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孤空の月〜崩れゆく廃坑〜

1参加者:新之剣・歌藤玲・アイリ・セイスイ・グレイヴッチ・エゴ:2008/08/11(月) 10:42:07
■13:00 08月01日
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・・・汽笛の音が街中に響き渡る。
暑い日射しの中、鈍行列車は寂れた駅にたどり着いた。
窓の外には既に無人となった廃屋が見える。
「次の列車は一ヶ月後ですぜ。・・・引き返すならそのまま
乗っててもらえば帰りの汽車賃は半額にでもしますんで。」
ぼろぼろの帽子をかぶった車掌が珍しいものを見るかのように
車内を見回しながら言う。
しかし、次々と乗客は席を立ち列車から降りていった。
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車掌だけとなった列車は煙をはきながら線路を戻っていく。
駅内には自分以外にも多くのものたちがいた。
分厚いコートのものもいれば旅行者のような格好のものもいる。
「・・・・・・・・。」
ナイン・シュガーは腰の銃の弾丸を確認する。
・・・頭数分の弾丸は十分ある。だが、既にこの街に誰か
いるかもしれない。とりあえず他の乗客の様子を見るか・・
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2じおん:2008/08/11(月) 11:36:50

異色、 第一感想。
此処へ来た理由さえ、検討もつかない様な連中ばかりだ。

しかし。
そういった考えを抱くのは、ナインに限ったことではないのだろう。
それぞれが。それぞれの理由で。互いに警戒し合う空気。
乾ききった風と混じり合って、肌に染み込んでくる。

「さて」

猛暑は水分補給を忘れずに。

*

今シーズン、まだ美人のお姉ちゃんにかき氷作ってもらってないなあ。
最愛の人ならず果物、スイカさえ食べていない。
夏らしいこと、したっけ。
オカマだらけの水泳大会、ポロリもあるよ!に強制参加させられたくらいかなあ。

雑念の主の青髪は、
パープルシャツに黒いスーツを纏っていた。
この季節、そんな恰好で外を歩けば
「吐血するくらい、暑い」なあんて言葉も自然と出てくる。

「全身から血を噴き出すくらい、あ」
言い終える前に彼、セイスイは倒れた。
「誕生日には…俺の部屋を・・・ハイビスカスで埋め尽くしてくれ」

*

日焼け止めの効果が無さそうな日差し。

3腐れ飯:2008/08/11(月) 23:47:55

一攫千金なんてものは狙うものではない。
そもそもギャンブルというのは所詮自分の度胸を試すものであって、金なんて
二の次である。と、常々思っていたつもりだ。
しかしギャンブルはギャンブルだ。度胸のために、旅のための金がノリで一気に空気と
なる場合もある。場合もあって…
俺はまた一攫千金を狙っている。

新之剣は、とりあえず乗る前に水だけは大量に買い込んでおいて、今になって
重いと後悔しつつも、電車を降りた。
「…にしても、なんだこりゃ。」
先程この電車に乗るとき、駅は随分とにぎやかだったものだが、この変わりよう
はなんだと、新之は驚いていた。とりあえず。剣と荷物を置いて、ベンチに座る。

今更トレジャーハンターに転職なんて、お笑い種になりそうな話はしない。
「今にも崩れそうな鉱山には宝がたくさんある」と、街で噂になったのを聞いた。
新之は面倒くさい事は嫌いだが、勢いで金を無くした今、そうも言っていられ
なくなった。
たとえ金が手に入らなくても、金目当てのお尋ね者なんかをしばけば、なんとか
金は入るだろうと、新之は意外と深くまで考えていた。
「…とりあえず、暑いな。」
ここら一帯の地図を広げる。鉱山の場所を指でなぞりながら探していると、何やら
×マークがついた場所があった。ここが鉱山だと確認する。新之は溜息をついた。
「宝があるということなのか。 危険ということなのか。」
とりあえず、暑いので荷物から水の入ったペットボトルを一本取り出す。
なにやらガンマンのような奴もいる。新之は、どこかで面倒くさいことに
巻き込まれそうな気がしていた。

4羅刻:2008/08/12(火) 01:32:17
 ―――黒いコート 黒い帽子 丈の長い紫のスカート
見てるだけで暑苦しい・・・奇異な小柄で銀髪の少女だ。
日焼けとは無縁の白い肌で日傘を差し、売店で購入したブルーハワイ味のカキ氷を口に運んでいる。
彼女も鉱山の話を聞いて此処に来た様だ。
名は、アイリと云う。

「ブルーハワイ味って何の味なんだろ・・」
額に汗を浮かべ、そんなどうでもいい事を考えながら街の人達を見つめる。

そもそも彼女が此処に来た理由はというと金脈の事を聞いて来たわけであるが・・真の目的は別にある。
――――金脈があると言う情報の真偽 それを狙う者の観察―――
・・それが彼女に与えられた任務であった、もっとも本人は金が手に入ればそれで良いと思っていたようだが。
「これだけ暑いなんて聞いてないわよ・・」
このままでは倒れてしまうのではないか、そう思いながら歩いていると何かを踏んだ。
青髪で女顔の男のようだ、そのうめき声にアイリの体に寒気が走る。
肩を叩く・・息はあるが意識は無いようだ。引きずってその男を日陰に運び応急処置を始めるが。
「あれ?この人って・・」
風通しをよくするため男の服を緩めると何か違和感を持ったようだ。

・・・・後は意識が戻るか誰かが助けに来るだろう

カキ氷を食べ終えゴミを捨てると街中を見渡す。
・・・まずはあの怪しいガンマン風の男を観察してみるか

5木野:2008/08/12(火) 18:07:40
・・・列車から降りた乗客は互いの様子を伺っているようだ
無理も無い。こんな寂れた街に来る目的といったら一攫千金・・・
互いに敵になりうる存在なのだ
「・・・・・・。」
既にさっきからカキ氷を食べている女性がこっちの方を向いている。
この暑い中見せ付けるかのようにカキ氷を食べているのだ
・・・喉の渇きや暑さは我慢できても、甘さはなんとかして得たいものだ
あいにくここの駅は無人で売店など無い。
駅構内の壁にある地図を見るとすぐ近くに宿屋が一件あるようだ。
逆にいえばその一件しかないともいえるのだが・・・・・
とりあえず切符を支払い宿屋へと向かうとしよう。
途中で倒れている男性に話しかけている人物がいたが問題ないだろう・・・
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6Mark@『6.離れたり集まったり』:2008/08/12(火) 23:39:37
■■14:16 8/1

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駅のそばにある商店街にはシャッターの閉まった建物が目立つ。
錆びた看板をいくつか越えた所で、ナインはある建物の前で足を止めた。
三階建ての古びた洋館で、白いペンキが塗られた箇所は所々汚れている。
ナインは地図と洋館の看板を交互に見、それが目的の宿と判断すると、呼び鈴を鳴らして宿主を待った。

中へ案内されたナインの目に、最初に飛び込んだのは少女の人形だった。
カウンターの向こうに置かれた、妙に精巧なそれ。下には十字架が敷かれている。
黄緑の瞳をぼんやりと見つめていたナインに、宿主が声を掛けて来た。
「この前もらったんだ。気味の悪い人形だろ?」

「昔はここもそれなりに栄えてたもんさ」
宿主の世間話を適当にかわしつつ、宿泊の手続きを済ませる。
その後も彼はよく喋ったが、苛立ったナインが睨むとすぐにお喋りは止んだ。
「…甘いものが今すぐ欲しい」
「だったら向こうの食堂に行きな。ここの飯はマズイって評判さ」
そう言い、宿主は窓の向こうに見える建物を差す。
すでに駅で会った何人かが中に入る所だった。
「………」
ナインは深く帽子を被り、宿のドアを開けた。

7カーnabi:2008/08/13(水) 01:42:31
「何処だー!此処はー!」

商店街をとぼとぼと歩く青年が1人。
彼の名はレイド。ハチマキと赤い髪が目立つ剣を持った青年だ。
彼はこの場所に来るつもりは無かった。
では何故その青年がこの場所に着たかと言うと・・・
「寝過ごしたッ!」
っという何とも簡単でしょうもない理由だ。
寝過ごしたと慌てて降りる彼のことだ、車掌の言葉も聞こえず考えも無しに降り立った。
そこが一攫千金を狙う者達が集う場所だとも知らずに・・・


「・・・なんか寂しい所だなー」

彼の歩く商店街は全てシャッターが閉まっており
誰1人も歩いておらず閑散としており、見物に来たとするならば最悪だ。
彼から見て多くの者が集いそうな所と言えば遠くにある宿と、
大勢が一攫千金を夢見て望む鉱山ぐらいだ。
しかし、寝過ごしてここに降りた彼が一攫千金を狙える鉱山の事を知っている訳が無く。
今行く場所とすれば宿ぐらいだろうが・・・

「そうだ!今からでも戻れば・・・」

彼は希望を持って駅の方向へと振り返るが
無論列車はとうの昔に出発しており、そこに残るモノは何も無し。

「はぁ・・・とりあえず、宿に言って考えるとするか」

と、宿に向かって歩き出し、程なくして宿の前に到着する。
それは丁度ナインが宿から出ようとする時だった。

8じおん:2008/08/13(水) 10:30:31

アイリが去った後、しばらくしてから彼は目覚めた。
緩んだ服装に疑問を思いながらも、ネクタイを締め直す。
「もしかして誰かが助けてくれたんじゃなかろうか」
なんて。
ただでさえ、このような気候なのに、
彼の性格に若干の異常があるときたら、
そんな事は思わないのだろう。

「ちょ…、怖あ・・・」
とだけ言い、立ち上がった。

*

しばらく歩くと宿が見えた。

赤い髪の男と、銃を持った男が居る。
喧嘩でもしているのだろうか、何か言い合っているのが、
この距離からでもよく、わかった。
あ、違った、赤い方が一方的に何か言ってるような。

俺と対照的な赤だ、目に悪い。
ただでさえ目が細いのにこれ以上目、細めたら、もう線じゃねえか。
自然と眉間にしわが寄る。
相当目付き、悪くなってるだろうな。

「兄ちゃんたち、何してんだい」
声を掛けると、二人は引き攣った顔でこちらを見た。

あれ…。
もしかして、悪人にしか見えなかった…、かな。

9Mark@『9.喧騒と戦慄のあいだ』:2008/08/13(水) 12:00:30
二人ともすぐに口論をやめ、お互いセイスイに視線を向ける。
「……何だ?」
糖分不足の上赤い男に絡まれ、その上厄介者がもう一人。
いい加減我慢の限界に来ていたナインの手は、まだ使われてない拳銃を掴んでいた。
「お前は…!」
一方、セイスイを直感で悪と察したレイドは剣に手を掛ける。
「ハイビスカス…」
セイスイはと言うと、悪化した状況の中。何故か遠い日の友を思い出していた。



