・リンボ。真名を”蘆屋道満”と申す法師にて陰陽師。ンッフフフフフ……」

☆彡 ☆彡 ☆彡

222嵐を呼ぶ辺獄平安大合戦 承 ◆s5tC4j7VZY:2021/08/26(木) 00:03:41 ID:Yt8uW6Co0
第3章 日ノ元明の悔やみ

「ひいいいいい!」

私は今、目の前を走って逃げている幼子を追いかけている―――

―――が

―――ズキッ!

「……ッ!」
怪我の影響もあるのか、普通なら難なく追いつけるはずがなかなか追いつけない。

(再生も落ちている……双子の外道共の仕業か……ッ!)
普段なら直ぐに再生されるはずの体が回復するのに時間がかかっている。

(こんな様では、とうてい”あの男”を討つことなど―――)
憎い男の姿がおぼろげに浮かび上がる。

「……ムッ!?」
(しまった!余計な事を考えていた隙に―――)
ほんの一瞬だが、意識が別の相手に向かっていた隙を掻い潜られたのか、幼子の姿を見失ってしまう。

(不覚!!……なら、まずは回復に集中するとするか)
私は直ぐに気持ちを切り替えて、身体の回復を優先した。

☆彡 ☆彡 ☆彡

―――シッ!シッ!
ダッ―――

「……よし!ひとまずはこれで大丈夫だろう」
軽いジャブとダッシュで身体の再生チェックを終えた。

「さて、後はあの幼子だが……ん!?」
正直、もう一度出会う確率は低いと読んでいた私だが、まさかの姿を再発見した。

「ふむ。どうやら天は私を見捨ててはいないようだ!」
公人としての立ち振る舞いの成果だと私は嬉しく思いつつ、幼子の元までダッシュした。

「……ようやく、追いつけた」
私がようやく追いかけていた幼子の下へ辿り着くと―――

「お姉さんは、納豆にネギ入れるタイプ〜?」
同じ年頃であろう幼子が身体をクネクネさせながら私に寄ってきた。

―――な、何だ!?今の幼稚園児はそういうものなのかッ!?

☆彡 ☆彡 ☆彡

「ふんふん……マサオくん。いけないことをしたら謝らなくちゃいけないんだゾ」
「う……うん。あの……その、ご、ごめんなさい!」
そういうと、幼子……佐藤マサオは私に頭を下げた。

事情を聞く限り、マサオは善良な民であった。
幼子……それも男の子が訳もわからず、この場へ連れられて銃のような筒や刀を支給されれば、暴力に走ってしまうのも無理はない。
やはり断罪されるべきはあの双子。

「……まぁ、何だ。悪いのは、この下らないことを企むあの双子が諸悪の根源だ。その、次からは気をつけるように」
マサオを軽く窘めた私はひとまずこの件は隅において、次にやるべきことは―――

―――”針目”と”あの男”への対処だ。

私はしんのすけ達を何処か安全な場所へ避難させてから行動へうつそうと考えていた。

しかし―――
すぐに―――
その考えが甘かったことを思い知らされる。

☆彡 ☆彡 ☆彡

「僕は、歳破神・巨大危険種佐藤マサオだぁぁぁぁぁあああああ!!!!!」

―――私は何しているんだ。

しんのすけとマサオの関係を知っていたから油断していた。

まさか、友人であるしんのすけを斬るとは予想できなかった。

公人として公正な目で見ていれば、マサオの二心に気づき、防げたはず。
私は自分の不甲斐なさに憤りを隠せない。

―――やはり、日ノ元の出来損ない。

(グッ……!)
葛の嫌味が頭をよぎる。

―――後悔は後回しだ。

「私が相手だッ!」
公人として無力な民を救う。
それは―――

吸血鬼になった身でも変わらぬ想い―――

☆彡 ☆彡 ☆彡

223嵐を呼ぶ辺獄平安大合戦 承 ◆s5tC4j7VZY:2021/08/26(木) 00:04:04 ID:Yt8uW6Co0
第4章 私、守りたいんです!

「う……うわぁぁぁぁああああああ!!!!!」
マサオくんの変身を間近で見たしんのすけ君は恐怖かその場を走りだしてしまった。

「しんのすけ君!?」
「芳桂さん!私がしんのすけ君を追います!芳桂さんはアリサさんを!」
追いかけようとした私をミライマンさんが制止すると、私にアリサちゃんを診るようにと言ってきた。

(そうだ……今は、アリサちゃんの治療が先……ッ!)

「わかりました!ミライマンさん。しんのすけ君をよろしくお願いします!」
「ええ、任せて下さい!」
私はしんのすけ君の追いかけをミライマンさんに任せると、アリサちゃんを抱きかかえて移動した。

☆彡 ☆彡 ☆彡

「アリサちゃん……ッ!」
(……ッ!これは……!!)
私はマサオくんに斬られたアリサちゃんを治療するため、近くの民家に駆け込むとベッドに寝かす。

服を一度脱がして傷の確認をすると、斬られた傷は想像以上に深く、このままでは治療をしたとして、”死”は時間の問題に感じた。

(駄目ッ!私がそんな弱気でいたら!アリサちゃんは生きようと頑張っているのに私がそんな弱気でいたら救える人も救えないッ!)
たくさんの人を救いたい……だからこそ、医師を目指しているのだ!

―――パン

―――よし!気合入魂!

「まずは、治療に使えるのを探さないとッ!」

私は両方の頬を同時に叩くと、アリサちゃんを救う為に行動を開始した。

☆彡 ☆彡 ☆彡

「……ッ!駄目!”アレ”が足りない」
あれから民家の中を漁るが、やはり病院でないため、置かれている治療に必要な物資に充分な量が無かった。

そして、何より今必要なのは”包帯”

包帯も多少は置かれてはいたが、アリサちゃんの傷を治療するには圧倒的に量が不足している。
今から他の民家や病院を探しに行っていたら間違いなく間に合わない。

(支給品にかけるしかないッ!)
私は支給品に望みを託す。

―――ガサッゴソッ

(お願い……!支給されていて……!!)
私は必死の想いでデイバッグの中身を漁った。
私の必死の想いが通じたのか、出てきたのは―――

「こ……これは!リーネちゃんが私にプレゼントしてくれた白衣!?」
支給品の一つにリーネちゃん手製の白衣があることに私は驚く。

なぜなら、その白衣は既に失ったはずだからだ―――

翼と魔力を失った私は、医師を目指す勉強に日々、励んでいた。
そんなある日、最新の医療技術を学ぶため随行員として同伴となった静夏ちゃんと欧州へ向かった。
途中に立ち寄った、パ・ド・カレーの港で私は親友のリーネちゃんと再会をして、別れの際に贈り物を受け取った。
贈り物は白衣であった。
しかし、そんな大切の白衣だったが、途中立ち寄った村で起きた崖崩れの事故による多数の負傷者を救う為、不足している包帯の代わりとして使用して失った。
それが今、手に持つ白衣である。

「ありがとうリーネちゃん。そして、ごめんね」
再び目にすることができた大好きな親友からの贈り物。
お礼と謝罪をこの場に居ない親友に送ると―――
芳桂は迷いなくその白衣を―――
破り、包帯としてアリサの治療に使用した。

「う、うう……」
「大丈夫だよ!アリサちゃん。絶対に私が助ける!」
斬られた傷の痛みに呻くアリサを必死に励ましつつ芳佳は治療する。

―――私、守りたいんです!

それは、翼を―――
―――魔力を失おうとけっして変わらない宮藤芳桂の勇気であり信念。

☆彡 ☆彡 ☆彡

224嵐を呼ぶ辺獄平安大合戦 承 ◆s5tC4j7VZY:2021/08/26(木) 00:05:06 ID:Yt8uW6Co0
第5章 巨大危険種マサオVS吸血鬼

「うらあああああ!!!!!」
「……」

―――ヒョイ。

巨大危険種と化したマサオはその剛腕で明を叩きつぶそうと腕を振るうが、明は難なく躱す。
やはり所詮は幼稚園児。
対する明は幼少の頃から武道を学んでいた。
たとえ、センスが無いと評されていても、マサオ相手に後れを取るわけがない。

「ようよう!姉ちゃん!!潰れちゃいなぁ〜!!!」
「……」
(無駄な動作が多い。大振りすぎる……)
マサオのハンマー・パンチは威力絶大。
だが、大ぶりな”ソレ”は明にかすりもしない。

「何だ〜〜〜!さっきから避けてばかりで、ビビってるんじゃ―――ボン!」

コンクリートで固められた巨腕が粉々に破壊される。

「え?え?」
マサオは何をされたのか分からず、戸惑う。

それは、空手の寸打。
体重移動を利用して自重をぶつける高等技術。
訳も分からないといった様子のマサオを余所に明は寸打を連打する。

―――ボン!

「わ!?わわ!?」

―――ボン!

「ひいいいい!!!???」

明のパンチでマサオの身体を覆う仮初めの肉体は次々と吹き飛ばされる。

―――が。

シュワシュワシュワ…………

マサオはそれ以上に速い再生力で身体の構築を再復元させる。。

(……周囲を巻き込んでの再生力が半端ないな。)
吸血鬼の身体とは違い、マサオは周囲を取り込んで再生する。

「は、はは……」
マサオが笑っている。
肉体の再生をこの目で見ると、不安が消え、心にゆとりが生まれたようだ。

「無駄!無駄!!無駄!!!無駄ァァァ!!!!僕は人間を越えた存在”八将神”なんだよ?お姉さんの攻撃程度で僕の”宿業”を破壊できる筈がないよッ!!!!!」
血気盛んな台詞を吐く。
しかし、類まれな再生力を身に着けたが実力差が縮まったことには気づけていない。
正に……マサオ!!!

(宿業か……私たちで言う遺灰物(クレメイン)のような物か?)
マサオの宿業という単語に明は考察する。

―――試してみるか。

―――タッ!タッ!タッ!
明はマサオの指先から膝、腹と巨大化した身体を駆けあがると―――

―――ボン!

明の寸打によりマサオの胸……心臓部分が吹き飛ばした。
しかし―――
そこにあるはずの”心臓”はなかった。

「!?」
(心臓がないだと!いや……別の場所に移動しているのか?)
どうやら、マサオがいう宿業は別の場所にあるようだ……

「よくも、やったなぁぁぁぁぁあああああ!!!!!」
自分の身体に止まったハエを叩くかの如く手を払う。

225嵐を呼ぶ辺獄平安大合戦 承 ◆s5tC4j7VZY:2021/08/26(木) 00:05:32 ID:Yt8uW6Co0
―――ヒョイ……スタッ!
明はそれを避けると地面に着地する。

「この!この!!この!!!この!!!!この!!!!!」
怒りからか先ほどよりも鋭くなったスピードでハンマー・パンチをモグラたたきのように何度も、何度も打ち続けるマサオ。

やはり、明はそれを避け続ける。

「……」
(認めたくはないが、宿業について分からない今、私の普通の攻撃ではマサオを止めることは不可能に近い……しかし、方法がまったく無いわけではない)

―――D・ナイト。

それは、一夜に一発のみだが、真祖級の一撃を放つことができる技。
明のD・ナイト”桜花一閃”を放てば”宿業”を貫き、滅することが可能であろう。

「だが……しかし―――」
場所が分からないという理由だけではない。

「ふんふん……マサオくん。いけないことをしたら謝らなくちゃいけないんだゾ」

ジャガイモ頭の幼子……しんのすけが悲しむのは必定。
それに、道を踏み外したとはいえ”幼稚園児”を矯正ではなく”殺害”する行為は果たして”公人”といえるのか?

一瞬、明は戸惑ってしまう。
その一瞬の躊躇いが勝敗を決した。

―――ガシッ!!!

「遠くへいっちゃえぇぇぇぇぇえええええ!!!!!」
「なッしまッ……!!」
マサオはようやく捕まえて握りしめた明をハンマー投げのように振り回すと何処かのエリアへフルスイングのように投げ飛ばした。

流石の明も遠心力に逆らうこともできず、無抵抗のまま飛ばされる。

―――くッ!私は一体何をしているんだッ!

殺し合いに乗っているふざけた奴(糸目)を誅することもできず。
殺し合いの空気に呑まれた幼児(マサオ)を止めることもできず。

―――正に凡骨……日ノ元の面汚し。

「ぐッ……〜〜〜〜〜ッ!!!!!」
侮蔑と唾を吐かれた気持ちにされる。

私は―――
私は―――――

【??? /一日目/早朝】

【日ノ元明@血と灰の女王】
[状態]:吸血鬼状態、疲労(小)、
[装備]:
[道具]:基本支給品一色、不明支給品0〜3
[状態・思考]
基本方針:公人として殺し合いに乗るつもりはない。主催を打倒する。
0:日ノ元士郎を斃す。
1:わたしは……わたしは!
2:針目縫とアーナスを警戒
3:善、ドミノとの合流。
※燦然党との決戦前からの参戦となります。
※明が飛ばされた先は後続の書き手様に委ねます。

☆彡 ☆彡 ☆彡

226嵐を呼ぶ辺獄平安大合戦 承 ◆s5tC4j7VZY:2021/08/26(木) 00:06:24 ID:Yt8uW6Co0
第6章 お助けする者との出会いなの!

私が突撃ロケット娘と出会ったのは、小学校1年生の頃だった―――

あの頃の自分は嫌なガキだったわ―――

実業家の両親が親であったあたしは、まぁ”ひねくれていた娘”だった。
執事の鮫島がいつも側にはいたけど、同年代の友達は一人もいなかった。

学校の授業も簡単でツマラナイ。
日々が暇で暇で退屈だったあたしは”いじわる”でクラスメイトとコミュニケーションを取ろうとしていた。

ある日、クラスメイトの一人だった同じ実業家の娘である月村すずかのカチューシャをあたしは奪った。

泣いているすずかをあたしは面白がっていた。
そんな嫌がらせをしていたあたしの頬を―――

―――パン!!!

思いっきりひっぱたいてきた娘がいた。

それが、”高町なのは”。

”なのは”は、あたしをひっぱいた後、こう言い放った。

「痛い? でも大事なものを取られた人はもっと痛いんだよ?」

―――と。
そして、思いっきりなのはと喧嘩をした。

☆彡 ☆彡 ☆彡

「バカじゃないの、なんなのあんた」
「いじわるを見ないフリするくらいならバカでいい」

「ちょっとふざけて遊んでただけじゃない。それを、そんな……」
「だけど、あの子泣いてた。あなたが取り上げて遊んでたアレはあの子にはすごく大事なものだったかもしれない」

「……ッ!?」
「大切なものを取られたり、汚されちゃったりしたらきっとすごく心が痛い。叩かれたりするのよりきっと、ずっと!」

「……」

そう―――
―――あたしに言った。

喧嘩をきっかけにあたしは、なのはとすずかと友達になれた。
もしあの時、なのはとぶつからなかったらあたしは今も友達が出来ていなかっただけでなく、とてつもなく嫌な自分へとなっていたと思う。

あたしは、なのはに”おたすけ”された―――

そして、私はなのはと同じく”おたすけ”を信条とする子に出会った。

「オラ、泣いてる女の子を見捨てるなんてできないゾ...男は女を守るものだってとうちゃんもよく言ってた...それに助け合うのがお仲間だゾ!オラは正義のヒーローだからアリサちゃんをお助けするゾ!」

それが、”野原しんのすけ”
5歳児の幼稚園児にも関わらず、しんのすけは不安に駆られていたあたしを元気づけてくれた。

もし、あたしの初めて会った参加者がしんのすけじゃなかったら、私は不安に押しつぶされて殺されていたかもしれない。
もしくは、死にたくないという気持ちが溢れて、誰かの命を奪っていたかもしれない。

そう―――
あたしはしんのすけに”おたすけ”してもらった。

しんのすけの”おたすけ”はあたしや芳桂さんだけじゃない。
もっと、他の参加者も”おたすけ”することができるはず。

しんのすけだけは死なせるわけにはいかない。
しんのすけはあたしが守る。
たとえ、あたしが死んだとしても―――

☆彡 ☆彡 ☆彡

227嵐を呼ぶ辺獄平安大合戦 承 ◆s5tC4j7VZY:2021/08/26(木) 00:06:58 ID:Yt8uW6Co0
第7章 カムヒャー!ニュー・メタルブラザー!

「ん……?私……?」
マサオに斬られた後、意識を失っていたアリサだが、芳桂の懸命な治療により、なんとか一命を取り留めた。

「アリサちゃん!よかった……」
芳桂はアリサが目を覚ましたことに安堵し、目に涙を浮かべる。

「芳佳さん……あれ……しんのすけは?」
周囲にしんのすけの姿が見えないため、アリサは芳桂に尋ねる。

「……」
芳桂は気まずそうな表情を見せ、心苦しいながらもアリサに伝える。

「その……しんのすけ君は友達の様子の変化に驚いて何処かへ走り出しちゃった……」

「ッ!!……そう」
(しんのすけ……)
芳桂の言葉にアリサは苦い顔を見せた後、顔を俯く。

「「……」」
気まずい空気が部屋に充満する。

「たしか……私のデイバッグに……」
「ア……アリサちゃん!?まだ、安静にしないと駄目だよ」
デイバッグの中身を漁りだしたアリサを芳桂はまだ、傷が完璧に癒えていないため、窘める。
しかし―――
アリサは芳桂の言葉に耳をかさず、支給品を探す。

「あった……!!」
一枚のカードを手に取ると―――

「はぁ……はぁ……えい!」
カードを放り投げると、その空間から道下師が姿を現す。

「ボンジュ〜ル!って、へぇ……これはこれは……なんとも面白い場面で呼び出してくれたね〜」
カードから出てきたのはディメーン。
ディメーンは窓から巨大危険種マサオを覗くと愉快そうな声を出す。

「貴方は……ッ!」
放送で聞いた声の主に芳桂は警戒する。

「フフフ、放送でも名乗ったけどボクの名前はディメーン。お見知りおきを……って、おやおや、そんなに警戒する必要はないよ」
ディメーンはアリサと芳桂に自己紹介をすると、警戒の必要はないと話す。

「挨拶はいいから……早く、支給しなさい」
アリサは支給品を渡すようディメーンに言う。

「なるほど……確かに”コレ”なら彼に対抗できるかも知れないね。……でも、本当にいいのかい?キミの体は見てもわかると思うけど、重傷の身だ。無理して操作すれば……おそらく死ぬよ?」
「……ッ!」
ディメーンは指摘する。
この状態での身体での奮闘は”死”だと。
そして、芳桂も苦々しい顔をする。
ディメーンの指摘を否定できないからだ。

「せっかく、芳桂くんの力でなんとか助かってるんだから、その命を大切にしたらいいんじゃないかな?」
ディメーンは安静にしなと忠告する。

しかし―――
それでも―――

「あたしの心配なんかどうでもいいわ!それよりいいから、さっさと私に支給しなさいッ!!」
怒声でディメーンに命令するアリサ。

「はぁ……はぁ……」
「落ち着いて、アリサちゃん」
無理に大声を上げたのか、息切れが激しいアリサ。
そんなアリサの背中を摩り、落ち着かせようとする芳桂。

「やれやれ、忠告はしたよ?」
ディメーンはフゥとため息をつき、支給品を渡す準備を行う。

―――バッ!

「カムヒャー!ニュー・メタルブラザー!」
ディメーンの掛け声が響くと、アリサ達の居る家の窓、すぐ外の空間が歪み―――

バ―――――ン!!!!!

228嵐を呼ぶ辺獄平安大合戦 承 ◆s5tC4j7VZY:2021/08/26(木) 00:07:14 ID:Yt8uW6Co0
なんと、巨大危険種マサオと同じ大きさといってもいいのではないかと思うほどの巨大な緑の帽子を被った顔型ロボットが登場した。

「このロボットの名前は”エルガンダーZ”。緑帽子を被ったチョーイカすロボさ!さぁ、そのボロボロの身体でどう足掻くのか辺獄で見届けさせてもらうよ!わはははは!!!!!」
ディメーンはひとしきり嗤うと姿を消す―――

「芳桂さん。ごめん、アタシ行くね。それと治療ありがとう」
「ア……アリサちゃん!?」

アリサはボロボロの身体で駆けだすとエルガンダーZに搭乗する。

そして―――

「遠くへいっちゃえぇぇぇぇぇえええええ!!!!!」
マサオは明を別のエリアへ投げ飛ばした。

「へ、へへ……やっぱり、この体は強靭!無敵!!最強だぜ〜〜〜!!!」
自らの勝利の美酒によったかのようなマサオ。

その前に―――
エルガンダーZが前に立ち塞がるッ!!!

「ん?あはは!そんな変なロボットで僕に敵うと思ってるの!?」
マサオは突如、姿を現したロボットにはじめは戸惑うが、その影が薄そうな顔のフォルムに嗤いだす。

「……Be quiet!!!」

その一言と同時にアリサはエルガンダーZのパンチをマサオの顔にお見舞いするッ!!!

「ブッ!!!!!?????」
顔は覆われた身体ではないため、直にくらう。
マサオは情けない声を上げた。

―――さぁ、行くわよ!おにぎり頭!!!

☆彡 ☆彡 ☆彡

229嵐を呼ぶ辺獄平安大合戦 鋪 ◆s5tC4j7VZY:2021/08/26(木) 00:07:58 ID:Yt8uW6Co0
第8章 考察する者たちは忙しい

時は少し遡り―――

「……ッ!おい!一度、隠れるぞ!」
「……え?」
猛烈なスピードで、自分達に近づいてくる気配に気づいた私はマシュに声を掛けるが、残念ながらマシュは呆気にとられている。

「ああ……!世話が焼けるな……ッ!」
私はマシュを引っ張ると街角に身を潜める。

すると―――

ブロロロロ―――!!!!!
物凄いスピードで鉄の乗り物が走行してきた。
それは、私達が潜む街角まで近づくと、停まった。

(なんだ……!?鉄の車力か……?)
私は明らかに自分の世界より発展している乗り物の存在に驚きを隠せない。

そんな私の驚きを余所に―――

―――バタン。

「……ふむ」
「……?あの、どうしてここで降りたのですか?」
「……」
(人の気配……?)

謎の乗り物から降りてきたのは3人組だった。

「……」
(この男がリーダー格か……)
私は3人組の中で一番強い人物は男だと即座に判断した。

―――どうする。

複数人を相手にする場合、一番強そうなヤツを倒して戦意を奪う。
それが最適の選択。

(しかし、再び巨人化するには、まだ時間が必要だ。手持ちの武器だけであの男を倒せるか……?)

マシュとの戦闘で当分、再び巨人化することができない。
そして、軍服の男が身に纏う雰囲気は只者ではないとは肌で感じる。
私はどうするか決めあぐねていると―――

「待て。こちらは敵対するつもりはない」
男は、私とマシュが潜む場所へ話しかけてきた。

「私はムラクモ。もし、可能ならば情報の交換を希望するが、いかがかな?」

「……」
(……情報はこちらとしてもほしい。あの男が話すであろう情報全てに信頼を寄せるのは危険だが、他の2人は策謀とは無縁そうな感じがする……ひとまずは、出るとするか……)

―――ザッ。

「私は、アニ・レオンハート。そしてこの子はマシュ・キリエライト」
私は男たちとの情報交換に応じることにした。

☆彡 ☆彡 ☆彡

230嵐を呼ぶ辺獄平安大合戦 鋪 ◆s5tC4j7VZY:2021/08/26(木) 00:08:19 ID:Yt8uW6Co0
「なるほど……巨人化にエルディア人……私や2人とも違う世界軸のようだな」

「……」
(随分と興味深い世界だ。この女が言うにはエレン・イェーガーもしくはエルディア人が関わってる可能性が高いというが、”船頭多くして船山に上る”ということわざがある。多連合は時は瓦解の原因になりやすい。考慮には入れてはおくが、今は片隅に置いといて構わんな。……そして、もっとも興味深いのはこのマシュとかいう女……見せしめの関係者。わざわざ見せしめで殺したのに、蘇らせて参加させましたでは、余りにもお粗末。名簿の藤丸立香は恐らく、同姓同名の別人の可能性が高いだろうが、今は伝える必要はないな。兎に角、この女の世界の関係者が最低一人は関わっているだろう。この女の持つ情報は、奴を相手にする上で大きなアドバンテージとなるだろう。もう少し詳しく聞きたいところ)

「……」
(私からの情報を精査しているってところかしらね。ま、それはこちらも同じ)
私もムラクモからの情報を精査していた。

(この男の考察を聞く限り、相当数の世界の人間が集められているということになるな……とすると、やはり双子だけの犯行とは考えにくい。エレン・イェーガーもしくはエルディア人が関わってる可能性はあるとみていいだろう。あの男はその可能性は低いと考えているようだが、わざわざ、死者であるはずのベルベルトを蘇らせてまでこの殺し合いに参加させているんだ。考慮はしとおくのがベストだ。見知らぬ支給品にも強力な威力があることから、それらの技術を手に入れようと考えているのか?それと、刀使にリフレクターか……私の世界に存在していたら、巨人とは別の意味で脅威になる存在だろう。と、なると自分の巨人化の能力だけに過信するのは危険だな。そして、このムラクモという男、一見主催に反抗を示すスタンスを装っているが、何か”企んでいる”確かな確証はないが、女の勘というヤツなのだろうか……私の身体がこの男に気を許すなと警告している。……警戒はしておくべきだろう)
互いに情報の精査が終わると同時に―――
突如、地響きが大きくなる。

ゴゴゴゴゴ!!!!!

「地響きか……」
「何、この音……」
「……あそこ」
沙耶香の指さした方向に一同、目線を向ける。

「あれは……!巨人!?」
(エレン・イェーガーにいる手の者か!?)

「アニさんの巨人化より大きい……」
先ほど、巨人化したアニと戦闘を交わしたマシュはその大きさに驚愕する。
そう、目視した巨人らしき生物は制限されたはいえ、先ほどアニが巨人化した姿よりも大きい。

「おい!そこの車で移動できるか!」
「何!?」
アニはムラクモに尋ねる。

「あの巨人らしき人物は、エレン・イェーガーによる手の者か巨人薬を使用した可能性が高い。どちらにせよ、捕らえれば大きな情報源になる」
―――そのどちらかでもなかったとしても、行く価値はある……!!

「ふむ……」
(あれほど目につく存在……恐らくは他の参加者達も集まってきている可能性は高い。帝具もあるから、日姫級が相手で無ければ充分に対処できるだろう。ここは、情報収集も兼ねて乗るとするか)
ムラクモはアニの提案に利があると判断する。

「よかろう。それでは、あの巨大生命体の場所まで連れていこう。2人もそれでいいいな?」
「はい」
「……うん」
日菜子、紗耶香も巨大生命体をそのまま放置しておくことは危険だと判断したため、ムラクモの判断に賛成する。

家紋タクシーに全員搭乗すると―――

「いくぞ、全速前進だ!」
アクセル全開で現場に向かう家紋タクシー。

☆彡 ☆彡 ☆彡

231嵐を呼ぶ辺獄平安大合戦 鋪 ◆s5tC4j7VZY:2021/08/26(木) 00:08:44 ID:Yt8uW6Co0
第9章 正義の法則

―――スタスタスタ
「……」
「……」
「……」

―――スタスタスタ
「……」
「……」
「……」

「……」
(う〜ん、何だか植木殿と針目殿はお互い警戒し合っているように感じるが、一体、どうしたのでしょう)

「……」
服部のヤツ。オレと針目の緊張感に違和感を感じてるのか……まぁ、無理もないけど。

(だけど、服部も針目もよく、オレに対してキレないよな……)
―――う〜ん?
何か、引っかかるな……よし!聞いてみるか!

「なぁ、そういえば服部や針目はオレに何にも感じないのか?」
「「?」」
オレの質問に服部と針目は首を傾げる。

「いや、その……オレの顔を見てムカムカするとか」
試しに例を挙げて確かめる。

「?いえ、別に植木殿の顔を見てイライラなどしませんが……」
服部はオレの例えに訳がわからず、戸惑いながら答えている風だ。

「何々?もしかして、耕介ちゃんって”M”なの?」
針目は……からかいながら答えた。

―――と、すると2人とも、特にオレに関してなんとも思っていないということか。

「……!!」
(そうだ……!!ここに来てから、服部も針目もオレに嫌悪感をもって接していねぇ!」
もっと早く気づくべきだった。
―――そうだよ。
オレは”女子に好かれる才”を失ってるから、基本的には女子に嫌われるはず!!!

そう、植木耕助ことオレは同級生の森を救う為、コバセンから言いつけられていたことを破った。
その言いつけとは―――
いかなる理由があっても、能力を非能力者に使用すればペナルティとして自らが保有する才を一つ失う。
オレは”女子に好かれる才”を失い、結果、クラスの女子のみならず”女性”から嫌悪感を抱かれるようになった←ま、オレは特に気にしていないが。

(……もしかしたら)
オレは意を決して―――

「花鳥風月(セイクー)」
「えっ!?」
「へぇ〜……」
予想通り、神器を発動することができた。
オレは花鳥風月の力で宙に浮く。

「う、植木さんも魔力を持っているのですか!?」
―――ん?うーん。魔力とは違うんだけどな。

「……」
(ふぅ〜ん、またまた作戦変更したほうがいいかも☆)
お!どうやら、針目にはいい牽制になったかも知れねぇな。
結果オーライとしておくか。

(服部達にはオレの世界については、軽く話してはいたが、やっぱり直に目の当たりにしちゃあ、驚くよな)

―――それから、オレは2人に神器のことについて話をした。

☆彡 ☆彡 ☆彡

232嵐を呼ぶ辺獄平安大合戦 鋪 ◆s5tC4j7VZY:2021/08/26(木) 00:09:09 ID:Yt8uW6Co0
「そうなのですか……植木さんから神器については聞いてはいましたが、やはり、実際に目の当たりにすると、こう、なんといいますか驚きました!」
「へぇ〜〜〜。ちなみに、出会った時の情報交換での際、ボクは神器について聞かされてなかったけど?もしかして、まだ秘密にしていることあるんじゃないかな」
「……それは、お互い様だろ?」
「あは!何のことかボク、分からないな〜〜〜☆」
そんなやり取りを交わしていると―――

突如―――

ゴゴゴゴゴ!!!!!

「なっ!?」
「……ッ!?」
「何、何、ワクワクするね♪」
地響きに3人は何事かと身構えた。
すると―――

「植木さん!針目さん!あれを!!!」
服部の指さした方角に巨大な生物(巨大危険種マサオ)が姿を現した。

「わ〜〜〜、と〜〜〜っても、大きいね☆」
「ええ……ッ!?植木さん!ポケットが光っていますよ!」
「ん?」
服部が驚いたようにオレのポケットを指さす。

「……何だ!?」
(たしか、こっちのポケットには人形が……)
オレはポケットの中に入れていた”アクション仮面人形”を取りだすと、人形が光っていた。

「人形が……」
「普通の人形じゃなかったみたいだね」
「ああ……」
全身が光っていた人形はあのデカい怪物(巨大危険種マサオ)の方角へ一筋の光を収縮させた。

「あそこへ行けっていうことか……」
人形がそこへ向かえと訴えかけているようだ。

「行きましょう。アレを放置したら、他の参加者に危害が被る可能性があります」
服部も向かうべきだと進言してきた。
そして、針目も。
正直、針目も賛同したのは意外だ。
……何か、良からぬことを考えてねぇといいんだが……

「……うし。それじゃあ、向かうか!」
オレ達は巨大な怪物が現れたエリアへ向かうこととした。

☆彡 ☆彡 ☆彡

233嵐を呼ぶ辺獄平安大合戦 叙 ◆s5tC4j7VZY:2021/08/26(木) 00:10:03 ID:Yt8uW6Co0
第10章 それでも私は守りたい

「アリサちゃん……ッ!」
芳桂はアリサが操作するエルガンダーZと巨大危険種と化したマサオの攻防を家の屋根で眺めている。

(私……無力だ)
せめて魔力があれば―――

芳桂は何もできずにただ眺めることしかできない自分の不甲斐なさに苛立ちを隠せず、手をギュッと固く握ると体を震わせる。

(私にも何か……できることはないのかな)
必死にできることを思案していると―――

「み、宮藤さん!よかった……!無事で……」
「……え。し、静香ちゃん!?」
(それに、そのストライカーユニットは……って今はそんなことはいい!)
静香は探し人の宮藤に出会えて喜びを隠せない。

「ごめん、静香ちゃん!私をあのロボットのコックピットまで連れてって!」
一方、芳桂も静香との再会に喜ぶが、直ぐに自分をエルガンダーZまで連れていくよう頼む。

「え?は、はい。判りました!」
静香は状況をつかめてはいないが、敬愛する宮藤の頼みを聞き、抱きかかえると、指定した場所まで宮藤を連れていく。

「アリサちゃん!」
「……芳桂さん。来たのね」
アリサはコックピット内に入った芳桂をチラリと見ると、直ぐにまた前を向いて操作に没頭する。

「ありがとう、静香ちゃん。それと、何か武器みたいなのは支給されている?」
「え?は、はい……この”特殊棍棒”という武器ならありますが……」
静香は芳桂の問いに戸惑いつつも武器を提示して答える。

「ごめん!ちょっとそれ借りるね!」
「あ!?み、宮藤さん!」
芳桂は静香の特殊棍棒を手に取ると走り出し―――
再び、コックピットから出ると、緑の帽子のてっぺんに立ち、”つかった”

ガガガガガ!!!!!

「はぁぁぁぁぁあああああ!!!!!」
芳桂は必死の形相でとくしゅこんぼうの銃機能でマサオの腕の関節を集中して狙い撃つ。

―――ズド―――ン……
芳佳の集中砲火で腕や一部の身体のパーツが崩落するが―――

「ははは!そんな不安定な場所で攻撃するなんて、芳桂さんって意外と考えなしなんだね!」
もう片方の腕が芳佳を狙いに定め―――

―――ブオッ!

「……ッ!?きゃっあ!」
直撃は避けられたが、パンチの風圧により、芳桂はエルガンダーZの頭上から転落を―――

「宮藤さんッ!!!」
―――間一髪。静香が芳桂を空中で受け止めて大事に至らずにすんだ。

「あ、ありがとう。静香ちゃん」
芳桂は、助けてくれた静香にお礼の言葉を伝える。

―――が。

234嵐を呼ぶ辺獄平安大合戦 叙 ◆s5tC4j7VZY:2021/08/26(木) 00:10:23 ID:Yt8uW6Co0
ポタ―――

「し、静香ちゃん……?」
(これって……涙?)
芳桂の頬に涙が零れ落ちた。
静香の瞳から零れ落ちた涙が―――

「宮藤さんは、もう少し自分の命を大切にしてくださいッ!!!」
「!?」
「宮藤さんの軍規に反してでも、周りの命を救おうとする姿勢は、昔は賛同できませんでしたが、今は理解できます!ですが、それで自分の命を失ったのでは元の子もないんですよッ!ですので、ご自身の命も……!お願いですから……」
「……静香ちゃん」
静香の魂の訴えが芳佳の魂に響いたのだろうか。
芳佳の身体に異変が起きるッ!!!

「……ッ!?」
(胸の奥が熱くなってきた!?」

―――カッ!!

芳佳の身体が光り輝く―――

「ま、魔法力が戻ってくる!?」

芳桂を中心に魔法陣が―――

そして、豆柴の耳としっぽが生える。

「え?え?」
(一体、これはどういうことなんでしょうか!?)
静香は芳佳が再び魔力を取り戻したかのような様子に戸惑う。

「……静香ちゃん」
「あ、は、はい」
芳佳は静香に顔を向けると笑顔で言い放った。

「ありがとう。静香ちゃんの言葉で私、目が覚めた。私はアリサちゃんの傍につくから、静香ちゃんは”コレ”での援護をお願い!」
そういうと、芳佳は静かのとくしゅこんぼうを返す。

「……分かりました!それと……”こちら”をどうぞ!」
静香は芳佳に支給品の一つを手渡す。

「これは?」
「これは”じわじわキノコかん”といって、体力を回復するキノコみたいです。私の手元にいくつか数がありますので、お一つ持っていってください!」
「ありがとう静香ちゃん。それじゃあ……行ってくるね!」
静香からうけとった”じわじわキノコかん”を手にエルガンダーZのコックピットの中へ戻っていった。

「……よし」
(正直、宮藤さんには聞きたいことが沢山ある。だけど……宮藤さんはやっぱり、私が憧れている宮藤さんだ!今は……前の敵に対処しよう」

敬礼をして芳佳を見送ると、静香は巨大生命体マサオに向かっていった。

☆彡 ☆彡 ☆彡

235嵐を呼ぶ辺獄平安大合戦 叙 ◆s5tC4j7VZY:2021/08/26(木) 00:12:19 ID:Yt8uW6Co0
「しつ……こい……なぁ!」
マサオの巨体タックルはエルガンダーZを吹き飛ばす。
明ほどではないが、結構遠くの位置まで吹き飛ばされた。

「う……くッ!」
―――ズキン。

(傷が……まず、目が霞むわ……)
再び、悪化する痛みに意識を失いかけるアリサ。

そこへ―――

「……アリサちゃん、大丈夫!?」
「芳佳さん……往ったり来たりで忙しいわね……私は……大丈夫……よ」
アリサは芳佳の言葉にカラ元気で答える。

「……もう大丈夫だよ」

―――パァァァァ

「こ、これは……!?」
(もしかして魔法?だとすると芳佳さんってまるで、なのはやフェイトみたい……それにしても温かい)
芳佳がアリサの肩に手を添えた瞬間、アリサの体は温かな魔力に包まれる。

そう―――
これが、宮藤芳佳の固有魔法”治療魔法”。

「アリサちゃんの想い、伝わってるから!だから、安心して!!私が絶対にアリサちゃんを死なせたりはしないから!!!」
芳佳は、アリサに常時、治療魔法をかけ続ける。
そうすることで、アリサの消えかかる命の灯を保つ。
それが、芳佳が選んだ”守る”!

「それと……これを食べてみて!体力が回復するキノコみたいなの」
芳佳は先ほど静香から手渡されたじわじわキノコかんを開けるとアリサに食べるよう促す。

―――モグモグ。

「……ありがとう、芳佳さん。これなら……しんのすけが戻ってくるまで、持ちこたえられそうだわッ!!!」
アリサは芳佳の治癒魔法とじわじわキノコの効力でなんとか、失いかけた意識を少しだけ取り戻した。

(まだ、おにぎり頭と戦うことが出来るッ!)
アリサはマサオを睨みつける。

☆彡 ☆彡 ☆彡

236嵐を呼ぶ辺獄平安大合戦 叙 ◆s5tC4j7VZY:2021/08/26(木) 00:12:35 ID:Yt8uW6Co0
闘いの場に戻ったアリサの目に映ったのはマサオに対峙している何人もの参加者の姿だった。

「……止めないと」
ーーーあの”おにぎり頭”の相手は私……いえ、”しんのすけ”よ

アリサはこの場を任せてもらうようスピーカーで呼びかける。

参加者とやり取りを交わしていると、マサオは―――

「あはは!しんちゃんが戻ってくるって!?
マサオはアリサの願いを嗤う。

「戻ってくるわけないじゃないか!アリサちゃんは僕に斬られて気を失っていたから知らないだろうけど、しんちゃんのあの情けない逃げた姿……本当に笑っちゃうよ」
「……ン」

「?。何、言ってんのか聞こえないよ(笑)」
マサオの巨大な手がマサオの耳に添えられて”聞こえなーい”とポーズをとる。

「バカチンって……言ってん……のよ!」
「ぶっ!?」
右フックがマサオの顔にめり込む。

「大体、貴方!しんのすけの友達なんでしょ!?それなのに友達を後ろから斬りかかろうとして!そんな卑怯な行動、男の子として恥ずかしくないわけ!?はん!調子に乗ってるんじゃないわ……よ!貴方は選ばれし者でもなんでもないわ!あんたはただの……裏切りおにぎりよ!!!」

「ぶぶっ!?」
今度は左フックがマサオの顔にめり込む。

「しんのすけは必ず戻ってくる!」
(そうよね?しんのすけ……あたしはあんたが戻って来るって信じるわ!)

☆彡 ☆彡 ☆彡

237嵐を呼ぶ辺獄平安大合戦 叙 ◆s5tC4j7VZY:2021/08/26(木) 00:13:19 ID:Yt8uW6Co0
第11章 巨大危険種マサオVS大人たち

静香が宮藤をエルガンダーZへ運んでいくのを見届けると、耕介と針目はそれぞれ行動を開始する。

「いくぞ、針目!」
「えー、正直気乗りしないんだけどなぁ〜、ま、いいか!はいはーい☆」
耕介と縫はそれぞれ武器を構えると、左右に分かれてマサオに攻撃をしかける。

「ぶっとい体だね!でも、チンチクリンの君には似合ってないよ?」
縫は片太刀バサミでマサオの右膝を連続刺突する。

「言っておくけど、そこは僕の痛覚とリンクしてないから、いくら攻撃を仕掛けても無駄だよ!」
そう、先の明との戦闘実績からマサオは余裕綽々。

「え?別にキミに痛みが感じないとかどうでもいいんだけど?というか、この攻撃の意図が分からないなんて、キミってニブチンさんだね☆」
「へ?」
縫の言葉にポカーンとするマサオ。
そこへ―――

―――バシュゥゥ!!!
―――シュルルルル……
―――ザンッ!!!

立体起動装置を使った耕介が空中を右往左往に移動すると、付属しているブレードでマサオの左膝を切り刻む。

「わ!わわ!!??」
縫と耕介の攻撃の連携により両膝が破壊されたマサオはスッ転ぶ。

―――ズドンッ!!!

「よし!」
「今だね〜!」
2人はマサオの顔目掛けて突っ込む。

―――が。

「させないよ!!!!!」
マサオの背面から伸びたいくつものGペンの触手が二人の接近を防ぐ。

「く……ッ!これじゃあ、近づけねぇ!!」
「あは、これって人間ビックリ箱だね☆」
Gペンを破壊しても次のGペンが次々と生み出されては襲い掛かる。

襲い掛かってきては破壊!襲い掛かってきては破壊!
―――と膠着が続いている中、新たな動きが起こる。

→どうぐ
→とくしゅこんぼう
→つかう
 はずす

ガガガガガ!!!!!

触手のようにのびているGペンが破壊される。

「植木殿!針目殿!無事ですか!?」
芳佳とのやり取りを終えた静香の援護。
そして―――

再び、植木と縫はマサオの眼前まで近づく。
―――しかし、マサオもただ攻撃を黙って受けるつもりはない。

「あらよっと!!!!!」
マサオの背中から巨大な蝙蝠の羽根が生える。

―――バサバサバサ!!!!!

飛翔することにより、ムラクモの攻撃をマサオは避ける。

238嵐を呼ぶ辺獄平安大合戦 叙 ◆s5tC4j7VZY:2021/08/26(木) 00:13:53 ID:Yt8uW6Co0
「……!?」
(すげー……)

「あは!」
(この再生力に外見変化……まるで、生命戦維のように身に纏ってるって感じかな☆)

かつて、マサオは人類動物化計画を企む四膳守が開発した”人類動物化ドリンク”の失敗作により、半分蝙蝠化したことがある。
八将神への改造により、再びその能力を得たのだ。
家紋タクシーが現場に到着すると、各自、タクシーから下車して行動を開始した。

スタタタタ―――

「斬る……」
決して浅い傷ではないのだが、紗耶香は木から木へと飛び移りながらマサオの身体に飛び移ろうとするッ!

「ああ〜〜〜!俺を斬るだって!?上等じゃねぇか!日輪刀!!!」
マサオの声に応じ、再生された片腕が身体のサイズに合わせた巨大な日輪刀へと変化する。

「ナマスにしてやるぜ〜〜〜!!!」
―――ブンッ!

紗耶香の命を刈り取る一撃。

スッ―――

それを紗耶香は迅移で避ける。

「えええ!?お姉さんの姿……追いつけないよぉぉ!?」
マサオは紗耶香の迅移に追いつけずただただ困惑。

「……」
紗耶香はなんとか飛び移れたマサオの身体を駆けあがる。

そして―――

「私も……!」
リフレクターへと変身した日菜子も逆の方向からマサオの身体を駆けあがり―――

―――ザンッ!
―――ザンッ!

―――日菜子と紗耶香の両雄による斬撃は蝙蝠の羽を鋭く切断した。
「うわわわわ!?」

空を支配する翼を失い、マサオは哀れにも地面に堕ちる。

「よし、確保するぞ」
ムラクモ、アニ、マシュがマサオの動きを封じようと行動を開始しようと動いたその時―――

「痛いよぉぉおおお!〜〜〜〜〜#####」
「「「!!??」」」
(((み、耳が……)))

「ママ〜〜〜######」
マサオの口から強力な超音波を発生させた。

「これは……音波ですか!?」
「うるせー……」
「あはっ!?とっても耳障りな音だね☆」
「……まるで蝙蝠」
「これじゃ……あ、動くのもままならな……い」
超音波の反響により動きを一度、止められると―――

―――ニヤリ。
「へっ!チャンスだぜ〜〜〜!」

「ドカン」「ドカン」「ドカン」「ドカン」「ドカン」「ドカン」「ドカン」「ドカン」

239嵐を呼ぶ辺獄平安大合戦 叙 ◆s5tC4j7VZY:2021/08/26(木) 00:14:17 ID:Yt8uW6Co0
「「「「「「「「……ッ!」」」」」」」」
巨大日輪刀と同様に変化した巨大空気砲による空気の弾丸は彼らに強いダメージを与え、吹き飛ばす。
彼らはなんとか、攻撃を喰らいつつも各々なんとか起き上がり、闘いの構えをする。

「なんだ。この程度なの」
マサオの表情に再び余裕が見えてくる。

「くッ……!」
(巨人化は……まだ”できない……か!!)
予想以上の強さを誇るため、アニは巨人化して対抗しようとしたが、やはり変身時間ができないことに苛立つ。
(私の支給品の武器はこの脇差……くそッ!あれが相手では分が悪い!)
アニは支給された脇差を手に取るも、巨人化らしき幼子には相性が悪く、なかなか攻撃に参戦でできず、下唇を噛む。

「……作戦変更だ。ここで始末する」
マサオの予想以上の能力に確保するのは困難と判断したムラクモは当初の確保する方針を転換させると―――

―――ス

ザンッ!!!!!

突如、ワープしたかのように移動するとマサオの腹辺りに鋭い斬撃が切り刻まれる。

「「「!?」」」
静香、耕介、縫は突然の斬撃に驚く。
正体はムラクモの攻撃。

「む?」
(村雨の効果が発動していないだと?)
ムラクモの所持している帝具”村雨”は斬った個所から呪毒が侵入することで心臓の機能を停止させて死に至らしめる”一撃必殺”の能力がある刀。

”普通に危険種になっただけの生物”なら効いていただろう。
しかし、佐藤マサオは既に人ではなく、八将神という存在へと変容している。
故に命を絶つ方法は一つしかない。
体内の”宿業”を―――
疑似霊核となった心臓を”破壊”しない限り、死亡することはない。

そのため、村雨の効果を受け付けていないのだ―――

「なら……!」
(首を爆弾首輪をつけるということは、すくなくとも”ココ”では首を刎ねれば、死ぬはずだ)
村雨の効果が効いていないため、ムラクモは”首を刎ねる”に重きを向けて攻撃を仕掛ける。
八将神という存在を知らない中、ムラクモは最適の解を予想し行動する。

240嵐を呼ぶ辺獄平安大合戦 叙 ◆s5tC4j7VZY:2021/08/26(木) 00:14:58 ID:Yt8uW6Co0
ダカダカダカダカダカダカダカダカダカダカダカダカダカダカダカダカダカダカダカダカ

非常に独特な歩きをしてムラクモはマサオに近づく。

「これで、終わりだ」
ムラクモはマサオの首に村雨を―――

しかし―――

「ひとつひとより和毛和布!」
―――ヒョイ。
なんと、超巨体であるマサオの肉体がワカメのように揺れ出すと、ムラクモの攻撃を避ける。

「クッ……!」
(何だ。その動きは……)
先ほどのマサオの動きとは明らかに違い、戸惑いを隠せないムラクモ。

―――ひとつひとより和毛和布!
それは、ぷにぷに拳の奥義の一つ。
ワカメのように揺れながら動くことで攻撃を躱す奥義。
ぷにぷに拳の中でも一番初めに習得する奥義なのだが、マサオは習得できなかった。

しかし―――
八将神の身となった今は、皮肉にもぷにぷに拳を行使できるようになった。

―――ヒョイ。
続いて紗耶香の攻撃も同様に避ける。

「……ッ!」
(迅移のスピードも避ける!?)
紗耶香の迅移によるスピードは並の刀使とは比べものにならないのだが、マサオは避けたのだ。

さらに―――

「銃弾も躱すのですか!?」
特殊棍棒の弾丸も躱すことに静香は驚きを隠せない。

「……今、解析できました」
(そんな!?だと、するとあの子は一体……?)
マシュは衝撃の事実に戸惑いを隠せず、呟く―――

(でも、今はそうは言ってられない。皆さんにお伝えしないと……ッ!)
焦る動悸を抑えつつマシュは伝えることを選択する。

「皆さん!あの子供の頭は疑似霊核と化しています!」
―――ビシィィィィィ!!!!!

マサオに向かって指さししながら皆に伝える。

241嵐を呼ぶ辺獄平安大合戦 叙 ◆s5tC4j7VZY:2021/08/26(木) 00:15:36 ID:Yt8uW6Co0
「ええええ!?どうして、僕の宿業を知れたの!?」
これまでの戦闘でばれなかった秘密を知られ、焦るマサオ。

どうして、マシュが知れたのかと言うと―――
その秘密はマシュのオルテナウスの追加機能”周囲探索”
その能力でマサオの隠された情報を明らかにできた。

「……疑似霊核?何だそれは」
見知らぬ言葉にアニはマシュに質問を促す。

「簡単に言うと、存在を構成している核のことです。あれを、破壊しない限りあの子は死なないでしょう」
(あの双子があの子を疑似霊核とした……?いえ、それができるのは……)
マシュの脳裏に嫌な考えが過る。

「ねぇねぇ、耕介ちゃんの持つ”神器”とやらで破壊できるんじゃない?」
「オレの神器は”候補者バトルに参加していない人間”には使用しねぇ」
(確かに”魔王”なら……出来るかも知れねぇけど……)
それは恩師から学び、決めた植木の正義。

「あは!変な縛りプレイだね?あれが、キミには”人間”に見えるの?」
植木の正義の方針に針目は呆れる。

「ああ……逆に聞くがオマエには見えねぇのか?針目……!!!」
針目の言葉に植木は、はっきりと怒気も交えて言う。

「植木殿に針目殿も戦闘中に言い合いはよしましょう!」
静香は2人を嗜める。

「……ですが」
「ああ、これなら……」

勝機が見えた―――

マサオと対峙している8人がそう共有したとき―――

アリサはエルガンダーZからスピーカーを通じて申し出る。

「ちょっと!申し訳ないんだけど、このおにぎりの相手は私としんのすけに任せてもらうわッ!」

「「「「「「「「!?」」」」」」」」
アリサの申し出に驚きを隠せない各々……

「何を、馬鹿なことを……今は全員であの子供を仕留めるか確保するべきだと言うのに……」
ムラクモにとっては、アリサの申し出は到底受け入れるものではない。

それを聞いたアリサは―――

「うっさい!このコスプレ軍人!!!」
「!?」
アリサの言葉にムラクモは目を見開く。

「いい!?相手はおにぎりとは言え、5歳児の幼稚園児なのよッ!それをいい大人たちが集団でよってたかって戦うなんて……恥を知りなさい!」
アリサの本音も混じった啖呵。

「「「「「「「「……」」」」」」」」

「あはは!しんちゃんが戻ってくるって!?
「戻ってくるわけないじゃないか!アリサちゃんは僕に斬られて気を失っていたから知らないだろうけど、しんちゃんのあの情けない逃げた姿……本当に笑っちゃうよ」
「……ン」
「?。何、言ってんのか聞こえないよ(笑)」
「バカチンって……言ってん……のよ!」

「ぶっ!?」

「大体、貴方!しんのすけの友達なんでしょ!?それなのに友達を後ろから斬りかかろうとして!そんな卑怯な行動、男の子として恥ずかしくないわけ!?はん!調子に乗ってるんじゃないわ……よ!貴方は選ばれし者でもなんでもないわ!あんたはただの……裏切りおにぎりよ!!!」

「ぶぶっ!?」

「しんのすけは必ず戻ってくる!」
アリサは高らかに宣言する。

「「「「「「「「……」」」」」」」」
大人達はアリサとマサオのやり取りを黙って眺めていた。

するとやがて―――

「みんな〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!」

子供の声が死闘の場に響き渡る―――

☆彡 ☆彡 ☆彡

242嵐を呼ぶ辺獄平安大合戦 叙 ◆s5tC4j7VZY:2021/08/26(木) 00:19:29 ID:Yt8uW6Co0
第12章 希望山脈〜バトルロワイアルに向き合うとき〜

「うわぁぁぁぁぁあああああ!!!!!」
しんのすけは無我夢中で逃げている―――
だが、それも無理はない。なぜなら―――

マサオ君が……マサオ君が……

あの、怖がりで気が弱く泣き虫のマサオ君が―――

刀でオラを斬ろうと襲い掛かってきて、それを守ったアリサちゃんが代わりに斬られて―――

「僕は、歳破神・巨大危険種佐藤マサオだぁぁぁぁぁあああああ!!!!!」
変なお注射をしたマサオ君の体が化け物みたいになっちゃた!

数々の大冒険を乗り越えてきた嵐を呼ぶ幼稚園児でも受け入れられない現実を直視したからだ。

ズザァァァァァ―――

「い……イタタ」
しんのすけは痛みに耐えつつも起き上がり―――

「!?口の中に草が……ぺっぺ!」
しんのすけは転んだ拍子に飛び出てきた”草”を口にいれてしまった。

「んも〜〜〜、こんな草……オラいらないゾ!」
しんのすけは、残りの草を空高くポ〜〜〜イと投げ捨ててしまった。

―――そして、我に返ると……

「そ、そうだ!きっとこれは夢なんだゾ!」
(そうだ!マサオ君がオラを斬ろうと襲い掛かってきたり、化け物に変身なんかするわけがないゾ!)
しんのすけは夢だと思い込んだ。
先ほど、転んで”痛み”を感じているのにも関わらずにだ。

その時―――
しんのすけの耳に懐かしい声が聞こえてきた―――

―――しんのすけ。お前はそれで良いのか?

「え?」
(その声は……!)
しんのすけは顔を見上げると、驚きの顔を見せる。

なぜなら―――

「お……おマタのおじさん!」
しんのすけの前に現れたのは、井尻又兵衛由俊。
戦国時代、春日家に仕えた武士。

☆彡 ☆彡 ☆彡

243嵐を呼ぶ辺獄平安大合戦 叙 ◆s5tC4j7VZY:2021/08/26(木) 00:19:48 ID:Yt8uW6Co0
「おじさん……!?どうしてここに……」
「さぁ、俺にもよくわからん。だが、しんのすけが悲しんでいると知ってな!居ても立っても居られなくて化けて出てしもうたわ」
そういうと又兵衛は”わっはっは”と大声を上げて笑う。

「う……うう……」
「ん?」
「おマタのおじさ〜〜〜〜〜ん!!!!!」
しんのすけは大粒の涙を流して又兵衛の胸に飛びつく。

「これこれ、男子がそう簡単に涙を流すな」
「でも、オラ……オラ……!!」
「仕方のないヤツだ。……ところでしんのすけ。今、お前は……”殺し合い”に巻き込まれている」
「えっ!?」
「おそらく、お前の友をああしたのは、殺し合いを開いた者達の仕業に間違いないだろう」
「えええ!?」
「だから、この殺し合いをしんのすけ。お前が止めるのだ」
又兵衛が教えた真実にしんのすけは驚愕する。

「でも……殺し合いを止めるなんてオラにはできないよ……」
「俺は、今まで戦とは敵将の首を獲ることで終わると思っていた。だが、お前は大蔵井高虎の首を取らずに戦を終わらせた。何……此度もこの戦を終わらせることができると俺は信じてる」
又兵衛は力強くしんのすけに伝える。

「おマタのおじさん……」

―――そう、ボクもしんちゃんなら止められると信じている。だってキミには”勇気”が備わってるから
「マ……マタ!」

マタ・タミ。
暗黒世界ドン・クラーイの住民。
人間界の支配を企んだ王のアセ・ダク・ダークを討つために勇者として選ばれたしんのすけのサポートを行った少女。

「マタ!マタ!!マタ!!!……オマタ〜〜〜」
しんのすけはマタの胸に飛び込むと甘える。

「……オほん!」
マタが咳ばらいをすると、しんのすけは一歩、後ろに下がる。

「さっきも言ったけど、しんちゃんなら大丈夫!なんてったって、しんちゃんはアセ・ダク・ダークを倒した勇者なんだから」
「で、でも、それはマタやキンキン、ギンギンの力があったから……」
「ううん。たとえ、この場にボクやキンキン達がいなくてもしんちゃんならできるよ。だってキミは石にされたボクを救う為に一人でアセ・ダク・ダークに立ち向かったんだから。……だけど、力を力みすぎないようにね。だって”なんとなく頑張る”がしんちゃんのいいところだんだから」
マタは優しくしんのすけに伝える

「マタ……」

―――ええ、私もしんちゃんの勇気ならこんな催しに負けないと思ってるわ!

「トッペマ!」
「そう、私はトッペマ、あなたのしもべ…うふふ」

トッペマ。
からくり人形の女の子。
その正体はヘンダーランドの王女、メモリ・ミモリ姫。
オカマ魔女の手により姫の心が宿っていた。

「トッペマ〜〜〜!」
「しんちゃん、久しぶりね」
しんのすけとトッペマは互いに抱擁する。

「でも、どうして元の姿に戻れたのに、また人形の姿なの?」
「それはきっと、しんちゃんとの縁が深いのがこの人形の姿だったからだと思うわ」
「ほうほう」
「話を戻すけど、しんちゃんは、勇気を持ってマカオとジョマを倒せたじゃない。しんちゃんならあの双子の企みを阻止することができると私は確信してるわ!」
「でも……」
「大丈夫。しんちゃんなら運命のレールを元に戻すことができるわ」
「トッペマ……」

244嵐を呼ぶ辺獄平安大合戦 叙 ◆s5tC4j7VZY:2021/08/26(木) 00:20:14 ID:Yt8uW6Co0
―――Hola!しんのすけ。貴方は勇気だけでなく”機転”があるわ!

「カロリーナ!」

カロリーナ。
野原一家がメキシコに移住した時の幼稚園の幼稚園教諭。
ダンスが好きでお尻のキレはぴか一。

「あの超巨大化したキラーサボテンの女王を倒すことができたのは、紛れもなくしんのすけの機転よ。頭でっかちな大人達だけでは、あの双子には到底敵わないわ。だからこそ、しんのすけのような存在は必ず必要となるわ!」
「カロリーナ……」

―――しんちゃんには勇気や機転だけでなく”やさしさ”もあるよ。

「レ、レモンちゃん!」

スノモノ・レモン。
スカシぺスタン王国のスパイ。
始めはとある理由からしんのすけを利用していたが、しんのすけ並びに家族と接していくうちに考えに変化が起きた。その後王国を裏切り、ナーラオとヨースルの野望を打ち砕いた。
事件後は自分の家族と共にヘーデルナ王国へ亡命する。

「ふふ、やっぱりしんちゃんは”やさしい”ね」
「……え」
「私の本名を言わなかった」
「だって、周りに他の皆がいるから……レモンちゃんの本名はオラとレモンちゃん2人だけの秘密だから……」
「約束を守り通すことって難しい。それができるのは、しんちゃんが”やさしい心”を持っているからなんだよ」
「レモンちゃん……」

―――勇気、機転、やさしさ、それに加えて、しんちゃんには”明るさ”があるわ!

「タミさん!」

金有タミコ。
未来のしんのすけのお嫁さん。

「しんちゃんの明るさが私としんのすけさんが結ばれる未来を救った。この双子達に支配されている殺し合いという霧をしんちゃんの明るさなら絶対に晴らすことができると私は信じてるわ!」
タミコはサムズアップして宣言する。

「それに、ここで死んだらしんのすけさん以上に”いい大人”になれないでしょ」
「……うん」

―――しんちゃんには、勇気、機転、やさしさ、明るさもあるけど、何より素敵なのは、”友達との絆”よ。

「サキちゃん!」

貫庭玉サキ。
一時的に春日部に引っ越した少女。
悪夢にうなされていたが、かすかべ防衛隊の皆との絆。
そして、しんのすけの母、みさえの説得等を通して、悪夢を受け入れることで悪夢から解放された。

「私は、しんちゃんのママとかすけべ防衛隊の皆の力で悪夢から解放された。かすかべ防衛隊は、しんちゃんに風間君、ボーちゃんにネネチャン。そして……マサオくんだよね。だから、マサオくんを惑わす悪夢を祓う。だよね、しんちゃん」
「サキちゃん……うん、サキちゃんの言う通りだゾ」

―――アイヤー!機転、やさしさ、明るさ、友達との絆……どれも素敵だけど、しんのすけには”正義”があるわ!

「ランちゃん!」

「私の暴走した正義をしんのすけ達の正義が止めてくれた……あの双子達の行いは例え、双子達にとって正義だとしても間違ってる正義。しんのすけがあの双子に本当の正義を教えてあげて。それと……可愛い弟弟子のマサオにも……ね」

「ランちゃん……」

245嵐を呼ぶ辺獄平安大合戦 叙 ◆s5tC4j7VZY:2021/08/26(木) 00:20:41 ID:Yt8uW6Co0
―――しんちゃん、すきよ。

「ななこ!」

ニセななこ。
ミラクルクレヨン”の力でしんのすけが近所のお姉さん”ななこ”をイメージして描いて産みだした勇者の一人。

「しんちゃん、すきよ」
「……うん」

ニセななこはやっぱり”しんちゃん、すきよ”とだけしか喋らない。
しかし、しんのすけにはニセななこの想いは伝わった―――


「何だ……私にお助けしてもらいたいのか?なら、お助け料は”いちおくまんえん”何、安心しろローンも可だ」
「ぶ……ぶりぶりざえもん!」

ぶりぶりざえもん。
しんのすけが描いた”救いのヒーロー”。
しんのすけの絵だったぶりぶりざえもんはとある組織のコンピューターウイルスとして採用され、産みだされた。
しかし、しんのすけとの交流を得て、”救いのヒーロー”としての心が芽生えた。

「いつからオマエのちんちんは小さくなったんだ?」
「ッ!オ、オラのちんちんは小さくなってないゾ!」
「フン!どうだか……」
―――フン! ギュ!

「……なんだ、立派じゃないか。なら、私のお助けは必要ないな。……オマエならあの”景色”をもう一度見ることが出来る。私が保証する」
「ぶりぶりざえもん……」

「しんのすけ君!」
「ア……アクションかめ〜ん!」
しんのすけのヒーロー。
アクション仮面。

「私がヤツ……パラダイスキングと戦ったときのこと、覚えているかい?」
「う……うん。あの爆発頭のヤツとの戦いのことだよね……」

「そうだ。正直言うとね……私の心は砕け散る寸前だったんだよ」
アクション仮面は衝撃的なことを告白する。

「えええ!?」
その告白はしんのすけを驚かせる。

「だけど、キミは……」

どうだぁ!?アクション仮面よりパラダイスキングの方がカッコイイだろう?
俺のファンにならねぇか?

やだ!!!!
―――オラ!正義の味方のアクション仮面が好きだもん!
正義の味方はカッコいいんだゾ!強いんだゾ!ワルモンなんかに負けないんだゾ!
今はやられてても、絶対最後は勝つゾ!
お前みたいな爆発頭にアクション仮面が負けるわけないッ!

爆発頭じゃねぇこれは”アフロ”だ!よく覚えておけ!ガキ!

ガキじゃない!オラ、野原しんのすけだゾ!よく覚えとけい!

「君の言葉は私を奮い立たせてくれた。キミに私は”おたすけ”してもらったんだ」
「オラがアクション仮面を……!?」
アクション仮面の言葉にしんのすけは目を見開く―――

「自信を持つんだ!君は正義のヒーローを”おたすけ”したんだ!そんな君が友達を”おたすけ”できないなんて道理はないッ!」
「アクション仮面……」

「そろそろ、時間だ。……しんのすけ君。キミの健闘を祈ってるよ」
アクション仮面の言葉に合わせて、全員が頷く。

「……みんな。……わッ!?」

突如、しんのすけとみんなを煙が包み込み―――

ふと、しんのすけの耳にかすかな声が聞こえる。

―――しんちゃんなら元の世界へ帰ると私は信じてるよ。

「この声は……」

―――だって、しんちゃんには”一歩踏み出す覚悟”が備わってるから

「つばきちゃ〜〜〜〜〜ん!!!!!?????」

―――シュゥゥゥゥゥ……

煙が晴れると―――
全員。もうそこにはいなかった。

246嵐を呼ぶ辺獄平安大合戦 叙 ◆s5tC4j7VZY:2021/08/26(木) 00:21:00 ID:Yt8uW6Co0
しんのすけの周囲に多くの人が出現した秘密……それは、まどわし草の効果。

飲むと幻覚を見る草。
口にしたおかげで幻覚とはいえ、しんのすけは”バトルロワイアル”に立ち向かう覚悟を完了することができた。

「……」
しんのすけは涙を腕で拭うと―――

「ありがとう、皆。オラ……”バトルロワイアル”に負けない……ゾ」
お礼を言って、頭を下げる。
―――そして、顔を上げる。
その顔は、もう逃げ出したときの顔ではない。
バトルロワイアルに……辺獄を支配する双子達に立ち向かう顔。

「そうだ……オラが……マサオ君はオラがお助けするんだゾ!」
しんのすけは、又兵衛から譲り受けた馬手差しを手に取ると―――

「……金丁」

―――カチンッ!

それは”ケツイ”の証。

「しんのすけ君……」
ようやく、しんのすけに追いついたミライマンはしんのすけに声をかける。

「ミライマン。……オラ、マサオ君をお助けするゾ!」
ミライマンにそう宣言すると―――

ダッ―――

「出発おしんこ〜〜〜!!!」
しんのすけは皆の下へ……巨大危険種と化したマサオくんが暴れている現場へ戻ろうと駆けだした。
もうしんのすけは足を掬むことはない。
なぜなら―――
”ともだち”をお助けするからだ―――

「かすかべ防衛隊、ファイヤー!」

☆彡 ☆彡 ☆彡

247嵐を呼ぶ辺獄平安大合戦 叙 ◆s5tC4j7VZY:2021/08/26(木) 00:21:34 ID:Yt8uW6Co0
第13章 とべとべカインお兄さん

「どうやら、追いかけてはこないようだな」
私は、帝具マスティマの効果で飛翔しつつ周囲の確認を怠らずに移動していた。

注意すべき人物、八将神”日姫”の姿はあれから一向に見えないことから、とりあえずの危機は脱することができたらしい。

「マスティマは便利だが、疲労が溜まる。余り長時間の飛行は避けた方がいいな」
これからのことを考えると無駄な体力の消費は避けたい。そろそろ、地上に降りろうとしたその時、人影を発見した。

「ん?あれは……」
(小学生?いや……あれは幼稚園児か)
叫び声を上げながら走っている幼子を見かけた。

「……」
(あのような幼子まで殺し合いに参加させるとは……)
それと同時に私は憂鬱な気持ちにされる。

直感したからだ。あの少年は”保護されてる人間”だと。

(おそらく、集団で何か諍いが起こり、パニックを起こして逃げ出したといったところだろう)
庇護されるだけの人間は闘いに臨むハングリーさが足りない。
そういう人間は大抵、パニックに陥り、逃げ出す。

カインが生まれ育った地区は貧民街で最も酷い場所だった。
生き抜くために、私は闘った。
自分の価値観を決定づけたのは、リンチを受け死んだ同年代の少年の姿を見たときだ。
少年は反撃することなくひたすら耐えていた。
おそらく、反撃すればさらに酷い暴行を受けると知っていたからだろう。
しかし、結果的に少年は死んだ。

私はそれを教訓とした。

そして求めた―――
―――力と自由を。

そして”自由”とは闘うこと。
それが”生きる”に繋がる。

故に―――

生とは日々戦いの中で勝ち取るもの、惰性をむさぼる輩に今日を生きる資格はない。

それが金と力の街で生き抜いた末の結論だ。

「悪いが、餓死を待つ負け犬を救うほどお人よしではない」
(……早く他の情報を得るために参加者と接触しなければ)

道端の小石に躓いたのだろう……転んだ少年を横目に立ち去ろうとした。

だが―――

―――ヒュゥゥゥゥ

―――パク。

248嵐を呼ぶ辺獄平安大合戦 叙 ◆s5tC4j7VZY:2021/08/26(木) 00:21:48 ID:Yt8uW6Co0
「ん?口に草が!?くっ、私としたことが……あ……あれは、なんだ……!?」
突如、少年の周囲に様々な人物が姿を現すのを目視した。

「この光景は……一体?私の目はおかしくなったというのか!?」
(それとも……別の宝具の力なのか!?)
私は狐につままれているかと思いつつも、少年と彼らのやり取りをひっそりと聞き耳を立て聞くことにした。

少年と彼らのやり取りが終わると、彼らは姿を消した。

「……」
(私は、始めあの少年は保護されるだけだと思っていた。しかし、それは、間違いだったようだ……あの少年も闘っていた。

「ふ……良い物を観させてくれたお礼だ。私もあの少年を”お助け”するとするか」
私は、駆けている少年の傍まで近寄る。

「お?ツバサの生えたイケメンのお兄さんだ!」
「私の名前はカイン・R・ハインラインだ。少年、その足では時間がかかる。私が君を友達の元まで運ぼう」

「ありがとう!え〜と、オカカ・R・ライオンお兄さん!」

「……できれば、私のことはカインと呼んでくれ……」

☆彡 ☆彡 ☆彡

249嵐を呼ぶ辺獄平安大合戦 叙 ◆s5tC4j7VZY:2021/08/26(木) 00:22:18 ID:Yt8uW6Co0
第14章 オラはしんのすけマン

ガン!ガン!!ガン!!!ガン!!!!ガン!!!!!

アリサが操るエルガンダーZと巨大危険種マサオの攻防は、双方殴り合うという原始的なバトルスタイルで繰り広げている。

ガン!ガン!!ガン!!!ガン!!!!ガン!!!!!

「しつ……こい……なぁあ!」
「それは……こっちの……台詞よ!」
エルガンダーZとマサオ共に譲らない。

しかし―――
ついに―――コックピットのガラスが割れる。

「きゃああ!!!」

―――ズキン!

「……ッ!」
(おにぎりに斬られた傷が……ッ)
アリサはマサオに斬られた傷が再び痛みだして呻く。
じわじわキノコと強力な芳佳の治癒魔法でも、戦闘を継続したままの治療では死を瀕死にするだけで治らない。

「アリサちゃん……ッ!!」
(やっぱり、完全には力が戻ってないのかな……治癒魔法の効力が低下している。)
アリサの治療をしつつ能力が完全に戻っていないことに気づく芳佳。

(でも、弱音は吐いていられない!気を抜かず、集中するよッ!)
芳佳は必死に治癒魔法でアリサの治療を継続している。

―――ニタァァァ。
「あれ〜?どうしたのアリサちゃん?調子でも悪いの?」

―――クッ。
「……言ってくれるじゃない」

―――おねがい。なのは……私に力をかして……!!

―――たとえ、これで死んだとしてもいい。
―――あの”おにぎり”に強めの一発を決めたい。

「な……の……は……」
治療してもらったおかげで繋いだこの命……これで使い果たしてもいいわ!!!

「なのはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああ!!!!!!!!!!」
アリサの魂が込められたエルガンダーZの渾身の一撃が巨大危険種マサオの顔面に強烈にヒットする

250嵐を呼ぶ辺獄平安大合戦 叙 ◆s5tC4j7VZY:2021/08/26(木) 00:22:35 ID:Yt8uW6Co0
「〜〜〜〜〜ッ!!!!!」
アリサの意思が強く込められたストレート。
巨大危険種マサオの鼻からボタボタと鼻血が飛び散る。

「い……いたいよぉぉぉぉおおおお!!!!よくもやったなぁぁぁぁぁあああああ!!!!!」
痛みに涙目になりながらも巨大危険種マサオのストレートパンチがエルガンダーZの顔装甲を突き破る。

「きゃあああああ!!!!!?????」
ブシュゥゥゥゥゥーーー

―――ブツン。

「う……動か……な……い!?」
ここまで、巨大危険種マサオと張り合ったエルガンダーZだが、ついにその機能は耐えきれず、停止した。

「宮藤さん!」
静香は耐えきれず、機能停止したエルガンダーZの下へ飛ぶ。

「はぁ……はぁ……は、はは、……おうおうおう!姉ちゃんたち!このオイラの可愛い可愛い顔をよくもこんな目にしてくれやがったな!」
イキるマサオ。
ドヤるマサオ。

「ほら!僕が言った通り、しんちゃんが戻ってくるはずがない!」
マサオは日輪刀と化した腕を大きく振り上げる。

「宮藤さん!」
対峙を黙って見届けていたが、流石に黙ってみてられない。
静香は大破したエルガンダーZへと飛ぶ。

「ここまでだな……」
植木も加勢するため行動を開始しようとする。

「あれあれ?水を差しちゃうの?」
針目はそんな植木を茶化す。

「……加勢」
「うん、そうだね……」
「アニさん……」
「ああ。潮時だ……とにかく、あの子供は確保しないと……」
各自各々も加勢しようと動き出す。

「……」
ただ一人、ムラクモは黙って腕組みをしたまま。

そのとき――――

「みんな〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!」

その場にいる全員が顔を声の方角へ向ける。

「……」
(ほら……言ったでしょ……しんのすけは必ず戻って来るって……)
アリサはニッと小さな笑みを出す。
「ありがとうカインお兄さん。オラ、もう大丈夫」
「そうか……なら、行きたまえ!そして、君の生を……”お助け”を私に見せてみろッ!」
カインはしんのすけに激励をかけると、送り出す。

「ブ・ラジャー!」
しんのすけはカインに了解とサインを送る。

「それでは、行きましょう!しんのすけ君!」
「うん!変身!」
シリマルダシを掴むと、変身の掛け声に合わせて、シリマルダシを逆さまにする。

シリマルダシのシリから光が放つとしんのすけを包み込む―――

すると―――
しんのすけの姿は―――
赤と白を基調としたスーツにお股の部分に輝く金の玉を拵えたヒーローとなった。

そのヒーローの名前は―――

―――しんのすけマン!

☆彡 ☆彡 ☆彡

251嵐を呼ぶ辺獄平安大合戦 結 ◆s5tC4j7VZY:2021/08/26(木) 00:23:19 ID:Yt8uW6Co0
最終章 ハピハピ〜オラとマサオ君〜

しんのすけマンに変身したしんのすけは、まず大破したエルガンダーZのコックピットへとお尻の炎で飛んだ。

「……ッ!アリサちゃん。芳桂ちゃん!」
「しんのすけ君!」」
「あら……しんのすけ……」
アリサの目は閉じかけている。
じわじわキノコに芳佳の治癒魔法と必死に死にゆく身体を耐えきったが、限界まで戦ったのだ。無理もない。

「アリサちゃんごめん。オラ……逃げ出しちゃったりして……」
「いい……の……よ。それよ……り、あの子をお助け……するんでしょ?」
「うん。マサオ君はオラの友達だから」
しんのすけははっきりとアリサに答える。

「そう。そうそう……ごめん、しんのすけ。あたし、貴方の友達に悪口言っちゃった……」
「そういうときは、”ごめんね”と謝ればいいんだゾ」
しんのすけは、穏やかにアリサに提案する。

「うん……そうするわ。じゃ、後はあんたに任せるわ……」
アリサは目を閉じると気絶する。

「アリサちゃん!?」
しんのすけは最悪の結末を予想して焦る。
―――が。

「大丈夫だよ、しんのすけ君。しんのすけ君の顔を見たから、安心して気が抜けただけ。それに……絶対に私がアリサちゃんを死なせたりはしない。だから……いっておいで」
芳桂は優しくしんのすけを送り出す。
「うん。オラ、お助けに行ってくる!」
アリサと芳佳に宣言するとマサオ君の眼前へ飛ぶ。

「宮藤さん。……あの子がしんのすけ君ですか?」
静香は芳佳に尋ねる。

「うん。あの子がしんのすけ君。……”おたすけ”をする男の子だよ」
穏やかに静香の質問に応じる芳佳。

☆彡 ☆彡 ☆彡

252嵐を呼ぶ辺獄平安大合戦 結 ◆s5tC4j7VZY:2021/08/26(木) 00:23:40 ID:Yt8uW6Co0
「……マサオ君」
「何だい?しんちゃん。それにしても、しんちゃんったら逃げ出すなんて……酷いよしんちゃん♪」
マサオは逃げ出したしんのすけを嘲笑い責める。

「うん。オラは怖くて逃げだしちゃた」
しんのすけはマサオの言葉を否定しない。

―――だが。

「でも、戻ってきた」
はっきりした意思でここへ戻ってきた。

「あ〜ん?」
マサオはしんのすけの言葉を訝しむ。

「マサオ君をお助けするためにオラ、戻ってきたんだゾ!」
しんのすけは、マサオの目を見て答える。

「……」
しんのすけの言葉を聞き、だんまりとしていたマサオだが―――

「僕を助けるって!?

―――それは
―――とても

―――低い声

「え!?」

「一体、どの口でそんなこと言えるのかなぁぁぁあああ!!!」
マサオの怒声と共にGぺんの雨あられが降り注ぐ。

しんのすけは避けつつ―――

―――ふんッ!

一本一本破壊する。

「破壊したって、また降り注ぐだけだよ!」
そう、明、アリサ、大人たちとの戦いで幾度もなく乗り切った危険種が持つ異常な回復力。マサオは動じず!怯えず!

―――ほいや!

それでも、しんのすけはGペンを破壊する。

「だったら、これでどう!?」
先ほどよりも数が多いGペンの触手。
それは、さながら弾幕だ。

(このGペンの弾幕は流石のしんちゃんも避けれない筈……僕の勝ちだ!)
マサオは自分の展開した360°の弾幕の出来に勝利を確信した。

―――が。

「ひとつひとより和毛和布!」
しんのすけもぷにぷに拳で弾幕を回避することに成功したのだッ!

「ッ!?この僕の前で”それ”をひろうするなぁぁぁぁぁあああああ!!!!!」
―――そのぷにぷに拳は兄弟子の僕が使うべき拳なんだ!
―――しんちゃんが使っていい拳じゃないッ!!!

怒りに任せ、マサオは日輪刀の腕を使用する。

―――ブン!ブン!!ブン!!!

しんのすけは再び、和毛和布で避けると―――

「イロハオエ〜〜〜♪」
そういいながら、フラダンスのように動きをした。

「そっそれは!?」
ジャングルでワニを引き付けた時の掛け声。

―――馬鹿にして……

「これで、終わりだぁぁぁぁぁあああああ!!!!!」

―――しんちゃんとの本当の”さよなら”

日輪刀による渾身の振り下ろし。

しんのすけマンを一刀両断する―――

―――死の一撃!!!

それを―――

しんのすけは―――

何と―――

253嵐を呼ぶ辺獄平安大合戦 結 ◆s5tC4j7VZY:2021/08/26(木) 00:24:22 ID:Yt8uW6Co0
ビシィィィィィ!!!

しんのすけはお尻で日輪刀を受け止めたのだ。

「必殺!真剣おケツ取り!」
「ええええ!!!???」

「ふん!!!!!」
しんのすけは勢いよくお尻を振ると―――

―――ボキッ!!!
マサオの日輪刀は見るも無残に折れた。

「ボ、ボクの日輪刀が!?」
(ど、どういうこと!?愛する者を守るために戦った人の剣が折れた!?)
マサオは支給された日輪刀が破壊されたことに青ざめ―――

「そ、そうだ!再生させなきゃ!」
―――ふんッ!!!

マサオは今までの戦闘の流れのように腕を再生させようとする。

―――が。

「ええええ!?さ、再生しない!?ど、どうして!?」
腕が再生せず、マサオは驚きと同時に戸惑いを隠せない。

「マサオくん」
「はッ!」
しんのすけはそんなマサオを見つめる。

「そ、そんな目で見ないでよ!しんちゃん!!!ボクはもう、泣き虫で臆病でジャンケンの運がまったく無かったころのボクじゃないんだ!!!」
―――ジャキ。

空気砲と化したもう一本の腕をしんのすけに向けると―――

「ドカン!」

―――と、見えない空気の弾を放つ。

「マサオくん……オラが今、マサオくんを元のマサオくんに戻すゾ!」
しんのすけは、そう宣言すると―――

しんのすけマンの股間にある光の玉から一筋の光線が発射された!!!!!

光線はマサオの空気砲の玉をかき消す。

「そんな!!!???」
(んんんおじさんがくれた最強の支給品の一つなのにッ!?)
マサオは一瞬怯むが―――

「そ、そんなことはないよ!だって、だって僕は八将神に……ヒーローの力を……得たんだからッ!!!!!」
マサオはそう、啖呵を切ると―――

「勝負だぁぁぁぁぁ!!!しんちゃん!!!!!!!!!!!」
マサオは全力の力を空気砲に注ぐと―――

「ドカン!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

254嵐を呼ぶ辺獄平安大合戦 結 ◆s5tC4j7VZY:2021/08/26(木) 00:24:41 ID:Yt8uW6Co0
それは―――
普通なら目視などできぬはずの”空気の弾”。

それが―――
はっきりと目視できた。

巨大危険種マサオ……いや、”佐藤マサオ”としての意地が込められた最強の空気の弾。

「マサオくぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!!!!!!!!!!」
「しんちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!!!!!!」

光線と空気の弾がぶつかり合う。

「こ、のぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!」

―――負けない!
―――この僕が、ここまで、強くなったんだ
―――ここで、負けたら再び泣き虫の負け犬人生に転落しちゃう!
―――あいちゃんが僕の下から離れていっちゃう!
―――嫌だ!
―――嫌だ!イヤだ!いやだ!
―――そんなの絶対に嫌だ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

マサオの想いが込められた空気の弾が光線を押していく―――

「んんんん〜〜〜〜〜こ、のぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおお」

―――オラの言葉がマサオ君を傷つけていた
―――だから、マサオ君に謝る
―――そのためにも
―――マサオ君はオラが”おたすけ”しなきゃ!!!
―――オラならできる
―――だって

おマタのおじさんが―――
マタが―――
トッペマが―――
カロリーナが―――
レモンちゃんが―――
タミさんが―――
サキちゃんが―――
ランちゃんが―――
ニセななこが―――
ぶりぶりざえもんが―――
アクション仮面が―――

オラを支えてくれているから!!!!!!!!!!

ゴゴゴゴゴゴ――――――――――

押し込まれて劣勢だったが、先ほどの皆の励ましを糧にマサオの方へ逆に押し込む。

互いの拮抗した衝突―――

255嵐を呼ぶ辺獄平安大合戦 結 ◆s5tC4j7VZY:2021/08/26(木) 00:25:00 ID:Yt8uW6Co0
「しんちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!!!!!!」
「マサオくぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!!!!!!!!!!」

―――突如、それは起きた。

―――スッ
―――スッ
―――スッ

「え?」
しんのすけマンの身体を支える3人の手が―――

「か、風間君にネネちゃんにボーちゃん!?」
しんのすけは驚く。
しんのすけは知る由もないが、口の中へ入ったまどわし草の効果がほんの少しまだ残っていたようだ。

―――ったく、お前は相変わらず無茶ばかりするよな。かすかべ防衛隊には、ボク達もいるってこと忘れたのかよ!
―――そうよ!かすかべ防衛隊はしんちゃんとマサオ君だけじゃないわよ!
―――その……とおり!

「……」

―――けど、力を貸してやれるのもコレかぎりみたいだ
―――だから、この一撃でマサオ君を”おたすけ”してあげてね!しんちゃん
―――後は……まかせた

「うん。皆……ありがとう」
しんのすけは3人の幻にお礼を伝えると―――

「かすかべ防衛隊!ファイヤー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

それは―――
友達を”おたすけ”するという強き想いが込められた魂の叫び!!!

―――「「「ファイヤーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」」」

「う……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」

ゴッーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

―――光がマサオを包み込む。

すると―――

「うわあああああ!!!???どうして!?ボクは最強の身体を手に入れたのに〜〜〜ッ!?」
巨大危険種と化したマサオの肉体が崩壊し―――

―――元の身体……”佐藤マサオ”へと戻る。
そして、マサオは落下する。

―――が。

落下を阻止するために、しんのすけはマサオの手を掴む。

「は……離してよ!しんちゃん!!」
「嫌だ!オラは絶対に離さない〜〜〜!」
マサオはしんのすけに手を離すよう暴れるが、しんのすけはその手を決して離さない。

「僕はもう、沢山の人を傷つけたんだよ!」
「大丈夫!オラが一緒にその人達に頭を下げるから!」

「僕はもう正義のヒーローじゃ……ないん……だよ!」
「正義のヒーローだって間違った行動を取ることだってあるゾ!それに、マサオ君はかすかべ防衛隊の一員だゾ!!オラ!風間君!ボーちゃん!ネネチャン!そしてマサオ君!誰一人だって欠けたらいけないんだ……ゾ!!!」

「!!!!!?????」

―――そうだ……ボクは歳破神・巨大危険種佐藤マサオじゃなかった。
ボクは―――

かすかべ防衛隊の一人”佐藤マサオ”だ。

256嵐を呼ぶ辺獄平安大合戦 結 ◆s5tC4j7VZY:2021/08/26(木) 00:25:16 ID:Yt8uW6Co0
―――はッ!?

ボクは思い出した。
ふたば幼稚園の運動会の出来事を―――

運動会のリレー種目でボクはリレーのアンカーに選ばれた。
ボクは走るのが苦手だから、正直嫌だった。
そして、本番。
ボクがアンカーを務めるチームは最下位でボクにバトンが渡された。
一生懸命走ったけど、他のチームとの差は一向に縮まらないどころか、ボクは途中で転んで足をくじちゃった。

―――やだぁ〜〜〜、もう走りたくない〜〜〜
恥ずかしさからボクはもう走りたくないとうずくまった。
そしたら―――

一位だったしんちゃんが、突然、コースアウトすると―――
ボクの近くまで来て―――

―――マサオ君、一緒に行こう。

と声をかけてくれた。
だけど、ボクは―――

―――やだ!走りたくない!恥ずかしいもん!

―――ボク、アンカーなんか無理だったんだよぉぉぉ!

―――と、くずった。
すると直後、他のチームのアンカーも皆、ボクの傍に来て―――

―――泣き虫オニギリ!
―――オレたちと一緒に走ってやるよぉ!
―――だったら、恥ずかしくないだろ?
―――ボクも!
―――一緒に走ろう!

―――と声をかけてくれた。
ボクは皆と手を繋いでゴールした。

それもこれもしんちゃんがボクに気づいて声をかけたからできたことだった。

そうだ―――ボクはしんちゃんのこと嫌ってなんかないよ……

しんちゃんは―――
ボクの―――

―――友達。

―――スタッ

しんのすけとマサオは地上に降り立った。

「しんちゃん……さっきまで、攻撃したり沢山酷い事いっぱい言っちゃったりしてゴメンね」
「ん?何のこと?」
「え?」
「ん〜〜〜オラ、キレイなお姉さんの事しか覚えられなから〜」
「……ッ!?しんちゃん……」

―――そうか!今わかった!!しんちゃんはわざとそういうことで、罪悪感を感じさせないよう気遣ってたんだ……!!!

「オラ……マサオくんをお助けすることができて、嬉しい……ゾ」
流石のしんのすけも疲労困憊。

「それと……マサオ君。変な渾名をつけたり、絵を下手だと言って……ごめんね。それとジャングルのとき、危険なのにワニを引き付けてくれてありがとう……」
しんのすけは普段の口調ではなく、真剣に真心こめて友であるマサオに謝罪と感謝をした。

―――ドサッ

やり切ったかつ極度の緊張が解けたのか、しんのすけは眠るように体を倒した。

「……しんちゃん」
―――ドサッ

しんのすけに続き、マサオも気を失い地面に倒れる―――

両者の手は折り重なるようになっていてその表情は笑顔で気絶していた。

正にHAPPYEND
映画ならここでスタッフロールへ突入するだろう。

しかし―――
物語はここで終わらない。
一つの殺し合いが終われば、次の殺し合いが始まるのがバトルロワイアル。

☆彡 ☆彡 ☆彡

257嵐を呼ぶ辺獄平安大合戦 結 ◆s5tC4j7VZY:2021/08/26(木) 00:25:37 ID:Yt8uW6Co0
?章 Hey baby!〜人と異形〜

―――ザッ!

「……ついた」
「ふむ、どうやらあの集団のようですね」
マサオをお助けしたしんのすけ達を見下ろす桐生とナスタシア。

(しかし、あの距離をこの短時間で……流石は”宝貝”といったところでしょうか……)
普通に歩けば、伯爵たちと別れたB-5からここF-6へこの時間で辿り着くのは時間的に不可能と言っていいだろう。
しかし、道中、大きな戦闘に巻き込まれることがなかったという幸運と、宝貝「風火輪」の高速移動がそれを可能とした。
予想以上の成果にナスタシアは内心ほくそ笑む。

(ふむ……そこで何か大きな戦いがあったようですね)
ナスタシアは参加者達の様子を観察する。
周囲には破壊された家などが見受けられる。

(手負いや気絶しているのが何人もいますが、集団にしては多すぎる。ここは様子見が賢明ですね)
元々の人数が14人。これは、流石に桐生でも戦いに突っ込ませるのは得策ではないと判断した。

(どうやら、情報交換を行うみたいですね……まずは、なんとか情報を聞きだしてからとしましょうか)

しかし―――
そんなナスタシアの思惑とは別に―――

「人間……クソムシ……!」
眼前にいる大勢の人間を前に桐生は喜び……怒りといった感情が身体の血管を張り巡る。

「待ちなさい。この大人数での特攻は多勢に無勢です。ひとまず様子を窺いましょう」
桐生が今にでも襲い掛かろうとするのに気づいたナスタシアは諫める。

「……ビバ!伯爵!」
両手をバンザイと上げる桐生。
ナスタシアの命令に桐生は身体や口では従うが、……魂がゴゴゴ!と震えている。

258嵐を呼ぶ辺獄平安大合戦 結 ◆s5tC4j7VZY:2021/08/26(木) 00:25:53 ID:Yt8uW6Co0
―――待てだと?こんなに大量のクソムシ共がいるのに?

―――ビバ!伯爵!

―――クソムシ……人間は、俺の拠り所。

―――ビバ!伯爵! ビバ!伯爵!

―――人間は憎むべき怨敵であると同時に瞠目に値する強敵。

―――ビバ!伯爵! ビバ!伯爵! ビバ!伯爵!

―――失った右手を治さずにいるのも欠損が俺と人間の因縁の象徴だからだ。

―――ビバ!伯爵! ビバ!伯爵! ビバ!伯爵! ビバ!伯爵!

―――待望の人間共と再会した時は余りの弱さに、一時は酒浸りの毎日だった。

―――ビバ!伯爵! ビバ!伯爵! ビバ!伯爵! ビバ!伯爵! ビバ!伯爵!

―――憎しみや強敵な人間との期待で、咲き誇っていた心の花は失意でひからびた。

だが―――
この場所には―――

「右腕ぐらい、くれてやるよっっっ!」
「ああああああああああああっっっっっっ!!!」

乾いた己を潤す強敵がいる。
戦いたい―――思いっきり戦いたい。
あの、自分を前にしても臆することなく向かってきた女の存在が、乾いた俺の心の花を……一輪の花として華やかに蘇らせた。

それを―――
―――待てだと?

「黙れ……!」
低い声で拒否をして抵抗をしだす桐生。

「同意を求めるなら、それ相応の振る舞いすべきだ」
「なッ……!」
(馬鹿な!?ワタクシのチョーサイミンジュツを解いたのですか!?)
ナスタシアは桐生が自我を取り戻したことに驚愕する。

チョーサイミンジュツが効いていたはずの桐生の瞳は空虚から戦士へと変わり―――
ナスタシアの首を掴むと自分の目線まで持ち上げて―――

「俺に命令をすることができるのはボスだけだ!」

―――啖呵を切る。

ナスタシアのチョーサイミンジュツは強力だ。一度深いところまで催眠がかかれば、解くのは容易ではない。
しかし、辿り着いた場所には見渡す限りの人間!人間!!人間!!!
人間を憎みながらも人間の存在を追い求める桐生。
皮肉にもクソムシと罵倒する人間の存在が桐生を桐生知らしめ、自我を何とか取り戻した。

「お前は見たところ、人間ではないようだから見逃すが、これ以上俺の邪魔をする……な」
桐生が命の奪い合いをしたい戦いの相手は人間。
故に一度は自分を催眠術にかけたナスタシアを見逃す。
ナスタシアを解放すると、背を向けて見据えるのは人間たち。

「人間共――――――――――ッ!!!!!!!!!!」

桐生の叫び声にその場にいる意識ある参加者が全員目線を向けた。

―――よし。

「俺の名前は桐生!これからお前らを全員殺す!!生きたければ俺を殺してみろ!!!クソムシども!!!!」

―――さぁ、勝負だ!人間!!

俺を殺してみろ!!!!!

☆彡 ☆彡 ☆彡

259嵐を呼ぶ辺獄平安大合戦 結 ◆s5tC4j7VZY:2021/08/26(木) 00:26:12 ID:Yt8uW6Co0
?章 スーパースター〜大人たち〜

「さて……情報交換と行くはずが、まさかの展開となったか……」
(必要以上のなれ合いは好きではないが、ここは情報を得るのが得策。今はまだこの場を離れるべきではない)

カインはやれやれといった表情をすると構える。

「……何。あの化け物をさっさと始末すればいいだけのことだ」
(あのカインとかいう男。勘だが恐らく、こちらが知らない情報を保持している……。それに……あのマサオという幼稚園児からも事情聴取を行いたい。今はあの化け物を速やかに始末することが先決だ)

ムラクモは一度目を瞑り、開眼すると構える。

「殺すとか殺せとか……私はどっちも選びたくない!」
(強そうな……だけど私は……)
白井日菜子は自らの選択を選ぶために構える。

「私は刀使として、人々を守る」
(そうだよね。舞衣……)
糸見沙耶香は刀使としての使命のために構える。

「ここまで来て、しんのすけ君やアリサちゃんの頑張りを無駄にはさせない!」
(しんのすけ君とアリサちゃんにマサオ君は私が”おたすけ”する)
宮藤はウィッチーズとして医者を目指す者として未来ある子供達を守ろうと全力で治癒魔法をかけ続ける。

「はい、宮藤さんの言う通りです!」
(宮藤さん……先ほどの光は一体……?)
宮藤に続き、静香もウィッチーズの志を胸に構える。

「つーことだ。行くぞ……針目」
(と言っても針目のヤツ……闘いのどさくさに紛れて何かよくねぇ行動を起こす可能性がたけぇ……気がぬけないな)

植木は針目に警戒しつつも自分の正義を貫くため、構える。

「はいはーい。というか、これだと1人相手に10人で戦うことになるけど、どっちが悪役かわからないね☆」
(さてと、戦いのどさくさに紛れてこの場を離れるのも手だけど、どうしようかな〜)

針目はどうするか策謀を考えながら構える。

「……私は、”あの人”に会わなくてはいけません。ここで死ぬわけにはいかない」

マシュは”藤丸立香”なる人物と再会をするために構える。

「この世界は残酷だ……でも、それでも私は……ッ!」

アニは自分たちの世界に絶望を感じつつも帰るために構える。

子供達は眠りについた!
さぁ、今度は大人が子供を”おたすけ”する番だ!

260嵐を呼ぶ辺獄平安大合戦 結 ◆s5tC4j7VZY:2021/08/26(木) 00:26:30 ID:Yt8uW6Co0
【F-6/一日目/早朝 】

【カイン・R・ハインライン@餓狼MARK OF THE WOLVES】
[状態]:打撲のダメージ(軽微)、ダメージ(小)、疲労(中)
[装備]:万里飛翔『マスティマ』@アカメが斬る!、バーリやー@スーパーペーパーマリオ
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜1(確認済み)
[思考・状況]
基本方針:優勝しセカンドサウスの夢を叶える。自由は自分の手で勝ち取るべきものだ。
0:次は私達、”大人”の出番だな
1:一度優勝を考えるのは待つべきだ。頃合いを見計らわなければ。
2:彼女(姫和)の対策の考案と関係者の捜索。トジのことを知ってる参加者がいればいいが。
3:二人(フェザーと可奈美)を倒し損ねたのは大きな損失かもしれない。
4:雷に引き寄せられてるが、気のせいか?
5:暇があれば帝具をもう少し試す。
6:君の目に宿るおたすけ、観させてもらったよ。しんのすけ君。
7:落ち着いたら集まった参加者達で情報交換を行う。
[備考]
※参戦時期は少なくとも敗北前です
※マスティマとの相性は高いです。
※八将神の存在を知りました。

【万里飛翔『マスティマ』@アカメが斬る!】
カインの支給品。
始皇帝の命により製造された失われた技術で作られた帝具が一つ。
空を自在に舞えて、羽を弾丸のように飛ばすバランスの取れた帝具。
羽の弾丸は集中させれば強い威力となり、攻撃力も十分。
ただし長時間の飛行は体力を大きく消耗する。
奥の手は光の翼を形成する『神の羽根』。大概の攻撃を跳ね返せる。

261嵐を呼ぶ辺獄平安大合戦 結 ◆s5tC4j7VZY:2021/08/26(木) 00:26:45 ID:Yt8uW6Co0
【ムラクモ@アカツキ電光戦記】
[状態]:負傷(中)、疲労(小)
[装備]:ブラッディピアース@グランブルーファンタジー、一斬必殺村雨@アカメが斬る! 六〇式電光被服+六〇式電光機関@アカツキ電光戦記、
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜1(確認済み) 家紋タクシー@ニンジャスレイヤー
[思考・状況]
基本方針:メフィス達を始末して願いの力を手にし、悪用を避ける。すべては人類救済の為だ。
1 :北上しつつ衛藤可奈美の捜索。そこから十条姫和の制圧、或いは討伐。
3 :司城夕月、司城来夢、益子薫、古波蔵エレン、柳瀬舞衣、安桜美炎の捜索。
4 :電光機関の無駄遣いは避けなければならない。
5 :紋章を知る、或いは他の世界の住人を探して首輪解除の手段を模索。
6 :完全者は此処で確実に始末したいが、徹底するのは控える。
7 :紫の女(アナムネシス)に要警戒。
8 :高津と言う女については多少は懸念しておくか。
9 :シャンバラ、探してみる価値はあるか?
10 :落ち着いたら集まった参加者達で情報交換を行う。(特にマサオには事情聴取を行う)
[備考]
※参戦時期は不明。(少なくとも完全者を一度殺害後でエヌアイン完全世界ED前)
※六〇式電光機関をそのままの代わりに支給品の枠を使ってます。
※村雨がアニメ版か漫画版かは後続の書き手にお任せします。
 (どちらか次第で奥の手の内容が変わります)
※刀使、リフレクター、エルディア人、の知識を得ました。

【家紋タクシー@ニンジャスレイヤー】
日本の霊柩車めいたタクシー。
ソウカイヤに限らずヤクザクランの移動の足としても使われる。
上に長い刀のような装飾があったりと存在感は異様な外見だが、
市民の足、文字通りタクシーとしても使われるとか。ナンデ!?
運転席、助手席含めて六人は乗れる。最速200キロは出る。ハヤイ!
サイズの都合直で渡すと事故の恐れもある為ディメーンのカードを翳し、
直接渡すと言う形で支給することになっている。
ディメーンのカードは原作におけるのカードショップで手に入るデザイン

≪五者の考察≫
 リフレクターの変身について
①コモンの可能性:フラグメントも魔物もいない為低い。
②原種が存在する:現状ではなんとも。移動ついででいるかどうかを調べてみる。


 刀使の多さについて
①刀使の力をメフィス達か関係者が必要としている。
②タギツヒメを倒せる刀使が必要だったから(タギツヒメの力を手に入れる為)。
③高津雪那が運営関係者で、タギツヒメの障害となる刀使を参加者にした。
 (折神紫はいないが、私怨を晴らす為か?)

 見せしめに藤丸立香を選んだ理由
①藤丸立香に関係している人物が主催に関わっている。
②選ばれたのは旅を続けられると、主催にとって不味い事態があるもしくは起こる。
③名簿に記載されている同姓同名の藤丸立香については、ひとまずは保留。

 他
①首輪が科学と魔術ではなく魔術のみの可能性。
 念には念を入れて紋章を知る参加者を探しておく。
②シャンバラと呼ばれるものが使えるかもしれないが、現状はついで。
③主催側には、いくつかの世界の関係者たちが連合を組んでいる可能性がある。

262嵐を呼ぶ辺獄平安大合戦 結 ◆s5tC4j7VZY:2021/08/26(木) 00:27:06 ID:Yt8uW6Co0
【白井日菜子@BLUE REFLECTION 幻に舞う少女の剣】
[状態]:負傷(中)、疲労(小)
[装備]:リフレクターの指輪@BLUE REFLECTION 幻に舞う少女の剣
[道具]:基本支給品一式、モノメイト(3/5)@ファンタシースターオンライン2、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]
基本方針:殺し合いになんて乗らない。こんなふざけた事は止めてみせる。
1:ユズ、ライム……
2:衛藤さんの捜索。そこから十条さんを止める。
3:それとあの人(アナムネシス)は止めないと。
4:此処はコモン? もしかして原種がいる? 後者はいやかな……
5:まずは目の前の相手との対峙を乗り切る。
[備考]
※参戦時期は第12章「最後の一歩 the First Step」で、
 ユズとライムとの最後の別れをしてリフレクター絡みの記憶を全て忘れた後から。
※忘れていた記憶は思い出しました。
※帝具や刀使、進撃の巨人について知識を得ました(ただし帝具は浅く、村雨の性能も知りません)


【リフレクターの指輪@BLUE REFLECTION 〜幻に舞う少女の剣〜】
白井日菜子に支給。リフレクターへの変身のために必要な指輪
白井日菜子の場合、指輪を嵌める手でフラグメントに触れることで、指輪を通じてフラグメントから伝わる人間の気持ちや思いを理解することが出来る
そうしてフラグメントの形を整え、破壊されないよう補強する「固定化」を行うことで、そのフラグメントの持ち主である人間を守ることができ、同時に力を手に入れることもできる
本来ならばリフレクターへの変身はコモン内か原種出現時にしか出来ないが、この会場においては変身可能。もし素質があるならば他の参加者でもリフレクターになれる可能性が……?

【モノメイト@ファンタシースターオンライン2】
白井日菜子に支給。アークスにおける御用達回復アイテムの一つ。使用することでライフ30%を回復する
余談であるが現実ではモノメイトをモチーフとしたグリーンソーダ味のドリンクが発売されていたり
味の有無は後続の書き手におまかせします

【糸見沙耶香@刀使ノ巫女】
[状態]:不安、ダメージ(大・止血済み)、疲労(極大)
[装備]:妙法村正@刀使ノ巫女
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×0〜1
[思考・状況]
基本方針:殺し合いには乗らない。
1:みんなが心配。特に姫和。
2:今は二人(ムラクモ・日菜子)と一緒にいる。
3:もっと、強くなりたい。
4:高津学長……?
5:まずは目の前の相手との対峙を乗り切る。

[備考]
※参戦時期は21話、可奈美が姫和に勝負を持ちかける前から。
※帝具、リフレクター、進撃の巨人について知識を得ました。(ただし帝具は浅く、村雨の性能も知りません)

【妙法村正@刀使ノ巫女】
糸見沙耶香に支給。糸見沙耶香の御刀。元は佐賀藩初代藩主、鍋島勝茂の愛刀

263嵐を呼ぶ辺獄平安大合戦 結 ◆s5tC4j7VZY:2021/08/26(木) 00:27:32 ID:Yt8uW6Co0
【野原しんのすけ@クレヨンしんちゃん】
[状態]:ダメージ(大) 疲労(大) 気絶
[装備]:
[道具]:基本支給品、シリマルダシ(ミライマン)※残り4回@クレヨンしんちゃん、又兵衛の馬手差し@クレヨンしんちゃん
     まどわし草※残り3草@トルネコの大冒険3
[思考・状況]基本行動方針:困ってる人をおたすけする
1:アリサちゃん、芳佳ちゃん、マサオ君と一緒に行動する
2:芳佳ちゃんのお友達(服部静夏)を探す
3:マサオくんをこんなにした”ンンンおじさん”にカンチョーする

[備考]
※殺し合いについて理解しました。
※ぷにぷに拳を使用することができます。(作中習得した九まで)

【シリマルダシ(ミライマン)@クレヨンしんちゃん】
野原しんのすけに支給。
見た目は普通の怪獣の人形だが時空調整員のミライマンが人形に憑依している。
シリマルダシを持ち「変身!」と唱えるとミライマンの力を借りて変身することができる
ただし回数は5回まで※現在は残り4回
(※変身してない時はシリマルダシ(ミライマン)は[道具]表示、変身した場合[装備]表示とします)

【又兵衛の馬手差し@クレヨンしんちゃん】
野原しんのすけに支給。
元の持ち主は戦国武将井尻又兵衛由俊。
大蔵井との戦が終わった後、しんのすけに譲った。
「お前の言う通り、最後にこれを使わないでよかった……」by井尻又兵衛由俊

【まどわし草@トルネコの大冒険3】
食べると幻覚を見せる草。
投げると敵は逃走モードに移行するがこのロワでは食したときの効果しか発動しない。
5つ支給されており、現在は残り3つ。
なお、しんのすけは効果に気づいていません。

【アリサ・バニングス@魔法少女リリカルなのはA's】
[状態]:ダメージ(極大)※治療中、疲労(大)、気絶
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~2
[思考・状況]基本行動方針:殺し合いは絶対しない
1:しんのすけ、芳佳さんと行動する
2:しんのすけ……後は頼んだわよ……
3:目が覚めたらマサオに謝る
4:ネガティブな考えは捨てなくちゃね!
[備考]
※参戦時期はなのは達が魔法少女だと知った後です

【エルガンダーZ@スーパーペーパーマリオ】
エルガンダーを地上用に改造したロボットで、手足がついている。
歳破神・巨大危険種佐藤マサオとの戦闘で大破したので操作は不可能となります。
「カムヒャー!ニュー・メタルブラザー!」byミスターL

264嵐を呼ぶ辺獄平安大合戦 結 ◆s5tC4j7VZY:2021/08/26(木) 00:27:46 ID:Yt8uW6Co0
【宮藤芳佳@ストライクウィッチーズ】
[健康]:疲労(中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ギャレンラウザー@仮面ライダー剣、ランダム支給品1 元は白衣だった包帯(少々)
[思考・状況]基本行動方針:守る為に、私は戦う!
1:しんちゃん、アリサちゃんと行動し二人を守る
2:アリサちゃんを死なせないように治療を続ける
3:傷付いた人がいたら助けたい
4:私も二人に負けないように頑張る!
[備考]
※参戦時期は劇場版にて、負傷した静夏を発見する前からです。
※作中にて舞台になっている年代が1945年な為、それ以降に出来た物についての知識は原則ありません。
※魔力が戻りました。(治癒魔法は疲労が溜まると同時に効力が落ちております)

【ギャレンラウザー@仮面ライダー剣】
仮面ライダーギャレンが使用する銃型の武器。
本来はギャレンへと変身した際に出現する物だが、今ロワでは単体で存在、支給されている。
アンデッドが封じられたラウズカードを使う事によって、使用したラウズカードに封印されたアンデッドの能力を使う事が出来る機能が備わっている…が、ラウザー単体のみが支給されている為今のところこの機能は役には立たない。
また内部に蓄積されているエネルギーを変換して光弾を発射可能で、単発で発射するシングルモードと連射するバーストモードを状況に合わせて使い分ける事も出来る。
作中での描写からして、距離が近ければ近くなる程光弾の威力は増し、ゼロ距離でバーストモードにして連射した場合は、上級アンデッドであるギラファアンデッドを撃破できる程の威力となる。

【リーネお手製の白衣@ストライクウィッチーズ】
リネットが医者を目指す芳佳の為に一か月かけて縫い上げた白衣。
残念ながら、その白衣はここ辺獄でも映画と同様に包帯の代わりとなるが、リーネは許すだろう。
「うん!芳佳ちゃんがお医者さんになるって聞いたから」byリネット・ビショップ

【針目縫@キルラキル】
[状態]:負傷(中)、疲労(小)
[装備]:片太刀バサミ@キルラキル
[道具]:基本支給品一色、不明支給品0〜2
[状態・思考]
基本方針:優勝して元の世界に帰還する
1:とりあえず静夏ちゃん。そして耕介ちゃんと行動を共にする。
2:利用できそうな参加者は利用する。そうでない参加者については明の姿で殺していく。
3 :アーナスちゃんに関しては要注意だね☆
4 :う〜ん、どうしようかな……(このまま残るか・戦闘中に撒くか)

※参戦時期は少なくとも鬼龍院皐月と敵対した後からとなります。
※名簿に関係者がいないことを把握しました。
※静夏・植木の世界について簡単に知りました。

265嵐を呼ぶ辺獄平安大合戦 結 ◆s5tC4j7VZY:2021/08/26(木) 00:28:01 ID:Yt8uW6Co0
【服部静夏@ストライクウィッチーズシリーズ】
[状態]:決意、負傷(中)、疲労(小)
[装備]:特殊棍棒(エクスカリバー)@ドキュンサーガ 
[道具]:基本支給品、ストライカーユニット震電@ストライクウィッチーズシリーズ じわじわキノコカン×4@スーパーペーパーマリオ
[思考・状況]
基本方針:殺し合いを止める
1:宮藤さんなら…きっとこうします!
2:宮藤さん……色々と聞きたいことがありますが、今は目の前を対処します!
3:植木さんは…何というか…不思議な人、という感じがします。
4:縫さんは…何というか…独特な喋り方をする人、という感じがします。
5:植木さんや縫さんといい、これは”パンツ”とやらではありません!
[備考]
※参戦時期は「RtB」ことストライクウィッチーズ ROAD to BERLINの最終話「それでも私は守りたい」にて、宮藤芳佳にユニットを届けた後意識を失った直後からです。
※作中にて舞台になっている年代が1945年な為、それ以降に出来た物についての知識は原則ありません。
※「うえきの法則」世界についてある程度の知識を得ました。
※「キルラキル」世界についてある程度の知識を得ました。
※互いが別々の世界もしくは別々の時代から会場に呼ばれたと推測から確信になりました。
※自分が死亡後参戦だと勘違いしています。
※縫から日ノ元明は危険人物だと伝えられています。

【特殊棍棒(エクスカリバー)@ドキュンサーガ】
王都ザイダーマに店を構えている武器屋喫茶キャッツアイにて売られている特殊棍棒。
装備するとただの棍棒で攻撃力は20程度。しかし、”アイテム”として使用すると棍棒の先端からマシンガンのように弾を発射する銃器になり敵を粉々に粉砕する。
ちなみに値段は200万G(ガバス)
「特殊棍棒はただ今キャンペーン中でな。通常なら200万Gだが、今ならなんと…同じく200万Gする鋼の鎧(オリハルコンアーマー)とセットで300万G!!!」by店主

【筑紫飛行機 震電@ストライクウィッチーズシリーズ】
最新鋭ストライカーユニット。植木耕介に支給されていたが、現在は服部静夏が所有している。起動には膨大な魔法力が必要であり、魔法力の消費も激しいため、事実上芳佳の専用機であるが、この平安京においては悪魔の双子たちの手によるものか、魔法力がない者でも装着すれば起動することは可能となるように改造された。

【じわじわキノコカン@スーパーペーパーマリオ】
しばらくの間、HPがじわじわとかいふくするかわったキノコ。

266嵐を呼ぶ辺獄平安大合戦 結 ◆s5tC4j7VZY:2021/08/26(木) 00:28:17 ID:Yt8uW6Co0
【植木耕助@うえきの法則】
[状態]:負傷(中)、疲労(小)
[装備]:立体起動装置@進撃の巨人(ガス満タン)
[道具]:基本支給品、アクション仮面人形@クレヨンしんちゃん 優木せつ菜のカレー@ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会
[思考・状況]
基本方針:自分の正義を貫く
1:森達のところに戻りたい…とは思うけど、殺し合いには乗らねぇ。
2:服部、糸目と行動を共にする。
3:空白の才が支給されていたらヤバイな……。
4:針目の奴……目の奥が笑ってねぇ
5:ムラクモって男……針目に似たような雰囲気がするな。
5:まずは、桐生との戦闘に集中する
[備考]
※参戦時期は16巻の第153話「最終決戦!!」にて、アノン相手に最後の魔王を撃った直後からです。
※「ワールドウィッチーズ」世界についてある程度の知識を得ました。
※互いが別々の世界もしくは別々の時代から会場に呼ばれたと推測から確信になりました。
※自分が死亡後参戦だと勘違いしています。
※神器やゴミを木に変える能力のレベル2にはある程度制限がかけられていますが、どれぐらいの制限がかかっているかは後続にお任せします。
※神器は自分の世界の神様を決める戦いに参戦している人間”以外の人間には使用しないと決めています
※「キルラキル」世界についてある程度の知識を得ました。
※糸目縫を少しだけ警戒しています。(確たる証拠がないため、静夏には伝えていません)
※縫から日ノ元明は危険人物だと伝えられています。(半信半疑)
※ムラクモを少しだけ警戒しています。(あくまで自分の勘)

【立体起動装置@進撃の巨人】
立体機動を再現する機器。服部静夏に支給されていたが、現在は植木耕介が装備している。ワイヤーを射出して巻き取り引き上げる動作と高圧のガス噴射による推進力で装着者に高低差を無視した立体的な機動力を与える。
本来は同時に装備される着脱式の刃を用いて体格差のある巨人に白兵戦を行うものである立体機動の衝撃に立体機動装置が耐えられず破損する場合があったり、またガスを補給できる環境と補給ラインが整っていなければガス切れを起こした時点で戦闘能力が事実上消失するなど欠点も見られる。
ガスの補給はこの平安京に存在している可能性があります。
ブレードの予備は左右3本の計6本。

【アクション仮面人形@クレヨンしんちゃん】
嵐をよぶ5歳児が憧れる正義のヒーロー。……の人形。この世には子供に正義を教えてくれるヒーローがいる。
植木に幼い頃、正義を教えたのは……
「私も火事になるかもしれんが、アクションビームをつかわせてくれ!」byアクション仮面

【優木せつ菜のカレー@ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会】
 優木せつ菜が調理したカレー。紫色のルーは独創的な香りがする。
 味ですが”せつ菜そのまま”か”近江彼方による手が加えられた方”かは後続の書き手様に委ねます。

267嵐を呼ぶ辺獄平安大合戦 結 ◆s5tC4j7VZY:2021/08/26(木) 00:28:57 ID:Yt8uW6Co0
【マシュ・キリエライト@Fate/Grand Order】
[状態]:喪失感(大)、深い悲しみ、混乱 負傷(中) 疲労(小)
[装備]:オルテナウス、オルテナウス盾部分
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜2
[思考・状況]
基本:生き延びて、先輩と再び逢う。
1:参加者と接触し、先輩の目撃情報を調べる。
2:先輩が見つかるまで、アニさんと行動する。
3:桐生との戦闘が終わり次第、マサオから事情聴取する
4:疑似霊核……カルデア?それとも……サーヴァント?
※参戦時期は少なくとも第二部第二章以降
※マサオの疑似霊核から、この殺し合いにカルデアの関係者かサーヴァントが関わっているのではないかと考えています。

【アニ・レオンハート@進撃の巨人】
[状態]:マシュに対して不安、眼に巨人化の痕 ムラクモに対して警戒 負傷(中) 疲労(小)
[装備]:地禮@PROJECT X ZONE2 BRAVE NEW WORLD
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2(武器類はもうない)
[思考・状況]
基本行動方針:マシュ・キリエライトと共に行動する。
1:参加者と接触し、ベルトルトと立体機動装置を探す。
2:巨人化能力が再び戻るまでは、マシュと行動する。場合によっては再び対峙するかもしれない。
3:植木という少年からなんとか立体起動装置を譲ってもらいたい
4:桐生との戦闘が終わり次第、マサオから事情聴取する
5:ムラクモ……警戒を怠れないな

[備考]参戦時期は第132話、ヒィズルの船に乗った直後からの参戦です
※この殺し合いの主催者にエレン・イェーガー、もしくは『始祖の巨人』を所有したエルディア人がいるのではと考えています。
※ムラクモと情報交換をしました。※3者の考察
※F-7に女型の巨人の残骸(数十分で蒸発する)が残されています。
※女型の巨人には制限が掛けられています、制限は以下の通りです
・身長は10m級に調整されている
・一度巨人化すると一定時間経過しないと再び発動できない
【地禮@PROJECT X ZONE2 BRAVE NEW WORLD】
有栖 零児が所持する脇差。
陰陽五行を司り地禮”土”の性質を持つ。

268嵐を呼ぶ辺獄平安大合戦 結 ◆s5tC4j7VZY:2021/08/26(木) 00:29:26 ID:Yt8uW6Co0
【佐藤マサオ(歳破神)@クレヨンしんちゃん】
[状態]:気絶 疲労(大) ダメージ(大)※回復中
[装備]:無し
[道具]基本支給品、
[思考・状況]
基本行動方針:何もかもぶっ壊す
0:しんちゃん……
1:僕は……八将神……逃げなきゃ……逃げ続けるが与えられた役目……
2:?????

[備考]
※映画の出来事などを経験しています
※危険種を摂取し、巨大危険種となりましたが、しんのすけマンの力により元に戻りました。
※巨大危険種として変身する際に取り込んだ”空気砲”と”日輪刀”は消滅しました。
※八将神として改造された影響でぷにぷに拳が使用できるようになりました(ただし、使用できるのは和毛和布のみ)
※メフィスとフェレスの契約を経て八将神と改造されました。
※マサオの宿業は頭にあります。
※マサオを八将神に推薦した理念により特にしんのすけ一家及びに関わっている参加者に強い攻撃性を発揮します。
※現在は、しんのすけの”おたすけ”により狂化は抑えられていますが、依然として八将神として本来の有り方を捻じ曲げられています。

【ナスタシア@スーパーペーパーマリオ】
[状態]:顔にかすり傷 焦り 疲労(小)
[装備]:首輪探知機@オリジナル、ビブルカード×2(針目縫、ムラクモ)@ONEPEACE、風火輪@封神演義
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本:伯爵様の為に参加者を減らしていく。
1:この場を上手く切り抜ける
2:桐生が洗脳から解けたので代わりにあの中から誰かドドンタスの穴を埋める役割を担ってもらいますか……
3:直接戦闘は必要な敵以外は避ける。
4:童磨はまた会ったら殺す。
5:ディメーンは裏切り者として生かしておけない。
6:完全者は信用はしてないが、戦力であることには変わらない。
7:他の部下も一応探しておく。特にミスターLは本物? 洗脳の状態も確認が必須。
8:桐生め……勝手な真似をして……!!
9:私の”チョーサイミンジュツ”の性能が落ちている……!?
[備考]
※参戦時期は最低でもステージ7以降。
※チョーサイミンジュツに制限が課せられています
※チョーサイミンジュツに制限が課せられいることに気づきました。
『以下チョーサイミンジュツの制約についての説明』
・洗脳可能な上限は一人まで
・絶対に洗脳できるわけではなく、相手の意志力自体では洗脳を解除されるか不完全な洗脳になる
・何か道具や技があれば、跳ね返すことが出来る

269嵐を呼ぶ辺獄平安大合戦 結 ◆s5tC4j7VZY:2021/08/26(木) 00:29:40 ID:Yt8uW6Co0
【桐生@ドキュンサーガ】
[状態]:ダメージ(大)、消費(中)、
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×0〜1(ナスタシアも確認済み)
[思考・状況]
基本:強い人間と出会い、戦う
1:こい!人間(クソムシ)共!オレを殺してみろ!
2:ナスタシア、ノワール伯爵には仕えないが、殺しはしない。
[備考]
※参戦時期は第九話④から
※ナスタシアによって操られていましたが、大量の人間(クソムシ)を前に正気を取り戻しました。

270嵐を呼ぶ辺獄平安大合戦 結 ◆s5tC4j7VZY:2021/08/26(木) 00:32:59 ID:Yt8uW6Co0
投下終了します。
すみません、分割をミスしてしまいました。

辺獄平安大合戦 序 投下通り
辺獄平安大合戦 承 投下通り
辺獄平安大合戦 鋪 8〜11章
辺獄平安大合戦 叙 12〜14章
辺獄平安大合戦 結 最終章〜
でよろしくお願いいたします。

271 ◆vV5.jnbCYw:2021/08/26(木) 01:12:11 ID:gf19UHsQ0
大作投下乙です。クレヨンしんちゃんはイマイチ知らない(幼少期踊れアミーゴでガチ泣きした思い出しかない)
のですが、まさかクレしんキャラ同士でここまで盛り上がる戦いになるとは予想もしていなかったです!!
まさかエルガンダーが出てくるとは予想外過ぎました。
しかも裏側に主催側の考察まで含まれていて、表がシンプルに見せかけて何重にも裏があった所が面白かったです。
改めて大作投下お疲れさまでした。

272 ◆.EKyuDaHEo:2021/08/26(木) 01:25:50 ID:bpAYkSFI0
投下お疲れ様です!
本っっっっっ当に最高のssでした!
映画のキャラが出てきたりかすかべ防衛隊が出てきたりなど本当に激熱展開でした!!
ssの執筆、そして投下本当にお疲れ様でした!

273 ◆ZbV3TMNKJw:2021/09/02(木) 21:44:53 ID:R5.jUEtU0
皆様投下乙です!
感想はまた投下の時にしたいと思います

木刀政、貴真、日ノ元明を予約します

274 ◆EPyDv9DKJs:2021/09/11(土) 19:56:23 ID:tAbMouqM0
投下します

275 ◆EPyDv9DKJs:2021/09/11(土) 19:57:40 ID:tAbMouqM0
 紅き平安京のとある家屋。
 一人静かに携帯食料をもそもそと食べる少女が一人。
 携帯と言えども日々進化しつつある味のものだが、今はとても楽しめるものではない。
 味が好みではないだとか、殺し合いの中だからとかそういうものではない。
 ただ純粋に、彼女の心の問題だった。

 八将神の中で一番理不尽とも言える立場に立たされた『豹尾神』十条姫和。
 理性が戻ったりすることもある不動明や佐藤マサオと言った極端さはなく、
 スイッチどうこう以前に暴走状態の時期から招かれた状態のアーナスとも違う。
 半端な自我が残されたことにより、生き地獄を味わうこととなった悲哀の少女。
 これについては双子の悪魔や悪辣非道の僧によるものは確かにそうなのだが、
 自我が残ったことについては、意図したわけではない偶然の産物だ。

 いや、ある意味そうなるだろうと推測した誰かの仕業かもしれないことは否めない。
 管理者の双子は自分達が愉しむためならば無関係の存在だろうと平然と弄ぶし、
 平安京の陰陽師も他者の苦痛と絶望を好み、その場のノリでする可能性だってある。
 或いはまだ存在すら語られない誰かが、そのような進言をしたのも否定できないが。
 とは言え、元凶が誰であっても彼女は災禍を振りまく存在となった事実は揺るがない。

(……勝手に食事はするんだな。)

 部屋の隅で携帯食料を食べていく。
 八将神となっても腹は減ると言うもの。
 殺しを加速するための舞台装置が空腹で倒れては興醒めだ。
 だから身体は勝手に動く、誰かを殺す為の布石として食事を続ける。
 特に彼女は此処へ来る以前は折神紫と一緒に山へと籠っていた。
 まともな飯にありつけていたとは言えず、そこから殺し合いへ招かれた。
 短時間で空腹になるのは当然だ。

「……」

 思い返すは、此処で殺した人物たちの事。
 二人は殆ど瞬殺だったのでよくは分からなかった。
 ナイフを人に向けてたことから柄がよくないと思う、
 言ってしまえばそれ以外の情報は持ち合わせてない。
 しかし決して気分がいいというなんてことは当然なく、
 寧ろ身体が自由であれば吐き気すらこみあげていただろう。
 だがそれ以上に。先程戦っていたトッペイと千と呼ばれた二人。
 彼らは確実に殺し合いを否定し、自分を助けるつもりでいてくれた。

『……すまない。私は君を助けることは、できなかった。』

 脳裏に焼き付いて離れない。
 死ぬと分かってもなお自分を気遣った、
 彼女の今際の際に紡いだ言葉を、表情を。
 この理不尽の中抗い続けた剣士を彼女は忘れない。
 いや、忘れてはならないと言うべきか。

(私のせいだ。)

 誰が見ても惨劇の元凶は彼女ではなく主催の連中だ。
 それでも意志が無関係でも手にかけたのは自分だから。
 という意味で自責の念に駆られているわけではない。
 二人が死んだ原因は紛れもなく自身、十条姫和がやったものだと。

 彼女は伝えた。八将神のこと、刀使の能力や龍眼の突破方法を。
 自分を殺してくれるための手段を、あるだけ伝えようとした。
 話すことで、少しでも自分が不利になるようにと言う目的のために。

 では、それで彼らは何を得たか。殺す手段を得たわけではない。
 二人がそれらから得たのが『止めるため』の算段だったと言うこと。
 殺すだけだったらまだ楽な部類を、自ら難しくしてしまった。
 殺して制すること、殺さず制すること。たった二文字の違いはその難しさを大きく変える。

 嘗て沙耶香と戦ったときがまさにそれだ。
 写シなしで襲い掛かる彼女を殺す以外の選択肢はなかった。
 それを否定するように、可奈美は沙耶香を殺すことなく制することができた。
 いくら無刀取りが彼女の流派に存在すると言えども、
 簡単にできるものではない。

 加えてタギツヒメに主導権を握らせないよう混濁した意識の中だ。
 それだけでも相当苦しんでいる中で場面を見て最適解を導き出すことなど、
 無茶にもほどがある。あれだけ喋れる分、相当な精神力と褒められるべきだろう。

「随分消沈おるようじゃな?」

 少女の声で老人のような口調。
 聞き覚えのある声に顔を上げれば、
 忘れてはならない人物の姿がある。

「お前は……!!」

 鮮血のような真紅の冠を乗せ、
 毒々しい黒紫の片翼持った少女。
 平安京の家屋とはまったくもって似合わないが、
 血染めの空をバックに立つ姿は、実に悪魔らしい風貌。
 双子の悪魔の片割にしてこの殺し合いの主催者の一人、メフィス。

276 ◆EPyDv9DKJs:2021/09/11(土) 19:58:30 ID:tAbMouqM0
 出会い頭に小烏丸を抜いて姫和が襲い掛かる。
 彼女の流派の主力となる突きは流石の一言に尽きる完成された動きだ。
 八将神としての役割の都合反応した、と言うのも一応あるにはあるが。、
 刃はまっすぐ伸びて、首に触れるすんでのところで刃が止められる。
 否、止めてしまう。見えない壁に阻まれたかのように。
 勿論そんなことはなく、これは姫和の身体が意図的に止めてるが故に。

(腕が、動かない。)

 腕を伸ばせば刃が届く。
 それほどまでに近くにありながら身体がそれを拒む。

「無駄じゃ。現状のお主ではわしにはその穢れた刃は届かぬぞ。」

 ディメーンが支給品の受け渡しの都合、
 どうしても参加者の目に姿を見せることになる。
 しかしその際に八将神に狙われる可能性も少なからず出てくるというもの。
 特に八将神は再生力など能力の追加と役割を考えてしまうと、
 敵となれば厄介極まりない。当然それなりの対策ぐらいはしてある。

「何をしに来た。」

 高みの見物を決め込むであろう主催者が一人。
 こんなところで八将神とは言え参加者に介入してきた。
 警戒するなと言う方が無理と言うものだが刃は喉元へ届くことはなく。
 攻撃されないと分かってるが故の余裕の態度でメフィスが微笑を浮かべる。
 人を見下すかのような、嘲笑に近い笑みだ。

「いやなに。お主の最後の支給品なんじゃがな、実はデータ上のものでな。
 災禍の禍神と言うのも乙なものじゃが、一応は此方が相応に吟味した代物。
 お主は常に殺し以外の行動しか起こさぬのでは、使う機会が永遠に訪れん。
 まあなんじゃ、所謂老婆心と思え。雀の涙程でも感謝してくれてもよいが……」

「ふざけるなッ!!」

 無関係な人間を殺し合いに巻き込み、
 自分をこのような状況へ持ち込ませた外道からの言葉。
 莫迦にしてないと思う方が無理である。
 怒りの表情をよそに、メフィスは普段の態度を崩さない。

「そう喚くでない。それに、
 お主にとってはこの話は重要な情報じゃぞ?」

「何を───」

「衛藤可奈美、参加しておるぞ。」

 メフィスから告げられた名前に言葉を失う。
 刀使は他にいると思っていたし、それを願って自我を保っていた。
 だが、可奈美が参加してるとは思わなかった。いや、思いたくなかったと言うべきか。
 逃避行からと言うもの、自分をずっと支えてきたのはほかならぬ彼女だから。
 その彼女が、この殺し合いに招かれてることは思いたくはなかった。
 言葉を失ってる彼女をよそに、そのまま話を続けていく。

「タギツヒメを討つために決起した者達六人だけではない。
 お主の同類となる美炎に加え、母の友たる藤原美奈都もおったな。」

「な、可奈美の母親までも、だと……!?」

 同類とはどういう意味かとも思ったが、
 過去の存在である筈の藤原美奈都の名前に気を取られてしまう。
 趣味の悪い彼女が本当のことを言ってるとは思えなかったが、
 寧ろ趣味が悪いなら、死者を弄ぶためあえてやってくるだろう。
 例え彼女が同じ立場として蘇生された可能性もある。
 そうして、可奈美に精神的なダメージを与えていく。
 主催者がやりそうな悪趣味な考えだと。

「ほれ、重要な情報じゃろう?
 死に急ぐお主を討てる刀使がこうもおるのじゃ。
 特に、可奈美と言う少女は実に有力株……そうは思わぬか?」

 メフィスの言うことに歯を噛みしめる。
 こいつの口車に乗るのは凄まじく癪なことだが、
 龍眼を破った経験のある可奈美の実力は刀使でも別格の強さを持つ。
 あれからさらに成長した可奈美なら、きっと自分を倒せる存在だと───

『斬らない!』

 殺さざるを得ない状況でも彼女はそれを選ばない。
 戦闘大好きな剣術オタク……と言う風に見える彼女だが、 
 刀使としては真摯に向き合い、荒魂は対話ができない相手でなければしっかりと祓う。
 どうしようもない敵である。それならばきっと彼女でも受け入れることもある。
 逆に僅かでも可能性があるなら。彼女は今の姫和ですら斬らないことを選ぶ。
 だからこそ、斬るしかない選択をした沙耶香を斬らずに制したのだから。

(だが、他に誰がいる。)

 優れた才覚を持つ沙耶香でも、今の自分と戦えるかは怪しい。
 当時群を抜いて強いとされた美奈都は面識がない以上未知数だ。
 (どちらも自分を斬る以外の選択をしてきそうな気がすることは置いといて)
 一番自分を制することができるのは、やはり可奈美になってしまう。

「そんな討たれたがってるお主に朗報じゃ。
 最後の支給品は、お主の望みを叶えてくれるものになる。」

277 ◆EPyDv9DKJs:2021/09/11(土) 19:59:14 ID:tAbMouqM0
 「聞く」
 「聞く」
 『聞く』

「それを教えて、どうするつもりだ……」

 尋ねずにはいられなかった。
 自分の苦しむ様を見るのが愉悦としてるなら、
 自死を望む彼女の望みを叶えるなんてありえない。
 寧ろより破滅を、絶望を与えてくるはずだと。
 元より『聞かぬ』と言う選択権そのものがなかったが。
 どんなに理不尽なものだとしても、彼女はそう答えるしかない。

「先程言ったじゃろう。お主の最後の支給品はデータ上の物。
 意志とは無関係に殺戮を繰り返す禍神のお主では、名簿のタブレットすら見ぬ。
 それでは最後の支給品が使えなくなる。故にこうして出向いた、ただそれだけじゃ。」

「外道め……!」

 要するに殺し合いをより円滑にするためのもの。
 姫和により手を汚してもらうための手助け。
 そこに善意などない。あるのは玩具で遊ぶ少女達だけ。

「その外道の見世物に成り下がったのはどこの誰だったかの。
 まあお主が殺した千も、わしらにとっては見世物でもあったが……」

 届かない刃をよそに、姫和のデイバックを勝手に漁りタブレットを抜き取る。
 何度か画面を操作した後、その画面を彼女へと見せる。
 ファンタジーとも言える辺獄管理人の彼女だが、
 零に電話を掛けたりと機械の操作は不慣れというわけではない。
 見せられた画面は、姫和にとっても見慣れた画面だ。
 青色を基調とした地図に、二つの点が点滅する。

「ほれ、お主もよく知っておるはずじゃ。」

「スペクトラムファインダー……」

 荒魂の位置を迅速に把握する為、刀剣類管理局から支給されたアプリ。
 吟味した支給品が荒魂だけを特定するなんて局所的アイテムを渡すはずがない。
 すぐにそれが嘗てタギツヒメを宿した折神紫のように細工されたアプリだと察する。

「当然手は加えてあるぞ。荒魂、ノロ、御刀。いずれも教えてくれる。
 まあ、荒魂を持った奴なんぞ『普通』はおらんから、さして意味はないがの。」

 確かに、メフィスの言うように望みを叶えるものだ。
 これで参加者を探せば、いずれ可奈美や自分を倒せる参加者に当たるはず。
 姫和にとってはそれは自分を討てる存在を見つけられるありがたいものとも言えるが、
 メフィスがそんな自殺願望をかなえる為だけにこんなことをするはずもなく。
 本当の意味は他の参加者と出会わせて、更なる災禍を他人に与える禍神となれと言うこと。
 御刀を支給されただけの無関係の人間を多く巻き込むであろう、
 絶望の上乗せとも言えるものに複雑な表情だ。

「さて、目的も果たしたし帰るとするか。
 では存分に働といい、禍神とやら。可奈美に出会ったときを楽しみにしておるぞ?」

 言うことだけ言って、タブレットを床に置いてメフィスは姿を消す。
 誰もいなくなった家屋で一人、スペクトラムファインダーを見やる。
 D-6には自分以外誰もいない。それに安堵するべきかどうかは分からない。
 タブレットを拾い上げ、小烏丸を収めて姫和は立ち上がる。
 食事も、刀使の能力の疲労も大分癒えた。留まる理由はない。

(……二度と、繰り返すものか。)

 彼女は決めた。この先どんな参加者がいようとも。
 千達のような止めようとして命を落とすことがないように───










 彼女はあえて悪となることを選ぶ。

(私は───八将神として戦う。)

 自分を八将神として振る舞うことを選ぶ。
 止めるように誰かに願うな。同情されない悪へとなり果てろ。
 八将神になることで、誰も彼もが躊躇せず自分を殺しに来る。
 それでいい、それがいい。一人でも多く生きてもらうために。
 比翼の鳥の片割れは必要悪として嘘の仮面(LiarMask)を被る。
 真の意味で止められるとすれば。残りの片割れたる幼い二羽のもう一人だけ。

【D-6/黎明/一日目】

278 ◆EPyDv9DKJs:2021/09/11(土) 20:00:01 ID:tAbMouqM0
【十条姫和(豹尾神)@刀使ノ巫女】
[状態]:禍神、疲労(中)(再生中)、混濁した意識、狂気度低下、龍眼の暴走、精神疲労(絶大)、自殺願望
[装備]:小烏丸@刀使ノ巫女、召喚石バアル@グランブルーファンタジー(現在使用不可能)、タブレット(スペクトラムファインダー@刀使ノ巫女のアプリ起動)
[道具]:基本支給品(食料と水のみ大祐、千、トッペイ含む四人分)、ランダム支給品(トッペイ×0〜1、大祐×0〜1、千×0〜2)、麻痺の杖(残り1)@少年ヤンガスと不思議なダンジョン、疾風のレイピア@ドラゴンクエスト8、ピオリムの杖(残り3)@トルネコの大冒険
[思考・状況]
基本方針:殺■/■したくない。
1:■す。■す。■す。■す。■したくない。
2:■でもいい、■を■してくれ───
3:私は……禍神だ。
4:可奈美……
[備考]
※参戦時期はアニメ版二十一話。タギツヒメと融合直後です。
※魂の状況により意思の疎通については普段と変わりませんが、
 身体は八将神としての役割を全うする立場にあります。
 ただ、自意識を保つ為で本来の時ほどまともな会話は望めません。
※タギツヒメと融合した影響により周囲に雷光が勝手に放出されます。
 龍眼も使えるようになってますが暴走状態で、本人の意思とは関係なく行います。
 死亡時、或いは彼女の抑えが限界を迎えた際にタギツヒメが肉体を乗っ取るかは不明です。
 (同時にタギツヒメがそのまま八将神を引き継ぐかも不明です。)
※迅移(主に三、四段階)の負担が大幅に減ってます。
 ある程度の時間を置けば動けるレベルに回復できますが、
 デメリットが完全緩和ではないので無暗には使いません。
※名簿は見ていませんが、刀使ノ巫女の参加者は把握しました。
※スペクトラムファインダーの表示に参加者が含まれていることに気付いていません。










「メフィスちゃん。どこ行ってたの?」

 会場の何処かか、あるいはどこでもない場所。
 出かけていたメフィスをフェレスが迎える。

「フェレスか。姫和に支給したアプリのことじゃよ。
 御刀持った奴を探せるからと、少し焚きつけに行っただけだぞ。
 と言うよりも、ただの参加者が使い方を知らぬならいざ知らず、
 八将神が自分の支給品を使わないではなく使えぬのでは困るからの。
 まあ、マサオについては奴が始まる前からレクチャーしておったが、
 アレは抱腹絶倒ものじゃったな。」

 あのやりとりは実に笑えた。
 滑稽とかそういう方向とは別の意味で。
 思い出し笑いか、メフィスの肩が軽く震える。

「メフィスちゃん、嘘はだめだよー……だってあれ───」





「参加者も表示しちゃうんだよ?」

 メフィスは彼女には告げてない。
 あれはノロに関するものどころか、参加者も表示する。
 御刀さえ手にしてない参加者の下へ彼女は気づかず希望に縋るということだ。

「なんじゃ、聞いておったのではないか。」

「ディメーンから聞いただけだよ。
 メフィスちゃんが勝手に出かけちゃって、僕心配だったんだよ?」

「偶然の産物でも八将神から生まれる理念、
 どのようなものになるのか実に楽しみでな。」

 ただの理念でもいいが、
 八将神で不動明と同様に悲惨な立場である姫和。
 この二人はより質のいい理念を生み出してくれるだろう。

「八将神にされて……いいように利用されて、
 ずぶずぶずぶーーって泥沼に沈んでいくなんて、姫和ちゃんかわいそう……」

「余り深く関わったつもりもないが、
 他の奴の反感を買ったなら以後気を付けるとしよう。
 とは言え、特に理由もない限り介入する気も今はないが。」

 悪魔は人知れず嗤う。
 真実を知った少女の行く末を楽しみながら

【スペクトラムファインダー@刀使ノ巫女】
姫和の支給品だが、基本支給品のタブレットにインストールされたもの。
元々は刀剣類管理局から刀使に支給されたスマートフォンのアプリで、
スペクトラム計をデジタル化したもの。荒魂を地図上に表示するためのアプリ。
但しこのアプリはタギツヒメが入っていたころの折神紫の手が加えられたことで、
特定の荒魂を表示させないだけでなく、御刀を荒魂と認識させられたこともあった。
このロワにおけるこれも改造され、対象がいるエリア内の参加者、ノロ、荒魂、御刀の四つが地図上に表示される。
性能だけで言えばナスタシアが手にした首輪探知機の上位互換だが、参加者との誤認があるため一長一短。
またノロを体内に取り込んだ歩夢と禍神となる姫和自身は通常以上に反応が大きい。
カグツチ、もといカナヤマヒメが宿る美炎に対しての反応は現時点では不明。

279 ◆EPyDv9DKJs:2021/09/11(土) 20:02:01 ID:tAbMouqM0
以上で「LiarMask」投下終了です

280 ◆EPyDv9DKJs:2021/09/11(土) 20:47:12 ID:tAbMouqM0
すみません、
場所はD-5でした

281 ◆ZbV3TMNKJw:2021/09/13(月) 23:29:38 ID:APyishTY0


>レオーネ、ギースの近接戦強者の戦いに割り込める悠奈さんの肝が半端ねェ。
決意と信念の女はやはりカッコいいですね。それを支えているミスターLも和み系でいいコンビです。

>ライム、明と傷ついた少年少女を包み込むみさえさんがあったかい。
フェイトもライムも明にも母ちゃんできるみさえを見てると母は強しというのを実感させられます。
しかし本文にもある通り明という特大爆弾は回避できないのが悲しい。

>続く野原家父の話。「く、来るなら来い!俺は空手部のやつと友達だったんだぞ!」ここ好きです。
軍服の男に仲間を奪われ意気消沈するロックたちですがタイトル通り、「生きて、生きて、生きて」いくしかないんですよね。
頑張れ少年少女たち

>どうにか厄介なステルスマーダーのロックを退けた一行ですが、エレンちゃんが左腕を失うダメージはデカイ。
ロックは逃走を余儀なくされたとはいえトラウマもどうにか克服して心機一転できたのは大きい。
とはいえ校舎にいるのは結構厄介な面子ですが果たしてどうなるか。

今回の感想はここまでで投下します

282揺れる廻る振れる切ない気持ち ◆ZbV3TMNKJw:2021/09/13(月) 23:31:21 ID:APyishTY0
(ここまでくりゃあ大丈夫か)


どれほど走ったかはわからないが、修平たちが追ってくる気配はない。
矢を受けた肩を休める為、政は辿り着いた民家の壁に背を預けた。

政は時にはプロレス野球部として喧嘩に明け暮れ、時にはデビルマン軍団としてデーモンと戦ってきた歴戦の戦士。
この程度の怪我は日常茶飯事だ。
しかし、それでも彼は所詮はニンゲン。
肩に傷を負えば動きは鈍るし非戦闘時にまで痛みを無視しきれるものではない。

(チィッ、いいところで邪魔しやがる)

あの場面、横やりが入らなければ政は間違いなく修平に勝利を収めていた。
喧騒を聞きつけて戦いを止めに来たにしては威嚇もなく、的確に修平を助けた違和感がある。
しかし修平が予め仲間を潜ませておいたのならば、自分はもっと追い込まれているはずだ。

つまりあの横やりは第三者。それもゲームに乗った側の人間だ。
おそらく、戦いの一部始終を見た上で修平を残しておきたいと判断したのだろう。
だからゲームに乗った修平を助け恩を売ることで効率的に参加者を減らそうとしている...そんなところだろうと予想はつく。

「修平の野郎が探してた藤堂悠奈って女も怪しいな...クソッ、俺は一刻も早く不動を探さなきゃならねえってのによ」

政にとってほかの参加者やこの殺し合いの行く末などは二の次だ。
不動明を正気に戻し彼という存在を取り戻す。
その為ならば命も惜しくないとも覚悟している。

その為には修平のような殺し合いに乗った連中は邪魔なのだ。
そういう危険な輩は排除する。
そう、心に決めた時だった。

タンッ、タタタ、と奇妙な足音が傍から聞こえた。
まるで急に遅くなった速さに戸惑っているかのような歩調だった。

(だれかきやがったか)

先ほどの修平との邂逅に似たシチュエーションに、自然と木刀を握る力が籠められる。
先ほどのように尋問するか―――いや、ここは捕らえて先に支給品を奪ってしまう方がいいだろう。
そうすれば、相手が一般人であれば修平との戦いのようなことは起きない筈だ。
来訪者が近づいてきたのを見計らい、政は徐に飛び出し木刀を振り上げる。

283揺れる廻る振れる切ない気持ち ◆ZbV3TMNKJw:2021/09/13(月) 23:31:41 ID:APyishTY0

向かい合った青年は一瞬だけギョッと驚いた表情を浮かべるも、政の木刀に対しては難なくデイバックを挟むことで対処した。

「チィッ」

舌打ちをし、防がれた木刀の代わりに蹴りを入れようとするも、青年は一歩退いて回避。
青年のデイバックの中身がゴロゴロと零れ落ちるが、構わず政は追撃しようとする。

「待った。君の足元に転がってるのは爆弾だよ」

青年の言葉に政は足を止める。
周りに転がる球状の物体は、政を取り囲むように地面に転がされていた。

「スイッチはもう作動している。あとは俺の合図一つでいつでも起爆できるんだ」
「ヘッ、やってみな。オメェと俺とどっちが早いか勝負といこうじゃねえか」
「いいや、そんなことはしないね。俺がこうしたのは君と話がしたいからさ」

青年は両手を挙げ、なにも持っていないことを示す。

「予め言っておくけど、俺は殺し合いには乗ってない。このままあんたが武器を収めてくれれば俺は爆弾のスイッチを切るけど、あんたがそれでもやろうっていうならお望み通り早打ち勝負に挑んでやるさ」
「......」

政は考える。青年の言葉は果たして本当なのだろうか。
この爆弾のスイッチがハッタリの可能性はあるが、問題はそれではなく彼が殺し合いに乗っているかどうか。
もしも乗っているなら爆弾の警告などせずすぐに爆破させてしまえばいい。

「...いいぜ。まずは話を聞かせてもらおうじゃねえか」

なんにせよ、青年が話し合いをしたいというのは本当のようだ。
政はそう判断し、警戒心は保ちつつも、ひとまずは青年の提案に乗ることにした。

「話がわかるやつでよかったよ。ああ、ちなみに爆弾のスイッチは嘘だから。こういうあんたを落ち着かせる駆け引きに持ち込むのに必要だったんだよ。許してくれ」
「くえねえ野郎だぜ」

284揺れる廻る振れる切ない気持ち ◆ZbV3TMNKJw:2021/09/13(月) 23:32:14 ID:APyishTY0



散らばった道具を纏め、青年・崎村貴真と政は互いに名乗った後、情報交換に取り掛かっていた。

「藤田修平と何者か、か...あんたもゲームに乗った奴に襲われたんだ」

「あんた『も』ってことはオメーも襲われたんだな」

「ああ。俺はせつ菜ちゃんって子と同行してたんだけどね、突然現れたライムって女の子に襲われたんだ。俺たちがいくら声をかけても、ライムはずっと噛み合わない言葉ばかり叫んでいた。その様子を見て俺たちは思ったのさ。ひょっとして彼女は何者かに洗脳でもされてるんじゃないかって」
「俺は彼女を殺そうと思った。本当に嫌だけど、あのまま放置してるとこっちが危ないからって。けどせつ菜ちゃんは違った。洗脳されてるならどうにか助けてあげたい、声を届けてあげたいって、アイドルらしく意気込んだ」
「俺にはとてもそんな彼女を蔑ろにはできなかった。だから俺が注意を引き付け、せつ菜ちゃんに説得させようとした...今思えば、それこそが俺の最大の失敗だった。本当に後悔してるよ」

貴真は悲し気に目を伏せながら言葉を紡ぐ。

「作戦は上手くいったさ。せつ菜ちゃんはライムに向き合うことができた。けど、それこそがライムの狙いだったんだ。
彼女は正気を失ったフリをして付け入る隙を見せて、せつ菜ちゃんを殺したのさ。ずっと正気に戻るよう呼び掛けていた彼女を嗤うように腹を割いて、首を落としたんだ」
「俺は自分の過ちを思い知らされたよ。心を鬼にしてライムを殺しておくべきだったって。同時に、この脅威をほかの参加者に教えてやらないとって」

気落ちし、涙ぐむ貴真に政は言葉を詰まらせる。
政も似たようなものだった。
仲間たちに蹂躙される怪物には手も足も出せず、その怪物を斃した友に仲間たちを皆殺しにされ。
そんな政が、己の無力さを嘆く貴真に投げかけられる言葉などあろうはずもない。

「っと...悪いね。俺の身の上話はこんなところさ。あんたはどうなんだい?」
「...ああ」

政は語る。殺し合いが始まって間もなく知己たちと合流したこと。その直後に超ド級の不細工な怪物が現れ苦戦を強いられたこと。
その怪物を斃した友、不動明が仲間を皆殺しにしたこと。放送の後に修平ともう一人謎の襲撃者に襲われたことを。

「デビルマン、か。悪いけど俺は知らないね」
「おめェもか。まあ、こいつは平行世界だかなんだかで、悪魔を知らないやつらがいてもおかしくねえって話だ」
「なんだかSFチックな話だね。...ま、こんな場所に連れてこられてる時点で大概だけどさ」
「それはおいておいて、だ。俺を襲った修平は『藤堂悠奈』って女を探してると聞いた。ソイツも警戒しておいた方がいいかもしれねぇ」
「藤堂悠奈...!」

悠奈の名前を聞いた貴真の目が見開かれ、政は疑問符を浮かべる。

「政くん。藤堂悠奈というのが俺の知る彼女であればやはり警戒した方がいい。彼女は甘言を用いてどんな手段を使っても優勝を狙うだろうからね」
「知り合いなのか?」
「...あまり言いたくないけど、俺はここに来る以前も殺し合いに巻き込まれていたんだ」

285揺れる廻る振れる切ない気持ち ◆ZbV3TMNKJw:2021/09/13(月) 23:32:32 ID:APyishTY0

貴真は語る。ここに連れてこられる前の殺し合い『シークレットゲーム』について。

「俺の巻き込まれた殺し合いはここほど無法じゃなくて、参加者に支給されたPDAのお題を完遂することで生還できるってゲームだったんだ。
つまり、無理に殺し合わなくてもお題さえ達成すればそれでいいってこと。だから俺は説明会に集まった五人で組んでお題の完遂を狙った。
だが、どこかで誰かが死んでお題はセカンドステージ、つまりより困難なものに変わってしまった。
そこからはもうぐちゃぐちゃさ。英吾のおっさんが引き金を引いて、みんな散り散りになって、おっさんもソフィアちゃんもいつの間にか死んでしまった。
他の参加者もいなくなって、気が付けば残されたのは俺と悠奈ちゃんと彰くんだけ。で、組んでた二人にあっけなくやられて俺も脱落さ」
「...なるほどな」

チームを組ませることをさりげなく推奨しておき、後で仲間割れが起きやすいお題に変更する。
そんな人間の悪意の醜悪さを感じさせるゲームに、政は唾を吐きかけたくなる衝動に駆られた。

「警戒すべきはライムに悠奈と彰、か...ありがとよ。代わりと言っちゃなんだが、俺も忠告しておいてやる。デビルマンには手を出すな。オメェら人間じゃあ絶対に敵わねえ」
「見つけたら速効で逃げろってことかな」
「そういうこった。そう易々とデビルマンから逃げられるとも思えねえがな」

そう会話を切り上げ、政がこの場を発とうとしたその時だった。

「――――――!!」

なにかが叫び声と共にゴウッ、とすさまじい勢いで二人の頭上を通り過ぎて行った。

「なっ、なんだ!?」

政は余波で生じた風に飛ばされそうになった学帽を慌てて抑え、飛んで行ったモノへの方角へと目を向ける。

「オイ貴真、今の見えたか?」
「いや、一瞬すぎてわからなかった」

あの速度で動ける存在を政はそうは知らない。
まさか明が―――!!
そう考えた政はすぐに走りだし、貴真もまた後に続いた。

286揺れる廻る振れる切ない気持ち ◆ZbV3TMNKJw:2021/09/13(月) 23:33:25 ID:APyishTY0



「グ、うううう!」

巨大化したマサオに投げ飛ばされた日ノ元明はグルグルと回転しながら空を飛ぶ。
既に平衡感覚感覚は狂い、あまりの圧力に身体も自在には動かせずにいる。
これが飛行能力を使えるドミノや善であればやりようはあっただろう。
しかし、明にソレはない。
故に勢いが落ちるまではなにもできない。

どれほど飛ばされただろうか。

速度も回転の勢いも弱まったところで、明はようやく身体に自由が利くようになる。
だがそれはすぐに地面へ落下してしまう証左でもある。
恐らく、このままなにもしなければ多大なダメージを負うことは間違いない。

(この状態ではまともな受け身は取れん。然らば!)

明の能力である装甲の変形を利用し、長い棍棒を作り出し全力で振り下ろす。
強い衝撃の反動を与えることで速度と回転を強制的に緩めたのだ。
その代償として、明の身体は空に投げ出されてしまう。
明は瞬時に棒を戻し、背中から羽のように枝分かれさせる。
これで地面を叩くことで、ダメージは避けられないものの、まだ軽減は出来るのだ。

ズン、と大きな音と共に明の身体がついに着地する。

(成功だが...クッ)

殺しきれなかった衝撃は明の内臓にまで響き、しばしの呼吸困難に陥らせる。

「げひゅっ、ケヒュッ...!」

胸を叩き、掠れる息をどうにかして整えた明は着地の際にできたクレーターに背を預け天を仰ぐ。

(...しんのすけ)

思考が落ち着くにつれ、真っ先に過ったのはあの少年、しんのすけのことだった。

『お姉さんは、納豆にネギ入れるタイプ〜?』

邂逅の初手からナンパしてくるという奇妙な遭遇ではあった。
しかし、この異常事態にも関わらず、己を見失わず持ち前の明るさで場を和ませてくれ、錯乱し殺し合いを肯定しかけた友達に対しても忌避感を抱かず接することのできる懐の深い少年だった。

287揺れる廻る振れる切ない気持ち ◆ZbV3TMNKJw:2021/09/13(月) 23:34:32 ID:APyishTY0

けれど。

『何って……しんちゃんを斬ろうとしたのさ』

彼の友達は、佐藤マサオはしんのすけを裏切った。
事情はわからないが、マサオは溜め込んだ膿を吐き出すようにしんのすけへの毒を吐いていた。
積み重なった嫉妬や嫌悪のようにも聞こえた。

それをぶつけられたしんのすけはいまどんな気持ちでいるのだろうか。

(そうだ...私はこんなところで休んでいる暇などない!)

あの巨大化したマサオはあのままではしんのすけはもちろん、アリサや芳桂も殺してしまうだろう。
そんなことがあってはならない。
己の不覚で狂気を発してしまったマサオはこの手で止めねばならない。
痛む身体に鞭を打ち、明は手を地面に着き立ち上がろうとする。

「チッ、不動じゃねえか...おいオメェ!そこから動くな!」

突如投げかけられた声に明は目を向ける。
そこに立っていたのはボロボロの学帽を被った如何にもな不良と、軽薄そうな青年だった。

「...なんだ貴様らは」
「おっと。警戒しないでよ。俺たちは殺し合いに乗ってるわけじゃない。政くんも、そんなに食い気味だと勘違いされちゃうだろ?」
「...チッ」
「俺は崎村貴真。こっちは木刀政。きみになにが起きたかを聞かせてもらいたいんだけどいいかな」
「っ...すまないが先を急ぐ身だ。手短に済まさせてもらうぞ」

本音を言えば二人を無視してマサオの元へ向かいたいところだが、しかし、殺し合いに反するというならばこの二人も守らねばならぬ民だ。
マサオや針目やアーナス、倒すべき父・士郎の危険度を伝えずして見捨てる訳にはいかない。

明は大雑把に語る。
ここに連れてこられてほどなくして針目とアーナスというゲーム肯定者と戦ったこと。
その後にマサオに襲撃され、逃走した彼を追った果てにしんのすけ達ゲーム否定者達と遭遇できたこと。
大人しくなったと思っていたマサオが巨大化し、しんのすけたちを裏切り、自分も投げ飛ばされたこと。
そして、この催しには危険にすぎる日ノ元士郎も連れてこられていること。

「私が伝えるべきことは伝えた。もしも奴らと出会ったらすぐに逃げてくれ。私はしんのすけたちの元へと戻らせてもらう」
「その前に一つだけ聞かせてくれ」

すぐにでも駆けだそうとした明の足を貴真が呼び止める。

288揺れる廻る振れる切ない気持ち ◆ZbV3TMNKJw:2021/09/13(月) 23:36:15 ID:APyishTY0

「もしも俺がマサオくんを殺したらどうするんだい?」
「なに?」
「ハッキリ言わせてもらうけど、俺は自分にかかる火の粉は振り払うつもりでいる。殺されるくらいなら容赦はできない」
「しかし、彼はしんのすけの友達で...」
「俺だって彼を悪党だなんて呼ばないさ。悪いのは主催だからね。けど、彼は裏切って、結局は殺し合いに乗ったんだろう?そんな彼を殺す俺は悪党かい?」
「オイ、貴真」
「政くん。これは俺たちにとっても大事な話だ。君だってその子に不動くんとのことを邪魔されるのはご免だろう?」
「...まあ、な」
「だが彼は子供だぞ!まだ説得の余地はあるはずだ」
「じゃあまたマサオくんが殺しに来たらどうするんだい?」

怒りを出そうとする明に、貴真はズイ、と顔を寄せて語り掛ける。

「きみが出向いて再び彼を取り押さえたとしよう。だが、友達すら裏切った彼が大人しくよく知りもしない君の言うことを素直に受け入れると?
それに、子供だからという言い訳をほかの参加者にも強制させるかい?俺はごめんだね。情けをかけたせいで仲間を一人失ってしまったばかりだから猶更ね」
「ッ...!」
「なあ明ちゃん。きみが彼を殺すつもりがないというのは正しいことだと思う。けれど、それだけじゃ救えない人もいるんだよ。
それを知りながら目を背けるというなら、きみも間接的な殺人者になってしまうんじゃないかな?」
「ちっ、違う。私はそんなつもりじゃ...」
「...すまない。ちょっと言い過ぎた。けど忘れないでくれ。死にたくないと思っているのは誰だって同じだってことを...引き留めて悪かったね。健闘を祈るよ」
「......」

貴真の労いの言葉を背に、明は再び走りだす。

(本当にこれが正しき選択なのか?)

マサオとの戦いでは明は完全に優勢に立っていた。
殺すことを視野に入れていれば勝利は問題なく収められただろう。
けれど、明の躊躇いがその選択肢を無くし、こうして取り返しのつかないことに繋がってしまう。

(だが、それではしんのすけが...!)

例え殺し合いに乗った者だとしても、友人を殺されればしんのすけの精神に多大な傷跡を残してしまう。
マサオだけではない。この殺し合いにおいて彼のように正気を失いゲームを肯定してしまう者はいるだろう。
そういった者まで殺すのが公人としてあるべき姿か?
己に反する者を全て殺す―――それは、日ノ元士郎と同じ歪んだ道ではないのか?

だが、殺さなかったことで再びマサオが牙を剥いたらどうする。己の矜持の為に他者への被害をよしとするか?

自分がどうするべきか、未だ答えは出ていない。
再び戦場へと戻りながら明は苦悩する。


【D-4/一日目/早朝】

【日ノ元明@血と灰の女王】
[状態]:吸血鬼状態、疲労(中)、全身にダメージ(中)、苦悩
[装備]:
[道具]:基本支給品一色、不明支給品0〜3
[状態・思考]
基本方針:公人として殺し合いに乗るつもりはない。主催を打倒する。
0:マサオたちのもとに戻る。その後は...?
1:日ノ元士郎を斃す。
2:もしも貴真の言う通りに、命の選択をすべき時が来たら...?
3:針目縫とアーナスを警戒
4:善、ドミノとの合流。
※燦然党との決戦前からの参戦となります。

289揺れる廻る振れる切ない気持ち ◆ZbV3TMNKJw:2021/09/13(月) 23:36:33 ID:APyishTY0

「もしも俺がマサオくんを殺したらどうするんだい?」
「なに?」
「ハッキリ言わせてもらうけど、俺は自分にかかる火の粉は振り払うつもりでいる。殺されるくらいなら容赦はできない」
「しかし、彼はしんのすけの友達で...」
「俺だって彼を悪党だなんて呼ばないさ。悪いのは主催だからね。けど、彼は裏切って、結局は殺し合いに乗ったんだろう?そんな彼を殺す俺は悪党かい?」
「オイ、貴真」
「政くん。これは俺たちにとっても大事な話だ。君だってその子に不動くんとのことを邪魔されるのはご免だろう?」
「...まあ、な」
「だが彼は子供だぞ!まだ説得の余地はあるはずだ」
「じゃあまたマサオくんが殺しに来たらどうするんだい?」

怒りを出そうとする明に、貴真はズイ、と顔を寄せて語り掛ける。

「きみが出向いて再び彼を取り押さえたとしよう。だが、友達すら裏切った彼が大人しくよく知りもしない君の言うことを素直に受け入れると?
それに、子供だからという言い訳をほかの参加者にも強制させるかい?俺はごめんだね。情けをかけたせいで仲間を一人失ってしまったばかりだから猶更ね」
「ッ...!」
「なあ明ちゃん。きみが彼を殺すつもりがないというのは正しいことだと思う。けれど、それだけじゃ救えない人もいるんだよ。
それを知りながら目を背けるというなら、きみも間接的な殺人者になってしまうんじゃないかな?」
「ちっ、違う。私はそんなつもりじゃ...」
「...すまない。ちょっと言い過ぎた。けど忘れないでくれ。死にたくないと思っているのは誰だって同じだってことを...引き留めて悪かったね。健闘を祈るよ」
「......」

貴真の労いの言葉を背に、明は再び走りだす。

(本当にこれが正しき選択なのか?)

マサオとの戦いでは明は完全に優勢に立っていた。
殺すことを視野に入れていれば勝利は問題なく収められただろう。
けれど、明の躊躇いがその選択肢を無くし、こうして取り返しのつかないことに繋がってしまう。

(だが、それではしんのすけが...!)

例え殺し合いに乗った者だとしても、友人を殺されればしんのすけの精神に多大な傷跡を残してしまう。
マサオだけではない。この殺し合いにおいて彼のように正気を失いゲームを肯定してしまう者はいるだろう。
そういった者まで殺すのが公人としてあるべき姿か?
己に反する者を全て殺す―――それは、日ノ元士郎と同じ歪んだ道ではないのか?

だが、殺さなかったことで再びマサオが牙を剥いたらどうする。己の矜持の為に他者への被害をよしとするか?

自分がどうするべきか、未だ答えは出ていない。
再び戦場へと戻りながら明は苦悩する。


【D-4/一日目/早朝】

【日ノ元明@血と灰の女王】
[状態]:吸血鬼状態、疲労(中)、全身にダメージ(中)、苦悩
[装備]:
[道具]:基本支給品一色、不明支給品0〜3
[状態・思考]
基本方針:公人として殺し合いに乗るつもりはない。主催を打倒する。
0:マサオたちのもとに戻る。その後は...?
1:日ノ元士郎を斃す。
2:もしも貴真の言う通りに、命の選択をすべき時が来たら...?
3:針目縫とアーナスを警戒
4:善、ドミノとの合流。
※燦然党との決戦前からの参戦となります。

290揺れる廻る振れる切ない気持ち ◆ZbV3TMNKJw:2021/09/13(月) 23:37:40 ID:APyishTY0
(あぁ...やはりイイ)

遠ざかっていく明の背中を見つめながら、貴真は己が昂っていくのを自覚する。

(明ちゃんのあの苦悩する表情。あれこそまさに『理不尽』だ)

此処は強制された殺し合いの場だ。誰しもに他者を殺害する権利がありそれを行使しない権利もある。
だが殺さないというのは殺すよりも難しい。
なぜなら相手の意思は自分の意思と同一ではなく、相手にもまた殺す権利がることには変わりないのだから。

(俺の提示した選択肢は、彼女のマサオくん殺さないという意思をほかの参加者から見て『理不尽』なものに変貌させた。果たして彼女がこの先どう転ぶか見ものだね)

この舞台において明はマサオを殺しうる力を持っている。
彼女一人だけであればマサオを制圧するだけで終わる話だろう。
しかし、他者の目を意識させることで、明には苦悩が生じた。
マサオを殺さない明は己の矜持の為にほかの参加者を見捨てる悪党に見えるだろう。
マサオを知るしんのすけから見れば明は友達を殺した悪魔に見えるだろう。
そもそも、命を選別すること自体が公人として相応しくないと思うかもしれない。
実際に他の参加者がどう思うかはその事態が起きてみないことにはわからない。
それよりも大切なのは、明自身が命の選別に対してどう思うかなのだ。

「貴真、オメェさんはこれからどうするんだ?」
「そうだな...」

貴真は顎に手をやり考え込む。

このまま明を追って彼女を見届けるのもいいが、政に仕込んだ悠奈という疑心の種も気になる。
彼女は恐らく殺し合いに反する行動をしているだろう。
もしも政を一人で行動させて悠奈と遭遇した時に、果たして彼は悠奈への警戒心を維持できるだろうか。
もし絆されてしまうようでは困る。それでは殺し合いに乗らない者同士が殺し合わなければいけないという悠奈への『理不尽』が薄れてしまう。
だが貴真の身体は一つだけ。向かえるのはどちらか片方だけだ。

(さて。俺はどっちを選ぶべきかな)


【D-4/一日目/早朝】

【木刀政@デビルマン(漫画版)】
[状態]左腕に矢傷、疲労(小)
[装備]妖刀『星砕き』@銀魂
[道具]基本支給品、ドス六のドス@デビルマン(ドス六の支給品)、チェーン万次郎のチェーン@デビルマン(万次郎の支給品)、ランダム支給品0〜1
[行動方針]
基本方針:不動を止める。
0:不動に一発お見舞いして目を覚まさせる。
1:修平と見知らぬ襲撃者・藤堂悠奈・彰・来夢・佐藤マサオ・針目・アーナス・日ノ元士郎に警戒する。
2:とりあえず北に向かうか

【崎村貴真@リベリオンズ Secret Game 2nd Stage】
[状態]:健康
[装備]: チーターローション残り9/10@ドラえもん コルトポケットもどき@クレヨンしんちゃん ブリブリ王国の秘宝 まほうの玉×9@ドラゴンクエストビルダーズ2 破壊神シドーとからっぽの島
[道具]:基本支給品一式、優木せつ菜のランダム支給品0〜2
[思考]
基本方針 : この殺し合いにおける『理不尽』を楽しむ
1:明と政、どちらについていくかを決める。
2:参加者に『理不尽』を振り撒く
3:来夢ちゃん・せつ菜ちゃんの関係者に出会ったら、この顛末を上手く利用して、『理不尽』を振りまく
※Zルート死亡後からの参戦となります

291 ◆ZbV3TMNKJw:2021/09/13(月) 23:39:01 ID:APyishTY0
投下終了です

292 ◆ZbV3TMNKJw:2021/09/13(月) 23:39:35 ID:APyishTY0
投下終了です

293 ◆EPyDv9DKJs:2021/09/24(金) 03:55:52 ID:lxei8HRM0
投下します

294 ◆EPyDv9DKJs:2021/09/24(金) 03:59:16 ID:lxei8HRM0
 喫茶店を出てから暫くして流れるディメーンによる放送。
 移動の途中で名簿を眺めながら、顔をしかめるアルーシェと夕月。
 双方見知った間柄の名前が連なっており、殺し合いがより悪辣なものだと感じる。
 互いに一緒にに明日を超えたい友人の名前が記された名前のリスト。
 元より動くつもりではあったが、動かずにはいられない。

「ユズ。気を付けてほしいことがあるんだけど。」

 名前の確認を終えたアルーシェからの忠告。
 伝説の半妖アーナス。彼女もこの場に参加者として来ている。
 クリストフォロスから暴走する彼女を助けてほしいと言われたが、
 それを叶える前に此処にいる以上、アーナスは暴走しているのだろう。
 であれば参加者としては危険な存在だ。できることなら止めたいものの、
 活動限界を迎える可能性もある中で止めるのはなかなか難しい話だ。
 此処には拠点もない。安息でいられる時間はそう多くはない筈。
 彼女を倒さず止めるにはアルーシェの力なくしては不可能なのも大きい。

「アーちゃんがいないと止めるのが無理なら、それしかないんだよね……」

 リフレクターは人を生徒の悩みを解決する、いわば人助け。
 アーナスも自分の意志とは無関係に暴走するならば解決したいが、
 此処はリフレクターの姿で活動可能な場所、つまり既にコモンかそれに近しい場所。
 更にアーナスのフラグメントに干渉できるとしても、そんな余裕があるのかは怪しい。
 止めれるのはアルーシェだけということを前提にしておくことを考えておく。

「ユズ、少し待って。」

 人差し指を口元に立てつつ、
 手を横に伸ばして夕月を制止する。

「どうしたの?」

 それに合わせるように小声で会話をする。
 態々小声で話す時点で察してはいたものの、
 とりあえず尋ねておく。

「声がする。」


 ◇ ◇ ◇


「……正直、複雑なんだけど。」

 目の前にある光景に、はるなは口にした通り複雑だ。
 予想はしてなかったわけではない。百人以上の参加者、
 決して否定的な参加者がいないとは限らないことぐらいは。
 一方で予想は付いていた。こういうことは、まああるだろうなと。

「その反応から察するに、これが例の奴か。」

「───彼が伊藤大祐よ。」

 喉笛を噛まれて命を落とした、十四人の反逆者(リベリオンズ)の一人。
 移動中に、近くの家の損傷が見受けられて気になった二人が中を調べてみれば、
 この短時間であっさりと逝ってしまった仲間と遭遇することになったこの状況。
 いや、真っ先に死ぬなら誰かと問われると彼を挙げたくなる程にこの男は無謀だ。
 一応物事が見れるときはあるにはある。現にそれで一度助けられた時なんかもあった。
 しかし普段は黒河相手にマイナスドライバー一本で粋がれるほどに状況を読めない。
 此処で彼が死んでたとしても『まあ大祐だし……』とどうしても思えてしまう。
 これについては、琴美以外に参加してる他の仲間も頷きかねない。

「……」

 いい奴ではなかったし、好きかどうかと言えば嫌いに入る、
 そも強姦未遂も考えれば、邪険に扱いたくなっても無理もない。
 無謀で空気も読めない、協調性はあるものの基本は自分勝手。
 割とボロクソな評価ではあるが。あの時助けてもらったのもまた事実。
 死ぬと分かってもチャラけていたところとかは再び死別した今思うと、
 あれは彼なりの気遣いなのかとさえ思えてくる。自分達が引きずらないように。
 まあ、彼なのでそんな高尚な考えとかは恐らくなかったのかもしれないが、
 なんにせよ死んでほしかった人間かと言われると流石に───

「ベルトが少し緩い。こりゃ何しようとしてたかお察しだな。」

295 ◆EPyDv9DKJs:2021/09/24(金) 04:01:36 ID:lxei8HRM0
 検死をしていた征史郎の一言で、
 僅かに残っていた悲しさも吹き飛んだ気がしたが。
 この状況でも下半身に正直だったらしく頭が痛くなる。
 琴美以外で大祐を気にかけて……と言うよりも、
 監視してたのは他ならぬ彼女だから容易に想像できてしまう。
 欲望に正直にしてたら殺されました。なんて展開が簡単に想像つく。
 襲われた女性が、同じ学生服である真島に変な誤解がなければいいことを願っておく。

「傷からして人間の仕業ではないな……犬とかの類か。しかも訓練されている。」

 食事ではなく仕留めるための傷痕。
 ただの獣がまずできることではない。
 人を殺すにはそれが最適解だと理解している。
 彼としては、訓練された犬と言うのが一先ずの見解だ。

「動物が参加してるってこと?」

「確証はないが、人間が態々喉笛を噛みちぎる理由もないだろう。
 例えばだが、ジャギが人間ではなく獰猛な肉食恐竜なんてのもあるはずだ。
 と言うより参加者に鬼や吸血鬼どころか、パンドラの箱に生ハムまであっては、
 この中で誰が人間かなんてわかるわけがないことだしな。Zルートとはなんぞ。」

「私も知りたいわ。」

 名前だけでわかることなんて高が知れてる。
 実際こうして出会ってみなければわからないことも多い。
 本当に伊藤大祐が、知り合いが参加してると言う事実もそれになる。
 心のどこかでは参加してほしくないとは思ってしまうものだ。
 散々殺しのゲームに参加し続けてきたはるなだからこそ言える。
 こんな場所、修平達には二度と来てほしくなかったと。

「ま、スタンドも含めて異能があるなら、
 獣と言っても、狼男みたいな可能性もありうるな。
 丁度月が出ている。狼男が来るぞーといった具合に。
 それはそうと此処からは一応R指定……って慣れてるから忠告不要か。」

「一応は、ね。」

 借金の為に何人殺したのか。
 既に両手の指では済まないぐらいの人数だ。
 今更彼がやろうとしていることに忌避感とかはない。

「すぐ終わるだろうが、背後気を付けてくれよ。」

「とは言うけど、心許ないわよ。」

 指示されて両手に構えるのは、代行者が持つとされる投擲剣『黒鍵』。
 征史郎の方に支給されてたが、スタンドの都合不要になったものを譲ってもらった。
 確かにシークレットゲームでは刀剣類を使うことはないわけではないが、
 銃やボウガンと言った遠距離武器を使う方が楽に勝てることを思えば、
 こういう武器で戦うのは慣れてなくて不安になるというものだ。

「そこの二人、ちょっと止まって。」

「!」

 見張りに出ようとして早々に相手と遭遇し、黒鍵を強く握りしめる。
 征史郎もスタンドを出せるように振り返っており、できる限りの警戒をしておく。
 相手は刀剣類なので近づかれなければ……なんて甘いことは考えない。

「先に弁明すると、僕達じゃないぞ。
 飛沫している血の乾き具合からそれなりの時間は経ってる。
 と言うより、隠れもせず長時間も死体と一緒の乗った参加者はいないだろう。」

「あ、それもそっか。」

「そんなあっさり納得しちゃうのね……」

 驚くほどあっさりと疑いが晴れるが、
 アルーシェは考えるよりも動いてしまう直情型で、
 深く考えないと言うところも一因ではあったりする。
 はるな達から見た場合は、そも不意打ちせず尋ねる時点でシロだ。
 一応スタンドのような存在から征史郎は警戒を続けてはいるものの、
 すんなり納得してしまうアルーシェと、更に現れた夕月の存在もあって
 早々に疑うことはやめていた。

「どうも、ブサイク大総統だ。」

「ナチュラルに偽名を使わない。」

 ただし、ノリはそのままで。

296 ◆EPyDv9DKJs:2021/09/24(金) 04:04:00 ID:lxei8HRM0
 ただし、ノリはそのままで。


 ◇ ◇ ◇


「流石辺獄だ。ゾンビ映画並に死人が出てくるな。死人のバーゲンセールだ。」

 情報交換してみれば、そんなことを呟く征史郎。
 アルーシェ達は此処に来る以前に元の世界で蘇生されたものの、
 一度は命を落とした存在であるため殆ど二人と似たようなものだ。
 情報交換を終えて言う最初の一言がそれかと三者は内心で思う。
 (無論映画の概念がないアルーシェは完全に理解したわけではないが。)

「半妖にリフレクター、本格的にファンタジーが始まったわね……」

 頭の整理が追いつかずこめかみに手を当てるはるな。
 死者蘇生にスタンドとすでに大概ではあったものの、
 こうして異能を持った存在と出会うと立ち向かう相手は強大だ。
 スタンドと言った異能を味方につけたと言えども一般人に毛が生えた程度。
 自分らがいかに無謀なことをしているのかを、改めて理解させられる。
 だからと言って、この理不尽に対して諦めるつもりはないが。
 理不尽に抗う。それがはるな達二人が持つ意志でもあり、
 リリアーナを犠牲にしなくても済む方法を模索したアルーシェや、
 現実的な物事の考えをする来夢と衝突することもあった夕月も同じだ。

「にしても獣かぁ。」

 獣と言うと、従魔を従えてたのもあってアルーシェにとって一番縁が多い。
 推測通りならば個体次第では人間よりもずっと素早く動くことができる。
 アーナスのように暴れるだけの舞台装置なら、早急に止めなければならない。
 しかし、どうしても困ることが一つ。

(足並み揃えるのは難しいよね。)

 リフレクターで身体能力が上がってる夕月ならともかく、
 他の二人は自分と足並みそろえて走ることはとてもじゃないができない。
 かといって放っておいて動くと言うこともするわけにはいかず悩んでいると、

「!」

 東のそう遠くない場所から光が無数に降り注ぐ。
 青天ならぬ赤天の霹靂に四人全員が反応する。
 あれだけ目立てば反応しない方が無理と言うものだ。

(リリア……じゃないよね。)

 想起するのは親友のリリアーナが放つ光の柱。
 とは言え、今落ちていたのは光と言うよりは雷だ。
 常に間近で見てたので今と視点が違えど、流石に見間違えることはない。
 なので勘違いで一歩踏み出しかけてからは、冷静さを取り戻す。

「向かうか?」

 光が消えた後、征史郎が話を切り出す。
 アルーシェが行きたそうにしてたのもあり、早めに話として切り出しておく。
 あれをやったのが乗った参加者だった場合を想定すると
 はっきり言って、彼自身としては行きたいとは言えない。
 雷に打たれたら普通に死ぬ。スタンドを得ても結局は人間だ。
 得たばかりの力で敵がいる中へ率先していくほど愚直な人間ではない。
 そういうのは、ひねくれてこそいるが人がいい和馬のする役割だ。
 そして此処における和馬と同じ立場になるのはアルーシェになる。
 彼女の意見に合わせた動きをするのが一番正しいだろうと。

「……私が先に一人で行って様子を見てくる。」

「その後を僕たちが追う形での合流か。」

 足並みを揃えていては時間が掛かるので、
 一人で先行するのが一番早くたどり着ける。
 無論二人を放置するわけにもいかないので、夕月に預けるが故の単独行動だ。

「あれだけの威力だと、生存者の望みはかなり薄いわ。」

「派手なら生死の確認を怠ってたり、見落としてる可能性だってある。
 それに、あの雷がダイスケって奴を襲った獣だったら消耗してる今がチャンスだと思う。」

「……って言ってるけど、二人はどう?」

 はるな個人としては反対だ。
 確かにあの場に修平達がいれば向かいたい気持ちはわかるが、
 現状はるなの武器は玲よりはるかに劣るであろう不慣れな剣術での黒鍵のみ。
 安全と呼べるものではなく、警戒心は必然的に四人の中で高くなってしまう。

「私はアーちゃんの意見に賛成。
 助けを求めてる可能性だってあるから。」

 もしかしたら日菜子たちがいるかもしれない。
 自分が一人だったら夕月も向かってたぐらいだ。

「僕はどちらとも言えないが、現状君の存在が最大戦力だ。
 アーナスと言うのに出会ったら、此方は全滅だってありうる。
 だから敵だけだったら一旦退くんだ。どっかの奴も言ってたぞ、戦いは数だと。」

 性格上難しそうだが。とは内心ではごちるも一応は尋ねておく。
 約束と言ってはいるものの、人の考えを簡単に御せるものではない。
 どれだけ計算しても最終的には己の感情で動いてしまうものだ。
 プリズナーゲームで悠が蓮の為に暴走したのがいい例である。
 ましてや、この場でであったばかりの人物であっては余計に。

297 ◆EPyDv9DKJs:2021/09/24(金) 04:05:39 ID:lxei8HRM0
「分かった、先に行って様子を見てくる!」

 問いに答えると、すぐにアルーシェは飛び出す。
 軽快に塀を飛び越えて、そこから屋根へ飛び移って屋根伝いに走っていく姿。
 あっという間に遠くへ行ってしまう姿に残った女性の二人は唖然とする。
 夕月の場合でも、リフレクターならまだしも生身であれだけの動きだ。
 感嘆するのも別におかしな話ではない。

「さて、移動する前にやっておくか。」

 早めに行動すべく、近くで放置されていた大祐の遺体の前に立つ。
 スティッキィ・フィンガーズで首から上をジッパーを取り付けて切り落とす。
 首が転がっていくが一旦放置して、その首に巻かれた首輪を引っこ抜く。
 異能の干渉があると爆発を起こすとルールに記載されているため、
 念のためスタンドではなく自身の手で回収する。

「軽いな。」

 人どころか怪物であろうと殺せるだろう威力を持つ、
 この場においては誰もが逃れられない絶対的な殺傷力を誇る首輪。
 そんな体操なスペックの割には随分と軽くて、少しばかり驚かされた。
 勿論参加者次第でサイズ、威力が調整されてる可能性もある。大祐は一般人、些細な威力でも十分に殺せる。
 とは言え、思えば重さとか首が動かしにくいとか、そんな風に不便さを感じたことはない。
 何で構成されてるのかすら分からない、暗黒物質に等しい何かだ。
 ご丁寧に異能での干渉をお断りと明言してるぐらいなのだから、
 これについて探られたくないのだろう。

(サンプルはあと二個か三個欲しいが、
 こうなると何よりも欲しいのは首輪じゃないな。)

 異能の干渉以外にも懸念するべき点がある。
 今のように人の首を切り離して首輪を取れば、
 解除する手段の模索なんてせずにできるのではないか。
 普通なら不可能だが、今の彼にはそれを容易とするスタンドがある。
 腕を外して痛覚がないのでと、試しに自分の頭を二つに割っても自我を保てた。
 だから首を分断しても意識を保つことは、まずできるだろうと推測済みだ。
 加えて首の分離なら、首輪に対して異能の干渉をしているわけではないため爆破もない筈。
 しかし、流石にそれを行動に起こすことはできない。爆発するような仕様であれば、
 誰かが必ず犠牲になると言う余りにリスクの高い行動になってしまうからだ。
 腕とか頭とかいろいろ自分で外してみたが、あくまで首輪解除以外の範疇での実験。
 流石にディスクが消滅して、戦力と同時に攻略の鍵となりうるこのスタンドを失う。
 そんな可能性のある行動ばかりはとるわけにはいかなかった。
 なので首輪の爆発の可能性がある行為は基本的に避けて今に至っている。
 だから彼が欲しいのは───

(殺し合いに乗った参加者か。)

 ただ乗った参加者ではなく、生きた状態の乗った参加者が必要だ。
 生きた状態で首を分断した場合首輪は取れるのか、取れないのか。
 或いは生きた参加者にそれをやると絶命するようにされてるか、それらの確認。
 恐らくは取れないだろうとは思う。あくまで今回は死んだ人間だから成立した。
 そうとも受け取れる推測がある。取れてしまえば強制された殺し合い全て茶番になるのだから当然だ。
 かといって試さないわけにはいかない。それに、乗った参加者は倒さなければ殺し合いは永遠に終わらない。
 暴走を始めて、処刑せざるを得なかった悠のように。どうしようもないところは必ず存在する。

「お前のことはよく知らんし、人間としては問題のある奴とは聞いた。
 だが、僕も同じような咎人だ。同類として手厚くはともかく弔っておくぞ。」

 物言わぬ躯の首を元に戻してから遺体をスタンドで運んで、
 外へと出れば近くの地面にジッパーを付ける。
 開いた穴へと遺体を少し乱雑だが放り込んで、元に戻す。
 目を閉じて手を合わせ、二人の所へと戻る。

「何してたの?」

「埋葬。」

『これの回収の為だ』

 アルーシェが戻るまでの間、
 夕月達にまだ言ってないことを説明しておく。
 二人から得た情報の整理の為首輪を集めてると言ったことは伏せたが、
 今後の活動の為にも今のうちに説明しておかなければならない。
 誰かのバックアップの役割に徹することは彼の得意分野だ。

298 ◆EPyDv9DKJs:2021/09/24(金) 04:07:10 ID:lxei8HRM0
「とりあえず詳しいことは後だ。
 ただでさえ僕とはるなは平凡だ。急がなければ追いつかんぞ。」

 あれだけの健脚、全力で走っても追いつくとは思えない。
 それでも距離を縮めておかなければならないので動き出そうとするが、

「なるほど、つまり残る一人は相応の腕を持つか。」

 この場で初めて聞く声に、全員が身構えながら振り向く。
 悠奈達から撤退を余儀なくされた男、ギース・ハワードが其処に立つ。

「……気を付けて二人とも。」

 真っ先に彼が危険だと感じたのははるなだ。
 人を殺した経験があるとはいえ彼女は決してプロではない。
 そんな彼女でも、目の前の相手は危険だと察することができる程の殺気。

「小娘の割に場数は踏んでいるか。」

 その割には最初に戦ったエレンのような、
 研鑽された構え方をしているわけではない。
 慣れない得物を握っていると考えてみていいだろう。

(乗った参加者と出会いたいとは思ったが、流石にタイミングが悪いぞ。)

 アルーシェの孤立、もしくは敵を引き連れて戻ってくる。
 その可能性がある中での敵との遭遇はかなり困った状況だ。
 仮に戻ってくるまでに倒せたとおしても、消耗は必至。
 彼女が敵を連れてこないことを願うしかない。

(ユズが戦わないと……!)

 アルーシェがいないのとリフレクターとして戦える都合、
 必然的に夕月は現状この場における戦力としては最も高くなる。
 今は共に戦う仲間ではなく、守らなければならない存在だ。
 だから率先して戦うべく、二人より前へと出る。

「come on Chirudoren!(かかってこい、小童ども!)」

 語るべき物語。本来なら交わることのない、辺獄にて交差する物語。
 一度は屍となった者達が、二度目の生を手にして血染めの辺獄を駆ける物語。

【D-4/1日目/黎明】

【アルーシェ・アナトリア@よるのないくに2 〜新月の花嫁〜】
[状態]:健康、
[装備]:刀剣類@不明
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×0〜2
[思考・状況]
基本:殺し合いには乗らない。
1:光の方に向かう。リリアじゃないよね?
2:リリア、それにユズとはるなの知り合いを探す。
3:アーナスさんを助けるのは難しいかもしれない。
4:獣かぁ。気を付けておかないと
[備考]
※参戦時期は六章、クリストフォロスとの会話〜アーナスの理性を取り戻す前。
※活動制限に関しては後続の書き手にお任せします。
※トガビトノセンリツ、リベリオンズ、ブルーリフレクションの情報を得ました。
 ただしリベリオンズはDルートの為充、琴美以外の人物の情報とは話が合いません。
※刀剣類が何の作品の武器かは後続の書き手にお任せします

【城本征史郎@トガビトノセンリツ】
[状態]:健康
[装備]:スティッキィ・フィンガーズのDISC@ジョジョの奇妙な冒険、伊藤大祐の首輪
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜1(確認済み、武器類はない)
[思考・状況]
基本方針:殺し合いに反抗する。
1:アルーシェが戻るまで夕月達と共に目の前の相手(ギース)を無力化する。
2:はるなを支える。
3:はるな、夕月、アルーシェのの知り合いを探す。城咲充優先で。
4:スタンドでできることを試そう。できて当然と言う認知が大事だ。
5:ついでにスタンドを使える奴がいるか探す、或いは警戒をしておく。
6:あっさりと終わったが、これでいい。語られなかった物語とは、そういうもので。
7:生きたまま首輪が外せるかを乗った参加者で試す。できないとは思うが。
8:首輪について調べておく。

[備考]
※参戦時期は死亡後です。
※リベリオンズ、ブルーリフレクション、よるのないくに2の情報を得ました。
 ただしリベリオンズはDルートの為充、琴美以外の人物とは話が合いません。
※おおよそスタンドでできることを把握しています。

【細谷はるな@リベリオンズ Secret Game 2nd Stage】
[状態]:健康
[装備]:からっぽのピストル@Undertale、黒鍵×2@MELTY BLOOD
[道具]:基本支給品、黒鍵×4@MELTY BLOOD、ランダム支給品×0〜1(確認済み・武器になりうるものはない)
[思考・状況]
基本方針:殺し合いに反抗する。
1:征史郎、夕月と共に目の前の相手(ギース)を何とかする。
2:シークレットゲームの仲間を探す。特に修平、琴美、充を優先。面識はないけど彰も。
3:武器が欲しい。できればボウガンとかの飛び道具。剣は流石につらい
4:予想は付いてたけど大祐に対して複雑な心境……色んな意味で。

[備考]
※参戦時期はepisode Dで死亡した後です。
※トガビトノセンリツ、ブルーリフレクション、よるのないくに2の情報を得ました。

299 ◆EPyDv9DKJs:2021/09/24(金) 04:07:47 ID:lxei8HRM0
【司城夕月@BLUE REFLECTION 幻に舞う少女の剣】
[状態]:健康、リフレクター
[装備]:リフレクターの時の装備
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×1〜3(未確認)
[思考]
基本:殺し合いには乗らない
1:アーちゃんが戻るまで、ユズががんばらないと。
2:ヒナちゃんやライムは今どうしてるんだろ……
3:アーちゃんには死んでほしくない。
4:はるなちゃんとアーちゃんの知り合いを探す。

[備考]
※参戦時期は少なくとも11章以降から
※トガビトノセンリツ、リベリオンズ、よるのないくに2の世界観を理解しました。
 ただしリベリオンズはDルートの為充、琴美以外の人物とは話の顛末が合いません。
※リフレクターの指輪はデフォルトで没収されてません。

【ギース・ハワード@餓狼伝説シリーズ】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(極小)、不快
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×0〜2(確認済み)、スモークボール@大貝獣物語2×4
[思考・状態]
基本:殺し合いに乗り優勝する。あわよくば主催すら越えて最強を示す
1:目の前の三人を相手する。
2:カインにはそれなりの期待
3:ロックは少し程度は期待。
4:ホワイトはどうでもいい。
5:緑達には付き合ってられない。

[備考]
※参戦時期はリアルバウト餓狼伝説での死亡後です。
※ギースの向かう方向は次の書き手様に委ねます。



 城本征史郎の首輪についての考察
・誰でも殺せる割に軽く、首が動かせないと言った不便さは感じない程度の存在感
・異能の干渉は首輪本体のみで、首輪をつけた参加者自身に対する異能の干渉は行える
・スティッキィ・フィンガーズで首から上を切り離せたが、これは死者にのみできると推測
 生きてる参加者にできるかどうかは試さなければ現状ではこれについての調査は不可能

※伊藤大祐の死体(首輪なし)がD-4で埋められました
 スティッキィ・フィンガーズによる埋葬の為通常の手段で発見は困難です

【黒鍵×6@MELTY BLOOD】
はるなに支給。厳密には型月作品で散見されるが
参戦作品の都合MELTY BLOODを出典とする。
十字架を模した代行者が使用する投擲剣にして概念武装で、出典においてはシエルが用いる。
悪魔払いの護符でもある為、死徒を浄化して塵に還す『摂理の鍵』でもある模様。
霊的な干渉力に特化しているため、霊体のサーヴァントにも微力ながらダメージがある。
一方で霊的な存在との戦闘を前提とした武器で物理的な剣としての性能は高くはない。
魔力があれば柄だけでも刀身を精製できる。魔力か、それに類する力があればだが。
投擲の技術も伴うから、作中の代行者には玄人、マニア向けの武器とされている。六本セット。

300 ◆EPyDv9DKJs:2021/09/24(金) 04:08:26 ID:lxei8HRM0
以上で『リビングデッドの呼び声』投下終了です

301 ◆EPyDv9DKJs:2021/09/24(金) 04:21:24 ID:lxei8HRM0
黒鍵の支給は征史郎(のちに譲渡)でした、失礼

302 ◆EPyDv9DKJs:2021/09/24(金) 06:33:30 ID:lxei8HRM0
場所もD-4ではなくE-4でした。すみません

303 ◆s5tC4j7VZY:2021/10/02(土) 20:46:03 ID:hU/q6CJI0
感想並びに投下お疲れ様です!

辺獄平安大合戦
踊れアミーゴはしんちゃん映画の中でも屈指のホラーさがあるみたいですよ……
もし、興味が湧き手を伸ばす機会がありましたら”大人帝国”と”アッパレ戦国”がお勧めです。
実は名簿が確定したときから、しんのすけと危険種となったマサオ君にエルガンダーに搭乗したアリサが話の土台として思い浮かべていました。
ですので、予想外のお言葉は嬉しいです。
同行者と周囲の位置の関係からか大人数を予約せざるを得なかったんですが、捌くのは一苦労しました💦
なんとか完成出来てホッとしています。

本っっっっっ当に最高のssでした!
↑ありがとうございます。書いてよかったと励みになりました。
私なりのロワにおける一つの到達点としてのクレしんのssを書くぞと臨んだので。

ナイトレイドを斬る
悠奈さんは決めたら自分を顧みず行動する姿が印象なので、突っ込ませました。
決意と信念の女はやはりカッコいいですね。
↑同意見です!
ミスターLには悠奈を支えてもらいたいと思います。

誰が私を Who Called Me?
みさえの”母性”を最大限表現したいと思いながら執筆しました。
ただ、放送後が……ですねぇ……

死中の閃き
個人的に能力がバレていないキラークイーンはロワにおいては強いと思っていたので、エレンには腕を引き換えに死を回避という方向にしました。
さぁ、ロックが学校組と交わりどうなるか……楽しみであり心配でもあります。

投下お疲れ様です!
LiarMask
日姫……個人的に八神将の中でも一際悲痛だなと思っています。
彼女はあえて悪となることを選ぶ。
嘘の仮面(LiarMask)を被る。
↑ああ……やはり、その道をすすむんですね……日姫のLiarMaskが剥がれることが起きるのか、注視したいです。

揺れる廻る振れる切ない気持ち
貴真の一見外面がいいのと喋りから政はまだ本性に気づけていないですね。
この状況、貴真が凄く愉しそうにしているのが凄く伝わりました!
理不尽に繋がる種をまかれた明は合流したとき、どうするのか……

リビングデッドの呼び声
読めば読むほど征史郎とはるなのコンビいいな〜と思います!
征史郎の考察は対主催の希望の一つだと思います。
しかし、ギースが襲来。果たしてどうなるか……
『まあ大祐だし……』
「どうも、ブサイク大総統だ。」
↑笑っちゃいました(笑)
一度は屍となった者達が、二度目の生を手にして血染めの辺獄を駆ける物語。
↑おお!好きです!

304 ◆s5tC4j7VZY:2021/10/02(土) 21:40:29 ID:hU/q6CJI0
感想ありがとうございます!

ひぐらしのなく頃に〜沙都子ワシ編〜
執筆していくうちにどんどん真面目にしつつもどこかネタを感じさせる構成としました。
鉄平は沙都子と合流できるのか……ですねぇ

大好きを叫ぶ
いいたいことだけいってその場から離れる貴信はイラつくだろうなと思い、チーターローションを支給品にさせました。
洗脳状態→解除→絶望がこの話の土台でしたので来夢にゴメンねと言いつつ執筆しました……

みんなの夢、わたしの夢
そして支給された時点で、まあそうなるよね。悲しいけどこれがアンプルの役目なの
↑もうそれしかないなと思いつつ執筆しました💦
沼の鬼に癒されるときが来るとは思いませんでした
↑沼の鬼を活用しようということで八房の骸人形で登場させようとだけで当初は私も思いませんでしたが、書いていく内にノリノリとなりました(笑)

笑顔のカタチ
モッコス×支給品で考えながら参加作品一覧を眺めていたら、おっ!ということで支給してしまいました。
冷静に思い直しとクソめんどくさい才にしてしまいましたが、EPyDv9DKJsさんが見事それに対抗する巧みな構成の話を執筆して捌いていただき感謝と同時に申し訳なさで頭が上がりません。

一緒にできること
一見ボーっとしていますが植木の観察眼なら縫の胡散臭さに違和感を持つかなと思いながら執筆しました。
ただ、後のマサオ君とのバトルでは、奇妙な関係みたいになりました💦

辺獄平安討鬼伝
もう個人的にフェザーが少年ジャンプの王道の主人公みたいでいいなぁと思いまして、ジャンプの絶鬼とジャンプ的な話で構成しました。
誤植のライネルには思わず「誰!?」と検索してしまいました(苦笑)
↑ふふふ……気づいてしまいましたか(当たり前だ)いや、もうすっかり誤植に気づかずランドルをライネルと思いこんでいました💦
ごめんねランドルと謝罪しながらwikiでこっそり修正しました……
ナイトレイドを斬る
良いも悪いも悠奈さん!と思いつつ執筆しました。
レオーネの説得は、死んだ後だったからこそ成立したものだと思いましたね
生きてるうちの参戦だと、そこは絶対割り切らないでしょうから
↑ですね!私もそう思います。
実は登場話での(いやはや、死んでもドブさらいかぁ。終わってるねホント。)と
生き返らなくて正解かも。
なんて思えてしまう程の腐った性根。
薄暗い天井がお似合いとも言うべきか。
マッサージ師でやってくことは無理そうで、
乾いた笑いと共に軽く自己嫌悪する。
↑を読んでいて、ちょっぴり切なく感じまして”革命成就の死後のロワ”という条件なら……!とレオーネには悠奈さんの勧誘を受けるルートにしました。
誰が私を Who Called Me?
みさえならデビルマンこと明を受け止めるのではと思い執筆しました。
ただ、やはり……後(放送後)を考えると怖いです。
死中の閃き
心を読まずとも人の心を誘導できるロックだと、
スペクテッドは合わないだろうなと思ってたので個人的に好きです
↑ありがとうございます!私もロックとは合わないだろうなと思っていたので、感想いただき嬉しいです!
伯爵ズが参加者ならばやはり”アンナ”は登場させなきゃなぁ……と個人的に思ってまして、じゃあ、誰の支給品が良いかなと考えていたら藤丸くんかなと(笑)

305 ◆EPyDv9DKJs:2021/11/04(木) 04:40:04 ID:S.cBx8qs0
投下します

306モノクローム・ファクター ◆EPyDv9DKJs:2021/11/04(木) 04:41:11 ID:S.cBx8qs0
 殺伐とした辺獄を歩く人の姿がある。
 甘い生活を望み続けたさとう少女、松坂さとう。
 ベルトルトと出会いつきつけられた究極の選択を迫られ、
 考えた末の結果は、その周囲に視線を向ければすぐにわかることだ。
 殺すか、殺さなかったのか。選んだ選択の結果は───










「……」

 砕けた鎖骨を抑えながらも同行するベルトルト、
 先ほどから何も語ろうとはせず、怯えた表情の赤城みりあの二人。
 二人がいる時点で答えは決まっている。彼女は徒党を選んだというわけだ。

(苦い。苦い苦い苦い苦い苦い苦い苦い苦い苦い苦い───ッ。)

 歯が軋むような音を立て、
 苦虫を嚙み潰したような表情でさとうは歩き続ける。
 理由は大して考えてない。いや、考える余裕がそもそもなかった。
 しおが死んでるかもしれないことを提示されたのもあって余計に混乱する。
 そんな中で辛うじて出せた結論は、純粋に効率を考えた末のものでもあった。
 確かにスタンド、ザ・ワールドは能力もパワーも強い。だが『あまりにも強すぎる』のだ。
 一回の攻撃で分かった。容易に人を殺せる。殺したことすら気づかれないだろうスタンド。
 スタンドは無意識に防御する都合、実質的なオートガードと言う要素も利点になりうる。

 ───しかし。それはさとうだけに与えられた特権かどうかだと別。
 彼女は邪魔をする相手には自分が優位に立てるようにして排除していくのが基本だ。
 (基本的に暴力に頼らない場合におけるやり方でもあるのだが、そこは割愛とする)
 今回は今までの優位との意味が違う。法と言う人間にとってあるべき秩序が存在しない。
 首輪を解除できるだけの技術も、主催の目論見を見抜く知識も彼女にはたりてない。
 此処での優位に立つには『暴力』以外の手段が彼女にはとることが出来ないのだ。
 勿論彼女は必要となれば行動の際、倫理に欠けた行動ができる躊躇のなさが常に存在し、
 スタンドを得たというのもあって、確かにそういう意味での優位は少なからずあるだろうが、
 この力は優位にするためのものではなく、この場である程度対等になれただけに過ぎない。

 仮にこの場で殺したとしても、結局さとうは一人で戦うしかない。
 味方となりうる人物がいない中、ずっと一人でしおを守るか優勝する。
 現実的に不可能だ。まだスタンド以外の異能を持った人物と出会ってはいないが、
 彼女は他の異能を持った存在がいることにすでに気付いていた。

(あれは、間違いない。)

 彼女が殺し合いに乗るのに対して待ったをかけた一番の要因。
 殺すか殺さないか。選択肢を迫られていた最中に起きた出来事。
 それはこの殺し合いにおいては現状、さとうだけが感じ取れたもの。
 いや、厳密に言えば相手側も分かっている可能性は少なからずあるが。
 時を止める能力を自由に行使できるザ・ワールドを持ってたがゆえに察知できた。





 一回だけ『時が止まった瞬間』があったということに。





 時の加速を操る巫女ですら気づけない、時間を支配する静止の時間。
 エスデスが佐神善との戦いで使われた奥の手『摩訶鉢特摩』による時間停止。
 彼女にはそれが誰が使ったと言う認識はなかったものの、すぐに分かった。
 時が止まった瞬間を感じた以上、時間停止能力を持つ人物は他にもいるのだと。
 そして時間停止能力の際は自分も止まった時を認識できた。つまり───相手も同じ。
 この場で得たか、元から持ってたかは関係ない。彼女は時間停止と言う優位を失った。
 他に時間停止を認識してる参加者もいるかもしれない。最早優位に立つことそのものが困難で、
 その中で最もしおと自分の生存が望める結果を選ぶ……即ち、徒党を組む以外にない。
 信用を得るために証人となる二人から離れることもできなくなってしまった。
 だからこうして歩いてはいるものの、全員それなりの運動能力はあれども人の領域。
 何か進展があるわけでもないまま淡々と時間が流れていき、苛立ちは募っていくばかり。

(早くモノクロの世界を終わらせたい。)

 彼女にとって此処は血染めとなった辺獄などではない。
 大事な人と離れ離れになり、モノクロとなった幸せじゃない世界。
 彼女の瞳には白と黒以外は何も色はない。色褪せた世界だけだ。
 しおちゃんに会いたい。しおちゃんと一緒にいたい。
 しおちゃんと共に帰りたい。しおちゃんをずっと愛したい。

「ねえ。」

 この辺獄を彩る空と同じ赤い瞳が、後ろの二人へと視線を移す。
 言葉と同時に身を強張らせるみりあと、逆に身構えるベルトルト。
 身構えるのは当然だが、それに対して意を唱えることはなかった。
 立場上ベルトルトが上だが、力の上下関係は最初から決まってる。
 ザ・ワールド相手にブレードだけではどうにもならないのだから。

「参加者を探せる支給品はある?」

307モノクローム・ファクター ◆EPyDv9DKJs:2021/11/04(木) 04:46:05 ID:S.cBx8qs0
 端麗な姿から紡がれる、淡々とした要求。
 延々と当てもなく彷徨っていては意味がない。
 さとうの支給品の中にも武器以外のものがあった。
 殺し合いを進める為、参加者との接触が図れるものもあるはずだと。

「え、えっと……」

 先ほど首を絞められた恐怖もあって、
 みりあはベルトルトに視線も断りもなく、
 彼女が望んだものを探すべくデイバックを調べる。
 いや、ベルトルトに視線を向けなかったというよりも向けられなかった。
 最初、殺し合いに震えてたみりあを気遣ったのは隣のベルトルトだ。
 大切な人がいるベルトルトと一緒に戦うことを彼女は決めた。
 一緒に、皆で立ち向かわないといけない。そのはずだったのに。

『あぁ、万一その子が殺されていたら、君は願いを叶えればいい』

 その時の虚無のような瞳と矛盾しきった言葉を前に、
 彼女の中で、積み上げられた積み木が根元から崩れかけていた。
 まるでだるま落としで中途半端にずれてしまった積み木のような状態。
 酷くぐらついていて、でも決して崩れてはないためゲームはまた続いている。
 一方で、それは些細なことで瓦解する。ゲームが続けられなくなる寸前の息が詰まる状況。
 続けられなくなるのはゲームではなく、ベルトルトを信頼し続けることではあるのだが。
 言い換えればまだぐらついてるだけで、今にも逃げ出したいと言うわけではないのは、
 彼女にとっての救いか呪いかは、未だに分からない。

 虚無のような瞳と漆黒の意志でも宿ったかのような赤黒い瞳。
 この殺し合いでも上位に入る程に無縁な日常生活にいた彼女にとって、
 二人のそばにいることがどれだけストレスになってるか計り知れない。

「え、えっと……これじゃ、だめ、ですか?」

 使えそうなものを見つけて、震える手でそれを差し出す。
 出されたのは黒いPDA。現代人であるさとうも問題なく使える代物だ。
 説明書も渡してそれの確認を終えると、説明書の方だけを返す。

「使用回数に制限あるけど、使ってもいい?」

 選択肢を与えてるが、事実上の一択でしかない。
 紅い瞳に潜む黒ずんだ瞳孔は蛙を睨む蛇の如く。
 断る理由がないのもあるが、言葉の圧もあってすぐに首を縦に振る。
 ベルトルトもその支給品の説明書を目を通せば、内心で焦っていた。

(まずい……!)