「玲ちゃん踊りまーす!」
南国調のリズムが食堂中に流れる中、客の視線はそれに合わせて踊る金髪の娘に集する。
ただ一人、アイリだけは踊り子に目も暮れず、外で揉める三人を窓越しから見つめていた。
ふと、
「ダンスは見ねぇのか?」
近くからの低い声が自分に向けられた物と察し、アイリは抑揚のない声で返す。
「…シュミじゃない」
「結構いい感じだぜ?子供には分からねぇだろうがな」
『子供』と言う単語に反応したアイリは顔を赤く染め、
「っ!子供じゃな 」
反論のため、立ち上がって相手に振り向くと、
「……!」

硬直し、身構えた彼女の目先には、全身が毛に覆われたハイエナの獣人がいた。

10腐れ飯:2008/08/13(水) 18:04:23

踊り子が踊っている。当たり前のことだ。
ウェスタン風の食堂の隅。新之は四人用の丸テーブルを一人で占領していた。
時々座ろうとした人達がいたが、新之が狛犬のような顔をすると、へこへこと
どこか別の席に座った。
新之は、オムライスをすくっとスプーンで掬う。鼻をつらぬくように強いトマトのにおいがする。

「…うっ。あっ。」
踊り子とランク的には中の中であるオムライスは、先程からどうでもよかった。
一人の少女が、獣人に対して何か言いたげだが口を金魚のようにパクパクさせうろたえていた。まぁわからないでもない。
アイリは、自分の座っていた椅子をしまう。
「…な。何?こんな暑いところで大丈夫なの?」
うろたえてようやく搾り出した言葉だった。獣人はどうでもよさそうに天井や、踊り子を
見ていた。
「俺はグレイヴッチだ。何、名乗っておこうと思ってな。お子様には優しいのさ。」
「な、何を…。」
アイリは、なにやらナイフのようなものを握っている。バターナイフだ。どうにもならない。

「おい!そこの君達!!」
新之は大声をあげる。そろそろ飽き飽きしていたところだ。なにやら情報も聞き出せる
かもしれない。新之は立ち上がり、喧嘩にまきこまれないようにと口火を切った。
アイリとグレイヴッチは新之を見ている。新之は一言。

「俺のオムライス食ってくれ。」

11木野:2008/08/13(水) 19:25:35
「・・・チッ。」
小さく舌打ちをし、ナインはレイドとセイスイを放置して食堂に入っていった。
「え・・?おいっ・・・ちょっと・・・」
勝手に去っていったナインに呆然としながらセイスイのほうをみるが、
こちらはなにやらさっきから思い出に浸っているのか目が宙を泳いだままである。
「・・・・・。」
しかたなくレイドも食堂へと入っていった。
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ガブリ。

皿に噛み付くようにグレイヴッチは新之のオムライスをたいらげた。
ズッと、オムライスの皿を抜くとケチャップが血のようにずるりと垂れた。
「ありがたくいただいとくぜ。」
グレイヴッチから受け取った皿をテーブルに置くと新之はアイリのほうに近づいた。
「・・・何のようだ?」
「おいおい、俺が助けてやったのにその言い草はないだろ?
・・・まぁ、いいや。お礼といっちゃあなんだがなんかいい情報があったら
教えてくれないか?・・・・・お宝とかさ。」

「すまないが、何も知っていることはない。」
アイリはバターナイフをテーブルに置くと、食堂の外へと出て行った。
それを見送った新之はウェイターにスパゲッティを頼みグラスの水を飲み干した。
「・・・ふぅ、どうやらそう簡単にはいかなさそうだな。」
新之は空になったグラス越しに食堂へと入ってきたナインをみつけた
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12ヨモギ茶:2008/08/18(月) 21:22:55
新之は空になったグラス越しに食堂へと入ってきたナインをみつけた

今度は、あいつに聞き込みをしてみようかな

新之は、テーブルから立ち上がってナインに5歩程近寄り、はたと止まった
(なんだか、やばそうだなあ・・、苛立っているみたいだし)
そう思って、新之は踵をかえそうとし___

「おい。」

後ろから遠くだけど、声が聞こえた。ふりかえるとナインの他。
とりのこされている青髪、セイスイ。
後を追って入ってくる、ナインと同じ赤髪で、剣をもったレイドの姿が見えた
セイスイは、何やらぼお・・・っと、しているようだけど、それよりも・・・

(あら、目ェ、あっちまった。)

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所代わってこちらは宿・・・・

「きみがわるい。いわれちゃった。」

カウンターの向こうから声がきこえる。たどたどしい少女の声。
宿主の姿はなく、少女の声がきこえていても、何処か静かだった

「んん・・じっとしてて、つかれちゃった。ここ、何処なのかな。」

じっとしていて、カウンターがある部屋には、今はひとっこ一人いない。
今、いるのは、否。そこにあるのは、食堂へ向かう前のナインがみた。

そう、妙に精巧につくられていて、持ち主が「気味悪い」と言った
少女の人形 しか。

その少女の人形は、ボーダーセーターの袖で隠れた小さい手を動かして
背伸びをした。しかれていた十字架は頭上にあり、まるで、それについた糸
でつられているようだったが・・

ふわり。
人形はパラシュートで降下するようにカウンターのある台から降りると、
僅かにふらついているようでも歩き、ドアの側までたどりつき・・

なんとなく、後ろを振り返った。

いつの間にか戻ってきた宿主の、血の毛のない、異様に開いた顔があった

「おじちゃん・・おそと、いっていい?」

クロスがわかぼしかたむき、少女の人形は首をかたむけながら無邪気に問うた
宿主が悲鳴をあげるか、その間々倒れるか・・
どちらにせよ。時間の問題だろう

13木野:2008/08/19(火) 16:06:15
アイリは一足先に宿屋へと戻ってきた。結局たいして食べることもできないまま
帰ってきたので小さくおなかがなる。まずいと評判らしいがここの宿屋の軽食でも
とるとするか・・・
「ん?」
ドアを開けるとそこには床に倒れたままの宿屋の主が。気を失っているようなので
近くのソファーに寝かせておいた。
「いったいどうしたっていうんだ・・・?」
ふと、カウンターの向こうの不自然な空間が目に付く。まわりがほこりだらけ
なのに対してそこだけ「さっきまで何かあった」かのようにほこりがない。
「・・・やはり何も起こらずに過ごせないか・・」
アイリはカウンターの鍵を拝借し、ひとまず自分の部屋に帰ることにした。
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14腐れ飯:2008/08/24(日) 23:38:55

「何だ。お前は、人の顔をみて退くなど、失礼千万だぞ。」
「っていうか何その面倒くさそうな顔。いらつくんだよ喧嘩うってんのか?」
「ところで腹減ったな!何か食わんか!」
新之はタバスコをコツコツと机に当てながら座っている。
ナイン、セイスイはそれを潰すような目で立って見下ろし、レイドだけは大声で全く別のことをいっていた。
踊り子の歌声が聞こえる。レイドの大声でも、それは掻き消せなかった。
新之は、貧乏ゆすりをする。いけない癖だ。
「あの、いや、すみません何でもないんで。とりあえず勘弁してください。」
「いや、何でもないではないだろう。とりあえず俺に何を聞きたかった?」
「いや、何でもないです。聞いても今怒ってるじゃないすか勘弁してくださいよ。」
セイスイは、ペッと唾を吐いた。その唾は新之の頬に当たる。
「さっさと言えよごもってんじゃねぇぞこの薄らハゲ茶髪。」
新之は、それを、そっと拭く。そして、首を左右に揺らしたかと思うと、
唐突に立ち上がった。
「おいこら。てめぇ食堂で人の顔に唾吐くとかどういう神経してんだよ?あ?
もうこうなったら絶対聞きませんー。お前等に聞いても無駄ですぅ。」
新之は、レロレロと舌を出して、セイスイの顔にありえないほど接近する。
「あ?何だよ強がってひねくれてんのか?ガキだなおい。もっかい家帰って
勉強しなおせ。」
「そうだな。そうするぜ。じゃぁな!」
そういうと新之は、手に持っていたタバスコを、セイスイの目にかける。
「あっっ!あぁぁぁぁ!」
新之は、タバスコをポイと床に捨てると、そのまま向かいの宿へと向かった。
セイスイは、目を抑えながら呻いている。ナインは、新之とセイスイを交互に
見ていた。
「てめ!見てたら助けろや!」
「いや、すまん。しかし、あまり『言え』と責める意味がなくなった気がしてな。」
気付けば、歌が終わっている。周りの客が昼なのにやけにうるさい。
「おいおいお二方!」
レイドは、いつのまにかナポリタンを口一杯に頬張っていた。
その隣には、女の子が座っている。机に肘をたてて、両手で頬を支えていた。
よくみると、先程まで歌っていた踊り子だった。
レイドはナポリタンを飲み込む。
「この女の子、なんか宝がどうのこうの言っているんだが…。」




=======================


「疲れたわ。」
ベットに腰をかける。窓から見る景色も、外でみた景色もかわらない。
さして景色がいいわけでも、眺めがいいわけでもなかった。
「…にしてもあの狼男…。」
思い出す。自分を子供呼ばわりするのが気にくわなかったからもある。
しかし、宝について何か知っているのではないか?
あんな狼男は、この近くにはいなかった。となると、やはり宝目当てになる。じゃないと突然来る理由がない。
アイリは、荷物の中から地図を取り出す。鉱山の場所。周りに危険区域が多すぎる場所。
「…うーん。すこしは手に入るかなぁ?」
いやいやと、首を振る。調査のためにきたのであって、ちゃんと宝に関わる
人物を観察せねばならない。宝が欲しいとか、そういうのは

グゥゥ

音が鳴る。誰も聞いていないが、不思議と顔が赤くなる。
アイリは地図をしまい、少しベットに横になる。
暑さで倒れた人。狼男。茶髪男。倒れていた宿主。
それらを順々に思い浮かべ、身をおこす。

今は飯が優先だった。

15木野:2008/08/30(土) 11:16:09
「はぁ〜い、あたし玲っていうの。よろしくね〜」
大きなバスタオルで汗を拭きながら歌藤玲はレイドの食べている
ナポリタンにタバスコを入れて遊んでいる。
レイドはそれに気づかないのかガツガツと食べ続けている・・
「あいつめ・・・今度あったら口の中にタバスコ突っ込んでやる・・・」
「もうその話はいいだろ・・・
それで、君が宝の話を知っているということだが・・・」
ナインは宝自体には興味がなかった。しかし、宝の場所がわかっていながら
いまだ宝があるとすればそこには・・・・

「ホラ、この地図だよ〜。」
ピラリと小さなハンカチぐらいの地図を広げる。そこには山のような三角が複数と
大きな×印。
「ふぇ・・・なんだかあっはりと見ふかってしまったへぇ。」
レイドは唇を真っ赤にさせながらももごもごとしゃべる。
「?・・この×印の周りの小さな○はいったいなんなんだ?」
「さぁ〜?でもこの×印にお宝があるらしいわ〜」
ガタリ。 ナインが席を立ち上がり地図を掴み取る。
「明日の昼12時に出発するぞ。それまでに準備をしておけ。」
「おいおい、仕切るなよ。それにいまからいったっていいんじゃないか?」
セイスイがつっかかる。ナインはバッと銃を抜き、セイスイの眉間に押し当てた。
『俺が眠いから駄目だ。』
銃口でセイスイの額を弾き、ナインはそのまま宿へと出て行った
「・・・あの目はマジだな・・・・・・・・・すげぇ眠そうだった」

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アイリは下へと降りて宿屋の食堂へと入った。
が、あいかわらず宿屋の主人はソファーで気を失ったままで
他に食事を作ってくれるような人も見当たらない。
「セルフサービスってのもありよね。」
アイリは右手にフライパン。左手に包丁をにぎり、巨大な冷蔵庫の前にたったのであった。
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16羅刻:2008/09/02(火) 19:35:14
「作りすぎたけど・・まぁそこそこね」
アイリの目の前には数多くの料理が並べられていた。
ハンバーグにサラダに鍋に満杯のトマトスープ等々。
その臭いにつれられたのだろうか、宿屋に泊まっていた人達が宿屋の食堂に降りてくる。
「・・・お召し上がりなって行きますか?」
冷ややかな顔からは想像できそうにも無い宿泊客を笑顔で迎え入れる。
彼女は元々飲食店で働いていた事もあり料理はお手の物であった。
彼等のテーブルに手馴れた手つきで次々と料理を運んでいく。

・・・・売り上げは彼女の財布の中に消えるのだろう。

――――――――――――――――――――――
ナインは休むために宿へと入って行った。
入るとそこには宿主がソファーに横たわっている。
「呑気なものだな・・・」
苛立ち、眉間にシワを寄せながらカウンターに置いてある宿泊者名簿に眼を通した後、自分の部屋に向かおうとした時
「・・誰だこんな所に人形を置いたのは?」
そこには昼間、カウンターに置いてあったあの不気味な人形がナインの部屋の前に佇んでいる。
構えていた銃を下ろし隣の部屋の前までその人形を蹴飛ばす。
そしてふと宿泊者名簿の記述を思い出した。
隣の部屋は「アイリ」と言う名の女性が泊まっているらしい。
お世辞にもふかふかとは言えないベッドに倒れこみ、自分を監視していた者の事も忘れ思考を止めた。

「・・・痛い・・・」
人気の無い宿屋の廊下でその声は確かに聞こえた。
・・日はまだ沈んでないようだ。

17木野:2008/09/08(月) 01:51:23
■00:00 08月02日
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新之介はふと目が覚めた。
トイレに行きたくなったのもあったが、いまだに手持ちの地図以外の有力な
情報を得ていないのが気になっていた。
「どうすっかなぁ・・・この地図どおりかどうかもあやしいところだし・・」
地図を机の上におき、新之介はトイレを探しに部屋を出た。

「ん、君は・・・?」
あけた扉越しにレイドが顔をのぞかせる。
「なんだ、おまえもトイレか?」
ああそうだ。と、うなずくレイド。まさか男二人で連れションすることに
なるとは・・・
「まぁ、いいや。ちょっと聞きたいことがあるんだが、
「あぁ、僕も尋ねたいことが・・・

『トイレはどこにあるんだ?』

「・・・・こりゃあ困ったな。」
あいにくここは古びた大型宿屋。親切な案内も無くついでに廊下の明かりも
ついていない。
「仕方ない。二人で分担して探そう。見つけたら声を掛けることにしよう!」
部屋に置いてあった小さなランタンを持ち出し、レイドは廊下を走っていった。
「ありゃーそーとー限界近いみたいだな・・・っと。こっちもヤバくなりそうだ・・」
新之介もランタンを持ち出し、レイドと反対方向へと走っていった・・・

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トン   トン     トントントントン・・・・

扉の前で繰り返されるノックのような小さく扉を叩く音・・・
その不気味な音で目覚めたアイリは手近に合った椅子を抱え込み、
扉の前に立っていた。
(・・・こんな時間に誰かしら・・)
扉を叩く音は今もなお続いており、鍵のかかった扉のドアノブも時折ガチャガチャ
とまわされる。
(・・・・まさかお宝を狙う他の人が・・?)
音を立てないように静かに扉の前まで近づく。すると、小さな声がノックの
音にまぎれて聞こえてきた・・・

「痛い・・・イタイ・・・・」
                       ガチャリ。

扉の鍵が外れる音がし、扉は静かに開いていく・・・
---------------------------------------------------------------------

18ヨモギ茶:2008/09/08(月) 19:28:24
「いたい・・・・おネエちゃん・・・、お姉ちゃん。デショウ・・?」

廊下側からこじ開けられ。風におされるかのごとく部屋の中へと入っていく扉板
その最中に響く音とくれば、まるで悪魔が笛をふいているようだ
扉がゆっくりと壁にはりつき、さっきまでそれをガチャガチャやっていた張本人が入ってくる

アイリは紫の瞳が小さくなってしまう程目をみひらき、袖で隠れた両手で右の頬を押え、恨めしそうに自分を見上げる女の子をみた。
マゼンダ色のふわふわした髪。涙を流す黄緑色の透きとおった瞳。その点だけを見ることができれば、アイリなら、優しく接しようと思うだろが
その少女の体からは赤い糸がのび、頭上のクロスにつながっている・・しかも、そのクロスには誰も触っていないのだ
もう一つ言ってしまえば、少女の肌は真っ白でまるで・・・まるで死人だ。

・・・間違いないと、アイリは何処かで思っていた。
カウンターのある部屋で倒れていた宿主。埃にまみれたカウンターには。何かが置かれていた所のみ、綺麗な箇所があったのだ
そしてこの目の前の女の子、・・・いや、操り人形だったか。自分でも結構はたいたのだろうが、その髪と衣服には埃が残っていた

「・・・・ねえ・・お姉ちゃん、なんでしょう・・?」
「  。な、にが・・?・・あなたは、この宿屋の、宿主さんのお嬢さん・・?」

不用意に、刺激してはまずい・・・アイリはこちらに近寄ってくる女の子に、視線があうように座り、落ち着かせるように震えながらも優しく声をかけた
だが、その女の子本人にとっては逆効果であったようだ。

「ちがうヨ・・・・!!おねえチャンハ、オネエチャンハエゴヲ。オヘヤノ前にたってただけで、サッカボールノヨウニケッタクセニ!!」
「・・・!?ちが・・っ!!」

バキイ!!

誤解よ!お人形の言葉を否定しようとしたアイリは、飛んできた物をイスで辛うじて防いだ。
カッターナイフだろうか、バターナイフだろうか・・・鈍く光を放つ刃物が、5本くらいイスの背もたれに刺さっている

「エゴ・・・エゴ、だまされないもん。ゼッタイオネエチャンガエゴヲケッタンダ・・!!」

お人形・・・エゴ、は、いつの間にか右手があった場所にたくさんのナイフを生やし。
アイリにむけていた。ナインに先ほど蹴り飛ばされたせいだろう。ほっぺた部分には卵のようにヒビが入り、血のようなものが滲んでいた

だめだ・・・・・!!

アイリは、こちらにむかってこようとするお人形にイスをなげつけ。悲鳴をあげもがいている隙に部屋を飛び出した。

_________________________________

ドタバタ!バキ!ガシャア!!

「・・・・・・・・__うるさい・・・・・!!」

一方・・・・・エゴこと少女人形を蹴り飛ばし。アイリのいる部屋まで転がした男。
赤髪赤眼のガンマンナインは、自分が発端かもしれないとなりの騒ぎの音で目を覚まし。
とても不機嫌そうに舌打ちをした。

__________________________________

19腐れ飯:2008/09/09(火) 00:01:27


すでに消灯時間は過ぎているので、古びた宿の廊下はどこまでも暗く、行き止まり
の壁はどこなのか、闇に目がなれはじめても、よくわからなかった。

そしてランタンが壊れていたのは予想外だった。

「………」
もうそこらでしてしまうかと新之の頭に邪念が過ぎったが、そのまま看過した。
とりあえず、一階にあるというのが無難だろうと、階段を探す。手に持ったランタンは
手提げバッグのようにブンブンと音をたてて振り回されていた。
宝の地図 大きな×マーク そして狼男や異様な連中
どうやら思っていたよりも状況は複雑なのではないかと新之は気付いた。軽視しすぎて、
よく考えないのは、悪い癖だ。
大きく欠伸をする。なにせ深夜だ。月の光は雲に隠れていて、世界全体が、こんな
沈黙に覆われているのではないかとおもえた。