 説明を読めば読むほど、最悪なものを彼女は渡してしまった。
 彼女が渡したものは『参加者が誰と出会ったかが分かる』支給品。
 表記の一例からして、万が一死亡していたら死亡と表記されかねない。
 もしこれで、しおを選んだ結果死亡と表記されるようなことがあれば。
 そうでなくても危機的状況にあった場合、確実に殺されてしまう。
 先程の原理不明な謎の攻撃を避けれる自信などあるはずもなく。

 だからといって逃げたところで確実に殺される。隙を狙おうにも、
 先の出来事から彼女の意志とは無関係に守護霊が防御してくるはず。
 もはやしおの安全が確認さえなければ、この場で死が確定してしまう。
 巨人になると言う最悪の手段さえ、あの攻撃を前にしては取る暇もないと言うのに。
 思案している間も、時の支配者が操らない以上時は止まることはない。
 決断を迫られてる中、そのPDAの機能が情報を開示した。










『神戸しお モッコスと接触 逃亡』










 文字の羅列にさとうは目を張り、
 記された文字の羅列を彼女の声で紡がれる。
 物々しいワードにみりあは強く反応する一方、

「逃げきれた、ということなのか?」

 ベルトルトは追い詰められた状況でも冷静に物事を見て、
 彼女が生きてると言う可能性が高い方へと誘導していく。
 たしかにベルトルトの言うように、逃げきったということは十分にありうる。
 それはさとうも理解しており、これだけで即座に二人を殺しにかかることはしなかった。

「二時間に使用回数が一回増えるって書いてあるから、もう一回試していい?」

308モノクローム・ファクター ◆EPyDv9DKJs:2021/11/04(木) 04:49:56 ID:S.cBx8qs0
 つまりもう一回試した結果次第でお前らは死ぬ。
 再び振り向いたさとうはそのことを口にせずとも瞳で語る。
 依然として状況は最悪を脱したわけではなかったが、

「!」

 二度目を押そうとした瞬間に遠くない位置で降り注ぐ雷。
 自然的なものでないのは月が照らしてる今分かっている。
 誰かがいる、或いは誰かが戦っていると認識するのは当然だ。

「アニ───ッ!!」

 反応が一番強く、走り出したのはベルトルトだ。
 巨人化の際に起きる『道』は、視覚的には雷に近しいものになる。
 一回であれほど乱射するような雷ではないので違うとは言いたいし、
 そも、女型の巨人のサイズは周囲の建物を優に超える文字通りの巨人。
 だからアニの可能性はゼロと言ってもいい事象。巨人化の余波で吹き飛ばすとか、
 そういう巨人の姿にならない程度の物であればもしかしたら別。そんな程度の低さ。
 最後にはどちらかが死ななければならない理不尽で、不条理で、残酷なシナリオ。
 出会わない方が、目的のためになる……そう思っていたのに。

『それで、会って気持ちを伝えるべきだと、思うんです。……大切だって、ことを。』

 彼女が。
 みりあが言った言葉が脳裏から離れてくれない。
 僕はそんな人間じゃない。そう返そうとしてたのを阻まれた。
 出かかった言葉に偽りはない。出会えば苦しくなるだけだ。

 でも、だめだった。
 もしあれがアニで、命の危機に瀕しているのなら。
 助けに行かないという選択肢を取れるような薄情さはない。
 薄情であったのならば、罪悪感に苛まれるわけがないのだから。
 手が届くかもしれない場所にいるのなら、せめてその手を掴みたいと。

「……」

 一瞬さとうは彼が逃げたかと思ったが、方角から違うと察した。
 彼にも愛する人か近しい人がいる。だから動いただけのこと。

「勝手に抱えるから。」

「え?」

 視線を向けると同時に、ザ・ワールドがみりあを抱える。
 あんな力を使う相手が敵なら、しおと出会わせるわけにはいかない。
 自分をスタンドに背負わせ、ザ・ワールドに全てを任せて動かす。
 スタンドの跳躍力を以てすれば、走るよりずっと早く動ける。
 先行していたベルトルトを追い越すのも容易なことだった。


 ◇ ◇ ◇


 建物が燃え盛る平安京の中、
 駆け足で熱帯を走り抜けるのはアルーシェ。

「すでに跡地、ってところか……」

 結構な速度で移動してきたものの、
 戦いは既に終わったことで勝者はどこかへと行き、
 敗者は語ることもなく、ただ躯となって倒れているだけ。
 相手の人物は分からないとは言え、死者は死者。
 軽いものだが哀悼を捧げる。

「すみ、ません……!」

「!」

 遠くない場所で倒れる青年、トッペイの姿を見つけてアルーシェが駆け寄る。
 状態は酷いものの、辛うじて生き延びているのは奇跡と言うべきか。
 そこら中が燃えてる中で情報交換などできるわけがなく、
 一先ず彼を抱えて、その場から離れることを優先とする。
 道中仲間を抱えて軽快に動いていた彼女にとっては、
 人一人抱えるぐらいは難しいことではない。


 ◇ ◇ ◇


「八将神……」

 ある程度距離を取った家にトッペイを寝かせながら情報を共有する。
 リリアーナや夕月の知り合いはいなかったが、重要な情報は手に入った。
 トッペイや千の知り合いに加え辺獄の情報に、何よりも八将神の存在。
 殺し合いを進めるための舞台装置。止めなければ殺戮は永遠に終わらないが、

(ずるい手使ってくるなぁ……本当に腹が立つ。)

309モノクローム・ファクター ◆EPyDv9DKJs:2021/11/04(木) 04:53:30 ID:S.cBx8qs0
 戦った少女は意志とは無関係に動いている。
 無理矢理戦わされることで同情を誘っているのか、躊躇させるためか。
 もし八将神に自分の知り合いがされてたら……などとは思いたくない。
 そうなれば事前に得た情報に齟齬が生じてしまい、あらぬ誤解も生まれる。
 何よりも殺すしかない可能性すら出ているのだから、余計に許せない。

「もうすぐ私の仲間が来るから、
 此処で休んでて。合流場所から離れすぎてるから私は戻るけど。」

「アルーシェさんも、気を付けてください。」

 剣を持ち、髪を縛った後ろ姿。
 千と同じで、何処か不安になってしまう。
 この後ろ姿を最期に彼女と死別するのではないか。
 そんな不安を抱きながら、トッペイは休む。
 焼け焦げた帽子を深くかぶり、月を見ないようにして。

【E-5の何処かの家屋/一日目/黎明】

【立花特平/トッペイ@バンパイヤ】
[状態]:瀕死、全身激痛、焦げ気味、悲しみ
[装備]:焦げ気味のエマの帽子@ラブライブ! 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会
[道具]:食料が抜かれた基本支給品一式×3(千、大祐)、目隠し@現地調達
[思考・状況]
基本方針:千さんの意志を継いで殺し合いを止める。
1:怪我で動けない。
2:千さんの仲間である零、彼女の妹であるみらいを探す。(ただみらいは用心する)
3:ロック、アナムネシスに警戒。
4:八将神のことを他の人へと伝える。
5:千さん……
6:白い服の人(カイン)は無事なのか。
7:あの人(姫和)を止めないと。
[備考]
※参戦時期は第一部終了後。
※八将神の存在を知りました。
※ロックが幽鬼ではないかと推測してます。
※千との情報交換でクライスタの世界観を大まかに把握してます
※アルーシェとの情報交換で彼女の同行者の名前だけ伝えられてます





 アルーシェはトッペイを見つけたあの場所へとすぐに戻る。
 だが夕月達の姿はまだなく、燃えてない家の屋根へ飛び移って周囲を見渡す。

(情報交換してたから時間食っちゃったけど、
 ユズ達はどの辺だろ……火災もあるし離れてる?)

 あたりを見渡しても姿は見当たらない。
 当然だ。彼女達は今アルーシェの下へ向かうどころではない状況。
 その戦いが終わらない限り、誰一人としてくることはないだろう。

(少し待ったらユズ達が来るのを───!?)

 思考を遮るような轟音と大地が砕けながらアルーシェに迫る。
 威力、速度共に小規模の台風かと見まがうほどの一撃で建物を両断。
 それをアルーシェは襲い掛かる攻撃を跳躍しながら避ける。
 避けれたのは僅かに偶然ではあるものの、それだけではない。
 今の攻撃にひどく覚えがあったから。この攻撃はまさかと疑った。
 視線を避けた大地を追っていけば、さらに迫ってくる鮮血に染まったような赤黒い刃。
 咄嗟に剣を挟まなければ、半身が両断されていただろう殺意の一撃。

 血染めの空に加え炎熱の赤で染められた辺獄。
 その中で青を基調とした衣装は、実によく目立つ。
 得物、服装、全てに見覚えがある。否、忘れてはならない。

「私の血を持っているな。返してもらうぞ……その血をッ!!」

 夜の君。
 伝説の半妖。
 またの名を、アーナス。

「───アーナスさんッ!?」


 ◇ ◇ ◇


「ねえ、いい加減別行動しない?」

 北上するアーナス率いる、災禍の集団。
 その中で退屈そうな表情でみらいが言葉を紡ぐ。
 言葉に対して怪訝そうな顔で彼女を見やるものはいない。
 あれから時間が経過して、未だ参加者との遭遇が誰もいないこの状況。
 アナムネシスも沙夜も何も進展してないと分かってるので、
 彼女の言うことはもっともなことだ。

「私のせい、だよね……」

 歩夢が申し訳なさそうに謝る。
 この集団の移動のペースが遅いのは歩夢が一応原因でもあった。
 確かに彼女はノロによって能力は向上してはいるものの、
 それでも高いものとは決して言いきれないのが現状である。
 車のアクセルを踏んでいきなり最高速が出ないのと同じだ。
 まだノロが馴染んでないので、足元も少し覚束ない。

310モノクローム・ファクター ◆EPyDv9DKJs:2021/11/04(木) 04:56:28 ID:S.cBx8qs0
「別に歩夢ちゃんは気にしないでもいいよ。
 どっちかというと、運のなさを嘆いてただけだから。」

 そう言いつつ視線の先にいるのはアナムネシス。
 どちらかと言うと集団を形成してる中で一緒にいると困る。
 戦いの中でいつ不意打ちされるか分かったものではないのだから、
 彼女がいる間に誰かと戦うことにならなかったというのは、
 ある意味では幸運ではあったのかもしれないが。

「こうして一緒になって大分時間経つのに、
 誰にも会わないのは退屈しちゃうんだけど。
 いい加減解散したほうが、アーナスの言う人間減らすのにいいんじゃないの?」

「まあ、それがいいのかしら。」

 沙夜がアーナスの傘下に入ったのはあくまでも情報収集。
 一応道中アナムネシスとみらいから情報は得ているものの、
 それ以上の情報が得られてない現状、此処にいる意味は薄い。
 歩夢は意識が混濁してる影響で全容は把握できてはないので、
 厳密には情報収集を終えてないが……元々一般人であるため、
 集める意味は余りなさそうだとは察している。

「癪だけど同意見よ。」

 みらいがそう思うのであれば、
 アナムネシスも同じ意見になるのは当然だ。
 お互いに探すべき相手は幡田零に集約している。
 出し抜こうとするのはお互い様と言ったところか。

「……ならば私は北へ向かう。後は好きにするといい。」

 全員が言うことを聞くかどうかは別として、
 人間を殲滅させるのが目的のアーナスもこの無駄な時間は見過ごせない。
 それに、沙夜はともかく他の三名は目的のために殺すことを躊躇わないのは察した。
 いい加減人間を殺さねばとはやる気持ちもあるからか、返事を待たずして直進する。
 歩夢に合わせて歩幅を合わせ続けていたというのもあるにしても、
 先程よりもはるかに速い速度で平安京を駆け抜けていった。

「私達も別行動したいけど、そっちはどうする?」

「同行? 冗談を言わないで。
 あの場では私は仕方なく傘下にあるだけよ。
 貴女だって私と一緒なんてお断りでしょう。」

「じゃあ、私も貴女について行っちゃだめかしら?」

 沙夜がみらいの方へ手を挙げつつ同行を願う。
 アナムネシスは遠慮なく乗るつもりだが、
 みらいの方は問答無用で殺す気はないらしい。
 結果が殺すことになるが、少なくともまだ理性的。
 情報収集がしやすい方を狙うのなら、彼女が一番だと。
 と言うよりも、アナムネシスが同行するなとでも言いたげなオーラを出しており、
 同行できそうにもないと言うのも、少なからずはあったりするが。

「でもおばさん、何したいのか分からないんだけど。」

 先ほどもいつの間にかしれっと紛れ込んで、
 軍門に下るのも、真っ先に了承してしまっている。
 そして道中での辺獄の管理人と言った固有名詞の質問。
 ただの乗った参加者にしては、かなり立ち回りがおかしく感じるのも無理はない。

「別に、生きて帰れるならそれでいいだけよ。手段は問わないけどね。」

 嘘ではない。
 沙夜は必要であれば色んな相手と共闘してきた。
 共闘した相手の人種や能力もなんでもありで多種多様に。
 逢魔に属した沙夜の強みと言うべきところだろう。

「ふーん……まあ邪魔しないならいいけど───あれ?」

「……派手にやってるわね。」

 最初に気付いたのはみらいとアナムネシス。
 アーナスの向かった方角で降り注ぐ雷光。
 位置的に到着するには早すぎるし、恐らく彼女に対してのものではない。
 他に参加者がいると思うのが当然ではあるが、

「あれに行きたい人―。」

 気だるげな声でみらいが点呼を取るように確認するが、誰もいなかった。
 全員があれほどの雷光の力を出せる参加者に心当たりがなければ。
 何らかの支給品であっても、それが零や零児、侑と確証が持てるものもなく。
 情報目当ての沙夜としても、アーナスが向かってはしようにもできそうにない。

「じゃあ、解散だね。」

 後を追う理由はなく、そのまま別れることとなる。
 災禍の軍団がばらけたのは幸か不幸か。
 それとも、災が投げられたと思うべきか。
 出会った各々の結果以外、答えなどでないだろう。
 少なくとも、夜の君一人になったことでアルーシェは多少は救われている。

【F-5/一日目/黎明】

311モノクローム・ファクター ◆EPyDv9DKJs:2021/11/04(木) 04:59:52 ID:S.cBx8qs0
【アナムネシス@CRYSTAR -クライスタ-】
[状態]:健康
[装備]:メガリスロッド@ファンタシースターオンライン2
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×0〜2
[思考・状況]
基本方針:優勝して、ヨミガエリを果たす。幡田姉妹に復讐する
1:好きに行動する。アーナスの邪魔をするつもりはひとまずない。
2:あの女(白井日菜子)は、次会う機会があれば必ず殺す。
3:辺獄の管理人、何を考えているのかしら……?
4:幡田零に出会ったら幡田みらいの前で惨たらしく殺す。
5:辺獄の管理人について聞いてきたあの女(沙夜)、何を考えてるの。
[備考]
※参戦時期は第五章『コギトエルゴズム』から
※まだ名簿を確認しておりませんが、幡田みらいの様子から姉である幡田零がこの平安京に居ると確信しております。

【沙夜@PROJECT X ZONE2 BRAVE NEW WORLD】
[状態]:健康
[装備]:炎燐@PROJECT X ZONE2 BRAVE NEW WORLD、死者行軍『八房』@アカメが斬る!、ジャギのショットガン@北斗の拳
[道具]:基本支給品一式×2(自分、沼の鬼)、ランダム支給品×0〜3(自分×0〜1、沼の鬼の鬼×0〜2)
[思考・状況]
基本方針:情報収集。脱出が不可能となったら優勝狙い。
1:とりあえず、みらいちゃんの下で情報収集。
2:本調子を出すには、あと刀一振りね……
3:坊やと出会ったら……
[備考]
※参戦時期は後続にお任せします。
※アーナス、アナムネシス、幡田みらいが双子と関わりがあると睨んでいます。
※名簿を確認して有栖零児がいるのを知りました。
※骸人形と化した沼の鬼達は沼に潜みながら、
 沙夜の後をついていき命令があるまで黙って待機しています。
※幡田みらい、アナムネシスからクライスタに関する情報を得ました。

【幡田みらい@CRYSTAR -クライスタ-】
[状態]:健康
[装備]:万物両断エクスタス@アカメが斬る!
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×0〜1
[思考・状況]
基本方針:管理人の思うようにはなるつもりはない、それはそれとしてヨミガエリの為の魂は集める。
1:お姉ちゃん、待っててね♪
2:殺されなくて良かったね! 歩夢ちゃん♪
3:とりあえず好きに行動して『魂』を集める。
4:ついでだからゴミ(千)を掃除しておかなくちゃ。
5:このおばさん(沙夜)何がしたいんだろ。まあ邪魔をするつもりはなさそうだけど。
[備考]
※参戦時期は六章(二週目)深間ノ街 萌芽から
※名簿を確認して姉の零、並びに千がいることを知りました。

【上原歩夢@ラブライブ! 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会】
[状態]:健康(ノロ)、意識混濁、身体能力向上
[装備]:加州清光@刀使ノ巫女 刻みし一閃の燈火
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×0〜2
[思考・状況]
基本:自分の想いを果たす
1:私だけの侑ちゃんとする。たとえ■してでも
2:みらいちゃんと一緒に行動する。
3:ありがとう……みらいちゃん。貴方のお陰で、私は自分の本当の想いに気づけた
4:同好会の皆に出会ったら……ううん。私は侑ちゃんを選んだ。だから■す
5:沙夜さんは何を考えてるんだろう。
[備考]
※参戦時期は11話〜12話の間。
※ノロのアンプルを注入されたため、ノロが体内に入り意識が混濁しています。
※名簿を確認して、侑並びにスクールアイドルの仲間たちがいることを知りました。










(前よりパワーが……!)

 受け止める刃が重い。
 先ほどの攻撃と言いパワーアップしている。
 これが夜の君。見なかった僅かな時間で成長しているのか。
 いや、自分も成長しているのに劇的な成長が望めるとは思えない。

「アーナスさん、まさか八将神ですか!?」

 自分の知り合いがその枠に収められてる。
 言われたばかりだからつい考えてしまう。
 最もされたくない、最悪の可能性を。

「私の血、返してもらうぞ……!」

 以前よりも意思疎通ができなくなってる。
 トッペイが出会った八将神の少女とは特徴が合わないが、
 そも彼女にとっては口伝ではなく初めて対面した八将神。
 全てが一致するとは思えずえないし、疑念は深まっていた。
 判別する方法は彼女は知らないが殺すことだけだろう。
 殺せば八将神を討伐の褒賞として首輪が外れるのだから。
 もっとも、知ってたところでそんなことやるはずもないが。

「ハァッ!」

312モノクローム・ファクター ◆EPyDv9DKJs:2021/11/04(木) 05:03:01 ID:S.cBx8qs0
 一歩引いてからのヨルドの横薙ぎの斬撃。
 瞬時に屈んで数本の髪の毛が宙を舞う中、
 回し蹴りを一回、二回と軽くたたき込む。
 その戦いは最初に二人が出会ったときのやり取りと偶然だが同じもの。
 一度目は軽く身をのけぞらせて避けられ、二度目はバク転で後退───

「はあああっ!」

 しなかった。
 一回目は僅かにバックステップで無駄なく回避し、
 二回目は『前へ』回転するように飛び、ヨルドを振るう。
 先ほどのパワーに加えて、重力によって上乗せされる一撃。
 今の得物で防げるかは怪しいが、回避が間に合わない。
 防ぐことでしのぐ以外に今できることは





「ガッ!」

「え?」

 なく、それで防ぐことに賭ける。



 はずだった。受け止める攻撃はやってこなかった。
 むしろアーナスが吹っ飛ばされている奇妙な光景だ。
 何が起きたかさっぱりわからなかったが、誰がやったかは分かる。
 アルーシェのそばに黄金の化身が、その筋骨隆々の肉体に違わぬ拳を作っていたのだから。
 その後ろにさとうが、更に後方の物陰からみりあが顔を覗いて状況を確認していた。

「えっと、ありがとう。君名前は?」

 スタンドの方も参加者だと思って、ザ・ワールドへと視線を向けて礼を告げる。
 首輪で気づくべきかもしれないが、状況なのもあってそこはスルーされた。

「……しおちゃん、或いはモッコスかドミノって人知ってる?」

 コントでもやってるのかと思いながらさとうは尋ねる。
 スタンドを傍に置くと『あ、参加者じゃないんだ』とすぐに察して対応していく。
 ベルトルトもそんなやりとりの間に到着し、この場には五人の参加者が集う。

「ゴメン、今まで出会った人と、その知り合いにもいないかな。」

「そう。」

 徒党を組む、と言う方針を選んだにしても先程より穏やかな表情。
 ベルトルトには何があったのかは分からないが、それは無理もない。
 と言うのも、先程移動途中にPDAを使って表示されたもの。

『神戸しお ドミノ・サザーランドと接触 共にする』

 ドミノの人物は全く知らないが、
 少なくともすぐに殺されてはいない様子。
 まずしおの安全がある程度把握できただけでも大きく、
 今の彼女にはそれだけだとしても、心に余裕が生まれていた。

「モノクロが、変わりかけたの。」

 たかだか三十文字にも満たない文字の羅列。
 だけども。その字を見た瞬間世界は変わった。
 色褪せた世界は、ほんのちょっぴりだけ色を取り戻す。
 彼女の瞳と同じ色の赤と、その奥に潜む黒のコントラストに。

「大切な人が無事でいることで、変わったの。」

 アルーシェではなくアーナスを狙ったのはただの偶然だ。
 場合によっては両方殴るつもりだったが、運よくその時は左腕はみりあを抱えたまま。
 両者を短時間で叩きのめせるほどのスタンドのコントロールはうまくなってないのと、
 視覚的に凶悪そうな武器を握ってた、それだけの理由でアーナスを狙っていた。

「だけどこんな夜はもう終わらせたい。」

 大切な人がいなくなる。
 そんなモノクロな世界をいつまでも見たくない。
 ハッピーシュガーライフを、色を取り戻す。

「人間か……ならば殺す。」

 顔面を抑えながらヨルドの刃を向ける。
 確信を得た。この色を、愛を、ハッピーシュガーライフを。
 奪おうとしている相手はあちらなのだと。

 夜の支配者となる男のスタンド、
 明けない夜の世界に君臨した夜の君。
 紅い空に違わぬ、殺意の色を舞台に描いていく。
 その赤の戦場の中に残るアルーシェが選ぶ道は───

313モノクローム・ファクター ◆EPyDv9DKJs:2021/11/04(木) 05:03:19 ID:S.cBx8qs0
【E-5 火災現場/一日目/黎明】

【赤城みりあ@アイドルマスター シンデレラガールズ】
[状態]:喉を圧迫された痕、精神的疲労、恐怖
[装備]:細谷はるなのPDA(特殊機能使用回数:0)@リベリオンズ Secret Game 2nd Stage
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜2
[思考・状況]
基本方針:殺し合いを止めたい。
1:みりあは、どうすればいいの……?
2:自分を殺しかけたさとうと、何か様子がおかしいベルトルトへの恐怖。
3:殺し合いを止められるんだよ、ね……?
[備考]
※参戦時期(?)は、妹が生まれる前の時間からの参戦です。
 参戦時期の都合、グランブルーファンタジーの夢を見ていません。

【ベルトルト・フーバー@進撃の巨人】
[状態〕:右鎖骨が砕けている、右手首に切り傷、精神的疲労、焦り
[装備〕:ブレード、ブレードホルダー&付け替え刃@進撃の巨人
[道具〕:基本支給品、ランダム支給品×0〜2
[思考・状況]
基本行動方針:参加者の殲滅・優勝。もしアニが生き残っていたら…
1:アニではなかったのはよかったが……あれを、どうするべきだ。
2:取り合えず、自身が中心となり対主催者の集団を作る。
3:参加者が最も集まったと思った頃合いを見て超大型巨人になり、エリア一帯を爆破・踏み潰す。
4:定時放送で神戸しおが死んでいた場合、手段は問わずさとうは葬る。
[備考]
※参戦時期は原作第78話、超大型巨人に変化する直前の参戦です。

【松坂さとう@ハッピーシュガーライフ】
[状態]:情緒不安定(それなりに回復)、精神的疲労(少し回復)、右腕に切り傷(包帯を巻いている、処置済み)
[装備]:ザ・ワールドのDISC@ジョジョの奇妙な冒険
[道具]:基本支給品 ランダム支給品×1〜2(確認済み、武器以外がある)
[思考・状況]
基本方針:しおちゃんを見つける。この愛を知りたいの。
1:しおちゃん、待ってて。
2:世界をモノクロにする無駄を排除する。
3:ドミノ・サザーランドを探す。モッコスは確実に殺す。
4:ベルトルトに対する嫌悪。
5:時間停止能力を持ってる人は他にもいるので警戒。
[備考]
※参戦時期は1巻で先生を『説得』した後
※エスデスの時間停止能力を感じました。

【アルーシェ・アナトリア@よるのないくに2 〜新月の花嫁〜】
[状態]:健康
[装備]:刀剣類@不明(少なくとも御刀レベルの頑丈さはない)
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×0〜2
[思考・状況]
基本:殺し合いには乗らない。
1:アーナスさん……ッ。
2:リリア、それにユズとはるなの知り合いを探す。
3:アーナスさんを助けるのは難しいかもしれない。
4:獣かぁ。気を付けておかないと。
[備考]
※参戦時期は六章、クリストフォロスとの会話〜アーナスの理性を取り戻す前。
※活動制限に関しては後続の書き手にお任せします。
※トガビトノセンリツ、リベリオンズ、ブルーリフレクションの情報を得ました。
 ただしリベリオンズはDルートの為、充、琴美以外の人物の情報とは話が合いません。
 途中までであれば結衣とは話が合います。
※刀剣類が何の作品の武器かは後続の書き手にお任せします
※トッペイの情報交換でクライスタ、緑郎、カイン(名前は知らない)の情報を得ました。
※八将神の情報を得ました。

314モノクローム・ファクター ◆EPyDv9DKJs:2021/11/04(木) 05:03:40 ID:S.cBx8qs0
【アーナス(歳刑神)@よるのないくに2 〜新月の花嫁〜】
[状態]:魔力消耗(小)、吸血衝動、人間への激しい憎悪、顔面打撲(軽微)
[装備]:魔剣ヨルド
[道具]:基本支給品一色、不明支給品×1〜3
[思考・状況]
基本方針:『夜の君』としての本能に従い、人間を殺していく
1:この場にいる人間とアルーシェを殺す。返してもらうぞ、私の血を。
2:『人間』を見つけて殺す。移動方向は北。
3:小夜達(傘下)を利用する。
4:『人間』以外の参加者と出会えば、利用できそうなものであれば使役する
[備考]
※参戦時期は暴走状態の頃からとなりますが、
 主催者からの改竄により「夜の君」としての理性だけは取り戻しております。
※また主催者の改竄により「大切なもの」を奪いとったものは、
 「人間」であったと認識させられております。
※人間だった頃の記憶及び半妖だった頃の記憶については、欠落したままの状態です。



※E-5はバアルの影響で周囲はかなり荒れていて、火災も起きてます。



【細谷はるなのPDA@リベリオンズ Secret Game 2nd Stage】
赤城みりあの支給品。元々は細谷はるながシークレットゲームに用いてたPDAでナンバーは3
シークレットゲームで主軸となる機械。本ロワでは改造されている。
クリア条件を満たすと支給品が貰えるボーナスアイテム。満たせなければ特殊機能だけのアイテム。
他のプレイヤーに対して三回以上、相手から認識されずに危害を加えることがクリア条件。
なお2ndは『プレイヤーを殺害した他プレイヤー全員の死亡』である為、
極めてクリア条件が厳しい為実質クリア不可能。ないものと思った方がいい。
特殊機能は元々『プレイヤー同士の接触情報を閲覧出来る』と言うものだったが、
本ロワではメタ的に『対象のプレイヤーがその時間帯に登場した話で接触した人物』が表示される。
作中で言えば『神戸しお』を対象にした結果、深夜に登場した『女の子の体って何でできてる?』で神戸しおが接触した人物の名前が表示。
なお行動を共にした場合は『共にする』、殺害した場合は『殺害』と大雑把だが多少の内容はあるが、
運営が手動で入れてるものであるらしく、かなりいい加減だったりする(流石に原作程沈黙はしないだろうが)
使用回数は二時間に一回使用回数が増える。原作と違い所有者がこれを手放しても死ぬことはない。

315 ◆EPyDv9DKJs:2021/11/04(木) 05:05:11 ID:S.cBx8qs0
以上で投下終了です
人数が多い為何か不備があったらすみません

316 ◆EPyDv9DKJs:2021/12/16(木) 22:28:47 ID:WC5iqTOQ0
投下します

317 ◆EPyDv9DKJs:2021/12/16(木) 22:30:23 ID:WC5iqTOQ0
 戦闘開始の合図は一人のリフレクターによる変身だった。
 フリルが多分に盛られた服装と少女アニメのような桃色のバトンは、さながら魔法少女のような格好だ。
 来夢や日菜子よりも優れた素早さを持つ夕月は、一刻を争う戦況おいて先手を取りやすい。
 バトンを二つに折って両手で回転させると、多数の魔力の球が軌道を描いてギースに迫る。

「フン!」

 一発一発丁寧に弾丸を打ち払うか、回避しながら迫ってくる。
 確かに数は脅威かもしれないが、それは質より量と言ったところのもの。
 若かりし頃に相対した男、リョウ・サカザキの虎皇拳の威力とは比べるまでもない。
 加えて彼女が放つストリベリーコメットは防御が意味をなさない攻撃でもある。
 ある意味ではその行動は最適解とも言えるだろう。攻撃こそが最大の防御なのだと。

 此処に黒鍵を眼前でクロスさせながらはるなが肉薄。
 人数差を利用した、シンプルな波状攻撃。
 通常の銃と違い夕月の攻撃は彼女が制御するもの、
 つまり流れ弾が当たることは基本的には存在しない。
 殺し合いの経験から、彼女も十全にこの状況で立ち回れる。
 弾丸を次々と弾いてるギースへと迫り、足を狙っての一閃。
 仲間がいる以上、自分が率先してとどめを狙う必要はない。
 皮肉にも二桁近く殺し合いに参加したことで鍛えられた健脚は、
 少なくともギースとしても見るものはあった。

「疾風拳!」

 だからどうした。
 彼女が殺し合いで鍛えられたと言っても、
 ギースは餓えた連中が集いしサウスタウンを裏で牛耳る首領。
 常日頃から死と隣り合わせ、常日頃から鍛えてるギースと対等のはずがない。
 刃が迫る寸前には後方へ跳躍しながら青い波動が数発ほど迫る。
 もしこれが蒔岡玲であれば両断と言う道を選べただろうが、
 剣術の経験は素人レベルのはるなにそれはできない。
 空振りに終わった攻撃の隙で満足に動くことは出来ず、

「ふむ、それは困る。」

 スティッキィ・フィンガーズが腕にジッパーを取り付けて伸ばす。
 本来射程距離2mと言うスタンドのルールを無視できる特殊な例だ。
 射出された腕がはるなを掴んで、征史郎のところへ引き戻される形で大事には至らない。
 しかし、それは征史郎としてはやりたくなかったことではあった。

(手の内を知られたくはなかったんだがな。)

 スタンドは己の意志一つ出し入れ自由、
 動作も自分がする必要がないため怪しまれることもない、
 言うなれば武器を持たない無力な人間を装うことができる。
 暗殺、不意打ちにおいてはとてつもない性能を持っていた。
 隙を狙うには最も適していたし、何よりこのスタンドは殺傷力が段違いだ。
 純粋な破壊力もスピードもこの舞台で判明しているスタンド二種とほぼ同等のステータスを誇り、
 攻撃も当ててしまえば相手をばらばらにして再起不能も、殺害も容易にできるスタンド。
 だから伏せたかった。乗った参加者から首輪を外せるかどうか実験の為にも。

「タン・フー・ルーがやっていた奴の亜種か? 自由度は高そうだな。」

 出さざるを得なかった。あれが一撃即死の可能性だってあるし、
 そうでなくとも此処で三人と言う優位を崩すわけにもいかない。
 仕方ないとは言え見られた。せっかくの貴重なカードを切らざるを得なかった。
 無論はるなを責めはしない。相手もスタンドに匹敵する何かを持つ可能性は十二分にあったのだ。

「だが貴様も、所詮は餓えを知らぬ人間だな。」

 出し渋っていたと言うことは相応の切り札。
 あの状況で救援が間に合う速度から察するに、
 不意打ちで拳を受ければギースであっても直撃は免れない。
 だからそれを優先すればよかったと言うのに救出を選んだ。
 ただの一般人に殺意がない奴、更には不殺を掲げている二人組。
 甘い連中ばかりにしか出会わない。今の期待値が高いのは先程の金髪の女ぐらいだろう。
 別に求道者のような強者を求める性分ではないが、出会う奴は揃って期待外ればかり。
 満足に戦える相手がろくにいないと言うのは、双子の姉妹に物申したくなる。

318 ◆EPyDv9DKJs:2021/12/16(木) 22:31:23 ID:WC5iqTOQ0
「烈風拳!」

 着地しながら腕を振り上げ、大地を裂く文字通りの烈風。
 すぐさま離れると二人の間を分かつかの如く、烈風が駆け抜ける。
 二人が分かれればその攻撃は当然後方にいた夕月へと向かうも、
 此方は跳躍しながら回避し、魔力を込めたバトンを振るい魔力の塊を飛ばす。
 今度は量より質の攻撃になるグレグレーン、払うことはせず回避を優先とする。

「!」

 サイドステップで横へ飛ぶ形で回避を優先としたが、
 スタンドを出しながら全力疾走で肉薄する征史郎と、
 はるなが投擲した黒鍵によるダブルアタックが迫る。
 黒鍵を投げナイフの要領でできるものではないが、
 運よく真っすぐに飛ばせたし速度も十分早い。

(前衛が僕とはな。)

 先ほどのジッパーをつけて飛ばすところを見られた以上、
 不意打ち以外で攻撃したところで当たることは期待できない。
 射程距離を限界まで縮めてスタンドのパワーを十全に発揮させる方がまだましだ。
 何よりこの面子で安定した前衛の役割ができるのは、自分になるだろうと。
 サイドステップと同時に放ったことで、僅かといえど空中にいるギースでは黒鍵は回避は困難だ。
 先ほどの魔力の塊と違い防ごうと払おうとも、刃物である以上ただでは済まない。
 疾風拳で逃げる可能性もあるが、その隙を自分が補えば問題なかった。
 だからと油断をしないで警戒を高めながらスタンドが右ストレートを準備する。

「惰弱!」

 まさか、そうしてくるとは。なんて彼は一瞬思ってしまった。
 異能だとか人間離れした動きでの対処ではなく、
 飛んできた黒鍵を『素手で刃の部分を掴む』を選んだ。
 勿論無事ではない。素手で握ろうものなら容易に出血する。
 刃を血に染めながら掴んだ黒鍵を、そのままスティッキィ・フィンガーズの拳へ突き刺す。

「───ッ!!」

 スタンドはダメージを受ければフィードバックを起こす。
 説明にはあったので驚くものではないが、痛みは壮絶なものだ。
 鋭い痛みと共に中指が薄皮一枚でぶら下がる程に斬られ、手の甲を貫くように突き抜ける。
 当然痛いどころではない。澄ました、或いは仏頂面であった表情は、
 一瞬にして苦痛に歪んだものへと変わっていた。

「こっちは……四度も刺されてるんだ。」

 一瞬にして思考を切り替えて、黒鍵が突き刺さってままで左手で拳を作り振るう。
 死ぬ時と比べればどうと言うことはない。命尽きるのと中指一本どっちが大切だろうか。
 むかつく奴に向かって中指を立てられないなら、左手でやればいいだけの話である。
 楽器が色々弾けなくなるのは、管弦部としては致命的かもしれないが。

「少しはやるらしいな。」

 しかし、だ。それだけの覚悟を以てしてもまだ足りない。
 腕を掴まれ、そのままギースの後方へと投げ飛ばされる。
 拳を防がれてたらそれで攻撃は成功だったが、腕では別だ。
 どれだけ一撃必殺の力であろうとも、当たらなければ意味がない。
 多少の捨て身でも拳を当てに来たのが見えていたギースにとって、
 『拳に絶対的な自信を感じた行動』と感じた反射的な行動でもあった。
 相手が格闘家として卓越された人物、と言う不幸が招いた結果でもある。

(此処!)

 まだ終わらなかった。
 征史郎の攻撃が、ではない。
 ギースが彼を投げ飛ばしてみれば、
 いつの間にかはるなが接近していたから。
 既に黒鍵の刃が刺さる間合いに入り、再び足元を狙う。

「遅い、Razing Storm!!」

 刃が触れるよりも早く、
 両手を交差させながら掲げて地面に叩きつける。
 牙のようなオーラの波が前方に噴出し、はるなを吹き飛ばす。
 そして波を立てることで空中にいる夕月からの攻撃も防ぐ、
 攻防において優れた一手を選んでいた。

「チッ!」

 全てがギースになすすべもなく、と言うわけではなかった。
 夕月が使った相手のいる場所に直接影の球体を出すシャドウゲインは、
 純粋な飛び道具ではないのでレイジングストームをすり抜けてダメージを与える。
 彼が技を先に出したことで、夕月は他の攻撃方法を変えることを選んだ。
 とは言え、これは自分の体力を犠牲にして使う技。おいそれと乱用はできない。

319 ◆EPyDv9DKJs:2021/12/16(木) 22:32:29 ID:WC5iqTOQ0
 二人を一瞥した後、後方の上空を見上げるギース。
 そこにはジッパーを取り付けて伸ばしたスタンドの拳が迫っていた。
 射程を伸ばした攻撃をしていたのでしてくると予見し、それが的中する。
 風切り音が耳に届くぐらいぎりぎり首を傾けることで回避し、間のジッパーを思いっきり引く。
 引けば当然空中にいたスタンドごと征史郎を引き寄せて迎撃を図るが、
 スタンドに刺さっていた黒鍵を自分の手で引き抜いてブーメランの要領で投げる。
 はるなほど卓越されてはないが、ギースと言えど生身で刃を受けるわけにはいかない。
 早々に手を離し、征史郎の着地点に疾風拳を使いその反動で軽く距離も取る。
 地面に強引に叩きつけられる征史郎だが、代わりに疾風拳はスタンドのガードで防ぐほうに回し追撃を防ぐ。

「このギース・ハワードも知らぬ力がまだまだあるらしいな。
 周囲に気を配る戦いをすれども、その上を行く可能性は考慮するべきか。」

 着地した後、後方の夕月を見やる。
 ダメージを受けて右胸に手を当てているが、まだ余裕の表情だ。
 この舞台とは別の世界線を辿った彼はオロチの力やデビル因子と、
 数々の特殊な力に興味を持った。故にスタンドやリフレクターも興味深い。
 あわよくば手に入れたいと言うのが、あくなき欲求を持つ彼らしいとも言える。

「……ハワードって、ロック・ハワードは家族なの?」

 名簿には同じファーストネームの名前があった。
 この殺し合いには自分と来夢に限らず、家族絡みの参加もあると。
 彼もそうなのかと、同じように地面に着地してから夕月は尋ねる。

「同姓同名でもなければ、息子だろうな。」

「家族がいるのに、殺し合いをするの?」

 自分と同じく家族が殺し合いに巻き込まれている。
 会えるなら会いたいし、心配だって今も尽きない。
 現実的で合理的、こういうので生き残るなら来夢の方だとしても。
 家族と言う存在が大切だからこそ、夕月は目の前の男を理解したくなかった。
 息子を放っておいて殺し合いを加速させる父親など、誰が望むものか。 

「なるほど。家族同士で殺し合うなどはやめろ、と言うことか。
 大方貴様も身内がいるらしいな。ハタダかノハラか……まあ、どうでもいいな。」

 あくまでそれは一般的な倫理からくるもの。
 相対するのはその基本的な倫理など、とうに捨てた男。
 でなければ、数々の悪行を平然となせるものではない。
 己の欲が為に人を何人も殺め、最終的にその怨恨が死へと繋がったが、
 死んだところでそのありようは変わらない。誰かの悪夢、それがギース・ハワード。
 一応ロックに思うところがないかと言われると多少は気にかけている。
 現に評価が下がりきったホワイトよりは期待してるのだから。
 もっとも、そこに親子の愛情と言うものはまずないだろうが。

「貴様が思い描くような家族など、私とロックにはないと言うことだ。
 それで、時間稼ぎはあと何分かけるつもりだ。後ろの奴ですら使い物になるか怪しいぞ。」

 敵と悠長に会話をするなど時間稼ぎ以外にないことは分かっている。
 レイジングストームで吹き飛ばされたはるなは三本目の黒鍵を杖代わりに夕月の後ろで立ち上がり、
 征史郎も右手の負傷をジッパーで強引に止血させながら、なんとか立ち上がっている。

「全く、出鱈目な強さだ。本当の鬼くびれ大羅漢かお前は。」

「オニクビ……なんだそれは?」

 いつもの戯けたことを口にする征史郎だが、半分愚痴に近い。
 数分にも満たない程の攻防を繰り広げたが、結果はどうだ。
 三対一で戦ったのに多少のダメージと手に傷を与えただけで、
 こちら側の損失はそのダメージにとても見合ったものではない。
 恐ろしいのが、気やオーラの類を使うがそれ以上のことはしてこないのだ。
 それ以外はほぼすべてが生身の人間の立ち回り。同じ人間かと疑いたくなる。

「ただの愚痴だ。きにしなくてもいいぞ。
 一先ず此処はこの手で行こう。若干賭けだが仕方ないとする。」

 征史郎がポケットから出したのは何かの翼のようなもの。
 鳥類の翼ではない。例えるならばドラゴンのようなものになるか。
 一体どんな効力があるのかと思って眺めれば、征史郎の姿が瞬時に消える。
 背後や頭上などの死角を警戒して辺りを見渡すが、辺りには人の姿はない。

「……なるほど、超能力の類か。」

 そう、人の姿はない。それははるなも夕月も同様にいなくなっている。
 あるのは征史郎が投げ返したまだ無事な黒鍵と、レイジングストームで破壊したほぼ柄だけの黒鍵。
 この手の転移には覚えがある。秘伝書争奪戦の中心にいた秦兄弟も似たようなものを持つ。
 兄弟と違い戦闘の為に使ったのではなく、逃走の為に使ったと言うことはこの静けさから察する。

(恐らくだが遠くには行ってないはずだ。あれを試してから探すとしよう。)

320 ◆EPyDv9DKJs:2021/12/16(木) 22:34:02 ID:WC5iqTOQ0
 転移の類があっては殺し合いが滞る可能性がある。
 そうギースは推測して周囲を徘徊して探すことを選ぶ。
 ついでに、別の目的もかねて。



 ◇ ◇ ◇



「うまくはいったか。『仲間』も判定とは融通が利く。」

 見覚えのある家屋の壁にもたれながら、小さな声で征史郎が呟く。
 普段通りの彼ではあるが、ほぼ指がちぎれかかった状態に脂汗が顔中に浮かぶ。
 殺された分だけ何度も支えた包丁の痛みの方がましにすら感じてくる。
 自分ですらよく気を失わないで保っていられるなと自分で褒めたくなっていた。
 見上げる天井には穴が開いており、血染めの空を眺めることができる欠陥住宅。
 今いる場所は覚えがある、伊藤大祐が遺体として発見された殺人現場だ。
 征史郎の支給品である『りゅうのつばさ』によって行ったことのある場所へ三人は飛ばされている。
 アルーシェ達と出会った際に別の場所で情報交換をしたと言えども、ギースのいる位置とはかなり近い位置。
 余り大声を出さない方がいいと判断して、小声で会話をすることに専念していた。

「せー君、右手見せて。治すから。」

「治せるのか?」

「ユズは回復もできるんだよ。」

 手に魔力を込めて、差し出された右手にかざす。
 指はほぼギリギリ切り落とされてなかった状態にジッパーでつないでたが、、
 無事に接合して右手の風穴も瞬時にふさがっていき、痛みも引いていく。

「全国の医者に謝罪したほうがいいレベルのものだ。」

「褒められてるの?」

「一応誉め言葉だ。気にせず受け取るがよい。」

 指を軽く動かすと中指はまだうまく動かせないが、
 手のダメージが実質なかったことに出来たのは大きい。
 ジッパーを消しても出血することもなかった。

「そっか、ありがと。次は───ッ。」

 回復を終えると、大きな魔力の消耗に一瞬だがふらつく。
 消費が普段よりもかなり激しい。元々夕月の魔力の総量は、
 日菜子や来夢よりも劣っているのに加えて、首輪による回復に関する制約。
 予想はしてた。これだけの傷を治せるものがあっては殺し合いにはならない。
 回復量が少ないのかと思って一瞬安堵しかけたが、消耗を上げる形で設けられていた。
 元より瀕死の状態からでも十分回復できるリーフセイヴァーだ。乱発は当然できない。
 これ以上使えば、今度は戦うだけの力が残るかどうかが怪しくなってしまう。
 三対一でも優勢とはとても言える状況ではない中で自分が戦力外になれば、
 いよいよこのチームは瓦解するであろうことも十分に理解していた。
 だからはるなに対して使うべきかを躊躇ってしまう。
 困ってる人がいたら助けるのがリフレクターなのに、
 手を伸ばさないと言う選択肢が出て軽く嫌悪する。

 ではアルーシェの下へ向かって逃げるべきか。
 はるなを治そうと治すまいと、それは困難だろう。
 治せば戦力外になりかける自分を守りながらの逃げ、
 治さなければ負傷したはるなを抱えての逃げ……どちらも厳しいものだ。
 征史郎か自分のどちらかに殿を任せて、残る一人がアルーシェを呼んでもらう。
 勿論それは論外だ。三対一でこの状態、一人にすれば確実に殺される。
 誰かを犠牲にする……来夢だったら少し考えてた可能性はあるだろう。
 効率的にフラグメントを集めようとする彼女とは何度か衝突したことを思い出す。
 (とは言え死なせるつもりはなかったので、この状況でも犠牲にはしないだろうが。)
 それで衝突した夕月も当然、そんな選択肢を取れるわけがなかった。
 かといって自分が殿を務めても生身の征史郎では移動速度に限界がある。
 長時間はるなをかばいながら戦うことなど、とてもできるものではない。

「私には、使わなくていいわ。」

321 ◆EPyDv9DKJs:2021/12/16(木) 22:35:34 ID:WC5iqTOQ0
 それを察してか、はるなは壁に手を当てながら立ち上がる。
 確かにダメージが大きいが征史郎と違い欠損はしてるわけではなく、
 見た目こそ攻撃を受けたことで腹部を中心に制服がそれなりに破けていて痛々しい。
 しかし、骨折と言った行動に致命的な支障がでている状態でもない。
 内臓へのダメージの方で血反吐を吐きそうにもなってたが。

「でも───」

「此処で三対一の数の利がなくなったら終わりよ。」

 多勢に無勢は本来有利であるはずだ。
 あの叛逆で最も殺しの経験があったはるなと瞳でも、
 生き残ることはできなかったのは武装もあるが数の差も一因する。
 相手はどうしても手数が少ない。その利を捨ててまで自分を治すのは、
 対価やデメリットを考えればしないのが現状最良になるだろう。

「でも前線は難しいわ……征史郎、多分投擲もうまくできないから返すわ。」

 まだ余っていた黒鍵四本を返却しておく。
 投擲はともかく、剣として使うなら征史郎の方がまだ使えるだろう。
 スタンドの都合二刀流を二人でやるなど、一応戦術の幅は広がると言えば広がる。
 経験は皆無なので付け焼き刃でしかないが。

「夕月の方に銃とかボウガンってない?」

 やはり銃と言った遠距離武器の方が性に合う。
 出来れば負担の少ない代物を願いたいが、二人の支給品にはない。
 支給品を共有してない夕月の方にならあるかもしれないので尋ねておく。

「そういえば一度も確認してなかったかも……」

 元々リフレクターで変身できていた身だ。
 アルーシェと違い武器が必要と言うわけではなく、
 特に確認を促されたわけでもなかったので初めて手を付ける。

「まだ、勝てる見込みはあるだろうな。」

 確認したいくつかを見て、征史郎は思案する。
 あれだけの怪物のような人間をどう攻略するのかを。





 周囲を散策すれども、まだ相手は見つからない。
 長距離移動できないと言うのはあくまで推測だ。
 このエリアにはいないのではと思いながら、三人が見てた方角を見やる。

(向こうに仲間がいるようなことを言っていたな。)

 運よく距離を取れたことで、そっちへ向かったのか。
 仲間はかなりのスピードを持つ。となれば強敵の可能性はある。
 仕留め損ねた得物も探しにそっちへ向かおうと歩を進めるが、
 一つの家を通り過ぎたあたりで、そこから出てくる夕月とはるな。
 足音に気付き、ギースが振り向く。

 変わったことは二つ一つだけだ。
 はるなが持っているのは黒鍵ではなく、
 紅色と水色のコントラストが美しいボウガンと思しきもの。
 芸術品としても一見の価値があるようではあるが、此処では武器の類だ。
 もう一つは、征史郎の姿がないことぐらい。

「ほう、姿を見せてきたと言うことは策があるのか。
 眼鏡の小僧は……まあ、大方この塀の向こうだな。負傷した身でよくやる。」

 一人だけいない征史郎だが、
 近くで隠しきれなかった足音ですでに気付いている。
 今、自分の隣にある塀のすぐ向こう側にその姿があることぐらい。

「む、やっぱり気付いてるか。
 素人では不意打ちは通用しないと言うことか。」

 ばれてるなら隠す意味もないだろう。
 そう言わんばかりにさも当たり前のように声を出す。

「それで、私をどう攻略するつもりだ?」

「……ヘイルローズ!」

 バトンを二つに折ると、魔力で構成されたリボンがうっすらと浮かぶ。
 それを鞭のように振るい、リボンの乱舞がギースを襲う。

「TooEasy! 先程と同じで芸がないな!」

322 ◆EPyDv9DKJs:2021/12/16(木) 22:36:37 ID:WC5iqTOQ0
 ストロベリーコメットと同様に、
 攻撃をいなすか避けるかと変わらない行動。
 大した違いを感じ津、落胆気味の表情をしていた。
 攻撃方法が違うだけの展開だが、勿論そこから先は違いがある。

 彼女から少し距離を取り、はるながボウガンを構えて矢を数発放つ。
 矢がリボンに当たらないように変わらず足を狙った攻撃だが、
 たかが複数のボウガンの矢。ギースならば止めることは容易であり、それを掴む。
 しかし───

「何!?」

 はるなが放ったのは確かに矢の類だ。だが、全てが掴むことを許さない。
 正確には、掴んでも矢の一部がすり抜けて紅の袴を裂いて膝の肉を削ぐ。
 掴んだ部分も肉が抉れるような痛みが感じるだけだ。

 矢の正体は───水。そう、はるなが使ってるのはつまるところ水鉄砲だ。
 勿論、ただの水鉄砲が人間の肉を削ぐだけの威力など撃てるはずがない。
 ある少女達が敵との戦いに使うためのれっきとした石弓である六花の水弩は、
 人を殺すには十分な殺傷力を持つ。

「ヌゥ……!」

 膝をやられたことで先程よりも前進できる距離は短い。
 ギースと言えども足のダメージを無視できるものではないが、

「追撃だ。」

 音を頼りに征史郎が空へと黒鍵を四本すべてを投げる。
 ぐるぐると回転しながら、血染めの空へと飛んでいく。
 言わなければ風切り音だけを頼らなければならないが、
 宣言されたことで空にもギースは注視せざるを得なかった。
 宣言通りに空には黒鍵が乱雑に宙を舞っているが、

(いや、罠だ!)

 ヘイルローズで黒鍵を弾かれる可能性がある中、
 これが決定打になりうるわけがなかった。
 警戒させる為の注意を逸らす囮だと気付き、
 視線は塀の上からの征史郎の奇襲に備えるが、

「上だと思ったか。」

 当然違う。
 ギースにはまだスタンドの能力が明確に把握されてない。
 だから壁にジッパーを付けてそこからくることは想定できなかった。
 上を見やるギースを皮肉るような言葉と共に壁の中から姿を見せる。
 いくら柔軟な思考をと身構えたところで、限界はあるもの。
 特に、一つの能力で多彩すぎるスティッキィ・フィンガーズ相手では。
 これでもまだ使用者である征史郎でさえ全容を把握してないのだから恐ろしいものだ。
 加えて、まだはるなが石弓をもって文字通り湯水のように矢を飛ばしてくる。
 三者全員の攻撃をそれぞれ相手していた先程と違い今度は一斉。
 ギースでも反応しきれるものではない。

「チィ!!」

 此処は距離を取らねばならない。
 黒鍵は囮だとしても『当たるかもしれない』は拭えないので、
 実質四つの攻撃が迫ってる中で攻めに入るのは不可能なことだ。
 リボンを払い、疾風拳を征史郎に狙いを定めながらその反動で距離を取る。

「させない!」

 ヘイルローズで疾風拳を相殺。
 そのまま空中のギースを狙い、追い詰める。

「侮るな小娘!!」

 リボンを無数の疾風拳が防いでいく。
 元々阿修羅疾風拳で大量の疾風拳は出来る。
 とは言えそれは大技の為であって、防御策には非ず。
 一応攻撃には繋がっているがヘイルローズで次々と防がれている。
 そのまま反動でさらに距離を取ってリボンの射程から離れたところで一旦打ち止め、

「逃げるのはなしだ。」

 した瞬間、スティッキィ・フィンガーズの右腕に足を掴まれる。
 距離が遠いので威力は殆どなく殴るのは無理だったが、辛うじて掴むことはできた。
 このまま引き寄せて、夕月の攻撃の間合いに強引に引きずり込む。
 いつの間にか右腕が回復してることに、ギースもこの場でようやく気付く。

「身の程をわきまえろ! 小僧に何ができる───!!」

 再び無数の疾風拳で引き戻されんと踏ん張る。
 スピード、パワー共に優れたスタンドと言えども、
 降り注ぐ攻撃を片手だけの状態で回避は困難だし、役割の都合動くのも難しい。
 なので防ぎきれず顔面に直撃して出血を起こすことにもなるが、掴む手は維持して踏みとどまる。

(ならば再び引き寄せるまでだ。)

 一切の隙がないとまでは言えなくとも、
 片手でも疾風拳を連発するぐらいはできる。
 残った片手は足の腕を繋ぐジッパーを掴もうとするも、
 視界の隅にはるなが六花の水弩による射撃が邪魔をする。

「種が分かれば矢など……!」

323 ◆EPyDv9DKJs:2021/12/16(木) 22:37:16 ID:WC5iqTOQ0
 水の弾丸では掴んで投げ返すことはできない。
 だったら同じように攻撃で相殺すればいいだけの話。
 初見殺しの能力でしかないが、問題は別の所にあった。
 この一瞬の攻防の間に、夕月がダッシュでギースへと向かっているから。

「此処だアアアアアァッ!!」

 バトンを持った両手を広げ、きりもみ回転しながら空を舞う。
 彼女を覆うようにリボンが螺旋を描いた状態でギースへと迫る。
 彼女が用いる技でも大技の一つである、スターライトウィロウだ。

(小僧を対処には間に合わん、ガードに徹するが最善か!)

 もう疾風拳でどうこうできる段階ではない。
 空中での技のバリエーションも確かにあるが、
 あくまであるだけで空中戦が得意と言うことにはならない。
 ガードでしのぐことが正解だと両腕を交差させガードをするも、
 それを許さないかのように右腕ごしから肩ごと貫通して貫く水の矢。
 疾風拳で防がれてたのだから、当然それがなくなればはるなも攻撃できる。

「───小娘ェェェッ!!!」

 腕の筋でもやられたのか、右腕が思うように上がらなくなる。
 半端なガードでこの攻撃を凌ぎきれるはずがなく、断末魔のような叫び声を上げた。
 叫び声をかき消すように、リボンの乱打がギースへと襲い掛かり、征史郎も手放す。
 リボンではあるがその痛みは最早鞭と相違がないものを無数に受け、
 回転を終えれば派手に吹き飛ばされ、大地へと満足な受け身も取れずに叩きつけられる。

「夕月、お願い!」

「……うん!」

 コモンや現実世界の原種と何度も戦ったことはあれど、
 こうして直接人を手にかけることについては初めてだ。
 躊躇いこそあったが、放置すれば確実に多くの人を殺める。
 いつか日菜子や来夢へと降りかかる災禍。それだけは避けねばならない。
 意を決して空中でバトンを一つに戻すと、リボンで巨大な魔力の塊を描いていく。
 反撃されないように、最大の技グレイプウェイブでとどめを狙う。

(できれば生きたままで捉えたかったが、仕方なかろ。)

 征史郎としては実験の為に必要ではあった。
 とは言えこれを野放しにすることができないのも事実。
 此処で異議を唱えることなく素直に倒すことを優先とする。
 捕縛する手段はスタンドがあれども、捕縛の瞬間何をされるか分かったものではない。





 ある意味、その予感は的中した。
 三人にとって、最悪な展開によって。

「───え?」

 全員揃って、変な声が出た。
 余りにも予想外な展開が起きたからだ。
 ギースは人間離れした動きをする人間。
 共通の認識として存在していたと言うのに。
 なんだそれは。お前は人間ではなかったのかと。
 全員がそんな風に疑いたくなるような、信じられないような光景。
 ギースを知ってる人物だとしても、驚きを隠せなかっただろう。




 ギースの背中に突如として翼が現れたのだ。

324 ◆EPyDv9DKJs:2021/12/16(木) 22:37:48 ID:WC5iqTOQ0
 辺獄の空に近しい、紅茶のような色合いの翼が。
 翼だけでもそうだが、それだけではない。彼の身体が段々と変化を始めていた。
 紅白の道着はスーツのようなシックな黒を基調とした色合いに染まっていく───否、
 ライダースーツのような体格をはっきりとさせるようなものに包まれていく。
 ところどころに鳥類の面影を残すかのような毛並みが生える。
 最早変身と言うより、変態に近い姿の変え方。

「征史郎!!」

 絶対に嫌な予感がする。全員がそう認識し、
 はるなは名を呼びながらも冷静に水の矢を放ち、征史郎も接近し、夕月も準備を急ぐ。
 少なくとも夕月の準備が終わるまで動かさせない。その為に動くも、間に合わない。
 ギースは起き上がると同時に、さも自分が鳥であるかと証明するかのように空を舞ったからだ。
 高さ六メートル以上。腕を伸ばせる射程どころか、夕月の位置よりも高く舞い、月をバックに彼は空に立つ。
 見た目も鳥と言う人交じりの異形となり、最早人間と呼ぶことすら烏滸がましい姿となり果てていた。
 紅茶のような翼を広げて血染めの空を舞う姿は、例えるならばそれは鳥───雁(Geese)だろうか。

「ハハハハハ……ハハハハハハハハハハ!!」

 辺獄の空にて大笑いするギースの声が響く。
 ギースは強いが人間。人間らしい致命傷を負えば死に至る。
 でなければ、疾風拳を使ってビルの落下ダメージを回避するものか。
 そのはずだった。だって彼は何処まで行っても人間なのだから。
 だがもうそれは通用しない。彼はもう『人ではなくなった』のだから。

「そうか、適合していたか……!!」

 自分の変化した腕を見て、笑みを浮かべる。
 最初はその支給品を見たときは、荒唐無稽だと思って無視した。
 ギースも気やオーラを形にして攻撃する、一般人にとっては随分無茶苦茶ではあるが、
 別の世界でギースが興味を示した地球意思オロチのようなファンタジーと縁が深いわけではない。
 サウスタウンはアメリカに存在し、山崎竜二がオロチの血を引いてもない。比較的現代に近い存在だ。
 (後に異世界で無双するギース、なんてのもあったりするが……そこは割愛とする。それに異世界だし)
 何より、エレンもレオーネも基本異能を使った戦い方をしていないのもあり、真実味を感じなかった。
 だから使う気すら起きなかったが、スタンドにリフレクターとこの短時間でいくつも遭遇している。
 これだけ多種多様なものを見て、それが本物だと理解するにはそう時間はかからなかったし、
 あくなき欲求を持つギースが、人をやめると言う行為に躊躇いなどあるはずもなく。









 だから彼は浴びた。かの世界における、力の根幹とされる火山灰を。
 ギース・ハワードは『人』ではない。今や彼は『ヴァンパイア』となった。

「これがヴァンパイアか!! 力が滾るぞ!」

 右腕を軽く回し、歓喜の表情だ。
 肩の筋を斬られたはずの腕が治っていた。

「ッグレイブ───」

 未完成だがこれ以上待たせてくれるわけがない。
 地上の月とも言わんばかりの魔力の塊を飛ばすも、

「遅い!!」

 放つ前にギースの掌底。
 弾丸のような速度で迫ってきた攻撃を、
 防ぐことは出来ず内臓を抉られるような痛みが襲いながら地面に激突する。

「カハッ……!」

325 ◆EPyDv9DKJs:2021/12/16(木) 22:40:11 ID:WC5iqTOQ0
 地面に軽いクレーターを作り、
 肺に溜まっていた空気と共に血を吐きだす。
 決して無視できないダメージを負ったものの彼女とてリフレクター。
 ギースに負けず劣らずの経験があり、負傷だってざらだ。
 ついでに言えば、戦う前の準備で口にしたもののお陰でまだ十分受ける
 だから早急に起き上がってギースの迎撃を狙うが───

「Razing Storm!!」

 空から急降下するギースによる、レイジングストーム。
 はるなも矢を放つがその速度を前にかすることすらできない。
 無論夕月の攻撃も始まる前に相手の攻撃が成立する。
 夕月の目の前で、二度目のレイジングストームが放たれた。

 レイジングストームの色は、先程の青色ではなくなっていた。
 血染めの辺獄の空と同様の、赤黒いオーラの柱が彼の周囲に並び立つ。
 レイジングストームにも基本的に二種類のタイプが存在する。
 前後左右を囲むように牙の柱が出る場合と、前方限定で波しぶきのように舞うタイプ、
 今回は牙の柱が出るタイプで、ギースを覆うような先程とは比べるまでもない攻撃範囲だ。
 ギースが急降下による攻撃もあって、隕石でも落ちたのではないか見まがう一撃。
 唯一距離があった征史郎だけが難を逃れた───否、逃れてしまったと言うべきだろうか。
 近くに何かが落ちる音がしてそちらを見やる。

(なん、だと。)

 頭にキていても普段の平静さを崩さない彼も、崩れるときはある。
 突発的に顧問である千鶴先生がタブレット越しに死を予感した時のように。
 落ちてきたのは、腹部に大きな風穴が開いた状態で横たわっているはるなの姿。
 瞳に生気はない。誰がどう見ても致命傷だし、夥しい量の血が流れていく。
 夕月に頼まなければとてもではないが治せないような深手の傷。
 いや、もう間に合わない。脳ではそう理解はしているし、
 中心にいた夕月も無事では済まないことぐらい分かっている。

 ほんの数秒程度の赤黒い柱が消えるまでが、異様に長く感じた。
 柱が収束し、二人の姿が其処に映し出される。

 フリルのついた衣装は赤黒い血に染まりながら伏せる夕月、
 そしてそれを見下ろしている人の形を辛うじて保った鳥獣の怪物。
 悪夢とは、こういう光景を指すのだろうかととさえ感じる凄惨な光景。

「せー君、ゴホッ……逃げて!!」

 顔を起こし、吐血しながら促す。
 夕月はまだ、かろうじて生きていた。
 三人がギースに姿を晒す前に口にした洋菓子は、
 辺獄の商人が売っている、一種のドーピングアイテム。
 だから征史郎も疾風拳を受けてもある程度は無事だったし、
 こうして夕月が重症だがまだ生きていられるのもそれである。
 生身の人間であるはるなには、とても耐えきれたものではないが。

(逃げるしか、ない。)

 三対一は崩れた。夕月もほぼ再起不能の状態。
 助けに入れば確実に死ぬ。勝ち目など万に一つとしてない。
 もう逃げる以外は敗北だ。征史郎は迅速に走り逃げ出す。
 地面にジッパーを付けて移動ができると理解してない彼の逃走手段は、
 生身の人間による足のみ。ヴァンパイア相手にそれで逃げ切れるわけがなかった。

「逃がすと思うのか!」

 ギースにとって死に体の夕月など眼中にない。
 逃げに徹する弱者を早々に葬るべく翼をはばたかせる。
 しかし、うまく飛ぶことができなかった。
 何の変哲もない理由、翼が生えたばかりで飛び慣れてないだけだ。
 先ほども軽い滞空はしていたが殆ど自身の跳躍と急降下。コツなど掴めるはずもなく。
 なら足で移動すればいいだけのこと。

「ペタル、メテオォッ!!!」

 ギースが移動にあぐねていた間に、
 後方で倒れていた夕月が魔力を込めた掌底を叩き込む。
 全身が痛みで悲鳴を上げている。腹部から血もとめどなく溢れている。
 自分の命は秒読み。それでも、誰かのために戦う。自分が消滅すると分かっていても、
 日菜子の為に行動すると自分で決めていた彼女がそう行動するのは、おかしくないことだ。
 隙だらけなのもあって、近くの塀やその奥の家屋を破壊しながら吹き飛ばされる。
 無事に逃がすことには成功したと同時に、彼女も限界を迎えていた。

(ヒナちゃん、来夢……ゴメン、ね……)

 命尽き、倒れる最期に想起するのはこの場に招かれた大事な親友と家族。

326 ◆EPyDv9DKJs:2021/12/16(木) 22:42:28 ID:WC5iqTOQ0
 無事であることを願いながら、彼女は二度目の生に幕を下ろす。





 壁をいくつも破壊しながら吹き飛んだギースは、すぐに態勢を整えて地面を蹴る。
 地面にクレーターを作るような轟音と共に空高く飛び上がり、周囲を見渡す。
 ギースと言えども高所からの落下は命の危険が(一応は)伴っていたが、
 ヴァンパイアとなった今や、そんなことを考える必要は一切なかった。
 空から周囲を見渡してみれば、ある程度離れた位置に征史郎の姿を捉える。
 轟音により空にギースがいると気付いた征史郎は、近くの平安京らしい屋敷へと逃げ込む。
 逃げきれないと分かっての苦肉の策。だが今のギースでは家など紙切れに等しかった。
 再び急降下によるダイブで天井を突き破り、床を突き抜けて放つレイジングストーム。
 家一軒を倒壊させることなど容易い、一種の災害のような一撃だ。



 崩れ切った屋敷の瓦礫を吹き飛ばしながらギースは立ち上がる。
 周囲の残骸を破壊して遺体を確認してみるも、血だまりも遺体はない。

「跡形もなく消し飛んだかもこれではわからんな。」

 死んでるならそれでよし。
 生きてるならここから追跡のしようがない。
 いつまでも執着することをせず、次の行動に移そうとするも足が覚束ない。
 ヴァンパイアになったと言えども、短時間に何発も大技を使っている。
 彼はなりたてのビギナーヴァンパイア。この場にいる真祖は勿論のこと、他のヴァンパイアと比べても非力だ。
 (あくまでヴァンパイアとしては、の話であるため素が高い力を持つギースがビギナーレベルかは不明だが)

「……少し休むとしよう。」

 再生能力もまだそこまで向上してるわけではなく、
 ダメージが蓄積した現状すぐに次の戦いは難しいだろう。
 東に向かうことは諦め、一先ず休憩を挟むことにする。
 しかし、休んだ後向かう頃にはその相手も何処かへと行ってしまうはず。
 となれば徒労に終わるかもしれない。故にギースは今後の行き先を東だけには考えない。

 暗黒街の支配者は更なる災厄の悪夢を生む。
 辺獄の悪夢は、覚めることなし。

【E-4/1日目/黎明】

【ギース・ハワード@餓狼伝説シリーズ】
[状態]:ダメージ(大・再生中)、不快、ヴァンパイア化(現在は人間態)、ハイ
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×0〜1(確認済み)、スモークボール@大貝獣物語2×4
[思考・状態]
基本:殺し合いに乗り優勝する。あわよくば主催すら越えて最強を示す
1:暫くは休む。
2:カインにはそれなりの期待
3:ロックは少し程度は期待。
4:ホワイトはどうでもいい。
5:緑達には付き合ってられない。
6:東に行くべきか、他の方へ向かうべきか。
7:ヴァンパイア、実によき力だ。

[備考]
※参戦時期はリアルバウト餓狼伝説での死亡後です。
※火山灰を浴びたことでヴァンパイアになりました。
 ヴァンパイア態は原作の阿久津潤に近い鳥を模した姿で、飛行能力もあります。
 (ただしなりたてなので安定した飛行ができるかどうかは別)
 現時点では能力は不明、D・ナイトは現時点では使用できません。
 またヴァンパイア態時はレイジングストームは餓狼伝説3潜在版のように常に赤くなります。










(生きた心地がしなかったな。)

327 ◆EPyDv9DKJs:2021/12/16(木) 22:42:56 ID:WC5iqTOQ0
 征史郎はまだ生きていた。
 りゅうのつばさは、もう一枚あったがゆえに。
 アルーシェ達と情報交換の際に別の家へ向かった家へとワープルしていたのだ。
 当然ギースと戦った場所のすぐそば。一部のランダム支給品だけ持ち去り、再びその家に戻って座り込む。
 いつ戻ってくるか分からない以上、必要最低限の物だけを優先とした結果である。
 安全ならすべての支給品をかっぱらって、二人の首輪も遠慮なく確保していただろう。
 合理的にプリズナーゲームを進めようと考えていた彼からすれば、かなり消極的になる。
 一歩間違えれば即死の可能性と、生き残った手前簡単に死なないよう慎重に動く必要があった。
 プリズナーゲームの時とは違う。後を託せる相手も仲間も、今自分しかいないのだから。

「……やりきれんな。」

 柱にもたれかかりながら小さくごちる。
 自分が生き残った側になるとは、あまり思わなかった。
 千鶴先生に続いて彩音先輩が殺された時のようなやるせなさ。
 変人揃いの管弦部きっての変人と違って、はるなとのやり取りはありふれたもの。
 だからと言って、楽しくないわけではなかった。
 管弦部の面々と比べれば癖がなさすぎるものの、
 それはある意味突っ込み要因の和馬といたときのような時間だ。
 彼よりもクールで、少しは見習うべきな気がする女性。

 異性としての好意、と言う意味はない。
 彼は愛した人物の為にその命を差し出した。
 だから、そういうのとは違う。管弦部の日常のように、
 しょうもないことを言ったり言われたりする、いつものような。
 そう、あの日ソラが晴れていた場合にあったであろうカオスな部活動の日々を。

(僕が生き残った以上、責任は取ろう。)

 去ってしまった者達から受け継いだ遺志。
 それを置いていくわけにはいかない。生き残ったなら抗おう。
 三日目の和馬のような抵抗と言う名の思考放棄だけは避ける。
 意地汚く生きろ。それが今の状況における最低限の勝利条件だ。

 これは今から語られる物語。
 悪夢から敗走する、青年の物語。
 咎人の旋律は、まだ奏でられる。

【細谷はるな@リベリオンズ Secret Game 2nd Stage 死亡】
【司城夕月@BLUE REFLECTION 幻に舞う少女の剣 死亡】


【E-4/1日目/黎明】

【城本征史郎@トガビトノセンリツ】
[状態]:精神疲労(中)、ダメージ(中)、頭から出血、防御力アップ(時期に解除)
[装備]:スティッキィ・フィンガーズのDISC@ジョジョの奇妙な冒険
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜2(夕月×0〜1確認済み、はるな×0〜1確認済み、武器になりうるものではない)、黒鍵×4@MELTY BLOOD、スフォリアテッレ(箱入り)@クライスタ、伊藤大祐の首輪
[思考・状況]
基本方針:殺し合いに反抗する。
1:はるなの遺志を継ぐ。
2:アルーシェを探すが、敵といる可能性も高い。どうするべきだ?
3:はるな、夕月、アルーシェの知り合いを探す。特に城咲充優先かつ、前者二名の知り合いには謝っておきたい。
4:スタンドでできることを試そう。できて当然と言う認知が大事だ。
5:ついでにスタンドを使える奴がいるか探す、或いは警戒をしておく。
6:あっさりと終わったが、これでいい。語られなかった物語とは、そういうもので。
7:生きたまま首輪が外せるかを乗った参加者で試す。できないとは思うが。
8:首輪について調べておく。
9:ギース・ハワードから逃げる。

[備考]
※参戦時期は死亡後です。
※リベリオンズ、ブルーリフレクション、よるのないくに2の情報を得ました。
 ただしリベリオンズはDルートの為充、琴美以外の人物とは話が合いません。
※おおよそスタンドでできることを把握しています。





※E-4に以下のアイテムが落ちています
 火山灰@血と灰の女王(それを収納していた空の袋)
 柄のみの黒鍵@MELTY BLOOD
 血のついた黒鍵×1@MELTY BLOODが落ちています
 からっぽのピストル@Undertale
 六花の水弩の残骸@御城project:Re

328 ◆EPyDv9DKJs:2021/12/16(木) 22:43:23 ID:WC5iqTOQ0
【りゅうのつばさ@大貝獣物語Ⅱ】
城本征史郎に支給。原作では来訪済みの街にワープル(ポケモンで言うそらをとぶ)ができるアイテム。
行ったことのある家や施設の何処かに転移するが、指定の場所に行けるかは運次第。消耗品二枚セット。

【火山灰@血と灰の女王】
ギース・ハワードに支給。
血と灰の女王の世界における富士山の噴火により高頻度で降るようになった火山灰。
この灰を浴びて適合する人物であれば、ヴァンパイアへと変貌することができる。

【六花の水弩@御城project:Re】
司城夕月に支給された、水着古河城モチーフの石弓。
身も蓋もないことを言えば石弓型水鉄砲だが、城娘に撃ってはいけない注意喚起がされており、
水を凝縮させ勢いよく発射する特殊な弩であるため殺傷能力は相応に高いものになっている。
水さえあれば機能するのでかなりローコストな弩。残骸なのでちょっとやそっとの修理では使えない。

【スフォリアテッレ@クライスタ】
司城夕月に支給。世間一般的にはスフォリアテッラと呼ばれる。
ナポリの名物焼き菓子ではあるが、クライスタにおいては辺獄の商人から購入できるアイテム。
一時的に防御力を強化することができる。一度に食べても重ね掛けはできない。
消耗品の四個入りで、ギースとの戦いの際に三人で三つ消費している。

329 ◆EPyDv9DKJs:2021/12/16(木) 22:43:52 ID:WC5iqTOQ0
以上で『ナイトメアパーティ』投下終了です。
結構な魔改造なので、問題ありましたら破棄でお願いします(修正できる気がしないので)

330 ◆EPyDv9DKJs:2022/01/09(日) 13:26:03 ID:F6JjEsFg0
投下します

331胎動編『開戦 ウドガルド城』 ◆EPyDv9DKJs:2022/01/09(日) 13:29:07 ID:F6JjEsFg0
 艱難の先に、少女たちの進むべき道は───
 血染めの空が照らし出す、未踏の物語。





「嬢ちゃん。そったら歩いてっと、
 いざって言うときばてんね。少しは休んどき。」

 定期的にたずね人ステッキを倒しては道を進む三人。
 あゆりがステッキを使っては先行して走っている中、鉄平が声をかける。
 出会ってからと言うもの、ずっとそんな調子で動いているのでは体力がもたない。
 彼としては沙都子を探してくれるのは嬉しいが、無理をさせたくもない。

「大丈夫、こう見えて足は鍛えられたんで。」

 膝に手を打ちながら小走りするあゆりを二人は見やる。
 簡単な自己紹介しかしてないので知らないが、あゆりは城址巡りをする身だ。
 城址、城の遺構と言うものは東京都内でもかなりの数が存在していて、
 自分達が何気なく通ってる場所の近くも、城が建ってた場所だと言うこともある。
 だが中には深沢山にあった八王子城は標高四百メートル以上の場所に位置する城址もあり、
 城址巡りに慣れた友人や顧問も、登山服でなければ気軽に行けるものではないと称するほどだ。
 (なんだかんだあゆりは普段通りの格好で行けてしまったのは、あゆりも鍛えられたと言うことだろう)
 一時期飲んだくれだったのと、スクーターで移動する鉄平より足腰は年齢も合わさりずっと上になる。

「それに、助けに入った人を振り切って、
 エスデスって人が追いかけてくる可能性もあるでしょ。」

 鉄平からすれば、助けに入った善の強さは全く測れない。
 判断できる材料があるとするなら、エスデスを前に割って入れる度胸や移動速度。
 それだけでしかなく、一方でエスデスとは一応戦ったが常人ではとても叶わないものだ。
 技術や鍛錬でどうこうで覆せるものではない。銃があっても決して当たらない、
 そう確信できるだけの、文字通りの化け物や怪物と呼ぶほかなかった。
 善が相手にできるのかどうかという不安自体は存在している。

(あの兄ちゃんはきっと無事や。わしが信じなくてどないするんや。)

 確証はない。でも無事だと思う。
 正確には無事だと思いたいと言う希望混じりだ。
 北条鉄平と言う男は死んでも仕方ない人間、それは彼自身が自覚している。
 そんな自分を逃がしたら死んだ、なんてことはしてほしくなかった。
 殺し合いの中で子供の言うことを信じてやって来てくれた人物。
 こんな場所で死んでいいような青年ではないのだけはわかる。
 だから信じたい。彼はきっと無事でまたどこかで再会できると。
 沙都子に信じてもらいたいように、鉄平も彼を信じたかった。

「……さっきから感じてはいたけど、景観ガン無視すぎでしょ。」

 歩いていると見かけた存在に、あゆりが目を細める。
 先ほどからもずっと塔のようなものが平安京に見えていた。
 近づけば朧気だったものもはっきりとわかるようになるが、
 平安京と言う場においては余りにも景観を無視した、西洋の城跡。
 一部の壁が崩れてこそいるが、倒壊の心配はすぐにはない保存状態だ。

「……どこの言葉だろ。」

 近くの看板に記された謎の文字と思しき羅列を注視する。
 アルファベットの文字に近いようではあるが、近いだけで同じではない。
 その文字の下には他の人でも読めるようにしてるのかいくつかの言語があり、
 一つはあゆりでも読める日本語で『ウドガルド城跡』と記載されていた。
 少なくとも日本ではないし、あゆりも特別地理に明るくはなかった。
 これが彼女の世界には存在しない城跡だと言うことも判断ができない。

「誰かと関係がある施設なのかな。」

 明らかに景観が浮きすぎている。
 元々平安京を再現した殺し合いの舞台だ。
 どこかから持ってきた、或いは模倣したとも受け取れる。
 人の築いた残滓たる遺構となる城址を巡るだけの女子高生。
 異能とは無縁な人生ではあるが、リリアーナや手に持つひみつ道具の存在から、
 随分異能慣れしたもんだと我ながら若干呆れた気分になる。

「あ、そうだ。この塔登ってそこから探してみない?」

332胎動編『開戦 ウドガルド城』 ◆EPyDv9DKJs:2022/01/09(日) 13:30:56 ID:F6JjEsFg0
 平安京はその都合開けた道が非常に多い。
 細い路地は流石に見落とすにしても、大まかな場所は把握できる。
 高さも十メートル程度。程よい高さのお陰で肉眼でも多少はましだろう。

「あゆり、だったらこれを使って。」

 あゆりの提案を聞くと、
 デイバックからリリアーナはあるものを取り出す。
 赤色を基調とした小型の望遠鏡で、それを二人に見せる。

「私の支給品の『手に取り望遠鏡』って言って、
 望遠鏡の中の物とか人を引き寄せたり、自分がその場所に行けるみたい。」

「ナイスタイミング!」

 人探しとしてはたずね人ステッキが有効なのと、
 平安京は建物以外は殆どが平地で構成されている。
 高い場所がないためこれを使う機会がないまま放置されていた。
 望遠鏡を受け取り、一足先にあゆりが塔の方へと向かう。
 浮き足立つ彼女を追うように、二人も塔の中へと入る。

「レッツ登城っと。」

 普段なら友人の美音が言っている言葉だが、此処にはいない。
 ムカついたから殺し合いに抗うといっても、一介の女子高生だ。
 知り合いはいないし、不安になって何処かゲン担ぎ感覚で呟いた。
 ひょんなことから美音と城址巡りするのが今の日常とも言えるものだ。
 だからいつもの日常のように、怪我がないまま終わることを願う。
 そんな風にも思いながら口にしつつ、年季の入った古びた扉を押す。
 見た目通りの軋んだ音を奏でながら開かれた扉の先にあるは、
 城跡と言う外見通りとも言うべきな、質素な内装になっている。
 同じく年季の入ったテーブルや木製の扉、上へと続く階段。
 焚火の跡があるが、元々此処に誰かがいたものかの判断はつくことはない。
 壁にあるのは精々壁掛け松明ぐらいなもの。辺獄の月明りで解決される今、
 使い道が存在しないと言うのはあゆりであっても理解はできることだろう。
 屋上への道は螺旋階段のように壁に沿って続いているので、
 入ってそのまま転ばないように壁に手を当てながら登っていく。

(城に入るのは松本城以来か。)

 城址散策は城の石垣や堀、櫓に石碑などがあった場所だったりと言ったもの。
 城としての形を留めてるものを巡ることは基本的にはない。
 (城の原形をとどめるものがそもそも多くはないのもあるが)
 合宿の際に長野の松本城へ行ったことはあるが、それぐらいだ。
 国宝指定されてる城と比べてはいけないのは分かってるものの、
 随分と寂れている場所と思うと同時に、

(可哀そうに感じるな。)

 僅かながら憐む。
 この城がどんな目的で、
 どんな歴史を経験したかは知らない。
 城と言うものは戦の為に築かれてきたものだ。
 『殺し合いの為に用意された』のは確かにお誂え向きだが、
 決して『この殺し合いの為に用意された城』ではない。
 メフィス達の勝手で呼ばれた城に、僅かながら憐れみを感じた。
 『此処に城があったなんてロマンとかある』といった考えを持つ田辺や美音とかなら、
 もっと憤ったかもしれないがあゆりにとってはその程度の感想だ。

「到着っと。」

 鋸壁に囲まれた屋上にジャンプするかのように着地する。
 屋上も焚火ができる環境があること以外は特に特筆すべきことはない。
 後から来た二人も到着し、三人でそれぞれ別の方角をみやる。
 平安京の街並みらしい、整然されすぎてる建物の並びや等間隔の道。
 中には此処と同じように景観を無視したような建物がいくつかあるが、
 重要なのは人の存在であって、建物のことについてはスルーしておく。

(いないなぁ。)

 軽く数分の時間が経過する。
 結局のところ探してるのは、百人以上の中の一人。
 外見の特徴は把握してると言ってもこの広さでたった一人。
 それに望遠鏡を使ってるのは自分だけで他は肉眼で見つけにくい。
 同じ方角に逃げたかもわからないのでは仕方ないとは思うが、

「じょ、嬢ちゃん! あっこにおるん、沙都子か確認してくれんね!?」

 鉄平の声に反応し、二人も鉄平のいた方角へと向かう。
 望遠鏡を持ってるのはあゆりだけなので、鉄平の指示で確認する。
 スコープの中に捉えることができたのは三人の男女。

「沙都子ちゃんって金髪でヘアバンドしてる女の子でしたよね!」

「それだったら間違いなく沙都子や!」

「リリアーナ、さっき引き寄せたり移動できるって言ってたけどどう使うの?」

333胎動編『開戦 ウドガルド城』 ◆EPyDv9DKJs:2022/01/09(日) 13:33:37 ID:F6JjEsFg0
「えっと、望遠鏡に手を映すようにして掴めばいいみたい。
 でも待って、いきなりそんなことしたら一緒の人を誤解させちゃうわ。」

「じゃあ、私が行って説明してくる!」

 説明書を片手に手に取り望遠鏡のため適当な家屋を見る。
 固定されてるものであれば自分が向こう側へ行くことができるので、
 塔を下りずとも即座に三人の所へと向かうことが可能だ。
 殺し合いで戦いの際困るであろう子供を武器を持ちながら連れており、
 二人といる沙都子の表情がいやいや従ってる風にも見えないことから、
 殺し合いに乗ってないと言うことを判断して手を伸ばす。

「後はこうしてつまめば───」










 つまもうとしていた手は何も掴むことをしなかった。
 その寸前に、一発の銃声が轟くと同時に彼女に激痛が走ったから。

「───ッ!!!」

 悲鳴を上げながら、左手が痛みを抑えるように右腕をあるだけの力で握りしめる。
 手に取り望遠鏡は同時に破壊されて、その残骸が塔の下へと落ちていく、
 下で落ちた音を聞くが、三人はそれどころではなかった。

「今の音、まさか撃たれとるんか!?」

 あゆりが抑えてる右手へ視線を向ければ、
 そこにあるのは人間の手であってはならない光景だ。
 右手は口でもできたかのような風穴が赤く染めた地面を見せる。
 見え隠れする骨や肉を外気に晒しながら、多量の血を流してさらに血の水たまりを広げていく。

「鉄平さん! 何か回復できる支給品とかは!?」

 リリアーナは回復できる術はあるにはあるがこの状況では解決できない。
 彼女の秋服は厳密には回復促進。回復する道具を用いた上で本人の治癒力に依存するもの。
 もっとも、あったところでリリアーナはアルーシェと再会したばかりの頃の彼女。
 治癒促進の能力も特別高いものではないので、気休め程度にしかならないが。
 それはそれとして、腰のベルトをあゆりの腕に巻きつけて止血をしておく。
 薬とかも没収されてる今、何もないベルトを装備する意味もない。

「あんまし、勧められんね……」

 あるにはある。
 まだ残ってるヘルズクーポンを使えばこの傷も治せるだろう。
 だがこれはドーピングアイテム。しかも材料は複数の麻薬も混入される。
 先ほどは沙都子を守るためだったし、元々老い先短い身体でもあるから使ったが、
 目の前の彼女は酒を飲みすぎたわけでも、ましてやタバコを吸い続けたわけでもない普通の子だ。
 自分が使う分には躊躇うことはないが、彼女にこれを使ってその後大丈夫なのかと思えてしまう。
 タバコや酒が子供の方が悪影響があるように、麻薬もそういうのがあるのかもしれない。
 そのことを伝えると鉄平が言い淀んだ理由を察して、複雑な表情へと変わる。

「ただ、使えば身体はあり得へん速度で治るんや。
 わしも姉ちゃんと戦って腕ぇ切り落とされちょるが、ほれ。」

 腕をかるく振り回して、その回復力を示す。
 効果自体は絶大だ。元々忍者を殺す為極道が研究を重ねたもの。
 尋常じゃない再生力なのは確かであり、使えば一瞬なのもわかる。

「……あゆりは、使いたい?」

 ずるい逃げ道だとリリアーナ自身も思う。
 本人の意思確認という、体のいい逃げ道だ。
 もっとも、内容を知ってもすぐ飲ませようとする、
 と言うのも少し考え物な気はするが。

「正直、本音を言うとめっちゃ使ってほしい。
 やばい薬だけど、死ぬかもって思うよりずっといいし……」

 涙と脂汗で自分でも酷い顔してそうだと思いながら震えた声で返す。
 当たり前だ。こんな傷、城址巡りでなくとも絶対にあり得ない傷だ。
 銃で風穴が開くとしても、指数本は余裕で入る弾丸なんてないのは素人でもわかる。
 何が言いたいかと言うと滅茶苦茶痛い。おどけてる感じがあるが、本気で痛い。

「でも、貴重な支給品だし、敵も此処へ来るし……」

 撃たれたと言うことは、つまり敵がいると言うことだ。
 痛みで思考は纏まらないが、とにかくそれだけは分かる。
 此処は屋上。下から昇られてはこの高さでは飛び降りて逃げるのは難しい。
 それは邪妖と戦ってきたリリアーナも同じことだ。今の彼女に経験はないが、
 基本的に危ない場所はアルーシェに抱きかかえられた状態で飛んでいるので、
 運動神経が人間離れしてるわけではない(これはアルーシェが半妖だからなのもあるが)。
 このまま居座っていては逃げ場のない場所で銃撃を受ける可能性だってある。
 ドラッグであることはともかく、それがないと対処できないかもしれない。

334胎動編『開戦 ウドガルド城』 ◆EPyDv9DKJs:2022/01/09(日) 13:35:03 ID:F6JjEsFg0
「今すぐ死ぬってわけじゃないし、そっちなんとかしない……ッ?」

 そのためにヘルズクーポンを無駄に使わせるわけにはいかない。
 彼女の言うとおり、今すぐ死ぬかどうかとはまだ別のレベルだ。
 事が解決してから使うかどうか、それを考えても遅くはないと。
 死ぬほど痛いと思って宇ので本当に使ってほしいと言えば、それも本音だ。

「……私が先行します! 鉄平さんもきてください!」

「お、おう! 嬢ちゃんには指一本触れさせんね!」

 時間がない現状、此処で敵を待ち受けるわけにはいかない。
 あゆりを一人にさせるのは危険だが、敵も近くの負傷者ならまだしも、
 屋上にいる彼女を優先して二人を放置する、と言うこともしないだろう。
 可能なら自分一人で何とかしたかったが、一人だと刻を遅くしても防御も回避もできない。
 対処できるが一人でもいることが彼女の戦いでは重要になる。
 鉄平も意図を理解して、急いで彼女の後に続く。
 風だけが耳に届く中、一人残されたあゆりは涙が零れる。

(やばい。なんか痛みとは別の涙出てきた。)

 痛みとか、手が使い物にならなくなったのが理由と言うのはある。
 一方で別の理由、殺し合いを侮りすぎてた自分に対しての後悔だ。
 殺し合いが始まる前は怒りやすい性格が災いして彼氏には振られるし、
 時には美音の機嫌を損ねたり、生徒会長とも対立し合うこともあった。
 でも最終的には和解するし、暴力に出ることは一度としてなかった。
 (寧ろやるなら自分からで、現にリリアーナとの出会いも怒ったのが原因だし)
 要するに、彼女は此処が殺し合いの場という認識が甘かったのだと。

(考えれば、当然じゃん。)

 仕方ないと言えば仕方ないことだ。
 鉄平はエスデスと戦うことになって、元より邪妖と戦ってるリリアーナと違って、
 彼女は此処まで異能と触れ合う機会があったが、それはリリアーナの能力とひみつ道具だけ。
 しかも前者は直接的な戦闘向けではないし、ひみつ道具も直接的な結果か視覚には反映されにくい。
 気が緩んでもおかしくなければ、一方的に攻撃する容赦ない参加者が最初の敵だ。
 こればかりは仕方ないとも言える。

「でもやっぱ……ムカついたなぁ。」

 身を起こして、痛みにこらえながら立ち上がる。
 一介の女子高生に出来ることなんて高が知れたものだ。
 それでも何かやってやる。あの銃の犯人を殴ってやりたいと。



 ◆ ◆ ◆



「撃たれる可能性もありますから、盾に隠れてください。」

「そ、そうやな……炙り出すっちゅーのもあるけん。」

 支給品である紅葉が描かれた白い盾を構え、
 窓際からの狙撃を警戒しながら階段を下っていくリリアーナと鉄平。
 時に先読みで弾丸が窓際を狙った一撃がとんでくるが、
 あくまで牽制程度。当てるつもりがないことはわかる。
 特に何事もなく一階まで降りて、リリアーナが扉に手を掛けるが、

「待っとくれ嬢ちゃん。わしがそん盾持って先行く、」

 寝覚めの悪い夢を何度も見続けたことで、
 その中で誰かに待ち伏せされたような記憶があった。
 誰に待ち伏せされたのかは朧気だし思い出したくもないが、
 そんな悪夢の経験……否、別の世界における彼の記憶が安易な行動を避けさせる。
 ヘルズクーポンを手にしながら、右手を出して盾を渡すように促す。

「鉄平さん、それは……」

「元々酒にたばこで身体悪ぅなっとるんや、わしのことはええ。
 タバコも材料は麻薬と言うやろ。それとあんまし変わらんけ。
 それに、嬢ちゃんたちにこんな危険なもの安易に飲ませるわけにはいかんね。」

 タバコと違いこれがあれば沙都子を助けられる。
 老い先短いであろう自分の人生できる、精一杯の贖罪だ。
 沙都子を守る。嫌われても、せめてそれだけはしなければ、死んでも死にきれない。

「……分かりました。でも無理はしないでください。」

 時間がないし、他の有効打があるとは言えない。
 無駄に時間を割くわけにもいかず、折れる形で盾を渡す。
 鉄平の言う、誰かのために命を賭して挑むと言う点は彼女も同じだ。
 世界を救うため自分が犠牲になる。花のように誰かを喜ばせてから散りたい。
 故に、その考えを否定することはできなかった。

 盾を渡すと、そのまま前へと構えながらヘルズクーポンを口にして突進する。
 人間離れした身体能力で体当たりすれば、扉は簡単に壊されながらそのまま直進、

「!?」

 した瞬間、鉄平は一瞬全身がつぶれるような感覚に襲われた。



 ◆ ◆ ◆



「当たったか。」

335胎動編『開戦 ウドガルド城』 ◆EPyDv9DKJs:2022/01/09(日) 13:36:18 ID:F6JjEsFg0
 塔から轟く悲鳴からして、
 弾が当たったことを確信する完全者達。
 正直、当たったところで嬉しいとは思わない。
 この殺し合いで位置を示すように月明かりが反射するものを持ち、
 その上で壁と言う安全地帯から身を乗り出していたような相手だ。
 殺し合いの経験も乏しい一般人か、ただの莫迦以外にないだろう。
 たかだかその程度の連中相手に一喜一憂するほど、彼女も長生きしてない。
 これでおびき寄せるための罠としてるなら、逆に賞賛するものだが。

「ヨが先行しておくでワール。」

 制限こそされてるがある程度の距離は転移ができるノワール伯爵にとって、
 足並みを揃えない状況であれば完全者よりも速い速度で移動ができる。
 相手が負傷しても逃げられないように先に釘づけにしておくことは大事だ。

「私は牽制して足止めしておくが、気をつけておけ。
 どうやら近くに他の参加者もいるとみてよさそうだからな。」

 高い所から軽く身を乗り出すのと月明かりが反射するものが見えた。
 場所からして、双眼鏡とかそういう類を持っていたと言うことはわかる。
 動きが止まっていたところから参加者がいて注視してたと仮定しておく。
 夜兎の番傘の銃声は決して小さくはないし、悲鳴から向こうも気付いてるはず。
 合流される前に支給品を確保して、盤石になったところを迎撃するのが理想的だろう。

「無論、心得てるとも。」

 さっきまでふざけてた口調をしていたと思えば、
 突然普通の喋り方になりながら軽く一回転すると同時に姿を消す。

「さて、黒の伯爵の実力はいかほどか……ん?」

 手元に残しておいたビブルカードの内の、一枚が燃え尽きる。
 燃え尽きたと言うことは該当する参加者が死亡したと言うことだが、大して興味はない。
 たかが数時間で死ぬ参加者で、名前しか知らない奴に抱く感想など彼女には何もなかった。
 ……なお、死んだ相手はその世界においてある意味では彼女の求めるものに近いとも言えるが。

(ふむ、二人以上いたのか。)

 窓から覗く盾を見て、軽く一発か二発程度牽制だけに留める。
 撃たれたはずの相手にしては動きが早いことからあれは仲間だ。
 すぐに降りてくることもあり、目的の場所へと赴きたいところだが、
 複数の参加者で二人が挟み撃ちに合う形になるのは好ましいことではなかった。

「仕方があるまい。奴もいない今、此処が文字通りカードの使い時だ。」

 余り支給品をすぐ消耗するものではないのだが、
 死ぬことや同盟が破棄されるような行為も困る。
 必要経費と割り切り、デイバックに眠っていたカードを掲げる。
 カードは消滅すると共にディメーンが姿を現す。

「ボンジュ〜ル……おや、これはこれは。伯爵がお世話になってるようで。」

「ほう、貴様がディメーンか。黒き伯爵を裏切った気分はどうだ?」

 時間が惜しい所ではあるが、
 一方で主催陣営と話せる機会は希少だ。
 使えるものは何でも使おう。少なくとも、
 使った支給品はそれをリカバリーは出来るはずだから。

「ンッフッフ〜、何の感慨もないかな。
 これで裏切ったのは二度目───おっと、
 彼は僕が裏切る前の伯爵だったかな? 知らないか。
 何にせよ、元々僕はこういう奴だからね。何もないさ。」

「だろうな。元々裏切る奴なんぞに何の感慨もあるまい。して、支給品は何処だ?」

 彼女もムラクモとの関係は所謂ビジネスパートナー。
 人類救済の為の手伝いをするされるだけの関係であり、
 裏切ることになっても当たり前のことでしかない。

「そう焦らない。ドドンタ君みたいに急いて死んだら元も子もないよ? ま、今からパパッと出すから。」

 ドドンタスの死についてもやはり把握しているらしい。
 まだ首輪解除の算段も何もないので特に言及はしてないので、
 出し抜くことは(性格で気づくことはあっても行動で)感づかれてはないはずだ。

「ドドンタスを殺した奴は強かったのか?」

「おっと、それ以上は尋ねることはなしだ。
 君が殺し合いを盛り上げる側であったとしても、
 一人だけ有利にするような発言をするつもりはないからね。」

 見た目の道化からして遠慮なく話すと思ったが、
 運営の一人として任せられるだけあって割と慎重だ。

「はい、お届け完了。後は好きにそれに命令してね。」

 発言と共に彼女達を覆うような黒い影が背後に降りたつ。
 背後を見やれば、彼が贈ってきたものが鎮座している。
 二つ目の支給品は、今の状況においてはとても都合がいいものだ。

336胎動編『開戦 ウドガルド城』 ◆EPyDv9DKJs:2022/01/09(日) 13:36:43 ID:F6JjEsFg0
「そう易々とはいかんか。」

「そういうこと。まあ、もう少し生き延びてくれるのなら、
 少しぐらいは君とお話してもいいかもね。それじゃ、ボン・ボヤージュ〜。」

 おどけた態度を取りながらも、
 攻撃する隙を見せないままディメーンは姿を消す。
 大した情報はなかったが、進展自体はあった。

(奴が監視役を担っているようだな。)

 盗聴されてる可能性があるのに、
 自分の目的のための行動をしてる様子。
 少なくとも監視してるであろうはずなのに、
 それを公言するのはメフィス達が承知の上で任せたか、
 彼自身がその監視役の立場を担ってるかの二つになる。
 後者であれば、いくら自由にやろうとバレることはない。

(もし後者であればこれは重畳だが、
 果たしてそんな都合がいいものか判断しがたいな。)

 後者であるならば、ディメーンは支給品を届ける間は監視ができない。
 その隙に首輪解除をすることも難しくはない……と言いたいところなのだが、
 ディメーンが分身魔法を使うことができることを伯爵から聞いている。
 分身を監視役において情報共有してる、と言う可能性はあり得る話だ。
 代役を置いている可能性だけは彼の行動からないと判断できるが。
 (参加者との過度な接触の約束は、いかに受け入れてるとしても度が過ぎているだろうから)

「まあ良い。魔女らしく『魔』を『従』える……いい使い魔となってもらおうか?」

337 ◆EPyDv9DKJs:2022/01/09(日) 13:38:02 ID:F6JjEsFg0
前編終了です。続きはもう暫くお待ちください

338 ◆s5tC4j7VZY:2022/01/09(日) 16:47:57 ID:TSzg9lUU0
投下お疲れさまです!

モノクローム・ファクター
ザ・ワールドを支給された故にエスデスの摩訶鉢特摩に気づくさとうには、思わず唸りました。
災の塊がばらけたのは幸か不幸になるのかは正に神のみぞ知る!ですね〜
八将神と化したアーナスとついに邂逅したアルーシェ!
しかし、場にはさとうもいるこの状況下、緊迫感が尋常ではないですね。

ナイトメアパーティ
ギースまさかのヴァンパイア化にうそぉ!?と目を見開きました!
巧みな戦闘描写はいつも読んでいて、勉強になります。
そして、最後の言葉を残すことなく息絶えたはるなにロワの無常さを読んでいて肌で感じました。
これは今から語られる物語。
悪夢から敗走する、青年の物語。
咎人の旋律は、まだ奏でられる。
↑征史郎………個人的に応援したいですね。

胎動編『開戦 ウドガルド城』
台詞の一つひとつがあゆりで読んでいて胸にジーンと込み上げてきました。
ウドガルド城の内装の描写は読んでいて本当にその場にいるかの如く感じられるとともに城址散策部という作品風が生かされていると個人的に思いました。
キヨスもそうなのですが、あゆりが自分以外の書き手様の手で読める日がきたことに嬉しさしかありません。
前から思っていることなのですが、◆EPyDv9DKJs様には本当に頭が上がりません。
(あの兄ちゃんはきっと無事や。わしが信じなくてどないするんや。)
↑既に学校での死闘の結末を知っている読み手の立場としてこの鉄平の想いには読んでいて胸が引き裂かれますね……
「あんまし、勧められんね……」
↑わかってはいたんですが、本当に綺麗な鉄平で当時のゲスい鉄平を知っている身としては感慨深いです。
「でもやっぱ……ムカついたなぁ。」

 身を起こして、痛みにこらえながら立ち上がる。
 一介の女子高生に出来ることなんて高が知れたものだ。
 それでも何かやってやる。あの銃の犯人を殴ってやりたいと。
↑自分が一女子高生でしかないことを自覚しつつもこう思うのがあゆりで上手いな〜とただひたすら読みました。
あゆりの想いは果たせるのか……
した瞬間、鉄平は一瞬全身がつぶれるような感覚に襲われた。
↑てっ鉄平――――!!??
彼は僕が裏切る前の伯爵だったかな? 知らないか。
↑意味深なディメーンの台詞……

後編楽しみに待っています!!!

339胎動編『クロスゾーン』 ◆EPyDv9DKJs:2022/01/10(月) 01:30:51 ID:RZqyRIVk0
感想ありがとうございます

続きができたので投下します

340胎動編『クロスゾーン』 ◆EPyDv9DKJs:2022/01/10(月) 01:31:40 ID:RZqyRIVk0
 全身が一瞬プレスされたかのような圧迫感に、口から血反吐をぶちまける鉄平。
 ヘルズクーポンがなければ確実に此処で既に致命傷であったのは彼自身が理解する。
 言い換えれば、リリアーナにダメージがなかったことを救いだとも思う。

「ゴホッゴホッ!!」

「鉄平さん! 大丈夫ですか!?」

「盾を持って出たのは正しいでワール。しかし、ヨの暗黒魔法には無駄な努力だ。」

 扉を開けた数メートル先にノワール伯爵は立つ。
 バックの平安京はともかく、西洋の城跡のこの場では中々にマッチする。
 ノワールが使う魔法は対象の身体をバネのように伸び縮みさせるもの。
 傘や盾を構えたところで防ぐことはできない。

「……何故、貴方は殺し合いに乗るの?」

 乗ってる相手なのは分かる。だができることなら説得はしたい。
 話が通じない邪妖とは違う、意志を持った存在なのだから。
 鉄平を気にかけながら、ノワール伯爵と向かい合う。

「この世の全ては無意味だ。価値のあるものなど一つもない。
 ヨにはそんな世界が我慢ならぬ。だから全てを浄化するだけでワール!」

 エマと言う光を喪ってしまった男にとって、
 光なき世界に意味など見出すことはない。消えた愛する彼女に世界を捧げよう。
 その為に世界を滅ぼす。その為に人を殺す。その為に双子の力を手に入れて成し遂げる。
 それが、ノワール伯爵───否、光の名を持つルミエールの願い。

「……ごちゃごちゃ、うるさいんじゃこのダラズ!」

「おっと。」

 鉄平が盾を捨ててやぶれかぶれのように拳を振るう。
 いかに素人の動きでもヘルズクーポンで強化された身体。
 ノワールでも受け止めるようなことはせず軽く浮遊しながら避け、
 近くの鋸壁の上にストンと降りる。

「浄化だなんだ難しい言葉ならべよって、
 要するにおめえは殺すつもりってことやろが!
 沙都子の敵ならわしの敵や、それだけで十分じゃボケが!!」

「……理解されるつもりもないからな。」

 沙都子がどういう人物かは知らないが、彼にとっての光となる存在なのだろう。
 自分と違いその光が残っている時点で共感など得られるはずもないし、得たいとも思わない。
 いや、もしかしたら勇者と共にある七色の蝶は自分が探し求めていた彼女の可能性がある。
 だがそうだとしても滅びの執行人としての役割を、世界の消滅を望む者としての役割を受け入れる。

「ヨはノワール伯爵! 滅びのヨゲンの執行人にして、
 全てを滅ぼし消し去るものなり! ヨを打ち倒す覚悟を見せてもらおう!」

 再び浮遊しながら距離を取り、第六天魔王の錫杖から黒紫の集合体を放つ。
 先ほどは鉄平を攻撃したものは小規模だったが、今度のは別物だ。
 塔を超える程ではないにしても巨大な暗黒の渦が周囲の瓦礫や鉄平を引き寄せる。
 いかに踏ん張るとしても、立ってるだけではどうにもならない。

「させない!」

 足が浮きかけてた鉄平に手をかざし、刻を遅らせる能力を行使。
 殆ど時が止まったに近しく、固定されたもののように鉄平は吸い込まれず動かない。
 当然近くにいたリリアーナも引き込まれるが、鉄平が文字通りの壁になるお陰で吸い込まれることはない。
 巨大な渦は次第に収束していき、瓦礫と盾が近くへと放り出されて、周囲が掃除されただけに留まる。
 極大暗黒魔法は使う際移動ができないので、追撃ができないのは一つの欠点ではあった。

「ヨと僅かに似通った空間に作用する魔法か。しかし、ヨと違ってその身では余るようだ。」

 コントンのラブパワーと言う外部の力がある為、
 ノワールにとって消耗と言うものとは縁が余りない。
 一方でリリアーナは以前よりも負担が減ってると言えども、
 一度の使用で息を荒げるぐらいの疲労が襲い、胸に手をあてる。

「嬢ちゃん、無理せんね!」

「でも、鉄平さん一人では……!」

「遅い。」

 一瞬気を逸らした間に背後に転移で移動しており、
 錫杖が鳴らす音色を奏でながら、鉄平の顔面を潰す勢いて叩き込まれる。

「ア、ガッ……!!」

 再生能力のお陰で死ぬことはなく、痛みももろくでもない死の夢の経験から、
 皮肉にもある程度慣れたお陰で、身動きが取れなくなるわけではない。
 見えずとも怯むことはなくミドルキックを返す。

「遅いと言っている。」

 すぐさまバックステップのように空中を浮遊し回避。
 リリアーナが手を翳し、刻を遅らせて固定しようとするも、
 それも間に合わないかのように速度を上げて距離を取る。

(見られたから警戒されてる……!)

 間合いに入れば相手を固定させ、倒すことはできる。
 問題は先程見たからか、遅らせる射程を見極めての距離を取られた。
 逃げる相手を止めるために使ったことがないので慣れないのを差し引いても、
 警戒されていては決めることは難しいだろう。

341胎動編『クロスゾーン』 ◆EPyDv9DKJs:2022/01/10(月) 01:32:37 ID:RZqyRIVk0
 他に倒す手段はあるにはある。
 光の柱、アルーシェとの連携ではリリィバーストと呼ばれるそれならば。
 あれなら一撃で沈められる可能性はあるが、使うのには時間がかかる。
 その上確実に当てられる保証もない。詠唱の猶予と足止めする手段、
 どちらも鉄平と自分だけではどうすることもできない。

(それに……)

 不安要素はまだ残っている。
 彼は銃となるものを持ってない、あるいはまだ使ってないのだ。
 つまり狙撃手がもう一人いる。此処にいるかもわからない相手に不安は募っていく。

(ふむ、あの男は驚異的な回復をする。)

 短時間で二度も大きなダメージを与えたはずだが、
 どちらの傷もすでにふさがっている状態だ。
 細切れにすれば殺せるかもしれないが、
 残念ながらノワールの基本戦術は魔法による攻撃。
 相手の人体を物理的に破壊する攻撃においての手段は乏しい。
 何よりその再生力。じわじわキノコカンの比ではないレベルだ。
 故に仕留めるべきは、捕まれば確実にとどめを刺されるリリアーナ一択。

「ならばこれで行こう。」

 錫杖を頭上へと投げて回転させる。
 二人が再び身構えるも、それは意味をなさない。
 彼を中心に青緑の光が周囲へと広がっていき、それを浴びる。

(な───)

 鉄平が動き出そうとするも動きが鈍い。
 リリアーナも同じで、彼の防衛に回ろうにも動きが遅すぎる。

「ヨも似たようなものは使える。回避に徹しようとしたのが運の尽きだ。」

 自身以外を鈍化させる魔法。
 城娘が使う法術に分類するものは、大半が相手の移動速度を低下させる力を持つ。
 第六天魔王の錫杖はその効果がさらに増しており、より強いものとなった。
 あと一歩でリリアーナに匹敵するレベルの遅延をおこしているだろう。

「とどめだ。」

 とは言え万が一のことがある。ワープして背後へと回りこみ、
 リリアーナの能力で防がれないようにした状態で錫杖を構え暗黒魔法の準備にかかる。
 気付いた二人も動き出すが、振り向くだけで間に合うことはない。

「させるかああああああああああッ!!」

 気配と掛け声。
 咄嗟に気付いて浮遊するように移動して回避。
 回避すれば、先程までいた位置に刃を振り下ろす一人───否、二人の少女。

「大丈夫ですか!?」

 姿を現したのはリリアーナとは別の形となる巫女、安桜美炎。
 そして───

「お、叔父様!?」

「───沙都子!!」

 鉄平が探していた少女───北条沙都子だ。



 ◆ ◆ ◆



「俺一人で学校へ行くが、美炎達は俺を待たず他の参加者と接触してくれ。」

 零児が出した結論は選択肢においての①に近いが少し事情が違う。
 本来ならば美炎と一緒に沙都子をこの辺りで待機させるつもりだったが、
 今の提案においては美炎達に待機させないものだった。

「あの、理由って聞いても大丈夫ですか?」

「俺は、学校の戦いは既に終わってると踏んでいる。」

 同じエリアならまだしも別のエリアだ。
 沙都子もそれなりの距離を走って逃げてきたことを考えれば距離もある。
 今から向かったところで、どちらかの勝敗で決着がついている可能性は高い。
 或いは決着がつくところを目の当たりにする、それぐらいのギリギリのものだ。

「無駄足の可能性が出てきてる以上、美炎に待機させるのは無意味になりかねない。
 特にお前は知り合いが多い。仲間と合流をしておく方が、沙都子も安全になるはずだ。」

「零児さんもお強いんですの?」

342胎動編『クロスゾーン』 ◆EPyDv9DKJs:2022/01/10(月) 01:33:42 ID:RZqyRIVk0
 エスデスの強さは多少誇張、いや寧ろそれが事実とも言うべきか。
 少なくとも銃を練習しつくして、優秀な銃器があっても殺せる気がしない、
 それぐらいの理不尽が形になったような人物と言うのが相手の印象にある。
 実力があるとは思うが、エスデスに対抗できるだけの強さかと言う気掛かりがあった。

「あくまで確認に行くだけだ。俺はこれでもこういう事態にはなれている。」

 レプリロイド、ヴァンパイア、ソーディアン、ゾンビ、その他もろもろ。
 ゆらぎの世界のアリスと呼ばれる彼にとってはほぼ普段通りの仕事だ。

「引き際も見極める、だから二人はその間に───」

 言葉を遮るような悲鳴。
 あゆりの声は、勿論此方にも届いている。
 こればかりは話を中断せざるを得ない。

「悲鳴!?」

「学校ではありませんわね。もっと近い場所から?」

「美炎、沙都子、予定変更だ。近くの戦場へ俺達は向かう。
 時間から察するにエスデスがいるとは思えないが……難しいか?」

 B-3ではないにしても位置的に西寄り。B-3に近づくことになる。
 演技臭いところは確かにあったが、エスデスから離れたい、
 と言うのも子供である彼女からすれば至極当然のものだ。

「いえ、離れるより傍にいる方が安全ですわ。」

 表向きにはそういうが、

(と、言った方が都合がいいでしょうし。)

 今すぐ美炎に自分のことを伝えることはないとしてもだ。
 此処で離脱したことで二人の状況が把握できていなかったら、
 いつの間にか沙都子は敵と言う認識をされてたら詰みになる。
 確かに演技をしたが、少なくとも殺し合いに乗るつもりは(今は)ないのだから、
 あらぬ疑いをかけられて余計な敵を作る可能性はなるべく減らしておきたい。
 特に美炎は知り合いが多いと言うのなら、敵ではないと認識されておけば、
 後はとんとん拍子で同じ認識を持ってくれると考えれば恩恵もかなり大きい。
 現状支給品も満足に確認してない自分に、近くで守ってくれる人材が欲しいのもあるが。

「それに、私は殺し合いの経験はありませんが、
 修羅場の経験自体はそれなりに豊富でございますことよ。」

 経験と言うのは部活動だけではなく、
 梨花が経験したカケラの中には時に山狗部隊との交戦もあったし、
 他者を攻撃できる躊躇のなさだけで言えば、美炎よりも躊躇いがない。
 でなければ、平然と心中を筆頭に何度もリセットをできるはずがないのだから。

「わかった、なら───!」

 視界に捉えた影を見て、咄嗟に二人を押し倒す零児。
 何が起きたか一瞬理解が及ばなかった二人ではあるが、
 三人の立っていた場所を攻撃するそれの姿を見て理解する。
 すぐに全員起き上がり、二人は武器を構えながら空を見上げた。





 空にいるのは、例えるならばプテラノドンと言うべきだろうか。
 サイズ自体は全長二、三メートル程度とそこまで巨大ではない。
 翼は骨から青い炎が出てるようにも見える綺麗な飛膜を有しており、
 刺々しい尾や牙は、石のような灰色に染まった姿も合わさり化石のようでもある。 

「荒魂!? いや、ちょっと違う……? って、あれも参加者なの!?」

「いや、参加者ではない。あいつには首輪がない。」

 殺し合いの為のギミックと一瞬思ったが、それはないと考える零児。
 メフィス達が殺し合いを望むのであれば共闘を前提とする存在を参加者以外に用意する意味がない。
 もしするのであれば、嘗て出会って殺意の波動によって暴走してしまったリュウのように、
 殺すのを躊躇する……参加者にとって知り合いと言った相手を出す方が奴らの性格的に合う。
 誰だって討伐したくなるような存在に任せるようなものではない。

 ではあれはなんなのか。何故ここにいるのか。その答えはすぐに導き出される。

「美炎! 沙都子を連れていくか、避難させた後件の場所に向かえ!
 こいつのさっきのスピード、沙都子を守りながら戦うのは厳しい!」

「でも、私と零児さんで戦った方が!」

343胎動編『クロスゾーン』 ◆EPyDv9DKJs:2022/01/10(月) 01:34:12 ID:RZqyRIVk0
 飛行する荒魂との交戦経験もある。
 千鳥は加州清光の半分ぐらいの刀身しかないが、
 少なくとも足手纏いになるつもりはないし、二人なら沙都子も守りやすい。

「銃声とタイミングから察するに、
 これは俺達をそっちへ行かせないためのものだろう!
 此処で俺とお前、両方が足止めを受けたらそいつの思うつぼだ!
 迅移とやらで移動できるお前なら、沙都子を抱えて離脱も容易なはずだ!」

 此方に使用者が支給品の生物と共に攻め入らないと言うことは、
 あの生物の使用者は先程の悲鳴の元凶である可能性は十分にある。
 此方を優先しないのは、先に始末できる参加者を優先してのことだと。
 どうやってこちらを把握したのかについては判断はできないが、
 今ここで全員が足止めされるわけにはいかない。

「……分かりました! 沙都子ちゃん、しっかり掴まって!」

「ええ、分かってますわ!」

 もしさっきの場所に可奈美たちがいるのなら。
 手遅れになるなんてことはしたくないので、指示に従い沙都子を背負う。
 後は迅移と八幡力を使えば、人を背負ってもあっという間の移動が可能となる。
 とは言え手にする御刀が加州清光ではないからか、後の時間で可奈美も経験することだが、
 本来の御刀でない以上普段通りの迅移や八幡力のような強化はなく、途中彼女は戸惑ったが。
 翼竜は逃げる美炎を狙いを定めるも、目の前に投げられたものが爆発し妨害される。

「悪いが、こっちの相手をしてもらうぞ。」

 片手にひものついた卵と言うシュールなものを持ちながら零児は雪走を構える。
 空中の敵を狙える唯一の手段であり、限りもある。なるべく消耗せずに戦えわなければならない。
 かの明けない世界で従魔(セルヴァン)と呼ばれた一体、ヴォルは零児へと狙いを定めた。



 ◆ ◆ ◆



 本来は沙都子をどこかで降ろそうとしていたのだが、
 巨大な暗黒魔法を視認したのと謎の鈍化現象もあり、
 降ろす時間がないまま美炎は沙都子を背負って来ざるを得なかった。

「……沙都子! あの塔の屋上に怪我人がおるんや!
 何か手当できるもんあるんやったら、その子に使ってやってくれんね!?」

 動きが鈍くなる効果が消えたことでまともに喋れるようになったので、
 此処へやってきた沙都子を避難させるついでに、あゆりの救助を求める。

「わ、分かりましたわ!」

 正直沙都子にとって叔父がいるのは想定外ではあった。
 彼が死なずに時間を稼いだことはこの際放っておく。
 なんとか時間を稼いで、善にバトンを渡したのだろう。
 何があったか知らないが、本当に憑き物が落ちたかのような変わりようだ。
 最初は自分に何か利用価値を見出したから助けたのかとも少し思っていたが、
 此処にいない時点で戦闘ができない状況にある怪我人の救援要請は、
 流石に鉄平らしからぬ発言であり、少し声にも戸惑いが混じっている。
 一先ず彼の言うとおりに従い、塔へと向かう。

「先程周囲の動きを鈍らせる魔法をしたはずでワール。
 何故、先程の影響下でも機敏に動くことができたのか。」

 鈍化の影響は起きている、それは二人が証明していた。
 にも拘わらず今の動きは、普段とさほど変わらないものだ。
 普段よりも効果時間が短いことについては、コントンのラブパワーの弱体化から既に察してるが、
 個人が鈍化を一切受け付けてないことについては疑問があった。

「ふっふーん! 迅移なら問題なく動けるからね!」

 どや顔を決めながら美炎が時間稼ぎついでに語っておく。
 要するに、迅移でスロウになったが人並みの速度に戻っただけだ。
 問題なくと彼女は言うが、迅移なしの人並みの速度とさして変わらない。
 それを言えば不利になることぐらいは彼女だってわかっており深くは語らない。

(完全者の到着はまだか……いや、私が原因か。)

 彼女が素早く動けた例外と言うことはだ。
 自分の鈍化により遅れていると言うことに他ならない。

「さっきの悲鳴、原因はそっちだよね?」

 沙都子の叔父がいるのであれば、
 隣の女性も殺し合いに乗ってない。
 必然的に誰が敵かは判断がつく。

「いかにも。」

344胎動編『クロスゾーン』 ◆EPyDv9DKJs:2022/01/10(月) 01:34:53 ID:RZqyRIVk0
 肯定する相手に、少し顔をしかめる。
 美炎は、できれば悲鳴の元凶が荒魂であればよかったと思った。
 幾度と多くの刀使と刃を交えた身ではあるが、決して命の奪い合いにはならなかった。
 殺さずに制する場であったが、今度の相手は写シを使う刀使でも、ましてや荒魂でもない。
 荒魂ならば自分達人間のせいでもあるので、ある程度の責任を持つことができた。
 相手は顔色から異形で人間離れはしてこそいるものの、意志の疎通ができる相手を今から斬る。
 人を斬らないと決めた、可奈美の千鳥を血に染める覚悟をしなければならない。

「武器を捨てて投降して。命までは取らないから。」

「得物を手にしてると思えば、随分と甘いことを言うな。
 話し合いで通じる相手とだけ戦ってきたとでもいうのか?」

「ッ……」

 還す言葉もない美炎。
 話し合いが通じない相手はいた。
 荒魂や嘗て敵対してた折神親衛隊もだったが、
 タギツヒメの近衛隊となった調査隊の葉菜や由依もそうだった。
 解決しようがない相手とは刃を交えるしかないのだと。
 『取らない』とは言ったが『取りたくない』が本音でもある。

「ワ〜ルワルワルワルワルワル!
 そんな覚悟でヨの相手など、片腹痛いでワール!」

 再び距離を取りながら杖を頭上で回転させる。

「また鈍化が来るわ!」

「させない!」

 思惑に気付いたリリアーナが美炎へ促す。
 鉄平も気づいて動くも、やはり迅移の加速は別格だ。
 普段より速度が出ないとしても常人以上の加速ができる。
 鉄平より先に間合いに入るも、祓うではなく殺すの境界線を越えられない結果、
 行動不能にするために足へとめがけて横薙ぎに千鳥の一閃。

「え!?」

 マントを裂いて足を斬るはずだった。
 間合いの差もしっかり判断したうえでの攻撃。
 だがマントを裂いてみれば、予想だにしない結果が待っている。

「私は人の形ではない。」

 マントで隠されてたので美炎は気づいてなかったが、
 ノワール伯爵は下半身が存在せず、上半身のみだと言うことを。
 彼は常に浮いている。足音が一度もないまま浮遊しての移動はそういうことだ。
 ないものを斬ることはできない。虚空を斬れるのは英霊に昇華した剣豪ぐらいなものだ。
 伸びしろのある成長途中ではあるが、同時に未熟な美炎が虚空を断つことなどできるはずもなし。
 空振りでもそこから切り上げるも、突如背後の塔の中から響く銃声に反応が遅れてしまう。

「銃声!?」

「何?」

 塔には沙都子と怪我人だけのはず。
 そこに誰かがいたとは思えないが、ノワールも想定していない。
 今の銃声、恐らく完全者だとは思うが一体どこから入ったのか。
 確率は低いが完全者を二人が制して、少女が傘を奪った可能性もある。
 伯爵にとっても想定外の出来事で鈍化には成功こそしたものの
 美炎同様に行動に遅れたことで、先に復帰した美炎の切り上げが迫り、
 隙のある彼女を攻撃し損ねてしまい、逃げる形で距離を取る。

(四人の勇者、人数的には間違いではないか。)

 ヨゲンしょに書かれていた勇者の人数は四人。
 もっとも人数だけの話だ。マリオ達とは似ても似つかないし、
 命運を握る緑に至っては此処にはどこにもない、数だけのもの。
 だがこの状況でその人数と、戦うのがマリオと同じ赤色が目立つ相手なのは何の偶然か。
 
「近づかれるのは好ましくない。一先ず此処は……」

 再び空間転移で姿を消す。
 あたりを見渡して姿を探すが姿を見せない。

(落ち着いて……あの人は私には近づかない筈。)

 先ほど彼は近づかれるのは好ましくないと言った。
 鈍化を受けてない以上、不意打ちでも反撃される可能性がある。
 そして塔の中へ逃げることもない。彼自身想定してない何かがあるからだ。
 つまり狙いは美炎ではないと分かった瞬間、彼女の行動は早い。
 この状況で一番仕留めやすい、先程狙っていた女性、リリアーナの背後を目指す。

「そこっ!」

345胎動編『クロスゾーン』 ◆EPyDv9DKJs:2022/01/10(月) 01:36:11 ID:RZqyRIVk0
 彼女の背後の何もない場所へと袈裟斬りにかかる。
 その予想通りと言うべきか、予想したほぼ同じ位置に姿を現す。
 塔の中から届く爆発音にも反応したが、それに構うことはしない。
 次気を逸らせば、今度こそやられてしまう。

「フン!」

 咄嗟に錫杖を両手で構えることで一撃をぎりぎりで防ぐ。
 神力を引き出すための御刀と、神娘によって造られた錫杖。
 神聖さに溢れた武具のぶつかり合いの甲高い音が響くのは、
 本来の持ち主以外に酷使されることに対する嘆き、或いは悲鳴のようだ。

(今はこっちに集中して!)

 塔の事は一先ず沙都子を信じて彼を何とかする。
 もし狙いが違ったらと思って八幡力を使用しなかったことで、
 押し切ることこそできなかったが、リカバリーはその分なんとかなる。
 防がれた反動でそのまま八幡力を乗せた横薙ぎの一撃は重く、素早い。
 距離を取って回避するも完全に避けきれず、肉の一部を削ぐ。

(集中を切らさないで!!)

 最近は成長して以前よりも集中力が切れなくはなったが、
 あくまで万全の場合の話。千鳥では刀使の力を全力で発揮できないし、
 間合いの短さから距離を詰める必要もあるので、立ち回りも違う。
 いつも以上に気を使う戦い方をする必要があり、その上で無力化を目指す。
 非常に困難な状況下で彼女は戦っている。集中しなければ死を招く。

(チャンス!)

 周囲の鈍化が切れた。
 スピードであれば負けることはない。
 一方で御刀をハイスピードな動きで振り回すのでは、
 二人が援護しようにもそれをする暇を与えてくれないし、
 塔の近くで攻防を繰り広げてるせいで、塔に近づくのも危険だ。
 お陰で塔の中でさっきから物々しい音がしていても其方へ行けない。

(小柄な少女のはずが、重い!)

 いくら劣化してる八幡力と言えども、常人を超える膂力。
 接近戦が不得手となる伯爵にとってどの一撃も油断ができない。

「だが、いつまでも防戦一方ではないぞ!」

 隙を見て紅いオーラを纏っての突進。
 禍々しい赤黒い色ともあって美炎は回避を優先し、
 背後を斬りかかったところを、再び錫杖で防がれる。

「嬢ちゃん避けんね!!」

 鈍化から解放されたことで、
 先程暗黒魔法で放り出された瓦礫を投げる鉄平。
 強化された身体能力で投げられる瓦礫は洒落にならない一撃。
 なんとか攻撃をいなしながら空へ飛ぶように伯爵は逃げる。
 美炎は迅移があるので難なく回避して特に問題は起きない。

(やはり完全者か。)

 五、六メートルほど上昇して塔の中の様子を軽く伺う。
 窓から見える範囲だけだが、長い銀髪……完全者が中にいたことだけはわかる。
 どうやら既に塔の中には既に入っていたらしい。援護をしなかったところを見るに、
 優先順位は支給品の確保なのだろう。つまり自分は時間を稼ぐ、或いは仕留めればいい。

(となると、鈍化は避けた方がいいな。)

 爆発もあったことから鈍化の魔法はまずい。
 あくまで受けるのは生物だけで、他は変わらない速度で動く。
 射程は制限でどこまでかは不明だが、自分以外無差別に影響を受ける。
 最悪逃げられない、防げないまま爆発を受ける可能性がある。
 空中へ逃げたのは鈍化抜きではスピードで勝てない美炎対策でもあった。

(こっちも空中って!)

 先の翼竜といいまたも空中の敵。
 しかも問題なのは、

「さあこれをどう突破する!」

 相手が荒魂と違って攻撃時に地上に降りてこないと言うことだ。
 空の上から暗黒魔法による一方的な攻撃を可能としてくる。
 極大暗黒魔法でなければ直線的な攻撃だし弾速自体は早くない。
 迅移で回避は容易ではあるものの、それは決して勝てるわけではない。
 コントンのラブパワーのバックアップがある以上、最終的に伯爵が持久力で勝つ。

「そっだらとこおらんで降りてこんか、このダラズ!!」

346胎動編『クロスゾーン』 ◆EPyDv9DKJs:2022/01/10(月) 01:36:43 ID:RZqyRIVk0
 本当なら沙都子が心配ではあるが此処で伯爵を足止めしなければ、
 空を飛べる相手は自分より沙都子の場所へ向かうのは非常に容易いこと。
 それだけはさせないと言わんばかりに、手ごろな瓦礫を投擲する。
 これは避けなければならないのでスライドするような移動で攻撃を回避していく。
 まるで玉当てでもしてるかのような光景ではあるが、本人らは命の奪い合いの領域だ。

「太陽の意思───」

「!」

 五度か六度か。それを繰り返して美炎と鉄平の攻撃にかまけている間に、
 いつの間にか距離を取っていたリリアーナが手を組んで何かを詠唱し、手に光が収束していく。
 この場面でする行動、明らかに止めなければならない要因だとは気付く。
 しかし暗黒魔法の弾速自体は早くなく、止めるなら接近が必須だ。
 リリィバーストがどういう攻撃手段か知らない。
 その差がノワール伯爵が取る選択肢を阻める要因となる。
 ワープをしても防がれるのは明白。となればできる手段は一つ。

(塔へ逃げ込むしかないな。)

 怪我人がいるなら巻き添えはさせない。
 何処にいても個人を狙うのだとしたら意味のない行動だが、
 それならば最初からそれを狙って攻撃してるはずだ。
 此処まで出し惜しむ理由はないので、恐らくそれはない。
 回転しながら消えて空間を移動し、塔の窓へと向かう。
 何が起きてるか分からないが、今よりは安全だと。










 そのはずだった。

「何!?」

 移動しようとした考えた瞬間、少し上の上階で大爆発が起きる。
 降り注ぐ瓦礫は、逃げ込むどうこう以前の問題が起きていた。
 塔は最早安全ではない。下手をすれば此処以上に巻き添えを食う。
 降り注ぐ瓦礫を、距離の取ってるリリアーナ以外は避けに専念せざるを得ない。

「我が胸に正義を与えたまえ!」

 避けてる間に詠唱はほぼ終わりを迎える。
 瓦礫の回避を優先してた以上、これはどうにもならない。

(当たる寸前に避けるしかないか。)

 瓦礫を避け終え、タイミングを見計らって転移で避ける。
 その瞬間を警戒するも、

「!?」

「逃げるなんぞ、ワシがさせん!!」

 鉄平が跳躍して背後から羽交い締めで掴む。
 ヘルズクーポンさまさま、と言うべきか。
 転移は一人でなければできない制限が課せられてる。
 暗黒魔法は鉄平の回復力から無意味。
 つまり───逃げられない。

「嬢ちゃん! 今や!!」

 確実に巻き添えになる程の至近距離。
 しかしこうでもしなければとても止められない。
 だから鉄平は何度も見た転移を警戒して掴んだ。
 今の状態ではできない。反応からそれは察した。
 ヘルズクーポンの再生力に、賭けるしかない。
 此処まで来てギャンブルをするなんて、と少し自嘲したくもなるが。

「光よッ!!!」

 手に込めた光を空へと放つ。
 投げたそれは空高く舞い上がり、伯爵と鉄平の頭上へ到達した瞬間。

「こんなところで私は───ッ!!」

347胎動編『クロスゾーン』 ◆EPyDv9DKJs:2022/01/10(月) 01:37:12 ID:RZqyRIVk0
 ノワール伯爵の悲痛な叫びと共に、
 極太の光の柱が、二人を包むように落ちた───



















 リリィバーストの威力のあまり、吹き飛ばされた美炎。
 ダメージはないので写シは剥がれることはなかったが、
 そんなのは二の次で、二人の状態を見る為立ち上がる。
 鉄平もノワールも、ボロボロの状態で地に伏せている。
 互いの血が周囲を赤く染めてる中、先に立ち上がるのは───





「グ、ゥ……まだ、だ。」

 ノワール伯爵だった。
 祝福の杖を取り出し、辛うじてつないだ命に回復を続ける。
 鉄平は命こそ失ってはないがダメージの大きさで気絶したままだ。

「光など、ない。世界に……価値など……!」

 モノクルが割れ、息も絶え絶えに近しい表情。
 そうまでして誰かを殺さないといけない願い。
 そんな気迫に美炎は気圧されて軽く後ずさりする。
 これが、殺すか殺さないかの覚悟の違いだと。

(武器だけでも奪わないと!)

 だが殺戮を止める。その為に真っすぐにこの刃を振るおう。
 駆け抜けて、持っていた二つの杖を奪う。それはとても容易なことだ。
 意識が朦朧とした状態、とても転移などできるものではないのだから。










 彼女が杖に触れる寸前。身体を貫く無数の弾丸。
 写シがなければ、間違いなく致命傷の弾丸が背後から突き抜ける。
 ノワール伯爵は咄嗟にそれに気づいたことで回避をして、辛うじて無事だ。

(撃た、れた……!?)

 写シで身体的損傷はないものの、痛みはある程度は残る。
 写シが解除され、その場で膝をついて背後へ振り返る。
 背後は塔。あれだけ爆発に銃声のあった塔から姿を見せたのは、

「ッ……手こずっているようだな、黒の伯爵よ。」

 左目を抑えながら傘を構える、完全者の姿だ。

348 ◆EPyDv9DKJs:2022/01/10(月) 01:38:17 ID:RZqyRIVk0
一旦投下終了です
もう暫しの間おつきあいください

349胎動編『一筋の揺るがない情動』 ◆EPyDv9DKJs:2022/01/11(火) 17:58:17 ID:UznlAlnQ0
投下します

350胎動編『一筋の揺るがない情動』 ◆EPyDv9DKJs:2022/01/11(火) 17:59:52 ID:UznlAlnQ0
(一階につき窓が一つ、多分後二階か三階先に───)

 沙都子は塔へと入り、迷うことなく階段を昇る。
 三階へと到達して扉をくぐった瞬間、鈍化の魔法が襲う。
 だからというべきか。視界の隅に入ったものに気付いて終わると同時に数歩退く。
 先ほど沙都子がいた場所に銃弾が無数に飛び交い、壁が抉られる。

「運のいい奴だな。」

 動きがスローモーションになっていたせいで、
 動く前に気付かれてしまったことについて外を睨む。
 あれがノワール伯爵のやったことと言うのは、おおよそ予想がつく。
 此方も手の内を隠してる以上、余り責めることはしないが。
 顔を合わせてはないものの、異なる世界の二人の魔女が邂逅する。

「いつの間に入ったんですの?」

 叔父が嘘を吐いていたようには見えない。
 あれは決して演技ではないと言うことはわかる。
 戦いに集中してたから気付かれずに塔に入った? 否、それはおかしい。
 外の戦闘を見ながら一切加勢せず、態々ここで待ち伏せする意味が分からなかった。
 もし伯爵と無関係の人物でも、漁夫の利を狙うのであればそちらの方が利益も多いはず。

「お前が私の立場ならば、それに返答する必要はないだろう?」

 鉄平の発言を聞いて先に乗り込んで、伯爵より先に支給品を回収しておく、
 その目的があってうまくいけば二人分の確保ができると言う算段で此処にいる。
 何故気付かれることなくは入れたのかは、最後の支給品が理由だ。
 できることなら屋上で待ち伏せしたかったがそれを初めて使ったので、
 慣れない結果四階あたりで彼女に追い抜かれそうで、三階にて待ち伏せを選んだわけだが。

「ええ……そうですわね!」

 会話の最中にしっかりと支給品を確認してた沙都子はあるものを投げる。
 空中に投げられたのは、なんとも出来の悪い人形だった。
 円筒状の体に、棒の腕と、死んだ目の顔。悪い言い方をするならば、
 子供の工作で作った何かとしか言えないような代物になる。

「なんだ? そのガラクタは。」

 これを投げて注意を逸らすのかと思ったが、
 沙都子が一向に出てこない様子から何かがやばいと察した。
 近くの倉庫の扉を傘で破壊しながら逃げ込むと同時に人形が地面に衝突。
 即座に爆発し、ギリギリ倉庫の壁へ滑り込めたので大事には至らない。

(ふざけた見た目でダイナマイトか……あの小娘、躊躇がないとは意外だな。)

 子供なのに殺す行為に躊躇いのなさ。
 見た目は子供だが奴も転生の法を使う魔女の類なのか。
 早々に相手の性格に気付くことができたのは幸いと思うべきだと理解する。

(爆発に紛れて上へ逃げたな。)

 爆発音の中に紛れて上へ向かう足音。
 一応銃を向けるが煙で狙いが音頼みであり当てられそうにない。
 早々に追って階段を駆け上がるが、四階へ入る寸前に投げ込まれる例の人形。

「チッ、まだあるのか!」

 このまま進んでも物陰へ隠れる暇がなく、
 タイムロスになるが仕方なく階段を飛び降りざるを得なかった。



 ◆ ◆ ◆



(痛い。)

 たずね人ステッキを文字通り杖代わりにゆっくりと階段を降りるあゆり。
 右手から伝わる痛みに意識が持ってかれそうなのを耐え続けているが、
 そのせいで時間は経てど屋上から一階降りただけである。

(撃った奴、一発ぶん殴ってやりたい。)

 抉れた手の風穴を見て下手人への怒りが募っていく。
 この手、果たして人間の治癒力で治るのか? 治っても後遺症は残るんじゃないのか?
 もし治らなかったらどうしてくれるんだ? なんて怒りが。
 命懸けの殺し合いにおいても、何処か普段通りの気の強さがにじみ出る。

「ウェ!?」

 下の階から銃声、続けて爆発。
 軽く揺れたのも相まって踏みとどまることを優先する。
 今の銃声に覚えがあるが、今はそれどころではない。

351胎動編『一筋の揺るがない情動』 ◆EPyDv9DKJs:2022/01/11(火) 18:00:56 ID:UznlAlnQ0
(嘘でしょ!? 私、今まともに使える武器も逃げる手段ないんだけど!?)

 彼女の支給品は彼女に使いこなせないか、直接的な戦闘に向いたものではない。
 一応、隣の塔へと移動できる通路はこの階にある。しかし痛みでまともに歩くのにも難儀する以上困難だ。
 更に逃がさんと言わんばかりの十メートル近い高さ。飛び降りても無事では済まない。

(どうしろって言うのよ〜〜〜!!)

 以前、生徒会長に身だしなみにダメだしされたかのような状況。
 彼女であればこういう時も、ある程度冷静に物事を見極められるのだろうが、
 残念ながらテストの点も酷いし怒りっぽい彼女では打開策は見つけられない。
 近づく足音に踵を返すぐらいしかなかったが、出てきたのが沙都子で足を止める。

「あれ、沙都子ちゃん!?」

 美炎の能力を把握してない都合、
 この短時間であの距離から来れたことに驚きを隠せない。

「叔父さまが言ってた怪我人とは、貴女の事でして?」

「多分そうだけど、まさかさっきの爆発───」

「時間がありませんわ! なにか私にも使える武器は!?」

 怪我の状態は相当ひどいものだ。
 これでは戦う以前に戦力外である。
 元より怪我人だし、高望みしたわけでもないが。
 先程から投げてるジャスタウェイのストックも限りがある。
 沙都子の支給品にはこの状況をなんとかできるものはない。
 ついでに言うと、彼女の傷を何とかできるものもなかったが、
 これは先程自分の支給品を確認したばかりだし、
 下にいても役に立たないので結果は変わらないだろう。

「私のって腕力上げれるこの腕輪とか、
 或いは使えない武器とかで、銃とか相手に無理。」

 引きつり気味の顔で手をブンブンと振るあゆり。
 どうするべきか。時期に階段を上ってくるので、
 とりあえず乱雑にもう一つジャスタウェイを投げておいて時間を稼ぐ。

(そういえばこの階段……)

 疑問ではあった。
 何故この階段は両端だけ段差ではない坂になっているのか。
 トラップマスターである以上、場の地形と言うものは気にする部分だ。
 車椅子用? こんな寂れた場所に車椅子の人を気遣うとは思えない。

「そういえばそちらの名前、なんでございますの?」

「え? 広瀬あゆりだけど……」

「あゆりさん、急いで手伝ってもらいますわよ。」





(『アレ』を使って上る方が早いか? いやしかし、
 手の内を晒せば思いもよらぬ反撃と言うものがある。)

 階段をのぼりながら爆弾に警戒しつつ安全に昇る完全者。
 別の塔へ移動できる通路は直線だけ。そこへ逃げればガトリングで撃たれて終わりだ。
 だから此処で迎え撃つ方が、相手が取れる唯一の勝利への道となる。

(あれは多彩すぎて私ですら使いこなせない。
 まったく、これを使用していた奴は一体何者だ?
 あんなもの、常人ではろくな使い方すらできんぞ。)

 完全者ですら完全に御せない支給品にごちりつつ、
 四階から五階へと上る階段を駆け上がる。

「こ、んのやろぉ!!!」

 あゆりの掛け声と共に、五階へ続く扉がぶち破られる。
 だが出てきたのは彼女でも、沙都子でもない。

(何!?)

 蜘蛛の糸がついていて、随分と放置された大砲。
 輸送や運搬用の何かがあると沙都子は踏んで、
 近くの倉庫から車輪つきの大砲を見つけて、それを蹴り飛ばす。
 怪我人と少女一人の膂力では押すのに時間はかかってたが、
 そこはあゆりがつけていた『ちからの腕輪』のお陰でなんとかギリギリ間に合わせた。
 完全者が慎重になりすぎて時間をかけすぎたのと言うところはあったので運は絡むも、
 二人が現状出来る、唯一の逆転の一撃は速度を上げて階段を下り、完全者へと襲い掛かった。

「チィッ!! オアシ───」

 迫る大砲を何とかしようとするも、衝突して下へと一緒に階段を下る完全者。
 少なくとも相当な重量だ。轢殺か、壁と衝突して全身が潰れるだろう。
 下へと行った完全者の姿を見届けた後、あゆりは階段付近の壁にもたれかかる。
 それと同時に、壁に大砲でも激突したかのような音が一階から轟く。

「あー……やっちゃった。」

 人、殺しちゃったなぁ。
 何とも言えない複雑な気分になり溜息をつく。
 仮に生きてたとしてもかなりの重傷は間違いない。
 怒りっぽいことはあれど殺すに至るまではなかったのが、
 ついに一線を越えてしまったことに落ち込まずにはいられない。

352胎動編『一筋の揺るがない情動』 ◆EPyDv9DKJs:2022/01/11(火) 18:02:22 ID:UznlAlnQ0
「襲ってきた相手に罪悪感があるんですの?」

 殺さなかったら殺されている。
 仕方ないと言えば仕方のないこと、
 沙都子は簡単にそれと割り切ることができた。

「え、いやでしょ人殺しになるの。
 しかもこんなわけもわからない殺し合いで。
 メフィス達の思惑通りに行動したってならない?」

「……確かに、そうですわね。」

 沙都子としてはあゆりの発言に少し間をおいて言葉を紡ぐ。
 梨花とずっと一緒にいる。その為にやり直せるとは言え、
 人を死なせる、殺す行為に対して何処か薄れていた気がしてならなかった。
 だって死ねばやり直せる。そうすれば梨花も部活メンバーもまた生きているんだから。
 やりなおしこそ経験しているものの、彼女はまだアレに精神を完全に乗っ取られる前に来た。
 ゆえに、そのことに納得できるし自分の考えがおかしいとも認識ができた。

「とはいえ、正当な防衛ではございませんこと?」

「……ま、そう割り切るしかないか。」

 過剰防衛と言われればそうだが、こっちは手を抉られてる。
 後ろ髪が引かれこそするが、仕方ないともある程度は納得できた。

「と言うか、小学生なのに凄い行動力なんだけど。」

「オーッホッホ! 私これでもトラップマスターでございますことよ。
 数々の非人道的なトラップで圭一さんを筆頭に何人も餌食にしてますの。」

「そりゃ、頼もしい限りで。」

 この行動力からなんとなくえげつないトラップなのだと分かり、
 餌食となった圭一と言う人物について僅かながら同情したくなる。

「一先ず、隣の塔へ行って───」















 沙都子の言葉を遮るような無数の銃声。
 黙らせるかのように彼女の体中から血が噴き出し、倒れる。
 あゆりには理解が及ばなかったし、沙都子も理解できなかった。

「嘘……なん、で……」

 射線の方へあゆりが視線を向ける。
 そこに立っているのは───完全者の姿。
 下に叩きつけたはずの彼女が、五階の倉庫から姿を見せたのだ。

「え、え? どうして、あんたさっき下に落ちたでしょ!?」

 自分がみた幻覚だったのかと疑うが、
 扉のは間違いなく壊れてるし、右手の痛みも現実だ。
 何故倉庫から出てくる。どうやってもあり得ないと。

「私も、肝を冷やしたぞ。これがなければ、私は確実に死んでいた。」

 指を鳴らすと、彼女の姿が変わっていく。
 泥のような茶色い、ダイブスーツのようなものに覆われる。
 端麗な姿をした彼女と比べるとは酷く不釣り合いな姿だ。

「何、そのスーツ……」

「スタンド、と言うものらしい。
 これを使えば地面や物を泥にして泳げる。
 これで壁を泳いで登ったと言うわけだ。
 まあ、使うのにかなり難儀したがな。」

 これが彼女が人知れず塔へと入り、
 今奇襲ができた原因。彼女は事前に最後の支給品である、
 オアシスのスタンドDISCを用いて行動をしてたというわけだ。
 破壊力Aとされるスティッキィ・フィンガーズをスーツで覆われただけでありながらも、
 拳のラッシュを致命傷に至らない防御性能を誇っており、物質を泥にできる能力がある。
 一階まで大砲と巻き添えに突き落とされても壁に衝突することもないし、
 大砲に挟まれることに対するダメージは何処にもなかった。
 ただ、衝撃自体はあるので一度塔から追い出されたことで戻るのに時間は食ったし、
 最初の大砲との衝突については少し遅れたことで、
 鎖骨の辺りが砕けたことで首元を抑えてるが。

「してやられたぞ。電光機関もない、剣術も武術を極めてもない。
 脆弱な人類共に、これほどの手傷を負わせられるとは。だが終わりだ。」

 この距離だ。逃げたところで撃たれるし、
 何かしようとしても即座に撃たれて終わる。
 完全な詰みに陥り、抵抗する気力すらなくなっていた。

「あま、いですわ……」

353胎動編『一筋の揺るがない情動』 ◆EPyDv9DKJs:2022/01/11(火) 18:03:20 ID:UznlAlnQ0
 あゆりの方は、だが。
 沙都子は震えた声で顔を上げて、身を起こす。
 死に体の状態でありながらも完全者を睨みつける。

「知って、ますの? 私はトラップマスターと呼ばれてましてよ。」

「……だからなんだ? 今から罠を仕掛けるとでもいうのか?
 倉庫からくると想定していなかった私に、どこに仕掛けたと?」

「大砲以外にも、五階へ来た時を想定して、仕掛けたのでございますのよ。」

 え、そうだっけ。
 あの時は急いでたのもあって、
 あゆりは彼女が何かをしたかも全く思い出せない。
 だから嘘なのか真実なのか、それすら判断できなかった。

「……ジャスタウェイ、爆破ですわ!」

 目を張りながら出せる限りの声で完全者の後方を見ながら叫ぶ。

(まさか、音声入力でも起爆するのか!?)

 あれの威力は嫌と言う程に知っている。
 だから一番に警戒したのは彼女がそれを投げること。
 その影響もあってか即座に振り向いたが、
 そこにジャスタウェイなどどこにもなかった。

 気を取られた隙に走り出す沙都子。
 しかしダメージが大きいからか、僅か数歩程度で盛大に転ぶ。
 ジャスタウェイを手軽に取り出す為に開いた状態にしていたので、
 デイバックの中身の支給品も派手にぶちまけた。

「なんだ、ただのはったりか───」

 はったりだと気付き嘲笑ったが、
 視線を戻した瞬間目を張らざるを得なかった。
 ぶちまけて空中に放り出された支給品。
 水や食料にタブレット、そして───複数のジャスタウェイ。
 軽い衝撃で壁も破壊できる威力を誇るものが、合計で七つも空中に浮かんでいる光景を。

「あゆりさん。先に謝っておきますわ……ごめんあそばせ。」

 此処で自分が死ぬ。死んで戻ることができたから、
 自分が死ぬと言う感覚について恐怖感は余りなかった。
 薄れる意識の中で分かることは一つ。自分は今度こそ死ぬ。
 指を鳴らそうにも鳴らす力はなく、鳴らしたところで戻らないのはすでに証明済み。

(───だったら。)

 するべきことは何か。
 梨花には生きて戻ってもらわねばならない。
 生きて戻れば、梨花は自分が救えなかったことでループをするはず。
 ループすればどの程度前かは不明だが、そのときに自分も生きてるはずだ。
 この殺し合いがイレギュラーなことだと言うのは既に察してはいる。
、梨花が生き残り、その果てに時間を巻き戻したところで、恐らくそこに自分はいないことも。
 仮に彼女の前に立つことになるとしても、それは今の沙都子とは極めて酷似しただけで別の沙都子だと。

(それで構いませんわ。)

 だが、それでもいい。極めて酷似した自分であるのならば、同じ結論に至るはず。
 自分を放置してお嬢様生活を楽しんだ彼女を、必ずその沙都子も許さないだろう。
 別の自分が、それを成し遂げてくれる。梨花と沙都子が永遠に一緒となる日々を。
 平行世界だとか、そういうのに疎い彼女にはこの朧げな中で推測しかできない。
 確実性も何もないし何一つの保障もない。死ぬが故の縋りつきたいだけの妄想でしかなかった。




 しかし。
 妄想だとしても。
 未来へ縋るそれは原動力となる。
 だからわざとこけて、この状況へと持ち込んだ。

(ああ、でも。)

 どうしようもないろくでなしであるあの北条鉄平が、
 自分を助けて、あまつさえ他人を気遣うような素振りを見せた。
 たった一回か二回の行動で彼の認識を全て改められる程、
 彼女が受けてきた虐待の数々や彼の悪行は甘いものではない。
 それは未来で鉄平と出会った際に言ったようにムシが良すぎると。

(叔父様には、少しだけ申し訳ないですわね。)

 こんな場所による吊り橋効果の類なのだろうか。
 エスデスを相手にするなどと言うただの自殺行為を、
 彼は沙都子を守ると言う目的だけでそれを実行できた。
 命懸けで自分を守ろうとしたその後ろ姿が、脳裏に焼き付いて離れない。
 もし一緒に生きるような未来があったなら。酌ぐらいは注いで上げよう。
 なんとなくそう思った。

354胎動編『一筋の揺るがない情動』 ◆EPyDv9DKJs:2022/01/11(火) 18:06:21 ID:UznlAlnQ0
(こいつ、まさか……!!)

 爆発寸前に完全者は思惑に気付く。
 彼女が選んだ行為───それは自爆だった。
 残っていたジャスタウェイ、全てを使うことによる最後の自爆特攻。
 梨花が生き残ることを想定するなら、完全者だけでも殺しておきたい。
 もうすぐ死ぬ自分ができる精一杯の抵抗は、彼女を道連れにすることだけ。
 或いはこれで彼女が倒しきれなかったときに、支給品が渡らないよう消し去る。
 それを実行するだけだった。

 無論、それは近くにいたあゆりも巻き込まれることになる。
 どの道あの状況から二人ではどうあがいても助かる手段はなかった。
 逃げても、立ち向かっても。傘のマシンガンで死ぬ……それだけだ。
 だから彼女には巻き添えで死なせることには申し訳ないが故の謝罪だ。
 奇しくも心中とは、何の因果だろうか。

(あ、死んだわこれ。)

 ありゆはその光景を眺めた瞬間に自分の死が直感で悟った。
 なんとも間抜けな感想だと思った。死ぬ寸前に思うことかと。
 こんな場所で死ぬ。友人はおろか、家族も知ることはないのだろう。

(いや、知ったところで困るか。)

 『文化祭で城址題材にしてたら、平安京を舞台の殺し合いに巻き込まれて最終的に爆死しました』なんて、
 普通に考えてとても家族に伝えられないし、伝えたところでそいつが頭がおかしい奴にしか見えない。
 それなら、心配かけることになるとしても。行方不明としてわからないままの方がいいだろう。

(打ち上げ、行きたかったな───)

 爆発の光に飲まれながら、友人との記憶を振り返りながら彼女は散る。
 城址と違い、形に残るものを元の世界に残すことなどなく。

 そして起きたのがあの大爆発。
 美炎達が瓦礫を避ける事態に陥ったのはこれだ。
 五階には生きた参加者の姿はない。あってもそれは残骸だけ。
 生きた人間などどこにもいない。









「グッ、あの小娘ェ……!
 最後の悪あがきと言うことか……やって、くれたなッ……!!」

 左目を抑えながら、二階程下の階で蹲る完全者。
 抑える手の隙間から煉瓦の床へと鮮血が零れていく。
 オアシスで潜ってはいたが僅かに遅れた結果、左目に破片が突き刺さって失明している。
 オアシスは同じスーツを纏うスタンド、イエロー・テンバランスやホワイト・アルバムと違い、
 顔をフルフェイスで覆うことができるスタンドのヴィジョンではないが故に起きた負傷だ。
 自分の支給品を消費してでも伯爵より先に支給品を奪取するはずだったが、
 今の爆発で支給品ごと消滅してるか、残骸しか残ってないだろう。
 ヴォルを使ってでも得ようとしたのに、左目を喪うだけとは悲惨な結果だ。

「左目は伯爵が持つ杖でなんとかできる……! 加勢に行くしか、あるまい。」

 痛むが別の身体でムラクモに殺されている。
 その経験もあるし今更眼球一つで狼狽えるな。
 自分の身体に鞭を打ちながら、一階へと降りて美炎を撃つに至ったのだ。



 ◆ ◆ ◆



 一方、その頃。
 激戦になる少し前のことだ。
 空中から飛来するヴォルの突進を、
 すんでのところで横へ飛んで回避しながら雪走を振るう零児。
 しかし回避を優先した都合、刃を振るころには殆ど間合いの外で文字通りのかすり傷。
 続けて卵を投げて爆破させて辛うじてダメージを与えるも、微々たるものでしかない。

「厄介だな……」

 美炎と別れてから零児はヴォルと交戦を続けるが、殆ど千日手に近かった。
 零児の使う護業抜刀法は刀一本では成立しないが、普通の剣術も十分に扱える。
 一方でヴォルも見た目通りの素早さと攻撃力を兼ね備えた優秀な従魔。
 その上で零児の対空手段はタマゴバクダンと心許ないのもあって、
 基本的にカウンターだけが頼りになり、受け身になりがちだ。

(美炎を向かわせなければすぐ倒せただろうが、
 さっきからかなり熾烈な戦いになってるのは分かる。)

 極大暗黒魔法の視認、鈍化現象。
 それらを考えれば美炎を向かわせたのは正解だと思っている。
 一方で早々に倒して援護に向かいたいと言うのも本音だ。

 視線を件の場所を向けてたのを戻せば、
 ヴォルが何度目か分からない突進を仕掛ける。
 今度は零児が後方へ飛びながら跳躍して刺突で迎え撃つが、
 旋回して空を裂くだけに留まる。

「おまけに知能も高いか。」

355胎動編『一筋の揺るがない情動』 ◆EPyDv9DKJs:2022/01/11(火) 18:06:59 ID:UznlAlnQ0
 たった一度の攻撃だけで切れ味を理解したか、
 或いは優れた剣士を見てきたのかもしれない。
 なんにせよ易々と当たってくれそうにはなく、
 背後に回られることで逆に待ち構えられるが、
 後方へタマゴバクダンを投げてうまく視界を妨害し、その隙に振り向いて三段突き。
 胴体に三ヒット、漸くまともに攻撃を決めることができ、
 足の爪による斬撃を雪走で防ぎながら、その反動で地上へと降りる。

「爆弾は小牟の方が手馴れてるが、
 こうして使ってみるとあいつが使うのもわかるな。」

 彼女が使うものより低性能ではあるが、
 使ってみると思いのほか小回りが利く代物だ。
 卵なのは気掛かりだが、擬装用なのだろうか。

(さて、そろそろ決着と行こうか。)

 彼とて、ただ千日手を繰り返していたわけではない。
 避けながら零児はあるものを探しており、今しがたそれを見つけた。
 ヴォルが空へと舞い上がり、此方を視認して狙いを定めた後その場所へ向かう。
 逃げる零児へと急降下するが、ジャンプをすることで回避。
 そのまま旋回しようと空へ舞い上がろうとする。

「!?」

 しかし、それをすることは叶わない。
 目の前には建物があり、旋回しても間に合わないからだ。
 零児が向かっていたのは、平安京の雰囲気にあった趣のある和風の茶屋。
 茶屋へと衝突し、様々な音を立てながら茶屋は倒壊する。
 彼の一撃で倒壊する建物を、彼は探していたのだ。
 これでとどめをさせるとは思っていないし、事実その通り。
 だが高速で動くヴォルにとって、建物に挟まれるだけで大幅な減速となる。

「お前も俺達と同じ被害者なのはわかる。
 だが、お前を何とかできる手段は現状はない……悪く思うな。」

 崩れた建物に一度着地した後、
 そのまま突き出た頭部へと斬撃を決める。
 岩のような見た目でありながらも、簡単に首を断つことに成功する。
 かなりの業物であることは分かっていたが、これほどとは想定しなかった。

「さて、なんとかなったか。」

 ヴォルの動きと軌道、程よい建物。
 それらを気付かせないで立ち回った都合、
 時間を食うことになってしまったが早急に塔へと向かう。
 疲労は蓄積するが、それを理由に休む暇など今はない。
 建物から建物へとジャンプしながらダッシュで向かっていると、
 見えてきた塔から大爆発を視認する。

(かなり大きい爆発だ!)

 大爆発によって飛来する瓦礫。
 当たれば洒落にならないので移動を中断して、近くの家屋で身を隠す。

(美炎と沙都子は無事なのか?)

 これだけの激戦が起きてるのでは、
 彼女どころか、そこに居合わせた人物も無事か怪しい。
 不安にはなるが焦って負傷して動けないでは本末転倒だ。
 もどかしく思っていると、明らかに瓦礫が落ちる音とは違う音に反応する。

(何の音だ?)

356胎動編『一筋の揺るがない情動』 ◆EPyDv9DKJs:2022/01/11(火) 18:07:21 ID:UznlAlnQ0
 家屋から顔を出せば近くの路地に転がっている、原形をとどめてるとは言えない一人の遺体。
 これが広瀬あゆりと言う少女の遺体と言われても、知り合いですら判断がつかない程の損壊だ。
 ジャスタウェイの爆発で、彼女の身体は原形をとどめるものではなかったものの、
 自身が壁になった結果辛うじてデイバックだけは消滅を免れなかった。

「……君が誰かは分からない。
 助けてやれなかったことも済まないと思う。」

 謝罪と共に、彼女のデイバックを回収する。
 出来れば首輪も回収したいが、今度は光の柱が落ちた。
 あまり時間を取りすぎるものではなく、一度後回しとする。

「せめて、君を元の世界の墓に眠らせることを約束する。」

 あまり見れるものではない顔の開いた瞳を閉じるようにして、再び零児は走り出す。



 ◆ ◆ ◆



「完全者……結果はどうだ?」

「悪いな黒の伯爵。これだけ派手にやっておいて、
 最後は小娘の自爆で支給品の回収は不可能だ。
 もう一人の女も死体がないことから、恐らくは消滅している。」

「そんな……!」

「嘘……」

 リリアーナと美炎、
 それぞれの仲間の死を知らされる二人。
 此処で初めて出会う、まだ数時間程度の関係。
 仲良くなれたかと言われるとそこまでの関係ではないが、
 こんな場所で、他者の欲の犠牲になっていいような存在ではない。

「まだ動けるな。私の支給品が戻ってこないことから、
 恐らくまだ別に参加者がいる。此処の敵を殲滅して迎え撃つぞ。」

 美炎はなんとか立ち上がるが、
 リリアーナはリリィバースト使用直後。
 披露で膝をついてまともに動くことは出来ず、
 援護することも叶わないまま二人を相手にしながら、
 倒れてる鉄平とリリアーナを守らなければならない。

(私に、もっと力があれば……!!)

 武器が加州清光ではないからとか、相手が荒魂ではないからとか、
 此処へ来る以前にあった大荒魂の時とは違う。取り返しのつかない命の喪失。
 いつも口にしてきた『なせばなる』では、もうどうにもならないことだ、

(せめて二人だけでも、守らないと───!!)

 二人を守れるのは自分だけだ。
 零児が救援に来るなんて都合のいい希望に縋るな。
 できるできないではない、やるしかない。
 写シを張り、千鳥を構えて美炎は叫ぶ。
 信じたこの刃を、人の為に振るえ。









 瞬間、美炎が赤いオーラを纏う。
 揺らめく赤いオーラは、さながら炎の如く。
 瞳の色も赤く変わっているが、美炎は気づくことはない。
 彼女がその力を自覚するのは、本来よりももう少し先のことだから。

(雰囲気が変わった!?)

 大荒魂、カナヤマヒメの力。
 この殺し合いに巻き込まれる直前から発現し始めた、彼女の覚醒とも言える力。

「たああああああああああッ!!!」

 先ほどより段違いの迅移。
 一瞬にして塔の中にいた完全者を間合いにまで迫る。
 傘をぶつけることで所撃破防ぐが、腕に重い一撃が襲う。

(早い上に重い……!!)

 これは剣劇で相手するものではない。
 元より近づかれることが完全者にとって不得手なこと。
 同じ剣客となるであろう人物に心当たりはあるにはあるが、
 その男に電光機関でも持たせたのではないかと疑うレベルの間合いの詰め方だ。
 中距離から遠距離で一方的に戦う彼女にとって、まともに戦うどころの話ではない。

「オアシスッ!」

357胎動編『一筋の揺るがない情動』 ◆EPyDv9DKJs:2022/01/11(火) 18:08:02 ID:UznlAlnQ0
 だから最優先で距離を取ること。
 スタンドを纏い、再び地面へと潜る。
 一先ずここは伯爵を回収して立て直しが必要だ。
 今のいる方角は覚えている。伯爵を地面に引きずり込んで、一度距離を取る。

「ッ!」

 完全者が消えた瞬間、即座に狙いを伯爵へと変える美炎。
 幾ら地面では素早い動きができるオアシスと言えども間に合わない。
 地面に引きずることこそしたものの、その寸前に千鳥の一閃が伯爵の身体に刻まれる。

「ガッ、グッ……!」

「地面に潜るぞ!」

 ダメージ回復の為祝福の杖だけは手放さない。
 錫杖の方は落としてしまったが、回収の余裕はなかった。





 下手人が立ち去ったウドガルド城。
 訪れた静寂の中、美炎の荒い息遣いだけが響く。

「逃げ、られた……」

 さっきの伯爵と呼ばれた男に与えた傷、
 咄嗟だったとは言え手ごたえのある攻撃になってしまった。
 殺すつもりはなくてあくまで無力化に留めたかったが、
 その結果を知ることは、今は少なくとも不可能だろう。

「ッ……!!」

 崩落しかけた塔を眺めながら、美炎は拳を握り締める。
 守れなかった。あんなに小さい無力な子供を守れなかった。
 更に中にいた人物も殺された。気絶した鉄平になんていえばいいのか。

「美炎! 無事か!」

 ウドガルド城へようやく到着する零児。
 周囲には瓦礫や散らばる武具に複数の人物、
 どれだけ熾烈な戦いだったかは語るに及ばずだ。

「零児、さん……」

 後ろにいた零児へと振り返る。
 自分なら守れる、そう信じて彼は沙都子を任せた。
 託されたのに結果は真逆。歯を食いしばり、今にも泣き崩れそうな表情だ。
 瓦礫の散らばる地面をバックに立つ彼女の姿は、痛ましいと言うほかにないだろう。

「私、駄目だった───」

 その一言と共に、彼女は意識を手放した。
 純粋な疲労、精神的疲労、カナヤマヒメの力。
 様々なものが蓄積した結果、限界を迎えて美炎は倒れる。

「美炎!」

 倒れる彼女を、何とか零児が抱きとめる。
 大事には至らなかったが、その様子から何があったかは少し察した。
 時間をかけすぎたのはあるが、かといって容易い相手ではなかった。
 相当に鍛えられてたであろう知能のある翼竜。無傷ではあったが一筋縄でいくわけがない。

(今はまず、味方らしい彼女に話を聞くしかない。)

 倒れる北条鉄平を見た後、彼女をそっと降ろして状況の確認の為リリアーナへと向き合う。
 今の状況を語れるのは、彼女以外にはいないのだから。





 ウドガルド城の攻防は、これにて終わりを迎えた。
 此処に残る生存者はあれど、勝者は一人もいない。

【北条沙都子@ひぐらしのなく頃に 業 死亡】
【広瀬あゆり@東京城址女子高生 死亡】

【B-4/一日目/黎明】

【北条鉄平@ひぐらしのなく頃に 業】
[状態]:気絶、疲労(大)、精神的疲労(中)、身体にダメージ(極大、ヘルズクーポンで治癒中)
[装備]:ヘルズクーポン(半数以上使用及び廃棄)@忍者と極道
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜2
[思考・状況]
基本方針:沙都子を助ける。
0:……
1:沙都子、無事なんね……?
2:沙都子、ワシを信じて……

[備考]
※参戦時期は本編23話より。
※リリア―ナ、あゆりと簡単な自己紹介だけしました。(名前のみ)
※あゆりとの年代の違いはまだ知りません。
※ヘルズクーポンの強化時間は大幅に制限されてます

358胎動編『一筋の揺るがない情動』 ◆EPyDv9DKJs:2022/01/11(火) 18:10:40 ID:UznlAlnQ0
【リリア―ナ・セルフィン@よるのないくに2 】
[状態]:疲労(大)、悲しみ
[装備]:無し
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜1
[思考・状況]
基本方針:元の世界へ戻り、刻の花嫁として生贄となる……
1:鉄平と行動を共にする。
2:アル……あなたに会いたい……
3:あゆりの住んでいるトーキョー……少し興味あるな
4:そんな、あゆり……!
[備考]
※参戦時期は序章、刻の花嫁に選ばれ、馬車での移動中
※刻を遅らせる能力は連続で使用することができません。また、疲労が蓄積します。
※あゆりの世界について多少、知識を得ました。
※自身が刻の花嫁として選ばれ、月の女王への生贄となることは伝えていません。
※名簿にアルーシェ(アル)がいることを確認しました。
※北条鉄平と簡単な自己紹介を交わしました。

【安桜美炎@刀使ノ巫女 刻みし一閃の燈火】
[状態]:疲労(中)、精神疲労(大)、自責の念、気絶
[装備]:千鳥@刀使ノ巫女
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜2
[思考・状況]
基本:殺し合いを止める。
1:……
2:今は使うしか無いけど、可奈美に出会えたら千鳥を返さないと
3:みんなの事が心配。
4:十条さん……私が救う!
5:清光、どこかなぁ……
6:沙都子ちゃん……!!

[備考]
※参戦時期は第四部第二章終了後〜第四部第三章開始前
※ゆらぎや特務機関森羅、逢魔に関する情報を知りました
※本来は刀使でもその御刀に選ばれないと写シ等はできませんが、
 この場では御刀を持てば種類を問わずに使用可能です(性能は劣化)
※大荒魂カナヤマヒメの力は美炎が『力を求めたとき』発動します。
※カナヤマヒメは美炎の生存を第一に考えています。(優勝してでも)
※カナヤマヒメは沙都子の本性に気づいていました。
※何度もカナヤマヒメの力が発動、及び美炎の身に死の危険が訪れると、
 カグツチに意識を完全に乗っ取られる可能性があるかもしれません。
※参戦時期の関係から美炎は自分の体内にカナヤマヒメが封じられていることは知りません。
 また、カナヤマヒメとカグツチとの関係も然りです。
※名簿から巻き込まれている知り合いを確認しました。
※十条姫和はタギツヒメに取り込まれている状態だと思っています。
※零児には、姫和の状況についてはまだ知らせていません。
※首輪に関する話は筆談で行います。
※沙都子からエスデスの危険性を聞きました。

【有栖零児@PROJECT X ZONE2 BRAVE NEW WORLD】
[状態]:疲労(小)
[装備]:雪走@ONE PIECE、タマゴバクダン@スーパーペーパーマリオ×7
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×1、あゆりデイバック(基本支給品、ランダム支給品×0〜1)
[思考・状況]
基本:殺し合いの裏に潜む陰謀を阻止し、元凶を討ち滅ぼす。
1:すでに遅かったか……!
2:美炎と共に施設を周り、目的に賛同してくれる参加者を探す。
3:沙都子の一瞬見せた表情に疑念だが、それもわかることはないのか。
4:沙夜……これも宿命か。最悪共闘も考えるべきだが……
5:出来れば銃も欲しいが
6:彼女(あゆり)には悪いが、支給品を貰っていく。
[備考]
※参戦時期は不明。
※刀使や荒魂に関する情報を知りました。
※美炎の知り合いを把握しましたが、
 十条姫和がタギツヒメに取り込まれていることは知りません。
※沙都子に若干の疑念を抱いています。
※美炎と沙都子に首輪に関する話は筆談で行うよう伝えました。










 地面から這い上がる完全者とノワール伯爵。
 本来の持ち主、セッコと違って彼女の聴力は人並み。どの方角へ進んだかさえ不明だ。
 使い慣れた能力でもないので、具体的な方角は分からないまま地面を突き進んだ。
 少なくとも極端に距離は取ってないが、B-4にいないと言うことだけは察している。

「黒の伯爵、地上だ。肩を貸すのはこれぐらいにして自分で立て。」

 成人男性のような見た目とは裏腹に、
 上半身だけなので驚くほど軽い伯爵へと見やる。
 誰も殺せてないとは少し期待しすぎたか、などと思うも人のことは言えない。
 少なくとも光の柱は相当なものだ。あれを受けて耐えきった胆力は評価できるし、
 あの遅延の魔法も見てはないが彼のものだとわかる。実に有力な共犯者だ。

359胎動編『一筋の揺るがない情動』 ◆EPyDv9DKJs:2022/01/11(火) 18:11:47 ID:UznlAlnQ0
「……ああ、なんだ───」










「死んだのか。」

 だが、その赤い瞳は青く染まり、何も映さず言葉も返さない。
 元よりギリギリつないだ命に美炎の最後の攻撃は致命傷だった。
 斬らないと決めた少女の刀は、たった今一つの命を絶ち切ったのだ。
 黒を望んだ伯爵は、光に再会を果たすことなくその燈火を喪う。



【ノワール伯爵@スーパーペーパーマリオ 死亡】



「……謝罪はしておこうか。あの小娘の自爆特攻を考えると、
 塔の上の連中を後回しにしてれば生きながらえただろうからな。」

 地上の面々ならオアシスのある自分と伯爵で制圧できた。
 自分が先走ったことでなってしまった結果とも言える。
 しかし、謝罪こそしているものの、今彼女は伯爵の顔面を溶かしていた。
 オアシスの力は人体も溶かす。生きてる相手に使えるかはともかく、
 少なくとも死体には可能なことは死体だったブチャラティがすでに証明済みだ。
 顔面を溶解させ、首輪を回収する。

「さらばだ黒の伯爵。お前の死は存分に利用させてもらうぞ。」

 協力者を早々に失ってしまったことは手痛い。
 支給品もヴォルが戻ってこないことから総数だけで言えば完全にマイナスだ。
 まだ残ったナスタシア、マネーラ、ミスターL。こいつらを存分に利用する。
 特にミスターLは重要だ。これを形見と言えば涙を流しながら協力するかもしれない。
 伯爵の支給品を回収し、立ち去ろうと思ったその時。

「……? なんだこれは。」

 何かが輝きを放っていることに気付き、遺体の方へ振り向く。
 遺体から浮き上がるのは、黒く濁ったハートの形をした何か。





 コントンのラブパワー。
 ある種の理念(イデア)とも言えるそれは、
 新たな持ち主の手へと渡ろうとしていた。

【???/一日目/黎明】

【完全者@エヌアイン完全世界】
[状態]:左目失明(回復中)、ダメージ(大)、魔力消耗(大)、疲労(中)
[装備]:神楽の番傘@銀魂、ビブルカード×1(プロシュート)@ONEPEACE、祝福の杖@ドラゴンクエスト7、オアシスのDISC@ジョジョの奇妙な冒険
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×0〜2(確認済み)、コントンのラブパワー@スーパーペーパーマリオ、ノワール伯爵のデイバック(基本支給品一式、ランダム支給品×0〜2(確認済))、ノワール伯爵の首輪
[思考・状況]
基本情報:プネウマ計画の邪魔はさせん。メフィスとフェレスの扱いは対策が出来上がるまで保留
 1:なんだ? これは。
 2:ビブルカードに従い……今、私はどこにいる?
 3:エヌアイン以上に適した器の捜索。期待値は上がった。
 4:首輪の解除手段の模索。
 5:ムラクモを首輪を解除される前に始末しておく。
 6:童磨に警戒。
 7:伯爵の部下でも探しておくか。特にミスターLは必須。
 8:他に利用できる連中を手に入れておく。
 9:あの小娘(美炎)、まさかエヌアインのような存在か?
10:ディメーン……信用は出来ないが、利用はできるな。
[備考]
※参戦時期は不明。
※B-3以外のB-4周囲のエリアまで移動してます。
 何処に行ったのかは後続の書き手にお任せします。
※モッコス死亡により、完全者の所持するビブルカードが消滅しています。
※ある程度生き延びたらディメーンから接触することがあるかもしれません。



※ジャスタウェイの爆発により、
 北条沙都子のデイバック(内容全て)、たずね人ステッキ、
 ちからの腕輪@少年ヤンガスと不思議なダンジョンは消滅してます。
※B-4ウッドガルド城跡に以下のアイテムが落ちてます。
 第六天魔王の錫杖@御城project:Re
 椛の盾@東方project
 手に取り望遠鏡の残骸@ドラえもん
※B-4の倒壊した建物にヴォル@よるのないくに2の死体があります。
※沙都子の死体が原形をとどめて残ってるかは不明です。
 あゆりの死体は辛うじて人型の形を留めて、近くに落ちてます。
※B-3以外の何処かのエリアに、ノワール伯爵の死体があります。
※ディメーンの参戦時期は死亡後です。

360胎動編『一筋の揺るがない情動』 ◆EPyDv9DKJs:2022/01/11(火) 18:13:36 ID:UznlAlnQ0
≪ウドガルド城跡@進撃の巨人≫
いつ建築されたかも不明の古い城塞砦。
内部に大砲なども備えられており高い防御力を誇ったものと思われるが、
何と戦うことを想定したいたかさえ分かっていないとされている謎の砦。
作中でウォールローゼの穴について調査の後、夜を過ごす際に訪れた場所。
廃城である為ボロボロではあるが、人が住めない程致命的でもない。
箱の中にはニシンの缶詰や酒、大砲等がある。

【手に取り望遠鏡@ドラえもん】
リリアーナに支給されたドラえもんのひみつ道具。
赤色の望遠鏡で、スコープの中のものを引き寄せることができる。
重量、サイズ一切問わず星であろうとも引き寄せることが可能で、
固定されて動かせないものを引き寄せることはできないが、
その場合は自分がそっちの方へと移動することができる。
壊れたため具体的な制限は不明。

【椛の盾@東方project】
リリアーナに支給された犬走椛が所持している紅葉が描かれた白い盾。
媒体や公認ゲーム、フィギュア等によってサイズも形状も変わり、篭手レベルの小さいときもある。
本ロワでは形状は主にアプリのキャノンボールやダンマクカグラ等で見られる円盾で、
サイズは手楯・手盾・楯・盾辺り(30〜60cmのもの)として扱う。
性能は不明だが天狗である椛が使うので、それなりに優秀なはず。

【ヴォル@よるのないくに2】
完全者に支給された従魔(セルヴァン)と呼ばれる使い魔。
ディメーンのカードを使った使用者の命令に従うようにされている。
ヴォルは突進によるスピードと攻撃力が高く、一対一において強い性能を発揮する翼竜。
制限として使用者と同じエリアから出ることはできない。アルーシェと違い意思疎通は不可能。
長い間化石として眠ってたため現代のおしゃれには疎くて、服にも理解が浅い。
因みに究極進化ずみである(飛膜が青いので)

【バクハツタマゴ@スーパーペーパーマリオ】
零児に支給された、ジェシーの料理。一応料理である。
ひもがついた卵で、爆発することで相手にダメージを与える攻撃アイテム。
威力は非常に低く、これで殺すのはかなり難しい。(スパペパの持ち物上限の)十個セット。

【ジャスタウェイ@銀魂】
沙都子に支給されたジャスタウェイ。それ以上でもそれ以下でもそれ以外でもない。
円筒状の体に、棒の腕と、死んだ目の顔と言う子供の工作めいた見た目の物だが、
中味はこの見た目からは想像できない程度に性能のある爆弾
(近藤さんが抱えてた分)十個セット

【ちからの腕輪@少年ヤンガスと不思議なダンジョン】
あゆりの支給品。ゲームにおいてちから(攻撃力ではない)をプラスする。
ジャスタウェイの爆発により消滅している。

【オアシスのDISC@ジョジョの奇妙な冒険】
完全者の支給品。DISCについてはスティッキィ・フィンガーズのDISC参照。
原作ではセッコが使用したスタンドで、茶色いダイブスーツのようなものがヴィジョン。
ステータスは破壊力:A スピード:A 射程距離:B 持続力:A 精密動作性:E 成長性:C
周囲の物質を泥にすることができ、地面を泥にすることで上の地形を沈める、触れた部分を液状化させる、
地中を泳ぐように移動、液状化したものを空へ投げてから解除させて固体にして武器にする、
泥の弾力とハンドウを利用したパンチのラッシュなどかなりの多様性と攻撃性能を誇る。
これはあくまで使い慣れたセッコが使って発揮できるものである為、完全者が全て使いこなすことは難しい。
制限として地中に長時間いると消耗が激しくなる(短時間程度なら問題はない)

361 ◆EPyDv9DKJs:2022/01/11(火) 18:15:15 ID:UznlAlnQ0
投下終了です
ノワールの魔法等、いちぶ個人の解釈多分に含んでます

遅ればせながら新年あけましておめでとうございます
2022年もよしなに

362 ◆s5tC4j7VZY:2022/01/19(水) 00:32:39 ID:KzEdMEB60
投下お疲れ様です!
ヴォルを引き受ける零児はやはりカッコよく、男ですが惚れますね。
一方で
「私、駄目だった───」
↑この美炎の台詞にはくるものがきました。
美炎……
また、再開したのもつかの間。沙都子を失った鉄平……鉄平に同情する日がくるとは、思いませんでした。

爆発の光に飲まれながら、友人との記憶を振り返りながら彼女は散る。
城址と違い、形に残るものを元の世界に残すことなどなく。
↑あゆりのこの最後の散った者への文はロワの無常さも加わり、上手いな……としんみりしながらも勉強になりました。
そして、最後の伯爵の死は予想外でおお!と衝撃が大きかったです。
3部作にわたる胎動編読みごたえがあり、感服いたしました。
改めて大作お疲れ様です。
今年も◆EPyDv9DKJs様の作品を読むのを楽しみにしております。

363邂逅、紅陽の祖 ◆EPyDv9DKJs:2022/02/04(金) 09:35:49 ID:i4Wwbhok0
投下します

364邂逅、紅陽の祖 ◆EPyDv9DKJs:2022/02/04(金) 09:38:10 ID:i4Wwbhok0
 件の場所と思しき河へと到着すれば、
 河に流れる血を見て、目的の人物が其処にいた。
 オフィエルが向かった先にあったのは、全てが終わった後だ。
 容態を見るまでもない。頭を撃ち抜かれて死んでいるのは彼でなくともわかる。
 道着姿の男は、彰が伝えていた助けてもらった人物の情報と一致する。

「人を救う間に人は死ぬ。」

 自分達が彰から話を聞いてる間に彼は命を落とした。
 彼が憂いだように、人を救えばその間に人は死んでいく。
 この殺し合いはまさに世界の縮図だ。権力争いが物理になっただけ。
 今もこうしている間により多くの命が、争いによって消えていく。
 何も変わらない。こういう犠牲を出さないために彼は人類再編(パラダイムシフト)を望んだ。
 人は人である以上争いを繰り返す。人間はさらにその先へ行かなければならない。

(首輪だけでも回収しておこうか。)

 彰の性格を考えるに首輪の為と言えども、
 切断などと言う死者の尊厳がない行為を忌避するはず。
 なので今の内に斬撃を飛ばし、カンフーマンの首を刎ねる。
 何かあってもヘルメットの男がやったと主張すれば何も問題はない。
 鮮血をまき散らしながら首は河へと転がっていき、首輪を取り外す。
 機械に関しては特別明るくはないが、解除には何かと必要になるだろう。
 必要なものを回収し終えたので後は彰たちを迎えに来るだけ───とは思わなかった。

 背後へと振り向いたのと同時に銃声が放たれる。
 迫りくる弾丸。当たれば肉体を抉るのは容易な一撃だが、
 同時に青い箱状のものに覆われたオフィエルは数メートル横へと移動する。
 彼が使う具現武装『隔離術式』による空間転移の類であり、故に無傷だ。
 弾丸は地面と死体を撃つだけでダメージには至らない。

「チッ、気付いていやがったか。」

 近くの茂みから出てくるヘルメットの男───ジャギ。
 カンフーマンとの激闘を繰り広げたが、彼はダメージが大きかった。
 故に彼は隠れながら休息を図っていたら、続けてオフィエルの登場。
 短い休息で確認唯一確認したカンフーマンの支給品である、
 黒を基調とした篭手を装備したうえで構えていた。
 指の先端が怪物の如き紅い爪により、外見の凶暴さを増していく。

「人間は時に、本人とはあり得ない反応をすることも多い。
 医者は想定外の出来事にも対応する……反省と言う面もあるがな。」

 再度振り返りながら、オフィエルは冷静に語る。
 心臓は止まってから十分を過ぎれば確実に死に至るのが常識。
 一分につき10%死亡率が上がる。故に事実上十分がリミットとなる。
 だが。世の中には十五分以上の心臓マッサージで息を吹き返した例も存在していた。
 想定外のことに対応するのは茶飯事であり、隔離術式もあって不意打ちには相応に強い。
 もっとも、これは僅かながら以前マザー・クラスタに属してい時期に、
 同じくマザー・クラスタの火の使徒ファレグに襲われたと言う過去の経験もあるのだが。
 あの不意打ちは隔離術式もできず、冗談抜きで殺されていたかもしれない一撃。回避できたのは奇跡に近い。
 来ると分かっている身構えた攻撃であれば、冷静に行動がある程度できるようにはなっている。
 再教育される未来に至ってない彼が魔人から受けた、数少ない教訓だ。

「彼を殺したのは君か。」

「あ? ってことはてめぇ、あの長髪のガキの仲間か?」

 なるほど、疑ったつもりはないが情報通りの存在だ。
 この世界における奪う側の人物。世界を腐らせる病巣の一部。
 どれだけ救おうともこんな輩がいるから争いは未だ続いている。

「質問を質問で返すものではないな。言葉を返すと、
 彼はまだ仲間とは限らないが……此処では都合が悪い。
 三対一をされるのは君にとっても望ましくないことだろう。
 私にも個人の事情がある。特別に一対一で話させてもらおうか。」

 ここで三人で相手すれば余裕で蹂躙できるのは間違いない。
 オフィエルは医療器具がなくとも相手の脈拍や心拍を把握できる。
 見た目の古傷以上に疲弊してる姿がよくわかり、それならなおさら蹂躙が可能だろう。
 だがそれだけでは意味がない。ある程度自分にとっての有利な状況へと持ち込む必要がある。
 故に彼はジャギと自身を隔離術式で、数メートルその場から離れた。
 さらに数メートル、少ししたらもう一度数メートル。隔離術式では首輪による制限で、
 超長距離移動も短時間の連発も不可能になってるが回数が制限されてるわけではない。

365邂逅、紅陽の祖 ◆EPyDv9DKJs:2022/02/04(金) 09:38:54 ID:i4Wwbhok0
 どんどん離れていき、二人はその場から姿を消した。





「そんな……」

 戻ってみればこの有様に、彰は膝をつく。
 首のないカンフーマンの死体を前に、妖刀村正を握る手を強める。
 あの時感じた予感が的中してしまった。あの時無理にでも加勢すれば、
 彼は無事だったかもしれない可能性はあったのだから。

「……オフィエルは何処へ行ったのか。先程聞こえた銃声から、
 交戦か追走して何処かへ行ってしまったとみるべきだろうか。」

 彼を余所に、日ノ元は近くに転がる首を拾う。
 話によればバトルジャンキーで狂人な面は伺えるものの、
 野心に満ちた北ノ城や下衆な風見のような男でもなさそうだ。
 少し惜しくもあるが、死んでしまったのでは仕方がないと割り切る。

「蒔岡君。このような言い方は酷ではあるが、
 目的である彼の救援は果たせず、その敵も現状は見当たらない。
 なので此処は一先ず、タブレットで名簿を見てもらいたいが、大丈夫だろうか?」

「……はい、わかりました。」

 自分の信念を貫き通す。
 彼の死を無駄にしない為にも、彰はタブレットを開く。
 名簿を確認している間に、首を本来あるべき位置へと戻しておく。
 首を戻すころには名簿の確認は終わっていたが、余り芳しくない様子だ。

「知り合いがいるのだな?」

「はい。間違いでなければ、四人。」

 シークレットゲームに関わる(恐らく)四人の知り合い。
 もしかしたら此処に来てるとは思っていたが、ソフィア以外がいるとは思わなかった。
 ひょっとしたら、ソフィアにやられた軍服の男と言うのがあの時の彼かもしれないので、
 一先ずは四人と言うことで彰は話しを進めていた。

「殺し合いのゲームか。それは災難だったな。」

 まさに愚民のやる滑稽な催しであり、
 オフィエルが聞けばさぞ憤慨するだろう内容になる。
 燦然党で言えば、先ほど挙げた二名や死亡した芭藤は嬉々として楽しみそうだ。
 日ノ元にとって四人の中でとりわけ惹かれる部分があるとするなら、三島英吾になる。
 市民を守る警察官ではあるが、必要とあらば躊躇せず銃で相手を撃てるところは、
 彼がこの場で欲しい人材としてみるなら、それなりに水準があると言えるものだ。

「君が答えた以上、私も言わなければならないな!
 私の知り合いは名前で気づいてるやもしれぬが、娘の───」

 念のため名簿を見返していると、
 日ノ元が急に喋らなくなって不審に思って顔を向ける。
 視線は彰へと向けられておらず、別の方角を見ていた。

「……いや、まっこと早い! 早すぎる!」

 何処を見てるのかと、自身の背後である方角を見やる。
 視線の先には、自分達と同じ首輪をつけた参加者の姿。
 だが何が早いのか。彼には分かりかねる。

「久しいと言うべきか、もうと言うべきか───」










「出会ってしまったか───ドミノ・サザーランド!!」

 現王ゴアにより、富士山の噴火以前より存在する、
 三人のヴァンパイアたる『真祖』が一人、ドミノ。
 戦う寸前だったはずの相手と箱根以来の久方ぶりにして、
 わずか数時間程度でこの舞台にて邂逅を果たすことになる。

「……まさか、こんな早く鉢合わせするとはね。日ノ元士郎。」

 ヴァンパイアの姿で腕を組んで立つ、威風堂々の姿。
 奇抜な恰好に、子連れに、全裸の青年を背負ってると、
 酷く不格好ではあるが異様な殺気を彰は気取って村正を構える。
 ピリピリとした感覚。シークレットゲームでも感じたそれらとは比にならない。
 『仕方ないから殺し合いをする』で纏っている殺気を持っていなかった。
 先のヘルメットの男の殺気などとは、比べるまでもないようなものだ。

「おじちゃんと、おねーちゃん?」

「うむ! 七原君達に劣らぬ珍妙な仲間を連れているではないか!
 しかしその様子、どうやら随分とダメージを受けているようだな!」

(やはり虚勢になるか。)

366邂逅、紅陽の祖 ◆EPyDv9DKJs:2022/02/04(金) 09:41:24 ID:i4Wwbhok0
 今の状態は燦然党の介入により、堂島を仕留め損ねた時と同じ。
 見た目だけ取り繕ってはいるもののダメージは洒落にならない。
 以前よりもずっと成長してるのでどうしようもないとは思わないが、
 流石に同じ真祖を相手にして勝てるかどうかと言われたら、厳しいものになる。
 しかも厳しいのは一人で戦う場合。気絶した充、連れてるしおを守るのは容易ではない。
 あの怪物が戻ってきたら厄介だと、少し無理をしてでも南下し続けたが、
 まさかこんなところで鉢合わせになるとは思わなかった。

(あの男が私と同じ考えならまだ殺しには来ないはず。
 一方で私を殺すだけに留めると言う選択肢もある……此処からは賭けよ。)

 負けるつもりはないが、二人の身の安全を考えるとそれは難しく、
 可能ならば穏便に済ませられるルートを考えたいところだが、それは最早運だ。
 一触即発。互いの視線が火花を散らせて今にもこの舞台の最強格がぶつかり合う。










 グゥ〜〜〜……

「あのー……一先ず此処は食事にしませんか?」

 気の抜けるような空腹の音と共に、彰が申し訳なさそうに手を挙げる。
 カンフーマンの死を目の当たりにして言うことではないし殺気も感じた。
 勿論こればかりについては空気が読めていないと言う自覚はあるが、
 死後の世界で待ってた時と違い、肉体があるし腹は空くものだ。
 久々の空腹は慣れないのと、腹の虫はどうやっても止められない。
 張りつめていた空気の中に響いた音と発言に、思わず二人の真祖も困惑する。

「ハッハッハ! 真祖を前にしてそれが言えるとは、やるではないか!」

 背中をバシバシと叩かれ、威力の強さに思わず彰が前のめりになる。

「ドミノ、元より交戦する気はその様子を見てないと決めていたが、
 此処は蒔岡君の提案に乗って、食事による会談と行こうではないか!」

「───そうね。同じ意見なら断る理由もないでしょうし。」

 彰のお陰、と言うわけではないが何とか賭けは乗り越えれた。
 死体のそばに書き置きを残して、五人は近くにある教会のようなホテルへと向かう。
 充はドミノが寝室へと連れて行き、彰はドミノに頼まれてしおを風呂場へ連れていくよう頼んでおく。
 日ノ元は彰と同様に風呂場が何処かの捜索へと駆り出され、捜索が終わって一階のフロアにてドミノを待つ。
 ほどなくしてドミノが戻り、互いに基本支給品の飲み物を片手に言葉を交わす。

「お互い同じことを思ってるでしょうけど念の為聞いておくわ。殺さないの?」

「うむ、本当はそうしたいところではあるが理由は二つ。
 一つは殺し合いの中で争うことは余り賢くない……これは同じ意見のはずだ。」

 互いが思ってること。
 真祖同士が戦えばどうなるか。
 勝敗の結果の話ではない。誰が一番利益を得るか。

「三人目の真祖、奴が一番利益を得るからよ。」

 この殺し合いには真祖が関わってると言う考えを二人は持つ。
 現王ゴアはまずありえない。次代の王を選ぶための真祖を一人にする、
 そういう目的であれば三人目の真祖がいるべきだが此処にはいない。
 となれば、残る最後の真祖。此処でドミノと日ノ元が共倒れになってしまえば、
 ゴアに挑戦できる真祖は一人だけになる。何より真祖二人を罠に嵌めるなど、
 それぐらいの格を持った相手でもなければ、まず不可能と言うのが二人の推察。

(でも、あのユーベンが此処でするのかどうかよ。)

 ゴールデン・パーム社長、ユーベン・ペンバートン。
 財力もあるしドミノとは共闘を持ち込んでも後で争う間柄。
 もしユーベンがメフィス達と共謀するのならばあり得る話だ。
 此方の方が真祖二人を確実に仕留められると思えば、社員も残せて楽になる。
 とは言え、その割には燦然党は日ノ元だけと言うのは少々気になるが。
 燦然党の何人かを巻き添えにしてしまえばより有利になるはず。
 そこまでの権限がないから、この人数になったのだろうか。

「三人目の真祖が一番得をする状況で、
 争うのは思うツボ。まあ、此処は同じようね。」

367邂逅、紅陽の祖 ◆EPyDv9DKJs:2022/02/04(金) 09:43:01 ID:i4Wwbhok0
 互いに三人目の真祖が関わってると言う推察。
 確かに同じで違和感なく会話を続けているが、
 実は二人の想像している人物は、別々の存在だ。
 ドミノにとって三人の真祖とはドミノ、ユーベン、日ノ元の三人。
 日ノ元にとっての三人はドミノ、日ノ元、もう一人の構図になっている。
 日ノ元はユーベンを知らない。ならば何も問題ないのでは? と思われるが、
 日ノ元は『ユーベン以外に存在する真祖』の存在をすでに知っていた。
 真祖は四人いる。この事実を燦然党との戦いの前で推測していたのは三人だとユーベンだけで、
 確信を持ったのもあるべき未来にてユーベンが日ノ元と相対したときだけのことだ。
 二人とも四人目の真祖がいると言う事実を、まだ知らないのだ。

(奴が何かするとも思えんが。)

 奴は何もしない。そう思ってるので、
 正直なところ真祖が関与してるのはドミノ程考えてはいない。
 だが真祖以外にいるとも思えないため、一先ずとして仮定していた。

「遺灰物(クレイメン)だけでも手にしておく、その可能性もあったけど……」

 確かに利益を得るのは三人目の可能性はある。
 だがドミノを倒すだけであれば可能だったはずだ。
 首輪の制限がある中で真祖の遺灰物など取り込めば、
 どうなるか分かったものではないのも理由としては十分。
 だが、そうだとしても殺すだけに留めて首輪を何とかした後に、
 安全な状況で遺灰物を取り込めばいいだけの話でもある。

「真祖を以てしても互角に戦える存在がいては別だからな!」

『ドミノ、元より交戦する気はその様子を見てないと決めていたが───』

 先ほど、彼は食事を誘った際に『様子を見てから』判断した。
 真祖と戦えると言うことは、自分とも戦える可能性が十分にある。
 真祖をヴァンパイアか、或いはそれ以外の存在でも殺せる可能性がある中、
 それと同じく敵対する間柄であるドミノを先に潰すのは良しとすることはできない。

「アンタも同じでしょ。真祖を、相手陣営を使い倒す。」

「その通りだ!」

 ゲスい顔と、虚構の熱血漢の笑顔を浮かべる。
 ならば存分に使い倒してから最終的に奪えばいい。
 今は余計な敵を作らず、一時の共闘ができる人材がいるのも大事だ。
 これを無視されれば戦うしかない状況だったが、相手もその考えを持っていた。
 お陰で何とか共闘の関係を持ち込むことができるに至る。

「……殺し合いが成立しなくなるまで、
 その間だけなら私は共闘を視野に入れるわ。
 でも、善と明がどうするかは当人に委ねるから。」

 委ねるとは言うが、はっきり言ってほぼ無理だろう。
 親殺しを目的とした明は当然受け入れるわけがないし、
 善も燦然党の情報を伝えた。最も多くの人を死なせてると知っている。
 口伝だけではなく、芭藤との戦いで既に一般人の虐殺も目にしていた。
 はっきり言って、これは論外に近い。

「そこは本人次第だな! だが佐神善は来るならば迎え撃つ!」

「ま、それでいいわ。堂島は……ほっといてもいいか。」

 あの男はヒーローを気取っているのであれば、
 此処でも無関係な市民相手なら助けるつもりはあるはずだ。
 もっとも、背後から狙われる可能性もあるのでお互い信頼はしないが。

「ドミちゃーん!」

 話が一区切り終わると、
 しおの元気な声と共に足音が響く。
 彰としお、そして意識を取り戻した充が戻ってくる。

「あ、おかえりしお。えーっと蒔岡彰だっけ?
 悪かったわね、子守りさせ──ブッ!?」

 振り返って階段を下りる三人を見やれば、ドミノは口に含んでた飲み物を全部吹き出す。
 充は全裸ではなくなって服を調達していたのだが、その格好に問題があったからだ。

 黒を基調としたシックな色合いは充には余り似合わないが、
 その程度の事でドミノが吹くわけがない。問題は下半身にある。
 短くはないが長くもないスカートに、黒く長いニーソックス。
 そう、これは女性用の服だ。

「ゲホッゲホッ……あの、待ちなさい。どういうこと?」

(またこの視線だ〜〜〜!!)