その矢先、ドカリと何かがあたる。

「やぁ!」
高い声が廊下に響き、そのまま新之は倒れ、相手も倒れる。
「…ってぇ!何してんだ!廊下走っちゃいけないと教わらなか…」
暗いといっても、ここまでキョリが近ければわかる。たしか狼男と口論していた
少女だ。
「…ごめんなさい。ちょっと…。」
「まぁ夜にテンション上がるのはわかるさ。な、夜更かしはよくないぞ。」
新之はアイリの頭をポンポンと叩くと、アイリはその手を払った。
「子供扱いしないで。いい?今私の部屋の前に人形が歩いてきて血を流していた
の、それでイタイイタイっていうのよ?取り乱すでしょ、普通。」
新之は、ポカンという顔をしたつもりだった。暗くて相手の反応もわからないので
確証はない。
「あいあい。そういう悪い夢ってみるよね、みたら寝れないよね。でも寝れない
時こそ寝るしかないのさ。寝ろ。」
アイリは新之の下腹を殴る。尿意が込み上げる。
「ばかやろおま!…何してくれとんじゃぁぁぁ」
漏らしはしないが悶絶をする新之の胸倉をつかんだアイリは、顔をグイッと引き寄せる。
新之は、アイリの目を見る。その顔は苦痛に満ち溢れていて、アイリの顔は、冷静と怒りと焦りが
地味に入り混じっていた。
「来なさい。見せてあげる。」
「……もしかして怖いのか?」
「………違う。」
「………あそう。」
「何よその変な声。」
新之は、頭の中で蛍光灯が就いたような感覚になった。
んんと咳き込み、のどをならす。
「んじゃ、協力しよう。」
「………何?借り?怖くないっていってるじゃない。」
「いやいや」
新之は、アイリが唇をとんがらせているのをみて、可愛いなと思った。
それはいわない。今はそれよりも重要なことだ。
「いやね、俺も『明日の遠足』が気になって眠れないのさ。」


========================

一回のロビーのすみに、掃除が半年くらいされてないのではないかというほどに、
異臭を放つトイレが見つかった。
「………。」
ココ以外にトイレがあったかもしれないが、明日の朝に出かけるので、時間に
限界があったし、尿意のほうは、すでに限界を超えていた。
「…トイレがあったぞー!!」
ロビーにその声は響き、こだまする。先程会った男は、今どの辺にいるのか、
検討もつかない。
「よし!伝えたぞ!」
レイドの中では伝わっていたので、問題にはならなかった。

異臭を放つトイレは、扉をあけたらさらに凄まじい存在となった。
レイドは、息をとめながらも、便器に向かう。窓があったので、開けると、
心地よい風が入ってきた。雲の流れがはやく。月の光は見えないことが多いが、
チラリチラリと、月が顔を出していた。
すこし臭いが和らいだので、とりあえずはやいとこようをたす。

「…イタイ」

ビクリとレイドは身をすくめる。出し切ったところで、横を向くと、暗いトイレ
のおくで、人形が血を流していた。
「………。」
レイドは、自分の排泄したものを、流して、水道で手を洗う。この水もキレイか
どうかわからなかったが、レイドはこの一連の行動をしている間もずっと人形を
みていたので、然程気にならなかった。
「…女の人探してるの。」
エゴが先に問いかけてきた。レイドは、すこし不安が消えた。するとハッハッハと笑い出した。
「なんだなんだ。迷子か?しかしここは男子トイレ。ここにはいない…。」
「女の人探してるの。」
エゴは機械のように、同じ発音同じ調子で、レイドを一点に見て話しかける。
レイドは、あまり得意ではないが考えてみる。今すぐ寝たい。しかし、エゴを
ほっとくわけにもいかなかった。それは、レイドのポリシーによるものだった。

レイドは、思いついたように手のひらをポンと叩く。

「よし、じゃぁ明日の朝。俺と洞窟にいってその人を探そう。」

20木野:2008/09/13(土) 21:16:36
「・・・・・。」
ムスっと黙ったままのエゴはレイドに抱きかかえられながらふてくされていた。
レイドの方はすっきりしたのかだいぶ冷静になってきていた。
(この子はいったい・・?それになんだろうこの糸みたいなものは・・)
レイドの目の前にフワフワと浮かぶ糸と木の板。触ろうとしたがエゴに
にらまれたのでほおって置くことにした。

(それにしてもさっきの人はどこへいったのだろうか。トイレの場所を叫んでからも
こっちへくる様子が無いし・・・まぁとりあえず部屋へもどるか。)

----------------------------------------------------------------------
有力な情報をつかんでいるならば、一日でも早く行動に移すはず。
そう読んでカマをかけてみたが見事にヒットしたみたいだ。
「・・・なんであなたが知ってるのかしら。確かに明日の昼12時に鉱山へと
出発するわ。」
「はは、俺も同じ情報を手に入れていてね。せっかくだから一緒にいかないかい?」
適当に話をあわせ、同行を狙う。何が出るかわからない鉱山内だ。人数は多いほうがいい。
「勝手にすれば?そんなことよりもそこの私の部屋の中をみてきてくれないかしら。」
「はいはい・・・」

---------------------------------------------------------------------
ドアが静かに開く。新之の部屋と同じで、アイリの部屋には小さな机とベッド。
そして1つの開かない窓があるだけだった。
「ど・・どう?なにかいた?」
ドア越しにアイリの声が聞こえる。その手はしっかりとドアノブを握っていていつでも
自分を閉じ込めて逃げ出せるように構えていた。
「別になにもいないが・・・」
念のためにベッドのしたなども調べたが宿主の手入れが行き届いてるのかねずみ一匹
いない。

ガタッ

突然ドアが閉まる。
「・・・・?」
新之はドアを開けた。

そこにはへたれこんでるアイリとそれに飛び掛っていく人形の姿があった。
--------------------------------------------------------------

21羅刻:2008/09/16(火) 23:06:15
――――どういうことだこれは?
新之がドアを開けた先に見たのは座り込んだ少女と・・それに飛び掛る人形の姿だった
「何してんだてめぇ!」
新之は咄嗟にエゴの前に立ちふさがるように動き、剣を抜き・・無い
剣の柄を握ろうとして空ぶる、どうやら自分の部屋に剣を置いてきた様だ。
何故置いて来たのか?・・・そうそう、トイレに行くからだった
「・・・ジャマするなァ!!」
「ぐおっ!?」
床に叩きつけられると同時に尿意が新之を襲う。このままでは色々な意味で不味い。
「私は何もしてない・・・証拠なんて何も無いでしょ・・?」
腰でも抜けたのだろうか、アイリは座り込んだ状態で後ずさりする。
エゴは倒れた新之の頭を踏みながらアイリに近付く。
「・・オネエチャンが部屋にハイルトキニジャマダッタカラケッタンデショ!!」
意味が分からない、エゴの手には銃器やら刃物がある。
その銃口がアイリに向けられた時――――

    パァンッ!!

何処からともなく乾いた銃声が響く――
エゴの軽い体はアイリの後方まで吹き飛ばされた。
「嬢ちゃん・・子どもが人形遊びする時間じゃねぇぜ?」
新之の傍らには褐色の体毛の長い鬣の獣人が拳銃を握っていた。
そして足元に倒れている新之の顔を覗き込む。
「・・昼間のオムライスの坊主か?」
「誰がオムライスだ・・」
新之は起き上がりグレイヴィッチを睨んだ。

――――――――――――――――――――――

・・銃声?・・・かなり近いな
発砲音で起きたナインは眠たそうな顔で銃を握っていた。

22ヨモギ茶:2008/09/27(土) 21:02:41
「で・・、一体何があったんだい?」

たてるかい?と座り込んだアイリに手を差し伸べながら、
グレイブッチは質問した。

アイリの後ろに倒れているのは、子供だけど間違いなくお人形だ

「わ・・わからないわよ・・!。部屋にお人形が泣きながら入ってきて・・
『お姉ちゃんがエゴを蹴ったんでしょ』って・・」

アイリは、最初拒んで自力で立とうとしたものの、足に力が入らず
結局はグレイブッチの手を借りた。立ち上がった後は、
その間々服や腕などにすがりながら、相手の背後にまわった
地面に落ちた、胸元から煙を出す少女の人形が怖いのだ

「・・ふうん・・」

グレイブッチはエゴに近づいてみようとした。だが、
後ろからアイリに抱きとめられた。
剣の方はというと、尿意の限界と先ほど起った出来事のせいで、
イライラが頂点に達しようとし・・・いや、達した

「〜あァもう・・・、さっきから訳がわかんねえや!何!こいつは部屋に
入る時邪魔になったから蹴ったんだろって!?犯人は現場に戻るっていうから
あんたが蹴っ飛ばしたにきまってr ぐんぎゃ!」

起き上がりながら怒鳴っている最中に、再びアイリの拳が下腹部を捉え
またしても新之の体は床にしずんだ。・・顔が真っ赤になっているのは
気のせいだとゆうことにさせていただこう(まて)

「ごら・・・、きのせいにしてんじゃねえよ・・」
「・・・・・。とにかく・・、私が自分の部屋に入る前は、お人形は
いなかったわ・・」

殴られた下腹部をおさえ、頭とひざを地面につく新之剣を放置し、
アイリはグレイブッチに訴える。

「そうか。・・・・む?」

グレイブッチは、苦笑いをしながら新之剣を見
そしてエゴの方へ顔をむけ――――

エゴは、影も形もなくなっていた・・・・・

――――――――――――――――――――――――――――――――――

コンコン。コン・・・

扉をたたく音が聞こえる・・・・

「・・・・ん・・・?」

コンコンコン・・・・

薄ぼんやりと覚醒し、レイドはベットから体を起こした。

ドアのノックの音は未だに続き、すすり泣く声も確かにきこえる
ほんの少し不気味に思いながらも、レイドは叩かれるドアのノブにてをかけ
ゆっくりと中へ開いてみた・・

「・・・おにいちゃん・・・」

扉の先には、さきほど抱きかかえた間々共に部屋に入ったはずの少女がいた
レイドは部屋の中へ顔を向けた。当然というのか、エゴはいなかった

「おかえり、何処へいってたの、・・!」

良く見ると、エゴの体には撃たれた跡があった。
エゴはけがをした所をおさえ、泣きながらレイドを見上げた

「痛いの・・お姉ちゃん見つけた・・痛い・・」
「・・何が、あったのかわからないけど、早く、手当てしなくちゃ・・」

レイドは、エゴをもう一度抱き抱え、ドアを閉めた

23kino:2008/10/16(木) 18:16:53
■11:00 08月02日
---------------------------------------------------------------------
「ふぁ・・・・あ。」
大きなあくびをしながらナインは1階へと降りた。既に他のメンバーも
食堂に揃っていたが誰もが眠そうにトーストをくわえている。
特にアイリは人形に狙われている恐怖感のためかコクリコクリとうなずきながら
コーヒーにミルクを入れている。 既に5個目なのだが彼女はまたもう一個ミルクを
取っている・・・
「んで、どうやってあの炭鉱にはいりこもうっていうんだい?」
ナインの隣にセイスイは座る。元気が有り余っているのか豪快に野菜を
挟み込んだサンドウィッチをほおばる。
「・・・さっき宿主に聞いてみたところ鉱山の東からトロッコ用の通路が
あるらしい。そこから鉱山の奥内部までいけるはずだ・・・ふぁ。」
そういいナインは自分のコーヒーに砂糖を9つ放り込み、一気にそれを飲み干した。