 むせたドミノが顔を上げれば、
 しおに襲われていたあの時のような視線を向ける。
 いきなりこんな格好で出てこられてそうなるなと言う方が無理な話だが。

「僕の支給品にあったんですよ、この制服。」

「……制服が、支給品? アンタ男でしょ? なんで入ってるの?」

「それはさっぱり。僕に女装が似合うと思われてたとかでしょうか。」

368邂逅、紅陽の祖 ◆EPyDv9DKJs:2022/02/04(金) 09:44:28 ID:i4Wwbhok0
「あきちゃん、おにーちゃんだった!」

 日ノ元と一緒にいたこの学生。
 先の件であの空気を壊せた時点で思っていたが、
 中々に能天気な性格をしている人物だと察する。
 真面目な明から、真面目を引っこ抜いたかのような。つまり天然。
 支給品を似合うから入れたとは、何ともツッコミどころ満載な解答だ。
 この天然さから察するに日ノ元を理解しないでついている様子ではある。

「ところで、しお何か変なことしてきた?」

「? 特に何かしてきてはいませんが……何か?」

「何もないならいいわ、忘れて。」

 強姦魔の言いつけについては、守らなくはなったようだ。
 後は彼女次第だ。灰色の世界を自分で白黒決めるのは自分自身。
 一先ず最低限の問題は安定したようで、安堵の息を吐く。

「さて、一先ず集まったところで情報の共有と行こうか!」

 食事をしながらの情報共有……と言いたいところだが、
 しおは服こそ洗ったが短時間。乾いたわけではないので、
 乾かす為必要な情報だけ教えてもらった後は彰と共に再び離脱。
 彰の方は元々大体の情報を日ノ元に提供しているのでいなくても多少は話が進む。
 途中で二人も戻っていき、食事片手に五人は情報を纏めていく。

「僕たち含めて二十七人、結構な人数だね。」

 既に死亡した人物もいるのと、
 彼女らが知らない死者も少なからずもいるが、
 六人が関連する人物は参加者の二割以上を占めている。
 情報としてはかなりありがたいものであるのは間違いない。

「全員の情報を纏めると……」

 頭の整理の為、ドミノが紙に今の人物の扱いを纏めておく。
 死者:道着の男(カンフーマン)
 危険:貴真、強姦魔(モッコス)、ヘルメットの男(ジャギ)、怪物(不動明)
 不明:軍服、大祐、伯爵(多分ノワール)、さとう、堂島
 安全:修平、琴美、悠奈、はるな、初音、結衣、真島、英吾、善、明、ドドンタス
 ついでにしおからドドンタスがディメーンに言及しているので、
 事実上二十八人の情報が得られたと言う結果に終わっている。
 また、ドドンタスは充の説明から生きてるかは怪しいとのことだが、
 しおを気遣って一先ずは生きてると言う扱いで話を進めた。
 因みにドミノが怪物の容姿だけは絵に描いててみるも、
 大体がそれを見た反応は何とも言えないものであった。
 彰だけは『個性的な絵ですね』と(多分)褒めてたが。

「さとちゃんは、えっと……ふめーなの、なんで?」

「……さとうって子はしおをすごく大事にしているから、
 怖いおじさんに襲われたのを守れなかったから、怒るかもって思っただけよ。」

 疑問を浮かべるしおの頭を撫でつつ答える。
 誘拐犯である可能性が高いさとうはかなりグレーだ。
 誘拐が露呈して殺しに来る……そういう可能性もあるにはある。
 別にしおをどうこうするつもりはないので、余り事を荒立てたくはない。
 (彼女は知らないが)七原が関わったスリの少年の父親に対しては言うことは言ったが、
 さとうと言う人物はしおに対して酷いことはしておらず、寧ろ大事にすらしている。
 性的行為も強要してなければ虐待もされてない。まるで恋人や夫婦のような傷がない身体。
 外出こそ許さなかったが、それ以外はやつれた子供の父親の最低さと並ぶことはまずない。
 だから後のことについてはしお次第。彼女が攻撃してくるなら対応はするがそれだけだ。
 なお、しお不在の際にいなかった彰以外にはこのことは伝えてある。

「さとちゃん、とっても優しい人だからだいじょうぶだよ?」

「優しさの度が過ぎちゃうと、道を踏み外すこともあるのよ。覚えておくことね。」

 優しすぎる善、趣味が他者にとって行きすぎた狩野。
 イカれた奴がヴァンパイアになる。だからそれがある意味普通だ。
 ドミノにとってそういう行きすぎた奴を沢山見てきたからこそ言える。
 善意だろうと、何処か頭のネジが外れた連中。それがヴァンパイア。

「わかった!」

「それにしても……まさか君があの子の弟だったんだね。」

 ドミノがしおと話してる間、
 隣の席で充が向かいの彰へと会話を切り出す。
 十四人が団結した後は持久戦のような状況になった。
 娯楽もなく自給自足の生活ではやることが少なかったので、
 時折会話しながら過ごしていたので、多少だが彼女の姉である蒔岡玲とも交流がある。
 玲と多く時間を過ごした司や悠奈程の交流はなかったので、本当に断片的だが。

「姉さんがお世話になったようで……ありがとうございます。」

「いや、寧ろ僕こそ君にお礼を言わなくちゃ。
 君がいたから彼女が生き残ることができて、
 僕達はあの殺し合いでも諦めず立ち向かえたと思うと、ね。
 まあ全員生還は叶わなかったし、此処にかなり巻き込まれちゃったけど……」

369邂逅、紅陽の祖 ◆EPyDv9DKJs:2022/02/04(金) 09:47:25 ID:i4Wwbhok0
 修平が悠奈と出会ってから叛逆の物語が始まった。
 悠奈と言う理不尽に抗い続けた少女がいたからこそ。
 集わされた十四人は団結して、立ち向かうことができたのは事実。
 彼女が彰から貰った命は、少なくとも死んだ自分を除く他の十二人を救おうとした。
 彼のお陰であの時殺し合わずに済んだと思えば、寧ろ初音ちゃんを救った恩人に近い。
 であれば、礼を言うべきで相手であることは間違いなかった。

「この軍服が合ってれば、知り合い含めて十三人。
 流石にちょっと多すぎない? 私達ですら五人よ。」

「僕達のゲームから着想を得たとか?」

「それにしたってバランス崩壊してると思うよ……僕から見ると。」

 まさに天災とも言うべきあの戦いを見た以上、
 あれに匹敵する参加者など充の知り合いにはいない。
 ボクシング? 剣術? 銃の扱い? それが何の役に立つのか、
 とでも言わんばかりの暴威。支給品でどうこうできるわけがない。
 (メガンテの腕輪なんてものはあるが、あれは勝つためのアイテムではない)
 戦えばまず100%敗北することが約束されているような参加者に、
 一体どこに需要があったのか謎ではあるが、そのおかげで参加者の質は問わない、
 或いは特定の参加者の存在に注力されてる可能性があると言う結論には行きついてはいる。

「司君ならもっといい考察ができてたと思うけどね。」

 工学面では同じゲームに参加してた司には勝っていたが、
 基本的には冷静に物事を見れる彼の方に軍配がある。

「真祖のヴァンパイアの視点があるならば、
 人から見える視点もある! それに、現状は君が打破の鍵だ。
 投げ出せば君の言う阿刀田君も悲しむのだから、大事にしておくんだ!」

「は、はい。」

 勢いの強い日ノ元に思わず委縮する。
 得られた情報の中で現状首輪を何とかできる可能性は、
 二十七人の情報がありながら充、或いは知識だけなら英吾と限られている。
 状況が状況だったのもあるが、今後は大事にしなければならないと自覚を持つ。
 そういう意味もあるが、ドミノからも詳細はないが十分な情報を伝えられた。
 所謂選民思想。その為なら犠牲を払ってでも成し遂げんとする冷酷さ。
 この熱血漢の裏にそういうことを考えてるとは思えないのもあるが故だ。
 気圧されてると言うよりは恐怖。奴隷で済ませてた黒河がかわいく思える。

(城咲充か……)

 下衆、屑物、保身、恩義、憎悪、野心。
 燦然党に集まった者は取るに足らぬ愚民ばかりだったが、
 ドミノについていった七原健。彼だけがひかりをはなっていた。
 彼程のものは期待できないが、彼にも光るものを感じた。
 己が理を以って、この殺し合いを打破しようと言うその理想。
 誰かに頼ると言うところは誰かが何とかすると思う愚民と同じだが、
 一方で自分の目的の為ならば自分の命も惜しまず、初音が生きる世界を望む。
 彰と同じく、最初から最後まで一貫してその理想を曲げないところは共通するが、
 彼の場合は彼女を守る為ならば、知り合いであっても引き金が引けると言う確信がある。

(欲しい人材ではあったな。)

 綺麗事が過ぎるわけではない、
 と言うところを見ると日ノ元が最初に必要とした人材、
 その条件としてはかなりいい具合に揃っていただけに残念だ。
 先に出会っていればこちら側に引き込めていたであろうに、余計に思う。

「にしても富士山の噴火も知らないって言うなら、完全に別世界ってことかしら。」

 あれだけ有名なものを知らないで済まされるわけがない。
 しおは家から出たことがないので外部の情報はテレビだけで分からないものの、
 残る二人は日常を過ごしていながら知らないのであれば、此処にいないオフィエルの存在もあり、
 別々の世界の人間であると言うことは少なくともはっきりとしていた。
 もっとも、オフィエル抜きにしても戦ったあの怪物はヴァンパイアとは少し違う。
 弱体化してもなお真祖に匹敵するその力、あの世界にいればまず耳に入る。
 それがないと言うことは、そういうところに答えが行きつくものだ。
 原理とか過程とかはない。問いを見た瞬時に答えるような、所謂直感。
 事実それが当たりだ。

「ドミノさんと日ノ元さんは火山を経験していて、
 僕と充さんがあのゲームを知っていて、この子は……」

「大事にされすぎてたから、分からないわね、」

 監禁や誘拐とは言わないように、
 一先ずそれっぽいことを言って適当に誤魔化す。
 外界の情報は殆どテレビだけでは仕方がないだろう。

「戻ってみれば、ホテルにいるとはどういうことかと思いましたが、
 なるほど……彼女がドミノ・サザーランドですか。納得しましたよ。」

370邂逅、紅陽の祖 ◆EPyDv9DKJs:2022/02/04(金) 09:48:59 ID:i4Wwbhok0
 ホテルの扉を開けながら、
 オフィエルが足音と共にやってくる。
 広々としたホテルなので声は響き多少だが外に漏れてたので、
 話は少しだけ理解していたが、よもや相手がドミノだとは思わなかった。
 人使いが荒いかと思えば、とんでもない組み合わせには驚かされる。

 具体的な内容は把握できてないので、
 軽くではあるがオフィエルにも共有した情報を伝えておく。
 日ノ元明と余計な敵対をする可能性が下がるかもしれない、
 と言う意味ではこの状況は悪くはないものだと彼は感じる。

「なるほど、一時的な共闘関係ですか……心得ました。」



「それで、件の男は?」

「逃走中の所を追跡、交戦しましたが逃げられました。
 方角は北西は分かりましたが、私の術式も制限のせいで……いや、
 力の制限を言い訳せずに気丈に振る舞う貴女の前でそれは失礼でしたね。」

(日ノ元なら分かるのは当然だとしても、この男も見抜いてきた。
 医者とだけあって、些細なものでも見破るのは気をつけておくか。)

 初対面で疲弊してるのを見破られるとは思わなかった。
 日ノ元が傘下に入れる人材だけあって、かなり厄介な人物だ。

(……にしても、医者って言う職業は拗らせるのが好きなのかしら。)

 堂島といいこの男といい、
 医者が持つにはスケールがでかい理想を持つ。
 人の命を預かるストレスが拗らせていくのだろうか。
 医者と言う職業に不信感を持ちたくなってくる。

「とにかく、申し訳ないことに逃がしました。
 一応彼の物は奪うことには成功しましたが……それと、道着の男の首輪です。」

 ジャギが所持していた銃、それとカンフーマンのデイバックと首輪がおかれる。
 ランダム支給品は既に自分の方へと移していたから入ってはいないそうだ。
 首輪については、元々オフィエル自身が切り落として回収したものではあるのだが。

「殺し合いに乗った奴が首輪を奪うって変なことをするわね。」

 首輪一つで何か景品とかもらえるとか、
 そういう情報があるならまだしも支給品はともかく、
 首輪を手に入れる意図が今一つ分からない。

「脅迫による解除目的か、スコア気分か……なんにせよ、
 殺し合いに乗った輩の考えなど理解できかねますが。
 徒に人を殺め、徒に災禍を撒き、徒に争いを起こす。
 最早処置なし、手遅れだ。あれこそがこの争いの病巣の一つ。」

「そうね。そのとおりか。」

 彰の情報とオフィエルの情報が一致する。
 であれば相手は自我をなくした怪物と違ってただの三下だ。
 彼女にとって排除するべき敵である事実は揺るがない。

「ただ、アンタの言い方はむかつくけど。」

 別にジャギに肩入れする余地などないが、
 それはそれとして人を莫迦にしたお前の態度は気に入らない。
 オフィエルに向けられるのは侮蔑の眼差しだ。

「……今のは失言でした。医者ゆえの愚痴と聞き流していたければ。
 お詫びと言ってはなんですが、これらは其方が受け取っていただければと。」

 日ノ元側の陣営に銃を扱える者はいないか、
 銃を使うまでもない実力を持った人物ばかりだ。
 別に必要と言うわけではないので日ノ元も咎めるつもりはないし、
 首輪も解析のサンプルとして渡しておくのは正解であり、
 そもそも強姦魔に充のデイバックも持ってかれてしまった。
 ドミノも武器は不要なので、最終的にすべて充へと渡る。

「それで、ヘルメットの男への対処はいかほどに。」

「うむ! 追うしかあるまい!」

 明が後れを取ることはないだろうが、
 災禍を振りまく相手を放置するわけにはいかないし、
 彰もその方針で行きたいだろうし、何より現状行くあてがない。
 ともなれば、やることが事実上決まってないならそれで行く。

「改めてドミノ・サザーランド。
 一時ではあるが停戦協定と行こうではないか!」

「……ええ。でも覚えておきなさい日ノ元士郎───」










「玉座を掴むのは私よ。」

371邂逅、紅陽の祖 ◆EPyDv9DKJs:2022/02/04(金) 09:49:49 ID:i4Wwbhok0
 立ち上がりながら、日ノ元を見下すように宣誓する。
 絶対女王制。彼女の掲げる揺るがぬ理想。

「……フハハハハハ! 己が理を以って、世を変えんとする想い!
 まっこと強き者だ! 陰無き世界の為にはやはり越えねばなるまい!
 さて行くぞオフィエル、蒔岡君! オフィエルを煙に巻いた相手だ!
 時間をかければかける程に逃げられ、探すのが困難になるだろうからな!」

「仰せのままに。」

「はい、わかりました!」

「あ、ちょっとアンタだけは待ちなさい。」

 二人が席を立ちそれを追うように彰も席を立つが、
 少しだけドミノに引き留められて振り向く。

「アンタ、あいつから私の事どれぐらい聞いたわけ?」

「いえ、それを聞く前にドミノさんと会いましたから。」

「そう。信じるかどうかはアンタの勝手だし、
 知ったとしてどうするかのアンタの自由だけど、
 日ノ元には気をつけておきなさい。最悪死ぬから。」

 しおが服を乾かす都合、明は唯一オフィエルの理想も、
 日ノ元の本性も明確に理解しているわけではなかった。
 あの男は目的の為であるなら犠牲を厭わない奴だが、
 少なくとも今すぐに彰を殺したりすることはしないだろう。
 事実、今の彼は彰の味方として振る舞っているので、
 日ノ元がそういう奴だと伝えても伝わらないはずだ。
 此処には彼の所業を糾弾できる材料がないのだから。

「……ドミノさんって、いい人なんですね。」

「へ?」

 思わぬ返答に、変な声が出る。
 恩人を悪く言ってる相手に返す言葉ではない。
 寧ろいい人と言えるのであれば、善の方だろう。

「政敵、でいいんしょうか? お二人の関係は。」

「まあ……一応合ってるけども。」

 手段が闘争に置き換わってるだけで、ある意味では政敵か。
 誰が人の上に立つか、そういったところが真祖の特徴とも言える。

「僕は政治については疎いですが、一応日ノ元さんの側にいる僕に、
 態々忠告なんてしてくれる人はいい人に決まってるじゃないですか。」

 どういう意味で死ぬのかについては理解してるわけでないが、
 彼女が悪意によってそういう風に言ってるとは感じられなかった。
 少なくとも彰の中では、日ノ元はいい人と言うところはまだ揺るがないが、
 同時にドミノが日ノ元にとっての敵であっても、悪い人とも思えなかった。

「……呆れた。アンタ何処まで天然なのよ。」

 溜息すらつきたくなるような、
 天然と言うかボケてると言うか。
 双方の真祖をいい人扱いした奴は、
 いくら知らないとしても恐らく後にも先にも初めてだ。

「悠奈さんにも呆れられましたね。」

「でも、嫌いじゃないわよそういうの。」

 綺麗事が過ぎるような人物ではある。
 だが強い眼だ。自分には信じるものがある、
 理不尽のゲームの中でも決して諦めない気高さ。
 責任感があっていい人でバカで扱いやすいと言う、
 さながら善と七原のハイブリットかのような存在。
 先に出会っていればに下僕だったろうに、少しばかり残念だ。

「……あいつに嫌気がさしたら来なさい。
 下僕六号の席は、特別に空けておいてあげるから。」

 彰がこのまま日ノ元につくか、
 それともドミノへつくのかは彼次第だ。
 彼自身が白か黒かを選ぶ権利がある。

「下僕と言うのはちょっと……あ、僕行きます!
 充さんとしおちゃんも、気をつけてくださいね!」

 二人の後を追うように、彰も駆け足で向かう。
 三人の背中を見送ったあと、扉が閉じて静寂が訪れる。

「ドミちゃん。下僕って何?」

「私と肩を並んで戦う対等な奴よ。因みに充は五号。」

「ええ!?」

372邂逅、紅陽の祖 ◆EPyDv9DKJs:2022/02/04(金) 09:51:02 ID:i4Wwbhok0
 気を失ってる間にあった出来事なので、
 今更下僕扱いされてると言う事実に声を挙げる。
 奴隷の次は下僕。人権がないのかとすら思えてしまうが、
 意味合いからするに、こき使うは含まれていても奴隷よりはましだ。

「ほら、私もアンタも怪我してるから、
 此処に治療できそうなものあったら使うわよ。」

 此処はホテルとは言うが、
 内装は少し奇妙なものがいくつかある。
 調べれば何かあるかもしれないし、そも今は休息も必要だ。
 一度休んで、次の備えにすることとする。


【E-7/一日目 ホテルエレルナ/黎明】
【ドミノ・サザーランド@血と灰の女王】
[状態]:全身にダメージ(絶大)、疲労(絶大)、身体を再生中(外面だけは取り繕えています)主催に対する強い怒り
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×0〜2、応急手当セット@現実
[思考・状況]
基本方針:メフィスとフェレスとかいうクソ野郎二人は必ず叩き潰す
1 :自分と充を治療できるかどうかホテルを漁ってみる。なければ休息。
2 :下僕たち(佐神善、日ノ元明)に充や彰の知り合いを探す。
3 :首輪及び紋章を何とかするために、あの主催を知ってそうな参加者を探す。今は伯爵が有力。
4 :充としおを誰か安全な者に預けたい。日ノ元にオフィエル? 論外。
5 :あの悪魔(不動明)がまた挑んでくるようなら迎え撃つ。
6 :日ノ元士郎はここで斃しておきたいけど今は待つ。堂島は信用しない。
7 :しおが『下僕』になるかは彼女次第。
8 :日ノ元とは何とか協定を結べたけど、下僕たちはどうするのやら。
9 :強姦魔(モッコス)とヘルメット(ジャギ)は出会ったら潰す。
10:蒔岡彰、先に出会ってたら下僕だったんだけどねぇ……
11:伯爵の関係者も漁ってみる。
12:ユーベン……まさか?

[備考]
※参戦時期は88話から。
※真祖の能力に制限が課せられています
※主催者の関係者にユーベンが関係してる可能性を考えてます。
※ドミノ、しお、日ノ元、彰、オフィエルと情報交換をしました。
 充はDルートなのではるなと彼女から話を聞いた人物、
 途中までならCルートと同一なので途中までは結衣と話が嚙み合います。

【神戸しお@ハッピーシュガーライフ】
[状態]:疲労(中) 服に湿気(小、時期に乾く)、不安(大)、男性に恐怖心(大)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本方針:とりあえず、さとちゃんと会う。
1:ひとまずドミちゃんに着いていく。
2:休憩したらドミちゃんと一緒にさとちゃんとドンくんを探しに行く。
3:さとちゃんともじゃもじゃおじさん、どっちがしろくてどっちがくろいかをちゃんと考える。
4:もじゃもじゃ―――男の人―――怖い!怖い!!怖い!!!
5:さとちゃんさとちゃんさとちゃん
6:あきちゃん、おねーちゃんじゃなかった。
7:すごくむずかしいお話してた。

[備考]
※参戦時期は1巻でさとうを探して外へ出る前です。
※モッコスの社会勉強で性について知りました。(手○キ、〇ェラは技法マスター。S○Xはやり方のみ)
※モッコスから教えられた事柄への関心が薄れました。



【城咲充@リベリオンズ Secret Game 2nd stage】
[状態]:顔面腫れ、貧血(傷は止血済み)
[装備]:アークス研修生女制服 影@ファンタシースターオンライン2、柊樹@PROJECT X ZONE2 BRAVE NEW WORLD
[道具]:カンフーマンの首輪、カンフーマンのデイバック
[行動方針]
基本方針:初音ちゃんとしおを殺し合いから脱出させる。
1 :とりあえずホテルで休む。
2 :しおを女の子を安全な場所へ連れていく。
3 :男物の服はないのか?
4 :初音ちゃんを探し、護る。無論、他の仲間たち(悠奈、修平、琴美、結衣、真島、はるな、大祐)も。
5 :脱出の協力者を探す。
6 :日ノ元さんとドミノさんの関係、余り聞けてないけど黒河君と真島君みたいなものなのかな。
7 :ドミノさんに初音ちゃんを護ってもらう。
8 :初音ちゃん、強姦魔(モッコス)とかヘルメットの人(ジャギ)に襲われないといいなぁ‥…
9 :蒔岡君に出会えたのはちょっと嬉しいかも。
10:奴隷の次は下僕って何!?
11:工具あれば首輪を弄れるかも。

[備考]
※参戦時期はDルート死亡後。
※メガンテのうでわの説明書を読みました。
※ドミノ、しお、日ノ元、彰、オフィエルと情報交換をしました。

373邂逅、紅陽の祖 ◆EPyDv9DKJs:2022/02/04(金) 09:51:21 ID:i4Wwbhok0
【蒔岡彰@リベリオンズ Secret Game 2nd Stage】
[状態]:顔に含み針の傷(目に支障なし、針は捨てた)、攻撃速度強化
[装備]:妖刀村正[改]@御城プロジェクト:Re
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜1(確認済み)
[思考・状況]
基本方針:悠奈さんのところへと戻る。クリアせずともいい脱出方法で。
1:同じ考えの人を探す。
2:悠奈さんや英吾さん、それに姉さんが関わった人達に会いたい。
3:僕があの人(カンフーマン)の分も生きないと。
4:ドミノさんもいい人だ。
5:貴真さんは止める、絶対に。軍服の人は……もしかしてあの人?
6:ヘルメットの人(ジャギ)を追って北西へ。

[備考]
※参戦時期はZルートラスト、死後に悠奈と再会後です。
※ドミノ、充、しお、日ノ元、オフィエルと情報交換をしました。
 充はDルートなのではるなと彼女から話を聞いた人物、
 および途中までならCルートと同一なので途中までは結衣と話が嚙み合います。
 オフィエル、日ノ元の具体的な本性については教えられていません。

【日ノ元士郎@血と灰の女王】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×1〜3
[思考・状況]
基本:立ち塞がる主催の面々は打ち倒す。
1:『主催を打倒する』という目的を持った者たちを集める。
2:今はドミノと戦う時ではないようだ。だが佐神善は出来れば始末。
3:日ノ元明は見つけ次第保護する。
4:先生には念の為警戒。
5:オフィエルの言っていた男の為北西へ向かう。
6:蒔岡彰、まっこと素晴らしくも、惜しい愚民だ。
7:城咲充の方もより惜しいが、七原君に近いので相容れない気もするな。
8:オフィエルも何かしら行動はしてそうではあるな。
9:三人目の真祖、奴は何もせんだろうが気をつけてはおこう。
[備考]
※参戦時期は最低でもドミノ組との開戦前
※真祖としての力に制限が課せられています
※三人目の真祖(ユーベンではなく原作で言う四人目)が主催に関わってると考えてます。















 さて、ジャギはどうなったのか。
 実はあのホテルに彼も居合わせてはいた。
 ただ一人、オフィエル以外に知られることなく。
 時は遡り、日ノ元がドミノと相対していたころ。
 二人は河を越えて森の奥にて二人で相対していた。

「此処なら君にとっても都合がいいだろう。さて、話を───」

 言葉を終える前に銃声が轟く。
 先ほどと同じように術式の転移で回避する。

「話は最後まで聞くべきだ。君にとっても悪い話ではない。」

「うるせぇ。てめえのその声にイラつくんだよ。
 その声……その声がよぉ! 弟に似てんだよ!!」

 この覚えのある声はあのケンシロウと近い。
 ただでさえ苛立ってるのにケンシロウの声で語るなど、
 聞く耳を持ち続けることなどとてもできそうになかった。

「……現状を見ず、未来を見ようともしない。
 その思考、その考え。まさに! 病巣と言うほかないだろう。」

 こうしてる間にもこの殺し合いで人が芥へと消えていく。
 約束を守る保障もないのに、ただ一時の感情で殺し合いに乗る。
 彼の思考については、最早手遅れと言うしかなかった。

「その病巣、取り除かせててもらう。これより───術式を開始する。」

 両手をオペを始めるときのように構えると、
 青い箱状の空間がジャギを、周囲を覆っていく。
 領域展開。薄くエーテルで周囲を覆うことで壁を作ることで展開するオフィエルの能力。
 脱出は(ファレグに壊される前の時期から此処にいるので)事実上不可能だ。

「我が領域は我が意のままに繋がる。故に!」

 右手を挙げると同時に、上空から大量のナイフがジャギへと降り注ぐ。
 この空間内であれば座標を移動させることができるのは自分だけではない。
 本来ならメスを投げれたが、この殺し合いの舞台の座標が分からない以上、
 現在は支給品であるナイフを代わりとして攻撃している。

「な……北斗羅漢撃!!」

374邂逅、紅陽の祖 ◆EPyDv9DKJs:2022/02/04(金) 09:52:18 ID:i4Wwbhok0
 降り注ぐナイフを早い突きで次々と蹴散らしていく。
 カンフーマンの支給品である篭手の強化効果も相まって、
 疲弊した割にはすさまじい勢いで、そして無傷で処理できる。
 雨の如く迫る攻撃に怖気づくことなく対処できるのは、
 腐っても伝承者争いの候補者だけの実力はあると言える。

 ナイフを対処しきった後、そのままオフィエルへと突っ込む。
 だが、不意打ちですら対処してきたオフィエルに対して、
 正面から攻撃を仕掛けたところで隔離術式で避けられるだけだ。

「グエッ!」

 攻撃を盛大に外した背後から、ジャギを蹴り飛ばす。
 無防備な背中へとダイレクトに決まり地面へと転がる。
 起き上がろうとするも、それを妨害するように背中を踏みつけられて釘付けにされた。
 はっきり言おう、ジャギが逃げなかった時点でこの戦いは結果が決まったことだ。
 方や疲弊しきったジャギ、方や無傷で有利なフィールドに持ち込めたオフィエル。
 何方が勝つかどうかなど、語るに及ばず。もっとも、万全であっても苦しすぎるが。
 オフィエルは遠距離攻撃がメイン。近接攻撃が殆どなジャギは圧倒的不利だから。
 ケンシロウの天破活殺、或いはラオウの北斗剛掌波でも体得してればまだ勝ち目はあっただろう。
 そのような技ができないからこそ、こうなってしまったのだが。

「畜生ッ! 俺は、北斗神拳伝承者ジャギ様だぞ……!
 こんな、拳法もなんもねえ野郎に負けるって言うのかよ……!
 二千年の、北斗の歴史が、こんな……!!」

 才能あるやつらばかりが周りにいた。
 誰を超えることもできず、ただどんどんと差を付けられるだけ。
 極めつけにはこの場で見知ったばかりの相手からさえ酷評された。
 既に彼のプライドはズタボロだ。

「……マザーであれば、きっとお前も救っていただろうな。」

 どうやら自分が使う拳法に関して誇りを持っているらしい。
 周りがそれを認めなかったとか、そういったものだとオフィエルは察した。
 周りが認めたがらなかったと言えば、以前のマザー・クラスタの同志オークゥを思い出す。
 もっとも、ジャギの場合は周りが凄すぎたから相対的に潰れかけていたところなので、
 オークゥが才覚があるのに周りから認められずに潰されかけたので厳密には違う。
 あくまでなんとなくオークゥに似た境遇の奴、と言う風にしか思わない。
 もし彼女が生きていれば、彼を仲間に誘っていた可能性はある。
 もっとも、そのマザーを裏切って殺したのはこの男なのだが、

「私は殺す気などない。
 最初から話を聞けば此方も取り計らったが、
 最初から殺し合いに乗る争いしか考えない奴には無駄か。」

 倒れてるジャギのヘルメットを強引に奪う。
 様々な患者を診てきたが、これほどまでの傷は中々になく、
 流石のオフィエルでも僅かながらに顔を強張らせてしまう。

「てめ、何しやがる……!」

「何、容態の確認だ。医者がクランケに服を着せたままオペなどしない。
 それと同じようなものだ。私の術式が失敗しないよう想定しての行動だ。」

 彼の目を塞ぐように右手を翳す。
 青白い、エーテルの輝きがジャギの視界へと映り込む。

『それ以上考える必要はない』
『心静かに目を瞑れ』
『無理をするなジャギ』
『私は君の願いを後押しする者だ』
『余計なことを考えなくてもいい』
『私と共に戦おうではないか』

 ケンシロウのような、耳障りな声。
 だと言うのに何故だ。心が落ち着かされる。
 落ち着いてるではない。意識が朧げになっていく。
 自我を保とうと暴れるが疲弊した身体は鉛のように重たく、
 時間が経てば経つほど抵抗する力は弱弱しくなり、ジャギの意識は闇へと落ちた。

「……随分と時間がかかるな。」

 オフィエルのできる、エーテルを用いた洗脳。
 数分もあればできたがそこそこ時間を費やされた。
 一方で、いくつか命令をしてみると以前洗脳した鷲宮氷莉とほぼ同じだ。
 口調は悪いが従順だ。悪いと言っても元々の喋り方は反映されるもので、
 氷莉も狂気こそ孕んではいたが、元々の喋り方のままで他者と接していている。
 情報を引き出してみるが他の参加者の知り合いはなく、彰と道着の男以外の情報はない。

「駒としては今一つだが、今後役立ってもらおうか。」

 支給品の武具も回収し終えると、
 背負ったデイバックからカードを取り出し、それをジャギへと翳す。
 翳せば一瞬でジャギの姿は消失し、代わりに一枚のカードが宙を舞う。

「私にとって実に便利なものだ。」

375邂逅、紅陽の祖 ◆EPyDv9DKJs:2022/02/04(金) 09:54:27 ID:i4Wwbhok0
 宙を舞うカードを、指で挟む。
 手に握られたそれに映っていたのは───ジャギだ。
 オフィエルに支給されたカードは『ホカクカードSP』。
 参加者をカードにすることができると言うアイテムだが、
 破くなりすると参加者が解放されてしまうデメリットがある。
 普通に考えれば、誰の手にも回収できないよう禁止エリアに放り込む、
 と言う形で使ったりするしかないが、彼の使い道はそこではない。

(使い方次第で今後を左右する。)

 生きたまま参加者を持ち歩くことができる、と言う点だ。
 洗脳したはいいが日ノ元たちに彼を見せるわけにはいかないし、
 真祖相手に隠れるようについて行かせてもそのうちバレる。
 故に洗脳した参加者を気付かれず連れていける、この点に注目していた。
 これならば日ノ元明をホカクカードで手元に残すこともできる。
 いざと言うとき日ノ元明が重要になれば交渉材料に使えるのも強みだ。
 無論、参加者問わず捕まえられるわけではない。ちゃんと限界は存在する。

「ふむ、簡単なヒストリーも確認できるのか。」

 カードのテキスト蘭には彼の生い立ちが断片的だが記されていた。
 北斗四兄弟、その中で最も実力の劣った北斗の暴君としての経歴。
 読んで特に思うことはない。オークゥと似たようなものと言う評価は変わらず、
 何より外道である彼に対して思うところなど、争いの火種を撒く存在なのも変わらない。

「所詮は、未来を考えもしない凡庸な俗人か。」

 カードをしまって、オフィエルは領域を解除し、
 ナイフを回収して先ほどいた場所へと戻った後は知っての通りだ。
 これが誰に知られることもなかった、オフィエルだけが知る戦い。
 そう、あの場には意識はないがジャギはそこにいた。彼のデイバックの中で。
 目的の為ならば仲間やマザーを手にかけ、人の友情を利用だってする卑劣な男だ。
 使い倒すことに何ら躊躇はない。寧ろ争いを繰り返す愚民そのものならば、
 むしろ使い倒すことの方がよほど世界にとってもありがたいこととすら思う。

 ジャギを解放する手段は三つある。
 一つはオフィエルの死亡と言う至って単純なものだが、
 彼が死亡するような状況において、ダメージのあるジャギが助かるなど皆無だ。

 一つは八坂火継が持っていた具現武装『天叢雲』の浄化の力により斬ること。
 術式だけを切断できる彼女のそれであれば、ひょっとしたら可能かもしれない。
 だが、それが誰に支給されてるかもわからないような刀を当てにするのは怪しいし、
 そもそもこの舞台にそれがあるのかどうかさえ分からないのだから当てにはならない。

 一つは強い矛盾に遭遇すること。鷲宮氷莉の洗脳が解けそうになったときは、
 火継と一緒に過ごしたいのに、思い出のある学園を壊すと言う矛盾があったからだ。
 その時は再度洗脳を施せばどうとでもなったので他の手段よりも簡単ではないし、
 この男はこの場に知り合いはいない。その矛盾に出くわす可能性もまた皆無。
 ───つまるところ、彼は事実上この戦いにおいて生きながらにして脱落した。

 世界を救うための戦いは、水面下で静かに行われている。
 真祖も跋扈する中、北斗の暴君程度の存在が入る余地などどこにもない。

【ジャギ@北斗の拳】
[状態]:ダメージ(大)、ずぶぬれ、苛立ち(特大、特にオフィエル>彰)、顎並びに両膝に痛み 右足腫れ、オフィエルの洗脳、カード化
[装備]:間久部緑郎の靴@ バンパイヤ
[道具]:なし
[思考・状況]
基本方針:優勝して今度こそ返り咲く。
1:……
[備考]
※参戦時期は少なくとも死亡前、極悪の華も反映されてます。
※カンフーマンを不意打ちで斃したため、ディメーンの放送はきちんと聴いてはいません。
※オフィエルに洗脳されています。
 オフィエルの死亡、または記憶の齟齬等により洗脳は解除されます。
※ホカクカードSP@スーパーペーパーマリオによってカード化されてます。
 カードが破かれたりされない限り限り一切の行動ができません。
 また、体力も回復しません

376邂逅、紅陽の祖 ◆EPyDv9DKJs:2022/02/04(金) 09:54:43 ID:i4Wwbhok0
【オフィエル・ハーバート@ファンタシースターオンライン2】
[状態]:疲労(中)
[装備]:ホカクカードSP×4@スーパーペーパーマリオ、咲夜のナイフ×大量@東方project
[道具]:基本支給品×2(自身、ジャギ)、ランダム支給品×1〜3(カンフーマン×0〜2、自身×0〜1、前者は未確認)、ジャギのカード、針×8@アカメが斬る!、黒銀の滅爪@グランブルーファンタジー
[思考・状況]
基本方針:願望を果たすまで死ぬわけにはいかない。場合によっては主催側へつくことも検討
1:日ノ元士郎に同行し、彼を見極める。
2:念の為に色々と仕込みを済ませておく。ホカクカードもそれに関して有用だ。
3:ジャギは体よく使い倒す。文字通りカードの使い時が大事だな。
4:あれがドミノか……余り敵視されないようにしておこう。
5:意味はないが北西へ向かう。
[備考]
※参戦時期はEP4-8「壊れた進化」から
※隔離術式による対象の隔離及び空間接合による転移に制限が課せられています
※洗脳は初回は至近距離でのみ可能、洗脳にも時間を有します
 解けかけの相手であれば、コオリの時のように数メートル離れてても可能です
 精神的に脆かったり弱い相手であれば特に滞りなく可能ですが、
 洗脳に対する抵抗や洗脳できる人数の制限等は後続の書き手にお任せします
※彰、充、ドミノ、しおから参加者の情報を得ました。
 但し充の参戦時期はDルートなので、
 彼以外でははるなから話を聞いた人物、
 途中までであればCルートの結衣は話が通じます
※咲夜のナイフの本数は少なくとも五十本以上ですが、
 具体的な数は後続の書き手にお任せします。



【黒銀の滅爪@グランブルーファンタジー】
カンフーマンの支給品。無間の闇は至りし者を呑む一切の災禍を祓う。
創世の破壊を宿す鉤爪は、その威によってあらゆる暴虐を生み、永劫の静寂に君臨する。
アストラルウェポンと呼ばれるゲーム中において最上位の性能を持つ武器で、
スキル『禍滅の支配者』は闇属性に該当する人物の攻撃力を上昇させる。
ジャギの場合は性格上闇属性として扱えるため、彼自身の攻撃性能が向上した。
オフィエルは水の使徒であるため使ってもただの爪付きの篭手
スキル『アストラル・クロ-』については、ロワ中で再現が難しいので、
あるかどうかについては後続の書き手にお任せします。
因みにパズドラコラボにおけるジャギは闇属性。

【アークス研修生女制服 影@ファンタシースターオンライン2】
彰の支給品。文字通りアークスの研修生の女性が着る制服。
影は他の制服より黒に寄っている。特別な性能は多分ない。

【咲夜のナイフ@東方project】
オフィエルに支給。十六夜咲夜が用いていたナイフ。
銀のナイフだが、血と灰の女王のヴァンパイアに通じるかは不明。
頑丈になった天子に刺さらないことから恐らく銀であること以外の特別な性能はない。
少なくともオフィエル領域展開中に湯水の如く使えるだけの数は支給されてる。

【ホカクカードSP×5@スーパーペーパーマリオ】
オフィエルの支給品。作中ではコレクション兼特効アイテム。SPは通常よりも成功率が高い
一定確率で生物をカードにするアイテム。所持してるだけで対象に二倍のダメージを与えるが、
分身とかの能力でもない限りこの効果はロワでは意味がないので主に参加者を持ち運ぶアイテム。
レベル差があるとより成功しやすくなるのがゲーム上での扱いだが、本ロワでは体力差で判定される。
カードにされた参加者は死亡した扱いではなく、破いたり燃やせば元の状態へと戻る。
ぶっちゃければ参加者に使えるモンスターボール、ないしエニグマの紙。出す際は使い切りが主に相違点。
但しカード化の際は相手が視界に入ってる必要があり、成否問わず使用したら消耗するので無暗に使えない。
また断片的だが、カードにした相手のヒストリーが書かれる。内容は細かくはないが。

≪ホテル『エレルナ』@よるのないくに2≫
教皇庁が管理していたホテル。カミラに管理が任されており、
作中ではアルーシェ達の活動の拠点となっている場所。
西洋風のホテルにプールと、一通りの設備は揃っている。
アーナスにとって助かることがあるかも?

377 ◆EPyDv9DKJs:2022/02/04(金) 09:55:52 ID:i4Wwbhok0
以上で投下終了です
オフィエルのメスについてですが、彼の具現化武装のものではないと判断してます

378 ◆s5tC4j7VZY:2022/03/05(土) 17:19:56 ID:5KzBnQZw0
投下お疲れ様です!

邂逅、紅陽の祖
題名通りにドミノと日ノ元がついに邂逅……!
参戦時期が互いに決戦前だからこそ成立した同盟。
ですが、暗躍するオフィエルがいるので、緊張感はありますね。
ジャギ……弟に似ている声の主にいいようにされるのは、哀れですが、まぁジャギだしねと思ってしまう自分もいます。
何気に二人の真祖に評価される充にグッとガッツポーズを思わずしてしました。
それと、ついに全裸状態から脱却からのまさかのアークス研修生女制服に吹いちゃいました(笑)
しかし、彰にそれが支給されていたのはまた(笑)

城本征史郎、清棲あかり、パンドラボックス、立花特平/トッペイ、レオーネ、ミスターL、藤堂悠奈、松坂さとう、赤城みりあ、ベルトルト・フーバー、アルーシェ・アナトリア、アーナス、で予約します。

379戻りたい場所、明確な景色 ◆EPyDv9DKJs:2022/03/06(日) 05:43:53 ID:Afe.j7020
投下します

380戻りたい場所、明確な景色 ◆EPyDv9DKJs:2022/03/06(日) 05:45:19 ID:Afe.j7020
 みすぼらしいアパートが一つある。
 チャイムやドアホンなんてない。雨露凌げれば、
 それでいいかのような実に安っぽいアパートだ。
 気の利いたものがない代わりにノックが三回鳴り響く。
 応答はなく、もう三回ノックをすると中から人が出てくる。

「さっきからやかましいんね! このクソボケ……」

 またうるさ大家が難癖付けにがやってきたのか。
 そう思って開けてみれば、そこに嫌気のさす大家の顔はない。
 視線を下に向ければ、同じ髪の色を持った見知った少女が立つ。

「さ、沙都子!?」

「こんにちは、叔父様。」

「ち、違うんね! ワシははてっきりクソボケの大家が、
 また難癖につけに来たんかと……怒鳴って悪かったと。」

「もういいですわ。許して差し上げますのよ。」

 相手が残された唯一の家族であったことが分かると、手を合わせながら謝罪する。
 もう見慣れた光景であり、沙都子の表情は虚ろ目で少し呆れ気味だ。

「ほんまか? こんなところに立たせとくわけにもいかんね。中で茶を……」

 そう言って室内を見やるが、ものの見事にゴミ屋敷だ。
 足の踏み場どころか、衛生面的にもとてもよろしくない。
 その光景に、沙都子は更に溜息を零す。

「全く信じられませんわ。どうして男の人は、
 こんな状態になっても気にならないのでございましょ。」

「めんぼくないんね。」

「まずは掃除にいたしますわよ。
 叔父様は部屋のごみを集めてくださいまし。」

「は、は、はい……」

 近くにあったはたき棒をビシッ、と向けられ鉄平はたじろぐ。
 年下の子供と言えども、言ってることは至極正論であり、
 返す言葉もないので素直に部屋の掃除を手伝い始めた。
 ゴミと言うゴミは外へと出されて布団もしまわれて、
 狭かったはずの家が、広く感じられるような状態だ。
 テーブルに出された数々の家庭料理を前に、鉄平は瞳を輝かせる。
 不摂生を形にしたような食生活ばかりを続けていた彼にとって、
 ごく普通の家庭料理ですら、高級料亭に勝るとも劣らない、
 いや沙都子が作ったと言う観点からそれ以上のものになる。

「ワシは幸せ者なんね……可愛い姪っ子にこんなにしてもらって。」

 共に食事をとりながら、
 今の環境に鉄平は涙を流す。

「なのにワシはあんなに酷いことばっかりすまんな……! 沙都子許してくれぇ!!

「昔の事ですのよ、いいんですのよ叔父様。」

「よくないんね! 沙都子のことは絶対ワシが守って見せるんね!」

 自分の唯一のよりどころだ。
 クズの権化とも言えた過去を持つ自分を、
 もう一度家族として受け入れてくれた沙都子には感謝してもしきれない。

「頼もしい限りですわね……さて、
 そろそろ暗くなることですし戻りませんと。では叔父様また■■───」

「え?」

 ありふれた日常。
 姪っ子が時折来ては料理を振る舞って、
 自分を励まして夕方には家へと帰る。
 これが自分の知る、ありふれた光景のはずだ。
 でもおかしい。何かがおかしいと彼女の服の袖を掴もうとする。

「さ、沙都子。少しだけ───」

 待って。
 そう言おうとした瞬間、アパートの扉は沙都子によって開かれた。
 狭い通路はなく、見慣れた光景もない。ただ広がるのは───暗黒。

381戻りたい場所、明確な景色 ◆EPyDv9DKJs:2022/03/06(日) 05:46:53 ID:Afe.j7020
「!?」

 その光景に袖ではなく、手を引っ張って距離を取ろうとするが、
 ブラックホールのように彼女は吸い込まれて、手は届かない。

『ワ〜ルワルワルワルワル!! 
 この世の全ては無意味だ。価値のあるものなど一つもない。
 ヨにはそんな世界が我慢ならぬ。だから全てを浄化するだけでワール!』

 どこかで聞いたような声が背後から聞こえるが、
 そんなことはどうでもよかった。沙都子を守らないと。
 空間に飲まれた彼女は潰れていく。腕が、足が、顔が。
 全てがばねのように潰されて───

「沙都子───ッ!!!」

 上半身を勢いよく起こしながら目を覚ます。
 汗がシャツ染み付いて、気持ち悪い感覚がする。
 今見ていたのが夢であると言うことを認識すると、
 先ほどまで塔にて戦っていた記憶を思い出す。
 なのだが、今は別の場所にて寝かされていた。
 平安京と言う舞台ではそう珍しいものではない和風建築の建物で、
 畳の上に布団と、随分と丁寧な扱いをされて此処にいたことが伺える。
 襖の開いた縁側から見える紅の空は、悪夢は続いてると言わんばかりに広がっていた。

「ワシは、まだ生きとるんか。」

 死後の世界なのか、まだ殺し合いの舞台なのか。
 それを知るべく首に手を当てて、その証明たる存在に触れる。
 あらゆる参加者が生殺与奪の権を握っているそれは未だ健在だ。

「そうだ、沙都子に嬢ちゃん達!」

 布団で寝てる場合か。
 気付くとすぐさま布団から出て、縁側から回り込んで玄関へと向かう。
 平安京らしく白い塀に囲まれているので、出るには玄関の門しかない。
 庭に敷き詰められた小石を踏み音を立てながら、玄関口へと向かった。

「目が覚めたのか。」

 門を見つけた時、
 音を聞いてか零児が玄関から顔を出す。
 気絶していたので零児とは面識はなく、
 警戒を強めて鉄平は数歩後ろへと下がる。

「兄ちゃんは……」

「沙都子ちゃんを保護してた人です。」

 零児の後ろからリリアーナも姿を見せる。
 彼女が無事であったことに安堵の息を吐く。
 あれだけの攻撃をして、疲れを見せないのは流石聖女だと感じた。

「そうか、兄ちゃんが……ところで、沙都子は何処におるねん?」

 心配そうに彼女の後ろを見たりして沙都子を探す鉄平。
 何も知らない姿に、リリアーナは申し訳なさそうに目を逸らす。
 彼女を尻目に、零児は無慈悲にリリアーナから聞いた顛末を告げた。
 遠からずディメーンが言っていた定時放送と言うものが始まる。
 定時放送は殺し合いをするしかないと言う状況へ持ち込むはず。
 となれば、自分の知り合いや自分が危険な状況を煽るだろう。
 今嘘を吐いたところで、すぐにばれるような嘘など意味がない。
 だから告げる。彼が探した少女は、もうこの世にいないと。
 遺体だけでもと思って向かったが、それは告げないで置いた。
 大切に想ってる相手が、腕しか見つからないなどと言えたものではない。
 いや、それが彼女の腕かさえ彼には判断がつかなかったが。
 飛んできた遺体の腕があったかも、今思えば確認してないのだから。

 告げられた内容を前に、鉄平は膝をつく。
 小石がじゃらじゃらと鳴り響くその光景は、
 鉄平の心も崩れ落ちた瞬間とでも言えるかもしれない。

「沙都子は、まだ普通の子やったんね。」

 膝をつき、手をついて四つん這いに項垂れる鉄平。

「まだランドセル背負って、友達と学校行く年だったんね……」

 表情は伺えないがわかる。
 震えた声と身体で告げられる言葉は、
 彼がどれだけこの状況に悲痛な思いを抱いているのか。

「なんでや! なんでワシやのーて沙都子が死なないかんね!?
 こんなクズでどうしようもない、ワシだけがのうのうと生きとるんね!?」

 涙を零しながら泣き叫ぶ。
 魔女の姿など露知らずな彼にとっては、
 沙都子とは自分を変えてくれた唯一残された家族だった。
 自分が死ぬようなことになっても、沙都子だけは助けたい。
 どうしようもない自分が、最後にできる贖罪とも言える彼女を守る。
 なのに、なんだこれは。彼女が一体何をしたと言うのか。
 こんな意味の分からない殺し合いの犠牲者にされたなど、
 信じたくなかった。

「ごめん、なさい。」

 泣き崩れる鉄平の前に、美炎も姿を見せる。
 彼女も気を失っていたが、彼の叫びで目が覚めた。
 沙都子を連れてきたのは自分だ。自分が連れてこなければ、
 あんなことにはならなかったのだから。

382戻りたい場所、明確な景色 ◆EPyDv9DKJs:2022/03/06(日) 05:48:01 ID:Afe.j7020
「美炎さん……」

「美炎のせいじゃない。普通に、銀髪の軍服の女と伯爵の二人が原因だ。」

 完全に殺し合いに乗った参加者だ。
 和解はできないし、敵も頭も実力も十分に備わっていた。
 口伝なのでしっかりそその姿を見てないので判断はつかないが、
 仕方ないと言うつもりはないものの難しかったとも思えている。

「でも……」

 原因は彼女達だとしても、
 零児に任されたことは事実だ。
 人を守れず、その上血縁者がそこにいる。
 自分だけしか守ることができず沙都子を守れずに、
 更に目の前に守れなかった結果をこうして見せつけられている。

 刀使をしていると、出くわすことは少なからずある。
 警察同様、いつだって荒魂相手には後手に出回るのが刀使だ。
 どれだけ強くてもどれだけ鍛えられても。
 その刃は現場にいなければ決して届かない。

「最善は尽くした方だ。合理的に見れないのは分かるが、
 彼女がいなかったら軍服の女は速やかにあゆりを殺害し、
 そのまま美炎を無傷の状態で応戦してたはずだ。」

 沙都子どころかリリアーナも鉄平も、
 全滅の危機だってあり得たかもしれない。
 少しの些細な違いが、全てを変えることはままあることだ。

「お互いに彼女を死なせてしまったではなく、
 彼女に守ってもらったと思う……と言うのは難しいか。」

 零児は冷静に物事を見れるが、
 一方で冷酷というわけではない。
 癖の強いメンバーの常識人をしてれば、
 必然的に配慮のある言葉を投げかけれる。
 結果論ではあるが、彼女がいたから被害は減った。
 そうとも十分に受け取れるだろうが、方や肉親で方や中学生。
 簡単に割り切れるものでもないだろう。

「なあ、兄ちゃん……」

 泣き止んで顔を挙げた鉄平の姿は痛ましいものだ。
 もはや引きつった笑みのような、疲れ切った姿。
 女性陣もその光景に胸が締め付けられる。

「ワシは、どうしたらええんね。」

 虐待は絶対しない。悪い人との付き合いも縁を切る。
 酒は……まだやめられないが、程々にするつもりだ。
 博打も程々にと、自分でも驚くほどにそう考えていた。
 生きる意味を沙都子に見出した以上、そうなるのは必然だ。

「沙都子の為に、ワシは生きようとしてたんや。
 その沙都子がおらんなら、生きる意味もないんね……」

 抜け殻。言うなれば鉄平はそんな状態だ。
 沙都子を生き返らせるために戦う? できるわけがない。
 エスデスと言う逆立ちしても勝ち目のないような化け物、
 彼女を相手した善。さらに伯爵に美炎と戦える参加者を何人も見た。
 ヘルズクーポン頼みでようやくしがみつける程度の強さで、
 一体どうやって彼らを倒して勝ち上がれと言うのだろうか。

(それだけやない。)

 何より、善やリリアーナと彼はいい人に出会いすぎた。
 彼らを殺してでも沙都子を生き返らせるなんてことをして、
 その時に沙都子は笑ってくれるか? そんなわけがない。
 今度こそやり直したいと言ったのに、人を殺してでもみろ。
 もう二度と、未来永劫沙都子と和解できる機会などないだろう。
 仮に隠して生きると? そんな器用なことができる程、
 北条鉄平は自分を優れた人間だとは思っていない。

「殺し合いで優勝して生き返らせたところで、
 沙都子は絶対認めてくれんね……兄ちゃん、ワシはどうしたら───」

「賭けてみるか? 願いを叶える力とやらに。」

「だからワシは……」

「何も、優勝するだけが道とも限らない。」

 矛盾としか言えない内容。
 零児の言ってることに三人は疑問符を浮かべざるを得ない。

「あの双子がどのような手段で願いを叶えるのか。
 それがもし俺達が扱うことができるものであったなら、
 優勝を目指さずとも沙都子を生き返らせることはできるのではないか?」

 要するに脱出ついでに力を奪うと言うこと。
 そうすれば沙都子どころか、あゆりだって生き返ることができるはずだ。
 こんな殺し合いに巻き込まれた一般人は、何も鉄平や沙都子だけではない。
 (沙都子は一般人ではないが、鉄平からすれば彼女は一般人である。)
 そう言った人たちも纏めて助けられる、最善の手段だ。

「元々俺達の目的自体は変わってない。寄り道が増えるだけだ。」

383戻りたい場所、明確な景色 ◆EPyDv9DKJs:2022/03/06(日) 05:51:02 ID:Afe.j7020
 そうは言うが、
 零児はそもそも願いを叶えるなどないと思っていた。
 あったとしても、それが奪えるような代物ではないかもしれない。
 願いを叶える力があったなら、既に零児達から記憶を消すなどして、
 殺し合いに乗らないと言う方針を潰すことだってできるからだ。
 単純に双子の甘言。人を弄ぶまさに悪魔の所業になる。
 
 しかし。
 妄想だとしても。
 未来へ縋るそれは原動力となる。

「こんな腑抜けたワシでも、ええんか。」

「人手が多くいるのは事実だ。
 それに、彼女の為と奔走した姿を俺は見てないが、
 彼女達が証明している。足手纏いだなんだと思うことはない。」

 鉄平自らがリリアーナの盾になり、
 美炎の戦いを支援し、伯爵を逃がさなかった。
 ヘルズクーポンありきとは言え、一般人では身に余る結果だ。

「私は、鉄平さんのお陰でこうして生きてます。
 此処にいる皆さんは、腑抜けだとは思いません。」

 特に最初の暗黒魔法は、
 リリアーナが先行してたら確実に致命傷だった。
 そういった面でも鉄平は命の恩人とも言える相手を、
 非難などできるはずもないし、するつもりもない。

「其方がいいのであれば、
 出来ることなら協力してほしい。」

「わ、私からもお願いします。
 こんなこと、言える立場じゃないけど……」

 負い目を感じてる都合、
 どうしても目を合わせることはできない。
 どう接するべきかもわからないものの、
 だからと言って放っておくことはできなかった。

「こんなワシでええなら、いくらでも協力するんね!!」

 先ほどまでの絶望しきってた表情とさほど変わらないが、
 一方で先程よりかはましな表情になって、鉄平は立ち上がる。

「二度手間になるから二人が起きるまではしていなかった
 とりあえず二人とも起きたことだ、情報を纏めたいがいいか?」

「は、はい!」

 鉄平は乗り越えた。
 いや、乗り越えたとは違うが、
 少なくとも再起することはできた。
 細い細い、蜘蛛の糸よりも細い糸を掴もうとする。
 博打の方がよっぽどな確率だと言うことは彼も理解してる。
 所詮淡い希望でも、そんな存在がなければ死んでも死にきれない。

 次は美炎に関門がやってくる。
 斬らないと決めた少女の刃を血に染め、
 守るための刃は、敵と言えど一人の命を奪った。
 その事実を知るまで、そう時間はかからない。

【B-4/一日目/早朝】

【北条鉄平@ひぐらしのなく頃に 業】
[状態]:疲労(大)、精神的疲労(絶大)、身体にダメージ(大)
[装備]:ヘルズクーポン(半数以上使用及び廃棄)@忍者と極道
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜2
[思考・状況]
基本方針:双子から願いを叶える力を手に入れて沙都子を生き返らせる。
0:ワシにできるのは、それぐらいや。
1:兄ちゃん(零児)達と行動する。
2:沙都子や嬢ちゃん(あゆり)の為にも生きにゃいかんね。

[備考]
※参戦時期は本編23話より。
※リリア―ナ、あゆりと簡単な自己紹介だけしました。(名前のみ)
※あゆりとの年代の違いはまだ知りません。
※ヘルズクーポンの強化時間は大幅に制限されてます
※零児、美炎と情報交換しました。

【リリア―ナ・セルフィン@よるのないくに2 】
[状態]:疲労(中)
[装備]:無し
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜1
[思考・状況]
基本方針:元の世界へ戻り、刻の花嫁として生贄となる……
1:鉄平さん、零児さんと行動を共にする。
2:アル……あなたに会いたい……
3:あゆりの住んでいるトーキョー……少し興味あるな
4:あゆり……
[備考]
※参戦時期は序章、刻の花嫁に選ばれ、馬車での移動中
※刻を遅らせる能力は連続で使用することができません。また、疲労が蓄積します。
※あゆりの世界について多少、知識を得ました。
※自身が刻の花嫁として選ばれ、月の女王への生贄となることは伝えていません。
※名簿にアルーシェ(アル)がいることを確認しました。
※北条鉄平と簡単な自己紹介を交わしました。
※零児、美炎と情報交換をしました。

384戻りたい場所、明確な景色 ◆EPyDv9DKJs:2022/03/06(日) 05:52:02 ID:Afe.j7020
【安桜美炎@刀使ノ巫女 刻みし一閃の燈火】
[状態]:疲労(中)、精神疲労(絶大)、自責の念、複雑(鉄平に対して)
[装備]:千鳥@刀使ノ巫女
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜2
[思考・状況]
基本:殺し合いを止める。
1:今は使うしか無いけど、可奈美に出会えたら千鳥を返さないと
2:みんなの事が心配。
3:十条さん……私が救う!
4:清光、どこかなぁ……
5:沙都子ちゃん……

[備考]
※参戦時期は第四部第二章終了後〜第四部第三章開始前
※ゆらぎや特務機関森羅、逢魔に関する情報を知りました
※本来は刀使でもその御刀に選ばれないと写シ等はできませんが、
 この場では御刀を持てば種類を問わずに使用可能です(性能は劣化)
※大荒魂カナヤマヒメの力は美炎が『力を求めたとき』発動します。
※カナヤマヒメは美炎の生存を第一に考えています。(優勝してでも)
※カナヤマヒメは沙都子の本性に気づいていました。
※何度もカナヤマヒメの力が発動、及び美炎の身に死の危険が訪れると、
 カグツチに意識を完全に乗っ取られる可能性があるかもしれません。
※参戦時期の関係から美炎は自分の体内にカナヤマヒメが封じられていることは知りません。
 また、カナヤマヒメとカグツチとの関係も然りです。
※名簿から巻き込まれている知り合いを確認しました。
※十条姫和はタギツヒメに取り込まれている状態だと思っています。
※零児には、姫和の状況についてはまだ知らせていません。
※首輪に関する話は筆談で行います。
※沙都子からエスデスの危険性を聞きました。
※リリアーナ、鉄平と情報交換しました。

【有栖零児@PROJECT X ZONE2 BRAVE NEW WORLD】
[状態]:疲労(小)
[装備]:雪走@ONE PIECE、タマゴバクダン@スーパーペーパーマリオ×7
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×1、あゆりデイバック(基本支給品、ランダム支給品×0〜1)、第六天魔王の錫杖@御城project:Re、椛の盾@東方project
[思考・状況]
基本:殺し合いの裏に潜む陰謀を阻止し、元凶を討ち滅ぼす。
1:三人と行動。今はこうしておくのが一番か。
2:美炎と共に施設を周り、目的に賛同してくれる参加者を探す。
3:沙都子の一瞬見せた表情に疑念だが、それもわかることはもうないのか。
4:沙夜……これも宿命か。最悪共闘も考えるべきだが……
5:出来れば銃も欲しい。
6:彼女(あゆり)には悪いが、支給品を貰っていく。
[備考]
※参戦時期は不明。
※刀使や荒魂に関する情報を知りました。
※美炎の知り合いを把握しましたが、
 十条姫和がタギツヒメに取り込まれていることは知りません。
※沙都子に若干の疑念を抱いています。
※美炎と沙都子に首輪に関する話は筆談で行うよう伝えました。
※鉄平、リリアーナと情報交換しました。

385 ◆EPyDv9DKJs:2022/03/06(日) 05:52:52 ID:Afe.j7020
以上で投下終了です

386名無しさん:2022/03/06(日) 07:58:11 ID:xJvYs2r20
乙です
零児ナイスフォロー
鉄平は限界を知っていたからこその生き方をしてきて、沙都子の死とロワの困難さから改めて無力感に打ちひしがれたのが哀しく印象に残りました
ラストの美炎の下りも未知なる関門への期待に繋がってて良かったです

387 ◆EPyDv9DKJs:2022/03/07(月) 15:26:02 ID:PAVwATDU0
修正の報告です

・いっそ無情になれたならよかった
此方における十条姫和の状態表を
修正前:基本支給品(食料と水のみ大祐、千、トッペイ含む四人分)
修正後:基本支給品×4(大祐、千、トッペイ、自分)
に修正します
これに伴って少しだけ描写を書き換えてますが、後続リレー致命的な影響はありません。
「LiarMask」でも同様の修正、都合「モノクローム・ファクター」までのトッペイの状態表も修正してます。

・モノクローム・ファクター
アルーシェの装備を
修正前:[装備]:刀剣類@不明(少なくとも御刀レベルの頑丈さはない)
修正後:[装備]:刀剣類@不明
に修正します。
こちらは単純に消し忘れです

また「不戦の契り、林檎の種」において、
以下の点がきがつくになったので「モノクローム・ファクター」では個人の解釈にあわせた修正をしました。
・みりあが作中でさとうに対して包帯を用いていたものの特に表記がなかったので、
 これをランダム支給品として扱い、包帯の説明も特に表記されてなかったため、
 『包帯@詳細不明』とさせていただいてます。
・ベルトルトは作中では『右腕が骨折してる』描写がありましたが、
 状態表にはそれがなかったので『右腕骨折(処置済み)』を追加した状態で、
 かつ拙作「モノクローム・ファクター」における状態表も修正させていただきました。
此方を書かれた◆4Bl62HIpdE氏からこの解釈について問題ありましたら、連絡をお願いします。

どちらも修正したらすぐ報告するべきでしたが、遅れてしまい申し訳ありません。
(当分トッペイ達予約されないだろうなと思ってたと言う怠慢もありますが)
また、リレー済みの作品でこういう修正することになってしまいすみません。
以後このようなことがないように気をつけさせていただきます。

報告は以上となります。

アカメ、十条姫和で予約します。

388 ◆EPyDv9DKJs:2022/03/09(水) 02:03:43 ID:VigE1wbI0
先日の予約にキャラを追加したものを投下します

389 ◆EPyDv9DKJs:2022/03/09(水) 02:04:28 ID:VigE1wbI0
 初音を待たせていた周辺をアカメは探す。
 しかし、何処の家を調べても初音の姿はない。
 場所は間違ってないし、かといって血痕や遺体もなく。
 殺されたと言う状況でもない。

(逃げたのか?)

 そうだとしても、何故だ。
 パニック状態だから彼女は琴美を襲った、
 そういう解釈で良かったはずだし、出会った際に諭している。
 自分が琴美の仲間であることは、別れる際に名前を呼んで気付いてるだろう。
 警戒されていないはずなのに逃げる、それは何故なのか。

(パニックを起こしたのが嘘だった可能性が出ている。)

 琴美にとっての初音の評価と、今の初音の評価が微妙に合わない。
 当然だ。別のルートを辿っている初音とは全く別の側面なのだから。
 琴美の知る初音とは、彼女は大祐の被害者で守られる立場の少女。
 一方で此処に参加した初音は、ファンの充に成り行きでも殺しをさせていた方だ。
 評価が合わないことで辿り着くのは、彼女が表向きは本性を隠してたと言うこと。
 アイドルと言う仕事はアカメの世界にはないが、似たような仕事か何かだとは理解した。
 演技力も試される仕事であると聞いた以上は、彼女がそういうのに長けてない、
 とは否定できないし、何よりアカメはそういう人を見すぎているのも影響していた。
 非力な一般人を装って殺すと言う戦術も、チェルシーがいた手前想像しやすい。
 価値観と言うより、見てきたものが違いすぎたことによるすれ違いと言うべきか。
 琴美は博愛主義者。それでも初音を許そうとしてしまうのかもしれないが、

(琴美、すまない。)

 彼女を再び黒と判断して行動することにする。
 もしこれで誰かを手にかけていたのであれば、葬ることを選ぶ。

(人を探せる道具があればいいが。)

 あまり時間をかけてる暇はない。
 支給品を回収した際にいくつかは見て装備したが、
 まだ確認してない支給品に何かあるかもしれない。
 近くの建物の塀を壁を背に、モッコスの支給品を漁る。

(巻物か。)

 出てきた巻物を開けば、エリアを跨ぐまでの間参加者が地図上で確認できる。
 帝具のような便利なものだと思いながら巻物を開いて、地図を見やる。
 タブレットを見れば先ほどまでなかったD-6に黄色い点があり、
 場所から自分であることを示しているのが分かる。

 自分以外に動いている赤い点は二つある。
 一つは恐らく初音だ。移動ペースが緩やかだ。
 敵に見つかって逃げてる、と言う可能性もなくなった。
 もう一つは今さっきエリアに入ったばかりだが。

「!」

 入った瞬間に加速し始めた。
 尋常ではない速度のまま真っすぐアカメへと向かっている。
 すぐに武器を構え、荷物を手に高速で動き出す。
 動いて移動してみれば、明らかに自分を補足している動き。

(向こうも同じようなものを持っている!)

 すぐに敵が来る。
 タブレットをしまって日輪等を構えると、
 後方の曲がり角から当人が刃を向けてくる。

「!」

 迫る攻撃を咄嗟にアカメは転がりつつ跳躍。
 しかし距離を取っても即座に追いつかれ、無数の剣戟が空中で繰り広げられる。
 襲撃者は自分と同じで、長く黒い髪を靡かせている一人の少女───八将神、十条姫和。
 弾丸を避けれるだけの反応速度を持つアカメならば、迅移の速度にも十分対応可能だ。
 仕留めきれない、と言うより仕留められるビジョンを龍眼で見れなかったので一度距離を取る。
 二人は近くの家の屋根へと降り立って、互いに刀を構えた。
 アカメは無形の位に近い構えを、姫和は斜の構えをしながら。

「敵か。」

「───ああ、そうだ。私は八将神、十条姫和。
 お前達を葬る為だけに、メフィスに選ばれた災禍の化身だ。」

 偽物の仮面を被った彼女は演じ続ける。
 たとえそれが双子の悪魔たちにとっては滑稽でも、
 少しでも自分を倒してくれる人が増えるようにと願って。
 禍神として、偽悪として散るために。

(折神紫も、こんな風に抗っていたんだな。)

 二十年も大荒魂を抑え続けていた彼女も、
 自分を見失いそうになりながらも抗い続けてきた。
 彼女に対しては複雑な心境ではあるものの、苦労を重ねた人物だと少し同情する。
 同時に、自分にはできそうにもないとあるべき未来で同じように思ったことを感じた。

「そうか───葬る。」

390 ◆EPyDv9DKJs:2022/03/09(水) 02:05:19 ID:VigE1wbI0
 敵と自ら宣言しているのであれば関係ない。
 彼女がどういう人物かの認識もできない以上、
 ウェイブのように殺害対象から外すこともしない。
 電光石火の如くアカメが一瞬にして間合いを詰める。
 常人では対処以前、熟練の剣士でも間に合わせるのは難しい。

(速い!)

 間に合わせられる、と言うより事前に動くことができる龍眼だからこその対応。
 意図的に刃毀れされた日輪刀の横薙ぎは斬撃すら飛びそうな鋭さは容易に止められる。
 そこから刀を払われ、逆袈裟斬りのカウンターが返しをバックステップで避けるも、
 更に間合いを詰めての突きを身を屈むことで回避しつつ今度は逆にアカメの逆袈裟斬り。
 本来突きは隙の多い技となることも多いが迅移による加速で隙についてはほぼなくなる。
 直ぐに小烏丸によって防がれた。

「どうした! 私の力でお前の次の攻撃が読めるぞ!
 ただ闇雲に向かったところで、私に勝つなどできるものか!」

 これらも難なく対処される。
 とは言え単純に未来予知の類であれば、
 アカメは既に未来視ができる帝具使いのザンクと戦った経験がある。
 その時の決め手は、反応速度を上回り膂力による武器破壊からのとどめ。
 アカメはたとえ村雨がなくても、帝国に属していた時代から鍛えた身体能力は別格だ。
 だから彼女の攻撃を予測はできるとしても、結局のところ必要なものはフィジカルだ。
 なので龍眼に頼り切った強さではなく、姫和自身の母の無念を晴らそうと続けた努力の結晶か。
 それを、殺し合いの道具として利用されてるのだから皮肉でしかないのだが。

(こいつも相当な鍛錬を積んでいるな。
 速度だけでなく腕力も八幡力を使ってるかのようだ。これなら私を……)

(相当優れた剣術を学んでいるらしい。
 洗練された一撃は無駄がない。気を抜けば一瞬だ!)

 双方卓越された剣術。
 互いに人を守るために覚えた剣技。
 本来姫和が守るためでアカメの方が汚れた剣になるはずが、
 今となっては逆転した状態とも言えるものになってしまった。

 小烏丸の唐竹の縦からの斬撃。
 八幡力で上乗せされた腕力はアカメでも表情を歪ませる重さ。
 よって攻撃を受け流せるようにしたら逆に力を抜いてあえて刀を下ろさせる。
 力を入れてることで隙を生じさせるものだが、すぐさまそれを演算された。
 途中で八幡力を解除と共に迅移で距離を取り隙は事実上消える。
 すぐさま刀を振り上げれば、眼前にはアカメの持つ日輪刀。
 あの一瞬にして既に刃の間合いにまで詰められていた。

(武器を葬りたいところだが、難しいか。)

 ザンクとの戦いでは反応速度を超えて武器を破壊したが、
 今回はそうはいかない。常時高速移動ができる迅移を前に、
 相手に上回り続けるだけの速度を常に維持できるほどアカメは人間をやめてない。
 一方で武器の破壊を狙ってもいるのだが、御刀はそこらの鉄の比にならない硬さだ。
 いくら人並外れた強さを持つアカメと言えども、小烏丸を折るのは至難になる。

(第三段階迅移は……しないのか。)

 第三段階の迅移を無暗に使えば致命的な隙を晒すことになる。
 それは八将神の役割として、多くの参加者を殺すことは出来なくなるので、
 必要に迫られた時のみに使うようにされてるのもあってそこは控えていた。
 死ぬことを望む彼女にとっては、その方が都合が悪いことにはなってるが。
 一応、もう一つ理由としてこのD-6には姫和が見た時点で別の参加者がいた。
 初音ではあるが、それが脅威になるかどうかの認識などできるわけがない。
 だから三段階を使うことしない。と言うよりも使うわけにはいかなかった。

 アカメは武器を折れないし、
 姫和は切り札を使うことをしない。
 そして互いに攻撃が当てられない。
 ではどうなるのかと言うと、だ。

(粘って勝つしかない。)

(体力勝負に持ち込むのか。)

 もう持久戦、それしかなかった。
 互いに疲弊するまで戦い続ける。これ以外にないのだ。
 実力伯仲である以上は、こうなるのは必然とも言える。
 何十、何百と言う途方もない剣戟を続けるのが最善と言う、
 とてつもないごり押しとも言える戦術を、刀使と暗殺者が行う。

 迅移は高速で剣技を振るえるが、
 何も正面から攻撃する必要はない。
 跳躍と同時に相手の背後へ回り込むと言う、
 禍神たう彼女だからできる落雷のような迅移。
 しかしなおも対処が間に合い身をかがめながらの足払い、
 横薙ぎの攻撃は髪の毛数本散らすだけでダメージには足りえず、
 再び跳躍かあの迅移で距離を取って、同時に肉薄して互いの刃が交わる。
 何度目か数えらえない互いの得物がぶつかり続けていた。

391 ◆EPyDv9DKJs:2022/03/09(水) 02:07:26 ID:VigE1wbI0
 優れた剣客同士による剣技の押収だ。
 姫和の流派となる鹿島新當流の突きは届かず、
 アカメの刃は写シを剥がすことすら叶わない。
 迅移がなければ、龍眼の演算に追いつかない可能性すら感じる。
 何度も何度も人を守るための御刀と日輪等が振るわれ派手に音を散らしていく。

「無駄だ! 八将神はあいつらから加護を受けている!
 体力が尽きるまで続けるならば、私の勝利は確実だ!」

 持久戦は何方が有利かと言ったら、それは当然姫和に分がある。
 互いに目的のために肉体を鍛えてるのであれば体力勝負は五分だが、
 此処に八将神と言うバックアップが姫和にはある。同じく八将神との戦いで、
 ドミノ・サザーランドと不動明による激突も五分ではあるが体力差が響いていた。
 いくらアカメも人並外れたところで、コンディションは常に維持できない。

(……この違和感は何だ?)

 彼女とは初対面だから完全に察したわけではない。
 ただ、まるで『だから別の事をしろ』と言わんばかりの発言。
 それがまさか、死ぬためにしているなどとは思うはずがない。

(嘘を言ってるようには思えないし、この状況では私に分が悪い。)

 戦いのコンディションとは最初の少ししか最高潮を維持できない。
 次第に落ちていくのが普通だ。大切なのはその時にどうするかだ。
 落ちてからでは遅い。一度距離をとって地上へと降りながら、
 アカメは懐にしまっていたものを左手に用意する。
 無論、八将神たる姫和がそれを使わせる隙を与えるつもりはない。
 アカメはそれを空へと投げたが、見た目から何か即座に察する。
 咄嗟に腕で眼を覆い、周囲に強い光を放つ。
 琴美が持っていた、最後の閃光手榴弾になる。

 このチャンスを逃さないと言いたいが、閃光手榴弾の威力は強い。
 人間どころか鬼にだって通用するそれを考えれば当然であり、
 アカメも多少ではあるもんお、視界が狭まってるのは事実。
 一瞬のミスが命取りになるのであれば、そのミスを出す前に決着をつけたい。
 デイバックから栄養ドリンクと思しきものを手にし、それを一気飲みする。

「葬る!」

 瓶を投げ捨てながらの肉薄。
 彼女が飲んだのはツヨツヨドリンク。
 安直なネーミングではあるが力を短時間倍化させると言う、
 ドーピングも真っ青なとんでもない効力を秘めた代物だ。
 これでリスクも何もないと言うのだから恐ろしいものである。

 だが、それは相手も同じことだ。
 アカメが準備した際に、姫和も同じく行動を取った。
 同じようにデイバックから取り出したのは───剣。
 彼女の流派である鹿島新當流は突き技を主とするもので、
 折神紫の二天一流のような二刀流をメインとはしてないし、
 ましてや片方は比較的細身と言えども、西洋剣に近しい太めの武器。
 二刀流をやるにしても不格好ではあるが、それは最早関係がない。
 この剣は斬るために使うこともできるが、その目的ではないから。
 剣を取り出して地面へと突き刺す。

「その剣……まさかお前!」

 接近しながらその件に目を張る。
 少し前にスサノオと言うあるはずがないものを見たばかりなので、
 決してないと思ってはいなかったが、こんなところで彼女が持つとは。
 修羅となることを決意した彼女へと渡った、千が持ってた皮肉の支給品。
 その大剣たる鍵と、それから出るものの名は修羅化身───



「グラン───シャリオッ!!!」



 高らかにその名を叫び、彼女は姿を変えた。
 長い黒髪も、年不相応な運命を背負ったことでできた仏頂面も。
 さながら鉱石のような、つややかな黒紫色の鎧を彼女は身に纏っていく。
 帝具『グランシャリオ』はイェーガーズのウェイブが使っていたもので、
 インクルシオの後継機。戦ったことがあるからその力は分かっている。
 純粋な身体強化と、素材に鉱石を使ったことで強固な装甲を持つ。

(まずい!)

392 ◆EPyDv9DKJs:2022/03/09(水) 02:07:59 ID:VigE1wbI0
 普段クールなアカメであっても流石にこれは焦りを感じる。
 持久戦と言う形に持ち込むからこそドリンクを飲んだが、
 相手もまた一気に仕留めるつもりでグランシャリオを起動させた。
 帝具相手に帝具なしで挑むと言うのは、かなり厳しいものであるからだ。
 グランシャリオは彼女の膂力と村雨を以てしても、装甲を破壊するのには難儀する。
 ドリンクの補正あるので流石にそこまでの労力入らないかもしれないが、それでもだ。
 しかも鎧とは言うがあれは最早パワードスーツだ。関節と言う鎧における隙間がない。
 駄目押しにこちらは短時間しか持たないが、グランシャリオなら数分は余裕で活動可能。
 肉薄した後一撃を叩き込むが、直ぐに対応されてしまい装甲が破壊できるかも確認できない。
 では逃げるか? 当然不可能だ。元より高い機動力だったのに、
 更にグランシャリオの背中にあるブースターによる加速。
 逃げるどころか、逃がしてくれることすら許されない。

(支給品を全部確認してなかったのは痛いが、なんとかするしかない!)

 村雨があるかもしれない、モッコスから手にした他の支給品。
 数が明らかに多くて他の参加者から奪ったのは容易に想像つくが、
 初音と合流することに優先したため、あまり多くの物は調べなかった。
 もっとも、探したところで村雨はムラクモが持ってるので絶対にないのだが。

(ああ、そういうことか。)

 これは危険な代物だ。
 鎧を纏ったことで漲る力に姫和は察した。
 死なせてくれない。もっと殺せと言われている。
 文字通り、修羅の化身になれと示してるかのような。

「先の反応、知ってるならばわかるだろう。
 死力を尽くして、私を殺さなければお前が死ぬぞ!」

 迅移に身体能力強化にブースター。
 これでもかと言うぐらい理不尽な加速でもまだアカメはついてこれる。
 だがついて来れると言えども先程の互角の戦いから一変して、防戦一方。

 迫る袈裟斬りは此方の刃を押し込められ、
 此方の切り上げは空中へ跳躍して、ブースターで加速して更に重くしてくる。
 いなしても龍眼で演算で導きだされたことで対応されてしまう。

 前後左右に加え上からの攻撃のダメージを受けずに済んでるのが奇跡に等しい。
 同じ個所を集中的に攻撃すると言う行為も元々簡単なことではなかったが、
 今度はそれ以上に攻撃を当てることそのものが困難な状況へと持ち込まれる。

(メフィス達の手駒となる八将神。
 名前から彼女一人とは思えないが、今は考える暇がない!)

 一撃の重さはドリンクの都合でアカメに分があり、
 その一撃の重さで辛うじて相手の攻撃の手が鈍くなってるがそれだけ。
 戦局を変えれてるわけではなく、じり貧であることに変わりはない。

(スーさん……)

 スサノオを使えば恐らくは何とかなるかもしれないが、
 元からこの舞台における数々の帝具の使用者はリスクを知らないから、
 誰もが帝具を平然と使っているし事実相性の悪さに悲鳴を上げた人もいる。
 アカメの場合はその帝具のある世界の人間。故に誰よりも帝具の使用のリスクを考える。
 相性のいいかどうかと言う疑念は失敗すれば多大な消耗だけで、
 確実にとどめを刺される可能性も出てきてしまうので使うに使えない。

(私に扱えるかは怪しいし、何よりスーさんは仲間だ。)

 先ほど強引に戻ったばかりだ。このまま連戦させてしまえば、
 今度こそ、エスデスとの戦いの時のように死別することになるだろう。
 スサノオは帝具だが仲間だ。帝具故同じ火であぶった肉を食ったわけではないが、
 彼がいたから山奥でも安全に生活できたし、美味しい料理も食べることができた。
 彼がいたからボリックのところで全滅しかねない中、生き残ることもできている。
 帝具が支給品と言う扱いであったとしても。アカメにとっては彼は仲間だ。
 仲間を道具のように酷使するような真似はしたくない。

393 ◆EPyDv9DKJs:2022/03/09(水) 02:08:46 ID:VigE1wbI0
 仲間に頼らないではなく、仲間だからこそ頼りたくない。
 だからアカメは考える。短い時間でできる最適解を。

 突破口を見出す為、試しに距離を取る。
 単純に態勢を整える目的でするが、すぐに追いつかれる。
 追いつかれてもなお防戦しながら移動し近くの建物の屋内へと逃げ込む。
 比較的狭い廊下は小烏丸が長くないと言えども、狭い場所では振り回せない。
 そう考えてのことだが、これについては正直無理だとも感じていた。
 予想通り、龍眼による未来視があるので天井や壁にぶつかって動きが鈍る、
 そういう事故が絶対にないので、寧ろ満足に振れないアカメの方が不利だ。
 早急に抜け出して、外へと逃げながらの剣戟が続く。
 迫りくる横薙ぎを屈んでジャンプと共に突きを放つ。
 回避をした後空へと逃げたアカメを追いかけるように飛び、
 突きの隙などないとでも言わんばかりに身を翻して回避。
 顔面を叩き割るかのような兜割りも特に苦も無く防がれた。

 他の支給品に頼るのが一番よかったが、
 確認できてるものはあるのは腕輪とそれにつけたものだけ。
 腕輪も装飾品もこの状況を確実に打開できるものではない。
 解決策が見てないものにあったとしてもとても見る暇がない。

(装甲を破壊する以外にないが、回数は望めない。
 一回で装甲を剝がせるかどうかに賭けるしかない!)

 遠からずツヨツヨドリンクの効果が切れる。
 早々に決着をつけなければ敗北が確定してしまう。
 だが、ついに均衡が崩れた。アカメの縦に振るった一閃を空振りにされ、
 アカメの首を狙わんと、鹿島新當流の得意技たる突き技が迫った。
 咄嗟の判断で腕を挟むが、それだけで止まることはない。
 龍眼で見える。腕を貫通し、彼女の首も貫くと言う嫌な光景が。

「───バリアッ!!」

 刃が腕に触れた瞬間、アカメはありったけの声で叫ぶ。
 彼女の細い腕の肉を断ち切りながら小烏丸が迫るも、
 半分ほどのところで、刃が急に通らなくなってしまう。

「何だと!?」

 アカメが付けた腕輪自身ではこの光景にはならないが、
 彼女の腕輪の穴にはまってる、緑色の宝玉には意味がある。
 ある世界では古代種の知識が蓄積されたものを用いることで、
 一般人でも魔法が使えるようになった。この存在を人は『マテリア』と呼ぶ。
 これに記録されているのは『バリア』。受けるダメージを一時的に半分にする。
 だから容易に腕を貫くであおう一撃も、骨で引っかかるかのように抑えられた。
 マテリアと言う知らないものである以上は龍眼で演算することもできない。
 それでも重症。だがこの一瞬を逃すわけにはいかない。
 これほど接近し、刃の間合いにいる以上最初で最後のチャンス。

「葬る!!」

 姫和が得意とする突きのように、
 伊之助の日輪刀が彼女の首を狙う。
 腕を犠牲にしてでも、彼女を倒さなければならない。
 自分と同じようにレオーネがライオネルがない可能性もある。
 これを相手にできるなら、それこそエスデスレベルだろう。
 二の太刀は認められない。一の太刀で仕留めるしかない。
 龍眼で見れなかったことによる演算の不具合で、
 動きが一瞬止まってる今、姫和もまた防御も回避もできない。
 ついにその一撃を叩き込み、甲高い音が周囲へと響いた───















「とある流派では突きは死に太刀、と言う話があったな。」

394 ◆EPyDv9DKJs:2022/03/09(水) 02:10:04 ID:VigE1wbI0
 ───だめだった。
 確かに一撃の意欲は強く、あっという間に首元にひびは入った。
 パラパラと装甲が零れて喉元と首輪を晒すが、それだけだ。
 喉を貫通するには至らない。当然、葬ることはできない。

(どうにもならない、か。)

 自分一人ではできることはこれ以上はなかった。
 これで仕留められないならば、自分は死ぬだけだ。
 一瞬の出来事だが偉く長く感じる。腕で止まっていた刃は突き進み、
 紅い雫を垂らしながら頭へめがけて刃が迫り始めていた。

(レオーネ、ボス、タツミ……クロメ、すまない。)

 ラバックが死に、マインも再起不能になった。
 エスデスを倒すことはおろか、妹を救うこともできない。

(また、私は殺すのか。)

 亡き母の御刀であり、自分を刀使として選んだ小烏丸を。
 殺し合いを是としない参加者を次々と殺め血を吸わせた妖刀へ果てさせる。
 どれだけ尊厳が踏みにじられるのか。双子の悪魔へ憎悪を募らせるが、
 結局彼女は傀儡であり、主催の連中にとってのお人形でしかない。
 八将神と言う服を着せられ、殺し合いを加速させるため動かされる。
 鎧の中で誰に気付かれることもなく、涙を流す。

(任務、未完───)

 首を絶たれて終わり。
 その結末は変わらなくとも、
 諦めることなく左手を強引に動かし刃を首から逸らす。
 しかしその影響で肉を裂かれ左腕の肉が余計に刃を通すことになる。
 とどめが刺せないと分かって刀は引き抜かれたが、アカメの腕には多量の血が流れていく。
 ドリンクの効果も恐らく既にキレた。腕も力をうまく入れることができなくなっている。
 片手で相手できる程、グランシャリオの性能が甘くはないのは分かっていた。
 それでもやるだけはやる。折れて諦めるなど、アカメではないから。










 そこに、希望の光が射す。

「!」

 二人の間を駆け抜ける眩い何か。
 突然の出来事を前に姫和は距離を取る。

「新手か!」

 互いが視線を向ければ、そこに立つのは人ではない。
 橙色を基調とした仁王の如き姿をした、人型の何か。

 遍く照らす光。
 理想に根した姿は伏するには向かない。
 例えるならば───そう。それは燦然たる光。

「して、何方が敵だ?」

 真祖、日ノ元士郎。

 互いに言葉が出てこなかった。
 帝具、危険種、荒魂。どれであったとしても、
 その光のような化身を形作るのは無理ではないか。
 見とれてると言うよりも、眼がくらんでるに近しい感想だ。

「フハハハハハハ! 眩しかろう。我が現し身は。」

395 ◆EPyDv9DKJs:2022/03/09(水) 02:10:57 ID:VigE1wbI0
 太陽でも見ているのか、
 とでも言わんばかりの表情の二名に仁王立ちする日ノ元。
 北西から進んでみれば、新たな参加者と出会うとは思わなかった。
 ヴァンパイアのような恰好をした相手に生身で応戦している。
 ドミノを見た時に抱いた想像通り、生身でヴァンパイアと対抗できる相手がいるようだ。
 やはりドミノと停戦協定を結んだのは正解だ。一方で使い倒す算段が、
 自分が偶然にもその使われる側になるとは思いもしなかったが。

 ※帝具の姿のせいで彼女をヴァンパイアと勘違いしてます

「八将神、十条姫和だ。私を止めて見せろッ!!」

 アカメは腕の都合最早相手にならない。
 脅威は此方と判断して身体は日ノ元へと向かう。
 接近する彼女に対し、日ノ元は仁王立ちのまま動かない。

 と言うより、動く必要がない。
 彼を覆うような太陽の如き光のバリア。
 それに阻まれて彼女の突きは届くことがない。
 凄まじい熱量は優れたヴァンパイアですら近づくだけで消耗する。
 グランシャリオがなければ、写シを即剥がして燃やし尽くしていただろう。

「勇ましいな。」

 これを前に接近できるだけでも相当なものだ。
 ドミノでも難儀するだろうと言う確信を持っていたが、
 よもや見たこともないヴァンパイアに止められようとは。

(超硬度の物質を生成した姿、さして珍しいものではない。)

 死亡した芭藤や娘の明にも発現しているタイプのものだ。
 なので厄介とは思わない。ありふれたものであるのだから。
 一方で武の技量は声の幼さとは裏腹に優れている。
 何十年の修練と言う人外の領域ではないものの、
 センスは別物だ。これは凡才とは呼べるものではない。

「だが、それだけだ。」

 それで突破されるのであれば、真祖など勤まりはしない。
 指二本を彼女へと指して、そこから光線を放つ。
 至近距離からの光線でありながらも即座に回避。
 龍眼で一度あの攻撃を見てなければ演算すらできなかったが、
 逆に見たことでそれができると言う認識を得られている。

(速いな。)

 芭藤のような硬度の物質で身を覆い、
 七原に似たような加速能力を持って動き、
 堂島と同様に刃を振るう既視感のある立ち回り。
 姿を消した日ノ元は彼女を瞬時には見つけられない。
 と言うのも、日ノ元はゲーム風の能力値で言えば索敵は低い方だ。
 更に真祖の力は控え気味。だから気づくと同時に、背中から轟音が鳴り響いた。

 姫和は背後の上空へと回り込みながらブースターで加速。
 斬撃が届かない以上やるのは障壁の破壊。斬撃ではなく衝撃が必要。
 それを目的とした加速した飛び蹴り、ウェイブがグランフォールと名付けだ動き。
 帝具が記憶しているのか、それとも八将神としての役割かは知らないが、
 奇しくも同じ技を用いることで、障壁をぶち破ることに成功する。

(障壁の強度も弱まっているな!)

 真祖の力の制限は最初から察してはいたが、
 真祖でも突破は厳しいと見ていた障壁を蹴り一つで割られた。
 蹴り破ったらそこから即座に小烏丸で兜割りだが難なく回避。
 背中ら生えた触手が障壁を張ることもでき、再び展開。

「む。」

 出来なかった。
 触手が潰されてない限り問題なく展開できるはずだ。
 これについても予想は簡単だ。あんな障壁があっては、
 ほぼ全員蹂躙されることを考えれば当然である。
 一定時間あればまた展開できるだろうが、待つのも煩わしい。
 触手から多量の光線を放つが、それも容易く避けられ、
 近くの壁や建物を破壊するだけだ。

「光線も役に立たない。ならば───やるとしよう。」

 日ノ元が腕を組んだ姿勢からついに拳を構える。
 周囲を揺らすかのような音と共に着地し、迫る刃を拳で対応。
 光線が雑に強いので忘れがちだが、日ノ元の本領は見た目通り接近戦だ。
 燦然と輝く拳と刃によって、金属のような甲高い音が鳴り響く。
 演算による未来を視た一撃をそれ以上の高速で対処する。
 互いに移動しながら、高速の拳と高速の剣がぶつかり合う。
 アカメも追うことはできてるが、負傷した今ではついていくのは難しい。

396 ◆EPyDv9DKJs:2022/03/09(水) 02:12:18 ID:VigE1wbI0
 演算する龍眼を使ってもなお対処ができない、
 それを三度もやっている姫和を弱いと断じる人もいるだろう。
 だが千の場合は三対一で、疾風のレイピアでの恩恵があったからこそ。
 アカメの場合は生身の人間の基準が高すぎて、その上アカメが優れた暗殺者だからこそ。
 日ノ元の場合はそもそも真祖。二人は勿論姫和とすら格が違う、参加者最強格だ。
 寧ろ龍眼に対応できるだけの動きを持っている三人がおかしいと言うべきだろうし、
 多数のバックアップを受けて真祖に喰らいつけてる姫和も大概だ。
 真祖以外で真祖に対抗できるヴァンパイアが、極々一部しかいない。
 そこを鑑みれば、真祖相手に戦えるだけでも相当なものである。

「ぬん!」

 一方で攻撃が当たらないかいなされる。
 攻撃が成立しないと言うのはある意味厄介だ。
 戦いとは生き残った者が勝者であるのが鉄則。
 では、攻撃を受けなければ事実上負けることはない。
 即座に負けることはないが、勝てると言うわけでも非ず。

(かといって本気を出そうものなら……)

 一瞬だけアカメを一瞥する。
 腕から多量の血を流しながら、デイバックを漁っている。
 彼女が敵ではない可能性がある現状において、
 無暗に本気を出して辺りを吹き飛ばすわけにもいかない。
 強ければいいものではない。嘗ての過去を思い出すことだ。

「!?」

 いつまで続くのか分からない応酬は終わりを迎える。
 突如として、姫和の周囲を正方形の水色の結界に覆われたからだ。

「真祖である以上必要ないとは思いますが、
 怪我人もいる手前、此処は効率を優先とさせてもらいましょう。」

 アカメの背後から空間移動しながら現れるオフィエル。
 彼の隔離術式であれば、相手を拘束するのは難しいことではない。

「真祖が手助けされるとはな。だが! それは事実だ! 礼を言おう!」

 身動きが取れなくなった彼女の左胸、
 ヴァンパイアであれば弱点の心臓へと叩き込まれる拳。
 ゴウッ、轟音が轟きながらグランシャリオの装甲をぶち破る。

「ガッ……」

「さらばだ。」

 さらに拳から光線を放って、双方の二つの衝撃で彼方へと吹き飛ばす。
 元の世界であれば同じ真祖のユーベンですら回避を優先する打撃一撃。
 普通に考えれば即死ものではあるが、そうはならなかった。

「仕留め損ねたか。」

 胴体を貫通させたのに、血の一滴すら降ってこない。
 何かしらのからくりでダメージを防がれたようだが、
 今となっては追跡するのは難しいだろう。

「……よしとするか。蒔岡君! 出ても大丈夫だ!」

 人の姿へと戻り、その姿に違わぬ張りのある声を上げる。
 すこししたら、近くの建物から彰も姿を見せた。

「流石と言うべきでしょうね。これが真祖の力。
 世界を照らす光……理想を掲げるだけの力はあるようで。」

「凄い戦いでした……」

 オフィエルは賞賛、彰は半ば呆然だ。
 確かに、妖刀村正やオフィエルの転移を見てきたが、
 今の日ノ元のインパクトに比べれば大したことはない。
 人間では成し得ない超次元の領域。彼を敵とするドミノも、
 恐らくはこれに比肩する実力を持っていると言う証左でもある。
 彼女に下僕としての席を空けて貰ったのは中々の事なのではと思えてきた。
 とは言え、意味合いは違えど下僕のワードから、なりたいかは悩むが。

「さて、見てのとおり我々は徒党を組む者だ!
 君が望むのであれば、我々と組まないか! 私は日ノ元士郎だ!」

「……アカメだ。さっきは助かった。」

397 ◆EPyDv9DKJs:2022/03/09(水) 02:13:27 ID:VigE1wbI0
 地図を見れば既に初音はこのエリアにいない。
 どの方角へ進んだか分からない以上追跡は無理と判断した。
 四人は一度適当な建物へと入り、テーブルを囲んだ状態で話を伺う。
 アカメの腕の傷は彼女が回収した支給品の中にあった、
 塗り薬のようなものでたちまち治って大事には至らない。
 驚異的な回復力でアカメも戸惑ってたが、そういうものと割り切る。
 とは言え、決して少なくない出血をした以上少しは休む必要があるが。

「そうですか、琴美さんは……」

 アカメから得た情報に、彰は影を落とした。
 会ったことはないが、ゲームから悠奈が救おうとした一人。
 誰よりも優しく、問題のある大祐でさえも割と普通に接してた。
 まさに博愛主義者の化身とも言える彼女は、既にいないのだと。
 同時に初音の情報の不一致さ。琴美か初音が嘘の可能性はあるが、
 充と琴美は同じルートを辿った都合、情報の齟齬がないまま話が進む。
 その結果、初音が不安のある人物のままであることは維持されてしまった。
 別の世界の、更にIFの世界と言う部分があるなどと一体だれが気付けようか。
 気付ける可能性があるならば、早朝にて合流を果たした真島と結衣ぐらいだ。

「城咲充の情報から襲った人物は同一。その強姦魔も既に倒されたと。」

 一先ず敵が減ったこととしては僥倖だ。
 病巣たる連中など取り除いてしかるべきだ。

「エスデス、当面はその女が難敵と判断しておくか。」

 帝国最強。一人相手に何万もの軍勢をけしかけて、
 ようやく勝てると言う見込みをしている程の化け物。
 強敵である可能性は高く、警戒するに値する人物だとしておく。

「……アカメさん。初音さんと出会ったらどうするんですか?」

 彰の一言で、二人の間に張りつめた空気が漂う。
 充にとってはまさに偶像たる彼女を黒として断定している。
 正直どうするつもりか、と言われたらもう答えは出ていた。

「琴美の情報が嘘の可能性も少しあったが、充の言う情報とも一致する。
 初音は琴美を知っていることから『知らない頃』の可能性もない。
 だから彼には悪いが───彼女が誰かを手にかける前に殺すつもりだ。」

 淡々としたまま告げられる言葉に、彰は言葉が詰まる。
 彼はそこまで頭がよくないし、何より彼女の言うことももっともだ。
 充がファンだから、と言う補正があったとしても今一つ人物像が噛み合わない。

「ほぼ黒であるなら、まだ白である可能性もありますよね?」

「限りなく黒に近い状態だ。彼女が何か事を起こす前に止めたい。」

「それでもすぐに殺さなくてもいいじゃないですか!
 充さんに会わせてあげれば、きっと初音さんだって何も───」

「その初音が望んだらどうする?」

「え?」

「充は彼女の為なら命を投げ出すぐらいの覚悟を持っている。
 初音が乗った参加者で『優勝したい』と願ったらそれを選びかねない。」

「そんなことは……ッ。」

 ないと言いたかったが、彼はすでに聞いている。
 ドミノが死なないよう、初音が死なないように自分の血を差し出した。
 狂気とも受け取れるような、覚悟を決めすぎている行動だ。
 たしかに彰も悠奈の為に自分の命を彼女にあげたものの、
 あれは自分が死ぬしかないから行っただけだ。まだ参加者を全然知らない中、
 ドミノが希望だと確信を持って自分の命を差し出す行動は早々できるものではない。

「二人を引き合わせたら寧ろ危険だ。
 だからその前に、私は終わらせないといけない。
 もし充も踏み外せば、そいつも私が斬る必要のある人間になる。」

 最愛の妹だって殺すことを考えていた彼女だ。
 どうしようもない、暗殺者と一学生の価値基準の違い。
 一概にどちらが正解か、と言われるとどちらとも言えないだろう。
 初音は少なくとも今のところ誰かを手にかけてはいないので彰の意見は正しく、
 同時に一歩踏み外せば何をしでかすか分からない状態である以上アカメの意見も正しい。
 特に彼女が白であるならば、逃げる必要がないのだから。

「……日ノ元さん。」

「なんだね、蒔岡君。」

「すみません。アカメさんと一緒に初音さんを探してもいいですか?」

398 ◆EPyDv9DKJs:2022/03/09(水) 02:14:15 ID:VigE1wbI0
 此処で別行動。
 何をしたいかは分かり切っている。

「多分、僕がいてもいなくても余り変わりはなさそうですし……」

 あれだけ無茶苦茶な戦いができる存在だ。
 自分がいたところで簡単に制圧できると言う判断もある。
 道着の彼の仇を人任せにするのはどうかとは思うも、
 まだ絶対的な黒でもない彼女を死なせるわけにはいかない。
 彼女のファンである充と出会ったからこそ、余計にそう思う。

「……アカメ君! 彼は見てのとおり抗う参加者だ
 私としては、臣民たる彼を危険に晒したくはない。
 彼を初音君の障害になるからと、殺めるつもりがあるか?」

 彼女は乗る人間ではないと分かった。
 だから此処で敵対するつもりはないものの、
 殺すような奴に彰を任せた場合、最悪人材を減らすことになる。
 ドミノと停戦したと言えども、人材が多いに越したことはない。
 無論アカメを彼は買っている。綺麗事を言わず敵を斬れるのだから。

「ない。私は先ほども言ったが腐敗した帝都を終わらせ、
 誰もが平和に生きられる時代を願う。村雨ではないが、
 この刃を振るうのはあくまで民の為だ。世界は違えど、
 彰も私達の世界の民と同じ守るべき存在だと思っている。」

 アカメのいた世界はなんとも酷いありさまだ。
 オネスト大臣が皇帝を牛耳り、息のかかったものだけが甘い蜜を吸う。
 少なくともそんなものは王の在り方ではない。認める部分など欠片もない。

「異なる世界であれど同じ国を憂い!
 誰しも光の当たる世界を望むならば!
 君を信頼できる人物として、彼を任せよう!」

「!」

「蒔岡君、行くといい!
 ヘルメットの男は此方に任せればいい!
 ただし、リミットは九時を目安としよう!
 時間になり次第結果を問わず、D-5周辺で合流をするッ!」

 サムズアップと共に笑顔と共に肩を組む。
 此処で甘いことを、とか言われても仕方がないことで、
 余り許されるものだとは思っていなかった。

「……分かりました! ありがとうございます!」

「彼の身の安全は私が保障する。
 レオーネに会ったらよろしく頼む。」

 アカメは休憩が必要のため此処に残り、
 日ノ元とオフィエルは外へと出て北西へと向かう。

「よろしいのですか?」

 手放すには少々惜しい、
 使える人材だっただろうに。
 手元に置かず任せることに少し訝る。

「彼が、彼女が此方の同志を増やすはずだ。
 であれば別れて行動するのも手ではある。違うか?」

「一理ありますね。」

 ドミノが動けない今、
 此処でこちら側に引き込める人物を増やすチャンスだ。
 勢力を増やせば、おのずとドミノとの戦いでも有利になる。

「それに、オフィエル。私の歩幅にある程度合わせらえるだろう?」

「なるほど、効率優先……と言うわけですか。」

 意趣返しをされた。
 彰は人あるためどうしても速度の限界があるが、
 隔離術式を使うオフィエルなら早く移動できる。

「では行こうかオフィエル!」

 燦然たる存在は突き進む。
 目的の男は既に手中にいると気付いてるかどうかは、
 少なくともオフィエルからは分からないままで。

399 ◆EPyDv9DKJs:2022/03/09(水) 02:15:22 ID:VigE1wbI0
【D-6/一日目/早朝】

【日ノ元士郎@血と灰の女王】
[状態]:疲労(小)、障壁使用不可能
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×1〜3
[思考・状況]
基本:立ち塞がる主催の面々は打ち倒す。
1 :『主催を打倒する』という目的を持った者たちを集める。
2 :今はドミノと戦う時ではないようだ。だが佐神善は出来れば始末。
3 :日ノ元明は見つけ次第保護する。
4 :先生には念の為警戒。
5 :オフィエルの言っていた男の為北西へ向かう。
6 :蒔岡彰、まっこと素晴らしくも、惜しい愚民だ。
7 :城咲充の方もより惜しいが、七原君に近いので相容れない気もするな。
8 :オフィエルも何かしら行動はしてそうではあるな。
9 :三人目の真祖、奴は何もせんだろうが気をつけてはおこう。
10:エスデスと怪物(不動明)と八将神が当面の敵か。

[備考]
※参戦時期は最低でもドミノ組との開戦前
※真祖としての力に制限が課せられています
※三人目の真祖(ユーベンではなく原作で言う四人目)が主催に関わってると考えてます。
※バリアは背中の触手が無事でもいちどはがされたらしばらくは使えません
※八将神を知りました

【オフィエル・ハーバート@ファンタシースターオンライン2】
[状態]:疲労(中)
[装備]:ホカクカードSP×4@スーパーペーパーマリオ、咲夜のナイフ×大量@東方project
[道具]:基本支給品×2(自身、ジャギ)、ランダム支給品×1〜3(カンフーマン×0〜2、自身×0〜1、前者は未確認)、ジャギのカード、針×8@アカメが斬る!、黒銀の滅爪@グランブルーファンタジー
[思考・状況]
基本方針:願望を果たすまで死ぬわけにはいかない。場合によっては主催側へつくことも検討
1:日ノ元士郎に同行し、彼を見極める。
2:念の為に色々と仕込みを済ませておく。ホカクカードもそれに関して有用だ。
3:ジャギは体よく使い倒す。文字通りカードの使い時が大事だな。
4:あれがドミノか……余り敵視されないようにしておこう。
5:意味はないが北西へ向かう。
6:エスデスに八将神……この舞台の病巣か。

[備考]
※参戦時期はEP4-8「壊れた進化」から
※隔離術式による対象の隔離及び空間接合による転移に制限が課せられています
※洗脳は初回は至近距離でのみ可能、洗脳にも時間を有します
 解けかけの相手であれば、コオリの時のように数メートル離れてても可能です
 精神的に脆かったり弱い相手であれば特に滞りなく可能ですが、
 洗脳に対する抵抗や洗脳できる人数の制限等は後続の書き手にお任せします
※彰、充、ドミノ、しおから参加者の情報を得ました。
 但し充の参戦時期はDルートなので、
 彼以外でははるなから話を聞いた人物、
 途中までであればCルートの結衣は話が通じます
※咲夜のナイフの本数は少なくとも五十本以上ですが、
 具体的な数は後続の書き手にお任せします。

【ジャギ@北斗の拳】
[状態]:ダメージ(大)、ずぶぬれ、苛立ち(特大、特にオフィエル>彰)、顎並びに両膝に痛み 右足腫れ、オフィエルの洗脳、カード化
[装備]:間久部緑郎の靴@ バンパイヤ
[道具]:なし
[思考・状況]
基本方針:優勝して今度こそ返り咲く。
1:……

[備考]
※参戦時期は少なくとも死亡前、極悪の華も反映されてます。
※カンフーマンを不意打ちで斃したため、ディメーンの放送はきちんと聴いてはいません。
※オフィエルに洗脳されています。
 オフィエルの死亡、または記憶の齟齬等により洗脳は解除されます。
※ホカクカードSP@スーパーペーパーマリオによってカード化されてます。
 カードが破かれたりされない限り限り一切の行動ができません。
 また、体力も回復しません





「先程の戦いで血を流しすぎた。
 少し休んでから向かうことにする。」

「はい。」

 アカメは腕の状態を確認しながら、
 デイバックから食料を取り出して食事にする。
 互いに初音に対する見解が相容れない考えではあるが、
 どちらもこの舞台では抗う側であることには変わらない。

「先に謝っておく。私はずっと殺しの仕事をしてきた。
 仲良くなった相手でも、元同僚でも、顔見知りでも。
 私は人を殺し殺される、そういう世界でずっと生きてきた。
 お前との価値基準が違うから、初音に対する見解も合わない。」

「気にしないでください。合わせるのは難しいとは思ってますから。」

400 ◆EPyDv9DKJs:2022/03/09(水) 02:17:25 ID:VigE1wbI0
 『自分が理不尽な存在になりたい』と言う、
 もっと理解できない価値観の貴真を思えば、
 彼女の言うことは十分はっきりとしてるところがある。
 だから彼女を非難するようなことは言うつもりはない。

「だが、私とついてきて良かったのか?
 日ノ元は強い。少なくともエスデスに近しい程に。
 彼のいた場所は安全に仲間を集められると思うが。」

「初音さんは、悠奈さんが助けようとした人です。」

 充同様、彼女も悠奈は救おうとしていた人物。
 だから黙ってアカメと別行動することはできなかった。
 諦めるなんて、悠奈さんに絶対顔向けできないから。

「彼女があげた命を、失わせたくないんです。」

「……優しいな、お前は。」

 私とは違う道を歩んでいる人間だ。
 無辜の民。自分達が守り、繋げなければならない存在。

「……初音の事だが、少しだけは考えよう。」

「!」

「ただ、私が譲れる限界は『何もしてない』ならだ。
 いない間に、初音が誰かを殺そうとしてた際は覚悟してもらう。」

 彼が託した命から、更に託した命だ。
 危険だからと言う理由だけで失わせたくないのもわかる。
 ただこれ以上の譲渡は無理だ。相手にどんな理由があったとしても、
 任務は遂行する。帝国に狂わされた処刑人でも、マッドサイエンティストでも、
 家族を思う人でも、帝国に属した時代に助けてくれた相手でも、妹であろうとも。

「元々私は殺し屋、汚れ仕事が専門になる。
 それが理解できないなら私についてこない方がいい。」

「いいえ、ついていきます。僕が決めたことですから。」

 優しくも強い覚悟を持っている。
 どちらかと言えばウェイブのような部類になる。
 ナイトレイドには誘いたくないような人柄だ。

「分かった。」

 食事の準備を進めながら、アカメは思う。
 今度は日ノ元のことだ。

(燦然党か。)

 日ノ元の掲げた理想。
 あれは悪いものではないと感じた。
 帝国は常に貧富の格差は激しく、
 いつも上流階級の人間が私腹を肥やす。
 彼の言う誰にも陰無き、遍く光を照らす理想。
 アカメ達が求めてやまないような理想でもあった。

(だが、先程の戦いは……)

 ヴァンパイアになってるのだから人と感性が変わるものだ。
 人間味を感じない遠慮のない攻撃。少々引っかかるところも大きい。
 何より熱血漢のような性格なのに、どこか空虚さを感じてならなかった。

(彼女といい、謎だ。)

 まるで自分から倒されたいと願うかのように振る舞う八将神。
 疑問はいくつも増えていくが、ひとまず置いて取り出した食料を手にする。

「……アカメさん。一食ですよ?」

「ああ、一食だ。」

 本来なら節約するべきところではあるが、
 アカメの基本支給品は実に六人分に相当する。
 なので多少の余裕はあるが、彰かあすれば自分の数倍は出された食料に、
 少し苦笑を浮かべていた。

【D-6/一日目 どこかの家/早朝】

【蒔岡彰@リベリオンズ Secret Game 2nd Stage】
[状態]:顔に含み針の傷(目に支障なし、針は捨てた)、攻撃速度強化
[装備]:妖刀村正[改]@御城プロジェクト:Re
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜1(確認済み)
[思考・状況]
基本方針:悠奈さんのところへと戻る。クリアせずともいい脱出方法で。
1:同じ考えの人を探す。
2:悠奈さんや英吾さん、それに姉さんが関わった人達に会いたい。
3:僕があの人(カンフーマン)の分も生きないと。
4:ドミノさんもいい人だ。
5:貴真さんは止める、絶対に。軍服の人は……もしかしてあの人?
6:ヘルメットの人(ジャギ)を追いたいけど初音さんをなんとかしたい。
7:エスデスさん、凄い人なんですね……
8:初音さんを死なせたくない。
[備考]
※参戦時期はZルートラスト、死後に悠奈と再会後です。
※ドミノ、充、しお、日ノ元、オフィエル、アカメと情報交換をしました。
 充、琴美はDルートなのではるなと彼女から話を聞いた人物、
 および途中までならCルートと同一なので途中までは結衣と話が嚙み合います。
 オフィエル、日ノ元の具体的な本性については教えられていません。

401 ◆EPyDv9DKJs:2022/03/09(水) 02:18:17 ID:VigE1wbI0
【アカメ@アカメが斬る!】
[状態]:貧血、疲労(大)
[装備]:嘴平伊之助の日輪刀@鬼滅の刃、灰皿×2@現実、スサノオの核@アカメが斬る!、空白の才@うえきの法則、ミネルバブレス@ファイナルファンタジー7(バリアのマテリア@ファイナルファンタジー7装備)
〔道具]:基本支給品×6(自分、モッコス、琴美、充、ドドンタス、しお)、スサノオの槌@アカメが斬る! ランダム支給品×0〜9(琴美0〜1、ドドンタス0〜1、モッコス0〜1、充0〜1、一部未確認)、M93R@リベリオンズ Secret Game 2nd Stage(弾薬まだ余裕あり)、空白の才@うえきの法則、ツヨツヨドリンク@スーパーペーパーマリオ、地獄耳の巻物×2@トルネコの大冒険、河童の秘薬(残り七割)@東方project

[思考・状況]
基本方針:主催を悪と見なして斬る。
0:初音のところへ戻る。
1:殺し合い阻止の為の仲間を募る。
2:エスデスを斬る。
3:あのおにぎり頭と初音を探し出し、悪ならば斬る。
4:レオーネと合流する。
5:琴美の関係者を探す。それと謝らなければならない。
6:主催はスーさんを復元できるのか……
7:参加者に縁のある場所があるのか。
8:軍服の男やヘルメットの男に警戒。
9:八将神……だが彼女(姫和)は一体?
※参戦時期は漫画版、マイン廃人〜クロメと決着つける前の間
※琴美、充、彰視点でのリベリオンズ勢の関係を把握しました
 ただしDルート基準の為、他ルートとは齟齬があります
 (話が完全に一致するのは春菜、充のみ)
※雌豚調教の才はモッコス死亡により空白の才に戻りました
 少なくとも現時点でアカメは書いていません
※スサノオが無理な禍魂顕現をしたことで、性能が落ちてるかもしれません
※日ノ元、オフィエル、彰と情報交換しました
※D-6早朝時点で初音は別のエリアに行きました
 どこへ行ったかは後続の書き手にお任せします
※バリアマテリアによりバリアが使えます
 回数を重ねれば強くなるかも
※八将神を知りました



















「まだ、生きているんだな……」

 血染めの空を眺めながら、か細い声が虚しく響く。
 姫和は吹き飛ばされた後、何処かの家屋へと墜落していた。
 日ノ元の見立て通りだ。写シのお陰で胴体は貫通してないし、
 地面への衝突もグランシャリオで防いでいて肉体損傷はほぼない。
 だから全身が重くのしかかる疲労感があることぐらいだろう。

「……こんな形で、希望と思うんだな。」

 日ノ元は明らかに別格の強さを持っていた。
 グランシャリオなしで戦ってれば、確実に。
 彼にまた会えれば今度こそ……とは思うも、
 今の状態で勝てないのに八将神の役割で再戦しに行くか、
 と言われたら絶対にしないことが目に見えている。
 今は身体を休ませる段階として、消極的になるだろう。
 彼女が修羅として生きる地獄は、まだ続く。

402 ◆EPyDv9DKJs:2022/03/09(水) 02:18:57 ID:VigE1wbI0
【十条姫和(豹尾神)@刀使ノ巫女】
[状態]:禍神、疲労(極大・再生中)、混濁した意識、狂気度低下、龍眼の暴走、精神疲労(絶大)、自殺願望
[装備]:小烏丸@刀使ノ巫女、召喚石バアル@グランブルーファンタジー(現在使用不可能)、タブレット(スペクトラムファインダー@刀使ノ巫女のアプリ起動)、修羅化身『グランシャリオ』@アカメが斬る!(現在鍵のみ)
[道具]:基本支給品×4(大祐、千、トッペイ、自分)、ランダム支給品(トッペイ×0〜1、大祐×0〜1、千×0〜1)、麻痺の杖(残り1)@少年ヤンガスと不思議なダンジョン、疾風のレイピア@ドラゴンクエスト8、ピオリムの杖(残り3)@トルネコの大冒険
[思考・状況]
基本方針:殺■/■したくない。
1:■す。■す。■す。■す。■したくない。
2:■でもいい、■を■してくれ───
3:私は……禍神だ。
4:可奈美……
5:ダメ、だったか。
[備考]
※参戦時期はアニメ版二十一話。タギツヒメと融合直後です。
※魂の状況により意思の疎通については普段と変わりませんが、
 身体は八将神としての役割を全うする立場にあります。
 ただ、自意識を保つ為で普段の時ほどまともな会話は望めません。
※タギツヒメと融合した影響により周囲に雷光が勝手に放出されます。
 龍眼も使えるようになってますが暴走状態で、本人の意思とは関係なく行います。
 死亡時、或いは彼女の抑えが限界を迎えた際にタギツヒメが肉体を乗っ取るかは不明です。
 (同時にタギツヒメがそのまま八将神を引き継ぐかも不明です。)
※迅移(主に三、四段階)の負担が大幅に減ってます。
 ある程度の時間を置けば動けるレベルに回復できますが、
 デメリットが完全緩和ではないので無暗には使いません。
※名簿は見ていませんが、刀使ノ巫女の参加者は把握しました。
※スペクトラムファインダーの表示に参加者が含まれていることに気付いていません。

403 ◆EPyDv9DKJs:2022/03/09(水) 02:19:37 ID:VigE1wbI0
【地獄耳の巻物@トルネコの大冒険】
ドドンタスに支給。使用後別のエリアへ行くまでの間、
地図上の参加者の位置が分かるようになる。消耗品で三個セット。
使うと消えて荷物が減る以外は首輪探知機、スペクトラムファインダーのほぼ下位互換。

【ツヨツヨドリンク@スーパーペーパーマリオ】
神戸しおに支給。二本支給されており、飲むことで数十秒だが攻撃が二倍になる。

【修羅化身『グランシャリオ』@アカメが斬る!】
恵羽千に支給。帝具の詳細は他参照。
原作でウェイブが使用した、帝具インクルシオを原型とした後継機。
普段は「鍵」と呼ばれる大剣で、使用者が名前を呼べば青黒の鎧を召喚して身にまとう。
鎧と言うよりもどっちかと言うとパワードスーツ。インクルシオ同様に身体能力の強化、
それを使った格闘技もできるが姫和なので使うのは稀。背中にはブースターのような機能上がり、
機動力もインクルシオよりも上回っている。これを用いたグランフォールと言う飛び蹴りの技もある。
素材には危険種に加え鉱石が多く含まれており、得物を破壊する膂力のあるアカメの刃が通らないぐらい頑丈。
ただし一部の所に集中すると鎧が破壊される、鎧と言えども使用者本人が耐えられないなど弱点もある。
インクルシオの副武装ノインテーターのような槍はある。名前は不明。奥の手も不明。
鍵は普通に剣としても使える。青龍刀よりの片刃の剣で、帝具なので頑丈。

【バリアのマテリア@ファイナルファンタジー7】
城咲充に支給。魔晄(ライフストリーム)が凝縮され結晶化したもの。
一般人でも様々な魔法や戦闘技術を使用する事ができる。
使う場合は武器や防具などにマテリア穴があり、五種類の内これは緑マテリア。
魔法マテリアは文字通り魔法が使え、物理ダメージを一定時間だけ2分の1に軽減する。
アカメは魔力がないので精神力、或いは体力を消耗する。
何度か使用していくとマバリア、リフレクと強化される。

【河童の秘薬@東方project】
モッコスに支給。東方茨歌仙にて登場した、壺に入ってる薬
運松翁という職漁師が河童からもらったもの(経緯は割愛)。
人間の魔理沙が傷口塗ったところを瞬時に治せるほどの回復力があり、
もし腕が取れていても元通りに付け直せる。恐らく軟膏で、手のひらに乗る程度には小さい。
華扇曰く「河童が腕を切られた時に生み出される秘薬」らしいが、実際は不明。

【ミネルバブレス@ファイナルファンタジー7】
神戸しおに支給。炎、雷、冷気、聖属性のダメージを無効にする効果がある腕輪。
女性にしか装備できず、男性が装備した場合はただの腕輪として扱われる。
マテリア穴(後述)は紫(独立)2、緑(魔法)2、黄(コマンド)2

404 ◆EPyDv9DKJs:2022/03/09(水) 02:20:12 ID:VigE1wbI0
以上で『SAMURAIGIRLS,SUN KILL!KILL!KILL!』 投下終了です

405 ◆EPyDv9DKJs:2022/03/09(水) 04:47:45 ID:VigE1wbI0
姫和の現在位置忘れてました
【C-4/一日目 どこかの家/早朝】

406 ◆s5tC4j7VZY:2022/03/19(土) 06:11:48 ID:wyXFP2jM0
投下お疲れ様です!

SAMURAIGIRLS,SUN KILL!KILL!KILL!
アカメと姫和の剣戟は一文一文ごくりと喉を鳴らしながら読みました。
巧みな一進一退の攻防は凄いなと読みながら改めて実感しました。
後、グランシャリオを身にまとった姫和には、驚きました!
士郎は、現段階のスタンスだとやはり頼もしい。
※帝具の姿のせいで彼女をヴァンパイアと勘違いしてます
↑確かに勘違いしてもおかしくないな!と笑っちゃいました。

アカメの世界の生死観は現代の一般人には合わせるのは難しい一面もありますが、貴真を知っているからこそ、受け入れる彰がいいですし、また、そんな彰に対して譲歩を見せるアカメもいいな〜と。
「……アカメさん。一食ですよ?」

「ああ、一食だ。」

 本来なら節約するべきところではあるが、
 アカメの基本支給品は実に六人分に相当する。
 なので多少の余裕はあるが、彰かあすれば自分の数倍は出された食料に、
 少し苦笑を浮かべていた。
↑情景が直ぐに思い浮かべられ、笑っちゃいました!

また、修正報告ありがとうございますとお疲れ様です。

それと予約の延長をします。

407dread answerまで後僅か ◆EPyDv9DKJs:2022/03/20(日) 04:52:08 ID:4yxKQsiY0
投下します

408dread answerまで後僅か ◆EPyDv9DKJs:2022/03/20(日) 04:54:20 ID:4yxKQsiY0
 定時放送が近づきつつある辺獄の舞台。
 もっとも、参加者にとって定時が何時頃かは知らされてないので、
 参加者の誰もが不意を突かれることになるであろうことは間違いないが。
 二人、軍服の男と修平は放送が近づく中それをじっと眺めていた。

 鬼門。本来の物語であれば、
 開いた絶鬼が同じくこの童森公園で作り出したもの。
 二人は仏教に詳しくはないので、絶鬼が説明したことぐらいでしか分からない。
 もう一つ理解してるのは、あらゆる参加者を此処へと叩き込めば確実に殺せる代物の点。
 絶鬼からは出てきそうにない機械の音がした。あれは間違いなく首輪の爆発した音だ。
 この中へ入れられたら、問答無用で首輪爆破されるらしい。それが誰であろうとも。

(問題はどう使うかだな。)

 鬼門を眺めながら軍服の男は改めてこの鬼門の利用について考えた。
 最強の矛とも言えるものだが、致命的な欠点が二つある。

 一つは支給品の回収が不可能なこと。
 今回は可奈美が運よく絶鬼の身体を斬ったお陰で、
 ギリギリ回収できてはいるものの、次もそうとは限らない。
 強い相手程奪うのは困難であり、弱い相手ではそも鬼門が必要ない。
 絶鬼のような怪物はフェザー達の活躍により倒すことはできたものの、
 もしあれと同等、それ以上の怪物が此処にいれば勝ち目は薄くなる。
 だから今後必要なのは支給品を潤沢にし、負けの芽を摘んでいくこと。
 そういう意味では、この鬼門は下手をすれば邪魔な代物とも思えてくる。
 他の参加者がこれを利用して参加者を減らすようなことをしてしまえば、
 当然支給品の総数が減り、ただでさえ必要な物資の可能性を潰されては困る。

(何より、現状で誘導できるのか?)

 もう一つは誘導の問題。
 単純に乗った人並みの参加者なら容易だが、
 此方には今相手を押し込めるのはガッツの義手の砲撃ぐらいだ。
 相手の実力次第ではいくら二人でも誘導することすらままならない。
 下手をすれば自分達が鬼門へ突っ込まれる可能性だって存在している。
 人間離れしたその力を見た都合で少し浮き足立ってしまっていたが、
 いざ振り返ってみると、これを使うのは中々至難なのではないかと。

「敵を押し込むのに向いたアイテムはないか?」

「……分かった、探しておく。」

 この殺し合いは自分達が知る一般的な殺し合いの更に上にある。
 コミックやアニメのような超能力や異能、超人も含まれるような世界だと。
 人が闘気を放ち、人が高速で加速し、人が異形の怪物へと変わっていく。
 ならばこのまま銃を使うだけでは勝てるような甘い戦いはそうは来ない。
 木刀の政のときも隣の彼が協力したからこそ、撤退に追い込めたのも事実。
 自分の力は銃を含めたとしても、下から数えた方が早いぐらいなのだと。
 だからここらで今一度自衛できるだけの力を、琴美を守れる力が必要だ。
 軍服の言葉に修平は頷いてデイバックを漁り始めるが、
 それで最初に出てくるのがお菓子では正直期待はできない。

(一応、役立つか。)

 ただのチョコではないのは分かったので、
 回復目的で一つだけ開封して口にしながらもう一度漁る。

「うふふ……がんばってるねー。」

 だがそれをするどころではなくなった。
 哨戒してた軍服の目を搔い潜って一人姿を現したから。
 いや、掻い潜るとかそういう問題ではなかった。
 相手はパッと姿を見せ、けだるげな声を出す。

「お前は……!」

 ゴシックなドレスに身を包んだ薄茶色の髪の少女。
 人形のような可愛さはあるが、彼女を可愛いとは思わない。
 二人は知っている。この殺し合いで最初に出会った相手だから。
 主催者の一人、フェレスと呼ばれた少女だった。

 相手は主催者。無暗に刺激すればろくなことにならない。
 そうはいってもいきなり主催者が姿を見せてきた上に、
 此方には鬼門を悪用しようと考えていたので後ろ暗いこともある。
 だから咄嗟の出来事とは言え、二人はそれぞれの武器を構えてしまう。

「二人とも必死に武器を構えちゃって……怖い怖い。うふふ。」

 怯えたような挙動をしてるが、
 言葉とは裏腹に表情は一切怯えてない。
 勝てる、と思い込める雰囲気すら軍服の男は感じられなかった。

「……主催者が一体何しに来た?」

 先に修平が武器を降ろして、同じように軍服の男も降ろす。
 確かに後ろ暗いことはあれど、今は二人は殺し合いを加速させる要因。
 盛り上げる要因相手に、ペナルティを課せるとは考えにくいと判断した。

「警告しに来たか、鬼門の封鎖が目的だな。」

「封鎖の予定なんだけどねー……ディメーンがいないと、
 ちょっと処理が面倒だから、僕が一先ず言いに来たんだよ?」

409dread answerまで後僅か ◆EPyDv9DKJs:2022/03/20(日) 04:54:53 ID:4yxKQsiY0
 定時放送を担当する主催者の一人。
 これを埋めれるとはどんな能力を持っているのか。

「でもでもー、ただで封鎖されると二人とも困るよね。」

「ああ、困るな。俺達は確実に殺し合いでは格下になる。」

 帝具、スタンドなどを筆頭に大半は様々な力を手にしている。
 刀使や拳法家等、元より磨かれた技術を培った参加者だって多い。
 その中で彼らが得たものはガッツの義手と言う少々規格外はあれど、
 基本的には超能力やオーバーテクノロジーに該当するものはまだない。
 絶鬼の支給品の中になら、もしかしたらあるかもしれないが今は未確認。
 どうあっても、彼等は殺し合いで生き残るには力不足と言えるだろう。

「俺達に鬼門を失うのに見合ったものを教えてもらう。」

 強くなれれば戦える相手だって増える。
 それは殺し合いを望む主催者にとっても美味しいはずだ。
 特に修平の目的は、相手からすれば実に滑稽に見えるだろう。
 大事な幼馴染を守るため必死に奔走する姿は、ドラマになるものだと。
 乗ってやるつもりはないが、その演出欲しさに提供してくれることを願う。

「じゃあー……E-4の灰を被りに行くといいかも。」

「灰?」

「人をヴァンパイアに変えちゃう、とーっても怖い灰だよ。
 でもでも……人によってはなれないから、なれなくても知らないけど。」

 ギース・ハワードが使ったヴァンパイアになる火山灰。
 ギースからすれば持っていても意味はない代物であり、
 他者からすればただの灰。被る発想がないので放置されていた。
 修平達は北から南下している形から、また北上することになるものの、
 今のうちに力を付けておける手っ取り早い手段としては大きい。

「E-4のどの辺だ?」

「行けばすぐにわかるよ。死体だってあるし。」

 ヴァンパイアになった奴が暴れた、
 そう受け取っていいような回答が来る。
 その死体が琴美でないことを願うだけだ。

「確証が得られないものだけでは困る。確実性なのはないのか?」

 軍服の男にとってはもう少し現実的なものを狙いたい。
 修平と違って彼は自分自身が死んでいる。死を回避するにおいて、
 博打めいたものに頼ると言うのは余り優先したくなかった。

「犬のように吠えて頑張ってるねー……わんわん。
 ソフィアちゃんに殺されたのがそんなにトラウマなのかな?」

「……あるのか、ないのかを聞いてるんだが。」

 眉間にしわが寄ったものの特に表情を崩すことはしない。
 棒切れでボウガンの矢を弾く彰を見て撤退したように、
 冷静な判断力を以て尋ねる。

「せっかちさんだねー……じゃあ、ムラクモって人を探してみるといいよ。
 その人が持ってる刀はねぇ、ちょっと傷ついただけで即死しちゃうんだ。」

「!」

「それと比べたら、鬼門なんてゴミだよゴミ。」

 かすり傷でも当たれば即死。
 入れただけで即死の鬼門と同じでありつつ、
 刀と言う持ち運べるものが存在してるとは思わなかった。
 使い慣れてるわけではないにしても、当てにできる代物だ。
 特に『刀』と言うところは軍服の男にとっては先に奪取しておきたい。
 生前悠奈と呼ばれた赤髪の少女が独り言の際口にした名前が名簿に入っている。
 PDAの存在も修平は知っていたことから、ゲームの関係者が多めなのは確実。
 となれば、あの時棒切れでボウガンを弾いたあの少年(彰)だっているだろう。
 常人がボウガンを棒切れで弾けるわけがない。相当な剣術を経験してるはずだ。
 棒きれであの腕なのだからそんな刀持たせたらどうなるか分かったものではない。
 そういう他人に、それも剣術にたけた人物に渡らせたくない意味でも手にしたかった。

410dread answerまで後僅か ◆EPyDv9DKJs:2022/03/20(日) 04:55:47 ID:4yxKQsiY0
「ムラクモ、という男の特徴は?」

「茶色い軍服で白髪の男性だよ……他に該当する人はいないよ。今のところは。」

「今のところ?」

「遊びで洋服とか入れちゃったりしたし、
 中には人の服を奪うこわーい人もいるから……」

 要するに最初の恰好から変わってる可能性があると。
 似たようなものが支給されてるとは考えにくいし、
 男性に絞ればある程度は減るだろうから左程問題ではない。
 そのムラクモとやらが着替えてるような事態であれば別だが。

「ところで、琴美はどうしてる?」

 武器の情報もいいが、こうして主催者が此処にいる。
 となれば自分達よりはるかに多い情報を持つはず。
 引き出せるものはなるべく引き出しておけば、今後に繋がる。

「琴美ちゃんかぁ……うふふ。
 琴美ちゃん、琴美ちゃん、琴美ちゃん、
 琴美ちゃん琴美ちゃん……可愛かったなぁ。」

「琴美に何かあったのか!?」

 恍惚とした表情で語る彼女に、嫌な予感が過り手を掴む修平。
 可愛『かった』と過去形のような言い方は、不安を煽る材料でしかない。

「すっごい強い人と一緒だったから大丈夫かもしれないよぉ。
 とーっても、恐ろしいケダモノと出会ってたみたいだけど……うふふ。」

 聞けば聞く程嫌な予感しかしてこなくなる。
 一方で人をおちょくるのを楽しんでるので、
 ただの虚言とも思えなくもないのが厄介なところだ。
 本当かどうかが妙に判断しづらい。

「君達が琴美ちゃんの事、守ってあげないとね。」

「……言われるまでもない。」

 琴美が唯一のよりどころとなった存在だ。
 たとえ自分が手を汚すことになってでも、彼女を守る。
 そう決意して完全な善人であるフェザーすら手にかけた。
 後戻りはできないし、後悔するつもりもない。
 彼女は、こんなところで死んでいい奴じゃないと。

「ボンジュ〜ル……おっと、先に相手してくれてたのかい?」

 会話がひと段落ついたところ、
 ディメーンが空中に浮いた状態で姿を見せる。

「いやはや、激戦区に支給品を届けるのも大変だったよ。
 特に今回のは大型。リアルタイムで見たいのに事後処理とは多忙だね。」

 大変とは口にしつつ着地するが、
 此方も余り大変そうには見えない。
 道化らしい姿をしてると言うのもあるだろうが、
 声色と言う意味でもそうとは余り受け取れなかった。

「おや、これはこれは……藤田修平君じゃないか。」

「? 俺がどうかしたのか。」

「ンッフッフ、いいや? ただ君達に興味を持っているだけだとも。
 刀使でも、リフレクターでも、半妖でもヴァンパイアでも代行者でもない。
 何一つ特殊な力も持ち合わせてない中、殺し合いに乗ろうと掲げた参加者だよ?」

 ギースや桐生のように、最初から力を持ち合わせたわけではない。
 緑郎や貴真のように、支給品で特殊な能力や力を得たわけでもない。
 ジャギやホワイトのように、人間離れした戦闘技術を持ってすらいない。
 彼らは人間の範疇から欠片たりとも逸脱してない状況下でありながら、
 数々の異能を前にしても方針を転換せずに続けていると言う、稀有な存在だ。
 洸のように、何方に転がるか分からない一般人の範疇を出ない参加者はいるが、
 彼らと同じ殺し合いを加速させる参加者では死者を含めても他に存在しなかった。
 (村田はミスティのバックアップがあったので除外とする)

「そういう意味だと君達は希少なのさ。
 君達の活躍を期待してるよ。ボン・ボヤ〜ジュ!」

 四角い枠が二人や鬼門を囲むと、
 枠が縮んでいき、囲まれていた相手は全員姿を消す。
 適当なものを鬼門があった場所へ投げても何も起きない。
 どうやら本当に閉じられたか、鬼門の場所を変更されたようだ。

「……どうする。E-4へ向かうか?」

「それが一番だろうな。」

411dread answerまで後僅か ◆EPyDv9DKJs:2022/03/20(日) 04:56:08 ID:4yxKQsiY0
 軍服の男に促されたのもあるが、
 ムラクモの行方は分からない以上、灰を調べるしかない。
 今絶鬼のような参加者と出会えば即座に壊滅するだろう。
 特にどこかでは激戦区もあるようだし、その上大型の支給品も存在する。
 なので、少しの間参加者との接触は控えておくようにしたい。
 ディメーンは人のままでであることを評価したが、評価などどうでもいい。
 琴美の為なら、人間をやめるぐらいはするつもりだ。

「それはそうと、そっちの支給品は確認しないのか?」

「自分のを確認するよう言っておいて、
 此方で確認してなかったな……悪かった。」

 支給品の総数で言えば絶鬼の分軍服の男の方が多いのだから、
 自分の方が確認しておくべきことで、絶鬼の支給品を確認し始める。
 なんてことはない行為だが、彼等にとっては此処が重要な瞬間でもあった。

 既に、修平が目的とした琴美はモッコスとの戦いで死亡した。
 つまり、修平は『不要な存在の排除』から『全参加者の排除』に転換する。
 修平にとって村雨と火山灰の情報を持っている軍服の男は厄介な存在だ。
 先にそれを手にされる可能性もあるし、彼はまだ特殊な力がない。
 今が一番簡単に殺せる瞬間でもあると言うことだが、
 もし、支給品で返り討ちに出来るものがあれば別だ。
 修平が今から確認する最後の支給品にも可能性はあるが。
 ビターチョコを嚙み砕きながら迎える放送は、
 何よりも苦い結果を報告してくるだろう。



 第一回目の放送は何方か、或いは双方の弔いの鐘となるや否や。

【(Zルートでソフィアに返り討ちにされた)軍服の男@リベリオンズ Secret Game 2nd stage】
[状態]:健康
[装備]:ガッツの義手(ボウガン、大砲付き)、クロスボウ@現実
[道具]:基本支給品×3(フェザー・絶鬼)、ランダム支給品0〜4(自分×0〜1、絶鬼×1〜3)、神戸しおの靴下@ハッピーシュガーライフ
[思考・状況]
基本方針:生き残る。
1:参加者を襲撃し装備を増やす。
2:修平と組んで不要な参加者を減らしていく。
3:E-4灰、それとムラクモと言う男が持つ刀(村雨)を手に入れる。

[備考]
※参戦時期は死亡後です。

【藤田修平@リベリオンズ Secret Game 2nd Stage】
[状態]:ダメージ(小)、不安(大)
[装備]:コルトM1911A1@サタノファニ、食べかけのビター・チョコレート@クライスタ
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×0〜3、ビター・チョコレート×3@クライスタ
[思考]
基本:琴美を生還させる。琴美が死んだ場合は優勝して彼女を蘇らせる。
0:琴美の生還に不必要な存在を排除していく。
1:軍服と組んで不要な参加者を減らしていく。
2:一体何だったんだあの女(零)は……
3:木刀政には要注意。
4:あのPDA……もしかして他にも支給されているのか?
5:E-4の灰、それとムラクモと言う男が持つ刀(村雨)を手に入れる。
6:琴美、無事なのか?

[備考]
※エピソードA、琴美死亡後からの参戦です。










「ねえディメーン……楽しそうだけど、どうしたの?」

412dread answerまで後僅か ◆EPyDv9DKJs:2022/03/20(日) 04:56:26 ID:4yxKQsiY0
 多数のモニターが並ぶ部屋へと戻ってくると、
 何処か浮き足立ってるディメーンに疑問を浮かべるフェレス。
 正直彼が何を考えてるかについてはどうでもいいことだ。
 そもそも主催者陣営が胡散臭い連中しかいないし、双子もそに該当する。
 彼女にとって興味があるのは、殺せないまま悩み続ける零のことぐらいだ。
 見ていて滑稽で、愉快で、愉しくて仕方がない玩具一つだけ。

「ンッフッフ、ちょっと面白そうな参加者がいたから、今後が楽しみなだけさ。」

 誰が予想できたか。自分だって伯爵の隙を狙って漸く致命傷を負わせたのに、
 まさかこんなにも伯爵が早く死亡すると言う思いもよらない結末を迎えているとは。
 ナスタシアは涙を流すだろうか。ミスターLは悠奈と共にいられるのだろうか。
 マネーラは伯爵と戻ることを願った。その伯爵がいなくなった今どうなるのか。
 嘗ての仲間であった三人の放送後の反応を楽しみで浮かれたくもなるが、
 彼が関心を持ってるのは何よりも完全者。あの戦いを生き延びた上に、
 コントンのラブパワーを得る結果もこれまた予想していないことだ。

(これは、早い再会になるかな?)

 目を盗んで出会う算段を思案しながら、ディメーンは一人楽しむ。
 特にそんな彼に大した興味を示すこともなく、
 フェレスはその場を去っていった。

【ビター・チョコレート@クライスタ】
藤田修平に支給。辺獄の商人から買える回復アイテム。
体力の三割程を回復できる。四個セット。

413dread answerまで後僅か ◆EPyDv9DKJs:2022/03/20(日) 04:56:45 ID:4yxKQsiY0
投下終了です

414 ◆EPyDv9DKJs:2022/03/20(日) 05:52:59 ID:4yxKQsiY0
現在位置忘れてました
同じ場所で時間帯も変わってないので、意味はないと思いますが一応
【G-4/一日目/早朝】

415 ◆s5tC4j7VZY:2022/03/26(土) 12:45:31 ID:0jB1Jmic0
完成までもう少しだけ時間がかかるため
もう一週間延長をさせていただきます。
2回目の申請となること申し訳ございません。

416 ◆s5tC4j7VZY:2022/03/28(月) 00:01:24 ID:2SqFhHp20
遅くなりましたが、投下お疲れ様です!
dread answerまで後僅か
主催者にも臆せず、情報を要求する軍服は強者感が溢れていますね!
そして、タイトルが、まさに名を表すので、放送後の修平にドキドキします。
「遊びで洋服とか入れちゃったりしたし、
 中には人の服を奪うこわーい人もいるから……」
↑モッコスが充の服を奪った場面も観ていたと想像するとちょっとクスリとしちゃいました(笑)
また、タイトルを少し絡めさせていただきました!

投下いたします。

417辺獄平安公演 朝の部 ◆s5tC4j7VZY:2022/03/28(月) 00:02:39 ID:2SqFhHp20
私、自分の歌を聴いている人を幸せにしたいんですよ。世の中が音楽で穏やかになればいいなと思っているので。
小田さくら

序章 初ライブ〜延期〜

〜〜〜♪〜〜〜♪〜〜〜♪〜〜〜

都内のビルのとある一室。
曲に合わせて、キュッ!キュッ!と靴が床を擦る音が響く。
休みなく続く。
額から飛び散る汗。
それを腕で拭くことも今は敵わない。
なぜなら、両腕は振付で動かしているからだ。

はぁ……はぁ……はぁ……

「そこ!ワンテンポ遅れてるぞ」
「はい!」

コーチの激が飛ぶ中、レッスンは続けられる。
複雑なステップに体全身を動かす激しい振り付け。
ダンス経験者だとしてもつらいと感じるであろうレッスン。
何人かの表情も辛さを見せる。
そんな中、自身も辛いはずにも関わらず笑顔で踊る少女がいる。
年齢も背も低い少女は、レッスン場にいる誰よりも笑顔で真剣だった。

☆彡 ☆彡 ☆彡

「はい!一旦休憩をとります。各自、水分補給を怠らないように!」

ピッとボタンを押しただけで先ほどまでの様子が嘘のようにCDラジカセが沈黙する。
それと同時に休憩の合図。
それは、神の天啓。
ベテラントレーナーの言葉を耳にしたと同時にアイドルたちは素早くmyボトルに手を伸ばすと喉を潤す。

……ごくっ!ごくっっ!!ごくっっっ!!!ぷはぁぁぁ……

「は―――、生き返った〜〜〜」
「今日のレッスンは、いつにもましてへとへとになっちゃいますね〜。凛ちゃん」
「でも、あの子の頑張りをみてたら負けてられないわね」
「うんうん、しぶりんとしまむーの言う通り!私たちも気合入れていくよっ!」
「……うん。そうだね」
(あの子も私と同じ”出身”なんだよね……がんばろうね。でも笑顔とやる気は負けないつもりだよ!)

少女達はアイドルになった。
ある子はスカウトによって。
また、とある子はオーディションによって。
まぁ、女の子の胸に興味があるからアイドルになったというぶっとんだ子もいるが。
ともかく、理由は千差万別あれど、アイドルになったからには想いはただ一つ。
大勢のファンの前でキラキラと輝くステージ上で歌う。
だから、どんなにトレーナーたちのキツイレッスンを受けてもツライ表情は見せても”もうやりたくない”といった言葉は存在しない。
皆、真剣にアイドルをしているのだ。

☆彡 ☆彡 ☆彡

418辺獄平安公演 朝の部 ◆s5tC4j7VZY:2022/03/28(月) 00:03:23 ID:2SqFhHp20

「お疲れ様です」
「おや、プロデューサー殿。お疲れ様です」

レッスン場に顔を出したのは、アイドルを影で支える縁の下の力持ち。
プロデューサー。
ちなみに根も葉もない噂だが、時折顔面がPに見えるという目撃談がされる業界内で有名なプロデューサーだ。
ベテラントレーナーは顔を見せたプロデューサーに挨拶を返す。

「レッスン場に顔を出されるなんて、もしかして緊急の仕事でも入ったのかな?」
「いえ、”あの子”の様子が気になったもので」

プロデューサーはチラリと視線を向ける。
その視線の先をトレーナーも後を追う。
そこに映るは黄緑色のパーカーをトレーニングウェアとして身に纏う少女。
少女もつかの間の休憩を談笑して過ごしている。

「ああ……最近、”昇格”したあの子か」
「ええ。昇格できたとはいえ、まだまだアイドルとしては未知数。果たして本当に芸能界を渡り歩くことができるのかと」
「ふっ、あの子も幸せだな。天下の名プロデューサーにそこまで気にかけてもらえるなんてな」
「ちょっ!……私はどの子も気にかけていますよ」

少女は養成所の候補生だった。
アイドルになるべく日夜休まず歌とダンスのレッスンに励んでいた。
それこそ、通う学校の友達との時間をすり減らしてでも。
そして、その努力はついに実り、アイドルとしてプロダクションの施設へ顔を出せるようになったのだ。

「あ!プロデューサー!」

自分と同じジュニアアイドル達と軽い休憩していたが、自分の担当プロデューサーを発見したことが嬉しいのか走って駆け寄る。

「みりあ。レッスンの調子はどうだ?」
「うん。楽しいよ♪」
「本当か?辛いときは無理せず言っていいんだぞ」
「私、無理なんかしてないよ。だって、毎日が楽しくて楽しくてしかたがないんだもの!」

先ほどから話題となっていた赤木みりあはピョンと跳ねながら元気に答える。

「そうか。その調子が続くなら、来週の初ライブは大丈夫そうだな」
「え!?みりあ、アイドルとして歌えるの!?」
「ああ、みりあも昇格してから数か月がたったからそろそろ……な。
 ということで話が進んだんだ」
「へぇ!それはめでたいことじゃないか!」
「……といっても、近隣の商業施設でのミニステージだけど……って」

”初ライブ”ということが嬉しいのか、みりあは、レッスン場を走り回る。

「ふふ、カワイイ服を着て、カワイイ歌を歌って、カワイイダンスを踊って……
 やっぱり、これからも毎日楽しいことがいっぱいだね☆楽しみだなっ!」
みりあは今、この一瞬、一瞬を満喫している。

☆彡 ☆彡 ☆彡

「今日も、遅くなっちゃったなー」
レッスンの帰り道。
空を見上げるとそこは、星々が輝き照らす夜空。
ふと、手を上げ、星の一つを掴むかの如く握りしめる。

「おーねがい、シンデレラ〜 夢は夢でおーわれない」

口から紡がれるのは、事務所に所属するアイドルなら全員歌える歌。
プロデューサーやベテラントレーナーさんの手前、心配を感じていない風に装ったが、正直に言うと、ちょっぴり不安もある。

念願のアイドルへと昇格できたが、あくまでスタートラインに立っただけ。
この後の活躍は今後の自分の実力次第。

「動きはじめてーる 輝く日ーのためーにー」

”アイドルとしてカワイイものに囲まれてみんなと楽しくなりたい”

それは、幼きアイドルの純粋な願い。
しかし、その願いは聞き入れなかった。
そればかりか、逆に強要される。

「さぁ、楽しい楽しい殺し合い、みんなみんな殺し合う。あははははっ」
「では始めようかのう……天国でも地獄でもない場所での、生き残りを賭けたゲームを」

殺し合いを。
命を奪い、血で血を洗うおぞましき企画を。
こうして、みりあの初ライブは悪辣な陰陽師と双子の悪魔の手で握りつぶされた。

☆彡 ☆彡 ☆彡

419辺獄平安公演 朝の部 ◆s5tC4j7VZY:2022/03/28(月) 00:04:33 ID:2SqFhHp20
1章 嫁

ここは、とある世界。
その世界は、夜の君が降り注ぎ蒼き血により邪妖が跋扈する地上となっていた。
そして現在、かつての夜の君やアーナスに取って変わって魔を統べるは月の女王。
伝説の半妖と呼ばれしアーナスは現在、月の女王に捕らえられ、暴走状態にさせられ、さまよい続けている。

「……誰だ」

……ザッ

アーナスは気配を感じるとヨルドを構える。

「綺麗な朱と翠玉の眼……うん。うん。うん。
 やっぱり、ボクの八将神はアーナスちゃんで決まりだな〜」
「八将神?訳のわからないことを……。
 それより、貴様は邪妖だな?」

目の前に現れたゴシックドレスの少女。
しかし、アーナスは見逃さない。
少女が身に纏う力に。

「邪妖?ボクが……?うふ、うふふふふ。
 見当違いだよぉ、アーナスちゃん。
 ボクは君のP(プロデューサー)。
 フェレスPと呼んでもいいんだよ」

悪魔は嘲笑う。
その瞳は”き〜めた!”と悦んでいる。

「……意味がわからない。
 それにふざけたことを……。
 まぁいい、それより、貴様は私の名前を知っているのか?
 私は……自分がわからない……だから……貴様の血をよこせッ!!!」

いくつか聞きなれない単語を発する邪妖らしき魔の存在。
だが、どうやら自分の名前を知っていることからアーナスは吸血しようと試みる。
暴走状態とはいえ夜の君を倒したエージェントと辺獄の悪魔の片割れによる激突。
戦闘の経緯は、ここで語らなくても十分であろう。
八将神としてアーナスが参加者にいる。
これが、結果だ。
こうして、フェレスにより八将神として調整されたアーナスは人間だったころの記憶や半妖だったことの記憶はそのまま欠落したままの上で”大切なもの”を奪いとったものは、 「人間」であったと認識させられたとさ。

……まる。

☆彡 ☆彡 ☆彡

420辺獄平安公演 朝の部 ◆s5tC4j7VZY:2022/03/28(月) 00:05:21 ID:2SqFhHp20
二章 魔の時間

「人間は……殺す!」
アーナスは迷いなくヨルドでさとうを斬り捨てようと振り下ろす。

「アーナスさん!!!」

さとうを斬り裂く殺意の刃は寸前、アルーシェの持つ刀……扶桑刀で食い止められた。
扶桑刀……扶桑皇国の軍人が手に持つ魂の刀。
中でも、坂本美緒が魔力を込めて打った”烈風丸”はアーナスが所持する血剣ヨルドに引けを取らない。
刀と刀がぶつかり合い、火花散る。
交差する剣戟はやがて、刀と刀のつばぜり合いへとなった。

「アーナスさん!正気に戻ってください!」
「うる……さい!それより貴様のその血は私のものだ!!!返せ!!!」

アルーシェの言葉はアーナスには届かない。
むしろ逆にアルーシェの存在がアーナスの吸血衝動を増加させる。
グググッ……!と刀を押し返される。

「くっ……!」
(どうすれば……元に戻るんだ?)

アルーシェの脳裏に想起されるは、元の世界でのアーナスとの邂逅の出来事。
伝説の半妖と語られるアーナスとの初邂逅は今と同じように正気を失っていたため、戦闘となった状況だった。

……ううう……私は……誰だ……私は……

一進一退の攻防だったが途中、アーナスの自問自答が発生し、戦闘は中断となった。
その後、姿を現したアーナスの関係者であるクリストフォロスに暴走を止めてくれないかと頼まれた。
可能なら、ここ辺獄の殺し合いという特殊の状況だが、叶えてあげたい。
しかし現在、八将神として選ばれたアーナスは暴走状態となった時とほぼ同じだ。

(くっ……せめて、何か関係者の痕跡を示すものを発見できていたらなぁ)
クリストフォロス曰く、アーナスゆかりの物か何かを手に入れれば正気に戻ると言っていたが、探索する矢先にこの殺し合いに巻き込まれた。
アルーシェの額に汗が流れる。

「さっきから、血、血、血とうるさい」

……ブォッ

アルーシェとアーナスの会話に露ほども興味がないさとう。
さとうの言葉と同時にザ・ワールドがアーナスを襲う。
即座にアーナスはアルーシェを蹴り飛ばすと、ヨルドでザ・ワールドの攻撃を防ごうとする。

……が。

「……ガッアアア!?」

ドッゴオァ――――!!!

ザ・ワールドの逞しき黄金の腕が、アーナスの腹を貫いたのだ。
アーナスはたまらず、苦しみの声と血反吐を吐く。

「ひうっっ!?」
「……」
(あの時……僕も突然、さとうの守護霊の攻撃を受けた……その正体は一体?)
みりあは血の気が引いた顔で両手で顔を覆い、ベルトルトは無言でそれを見つめる。

そう、ザ・ワールドの能力”時間停止”
さとうにとってアルーシェもアーナスもモロクロにする無駄でしかない。
単純に、血を求めている危険そうかつ、明らかに異能の力を有しているであろうアーナスを生かすことはできないと即座に判断しただけだ。
さっさと勝負をつけようと、その能力で躊躇なくアーナスの身体をぶち抜いた。
八将神相手に時間をかけるのは得策ではない。
素早くトドメをさそうとしたさとうの判断は正しい。

「……」
(汚い……顔についちゃった……後で、洗い流さないと)
アーナスの吐いた血反吐が顔の頬にかかり、さとうは不快そうな表情を見せる。

血は嫌い。
染みついた壁をゴシゴシしても簡単にぬぐい取ることはできないし、苦いから。

421辺獄平安公演 朝の部 ◆s5tC4j7VZY:2022/03/28(月) 00:06:41 ID:2SqFhHp20
苦い苦い苦い苦い苦い苦い苦い苦い苦い苦い
苦い苦い苦い苦い苦い苦い苦い苦い
苦い苦い苦い苦い苦い苦い苦い
苦い苦い苦い苦い苦い苦い
苦い苦い苦い苦い苦い

……早く、苦みを取り払わないと。

鼻孔にツンとくる鉄の匂い。
甘いとは対極の味。
こんな姿ではしおちゃんに会えない。
ベルトルトにより付けられたスカートや制服の血も最悪だ。
本当……最悪。

……ああ
……しおちゃん……早く会いたい

さとうがアーナスにしたことは明確な”殺人行為”
しかし、さとうは気にもかけない。
全ては取り戻すため。
朝目覚めたら、すこやかに眠っているしおの寝顔を見るため。

―――いつも通りの朝を迎えるため

―――まってて、私のシュガーエンジェル

だが。


さとうもまた、甘すぎた。


「その力、時を操るのか」
「……ッ!?」
平然と喋りかけてくるアーナスに流石のさとうもぎょっ!と目を見張る。

―――ズルッ

自分から後ろに下がり、ザ・ワールドの腕から離れる。
普通なら、胴体を貫かれ平然とできる筈はない。
だが、何度も述べられているが、今のアーナスは”八将神”である。
疑似霊核として用意された心臓を破壊しない限り殺すことは不可能なのだ。

「だが、その仕掛けが分かれば、脅威はないに等しい」
言葉と同時に孔が開いた腹がみるみるうちに塞がれる。
八将神+アーナスの魔力による驚異的な回復力。
さらにアーナスは行動を開始する。

「ムーンラビット!」
言葉と同時にアーナスの身体に光の粒子が身に纏う。

「いっくぞー!」
禍々しい声から、一転可愛らしい声に声変わり。
しかし、変わったのは声質だけではない。
姿もだ。

アーナスの白銀の髪はザ・ワールドに負けないぐらい光り輝かく黄金に。
そして、青紫の獣の耳がピョコンと生えた。

422辺獄平安公演 朝の部 ◆s5tC4j7VZY:2022/03/28(月) 00:07:24 ID:2SqFhHp20
「……」
(あの変態形態……僕たちとは違う力か……)
どこまでも冷静に観察をするベルトルト。
アーナスのフォームチェンジに目を細める。

(そして、さとうの守護霊の力……やはり危険だ)
アーナスが口にした時間停止。
ベルトルトは確かにその言葉を聞き逃さなかった。
無意識にさとうにより砕かれた右鎖骨を触る。
突如、骨が折れ吹き飛ばされた秘密は明かされた。

(後は、どうやってさとうを葬るか……だな)
ベルトルトが見据えている局面の先は、この戦いの向こう。
虚無に見える漆黒の瞳はさとうとアーナスを見つめ続ける。

「あのお姉さん……ウサギさんになっちゃった!」

一方、みりあの呟き。
そう、その姿はウサギに見えなくもない。
その正体は、アーナスの切り札。
いくつかある中の”変身形態”の一種。

―――ラビットフォーム

「えい♪」

―――ゴッ!!!

「〜〜〜〜〜〜っ!」
言葉と同時にさとうの身体が吹っ飛び、地面を転がる。

さとうの眼前に一瞬に移動すると、目にもとまらぬ速さで脳天目がめてソバットを繰り出したのだ。
幸いにも、”そばに立つ者”ザ・ワールドが身を挺したため、さとうの頭からピンク色の脳をまき散らすことだけは防ぐことができた。
スタンドが支給されていなければ、さとうの命はそこで無残に散らしていたであろう。
しかし、鋭さと重さが加わったソバットは完璧に抑え込むことはできず、押し切られた結果、吹き飛ばされた。

膝や掌を擦り、さらに苦味が重なる。
不運が重なるときは重なる。

……ベリ―――ウィン

さとうの脳天から脳みそではなく、支給品のDISCが飛び出てしまった。
その瞬間、ザ・ザールドは姿を消す。
体内にDISCを挿入することでスタンドを扱えるお手軽さ。
しかし、反面、ある程度の攻撃が加えられると勝手に出てしまうのだ。

―――はぁ……はぁ……はぁ……

―――死ぬの?

キラキラポロポロ……ビンから零れ落ちる。

―――ダメ

―――それは私の愛の粒

さとうはうずくまり、両腕で身体をギュッと握りしめる。
身体から愛が逃げないように。

「みりあ……君は早くこの場を離れた方がいい」
「……え?」
戦士の勘だろうか。
この場はただではすまないと肌で感じた。
さとうが事実上脱落したのを横目に痛みに耐えつつ、ブレードを構えるベルトルト。

「くっ……」
(やはり、やるしかないのかッ!?)
烈風丸を構え直すアルーシェ。

「どうした?いっておくけど、これで終わらないぞ。だって……血を返してもらわなくちゃいけないんだからな!!!」

まだ夜が明ける時間ではない。

☆彡 ☆彡 ☆彡

423辺獄平安公演 朝の部 ◆s5tC4j7VZY:2022/03/28(月) 00:07:59 ID:2SqFhHp20
3章 八将神プロデュース

歯車の塔。
平安京の遥か上空に聳え立つそれは、神へと成らんとする一人の陰陽師が鎮座する宴の首座。
辺獄の悪魔が管理する辺獄のそれは、現在バトルロワイアルの管理場となっている。

「うふ。うふふ……いいよ〜。やっぱりアーナスちゃんは素敵だな〜」
愉悦愉悦と浸るのは、辺獄の管理者にして悪魔の片割れフェレス。

「何やら楽しそうに眺めておるな」

愉悦に浸るフェレスの傍に姿を現すのは悪魔の片割れメフィス。

「だって、僕のアーナスちゃん。とっても愉快に”私の血を返せー”って意気込んでるんだもの……あはははっ」
「アーナス……ああ、元神の慰み者の半妖か。たしか、お主の担当じゃったな」
「うん。そうだよ〜……アーナスちゃんは、僕の担当アイドル。
 ずばずばずばーーって斬って、殴って、参加者の理念を集めるのがお仕事」

八将神―――陰陽道における方位を司る神。
黄幡神、大将軍、太陰神は此度の饗宴の主催者である芦屋道満と悪魔達がその位を担当しているが、残りの豹尾神、歳殺神、歳刑神、歳破神、太歳神は違う。
質のいい理念を生み出し、回収するために人為的に用意された駒。
そして、各将神は担当者によるプロデュースが行われている。

豹尾神『十条姫和』はメフィス。
歳殺神『デビルマン/不動明』は芦屋道満
歳刑神『アーナス』はフェレス
といった担当の割り振りが。
ちなみに歳破神『佐藤マサオ』は異例の芦屋道満、フェレス、メフィスの3人共同。
元が唯の幼稚園児ということとお遊びからそうなった。
片や最後の太歳神『高町なのは』は佐藤マサオとは逆に本気でプロデュースした結果、強大すぎて参加者として投入は見送られた。
その代わり、万が一の備えとしてディメーンに管理を任せている。

「ま、今のウサギちゃんのアーナスちゃんも素敵だけどねぇ」
ラビットフォームへと変化したアーナスを愛おしそうに見つめる。
自分の選別が間違ってなかったことに口元が緩む。

「メフィスちゃんは、抜け駆けして姫和ちゃんに追加レッスンを行ったけど、僕はスケジュール通りに行うよ」
「なんじゃ、そのことをまだ気にしておるのか?
 だから、反省して以後気をつけるといったであろう」

フェレスがいう抜け駆けとはメフィスが姫和に行ったスペクトラムファインダー講習について。
メフィスはしかたがないなぁといった風に肩をすくめる。
すると……

「ふぅ……とうとうボクが駆り出されてきたよ」
やれやれといった様子で双子の前に現れるのは道化師。
ディメーン。
どうやら、支給品を渡しに出向いたようだ。

「ところで、質問を一つしてもいいかい?
 どうして支給品に”シャンバラ”を選んだんだい?
 一歩間違えれば、この殺し合いを破綻してもおかしくないと思うけど」
(おかげで、ボクの負担は倍増だよ)

ディメーンの疑問は至極同然。
”次元方陣シャンバラ”
マーキングした場所への瞬間移動を可能とする帝具。
一手違えれば、こちら側の詰みに繋がりかねない道具の一つ。

(それに、”空白の才”も……破たんしかねない道具だ。
 殺しを強要する主催側が、進んでそれらを多く支給するなんて……
 余裕なのか、浅はかなのか……)

双子の悪魔と陰陽師の思考に首を傾げざるをえないといった風だ。
殺し合いをさせるなら、別になくてもいい道具。
わざわざ、危険を冒す必要なんてないのだ。

「ん?ああ、別に構わぬよ。
 多少の希望は与えておかないと上質な理念を集めることが出来ないからな」
「そうそう……僕たちに反抗できる〜と喜んでから、やっぱり無理でした〜と
 理解したワンちゃんたちのわんわんわんと鳴く絶望からの理念は想像するだけで最高だ 
 よ〜」

双子の悪魔にとって、この殺し合いは余興でしかない。
如何に上質な理念が集められるかが重要なのだ。

「そういうことじゃ。それと、あの神の慰み者のくせに一人面白い理念がおっての。
 たしか……”蛙のツラ”じゃったかな。あれを参考にさせてもらった」
双子の悪魔はクスクスと嗤う。

「ふ〜ん……ま!ならボクはもういうことはないね。次の出向へといくとするよ」
ディメーンは踵を返すと、再び辺獄の平安京へ出向く。
支給品を配達するために。

「……」
(随分と彼らを見下ろしているけど、いとも簡単に鬼門を作られたんだ。
 この会場は完璧な牢獄ではない証拠。足元を掬われないことを祈るよ)

――― ま!そのときは、ボクがサイコーのショーを開演させてもらうよ

道化師は二ィッと不敵な笑みを浮かべる……
その脳裏に浮かぶのは、自らの野望を叶えるステージか……

☆彡 ☆彡 ☆彡

424辺獄平安公演 休憩 ◆s5tC4j7VZY:2022/03/28(月) 00:08:43 ID:2SqFhHp20
4章 カメムシ

「さてと……そろそろ行くとするか」

ほんの少しの休憩と死者への黙祷を終え、僕は立ち上がる。

正直に言おう。
―――ボロカスな目に会って、僕は今、相当頭に来てる。

短い時間とはいえ、はるな・夕月の二人とは楽しめた間柄だった。
だが、その時間は一瞬にして失われた。
和装の金髪外人によって。
まぁ、今は人を止めて本当に鬼くびれ大羅漢となり果てたが。
というか、夕月のリフレクターと言う名の魔法少女の光弾を拳で打ち払った時点で、奴は本当に人間かどうか疑わしかったが。
それにしても、おそらく支給品だろうが、チートを躊躇なく使うのは流石USA!USA!といった国民性か。
だがここで、いじける訳にはいかない。
あのチーター大羅漢から生き残ってしまった。

そして、あの双子。
何より自分達は絶対安全という高みで見物している醜悪な顔。
プリズナーゲームの監獄長と同じ下種さ。

ああいう、偉そうに踏ん反り返っている連中には腹が立つ。

「ひと泡吹かせないとだな……和馬」

生き残った者として、この辺獄における僕の最低の勝利条件は”意地汚く生きる”
それを達成するために僕は……アルーシェが向かった方向とは逆に歩いている。

薄情だって責めるか?
仕方がないだろ。
今の戦力じゃあ、反抗しようにも直ぐにミンチにされて殺されるのが、オチだ。
なら、少しでも別の方向に向かって、別の参加者と接触する方が合理的だ。
……まぁ、自分が空気を読んでいない自覚はある。
誰でもいいから骨折るくらいの気で殴ってもらえれば気持ちの釣り合いが取れるのだが。

☆彡 ☆彡 ☆彡

425辺獄平安公演 休憩 ◆s5tC4j7VZY:2022/03/28(月) 00:09:07 ID:2SqFhHp20
やがて、奇妙な箱を引き連れた女性を見かけた。
僕はとりあえず、身を隠したが、どうやら箱は参加者のようだ。
そして箱……おそらくパンドラボックスは犬並みの嗅覚を有してるのか、気配を察知され、女性に知らせる動作を行った。
というか、本当にパンドラボックスは箱だったのか……ジャギが肉食恐竜という線もあながち間違っていないかもしれないな。

「誰か、そこにいるの?大丈夫、私とエルピスは殺し合いに乗っていないよ」

エルピスという名の箱に教えられた女性は物陰に隠れている僕に話しかけてきた。

―――やれやれ、こう見えて気配を隠すのは上手な方だと思っていたが

あのプリズナーゲームに参加させられることとなった合宿初日。
和馬のやつが”あー、だりぃ”とか言いつつ、もったいつけて髪をかき上げる動作を眺めることもできた実績を持っている。
まぁ、ボヤいても仕方がない。
女性と箱が宣言通りに殺しに乗っていないことを祈るとするか。
僕は、女性と箱の前にでると―――

「どうも、吾輩はブサイク大統領である」

”……もしかしてその名前、気にいったの?”
”せー君。大人の女性相手でもその調子なんだね”

ふと、天から2人のあきれた声が聞こえてきた。
何、いつも通り。
それが管弦部の狂言回しの僕だ。

☆彡 ☆彡 ☆彡

426辺獄平安公演 休憩 ◆s5tC4j7VZY:2022/03/28(月) 00:09:36 ID:2SqFhHp20
5章 わかるわ

「そう……災難だったわね。ブサイク大統領君」
「……すまない。実は吾輩はブサイク大統領ではないんだ」
「そうなの?」
「ああ。本名はユカポンファンの吸血鬼……って、
 そこの箱は何をしようとしているんだ?」
「エルピスがこの男、ふざけているから齧るって」
「おいやめろ」
「エルピス。やめてあげて」
「……」

キヨスに制止され、エルピスは征史郎を齧るのを止める。
シュンとする姿はキヨス曰く可愛いでしょ?と話しかけるが、征史郎は”いや、まったく”と返した。

「危うく”おお勇者よ死んでしまうとは情けない”となるところだった」
「面白い子だね。城本征史郎君って」
「む、どうして僕の名を。……もしかして、支給品か?」
「うん。このポケモン図鑑でね」

征史郎はキヨスが自分の名前を知っていることに一瞬、眉を顰めるが、直ぐに支給品か何かの能力だと察した。
そして、案の定キヨスはそういうと、ポケモン図鑑を征史郎に見せる。

「プライバシー権侵害上等とはなかなかマッドな博士だな。製作者のオーキド博士とやら」
そういうと、征史郎は肩をすくめながらため息をつく。

☆彡 ☆彡 ☆彡

427辺獄平安公演 休憩 ◆s5tC4j7VZY:2022/03/28(月) 00:10:00 ID:2SqFhHp20

それから、キヨスと征史郎は情報交換を済ませた。
また、征史郎の頭の出血はキヨスが、かなでの森博物館から持ってきたフィールドワーク用の救急セットの包帯で処置された。

「それで、あの方角にはチーター……鬼くびれ大羅漢がいるかもしれないのね」
「ああ。未格闘経験者を容赦なく狩るチーターだ。
 ……ところでどうして、自分から危険な場所へ進むんだ?自殺志願者には見えないが」

キヨスとパンドラの箱(というか理解できているのか?)には、多少の誇張表現こそあれど、先の顛末については話したつもりだ。
なのに、死にたがりの和馬ならともかく、そっちへ進もうとするキヨスに征史郎は理解できない。

「……私は、この殺し合いに集められた人達の生きた証……標本の保存をしたいの。
 それが、私がここでやりたいこと」

「そうか」

キヨスのやりたいことを聴いたが、征史郎はただ一言いうだけだった。

「征史郎君は私の目的に特に何も言わないんだ?」

既に一度、自分のやるべきことは零ちゃんに”エゴ”だと切り捨てられた。
確かに頼まれてもないのに死者の生きた証を集めるなんて、見方を変えればハイエナだと糾弾されてもおかしくはない。
たとえ、されなくてもいい顔をされることは少ないだろう。
零ちゃんの反応が一つの答えだ。
しかし、キヨスは既に大人だ。
そうした意見があることを理解しているうえで決めた。
だが、零ちゃんと近い年齢の子がそれに何の反応をも示さないことにちょっと、気になった。

「ああ、この殺し合い。僕らの……参加者一人ひとりの勝敗は違う」
(だから、僕は止めない。他人の意思と決意に水を差すようなマネはしない)

そう、だからこそ小学生の命を奪う行為を止めなかった。
たとえ、好きな女がその行為に苦しみ手を汚すことになるとわかっても。
自分だけは”肯定する”という身勝手な擁護を心の中で誓った。

「だから、僕がどうこういうつもりは毛頭ない」

「……うん。そっか。……そうだね」

☆彡 ☆彡 ☆彡

428辺獄平安公演 休憩 ◆s5tC4j7VZY:2022/03/28(月) 00:10:33 ID:2SqFhHp20

「それじゃあ、私とエルピスは鬼くびれ大羅漢の方角へ向かうとするね」
キヨスの勝利条件は生きて帰り、この殺し合いをなかったことにさせないこと。
故に参加者の生きた証を集めなければならない。
近くにいるかもしれない鬼くびれ大羅漢が超危険人物だと分かっていても避ける選択肢はない。

「仲間の遺体がある場から逃げた僕が言える立場ではないことは自覚している。
 だが、あえて言わせてくれ。
 二人の生きた証……必ず回収してくれると嬉しい」
征史郎はキヨスに頭を下げる。

「うん!まかせて、無かったことになんかさせない」
キヨスは胸の手をドンと叩いて答えた。

「それと、私のことはキヨスって呼んでもいーよ?同じ巻き込まれた参加者同士だし」
「いや、大人相手にそこまで失礼な態度は持ち合わせてないので、遠慮しよう。
 あかりさんで」
「むう……そう」
零に引き続き、断られたことにちょっぴりだけ残念がる。

「……!」
「ん?どうした?箱にも生理現象はあるのか。
 しかし、残念だがトイレはこの近くにはないぞ」

征史郎はガサゴソと動くエルピスに怪訝な表情を見せる。

「エルピスが征史郎君との別れが寂しいから舐めさせてって」
「おいやめろ」
「エルピスやめてあげて」
「……」

キヨスの静止にエルピスはシュンとして止める。

「このやり取り、先ほどもなかったか?」
征史郎は、そう言いつつも口元が緩んでいることに気づかない。

「あはは、そうだね。
 ……でも、君も年相応な少年でホッとしたかな」
「え?」
キヨスの言葉に征史郎はピクリと身体を動かす。

「友達や親しい人の死に腹を立てることができるのは、人間の原始的な感情の一つだよ。たとえ、素直に出せなくてもね」
「……」

どうやら、この人には見抜かれているようだ。

「それじゃあ。お互い名前が呼ばれないように生きようか。
 一応、2日目の昼にかなでの森博物館にいる予定だから、よかったら寄ってね」

ニッと笑うと、キヨスはエルピスと共に歩む。
己の決意を突き進むために。
征史郎はその背中を黙って見送る……

☆彡 ☆彡 ☆彡

429辺獄平安公演 休憩 ◆s5tC4j7VZY:2022/03/28(月) 00:10:56 ID:2SqFhHp20

「あれが、尊敬できる大人というのだろうか」
我らが管弦部の千尋先生とはまた違った感性を持った女性。
少なくとも、彼女が学校の先生だったらさらに楽しい学校生活を送れそうだ。
まぁ、本人の希望通りにキヨスさんと呼んでもよかったのだが、ここは、断った方が面白そうだからそうした。

「生きて帰れたら、生物学に触れてみるとするか」
僕はいわゆるマニアだ。
アカリさんとエルピスとの時間は僕の尽きることない興味の琴線に触れた。
鳥類研究者という職業は、実に楽しそうだと実感した。
マニアの血が疼いた。

「さて……それじゃあ、次に出会うのは鬼か蛇か」

僕は再び移動を開始する。
勿論、勝利するために。
意地汚く生きるはあくまで”最低条件”
じゃあ、最高はだって?
決まってるじゃないか。

あの双子に”どうも、クソゲーを遊ばせてくれてありがとう”と鼻で笑ってカンチョ―することだ。

だろ?和馬。

☆彡 ☆彡 ☆彡

430辺獄平安公演 休憩 ◆s5tC4j7VZY:2022/03/28(月) 00:11:36 ID:2SqFhHp20

6章 鎮魂の自引き

―――ザッ

「ここが、征史郎君が言っていた鬼くびれ大羅漢生誕の地ね……」
征史郎と別れたキヨスとエルピスはE-4にたどり着いた。

「……ッ!」
キヨスは探し求めていた人物を見付けると駆けよる。
エルピスもガッシャンガッシャン音を立てながら後を追う。

「……」
たどり着くと、キヨスは手を合わせて黙とうする。
はるなの遺体に。
腹部に大きな風穴を開けられている遺体は、年頃の少女が迎えていい死に方ではない。

「私はね、この殺し合い、誰も死なずに終わるとは思わない。仮に、協力して殺し合いを脱出できるとしてもね。」

零ちゃんに言った自分の言葉通りだ。
征史郎君から話を聞いてはいたが、やはり死者が出た。
その事実はキヨスの両肩に大きくのしかかる。
だけど、ここで自分の勝利条件を変えることはない。
改めて、自分は大人なんだと再認識してしまう。

「……ごめんね」
キヨスは謝罪の言葉を口に出すと、はるなの白いリボンと薄紫のリボンタイを手に取る。

次にはるなと同じく事切れた夕月を発見すると、同じように黙とうする。
黙とう後、夕月のリフレクターのリボンと破れきれた衣服の一部を手に取る。

「エルピスおねがい」
キヨスの言葉にエルピスは応じる。
壊砲ティシアの威力なら、地面に穴を開けることは造作ない。
人を埋めるには十分な深さの穴が開けられた。

「……」
はるなと夕月を丁重にその穴に入れ簡易的ながら墓標を作った。

「必ず、貴方達2人をいなかったことにはさせないから……」
こうして、キヨスはポケモン図鑑で登録すると、細谷はるなと司城夕月の生きていた証を回収した。

☆彡 ☆彡 ☆彡

431辺獄平安公演 休憩 ◆s5tC4j7VZY:2022/03/28(月) 00:11:58 ID:2SqFhHp20

「……!!!」
「これは……」
エルピスがキヨスに何か見つけたのを報告すると、そこには、火山灰が積もっていた。

「火山灰……」
(う〜ん。こういうのは、専門外だけど、おそらく、征史郎君がいった金髪外人の 
 支給品の一つのはず。
 使い道は分からないけど、とりあえず、回収しておこうかな)

キヨスは周囲の状況から火山灰が人工ではなく、支給品だと判断する。
思案すると、エルピスに回収するよう命じた。
エルピスは長い舌で火山灰を摘まむと、かなでの博物館から持ってきた空の瓶へ入れる。

「うん。それじゃあ、引き続き、鬼くびれ大羅漢を探すとしようか」
死者を弔い、キヨスとエルピスは、ほんの少し残った火山灰のEー4を後にした。

※E-4には一人分の火山灰が残っています。

☆彡 ☆彡 ☆彡

432辺獄平安公演 休憩 ◆s5tC4j7VZY:2022/03/28(月) 00:12:38 ID:2SqFhHp20

7章 夜泣きSR

「アルーシェさん、大丈夫かな?」
ぼくは一人、身体を休めながら、心配する。

「それにしても……いてて……このままじゃ、もたないかもしれないな……」
碌な治療ができていない状況。
全身激痛の痛みは自分の命の蝋燭を徐々に……確実に溶かしている感覚が消えない。

「千さんの意思をここで潰えるわけにはいかないのに……っ!」

本来ならあの戦いで自分は死んでいた。
だけど、ぼくは生き延びた。
千さんが譲ってくれた支給品の効果で。
千さんに借りたかりをぼくは返さなきゃいけない。
だから、ぼくがすべきことは一つのはずだ。
千さんの意思を潰えることを防ぐこと……ッ!!!

「……とと。いけない。あんまり強く怒り過ぎたらまずい」
そう、トッペイの体質は月を見ることだけではない。
強い憎悪の感情でも変身してしまう。
帽子を深く被っている意味がなくなるとトッペイは反省する。

―――ギィィィ……

家屋の扉が開いた。
ぼくは来訪者を視てギョッ!?とした。

「え!?」
なぜなら人かと思ったらなんと、箱が中に入ってきたんだから。

「ここに誰かいるの?」
言葉と同時に箱の後方から今度は大人の女性がひょこっ!と顔を覗かしてきた。

「あの……もしかしてアルーシェさんの仲間ですか?」
「う〜ん。まだアルーシェさんとは顔を合わせないけど、似たような者かな。
 ……ところでどうして君、帽子をそんなに深く被っているの?」
どうやら、女性はアルーシェさんとは面識がないようだ。
だけど、敵ではない様子にほっとする。

「それは……あ!?」
女性の疑問に答えようとしたら……

「……!」
エルピスと呼ばれる箱が舌を伸ばすと、ぼくが被っていた帽子を取り上げてしまった。

――――しまった!

箱の予想外の行動にぼくは狼狽した。
そして、恐れていたことが起きる。
月がぼくの瞳に映る。
すると、みるみるとぼくの身体に獣の毛が生えてきて顔も変化する。

「君……」

―――あ、もしかして……ぼくの姿に恐怖を?

目の前の女性はぼくの姿に驚いたような表情を見せたから、怖がらせちゃったと思った。
だけど、ぼくの予想は大きく外れることとなる。

「君!動いちゃダメ」
(手持ちの包帯だけでは布が足りない……そうだっ!)
なんと、女性はドレスを脱ぐと、下に来ていたパーカーを脱いだのだ

433辺獄平安公演 休憩 ◆s5tC4j7VZY:2022/03/28(月) 00:13:05 ID:2SqFhHp20
「!?」
ぼくは、女性の行動の理由が分からないのに加え、下……こほん。とにかく、見ないように背を向けようとした瞬間。

「エルピス」
「……!!!」

通じ合っているのか、名前を呼んだだけなのに、エルピスと言われている箱は厳つい大型剣を取り出す。
そして、女性のパーカーを何枚かに下した。
女性はパーカーを惜しげもなく、包帯の補充として代替するつもりだ。

「え!?ええ!?」
(わっ!?わわっ!?)
軟膏らしきのをぼくの肌に塗ると、素早くパーカーだった生地をトッペイの負傷した皮膚に包帯と共に使用した。

☆彡 ☆彡 ☆彡

「よし!……これで峠は越せるはずよ」

女性はふーっ!と腕で額の汗を拭う。

どうやら、女性はボクを助けるために服を脱いだようだ……
そ、それにしても大胆な女性だな……

ぼくの脳にしっかりと記憶されたのは、目の前の女性の若干幼そうな面影が残ってはいるが、いつも何かを探しているようなキラキラとした目にその……パーカーを脱いだ上半身……

ポ―――ッ

☆彡 ☆彡 ☆彡

434辺獄平安公演 休憩 ◆s5tC4j7VZY:2022/03/28(月) 00:13:51 ID:2SqFhHp20
8章 博物館人と夜泣き一族の少年による相互招待

あれから、落ち着いたトッペイは狼の姿から元の人間の姿に戻ることができた。
そして、とりあえず互いの自己紹介を済ませた。

「あ、あの……ありがとうございます。」
「気にしなくていーよ。それにトッペイ君が負った傷はまだ全然癒えてないから無理は禁
 物だよ」
キヨスによる治療は瀕死の境を巡っていたトッペイの命をなんとか繋いだ。
しかし、トッペイが負った重症は軽くはない。
バアルによる災害といっても過言ではない落雷の威力は絶大の証拠だ。

「……!!」
「ん。ありがとエルピス」
キヨスはエルピスが手渡した脱いだひかりのドレスを再び身に着けた。
なお、着替え中トッペイは見ないよう、顔を赤らめながらも後ろを向いていた。

☆彡 ☆彡 ☆彡

「それで……トッペイ君の体質……」
「はい。バンパイヤと呼ばれる人間はそれぞれ条件は違うんだけど、変身することができ 
 るんです……ちなみにぼくは月を見たり、強い怒りや恐怖と言った憎悪の感情が高まっ 
 たりするとオオカミに変身するんです」

「そうなの……」
(もしかして征史郎君が言ってた鬼くびれ大羅漢となった金髪の外人は、バンパイヤの一人なのかもしれない…)

キヨスはトッペイの話から、鬼くびれ大羅漢と称された金髪外人はバンパイヤではないかと正体を考える。

「……」
(考えている顔も……はっ!いけない、いけない、まず伝えないといけないことが……!)
キヨスの顔を見つめていたトッペイだが、まず伝えなきゃならないことを思い出す。

「あ、あかりさん!」
「ん?何?」
トッペイに声をかけられたキヨスは顔を向ける。

「あ、あの!ぼくたち夜泣き一族は、人から受けた借りは必ず返さなきゃならないんです。
 ぼくはあかりさんに死にかけた命を助けてもらいました。
 だから一族の掟に従って、借りを返します」
悪魔の申し子であるロックでも、借りた恩は返さなくてはならない。
したくもない人さらいをも断ることはできなかったほどだ。
トッペイはキヨスに向かって深々と頭を下げた。

「……」
トッペイの申し出にキヨスは目を瞑り黙る。
やがて、目を開くと口を開き……

435辺獄平安公演 休憩 ◆s5tC4j7VZY:2022/03/28(月) 00:14:19 ID:2SqFhHp20
「トッペイ君。アメリカにあるスミソニアン博物館って知ってる?」
「え?し、知りません……」
夜泣き谷にひっそりと暮らしていた夜泣き一族の一人。
東京でさえ満足に把握していないのに遠い海の向こうの国の博物館を知るはずもない。

「あのね、そのスミソニアン博物館のエントランスにある一文が記されてるの」

―――NO SPECIES CAN LIVE ON ITS OWN

「意味は、種はそれのみで生きることはできない」
「……種はそれのみで生きることはできない」
キヨスの翻訳を同じように呟くトッペイ。

「私やトッペイ君の世界である地球には、約175万種の生物が既知されているの。
 勿論、未知の生物を含めるとさらにいるわ。
 そして、マネーラやエルピスにギャブロ君。私達とは違う世界には当然、もっと知らな
 い生物が生きている。
 そして、トッペイ君も生きている。
 一族の掟だからとか、千さんの意思を継ぐのも悪い事じゃないけど……」
少し間を置くと、トッペイの瞳をまっすぐに見据える。

「トッペイ君。君はどうしたいの?もう、自分で決める時間だよ」

「ぼくは……」
トッペイの脳裏に浮かぶ。
あの光景が。
マンガ映画が好きで手塚先生に会いたくて山を下りたときのことを。
かあちゃんに自分の夢を語ったときのことを。

「あかりさん……ぼく、実はマンガ映画が好きなんです。だから……絶対に生きて帰って
 マンガ映画を僕の手で作る!それが僕の勝利です!!」

トッペイもキヨスの瞳をしっかりと見つめて力強く答える。
トッペイは決意した。
勿論、千の意思を継いで、殺し合いを止めることは変わらない。
しかし、”その先”のビジョンをちゃんと定めたのだ。

「うん!お互い、勝つために頑張ろうね!」
キヨスとトッペイは互いに握手した。

「ところで、私の事はキヨスって呼んでもいーよ?」
「え!?あ、あの……キ……できたら、名前で呼びたいのであかりさんでお願いします」
「む……」

今回も断られたキヨスであった。

☆彡 ☆彡 ☆彡

436辺獄平安公演 休憩 ◆s5tC4j7VZY:2022/03/28(月) 00:14:51 ID:2SqFhHp20
あれからキヨスとトッペイは互いに情報交換をすました。

「なるほどね……アルーシェさんは……」
「はい。合流場所から離れすぎているから、戻ると言っていました」
地図を見ながら、トッペイの言葉に視線を向ける。

「……うん。征史郎君のことも伝えないといけないから、アルーシェさんの方へ向かおう
 か」
(それに……2人のこともきちんと伝えないと)

正直、鬼くびれ大羅漢をそのままにはできないと感じている。
少女であるはるなと夕月を躊躇なく命を奪ったことから、自明の理だ。
しかし、トッペイをこのまま置いておくわけにも行かないことと、話の内容からアルーシェという女性はこの殺し合いを打破するのに戦力として心強い。
自分の目的を達成させたいという大人としての打算(勿論、心配という本心もある)もあり、先にアルーシェを探索することを決めた。

「でも……僕は、まだ満足に身体を動かすことは難しいです。どうすれば……」
「う〜ん、そうねぇ……」
気力と決意は満タンだが、やはり八将神である姫和との戦闘でおった傷は根深い。
自力で歩くには、まだ時間がかかりそうだ。
キヨスは、何か良い案がないか思案する。
やがて、名案が浮かんだのか、手をポンと置く。

「エルピス、少し耳を貸して」
「……」
キヨスの手招きにエルピスは耳を貸すように口を大きく開ける。

かくかくしかじか。

「……!」
「え?……わ!?」

キヨスの案を聞くや否や、なんとエルピスは長い舌でトッペイを巻き付けて持ちあげたのだ。

「……うん。これならトッペイ君の負担は軽くなるし移動することもできる。どう?」
「あ、はい。確かに」
(う〜ん……ちょっとバッチイけど、しょうがないかぁ)
エルピスのちょっぴり、ひんやりとした舌触りと唾液には辟易しそうになるが、我慢する。

「それじゃあ、鬼くびれ大羅漢捜索は一時中断して、アルーシェさんを追うよ!」
「はい!よろしくお願いします!あかりさんにエルピス!」
「……!!!」

キヨスにエルピスそして、エルピスに掴まれたトッペイはアルーシェが向かったであろう先へ移動を開始した。

―――ところで、鬼くびれ大羅漢ってどういう生物なんだろう?

☆彡 ☆彡 ☆彡

437辺獄平安公演 昼の部 ◆s5tC4j7VZY:2022/03/28(月) 00:15:31 ID:2SqFhHp20
9章 みうさぎピョーンピョン

―――ゴッ!

―――ゴッ!!

―――ゴッ!!!

「早い!」
(これが、話に聞いたことがあるアーナスさんのフォームチェンジ……ッ!!厄介だ……)

「重いな……ッ!」
(だけど、受け止められないほどではない)

俊足の乱打がアルーシェとベルベルトを襲う。
それぞれ得物で拳を防ぐが、刀身越しの振動から油断ならないと戦慄する。

ラビットフォームの特性を生かすためか、アーナスは火災現場でありながらも熱気をものともせず、俊敏に右往左往に動きながら、攻撃を加えてくる。

「……」
(近づいてきた瞬間に吹き飛ばすか?)
ベルトルトの脳裏に一瞬、浮かんだのは、自身が超大型巨人になり、このエリアを爆破して一掃すること。
しかし、その案は直ぐに消す。

(いや、今、超大型巨人になるのは下策だ)
ベルトルトは巨人の力を使う選択を選ばなかった。

ベルトルトが宿すその力の有効手段は”対主催”を一網打尽にする。
ここで、使用する旨みは少ない。

―――僕のこの選択……間違ってないよなライナー

アニと出会ったらどうするか、まだ答えを出していない。
だが、この選択は間違っていないと確信している。
脳裏に想起されるは同郷の仲間か。
正体を明かす前の頃の自分だったらそうは思わなかっただろう。
正直、かつての自分は普段、主体性がなく、他人の判断に身を任せてしまう傾向が強かった。

だが、今は違う。
ちゃんと殺すと決意した。

「そこの君!名前は!?」
「私は、アルーシェだ。そっちは!?」
「ベルトルト・フーバーだ。協力を申し込む」

ベルトルトはアルーシェと共闘を持ちかけた。
右腕の骨折を処置したとはいえ、右鎖骨が砕けている今、巨人化を除けば自分の戦闘力では、目の前の女を殺すことは厳しい。
さとうは、蹲ったまま動かないため、期待できそうもない状況
故にベルトルトはアルーシェに持ちかけた。

「わかった!よろしく頼む!」
(この人……身に纏う雰囲気は少し違和感があるけど、今は言ってられる状況じゃない)
片や、アルーシェも自分一人では、アーナスへの対処が難しいと判断。
ベルトルトの身に纏うものに少し、違和感を感じているが共闘を迎え入れた。

☆彡 ☆彡 ☆彡

438辺獄平安公演 昼の部 ◆s5tC4j7VZY:2022/03/28(月) 00:16:01 ID:2SqFhHp20

「それじゃあ、少しの間、攻撃を引き受けてくれ!」
ベルトルトはアーナスへの対処を任せると、瓦礫の間や周辺を駆けだした。

「……わかった!まかせろ」
ベルトルトに案があるようだと直感で感じたため、アルーシェはアーナスの攻撃相手を引き受けた。

「遅い、遅い!」
「……くっ!?」
(この速さをなんとかしないと……っ!)
アーナスの俊足にアルーシェは対応するが、反撃のタイミングが取れない。
片やベルトルトは一心不乱に駆けている。

「鬼ごっこ?いっておくけど、直ぐに追いつけるから」
アーナスは、ベルトルトの行動に興味が湧き、アルーシェからベルトルトに向かって走り出した。
すると―――

ブシュゥゥゥゥ……!!
アーナスの全身から血潮が噴出した。

「え!?」
まさかの事態にアーナスも戸惑う。

ギチギチギチとアーナスの全身に糸が纏まりついていた。
その正体は刃鋼線。
目に見えぬほど細いが、切れ味抜群の鋼線。
ベルトルトは、ただ逃げ惑っていたわけではない。
刃鋼線を張り巡らせていたのだ。

「その速さが徒となったみたいだね」
動きを封じればこちらのもの。
ベルトルトはブレードをしっかりと握りしめて、駆ける。

(腹に穴を開けられてもあの回復力……あそこらへんを狙うか!)
先のさとうの守護霊の腹をぶち抜く攻撃をものともしなかったことから、ベルトルトは攻撃個所を思案する。

戦え!!

戦え!!

「人類の戦いを!!想いしれッッ!!」

一閃。
巨人の硬い肉を切るために、しなるようになっているブレード。
ラビットフォームの肌を斬れぬはずはない。
両肩を横一文字に斬り裂いた。

「あっぐぅぅぅぅぅぅ!!??」
アーナスの絶叫。
それは、ザ・ワールドにより貫かれた腹の痛みとは正反対。

(やはりっ!!僕たち巨人の力と同様に、急所さえ責めることができれば勝機は見える!)
アーナスの尋常じゃない苦しみにベルトルトは己の予想の的中に安堵する。
そう、八将神の疑似霊核に触れたのだ。
流石に心臓の核近辺を傷つけられたらたまったもんじゃないらしい。、

ラビットフォームが解除された。

いける。
ベルトルトとアルーシェはそう確信した。
しかし……次の一言で盤面をひっくり返される。

―――ギロ

アーナスは睨みつけると。
一段さらに低く呟く。

「アーマーフォーム」

☆彡 ☆彡 ☆彡

439辺獄平安公演 昼の部 ◆s5tC4j7VZY:2022/03/28(月) 00:17:07 ID:2SqFhHp20

10章 ラビット!アーマー!アーナス!

「あ……ああ……」
余りの出来事にみりあは息を呑むような表情をすることしかできない。

「……ぐっ!?がぁ……!!」
「あ……う゛っ!?」

地に伏しているのはベルトルトとアーナス。

そう、ラビットフォームを破ったまでは良かったが、アーナスのフォームチェンジは一つだけではない。

アーマーフォーム。
並大抵の攻撃をものともしない装甲に巨大な腕が特徴のフォーム。
ラビットフォームとは正反対で移動速度も遅く、攻撃も一撃は重いが大振り。
故に戦局によっては時間切れを誘うことも可能だ。
ただし、今のアーナスは八将神。
支給品がある。

盤古旛。

スーパー宝貝の一つであるそれは”重力”を扱うことができる。
重力操作により、二人の行動を不能とした後、ゆっくりと殴りつけた。
さらにアーマーフォームの攻撃にはスタン効果が発生することがあり、それにより2人を袋だたきに持ち込めたのだ。

「ま、まだ……まだぁああああ!!!!!」
身体の節々が悲鳴を上げている中、烈風丸を杖代わりに立ち上がるアルーシェ。

「僕は……故郷に帰る……絶対にだ……」
(やっぱり、爆風を起こすべきだったか……ッ!?)
ベルトルトもよろけながらも立ち上がる。

「まだ立ち上がるか。だが、無駄な事には変わりない」
アーナスは冷たい瞳でアルーシェとベルトルトを見つめる。

「いい加減、貴様の血をもらうとするか」

再び盤古旛を発動させる。
吸血から逃がさないためだ。

「ぐぅああああ!!!!」
「あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」

―――ザッ!ザッ!ザッ!

「では、いただくぞ……む!?」
アーナスはアルーシェの腕についているのに気づく
「何だ……それは」

そう、アルーシェもまた支給品を装備していた。

「吸血するために貴方が近づいてくるのを待っていたんだ!」
アルーシェの叫びと共に支給品の一見鉄の棒が射出される。

―――バシュ

「ふん。このアーマーをそんな鉄の棒で砕けると―――ッ!?」

ドス

「なっ―――!?」
固い装甲に突き刺さるのは鉄の棒ではなく槍。

ヒュッ―――ピンッ

素早く、ロープを引き、起動させる。

―――カ

ドドォ!!!!!!

「うぐぁあああああ!!!!!?????」

雷が落ちたかのような轟音。

440辺獄平安公演 昼の部 ◆s5tC4j7VZY:2022/03/28(月) 00:18:07 ID:2SqFhHp20
左腕の巨腕にヒビが入った。
正体は”雷槍”
調査兵団の第4分隊隊長のハンジ・ゾエの要望を技術班が叶えた新兵器。
その威力は鎧の巨人の装甲を破壊する程。
アーナスのアーマーフォルムの装甲をも破壊せしめたのだ。

流石の威力にアーナスも堪えたのか再び、フォームチェンジが解除される。
そこをアルーシェは畳みかける。

「いい加減……思い出してください!!貴方は教皇庁の聖騎士(エージェント)で、聖女リュリ―ティスを救い、夜の君を倒した……アーナスだ!!!!!」

―――ドゴッォォォォ!!!!!

渾身の右ストレートがアーナスの顔面を殴る!!!

「はぁ……はぁ……はぁ……私は……怖い。
 貴方と殺し合うと自分が邪妖になるんじゃないかと思うから……」

今の一撃に精魂尽きたのか、アルーシェは倒れこむ。

(リリア……ルーエ。私の選択は正しかったかな……)

アルーシェは自身の行動を自問する。
今、アーナスの首を斬ろうとすれば斬れた。
トッペイから聴かされた八将神の情報。
八将神は確実に主催陣が用意した何かであることは間違いない。
おそらく、斃せば何かしら盤面が動くだろうと
しかし、アルーシェはその選択を選べなかった。
更けない朝を防いだ伝説の半妖だからとか、ここでアーナスを殺めたら、自分は妖魔になって後戻りできないのではないかと恐怖心といった理由からだ。

そして、アルーシェのこの行動の答えはこれからすぐに分かることとなった。

☆彡 ☆彡 ☆彡

441辺獄平安公演 昼の部 ◆s5tC4j7VZY:2022/03/28(月) 00:18:47 ID:2SqFhHp20
11章 LIVEへの鍵

「教皇庁……エージェント……リュリ―ティス……分からない……」
起き上がると同時にアーナスはブツブツと口に出す。
大事な記憶……だが、直ぐに掠れてぼやけて消えてしまう。

「あの人……苦しんでいるんだ」
苦しんでいるとなんとなくだが、察したみりあ。

「さとうさんも……ベルトルトさんも……アーナスさんも」

始めはさとうの行動にベルトルトの瞳に恐怖し、困惑した。
しかし、今なら分かる。

奪われた愛を取り戻そうと苦しんでいるさとう。
故郷に戻ろうと苦しんでいるベルトルト。
自我を失いみんなを傷つけてしまうのではないかと苦しんでいるアルーシェ。

「…じゃあ、その時まで……みりあもなにか、できることをしないと」

みりあの脳内に想起されるはベルトルトとの出会い。

「みりあにできること……」

幼きアイドルは必死に頭を働かせる。
考えろ。自分ができることを。
考えろ。アイドルだからできることを。
考えろ。ベルトルトさんにさとうさん……そして、アーナスさんを笑顔にする方法を。

「さとうさん」
「……何」

精神が落ちついたのか、さとうは自身から外れたDISCを再び挿入すると、立ち上がっていた。

「何か、甘いものでも持っていますか?あるのなら、みりあに渡してください」
そういうと、みりあはさとうに頭を下げる。

「意味がわからないんだけど?」
(それより……また、時間停止を感じた。あの時とはまた別人?)
さとうはみりあの申し出に怪訝な表情を見せる。
また同時にさとうは肌で直接感じた。

「ヨはノワール伯爵! 滅びのヨゲンの執行人にして、
 全てを滅ぼし消し去るものなり! ヨを打ち倒す覚悟を見せてもらおう!」

「させない!」

リリア―ナの刻を遅らせる能力の発動を感じた。
ただ、初めに感じたのと若干違うように感じたため、時間停止者が多くいることに辟易する。

(それに……”甘いもの”を渡せって)

甘いものを?
冗談じゃない。
甘いを他人に渡す気なんかおきるはずもない。
だけど……

―――チラッ

右腕の包帯……それが、楔となる。

はぁ……

さとうはため息をつくと、支給品の”甘いもの”をみりあに手渡す。

「包帯のお礼。それと、言ったからには結果を出して」
「はい!そして、ありがとう」
 さとうから甘い物……ハート形のチョコを受け取ると、前へ名乗り出る。

「……何だ。貴様も人間か。ならば、殺すまでだ!」
アーナスにとって余りにも力なき者だったためか認識されてなかった。
しかし、鮮血の場に出たのであれば、みりあにも八将神は、容赦しない。
だが、みりあはアーナスの言葉に怯まない。

「お願い!私に力をかして!!!」
叫ぶと自身の最後の支給品であるカードを掲げる。
カードはカッと光ると消滅し、代わりに道化師が姿を現す。

「ボンジュ〜ル。……ふぅ、それにしても、あっちこっちに呼び出されるとは流石の僕も予想できなかったよ」

442辺獄平安公演 昼の部 ◆s5tC4j7VZY:2022/03/28(月) 00:19:25 ID:2SqFhHp20

双子の悪魔にも吐いたが、やはり愚痴を吐くディメーン。
この場にいる彼らは知る由もないが、F-6のエリアで大規模戦闘が起こっており、巨大ロボを派遣した直後であった。

「それにしても……おやおや、僕を呼んだのはまたしても小さなレディーだとはね……これも奇妙な縁というやつなのかな。」
ディメーンは自身を召喚せし参加者が少女ということにあっはっはっと笑う。

「貴様は……邪魔をする気なのか?八将神の行為に。主催側が」
アーナスは主催側の望むように行動しているのに、結果として邪魔に当たる行為を行うことにいら立つ。

「んっふっふっ、悪いけどクレームは双子に言ってくれるかな。
 ボクはあくまで、管理者にすぎないからね」

アーナスの苛立ちにどこ吹く風といった様子のディメーン。
現状、彼は特定の参加者を贔屓するつもりはない。
そっけなく答えると、アーナスにはもう興味がないかの如く、視線を自身を呼びだしたみりあに向けられる。

「みりあに力を貸してくれるの」
「勿論、支給品にそのカードがあるのなら、ボクは平等に扱う」

みりあの言葉にディメーンは紳士を装うように立ち振る舞う。

―――パチン♪

軽快な音が弾ける。

「それじゃあ、小さなアイドルに幸あらんことを……」
自身の役目を終え、恭しく頭を下げるとディメーンは鮮血のステージから姿を消した。

ディメーンの手配によりみりあの傍に舞い降りたのは、ピョコンと生えたうさぎの耳にチェスの駒が描かれたスカートを穿く少女……ならぬ従魔。

アリス。

【うふふ……暴れてあげるわ〜〜】
可愛らしくも勇ましい従魔は、みりあにVサインを見せつける。

「よろしくね♪アリス!」
(カードに書かれていたことが本当なら……うん!これで、準備万端。お願いプロデューサー!!私を支えて!!!)

「みりあ……君は……今……何だ……?」
みりあの突然の行動にベルトルトは、問いかけるしかなかった。
ベルトルトの呟きに……みりあはニッと笑うと答える。

「みりあはね!苦しい人やつらい人を支える……アイドルだよ!」

……スゥ

息を大きく吸って吐くと……

歌を歌い始めた。

☆彡 ☆彡 ☆彡

443辺獄平安公演 夜の部 ◆s5tC4j7VZY:2022/03/28(月) 00:20:00 ID:2SqFhHp20
12章 初ライブ〜再開〜 わたぐも

「隣〜合わせ〜歩く公園」

「「「「なっ!?」」」」

みりあの行動に驚愕する4人。
そう、みりあが選択したのは歌うこと。
アイドルとして自分の歌を届けることを。
それが、みりあに出来ることだと。

「いつも〜と同じ〜 楽しい帰り道〜」
マイクも照明もないこの場は、ミニステージとはとてもじゃないがいえない。

しかし―――

「笑顔〜の中〜」
火災現場かつ血だまりのE-5は今、大きく場を変化させる。

「見付け〜たん〜だよ」

―――ガッ。

アーナスは頭を抱える。
まるで、何かを思い出されるためにだ。

「泣きそうな目と〜」

”蒼き血を湛える古き機構よ。
 移ろう時のごとく、流るる水のごとく、忌むべき血を、あるべき地へと送りだせ”

それは、祈りか歌か―――

「震えているエクボ」

「「「……」」」

さとう……ベルトルト……アーナスと聴かせたい顔を見ながら歌っている。

「両手のばして〜」
(さとうさん……みりあ、まだ愛とかよくわからないけど……甘いのはみりあも好きだよ
 !だから一緒にスイーツ巡りしよ!……そうそう、みりあ。食レポってやつやりたいな
 ー)

「背伸びをすれば〜」
(ベルトルトさん……みりあも帰りたい。帰ったらママやパパに思い切り甘えたい!だけど、何だかベルトルトさんの方が大人なんだけど、泣いているように見えるの。だからみりあがお姉さんになってあげる!……みりあ、妹がほしいなぁ)

「や……やめろ……」
ただの歌。
しかし、夜の君をも倒した伝説の半妖が狼狽を隠しきれない。

「心は晴れるから〜」
(アルーシェさん……自分を無くなるかもしれないって怖いよね……みりあ、幼稚園のお遊戯会で”お花のお姫様”やりたかったけど、やらせてもらえなかったんだ……「みりあちゃんは元気すぎるから」だって!周りの子はたまには自分を殺してみれば?といってくるけどみりあはみりあ。自分を失って手に入れたって嬉しくなんかないよね!だから、みりあは自分が大好き!アルーシェさん!みりあ、アルーシェさんが自分を見失わないよう応援するよ!)

―――ドクン

「だいじょーうぶーーー」
(アーナスさん……悪夢をみているんだね。大丈夫!みりあはアイドルなの!人が悲しん
 だり苦しんだりすることを楽しむ双子になんか、負けないから!だから……よかったら
 みりあのファンになってくれたら嬉しいなぁ……)

アイドルノセンリツ
―――それは救いの旋律。

モロクロの世界がサイリウムの輝くで染まる。

444辺獄平安公演 夜の部 ◆s5tC4j7VZY:2022/03/28(月) 00:21:05 ID:2SqFhHp20

「「「「「……」」」」

この場にいる全員唖然とする。
無理もない。
血と憎しみそしてモノクロームの世界が一変したのだから。

「その耳障りな歌声を今すぐ止めろ!!!」

アーナスは頭に響くそれを振り払おうと、ヨルドを容赦なく振るう。

「危ない!!!」
(しまった!?出遅れた……ッ!!!)
アーナスの凶行にアルーシェは一歩出遅れてしまった。

『私の優秀な部下を甘く見ないでもらえるかしら』

アリスにより、展開されたウサギ兵達が可愛らしくも勇ましい声が命を刈り取る刃を阻む。

「従魔風情がッ!!!」
『ふふ……そんなにカリカリするのはよくないわ』

アーナスの怒号にアリスはどこ吹く風。

「ならば……盤古旛!!!」
ボコ……ボコボコ……とアーナスの言葉に応じると黒いボールが分裂する。

『あら?いいのそれ使って』

―――ズン!!!

使用者であるアーナスの身体が沈む。

アリスの鏡の盾の効果である。
重力を跳ね返したのだ。

「ぐ……盤古旛!!!」
アーナスの呼びかけに応じ、盤古旛は動きを止める。

アリスはえへんとした表情で腰に手を当てる。
だが、アリスも予想外の行動をみりあは行う。

『ちょ……ちょっと!そんなに近づくと、いくら私でも守り切れないわッ!』

なんと、みりあは、自らアーナスの傍へ歩み始めたのだ。
アリスはみりあに警告を発する。
しかし、みりあは歩みを止めない。

(アリスちゃん……ありがとう。だけど、アーナスさんを助けるには、もっと……もっと!
 近づかないと!!!)

みりあ自身も自覚している。
死神の鎌に自分から近づいていることに。
だが、アイドルが聴かせる相手から距離を取るわけにはいかない。
今、ここで、潮対応をしたら、みりあは一生後悔する!!!

アー■ス! よ■った 本当■……

「リュリュ……?」

―――ズキン!

「私は……この女をしっている……?」

―――ズキン!!

―――寄宿舎にいたころは、よく■っていたよね

―――■、ダンス下手だったもの■。
―――■ー■■がつきっきりで教え■くれて……。
―――懐かしいわ。

―――ズキン!!!

「うああああああああああ!!!!!!!!!!」

445辺獄平安公演 夜の部 ◆s5tC4j7VZY:2022/03/28(月) 00:21:53 ID:2SqFhHp20

――――ザシュッ!!!!!!!!!!

「あ……」
貫かれた幼き身体。
誰の目から見ても致命傷。

「思い……切り顔を……上げたら、夕……焼けの空が……とても綺麗だよ」
だが、みりあは歌を止めない。

「明日も……ねぇ……一緒に帰ろう……」

歌い続ける。

「なっ!?」

流石のアーナスも驚愕に口を開け、顔を引きつらせる。

「手をそっと……つないでね」
届いた片手でアーナスの片手を握る。

「歩こう……よ。い……ま……」

「はぁ……はぁ……」
流石にもう歌う気力もないのか。
ここで歌は途切れる。

「ご……めん……なさい……あなたの怒り……憎しみ……。
 私の歌……じゃ、癒せないみたい……だね。
 だから……これ……あ……げるから、たべ……て」

みりあはさとうから受け取った箱から甘いのを一つ取り出す。
そして、アーナスの口内へ放り投げた。
みりあの言葉にアーナスは唖然として口を開けてしまう。

―――パク

ゴクン

アーナスの口内に小さいハートの固形状が流し込まれる。

そして、口の中で溶ける。
五臓六腑に染み渡る。
今でこそ嗜好品とされるチョコレートだが、遥か昔はチョコレートは薬として扱われていた。

”神の食べ物”とされるチョコレート。
それに含まれるカカオポリフェノールは血管の健康を維持する効能があるといわれている。
また、チョコレートには”吸血衝動を抑制する”効力を持ち合わせている。
アーナスもまた、チョコレートを摂取することで、吸血衝動を抑制していた。
無論、異なる世界のみりあがそれを知っていたわけではない。

「わ……私は一体……?」

祈りが込められたみりあの歌とチョコレートの相乗効果がアーナスの魂を縛る鎖を断ち切った。
みりあは弱弱しくも口元を弛ませる。

「うん……チョコレート、好きな……んだ……ね。みりあも……チョコ好きなんだよ」

アーナスの瞳を見つめる。
そして、手を握り語る。
ファンとの交流
みりあにとって最初で最後の握手会。
ゆっくりと瞼が閉じていく。
アンコールはない。
全力でやり切ったのだから。

「え……へへ……みりあ……ちゃんと……アイドルだったか……な」

コンサートの幕はこうして下りた。
幕が完全に下がるまで少女は笑った。
理由は問うまでもない。
赤城みりあは紛れもなく”アイドル”だった。
ただそれだけだ。

【赤城みりあ@アイドルマスター シンデレラガールズ  死亡】

446辺獄平安公演 夜の部 ◆s5tC4j7VZY:2022/03/28(月) 00:23:15 ID:2SqFhHp20

「……」
アーナスはみりあの死に顔を沈黙して眺める。
そして、丁重に下す。
眠った子供を起こさないようにゆっくりと。

「アーナスさん……正気に戻ったんですか」
「……目が覚めぬ悪い夢だった」
アーナスの狂気に満ちた目は鳴りを潜めており、アルーシェ達の前に立つのは優しい一人のエージェント。

―――だが

「……う゛ぐ゛っ!?」
「アーナスさん!?」
(そんな!?それほどまで、強く呪われているのか!)

しかし……辺獄の縛りは解放させない。
宿業を埋め込まれ魂を弄り回されて変容されし八将神を救うには”死”しかない。

「う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛〜〜〜〜〜!!!!!!」

再び繰り返される壮絶な苦痛を上げるアーナスの周囲に艶やかな蝶が周囲を包み込むとアーナスの体内へ。
そしてそのまま幾重にもの蝶になると飛び去って行った。

【??? /一日目/早朝】

【アーナス(歳刑神)@よるのないくに2 〜新月の花嫁〜】
[状態]:混乱・困惑(大)魔力消耗(中)、吸血衝動(低下中)、人間への激しい憎悪?、顔面打撲(中)
[装備]:魔剣ヨルド 盤古幡@封神演義
[道具]:基本支給品一色、不明支給品×1〜2
[思考・状況]
基本方針:『夜の君』としての本能に従い、人間を殺していく
1:?????
2:『人間』を見つけて殺す?。
3:小夜達(傘下)を利用する。
4:『人間』以外の参加者と出会えば、利用できそうなものであれば使役する
5:リュリュ……リュリ―ティス……その名が頭から離れない……ッ!!
[備考]
※参戦時期は暴走状態の頃からとなりますが、
 主催者からの改竄により「夜の君」としての理性だけは取り戻しております。
※また主催者の改竄により「大切なもの」を奪いとったものは、
 「人間」であったと認識させられていたのが、本当にそうなのか、懐疑的になりました。
※人間だった頃の記憶及び半妖だった頃の記憶については、欠落から時折、フラッシュバックするようになりました。
※ディメーンとのやり取りから主催陣に懐疑的な感情が芽生えました。
※フォームチェンジは魔力と引き換えに連続して使用可能

【盤古幡@封神演義】
アーナスに支給されたスーパー宝貝。
黒いボール状の形をしていて、使用すると分子構造のように分裂する。
使用することで局地的に重力を発生させることができる。最大出力は1000倍で空間が歪み、内部に居るだけで骨折するほどの威力だ。
制限により最大出力は一日二回とされている。

☆彡 ☆彡 ☆彡

447辺獄平安公演 夜の部 ◆s5tC4j7VZY:2022/03/28(月) 00:24:28 ID:2SqFhHp20

13章 一人に捧げる愛 皆へ捧げる愛 正しきは―――

「……」

―――ぐじゅっ

「……っ!」
ツウ―――と細い一筋の血が流れる。
無意識のうちに下唇を噛んだのだろう。

「……」

あの子……アイドルは皆を愛する。
皆同じで 一番はない。
特別が無い。
それは、先のコンサートで証明している。

でも、それって”愛”といえるの?

私はしおちゃんが好き。
ううん。しおちゃんだけが好き。
私の愛は―――特別はただ一人。
しおちゃんだけだ。

だから、その愛は間違っている。

否定したい。否定しなくちゃ。
”おばさん”に近い愛の形を。
でも、強く―――はっきりと否定できない。
だって、あの子が歌ったあの瞬間は、紛れもなくカラフルで色づいた。
しおちゃんと私の2人だけのハッピーシュガーライフに負けないぐらいの彩りを見せつけられた。
私としおちゃんは唯一無二。
だけど私はおばさんの愛を否定できるほど、胸を張って自分の”愛の形”をまだ見つけられていない。
私を満たし足りない。
揺らぐ。

揺らぐ揺らぐ揺らぐ揺らぐ揺らぐ揺らぐ揺らぐ揺らぐ
揺らぐ揺らぐ揺らぐ揺らぐ揺らぐ揺らぐ揺らぐ揺らぐ揺らぐ揺らぐ揺らぐ揺らぐ
揺らぐ揺らぐ揺らぐ揺らぐ揺らぐ揺らぐ揺らぐ揺らぐ揺らぐ揺らぐ揺らぐ揺らぐ揺らぐ揺らぐ揺らぐ揺らぐ
揺らぐ揺らぐ揺らぐ揺らぐ揺らぐ揺らぐ揺らぐ揺らぐ揺らぐ揺らぐ揺らぐ揺らぐ揺らぐ揺らぐ揺らぐ揺らぐ揺らぐ揺らぐ揺らぐ揺らぐ

間違っているのはどっち?
あの子の愛?それとも私の愛?

☆彡 ☆彡 ☆彡

448辺獄平安公演 夜の部 ◆s5tC4j7VZY:2022/03/28(月) 00:24:48 ID:2SqFhHp20

14章 自己愛……その正しさは

「……」

みりあから聞いたアイドルという職業は踊り子の範疇としか感じなかった。
この殺し合いには影響を与えない。
自分のような戦士とはかけ離れた存在だと。
だが、違った。
アイドルは踊り子ではなかった。
立派な”戦士”だった。

「羨ましいよ……自分の命より大事なものがあって……」

あのまま、アリスなる従者に守られつつ距離を取りながら歌えば、命を落とすことはなかったはずだ。
だけど、みりあは違った。
近づけば近づくほど危険が高まるのに自分の命を危険にさらし、結果命を落とした。
おそらく、みりあにとってアイドルという戦士は自分の命より大事なものがあったのだろう……
僕はみりあとは違う。
同じ戦士でも、自分の命が一番だ。
ライナーのように真っ先に一番危険な役回りを引き受けることはしない。
そこで命を落としたら夢を叶えることができなくなるからだ。

(僕は……僕たちは生き延びて故郷に帰りたい……っ!)

そう……その一念で任務に努めている。
訓練兵として共に過ごしていた同期のエレンから母の死を聞いたとき、”気の毒”だと心から思った。
また、かつてライナーがエレンに自分達の正体を告げたときは、体に戦律が走った。
そして、正体を明かした結果、恐れていた通り”裏切り者”と罵られ、憎しみをぶつけられ、僕は泣き言を喚いた。

松坂さとうのおかげで覚悟は決まっていた。
この場に呼ばれる前、大切な仲間だからこそちゃんと殺そうと思っていた。
だけど、あの歌声を聴いていたら、ふと、別の未来が浮かんでしまった、。

任務も全て幻で同期の仲間達とおっさんになるまで生きて酒を飲み合う未来が。

―――みりあなら血にまみれた僕らを救ってくれたかもしれない。

だが、もうそれは叶わない。

あああ―――

あああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

僕は心の中で叫ぶ。
どうして――――

世界はこんなにも惨酷なんだ。

☆彡 ☆彡 ☆彡

449辺獄平安公演 夜の部 ◆s5tC4j7VZY:2022/03/28(月) 00:25:28 ID:2SqFhHp20

15章 単凸〜碧い血特訓〜

「……」

とても、素敵な歌声だった。
いつまでも耳を傾けていたいほど。
だけど、もう聴けない。
歌姫は去ってしまったからだ。

「アーナスさんが手にかけることになったのは、私の所為だ」
教皇庁の聖騎士として私は何もできなかった。
暴走状態のアーナスさんを救うことも。
庇護すべき参加者であったみりあと呼ばれていた歌姫の盾となることも。
結局のところ、私の心の中に恐怖心が残っていたからだ。
アーナスさんとの初戦闘の際、私は恐怖した。
アーナスさんのように我を失い、皆を傷つけてしまうことに。
剣を突き付けてしまうことに。

”誰かを手にかける前に殺して……ってアルに頼むわ”

リリアに相談した夜。
リリアは自分なら……と答えた。
それを聴いて私も、もしもの時は私を殺してくれとルーエに頼んだ。
そのような願いは共にエージェントを目指したルーエにしか頼めないから。

”そんなことにはならない。私がアルを守る。そのために強くなった”

ルーエはそう言ってくれたけど、私は怖かった。
そして、その怖さがこの結末だ。

―――バシンッ!!!!!

私は思い切り、自分の頬を叩いた。
これは、ケジメ。
恐怖心に打ち勝てなかった自分に対する。

「私は、殺し合いを止める」

それは、当初からの方針。
だけど、その意味合いは大きく変わった。
私は走り続ける。
この明けない霧の辺獄を。
そして奏でる。
自分の生きる音を。
あの可愛らしい歌姫への返歌のために。
それが私にできる鎮魂歌。

☆彡 ☆彡 ☆彡

450辺獄平安公演 夜の部 ◆s5tC4j7VZY:2022/03/28(月) 00:26:03 ID:2SqFhHp20
16章 フラッシュ

「あかりさん!」
「……あれは?」
(青い……モルフォチョウの一種かしら?)

モルフォチョウ。
北アメリカ南部から南アメリカにかけて生息する蝶の一種。
翅の表面にある光沢は青色で発色する。
トッペイの指さす視線に映る蝶の一団にアカリはとっさに自分の世界に生息する蝶を連想する。
やがて3人が現場に到着する。

―――ザッ

「どうやら、遅かったみたい……」

キヨスの言葉通り。
既にコンサートの幕は下りていた。

※みりあの遺体の傍に細谷はるなのPDA・包帯……茨木華扇の包帯・従魔アリス・みりあの基本支給品が傍にあります。

【E-5 火災現場/一日目/早朝】

【ベルトルト・フーバー@進撃の巨人】
[状態〕:右鎖骨が砕けている、右手首に切り傷、精神的疲労(大)、苦悩、右腕骨折(処置済み) 負傷(大)
[装備〕:ブレード、ブレードホルダー&付け替え刃@進撃の巨人 刃鋼線@魁!男塾
[道具〕:基本支給品、ランダム支給品×1
[思考・状況]
基本行動方針:参加者の殲滅・優勝。もしアニが生き残っていたら…
1:僕は……どうして、世界はこんなにも惨酷なんだ
2:取り合えず、自身が中心となり対主催者の集団を作る。
3:参加者が最も集まったと思った頃合いを見て超大型巨人になり、エリア一帯を爆破・踏み潰す。
4:定時放送で神戸しおが死んでいた場合、手段は問わずさとうは葬る。
[備考]
※参戦時期は原作第78話、超大型巨人に変化する直前の参戦です。
※さとうの守護霊の能力が時間停止だということを把握しました。
※大きなダメージを受けるとDISCが出ることを把握しました。
※みりあの歌を聴いて、苦悩するようになりました。

【刃鋼線@魁!男塾】
ベルトルトに支給された目に見えぬほど細いが恐ろしいほど鋭く研ぎ澄まされた刃物のような鋼線。
本来の使い手は戮家殺人拳の使い手で刃鋼線を使った奥義を使えるが、ベルトルトは拳法家ではないため、奥義は使用できない。
その代わり、そつない身体能力で刃鋼線を自在に操作することは可能。

451辺獄平安公演 夜の部 ◆s5tC4j7VZY:2022/03/28(月) 00:27:08 ID:2SqFhHp20
【松坂さとう@ハッピーシュガーライフ】
[状態]:愛に対する情緒不安定(大)、精神的疲労(中)、負傷(中) 右腕に切り傷(包帯を巻いている、処置済み)顔の頬に返り血
[装備]:ザ・ワールドのDISC@ジョジョの奇妙な冒険
[道具]:基本支給品 ランダム支給品×1(確認済み、武器以外がある)
[思考・状況]
基本方針:しおちゃんを見つける。この愛が正しいってことを知りたい。
1:しおちゃん……会いたい……
2:世界をモノクロにする無駄を排除する。
3:ドミノ・サザーランドを探す。モッコスは確実に殺す。
4:ベルトルトに対する嫌悪。
5:時間停止能力を持ってる人は他にもいるので警戒。
6:正しいのはあの子の愛?それとも私の愛?
[備考]
※参戦時期は1巻で先生を『説得』した後
※エスデス・リリア―ナの時間停止能力を感じました。
※大きなダメージを受けるとDISCが出ることを把握しました。
※みりあの歌を聴いて、自分の愛の自信が揺らいでいます。

【手作りチョコレート2021@アイドルマスター シンデレラガールズ】
スタミナが100回復する手作りチョコレート
みりあに譲渡し、アーナスへと使用されました。
みんながLIVEに来てくれるのは、特別な思い出をつくりたいからだよねっ。私も特別なバレンタインの思い出、ほしいなー!
ほら、これ、プロデューサーチョコと、みりあチョコ!そっくりでしょ?これをふたつ、くっつけてー。
上にホイップで、ハートマーク♪ほらほら、とーってもなかよし!今年だけのスペシャルチョコ、いっしょに食べようねby赤城みりあ

452辺獄平安公演 夜の部 ◆s5tC4j7VZY:2022/03/28(月) 00:27:27 ID:2SqFhHp20
【アルーシェ・アナトリア@よるのないくに2 〜新月の花嫁〜】
[状態]:負傷(大) 疲労(大) 後悔と決意
[装備]:烈風丸@ストライクウィッチーズシリーズ 雷槍@進撃の巨人(左右の腕に射出装置がついている)
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×1
[思考・状況]
基本:殺し合いには乗らない。
1:あの歌姫のためにも、私はもう後悔しないために動く
2:リリア、それにユズとはるなの知り合いを探す。
3:次、アーナスさんと対峙したら迷いなく斃す
4:獣かぁ。気を付けておかないと。
5:リリア……会いたいな
[備考]
※参戦時期は六章、クリストフォロスとの会話〜アーナスの理性を取り戻す前。
※活動制限に関しては後続の書き手にお任せします。
※トガビトノセンリツ、リベリオンズ、ブルーリフレクションの情報を得ました。
 ただしリベリオンズはDルートの為、充、琴美以外の人物の情報とは話が合いません。
 途中までであれば結衣とは話が合います。
※殺し合いに乗った人物並びに八将神と対峙したときは、迷いなく斃す決意を決めました。
※トッペイの情報交換でクライスタ、緑郎、カイン(名前は知らない)の情報を得ました。
※八将神の情報を得ました。
※みりあの歌を聴いて、殺し合いを止める障害の参加者は斃す決意を定めました。

【烈風丸@ストライクウィッチーズシリーズ】
扶桑軍人である坂本美緒が自ら魔力を込めて作刀した扶桑刀。
刀身自体がシールドの役割を果たす。
加速と共に魔力を込めた状態で一気に振り下ろすことで”烈風斬”という必殺技を放つことが出来る。ただし、魔力を持つ者にしか発動はできない。

【雷槍@進撃の巨人】
対鎧の巨人対策のために開発された兵器。
初お披露目の際エレンからは”鉄の棒?”と評されたが、その威力から雷槍と名付けられた。
長さ1メートルほどの細長さ。
腕に射出する装置をつけ、アンカーを打ち込み雷槍を目標に突き刺し、ロープを引き起爆させることで爆発する仕組み。
距離が近いと自らも爆発に巻き込まれるため、扱いには注意である。
鎧の巨人の装甲を打ち破ることができた対巨人兵器としては最高峰といえるだろう。
6本支給され、現在は残り5本

取り返してやる。お前らをぶっ殺して……お前らに、奪われたすべてを……byエレン

453辺獄平安公演 夜の部 ◆s5tC4j7VZY:2022/03/28(月) 00:28:05 ID:2SqFhHp20
【清棲あかり@へんなものみっけ 】
[状態]:健康
[装備]:ポケモン図鑑@ポケットモンスター モンスターボール×8 ひかりのドレス@ドラクエ7
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1 Eー3かねでの森博物館から持ってきたフィールドワークや解体用の道具(双眼鏡・ハイヒール(大型動物解体・調理用刃物)など) 火山灰(一人分の量)@血と灰の女王
[思考・状況]
基本方針:参加者たちの生きた証を記しこの殺し合いの出来事を風化させない
1:伯爵さまを探しつつエルピスと行動を共にする※ 南側EFGHを中心に
2:参加者の生きた証を集め、もしもの時は”託す”※作業の中心はポケモン図鑑に登録
3:ロック・鬼くびれ大羅漢(金髪の外人)に注意する
4:二日目の昼にはE-3のかなでの森博物館へ戻り、ギャブロ君達と合流して手にした情報を交換する
5:首輪の解除方法がないか、探しつつ考える
6:たどり着いた現場E-5の人達と情報を交換する
[備考]
※参戦時期は原作1話 事故死したカモシカを博物館に持って帰ったところ
※ロックの危険性について知りました。征史郎との会話から爆発させる能力はスタンドの力ではないかと推測しています。
※マネーラ・ギャブロ・藤丸立香の世界について簡単に知りました。
※パンドラボックス(エルピス)に戦闘の指示を出すことが可能となった。
※トッペイとの情報交換でクライスタの世界観を大まかに把握しました。
※征史郎との情報交換でリベリオンズ、ブルーリフレクション、よるのないくに2の情報を得ました。
 ただしリベリオンズはDルートの為充、琴美以外の人物とは話が合いません。
※トッペイの治療により、本来の服装であるパーカーを足りない包帯代わりに使用しました。
※トッペイの治療でかなでの森博物館から持ってきたフィールドワーク用の包帯は使い切りました。治療に使える薬はまだあります。

【パンドラボックス(エルピス)@ドラゴンクエスト7】
[状態]:モンスターマスター(キヨス)に懐いている 健康 トッペイを舌で巻き付けている
[装備]:トッペイ@バンパイヤ
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1(強力な武具やアイテムです。)壊砲ティシア@ファンタシースターオンライン2
キングラウザー@仮面ライダー剣
[思考・状況]基本行動方針:マスターを守る
1:マスター(キヨス)と行動を共にして守る
2:征史郎とまた再会出来たら舌でぺろぺろ舐めたい
3:トッペイをうっかり齧らないように気をつける
※参戦時期は宝箱(パンドラボックス)を調べられる前
※キヨスの命名により”エルピス”と名付けられました。なお、名簿の記載に変化は起きません。
使える呪文 ザラキ マホトラ あまい息
※ザラキは参加者が”精神的に不安定” ”体力・気力が果てるような状況”などでないと効果が効きません。
※舌でトッペイを巻き付けて共に移動をしています。

【キングラウザー@仮面ライダー剣】
仮面ライダーブレイドキングフォームが操る大型剣。
内部にある”バリアシステム”で生成されたエネルギーバリアフィールドを放出することで、外部からの衝撃から保護する。また、敵の攻撃を防ぐ盾としても使用できる。
切れ味はブレイラウザーの3倍。まぁ、めっちゃ切れるということ。
重醒剣DXキングラウザー¥7,700(税込)
オートラウズシステムでラウズカードを自動で読み取る。5枚のコンボで必殺技が発動!!102種のラウズカードを読み取り可能で31種の台詞と12種の音声が鳴る!byBAN■AI公式サイトより

454辺獄平安公演 夜の部 ◆s5tC4j7VZY:2022/03/28(月) 00:28:50 ID:2SqFhHp20
【立花特平/トッペイ@バンパイヤ】
[状態]:負傷(大)、全身激痛(和らいできている(中)) 全身包帯並びにパーカーの生地、焦げ気味、エルピスに舌で巻き付けられている
     あかりさん……ぽーっ
[装備]:焦げ気味のエマの帽子@ラブライブ! 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会
[道具]:目隠し@現地調達
[思考・状況]
基本方針:千さんの意志を継いで殺し合いを止めた後、マンガ映画を作る。
1:エルピスに巻き付けてもらう形で移動をする
2:たどり着いた現場(E-5)にいるアルーシェさん達と会話する。
3:千さんの仲間である零、彼女の妹であるみらいを探す。(ただみらいは用心する)
4:ロック、アナムネシスに警戒。
5:八将神のことを他の人へと伝える。
6:千さん……
7:白い服の人(カイン)は無事なのか。
8:あの人(姫和)を止めないと。
9:あかりさん……っとと、チッペイにこの顔を見られたら、茶化されるな
[備考]
※参戦時期は第一部終了後。
※八将神の存在を知りました。
※ロックが幽鬼ではないかと推測してます。また、ロックが現在、爆発させる能力を得ていることを知りました。
※千との情報交換でクライスタの世界観を大まかに把握してます
※アルーシェとの情報交換で彼女の同行者の名前だけ伝えられてます
※キヨスからマネーラ・ギャブロ・藤丸立香の情報を得ました。(簡単に)
※キヨスから二日目の昼にE-3にあるかなでの森博物館に人が集まる情報を得ました。

【従魔アリス@よるのないくに2】
みりあに支給された従魔。
ウサギ兵の展開と魔法攻撃を跳ね返す鏡の盾を使用する。
意思疎通は可能だが、あくまで支給品。使用者の命令には逆らえない。
現在はみりあが死亡したため、所有者は空白となっている。
『一番強そうな人にすり寄りましたね……』byカエデ

【茨木華扇の包帯@よるのないくに2】
みりあに支給された包帯。
茨木華扇が右腕に巻いていた包帯。さとうの治療に使用されたが、まだまだ包帯として使える量がある。
華扇は右腕に巻かれた包帯を操り、相手を包んで投げたり、龍の形にしてゴバーッとしたが、当然、普通の人間はそれを巻いてもそんな利用方法はできぬ。
「私の理念は天道と共にある!」by茨木華扇

☆彡 ☆彡 ☆彡

455辺獄平安公演 閉演 ◆s5tC4j7VZY:2022/03/28(月) 00:29:22 ID:2SqFhHp20
17章  緑天井

八将神を救うべく一人のアイドルが歌ったコンサート。
それを彼らが知ることはない。
そんな一幕。

「へへ、これで私もユウナとお揃いだね♪」
「はぁ……ったく物好きね。しなくていいわよと言ったのに」

ふんふふ〜ん♪と上機嫌で歩くレオーネを余所に私は眉間に手を置きながらため息をつく。
新たに仲間に加えたレオーネの元々の髪の色は黄金に輝く綺麗な金色だった。
世界が世界ならブロンド美女の一人。
その髪質に魅かれる人は多くいたはずだが……
当の本人は全く気にすることなく”緑髪”になれたことに満足気だ。

「そりゃあ、私だけ仲間外れは勘弁に決まっているからね。どうだい?ミスターL、似合うだろう」
「ああ!とってもイカす髪になったな!」

当のレオーネは自身の金髪に未練はない様子。
そして、自身の決断が間違ってないかと確認するためにミスターLに同意を求める。
ミスターLはレオーネの尋ねにサムズアップして快活に答える。

「あんたは緑なら手放しで喜ぶでしょ……」
「それは、当然だ!緑こそ至高のカラーなんだからな!」
「……はぁ」

予想通りの返事に私は頭を抱える。

(早く、まともそうな思考の参加者と出会いたいわ……)
勿論、自分の目的に手を貸してくれる二人には感謝しかない。
ただ、緑一筋のミスターLとノリが強すぎるレオーネ相手は疲れる。

「ユウナ」
「何?どうかした」
「そこの物陰に人がいる。出てきな。3秒以内に出てこなければ、敵と判断するよ」
ナイトレイドの一員として帝都の闇に紛れていただけあって、勘は鋭いようだ。
さっきまでのゆんだ空気は瞬時消えて、その眼光は闇の暗殺者に代わる。

「……降参だ。ジュネーヴ条約に則った人道的な対応を要求する」
バンザイしながら物陰から出てきたのは、私と同じ年頃の少年だった。

「ふっふっふっ〜。それはこちらの気分次第かな〜〜」
「こら、怖がらせないの」
私は軽くレオーネの頭にチョップする。

「冗談だって〜〜。ところでユウナ。ジュネーヴ条約って何だい?」
「オレもそんな条約は知らん!」
「ああ……もう、わかったわ。後で説明するから、ちょっとだまってなさい」

おーしえろ!とせがむ2人をあしらう。
それにしても、ジュネーヴ条約って言葉を使うぐらいだから、やっぱり彼は私と同じ世界のようね……

「ふむ……」

私達のやり取りから危険を感じないと判断したのか、いつの間にかバンザイポーズを止めて、観察しているようだ。
やがて、彼は口を開く。

「ところで緑軍団と情報交換するためには、僕も緑髪にしないといけないのだろうか?」
「しなくていい!」

はぁ……私の周りってこういうのしか集まらないのかしら

【D-3 南部/一日目/早朝】

456辺獄平安公演 閉演 ◆s5tC4j7VZY:2022/03/28(月) 00:30:46 ID:2SqFhHp20
【ミスターL@スーパーペーパーマリオ】
[状態]:健康、
[装備]:無し
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考・状態]
基本:悠奈のバカバカしい生き方とやらで主催共を叩き潰す
1:ユウナ・レオーネと行動を共にする
2:伯爵サマたちは一体何処にいるんだ?
3:ヒーロー……か
4:レオーネ!その緑髪とてもイカしてるぞ!
5:ユウナ!ジュネーヴ条約って何だ!?
[備考]
※参戦時期は6-2、マリオたちに敗北した直後
※悠奈からリベリオンズの世界について簡単な知識を得ました。
※名簿から伯爵さまたちが参加していることを知りました。
※悠奈から”拳銃”の脅威を知りました。
※レオーネからアカメの世界について簡単な知識を得ました。

【藤堂悠奈@リベリオンズ Secret game 2nd Stage】
[状態]:健康 緑髪
[装備]:コルトパイソン@ リベリオンズ Secret game 2nd Stage
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜2 予備弾数多め
[思考・状態]
基本:なるべく多くの人を助け、殺し合いを止める
1:ミスターL・レオーネと行動を共にする
2:目の前の男の子と情報交換を行う。……てか、私の周りに集まるのってこういうのばかりなのかしら
2:彰……私は……
3:殺し合いに乗っていない参加者達を一つにまとめる。乗った参加者は無力化して拘束する
4:もう少し、威力が低い銃もほしいわね……あと、逃走用の対策も練らないと……
5:たとえ、どんな状況でも挫けず信念を貫く
[備考]
※参戦時期はAルート、セカンドステージ突入語で修平達と別れた後
※緑髪に染めました。
※運営が死者を蘇らせる力を持っていると推測しています。
※ミスターLからスパマリの世界について簡単な知識を得ました。
※レオーネからアカメの世界について簡単な知識を得ました。
※金髪の男は簀巻きにするとケツイしました。

【レオーネ@アカメが斬る!】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(小)、緑髪
[装備]:ホープナックル@グランブルーファンタジー
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜2(確認済み、ライオネルなし)
[思考・状況]
基本方針:メフィス達、覚悟できてんだろね。
1:民の為にもう一度戦いますかね。正義のマッサージ師として。
2:アカメを探……さなくても大丈夫だよね。親友を信じろって。
3:帝具なしでエスデスとかは会いたくねーな! あっても会いたくねーな!
4:優勝するしかなくなったらどうしよ。いや、正義のヒーローが勝つって決まってる。
5:ねぇユウナ。ジュネーヴ条約って何?
[備考]
※参戦時期は死亡後(アニメ版意識ですが漫画版でも問題ないです)
 ただ漫画版であればライオネルと少し融合してるため状態表が変わります。
※悠奈からリベリオンズの世界について簡単な知識を得ました。
※ミスターLからスパマリの世界について簡単な知識を得ました。
※悠奈と同じ緑髪に染めました。

457辺獄平安公演 閉演 ◆s5tC4j7VZY:2022/03/28(月) 00:31:04 ID:2SqFhHp20
【城本征史郎@トガビトノセンリツ】
[状態]:精神疲労(小)、ダメージ(中)、頭に包帯が巻かれている、
[装備]:スティッキィ・フィンガーズのDISC@ジョジョの奇妙な冒険
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜2(夕月×0〜1確認済み、はるな×0〜1確認済み、武器になりうるものではない)、スフォリアテッレ(箱入り)@クライスタ、伊藤大祐の首輪
[思考・状況]
基本方針:殺し合いに反抗する。
1:はるなの遺志を継ぐ。
2:目の前の緑軍団と情報交換を行う。
3:はるな、夕月、アルーシェの知り合いを探す。特に城咲充優先かつ、前者二名の知り合いには謝っておきたい。
4:スタンドでできることを試そう。できて当然と言う認知が大事だ。
5:ついでにスタンドを使える奴がいるか探す、或いは警戒をしておく。
6:あっさりと終わったが、これでいい。語られなかった物語とは、そういうもので。
7:生きたまま首輪が外せるかを乗った参加者で試す。できないとは思うが。
8:首輪について調べておく。
9:……ふむ、生きて帰れたら生物学でも齧ってみるとするか。あ、パンドラボックスの齧るとは別の意味だ
10:二日目の昼にかなでの森博物館へ寄るとするか。互いに生きていればの話だが。
[備考]
※参戦時期は死亡後です。
※リベリオンズ、ブルーリフレクション、よるのないくに2の情報を得ました。
 ただしリベリオンズはDルートの為充、琴美以外の人物とは話が合いません。
※おおよそスタンドでできることを把握しています。
※マネーラ・ギャブロ・藤丸立香の情報を得ました。(簡単に)
※キヨスから零の情報を得ました。(外見と妹を探していることについてのみ)
※二日目の昼にE-3にあるかなでの森博物館に人が集まる情報を得ました。
※ロックの危険性について知りました。※爆発させる能力はスタンドによるものではないかと推測しています。

458辺獄平安公演 閉演 ◆s5tC4j7VZY:2022/03/28(月) 00:32:15 ID:2SqFhHp20
18章 そしてdread answerまで後僅かへ

「……つまらないなぁ」
静かな声。
一見、退屈そうに聞こえる声音。

しかし―――

―――明らかに苛立ちが入り混じっている。

先の結末に不満を隠しきれない。

―――スッ

フェレスは立ち上がると、苛立ちを表すかの如くカツカツと音を高く鳴らして歩きだす。

「ん?何処かへ行く気か?」
移動しようとするフェレスの様子にメフィスは首を傾げる。

「うん〜。口直しに鬼門でも封じにいこうかと〜。
 あれをほおっておくわけにはいかないからね……」

フェレスはメフィスに顔を向けずに話すと、立ち去る。

「なんじゃ、結局お主も行くんじゃな。
 そうそう、行くなら、その不服そうな表情を気取られないようにな」
メフィスは背を向けるフェレスへ言葉を投げかける。
フェレスから返事は来なかったが、そこは大丈夫だろうと思うことにした。

(それにしても……一瞬とはいえ、我らのプロデュースから解放したとは……)

人間なぞ、所詮は神の創りし慰み者であり、悪魔の玩具でしかない。
だが、取るに足らない慰み者が八将神として弄った夜の君を一瞬とはいえ正気に戻した。
その事実にメフィスは気づかないうちに下唇を噛んでいた。

かくして、アイドルデビューした少女の最初にして最後の公演は終了した。

そろそろ、第一回の放送が近づく。

459辺獄平安公演 閉演 ◆s5tC4j7VZY:2022/03/28(月) 00:34:14 ID:2SqFhHp20
投下終了します。

460 ◆EPyDv9DKJs:2022/03/28(月) 06:02:26 ID:ES82upN20
投下お疲れ様です
まずは忘れてたので放置してた感想から

>星屑ロンリネス
悪い意味でそれでも前へと進む、
クライスタの序盤における零らしさがあります
キヨス、全編を通しても一番大人してるなぁって
大人としての責任感と言うか包容力と言うか、
そういういい意味で年季の違いってところが感じられるのもいいですね
でもマネーラは伯爵の死がある以上どうなるか。アタシやさしくないのになるのかな
エルピスはマスコット。イイネ

>嵐を呼ぶ瀬辺獄平安大合戦
十六人、圧倒的な人数による八将神大決戦
実質劇場版クレヨンしんちゃんですね、これは!
オールスター。詰め込みすぎて最早クレヨンしんちゃん好きの人でないと、
分からないぐらいの山盛りの要素は楽しめない一方で楽しめてるなら最高の一言になるでしょう
まさに群像劇。数多の世界と数多の人物が織りなす大合戦の第一陣は驚くべことに死者ゼロ、
しかし次なる第二陣、しかもこのロワでも最強クラスの一人。果たしてどうなるか
子供たちが活躍し、大人がそれをサポートした。だから、次は大人たちの出番だ

>揺れる廻る振れる切ない気持ち
貴真が貴真しておりますなぁ
基本的には正論ではあると言うのが厄介で、
政も敵にしか出会ってないのでこれが擁護できないところもある
近くには悠奈もいることですが、彼もどうなってしまうのやら
奇しくも他のメンバーが一年後のシークレットゲームと出会っており、
ひょっとしたら彼も? と言うちょっとしたジンクスに期待してたりも

>辺獄平安公演
やっぱアーナスツエエエエエ!!
DISC、強みはあるんだけどこれなんですよね
自分はすっかりそこの点を書いてないのでそこ拾ってくれたのはありがたい限りです
八将神Pと言う斜め上なものが出てきたりで面白い呼び方も中々いいと思いました
双子ってそういう妙にユーモアと言うか現代的なのを使うことありますから(スマホ使うし)

征士郎の語り方がもうほんっとうに原作そのまんまで滅茶苦茶笑いました
真面目なことをしながら鬼くびれ大羅漢とか随所にネタが挟まれていて、
ああこれだよこれ、こういう奴なんだよとウンウンと唸りながら見ました
このどこか哀愁の漂いつつ、どこかふざけていて、しかしちゃんと考えてる。
征士郎と言う人物のらしいって部分が一杯あってたまりません
キヨスの変わらず頼れる大人と言う風格もまたグッド

>あの双子に”どうも、クソゲーを遊ばせてくれてありがとう”と鼻で笑ってカンチョ―することだ。

此処最高に好きです

アイドルがアイドルをしているのも特にいいなって思いました
歌って、踊って。人を笑顔にする。それがみりあの最大の武器ですから
酷い目に遭いながらも、不安に思う相手でありながらもさとうのことを、ベルトルトのことを考える
とても優しい子供であり、少女であり、アイドルだなと強く感じました
だからこそ、アーナスの心を。命懸けの踊りと、歌と、そしてチョコレートで
八将神による記憶の上書きで元来の暴走状態と違って多少脆くなったのかもしれない、
本来は指輪でなければたどり着けなかったところへと、彼女は偶然にも至れた
でもシンデレラの魔法は一夜限りの魔法。次はなく、彼女だけが斃れることに
此処がとてもいいと思います。一時的にアーナスが戻れたものの、宿業からは解放されないのが、
八将神の恐ろしい所だと思いましたね……悲劇以外での回避など許しはしないと

いやまさかの緑チーム増えるんかい!
常識人が少なすぎて悠奈さんの胃がマッハ!
しかも追加する奴も濃すぎるメンバーである!
突然のオチを前に、しんみりとした空気が引っ込んで笑いました

長編お疲れ様……と言いたかったのですが
いくつか、と言うより結構な数なので恐縮なのですが気になったところが
長々となりますが何卒おつきあいください

461 ◆EPyDv9DKJs:2022/03/28(月) 06:03:35 ID:ES82upN20
・アーナスの時間停止の認識
以前氏の『平安京での狂騒』の時にの善VSエスデスの際は、
『凍らせる』とのニュアンスから察していたので気にしませんでした
ただ今回については時間停止を二回だけで察するのには少々違和感があります
私もよるのないくにの一作目をしっかりやりこんでいるわけではないので、
時間停止ができる敵がいて、だから思い至ったとかであれば別なのですが……
とは言えこれは私がアーナスに対する解釈の問題ではあるとは思いますので、
氏のアーナスに対する見解では「できる」と言う解釈でありましたら失礼
ただ、時を止めると言う概念が存在していない中で、
二回みただけで『時を止めた』と言うのは少し引っかかるかなと

・時間について
アルーシェ、アーナスはE-5には深夜帯のバアルの攻撃を見てやってきているので、
深夜〜黎明になったばかりで三人しか出会ってないトッペイが情報交換に数時間、と言うのはあまり想像できません
戦闘が数時間に及ぶほどの戦闘、と言える程の展開であるわけでもないので時間帯的には黎明が正しい気がします
ただ、黎明にすると今度はあかりと征四郎が出会う〜トッペイに出会って現場へ急行、
と言う展開そのものも少し急すぎていて、気になってしまうところではあります
これについては私が思う時間の進み方とのイメージが違うだけなので、
別に修正するべきところでもないとは自分でも思う次第ではあります
細かく言うことではないと思いますが……念の為言っておくべきかなと

・ディメーンについて
ディメーンは基本的に監視ルームに(支給品の手渡し除く)いますが、
そこにいずに双子と様子を見に来た際に一切の言及をしてこないと言うのは少し気掛かりです
勿論双子はあのような性格なので多少雑に考えてること自体はあり得ないわけではないので、
言及しなかったとしても特別おかしいものではありませんのでこれについては些事に近いです
ただ、『とうとう出向いた』と言ってましたがディメーンの支給品手渡しは、
初登場『束の間の休息と新たな道筋』の黎明なので特に問題がないのですが、
前述のとおりの早朝なら完全者、アリサとすでに何度も出てるので、
『とうとう』と言ういい方には少し引っかかってしまいます
これらは台詞を差し替えればさして問題ないので、
少し突っかかりすぎとは思ってます。すみません

また拙作『dread answerまで後僅か』ではディメーンが、
大型の支給品を送っただけと明確には言ってませんが、現在大型で早朝に出たのはエルガンダーのみ、
作中でも今しがた送ってきたとでも言いたげな発言をしてることから、少々時系列が合いません
(拙作では辺獄平安大合戦>dread answerの時系列で書いていました)
また拙作で同時にそれを愚痴ってたことから、フェレスに二度も愚痴を零してると言うのも疑問が出ます

・トッペイについて
トッペイは参戦時期が一部終了後のはずですが、
その頃は人間社会ではバンパイアの掃討が図られてますし、
トッペイもそれを知った以上トッペイが人間社会には溶け込むことは難しいです
なので、マンガ映画を作るという目的がとてもできない状況下にあるとは思います
ただこれは『人里から離れた場所でもマンガ映画を作りたい』とも受け取れるので、
氏がそういう風に伝えるつもりでありましたら、読解力のない自分の問題です。すみません

・スナップブレードについて
スナップブレードは硬いもの(原作で言えば硬質化)を攻撃した時のように、
比較的折れやすい武器なので攻撃を防ぐ用途については少し難しいと思います
(相手が通常の相手であればいいですが、八将神でさらにアーナスなので余計に……)
此方についても個人の見解なので、これについては企画主や他の書き手の判断次第です

・時間の遅延
リリアーナの能力は世界全体を遅延させるのではなく、
至近距離の相手のみの遅延なので、さとうが認識するのはないと思います
(世界全体に関わるのであれば、原作でもアルーシェが遅延するはずなので)
感覚が違う、とさとうも感じてるのでこれも私個人の解釈ではありますので、
別にいいかなとは思いますが

・レオーネの行動について
レオーネは一般人である侑と負傷者のエレンを知っています
更にギースが逃げたという状況下。彼女達のところに向かった可能性もある中で、
彼女達を探すことをせず、暢気に髪を染めると言う行動をとると言うのはかなり違和感があるなと
悠奈の場合はミスターLとのやり取りの都合で髪の色を染める必要がありましたが、
今回は別段染めなければならない理由もない場面で二人を放置して髪を染めていて、
レオーネどころか話も聞いてるであろう悠奈でさえその行動に違和感が拭えません
明確な理由があって髪を染める必要に迫られたなら特に気にはしなかったのですが……

462 ◆EPyDv9DKJs:2022/03/28(月) 06:04:37 ID:ES82upN20
少なくとも自分が気になった点は以上になります
大作を相手に一行に行程度修正で済む重箱の隅をつつく内容が殆どの指摘で申し訳ありません
ただ、多数の拙作のリレーをしてくださり、直近の話も組み込んだ作品
書き手としてとても嬉しく思っていると明言させていただきます

本当に長々と失礼しました
ギース、完全者で予約します

463辺獄平安公演 閉演 ◆s5tC4j7VZY:2022/03/28(月) 17:17:26 ID:2SqFhHp20
感想ありがとうございます。
また気になった点にお答えします。
個人の小説ではなく、皆で完成させるリレー小説でありますので、大作に限らず、意見は当然の権利かつどうしてそう書いたのか真摯に答えるべきである(結果的に破棄となっても)と私は思います。
気になる点を修正してより良い作品へとブラッシュアップさせていただきます。
ですので、お気になさらないでください。

・アーナスの時間停止の認識
私としては、従魔の中に糸で動きを止めたり瞬間移動して攻撃ができたりする能力があるので、
突然腹をぶち抜かれた→しかし、糸は見当たらない。また、ビスク(瞬間移動)とも違うように見える→時止めか?
ということで、思い至ったつもりで書きました。ですが、それはあくまで、私目線だからであり、ご指摘の通り、だとしても直球である答えにたどり着くのは、察しが良すぎますので、台詞を一部変更並びにベルトルトが時止め把握した描写をカットいたします。

・時間について
私としてはご指摘で書かれた(黎明)あかりと征四郎が出会う〜トッペイに出会って現場へ急行→到着(早朝)認識で書きました。
私の時間間隔のズレ申し訳ございません。 もしよければ、今回はこれでいかせていただけたらと。もしくは、キヨス・エルピス・トッペイが出発するところで状態表に移します。

・ディメーンについて
私が思い違いをしていました。ご指摘の通り、時系列並びに台詞が合いません。大変申し訳ありません。
ディメーンの台詞を修正いたします。

・トッペイについて
私としては、確かに一部の最後、人間社会はバンパイヤを排斥しましたが、手塚先生といったトッペイのことを理解してくれる人間も絶対にいるから人間も捨てたもんじゃないよ!といった私の根拠なき希望で書きました。
私の問題です。申し訳ありません。
溶け込む難しさと人里から離れた場所でもマンガ映画を作りたい←EPyDv9DKJsさんの受け取り方を使わせていただき修正いたします。

・スナップブレードについて
ご指摘の通り、鎧の巨人のような硬質化への攻撃や高付加がかかると簡単に折れる仕組みです。
私としては、刀同士のつばぜり合いではなく、アーマーではなく、スピード重視のラビットの拳なので耐えたつもりで書きました。
ですが、私もEPyDv9DKJsさんが違和感を感じられたと同じく、一般人ではなく八将神かつアーナスだから軽くはないよなぁと思い、ベルトルトに台詞に「重いな……ッ!」←と書いたので、砕け、付け替え刃に交換する描写へと修正いたします。

・時間の遅延
リリアの刻止めがエスデスと違い範囲限定だと重々承知の上ですが、EPyDv9DKJsさんの作品を呼んだ際、さとうが時止めを把握したのを書かれていましたので、せっかくなら絡めたいと思い書きました。
描写をカットいたします。違和感を感じさせてしまい申し訳ありません。

・レオーネの行動について
緑髪にした流れは弁解の余地もございません。
行動の違和感を感じさせたこと申し訳ありません。
展開を練り直して修正します。

464辺獄平安公演 修正 ◆s5tC4j7VZY:2022/03/28(月) 17:20:59 ID:2SqFhHp20
・アーナスの時間停止の認識 修正

「その従魔らしき者の力によるものか?」
「……ッ!?」
平然と喋りかけてくるアーナスに流石のさとうもぎょっ!と目を見張る。

―――ズルッ

自分から後ろに下がり、ザ・ワールドの腕から離れる。
普通なら、胴体を貫かれ平然とできる筈はない。
だが、何度も述べられているが、今のアーナスは”八将神”である。
疑似霊核として用意された心臓を破壊しない限り殺すことは不可能なのだ。

「アラクネ……いや、ビスクに近い能力みたいだが、人間風情が夜の君である私に従魔を 
 差し向けるとは……許さん!」



(やはり、さとうの守護霊の力……危険だ)
アーナスが口にした従魔という単語。
ベルトルトは確かにその言葉を聞き逃さなかった。
無意識にさとうにより砕かれた右鎖骨を触る。
さとうの守護霊が従魔かどうかは分からないが、ほとんどの相手に対して優位に立てる能力であることは間違いない……
どう殺すか、ベルトルトはアーナスに対峙しつつも案を張り巡らせている……

・ディメーンについて 修正

「ボンジュ〜ル、お二人さん。ちょっと聴きたいことがあるんだけど?」
双子の前に現れるのは道化師。
ディメーン。

「ん?お主……ちゃんと管理ルームにいないのは感心せぬな」
「ちゃ〜んと、”まて”ができないわんちゃんはいらないんだけどなぁ〜……」

メフィスとフェレスはディメーンを嗜める。

「「ノ――――ン!直ぐに聞いたら戻るとするよ。
 どうして支給品に”シャンバラ”を選んだんだい?
 一歩間違えれば、この殺し合いを破綻してもおかしくないと思うけど」

ディメーンの疑問は至極同然。
”次元方陣シャンバラ”
マーキングした場所への瞬間移動を可能とする帝具。
一手違えれば、こちら側の詰みに繋がりかねない道具の一つ。

(それに、”空白の才”も……破たんしかねない道具だ。
 殺しを強要する主催側が、進んでそれらを多く支給するなんて……
 余裕なのか、浅はかなのか……)

双子の悪魔と陰陽師の思考に首を傾げざるをえないといった風だ。
殺し合いをさせるなら、別になくてもいい道具。
わざわざ、危険を冒す必要なんてないのだ。

「ん?ああ、別に構わぬよ。
 多少の希望は与えておかないと上質な理念を集めることが出来ないからな」
「そうそう……僕たちに反抗できる〜と喜んでから、やっぱり無理でした〜と
 理解したワンちゃんたちのわんわんわんと鳴く絶望からの理念は想像するだけで最高だ 
 よ〜」

双子の悪魔にとって、この殺し合いは余興でしかない。
如何に上質な理念が集められるかが重要なのだ。

「そういうことじゃ。それと、あの神の慰み者のくせに一人面白い理念がおっての。
 たしか……”蛙のツラ”じゃったかな。あれを参考にさせてもらった」
双子の悪魔はクスクスと嗤う。

「ふ〜ん……じゃ!捨てられるのは勘弁だから直ぐに戻るとするよ」
ディメーンは踵を返すと、管理ルームへ戻っていった……

465辺獄平安公演 修正 ◆s5tC4j7VZY:2022/03/28(月) 17:22:27 ID:2SqFhHp20
・トッペイについて 修正

「ぼくは……」
トッペイの脳裏に浮かぶ。
あの光景が。
マンガ映画が好きで手塚先生に会いたくて山を下りたときのことを。
かあちゃんに自分の夢を語ったときのことを。

「あかりさん……ぼく、実はマンガ映画が好きなんです。だから……絶対に生きて帰って
 マンガ映画を僕の手で作る!正直……バンパイヤ排斥が進み、その中を僕が作るのは難
 しいと思います。
 だけど、手塚先生みたいな人もいるから、たとえ人里から離れた場所でもやり遂げます!
 それが僕の勝利です!!」

トッペイもキヨスの瞳をしっかりと見つめて力強く答える。
トッペイは決意した。
勿論、千の意思を継いで、殺し合いを止めることは変わらない。
しかし、”その先”のビジョンをちゃんと定めたのだ。

「うん!お互い、勝つために頑張ろうね!」
(……確かに人間は自分と異なる存在を認めづらい。難しい道のりかもしれないど、私は応援するよ!)

・スナップブレードについて 修正

「く……ッ!」
(軽そうな見た目に反して、拳はライナー並みの硬さか……ッ!
 受けきるのは無理だな)

俊足の乱打がアルーシェとベルベルトを襲う。
それぞれ得物で拳を防ぐ。
重い一撃は、烈風丸は防げたが、受けた個所のブレードの刀身はヒビが入り、砕けてしまった。
ベルトルトは素早く残りの刀身を綺麗に折ると付け替え刃で装備をし直す。
ラビットフォームの特性を生かすためか、アーナスは火災現場でありながらも熱気をものともせず、俊敏に右往左往に動きながら、攻撃を加えてくる。

466辺獄平安公演 修正 ◆s5tC4j7VZY:2022/03/28(月) 17:27:40 ID:2SqFhHp20
・時間の遅延 修正

「何か、甘いものでも持っていますか?あるのなら、みりあに渡してください」
そういうと、みりあはさとうに頭を下げる。

「意味がわからないんだけど?」
さとうはみりあの申し出に怪訝な表情を見せる。

甘いものを?

・レオーネの行動について 修正

17章  教えてユウナ!

八将神を救うべく一人のアイドルが歌ったコンサート。
それを彼らが知ることはない。
そんな一幕。

「それで……レオーネに助けを求めたユウって子と現場から逃がした金髪の少女はこっちの方角にいるのね」
「ああ、そうだよ」

金髪の外人を見失った悠奈たち。
本来なら、直ぐにでも追いかけて、簀巻きにしたいところだが、どの方角へ向かったか分からない以上、闇雲に探しても徒労に終わる可能性が高い。
そこで、悠奈達は、レオーネに助けを求めたユウがいるであろう方角へ歩いている。

「ユウナ」
「何?どうかした」
「そこの物陰に人がいる。出てきな。3秒以内に出てこなければ、敵と判断するよ」
ナイトレイドの一員として帝都の闇に紛れていただけあって、勘は鋭いようだ。
その眼光は闇の暗殺者に代わる。

「……降参だ。ジュネーヴ条約に則った人道的な対応を要求する」
バンザイしながら物陰から出てきたのは、私と同じ年頃の少年だった。

「ふっふっふっ〜。それはこちらの気分次第かな〜〜」
「こら、怖がらせないの」
私は軽くレオーネの頭にチョップする。

「冗談だって〜〜。ところでユウナ。ジュネーヴ条約って何だい?」
「オレもそんな条約は知らん!」
「ああ……もう、わかったわ。後で説明するから、ちょっとだまってなさい」

おーしえろ!とせがむ2人をあしらう。
それにしても、ジュネーヴ条約って言葉を使うぐらいだから、やっぱり彼は私と同じ世界のようね……

「ふむ……」

私達のやり取りから危険を感じないと判断したのか、いつの間にかバンザイポーズを止めて、観察しているようだ。
やがて、彼は口を開く。

「Yahman」
「……ねぇ、それって何語?」

「ん?パトワ語だ。ジャマイカの公用語で使われるじゃないか?」
「……どうして、パトワ語を使うのよ」

少し……いや、かなり嫌な感じがするわ……
彼は私達の服や髪を指さして答えた。

「黒、黄色、緑。これだけなら唯の偶然で片づけられるが、よく見るとわざわざ髪を緑に染めている。
 だから、ジャマイカ好きの一行だと思っただけだ」
「……」

はぁ……私の周りの男ってこういうのしか集まらないのかしら

【D-3とD-2の境界線/一日目/早朝】

【ミスターL@スーパーペーパーマリオ】
[状態]:健康、
[装備]:無し
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考・状態]
基本:悠奈のバカバカしい生き方とやらで主催共を叩き潰す
1:ユウナ・レオーネと行動を共にする
2:伯爵サマたちは一体何処にいるんだ?
3:ヒーロー……か
4:ユウナ!ジュネーヴ条約にジャマイカって何だ!?
[備考]
※参戦時期は6-2、マリオたちに敗北した直後
※悠奈からリベリオンズの世界について簡単な知識を得ました。
※名簿から伯爵さまたちが参加していることを知りました。
※悠奈から”拳銃”の脅威を知りました。
※レオーネからアカメの世界について簡単な知識を得ました。

467辺獄平安公演 修正 ◆s5tC4j7VZY:2022/03/28(月) 17:28:23 ID:2SqFhHp20
【藤堂悠奈@リベリオンズ Secret game 2nd Stage】
[状態]:健康 緑髪
[装備]:コルトパイソン@ リベリオンズ Secret game 2nd Stage
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜2 予備弾数多め
[思考・状態]
基本:なるべく多くの人を助け、殺し合いを止める
1:ミスターL・レオーネと行動を共にする
2:目の前の男の子と情報交換を行う。……てか、私の周りに集まるのってこういうのばかりなのかしら
2:彰……私は……
3:殺し合いに乗っていない参加者達を一つにまとめる。乗った参加者は無力化して拘束する
4:もう少し、威力が低い銃もほしいわね……あと、逃走用の対策も練らないと……
5:たとえ、どんな状況でも挫けず信念を貫く
[備考]
※参戦時期はAルート、セカンドステージ突入語で修平達と別れた後
※緑髪に染めました。
※運営が死者を蘇らせる力を持っていると推測しています。
※ミスターLからスパマリの世界について簡単な知識を得ました。
※レオーネからアカメの世界について簡単な知識を得ました。
※金髪の男は簀巻きにするとケツイしました。

【レオーネ@アカメが斬る!】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(小)、
[装備]:ホープナックル@グランブルーファンタジー
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜2(確認済み、ライオネルなし)
[思考・状況]
基本方針:メフィス達、覚悟できてんだろね。
1:民の為にもう一度戦いますかね。正義のマッサージ師として。
2:アカメを探……さなくても大丈夫だよね。親友を信じろって。
3:帝具なしでエスデスとかは会いたくねーな! あっても会いたくねーな!
4:優勝するしかなくなったらどうしよ。いや、正義のヒーローが勝つって決まってる。
5:ねぇユウナ。ジュネーヴ条約にジャマイカって何?
[備考]
※参戦時期は死亡後(アニメ版意識ですが漫画版でも問題ないです)
 ただ漫画版であればライオネルと少し融合してるため状態表が変わります。
※悠奈からリベリオンズの世界について簡単な知識を得ました。
※ミスターLからスパマリの世界について簡単な知識を得ました。

【城本征史郎@トガビトノセンリツ】
[状態]:精神疲労(小)、ダメージ(中)、頭に包帯が巻かれている、
[装備]:スティッキィ・フィンガーズのDISC@ジョジョの奇妙な冒険
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜2(夕月×0〜1確認済み、はるな×0〜1確認済み、武器になりうるものではない)、スフォリアテッレ(箱入り)@クライスタ、伊藤大祐の首輪
[思考・状況]
基本方針:殺し合いに反抗する。
1:はるなの遺志を継ぐ。
2:目の前のジャマイカ一行と情報交換を行う。
3:はるな、夕月、アルーシェの知り合いを探す。特に城咲充優先かつ、前者二名の知り合いには謝っておきたい。
4:スタンドでできることを試そう。できて当然と言う認知が大事だ。
5:ついでにスタンドを使える奴がいるか探す、或いは警戒をしておく。
6:あっさりと終わったが、これでいい。語られなかった物語とは、そういうもので。
7:生きたまま首輪が外せるかを乗った参加者で試す。できないとは思うが。
8:首輪について調べておく。
9:……ふむ、生きて帰れたら生物学でも齧ってみるとするか。あ、パンドラボックスの齧るとは別の意味だ
10:二日目の昼にかなでの森博物館へ寄るとするか。互いに生きていればの話だが。
[備考]
※参戦時期は死亡後です。
※リベリオンズ、ブルーリフレクション、よるのないくに2の情報を得ました。
 ただしリベリオンズはDルートの為充、琴美以外の人物とは話が合いません。
※おおよそスタンドでできることを把握しています。
※マネーラ・ギャブロ・藤丸立香の情報を得ました。(簡単に)
※キヨスから零の情報を得ました。(外見と妹を探していることについてのみ)
※二日目の昼にE-3にあるかなでの森博物館に人が集まる情報を得ました。
※ロックの危険性について知りました。※爆発させる能力はスタンドによるものではないかと推測しています。

468辺獄平安公演 修正 ◆s5tC4j7VZY:2022/03/28(月) 17:28:46 ID:2SqFhHp20
・時間について 8章での状態表の案

【E-5の何処かの家屋/一日目/早朝】

【清棲あかり@へんなものみっけ 】
[状態]:健康
[装備]:ポケモン図鑑@ポケットモンスター モンスターボール×8 ひかりのドレス@ドラクエ7
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1 Eー3かねでの森博物館から持ってきたフィールドワークや解体用の道具(双眼鏡・ハイヒール(大型動物解体・調理用刃物)など) 火山灰(一人分の量)@血と灰の女王
[思考・状況]
基本方針:参加者たちの生きた証を記しこの殺し合いの出来事を風化させない
1:伯爵さまを探しつつエルピスと行動を共にする※ 南側EFGHを中心に
2:参加者の生きた証を集め、もしもの時は”託す”※作業の中心はポケモン図鑑に登録
3:ロック・鬼くびれ大羅漢(金髪の外人)に注意する
4:二日目の昼にはE-3のかなでの森博物館へ戻り、ギャブロ君達と合流して手にした情報を交換する
5:首輪の解除方法がないか、探しつつ考える
6:アルーシェさんがいるであろう場所へ向かう
[備考]
※参戦時期は原作1話 事故死したカモシカを博物館に持って帰ったところ
※ロックの危険性について知りました。征史郎との会話から爆発させる能力はスタンドの力ではないかと推測しています。
※マネーラ・ギャブロ・藤丸立香の世界について簡単に知りました。
※パンドラボックス(エルピス)に戦闘の指示を出すことが可能となった。
※トッペイとの情報交換でクライスタの世界観を大まかに把握しました。
※征史郎との情報交換でリベリオンズ、ブルーリフレクション、よるのないくに2の情報を得ました。
 ただしリベリオンズはDルートの為充、琴美以外の人物とは話が合いません。
※トッペイの治療により、本来の服装であるパーカーを足りない包帯代わりに使用しました。
※トッペイの治療でかなでの森博物館から持ってきたフィールドワーク用の包帯は使い切りました。治療に使える薬はまだあります。

エルピス並びにトッペイの状態表はとくに変化なし

469辺獄平安公演 修正 ◆s5tC4j7VZY:2022/03/28(月) 17:29:23 ID:2SqFhHp20
以上が修正案です。
お時間があるときご確認の方よろしくお願い致します。

470 ◆ZbV3TMNKJw:2022/03/29(火) 00:05:09 ID:.Bw24gjw0
皆さま投下お疲れ様です!
感想は投下する時にします
堂島正、鹿目まどか、真島、結衣、プロシュート、ドレミー、梨花、ワザップジョルノ、童磨で予約します

471 ◆EPyDv9DKJs:2022/03/29(火) 00:26:23 ID:r0GJ0oGA0
修正内容一通り確認させていただきました。
時間についてですが私が厳格にしすぎた面はあると思ってますので、
氏のあかりたちについては簡易的な修正内容でいいと思います。

それと、態々修正案を出させておいて追加の確認をするのは、
かなり不躾なことではあるのですが、もう一つ気になったことが
拙作『ナイトメアパーティ』でギースは夕月たちの遺体から、そう遠くない位置で休息してるはずで、
あかりがエルピスの壊砲ティシアも使っていて、一切気づかないとはあまり思えなかったもので
そこについての回答、もしくは修正などがあればお願いします

しつこいようで本当に申し訳ありません
ただ回答次第で此方の投下の内容の変更が必要あると発覚したので、
確認を取っておきたかったのです

472辺獄平安公演 修正 ◆s5tC4j7VZY:2022/03/29(火) 06:58:29 ID:BqPSURK20
確認ありがとうございました。
時間に関してですが、なるべく皆さんと乖離しないように心掛けていきます。

エルピスの壊砲ティシアについて
私としては、壊砲ティシアは攻撃ではなく死者を弔う使用でした。
壊砲ティシアは”この子はエルピス”で描写した通り↓
バシュ!バシュ!バシュ!

ガシャァァァァァン!!!
常設展示のガラスが割れ、標本が傷つく―――

キュイィィィィィン―――
―――ビームがはっ……
といったように威力の出力を絞れる武器(通常弾とレーザーといった)ですので、ドカン!という爆音というよりもバシュ!といった音の為ギースは気づかなかったという意図で書きました。
この回答でEPyDv9DKJsさんの作品の内容の変更が生じる場合は、墓ではなく、目を瞑らせる方向で修正いたします。

473白の■済(White Sa■vage) ◆EPyDv9DKJs:2022/03/29(火) 10:56:45 ID:r0GJ0oGA0
返答ありがとうございます
なるほど、そういうことでしたか
PSO2もまた十全なプレイができてなかったので、
そういう武器だったことには気づいていませんでした
描写については問題は特にありませんので、修正は必要ないですね
長時間お付き合いいただきありがとうございます。改めて投下お疲れ様です
私も手際や疑問点がありましたら遠慮なく言ってくだされば幸いです

というわけで投下します

474白の■済(White Sa■vage) ◆EPyDv9DKJs:2022/03/29(火) 10:58:33 ID:r0GJ0oGA0
 左目を完治させた完全者はあれからずっと南下し続けていた。
 破片を抜いた痛み、回復の遅さ。それらも合わさり時間をかなり使っている。
 祝福の杖も傷は治ったが疲労が回復しきってるわけではなく少し体が重いが、
 残るビブルカードとなるプロシュートは北の方角。美炎達と合流する恐れがある以上、
 一人で戦うのは得策ではないのもあって、彼女は南へと逃げるような形になっていた。

「治ったが……視力はまだ安定しないな。クソッ、大分手酷くやられたものだ。」

 今後の為に次の協力者、或いは伯爵の部下を見つけることの方が先決だ。
 美炎みたいに高速で肉薄されては、中距離の一方的な基本戦術が成立できない。
 剣客である不律に電光機関でも持たせたかのような出鱈目っぷりは、
 自分が転生で生きながらえてる出鱈目を棚に上げて思ってしまう。

「全く、魔女がこの体たらくとはな。」

 (彼女から見れば)たかが小娘に目をやられ、同行者も死んで支給品も消費した。
 これでもかと言うぐらいの敗戦とも言えるような結果は、いっそ笑えてくるものだ。
 魔女の肩書きに誇りを特別持っているわけではないものの、此処での初陣があの結果。
 少しばかりは自分に対して笑いたくもなるものだが、別に彼女は心が折れてなどいない。
 この程度で折れる奴が、旧人類抹殺なんて大それたことを考えるはずがないのだから。

(しかし、やはり早いな。)

 彼女はオアシスを練習しながら移動を続けていた。
 やれることははっきり言って多すぎるし、セッコのような異常な聴力や発想もできない。
 本来のオアシスの半分も発揮できてないとは言え、単純な運用でも強いのがオアシスでもある。
 スムーズな移動は特別機動力に優れない彼女にとっては大変ありがたいものだ。
 今の肉体は成人女性のアノニムであることもあって、泳ぎに難があるわけでもない。
 なので時間を消費してオアシスでの移動だが、彼女の足ではありえないぐらいに動いている。
 お陰でD-4を通り越して、いつの間にかE-4にまでたどり着いてしまっていた。

(して、これはなんなのか……だ。)

 その手に握られた漆黒でありながらも光輝く黒いハート。
 完全者が知る由もないが、世界を滅びへ導く力を持つコントンのラブパワー。
 伯爵が死んでから、彼の身体から飛び出すように出てきたこれが一体何か。
 少なくともこれは曰く付きであるのは間違いなく、これを聞くべき相手はただ一人のみ。

(奴と出会うしかあるまい。)

『まあ、もう少し生き延びてくれるのなら、少しぐらいは君とお話してもいいかもね。』

 伯爵を二度裏切ったとされるあの道化、ディメーン。
 奴が裏切るのであれば、おそらくこれが目当てのはずだ。
 これが何かを奴は知っているだろうが、それはそれとして油断できない。

『ンッフッフ〜、何の感慨もないかな。
 これで裏切ったのは二度目───おっと、
 彼は僕が裏切る前の伯爵だったかな? 知らないか。
 何にせよ、元々僕はこういう奴だからね。何もないさ。』

 裏切る前の伯爵、と彼は言っていた。
 つまり、彼は既に伯爵を裏切った未来から来ている。
 思い返せば僅かながら伯爵とナスタシアには情報の齟齬があった。
 あの時は多少のずれぐらいはあるものだと認識していたものの、
 どうやら場合によっては結構な時間差も確認できる様子が伺える。
 未来でディメーンは裏切ったが、何らかの理由で手に入れ損ねた仮説を立てた。
 コントンのラブパワーを手に入れるために参加者として招いた可能性は十分にある。
 他の主催者の連中の意向によって殺すことができず、自分の手に渡るように此方へと仕向けたか。
 恐らくメフィス達には内密だろうことから、主催者の権限を利用して強引に奪うことはしないだろう。
 とは言え、相手は此方より上の立場にいる。次出会うときは、より警戒しておかなければならない。

(む。)

 地面から顔だけを出しながら進んでいくと、
 一人の参加者と遭遇することになって様子を伺う。
 家が倒壊し、掘り起こされた死体が転がっている戦場だった場所。
 そこ佇む相手は乗ってるか、乗ってないか。どちらであっても変わらない。
 彼女にとって今の状況の為に必要な存在かどうか、それが重要だから。

475白の■済(White Sa■vage) ◆EPyDv9DKJs:2022/03/29(火) 10:59:46 ID:r0GJ0oGA0
「おい、そこのお前。少し話がある。」


 ◆ ◆ ◆


 ギースもまた休憩を優先としてE-4から動くことを選ばなかった。
 最初のエレンはともかくとして続けてレオーネ、夕月達と戦ってきたのでは、
 いかにギースでも、いかにヴァンパイアでも限度がある。連戦の疲労は蓄積していた。
 今一度、次の戦いに備える為に此処で一先ず休息としてある程度や住んでおくと、
 そういえば二人の支給品の存在があったことを思い出し、支給品の回収をしておく。
 東にいるとされる強者には興味はあるものの、あくまで彼は優勝、ないし主催を超える。
 その為に活動してるのであって、無暗に負けるかもしれない戦いをしたいというわけではない。
 とは言え、一方的な蹂躙もつまらないと言う面倒な性分ではあるが。

「……誰かが来ていたようだな。」

 遺体がない。
 すぐ近くに真新しい地面があり、疾風拳を叩き込む。
 死者の尊厳や冒涜などこの男に説いたところで何もない。
 地面は抉れて埋葬された夕月の遺体を見つけるが、その状態に少し訝る。

(支給品を持って行ってないだと?)

 夕月は埋葬されていたものの、
 デイバックも一緒に埋められている。
 まさかと思ってもう一つの、はるなの方も確認したが手つかずだ。
 僅かばかりにリボンがなかったりで容姿が違うだけで、余計に疑問を持つ。

(埋葬してリボンだけ手に取って去った……何がしたいのか。)

 凄惨な戦場を前に支給品を回収すると言う頭が回らなかったか。
 とりあえず支給品を漁るも、ランダム支給品の数は合わないことにも気づく。
 回収したものや捨て置いたもの、残骸も合わせたとしても支給品の総数が合わない。
 夕月はともかくはるなは一般人。誰かに武器を譲渡するのはあまり考えられないことだ。
 埋葬した相手がランダム支給品だけをかっぱらっていく、なんてことはあり得ない。
 それなら今後の為の食糧がある基本支給品も放置するわけがないのだから。
 別の第三者が奪うにしても中途半端な奪い方から、誰がやったかを察する。

「あの小僧、まだ生きていたな。」

 征史郎は一度はワープして逃げたところを見た以上は、
 あれが一回きりかどうかの判断は彼から判断はつかない。
 当たる直前にそれを使って逃げた可能性だって考えられる。
 自分と言う存在が残ってる状態で、道具を全部回収して逃げる余裕はない。
 そう考えれば当然だが、一方で逃げに徹した弱者になんぞ興味は全くない。 
 次に向かうべき方針としては、三人の仲間が向かうべきとされる東の方角だが、
 一方で休みを取ったので時間も経った。既にいないか終わってしまっているだろう。
 そういう意味では、言う程向かうことに彼は拘りを持っていなかった。

(確か、これだったか。)

 まだ彼の墓荒らしは終わってはいない。
 物言わぬ躯となった夕月の指にはめられた指輪を抜き取る。
 ヴァンパイアの影響で加減が難しくなってるのか、
 取る際には彼女の指を千切ることになるが特に思うことはない。
 彼女は戦う際に、この指輪が光ってから魔法少女らしい姿に変身して戦っていた。
 別に彼に魔法少女趣味などはない。これによって更なる力を目指してみたいだけだ。
 指輪を手にしたはいいものの、当然ながら夕月の華奢な指に合わせたサイズ。
 成人男性で鍛え抜かれたギースに合うはずがなく、身に着けることはできない。

(持っているだけで効果がある可能性もある。捨て置くのはやめておくか。)

 残念ながら指輪ははめないと効果はないのだが、
 そんなことを知る由もない彼に理解できるはずがない。
 指を引き抜いて指輪だけを懐にしまっておく。

「おい、そこのお前。少し話がある。」

 気配自体は感じていた。
 襲ってくれば即座に返り討ちにするつもりだったが、
 この惨状を前に話し合いをしてくるとは能天気か、
 或いは冷静な判断力を以って行動しているのか。
 少しばかり興味が沸いて話し合いに応じることを選ぶ。

476白の■済(White Sa■vage) ◆EPyDv9DKJs:2022/03/29(火) 11:01:08 ID:r0GJ0oGA0
「何だ? 小娘。」

「今の一部始終を見たが、貴様は乗った側だな?」

「それがどうした? まさか、お前も道徳を説くつもりか?」

 殺意の薄い女や殺し合いそのものを否定とする緑の二人。
 殺し合いだと言うのに甘い連中とすでに何度も出会ており、
 三度ともなれば流石に呆れててしまう。

「いや? 寧ろ私としては礼を言いたくもあるだろうな。」

「……ほう、貴様もこちら側か。」

「そういうことだ。」

 互いに相対すると同時にそれぞれ不敵な笑みで返す。
 ギースには戦うと言う選択肢もあるにはあったが、
 今は希少な情報を手に入れられる機会なのは事実。
 闇雲に行動するのも悪くはないが、人数はかなり多い。
 些細な見落としから危うく敗北しかけた先の戦いもあり、
 此処は一度戦うと言う選択肢を捨て、情報交換を望むこととする。

「何? ミスターLが?」

「外見の特徴から奴で間違いないな。」

 意外なことに伯爵の部下の一人であるミスターL。
 彼がまさか殺し合いを止める側と行動しているとは思わなかった。
 伯爵の生存の為に考えた結果か、或いは何かしらの理由があるのか。
 とは言え、伯爵の死を伝えれば彼も恐らくはこちら側になるはずだ。
 そこを考えれば、寧ろ集団に潜り込めてるのでいい手段ではないか。
 今後出会うことがあれば、よりうまく立ち回ることができるだろう。

「紅白の学生服の少女か……興味があるな。」

 完全者の情報にはギースの知り合いはいなかったものの、
 美炎が赤いオーラを纏った瞬間から動きが変わった情報に食いつく。
 変身でも守護霊でもない。また新たな力が確認できたわけだ。
 いくつこの世界には特異な力があるのか。楽しみで仕方がない。

「奴は北だ。既に集団を形成してる中、向かうつもりか?」

「……いや、今はやめておこう。
 私が今試したいのは一対一の戦いだ。」

 一瞬にして集団を倒してしまって大した力が試せてないし、
 暴走していたのもあって余り記憶に残ってないのもあった。
 なのでこの力を試したく、改めて戦いの場が彼は欲しい。
 とは言え厄介なこととして、ギースは比較的北から南下している。
 此処で北へ戻れば、途中此方を萎えさせた連中が何人もいるわけだ。
 今度は負けることはないだろうが、気分が萎える相手に今会う気はない。
 酷く気分がいい。ヴァンパイアとして覚醒し、理性を取り戻した今は。
 このヴァンパイアの力、どこまで通用するのかを試したくなっている。

「話は終わりだ。何処へでも行くんだな。」

 情報は手に入れた。なら此処で潰し合うのもいいが、
 優勝目当てなので参加者を減らすのであればそれでいい。
 力を存分に振るえる相手がいなくなる可能性があるのは少しばかり残念だが、
 彼女程度に倒されるようである連中など、そもそも相手にする価値もないだろう。

「そうだな。貴様が許すのであれば同行をしたいものだが。」

「下らん。一人で問題ない。」

 誰かと馴れ合うつもりはない。
 あくまで完全者は使えるから放置するだけ。
 肩を並べて戦うような間柄など、ギースには必要のない存在だ。
 ビリーのように使える部下を重宝すると言うのは一応あるが、
 それを完全者に当てはめることはないだろうし、肩を並べるとは言わない。

「何、其方が一対一のための露払い要因とでも思えばどうだ?
 私は別に、戦いを邪魔するつもりなど最初からないからな。」

「……そう来たか。」

 完全者の返しにギースは再び笑みを浮かべる。
 『一対一の戦いをしてみたい』と言う何気ない一言が、
 交渉材料として使われるのは、彼女がただの子供ではない証左となる。
 下手なことを言えば、厄介なことになりそうだと少しばかり警戒を強めておく。

(伯爵と違って人脈は余りなかったが、ここで戦力の確保はしておくべきだ。)

 前衛、或いは距離を取れる手段の確立。
 どちらかが欲しい完全者にとってギースは間違いなく必要だ。
 伯爵程の協力関係を望むことはできないが、相性としては恐らく上になる。
 既に二人殺しており、しかもこの周囲のあれ具合。相当な力を持つだろう。
 物理的な力だけであれば、恐らく伯爵よりも強い部分はあるはずだ。

477白の■済(White Sa■vage) ◆EPyDv9DKJs:2022/03/29(火) 11:01:30 ID:r0GJ0oGA0
「いいだろう。私を相手に怯えも恐怖もない、
 強かな貴様を評価する。ついてくるなら勝手にするがいい。
 だが、貴様がどうなろうと助ける気はない。覚えておくことだな。」

「お互い様だろう? それに、私は貴様を撃つつもりはないさ。」

 一応その言葉自体に今のところ嘘偽りはない。
 利用価値がなくなったと判断したその時が終わりなだけで、
 価値がある以上はそのようなことをするつもりは毛頭なかった。

(精々利用させてもらうが、それは向こうも同じだろうな。)

(……とでも考えているだろうな、互いに。)

 伯爵の時と同じで、互いにいつかは始末する相手ではある。
 あくまで目指すのは一つだけの席、そしてその先の主催を超える為。
 殺し合いはそこに到達する為の通過点に過ぎないのだ。二人にとっては。
 二人が人の死に頓着することは決してない。

(だがいいだろう。その座興、乗ってやる。)

 自分を利用しようとする点はホワイトと同様だが、
 催眠術ではなく交渉事に持ち込んだ。その点は評価していた。
 ホワイトにはそんな度量も考えもなかったのと、此処での彼の戦績。
 そこも相まって、彼の評価が低いと言うのも一因ではあるか。



 次なる共犯者を見出す完全者。
 しかし雁(ギース)は世界中を羽ばたく鳥。
 そんな存在を御するのは、やわなことではないだろう。
 完全者にとっての救済(Salvage)になるか、
 それとも獰猛(Savage)な雁の餌食にされるか。

【E-4/1日目/早朝】

【完全者@エヌアイン完全世界】
[状態]:左目失明(治ったがまだ少し視力が安定しない)、ダメージ(中)、魔力消耗(中)、疲労(小)
[装備]:神楽の番傘@銀魂、ビブルカード×1(プロシュート)@ONEPEACE、祝福の杖@ドラゴンクエスト7、オアシスのDISC@ジョジョの奇妙な冒険
[道具]:基本支給品一式、コントンのラブパワー@スーパーペーパーマリオ、ノワール伯爵のデイバック(基本支給品一式、ランダム支給品×0〜2(確認済))、ノワール伯爵の首輪
[思考・状況]
基本情報:プネウマ計画の邪魔はさせん。メフィスとフェレスの扱いは対策が出来上がるまで保留
 1:ギースと行動する。いずれは出し抜くが。
 2:ビブルカードについては保留とする。
 3:エヌアイン以上に適した器の捜索。期待値は上がった。
 4:首輪の解除手段の模索。
 5:ムラクモを首輪を解除される前に始末しておく。
 6:童磨に警戒。
 7:伯爵の部下でも探しておくか。特にミスターLは必須。
 8:他に利用できる連中を手に入れておく。
 9:あの小娘(美炎)、まさかエヌアインのような存在か?
10:ディメーン……信用は出来ないが、利用はできるな。
11:ミスターLの状況は利用したい。

[備考]
※参戦時期は不明。
※モッコス死亡により、完全者の所持するビブルカードが消滅しています。
※ある程度生き延びたらディメーンから接触することがあるかもしれません。
※ギースと情報交換しました。

【ギース・ハワード@餓狼伝説シリーズ】
[状態]:ダメージ(中・再生中)、ヴァンパイア化(現在は人間態)、割とハイ
[装備]:
[道具]:基本支給品一式×3(自分、はるな、夕月)、ランダム支給品×0〜1(確認済み)、スモークボール@大貝獣物語2×4、黒鍵×5@MELTY BLOOD、夕月の指輪
[思考・状態]
基本:殺し合いに乗り優勝する。あわよくば主催すら越えて最強を示す
1 :完全者を利用する。お互いそのつもりだろう?
2 :カインにはそれなりの期待
3 :ロックは少し程度は期待。
4 :ホワイトはどうでもいい。
5 :緑達には付き合ってられない。
6 :東に興味はあるが優先度はそれほどでもない。
7 :ヴァンパイア、実によき力だ。
8 :他の特異な力も手に入れたい。紅白の女(美炎)は興味がある。
9 :ミスターLか。出会った際は利用させてもらおうか。
10:指輪か……使えるか? 使えてもあの恰好では困るが。

[備考]
※参戦時期はリアルバウト餓狼伝説での死亡後です。
※火山灰を浴びたことでヴァンパイアになりました。
 ヴァンパイア態は原作の阿久津潤に近い鳥を模した姿で、飛行能力もあります。
 (ただしなりたてなので安定した飛行ができるかどうかは別)
 現時点では能力は不明、D・ナイトは現時点では使用できません。
 またヴァンパイア態のレイジングストームは餓狼伝説3潜在版のように常に赤くなります。
※完全者と情報交換しました。

478白の■済(White Sa■vage) ◆EPyDv9DKJs:2022/03/29(火) 11:02:27 ID:r0GJ0oGA0
※E-4に以下のアイテムが落ちています
 一人分の火山灰@血と灰の女王(それを収納していた空の袋)
 柄のみの黒鍵@MELTY BLOOD
 からっぽのピストル@Undertale
 六花の水弩の残骸@御城project:Re

※E-4のはるなと夕月は埋葬されていますが、少しだけ掘り起こされています。
 また夕月の方は指がちぎれた状態で近くに転がってます

479 ◆EPyDv9DKJs:2022/03/29(火) 11:02:52 ID:r0GJ0oGA0
投下終了です

480辺獄平安公演 修正 ◆s5tC4j7VZY:2022/03/30(水) 00:04:21 ID:8JGCSvuM0
投下お疲れ様です!
白の■済(White Sa■vage)
(持っているだけで効果がある可能性もある。捨て置くのはやめておくか。)
↑ふと、リフレクターの格好をしたギースを想像したらちょっと吹いちゃいました(笑)
完全者は新たな同行者に出会いましたが、伯爵同様互いに利用をしての関係はまた対主催とは違う魅力を感じさせられます!

また、こちらこそ色々とお手数をおかけしました。
今後も読まれた際に違和感が生じぬよう心掛けてまいります。
あかりの簡易的な修正について報告いたします。
あかりの状態表に↓
※フィールドワーク用の空の容器に火山灰が入っています。
と追記した修正とします。

481 ◆s5tC4j7VZY:2022/03/30(水) 00:28:16 ID:8JGCSvuM0
また色々と不備があった作品でしたが感想ありがとうございます!

辺獄平安公演
八将神なので、強さマシマシとしました(💦)
DISCの下りはさとう自身は一般人の枠であるため、拾おうと思い書いたので、そう言っていただき嬉しいです。
八将神Pは実はLiarMaskでのメフィスと姫和のやり取りから着想しました。
中々いいと感じてもらえて嬉しいです。
また、今回個人的に一番の不安と緊張は征士郎でした。
コンペとこれまでの話の征史郎からかけ離れないようにと神経をとがらせました(笑)
>あの双子に”どうも、クソゲーを遊ばせてくれてありがとう”と鼻で笑ってカンチョ―することだ。

此処最高に好きです
↑ありがとうございます!実は始めは少し違う台詞だったのですが、投下前に”いや、違うな……”と直したので、直してよかったと実感できました!
今回、みりあの参戦時期が妹が生まれる前だったので、アイドルを軸に考えました。
ラストは、現実のコンサートも参加者と理由が違えど非参加者がいるので、あかりと別れた征史郎が別の参加者に出会うで〆ようと思い、位置関係から悠奈達を選び、若干オチ風にまとめました。

嵐を呼ぶ辺獄平安大合戦
軸はしんのすけ、アリサ、マサオだったのですが、同行者や周辺からあれよあれよと人数が増え、私なりのクレヨンしんちゃんの劇場版となりました(💦)
当初の案では死者がでる予定だったのですが、私自身がひよってしまいました(💦)
結果的に第二陣に先送りしちゃいました……こんな引きで終わらせた私が言うのもなんですが、果たしてどうなるか……です。

482 ◆ZbV3TMNKJw:2022/04/11(月) 22:48:55 ID:AyrgHGOM0
すみません、累の父を追加して予約を延長します

483 ◆ZbV3TMNKJw:2022/04/15(金) 23:43:36 ID:YB2G1nFQ0
すみません、前編だけですが投下します

484英雄の条件(前編) ◆ZbV3TMNKJw:2022/04/15(金) 23:45:10 ID:YB2G1nFQ0


「答えてください...堂島さん...!」

投げかけられる懐疑の目に、堂島の心臓が冷え、喉が渇いていく。
見るからに重体で気を失っているワザップジョルノ。無情にも両腕と首を断たれた益子薫。灰となっていく佐神善だったモノ。流血に沈む三島英吾。
知った顔も知らない顔もある中で、共通しているであろう一念は『堂島正がこの惨劇を招いた』という事実だ。

この現状に対して、堂島は。

「...わかった」

嘘偽りなく話すことにした。
自覚できるほどに疲弊しきっている心身とは裏腹に、彼の思考は冷静に働いていた。
彼は医者だ。手術を失敗し、遺族に現実を伝える時には感情的になることは許されない。
その経験が、この状況に於いても自白を可能とするだけの冷静さを取り戻させていた。

堂島は語る。

まどかと真島が離れた後、自分と善がエスデスと、ジョルノがミスティと戦いを始めた。
両組とも優勢になったところで、ミスティ達が雷を落とし、それを受けたジョルノは気絶。
洗脳された薫が善の首輪を引き殺害し、後に自分が彼女を殺した。

遅れて加勢にやってきた梨花と英吾がミスティ達と交戦を開始し、英吾が敗れ、その後に復帰した自分がミスティを殺害。
自我を取り戻していたエスデスはこの場は戦いを収め去っていった。

多少の簡略化はあれど、大まかには事実を語ることができた。

この自白を聞いた六人。

「どおおおおおおお」

古手梨花は、己の知らない空白の期間を知るも、ボミオスの杖の効果がまだ切れず、彼を庇う言動すらできなかった。

「堂島さん...」

鹿目まどかと真島彰則は顔を見合わせ警戒を解く。
彼らが堂島を責めるような言葉を持つことはできなかった。
自分の仲間たちが傷つき斃れていったのも、誰の良し悪しではなく、ただの戦いの結果に過ぎない。
全滅すら危うかった局面で、生還者が三人もいるというのに誰を責められようか。
むしろ、累の父との決着を着けられなかった自分たちの不甲斐なさを恥じるばかりだった。

「......」

プロシュートとドレミーは未だに警戒の姿勢を解いていない。
前者三人にとっての堂島正は紛れもない味方なのだろうが、彼ら二人にとってはなんてことのないただの殺し合いの参加者でしかない。
堂島が嘘を吐いていない、本当はミスティ達と組んでいる、といった可能性も頭から除外してはいない。
なによりも、堂島という男のある一点が不信感を拭わせてくれない。

「じゃあ、なんで」

そして荻原結衣は。

「なんで益子さんが死ななくちゃならなかったんですか」

本音を零さずにはいられなかった。

もしも堂島が怒りを露わにし、ただ『益子薫が善を殺した』という事実だけを伝えていれば、結衣も己の本音を嚙み殺すことができただろう。
けれど、堂島は冷静だった。薫が洗脳されていたことを冷静に伝えた上で事実を話してしまった。
そんな彼の姿から、結衣は『堂島は洗脳されていた薫を容赦なく殺した』という結論を抱かずにはいられなかった。

485英雄の条件(前編) ◆ZbV3TMNKJw:2022/04/15(金) 23:46:29 ID:YB2G1nFQ0
「荻原、それは...」

結衣が堂島を責めると察した真島は、咄嗟に口を挟もうとする。
薫が善を殺してしまったのは洗脳を受けていた為。その事情から、薫を悪だと断じるつもりはない。
しかし、少ない交流の中で真島とまどかは知っていた。
殺し合いに乗りかけた堂島が、善の存在を知ることで思いとどまったことを。
それだけで、堂島正にとって佐神善という存在がどれほど大きなものかが窺い知れた。
だから、堂島が感情に逆らえず薫を切ってしまってもおかしくはない―――そう擁護しようとしたところ、ドレミーが真島の唇に人差し指を添えて黙らせる。

「ッ?」

疑問符を浮かべる真島にも取り合わず、ドレミーはプロシュートと共に、堂島への警戒心を最大限にまで引き上げる。

「堂島っつったか。オメーがこの状況を生んだ訳じゃあねえってのはわかった。オギハラのやつはともかく俺もドレミーも、洗脳されてたとはいえ仲間をブッ殺されたのが我慢ならねえって気持ちは理解できてる。だが」

カチリ、という音と共に、プロシュートは堂島へと銃を突きつけた。

「オメーがさっきこいつに向けた殺気。ありゃあなんだ?俺たちにも納得がいくように説明してくれや」

それはこの戦いに関係のない第三者の立場であるからこそわかったことだ。
堂島正を信じたいというまどか達とは違い、極めて公平かつ冷静に場を見ていたからこそ、堂島が微かに放った殺気を捉えることができたのだ。

プロシュートの言及に、結衣は一層堂島への拒否感を強め、真島とまどかも困惑を顔に出す。

「私は...」

言いかけて、口をつぐむ。
堂島とて、本気で結衣を殺したいわけじゃない。
ただ、ほんの少し苛立ち黙らせたいと思ってしまっただけのことだ。
けれど。
もしも結衣が薫に助けられたことを零していなければ。
もしもプロシュート達が来ていなければ。
本当に自分は殺意を抑えられたのだろうか?

『無理ですよ、貴方には』

声が響く。
ずっと堂島に纏わりつく死者の声が。

『貴方に正義なんてものはない。ただただ憎悪に身を委ねて、感情任せに剣を振るう。だから彼女だって殺そうとした』

(黙れ)

『認めなさいな。貴方はヒーローなんてなれない。ただ殺すことしかできない殺人鬼だと!』

(黙れ―――ッ!!)


「こらこら。そんなに大人数で詰め寄っちゃいけないよ?彼も困っているだろう」

486英雄の条件(前編) ◆ZbV3TMNKJw:2022/04/15(金) 23:47:16 ID:YB2G1nFQ0

不意に放たれた声。
今の緊迫とした状況には全く似つかわしくない呑気泰然とした声だった。

「ひいふうみいの...いやあ、凄い雷が落ちてたからもしやと足を運んでみたが、俺の予感は間違っていなかったみたいだ。
再生が終わるまで誰とも会えなかったというのに一気に8人もの参加者に会えたのだからね。俺は童磨っていうんだ。君たちの名前は?」

人懐っこい笑顔とぺらぺらと捲し立てる童磨に、堂島へと向けられていた注意が全て集中する。
誰も答えを返さない。それどころか、単身でこうも平然と割って入ってきた彼に警戒心は嫌でも引き上げられる。

「あれえ?困ったなあ、名前を聞かせてもらわないと救う時に俺が覚えておくことができなくなっちゃうじゃないか」
「救う...?」

救いという単語に思わずまどかが聞き返すと、童磨は変わらぬ笑顔を浮かべながら説明する。

「そう。俺は万世極楽教の教祖をやっていてね。こんな殺し合いに巻き込まれて君たちは怯え恐れているんだろう?だから知らない誰かの影におびえ、こうして集団で排除しようとしてしまう。
そんな君たちのような迷い人の想いを、血を、肉を。しっかりと受け止めて救済へと導き高みへと導く。それが教祖の使命だと思うんだ」
「...要は、なにがしたいんだお前は?」
「救いたいんだよ。誰もが死ぬまでに怯え、苦しみ、怖がるから俺が食べてあげるんだ。君たちの苦悩を俺が受け止め共に永遠の刻を生きていく。それが俺の」

童磨の言葉は最後まで紡がれなかった。
タァン、と鈍い銃声が響き、彼の頭部を爆ぜさせたからだ。

「プロシュート、あんたなにを」
「黙ってろ」

まだ臨戦態勢に入っていない童磨を撃ったことに詰め寄ろうとする真島だが、プロシュートは一瞥もすることなく空いた腕で制する。

「もう、俺の話はまだ終わってないだろう?」

頭部が弾けた筈の童磨の身体がグリン、と起き上がり、撃たれた部位が瞬く間に修復していく。
その異様な光景に、プロシュート以外の面々も理解する。
この男は敵であり怪物であると。

真島は拳を構え、まどかは弓矢を作り出し、ドレミーは結衣を庇うように弾幕を浮かばせ臨戦態勢に入る。

「あらら、なんだかすごく嫌われちゃったなあ」

残念そうに眉をハの字に曲げる童磨。
しかしその実、彼は微塵もそんな感情を抱いていない。
否、抱けないのだ。鬼になる前からそういう産まれ方をしてしまったから。
だから情報収集が失敗してもそういうものだと割り切り、もう終わったことだとすっぱり切り捨てられる。

「じゃ、戦ってみよっか」

だから、彼らからの信頼を改めて得ようとするよりもさっさと『救って』首輪なり栄養なりにしてしまった方が効率が良いと即座に切り替えられる。

487英雄の条件(前編) ◆ZbV3TMNKJw:2022/04/15(金) 23:48:12 ID:YB2G1nFQ0
「まずは様子見...」
「いきます!」

ドレミーとまどかが、共にチラと視線を合わせ、童磨目掛けて弾幕と弓を放つ。
迫りくる球状のモノと桃色の弓が迫ろうとも童磨は微塵も臆さない。
「うわあ、すごいなあ」という感想とは裏腹に、思考も感情も微塵も揺らいでいない。
眼前にまで迫ったところでようやく対の扇で払い落す。

その直後。

「シッ」

距離を詰めた真島のジャブが童磨目掛けて放たれ、肉を打つ音が響く。

「俺の友達ほどではないけど早い拳だね」

隙を突いての一撃。にも関わらず童磨は微塵も動じない。
褒める言葉とは裏腹に、今のジャブは童磨になにも残していない。
それはジャブを打ち込んだ真島が一番よく理解していた。

(このまま踏み込むのはマズイ!)

咄嗟に背後に飛び退き距離を取る真島。
だが、気づいた時にはそれにピタリと張り付くように童磨は真島の懐に入り込んでいた。

(速い!)
「そうれお返し―――」

真島のジャブの要領で扇を振るおうとした童磨だが、迫るモノを察知し咄嗟に顔を傾ける。
僅かに遅れ、童磨の顔のあった場所へと、横合いから銃弾が通り過ぎた。

「チッ、外れたか」
「どっちでもいいですよ。当たろうが当たるまいが大した傷にはならないらしいので」

プロシュートの弾丸を避けて微かにできた隙を突き、ドレミーの弾幕がプロシュートの背後から放たれ、童磨の脇腹へと着弾する。

「真島さん!」

間髪入れず、プロシュート達とは逆の方向からまどかの弓が童磨の逆脇腹へと当たる。
微かにできたその隙を突き。

「はあああああああっ!!」

真島の渾身の右ストレートが童磨の顔面を打ち、後方へとたたらを踏ませた。

「こいつでトドメだぜ...『グレイトフル・デッド』!こいつをカラッカラのミイラにしろ!!」

無造作に投げ出された右腕を、プロシュートのスタンド『グレイトフル・デッド』が掴み、能力を発動する。
周囲にガスを撒くのではなく、腕から直接流せばものの数秒で戦闘不可能の老体へとなり果てほどなくして死に至る。

488英雄の条件(前編) ◆ZbV3TMNKJw:2022/04/15(金) 23:48:57 ID:YB2G1nFQ0
「うん?奇妙な感触だ。血鬼術とも違うようだね。興味深いなあ」
(ッ、この野郎、俺のスタンドが効いてねえ...!?)

だが、童磨はケロリとした表情でグレイトフル・デッドを観察していた。

この場にいる童磨以外の参加者は累の父という鬼を知っていたが、しかし、アレは見るからに怪物であり人間的な知能のある生物には見えなかった。
そんな累の父と、言葉を捲し立てへらへらと笑みを浮かべる童磨を同じ種族と初見で判断できる者が誰一人としていなかったのは仕方のないことだろう。

「妖術じみた技で俺の注意を引いて、何の力もない非力な彼の拳で翻弄し、最後に不思議な人形で俺にトドメを刺す。いい連携だったよ!今度は俺が見せてあげなくちゃね」

―――血鬼術 蓮葉氷

童磨が左の扇が振るうと、蓮の葉を模した氷の彫像がグレイトフルデッドとプロシュートへと降り注ぎ襲い掛かる。

「ぐおっ...!」

これ以上童磨の腕を掴んでいる旨味もないと判断したプロシュートは咄嗟にグレイトフルデッドを防御に回すも、その全ては防ぎきれず身体の至る所が凍てつき、あるいは痛みと共に肉が切れ出血する。

「君たちにはこれだ」

―――血鬼術 散り蓮華

遠距離から攻撃するドレミーとまどかには、扇から放たれる細かな硝子のような氷の花弁を放つ。

「ッ!」
「きゃああっ!」

広範囲かつ高速で飛来するソレは躱すことは非常に困難であり、距離が空いているにも関わらず二人は避けきれず被弾を許してしまう。

「そして君にはこれだ」

―――血鬼術 寒烈の白姫

そして距離の近い真島目掛けて、二体の氷で出来た女性が氷の息を撒き散らし広範囲に周囲と真島を凍てつかせる。

「うおあああああっ!」

フットワークを氷の足場で奪われ、特殊な力も持たない真島は両腕で己の身を庇うのが精いっぱいで、身に走る激痛に悲鳴をあげずにはいられなかった。

489英雄の条件(前編) ◆ZbV3TMNKJw:2022/04/15(金) 23:49:43 ID:YB2G1nFQ0
「そんな...!」

一連の戦いを見ていた結衣から零れ出たのはその言葉。
それらはまさに一瞬の出来事。
ついさっきまで共に戦っていた四人が瞬きをする間に傷つき倒れてしまっていた。
まさに悪夢としか言えない光景だ。

「さて、と」
「ひっ!?」

ぐるりと向けられた童磨の視線に、結衣は恐怖で喉を鳴らし、まだ動けない梨花を護るように抱きしめつつ身体を震わせる。

「そんな怖がらないでよ。俺はみんなを救いたいだけなんだからさ」
「で、でも、あなたの救いって食べて殺すことなんでしょう!?あたしそんなの嫌ですよお!」
「ただ食べるんじゃないよ。例えば、そこに転がっている彼ら。彼らはいま痛くて苦しいはずだ。けど、ここにいるのが俺じゃなくて他の参加者だったらどうなるだろうね。
もっと甚振って殺されるかもしれないし、殺した奴は彼らの事なんてなにも覚えていないかもしれないし...殺されるよりも酷いことをされるかもしれない」

殺されるよりも酷いこと―――その言葉にミスティ達に壊された薫の顔が浮かび、結衣は顔を曇らせる。
そんな彼女に構わず童磨は己の高説を垂れ流す。

「これが殺し合いならずっとそんな恐怖におびえ続けなくちゃいけないだろう?だから俺が君たちの全てを覚えて受け止めてあげるんだ。
そうすれば彼らが悲しみにも苦しみにも怯える必要がなくなる。俺と共に永遠の時を生きていけるんだ」
「...意味わからないです。あたし、あなたとずっと一緒になんていたくありません」
「えーっ?そんなこと言われると傷つくなあ。でもまあ、解ってもらうために頑張るのも教祖の務めだしね」

その言葉と共にフッと童磨の姿が消える。

「え?」

それは何の種も仕掛けもない、純粋な身体能力による抜き足。
ただそれだけで結衣の目は彼の姿を見失ってしまった。
だから、童磨が既に彼女の背後へと回っていることに気づかなかったし、童磨が結衣を切り裂かんと扇を振りかぶっていたことには当然気づいていない。
そして扇が振り下ろされるその瞬間。

―――カッ

剣閃が奔り、童磨の腕が切断される。
堂島の剣が結衣を護ったのだ。
童磨はあまりにもあっさり腕が斬られた違和感から飛び退き、その間に割って入るように堂島は結衣に背を向け立ちふさがる。

「...大丈夫かい」

なんのことはない、労わりの言葉。
けれど。
結衣にとって堂島は未だ薫を殺し、自分も殺そうとした殺人者にすぎず。
結衣は向けられる視線に思わずビクリと震え、恐怖の入り混じる目で堂島を見てしまった。

「......」

その拒絶の視線にも堂島はなにも言わず、周囲を見回してから童磨へと目線を戻す。

「...どうやら、きみと戦えるのは私一人のようだね」
「そうだね。この手ごたえからして、きみが一番強いし、この中で唯一俺に傷をつけることができるみたいだ」

斬られた腕を再生しつつ、童磨はへらへらと浮かべる笑顔とは裏腹に場を観察する。

(彼の剣はただ『よく斬れる』というわけじゃなさそうだ。事実、俺の骨を断つ際にあまりにも剣筋に淀みがなかった。普通は骨という硬い部位を斬れば大なり小なり、軌道がブレるものなのにね)

自分が負けるとは微塵も思っていないが、鬼殺隊の下手な柱よりはよっぽど手ごわそうだ。
おそらく戦闘が始まれば他の者を狙う余裕もなくなるだろう。

(今のうちに数を減らしておくか)

そう判断するや否や、一番ダメージを負っている真島へと向けて氷柱を放つ。

「真島さん!」

真島を護るため、まどかは矢を放ち氷柱を破壊した。
その隙に。

童磨は既にまどかの背後へと回っていた。
まどかがそれに気づいた時には既に遅く、回避も防御も間に合わない速さで扇が振るわれる。

それを察知していたかのように、堂島もまた既に童磨の傍にまで迫っており、剣を振るうことで童磨の攻撃を中断させた。

「ッ、堂島さ...!」
「君たちは降りろ。足手まといだ」

それだけ言って。
堂島はこの場の誰にも一度ととて振り返ることもなく、童磨へと突貫していく。
放たれる礫や氷柱を切り払い、或いは避けつつ、堂島と童磨は移動しながら戦い―――あっという間にまどか達五人を置き去りに彼方へと去っていってしまった。

その遠ざかっていく姿を止めることは誰にもできず、ただ見届けることしかできなかった。

490英雄の条件(前編) ◆ZbV3TMNKJw:2022/04/15(金) 23:50:14 ID:YB2G1nFQ0


「......」

先ほどまでの喧騒が嘘のように静寂に包まれる。

「いやはや...彼に助けられてしまいましたね。アレはあまりにも相手が悪すぎました」
「...チッ」

敗北を喫したにも関わらず相も変らぬ軽い調子のドレミーの言葉に、プロシュートは舌打ちする。
別にドレミーに対して怒っている訳ではない。
彼女は正しい。
童磨の氷の技にはグレイトフル・デッドは無力であり、そもそも老化ガス自体が効果が薄い。
その技の多彩さには、まどかの弓とドレミーの弾幕では対処しきれず、頼みの綱の身体能力は誰もが食い下がることすらできなかった。
そのうえで高速再生能力まで有している。
童磨がまだこちらの様子を観察していたから、四人の首は繋がっており、その気になっていれば既に堂島を除く者たちの死体が積み重なっていたのは間違いない。
それは誰もが自覚していた。
だからこそ、スタンドを封じられた程度でなにも為す術がなかった己の無力さに、プロシュートは苛立ったのだ。

「...あの〜、あたしたち、どうすればいいんでしょう」

恐る恐ると言った様子で結衣が手を挙げる。
いつでも能天気な彼女も、この時ばかりは普段の調子で淀んだ空気を戻すことはできなかった。

「...ひとまず、やれることをやろう。ワザップの治療と、古手の杖の効力切れと...三島の埋葬だな」

ひとまずは音頭をとる真島だが、その声には覇気はない。
当然だ。
辛うじて食い下がれていた累の父と違い、今回はまさに一蹴された上に他三人の足を引っ張っていた。
流石にこの現状には精神的に参ってしまっていた。

「......」
(足手まとい...)

まどかの脳裏に、堂島が残した言葉が反芻される。
別に、そう言われたことを根に持っている訳じゃない。
事実、まどかが援護しようとしても実力差がありすぎて助力は難しかっただろう。
それは認めている。
認めているからこそ、足を止めてしまう

―――コロネを除いた俺たち三人の中じゃあ嬢ちゃんが一番の腕っこきなんだ。頼りにしてるぜ魔法少女

そう、英吾に優しく頭に手を置かれたのも遠い記憶のように思えてくる。
どれだけまっすぐに生きていたいと思っても、どれだけ人を救いたいと思っていても。
力が及ばなければなにもできない。なんの意味もない。

(わたしって...なんなんだろう...)

仲間を誰一人救えず。
止めたいと願っていた堂島は自分一人でも立ち直っていて。
自分の横やりで惨劇を連鎖させてしまい。
いまも誰かを救うことなど出来やしない。

―――どろり。

その感情の淀みが彼女のソウルジェムを濁らせ、表情が陰っていく。
まどかの異変に真島が気づき、声をかけようとしたその時だった。

―――バサリ

羽の音が響いた。

地獄の底から沸き上がるような、昏く悍ましい重厚な羽音が。

491英雄の条件(前編) ◆ZbV3TMNKJw:2022/04/15(金) 23:51:01 ID:YB2G1nFQ0



「お...おおお」

木々に押しつぶされていた累の父は、涙を流しながら呻いていた。
それは悲観や苦痛によるものではなく。
子の成長を喜び歓喜する親を思わせる慈愛の涙。

彼は見た。
己から少し離れた遠いところで、聳え立った巨大なモノを。

「家族...守る...!」

例え背格好が変わっても息子には変わらない。
家族を想う気持ちではち切れんほどに、彼の筋肉が膨れ上がり、のしかかる木々を揺り動かしていく。

「オレに...家族を...」

噴火寸前の火山のように、木々がガタガタと震え、徐々に累の父の身体が持ち上がっていく。

「守らせろオオオオオオオォォォォォ!!!」

そして呪縛から解かれるように―――木々が吹き飛び、累の父の身体が赤き月に照らし出される。

「ヴァアアアアアアア!!」

雄叫びと共に、累の父は走りだす。
全ては、愛する家族を護るために。

492英雄の条件(前編) ◆ZbV3TMNKJw:2022/04/15(金) 23:51:30 ID:YB2G1nFQ0


ソレは主催側の者たちも存在は認識していた。

選別する際に、八将神の立場に於こうかとも思った。

しかし―――魂に触れたところで思いとどまった。

こいつに下手に手を出せば『食われる』。そう理解したからだ。

しかし彼らは危険だと思うのと同時に考えた。

果たしてコレに―――佐神善という男の皮を被ったナニかに、未だ底知れぬソレに我らが齎した呪縛は通じるのか。

そんな興味本位での実験。そして期せずして、『佐神善』という人格は首輪の爆発により消し飛ばされた。

それによって、『彼』はこの会場に顔を覗かせた。

『彼』の世界の、最も熱い炎の中から、最も冷たい海を越え。

灼かれ、凍え、全身から血を流しながら生まれたモノ。

形を変え、如何な生物にも届く闘争心を牙に、殺し食らい、取り込む。

『佐神善』という『人』を真似たソレは、いま己が食らうべきモノを求めて―――駆け出し、牙を剥いた。

493 ◆ZbV3TMNKJw:2022/04/15(金) 23:52:13 ID:YB2G1nFQ0
前編投下終了です
続きは近いうちに書き上げます

494英雄の条件(後編) ◆ZbV3TMNKJw:2022/04/25(月) 20:21:38 ID:YgZGbEJo0
大変遅くなりまして申し訳ございません。
期限の超過を深くお詫びいたします
投下します

495英雄の条件(後編) ◆ZbV3TMNKJw:2022/04/25(月) 20:22:12 ID:YgZGbEJo0
―――血鬼術 枯園垂り

童磨の対の扇が振るわれ湾曲した氷柱が連続して放たれる。
放たれた後も直ぐには消えない氷柱は、近接戦においては相手の技をけん制できるため非常に有効なものである。
だが、堂島の剣の前では無意味。
振り下ろした剣の軌道を全く削ぐことなく氷柱は切断される。

(やっぱりなんの抵抗もないな。ただ斬れるだけならこうはならない)

堂島は打ち払うでも薙ぐでもなく、純粋に振り下ろしている。
まるで氷柱の壁が無意味だと知っているようにだ。
己の剣に対して絶対の自信を持っているかあるいはそういう技なのか。

「いいね。興味が湧いてきた」
(とりあえず剣潰しとこ)

―――血鬼術 凍て曇

扇を一振りすると、凍てつく粉が立ち込め、たちまちに堂島の剣に纏わりつき凍り付かせる。
剣は刃の部分を当てて初めてその真価を発揮する武器だ。
これでは切れ味が落ち、その価値を発揮するのは難しくなってしまう。

(さて。ここからどうするかな?)

堂島は主に剣での戦闘を主体としている。
それを防がれた時、彼はどうするか。童磨は観察しつつも氷柱を放つ。

剣が凍り付いた時、無理に剝がそうと壁にでも叩きつければ、氷は破壊できても剣だって耐えられるかはわからない。
だが堂島は―――躊躇うことなく、剣を地面に叩きつけ氷を破壊し、迫る氷柱もあっさり切り捨てた。

(なるほどね)

最短距離で間合いを詰め、横なぎに振るわれた剣に腹を裂かれ、詰まっていたモノがはみ出る。
にもかかわらず、童磨は冷静に堂島の顔に目掛けて粉状の氷を放ち視界を防ぎ、その隙に飛び退き一旦距離を置いた。

「やっぱりね。その剣、血鬼術と同じだ。支給品じゃなくて、自分の力で生み出したものだろう?」

零れた内臓が巻き戻されるように高速で体内へと戻っていく様に、堂島は思わず足を止める。

「自分の能力だからそうやって武器が壊れるかもしれない対処法を平然とやれる。もしここで配られた、よく知らない支給品だったらそんな雑には扱えないからね。
そして今まで俺の氷柱に対しても、硬度とかをさして考慮せずに剣を振り下ろしてたところから、能力は『万物両断』ってところかな。
ただの剣の精製じゃあ、俺とやり合えるきみの実力と不釣り合いだし、斬られた俺自身には特に異常もないからね」

瞬く間に元の身体に戻る童磨を見て堂島は思う。
再生能力と固有の能力を有した異形。自分たち吸血鬼(ヴァンパイア)とこの男は似ていると。

「いやあ、それにしても驚いたよ。俺とよく似た参加者がまだいたなんて」
「似ている...?」
「俺がやってくる前から欠けていたその腕、ゆっくりではあるが元の形に戻っていっている。きみにも再生能力があるんだろう?
固有の能力と再生する身体。ホラ、俺と似ているじゃないか」

496英雄の条件(後編) ◆ZbV3TMNKJw:2022/04/25(月) 20:22:44 ID:YgZGbEJo0

童磨の語るそれはつい今しがた、堂島が抱いた感想と同じもの。
しかし童磨の口からそれが語られると無性に悪感情が湧いて出てきた。

「きみと一緒にしないでもらおうか」

別に、吸血鬼という存在を誇っている訳ではないし愛着があるわけでもない。
それでも、眼前の男から『似ている』という評価を下されるのは嫌だった。

「あれえ?怒ってる?なにか気に入らないのかい?」
「独り善がりの救済を掲げるきみと同一視されたくはないからね」
「心外だなあ。独り善がりどころか、ここじゃなかったら俺を頼る信者はたくさんいるんだよ?悩みたくない、辛いのは嫌だ、救われたいってさ」

しょぼんとハノ字に眉根を下げ、至極残念そうな表情を浮かべるも、すぐに屈託のない笑顔に戻る。

「そうだ、きみもなにか辛いことがあったんだろう?俺に対して刺々しいのもそのせいだよ。聞いてあげよう、話してごらん?」
「本当にぺらぺらと回る口だね」

もうこれ以上言葉など交わしたくないと、童磨へと取り合わず、堂島は剣を握りしめ一足飛びに距離を詰める。

―――血鬼術 寒烈の白姫

再開する童磨の血鬼術と堂島の剣の凌ぎ合い。
有効な遠距離打を持たない堂島は童磨へと近づくために向かえ来る障害を切り払い、万物両断相手に接近戦は避けたいと思う童磨は中距離を保ちながら術を放ち続ける。
堂島は、中々、有効距離へと踏み入れないもどかしさを感じる一方で、己の振るう剣が軽くなっていることに気が付いた。
それは物理的な剣の損傷ではなく、彼自身の気の持ちようでしかない。
相手は、善のような、誰が見ても他者の為に戦う善良なる者ではなく、己を正義と称し人々を貪る『悪』でしかない。
つまりは、なんの後ろめたさを感じることもなく剣を振るえるわけだ。
やはり、斬るならば―――悪がいい。

『貴方と同じじゃないですか』

戦闘中だというのに声は止まない。
嘲る死者の笑い声は堂島の足に鎖のように纏わりついてくる。

『信念ともいえない薄っぺらい正義を掲げ、誰に頼まれている訳でもないのに独り善がりの正義に酔いしれる救世主(ヒーロー)気取り。
彼と貴方、なにが違うんです?』

反論することすら億劫になりながらも、その一言一句を逃すことはしない。
『童磨と同じ』。その言葉は堂島の心を蝕んでいく。

『彼の言葉に嫌悪するのは認めたくないからでしょう?』
(―――そうだ。認めるものか。インチキ臭い宗教を掲げる男と私が一緒など)

死者の声を曲解し、歪んだ憎悪を糧に足を前に進める。

(私はヒーローになるんだ。世の中を良くするために。その為に私は―――)

例え己では冷静だと思っていても、他者から見れば焦燥しているとしか見えない時はある。
その隙を、童磨は、合理性を極めた鬼は見逃さない。

497英雄の条件(後編) ◆ZbV3TMNKJw:2022/04/25(月) 20:23:27 ID:YgZGbEJo0
(迂闊だね。きみの装甲を貫く技がないと考えての特攻かな?)

堂島はこれまで童磨の技の多くを斬り払い、残りをその硬い装甲で受けてきた。
それでもここまで重傷を負っていなかったことから、如何な技とて受けきれる―――そう判断しての特攻だと童磨は考えた。
当然ながら、それは童磨も認識しており対策も用意している。
童磨の血鬼術のひとつ、冬ざれ氷柱。本来は多くの氷柱を宙から降り注がせ相手の行動範囲を狭めるのを兼ねてダメージを与える技だが、童磨はそれを応用。
数多に作る氷柱に回す分の力を一本の氷柱に集中させ、貫通力と速度を強化。設置場所を宙ではなく足元にして、堂島が通り過ぎた時を狙い発射準備に入る。
狙いは頸。鬼と酷似しているのであれば、首を破壊すれば最低でも行動不能にはできるだろう。

堂島の歪んだ憎悪。
童磨の合理的な殺意。

互いに、あと数秒後には己の技が敵の急所を抉っている光景しか視えていない。

―――ビリィ。

その二人をして、戦闘を中断せざるを得ないほどの殺意が降りかかる。

互いに王手をかけたにも関わらず、二人は共にその出どころへと視線を向ける。

二人の視界の先にあったのは、異様、という言葉すら生易しい光景。
灰と化していた筈の肉体から溢れ出た翼が幾多も溢れ、あぶれ、巨大なナニかを象っていく。

童磨は知らない。
感情を欠落している筈の、鬼殺隊という憎悪の温床を知っている自分ですら本能的に身体が硬直するほどの殺意を。
堂島は知っている。
格上の相手にも揺らがず、己の信念を相手の本能に突き立てる牙の如き、純然たる殺意のこの感触を。

そして。
己が身を削りながら、高速で迫るソレに、在りえない者の姿を重ねる。
彼の面影などない。
けれど、その翼は。殺意の味は紛れもなく。

「佐神くん...?」

呆気にとられる堂島と童磨。
彼ら目掛けて伸ばされた巨大な腕が、獲物を掴み上げ、殺意の牙は食らうべき者―――堂島正へと剥かれた。

498英雄の条件(後編) ◆ZbV3TMNKJw:2022/04/25(月) 20:23:54 ID:YgZGbEJo0



「ゥオオオオオオオオオオ!!!!!」

大気を震わせるほどの絶叫が響き渡り、堂島達の、少し離れた場所にいるプロシュート達の身体が竦みあがる。
感情で制御できぬ本性の警鐘が一同の身体を強張らせる。
『ソレ』はその隙を突き、堂島を掴み上げ、剣を落とさせると、大口を開くとその装甲へと牙を突き立てる。
真祖の中では最も硬い装甲を纏うユーベンの装甲にすら傷を入れるソレは、いくら硬い装甲を持つ吸血鬼の堂島とて耐えられるものではない。
瞬く間に牙は食い込み、その肉へと食い込んでいく。

「ッ!」

腹部に走る激痛に耐えつつ、堂島は掴まれた時に落とした剣を、能力で高速で手元に戻す。
飛来する剣は『ソレ』の手と顎を切り裂き、堂島の拘束を無理やり剥がす。

「くあっ...!」

地面に落ちた堂島は痛みで顔を歪めるも、すぐに飛び退き追撃を躱す。
それを逃がさないと言わんばかりに、断面から生えた無数の腕から針が掃射され堂島へと放たれた。

(どうなっているんだこれは。佐神くんは死んだはずじゃ!?)

迫る針を切り払いつつ、乱れた思考で現状を整理する。
善が死んだ。それは間違いない。
彼の能力は模倣だ。もしかして、自分のあずかり知らぬところで蘇生能力を有する吸血鬼でも倒していたのか?
だが、そんな殺し合いが破綻しかねない能力をD・ナイトのような縛りもなく主催は使わせるか?
なら目の前のコレはいったいなんだ?

いくら考えたところで堂島にはなにもわからない。
ただ、いまわかるのは一つだけ。

彼は自分を食おうとしている。

(このまま殺されるわけにはいかない)

堂島は迫る針の群れを避けつつ、『ソレ』のもとへと駆けていく。

(ッ...見れば見るほど悍ましいな)

蝙蝠のような翼で象られた巨体。
巨大な口腔から覗かせる数多の腕。
怪物の頭部の形を象るように連なる無数の顔。
全てを食らいつくさんと鋭利に生えそろう牙。
誰がどう見てもおとぎ話に出てくるような怪物だが、その殺意と能力は嫌でも『佐神善』を連想させられてしまう。

499英雄の条件(後編) ◆ZbV3TMNKJw:2022/04/25(月) 20:24:14 ID:YgZGbEJo0
(これがもし暴走によるものならば止められるかもしれない)

先のミスティの黒針による洗脳とはまるで違うが、しかし暴走しているだけならばとれる手段が無いわけじゃない。
吸血鬼である以上は再生限界もあるはずだ。
そこまで達したところで梨花の持つふういんの杖を使い、正気を取り戻させて一旦落ち着かせる。
そうすれば時間を稼ぎ対策を練ることができるはずだ。

有効射程距離に入ったところで跳躍する。見据えるは怪物と化した『彼』の頭部。

(今の彼には首輪が無い。つまりここで正気に戻してしまえば、彼は脱出への道に大いに近づくというわけだ)

紋章の方はともかく、参加者の枷である首輪が無いのはかなりのアドバンテージだ。
後はどうにか説得し、殺し合いが終わるまで拘束でもしておけば少なくとも彼は生きて帰ることができるはず。

(君は帰らなくてはならないんだ―――シスカくんのもとへ)

迫る腕へと剣を振るい両断する。
これで道は開かれた。あとはひたすらに斬り続けるだけだ。
最初に戦ったあの夜のように。
まだ未熟な彼を止めようとしたあの時のように。

「目を覚ませ、佐神くん!!」

決断と共に剣を振り下ろす。

その刹那だった。

背後から、尾の形を模した翼の群れが堂島の身体を縛りあげたのは。

「なっ!?」

堂島は思わぬ奇襲に驚愕する。
先ほどまで無かったはずのソレがどこから湧いて出てきたのか―――その答えはすぐに思い知らされる。

『彼』の姿は、つい数秒前よりもさらに変容を重ねていた。
頭部からは幾多も翼が生え、臀部からは巨大な尾の形が象られ、質量も有している。
数呼吸の合間にも『彼』は加速度的に強さを増しているのだ。

「くそっ!」

纏わりつく翼を斬ろうとするも、腕が拘束されている為に切り離すことが出来ない。
堂島の剣は万物を両断する最強の矛ではあるが、しかしその有効範囲は刃が届く範囲でのみ。
振るうことができなければ斬ることなどできないし、手元から離れていなければ手元に戻す能力の副産物としての切断もできない。
つまり、今の堂島はもはや抵抗できないただの餌にすぎない。
『彼』は堂島を食らうため、その大口を開け牙を剥く。

己の死を悟る堂島の視界いっぱいに広がる無数の手と顔。
それは、今まで彼が斬ってきた亡者たちの怨嗟の姿に見えた。

―――がぶり。

500英雄の条件(後編) ◆ZbV3TMNKJw:2022/04/25(月) 20:25:00 ID:YgZGbEJo0


あっという間の出来事、としか形容できない事態だった。
これからどうするかと持ち掛けたその瞬間に、『佐神善』だった灰の塊が蠢き湧きあがり、大量の翼に姿を変え巨大な怪物となり果てた。
真島も。
プロシュートも。
まどかも。
ドレミーも。
結衣も。

誰もが呆気にとられる中で『ソレ』は五人を無視し、離れた場所にいる堂島たちのもとへと駆け出していった。
童磨と堂島の戦いに乱入する『ソレ』を見て、真っ先に動きだしたのはドレミーとまどかだった。
一般人でしかない結衣は元より、真島とプロシュートも死闘を演じてきたとはいえ所詮はただの人間。
一方で、妖怪と魔法少女という異形が当たり前の世界に身を置く二人は彼らよりも立ち直りが早かった。

なにか特別な考えがあったわけじゃない。
本能に響く殺意の塊をぶつけられ、余計な悩みも思考も削ぎ落された結果、彼女たちは己の為すべきことを為すために身体が動いていた。


ドレミーの目的は夢遊管理。
まどかの目的は人命救助。

二人は意思疎通をして連携を取ったわけではない。
ただ、偶然、彼女たちのやるべきことが重ならなかっただけ。

その差が、彼女たちの命運を分けた。

ドレミーは食われそうになる堂島を無視して『ソレ』の頭部に当たる部分へと最短距離で飛び上がり。
まどかは捕まった堂島を救うために跳びあがった。

「今は眠りなさい。貴方の槐安は今作られる」

ドレミーなど眼中にないと言わんばかりに隙だらけの頭部に触れ、掌から黒色の霞が放たれる。
刹那、頭部を象る顔の幾つかがギョロリとドレミーの方へと向き、弾けるように襲い掛かった。

「ッ」

向かい来る弾を躱しつつ、ドレミーは後方へと退避する。


まどかに出来ることは多くない。
盾に成ろうにも、その小さな身体では大口にはあっさり飲まれてしまう。
だから、まどかは矢を握りしめ突き立てた。
己に向けられる牙ではなく、堂島を拘束している翼の群れに向けて。

501英雄の条件(後編) ◆ZbV3TMNKJw:2022/04/25(月) 20:25:27 ID:YgZGbEJo0
弾かれた翼を裂き、堂島を解放する。それだけに留まらず、彼の身体を押して牙の射線から外した。
飛行能力を持たない堂島は宙に投げ出されてはなにもできず。そしてまどかもまた空では自在に動けない―――そんなことは百も承知だ。
死にたいわけじゃない。怖くないわけじゃない。
ただ、彼女という人間はいつもそうだった。
人を救う選択肢に犠牲を強いられれば。その犠牲の対象が自分であれば、必ずその選択肢を選んでしまう。
ある種の狂気的な自己犠牲心。それが、善意以上の彼女という人間の本質だ。

だから、迫りくる殺意に恐れながらも、己の末路を受け入れるように目を逸らさず、まどかの身体はかぶりと丸のみにされた。

その光景を見ていた堂島は思わず手を伸ばす。
しかしなにも掴めない。
握りしめた掌は空を切るだけで、己を庇う為に食われた少女も、こんな蛮行を望まないはずの少年の凶行も。
何も止めることが出来なかった。

そして、堂島正の中で―――ぷつりと、何かがキレた。

着地するや否や、再び跳躍し剣を振り下ろし頭部を両断する。
その翼の群れの中から、無造作に垂れさがる細い腕を掴み、まどかを引きずり出した。

彼女の身体は千切れてはいなかった。幸運にも牙は届いていなかったようだがしかし、あの口腔内に蠢く数多の腕にやられたのか。
衣類や髪の毛はところどころが千切れ、四肢の至る箇所に痣が付けられ、片目も潰れされていた。
堂島が斬って救い出すまでの数秒でこれだ。
そこには配慮の欠片もなく、千切り食らうことしか考えていないという事実がありありと示されていた。

「この子は救おうとしていただけだ...きみが見えていなかったというのか...!?」

堂島は少年だった善が大きくなり成長していくのをずっと見てきた。
そんな彼だからこそわかる。
佐神善という少年は優しく、真面目で責任感があり周りをよく見ている少年だ。
そんな彼の決意から生まれる信念だからこそ、誰にも折れず挫けないのだと。
その彼が、こんな真似をするはずがない。割り込んでくる影を見逃すはずがない。
誰かを救おうとする者を己の欲望のままに破壊する。
―――そんなものを、佐神善だとは認めない。

「...そうだ。死んでしまった者が蘇る...ヒーローでもないと、そんな都合のいい話はないよな」

佐神善は死んだ。己の目の前で首輪を爆破され、灰となった。
どんな凄腕の医者でも失われた命を戻すことはできない。
彼の死は揺るがない真実だ。
だから、目の前の『コレ』は佐神善では決してない。
これ以上凶行を重ねさせないためにも。彼の魂を穢さないためにも。
堂島正は一つの決断をする。

502英雄の条件(後編) ◆ZbV3TMNKJw:2022/04/25(月) 20:25:50 ID:YgZGbEJo0
「それで?きみはいつまで見ているんだい?」
「いやあ、取り込み中のようだったから」

後方で堂島たちの戦いを観察していた童磨へと堂島は視線だけ向ける。
童磨は堂島と怪物が戦い始めてからずっと彼らを観察していた。
機を伺っていた、というよりは怪物の殺意に警戒していた。
童磨には死を恐れる感情が無い。
それは自覚しているし恥にも思っていない。
だからこそ、その自分がたかだが殺意の前に動けなかったという事実が童磨の警戒を強めていた。

「それでどうだい。この状況でまだ私と戦うつもりかな?」
「そうだねえ」

自分とほぼ同格の堂島と、己にすら脅威を抱かせる怪物。
効率的に戦うならば堂島を先に仕留め、怪物とは距離を置くのが正解だろう。
だがそれは怪物が正常な思考ができることが前提の場合だ。
思考回路のなく強力な獣ほど放置して厄介なものはない。
潰せるのならば潰しておくべきだ。

「普段は鬼が徒党を組むなどと嘆かれるかもしれないが、あの御方もこういう時は認めてくださるだろう。それじゃあ一時休戦といくとしようか」
「ああ」

短く返事を返し、堂島は気絶するまどかをそっと地面に横たえ、童磨と共に並び立つ。

「...きみのことはもう佐神くんだと思わない。断たせてもらうよ」

手段を択ばず悪を排除する。
それは、今までと変わらぬ彼の『ヒーロー』としての在り方だった。

503英雄の条件(後編) ◆ZbV3TMNKJw:2022/04/25(月) 20:26:42 ID:YgZGbEJo0



「ふむ...今回はちゃんと効いているようですね」

堂島達と向き合う怪物を見ながら、己のかけた術の手ごたえを確かめるドレミー。
本来ならばまどかは食われた時点でその生を終えていただろう。
彼女が一命をとりとめたのは、ドレミーの技で微かにだが動きが鈍ったからだ。
累の父には効果が薄かったが、今回はかけ続ければ徐々に効果が増してくるはず。

(彼らに相手をしてもらっている隙を突き、私が眠りに落とすのが最適ですかね)

あれだけの質量相手では真島やプロシュートのような生身の人間には荷が重いだろう。
幸い、怪物が狙っているのは堂島達だけのようだ。ならば自分の術もかけやすいはずだ。

さて、もう一度―――そう思ったところで、不意に彼女の頭上に陰りが差した。
彼女が振り返るよりも速く、彼女の二の腕から身体にかけて鉄球の如き衝撃が襲い掛かる。
べきべきと嫌な音を立てて骨が軋み悲鳴を挙げる。

吹き飛ばされてゆく中、ドレミーは見た。
振り抜かれた剛腕。この殺し合いで何度も見てきたその風貌。

「俺の家族に手を出すあああああああああ!!!」

極めつけのこの台詞。
己を吹き飛ばした者が紛い物と称した鬼だと認識すると同時、ドレミーはぐしゃりと壁に叩きつけられ沈黙した。

「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!」

乱入者、累の父は吠える。
己の存在意義を示さんと、天高く赤き空を見上げて。
息子と称された怪物は微塵も興味を示していないが、累の父は構わず息子の為にその猛威を振るう。

「しつけーんだよてめえはよ!」

遅れて駆け付けたプロシュートは叫びと共にグレイトフル・デッドを出現させ累の父へと殴り掛からせる。
これで仕留められるとは思っていないが、けん制としては効果的だ―――そう読んでの先制攻撃。
だが。

「ガアアアアアア!!」

グレイトフル・デッドのラッシュは、累の父の剛腕の一撃で全てを弾かれた。

「なっ、なにぃぃぃぃ!?」

両腕を弾かれ体勢をのけ反らせながらプロシュートは驚愕する。
累の父は身体能力は上とはいえ、ここまで圧倒的ではなかったはずだ。
その差は、プロシュートの勘違いなどではなく、ボミオスの杖の効果である。
動きが遅くなるということは単純に動作が鈍る、というだけでない。
筋肉の動きが遅くなるということはそれだけ込められる力も減るということだ。
プロシュートが見たのは脱皮前の累の父とボミオスの杖がかけられた状態。
つまり、彼はまだ累の父の全力のパワーを未だに見ていない。
その差が彼の認識を誤らせた。

「ジャアアアア!!」
「チイッ!」

両腕を空けられた状態では躱しきれず、咄嗟にスタンドを己の身体との間に挟みクッションにする。

ドッ

「ガ...!」

スタンドを通じて伝わる衝撃に腹部が圧迫され、あえなく吹き飛ばされるプロシュート。
いくらか内臓をやられ、吐血し、地面を赤く染めていく。

504英雄の条件(後編) ◆ZbV3TMNKJw:2022/04/25(月) 20:27:21 ID:YgZGbEJo0
「クソッ!」

最後に一人残された真島は右腕のストレートで累の父の腹部を殴りつける。
が―――

「ぐあっ!」

右腕に激痛が走り、拳の肉が裂け血が流れだす。
累の父の肉体の硬さに真島の拳は耐え切れず、打ち込んだ彼自身へのダメージとなって返ってきたのだ。

累の父は苦しむ真島の胸倉を掴みあげる。

「俺の家族に手を出すナアアアアアアアア!!!」

首元を絞める圧迫感に真島は苦悶の声を挙げる。
そんな彼に構わず、累の父は命を刈り取らんと拳を固める。
殺られる―――そう直感した真島は必死に声を絞り出す。

「荻原...鹿目を...あいつを頼む...!」
「真島さん、でも...!」
「俺のことはかまうな!はやくいけぇ!」
「いやです!真島さんを放っておけません!お願いだから真島さんを離してください!!」

この結衣の生きた時間軸においては真島との交流はほとんどない。
だが、知った人間が命を散らそうとしているのをみすみすと見逃せない。
それはどの世界の荻原結衣にも共通している信念だった。
縋るような声を挙げる結衣だが、累の父には関係ない。
ただ息子の邪魔をしようとする輩を排除するだけだ。

ビキビキと筋張る剛腕に、真島は死を覚悟する。

(すまん、鹿目、荻原―――だが、せめてこいつだけでも!)

己の首輪に指をかけ、累の父を道ずれにせんと気迫の満る目で睨みつける。
その覚悟とほぼ同時。
累の父の剛腕が真島の顔面を破壊せんと迫る。

走馬灯のように視界の全てがスローモーションに映る中。
彼は見た。
迫る拳と己の目の間に。

この赤い月夜には似つかわしくない、青色の蝶がヒラヒラと舞いおりた。

累の父は構わず拳を振り抜き蝶を四散させる。

刹那―――ベコリ、と累の父の腕が大きくひしゃげた。

505英雄の条件(後編) ◆ZbV3TMNKJw:2022/04/25(月) 20:28:03 ID:YgZGbEJo0
「ヴァアアアアアアア!!」

腕を抑え累の父は叫び、思わず真島を解放してしまう。

「...!?」
「ま、真島さん!」

突如解放され、尻餅を着き困惑する真島の手を引き、結衣は慌てて累の父から距離を取らせる。

「ゴールドエクスペリエンスで生み出された生物は攻撃されるとダメージを相手に反射させる」
「ふういんの杖はあと2回よ。無駄遣いをするつもりはないからこれでキッチリ仕留めなさい」
「古手さん、貴重な杖を使ってくれただけでなく、体力まで回復させてくれたこと...感謝します」


〜〜〜〜♪(ジョルノが無駄無駄する時のBGM。ワザップジョルノの動画でも流れている)

例の如くBGMが流れ始め、二人の影を赤い月が照らし上げる。



「貴方を暴行罪及び殺人未遂で訴えます。理由はもちろんお分かりですね?」

犯した罪状を確かめるように静かなトーンで語り掛けるように。

「あなたが家族をダシにして僕の仲間の命を奪おうとしたからです!!」

罪を犯した愚者への怒りを解き放つように力強く。

「覚悟の準備をしておいて下さい!ちかいうちに訴えます。裁判も起こします。裁判所にも問答無用できてもらいます。慰謝料の準備もしておいて下さい!貴方は犯罪者です!刑務所にぶち込まれる楽しみにしておいて下さい!いいですね!!」

決して許されないことをした者への怒りをぶつけるように、烈火のごとく激しく。

ワザップジョルノは古手梨花と共に戦線に復帰するなり、累の父へと高らかに宣戦布告した。

506英雄の条件(後編) ◆ZbV3TMNKJw:2022/04/25(月) 20:28:42 ID:YgZGbEJo0





『男』は世の中を変えるヒーローになりたいと願っていた。

『上弦の鬼』は周囲の期待に応えて可哀想な人を救ってあげる教祖(ヒーロー)であろうとした。

『青年』と『魔法少女』は互いの姿にヒーローの影を見つけ、尊重し合った。

『妖怪』は夢を管理する管理人(ヒーロー)となった。

『少女』は『ギャング』に不器用ながらも救ってくれるヒーローの姿を見出した。

『鬼』は家族を護る父親(ヒーロー)にされた。

『魔女』は惨劇の舞台から抜け出すヒーローを求め抗い続けた。

『被害者』は踊らされたガセネタを告発する為にネットミームと化してひとつの時代を築いた傑物(ヒーロー)となった。

『人を真似た何か』は己を救ってくれたヒーローの姿を真似して人の命を救いたいと思った。

誰もかれもがヒーローを求め、想い焦がれて踊り続ける。

その過程に正しきものなどあるかはわからない。

ヒーローとは、己が認めねば存在できない孤独な存在でしかないのだから。

507英雄の条件(後編) ◆ZbV3TMNKJw:2022/04/25(月) 20:29:12 ID:YgZGbEJo0
【B-2からB-3にかけて/一日目/早朝(放送直前)】

【????@血と灰の女王】
[状態]:身体が徐々に崩れていっている。
[思考・状況]
0:とにかく有益な餌を食らい体力を取り戻す。(今のところは堂島正=童磨>>>>>その他、くらいの認識)

【童磨@鬼滅の刃】
[状態]:全身融解(ほぼ再生)、疲労(小)
[装備]:鉄扇×2(片方ほぼ融解)@鬼滅の刃
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2 妖弦フェイルノート@Fate/Grand Order
[思考・状況]
基本方針:帰るために、力を取り戻すために人を喰らう。
0:堂島と協力し眼前の怪物を始末する。その後は改めてこの場の面子を『救って』あげる。
1:次会った時こそ美鈴ちゃん達を喰べてあげる。
2:無惨や他の鬼@鬼滅の刃が参戦していた場合は遭遇してから考える。
3:ナスタシアや桐生のような『かわいそう』な相手を『救う』
[備考]
※参戦時期は無限城編よりも前です。
※主催により上弦の弐としての力が抑えられています。少なくとも「結晶の御子」が使えません。
※無惨の呪いの有無については後続の書き手にお任せします。



【堂島正@血と灰の女王】
[状態]:精神的な疲労(絶大)、疲労(絶大)、身体にダメージ(中)、左腕破壊(再生中)、佐神善の死を受け入れる覚悟(?)
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本方針:生き残り正義のヒーローになる。
0:童磨を利用し『善らしきモノ』を討つ。童磨もついでに始末しておきたい。
1:日ノ元士郎を討つ。そのあとは...?

[備考]
※参戦時期は101話より。

[備考]
※参戦時期はBルート死亡後より
※魔法少女やまどかについて大雑把に聞きました。

【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:左目失調、出血(大)、四肢に引きちぎられかけた青あざ、全身にダメージ(大)、疲労(絶大)、髪の半ばほどを消失、魔力消費(絶大)、気絶
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜3
[思考・状況]
基本方針:誰も死なせず殺し合いを止める。
0:気絶中
1:『善のようなモノ』を止めたい。

[備考]
※参戦時期は3週目でマミを殺した後。

508英雄の条件(後編) ◆ZbV3TMNKJw:2022/04/25(月) 20:30:08 ID:YgZGbEJo0

【累の父@鬼滅の刃】
[状態]:疲労(小、回復中)、黒針による認識改ざん
[装備]:
[道具]:なし
[思考・状況]
基本:家族を守る
0:家族(善)を守るために戦う。
1:オ゛レの家族...護る!!
2:あの人間、うまがったあ゛あ゛あ゛
[備考]
※参戦時期は36話伊之助との戦闘中、脱皮する前
※ホワイトの精神操作はドレミーによって解かれました。
※しかし、ドレミーに何か”しこまれている”かもしれません。詳細は後続の書き手様に委ねます。
※ドレミーと夢の世界で出会いました。
※殺し合いのルールを理解できておりません。
※一般・ランダム支給品はドレミーに奪われました。空のデイバッグは捨てられています。
※黒針の効果でエスデス、ミスティ、善、薫が家族の面々に見えています。
※夢の中での啓示により、ホワイトの首輪を所持しましたがミスティに回収されました。




【古手梨花@ひぐらしのなく頃に 業】
[状態] 精神復調、後頭部にたんこぶ、精神的疲労(大)、疲労(大)、ボミオス状態、舌を改造
[装備] いつもの服、インパスの指輪@トルネコの大冒険3(英吾の支給品)
[道具] 基本支給品、不思議な杖三本セット(封印の杖[2]、ボミオスの杖[1]、ふきとばしの杖[0])@ドラゴンクエスト外伝 トルネコの大冒険 不思議のダンジョン
     ランダム支給品(0〜1)
[行動方針]
基本方針:繰り返しを脱する手がかりを掴む
0:累の父を倒し、『善のようなモノ』を止める
1:沙都子と会って真実を確かめる。
2:頑張れるだけ、頑張る。
3:三島...ごめんなさい
4:あれは人工呼吸だからノーカン...ノーカンよ...

[備考]
※参戦時期は16話で沙都子に腹を割かれている最中(完治はしています)
※ワザップジョルノ、プロシュートを危険人物と認識しています
※ミスティの黒針の効果で興奮すると感度が増して体力と引き換えに他者の体力を回復させる唾液が分泌されるようになりました。



【ワザップジョルノ@ワザップ!】
[状態]:主催者への怒り(極大)、全身にダメージ(中〜大)、陰茎生成中、全身やけど、疲労(中〜大)
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜3
[行動方針]
基本方針:主催者を訴え、刑務所にぶち込む
0:累の父を倒し、『善のようなモノ』を止める

[備考]
※外見はジョルノ・ジョバァーナ@ジョジョの奇妙な冒険 です。記憶も五部完結まで保持しているようです。
※ゴールド・エクスペリエンスも使えますが、矢をスタンドに刺してもレクイエム化はしないと思われます。
※CVは想像にお任せします。
※古手梨花、北条鉄平、プロシュートを犯罪者と認定していますが、梨花に対してはかなり軟化していると思われます。
※犯罪者の認定は完全な主観です。罪が重いほど対象に対する怒りは大きくなります。
※犯罪者対応は拘束が目的ですが、対応時に手加減はあまりしないようです。
※ワザップ状態が完全に解けてもジョルノ・ジョバーナ@ジョジョの奇妙な冒険にはならないようです。
※梨花の唾液を注入されて体力と怪我が少し回復しました。

509英雄の条件(後編) ◆ZbV3TMNKJw:2022/04/25(月) 20:30:29 ID:YgZGbEJo0

【真島彰則@リベリオンズ Secret Game 2nd stage】
[状態]:疲労(大)、鼻血(止血済み)、右拳に重大なダメージ
[装備]:Jのメリケンサック(両拳)@魁!男塾
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本方針:正しき道を歩む。
0:累の父を倒し、『善のようなモノ』を止める。
1:堂島からは後で話を聞く。
2:蒔岡彰に興味。やはり玲の弟のようだな


【荻原結衣@リベリオンズ Secret Game 2nd stage】
[状態]:疲労(小)、後悔、プロシュートに黄金の希望を見出している、悲しみ、堂島への複雑な感情(大)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜3、氷
[思考・状況]
基本:益子さんのためにもまずは生き延びる(可能なら益子さんとお買い物をしたい)
0:あたし、どうすればいいんだろう...
1:益子さん...!
2:兄貴にドレミーさんと私……これが続いてほしいな
[備考]
※参戦時期はepisode Cから 小屋の地下で黒河と心が通じ合う前
※プロシュートが裏の世界の人間だと理解はしています。
※スタンドなどはまだきちんと理解できていません。(なんか、よくわからないけど凄い程度)
※ドレミーの世界(幻想郷)について簡単に知りました。
※この殺し合いが終わったら、益子薫と買い物をする約束をしています。





【プロシュート@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:負傷(大)、疲労(大)、ところどころに凍傷と裂傷、腹部にダメージ(大)
[装備]:ニューナンブ@ひぐらしのなく頃に 業
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜2
[思考・状況]
基本方針:ひとまずゲームには乗らずやれるところまでやる。
0:累の父を今度こそ始末する。その後はあの怪物を始末する。
1:ユイ・オギハラ……兄貴……か
2:レオーネの知り合い(アカメ)を探す。あったら言伝を伝える。※C3の貸本屋のこと
3:オレは死んでるのか?それとも、まだ生きているのか?
4:あれがワザップジョルノか...
[備考]
※参戦時期はブチャラティVSペッシを見届けてる最中です。
※此処が死者、特にロクデナシの連中を集めたものだと思っていましたが、結衣の存在やドレミーとの情報交換から今は生者死者入り交えていると推測しています。
また、自分はまだ死んではいないのかとも思い始めています。
※ドレミーとの会話で幻想郷について簡単に知りました。
※ワザップジョルノが護衛チームのジョルノなのか結論を下せず、半信半疑中です。


【ドレミー・スイート@東方project 】
[状態]:疲労(大)全身にダメージ(絶大)
[装備]:夢日記@ 東方project
[道具]:基本支給品×2、ランダム支給品0〜5 氷
[思考・状況]
基本方針:この殺し合いと言う酔夢が導く結末を見届ける
0:少々気を抜いてしまいましたか...
1:とりあえず、プロシュートの後をついていく(襲い掛かってきた者には対処する)
2:参加者が寝たとき、夢の世界へ介入する
3:妖怪とは気まぐれな者ですよ
[備考]
※参戦時期は東方紺珠伝ED後
※メフィスとフェレスも管理者であると気付きました(何の管理者かは、まだつかめていません)
※リリア―ナの刻を止める能力を知りました。
※夢日記より、サーヴァント達や第一部での顛末、・鬼滅の刃の鬼の体の構造・リベリオンズの首輪の解除方法、ギース・ハワードを知りました。
※プロシュートとの情報交換でプロシュートの世界について簡単に知りました。(スタンドの存在など)
※プロシュートのグレイトフル・デッドの能力を理解しています。
※累の父から基本・ランダム支給品を奪いました。

510英雄の条件(後編) ◆ZbV3TMNKJw:2022/04/25(月) 20:30:56 ID:YgZGbEJo0



「...ねえ、メフィスちゃぁん。これってルール違反じゃない?」

「うむ。確かに、堂島正のように一度死んでからの蘇生を認めているケースはある...が、アレもアレで、首輪の爆発での死亡の際は使えないという制約がある。
今回の佐神善に関しては完全な違反じゃ。首輪が爆発して尚生きておるのじゃからのう」

「消しちゃった方がいいのかなぁ?これ以上玩具に僕たちの箱庭を荒らされると気分が良くないからさぁ」

「それには及ばんよ。首輪の爆発は即死には至らなかったようじゃが、あやつの身体は徐々に朽ちていっておる。放っておいてもあと数時間もあれば消え去るじゃろう。
まあ、今はアレの残り香も佐神善の『個性』として見逃しておるが...万が一にも堂島たちを食らい完全な蘇生を果たしたならば、それ相応の罰を与えてやらんとな」

メフィスはにたりと口角を釣り上げる。
アーナスの敗走で抱いた鬱憤を未だ忘れぬと言わんばかりに、どんよりと濁った瞳を浮かばせながら。

「わしらのプロデュースした八将神がどいつもこいつも無様に敗北を喫しておるからなぁ。見せしめとしてはちょうどいいかもしれん」
「ウフフ...いいかもねえソレ。善くんみたいな『アレ』が蘇れる〜って希望を抱いた瞬間に見せつければ理念もたくさん手に入るかもしれないし、力を見せつけてやれば情けない玩具たちも必死になってくれるかもねえ」
「佐神善の名は今回の放送では呼ばんでやろう。わしらの中ではもう死んだ扱いではあるが...今回は呼ばない方が楽しめそうじゃ」

くすくす、けらけらとメフィスとフェレスは互いに笑い合う。
いつものように。玩具を嗤う悪魔を体現するかのように。
味わった鬱憤を晴らしてくれるのを期待するかのように、彼女たちは声を揃えて語り掛ける。

「準備だけはしておいてねえ」
「お主の試運転の刻が来るやもしれんからのぅ」
「「『太歳神』―――高町なのは」」

511 ◆ZbV3TMNKJw:2022/04/25(月) 20:31:20 ID:YgZGbEJo0
投下を終了します

512 ◆2dNHP51a3Y:2022/05/02(月) 17:59:01 ID:zTuEpm9M0
皆様投下ありがとうございます
仕事疲れでモチベが死んでいたり、自分はここに手を出せてませんでしたが
それでも素晴らしい投下をしてくれて皆様には感謝です
そろそろいい感じですので第一回放送を投下させていただきます

513第一回放送 ◆2dNHP51a3Y:2022/05/02(月) 17:59:22 ID:zTuEpm9M0
思い出す、回想する、追憶する。
赤い海、砕けた月に、黒い大地に、何も変わらない満点の夜空。
黙示録、人も悪魔も相打った終末の歴史の中。

同志も、抵抗者も、反逆者も、何もかも死に絶えて、亡骸が大海を赤い夢幻で染め上げた、世界最後の夜の下。友であった男の亡骸を抱いて




――僕は、泣いた

514第一回放送 ◆2dNHP51a3Y:2022/05/02(月) 17:59:52 ID:zTuEpm9M0
○ ○ ○

昼も夜も無く、未だ辺獄に赤き月の廻る頃に、それは鳴り響く。

『ボンジュール! と言ってもこの場所は昼も夜の境界なんて無いに等しいのだけれどさ!』

軽快な音楽、そいて雰囲気に恐ろしく反した明るい音声

「そーろそろ6時間経過した頃だから、みんなお待ちかね! 死亡者情報の発表と行こうか!」

まるで玩具で遊ぶような気楽さで、道化師は楽しそうに死亡者の名を紡ぐ


『柳瀬舞衣』
『村田勤』
『ユカポンファンの吸血鬼』
『由香』
『スキャッター』
『オフェンダー』
『伊藤大祐』
『藤原美奈都』
『ブサイク大統領』
『ヒエ』
『ワム』
『ガビ』
『バボ』
『カミソリ鉄』
『チェーン万次郎』
『ドス六』
『メリケン錠』
『死神』
『沼の鬼』
『ドドンタス』
『カンフーマン』
『ホワイト』
『恵羽千』
『優木せつ菜』
『モッコス』
『吹石琴美』
『細谷はるな』
『司城夕月』
『北条沙都子』
『広瀬あゆり』
『ノワール伯爵』
『益子薫』
『三島英吾』
『ミスティ』
『絶鬼』
『フェザー』
『赤城みりあ』

「以上、死んだの38名。いやぁ、みんな張り切ってるようで何より何より! ……では次に禁止エリアの発表だけれど。抽選の結果この3つ!」

『C-5』『E-3』『F-7』

「というわけで、今言われたエリアに居る参加者は早く出ないとドッカ〜ン!」

「では放送はこれまで、次の放送も楽しみにしていてね、ボン・ボヤージュッ!」

515第一回放送 ◆2dNHP51a3Y:2022/05/02(月) 18:01:47 ID:zTuEpm9M0
○ ○ ○

そこは、間違いなく『違う世界』と形容する他無く。
平安京という中世日本の舞台にはあまりにも相応しくない場所であった。
静謐さと、神々しさ、それでいて恐ろしき虚空か。

「……もう第一回放送か」

白と黒、その二色で構成された一室、空間にその男はいた。
タブレットに映る会場の参加者たちを、画面越しに俯瞰する。金髪の青年。
神の如き蒼玉の双眸が揺らめき、僅かに瞬く。

「変わらず愚かだな、人は。」

感傷もなく、さも当然と、必然とばかりに呟いた。

「殺し合わせる催しには特に意見は無いが、戦略的もなく享楽のためとは、これのどこが面白いのだか。」
「俺はおもしれぇと思うぜ。……参加できねぇのは残念だがな。あいつにリベンジ果たしてぇ所だったが。」
「……私が言えた立場ではありませんが、あの敗北を経験してその根性はある意味称賛しますよ。」

青年の背後に、二人。片やスマホの画面片手にエナジードリンクを呑み込み、観客気分で殺し合いの映像を楽しむドレッドヘアの男。
そして片や……それは染め上がったワインレッドのたてがみのような髪型を持った、まるで悪魔のような形相の男。

この3人は、かのキャスター・リンボが呼び寄せた、謂わば『客将』と呼ばれる立ち位置。
恐竜蔓延る古代の時より現存し、神に寄って滅ぼされた創造主の失敗作。
幻想の存在として呼称するなら、それは正しく『悪魔』である。

「つーかさぁ、どう思うんだよ。あのキャスター・リンボってやつ?」

ふと、口を開けたのはドレッドヘアの男、。
悪魔人間にされ、弱肉強食の摂理に従い悪魔側へ裏切った元人間。

「どう考えても怪しいだろアイツ。ディメーンだかメフィストフェレスもだが、人間魔改造しての殺戮マシーンの手法も胡散くせぇし。」
「それに関しては同意です。神の力を人間ごときに宿らせるという事実も私としては気に入らない。……なぜサタン様はあのような男と……。」
「いいじゃねぇか、こうやってもう一度命もらってるわけなんだしよ。」
「………」

幸田の言葉に賛同しつつも、「やはり人間であった性根はどうしようもないな」と呆れ顔をするワインレッドの男、悪魔サイコジェニー。

「―――今の我らは客人としての立ち位置。こうしてサタン様と再開できたのも奇跡に等しい。今は大人しく従っておくこととしましょう。貴方も勝手な真似はしないように。」
「はいはい、わかってますって。」

サイコジェニーも、悪魔人間・幸田燃寛もいまだ結末を知らない。
サタンが『彼』に打ち勝つも、結局神の気まぐれにただ消されるだけだった終幕を。
そしてそれを、サタン――金髪の青年、飛鳥了が語ることは無いであろう、おそらくは。





(―――明)

映像を止め、ただ一人を、不動明という悪魔人間の姿を、飛鳥了は見つめている。
不動明が八将神に選出されるにあたり、『勇者アモンを疑似生誕させてくれ。ただ魂を弄るのではなく、元の不動明と両者が存在するように』という提案をしたのは飛鳥了である。
実のところ、リンボは純粋な『勇者アモン』だけを将神として顕現させるつもりだったし、別段言えば他にも将神の候補は居たわけで。

『おやおや、サタン様とあろうお方が、存外素直でござったか。』

蛆が湧くような、虫が体中に忍び寄るような感覚が襲いかかった、リンボの過去の言葉。
愛などない、故に心もない。――そう思っていた。不動明がいて、愛も心も知った。

本当は、不動明を蘇らせたかっただけなのだろうか、そう思いたかった。
結局、仲を違い、憎まれ争うしかなかっただけで。

(……もし生き残れていたら。出来れば、君とは。)

もう一度会いたい、そして話し合おう。そう思い、ガラス越しに見える赤い月をサタンは見上げていた。
そういえば別の世界では月に兎がいるとは言っていたらしい、もし事が済めば明を連れて月の兎に会いに生きたいものだ。





――そして飛鳥了は未だ知らないであろう。あの不動明が、彼の知るデビルマンではない、という事実を



『キャスター・リンボの客将』
【悪魔神サタン/飛鳥了@DEVILMAN crybaby】
【サイコジェニー@DEVILMAN crybaby】
【幸田燃寛@DEVILMAN crybaby】

516 ◆2dNHP51a3Y:2022/05/02(月) 18:01:58 ID:zTuEpm9M0
投下終了します

517 ◆EPyDv9DKJs:2022/05/02(月) 18:18:04 ID:LvnR1STM0
第一放送お疲れ様です
(ロワ本編では)一番動いてなかったリンボかと思えば、
客将を招いてたりとやはり底知れない不穏さがありますね

他の型の感想については次の機会にさせていただきます

可奈美、ロック、都古、愛、ひろし、洸、
零、マネーラ、ギース、完全者、アナムネシス予約します

518決壊戦線─崩壊のカウントダウン─ ◆EPyDv9DKJs:2022/05/11(水) 04:29:58 ID:719/4zUE0
投下します

519決壊戦線─崩壊のカウントダウン─ ◆EPyDv9DKJs:2022/05/11(水) 04:30:55 ID:719/4zUE0
 一同が一つの病室に集まってると窮屈なので、
 一度解散して各々で軽いレベルの情報交換や、
 支給品の譲渡とかで時間を消費していた六人。
 その最中に、ディメーンによる定時放送が始まる。
 定時放送が六時間とは知らされていなかった都合、
 各々が全員強く反応せざるを得なかった。

 放送によって出た死者は二割以上の参加者が散った。
 少なくとも六時間で、閉鎖的で身近な場所で死ぬ数としては異常な数だ。
 災害とかでもなければそうはならないであろう人数を前に
 多くの参加者が表情に影を落とすこととなる。
 無論、この病院の六人においても同じことだ。

(素直に喜ぶ、わけにはいかねえよな……)

 受け付けに身を潜め、人が来るのを警戒しながらひろしは静かに思う。
 病院にいる六人のうち二人、愛と可奈美は大事な仲間を亡くしている立場だ。
 ひろしの家族やしんのすけの友達は無事ではあるものの、素直に喜ぶことはできない。
 特に可奈美の場合は母親や、此処で出会ったばかりの仲間もいたというのだから余計に。

(年長者としてしっかりしねえとな。)

 小学生に中学生に高校生と、
 此処に集まったのは殆ど学生だ。
 ロックや可奈美は武術の経験者ではあるようだが、
 精神的には未熟な面もあるだろうし、唯一の大人として気を配りたい。

(皆で集まって今後の考えを決めねえとな。ロックにも言っておいたし……)

 近くに置かれた誰かのカルテットを一瞥しながら、
 少し時間が経って気持ちの整理がついたら今後の方針を決めることにする。
 此処に留まってるだけでは、自分の家族も守ることはできないのだから。



 ◇ ◇ ◇



 辺りを見渡せる病院の屋上。
 五階ともあれば周囲の建物よりも高く、
 血染めの空によって赤黒く染まった平安京が広く見渡せる。
 柵に腕を乗せながら、可奈美は辺獄の地を見渡していた。

「可奈美、大丈夫か?」

 屋上には辺りを見渡す可奈美と、
 ひろしに言われ彼女を探しに屋上へ姿を見せたロック。
 母親の美奈都については元々亡くなっている人物なので、
 真偽は分からないままになっただけなので思ってるほどのダメージはない。
 しかし親友の舞衣の死を改めて突き付けられ、殿を務めたフェザーも改めて宣言され、
 とどめと言わんばかりに与り知らぬ場所で、薫にフェザーの知り合いであるみりあと、
 ダメージが大きいのは可奈美であることは流石にロックも察しており、
 だからこそ自分が率先して可奈美を探していた。

「うん。私は大丈夫だから。」

 ロックの方へと振り向きながら、
 何処か苦笑気味な表情で可奈美は返す。
 そうは言うが、やはり可奈美は自分の感情を晒さない。
 都古に言われても、一朝一夕でその癖は治りはしない。
 潰れるまで、誰にも悟られないぐらい隠すのが得意なのだから。

「そう、か? だが無理はしないでくれ。
 俺や都古、それにひろし達もいる。言った方が楽になることもあるさ。」

 都古だったら見抜けていたかもしれないが、
 彼の育った環境は基本男所帯で女性の相手は余り得意ではない。
 都古に言われて多少は訝ってはいるものの、気づくことはできなかった。
 『ホントもうお兄ちゃんは乙女心が分かってない!』とどやされそうだと目を逸らす。
 年下の子供に説教されると言うのは中々に堪える。

「……殺しちゃったんだね、私。」

 振り返りながら胸に手を当てながら可奈美は呟く。
 可奈美が思うのは何も仲間だけではなかった。
 死亡者の中には先の戦いの相手の絶鬼もいる。
 名前を聞いて、自分がした行為に改めて理解する。
 刀使は荒魂を祓う為にその刃を振るう巫女、と言うのが本来の役目。
 しかし彼女は荒魂ではない存在を斬り伏せ、明確に殺めたのだと。

「あれは人にくくっていい奴じゃあない。
 それに、あれが説得できる相手でもない。仕方ねえさ。」

 彼女の観点から見ても、あれは人ではなく鬼だ。
 荒魂に近いし、荒魂と違って人の責任とかの埒外にある。
 彼の言うように仕方ないのもわかるし、一応の理解はしているつもりだ。
 放っておけば被害が出る。それは荒魂と同じことでもあると。

520決壊戦線─崩壊のカウントダウン─ ◆EPyDv9DKJs:2022/05/11(水) 04:31:30 ID:719/4zUE0
 一方で、彼を倒すきっかけは今まで一度だって思わなかった復讐心からくるもの。
 沙耶香と戦った際も斬るしかない状況で斬らないを選んだ彼女からは出なかった選択肢。
 荒魂は人の責任でもあり、憂うことはあっても荒魂を恨んだり憎むことはしなかった。
 最大の敵たるタギツヒメにも、特に恨みあると言った感情は持ち合わせてないのだから。
 絶鬼にはこちら側における非がなかったから、そうなったとも受け取れなくはない。
 とは言え、普段怒りといったマイナスな感情については彼女は殆ど表に出さず、
 少し謎になった気がしており、そこが少しばかりだが引っかかっていた。

 或いは。柳瀬舞衣の支給品の中に潜んでいた、
 『呪蝕の骸槍』と呼ばれるその槍が原因かもしれない。
 通常の支給品であれば、デイバックの中から何か干渉するのは不可能だ。
 干渉できるのであればアンナやバーリやーといったディメーンを介す必要のない、
 意志を持った支給品はもっと自動的に出てきたっておかしくはないのだから。
 しかしそれは世界の理の外の物質によって形成された槍。通常の代物とは大分存在が違う。
 普段は何も影響はないが、絶鬼の妖気に呼応し僅かに力が漏れ出た可能性は否定できない。
 もっとも、精神を蝕み終焉を迎えるとされる槍でもデイバックの中に潜んでいる以上は、
 手に取って使用し続けない限りは影響力は乏しいし、現に今の可奈美は正常な思考を持つ。
 あくまでいくつかの要因が重なった結果の偶然の産物、といったところだ。
 それが今後致命的な影響を与えることはないだろうし、
 そもその槍は現在別の人に渡っているので手持ちにない。

「ひろしから提案されたことなんだが、
 今後の方針を決める為改めて一階に集まることになってる───」



 ◇ ◇ ◇



 病院の二階の廊下。
 開けた窓へと腕を置きながら愛は空を眺める。

「せっつー……」

 普段明るい愛もまた、気落ちしたのが目に見えてわかる状態だ。
 彼女にとっては菜々ことせつ菜のライブが理由で同好会に加入しており、
 言うなれば愛にとってのアイドルのルーツたる存在。そんな彼女が殺された。
 楽観視してなかったと言えば嘘だ。出会った参加者は全員殺し合いに反抗する側。
 皆もそういう人物と一緒にいるだろう、そういう風に思ってたのだから。
 でもそうじゃなかった。ロック達の仲間だったフェザーも同じ結末を迎えた。
 それぞれの個を尊重し合う九人のアイドルと侑の存在が、虹ヶ咲スクールアイドル同好会。
 悪い言い方をすれば、十人でなくても成立すると言えば成立するものの、
 イコール今後も同好会は九人でやっていける、そういうわけではない。
 彼女の死を、そんな軽い風に扱うなんてこと絶対にしたくない。

「宮下お姉ちゃん、大丈夫?」

 仲間にすら殆ど悟られなかった可奈美に気付いた都古なら、
 別に隠してるわけでもない相手であれば容易に察せられる。

「みゃーこ……あんまり大丈夫じゃないけど、
 愛さんだけが落ち込むのは、ちょっとよくないなぁって。
 ほら、暗いのって伝播しちゃうから。愛さんは避けたいんだよね。」

 ただでさえ状況は良くない。
 脱落者がこれだけいると言うことはそれだけ乗った参加者、
 或いはそれらを殺せるだけの実力を持った参加者がいることになる。
 気落ちした状態ではいい案も浮かばなくなるし、何より愛らしくないと。
 流れ出してきた涙を拭いながら、少し不格好な笑顔で返す。

「後で思いっきり泣くから、今だけは待ったかけてるって言うか。」

 宮下愛はかなり器用な人間だ。
 いかにも現代ギャルっぽい見た目ではあるが、
 成績もよければ運動神経もよく、それでいて気配りもできる。
 人を明るくさせることが得意な彼女だけに、周りを暗くしたくもない。
 加えて可奈美程背負い込まないので、遠慮なくその辺を吐露できる。
 そういう意味だと彼女はこの中でも特にできた人間だろう。

「私達がいるから、宮下お姉ちゃんも無理しないでね?」

521決壊戦線─崩壊のカウントダウン─ ◆EPyDv9DKJs:2022/05/11(水) 04:32:48 ID:719/4zUE0
「うんうん、みゃーこには遠慮なく言うから。」

 笑顔と共に愛は都古の頭を撫でる。
 妹ができたみたいで少し微笑ましく感じる。
 それを少し離れた廊下の先から洸が眺めていた。
 お人好しな連中ばかりで、どうにも居心地が悪い。
 彼がいた場所と言えば性格のねじれ曲がった連中ばかりだ。
 ろくな連中がいなかったし、洸もそのろくでなしに分類される。
 春花がいない以上、他の相手がどうなろうと興味のないことだ。

「とりあえず、今後の方針も決めたいし他の人を呼びませんか?
 ロックさんも落ち着いたら一階へ行くように言ってましたし。」

「そうだね。かなみんとろっきゅーは上だからちょっと待つかな。」

 各々がそれぞれ気持ちの整理、或いは次の行動の為の考えた時間。





 それが六人が病院にてできた、最後の平穏な時間だ。
 終わりを告げる死神の鎌は誰にも慈悲を与えることはない。

「フェザーさん!」

 屋上の可奈美へと向けて禍々しい紫色の靄を放つ剣が複数飛来。
 庇うように背後にいたロックを突き飛ばしながら倒れる。

「伏せろッ!!」

 二階から眺めた外にいた人影に気付き、咄嗟に洸が叫ぶ。
 ほぼ同時に、二階の窓ガラスを突き破る大量の弾丸と共に二人も屈む。
 ガラスのシャワーが降り注ぐが、弾丸を受けるよりはましな軽傷で済む。
 多数の弾痕が病院の清潔そうな白い壁へ無数のひびを入れていく。

「な───」

 入り口の自動ドアなど開く間もない速度でぶち破る闖入者。
 咄嗟の事で判断が遅れるが、カウンター越しに銃を構える。
 車とかの運転による事故とかでもないのに普通に入らない相手を、
 殺し合いに乗ってない相手とは思うことなどなくその引き金を引く。
 こんな入り方をする奴が、銃の一発でも止まらないとは思いながらも。
 いや、寧ろそう思えたからこそ引き金が軽かったかもしれない。

「今、下の方でも二つ音がしなかったか!?」

 屋上では弾丸のように飛んできた剣をなんとか凌ぐ二人。
 屋上と言う広々とした場所なのもあって気付くのは早かったお陰で、
 特に負傷らしい負傷もないまま二人は体勢を立て直す。

「うん。多分ひろしさんの銃声から玄関と、
 下の駐車場にもう一人いるから多分だけど、下は二人組だよ。」

 地上を見やれば人の姿は見えるが、
 問題は今飛んできた剣はその人の方角とは別方向。
 別の襲撃者がいると言うことに他ならない。

「ロックさんは下の方の人をお願い! 今攻撃してきた人は、私が戦うから!」

 此処で戦力となる可奈美とロックの双方が此処にいては、
 三人の敵の内二人が都古とひろしに、しかも洸や愛を守らなければならない。
 負担が大きすぎるので、各自一人は相手にすることになる。

「OK……だが別の敵ってことは、共謀してない可能性もある。
 だから不利になったらこっちに引きつけて、同士討ちを狙うのも手だ。」

「うん! 分かってる!」

 五、六階はあると流石に飛び降りるには高すぎるし、
 仮に出来たところでその着地の際に攻撃されてしまう。
 もどかしくもあるがロックは素直に階段を降りて、
 残された可奈美は孫六兼元を抜いて迅移と共に逆に飛び降りた。
 着地の隙を狙われる部分も、彼女なら八幡力と写シで軽微に済む。
 剣の飛んできた方角へと向かえば、その相手の姿を即座に捉える。

「あら、また刀を持った子なの?」

 可奈美達を襲い、そこにいたのは───幽鬼アナムネシス。



 ◇ ◇ ◇



 二階にいた三人は状況的に他のメンバーよりましな状況だ。
 咄嗟に洸が叫んだお陰で、多少ガラス片で傷を受けたが致命傷には程遠い。

「サ、サンキューみっつん。愛さんもちょっとやばかった。」

 頬に絆創膏を貼って、二人にもそれを分け合う。
 屈んだまま三人は集合して状況の確認をする。

522決壊戦線─崩壊のカウントダウン─ ◆EPyDv9DKJs:2022/05/11(水) 04:33:18 ID:719/4zUE0
「病院の外の駐車場から相手は撃ってたから、
 多分相手はそんなに遠くにはいないはずです。
 今なら屈みながら移動すれば、背後から狙えるかも。」

「でも一階からも銃声したし、
 野原のおじさんも敵と戦ってるなら私が行かないと!」

 ロック達が降りてくるまでの時間稼ぎ、
 あわよくば相手を倒すことを目的とするなら、
 遠回りしてる時間はないと都古が拳を握り締める。

(確かにゆっくり移動してる間にあの人が殺されて、
 二対一になったらまずい。だったら行かせるべきか。)

「だったらこれ。」

 洸がデイバックから出したのは傘。
 桃色で貴族が使いそうな傘ではあるが、
 当然ながらこの状況で使う傘。まともなものではない。

「頑丈らしいから、これと一緒に飛び降りれば速攻で降りれると思う。」

 洸のこの行動は別に情が移ったとかではない。
 彼が求めるのは最終的には野咲春花、ただ一人だけ。
 そこは変わらないし、この行動もあくまで最適だからするだけ。
 此処には六人と大所帯だが、お世辞にも戦力がいいとは言えない。
 自分と愛は戦力外。武器を持ってるひろしは確かに銃はあれども基本は一般人。
 更に可奈美、ロック、都古の三人は全員少なからずダメージを受けている。
 万全なコンディションとは言えないし、このお人好し達は守る戦いをするはず。
 だったらなおの事十全に戦ってもらわなければこちらの生存が危うくなる。
 洸が主催の考えを読み取れるほど、聡明な人物ではないものの多少は察しが付く。
 絶鬼のような参加者は他にもいる。だったらそういう連中を減らす方が優先される。
 だから自分が持っていても無意味だと判断して、それを渡しておく。

「君も戦えるって言うなら、多分二階から降りるぐらいは大丈夫───」

「ありがとう洸お兄ちゃん! 行ってくる!」

 言われるや否や、即座に傘を手にして開きながら飛び降りる。
 地上から大量の弾丸が迫るが、それを傘で悉く防いでいく。
 特注の日傘ではあるが、何を想定しての日傘なのか。
 持っていた洸でもそこについての判断は付かない。
 紅の吸血鬼の考えることは、従者や友人でもよくわからないのだから。

 二人が彼女の姿を軽く眺めていると、
 上の階からロックが階段を一気に飛び降りて二階にまで降りる。
 そのまま一階も……と思ったが流石に二階に散乱した窓ガラスと、
 残された二人に足を止めざるを得なかった。

「大丈夫か!?」

「俺達は大丈夫です。そっちの連れがもう一人と戦ってるので。」

 視線を外へと向ければ、
 銃弾を躱しながら戦う都古の姿が見えた。
 一先ず実力伯仲のようなので、まだ大事ないのが救いか。
 とは言え早急にひろしが戦ってる相手を何とかしなければ、
 分散された戦力で何かが起きては手遅れだ。

「俺はひろしの所へ行ってくる! 都古のこと、頼んだぞ!
 それともう一人敵がいるが、そっちは可奈美に任せてある!」

 ひろしが一人で戦っていることは明白で、
 急いで階段を駆け下りて行く。

「かなみんも敵と戦ってるならみっつん、みゃーこの援護しに行くよ!」

 ロックの方は援護は難しいだろう。
 一階で銃声が何度も鳴ってまだ行動不能にできていない。
 と言うことは、人の力では到底及ばない強さがある。
 そんな相手に自分達が挑むのは無謀ではあることは分かっており、
 まだ互角の戦いをしている都古を助けて、そこから行動を起こす。
 その方が効率的で、学力の高い愛らしい頭の回転率を誇る。

「服にガラス片が入ったから、少し遅れます。」

 愛と違って洸は冬の田舎から此処へ来ている。
 必然的に厚着であり、簡単には取れないのは納得だ。
 『じゃあ後で!』と言いながら愛はガラス片を払い一階へと向かう。
 一人二階に残された洸は静かに思考する。ガラスが入ったと言うのは嘘だ。

(潮時か。)

 最早この病院周辺は激戦区だ。
 先ほどは可奈美もいるからと傘を渡した。
 しかし敵の数は三人、戦力も分散されてる。
 全員が全員勝利を手にするとは思わない。
 手にしたと思えば残った奴の追撃だってありうる。
 そうなったら後はドミノ倒しの如く掃討される未来だ。
 今なら自分をマークする敵はいない。逃げるとしては十分なチャンス。
 自分が無力な参加者であることを考えれば、この先彼らの知り合いに出会っても、
 それを責められることはないだろう。普通の人間なら銃弾だって十分怖いのだから。

523決壊戦線─崩壊のカウントダウン─ ◆EPyDv9DKJs:2022/05/11(水) 04:33:46 ID:719/4zUE0
「……」





(向こうも便利な傘があったか。)

 弾丸が防がれたことで、完全者も無駄撃ちはすぐにやめた。
 傘から出てきたところを撃つも、軽やかな身のこなしは中々当たらない。
 神楽の番傘であって魔剣ダインスレイブではないので仕方ないことだが。
 下手に狙い続けていては反動で動けないところを狙われる。
 素直に撃つのをやめて、銃口を下ろす。

「何だ、またガキか。」

「そっちだってあんまり変わらないでしょ!」

 美炎はまだいいとして沙都子に彼女と、
 小学生の参加者と連続で敵対して思わずつぶやく。
 一方で完全者も外見上は余り年が違うとは感じられず、
 子供相手に子供と呼ばれたくはなかった。

「見た目で判断するな、と言いたいがそれは互いに同じか?」

「子供だからと言って甘く見ないでよね!
 私のコンフーでやっつけちゃうんだから!」



 ◇ ◇ ◇



「ひろし! 無事か!?」

 一階の受付は随分と酷いありさまだ。
 弾痕や破壊の跡が至る所にあり、
 受付待ちの椅子は軒並み使い物にならない。
 その窓口も破壊されており、台風の痕のようだ。

「あ、ああ! ちょっと怪我はしたけど無事だ!」

 残骸の隙間からひろしが這い出て、
 壁に穴の開いた別室の方へと銃を向ける。
 相手が突進するような動きの攻撃だけをしてきていたお陰で、
 様々な巨悪と戦い続けてきたひろしなら、辛うじてでも避けることができた。
 いくらかとんだ破片で頭を打ってはいるものの、死に至ることはない。

「こいつが敵───え。」

 煙の向こうから壁に手をかけ姿を見せたのは、よく知った顔だ。
 疎遠ではあったものの、忘れることのない存在。
 十年前の姿と、何一つ変わっていないその姿。

「嘘、だろ……!?」

「───ほう。随分とでかくなったようだな。」

 出てきたのはギース・ハワード。
 ロック・ハワードとギース・ハワード。
 二度と会うことのなかった存在は、辺獄の舞台で邂逅を果たす。





 六時間以上戦いの舞台にはならなかった病院。
 安寧の病院は今この時を以って決壊し、戦場の舞台となる。

524 ◆EPyDv9DKJs:2022/05/11(水) 04:34:36 ID:719/4zUE0
短いですが一旦投下終了です
少し長丁場になりますが、何卒宜しくお願い致します。

525決壊戦線─もう迷わない─ ◆EPyDv9DKJs:2022/05/11(水) 12:17:09 ID:719/4zUE0
投下します

526決壊戦線─もう迷わない─ ◆EPyDv9DKJs:2022/05/11(水) 12:19:15 ID:719/4zUE0
 アナムネシスの飛ばす剣は緩いがホーミング機能もある。
 なのでアウトレンジからでも当たると思っていたし隙もあったが、
 あっさりと避けられ、残った一人も即座に降りてくるとは思わなかった。
 もう一人が階段を律儀に使ってたので代行者程の強さはないと、
 勝手に思い込んだことを軽く反省しておく。

「刀……誰と戦ったの?」

「クリーム色の制服を着た銀髪の子よ。
 貴女よりも小柄な子で、とても素早かったわ。」

「!」

 母と仲間の死の連鎖の中、
 漸くだが知り合いの情報が手に入った。
 その条件であれば、間違いなく沙耶香になる。
 放送で呼ばれてないのを見るに彼女が生きてることも分かるし、
 御刀を持っていることも把握できて安堵の息を吐く。

「お友達の情報料として聞くけど、
 貴女は幡田零って子を見なかったかしら?
 その子と同じ銀色の髪をした女の子だけど。」

「知らない。もし知ってても、私は教えられないよ。」

 会話の内容から絶鬼同様、乗った側の存在。
 敵対する幡田零がどのような人物かは知らないが、
 少なくとも襲ってくる以上彼女が敵であることは変わらない。

「あら、そう。じゃあ貴女に聞くことは何もないわ。」

 アナムネシスとしてはこれだけ多くの参加者が短時間で減った。
 つまり、魂を集められる総量が減っているということに他ならない。
 アーナスによって阻まれたこともあって誰一人として殺せていない現状、
 そろそろ一人ぐらいはと考えているが、同時に引っ掛かるところがある。

 恵羽千。
 知らない名前だが、何故だか引っかかった。
 だが既に彼女は何処かで死んだ。今となっては考える意味はないと振り払う。

「悲劇の開園としましょう。」

 赤黒い魔法陣を足元に展開し、紫の剣を大量に飛ばす。
 軽いとは言えホーミングする剣であるため生き物のように迫るが、
 可奈美は逃げるを選ばない。肉薄して、当たりそうな攻撃だけを弾きながら迫る。

(冷静に対処すれば!)

 代行者の力で底上げされた零が走ってれば当たることはない攻撃を、
 御刀が違うため力が落ちてると言えども、刀使が避けれぬわけではない。
 多数飛び交う剣の弾幕ではあるもののアナムネシスの後方で一度広がる都合、
 攻撃のラグがある。軌道を読むことは二度しか目にせずともそこまで難しくなかった。
 軌道から逸れた剣は放置し、残った奴を御刀で弾いてからの肉薄。

「ッ!」

 首を狙える間合いに入るがワープで後方へと移動。
 太刀筋が零たちと違い洗練されていて当たるかと思ったものの、
 僅かながらの隙によって攻撃の手が止まって成立はしない。
 アナムネシスが疑問に思っていると、すぐさま距離を詰めにかかる可奈美。

(……まさかと思うけど、この子。)

 気にはなりながらも迎撃の為、
 周囲の地面から紫色の槍が天を衝く。
 写シがあれどまだ剥がれるわけにはいかない。
 すぐさまバックステップで距離を取るも、
 転移からアナムネシスの姿が消える。

「ッ!」

 すぐさま背後を警戒しながら振り返り、
 振り向きざまに孫六兼元とメガリスロッドがぶつかり合う。

「貴女、ひょっとしてそんなものを持ちながら人を殺せないのかしら。」

「ッ!」

 零や小衣と、彼女は数々の恨みを買っている。
 だから殺意と言う物にもある程度の理解があるが、
 可奈美からは二人のような殺意を余り感じなかった。
 一人殺せば二人目も同じこと、なんて可奈美は考えない。
 吹き飛ばすかのような勢いで押し返し、空中から黒紫の刃が生成され可奈美を狙う。
 押し返された反動を利用して距離を取ることで難なく回避から肉薄するも、
 今度はアナムネシスはノーガードの構えに思わずブレーキをかけてしまう。
 動きが止まった瞬間を、アナムネシスは手を薙ぎ払って吹き飛ばす。

「アグッ!」

527決壊戦線─もう迷わない─ ◆EPyDv9DKJs:2022/05/11(水) 12:20:52 ID:719/4zUE0
 女性の薙ぎ払いとしては余りに威力が違うそれに、
 地面を数度転がりながら勢いで立ち上がり、すぐさま距離を取る。
 彼女が転がっていた場所は剣が何本も突き刺さっており、
 復帰していなければかなり危うかったことが察せられる。
 そのまま迅移で迫るが、またしても相手は回避行動をとらず、
 自分から攻撃を当てないようにと距離を離してしまう。

「随分甘いのね。貴女のお友達は遠慮がなかったけど。」

 絶鬼と言う親友の仇の存在に加え、
 それに伴う呪蝕の骸槍の干渉がなくなった今、
 残念ながら絶鬼の時ほどの苛烈な行動力は彼女にはなかった。
 ロックやフェザーと、異能に近しいものを使った仲間を見た影響もあり、
 幽鬼と知らない以上は彼女の視点からアナムネシスは人にしか見えない。
 嘗ての姫和であったならば此処は迷わず斬れていたのだろうが、
 彼女の剣は人を殺す為のものではなく荒魂を祓う為のもの。
 その考えが、本来卓越した刀使の刃を鈍らせている。

「まあいいわ。その方が都合がいいもの。」

 行動不能に追い込むにしても、これだけ特異な力を有してる相手を、
 どのような手段で拘束すれば大丈夫か? 普通に無理だ。斬る以外の選択肢はない。
 いつまでも迷い続ければ大事なものを取りこぼす。優しさと甘さは違う。
 迷いに迷った剣なんて、魂のこもってない剣と同じ。何も斬れやしない。

『焦燥に駆られている……顔にそう書いてあるぞ。』

 白服の男、名前は知らないがカインにも言われていた。
 あの時は姫和のことではあったが、また言われたような気がしてならない。
 いや、寧ろ舞衣達の死もあって余計にその刃に迷いがあるのだろうと。

(迷ってるなら───)

 一度距離を取りながら、可奈美は別の刃を手にする。
 孫六兼元を手にしてからは抜くことをしなかったもう一つの剣を。

「二刀流?」

 しかし、可奈美が取ったのは攻めの行動ではなく、
 その手にした刃を使って、自分の右手首を斬りつける。
 彼女の肌を裂いて、軽い出血を起こす。

「ッ……こ、これ切れ味悪いのかな。すごく痛い。」

 写シをやめてからした都合ダメージは伝わってる。
 顔をしかめてる様子に震えた声からそれなりの痛みのようだ。

「貴女、何をしているの?」

 突然の自傷行為。
 思いもよらぬ行動を前に、
 攻め時であるはずの状況で尋ねてしまう。
 その間に、可奈美も包帯で簡素に止血をしておく。

「戒め、みたいなものかな。」

「戒め?」

「迷った剣じゃ、何も守れないから。」

 白楼剣は迷いを絶つ剣。
 その言葉を信じて自分を斬りつけた。
 斬った後は心なしか身体が軽く感じる。
 プラシーボ効果かどうかは定かではない。
 魂魄家の者のみがその力を行使できるが、
 その理由も定義も何もかもが定かではない為、
 この殺し合いにおいてしっかりと発揮してるかも不明。
 だが、いつまでも躊躇い続ける自分には大事な一歩となるだろうと。
 白楼剣を鞘へと収めながら、再び孫六兼元を両手に握りしめる。
 刀使としての意志を貫き続けることよりも、仲間の為に彼女は戦う。

「私は迷わない。戦うべき相手だったら、真っすぐに刃を振るうよ!」

「……不快ね、今の刀。」

 白楼剣は人間に対しては酷くなまくらな刀に過ぎないが、
 幽霊を斬れば幽霊の迷いを絶つ、即ち成仏させる効果がある。
 幽鬼であるアナムネシスにとっては下手をすれば最悪即死する天敵に等しい存在。
 直感に近いがその刀に対して嫌悪感が強まりながら剣の弾幕を飛ばしていく。
 大量に展開された攻撃の波が可奈美へと押し寄せていく。

「行くよ、舞衣ちゃん!」

 絶鬼の時のように舞衣は答えないが、
 孫六兼元は彼女の御刀であり彼女の形見だ。
 だから彼女と共にあると思い写シを張りながら迅移。
 今度は無数に迫った攻撃を機敏に躱していき、
 狙いがしっかり定まった攻撃も丁寧に弾かれる。
 迷いを絶ったから、とでも言わんばかりに。

(彼女程ではないけど、少なくともさっきより動きがいい!)

 そのまま低い姿勢で接近されてからの逆袈裟の切り上げ。
 先程よりもはるかに洗練された動きによって回避が僅かに遅れ、
 ゴシックな服に切れ目と赤い筋を刻むことに成功する、
 軽傷ではあるが、少なくとも今までとは違うことへの証左となる。

528決壊戦線─もう迷わない─ ◆EPyDv9DKJs:2022/05/11(水) 12:21:32 ID:719/4zUE0
「でも駄目ね。」

 バックステップと同時に再びホーミング機能を持った剣の弾幕。
 さっきまでは普段通りだったが、今度はメガリスロッドを掲げての攻撃。
 弾幕の数は先程よりも増加した攻撃に可奈美も横へ飛ぶように走りつつ、
 追いつかれたものについては弾くも、大半が彼女の写シを僅かにでも削っていく。

「クッ!」

 迷いを絶ったところで限度はあった。
 どうあがいても埋めようがない差と言う物はある。
 単純な話、彼女が持っている御刀が千鳥ではないから。
 沙耶香は自分の御刀である妙法村正を用いて戦って、
 それでもなおアナムネシスを制することはできなかった。
 沙耶香は本来の未来でタギツヒメとの戦いで舞衣、薫、エレンが脱落する中、
 可奈美と姫和の二人に途中までと言えども一人だけ残れた程の迅移の使い手。
 御刀が千鳥ではないことで力が落ちている状態にある可奈美が、
 全力の沙耶香を超えてアナムネシスに勝てるわけがない。
 しかもメガリスロッドと言う沙耶香の時以上の武装もしている。
 写シを剥がされてないお陰で致命傷は避けてはいるものの、
 どうあがいても時間の問題だ。ロックの言ったように逃げて同士討ちも、
 失敗すれば敵が増えた状態で追い詰められるだけになりかねない。

(距離を離すわけにはいかないけど、近づけない!)

 近くの塀を文字通りの壁にして移動しつつ、なるべくやり過ごしていく。
 だがすぐに壁は砕かれていき、貫通してきた剣を弾き飛ばす。
 ギリギリ戦いとして成立させることができてるのは可奈美の観察眼、
 その場その場で戦術を組み立てることができる柳生新陰流の特徴、
 これらを成立させる彼女の優れた能力と言う、殆ど自力によるもの。
 成立と言っても、数字で言えばどれだけ贔屓目で見たとしても八対二、
 詰みに等しい相手であることには変わりはなかった。

「まだ、やれるよ!」

 だからどうしたと言うのか。
 此処で自分が逃げればロック達はどうなる。
 無理だとか無駄だとか、そういうことは関係ない。
 ないものねだりをしてる場合ではない。今ある最大戦力で、
 彼女を倒す、或いは食い止める以外に勝つことはできない。
 今にも剥がれそうな写シであっても後退をせずに思いっきり接近する。

(捨て身の動き、少し気をつけた方がいいようね。)

 アナムネシスの基本戦術は設置や飛び道具と言った、
 オーソドックスなアウトレンジからの射撃が基本だ。
 近づかれなければどうと言うことはないもののの、
 近づかれたら痛い目を見るのは零達との戦いで経験している。
 相手がいくら沙耶香以下の実力だとしても油断してれば、
 先ほどのよりも痛い目を見る可能性だって否定できない。

 間合いに入った瞬間に逃げるように距離を取り、再び弾幕。
 それをいなしながら、再び距離を詰めると言う変わらない展開。
 変わりがあるなら可奈美の写シが段々と剥がれているぐらいだろうか。

「お友達もだけど、傷が傷になってないのはどういうことかしらね!」

 かすり傷でも軽く十数回は当てたのに出血らしい出血がなかった。
 あるなら肩の傷だが、それは修平達のもので彼女によるではない。
 さっきから視覚的なダメージが感じられないのは厄介と。

「こっちも同じだよ! 教えられない!」

 余裕の笑みを浮かべながら迫っているが、殆どやせ我慢だ。
 傷はなくとも痛みはある程度は伴うし、写シの性能も劣化している。
 じわじわと消耗していることに変わりはない。

「別にいいわ。限度があることは知ってるから。」

 ダメージが常に通らないのであれば、
 沙耶香に傷がつくことは絶対になかった。
 その隙を狙って一撃をくれてやればいい。

「はあああああッ!」

 最後の剣を弾いて、訪れた刀の間合い。
 この瞬間で仕留めなければならない。その意志を以って刃を振るう。
 此処からの回避に合わせた行動も脳内でシュミレートしており、
 十全にできるかどうかはともかくとして、ある程度の対応を考える。

「愚かね。」

 だが此処でワープによる転移をせず、
 アナムネシスがまだ一度も見せてなかった、
 千の投影散華を彷彿とさせる周囲に剣の展開。
 突如として出てきたそれに対応が遅れ、胴体を貫かれる。
 刺さったまま写シを解除してしまうと傷は残ってしまう。
 すぐさま距離を取って大事には至らなかったが写シが剥がれ、
 膝ががくりと地についてしまい、疲労も襲ってくる。

「もう限界かしら。」

 沙耶香よりも負傷は軽いが、息を荒げて身体も震えている。
 かなり無理をしていることが手に取るように分かった。
 可奈美には現状打開できる手段は存在しない。
 刀使としての戦い方も力不足で通じても限度はある。
 可奈美の敗北は、確実なものにしかならなかった。

529決壊戦線─もう迷わない─ ◆EPyDv9DKJs:2022/05/11(水) 12:22:20 ID:719/4zUE0
「ま、まだ……!」

 歯を食いしばり、震えながら可奈美は立ち上がる。
 写シを再度張れるようになるにはまだ時間がかかる。
 だから此処からは当たること自体が許されない戦いだ。
 さっきのような写シに物を言わせてのごり押しはできない。
 でも、どうやってそれで戦うのか。あらゆる型へと至れる、
 無形の位の構えを取りながらできうる限りの対策を考えこむ。

「仲間の所へ逃げるべきじゃないの、此処は。
 そうすれば、私も追わないかもしれないけれど。」

 そうは言うが、遠くから聞こえる戦火の音色。
 気にする余裕はなかったがひろしの悲鳴もあった。
 ロックか都古か、あるいは両方はまだ戦ってるとみていい。
 そんな選択肢をすればどうなるかなど、最早考えるまでもなかった。

「じゃあ、さようなら。」

 とどめを刺さんとメガリスロッドを空へを掲げ、

「ッ!?」

 背中に届いた僅かな痛みに攻撃の手を止めざるを得ない。
 痛みの原因となる背中に突き刺さったものを引き抜きながら、それを握りつぶす。
 下手人の姿を見ずとも、それが誰のものか即座に分かった。
 突き刺さっているのは───翼のような矢なのだから。

「ッ……ニアミスってこういうことを言うのね───」

 ギリッ歯に力を籠め、苛立った様子が伺える。
 可奈美の反対側に立つのは精錬だからの白ではなく、乾ききった白き代行者。
 天の使いとも思えそうなその姿には余りに似合わぬ暗い表情。
 暗い表情の中に灯るのは、情熱的な敵意と憎悪の眼差し。

「───幡田零ッ!!」





 あれからずっと逃げるように零は走り続けていた。
 その最中、放送で彼女の名前を知る者は少なくとも三名が告げられた。
 一人は最初に出会った名前も知らない男、修平が告げた名前と同じ琴美。
 彼女についてはわからない。善良な彼女であることは確かなので、
 騙されたりしたか、それとも理不尽に抗おうとして散っていったのか。
 分かることは一つ。彼女が亡くなった今や彼は明確に乗るだろう。
 同じ理由で伯爵の為なら遠慮はしないだろう、マネーラも同じことだ。

「千さん……」

 恵羽千。
 自分の信じる正義のために、戦い続けた先の結果なのだろうと察しが付く。
 共に戦った仲間が死んだにしては/懸念してたことが杞憂に終わったにしては、
 妹が狙われず心のどこかで何処か安心感を/ひどく胸に痛みを感じていた。
 涙は流れない。流したくても流れないかもしれないが、
 それが単純にひび割れた器だからか、冷たくなったのか。
 どちらにせよ、そんな風に考えてしまう自分を嫌悪したくなる。
 招かれた時期の都合、元来の人間性すらすり減りつつある中で、
 まだそう言った感情が残ってることが救いなのは皮肉だろうか。

(……)

 それだけでは終わらない。
 名簿には死者が取り除かれた、
 生存者だけの名簿も追加されていてを見ながら零は思う。
 名前を呼ばれなかったからこそ分かることもある。
 あかり達の善良な人間から、トッペイ等の危険な存在。
 様々な生存者がいることも分かるが、さほど重要ではない。

 幡田みらいはまだ生きているのだと。
 喜ばしいことだが、緑郎が蒔いた悪意の種を成長させる材料になる。
 彼女が生きてるのは、誰かに守られてるから無事なのではなく、
 幽鬼だから身を守ることが自分自身でできているのではないかと。

 不安は何処までも大きくなっていく。
 真実はどうなのか。知りたいようで知りたくない。
 たとえ幽鬼であってもみらいをヨミガエリさせる目的は変わらないが、
 知ってしまったとき、今でさえ不安定なのに正気でいられる自信はない。

(───誰かが戦ってる?)

 逃げてる途中、病院から轟音に気付き向かってるその途中。
 別の音を聞き駆けつけた場所。そこに立ってるのは、忘れるはずのない存在。
 距離があったのもあって剣は使えなかったが、迷わずその背へと翼の弾丸を叩き込んだ。

「まさか、最初に会えた知り合いがあなたとは思いませんでした……アナムネシス!!」

 全ての元凶。
 辺獄を駆け抜けることとなった発端。
 妹を『殺させた』相手を前に、涙は流れなくなった心でも感情は動く。

「意外と控えめな攻撃をしたのね。
 貴女なら遠慮せず撃ってたはずだけど、
 今更になって他人を思いやる気でも起きたの?」

530決壊戦線─もう迷わない─ ◆EPyDv9DKJs:2022/05/11(水) 12:23:33 ID:719/4zUE0
 アナムネシスの言う通り、
 妹を狙う諸悪の根源と認識してる零にとって、
 彼女相手ならばもっと、無差別に攻撃してもいいものだ。
 出来なかったのは彼女と敵対してる可奈美が射線にいたからか。
 本来なら巻き添えでも連射するべきところだったが、できなかった。
 敵対してるのであれば高確率で彼女はあかり達と同じ殺し合いに抗う側。
 彼女達の存在がチラついてしまい、それに躊躇いが生じていた。
 出会わなければ、きっと躊躇せず巻き添えにしていたはずなのに。

「彼女に利用価値があるから? おおよそ、妹の為の贄でしょう?」

「貴女に言われたくありません。」

 妹に拘っていた彼女が、
 妹を生かすための行動なのは察する。
 みらいを殺させた奴にだけは言われたくない。
 黙らせるように一気に迫って思装とは別の武器、オチェアーノの剣を振るう。
 シンプルな攻撃であったために、近くの家屋の屋根へ転移して特にダメージはない。

「協力してください。」

 後で敵対するであろう相手と関わるのは本意ではないが、
 彼女を一人で倒すのは至難なのは痛いほどわかっていること。
 素直に可奈美へと駆け寄って共闘を持ちかけることにする。

「うん、分かった。でも私はあんまり役に立てないかも。」

 弱気になってると言うよりは、率直な感想。
 本来の刀使の力が引き出せない現状を考えれば、
 常人なら容易な存在でも荒魂のような超常的な存在には分が悪い。
 諦めない前向きなのが可奈美だが、だからと言って何も見えてない無謀に非ず。

「……分かりました。それなら、合間合間のサポートをお願いします。」

「それなら任せて。私衛藤可奈美。幡田さんでいいんだよね?」

「は、はい。」

 小衣とは違うが暗さを感じさせないその物言いは、
 少しばかり自分のペースを崩される感じがして反応に困る。
 即座に気持ちを切り替え、屋根にいるアナムネシスへと翼の弾丸を放つ。
 先ほどのフェザーエッジと違い弾丸は一発だけのネイルフェザー。
 とは言え相手はアナムネシス。背後で隙があったならまだしも、
 正面から攻撃しては容易く弾かれてしまう。

「そこっ!」

 弾丸と共に屋根へと移動した可奈美による袈裟斬り。
 弾いた際の勢いのまま杖を振るって迎撃するも、
 御刀を挟まれて軽く後退するだけに留まり、屋根からも落ちない。

「無駄よ。貴女じゃ敵にもならな───」

「風よ、逆巻け!」

 地面からの竜巻に、空へと打ち上げられるアナムネシス。
 可奈美に注視した隙をついて、零が竜巻を彼女の足元に発生させていた。
 勿論可奈美とは初めて共闘するので連携も何もないのだが、
 代行者に近しい速度で動く以外は基本が刀一辺倒であり、
 その点は千に近い連携の取り方をすることで割と馴染む。
 空中を舞うアナムネシスにはこうなることを知った零だけが追走。
 アナムネシスを超えて空からオチェアーノの剣を振り下ろす。

「揃いも揃って、不愉快な武器ばかり使うわね!!」

 邪悪な魂を葬ると言われているオチェアーノの剣もまた、
 ある種の天敵であり揃って気分を害する武器に顔をしかめる。
 アイマスクをした状態なので、表情など分かるはずもないが。
 打ち上げられたもののすぐに姿勢を整えて攻撃を防ぎ、
 反動を利用してそのまま地上へと降りれば着地点を予測して、
 既に移動していた可奈美の右薙ぎがお見舞いされるがこれも杖で防いで、
 逆袈裟をステップで回避、そのまま踏み込んでの袈裟斬りを、
 地面から柱のような刃を出すことで躊躇わせる。

「ハァッ!」

 宙からの零による一撃をもう一度防ぐが、
 今度は地面にいる都合、反動で身動きが僅かに鈍る。
 そこへすかさず可奈美が肉薄するも、所詮は僅かな隙。
 劣化した迅移では先に後ろへと転移して逃げられてしまう。
 またしても攻撃は空振りに終わる───と思われていたが。

「!」

 移動ではなく転移、それはいわば消えたに等しい。
 だからどの位置へ移動してるのを視覚で判断は至難。
 故に、アナムネシスは驚かざるを得なかった。

(当たった!)

531決壊戦線─もう迷わない─ ◆EPyDv9DKJs:2022/05/11(水) 12:24:11 ID:719/4zUE0
 何故、転移した場所の近くに可奈美がいるのか。
 彼女にとってもアナムネシスの正確な転移の場所を確定はできない。
 残念ながら龍眼は持ってないし、持ってても劣化しては難しいだろう。
 ただ、全体的に彼女はアウトレンジから飛び道具を使っての戦術が強く、
 そうなれば必然的に自分が把握してる位置、後方への転移を選ぶのではないか。
 若干、と言うよりかなり分が悪い賭けではあったものの、その考えは運よく成功する。
 ……もっとも、アナムネシスは先程背後から撃たれると言う失態を犯した。
 飛び道具が当たりやすい高所を陣取ってしまうのを忌避していたという、
 偶然ながらも背後のみを重視したのには一応の理由があったりはする。
 唯一例外は、前後に敵がいた零の二度目の攻撃の時だけだ。
 若干の予想の位置をずれていたが、それでも脇腹目掛けた突きを狙う。

「それで勝ち誇るの?」

 しかし可奈美は知っているはずだ。周囲に剣を展開する攻撃を。
 どれだけ近づいたところで、距離を否応なく離されてしまう。
 アナムネシスは近づいたら近づいたで厄介な手を使ってくる。
 しかもまだ写シはできてない。当たれば負傷を免れない。

「な!?」

 姿勢を極めて低くすることで、頭部を掠め髪を散らすだけに留まる。
 彼女の流派は柳生新陰流だが、何よりも超がつく程の剣術オタクだ。
 大抵の流派に精通しており、故にそれ以外の動きもやろうと思えばできる。
 この低い姿勢から放たれるのは、以前可奈美が戦った燕結芽が使った三段突き。
 怒涛の突きがアナムネシスへと襲い掛かる。

「グッ、アッ!」

 転移から無理矢理バックステップをしたことで、
 切っ先が喉、胸、腹に軽く刺さった程度で済まされる。
 流石の彼女も冷や汗ものであったが、なんとかしのいだ。
 今ので仕留めきれなかったことは可奈美達には厄介なことだった。
 あんな不意打ち、そう何度も通用するものではない。
 千載一遇とも言えるチャンスを逃してしまう。

「……彼女が死んだから次はこの子を利用する。
 妹の為に、本当になりふり構ってられないのね。」

 痛みが走る喉に手を当てながら軽く愚痴る。
 代行者ではない少女に縋ってまで妹の為とは、
 随分健気なものであり、同時に不愉快極まりない。

「そういえば、まだ聞いてませんでしたね。」

「? 何かしら。」

「アナムネシス。なんで───私とみらいを辺獄に引きずり込んだの?」

 未だにわかっていないことだ。
 何故、彼女はそこまで妹と自分に執着するのか。
 魂を集めるだけならば誰でもよかったにしては、
 明らかに執着が過ぎる。もはや執念と言ってもいい。

「貴女、記憶力も悪いの? 私の記憶の欠損でもあるまいし。」

 零はセレマを亡くしたばかりの時間軸から招かれている。
 だから、アナムネシスのいた時間軸でされた同じ問答をした。
 同じ質問を受けている。故にその内容に少し呆れ気味だ。
 元の世界では、その辺についてはあやふやにされた答え。

「さっき会った幡田みらいと言い、
 人をイラつかせるのが姉妹揃って得意なようね。」

 だが此処ではそうではない。
 此処は辺獄は辺獄でも、殺し合いの舞台だ。
 完全に同じ道を辿ることなんてことはあり得ないのだから。

「……!? 今、みらいって!」

 みらいと会っていた。
 此処で明確な情報を持った相手がいたことに驚く。
 それが、まさかアナムネシスから告げられるとは思わなかったが。

532決壊戦線─もう迷わない─ ◆EPyDv9DKJs:2022/05/11(水) 12:24:56 ID:719/4zUE0
「みらいと、会ったの!?」

「ええ。でも殺せなかったわ。
 アーナスが人間を滅ぼす為に軍団を結成したから。
 お互いに傘下に入れさせられて手出しできなかったわ。」

 少しぐらいは問答に付き合ってあげようと、
 アナムネシスは事の顛末を軽く説明する。
 みらいや歩夢、紗夜のことも。

「よかった。みらいは無事だったんだ───」

「あの、ちょっと待って。」

 安堵の息を吐いた零に対して、
 少し戸惑ったような表情を可奈美はしている。
 当然だ。妹の安否に安堵して彼女はスルーしたが、
 聞き捨てならないものがあったから。

「その、アーナスさんって『人』を全員狙うんだよね。」

「ええそうよ。まずあなた達対象でしょうね。」

「アナムネシスも『人』ではないってこと?」

「私は死者、幽鬼と言うべき存在であり、
 人間と言う概念の埒外にあるわ。だから狙われずに済んだけど。」

 丁寧に説明に受け答えする相手に、
 少しばかり可奈美は戸惑うがそのまま話を進める。
 この疑問を解消しなければならなかった。

「じゃあ───何故、幡田さんの妹が生きてるんですか?」

 可奈美の一言に零がハッと我に返る。
 どうやって、妹はそれをやり過ごしたのか。
 考えれば当然のことを見落としてしまっていた。

「ゴメン、言い方が悪かったよね……話だけ聞けば、
 歩夢さんは人間だったから殺されそうになったけど、
 何かされて人間じゃなくなったから見過ごされた。
 だったら、幡田さんの妹さんも狙われるはずだけど……」

 そこから導き出される答え。
 当然、そんなものは一つしかなかった。
 みらいが人じゃない。人じゃないなら───

「幽、鬼……?」

 ロックに提示された最悪。
 それが現実となってしまった。

「嘘、です。そんなものは貴女が捏造したもので!」

「事実よ。でなければ、なんで幡田みらいに執着した私が、
 何もせずにこうしてそこから離脱してるか、分かるでしょう?」

「それは、きっと敵対してたアーナスさんを貶めるために……」

「話し合いなんて貴女とは本来なら成立しないのに、
 態々私が嘘でカバーしたストーリーをあなたに聞かせる?
 これを言った大半の敵になる私が誰に信用されるのかしら。
 貴女、記憶力どころか頭の方も大分壊れてきてるんじゃないの?」

 もしこれが嘘だとしたなら。
 なんでそんな嘘をつかねばならないのか。
 嘘にしたって詳細が余りにも事細かすぎるし、
 アーナスがみらいを保護する側だったとしても、
 なぜアナムネシスはろくな傷を負ってないのか。
 あれほどみらいに執着して戦わないを簡単に選ばない。
 もっと怪我をしていてもおかしくないが、彼女の傷はかなり浅いものだ。
 しかもそれらは可奈美が傷をつけたものであり、アーナスではない。
 嘘と断じたが逆だ。もう答えなど出ている。信じたくないだけ。

「あの時は黙っていたけど、特別に今答えてあげるわ。
 幡田みらいは───私が幽鬼になるきっかけとなった『幽鬼の姫』よ。」

 揺るがぬ真実なのだから。
 本来ならば真理念を経て繰り返し、
 漸くその解へと至る答えを明かされた。
 準備も、覚悟も、過程を飛ばした上にひび割れた涙の器で。
 落涙することすら許されない少女には、早すぎるその事実を。

「幽鬼の、姫?」

 零はそのワードは知らない。
 でも音だけで察することはできる。
 ただの幽鬼ではない、上位の幽鬼だと。

「幡田みらいは既にヨミガエリしているのよ。
 私が死ぬきっかけとなった事故も利用してね。
 その時で唯一生き残って……いいえ、死んでるからおかしいか。
 唯一狩られることなく生き延びて、こうして幽鬼になったのが私。」

「嘘……だって、そんな記憶どこにも!」

「記憶の改竄。貴女も理解してるはずでしょう?
 ヨミガエリは逆のことも起きる。自然に記憶が上書きされるの。
 貴女の妹は何かしらで亡くなっても、その事実がなかったことにされてるわ。」

533決壊戦線─もう迷わない─ ◆EPyDv9DKJs:2022/05/11(水) 12:25:23 ID:719/4zUE0
 友人、学校、どこに電話してもみらいの存在が消されていた。
 何がどうすればそんなことになるのかは皆目見当もつかないが、
 少なくとも幡田みらいが生きていた痕跡が消えたことは知っている。
 元に戻った場合、その記憶も元に戻るなどどうやってかなど分からない。

「だからあなたは違和感を持たなかった。
 自分の妹が一度死んで、ヨミガエリで復活してるのを。
 もう一度言うわ幡田零。私は貴方の妹に殺されてこうなったの。
 貴女は私を妹を殺した元凶として許さないと思っているのなら、
 私が幡田みらいを憎む理由も、分からないとは言わせないわ。」

「そんなの、私を惑わす為の嘘で……」

 幽鬼である可能性はまだ構わなかった。
 でもアナムネシスが狙う原因は、みらいに殺されたからによる復讐。
 もしそれを否定をするなら、自分がアナムネシスを倒す理由も否定される。
 いや、みらいが幽鬼の姫であればあれで死んでない可能性だって出てくる。
 嘘と断じなければ、自分が幽鬼を狩り続けたことに対する行為すら正当化できない。
 正当化できない、と思っている時点で彼女の精神状態がどうなのか伺えるだろう。
 セレマに再会することはなく、ヘラクレイトスが語り掛けてない零の精神で、
 この考えを短い時間で振り切ることなど、到底できるはずがない。

「じゃあ答えを教えてもらえる?
 一体どこが嘘で、どこが本当なのか。
 貴女にとって都合のいい理由を答えてもらえる?
 自分を正当化する為の、都合のいい耳障りのいい言葉で。」

 返せるわけがなかった。
 ただでさえまともに考えがまとまってないのに、
 立て続けにくる情報量を今の状態で纏められるものか。
 何よりも、みらいが姫と呼ばれるほどの幽鬼に至ってる。
 下手をすれば、自分やアナムネシスを超える程に狩ってる筈だ。
 その事実を否定できず、膝を折ってしまう。

「答えを知りたいなら妹に会わせてあげるわ。
 但し、五体満足は望まない。彼女の目の前で惨たらしく殺すから。」

 さっきまでの戦いがとんだ茶番に感じた。
 最初からこうすればよかったかなんて思いながら
 戦意喪失した彼女へと杖を向けるも、
 その間に可奈美が立ちはだかる。

「邪魔をしないで頂戴。」

「ゴメン、できない。」

「あなたにとって都合がいいはずよ?
 彼女は自分の妹の為に人の魂を踏み躙ってきたの。
 此処でも屍を築いて妹の供物として捧げていくの。
 酷く歪んだ姉妹愛よ。彼女は最終的に貴方の敵のはず。
 しかも妹もろくでもない存在。守る理由がどこにあるの?」

 否定しようにも余り出来たものではなかった。
 零とは今であったばかりで、殆ど事情を知らないから。

「今退いてくれるなら特別に、今だけは病院から手を引くわ。
 貴女の病院の仲間にも手を出さない。今手を引かせれば、
 そっちは準備したうえで戦いを挑る。それなら私にだって……」

「器用じゃない人を知ってるから。」

 だから甘言を一切聞くことはなく、
 率直に今思ってることを述べる。

「本当はいい人なんだけど、
 一人で何でも抱え込んじゃう人を、私は知ってる。」

 逃避行を続けていたあの時に語られた、
 母の無念を晴らすと言う私怨だけに御刀を手にした姫和の決意の重さ。
 零も同じで、背負うものが複雑でとても重く、誰に頼れるものでもないこと。
 そのことだけはなんとなく程度だが分かった気がする。

「だから、幡田さんもそういう人だと思うの。
 妹さんの為に、周りが見えなくなっちゃって。
 周りに自分の重いものを半分持ってくれる人がいなくて。」

534決壊戦線─もう迷わない─ ◆EPyDv9DKJs:2022/05/11(水) 12:25:40 ID:719/4zUE0
 厳密には頼れる人はいるにはいた。
 千、小衣、それとちょっと違う気もするが777と。
 だがこのころの零は、頼ると言うよりは利用するに等しい行為だが。

「私の友達に似ているんだ。私はその子の半分を持つって決めたから。
 幡田さんのは半分も持てないかもしれないけど、少なくとも見捨てるのは絶対にできない。」

 此処で放っておくわけにはいかない。
 後戻りできない道を一人で歩み続けている。
 この子は、皆と出会わなかった十条姫和だから。

「……それでどうするの? 彼女は戦意喪失、
 さっきのは殆どまぐれみたいなもので次はないわ。
 あなた一人では私に勝てない。その愚かな考え、直ぐに手折ってあげるわ。」

 そうは言うがアナムネシスの言う通りだ。
 状況は悪い。しかも零を庇いながら戦うことは厳しいと言わざるを得ない。
 後方の病院では闘いも続いている轟音が此方にまで届いており激戦の最中。
 戦闘再開の合図を待たんとするかのように二人は構える。










 合図はあった。
 だが、二人は動くに動けなかった。
 再開のゴングには、余りに大きすぎるほどの轟音。
 再開のゴングには、余りに存在感のありすぎる衝撃が。
 三人がいる場所の近くの家屋に、凄まじい威力で何かが飛んできた。

535 ◆EPyDv9DKJs:2022/05/11(水) 12:27:16 ID:719/4zUE0
一旦投下終了です
遅くても明日の夜までには投下します

536決壊戦線─Diabolic mulier─ ◆EPyDv9DKJs:2022/05/12(木) 19:03:33 ID:zPEtXNuI0
投下します

537決壊戦線─Diabolic mulier─ ◆EPyDv9DKJs:2022/05/12(木) 19:04:46 ID:zPEtXNuI0
(コンフー……ああ、売女と同類の奴か。)

 いつしかムラクモのクローンの暗殺の際に、
 依頼したのも似たような拳法を使う奴だったな。
 なんて思いながら不意打ち感覚で銃撃を放つ、
 銃口を向ける寸前に気付いたことで首を逸らして回避。
 そのままステップから勢いをつけた状態での飛び蹴り。
 鋭い飛び蹴りを前に咄嗟に番傘でガードを優先する。

「!? なんだ、この重さは……ッ!」

 タタリの影響でなんちゃってでは済まされない八極拳の一撃。
 単純な威力の重さだけで言えば、劣化八幡力の美炎以上の威力を持つ。
 直撃すれば、最悪首の骨が折れたっておかしくないようなものだ。
 見た目で判断するものではないと自分で言った通りの結果か。

「チィ! 厄介だな!」

 素直に受け止めるのは得策ではない。
 そのまま受け流して姿勢を整える。
 着地している彼女の背を狙うように銃口を翳して放つ。

「ハッ!」

 着地から即座にジャンプによる回避が間に合う。
 振り向きながら着地後一気に踏み込んでワンインチにまで迫る。
 完全者もバックステップして距離を取ってはいたものの、
 それでも番傘の間合いとしては不利になる距離。

「トォ!」

 事実、蹴り上げによって番傘は空中を舞う。
 彼女の得物がなくなったところに鳩尾へ拳を叩き込む。

「オアシス!」

 そうはいかないのがスタンド能力。
 泥のような色をしたスーツを纏っては地面へ潜り、
 攻撃は盛大に空振りにさせた上ですぐさま地上へ飛び上がる。
 残念ながら完全者は徒手空拳に関しては素人もいいところ。
 応用一つでスティッキィ・フィンガーズを超える膂力も、
 悲しいが彼女がそれを使うことはない。普通に持ち腐れである。
 だから狙いは都古本人ではなく、空中を舞う神楽の番傘の方だ。
 すぐさまキャッチしてスタンドを解除と共に空中で身を翻し、
 攻撃の隙を晒している都古の背へと番傘を振るう。
 盛大に外した攻撃の隙を埋める術はない。

「愛さん、ヒーット!」

 と、思っていたその矢先。
 戦場にらしからぬ声と共に、
 愛が全速力で走りながら鉄バットを振るい、
 番傘を思いっきり叩いて攻撃が相殺される。

「か……ったぁい!」

 戦闘民族たる夜兎の出鱈目な使い方にも耐えるそれが、
 たかだか田舎の学生が持ってた鉄バットで勝てるはずがない。
 バットは凹んでしまい、手に来る反動のあまり投げ捨ててしまう。
 転生の都合肉体的に鍛えられてるとは言えない完全者故に、
 腕が折れるとかそういうことはないし妨害にもなりえたのだが。

「宮下お姉ちゃん!?」

 自分一人で戦うつもりだったのと、
 彼女には自分みたいな格闘技の技術はない。
 だから此処で彼女が乱入は予想できなかった。

「鬼とかならまだしも『人』だったら愛さんもちょっとね! 『ヒット』だけに!」

 場の空気を分かってるのか、
 分かってないふりをしてるだけなのか。
 しょうもないダジャレを口にして軽く笑う。
 愛はスクールアイドルであって、戦いに身を置く者に非ず。
 理由も躊躇もなく、他者を傷つけるような性格でもない。
 誰かを傷つけるなんてことはしたいはずがなく、あくまで今のは傘を狙い、
 武器を奪って無力化させる為にしただけのものだ。
 誤って顔面を狙わないように注意はしていたものの、
 やはり戦力外であることを痛感させられる。

538決壊戦線─Diabolic mulier─ ◆EPyDv9DKJs:2022/05/12(木) 19:06:38 ID:zPEtXNuI0
「邪魔だ小娘!」

「わ、ちょ!」

 今度は愛を狙ったスイングだが、仰け反って回避。
 その勢いを使ってバク転しすることで一気に距離を取る。
 都古のような戦うための動きとは違うものの、
 洗練された動きには完全者から見ても少し目を張るものがある。

 宮下愛と言う少女は基本的に何でもできる才女ではあるが、
 中でも運動能力に関してはメンバーでも常軌を逸してるレベルのものを持つ。
 だから部室棟のヒーローと呼ばれるほどの目覚ましい活躍ができる。

(無駄に体幹がいいが、所詮は人だな。)

 確かに目を張るが所詮は見せる動き。
 あくまで体幹だけで動いてるだけの奴。
 すぐさま愛に銃口を突きつけるも、迫る都古の肘内。
 やむなく番傘を防御へと回して互いに反動で距離を取る。

(向こうの金髪は戦力外だから、余り気にする必要はないか。)

 様々な支給品が混在している中で、
 鉄バットを武器にする理由は大体選択肢が他にないだけ。
 となれば敵としてみる必要はなく、優先順位は決まる。

「試すか……オアシス!」

 再びスタンドを纏って地面へと潜り込む。
 地面に潜られて互いに足元を中心に警戒を強める。

(来る!)