--------------------------------------------------------------------

24ヨモギ茶:2008/10/27(月) 17:57:26
「お姉ちゃん・・・・」
エゴは、レイドに背負われたリュックの隙間からじい・・・とアイリを睨んでいた
昨日お姉ちゃんに仕返しをしようとしたとき、パンダナの人とハイエナさんに
邪魔された。撃たれちゃった所・・このお兄ちゃんに手当をしてもらったけど・・

エゴの、ナインに蹴られたとこにはガーゼがはられ、撃たれた箇所には
包帯がまかれていた。レイドは、ちゃんとした治療をしたが、思いだすとまだ痛い気がする

「お姉ちゃん・・!」
「わ・・ちょっと・・!」

エゴはレイドの荷物から飛び出ようとした、それをレイドは必至で押さえる
――幸い、一人か二人振り返った物のすぐにレイド達から目を離し、
距離の為アイリにはエゴの声は聞こえなかった。

「おねえちゃ・・」
「落ち着いて、怪我しちゃってるんだから」
レイドは、汗をかきながらエゴをなだめた。飴をあげたら落ち着いてくれるかなと
ポケットの中を探してみる。飴の代わりにクッキーが出てきた。
レイドが、フクロにはいった真ん中にイチゴジャムがぬられたクッキーを渡すと
荷物の中から、クッキーをぽりぽりと食べる音と、すすり泣きが小さく聞こえる。

(この子、そのお姉ちゃんって人と何かあったのかな・・いつの間にかいなくなってるし、
帰ってきた時は怪我をしているし・・・。・・・まさかね・・。)

未だに、エゴがレイドの荷物に潜んでいるのは誰も気づいていない。
そして、今だにレイドは、その『お姉ちゃん』がナインの代わりにお人形に狙われている
アイリということは知らないのだった。

25腐れ飯:2008/11/05(水) 00:25:54

12:10 08月02日

人間の三大欲求の一つが睡眠欲というのは大いに納得できる。

「どうしたんだよ。徹夜明けの科学者みたいな顔してるぜ。」
鉱山に向かうため、村をでて、大きな平地に入った直後。
新之はヘラヘラと笑いながら、アイリの頭を二三度叩く。アイリは、
苛立ちを眉宇に漂わせた。
「徹夜明けは正解よ。おかげでくまができたわ。全くあなたのせいで」
「人形が怖いといってずっとそばにいた俺も、例外じゃない。」
新之の目にはくまがアイリと同じくらいできていた。新之は目をこすると、カバ
のような大口をあけてあくびをした。
「馬鹿面ね。」
「何を、少なくともお前よりは頑健だっつの。昨日の尿意も耐え抜いたからな。」
「サイテー。よくそういうこといえるわね。」
新之はライオンのような目つきでアイリを睨むが、アイリがそれ以上の目つき
で睨んできたので、明後日の方向を見たあと咳払いをした。
「どうやら鉱山の東にトロッコがあるらしい。そこから洞窟に入れるぞ。」
アイリは、小さくリスのように欠伸をすると、鼻息をもらし、横目で新之を見上げる。
「どっからそんな情報手にいれたのよ。」
「俺だ。」
後ろから異様に大きな声が聞こえる。アイリは目を丸くすると、後ろを思い切り振り向いた。
巨大な狼男 グレイヴッチが腕を組み、剛健な気風を漂わせていた。
アイリは口を金魚のようにパクパクさせていた。眠気はどこかへ飛んでいったようだ。
「どどど・・・どうして!」
「いやね。朝のうちに話がついたのよ。三人寄ればもんじゃ焼きっていうだろう。」
「違うもんたーじゅだ。」
アイリはドカンと地団駄を踏む。
「文殊の知恵よ!!何よそんな話!私が協力するというのはあなたと二人だから!」
「なんだすきなのか?」
「違う!団体行動はムリよ!二人ならまだしも!三人だなんて多すぎる。」
「何だ。お前の目的はそんな内密じゃなきゃいけないのか?」
アイリは言葉に詰まる。はたしてそうだろうか?
新之と組んだのは人形の件の成り行きであったが、それでもなんでもかんでも
簡単に言う事を聞く馬鹿さが使えると思ってのことだった。しかも同じく馬鹿
みたいな行動力と無茶で宝をもしかしたら見つけるかもしれないともふんだ。
そうすれば宝も手に入る。こいつの影に隠れて探検者の観察もできる。一石
二鳥だったのだが…。
「まさか、こんな三人もいたら…目立つし…宝だって、山分け…。」
新之はアイリの顔をニヤニヤと見ている。アイリはその視線に気付く。
「ま、いくか狼男さん。お宝みつけによ」
「しっかりと山分けするんだろうな。それが条件だぞ。」
「わぁってるって…なぁ?」

まさかこの男!!

妙な悪知恵は働くようだ。アイリの考えていたことを、新之は考えていたのだ。
なるほど、協力するなら心から協力しろということか。アイリは溜息をついて、
フフッと笑った。
「でも…どうなるかしらね。」
周りの奴等も、鋭い目をしている。一筋縄ではいかなさそうだ。
新之は腕を大きく回して、高笑いをしながら叫ぶ。
「さていくぞ!三本の歯は折れないというしな!」
「違うぞ三本の輪だ。」
アイリは、タタタと走って、新之、グレイヴッチに並ぶ。
「三本の矢よ。」

日は空の真上で輝いていた。

26kino:2008/11/07(金) 03:39:03
■16:23 08月02日

  響き渡る足音。そして転がっていった小石ははるか奈落の底にまで落ちていった。
「・・・とんでもない鉱山ね。」
アイリはなるべく道の真ん中に寄ろうと新之の影に隠れる。
「そんなにビビンなくても道幅は十分あるだろ?・・・にしても落ちたら
あがってこれなさそうな深さだな・・・」
「どうやらあちこちで地盤沈下が起きたみたいだな。幸い地図のルートには
支障はないようだが・・・」
ナインは店主にもらった地図を見ながら時折分かれるトロッコ用の通路の
行き先を指差していく。
(・・・よかった。今は眠ってるみたいだな。)
レイドは背中のリュックをあまり揺らさないようにゆっくりと歩いている。
「それにしてもこんな足場が不安定なところじゃあ、うっかりぶつかって誰かが
落ちるかもな。」
グレイは口をあけて笑い茶化したが、その目は笑ってはいなかった。
(やはり、あいつは信用ならないわ・・・・なんとかして分断させたいところだけれど・・)
「なぁ、もうちょっとはなれてくれないか?それともお前は俺を突き落とすつもりなのか?」
アイリの帽子を新之はぐしゃりと押し付ける。
「そういうつもりは全然ないわよ!そんなことよりも早く前に進みなさいよ!」

「・・・よし、ここから上へあがるぞ。」
ナインは切り立った崖の横の細い通路を歩いていく。それを見てアイリはまた
ため息をつくのだった。
-------------------------------------------------------------------

27Mark@26:2008/12/27(土) 17:37:56
薄暗い鉱山の中、入り口から響く走る足音。
それは道を進むナイン達に向かって着実に近づいて行き、不安定な道の途中辺りで少しずつ速度を緩めつつ、
「おにーさんたちっ!忘れ物ー!」
急停止した所で危うく道から外れそうになり、何とか体勢を整え事なきを得る。
崖を歩いていたメンバーが一斉に後ろを振り向くと、そこには食堂にいた踊り子が立っていた。
ほぼ全員が玲に注目する中、一人レイドは自分のリュックを見る。
「忘れ物ォ?」
セイスイは一瞬だけレイドを見るがすぐに玲に視線を移し、彼女が両手に持つ手提げ鞄を見る。
「店長さんがあなた達の事を心配しててね…ほら、救急箱!怪我した時に大変でしょ?」
そう言って玲は笑い、救急箱の中を開いて見せる。
包帯、消毒液、薬品、血清、薬草……小さめながらも一通りの物は揃っており、それを確認したナインは顎に手を当て玲を見る。
「これならある程度は大丈夫か……」

救急箱を受け取った後、ナイン達は玲に礼を言う。
それから再び細い道を目指そうとするが、
「……私も、一緒に来ていい?」玲の様子を見ていたアイリは、その一言に目を丸くした。

28kino:2009/01/08(木) 00:09:44
「あなた・・・・・宝に興味があるの?」
フラフラと歩いて崖から落っこちるんじゃない?という言葉を飲み込んでアイリはたずねた。
「・・・お宝じゃないけど・・・・」
珍しく静かになる。玲はこの鉱山にお宝以外の目的があるのか?
「いいんじゃないか?メンバーは多いほうが楽しいだろ。」
新之は気楽そうに言う。ナインはあいかわらず地図をみつめたまま
「・・・・勝手に崖から落ちても助けないからな・・・」
と、興味なさそうにつぶやいた。
「大丈夫!バランス感覚ならバッチしだから!」
そういいぴょんぴょんとはねる玲。バランス感覚はともかく度胸はありそうだ。

「まぁ、もうすぐ地図の目印の場所へたどりつく。何があるかわからないが気をつけていくぞ。」
ナインはそういい薄暗い洞窟の先へと進んでいった・・・・

29ヨモギ茶:2009/01/25(日) 12:39:55
――笑い声が、聞こえる。
「くくく・・くくくく・・」
暗闇の中・・不気味な笑い声が聞こえる

此処は、炭鉱の内部・・おそらく、一番奥だろうか。
それとも、洞窟の中間だろうか。薄暗く、視界が悪い。
ぽちょんという。雨もれ水の落ちる音が、洞窟の地面に落ちる音が響く
割れたランタンからもれる明かりも、此処では彷徨う人魂のよう。
ほんの気休めにもなりわしないだろう。・・・・・ランタン?

・・割れてはいるがまだ新しい、打ち捨てられ、木の枝と共に転がっている。
乾燥しきった、先が5つにわかれている・・反対側から、白い折られた骨が
つきだした枝―――違う。

これは枝ではない、干からびた。血と水分を全て吸いつくされた。
その上、肩からへし折られてしまった・・・

―――ミイラのようにされた人間の腕だ
ランタンをもつ者の他にも1、2・・・
合計すると、死体の数は8つ。どれもこれも完全に水分を奪われ、転がっている。
干からびている。・・・・嫌、ひとつだけ綺麗な、無傷の死体があった。
肌が青白く、閉じられた目の周りには眠りを諦めたような熊ができ、
両手両足を大の字に伸ばして横たわっていた。・・・笑い声が、聞こえた。

此処にあるのは、死体以外は、壊されたナイフ、壊されたランタン。
破られて中の荷物を散乱させた大きめのリュックのみのはず・・
何処からか鼠がはい出してきて、リュックからはみ出した食糧を口にしようと
青白い死体の手元によってきた

―きいぃっ!!
胴をしめあげられた鼠の悲鳴。頭をかみつぶされる音が響き静かになった

頭のつぶされた。ミイラになった鼠が青白い肌の死体の横におちる。
死体は上半身を起こしている。死体は口元をゆがめている。端がつりあがり
赤く汚れた牙がのぞいている。再び笑い声がその口から洩れる
死体では、なかったのだ。吸血鬼は、つぶやいた

「今度も、7人かかった・・ラッキーセブンだ・・・。」

そういって死体の一つを頭をつかんで持ち上げる。苦悶の表情の間々かたまって
首筋には穴があいている。体は干からびて朽ち果てている。それなのに
身につけた衣類の類。7つの死体の纏った者、もってきた物。どれもこれも
真新しい。ナイフだって折れているが、錆びついてもいない
皆、皆此処に来てすぐに殺されたのだ。この、青白い顔の死体に

この、ぼろぼろの作業服をきた。何処かの国の旗をマント代わりに羽織った
吸血鬼に・・・――化け物に。化け物は、また、人の気配を感じた。
足音をきいた。1、2、3・・今この辺りに転がっている。
血を吸われた犠牲者と同じ数。今、洞窟に入りつつある。ナイン達と同じ7人

「くくくっ・・!また、ラッキー7・・。僕は今回、ついているらしい・・」

いたずら小僧のように笑う吸血鬼は、掴んでいた死体を脇にほおりなげ、
乾いた音をたてバラバラになるのを聞き届けた後。
「侵入者を排除するため」「獲物を捕獲するため」にゆっくりと行動を
開始した・・・・・・。

30くされめし:2009/04/25(土) 19:20:18

■18:23 08月02日

「随分と歩いたな」
ナインはあたりを見渡す。外の光はもう一切届かず、手持ちのランタンの薄い光でしか周
りを把握できなかった、
「ここが…×印のところなの?」
アイリは神妙な口調でたずねる。ナインは何も言わず、ただ地図に目線を落とす。アイリ
の小さな声も、未だ響いている。
「…ここでいいはずだ。しかし…」
「何もねぇじゃんよ」
ナインの言葉に加えるように、舌打ちをついたあと、セイスイが言う。
見渡すと、随分と拓けたロビーのような場所だった。空気の通る音がオオンオオンと唸る
ように響き、少し肌寒い。
「…いや、もうちょっと真ん中に寄ってみよう。…でもこの周りの○はいったい…」
「俺は、宝さえ手に入ればどうでもいい。なぁ」
「なぁじゃないわよ。同意を求めないでオオカミ男」
「オオカミじゃない。ハイエナだ俺は」
 七人の足音は、エコーのように響く。地面も先ほどのような足場の悪いものではなく、
平らで、コンクリートのような質感だった。
「おっ!なにやら見えるぞ!あれが宝じゃないか!?」
「うぉっ。声でけぇよお前…そうか?何も見えないが…お前目良すぎじゃないか?」
 新之は、頭のバンドに手をかざす。すると、額の部分にある宝石のような石が真っ直ぐ
と光を放つ。その先には何やら木箱のような存在が見えた。アイリがキッと新之を睨む。
「あんた!何でそんなのいままで隠してたの!?」
「るせぇ。ここぞというときに使おうと思ってたんだよ」
「お宝♪お宝♪」
玲はスキップしながら先頭に立つ。そして、ナインたちもそれに追いつき、木箱の前に立
つ。ナインは屈み、よく木箱を照らす。
「ずいぶん古びているな……まさに宝箱というかんじだな」
「お宝♪お宝♪」
「まさかこんな簡単に見つかるだなんて思わなかったな」
「はっはっは!さっさと持ち帰ろうじゃないか!」
グレイヴッチとレイドの大きな声が響く。しかし、アイリや新之、セイスイやナインは何
やら腑におちない顔だった。
「あんた、どう思う?」アイリは新之の方を見ずにただ聞く。
「さぁ。しっかしこれでハッピーエンドとは…。ゲームだったらクレームものだな」
「…おい。見てみろこれ」
 ナインはセイスイ アイリ 新之の三人を呼ぶ。宝箱とは正反対のほうをむいて屈んでいる。
「なんだ。お宝落ちてたか?」セイスイは面倒そうに言う。
「違う。これだ、足跡。俺たちのものじゃない…この靴の形は」
「靴フェチかお前は」
「違う!つまり、俺たち以外に先にココに立ち入った者がいるということだ!」
「は?」
アイリは素っ頓狂な声をあげる。ならば、なぜ宝箱はしまったままなのか。
「妙だとは思ってたけどな、ここまで難なくこれたってのが。ただ落ちそうで危ないだけ
なんて、がんばりゃだれでもこれる」
セイスイはニヤリと笑いながら、楽しそうな面持ちでそういった。周りを見渡す。確かに
今、ナイン一行以外はだれもいない。
「つまりだ…俺たち以前にここに立ち入って、そして今ここにいない。あからさまな宝箱。
速すぎるエンディング…つまり」
新之がそういった時、アイリは振り返る。薄い光のなか、レイドたちが、宝箱に手をかけ
るのがみえた。その顔は宝しか見えていない。アイリの額から冷や汗が流れる。背筋を舐
められたような悪寒と寒気が走った。

「罠!!!」

31くされめし:2009/04/25(土) 19:21:27
宝箱は開けられる。すると突然周りが明るくなる。四角い空間。四隅に穴が四つ。
「こいつぁ…!!」
「なんだなんだ?何も入ってないぞ…」
レイドとグレイヴッチは宝箱から顔をあげる。それと同時に、突然突風が吹いた。
「な…なんじゃこりゃ!風!?」
「風…じゃない!これ!…『吸い寄せられてる!!』」
四隅の穴は、掃除機のようにアイリたちそれぞれ吸い寄せる。それぞれは立っているのも
やっとのようで、ただ耐えていた。
「だ…だめだ!吸い込まれる!」
「おいおい冗談じゃねぇぞ!俺は遺書かいてない!!」
セイスイはそう叫ぶと、よろめいてナインにぶつかる。そしてそのまま、ナインとセイス
イは一つの穴に吸い寄せられてしまった。
「おい!誰か吸い込まれたぞ!」
「はっはっはっは!すごい風だ!しかし俺はこんな風にも決して負けは…」
「馬鹿かお前…うぉぁ!」
次に、レイドとグレイヴッチが吸い寄せられた。先ほどとはまた別の穴である。二人はそ
れぞれ違う穴に落ちた。
「っちょ!これ…やばいよ!どうしよう!ねぇ!」
「馬鹿取り乱すな!とりあえず、死ぬことはないと思う。地図を見る限り、もっと奥があるはあずだ!」
「そんなこといっても…」
「オネエチャン…」
 アイリは、バッと足元を見る。すると、フトモモのあたりにエゴがガッチリしがみついていた。
「いやぁ!ちょ!取って取って取って!」
「馬鹿!おすんじゃな…あぁぁぁ!!」
 新之、エゴ、アイリの三人は、先ほどの面々とはまた別の穴に落ちていった。

やがて風がやむ。宝箱はゆっくりと閉まり、また空間は暗転した。

32mark@ルビーの鉱石:2009/07/31(金) 15:26:43

「だ…駄目だ!吸い込まれる!」
「オイオイ冗談じゃねぇぞ!俺は遺書書いてない!!」
そう言った拍子にセイスイがよろめき、何とか持ち応えていたナインにぶつかる。
ナインはそれでバランスを崩し、セイスイもろとも穴へ引きずられて行く。

「ク…そッ!」
やむ終えず、ナインはセイスイを勢いよく振り払う。
「オイ…!?テメェ、仲間を見殺しに…ッ!!」
落ち行く仲間の悪態に返すほどの余裕は彼になかった。
体が穴に沈む間に床の出っ張りを両手で掴み、風が止むまでしがみ付く事だけをとにかく考えていたのである。
ひときわ強い風がナインを襲う。床から手を剥がすよう働きかけ、穴のはるか下に広がる深淵に迎えようとする。
風の勢いに危うく手を離しそうになるも、それでもナインは懸命に耐えた。
「うォ”ォオォォォォ………!!」
―負けたのは風の方だった。洞窟の明かりが消えると共に、激しく暴れていた風も止み、
ナイン達一行が訪れたのと変わらぬ静寂を取り戻した。
「…………止んだ?」
何秒経とうとも、暗闇の空間はそのままだった。
が、ナインが安全を確かめ、穴からよじ登ろうとした頃、暗闇からの小さな声が彼の耳に入った。
「…………」
片方は知らぬ男の声だったが、もう片方は聞き覚えのある物だった。
どうやらこちらには気付いていないらしい。ナインは音を立てぬよう、穴から身を上げようとする。
だが、両手に踏まれるような痛みを感じたのも同時だった。
「――――――-――!!!」
暴風に耐え切った両手はその衝撃で容易く剥がれ、両手と共にナインの体は深淵に落ちた。
それを穴の上から赤い目が見下ろし、やがて去った。

--------------------------------

グレイヴッチはあおむけのまま、遥か遠くの……自然の力で生まれた天井をぼんやりと見つめていた。
顔だけを動かし、周囲の光景を見渡してみる。
ごつごつした岩壁から目を落せば、壊されたランタンの欠片が光沢を放ち、欠片から少し視線をずらすと、目立つ赤髪の男が横たわっていた。
しかし、それ以上に彼の気を引いたのは、辺りに散らばった6つのリュックと、すぐそばに倒れこんだ無数の「木の枝」だった。
「コイツは……」
ハイエナの鼻が無意識に「木の枝」の臭いを嗅ぎ取り、ぼやけていた意識が急激に冴え渡るのをグレイは感じた。
捌かれてからまだ二日と経たぬ肉の臭い。脇役に油と弾薬の違いはあれど、過去に戦場で散々吸った空気とほぼ変わらぬ物だった。
上体を起こす為に片手を地面に当てると、土ではなく布の感触が手に伝わる。
それが7つ目のリュックだと理解するかしないかの間に、傭兵は無意識に、自らの倒れていた地面を見やった。