 足元がぬかるんだ感覚。
 即座に都古はステップを踏んで離れるも、
 完全者の姿は出てくる気配がない。

「ちょちょちょ!?」

 愛の声に反応し視線を向ければ、
 彼女の方も地面がぬかるんで足が沈みかけている。
 まだ抜け出せる範疇ではあったものの、

「そうはいかん。」

 彼女の足を掴んでぬかるんだ地面に片足だけ引きずり込まれる。
 ぬかるみに囚われてる隙に地面から跳ねるように飛び出し。
 スタンドを解除しながら地上へと着地して、
 愛へと番傘の先端にある銃口を突きつける。

「ッ!」

 すぐに逃げ出すも、右足が思うように動かない。
 身を逸らすことで顔に空くはずの風穴は、
 耳たぶをちょっとだけ削るだけに留めることになる。
 十分痛いがそれをしている場合ではない。

「イツッ……ちょ、これってまずい奴!?」

 足が動かないのは何故かと足を見れば、
 右足が踝まで埋まって固定されていたのが原因だ。
 オアシスは物質を泥にすることができる能力があるが、
 能力の解除や触れてない物質は元の物質通り硬い状態に戻る。
 愛の足が埋まった状態で解除すれば、足は当然コンクリートに埋まったまま。
 勿論抜け出せるわけがない。周りは固められたコンクリートなのだから、
 ちょっとやそっとどころか、下手をすれば足の切断が必要になる。
 最初から彼女を沈めて生き埋めにすればいいだけの話では? と思われるが、
 参加者の大半が地中に埋めれば死ぬのだから、流石に消耗が大きい制限がある。
 最悪自分が生き埋めになる行為を、おいそれとできるものではない。
 もっとも、生き埋めにしなかったのにはそれとは別の理由があるが。

「消耗は激しかった上にそっちは逃げ延びたか。
 だが、貴様らにとって致命的な一手になるだろうな。」

 先ほどは愛のお陰で都古は免れたが、
 今度は事実上の人質の立場へと変わる。

「生憎と私は強くないからな。
 狡猾に、魔女らしく行かせてもらおうか。」

 てっきりそのまま人質に取られると思えば、
 完全者は放置した状態で都古の方へ走りながらオアシスで地面へ潜る。
 すぐさま飛び出した勢いで空中を舞いながら番傘によるの銃撃の雨。
 正面からの攻撃なのでさほど問題ではなく、すぐに横へと飛んで全弾回避。
 そのまま都古を飛び越えて着地しながら再び完全者は番傘を銃として構える。

「え?」

 ただその方角は都古ではない。
 射線を確認すれば、その先にいるのは───動けない愛の姿。

「宮下お姉ちゃんッ!!」

539決壊戦線─Diabolic mulier─ ◆EPyDv9DKJs:2022/05/12(木) 19:09:38 ID:zPEtXNuI0
「宮下お姉ちゃんッ!!」

 不敵な笑みを浮かべながら、完全者が引き金を引く。
 目的に気付いてすぐさま拳のスピリット・オブ・マナで防ぐが、
 咄嗟だったため防いだ弾丸の軌道がずれ、額を掠めて鮮血が舞う。

「みゃーこ!?」

 駆け寄ろうとしたものの、
 身動きできず足を挫きそうになってすぐに戻す。
 あの時出なければ都古が危なかったとはいえ、
 自分が出たことでこの事態になっている。
 心が痛まないかどうかで言えば普通に痛む。

(なんとか抜け出さないといけないけど……)

 自分が足かせになってる状況を、
 どうにかしたいものの足は完全に埋まった状態だ。
 コンクリートでは生身どころか、仮に鉄バットがあっても容易ではない。
 因みに鉄バットはオアシスの余波で半分埋まっていて、
 容易には回収できなくなっていた。

「言っただろう、私は強くないんだ。」

 愛を生かしたのは向こうから人質を守るから。
 大人数である以上打算目的の連中は少数になる。
 目論見通り、彼女は自分から盾になってくれた。
 単純な人質の存在は思いのほか邪魔なものだ。
 自分の移動の邪魔になるなら捨てざるを得ないし、
 下手をすれば第三者からの妨害だってありうる。
 特に、二階には三人いたがその三人目が未だ出てこない。
 此処で人質をとって動きを鈍らせるよりも存分に働いてくれるだろう。
 愛を足枷とすることで、都古相手にも有利に立ち回れる。

「お前達は複数でかかっているのだから、卑怯とは言うまい?」

 殺し合いにプライドも何もあるわけではない。
 旧人類に対して正々堂々とか欠片も思うところなどなく。
 効率よく殺せるのであれば、それでいいのだから。
 煽ったのは相手の士気が少しでも下がればと、
 少しばかり芝居がかった台詞のものである。

(そういえば今さっきは咄嗟に使ったが、
 これはガトリングだったな。忘れそうになっていた。)

 近づかれたら苦しくなると言う立ち回りから、
 距離が近い戦いでは反動や隙を気にして避けてきたことだが、
 神楽の番傘は通常の夜兎の番傘から改良されている機関銃だ。
 だからやろうと思えば、相手をハチの巣にもできる。

(愛さんが離れないと……)

 都古なら無意味でも自分を庇ってしまう。
 それだけを避けるべく、懐のレッドカードに手を伸ばす。
 相手に使っても自分が動けない状態のままなのは変わらないし、
 それを解決できるものが彼女にはない都合別の考えをする。
 これで自分自身を戦闘可能範囲外まで逃がすことで解決できるのではと。

(でも、これってどうやって飛ぶの?)

 これが、どのような理屈で範囲外に出るのか。
 もし物理的な移動によって行動を起こす物であったなら。
 その瞬間自分の足は此処に置き去り、千切れることが確定する。

 籠城したことのデメリットが此処で顕著になる。
 元々は異能とは一切無縁の生活をしてきた人間で、
 彼女は異能を目にしたのは今しがたのオアシスが初めてだ。
 異能を何度も見てれば『そういうもの』と認識ができて、
 使えばワープと言った超常現象で離れるだろうと思えるものだが、
 少ない以上思ってしまう。常識的な手段で距離を離すのではないかと。
 説明も文章で判断するしかない以上、完全者はオアシス以外は物理的な攻撃手段のみ。
 だからどうしても使用を躊躇ってしまう。平穏が彼女を鈍らせる。
 そのまま突き付けられた銃口から無数の弾丸が放たれた。










 ただし、別の方角に。

「来たか、三人目!」

 漸く姿を見せてきた最後の一人、洸が戦場に乱入してきたから。
 そのままであれば銃を放ってハチの巣は確定ではあったものの、
 都古が放置したままでいた特注の日傘を回収していて弾丸を次々と弾いていく。
 狙いを都古の方へと向けるも、傘越しに洸が空へと投げられた物が視界に入る。

「チィ!」

540決壊戦線─Diabolic mulier─ ◆EPyDv9DKJs:2022/05/12(木) 19:11:22 ID:zPEtXNuI0
 見た瞬間にそれが何か察した。
 ありふれた見た目をした手榴弾なのだから。
 オアシスを纏い、番傘を開くと同時に爆発する。
 爆発物にはいい思い出がないと数時間前に味わったばかりで、
 異様な警戒をしてるとも言えるような防ぎ方でもあった。
 勿論都古たちも巻き添えになる範囲ではあったが、
 ギリギリ洸が滑り込むように日傘で間に入ってガードして、
 衝撃で吹き飛びそうなところを都古が抑えてやり過ごす。

「間に合ったか……」

 洸としては逃げるべきだと思った。
 潮時なのは明らかだし、相手は実力伯仲でも、
 都古たちと違い卑劣な手段も辞さないような相手。
 手段を選ぶ奴と選ばない奴が対等であるはずがない。
 しかもあれでまだ常識的な範囲の参加者であって、
 口伝だけとは言え絶鬼レベルの参加者はもっといるはず。
 そこも考えて殺し合いに乗る側に、完全者に協力することも考えた。
 まだ常識的な範囲なので、非力でも人材の為生かす可能性はあるから。
 この病院で生存が望めないのであれば、参加者を減らす側に回るべきだと。

(本当にギリギリだった……)

 あくまで彼の最優先は野咲春花と再会するために生きるだけ。
 過程や方法にどれだけの屍を築いたところで何一つ変わりはしない
 まともな倫理観があるなら、火事の遺体を親子愛だからと撮るわけがないのだから。
 いや、一応不謹慎とは思っていたとは未来の彼は言っていたが。

「みっつんやるー!」

 できるならハイタッチでもしたかったが、
 動けないので言葉だけでに留めておく。
 そんな愛を一瞥しながら、溜息をついた。

(……こっちの方が都合がいいのは変わらないな。)

 ただ洸には『自分の意に沿わない相手を暴力で従わせる』と言う、
 DVを愛だと謳う父親から受けてしまった悪影響が根底に存在している。
 洸はそれを制御できない。できれば本来の彼はあんな結末は迎えない。
 もし、完全者が自分の意に沿わなかった相手ですぐに決裂した際に、
 それが抑えきれなければその先に待っているのは自分の死だけだ。
 乗る側に回った際のリスクが余りにも大きいものがあった。
 だったらまだ自分の思う通りに動いてくれるひろし達を助ける方が、
 今後もやりやすくなるし安全であると言うことに変わりはない。

「それより、爆発は終わったからあいつを止めてくれないか。
 もう一回あいつが地面に潜られたら、俺まで的にされたら終わりだ。」

「うん、そうだよね。ありがとう洸お兄ちゃん!」

 二人を置いて、傘を飛び越えながら三度完全者と対峙する。
 その間に洸がデイバックからハンマーを取り出す。

(貰っておいて正解だったか。)

 爆弾とか日傘はあれども洸には安全に使える武器がなかった。
 だから放送が来るまでの間過ごしていた時間の間に、
 他の参加者の中からいらない武器があれば譲ってもらおうと、
 可奈美の方で使う予定がなかった呪蝕の骸槍とウォーハンマーを貰った。
 ないよりかはましと思って受け取ったが、今の状況ではすごく助かるものだ。
 地面をブロック状に、殆どの材質問わずできるのは適材適所と言ったところ。
 何度か彼女の足の周囲を叩いたことでブロックも大分削れて、
 厚底ブーツみたいな分厚い脚になってるのは変わらないが、
 ある程度は走れるレベルでありなんとか脱出には成功する。

「サンキューみっつん。さっきは本当にダメかと思ったよ。」

 もう逃げることが物理的にできない絶望感からの解放は、
 いかに明るさが取り柄である愛としても緊張がゆるんで膝をつく。
 足を引っ張ったことについての罪悪感もあるので、早急に立ち上がるが。

「それより離れますよ。俺の方に戦えそうな武器もあるので。」

「え、ホント?」

「リスクがあって不安でしたから、使いたくないんですけど。」

 日傘を盾にしながら隙を伺って離れる二人を尻目に、
 二人の戦いはより熾烈を極めていく。

「ちょうしんちゅう!」

 高速で移動しながらの肘内による一撃。
 素早い動きもあって咄嗟のサイドステップをしつつ、
 リーチの間合いから外れるも足払いへと繋げてくる。

(この小娘、リーチが足りないと思えばすぐに切り替えてくるか!)

541決壊戦線─Diabolic mulier─ ◆EPyDv9DKJs:2022/05/12(木) 19:12:25 ID:zPEtXNuI0
 着地を狙われて足払いされては流石に対処不可能だ。
 姿勢を崩したまま倒れることになるが、そうはならない。
 オアシスがある以上倒れて隙を晒すことは決してなく、一度沈むだけだ。
 すかさず引きずり込もうと手を伸ばす、やはりセッコ程の能力が彼女にはない。
 手を伸ばして掴もうとしても先に避けられるどころか、

「テェイ!」

 震脚で動きを止められ、腕だけが地上に取り残される。
 怯んだ腕を両手で掴まれてしまい、思いっきり投げ飛ばす。
 地面から投げ出され、その背中へ飛び蹴りを喰らわせる。

「ガハッ!」

 ダメージには変わらないが、
 オアシスのお陰で辛うじて重傷は避けることはできた。
 空中で姿勢を戻しながら着地すると、すかさず迫る都古の右ストレート。
 着地時にオアシスで地面へ潜られることで回避され、地面から銃口だけが出てくる。
 乱射される前に即座にその場から離れ、地上に戻るが都古の方向とは逆向きに出てしまう。

(地面の中だと方向感覚も狂うわ、音での探知もしづらいで、慣れんな。)

 異常聴覚をがあってこそセッコのオアシスは脅威だ。
 それがない以上オアシスの強みが余り活かせないことに歯がゆさを思いつつ、
 手のひらを広げた状態の左手から繰り出される都古の発勁を振り向きながら番傘でガード。
 破壊力ある衝撃を持つ一撃には軽く浮かされながら距離を取らされる。
 更に距離を詰めるべく都古が肩を前面に押し出す、所謂貼山靠を狙う。

「フッ、グレイプニル!」

「え!?」

 しかし突如として都古の足元から紫に輝く黒い鎖が、
 彼女の足を縛り動きを止めさせられる。

「地面に潜る、それだけが異能だけだと思ったようだな。」

 先の戦いでは美炎相手には早く使う暇がなく、
 沙都子はまともな戦闘を仕掛けなかったりで、
 中々使う機会に恵まれなかったが完全者は元々は魔女。
 魔剣ダインスレイヴがなかろうとも魔女としての力を行使することは可能。
 足に気を取られた隙を、完全者は逃すことなく番傘で彼女の鳩尾を突く。

「ウゲッ……!」

 少女からはおよそ出ないような呻き声と共に肺から空気を吐き出す。
 戦闘民族である夜兎の無茶な使い方にも耐えられる材質である以上、
 下手な鉄で殴られる以上の痛みが存在して身体がくの字に曲げられる。

(後は引き金を!)

 いくら縛っても所詮は足だけ。
 幼い彼女の拳が届く間合いではあるし、
 焦って頭を狙うと言った欲はかけない。
 なので一度密着した距離から放つことを選ぶ。
 密着した距離なら確実に当たるし、手榴弾も都古がいる。
 この状況で使われることはない上に、そも手榴弾ならオアシスで防げる。
 相手が一人だけと言えども、確実に勝てる瞬間。

「───な。」

 頭を横から殴られたかのような衝撃に思わず転倒する。
 同時に鳴り響いた音も合わせて、銃声だとすぐに気づいた。
 オアシスを纏っていたお陰で致命傷には至らなかったが、
 都古が近くにいる状況下で銃を使うと想定はしなかった。
 下手をすれば彼女に当たるフレンドリーファイアになると言うのに。
 倒れる最中に撃ってきた方角、病院の一階の廊下を見やれば彼女も察した。
 狙撃してきた洸が使っていたのは拳銃ではない。狙撃銃なのだと。
 長い銃身を持つ狙撃銃は力のモーメントによって銃身のブレを抑えることができる。
 要するに狙撃銃は重量の都合、超長距離でなければ拳銃よりも当てやすい。

「うまくいったか。」

 額の汗をぬぐいながら当たったことを軽く喜ぶ。
 それと、父の影響でカメラで撮るのが趣味でファインダーを覗く彼にとって、
 スナイパーライフルについてるスコープで狭まった視界は慣れたものだ。
 銃の取り扱い自体は初めてではあったが、運よく成功した。
 うまくいったことに軽く安堵の息を吐く。

(ッ……まずい!)

 完全者は此処で最悪の事態へと陥った。
 頭に強い衝撃が当たった。つまりどうなるかと言うと、
 彼女の脳からスタンドDISCがズルリと抜け落ち、コンクリートを転がっていく。
 数メートル先でぐるぐると回転しながら倒れるがそれを見るどころではない。
 彼女はオアシスによって防御、移動を賄っていたがそれを失った。
 洸の銃撃を回避する手段はなく、それを回収する暇も与えられない。
 しかも此処は駐車場。狙撃銃を凌げる障害物が近くにないのも向かい風だ。
 放置された車もあったが、オアシスで中途半端でも沈めたせいで、
 少女の彼女であったとしても無理がある。

「理屈は分からないけど、
 あの人の頭から出た奴がないとあのスーツが出ないのかな?」

542決壊戦線─Diabolic mulier─ ◆EPyDv9DKJs:2022/05/12(木) 19:13:46 ID:zPEtXNuI0
 遠巻きに二人を眺めながら、一息つく。
 命懸けだったがこれで無力化に成功できた。
 安堵の息を吐きたいが、まだ油断はできない。
 ロックとひろしが戦ってるもう一人の方も忘れてはならない。

「とどめ刺します。」

 ただ、それで終わるわけはなかった。
 単純に殺し合いを優先としない参加者であっても、
 乗った参加者に対する見解が全員一致するとは限らない。

「み、みっつん? 流石に無力化させるだけでいいんじゃ……」

 さっきは装甲を纏っていたから、
 死なないという考えがあったから気にはしなかった。
 殺し殺されなんてものとは一切無縁の彼女にとって、
 殺人の一線は当然存在するし、誰かに手を汚させたくもない。
 無論愛も放送や絶鬼の話から、全員が分かり合うなんて話は夢物語だと思ってる。
 同好会も基本はバラバラの考え方ではあるし、今回は都合よく纏まるのもないだろう。
 完全者の強さ自体は、話に聞いた絶鬼程の実力はないと言うことはなんとなくわかるし、
 それならDISCや武器を奪えば、敵も諦めがつく可能性だって十分にある。

「お人好しが過ぎます。無力化した後、奪いにこないとでも?」

 冷徹な一言に、愛も言葉が詰まる。
 割り切りたくないことだと思っていたが、そういう意味だと正解だから。
 なお。物理的に止めようとした場合洸は事を起こしていたので、
 程々に留めたことで矛先が向かなかったのは、彼女の知らない地雷回避だ。

「それは、そうだけど……! みっつん、危ない!!」

 視界の隅に見えたそれ気付いて、咄嗟に彼を押し倒す。
 いきなり何事かと思うが、その思考は妨害された。
 赤い結晶が洸の頭部を軽く抉り、更に突き飛ばした愛の肩も抉るから。
 互いに出血したまま倒れ、すぐに二人は起き上がりながら、
 今しがた通り過ぎたそれに視線を向けた。



 通り過ぎた存在が振り返る。
 人と呼ぶには似ても似つかない異形の姿。
 しかしツインテールの姿と言った可愛らしさは、
 デフォルメされたキャラクターとも受け取れなくもない。
 ただ、少なくとも並みの学生ばりの背丈に戸惑うが。

「折角どさくさにまぎれたって言うのに、うまくいかないものね。」

 伯爵ズが一人、マネーラ。
 最後の役者がこの決壊戦線の舞台へと姿を現す。





「───は?」

 零を追いかけていたマネーラではあったが、
 とても追いかけられる状況ではなくなっていた。
 ノワール伯爵の死を告げられて、頭が真っ白になったが故に。

「伯爵様、が?」

 いや、なんで? としか言えない。
 ドドンタスも死亡してることも反応したが、
 彼女にとってそれ以上に伯爵の死が信じられないことだ。
 自分やナスタシアならまだわかる。でも伯爵が負けるなどあり得ない。
 ディメーンから告げられたことが信じられないに拍車をかけるが、
 自分が出会った知り合いは誰も告げられてないことを考えるに、
 無作為に選んだのではないことぐらいはわかっている。

「……」

 マネーラにとって、伯爵に仕える理由は結構軽いものではあった。
 彼がイケメンであり、それとイケメンのハーレムを作るためのものだ。
 嘗て救われたドドンタスやナスタシアと比べればとても軽い動機だし、
 ディメーンのような目的が不明の奴でも、ミスターLのようなパターンでもない。
 動機こそかなり軽かったが、ピュアハートが反応する程の忠義を彼女は持つ。
 たとえ伯爵の死を前に、心が動かない筈がない。

「だったら、変えるしかないわね。」

 最初の予定は完全に不可能となってしまった。
 伯爵と共に脱出を目指すと言う目的は、完全に。
 となれば目指すのは一つしかない。ディメーンを信用などできないが、
 だからと言って脱出して伯爵が、ドドンタスが生き返るかどうかもまた別。
 ミスターLとナスタシアも同じだろう。伯爵の為に動くことは決まっている。
 だったらやろう。伯爵復活の為に、ディメーンも含め皆殺しにするまでだと。

(……)

 協力者のあかりについては多少は申し訳ないと思う。
 この殺し合いの中で零やギャブロに対する対応の仕方は、
 自分を見失わず、それでいて他人を思いやれる大人の在り方だったと言える。
 零との問答で伯爵が殺し合いをしたらどちらを味方することは提示している。
 天秤にかけたところでそこは変わらないし、優先するべきは伯爵も不変だ。
 訣別のように、ピーチの姿から元の姿へと戻る。

「悪いわね、アカリ。アタシ───アンタほど優しくないの。」

543決壊戦線─Diabolic mulier─ ◆EPyDv9DKJs:2022/05/12(木) 19:15:03 ID:zPEtXNuI0
 零の件も頼まれたがすでに彼女を見失っている。
 仮に見つけたとしても、あかりの頼みを聞くことはできない。
 殺し合いに乗ってるので利用するため今すぐ殺すことはしないが。
 姿を元に戻してからは、後は音の方向へと向かって遠巻きに眺めたぐらいだ。
 遠巻きに見ていたとはいえ、戦い方から何方がこちら側かは察せられた。
 だから混乱を招くよう動く。無力な参加者から刈り取る。

「!?」

 マネーラの乱入によって出た都古の僅かな隙を逃がさない。
 完全者は地面に落ちたスタンドDISCを回収する為に走り出す。
 流石に不意打ちをするには短いと感じて、そちらを優先する。
 都古もすぐに追走するが、出遅れた一手は余りにも遅すぎた。
 DISCは先に取られて、その手に握られる。

「一手遅かったようだな。
 装備する暇はなかったが、私にかまけてていいのか?」

 二人に危険が迫っているが、
 かといって完全者を野放しにもできなければ、
 番傘相手に背を向けて救援もままならない。
 ただ、完全者もスタンドなしの状態ではある。

「ハァッ!」

 迫る都古の徒手空拳を前に、
 装備する暇もないまま接近戦に持ち込まれていった。



 ◇ ◇ ◇



「イッタタタ……ひりひりする。」

「あれは人、なわけないよな。」

 疑っていたわけではないが
 此処で初めて人外に出くわして少し戸惑う二人。
 どこかデフォルメキャラのような可愛らしさがあり、
 余り敵と言う認識がしづらくもあった。

「あら、アタシを人じゃないと思うの? だって───」

 そんな二人に、マネーラは変身する。
 白衣を羽織ったあかりの恰好へと変わり、

「こんな姿になったり。」

 続けてギャブロの姿へと変わり、立香、零と次々と姿を変えていく。

「こんな姿もあるわ。さて問題。どれが本来アタシでしょうか?」

 元のマネーラの姿へと戻りながら問いかける。
 マネーラにとって変身する意味は二つほどあった。
 一つは『殺し合いに乗った変身する能力者』がマネーラではなく、
 今変身した参加者の誰か、或いは存在しない誰かに擦り付ける為。
 ただ此方はマネーラは変身しても能力までは模倣できない上に、
 自身の力も使えなくなるので、ある程度考えると即座にばれてしまうが。

 主に重視しているのはもう一方の、同じく疑心暗鬼の為のもの。
 『マネーラの姿さえ参加者を模倣した姿に過ぎない』と印象付ける為。
 散々変身した以上、今後彼女達は他の参加者と出会ったとしても、
 それが本人かどうかの判断がつかなくなって、疑心暗鬼に陥りやすい。
 マネーラは能力こそ光るが、他人を真似ることについてはかなり下手だ。
 自分が誰かに成りすましてずっと紛れ込むよりも、内輪もめさせた方がいい。
 仮に逃げられたとき用の疑念の種は蒔くことはできた。芽吹けばそれでよし、
 芽吹かないなら他の陣営にそれをやって、疑念を加速させればいいだけだ。
 悪意のある参加者に出会って疑念を持った奴はギャブロ以外もいるだろう。
 全員がすぐに信用できることなど皆無なのだから。

「一番使い勝手良さそうなのは、この身体だけどね。」

 さも『他人の能力を模倣して戦う』とでも言わんばかりな発言をしておく。
 ありもしない存在で混乱を招けば、自分の立ち回りもより強くなっていくものだ。

「お喋りは此処まで。言いたいことも言ったことだし……まねーら・ちぇーんじ!!」

 マネーラの首が音を鳴らす。
 鳴らすと表現はしたものの内容は普通のものではない。
 首がぐるぐるとあり得ない動きで回転し始める。
 二人揃って目の当たりにしたその光景に恐怖し、
 逃げるべきだと脳裏に警鐘が鳴り響くも、足がすくむ。
 回転が終われば、彼女の頭部を中心に棒のような足が六本生えて、
 胴体だった部分は頭部から力なくぶら下がり、蜘蛛の如く足を広げていく、
 フィクションではないその光景は、ホラーの一言以外で表しようがない。
 別の世界線では、バトルモードと呼ばれる姿へと変貌する。

「じゃあ、死んでくれる?」

 頭部から赤い結晶、マネーが放物線を描きながら飛んでいく。
 弾速はさほど早くないのと、二人とも距離はあったので避けることは難しくない。
 ただ、病院の床に突き刺さるそれの威力は語るに及ばずだ。
 次々と放つそれを、足の踏み場を減らされながら愛は凌ぐ。

544決壊戦線─Diabolic mulier─ ◆EPyDv9DKJs:2022/05/12(木) 19:16:19 ID:zPEtXNuI0
「みっつん! 逃げ───」

 こんなの自分達でどうこうできる相手じゃない。
 また自分が余計なピンチに陥って都古の足を引っ張りたくない。
 レッドカードの戦闘範囲外についても冷静に考えられるようになった今、
 ばらけてる状況で使って、他の方に飛んで巻き添えになる可能性が出て控えたくなる。
 そういう意図もあったが、洸を見やればその様子に少しばかり鳥肌が立つ。
 整った顔立ちからは想像できない程、怒気や憎悪と言った感情が見て取れる。

 洸にはもう退くと言う選択肢がなくなっていた。
 相手がみすみす逃がしてくれるような輩ではないし、
 此処で一般人二人だけで移動と言うのは極めて危険と言う、
 合理的な考え……というのは普通の洸にはあっただろうか。
 ただ今の洸は、頭部の出血で正常な思考ができない状態にある。
 考えてることは、春花の下へ帰るのを邪魔する敵の排除だけ。
 カッとなったら見境つかなくなるとは、本人の談だ。

「素人が当てられるとでも思ってるわけ?」

 幾ら愛が突き飛ばしたことで重傷は回避しても、
 頭部からの出血は決してバカにできず今も流れ続けている。
 視界が少しぼやけている状態で銃を正確に狙えるものではない。





 ───無論、ただの銃であればの話だが。

「え? あ?」

 さっき完全者に対して撃った弾は見ていた。
 なのに、何故そんなビームのような砲になってるのか。
 銃口を明らかにオーバーした攻撃は多少狙いがずれても、
 十分に当てることができて、足が二本程吹き飛ばされて後方の床に突き刺さる。

 帝具、浪漫砲台『パンプキン』。
 通常は精神をエネルギーとした狙撃銃だが、
 ピンチになればなる程にその威力が増すと言う文字通り浪漫な代物。
 だから強敵に命の危機に陥ってる洸が使えば、その威力は激増する。

「原理は分からないけど、だったら動けばいいだけの話よ!」

 自分の足を天井と床へと一点に伸ばし、
 マネーが頭部の四方から突き出したまま頭を回転させる。
 足を滑車のように使い頭部が不規則に天井や床で反射しながら迫る。
 ホッケーや独楽のような動き、と言うのが正しいのだろうか。
 抉れた床や天井から、これもまた受けてはならないが、

「クソッ!」

 やけ気味に洸がパンプキンを撃っても、
 基本ベースが狙撃銃であるパンプキンにとって、
 小回りが利かない都合照準は余りうまく定まらない。
 元の使い手であるナジェンダやマインならまだしも、
 狙撃銃を振り回しながら撃つなんて経験がない彼には無茶な話だ。
 何度も光線のような強化された弾丸が放たれるが、悉く外れて院内を破壊していく。

「だったら!」

 愛が洸の背後からパンプキンを掴み、天井へと向けながら放つ。
 本体が狙えないのならば、足を伸ばした天井を崩すこと優先するのを選ぶ。
 目論見通り天井を破壊し、マネーラはバランスを崩す。
 瓦礫や破片のせいで追撃できず離れざるを得ないものの、
 それはマネーラにとっても同じで避けざるを得なかった。

「逃がすかぁ!!」

 ただマネーラにはこの状況でも攻撃手段がある。
 着地しながら、地面から大量のマネーが波のように飛び出し二人へ押し寄せる。
 悠に三メートル以上の波だ。タイミングよくジャンプはできないし、
 当たれば串刺しになるのは間違いないので逃げるしかない。

「こっち!」

 完全者がいる中飛び出すものではないが、
 どこまで波が続くか分からない今窓から逃げるしかない。
 院内を逃げてロックが戦ってる敵と挟み撃ちになればそれこそ終わり
 逃げやすいようパンプキンを構える前に他の窓も開けておいたのが功を奏した。
 二人の足を多少掠めることはあっても、行動不能には至らせない。

「マネマネマネ〜〜〜!!」

 駐車場に出て病院からどんどん距離を取っていく。
 身体がガラス片のように砕けながら再度元の形を復元すると言う、
 斜め上の方法で窓から出て、再びマネーを飛ばされ回避しつつ逃げる。
 都古の邪魔にならないよう、あえて二人から離れるように。

545決壊戦線─Diabolic mulier─ ◆EPyDv9DKJs:2022/05/12(木) 19:17:59 ID:zPEtXNuI0
「ドッカーン!」

 二人が逃げていく姿を横目に二人は戦い続けていた。
 都古は懐に潜り込んでアッパーをかけ、それは回避される。
 続けてもう片方の手から放たれたアッパーも首を逸らして、
 頬に赤い筋を刻まれる程度の傷に留められた。

「どうした、仲間がピンチだぞ?」

 はっきり言って完全者はそこまで動かなくてもいい。
 彼女が焦って何かしらミスをすればそれだけでいいのだから。
 とは言え電光機関とまでは行かずとも、破壊力のある一撃だ。
 DISCが装備できる隙を見つけなければ一撃で再起不能にされる。

(冷静に対処すればどうと言うことはないさ。)

 都古の膂力はタタリによって底上げされて凄まじいが、
 根本的な問題、小柄故にリーチが短いと言うことは覆せない。
 間合いを取りながら番傘の打撃や弾丸で攻撃する、こすい立ち回り。
 完全者と言う名前からは想像がつかないような戦い方ではあるが、
 合理的な面で言えば寧ろ完全者の名前通りとも言えるだろう。

 肘内も、震脚も、アッパーも。
 憔悴に駆られたそれは先程までとは違う。
 強くなっても精神が幼い子供である以上は、
 今の状況に焦ってしまい精度が悪くなるのは無理からぬことだ。

「かっ飛べぇ!」

 距離を取る以上、近づく手段が必須。
 一番速度と距離を稼げる飛び蹴りが再び完全者に迫る。

「───焦ったな!」

 それが完全者の待ち望んでいた行動だ。
 これが来たときの為に、動きを最小限に留めてたので容易に回避。
 飛び蹴りこと彼女曰く『ごけいけん』は確かに素早いが外したリスクも大きい、
 無理に攻める必要のない完全者にとっては最高のタイミングが訪れて、
 この一瞬でスタンドDISCを再び頭に突っ込んでスタンドを得る。
 とは言えあくまで緊急用だ。彼女を倒すのはあくまで自力に頼ることになる。

「さあ、これで今度こそ形勢逆転だ!」

 すぐさま着地した後振り返って踏み込む都古。
 その動作の前に完全者の前に現れる複数の魔法陣。

「行け、ラーンスネッツ!」

 グレイプニル以外にも使える魔法の一つ。
 黒紫の珠が三つ生成され、一斉に彼女に目掛けて発射される。
 当たるまいとサイドステップで距離を取りつつ、
 追尾性能を持つラーンスネッツは彼女の近くで爆発する。
 直撃はしなかったが、爆風のあおりを軽く受ける。

「さあどうした、近づけば勝てるだろうに!」

 煽られるが、そうしたくてもできない事情もある。
 グレイプニルと言う足元から出る技がある以上、
 ごり押しで近づいてもそれで足止めされてしまうだけだ。
 だから詰める場合は出す暇もなく近づくしかない。

(そう来るのは分かっているぞ?)

 当然、完全者もそのことを読んでいる。
 元から中距離を保ちながら戦うことに慣れてる都合、
 敵の間合いを見ることに関しては素人ではないのだ。
 都古の攻撃の飛距離や間合いを想定しての距離の取り方は、
 近づけども攻撃が狙えない都古は余計に焦らされるばかりだ。

「ハハハハハ! 追い詰めよ!」

 詰めの一手に再びラーンスネッツ。
 しかしその数は五つと先程の倍近くになっている。
 グレイプニルはさも近距離限定の技に見せかけてるが、
 設置については別に距離が相手てもできるものだ。
 避けに専念してる隙をついて、一気に叩き込む。
 展開された魔法陣から放たれた黒紫の珠が再び迫り、
 都古はそれを跳躍して飛び越えようとする。

「無駄だ! それはホーミングされるとわかっているだろう!」

 彼女の言う通り、飛び越えたとしても背後から迫る。
 それに対して裏拳を振るうも、当然のことだが爆発。
 更に連鎖的に爆発を起こし、少なからず都古はダメージを受ける。

「イッ……でも、これなら!」

 それが彼女の狙いだと、今になって気付いたが。

「しま───!?」

 ラーンスネッツは小さいとはいえ爆発を起こす。
 微々たるものかもしれないが、都古は子供ゆえに軽い。
 だから小規模の爆風でも、彼女の動きを加速させるものになる。
 爆風で都古は吹き飛ばされてるが、地面に直撃する寸前に手を地面に当て、
 勢いそのままにネックスプリングの要領で前進しながら起き上がる。
 起き上がる、とは言うがバネのように跳ねたことで距離を詰め、
 一瞬にしてワンインチの距離まで迫られてしまう。

546決壊戦線─Diabolic mulier─ ◆EPyDv9DKJs:2022/05/12(木) 19:19:28 ID:zPEtXNuI0
「グレイプ……」

「当たったらッ!!!」

 咄嗟に使おうとするも間に合わない。
 ありったけの声を張り上げながら都古は叫ぶ。
 力んでるのは単に力を込めてるからか、それとも今からする行為への恐怖か。
 着地しながら右手を握り締めて、その技を叩き込む。

「死ぬかも───ッ!!!」

 都古の使う技の中で最大の技、絶技雷極・安崩拳。
 それはもう、清々しいほどにただ殴るだけのもの。
 シンプルであるがゆえに、一切の小細工のない純粋な槍が如き一撃。
 最大の技だけあって威力が桁違いに強く、本人の言う通り死ぬかもしれないもの。
 殺し合いに乗らない以上これに頼るべきものではないと決めていたが、
 だからと言って、愛達を見殺しにするわけにはいかず、使うことを選ぶ。
 彼女もまた覚悟を決めて相手を倒すではなく、殺す覚悟を決める。
 本来とは違い、アッパーの要領で鳩尾へと叩き込む。
 すんでのところで何とか番傘を挟んでガードするが、

(この威力、耐え切れ───)

 荒っぽい使い方にも耐えれる番傘と言えども、
 都古の攻撃を完全に耐えきることはできなかった。

「ヌグ、アアアアアッ!!」

 番傘はひしゃげ、完全者を吹き飛ばすには余りあるものだ。
 空高く彼方へと吹き飛ばされ、完全にこの病院の戦線から離脱させられる。

「ハァー、ハァー……」

 生死は不明なのは救いか不幸か。
 彼女にとっての初めての経験でもあり、手が震える。
 だがその恐怖を飲み込む。二人は敵から逃げてるのだから。

「早く、行かないと───」



 ◇ ◇ ◇



「くぉら逃げてんじゃねえワレェ!!」

 口調が変わる程に怒りながらマネーラは二人を追跡する。
 ちぇんじしたモードは屋外では強みが余りないので、途中で戻った。
 参者は平安京の開けた道を必死に移動しながらの戦いが始まっている。
 メネーラは二メートルほど浮遊しながら、マネーを展開しては飛ばしていく。
 愛が日傘を使って防ぎつつ、洸がパンプキンを撃ちながら逃げるも、
 周囲に浮かぶマネーが壁の役割を果たしていて直撃はしない。

(早く殺さないと、野咲に───)

 田舎と言う交通機関の乏しい場所での生活と、
 メンバーの中でも体力がずば抜けて高いことで足腰が強い二人で、
 かつ途中までマネーラがちぇんじの変身時間で時間を食ったと言う、
 様々な要因が重なったことで距離を取りながらそういうことはできた。
 しかし、それもマネーラが元の姿に戻ってからは次第に距離が縮んでおり、
 更に的が小さくなったことでマネーの壁を突破の為何度も当てなければならないのに、
 一発だけだったり外れたりと、攻撃が届くことがないままの逃亡が続く。

「みっつん!? ひょっとして、攻撃受けちゃったの!?」

 愛が洸の様子を見て、声を上げる。
 頭の傷はそのままだが、他に何か受けたわけではない。

「? 何を言って……ゴホッゴホッ!」

 軽く咽て、手のひらを見やる。
 怪我らしい怪我を受けてない筈なのに、
 彼の手は吐瀉物となる血液に染まっている。
 吐血する前にも既に口から血が流れており、だから愛は気付けた。

「嘘、だろ。」

 洸の支給品がパンプキンであれば、
 二階から完全者を狙撃することでの援護はできたはず。
 けどしなかった。彼は進んで使いたくなかったのだ。
 最初に何度か使って何も問題ないと気にしなかったが、
 この舞台ではアカメも考えた帝具のリスクが浮き彫りとなる。

(悪かった、のか……!)

547決壊戦線─Diabolic mulier─ ◆EPyDv9DKJs:2022/05/12(木) 19:20:18 ID:zPEtXNuI0
 少し長い話になるが、帝具には相性が存在する。
 『帝具の相性は第一印象で大体決まる』と言うのは、
 ブラートが言った言葉ではあるが、全てがそうとは限らない一例もある。
 一例として生物型帝具、ヘカトンケイルやスサノオはそういう部類になる。
 これらは相性のいい相手が近くにいると目を覚ましたり動いたりするものだ。
 それはあくまで生物型の話では? と言われてしまえばそうかもしれない。
 ただ、帝具が使用者を選ぶと言うのはある意味では生物のようなものだろう。
 羅刹四鬼の一人、イバラがアカメから村雨を奪った際に怖気が走ったように。
 何より、インクルシオやライオネルは未だ素材が生きているものだってある、

 何が言いたいのかと言うと、
 帝具は元の使用者に性格が似通ってるかどうかもある程度入るはずだと。
 インクルシオをかっこいいと思ったタツミとブラートは印象の善し悪しの定義になるが、
 同時にお互いが『これをかっこいいと思える性格をしている』と言う性格の合致とも言える。
 他の一例に、嘗て歌姫であったコスミナはマイク型の帝具であるヘヴィプレッシャーを使い、
 何でも器用にできるラバックは千変万化の異名を持つクローステールを使ったように、
 人としての在り方や性格から、相性の善し悪しを図ることはできなくもないと言える。
 スサノオが目覚めた際も、ナジェンダが嘗ての将軍(男)に似ているから目覚めたりと、
 以前の使用者と、ある程度何かしらが合致するのも帝具の相性は考えられることだ。

 洸はパンプキンの見た目については余り悪いという印象はなかった。
 父の影響でカメラで撮影をすることが多々あり、ファインダーを覗くことは必然。
 スコープ越しに見ることができるパンプキンは一致はともかく、ある程度馴染みがある。
 狭い視界の中に入った標的を撮るか、撃つか。違いがあるならそれぐらいだし、
 彼は春花との恋路を邪魔するなら、その春花にさえも暴力を振るう行動に出る人間だ。
 銃と言う引き金一つで人を殺すこともできるそれに対する嫌悪感も、常人よりは薄い。

 だが性能は致命的に合わないものだ。
 パンプキンは狙撃銃ではあるが、相手が近くても応戦できるうえに、
 読んで字の如く浪漫砲台。逆境でこそ真価を発揮する性能を持つ。
 本来の使用者たるマインは差別を受けたことで路地裏生活を強いられ、
 明日をも知れぬ身であったため勝ち組と言う『逆転』に執着していた。
 (一応差別をなくすため、と言うまともな理由での行動もあったりするが。)
 ある意味、そんな反骨精神がパンプキンと引き合わされたとも言える。

 では洸はどうだろうか。確かに家庭環境は最悪な部類に入るのは間違いない。
 父によって暴力が愛と伝えられ、母によって暴力が愛だと決定づけられた。
 逆境にいたかもしれないが、最終的に暴力で解決できることを覚えてしまった。
 思い通りにならなければ恋慕する相手でさえ手を上げかかる彼の生き方に逆境はない。
 壁と言う逆境があっても乗り越えるのではなく、暴力で壁に穴を開けて素通りするだけの、
 真っ平らな生き方において『逆境』も『浪漫』など何処にもない。

 長々と話したが、
 簡潔に済ませれば洸は『見た目で大体決まる』の『大体』から外れ、
 相性が悪いと分かってないまま使用し続けた結果がその吐血だ。

「だ、大丈夫!?」

「この銃の、使い過ぎ、です……ッ!」

 パンプキンは使用者の精神力を糧に弾として撃つ。
 当たらないからと何度も何度も撃ち続ければ、
 相性の良くない洸から精神だけでは賄いきれなくなる。
 そのツケが、ようやく目に見えた形となって表れてきた。
 加えて、忘れがちだが狙撃銃は銃身がぶれないようにするため重い。
 カメラが少なからず重いものでも、長時間銃を持って動く体力もなかった。

「なんかわからないけど、追い詰められてるってわけね!」

 歩みを止めた洸に引き返す愛。
 絶好の機会を逃さず、二人の頭上に展開されるマネーの雨。
 愛が咄嗟に日傘を頭上に向けたことで防ぐことには成功するが、
 周囲には地面に突き刺さったマネーがそこかしこに突き刺さっていく。
 体力が減りつつある洸と、動けてると言えど足がブロック状になってる都合、
 ちゃんとした走りができない愛では狭い足場を満足に逃げることもできない状態だ。

「ピーチと言い、どんだけ硬い傘使ってるのよ全く!」

 奇しくも戦ってきた勇者の一人と、
 同じ色の傘で同じ風に防がれている。
 少しだけ腹立たしくなるが二人はヨゲンのしょの勇者などではない。
 今までがまぐれに過ぎない存在であり、自分の優位性も変わらなかった。
 二人は今、絶体絶命の状況へ追い込まれている。










 そう。『絶体絶命のピンチ』なのだと。

548決壊戦線─Diabolic mulier─ ◆EPyDv9DKJs:2022/05/12(木) 19:20:38 ID:zPEtXNuI0
「!」

 洸が突如起き上がり、
 パンプキンを持ち上げようとする。

「みっつん!? 使いすぎると危険なんでしょ!?」

 もうただでさえ頭部から出血して止血もせず、
 帝具の使い過ぎで疲弊してる姿は痛々しく見ていられない。
 静止の言葉も無視し、洸は狙いをマネーラの方へと定めようとする。
 レッドカードも命懸けで頑張ってる彼の行為を無駄にすると思えてしまい、
 結局使えないまま手元に残したままになっていた。

(どいつもこいつも……)

 朦朧とした意識で思ったのはそれだ。
 止めようとする愛も、殺そうとするマネーラも、
 そして自分の思うように動かないパンプキンにさえ。
 八つ当たりに等しいそんな怒りではあるが、こういう時は話が別だ。
 パンプキンの使い手であるマインはセリューに勝利した時は、
 使用者の感情が昂ることでも威力が十分に強化されていた。
 マイン曰くその時のセリューの敗因は『私を怒らせた』とのこと。

 筋違いや逆恨みと、おかしなものであっても怒りは怒りであることに変わらない。
 自分の意に沿わない愛に怒り、自分の目的を邪魔する完全者やマネーラに怒り、
 何よりも暴力で解決すると言う考えを制御しきれない今の状況に置いて、
 彼の怒りは怒髪天を衝くに等しいものとなっていた。

(引き金が、重い。)

 ただ、疲弊しきった身体は鉛のように重く、
 最早引き金を引くことも満足にできず、
 狙いも思ってる以上にうまく定まらない。
 撃たねば此処で死ぬ。だから撃って殺す。でもできなかった。
 彼一人では、最早戦う力は残されてないのだ。

「……愛、さん?」

 愛は天井を破壊した時のように、
 後ろから洸を抱きかかえるようにパンプキンを握り締める。

「みっつんだけに背負わせたくない。愛さんも、半分持つから!」

 マネーラとの戦いで攻撃は常に洸に任せっぱなしだ。
 可奈美も、ひろしも、ロックも、都古も。全員戦ってる。
 命を奪うかもしれない状況下で、皆命懸けで戦っていた。
 そうやって手を汚すことも全て洸に任せてしまうのか。
 だめだ。そんな自分だけが潔白でいるなんてことは。
 皆が誰かを殺す罪を背負うのなら、自分も背負うべきだと。
 バラバラでありながらもスクールアイドル同好会で意見が一致した、
 アイドルとファンは共にあると言う姿のように。
 自分も皆と一緒に歩むことを選ぶ。

「これが! 愛さんとみっつんの一撃だよ!!」

 洸がパンプキンをある程度支え、
 愛がしっかりと狙って彼の指を押し込んでその引き金を引く。
 絶対絶命と言う状況で放たれるパンプキンの威力は、
 今まで三人が見てきたものの中で、最高の一撃となる。

「ええ!?」

 極太のビームにマネーラも驚愕する。
 とても今から回避しても間に合わない。
 今周囲に浮かせてるマネーを収束させて、
 即席の壁とすることで、直撃を防ぐ。

「グッ、ツ、こ、こんなもの……!!」

 耐える。耐えようと押しとどめる。
 この威力、直撃すれば肉片一つ残らない。
 マネーに多少のヒビが入っていくものの、
 このビームがいつまでも続くわけではないだろう。
 それまで耐え凌げれば自分の勝ちだと。

「いっけええええええええええええええッ!!!」

 愛は思いっきり叫ぶ。
 意味はないかもしれないとは思いながらも、叫ばずにはいられなかった。
 一見無意味かもしれない行動ではあるが、意外と意味はあったりする。

「マ、マネーが……!」

 先ほども述べたが、パンプキンは感情の昂ることでも威力が強くなる。
 想いの強さが威力に繋がるのであれば、叫ぶことも決して無意味ではない、
 威力が上がったことでマネーの割れる音の悲鳴と共に亀裂が広がっていく。
 盾にしてきたマネーが一つ、一つと次々と砕け始める。

「保て、な───」

 次々と砕けていき、最後の盾となるマネーが粉々に砕ける。
 盾を失ったマネーラはそのままパンプキンの光に包まれ、
 辺獄の空に一筋の光が駆け抜けた───

549決壊戦線─Diabolic mulier─ ◆EPyDv9DKJs:2022/05/12(木) 19:21:58 ID:zPEtXNuI0
一旦投下終了です
もう少しお付き合いください

550決壊戦線─気高く吠えろ餓狼─ ◆EPyDv9DKJs:2022/05/13(金) 19:40:57 ID:vDrXBAos0
投下します

551決壊戦線─気高く吠えろ餓狼─ ◆EPyDv9DKJs:2022/05/13(金) 19:43:11 ID:vDrXBAos0
 銃声が響く外の戦いなど耳に届かないかのように、
 三者が顔を合わせた一階のロビーは静寂がその場を包む。
 夢でも見ているのか、疑いたくなる光景を前にして少し言葉を失ったが

「何、やってんだよ……アンタは!」

 周囲の光景を改めて見やれば、
 水面に波紋を広げるかの如く、ロックは叫ぶ。
 こんな状態をひろしが一人でできるわけがない。
 やった相手は当然誰か分かってるし、この男ならやれる。
 それでも。ギースに対し、ロックの感情とは複雑なものだ。

「あいつと知り合いなのか?」

「……父親になる。」

「な、親父さんかよ!?」

「何をやってるか、だと?」

 彼はサウスタウンを牛耳る存在だった。立場が立場である以上、
 おいそれと来ることはできなかったのは分からなくはないが、
 彼は母を顧みることはなく、見舞いも手紙も一度とやろうとしなかった。
 メアリーが危篤に入った際も冷酷に追い払い、いい感情など殆どないに等しい。
 とても好きにはなれない父親だったが、一方で死んでほしいとはまた別だ。
 ギースの死に行き場のない感情から、テリーに戦いを挑んだぐらいだ。
 毛嫌いしてた、なんて一言で済ませるには難しいものになっている。

「温いサウスタウンで成長してしまったようだな。
 此処はサウスタウンのストリートファイトやKOFと同じ。
 餓えた狼が跋扈する世界……嘗てのサウスタウンと変わらぬ。」

 悪びれることはない。
 ギースはこういう男だ。こういう男だからこそ、
 人から恨みを買い続け、最終的にその怨恨で命を落とした。
 彼はそれを悔いることも、それを過ちと思うことは決してない。
 であれば、こうなるのは必定とも言えることだ。

「育て親はテリー・ボガードか? なんにせよ、
 お前は私が殺し合いを乗らないとでも、本気で思っていたのか。」

 否定の言葉は出るはずがなかった。
 この男が何をしてきたかを知っている。
 悪のカリスマ。時として悪夢として出てくる存在。
 そんな奴が乗ってない奴と思える要素が、ある方がおかしいだろう。

「ふん、とんだ青二才になったものだな。
 それでロック。お前は今いくつになっている?」

「……十七だ。」

「となればおよそ十年か。カインも相当腕を上げてるとみていいな。」

「カインを知ってるのか?」

 ギースの死後初めて開催されたKOF。
 カインに会う前に倒したグラントの発言から、
 ギースのことを知っていた様子ではあったが、
 その黒幕となるカインは少なからぬ因縁があるようだ。

「知ってるが教える理由はない。それよりも、
 十年でどれほど変わったか、見せてもらおうか。」

 ギースが構え……と呼べるような構えではないが、
 とにかく臨戦態勢に入ればロックもすぐに対応する。
 此処で戦わなければ死。分かり切ったことだ。

「烈風拳!」

 先手はロック。
 手を振るい、地を這う烈風。
 衛生面を気遣った清潔な床を滑りながらギースへ迫る。

「ほう、私と同じ技が使えるのか。」

 まずは手本を、と言わんばかりに御返しの烈風拳。
 ロック以上のスピードで迫り互いの攻撃が相殺するも、

(む!)

 烈風拳を注視したことで、
 ロックがもう一発烈風拳を放ってたことに少し対応が遅れてしまう。
 とは言え所詮誤差の範囲。寧ろ前進しながら飛び上がることで回避。
 リョウ・サカザキの技への対抗策として編み出した飛燕失脚の薙ぎ払いを放つ。

「ライジングタックル!」

 迫る攻撃を前に冷静に、
 錐揉み回転しながらの飛び蹴りで相殺。
 相殺された反動で距離を取り、互いに揃って肉薄。
 だが攻撃の間合いに入った瞬間、ロックの姿は消える。

(背後か!)

 レイジランによる回り込みを即座に看破。
 すかさず振り返り、背後から仕掛けた拳を掴む。

「しまっ……!」

552決壊戦線─気高く吠えろ餓狼─ ◆EPyDv9DKJs:2022/05/13(金) 19:44:50 ID:vDrXBAos0
 テリーが苦戦を強いられたのは、
 何よりもギースの防御の強さにある。
 対空と言ったカウンターを必要しないのは、
 適切に攻撃を防ぎつつ、カウンターをする当て身投げ。
 これが洗練されていたからこそでもあった。
 掴まれた後はそのまま真上へと投げ飛ばされる。

 病院の天井高は法律上、ある程度の高さが義務付けられている、
 基本的には四メートル以上、上へ投げ飛ばされても天井に激突することはない。
 エレンにも決めた羅生門を叩き込まんとするも、

「グッ、烈風拳!」

 確実にまずいと気付いたロックが、
 咄嗟に真下のギースへめがけて烈風拳を放つ。
 ギースがよくやる疾風拳のそれであり、直撃は避けるように距離をるが、
 彼と違って粗雑な疾風拳であるかのように、床が少し削れるぐらいだ。

「疾風拳は慣れんらしいな。」

「咄嗟に使えるか、今試したばかりだからな!」

 ロックが着地したと同時に、

「Deadly rave!!」

「デッドリーレイブ!!」

 互いの打撃の押収だ。
 ギースの技をベースにしながらも、
 テリーから学んだマーシャルアーツを組み込んだデッドリーレイブ。
 それを原典たるデッドリーレイブとはうまいこと相殺するが、
 互いに決定打を与えることは叶わない。

(なんだよ、この重さ!?)

 自身の肩の傷は確かに無視できないが、
 ギースも見た感じダメージを十分に負っている。
 拮抗はしているものの、一撃一撃全てが異様に重い。
 相殺した手足の痺れから、直撃した際の威力を物語っている。

 ギースが掌底からの気を放つ瞬間、
 ロックは相殺をやめて後方へサイドステップでギリギリ回避。
 そこから続けて右ストレートのシャインナックルをギースの胸へ叩き込む。
 デッドリーレイブの締めが同じ掌底波によるものだと読めたという、
 親子だからこその判断力で僅かに一歩だけ上回った。

「バーンナックルにライジングタックル、
 テリーめ……余計な真似をしたようだな。」

 とは言えそれが決定打には足りえない。
 ましてや、人間を超えてしまった男ならなおの事。
 威力の強さから後退はするが、大技の威力とは思えぬほどに傷が軽微だ。

「少しは期待していたが、存外呆気ないものだな。」

「一撃も当てずに言う言葉じゃないと俺は思うんだが。」

「そうか? なら───本気で行くぞ?」

 翼を生やし、五体があること以外は人間からかけ離れた姿。
 雁を踏襲したかのようなヴァンパイア態へとギースは姿を変える。
 突然自分の全く知らない父親の姿を前に一瞬戸惑い、反応が遅れそうになった。
 先程よりも圧倒的な速度で肉薄からの裏拳が顔面に迫り、転がるように回避。
 傍にあった柱がクッキーのように容易く砕かれ、その光景に戦慄する。
 今度の攻撃は防ぐことすら許されない、当たれば致命傷しかない。

「なんだよ、それ……」

「ヴァンパイアと言うらしい。
 人の屍を糧に生きた私らしいとは思わんか?」

「そうまでして上に立ちたいのかよ、アンタは!
 化け物になってまで、一体何処に行くって言うんだよ!!」

 嬉々とした表情で人間をやめて、
 怪物になってもまだ欲望の化身のままだ。
 何処まですればこの男は気が済むのか。

「あくなき欲求こそ人間の本懐だ。
 例えヴァンパイアになろうとも、私は私のままだ。 
 コギトエルゴズム……は、テリーでなくとも小難しい話か。
 嘗ての哲学者の命題だ。『我思う、故に我在り』と言う意味になる。」

 私腹を肥やす為にKOFを開き、
 野望の障害となる存在を始末し続けてきた。
 辺獄であっても同じことだ。ディメーンも、
 双子の姉妹も超えて悪のカリスマらしくあり続ける。
 人間をやめたところで、その芯は変わりはしない。

「ロック、なぜ勝てないか教えてやる。お前は餓えを知らない。
 餓えを知らぬ狼が餓えた狼と対等であるはずがない。それだけだ。」

553決壊戦線─気高く吠えろ餓狼─ ◆EPyDv9DKJs:2022/05/13(金) 19:46:12 ID:vDrXBAos0
 テリーが勝てたのは、その餓えにある。
 親を殺されて、復讐に明け暮れてきたその執念。
 勝ちたいという執念が彼を強くし続けた結果到達した。
 ギースも同じだ。あくなき欲求に餓え続けてきたから、
 他者を手にかけて、その上に立ち続けている存在だ。

 では、ロックはあるのか?
 親を殺されたところはテリーと同じだが、
 復讐をしたいでもしたわけでもなく、ギースほどの野望もなく。
 十年ぶりのKOFについても、グラントが言ったギースの遺産も、
 それを知るべく向かったが殺してでも欲するものでもなかった。
 全体的に流れに乗ったままとも言えるだろう。
 与えられるだけの存在に『餓え』などない。

「最後の親子喧嘩も終わりだ。」

 逃げたロックへと間合いを詰める。
 迎撃のミドルキックは容易く防がれ、
 レイジランで背後に回り込みながらの肘打ちも止められ、
 そのまま軽い足払いによって床へと叩きつけられてしまう。
 先の攻撃と比べれば本当に手加減されたものではあるが、
 それでもその足払いにロックはバランスを崩すしかなかった。

「Die Yaboo(弱者は死ね)。」

 両手を掲げて放つのはレイジングストームではない。
 レイジングストームを更に超えた、サンダーブレイク。
 ヴァンパイアになった瞬間、一方的な展開にされた。
 追い求めたわけではないが、父の強さは圧倒的なものだ。
 いや、ヴァンパイアなら寧ろ生前以上と言うしかないだろう。
 勝ち目などない、諦めようとしたその時。

「うおおおおおおおおおおっ!!」

 持っていたハイドラを鈍器として、
 ひろしがギースの背後から振るってきた。
 銃弾ではロックに当たる可能性もあって鈍器として使うが、
 鬱陶しいと言った冷めた表情で、横へと飛んで容易く避けられる。
 ヴァンパイアなら避ける必要もないが、背中とは何があるかは自力で見えない箇所。
 撃たれ弱い部分が露呈してるかもしれないと言う警戒から、避けることを選んだ。
 とは言え、これのお陰でロックの命は首の皮一枚だけ繋がったとも言えた。

「ひろし!? 何をやってるんだ!」

 助かったとはいえその無謀な行動はロックも驚かされる。
 あの強さを見たはずだ。一般人では勝てるどうこうの領域にはもういない。
 彼が戦って勝てる可能性は万に一つだってないのは、
 誰が見たってその通りとしか言えない行動だ。

「さっきから黙って聞いてりゃ、てめえそれでも父親かよ!!」

 二度、三度と鈍器として振るうが、いずれも外れる。
 ヴァンパイアとなったギース相手に攻撃はろくに届かない。
 六度目の攻撃には腕を構えることで受け止められるが、
 当然ながらダメージにすらなってないだろう。

「そうだ、父親だ。それの何が問題だ?」

「自分の息子に死ねって言う親が何処にいやがる!
 親はなぁ、子供に生き抜けっていうもんだろがぁ!!」

 奇しくもその言葉は、未来の野原ひろしも言った言葉だ。
 金有増蔵はその言葉に動揺したものの、この男には何もない。

「ふん。下らん。ならば息子の為に皆殺しを推奨するのか?」

「そんなことしろとは一言も言ってねえよ!
 俺はみさえとしんのすけが、家族が巻き込まれてるが俺は乗らねえ!
 家族を守る為なら戦うことはするが、俺達は他の手段で脱出してやらぁ!」

「ならば同じ父親なら聞こうか。
 ミサエかシンノスケが死んだら、どうするつもりだ?」

「ッ!」

 家族三人揃って殺し合いに否定的な皆と脱出する。
 それが目的ではあるものの、ひろしは言葉に詰まった。
 既にみさえやしんのすけが、誰かの手にかけられていたのなら。
 本当に乗らないと言えるのか。妻や息子のいない世界がいいと言うのか。
 否、いいはずがない。嘗て彼は『息子のいない世界に未練はない』と言った。
 一瞬のスキを突かれ、ハイドラを掴まれたまま足払いでひろしは転倒させられる。

「イツッ…」

「ふん、素人風情が。家族を強く想うからそうなる。」

 ハイドラを一瞥した後、適当に投げ捨てる。
 適当とは言うがヴァンパイアの膂力で投げたものだ。
 投げ飛ばされ適当な壁に叩きつけられたそれは、
 銃口がひしゃげて銃器としての役割は果たせなくなる。

554決壊戦線─気高く吠えろ餓狼─ ◆EPyDv9DKJs:2022/05/13(金) 19:47:15 ID:vDrXBAos0
「ロック。餓えを知らぬのであればその餓えを、動機をお前に与えてやろう。」

 化け物から出る笑みは酷く品のない下卑たもので、
 何をしようとしているのか悪寒と共に察する。

「! やめ───」

 静止の言葉もむなしく、
 ギースはひろしの左手を踏みつける。
 ヴァンパイアの力が上乗せされたら、
 その威力は最早手をプレス機に挟まれるに等しく
 地面に軽いクレーターを作り、中心に血だまりができる。

「ガッ、アアアアアアアアアアッ!?」

 痛みの余りのたうち回りたいが、
 逆に痛みのせいで動くことすらままならない。
 家族が、他人の家族を蹂躙する様を見せられ言葉を失う。
 足を離せば、見るに堪えない潰れた手が視界に映る。

「即死させては実感が薄いだろうからな。今は手だけで済ませてやろう。
 ロック。これが動機だ、それが執念だ、それこそが餓えだ……覚えておけ。」

「───ッ、ウオオオオオオオオオオ!!」

 怒りの余りロックはシャインナックルを叩き込むも、
 見え見えの攻撃では簡単に防がれてしまう。

「そういうのは、ただのやけくそというのだ! 愚か者が!」

 人の姿へと戻りつつ胸元に掌底を叩き込まれ、吹き飛ばされるロック。
 デイバックがあったお陰で壁に直ではないものの、
 クレーターができる一撃はとても軽傷とは呼べない。

「……やはり期待しすぎだったな。
 六時間を生き延びたのは、弱者を相手にしただけか。
 数時間前に戦った魔法少女を含む三人がまだよかったぞ。」

「てめえ、そいつらをどうしたんだ……!!」

 痛みをこらえながら、足元に転がるひろしが声を絞り出す。
 意味などないのは分かってる。それでも尋ねずにはいられなかった。

「殺した以外に何がある? それとも、生き血を啜ったかでも聞くか?」

 ヴァンパイアは生きた人間の血を吸うことで一時的なパワーアップも望める。
 本物のヴァンパイアらしい数少ないそれっぽい行動については興味を惹く。
 餓えを知るきっかけにもなりそうにもないのであれば、ひろしはもう用済みだ。
 どの程度の強化が見込めるかの為に、生き血を啜ってみるかとひろしの首を掴もうとする。

「ん?」

 しかし、ロックの方から鉄がぶつかる甲高い音が響いて中断。
 後方にいる、もうろくな期待もできない息子へと視線を向ける。
 頭部から出血しているが、それでもなお支給品の一つなのか、
 西洋の剣を杖の代わりに立ち上がろうとしている姿があった。

「剣とマーシャルアーツを組み合わせた、新しい格闘術でも披露する気か?」

 ロックが握っていたのは西洋にあるタイプの大剣。
 両手で握るようなタイプのそれは、片手で振るうのは余りお勧めできない。
 そも、ロック自身はこういう物を握る機会など殆どなかったのだから。

「……頭に上った血が流れたお陰でちょっとだけ落ち着いた。
 だから返すさ。俺はアンタの言う、餓えた狼は違うと思っている。」

「ほう、ではなんだと言うんだ?」

「───多分なんだがな。
 『どんな状況でも真っすぐ前を見ていること』が、餓えた狼だと俺は思う。」

 テリーはギースに復讐の為に修行をしていた。
 でも修行、基復讐一辺倒だけと言うわけではない。
 明るい性格からテリーの周りの人は笑顔が多かった。、
 彼の姿を見て、ギースの言う復讐と言う名の餓狼とは思えない。
 復讐一辺倒であれば、今も彼の腕は衰えてないことにも矛盾する。

 彼が思った餓えた狼とは、逆境にあっても前を見据える、
 言うなれば信念や志と言ったものではないのだろうかと。
 前を見ていたからテリーは復讐だけに囚われることはなく、
 自分を引き取って育てられた……と、そんな風に思えていた。
 なお、テリーはずぼらなので家事は大体ロックがなんとかしてたが。

 それはギースにも同じことが言える。
 逆境とはあまり縁がなさそうな人物ではあるものの、
 野望に溢れた生き方はある意味真っすぐ、自分を見ている。
 コギトエルゴズムもまた、自分を見失ってないことへの表れだ。

「では貴様はこの逆境で前を向くと。できるとでもいうのか?」

「ああ、向いてやるさ───何処までも、足掻いてやる!!」

 だからその為に剣を取った。
 使うべきか悩み続けてきたそれを手に、彼猛るは猛る。
 合わなければ即死、そんな曰く付きの代物だ。
 躊躇ってきたのは当然だ。失敗するだけで死ぬ。
 誰かと戦った末とかによる死ではなく、使えるかの確認一つで生死を分ける。
 躊躇うのは当然ではあったが、その臆した心は何処かへとおいやった。
 逆境であっても前を見据えろ。自分らしさを忘れることなかれ。

555決壊戦線─気高く吠えろ餓狼─ ◆EPyDv9DKJs:2022/05/13(金) 19:49:11 ID:vDrXBAos0
 此処で自分で見つけた答えを否定するようでは───





 男じゃねえ!!





「限界まで、飛ばすぜ! フェザー!!」

 フェザーが身を挺したことで彼は生きながらえた。
 何処か自分とそっくりだったが、自分以上に熱い奴。
 これはフェザーのお陰で使える。だったら、共に歩まずしてどうする。
 あいつのような真っすぐな志と共に歩んで見せよう。
 彼のお陰での手元に残った、これと一緒に。

『ああ! 叫ぼうぜロック!! 熱い魂でなッ!!』

 死んだ人間は戻らない。目の前に過去の亡霊がいるが、
 それは例外だ。少なくとも、此処にフェザーはいない。
 だからいま聞こえたそれは恐らくは気のせいだろうと。
 そう思いながらも彼のように熱く、同時に騒々しく叫ぼうではないかと。
 その剣の、鎧の名を使うべく鍵をとなる剣を突き立てる。









「インクルシオオオオオオオッ!!」

 ロックの背後から鎖と共に白い鎧が姿を現す。
 鎧の顔が変化し、凶暴な竜のような姿へ変貌する。

「何だ、その剣……いや、生物は!?」

 関心、歓喜、驚嘆。
 いずれも含まれるだろう、ギースの声が上がる。

 悪鬼纏身『インクルシオ』。
 パンプキン同様に四十八の帝具の一つであり、
 素材となった危険種『タイラント』を素材とした帝具。
 身体能力の強化や装甲に覆われる恩恵はあるが、
 何よりの特徴としてはこれに尽きるだろう。

「生きているのか、その武器は!」

 素材となったタイラントは未だに意思を持ったまま生きていると言うこと。
 ロックの身体に合わせて鎧が形を変えていき、更にギースが興味を惹く。
 どんな環境でも、どんな世界でも生き抜いたその尋常じゃない生への執着は、
 今も尚生命を残しており、使用者の体格に合わせた鎧へと姿を変えていく。
 ロックの体を覆うように白い装甲を身に纏った姿を披露することになる。

「ならば、本気を出すしかあるまいな!!」

 ヴァンパイアとはまた違った力。
 更なる高みを目指すギースにとって、これほどの相手はいない。
 まるで好物の料理があることを心待ちにした、子供のような歓喜に満ちている。
 相手にとって不足なしと紅茶色の翼を生やし、ヴァンパイア態へと姿を戻す。

「行くぜ……ギース・ハワードォ!!」

「来い! ロック・ハワードォ!!」

 インクルシオを纏ったシャインナックルと、
 羅生門の掌底がぶつかり、周囲へすさまじい衝撃を送る。
 具体的に言えば、周辺の窓ガラスが軒並み叩き割れるほどの。

「……此処では枷があって邪魔だろう、上へ行くぞ。」

 近くに転がっているひろしが視界に映る。
 折角の戦いだ。ロックの動きを邪魔されては叶わない。
 そういう意味でもギースは二人から離れた位置の天井を突き破り、
 上の階へと着地して手招きする。

「ひろし。離れるついででいいから、都古の様子を見てきてくれないか。」

 正直この状態で戦闘はとてもじゃないが無理だ。
 援護とかそういうのは無理をさせたくないが、
 都古が共倒れで動けなくなってる可能性だってある。
 そういう時の為に任せておきたい。

「お、おう……任せて、くれ。」

 手の痛みはなく、涙も止まらない頼りない姿だが、
 ロックだって血の繋がった父親と戦おうと覚悟を決めている。
 少しは大人らしく、引きつり気味だが笑顔と残された手でサムズアップをする。
 包帯で止血だけしてもらった後、ロックは上の階へと向かう。

556決壊戦線─気高く吠えろ餓狼─ ◆EPyDv9DKJs:2022/05/13(金) 19:51:27 ID:vDrXBAos0
 意識を持って行かれそうな痛みに耐えながら、ひろしもゆっくりと歩き出した。



 二階へ向かえば、ロックから離れた位置でギースは腕を組んで立つ。
 ロックが姿を見せた瞬間、ギースは再び手招きをする。

「Come On Young Boy(かかってこい、小僧)。」

 その一言がラウンドコールの合図だ。

「疾風拳!」

 空を舞いながら大量の疾風拳を放つ。
 一発一発が人並みの巨大さを誇りながら、
 弾幕に等しい程に放ってくる姿は最早流星群。
 それを、ロックは防ぐか払いながら前進する。

「ダンクッ!!」

 背後へ滑り込むように回り込むと同時に跳躍。
 白き鎧に身を包んだ鉄拳のパワーダンクが迫り、

「フンッ!」

 背後へ振り返りながら、
 雷光回し蹴りの要領での蹴りが相殺する。
 相殺とは言うが急な対応に威力が弱まったからか、
 ぶつけ合ったギースの足から軽く血が噴き出す。

「期待外れと言ったことは訂正するべきだな。」

 確かに先程のギースの攻撃を受けてはならなかったが、
 今はこうしてある程度の拮抗していることから、
 底上げされた力を見れば一目瞭然。

「だが! 期待通りと呼ぶには程遠い!」

 あくまで拮抗しているだけ。
 たかだか小技が互角程度でなんだと言うのか。
 それを越えてようやく期待通りの実力と言う物だ。
 空を飛べる都合、常に滞空していじめいのりられるギースは掌底を放つ。
 インクルシオと言えども別の結末のように、成長しない限り翼はない。
 必然的に落ちるだけのロックが防御に回るのは自明の理。
 ……だが。

「ハッ!」

 その掌底を両腕で受け止める。
 ヴァンパイアともなればただの掌底でもクレーターを作れるものだが、
 受け止めた手を軸に、反動の勢いでロックは高跳びのように飛び上がった。

「この立ち回りは、当て身投げ───!」

「カウンター戦術がアンタの特権だけとは思うなよ!」

 ギースの当て身投げ、テリーのクラックシュート。
 双方の技を組み合わせたロックの技、クラックカウンター。
 帝具で底上げされた身体能力は通常ならあり得ない動きを可能とする。
 頭部を叩き潰す勢いでかかと落としが決まり、ギースは地面へと落下。
 二階の床を破壊し、勢いは止まらず一階へと戻されるように落ちる。
 想像以上の攻撃力に、ロックは逃げ遅れてないかとひろしを心配するが、
 病院の玄関口をゆっくりと歩く姿は見えたので、無事であることは確認した。

「ハッハッハッハッハ!!」

 瓦礫を吹き飛ばす勢いでギースは笑いながら舞う。
 顔は潰れかけながらも再生している異様な光景に、
 改めて人間をやめてしまったことを実感させられるが、
 当然ながらそれを長々と見ている暇などない。

「Razing Storm!」

 急降下ダイブするギースをバックステップで避ける。
 着地と同時に赤黒い複数の柱が床から天高く隆起し、
 それに耐えきれなかった床が崩落しながら周囲を破壊していく。
 災厄が形を成して歩いてきたと言わんばかりの攻撃だ。
 当たればどうなるかを想像したくない。鎧を貫通しかねない。

「だが弱点はこの状況だと見え見えなんだよ!」

 二階から跳躍して更に天井を蹴って、同じような急降下。
 ただギースと違って重力に沿った形での垂直落下だ。
 レイジングストームは二種類の内、周囲に柱を出すドームのタイプは、
 ロックが出すタイプのものではないので今初めて見たがすぐに理解した。
 前後左右から攻撃が出ては、誰だって近づくことは叶わないだろう。
 いかにテリーと言えどもこの柱の壁を突破するのは至難だと。

 でもこの特異な状況なら突破は可能だ。
 ドーム状は真上にのみ殆ど攻撃が届かない。
 真上まで飛ばなければならないので並みの格闘家では、
 届くこともないので事実上の弱点のない攻撃も、今だけは例外だ。
 空中で地面に向けて肘打ちのハードエッジを放つ。

557決壊戦線─気高く吠えろ餓狼─ ◆EPyDv9DKJs:2022/05/13(金) 19:53:05 ID:vDrXBAos0
「弱点だと? 対応できるものを弱点と呼ぶか!」

 地面に手を付けた手を即座に引き上げて回転させ、

「羅生門!!」

 レイジングストームで放出させるつもりだった力で、
 上から迫るロックへと羅生門の締めの掌底を上方向に叩き込む。

「ゴッ───!!」

 グランシャリオと違い インクルシオは空中の機動力はない。
 回避行動はとれず、そのまま叩き返されて次々と天井を突き破り、
 最終的に屋上の床さえも破壊しながら吹き飛ばされる。

「どうした! 羅生門一つで沈めば、あの小娘以下と言うことだぞ!」

 空高く舞うロックへ追撃の為飛翔。

「勝手に沈んだと思ってるんじゃ、ねえ!!」

 迫るギースへと再び咄嗟ではあるが疾風拳を放つ。
 先程よりも洗練されたのか、落下し始めたのを反動で再び飛ぶことになる。
 無論、その攻撃はギースは難なく防ぐ。

「疾風拳も様になってきたな。咄嗟に出すことがコツ、
 と言うのを身に染みて知る以上は納得と言えば納得か。」

 元々タワーからの落下を回避するために放った烈風拳が、
 まさかの生存に繋がったことで編み出されたのが疾風拳。
 そこを考えれば、危機的状況がこの技を鍛えるのだろうか。

「勝手に言ってやがれ! おりゃぁッ!!」

 再びロックが構えるのはシャインナックル。 
 重力に物を言わせたその一撃にギースも呆れてしまう。

「だから、たかがバーンナックル如き───ガッ!?」

 故に油断した。ギースの顔面には、
 直ぐに来るとは思わなかったロックの拳が既にめり込み、血を吹き出す。
 疾風拳は落下の勢いを止める。それだけの反動が伴うと言うことは、だ。

「たかが、なんだって? 教えてもらうぜ!!」

 ・・・・・・・・・・・・・・・
 前進の為にも使えるのではないか? そうロックは考えた。
 ギースにも、テリーにも、ましてや本来のロックにさえない、
 『疾風拳を加速装置の扱いをして速度を上げたシャインナックル』なんて技は。
 屋上に叩きつけられたギースは、反動て大きく跳ねて空を舞う。

「咄嗟に出すことがコツ、って言ったよなぁ!」

 拳を離せば、横へ回転するような形でのクラックシュート。
 再び疾風拳を後方へ放ったことで、独楽のような高速回転の蹴りだが、

「それでも、使いこなせてないぞ!」

 所詮はまぐれによる即席のもの。
 慣れれば洗練された一撃だろうが、
 今の彼は覚えたばかりの疾風拳では精度が悪い。
 だから先程のような勢いはつけられずに止められる。
 ギースの当て身投げが決まり、地上へと叩きつけるように投げ落とされた。
 屋上の床へと同じように叩きつけられる。

「不動拳!」

 バーンナックルのような突進しながらの正拳突き。
 横へ転がって回避し、先程いた場所は亀裂を作る。
 すぐさま起き上がりハイキックを側頭部へと叩き込むが、
 空いてる手による裏拳で容易く相殺される。

(ヴァンパイアになっちまったからとか、
 そういうのじゃあない。この男は元からこうなんだ。
 格闘家としてのセンスがずば抜けて高い。だから、強い!)

 改めてギースの強大さを思い知らされる。
 テリーが十年の修業を経てようやく勝てた相手。
 まさにサウスタウンを牛耳っていた首領(ドン)なのだと。
                            
「だからって、負けられねえ!!」

 折れるか。折れてたまるか。
 何処までも足掻いてやると決めた。
 だったら有言実行。その言葉を胸に彼は戦う。

「邪影拳!」

 距離を取るとギースのショルダータックルに対して、
 何度目か忘れた突進技であるハードエッジで応戦する。
 受け止めることは成功したものの、ミシリとロックの肘から嫌な音が軋む。

「ッ!!」

558決壊戦線─気高く吠えろ餓狼─ ◆EPyDv9DKJs:2022/05/13(金) 19:54:19 ID:vDrXBAos0
 そのまま邪影拳の流れの如く掴まれそうになり、
 掴まれる寸前に手を離してレイジングストームを放つ。
 レイジングストームとは言うが、殆ど手に力をためてない状態。
 威力は本来のと比べるまでもないが、インクルシオのお陰で引き上げられ、
 少なくともギースにとっても素で受けるような軟弱な攻撃ではなくなっている。
 すぐさま距離を取るように空中へ出てレイジングストームが終われば、

「雷轟烈風拳ッ!!」

 疾風拳の要領で雷轟烈風拳を、
 この場合は雷轟疾風拳と呼ぶべきだろうか。
 ロックもギースの血を引き継いでいるが故の疾風拳の亜種が編み出せるなら、
 ギースもまた戦いの中で新たな道を体得するのはそう難しい話ではない。
 互いに、本来のあるべき道から外れた辺獄の舞台において、
 別の力を得たが故の産物だろうか。

 弾丸よりもはるかに速い速度で飛んだ雷撃に回避は間に合わない。
 全身を痺れさせる一撃に、すぐに動くことは叶わず続けてギースが先を行く。

「デェイ!」

 そのまま飛びながら薙ぎ払う飛翔日輪斬。
 文字通り斬撃に等しい一撃を前にすんでのところで屈む。
 そこからライジングタックルによる蹴りが彼の下顎を蹴り飛ばす。
 顎骨が砕けながら肉体から吹き飛ぶが、その程度今となっては些末事に過ぎない。
 空中で受け身を取った後、荒れに荒れた屋上へと降りる。
 顎が形だけ再生し、地面を砕きながら踏み込んだギースからの二段回し蹴り。
 迫る破壊の一撃をガードすることで多少の痛みと痺れに留める。

「その程度がガードと思うな!」

 続けて鋭い突くような蹴りを連続して叩き込む。
 天倒殺活二段蹴りも、ヴァンパイアとなっては三段四段以上の蹴りを放つ。
 全てが暴威となる蹴りをガードしきれるほど鎧の中の人間は頑丈ではない。
 サイドステップから右ストレートを狙うが、空いている手を見て中断。

「良い判断だな。」

「ッ、ダブル烈風拳!」

 わざと隙を作って当て身投げを狙ってる。
 すんででそれに気づき距離を取って烈風拳に烈風拳を重ねた飛び道具を放つ。
 烈風拳は重ね掛けすることで強化されるもので、ギースもこれと同じものがある。

「温い!!」

 ただし、上位種が彼にはあるのだが。
 迫るダブル烈風拳に、同じどころか倍以上の烈風拳を重ねるギース。
 流石に距離や向こうの攻撃の都合本来の技、虚空烈風斬程のチャージはできなかったが、
 ダブル程度など余裕で蹴散らせるだけの威力と加速を誇り、台風が如き一撃が迫る。
 横へ転がるように回避することで、辛うじて難を逃れる。

「烈風拳ッ!」

 勢いで起き上がると続けざまに、斬撃のような烈風拳。
 エレンにも使った短距離タイプのものだ。
 即座にパワーダンクの要領で跳躍し、拳を叩き込む。
 アッパーカットがぶつかり合うことで、相殺される。

(これ以上長引かせたら回復がある以上、負ける!)

 荒れ果て、足の踏み場も減ってきた屋上で、二人は距離を取る。
 ロックの方は肩で息をしてるが、ギースの方も疲弊はしてるがろっくよりはましだ。
 借り物の力であるが、現状病院の最高戦力はインクルシオのある自分になる。
 此処で負けたら病院にいる五名の仲間は皆殺しが確定する。
 だから此処で倒すか、最悪相討ちにでも持ち込みたい。
 インクルシオの時間もそう長くはもたない以上、決めに行くしかない。

(けど、どうやる!?)

 しかし勝負を決めようにも、彼の大技はデッドリーレイブかレイジングストームと、
 素の状態でもどうしてもギースの方が上回っていると言ってもいいぐらいのものだ。
 勝負を決めに行くには余りにも役者不足。だったらシャインナックルだけが頼りになるが、
 最初はかすり傷、次はやけくそで防がれ三度目も防がれ、四度目は当たったが不意打ちだ。
 この攻撃に希望を見出すのは、とてもできない話だ。

(いや、違う。)

 ないなら、今ここでそれを乗り越えろ。
 自分らしさを貫く、それが餓狼であるのであれば。
 何処まで逆境に追い込まれようとも、活路を見出して足掻く。
 熱いだけでは、生き残れない。

「ウオオオオオオオオオッ!!」

 距離を縮めてレイジランによる消失。

「くどい!」

 背後に回り込んだのは容易に想像がつく。
 振り向きながら掴もうとするが、ロックの姿がなく盛大に外す。
 否、確かにロックは背後にいた。ただし、ギースの間合いから外れた位置で。
 背後に移動した後、ロックはあえて距離を取った。ギースならそうするだろうと、
 予想したことでできた隙に拳を構え、突撃する。
 彼が選んだ行動は、シャインナックルと同じ攻撃の動き。

「来るか!」

559決壊戦線─気高く吠えろ餓狼─ ◆EPyDv9DKJs:2022/05/13(金) 19:56:11 ID:vDrXBAos0
 気配で悟った。これは奴の最大の技が来ると。
 迫るロックを前に、両手にオーラを纏わせ構えるギース。
 彼が狙うのはレイジングデッドエンド。当て身投げで相手を受け止め、
 羅生門の要領で相手を投げ、掌底の代わりに虚空烈風斬を叩き込む。
 まさに最終奥義とも言うべき、トリを飾る一撃で仕留めるのが相応しいと。

「ふん、テリーのバーンナックルの真似事如きで、私に挑むのか!」

 しかしその内容は呆れ気味だ。
 バーンナックルでは当然勝てない。
 彼の大技のシャインナックルでも届かない。
 餓えた狼が集いしサウスタウンで戦ったテリーとは違う。
 どうあがいても足りない、埋めることはできない。彼を越えられない。
 別に超えたいわけではないが、彼を越えねばこの男を倒すことはできない。

「いいや! それには先がある!」

 だから此処で越えなければならない。
 限界を超えろ。その身に纏ったそれと共に。
 果てなき道を突き進む。魂を込めた怒りの拳を叩きつけろ。

「テリーはもう、アンタの知ってるテリーじゃない!
 あいつは伝説の狼になって確かに十年の月日は流れたが、
 拳は錆びついてなんかいなかった……寧ろ進化していた!」

 カインが開いた十年ぶりのKOF準決勝。
 勝ち上がってきたロックを待っていた対戦相手はテリー・ボガード。
 伝説の狼を相手に白星を取ったことについては、彼自身も疑いたくなった。

「俺にはアンタを倒したテリーになんかなれやしない……けど!
 俺はテリーのその背を追う! 十年経った先にあるのは、バーンナックルじゃないんだよ!!」

 だからと言って、テリーが錆びついただなんて思ってはいない。
 彼にとってもテリーはサウスタウンのヒーローだ。だから憧れる部分もある。
 ヒーローに憧れた憧憬からか、彼の力を借りたいと言う不安からか。
 或いはどちらもあったからかもしれないが、この言葉を呟く。










「Are you OK?(覚悟はいいな?)」
『Are you OK?』

「!?」

 ギースは一瞬だけ見間違えた。
 ロックの姿がよく知った、赤いキャップ帽を被った金髪の青年に。
 父の仇を討つために自分を追い続けた癖に、最後は手を伸ばそうとしたあの男を。

「テリー・ボガ───」

 因縁の男の名前を紡ぐ前に、
 ロックの拳が迫ってそれを受け止める。
 であれば当然投げによるカウンターで決着。
 そうなると筈だと、少なくともギースは思っていた。
 威力が、尋常じゃなく強い。受け止めたはずだが、
 屋上の床を削りながら後退を余儀なくされるほどの勢い。
 下手に投げようとすればそのまま拳が直撃しかねない程の重みがある。

「バスタアアアアア───!!」

 テリーと言えばパワーゲイザーをアレンジした技が殆どだ。
 だがあれから十年の時が過ぎた。ギースの知らないテリーもいる。
 彼を超えるにはこれしかない。シャインナックルを超えた一撃を、
 今のテリーの最大の技の一つ『バスターウルフ』をやるしかないと。
 ロックはバスターウルフは使えない。十年の月日を経て昇華した技、
 いわば年季の問題である以上は、若き餓狼には使えるわけがなかった。
 だからこれはバスターウルフの名前を借りた別の技に近い。
 砕けた言い方をすれば、なんちゃってバスターウルフのようなもの。

 ───しかし。インクルシオによる能力の引き上げは限界を超える。
 使用者の意志に応えて成長する、死してなおも意志が残り共にある帝具。
 これがテリー直伝のバスターウルフではないとしても、
 テリーのバスターウルフに完全に劣るわけではない。

「ヌグゥゥゥ……!!」

560決壊戦線─気高く吠えろ餓狼─ ◆EPyDv9DKJs:2022/05/13(金) 19:56:36 ID:vDrXBAos0
 しかし相手は吸血鬼となったあのギース・ハワード。
 易々と攻撃を突破させられるようなら彼は負けている。
 とは言うが、血管ですら数本は千切れそうな修羅が如き形相、
 いや実際に腕の血管がちぎれていたるところで地を吹き出しつつ抑えようとする。
 今まで受けてきた技の中で間違いなく最大の威力を肌で感じ取れた。
 此処で受け止めれたことを僅かながら鬼籍に思う子ほどに

(限界まで飛ばすな!! 限界を超えろ、ロック・ボガードオオオオオッ!!!)

 鎧の中ではロックもギース同様に腕が耐えきれず皮膚が避け、血が噴き出す。
 歯を砕きかねない程に食いしばり、この一撃を叩き込まんとする。
 ついに二人の攻防に耐え切れず、床が崩落して互いに投げ出される。
 床が崩落したとなれば、当然飛べる方のギースが有利だ。





 本来、バスターウルフはまずストレートを叩き込み、
 その後片腕を抑えて狙いを定める、と言う形を取っている。
 しかし、このロックはまだ殴る途中で叩き込めてない───










 では、本来添えるはずの片手はどこで何をしている?

「アアアアアアアアアアッ!!」

 空中に放り出された瞬間、疾風拳を後方へと持てる力を全力で放つ。
 死ねないと言う、ありふれた生存欲と言ういつかのギースと同じ状況だからか。
 今までで一番、勢いのある疾風拳が後方へと放たれて、今までで一番加速する。
 その加速で後押しされたことで、ついに拮抗が崩れた。
 止めていた拳を弾き飛ばし、胸元に拳が吸い込まれるように届く。
 そのまま胴体を抉り、背中にまで貫通する。

「ゴフッ───」

「ウルフッッ!!!!!」

 拳が到達と同時に、ありったけの叫びと共に気を爆発させる。
 鼓膜を突き破るかのような爆音が響きながら、ついにギースに炸裂した。
 爆発の勢いでギースはロックを置いて、尋常じゃない速度で吹き飛ぶ。
 病室の壁を何度も破壊し、そのまま病院から出ていくように吹き飛んでいく。
 当然ながらそれだけ吹き飛べば、もう肉眼で判断できる領域を超えてる。
 すぐさまロックは飛んで行ったギースを追いかけ、半壊しかけた病院を後にした。

561決壊戦線─気高く吠えろ餓狼─ ◆EPyDv9DKJs:2022/05/13(金) 19:57:37 ID:vDrXBAos0
一旦投下終了です
次のパートでラストなので、
もう少しだけお付き合いください

562決壊戦線─ビヨンドザホープ─ ◆EPyDv9DKJs:2022/05/14(土) 19:06:23 ID:9c8yuuRI0
投下します

563決壊戦線─ビヨンドザホープ─ ◆EPyDv9DKJs:2022/05/14(土) 19:07:09 ID:9c8yuuRI0
「たお、せた?」

 多数のマネーが周囲に散らばってる中、脱力して愛はへたりこむ。
 洸の消費する部分を愛が半分肩代わりしている以上は、彼女も相応に疲労する。

「みっつん! なんとかなった、みた、い……」

 腕の中に抱き抱えられてる洸を見て、言葉を失う。
 いくら肩代わりしたと言っても、彼も引き金を引いている。
 消費はするし、しかも先のパンプキンの威力は絶大だ。
 彼が賄う精神エネルギーはほぼなく、先程以上に血を吐き出す。
 マインですら廃人になることもあるものを放っておいて、
 相性がよくない洸がやってしまえば、その末路は決まっている。

「みっつん!? しっかりして!!」

 手遅れだと分かっていても、やはり信じたくはなかった。
 この殺し合いで最初に出会って、共に行動した自分にとっての友人を。
 自分の方にはこの状況を何とかできるものは存在しないし、
 洸も支給品は日傘、手榴弾、パンプキンと判明している。
 もうどうにもならない。彼は、此処で死ぬ。

「……どう、して。」

「え?」

「どうして、簡単に人を助ける行動ができるんですか、貴女は。」

 彼女は都古を助けようと危険を承知で動いて、
 リスクがあると分かってたはずなのに自分からパンプキンの引き金を引いた。
 母を助けたところで感謝なんてされず、寧ろ逆にキレられた洸にとって理解ができない。
 都古の時の彼の救援はあくまで合理的な理由による結果であって、決して善意ではない。
 それに、愛は打算的に動いたのとは違うことはいくつもの無計画さから伺える。
 何故この人はそう行動できるのか。朦朧とした意識でよくわからないことを訪ねてしまう。

「んー……そこは愛ゆえに? 愛さんだけに。」

 頬に人差し指を当ててから、思ったことを口にする。
 何を言ってるんだこの人はと、一瞬きょとんとした顔になってしまう。

「と言うのはちょっとだけ冗談。
 みっつんもみゃーこも皆友達だからだよ。
 友達が困ってるなら、助けにいくものだと思ってるから。」

 以前璃奈が自宅に引きこもった時のように、
 愛はそういうのは放っておけない性質だ。

「あ、でもそういうのって『友愛』って言うんだっけ? じゃあやっぱり愛かな?」

「……ああ、そうか。」

 こういう形の愛もあるんだな。
 いじめに家族の死と精神的に追い詰められた春花を、
 精神的には支えてはいたが、自分の身体を張って行動は余りしなかった。
 怖かったからとかと言うよりは、愛する春花以外が無関心だからなのもある。
 他がどう思おうが、自分は春花が好きだから。邪魔するのであれば容赦はしない。
 そういうスタンスに近しいのもあって、口では言うも特に何もしてこなかった。

 他の形の愛があるんだなと彼は理解する。
 十全な理解はできない、幼い頃から父の愛を見てきたことで、
 歪み切った愛が根底に存在している彼には無理からぬことだ。

(次からは、そうしたいな。)

 でも彼は変われた。
 次からは、野咲をそんな風に助けよう。
 彼女の敵を、暴力ではあるかもしれないが守りたい。
 そうすればきっと、彼女も一緒にいてくれるから。

「野咲……俺は───」

 相場洸の人生は別の愛の形を理解しただけで、
 その愛を意中の相手に与えることはないまま、眠りについた。



【相葉晄@ミスミソウ 死亡】



「みっつん……」

 彼が呟いた野咲が誰なのかは知らない。
 分かるのは誰かに会いたかったことぐらいだ。
 再会することもできないまま、此処で亡くなった。

「ごめんね、愛さんが、もっと早く気付いてたら……!」

564決壊戦線─ビヨンドザホープ─ ◆EPyDv9DKJs:2022/05/14(土) 19:08:11 ID:9c8yuuRI0
 目の前の友人の死に耐え切れず、涙を流す。
 戦いにおいては終始誰かに助けられてばかりの連続。
 無力さや甘さ、そう言ったものを嫌と言う程理解させられる。
 殺害どうこうは抜きにして、行動できなければどうにもならない。

「……愛さん、頑張るから。」

 涙を拭ってマネーの隙間をウォーハンマーで強引に道を開ける。
 近くの家屋へと彼の遺体を寝かせて、支給品を回収しておく。

「みっつんがアタシにしてくれたみたいに、愛さんも戦うよ。」

 きっと人を殺めるときは震えるだろう。
 でも、同好会の皆やひろし達が危ないときに動けなかったら、
 そしたら自分は、二度と笑顔になることはできないかもしれない。
 それは自他共に笑顔にすると言う、彼女のアイドルとしての存在が、
 せつ菜のお陰で始まったアイドルの終わりでもあると言うことだ。
 死んでいった彼女の為にも、アイドルとしての在り方を失いたくない。
 殺し合いはしない。でも、それがイコール戦わないというわけではない。
 彼が命懸けで戦ったように、自分もできる限り戦うことを選ぶ。



【F-4/1日目/朝】

【宮下愛@ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会】
[状態]:頬に傷(処置済み)、肩に裂傷(処置済み)、耳たぶが少し削れてる、疲労(中)、精神疲労(大)、覚悟完了
[装備]:レッドカード@ポケットモンスターシリーズ、特注の日傘@東方project、浪漫砲台パンプキン@アカメが斬る!、コンクリートのブロック(右足、外せない)
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜1(少なくとも愛に使えない武器、回復系でもない)、包帯×2、絆創膏×1、洸のデイバック(基本支給品、手榴弾×3@現実)
[思考・状況]
基本方針:殺し合いには乗らない。でも戦わないつもりはない。
1:ゆうゆ達を探しつつ首輪も何とかしたい。
2:みんな……無事でいてね……
3:病院の皆と合流しなくちゃ。
4:みっつん。少しの間待ってて。愛さん頑張るから。
5:あの変装をする何か(マネーラ)に警戒しないと……どうやって見分けよう。
6:愛さんも、戦うよ。
[備考]
※参戦時期はアニメ最終回後。
※マネーラの本来の姿を別の参加者を模倣した姿と思ってます。
 また姿だけですが立香、あかり、零の姿を覚えてます。










(ま、間に合った……今のは本当に死ぬかと思ったわ。)

 愛から大分離れたクレーターの中心地に、マネーラの像がある。
 施設や置物ではない。これはマネーラ自身がそうなったものだ。
 パンプキンの攻撃を受ける直前に周囲にあるマネーを収束させたことで、
 僅かながらの時間を稼げた結果、忍ばせていたアストロンのたねを口にした。
 アストロンのたねを食べれば一定時間ほぼ全ての攻撃を受け付けなくする。
 対価として暫く像になって動けないが、それも時期に終わるだろう。

(変身できる数が増えたのはいいわね。)

 愛とみっつんと呼ばれた青年、
 片方は瀕死で今も生きてるか分からないが、
 変身できる先を増やせば増やすほど混乱を招くことができる。
 どうかき乱せるか見物だとは思うも、こういうかく乱は速度が大事だ。
 それに、二人が生きているなら芽吹くかは分からないが種は既に蒔いた。
 後は結果次第ではあるものの、懸念すべきところはまだ多い。

(にしても、あんな支給品は聞いてないって。)

 明らかに無力な一般人の手によって、
 危うく死ぬかもしれなかったことを考えれば、
 支給品の存在は中々に侮れないものだと理解できる。
 どう立ち回るべきなのか。モノマネ師は悪魔の道を選びながら、
 解除された後の行動について考えることにした。



【マネーラ@スーパーペーパーマリオ 】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、アストロン
[装備]:まじんのかなづち@ドラゴンクエストビルダーズ2 破壊神シドーとからっぽの島
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜1 789ゴールド
[思考・状況]
基本方針:優勝してディメーンも殺して伯爵様を復活させる。
1:悪いわね、アカリ。アタシ優しくないの。
2:零やロックには注意するが、最悪利用してやるつもり。
3:二日目の昼にはE-3のかなでの森博物館へ戻り、あかりやギャブロ達と合流して手にした情報を交換する。ただし……
4:しばらく動けそうにないので適当に休む。

565決壊戦線─ビヨンドザホープ─ ◆EPyDv9DKJs:2022/05/14(土) 19:09:28 ID:9c8yuuRI0
[備考]
※参戦時期は6-2ピーチ姫とバトルする前
※ロックの危険性について知りました。
※キヨス・ギャブロ・藤丸立香の世界について簡単に知りました。
※原作面子以外で変身できるのはあかり、ギャブロ、立香、零、みらい(未完成)、愛、洸です。
※しばらくの間アストロン状態で身動きが取れませんが、ほぼ全ての攻撃を受けません










「……クソ、曲がったせいか壊れたか、弾が出てこないな。」

 地面から這い出てから番傘の調子を確認する完全者。
 どれだけ高く飛ぼうとも、触れる地面を泥にすることで衝撃は和らぐ。
 通常高所から落ちれば、液体でもコンクリートに匹敵する硬さになるが、
 本来の持ち主であるセッコはヘリコプターから落ちても問題なかった。
 泥化さえすれば落下死すると言うのは、オアシスにおいては絶対に起きないことだ。

「あの小娘、どんな膂力があるんだ。」

 似たスタイルであるマリリン・スーも、
 電光戦車を殴り倒すぐらいは確かにできなくはなかったが、
 マフィアでもなんでもない小娘が出せる力を軽く凌駕している。
 しかも御刀相手にも曲がらなかった番傘をくの字に曲げられるとは。
 まだ鈍器としては使えるが、銃器としては使えないものにされていた。
 オアシスでうまいこと泥にしたり戻したり調整すれば出るかもしれないので、
 余裕があれば試してみるのもありかもしれないが正直難しいだろう。

(ギースと合流して支給品を貰うのが一番手っ取り早いか?
 いや。奴の場所が把握できん上に、奴は私がいてもいなくても動く。
 合流する気などない奴を探すなど意味がない。素直に別行動がいいか。
 アレも決まったかどうか判断できない以上、戻るのも余りよくはないしな。)

 芳しくない状況にどうしたものか。
 今後の行動をよく考えなければならない中、

「やぁやぁ、数時間ぶり。」

「ッ!」

 いつのまにか背後にいたディメーンに声をかけられ、咄嗟に距離を取る。
 心許ない状況も相まって、敵かと勘違いしかけて番傘を構えるが、
 相手が相手なのですぐに武器を下ろす。

「なんだ、貴様か。後三時間ぐらいは関わらないと予想してたが?」

 もう少し生き延びたらの意味を、六時間程度とは思わなかった。
 九時間、なんなら次の放送まで待たされるものかと思っていたぐらいだ。
 予想以上の速さにはありがたいとは思うも、早く動きすぎだと呆れ気味だ。

「ンッフッフ〜。今メフィスとフェレスが別件に注視してるからね。
 胡散臭い陰陽師の彼も、客将の様子を見てたりで暇してないもんでさ。
 会うなら今が頃合いかな〜と思って。生き延びて、ちゃんと参加者減らしたし。」

 ほう、別件か。
 どうやら不測の事態はあるらしいし、
 陰陽師に客将と他にも知らぬ敵の話もあるようだが、
 流石にそれらを掘り下げることは難しいだろう。

「態々来たならば、最初に聞こうか。これは何だ?」

 伯爵から出てきたコントンのラブパワー。
 その存在が何かを彼女はようやく知る権利を得る。
 奪われぬよう、最大限の警戒をしながら。
 ……それはそれとして。

(しかし───)

 参加者を減らした、と言う言葉に彼女は引っかかった。
 彼女の手で重傷を負わせた参加者は何人かいたものの、
 とどめを刺すには至らなかった参加者ばかりでキルスコアはゼロだ。
 沙都子とあゆりは沙都子の自爆なので、事実上彼女のスコアだろう。
 ではヴォルが? とも言いたいが戻ってこなかったのを見るにそれも怪しい。
 と言うことは、彼女は一体誰を殺したのか。

(あの小娘、仕留めたのだな。)

566決壊戦線─ビヨンドザホープ─ ◆EPyDv9DKJs:2022/05/14(土) 19:11:08 ID:9c8yuuRI0
[備考]
※参戦時期は不明。
※モッコス死亡により、完全者の所持するビブルカードが消滅しています。
※ある程度生き延びたらディメーンから接触することがあるかもしれません。
※ギースと情報交換しました。
※オアシスで地面を泥にしてから固めることを習得しました
※オアシスの制限は以下の通り
 ・地中に長時間潜ると消耗が大きくなる
 ・周囲の地面を泥化は消耗がかなり大きい
  三度もやればスタンドを維持できなくなる(十中八九地面に埋まって動けなくなる)










 完全者を彼方へ飛ばして、息を整えようと深呼吸する都古。
 息を整えなければまともに動けなかったが、

「都古ちゃん!! 離れろ!!」

「え───」

 病院での戦いから離れたひろしが、
 離れていたからこそ彼女の危機に気付き叫ぶ。
 だが離れてる上にひろしは走れるほどの余裕はない。
 だから、その光景をどうすることもできずにことは起きた。
 何かが落ちた音と共に爆発、いきなり都古の全身が燃え始める。

「───ッ!!!」

 声にもならない悲鳴を上げながら、都古はのたうち回る。
 今起きてるその光景に、ひろしは分かってたのに何もできなかった。
 完全者は飛んでいく直前、焼夷手榴弾を彼女へと向けて投げていた。
 とあるゾンビと縁のある世界におけるそれは、接地した瞬間に爆発する。
 手榴弾と違い爆破までのラグが存在しない為彼女の位置にさえ投げれば、
 十分に効果的な当て方をすることも不可能ではなく、見ての通りだ。
 大技の反動で疲弊した彼女は、置き土産に対して動けなかったのが災いした。

「都古ちゃんッ!!」

 消火は必須。だが二人のいる場所はコンクリートの駐車場。
 水源などどこにもないし、院内も戻ろうにも廃墟で遠回りだ。
 そんな暇はないのでできるのは基本支給品の飲料水の類だけだが、
 元々焼夷手榴弾は対象を燃やすことを優先したもの。
 ちょっとやそっとの水ではどうにもならないものだ。
 できたところで全身を包む炎を消すことなどできなかった。

「おじ、さん……助け……」

 燃え盛る中必死に声を紡ぎ出し、手を伸ばす都古。
 人一人が燃えてる状態を彼自身だけではどうにもならない。

(頼む、間に合ってくれ!!)

 無事な消火器を探そうにもこの怪我では時間がかかる。
 だからひろしは死に物狂いで彼女の方へと駆け寄って、
 途中支給品にあった顔が描かれた氷を軽く上下に振ってから投げた。
 こおりのいぶきは元々敵を攻撃するもので怪我を負わせてしまうが、
 そればかりはどうにもならないと割り切って氷の冷たい風が彼女を襲う。
 最後に一瞬だけ氷漬けになった後氷が砕けると言う手順を踏むので、
 炎は一瞬にして消え去って黒焦げになった彼女だけが残される。
 多少熱くはあったが、その辺は飲料水で何とかゴリ押す。

「よし!」

 急いで、都古の下へと駆け寄る。
 病院には他に誰もいない。ロックも静けさからいなくなったものだとは察せられる。
 こんな状態になってしまっては、鎮火しても火傷の傷はどうにもならないレベルだし、
 チェックメイトと言わんばかりにひろしの手持ちの支給品ではどうにもならなかった。
 だから彼女の方の支給品の中に何かあるのではないかと。

「あった!!」

 彼女の方のデイバック眠っていた一粒の豆。
 仙豆と呼ばれるそれは一粒食べるだけで傷が回復する。
 それを使えばどうとでもなると、倒れる都古の口をこじ開け舌の上に置く。

「都古ちゃん、これを食べれば治る! だから飲み込んで……」

 後は飲み込めばそれで終わりだ。
 火傷は後のことを考える必要があるが、
 少なくとも今は死なずに済むだろう。










 ……飲み込めればの話だが。

「都古、ちゃん?」

567決壊戦線─ビヨンドザホープ─ ◆EPyDv9DKJs:2022/05/14(土) 19:12:23 ID:9c8yuuRI0
 どうにもならなかった。
 人間は身体の七割以上焼かれるとほぼ確実に死ぬ。
 流石にこの短時間でそれほどまでとはいかないが、
 だからと言ってそれでも絶対死なないというわけではない。
 舌の上の仙豆は、飲み込まれることはなかった。



【有間都古@MELTY BLOODシリーズ 死亡】



 焼け焦げた人の臭いと言う、
 人生で一度だって経験したくない異臭を傍らにひろしは項垂れる。
 しんのすけほど幼くはなかったが、彼女だってまだまだ子供だ。
 親御さんの下に返せず、しかもこんな惨たらしい死を迎える。
 自分ができたことがあるなら、デイバックの焼失を回避したぐらいだ。

「畜、生……!!」

 やるせなさから地面を叩くと言う力すら出せない。
 助けられたかもしれないと確信を持ってしまったことで、
 余計にひろしは彼女に対する罪悪感が重くのしかかっていく。
 燃え尽きた遺体を前に、彼は何もできずにいた。



【野原ひろし@クレヨンしんちゃん】
[状態]:左手粉砕骨折(止血済み)、疲労(大)、精神疲労(特大)、罪悪感
[装備]:こおりのいぶき×2@スーパーペーパーマリオ
[道具]:基本支給品(水が少し減ってる)、予備のショットガンの弾、ランダム支給品×0〜1、包帯×3、都古デイバック(基本支給品、ランダム支給品×0〜1、ニュートンの林檎×4@へんなものみっけ!)
[思考・状況]
基本方針:殺し合いはしない
1:しんのすけ達を探しつつ首輪も何とかしたい
2:とりあえず今はロック達と病院で休む
3:都古ちゃん……すまねえ……!!
[備考]
※少なくとも『嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦』までの映画版での出来事は経験しています。










「!?」

 二人ともそれに動きを止めざるを得ない。
 唯一反応がなかったのは、混乱してそれどころではない零だけ。
 病院から飛んできた、と言うことは先の音からしてわかる。
 でもあんな破壊力は二人でも容易ではない。
 一つの家屋が倒壊する一撃など。

「可奈美、此処にいたのか!」

「え、ロックさん? その恰好は?」

「あ? ああ、そうか……色々あってな。そっちもまだ倒せてないのか。」

 一瞬誰か分からなかったが、
 声と立ち方からロックだと察する。
 此処で『立ち方』で察せられるのは、多分可奈美だけだ。

(病院で轟音を出し続けてきたのは恐らく彼と今の敵。
 疲弊はしてるけれど、幡田零が復帰して来たら三対一。
 でも、それがなければもう一人のお陰で二対二……まだ十分勝機があるわ。)

 ダメージを受けてると言っても軽微だ。
 アーナスやみらいを相手にするとは違う。
 十分な勝機を見出し、撤退を選ばないことにする。

「ハハハハハ……!!」

 倒壊した建物から、笑い声と共にギースは這い出てくる。
 多量の血をまき散らし、腹に貫通した傷がぽっかりと開いて、
 後ろの景色が眺められる中、血がとめどなく流れていく。
 奇しくも、彼が殺した細谷はるなの傷と同じ傷痕だ。

568決壊戦線─ビヨンドザホープ─ ◆EPyDv9DKJs:2022/05/14(土) 19:13:29 ID:9c8yuuRI0
「ガボッ。侮ったつもりはないが、此処までやるとはな。」

 だが死なない。目は焦点を取り戻したままだ。
 咽て血を吐き出しながら、ギースは笑い続けている。
 ホラー映画のようなワンシーンに、さしものアナムネシス含め動揺する三人。

「ギース……これでも生きてるって言うのか。」

「え? ギースって確か父親の名前って……」

「ああ、親子の関係だ。殺し合う関係になっちまったけどな。」

「……ッ!」

 ロックの一言に、
 人知れずアナムネシスは頭痛がした。
 何故か分からない。幽鬼の欠落した記憶に■■なんてものはなく。
 だが、突然■が放送で呼ばれた過去がフラッシュバックする。

「ガッ、アッ……なんだ、これは! 何故だ!?」

「え?」

 彼女は元々の時間軸から、恵羽千と出会ってはいない。
 だから名前だけでは軽く引っかかる程度にとどまった。
 しかし『親子』のワードを聞いたことで、フラッシュバックして戸惑う。

「何故だ!? 何故、お前が私の心を乱す!?
 たかが死者に過ぎない! 名前だけだと言うのにッ!!」

 頭を押さえつけ、アナムネシスは動揺する。
 突然の行動に、ロック達三人も困惑してしまう。

「アナムネシスが急に様子が……幡田さん、どういうことか分かる!?」

「わか、りません。アナムネシスがあんなに動揺してるのは私も初めてで……」

 流石にアナムネシスの様子がおかしいと、
 零も我に返って可奈美の質問に返答する。
 今まで殺すべき憎き相手としか認識してなかったが、
 初めて彼女の別の側面に、零も戸惑いが隠せない。

「グッ、アアアッ!!」

 今の状態では戦うことなどままならない。
 すぐにその場から、逃げるように離れる。



【アナムネシス@CRYSTAR -クライスタ-】
[状態]:疲労(中)、全身に多数の刺し傷や裂傷、頭痛、困惑
[装備]:メガリスロッド@ファンタシースターオンライン2
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×0〜2
[思考・状況]
基本方針:優勝して、ヨミガエリを果たす。幡田姉妹に復讐する
1:恵羽千……何故だ、何故その名前が私を乱す!?
2:好きに行動する。アーナスの邪魔をするつもりはひとまずない。
3:あの女(白井日菜子)は、次会う機会があれば必ず殺す。
4:辺獄の管理人、何を考えているのかしら……?
5:幡田零に出会ったら幡田みらいの前で惨たらしく殺すはずが……
6:辺獄の管理人について聞いてきたあの女(沙夜)、何を考えてるの。

[備考]
※参戦時期は第六章『コギトエルゴズム』で、千の名前を知る前から。
※まだ名簿を確認しておりませんが、幡田みらいの様子から姉である幡田零がこの平安京に居ると確信しております。










「待ちなさい! アナムネシス───」

 零はそのまま彼女を追いかけようとする。
 もう、アナムネシスに対してどうしたいか分からなかった。
 仇ですらないかもしれない、仇と思い込んでるだけの存在。
 正常な思考ができてると言えないままに感情だけで行動に出ようとする。

「駄目!」

 それに待ったをかけるように、可奈美が彼女の手を掴む。

「ッ、離してください!」

「できない! 私たち二人で挑んでもダメだった。
 私はこれ以上離れられないし、だからって幡田さんも見捨てられない!」

「アナムネシスの話を聞いてなかったんですか!? 私は、みらいを……」

 そう言おうとしたが、みらいが幽鬼の姫であると告げられた。
 嘘だと否定したいのにできない。できるわけがなかった。
 彼女が語ったことはただの事実の羅列。整合性も何もない。
 みらいが幽鬼の姫なら、死んだ可能性すらなくなった。
 自分は何のために幽鬼を狩っていたのか分からなくなる。

569決壊戦線─ビヨンドザホープ─ ◆EPyDv9DKJs:2022/05/14(土) 19:14:58 ID:9c8yuuRI0
「とんだ茶番だな。」

 待ち惚けな状態となったギースがついに沈黙を破る。
 心底どうでもいい話だと一蹴するのは当然のことだ。
 可奈美は彼女の手を握ったまま御刀を抜くが、

「可奈美、少し離れた方がいい。
 さっきの建物の通り、アイツとの戦いは規模が違う。」

「でもロックさん……」

 一人で戦える状態なのか。
 腕からは拳が流れ続けてるし、
 肩で息をしてる状態は疲弊しきっている。

「これは、俺が決着をつけないといけない。」

「……分かった。ロックさんも無理しないで。」

 自分にとって戦わなければならない相手だ。
 ましてや親子同士の戦いに自分が踏み入る部分ではないと。

「幡田さん、ついてきて。」

 零の手を引くも、
 彼女からの返事がないまま、可奈美はその場を離れる。
 アナムネシスをこのまま追撃したところで勝ち目などない。
 だからと言って、今可奈美やロック達を殺す動機も曖昧だ。
 みらいが他者を、幽鬼を狩ってヨミガエリした存在であるなら。
 何故、死んだふりなんてし続けているのだろうか。
 自分の妹の事さえ、彼女は分からなくなっていた。



【衛藤可奈美@刀使ノ巫女】
[状態]:精神疲労(特大)、疲労(大)、左肩弾痕(処置済み)、右手に傷(包帯で処置済)
[装備]:孫六兼元@刀使ノ巫女、白楼剣@東方project
[道具]:基本支給品、舞衣の支給品(基本支給品+ランダム支給品×0〜1)
[思考・状況]
基本方針:殺し合いはしない。姫和ちゃんやみんなを探したい。
1:幡田さんを放っておくわけにはいかない。
2:姫和ちゃんは千鳥がないと……ううん。それでも私が止めないと!
3:舞衣ちゃん……私、生きるよ。
4:皆と早く合流しなきゃ。
5:フェザーさん……私、頑張るね!
6:アナムネシスの反応、どういうことなんだろう。

[備考]
※参戦時期はアニメ版21話、融合した姫和と戦闘開始直後です。
※舞衣の理念の残滓との影響で孫六兼元で刀使の力が使えるようにはなりましたが、
 千鳥と比べたら半分以下の制限となります。(人外レベルの相手は難しい)
※荒魂のことはまだ話してないので、ロック、都古、ひろし、愛、洸とは同じ世界だと思っています。



【幡田零@CRYSTAR -クライスタ-】
[状態]:涙は流れない、精神不安定(極大)、疲労(中)
[装備]:代行者の衣装と装備、オチェアーノの剣@ドラゴンクエスト7エデンの戦士たち
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×0〜2
[思考]
基本方針:???
1:……
2:千さん……
3:あの男(修平)とは、次にあった時は殺し合う事になる。
4:吹石琴美って、あの琴美さん?
5:立花特平のような参加者に化けた幽鬼に警戒。
6:みらいが幽鬼の姫……? アナムネシスを殺したのはみらい?

[備考]
※参戦時期は第四章、小衣たちと別れた後です。
※武器は使用できますが、ヘラクレイトスは現在使用できません。
※参加者の一部は主催によって何か細工をされてると思っています。
 ただし半信半疑なので、確信しているわけではありません。










 二人が離れて二人だけの場。
 一歩踏み出したギースにロックは構えるが、

「安心しろ。私の心臓は破壊されている。
 ヴァンパイアでも心臓が弱点は変わらん。
 今ここにあるのはただの残滓。時期に死ぬ。
 殴った反動でも死ぬだろうから、誰も殺せはしない。」

570決壊戦線─ビヨンドザホープ─ ◆EPyDv9DKJs:2022/05/14(土) 19:18:16 ID:9c8yuuRI0
 ヴァンパイアから人間の姿へとギースは戻る。
 袴姿でさも平然とした姿を装ってはいるものの、
 所詮は外見だけだ。心臓が破壊された今彼は事実上死んでいる。
 一発でも殴られれば、それだけで灰となって消滅するだろう。
 それでもなお動けるのは、彼が並々ならぬ精神力を持つからか。
 死を前にしても恐れるような顔はしない。威風堂々たるその姿。
 こういう姿故に、ビリーを筆頭に多くの人が彼についていった。
 悪のカリスマたる男の姿を物語っている。

「ギース……」

 同じように、インクルシオを解除する。
 殺し合いに乗っていて、実際に殺しもしていた。
 この男は絶対に意志を曲げない。改心なんてものもない。
 どうにもならない相手。殺すか殺されるかの二択しかない相手。
 わかってはいる。分かってはいるとしても、納得はできない。
 メフィス達の思惑通りになってしまったというのもあるにはあるが、
 愛憎渦巻くのがギースに対する感情だ。殺す以外の選択肢で、
 何かなかったのではないか。そんな風にどこかで思えてしまう。
 彼はまだ十七歳の子供だ。簡単に割り切れるわけがないのだから。
 それが、悪の権化であっても父親である以上は。

「ふん、人を殺しておいてする顔ではないな。
 今のサウスタウンでは、そこまで腑抜けたか。」

 激励でも何でもない、率直な侮蔑。
 ギースらしいと何処か思えてしまう。

「……何一つ思わなかったかどうかで言えば、嘘だな。」

「え?」

 デイバックからギースは支給品を取り出す。
 一瞬何かをするのかと身構えたが、出たのは写真だ。
 白シャツにジーンズを揃って着た親子の姿がある。
 これに彼は覚えがあった。

「私が持っていた奴を支給品にされたらしい。
 これには何の力もない、はずれでしかないものだ。」

「これって……」

 幼い頃、ロックがギースと撮った数少ない写真だ。
 親子揃って白シャツとジーンズで笑みを浮かべてると言う、
 今のギースを知る人物からは、とてもありえないものだ。
 ありふれた写真ではあるが、ギースはそれを手放さなかった。
 この男は邪悪だ。ボガード兄弟の父を、ブルー・マリーの父を
 他に多くの屍の上を歩み続け、妻であるメアリーも顧みることをせず、
 世間一般からすればろくでなしのクズの父親と言うほかないだろう存在だ。
 そんな男が、息子との写真を捨てられずにいた事実に驚きを隠せない。

「私にはもう必要ないものだ。好きにしろ。」

 使い道のない外れの支給品。
 持っていたところで何の意味のない物。
 盾にもならない。動揺すらも誘えない。
 独特な使い道すら見いだすこともできない代物。
 だが、不思議と彼は此処でも手放すことをしないでいた。

「……だよ。」

「?」

「ッ……なんでだよ!
 なんでこんな当たり前のことが!
 母さんになんで出来なかったんだよ!」

 ギースの肩を掴み、叫ばずにはいられなかった。
 こんなものを此処でも大事に持ち続けていた。
 息子を僅かにでも気にかけるだけの心があるなら。
 母にもそれを少しぐらい分けてもよかっただろう。
 少しぐらい、他の人にだって分けてもよかっただろう。
 それをしてくれれば、こんな複雑な心境にならなかったのに。

「聞いてどうする? メアリーを顧みなかったことに、
 それが仮に善意からくるものだとして、どうするつもりだ?」

 澄ました顔でギースは問いかける。
 もし善意であったなら、すれ違ったまま戦って殺したことになる。
 そうなれば、ロックは一生そのことを後悔しながら生き続けるだけだ。
 勿論、それが悪意によるものならきっと何も問題はない。
 今まで通りの認識、それが正解だっただけだから。

「悪意であれば聞く価値はなし。
 善意であれば聞けば癒えぬ傷を負う。
 半分の確率で地獄を見るぞ。お前はそのつもりか?」

 真意は語らずにその手を振り払う。
 この男がこの写真や、嘗てロックの様子を部下に確認させたことが、
 親心からくる愛情なのか、それとも悪のカリスマによる気まぐれなのか。
 それを知る術については、誰一人として知ることはないだろう。
 クラウザーでも、ホッパーでも、ビリーでも、テリーでも、ロックでも。
 彼に関わった人物含め、その理由を知る者は恐らく誰一人としていない。

571決壊戦線─ビヨンドザホープ─ ◆EPyDv9DKJs:2022/05/14(土) 19:19:27 ID:9c8yuuRI0
 ロックも聞こうとはしなかった。
 此処で聞いてしまってもしそれが善意によるなら、
 彼は永遠にそれを引きずる可能性がある。
 殺し合いの状況で精神のコンディションは極めて大事だ。
 特に今は守らなければならない仲間もいる。
 分からないままにしておく方が良かった。
 この質問も親としての彼による偽悪を演じた接し方か、
 単に言うだけ無駄だから話したくないだけなのかもわからない。
 真実はギースだけが知っていることだ。

「どうしても聞きたいのであれば、死んでから教えてやる。
 もっとも、私は地獄にいる以上はそう易々とは来れまいか。」

 墓まで持って行くとはこのことか。
 ロックの横を通り過ぎながらギースは歩く。

「……終わりの時が来たか。」

 身体が徐々に崩壊していく。最早気合でも限界を迎えている。
 灰になりつつある身体を前にしても、ギースは動じない。
 自分の死についてですら、さして焦ることも何もない。
 テリーの手を振り払ったときのように。

「───今宵一度(ひとたび)の宴、存分に堪能させてもらったぞ。」

 ロックは背を向けたままで見ることはなかったが、
 最後に見せた彼の表情は、悪の権化とは少々違うものだ。
 例えるならば───










 息子の成長を見て喜ぶ、
 父親のような微笑を浮かべて彼は灰となった。
 その笑みの意味もまた、誰も知る由もなく。



【ギース・ハワード@餓狼伝説シリーズ 死亡】



「ギース……」

 灰を前に、ロックは呟く。
 どうすればいいかの分からなかった。
 ギースがした行為に対し怒るべきなのか?
 ギースを倒したので笑い飛ばすべきなのか?
 ───ギースの死に対して、泣くべきなのか?

 和解がしたいわけではない。
 昔のように戻って欲しかったとかでもない。
 悪の権化のまま、誰からも恨まれて死んでほしいでもない。
 彼はどっちだったのか。その答えすらも分からなかった。

 生き残った者を人は勝者と呼ぶ。
 だが、此処にいる彼は勝者とは思えぬような顔をしていた。



【ロック・ハワード@餓狼 MARK OF THE WOLVES】
[状態]:疲労(絶大)、精神疲労(大)、右手粉砕骨折、複雑な心境、左肩弾痕(傷口は開いた)、あばら骨数本骨折、出血多量、死亡
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2(確認済) スタミナドリンク100×4、黒河のPDA(機能使用可能回数:1回)@リベリオンズ Secret Game 2nd Stage、包帯×3
[思考・状況]
基本行動方針:主催をとっちめて、さっさとここから脱出する。
1:───

[備考]
※参戦時期はグラント戦後
※グラブルの世界を大まかに理解しました。
※可奈美から荒魂のことはまだ聞いていないため、同じ世界だと思っています。




















 もっとも、彼も勝者ではないが。

572決壊戦線─ビヨンドザホープ─ ◆EPyDv9DKJs:2022/05/14(土) 19:20:16 ID:9c8yuuRI0
 もっとも、彼も勝者ではないが。

 プツリ、と糸が途切れた人形のようにロックは倒れる。
 インクルシオとの相性は別に悪くはなかったものの、
 受けたダメージは余りにも多すぎた。限界を超えるまで飛ばし続け、
 インクルシオに力を引き出し続けたらどうなるか分かりきったことだ。
 若き餓狼もまた、父の後を追うように命の火を燃やし尽くした。



【ロック・ハワード@餓狼 MARK OF THE WOLVES 死亡】



 かくして、病院を中心とした死闘はこれにて幕を下ろす。
 死闘の限界を超えた彼方にあるのは希望であり、絶望の表裏一体。
 彼方にある新たな未来(ビヨンドザホープ)を掴めるのは、まだ先の話。

※F-4病院はかなり損壊していますが、
 使おうと思えば使える部屋等はいくつかあります
 ただし入口周辺、屋上は崩落して殆ど使い物になりません。
 倒壊の危険があるかどうかは後続にお任せします。

※F-4病院の周辺に以下のものが落ちてます
 ギース・ハワードの灰
 ギース・ハワードの遺灰物
 基本支給品一式×3(ギース、はるな、夕月)
 スモークボール@大貝獣物語2×4
 黒鍵×5@MELTY BLOOD
 司城夕月の指輪
 悪鬼纏身『インクルシオ』の鍵@アカメが斬る!
 ギースの写真@餓狼伝説
 ロック・ハワードのデイバック基本支給品一式(ランダム支給品0〜1、スタミナドリンク100×4、黒河のPDA(機能使用可能回数:2回)@リベリオンズ Secret Game 2nd Stage、包帯×2

 F-4病院にて
 折れたハイドラ@バイオハザードシリーズ
 が落ちてますが、瓦礫に埋もれて回収は困難です

 F-4病院前の駐車場にて
 少しへこんだ鉄バット@ひぐらしのなく頃に
 鉄バットはコンクリートに埋まってるので普通の手段では回収は困難です。
 仙豆@ドラゴンボール ※厳密には都古の舌の上
 スピリット・オブ・マナ@グランブルーファンタジー
 があります。

【呪蝕の骸槍@グランブルーファンタジー】
柳瀬舞衣に支給。ゲーム上においてはフェディエルの解放武器。
空の世界には存在しない、理の外の物質によって形成された槍。
だがそれは生きているかのように熱を帯び、僅かな息吹を感じさせる。
この槍に魅入られし者は、薄紙を剥ぐようにして精神を蝕まれ、終焉を迎えるであろう。
スキルは闇属性に対しての強化があり奈落の技錬、闇の乱舞の二つを持つ。

【特注の日傘@東方project】
相場洸に支給。レミリア・スカーレットが外出時につかう傘だが、
東方非想天則においてはシステムカードの一種として登場しており、
レーザー系の貫通する攻撃を除いて大抵の飛び道具のダメージを無効にする。
本ロワでは弾丸ぐらいなら防げる程度の頑丈さを誇ると言う扱い。

【鉄バット@ひぐらしのなく頃に 業】
宮下愛に支給。前原圭一が所持していたもの
前原圭一のメイン武器と言えば大体がこれ。特別な能力とかはない。
使い手次第で鉈と渡り合える。

【手榴弾@バイオハザードシリーズ】
相場洸に支給。オーソドックスな代物。
爆発物だけあって投げてから数秒のラグがある。

【浪漫砲台『パンプキン』@アカメが斬る!】
相場洸に支給された帝具。帝具については他参照。
エネルギーを弾丸とした銃で、狙撃から乱射と自由度が高い。
真骨頂は自分が劣勢やピンチであればあるほど大きく威力を増すもので、
場合によっては銃身からはあり得ない程のサイズを放つこともできる。
但し精神をエネルギーに変換して撃つため、使い続ければ疲労、最悪廃人になる。

573決壊戦線─ビヨンドザホープ─ ◆EPyDv9DKJs:2022/05/14(土) 19:20:32 ID:9c8yuuRI0
【悪鬼纏身『インクルシオ』@アカメが斬る!】
ロック・ハワードに支給。48存在するの帝具の一つであり、
竜型超級危険種『タイラント』を素材とした鎧を呼び寄せる帝具。
剣が鍵であり、それを手にインクルシオの名を叫ぶことで鎧を呼べる。
鎧なので高い防御力を誇り、身体能力の向上に加えてノインテーターと言う槍の副武装、
奥の手として一時的に透明になることができると、攻防共に強い恩恵がある。
ただし使用者への負担も大きく、適性がなければ装備するだけで死亡する危険も含む、
タイラントの桁違いの生命力はインクルシオの素材となった今現在でも生きており、
使用者に合わせた鎧の変化に加え、使用者の力をさらに引き出すことも可能になっている。
加えて受けた一度受けた攻撃への耐性もあり、時間を『凍結』と言う形での時間停止にも耐性が付く程。
ただし代償として、無理に力を引き出し続けるとインクルシオが使用者と融合していき、
最終的にタイラントに支配されてタイラントの身体へと変貌していく危険がある。

【アストロンのたね@少年ヤンガスと不思議のダンジョン】
マネーラに支給。食べると鉄の像になって、
暫くの間ほぼ全ての物理攻撃を受け付けなくなる。
但し自分から攻撃もできなければ、他の行動すらとれない。
身も蓋もない言い方をするとトルネコにおける鉄化のたね。

【焼夷手榴弾@バイオハザードシリーズ】
ノワール伯爵に支給。通常の手榴弾と違い、
テルミット反応を利用し、対象を燃やすことに特化した手榴弾。
ゲーム上では通常の手榴弾の半分の威力だが、燃焼による追加ダメージが発生する。
また同作品(少なくとも5において)の手榴弾は投げてからタイムラグがあるが、
此方は接地するだけで爆発するので狙って当てやすくもある。

【こおりのいぶき@スーパーペーパーマリオ】
野原ひろしに支給。視認する敵と認識した広範囲に氷のいぶきを与える。
ダメージはバクハツタマゴの二倍に複数ヒットの都合結構強い。消耗品。

【仙豆@ドラゴンボール】
有間都古に支給。一粒で常人は十日は食べなくてもいい栄養を得られるが、
もう一つ効果として身体の傷を非常に速い速度で癒すことができるとんでも回復アイテム。
回復の範囲は病であれば疲労、骨折(首でもいい)、歯の欠損、視力、欠損……ととにかく範囲が広い。
病や精神的なものは流石に治せず、本ロワだと人体の欠損は戻らず、回復量もおよそ五割に減っている。
但し視力や骨折と言ったものをすぐに戻せるので、そういう意味では変わらず便利。

【ギースとロックの写真@餓狼伝説】
ギースに支給。リアルバウトで登場した幼い頃のロックとギースが写った写真。
持っていても何かあるわけではない。特殊な加護もない。つまるところはずれ支給品。
生前これを捨てることをせず手元に残し、物思いにふけながらギースは眺めていたが、
それは愛か、気まぐれか。それは定かではないし、それを知るにはまだ早いのだろう。

574 ◆EPyDv9DKJs:2022/05/14(土) 19:21:36 ID:9c8yuuRI0
以上で投下終了です
長時間お付き合いいただきありがとうございます。

生存者のみの名簿や帝具の解釈、
長編で十一人のリレーもあって問題がありましたら遠慮なくお願いします

575 ◆EPyDv9DKJs:2022/05/14(土) 23:54:50 ID:9c8yuuRI0
失礼、抜け落ちてた部分がありました
>>565のラスト

(あの小娘、仕留めたのだな。)

 言葉の意味を理解し、完全者は笑みを浮かべた。

【完全者@エヌアイン完全世界】
[状態]:頬に傷、左目の視力が少し安定しない、ダメージ(大)、魔力消耗(中)
[装備]:神楽の番傘@銀魂、ビブルカード×1(プロシュート)@ONEPEACE、祝福の杖@ドラゴンクエスト7、オアシスのDISC@ジョジョの奇妙な冒険、焼夷手榴弾×3@バイオハザードシリーズ
[道具]:基本支給品一式、コントンのラブパワー@スーパーペーパーマリオ、ノワール伯爵のデイバック(基本支給品一式、ランダム支給品×0〜1(確認済))、ノワール伯爵の首輪
[思考・状況]
基本情報:プネウマ計画の邪魔はさせん。メフィスとフェレスの扱いは対策が出来上がるまで保留
 1:ディメーンにこれについて尋ねる。警戒は怠るな。
 2:ビブルカードについては保留とする。
 3:エヌアイン以上に適した器の捜索。期待値は上がった。
 4:首輪の解除手段の模索。
 5:ムラクモを首輪を解除される前に始末しておく。
 6:童磨に警戒。
 7:伯爵の部下でも探しておくか。特にミスターLは必須。
 8:他に利用できる連中を手に入れておく。
 9:あの小娘(美炎)、まさかエヌアインのような存在か?
10:ディメーン……信用は出来ないが、利用はできるな。
11:ミスターLの状況は利用したい。
12:ギースは、まあ勝手にするだろう。
13:今思えば、あいつマネーラじゃないか?

[備考]
※参戦時期は不明。
※モッコス死亡により、完全者の所持するビブルカードが消滅しています。
※ある程度生き延びたらディメーンから接触することがあるかもしれません。
※ギースと情報交換しました。
※オアシスで地面を泥にしてから固めることを習得しました
※オアシスの制限は以下の通り
 ・地中に長時間潜ると消耗が大きくなる
 ・周囲の地面を泥化は消耗がかなり大きい
  三度もやればスタンドを維持できなくなる(十中八九地面に埋まって動けなくなる)

576 ◆ZbV3TMNKJw:2022/05/25(水) 00:25:54 ID:Kr95bioY0
投下乙です!
病院を取り巻く激戦に次ぐ激戦、手に汗握る意地のぶつかりあいの応酬に読んでるこちらの血潮が滾ってきました。
ロックVSギースの異なる世界の力を手にしたうえでの真っ向勝負は特に熱く、最期の親子としての会話がなんともいえない哀愁を感じました。
病院は一気に壊滅に追い込まれてしまい関わった者たちみなが様々な変化がありましたが、ここからどうなるのかとても気になります!

堂島、童磨、(佐神善?)、真島、まどか、累の父、プロシュート、ドレミー、ワザップ、梨花で予約します

577 ◆ZbV3TMNKJw:2022/06/10(金) 21:50:03 ID:FUT1dlY60
結衣の予約を忘れていたので追加で予約し、延長します

578 ◆ZbV3TMNKJw:2022/06/10(金) 22:00:14 ID:FUT1dlY60
投下します

579「だからわたしは」(前編) ◆ZbV3TMNKJw:2022/06/10(金) 22:01:10 ID:FUT1dlY60
―――放送開始まで、あと数分。


「無駄ァッ!!」

ゴールドエクスペリエンスの黄金色の拳が累の父の頬に放たれ、その巨体を後退させる。
彼は僅かに怯むも、しかしその目はすぐにジョルノを捉える。

「ジャアッ!!」

返す拳をゴールドエクスペリエンスは両腕を交差させて防ぐ。
タイミングとしては完璧な防御。しかし、その純粋な力には耐えきることが出来ず、ミシミシと音を立て骨がきしむ。

「くっ!」

このまま踏ん張るのはかえって危険だと判断したジョルノはあえて後方に飛ばされ尻餅を着く。

(やはりとんでもないパワーだ...それにこちらから殴りつければ僕の拳を痛めてしまう程の頑強さ。僕一人では荷が重い)

痛む身体に鞭を打ち、ジョルノは周囲を見渡し状況を即座に確認する。

堂島正は謎の青年と共に佐神善を思わせる怪物に対処。
真島はあの痛めた拳ではこの怪物との戦闘は不可能。
ふわふわとした印象の寝巻染みた服の少女は負傷。ある程度は動けるかもしれないが、この怪物相手には酷だ。
一番ひどいのは鹿目まどかだ。魔法少女でなければ生涯病院生活は免れないレベルの損傷だ。

比べてこちらで比較的ダメージが少ないのは、自分、梨花、一般人らしき少女...それに、プロシュート。

(この状況で打てる最善の手は―――)



「古手さん、奴にボミオスの杖を使ったら鹿目さんともう一人の彼女に体力の回復を!」

ジョルノの指示に、梨花の表情がピシリと固まる。

「えっ、またアレを...?」
「事態は一刻を争うんです!もし貴女がなにもせず傍観するなら罪状を読み上げさせてもらいます。いいですね!」
「〜〜〜ああもう、やるわよ、やればいいんでしょ!」

もはや投げやりと言わんばかりの態度で梨花は累の父にボミオスの杖を放ち、まどかのもとへと駆けていく。
その姿を見ながら、真島はジョルノに問いかける。

「体力の回復って...そんな支給品があったのか?」
「いえ。残念ながら、支給品にその類のものはありませんでした。しかし幸か不幸か、あの性犯罪者(ミスティ)に会えたお陰で活路が開けた...といったところですね。
一般人でしかない彼女にとっても、そして僕にとっても」
「...よくわからんが、奴を足止めするというなら俺も加勢する」

真島は拳を構え累の父を見据えるも、ジョルノはそれを手で制する。

「真島。きみはそこの娘と一緒に鹿目さんたちに付き添ってあげてください。その拳では奴の相手は無理でしょう」
「ッ...」

痛いところを突かれた真島は思わず唇をかむ。
この場での自分の力関係はわかっている。
拳の怪我を差し引いても、この面子の中では結衣と梨花の次に弱い存在だ。
しかし理解と納得は別物だ。
いま目の前で死地に臨もうとする仲間へ助力できない悔しさは到底隠しきれるものではない。
そんな彼の心境を察するように、ジョルノは彼の肩に手を置く。

「彼女たちを頼みます。僕らの中に足手まといなんかいない―――僕はそう信じていますからね」
「それは佐神の受け売りか?」
「いいえ。僕自身の気持ちですよ」

その言葉と共に背中を押されれば、真島も動かざるを得ない。
結衣と共に、梨花の背を追っていく。

「さて。ここからが正念場ですが...その敵意を収めて貰えますか、暗殺チームのプロシュート」

ジョルノから少し離れたところから銃を構えていたプロシュートへと目線だけを向け、ジョルノは言葉で牽制をかける。

「...オメーが『新入り』のジョルノだな」
「貴方の考えていることはわかっている。『所詮は自分は死んだ身だ。ここで自分が死ぬことになろうとも奴らのチームを一人でも殺しておけば残ってる仲間たちの負担も減るだろう』...そんな具合でしょう」
「...だとしたら?」
「その願いは叶わないとだけ先に言っておきましょう。僕はジョルノ・ジョバーナに限りなく近いがそうではない存在...つまり厳密にいえば別人です。
貴方がここで僕を殺そうとも歴史は変わらないし貴方の仲間たちにもなんの影響もありはしない」
「なにをわけのわからねえことを言ってやがる」
「いまここで僕を殺すメリットはなにもないということですよ。貴方一人であの怪物に勝てますか?いいや不可能だ。
パワーも戦闘センスも奴の方が上、得意のスタンド能力は通じず銃弾もロクに効きやしない。
それでも貴方は仲間たちが優位になれるならと引き金を引くでしょう。だから僕は貴方に生きなければならない理由を与えるんです」

580「だからわたしは」(前編) ◆ZbV3TMNKJw:2022/06/10(金) 22:01:37 ID:FUT1dlY60
瞬間、プロシュートの引き金にかかる力が籠められる。
『コイツはいま主導権を握ろうとしている』。
わけのわからないことを傘にしてなんとか自分の駒にしようとしている。
それはここでは死ねない理由があるから、自分を利用し生き残ろうとしているのだ。
そんな理由などボスの娘の護衛の継続に他ならない。ならば、やはりここで道連れにしてでも護衛チームの戦力を削っておくべきだ。
ブッ殺すと思う前に弾丸を放とうとしたプロシュートの指は

「『ボス』の能力は『キング・クリムゾン』。時間を消し飛ばす能力です」

その言葉に止められた。

「な、に...」

プロシュートは思わず言葉に詰まる。
―――そもそもの話、プロシュート達暗殺チームがボスの娘・トリッシュを求めていたのは彼女もスタンド能力を持っており、そこからボスの正体を暴けるという推察からだ。
つまりボスの正体さえ知ってしまえば娘はもう用済み。わざわざ護衛チームと戦い手の内を晒し戦力を減らす意味はない。

「僕の言葉を容易くは信じられないでしょう。しかし貴方はいまボスの能力を『知ってしまった』。これが嘘であれ真実であれ、貴方がこの殺し合いで死ねば仲間たちへこの情報を届けられなくなってしまう。
これがどういう意味かはおわかりですね?」
「ウヴァアアアアアアア!!!」

雄叫びと共に、累の父がジョルノへと飛び掛かる。

「―――チッ」

プロシュートは忌々し気に舌打ちをすると、躊躇わず引き金を引いた。

「ガッ」

跳躍する累の父の腹部へと。

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!!」

微かに鈍った動きの隙を突き、ゴールドエクスペリエンスの拳のラッシュが累の父へと放たれ後方へと吹き飛ばす。

「ベネ(よし)。これで共闘成立...といったところですね」
「...フン」

すぐに体勢を立て直す累の父を見ながらプロシュートは鼻を鳴らし、スタンドの像を出現させる。

(こいつのノせられるのは気に入らねえが...これ以外に選択肢がねえのも確かだ)

プロシュートは模範的ギャングとでも言うべきか、プライドの高い人間だ。
通常ならばここでジョルノと組むのは、たとえ命を落とすことになろうともありえない。
しかしプロシュートは今、暗殺チームが喉から手が出るほど欲している『情報』を手にしている。
これを手に入れる為にホルマジオが、イルーゾォが、他の暗殺チームの面々が、そして自分やペッシも命を賭けた。
どんな手段を以てしてもボスの正体を掴むと決めているからこそ、この情報を逃すことはできない。
だが、優勝して生還するにしても障害は多い。
眼前の累の父や、彼方で戦っている童磨と謎の化け物、そして話に聞いた限りではエスデスとかいう氷使いの女もいるらしい。
最低でもこれだけ、会場を見回せばもっといるだろう。
果たしてスタンド能力が効かない怪物たち相手に優勝できるだろうか?否、不可能だ。
だから、今は手を組むしかない。
泥に這いつくばろうが屈辱に塗れ無様晒そうが、全てはチームの『栄光』を勝ち取るために。

そしてジョルノがこんな重要な情報をあっさり渡したのは偏に彼がジョルノ・ジョバーナではなくワザップジョルノだからだ。
ワザップジョルノはあくまでもジョルノに限りなく近いだけの概念。
ジョルノ・ジョバーナの世界にまで気を遣る必要はないと考えており、仮にプロシュートが生還したことで本来の時間軸がめちゃくちゃになってしまったとしてもそれは知る由もないことなのだ。



「作戦はあるか」
「今考えてます...が、奴も大人しく待っているつもりはないようだ」
「俺がァァアァァ護ルゥゥゥゥ!!」

雄たけびを上げ跳びかかる累の父に、プロシュートとジョルノはスタンドの像で立ち向かう。

「来ますよプロシュート!覚悟を決めてください!」
「命令してんじゃあねーぞ『新入り』!!」

ゴールドエクスペリエンスとグレイトフルデッドの拳の雨が累の父に降り注ぐ。

「WRYAAAAAAAAA!!」
「ザ・グレイトフルデッド!!」
「ヴァアアアアアア!!」

三者三様の雄叫びが混じり合い、肉を打ち合う音が響き渡った。

581「だからわたしは」(前編) ◆ZbV3TMNKJw:2022/06/10(金) 22:03:12 ID:FUT1dlY60


「うっ...」

辿り着いた先で改めて見た惨状に梨花は思わず口元を手で押さえた。
夥しい出血に引きちぎられかけた手足、潰された片目。
梨花もこれに劣らない凄惨な経験を見ているししているが、それでも慣れたものではない。

(これじゃあ体力を回復させたところで...)
「頼む古手。鹿目を治してやってくれないか」

結衣と共に追いついた真島がそう頼み込む。

「...私が出来るのは体力を回復させるだけよ。それも、全快は無理」
「大丈夫だ。鹿目は魔法少女だから、体力と魔力さえあれば傷を治せる」
「そういえば彼女、奇妙な力を使っていたわね。...それなら」

梨花はふぅ、と深いため息を吐きながら己の髪をくしゃくしゃと掻き、そっとまどかの顔に手を添える。
見つめるのは、ぽかりと開けられたまどかの口。
結衣と真島が見守る中、梨花はまどかの口元に顔を寄せていき―――そっと唇を重ね合わせた。

見守る二人が、人口呼吸かと思うのも束の間。

ぴちゃ ぴちゃ ぴちゃ

「ふっ...んっ...」

水音と共に艶めかしい声が漏れ出す。

「...へっ?」
「」

思考が止まり、思わず呆けた声を漏らす結衣とポカンと口を開けてしまう真島。
そんな二人に構わず、梨花の舌は気絶するまどかの口内を蹂躙していく。

「ちゅる...ぷぁ...ん...れろ...」

重ね合わせられた唇の下で、梨花の唾液がまどかの口内に塗り込まれ染み渡っていく。
じわじわと落ちていく唾液はまどかの喉へとゆっくりと流れ込み、体内へと侵入していく。

「ぷはっ!...はぁ...はぁ...」

やがて顔を真っ赤にした梨花は唇を離し、その口端からは唾液の糸がつぅ、と垂れた。


「え...え...えぇ!?」

その光景に結衣は赤面しながら掌で己の顔を覆い、指の隙間からチラチラと梨花を覗き見る。
真島はというと、あまりの衝撃的な光景に唖然とした表情のまま固まっていた。

「ちょ、ちょっと待て!お前、何をやってるんだ!」
「うるさいわね!私も好きでやってるんじゃないわよ!」

ようやく我に返った真島の問いに、梨花は怒鳴り返すように答える。

「あの変態女(ミスティ)に舌を改造されたのよ!私の唾液で人を癒せるってオマケつきでね!」

そう言いつつ、再びまどかにキスをする梨花。
その瞳には涙が浮かんでいる。
それはそうだ。
梨花とてこんな誰にでも唇を許すような尻軽女にはなりたくはない。
しかし、今の梨花に出来るのはせいぜいが杖によるアシスト、その杖もふういんの杖が少し残っているだけだ。
他に回復手段がない以上、この方法に頼る他ない。
そう思うことでなんとか心を保っているのだった。
だから早く終わらせようと、梨花はまどかの口の中へと自らの舌を差し込んでいく。
舌と舌が触れ合い、互いの唾液が混ざり合っていく。

「...あの〜、ひょっとしてあのコロネさんにもこれを...?」
「...そこに触れてやるな荻原。いまは緊急事態だ」

二人の言葉に、梨花の脳内に数分前の光景がトラウマのように過るが、今は振り払い眼前の少女を救うことに集中する。

582「だからわたしは」(前編) ◆ZbV3TMNKJw:2022/06/10(金) 22:04:33 ID:FUT1dlY60

「っ...」

ピクリ、と動くまどかの四肢に応じ、梨花は唇を離す。

「終わったんですか?」
「終わった?いいえ、ここからが始まりよ」

意識を取り戻しつつある彼女に、しかし梨花は安堵はしない。
彼女は知っている。限界以上に痛めつけられた中で意識を取り戻せばどうなるかを。

「貴方たち、生きたまま包丁を突き立てられたことはある?目を潰されたことは?手足を鈍器で潰されたことは?
覚悟を決めてからじゃない。もっと不意に、目が覚めた途端によ。意識を取り戻した途端にそんな痛みが襲い掛かってきたら...彼女、どうなるかしらね」

梨花の言葉に、二人は息を呑む。
未だに死に臨む程の痛みとは無縁な結衣はもちろん、真島もあのチェンソーで切り裂かれた痛みは二度と味わいたくないと思っている。
そんな彼らに梨花の語る状況への対処法などわかるはずがない。

「俺たちになにかできることはないのか?」
「......」

真島の問いかけに梨花は答えられない。
今まで繰り返してきたカケラ、その全ての死の記憶があるわけではない。
ただそれでも、覚えている限りで共通していることはひとつ。
鷹野たち山狗部隊に殺された時も、詩音に拷問された時も、仲間たちや赤坂ら信頼する者たちに殺された時も。
いつも『痛み』と向き合う時は一人だった。
誰も助けることはできない。
ただ耐え切るだけの精神力が―――

(...いいえ、違うわね)

一度だけ違った『死』があった。
仲間たちが目の前で皆殺しにされ、残されたのが自分一人になったあのカケラ。
あの時、意識のない内に終わらせてもらうこともできたが、それを拒否し自ら痛みに臨んだことがあった。
まあ、結局、死んでしまった上に次のカケラに記憶を持ち越すこともできなかったのだが。
それでもあの時は『痛み』から逃げ出さず耐え切り受け入れることができた。
あの時は―――羽入が、傍観者ではなく心から寄り添ってくれたから。

「傍にいてあげて。手を握り、ここにいる、あなたを見ていると応援してあげて」

温もりと信頼、そこから生まれる温かい奇跡。
土壇場で信じられるのはそんな優しい言葉だ。
なんて幼稚な精神論。百年繰り返してきた経験がある癖にこんなことしか教えることができないなんて。

(けれど、私はソレを信じる。一度とはいえ、私はその奇跡に救われたのだから)

梨花の言葉に戸惑うも、二人は―――特に真島は強い意志を籠めた瞳で頷き返す。
僅かだが、累の父を相手に共闘したことからの信頼だろう。

「ぅ...」

まどかの声が漏れ始める。
ここからが彼女にとっての正念場だが、梨花にはそれを見届けている暇はない。

ジョルノとプロシュート、堂島達の戦況がどう転ぶかわからない以上、一人でも戦える駒は必要だ。
まどかへの唾液注入でかなりの体力を消耗した身体に鞭を打ち、ドレミー・スイートのもとへと駆け出す。

(こっちは意識さえ取り戻せばどうとでもなりそうね)

ドレミーも気絶し右腕こそ折れているものの、まどかほどの重体ではなさそうだ。
突っ伏しているドレミーの顔を上に向けさせるため、その身体を仰向けに転がし、唇を重ねる。

―――その瞬間だった。

ガシリ、とドレミーの足が梨花の腰を捉え挟み込む。

「えっ」

突然のことに思考が止まる梨花―――その隙を突き、ドレミーは残る左腕で梨花の頭を固定する。
そこから間髪入れずにドレミーの舌が梨花の口内を蠢きなめ尽くしていく。

(ちょ、やめ)

手に力を込めてドレミーを引きはがそうとするも、彼女の全身は凄まじい疲労と倦怠感に襲われ力が籠められない。
ドレミーの舌遣いの巧みさにより感じている、というだけではない。
ミスティに改造された舌から出される回復唾液は梨花の体力を削り生み出されるものだ。
そんなものを一気に分泌することになれば、当然、彼女の幼い身体であればあっという間に底をついてしまう。
やがて抵抗も殊更に弱弱しくなると、梨花の手はだらりと垂れ落ち、彼女の身体も解放される。

「ふぅ...ご馳走様でした」

意識が闇に落ちる前、彼女が目にしたのは満足げに唇を拭う女の姿だった。

583「だからわたしは」(前編) ◆ZbV3TMNKJw:2022/06/10(金) 22:06:58 ID:FUT1dlY60
目を覚ました時、まどかが真っ先に気づいた異変は視界だった。
左半分の視界は見えず、瞼を開けようとしてもあがらなかった。
目を拭おうとするが―――手が動かない。足もだ。
どうして自分がこうなっているかを思い出そうとして。

ジュクリ。

「ぁ」

手足を筆頭に、目から、身体から、至る箇所から痛みが這い寄ってくる。

「ぁ、ぎ」

激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛激痛。
どうしてこうなったのかと思い出す前に、彼女の脳髄が激痛に支配されていく。
あまりの苦痛に呼吸すらままならず、陸に打ち上げられた魚のように口をパクつかせる。
当然ながら、そんな状態では冷静な思考などできるはずもなく。

「―――――ぁっ」

泣いた。
声にならない悲鳴が喉奥から溢れ出る。

「鹿目!」
「まどかちゃん!」

そんなまどかの耳に届く、聞き覚えのある声。

「ぎ、ひぃ」
「頑張ってまどかちゃん!」
「鹿目、魔法を使え!お前が堂島に腹を突かれた時に使ったやつをだ!」

歯を食いしばり涙を流すまどかの手に触れ、結衣と真島は懸命に励まし続ける。
その言葉にまどかは必死に記憶を探り、そして思い出す。
あの時と同じことをすればいいのだ、と。
真島の言う通り、あの時まどかは自分の腹部を貫かれながらも傷を塞ぐことに成功した。
あの時に行っていたのは斬傷を塞ぐことと痛覚の遮断。
ならば今、自分の四肢を蝕んでいるこの痛みを消すこともできるはずだ。

「っく、あ、あぁ...」

激痛の中、意識を集中させ、手足の治療と痛覚遮断の魔法を使う。

「ッ、ハァッ、ハァッ」

瞬く間に痛みは消え怪我も治っていく。
しかし、まどかの呼吸は荒れる一方だ。

「鹿目、ソウルジェムを見せてもらうぞ」

真島はまどかの手を取りソウルジェムの穢れを確認する。
それにはもはや殆ど輝きは残されておらず、どす黒い汚れに満ちつつあった。

(やはりか...危ないところだった)

合流してから堂島達のもとへ向かう最中、結衣の支給品から譲り受けたグリーフシードをまどかのソウルジェムに当てる。
すると、ソウルジェムの穢れはグリーフシードに吸われていく。

「ほんとにこれで綺麗になるんですねぇ」
「ああ。だが...」

グリーフシードは既に穢れを吸える許容量に達しつつあるのに、まどかのソウルジェムは精々半分程度しか浄化できていない。
これでは戦い始めればまたすぐに穢れが溜まってしまう。
だがそれでもまどかは戦いを止めないだろう。
救える命を救うためならどんな無茶でもしてしまうのはこの数時間の付き合いを経てわかっている。

(願わくば、このままあいつらが事態を収拾してくれるのを待ちたいが...)
(兄貴...頑張ってください、あたし、応援してますから!)

既に己の無力さを思い知らされ、事態が手に負える範疇にないことを痛感している真島と結衣には祈ることしかできない。
そんな二人を他所に、まどかの目は戦場へと向いていた。
苦しみと恐怖の色を宿し、顔を歪めながら、それでもまっすぐに。

584「だからわたしは」(前編) ◆ZbV3TMNKJw:2022/06/10(金) 22:07:28 ID:FUT1dlY60


ドッ

「ぐうっ!!」

両腕での防御ごと吹き飛ばされたプロシュートの身体が悲鳴を上げ苦悶の声が漏れる。
追撃をしようとする累の父へとジョルノがラッシュを放ち足を止めさせる。
だがそれも数秒だけのこと。
瞬く間にジョルノもその剛腕で吹き飛ばされダメージが蓄積されていく。

その間に体勢を立て直したプロシュートが累の父に迫り、父の意識がそちらに裂かれた瞬間にジョルノもプロシュートの合わせて挟み込む形で累の父へと駆ける。
左右から迫る二人のスタンド使い相手に対し、累の父はその場で跳躍・開脚しプロシュートには右足で、ジョルノへは左足で蹴りを放つ。
父にとっては牽制程度の攻撃でも、人間である二人には充分に驚異。
二人は寸でのところで躱し、父の着地を狩る為に潜り込む。
それを予期するかのように、父の上半身がぐりんと地へと倒れ込み、両手で着地。
そのまま身体を捻るように回し、下半身をすさまじい勢いで回転させることで回し蹴りを放ち二人の防御を余儀なくさせ激痛と共に吹き飛ばす。


「二人がかりでコレか...!」

ジョルノのゴールドエクスペリエンスとプロシュートのグレイトフル・デッド。
片や生命を生むというその能力の応用で手札を無数に増やし、片や老化という強制的な弱体化を相手に強いる。
両者とも対人においては比類なき強さを発揮するスタンドであるが、共通しての欠点がある。
それは純粋な破壊力。
いくら殴りつけても鉄を破壊することができなければ、人間一人を遠くまで吹き飛ばすこともできず。
生命を生む能力による攻撃も人体以上のモノを破壊することができず、老化ガスも直接的な殺傷力はない。
能力を抜きにすれば、両者とも人体を殴りつける分には申し分はないが、本職の近距離パワー型のスタンドには大幅に劣る。
人間相手には十二分に通用する彼らの能力も、能力の効かない怪物を相手取るにはあまりにも不足していた。

(クソッ...奴にもう『種』は植え付けてある。だがそれを咲かせるにはまだ足りない!せめてもう一人いれば!)

ジョルノへとトドメを刺すために跳びかかる累の父。
一か八か、迎え撃とうとするジョルノ。

―――そんな彼らの間に球の形をした弾幕が降り注ぐ。

「お待たせして申し訳ありません」

右腕を抑えながらも戦線に復帰したドレミーが相も変らぬにやけ顔で二人の間に降り立った。

585「だからわたしは」(前編) ◆ZbV3TMNKJw:2022/06/10(金) 22:08:24 ID:FUT1dlY60
(うまくやってくれたようですね、古手さん)

心の中で梨花へと賞賛を送り、累の父がドレミーへと意識が向いている隙にジョルノはプロシュートのもとへと駆け寄る。
そんなジョルノたちよりもまずは眼前の敵を排除しようと拳を振り下ろす累の父。

「先ほどは不意を突かれましたが」

ドレミーは寸でのところで躱し、顔面へと膝蹴りを打ち込みその反動で距離をとり、すかさず球型の弾幕を放つ。

「やはり素早さは私の方が上のようですね」

間髪入れず放つ弾幕の雨あられ。
しかし、それを全て受けてもなお累の父の目はギョロリとドレミーを見据え蹴りを放つ。
攻撃を躱しながらラッパを鳴らしつつ弾幕を放ち続けるドレミーだが、このやり取りの中で確信する。
このままでは間違いなく負けるのは自分だと。

「大丈夫ですかプロシュート」

ドレミーが敵を引き付けている一方で、ジョルノはプロシュートの容態を看ていた。
累の父からの攻撃と彼を殴りつけた際の反動が重なった彼の腕には青あざが見受けられる。

「『ゴールドエクスペリエンス』...これでさっきよりは動かせるようにはなりましたが、痛みは消せないので堪えてください」

ゴールドエクスペリエンスは『治す』のではなく『直す』能力だ。
壊れた部品を代替しているにすぎず、痛覚を消したり疲労を帳消しにしたりはできない。
その為、即死しない限りは高い生存能力を発揮できるものの、長期戦ともなれば確実に不利になる。

「動けるようになりゃあ充分だ。あまり俺を見くびるんじゃあねえぞ『新入り』」

残る痛みも無視してプロシュートは立ち上がる。
ギャング―――その中でも暗殺チームは常に死と痛みとの隣り合わせの世界だ。
その中でも熟練の彼が、痛みで怖気づこうはずもない。

「―――で、こっからどうすんだ。このままじゃあくたばるのは間違いなく俺たちだぜ」

プロシュートはそんな言葉を漏らすが、絶望している訳ではない。
ただ、状況から判断して冷静に現状を述べただけだ。

「ええ。僕ら三人の中で一番通用している彼女の攻撃もあのザマです。接近戦も長期戦も奴に分がある。加えて能力も―――貴方と僕とでは致命的に噛み合わない」

ジョルノの生命を生み出す能力とプロシュートの老いて枯らせる能力。
この能力は相反し合う関係にあり、どう足掻いても組み合わせることはできない。

「ですが、彼女が来てくれたお陰で道は開けました。プロシュート、耳を」

この現状に於いてもジョルノの目は光を失っておらず。
プロシュートは素直にジョルノの言に耳を貸した。

586「だからわたしは」(前編) ◆ZbV3TMNKJw:2022/06/10(金) 22:09:07 ID:FUT1dlY60


カッ

迫りくる無数の針を堂島の剣が纏めて両断する。
その隙を突き堂島を掴まんと振り下ろされる掌。

―――血鬼術 冬ざれ氷柱

その掌に向けて氷柱が放たれ堂島への攻撃を妨害。

―――血鬼術 蔓蓮華

加えて、氷の蔓が異形と堂島に向けて伸ばされ、異形のみを絡めとれば、堂島からソレまで一直線に繋がる橋がかかる。
堂島はそれに乗り異形へと駆けていく。
狙うは頭頂よりの一刀両断。
そこからの、心臓破壊。
異形は蠢く頭部の弾丸を無数に放つが、それはヒーローの剣の前ではまさに無力。
全てが一刀の前に切り伏せられ、剣は異形へと振り下ろされる。

頭頂から、地上まで一切減速することすらなく異形の身体は両断された。



傾いた身体は即座に元の位置まで戻り、ビシャリと合わされば瞬く間に再生を完了。
足元の堂島目掛けて、無数の腕が伸ばされる。

―――血鬼術 散り蓮華

童磨の扇が振るわれれば、硝子の如き蓮華の花弁が放たれ腕の群れを押し返す。
堂島はその隙に一旦後退し、童磨はその横に並び立つ。

「いやはや。まったくもってキリがないなあ」

童磨は思わずそんな愚痴をこぼす。
異形が仕掛け、童磨がそれを捌き、堂島が主にメインアタッカーを務める。
この数分間の内に似たような攻防が何度もあった。
しかし戦況の変わり映えはなく。
ただただお互いの疲労だけが積み重なっていく―――だけならばまだよかったのだが。

「彼、どんどん強くなってるよね」

異形は攻防を重ねる中でどんどん強く大きくなっている。
今はまだ二人の方が優勢ではあるが、このまま成長を続ければ厄介な敵になることは容易に想像がつく。

「だが攻め方が単調だ。能力頼みの一辺倒。いくら強くなろうとも、あの噛みつきにさえ気を付ければなんてことはない」
「そうだねえ。大きくなっていく一方でボロボロと身体が崩れていっているし、このままだと彼が崩れ消えてしまうんだろうね」

堂島も童磨も攻防の中で気づいていた。
異形の寿命は長くはない。その為、朽ちていく身体を補うエネルギーを求めて自分たちを食らう為に戦っている。
だから二人の五体が砕けるような威力の攻撃は仕掛けてこず、捕食以外の攻撃はあくまでも拘束かダメージを与える程度のものでしかない。
それがわかれば、吸血鬼の中では最高クラスの男と上弦の弐の鬼にとって対処はそう難しい話ではなかった。

(あれが本当に佐神くんならもっと苦戦したのだろうがね...)

堂島の知る範囲の善はあそこまで強力な肉体は持っていない。
しかし、彼の長所は、真祖にすら届く闘争心を有効な矛に変える、観察眼と戦略眼からくる応用の幅の広さ。
もしも相対しているのがあの佐神善ならば。
例え、アレと同じ状況においてもこんな本能任せの単調な攻め方で必死にならず、思いもよらぬ機転を利かせ確実に自分たちへと届く作戦を組み立てるだろう。

(もはや、きみを斬るのに躊躇いはないよ)

幾度か攻防を交わし、言葉ではなく心でフッ切れた。
アレは佐神善じゃない。ただの暴走する力の塊だ。
この会場における病巣だ。ならば。

「病巣は排除しないとな」

堂島の剣が決意と共に握りしめられたその時。

『ボンジュール! と言ってもこの場所は昼も夜の境界なんて無いに等しいのだけれどさ!』


一回目の放送が始まった。

587 ◆ZbV3TMNKJw:2022/06/10(金) 22:10:02 ID:FUT1dlY60
一旦ここまでで投下を区切ります。
続きは来週中には投下します

588 ◆ZbV3TMNKJw:2022/06/17(金) 22:56:42 ID:tWaKxU9Y0
続きを投下します

589 「だからわたしは」(後編) ◆ZbV3TMNKJw:2022/06/17(金) 22:58:02 ID:tWaKxU9Y0


ある男がいた。

人がただ生きる為に殺すか殺されるかの、白と黒だけの時代。

炎を越えて、海の底から現れたその男は戦い抜いた。

その姿を生物の頂点たる『竜』に変えて。

白と黒の世界の民は、太陽を嫌い夜のみ闘うその漢を、目を輝かせ敬い讃え、『王』と呼んだ。

『王』は民を愛した。明日をも知れぬ儚い命で闘争心の灯を燃やし死を恐れず生きる『人』を。

愛した。

己のように、この手で己の望む形に世界を変えたいと輝く民たちを。

与えた。

殺し合い、数多の力を束ねた者に己の心の臓腑を抉る機会を。

欲した。

それでもなお、飽くことなく次は私だと押し寄せる人の波を。

そして失った。

挑んでくる者たちの悉くを賞賛し、殺し、殺し尽くした果てに、彼の愛した『民』の姿は非ず。
代わりに跋扈するは、あの輝ける闘争心を失った人の形をしただけの醜い生き物だけ。

故にその全てを焼き尽くした。

己の力を得るに値する者を、灰色の世界で輝くかつての美しい人間を求めて。

2000年の時が流れた今でもなお、『彼』は座して待つ。

590 「だからわたしは」(後編) ◆ZbV3TMNKJw:2022/06/17(金) 22:58:24 ID:tWaKxU9Y0



放送が鳴り響くが、しかし戦場は止まらない。

その中で、誰からも標的にされず、戦場から一歩退いていた真島と結衣は放送に耳を傾けることが出来た。

「やはりあれが佐神なのか...!?」

放送で呼ばれた名前には、死んだと思われていた佐神善の名前は連ねられていなかった。
呼ばれた死者の中に恐らく嘘はないだろうというのは、益子薫・ミスティ・三島英吾の名が連ねられて呼ばれたことから確信できる。
そもそも。そんな嘘を紛れさせる必要はないというのが正しいだろうが。

とにかく。真島からしてみれば、佐神善が生きているという事実は希望を齎した。
彼とは一言二言程度言葉を交わした程度の関係ではあるが、自分とまどかの危機を救い、堂島の暴走を止める最大の一因を担っている少年だ。
彼の生死如何でこれからの顛末が大きく変わっていく。

(荻原には酷なことだがな...)

真島は隣に佇む結衣を横目で見れば、やはり沈んだ面持ちをしていた。
気絶してしまった梨花の介抱は止めていないものの、普段の能天気さは微塵もうかがえない。
当然だ。
過程がどうあれ、堂島が善の仇を取る形で益子薫を殺したのは事実。
その善が実は生きていたとなれば、薫の死は無駄死に等しいものになる。
いくら結衣が底抜けに心優しい人間だとはいえ、それを受け入れられるかは別問題だ。

だがそれでも。
あれだけ他者を護るために戦える佐神善が生きていることは、堂島正が味方でいることは、多くの参加者にとっての希望となる。
何もできない己の無力さを口惜しく思いつつ、彼はひたすらに祈ることしかできなかった。

591 「だからわたしは」(後編) ◆ZbV3TMNKJw:2022/06/17(金) 22:59:11 ID:tWaKxU9Y0


(佐神善の名前は呼ばれなかった―――ならば、やはりアレが彼ということ)

ジョルノは累の父の相手をドレミーとプロシュートに任せ、自身は放送に集中していた。

(ならばまだ彼を取り戻すチャンスはある。僕のゴールドエクスペリエンスの能力で生命エネルギーを流し込む。そこで自我を取り戻せればまだ希望の芽は残っているんだ)

ジョルノは今の善の状態を死に瀕するほどの極限状態による能力の暴走だと考えている。
ならば、自我を取り戻すことが出来れば能力を自制し戻ってこられる可能性は高い。
これはなにも、希望的観測による都合のいい考えではない。
彼は既にそれを上回る奇跡的な現象を識っているからだ。

ブローノ・ブチャラティ。本編ジョジョの奇妙な冒険五部『黄金の風』においてボスを裏切った本家のジョルノ・ジョバーナの仲間。
彼は道中で命を落としたが、しかし最終決戦まで精神的な意味ではなく最後までその命と身体を保ち立ち会った。
死んでいた筈の肉体が、ジョルノの与えた生命エネルギーを糧に数日の間だけ動くことを許したのだ。
これに比べれば、能力の暴走から自我を取り戻すなど比較にもならないほどの容易い奇跡だろう。

「グオッ...!」
「さ、流石に疲れますね...!」

父に吹き飛ばされたプロシュートとドレミーがジョルノの足元に転がり込む。

「感謝します、二人とも」
「放送はキッチリ聞いたんだろうな」
「はい。やはり鍵となるのは―――彼です」

ジョルノは累の父の背後に聳える異形に向けて顎をしゃくる。

「佐神くんを取り戻すことができれば、僕らの敵は知る限りでは蜘蛛男とハイグレ変態女と向こうで堂島と組んでいる彼だけ。
そして僕のゴールドエクスペリエンスは『ソレ』ができる!!」
「ですが、それを為すには...」
「ええ。あの蜘蛛男を長時間拘束、あるいは倒す必要があります」

ジョルノのゴールドエクスペリエンスが異形の巨体に触れたところで、生命エネルギーを有効な量を流しきるまでどれだけの時間が必要かわかったものじゃない。
そんな中で累の父を片手間で捌きつつ事を為すのは不可能だ。
然らば、どの道ここで決着を着ける他ないだろう。

592 「だからわたしは」(後編) ◆ZbV3TMNKJw:2022/06/17(金) 22:59:51 ID:tWaKxU9Y0
「プロシュート!ドレミー!僕に力を貸してください!全ては勝利という『栄光』を勝ち取るため!いいですねッ!」
「正直、ここまで付き合う義理はありませんが...まあ、あの紛い物の鬼を排除できるなら手を貸しましょう。旅は道連れ世は情けともいいますし。ね、兄貴さん?」
「念押しするまでもねえ。アイツの面はもう見飽きてんだ...暗殺者の面目が潰れるくらいになぁ!」

叫び、累の父へと先んじて駆け出すプロシュート。
その背後に着くようにドレミーが。
それに続きジョルノが駆け出していく。

「ウバッシャアアアアア!!」

迫りくるプロシュートへ大振りに拳を振るう累の父。
まともに受けるのは分が悪いとしゃがみ回避するプロシュート。
これまでに何度も繰り返されてきた光景だ。だが。

パッ

プロシュートの目が閃光が奔ったかのような錯覚を覚えると同時、鋭い痛みと共に顔面から夥しいほどの出血が噴き出す。

「な、に...!こ、コイツ...」

薄れゆく意識の中、プロシュートが見たのはボクサーのように拳を構えていた累の父の姿。
それは今までになかった累の父の新しいファイティング・スタイル。

累の父は思考回路が乏しい。
家族を護る。その為に敵を排除する。息子の頼みを叶える。
主にこの三つだけが累の父を占めるものだ。

獲物を食らいたいという願望を発する息子【善だったもの】の願いを邪魔しようとしてくる人間たち。
それを排除するのは容易かったはずなのに、ここまで仕留め切れず手間取ってしまった。
思考回路が乏しい中でも彼は考えた。
どうして自分は奴らを排除できないのか。どうして攻撃が当たらないのか。
それを、細かい理屈抜きで本能的に解決策を模索していた。

そんな中、彼の脳裏に過ったのは真島との殴り合いだった。
相手はあまりにも非力な人間。だが、奴の拳は面白いほどにあたり、逆に自分の拳は一度も当たらなかった。
自分と真島、いったいなにが違うのか。

その答えがコレである。
見様見真似のボクシングスタイル。
確実に一撃で葬るのではなく、ダメージを蓄積させ、あるいは牽制のために放たれる、威力よりも手数と速さを求めた拳。
そもそも。累の父が拳を振るえば、全力でなくとも致命的なダメージを与えられるのだから、要は当たりさえすればいい。
故に放つのはボクシングにおけるフックやストレート、アッパーといったフィニッシュブローではなく、最速のジャブ。

「『成長』してやがる...!」

そんな子供でもわかるような当たり前な理屈でありながら、この場において最も驚異的な成長を成し遂げたのをその身で実感し、プロシュートの身体は地に崩れ落ちた。

593 「だからわたしは」(後編) ◆ZbV3TMNKJw:2022/06/17(金) 23:00:43 ID:tWaKxU9Y0
「お役目ご苦労様でした」

その彼の背中より、ドレミーの弾幕が父へと迫る。
それに対し、父は拳を構えたまま、しかし撃ち落とすこともしない。
彼は学んでいた。
ドレミーの弾幕も。プロシュートの弾丸もスタンドによる攻撃も。ジョルノのゴールドエクスペリエンスのラッシュも。
全て自分を打ち倒すことは決してない。
ならば。敵の攻撃を全て受け、そのうえで反撃すればよいと。

迫りくる小粒の弾幕をその身で受け止めんと構え―――

「『ゴールドエクスペリエンス』は、既に弾幕に触れている!!」

パチン、と指が鳴らされるのと同時、10の弾幕が瞬く間に姿を変え飛び立っていく。
生命を与えられた弾幕が姿を変えるは鳩。
父へと着弾する寸前に羽根を撒き散らし飛び立ち、累の父の視界を塞ぐ。

「!?」

あまりにも突然な変貌に累の父の足は思わず戸惑い、反射的に腕を振るい鳩を蹴散らそうとする。
羽根の合間を掻い潜り、父へと肉薄するジョルノ。
父はジョルノの射程距離に入る寸前で彼の接近に気づき、プロシュート同様にジャブを放とうとする。

その身体が、ガクリと地面に沈みこんだ。

「『ザ・グレイトフル・デッド』...ハァ...ハァ...手痛いのは食らっちまったが...死んだふりで標的から外れるのは...都合がよかったな...!」

プロシュートは無様にも地に伏せ、その端正な顔を朱色に染めながらも、しかしその眼光だけは微塵も揺らいではいなかった。
地に伏せる瞬間、飛びかけていた意識を口の内側の肉を噛みきることで無理やり留めた彼が行ったのは、グレイトフル・デッドの能力の最大出力での発動。
父を拘束する時にも用いた、掌に限定した老化ガスの噴出を地面に向けた手段である。

「全力の直ざわりならよぉ...てめえの片足が沈むくらいには、地面を『老い』させることが出来るんだぜ...!」

それだけを言い残し、ガクリとプロシュートは首を垂れて沈黙する。
意識が消える寸前に無理やりスタンドパワーを全開まで引き出したのだ。
さしもの彼と言えど、失神を免れることはできなかった。

594 「だからわたしは」(後編) ◆ZbV3TMNKJw:2022/06/17(金) 23:02:52 ID:tWaKxU9Y0

(感謝します。二人とも)

度重なる異常事態に困惑し隙を晒した父の懐へ、ジョルノが肉薄する。
そして一息に罪状を述べていく。

「『貴方を身分詐称で訴えます!!理由はもちろんおわかりですね!!貴方の勘違いがこの状況を生み僕らは彼を救う好機を失いそうだからです!!!』」

放たれる拳の雨が父の腹部を襲う。
その一撃一撃を打ち込む度にジョルノの拳は悲鳴を挙げるが、構わず放ち続ける。

(ここで逃せば僕らに勝機はない!必ず、ここで奴を仕留める!!)

決死の覚悟で放たれるラッシュは、既に人間相手であれば、このロワの実質的な登場話における葡萄のようにボコボコになった顔の英吾が可愛く見えるほどの威力を蓄積している。
人間相手であれば既にオーバーキルを越えており、裁判所でこんな暴行を働けば情状酌量の余地すらなく暴行罪で捕まりワザップで騙した輩以上の犯罪者と扱われるレベルだ。

「『覚悟の準備をしておいて下さい!ちかいうちに訴えます!!裁判も起こします!!裁判所にも問答無用できてもらいます!!慰謝料の準備もしておいて下さい!貴方は犯罪者です!刑務所にぶち込まれる楽しみにしておいて下さい!いいですね!!』」

拳が限界を超え、最後のシメとなる一撃が放たれる。

「――――ヴァアアアアアアア!!!」

だが、そんな決死の覚悟も空しく。
放った最後の一撃は、交差した両腕のガードに阻まれ、父が叫ぶと同時、内から外にかけて弾くように振り抜けば、ジョルノの右腕は反動でへし折れ、身体はあっという間に遥か後方へと吹き飛ばされる。

「ブウ"ウ"ゥゥゥゥゥ」

あれだけの攻撃を受けてなお、父は未だに健在。
腹部に刻み込まれた拳の痕も、瞬く間に消えていく。

「あらあら。ヒドイ有様ですねぇ」

気絶しているプロシュートを回収しながら、ドレミーは吹き飛ばされたジョルノのもとへ降り立ち慰めとも煽りともいえぬ言葉をかける。
そんなドレミーを、ジョルノは息を荒げながらも、しかし微塵も揺らがぬ眼差しで見つめ返す。

「代償は免れなかったが...しかし、僕らの『勝利』です」

確信の宣言と共に。

ボコリ。

「ギ」

累の父の腹部が盛り上がり、ここにきて、初めて彼の苦悶の声が漏れる。

「僕が生命エネルギーを流し込んだのは奴ではなく、その腹部に撃ち込まれた弾丸―――そしていま!ゴールドエクスペリエンスは発現する!!」

ジョルノの叫びと共に、父の腹部が異様に蠢き―――

ボコォ

「ギッ、アアアアアアアアア!!!!!!!」

悍ましいほどの父の雄叫びと共に、彼の腹を突き破ったソレが顔を見せる。

「僕がラッシュの時に与えた生命は『桜の木』だ。桜の木の下には死体が埋まっているという逸話よろしく、木は人体から栄養をすいとると言うが...なるほど、確かに図太くたくましく育ってくれたよ。
『いあいぎり』をして切った木の上に立って再開したセーブデータのようにな」

ジョルノは累の父の弱点である『頸』の切断を知らない。
故に選んだのは腹部から木を生やしての拘束。
目論見通り、彼の腹部から生えた木は父を地面に縫い付け、死に至らしめずとも動きを封じることができた。

「ガ...ガァッ...!」

鬼とて首を斬られなければ死なないだけで、どんな傷に対しても痛みが全くない訳ではない。
如何に外部からの刺激には強くとも、内臓から破壊されれば生物的な本能として苦悶の声を漏らさずにはいられない。

「ガヒュッ、ガヒュッ...」

激痛と共に逃れられない拘束の最中、累の父は必死に息子のもとへ向かおうとする二人の背中を掴まんと手を伸ばす。
だが、その掌はなにも掴めず虚空を切るだけ。
藻掻いたところで無駄だと諦め、父は沈黙する。

595 「だからわたしは」(後編) ◆ZbV3TMNKJw:2022/06/17(金) 23:04:02 ID:tWaKxU9Y0
【お前の役割は父親だ】

―――ドクン、と鼓動が波うち、与えられた『使命』が脳裏を過る。

【父は大黒柱として誰よりも強く、家族を、子供を護らなければならない。たとえその命が尽きようとも】

ソレは、ホワイトやミスティに与えられた急繕いの命令ではなく、もっと前から彼に埋め込まれた本物の『使命』。
誰もが知らない名もなき鬼が『父』であるためのアイデンティティ。

【我が身など顧みるな。痛いからなんだ。敵わないからなんだ。親として全身全霊を以て家族を護れ】

一方的に流れる使命も、自我の乏しい彼からすれば唯一の拠り所だ。
親として。父として。使命に殉じる為に累の父の身体に力が漲っていく。

「俺が...家族を...護ル...」

メキメキと音を立てて木が持ち上がっていく。
ブチブチと筋繊維が内臓と共に千切れていく。
それでもなお、彼は止まらない。

【役目を、果たせ】

「俺の家族に、手を出すなァァァァァァア"ア"ア"ア"ア"!!」

父としての役目を果たすため、『累の父』は死を選びたくなるほどの激痛をも吹き飛ばし、己の身体に刺さる巨木から身体を引き抜いた。

「なっ!?」

思わぬ復活にさしものジョルノとドレミーも動揺と共に硬直する。
その一瞬を突き。
累の父は腹から生えた木を丸太のように構え、一足飛びで距離を詰め、横なぎに振るう。

スタンドを防御に回し、己とドレミーの盾にするも―――力及ばず。
まるで鉄球のような衝撃と共に、ドレミーとジョルノの身体が吹き飛ばされる。


「『木にめり込んだところで動けないわけではない』か...文面だけではわかりづらい細微な情報...勉強...させて...」
「ヴァアアアアアアアアア!!!」

紅い月が輝く中、己から生えた木を丸太の如く担ぎ、咆哮をあげるあらゆる意味で『紛い物の鬼』。
その周囲に転がり沈黙する二人のスタンド使いと、そして自分。
まるで悪夢のような光景に、ドレミーは自嘲気味にクスリと笑みを零して呟いた。

「ゲームオーバーですね」

596 「だからわたしは」(後編) ◆ZbV3TMNKJw:2022/06/17(金) 23:04:38 ID:tWaKxU9Y0


「悲しいな。俺が救うことなく旅立ってしまった命があんなにもあるなんて」
「......」

異形の相手の片手間に、流れる放送へと耳を傾ける。
それが出来る余裕があるほどに、童磨と堂島は異形相手に有利に立ち回っていた。

(佐神くんが呼ばれなかったということは、やはりコレは彼そのものなんだろう)

自分たちを食らわんと殺意を振りまく怪物。
コレが生きている限り、『佐神善』は生きており、コレが死ねば『佐神善』は死ぬのだろう。

(だが、戻す手段など思いつかない。このまま放っておけば私たちの手に負える範疇を越えるのも時間の問題だ)

もしもこのまま戦い続けて成長しきり、この場の参加者をみんな殺せば一番後悔するのは誰だ。
他でもない善本人だ。
だからこそ斬る。
彼を苦しめないためにも、この手であの異形を断つ。
 
『いつもと変わらないじゃないですか。人を斬るしかできない人殺し』

纏わりつく死者の声を振り払い、迫る異形の腕々を切り伏せる。

その度に実感する。『彼』は成長していると同時に、消耗し死に近づいていると。

堂島は異形のもとへと駆け、再び頭頂から振り下ろす。

(斬る!このまま―――)

振り下ろされる正義の剣。
それを狙っていたかのように、異形の頭が自ら左右二つに割れ斬撃を回避。

「なにっ!?」

驚愕する堂島の隙を突き、異形はその巨大な掌で掴もうと腕を伸ばす。

―――血鬼術 霧氷・睡蓮菩薩

その腕を巨大な氷像の腕が掴み止め、腕を凍らせ破壊する。

「ゴアアアアアアアッ!」
「勢いはいいけどちょっと焦りすぎだよ」

氷像の菩薩の肩に乗った童磨は堂島にケラケラと笑いかける。

597 「だからわたしは」(後編) ◆ZbV3TMNKJw:2022/06/17(金) 23:06:22 ID:tWaKxU9Y0
「とはいえ、そろそろ彼も限界が近づいてきたようだね。ごらんよ」

童磨が扇での指示に従い堂島は異形へと目をやる。

「俺の敬服するあの御方でもあるまいし、再生能力が無限だなんてことはありえないんだよ。
使い続ければ、死なないにしても再生できなくなってしまう。さすがの彼も、強くなっているとはいえ削られ続ければ消耗の方が激しいようだ」

童磨の指摘通り、異形の崩壊速度は先ほどまでの比ではなかった。
強靭で巨大な身体は見る見るうちに崩れ、先ほどまでの強大さは鳴りを潜めつつある。
尻尾も崩れていき、残された中で驚異的なのは闘争心と殺意の牙のみといえよう。

「...佐神くん」

もう一度、剣を握りしめ直し構える。
彼は死ぬ。それは最初から危惧していたことであり、実際そうなってしまった。
それが今であっただけだ。だから躊躇うつもりはない。

「きみを斬るよ」

堂島が、何度目かわからない宣言をするのと同時に。

「ガアアアアアアア!!!!」

異形は吼え、残された腕で氷の菩薩を殴りつける。

(無駄だよ。そんな苦し紛れな拳で俺の睡蓮菩薩は―――)

ガシャア、と派手な音を立てて睡蓮菩薩の胸部に風穴が空く。

「あれぇ?」

思わぬ衝撃を受けた童磨の身体が菩薩から落ち地上に落下する。
童磨の思考は常に合理的だ。
生物である以上、限界を超えた身体は動いてはくれないし、火事場の馬鹿力とやらで全力以上の力を引き出すなんてことは、所詮は想定できる範囲でしかない。
故に、異形の死に瀕した一撃の威力を見誤り、己の能力を過信してしまった。それが彼の一つの失態だ。

(まあいいけど)

童磨は扇を繰り、菩薩に指示を出す。
内容は複雑なものではない。単純に、そのまま倒れこめというものだ。
菩薩はそれに従い、ぐらりと前のめりに倒れ込み、異形を地に押し倒す。
ズンッ、と派手な音を響かせれば、菩薩はその身をたちまちに氷に変えて異形の全身を凍りで包み込む。

598 「だからわたしは」(後編) ◆ZbV3TMNKJw:2022/06/17(金) 23:07:22 ID:tWaKxU9Y0
氷で固められた部位が、バキリと割れれば、異形の頭部から下は全て氷に覆われ分断される。
如何に高い再生能力を誇ろうとも、ああして氷点下の氷で凍らせられれば生命として成り立たなくなる。
残るは左上半身と首まわりと頭部のみ。

(終わったね)

勝利を確信した童磨は、着地後、堂島よりも先んじて異形へと向かう。
本来ならただ放っておくだけでも異形の崩壊を見届けられた。勝利するだけならばそれでいいだろう。
だが、今まで見たことのないこの異様なナニかを食えばどうなるかを確かめずにはいられなかった。
童磨は女好きであるものの、それ以上に鬼として強くなるために人の中でも栄養値の高い女性を大勢食らっている。
そんな彼が、眼前の極上の獲物に興味を抱かないはずがなかった。

(あそこから想定できる彼の攻撃方法は噛みつきか左腕のみ。それなら一度いなせばそれで食えるかな)

果たして、童磨の予測は当たり、異形の迫りくる左腕を躱し、次いで迫りくる頭部へと向き合う。

(想定通りだ。このまま血鬼術で―――)

ドンッ

突然の背後からの衝撃に童磨の身体は前方へと突き飛ばされる。

「えっ?」

童磨のもう一つの失態。それは堂島正に僅かでも背中を向けてしまったこと。
警戒していないわけではなかった。異形さえどうにかしてしまえば今すぐにでも救済してあげたかった。

だが誰が想像できようか。
共通の悩みの種だった異形の始末。
それを目的に組んだ相手が、今まさにトドメを刺そうとしたその時に。
放っておいても勝利が確定しているこの瞬間に。
その背中を蹴り飛ばし、こちらを食おうとしている牙に生贄の如く差し出してくるなどと。

「うわぁ、そうくるかぁ」

迎え撃とうとしていた血鬼術の発動は間に合わず、視界に広がるは、迫りくる口腔の中を蠢く無数の腕。
死を直感せざるをえないこの光景においてもなお、彼の思考は合理的で冷静だった。



ガッ バクン

599 「だからわたしは」(後編) ◆ZbV3TMNKJw:2022/06/17(金) 23:08:13 ID:tWaKxU9Y0
腹部に牙が突き立てられれば、装甲を持たない童磨の身体はあっさりと齧り取られる。
上半身が丸ごと削り取られた下半身がべちゃりと地に落ち、ぴくぴくと痙攣しつつ、血だまりを作っていく。

童磨という餌に気をとられた異形は、その背後からやってきた堂島への対処が遅れてしまう。

カッ。

剣が肩口から袈裟懸けに振るわれ身体が割れる。
それが再生するよりも速く、幾重も剣は振るわれた。

(斬る。このまま)

手ごたえを通じ、異形の生命が弱まっていくのを実感する。

(彼をこの手で)

再生する力が無くなったのか、斬り落とした腕はもう戻らない。

限界なのだ。もう。

あと一撃。これを振り下ろせば全てが終わる。

これまでとこれからの彼との戦いも、全て。

「さらばだ。佐神君」

そして、正義の剣は悪を断つべく振り下ろされ





―――先生





なかった。

600 「だからわたしは」(後編) ◆ZbV3TMNKJw:2022/06/17(金) 23:11:17 ID:tWaKxU9Y0

もしも。

もしも彼が、ほんの数時間後の、佐神善を見捨てた後の時間から連れてこられていれば。

もしも佐神善が復帰し共闘した時の喜びを足割っていなければ。

もしも佐神善を喪った時の感情を一度も経験していなければ。

もしも放送で微かにでも善が生きていると仄めかせられなければ。

いずれか一つでも満たしていれば、その剣を振り下ろすことができただろう。


けれど。

愛する息子の喪失に納得が出来ず。

正義が辱められ悪がのうのうと生き残る世界に憎悪し剣を振るってきた彼が。

脳裏に彼の、幼いころからずっと見てきた××の顔が過れば。

躊躇なくその剣を振り下ろすことなど、できるはずもなかった。


その一瞬を突き。


異形は正真正銘最期の力を振り絞るように肩口から腕を生やし堂島を捉える。

開かれる口腔の中、無数に並ぶ腕が伸ばされる。

『死ね』

その一本一本が死を望むように堂島の身体に纏わりついていく。


『死ね』
『死ね』『死ね』
『死ね』『死ね』『死ね』
『死ね』『死ね』『死ね』『死ね』
『死ね』『死ね』『死ね』『死ね』『死ね』    
『死ね』『死ね』『死ね』『死ね』『死ね』『死ね』
『死ね』『死ね』『死ね』『死ね』『死ね』『死ね』『死ね』
『死ね』『死ね』『死ね』『死ね』『死ね』『死ね』『死ね』『死ね』

浴びせられる憎悪の声に怒ることすらできない。
死者だけではなく、彼にすらそう願われては。

(私は...死ぬべきなのか...?)

掲げた正義の為に人を殺し、絶望に抗おうとする少女を刺し。
護りたいと思った者すら守れず、感情任せに無罪の少女を斬り捨てた。

愚物。

堂島が目を背け続けてきたその二文字を突きつけるように、腕は

【斬り殺してきたヤクザたちのものに見えた】【善の仲間の吸血鬼に見えた】【益子薫のものに見えた】

そして

『何も為せずに、早く死ね』

肩に手を置き、嘲笑うように『彼女』が囁いてきた。

その憎悪と怨嗟の声に、抗うことも屈することもできず。

堂島正はただ迫る牙を受け入れることしかできなかった。

601 「だからわたしは」(後編) ◆ZbV3TMNKJw:2022/06/17(金) 23:12:00 ID:tWaKxU9Y0



この殺し合いの首輪には如何な参加者をも死に至らしめる能力がある。

大勢の生身の人間や、身体の損傷で死に至る人外等であれば爆発一つで事足りるだろう。

だが例外はある。

弱点部位が心臓部であるドミノ・サザーランドを筆頭とする吸血鬼、出自が特殊中の特殊である佐神善、童磨と累の父、沼の鬼ら頸が弱点とはいえ日光に携わるモノが無ければ死なない鬼、ワザップジョルノ等がいい例だ。

彼らは首輪が爆発した程度では本来ならば死なない。傷は負うものの、時間が経てば再生してしまう。
特にワザップジョルノなどは特異中の特異だ。
なんせ身体のない、どころかそもそも『命』というものが存在しないネットミーム。
それをジョルノ・ジョバーナに酷似した形で出力しているだけに過ぎない存在だ。

そんな彼らのような例外を死に至らしめる為の紋章である。
紋章は首輪の爆発をスイッチとして発動する『存在』つまりは『魂』を消し飛ばす代物である。

この紋章は魂を弄る能力を有する蘆屋道満とメフィスとフェレスの合作であり、彼らの技術の髄を凝らした代物である。
彼らだからこそできる魂の直接破壊。故に、身体の頑強さに関わらず如何な参加者をも死に至らしめることができる。
ネットミームであるワザップジョルノもまた、彼もしくは彼女の書き込みという存在(データ)を破壊すれば死に至らしめられるのだ。


佐神善が首輪の爆発で死に至ったのは、正確にはこの紋章の力によるところが大きい。

だが、即死せずこうして暴れまわっているのは一つのカラクリがあった。
主催側が参加者として連れてきた『佐神善』は正確には『佐神善を真似た超越者』である。
長年の間真似をし続けてきた所為でその記憶も魂も大半は『佐神善』にはなったが、残る超越者としての部分は消しきれなかった。
いわば、『佐神善』と『超越者』の融合体がいまの彼と言えよう。

故に、紋章で『佐神善』の部分は消滅させることができても、残る超越者の部分は消せず。
しかし、再生能力があるとはいえ、存在の大半を消された生物が無事でいられるはずもなく。

満身創痍の身でありながらも漏れ出しどうにか形どったのが今の異形の存在である。
故に、真祖にも匹敵し得るポテンシャルを持ちながらも、既に余命いくばくもない瀕死の手負いの獣。
堂島と童磨が終始有利に立ち回れたのも、彼の消耗が既に大きすぎたのからだ。

そんな彼が己の復活の為に欲したのが、純粋に吸血鬼以上に再生能力の高い童磨と堂島正のD・ナイトである蘇生。
特に、後者の遺灰物ですら治してしまう能力を模倣し完成させれば身体の崩壊すら戻せた可能性が高い。
それらの、崩れてゆく身体を一時的に埋めることが出来るモノがあれば、例え『佐神善』の部分が削がれようとも、極上の餌である真祖を食らうことで完全な復活を遂げられる可能性が生まれてくる。

故に、彼は食らう為に戦った。
復活を果たすために。輝ける『闘争心』を取り戻すために。

そして、今。

本命の餌のための前菜としてようやく手にしたソレを喰らうために向けられた牙は。

届くことなく背後から貫かれてその役目を果たすことなく終えた。

602 「だからわたしは」(後編) ◆ZbV3TMNKJw:2022/06/17(金) 23:12:50 ID:tWaKxU9Y0


『佐神善が生きている』

この情報を聞いた時、彼女は思った。
これは罠だと。

彼女は既に似たようなケースを知っている。

魔女と化した親友の美樹さやか。
消耗と絶望の限界値までソウルジェムの穢れを溜めきってしまい魔女となった彼女は生きてはいた。
しかし、それはあくまでも魔女が生きているだけであり、『美樹さやか』を戻す方法などどこにもなかった。
だから同じく友達である暁美ほむらは手を下さざるを得なかった。
不本意ながらも、それでもこれ以上さやかに犠牲を重ねさせないためにも。

今回も同じだ。

喰われかけて思い知らされたが、アレはもう『佐神善』ではない。
素性は知らないが、魔女となったさやかに近しいモノを感じた。

それでも彼女は思った。
アレが怪物と化しても『佐神善』であるならば。
殺し合いに乗るのを止め、死んだときには感情を収められなかった彼に。
まるで親友か息子のように大切にしていたであろう堂島正に、アレを殺させてはいけない、と。

だから彼女は残る魔力を集中させ、矢を放った。
堂島に手を汚させないために。善に人殺しをさせないために。
その果てに堂島からの刃が待っていようとも。

私は、あの人たちを救いたいと。

放たれた弓矢は、生物の頂点の残滓を貫き―――破壊した。


再び灰と化していく彼の身体の向こうから、息を呑み目を見開く堂島の視線を受け止め。

呆気にとられる真島と結衣の方へと振り返ると。

鹿目まどかの頬を伝う涙は止まらず。

ぴしり、と心が壊れるような音が聞こえた、気がした。

603 「だからわたしは」(後編) ◆ZbV3TMNKJw:2022/06/17(金) 23:15:23 ID:tWaKxU9Y0




王は待っていた。

王の愛した『輝く人』以外に繋がれた存在に気が付いてから。

誰よりも己に等しい存在との邂逅を待ちわびていた。

会いに行きたい衝動を抑え、約束に従い座して待っていた。

「......」

けれど。

一度繋がってしまったからだろうか。

なんとなくわかってしまった。感じ取ってしまった。

どこか遠くで、果ててしまったような、そんな奇妙な感覚を。

もう、二度と彼とは会えないのだろう。

その遠方の地の友人を喪ったような感覚を少し寂しく思うけれど、それでも彼は変わらない。

例え、退屈そうにしていると思われる眼差しでも。

灰の世界で輝くものを、かつての美しい人間を求めて。

いまもなお、王は王らしく。座して『彼ら』を待ち続ける。

604 「だからわたしは」(後編) ◆ZbV3TMNKJw:2022/06/17(金) 23:16:18 ID:tWaKxU9Y0
何度も申し訳ありません、一旦ここまでで投下を区切ります。
最後のパートは近い内に投下します。

605 ◆ZbV3TMNKJw:2022/06/24(金) 23:50:49 ID:WLkV25LM0
投下します

606薄明のモノローグ ◆ZbV3TMNKJw:2022/06/24(金) 23:52:04 ID:WLkV25LM0
―――カナカナカナ...

「っ!?」

ひぐらしの鳴き声が木霊し、目が覚める。
視界に入ってくるのは見慣れた天井。
使い慣れた布団。
吸い慣れた空気。

「どうなさいましたの、梨花」

聞きなれた、あの子の声。

「さと、こ」

思わず彼女の名前を呼ぶ。
ずっと支え合ってきた。
何度も別れてしまった。
それでも愛しい愛しい、彼女の名前を、北条沙都子の名を。

「汗、ぐっしょりですわね。大丈夫ですの?」

私の枕元に立ち、額に顔を寄せ、掌で熱を測ってくれる沙都子。
そこにはいつもの温もりがふんだんに込められていて。
オヤシロ様の名を口に腸を割いてきた彼女の姿はどこにもなくて。
その姿がとても愛おしくて。

「沙都子...ぐすっ」

気が付けば、私は涙を流し、嗚咽を漏らしながら彼女に抱き着いていた。

607薄明のモノローグ ◆ZbV3TMNKJw:2022/06/24(金) 23:52:37 ID:WLkV25LM0
「りっ、梨花!?」

彼女はそんな私に戸惑いの声を漏らしたけれど、ほどなくしてぽんぽん、と優しく頭を撫でてくれた。

「なにか抱えているなら話してくださいまし。私たち、ずっとそうやってきたでしょう?」

そうだ。
私と沙都子はずっと寄り添って暮らしてきた。
両親がいなくなり、自分と自分にしか見えない羽入だけになってしまった寂しい部屋。
沙都子はいつもそこにいてくれた。寂しさを埋めてくれた。
百年にわたる惨劇のループも、彼女がいてくれたから折れずに耐えられた。
全てを話せない私は、大好きなみんなにも幼子の仮面を被っていたけれど、それでも沙都子がいない生活なんて想像もしたくないくらい大きな存在だった。

「怖い夢を、見たの」

だから私は吐き出した。しどろもどろで断片的ながら、それでも出来る限りの本音を。

「夢ですの?」
「私が自殺しようとしてて、おじさんに止められたかと思ったら変なコロネに付きまとわれて、変態女たちと吸血鬼の戦いに巻き込まれて、妙な怪物にコロネたちと立ち向かって、変態女にペロを改造されて、コロネにキスを強要されて、それで...!」
「そ...それはまた随分と愉快な夢ですわね」
「愉快なんかじゃない!」

沙都子の相づちの言葉を私は強く否定する。
傍から聞けば、いつもの部活の延長にも聞こえなくもない。
実際はあんな楽しく緩いものではなく、もっと悍ましく惨たらしい惨劇そのものだ。
けれど、怖いといったのはそこではなく。

「そこにはみんながいなかったから...沙都子がいない世界なんて、私は絶対に嫌なの!」

いつもの惨劇とは違い、優しくしてくれる人はいた。
頼れる人もたくさんいた。

けれど、そこには自分の知る人たちは誰もいない。

羽入も。
圭一も。
レナも。
魅音も。
詩音も。
赤坂も。
入江も。
大石も。
富竹も。

あの祭囃子のように惨劇を打ち壊し、私を救ってくれた人たちは誰もいなかった。
そして沙都子とも入れ違いですれ違ってしまい、会うことは叶わず。

そんな世界を嘘でも愉快だなんて言えるはずもない。

「今の言葉...すごく嬉しいですわ。貴女の中には、まだちゃんとあの時の思い出が生きているんですのね」

かけられる声に、私はふと顔を上げ、首を傾げる。
沙都子は私とは仲良しだ。
優しくしてくれることもしょっちゅうある。
けれど、いまの彼女からかけられた言葉は、普段の温もりとはどこか違う気がした。

「沙都子...?」
「梨花。たとえこれから先、どんなことが起こっても、必ず私を見つけてくださいまし。
私はいつでも貴女を笑顔で待っている。貴女の居場所は、私がずっと守っていますから」

「沙都子、なにを言って―――」

「どんな形でもいい。必ず勝ってくださいませ、梨花。私は―――『私たち』はソレを祈っていますわ」

パチン、と沙都子が指を鳴らすと、温もりも安らぎもなにもかもが消え去って、私の意識はぷつんと途切れた。

608薄明のモノローグ ◆ZbV3TMNKJw:2022/06/24(金) 23:53:03 ID:WLkV25LM0



「―――はッ」

目が覚める。
凄まじい倦怠感に身体が襲われる。

「目が覚めましたね、古手さん」

かけられる声に顔を向ける。
金色のコロネ髪に濃ゆく凛々しい顔立ち―――ワザップジョルノが梨花の目覚めを迎え受けた。

「え...あれ...?」

梨花がキョロキョロと周囲を見回すと、そこは見慣れぬ民家の光景で。
沙都子も自宅も影も形もなかった。

「夢...だったのね」

梨花から深いため息が漏れる。
あの温もりが夢幻で、悪夢としか形容できないこちらが現実だというのだから仕方のないことだ。

蛇口からコップに水が注がれ、カラン、と氷の音が鳴る。
冷えた水道水をジョルノに手渡された梨花は、それを呷り喉を潤す。

「ふぅ...それで、なにがどうしてこうなったのかしら」

周囲は静けさに包まれており、部屋の中にいるのは二人だけ。
堂島も。真島も。まどかも。プロシュートも。ドレミーも。結衣も。善のような怪物も。童磨も。累の父も。
誰一人としてこの場にはいない。
梨花が覚えているのはドレミーに体力を吸われつくしたところまでだ。

「そうですね...順を追って説明しましょうか」

ジョルノは、梨花が気絶してからの顛末をポツポツと語り始めた。

609薄明のモノローグ ◆ZbV3TMNKJw:2022/06/24(金) 23:53:24 ID:WLkV25LM0


どろり。

真島と結衣は空気が濁っていくのを肌で感じ取った。
警鐘をかき鳴らす本能が二人の肌を粟立たせ、すぐにこの場を離れろと訴えかける。

一般人である二人の対応は殊更に異なっていた。

「え...?え...!?」

ただただ戸惑う結衣と。

「...ッ!」

まどかを凝視し、即座に脳髄をフル回転させる真島。

二人の差は、原因を知っているかどうか。
真島はまどかからソウルジェムの穢れが溜まり切った時、魔女になると聞かされている―――その対処法も。

(魔女が生まれる前にソウルジェムを破壊する―――だがそれは...!)

ソウルジェムは魔法少女の命そのもの。破壊すれば即死に至る。
だが、ソウルジェムの浄化に必要なグリーフシードもあとわずか。
まどかの変身すら解けかけている今、浄化したところで焼石に水だろう。

(どうする。どうすれば...ッ!)

極限の中、真島が取っていたのは、ボクシングの構え。
両の拳を握りしめ、眼前に構えるファイティングポーズ。

(そうだ。今なら俺でもやれるはずだ)

狙いを澄まし、左のストレートを放つ。
狙う先はまどかのソウルジェムではなく、彼女の顎。
変身が解け、戦闘態勢にも入っていないまどかはその拳を無防備で受け、脳震盪により意識が遮断される。
ぐらりと倒れ行くまどかを抱きかかえ、ソウルジェムになけなしのグリーフシードを使用。
穢れが吸い取られたことで、淀んでいた空気も緩和され、真島はふぅと一息を吐く。
ソウルジェムは魔力の消費と精神の在りようで濁っていく。
ならば意識が途絶えれば一時的には濁りも収まるのでは―――その考えは当たっていた。

(だが楽観視はできん。問題を先延ばしにしただけだ)

幾らかは穢れを浄化できたものの、それでもソウルジェムの濁りは八割を超えている。
これではすぐに限界が訪れてもおかしくない。
他にグリーフシードを持っている者はいないか確認しようとしたその矢先だ。

610薄明のモノローグ ◆ZbV3TMNKJw:2022/06/24(金) 23:53:43 ID:WLkV25LM0
「ヴァアアアアアアアア!!!」

雄叫びと共に、巨大な影―――累の父が突貫してくる。

「ッ!」

真島は咄嗟にまどかを抱え、横合いに転がる。
来る追撃に備え、拳を構えようとするか、標的の姿はそこにはない。
累の父は堂島の前、正確に言うなら灰だまりのもとに膝を着きガサガサと灰の山をまさぐっていた。

「ムスコ...ムス...!」

灰となった命はもう戻らない。
その事実を拒絶するかのように、累の父は息子を呼びながら一心不乱に灰をかき集める。

彼の使命はその身を賭して息子を護ること。
その『息子』が死んだ。
使命という存在理由を喪った父は、掌の中で掬った灰が飛んで消えると、ポロポロと無数の眼から涙を流し始める。

「オオ...オォォォオォォォ!!!」

その姿に先ほどまでの威圧感はどこにもなく。
現実を認められないと今にも蹲りそうなほどに縮こまるその姿は、怪物ではなく、今まさに息子を喪った父親のような姿で。

そんな姿が、息子を喪い嘆く己に重なり、眼前に蹲る敵に対して、堂島正は剣を振るうことができなかった。

人間とは感情の生き物だ。
どれほど同じ過ちを犯しても、いざという時に繰り返してしまうことは稀ではない。
ほんの少しでも呼ばれた時間が違えば、堂島は躊躇いなく累の父を斬れただろう。

だが、今の彼にはできなかった。
自分の姿と重なってしまった相手にはどうしても微かな躊躇いが生じてしまう。

その隙が、不測の事態を再び招く。

611薄明のモノローグ ◆ZbV3TMNKJw:2022/06/24(金) 23:54:21 ID:WLkV25LM0
「血鬼術 凍て曇」

灰の山より雪風が舞い、堂島と累の父へと襲い掛かる。
塞がれる視界と凍てつく身体に二人は怯み動きを止める。

その刹那。

シャッ

累の父の頸に鋭い痛みが走り、遅れて鮮血が散り頭部がゴロリと落ちる。
ぐらつく身体が地に突っ伏す寸前、影が躍りかかる。
その正体は、上半身だけになった童磨。
彼は累の父の肉体へと飛び掛かり、そのまま己の身体に捕らえ吸収していく。

鬼の捕食方法は二つある。
一つはそのまま殺し、肉を咀嚼し体内に取り入れる従来の捕食。
もう一つは、口を使わず直接肉体の中に取り入れる吸収。
偉業に食われたものの、牙が首に届いておらず、辛うじて一命を取りとめた童磨は、その吸収により累の父を捕食しているのだ。

斬りかかってくる堂島に血鬼術で牽制をかけると、童磨はまだ吸収しきっていない累の父の身体を無理やり操り、あっという間に逃走してしまった。


「......」

静寂を取り戻した戦場で、堂島は周囲を見回す。
ワザップとドレミーは―――生きている。
彼らも自分たちが見逃されたことが不思議だったようで、唖然としていた。

真島と結衣たちもまだ健在だ。

犠牲者がいないことを確認した堂島は、逃げた童磨を追おうと踵を返す。

「待て!」

呼びかけられる声に堂島は足を止める。
振り返ると、真島が息を切らしながらもこちらに走り寄ってきていた。

「頼む―――鹿目を助けてやってくれ!」

辿り着くなり、真島は堂島に縋りつく勢いで堂島に求めた。
彼はこの数時間で思い知らされた。
どれだけ強く願おうが、この戦場では力なき者には叶える権利などないことを。
それはシークレットゲームでも同じことだった。
暴走する粕谷瞳にいくら結衣が訴えかけても止まらなかったのがいい例だ。

「俺ではこの殺し合いからあいつを護りきるのは無理だ。それは痛いほど思い知らされた」

結衣やまどかの優しさは必要であれど、それを護る力もまた必要だ。
真島にはそれがない。
堂島のように、異能に対抗できるだけの純粋な力が。

「お前の力が必要なんだ。俺はどうなってもいい...頼む、あいつを助けてやってくれ...!」

真島は地に額を擦りつける勢いで頼み込む。
その光景は、堂島にとって慣れ親しんだ光景でもある。
医者として、重傷の患者を手術する時に、親族や関係者が頭を下げ縋りついてくるあの光景だ。

「......」

堂島は無言でまどかを見やる。
彼女は善を殺した。
けれど、薫の時とは違い、まどかへの憎悪は湧かなかった。
わかっていたからだ。
自分を助けるために、彼女はその手を汚したことは。

だからだろうか。真島の必死な訴えに応えたいと思ってしまったのは。

「...ひとまず彼らを交えて話をしよう。何事も決めるのはそれからでも遅くないはずだ」
「っ...恩に着る」

堂島の返事を聞いた真島は、唇を噛み締め、これでも足りないと言わんばかりに深々と頭を下げるのだった。

612薄明のモノローグ ◆ZbV3TMNKJw:2022/06/24(金) 23:55:07 ID:WLkV25LM0



「そうして、僕らは三島と薫さんの簡易的な埋葬をした後、僕のスタンドで皆の怪我を直し腰を据えて情報交換をしました。
終わるなり真っ先に席から離れたのはプロシュートです。彼は能力である老化ガスが集団の中では本領を発揮できないからと理由をつけて離脱しました。
荻原さんはそんな彼を一人にはしておけないと、ドレミーに泣きつき共に後を追いました。
堂島は今のうちに童磨やエスデスを叩いておきたいと席を立ち、真島とまどかを連れて抜けました」
「そして残されたのが私たち...ってことね」
「ええ。本当なら無理を言ってでも纏まって行動したかったんですが、なにせこの殺し合いには時間制限がある。
多少のリスクは被った上で動かなければたちまちにゲームオーバーですから」

飲み終えたコップに再び水が注がれ、梨花もまた再び水を呷る。

「...それとは別で、聞きたいことがあるのだけれど。放送があったのよね」

瞬間、ジョルノの顔が微かに強張った。
自分が聞きたいことを察し、その答えも良くないものなのだろうとは悟ってしまった。
けれど聞かなければならない。
漠然と残る不安を、確かなカタチに正さなければいけないから。

「沙都子は、呼ばれたの?」
「...ええ」
「......!」

ジョルノの返答に梨花は息を呑む。
やはりだ。
あの夢は虫の知らせとでも言うべきなのだろうか。
覚悟はしていたが、それでもやはり大好きな親友が死んだ事実は梨花の心を締め付ける。

「...沙都子」

今の彼女についてはわからないことばかりだ。
エスデスを殺すつもりで仕掛けたり。
ジョルノの考察で自分を苦しめる黒幕の可能性が浮上してきていたり。

けれど、それでも梨花は沙都子を嫌うことはないだろう。

例え黒幕でも、事情を聞き、罪を赦し受け入れるだろう。
それほどまでに梨花の中では彼女の存在は大きかった。

だから、幾度となく彼女の死を経験していても、いつだって悲しみ嘆いていた。

『なあ、嬢ちゃん。百年も頑張ってきたやつにいうことでもねえのかもしれねえがよ...最後まで抗ってやれ。
ずっと、ずっと抗って...最後にゃあの主催連中も、嬢ちゃんの件の黒幕とやらも、全員ぶちのめして笑ってやろうぜ』

最期に遺された英吾の言葉が過る。
己の掌を見つめ、それに応えるように力強く握りしめる。

(ええ、そうよ。私は絶対に折れない。抗って、抗って、抗いぬいて。奇跡を起こして、こんなくだらない惨劇の舞台を壊してやる)

そしてその果てに沙都子の真実を掴み取る。
それが自分と対立するものであれば、いつかのカケラの圭一とレナのように全力でぶつかり合って、汗だくのどろどろのくたくたになって赦し合うのもいいかもしれない。
そして最後には共に高らかに宣言してやるのだ。
悲劇など知るか、惨劇など知るか。お前たちが喜ぶ悪魔の脚本なんて、私たちがぜんぶけっ飛ばしてぶち壊してやる、と。

「...ワザップジョルノ。私の事情を知った上で残っているということは、覚悟しているのよね?」
「当然ですよ。主催陣はワザップにガセネタを投稿した連中もろとも刑務所にぶち込みます。たとえこの命に代えてもね」
「そう...成り立ちはどうあれ、貴方も悪意の脚本に踊らされた被害者だったわね」

梨花はゴシゴシと掌で顔を拭き、そして上げる。

「行くも地獄、退くも地獄。...僕と一緒に、地獄の果てまで付き合ってもらうのですよ」

にぱー☆と朗らかな笑顔になる梨花。
それは雛見沢で被り続けた幼子の仮面。
今後、初対面の参加者にはこちらの方が都合がいいという狸演技だ。

「その意気です。裁判は根気と演技力との勝負...僕ら原告側が諦めない限り、チャンスは何度でも訪れますからね」
「みぃ...僕は裁判の仕組みはよくわからないですが、覚悟してくれるならなによりなのですよ」

突き出されるジョルノの拳に、梨花もまた拳を突き出しちょこんと触れる。

―――これから先、協力してくれた参加者たちとどれほど再会できるかはわからない。
もしかしたら、自分が先に斃れるかもしれないし、仮に残っていてもあの時の面子は誰もいないかもしれない。
それでも彼女は願う。

あの祭囃子のカケラのように、再び共に集えることを。
惨劇の舞台を共にひっくり返せることを。

かつて信じた奇跡を起こしてやると、彼女は強く願う。

613薄明のモノローグ ◆ZbV3TMNKJw:2022/06/24(金) 23:57:12 ID:WLkV25LM0
―――さて。

古手梨花は忘れているが、ワザップジョルノにかけたふういんの杖の効果はとうに切れている。
だが、今の彼は嫌疑をかけた梨花と二人きりだというのに全く暴走状態になっていない。
それは何故か。

そもそも。
『ワザップジョルノ』が元来のジョルノ・ジョバァーナに比べてなぜパンナコッタ・フーゴ並みに怒りやすくなっていたか。
それは、彼がミーム概念でありながら『怒った口調がジョルノっぽい』くらいしか情報が無いからだ。
発信者の身長がどれくらいなのか、友好関係はどれほどあるのか、住所は、年齢は、性別は。
そう、なにもわからないのである。
だからこそ一番近しいジョルノ・ジョバァーナに象られた結果、ジョルノの形をしたワザップに憤った配信者となったのがワザップジョルノである。
比率で言えばワザップ:ジョルノ=7:3くらいのものだろう。
ふういんの杖はその『怒りっぽい』という特性を封じることでこの比率をジョルノ寄りにすることで彼を制御した。
ではふういんの杖を使わず、このワザップの比率を下げ、ジョルノの比率を上げるにはどうすればよいか。
情報を当てはめ、ジョルノの成分を強めればいい。

その際に最も重要なのはなんだ。
年齢?
血液型?
身長?
体重?
スタンド?

どれも違う。
極端な話、身長や体重、年齢や血液型は一見では判断しづらく、後から公表される情報で他者からも認知されるようになる。
それ以上に「これがジョルノ・ジョバァーナだ」と認識されるの必要なのは、性別だ。
ジョルノ・ジョバァーナはDIOの息子という本編ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風におけるセールスポイントがある。
DIOの息子という以上、ジョルノは男でなければならないし、媒体によって声帯が女性であることはあれど、だからと言って少女と扱われることはない。
だが単なる有機体ではなく、ミーム概念であるワザップジョルノには性別がない。
発信者が男とは限らないからだ。
ならばどうすればいいか―――ワザップジョルノは男であると確定すればいいのだ。

そのヒントになったのが、執拗に下半身関係の発言をするミスティとの戦闘だった。
彼女は人体を改造することで性別すら越えることが出来る。
女性なのに生やされたエスデスなどいい例だ。彼女の場合、ふたなりに扱われるが、それは女体であるからだ。

それはつまり―――、一見では男でも性別があやふやなワザップジョルノにも、陰茎を生やせば男性であることが確定され、男性であることが確定されればジョルノ・ジョバーナの成分はより強くなるということ。

だから彼は生やした。
折れた拳や骨の部品を作るように、生命を与え、なにもなかった股間に男性器を植え付けた。

結果、性別不詳だったために偏っていたワザップとの比率が、ジョルノに傾いたのだ。
これにより、登場時のワザップジョルノほどは怒りっぽくなく、比較的冷静に言動できるようになった。
『ジョルノ・ジョバァーナ』っぽいワザップ概念ではなく、『ワザップ概念』っぽいジョルノ・ジョバァーナにクラスチェンジしたのである。

そんな経緯を語ることも尋ねることもなく。

悪意による惨劇に踊らされてきた二人は、この舞台を壊すべく、改めて結束するのだった。

614薄明のモノローグ ◆ZbV3TMNKJw:2022/06/24(金) 23:58:04 ID:WLkV25LM0


「......」
「ふぅ、ふぅ...」
「...おい、なんで着いてきやがる」

息を切らしながら追いかけてくる結衣をジロリと睨みつけるプロシュート。

「なんでって...兄貴を一人で放っておけるはずがないじゃないですかぁ」
「ドレミー、オメーは」
「行く当てもないですからね。それなら安定感のあるここにしようかと決めた次第ですよ」

返される言葉に、プロシュートはハァ、と深いため息を吐いた。

「『益子薫を助ける』っつー、オメーとの賭けの代償はもう払ったんだ。俺からすればオメーを護る義理なんざどこにもねえんだよ」
「でも、それでなくても兄貴はあたしを助けてくれたじゃないですか」
「...ソイツはただの気まぐれだ。もう事情は変わってんだ。戦えるドレミーはともかく、オメーはただの足手まといでしかねえんだよ」

ワザップジョルノから齎された情報により、プロシュートの行動方針も選択肢が増えた。
予定通りに抗って勝ち取るか―――優勝して、帰還し情報を持ち帰るか。
後者を選んだ場合、先ほどまで集っていた面子はもはや邪魔になっていた。

もとは敵対していたチームの一員っぽいナニか。
気まぐれが故にいつ裏切るかもわからない妖怪。
誰よりも強い力を持ちながら、感情でしか剣を振るえないマンモーニ。
馬鹿みたいなお人よしのガキ共とそれを賞賛し護ろうとする青臭い小僧。
よくわからない小娘。

抗ってゲームを破壊する方面で進めばそれなりには頼れるだろうが、優勝を狙う場合にはなんのメリットもありはしない。
だから、能力の関係上という体裁で一足先に抜けた。

紛い物の鬼は死に、童磨とエスデスという能力の効かない猛者さえ倒してしまえればプロシュートにも優勝の目は訪れるからだ。

だというのに、結衣とドレミーは着いてきた。
変わらぬ調子で、特に結衣は未だに兄貴だなんて呼んで。

「わかったら帰れ。あいつらならオメーの好きな不殺も賛成してくれるだろうよ」
「...それでも、あたしは兄貴がいいんです」

再三拒絶されようとも、結衣は諦めない。
真っすぐにプロシュートを見据え強く言い放つ。

「兄貴が一人になって、誰にも頼れなくなっちゃったら、そんなの寂しいじゃないですか...!」
「...本当にわからねえな、オメーの言ってることは...」

プロシュートは怪訝な顔を浮かべる。

気の迷いで一度助けた程度で、ここまで信頼どころか、こっちを気遣うようなことまで言い出して。
長年組んできたチームでもないのにどうしてそこまで構ってくるのか。
荻原結衣という人間のかたくなさが、本当にわからない。

ならばさっさと殺して支給品なり首輪なりを奪ってしまえばいいではないかとも思う。
プロらしく、必要であれば躊躇いなく殺せるだろう。
だが、鬱陶しさに折れて始末しました、なんて結末は彼女に負けた気分になってしまいそうだ。

そんな己の気持ちにすら振り回される暗殺のプロを見ながら、やはり彼らからはいい夢が見られそうだとドレミーはにたぁと特徴的な笑みを浮かべるのだった。

615薄明のモノローグ ◆ZbV3TMNKJw:2022/06/24(金) 23:58:45 ID:WLkV25LM0


堂島たちが戦った学校の保健室。
鹿目まどかはそこのベッドで眠らされていた。

「なかなか目を覚まさないな」
「ソウルジェムとやらは精神にも影響するんだろう?もしかしたら彼女もそのせいで過眠になっているのかもしれない」
「そうか...」

横になるまどかを心底心配そうに見つめる真島。
そんな彼の姿が気にかかり、堂島は問いかける。

「真島くん。きみはなぜそこまでして彼女を護ろうとするんだい?」

聞けば、真島はまどかとはこの殺し合いで出会ったばかりだという。
だというのに、真島は己の命すら投げ出さんほどの熱量でまどかを護ろうとしている。
普通の人間の身でありながら、彼女以上に前線に立とうとしているのだから、疑問を抱くのも当然だ。

「昔の俺だったら組もうとすら思わなかっただろうな。けれど、俺は荻原に救われたんだ。あいつが俺に初心を思い出させてくれたから、今の俺がここにいる」

真島は簡潔にだが語った。自分がここに連れてこられる前にも殺し合いを強要されていて、その中で荻原の優しさに触れ、かつての願いを取り戻したことを。

「俺や黒河の強さはただ人を傷つけるだけのものだった。けれど、荻原や鹿目の強さはソレとは違う。
こんな戦場に於いても人を思いやれる優しさこそが、誰かを救えるんだと...そんな強さを持った奴らを護りたいと、俺は思うんだ」
「...そうかい」

堂島は、真島へとやわらかい視線を向けつつ立ち上がる。

「真島くん。きみもあまり気を張らず休むといい。放送で佐神くんが呼ばれなかったことから、エスデスが興味本位で戻ってくる可能性は高いからね」
「...そうだな」

まどかの介抱を真島に任せ、堂島は部屋を後にする。

(本当の強さ、か)

真島の話を聞いて、堂島は思った。
理想的だ。
確かな優しさを持った人間が周囲を救い、人を変え、世の中を良くしていく。
まさに佐神善という少年を通して抱いていた理想の形がここにある。

(そうか、彼女は...似てるんだな、佐神くんに)

堂島はまどかについて知っていることはあまりない。
けれど、これまでの行動を振り返れば自ずと重なってしまう。
普段は弱気だけれど、優しさを芯にした強さはぶれず。
他者を護るために頑固なほどに無茶をして。
いざという時は己の手すら汚す覚悟を抱いている。

(死なせたくないな、彼女たちを)

『俺は殺したのにか』

616薄明のモノローグ ◆ZbV3TMNKJw:2022/06/24(金) 23:59:14 ID:WLkV25LM0
逃がさないと言わんばかりに、死者の声が肩に手を置かれる。

『あいつは許してどうして俺は殺したんだ』
「――――!」

声にならない悲鳴をあげて振り返る。
そこには、切断された己の生首を抱えて佇む益子薫の姿があった。

『そうやって貴方は選り好みするのねぇ』

また別の声が纏わりつく。
堂島が心臓を貫いて殺したミスティが、胸元から切断面を覗かせ大量の血を流し立っていた。

『人を助ける為に残って洗脳された薫ちゃんは貴方にとって悪党で、自分の意思で殺したあの子は悪党じゃない。
やってしまったことは同じなのに、貴方の好き嫌いで死ななきゃいけないなんて、なんて可哀想な薫ちゃん』
『それが貴方でしょう。感情任せにしか剣を振れない、ヒーロー気取りの殺人鬼。認めなさいな、貴方に誰かを救うことなんてできないと』

クスクスと嘲笑うミスティと霧島の声が、堂島の擦切った精神をさらに疲弊させていく。

(私に...どうしろと言うんだ...!)

『簡単なことよぉ』
『俺たちみたいにその剣で身体をぶったぎって』
『何も為さずにさっさと死ね。それが貴方が死者に報いる唯一の方法ですよ』

「...!」

虚空に向けて、幻影をかき消すように腕を振るう。

「死者は黙っていろ...私は救うんだ...そのためにヒーローに...!」

自分に言い聞かせるように呟く堂島。
そんな彼の背中は余りにも小さく、誰よりも頼りなかった。

617薄明のモノローグ ◆ZbV3TMNKJw:2022/06/24(金) 23:59:37 ID:WLkV25LM0


(ようやく吸収し終えたよ)

童磨はふぅ、と息を吐く。
噛みちぎられた下半身はある程度復活し、大雑把にではあるが元の身体もほとんど再構築されていた。

「いやあ驚いたなぁ。まさかあんなにも再生が遅くなるとは思わなかったし、もう少しズレて牙が頸に食い込んでたら死んでたかも」

童磨が一命を取りとめたのは幸運という他なかった。
堂島が蹴飛ばしたからこそ食われたのだが、その威力の調整がなく、首を噛みきられず上体だけ飲まれたからまだ生き延びており。
累の父が近づいてきてくれたから、彼を吸収することが出来て。
まさに薄氷を履むが如し。
どれか一つでもズレていれば、童磨はこの殺し合いから退場していただろう。

「ありがとう名前も知らぬきみよ。累くんが生き返っていたら、きみの雄姿はしっかりと伝えてあげるからね!」

吸収の際に手に入れた首輪に語り掛ける。

「さて、再生も無事に始まったことだし、終わったらまだまだ救ってやらないと」

童磨は呑気に両腕を伸ばしながら待つ。
哀れな参加者たちを救うために。勝ち残り、教祖と鬼としての役割を果たすために。

名もなき鬼は誰にも惜しまれることなく、そんな鬼の糧となった。
童磨が思い出さなければ、誰も彼を惜しむ者はいない。
それが、父という役目を果たせなかった紛い物の鬼の末路だった。

618薄明のモノローグ ◆ZbV3TMNKJw:2022/06/25(土) 00:01:51 ID:JIg/8b1Y0
【????@血と灰の女王 死亡】
【累の父@鬼滅の刃 童磨により吸収され死亡】




【C-4/一日目/朝】

【童磨@鬼滅の刃】
[状態]:疲労(大)、至る箇所の欠損(累の父の身体捕食により再生中)
[装備]:鉄扇×2(片方ほぼ融解)@鬼滅の刃
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2 妖弦フェイルノート@Fate/Grand Order
[思考・状況]
基本方針:帰るために、力を取り戻すために人を喰らう。
0:ひとまず体力の回復を待ち、そこから堂島達を救いに向かうか準備を整えるかを考える。
1:次会った時こそ美鈴ちゃん達を喰べてあげる。
2:ナスタシアや桐生のような『かわいそう』な相手を『救う』
[備考]
※参戦時期は無限城編よりも前です。
※主催により上弦の弐としての力が抑えられています。少なくとも「結晶の御子」が使えません。
※無惨の呪いの有無については後続の書き手にお任せします。

【B-2/一日目/朝/学校】

【堂島正@血と灰の女王】
[状態]:精神的な疲労(絶大)、疲労(絶大)、身体にダメージ(中)、佐神善の死を受け入れる覚悟(?)
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本方針:生き残り正義のヒーローになる。
0:ひとまずまどかたちと行動する。
1:日ノ元士郎を討つ。そのあとは...?

[備考]
※参戦時期は101話より。

[備考]
※参戦時期はBルート死亡後より
※魔法少女やまどかについて大雑把に聞きました。

【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:出血(大、止血済み)、四肢に引きちぎられかけた青あざ、全身にダメージ(大)、疲労(絶大)、髪の半ばほどを消失、魔力消費(絶大)、気絶
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜3
[思考・状況]
基本方針:誰も死なせず殺し合いを止める。
0:...

[備考]
※参戦時期は3週目でマミを殺した後。




【真島彰則@リベリオンズ Secret Game 2nd stage】
[状態]:疲労(大)、鼻血(止血済み)
[装備]:Jのメリケンサック(両拳)@魁!男塾
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本方針:正しき道を歩む。
0:堂島と共にまどかを助ける。
1:蒔岡彰に興味。やはり玲の弟のようだな
2:荻原なら変わらずやっていけるだろう。

619薄明のモノローグ ◆ZbV3TMNKJw:2022/06/25(土) 00:02:15 ID:JIg/8b1Y0
【B-2/一日目/朝/どこかの民家】

【古手梨花@ひぐらしのなく頃に 業】
[状態] 精神復調、後頭部にたんこぶ、精神的疲労(大)、疲労(大)、ボミオス状態、舌を改造
[装備] いつもの服、インパスの指輪@トルネコの大冒険3(英吾の支給品)
[道具] 基本支給品、不思議な杖三本セット(封印の杖[0]、ボミオスの杖[0]、ふきとばしの杖[0])@ドラゴンクエスト外伝 トルネコの大冒険 不思議のダンジョン
     ランダム支給品(0〜1)
[行動方針]
基本方針:繰り返しを脱する手がかりを掴む
0:生き残り惨劇の舞台を壊す。
1:沙都子...
2:頑張れるだけ、頑張る。
3:三島...ごめんなさい
4:あれは人工呼吸だからノーカン...ノーカンよ...

[備考]
※参戦時期は16話で沙都子に腹を割かれている最中(完治はしています)
※ワザップジョルノ、プロシュートを危険人物と認識しています
※ミスティの黒針の効果で興奮すると感度が増して体力と引き換えに他者の体力を回復させる唾液が分泌されるようになりました。



【ワザップジョルノ@ワザップ!】
[状態]:主催者への怒り(極大)、全身にダメージ(中〜大)、全身やけど、疲労(中〜大)
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜3
[行動方針]
基本方針:主催者を訴え、刑務所にぶち込む
0:梨花を護りつつ脱出への糸口をつかむ。

[備考]
※外見はジョルノ・ジョバァーナ@ジョジョの奇妙な冒険 です。記憶も五部完結まで保持しているようです。
※ゴールド・エクスペリエンスも使えますが、矢をスタンドに刺してもレクイエム化はしないと思われます。
※CVは想像にお任せします。
※古手梨花、北条鉄平、プロシュートを犯罪者と認定していますが、梨花に対してはかなり軟化していると思われます。
※犯罪者の認定は完全な主観です。罪が重いほど対象に対する怒りは大きくなります。
※犯罪者対応は拘束が目的ですが、対応時に手加減はあまりしないようです。
※ワザップ状態が完全に解けてもジョルノ・ジョバーナ@ジョジョの奇妙な冒険にはならないようです。
※梨花の唾液を注入されて体力と怪我が少し回復しました。
※陰茎が生えたことによりワザップ成分よりもジョルノ・ジョバーナ成分が強まり、暴走も比較的緩和されたようです。

620薄明のモノローグ ◆ZbV3TMNKJw:2022/06/25(土) 00:02:53 ID:JIg/8b1Y0
【C-3/一日目/朝】


【荻原結衣@リベリオンズ Secret Game 2nd stage】
[状態]:疲労(小)、後悔、プロシュートに黄金の希望を見出している、悲しみ、堂島への複雑な感情(大)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2、氷
[思考・状況]
基本:益子さんのためにもまずは生き延びる(可能なら益子さんとお買い物をしたい)
0:兄貴を一人にしたくない。
1:益子さん...!
2:兄貴にドレミーさんと私……これが続いてほしいな
[備考]
※参戦時期はepisode Cから 小屋の地下で黒河と心が通じ合う前
※プロシュートが裏の世界の人間だと理解はしています。
※スタンドなどはまだきちんと理解できていません。(なんか、よくわからないけど凄い程度)
※ドレミーの世界(幻想郷)について簡単に知りました。
※この殺し合いが終わったら、益子薫と買い物をする約束をしています。
※支給品の一つ、グリーフシード@魔法少女まどか☆マギカを使い切りました。




【プロシュート@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:負傷(大)、疲労(大)、ところどころに凍傷と裂傷、腹部にダメージ(大)
[装備]:ニューナンブ@ひぐらしのなく頃に 業
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜2
[思考・状況]
基本方針:『情報』を持ち帰りチームに栄光を齎す
0:生き残る。少なくとも童磨・エスデスのような自分の能力が効かない相手が消えるまではゲームに乗らない。
1:ユイ・オギハラ……兄貴……か
2:レオーネの知り合い(アカメ)を探す。あったら言伝を伝える。※C3の貸本屋のこと
3:オレは死んでるのか?それとも、まだ生きているのか?
4:あれがワザップジョルノか...
[備考]
※参戦時期はブチャラティVSペッシを見届けてる最中です。
※此処が死者、特にロクデナシの連中を集めたものだと思っていましたが、結衣の存在やドレミーとの情報交換から今は生者死者入り交えていると推測しています。
また、自分はまだ死んではいないのかとも思い始めています。
※ドレミーとの会話で幻想郷について簡単に知りました。
※ワザップジョルノが護衛チームのジョルノなのか結論を下せず、半信半疑中です。


【ドレミー・スイート@東方project 】
[状態]:疲労(中)全身にダメージ(絶大)
[装備]:夢日記@ 東方project
[道具]:基本支給品×2、ランダム支給品0〜5 氷
[思考・状況]
基本方針:この殺し合いと言う酔夢が導く結末を見届ける
1:とりあえず、プロシュートの後をついていく(襲い掛かってきた者には対処する)
2:参加者が寝たとき、夢の世界へ介入する
3:妖怪とは気まぐれな者ですよ
[備考]
※参戦時期は東方紺珠伝ED後
※メフィスとフェレスも管理者であると気付きました(何の管理者かは、まだつかめていません)
※リリア―ナの刻を止める能力を知りました。
※夢日記より、サーヴァント達や第一部での顛末、・鬼滅の刃の鬼の体の構造・リベリオンズの首輪の解除方法、ギース・ハワードを知りました。
※プロシュートとの情報交換でプロシュートの世界について簡単に知りました。(スタンドの存在など)
※プロシュートのグレイトフル・デッドの能力を理解しています。
※累の父から基本・ランダム支給品を奪いました。

621 ◆ZbV3TMNKJw:2022/06/25(土) 00:03:33 ID:JIg/8b1Y0
投下終了です

622 ◆s5tC4j7VZY:2022/07/13(水) 22:12:53 ID:7FAjw23w0
投下お疲れ様です!
また遅くなりましたが第一放送突破おめでとうございます。
客将も登場して今後の辺獄ロワますます目が離せなくなりました!
英雄の条件
ついに上弦の弐の実力本領発揮ですね!
まどか・ドレミー・真島・プロシュートの連携を血鬼術で次々と対処する姿はまさしく強者の風格が読んでいて感じられました。
しょぼんとハノ字に眉根を下げ、至極残念そうな表情を浮かべるも、すぐに屈託のない笑顔に戻る。
↑いやぁ……この文はもう童麿の姿が鮮明にイメージできました!
ヒーローを目指す堂島にとって胡散臭い宗教と同列されるのは確かに我慢がならないだろうなと思いました。
そして一瞬頭に過ったが、直ぐに失望する先生には本当にせつなさを感じました……
また登場人物たちとヒーローの関連性は巧みな表現で上手いなぁと敬服いたしました。
あと個人的なのですが、ボミオスの杖の効果による梨花の「どおおおおおおお」には吹いちゃいました。

決壊戦線シリーズ
ついに訪れたギースとロックの出会いと戦い。
名簿が発表されたときから、もうこれは実現させるしかないでしょと思っていたので、読む前からワクワクしておりました。
そして、読んでいる最中自分の過ぎさりし少年心が燃えました!
「ロック、なぜ勝てないか教えてやる。お前は餓えを知らない。
 餓えを知らぬ狼が餓えた狼と対等であるはずがない。それだけだ。」
「即死させては実感が薄いだろうからな。今は手だけで済ませてやろう。
 ロック。これが動機だ、それが執念だ、それこそが餓えだ……覚えておけ。」
↑ギースなりの息子へ教える父の姿が見えました。
「───多分なんだがな。
『どんな状況でも真っすぐ前を見ていること』が、餓えた狼だと俺は思う。」
↑それに対するロックの返事がまた痺れました!
吸血鬼態ギースとインクルシオロックの超常バトルにさらに燃えるだけでなく最後のギースとロックの写真はもうエモイの感情しか残りませんでした。
一方個人的にこの作品で一番、語りたいのは愛により一つの愛の形を知った相葉晄の最後です。
春花がいないからこその迎えた結末だと個人的に思うのとロワコンペにおける単独参戦の良さの極致ではないかと思います。
本当に大作お疲れ様でした。

623 ◆s5tC4j7VZY:2022/07/13(水) 22:13:07 ID:7FAjw23w0
「だからわたしは」 薄明のモノローグ
「えっ、またアレを...?」
「事態は一刻を争うんです!もし貴女がなにもせず傍観するなら罪状を読み上げさせてもらいます。いいですね!」
「〜〜〜ああもう、やるわよ、やればいいんでしょ!」
↑梨花とワザップジョルノのこのやり取りめっちゃイメージ出来るし好きです。
またジョルノではなく”ワザップジョルノ”だからこそのプロシュートへの情報提供はなるほど!と思わずうなりました。
まどかへの体力回復する梨花……萌えました。
ミスティの最高の置き土産ですね。
「ふぅ...ご馳走様でした」
↑ドレミーに漢が見えました!
ワザップを【新入り】と呼ぶのも実にらしいですね。
「プロシュート!ドレミー!僕に力を貸してください!全ては勝利という『栄光』を勝ち取るため!いいですねッ!」
「正直、ここまで付き合う義理はありませんが...まあ、あの紛い物の鬼を排除できるなら手を貸しましょう。旅は道連れ世は情けともいいますし。ね、兄貴さん?」
「念押しするまでもねえ。アイツの面はもう見飽きてんだ...暗殺者の面目が潰れるくらいになぁ!」
↑いいですね……実にいいです。
塁の父も正に参加者にとって鬼であり、物語に華を添えました。
それぞれ別れたチームの行く末が非常に今後も気になりました。

(Zルートでソフィアに返り討ちにされた)軍服の男、藤田修平で予約します。

624その男、軍服につき ◆s5tC4j7VZY:2022/07/17(日) 22:25:24 ID:gG0oySDg0
投下します。

625その男、軍服につき ◆s5tC4j7VZY:2022/07/17(日) 22:25:40 ID:gG0oySDg0
War does not determine who is right – only who is left.
Bertrand Russell

―――ザッ

「ここか……おい、大丈夫か」
「ああ……問題ない」

男たちが到着したのはF-4
そこは、ある悪のカリスマが新たな力を得た場所。
また、とある男子高校生曰く”鬼くびれ大羅漢爆誕の地”
勿論、男たちの目的は聖地への観光ではない。
”力”を得るためだ。
そして、軍服の大丈夫は相手を気遣っている意味ではない。
協定を継続できるかという意味だ。
なぜなら、2人の間に絆という繋がりは微塵も存在しないからだ。

「これが、アイツが言っていた……」

一握の砂ならぬ一握の灰。
それを修平は絶望に染まり切った瞳で握りしめる。
爪が手の皮膚に深く食い込み、血が一滴舞い落ちる。
まるで、涙のように。
枯れた涙の代わりに流れ滴る。

(……)
軍服は冷めた目で修平を見つめ、先の放送直後の出来事を想起していた……

☆彡 ☆彡 ☆彡

626その男、軍服につき ◆s5tC4j7VZY:2022/07/17(日) 22:26:14 ID:gG0oySDg0

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!!」

声にならない慟哭。
身を裂くような絶叫。
放送がブラフだったら。
何度もそう願う。祈る。
だが、頭が理解している。
”琴美は死んだのだ”と。
また守れなかった。

―――ごめん……修ちゃんだけは、死なせたくなかったから
―――ごめんね……修ちゃん

最初はどうしようもなくウザかった。
しかし、いつしかそれが当たり前となり、必要だった。
その声は生きる力だった。

(琴美は俺にとって……ッ!)

この辺獄の名簿にその名が記されていると知ったとき、今度こそ守ると決意したはずだった。
その決意と裏腹に出会うことはなく、放送でその名を呼ばれるのを聴く羽目となった
一体、誰に!?どうやって!?
慟哭と共に湧き上がる疑問と怒り。
怒りの対象。
それは、琴美を死に追いやった相手に、この悪趣味な催しを開いた双子に協力者らしき道化師。
そして、再び琴美を守れなかった己。

「……羨ましいですね、泣ける貴方は。――私は泣くことが出来ないんです。とうに流す涙なんて枯れ果ててしまって」

この殺し合いが開始された直後に出会った女の言葉がふと想起される。
泣けるのが羨ましい?
どこかだ。もう、こんな感情は抱きたくない。
なのに、またこの感情は俺を覆い包む。
幾度も振り払っても纏わりつく。
俺の眼から涙が零れ落ちる。
紅涙を絞る。

そんな修平の魂の叫びを尻目に義手の手入れ並びに支給品の確認をしながら、軍服は思案する。

(……38人か。どうやら俺たち以外にも乗っている奴らは結構いるみたいだな)

119人による殺し合い。
この6時間で大体3割の参加者が死亡したということとなる。
このハイペースで進めば、タイムリミットまでの3日も持たずに優勝者が決まるだろう。

(やはり、乗っている奴らよりも多く物資の確保ができるかが俺の命運を左右するな)

軍服は冷静に状況を整理する。
まず、前提としてこのままでは優勝での生還は厳しいと見通しているからだ。
あの忌まわしいゲームで脱落した身だからこそ楽観視できない。
さらにやっかいなことに参加者には先ほどの鬼といった超常の力を有した者もいることがわかった。
ならばこそ優勝の鍵を握るのは、この見たこともない技術も混ざっている支給品だ。
この童守公園にて先の鬼を撃破した4人組。
あれは、個々の力もあるだろうが、支給品による力も大きかったはずだ。
何も持たざる人間である自分が生き残るためにはやはり支給品の数が必須。
戦場でもそれは証明している。
豊富な物資の継続的供給が戦線を維持して勝利へと導く。
決して”根性”や”友情”で勝利をもぎ取ることなどできはしない。
物資の差を補うために愛国心を胸にバンザイ突撃を繰り返した大日本帝国軍がアメリカに破れたのがいい例だろう。

(それにしても、主催側からこちらに接触してくるとはな……)

正直、目の前にのこのこと姿を現したガキに俺は安堵した。
こいつらは案外たいしたことはないと確信したからだ。
戦場において、大将が前線に出るのは愚の骨頂。3流もいいとこ。
ナポレオンや戦国などの時代なら軍を鼓舞するために前線へ出るのも理解できるが、現代戦において大将がやるべきことは、戦場全体を見通し戦線を維持することに専念すべきだ。
自らを囮とする作戦や奮闘している味方を鼓舞するわけでないならばやはりズカズカと前線に出るべきではない。そうした判断もできない。
そして危険を考えずに悠々と敵兵の前に姿を現すだけでなく他人に作業を任せるなんて、自らの能力不足並びに現場の人材不足を教えているものだ。

627その男、軍服につき ◆s5tC4j7VZY:2022/07/17(日) 22:26:33 ID:gG0oySDg0
(つまり、あのガキ共とピエロはサバゲでいうなら”フィールドスタッフ”というわけか)

サバイバルゲーム……略してサバゲでは、運営スタッフの事をフィールドスタッフと呼ぶ。フィールドスタッフの主な役割はゲーム運営を行い、審判員を務めること。
まさに先の鬼門封じがいい例だ。
しかし、これは殺し合いであって、サバゲではない。
たとえ、己の腕に自信があったとしても、ホイホイ参加者の前に姿を現す必要はない。
そうすると安易に参加者と接触する奴らは稚拙としか評価できない。
そんなに参加者と接したいのであれば、夢の国のキャストにでも就職すればいい。
ジャングルクルーズのスキッパー(船長)とかどうだ?

「まもなくジャングル体験の出発じゃが、おやおやおや……ゴリラが一匹行方不明のようじゃ。お隣を見て、バナナを食べている者はおらぬか確認せよ」

「あんなところに一人寂しくいる可哀想な左の像さんに挨拶しようねぇ〜〜。あはははっ」

色々な意味で人気が出るであることは間違いなしだろう。

(とすると、やはり奴らの他にも”いる”とみていいな)

軍服はこれらの根拠からメフィスとフェレスにディメーンの他に出向かず座している運営者がいると確信する。
ま、もっとも軍服にはどうでもいいことだ。
別に彼の最終目標はこの殺し合いの主催者たちへの打破ではないのだから。

「犬のように吠えて頑張ってるねー……わんわん。
 ソフィアちゃんに殺されたのがそんなにトラウマなのかな?」

(せいぜい、俺を侮れ。俺は俺の存在証明が勝利なのだからな)

見下すように鎮座する赤き月を睨む。
そう、自らの生還。
それこそが軍服の全て。

☆彡 ☆彡 ☆彡

628その男、軍服につき ◆s5tC4j7VZY:2022/07/17(日) 22:26:51 ID:gG0oySDg0

そして、冒頭に戻る。

(琴美……俺に力をッ!!!)

意を決し、頭に灰をかぶる。
人外になっても構わない。
そうでもしないと、人である自分が優勝することは難しい。
俺の未確認だった最後の支給品は、鏡。
はっきりいって外れだ。口内に残るビター味がさらに心を苦くする。
ならやはり縋るしかない。
優勝して琴美を蘇らせる力を得ることができるのであれば、吸血鬼にでもなってやる。

―――バッ

…………

しかし。
修平の身体に変化は何一つ起きなかった。
ただ、灰が虚しく頭上から零れ落ちる。
まるで役目を終えた桜の花びらのように。
シンデレラには、フェアリーゴッドマザーは現れた。
同じように修平にはフェレスが現れた。
だが、フェレスはFairyではない。辺獄を管理するDevil。
修平に舞踏会への参加を与えることはなかった。
灰かぶり男は呆然と立ち尽くす。

(やはりな……)

予想していた顛末。
確証が得られないものなどこんなものだ。
今頃、あのガキは”うふふ……修平ちゃん。愛しい琴美ちゃんのために必死になって……辛くて見てられないよぉ……あはははは!”と嗤っている所だろう。
おそらくこの光景のためにわざわざ提供したのだろう。
つくづく俗物なガキだと思わざるをえない。

(無様だな……)

惨めな青臭さ。
見ていられない。
ため息をつく。
やはり、ああいった感情は生き残るうえで不要だ。
必要なのは、豊富な戦闘経験に大局観や総合的判断力の有無。
愛する者を失い、力を得るなどフィクションに過ぎない。
また愛する者を守り、自分が死ぬなどもっての外。
俺は死なない。必ず生還する。
己に言い聞かせるためか。
口に出す。

「戦場に愛など必要ない。……人生にもな」

【E-4/1日目/朝】

629その男、軍服につき ◆s5tC4j7VZY:2022/07/17(日) 22:27:10 ID:gG0oySDg0

【(Zルートでソフィアに返り討ちにされた)軍服の男@リベリオンズ Secret Game 2nd stage】
[状態]:健康
[装備]:ガッツの義手(ボウガン、大砲付き)、クロスボウ@現実 関の短刀@忍者と極道 バクダン岩のカケラx5@ドラゴンクエスト8 
     US M84 スタングレネード@PSYCHO-PASSシリーズ
[道具]:基本支給品×3(フェザー・絶鬼)、神戸しおの靴下@ハッピーシュガーライフ パンツァシュレッケ@ドラゴンボール
[思考・状況]
基本方針:生き残る。
1:参加者を襲撃し装備を増やす。
2:修平と組んで不要な参加者を減らしていく。それと背中を撃たれないように警戒も怠らない
3:ムラクモと言う男が持つ刀(村雨)を手に入れる。
4:戦場に愛など必要ない……人生にもな
5:運営共は意外とたいしたことないかもしれんな
[備考]
※参戦時期は死亡後です。
※考察からフェレスとメフィスさらにディメーンの他に中心人物がいると睨んでいます。

【関の短刀@忍者と極道】
絶鬼の支給品。
破壊の八極道の一人である夢澤恒星が所持している短刀(ドス)
ただの短刀ではなく極道から誕プレされた国宝級の刀匠による別注品。
匠の技で作られた短刀は祭下陽日による超絶高温でも刀身は無事であるほど。
匠の技って偉大(パネ)ェな…!!!
「ありがてぇ…!!ありがてぇ…!!!極道さんありがてぇ…!!!
充分だ!!!オレにはこいつがあれば…充分だ!!!」by夢澤恒星

【パンツァシュレッケ@ドラゴンボール】
絶鬼の支給品。
世界最悪の軍隊レッドリボン軍の兵器
シルバー大佐が悟空の筋斗雲を撃ち落とす時に使ったロケット砲。 弾は5発分支給されている。
モデルはドイツ軍が使用した「パンツァシュレッケ」
「………こぞう…レッドリボンのシルバー大佐をなめるなよ…」byシルバー大佐

【US M84 スタングレネード@PSYCHO-PASSシリーズ】
絶鬼の支給品。
アメリカで使用されているフラッシュバンや閃光発音筒とも呼ばれるスタングレネード
爆発すると同時にすさまじい閃光と爆音を発し、3〜5秒間ほど周囲の人間の視覚と聴覚を奪う非致死性兵器。
作中ではパスファインダーが使用した。
5個セット

【ばくだん岩のカケラ@ドラゴンクエスト8】
軍服の男の支給品。
投げると、イオ系呪文が発動するばくだん岩のカケラ。
広範囲に爆発する威力を有する。5個セット
「……メガンテ」byばくだん岩

630その男、軍服につき ◆s5tC4j7VZY:2022/07/17(日) 22:28:42 ID:gG0oySDg0
【藤田修平@リベリオンズ Secret Game 2nd Stage】
[状態]:ダメージ(小)、怒り・絶望(大) 頭上に火山灰
[装備]:コルトM1911A1@サタノファニ、
[道具]:基本支給品一式、、ビター・チョコレート×3@クライスタ ラーの鏡@ドラゴンクエストシリーズ
[思考]
基本:どんな手を使ってでも優勝して琴美を蘇らせる。
0:優勝する。琴美を蘇らせる。ただそれだけ
1:軍服と組んで優勝への道筋をつける。最後は殺す
2:どうすれば灰が使えるんだッ……!!!
3:琴美……ッ!!!
4:あの女(零)は……いや、もう今となってはどうでもいい。
[備考]
※エピソードA、琴美死亡後からの参戦です。
※放送で琴美の死を知り、様々な感情が渦巻いています
※このままの状況では、灰が適合することはありません。
※ラーの鏡はただの鏡で外れ支給品と認識しています。

【ラーの鏡@ドラゴンクエストシリーズ】
藤田修平の支給品。
魔法の力で変身した・させられた者を元の姿に戻す働きをもつ。
また、別作品では魔王ムドーの魔術そのもを打ち破って防御するなど強力。
もしかしたら、主催陣の魔術関係をも……?
なお支給品の説明書には”ただの鏡”としか書かれていない。

631その男、軍服につき ◆s5tC4j7VZY:2022/07/17(日) 22:28:56 ID:gG0oySDg0
投下終了します。

632 ◆EPyDv9DKJs:2022/07/18(月) 07:42:01 ID:c6UY3M3w0
投下お疲れ様です
遅れながら感想になります

>英雄の条件
まさに群像劇
誰もが生きあがいてるという強さと、
誰もが同じ方向を見ているわけではない、
人間賛歌を強く感じさせられる話だと思います
しかしその物語の主軸にいるのは鬼とヴァンパイアとゴアと、
人間からかけ離れた側の存在が軸にいたようにも感じます
ある意味と言うべきか、やはりと言うべきかは分かりませんが、
彼を止めるのはやはりまどかなんだなって、何処か落ち着いた気分になりました
ジョルノや梨花がミスティによってなんか色々斜め上なことになったり、
様々な変化と言うのも、この話の軸にあったのではないかなと勝手に思ってたり
プロシュートと結衣の関係がやはりとても好きです。Cルートの黒河さんだこれ

>その男、軍服につき
軍服の解像度の高さに脱帽しますわ
(この男に解像度の高さと言う概念あるのかとかは言わないで)
煽り散らしてきた主催を下に見れる芯の強さは中々のものですね
>だが、フェレスはFairyではない。辺獄を管理するDevil。
>修平に舞踏会への参加を与えることはなかった。
ここのあたりの文章がとても煌びやかに感じて好きです
ビターチョコのように結果は甘くはなく、苦いだけのもの
一部主催は「君は人間のままでこそだよ」とか言いそうですね。勿論ゲス顔で

それはそれとしまして、
少し気になるところと大分気になるところの2点がありまして
拙作の『決壊戦線』においてはまあ大なり小なり戦闘はあって、
特にパンプキンの一撃も病院の破壊はそれなりに目立つものだと思います
(流石に完全者が彼方に吹っ飛ぶ姿を肉眼で見れるかは別なので除外)
なので病院での戦闘を二人が一切気付かず北上できるのは難しいと思います
修平達が気付いて「現状向かっても勝てるか怪しい」と言うことでスルーなら、
別に武装の都合スルーしても特段おかしいとも思いませんので問題はないので、
態々言うことでもないような気はしますが一応念の為

いやまあそれは二の次でして、実際の気になるところは修平の行動でして
拙作における『dread answerまで後僅か』における描写で、
修平は『放送で琴美が死亡してた場合確実に軍服を殺しにかかる』ことを示唆しています
優勝の為には参加者の排除で現状同じ情報を持ち、かつ殺しやすい軍服とも書いてます
(絶鬼を見た都合、ただの人でしかない軍服を戦力とみなせるか最早怪しいでしょうから)
彼がヴァンパイアになったら(フェレスが言うぐらいなら便利な可能性はある)優勝の妨げになる、
という考えには十分行きつくはずですが、そこら辺何もなくて思わず驚いてしまったり

>なんてことはない行為だが、彼等にとっては此処が重要な瞬間でもあった

とも書いていたので戦うとか説得とか何もないまま、
そのまま北上して灰の場所到達とはいかないものになっています
今回もリレーしてくださった上に、前回は特に長々と細々と指摘したのもあって、
少々気が引けてしまうのですが……あ、勿論私が読み取れてないだけならそれに越したことはないです

633 ◆s5tC4j7VZY:2022/07/18(月) 08:59:54 ID:ebabcfo60
感想ありがとうございます。
また、気になる点にお答えします。
お気になさらず。私の不備ですので。

①『決壊戦線』の余波について
正直に申し上げますと、決壊戦線の周囲への影響については頭から抜けておりました。
申し訳ございません。
 辺獄の空に一筋の光が駆け抜けた───
↑軍服がそれを見て、E-4灰、それとムラクモと言う男が持つ刀(村雨)を手に入れる。決意を固める文を追加します。

②『放送で琴美が死亡してた場合確実に軍服を殺しにかかる』示唆について
まず、意図を汲み取れなかったこと申し訳ございません。
私としては→なんてことはない行為だが、彼等にとっては此処が重要な瞬間でもあったの後に書かれていた↓
今が一番簡単に殺せる瞬間でもあると言うことだが、
 もし、支給品で返り討ちに出来るものがあれば別だ。
 修平が今から確認する最後の支給品にも可能性はあるが。
から、軍服と修平の支給品次第ではそこで殺り合わない展開にもいけるかなと読み取りました。
私としては今のままでは琴美を蘇らせられる可能性が低いこと+軍服を殺す行動もとれなかった修平の苦さも込めて↓
俺の未確認だった最後の支給品は、鏡。
はっきりいって外れだ。口内に残るビター味がさらに心を苦くする。
ならやはり縋るしかない。
優勝して琴美を蘇らせる力を得ることができるのであれば、吸血鬼にでもなってやる。
と書きました。

長々と書いてしまいましたが、結論として軍服を殺す行動を思いとどまる文を追加いたします。

634 ◆s5tC4j7VZY:2022/07/18(月) 09:01:45 ID:ebabcfo60
修正案
①『決壊戦線』の余波について

ならばこそ優勝の鍵を握るのは、この見たこともない技術も混ざっている支給品だ。
この童守公園にて先の鬼を撃破した4人組。
あれは、個々の力もあるだろうが、支給品による力も大きかったはずだ。
何も持たざる人間である自分が生き残るためにはやはり支給品の数が必須。
戦場でもそれは証明している。
先ほど一筋の光が駆け抜けた。おそらくあれも支給品の力だろう。
やはり、当初の予定通りヴァンパイアになれるという灰と一撃で屠れるという刀は入手すべきだな。
……まぁ、もっともヴァンパイアになれるというのは胡散臭いが。
ともかく、豊富な物資の継続的供給が戦線を維持して勝利へと導く。

②『放送で琴美が死亡してた場合確実に軍服を殺しにかかる』示唆について

怒りの対象。
それは、琴美を死に追いやった相手に、この悪趣味な催しを開いた双子に協力者らしき道化師。
そして、再び琴美を守れなかった己。
放送で琴美の名が告げられた瞬間、ヤツを殺そうと考えていた。
だが、行動に移せなかった。
軍服の入手した鬼の支給品は当たりだった。
片や、俺の最後の支給品は……
芳醇な武器の数と俺の支給品を天秤にかけた結果、ここで行動に移しても即返り討ちに合うことは必然だ。
今、ここで死ぬわけにはいかない。
力……俺に必要なのは力。

「……羨ましいですね、泣ける貴方は。――私は泣くことが出来ないんです。とうに流す涙なんて枯れ果ててしまって」

以上です。

635 ◆EPyDv9DKJs:2022/07/18(月) 12:25:28 ID:c6UY3M3w0
それらの内容であれば、個人的には特に問題はないかなと思います、
迅速な対応ありがとうございました

636 ◆s5tC4j7VZY:2022/07/18(月) 20:29:00 ID:ebabcfo60
確認ありがとうございます。
また、気持ちよく読ませることができず申し訳ありません。
今後もどうぞよろしくお願いします。

637 ◆EPyDv9DKJs:2022/08/07(日) 19:23:57 ID:lXLW4h9Q0
投下します

638運命のリベリオンズメモリ ◆EPyDv9DKJs:2022/08/07(日) 19:25:53 ID:lXLW4h9Q0
 誰もが命懸けの戦いに身を投じてきた。
 故に、誰もが覚悟していることではある。
 追悼の為の名ではなく、ただ誰かを扇動する為の戯言。
 受け取らないという選択肢もあれど、彼女らにはできない相談だ。
 各々にとって関わりのある人物から、此処で浅からぬ絆を結んだ仲間がいる。
 ただの戯言などと一蹴できる程、彼ら彼女らはドライな性格ではない。

(結構多いな……広さ的に乗った奴が十人程度では足りないよね。)

 とは言え、だ。レオーネは例外になるだろうか。
 殺し屋と言うこの中で一番人の死と隣り合わせに生きてきた身だ。
 だから今更動じることはない。もし動じるとするならば親友一人だけであり、
 そのアカメも健在ではあるし、厄介であるドS将軍もまだ生存している。
 加えて侑、エレンと出会った参加者はとりあえず無事なのもあることだ。
 なので余り感傷には浸らない。なお二人については名前が出てないため、
 合流を急ぐものでもないと判断して放送から得られる情報の方を一先ず優先としていた。

(ま、期待はしてなかったが。)

 はるな、夕月の名には反応するが、
 それ以上の表面上に見えるものはなかった。
 征史郎にとってこれは予想されていたことだ。
 寧ろ、あれで生きていると思える奴は絶対にいない。
 あの文字通りの悪夢のような惨劇は紛れもない現実で起きた。
 不謹慎な言い方に聞こえるかもしれないが、あんな形で人の臓物を生で見るとは思わなかった。
 更にあの鬼くびれ大羅漢(ギースとは名乗っていた)が未だ生きているのは由々しき事態だ。
 三対一、しかもその内二人は明確な異能を以ってしても完全な優位に立つのに難儀した。
 今の戦力では手に負えないし、殺戮を捨ておくしかないというのは歯痒くもある。
 救いがあるならば、アルーシェがまだ存命であるということから移動先は別ルートの様子。
 此方に来ておらず東にも行ってないことから、西か南辺りにでも向かったとみていい。
 アルーシェと合流できればあの怪物や、怪物に比肩する連中相手にも戦えるだろう。
 そう判断してはいるものの、晴れた空でふざけ合ってみたかった仲間はもういない。

(よりにもよって、って感じね……)

 悠奈も精神的には強い人物。
 なので今更喚くことはしないものの、捨て置けない死者もいる。
 英吾や大祐と言った見知った名前もあるが、一番放送を聞いて危惧したのは修平だ。
 琴美はただ一人引き留められる唯一の存在であったものの、またしても命を落とした。
 こうなったら彼は最早止まらない。全員死ぬか、自分が死ぬまで戦い続けるのだろう。
 最初でさえ止められなかったのに、二度も死なせてしまった彼をどうやったら止められるのか。
 想い人である彰が呼ばれてない現状、自分は二度も死なせてしまった立場ではないのだから。
 何を言ったところで生きている側の物言いでしかなくなってしまう。



 各々が様々な考えを巡らせる中、考えることすらできない人物だっている。

「嘘、だろ……?」

 一人膝をついているミスターLがそれだ。
 同志であるドドンタス以上に、主君たるノワール伯爵が逝った。
 あり得ない。寧ろあってたまるかとでも言わんばかりの現実。
 あの伯爵が死ぬことはおろか、たった六時間でなんてことあるわけがないと。
 しかし征史郎の言った仲間の死が正確だ。ディメーンが煽り目的の虚言、
 などと一蹴できるわけがなかった。

(さて……)

 三人の死角にて、ただ一人拳を作っておくレオーネ。
 大事な人が死んで暴走する輩はいくらだっている。知り合いにも暴走しかけた奴はいた。
 同行してると言っても彼と、彼の言う伯爵たちが何をしていたかについては詳しくは知らない。
 ただ悠奈と一緒と言うだけの情報しか得られておらず、彼個人についてはまだ聞いていなかった。
 悠奈の方は先のギースとの戦いで答えを出しているので、信用を置いている方ではあるが。
 もっとも、伯爵の目的が世界を滅ぼすことなので、素性など聞こうものなら瓦解待ったなしである。
 そう、地味にこれは綱渡りでもあった。伯爵を敬愛している人物。
 運よくそれだけの情報しかないからこそ関係を築けてる綱渡りだ。
 脱出の目的も全員で脱出した後ディメーン諸共世界を滅ぼすことになる、
 彼の認識は薄くとも、もし成し遂げられるならば彼の行動はそういった話になるのだから。

「大丈夫?」

 今にも崩れ落ちそうな彼に悠奈が声をかける。
 出会ってからも伯爵の為に行動しようとしていた。
 自分で言う彰と同じか、それ以上に大事な存在なことは伺える。

639運命のリベリオンズメモリ ◆EPyDv9DKJs:2022/08/07(日) 19:27:23 ID:lXLW4h9Q0
「大丈夫、なわけがないだろう。
 我らが伯爵さまを、一体誰がやったって言うんだ。」

 震える声と共に地面に爪痕を残す。
 伯爵達を殺した輩は一体誰なのか。
 放送や支給品ではそれらを判断できる材料はなかった。
 何処の誰かは分からないが、絶対に許すことはできそうにない。

「分かってると思うけど、仇討ちもなしよ。」

 事実上仇でもある貴真であろうとも悠奈は殺すつもりはない。
 自分と行動を共にするということは、当然私怨も認めるつもりはなく。
 もし彼が踏み外すというのであれば、力ずくでも今の道に戻すつもりだ。
 大事な人を喪ったことで道を踏み外すなんて、二度と見たくないから。
 しかし、返された言葉は意外なものだ。

「俺は……伯爵ズの中でも新参者だ。
 だから伯爵様に対する理解はあのディメーンにさえ劣る。」

 ゆっくりと立ち上がり、言葉を紡ぐ。
 震える手からどれだけの憤りがあるかを物語る。

「けどわかる。伯爵様なら『残りの二人と脱出しろ』って命令するはずだ!
 よくは知らないが、ナスタシアやドドンタスは昔に伯爵様に助けられている。
 慈悲深いあのお方が、脱出を考えてない筈がない……なら、答えは一つだろう!!
 伯爵様の遺志を継ぐ! それがあのお方の部下である、俺のするべきことだとッ!!」

 もしナスタシアが聞けば『何を言っているんですか貴方は』とでも言わんばかりの返答だった。
 伯爵は部下に慕われてこそいるが彼女以外には伏せてる事実。自他含めて世界を抹消するつもりでいた。
 滅ぼした後に理想の世界を築くこともなければ、当然そこにはマネーラの言うイケメンパラダイスなんてのもない。
 伯爵自身さえも消滅するという算段であり、ドドンタスやマネーラだってこの事実を知らされていなかった。
 同様に彼もまた真意に気付くことはない。真意を知るものからすれば、愚者が如き滑稽な発言。
 ───しかし。その真意に気付かないがゆえに、いい意味で彼は道を踏み外していたのだ。
 ただ一人、四人の勇者が一人であった彼だけが残った伯爵ズで殺し合いを打破するべく行動している。
 洗脳は解けたわけではない。彼は未だにルイージではなく伯爵ズのミスターLとしての立場のままだ。
 赤は嫌いだし、勇者であるマリオ達一行がもしこの場にいたら、きっと今の状況でも敵対してただろう。
 彼がそのままの状態でありながらもマネーラのように踏み外すことがなかったのは、
 悠奈と言う、ヒーローのような人物に先に出会えていたからなのかもしれない。

「おー言うねー。タツミみたいだ。」

 見当外れもいい所の発言ではあるものの、
 素性を知っておこうかと考えていたレオーネも納得した。
 彼なりの意志が込められた発言に、今更素性など聞く必要もないと。
 一つ聞くだけで終わる可能性を孕んだ事態を、斜め上の形で回避する。

「だが! 殺した奴を数回は殴らせてもらうからな!
 殴るだけで気は晴れないのは分かってるが、そこだけは譲らないぞ!」

「……程々にね。」

 できればそれもなしの方向で行きたかったが、
 主君を殺されて憤らない家臣の方がおかしいと言うものだ。
 それに、同じく大切な人を喪った修平の件もあってか、
 何処か生返事のような風に返してしまう。

「まずは第一目標! 侑って奴との合流を───」

「待つのだ緑の奇行種。」

 走ろうとするミスターLをスカーフを掴んで引き留める。
 そんなことをすれば首が締まり悲鳴が上がるのは自明の理。

「殺す気か!?」

「すまん。咄嗟だったからつい。」

「と言うかいま奇行種と言ったな!
 俺は緑の貴公子だ! 間違えるんじゃあない!」

「詫びに食料であるトマトカレーをやろう。」

「露骨に赤を寄越すな赤を。なんだ征史郎。
 またなんとか条約とか素っ頓狂なことを言うなよ。」

「いやあれは僕の世界に存在する歴としたものだ。
 とりあえずそれは置いといて、放送で名前が呼ばれていないなら今は無事だ、
 向かう前にやっておきたいことがある。そして、それは大人数ではやれないことになる。」

 軽い前置きの後、征史郎が取り出すのは大祐の首輪だ。
 放送前に軽い情報交換はしており、それが彼の物であることは知っている。

640運命のリベリオンズメモリ ◆EPyDv9DKJs:2022/08/07(日) 19:29:34 ID:lXLW4h9Q0
「これをやるのは主催から隠し通すのは不可能だし、
 同時に死ぬ可能性も高い。嫌なら今すぐ見ざる聞かざる言わざる逃げざるだ。」

「一つ多くないか? と言うか逃げてないじゃん。」

「四ざるの時代だってあってもよかろうて。五人目の入隊募集中だ。」

「それ、四ざるの時代ねえじゃねえか……」

「はいはい茶番しないの。
 聞くだけでも主催の考え次第で死ぬかもしれないってことね、何をするつもりなの?」

 此処の三人はその程度で退く気などない。
 と言うより一人の考察程度で死ぬなら、そもそも征史郎を参加などさせないだろう。
 よほどの理由があるなら別だが、彼の世界は悠奈と殆ど変わらぬ一般的な世界だ。
 ただ一つ、何者かの道楽で人の命を奪い合うゲームが存在していたぐらいでしかなく。

「まずこれが本当に爆発するかを確認したい。」

 人を殺すにしては余りにも軽いそれ。
 人の命を握るにしては安さすら感じるシンプルなデザイン。
 これが主催が持つ生殺与奪の権と考えると、余りにも安っぽいものだ。
 だから征史郎は少し思っている。『これで本当に人が殺せるのか』と。
 爆発しないのであれば此処の当事者は全員秘密を知った以上消されるだろう。
 死ぬ可能性が高いというのは、つまりそう言うことだ。
 直ぐに合流しなかったのも余計な被害を出したくないから。
 もし事実を知った奴が抹消されれば、一気に最低でも六人死ぬことになる。
 殺し合いを打破するには余りにも大きく無駄でしかない損失だ。

 首輪の回収の際は盗聴の警戒をしていたが、
 爆破をやる以上絶対に相手に聞かれてしまう。
 いっそ誤認されることでの爆破がないように、あえて正直に行く。
 ついでにこれは不謹慎な話だが、死者が異様に多いというのもある。
 首輪の調達は(残ってるかは別として)さほど拘らなくてもよかった。
 スタンドのお陰で首輪の回収手段もあまり考えなくてすむのも強みだ。

「さて、忙しいのかこの程度は些事なのか。
 向こうが首輪を爆破すると言った気配はなさそうだ。」

 やってもいいんだな、ふりじゃないぞ。
 なんてふざけたことを抜かしながら三人には十メートル程離れ、
 征史郎は爆風を逃れられるように近くの塀にジッパーをつけて穴を開け、
 そこからスタンドで射程を伸ばした拳で地面に置いた首輪を殴ることで実験を行う。
 物質であるならば、首輪がドーナツのように簡単に切り分けられるのだが、

『ンンンンンン! おやめなされ。異能の干渉をすることはおやめなされ!』

 四人揃って『はい?』となるような間抜けな電子音声が流れた。
 初めて聞く男性の声。双子でもなければ、当然ディメーンでもない。
 誰の声だあれは、なんて思いながらもしっかりと瞬時に爆発は行われる。
 爆発の威力は見た目よりも派手で目視は完全にはできなかったが、
 人なら首から上が消失するだろうことが察せられる威力ではあった。
 流石に異能の干渉が拳で殴るという都合、征史郎の手は爆発に巻き添えとなる。
 とは言えスピードAのスタンドは伊達じゃない。あの威力を前に軽傷で済ませた。
 離れていた四人は今一度合流し、適当な家屋の布を包帯代わりにして応急処置を行い、
 終えた後にレオーネが最初に言葉を紡ぐ。

「何だあれ。」

 ツッコミどころしかなかった。
 いやなんだあの音声は。と言うかあの音声誰だよ。
 と言うよりそもそも一応不正行為してる奴に音声流す警告をしてから爆破するな。
 いや、これについては不正をしてるという向こう側が感知するためとも考えられるが、
 あんなよくわからない奇抜な音声なんて、別にでなくてもいいだろうて。
 言いたいことが別方向に多い。こんなのに命握られているのかと思うと、
 四人揃ってげんなりとした表情にならざるを得なかった。
 これを作った奴は、別の意味で悪趣味な奴だ。

「あれ、スピーカーよね……しかも音質悪いし。」

 主催が気付いたから警告したのではなく、
 単に首輪に内蔵されている機能だとは察せられる。
 爆発してわずかに残った首輪の欠片にスピーカーのようなものがあった。
 それっぽいものであって、そのパーツから音が流れたとも限らないが。

「で、だ。とりあえず爆発するということは分かったとして。
 三人に聞こう。『今の爆発で死なない参加者に心当たりはあるか』と言うものだ。」

「私は当然なしよ。」

「伯爵様でも難しいな。」

641運命のリベリオンズメモリ ◆EPyDv9DKJs:2022/08/07(日) 19:30:32 ID:lXLW4h9Q0

 悠奈は当然として、ミスターLにも該当する人物はいなかった。
 例え肉体派のドドンタスでもあの爆発では耐え切れず死ぬだろうし、
 伯爵の力であっても、コントンのラブパワーの機能次第ではあるものの、あくまで可能性があるだけ。
 確実と呼べるものではないのと、そも主催にディメーンがいる。対策ぐらい織り込み済みのはずだ。
 真っ先に制限としてやられそうなので、やはり確実性に欠けるものになる。

「いるよ。あれで死なない奴。」

 ただ一人、レオーネを除いて。
 確かにあれは人一人容易に殺せる。
 ただし『爆発の範囲にいれば』の話だった。
 アカメでも回避が難しいかもしれない威力ではあるが、
 時を止める力を持つエスデスであれば射程外に容易に逃げられる。

「一日一回しか使えないらしいし、多分制限もされてないと思うんだよね。
 だからもしあの爆発を見たら、あのドS将軍は躊躇うことなく首輪を外すよ。」

「時間を止めるって、想像もつかないわね。」

「ストップウォッチってアイテムもあったから身近な方だな俺は。」

「時間停止物の九割はガセとは言うが本物はいるものだな。
 では結論だ。この首輪『物理的に殺すことを想定してない』ものだ。
 いや、想定はしているものの爆発で殺せない参加者がいるのは確実に存在する。
 と言うより、僕からすればあの鬼くびれ大羅漢だって爆破しても殺せる気がしないぞ。」

「悪い、あたしにはそれの違いが分からん。」

「ルールにも書いてある『紋章』とやらが機能していると言うことになる。
 物理的に殺せないのであれば精神や魂を殺す、ありていに言う呪術的な物だ。
 そう言ったものであれば、どれだけ参加者が強くとも魂さえ殺せれば簡単に終わる。」

 爆発は副次的な者であり、本命になるのは紋章による呪いと言った類での、所謂呪殺。
 スタンド、帝具、ピュアハート。数々の異能を知る今ならば誰もが信じられるものだ。
 悠奈は少々その辺と縁が薄いものの、理解できない程頭が固い人物でもない。

「呪いか……まさかね。」

「どうしたの?」

「呪いには結構縁があってさ。」

 帝具の技術が使われてるのではないか。なんてことをレオーネは少し思った。
 一斬必殺村雨。アカメが持つ帝具はかすり傷一つで呪毒が心臓へ到達して死ぬ。
 解毒手段は存在しないというところについては、まさに呪いだ。

「その村雨とやらの呪毒かどうかは限らんが、
 爆発は演出で、本質は呪術的な物にある可能性は高い。
 つまるところ、ミスターLだったか。ロボットを作る技術力や僕の工学知識、
 現状はそれらを総動員したところで物理的には解除できても紋章の解除はできない。要するに詰みである。」

 遠慮のない征史郎の物言いに三人は言葉に詰まる。
 首輪を何とかすれば殺し合いに乗らない参加者もいるだろうが、
 その首輪の解除手段は現状知る参加者の誰に当たっても不可能だ。
 異能に密接な参加者と関わっても現状打開策があるようには感じられない。
 よるのないくにを駆け抜けたエージェントであろうとも、
 人の壊れかけた心を取り戻すリフレクターであろうとも、
 国の為にその手を汚し続けてきた帝具使いであろうとも、
 攻略法が現時点においては全くの白紙である。

『希望があるとするならば双子の知り合いだ。
 もう既に殺されてる可能性もあるかもしれないが
 とりあえずそのあたりを重点的に解決しておきたい。』

「もっともこれは首輪だけになってからの結果だ。
 生きてる人間についてる状態だと、また話は変わるやもしれん。」

 表面的には一先ず詰んでいると認識させればいい。
 まだ希望はあるので重要なところだけは筆談にしておく。
 絶対にない見当はずれなことを口にして、一先ず適当に誤魔化す。
 人についてたら威力が変わるなんてもの、絶対にあるわけがないのだから。
 首から首輪が離れた瞬間、それはもう『人についていない首輪』と同義である。

「さて、それともう一つ。僕はここらでお暇させていただこう。」

「おーい、どこ行くんだー? そっちじゃないぞー。」

 征史郎は悠奈達が向かってた場所とは別方向へと歩き出す。
 レオーネが引き留めるが、先程までの征史郎とは少し違う真剣な顔つきだ。

「すまんが、見解の相違的に僕は同行はできない。」

642運命のリベリオンズメモリ ◆EPyDv9DKJs:2022/08/07(日) 19:31:41 ID:lXLW4h9Q0
 殺し合いは反対している点は同じではあるが、向こうは誰も殺さずと来ている。
 和馬も同じ考えをするかもしれないが、はっきりいってそれは望みが薄かった。
 単に彼が現実的に物事を見ていて、効率的に行動するからと言うだけではない。
 人間を超越した本物の怪物を前にしては、不殺を貫くなどできるわけがないからだ。
 と言うより、自分がやろうとする首輪で試したいことは非人道的な行為で死ぬ可能性が高い。
 見解の相違からくる軋轢。完全に効率特化で行くつもりはないが、自分にとって確認は必須だ。
 先の見当はずれと思う考えも、大祐には簡単に首輪を外すことができたことを考えると、
 『生きた参加者の首を一度外して生きたまま首輪を外せるのか』と言う実験の延長線上にある。
 不殺を貫く彼女の前では絶対に試すことが許されない行為だ。

「そういう意味もあり君達の行動方針については、
 期待を込めて今回は星四評価とさせていただこう。」

「何の評価だ?」

「さあ?」

「……」

 止めるための言葉が見つからない。
 レオーネの時のような説得は彼には通じない。
 レオーネは既に死んで殺し屋としての役割を終えた。
 だからその道を選べた。もし彼女が生きてた時期の参加であれば、
 暗殺者として考えを曲げるつもりはなかったことは想像できる。
 彼女は変わらずどぶさらいの為、悠奈とは相容れずに別れていたはずだ。

 でも征史郎の場合は違う。
 死んで成せたかどうかわからないことを今成そうとしている。
 であればレオーネのような『生まれ変わる』という言い方は的外れだ。
 加えて彼は少なくとも仲間であった夕月のお陰で生きる道を選んで、
 下手人も最早殺さなければどうやったって止まらない怪物と化した。
 足を撃つ? 腕の筋を切る? 下半身不随? 無駄だ。どれをやっても治るはず。
 殺し合いを終わらせるという夢を未だに見ていることについては悠奈とは同じだ。
 しかし、同時に彼は現実と言う悪夢(Nightmare)を見すぎてしまっている。
 あれが許されるなら、あれに匹敵かそれ以上の参加者だってどこにいるか分からない。
 なんならレオーネの言うエスデスとやらも割と平然と殴り合うことをしてきそうだ。
 だから、どうあっても彼女の不殺主義を理解はすれども共感はできなかった。

「こちらは効率的に考えて人を死なせずに殺し合いを終わらせる。
 そっちは誰一人として殺さないで殺し合いを終わらせる。
 これをすり合わせるのは不可能だということは君もわかるはずだ。」

 ついでに言えば力尽くで止めるのも不可能だ。
 スティッキィ・フィンガーズは地面の移動が可能で、
 機動力はこの四人の中で一番優れていることになる。
 なので逃げようと思えば簡単に逃げることが可能だ。
 ついでに拘束したところで簡単に脱出も容易になる。

「そういうわけだ。情報提供はこれで終わらせておく。
 この情報をどう活かすかは其方次第だ……おっと忘れてた。
 それともう一つ、放送に遮られて忘れていたことを言っておかんとな。」

「あ、そうだったわね。」

 実は放送前に話していた気掛かりなことがあったのだが
 途中で放送が始まってしまったので忘れかけていたことを思い出す。

「僕は今のところこの四人のように別の世界からの参加を想定していた。
 ただ、君とはるなの話については明らかに過ごしてきた内容が違いすぎている。
 死者の参戦から過去か未来の可能性はなきにしも非ずだが、内容が違うのはおかしい。」

 悠奈からすればはるなは全くと言っていい程面識がなかった。
 しかしはるなは面識があり、そもそもセカンドステージすら始まってない。
 これでは二人の辻褄を合わせることは、どうあってもあり得ないことだ。
 出せる答えは一つだけになる。十人以上参加してる叛逆の物語の人物で、
 誰も到達していなかった一つの事実。

「パラレルワールドの可能性も出た。情報の確認は身内でも怠らないでくれ。」

「ええ、分かったわ。」

 今回は征史郎のお陰でたまたま回避できたこと。
 二人、三人と情報の齟齬は余計な不和を招きかねない。
 気を付けておかなければ足元をすくわれかねない案件だ。
 このことに気付けただけでもこの会話の成果は大きいものになる。
 まあ、さすがに貴真が味方になる可能性と言ったものはゼロだと思われるが、
 下手な発言で不和が起きない可能性を潰せてるのは悪いことではない。

「では達者でな。捨て置けない案件があった場合は博物館に行くか書いておく。」

 話を済ませて、征史郎は三人と別れる。
 スタンドの拳を飛ばして、さながらワイヤーアクションのような移動を試してみながら。

643運命のリベリオンズメモリ ◆EPyDv9DKJs:2022/08/07(日) 19:32:31 ID:lXLW4h9Q0
【D-3とD-2の境界線/一日目/朝】

【城本征史郎@トガビトノセンリツ】
[状態]:精神疲労(小)、ダメージ(中)、頭に包帯が巻かれている、手にダメージ(処置済み)
[装備]:スティッキィ・フィンガーズのDISC@ジョジョの奇妙な冒険
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜2(夕月×0〜1確認済み、はるな×0〜1確認済み、武器になりうるものではない)、スフォリアテッレ(箱入り)@クライスタ
[思考・状況]
基本方針:殺し合いに反抗する。
1 :はるなの遺志を継ぐ。
2 :ジャマイカ一行(悠奈)とは敵対はしないが、方針的に共同は難しいな。
3 :はるな、夕月、アルーシェの知り合いを探す。
   特に城咲充優先かつ、前者二名の知り合いにも謝っておきたい。
   ただ平行世界の件もあるのでその辺気を付けないと痛い目を見そうだ。
4 :スタンドでできることを試そう。できて当然と言う認知が大事だ。
5 :ついでにスタンドを使える奴がいるか探す、或いは警戒をしておく。
6 :あっさりと終わったがこれでいい。語られなかった物語とは、そういうもので。
7 :生きたまま首輪が外せるかを乗った参加者で試す。できないとは思うが。
8 :首輪について調べておく。
9 :……ふむ、生きて帰れたら生物学でも齧ってみるとするか。
   あ、パンドラボックスの齧るとは別の意味だ。
10:オカルトか。このご時世で必要とはな。

[備考]
※参戦時期は死亡後です。
※リベリオンズ、ブルーリフレクション、よるのないくに2の情報を得ました。
 ただしリベリオンズはAとDルートの為しゅうへい、充、琴美以外の人物とは話が合いません。
※おおよそスタンドでできることを把握しています。
※マネーラ、ギャブロ、藤丸立香の情報を簡易的に得ました。
※キヨスから幡田零の情報を得ました。(外見と妹を探していることについてのみ)
※二日目の昼にE-3にあるかなでの森博物館に人が集まる情報を得ました。
※ロックの危険性について知りました。 ※爆発させる能力はスタンドによるものではないかと推測しています。





「……追っかけた方がいいかい?」

 彼を見送る悠奈の表情は、
 複雑なものであることは伺える。
 あれは生きてた頃の自分のようなものだとは感じており、
 説得は無理だよなぁと薄々は察してもいるが。

「今度ばかりは、私にはどう言えばいいか分からないわ。」

 仕方ないと言えば仕方ない。
 殺す覚悟で挑んだ相手に二人は死んでいる。
 殺さずの覚悟を受け入れるだけの余裕なんて、どこにもないのだと。
 征史郎も自分と同じで誰かの遺志を受け継いで決めたことで譲れない。
 それと、修平と同様にきっとその考えを曲げられない相手にかける言葉が、
 今の彼女には見つけられないというのもあっただろうか。

「今はできることを優先しましょう。
 無事と言っても、長い時間放っておくわけにはいかないでしょ。」

 悩みながらも前へと進もう。
 既に三十人以上もの死人が出ている。
 きっとこの中には自分以上の腕の立つ人物もいたはずだ。
 いくら生きてると言っても、長い時間二人にさせるわけにはいかない。

「あー、ちょいと待ってはくれねえか?」

 またしても向かうことを中断する声が一つ。
 近くの路地から顔を出す男には面識はない。
 一々情報交換する手間を想うと、征史郎がいたときに来てほしかったと思う。

「ああもう時間食いそうなことになったわ。
 ミスターL、悪いけど先に向かっててくれる?」

「了解だ!」

 さらに時間を食わせるわけにもいかない。
 一人だけ先行させておいて安否を確認をさせておく。
 持ち前の高いジャンプ力を使い、軽快に屋根の上をピョンピョンと飛んで行く。

【D-3とD-2の境界線/一日目/朝】

644運命のリベリオンズメモリ ◆EPyDv9DKJs:2022/08/07(日) 19:33:25 ID:lXLW4h9Q0
【ミスターL@スーパーペーパーマリオ】
[状態]:精神ダメージ(特大)
[装備]:無し
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考・状態]
基本:悠奈のバカバカしい生き方とやらで主催共を叩き潰す。
1:ユウナ・レオーネと行動を共にする。
2:伯爵さまを殺した奴は殺さないがとりあえずぶん殴る。
3:ヒーロー……か。
4:ユウナ!ジュネーヴ条約にジャマイカって何だ!?
5:伯爵さまの遺志を継いでマネーラ、ナスタシアと共に脱出する。
6:工学だけではだめって、どうすりゃいいんだこれ。
7:一足先に侑達の所へ行くぜ!
[備考]
※参戦時期は6-2、マリオたちに敗北した直後
※悠奈からリベリオンズの世界について簡単な知識を得ました。
※名簿から伯爵さまたちが参加していることを知りました。
※悠奈から”拳銃”の脅威を知りました。
※レオーネからアカメの世界について簡単な知識を得ました。
※征史郎経由でマネーラ、ギャブロ、藤丸立香、キヨス、零、アルーシェ、夕月、ロックと関連人物の情報を得ました。


「おーやるね-。」

 レオーネもライオネルありであればああいう芸当は可能だが、
 帝具なしに移動しているさまには額に手を当てながら感心する。

「こっちも忙しくて悪かったわね。それでアンタは……!?」

 出てきた相手の強面に驚くことはない。
 そも黒河や瞳みたいな危険人物と出会ってるのもあるのだから。
 問題は彼の後ろ。絶対に忘れてはならないあの男が。

「雰囲気が随分変わってるなぁ。俺を殺した後、二人で楽しんでたのかい?」



 ◆ ◆ ◆ 



(ま、そりゃ無事だよな。)

 不動明の強さかは身をもって知っている。
 放送を生き延びることなど何ら問題はない。
 英吾や善と言った出会った人物からの情報はあれど、
 さして現状では有益な情報を得られてもいなかった。
 殺し合いの打破は分からなくはないがやはり彼にとって不動明が最優先だ。

「で、そっちは残ってよかったのか?」

「相手はヴァンパイアだからね。
 追わないというより追えないだよ。」

 貴真は日ノ元明を追うことをしなかった。
 単純に言えば彼女がヴァンパイアで身体能力に大きな差があるからだ。
 チーターローションも制限があるので足並みを揃えるために使うのは勿体ない。
 向こうも急ぎだ。足並みをそろえてくれるとは思わなかったのもあるし、
 政がちゃんと自分の言葉を真に受けてくれているのかを確かめておきたいのもある。
 英吾は先にやられたようだが、どこで自分のことを吹き込んだか把握できてない。
 そういう意味でも彼と行動を共にするのが一番いいものになると思って動向を選んだ。
 して、その結果がこれである。

 何食わぬ顔でゲームに参加しておきながら、
 暗躍してゲームをセカンドステージに移行させ、
 英吾を殺し、多くの人を死へと送り込んだすべての元凶。
 彼の『理不尽』によって想い人を喪うことになった存在。
 悠奈にとって、自分が知る参加者で何よりも悪たる相手。

「気を付けた方がいいよ。彼女がさっきも言った藤堂悠奈だ。」

「おいおい、赤い髪じゃないか。どう見たって髪緑だぞ?」

「確かにね。僕が殺した後にイメチェンでもしたのかな?」

 彼の知る悠奈とは髪の色も髪型も服装も違う。
 お陰で悠奈と出会う際はある程度注意しておきたかったが、
 準備する間もなく出会うこととなってしまった。

「……藤田修平の名前に覚えはあるな?」

 木刀を向けながら政が尋ねる。
 吹き込まれて警戒しているようではあるが、
 まだ半信半疑の可能性が高いと言ったところだった。

「あるけど、まさか修平に会ったの!?」

「追加で聞くが、アイツはそいつの仲間か?」

「……仲間、でいいのかしら。」

645運命のリベリオンズメモリ ◆EPyDv9DKJs:2022/08/07(日) 19:34:54 ID:lXLW4h9Q0
 今となっては決裂してしまった間柄で、
 果たしてあれは仲間と呼ぶべきだろうか。
 征史郎の言及がなかった場合『止めるべき相手よ』とはっきり言えた。
 ただ此処に来ている修平が過去の可能性もある。なので彼が出会った修平は、
 まだ殺し合いに懐疑的であった可能性と言うのも捨てきれなくなっていた。
 それを聞いてしまったこともあって、少し曖昧な返答をしてしまう。

「その反応を見るに、浅からぬ関係みたいだな!」

 だがその曖昧に肯定したのはいけなかった。
 乗った修平が探す相手であり、貴真による嘘の情報。
 更に修平を仲間とした。敵と認識するのは別におかしい話ではなく瞬時に肉薄。
 仮にも無数の暴徒や悪魔が憑依した学生を相手できる政の動き。
 銃を持っていたとしても悠奈が反応するには距離も近くて僅かに間に合わない。
 レオーネが木刀を拳で受け止めてなければ、ただでは済まなかっただろう。

「何を勘違いしてるかしてないかは知らないけど、
 あたしの仲間に手を出すって、言うならちょいと痛い目見てもらうよ?」

「やるねぇ、姉ちゃん。」

 反動を利用して後退して近くの路地に身を隠す。
 相手は銃を持っている。下手に身体を晒すことは死を意味する。
 同じように貴真も近くに身を隠しながら様子を伺う。

「さあ、あの時のリベンジマッチをさせてもらうよ。」

 次はどんな理不尽を与えられるか。
 表情には出さないが楽しみで仕方がない。

「やっぱりそういう手を使うのね、アンタはッ!!」

 案の定と言うべきか、やはり不和を招くことを相手はしてきた。
 正直予想はしていたことだ。なんせ素性を知る三人全員敵と言うだろうから。
 特にステルスの能力が極めて高い彼だ。既に犠牲者もいることだって察せられる。
 殺すつもりはないとしても、やはりこいつは死んだところで変わらないのだろう。
 この男は性根から腐りきっている。

「レオーネ、木刀の人はともかく貴真の方は気を付けて!」

「了解!」



 軍服の男と修平、英吾と真島、彰と充。
 この舞台では一年前のゲーム参加者が、一年後の参加者と縁を結んだ。
 同じゲームを知るが故に何かしらの行動方針が合致した者達。

 しかし此処に相まみえるのはそういった関係ではない。
 Aを知りZを知る少女と、彼女のルーツとも呼ぶべき男の対決。
 叛逆の物語の始まりとなる存在が此処でぶつかり合う。

【D-3とD-2の境界線/一日目/朝】

【藤堂悠奈@リベリオンズ Secret game 2nd Stage】
[状態]:健康 緑髪、ちょっと複雑
[装備]:コルトパイソン@リベリオンズSecret game 2nd Stage
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×1〜2 予備弾数多め
[思考・状態]
基本:なるべく多くの人を助け、殺し合いを止める
1 :ミスターLとレオーネと行動を共に侑って子のところへ向かう。
2 :私の周りに集まるのってもしかして変なのばかりなのかしら。
2 :彰……私は……
3 :殺し合いに乗っていない参加者達を一つにまとめる。乗った参加者は無力化して拘束する。
4 :もう少し、威力が低い銃もほしいわね……あと、逃走用の対策も練らないと……
5 :たとえ、どんな状況でも挫けず信念を貫く。
6 :征史郎はどうするべきだったのかしら……
7 :鬼くびれ大羅漢に時間停止ってもう別次元じゃない。
8 :修平を止めないといけない。
9 :パラレルワールド、ややこしくなりそう。
10:精神や魂に詳しい参加者っているのかしら。
11:貴真!!
[備考]
※参戦時期はAルート、セカンドステージ突入語で修平達と別れた後
※緑髪に染めました。
※運営が死者を蘇らせる力を持っていると推測しています。
※ミスターLからスパマリの世界について簡単な知識を得ました。
※レオーネからアカメの世界について簡単な知識を得ました。
※金髪の男は簀巻きにするとケツイしました。
※パラレルワールドの可能性を認知しました。
※征史郎経由でマネーラ、ギャブロ、藤丸立香、キヨス、零、アルーシェ、夕月、ロックと関連人物の情報を得ました。

646運命のリベリオンズメモリ ◆EPyDv9DKJs:2022/08/07(日) 19:37:39 ID:lXLW4h9Q0
【レオーネ@アカメが斬る!】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(小)
[装備]:ホープナックル@グランブルーファンタジー
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜2(確認済み、ライオネルなし)
[思考・状況]
基本方針:メフィス達、覚悟できてんだろね。
1:民の為にもう一度戦いますかね。正義のマッサージ師として。
2:アカメを探……さなくても大丈夫だよね。親友を信じろって。
3:帝具なしでエスデスとかは会いたくねーな! あっても会いたくねーな!
4:優勝するしかなくなったらどうしよ。いや、正義のヒーローが勝つって決まってる。
5:ねぇユウナ。ジュネーヴ条約にジャマイカって何?
6:あのドS将軍に首輪で自爆してくんねえかな。いや無理か引っかからんよな
7:呪術的なのあたし論外ー! あの錬金術師とかなら知ってそうだけど殺しちまったわ!
8:噂の大臣みたいなクソ野郎のお出ましか!
[備考]
※参戦時期は漫画版死亡後。
※悠奈からリベリオンズの世界について簡単な知識を得ました。
※ミスターLからスパマリの世界について簡単な知識を得ました。
※征史郎経由でマネーラ、ギャブロ、藤丸立香、キヨス、零、アルーシェ、夕月、ロックと関連人物の情報を得ました。
※二日目の昼にE-3にあるかなでの森博物館に人が集まる情報を得ました。

【木刀政@デビルマン(漫画版)】
[状態]:左腕に矢傷、疲労(小)
[装備]:妖刀『星砕き』@銀魂
[道具]:基本支給品、ドス六のドス@デビルマン(ドス六の支給品)、チェーン万次郎のチェーン@デビルマン(万次郎の支給品)、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]
基本方針:不動を止める。
0:不動に一発お見舞いして目を覚まさせる。
1:修平と見知らぬ襲撃者・藤堂悠奈・彰・来夢・佐藤マサオ・針目・アーナス・日ノ元士郎に警戒する。
2:とりあえず北に向かうか。
3:こいつが藤堂悠奈か!
[備考]
※参戦時期は死亡後。

【崎村貴真@リベリオンズ Secret Game 2nd Stage】
[状態]:健康
[装備]:チーターローション残り9/10@ドラえもん、コルトポケットもどき@クレヨンしんちゃん ブリブリ王国の秘宝、まほうの玉×9@ドラゴンクエストビルダーズ2 破壊神シドーとからっぽの島
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×0〜2(優木せつ菜の分)
[思考・状況]
基本方針 : この殺し合いにおける『理不尽』を楽しむ
1:政ついていくことを選んだら、まさかもう出会うとはね!
2:参加者に『理不尽』を振り撒く。
3:来夢ちゃん・せつ菜ちゃんの関係者に出会ったら、
  この顛末を上手く利用して、『理不尽』を振りまく。
[備考]
※Zルート死亡後からの参戦となります。



城本征史郎の首輪についての考察
・誰でも殺せる割に軽く、首が動かせないと言った不便さは感じない程度の存在感
・異能の干渉は首輪本体のみで、首輪をつけた参加者自身に対する異能の干渉は行える
・スティッキィ・フィンガーズで首から上を切り離せたが、これは死者にのみできると推測
 生きてる参加者にできるかどうかは試さなければ現状ではこれについての調査は不可能
・威力は首を破壊はできるが化け物を殺すとなると正直無理がある
・物理的にではなく呪術のような精神や魂を殺すことが目的かもしれない
 どういった術を使っているかは現時点で不明。双子の知り合いなら知ってる可能性はある
・首輪にいのうでの干渉をした場合に音が出る。あの声誰ぞ

647運命のリベリオンズメモリ ◆EPyDv9DKJs:2022/08/07(日) 19:38:38 ID:lXLW4h9Q0
投下終了です

648 ◆EPyDv9DKJs:2022/09/08(木) 06:35:19 ID:rs8kmgYc0
投下します

649BRAVE PHOENIX ◆EPyDv9DKJs:2022/09/08(木) 06:36:41 ID:hjuuoJcM0
 この血染めの空の下には百十九人の贄と呼ばれし魂があり、
 誰もが願いや想いを抱いて足掻き、その足掻きは時に虚しく、理念となる。
 だけど、その中のいくつかはきっと未来へ繋がっていき、抗う力となっていく。
 これから始まるのは、そんな物語。

「ンンンンン、ンンソンン───」

 放送も間近に迫ってる最中、
 芦屋道満がモニタールームへと足を運ぶと共に声を上げる。
 平安京の景観には似合わぬ機械的な部屋には、和服の姿は中々に浮いた姿だ。

「おやマンボ君。『ソ』なんか混ぜてどうだんだい?」

「マンボではございませぬ。リンボでございますれば。」

 もっとも、それについては観測者の役割を担った道化も同じだが。
 決して長い付き合いではないが、短い付き合いで人となりはよくわかる。
 普段とは違った謎の奇声だと言うことには気づいており、其方を見やった。
 いつもと変わらず、不敵な笑みを浮かべた胡散臭さがとてもよく目立つ。
 一方で二メートルを超え、露出した部位から見せる陰陽師とは思えぬ筋肉。
 見るからに謎としか形容できないような不可思議な肉体は伯爵ともども、
 独特な肉体を持っている彼からしても異質とも言える姿だ。

「で、何かあったのかい?」

「いえいえ。貴殿にとっては所詮些末事。
 気に掛けるようなことではありませぬとも。」 

 多くの贄が理念となっていく。
 そのことに何ら問題はなかった。
 すでに六時間で三十を超える魂が終末を迎えている。
 正直予想を超えるペースだ。下手をすれば一日経たず、
 この儀式は容易く完遂してしまい事に及ぶことができるだろう。
 以前の予定にあった天覧聖杯戦争では絶対にありえない速度だ。

(しかし、少々物足りませぬな。)

 道満が一瞥するのは四人の参加者。
 佐藤マサオ、十条姫和、アーナス、そして不動明。
 即ち八将神の四人。佐藤マサオについては所詮おふざけだ。
 危険種の薬を盛り込んで一人も、と言うのは流石に予想はしなかったが、
 元々さして期待をしていなかったので別によいものの、他は別である。

 メフィスが担当する十条姫和はまだ暴れている方だろう。
 しかし相手が悪い。龍眼の演算では追いつくことができない、
 更にこの舞台に於いて八将神含めても最強格に座する日ノ元士郎相手では、
 敗北するのは致し方なし。写シでほぼ無傷でやり過ごせただけ賞賛に値する。

 フェレスが担当したアーナスから段々と雲行きが怪しくなる。
 集団を形成すると言う他にはない独自の立ち回りを行うも、
 結果そのせいで多大な時間の浪費。結局解散する羽目になり、
 その上漸く二度目の戦いに出てみれば結局殺せたのは無力な少女のみ。
 加えて、勝ち取ったというよりは相手が無防備だったからと言うだけ。
 強さに対して見合った結果をまるで出せてないと言う体たらくを晒している。
 彼女が不機嫌そうに、先程鬼門を閉じに向かったのは記憶に新しい。

 そして、彼が担当した不動明。
 日ノ元同様最強格とされるドミノ・サザーランドを前に、
 あれ程の暴れっぷりを見せてくれたことは大いに歓喜した。
 問題はその一戦で消耗しすぎてしまったことで活躍の機会は減り、
 更には人間に触れあったことで自分を殺すように要求してしまう程だ。
 アモンの方を八将神にしたスイッチ形式と言う方針を取ったものの、
 そのせいで八将神としての活躍すら危ぶまれてしまうのは少々問題である。

 そう、此処までの顛末を聞いて気付いただろう。
 八将神は彼等が用意したはずの存在でありながら、
 殺した人数については芳しくない状況が続いていた。
 名簿の配布後にこの四人による殺害人数は、なんと僅か二名。
 しかも赤城みりあについては戦ったとは方向性が大分違う物であり、
 純粋に戦って死亡した者がいるとするのであれば、恵羽千たった一人だけ。
 明と姫和はその前にも人数を稼いだが、相手の半数以上が有象無象レベルのもの。
 象が羽虫を踏みつぶす程度の光景を見て、さして愉しみなど見いだせるはずもなし。
 不動明に正気に戻るよう必死にしがみついた彼等については、多少悦楽を感じてたが。

650BRAVE PHOENIX ◆EPyDv9DKJs:2022/09/08(木) 06:38:27 ID:hjuuoJcM0
 とは言えこれはよろしくない。
 みさえは撃つ覚悟ができてないものの、
 来夢とフェイトは必要に迫られたら殺すつもりでいる。
 そして追加の問題として、不動明にはそこまで強い支給品がないのだ。
 マサオには……適当に見繕った武器は別として危険種の薬による強化、
 アーナスにはスーパー宝貝、姫和には自身の御刀とある程度狙った支給品を用意した。
 このように主催にとっての駒だけあって、多くの支給品については見繕ったものだ。
 しかし不動明の場合は他の三人と違って、道具を使う意義が薄いという問題が生じている。
 使うぐらいならばアモンになってその力を行使する方が、却って邪魔にならないから。
 故に支給品はさして強力なものはなく、強くもない猟銃が支給されたのもその名残だ。

(これは、気は進みませぬが有事に備えた『アレ』を使うしかありますまい。
 多少は咎められるとしても、他の八将神と違い九人の記録。多少は許されるでしょう。)

「では、拙僧は彼等のもてなしでもいたしますかな。」

 自分がいくつもの悪魔人間の世界を経て招いた客将もいることだ。
 軽くご機嫌でも確認しに行こう……と言うのは建前で、別の目的の為動くとする。

「放送の演説を楽しみにさせていただくとしましょう。」

「事務的な物だから、期待はしないほうが身のためだよ?」

 返事はなく、霧散するように道満の姿は消えていく。
 騒がしいだけあって、一人になると途端に静かに感じてしまう。

「ンッフッフ。皆して勝手に動くねぇ。まあ僕も勝手に動くんだけど。」

 メフィスとフェレスは今『佐神善のような何か』にご執心だ。
 リンボの視線の先は隠すつもりがないのかわざとなのかは不明だが、
 どう見ても不動明の映ていたところを見ていたのは明らかなことであり、
 ああは言っていたが大方何かしら行動を起こすのだろうことは察せられた。
 であれば今自分は誰にも見られてない。客将もさして自分の存在に興味なし。
 六時間を生き延びた完全者とも再会を今の内に考えておく必要がある。
 約定を果たす前に、主催としての仕事をこなすべく準備を進めた。





 三十八人。
 出会った人数が合計でも一割程度の四人の中で、
 二割以上と言う大人数が既にこの舞台から去っている。
 しかし感傷に浸る暇はない。此処が禁止エリアになったこともだし、
 それを知らせる警告も首輪から鳴り響いたが、何よりも問題なのは───

「アガ、グッウッアアアアア!!」

 不動明の様子が危険な状態だったから。
 彼だけは放送について途中までしか聞き取れてない。
 今は頭を押さえながら、地面をのたうち回っていた。
 危惧されていたことは現実だった。あれは幻ではない。
 あの地獄絵図の贄となったのはドス六達で、それを描いたのは自分自身。
 仲間だと、兄貴だと慕っていた彼らを塵殺したのは自分なのだと。

「明君! しっかりしなさい!」

 彼の肩を抑えながらみさえが声をかける。
 様々な事柄に立ち向かってきた野原一家でも、
 悪魔人間なんて存在の介護の方法など知る由もなし。
 人間と言う範疇に於いての手段でしか対応はできない。

「みさえさん、早く……このままだと……」

 今抑えられてもいつスイッチが入るか分からない。
 了の言ったように、こういうところを人間は恐れたのだろう。
 隣人がいつ人類を脅かすであろう怪物となり果てるのか。
 怪物になっても共存が望めるのかが曖昧で不安定だから。
 だから悪魔狩りと言う概念は善良な人間でも発生するのだと。
 皮肉も、今の自分がその体現者となってしまっているが。
 納得こそしないものの、理解は僅かながら感じられた。
 感じたところで人間の方がよほど悪魔だと思うことは変わらないが。

「だめよ! 『理性をなくしたら』が約束よ!
 だったら今のあなたはまだ人間だから撃たないわ!」

 散々世界を救う規模の戦いに挑んできた身だ。
 ちょっとやそっとの事で折れたりすることはない。
 焼き肉を食う為だけに世界を揺るがす戦いに挑む気概の彼女が、
 この程度で諦めるような心の弱い人間であるはずがなく。

 そんな彼女だからなのだろうか、
 まだ辛うじて彼は理性を保てている。
 これが母親の強さと言う物なのだろうか。
 ひょっとしたら、本当に理性が保ててしまうのではないかと。
 僅かながらとは言え、そんな希望を持ってしまうほどに。

651BRAVE PHOENIX ◆EPyDv9DKJs:2022/09/08(木) 06:40:10 ID:hjuuoJcM0
 愛に対する愛情を攻撃への感情へと変えたマサオ、
 人間を怨敵と言う虚構の記憶を植え付けられたアーナス、
 言葉こそ正常だが、肉体は完全にこちら側と化した姫和。
 いずれも本来の人格の面影はあれど、同時に宿業により破綻した存在。
 しかし道満とサタンの発想により意図的なスイッチ形式にされた明は、
 アモンが実質八将神。つまり人間である以上は一番安定した精神を持つことになる。
 ともすれば、最悪このまま安定した精神を保ったまま行動ができる可能性は高い。
 アモンにだけ干渉したことで、不動明の状態ではただの参加者とほぼ相違がない故に。
 不安定にさせない限りは安定してしまう、それが道満における一番の懸念点だった。

『なりませぬぞ不動殿。御身の大事なご友人、
 そして牧村美樹殿を殺めたのは誰でありましょう。
 そう、気の違えた悪魔の心を持った人間でありますれば!』

 だから、この男は動いた。
 神経を直接逆撫でするかのような、
 言葉だけでも胡散臭さのある言葉が明の方から響く。

「え?」

 一瞬戸惑った三人だが、
 フェイトが彼のデイバックからその音源を取り出す。
 参加者に誰しも支給されている名簿やメモ帳が内蔵されたタブレット。
 ここから、流れるはずのない誰かの息遣いや物音が微かに聞こえる。

「電、話?」

『左様にて。不動殿の支給品が一つで、
 『通話機能が用意されたたぶれっと』であります。
 主催、或いは別の参加者に連絡可能で今のようなことも可能で。」

 本来であれば術式を用いれば容易に、映像付きの会話が送れるものだ。
 ただ、メフィスが姫和に接触をしていたのはある意味不具合の修正に近く、
 ディメーンが小言やフェレスが情報を提供も、ある種の雑談程度のもの。
 いずれも余り咎めはされないが、流石に術を用いた干渉では見過ごされない。
 なので、手間こそ掛かるがお咎めがない方の支給品を経由する形を選んだ。
 と言うより、そう言われぬように意図的に不動明の支給品にしておいた。
 万が一の際に『起爆剤』を用意できるようにと。

『そしてお初にお目に……いえ、
 この状況に於いてはお耳になられますな!
 拙僧、今はキャスター・リンボと名乗りましょう!
 貴殿等にとっては主催の者が一人と言えば済むことでしょうな。』

「主催の……!?」

 四人に動揺が走る。
 此処で主催者が一体何の用なのか。
 と言うより、正直それどころではないと言うのが本音でもある。

「リンボだかマンボーだかしらないけど、いきなり出てきてアンタなんのつもりよ!」

 タブレットをフェイトから少々強引に取り上げ、
 面倒な相手に対応するように電話対応をするみさえ。
 此方は今高みの見物をしている相手をする暇などないのだから。
 彼女が電話の対応をしている間にフェイトと来夢が明の対応に当たる。

『いえいえ。この六時間の奮闘ぶりを拝見しまして、
 二人はリフレクターとしても、魔法少女としての力もなく。
 しかしその志は屈することなく、我等へと向けられる……ンンンンン!
 故にッ! 賛美しましょう! 野原一家はいずれも過酷な環境にいながら、
 中心人物となってご活躍。幾度と嵐を巻き起こした御家族だけあるようで。」

「そうやって私の注意を惹くって言うならお見通しよ。
 こっちはその手の勧誘を飽きるほど見てきて慣れてるから。」

 此処で家族のことを態々出すと言うことは、
 明らかに此方の注意を電話に逸らしたいのだろう。
 だがそうはいかない。電話で彼等しか知らない情報を、
 より多く得ながらこっちだけが得をするように会話を続ける。
 事実、地味にしんのすけもひろしもある程度無事な環境にいると分かった。
 このままさらに引き出してやろうと。ある意味、それが一番ダメな行動だった。
 この男がそんな生ぬるい奴ではないのだと。彼女が知る以上の混沌であり悪だと。

『ンンン、これは失敬。一介の主婦と侮ってはいけませぬな。
 ですが、この状況は拙僧にとって聊か物足りないものでございまして。
 故に───拙僧から不動殿にささやかな、お望みのものを与えましょう。』

 何処か不気味なものを一瞬みさえは感じた。
 電話越しで、顔も知らないが下卑た笑みを浮かべたような。
 そんな雰囲気すら感じながら次に届いた音声に身を凍らせる。

『ひひひ、魔女め!』

『息の根を止めてやるぞ!』

『ち、ちがう、ちがう……』

 それは聞くことが叶わなかった、
 否。それは聞くべきではなかった音声。
 気を違えた暴徒と、愛した少女の悲劇の一幕。
 不動明が彼女の親を救助するべく、躍起になった最中に訪れた惨劇。

652BRAVE PHOENIX ◆EPyDv9DKJs:2022/09/08(木) 06:41:17 ID:hjuuoJcM0
 それは聞くことが叶わなかった、
 否。それは聞くべきではなかった音声。
 気を違えた暴徒と、愛した少女の悲劇の一幕。
 不動明が彼女の親を救助するべく、躍起になった最中に訪れた惨劇。

 彼が聞き届けることのなかった声を。
 助けを求めた声を。知己を、家族の死に対し上げた悲鳴の声を。
 人間に対する憎悪が薄れた? ならば思い出させるのが道理である。
 彼には守るべき人間など既にいないのだと、徹底的に煽る為の起爆剤。
 こうなることを予想しておいて、あらかじめそれを録音しておいた。
 彼が元の世界で怒り狂った要因ではないものの、最後の後押しを決意したそれを。
 いくらまだ正常と言えども、不安定だったところにそんなものを聞けばどうなるか。
 辛うじて保っていた理性の糸は、プツリと切れて明は猛り出して二人を突き飛ばす。
 我に返ったみさえがタブレットの音量を縮めたところでもう手遅れだった。

 ドミノから受けたダメージのせいか、
 まだゆっくりとではあるが姿を変えていく。
 翼や触覚、異形たる怪物の───悪魔人間に。
 八将神の一人であり、勇者アモンとなるデビルマンに。

『ンンンンン、いいですねぇ!』

 アルターエゴの芦屋道満を一言で言い表すならば外道に尽きる。
 『人物の一側面を強くフォーカスする』ことがクラス『アルターエゴ』の特性。
 他者の苦痛や絶望を望み、それを悦楽とした典型的な悪の側面を強く持つ。
 しかし彼の狂喜乱舞の言葉よりも優先順位は明の方へと切り替わっていた。

「野原さん、ごめんなさい!」

 これ以上はみさえの考えではいけない。
 指輪もない、バルディッシュもない。この三人は、
 経験こそ豊富だが十全な力には程遠い存在になっている。
 幼さゆえに先ほどの音声に動揺が走ったフェイトは動けず、
 この状況で動けたのは、皮肉にも殺しの経験を得た来夢だけだ。
 先ほどは頷けられなかったが、自分や彼女の危機となると別である。
 みさえが持つ猟銃を強引に奪取し、躊躇することなく引き金を引く。
 火車切広光の威力は知ってるものの、詠唱を準備する暇などない。
 そういう理由もあって銃撃を優先したものの、今の彼はもう八将神のアモン。
 いかにデーモンに傷を与えられるとされるほどに改造された代物であっても、
 真祖とも渡り合える力を振るう相手では、怯みこそすれど脅威に足りえない。

「攻撃の風!!」

 バショー扇のダイヤルを目一杯回して、
 マイクに風の種類を覚えさせてからそれを振るうフェイト。
 攻撃だけあって斬撃に近しい攻撃は全開の状態ならまだしも、
 変身したばかりで動きが鈍いのか、うまくヒットさせることに成功した。
 明は大通りを弾丸のような勢いで三人から大きく離れていく。

「野原さん、これ以上は無理です!」

 人である限りは撃たない。みさえはそう言った。
 ならもう彼は人ではない。もう覚悟を決めるしかない。
 来夢も同じだ。確かに彼はアモンによって操作されている。
 ある意味では先ほどまで洗脳されていた自分と同じようなもの。
 だからなるべく譲渡したかったし、彼女の意見も尊重したかった。
 でもあれはもう無理だ。あれは、殺さないと此方が殺されてしまう。
 肌で感じ取れるだけの怪物のような存在……否、文字通りの怪物。

「待ってよフェイトちゃん! まだ可能性は……」

『ンンンンン! それはそれで愉快ですが、
 僅かな可能性に希望を乗せると言う展開は、
 既に二番煎じ。蹂躙と言うのも面白みに欠けてしまいます。
 此処は拙僧から、八将神についてご説明させていただきましょう。』

 本来ならば伏せる必要もあったことではあるが、
 そも姫和やアーナスによって割と多くの参加者に知れ渡った。
 最強格となる日ノ元士郎にも渡った以上、いずれ大体には伝わるだろう。
 何より道満からすればこの三人はどうあっても勝てるはずがないと言う、
 自身が担当した八将神に対する絶対の自信を持っているのもあってか、
 八将神と言う存在を簡潔に伝える。

『なお八将神とは言いますが、参加者には四人のみなので悪しからず。』

「アンタ……人の命をなんだと思ってるのよ!」

 地味に『参加者には四人』と、
 他には四人いることを示唆しているが、
 当然この状況だ。気に掛ける余裕などない。
 他者を弄ぶことを何とも思っていない所業は、
 当然三者からは理解を得られないようなものでしかないし、
 誰がその対象にされてるか分からない現状家族が被害に遭ってるかもしれない。
 これほどまでの外道な敵は、今までいないだろうと察せられるほどに。

『異なことを申されますねぇ。倫理や道徳を重んじているのであれば、
 そもこのような催しを考える思考など、持ち合わせているはずもなし!
 おっと、時期に戻ってきますぞ。ご準備されたほうがよろしいのではないかと。」

653BRAVE PHOENIX ◆EPyDv9DKJs:2022/09/08(木) 06:42:40 ID:hjuuoJcM0
 蛆が這うような不快感と言うべきか、
 ストレートに腹が立つ煽り方を返してくるが、実際にその通り。
 見ただけで死が迫ると感じるようなあの姿。常人はまず瞬殺だと。
 猟銃や如意棒だけでは、とても太刀打ちできるものではない。

「それでは皆々様、これより行われる八将神による塵殺。
 特等席にて、その顛末を悠々自適に眺めさせていただきましょう!
 ああ、それと。先程の首輪の警告ですが、あれは本物であります。
 初回故に時間はかかりますが、ニ十分もすれば爆発しますのでお気をつけて。」

 どうせ蹂躙される今となっては些末事。
 どうでもいいと言わんばかりに適当に言い捨てるが、
 余裕がないので誰もそのことに突っ込む気にはなれなかった。

「野原さん、離れて……ライムとフェイトが戦うから。」

 火車切広光を構える来夢。
 敵は彼もいるが、時間も迫っている。
 今なら逃げれば十分にエリア外に出れるはずだ。

(ユズ……)

 明のことを優先したとは言え、
 夕月も呼ばれたことは忘れていない。
 元よりお互いは一度死んだ命ではあったが、
 だからと言って悲しくないわけではない。
 みっともなく泣いていた可能性だってあるぐらいに。
 でもその余裕はない。自分の手で殺めてしまった明も同じだ。
 同じ立場である彼であり、同時に自分の手は既に汚れている。
 普段はリアリスト寄りな彼女がこうして他人の手を汚させることを忌避するのは、
 みさえの暖かさを知ったからかどうかは定かではない。

「子供たちだけに任せて置いていくなんて、それこそお断りよ!」

 子供たちに殺しなんて絶対にさせたくない。
 その覚悟を示すように如意棒を握り締めて構える。
 震えはある。今まで立ち向かった困難の中で何よりも命の危機を感じた。
 怖くないわけがない。人を殺すことになるかもしれない経験だっていやだ。
 だが、此処で逃げてしんのすけと再会した時、胸を張って会えるわけがないと。

「でも、このまま全員で戦っても……」

 認めたくはないし悔しいが、
 全員それぞれ経験の薄い武器だ。
 先程はたまたまうまく攻撃が決まったが、
 二度も三度もバショー扇を当てれる自信はない。
 どうすればいいのか。正直全く分からなかった。
 何もできないまま、このまま終わってしまうなんて嫌なのに。
 出来ることが何もないことに歯痒く思っていると、

「ハァ、ハァ……」

 予想してなかった、
 同じ禁止エリアに居合わせた一人の参加者の姿を捉える。
 不動明が飛んで行った大通りの脇道から、ひょっこりと。
 息も絶え絶えにしている参加者は───




















 阿刀田初音だった。
 三人に気付いてないまま、膝に手を当てながら息を切らす。

(早く、抜けないと……まずいのです。)

 彼女は放送で知った名前の人はいたが、さして何か変わるわけではなかった。
 ユカポンとそのファンである吸血鬼、そして充に殺させたはるなに琴美の二人。
 琴美の方はどうだったのだろう。自分の一撃がもしかしたら致命傷だったのか。
 分からないし知りたくもない。どの道、アカメには追われる立場なのだから。
 勘違いのまま逃げ続けてみれば、今度はいる場所を禁止エリアに指定される始末。
 何処までも運がない。一体初音が何をしたんだとディメーンを呪いたくなるほどに。
 一方で禁止エリアなら走り抜ければアカメからの追跡を逃れられる可能性は高い。
 逃げなければ余計な疑念を持たれずに済んだのだが、そんなことは知る由もなく。

654BRAVE PHOENIX ◆EPyDv9DKJs:2022/09/08(木) 06:44:56 ID:hjuuoJcM0
 彼女を知ってれば此処で関わるとしてなんになるのかと思うものだ。
 事実、道満もディメーンも『何だこいつか』程度の感想しか抱かない。
 基本的な身体能力はこの舞台でも下から数えた方が早いレベルのもの。
 彼女一人のできることも能力も、凡庸さを超えるものは非常に少ない。
 しかし。彼女の存在が、意外な方向へ転がることになるとは誰も予想しない。

 早くも明が戻ってくる。
 悪魔人間の力を以てすれば、
 この程度の距離など五十歩百歩に等しき短距離でしかなく。

「ッ、危ない───!」

 来夢だけが経験から彼女へと駆け寄るべく走り出す。
 フェイトはまだこの舞台にいるアリサのこともよく知らない頃の彼女だ。
 母の為の戦いはしても、人を守ると言う戦いに於いては経験がなかった。
 だから彼女に遅れる形で動くことになってしまう。
 まあ、何方であってもさして違いはないのかもしれない。
 初音との距離は五メートル以上、明はもう目の前だ。
 どうあっても間に合わない距離であるのだから。

「え───」

 初音がその存在に気付く。
 今までは吸血鬼の存在はあれど、
 人間と言う範疇の見た目からは出ていない。
 でもそこにあるのは正真正銘の怪物の、悪魔の姿。

 初音は常にあやふやな人間だ。
 故に。危機が迫れば躊躇せずに行動してしまう。
 ずっと握りしめていた霊撃札が発動させ、明が再び吹き飛ばされる。
 アカメから逃げてるのに、アカメがくれた支給品のお陰で一時的に凌いだ。
 衝撃波は後ろに続いて、後方にいた来夢も吹き飛ばされて転倒する。
 と言うより、使用の威力に驚いて初音自身まで思わず尻もちをついてしまう。
 その結果、彼女の手持ちの支給品があたりへと散らばっていく。

「───!」

 都合フェイトは一歩遅れた。
 しかし、そのおかげで彼女は怯まずそのまま行動に移せる。
 飛び出した中に、見過ごせないものがあってすぐに回収した。

「ごめんね、借りる!」

 素早く拾い上げたそれを持ったまま彼女は走り出す。
 持っていたバショー扇を、初音に渡すように投げ捨てる。
 彼女が向かう先は勿論、先程飛んでいった明の方にだ。
 正気じゃない。生身の人間が相手できるようなものではないと。
 でも違う。彼女は無力な一般人ではない。だって彼女は───















「バルディッシュ、セットアップ!!」

 魔法少女だから。
 そう、初音の支給品の中にまぎれていた三角形の宝石。
 リニスがフェイトの為に作った、インテリジェントデバイス。
 彼女の求めていたバルディッシュを手にできたから。
 走りながらフェイトの姿は子供としては大人びた黒い衣装から姿を変えていく。
 黒を基調としたレオタードにスカート加えた、ダンサーに近しい服装のバリアジャケット。
 裏地が赤い黒マントを靡かせて、いつもの魔法少女の姿へと変身する。
 でも、それだけではない。

「え?」

 バリアジャケットのデザインが僅かに違っていた。
 今までは手甲と言った防具を手足には付けなかったはず。
 更に、バルディッシュも何処か形状が違うようにも見える。

(バルディッシュだけど、何か違う!?)

 バルディッシュであってバルディッシュではない。
 敗北を喫した彼が、自分の意志で、自分の想いで新たな力を得た姿。
 一度破壊され、修復の際にベルカ式のカードリッジシステムを搭載されたもの。
 更なる先へと突き進んだ(アサルト)、未来のバルディッシュ。

『bardiche assault.』

 未来のとは察しは付かなかった。
 別世界と言う概念を良く知る彼女にとっては、
 そっちの可能性の方を考えてしまうから。
 母のプレシアはアリシアの為に狂気じみた行動に出ていた。
 バルディッシュのバックアップがあってもおかしくはないのだと。

「……そう、分かった。それが今の名前なんだね。」

655BRAVE PHOENIX ◆EPyDv9DKJs:2022/09/08(木) 06:46:39 ID:hjuuoJcM0
 でも分かった。たとえ自分の知らないバルディッシュでも、
 バルディッシュは自分を知っている。分かっているのだと。

「一緒に、戦ってくれる?」

『yes sir.』

 フェイトに忠実に、そして寡黙に答える。
 よくやった問答が短い時間の中で交わされた。
 ならばこれ以上の疑問は不要。いまするべきはただ一つ。
 生死を問わぬと言う点はあれど、勝って生き延びると。
 吹き飛ぶ明を追走するように飛行し接近する。

『cartridge Load Recommendation.』

「……バルディッシュ、カードリッジロード!」

 推奨された行為。意味がある行為だと理解し、
 フェイトの宣言と共にバルディッシュは少し形を変える。
 弾丸を装填するかのように弾倉が回転し、元の形へと戻る。
 今までのバルディッシュにはなかったカードリッジロード。
 カードリッジロードは、要するに圧縮した魔力を得るためのものだ。
 単純な魔力総量を上げることになり、普段以上に移動に魔力を回せる。
 猟銃の一撃にも劣らぬ動きは明の右ストレートを華麗に回避し、背後へ回り込む。
 元々フェイトは攻撃とスピード寄りの一撃離脱を得意とする戦術を持つ。
 だから慣れないスピードであっても、十全な立ち回りが可能となっていた。

『Haken Form.』

 フェイトにとってはサイズフォームだが、
 未来ではそう呼ばれるフォームへと形を変える。
 バルディッシュの先端に翼めいた光の刃が形を作り、
 光の鎌とでも呼ぶべき姿になってその背中に斬撃を加える。
 接近戦での攻撃としての強みのある攻撃はこの状況でも発揮され、
 明の人間からかけ離れた肌色の背へと、僅かながらではあるが紅い筋を刻む。
 文字通りかすり傷だが、かすり傷でもダメージを与えられることは分かった。
 それがわかれば、きっとこの戦いにも勝機があるかもしれないと。

(でも油断はしない!)

 これで勝てれば、明はあそこまで悩むことはしない。
 フェイトはすぐに距離を取れば、明が振り向きながらの右腕を振るう。
 一撃離脱のスタイルを取っていたお陰で回避は無事に成功するが、
 当たってしまえば致命通り越して絶命の一撃だったことは想像に難くない。
 回避特化にしている都合彼女の防御魔法は必要最低限のレベルのものだ。
 あんなものを防げるだけの強度を期待する方が無理だろう。

 離れたフェイトに向けて触覚から電撃が放たれる。
 いや、厳密には超音波だがそうとしか見えないものだ。
 防御魔法は詠唱せずとも自動的に発動されるのと、
 物理的な破壊力を伴ってないお陰で防ぐことは容易だ。
 もっともあくまでそれについてはの話であって、
 それを中断して即座に迫っての物理攻撃は別になる。
 絶命とされる攻撃を受ける前に宙へと逃げるように舞う。
 続けて追走し、風を切る轟音と共に悪魔が襲い掛かる。

『Photon lancer multi shot.』

 迎撃の為、逃げながら周囲に発射体(フォトンスフィア)を生成。
 すぐさま槍のような魔力弾を何十発も雨の如く連射する。
 多少怯みこそしているものの、動きを止めるには至らない。
 迫るアッパーカットも逃げるように降下することで回避。

「あ、あれ何なのです!?」

 モッコスの戦いも殆ど見ていない彼女にとっては、
 ユカポンの支給品などで断片的でしかなかったものの、
 これが異能が跋扈する舞台だと言うことをまともに認識できる場面だ。
 戦場は空中だ。リフレクターに慣れない以上ジャンプも人並みでは、
 来夢でも参加は叶わず、ただ見届ける状態でしかできていない来夢に尋ねる。

「見ての通りよ……悪魔と融合した人間。
 私だってにわかには信じられなかったけど。
 それよりもあなた、指輪を支給品に貰ってない?」

 バルディッシュのように指輪がある可能性がある。
 もしかしたら自分の、リフレクターの指輪の可能性だってあるはずだ。
 流石に二人そろって変身アイテムを彼女が持ってると言う可能性は低いが、
 確認しないことには始まらないことだ。

「は、初音が持ってて残ってるのは───」





『Arc Saber.』

 空中では熾烈な戦いが続いている。
 距離を取ったフェイトがハーケンフォームの光の刃をブーメランのように飛ばす。
 三日月上の刃は高速回転しながら明へと迫るも、それを片腕で受け止めた。
 刃の都合突き刺さってはいるが、腕を絶つほどの一撃には余りにも浅い。

(駄目だ、強さについていけない!)

656BRAVE PHOENIX ◆EPyDv9DKJs:2022/09/08(木) 06:49:04 ID:hjuuoJcM0
 魔法少女になったところでどうにかなる問題ではなかった。
 確かにフェイトは優れた魔法少女だし、戦闘経験も豊富であるのは事実。
 でも足りない。時空管理局に就いていた未来のフェイトであればまだしも、
 闇の書の戦いすら経ていない彼女のパワーや魔法力では何もかも足りない。
 スピードに優れてると自負するフェイトを前にしても難なく追いつく速度。
 すんでのところで避けれてこそいるが、一度でも当たれば死を迎える。
 これを無限に繰り返しながら勝利できる程、メンタルは超人ではない。

「フェイト! こっちに引き付けて動きを止めることはできる?」

「ッ、はい!!」

 地上にいる来夢からの指示。
 何かしらの作戦があるのだと分かって地上へ降りる。
 すぐさま流星の如く迫る明を、振り向きながら空へ手を翳す。
 手足に光の輪が浮かび、相手の動きを鈍らせるはライトニングバインド。
 彼女が使っている高速魔法で動きを止めるには成功するが、

(バインドをかけてあれだけ動けるの!?)

 なのはの動きをほぼ止められたバインドの力も、
 悪魔人間を相手にしては完全な拘束はできなかった。
 まだ近づいてこないだけましだが、腕を振るわれては近づくことはできないし、
 集中力を途切れさせたらすぐにバインドは解除されそうなので攻撃できない。
 来夢の考えが上手くいけばいいことを願いながらバインドに集中し続ける。

「と、届いてるですか……?」

 初音が明へ懐中電灯のようものを向けて光を当てる。
 視線を逸らしたりしているので光を認識はされてるようだが、
 特別何か強い変化が起きてるようには見受けられないままだ。

「やっぱり、悪魔にそういう概念はないみたいね……ライムが行く。」

 来夢としてもこれについてはあまり期待はしていなかった。
 相手が相手だ。人間なら十分通じたであろうそれも役には立たない。
 相手が空中にいるので届くかは分からないとしても、火車切広光を使おうとするが、

「あの、それは?」

 一体その懐中電灯で何をしたのか気になってそれについて尋ねる。
 先ほど二人にした内容をそのまま初音が答えると、フェイトは思いつく。

「! それ、私にやってもらえますか!」

「え?」

 突然の提案に三人が戸惑う。
 これを使って弱体化を目論んだのだ。
 仲間に使う、などと言う発想などなかった。

「何を言ってるの!? 使ったら元に戻る手段がないのよ!?」

 これの使用についてみさえが猛反対する。
 一定時間とかではなく、一生そのままだ。
 二度と消費したものを取り戻すことはできない。
 子供の彼女に使うには酷な代物であることは確かだ。
 初音も来夢も、同じ立場でこれを自分に使って解決できるとしても躊躇う。
 少し誤れば、もっと悲惨なことになる可能性があるのだから。

「ですが、これしかないんです! 勝てる可能性があるなら、
 私の意志で信じた道を行きたい……だから、お願いします!」

 正直安直な思考ではあると思った。
 だが今の状況での打開策は見つからない。
 単純な思考でしかなくとも、できることを全部ぶつけたい。
 後戻りはできないとしても、行き先が例え暗闇の空でも信じて進むと決めたから。

 人とは多くの偶然がいくつも重なって生きている。
 その中から、自分の道を間違えわないように選んで行く。
 間違えずに過ごしていきたい。自分の意志で、自分の想いで。
 それはバルディッシュも同じだ。このまま終わるなんて絶対に嫌だ。

「もう、バインドも保てません……お願いします!」

「は、初音はどうすれば。」

「……やってあげて。勿論、やりすぎない程度に。」

 ナスタシアによって操られた来夢にとって、
 自分の意志でしっかりと歩まんとするフェイトは何処か眩く見える。
 彼女を否定したくなく、ライトが明ではなくフェイトへと当てられる。
 先ほどまでは何の効果も得られなかったそれは突如として効果を発揮した。
 突然フェイトの髪は伸び、幼い彼女の身体は十分すぎるスタイルに変貌していく。
 バリアジャケットがその姿のサイズに合わせて形を即座に変えていき、
 既存の恰好を今の体格に合わせたものになる。

 二十一世紀の秘密道具、成長そくしんライト。
 効果はもはや名前の通り。光を当てた相手を強制的に成長させるためのもの。
 単純な考えと言うのはこういうことだ。元々フェイトは戦いに身を投じた都合、
 精神的には十分出来上がっている。必要なものがあるとするなら肉体的な成長のみ。
 純粋に魔力の質、膂力、そう言ったものが少なくとも子供の時よりはずっと強いから。

「───ありがとうございます。これで、まだ戦えます!!」

657BRAVE PHOENIX ◆EPyDv9DKJs:2022/09/08(木) 06:50:12 ID:hjuuoJcM0
 故にフェイトは捨てた。
 なのはと過ごすであったろう幼き時間を全て投げ捨てて。
 彼女達を守るため、二十代にまでその肉体を強引に成長させた。
 全てが別々だ。プレシア事件を終えたばかりの幼いフェイトが、
 闇の書の戦いの経験をしているバルディッシュを手にして、
 時空管理局の職務に就く程の体格でいると言う全てがバラバラで。
 何処にも存在しないフェイト・テスタロッサが辺獄の舞台を駆ける。

「行くよ、バルディッシュ!」

『yes sir.』

 フェイトが再び上空へと舞う。
 拘束が解除され明がそのまま追跡。
 先程よりもはるかに速い速度で上昇するが、
 やはり悪魔人間である明相手では追いつかれる。
 斧のような形状であるデバイスフォームと似た形状の、
 今はアサルトフォームで追走してきた明へとその一撃叩き込む。
 重苦しい音が響き、防いだ拳から血が噴き出し、先程以上の効果はある。
 攻撃の反動で距離を取りながら、互いに向かい合う。

「明さん……私が、止めます。バルディッシュ、カートリッジロード!」

 再びカードリッジロードからの加速。
 アサルトフォームで脇腹を抉るように斬りつける。
 とは言え似たような攻撃を見た影響で容易に回避されてしまう。

「伸びなさい!」

 みさえの宣言と共に如意棒が空へと勢いよく伸びる。
 如意棒が蝙蝠のような翼へと被弾し、僅かにだがバランスを崩す。
 ダメージらしいダメージにならないが、これだけでも十分だ。
 注意が逸らしさえすれば、それで。

『Zamber form.』

(バルディッシュの新しいフォーム!)

 空へ掲げるようにバルディッシュを構えると、
 フェイトも知らない形へと形状を変えていき、
 身の丈を超えるかのような大剣へと形状を変え、そのままスイング。
 今までのフォームと違って剣についてはフェイトにとって初めてだ。
 だから上手く振るい損ねて、剣と言うよりは鈍器のような一撃。
 それでも注意がそれた明に直撃し、近くの家屋へと叩き込まれる。

「やった、決まったのです!」

 屋根を突っ切るだけの一撃。
 普通に重傷ものであり初音は喜ぶも、
 隣の来夢は眉間にしわを寄せたままだ。

「まだよ、何が起きるか───」

 建物が悲鳴を上げながら不動明が復帰する。
 ただの復帰ではな、その光景に一瞬思考停止しかけた。
 何故なrあ、突っ込んだ家屋の屋根を丸ごと持ち上げたいたのだ。
 とんでもない武器を前に、四人ともそのスケールに一瞬唖然としてしまう。
 端から瓦が次々と落ちていく中、横薙ぎに振るわれた屋根の一撃は先の意趣返しのようだ。
 高速で間合いから後退する形で回避し、飛来する残骸の一部も難なく避けていく。
 だが明の攻撃は続く。フェイトにではなく、残った三人の方にそのまま屋根を投げつける。

 何処かの良家の広い屋根だ。
 いかに広々とした道が舗装された平安京でも、
 余裕で道を、参加者ごと容易に圧殺するだけの範囲を持つ。

「させない!」

 即座に軌道上に移動し、そのままザンバーフォームで一刀両断。
 しかし残骸そのものは残ったままであって三者に襲い掛かる。
 確認をしたかったが、一刀の隙に一気に肉薄してきた相手に余裕はない。
 なんとか顔面を逸らすことでその拳を回避はできたが、頬を掠めた拳で刻まれた傷が、
 本当にぎりぎりであったことを教えてくれた。

『Haken form Haken saber.』

「分かった、お願い!」

 ハーケンフォームへ切り替えを推奨され、
 距離を取ると同時に即座に受け入れてフォームを切り替える。
 名前の語感から、恐らくアークセイバーの類なのだと信じてその要領で振るう。

「ハーケン、セイバー!!」

 ハーケンセイバーはアークセイバー同様の刃を飛ばす技。
 元より殺傷能力が高い代物ではあったが、今の姿ならば更に高い。
 ただ段違いだからと言って弾速は変わっているわけではなかった。
 アークセイバーと似たような攻撃では、容易にその一撃を回避されてしまう。

(外した、まずい!)

 盛大に隙を晒したことで、
 明にとって攻撃の最大のチャンスが訪れた。
 防御魔法を使っても死を予感させるその一撃。
 後はバリアで届かなかった一瞬の間との勝負だが、

658BRAVE PHOENIX ◆EPyDv9DKJs:2022/09/08(木) 06:50:58 ID:hjuuoJcM0
「え?」

 届かない。バリアにすら拳が届かない。
 何故なら、明の左腕が切断されて宙を舞うから。
 それは奇しくも、デビルマンが戦ったシレーヌの時と同じ展開だ。

 ハーケンセイバーはフェイトも理解していなかったが、
 アークセイバーの上位種として向上した部分に追尾性能がある。
 だから外したとしても攻撃はまだ続いていることを、今彼女は知った。
 アモンは暴力的に見えて戦闘中でも相手の動きを見てしっかりと対策をする。
 だが彼女自身が知らなかったので、意図しないものを推測することはできない。

「バルディッシュ、バインド!」

 片腕を失ってるからか肉体的に成長したからか、
 先ほどよりも深く集中せずとも拘束の余裕がある。
 今なら狙える大技を使うべく、地上へと降りた。
 空中でも問題ないが、三人の様子の確認したかったからでもあるが。

「皆! 無事───!?」

 三人とも大事には至ってないが、少なからず負傷を追っていた。
 初音は破片が当たったことで額から血を流していて、
 来夢は瓦が当たったことで腕に打撲を受けて腕を抑え、
 みさえに至っては残骸に足が挟まっていて動けなくなっている。

「ごめんなさい、私のせいで……」

「は、初音は大丈夫なのです。」

「気にしないで。幸い足は潰れてないから!」

「それよりも、やりたかったことに集中して。」

「……はい。」

 今は懺悔する時ではない。
 するべきことを間違えることなく、空を見上げる。

「バルディッシュ、サンダースマッシャーの上位は使える?」

 アークセイバーを超えるハーケンセイバーの存在があった。
 それを考えれば、恐らくバルディッシュなら上位の魔法を知ってる筈だと。

『Plasma smasher.』

「……分かった! 行くよ、バルディッシュ!!」

 サンダースマッシャーのやり方は分かっている。
 左手を空で拘束された明へと掲げ、魔法力を集中させていく。
 なのはのディバインバスターを上回る威力を誇ったサンダースマッシャー。
 更にその亜種となる、射程を犠牲に威力を強めた上位の攻撃を放つ。

「プラズマ───スマッシャー!!」

 バインドの拘束を強引に振りほどいて、
 明のも対抗するように右手から熱光線を放つ。
 辺獄の空を目指す雷光と、地上を目指す炎熱の一撃。
 片腕での攻撃ともあってフェイトが有利……かに思われたが。
 互いの攻撃は拮抗───否。フェイトの方が押されていた。

「ッ、クゥ……ッ!!」

 フェイトが大人になったことは全てがメリットではない。
 肉体的に成長したことで使える魔力の質や総量は増えただろうが、
 同時にそれは使いすぎたことを意味する。単純に消耗しすぎている。
 プラズマスマッシャーに使う魔力が、余り残されていないということだ。
 相手が相手だ。余力を残せる余裕があるとは言えなかったので仕方ないことではある。

「魔法力が……!!」

「フェイト、これ!」

 来夢が彼女の魔力不足に気付き、青い液体の入った瓶を取り出す。
 余裕がないので一切の説明の暇はなく、それを信じて差し出されたそれを飲みたいが、
 左手は今攻撃の真っただ中で、右手はバルディッシュを手にしている都合手に取れない。
 来夢に飲ませてもらう形になり、少し不格好な光景になるも飲み干せば、即座に魔力を取り戻す。
 普通の魔法使いが作ったポーションの効果は即席で魔力が必要な場面で絶大な効果を得る。
 魔力を取り戻したことで次第に押し始めたことで優勢に変わった。
 だと言うのに、フェイトの表情は曇ったままだ。

「後ちょっと、なのに……!」

659BRAVE PHOENIX ◆EPyDv9DKJs:2022/09/08(木) 06:52:01 ID:hjuuoJcM0
 次第に押し始めたのは事実だが、その速度はゆっくりとだ。
 なら何も問題ないのでは? と思われるが、刻一刻と禁止エリアのリミットが待つ。
 勝つまでが余りに長すぎる。みさえも動けない状態だから、すぐに勝たなければならない。
 だと言うのに突破できない。これが八将神の力だと言うのか。
 これ以上、フェイトにはできる手段を持ち合わせていなかった。




















 しかし忘れてはならない。

 なのはたちがプレシアの下へ乗り込んだ時もだ。
 一人で解決できる力を持った人物はいなかった。
 ユーノの拘束魔法も、なのはの攻撃魔法だけでも足りない。
 無論、広範囲の攻撃を有したフェイトだけでも。

「の、伸びやがれです───!!」

 そう。他の二人には別だった。
 いつの間にか初音が彼女から離れた位置から拾った如意棒を伸ばし、
 明の顔面、それも目潰しと非常に殺意に溢れた一撃。
 先ほど同様に怯ませる程度の一撃でしかなかったが、

「フェイト、今!」

 来夢も続いて猟銃を放ちながら促す。
 同じく目潰しを想定した一撃は僅かにダメージを与えた。
 今この一瞬に起きた僅かな怯みが、運命を分ける。

「───ハアアアアア!!」

 僅かに緩んだ瞬間、更に魔法力を叩き込む。 
 雷光が熱光線を両断し、光は突き進んでいく。
 空へと上る雷光の一撃はなのはの魔法と同じ、
 スターライトブレイカーに匹敵するかのようだ。

 雷光の中へと姿を消しながら、明は彼方へと飛んで行く。
 ダメージを受けながら再生すると言う八将神とデビルマンの力が、
 常人どころか優れた悪魔であっても致死量の一撃を耐え凌ぐだけの耐久を誇る。
 とは言え無傷とまでは行かない。全身は誰が見てもボロボロの姿のまま、何処かへと消えた。



【C-5 空/一日目/朝】



【不動明@デビルマン(漫画版)/歳殺神】
[状態]:勇者アモンの状態、ダメージ(大)、『人間』への憎悪(若干薄れている)、精神不安定、みさえに対して安らぎの心情
[装備]:なし
[道具]:基本支給品(タブレットはなし)、ランダム支給品×1(強くない、或いは武器以外)
[思考・状況]
基本方針:全てを滅ぼす
(アモン)
1:敵を殺す

(不動明)
1:政達との合流。最悪、あいつらやみさえさん達の知り合いだけでも逃がしたい。
2:この記憶が本物であった以上、元に戻ったらその時は……
2:襲ってくる者がいたら容赦しない。
3:俺は……不動明なのか!? 悪魔族のアモンなのか!?
4:みさえさん……俺にはまだ守るべき人間が残っている。なら、俺は……悪魔人間だ!

[備考]
※参戦時期は牧村美樹死亡後。
※八将神としての人格はアモンと統合されています。
 その為、アモンとしての人格と不動明としての人格が不定期に出たり引っ込んだりします。
※ドス六たちを殺した記憶が朧気ながらフラッシュバックされています。
※ドミノとの戦いはほとんど覚えていません。
※来夢の事情を知りました。(せつ菜を殺めた顛末)
※来夢からブルリフの世界について簡単な知識を得ました。
※みさえからクレヨンしんちゃんの世界について簡単な知識を得ました。
※彼方へと吹き飛ばされました。どの方角へ飛んだかは後続の書き手にお任せします。





「や、やった、ですか……?」

660BRAVE PHOENIX ◆EPyDv9DKJs:2022/09/08(木) 06:53:04 ID:hjuuoJcM0
 光とともに消えて行った姿を見て、
 やっと自分が生き残ったことを実感できた。
 思わずその場でへたり込んでしまう。

「勝てた、けど。みんな、急いで……!!」

 地上へ落下に近しい形で降りるフェイトが促す。
 勝利の要因に浸る余裕はなかった。
 時間はリンボの言う通りならばもう残されてない。
 このまま脱出できなければ折角生き延びた意味がない。

「フェイト、初音、二人も手伝って!」

「は……はい!」

 来夢は猟銃を捨てて残骸をどけていくが、
 生身の人間では残骸をどかすのに一苦労する。
 フェイトもすぐに頷き、初音も流されるように行動するが、
 みさえが無言で支給品の中からカードを取り出し、それを掲げる。

「おや、切羽詰まってる状況だねぇ。時間はなさそうだし、
 こっちも今見所な場面だからこれを用意して退散とさせていただくよ。」

 掲げたことでディメーンが呼ばれたものの、
 小言を言う暇すら今は惜しいほど面白いことが起きてるのと、此処の四人も時間がない。
 お望み通りと言わんばかりに支給品を早急に出した後、即座に退散する。
 彼が去った先にあったのは使い古された原付で、店のアイコンと思しき文字が目立つ。

「今の声、放送の……」

「来夢ちゃん、フェイトちゃん、それと初音ちゃんだったよね……それで脱出して。」

 三人に動揺が走り、交流のあった二人は特に動揺する。
 不安に怯えていたフェイトを、人を殺した来夢を気遣った。
 そんな彼女を見捨てろと、死なせると言うことを勧めてると言うことだ。

「何、言ってるんですか! フェイト、まだポーションはあるから魔法で瓦礫を……」

 あれだけの魔力が使えるフェイトなら、
 この程度の瓦礫は問題ないだろうと。
 でも、それはできない。

「ゴメン、なさい……」

 バルディッシュを杖代わりにしつつ立つフェイト。
 マジックポーションは確かに瞬時に魔力を回復させる。
 しかし、体力を回復させるわけではないし、フェイトに回復魔法は不得手だ。
 動く分には問題ないレベルのものは出来ても、力技をするには向いていない。
 だから魔力を回復させたところで、疲労は変わらず存在したままだ。
 元々サンダースマッシャーでさえも一度使えばほぼ後がない程消耗する。
 更に上位の、今の彼女にとって初めて撃つ魔法。慣れない攻撃はより消耗していた。

「だったら初音、如意棒を縮めてから伸ばせば───」

「そ、それが……できないのです。」

 伸びるよう指示しても、縮むように指示してもサイズが変わらない。
 先ほど明の攻撃を妨害した一撃を叩き込んだということは、だ。
 プラズマスマッシャーに巻き添えになってなければありえない。
 それで削れてしまったのか定かではないが、ちゃんと機能しなくなっていた。
 頼りにしてた手段、両方が使い物にならないとわかると来夢の顔が青ざめる。

「まだ、時間なら……」

 来夢は言わなかったことをフェイトが口にした。
 今から瓦礫を撤去してみさえを救出して、スクーターに全員乗って脱出。
 そんなの、土台無理な話だと言うことを彼女は分かってしまっていた。
 だから言えなかった。事実上の死刑宣告だから。

「時間はギリギリで、事故や敵と出会う可能性だってあるのよ。
 第一、来夢ちゃんも腕を怪我して運転が安定してるか怪しいわ。
 余裕を持って出ないなさい。どのみちスクーターは多くても三人用、
 全員を連れて移動できる状態でもないから。」

 それをみさえに言われ、フェイトが膝をつく。
 ダイエットしておけばよかったわねと、
 こんな状況……否、こんな状況だからこそか、彼女はおどける。
 彼女達が、特にフェイトが後ろ髪を少しでも引かれないように。

「……分かり、ました。」

 最初に納得できたのは来夢だ。
 元より無理だと言うことを理解してしまい、
 フェイトは運転できる体力がないし、初音は体格的にできそうにない。
 だから一番マシな運転ができるのは彼女だけで、同時にリアリスト故に。
 だから原付を運転するべく、準備に取り掛かる。

(初音も、そんな風になれるですか……?)

 初音もそれに続いていく。
 彼女とは出会ったばかりだから二人程強く意識することはない。
 でも、自分よりも他人を尊重できるその姿。ユカポンや充、琴美と同じだ。
 誰も彼も、カルネアデスの板を譲り合っている。自分が沈むことを望もうとする。
 どうして、そんなに皆して強くいられるのか。羨ましく、疎ましく思えてならなかった。

「野原さん。ごめん、なさい……!」

661BRAVE PHOENIX ◆EPyDv9DKJs:2022/09/08(木) 06:54:30 ID:hjuuoJcM0
 フェイトだけはその場で崩れ、大粒の涙を流す。
 外見は大人でも、中身は小学生と変わらない精神年齢なことに変わりはない。
 自分がちゃんと対処できていれば、こんなことはならなかった。
 如意棒の機能しなかった原因も合わせてしまえば、
 彼女を死なせるのは、事実上自分であるのだと。

「何言ってるの。フェイトちゃんは明君に誰も殺させなかった。とても凄いことじゃない。」

「でも、野原さんが!」

「フェイトちゃんがいたから、全員潰されずに済んだ。
 それに明君の忠告を無視した結果、と思えば仕方ないもの。
 私のは事故みたいなものよ。だから気にしないで……って無理よね。
 じゃあ、夫に会ったら伝えて。『ヘソクリ、タンスの奥にあるから使うように』って。」

「……え?」

 実質それが辞世の句。
 聞き間違えたのかと二度見してしまう。
 それが最後のでいいのだろうかと。

「えっと、それだけでいいんですか……?」

「あ、やっぱりなし! 素直に『愛してる』にして!」

「は、はい……」

 気を遣わせたくないのだろう。
 これから死ぬという態度ではない。
 無理して此方を笑わせようとしている。

「……じゃあ追加。行って、そしてしっかり生きて。
 それと、もしもできるならで彼を元に戻してあげて。」

 もうどうにもならないとしても、
 明を何とか解放してあげてほしい。
 方向性は違うが敵組織に洗脳された経験もあることだ。
 自分を失った状態と言うことの恐ろしさは十分に理解できる。
 でもあれだけの強さだ。殺さないようにするのは難しいだろう。
 可能なら生きたままで、と言う程度に留めてもらうことにする。

「そんで、マンボだかタンボとか言うあいつを一発引っ叩いてちょうだい。」

「フェイト、初音。準備できたから急いで。」

 やはり彼女にはすぐに受け入れられないことだ。
 どうしても『たら、れば』を思えてならなかった。
 そんな余裕を持てる相手ではないことは分かっていても。

「───はい。わかり、ました……」

 納得はできなかったが、自分が生きないと明も、その言葉も伝えられない。
 それこそしてはいけないものだと受け入れて、素直にフェイトは原付へ向かう。
 来夢がハンドルを握り、フェイトが後ろに乗り、更にそのフェイトの膝に初音が乗る、
 かなり強引な三人乗りをした状態で、原付はゆっくりとだが走り出す。
 運動能力の低い初音や体力の底をついてるフェイトを抱えても、
 十分に禁止エリアからは抜け出せる程度には安定した速度で。

「……慰めにならないと思うけど、言うわね。」

 運転しながら、来夢は呟く。
 誰に対して言ってるかは分かっており、
 初音もフェイトも黙ってそのまま聞き続ける。

「この結果に思うところがない、と言えば嘘になるわ。
 出来れば、あの人を私だって助けたかった。
 でも、貴女は全力で戦って私達を守ってくれた。
 ライムができたことなんて、薬とこんなことぐらいだから。」

 来夢はフェイト以上に自分が不甲斐ないと思っていた。
 指輪がなければ、こんなにも自分は非力なのかと。
 自分を許してくれた相手にできることは何もないのだと。

「今回のは来夢も背負うから。貴女一人だけの責任にさせない。」

 ドライで現実的に物事を考える自分らしからぬ物言いだ。
 目的のために手段を選ばない。たとえそれが非難されるものでも。
 相手が年下だからか。それとも、彼女のエーテルの温かさを知ったからか。
 誰かを思いやるような言葉を口にしていた。

「……ありがとう、ございます。」

 原付の上で揺られながら、フェイトは思う。
 電話越しで、姿は分からなかったあの男。

(キャスター・リンボ……)

 この舞台の主催の一人であり、
 明を良いように操り、結果的にみさえの死の遠因となった相手。
 絶対に、倒さなければならない相手だと理解しながら辺獄の空を眺める。
 どこかでほくそ笑む、陰陽師を睨みつけるかのように。

662BRAVE PHOENIX ◆EPyDv9DKJs:2022/09/08(木) 06:55:09 ID:hjuuoJcM0
【C-5/一日目/朝】



【フェイト・テスタロッサ@魔法少女リリカルなのは】
[状態]:疲労(大)、魔力消費(大)、罪悪感(大)、成人の姿、みさえに対して安らぎと悲しみの心情
[装備]:バルディッシュ・アサルト@魔法少女リリカルなのはA’s、バリアスーツ(ソニックフォーム)
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1〜2
[思考・状況]
基本行動方針:みさえさんの家族、来夢さんと明さんの仲間を探す。
1:来夢さんとこの子(初音)と行動する。
2:家族って、良いものなんだね……
3:他の人達もそれぞれ別々の世界からつれてこられてるのかな...
4:明さんを止める。明さんが死ぬことになるとしても。
5:私の知らないバルディッシュ。でも、私を知ってるバルディッシュ。
6:キャスター・リンボ……あなたは絶対に倒す。
7:ひろしさんやしんのすけに会った時、謝る。

[備考]
※参戦時期は少なくとも第一期のプレシア事件の後です。
※来夢の事情を知りました。(せつ菜を殺めた顛末)
※来夢からブルリフの世界について簡単な知識を得ました。
※明からデビルマンの世界について簡単な知識を得ました。
 最愛の人である美樹を人間に殺されたことは察してます。
※成長そくしんライトによって原作におけるストライカーズの年齢まで成長してます。
 バリアジャケットはその場で変化させているため格好に問題はありませんが、
 このまま元の服装に戻れば元の服のサイズが合わない為、どうなるかはお察しです。
※バルディッシュの参戦時期はA’s最終話までなので、
 真・ソニックフォームなどそれ以降の時期のフォーム等にはなれません。
※主催にキャスター・リンボ(名前は知らないが芦屋道満)の存在を知りました。

【司城来夢@BLUE REFLECTION 幻に舞う少女の剣】
[状態]:疲労(小)、負傷(小)、罪悪感(大)、服全身血まみれ、みさえに対して安らぎと悲しみの心情、腕に打撲
[装備]:火車切広光@11eyes -罪と罰と贖いの少女-、成長そくしんライト@ドラえもん、マジックポーション×3@東方project、銀時の原付@銀魂
[道具]:基本支給品一式、みさえのデイバック(基本支給品、ランダム支給品1)
[思考・状況]
基本行動方針:乗らない。そして、せつ菜さんやみさえさんの知り合いのを探して謝る。
1:リフレクターになる指輪を探したい。
2:せつ菜を殺した事実を受け止めて、関係する人達に謝罪する ※ヒナにも事実を隠さず伝える。
3:もし、明がアモンに人格を乗っ取られたら……ライムは―――
4:みさえさんのエーテル……とても温かかった。
5:ユズ……
6:ライムも、フェイトのそれを背負うわ。

[備考]
※参戦時期は11章、原種イェソド1戦目終了後から
※優木せつ菜を殺めたことで精神が不安定になっていましたが、
 みさえの愛情で頭痛は鳴りやみ、落ち着きました。
※みさえからクレヨンしんちゃんの世界について簡単な知識を得ました。
※明からデビルマンの世界について簡単な知識を得ました。
 牧村の件はなんとなく察せてます。
※主催にキャスター・リンボ(名前は知らないが芦屋道満)の存在を知りました。

【阿刀田初音@リベリオンズ Secret Game 2nd stage】
[状態]:精神的疲労(大)、疲労(大)、出血(中)、全身にダメージ、不安(大)、額から出血
[装備]:霊撃札×3@東方project、壊れた如意棒@ドラゴンボール、バショー扇@ドラえもん
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜1(アカメ、琴美が確認済み。ボウガンや危険物以外)
[思考・状況]
基本方針:初音にどうしろというのですか……
1:充を探す。アカメから逃げる。
2:修平、はるな、大祐、アカメには要警戒する。
3:琴美……ユカポン……
4:どうして、みんなそんな風にカルネアデスの板を譲れるのですか。

[備考]
※参戦時期はBルート、充の死亡直後より。
※自分が琴美を殺したと思ってます。
※如意棒は伸びなくなってます。
※バショー扇には攻撃の風と指定されてます。










(時間的に、逃げ切れるよね。)

663BRAVE PHOENIX ◆EPyDv9DKJs:2022/09/08(木) 06:56:02 ID:hjuuoJcM0
 姿が見えなくなっていく中、みさえは口元に手を当てる。
 何度も世界を救うような、壮絶な戦いに家族一同で巻き込まれている。
 でも彼女は二児の母親だ。断じて死を覚悟し続けてきた戦士ではない。
 口を開けば絶対に言ってしまう。『死にたくない』『連れて行って』と。
 言いたくて仕方ない。こんな形で死ななければならないなんて誰も思いたくない。
 しんのすけやひまわりの世話、今晩の献立だって用意しなくちゃいけないのに。
 家族とは再会することもなければ、誰に看取られるわけでもなく死ぬ。
 だから、生きたいと言うありふれた願いを涙を流す形で押し殺す。
 彼女達に少しでも後ろ髪を引くことはないように、大人として。

(お願い、しんのすけ、あなた……生き───)

 家族の安否を想いながら、彼女の首輪は爆発した。
 最後まで声を出すことないまま、ただ爆発音だけで。
 ある意味、不安にさせないと言う誰よりも強い意志を持ったまま。
 最後まで彼女は折れることなくこの殺し合いへと抗った。

【野原みさえ@クレヨンしんちゃん 死亡】




















『ンンンンン、これは予想外。』

 実は、電話はまだ繋がっていたりする。
 相手側は切る暇などなく、切らずに放置していた。
 歯車の塔から音声と共に見やれば思わぬ展開に驚かされる。
 こんな衝突事故みたいな連鎖で自分の担当が返り討ちに遭うとは。

 あれだけ焚きつけておいたのに、
 これまた一人も殺せないまま決着した。
 みさえの死は不動明による判定なのかも怪しい。
 最悪、最後に屋根に干渉した判定からフェイトかもしれない。
 今度こそ殺害人数十人を期待したのだが、このありようだ。

「さて、こうなってはあれですな。もう一方の相手にでも───」

 電話する相手がなくなった。
 どうせなので通話アプリで想定していた方にも電話を掛けようとする。
 だが、それを背後からヒョイと取り上げられてしまう。

「……何をしておるのじゃ。」

「これはこれはメフィス殿。佐神善はよろしいので?」

「質問に質問で返すから安倍晴明に勝てんのじゃろうな、お主は。」

 普段は人を小ばかにしたような態度でいたが、
 今の彼女は違う。目を細め、威圧的な眼差し。
 ニコニコとしている道満とは対照的である。
 だから遠慮なく道満が対抗心を燃やす晴明を引き合いに出す。

「ンンン。そこで晴明の名を出すとは、これは手厳しい。
 質問ですが、所詮これは支給品の範疇。咎めはされますまい?」

「『もう一方に繋ぐため』のであって、『主催と連絡ができる』など、
 わしらは想定しておらぬはずじゃぞ。勝手にアドレスを追加しよって。」

「よいではありませぬか。十条姫和の支給品を都合よく改造しておいて、
 拙僧にだけ支給品を改造をするななどと、それは道理が通りませぬなぁ?」

 袖で口元を隠しヨヨヨと泣きながら流し目を見せる道満。
 『気持ち悪いからやめろ』と言われ、直ぐにスンと落ち着く。
 急に落ち着くなと突っ込みたくもなるが、こいつも同族の類だ。
 人の反応を逐一楽しんでるのだろうと。

「そも、この通話も不動明の起爆剤目的じゃろう?
 他の参加者のアドレスまで把握して何をするつもりじゃ。」

「無論、煽り目的ですが?」

「お互い、趣味が最悪じゃな。」

 やれやれと溜息を吐く。
 この男は自己主張が激しい奴なのだろうなと察した。
 さらりとメールアドレスにも『DOMAN』と加えており、
 こいつ本当にキャスター・リンボで名前を通す気があるのかと疑いたくなる。

「ところで、今更ながら質問ですが。」

「なんじゃ。」

「何故、司城来夢には指輪がないので?」

664BRAVE PHOENIX ◆EPyDv9DKJs:2022/09/08(木) 06:57:08 ID:hjuuoJcM0
 妹の夕月にはリフレクターの指輪がデフォルトであった。
 リフレクターではなくなった日菜子には支給品であるのはわかる。
 一方で来夢と夕月の差について違いがあるところは気掛かりだ。

「八将神同様、差別化と言ったところかのう。
 ある場合とない場合の違いを楽しみにして見たが、
 よもや指輪がある方が先に果てたのじゃからわからんものよ。」

「さようで。では拙僧、今度こそ客将の様子でも伺いましょう。」

 タブレットを取り戻すのは困難であり、
 揉め事を追加でするのもほどほどにしようと、
 客将の方々へとその様子を伺いに向かう。

「……主催が参加者と通話できる、か。
 ま、面白みのある試みではあるかのう。」

 どういう使い道を見出したものか。
 僅かばかりの興味を持ちながら、メフィスはそれを持って何処かへと行く。
 これの繋がる先は、果たして誰だったかの確認するべく。

※参加者の誰かに通話アプリ@オリジナルが最低一人でも支給されてます
 支給品が消滅した沙都子、ドス六達の可能性もある為今も繋がるか不明です。

【バルディッシュ・アサルト@魔法少女リリカルなのはA’s】
阿刀田初音に支給。リニスが作ったインテリジェントデバイスで通称『閃光の戦斧』。
シグナムに破壊されたバルディッシュがベルカ式のカードリッジシステムを搭載されたもの。
レイジングハート同様意思がありフェイトに忠実で、本ロワでは誰にでも使用可能なデバイス。
ただ、魔法力の都合フェイトのように魔法力かそれに類する人物が使うのが望ましい。
基本は斧の形状ではあるものの鎌や槍等、様々な形状に変化させることができる。
あくまでフェイトの魔力資質によるものなので、他人が使う場合電気系統とは限らない。
参戦時期はA’s最終話までなので、真・ソニックフォームなどのフォームにはなれない。

【通話アプリ@オリジナル】
不動明に支給。厳密には名簿に使われるタブレットに内蔵されている。
同じアプリが内蔵された参加者、道満の細工により主催と連絡が可能。
禁止エリアのC-5で、みさえの爆発に巻き込まれたので多分繋がらない。
一度使うと二時間は使用不能。主催のメールアドレスは「DOMAN]が混ざっている。

【成長そくしんライト@ドラえもん】
司城来夢に支給。文字通り成長が促進されるドラえもんの秘密道具。
懐中電灯のような道具で、この光を生物に当てると生物を早く育てることができる。

【マジックポーション@東方project】
司城来夢に支給。東方非想天則におけるシステムカードの一枚で
魔法の森のキノコから抽出した魔力回復剤で瞬間的に魔力を回復させる。二本入り。

【銀時の原付@銀魂】
野原みさえ支給。坂田銀時が愛用する原付で車種はべスパ。
円の中に銀の文字が記されたマークが特徴的なぐらいで、基本スクーターそのまま。
どこぞの荒野の世界では加速装置により140キロはでたらしいが、
50cc以下なので速度はそんなに出ない。ヘルメットは一つだけある。

665BRAVE PHOENIX ◆EPyDv9DKJs:2022/09/08(木) 06:57:36 ID:hjuuoJcM0
以上で投下終了です

666BRAVE PHOENIX ◆EPyDv9DKJs:2022/09/08(木) 07:27:17 ID:hjuuoJcM0
マジックポーションですが説明では2本でしたが、
本来は4本(状態表の3本が正しい)です。失礼しました

667 ◆EPyDv9DKJs:2022/09/08(木) 07:39:19 ID:hjuuoJcM0
重ねて報告忘れです
飛鳥了の猟銃ですが、来夢の支給品として所持してます
表記が抜けてたみたいです。失礼しました

668 ◆EPyDv9DKJs:2022/11/06(日) 10:00:29 ID:SuRhmxUM0
投下します

669藤丸立香は多分分かっている ◆EPyDv9DKJs:2022/11/06(日) 10:01:31 ID:SuRhmxUM0
 ギャブロは一人頭を抱えていた。
 緑郎を追って来てみれば別の参加者との邂逅。
 立香から飛び出た支給品による謎の存在となるアンナ。
 ギャブロの存在は勿論、命を宿したロボットと相対したこともあるので、
 不思議な生き物に対しての理解は強く、他の三人のうち二人も身近な間柄だ。
 話を伺おうと思ったもののディメーン放送が始まったことで中断されたのだが、
 その結果が通夜みたいな空気へと追い込まれていたがゆえに頭を抱えていた。

「せつ菜ちゃん……」

「薫にマイマイまで……」

 スクールアイドル同好会の始まりとも言える中川菜々の死。
 友人の舞衣に、長い付き合いである相棒の薫までもが犠牲者となった。
 家族かどうかは定かではないが、ソニアを喪った時と似た気持ちなのだろう。
 気持ちの整理を何もしないままに動いたらろくなことにならないと言うのは、
 ドーンに唆されて彼女を裏切り者と思い込んだ彼だからこそ落ち着くのを待つ。
 もっとも、

「そんな……それにあの声……」

 残りの人物までもが影を落とすとは思っていなかったが。
 彼女はアンナ───またの名をエマ。ある男性に恋い焦がれた結果、
 その果てに今の姿を得た一人の女性。彼女はその記憶を取り戻している。
 取り戻してるがゆえに、ノワール伯爵が呼ばれたことに驚きが隠せないでいた。
 世界を滅ぼさんとするマリオ達最大の敵であり、話さなければならなかった相手。
 だと言うのに今やそれは能わず、しかもあの声は間違いなくディメーンのもの。
 状況の理解が追いついてない彼女は、あんないフェアリンでも解析の処理が遅れる。

「マシュ〜〜〜……」

 そしてこの男もだった。
 マシュは生きているので問題はない。
 一方で、この空気に耐えかねた立香はマシュの名を呼びながら泣いている。

「いやお前まで泣くのか!?」

「だってマシュが無事で喜びたいけど、
 皆が無事じゃないのに喜びそうになったって思うと……」

「いや確かにボクもそれは分からないわけじゃないけど。」

 さっきまでの人理修復が嘘ではない歴戦のマスターの風格は何処へ行ったのか。
 よくわからない人柄をしてるが、感受性豊かで悪い奴ではないんだろうなと言うのだけはわかる。
 彼を見ていると、嘗て捕まえていた子供たちと似たような精神に感じてならない。

「Sorry……貧血になったのもあって、弱気になっていたみたいです。」

 貧血どころか腕一本なくなったのだが、
 余り重くならないようにマイルドな表現で話すエレン。
 普段のあえてやってる片言な喋りをする余裕は少し減っていた。
 舞衣もだが、やはり一番堪えたのは長年の付き合いからくる薫だ。
 嘗ての戦いでも二対一の状況で勝つことができなかったり、戦績は良くない。
 彼女は経験してないがタギツヒメとの戦いでも迅移の段階についていけるものではなく、
 刀使の実力としてみると、最高峰クラスの可奈美や姫和たちととはどうしても劣る。
 その上御刀が自分にないのであれば、彼女だって祢々切丸がない可能性は高かった。
 別に楽観視はしていなかったにせよ、多すぎる死者のことも考えると、
 余り感傷に浸っていては自分や侑の仲間にも危険が迫ることもある。
 だから気持ちを切り替えて滞っていた情報交換を優先とした。

「ことがことでしたのでまだお互い余り話せてませんでしたね。
 此処で一先ず我々の状況を整理しましょう。ゆんゆん、大丈夫ですか?」

 ロックに対する怒りは戦いに身を投じていた都合よくわかる。
 特に、戦いとは無縁の彼女が放つ殺気など隠せるはずもなく。
 加えて心労も多い状況だ。無理をしてない方がおかしいと言うもの。

「歩夢や愛さん、璃奈ちゃん……それにエレンさんの友達も探さないとだよね。」

 自分が足を引っ張ってると言うのは重々承知していることだ。
 ギースに禄朗と、立て続けに足を引っ張る存在だと否応なく理解させられる。
 だから、せめてこういう時ぐらいはなんとか堪えて話を進めることを決意する。
 堪えきれず涙を流れてはいるものの、彼女の意を汲み取りそのまま話を続けた。

「知り合いが多いのは、災難だな……」

 合わせて十名を超える参加者。
 喪うことは悲しいことを知るギャブロも、二人の心情をある程度察する。
 とはいえこれらの情報はさして参加者四人の状況を進展させることはない。
 全員知り合いに出会えていないのだから足取りがつかめない以上当然でもある。
 ただ一つ『参加者以外』であれば話は別ではあった。

670藤丸立香は多分分かっている ◆EPyDv9DKJs:2022/11/06(日) 10:02:57 ID:SuRhmxUM0
 あんないフェアリン、アンナ。
 この場で主催を知っている唯一の存在。
 彼女の存在が彼らに新たな進展を齎してくれた。

「でもルミエールが、まさか……」

 折角記憶を取り戻しながらそれぞれの仲間に幹部の相手を任せ、
 残されたマリオとフェアリン達と共に、本拠地で相対したと言うのに。
 和解は無理でもせめて彼と会って話はしたかったが、その直前から記憶がない。
 否、なくなってると言うよりはその時点で此処に招かれたと言うべきだろうか。

「にしてもディメーンって奴、何者なんだ?」

 マネーラからも一応人物像は聞いてはいたが、
 アンナの得ている知識から得たものも相まってより謎が深まる。
 ノワール伯爵を裏切って主催の一人となった謎の存在。
 そもそも伯爵に仕える理由もいまいちよく分からないので、
 ギャブロからするとドーンのような野心を持った以外の理由がない。
 それだけ主催にいることが彼にとってのメリットなのだろうが、
 どこかつかみどころのない人物ではその考えも余り進められない。

(マネーラ大丈夫かなぁ。)

 伯爵の話を聞いて立香だけがマネーラの事を優先して考えた。
 寝てた自分を態々助けてくれたので世話焼きな人(?)とは分かる。
 しかし伯爵が死んだ今、彼女の状態がどうなってるか分からない。
 最悪のことは想定する。数々の特異点や異聞帯を歩んできた彼にとって、
 間違っていたとしても当人はその踏み外した道を歩み続けると言うのは、
 極寒のロシアで敵対することになったアタランテ・オルタがそれだ。

「と言うか主催がやりたいことが何なんだろうな。」

「殺し合う必要がある点で、考えるしかありませんネ。」

 『殺し』が必要ではなく『殺し合ってもらう』ことに意味がある。
 でなければ伯爵を裏切るだけならば見せしめに殺すでも容易なはずだ。
 参加者にしてる以上は何時でも殺せるチャンスとは存在してたはずだから。

「心当たりならあるよ?」

「えっ。」

 のほほんとアンナをずっと眺めながら、
 何を考えてるか分からなかった立香が体育座りのまま手を挙げる。
 ずっと黙ってただけあってエレン達からも意外そうな顔をされた。

 参加者のマシュとは別の世界から招かれた藤丸立香はかなりの天然だ。
 サーヴァントの真名を忘れる、危機的状況でしょうもないことを聞く等、
 下手をすれば『お前は小学生か』と言うツッコミが成立してしまう程の天然な子だ。
 その天然は本来真面目なマシュにまで伝播してるのか、ノリはコメディ通り越してギャグだ。
 ……なのだが、この男の恐ろしい所はこのありようで数々の異聞帯を攻略していることでもある。
 極寒のロシア、神代の北欧、統一された中国、唯一神のインド、神々が栄えたオリュンポス。
 そして今やモース、妖精騎士、ケルヌンノス、災厄、モルガンなどが存在していた妖精國も、
 この小学生みたいなノリで、しかも純朴な精神をなおも保ったままで到達しているという実績。
 何をどうすればそうなるのかは不明だが、なんだかんだカルデアのマスターの実力は有している。
 当然この平安京にも覚えがあり、赤黒い空で平安京など最早一つしかない。

「芦屋道満って言う……えーっと、
 アル……アル……アルコールのサーヴァントでキャスター・マンボを名乗ってた!」

「少なくともその呼び方がどっちも間違ってることだけは私にもわかりマスね。」

 多少(多少か?)間違ってはいたものの、
 マンドリカルドの名前を忘れる記憶力の彼にとって、
 名前だけでも覚えていられるのは多少の成長は伺えるだろう。
 ついでに言えばクラスを伝えたところで話に支障はないので、
 クラスはアルコールであだ名もマンボのまま修正されることなく話は進んでいく。

「芦屋道満って大昔の陰陽師? だったよね。」

「はい。平安京にも深く縁のある方デス。
 しかし英霊とは、カナミンが聞いたらきっと喜びそうですね。」

 幕末の新選組、平行世界の剣豪、燕を斬る剣豪が如き農民。
 剣の達人がこれでもかといたら可奈美は戦いたいのは容易に想像つく。
 特に新陰流の開祖でさえそこにいるのなら目を輝かせて当然だ。
 残念ながら彼女の御刀に関わる家康たちはいないらしいが、
 また日本のサーヴァントが増えたとか増えてないとか。

「じゃあお前の知り合いの芦屋道満が犯人なのか?」

「うーん、どうなんだろう。悪さはするけど……」

671藤丸立香は多分分かっている ◆EPyDv9DKJs:2022/11/06(日) 10:03:47 ID:SuRhmxUM0
 下総や平安京では凄いこと(彼の語彙力がないのでこれ)をやってのけた際は、
 確かに悪党らしくもあって仲間になって間もない頃は彼自身も訝ることろはあった。
 だがそれはキャスター・リンボでの話。カルデアでの道満と言えば記憶に新しいのが。

『マスター? 根を詰めすぎてはなりませぬぞ。
 事務仕事なぞ拙僧にお任せなされ。ささ! ささ!』

 疲れ気味の彼を労ったりタイピングを披露したり。
 呪符を忍ばせようとしたことはあれどもそこまで悪さはしておらず、

「この間レポートの清書を手伝ってくれてそれで所長に褒められた。」

「悪い、全く意味が分からん。」

 過程をすっ飛ばしてカルデアの話をされれば、
 普通に誰だってわかるわけがなかった。

「でもあんまり悪さしなくなったよ?
 夏は水着ではっちゃけてたからお仕置き受けてたけど。」

「ストップストップ! 多分これ永遠に脱線しちゃう!
 私達が聞いてるのはその平安京で何をしてたか、だよね!」

 何処へ向かってるのかが分からず、
 侑が待ったをかけることで話を戻す。
 改めて、キャスター・リンボ(マンボ)時代における、
 平安京でしていたことをつまびらかに語っていく。

「神になるため……陰陽師から神って飛躍してない?」

「でも合点がいきマスね。天覧聖杯戦争、
 サーヴァントの……霊基? を集めることで、
 最終的に目論見を達成させようと考えていたんですね。
 となればしたいことは天覧聖杯戦争の大規模バージョン、
 と考える方が自然かもしれまセンね。」

 どちらも自分の手を下すことはせず、高みの見物から自分の利益を得る。
 なんとも悪党のテンプレートのようなそれらしい考え方をしているものだ。

「うーん、うちの道満だったら僕のせいになるから違ってほしいな。」

 サーヴァントと言うのは召喚されればマスターに従うものだ。
 ジャンヌ、クー・フー・リン、哪吒……仲間であったこともあれば、
 敵として立ちはだかったサーヴァントと言うのは数知れず存在する。
 もしかしたら此処の道満は双子に召喚されたことでその道を選んだ、
 と言うことだと思いたいと立香は思わずにはいられなかった。
 いや、夏は二年連続黒幕側にいたので『ん?』ともなってはいたが。

(一番こいつの精神性が凄いかもしれない。)

 善悪の超越。歴史に名を遺した英雄は数多に存在するが、
 悪逆の限りを尽くした所謂反英雄から神霊までもがいる。
 それらと分け隔てなく接することができると言うのは、
 先ほどギャブロが感じた立香の雰囲気もそこからくるものなのだろう。

「ところでアンナさんは首輪の解析ってできる?」

「できると思うけど推奨しないわ。ルールに異能で干渉しても爆発、
 と言うのがあるなら私の解析も異能になるかもしれないもの。」

「だよねー。」

 そんな簡単に話が済むわけがない。
 努力の積み重ねがスクールアイドルでもあるので、
 普段と変わらないと言えば変わらないのだが。

「確認はしておきたくないか?」

「でも確認すると言うことは、そういうことですよね。」

 確認=首輪を手にする。
 必然的にすることは一つだけだ。

「言いたくはないですが、回収できる相手が何人もいるのが皮肉デスね……」

 想像よりもはるかに死者が多すぎる。
 言い方は悪いが、首輪が普通に回収も可能だろうと。
 死体を損壊させるのは少々気が引けることでもあるが、

「私も、覚悟決めた方がいいですね。」

 エレンは気が引けていたものの、侑が後押しをした。
 いつまでも守られるだけでやりたくないことを押し付ける、
 そんな考えではだめだ。スクールアイドル同好会は皆と一緒に歩む。
 自分だけが後ろでいるなんて自分じゃないと。事の意味は理解しているが、
 だからこそエレン達の負担にならないよう、自分ができることをしたいと思う。

「ゆんゆん……」

『もう一つ貴様の欠点を教えてやろう。
 人殺しを躊躇するヤツに勝ちなどない。それだけだ!』

672藤丸立香は多分分かっている ◆EPyDv9DKJs:2022/11/06(日) 10:05:11 ID:SuRhmxUM0
 ギースからも言われた言葉が脳裏をよぎるエレン。
 守ると言うのは、守るだけに足りうる実力があるときだけにできるものだ。
 手加減どころか、もはや片腕では満足に戦えないのでは、躊躇は身を滅ぼす。
 このままの考えではいられないのはエレンもまた同じだ。

「とは言え、先に知人との合流が先デス。」

 まずは刀使、同好会、マシュ。
 決して少なくない人数ゆえに喪った数も多いが、
 まだ生きている人達がいる。せめて彼等との合流、
 それが先決であることは変わらないしエレンの状態から、
 戦力足りうる人物を集めていくのは大事なことだ。

「でも困ったな。人数は四人、二手に別れたいがエレンの状態がきついよな。」

「リッツーのお陰で回復はしましたが、
 腕がないとバランスが取れなくて大変デスね。」

 都合よくレオーネが来て、一緒に行動したいと思いつつも、
 未だに戻ってこれないということは、別件で忙しいのだろう。
 いつまでも待つというのはできないので、書置きだけでもしておこうと侑が行動をし始めると。

「お、レオーネが言ってた奴だな!」

 窓ガラスが割れていたので、
 てっきりここだと思って二階の窓から平然と乗り込んできた男、
 ミスターLの登場で中断をせざるを得ない。

「あなた、ミスターL!?」

 アンナは蝶のままであるので、
 必然的に名簿を見ることはできなかった。
 なので口伝であるマネーラと伯爵以外は把握しておらず、
 しかも本拠地でも出会わなくなったミスターLとの邂逅は想定しておらず、
 普段クールなアンナとしては珍しい反応を返される。

「む!? 赤い髭と一緒にいた奴じゃあないか。
 悪いが今は一時休戦だ。レオーネの言ってたユウはあんただな!」

 マリオと敵対関係ではあるので当然アンナも敵だが、
 今はそれ以上に優先順位として、悠奈と協力してこの殺し合いを止める。
 勇者一行との揉め事については後回しだ。

「今、レオーネさんって!」

「待って。貴方、今どういう目的で動いてるの?」

 唯一知り合いであるアンナにとって、
 一応敵の陣営である彼のスタンスの確認は大事だ。
 四人は初対面でそういった事情を知らない可能性もある。

「レオーネと悠奈、それと征史郎って奴と協力体制だ。
 此処には四人の勇者はいない。だったらオレのすることは一つ。
 伯爵様の遺志を継いで、マネーラやナスタシアとこの戦いを止めてやるだけだ!」

(何か勘違いしてる気がするのだけど……)

 ミスターLの言う伯爵の遺志を継ぐ、
 という内容は正直的を外れている気がしてならない。
 世界を滅ぼすことが本来遺志を継ぐではないのだろうか。

「伯爵は……?」

「あの方なら、きっと部下を大事にするさ。
 ナスタシアとマネーラが道を踏み外していたなら、オレが止めてやる!」

 何度か回転をした後、腕を天へと突き上げながらポーズを決める。
 勢いに気圧されてる四人を余所に、アンナは一人(一羽?)思案していく。

(何かずれてる気がするけど、明確に示すよりもそのまま乗った方がいいわね。)

 ノワール伯爵は世界を滅ぼそうとしていて、
 ミスターLはその部下、そういえば話は済む。
 ただ、此処で糾弾して得られるメリット以上のものがある。
 ミスターLはメカに長けており、その技術は恐らく捨て置けない。
 加えて戦闘能力も高く、此処で敵にするよりも味方の方が都合がいい。

「……今だけは貴方に協力させてもらうわ。」

 結果、特に揉めることもなくそれを選ぶ。
 此処には彼の様子からマリオもピーチもクッパもルイージもいない。
 だったら彼がいきなり約束を反故にするようなこともしない可能性は十分にある。
 勇者一行のパートナーと伯爵ズによる共同戦線が、此処に成立する。

「えっと、敵対関係?」

「ちょっと元の世界でいざこざがあっただけ。
 此処でもその関係を持ち込んだりはしないわ。
 後これは言わないことね。余計な混乱を招くだけだから。」

 流石に今から完全に誤魔化すのは不可能。
 敵対関係であることは否定はしないものの、
 あまり深く言及はしないでおくことにする。

 新たな参加者のエントリーにより、
 再び情報交換をしあう五人と一羽のフェアリン。
 とは言え此方もまた知り合いらしい情報はなく、
 あるとするならばギースの移動ルートの推測ぐらいだ。

673藤丸立香は多分分かっている ◆EPyDv9DKJs:2022/11/06(日) 10:05:38 ID:SuRhmxUM0
「まさか荒魂みたいな怪物とは、驚きでしたネ。」

 あの人間の姿は偽物だったのか、
 或いはそう言った支給品があるのか。
 どちらにせよ厄介であることには変わらない。
 人間よりもさらに化物じみた強さ。最早今の自分では勝つことは不可能。
 南に可奈美たちがいないことを願いつつ、話は一先ず終わりを迎える。

「それでどうする? ボク達はこうも人数が多いなら、
 手分けして人を探す方がいいとは思うが……ミスターL、一緒にいてやれるか?」

 エレンは片腕、侑は戦える身ではない。
 流石に彼女達を置いての移動は好ましくないことで、
 ギャブロがミスターLに護衛を頼む。

「ま、こんな状態じゃ仕方ないよな。まずは悠奈と合流だ。」

「アンナさんはどうするデスか?」

「私は立香と一緒にいるわ。」

 敵との交戦でのデータを取れるアンナにとっては、
 戦いを有利に運べるようにギャブロ達についていく方がいい。
 加えてミスターLがメモで教えてくれた首輪の仕様について、
 首輪を優先的に集める二人についていくことで話を進められるはずだ。

 話は終わり、軽い食事をとってから行動を開始する。
 ギャブロと立香とアンナはロックの捜索をしつつ変わらず周囲の探索。
 エレンと侑とミスターLは、一先ず悠奈との合流を目指すことに。

「じゃ、何かあったら博物館をよろしくな!」

 アンナを頭に乗せながら、立香とギャブロは先に屋敷を出ていく。
 早くロックの凶行を止めながら、多くの仲間を探すべく。


【D-2 境界線にある屋敷/一日目/朝】

【ギャブロ@大貝獣物語2】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(中)、MP消費(小)、左腕噛みつき跡
[装備]:メタルナックル@FINALFANTASY Ⅶ
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜2
[思考・状況]
基本方針:殺し合いには乗らない。
1:ロックを探す(他の参加者にはロックの危険性を伝える) 北側ABCDを中心に。
2:藤丸のおもりをしつつアンナとも行動。でも案外頼れるなこれ。
3:伯爵さまに出会ったら、E-3のかなでの森博物館で合流することを伝える。
4:二日目の昼にはE-3のかなでの森博物館へ戻り、キヨス達と合流して手にした情報を交換する。
5:子供見たいと思ったら真面目になったりふしぎな奴だな立香。
6:ミスターL、悪い奴らしいけど……それ言うとボクも似たようなものだしな。
[備考]
※参戦時期は暴走するダークを命と引き換えに止めた直後
※ロックの爆発する能力は完全には把握できておりません
 侑から事情を聴き、少し把握が進みました。
※回復魔法で回復するのに時間がいつもよりもかかることを把握しました。
※キヨス、マネーラ、藤丸、エレン、侑の世界について簡単に知りました。
※自分の世界の建物もあるのでは推測しています。
※侑・エレンの世界について簡単に知りました。
※立香から芦屋道満が関わってる可能性を示唆されてます。

674藤丸立香は多分分かっている ◆EPyDv9DKJs:2022/11/06(日) 10:06:14 ID:SuRhmxUM0
【藤丸立香@藤丸立香はわからない】
[状態]:疲労(中)、おめめスッキリ、ウキウキるんるん、ちょうちょが喋って嬉しい
[装備]:極地用カルデア制服@Fate/GrandOrder
[道具]:基本支給品、黒獣脂(まだまだあるよ)@Fate/GrandOrder、アンナ@スーパーペーパーマリオ
[思考・状況]
基本方針:殺し合いの打破。特異点とかなら修正する。
1:とりあえずギャブロ君、アンナちゃんと行動を共にする。(特異点か調査)
2:マシュ〜〜〜どこ〜〜〜?
3:カルデアと通信できる方法が他にないか探す
4:アンナちゃん凄い! ホームズみたい!
5:二日目の昼にはE3のかなでの森博物館へ戻り、キヨス達と合流して手にした情報を交換する
6:腕の接合ができなくてゴメンねエレンちゃん。そして、ロック君―――メラメラ。
7:道満が犯人だろうけど、(カルデアのあの道満だと)犯人っぽくないような。
8:9:ミスターLは悪い人? カルデアではよくあるから。
[備考]
※少なくともツングースカクリア以降(46話の聖杯酒造)です。
※ロックの危険性について知りました。
※キヨス、マネーラ、ギャブロ、侑、エレン、アンナの世界について簡単に知りました。
※寝ている間に誰か(ドレミー)と出会ったような記憶があります。
※スキルに制限がかけられていることを知りました。
 回復は6時間に1回、かつ切断などの欠損には非対応。
 他のスキルのCTや効果は後続の書き手にお任せします。
※芦屋道満が関わってる可能性を考えてます。
 ただしカルデアに召喚されてない道満の方です。
※アンナの制限は以下の通り(他は後続にお任せします)
 ・立香、またはアンナ自身が認識できない範囲に移動不可
  ただし所持者が死亡した場合などにおいては移動可能
 ・一部解析(八将神の弱点など)の制限(大抵可能)
 またアンナの参戦時期は8-3〜8-4、ノワール伯爵戦前です。






「あ、そういえばエレン……だったよな。
 お前刀を使うみたいだが、これっているか?」

 ミスターLの戦術はメカと生身での戦いだ。
 刀を持っていたところで使い道はないしエレンも木刀。
 飛び道具は出せるとしても心許ない装備にはなるだろう。
 そう思っていたのが出されたものに思わず声を上げる。

「Oh! 越前康継ではありませんか!」

 まさかこんなところで自分の御刀にでアウトは思いもよらず歓喜する。
 片腕ではあるものの、少なくとも写シなど様々な能力が使えるはずだ。

「Thanks! 此方も何かお礼をしないといけませんネ!」

「まあ一先ず悠奈と合流してからだな。
 会話して大分時間費やしちまったわけだが、
 ちょっと悠奈遅いな……何かあったかもだし行くか。」

 念のためすれ違いにならないよう、
 書置きを残した後三人も屋敷から出ていく。
 今、彼女達が戦いの真っただ中であることを知る由もなく。

【古波蔵エレン@刀使ノ巫女】
[状態]:貧血、左腕欠損
[装備]:越前康継@刀使ノ巫女
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2(確認済み)
[思考・状況]
基本:殺し合いに乗るつもりはありまセーン。
1:片腕でも私のやることはかわりまセン。
2:薫や可奈美達が心配デスが、特に不安なのは姫和デスね。
3:ゆんゆん……あのとき身に纏っていた雰囲気は一体?……ちょっと心配デスね
4:二日目の昼にはE-3のかなでの森博物館へ行き、キヨスと呼ばれる人たちと情報交換
5:Oh! 越前康継! Thanks!
[備考]
※参戦時期はアニメ版21話、可奈美が融合した十条姫和との戦闘開始直後です
※ギャブロ・立香の世界について簡単に知りました
※ロックの危険性について知りました。
※立香から芦屋道満が関わってる可能性を示唆されてます。
※御刀を得たため刀使の能力を行使できます。

675藤丸立香は多分分かっている ◆EPyDv9DKJs:2022/11/06(日) 10:06:30 ID:SuRhmxUM0
【高咲侑@ラブライブ! 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会】
[状態]:疲労(大)、腰打撲、右肩脱臼、ロックに対する怒り、エレンに対する自責の念(大)
[装備]:五視万能スペクテッド@アカメが斬る!、神木・黒那岐丸@Re:CREATORS
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜2(確認済み)
[思考・状況]
基本方針:みんなの事が心配。
1:みんな無事かな……レオーネさんも。
2:ごめんなさい、エレンさん……私のせいだ……
3:レオーネさんもエレンさんも、愛さんみたいな……
4:帝具……オーバーテクノロジーすぎない?
5:ロック(禄朗)さん……私は貴方を許せない。
6:ミスターLさんとエレンさんと行動する。
[備考]
※参戦時期は少なくともアニメ版五話以降ですが、
 具体的なのは後続の書き手にお任せします。
→参戦時期は11話〜12話の間
※デイバックや基本支給品、ランダム支給品(×0〜2)は、
 侑が待機してる屋敷の中に放り出されてる状態です。
※ギャブロ・立香・アンナの世界について簡単に知りました
※ロックから零の妹について知りました。
※立香から芦屋道満が関わってる可能性を示唆されてます。

【ミスターL@スーパーペーパーマリオ】
[状態]:精神ダメージ(特大)
[装備]:無し
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2
[思考・状態]
基本方針:悠奈のバカバカしい生き方とやらで主催共を叩き潰す。
1:ユウナ・レオーネと行動を共にする。
2:伯爵さまを殺した奴は殺さないがとりあえずぶん殴る。
3:ヒーロー……か。
4:ユウナ! ジュネーヴ条約にジャマイカって何だ!?
5:伯爵さまの遺志を継いでマネーラ、ナスタシアと共に脱出する。
6:工学だけではだめって、どうすりゃいいんだこれ。
7:一足先に侑達の所へついたがまさかアンナがいるとはな!
8:二日目の昼にはE-3のかなでの森博物館へ行き、キヨスと呼ばれる人たちと情報交換。
[備考]
※参戦時期は6-2、マリオたちに敗北した直後
※悠奈からリベリオンズの世界について簡単な知識を得ました。
※名簿から伯爵さまたちが参加していることを知りました。
※悠奈から”拳銃”の脅威を知りました。
※レオーネからアカメの世界について簡単な知識を得ました。
※征史郎経由でマネーラ、ギャブロ、藤丸立香、キヨス、零、アルーシェ、夕月、ロックと関連人物の情報を得ました。
※ギャブロ、立香、侑、エレンと情報交換しました。
※立香から芦屋道満が関わってる可能性を示唆されてます。

【越前康継@刀使ノ巫女】
ミスターLに支給。古波蔵エレンの御刀。
基本的な説明は千鳥、小烏丸参照。
長さは70センチほどの打刀に相当。

676藤丸立香は多分分かっている ◆EPyDv9DKJs:2022/11/06(日) 10:06:53 ID:SuRhmxUM0
投下終了です

677桐生伝 アシッド・レイジ・ロアー ◆EPyDv9DKJs:2022/11/13(日) 21:53:58 ID:JN3ce.6k0
投下します

678桐生伝 アシッド・レイジ・ロアー ◆EPyDv9DKJs:2022/11/13(日) 21:55:25 ID:JN3ce.6k0
 一人の少年による嵐は過ぎ去った。
 次なる戦いは嵐を超えた『災厄』の戦い。
 真祖や悪魔人間(デビルマン)とでは少しばかり見劣りはしよう。
 しかしこの場───否、この舞台でも指折りの怪物であることに違いはない。
 此処に立つは真央と共に戦い抜いた異形の幹部が一人なのだから。

 集団へ突貫するように突っ込む桐生。
 転生の劣化、対等の存在がないことにより酒に溺れながらも、
 常人ならばまともな対応をする前にその顔面が潰される動き。
 酸性雨を使えば容易に近づくこと能わぬ難攻不落の存在となりうるが、
 まずはその手を使うに足るだけの反応がどれだけできるかにある。

 ほぼ全員が散り散りになる形で回避に専念する。
 気絶したしんのすけとアリサを守るべくマシュと、
 服部と違い飛行能力がないが宮藤とアニはほぼ動かず、
 迫る彼の拳を盾で防ぐ。

(重い!)

 怪力スキルを保持した英霊とまではいかずとも、
 卓越された義手の一撃は盾越しでも充分に威力を物語る。
 直撃だけはまず避けられないと示すばかりに地面を軽く削り後退させられる。

「アンタ! こいつらの回収を手伝え!」

「はい!」

 他の大体は人間離れした身体能力を有してるが、
 アニは巨人になれなければできることは少ない。
 なので此処は最初にするべきは気絶した三人の避難。
 マサオとしんのすけを抱えるが、まだアリサがいる。
 治癒魔法が戻ったものの、ストライカーユニットがない現状宮藤は戦力外。
 何より怪我人には自分の魔法が役に立つのもあり、アニと子供たちと共に戦線を離脱。
 何かあった時戦線復帰できるように数件程度離れた家屋まで移動してる間も攻防は続く。
 盾をかいくぐった貫手を後ろへ下がりながらダメージを免れる、

(ッ、この攻撃方法は!)

 ことはできなかった。
 軽微とは言え左腕が理由もなく軽く爛れたことで。
 メルトリリスや酒呑童子の宝具に類するものだと察した。
 対象を溶かす形で攻撃を成立させる硫酸や毒のような代物。
 いくらマシュ自身が毒に耐性があると言えども、
 これを無力化はすることは決してできない。

「敵の攻撃方法は硫酸のような溶解のようです!
 ですが目視、嗅覚共に確認できません。気を付けてください!!」

 今にも攻め入ろうとした何人かがマシュの言葉で躊躇してしまう。
 無臭で目視不可と言う、宝具であれば高ランクは間違いない攻撃だ。
 そも、彼と戦った藤原美奈都が飛び道具もなしに彼と交戦できたのは、
 それらを直感で避けていたという他者が真似するのは早々にできない。
 此処にいるのは彼女ほどの直感を持ち合わせてるとは言えない人物のみ。

「だったら私が!」

 ただし、彼女にもできなかったことができる人はいるものだ。
 此処で攻撃に転じたたのは日菜子、ムラクモ、カインの三名。
 近づくことができなければ『近づかずにできる攻撃』で狙うと言う単純な手段。
 カインが屋根の上から放つ紫の炎のシュワルツパンツァー、
 同じく反対側の家屋の屋根に避難したムラクモも電撃の球体となる電攻弾、
 マシュの右側サイドからエネルギー弾のような攻撃、電撃のパッセを放つ。
 飛来してきた炎を義手の右腕で弾き飛ばし、残りの攻撃を後退により回避。

「はいはーい僕の出番だねー!」

 後退した瞬間片太刀バサミによる針目縫の斬撃。
 避ける、防ぐを無駄なく対応されて蹴り上げが顎を襲うも、
 まるで紙を蹴るかのようにペラペラときりもみ回転で高く舞う。
 無論当たっていない。しかしわざとらしく吹っ飛んでいく。

 吹っ飛んだ隙にマシュの前へと降りたムラクモがダカダカと音を立てながら迫る。
 瞬時に対応しようとするも、突然彼の姿が四人に分かれ三人が蹴りと共に肉薄。
 電光機関による残像により空中、正面、足元いずれかを狙った攪乱攻撃ではあるが、

「容易に分かるぞ人間(クソムシ)め!!」

 攻撃を一瞬躊躇した人物の中にこの男はいた。
 ではなぜそんな危険を冒してまで近づいてくるのか。
 否、これは近づいてない。三つの攻撃全てがブラフであると。
 なのでそのまま左手を翳しながらの肉薄にムラクモも距離を取る。
 顔の皮膚が少し溶けるが大事には至らない。

「援護します!」

 震電で制空権を得ている服部が銃撃で接近を阻止。
 すぐさまバクステで下がりながら接近していた針目とカインへと回し蹴りの迎撃。
 どちらもすぐに回避に専念しダメージの軽減を優先。

(いいぞ。ならば手を抜くのは無作法と言うもの!!)

679桐生伝 アシッド・レイジ・ロアー ◆EPyDv9DKJs:2022/11/13(日) 21:57:12 ID:JN3ce.6k0
 最早力量を図るのは十分な時間を過ごした。
 これだけの人数で即席の連携を良くこなしている。
 五千人に一人程度の人間とは比べるまでもない相手だ。
 左腕を掲げれば空が暗雲立ち込め赤黒い空を覆い、酸性雨が桐生を中心に広がっていく。
 地面の溶け具合から皆何かを察し、距離を取らざるを得ない。
 平安京故に建物は豊富だがどんな建造物であろうと変わらない。
 地面をぐずぐずと溶かしていく姿は建物だろうと防ぎきれるはずがないのだ。
 酸性雨の展開が通常の雨雲とは別で緩やかであるため、
 全員が逃げと言う選択肢を取ることができるのが救いか。
 しかし逃げる以外の選択肢を許すことはないその攻撃。
 この場の誰もが酸性雨を無視して攻撃などできなかったが、

「全員マシュの下へ集え!!」

 ムラクモからの号令は逃げに徹する全員へ告げる。
 何かしらの対策があると見込んで距離を取るのに徹した二人と三人を除いて集まっていく。
 酸性雨が到達するまでの時間は一分もな。桐生の接近を含めれば更に短くなるだろう。

「ムラクモさん、私の宝具では……!」

 いまは脆き夢想の城(モールド・キャメロット)は、
 いまは遙か理想の城(ロード・キャメロット)をマシュのみで再現する宝具。
 城壁で正面の攻撃は防げるが、上空からの攻撃に対しては余り有効打に足りえない。
 防ぐ宝具だが、受け止めるのであって無敵になれるわけでもなく、そもマシュはこの恩恵が薄い。
 宝具で守ろうにもマシュだけは死ぬ。そんな意味合いかと思われていたがそれは別であり、

「盾を扱うのであれば使いこなせるはずだ。渡した意味もわかるはずだ。」

「!」

 銀色の大き目の盾を取り出し、それを投げ渡す。
 出てきた盾の性能を確認し、即座にそれを受け取り空へと翳す。
 恐らくできるはずだ。この盾は他者に貸し与えられても発揮するのだから───

「蒼天囲みし小世界(アキレウス・コスモス)!!」

 彼が投げ渡したのは蒼天囲みし小世界。
 余りにも有名なギリシャの英霊、アキレウスが所持していた宝具だ。
 アトランティスで見たことがあるので、それが何かは理解できた。
 アキレウスが生きた世界の全てを表した大盾にして神造兵装が一つは、
 真名解放をすれば盾に刻まれた極小の一つの世界が展開、世界一つで防ぐ結界宝具。
 この盾に挑むということは、それは即ち世界を相手に攻撃していることにもなる。

 いくらこの殺し合いに出された宝具と言っても神造兵装。
 使用者を選ぶものだと判断した彼はシールダーとなるマシュへと託した。
 もっとも、これだけのものを使って疲労なしは流石にあり得ないとも判断したので、
 マシュに『使わせた』と言うべきなのかもしれないが。
 なお実際は十二時間に一回と言う極めて少ない回数制限だけになる。

 酸性雨を中心に緑の光が辺獄の空が輝く。
 広がる暗雲を全てのみ込むかのように世界が展開される。
 神すら滅ぼす赤のランサーの槍を防いだ経験があるのだから、
 町一つを壊滅する程度の酸性雨ではこの結界を突破することは不可能だ。

「あれ程の広範囲、長時間は使えないはずなので今がチャンスです!」

「足元には気を付けないとジュワッと溶けちゃうねー!」

 針目、ムラクモ、日菜子と得物が剣の参加者が先へ走り込む。
 もっとも、一番早いのは───

(もう来たか!)

 迅移による移動で加速してきた沙耶香だ。
 肉薄してきた相手の目の前に現れた妙法村正の一撃を義手で防ぐ。
 酸性雨は一度展開すれば多少のインターバルを要するし効果時間も短い。
 下手をすれば平安京丸ごと攻撃範囲にしかねない力であれども此処では弱まっている。
 回数制限や大きな疲労がない彼にとって、首輪で科せられた数少ない持続と射程の制限。
 なのでもう一度展開するには時間がかかる。その展開までに勝負を付けると言うのが、
 桐生を相手に犠牲なくして勝てるかどうかの条件でもあった。

(腕は最初の奴ほどではないがいいぞ……これだ。これこそが俺の本懐だ!)

 続けてくる高速の斬撃を義手で丁寧に払いのけながら桐生は高揚する。
 他者にとっては地獄、自身にとっては楽園にも等しい心行くまで戦える存在達。
 憎悪し続けた人間ではあるが、このように戦えることについては嬉しくも思う。
 首輪で制限されようとも、彼にとって少しでも互角に戦える相手はそれだけで及第点だ。

(この人、強い!)