7つ目のリュックの持ち主は、物言わず濁った瞳でハイエナを見る。
彼と目を合わせたと同時にバリーに降りかかった、酷い吐き気と後悔もまた、戦場で味わった記憶とそう違わぬ物だった。

33mark@灰の色は赤:2010/01/12(火) 17:25:38
落ち着きを取り戻したグレイがまず行った事は、自分と仲間の状態を確かめる事だった。
皮肉にも探検家たちの死体がクッションとなったためか、グレイ自身は軽い打撲程度で済んだ。
レイドの方は……頭を打ったのか気絶していた。命に別状はないようだが、眠っているのだろうか。
いい夢でも見ているかのように時々薄笑いを浮かべるのだ。
グレイはとりあえず仲間の事は後回しに、次に自分の荷物の整理、銃の点検、
探検家達のリュックからも、使えそうな物は拝借した。
彼らのランタンの中には未だ使える物も残っており、少し直せば無事に灯りを点け、辺りを照らした。
そうやって武器はないかとリュックの中を漁っていた途中、その奥で布に隠れ、輝く何かに気付いた。
「―……?」
リュックから取り出してみると、包みの柔らかい感触がレイドの手に伝わる。
包みの奥で輝く硬い物は美しいルビーの原石で、ランタンの光を反射しゆるやかに輝いていた。
恐らくこれを持ち帰る途中で魔物に襲われ全滅したのだろうか。
あるいはこれは宝の一部に過ぎず、更なる宝を求めた結果このような屍になったのか。
―一歩間違えれば、自分も彼等と同じ道を辿ったかもしれない。
かなりの大きさのルビー。だが、グレイはリュックの中にそれを戻す。
代わりに、ルビーの傍らにある巻紙を取った。

グレイの荷物整理も一通り終わり、最後に気絶したレイドを起こす事にした。
しかし、立ち上がろうと地面に手を付いたとき、
「………?」
小さな土の振動が掌に伝わる。
続けて洞窟の奥から振動に合わせ音が鳴る。
振動が増すに連れ音も勢いを増す。
グレイは〝何か〟が近づいていると察し、拳銃を構えながらレイドの傍に駆け寄る。
「起き……!」
言い掛けて目を見開く。蛇のような太い触手がレイドの体に絡まっていた。

背後で、死体がひきずられる音を聞いた。

34mark@灰の色は赤:2010/01/12(火) 17:26:43
刹那、触手に捕らわれたレイドが一気に吹き飛ぶ。
―否、引き寄せられのだ。洞窟の奥から迫る化物によって……!
「クソッ!!」
咄嗟に触手の根元めがけて弾丸を放つ。悲鳴と共に触手がちぎれ、捕まっていたレイドを吹き飛ばす。
グレイは地面に打ち付けられる相棒に構う暇もなく、触手の奥に輝く紅い目を狙い、更に弾丸を撃ち続ける。
紅い目の主はひるむこそすれど倒れる事はない。
「化物か…噂にゃ聞いてたが」
振動と足音が最大になる。
暗がりに慣れたグレイの目には、ルビーのような紅い目をぎらつかせ、触手で捕らえた死体を口に入れる怪物の姿が映った。
「オイ、コイツは一体…!」
横から気絶していたはずのレイドの声が響く。どうやら先程の衝撃で目を覚ましたらしい。
「話は後だッ、今すぐ武器を取れ!!」
その間に怪物―地中イカはグレイめがけ太い触手を投げつけて来た。
グレイは太い触手を横に飛び避け、懐の手榴弾のピンを抜くと触手を操るイカめがけ投げる。
激しい爆発はイカの巨体を大きくのけぞらせ、口から醜悪な悲鳴を聞かせた。
「体が硬ェなら―」
口の中を狙うためにグレイはもう一発手榴弾を取り出す。
しかし、それを捉えた怪物が触手をグレイの片足に巻き付け、手前へ一気に引き寄せた……!
「ぐ……おッ!」
グレイはバランスを崩し手榴弾を離してしまう。
そのまま高速で引き摺られながら、グレイは地面に転がる手榴弾を通り過ぎ、炎の剣を手に駆け寄るレイドの姿を見た。
「今助けるぞォォオォォ!!!」
レイドは炎を帯びた剣を振りかぶり、怪物めがけて勢いよく走る。
手榴弾のピンを抜かなかったことを幸いに思った。武器を取ろうとするグレイの目前には既に怪物の口が迫っている。
そのまま口に放り込まれる時間と比べ、拳銃を手に取るにはあまりにも遅すぎたのだ。
無意識か、本能か、グレイは叫ぶ。
「早く!!」
「はああぁぁぁあぁあぁぁぁ――――――ッッ!!!!」

グレイの体が地中イカの口に入ったと同時に、レイドの放つ炎の斬激は紅い瞳に一閃を入れる。
巨大な怪物は洞窟中に鮮血を撒き散らすと、切り口から火を上げたまま倒れ伏した。

35mark@灰の色は赤:2010/01/12(火) 17:29:18
「大丈夫かッ!!」
剣を鞘に収めた後、レイドは動かぬイカの口を覗き込む。
その中では、背中にドロを付け、涎に汚れてはいるが……、ハイエナの男が生きたままの姿でそこにいた。
「大丈夫なワケないだろ?散々動いたお蔭で腹も減ったぜ、へへ」
「すまない…俺が早く起きてさえいれば……」
「いいって」
レイドは口の中に片手を伸ばした。口の中を出ようとするグレイを手伝う為だ。
「ありがとよ。―そう言えば、まだお前の名前を聞いてなかったな」
グレイは口を吊り上げると、片手でレイドの物を掴む。
「〝レイド〟だ。ほら、引くぞ」
腕を引かれながら歯を越える。レイドは口から脱出できたグレイをほっとしながら見る。
「そういう君の名前は?」
「バリー・ド・グレイヴッチ。軍人だ」
怪物の触手を燃やす炎は、光を受けたルビーのように輝いていた。
「…そうか、バリーって言うのか!」


あの場所をなんとか抜けた二人は、ランタンを照らしながら小道を歩いていた。
しばらくは地中イカのような怪物に会う事もなく、更に食糧として食べてみたイカが以外に美味だった事と、
もう一つ―リュックの中にルビーと共にあった地図をとコンパス。
それをグレイが手に入れたおかげで、ここまでの道のりは順調だった。
「本当、地図なんてよく見つけたな。普通だったらルビーに目が行っちまうよ」
「こんな状況じゃルビーより地図の方が貴重だぜ。多分アイツらの仲間が書いたンだろうな」
荒削りながらよく書き込まれた地図だった。恐らく自分達の足で確かめながら書いて行ったのだろう。
そんな調子で立ち話しながら進んで行くと、2つに枝分かれした道に差し掛かる。
先の道はやはり闇に包まれ見えない。
「…バリー、その地図だとどうなんだ?」
そう聞かれ、グレイは地図を流し見片方の道を指差す。
「そうだな。地図だとこっちの方に出口への、」

唐突に巨大な鳴き声がグレイの声を遮る。
音の方向は彼が指した方とは反対の道だった。
「……!」
鳴き声のエコーがいつまでも洞窟に響く。
二人は互いに顔を見合わせ、
「……どうする」

36mark@火花、閃光、困惑:2010/01/12(火) 17:39:56
かわいい顔のおねえちゃん。
右腕なんか出して、どうしたの?

落ち行くアイリと剣。重力に任せ落ちる先には無限の闇が待ち受けている。
「くそッ……!」
アイリは思わず唇を噛み締め、素早く腕輪の付いた片手を上げる。
その勢いで腕輪に付いたヒモを引っ張ると、何本ものワイヤーが放たれ、遠ざかる天井の穴へ直線に駆けた。
「行けッ!!」
重力が天井から遠ざける中、ワイヤーは重力に逆らい天井の穴に迫ってゆく。
その最中、アイリにしがみついた人形もまた腕を上げ、ワイヤー先のフックが穴にかかる直前に
「させない」

きれいな手。ブーツの中の足もきれいなんだろうな。
そんな足で私を蹴ったのね。ああにくたらしい。

人形の上げた手が突如変形し、黒光りするマシンガンとなる。
子供の体に似合わぬそれは火を噴き、骨を粉砕するには十分すぎる程の弾丸の雨をアイリの腕輪めがけて放った。
「ひゃっ……!」
いち早く気付いたアイリは反射的に腕を戻す。狙いの外れた弾丸は洞窟の一部に穴を空けただけだが、
大きく軌道がぶれ、狙いを外したワイヤーは天井に届く事無く落ちてしまった。
しかし、もはや米粒ほどに縮小した穴を見上げる余裕などアイリにはなかった。
笑みを浮かべた人形が、マシンガンの銃口をアイリの目前に向けたのである。

かわいいおねえちゃん。エゴをけったんだから仕返ししなきゃ。
ナイフなんて出しちゃって。でもマシンガンにかてるかな?

ふるえる手でアイリがナイフを突き出す直前、エゴはマシンガンに発射の信号を送る。
おびえた顔。その顔がいちばんかわいいよ。

「目ぇェ、」

37mark@火花、閃光、困惑:2010/01/12(火) 17:41:38
「  閉  じ ろ ぉ お お おぉおぉぉおおぉおオォォオォォォォォォオッッい!!!」

信号はその叫びで遮られた。
「!!!!」
その姿を見たアイリは、言われるまま咄嗟に目を閉じる。
〝もう一人いる〟と悟ったエゴは邪魔された事で不機嫌そうに振り向く。
刹那、洞窟の底を照らすほどの閃光が目に飛び込んだ。
「アッ………!!!」
剣のヘアバンドから放たれた光が、底に広がる泉に反射する。
2方向からの光にエゴの視神経は耐え切れず、思わずマシンガンで目を覆ってしまう。
そのせいで、エゴは光の奥から迫る剣の拳を避ける事ができなかった。



3人分の水しぶきの音が、無音の洞窟にどこまでも響いた。



どれ位経ったか。
アイリは荒い息を繰り返しながら泉から上がった。
「剣、は……?」
返事がない。どうしようもない不安に駆られ、アイリは無意識に泉の奥を見た。
しばらくの間、聞こえるのは鍾乳洞からの雫の音と、彼女の高ぶった心音のみ。
―そして、水面から顔を出したのは
「剣……!!」
アイリは剣の元に向かおうとしたが、彼の持つ物を見て足を止めた。
彼の手には恐ろしい形相をした人形が握られていたのだ。
「よう。…拾ってきた」