 二段階迅移の速度は高速道路を走る自動車に匹敵する。
 正面、背後に回れども義手一本で剣戟を受け流していく。

「ッ!」

 視界がぐにゃりと歪みかけた。
 左手から出される酸の力は写シで無力化できるが、
 自分の身体が溶ける感覚は思わず距離を取らざるを得ない。

680桐生伝 アシッド・レイジ・ロアー ◆EPyDv9DKJs:2022/11/13(日) 21:58:18 ID:JN3ce.6k0
「突撃します!」

 沙耶香が下がった後立て続けに来るのはマシュと針目の二名。
 ブーストさせた回転による遠心力を以って振るわれる盾の横薙ぎを軽いジャンプで回避。
 盾の上に乗った後即座に距離を取るようにバックステップし、
 迫る無数の片太刀バサミの突きを悉く回避していく。

「ヒムリッシュ・アーテム!」

 空中にいるところを姫和の時にも使った気を隕石の如く落とすカインの大技、
 回避は不可能と判断した桐生は右手で防いで、そのまま受け流すことでほぼ損耗なし。
 更に続けて立体起動装置で迫る植木がスナップブレードによる斬撃も義手で防がれる。
 しかもそんな硬いものを攻撃するものではない為、あっさりと刃が折れてしまう。
 だがそれぐらいのことは想定済みであり、

「だったらこれだ!」

「ゴッ───!」

 折れた刃は使い物にならない、即ち『ゴミ』だ。
 飛んで行こうとした刃を掴み巨木が桐生を吹き飛ばす。

「こうでなくてはな!!」

 巨木を喰らいながらも桐生は受け身を取って着地し、
 そのまま巨木を足に植木の方へと迫る。

「あぶねっ!」

 袖が皮膚に張り付く不快感を感じつつ、
 即座にガス噴射でその場から離れて難を逃れる。
 花鳥風月(セイクー)で空中移動になれたお陰か、
 ろくに才のない植木でもなんとか使いこなせている
 逃げられた後即座に別のターゲット───ムラクモへと変更。

(今が好機か。)

 斬れば死亡確定の村雨。
 かすり傷さえ当てれば勝ちの勝負だが、
 卓越された拳の乱打と義手で的確に防御され、かすり傷一つ狙えない。

「何かは知らんが、露骨に攻撃の隙を狙いすぎだ。」

(強すぎるのも問題か。)

 視線がやたら村雨の方へと寄ってしまい、
 意図せず防御するべき攻撃だと気付かれてしまった。
 強い武器を持てばいい、と言うものではないなと軽く示威する。

「此処は一度退こう。」

 電光機関の光学迷彩で姿を消す。
 消えると同時に即座に距離を取られて隙は突けず、
 後退したところをカインの蹴り上げに炎を纏わせたシュワルツランツェを狙うも、
 先に左足を左手で掴まれそうになり咄嗟に引っ込める。

(先の酸性雨と言い、奴の左手から発せられるのか。
 不用意な接近はやはりするべきではないな……徒手空拳も洗練されている。)

 即座に方針変更し距離を取りつつ炎を放つ。
 回避と同時に左手を後方へと伸ばすと、

「あっぶなーい☆」

 背後から針目が迫っているのは見えていたので酸を狙うも、
 軟体動物かと疑うレベルのよけ方で針目が酸をギリギリ回避。
 そのまま振り下ろすも白刃取りの要領で止められる。

「あー! 僕のハサミー!」

 掴まれた部分が一気に錆びついてしまう。
 しかも先端部分は圧し折られて見栄えの悪い姿に変えられる。
 隙を埋めるようにシールドバッシュするマシュを両腕で受け止めて防ぐ。
 彼女の背後から右サイドへ回り込みながら植木がさびたハサミの刃を拾い上げ、
 サスマタのような木へと変化させてそのまま勢いよく伸ばす。

「無駄だ。」

 左手で受け止め、同時に近づいた傍から腐敗していく。
 植木も最初から予想はしていたがこの男との相性が絶望的に悪い。
 カインのような炎、日菜子やムラクモのような雷撃と言った、
 酸の能力を無視できる攻撃方法ではない木の攻撃では厳しいと言わざるを得ない。

(流石に数が多いな……少しばかり使わせてもらうか。)

681桐生伝 アシッド・レイジ・ロアー ◆EPyDv9DKJs:2022/11/13(日) 21:59:08 ID:JN3ce.6k0
 基本桐生は徒手空拳と酸性雨ありきなので、
 ずっと放置していて使うことのなかった支給品を取り出す。
 出てきたのはフェイトが所持するバショー扇に似たヤツデの形をした団扇。
 半天狗の一体、可楽の団扇だ。上弦の鬼が用いる道具は並の威力に非ず。
 周囲へと巻き起こした風が周囲の参加者を風圧と共に吹き飛ばす。
 唯一防げたのは盾を持っていたマシュと空中にいた服部のみ。
 他の六名はもろに風を受けてしまい距離も取らされて反撃は不可能。
 当然残された二人が攻撃を仕掛けるもそれより桐生は早く動く。
 地面に風を飛ばして跳躍と同時に服部による制空権を超え、踵落とし。
 素早く対応する桐生に使い慣れてない特殊棍棒では追いつかない。
 落としたところを酸で溶かしにかかろうとするも再び盾の薙ぎ払い。
 義手で防ぐことでダメージを最小限にしながら、即座に受け身を取りながら着地
 着地の勢いそのままにマシュへ肉薄し、ストレートなミドルキックで盾を蹴り飛ばし、
 その隙をついて下から振り上げるように団扇を振り上げ、マシュを上へと飛ばす。
 これで服部を除いた全員が桐生から離れることとなり、今度こそ服部へ狙って左手を翳す。
 空から叩き落された服部はまだ起き上がれる状態ではなく、回避することは不可能。

「数の暴力はあるだろうが存外楽しめたぞ人間。」

 敗因があるとするならば連携の問題だ。
 人数だけで言えば理不尽とも呼べる戦力だろうが、
 多ければ多い程に連携と言うのは取りにくくなる。
 先のマサオのような巨大であれば巻き添えにすることはない攻撃できるものの、
 今度のは体躯と能力、更に日菜子や沙耶香はまだしも他が成り行きで出会ったばかり。
 能力のろくすっぽも理解できてない人物たちの能力との連携をどうとれと言うのか。

 今から起き上がっても顔面の酸化は免れない。
 誰もがそう思ったその時。

 誰が予想する。
 この状況下で彼女を守ったのは。

「オラオラどけどけぇー!!」

 ───まさかの。
 まさかの佐藤マサオである。



 ◆ ◆ ◆



「衛兵の真似ごとをやるとはね……」

 戦いの音がそう遠くない場所から耳へ届く中、
 近くの建物の中でアリサに包帯を巻きつつ軽くごちるアニ。
 散々殺し殺されの間柄ではあったので今更だが、
 まさか自分がこういうことをするとは思わなかった。
 調査兵団の時に最低限は覚えてはいるが使う機会など基本ない。
 巨人にやられれば大体死ぬし、現にアニはそれをやっている。

(子供のくせに、とんでもない啖呵の切り方だったな。)

 ムラクモの合理的な考えを黙らせる清々しい綺麗ごと。
 殺し合いに恥も何もない。合理的に行けばよってたかってなど関係のないことだ。
 でも、その綺麗ごとを貫いたまま少なくとも今は全員生存と言う偉業を成し遂げた。
 あの状況ならアニでも彼を殺す方が妥当だと判断できるので相当なことになる。
 殺すか殺されるかばかりをやってたこっちの世界の連中のことを考えると、
 こっちは狭い世界と言うところがありながらも、よくやったと思いたいところだ。

 その傍で宮藤は懸命に魔力で治癒していく。
 ダメージはマサオも無視できないが、物理的にみるとアリサの方が深刻だ。

「ダメ、魔力の消費が……」

 元々回復系の行為は概ね制限されている。
 ヴァンパイアと言った肉体の治癒ですら低下気味だ。
 宮藤の得意とする治癒魔法もその煽りを受けている。

「あんたのそれ、魔力使うのならこれ食うか?」

「え、いいんですか?」

「私の力に魔力はいらないから外れだっただけだ。」

 アニから渡された多量の実を貰い、
 それを食べながら治癒魔法を続けていく。
 回復量は微々たるものだが、塵も積もれば山となる。

「とりあえずこれで大丈夫かな。」

 半分以上食べることにはなったが
 一通り終わり額の汗をかきながら宮藤は胸をなでおろす。
 傷は塞がった。苦しそうな表情も今は眠ってるだけのように安らかだ。
 幼い少女らしい可愛い寝顔は此処が殺し合いの舞台でなければどれだけ良かったか。
 ウィッチとしてより彼女達を守る、もといお助けしなくてはと思えてくる。

「次はこの子だけど……」

682桐生伝 アシッド・レイジ・ロアー ◆EPyDv9DKJs:2022/11/13(日) 22:00:30 ID:JN3ce.6k0
「治しすぎて手が付けられなくなるから程々にしておきな。」

 辛辣ではあるがもっともな意見だ。
 彼は善人なのかもしれないが突然豹変した。
 自分自身も理解してない可能性だって十分にある。
 と、合理的に考えればそうだが相手は子供。

「治します。」

「本当に程々にしておくことだね。」

 立場がどうあれ関係なく手を差し伸べる。
 余り縁はなかったがこういう善性の塊は以前訓練兵に見かけた記憶がある。
 他の二人の様子を見ながら、宮藤はマサオにも治癒魔法を行使していく。

「あれ……」

(もう目が覚めたのか? いや、
 巨人化に類する力があるならありえない話ではないか……)

 ものの数分。あれ程の力を使ったのだから暫くは目覚めない。
 そう想定していたが、思ってた以上に回復が二人より早かった。
 八将神とか名乗っていたので、多分それらの類だとは察することはできる。

「ヒィ〜〜〜〜!」

 マサオが二人を見ると軽く悲鳴を上げる。
 アニは基本的に仏頂面だ。加えて父が死んだと(思ってる)時期でもある。
 だから影を落として不機嫌そうな表情で、その上巨人になれた元敵だ。
 睨むような視線になったところでなんらおかしいものではなかった。

「落ち着け。別に殴るとかそういうつもりはない。」

 平手を上げながら落ち着くよう促すアニ。
 その後宮藤の説得も相まって一旦落ち着くことになる。
 『もう少し面を気にするべきか?』と近くの鏡で軽く自分の顔を眺めていた。

「って顔はどうでもいいんだ。
 それで、さっき言ってた八将神って何か分かるか?」

「えっと……」

 言って大丈夫かと一瞬思ったが、
 だったら既に軽く八将神の名を口にした。
 多分言っても大丈夫……なんて五歳児が判断するわけもなし。
 迷惑をかけた人たちと言う観点もあるので、正直に答える。

「なるほど。向こうの連中の切り札か。」

 メフィスとフェレス、それと芦屋道満と呼ばれる新たな人物。
 ディメーンを含めて表立った主催は四人で構成されていることが分かる。
 それらを束ねてる奴とか部下とか、いるかもしれないので断定はできないが。

「あの、おかしくありませんか?
 普通こういうのって戦力になる人にするのでは。」

 されたくはないがウィッチである宮藤や服部、
 今外で戦っている誰かでもよかったと思えてならない。

「気まぐれでしょ。現にしんのすけだっけか、こいつ。
 こいつとぶつけて遊びたかった……ってだけでも説明はつく。」

 そうでもなければ五歳児を尖兵にするとも思えない。
 ひねくれた性格をしている連中ならばやりかねないと。

(マシュが疑似霊核とか言っていたが、主催にサーヴァントって奴がいたりするのか?)

 マシュとは情報交換していたので、なんとなくだが理解できる。
 少なくとも通常の情報交換では得られそうにない代物だ。
 改めてマシュに確認を取っておきたいところになるか。

「アニさん。私は向こうに戻りますから三人を見ていてください。」

「……あのさ。あんたが行って戦況、どうにかなるのかい?」

 多少は戦闘の経験はしているようだが、
 あれと戦うには巨人になれない自分では厳しいものがある。
 彼女が言ってどうこうできるとかの問題ではないだろう。
 特に八対一で戦いながら未だ戦闘は終わっていない。
 それだけの相手に彼女を前線に出すのは愚行だ。

「ですが、私の魔法なら!」

「戦闘中の回復を何度も続ければアンタが斃れたら、
 此処にいる三人が何かあった時私一人で対処は難しいから言って……ん?」

「アニさん?」

「おい。あの……マサオって奴どこ行った。」

「え!?」

 振り向けばマサオの姿がなくなっている。
 周囲を見渡したら彼の後ろ姿が少しだけ見えたが既に外へと出ていくところで、

「私が追いますから、アニさんは二人を!」

「え、あ、おい!」

 アニの静止の言葉も聞かず宮藤は緑の外套を羽織りながら追いかける。

683桐生伝 アシッド・レイジ・ロアー ◆EPyDv9DKJs:2022/11/13(日) 22:01:50 ID:JN3ce.6k0
 追おうにも二人が寝ていることもあって、ため息をつきながら待つことを選んだ。



 ◇ ◇ ◇



 佐藤マサオの八将神としては不動明に類似したスイッチ形式だ。
 あちらであれば勇者アモンに宿業を埋め込んだ結果人間の状態ではさほど恩恵はない。
 一方彼の場合は些細なことで元に戻るが、同時にあっさりとスイッチが入ってしまう。
 先の大合戦とも言うべき戦いにおいてはしんのすけに対する憧憬、或いは嫉妬。
 そういった類による感情でもスイッチが入っては攻撃を仕掛けると言う、
 手抜きに見えるが八将神が持つ気配遮断のスキルを存分に活かしたヒット&アウェイ。
 これを成立させてるのは、一番おふざけでありながらもマサオが一番使いこなしていた。

 ただ、一度理性を取り戻した彼にこのスイッチ形式は曖昧なものとなる。
 記憶の改竄されたアーナスでも、別の存在により特殊な立場となった姫和でも明とも違う。
 ただの一般人の小僧でしかない彼が八将神の衝動に耐えきれるものではなかった。
 それでもなお逃げると言う形を選べたのは、しんのすけとのやり取りが理由になる。
 間違った道を進んだから、今度は間違えたくない。そういったありふれた理由によって、
 マサオはその場から逃げる形で四人に迷惑をかけないように走り出した。

 そして出会ったのは明らかに怪物と言うべき姿の桐生。
 普段のマサオだったら泣きわめいて逃げ出すのが普通だ。
 でも、桐生と戦っている数多くの大人達の戦いを見てマサオも思う。
 自分だってお助けしなくちゃと。お助けの内容が『参加者を殺す』という点はあれども、
 今までの暴走とは違った形での暴走を起こしていた。

 大分忘れられてることではあるが、
 別に八将神は殺し合いを加速させる要因だろうと戦いを仕掛ける。
 アーナスだってあの場が解決しなければ戦っていたのだから。
 ずっと逃げの手段となる気配遮断を、初めて逃げではなく攻撃へ転じた。
 接近されるまで気付かなかったことと、距離が近すぎたこともあって、
 先程咄嗟に持ってしまった馬手差しの一撃を咄嗟に左腕で掴んで止めに入る。

「チィッ!」

 義手でガードするのは間に合わないが、
 刃が骨にぶつかったことでそれ以上の攻撃にはならない。
 バックアップがあれども所詮は五歳児。真剣でもこの程度が限界だろう。
 桐生にとっても決して小さいとは言い切れないダメージではあるものの、
 そのまま高速で反撃し、マサオの頭部を義手がめり込みむようにそのまま地面へ叩き潰す。
 偶然にも、それはマシュが言っていた疑似霊核のある場所と一致している。
 彼が知る由もないことだが、マサオの急所を的確に貫いていた。

「!!」

 動けなかった多くの人が反応する。
 しんのすけとアリサが救おうと必死に戦った少年。
 彼の顛末がこのような形になるとは誰も思わなかった。
 八将神の単なる宿業と言えば、その程度の話ではある。
 だが、八将神になりながらも彼は形は歪んでると言えども、
 しんのすけのように誰かをお助けしたかったのは間違いなかった。
 特に、目の前でそれを目撃することとなった服部には特にダメージが大きい。

「下の下以下、か───」

 新人類よりもはるかに弱い弱小な存在。
 これに手傷を負わせられたのは癪に障るがすでに倒した。
 形は少し違えどもまずは一人。そのまま今度こそ服部を狙う。
 だが、彼ら以上に先に間合いへと詰めていた人が一人だけいた。
 植木、沙耶香、日菜子、マシュ、カイン、ムラクモ、針目、いずれでもない。
 寧ろそれらであれば、桐生を前に誰だって視界に入っている。接近に気付くはずだ。
 でもいた。彼の拳の間合いに、宮藤芳香が。

(この人間、いつの間に接近を!?)

 歴戦の猛者である桐生ならば、
 十分に気配や足音から察することができたはず。
 ではなぜ、目の前にコートを羽織った宮藤芳佳がそこにいるのか。
 二人連続でそのステルス性に気付かなかったことに驚かざるを得ない。
 勿論宮藤にはステルスのような魔法が使えるわけではない。
 彼女が羽織っている緑のコート、顔のない王(ノーフェイス・メイキング)の効果だ。
 消音、気配遮断、透明になると極めて高いステルス性能を誇るロビンフッドの宝具。
 消耗は大きいが、不意打ちをするには余りに便利な代物。

(───助けられなかった。)

 しんのすけと変わらない年頃の子供を。大事な友達を。
 互いが互いをお助けするという関係を築いておきながら、
 守ることができなかった自分の無力さに涙がこぼれる。
 あの傷では即死だ。最早治癒魔法をする可能性すら不可能だ。
 だから、せめてできることは。

「───ッ!!」

 声にならない叫び声と共に動く。

684桐生伝 アシッド・レイジ・ロアー ◆EPyDv9DKJs:2022/11/13(日) 22:02:57 ID:JN3ce.6k0
 目の前の相手を無力化するしかない。
 皆殺しを宣言した、この異形の存在を。
 叫びながら宮藤は手に握ったギャレンラウザーを放つ。
 桐生は強い。それはあの人数で負傷をほぼしてないことから明白。
 だからゼロ距離ならば外すことはないと判断してその引き金を引く。
 ゼロ距離ならば上級のギラファアンデッドすら屠るその一撃。
 その威力は当然凄まじいものだ。

「グッ、ヌウウウウウウウウウウッ!?」

 爆発のような威力で互いが吹き飛ばされる。
 宮藤は酸が染み込んだ大地を軽く転がり、
 全身が爛れた痛みを感じるがまだ軽傷な部類だ。
 一方桐生はと言うと、脇腹が大きく抉られた状態で転がる。
 いくら化物じみた彼と言えども、これは決して軽傷ではない。
 本来だったら急所を狙うものだが、宮藤は誰かを殺すつもりはない。
 彼女の加減のお陰で一命をとりとめたが、人間の考えを汲み取る気はない。
 早急に勝負を付けなければならなかったのだが、その時不思議なことが起こった。
 少なくとも、参加者にとっては何一つ知らされてないがゆえにそう表現するしかない。










 本当の災厄は此処からだ。
 佐藤マサオ死んだ、と言うことは───
 『八将神』が死亡したと言うこと。










 あり得ざる音を戦場の全員は耳にした。
 あり得ざるものを戦場の全員は目にした。
 全参加者共通の、最終的に参加者を縛る枷。
 その枷が、何の脈絡もなく桐生の首元から離れたのだから。

 八将神討伐報酬。
 四人の誰か一人でも殺せばその褒賞にあやかれる。
 誰よりも早くに、その枷からこの男は解放された。
 誰も理解できない。その状況に。桐生自身でさえも。
 一つ言えるのは首輪が外れた。誰よりも早く、この男が。

「ウオオオオオオオオオ!!!」

 制限がなくなった。確信したことで桐生は理由に左手を空へと掲げる。
 アキレウスの宝具は既に効果切れだが、同時に酸性雨の効果時間も切れていた。
 だがもう彼には首輪がない。酸性雨の時間制限? 酸性雨の射程距離?
 最早そんなものは一切の関係がない。限界まで引き出すことが可能だ。
 例え脇腹を抉られていようともその程度で倒れるつもりはない。
 相手が米軍ならこんなレベルでは勝てない。この程度で倒れるものか。
 人も物も全てを溶かしつくす。人間が乗り越えるべき最後の壁だと言わんばかりに。
 災厄は放たれた。十一対一ではない。残りの参加者全員VS桐生と言うレベルのもの。
 このままいけば西の山々はともかく、平安京全土を大地以外の全てを溶かしつくす。
 これを回避できるだけの平安京から離れている人物は、存在しない。
 一番近くにいた宮藤は服部に回収されて逃走する形で難を逃れる。

「ムラクモさん! どうすれば……」

 最初の時と殆どが同じだ。
 全員が雨から逃げるように家屋へ逃げるか、
 雨から逃れるように全力疾走でその場から離れるだけ。
 左腕の傷のせいか多少進みは遅いが、やがて街を全てのみ込む酸性雨となるだろう。
 全員散り散りになっており日菜子とムラクモの二人、沙耶香と針目の二人、
 服部と宮藤とカインの三人、マシュと植木の二人と皆散り散りになっていく。

「こればかりは逃げ以外の手段が今の手持ちでは思いつかん!」

 余りに投げやりな答えだが、仕方ないというものだ。
 酸性雨が迫りながらも全力疾走で逃げる以外の選択肢がない。
 あの雨の中、酸がたっぷりの大地を奔れる人間などいるものか。
 入った瞬間死ぬ。つまりその命令は『特攻して死ね』と同義になる。
 エレクトロゾルダートのような捨て駒がいれば別かもしれないが、
 率先して捨て駒になれる人物などこの状況に於いて誰一人いない。
 他の参加者の支給品があればそれにより何とかなったのだろうがないものねだり。
 ムラクモからしても、この状況は完全な詰み(チェックメイト)だった。
 逃げ以外の選択肢がなく、こればかりは死に物狂いで足を使って逃げている。

『ボンジュール!』

685桐生伝 アシッド・レイジ・ロアー ◆EPyDv9DKJs:2022/11/13(日) 22:03:41 ID:JN3ce.6k0
 最早、放送を聞いている暇など逃げに徹する大半は聞く暇もなかった。
 雨音の激しさも相まって、聞く余裕があるのは家屋に逃げ込んだ人達ぐらいだろう。










(やはり、いないのだな。)

 逃げるしか選べなかった人間達の背に、此処まで堪能したが少し落胆してしまった。
 あの中世レベルまで落ちぶれた街を、滅ぼしたときとさして変わらない蹂躙。
 自分の本来の力を前にしては誰も近づかない。近づくことすら叶わない。
 酸性雨の中行動できた人間は、制限下とは言え彼にとってたった一人だけ。
 藤原美奈都と言う名も知らぬ一人しか彼を満足足りうる人間は他にいなかった。
 一人だけでも出会えただけ良しとしよう。元より米軍レベルを期待するのが間違いだ。
 真央とて一筋縄でいかない相手だ。彼らの強さは憎悪と同時に敬意すら感じるほどに。

 自分で生み出した雨に打たれる。
 何とも虚しいものだ。周りには誰も残らない。
 生物も、建物も、草木も、何もかもが死に果てる。
 変わらない。あの時と何も変わることはなかった。
 騒がしいのは聞く意味など殆ど薄い道化師の煩わしい放送だけ。
 孤独のまま、転生する気すらなくした彼は一人───

「!?」

 否、いた。
 弾丸の如き突進で桐生の胸を貫く───糸見沙耶香の刃が。

(なんだ、この速さは……!? 飛(フェイ)のワープとは違う!)

 早すぎて受け止めることができなかった。
 いや、早すぎると言うわけではない。最悪反応はできたはずだ。
 慢心と言うよりは落胆だから油断はない。来る人物がいれば対応はできる。
 だができなかった。この酸性雨をものともしない。一度も見せなかった、
 可奈美たちに次ぐ第三段階迅移を用いた沙耶香による超高速の一突き。
 負担が大きいため使うタイミングを考えてたが故に初見の攻撃で成立した。
 もし。彼らが二度戦うのであれば、これは二度と通用することのない一回だけの手段。
 もし。桐生が戦った藤原美奈都が御刀を握っていたなら、桐生も予見していたかもしれない。
 もし。宮藤の攻撃によって披露していなかったなら対応は間に合ってたかもしれない。
 これは、そんな細い細い可能性の糸を手繰り寄せた結果が今の光景だ。

 無論酸性雨は降り注でいる。沙耶香も無事では済まない。
 写シはこの無制限と化した雨を駆け抜けた時点で消滅した。
 いくら速度を上げる迅移でも当たるのを回避できるものではない。
 既に全身がグズグズと化しており、御刀は錆びずとも柄は別だ。
 銀のような綺麗な髪の色も、酸性雨で殆どが緑に変色した状態で溶けていく。
 御刀も後一度か二度振るえば、刀身だけ残して使い物にならなくなるだろう。

「アアアアアアアアアッ!!」

 痛みによる絶叫か、自分を鼓舞するための掛け声か。
 声を荒げないことが多い沙耶香が叫びながら刀を振り上げる。
 相手は荒魂に類するわけではないが人ではない可能性は高い。
 心臓を一突きだけで殺せるとは思ってないが故の念を入れた攻撃。
 妙法村正はその一撃を成し遂げると同時に、刀身だけを残し砕け散る。

(負け、たのか……)

 抉れた肩を抑えながら、自分の命が終わりを告げようとしてることは察した。
 桐生は異形で強くとも、真祖や生命繊維のような耐久力があるわけではない。
 だが人間に負けた割に不快感はさほどない。寧ろ清々しさすら感じられる。
 転生と冬眠を四百数十年にも及ぶ蛇足でしかなかった、満たされなかった人生。
 最早乾ききった灰色のような世界を生きる以上の己を実感することができた。
 たった六時間であの蛇足と吐き捨てた人生以上の経験をすることができたのだから。
 後腐れがあるとするなら、黙ってボスの下から消えて帰れなくなったことぐらいか。
 現実を見たのもあるが、少々辛辣な当たり方をしてしまったと思っている。

「人間(にんげん)……名前は何という。」

 初めてクソムシとは呼ばなかった。
 憎悪はひとまず置いて、敬意を持つ相手ゆえに。

「糸見、沙耶香……」

 溶けかけの状態でか細い声で言葉を紡ぐ。
 確かに写シはあっという間にはがれたものの、
 ダメージを軽減してくれたという事実は変わらない。
 お陰で会話をするだけの余裕は残されていた。

「サヤカ、か……」

 クーラブたちのように共に死を受け入れたわけでも、
 日村のようにどうにもならず殺すことになったわけでもなく。
 人間に敗北して負けた幹部と言うある意味の最悪の汚点ではある。
 基本は憎悪だ。彼にとって目の前で輪切りにされた右腕は今も忘れない。
 忘れぬからこそ転生機で治せる右腕を治さずにいたのも因縁の象徴ゆえに。
 だがある種の人間に畏敬の念があった桐生故に、その名を忘れぬように刻む。

「もしもの話だが。次があれば勝たせてもらう。」

686桐生伝 アシッド・レイジ・ロアー ◆EPyDv9DKJs:2022/11/13(日) 22:04:49 ID:JN3ce.6k0
 その一言を最後に、ドロドロの大地へと伏せる。
 魔王軍幹部桐生───辺獄の大地にてその命を燃やし尽くした。
 蛇足だった四百数十年を上回る、ほんの六時間の充足感を胸に抱きながら。



 歩いても大丈夫な程度に酸性雨が乾いた後、
 日菜子、服部、宮藤、植木、カインが最初に駆け付ける。
 服部とカインは飛行能力を有しているので地面を気にせず、
 宮藤は服部に抱えられる形でこの場へと駆け付けていた。
 雨の中聞こえた悲鳴が沙耶香だったのでいてもたってもいられず、
 カインに運んでもらう形で辿り着いた。
 カインの炎で周囲を強引に乾燥させて、
 足の踏み場を用意してもらう。


「私は散り散りになった人を探す。後は好きにするといい。」

「あの、ありがとうございます。えっと……」

「カイン・R・ハインラインだ。」

 名前だけ名乗るとその場から離れる。
 離れると同時に、今後の身の振り方を考えておく。

(しかし困ったな。)

 八将神に続き桐生と言う八将神でもないのにあの強さ。
 この舞台は明らかに格上が多すぎる。自慢の暗黒真空拳は、
 どれだけよく見積もっても中の中辺りが関の山だろうか。

(優勝したいができそうにもない、か……さて、どうしたものか。)

 幸いなことにまだ一人も殺していない。
 あの少女(可奈美)がいる以上悪評は避けられないが、
 今から生存を優先と言う安牌な道をまだ選ぶことは可能だ。
 セカンドサウスの夢は諦めざるを得なくなってしまうものの、
 優勝が困難な現時点でヘイトを稼ぐと後で痛い目を見そうでもある。
 土壇場で裏切れるだけの用意をしてから行動を決めるべきだと。
 一先ず年配であるムラクモとの接触を図りたかった。

【カイン・R・ハインライン@餓狼MARK OF THE WOLVES】
[状態]:打撲のダメージ(軽微)、ダメージ(小)、疲労(大)、少し酸化
[装備]:万里飛翔『マスティマ』@アカメが斬る!、バーリやー@スーパーペーパーマリオ
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜1(確認済み)
[思考・状況]
基本方針:優勝しセカンドサウスの夢を叶える。自由は自分の手で勝ち取るべきものだ。
0:一度優勝を考えるのは待つべきだ。頃合いを見計らわなければ。
1:彼女(姫和)の対策の考案と関係者の捜索。トジのことを知ってる参加者がいればいいが。
2:二人(フェザーと可奈美)を倒し損ねたのは大きな損失かもしれない。
4:雷に引き寄せられてるが、気のせいか?
5:暇があれば帝具をもう少し試す。
6:君の目に宿るおたすけ、観させてもらったよ。しんのすけ君。
7:ムラクモと出会ってから今後の実のふりを考えなければならない。
[備考]
※参戦時期は少なくとも敗北前です
※マスティマとの相性は高いです。
※八将神の存在を知りました。
※第一放送は聞いてます。

「沙耶香!」

 桐生と共に倒れる沙耶香へと駆けよる日菜子。
 一応駆けつけたはいいものの、正直これは無理だ。
 いくら治癒魔法がある宮藤でもこれは重傷とかではない。
 寧ろまだ生きていられることの方が奇跡に等しいことだ。
 酸に塗れた彼女は、最早抱きかかえることすら困難となっている。
 それでもなお宮藤は延命のため治癒魔法を続けていく。

「日菜子さんでしたか。何か治せる支給品は!?」

 最早縋るのであればそれしかない。
 既に二人とも支給品の中身は判明している。
 頼れるのはこの場に残っている日菜子だけだ。

「私のモノメイトじゃ流石に……」

「日菜、子。」

 手を伸ばしなながら沙耶香は言葉を紡ぐ。
 思わず掴みそうになる日菜子だが沙耶香が手を引っ込める。

「どうしたの!?」

 か細い声で紡がれた言葉は、










「逃げ、て。」

「え───」

687桐生伝 アシッド・レイジ・ロアー ◆EPyDv9DKJs:2022/11/13(日) 22:05:24 ID:JN3ce.6k0
「え───」

 そもそもからして疑問だと思っていた。
 常時攻撃を受けてる状態となる酸性雨の中、
 写シだけでどうにかなると沙耶香が判断するだろうか? と。
 電光弾と言った攻撃手段を持つ人からの長距離攻撃を見た手前、
 強力な飛び道具を有してる人ができるかどうか確認してから突貫するべきだ。
 自分しか勝てないと言った、頼れる人物がいなかったと断じるほど彼女は他の参加者を知らない。
 ではなぜ彼女が自ら犠牲に突貫したのか。それは彼女が刀使だからとかではない。
 そこに、彼女の意志など最初からなかった───

「そこの人! 止まってくださ───ッ!!」

 治癒魔法に専念していた宮藤は気づかず、
 先に服部がその存在に気付き、特殊棍棒を構えた。
 しかし構えると同時に、相手の術中へと陥ってしまう。
 否。寧ろ気付いたからこそと言うべきだろうか。

「予定では貴方ではなかったと言うのに。」

 ナスタシアだ。
 服部に気付かれたことで、
 即座に彼女へとチョーサイミンジュツを行った。
 可能ならば来夢と同じ学生服である日菜子を狙ったのだが、
 相手が遠距離武器を持っていたのもあって仕方ないと割り切る。

「静夏ちゃん!?」

 沙耶香が突撃したのは自分の意志ではなかったということだ。
 避難した家屋に居合わせたアナスタシアによって洗脳され、命令されたから。
 元々が従順な子で、舞衣がいなければノロを受け入れていた子だ。
 そのせいかもしれないが、チョーサイミンジュツも効果が早かった。
 桐生をあのまま放置すれば、此方も死を感じた結果、
 沙耶香に突撃をさせたわけだ。

「代替えの戦力は確保した以上此処で退きましょう。」

 退かなければ数の差が激しい状況だ。
 無理に戦うよりも逃げを選んだ方がいい。

「待ちなさい!」

 逃がす気など毛頭ない。
 すぐに立ち上がり変身し、剣を構える。

「言っておきますが立場は私が上です。仲間内で殺し合いたいとでも?」

 チラつかせるように立ちはだかる服部。
 表情から自我はまだ残っているようだが、
 身体の動きはナスタシアを庇うように構えている。
 二対一。ナスタシアの実力を知らない日菜子にとって、
 此処で宮藤を庇いながら戦うのは困難を極める。

「だからと言って、見捨てられない!」

 従うことなどできない。
 人を助け続けてきたリフレクターが、
 人を助けないでどうするのか。

「そうですか。では───逃げましょう。」

 即座に逃げを選んだ。
 思わず追走しかけた瞬間。

「え───」

 肉を裂くような音に足を止める。
 日菜子に痛みはない。音の位置から背後。
 そう───

「日ノ、元、さん……!?」

「宮藤さんッ!!!」

 宮藤にも理解できなかった。
 投げ飛ばされたはずの彼女が戻ってきたのに、
 針目が持ってたのとは別の、赤い片太刀バサミで裂かれていたから。

 わけがわからなかった。
 先ほどまで話していた間柄で、
 バルクホルンのような真面目な人と言う認識だ。
 会話した時間は短いものの敵となる人物ではない。
 ではなぜ今斬られたのか。致命傷を負った傷では思考がまとまらない。

「悪いが事情が変わった。私はこいつらに手を貸す。」

「どう、して……!?」

「作戦通りですね、助かりました。早めに引き上げましょう。」

 日菜子を仕留めておきたくもあるが、
 長居すると全員戻ってしまう可能性がある。
 そうなれば戦力外の自分を除いても二人では厳しい。
 でも今ならば日菜子だけが追撃しにくるとしても一人だけだ。
 風火輪とストライカーユニットで素早くその場から離脱。
 それを追従するように明もそのまま離れていく。

 三対一。数の不利は承知の上だ。
 苦虫を嚙み潰したような顔で向かおうとするが、

688桐生伝 アシッド・レイジ・ロアー ◆EPyDv9DKJs:2022/11/13(日) 22:07:31 ID:JN3ce.6k0
「だめ、ひな、こ。」

「でも!」

 今にも消えそうな声で、沙耶香が止める。
 他に今から救援を求められない。遠くにいないであろうアニでは追いつけない。
 一人で不利なのは分かってる。しかしのさばらせる方がよっぽどできないことだ。

「時間、ない……」

「え?」










 北上した三人は追ってこないことが分かると速度を緩めた。
 服部は自我は残っているものの殆ど抵抗はできない状態だ。

「礼を言いましょう。」

 戦闘が始まった直後、アナスタシアは近くの民家に隠れた。
 無論居座っていれば酸性雨でどうなるか分かったものではなかったのだが、
 下手に動いて目撃されるよりはまだましな判断とも言えるだろう。
 放送を聞いて伯爵の事で打ちひしがれていたところを、沙耶香『達』と遭遇してしまった。
 ただ沙耶香は勘違いした。大事な人を亡くして気落ちしている自分と同じ人なのだと。
 そう勘違いして不用意に近づいたところを、チョーサイミンジュツをかけて今へ至る。
 参加者の同士討ちからさらに新たな戦力確保することはできたのが不幸中の幸いか。

「ですが、協力していただけたのは幸いです。」

「うんうん。途中までの相乗りとしては僕もいいかなーって!」

 彼女らしからぬ喋りから一変。
 白が目立つ明のヴァンパイア態の姿から、
 ピンクのロリータな服装───針目縫の姿へと変わっていく。

「針目、さん!?」

 針目は我ながら完璧なタイミングだと思えた。
 明の姿で誰かを攻撃して、それを目撃させる。
 しかも集団もバラバラ。再度集合をバックレたとしても、
 酸の染みた大地を歩けないと言う真っ当な理由で誤魔化せる。
 心置きなく参加者を減らす方へと舵を切ることができると言うものだ。
 ついでに使ったハサミも流子の方の赤いやつなので疑われにくい。
 更に殺し合いに乗っているナスタシアまでいるのだからいいことづくめ。
 と言うより、桐生との戦いで自前のは錆びかけて使い物にならなくなってたので、
 どの道余ってたもう一本を使わざるを得なかったと言えばどうなのだが。

「針目さん、何故……!?」

 確かに少し無神経なところはあるし、
 植木との空気のぎこちなさを気にしはしていたが、
 先の戦いといいマサオの時といい手伝ってくれた間柄。
 余り疑念らしい疑念は服部にはさほどなかった。
 真面目が過ぎる故に人を疑わない彼女の性格が仇となる。

「あれあれー? 洗脳の度合い弱いんじゃない?」

 風火輪で高速移動していたのと、
 咄嗟にやるべきでありさらに対象は日菜子のつもりだった。
 そのせいかは分からないが洗脳の度合いはかなり弱いものだ。
 従うことはできるものの意志自体はまだ残っているらしい。

「後で重ねておきましょう。貴女はどうしますか?」

「んー、もうF-6はドロドロだから、
 戻らなくても疑われないし好きに移動しよっかなぁ?」

 まだ視認できるF-6の家屋を見やれば死の大地と言うべきだろうか。
 家屋は丘のように緩やかな坂を築き、趣ある庭から緑は消滅し、
 池も最早生物がすめる状態ではなくなっていた。
 此処を歩きたいかと言われたら多くは首を横に振るだろう。

「そうですか。」

「じゃ、僕は適当にやるからよろしくねー!」

 学校での挨拶を終えた学友のような、
 晴れ晴れとした笑顔と共にステップで消えていく。
 ナスタシアからすればああいう手合いは苦手な部類だ。
 ああいう飄々と、何を考えてるか読めない人物……ディメーンと大差ない。
 だが馬鹿と鋏は使いようとは、彼女の持つハサミ通りと言うべきだろうか。
 マネーラのような変身能力、先の戦線に参加していたなら実力もある。
 伯爵亡き今、戦力となりうる人材を確保するのは特に重要だ。
 自分が優勝するビジョンはまず浮かばない。かなり運が絡む。
 なので残る伯爵ズの、三人のうち一人でも生きることを想定とする。
 洗脳が解けてないであろうミスターLを当てにしすぎると痛い目を見る。
 此処はマネーラを想定した立ち回りをしておくべきだろうか。

689桐生伝 アシッド・レイジ・ロアー ◆EPyDv9DKJs:2022/11/13(日) 22:09:29 ID:JN3ce.6k0
「さて……洗脳の度合いが甘いようなので、念を入れておくとしましょう。」

 彼女の眼鏡が怪しく輝く。
 思考が染められる。大事な仲間の顔が思い出せない。
 年の近しい少女ではなく、顔も名前も知らぬものへと挿げ替えられる。

(宮藤さん、植木さん……!!)

 二人の無事を願いながら、
 服部の意識はそこで途切れた。

【ナスタシア@スーパーペーパーマリオ】
[状態]:顔にかすり傷 焦り 疲労(小)
[装備]:首輪探知機@オリジナル、ビブルカード×2(針目縫、ムラクモ)@ONEPEACE、風火輪@封神演義
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本:伯爵様の為に参加者を減らしていく。
1:彼女(服部)を利用して伯爵様を復活させる。
2:直接戦闘は必要な敵以外は避ける。
3:童磨はまた会ったら殺す。
4:ディメーンは裏切り者として生かしておけない。
5:完全者は信用はしてないが、戦力であることには変わらない。
6:他の部下も一応探しておく。特にミスターLは本物? 洗脳の状態も確認が必須。
7:桐生め……勝手な真似をして……!!
8:私の”チョーサイミンジュツ”の性能が落ちている……!?
9:針目とは一先ず休戦。
[備考]
※参戦時期は最低でもステージ7以降。
※チョーサイミンジュツに制限が課せられています
※チョーサイミンジュツに制限が課せられいることに気づきました。
 『以下チョーサイミンジュツの制約についての説明』
 ・洗脳可能な上限は一人まで
 ・絶対に洗脳できるわけではなく、相手の意志力自体では洗脳を解除されるか不完全な洗脳になる
 ・何か道具や技があれば、跳ね返すことが出来る

【服部静夏@ストライクウィッチーズシリーズ】
[状態]:決意、負傷(中)、疲労(小)、洗脳
[装備]:特殊棍棒(エクスカリバー)@ドキュンサーガ 
[道具]:基本支給品、ストライカーユニット震電@ストライクウィッチーズシリーズ じわじわキノコカン×4@スーパーペーパーマリオ
[思考・状況]
基本方針:ビバ! 伯爵!
1:宮藤さんのように、伯爵様のために戦います!
2:宮藤さん……色々と聞きたいことがありますが、今は目の前を対処します!
3:植木さんは…何というか…不思議な人、という感じがします。
4:縫さん……!?
5:植木さんや縫さんといい、これは”パンツ”とやらではありません!
[備考]
※参戦時期は三期の最終話「それでも私は守りたい」にて、宮藤芳佳にユニットを届けた後意識を失った直後からです。
※作中にて舞台になっている年代が1945年な為、それ以降に出来た物についての知識は原則ありません。
※植木・針目の世界観を簡単に把握してます。
※互いが別々の世界もしくは別々の時代から会場に呼ばれたと推測から確信になりました。
※自分が死亡後参戦だと勘違いしています。
※縫から日ノ元明は危険人物だと伝えられています。
 但し、縫の変身を見てるので懐疑的です。
※チョーサイミンジュツにより洗脳されてます。
 度合いは重ね掛けされてるため些細なことでは解除はできません

【針目縫@キルラキル】
[状態]:負傷(中)、疲労(中)
[装備]:片太刀バサミ(赤)@キルラキル
[道具]:基本支給品一色、不明支給品×0〜1
[状態・思考]
基本方針:優勝して元の世界に帰還する
1:とりあえず静夏ちゃん。そして耕介ちゃんと行動を共にする。
2:利用できそうな参加者は利用する。そうでない参加者については明の姿で殺していく。
3:アーナスちゃんに関しては要注意だね☆
4:ナスタシアちゃんもがんばってねー。バイバーイ
※参戦時期は少なくとも鬼龍院皐月と敵対した後からとなります。
※名簿に関係者がいないことを把握しました。
※静夏・植木の世界について簡単に知りました。
※日ノ元明、植木、服部、ナスタシアに擬態可能です。
 他の人物も可能ですが性格や声を再現はできません。















 ただ、針目にも誤算はあった。

「時間、ない……ハサミの子……日ノ元って人、同じ人。」

 逃げるよう促したのが最後の言葉だと思ってたが違う。
 沙耶香がまだ生きているということに気付かず放置した結果、
 自分の存在が擬態能力含めてばらされてしまったのだから。
 確認する余裕がなかったと言えばそうではあるものの、
 怠った結果彼女の作戦は何ら意味のないものと化した。

「変身する能力を持っているの!?」

690桐生伝 アシッド・レイジ・ロアー ◆EPyDv9DKJs:2022/11/13(日) 22:10:02 ID:JN3ce.6k0
 ぎこちない動きで、ゆっくりと頷く沙耶香。
 自分ができることはもう、伝えることだけだ。
 舞衣と薫が死んだ。刀使である以上死ぬこともある。
 でも、こんな形で迎えることになるとは思わなかった。
 その状態でナスタシアに声をかけてしまったのが全ての運の尽きと言える。

(ゴメン……皆……)

 救いがあるとするなら、
 彼女は知らず知らずのうちに大半の参加者を救ったことになる。
 病院、学校、火災現場。全てを覆えると言ってもいい災厄を、
 彼女は一人で防ぐことができた。少なくとも今は大半の参加者が救われたことになる。
 死の雨の中でもまともに活動できる者など、指で数える程度なのだから。

「沙耶香……」

 伸ばした手が地に落ちる。
 ドロドロの腕は落ちた瞬間潰れたトマトのようにべちゃりと潰れた。
 宮藤と沙耶香と桐生、そしてマサオだった死体を前に日菜子は動けない。
 原種のようなとんでもない奴だった。勝つには犠牲なしでは得られないと。

「あの二人……!!」

 殺意はないが、純然たる怒りがこみあげてくる。
 洗脳に不意打ちとこれでもかと悪事を短時間でやり遂げた。
 確かに麻央みたいな決して善とは言い切れないような人は身近にいたこともある。
 ただあれも彼女の歪んだと言えど正義感からくるものではあったので、今回のとは違う。
 身勝手な理由で超えてはならない一線を越えた二人を、一発ぶん殴ってやりたい。
 しかも成りすましているというのだから余計に腹が立つ。
 リフレクターは誓う。あの二人を絶対にとっちめてやると。


 嵐の次に起きた災厄の戦い。
 犠牲者は規模からすれば些細だろうが、
 あの十五人の大半がそのエリアから散り散りになっていた。

【宮藤芳佳@ストライクウィッチーズ 死亡】
【糸見沙耶香@刀使ノ巫女 死亡】
【桐生@ドキュンサーガ 死亡】
【佐藤マサオ(歳破神)@クレヨンしんちゃん 討伐】

【白井日菜子@BLUE REFLECTION 幻に舞う少女の剣】
[状態]:負傷(中)、疲労(小)、怒り、精神疲労(大)
[装備]:リフレクターの指輪@BLUE REFLECTION 幻に舞う少女の剣
[道具]:基本支給品一式、モノメイト(3/5)@ファンタシースターオンライン2、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]
基本方針:殺し合いになんて乗らない。こんなふざけた事は止めてみせる。
1:ユズ、ライム……
2:衛藤さんの捜索。そこから十条さんを止める。
3:それとあの人(アナムネシス)は止めないと。
4:此処はコモン? もしかして原種がいる? 後者はいやかな……
5:まずは目の前の相手との対峙を乗り切る。
6:ナスタシアとハサミの子(針目)は一発殴ってやりたい
[備考]
※参戦時期は第12章「最後の一歩 the First Step」で、
 ユズとライムとの最後の別れをしてリフレクター絡みの記憶を全て忘れた後から。
※忘れていた記憶は思い出しました。
※帝具や刀使、進撃の巨人について知識を得ました(ただし帝具は浅く、村雨の性能も知りません)
※第一放送を聞き逃しました。

【マシュ・キリエライト@Fate/Grand Order】
[状態]:喪失感(大)、深い悲しみ、混乱 負傷(中)、疲労(小)、溶解(軽微)
[装備]:オルテナウス、オルテナウス盾部分
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×1〜2
[思考・状況]
基本方針:生き延びて、先輩と再び逢う。
1:参加者と接触し、先輩の目撃情報を調べる。
2:先輩が見つかるまで、アニさんと行動する。
3:桐生との戦闘が終わり次第、マサオから事情聴取する
4:疑似霊核……カルデア? それとも……サーヴァント?
5:皆さん、無事でしょうか。
※参戦時期は少なくとも第二部第二章以降
※マサオの疑似霊核から、この殺し合いにカルデアの関係者かサーヴァントが関わっているのではないかと考えています。
※第一放送を聞き逃したかは後続の書き手にお任せします。

691桐生伝 アシッド・レイジ・ロアー ◆EPyDv9DKJs:2022/11/13(日) 22:10:34 ID:JN3ce.6k0
【植木耕助@うえきの法則】
[状態]:負傷(中)、疲労(小)、溶解(軽微)
[装備]:立体起動装置@進撃の巨人(ガス満タン)
[道具]:基本支給品、アクション仮面人形@クレヨンしんちゃん 優木せつ菜のカレー@ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会
[思考・状況]
基本方針:自分の正義を貫く
1:森達のところに戻りたい…とは思うけど、殺し合いには乗らねぇ。
2:服部、糸目と行動を共にする。
3:空白の才が支給されていたらヤバイな……。
4:針目の奴……目の奥が笑ってねぇ
5:ムラクモって男……針目に似たような雰囲気がするな。
5:まずは、桐生との戦闘に集中する
[備考]
※参戦時期は16巻の第153話「最終決戦!!」にて、アノン相手に最後の魔王を撃った直後からです。
※「ワールドウィッチーズ」世界についてある程度の知識を得ました。
※互いが別々の世界もしくは別々の時代から会場に呼ばれたと推測から確信になりました。
※自分が死亡後参戦だと勘違いしています。
※神器やゴミを木に変える能力のレベル2にはある程度制限がかけられていますが、どれぐらいの制限がかかっているかは後続にお任せします。
※神器は自分の世界の神様を決める戦いに参戦している人間”以外の人間には使用しないと決めています
※「キルラキル」世界についてある程度の知識を得ました。
※糸目縫を少しだけ警戒しています。(確たる証拠がないため、静夏には伝えていません)
※縫から日ノ元明は危険人物だと伝えられています。(半信半疑)
※ムラクモを少しだけ警戒しています。(あくまで自分の勘)
※第一放送を聞き逃したかは後続の書き手にお任せします。

【ムラクモ@アカツキ電光戦記】
[状態]:負傷(中)、疲労(小)、溶解(軽微)
[装備]:ブラッディピアース@グランブルーファンタジー、一斬必殺村雨@アカメが斬る! 六〇式電光被服+六〇式電光機関@アカツキ電光戦記、
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜1(確認済み) 家紋タクシー@ニンジャスレイヤー
[思考・状況]
基本方針:メフィス達を始末して願いの力を手にし、悪用を避ける。すべては人類救済の為だ。
1 :北上しつつ衛藤可奈美の捜索。そこから十条姫和の制圧、或いは討伐。
3 :司城夕月、司城来夢、益子薫、古波蔵エレン、柳瀬舞衣、安桜美炎の捜索。
4 :電光機関の無駄遣いは避けなければならない。
5 :紋章を知る、或いは他の世界の住人を探して首輪解除の手段を模索。
6 :完全者は此処で確実に始末したいが、徹底するのは控える。
7 :紫の女(アナムネシス)に要警戒。
8 :高津と言う女については多少は懸念しておくか。
9 :シャンバラ、探してみる価値はあるか?
10 :落ち着いたら集まった参加者達で情報交換を行う。(特にマサオには事情聴取を行う)
[備考]
※参戦時期は不明。(少なくとも完全者を一度殺害後でエヌアイン完全世界ED前)
※六〇式電光機関をそのままの代わりに支給品の枠を使ってます。
※村雨がアニメ版か漫画版かは後続の書き手にお任せします。
 (どちらか次第で奥の手の内容が変わります)
※刀使、リフレクター、エルディア人、の知識を得ました。
※第一放送を聞き逃したかは後続の書き手にお任せします。

【アニ・レオンハート@進撃の巨人】
[状態]:マシュに対して不安、眼に巨人化の痕 ムラクモに対して警戒 負傷(中) 疲労(小)
[装備]:地禮@PROJECT X ZONE2 BRAVE NEW WORLD
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜1(武器類はもうない)
[思考・状況]
基本行動方針:マシュ・キリエライトと共に行動する。
1:参加者と接触し、ベルトルトと立体機動装置を探す。
2:巨人化能力が再び戻るまでは、マシュと行動する。場合によっては再び対峙するかもしれない。
3:植木という少年からなんとか立体起動装置を譲ってもらいたい
4:桐生との戦闘が終わり次第、マサオから事情聴取する
5:ムラクモ……警戒を怠れないな

[備考]
※参戦時期は第132話、ヒィズルの船に乗った直後からの参戦です
※この殺し合いの主催者にエレン・イェーガー、もしくは『始祖の巨人』を所有したエルディア人がいるのではと考えています。
※ムラクモと情報交換をしました。※3者の考察
※F-7に女型の巨人の残骸(数十分で蒸発する)が残されています。
※女型の巨人には制限が掛けられています、制限は以下の通りです
 身長は10m級に調整されている
一度巨人化すると一定時間経過しないと再び発動できない

692桐生伝 アシッド・レイジ・ロアー ◆EPyDv9DKJs:2022/11/13(日) 22:11:05 ID:JN3ce.6k0
【アニ・レオンハート@進撃の巨人】
[状態]:マシュに対して不安、眼に巨人化の痕 ムラクモに対して警戒 負傷(中) 疲労(小)
[装備]:地禮@PROJECT X ZONE2 BRAVE NEW WORLD
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜1(武器類はもうない)
[思考・状況]
基本行動方針:マシュ・キリエライトと共に行動する。
1:参加者と接触し、ベルトルトと立体機動装置を探す。
2:巨人化能力が再び戻るまでは、マシュと行動する。場合によっては再び対峙するかもしれない。
3:植木という少年からなんとか立体起動装置を譲ってもらいたい
4:桐生との戦闘が終わり次第、マサオから事情聴取する
5:ムラクモ……警戒を怠れないな

[備考]
※参戦時期は第132話、ヒィズルの船に乗った直後からの参戦です
※この殺し合いの主催者にエレン・イェーガー、もしくは『始祖の巨人』を所有したエルディア人がいるのではと考えています。
※ムラクモと情報交換をしました。※3者の考察
※F-7に女型の巨人の残骸(数十分で蒸発する)が残されています。
※女型の巨人には制限が掛けられています、制限は以下の通りです
 身長は10m級に調整されている
一度巨人化すると一定時間経過しないと再び発動できない

【野原しんのすけ@クレヨンしんちゃん】
[状態]:疲労(大)。気絶
[装備]:
[道具]:基本支給品、シリマルダシ(ミライマン)※残り4回@クレヨンしんちゃん、又兵衛の馬手差し@クレヨンしんちゃん、まどわし草×3草@トルネコの大冒険3
[思考・状況]基本行動方針:困ってる人をおたすけする
1:アリサちゃん、芳佳ちゃん、マサオ君と一緒に行動する
2:芳佳ちゃんのお友達(服部静夏)を探す
3:マサオくんをこんなにした”ンンンおじさん”にカンチョーする

[備考]
※殺し合いについて理解しました。
※ぷにぷに拳を使用することができます。(作中習得した九まで)

【アリサ・バニングス@魔法少女リリカルなのはA’s】
[状態]:ダメージ(極大)※治療中、疲労(大)、気絶
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~2
[思考・状況]基本行動方針:殺し合いは絶対しない
1:しんのすけ、芳佳さんと行動する。
2:しんのすけ……後は頼んだわよ……
3:目が覚めたらマサオに謝る
4:ネガティブな考えは捨てなくちゃね!
[備考]
※参戦時期は11話、なのは達が魔法少女だと知った後です

≪四者の考察≫(ムラクモ、アニ、マシュ、日菜子)
・リフレクターの変身について
①コモンの可能性:フラグメントも魔物もいない為低い。
②原種が存在する:現状ではなんとも。移動ついででいるかどうかを調べてみる。

・刀使の多さについて
①刀使の力をメフィス達か関係者が必要としている。
②タギツヒメを倒せる刀使が必要だったから(タギツヒメの力を手に入れる為)。
③高津雪那が運営関係者で、タギツヒメの障害となる刀使を参加者にした。
 (折神紫はいないが、私怨を晴らす為か?)

・見せしめに藤丸立香を選んだ理由
①藤丸立香に関係している人物が主催に関わっている。
②選ばれたのは旅を続けられると、主催にとって不味い事態があるもしくは起こる。
③名簿に記載されている同姓同名の藤丸立香については、ひとまずは保留。

・他
①首輪が科学と魔術ではなく魔術のみの可能性。
 念には念を入れて紋章を知る参加者を探しておく。
②シャンバラと呼ばれるものが使えるかもしれないが、現状はついで。
③主催側には、いくつかの世界の関係者たちが連合を組んでいる可能性がある。


※F-6の状況は以下の通り
 ・F-6の広範囲に酸性雨(ドキュンサーガ9話④の町の惨状少し近しい)
 ・溶けた、溶けかけの支給品は以下の通り
 ・①又兵衛の馬手差し
  ②可楽の団扇@鬼滅の刃
  ③糸見沙耶香の死体(デイバックは酸性雨で溶解したため消滅してます。)
  ④佐藤マサオの死体
 ・残ってるものは以下の通り
 ・宮藤芳佳、及び桐生の死体、
  ギャレンラウザー@仮面ライダー剣
  顔のない王@Fate/Grand Order
  宮藤のデイパックの内容は基本支給品のみ(包帯は使い切った。)
  桐生のデイバックは耐酸性のため溶けていません(内容は基本支給品のみ)
  桐生の首輪(八将神討伐の報酬)
 ・同じエリアの死体になるユカポン、ユカポンのファンの吸血鬼の遺体とデイバックは、
  後続の書き手にお任せします

693桐生伝 アシッド・レイジ・ロアー ◆EPyDv9DKJs:2022/11/13(日) 22:11:27 ID:JN3ce.6k0
【蒼天囲みし小世界(アキレウス・コスモス)@Fate/Grand Order】
ムラクモに支給。大量に存在するアキレウスの宝具の一つの盾。
母テティスが鍛冶神ヘパイストスに懇願して作らせた世界そのものを盾とするもの。
他者に宝具を貸し与えた逸話から他人に譲渡しても真名解放ができるという特殊なもの。
カルナの宝具すら抑え込めるだけの範囲と効果を持ち、本ロワでは12時間に一回使用できる、
対界宝具を除いてほぼ全ての攻撃を短時間の間無効にできる

【まりょくのみ@大貝獣物語2】
アニに支給。文字通りの魔力の実
小量のMP回復。一度の回復量は微々たるがその分数が多い。

【可楽の団扇@鬼滅の刃】
桐生に支給。半天狗の可楽が使う団扇。
強い風を起こす。本ロワでは誰でも扱える。

【顔のない王(ノーフェイス・メイキング)@Fate/Grand Order】
宮藤に支給。アーチャーのロビンフッドの羽織るマントの宝具。
消音、気配遮断、透明化と高いステルス性能を誇るが長時間の運用は大きく消耗する。
魔力保持者などであれば多少時間は伸びる。

【片太刀バサミ(赤)@キルラキル】
針目に支給。纏流子の持っている方のハサミ。

694桐生伝 アシッド・レイジ・ロアー ◆EPyDv9DKJs:2022/11/13(日) 22:11:45 ID:JN3ce.6k0
以上で投下終了です
・桐生の服と義手について
 原作では半裸(恐らく全裸)かつ義手もないことから、
 桐生が装備してる服や義手自体には酸性雨の耐性はないと思われるのですが、
 本ロワではまだ溶けてなかったことから耐酸と言う扱いとさせていただいてます
桐生の制限はなんとか考え抜いた末のものなので、
これら以外にも問題がありましたら指摘をお願いします
修正は、殆ど難しいので最悪破棄でお願いします

695桐生伝 アシッド・レイジ・ロアー ◆EPyDv9DKJs:2022/11/13(日) 22:13:21 ID:JN3ce.6k0
場所は変わってないですが全員F-6 朝です
表記忘れすみませんでした

696 ◆EPyDv9DKJs:2022/12/09(金) 19:36:45 ID:P1lIBxAE0
投下します

697彼等を導くみらい回路 ◆EPyDv9DKJs:2022/12/09(金) 19:37:58 ID:P1lIBxAE0
 放送を聞きながら、ドミノはヴァンパイアの力を軽く試す。
 エテルナにはホテルらしからぬ施設が少し見受けられたが、
 半妖にしか使い道のない施設ともあってほぼ徒労に終わっている。
 結果数時間は無理に動かず、休息の方へと時間を費やしていた。
 一応は真祖だ。常人よりもずっと再生力はあるため万全からは程遠いが、
 少なくともそんじょそこらの連中を相手にして後れを取ることはないだろう。
 とは言え、回復が望める支給品はなかったため、先の怪物や日ノ元は勿論のこと、
 今の状態では堂島相手にもかなりの苦戦を強いられるほどの状態だ。
 無理はできないのでこのまま何事もない方が……とは少し思ってしまうが、
 日ノ元が先に動いて大幅なアドバンテージを取っているのは事実。
 これ以上先を越されると後に響く。放送も終わったことだし、
 立ち止まるよりも二人を連れて動くべきだと判断する。

 先の放送についてはドミノ自身としては余り思うところはない。
 敵となる貴真の存命、結局謎のまま退場した伯爵なる人物等色々あるが、
 善も明も無事であり、堂島と日ノ元も落ちるとは思ってないので当然の帰結。
 気掛かりがあるとするのならば、知人がいる充の方だろうか。

「ドミちゃん。ドンくんが呼ばれたのはなんで?」

 しおは殺し合いの意味を理解できているわけではないとしても、
 知り合った人物の名前が出てきたことで不安な表情をしている。
 殺し合いの意味を短時間で理解させるのは簡単なことではない。

「そうね……大事なものを持っていかれたってことよ。」

「しおにとってのさとちゃん?」

「近いかも。悪い奴らがさとちゃんを連れ去ったみたいな風にね。」

「じゃあ、取り返さないと!」

 さとうと離れ離れになる怖さはもう経験した。
 悪い人達がそれをするなら止めないといけない。
 ドドンタスだって短い時間の中で助けてくれたのだから、
 彼の大事な物は彼に返すべきだと思っていた。

(しおはいいけど、あっちはどうやら。)

 一方充はと言うと。
 逆に人の死を理解しているため、
 その恰好とは裏腹に影を落としている。
 琴美とはるな。修平含めて黒河達程話した間柄ではなかったが、
 どちらも修平にとっては大事な存在であることは伺えた。
 初音が無事だとしても素直に喜ぶことはできないし、
 他にも彰から聞き及んだ人物の生死も悪い方へ向かっている。

(でも一番は彼女なんだろうな。)

 それでも自分以上に傷ついてるのは、何方にも知り合いがいる悠奈だと思った。
 此処でも救えず落としていくと言うのは、二度も参加して理不尽に抗う。
 それを嘲笑うかのように現実は三度目を与えて屍を積み上げていく。
 しかも十四人の時と違い、彼女一人ではどうあっても手が届かないこの大人数。
 とんだ嫌がらせだと思う。人生で三度も殺し合いに参加させられる一般人、
 恐らくこの舞台でも他にいないだろうことも。

 でも、それでも彼女は向き合うのだと言う確信もある。
 彼女は折れない。自分が初音を守りたいのと同じことだ。
 どんなことがあろうとも変わらない。気弱だと自覚ある彼自身がそれなら、
 より強い芯を持った悠奈なら、今も尚この戦いに抗い続けているのだろう。
 本来ならば自身も今すぐ動きたいものの、日ノ元の言葉が重くのしかかる。

『投げ出せば君の言う阿刀田君も悲しむのだから、大事にしておくんだ!』

 自分が現時点では最重要で、今後を左右する可能性のある人物。
 他に機械に精通した人物が不明の中、首輪を何とかできる可能性があるのは貴重。
 そんな大役を背負わされてるが故に以前みたいに初音の為であれば、
 命を投げ出すぐらいの覚悟で行動していては本当に死にかねない。
 前回と違って首輪がまだ何とかなってない今、一人で動き出すようなことはしなかった。

「ドミノさん!」

 いつの間にか下僕にはされたりはしているが、
 同じくこの殺し合いを打破せんと志す真祖へと声をかける。
 女装はともかくとして、オフィエルから渡された武器を持った姿は、
 さながら覚悟を決めている戦士のような風格を醸し出している。
 最初に出会った時とは大分顔つきが変わったものだとドミノも感じる。

「いてもたってもいられないって感じね。
 いいわよ。躓いた感じだけど私達も……っと、来客か。」

 出撃の発破でもかけようかと思った瞬間、
 耳が動き回り他の参加者の存在を感知する。
 足を止められたと思うべきか、さっそくと言うべきか。
 人数から共闘、或いは共謀の関係ではあることは伺える。
 少し待てばホテルにその相手が扉を開く。

「あら、先客がいたみたいね。」

698彼等を導くみらい回路 ◆EPyDv9DKJs:2022/12/09(金) 19:38:36 ID:P1lIBxAE0
 みらい達三人はアナムネシスとは反対方向へと進んだ。
 アナムネシスが来た方角に零がいるとは思えないのもあり、
 北上しつつ東へと歩を進んだことで此処へとたどり着いた。
 みらいにとっては放送の内容に興味はない。
 邪魔な千がいなくなった、そんな程度であり、
 歩を進めるペースが遅くなることはなかった。

「アンタたちはどっち? 見たところ一緒のようだけど。」

「あん。少なくとも、こっちは今のところは乗ってないから安心してね。」

 三人の前へ紗夜が率先して話を進める。
 正直な物言いをする彼女に少しばかりドミノも面食らう。
 乗ってないと言えば話が済むところをあえて乗るかもしれないと言ってのける。
 二人もその物言いに驚いてないことから、本当にそのつもりではあるらしい。
 とは言えドミノとしては構わない。状況もあるが日ノ元を許容できている。
 癖のある人物が出たところで、無駄に敵対しないのであれば何ら問題ない。

「ま、正直なのはいいことね。変に隠し立てするより信用できる。」

「お姉さん、話が早くて助かるね。」

 手を軽く合わせて無邪気な少女のように喜ぶみらい。
 殺し合いの最中とは思えぬような雰囲気ではあるが、
 同時に強い殺気のようなものを感じたのも同時に彼女だ。
 話し合いで済む相手であるなら穏便に済ませるべきでもあり、
 特に何があるわけでもなく、日ノ元同様に席へ着いて情報を交換していく。
 同好会と辺獄関係者で、いよいよ三割強にまで生存者の情報が集まった状況。
 この情報量だけで言えば、既にこの舞台の中でも最上位に当たるだろう。
 身動きが取れずに動けなかった分としてはそれなりのおつりになる。
 人数だけで言えば日ノ元も負けず劣らずではあるが、
 ドミノの方においては一つだけ決定的な違いがある。

「メフィスとフェレスを知ってるって言うのはありがたいわ。」

 主催に対する情報だけは一歩先を行く。
 今すぐ役に立つとは限らないとしても、
 人となりを知ることは今後に繋げやすい。
 まあ、想像通りの連中だったとも言えるが。

(でも堂島と同レベルに取り扱い注意ってところかしら?)

 ドミノに対して沙夜は自分達の方針も明かしている。
 最初のやり取りから清廉潔白な人間ではないことは分かった。
 自分達のやり方にそれほど異を唱える相手でないのであれば、
 下手に隠さずとも自分達の目的や方針を話す方がいいと判断した。

「ところであの子、本当に大丈夫?」

「侑ちゃん、侑ちゃん……」

 それはそれとして。
 隅の方の席で想い人の名前を呟き続ける歩夢の姿。
 しおが近くで頭を撫でたりしてるが、特に変化はなく。
 菜々が死んだことについては、今の歩夢にとってさほど悲しくはなかった。
 彼女からすればあの夜、侑が遠くへ行ってしまうかもしれない要因を作った人物。
 元を正せば、スクールアイドル同好会へ入ったのもまた彼女がきっかけでもある。
 なので彼女が死んだことは寧ろ侑と一緒になれる第一歩とも感じていた。
 一方で『一般人の彼女が死ぬならこの先侑が無事と言う保証もない』ことだ。
 一般人だからと温情などない。ただ蹂躙されて死ぬことなんてざらであると。
 最悪殺すことを考えているものの、他人に譲りたくもないと言う歪んだ愛情。
 だからと言って御刀があろうとも自分一人では戦える相手に限度がある。
 みらいや沙夜の協力なくしては出会うこともままならないだろうことは察していた。
 ある意味では充と同じ。一人で動くわけにはいかないと言う理知的な考えだ。

「あれはただの愛だから。」

「なんと随分重い愛だこと。」

 愛って素晴らしいよね、
 とでも言わんばかりの笑顔で返す。
 そんな彼女に引きつり気味の表情で返すドミノ。
 自分の行動にブレーキを掛けないヴァンパイアに近しい存在。
 姉が死んだなら、一切の躊躇もなく彼女は他者を殺せるだろう。
 姉の零までもこんな状態だったらと思うと先が思いやられる。
 話を聞く限り妹の為ならなんでもする姉で、なんだか嫌な予感はしている。

(でも使えるって言うのがね。)

 そういう奴は往々にして行動力はある方だ。
 聞けば彼女も相応に戦闘能力は有している。
 戦力としては申し分ないし性格上の問題なんて、
 ドミノの仲間だって狩野と比べれば大抵の奴はましに見えてくる。
 一個人に対する執着は、何方かと言えば明に近しいものを感じた。
 ついでに言えばしおと同じで身内のことは当人らでしっかり決めてもらう。
 そこに必要以上の介入をするつもりはないので考えを改めさせるつもりもなく。
 突っかかることはせず、そのまま話を進めていく。

699彼等を導くみらい回路 ◆EPyDv9DKJs:2022/12/09(金) 19:39:14 ID:P1lIBxAE0
「主催が私の推測含めると四人だけど、もう一人いるとは思うのよね。」

「? どうして?」

「恐らく単純な話、平安京を舞台にする理由付けが少ないところかしら?」

「あ、そっか。」

 沙夜がドミノと同じ答えを出す。
 メフィスとフェレスは名前からして特別日本に執着があるとも思えず、
 ディメーンも伯爵に仕えてたことを考えると東洋に明るいとも感じにくい。
 ドミノが一応考える主催、ユーベンも平安京に思い入れがあるとは思えなかった。
 必然的にこの赤黒い平安京に対して、何か理由や思い入れなくしては選ばないだろう。
 もう一人ぐらい主催の関係者に日本に明るい人が出てくるはずだ。

「平安京と言えば紫式部とか、安倍晴明とか色々あるけど、
 別世界とかが普通にあるんじゃもう誰に絞ることもできそうにないね。
 たとえばレーザーを放つ源氏物語があった世界とかあっておかしくないし。」

 どんなぶっ飛んだ解釈したらそうなるのか、
 とは突っ込みたいものの充の言葉にないとも言い切れない。
 他者からすれば富士山の噴火があったドミノの世界だって異質だ。
 様々な世界を渡っている沙夜なら尚の事。

「平安京に心当たりある奴は?」

「義経が見知った間柄だけど、こういうのとは無縁と思うわ。」

 随分前の話ではあるが、零児の仲間にもいた記憶がある。
 とは言えあちら側にいて主催をするにはさすがにないので、
 無関係であるとは思うが。

「まだ情報不足か……心当たりがあるやつがいればいいんだけども。」

「これ以上いると思うの?」

「いるでしょ。こんだけ知り合い入れてんだから。」

 ドドンタス、みらい、零、アナムネシス、もしかしたらで伯爵。
 明らかに確定してるだけでも自分達の知り合いだろうと遠慮なく参加させている。
 知られてもさして問題ないなら、今更平安京関係者がいないと言う可能性も低いだろう。

「でもそれじゃ集める意味ない気がするんだけど。」

「ないよりはあるほうがいいでしょ。
 あいつらが好みそうなやり口とか、性格の悪さからくる嫌がらせとか。」

「確かに、お姉ちゃんと私を同士討ちさせて遊んできそう。」

 双子の性格の悪さは折り紙付きだ。
 少し考えただけでイメージできてしまう。
 特に幽鬼であることは姉には隠しているわけだし、
 それが露呈した場合何が起きるかは想像できない。
 下手をしたら零と殺し合う可能性だってあるのだから。

(そうなったら殺しちゃう、ってのは短絡的かな。)

 自分を愛さない姉ならいっそ殺して、
 いらない記憶を全て消す形でヨミガエリさせるのも一つの手段、
 なんて考えたが、此処で殺した零がヨミガエリできるか分からない。
 あくまでそれは最終手段。殺すことはできるだけ避けておきたい。

「あ、そうだ。お姉さんこの辺で死体見なかった?」

「? 一応見たけど、何かに使うの?」

「ちょっと確認しておきたいかなって。」

 魂の回収。できるならば今のうちにしておきたかった。
 既に死んでいる相手であるのならば、余り反感も買わないはず。
 そう思ってドミノ達と共に胴着の男、カンフーマンの所へ向かうが、

(魂がない?)

 胴着の男の魂が何処にもなかった。
 回収されなければ魂は残っているはずだし、
 魂と思しきものも誰も見てないと言う。
 魂がないということは、誰かが回収していることになる。
 しかし、辺獄関係者以外が魂を回収できるのかは疑問だし、
 できるなら回収できるようにしている意図も謎になるのでその線もなく。
 千も零も目的の為と言えど幽者でもない人の魂を回収する性格とは違うし、
 千はともかくとして零の場合、優勝するかさせて妹の生存を図るはず。
 だから魂を最初から集めるメリットはこの場において存在しない。
 かといってアナムネシスでないことも、情報の共有から知っている。
 (情報の共有と言うよりは、沙夜が聞いたのを盗み聞きしただけだが。)
 魂を自分やアナムネシスに回収されると不都合はさしてないはずだ。
 あくまでヨミガエリに必要な魂を集めるだけであって、
 殺し合いを破綻させるだけの力や何かが起きるわけでもなし。

700彼等を導くみらい回路 ◆EPyDv9DKJs:2022/12/09(金) 19:40:38 ID:P1lIBxAE0
(となると、アイツら魂を集めることが目的になってる?)

 それ以外考えられないものの、少し気掛かりだ。
 ただの魂を集めるだけならば最初から殺せばいい。
 特に零や千は向こうにとって勝手のいいペットのはず。
 此処で無意味に失わせるほどのメリットがあると言うこと。

(でも最初から自分の手で殺せば……ああ、理念ね。)

 ただ殺すして集める魂だけでは効率が悪い。
 殺す相手に感情を乗せることで理念を生み出す。
 此処に歩夢のような本来なら殺し合いに乗らないような、
 基本的な道徳や倫理を持った人物がいるのもこれなら納得できる。
 彼女は泣きながら侑を殺す。そういう時ほど上質な理念になるはず。
 双子が望んでいるのはそういう殺し合い。更なる裏はありそうではあるが。

「何かあった?」

「何もなかったのがあったよ。」

 みらいはひとまず情報を共有しておく。
 筆談などをするべきかとも思ったものの、
 双子はそもそも元の世界でも理念を集めていた。
 明かして何か起きるとも思えないので筆談の経由はしない。

(分かったところでどうにかなる問題でもないわね、これ。)

 感情を乗せて殺すな、なんて一朝一夕で身につくわけがないし、
 それならそもそも殺すところを止める方が早いのが現状ではある。
 魂すら集めているのだからそっちの方が明らかに阻止に繋がるはずだ。
 ただこの人数でこの速度。いかにドミノでも手を伸ばすには困難を極める。

「ところでアンタたち。アーナスよりこっちに鞍替えする気はない?」

 戦力として申し分なし、充と言う首輪の解除に繋がる可能性の人物の存在。
 参入するだけで大きなメリットに繋がるのは間違いないのと、
 元々アーナスとの協定もその場しのぎの口約束みたいなものだ。
 紗夜も最初から殺し合いに対して積極的に乗るつもりはなかったし、
 みらいも魂を集められない現状この舞台での目的は零のみ。
 歩夢だけが少し不安点はあるが基本的には乗り気ではない。
 総じてアーナスの目的に賛同する理由は全員存在しないはずだ。

「でもいいのかしら? 私はあなたの世界にも関わる敵かもしれないけど?」

「それを今持ち込むべきじゃないってのは、お互い様でしょ。」

「よくわかってるじゃない。坊やと同じで理解があって助かるわ。」

 やはり正直に話して正解だった人物だ。
 デミトリ達ダークストーカーにも負けず劣らずのヴァンパイア。
 多少の警戒と引き換えに安全な勝ち馬に乗れるのは大きい。
 勝ち馬の傘下にいれば零児からも警戒心は薄れるだろう。
 もっとも、共闘したことはあるから警戒しすぎとも思うが。

「私もいいけど、お姉ちゃんの件は大丈夫?」

「情報提供してくれたわけだし、少しぐらいは仲裁するけどそこまであてにしないことね。」

「話が早くて助かるよ、お姉さん。」

 姉とは複雑な事情が絡んでいる様子。
 しおと同じように事態の解決は当人らになるべくさせたいが、
 展開次第で衝突が起きると言うのであれば多少は仲を取り持っておきたい。
 この殺し合いにおける現時点で唯一の代行者。先に傘下に引き込みたいところだ。

「歩夢ちゃんは……まあ、聞けそうにないか。」

 そろそろ放っておくと爆発しそうだからと、歩夢の方へと向かう。

「それで、六人で行動は流石に効率悪いんじゃないかしら?」

「勿論そのつもりだし、あの二人は目的があるからそのままの方がいいわ。
 となると……沙夜、しおと充をアンタに一旦預けたいんだけど任せられる?
 より安全なのが見つかったら、そっちに預けても構わないから。」

 三人の中だと一番理性的であり、
 何かあった時の対応もできる方だ。
 戦力は未知数だが日ノ元よりはましだろう。
 紗夜も信用を得ておきたいので引き受けておく。

「別にいいけど、貴女はどうするの?」

「私は南へ行くわ。天候が変わっていたのも気になるし、」

 移動中に見えた南方での悪天候。
 辺獄は天候も気温もさして何もなかったことから、
 誰かの能力によるものであることは予想がついている。
 天候の操作などビギナーヴァンパイアではできないことだ。
 紗夜たちに向かわせるわけにはいかないので自分一人で向かう。

「んー、そうなると私達は西に向かうのがいいわね。」

701彼等を導くみらい回路 ◆EPyDv9DKJs:2022/12/09(金) 19:41:45 ID:P1lIBxAE0
 ドミノが北から南下してる以上収穫は得られそうにない。
 東に零も侑もいなさそうなので、みらい達も西へと向かうことになる。
 アナムネシスや吹き飛ばした怪物(不動明)を考えると、
 少し不安もあるが南も大概であることには変わらない。
 紗夜が二人に説明している間に、ドミノは空を飛んで移動していく。

(南にどれだけ生き残りがいるか、敵がいるか。)

 どっちであっても構わない。
 敵なら潰し仲間になれるなら傘下にすればいい。
 もう一人の真祖も攻勢に回り始める。

【E-7/一日目/朝】

【ドミノ・サザーランド@血と灰の女王】
[状態]:全身にダメージ(大)、疲労(大)、身体を再生中、主催に対する強い怒り
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×0〜2、応急手当セット@現実
[思考・状況]
基本方針:メフィスとフェレスとかいうクソ野郎二人は必ず叩き潰す
1 :攻勢にでるわよ。南に行って様子を確認する。
2 :下僕たち(佐神善、日ノ元明)に充や彰の知り合いを探す。
3 :首輪及び紋章を何とかするために、主催を知ってそうな参加者を探す。
4 :あの悪魔(不動明)がまた挑んでくるようなら迎え撃つ。
5 :日ノ元士郎はここで斃しておきたいけど今は待つ。堂島は信用しない。
6 :しおが『下僕』になるかは彼女次第。
7 :日ノ元とは何とか協定を結べたけど、下僕たちはどうするのやら。
8 :強姦魔(モッコス)とヘルメット(ジャギ)は出会ったら潰す。
9 :蒔岡彰、先に出会ってたら下僕だったんだけどねぇ……
10:伯爵の関係者も漁ってみる。
11:ユーベン……まさか?
12:零にあったら、まあ軽く仲裁はしておく。

[備考]
※参戦時期は88話から。
※真祖の能力に制限が課せられています
※主催者の関係者にユーベンが関係してる可能性を考えてます。
※ドミノ、しお、日ノ元、彰、オフィエル、みらい、沙夜と情報交換をしました。
 充はDルートなのではるなと彼女から話を聞いた人物、
 途中までならCルートと同一なので途中までは結衣と話が嚙み合います。










(首輪の紋章、言っておくべきだったかな。)

 紗夜たちと別れてからあることを思うみらい。
 一つだけ言わなかったこと、首輪の紋章だ。
 ドミノや歩夢は白い紋章、自分や充は赤い紋章が首輪に刻まれている。
 自分が赤い以上赤は死者か幽鬼であることを考えると、生きた人間は白なのだろうか。
 何かの手掛かりになるとも思うが、判断がつかないのもあって保留とした。
 ついでに、それが本当なら首輪を見ただけで零に幽鬼だとバレてしまう。
 だから言わないでおく。ドミノも言いふらすつもりがないので安全だ。

(お姉ちゃんどこにいるかなぁ。)

 隣で精神が不安定になった歩夢を連れてみらいは辺獄の地を歩く。
 彼女によって導かれた未来の道筋は既に暗雲立ち込めるものとは知らずに。



【幡田みらい@CRYSTAR -クライスタ-】
[状態]:健康
[装備]:万物両断エクスタス@アカメが斬る!
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×0〜1
[思考・状況]
基本方針:管理人の思うようにはなるつもりはない、
1:お姉ちゃん、待っててね♪
2:殺されなくて良かったね! 歩夢ちゃん♪
3:ゴミ(千)消えたんだ。別にどうでもいいけど。
4:あのおばさん(沙夜)何がしたいんだろ。まあ邪魔をするつもりはなさそうだけど。
5:アーナスにつくよりお姉さん(ドミノ)につく方がましだね。
6:最悪お姉ちゃんと殺し合いだけど、殺すのはこの状況だと避けたいかな。
[備考]
※参戦時期は六章(二週目)深間ノ街 萌芽から
※名簿を確認して姉の零、並びに千がいることを知りました。
※この殺し合いが魂と理念を集めが基本の軸となってないかと考えてます。
 また、紋章が白いのは生者ではないかと推測しています。

【上原歩夢@ラブライブ! 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会】
[状態]:健康(ノロ)、意識混濁、身体能力向上、精神不安定
[装備]:加州清光@刀使ノ巫女 刻みし一閃の燈火
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×0〜2
[思考・状況]
基本:自分の想いを果たす
1:私だけの侑ちゃんとする。たとえ■してでも
2:みらいちゃんと一緒に行動する。今は西へ向かう。
3:ありがとう……みらいちゃん。貴方のお陰で、私は自分の本当の想いに気づけた。
4:同好会の皆に出会ったら……ううん。私は侑ちゃんを選んだ。だから■す
5:沙夜さんは何を考えてるんだろう。
[備考]
※参戦時期は11話〜12話の間。
※ノロのアンプルを注入されたため、ノロが体内に入り意識が混濁しています。
※名簿を確認して、侑並びにスクールアイドルの仲間たちがいることを知りました。

702彼等を導くみらい回路 ◆EPyDv9DKJs:2022/12/09(金) 19:42:08 ID:P1lIBxAE0


【神戸しお@ハッピーシュガーライフ】
[状態]:疲労(中) 服に湿気(小、時期に乾く)、不安(大)、男性に恐怖心(大)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本方針:とりあえず、さとちゃんと会う。
1:おばちゃん(沙夜)に着いていく。
2:ドンくんのだいじなもの、とりかえしてドンくんにかえす。
3:さとちゃんともじゃもじゃおじさん、どっちがしろくてどっちがくろいかをちゃんと考える。
4:もじゃもじゃ―――男の人―――怖い!怖い!!怖い!!!
5:さとちゃんさとちゃんさとちゃん
6:あきちゃん、おねーちゃんじゃなかった。
7:すごくむずかしいお話してた。

[備考]
※参戦時期は1巻でさとうを探して外へ出る前です。
※モッコスの社会勉強で性について知りました。(手○キ、〇ェラは技法マスター。S○Xはやり方のみ)
※モッコスから教えられた事柄への関心が薄れました。

【城咲充@リベリオンズ Secret Game 2nd stage】
[状態]:顔面腫れ、貧血(傷は止血済み)
[装備]:アークス研修生女制服 影@ファンタシースターオンライン2、柊樹@PROJECT X ZONE2 BRAVE NEW WORLD
[道具]:カンフーマンの首輪、カンフーマンのデイバック
[行動方針]
基本方針:初音ちゃんとしおを殺し合いから脱出させる。
1 :沙夜さんと同行。
2 :しおを女の子を安全な場所へ連れていく。
3 :男物の服はないのか?
4 :初音ちゃんを探し、護る。無論、他の仲間たち(悠奈、修平、琴美、結衣、真島、はるな、大祐)も。
5 :脱出の協力者を探す。
6 :日ノ元さんとドミノさんの関係、余り聞けてないけど黒河君と真島君みたいなものなのかな。
7 :ドミノさんに初音ちゃんを護ってもらう。
8 :初音ちゃん、強姦魔(モッコス)とかヘルメットの人(ジャギ)に襲われないといいなぁ‥…
9 :蒔岡君に出会えたのはちょっと嬉しいかも。
10:奴隷の次は下僕って何!?
11:工具あれば首輪を弄れるかも。

[備考]
※参戦時期はDルート死亡後。
※メガンテのうでわの説明書を読みました。
※ドミノ、しお、日ノ元、彰、オフィエル、沙夜、みらいと情報交換をしました。

【沙夜@PROJECT X ZONE2 BRAVE NEW WORLD】
[状態]:健康
[装備]:炎燐@PROJECT X ZONE2 BRAVE NEW WORLD、死者行軍『八房』@アカメが斬る!、ジャギのショットガン@北斗の拳
[道具]:基本支給品一式×2(自分、沼の鬼)、ランダム支給品×0〜3(自分×0〜1、沼の鬼の鬼×0〜2)
[思考・状況]
基本方針:情報収集。脱出が不可能となったら優勝狙い。
1:二人を安全と言える人に保護してもらう。坊やでも見つけて渡そうかしら?
2:本調子を出すには、あと刀一振りね……
3:坊やと出会ったら……共闘がいいかしら?
[備考]
※参戦時期は後続にお任せします。
※アーナス、アナムネシス、幡田みらいが双子と関わりがあると睨んでいます。
※名簿を確認して有栖零児がいるのを知りました。
※骸人形と化した沼の鬼達は沼に潜みながら、
 沙夜の後をついていき命令があるまで黙って待機しています。
※みらい、アナムネシス、歩夢、ドミノ、しお、充と情報交換しました。

703彼等を導くみらい回路 ◆EPyDv9DKJs:2022/12/09(金) 19:42:30 ID:P1lIBxAE0
以上で投下終了です

704 ◆vV5.jnbCYw:2023/07/06(木) 18:41:28 ID:4AHK6DVY0
投下します。

705ギアチェンジ ◆vV5.jnbCYw:2023/07/06(木) 18:41:58 ID:4AHK6DVY0
何が原因で苛々するのか分からなくて苛々する。
放送が終わった後、ロックに抱いた感情はそれだった。


たった6時間で40人近くの参加者が死に、極めて順調に数は減っている。
自分が進んで手を下さず、どこかに隠れていても、このまま殺し合いは進んでいくだろう。
加えて自分は無傷とはいかずとも、五体満足にこの地を闊歩している。
気に喰わない奴は先ほどのように爆発に巻き込んでやればいい。


だというのに、この気持ちは何だろうか。
自分の素性を知っているトッペイやギャブロが生きていることだろうか。
殺し損ねた連中が、自分を追いかけようとしていることに対する懸念か。
はたまた、先程親友の幻に驚かされたことへの屈辱か。
どれとも原因が断定できない苛立ちが纏わりついて来た。


(ん?誰か来るな……。)


前を見れば、誰かが学校から歩いて来ていた。
上手い事利用できる相手かどうか、今の内から思考を巡らせ始める。
そしてすぐに、利用できそうにない相手だと気付いた。


首より上は、青髪の女性。冷たい印象を受けるが、それだけならまだ話し合える可能性がある。
問題はそれより下。
豊満な胸がはだけたハイグレ一枚で、しかも股間にあたる部分がもっこりしている。
そんなあられもない格好をしている理由は不明だが、非常識な格好で渡り歩いている時点で、まともな話を出来そうな相手でもない。


「私の名はエスデス。そう品定めしている暇があるのなら、私と戦え。」


その言葉を聞いて、すぐにロックは逃げ出した。
勿論、ポケットに仕込んでおいた小石を投げてから。
明らかに面倒な相手だと思っていたが、こいつは面倒を越えている。
さっさとこの場から逃げ出し、自分を追って来る奴等にでもぶつければいい。


相手にせず、さっさと逃げると判断したロックの動きは早かった。
勿論、人間の域を越えてはいないが、その判断力は目を見張るものがあった。
だが、その足はすぐに止まることになる。


何しろ、ロックの行き先に、氷の壁が生えてきたからだ。
危うくぶつかりそうになるが、慌ててその足を止める。


「キラークイーン!!叩き壊せ!!」


スタンドのラッシュで、氷の壁を砕こうとする。
ロックが現在手にしたスタンドは、人間を凌駕した腕力を持っている。
いくら厚かろうと、氷の壁ぐらい壊せぬ道理はない。
だが、次々に新たな氷が出てくる。壊しても壊しても、行き先が見えてこない。

706ギアチェンジ ◆vV5.jnbCYw:2023/07/06(木) 18:42:15 ID:4AHK6DVY0

「逃げることは許さん。私と戦ってこの身体にお前の力を刻み込むか、戦うのを諦めて嬲り尽くされて死ぬか選べ。」


ロックには知らぬことだが、今のエスデスは被虐願望と嗜虐願望、2つの欲望を兼ね揃えている。
戦い抜いてその身に攻撃をありったけ受けてから、殺すのも良し。
それが出来ぬというのなら、かつてのように肉体も精神も蹂躙した上で殺せば良し。


「ちっ!そんなに戦いたいなら、相手にしてやるよ!!」


砕いた氷を一欠けら掴んで、エスデス目掛けて投擲した。
そんなものではエスデスを満足させることは出来ない。
投げた氷が、ただの氷ならばの話だが。


「そこで点火だ!!」


ロックの背後にいたキラークイーンが、親指を曲げる。
その瞬間、ボタンの作動音と共に、投げた氷が爆発した。
爆風や、飛び散る透明の刃がエスデスを襲う。


「やれば出来るじゃないか。もっと来い。私を蹂躙し、犯し、絶頂させて見せろ。」


ロックの攻撃は効いていない訳ではない。爆風は彼女を焼き、刃は顔を傷付けた。
だが、苦しんでいる様子は見えず、あろうことか恍惚の表情を浮かべていた。
顔の筋肉の大部分を上に寄せ、頬を紅潮させ、まさに痛みを良しとするマゾヒスト。


「キチガイ女め、そんなに欲しいならいくらでもくれてやるよ!!」


ロックは舌打ちし、地面に落ちてある石を拾って投げつける。
勿論、それを爆弾にしておくことは忘れない。


だがそれは、地面からせり上がって来た氷の壁に阻まれる。
勿論、爆風もエスデスに届かない。


「同じことが通じると思ったか?そんなものでは私を絶頂に追い込むことは出来んぞ?」


ふいにロックの右肩を、何かが掠めた。
嫌な予感を覚えたロックは、空を見上げる。
赤い空をバックに浮かんでいたのは、大量の氷塊。
普段ならばあり得ないような光景。だがエスデスという女将軍は、そのような光景をも作りだしてしまう。


(以前より調子がいい。あの小娘の力の賜物か?)


エスデスの予想通り、彼女はミスティから挿入された魔力を、自分のものに還元していた。
自分を操るための魔力も、食らってしまえば立派な栄養分だ。

707ギアチェンジ ◆vV5.jnbCYw:2023/07/06(木) 18:42:37 ID:4AHK6DVY0

天から、雨のように氷柱が降り注ぐ。
雨後の筍、もとい吹雪の後の氷柱と言った所か。



(こいつ……バンパイヤの一種か?)


ロックは一瞬だが、何かにつけて不可解な彼女をバンパイヤと考えた。
ルリ子の話から、彼らはキツネつきやイヌつき、ヘビ女だと異常な者と例えられてきたことを知っている。
女性のような風貌でありながら、股間に膨らみがあるのも、それと関係しているのではないかとも推測した。
だが、今の攻撃で彼女はバンパイヤとは全く違うものだとみなした。彼らは変身こそできるが、エスデスのような超越的な力は持ち合わせていないからだ。


(邪魔するな!!)


キラークイーンの両の拳で、氷柱を1つずつ砕いて行く。
壊しきれなかったものは移動することで、その被害から免れる。


「血に染まった空は見ていて悪くはないのは分かる。だが、私のことを忘れているのではないか?」


氷の迷路を逃げ惑う中、気づけばすぐ近くにエスデスの刃が迫っていた。
彼女はただ無造作に氷の雨を降らせていたのではない。
より近くで戦えるように、ロックをはかぶさの剣のリーチ内に移動させていたのだ。


慌ててスタンドの攻撃を上から前へ。
キラークイーンの右腕で、はかぶさの剣を止める。
勿論ダメージのフィードバックが無いわけではない。ロックの右腕に、長さ5センチほどの裂傷が走る。
だが、ここでロックが撃った手は、逃げではなく攻め。

フィールドを完全に支配されている以上、守りに徹しても敗れるのは目に見えている。
元々ロックは身代金を奪う際にも、下田警部を殺す際にも、まずはステージ作りから実行するタイプだ。
逆にステージの主導権を握られてしまうなら、のんびり戦うことは出来ない。


スタンドの拳が、エスデスの腹に刺さる。
元の持ち主がある少年に使った時のように、そのまま背中まで貫くことは出来なかった。
だがそれでも、ロックの左手に伝わった心地いい感触と、大きく後方に飛んで行く女将軍は、ダメージを与えた証左になっていた。


「ああ……いい。素晴らしい。もっとくれないか……。」


口から血を垂らしながらも、恋する乙女のように頬を紅潮させ、目をトロンとさせている。
痛みよりも、快感が勝った。


(……気持ち悪いにもほどがある奴だな……。)


確かに攻撃は効いたはずだ。
だが相手は苦しむどころか、興奮している。
それがはったりや、ちんけな小芝居というわけではないことはロックにも伝わった。
なぜなら、ハイグレに包まれたそれが、立派に勃起しているからだ。

708ギアチェンジ ◆vV5.jnbCYw:2023/07/06(木) 18:43:06 ID:4AHK6DVY0

「それと自分の身体は気を遣わなくていいのか?」
「?」


嫌な予感がしたと思った瞬間だった。左の脇腹から右の胸にかけて、鮮血が迸った。
エスデスが振るうはかぶさの剣は、一振りで二度破壊の風を起こす。


「ぐああああああ!!!」


血を失ったことによる虚脱感がロックを襲い、千鳥足になる。
ロック自身はバンパイヤでもなければ、悪魔でもない。
ただ残忍な心の持ち主というだけで、身体はそれなりの強度しかない。


「安心しろ。あえて傷を浅くしておいた。まだまだ楽しみたいからな。」
(この一人サドマゾ女が……)


ロックは憎まれ口をたたく余裕さえなかった。
ただ、これ以上出血が多くなることを恐れ、拾った氷を腹に当てた。


「私よりも、腹の傷の方が大事か?悲しいな。」


すぐにエスデスはロックに迫り、すらりと伸びた足で蹴飛ばした。
彼女でさえもキラークイーンの殴打を腹に受け、肋骨を何本か持っていかれたはずなのに、どうという様子を見せない。
デモンズエキスやはかぶさの剣が無くても、帝国直属の悪名高き将軍だ。
それ以前には自分より巨大な生物を狩ることで生きていた。


「ハァーッ……ハァーッ……!こんな……はずじゃ……!!」


立ち上がろうとするが、足がもつれて立てなかった。
さらにそこに、氷が彼の革靴を閉じ込め、追い打ちをかける。
戦うことも逃げることも出来ない。
かつてとある世界の悪魔は、恐竜と共に氷に閉ざされて死んだ。
ロックという悪魔も、エスデスという女が放つ氷によって最期を迎えようとしていた。


「どうしてくれるんだ。これを見ろ。折角楽しめると期待していたのに、不甲斐ないから萎えてしまったぞ。」


エスデスは冷たい目で、ロックを見下ろしていた。
彼女はロックの能力は気に入ったが、ロック自身はもうどうでもよかった。


「これ以上お前が私を楽しませる気が無いというのなら、私がお前で楽しむだけだ。
手足を捥ぎ取り、目玉をくり抜き……そうだ、ナニも引き裂いておかねばな。」


ロックはエスデスに言葉を返さない。
ただ、ギリギリギリと歯ぎしりの音だけが彼の口元にあった。

709ギアチェンジ ◆vV5.jnbCYw:2023/07/06(木) 18:43:28 ID:4AHK6DVY0
(じょうだんじゃない…ぼくは楽しむ側の人間だ……!!)


ロックは頭を回転させ、状況を打開しようとする。
まだ頭脳だけは自由だ。
それさえも動かなくなる前に、どうにか切り抜けようとする。


不意に、ある言葉が脳裏に浮かんだ。


――今夜出会う一番気に入らない人間を仲間におし。そうすればあんたは大成功するよ……


かつて3人の占いの老婆に言われた言葉。
ロックはその通りにして、ルリ子らバンパイヤと手を組み、彼女らを自分の屋敷に招き入れた。
その屋敷を拠点に、バンパイヤ革命を進めていった。
だが、それは結局破綻した。占いの老婆に抗議しようにも、彼女らはバンパイヤにかみ殺されていた。


今になって、なぜその言葉が頭に浮かんだのかは、ロックにも分からない。
だが、目の前に転がり込んできた札だ。次の出番が回って来るかも不確かな状況の中、切らない手はない。


「なあ、おれの負けだよ。だが、次は違うかもな……。」
「次だと?お前に次があるとでも思っているのか?」
「あるさ……望めばな。あんたは色々と壊したいんだろ?戦いたいんだろ?おれと手を組めば、望みが叶うぜ?」


ロックは不敵な笑みを浮かべながら、話をつづけた。
彼はエスデスと会ってから、1時間も経っていない。
だが、彼女が何を望むのか、何を悦としているのかはよく分かった。


「……一応聞いてやろう。もし私が手を貸すと言ったならば、お前は何を見せる。」


エスデスと言えど、話を聞く余裕ぐらいはある。
豚の寝言と相違ないものなら、豚のように殺せばいいだけだ。


「(ノって来た……!!)……だが、ちょっとぼくはダメみたいだ……血が多すぎて、目がかすんできたよ。」

ロックの言葉は、半分演技、半分真実。
だがその押さえた傷口は、氷で固まっていた。

710ギアチェンジ ◆vV5.jnbCYw:2023/07/06(木) 18:43:46 ID:4AHK6DVY0

「安易に殺すと思ったか?続けろ。」

「ぼくはね。元の世界で社会を転覆させたのさ。きそくや道徳、しきたりなんかが全部壊れた世界を実現させたんだよ。バンパイヤというけだものに化ける人と組んでね。」
「…つまらなくはない話だ。だがそれは、私一人でも可能なんじゃないのか?」


エスデスの言葉にまたしても苛立つロック。
彼女の言っていることがはったりだから腹が立つのではない。彼女の強さと自信からして、実践できてしまいそうな事実がこの上なく腹立たしいのだ。


「ぼくが殺しやすい場所を、戦いやすい場所作ってやるんだ。芸術家だって漫画家だって、将軍様だってパトロンは必要だぜ?
気に食わなければぼくをいつだって殺せばいい。もっとも楽しめるチャンスは幾つか減るだろうがね。」

「私を謀るつもりか。」

「分かっているなら殺せばいいと言っただろ。いや、あんたが手を下すまでもない。キラークイーンで僕自身を爆弾にするかもね。
なぐさみものにされるだけの人生なんて、ぼくはごめんだ。」


エスデスの剣を握る手が震えた。
目の前の相手を殺すことは簡単だ。
だがそれは、看守がおらず、紙で出来た格子の牢獄から脱獄するようなもの。
スリルも楽しみもあったものじゃない。


「それにぼくを殺さずにいたら、きみにもっと快感を与えるかもしれない。その腹の傷以上のね。」
「もっと楽しみを渡してやるから今は殺すな。そう言いたいのだろう?悪くない。」
「話が早くて助かるさ。」


エスデスはニヤリと笑った。
明らかに苦し紛れの嘘だということは分かっていた。
拷問した相手が、解放して欲しさに嘘の証拠を告げるようなものだ。
だが、その話を、乗ってみようと考えた。一度は将軍の座から降ろされ、蹂躙された身。
だからこそ、新しいことをしてみる価値がある。


「ただし……」


エスデスの笑みがさらに邪悪になった瞬間だった。
その顔はすぐに見えなくなり、代わりにエスデスの黒手袋に包まれた手が視界を覆う。


ぶちり。




不意にロックの視界が、赤に染まったと思ったら、一瞬で半分になった。


「―――――ッッッ!!」
「前金として、コイツは貰っておこう。」


ロックに映る世界が半分になり、残りも幾分か赤で染まったその後。
間の抜けたようなタイミングで、不快感と激痛が襲って来た。
エスデスが右手で掴んだのは、ロックの左の目玉だった。
何が起こったのか気づいたロックは、慌てて左目があった部分を抑える。

711ギアチェンジ ◆vV5.jnbCYw:2023/07/06(木) 18:44:02 ID:4AHK6DVY0

「問題ない。冷気で出血は抑えた。それで死ぬことはないはずだ。」


そう言う問題じゃない、などと言う気力は失せていた。
目の前にいるのは、身も心もバンパイヤ以上の怪物なのだと、はっきりと分かった。
瞬く間に、彼が親から貰った財産の1つが、氷の箱に入れられる。


「満足すれば返してやるさ。それともここで死ぬことを選ぶか?」
「だ……誰がそんなことをするか!!」
「そうか。ならば私と共に来い。」


エスデスは背を向け、別の場所へと歩いていく。
ロックもまた、彼女の後を追う。片目を奪われたことが原因か、その足取りはふらついていた。


(いい気になっているのも今の内だ……目玉を奪っていい気になっているようだが、ぼくは君の臓物を奪ってやるさ。)


心さえも折られそうになるが、必死で言い返す。
まだ死ぬわけにはいかない。必ず生還してみせる。


(ぼくの心臓を取らなかったことを、後悔させてやるさ。)


片目を奪われてなお、ロックは再び邪悪な笑みを浮かべた。



【B-3/一日目/朝】



【エスデス@アカメが斬る!】
[状態]:ハイグレ人間  負傷(大) 疲労(大) 内臓損傷(治療済) 乳首母乳化 アナル拡張済み ふたなり化 処女喪失
[装備]:はかぶさのけん@ドラゴンクエストビルダーズ2 破壊神シドーとからっぽの島  中長ナス@現実
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1 ロックの目玉(冷凍保存済み)
[思考・状況]:ドSもドMも愉しみ尽くす
0:殺し合いという名のSMプレイを愉しみ尽くす。
1:ロックと言うペットを使ってみる。使えないようなら嬲って殺す
2:堂島とは再戦したい。が、仮に再戦できなくてもその虚しさを堪能できればそれはそれで...
3:優勝出来たら善かミスティでも蘇らせるとしよう。
4:北条沙都子と北条鉄平は別にどうでもいいが見つけたら狩る。
5:せっかくふたなりになったことだし帰ったらタツミに使ってみるか。

[備考]
※参戦時期は漫画版死亡後より。
※ナスで処女喪失しました。
※ハイグレ光線銃によりハイグレ人間となりました。
※摩訶鉢特摩は使用したため、2日目以降でないと使用できません。
※戦闘は支障なく行えます。
※デモンズエキス本来の効果によりハイグレ光線の洗脳効果を食らいつくしました。





【間久部緑郎/ロック@バンパイヤ】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(大)、腹に裂傷(治療済み)・左目喪失 汚れ、零に対して少しだけ同情 侑に対してイラつき(大)
[装備]:キラークイーンのDISC@ジョジョの奇妙な冒険
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜2(確認済み)
[思考・状況]
基本方針:秩序なきこの場を楽しむ
1:エスデスをどうにかして利用する。
2:トッペイと出会ったときはどうしたものか。
3:アナムネシスとみらいに警戒。ただみらいは利用できるかも。
4:零、千は利用できるか?
5:……西郷……
6:アイツ(ギャブロ)がうっとおしいな。
7:目玉を失ったって、生き延びて見せる
[備考]
※参戦時期はバンパイア革命に失敗し、西郷を殺害した後。
※クライスタの世界を(零視点から)大まかに把握しています。
※侑とエレンの世界を(侑の知識)大まかに把握しています。
※侑の額の支給品(エクステッド)の効果は洞視だけでなく幻視も使えるのだと思っています。

712ギアチェンジ ◆vV5.jnbCYw:2023/07/06(木) 18:44:14 ID:4AHK6DVY0
投下終了です。

713 ◆EPyDv9DKJs:2023/07/29(土) 18:16:07 ID:KIFQ.e860
投下します

714ワザップの誤解に巻き込まれたキッズ ◆EPyDv9DKJs:2023/07/29(土) 18:17:56 ID:KIFQ.e860
 ワザップジョルノ。
 ネットミームによって誕生した謎の存在。
 ある意味ではスキル『無辜の怪物』を内包したかの如く異質な参加者。
 出自も、性別も、人物も、あらゆる部分が参加者で誰よりも曖昧な存在。
 そこにジョルノ・ジョバァーナと言う皮を被せた結果、生まれた謎多き人物。
 いや、人物なのかさえ定かではない。確かに原型はネットである以上人間だとしても、
 性別の概念すら判断つかない結果の『コレ』を人間と定義できるかについては怪しく。
 あくまでこの舞台では男性の肉体へ寄せただけで、絶対に男性の人間とも限らない。
 と言うより、メフィス達はどうやってこの存在を参加者にさせたのかも謎である。
 やはり無辜の怪物などのスキルに詳しく、宿業を扱う道満ことキャスター・リンボか。
 或いは777と言った特殊な例を見てきているメフィスとフェレスだろうか。
 もしくは、大魔法使いの末裔……なんて説のあるディメーンの産物なのか。
 いずれにせよ、ミスティとの交戦を筆頭に比率がジョルノに寄ったことで、
 裁判等とポケモンに関する謎知識や拘りな発言のバグめいたものは確かにあれど、
 昇りゆく朝陽の輝きのような、黄金の精神を持つジョルノに近づいてはいる。
 今のワザップジョルノを例えるならば、太陽らしく黎明期だろうか。










 けれども。

「貴方を強姦未遂罪で訴えます! 理由は勿論お分かりですね?」

 比率がジョルノに寄ったと言ってもそれはそれとして、
 この男は決してジョルノ・ジョバァーナではなくワザップジョルノなのだ。
 今目の前に起きているその光景を100%冷静に分析をするには、
 もう少しジョルノの比率が欲しかったかもしれなかった。





 ◆ ◆ ◆





「まるで鬼くびれ大羅漢のバーゲンセールだな。」

 悠奈たちと別れた後、征史郎はやや北寄りの東へと進んでいた。
 ジッパーを使ってのワイヤーアクションを試しながらでもあったりしたので、
 結構な距離を移動できるようになり原付で移動する三人にも追いつくことができた。
 初音がはるなの知った存在なのもあるため、味方であると判断するのに時間は使わない。
 話を聞けば、まさかギースを超えた正真正銘の悪魔がこの舞台にいたことで頭を抱える。
 戦闘力のインフレとか此処はバトル漫画の世界じゃないんだぞとごちりたくなってしまう。

「それで、初音でよかったか。」

「は、初音ですか!?」

 突然呼ばれ心臓が飛び出しそうになる。
 フェイトたちと偶然にも合流してからの流れは、
 特に悪いことはしてなければの知り合いと会ったなら信用もあるはず。
 今の征史郎の対応は敵対関係のあった人物から何かを得てるようには見えない。
 なら、元の世界で充にプレイヤーを殺させてたのは多分ばれていないはずだ。
 琴美にやらかしたことは伏せたし、アカメから逃げたのも不安からと誤魔化した。
 バレるようなヘマはしてないはずだと思い、怯えながら反応する。

「来夢と夕月の話に致命的な齟齬はなかったのを見るに、
 どうやらPDAに纏わる参加者に関してだけ変な齟齬が存在するようだ。
 恐らくなんだが、君も過ごした世界線が違う可能性があるかもしれない。
 だから、君が元居た世界で何をしていたかについて教えてもらえないだろうか。」

「は、初音以外で誰から聞いてるのですか?」

「悠奈とはるなが同じ世界の人間だ。
 話は聞く前に死んていた大祐もいるが、三人のことは知ってるか?」

 ある意味最悪な質問をされ、顔が青ざめそうになる。
 悠奈は初音のいたルートにおいて最初に学校へ集合しなかった。
 なので悠奈が誰かについては全く知らないが、一番の問題ははるな。
 はるなは元の世界で充に殺させた。仲間の琴美も、修平も殺害させている。
 そんな話、絶対に話せるわけがなかった。なんなら大祐は自分が殺してる。
 辛うじて逃げたり顔にギリギリ出さなかったのは、先の推測に近いものだ。
 征史郎からは齟齬があるかもしれないと言った。はるなと出会ってるはずなのに、
 余り警戒されてないのは彼の言うはるなと其方の初音が敵対関係になってないから。
 だからまだ大丈夫だ。落ち目であろうと仮にもアイドルをしていた身だ。
 人並みよりは優れた演技力で押し通そうと、仮面を被ってやり過ごす。

715ワザップの誤解に巻き込まれたキッズ ◆EPyDv9DKJs:2023/07/29(土) 18:19:40 ID:KIFQ.e860
「えっと、悠奈って人については初音は知らないのです。
 初音はゲーム開始から学校で修平、琴美、司、まり子、大祐と合流したのです。」

 実際、これについては別に嘘ではない。
 修平が学校に来るまでの間、はるなを見つける。
 そうすることで合流できるが、初音の世界線ではそうはならなかった。

「おいおい、ややこしくなってきたぞこれは……全員揃って違うルートじゃないか。」

 齟齬があると思ってないのもあって、はるなからは深くは聞いておらず、
 とりあえず、参加しているはるなの関係者は全員味方として扱っている。
 (性格上問題ある大祐も、一応は助けてもらった恩義を込めて味方として扱った)
 けれど、悠奈の話では修平とはるなは初音の言う場面には合流していたらしい。
 (最初に気付いたのは初音や真島辺りの話が悠奈と噛み合わず確認を取ったため)
 ならばそこにはるながいないなら、新しい平行世界が出てきたと言う事になる。

「君達は一体いくつ世界線があるんだ。ギャルゲーの攻略ルートでもあるまい。
 まさか、Zルートの名前みたいに26のルートがある、壮大なギャルゲー出身か?
 となればZルートのソフィアに殺された軍服の男を攻略するルートもありそうだな。」

「ないでしょ、何なのそれ。」

 冗談を冷徹に突っ込み返す来夢。
 とは言うが、正直頭を抱えている案件でもある。
 残ってるのは由衣、真島、充、修平を含む六名だが、
 先に死んだ大祐、琴美から情報を得た人物だっているかもしれない。
 プリズンゲームでは死ぬまでは概ねブレインを担当していたわけだが、
 一々PDAに関する参加者の関係を聞く必要もでてきた。

(あれ、これチャンスなのでは。)

 頭を抱える征史郎の言葉に、初音は好機だと思った。
 はるなの世界では本当に敵対関係には至ってない様子。
 これならば十分誤魔化せる。不安なのは今も生きてる修平が、
 自分と同じ世界線から招かれていた場合による情報の拡散になる。
 他の世界線で自分が暴れていた場合、どうなるかはまだ危惧するとこだが。
 平行世界の自分に『人の信用を落とすような行為をしないでほしい』と願う、
 なんともおかしなことを脳内で必死に祈りながらも話を続ける。
 もっとも、彼女と同じ世界線は真島だけで、その真島は初音とは面識すらない。
 だからさして問題はないのだが、そんなこと知るわけもないので無理からぬことだが。
 今となっては闇に葬られたことではあるが、琴美が妙に普通の対応をしていたのは、
 はるなと同じ世界線で、きっと味方だったからあんな反応だったのかもしれない。

(それって、つまり。)

 ───だとしたら、相当なやらかしだったのではないか、あれは。
 充を動かし続けた初音だが、味方だった世界線なら流石に罪悪感も強くなる。
 ユカポンといいみさえといい、皆してカルネアデスの板から離れようとしていく。
 どうして、皆そんな風になれるのか。大祐を正当防衛とは言え殺して、
 充に殺人をさせ続けた彼女にはそんな風に譲る人達が理解できない。

「今後のため、もう少しだけ掘り下げておきたい。
 初音は五人と合流した後、どういう状況に陥ってるのか。」

「えっと、初音は修平と琴美と別れた後、
 まり子と大祐が喧嘩し合って、その途中で襲われて、
 大祐と離れ後、まり子を置いて逃げた先で休憩して……その……」

「ああ、分かったすまん。それ以上は人としてよろしくないな。」

 何かは察した。言い淀む彼女の表情。
 はるなから聞いた伊藤大祐と言う男の人物像。
 もう何があったかは言うまでもない。傍には身体は大人でも、
 小学生のフェイトがいる。そんな話をさせるわけにはいかないだろう。
 モラルに欠ける男だが、青少年に対する配慮ができるかどうかで言えば別だ。
 やるべき相手は決めてからやる。まあ、あの部ではやれる相手と判断したので、
 幼い悠であったり部外者のくるみ相手でも割とふざけていた節はあったりするが。

「とりあえず君もまた違う世界線だと分かった。
 そのことが知れただけでいい。まあ、色々とすまなかったな。」

 来夢も理由は察しており、
 ただ一人フェイトだけが疑問符を抱く。
 分からないままでいてくれと内心で三者はその様子を一瞥する。

「……そして来夢。君にはまず、すまなかった。」

 先程軽口でふざけていた時と違って、
 今度はシンプルに来夢へと深々と頭を下げる。
 姉妹である夕月の姉だ。彼女の妹の犠牲で彼は生きながらえた。
 だから言わないわけにはいかない。それがただの自己満足であっても。

「どうしようもなかったんでしょ……その、鬼なんだっけ。」

「ギース・ハワードだ。」

「普通にそう呼びなさいよ。どうしようもなかったんでしょ。
 多分不動明ほどではないにしても、かなり強かったと思う。」

716ワザップの誤解に巻き込まれたキッズ ◆EPyDv9DKJs:2023/07/29(土) 18:21:17 ID:KIFQ.e860
 純粋な暴力による強さ。
 原種程ではないとは思いたいが、
 ナスタシアや貴真とは違った厄介な存在。
 リフレクター三人合わせて勝てるかどうかと判断する。
 彼もまた越えなければならない障害の一つと言う認識だ。

「それで───」

 そうやって話を進めていると、
 誰も認識していなかった悲劇が起こる。

「え。」

「え。」

 征史郎とフェイトの声が重なる。
 フェイトの魔力が切れた。いや、厳密には魔力切れではない。
 戦闘する必要もないと警戒を緩めた結果、元の恰好に戻り起こったことだ。
 副葬も普段のものに戻るものの、元々フェイトの服装は小学生が身に着けるもの。
 当然、今の成長しきった二十代近くの彼女の体躯に合うはずもなし。
 だから秒で服は悲鳴を上げ、破けてあられもない姿を晒すことになる。

 思考停止。
 誰一人としてそんなこと起きるなんて想定してないのだから当然。

「キャアアアアア!!」

 当然、フェイトは悲鳴を上げるわけで。
 服が変わることを失念していた来夢が見せないように庇い、
 征史郎も即座に背を向け、服が変わることを知らない初音は慌てふためく。
 そして、声に駆け付けたワザップジョルノ達の邂逅の冒頭に戻る。

「待て、待て待て。これは違う。アラブ首長国連邦では、
 十四歳未満に対する強姦をすると死刑になるが本当に誤解だ。
 此処は日本の法に則って、穏便に法廷の場で弁明の余地をだな。」

「ちょ、待ちなさいジョルノ───」

 BGM:il vento d’oro
 (ジョルノが無駄無駄する時のBGM。ワザップジョルノの動画でも流れている)

 なんかどっかから聞こえるBGMをよそに、
 誤解を解かねばと即座にホールドアップをするが、
 相手はワザップジョルノでありジョルノ・ジョバァーナではない。
 そんなもの通用するわけがない。

「貴方が女性に手を出し、自分の欲を満たそうとしているからです。
 覚悟の準備をしておいてください! ちかいうちに訴えます。裁判も起こします。」

 裁判も起こしますと手順を踏むようなことを言っているが、
 問答無用でゴールド・エクスペリエンスによる拳の殴打が迫った。
 ワザップジョルノがワザップジョルノたらしめるのは、何も元の言動だけではない。
 ミーム概念は少なからず「ワザップの嘘技に騙されたキッズ」と言う動画も含まれる。
 ではそこでガセネタを出したと思しき、ギアッチョに対して何をしたのかと言えば、
 原作よろしく無駄無駄の蹴り、訴えると言いながら鉄柱に貫いて殺害していると言う、
 過剰防衛を通り越した暴力による解決方法を選んでいる。
 なので梨花の静止の言葉も虚しく攻撃が迫るが、
 当然その過剰防衛の通り越した攻撃はワザップジョルノ自身は、
 あくまで刑務所にぶちこむ目的であっても、殺意に受け取れるのは当然のこと。
 何よりスタンドの存在を伏せて暗殺に使えることは征史郎自身も考えていた。
 だから間に合わせる。スティッキィー・フィンガーズの腕をクロスさせガードする。

「これは、ブチャラティのスティッキィ・フィンガーズ!?」

「さらに待て。スタンドも知ってるのか?」

 スタンド使いどころか名前まで明確に知ってる。
 見知った間柄の人物のスタンドを支給している、
 と考えてみれば決してありえなくはないと納得はできた。
 何せ殴って当てれば簡単に首をボールにできる能力なのだから。
 もっとも、此処にはザ・ワールドやキラー・クイーンなど、
 参加者の誰にも伝わらないスタンドディスクもあるので的外れだが。

 BGM:il vento d’oro
 (ジョルノが無駄無駄する時のBGM。ワザップジョルノの動画でも流れている)

「もっと待て。なんかBGM追加で聞こえるんだが?」

 BGMの重ねがけ。
 本当に何なんだこれはとツッコミが追いつかない。
 ボケを担当する自分が終始和馬のように突っ込んでしまってる。

「貴方を窃盗罪でも訴えます! 理由は勿論お分かりですね?
 貴方が謎の裏技でブチャラティからスタンドを奪い、自分の物として───」

「落ち着きなさい!」

 運よく暴力行為がリセットされ、
 もう一回詠唱が始まって隙が生まれたところを杖で頭部を軽く殴打。
 効果こそないものの、単なる鈍器としての役割は未だに機能する。

717ワザップの誤解に巻き込まれたキッズ ◆EPyDv9DKJs:2023/07/29(土) 18:22:20 ID:KIFQ.e860
「えーっと、申し訳ないのです。
 ジョルノはちょっと思い込みが激しいのですよ。」

 さっきまでの張り上げた声色とは別物の、
 猫なで声にそれどころじゃないフェイト以外の三人は何とも言えない顔になる。
 とんでもない猫被り女だと察するのにはなんとなく察した。

「侮辱罪を避けながらも僕の人物像を説明する。
 成長している……冷静だ。流石は古手さんです。
 貴方、弁護士や探偵の助手になるのをお勧めしますよ。」

 ワザップは何も今の行動からの判断ではない。
 百年かけて輪廻の輪から脱出する根気はその手の仕事では重宝できるし、
 百年もかけていれば相応の知識や目敏さと言ったものも出てくるはず。
 思いもよらぬ発想もまた別の視点を必要とする部分においても強みになる。

「……考えておくわ。」

 もう慣れたわ、こいつの思考回路。
 とでも言わんばかりに呆れ顔でとりあえず肯定しておくことにした。
 地獄の輪から抜け出してやりたい仕事かどうかはまた別として、
 まあそう言うのも悪くはないかもとは思いつつ。

「思い込み通り越して冤罪を吹っ掛けられたわけだが
 その前にとりあえず服の用意だ。これはやばい。まずすぎる。
 肉体年齢およそ二十歳だが精神年齢十歳の少女とか、児童ポルノも真っ青だぞ。」

「それでしたら僕の支給品に女性の服があります。」

「何であるんだ。お前男ではないのか。」

「主催が、僕の性別を想定してなかったのでしょう。」

 梨花がパイプ役となったのもあり、一先ずの誤解は解くことができた。
 一先ず着替え目的もあり適当な家屋へと足を運んだあと、
 フェイトの着替えが終わってから改めて話を進めることにする。
 戻ってきたフェイトは学生服に近しい黒を基調とした制服に白い羽織と、
 全体的に和服をイメージした格好となって、魔法少女とは近しいが雰囲気は別物だ。
 胸元が大きく開いていて更にミニスカートで、それはそれとしてかなりあれだが。
 まともな恰好ではあるものの、幼いフェイトとしてはかなり恥ずかしく顔が赤い。

「これ、青少年健全育成会に訴えられるのではないかね、ワザップよ。」

「隊服とあることから職権乱用を行使した可能性が高いですね。
 犯人はかなりのやり手だ……これでは裁判に訴えることができません。」

「あの、ワザップさんと古手さん。本当にありがとうございます。」

「あのまま放置すればあなたは公然猥褻罪と言う、
 冤罪を着せられてしまいます。此処に法はなくとも、
 その可能性が僅かにでもあった以上必要な事でしたから。」

「それに、困ったときはお互い様なのですよ。にぱー。」

(口調は全然違うけど、この子と話すとなんだかなのはを思い出すな……)

 根本的に見るところが違うことだけは分かる男子の意見をよそに、
 服の件や事態を止めてもらったことについて感謝を述べておく。
 新たに参加者が増えたことで改めて情報交換をしはじめるのだが、

「やってられん。」

 ついに征史郎は別の意味で両手を上げた。
 二人はミスティやら童磨やらを倒したり退けた後、
 情報交換しあった間柄なのだそうだが、問題はPDA絡みの二人。
 真島は初音と同じ世界線でも其方では出会ってないせいで判断はできないし、
 由衣の方は全員生きて脱出を目指すはずだった矢先に彼女が死ぬことになっている。
 一人でも死ねばセカンドステージが始まってしまうのにはるなの話ではまだ生きていた。
 もう滅茶苦茶でわけが分からない。こんなのもうどうにもならないのではないかと。
 幸い、どちらも知る限りの参加者が全員味方だと言ってるのがまだ救いではあるので、
 当面の問題は修平、Zルートの二名がいかような存在かと言ったところだ。

「ワザップよ。嘘を見抜くスタンドとかないのか。」

「嘘しかつけなくなるスタンドなら恐らくですが見かけましたよ。」

「駄目だこりゃ。」

 初音としては安心だと思えた。
 懸念があるならばあとは修平ぐらいだ。
 それを乗り越えれば───

(本当に、そうなのですか?)

 自分を危険人物だと告げる相手はこれでいないはず。
 だが、だからと言って充が敵となったパターンはないのだろうか。
 或いは、自分が手ずから殺した世界線から来た可能性だってある。
 安堵と思えば寧ろ逆だ。一番頼れるであろう充が一番不安になってしまう。
 一人不安になりながらも、話は進んでいく。

「それにしても、鬼くびれ大羅漢は一体何体いるんだ。」

 ワンパターンにもほどがあるぞと溜め息しか出てこなかった。
 人間で化け物なエスデス、鬼の童磨、デビルマンの明、人間をやめたギース。
 もういい。これ以上打ち切り漫画みたいな出鱈目四天王を出すんじゃあない。
 諦めるつもりはないにしても、勝利条件を悉く踏みつぶそうとする連中に頭痛がしてきた。

718ワザップの誤解に巻き込まれたキッズ ◆EPyDv9DKJs:2023/07/29(土) 18:23:14 ID:KIFQ.e860
「当面の問題はエスデス、童磨、不動明、ギース、アーナスだ。
 貴真については正直こいつらと比べると論外級の弱さになる。
 日ノ元については、まあとりあえず保留と言う扱いとしておこう。
 だがはっきりと言おう。この現状の僕達ではフェイト以外で勝てる奴がいない。
 そしてフェイトがいたとしても不動明は厳しいらしいから、出会えばまず詰むだろう。」

 フェイトは間違いなくこの中でも最高戦力でもあり、
 不動明とも戦って結構な成績を叩きだしてる戦果自体はある。
 堂島と彼の言うドミノ、日ノ元に次ぐぐらいの強さと見ていい。
 だがそれはフェイトだけであって、他を見てみれば場数こそ踏んでるが、
 三分の一は素人、一人は得たばかりの力の練習中とガタガタすぎる。
 これでは一番負傷していて倒せそうなエスデスですら倒すのに難儀するだろうし、
 犠牲者はまず免れない上に人数の減りも相当早い。有力な人材との合流は必要不可欠。
 アルーシェから聞いた夜の君とされるアーナスも、どのような状態か判断はつかない。

「人数も増えたことだから安定して戦力供給のための人材確保に励みたいが、
 堂島は戦力になるものの色々わけありらしい。余り頼りにしてはいられない。
 ドミノと日ノ元士郎だったか。どちらかの傘下に入ることで安全圏を得たいが、正解が分からん。」

 堂島曰く日ノ元よりはドミノの方が安全と言う話ではあるが、
 どちらもどういった人物か又聞きでしかない以上会ってから次第だ。
 先に出会った方の庇護下か傘下に入るのがいいのか、悩ましく思う。

「問題は山積みですが、此処は一先ずフェイトさん。
 彼女の傷を癒やす方が我々にとって優先ではないかと。」

「そうだな。桃太郎役となるであろうフェイトにはありったけ回復アイテムをつぎ込む。」

 ギース戦の時は使わずとも何とかなると、
 有事に備えて出し渋っておいた、はるなの遺品となる五芒星のお守り。
 使えば体力回復に繋がり、来夢のマジックポーションと合わせることで、
 体力も魔力も相応に戻ってくれるだろう。

「え、でも私でいいんですか?」

「来夢からしたら、誰よりも優先するべきだと思う。」

 人数は増えても均等に回復したところで、個々の力には限度と言うのがある。
 リフレクターにさえなれない自分では、この舞台では下位に当たると自覚はしていた。
 だったらこの舞台で勝てる見込みのあるフェイトにBETしておくのが適切だと。
 来夢にとっては託されたしんのすけやひろし、そして元より助けたいヒナの為にも。

「すまんな、子供に桃太郎役を押し付け……いや桃太郎も子供だったか。」

「確か桃太郎って旅に出たのが十五歳と聞いたので、もっと若いのです。」

「(肉体だけで言えば)僕よりも幼いのですから、いろいろ申し訳ないのです。」

「気にしないでください。戦いの覚悟は、できてるので。」

 母の為に必死に戦ってきたフェイトにとって、
 幼いながらも既に戦いの覚悟と言ったものはできたこと。
 今更何か戸惑ったり慌てたりするようなことではない。
 ただ、なのはと同じ年頃として過ごせなくなったことについては、
 後悔があるかないかで言えば後ろ髪を引かれるところもなくはなかったが。

「それで夕月のは君に……」

「貴方が持ってて。」

 残る支給品は夕月のもの。
 だったら来夢へ渡そうとするが、
 即座に来夢から静止の手を翳される。

「いやしかしだな。」

「私も、託されたものがあるから。
 貴方もユズから託されたものを使って。」

 征史郎と同じように誰かから、
 来夢もみさえから手にした支給品を持つ。
 厳密には征史郎は置いていたものをバレない程度にかっぱらったので、
 少々意味合いは異なってくるが、細かいことは言わないでおく。

「それはそれで助かる。」

 これを渡すと支給品を使い切ることになる。
 そうなるとスタンドだけでやっていくしかない。
 自棄になって押し付けようとしている節があったなと、
 先の行動を少しばかり反省しながらそのデイバックを背負う。
 和馬のように自棄になるな。分かりやすい代表例ではないかと。

「ところで人数の振り分けですがフェイトさんは迅速に動く方がいい。
 なるべく人数を少なめにして、移動できる編成で組むのがベストだと僕は思います。」

「となればスタンドで軽快に移動できる征史郎とフェイトの二人がいいわ。
 梨花、初音とワザップは疲労も大きいし、体力的にも人並みだと足並みは難しいし。
 私とワザップが守りながら休憩を挟んで、そこから移動……と言うのがベストだと思う。」

「次から次へと大役を担うのだな、僕は。」

719ワザップの誤解に巻き込まれたキッズ ◆EPyDv9DKJs:2023/07/29(土) 18:24:11 ID:KIFQ.e860
 来夢がたとえ提案しなくても、
 ジョルノか梨花、征史郎でも似た答えになっただろう。
 体力のない初音、挙句連戦に連戦を重ねた二人の体力は割と限界に近い。
 特にジョルノは皆の外傷や血液の為更にスタンドも行使して限界気味だ。
 満足に動けるのは結果的に来夢を含めた三人で、原付では二人を追いかけられないし、
 疲弊した二人を疲弊してるジョルノ一人に任せるのはかなり危険な行為になる。

「征史郎。流石に貴方とこうして情報を共有してないとは思っていますが、
 彼女に手を出すようであれば刑務所にぶち込まれる楽しみにしておいてください。いいですね?」

 BGMは流れてこないし言動もやんわりとしたものだ。
 三島の時と違って大分ジョルノに比率が寄っているので、
 完全ではないにせよ扱いと言ったものも変わってきている。

「安心しろ。意中の相手は既にいる……今も生きてるかは知らんが、
 彼女が生きていても死んでいたとしても、それについては変わらんからな。」

 結末はどうなったかはともかく、好きになった彼女に生きてほしいと願った。
 違法幼女趣味なんていう、かなり業の深そうなものに手を出すつもりはない。

「じゃあ、行ってくるね。」

 普段のフォーム、ブレイズフォームになりながらフェイトは飛んでいく。
 壁やジッパーを付けたりして、高速で征史郎が追走するように駆けていく。
 ジョルノ・ジョバァーナの知識、つまり本来の持ち主となるブチャラティ。
 その知識を貰ったことで他にも様々な応用を覚え、今の移動手段を覚えた。
 なるほど、これは便利だと。応用すれば壁を滑るように昇れたりして更に幅が広がる。

(麻薬嫌いのギャング、か。)

 簡単にだがブチャラティの人柄も知れた。
 ギャングと言うアウトローな世界においても真っすぐいた男。
 元よりそのつもりだが猶更Stand Up、立ち向かわなければならないな。
 一人静かに思いながら、足並みを揃えたフェイトと共に辺獄を駆け抜ける。

【C-4/一日目/午前】



【フェイト・テスタロッサ@魔法少女リリカルなのは】
[状態]:疲労(中)、魔力消費(小)、罪悪感(大)、成人の姿、みさえに対して安らぎと悲しみの心情、羞恥心(大)、ブレイズフォーム
[装備]:甘露寺蜜璃の隊服@鬼滅の刃、バルディッシュ・アサルト@魔法少女リリカルなのはA’s、病気平癒守(残り二回)@東方project、マジックポーション×1@東方project
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1〜2
[思考・状況]
基本方針:みさえさんの家族、来夢さんと明さんの仲間を探す。
1:征士郎と行動する。
2:家族って、良いものなんだね…
3:他の人達もそれぞれ別々の世界からつれてこられてるのかな…
4:明さんを止める。もしも明さんが死ぬことになるとしても。
5:私の知らないバルディッシュ。でも、私を知ってるバルディッシュ。
6:キャスター・リンボ……あなたは絶対に倒す。
7:ひろしさんやしんのすけに会った時、謝る。

[備考]
※参戦時期は少なくとも第一期のプレシア事件の後です。
※来夢の事情を知りました。(せつ菜を殺めた顛末)
※来夢からブルリフの世界について簡単な知識を得ました。
※明からデビルマンの世界について簡単な知識を得ました。
 最愛の人である美樹を人間に殺されたことは察してます。
※成長そくしんライトによって原作におけるストライカーズの年齢まで成長してます。
 バリアジャケットはその場で変化させているため格好に問題はありませんが、
 このまま元の服装に戻れば元の服のサイズが合わない為、どうなるかはお察しです。
※バルディッシュの参戦時期はA’s最終話までなので、
 真・ソニックフォームなどそれ以降の時期のフォーム等にはなれません。
※主催にキャスター・リンボ(名前は知らないが芦屋道満)の存在を知りました。
※征史郎、ワザップジョルノ、梨花、初音と情報交換しました。
 初音に関しては嘘も混ざってます(琴美に攻撃の件、アカメが怖くて逃げた等)

720ワザップの誤解に巻き込まれたキッズ ◆EPyDv9DKJs:2023/07/29(土) 18:25:01 ID:KIFQ.e860
【城本征史郎@トガビトノセンリツ】
[状態]:精神疲労(小)、ダメージ(中)
[装備]:スティッキィ・フィンガーズのDISC@ジョジョの奇妙な冒険
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜1(夕月×0〜1確認済み)、スフォリアテッレ×1(箱入り)@クライスタ
[思考・状況]
基本方針:殺し合いに反抗する。
1 :はるなの遺志を継ぐ。
2 :ジャマイカ一行(悠奈)とは敵対はしないが、方針的に共同は難しいな。
3 :はるな、夕月、アルーシェの知り合いを探す。
   特に城咲充優先かつ、前者二名の知り合いにも謝っておきたい。
   ただ平行世界の件もあるのでその辺気を付けないと痛い目を見そうだ。
4 :スタンドでできることを試そう。できて当然と言う認知が大事だ。
5 :ついでにスタンドを使える奴がいるか探す、或いは警戒をしておく。
6 :あっさりと終わったがこれでいい。語られなかった物語とは、そういうもので。
7 :生きたまま首輪が外せるかを乗った参加者で試す。できないとは思うが。
8 :首輪について調べておく。
9 :……ふむ、生きて帰れたら生物学でも齧ってみるとするか。
   あ、パンドラボックスの齧るとは別の意味だ。
10:オカルトか。このご時世で必要とはな。
11:フェイトと行動。

[備考]
※参戦時期は死亡後です。
※リベリオンズ、ブルーリフレクション、よるのないくに2の情報を得ました。
 リベリオンズ勢は全ルートの人物と遭遇か共有した結果概ね把握こそしましたが、
 逆に判断が困難を極める結果となった為若干これについて思考停止気味になっています。
 また、初音に関しては2ndステージ以降の話は聞いてません。
※おおよそスタンドでできることを把握しています。
 ワザップジョルノから何か応用の仕方を聞いてるかも。
※マネーラ、ギャブロ、藤丸立香の情報を簡易的に得ました。
※キヨスから幡田零の情報を得ました。(外見と妹を探していることについてのみ)
※二日目の昼にE-3にあるかなでの森博物館に人が集まる情報を得ました。
※ロック(バンパイア)の危険性について知りました。
 爆発させる能力はスタンドによるものではないかと推測しています。
※フェイト、来夢、初音、ワザップジョルノ、梨花と情報交換しました。
 初音に関しては嘘も混ざってます(琴美に攻撃の件、アカメが怖くて逃げた等)



【司城来夢@BLUE REFLECTION 幻に舞う少女の剣】
[状態]:疲労(小)、罪悪感(大)、服全身血まみれ、みさえに対して安らぎと悲しみの心情、腕に打撲
[装備]:火車切広光@11eyes -罪と罰と贖いの少女-、成長そくしんライト@ドラえもん、銀時の原付@銀魂、飛鳥了の猟銃@デビルマン
[道具]:基本支給品一式、みさえのデイバック(基本支給品、ランダム支給品×1)
[思考・状況]
基本方針:乗らない。そして、せつ菜さんやみさえさんの知り合いのを探して謝る。
1:リフレクターになる指輪を探したい。
2:せつ菜を殺した事実を受け止めて、関係する人達に謝罪する ※ヒナにも隠さず伝える。
3:明がアモンに人格を乗っ取られた今、ライムは―――
4:みさえさんのエーテル……とても温かかった。
5:ユズについては、仕方なかったと思う。でも……
6:ライムも、フェイトのそれを背負うわ。
7:皆が休めるように見張りを務める。

[備考]
※参戦時期は11章、原種イェソド1戦目終了後から
※優木せつ菜を殺めたことで精神が不安定になっていましたが、
 みさえの愛情で頭痛は鳴りやみ、落ち着きました。
※みさえからクレヨンしんちゃんの世界について簡単な知識を得ました。
※明からデビルマンの世界について簡単な知識を得ました。
 牧村の件はなんとなく察せてます。
※主催にキャスター・リンボ(名前は知らないが芦屋道満)の存在を知りました。
※征史郎、梨花、ワザップジョルノ、初音と情報交換しました。
 初音に関しては嘘も混ざってます(琴美に攻撃の件、アカメが怖くて逃げた等)

721ワザップの誤解に巻き込まれたキッズ ◆EPyDv9DKJs:2023/07/29(土) 18:25:34 ID:KIFQ.e860
【阿刀田初音@リベリオンズ Secret Game 2nd stage】
[状態]:精神的疲労(大)、疲労(大)、全身にダメージ、不安(大)
[装備]:霊撃札×3@東方project、壊れた如意棒@ドラゴンボール、バショー扇@ドラえもん
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜1(アカメ、琴美が確認済み。ボウガンや危険物以外)
[思考・状況]
基本方針:初音にどうしろというのですか……
1:充を探……すべき、なのですか?
2:修平、アカメには要警戒する。アカメは逃げなくてもいいようにはできた?
3:琴美……ユカポン……
4:どうして、みんなそんな風にカルネアデスの板を譲れるのですか。
5:今は休む。

[備考]
※参戦時期はBルート、充の死亡直後より。
※自分が琴美を殺したと思ってます。
※如意棒は伸びなくなってます。
※バショー扇には攻撃の風と指定されてます。
※征史郎、梨花、ワザップジョルノ、フェイト、来夢と情報交換しました。
 彼女の発言は嘘も混ざってます(琴美に攻撃の件、アカメが怖くて逃げた等)



【古手梨花@ひぐらしのなく頃に 業】
[状態]:精神復調、後頭部にたんこぶ、精神的疲労(大)、疲労(大)、ボミオス状態、舌を改造
[装備]:いつもの服、インパスの指輪@トルネコの大冒険3(英吾の支給品)
[道具]:基本支給品、不思議な杖三本セット(封印の杖[0]、ボミオスの杖[0]、ふきとばしの杖[0])@ドラゴンクエスト外伝 トルネコの大冒険 不思議のダンジョン
     ランダム支給品(0〜1)
[思考・状況]
基本方針:繰り返しを脱する手がかりを掴む
0:生き残り惨劇の舞台を壊す。
1:沙都子…
2:頑張れるだけ、頑張る。
3:三島…ごめんなさい
4:あれは人工呼吸だからノーカン…ノーカンよ…
5:今は休む。

[備考]
※参戦時期は16話で沙都子に腹を割かれている最中(完治はしています)
※ワザップジョルノ、プロシュートを危険人物と認識しています。
※ミスティの黒針の効果で興奮すると感度が増して体力と引き換えに他者の体力を回復させる唾液が分泌されるようになりました。
※征史郎、初音、フェイト、来夢と情報交換しました。
 初音に関しては嘘も混ざってます(琴美に攻撃の件、アカメが怖くて逃げた等)



【ワザップジョルノ@ワザップ!】
[状態]:主催者への怒り(極大)、全身にダメージ(中〜大)、全身やけど、疲労(大)
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜3
[思考・状況]
基本方針:主催者を訴え、刑務所にぶち込む
1:梨花を護りつつ脱出への糸口をつかむ。
2:今は休まなければ。裁判と逮捕は根気との戦いだ。

[備考]
※外見はジョルノ・ジョバァーナ@ジョジョの奇妙な冒険 です。
 記憶も五部完結まで保持しているようです。
※ゴールド・エクスペリエンスも使えますが、
 矢をスタンドに刺してもレクイエム化はしないと思われます。
※CVは想像にお任せします。
※古手梨花、北条鉄平、プロシュートを犯罪者と認定していますが、
 梨花に対してはかなり軟化していると思われます。
 征史郎については情状酌量の余地ありとして釘を刺す程度に留めてます。
※犯罪者の認定は完全な主観です。罪が重いほど対象に対する怒りは大きくなります。
※犯罪者対応は拘束が目的ですが、対応時に手加減はあまりしないようです。
※ワザップ状態が完全に解けてもジョルノ・ジョバーナ@ジョジョの奇妙な冒険にはならないようです。
※梨花の唾液を注入されて体力と怪我が少し回復しました。
※陰茎が生えたことによりワザップ成分よりもジョルノ・ジョバーナ成分が強まり、暴走も比較的緩和されたようです。

※全員ゴールド・エクスペリエンスで外傷を治し、
 一部人物は血液を補充してます。

722ワザップの誤解に巻き込まれたキッズ ◆EPyDv9DKJs:2023/07/29(土) 18:26:09 ID:KIFQ.e860
【甘露寺蜜璃の隊服@鬼滅の刃】
梨花に支給。恋柱、甘露寺蜜璃が着ている隊服。
鬼殺隊の事後処理部隊『隠』に属する前田まさおが、
職権乱用によってぶっちぎりに魔改造された隊服であるため、
通常の女性の隊服と違って胸元が開いてたりミニスカートだったりと、
女性は肌をみだりに晒すべきではないとされた大正と言う時代において、
当時の時代とは思えぬぐらいに露出度の高い相当アレな恰好だったりする。
なお蜜璃は最初はそれが普通だと勘違いしたのもありそのまま着ていた。
こう書くとアレだが、通気性はいいし防水も防炎性能共に比較的高く、
並であれば鬼の爪や牙は通さない防刃性能も持っていて結構頑丈。
隊服だが彼女の服装一通りが支給されてるので、
煉獄の就任祝いの白い羽織り、伊黒から貰った編み上げのハーフブーツも含む。
下着もある。ちゃんと下着もある(大事なことなので二度言ってきます)。

【病気平癒守@東方project】
はるなに支給。非想天則にシステムカードだが、
本ロワででは五芒星の形状をしたお守りと言った扱いとする。
使用してる間体力が回復するが、使用中は無防備になる。
使用できる回数は四回で、回復の量は四回使えば四割ほど。

723 ◆EPyDv9DKJs:2023/07/29(土) 18:26:55 ID:KIFQ.e860
以上で投下終了です
後タイトル間違えてました
「ワザップの誤解に巻き込まれたキッズ(キッズではない)」です

724名無しさん:2023/10/03(火) 06:24:20 ID:exduHxts0
投下します

725我ら一つ、等しく辺獄を漂う ◆EPyDv9DKJs:2023/10/03(火) 06:24:52 ID:exduHxts0
あ、間違えましたトリップ忘れてました
投下します

726我ら一つ、等しく辺獄を漂う ◆EPyDv9DKJs:2023/10/03(火) 06:25:32 ID:exduHxts0
 それはもう通夜というべきだろう。
 病院は使える部屋はあれどほぼ半壊状態と化した。
 都古を、晄を、そして帰りが遅いと確認しに戻ったらロックが。
 病院にいた六人の人物はたった一度の戦い、否三人の襲撃者によって、
 半分にまで減らされると言う痛ましい事態を前にしてはそうなるのも無理からぬことだ。
 加えて零はアナムネシスの言葉で未だ頭の中に整理がついているわけでもない。
 全員揃って意気消沈しており、淀んだ空気が流れていた。

「えっと……埋葬だけでもする?」

 この空気の重さに耐えきれなかったのと、
 誰が何を言い出すか決まらずウォーハンマーを取り出しつつ愛は提案する。
 可奈美とフェザーが舞衣の埋葬をした時と同じであり、何事もなくスムーズに進む。
 支給品を回収した後、都古と晄にも同じように武器を回収して話を進めていく。
 首輪については今後も必要と言う事で、ひろしがその役割を背負うことにする。
 女の子に仲間の首を斬れなんてこと、させたくなかったが故に。
 とは言え彼とてそんな作業は初めてだ。震えた手で首を可奈美から借りた刀で斬り落とし、
 首輪を回収してから埋葬して、一つの作業を終える。

「それで聞きそびれたが、この子は誰なんだ?」

「……幡田零、です。」

 機械的な返事だけの挨拶。
 何かあったことは想像に難くないものの、
 そこは可奈美がなんとかフォローして話を進めていく。
 殺し合いに乗っていた可能性については一応伏せた状態で。
 今の状況でそれを伝えては色々面倒ごとになるのもある。
 この人達なら受け入れると分かっていても少し余裕が必要だから。

「そっか、妹さんが……」

 想像の数倍斜め上の状態。
 家族揃って摩訶不思議な連中と戦うことの多かったひろしでも、
 彼女のような陰鬱とした戦いに挑むと言う事はほぼほぼなかった。
 余りに救いがない。今まで唯一残された家族のために抗ったのに、
 生き返らえせたい妹が最悪、大量殺人を犯してる可能性があること。

 言うなればしんのすけがマサオを手に掛けたりしていた、
 と言われたようなものだ。それを親として受け入れられるものではない。
 敵の言うことを素直に信じるべきかどうかはあるかもしれないが、
 嘘を言ってると断じられる状況でもないことは分かっている。

「だったら、妹さんにまず会わないとな。」

「え……あの、あっさりしてませんか?」

 殺し合いに乗った妹を抱えてる姉なんだから、
 もっと疑ってしかるべきだろうに。何故可奈美含め、
 こうもあっさりと受け入れる姿勢に思わず零も素に戻ってしまう。

「確かに驚いたが、家族が心配なのは当たり前のことだ。
 俺だって此処に息子も妻もいるんだ。気になるのは当然だろ?」

「ですが、野原さんの場合別に家族が……」

 別に悪いことをしていたわけではない。
 自分のように止めるべき凶行を行ったわけでもなく。
 様子を見るに、さぞ仲睦まじい一般的な家族なのだろう。
 自分のように血で染めた手で妹を取り戻そうとしていたのに、
 その妹も数多くの人の命をの上に立っているかもしれないのとは違う。

「家族だったらその間違いを止める。違うか?」

 もししんのすけがそんなことをしてるのであれば。
 これ以上そんなことをさせるわけにはいかない。
 それが、道を違えた息子のためにできる親の行動だと。

「兄や姉は妹を守る者って言うだろ?
 押し付けるつもりはないし、もししんのすけが何かしてた場合だがあいつは兄ちゃんだ。
 それなら、親である俺が止めなくちゃいけない。零ちゃんの家族の事情は分からない。
 けど生き返らせたいほど大切な妹だと思い続けてたんだろ? 会わなくちゃ始まらないだろ?」

 言ってることは間違いではない。
 零の両親はもういない。事故で亡くなっている。
 セレマもいなければ、彼女の親しい友人も記憶から妹の記憶は消えた。
 だから、もし彼女の凶行を止められるものがいるとするのならば、
 それは自分以外にいないと言う事を。

「やったことはどうしたって無理なのは分かってる。
 アナムネシスって奴も納得は難しいとは思う。けど、
 これ以上妹さんの暴走を止めるのも必要だと思うぜ?」

 過去はどうにもならない。
 でも今や未来ならばすぐに変えられる。
 ありふれた言葉、ありふれた説得の仕方。

「……私は、野原さんのように前向きにはなれません。
 家族を喪った時、涙すら流せなくなってしまった私には。
 零って名前も、きっと何もない私に対してつけたものだと……」

727我ら一つ、等しく辺獄を漂う ◆EPyDv9DKJs:2023/10/03(火) 06:25:49 ID:exduHxts0
 そんなもので納得ができるのであれば、彼女はとっくに変われている。
 どんどん心をやつれさせ、壊れさせ、涙すら流せなくなった空っぽの心。
 そんな自分に一体何ができるのか。何も成せやしないんだと思わずにはいられない。

「あーもう、湿っぽい!!」

 そんな空気を破ったのは愛。
 思わずほかの三人は面食らった表情になる。

「レイレイはミラを止めたい! そういえばいいだけだよ!
 悩む必要なんかないし、まずは会えばいいって野原さんも言ったじゃない!」

「レ、レイレイにミラ?」

 勢いの強さに、思わずたじろぐ零。
 小衣以上に押しの強い性格をしてるようで、
 彼女を思い出すのもあり返事に少し戸惑う。

「仲間や家族が無茶をしてたら誰だって止める。
 愛さんも野原さんもカナミンだってそこは同じだよ!」

「ですが……」

「幡田さん。さっきも言ったけど、
 私は絶対に見捨てることができない。
 凄く似ているから。私の知り合いに。」

 誰に頼ることもできない。
 ただ一人進むことしかできない。
 そんな殉教のような道を辿る彼女。
 余りにも重なってしまうのだ。十条姫和に。

「そう、ですか……分かりました。」

 無限にはいと言わせるまで行動しそう。
 そういう考えもあって零の方が先に折れる。

「それで、どこに行くのが正解なんだ?」

「愛さん的には北か北東じゃないかな。」

「理由は?」

「因縁がある相手と同じ方向へ行くかな、って思っただけだったり。」

 因縁のあるアナムネシスが同じ方向を選ぶとは考えにくい。
 となれば東から来ていたと思しき彼女の反対方向がありうるだろう。

「さ、まずは妹さん探しかアナムネシスを止めねえとな!」

 自分が一番弱い立場ではあるが、
 同時に一番年上の立場であるのは今も変わらない。
 年長者として、子供たちを落ち込ませるわけにはいかず元気に振る舞う。
 手を潰された以上、流石に脂汗は滲み出ていたが。

『ミサエかシンノスケが死んだら、どうするつもりだ?』

 空元気を出したいのは、
 ギースから言われた言葉を振り切りたいのもある。
 本当に、自分はどちらも喪った場合それを貫けるのか。
 本当に僅かなレベルではあるが、疑念として残ってしまっていた。

 武装や首輪等、持つべき人に渡しておく。
 最悪は想定したくない。でも最悪はきっとありうる。
 なければロック達も、フェザーたちも、舞衣も死ぬことはないのだから。
 だからある程度、零はまだ受け取れないと首輪を断ったのもあり、三人にそれぞれとひろしは追加でギースの首輪を。
 更に武器になりえるものや相性を考えて道具を交換し、軽く情報交換を交えながらの食事をしていく。
 零についてはまだあまり話せる状況ではないのでもう少し後でと言う事になったものの、
 ようやく可奈美に限らず、多くの人が別々の世界だと言う事が認識に至れている。
 多くの情報を纏め、ひとしきり一服も終えたことで最初に可奈美が立ち上がり、
 続けてひろし、愛、零も立ち上がって動き出す。

 誰しも平等にして不平等に訪れる死の辺獄。
 そこに足掻く者達の新たな旅立ちが始まる。

【F-4/一日目/午前】

【宮下愛@ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会】
[状態]:頬に傷(処置済み)、肩に裂傷(処置済み)、耳たぶが少し削れてる(処置済み)、疲労(中)、精神疲労(大)、覚悟完了
[装備]:レッドカード@ポケットモンスターシリーズ、特注の日傘@東方project、浪漫砲台パンプキン@アカメが斬る!、
[道具]:基本支給品×2(自身、夕月)、ランダム支給品×0〜1(少なくとも愛に使えない武器、回復系でもない)、包帯×2、絆創膏×1、洸のデイバック(基本支給品、手榴弾×3@現実)、晄の首輪
[思考・状況]
基本方針:殺し合いには乗らない。でも戦わないつもりはない。
1:ゆうゆ(有)達を探しつつ首輪も何とかしたい。
2:みんな……無事でいてね……
3:病院の皆と合流しなくちゃ。
4:みっつん。少しの間待ってて。愛さん頑張るから。
5:あの変装をする何か(マネーラ)に警戒しないと……どうやって見分けよう。
6:愛さんも、戦うよ。
[備考]
※参戦時期はアニメ最終回後。
※マネーラの本来の姿を別の参加者を模倣した姿と思ってます。
 また姿だけですが立香、あかり、零の姿を覚えてます。
※右足のコンクリートはウォーハンマーで強引に破壊して元に戻ってます

728我ら一つ、等しく辺獄を漂う ◆EPyDv9DKJs:2023/10/03(火) 06:26:09 ID:exduHxts0
【野原ひろし@クレヨンしんちゃん】
[状態]:左手粉砕骨折(止血済み)、疲労(大)、精神疲労(特大)、罪悪感
[装備]:こおりのいぶき×2@スーパーペーパーマリオ、スモークボール@大貝獣物語2×4、黒鍵×5@MELTY BLOOD、スピリット・オブ・マナ@グランブルーファンタジー、都古とギースの首輪

[道具]:基本支給品(水が少し減ってる)、予備のショットガンの弾、ランダム支給品×0〜1、包帯×3、都古デイバック(基本支給品、ランダム支給品×0〜1、ニュートンの林檎×4@へんなものみっけ!)、ギースの写真@餓狼伝説
[思考・状況]
基本方針:殺し合いはしない
1:しんのすけ達を探しつつ首輪も何とかしたい
2:とりあえず今はロック達と病院で休む
3:都古ちゃん……すまねえ……!!
[備考]
※少なくとも『嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦』までの映画版での出来事は経験しています。



【衛藤可奈美@刀使ノ巫女】
[状態]:精神疲労(特大)、疲労(大)、左肩弾痕(処置済み)、右手に傷(包帯で処置済)
[装備]:孫六兼元@刀使ノ巫女、白楼剣@東方project、司城夕月の指輪、 悪鬼纏身『インクルシオ』の鍵@アカメが斬る!、仙豆@ドラゴンボール
[道具]:基本支給品×3(自身、舞衣、ギース、ロックの分。舞衣とロックのみランダム支給品×0〜1×2)、スタミナドリンク100×4、黒河のPDA(機能使用可能回数:2回)@リベリオンズ Secret Game 2nd Stage、包帯×2、ロックの首輪

[思考・状況]
基本方針:殺し合いはしない。姫和ちゃんやみんなを探したい。
1:幡田さんを放っておくわけにはいかない。
2:姫和ちゃんは千鳥がないと……ううん。それでも私が止めないと!
3:お母さん、薫ちゃん、舞衣ちゃん……私、生きるよ。
4:皆と早く合流しなきゃ。
5:フェザーさん……私、頑張るね!
6:アナムネシスの反応、どういうことなんだろう。
7:みらいちゃんを探して止める。

[備考]
※参戦時期はアニメ版21話、融合した姫和と戦闘開始直後です。
※舞衣の理念の残滓との影響で孫六兼元で刀使の力が使えるようにはなりましたが、
 千鳥と比べたら半分以下の制限となります。(人外レベルの相手は難しい)
※情報交換したため世界の違いに気付いてます



【幡田零@CRYSTAR -クライスタ-】
[状態]:涙は流れない、精神不安定(極大)、疲労(中)
[装備]:代行者の衣装と装備、オチェアーノの剣@ドラゴンクエスト7エデンの戦士たち
[道具]:基本支給品一式×2(自身、はるな)、不明支給品×0〜2
[思考]
基本方針:???
1:私は……
2:千さん……
3:あの男(修平)とは、次にあった時は殺し合う事になる。
4:吹石琴美って、あの琴美さん?
5:立花特平のような参加者に化けた幽鬼に警戒。
6:みらいが幽鬼の姫……? アナムネシスを殺したのはみらい?
7:この雰囲気、みらいに会わないと話が進まないような……
  とは言え、会って確かめないと……

[備考]
※参戦時期は第四章、小衣たちと別れた後です。
※武器は使用できますが、ヘラクレイトスは現在使用できません。
※参加者の一部は主催によって何か細工をされてると思っています。
 ただし半信半疑なので、確信しているわけではありません。 
※彼女のこの舞台での経緯についてまだ聞いていません。
 つまり、マネーラのことも伝えていません。

※F-4病院の周辺に以下のものが落ちてます
 ギース・ハワードの灰
 ギース・ハワードの遺灰物

 F-4病院にて
 折れたハイドラ@バイオハザードシリーズ
 が落ちてますが、瓦礫に埋もれて回収は困難です

 F-4病院前の駐車場にて
 少しへこんだ鉄バット@ひぐらしのなく頃に
 鉄バットはコンクリートに埋まってるので普通の手段では回収は困難です。
 があります。

我ら一つ、等しく辺獄を漂う

729我ら一つ、等しく辺獄を漂う ◆EPyDv9DKJs:2023/10/03(火) 06:26:35 ID:exduHxts0
以上で投下終了です
最後の一文ただのミスです

730堀敏雄:2023/10/07(土) 22:05:49 ID:derw9/FI0
岐阜県羽島郡笠松町西金池町96番地
昭和29年5月16日
09041193020

731ジェイル・ハウス・ロック ◆EPyDv9DKJs:2023/10/21(土) 15:18:15 ID:k/ynSJxI0
投下します

732ジェイル・ハウス・ロック ◆EPyDv9DKJs:2023/10/21(土) 15:19:28 ID:k/ynSJxI0
 帝具、魔法少女、刀使、リフレクター、ヴァンパイア。
 様々なものがこの舞台には混在している。多くは異能や武具を駆使し、
 主催にとっては舞台を大いに盛り上げる要因となっているのだが、

「はは、やるじゃないか!」

「このッ!」

 この四人、貴真と悠奈。
 レオーネと木刀政こと鈴木政雄の戦いは人間的なものだ。
 銃と銃、籠手と木刀。人間が持ちうる普通の武器での戦いになる。
 勿論彼等、特に貴真にとっては悠奈は最優先事項の存在だ。
 しかし、余りにやりすぎて素を出せば政にも疑われかねない。
 向こうにも味方がいる以上、長続きはしない関係なのは分かっている。
 だからやりすぎない程度に戦うと言う風をなるべく装っていた。

「アンタもよくあんなのと付き合ってるなぁ!」

「そっちも言えたことじゃねえけどな!」

 戦ってる最中だからだろうか。
 向こうの二人は真面目に話し合う様子はなかった。
 彼にとって都合がいい。今の内に悠奈さえ仕留めればこちらのものだ。
 とは言えローションは足並みが揃わなくなるのと有限なので、
 使わなかったのもあり使う暇はないので素の実力での戦いを越えられないが。

(分かってはいたけど、鍛えてるわね……!)

 貴真はゲームの為にある程度鍛えた上で参加していた。
 なので悠奈以上に心得があり、それで地道に攻めている。
 もっとも悠奈のスペックはあの瞳とある程度応戦できるぐらいだ。
 いかに彼が鍛えたと言っても、致命的なレベルにはなりえない。
 だからと言って、ローション抜きでの生身での戦いは危険だ。
 悠奈は殺しはしないが、言い換えれば殺さなければ撃てる人間。
 経験者である彼自身が味わった以上、その確信が存在する。

(ってことだから、諦めてこれを使うか。)

 ポロリと移動の中まほうの玉を落としておく。
 めまぐるしく動いて戦うそれに彼女が気付く余裕は、

「させない!」

(そこまでやるか!)

 なんと躊躇せずそれを蹴り飛ばす。
 互いの間に起こる爆発に双方が辺獄の路地を転がっていく。
 互いに受け身を取りながら立ち上がることで互いの持つ銃を構える。
 狙いは足元と頭部。どちらもその狙いは分かっており放つと同時に避けていた。

(一筋縄じゃ行かないね……まあいいか。もし負けたらこれを使うし。)

 ほくそ笑みながら隠し持ったそれを大事そうに思い浮かべる。
 最高の理不尽になるために、ここぞという時に使いたいそれを。

「よそ見する程強くなったわけ?」

 足元を掠める弾丸。
 咄嗟に足を上げてなければ当たっていたのは間違いない。

「逆に強くなりすぎたんじゃない?君、何人殺したらそうなるのかな?」

「ないわよ。アンタと違って!」

 互いに銃を使わず肉薄。
 走りながら当てるのは簡単なことではなく、
 揃って弾丸を放ちこそするが全体的に威嚇射撃の類だ。
 当然揃って当てられないまま銃より体術が有効な射程に入れば、
 その途中で銃をしまった二人は徒手空拳による戦いへと入る。





 まほうの玉の爆発はレオーネ達も反応せざるを得なかった。
 残りの二人も思わず反応したが、先に我に返ったたのはレオーネ。
 いかに悪魔と戦ったと言えど暗殺者の方がどうしても経験が違う。
 交差して防いだ木刀を押し返し、銅ががら空きの所へ右ストレートをかます。
 即座に政がバックステップで距離を取ったことで射程外へ逃げ込むも、
 すかさずレオーネが右足を踏み込ませてアッパーカットへと変更。
 すぐに木刀を振り下ろして左の籠手でガードをさせることで追撃を免れる。
 反撃の為続けて突きを見舞うも、今度は白刃取りの要領で止められてしまう。

(やっぱ場数の違いが目に見えるぜ……!!)

 隙を見せたかと思えば誘われたもの。
 本物の隙を見せたとしても対応が速い。
 敵ながら彼女が牧村家にいたら、なんて思う程の実力だ。
 即座に鳩尾を蹴り飛ばして強引に木刀を手放させ距離を取る。

(素人のはずだけど気迫はタツミにも負けないね。
 どんな修羅場をくぐったんだろうね、この相手は。)

733ジェイル・ハウス・ロック ◆EPyDv9DKJs:2023/10/21(土) 15:20:40 ID:k/ynSJxI0
 強さで言えば帝具抜きでも相手できており、
 イェーガーズと比べたとしても遠く及ばないだろう。
 けれど彼の覚悟や気迫は肌でビリビリと感じ取れる。
 いや、本当にビリビリとした感覚がしていた

「これマジでビリビリしてるなアタシ!?」

 蹴られた部位を中心に全身が電流を流された感覚だ。
 微小なレベルではあるが、無視できるものでもなかった。
 ライオネルがあればまだ別だっただろうがそうはいかない。

「悪いな姉ちゃん。こっちも勝つためには必要でな。」

 戦闘中にさらりと政はビリビリキャンディを食べていた。
 食べると帯電した状態になるので、物理攻撃に電撃属性がついたようなものだ。
 拳は武装してたので気付かなかったが振れれば電流による反動を受けてしまう。

 ただ、それでも互いの攻防は一進一退だ。
 元よりレオーネは毒だなんだのを受けても戦えた。
 特に雷撃ならばブドー将軍のアドラメレクの方が圧倒的に上。
 また籠手越しに殴っていれば問題はないと言うのが何よりも大きい部分だ。
 手段を選べないと政は言ったが、それでも五分五分と言ったところになる。

 一番の差は対人経験の差だろうか。
 悪魔とやりあった政ではあるものの、
 対人経験は不良や暴徒の範疇を余り超えていない。
 一方でレオーネは暗殺者。相手は人間である場合が基本だ。
 その経験の差もまた、埋め切れない差を作っている。

「っていうかその木刀硬すぎんだろ!?」

 彼にも籠手使って攻撃してるのに、
 折れるとかそんなの一切無縁の形状を保つ。
 一体何をしたらそうなるのかツッコミどころしかない。

「悪魔相手にも壊れなかった武器だからな!
 俺はこの木刀達と共に、アイツを止めなきゃいけねえんだよ!」

(アイツ?)

 彼の発言に疑問を持ったそのとき、

「横槍!」

 踵落としで二人の間へ割って入り、政の方へと刃を向けるエレンが登場する。
 後方からは侑とミスターLも参じており、先行した意味はあったことが分かる。

「お、そっちは上場か……って、
 なんかしばらく見ない間にやばい状態だね。」

 左腕の欠損。
 同じく腕の欠損の経験はある為、
 うへぇとげんなりとした顔つきでその状態を見やる。

「色々訳ありデース。それで、敵は彼なので?」

「エレンさん、速すぎ……」

「トジってこんな速いのかよ。」

 戦いの音により、迅移で加速して参じた。
 なので二人は半ば置いて行ったに近く、
 足が特別速いわけではない二人は息切れを起こしている。

「……おい、ちょっと待て。
 ひょっとしてだが、俺は誤解してないか?」

 悠奈は修平とも繋がりがある。
 だから敵となる参加者だと思っていたが様子が違う。
 エレンはともかく、侑は明らかに一般人にしか見えない。
 彼女と仲間である状態を維持するメリットがあるとは思えなかった。
 もし潜伏目的であれば、知り合いである修平を味方などとは言わない。
 修平に対する言い淀んだあの返答も、今となっては引っかかる部分になってきた。
 何かがおかしいことに気付き、一先ず木刀を降ろして話を伺うことにする。

「お、帝都時代のアカメみたいなパターンか。」

 話し合いができそうなのはラッキーと、
 早々に構えを解いて情報を提供する。
 聞いてみれば、にわかには信じがたい事実。
 情報交換からそう時間は経過してないので、
 はっきり言うと彼との友情とかがあるわけではない。
 なのでそうだったとしても『そういうのもあるか』と納得できる。
 信じがたいのはその思考の方だ。自信を理不尽そのものになりたいとか、
 まるで宗教の教えのような思考に反吐が出そうになる。

「余りにぶっ飛びすぎてて、
 こうしておたくらが俺を野放しにしてても信用しづれえな。」

734ジェイル・ハウス・ロック ◆EPyDv9DKJs:2023/10/21(土) 15:21:42 ID:k/ynSJxI0
「あたしも聞いた時は意味不明だったね。
 概念そのものになりたいってことなのかね、ありゃ。」

 その為に殺されるとか、
 ただ殺されるよりもよっぽど意味不明で納得いかないね。
 なんて溜め息を吐きながらレオーネがごちる。

「ギースって人や禄郎って人といい、なんでそんなに……」

 人を殺したがるのか。
 人を殺し殺される世界にいない以上、
 侑からすれば理解できない領域にある。
 もしかして、自分がそうは思っていないだけで、
 同好会の誰かもそう言うことを考えてるのではないか。
 なんて疑心暗鬼すら出てきそうになってしまう。

「人間は単純なもんだ。殺された経験から来るものもあるがな。」

「あ、それ同意―。クソみてえな連中ばかり見てきたから分かるー。」

 殺された身でありながら、
 まるでコーヒーブレイクの時のような会話のやりとりをする二人。
 さっきまで殺気立って戦っていた間柄とは思えなくなる。

「んで、どっちを信じるかは自由だよ。
 アンタは不意打ちはするような奴じゃないだろうし、
 だから考えがまとまるまでの間此処で好きにするといいさ。
 ま、どっちにしても真実を知る手段が簡単にあるわけだけど、試す?」

「なんだと?」










 貴真と悠奈の肉弾戦は貴真の法が優勢だった。
 殺し合いの為に技術と殺し合いに叛逆するための技術。
 そも貴真は裕福な環境の人間だ。だから鍛えたにしても、
 ちゃんと相応の場所を与えられている。此処が覆せない差だった。
 悠奈の拳を払い鳩尾へと拳が叩き込まれ、軽く大地を転がされる。

(この男、正面からでも強いのもむかつくわね……!!)

 彰だったら余裕でこの接近戦は行けたのだろう。
 そこらの棒きれでボウガンを弾くと言う無茶苦茶をした彼であれば。
 無論、剣術が使える何かしらの棒があればの話ではあるだろうが。
 銃口に狙われる前に動くことで放たれた弾丸は地面に埋まるだけに留まる。
 その勢いで起き上がりながら近くの路地を壁にするよう潜り込む。

(油断はしないよ。)

 油断したから負けたからね。
 と内心生前の事を思い出しながら、
 せつ菜の支給品を取り出そうとする。

「ちょいと待ちな。」

 物陰に隠れた悠奈を見る彼の背後から、
 政が先ほどまでとは裏腹に静かに声をかける。

「あれ、そっちは片付いたのかい?」

「貴真。俺は不良だから特別頭はよくねえ。
 親は宗教にはまっちまってたのもあるからな。
 だが、そんな俺でも流石に気づくこともあるぜ。」

 悠奈以外は少なくとも敵じゃない。
 それだけは断言できるものだと。

「ステルスがうまいなら、
 つまり悠奈以外は敵じゃあねえ。
 だったら俺たちと同じ仲間になるはずだ。
 それなのにテメエは説得を欠片もしてこなかった。
 そして話を聞く気があるような対応を最初にしたアイツ。
 どう考えても俺の中で、信用できる度合いが違うんだよな。
 念の為聞くぜ。てめえはどっちだ? 乗ってるのか、乗ってないのか。」

 疑念が早くも出てしまった。
 確かにその辺をおろそかにしすぎたのはよくなかった。
 どうもうまくいきそうにないが、念のため粘ることにしてみる。

「何を言ってるのさ。乗るつもりなんて全く───」

「嘘だよ。」

 冷静に、残念そうに。そしてどこか怒りがこもったかのような声で。
 物陰から侑が出て割って入るように静かに呟いた。
 表情も悲しいやら怒りやら、複雑な感情が入り乱れたものだ。

「理不尽になりたい。その為に多くの人を陥れたい……そういう考えだって。」

735ジェイル・ハウス・ロック ◆EPyDv9DKJs:2023/10/21(土) 15:22:41 ID:k/ynSJxI0
 スペクテッド。
 心を読むことのできるそれは、
 ある意味彼にとって天敵と言ってもいいものだ。
 あらゆる思考が見透かされてしまうのだから。

「残念だが嘘を見抜ける手段があったらしい。
 これで決まりだな。性能は既に確認済みだ。
 テメエとは、短い付き合いだったな。言い残すことはあるか?」

 騙されたのは自分の方にも問題がある。
 なのでその辺についての怒り自体はそこまでない。
 もっとも、殺しはせずとも一発ぶん殴らせてもらうつもりではあったが。
 木刀を振り降ろし、それを綺麗に転がりながら回避してすぐに身を起こす。

「これは詰んでそうだね。」

 流石にどうしようもなかった。
 生き返ったことではやる気持ちを抑えきれず、
 早々に同行者を切り捨ててしまったのもあるが、
 よもや心を読む手段を確立されてはどうにもならない。
 肩を竦めながら、どこかおどけた様子で返す。

「逃がさないわよ。アンタは殺さないけど、
 最後までこっちにいてもらうから。」

 土ぼこりを祓いながら、路地から出てゆっくりと近づく悠奈。
 悠奈の方にも三人、政の方にも三人、即ち六対一になってしまう。
 チーターローションは塗る暇がなく、まほうの玉では自分もろとも吹き飛びかねない危険物。
 いくら自爆上等な行為をしたからと言っても、それではただの道連れでしかなく。
 彼が求める理不尽との同化と言うのは、もっと違うものになる。それでは意味がない。
 つまるところ、もう彼にはどうすることもできない。残された武器を使ったとしても。

「……悠奈ちゃん。忘れてないかな。別に俺は理不尽になる為なら───」















 命すら捨てられる異常者だって。
 そう静かに呟くと、空を見上げながら高らかに叫ぶ。

「メフィス! 『檻』を使う!!」

 不殺主義は敵であれ同じ。
 誰であれ生かす。それが悠奈の一番のミスだ。
 だからギースを逃がし、最悪の展開へと招くこととなる。
 彰との別れの時と同じ、命の取捨を選択することになるのだから。
 彼が叫びながら右手首から飛び出たカードを翳した瞬間、
 周囲に地ならしが起きる。

「何この音!?」

 地ならしに驚嘆する六人だが、
 それが何の音かはすぐに分かった。
 近くの地面から西洋よりの黄金の柵が突き抜けて、
 道を阻み始めていたのだから。

「わ、ちょ、俺だけ外かよ!?」

 運がいいのか悪いのか、
 ミスターLは丁度その境界線上にいて咄嗟に後ろへ下がった。
 彼のジャンプ力をもってすれば策など容易に越えられるが、
 謎の壁が阻んで策を越えても皆の下へとたどり着けなかった。

「ほう、思ったよりも多く収穫できたではないか。」

 スマホを片手に、突如七人の前にメフィスが空中に現れる。
 突然現れた主催者を前に、五人は警戒態勢に入り、 

「おい貴真、テメエ何しやがった!?」

 政だけが貴真の胸ぐらを掴みそちらを優先する。
 策はさらに伸びて五メートルを超えた状態だ。
 物理的に入るのは困難だが、ミスターLですら壁に阻まれて通れない。
 出入りすることは叶わないと言う事だ。

736ジェイル・ハウス・ロック ◆EPyDv9DKJs:2023/10/21(土) 15:23:41 ID:k/ynSJxI0
「説明はワシがするから落ち着け。
 何、簡単なことじゃ。この檻が出たければ───」















「このエリア内の参加者を半分殺せ。そうすれば出れるぞ。」

 辺獄と言う檻の中で、更なる絶望の檻で地獄が今始まろうとしていた。

「今回の俺の最期、理不尽の始まりさ。」

※D-3が歯車の塔の檻@CRYSTAR-クライスタ-+オリジナルで封鎖されてます。
 同エリア内の参加者が半分死亡しない限り、出入りすることはできません
 また、今回登場した人物=このエリア全域の人物とは限りません。
 (巻き添えになった人物は後続にお任せします。仮にいなくても問題ありません)
 少なくとも悠奈、レオーネ、エレン、侑、政、貴真が入っており、
 ミスターLは外側にいるためこの影響を受けません。

【D-3とD-2の境界線(D-2側)/一日目/午前】

【ミスターL@スーパーペーパーマリオ】
[状態]:精神ダメージ(特大)
[装備]:無し
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×0〜2
[思考・状態]
基本方針:悠奈のバカバカしい生き方とやらで主催共を叩き潰す。
1:ユウナ・レオーネと行動を共にする。
2:伯爵さまを殺した奴は殺さないがとりあえずぶん殴る。
3:ヒーロー……か。
4:ユウナ! ジュネーヴ条約にジャマイカって何だ!?
5:伯爵さまの遺志を継いでマネーラ、ナスタシアと共に脱出する。
6:工学だけではだめって、どうすりゃいいんだこれ。
7:一足先に侑達の所へついたがまさかアンナがいるとはな!
8:二日目の昼にはE-3のかなでの森博物館へ行き、キヨスと呼ばれる人たちと情報交換。
9:なんじゃこれぇ!?
[備考]
※参戦時期は6-2、マリオたちに敗北した直後
※悠奈からリベリオンズの世界について簡単な知識を得ました。
※名簿から伯爵さまたちが参加していることを知りました。
※悠奈から”拳銃”の脅威を知りました。
※レオーネからアカメの世界について簡単な知識を得ました。
※征史郎経由でマネーラ、ギャブロ、藤丸立香、キヨス、零、アルーシェ、夕月、ロックと関連人物の情報を得ました。
※ギャブロ、立香、侑、エレンと情報交換しました。
※立香から芦屋道満が関わってる可能性を示唆されてます。



【D-3とD-2の境界線(D-3側)/一日目/午前】

【藤堂悠奈@リベリオンズ Secret game 2nd Stage】
[状態]:健康 緑髪、ちょっと複雑、ダメージ(小)、疲労(小)
[装備]:コルトパイソン@リベリオンズSecret game 2nd Stage
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×1〜2 予備弾数多め
[思考・状態]
基本:なるべく多くの人を助け、殺し合いを止める
1 :ミスターLとレオーネと行動を共に侑って子のところへ向かう。
2 :私の周りに集まるのってもしかして変なのばかりなのかしら。
2 :彰……私は……
3 :殺し合いに乗っていない参加者達を一つにまとめる。乗った参加者は無力化して拘束する。
4 :もう少し、威力が低い銃もほしいわね……あと、逃走用の対策も練らないと……
5 :たとえ、どんな状況でも挫けず信念を貫く。
6 :征史郎はどうするべきだったのかしら……
7 :鬼くびれ大羅漢に時間停止ってもう別次元じゃない。
8 :修平を止めないといけない。
9 :パラレルワールド、ややこしくなりそう。
10:精神や魂に詳しい参加者っているのかしら。
11:貴真……!!
[備考]
※参戦時期はAルート、セカンドステージ突入語で修平達と別れた後
※緑髪に染めました。
※運営が死者を蘇らせる力を持っていると推測しています。
※ミスターLからスパマリの世界について簡単な知識を得ました。
※レオーネからアカメの世界について簡単な知識を得ました。
※金髪の男は簀巻きにするとケツイしました。
※パラレルワールドの可能性を認知しました。
※征史郎経由でマネーラ、ギャブロ、藤丸立香、キヨス、零、アルーシェ、夕月、ロックと関連人物の情報を得ました。

737ジェイル・ハウス・ロック ◆EPyDv9DKJs:2023/10/21(土) 15:24:09 ID:k/ynSJxI0
【レオーネ@アカメが斬る!】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(中)
[装備]:ホープナックル@グランブルーファンタジー
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜2(確認済み、ライオネルなし)
[思考・状況]
基本方針:メフィス達、覚悟できてんだろね。
1:民の為にもう一度戦いますかね。正義のマッサージ師として。
2:アカメを探……さなくても大丈夫だよね。親友を信じろって。
3:帝具なしでエスデスとかは会いたくねーな! あっても会いたくねーな!
4:優勝するしかなくなったらどうしよ。いや、正義のヒーローが勝つって決まってる。
5:ねぇユウナ。ジュネーヴ条約にジャマイカって何?
6:あのドS将軍に首輪で自爆してくんねえかな。いや無理か引っかからんよな
7:呪術的なのあたし論外ー! あの錬金術師とかなら知ってそうだけど殺しちまったわ!
8:おいおいなんだいこれ!?
[備考]
※参戦時期は漫画版死亡後。
※悠奈からリベリオンズの世界について簡単な知識を得ました。
※ミスターLからスパマリの世界について簡単な知識を得ました。
※征史郎経由でマネーラ、ギャブロ、藤丸立香、キヨス、零、アルーシェ、夕月、ロックと関連人物の情報を得ました。
※二日目の昼にE-3にあるかなでの森博物館に人が集まる情報を得ました。



【木刀政@デビルマン(漫画版)】
[状態]:左腕に矢傷、疲労(小)、ビリビリ状態
[装備]:妖刀『星砕き』@銀魂
[道具]:基本支給品、ドス六のドス@デビルマン(ドス六の支給品)、チェーン万次郎のチェーン@デビルマン(万次郎の支給品)、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]
基本方針:不動を止める。
0:不動に一発お見舞いして目を覚まさせる。
1:修平と見知らぬ襲撃者・藤堂悠奈・彰・来夢・佐藤マサオ・針目・アーナス・日ノ元士郎に警戒する。(一部懐疑的)
2:とりあえず北に向かうか。
3:こいつが藤堂悠奈か……
4:何をしやがった、てめえ!!
[備考]
※参戦時期は死亡後。



【古波蔵エレン@刀使ノ巫女】
[状態]:貧血、左腕欠損
[装備]:越前康継@刀使ノ巫女
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2(確認済み)
[思考・状況]
基本:殺し合いに乗るつもりはありまセーン。
1:片腕でも私のやることはかわりまセン。
2:薫や可奈美達が心配デスが、特に不安なのは姫和デスね。
3:ゆんゆん……あのとき身に纏っていた雰囲気は一体?……ちょっと心配デスね
4:二日目の昼にはE-3のかなでの森博物館へ行き、キヨスと呼ばれる人たちと情報交換
5:Oh! 越前康継! Thanks!
6:What!?
[備考]
※参戦時期はアニメ版21話、可奈美が融合した十条姫和との戦闘開始直後です
※ギャブロ・立香の世界について簡単に知りました
※ロックの危険性について知りました。
※立香から芦屋道満が関わってる可能性を示唆されてます。
※御刀を得たため刀使の能力を行使できます。



【高咲侑@ラブライブ! 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会】
[状態]:疲労(大)、腰打撲、右肩脱臼、ロックに対する怒り、エレンに対する自責の念(大)
[装備]:五視万能スペクテッド@アカメが斬る!、神木・黒那岐丸@Re:CREATORS
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜2(確認済み)
[思考・状況]
基本方針:みんなの事が心配。
1:みんな無事かな……レオーネさんも。
2:ごめんなさい、エレンさん……私のせいだ……
3:レオーネさんもエレンさんも、愛さんみたいな……
4:帝具……オーバーテクノロジーすぎない?
5:ロック(禄朗)さん……私は貴方を許せない。
6:ミスターLさんとエレンさんと行動する。
7:え、何!?
[備考]
※参戦時期は参戦時期は11話〜12話の間
※デイバックや基本支給品、ランダム支給品(×0〜2)は、
※ギャブロ・立香・アンナの世界について簡単に知りました
※ロックから零の妹について知りました。
※立香から芦屋道満が関わってる可能性を示唆されてます。

738ジェイル・ハウス・ロック ◆EPyDv9DKJs:2023/10/21(土) 15:24:27 ID:k/ynSJxI0
【崎村貴真@リベリオンズ Secret Game 2nd Stage】
[状態]:健康
[装備]:チーターローション残り8/10@ドラえもん、コルトポケットもどき@クレヨンしんちゃん ブリブリ王国の秘宝、まほうの玉×8@ドラゴンクエストビルダーズ2 破壊神シドーとからっぽの島
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×0〜1(優木せつ菜の分、武器の類)
[思考・状況]
基本方針 : この殺し合いにおける『理不尽』を楽しむ
1:政ついていくことを選んだら、まさかもう出会うとはね!
2:参加者に『理不尽』を振り撒く。
3:来夢ちゃん・せつ菜ちゃんの関係者に出会ったら、
  この顛末を上手く利用して、『理不尽』を振りまくはずだったんだけどね。
4:さあ、理不尽の始まりだ。
[備考]
※Zルート死亡後からの参戦となります。

【ビリビリキャンディ@スーパーペーパーマリオ】
政に支給。食べた対象を帯電状態にする。
電気技とかが使えると言うよりは触れるとダメージが出るや、
打撃に電撃が入り混じった攻撃になるタイプ。

【歯車の塔の檻@CRYSTAR-クライスタ-+オリジナル】
せつ菜に支給。原作におけるの3週目の終盤にて四人が分断された西洋の柵。
使用者のいるエリアの端を覆い、条件を満たすまで出入り不可能のエリアとする。
条件は【エリア内に生存する参加者の半数が死亡】によって解除される。
エリア内であれば使用者の場に居合わせてなくとも巻き添え。
制限時間不明だが、禁止エリアにされないとは限らない。

739ジェイル・ハウス・ロック ◆EPyDv9DKJs:2023/10/21(土) 15:25:11 ID:k/ynSJxI0
以上で投下終了です
ちょっと範囲の広すぎたり特殊な支給品なので、
ダメでしたら破棄にしてください

740ジェイル・ハウス・ロック ◆EPyDv9DKJs:2023/10/21(土) 16:00:15 ID:k/ynSJxI0
あ、すいません
場所ですがC-3とD-3でした

741 ◆2dNHP51a3Y:2023/11/24(金) 18:28:04 ID:CoyyKizw0
草壁美鈴、天王寺璃奈で予約します

742 ◆2dNHP51a3Y:2023/11/25(土) 13:04:46 ID:s908zpj.0
投下します

7433001 ◆2dNHP51a3Y:2023/11/25(土) 13:06:46 ID:s908zpj.0
辺獄に包まれた平安京において、朝昼夜という概念は存在しない。
ただ、赤く染まった夜だけがゲームが終わるまで続く。
そう、最後の一人が決まるまで。願いを手にするたった一人になるまで。


これは混迷蔓延る殺し合いの、ほんの小休止とも言える出来事の、その1ページ






考えなかった、というわけではなかった。でも、目を背けようとしていた、というのは間違ってはいない。
青春は他人が思っているほど長くはない、学生の3年間なんでほんの一瞬で過ぎ去っていくもの。
それが輝かしく、長く思えるだけであって。

それでも。別れの時は全員で、なんて幻想を抱いていたのかもしれない。
10人揃って円満に卒業して、お別れの挨拶を言い合えるものだと思っていたのかもしれない。
でも、そうはならなかった。そんなものはただの夢で、簡単に消えるものだと、思い知らされた。


『優木せつ菜』


その名前を聞いた時に思った、何かが抜け落ちていくような感覚。
同好会がこの先どうなってしまうだとか、侑さんは大丈夫なのだろうかとか。
呼ばれたのが愛餐じゃなくてよかったとほんの少しでも思ってしまった自分が恥ずかしくもなった。
現実味が恐ろしく薄かった。まるで夢のようだと。
心が、何処かへ行ってしまう。自分の知らない所で、散って、消えて、失われていって。
誰かの死は、紛れもなく喪失で。心がぐしゃぐしゃになりそうで。
友達が、大切な仲間が、同じ用に無くなっていくことが怖くて。


ふと、自分がどんな顔をしているのか、気になった。
平安時代の民家にも鏡みたいなものがあるのかなと、調べてみたらそれっぽいのがあるのを見て。
それで、ちゃんと自分の素顔は写っていたみたいだった。




―――こんな感情(かお)、出来れば知りたくなかった。

7443001 ◆2dNHP51a3Y:2023/11/25(土) 13:08:30 ID:s908zpj.0




◯ ◯ ◯


「……璃奈」

エリアB-5、とある民家の片隅で。
草壁美鈴が憂いていたのは現状の天王寺璃奈の精神面。
軽い急速を挟みながらも会場を歩き回っていた中で流れたディメーンによる死亡者の放送。
あの童磨という鬼の名前がなかったのは兎も角、この6時間内で38名が死んだという事実は悠長に構えていられるなどという次元をすでに超えていた。
呼ばれた名前の中に、璃奈の知り合いの名前があったのだろう。民家で休ませ、心を落ち着かせようとした。
軽く彼女の様子を覗いてみれば、あまりいい有様ではなかったのだろう。
自分の顔を抑え、鏡に映るそれを見たくないと言わんばかりに咽び泣いていた。
死による喪失は、初めてだったのだろう。

「誰にも、慣れることではないよ。喪失(それ)は」

誰もそうだ。仲間の死、戦友の死、親友の死、大切な人の死。そう簡単に割り切ることは出来ない。
草壁美鈴はそれを知っている。その後に起こってしまった惨劇も踏まえた上で。
黒騎士の一人にして美鈴の憧れであった草壁操/黒騎士スペルビア。彼女による奇襲によって赤嶺彩子を殺されて起こった田島賢久の暴走。
歯止めの効かぬ憎悪から生じた破壊衝動の暴走。その果てに、同じ仲間であった広原雪子によって介錯された。
その後の広原雪子は不安定だ。あの一件で情けない姿だった自分が言えた立場ではなかったが、その後の彼女は無貌にも黒騎士たちに特攻を仕掛け、そして一度死んだ。
ここで一度死んだという表現をしたのは、自分を含めあの赤い夜の一件で命を落とした皆が文字通り何事もなかったかのように蘇っていたから。

ここからの安易な立ち直りは、スクールアイドルという枠でしかない天王寺璃奈という只人には酷な話だ。
今は落ち着く為の時間が必要と、ただ見守ることしかできなかった。

「……我ながら、情けないな」

どうにも、他人に発破をかけたりするのは慣れているが、こういうのは不得意だと。
自分には、今は待つしかないと、不用意な発破は逆に精神の均衡を悪い方向に偏らせかねない。

「私は外を見張っておく。……心配しなくても大丈夫だ」

未だ蹲る璃奈に、そう優しく語りかける。
待つだけでは何も変わらない、けれど彼女はそう強くはないのだ。
自分のような強さを求めるのも酷である。彼女は本当に普通の人なのだ。
その奥底に何かが宿っていた、なんて卓袱台返しなど存在しない。
スクールアイドルと言う肩書きだけがあるだけの、ただの。
だから今は、その心が休まる時間が必要と、そう考えて待つしかなかった。



【B-5 民家の外/一日目/朝】
【草壁美鈴@11eyes -罪と罰と贖いの少女-】
[状態]:健康、術の多用による疲労(小)
[装備]:小烏丸天国+雷切+童子切安綱@11eyes -罪と罰と贖いの少女-
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本方針:殺し合いの打破と、草壁七剣の回収。
1:璃奈と行動を共にする
2:この赤い夜もどきは一体何だ?……魔術によるものなのか?
3:次、外道(童麿)と相まみえたら、頸を刎ねることを試す
4:勇者……奴のあの才は危険だ……
5:璃奈……今は、落ち着く時間が欲しいだろう……
[備考]
※参戦時期は本編終了後です。皐月駆と体を重ねています。
※モッコスが名乗るエドワードハインリッヒは偽名だと思っています。
※モッコスから松坂さとうの危険性について聞きました(半信半疑)
※頸を刎ねれば、童麿を祓うことができるのではないかと推測しています。
※璃奈からスクールアイドルについて簡単に知りました。
※モッコスが空白の才を手にしたことを知りました。
※残りの草壁七剣は以下の4本です。
 ・火車切広光
 ・鉋切長光
 ・鬼切(別名:鬼切安綱、髭切など)
 ・蜘蛛切(別名:膝丸、薄緑など)

7453001 ◆2dNHP51a3Y:2023/11/25(土) 13:08:46 ID:s908zpj.0



「………」

遠く離れた対岸の火事の如く現実味のなかった『死』という現象が、ひたすらに怖く感じた。
ぽろぽろと、このままじっとしていたままじゃあまた誰か居なくなってしまうと思ってしまう。

「……みんな、無事、なの、かな……」

心配だけが頭の中を埋め尽くしている。
自分が知らない間にもう死んでしまっているのではないか、そんな不安に苛まれる。

「もしか、したら……!」

悪い予感というのは、払拭したいと考えれば考えるほど偏ってしまう。
頭に浮かぶ最悪の結末。肉片、破壊痕、血溜まり。そしてその上に倒れている―――。

「っっっ!!!!!」

血溜まりの中に沈む友人たち、そんな最悪の光景が過ぎってしまい、悪寒だけがざわめいて。

「……っ……っ!」

動悸が止まらず、絶えず心臓の鼓動は聞こえ続ける。
恐怖と不安。最悪の未来。晴れる事のない赤い夜だけが璃奈の心を絶望が侵している。
美鈴さんもああは言ってくれたけど、もしも、もしもなどと思いこんでしまう。
自分に出来ることはあるかもしれないけれど、自分が立ち上がるまでに死んでしまっては、なんて。
頭の中が、心の中がぐちゃぐちゃになって。

「愛さん、私、どうしたら……」

抗う力はあるというのに、友達が一人居なくなってしまった途端に、その恐怖を自覚してしまった。
余りにも、自分は脆いものだと突きつけられて。


――それじゃあ、”味見”といこうじゃねぇか。……俺様の〇〇〇はBIGだから安心して感じろや。前の男のことは忘れさせてやるよ

「――――ぁ」

何故か、あの邪悪な勇者を自称する変態の顔が頭の中に浮かぶ。
それは、女をモノ扱いして、壊してしまう最低な男のただの欲望に満ちた発言だというのに。

「……あ、う」

あの時の、身体の疼きが、また。
下腹部にこみ上げる熱さが、一時的にとは言え恐怖を忘れさせる。

「どうして……?」

だが、それが齎すのは快感と同時に困惑。
濡れた下着の感触と、湿った床の感覚。
まだ、違和感。「どうしてあんな恥ずかしい事を思い出したのか」何ていう疑問程度のもの。
けれど、それでも。忘れられた。苦しい未来を、ほんの一瞬だけ。

「………なん、で」

天王寺璃奈は分からない。モッコスの手によりほんの一瞬だけでも刻まれたそれは。
死と喪失の恐怖を埋め合わせるように浮かび上がったそれは。
間違いなく彼女に対して逃げ道を与えたようなもので。
その濡れに触れる事はしなかったとして、その違和感は。
穢れと逃避の選択肢が与えられという意義は。
斯くも、天王寺璃奈という少女に堕落とい逃げ道が与えられたということで。
彼女が受け入れようと受け入れまいと、それは残酷で無慈悲な赤い現実(レッド・リアリティ)だけが続いていくのだ。

【B-5 民家内/一日目/朝】
【天王寺璃奈@ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会】
[状態]:発情(極小)、精神的疲労(第)、肉体的疲労(小)
[装備]:ドミネーター@PSYCHO-PASSシリーズ シャンバラ@アカメが斬る 璃奈ちゃんボード@ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会
[道具]:基本支給品、
[思考・状況]
基本方針:殺し合いには乗らない。
1:美鈴さんと行動を共にする
2:愛さんや同好会の友達と合流したい。でも、もし、みんな、もう……
3::……さっきの人達(童磨・エドワードハインリッヒ)とは、もう会いたくない。
4:力(ドミネーター)を使う意義が来たら撃つ
5:美鈴さん……大人の女性……璃奈ちゃんボード「ドキドキ」(?□!) ///
6:……どうして?
[備考]
※参戦時期はアニメ最終話の後です。
※ドミネーターはエリミネーター1発分の電力を消費しましたが、充電しました。
 会場のどこかに充電設備が存在するかもしれません。(B-7※他にもあるかもしれません)
※結果的に殺してはいないものの、自分が銃の引き金を引いて血だまりを生み出してしまったことに内心動揺していましたが、美鈴の言葉から落ち着きを取り戻しました。
※モッコスのことを名乗ったエドワードハインリッヒと思っています。
※モッコスから松坂さとうの危険性について聞きました(半信半疑)
※モッコスが空白の才を手にしたことを知りました。
※美鈴から”赤い夜”の出来事について簡単に知りました。
※ドミネーターの使用について理解しました。(使用方法や犯罪係数など)
※モッコスによって刻まれた快楽的感覚が彼女の中でまた燻り始めました

746 ◆2dNHP51a3Y:2023/11/25(土) 13:09:08 ID:s908zpj.0
投下終了します 念のためageておきます

747 ◆2dNHP51a3Y:2023/11/25(土) 13:09:19 ID:s908zpj.0
age

748 ◆EPyDv9DKJs:2023/11/28(火) 18:10:21 ID:Yl5987lc0
久しぶりの投下お疲れ様です
とりあえず感想を

>ギアチェンジ
ダメージのお陰で辛うじて戦えてるけど、
やっぱエスデス相手だと致し方ないんだよね
萎えたり昂ったりもうこの将軍色々ダメなんじゃないかな
嫌元が良かったかどうかと問われると、うん……

>3001
モッコスウゥ!! 禍根を残して死ぬんじゃあない!!
この禍根果たして大丈夫なんですかねぇ……いや大丈夫じゃない
やべー奴らは減ったけどいないわけじゃないからなぁ……

それはそれとして投下します

749 ◆EPyDv9DKJs:2023/11/28(火) 18:12:32 ID:Yl5987lc0
 歯車の塔の檻。
 それは最終的に仲間同士で殺し合うこととなった破滅の檻。
 全ては双子の悪魔の手の上で踊らされ続けた結末を迎えたそれは、
 今この舞台となる異なる辺獄にも現れていた。

「ちくしょう、頑丈すぎて壊せねえ!隙間もあるように見えて見えない壁がある!」

「銃器もダメ。多分本当に条件を満たすまで出られないみたい。」

「……で、だれが犠牲になるつもりだ?」

 脱出を図ろうとする緑コンビを前に、
 木刀政による冷徹な判断の声が紡がれる。
 条件はこのエリア内の参加者の半分が死亡すること。
 此処にいるのはエリア外のミスターLを除けば丁度六人。
 つまり、どうあっても此処で三人は死ななければならない。
 一人は決まっている。他者を謀る理不尽を体現したい男だ。
 だがそれだけでは足りない。後二人は必要になってしまう。

「待ちなさいよ! 方法を探せば……」

「そんな生温いことをする奴らかよ。
 寧ろこうやって、言い争う方が楽しんでる奴らだろ。
 そこんとこどうなんだよ、メフィス。」

 確認と言わんばかりに空を見上げる。
 メフィスの表情はお返しとばかりに笑みを浮かべ、
 その通りだと言葉にせずとも返事をするかのようだ。
 最早言葉を聞くまでもなく、脱出は不可能なのだろう。

「けどそれは、こっちから二人死ねって言ってるようなもんだけど?」

 此処で一番反発するのはレオーネだ。
 レオーネにとっては無辜の民でもあり、仲間である。
 はいそうですかと死なせるつもりはないし、
 自分も率先して死ぬつもりもない。

「悪いが俺はデビルマンを、
 不動明をぜってぇ止めなきゃいけねえ。
 それができるまでは死んでも死にきれねえんだよ。」

 生きて帰る以上に大事なことだ。牧村を守れなかったその贖罪もある。
 どのような間柄かは知らないものの、先の戦いでもその覚悟を見せた。
 名前だけでも厄介そうな存在に軽くレオーネは頭を悩ませる。

「それにしてもあっさり支給品を渡してきたな。何か隠し持ってるのか?」

 貴真は詰みであり目的そのものは達成できた。
 だからか支給品についてはあっさりと手放してそのまま政へ提供されている。
 それと、余計なことをしないよう適当な布を調達して両足と両手も縛ってはいる。
 余りにもあっさり受け入れすぎていて逆に不気味に感じてしまう。

「いいや、何も。と言うかそっちの子が心を読めるなら、
 いくら隠し持ったところで、何の意味ないだろう?」

「うん、嘘は言ってないよ。」

 スペクテッドの能力には透視も含まれる。
 それらしいものを持ってる様子は見受けられない。
 心を読んだ上で何も問題ないとは思うが、同時に気味が悪い。
 理不尽になりたい。その為であれば自分の命すら簡単に捨てられる。
 知ることができても、本当にそんな理解不能な思考をするのかと思えてしまう。
 これ以上見続けてたら吐き気を催しかねないので見ないようにしているほどだ。

「俺はこれから君達がどうするかを知りたいだけさ。
 不殺を貫くかい? それとも俺を殺して道を開くかい?
 まあ、どんなことをしたって君等には後二人犠牲が必要だけど。」

 そう、あの時以上の人数がね。
 不敵に笑みを浮かべる彼を政は思い切りぶん殴るが、
 だからと言って状況が好転するわけではなかった。

「念のため聞くけどさぁメフィス。
 仮に三人になったら本当に檻は消えるんだよな?」

「半分になったら必ず戻る。しかし一つ勘違いしておらぬかお主らは。」

「あ?」

「……ッ!? 皆! 離れろ!!」

 レオーネの一言と共に全員がその場から飛びのく。
 切羽詰まった声は経験の浅い侑ですら行動に出れた。
 飛びのけば互いを裂くように氷の壁が縦一閃に出来上がっている。
 彼女が感じた殺気と、この氷は間違いなくなく奴のものだ。
 一人逃げ遅れた貴真は氷に足を囚われて身動きが取れなくなってるが、
 この状況でははっきり言って気を回す余裕など誰もいない。

750 ◆EPyDv9DKJs:2023/11/28(火) 18:14:35 ID:Yl5987lc0
「誰も此処にいるのが『六人』とは言ってないぞ?」

「この氷、最悪なのが───」

「南に大人数いると聞いてみれば、
 ナイトレイドか。あの時の決戦の場にいなかった方と出会うとはな。
 以前よりも姿が違うようだが、タツミと同じで帝具とでも混ざったのか?」

「……誰だお前えええええぇ!?」

 脳裏で予想してた相手ではある。
 だが想像を絶する状態に思わずレオーネは叫ばずにはいられない。
 あのドS将軍がハイグレになっている時点でツッコミどころ満載だ。
 だと言うのに股間の部分は女性では明らかにありえない膨らみをしており、
 一体全体何をどうしたらそうなるのかが知りたくなるほどに変わり果てている。
 しかも胸元から垂れているのは汗ではなく母乳の類であり、
 帝国将軍の肩書きは何処へ行ったのかとすら思えてしまう。

「私はエスデスだぞ? もっとも、
 帝国の将軍なんて肩書きは地に落ちたがな。」

「そりゃ落ちるだろうねその見た目から!
 そんなの見たら大臣だってドン引きするよ!?」

 Dr.スタイリッシュやワイルドハントとはもっとベクトルが別の、
 斜め上すぎる姿には敵であるレオーネですら突っ込み役に回らざるを得ない。

「だが存外悪くなくてな。酸いも甘いも嚙み分けるとはこのことだと理解している。」
 
 だめだこいつ、話が前以上に噛み合わない。
 一番出会いたくない相手で、一番厄介な相手なのに。
 出会ってみたら最早同一人物かと疑いたくなってしまっていた。

「あれ、本当にエスデス?」

 流石の悠奈もレオーネの言ってた情報と別物で、
 真偽を確かめたくなってしまう部分は出てきてしまう。

「あたしの知ってるドS将軍のはず、
 なんだけどなぁ……けど殺気は本物だよ。」

 思うところはいくらでもあるにはある。
 それでもあれがあのエスデスと言うのは変わらない。
 いくら悠奈の頼みでもこの女だけは絶対に止められない。
 たとえ首だけになろうとも殺し合いを楽しむだろう狂人であり、
 デモンズエキスによって生半可な拘束は全て無力化してくるだろう。
 彼女だけはどんな理由があろうとも、殺さなければならない一人だ。

「あの小娘と同じ制服か。知り合いがいたのか。」

「……どうやら、私にとっても無関係な相手ではないようデスね。」

 エレンを一瞥しての一言。
 同じ制服の小娘。それが誰かなど分かりきっている。
 彼女には聞かなければならないことが増えたものの、その答えはすぐに出された。

「私が下手人ではないがな。知りたくば北にいる堂島と言う男にでも尋ねればいい。
 それよりも、いい加減おしゃべりも飽きていてな。精々私を楽しませて見せることだ!」

 エスデスも傷だらけだ。
 ミスティのお陰でいくらか回復していても、
 善や堂島達を筆頭とした強者殿連戦は疲労を極めており、
 普段ならばまともに攻撃を受けることなどないだろうロックの攻撃も簡単に受けた。

 疲労困憊なのは確実だ。
 それでも止まらない。腕を斬り落とそうと、
 どんなことがあっても最期まで戦いを楽しまんとする。
 マゾヒストになったところで、サディストであることは未だ健在だ。

 肉薄するエスデスに最初に動けたのは迅移で加速したエレン。
 はかぶさの剣と切り結び、甲高い音が無数に響き渡る。

「片腕だと言うのにやるではないか。」

「鍛えてますからネ。」

「だが足りないな!」

 アカメとも渡り合えるエスデスにとって、
 この程度ならば疲労していたところで押し返せる。
 容易に胴をがら空きにさせ袈裟斬りを見舞うが、

「そうはいきませんよ!」

 膂力を上げる八幡力は薫の方が上だが、
 全身を硬化させる金剛身ならばエレンの方が上手た。
 逆に弾かれたことで隙だらけの鳩尾へと蹴りを叩き込む。

「いい蹴りだ。さっきよりも興奮するぞ!」

(なんだか相手にしたくないタイプですね……)

 ハイグレから見え隠れする『ソレ』が別の意味で忌避感が強く感じさせられる。
 薫について何か知ってはいる様子だが、その様子を見るとあまり聞きたくはない。
 同じような目に遭っていると言う可能性の方が圧倒的に高いのだから。
 仮にも八幡力で強化した蹴りをものともせず肉薄する姿なのも、
 相手にしたくない要因ではあるが。

「あたしを忘れるとはいい度胸だなドS元将軍!」

751 ◆EPyDv9DKJs:2023/11/28(火) 18:18:00 ID:Yl5987lc0
 横やりの如く乱入するレオーネのホープ・ナックルによる拳の乱打。
 丁寧に受け流しながら逆に隙をついて剣による突きを見舞う。
 確実に当てられると思ったそれは、想像以上の速度で躱し逆に右ストレートが頬を直撃。
 威力も跳ね上がったそれに軽く吹き飛びながらもすぐ姿勢を整え、
 ヴァイスシュナーベルを使い氷の剣をガトリングの如く大量に飛ばす。
 後方にいた全員は近くの塀や建物に身を隠しながらその攻撃を防ぐ形ではあるが、
 レオーネだけは走りながら移動して氷の壁もぶち破って掻い潜りそのまま肉薄する。

「貴様、何か仕込んだな?」

 以前ブドーの時の戦いよりもはるかに動きが良くなっている。
 ダメージの差ではない。何かしらの支給品を使ってると見ていい。
 ライオネルなしでこれだけの動きをすることはまず不可能だ。

「さぁて、どうだか。」

 彼女がエレンと戦ってる間に、
 レオーネはある錠剤を一つ口にしている。
 アカメが対エスデス用にと用意したドーピング薬だ。
 帝具パーフェクターで調整されたのでリスクは大分抑えられたが、
 それでも薬物。今後支障をきたすことだってありうるだろう。
 だとしても、レオーネにとってエスデスが現状の最強格となる存在だ。
 此処で倒せれば殺し合いで死ぬ人数は大幅に減ると言ってもいいだろう。
 彼女を倒せるのであれば、お釣りは間違いなく大きい。

(悠奈にはちょっと悪いけども。)

 なるべく人を殺さず無力化させていく。
 その方針にそぐわない動きだがこればかりは仕方がない。
 相手はあのエスデスだ。どうしたって止まらない相手だ。
 こいつだけは此処で殺す。その覚悟の表れでもある。

 足元からの氷の刃が飛び出す。
 バックステップで回避するも続けざまに飛び出していく。
 近くの塀を足場としながら移動し、背後へと回り込む。

「いくら仕込んだところでアカメ以下だ貴様は!」

 回り込んだところで対応はエスデスが上。
 はかぶさの剣が首を斬り落とさんとする。

「だったら俺ならどうだ!」

 その刃を防ぐのは星砕きこと木刀政。
 はかぶさの剣を叩き落とし、そのまま側頭部を殴りつけんとする。

「遅すぎる凡夫だな。」

 凍らせた腕を挟む形で防御され、そのまま彼の顔へと振れる。
 帝具スサノオをして一瞬で氷漬けにし、奥の手をなくしては復帰できない氷像の完。

「凍れ───ッ!?」

752 ◆EPyDv9DKJs:2023/11/28(火) 18:18:57 ID:Yl5987lc0
 にはならない。
 まだビリビリキャンディの効果により、
 振れれば電流が流されることを彼女は知らない。
 彼岸が見えた気がしたものの、首の皮一枚繋がった。

「サンキュー、木刀の人!」

 その隙を見逃すことはない。
 麻痺して身動きが止まったところを顔面に右ストレートを叩き込む。
 大きく吹き飛ばされ転がりながらもすぐに受け身を取って起き上がる。

「グッ、騙されたと言うわけか。
 だが良いぞ。今の一撃も悪くない。」

 興奮が冷めやらぬことは、
 そのハイグレから見え隠れするものを見て誰もが察する。
 全員が全員して引きつった顔になるのは言うまでもないことだ。

「あいつ、ドSどころかドMも獲得したのか?」

「あたしが知りたいよ! あれで人間だから恐ろしいよ。」

「冗談きついぜ。」

「ところであんた。ちょっと支給品でいいのあるかい?」

「あるぜ。やべーやつ含めてな。」



 ◆ ◆ ◆



「随分、落ち着いてるんですね。」

 悠奈も加勢して戦って言う最中。
 侑は両足が凍って動けない貴真を一瞥する。
 足には追加で流れ弾の氷の刃が刺さっていて脂汗はあれど、
 特に先程と様子があまり変わっていなかった。

「まあ俺は目的達成しちゃったからね。
 これが俺の大好きさ。君の仲間の受け売りでもあるけどね。」

 大好きと仲間の受け売り。
 彼が誰と一緒にいたかを察して手に力がこもる。

「おっと、俺はとどめは刺してないよ。
 来夢って子が首を刎ねた。その事実は変わらないさ。
 信じられないなら確認すればいいさ。俺ならそうさせる。違うかい?」

 スペクテッドで頭の中を読まれている。
 なら深く語らずとも彼女は自分の存在を、
 存在理由を理解はせずとも知ってはいる。
 まるで旧友のような風に語りかけてきた。

「どうしてそんなに……理不尽になりたいんですか。」

「なりたかっただけだよ。彼女の大好きのように。
 俺も大好きを追いかけた。内容が違った。それだけだろ?」

 同好会の皆はそれぞれがバラバラだ。
 マイペースな彼方、コミュニケーションが苦手な璃奈、逆に元気な愛さん。
 十人そろっての同好会だが、それぞれが自分の得意分野を、好きに対し邁進している。
 だからこそ嫌悪感が凄まじい。彼の言い分が僅かにでも理解できてしまうことに。
 そんな彼から一秒でも離れたい。そう願うかのように背を向ける。

「戦いに行くのかい? 君だと戦力外だと思うけどね。」

「私にだってできることの一つぐらい、あるので。」


 ◆ ◆ ◆



 四対一。圧倒的な人数差だ。
 だと言うのに詰め切ることはできない。
 銃、拳、木刀、御刀。ゲーム参加者、暗殺者、悪魔とも戦えた不良、刀使。
 それぞれが得物や戦いにおける経験を持ち合わせていたとしても、
 帝国最強と呼ばれたエスデスと帝具デモンズエキスには通用しない。
 皆が死を免れてるのは、ひとえにこれまでの彼女のダメージが甚大だからだ。
 善との戦い、集団との戦い、更にロックとの戦いでも少なからず負傷している。
 それでも食らいついているのは、ドーピングして強化しているレオーネだけだ。

(クソッ、このドS将軍やっぱ強すぎんだろ!!)

 これで大分弱体化してるのだから、
 こんなのを相手したアカメを称賛したくなる。
 レオーネを中心に三人がサポートに回りながら攻撃を狙おうとするすが、
 それでもなおエスデスが上回っていて的確な対応をしていく。

(一瞬でもつける隙さえあれば!)

753 ◆EPyDv9DKJs:2023/11/28(火) 18:20:35 ID:Yl5987lc0
 彼女の周囲の地面から生える刃の如き氷柱。
 全員が回避に専念するとエスデスは後方へと跳躍。
 そのまま再びヴァイスシュナーベルで悠奈を狙う。
 ダッシュで回避に専念するも一本の剣が彼女の足を掠め転倒させる。

「この……!」

 着地したエスデスへ肉薄するレオーネ。
 迎撃のための準備を整えようとするエスデスだが、
 エスデスが斬りにかかろうとした彼女の姿が変わる。
 十代半ばの少年。茶色い髪と緑の瞳の彼を忘れはしない。
 自分が恋焦がれて手に入れることのなかった少年、タツミ。

「残念だがその手は既に受けたことがある。」

 即座に幻影を、レオーネを斬る。
 彼女の後方にいた侑のスペクテッドによる幻視。
 相手の一番思ってる相手に見せかける能力ではあるが、
 スペクテッドの幻視は生前に既に一度受けたことがある。
 その時も彼女にとってはタツミであっても斬り捨てる選択をした。
 幻覚が消えれば、レオーネの腹部に真一文字の傷が刻まれていた。
 スペクテッドの能力を使おうとも相手になどなりはしない。
 彼女のことは捨て置いて、そのまま戦闘を続行する。

「どうだかね! ちょっとだけ気がそれたお陰で間合いだよ!」

 ダメージをものともせず、
 レオーネは回り込んでエスデスを羽交い絞めにする。
 振り解こうにも疲労の蓄積が邪魔をしていく。

「分かってるのか? 私の氷は背中だろうと……」

「悠奈! 後は頼んだ!」

「……分かったわ。」

 エスデスだけは説得できないし、
 殺さないと絶対に止まることを知らない。
 それだけは情報交換の時に伝えられている。
 誰も殺さないし殺させない。その志は変えたくはない。
 でもどうにもならない存在だ。無から氷を出す存在を縛る方法などない。
 だからレオーネにも『こいつばかりは諦めてくれ』と念押しされている。
 貴真とは別ベクトルの狂人だと。彼女を縛る手段は存在しない。
 もしあるとするならば、帝具イレイストーンぐらいだろう。
 もっとも、ライオネルを破壊したのを見るに、使った瞬間身体が爆散するかもしれないが。
 だからいかに不殺主義を掲げている悠奈でも此処ばかりは躊躇うわけにはいかない。
 本当の意味で理解した。彼女がどれだけ危険な存在なのかを。
 止めなければ此処にいる全員が皆殺しにされてしまう。
 覚悟は一瞬。心臓と頭部を狙った正確な射撃をお見舞いする。





 銃弾は頭部と胸に吸い込まれるも、心臓は氷の壁に阻まれ停止、
 額に風穴を開けたであろう弾丸も氷の壁で弾道がずれ頭部を掠めるだけに留まる。
 悠奈の射撃は正確だ。当たればまず普通の人間は死んでいただろう。
 それ以上にエスデスが出鱈目な存在だった。ただそれだけの事だ。
 更に後方に氷柱を背中から突き出し、レオーネの脇腹を貫く。

「ガッ……!」

「本当に甘いな。その程度で死ぬわけがないだろう。
 帝具もなしに戦って、本気で勝てるとでも思ったのか?」

 元々エスデスへの対抗は帝具使いを複数人と、
 ドーピングをしたアカメがいてようやく勝てた存在。
 ダメージの差を鑑みたところで、優勢には足りえない。

「銃弾を防ぐだけの分厚い氷ってありかよ───なんてな。」

「何?」

 なんてことのない渾身の一撃を防がれた、
 かと思えば背後のレオーネは表情は笑みを浮かべる。

「此処までは読んでたんだよ。
 氷柱で繋がったのも想定済みさ。
 木刀の! ちゃんとやったんだよなぁ!」

「ああ、やったが……死ぬんじゃ───!!」

 その言葉をかき消すように、二人の周囲を大爆発が襲う。
 政がやったのは、貴真から回収したまほうの玉をありったけ使っての爆破だ。
 悠奈の銃撃はそれをばらまく音を隠す為のカモフラージュに過ぎない。
 勿論これは悠奈は知らない。知ればまず反対するだろうからと。
 言うなれば自爆特攻に等しい行為だ。反対するのは当然である。
 だがレオーネにはこれを生き延びる自信は一応あった。

754 ◆EPyDv9DKJs:2023/11/28(火) 18:21:50 ID:Yl5987lc0
 爆発で周囲は見えない。
 倒せたのか、レオーネは無事なのか。
 やがて二人の姿は見えるようになるも、

「グ……やってくれたな……!!」

 それでもなお、倒せない。
 氷の障壁を咄嗟に張ったものの、
 まほうの玉の威力は並の爆弾を凌駕する。
 彼女とて無傷ではいかず、痛々しい傷跡が全身の至るところに残す。
 だが、それでも倒れないのがエスデスと言ったところだ。
 当然レオーネも無傷と言うわけには行かなかったものの、

「やっぱ、再生力が上がってるか……ゴハッ。」

 吹き飛んだ先で起き上がったレオーネも、
 脇腹の穴以外にもダメージを負ってるが思ってるよりも無事な方だ。
 危険種との融合。タツミがイクルシオを使いすぎたことのと同じように、
 ライオネルを使いすぎたことで常人よりも回復力が高いものになっている。
 あくまで回復力が高いだけであって、まほうの玉のダメージは十分すぎるぐらい受けた。

「良い攻撃だったぞ……だがまだ足りないな!!」

 倒れるレオーネへと向けて氷の塊、
 ハーゲルシュプルングが空中に形成される。
 疲労も相まって規模は小さいが、人一人ぐらいは圧殺は余裕だ。

「!」

 だがそれは叶わない。
 突如飛来する大砲のような爆音。
 音と同時に迫るそれを避けるのに専念し、
 その爆風で吹き飛ばされ距離を強制的に取らされてしまう。

「ッ……よもやあんな初歩的な攻撃を受けそうになるか。
 興奮のし過ぎと言うのも、余り良いものではないか。」

 エスデスは咄嗟に氷の盾を使って爆風に乗って吹き飛んだことで、
 辛うじて一命をとりとめることができたもののダメージは限界に近い。
 負けるつもりはないが、緑郎にぼやかれても余り文句は言えないだろう。

「流石に休むべきか……」

 闘争はいくらでもしたい。
 だがエスデスと言えども永久機関ではない。
 腹も減るし休息も必要だ。善と戦ってからと言うもの、
 ろくに休んでないのもあり一度戦場に戻るのを諦め、
 適当に移動しながら支給品の食料を取り出し口にする。

【エスデス@アカメが斬る!】
[状態]:ハイグレ人間、火傷(中)、負傷(特大)、疲労(特大)、内臓損傷(治療済)、乳首母乳化、アナル拡張済み、ふたなり化、処女喪失
[装備]:破壊神シドーとからっぽの島、中長ナス@現実
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1 ロックの目玉(冷凍保存済み)
[思考・状況]:ドSもドMも愉しみ尽くす
0:殺し合いという名のSMプレイを愉しみ尽くす。
1:ロックと言うペットを使ってみる。使えないようなら嬲って殺す
2:堂島とは再戦したい。が、仮に再戦できなくてもその虚しさを堪能できればそれはそれで...
3:優勝出来たら善かミスティでも蘇らせるとしよう。
4:北条沙都子と北条鉄平は別にどうでもいいが見つけたら狩る。
5:せっかくふたなりになったことだし帰ったらタツミに使ってみるか。
6:今は休む。とりあえずロックと合流だ。
[備考]
※参戦時期は漫画版死亡後より。
※ナスで処女喪失しました。
※ハイグレ光線銃によりハイグレ人間となりました。
※摩訶鉢特摩は使用したため、2日目以降でないと使用できません。
※戦闘は支障なく行えます。
※デモンズエキス本来の効果によりハイグレ光線の洗脳効果を食らいつくしました。

(まったく、皆揃って想定しておらんのが痛快じゃな。
 此処に巻き込まれた参加者は六人ではなく十人だと言うことを。)

755 ◆EPyDv9DKJs:2023/11/28(火) 18:24:45 ID:Yl5987lc0
 いつのまにか舞台から消え、
 歯車の塔の上からメフィスは戦況を眺めている。
 半分と言ったのに、誰もその人数を理解していない。
 何も知らず行動する滑稽な姿は、セレマを殺した零を思い出させる。











 砲撃が飛んできた路地から飛び出す影。
 悠奈にとっては忘れない、見覚えのある男の姿。

「修平……!」

「悪いな悠奈。理由は……聞く必要はないだろ。」

 理由は分かっている。此処で仕留めるのだと。
 大事な存在である琴美を生き返らせるために。
 最早それを騙る理由は何処にもない。

「させな───」

 銃を構えるも、違和感に気付いた。
 彼が持っていたのは所謂ハンドガンの類だ。
 じゃあ、大砲は一体どこから湧いてきたのか。
 それに気づくころには手遅れだった。

 腕に突き刺さるボウガンの矢。
 痛みの余り銃をうまく握れず手放してしまう。

(もう一人!? しかもあの男、あの時の───)

 気付くころにはもう遅かった。
 修平だけではなかった。向こうも徒党を組んでいる。
 しかも彼女にとっては見覚えのある、軍服の男だ。
 エスデスとの戦いに加え修平の存在が彼女の判断を鈍らせた。
 その隙を修平は見逃すことはしない。手筈通りに事を進める。
 コルトM1911A1の銃口へ向けられ、弾丸が放たれた。

「させる、かよぉ!!」

 爆発から復帰したレオーネが猛ダッシュで弾丸をキャッチ。
 何事もなかったかのようにその辺へと放り投げ捨ててしまう。

(な、弾丸を素手で掴んだだと!?)

 棒切れでクロスボウを弾いた少年の比ではない。
 最早人間をやめているかのような所業……と言うより、
 危険種との融合なので実際人間をやめているが。

「クソッ、どこまで化物揃いなんだよ!」

 修平も軍服も狙いの優先を変えた。
 悠奈は銃を落とした状態で戦力外なのもある。
 銃を、バズーカを放つがそれらを素手で掴むわ素手ではじき返すわ、
 生身で受けても尚彼女の突撃は止まることを知らない。

(狙いは、バズーカの方!)

 獣のような足であるレオーネにとって、
 間合いを詰めるなど容易な事だった。
 そして間合いへ入った軍服の男はガッツの義手で防ごうとするが、

「オラァ!!!」

 そのまま義手をぶち抜き、
 顔面を思いっきり殴り飛ばされた。
 ミシリ、と人間からなってはならない音と共に。
 特殊な鍛え方をした大臣ですら二回受けて沈めるほどの威力だ。
 並の人間が受ければ、最悪即死してもおかしくないレベルのものだ。

「残るは……アンタだけだよ。」

 バズーカや爆発におり血だらけで思考が回ってないのもあり、
 悠奈の言う不殺主義に提案するレオーネではなくなっている。
 嘗てのように変わらずドブ攫いをする、猛獣か或いは暗殺者眼差しを前に、
 修平へたじろいでしまう。

「グッ……!!」

 どうすれば助かるか。考えるだけ無駄だった。
 彼にはもうこの状況で使える武器はない。
 しかし、レオーネは一歩踏み出した後から動こうとしなかった。
 どういうことかと疑問を持ったが、すぐに答えは出た。

756 ◆EPyDv9DKJs:2023/11/28(火) 18:26:20 ID:Yl5987lc0
「立ったまま、死んでいる。」

 まほうの玉は八個も使った。
 並じゃない威力のそれを生身で受けて、
 悟空と言えどダメージを受けたバズーカも生身で受けて、
 生きている、と言う方がおかしいと言うものだ。

「レオー、ネ……!!」

「結果だけで言えば、俺の一人勝ち、か。」

 立ったまま死んでいるレオーネを一瞥し、再び銃を悠奈へと構える修平。
 銃を回収こそしたものの、腕の痛みで狙いを定めるのは難しいし、
 何より悠奈は修平を殺す気はない。撃つ前に撃たれるのは確定だ。

「今度こそ、言葉は不要だろ。」

「ええ、そうね……でも私を引き継ぐ者はいるわ。
 無理に彼女のことを忘れろなんて言えないけど、それだけは覚悟しなさい。」

 その一言を最後に、彼女の額に赤い花が咲いた。



 ◆ ◆ ◆



 一方その頃。
 レオーネが弾いたバズーカで周囲が破壊され、
 煙が充満する悠奈達の後方においては。

「エレンさん!」

 背後の煙の中かから聞こえる聞きなれた声。

「ゆんゆん! 余り近づいては危険で……」

 言葉を紡ぐ最中、強烈な痛みが走った。
 自分の腹部を見やれば、見たことのない腕が生えている。

「残念だったな、俺だよ。ロックさ。」

 侑の声で紡がれる男の口調。
 キラークイーンが背後から彼女の胴体を貫いたからだ。
 土煙によって声だけでは気づけなかったことではあった。
 よくみれば侑は装備してる筈のスペクテッドがなければ、
 服も制服とは全くの別物なのだから。

(ハハハ、やっぱり俺はこうでなくちゃあなぁ。)

 ガイアファンデーション。エスデスから使わないと与えられた支給品だ。、
 女装も声も同じにできるそれは演技もできるロックにとっては慣れた支給品とも言えるものだ。
 特に煙の濃い混戦であれば服が違ってたとしてもごまかしがきくのが大きかった。
 だが計算違いなこともある。彼女がただの人間であればそれで決着がついた。

「な、腹をぶちぬいたのに無事だと!?」

 拳を引き抜けば血も出ていない。
 ロックがいない間にエレンは越前康継を手にした。
 写シによって物理ダメージはなかったことにされる。
 たとえ上半身と下半身が分断される一撃だとしても。
 刀使を知らない彼にそんなことを予見することは不可能だ。

「甘かったデスね……刀使には通じませんヨ。」

 物理ダメージが軽減されるだけなので、
 ある程度の痛みがあることは否定できないものの、
 左腕の借りを返さなければならない相手がいる。

「チッ、だったら逃げるしかないか。
 もう既に俺の『目標』は終えたしな!」

 だが捨て台詞と共に、
 文字通り煙に巻きながらあっさりと逃げていく。
 追跡しようと思うも先の写シのダメージの肩代わりで軽くふらついてしまう。

「エレンさん!」

 二度目の同じ声。
 それを侑が肩を掴んで受け止める。
 スペクテッドだし制服であり、間違いなく本物だ。

757 ◆EPyDv9DKJs:2023/11/28(火) 18:27:17 ID:Yl5987lc0
 少しばかり安堵の息を吐くが、それはすぐに終わった。










 その瞬間、侑の身体は消し飛んだから。

「───ゆん、ゆん……?」

 今起きた状況に、エレンは困惑が隠せない。
 これはロックが自分にやった爆破と同じものだ。
 爆弾化したものに触れたものを爆破させる効果の類だと。

(まさか、爆弾にされていたのはッ!?)

 禄郎は確かにエレンを仕留めそこなかった。
 しかしその一瞬の判断でエレンを爆弾に変えている。
 爆弾に変えた後に点火でもよかったがまた写シで回避されるのと、
 先ほどの仕返しとばかりに触れるであろう侑を爆弾にして始末した。
 これでスペクテッドは消えた。誰も自分の心を読む者はいなくなった。
 蛇のような男は、一先ず協力者が何処へ行ったかを探しに走り出す。

(混戦ならかかると思ったが、想像通りだ。
 やはり俺にはこれこそが性に合っている。)

【D-3/一日目/午前】
【間久部緑郎/ロック@バンパイヤ】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(大)、腹に裂傷(治療済み)・左目喪失 汚れ、零に対して少しだけ同情 侑に対してイラつき(大)、ちょっとスッキリ
[装備]:キラークイーンのDISC@ジョジョの奇妙な冒険
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜2(確認済み)
[思考・状況]
基本方針:秩序なきこの場を楽しむ。
1:エスデスをどうにかして利用するはずだったが……
2:トッペイと出会ったときはどうしたものか。
3:アナムネシスとみらいに警戒。ただみらいは利用できるかも。
4:零は利用できるか?
5:……西郷……
6:アイツ(ギャブロ)がうっとおしいな。
7:目玉を失ったって、生き延びて見せる。
8:侑を始末で来てちょっとスッとした。
[備考]
※参戦時期はバンパイア革命に失敗し、西郷を殺害した後。
※クライスタの世界を(零視点から)大まかに把握しています。
※侑とエレンの世界を(侑の知識から)大まかに把握しています。
※侑の額の支給品(スペクテッド)の効果は洞視だけでなく幻視も使えるのだと思っています。




「何もないんだな、お前には。」

 悠奈は仕留めた。
 後何人かは知らないが、
 少なくとも最も始末しやすい男がすぐそこに転がっている。
 だと言うのに、焦りも何もない。至って落ち着いた様子でそこにいた。
 支給品も、利用価値はおろか、命乞いすら彼にはない。

「もう俺のやることは終えたからさ。
 俺の理不尽に協力してくれて、ありがとう。」

 結果はより混迷を極めた。
 自分一人で一体何人が死に、
 何人が理不尽な目に遭ったのだろうか。
 想像するだけでぞくぞくするが、それも終わりだ。

「別にお前の為のつもりはない。」

 軍服と違って利用価値は何もない。
 あるとするならこの檻からの脱出要因。
 ただそれだけで、悠奈と同じように頭部を弾丸が貫く。

『既定の人数の半分になった。
 よってこのエリアの檻を終わらせるとしよう。』

(……軍服の奴、死んでいたのか。)

 あと一人誰が死んだかまではわからないが、
 分かる範囲で三人。軍服はあれを受けて生きてたら逆に奇跡だ。
 もっとも、生きてたとしても利用価値がない以上とどめをさしてたが。
 とにかく今は自分一人では対処不可能なエスデスから離れるのが得策だ。
 三人の支給品だけでも回収し撤退しようとしたその時。

758 ◆EPyDv9DKJs:2023/11/28(火) 18:27:59 ID:Yl5987lc0
「な……」

 悠奈の遺体だけは奪われた。
 近くの家屋の天井にはミスターLが静かに立つ。
 仮面のせいで表情は全部は伺えないものの、
 怒気が含まれるのだけは分かった。

「お前が修平って奴だな。
 お前については、後で考えてやる。
 だが今大事なのはこっちの仲間の安否の方だ。
 俺はミスターL! 伯爵さまの遺志を継ぎ、
 悠奈のヒーローの遺志を継ぐ者だ! 覚えておけ!!」

 その捨て台詞とともに、ミスターLは去っていく。
 人一人を抱えながら逃げていく様は並の動きではない。
 今から追ったとしても、戦えば苦戦は強いられたはずだ。
 運がいいのか悪いのか。なんとも言えぬまま修平も逃げ出す準備をする。

『ええ、そうね……でも私を引き継ぐ者はいるわ。
 無理に彼女のことを忘れろなんて言えないけど、それだけは覚悟しなさい。』

「……そんなもの、最初から決まっている。」

【藤田修平@リベリオンズ Secret Game 2nd Stage】
[状態]:ダメージ(小)、怒り・絶望(大)
[装備]:コルトM1911A1@サタノファニ、
[道具]:基本支給品×5(自分、フェザー、絶鬼・軍服・レオーネ)、神戸しおの靴下@ハッピーシュガーライフ パンツァシュレッケ(弾数1)@ドラゴンボール、ビター・チョコレート×3@クライスタ ラーの鏡@ドラゴンクエストシリーズ、コルトパイソン@リベリオンズSecret game 2nd Stage、コルトM1911A1@サタノファニ、ホープナックル@グランブルーファンタジー、ランダム支給品×0〜1(レオーネの分、ライオネルなし)、クロスボウ@現実 関の短刀@忍者と極道 バクダン岩のカケラx5@ドラゴンクエスト8、US M84 スタングレネード×5@PSYCHO-PASSシリーズ
[思考]
基本:どんな手を使ってでも優勝して琴美を蘇らせる。
0:優勝する。琴美を蘇らせる。ただそれだけ
1:どうすれば灰が使えるんだッ……!!!
2:琴美……ッ!!!
3:あの女(零)は……いや、もう今となってはどうでもいい。
4:ミスターL、か。
5:今はこの場を離れる
[備考]
※エピソードA、琴美死亡後からの参戦です。
※放送で琴美の死を知り、様々な感情が渦巻いています
※このままの状況では、灰が適合することはありません。
※ラーの鏡はただの鏡で外れ支給品と認識しています。





「クソッ、状況はどうなってるんだ!?」

 そこら中で銃声や爆発が聞こえるせいで、
 下手に政は攻めに出ることができないでいた。
 近くの家屋に隠れていたが、アナウンスで死者が半数を出たのは分かった。
 後は脱出。合流はどうしたものかと思ったら、
 そんな中、エレンとミスターLが青ざめた表情で合流する。

「マッサー……」

「木刀の!」

「おい、そいつ……それにお前の方の連れもか……」

 全員が誰かまでは分からない。
 だが此処にいないと言うことは、つまりそういうことだ。

「私の判断ミスで侑は……」

「あの野郎、絶対許さないぞ……!」

 かたやじせき、かたや怒りの表情だ
 積もる事情はあるだろうが、状況は最悪の一途を辿る。
 戦力的にも、精神的にも、いろいろな意味で。

「とりあえず移動だ。エスデスに出会ったら終わりだ。」

 かくして、理不尽の怪物による檻の中の戦いは幕を閉じた。
 しかし、この先に広がるのもまた変わることのない、
 理不尽の辺獄である。

【(Zルートでソフィアに返り討ちにされた)軍服の男@リベリオンズ Secret Game 2nd stage@リベリオンズ Secret Game 2nd Stage 死亡】
【高咲侑@ラブライブ! 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 死亡】
【レオーネ@アカメが斬る! 死亡】
【藤堂悠奈@リベリオンズ Secret game 2nd Stage 死亡】
【崎村貴真@リベリオンズ Secret Game 2nd Stage 死亡】

759 ◆EPyDv9DKJs:2023/11/28(火) 18:28:27 ID:Yl5987lc0
【古波蔵エレン@刀使ノ巫女】
[状態]:貧血、左腕欠損、ショック(大)
[装備]:越前康継@刀使ノ巫女
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2(確認済み)
[思考・状況]
基本:殺し合いに乗るつもりはありまセーン。
1:片腕でも私のやることはかわりまセン。
2:可奈美達が心配デスが、特に不安なのは姫和デスね。
3:二日目の昼にはE-3のかなでの森博物館へ行き、キヨスと呼ばれる人たちと情報交換
4:Oh! 越前康継! Thanks!
5:……
[備考]
※参戦時期はアニメ版21話、可奈美が融合した十条姫和との戦闘開始直後です
※ギャブロ・立香の世界について簡単に知りました
※ロックの危険性について知りました。
※立香から芦屋道満が関わってる可能性を示唆されてます。
※御刀を得たため刀使の能力を行使できます。

【木刀政@デビルマン(漫画版)】
[状態]:左腕に矢傷、疲労(小)、ビリビリ状態
[装備]:妖刀『星砕き』@銀魂
[道具]:基本支給品、ドス六のドス@デビルマン(ドス六の支給品)、チェーン万次郎のチェーン@デビルマン(万次郎の支給品)、ランダム支給品×0〜1
[思考・状況]
基本方針:不動を止める。
0:不動に一発お見舞いして目を覚まさせる。
1:修平と見知らぬ襲撃者・来夢・佐藤マサオ・針目・アーナス・日ノ元士郎に警戒する。(一部懐疑的)
2:くそ、どうなってんだよこいつぁ……
3:エスデスから逃げる。とりあえず当面の通り北だ。
[備考]
※参戦時期は死亡後。

【ミスターL@スーパーペーパーマリオ】
[状態]:精神ダメージ(特大)、悲しみ、修平に対する怒り
[装備]:悠奈の死体
[道具]:基本支給品一式×2(自分、悠奈)、ランダム支給品×0〜2、コルトパイソン@リベリオンズSecret game 2nd Stage(予備弾数多め)、基本支給品一式、ランダム支給品×1〜2(悠奈の分)

[思考・状態]
基本方針:悠奈のバカバカしい生き方とやらで主催共を叩き潰す。
1 :政とエレンと行動を共にする。
2 :伯爵さまを殺した奴は殺さないがとりあえずぶん殴る。
3 :ヒーロー……か。
4 :ユウナ! ジュネーヴ条約にジャマイカって何だったんだ……?
5 :伯爵さまの遺志を継いでマネーラ、ナスタシアと共に脱出する。
6 :工学だけではだめって、どうすりゃいいんだこれ。
7 :一足先に侑達の所へついたがまさかアンナがいるとはな!
8 :二日目の昼にはE-3のかなでの森博物館へ行き、キヨスと呼ばれる人たちと情報交換。
9 :悠奈……
10:修平の野郎は許さない。
[備考]
※参戦時期は6-2、マリオたちに敗北した直後
※悠奈からリベリオンズの世界について簡単な知識を得ました。
※名簿から伯爵さまたちが参加していることを知りました。
※悠奈から”拳銃”の脅威を知りました。
※レオーネからアカメの世界について簡単な知識を得ました。
※征史郎経由でマネーラ、ギャブロ、藤丸立香、キヨス、零、アルーシェ、夕月、ロックと関連人物の情報を得ました。
※ギャブロ、立香、侑、エレンと情報交換しました。
※立香から芦屋道満が関わってる可能性を示唆されてます。


※歯車の塔の檻は消えました
※D-3にはかぶさの剣が落ちています。
※侑の支給品、神木・黒那岐丸、スペクテッドは消滅してます

【ブレンドされたドーピング剤@アカメが斬る!】
レオーネに支給。アカメにはリヴァが使ったもの、
クロメのお菓子、強化組の錠剤などあるがこれはアカメがエスデス戦で使用したもの
強化組の錠剤を帝具『パーフェクター』によってに調整、基ブレンドされているが、
ブレンドした人物でも障害や感覚の低下を恐れる程度のリスクは存在する。
但し強化組のような依存性は恐らくないと思われる(ヒノワが征く参照)

【変身自在『ガイアファンデーション』アカメが斬る!】
エスデスに支給。元々はチェルシーが用いていた帝具
化粧品型の帝具で動物、人間など様々な姿に変身できる。
あくまで見た目だけなので動物とかでもなければ服はそのままで、
せんとうのうりょくも上がっているわけではないので注意

760 ◆EPyDv9DKJs:2023/11/28(火) 18:29:36 ID:Yl5987lc0
以上で『JUST LIVE MORE Helheim』投下終了です
人数が多いのでミスとかあるかもしれないのでもしありましたらお願いします

761たった一つの想い貫く ◆EPyDv9DKJs:2024/01/07(日) 20:13:20 ID:NGSKSOXQ0
投下します

762たった一つの想い貫く ◆EPyDv9DKJs:2024/01/07(日) 20:14:41 ID:NGSKSOXQ0
 この舞台にはヴァンパイア並の危険な参加者が存在する。
 それはドミノも認識しており、事実それは体験済みだ。
 自分達と似たヴァンパイアのような怪物との戦いによってより理解が深まっている。

(にしたってこれは限度がある気がするんだけど。)

 しかし、それを差し引いても立ち入ったエリアは中々の惨状である。
 桐生の酸性雨は敵も味方も、建物も何もかも関係なく溶かしていた。
 与り知らぬことだが、首輪が解除された状態なので威力は別物となっている。
 まるで粘土細工で作りかけたような建物ばかりに変形している建物をよそに、
 流石にドミノでも軽く警戒する。

(と言っても曇り空もなくなってるし、戦いは終わったと見ていいか。)

 天候も途中で元に戻ってしまっている。
 誰が生き残ったかを注意深く耳を澄ませば、
 すぐにその存在に気付いてそっちの方へと向かう。
 この惨状の中歩くのは躊躇いたくなるものの、
 ドミノの場合は空を飛べるため何ら問題はない。

「ねえ、そこのあなた。ちょっといいかしら?」

「!」

 声をかけられると同時に、
 日菜子は青い剣を構えながら警戒する。
 相手が凄い恰好をしているとか思うところはあるが、
 先ほど騙し討ちされたばかりなのもあってか、
 他人に対してどうしても警戒してしまった。

「身構えなくても良いわ。私は別に乗るつもりはないから。」

 周りの遺体や返り血、何より彼女の流す涙を見るに、
 相手が敵になりうる人物ではないことはすぐに分かる。

「……それで一度騙されてるんですよ、私達は。」

 あくまでドミノからしたら、だ。
 針目縫はつかみどころのない性格であり、
 不意打ちもすれば正面からでも恐らく戦いを仕掛けてくる。
 だから態々声をかける行為をするドミノでも警戒は緩まない。

「あー、そういう展開もあるか……じゃあ後何人か集まるまで待つわ。
 それまでお互い手出しすることはしない。それでどう?」

 周囲にもまだ人がいるようなので、集まってから話を進めることを選ぶ。
 思いのほか簡単に待ってくれる相手に呆気を取られる日菜子だが、
 やはりどうしても針目縫の存在が拭うことはできないのもあり、
 警戒は緩むことはなかった。

「で、何故私だ。」

「年長者の方に見えるので、つい。」

 身動きが取れないアニ達を除き、
 集った五人の中でムラクモが相対する。
 カインはしんのすけを連れてきたこと以外は、
 どういった人物か余り分からないので選ぶに選べなかった。

「結論だけで言えば、敵ではないだろう。」

 この数を態々待つ必要性は皆無だ。
 乗っているならば各個撃破を狙っていくのが賢い選択になる。
 先の敵はそうではなかったが、あの時の相手は怒りの感情が強かった。
 此方は五人を前にしても平静を保ち続けていて対照的な存在だ。
 寧ろ、五人相手だろうと構わないと言う態度にすら感じていた。
 先の桐生と同じか、それ以上かもしれないのに乗るつもりがない。
 ならば敵対する理由もないとムラクモは判断し、
 此処でようやく日菜子も警戒を緩めることにする。
 残されたアニのいる家屋へと案内し、複数人による情報交換を進めていく。
 しんのすけとアリサはまだ目覚めてないものの、支障はないのでそっとしておいた。
 
「とりあえず、針目縫だっけ?
 明に化けてたってことは今後も化ける確率が高いけど、
 日菜子や放送までの間なら沙耶香や宮藤って子にも化けれそうね。」

 化けれる条件が曖昧な現状、
 彼女が今誰になってるのか、誰になれるのか。
 全てが曖昧なせいで彼女への対処は困難を極める。
 そうして頭を抱えることも策の内だろうから質が悪い。

「にしても理念(イデア)か……得られた情報は大きいな。」

 辺獄の関係者であるみらいを経由しての情報。
 刀使が多く集まってるのも理念の為と言われれば、
 十分に納得できるものではある。

763たった一つの想い貫く ◆EPyDv9DKJs:2024/01/07(日) 20:16:05 ID:NGSKSOXQ0

 加えて首輪解除に貢献できるかもしれないので、
 この繋がりは今まででも特に大きいものだと思える。

「それとカインだけど。」

「ああ、分かってる。」

「何故、自分が殺し合いに乗った参加者って明かしたの?」

 カインは自分が乗った側の人間だと明かした。
 今までの状況であれば乗ってない参加者を貫くこともできただろうに、
 態々敵を作るような発言をする彼に、ドミノは訝る。

「私には願いがある。そしてそれはもう頓挫する願いだった。
 だから優勝を目論んだが……土台優勝は無理だと悟ったのだよ。」

 十条姫和と思しき人物、先の異形(桐生)、
 土壇場で裏切ればチャンスがあると思っていたが更にドミノの存在。
 出会った参加者の何人もが一枚どころではなく、上手の存在ばかりだ。
 針目縫ですら手を焼くであろう状態の自身が優勝すると言う考えは、
 最早とてもできたものではないと確信を持つに至ってしまった。
 ならばせめて生還した方がまだチャンスがあるというものだ。
 故に、カインはあえて自分のこれまでの行動を詳らかに語った。
 当然、フェザーと交戦した部分も含めて。

「アンタの言うフェザーは死亡している。
 そいつがアンタとの戦いが原因の可能性もあるな。」

 部屋の隅で腕を組みながら立つアニが呟く。
 ごもっともな話であり、もしそうなら貴重な戦力を失わせた原因、または遠因だ。
 だがそれを証明することができる人間は此処にはいない。

「別にアタシはアンタが味方になる、
 その点については構わない。他が納得できるかは別だが。」

 チラリと日菜子を見やるアニ。
 この中で余り納得しかねる表情なのは彼女だけだ。
 他は戦場で命懸けで戦った経験者。そういうのを一々気にしないか、
 気にした上で受け入れていることが多いが日菜子だけコモンでの戦い故別である。
 植木も一応そっちの部類なのだが『まあいいんじゃね?』程度にあっさりとしていた。

「この男が齎した情報は大きい。
 情報の対価として味方につけるならいいに越したことはない。」

「え、どういうこと?」

「何故あの異形の男の首輪が外れたか、だ。」

 ムラクモがカインから得た情報で着目したのはその点だ。
 十条姫和は八将神と名乗り、沙耶香はそのことについて何も語ってない。
 後で仕込まれたものが原因で八将神を名乗っていることになるのが推測できた。
 マサオを殺害した後から外れたのではなく『八将神』を倒したから外れたのだと。

「八将神は陰陽道の神、太歳等の木星の精ですね。
 それにあてはめられた参加者が何人かいる、と見てよさそうです。
 確かに思い返せば、彼も自身のことを八将神と名乗っていました。」

「可能性の話にすぎないけど、ギミックとしてはありえる話でしょうね。
 マサオって子の様子が変だったのを考えると少なくとも分かるのは二人。
 一人はカインの言う十条姫和らしき人物。もう一人は私が戦った怪物だと思うわ。
 そいつも似た症状を抱えていたからってだけだけど。でも、どっちにしても困ったものね。
 暴走した参加者を見るに、味方になりえる人物を八将神に割り振ってるとみてよさそうか。」

 天井を見上げながらやれやれと手を挙げるドミノ。
 明は無事なようだがこれだと今までの情報があろうと八将神でない保障はなくなった。
 味方が敵の情報になってしまうと言うのは、余計に面倒ごとになっている。
 元に戻そうと躍起になる参加者もいることを考えれば、余計に不要な争いが起きるだろう。

「とりあえず当面の目的を纏めるとなると。」

 ①針目縫の討伐
 ②眼鏡の異形(ナスタシア)の討伐、可能であれば服部の奪還
 ③暴走してる参加者である八将神を戻す方法。最悪討伐

「最低限はこうなるだろうな。私にとっては、
 八将神は寧ろ倒す方が利だと……思うが、
 あくまで利益になるだけだ。本気で受け取るな。」

764たった一つの想い貫く ◆EPyDv9DKJs:2024/01/07(日) 20:17:36 ID:NGSKSOXQ0
 ムラクモの発言に対し日菜子が少しばかり睨む。
 十条姫和は沙耶香の友人だ。倒すなんて方法は認めたくない。
 だからムラクモも一応は最悪討伐と言う形で言葉を濁している。

「そうね……私の仲間にこの首輪を渡したいのもあるから、
 あんた達三つのチームに別れるっていう選択肢は取れる?」

「と、言うとどういう感じだ?」

「寝てる子供をうちの仲間に預けるチーム、
 服部って子を敵から奪還するためのチーム、
 それと、北に向かってほしいカインの同行者兼監視役。
 可奈美って子が他の人と合流してたら厄介になりそうだし、
 西には私が行って話を通しておく方がよさそうだからね。」

「……助かる。」

 此方の処遇を大分譲歩された対応に感謝せざるを得ない。
 セカンドサウスそのものを彼は諦めたわけではないものの、
 この場での身の安全を得られたことについては大きいものだと感じた。

「それで、服部奪還だけど……」

「私が行きます。」

 即座に挙手して志願する日菜子。
 あの場で一番動けた筈なのに動くに動けなかった。
 その後悔もあり、チーム分けされる時点で決めていたことだ。

「なら俺も行く。服部とは長い時間関わってるからな。」

 同じように挙手する植木。
 神器は使わない考えをしてるため、
 電光石火などを使うことはしないとしても、
 立体起動装置によって移動を賄えるのも大きい。

「カインには私が同行しよう。」

 もしものときに対して、
 一番彼に対応できるのは誰かと問われれば、
 村雨を所持しているムラクモが一番対応が速い。
 チーム分けの時間はスムーズに進んでいく。

「となると消去法でマシュ、アニは子連れで私の知り合いと合流しなさい。
 今は三人で行動してる筈だから西よりの北を目指すと見つかるかも。
 場合によっては二人組の方に出会うかもしれないけどそっちはやめときなさい。
 敵じゃないけど、色んな意味で危ないから。首輪についても全部回収しておくように。」

「はい、分かり───」

「待って……!」

 苦しそうな声と共に、
 アリサが会議の中へと参入する。
 後ろには目をこすりながらしんのすけもやってきた。

「マサオ君や、宮藤さんはどうなったのよ……」

 この場にもいなければ、
 同じく寝かされてもいない。
 意味は分かっている。だが信じたくなかった。

「二人とも死んだ。」

「そんな……」

 あれだけの死闘を経て、
 たった一言で話は済まされる。
 まだ病み上がりもあってアリサは膝をつく。

「ムラクモさん!」

 澄ました顔で冷徹に応えるムラクモに、日菜子が声を荒げる。
 それを前にしてもムラクモは冷たい眼差しで言葉を紡ぐ。

「隠したところで放送でいずれ露呈する。
 後か先か、その程度の違いでしかない。」

「それは、そうですけど……」

 放送までそう長くはない。
 いずれ知って肝心な時動けなかったでは困る。
 それならば先に事実を述べるべきだと判断するのは、
 決して間違ってることではないことなのは日菜子も分かっていることだ。

「マサオ君……」

 しんのすけは大事な存在との別れの経験は少なくない。
 データが消滅したぶりぶりざえもんや機能が止まったロボとーちゃん、
 死別だって又兵衛のようになかったわけではなかったが、今回は身近な友達だ。
 やっと仲直りできた友達と、さよならを言うこともなく友達との死別。
 現実感がなく、逆に涙が出てこないと言う事態になっていた。

「目覚めたことだ、マシュとアニは二人を預けに北寄りに、
 私とカインは北へ、植木と白井は服部の奪還、ドミノは西。あってるな。」

765たった一つの想い貫く ◆EPyDv9DKJs:2024/01/07(日) 20:19:10 ID:NGSKSOXQ0
「ええ、あってるわよ。時間もかけたことだし解散ね。
 合流場所は……D-4にでもしておけばいいかしら。」

 空気が悪くなったのもあってか、話を簡潔にまとめてドミノが促す。
 それぞれが各々の準備を進める中、立ち尽くすしんのすけにドミノは声をかける。

「アンタの知り合いのマサオ君だけど、
 皆の為に敵に立ち向かったって言ってたわ。」

「マサオ君が?」

 又聞きだけどね、と注釈をつけて話す。
 彼女にとっては又聞きである以上よくは知らない。
 アリサも今しがたおきたばかりなので、余計に。
 事実、八将神だから行動を起こしたに過ぎないので嘘になる。

「そのお陰で生きてるってことだけは忘れないことね。」

 彼の行動がなければ、
 きっと此処にいた参加者は全滅していた。
 そう───彼のおたすけがあったから。

「……おねーさん、名前は? オラ、野原しんのすけだゾ。」

 いつもならばナンパしていたり照れくさそうにしてるところだが、
 マサオの一件もあってか、普段通りのようにはいかず名前だけを訪ねる。

「ドミノ・サザーランドよ。」

 そう名乗り彼女は空を舞う。
 赤黒い辺獄の空を舞う姿は怪物のようでもあるが、
 しんのすけにとってはとどこか幻想的に見えた。

「マサオ君。オラも、マサオ君みたいにがんばるゾ。」

「しんのすけ……私も、同じ気持ちよ。」

 二人は手を繋いでマシュとアニの後を追う。
 おたすけは繋がる。例え、死に別れようとも。


【F-6/一日目/午前】

【ドミノ・サザーランド@血と灰の女王】
[状態]:全身にダメージ(大)、疲労(大)、身体を再生中、主催に対する強い怒り
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×0〜2、応急手当セット@現実
[思考・状況]
基本方針:メフィスとフェレスとかいうクソ野郎二人は必ず叩き潰す
1 :攻勢にでるわよ。西に行って様子を確認する。
2 :下僕たち(佐神善、日ノ元明)に充や彰の知り合いを探す。ニアミスなのは残念
3 :首輪及び紋章を何とかするために、主催を知ってそうな参加者は見つけた。後はどうするか……
4 :あの悪魔(不動明)がまた挑んでくるようなら迎え撃つ。
5 :日ノ元士郎はここで斃しておきたいけど今は待つ。堂島は信用しない。
6 :しおが『下僕』になるかは彼女次第。
7 :日ノ元とは何とか協定を結べたけど、下僕たちはどうするのやら。
8 :強姦魔(モッコス)とヘルメット(ジャギ)は出会ったら潰す。
9 :蒔岡彰、先に出会ってたら下僕だったんだけどねぇ……
10:伯爵の関係者も漁ってみる。
11:ユーベン……まさか?
12:零や可奈美にあったら、まあ軽く仲裁はしておく。

[備考]
※参戦時期は88話から。
※真祖の能力に制限が課せられています
※主催者の関係者にユーベンが関係してる可能性を考えてます。
※ドミノ、しお、日ノ元、彰、オフィエル、みらい、沙夜と情報交換をしました。
 充はDルートなのではるなと彼女から話を聞いた人物、
 途中までならCルートと同一なので途中までは結衣と話が嚙み合います。
※ムラクモ達と情報交換をしました。



【白井日菜子@BLUE REFLECTION 幻に舞う少女の剣】
[状態]:負傷(中)、疲労(小)、怒り、精神疲労(大)
[装備]:リフレクターの指輪@BLUE REFLECTION 幻に舞う少女の剣、ギャレンラウザー@仮面ライダー剣、顔のない王@Fate/Grand Order
[道具]:基本支給品一式、モノメイト(3/5)@ファンタシースターオンライン2、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]
基本方針:殺し合いになんて乗らない。こんなふざけた事は止めてみせる。
1:ユズ、ライム……
2:衛藤さんの捜索。そこから十条さんを止める。
3:それとあの人(アナムネシス)は止めないと。
4:此処はコモン? もしかして原種がいる? 後者はいやかな……
5:まずは目の前の相手との対峙を乗り切る。
6:ナスタシアとハサミの子(針目)は一発殴ってやりたい。

[備考]
※参戦時期は第12章「最後の一歩 the First Step」で、
 ユズとライムとの最後の別れをしてリフレクター絡みの記憶を全て忘れた後から。
※忘れていた記憶は思い出しました。
※帝具や刀使、進撃の巨人について知識を得ました(ただし帝具は浅く、村雨の性能も知りません)
※ムラクモと情報交換をしました。

766たった一つの想い貫く ◆EPyDv9DKJs:2024/01/07(日) 20:21:53 ID:NGSKSOXQ0
【植木耕助@うえきの法則】
[状態]:負傷(中)、疲労(小)、溶解(軽微)
[装備]:立体起動装置&スナップブレード(1本折れている)@進撃の巨人(ガス半分)
[道具]:基本支給品、アクション仮面人形@クレヨンしんちゃん 優木せつ菜のカレー@ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会、替えのブレード×4
[思考・状況]
基本方針:自分の正義を貫く
1:森達のところに戻りたい…とは思うけど、殺し合いには乗らねぇ。
2:日菜子と行動を共に服部奪還を目指す。
3:空白の才が支給されていたらヤバイな……。
4:針目の奴……
5:ムラクモって男……針目に似たような雰囲気がするな。

[備考]
※参戦時期は16巻の第153話「最終決戦!!」にて、アノン相手に最後の魔王を撃った直後からです。
※「ワールドウィッチーズ」世界についてある程度の知識を得ました。
※互いが別々の世界もしくは別々の時代から会場に呼ばれたと推測から確信になりました。
※自分が死亡後参戦だと勘違いしています。
※神器やゴミを木に変える能力のレベル2にはある程度制限がかけられていますが、どれぐらいの制限がかかっているかは後続にお任せします。
※神器は自分の世界の神様を決める戦いに参戦している人間”以外の人間には使用しないと決めています
※「キルラキル」世界についてある程度の知識を得ました。
※縫から日ノ元明は危険人物だと伝えられています。(半信半疑)
※ムラクモを少しだけ警戒しています。(あくまで自分の勘)
※ムラクモと情報交換をしました。



【ムラクモ@アカツキ電光戦記】
[状態]:負傷(中)、疲労(小)、溶解(軽微)
[装備]:ブラッディピアース@グランブルーファンタジー、一斬必殺村雨@アカメが斬る! 六〇式電光被服+六〇式電光機関@アカツキ電光戦記、
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜1(確認済み) 家紋タクシー@ニンジャスレイヤー
[思考・状況]
基本方針:メフィス達を始末して願いの力を手にし、悪用を避ける。すべては人類救済の為だ。
1 :北上しつつ衛藤可奈美の捜索。そこから十条姫和の制圧、或いは討伐。
3 :司城夕月、司城来夢、古波蔵エレン、安桜美炎の捜索。
4 :電光機関の無駄遣いは避けなければならない。
5 :紋章を知る、或いは他の世界の住人を探して首輪解除の手段を模索。
6 :完全者は此処で確実に始末したいが、徹底するのは控える。
7 :紫の女(アナムネシス)に要警戒。
8 :高津と言う女については多少は懸念しておくか。
9 :シャンバラ、探してみる価値はあるか?
10:カインと共に北へ向かう。

[備考]
※参戦時期は不明。(少なくとも完全者を一度殺害後でエヌアイン完全世界ED前)
※六〇式電光機関をそのままの代わりに支給品の枠を使ってます。
※村雨がアニメ版か漫画版かは後続の書き手にお任せします。
 (どちらか次第で奥の手の内容が変わります)
※刀使、リフレクター、エルディア人、の知識を得ました。
※ドミノ達と情報交換しました。

【カイン・R・ハインライン@餓狼MARK OF THE WOLVES】
[状態]:打撲のダメージ(軽微)、ダメージ(小)、疲労(大)、少し酸化
[装備]:万里飛翔『マスティマ』@アカメが斬る!、バーリやー@スーパーペーパーマリオ
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜1(確認済み)
[思考・状況]
基本方針:優勝しセカンドサウスの夢を叶えたかったが……
0:優勝は困難だ。素直に生還を重視するべきかもしれない。
1:彼女(姫和)の対策の考案と関係者の捜索。トジのことを知ってる参加者がいればいいが。
2:二人(フェザーと可奈美)を倒し損ねたのは大きな損失かもしれない。
4:雷に引き寄せられてるが、気のせいか?
5:暇があれば帝具をもう少し試す。
6:君の目に宿るおたすけ、観させてもらったよ。しんのすけ君。
7:ムラクモと共に行動する。偶然にも臨んだ相手だが、今更な気もするな。

[備考]
※参戦時期は少なくとも敗北前です
※マスティマとの相性は高いです。
※八将神の存在を知りました。
※ドミノ達と情報交換しました

767たった一つの想い貫く ◆EPyDv9DKJs:2024/01/07(日) 20:22:46 ID:NGSKSOXQ0
【マシュ・キリエライト@Fate/Grand Order】
[状態]:喪失感(大)、深い悲しみ、混乱 負傷(中)、疲労(小)、溶解(軽微)
[装備]:オルテナウス、オルテナウス盾部分
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×1〜2、桐生の首輪(討伐報酬による解除)、首輪×3(沙耶香、マサオ、宮藤)
[思考・状況]
基本方針:生き延びて、先輩と再び逢う。
1:参加者と接触し、先輩の目撃情報を調べる。
2:先輩が見つかるまで、アニさんと行動する。
3:桐生との戦闘が終わり次第、マサオから事情聴取する
4:疑似霊核……カルデア? それとも……サーヴァント?
5:アニさんと共に沙夜と言う人物達を探す

[備考]
※参戦時期は少なくとも第二部第二章以降
※マサオの疑似霊核から、この殺し合いにカルデアの関係者か、
 サーヴァントが関わっているのではないかと考えています。
※ムラクモと情報交換をしました。

【アニ・レオンハート@進撃の巨人】
[状態]:マシュに対して不安、眼に巨人化の痕 ムラクモに対して警戒 負傷(中) 疲労(小)
[装備]:地禮@PROJECT X ZONE2 BRAVE NEW WORLD、まりょくのみ@大貝獣物語2(半分未満)
[道具]:基本支給品×3(自分、宮藤、桐生)、ランダム支給品×0〜1(武器類はもうない)
[思考・状況]
基本行動方針:マシュ・キリエライトと共に行動する。
1:参加者と接触し、ベルトルトと立体機動装置を探す。
2:巨人化能力が再び戻るまでは、マシュと行動する。場合によっては再び対峙するかもしれない。
3:植木という少年からなんとか立体起動装置を譲ってもらいたかったが、仕方ないか。
4:ムラクモ……警戒を怠れないな
5:マシュたちと一緒に沙夜と言う女を含む三人組を探す。

[備考]
※参戦時期は第132話、ヒィズルの船に乗った直後からの参戦です
※この殺し合いの主催者にエレン・イェーガー、もしくは『始祖の巨人』を所有したエルディア人がいるのではと考えています。
※ムラクモと情報交換をしました。
※F-7に女型の巨人の残骸(数十分で蒸発する)が残されています。
※女型の巨人には制限が掛けられています、制限は以下の通りです
 身長は10m級に調整されている
一度巨人化すると一定時間経過しないと再び発動できない

【野原しんのすけ@クレヨンしんちゃん】
[状態]:疲労(大)
[装備]:
[道具]:基本支給品、シリマルダシ(ミライマン)※残り4回@クレヨンしんちゃん、又兵衛の馬手差し@クレヨンしんちゃん、まどわし草×3草@トルネコの大冒険3
[思考・状況]基本行動方針:困ってる人をおたすけする
1:アリサちゃん、マシュちゃん、アニちゃんと一緒に行動する
2:芳佳ちゃんのお友達(服部静夏)を探す
3:マサオくんをこんなにした”ンンンおじさん”にカンチョーする
4:オラもマサオ君みたいにがんばるゾ。

[備考]
※殺し合いについて理解しました。
※ぷにぷに拳を使用することができます。(作中習得した九まで)

【アリサ・バニングス@魔法少女リリカルなのはA’s】
[状態]:ダメージ(極大・治療済)、疲労(大)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~2
[思考・状況]基本行動方針:殺し合いは絶対しない
1:しんのすけ、マシュさん、アニさんと行動する。
2:目が覚めたらマサオに謝りたかったのに……

[備考]
※参戦時期は11話、なのは達が魔法少女だと知った後です

768たった一つの想い貫く ◆EPyDv9DKJs:2024/01/07(日) 20:23:24 ID:NGSKSOXQ0
※F-6の状況は以下の通り
 ・F-6の広範囲に酸性雨の跡(ドキュンサーガ9話④の町の惨状少し近しい)
 ・同じエリアの死体のユカポン、ユカポンのファンの吸血鬼の遺体とデイバックは、
  後続の書き手にお任せします

≪考察≫(ムラクモ、アニ、マシュ、日菜子、ドミノ、カイン、植木、しんのすけ、アリサ)
リフレクターの変身について
①コモンの可能性:フラグメントも魔物もいない為低い。
②原種が存在する:現状ではなんとも。移動ついででいるかどうかを調べてみる。

刀使の多さについて
①刀使の力をメフィス達か関係者が必要としている。
②タギツヒメを倒せる刀使が必要だったから(タギツヒメの力を手に入れる為)。
③高津雪那が運営関係者で、タギツヒメの障害となる刀使を参加者にした。
 (折神紫はいないが、私怨を晴らす為か?)
④理念の為?

見せしめに藤丸立香を選んだ理由
①藤丸立香に関係している人物が主催に関わっている。
②選ばれたのは旅を続けられると、主催にとって不味い事態があるもしくは起こる。
③名簿に記載されている同姓同名の藤丸立香については、ひとまずは保留。
④理念の為?


①首輪が科学と魔術ではなく魔術のみの可能性。
 念には念を入れて紋章を知る参加者を探しておく。
②シャンバラと呼ばれるものが使えるかもしれないが、現状はついで。
③主催側には、いくつかの世界の関係者たちが連合を組んでいる可能性がある。

769たった一つの想い貫く ◆EPyDv9DKJs:2024/01/07(日) 20:24:11 ID:NGSKSOXQ0
短いですが以上で投下終了です

770名無しさん:2024/02/20(火) 22:36:56 ID:pfbuhIQg0
アルーシェ・アナトリア、松坂さとう、ベルトルト・フーバー、パンドラボックス、立花特平、清棲あかりで予約します

771 ◆4Bl62HIpdE:2024/02/20(火) 22:37:28 ID:pfbuhIQg0
トリ付け忘れてました

772 ◆4Bl62HIpdE:2024/02/21(水) 00:42:35 ID:bkTUj3cg0
投下します

773最後の巨人 ◆4Bl62HIpdE:2024/02/21(水) 00:44:40 ID:bkTUj3cg0


何処かに 行きたくて

駆け出した足で







誰かを――踏み潰した。




「赤城みりあ」


「以上、死んだのは38名。いやぁ、みんな張り切ってるようで何より何より!」
アイドル――赤城みりあが死んでから、どのくらい時間が経っただろうか。
建物が燃え盛る中、死亡者名簿が読み上げられた。
早朝の放送が終わり、朝が過ぎようとする中、皆、直ぐには動けなかったし声を掛けなかった。それくらい、疲弊していた。



この場に残されたのは、ベルトルトとアルーシェ。……そして。
「.....立てるか!?ベルトルト!」
「.....ぁあ.......」
アルーシェはよろよろと立ち上がり、ベルトルトの肩をつかむ。
「ここは直に焼け落ちる、脱出するぞ」
「あぁ...一先ず、安全な場所に

言いかけたが、直ぐに彼は口を閉じた。
威圧。
松坂さとうが、アルーシェとベルトルトの前方に立ち塞がっていた。

「.....行かせない。もう、徒党ごっこは終わり。」
ベルトルトは、意を決してその少女、松坂さとうに向き直る。
「....さとう、そこをどいてくれ。」
「何で?」

「僕は故郷に帰らないといけない。――だから、どいてくれ」
ベルトルトは、右腕でブレードを構える。……その男は、ついに砕けた右鎖骨を再生した。蒸気と共に、アーナスに受けた傷が治癒されていく。
ただ一つ、さとうに最初に血を浴びせるために付けた傷を除いて。…彼は"その気"だった。
「駄目。――もう、わかるでしょ。諦めて」
「……しおちゃんのことは、もういいのか?」
それは、ベルトルトにとっては、最期の望みを掛けた、揺さぶりのつもりだった。
だが―――
「わかるでしょ。――もう、私は私のみの力で、ハッピー・シュガー・ライフに帰還する」

774最後の巨人 ◆4Bl62HIpdE:2024/02/21(水) 00:45:14 ID:bkTUj3cg0

無駄だった。ベルトルトが判ったのは、そんなことに動じるさとうでは無かった、ということだけ。
彼は推測する。…みりあの死。それはさとうにある変化をもたらした。
もう、他者には頼らない。血に染まった手で、松坂さとうはそれを抱く。
自分の力でハッピーシュガーライフを取り戻す。――さとうの中にあるのは、その決意だった。

「そうか、さとう」……彼の方を背負いながら、蒸気とともに治っていく傷を、奇怪に見つめるアルーシェを。

「ぐっ…!?」…突き飛ばした。「……どういうことだ、ベルトルト!?」
眼の前の状況が解らず、アルーシェはベルトルトに問う。
「僕にはもうどうすればいいのか分からない。ただ、自分のしたことに対して」


「…何を、言っ」予感。…とてつもない、予感がした。
それが戦士としての予感か、半妖の直感によるものかは判らなかった。
だけど。――"今すぐここから離れろ。さもなくば自分は死ぬ。"

その感覚が正しかったことを証明したのは、もう数秒後のことだった。
――まだ、まだ私はこの殺し合いでリリアと逢えていない。
元の世界で月の女王もまだ倒せていない。リリアも救えちゃいない。アーナスさんのことだって……
まだ、まだ私は―――


アルーシェには、それが、ベルトルトの姿が、破壊を司る神のように視えた。

「戦士として、最後まで、責任を果たすことだ」



ベルトルトは、ブレードを構えた。
さとうはそんな健気な抵抗を、一笑に付した。
「無駄なの、わかるでしょ」
「……そうだ、君のせいで、無駄になる。全部、仕方なかったんだ」

「(止まって―――)」
「だって、世界はこんなにも残酷じゃないか」

瞬間、ベルトルトの身体は光る。

そして、さとうの時間は止まり。

爆風が、アルーシェとさとうを包んだ。

「あ”ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

一番傍にいて、痛みを感じる間もなく消し飛ばされたアルーシェは幸運だったかもしれない。
……わずかに、しかし永すぎる五秒間。松坂さとうは止まった時の中で、思考の中でただ焼き切れる事となった。
……最期にこいつだけでも減らさなければ。……だがスタンドの拳を出す前に腕が削れ落ち、肉と脂肪は蒸発に架せられた。

「し”お.........ちゃん………ご、め」



ごめんね。そんな事を云おうとした。
だけど、そんな事を考える前に、脳と喉が消し潰されていた。

775最後の巨人 ◆4Bl62HIpdE:2024/02/21(水) 00:45:38 ID:bkTUj3cg0







そして、時は、動き出す。
松坂さとうは、跡形もなく消し飛んだ。



ベルトルトは、ついに巨人化した。
超大型巨人――。破壊の神は、ここに顕現する。




「………………うっ」
何があったのか。気づけばそこは消し飛び、瓦礫に埋もれて月の紅い光が差し込んでいた。
…私は何とか、瓦礫の底から四肢を這い上げようとする。
清棲あかりには知る由もないが、超大型巨人の爆風には制限がかけられており、この半径程度の爆風が襲うだけで済んだのだった。

瓦礫から這い出した先。そこにあったのは、炎獄と、その周りに独り突っ立っている巨大な化け物、巨人だった。
――周りの家屋は爆風の炎で包まれている。
その傍らには、家屋の柱に胴が突き刺さって死んでいるトッペイ君がいた。
「……トッペイく、ん」……その巻き付いていた舌を見た。…そうだ、エルピスは。
…ひゅー、ひゅうと息が聴こえた。
……トッペイ君を巻き付けていたエルピスも、その舌が千切れて瀕死の状態だった。

私だけは、何とか瓦礫から抜け出すことができた。……だけど、エルピスとトッペイ君の遺体は瓦礫と屋根の瓦に挟まれていた。

「エルピス……!!!」私は何とか、瓦礫をどかそうとした。
……だけど。無駄だった。…時間を掛ければ、瓦礫は確かにどかせたかもしれない。

だけど、"そいつ"はそんな時間さえも、与えてはくれなかった。
巨人が。
「...............こっちに、向かってくる」
キヨスは、絶望しながらそれを見つめた。





爆風は使い果たした。肉の消費も早い。後は――出来る事をするだけだ。

何をすべきか。…ベルトルトには、解っていた。
……もう超大型巨人になってしまったのだ。推測する限り、もう巨人にはなれない。できる事は一つ。
こうなった以上、僕はこの身体で極力参加者を減らさなければならない。その為には、……ジーク戦士長。彼と同じことをすればいい。
ベルトルト、超大型巨人は爆風で火の付いた周辺の家屋を持ち上げ――


投擲した。

エリアの周りが崩壊し、火が燃え移る。
これではエリア全体どころか、僕がいる周囲しか破壊できなかったが、もう全てが仕方なかったと思う。
後はこれを出来る限り繰り返し、災いを散布するだけだ。

「……ベルトルトさん、本当に、それでいいの?」

「………君か」

幻覚が見える。僕は、幻覚のきみ……赤城みりあに話しかけた。
「いいんだ。これでみんなを殺して、僕は故郷に帰らなきゃ――」
「…無理だよ」

「え?」

「"無理だよ。あなたの物語は、ここで終わりなんだから"」

「っっ……!!!」…突如、心臓が凝固する。力無く、崩れ落ちてしまう。…何故だ。何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ…!!いったい、何処で、間違えたんだ。

僕は、故郷に、帰らなきゃ――



ザラキ。――”精神的に不安定” ”体力・気力が果てるような状況"の相手にのみ効力が発せられる呪文。
ベルトルトは……超大型巨人は、再度持ち上げた家屋に居たエルピスのザラキを、受けてしまった。


心臓が止まる。血液が凝固する。
これで、終わりか。

眠い。何だかとても、眠くなっていたんだ。


…僕は結局、何も無しえなかった。
僕は結局、彼女に何も告げられなかったじゃないか。

でも―――今際の際、幻覚として現れたアニとみりあを見る。

――僕はもう、何も傷つけなくていいんだ。



よかった。

僕は、少しだけ、嗤うことが出来た。

776最後の巨人 ◆4Bl62HIpdE:2024/02/21(水) 00:46:14 ID:bkTUj3cg0






わたしは、卑怯者だ。


生きた証を残すと言っておきながら、トッペイ君をその一部すら回収できなかった。


「"逃げて"」、そう目で訴えてくるエルピスに、何もしてあげる事はできなかった。







私は、卑怯者だ。

この炎獄と、巨人が倒れ、崩れ落ちたなかで……わたしだけが、生き残ってしまった。




「みんなの生きた証を記さなければならない」、それは建前のつもりじゃなかった。だけど、トッペイ君とエルピスは……




爆炎と巨人の身体に潰され、もう何も残っていなかった。







時を止められるのは、松坂さとうだけではなかった。
エルピスの最後の支給品は「スペードのラウズカード」。その中にあった解説書と……ラウズカードスート10「time」。

この一度だけの"切り札"を使用し、清棲あかりは何とか巨人の崩落から逃げ果せ、スート7「metal」とキングラウザーのバリアを使用し爆風から身を守る事ができた。

…他の犠牲に目を瞑ってまで、自分だけが、生き残ってしまった。


『命だったものを奪って。死者の生きた証に涙を流して――それで、死者は報われるんですか?』

『"私は知ってるんです。死者の、私たちを妬む声も、恨む声も。苦しみも、嘆きも。目を瞑っても、耳を塞いでも、ずっとずっと心の奥に溜まってる。"』

幡田零の言葉が、今になって反芻する。

777最後の巨人 ◆4Bl62HIpdE:2024/02/21(水) 00:46:29 ID:bkTUj3cg0


「――そんなあなたの『エゴ』に……私を■■■■■■■■■■■■■■――――」



「…何も、言い返せないな」

私は、エルピスの舌を採取してしまった。「生きた証」を残すためだと自分に言い聞かせながら。
これは、エゴなのかな。――私のやった事、駄目なことなのかな。

……私は、エゴでその時になったら、又みんなを見捨てて生きようとして、たくさんの”いたんだ”を造りつづけるのかな。

ただの、自己満足の為に。



…あはは、はは。

【アルーシェ・アナトリア 死亡】
【松坂さとう 死亡】
【パンドラボックス(エルピス) 死亡】
【立花特平/トッペイ 死亡】
【ベルトルト・フーバー 死亡】

【E-4/一日目/午前】

【清棲あかり@へんなものみっけ 】
[状態]:心身が不安定、爆風で煤けて汚れている
[装備]:ポケモン図鑑@ポケットモンスター モンスターボール×8 ひかりのドレス@ドラクエ7 キングラウザー・スペードのラウズカード@仮面ライダー剣
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1 Eー3かねでの森博物館から持ってきたフィールドワークや解体用の道具(双眼鏡・ハイヒール(大型動物解体・調理用刃物)など) 火山灰(一人分の量)@血と灰の女王 エルピスの舌
[思考・状況]
基本方針:???
0:………。
[備考]
※参戦時期は原作1話 事故死したカモシカを博物館に持って帰ったところ
※ロックの危険性について知りました。征史郎との会話から爆発させる能力はスタンドの力ではないかと推測しています。
※マネーラ・ギャブロ・藤丸立香の世界について簡単に知りました。
※トッペイとの情報交換でクライスタの世界観を大まかに把握しました。
※征史郎との情報交換でリベリオンズ、ブルーリフレクション、よるのないくに2の情報を得ました。
 ただしリベリオンズはDルートの為充、琴美以外の人物とは話が合いません。
※トッペイの治療により、本来の服装であるパーカーを足りない包帯代わりに使用しました。
※トッペイの治療でかなでの森博物館から持ってきたフィールドワーク用の包帯は使い切りました。治療に使える薬はまだあります。
※スペードスートのラウズカードの内、スート7メタルトリロバイト、スート10タイムスカラベを使用しました。


ベルトルトが家屋を投擲した先。
そこは、ベルトルトが好意を寄せていた者が現在、戦っている場所だった。


※超大型巨人の爆発により、少なくともE-5は壊滅状態となっています。
※ベルトルトが家屋を投擲した先の範囲にF-6も入っています。どのような影響を及ぼすかは後続の書き手にお任せします

778最後の巨人 ◆4Bl62HIpdE:2024/02/21(水) 00:46:42 ID:bkTUj3cg0
投下を終了します

779双眸赫翠 ◆EPyDv9DKJs:2024/02/22(木) 22:08:51 ID:5nQPH81Q0
投下します

780双眸赫翠 ◆EPyDv9DKJs:2024/02/22(木) 22:10:30 ID:5nQPH81Q0
「と、このように話が噛み合わない知り合いがいるわけだ。」

 征史郎は新たに合流できた参加者、
 とりわけこの場合美炎について事を説明する。
 2ndStageが始まってない筈のはるな、
 琴美が死んでない筈の悠奈、悠奈と面識がある筈なのにない初音。
 当然、美炎とフェイトの世界線も違うことついてには時間はかからなかった。
 (これは彼女にとっては外見的な問題も一因しているが。)
 リリアーナや鉄平は何が何だかさっぱりではあったが、
 そっくりさんということで話を受け入れることにした。

「そっか。だったら初めましてだね、フェイト……さん?」

 幼い小学生の魔法少女は此処にはいない。
 今ここにいるのはちい姉並みのスタイルのいい大人の女性だ。
 見上げる年下と言う、なんだかよく分からない構図に美炎は戸惑う。

「中身は子供のままなので、普段通りでお願いします。」

「まあ、私は可奈美達ほど関わりは薄いんだけども。
 遠慮なくフェイトちゃんって呼ぶことにするね。」

「北条鉄平もその辺なのやもしれぬな。明らかに人物像が噛み合わない。」

「ん? わしを知っとるっちゅーことは……」

 沙都子は既に死んでいて、出会ったのも零児達だけ。
 彼の知り合いは残されているのは梨花のみになる。
 沙都子のことばかりにかまけてて彼女の存在については、
 放送後になってからようやく気付いたようではあるが。

「友人を虐待されてると聞いてはいる。
 無論、これも噛み合ってないのを見るに違うようではあるが。」

「───いや、それは全部事実や。
 沙都子の友達が言うちょったことは。」

 気落ちした表情で鉄平は紡ぐ。
 自分がどれだけのことをしてきたのかを。
 虐待をしてなかった世界線はきっとありえないのだろう。
 それこそ、あれだけろくでもない死に方をしてきた夢のように。

「あ、あの! 鉄平さんはそのことを……」

「リリアーナの嬢ちゃん。
 今更悔いたところで過去は変えられへんね。
 沙都子も言うちょったわ。ムシのいい話やと。」

 庇おうとするリリアーナを静止する。
 結局のところ、都合のいい看病してくれる人が欲しかっただけかもしれない。
 そのことを否定しきれなかった、あの夕焼けの中の出来事を思い出す。

「悪いが事情はどうあれ、今の彼は此方にとっては味方だ。
 禍根については色々あるとしても、後か当人らで話し合うべきだろう。」

「それは僕も同意見だ。」

 改心したのが本当かどうかの議論を此処でする余裕はない。
 もっとも、あれだけ涙を流し苦悩していた彼の様子を見た零児にとっては、
 問題は余りなさそうと思えるようになってはいるのだが。
 とは言え、古手梨花とはひと悶着ありそうなのは否めない。

「それはそうと、美炎は大丈夫か。」

 零児が気にかけるのは鉄平だけではない。
 刀使の使命は命懸けだ。最悪死ぬことだってありうる。
 舞衣や薫だってその覚悟は決まっていただろうが、荒魂を祓う話の中だ。
 殺し合いなんてものとは無関係であり、受け入れがたいことでもある。
 辺獄の舞台に降り立ってから時間は経過はすれど状況はよくはならない。
 姫和の件もあり、気落ちした表情と共にすぐに動きたくなってしまう。
 けれどそれをすることは、鉄平たちを置いていくと言うことに他ならない。
 リリアーナや鉄平は戦えこそできるものの、同時に得意と言うわけではない。
 特に鉄平は薬物によるドーピングで賄っている。当然使う前提なのは論外だ。
 加えて可奈美の千鳥を人殺しの道具に使ってしまった事実、沙都子を死なせた重責。
 多くの事が重くのしかかっている。刀使と言えど中学生が背負えるものではないだろう。

781双眸赫翠 ◆EPyDv9DKJs:2024/02/22(木) 22:11:14 ID:5nQPH81Q0
 零児は数多くの仲間と出会ってきた。
 その中には彼女よりも幼い子供もいるにはいたが、
 このような過酷な環境での戦いかと言うと少し別である。
 ストライダー、レプリロイド、格闘家、弁護士……他にも様々な仲間と共にあり、
 同時に仲間が死ぬようなことなく目的を達成し続けてきたのが零児でもある。
 (既に死んでいた奴もいたりはしたのだが、その辺については割愛)

「大丈夫じゃないけど……そうも言ってられない、ですよね。」

 殺したくはなかったが殺めた以上はもう覆せない。
 彼女もまた覚悟を決めて、千鳥をジッと見つめる。
 不殺では守り抜けないと言う無情な現実を知った今、
 可奈美には申し訳なく思うが、この刃を振るって戦う覚悟を。

「無理はしないことだぞ。余り思いつめるとZルートまで考えることになりかねん。」

「ぜ、ぜっとルート?」

 ふざけた態度のように見えて、
 征史郎もまた仲間を死なせてしまった側の人間。
 だから彼女の気持ちは痛いほど理解しており、彼もまた気に掛けている。
 余りにも突拍子もない一言だったので、彼女はそれに気づくことはないが。

「ところで、首輪についてなんだが分かることは?」

「残念だが俺はそこまで専門じゃないんだ。役に立たずすまないな。」

『だが君は大祐と言う少年から首輪を外したんだな?』

「むぅ……やはりはるなの言う充かミスターLを頼るしかないのか。」

 筆談をしながら、適当な会話で情報を共有していく。
 ミスターLとは方針の違いで諦めてしまったものの、
 やはり機械に強い人間を探すのは至難だと言うことが伺える。

『ああ。ジッパーで首輪ではなく首を落としたら簡単にできたぞ。』

「だが紋章が何を意味するかをしなければ、解決しようがないな。」

『少しおかしくないか?』

「紋章か……一体どういう意味があるのやら。」

『おかしい?』

『君みたいに思慮深い参加者なら、
 これで即座に首輪を外すとは考えず慎重に行くはずだ。
 首輪ではなく人体に使えば簡単に外せるような行為、主催者がすると思うか?』

 大祐ならやりそうだがな、
 などと征史郎は脳内でごちりながら零児の筆談に頷く。
 事実、それを試そうとして慎重に動いているのが現状ではある。
 生きた人間の首を外した場合に首輪はどういう反応を起こすのか。
 その実験の真っ只中なのだが、どうにもならない壁が一つ。

『肝心の対象が出鱈目に強い連中ばかりでどうしようもないがな。
 貴真あたりならば現状、説得不可能かつ制圧できそうなものだが……』

 エスデス、アーナス、不動明、童磨と明らかに格が違う連中ばかり。
 生け捕りと言う点において、一番手軽なのは彼になるだろう。
 言い換えると彼以外にまともな候補が出てこないと言うのが難易度の高さを伝える。
 複数で相手してもなお倒しきれない傑物、否怪物揃いに頭を抱えたくなってしまう。
 もっとも、その彼も既に死んでいるのだが。

『ひょっとしたらだが、主催連中はそれほど首輪の拘束力に執着してないかもしれないな。』

 紋章や首輪と言った生殺与奪の権利はあれど、
 別にそれがなくても殺し合いが進行するシステムが確立されてる可能性。
 それがアーナス達と言った並みの参加者では太刀打ちできない存在なのだろう。
 何より、タギツヒメに取り込まれた姫和が参加者にいるのもそういう事かもしれない。
 それであれば、筆談が許されたりこうして徒党を組むことも問題視してないのも頷ける。
 征史郎が出会ったPDA関係者のような世界線が違う可能性は否定しきれないが、
 余り楽観的に物事を考える余裕は彼等にはない。

「あ、紋章と言えば城本さんと私達、紋章の色違いますよね。」

「ああ、やはりそうか。レオーネ達も違っていたが何か意味があるのか?」

 レオーネや征史郎は赤色の紋章。
 此処にいる他のメンバーの首輪には白色の紋章が刻まれている。
 紋章の色については細かい説明は何処にも記載されておらず、
 それが何を意味するかは現状においては不明なので後回しとする。

「にしても進展はなし、か……厄介だな。」

 戦いはさらに激化していくであろうこの状況で、
 敵を数人倒せただけの情報を得たと言うのは芳しくない結果だ。
 人数の減りから敵は多い。一人二人倒しただけでは止まりはしないだろう。

「さて、これからだが僕としては───」

 話を遮るような轟音が六人の脳裏に警鐘を鳴らす。
 近くの塀を突き破って出てきた者の姿は初めて見るが知っている。
 銀色の長い髪に青い服装。白い肌はアルーシェから聞いている姿と一致する。
 出会ってはならないとしていた筆頭の存在が一人。

「───ッあれがアーナスか!!」

782双眸赫翠 ◆EPyDv9DKJs:2024/02/22(木) 22:11:49 ID:5nQPH81Q0
 零児の発言と同時に最初に動いたのは美炎。
 今度こそ守り抜かんとするその意志が彼女を焚きつける。
 美炎の持つ千鳥と、アーナスの黒と赤の大剣ヨルドがぶつかり合う。
 轟音と共に周囲へと広がる衝撃。戦車の砲撃と見まがう攻撃は、
 後方で見ていた五人の男女は満足に近寄ることすら許されない。
 元より伝説の半妖に、八将神として強化された膂力は常人の比ではない。
 まさに怪物の一撃。普通の武器であればまず砕けてるだろう一撃だが、
 そこは錆びず折れないとされている御刀。お陰で無事だ。

(一撃が重い! これがアルーシェって人が言ってたアーナスなんだ……!)

 単純な力比べは不利だ。
 八幡力を全力で引き出しても押しきることができない。
 このままだとまずいと攻めるのを一旦やめようとするが、

「グッ……! 貴様、人間ではないな。」

「え?」

 有利だったはずの鍔迫り合いを、
 苦悶の声と共にアーナスからやめると同時に距離を取る。
 自ら優勢を捨ててまで出た疑問に、美炎も戸惑いを隠せない。

「何者だ。先の奴に気配が似ているような気がするが。」

 歩夢と同じ荒魂の気配を彼女は持つ。
 だがそれとは比にならない大荒魂カナヤマヒメ、或いはカグツチの力を彼女は内包する。
 恐れではない。沙夜たちにも行った交渉の余地があると判断したが故に中断したのだ。

「───私は人だよ。正真正銘、誰かを守るための刀使、安桜美炎だよ!」

 無論、時期の都合そんなこと知る由もない美炎にとって、
 自分が人間かどうかと問われれば人間と答えるだけだ。
 たとえそれを自覚していたとしても彼女のやることに対して、
 反対の異を唱えることは誰もが予想できることだが。

「そうか……ならば殺すだけだ。」

 交渉の余地はない。
 他の連中も賛同するものはいない表情や眼差し。
 ならばと再び美炎との剣戟を再開する。

 ヨルドは蛇腹剣の如く無茶苦茶な軌道で動くこともできる。
 魔剣と言うよりは鎖や鞭、或いは生物のように動く剣先に離れざるを得ない。
 リーチが長いとか、そんな次元とは別の領域で伸びて彼女を追尾していく。
 迫る刃を次々と払うも、自由自在の刃が首元を狙う。

「させない!」

 ソニックフォームへと変身を終えたフェイトが乱入し、
 バルディッシュが迫るヨルドを叩き落とす。

「ハーケンセイバー!」

 その勢いのまま振り上げながら、
 お返しとばかりに追尾性能のハーケンセイバーが飛び交う。
 剣を引き戻し弾くも背後から回り込んで刃が彼女を斬らんとする。
 気付いたアーナスは即座に跳躍で回避をすると、ヨルドを戻した後二人へと叩き込む。
 二人は散開して離れると、地面が砕けて隆起しながら同時に周囲へ広がる衝撃。
 威力の強さに軽く吹き飛んで転がる二人の隙を狙わんと動き出すアーナスだが、残された人物も同じ。
 肉薄した零児の雪走とヨルドの剣戟が数回行われ、彼もまたその重みを味わう。

(これは正面戦闘は不利か!)

 名刀であろうとなかろうと、まともに打ち合えば此方の身体の方が圧し折れかねない。
 その脇から征史郎が得たスタンド、スティッキィ・フィンガーズがジッパーで伸ばした拳が迫る。
 アーナスは転がりながら回避し、優先順位は其方へと変わる。

「させるかぁボケが!」

 間を挟むように鉄平が立ちはだかり、
 地獄の回数券を服用した粗雑な拳が飛び交う。
 素人の攻撃などいくら強化されたところで掠りもせず、
 邪魔だと言わんばかりに回し蹴りで蹴り飛ばされてしまう。

「美炎、畳みかけるぞ!」

「はい!」

 その隙を突いて美炎、零児が挟むように迫る。
 二人による剣戟はヨルドの刃で防がれていく。
 二対一で左右を対応することができるのはヨルドの性能と彼女自身の強さだ。
 元々二人とも普段とは違う得物による弱体化も差し引いてもアーナスが圧倒している。

「ギースと言い、本当にクソゲーみたいなバランスだな。」

 理不尽極まりない厄介さに苦虫を嚙み潰したような顔で、
 征史郎は地面にジッパーを取り付け、それを広げて穴を作って隙を狙う。
 迫るジッパーに気付き剣戟をやめ、全速力で今度はリリアーナに狙いを定める。
 一人残された彼女はリリィバーストの準備をしていることを気付かれたことで中断。
 縦に振るわれたヨルドを横へ転がる形でギリギリ回避に成功する。
 ただし避けれたのは斬撃だけ。衝撃までは躱せず吹き飛ばされてしまう。

783双眸赫翠 ◆EPyDv9DKJs:2024/02/22(木) 22:13:35 ID:5nQPH81Q0
「キャア!」

 元々前線に立つタイプではない彼女にとってこの回避は奇跡に等しい。
 一応、征史郎がスタンドで引っ張ったのもあるにはあるのだが。
 そのまま追撃の牙を剥けるが、直角に追尾する光の弾丸がいくつも迫る。
 フェイトのプラズマランサーの回避を優先し、近くの家屋へと降り立ちヨルドでそれらを弾く。
 続けざまにバルディッシュと切り結ぶも、その一撃の重さに手に痺れが走った。

(駄目、この人に接近戦で挑めない!)

 単純な強さに加え技巧を併せ持つ。
 だからこそフェレスが選んだ八将神が一人。
 夜の君と呼ばれるその存在は参加者としても指折りの強さを持つ。
 いくら強引に成長したと言えども限度がある。

「たああああッ!」

 だがそれでも近接戦を挑まなければならない者の姿あり。
 カナヤマヒメの力となる赤いオーラを無自覚に纏いながら、
 美炎が交代で刃を交える。

(先程よりも重いな。)

 破竹の勢いで迫る美炎の刃。
 先とは比べ物にならない重みと鋭さを持つ。
 一時はその勢いに受けに回らざるを得なかったものの、
 清光ではなく千鳥である以上本来のものよりも見劣りする。
 十数回も剣戟を続ければ、交代と言わんばかりにアーナスの反撃が始まった。
 文字通り伸びながら迫る斬撃。当たれば写シで防げると言えども死神の鎌のようだ。
 防ぐことを諦め回避に専念するが、ヨルドは執拗に伸びては美炎の写シを削っていく。

(あれ、使うべきなのかな……)

 零児にも黙っていたある支給品。
 あれを使えばこの状況を打開か好転できるかもしれない。
 けれど鉄平の使う地獄の回数券のようにリスクもある。
 だからどうしても使用を躊躇ってしまっていた。

(いや、此処で使わないと勝てない!)

 力がなければ何も救えない。
 嫌と言う程それを味わった彼女にとって、
 それを使わないと言う理由にはならなかった。
 相手はアーナスだ。余裕をもって戦える相手ではないのは既に分かっている。
 だから使う。危険なものだと分かってたとしても。

「フェイトちゃん! 援護お願い!」

「はい!」

 フェイトが援護のフォトンランサーを放ち、防御の優先順位の変更がされる。
 その隙を突いて距離を取るとデイバックから支給品を取り出す。

「力を貸して……魔晶!」

 手に握ったそれを力強く握りしめると、彼女の姿が変わる。
 魔晶。ある帝国が実験の副産物として誕生した代物であり、
 こうして力を与える支給品として今回彼女に支給された。
 そうして姿を変えた美炎は黒と白を基調とした、巫女服に近しい恰好をする。
 だが神聖な巫女服とは裏腹に黒ずんだ腕や額を覆っている黒い装飾品は、
 少女を禍々しい姿にしている。さながら悪鬼羅刹の擬人化とも言えよう。

「うわ、絶対やばそうだ……でも!」

 腕の状態に嫌悪感をあらわにするが、
 今までとは比にならない力の高揚感。
 戦える。一人では無理でも皆であればきっと。
 戦線に復帰しながら刃を振るう。

「ッ!」

 屋根の上から地上へ移動しながら繰り広げられる剣戟。
 先ほどまでと比べ物にならない一撃はアーナスも目を張るものがある。
 互角とまではいかないが、十分に打ち合えるだけの力を手にしていた。
 甲高い音が辺獄へと何十回と聞こえるのがその証左でもある。
 だが、それでも届かない。彼女が弱いのではなく、ヨルドの性能の問題だ。
 伸縮自在の刃は先ほどとまではいかずとも身体を刻んでいく。
 このまま剣戟を続けたところで、写シが剝がされるだけの未来。

「アークセイバー!」

 そこに加勢するのは強引に大人へと至った魔法少女。
 フェイトがそう叫ぶと同時に、先と同様にサイズフォームの刃がブーメランのように舞う。
 咲の攻撃と同じで類かと剣戟の合間に些末事のように弾こうとするアーナズだったが、

784双眸赫翠 ◆EPyDv9DKJs:2024/02/22(木) 22:13:54 ID:5nQPH81Q0
「セイバーブラスト!」

 そう宣言すると、弾く寸前に爆発を起こす。
 アークセイバーは投擲武器だけでなく爆発と言った芸当もこなす。
 防ぐのに失敗したことで顔面に焼けるようなダメージを残し怯ませる。
 そのできた隙を美炎が見逃すことなく、逆袈裟斬りを見舞う。

「ッ!」

 寸前、右手で強引に刀を防御して防がれる。
 防がれるも勢いを殺せたわけではなく胴ががら空きになり、隙を晒す。
 今度こそできた隙を逃さず、真一文字の傷を胸元へと刻む。
 だが当たったからと言って油断は一切しない。御前試合でも、
 この程度で写シが剥がれるような軟な刀使はいないだろう。

「美炎! 下がれ!」

 援護をする暇はなくとも策は練れる。
 零児の指示により彼の元まで引き下がる。

「太陽の意志、我が胸に正義を与えたまえ!」

 伯爵の時と同じ。
 リリィバーストによる一撃を叩き込む。
 あの時は事故も相まって成功した以上今回のは無謀にも見えるが、

「な、動けん……ッ!」

 隙を突いてフェイトのバインドによる両腕の拘束。
 デビルマンですら動きを止めるそれは、
 流石のアーナスと言えどもすぐには解除できない。
 その動きを止める時間さえあればいいが、ヨルドはそれを許さない。
 真っすぐ、リリアーナを貫かんと弾丸のように迫ってくる。

「嬢ちゃん!!」

 地獄の回数券によって無茶な回復力を得た鉄平は、
 自分の身体を張った壁としてリリアーナを守る。
 一番敵として認識してなかった存在による妨害。
 そのままヨルドを伸ばし貫けばいいだけの話を、
 敵と認識してなかった存在により思考の外へと追いやってしまう。
 ある意味それが、この戦いにおいてアーナスが最も隙を晒した瞬間だ。

「光よ!!」

 伯爵の時同様に、天より一筋の光が降り注ぐ。
 狙いは太陽の意志とは真逆の夜の君へと一直線に。
 辺獄の空を照らすことはできずとも、誰かの希望のように照らす光を。
 その一撃による轟音と衝撃を前に吹き飛ばされそうになるも、何とか耐える六人。

「美炎、その姿は一体……いや、後で聞く。まずはアーナスを───」

 あれで倒しきれたとは思えない。
 早急に対処しよう。そう思った時だった。
 パッと。殺気が背後から突如現れ言葉を紡ぐことはない。
 間違いなく攻撃を受けた筈のアーナスが、何故か零児の背後に立つ。
 瞬きなどしていない。美炎からは本当にそうアーナスが出現したのだから。
 零児もそれに気づいたが対応は間に合わず、ヨルドによる斬撃が袈裟斬りで刻まれる。

「───零児さんッ!!」

 斬られながら今の彼女に違いがあることを気付くのであれば。
 彼女の右手には懐中時計が握られていたことだろうか。
 ストップウォッチ。使えば一秒時間を止められる懐中時計。
 たった一秒ではあるが、戦場にとっての一秒は別物だ。
 停止時間の中を駆け抜け、司令塔となる零児に致命傷を与えた。

 血を夥しく流しながら倒れる零児を一瞥すると、
 次の狙いはリリアーナ。リリィバーストをもう一度受ければ、
 アーナスと言えども身が持たないと判断したからだ。

「させない───え?」

 間に割り込んで迎え撃つフェイト、
 後方から迅移を使って移動する美炎の二人をスルーし、
 最後の砦となる鉄平をも捨て置いて二度目の静止した時間を駆け抜けリリアーナの背後へ到達。
 零児ですら対応不可能だったそれを、リリアーナが対処できるはずがない。
 動き出すと同時に目の前に立つ夜の君の刺突を、無情にも受け入れるしかなかった。

「フェイト! 右手の懐中時計を狙え!」

 致命傷を受けながらも新羅のエージェントは声を張り上げる。
 振り向きながらその右手のものに対処しようとするも、三度目の時間停止。
 次に狙うはフェイトではなく、謎の強化を得ている美炎だ。
 負けることはないが、人間ではない何かが万が一を想定しての行動になる。
 そう思って今度はフェイトを置き去りに美炎の背後を取り、
 時間解除と共に上半身と下半身を分断する。

「ウグッ!」

「何!?」

 だがアーナスは知らない。
 写シによるダメージの軽減の存在を。
 斬ったと思ったら斬れていない事態に困惑し、一手遅れる。

785双眸赫翠 ◆EPyDv9DKJs:2024/02/22(木) 22:14:37 ID:5nQPH81Q0
「盗み癖(スティッキィ・フィンガーズ)が悪いんでな。没収だ。」

 運よく近くにいた征史郎がアーナスの右手をスタンドで殴る。
 同時に右手にジッパーを取り付けられ、ポロリとストップウォッチを落としてしまう。
 そのまま落ちたそれを手にしてから、ジッパーで滑って移動する。
 移動をすると同時に、征史郎がいた場所へ叩き込まれるヨルド。
 つくづくスタンドがあってよかったと実感せざるを得なかった。

「ちょこまかと……」

 先ほどまで美炎を優先したかったが、
 現状の中でブレインとなりうるのは眼鏡の青年。
 先に仕留めておくべきだったと顔をしかめている。

(だがどうする? どうすればこの状況を打開できる?)

 零児もリリアーナも致命傷だ。
 此処で捨て置いて逃げるにしても散開する以外の選択肢が、
 誰かを一人犠牲にしなければ生き残る手段が見つけられない。
 征史郎はアーナスが警戒する程、妙案を立てられるわけではなかった。

「まずは貴様から───?」

 言葉を紡ぐのを遮るように、
 近くに星形の何かが落ちてくる。
 何事かと空を見上げれば、流星群の如く小さな星が落ちてきたからだ。

「な……」

「キラキラ、おとし……!!」

 救いの流星が降り注ぐ。
 致命傷を受けたリリアーナだったが、
 まだ辛うじて動くだけの気力は残されていた。
 残された最後の支給品『キラキラおとし』による攻撃だ。

「皆、逃げ、て……!!」

 アーナスは降り注ぐ流星群を防ぐことに手一杯となる。
 当然、征史郎達を相手にする暇がない。
 今が逃げるチャンスで間近で聞いた鉄平は、
 それを噛みしめながら応じ、流星群の中を駆け抜ける。

「嬢ちゃんからや! 残った四人で逃げんね!!」

「逃げるって、二人は───」

「置いていくしかない。支給品は片方だけは回収してある。」

 幸い近くにいたお陰で、
 スティッキィ・フィンガーズを利用して即座に零児のデイバックは回収した。
 リリアーナの方の回収は不可能なのは誰が見ても分かり切っている。

「そうだ、それでいい……」

「零児さん!」

 血反吐を吐きながら、何とか立ち上がる零児。
 誰が見ても傷は深く、今すぐ処置しなければ危険な状況だ。
 当然、そんなことをしている暇など今の状況では何処にもない。

「俺も足止めする……だから全力で行け!」

「でも───」

「全滅が、お前の望みじゃないだろう。」

 最初に出会って、
 今まで自分を気遣った相手。
 そんな人物を見捨てることになる。
 納得はいかないがその選択を取らざるを得ない。
 誰かに任せるのではなく、誰かを置いていくと言う非情な決断。
 守るはずの刀使が、守られなければならない状況を歯がゆく思う。

「俺は手遅れだ。だから、後は任せたぞ。
 友人や同じ仲間を、守るのが刀使なんじゃないのか。」

「ッ……分かり、ました。」

 それを受け入れざるを得ず、美炎も走り出す。
 鉄平が先導すると、征史郎もそれについていく。

「フェイト、悪いが最後に頼みたいことがある。」

「え?」





「なんだったんだ、今のは……」

 大量の流星群に少なからずダメージを受けたが、
 致命傷と言える程のダメージは負うことはなかった。
 疑念に浸ってる暇はない。早急に負わなければと動き出すが、

786双眸赫翠 ◆EPyDv9DKJs:2024/02/22(木) 22:15:14 ID:5nQPH81Q0
「よそ見をする暇があるのか!」

 余っていたタマゴバクダン七個、全てをアーナスへと投げつける。
 ジャスタウェイ程の威力もなければ、キラキラおとしと比べるまでもない。
 多少爆発を受けることでダメージを受けたものの、所詮微々たるものだ。

「小癪な……この程度で私を倒せると思うな。」

 一刀を以って切り伏せ、今度こそ零児にとどめを刺す。
 倒れゆく零児を一瞥し、彼の狙いに気付く。
 爆発による目くらましが目的だった。
 彼の背後にはフェイトが構え、雷撃の光線を放つ。

「サンダースマッシャー!!」

 先の戦いで使ったプラズマスマッシャーの原型となる攻撃、サンダースマッシャー。
 命中時の破壊力は雷撃の都合なのはのディバインバスターより上で、
 建物や塀の壁をいくつも貫きながらアーナスは零児ごと飛んでいく。
 それを一瞥した後、フェイトも三人の後を追った。

【D-4/午前/1日目】

【北条鉄平@ひぐらしのなく頃に 業】
[状態]:疲労(大)、精神的疲労(絶大)、身体にダメージ(大)
[装備]:ヘルズクーポン(半数以上使用及び廃棄)@忍者と極道
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜2
[思考・状況]
基本方針:双子から願いを叶える力を手に入れて沙都子を生き返らせる。
0:ワシにできるのは、それぐらいや。
1:兄ちゃん(零児)達と行動する。
2:沙都子や嬢ちゃん(あゆり)の為にも生きにゃいかんね。
3:アーナスから逃げる。
[備考]
※参戦時期は本編23話より。
※リリア―ナ、あゆりと簡単な自己紹介だけしました。(名前のみ)
※あゆりとの年代の違いはまだ知りません。
※ヘルズクーポンの強化時間は大幅に制限されてます
※零児、美炎、リリアーナ、征史郎、フェイトと情報交換しました。

【安桜美炎@刀使ノ巫女 刻みし一閃の燈火】
[状態]:疲労(大)、精神疲労(絶大)、自責の念、複雑(鉄平に対して)、魔晶による変化
[装備]:千鳥@刀使ノ巫女、魔晶@グランブルーファンタジー
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×1
[思考・状況]
基本方針:殺し合いを止める。
1:今は使うしか無いけど、可奈美に出会えたら千鳥を返さないと
2:みんなの事が心配。
3:十条さん……私が救う!
4:清光、どこかなぁ……
5:沙都子ちゃん、零児さん、リリアーナさん……

[備考]
※参戦時期は第四部第二章終了後〜第四部第三章開始前
※ゆらぎや特務機関森羅、逢魔に関する情報を知りました
※本来は刀使でもその御刀に選ばれないと写シ等はできませんが、
 この場では御刀を持てば種類を問わずに使用可能です(性能は劣化)
※大荒魂カナヤマヒメの力は美炎が『力を求めたとき』発動します。
※カナヤマヒメは美炎の生存を第一に考えています。(優勝してでも)
※カナヤマヒメは沙都子の本性に気づいていました。
※何度もカナヤマヒメの力が発動、及び美炎の身に死の危険が訪れると、
 カグツチに意識を完全に乗っ取られる可能性があるかもしれません。
 参戦時期の関係から美炎は自分の体内にカナヤマヒメが封じられていることは知りません。
 また、カナヤマヒメとカグツチとの関係も然りです。
※名簿から巻き込まれている知り合いを確認しました。
※十条姫和はタギツヒメに取り込まれている状態だと思っています。
※首輪に関する話は筆談で行います。
※沙都子からエスデスの危険性を聞きました。
※リリアーナ、鉄平、征史郎、フェイトと情報交換しました。

787双眸赫翠 ◆EPyDv9DKJs:2024/02/22(木) 22:16:08 ID:5nQPH81Q0
【フェイト・テスタロッサ@魔法少女リリカルなのは】
[状態]:疲労(中)、魔力消費(大)、罪悪感(大)、成人の姿、みさえに対して安らぎと悲しみの心情、羞恥心(大)、ブレイズフォーム
[装備]:甘露寺蜜璃の隊服@鬼滅の刃、バルディッシュ・アサルト@魔法少女リリカルなのはA’s、病気平癒守(残り二回)@東方project、マジックポーション×1@東方project
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1〜2
[思考・状況]
基本方針:みさえさんの家族、来夢さんと明さんの仲間を探す。
1:征士郎と行動する。
2:家族って、良いものなんだね…
3:他の人達もそれぞれ別々の世界からつれてこられてるのかな…
4:明さんを止める。もしも明さんが死ぬことになるとしても。
5:私の知らないバルディッシュ。でも、私を知ってるバルディッシュ。
6:キャスター・リンボ……あなたは絶対に倒す。
7:ひろしさんやしんのすけに会った時、謝る。
8:アーナスから逃げる。
[備考]
※参戦時期は少なくとも第一期のプレシア事件の後です。
※来夢の事情を知りました。(せつ菜を殺めた顛末)
※来夢からブルリフの世界について簡単な知識を得ました。
 明からデビルマンの世界について簡単な知識を得ました。
※成長そくしんライトによって原作におけるストライカーズの年齢まで成長してます。
 バリアジャケットはその場で変化させているため格好に問題はありません。
※バルディッシュの参戦時期はA’s最終話までなので、
 真・ソニックフォームなどそれ以降の時期のフォーム等にはなれません。
※主催にキャスター・リンボ(名前は知らないが芦屋道満)の存在を知りました。
※征史郎、ワザップジョルノ、梨花、初音と情報交換しました。
 初音に関しては嘘も混ざってます(琴美に攻撃の件、アカメが怖くて逃げた等)

【城本征史郎@トガビトノセンリツ】
[状態]:精神疲労(小)、ダメージ(中)
[装備]:スティッキィ・フィンガーズのDISC@ジョジョの奇妙な冒険
[道具]:基本支給品×3(自分、あゆり、零児)、ランダム支給品×0〜3(夕月×0〜1確認済み、零児×0〜1、あゆり×0〜1)、スフォリアテッレ×1(箱入り)@クライスタ、ストップウォッチ(残り一回)@東方project
[思考・状況]
基本方針:殺し合いに反抗する。
1 :はるなの遺志を継ぐ。
2 :ジャマイカ一行(悠奈)とは敵対はしないが、方針的に共同は難しいな。
3 :はるな、夕月、アルーシェの知り合いを探す。
   特に城咲充優先かつ、前者二名の知り合いにも謝っておきたい。
   ただ平行世界の件もあるのでその辺気を付けないと痛い目を見そうだ。
4 :スタンドでできることを試そう。できて当然と言う認知が大事だ。
5 :ついでにスタンドを使える奴がいるか探す、或いは警戒をしておく。
6 :あっさりと終わったがこれでいい。語られなかった物語とは、そういうもので。
7 :生きたまま首輪が外せるかを乗った参加者で試す。できないとは思うが。
8 :首輪について調べておく。
9 :……ふむ、生きて帰れたら生物学でも齧ってみるとするか。
   あ、パンドラボックスの齧るとは別の意味だ。
10:オカルトか。このご時世で必要とはな。
11:フェイトと行動。

[備考]
※参戦時期は死亡後です。
※リベリオンズ、ブルーリフレクション、よるのないくに2の情報を得ました。
 リベリオンズ勢は全ルートの人物と遭遇か共有した結果概ね把握こそしましたが、
 逆に判断が困難を極める結果となった為若干これについて思考停止気味になっています。
 また、初音に関しては2ndステージ以降の話は聞いてません。
※おおよそスタンドでできることを把握しています。
 ワザップジョルノから何か応用の仕方を聞いてるかも。
※マネーラ、ギャブロ、藤丸立香の情報を簡易的に得ました。
※キヨスから幡田零の情報を得ました。(外見と妹を探していることについてのみ)
※二日目の昼にE-3にあるかなでの森博物館に人が集まる情報を得ました。
※ロック(バンパイア)の危険性について知りました。
 爆発させる能力はスタンドによるものではないかと推測しています。
※フェイト、来夢、初音、ワザップジョルノ、梨花と情報交換しました。
 初音に関しては嘘も混ざってます(琴美に攻撃の件、アカメが怖くて逃げた等)










「グッ……ハァ、ハァ。」

788双眸赫翠 ◆EPyDv9DKJs:2024/02/22(木) 22:16:27 ID:5nQPH81Q0

 何処かの家屋に叩きつけられたアーナス。
 ダメージは甚大ではあるが動けない程ではない。
 ヨルドを杖代わりに立ち上がると、再度敵か味方を求め歩き出す。

「私は、人間を……? 何故、だ……分からない───」

 救いの手など最早ありはしない。
 彼女を救おうとした半妖は、既にこの舞台から去った。
 此処にあるのは、ただのフェレスのお気に入りと化した玩具でしかない。

【有栖零児@PROJECT X ZONE2 BRAVE NEW WORLD 死亡】
【リリア―ナ・セルフィン@よるのないくに2 〜新月の花嫁〜 死亡】

【???/午前/1日目】

【アーナス(歳刑神)@よるのないくに2 〜新月の花嫁〜】
[状態]:ダメージ(大)、混乱・困惑(大)魔力消耗(中)、吸血衝動(低下中)、人間への激しい憎悪?、顔面打撲(中)
[装備]:魔剣ヨルド 盤古幡@封神演義
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×1
[思考・状況]
基本方針:『夜の君』としての本能に従い、人間を殺していく
1:?????
2:『人間』を見つけて殺す?。
3:小夜達(傘下)を利用する。
4:『人間』以外の参加者と出会えば、利用できそうなものであれば使役する
5:リュリュ……リュリ―ティス……その名が頭から離れない……ッ!!
[備考]
※参戦時期は暴走状態の頃からとなりますが、
 主催者からの改竄により「夜の君」としての理性だけは取り戻しております。
※また主催者の改竄により「大切なもの」を奪いとったものは、
 「人間」であったと認識させられていたのが、本当にそうなのか、懐疑的になりました。
※人間だった頃の記憶及び半妖だった頃の記憶については、欠落から時折、フラッシュバックするようになりました。
※ディメーンとのやり取りから主催陣に懐疑的な感情が芽生えました。
※フォームチェンジは魔力と引き換えに連続して使用可能

※D-4にリリアーナのデイバック(基本支給品のみ)、雪走@ONE PIECEがあります

【ストップウォッチ@東方project】
アーナスに支給。東方非想天則におけるシステムカードの一枚で十六夜咲夜の懐中時計。
使用時に一秒時間を停止させ、その間自由に動ける。四回使うとただの懐中時計になる。

【魔晶@グランブルーファンタジー】
安桜美炎に支給。エルステ帝国が星晶研究によって生み出した結晶。
星の力の模倣とし危険な実験を経て作成され、力を得るが使用には代償を伴う。
過剰に使えば精神の崩壊などの恐れがある。
美炎が使う場合、姿は安桜美炎(Another)になる。

【キラキラおとし@スーパーペーパーマリオ】
零児に支給。文字通り星を流星群のように落としてダメージを与える。
ダメージを与えるタイプのアイテムの中で最も威力とスコアを叩きだせる。

789双眸赫翠 ◆EPyDv9DKJs:2024/02/22(木) 22:17:49 ID:5nQPH81Q0
投下終了です

790双眸赫翠 ◆EPyDv9DKJs:2024/02/22(木) 22:19:12 ID:5nQPH81Q0
また「JUST LIVE MORE Helheim」ですが、
木刀政の状態表を変更します(貴真から没収した支給品を忘れてました)

【木刀政@デビルマン(漫画版)】
[状態]:左腕に矢傷、疲労(小)、ビリビリ状態
[装備]:妖刀『星砕き』@銀魂
[道具]:基本支給品×3(自分、貴真、せつ菜)、ドス六のドス@デビルマン(ドス六の支給品)、チェーン万次郎のチェーン@デビルマン(万次郎の支給品)、ランダム支給品×0〜1、チーターローション残り8/10@ドラえもん、コルトポケットもどき@クレヨンしんちゃん ブリブリ王国の秘宝、まほうの玉×8@ドラゴンクエストビルダーズ2 破壊神シドーとからっぽの島、ランダム支給品×0〜1(優木せつ菜の分、武器の類)

[思考・状況]
基本方針:不動を止める。
0:不動に一発お見舞いして目を覚まさせる。
1:修平と見知らぬ襲撃者・来夢・佐藤マサオ・針目・アーナス・日ノ元士郎に警戒する。(一部懐疑的)
2:くそ、どうなってんだよこいつぁ……
3:エスデスから逃げる。とりあえず当面の通り北だ。
[備考]
※参戦時期は死亡後。
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×0〜1(優木せつ菜の分、武器の類)

791戦火の残滓 ◆EPyDv9DKJs:2024/03/19(火) 19:30:17 ID:jn8LoDm60
投下します

792戦火の残滓 ◆EPyDv9DKJs:2024/03/19(火) 19:31:21 ID:jn8LoDm60
 ナスタシアと服部は思いのほか早く敵と邂逅することになった。
 来夢に桐生と言う洗脳をはねのけた人物がいたのも相まって、
 洗脳をより強固なものとするべく時間をかけたからなのはある。
 一方で、それを見つけたのは本来奪還組であるはずの日菜子たちではない。

「まさかあたし達が見つける側とはね。」

 見つけたのは沙夜と合流を目指していたマシュ、アリサ、アニ、しんのすけだ。
 マシュが三人の前に立ち、臨戦態勢へと入る。
 アニも戦闘可能ではあるが、問題なのは洗脳を受けた服部だ。
 服部の持つ棍棒が銃器であることは桐生との戦いで把握している。
 下手に前に出ればハチの巣にされてしまう以上マシュが頼みの綱だ。

「時間をかけすぎたようね……けれど、かけた分働いてもらうわ。」

「ビバ! 伯爵!」

 洗脳は十分だと言わんばかりに放たれる特殊棍棒の無数の弾丸。
 木偶を粉々にする弾丸もマシュの持つ盾であれば防ぐことは可能。
 だが問題はストライカーユニット震電により正面だけでなく、空からも攻撃が可能だ。
 空へと舞えばマシュもアニも空中の相手に戦う術はない。
 ただ盾で防ぐ以外にない防戦一方かと思いきや。

「変身!」

 盾の背後でミライマンを逆さに掲げるとしんのすけが変身。
 赤と白の衣装に身を包み、しんのすけマンとなって丸出しの尻から炎を噴き出し空へと飛ぶ。
 当然、攻撃される可能性のあるしんのすけへと服部はターゲットを変更するも、

「ひとつひとより和毛和布!」

 くねくねした動きでガトリングが如き攻撃を回避していく。
 ミライマンによる変身の身体能力の強化とぷにぷに拳が合わさることで、
 武器の性能を前にしても華麗(?)に躱していく。

(何故避けれるのか分からないが、動くなら今しかない。)

 端から見ればシュール極まりない光景ではあるが、
 傍観してる暇はなく、アニは隙を突いてナスタシアへと肉薄。
 地禮で斬りかかろうとするもナスタシアは自分の弱さを理解している。
 不意打ちが来るだろうことは予想済みで風火輪を起動させ空へと逃げていく。

(向こうも飛べるのかよ!)

 舌打ちしながら今の戦況に頭を抱えるアニ。
 やはり植木から立体機動装置を貰うべきだったと思える程に、
 相手は双方空中と言う優位な場所へと逃げ込まれてしまう。

(けど向こうも攻撃してこないってことは支給品が尽きてるな。)

 ナスタシアは空を飛んでいるものの、
 攻撃はせず流れ弾の方を警戒している様子を見ていた。
 此方へと攻め入るわけではないと言うのが何となく察した。
 あくまで風火輪は逃げの為のもの。そういう意味では救いだ。
 アニの読みの通り、ナスタシアには攻めになりうる支給品がない。
 だから欲しいのはチョーサイミンジュツを使えるそのタイミングだ。
 戦況を目敏く把握しながら機会を伺う。

「アリサさんとアニさんは近くの建物に避難を!」

「分かったわ!」

「これだと仕方ないか……」

 本当ならば戦うべき場面なのだが、
 マサオとの戦いのダメージは数時間眠った程度では回復しきれない。
 このままではマシュが身動きが取れず足手纏いなのは分かり近くの家屋へと避難。
 アニも現状空中の敵に対しての攻撃手段がないのでは戦力外にしかならない。
 動きに余裕ができたマシュはしんのすけが十分に服部を引き付けてるのもあり、
 ブースターを使うことで空中のナスタシアへと肉薄していく。
 オルテナウスを軽々と振るい、風火輪の破壊を優先とする。

「ッ!」

 予想外の速度にかなりギリギリ、風圧が全身を掠めるだけに留まるが、
 空中と言う優位は完全ではないとは言え失っていることは十二分に伝わった。
 一方でそれだけの戦闘が行えると言うことは人材確保としては有益だ。
 何としてでも洗脳して此方側の戦力としたい人材である。

(問題は武器がないこと……針目縫から分けてもらうべきだったか。)

 マシュの攻撃は基本直線的なので回避は難しくないが、
 反撃の為の武器が風火輪しかないのが一番の問題点だ。
 風火輪の炎を用いれば攻撃は一応可能ではあるのだが、
 それができるほどナスタシアは使いこなしてるわけではない。

(肝心の服部は……)

 ちらりと向こうの様子を見るが、
 しんのすけの珍妙な動きで銃器としての意味をなさず、

「みっつみだらに猫手反発!」

 ぷにぷに拳を用いた動きで特殊棍棒を弾き返し、
 棍棒としての攻撃の性能もまた意味をなさない。
 一方で年上の女性であるのと宮藤の友達ともあってか、
 ぷにぷに拳で一番の攻撃技であるはずの柔軟弾丸を使わずにいる。
 お陰で実力伯仲とまではいかないが、拮抗した状態へと持ち込まれていた。

793戦火の残滓 ◆EPyDv9DKJs:2024/03/19(火) 19:32:16 ID:jn8LoDm60
(このままペースを乱されるのであれば、彼女を利用するのが得策か。)

 眼鏡を光らせ、空中を移動してしんのすけへと向かう。
 マシュもさせまいと妨害をするもブースターだけでは、
 空中を自在に移動できる風火輪の前では対応しきれない。
 だがナスタシアの目的はしんのすけではなく、服部の特殊棍棒を奪取した。
 服部の武器はそれだけなのに何事かと疑惑を持ったが、マシュは先に感付く。

「二人とも動かないように。動くのであれば私は『彼女』を撃つので。」

 人質だと。
 ナスタシアの視点からしたらまだ仲間がやってくる可能性があり、
 特に空を飛んでいた男(カイン)に来られては戦況は覆りかねない。
 早急に物事を解決するのであれば、これが一番手っ取り早い。
 滞空する服部の背中へと、特殊棍棒を突き付ける。

「おねーさんを人質にするなんて卑怯だゾ! 顔色の悪いおばさん!!」

「私のこれは地肌です! 何とでも言いなさい。
 私には生き返らせなければならないお方がいるのですから。」

 僅か六時間。その時間で思慕するノワール伯爵が亡くなった。
 マネーラでもミスターLでも、ましてや自分でもなく先に逝く。
 ありえないことだと思った。疑いたくなるような放送内容だ。
 ディメーンの性格を考えれば嘘を吹き込むことは考えられたが、
 そも伯爵と目的が一致してる自分にその事実を突き付ける意味はない。
 手段も戦術も選ぶ気など最初からないが、より一層覚悟を決めている。

(あの人も、私と同じだ。)

 最初は先輩を、藤丸立香の復活を考えた。
 彼女にとって殺し合いの悲願は最初のマシュと同じなのだと。
 だがそんな理解や共感はすれども、今の状況を無視できるものではない。

「少年は変身をやめて、盾の其方は武器を捨てなさい。」

 服部の救出が目的である以上逆らうことはできない。
 マシュは盾を置いて、ホールドアップの構えを取る。

「いいコね。そこの少年も早くその奇妙な恰好をやめなさい。」

 変身を解けばどうなるかしんのすけでも分かっている。
 武装解除したところで服部を盾に此方を狙ってくると。
 だからと言って変身を解除しなければどの道服部が危ない。
 どうするべきか悩みながら空中を漂う。

「服部のおねーさんはそれでいいの!?」

「伯爵様の為であれば、惜しくありません!」

 洗脳を解けないかと試すも、強固に洗脳した服部には通用しない。
 今ならば死を望まれれば喜んでその首を差し出すだろう。

「無駄よ。さあ、三秒数えるまでにやめないなら撃つわ。」

 相手は戦意喪失ではあるが万が一がある。
 ナスタシアは念には念を入れて再度要求する。
 時間制限を与えられた以上やめる以外に方法はなく、
 しんのすけも変身をやめようとしたその時。

「───え?」

 ナスタシアの右腕が斬り落とされた。
 勿論持っていた特殊棍棒は腕と共に宙を舞い、地面へと落ちていく。
 どういうことか、洗脳された服部以外は強く反応する。
 ナスタシアが背後を見やれば、アニがいつの間にか背後に存在していた。
 十メートルはあるであろう、この空中において。

「な、どうやってこの高さを……!?」

「世の中には浮く石があるんだとさ。」





 ◆ ◆ ◆





「クソッ、やっぱり攻めきれないか。」

794戦火の残滓 ◆EPyDv9DKJs:2024/03/19(火) 19:32:54 ID:jn8LoDm60
 家屋に隠れた後、二人の様子を見るアニとアリサ。
 二対二ではあるものの、優位とは言い難い状況だ。
 地禮しか武器を持っていないアニでは戦力にならない。
 もどかしくもある中、アリサが言の葉を紡ぐ。

「あの、アニさん。」

「なんだ?」

「これ、アニさんなら扱える?」

 そう言って渡されたのは注連縄が縛られた石、要石。
 使えば飛び道具にもなるが、別の使い方も存在する。
 空中に滞空させることで、足場として扱うことも可能だと。
 元々はある天人が戦術として組み込んでいた代物の産物だ。
 アニは屋根から要石に乗ることで空中へ乗り込み、届かなかったナスタシアの背後に回り込んだ。
 最初は飛び道具目的で使おうかと考えこそしたものの、
 こんな珍妙なものをぶっつけ本番で当てれる自信がないのもあるが、
 これの方が安全かつ迅速に対応できるからと判断した末の結果である。
 立体機動装置による足場のない空中での戦いに比べれば、十分狙いやすい。
 一方で慣れない支給品の使用と足場の悪さも相まって、
 首を刈り取ることはできず腕を斬り落とすだけに終わってしまう。

「グッ……この程度の痛み如きで!!」

 それが仇となり腕を切断される激痛をもってしても、ナスタシアは止まらない。
 振り向きながら眼光を輝かせ、チョーサイミンジュツをアニへとかける。

「な、ぐ……!!」

 間近で攻撃を受け、瞳が赤くなっていく。
 見たこともない人物の記憶が混在し頭を抱えるアニ。

「早く武装を解きなさい! 今度は二人の首を───」










 その後の言葉は紡がれることはなかった。
 燃える家屋が彼女に飛来し、激突したからだ。
 ベルトルトが投擲した家屋。それは幸か不幸か、ナスタシアに直撃した。
 無論、すぐそばにいた服部、しんのすけ、アニも巻き添えにして。
 飛来した家屋は轟音と共に他の家屋を蹴散らし破壊していく。
 絢爛な屋敷も、舞台に似合わぬカフェも全てをお構いなしに轢いていき、
 止まるころには、周囲は惨状と化していたのは語るまでもない。

「何が起き……!?」

 余りにも予想してない展開に呆然とするマシュ。
 飛来してきた方角に何か見えた気がしたがそれどころではない。
 飛来した家屋は燃えており、このままだと燃え広がって大惨事になる。
 早急に生存者を確認し、アリサと共に避難する必要がある。

「ねえ、しんのすけ達は!?」

 投擲された建物の揺れで身動きが取れなかったが、
 ようやく収まったことでアリサはマシュと合流し、件の場所へ到着する。
 目の前には燃える何処かの家屋と建物が倒壊して融合した惨状であり、
 とても人が生きていると呼べるものではなかった。

「これでは四人とも、潰されたとしか……」

 単純な質量の塊の衝突。
 無事である可能性があるのであれば、
 変身して強くなっているしんのすけだが、
 彼もマサオとの戦いで大分消耗していたので望みは薄い。

「何よ、それ……」

 膝をついて燃える家屋を見やるアリサ。
 この殺し合いが過酷なことは理解していたつもりだ。
 寝ていた間にもすさまじい戦いで犠牲者は増えてるのだから。
 だが、こうまざまざと見せつけられると精神的に折れそうになる。
 なのはやフェイトが魔法少女だと知っていたとしても、
 あくまで彼女は一般人と相違ないのだから。

「勝手に、殺すな……」

「アニさん!? 無事だったんですか1?」

 頭部から出血してるせいなのと顔つきのせいで、
 ホラーチックな姿ではあるが生きてはいた。

「あいつが、しんのすけが咄嗟に突き飛ばしたんだよ。
 要石で足場を作ったから死にはせずに済んだ。
 破片が頭にぶつかったお陰でこの有様だがな……後まだ近づくな。
 ……油断してると伯爵のことを考えちまう状態になってて危険だ。」

795戦火の残滓 ◆EPyDv9DKJs:2024/03/19(火) 19:34:54 ID:jn8LoDm60
 ナスタシアが死んだからなのか、
 咄嗟の出来事で洗脳の度合いが軽かったのか。
 伯爵の為に行動しそうになるが十分自制ができる。
 万々歳とまではいかないが、生存者は多いに越したことはない。

「だが他の三人は完全に下敷きになった。
 探すのは見ての通りだ。探すのはやめておきな。」

 肉体は完全に潰れている。
 とても子供に見せられるものでもないだろう。
 そう思っていると、瓦礫の隙間から顔を出す一人の少年。

「おねーさん、無事で……よかった、ゾ。」

「しんのすけ!」

 瓦礫の下からしんのすけが這いずって出てくる。
 子供だから隙間から出ることはできたものの、
 その頭は血は止まらず、命が尽きようとしてることは誰から見ても明白だった。
 この状況をなんとかできる支給品は三人は持ち合わせていない。
 アリサは涙を流しながら、しんのすけの手を取る。

「あたしに構わず避けていれば、
 あんたは無事だったはずだ。何で態々アタシを助けた?」

 唯一の疑問。
 しんのすけがいなければアニは死んでいた。
 だがしんのすけが庇ったお陰でアニは頭を打った程度で済んだ。
 それが疑問でならなかった。マサオなら友達だから助けただろう。
 アリサなら此処での付き合いも短くない。だがアニは違う。
 アニとしんのすけの関係があるならば、精々寝てるところを見張っただけ。
 それをしんのすけが知っているわけでもない。なおの事助ける理由が見つからない。

「困ってる人がいたら、おたすけしなくちゃって……」

 あの時アニは洗脳との状況のせいで、
 見えていたはずの投擲に対応できてなかった。
 だからしんのすけは咄嗟に動いて助けた。ただ、それだけ。

(───ああ。こういうのを『いい人』って言うのか。)

 嘗てのアルミンのように対話したかっただからとか、
 争いを避けるためだからとか打算や目的があるわけではない。
 実に子供らしい単純な理由。それだけで助けられた。それだけで命を拾うことができた。

「……助かったのは事実だ。礼は言っておく。」

 アリサが握っていたしんのすけの手をアニもまた握る。
 それを見ると、やがて安心したようにしんのすけは眠りについた。
 今度こそ目覚めることのない、死と言う眠りに。

『申し訳ない。私の力が至らなかったばかりに。』

 しんのすけがでてきた瓦礫の中から、ミライマンもまた姿を現す。
 流石に少し傷がついているがまだ原形は留めており、支給品としての役割はまだ担える。

「いいえ。突然の事でしたから……ですがこの質量を投げ飛ばせるとは。」

 一体どんな参加者なら可能なのか。
 変身したマサオのような事例は滅多にない。
 どんな人物か想像もつかなかった。

「……しんのすけの分、あたしが絶対おたすけするから。」

 受け継がれる遺志のように、
 ミライマンを手に取りアリサは立ち上がる。
 一方でアニは家屋が飛んできた方角を見やり思案する。
 これができる人物は、一人しかいないと。

(あたしの知る限り、今のはベルトルト以外ありえない。)

 こんなぶっ飛んだことができるのは彼ぐらいだ。
 ベルトルトが何を考えてこれを投げたかは定かではない。
 余程追い詰められたのか、それとも自分含め全滅を狙ったのか、ただの事故か。
 答えなど知るよしもない。そのベルベルトも与り知らぬところで命を散らした。
 ただ言えるのは、この戦いは余りにも無意味な結果に終わってしまったことだ。
 奪還するはずの服部は助けられず、しんのすけまでもが犠牲になった。
 無駄な死は慣れたものだ。女型の巨人で暴れた際にも経験している。
 だからと言って、アリサは納得できるものではないだろう。
 マシュも同様だ。他の世界を滅ぼして自分達の世界を守る。
 そういう旅をしてきていたのだから。

 せめて救いがあるとするのならば。
 おたすけの意志は未だ潰えずだろうか。


【ナスタシア@スーパーペーパーマリオ 死亡】
【服部静夏@ストライクウィッチーズシリーズ 死亡】
【野原しんのすけ@クレヨンしんちゃん 死亡】

【F-6 昼/一日目】

796戦火の残滓 ◆EPyDv9DKJs:2024/03/19(火) 19:35:15 ID:jn8LoDm60
【マシュ・キリエライト@Fate/Grand Order】
[状態]:喪失感(大)、深い悲しみ、混乱 負傷(中)、疲労(小)、溶解(軽微)
[装備]:オルテナウス、オルテナウス盾部分
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×1〜2、桐生の首輪(討伐報酬による解除)、首輪×3(沙耶香、マサオ、宮藤)
[思考・状況]
基本方針:生き延びて、先輩と再び逢う。
1:参加者と接触し、先輩の目撃情報を調べる。
2:先輩が見つかるまで、アニさんと行動する。
3:桐生との戦闘が終わり次第、マサオから事情聴取する
4:疑似霊核……カルデア? それとも……サーヴァント?
5:アニさんと共に沙夜と言う人物達を探す

[備考]
※参戦時期は少なくとも第二部第二章以降
※マサオの疑似霊核から、この殺し合いにカルデアの関係者か、
 サーヴァントが関わっているのではないかと考えています。
※ムラクモと情報交換をしました。

【アニ・レオンハート@進撃の巨人】
[状態]:マシュに対して不安、眼に巨人化の痕 ムラクモに対して警戒 負傷(中) 疲労(小)、とうぶからしゅっけつ、洗脳(超軽微・時期治癒完了)
[装備]:地禮@PROJECT X ZONE2 BRAVE NEW WORLD、まりょくのみ@大貝獣物語2(半分未満)、要石(射撃用×3、足場用×1)@東方project
[道具]:基本支給品×3(自分、宮藤、桐生)、ランダム支給品×0〜1(武器類、回復類はない)、特殊棍棒(エクスカリバー)
[思考・状況]
基本行動方針:マシュ・キリエライトと共に行動する。
1:参加者と接触し、ベルトルトと立体機動装置を探す。立体起動装置はは諦め気味。
2:巨人化能力が再び戻るまでは、マシュと行動する。場合によっては再び対峙するかもしれない。
3:植木という少年からなんとか立体起動装置を譲ってもらいたかったが、仕方ないか。
4:ムラクモ……警戒を怠れないな。
5:マシュたちと一緒に沙夜と言う女を含む三人組を探す。

[備考]
※参戦時期は第132話、ヒィズルの船に乗った直後からの参戦です
※この殺し合いの主催者にエレン・イェーガー、もしくは『始祖の巨人』を所有したエルディア人がいるのではと考えています。
※ムラクモと情報交換をしました。
※F-7に女型の巨人の残骸(数十分で蒸発する)が残されています。
※女型の巨人には制限が掛けられています、制限は以下の通りです
 身長は10m級に調整されている
一度巨人化すると一定時間経過しないと再び発動できない

【アリサ・バニングス@魔法少女リリカルなのはA’s】
[状態]:ダメージ(極大・治療済)、疲労(大)、悲しみと覚悟
[装備]:シリマルダシ(ミライマン)※残り3回@クレヨンしんちゃん
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1
[思考・状況]基本行動方針:殺し合いは絶対しない
1:マシュさん、アニさんと行動する。
2:目が覚めたらマサオに謝りたかったのに……
3:しんのすけの分もおたすけするわよ!

[備考]
※参戦時期は11話、なのは達が魔法少女だと知った後です



【要石@東方project】
アリサに支給。比那名居天子が用いる要石。
武器から足場と多種多彩な使用が可能で、
射撃用と滞空する足場用の二種類がそれぞれ三つずつ支給されている。
射撃用は東方緋想天の天子の2Bのように、
ドリルみたいに回転しながら飛んでいく
滞空する足場は十秒間滞空する

797戦火の残滓 ◆EPyDv9DKJs:2024/03/19(火) 19:35:36 ID:jn8LoDm60
※ストライカーユニット震電@ストライクウィッチーズシリーズ じわじわキノコカン×4@スーパーペーパーマリオ、ビブルカード×2(針目縫、ムラクモ)@ONEPEACE、風火輪@封神演義、まどわし草×3草@トルネコの大冒険3は潰れた家屋の中にあります
回収は困難です


≪考察≫(ムラクモ、アニ、マシュ、日菜子、ドミノ、カイン、植木、アリサ)
リフレクターの変身について
①コモンの可能性:フラグメントも魔物もいない為低い。
②原種が存在する:現状ではなんとも。移動ついででいるかどうかを調べてみる。

刀使の多さについて
①刀使の力をメフィス達か関係者が必要としている。
②タギツヒメを倒せる刀使が必要だったから(タギツヒメの力を手に入れる為)。
③高津雪那が運営関係者で、タギツヒメの障害となる刀使を参加者にした。
 (折神紫はいないが、私怨を晴らす為か?)
④理念の為?

見せしめに藤丸立香を選んだ理由
①藤丸立香に関係している人物が主催に関わっている。
②選ばれたのは旅を続けられると、主催にとって不味い事態があるもしくは起こる。
③名簿に記載されている同姓同名の藤丸立香については、ひとまずは保留。
④理念の為?


①首輪が科学と魔術ではなく魔術のみの可能性。
 念には念を入れて紋章を知る参加者を探しておく。
②シャンバラと呼ばれるものが使えるかもしれないが、現状はついで。
③主催側には、いくつかの世界の関係者たちが連合を組んでいる可能性がある。

798戦火の残滓 ◆EPyDv9DKJs:2024/03/19(火) 19:36:01 ID:jn8LoDm60
以上で投下終了です

799雷桜 ◆s5tC4j7VZY:2024/03/31(日) 06:43:20 ID:A5.VQRHU0
皆さん、投下お疲れ様です!
投下します。

800雷桜 ◆s5tC4j7VZY:2024/03/31(日) 06:45:39 ID:A5.VQRHU0
注意!このお話は一部の描写に対魔忍があります。
対魔忍への耐性がない方は読むのはお控えください。

801雷桜 ◆s5tC4j7VZY:2024/03/31(日) 06:45:55 ID:A5.VQRHU0
「帰ろう、姫和」
斬る。

「おい、無理を承知で言うぞ。制御しろ」

斬る。

「諦めて受け入れるなんて、ひよよんらしくありまセンよ!」

斬る。

「姫和ちゃん、これがあなたの戦う理由なの?」

斬る。

「日和ちゃん」

……

……斬「御前試合の決勝の続き、今、お願いしてもいいかな?」


☆彡 ☆彡 ☆彡

802雷桜 ◆s5tC4j7VZY:2024/03/31(日) 06:46:14 ID:A5.VQRHU0

「---ッ!?」

意識が戻る。
先ほどのは……夢?
辺りを見渡すが、人気を感じない。

「……本当に悪趣味だな」

左目を抑えつつ自傷気味に笑う。
修羅の道を進むと確かに決めた。
だが、夢とはいえ、わざわざ鮮明に友人達を切り捨てる姿を見せつけられるのは、気分が悪い。
先ほどの原因は、おそらく龍眼の暴走にそれに加えた八神将ゆえの悪意の賜物。
八神将とされた身ではあるが、食欲があるのは、先の携帯食料を食べたことで証明されている。
なら、全身が重く圧し掛かる疲労感。
身体が休みを求めていた。
そこで、休息の手段。強制的に意識がとんだのだろう。
人間には三大欲求がある。
その一つが睡眠欲。
もっとも、内容が内容なため、回復にまったく繋がっていないのがこれまた悪趣味。

「だが、修羅の道とはこういうことなのだろう」

夢は夢。
しかし、八神将の役割から解放されない限りは、いつか起こり得る出来事。
先ほどの夢が直ぐに実現してもおかしくない。

「……それでも、私は決めた。後戻りはするつもりはない」

あのときも。
折紙紫を母の仇として討つと決めたあのときも。
私はブレない。
死ぬまで、まだまだまだまだ止まらない。
……いや、止まれない。
豹尾神として役割を努める。

☆彡 ☆彡 ☆彡

803雷桜 ◆s5tC4j7VZY:2024/03/31(日) 06:47:12 ID:A5.VQRHU0

「それにしても……くっ」
(身体が火照る……ん゛ん゛ん゛!!)

ビリィィィィィィ!!!!!

豹尾神。
万事不浄を忌み嫌う。
そんな豹尾神と化した自分の身体に変化が起きていた。
不浄の穴に女性として大切な性器に強い違和感。
違和感の正体―――電撃蟲。
姫和が知る由もないが、ミスティが利用して、益子薫の精神を破壊した刀使にとって因縁が深い蟲。
この蟲はミスティだけでなく伊藤大祐にも支給されていた。

(くっ!……夢だけで終われば良かったのだがっ!?)

先ほどの悪夢を見ていた隙に潜り込んでいたようだ。
電撃蟲は生きている。つまり意思がある。
八神将だろうが関係ない。
蟲は……女性の存在を確認し、私に寄生したのだ。

「何とかしなけれッ!?あっ、がぁっ!!!!!?????」

電撃と快楽が押し寄せる。
癒着した神経系に強い電流が流れる。
三大欲求最後の欲。
それは性欲。
人間と言う種である以上は食欲・睡眠欲・性欲を捨て去ることはできないのだ。

負けてたまるものか

804雷桜 ◆s5tC4j7VZY:2024/03/31(日) 06:47:57 ID:A5.VQRHU0



注意 ここから対魔忍です

805雷桜 ◆s5tC4j7VZY:2024/03/31(日) 06:48:27 ID:A5.VQRHU0
脳裏に浮かぶ。

「八神将になるだけでなく、乙女も散らすことになるとは、笑いが止まらぬ喜劇じゃな」
「うふふ、かわいそう〜姫和ちゃん。初めての相手は蟲さんだなんて。壊れちゃうのは寂しいよう……しくしく」

メフィスとフェレスの顔が。

「い゛っ!?あ゛あ゛あ゛!!??」
ブチブチブチィィィ!!!!!
ズンッと貫かれて処女膜が破られた。
破瓜の激痛で乳房がブルブルと震える。
女性としてもっとも大切な秘所から血が流れ落ちる。
本来なら愛する人と出会い、愛の結晶を宿す行為の果てに失うはずが、蟲に奪われる現実。精神が崩壊してもおかしくない。
それでも私は壊れない。

負けてたまるものか!

脳裏に浮かぶ。

「どうした?そのまま快楽に身を委ねれば楽になるぞ?小烏の刀使」

タギツヒメの顔が。

「で……でるなぁぁぁ!!!」
(くっ……だめ……だ、も……漏れるっ!)

ジョロロロォッ……
ジョバジョバとおしっ……黒タイツの繊維を潜り抜け、尿が滝のように流れ出て水溜りができる。
地面から湯気が立ち昇る。
膀胱が緩くなり、女性としての尊厳を傷つけられた。
それでも私は壊れない。

負けてたまるものか!!

ドバドバ押し寄せてくる快楽。
不浄の穴が動き出す

「まっ、まさかっ……!?」

嫌な予感というのは当たるもの。
既に処女にお漏らしと存分に辱められた。
顔面が蒼白になる。

「お、おい……んっぐぅうううううぅぅっ!?」
(理解できない……そこは排泄する場所だぞ!?)

メリメリメリィィと不浄の穴が必要に穿られる。
未成熟な腸壁を穿り殺してくる。

「あ゛ぎぎっ……お゛ォお゛ォォ!!??」

目がカッと見開き、苦悶に満ちた悲鳴と嬌声が混じる。

「いっっっくぅぅぅううううう!!!!!?????」
(き……気持ちいい!!!!!)

尻穴でイク。それは、彼女の不浄の穴が後戻りできない領域に達した証。
それでも私は壊れない。

脳裏に浮かぶ。

「ごめんね。姫和」

―――母の顔が。

私は……負けないッ!!!!!

カッ―――

「これは……!?」

驚愕を隠しきれない。
なんと、電撃蟲の電撃を身に纏うことに成功した。

(なるほど……そういうわけか)

参加者を殺すための舞台装置である八神将。
それが、快楽で戦力がダウンしては元も子もない。
むしろ、快楽で戦力がアップするように仕組まれていたのだろう。
ちなみに胸の先が反応で固くなってるのは目を背ける。

「可奈美の守る剣と違い、私は斬る剣。この力で……■す」

性と同時に力を得た。
しかも、確実に強化された。

「心を新たにして事に當れ……か」

望まぬ展開で性の花が咲いた。
だが、それは強い花。
性欲の刃を鋼色の花束とする。
改めて決意をしたと同時に、放送が流れた。

☆彡 ☆彡 ☆彡

806雷桜 ◆s5tC4j7VZY:2024/03/31(日) 06:49:09 ID:A5.VQRHU0

「では放送はこれまで、次の放送も楽しみにしていてね、ボン・ボヤージュッ!」

「……」

放送が終わった。

―――ああ。

もう二度と流した涙を笑って話す日はこないのだな

全てを薙ぎ払える力が私にあれば
全てを守り抜ける力が私にあれば


【C-4とD-4の境界線/朝/一日目】


【十条姫和(豹尾神)@刀使ノ巫女】
[状態]:禍神、疲労(極大・再生中)、混濁した意識、狂気度低下、龍眼の暴走、精神疲労(絶大)、自殺願望  強い三大欲求 強い自己嫌悪 アナル・子宮に電撃蟲寄生(豹尾神の影響により肉体に刻みみはりついた)、攻撃するたびに身体に快楽と電流が纏います 性の花が咲きました
[装備]:小烏丸@刀使ノ巫女、召喚石バアル@グランブルーファンタジー(現在使用不可能)、タブレット(スペクトラムファインダー@刀使ノ巫女のアプリ起動) 電撃蟲@対魔忍アサギシリーズ 
[道具]:基本支給品×4(大祐、千、トッペイ、自分)、麻痺の杖(残り1)@少年ヤンガスと不思議なダンジョン、疾風のレイピア@ドラゴンクエスト8、ピオリムの杖(残り3)@トルネコの大冒険、 ブルーマリーのスタンガン@ RB餓狼伝説SP DOMINATED MIND、 火炎放射器@北斗の拳 じゅもんのしょ@大貝獣物語2
[思考・状況]
基本方針:殺■/■したくない。
1:■す。■す。■す。■す。■したくない。
2:■でもいい、■を■してくれ───
3:私は……禍神だ。
4:可奈美……私は……
5:く……体が疼く……お゛ォお゛お゛ォォ……い……■くぅぅぅぅ!?
[備考]
※参戦時期はアニメ版二十一話。タギツヒメと融合直後です。
※魂の状況により意思の疎通については普段と変わりませんが、
 身体は八将神としての役割を全うする立場にあります。
 ただ、自意識を保つ為で本来の時ほどまともな会話は望めません。
※タギツヒメと融合した影響により周囲に雷光が勝手に放出されます。
 龍眼も使えるようになってますが暴走状態で、本人の意思とは関係なく行います。
 死亡時、或いは彼女の抑えが限界を迎えた際にタギツヒメが肉体を乗っ取るかは不明です。
 (同時にタギツヒメがそのまま八将神を引き継ぐかも不明です。)
※迅移(主に三、四段階)の負担が大幅に減ってます。
 ある程度の時間を置けば動けるレベルに回復できますが、
 デメリットが完全緩和ではないので無暗には使いません。
※名簿は見ていませんが、刀使ノ巫女の参加者は把握しました。
※スペクトラムファインダーの表示に参加者が含まれていることに気付いていません。
※短時間ですが夢を見ました。
※禍神でありますが、食欲・睡眠欲・性欲が存在します。
※電撃蟲により身体に電流を纏うようになりました。(電撃蟲は排除できません)

807雷桜 ◆s5tC4j7VZY:2024/03/31(日) 06:49:27 ID:A5.VQRHU0

【電撃蟲@対魔忍アサギシリーズ】
伊藤大祐に支給された朧が井河アサギの調教のために用意したイモムシ型の淫蟲。攻撃の意思を示すと強烈な電撃を放つ。姫和のアナルと子宮に深く潜り込んだ上に豹尾神とされた肉体との寄生により、即時再生機能が付与されました。アサギが行ったように仕留めることはできず、排除することは不可能。ただし、タギツヒメと融合した影響と豹尾神とされた肉体により快楽だけでなく、身体に電流を纏うことができるようになり、結果として+に働きます。ミスティが薫に対して行ったことを考えると、この結果は皮肉。もし、大祐が生きていたら碌なことに使われていただろうと推測できる。

【ブルーマリーのスタンガン@RB餓狼伝説SP DOMINATED MIND】
恵羽千に支給されたブルーマリー愛用のスタンガン。↓↙←+C 。ちなみにレディーはみんな持っているらしい。マジか。
「もう、スタンガン使ったっていいじゃない!レディーはみんな持ってるわよ」byブルーマリー

【じゅもんのしょ@大貝獣物語2】
トッペイに支給されたドラゴバードを成長させる呪文の書。ドラゴラビグーラ

808雷桜 ◆s5tC4j7VZY:2024/03/31(日) 06:49:37 ID:A5.VQRHU0
投下終了します。

809雷桜 ◆s5tC4j7VZY:2024/03/31(日) 08:47:50 ID:A5.VQRHU0
すみません。
火炎放射器@北斗の拳は、執筆中の名残です。
表記から削除でお願いします。

810 ◆EPyDv9DKJs:2024/03/31(日) 09:37:47 ID:LMqTxIvk0
投下お疲れ様です
とりあえず滞ってた感想を

>最後の巨人
愛によって決裂した文字通りの爆発
盛大にやってくれたなベルトルト
やらかしまくったのに何こいつ満足して死んでるんだろうね
あかりは生き延びたと言うよりも生き残ってしまった感があって、
哀愁が漂うのがまたなんとも……

>雷桜
え、何この注意書きからの尊厳破壊
何処まで尊厳凌辱されるのこの娘……?
その上もうすでに半分、刀使がいなくなってる上に沙耶香もいない
何処まで彼女を曇らせれば気が済むんだメフィス達は
と言うか主催でリンボぐらいでは彼女に何もしてないの
元より厄介なのに更に厄介になっていく八将神
これでまだ一人しか倒せてないってマジ?

それと、また面倒くさい指摘で申し訳ないのですが一つ。
元々タギツヒメを吸収したことで姫和は電撃を操れることが朗読劇で判明しています。
朗読劇は時間軸で言えば半年後なので現時点でそれができるかは少し怪しいのですが、
作中でも雷を斬ったと言われていたことから当時でもそれなりに扱えていたと思います。
なので、電撃蟲を使っての強化と言うのは余り期待できないかと……
(タギツヒメ以上の電撃の強化ができる電撃蟲、と言うのも流石に変なので)

重箱の隅をつつくような指摘ですみませんが、
そこについての考えをお聞かせいただければ幸いです。

811 ◆vV5.jnbCYw:2024/03/31(日) 13:33:26 ID:EZIBRLBw0
投下乙です。
夢の中でも何を言われても「斬る」しか言わないの、本当に手遅れって感じがしました。
マジで生き恥じゃないか。たとえメフィス達から解放されてもどうしようもなくないか?
あと大祐、お前そんな物支給されてたのか…トッペイが早いうちに殺害しておいてマジで正解だったな。

電撃蟲の件は修正するのか丸ごと消すのか分かりませんが、
久々に氏の投下が読めて楽しかったです。次の投下も楽しみにしてます。

812 ◆s5tC4j7VZY:2024/03/31(日) 20:45:09 ID:A5.VQRHU0
返答が遅くなりなりました。申し訳ありません。
まず、面倒くさくもなく重箱の隅とつついているとは思っておりませんので、大丈夫ですよ。
正直に申し上げますと、アニメ後のその後を描いていた朗読劇の存在は知りませんでした。
アニメ後も物語が続くなんて素敵ですね。
なので、指摘のように参戦時期後になる21話で、可奈実が姫和(雷)を切ったと舞や薫が言及したことから姫和に御刀で雷を扱うことはできるとは思っておりましたが、電撃を操って身に纏うことも可能であるとは思いませんでした。
それを踏まえた上で私の考えを書かせていただきます。
多数の作品のキャラが混ざり合う物語が魅力ですので、電撃蟲の威力がタギツヒメ以上であるとはいいません。一方、対魔忍もネット上では感度3000倍を中心にネタ扱いされておりますが、主人公である井河アサギは、3でエドウィン・ブラックを消滅させる力を有する対魔忍(あくまでゲームのルートの一つですが)です。
そんなアサギでも抗えぬほどの威力があります(アサギを苦しめるのが大好きおばさんの朧クローンが用意した魔界の改造蟲)ので、雷での更なる強化となると判断しました。
以上が私の考えです。
私は、【共にリレーをしている書き手様の指摘や考えを最大限優先にしたい】がスタンスでありますので、強化という表現ではなく、”雷を扱う幅が広がった”(半年後並みの経験値をここで手に入れた)という表現といたします。それでどうでしょうか?

813 ◆s5tC4j7VZY:2024/03/31(日) 20:45:25 ID:A5.VQRHU0


カッ―――

「これは……!?」

驚愕を隠しきれない。
なんと、身体に流れてきた電流が放出されず帯電しだした。

(なるほど……そういうこともできるのか)

余談であるが、本来の物語の半年後には電撃を自在に操れるようになる。
電撃蟲の存在が半年分前借するかのように姫和に天啓を授けた。
もっとも天ではなく獄だが。
ちなみに胸の先が反応で固くなってるのは目を背ける。

「可奈美の守る剣と違い、私は斬る剣。……何も変わりはしない。■すことに」

性と同時に戦術の幅が広がった。

「心を新たにして事に當れ……か」

望まぬ展開で性の花が咲いた。
だが、それは強い花。
性欲の刃を鋼色の花束とする。
改めて決意をしたと同時に、放送が流れた。

☆彡 ☆彡 ☆彡

814 ◆s5tC4j7VZY:2024/03/31(日) 20:45:49 ID:A5.VQRHU0

【電撃蟲@対魔忍アサギシリーズ】
伊藤大祐に支給された朧が井河アサギの調教のために用意したイモムシ型の淫蟲。攻撃の意思を示すと強烈な電撃を放つ。姫和のアナルと子宮に深く潜り込んだ上に豹尾神とされた肉体との寄生により、即時再生機能が付与されました。アサギが行ったように仕留めることはできず、排除することは不可能。ただし、タギツヒメと融合した影響が早まり、電撃の扱いの幅が増えた。ミスティが薫に対して行ったことを考えると、この結果は皮肉。もし、大祐が生きていたら碌なことに使われていただろうと推測できる。

それと差し支えければ、私の方も面倒くさいお願いをできたらしたいのです。朗読劇の内容(辺獄で刀使の巫女を書く上で知っておくと言い情報)を知っている範囲でかまいませんので、ご教授してくださると大変助かります。
私も一人で、作品のあらゆる把握ができるとは己惚れていませんので……

最後に感想ありがとうございます!

雷桜

ヒヨヨンごめんね……と謝罪しながら書きました。
自責の念も込めて今日は、駅近くの31でチョコミントアイスを食べました。
自分も書いている一端はあるのですが、本当にメフィス達は参加者に干渉したがり主催者ですね。

815 ◆s5tC4j7VZY:2024/03/31(日) 20:47:06 ID:A5.VQRHU0
感想ありがとうございます!

雷桜
八神将とされた姫和が早く■してくれと願うのはこういうことかなと思い書きました。
女の子って何で出来てる?や平安京での狂騒を投下しておいてなんですが、こういう展開は一歩間違えると、大惨事となり書き手・読み手の皆さんが悲しむこととなるので、投稿する前に大丈夫かな……といつも不安です。
トッペイが早いうちに殺害しておいてマジで正解だったな。

きっとミスティ並みに活用されてますね。なので、同意です!
久々に氏の投下が読めて楽しかったです。次の投下も楽しみにしてます。
↑ありがとうございます。その一言があるから次も書いていこうとモチベーションが保てますので。私もvV5.jnbCYw さんの作品はいつも学びと楽しませてもらっております。

816 ◆EPyDv9DKJs:2024/03/31(日) 21:38:29 ID:LMqTxIvk0
返答ありがとうございます。
これについては本当に知る人ぞ知るコアネタすぎるので、
知らないと言われても無理からぬことですので余りお気になさらず。

朗読劇で判明したネタで気を付けておかなければならないのは実は余り少なく、
・姫和はタケミカズチの力が残留。これに伴い短時間なら雷を使役することが可能
なことぐらいなので実際のところ、ピンポイントにぶつかっただけだったりします。
(薫が八幡力を使えば理論上300メートルは飛べるとかは今となっては使えませんし)
因みにソシャゲの方の姫和【Another】でも帯電してたりします。
なので多分ですが、その修正で大丈夫だと思います。
お手数おかけしました。

817 ◆s5tC4j7VZY:2024/03/31(日) 22:24:18 ID:A5.VQRHU0
こちらこそ丁寧な返答ありがとうございました。
今回、初めて予約ではないゲリラ投下というのをやってみましたが、凄いドキドキ感がありました。
それと同時に、ゲリラ投下でいくつもの大作を投下し続けているEPyDv9DKJsさんの凄さが改めて学ばせていただきました。
いえいえ、今後もよろしくお願いします。

818クレーターの中心で愛を求む ◆s5tC4j7VZY:2024/04/18(木) 06:29:34 ID:RM3Z9GYg0
投下します。

819クレーターの中心で愛を求む ◆s5tC4j7VZY:2024/04/18(木) 06:29:48 ID:RM3Z9GYg0
(結構、長いわね……)

壮絶な狼の親子喧嘩はとっくに終えたというのに、クレーターの中心に座する鋼鉄の像はいまだ沈黙中であった。

(でも、支給品にとんでもないのが混ざっているのなら”これ”もあながち荒唐無稽じゃなさそうね)

”これ”とは、マネーラの最後の支給品。

世紀末に相応しい兵器。

”不発弾”

(これなら、アタシでも参加者の一掃は可能ね)

初対面でも、グイグイくるアカリのこと。
博物館に集合してくる見知らぬ参加者は一人や二人ではないはずだろう。
なら、博物館を爆心地にしてしまえばいい。

(伯爵様……)

正直、今でも信じられない。
あの伯爵様が死ぬなんて。
でもアイツ(ディメーン)がわざわざ虚報を報じるとは思えない。
つまり本当に伯爵様は死んでしまったのだ。
よく哀しい出来事は、時間が忘れてくれるなんていうが、愛する人を失う悲しみ。これが癒されることは永遠にない。

涙を流したくてもこの状況(銅像)では流せるものも流せない。
なら、今すべきは涙を流すことではなく、願いをつかみ取るための謀略。

(待っていてください。必ずアタシが伯爵様を復活させるから)

☆彡 ☆彡 ☆彡

820クレーターの中心で愛を求む ◆s5tC4j7VZY:2024/04/18(木) 06:30:11 ID:RM3Z9GYg0

「なら、私はこの殺し合いに集められた人達の生きた証を集める」

清棲あかり。
この辺獄で最初に出会った参加者。
アカリはこの殺し合いの状況を怯える様子も見られずへこたれていなかった。

ウンダーカンマー。未完の始まり。

それを作るのが、アカリの夢らしい。

「なら、私はこの殺し合いに集められた人達の生きた証を集める」

アカリの理想を否定はしないが、愛する人を記録で想い続けるなんてアタシにはできない。
アタシにとって重要なのは、愛する人が”生きて、添い遂げる”ことが理想である。

「アカリ……再開する前に死んでいたり、アンタの信念が折れていたりしてたら承知しないわよ」

再会したときは、この不発弾で……それについては戸惑いはない。
だってアタシは優しくない。
それに悪魔の道を進んでいる。
しかし、口ではそういいつつも、そう簡単に切り捨てられないアタシがあるのも事実。
アカリは”優しい”
この殺し合いの場で生きた証を集めるということは、別の側面でいえば、多くの死者をこの目でするということだ。
そして、死者に出会うと言うことは、殺し合いに乗っている参加者に出会う確率も上がるということ。
また、先ほどの放送では、博物館のメンバーの名前は呼ばれなかった。
だが、いつまでも呼ばれないとは限らない。
果たしてアカリは信念を貫き通せるのだろうか?
伯爵様とアカリの顔を思い浮かべながら、少し仮眠をとることとする。

【F―4 病院/午前/一日目】
【マネーラ@スーパーペーパーマリオ 】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(中) 仮眠中
[装備]:まじんのかなづち@ドラゴンクエストビルダーズ2 破壊神シドーとからっぽの島
[道具]:基本支給品、 不発弾、789ゴールド
[思考・状況]
基本方針:優勝してディメーンも殺して伯爵様を復活させる。
1:悪いわね、アカリ。アタシ優しくないの。
2:零やロックには注意するが、最悪利用してやるつもり。
3:二日目の昼にはE-3のかなでの森博物館へ戻り、アカリやギャブロ達と合流して手にした情報を交換する。ただし……
4:しばらく動けそうにないので適当に休みつつ仮眠をとる
5:伯爵様……

[備考]
※参戦時期は8-2ピーチ姫とバトルする前
※ロックの危険性について知りました。
※キヨス・ギャブロ・藤丸立香の世界について簡単に知りました。
※原作面子以外で変身できるのはあかり、ギャブロ、立香、零、みらい(未完成)、愛、洸です。
※不発弾で参加者を一網打尽にしようと方針をたてました。
※アスとロン状態は昼には解除されます。

【不発弾@北斗の拳】
マネーラに支給された世紀末の爆弾。不発弾とはいえ、衝撃を与えれば爆発する。
「ファハハハハ、バカヤロ――――これが目に入らねぇか―――!!」
「てめえら全員地獄の果てまで道連れだ―――っ!!」byハーン兄弟

821クレーターの中心で愛を求む ◆s5tC4j7VZY:2024/04/18(木) 06:32:18 ID:RM3Z9GYg0
投下終了します。
また、マネーラの参戦時期ですがコンペのとき6-2ピーチと戦う前と記載していましたが、正しくはピーチと戦う前は8-2でした。
なので、参戦時期の表記を修正したことここで報告いたします。

822 ◆vV5.jnbCYw:2024/04/18(木) 15:42:32 ID:MfF0I2jI0
投下乙です。
ベルトルトの巨人化といい、せつなの最期といい、妙に爆弾や爆発が関わって来るロワだな
1人になったマネーラの、伯爵の為の決意。しかもかつての仲間が関わっていた場所を爆心地にしようとする時点で、彼女の覚悟が伺えますね。
マネーラと爆弾ってちょっとミスマッチじゃないか?と思ったら原作の6‐2で使ってました。すいません。

>アカリの理想を否定はしないが、愛する人を記録で想い続けるなんてアタシにはできない。
アタシにとって重要なのは、愛する人が”生きて、添い遂げる”ことが理想である。

ここめっちゃ好きです。伯爵さまが好きなだけじゃなく、イケメンハーレムな世界を望んでいたマネーラらしいですね。

823 ◆s5tC4j7VZY:2024/04/23(火) 06:46:43 ID:KOEtyeQ.0
感想ありがとうございます!励みになります。
クレーターの中心で愛を求む
マネーラの覚悟完了話のイメージで書きました。
ベルトルトの巨人化といい、せつなの最期といい、妙に爆弾や爆発が関わって来るロワだな
↑いわれてみれば確かに!そういえば充に支給されたのも”メガンテの指輪”でしたね(笑)
原作の6‐2で使ってました。すいません。
↑いえいえ大丈夫ですので、お気になさらないでください。ピーチを爆殺しようとする女ですからね。恨みをかったらやられますね。
かつての仲間が関わっていた場所を爆心地にしようとする時点で、彼女の覚悟が伺えますね。
↑悪いわね、アカリ。アタシ優しくないの。を自分なりに繋げてみました。
イケメンハーレムな世界を望んでいたマネーラらしいですね。
↑ありがとうございます。マネーラなら、いい男は生身でいるからこそかな……と。

アナムネシス、清棲あかり、ドミノ・サザーランドで予約します。

824プラトン 清棲あかりの弁明 ◆s5tC4j7VZY:2024/05/07(火) 05:46:50 ID:A7x23/060
投下します。

825プラトン 清棲あかりの弁明 ◆s5tC4j7VZY:2024/05/07(火) 05:47:05 ID:A7x23/060
生きてるやつは絶対生かすし、死んでるやつは絶対剥製にする!!
清棲あかり
下人の眼は、その時、はじめてその死骸の中に蹲うずくまっている人間を見た。檜皮色の着物を着た、背の低い、痩やせた、白髪頭しらがあたまの、猿のような老婆である。その老婆は、右の手に火をともした松の木片きぎれを持って、その死骸の一つの顔を覗きこむように眺めていた。
芥川龍之介『羅生門』より

826プラトン 清棲あかりの弁明 ◆s5tC4j7VZY:2024/05/07(火) 05:47:28 ID:A7x23/060

第1章 人の行動は、三つの根源からなる。欲望、情動、そして知識だ

「……」

過ぎる。
ただ時が過ぎる。

”だいすき”を追求する輝く活力溢れる瞳は今は面影なし。
とはいえ、単純に絶望に堕ちた目でもない。
例えるなら灰。
白でもなく黒でもない灰の瞳。
清棲あかりに映る世界は灰色に包まれている。

「……」

フラッと立ち上がると、私は周囲を探る。
地獄の光景があるとすれば正に眼前だろう。
地獄に一人残された私。

「……」

私は倒れこんだ巨人に近づくと。

ザクッ……ザクッザクッ

手持ちの大型動物用の解体道具で皮膚を削り取っていた。

「……」

トッペイ君とエルピスの命を奪った名も知らぬ巨人。
本来なら憎しみの感情をぶつけてもよい。
だけど、この巨人も殺し合いの参加者。
もしかしたら元々、人の命をなんとも思わない極悪人かもしれない。
だとしても、この巨人もあの双子によって本来、辿る未来が失われてしまったのは変わりない。
なら、生きた証を残さなければならない。
だが、それは傍から見たら異様な光景であることは間違いない。

「……」

私は巨人の皮膚の一部を切り取るとデイバック にしまう。
そして、歩く。巨人が歩いてきたエリアへ。
あの巨人は明らかに手あたり次第、殺そうとする行動が見られた。
死の間際に家屋を投擲したことから、一人でも参加者を減らしたかったのだろう。
なら、おそらく犠牲者はトッペイ君とエルピスだけじゃないはず。
他にも犠牲者がいるかもしれない。もしかしたら、生きた証があるかもしれない。
それと、その方角には、トッペイ君が言っていたアルーシェさんという女性がいる可能性が高い。
元々、トッペイ君にエルピスと向かう予定でいた。
願わくば、生きていてほしい……
爆炎に包まれた熱気の通り道をひたすら歩く。
そうそう、皮膚を削り取った後、巨人の名前はベルトルト・フーバー という男性だということが判明した。
ポケモン図鑑が教えてくれた。
どうやら、私とは違う世界の住人みたい。
彼がどうして巨人化したのかわからないが、その表情はなんて形容すればいいのだろう。
まるで、なしえなかった。告げられなかったような後悔にも見えるし、戦いから解放されたような安らぎにも見える。
今の私の顔はどんな表情なのかな……

827プラトン 清棲あかりの弁明 ◆s5tC4j7VZY:2024/05/07(火) 05:48:30 ID:A7x23/060
☆彡 ☆彡 ☆彡

2章 石工達曰く、小さな石なくして大きな石だけで石垣は建てられない

「……」

爆心地らしき場所にたどりつく。
周囲を見渡すが、人らしきものは見当たらない。
だが、”生き物”はいたはず。
長年のフィールドワークで培った勘が体に訴えかけてくる。

―――ス

私はポケモン図鑑を取り出すと周囲を探らせる。
すると、機会音声が流れだす。

『赤城みりあ  松坂さとう  アルーシェ・アナトリア 』

「……」

やっぱり……
遺体が見当たらないのは、おそらく、先ほどのベルトルト・フーバーが起こした超大型巨人の爆風爆炎で消し飛ばしたのだろう。
トッペイ君とエルピスだけじゃない。三人の女性がここで亡くなった。
そして、アルーシェさんの名もあった。
私は……私達は間に合わなかった。

「……」

「私はね、この殺し合い、誰も死なずに終わるとは思わない。仮に、協力して殺し合いを脱出できるとしてもね。」

元よりこの殺し合い。
あの子……零ちゃんにいったように、死者が一名も出ないなんて楽観視はしていなかった。
現に征史郎君は、ゲームに乗った金髪の男の外国人によって同行者を殺された。
だから私は始めに方針を決めたのだ。参加者の生きた証を集めることを。
だけど、口で言うのと、実際に殺されかける場に出くわすのとでは、違う。
キヨスにとって不幸なのは、最初の身近な死者がベルトルトによる地獄変によるものであったことだ。

☆彡 ☆彡 ☆彡

「……」

何もないか……装飾品でも何でもいい……見つかって……
残さなきゃ……生きた証を……私が……やらなきゃ

『あなた……何をしているのかしら?』
「……え?」

声に振り向くとそこには、童話の主人公のような可愛らしい少女が立っていた。

『まさか生存者がいるなんて驚きだわ』
「貴方は……?」
『ごきげんよう悪魔の催しの参加者の一人。わたしはアリス……従魔(セルヴァン)よ』

アイドル赤城みりあの支給品であった従魔アリス。
ベルトルトの巨人化の際の高濃度の爆炎爆風の余波な中、アリスが生き延びたのは、幾重にもの偶然の結果。
特に一番の要因は、先の八神将のアーナスに向けたライブで、支給品として従うべき主(赤城みりあ)が死に、アリスの再契約先が決まっていなかったkこと。
決まっていないため、アリスは参加者ではなく、自らの能力を自分に向けて全開できたのだ。
そうした結果、唯一、爆心地で生き延びたことができた。

『それにしても、この状況下で墓荒らしみたいな行動をするなんて良い趣味とはいえないわね』
『……はっきりいって異様よ』

「!?」

そうだ。
私は何をしているんだろう。
遺体が回収できなかったとはいえ、トッペイ君とエルピスの墓も作らず、真っ先にしたのは、2人の命を奪った巨人の皮膚を削り取ったこと。
だって皆に”例外”はないから。
だから……私は……私の勝利は……

「あかりさん……ぼく、実はマンガ映画が好きなんです。だから……絶対に生きて帰って
 マンガ映画を僕の手で作る!正直……バンパイヤ排斥が進み、その中を僕が作るのは難
 しいと思います。
 だけど、手塚先生みたいな人もいるから、たとえ人里から離れた場所でもやり遂げます!
 それが僕の勝利です!!」

トッペイ君。
夜泣き一族の彼にも夢があった。
彼の勝利は無残にも巨人(ベルトルト・フーバー)によって奪われた。

「……!」

エルピス。
調査の途中だったけど、私を慕ってくれていた。
あそこで死ななかったのは、エルピスの支給品のおかげ。
それなのに、私はエルピスに感謝を伝えるどころか舌の採集を優先した。

828プラトン 清棲あかりの弁明 ◆s5tC4j7VZY:2024/05/07(火) 05:49:14 ID:A7x23/060
トッペイ君……エルピス……

駄目……こらえなきゃ……でも……

「う……ううううう〜〜〜〜!!!」

流れ落ちる。
こらえようとするが、ダムの決壊のように止まらない。
ぽろぽろと真珠の粒が。
頬を辿って落ちて輝く。

すると……

―――パァァァ

「〜〜〜〜!!!こ……これ…?」 『キレイ……』

理念(イデア)
それは、すべての人間の魂に宿っていて、人の魂のうちにある特別な因子。
激情をともなって流した体液が変じる結晶。

キヨスの流した激情の涙が理念を生み出した。
辺獄の管理者が欲しくて欲しくてたまらない甘美。

☆彡 ☆彡 ☆彡

『……大丈夫?』
「うん……ごめん。心配させちゃって」

感情の赴くままに泣けたのか、少しスッキリすることができた。
しっかりしなきゃ……私は大人だから。
先ほどの涙から変化した結晶はまだ何なのか分からないが、とりあえずデイバック にしまう。

『いいんじゃない?泣けるってとても大切なことよ。』
「うん……ありがとう」

私は大きく深呼吸をして、気持ちを落ち着かせる。

「そういえば、アリスは今、従魔っていってたけど、ポケモンとは違うんだよね?」
『ええ。ポケモンではなく従魔。』

従魔。青い血を浴び、邪妖と呼ばれる存在の中でも、意識を保つことができた者たちを指す。

「私ね、この殺し合いの記録をのこしているの」
「だから……ね。アリスのことスケッチしてもいいかな?」
『ふ…ふん。ま、いいわ。だけどやるからには、可愛らしく記録に残しなさいよ!』
『それと……いつまでも一人なのは、支給品としての立場がないわ。だから……その……わたしと契約しなさい!』

ぷいと顔をそらしてはいるが、照れ気味な表情を見せている。
ふふ……従魔といっても年相応なんだね。
私は、目の前のアリスを愛おしく見つめる。

「わかった!いいよ。あ、そういえばまだ私の方は自己紹介してなかったね」
「私は清棲あかり。キヨスって呼んでいーよ」
「……主人を苗字で呼ぶのは抵抗あるわ。アカリと呼ばせてもらうわよ」

うーん……ここでは、なかなか呼んでもらえないなぁ……

☆彡 ☆彡 ☆彡

スケッチを終えると、私はアリスと契約を交わした。

『それじゃあ契約完了。暴れてあげるわ!……今後ともよろしく』
「ええ。こちらこそよろしくね!アリス」

アリスが従魔に加わりました。

「……よかったわ。生者がいてくれて」
「!?」 『!?』

二人に向けられた、それは安堵の声。
だが、決して相手に向けた声ではない。

「魂の補修に欠けている魂は具合が悪いの……だから」

ゆらりと近づく。
宙を浮きながら。
漂う空気から、キヨスとアリスは身構える。

「貴方の魂をもらうわ!」

案の定、自分に向けての声であった。
身構えるのは、正解だった。

829プラトン 清棲あかりの弁明 ◆s5tC4j7VZY:2024/05/07(火) 05:49:43 ID:A7x23/060
☆彡 ☆彡 ☆彡

3章 愛とは、深刻な狂気である

キヨス達に襲い掛かる前。

「ワタシはヨミガエリをしなくちゃいけない……」

なぜ?

「……感じるわ。無数の魂が……」

感じる……歩む先に見える壊滅状態のエリアから。
それは、無数の死んだ魂。
幽鬼だからこそ、感じ取れる。
病院にも死者が多く感じられたが、戻る気にはなれない。
正直、今のコンディションでは、幡田零や不快な刀を持つ少女を相手にし続けるのは億劫。
故に新たな死者蠢くエリアへ移動している。

「埋めなきゃ……魂を」

どうして?

「う……ううう!!!???」

頭の中で鐘がガンガン鳴り響く。
それは、思い出すなと警告しているのか。
だが、鐘が一音鳴るたびに鮮明な記憶が想起される。

恵羽千。
この人物名が頭から離れない。
復讐を遂げるべき相手。幽鬼の姫である幡田みらいよりも。
まるで、決して忘れてはならない名前。
『親子』のワードと『恵羽千』のワード。
2つの単語がワタシの心をかき乱す。
先ほどの病院での戦闘から続く違和感が今爆発する。

「ガッ、アアアああああああ!!!!!?????」

―――カッ

830プラトン 清棲あかりの弁明 ◆s5tC4j7VZY:2024/05/07(火) 05:50:04 ID:A7x23/060
『……これは、あまり合理的とは思えない。父さんのほうから、あたしたちに会いに来るべきだ』
『そう?■さんは、■と旅行ができて嬉しいんだけどな』
『あ!いま、鹿いなかった鹿!大きい鹿と小さい鹿……もしかして親子かな?』
『鹿で喜べる■さんが羨ましいよ。動物園に行けば好きなだけ見られるのに』
『そういうところ、■さんそっくり』
『■さんとしては、■にはもう少し年相応に無邪気な女の子でいて欲しいんだけど』
『合理的に物事を考えるのは悪いことではないよ。■さんが子供っぽすぎなんだ』
『結婚してたころ、■さんにも言われたかな……』
『あたしは、■さんの将来が心配だよ。ちゃんと大人になれるのかどうか……』
『あら……少し前までは、パンケーキに目がない小さな女の子だったのに』
『いつから、そんな生意気いう子になったのかしら?』
『糖質や油脂まみれのパンケーキが、非合理な食べ物だと気づいてからだ』
『……変身ヒーローに憧れて、サンタさんにベルトをねだるのは合理的なの?』
『そ……それこそ、小さい頃の話だ』
『ふふ……』
『■■はね、■の心配なんてしなくていいのよ』
『全力で、自分が幸せになることだけを考えて。成長を見守るのは、■の役目よ』
『そのあとは……そうね。将来、■が大人になったら、思う存分甘えることにするわ』
『わたしが……ちゃんとした、大人になっていたとしてもね』
『合理的ではないが……楽しみにしてるよ』
『……なにか、様子がおかしい』
『え?』
『バスが、蛇行している!』
『運転手さんは!?』
『わからない!ダメだ、崖が!』
『誰か!運転席を……』
『■……!』

「こ……この記憶は!?」

831プラトン 清棲あかりの弁明 ◆s5tC4j7VZY:2024/05/07(火) 05:50:20 ID:A7x23/060

『……ここは。■さんは!?』
『大丈夫よ、■。■さんはここにいるから』
『あたしたちは……確か、バスに……。……いったいこれは』
『……思ったより、たくさん獲れたみたい』
『獲れた?……これは、お前がやったのか?』
『■、ダメ!』
『お前?そんな名前じゃないんだけどな』
『ここでは、幽鬼の姫って呼ばれてるの』
『……幽鬼の姫?』
『そう。とりあえずみんな、ヨミガエリに協力して』
『ああ……強制だから返事はしなくてもいいよ。ただ……差し出せばいいだけ』
『魂をね』

「……思い出したわ」

身体をブルブルと震わせる。
アナムネシスが感じる感情はクレヨンで真っ白い画用紙をぐちゃぐちゃした喜び・哀しみ・嘆き・怒り。
欠けた記憶……辺獄の管理者と悪意の存在によるこの平安京という舞台装置が、特定のワードが起爆剤となって爆発し、アナムネシスの欠けた記憶に潜む”娘”を思い出させた。

「千……可愛い私の娘」

最愛の娘の名前と顔。
絶対に忘れてはいけない、一番大切な人……
足取りは軽くなる。
元々、ヨミガエリを果たすつもりでいた。方針に変わりはない。
ただ一つ、付け加えるなら”娘のヨミガエリ”が増えただけのこと。

「いた……」

死者が渦巻くエリアで一人の女性と下級幽鬼らしき存在が。

「……よかったわ。生者がいてくれて」

安堵する。
さぁ、あの煤けた若き女性の魂を喰らいましょ!

832プラトン 清棲あかりの弁明 ◆s5tC4j7VZY:2024/05/07(火) 05:50:47 ID:A7x23/060
☆彡 ☆彡 ☆彡
 
4章 賢い者は、何かを伝えるために話す。愚かな者は、ただ話すために話す

ブォン!
先手必勝。アナムネシスは、メガリスロッドでキヨスの頭をたたき割ろうとする。
キヨスは右へ転がると直ぐに立ち上がり、距離をとる。

「どうして?貴方はこの殺し合いに乗るの!」

キヨスは尋ねる。
キヨスが出会った危険な参加者は、エルピスと名付ける前のパンドラボックスと超大型巨人の状態で出会ったベルトルト・フーバーのみ。
どちらも言葉での意思疎通はできなかった。
だから此度は、初めて言葉が喋れる参加者。
故にキヨスは尋ねる。目の前の襲撃者に。

「ワタシは、大切な人との絆を奪われた。もう名前も思い出せない、あの人との絆」
「だから……同じものを奪うの」

「これは、ワタシが主役の……復讐と再生の物語」

姿が消える。
それと、同時にキヨスは前へ飛び前転をして、背後からの一撃を躱す。
そして、直ぐに起き上がり対峙する。
野生の……いや女の勘。
そして、構える。解体道具を。
本来は戦闘用ではないが、護身用としてなら、と判断した。

「逆に聞くけど、どうして貴方は乗らないの?それとも自殺志願者かしら?」

「……違うよ。私はこの殺し合いの参加者の生きた証を集めているの。それと私は清棲あかり」
「そう……いいわ。冥土の土産に名前を教えてあげるわ。ワタシはアナムネシスよ!」

名乗りと同時にアナムネシスは再び姿を消すと、今度はキヨスの目の前に出現した。

「ッ!!」
(後ろではなく、前!)

ガギィィン!!!

とっさに解体用皮ハギの刃で防ぐ。
無名の刃物だが、そこは”解体用”の道具。
なまくら刀ではないため、メガリスロッドとの衝突に耐えた。

「あら?判断力が冴えてるのね?」
「こうみえても、観察と体力には自信があるから」

キヨスは若くして論文を発表する研究者だが、室内にこもっているだけの研究者じゃない。自ら現地へ赴き、研究を主とする肉体派。
何とか、紙一重でくらいつく。
そう、防戦一方。
キヨスは参加者の中では、大人だが、あくまで一般人。
刀使のように、剣術の心得があるわけではない。
むしろ、下手に反撃しようものなら、直ぐに対処されて叩き潰されるだろう。

「なら、これならどうかしら!」
「ええ!?」

接近戦から遠距離戦法に方針を変えたアナムネシスは、キヨスから距離を大きくとると、言葉と同時に放射状に5つの風の魔法を放つ。
鋭い風がキヨスに襲い掛かる。
流石に現代の一般人であるキヨス。
物理攻撃なら自らの肉体で対処できなくはないが、魔法は別である。
いくつかは避けることはできたが、なすすべもなく、風の刃を身に受ける。
身体のいたるところを切り裂き、そして、生命を刈り取るべく、中心の刃が胸を切り―――が。

「なっ!?」

なんと!キヨスの胸を狙った風の刃が”はねかえってきた”
流石のアナムネシスも驚きを隠せず、先ほどと同じ技で相殺する。

「……エルピス」

そう、キヨスが身に着けているひかりのドレス。
論文発表の場ならいざ知らず、アクティブに動くキヨスが普段なら身に纏わないその服の効果は”ときおり呪文をはねかえす”世界は違えど、アナムネシスの”魔法攻撃”からキヨスを守ったのだ。

「面白いドレスね。ワタシの魔法を跳ね返すなんて」
「でも問題ないわ、連続で放てばいいだけのことだから」

先ほどは、驚きを隠しきれなかったアナムネシスだがそこは、辺獄で生き抜きヨミガエリまであと、一歩まで手が伸びている強者。
即座にアナムネシスは理解する。
キヨスを襲った5つの風の刃で胸を狙ったのだけが反射されたということは、全てを反射できるわけではないということを。

再び、ひかりのドレスの効果で致命傷となる風の刃を跳ね返す。
が、先ほどの宣言通り、アナムネシスは再び魔法を放つ。
そう”2段攻撃”

「……ッ!!」
(まずい……かな!?)

キヨスも肌で感じていた。
このドレスはそう連続で効果は発動しないということを。
血ダルマになって斃れる自分の姿が絵に浮かぶ。

833プラトン 清棲あかりの弁明 ◆s5tC4j7VZY:2024/05/07(火) 05:51:07 ID:A7x23/060

バシュウウウ……

「えっ!?」
「なっ!?」

結論から述べると、キヨスは無傷だった。なぜなら、アリスが防御したからだ。
アーナスが使用したスーパー宝具をも跳ね返したアリスのガードは鉄壁といっていいだろう。

『私も忘れてもらっちゃこまるわ!』

アリスがキヨスの盾になるかのように前に立つ。

「アリス!」

アリスはキヨスに顔を向けると、ピースをする。

「ふふ……今度はその小さな子供を盾にして生き延びるの?」
「……ッ!!」

脳裏によみがえる。
トッペイ君・エルピスの姿が。
自分だけが生き延びた姿が。

「どういう意味?」
「意味って言葉の通りよ。本当は気づいているんでしょ?生きる証を集めているなんてお題目があれば、少しでも長生きできるって!」
「!?」
「あの双子に対抗するグループから庇護されるかも!支給品を譲ってもらえるかも!そして、あわよくば死体から何か得られるかも!」
「隠しきれてないわよ?貴方のデイバックから漏れているわよ?死者の嘆きが」
「!?」

「私は知ってるんです。死者の、私たちを妬む声も、恨む声も。苦しみも、嘆きも。目を瞑っても、耳を塞いでも、ずっとずっと心の奥に溜まってる。」

「違う……私は」

零ちゃんの言葉が私の動きを鈍くする。

「あら。気づいたことに気づかないふりをしているだけ、ね」
「目を逸らして、己の欲望のためだけに、生きた証を集めるという名目で引剥を行うのよね?羅生門の老婆のように」

「……」

私を断罪する言葉。
老婆は餓死をさけるため、死者の髪を抜き鬘にしようとしていた。
私も死者の”生きた証”を集めている。
確かにそういう意味では、私と老婆は同一である。
エルピスの舌。巨人化したベルトルト・フーバーの皮膚等がそれの照明。

「あなたはワタシと同じ。エゴで動くお人形」
「……」

「退場なさい!」

今度は、全方位に剣を飛ばす魔法攻撃。

「……ッ!!」
(しまっ……!!)

ガガガッッッ!!!

『契約者に立て続けに死なれたら従魔の名折れよ』

再び、アリスは銀の盾に姿を変えてキヨスを守る。

「ごめん」
『気にすることないわ。それよりもしっかりしなさい!いくら私でも、生きる意志がない者を守り抜くのはできないわ』

アリスは私を叱責しつつ護衛する。

「面倒ね」

低級幽鬼かと思えば、その能力は厄介だ。
なら、圧倒的な力で押しつぶせばいい。

「ねじ曲げられた運命を、すべて断ち切れ!プラトン!」

その言葉が異形化への鍵だったのだろうか。
ヨミガエリを果たすために辺獄で集めてきた理念を開放する。
アナムネシスの姿が変化する。

834プラトン 清棲あかりの弁明 ◆s5tC4j7VZY:2024/05/07(火) 05:51:45 ID:A7x23/060

「さぁ、絶望なさい」

―――プラトン―――

「あ……ああ……」

足が震える。
先ほどの超大型巨人にも劣らない威圧感。

「……さぁ!清棲あかり!あなたを無残に殺してあげる!魂と肉体から、悲鳴を一滴残らず啜り取ってあげる!」
「貴方の魂を喰らい、この催しを優勝して、ワタシはヨミガエリを果たす!!!」

言葉と同時にいくつもの魔法陣が出現すると、そこから無数の矢が襲い掛かる。

「「!!??」」

私とプラトンの両者の間に立ちふさがった少女。
その姿は蝙蝠に似ていた。
そして、威厳があった。

「バカみたいに大声出して…見つけてくださいって言ってるようなもんね」

☆彡 ☆彡 ☆彡

「ねぇ、アンタ吸血鬼?」
「この姿で血を吸う蝙蝠と間違えるかしら?ワタシは幽鬼よ」
「ハン!”鬼”であることには変わりないじゃない」
「そして、人の命を何とも思わないゲスの鬼ね」
「……いってくれるわ」

王ルトンは、挑発だと理解しているが、やはり上から目線の傲慢な物言いに怒りを抑えられない。

「そこのアンタ!」
「!」

少女は私に視線を向けると。

「悪いけど邪魔よ」
「え!?」

言葉の刃を突き立てた。

「で、でも!」
「戦える顔じゃない。今のアンタが加勢したところで唯一残った命すら失うだけ。周りの命を巻き込んだ上でね」

―――ドクン

何度も脳裏に浮かぶトッペイ君とエルピスの無残の死骸を。

「さっ、はやく行きなさい」
「……」

トンッと背中を押されたような感じを受けつつ、私は助けてくれた少女に背を向けると走り出す。
ここで、死んだら、生きた証が残せないという言い訳を得たから。
ああ……私って本当に■■だな

835プラトン 清棲あかりの弁明 ◆s5tC4j7VZY:2024/05/07(火) 05:52:18 ID:A7x23/060

☆彡 ☆彡 ☆彡

「……」
(行ったようね……)

ドミノは立ち去るキヨスを見送ると、プルトンと対峙する。

「沈んで!」
四方八方から4色の魔法が襲い掛かる。
ドミノはそれらを紙一重でよけつつ、殴りかかろうとする。
―――が。

「……ッ!?」

すぐさま反転して距離をとる。
ドミノが距離をとった瞬間、プルトンの周囲が爆発する。

「……」
(厄介ね。距離をとれば、矢に魔法らしき攻撃。逆に距離をつめれば、爆発というわけか)

ドミノが対峙した悪魔人間(デビルマン)は、純粋なパワータイプだとしたら、プルトンは、技巧タイプ。
王道を歩むドミノとしては、技巧タイプなど、純粋に踏みつぶせばいいが、なかなかそうはいかない。

「あら、疲弊を隠しきれていないわよ?ふふっ、永遠の休息に入ったらどうかしら?」
「気遣いはいらないわ。この程度ハンデにもなりゃしないわよ」
「そう?なら退場なさい!」

杖による大ぶりな攻撃。
ドミノは持ち前の機動力でかわしつつ、ギュッと握った拳で殴りかかる。
たいていの吸血鬼ならこの一撃で仕留められる。
しかし、プラトン……アナムネシスは沈まない。

「チッ……」
(やっぱり、本調子じゃないからダメね)

傷ついた身体は、現在進行形として目下再生中。
王道を歩めぬクズなら何にも支障はない。
だが、プラトンと異形化したアナムネシスも、王とまではいかなくとも辺獄の管理者達から一目置かれ、ブルバキ達から信奉されるほどの実力者。再生中の片手間で仕留められる相手ではない。

「一撃が無理なら何度でもでいくわよ」
「ぐッ……この!」
(この子の一撃、結構重いわ……もし、万全だったらと思うとゾッとするわね……)

殴る。殴る。殴る。
いくら致命傷に繋がらなくとも一方的に殴られるのは気分が良いものではない。
プラトンは苛立ちを隠せない。

「ワタシはこの物語の主人公!光なのよ!」

矢が次々とドミノへ襲い掛かる。

「…ハッ。私が光よ」

836プラトン 清棲あかりのイデア論 ◆s5tC4j7VZY:2024/05/07(火) 05:52:49 ID:A7x23/060

☆彡 ☆彡 ☆彡

5章 自分に打ち勝つことが、もっとも偉大な勝利である

「……」

私はアリスに手を引っ張られながら走っている。

石に躓くと、私は転ぶ。

『ちょ……大丈夫!?』
「……」

いいの?
これでいいの?
このまま、現場から逃げて。
目を瞑る。
そして、知り合いたちを想起する。
決意を固めるために。

『キヨス!まさか、こんなことで諦めないわよね?』

鳴門さん。ええ、勿論!

『……君の良さはその行動力だ。立ち止まるのはらしくないな』

立花先生。ありがとうございます。生きて帰ったら、私、立花先生のハーブティ飲みたいです。

『うん。やっぱり、へこたれないキヨスちゃんはかわいいなぁ』

近い!まったく……こいつは

『キヨスちゃん。その採取したのDNA鑑定するわよ?』

堀内さん。助かります。この生きた証は必ず展示したいので。

『キヨス先生。その生きた証は私が燻蒸に立ち会いますね』

ありがとう。さっしーなら心配しないで任せられる。お願いしていい?

『どれ、そのポケモン図鑑とやらを見せてみろ。』

ありがとうございます!緒方さんのレプリカの造形は私のヴンダーカンマーに必要不可欠なので!

『キヨス!また同定をお願いしたいから!死ぬんじゃないよ!』

勿論、死ぬつもりはないよ、アメリちゃん。だから……再開したら飲もうね!

『かなでの森の博物館の鳥類担当なんだから、死んじゃ駄目よ?』

雅ちゃん……そうだね!私もまだまだかなでの森の博物館での常設展とか内装でやりたいことあるから!

『おう……キヨス。お前が死んだら鞍替えした意味なくなるだろ!だからお前らしく行動しろ』

キク……あ!そうそう、私を助けてくれた少女。なんだか蝙蝠に似ていたよ!後で詳しく話を聞いてみるね!

『よう、キヨスケ。今年もゴメ数えるんだろ?』

私はキヨスです!貴明さん。……はい!今年もよろしくお願いします。

『キヨス先生。この事件、聞き取りたいんですが、よろしいですか?』

鬼瓦刑事。いいですけど、荒唐無稽だなんていわないでくださいよ

『キヨス先生と辰巳先生はいつもギリギリですから早くお願いしますよ』

ごめんなさい。事務局長。ついつい忘れちゃうの。

『……!!』

館長!元気?

『ちょっと……キヨス先生?それは、カメ。館長はボク!!』

あ!人間の館長もね 

『ちょっとぉ』

『こんなに集めてどうするんですか?』

えーと……たしか役所から派遣された人だっけ。あのねー、どんな研究も材料がなきゃ始まんないでしょ!だから集めるの。100年後の未来にも届けるために。

837プラトン 清棲あかりのイデア論 ◆s5tC4j7VZY:2024/05/07(火) 05:53:11 ID:A7x23/060

『……アカリ』

マネーラ……
今の私を見たらマネーラは激怒するだろう。

戦わずに理想を掴めると思ってるの!って。
うん、うじうじ悩むには私じゃない!

『そいつがいたって証拠残せるのは俺だけだ』

……師匠。名も知らない私の師匠。
師匠との出会いがあるから私は今、ここにいる。

そう、この殺し合い。
”いたんだ”を残せるのは私だけ。
だから、私は集める!
そう……それは私のエゴ。
だけど、それ(エゴ)は人の心だから!!!

「……ごめん。アリス」
『え?』

言葉と同時に、私を立ち上がらせようと差し伸べた手を勢いよく払いのけると、自分で立ち上がって踵を返す。

『ちょ?ちょっと!もしかして戻るつもり!?』
「うん。やっぱりこのまま逃げたら私の勝利条件じゃなくなるから」
『アカリ。はっきりいって、ワタシたちは邪魔よ。』
「わかってる。でも、今のままじゃ”残せない”」
『残せないって……』
「”いたんだ”ってこと!!!」

私はアリスにそう答えると勢いよく走りだす。
零ちゃんに言われた言葉を思い出す。

「随分と、都合のいい解釈をするんですね。」

そうだね、でも、それができるのも大人なんだよ。

「命だったものを奪って。死者の生きた証に涙を流して――それで、死者は報われるんですか?」

私はそう信じている。この殺し合いがあったことを残さなければ、ただの行方不明者ですんじゃう。
そしたら、流すものも流せない。

「私は知ってるんです。死者の、私たちを妬む声も、恨む声も。苦しみも、嘆きも。目を瞑っても、耳を塞いでも、ずっとずっと心の奥に溜まってる。」

「――そんなあなたの『エゴ』に……私を巻き込まないでっ!」

ごめん!巻き込むね!だってそれが私だから!

『全く……アカリって突っ走る女ね』
「じっとしてられないんだ」

苦笑する。

『はい、これ』
「?髪飾り?」
『わたしの前の契約者……赤城みりあ……小さなアイドルのよ』
「アリス……」
『結局、巨人から身を守るので必死で、それぐらいしか残せなかったけど……』
「ありがとう!みりあちゃんの生きた証。確かに受け取ったよ!」
『それと!主人が行くなら私も行くにきまってるわ!』

さぁ!急いで戻らなくちゃ!

気づいたら―――
世界は再びカラフルに色づいていた。

838プラトン 清棲あかりのイデア論 ◆s5tC4j7VZY:2024/05/07(火) 05:54:58 ID:A7x23/060

☆彡 ☆彡 ☆彡

―――ザッ

「はぁ……はぁ……」
(思ったより、体力があるな……)

「くっ……」
(素早いわ……かゆいところに手がギリギリ届かないといった心境だわ)

互いに決定打が打てず、千日手といったところ。
しかし、互いに体力は極大の消耗。
どちらかが、強大な攻撃を決めれば勝負は決する。

「ちょっとまったーーー!!!」

山彦として帰ってきそうなほど、私は腹から大声を出した。

「あら?」
「ッ!」
(チっ!)

あちゃー……私を助けてくれたあの子。苛ついているな。
ごめんね。優しい蝙蝠?の女の子。
さて……覚悟を決めよう。

「そこをどいて!!!」
「!」

私の声が届いたのか、蝙蝠に似た少女は、プルトンから大きく距離をとってくれた。
よし、今なら!
私はグッと握りしめる。
朱い高級感漂うモンスターボール。
私の最後の支給品。
私をそれを―――

「そりゃぁぁぁぁああああああ!!!!!」

勢いよく投げる。
ボールが開き、ポケモンが出てくる。
中に入っているのは―――

「ズギャオォォォォォ!!!!!」

黄金に輝くボルケニオン。

839プラトン 清棲あかりのイデア論 ◆s5tC4j7VZY:2024/05/07(火) 05:55:12 ID:A7x23/060

☆彡 ☆彡 ☆彡

6章 人の器は、力を持ったとき、その力でなにを為すかで計られる

ボルケニオン―――それは幻のポケモンと呼ばれる中の一体。
だが、本来のボルケニオンは赤き紅き朱き空の平安京にも劣らない洋紅色のような真っ赤。
決して輝く色ではない。
では、所謂色違いなのか。
ポケモンには稀に見かける”色違い”と呼ばれる希少種がいる。

でも、このボルケニオンは突然変異な希少な色違いではない。
では、”あかいギャラドス”のように、とある犯罪組織が発した電波によるものなのか?
それも違う。
これは、0と1の電子の海が生み出した虚構の産物。
多くの小さな怪物の育成者はその虚構を信じた。
踊らされた結果、己の分身を失い、辺獄に堕ちた。
その無数の恨みや辛みの魂の声を辺獄の管理者である悪魔の双子と黄幡神を担当する陰陽師が実体化させた。
黄金のボルケニオンを。

「……ッ!」

これから行う行動は、傷が増える。
決して消えない傷が。
だけど、顔を背けない。
命を奪うことから。
だから……

腹の底から技の指示を出す。

「スチームバースト!!!」

それは一瞬であった。

840プラトン 清棲あかりのイデア論 ◆s5tC4j7VZY:2024/05/07(火) 05:55:33 ID:A7x23/060

☆彡 ☆彡 ☆彡

終章 優しくあれ。人は誰しもみな、戦ってるのだから

「……」
「〜〜〜♪」

ボルケニオンは、主人の敵を水蒸気の熱気で仕留めると、すりすりと頬を撫でつける。
それを私はポンポンと優しく頭に触れると、労をねぎらう。

「ありがとう。ゆっくりと休息して【アトミス】」

私はボルケニオン……アトミスをボールに戻す。
名前の由来はというと、ボルケニオンは分類にすると”スチームポケモン”というらしい。
スチームは蒸気を意味する。そこで、水蒸気を意味するギリシャ語から名付けた。
ボールにきちんと収納できたということは、どうやら、アトミスはギャブロ君やマネーラにエルピスとは違い、正真正銘のポケモンだったと証明された。

「……ワタシは主役ではなかったというわけね」

ボルケニオンの技を受けたアナムネシスは、プラトンから元の幽鬼の状態に戻っていた。
全身大火傷を負っている。
幽鬼でいえど、ここまでの傷を負っては助からない。
ゆっくりと衰弱死へと歩んでいる。

「……」

殺ってしまった。
それは、自分の信念(生きている生物は絶対生かす)を貫き通せなかった証拠。
喉が渇く。
誰かを殺すということはこういうことなのかな。
亡くなった生物を解体して剥製にしたときには感じたことない感覚が私の身体を駆け巡る。
もうすぐ、2回目の放送が流れる。
目の前の幽鬼と名乗る女性……アナムネシスの名が呼ばれる。
勿論、自分で選択した結果。
たとえ、殺し合いに乗った参加者の命を奪ってでも生きた証を集める私の”エゴ”
でも、もう迷わない。私は進む。

「……真」
「……え?」

「……恵羽想真。ワタシがアナムネシスとなる前の名よ」

そう、幽鬼の姫の手で辺獄へ堕ち、復讐を誓い、幽鬼アナムネシスとなる前の名。
死を目前なのか、ジグソーパズルが完成したかのように記憶が戻ったようだ。
故に……話す。このまま終わりを迎えるのを拒むかのように。

「娘の名は千。……ねぇ記してくれるかしら?それが貴方の”エゴ”なんでしょ?」
「……はい!勿論です」

―――フォン

白い本が目の前に現れた。

「これは……?」
「クス。大丈夫。それに触れれば、”知る”ことができるわ」

記憶溜り。
私はそれに触れると―――

841プラトン 清棲あかりのイデア論 ◆s5tC4j7VZY:2024/05/07(火) 05:55:49 ID:A7x23/060

☆彡 ☆彡 ☆彡

『本当にいいの?誠士郎さんと一緒に行かなくて』
『父さんは、あたしがそばにいなくても大丈夫な人だからね』
『あら?それって母さんをひとりにすると心配って言ってるように聞こえるわ』
『はは。父さんよりは、心配かな』
『……ごめんなさいね。あなたにとって、父さんは憧れだったのに』
『父さんの正義はあたしの目標だけど、離れていても目指し続けることはできるよ』
『あたしにとって、一緒の時間を歩きたかったのは母さんだから』
『……ありがとう、千。今は、その言葉に甘えさせてもらうわ』
『だkど……もしワタシたち家族に何かあったら……』
『あなたを守るのは、母さんの役目だからね。覚えておいて』

『……ここは?』
『目が覚めた?』
『母さん?……すべて、夢……ではないのだな』
『……ええ。あのあと、あなた気を失って……。なんとか、ここまで運んできたの』
『あいつのせいか……あの幽鬼の姫とかいう……。くっ……!』
『すぐに動くのは無理よ。ここで、休んでいて千……』
『そうだ……あれからどうなった!?他の乗客は!?』
『……母さんね。人はみんな、本当は優しいんだって信じてたの』
『そんなところが……検事の誠士郎さんとは合わなかったのかな』
『……母さん?なんの話を……』
『強要されても、助かる道が他になかったとしても、人が、誰かを傷つけるなんて、ないって思ってた……』
『……乗客が、殺し合いをしているのか?』
『あなたが気を失っていてよかった。人の……あんな姿を、子供に見せなくて済んだから』
『……お願い。あなたはこのまま、目を閉じていて』
『なにを言っている?乗客が襲ってくるかもしれないなら、逃げないと……』
『心配しなくてもいいのよ。誰にも、あなたを傷つけさせないから』
『母さん!?まさか……ダメだ!』
『……それで、あなたが助かるなら、母さんはなんでもするわ』
『あんなやつの言うことに従ってどうなる!?』
『……あら。ルールに従うのは、正義でしょ?』
『違う!殺し合いはルールなんかじゃない!あいつが言った、なんの保証もない戯言だ!』
『戯言に惑わされて、他者の命を奪うのは正義ではない!』
『誠士郎さんの正義は、そうでしょうね』
『父さんは、昔こんなことを言ってたわ』
『自分が、裁判で頑なにルールや法を遵守するのは、そこに少しでも人の情や自分の意思を入れてしまったら……』
『それはもう、神様の仕事になってしまう……自分は、最後まで人で居続けたいんだ……って』
『……父さんが、そんなことを』
『でもね……母親の正義は、違うの』
『他のすべてを犠牲にしても、絶対に子供を守る』
『子供を守るために必要なら、人間でなくてもいいわ』
『それが、母親よ』
『……母さん、お願いだ……やめてくれ……』
『だから、あなたは助かるわ』
『母が、すべてを捧げて、そう願い続けるから』
『ダメだ……戻って……』
『最後にひとつだけ、母さんの我儘をきいて……』
『これから母さんがすることを……あなたにだけは、見てほしくないから……』
『だから、千……すべてが終わるまで、目を閉じていて』
『……母さん!母さんっ!』
『こんなのはイヤだっ!母さん……行かないで!』
『なぜ、こんなときにあたしは、なにもできない……っ!』
『……あたしは……どこまで、無力なんだ……!』
『……強くなりたい……』
『自分の正義を……貫き通せるくらいにっ!』
『……母さん……』

842プラトン 清棲あかりのイデア論 ◆s5tC4j7VZY:2024/05/07(火) 05:56:06 ID:A7x23/060

☆彡 ☆彡 ☆彡

「……」
(今のは……想真さんの記憶?)

「……」
(これが……母親……)

なんとも言い表せないこの気持ち。
私はまだ、結婚をしていない身。しかし、同じ女性としてその行動原理は分かる。
勿論、だから他者の命を奪っていい理由にはならない。
ギュっと両手を強く握りしめる。
こんな悪趣味を行った幽鬼の姫への憤りを発散するために。

「!」
(これって……!?)

記憶をメモに残そうと目を向けると、自分の字ではない一文がそこには記されていた。

『悪魔の契約を打ち破るには、トラウマを克服するしかない』

それは、アナムネシスがメモに記した一文。
辺獄の悪魔に踊らされた一人の女性の抵抗の証。

「想真さん……」
「くす……頼んだわよ。千……貴方の成長を見守ることが出来なくて……母さんの役目を果たせないで……ごめんなさい……ね」

それは、親としての無念。
だが、託した。
一組の親子がたしかに”いた”ことを。
かくして運命に翻弄された女性は、舞台から降りた。

【アナムネシス@CRYSTAR -クライスタ- 死亡】 

「……」
(想真さんに、娘の千ちゃん。必ず”いなかった”ことにはしません)

両手を合わせ黙とうする。
内なる決意を深めつつ。

「以外に落ち着いてるのね」

私を守ってくれた少女。
”優しい”少女。
私と想真さんとのやり取りを黙って見守ってくれていたことがなによりの証。

「必死に平静を取り繕っているだけだよ。自分の意志で命を奪った事実に押しつぶされないように」
(そう、自分の人生の一部を切り捨ててでも前に進むことを選んだ)

「でも、もう迷わない。私はこの殺し合いに巻き込まれた人たちのたくさんの”いたんだ”を残す」

「……ふーん」
(死地を乗り越えたいい顔になったわね)

―――スッ

「……?」
「自己紹介してなかったね。私は清棲あかり……エゴの理想を叶えようとする博物館人だよ」

―――ニッ

「ドミノ・サザーランド。この世界を統べる女王よ」

別れ、そして新たな出会い。
へんなものみっけ!

843プラトン 清棲あかりのイデア論 ◆s5tC4j7VZY:2024/05/07(火) 05:56:21 ID:A7x23/060

【E-5 火災現場/一日目/昼】

【清棲あかり@へんなものみっけ 】
[状態]: 負傷(小) 疲労(中)身体のいたるところに切り傷(移動には支障なし) 自らのエゴを受け入れた黄金の精神、爆風で煤けて汚れている アリスと契約
[装備]:ポケモン図鑑@ポケットモンスター モンスターボール×8 ひかりのドレス@ドラクエ7 キングラウザー・スペードのラウズカード@仮面ライダー剣 色違いボルケニオン(アトミス)入りプレシャスボール@ワザップ!
[道具]:基本支給品X2(自分、アナムネシス) Eー3かねでの森博物館から持ってきたフィールドワークや解体用の道具(双眼鏡・ハイヒール(大型動物解体・調理用刃物)など) 火山灰(一人分の量)@血と灰の女王 エルピスの舌 理念(イデア) みりあの髪飾り 超大型巨人の皮膚(ベルトルト)ランダム支給品×0〜2 (アナムネシス) メガリスロッド@ファンタシースターオンライン2
[思考・状況]
基本方針:
0:ドミノちゃんと情報交換する。
1:たくさんの”いたんだ”を集めて伝え残す
2:ロック・鬼くびれ大羅漢(金髪の外人)に注意する
3:二日目の昼にはE-3のかなでの森博物館へ戻り、ギャブロ君達と合流して手にした情報を交換する
4:トラウマを克服……それが、紋章を打ち破る……
5:マネーラ……のらないよね?
6:エルピス……トッペイ君。私、必ず伝え残すよ
7:よろしくね、アリス!アトミス!
[備考]
※参戦時期は原作1話 事故死したカモシカを博物館に持って帰ったところ
※ロックの危険性について知りました。征史郎との会話から爆発させる能力はスタンドの力ではないかと推測しています。
※マネーラ・ギャブロ・藤丸立香の世界について簡単に知りました。
※トッペイとの情報交換でクライスタの世界観を大まかに把握しました。
※征史郎との情報交換でリベリオンズ、ブルーリフレクション、よるのないくに2の情報を得ました。
 ただしリベリオンズはDルートの為充、琴美以外の人物とは話が合いません。
※トッペイの治療により、本来の服装であるパーカーを足りない包帯代わりに使用しました。
※トッペイの治療でかなでの森博物館から持ってきたフィールドワーク用の包帯は使い切りました。治療に使える薬はまだあります。
※スペードスートのラウズカードの内、スート7メタルトリロバイト、スート10タイムスカラベを使用しました。
※劇場の涙を流したことで理念を出現させ、手に入れました。
※アナムネシスの記憶溜りからアナムネシスの記憶を見ました。
※ポケモン図鑑に参加者の情報が記録されました
(清棲あかり、マネーラ、ギャブロ 、藤丸立香、パンドラボックス、幡田零 、城本征史郎 、細谷はるな、司城夕月 、トッペイ、ベルトルト・フーバー 、赤城みりあ、松坂さとう、アルーシェ・アナトリア、アナムネシス、)

【ボルケニオン(色違い)@ワザップ!】
「背中の アームから 体内の 水蒸気を 噴射する。山 ひとつ 吹き飛ばす 威力」byポケモン図鑑
分類:スチームポケモン タイプ:ほのお、みず とくせい:ちょすい
あかりに支給された、プレシャスボールに入っていた幻のポケモン。
しかし、この色のボルケニオンは本来なら存在しない。
辺獄ロワという特殊環境が生み出した産物。とはいえ、本来のボルケニオン同様の力を有する。
あかりにより【アトミス】と名付けられた。
技構成
スチームバースト
フレアドライブ
くろいきり
だいばくはつ
「簡単です! まず初めに ボックス1の一番左上にポケモンがいないことを確認する。
 いるなら別の場所に移動してください。 〜〜〜→結果 ボルケニオンゲット! 」byワザップ
※この裏技はセーブデータを削除させようとする悪質な投稿です。決して実行なさらないでください。  
  詐欺罪と器物損壊罪で訴えないようお願い申し上げます。

844プラトン 清棲あかりのイデア論 ◆s5tC4j7VZY:2024/05/07(火) 05:56:34 ID:A7x23/060

【ドミノ・サザーランド@血と灰の女王】
[状態]:全身にダメージ(大)、疲労(極大)、身体を再生中、主催に対する強い怒り
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×0〜2、応急手当セット@現実
[思考・状況]
基本方針:メフィスとフェレスとかいうクソ野郎二人は必ず叩き潰す
1 :清棲あかりと情報交換をする。
2 :攻勢にでるわよ。西に行って様子を確認する。
3 :下僕たち(佐神善、日ノ元明)に充や彰の知り合いを探す。ニアミスなのは残念
4 :首輪及び紋章を何とかするために、主催を知ってそうな参加者は見つけた。後はどうするか……
5 :あの悪魔(不動明)がまた挑んでくるようなら迎え撃つ。
6 :日ノ元士郎はここで斃しておきたいけど今は待つ。堂島は信用しない。
7 :しおが『下僕』になるかは彼女次第。
8 :日ノ元とは何とか協定を結べたけど、下僕たちはどうするのやら。
9 :強姦魔(モッコス)とヘルメット(ジャギ)は出会ったら潰す。
10:蒔岡彰、先に出会ってたら下僕だったんだけどねぇ……
11:伯爵の関係者も漁ってみる。
12:ユーベン……まさか?
13:零や可奈美にあったら、まあ軽く仲裁はしておく。

[備考]
※参戦時期は88話から。
※真祖の能力に制限が課せられています
※主催者の関係者にユーベンが関係してる可能性を考えてます。
※ドミノ、しお、日ノ元、彰、オフィエル、みらい、沙夜と情報交換をしました。
 充はDルートなのではるなと彼女から話を聞いた人物、
 途中までならCルートと同一なので途中までは結衣と話が嚙み合います。
※ムラクモ達と情報交換をしました。

845プラトン 清棲あかりのイデア論 ◆s5tC4j7VZY:2024/05/07(火) 05:57:41 ID:A7x23/060
投下終了します。

1〜4章が 前半  プラトン 清棲あかりの弁明
5〜最後までが後半 プラトン 清棲あかりのイデア論 となります


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