38mark@火花、閃光、困惑:2010/01/12(火) 17:43:01
「オネエチャン……ヒドイ……」
澄んだ瞳は閉じていたが、それでも痛いほどの憎悪がアイリに向けられる。
「…って何でその子と一緒なのよ!怖いって!!」
「まあ、ちょっと聞きたくてな。とりあえず質問n」
「エゴヲケッタノニ、ヤットミツケタノニ……」
「お前は人の話を聞けぇぇぇぇぇ!!」
「ビクッ」
一旦黙るエゴ。剣は話を再開させた。
「そりゃ小さい内は何やっても済むけどな?ストーカーとかマシンガンとかやり出したらもう手遅れなんだよ!」
「ちょっとマシンガンはやる物じゃn」
「微妙なお年頃でそれがカッコイイと思ってるなら止めないよ?
 でもそんな奴は大抵デッカくなってから古傷に苦しむ!悶える!
 お前は30になっても生首ぶら下げた奴になりたいか?違うだろぉぉぉぉぉ!!!」
「ア、」
ワケの分からないまま怒られている。そう認識したのかエゴの口から嗚咽が漏れ出す。
「……ナンデオコルノ!カッコヨクナンテオモッテナイモン、シカエシシタイダケダモン!!
 ソンナエゴノキモシラナイデ!ニゲマワルオネエチャンガワルイノヨウ!!!」
「仕返しか…そうか」
剣はアイリを指差しながら、ぐいとエゴに顔を近づけ、
「だったらアイツはここにいる。ブン殴れ、それで十分だ」
「ちょっ、アンタこそ人の話……!」
「ただし殴るのは!コイツの!アイリの話をよーく聞いてからだ!!」
「ハナシ……」
エゴはようやく視力の戻った目を上下させた後、アイリと目を合わせた。
アイリの目には未だとまどいが見える。それでも、以前ほどの怯えは感じられなかった。
「……」
視線を一斉に受けたアイリは、一瞬バツが悪そうに目を反らすが、すぐに戻し、口を開いた。
「そりぁ怖いわ……よく分からないまま追いかけられたら。
 分かるはずもない。―だってあなたを蹴ったりなんて、してないから」
「…………エ、」
エゴの表情が固まる。
「……ホントウ?ケッテナイノ?」
「そう、蹴ってない。
 確かに同じ宿にいたけど、その時は料理してて……ドアを通ったらあなたが倒れてたの」
言い終えると、アイリはエゴの反応を待つ。
エゴはしばらく呆気に取られた表情をしていたが、ふいに我に帰ったと思えば目を潤ませ、


 じ    わ ぁ


泉中に少女の泣き声が響き渡った。

39mark@火花、閃光、困惑:2010/01/12(火) 17:45:08
「―でさぁ。どうするんだ?コイツ」
謝りながら泣き喚くエゴをあやすのもあれはあれで激しい戦いだったと思う。
エゴは泣き付かれて眠ってくれたが、お陰で剣とアイリは大きな疲れと眠気に見舞われた。
二人は泉の傍で、半ば疲労状態になりつつ今後の事を話していた。
「置いて行くワケにはいかないでしょう……誤解も解けたし(まだ怖いけど)、
 上手く使えばこの洞窟を抜けられると思う」
「そーだなー……俺たち仲間とはぐれたんだった……」
上手く仲間と合流できたとしても、ここは洞窟の地下深く。
宝は見つかるのか。それ以前に出口を見つける事ができるかどうか、望みは薄かった。
…それに、あの時の宝箱のようにまた罠が張ってあるかもしれない。
そして今二人に襲い来る脅威は死線をくぐり、安心感から湧き上がる眠気だった。
眠気が判断力を奪う。
「ちょッ……あんた目がトロンってなってる」
「お前こそめっちゃ変な顔してるぞ。俺?なぁに眠い時だったら授業中のごとく素早く寝る。今は眠くない」
「目ぇすっごい細いわよ」
恐怖の連続で青ざめていたアイリの顔には、いつに間にか年相応の笑みが浮かんでいた。
「剣……――さっきは、その…ありがとう」
「いいってモンよ。俺のしたいことをしただけだ」

洞窟に再び静寂が戻る。
眠る間際、アイリはエゴを蹴った犯人をぼんやりと考え
剣はナインと組んだ時の事を思い返していた。

40kino:2010/01/14(木) 20:43:56
「・・・12時だ。」
「・・・・・えっと、これで20日目の「×」だっけ?」
ぼろぼろとなった地図に新之が「×」を書き入れる。それに対して長針が壊れた時計を日光に当てて
確認していたアイリはうなずきで答えた。

―――もう20日が経過した。
短針が壊れた時計で日数を記すのは
「12:00 8/31」に駅に最後の列車がやってくるからなのだが・・・
そもそも本当にこの廃坑から出られるのだろうか?
 時折はるか高くから光が差し込む箇所があれども、地盤がだいぶ荒削りされたのか
登ることもできず、ずっとさまよい歩いてきた。
「オネーチャン。ツケオワッタヨ!」
エゴ。そう自ら名乗った彼女は地面につけた大きな「×」印を自慢げにアイリに見せる。
この「×」印は新之が同じ場所に来た時に気付くため、そして他のばらばらになった仲間と合流するために。
といっていたが仲間が気付くどころか自分たちですら2度目の「×」にたどり着いていない。
・・・そうこの廃坑はとても広く。そして暗い。
唯一救いなのは様々な雑草や小動物が自生し、湧水も見つかったので飢えて死ぬことはないことぐらいか。
「・・・あいつらも無事かな・・・」
----------------------------------------------------
「なぁーなぁーその砂糖くれよー。あの踊子の持ってきたやつほとんど香辛料であきたよー」
「だめだ。お前にやる糖分なんて一粒も無い!そこらの雑草でも喰っていろ。」
ナインに甘味をねだるセイスイ。その一方でのんきに謎の生物にタバスコをかけている玲。
こちらは玲の持ってきた食料でだいぶ安定はしていたがこの廃坑から出られないのは
同じらしい。
「あーもーあったまきた!おいっ!砂糖くれないといたずらするぞ〜!」
「! 何をするバカ貴様!」
ナインに向かって水筒に組んだ水のふたをとり、振りかけようとするセイスイ。
「砂糖水もおいしそうですねー」
玲はそれを見て笑っている。賑やかな一行であった・・
----------------------------------------------------
「どうだ!?こっちの方が大きいぞ!」
「まだまだだなぁ・・・俺のとってきた方がうまそうだ!」
巨大な毛の生えた物体を自慢げにかかげるレイドに
ぬるぬるとした塊をフォークに突き刺すグレイ。
すっかりサバイバル生活に適応している二人は
廃坑の生物に対してグルメになってきたようだっだ・・・

41mark@食前:2010/01/22(金) 17:31:40

■PM:6:30

巨大なヘビの死体にもたれながら、倒した獲物の肉を裂いた。
パキッと小気味よい音と共に肉汁がはじける。
剣とエゴはそれをほおばりながら、苦虫を噛んだような表情のアイリを見た。
「食わないのか?」
「……ごめん、生理的に無理」

42mark@食中:2010/01/22(金) 17:32:10
■PM:7:00

削られた岩盤の上から光が覗く。暗闇に浮く月と星の光だ。
月光はその下に散らばる巨大なモグラを照らす。
その中心ではグレイとレイドが、モグラから頂いた肉をむさぼっていた。

「それで……平和な所さ。緑も綺麗だし、仲間もいる」
レイドの故郷についての話はグレイヴッチを何度も驚かせた。
自分の国にも魔法はある。しかしレイドの故郷のように神話のバーゲンセールでもない。
「そうかい。オレも…オマエの所程じゃあないが、ファンタジーな話があってな……」
すかさずレイドは反応する。
「どんな?」
「なに、こう言う洞窟のどこかに特別なネズミがいてな。月の光を浴びると金色に輝くんだ」
グレイヴッチは続ける。
「そしてそいつを死人に食わせると生き返る。時が戻ったみたいにな。
 そうしてゾンビに食わせると、ソイツは死ぬ前の姿に戻っちまうんだと」
「凄いネズミだな!本当にこの洞窟に?」
「あるワケないだろ。軍人どもの作り話さ」
「……そうか」
レイドは残念そうに月を見上げる。
きらめく月は美しく輝いていた。後一週間経てば満月だろう。

43mark@食後:2010/01/22(金) 17:32:45
■PM:7:30

「ぐはっ!!」
セイスイは地面のくぼみに足を引っ掛け転ぶ。
痛みを抑えて足元を見ると、巨大な×印が刻んであり、その向こうからナインと玲が歩いてきた。
「オマエは何でも先走りすぎだ……」
セイスイは立ち上がって悪態を付く。
「知るか。風の子と呼べ」
「あら?この〝×〟は一体……」
地面を大きくえぐるように刻まれた〝×〟。 回りを見れば、いつのまにか雑草があちこちに生えていた。
「恐らく、仲間の誰かが書いた物だろう」
「だったらこの×に向かって進めば……」
「―いつか仲間に会える。保証はないがな」
巨大な×印を見下ろしながらナインは呟く。その端で、復活したセイスイは再び歩き出し、
「だったら急ごうぜ?先に会ったが勝ちだしなッ!」
「だから先走るな……!!」
唯一の手がかりを見つけ走り出す二人。ふいに、その先の道に小石が落ちる。
玲は小石を見届けると、二人を追った。

44KINO:2010/01/26(火) 19:26:11
■8/21 ??:00

「・・・だいぶやつれてるみたいだけど大丈夫か?」
剣はうなだれるアイリを見て言う。
「・・・・大丈夫・・とはいいがたいわね。」
無理もない。ここずっとほそぼそと携帯食料で過ごしてきたからだ。
だが、いぜんとして野生の生物の肉を口にすることを拒むのだった。
「・・・ダイジョーブ?タベナイノ?」
「・・ええ、それよりもはやく先にすすみましょう。」
エゴの口周りにこびりついた血の跡を拭き、アイリは立ち上がった。

------------------------------------------------------------------------------
「まだおいつけそうにないな・・・仕方ないか。」
ナインはやっとみつけた「×」のしるしを「〇」で囲み、
そして地図にも同じようにしるしをつける。
「その地図役に立つのか?上へいったり下へいったりで頭こんがらがってきたぞ?」
セイスイがめんどくさそうに岩の上で足をブラブラとさせている。
「入り組んではいるが、確かにこの地図の通りの道筋どおりだからな。
・・ただ、相当広く、深いみたいだがな・・・。
なんとかしてほかのやつらと合流しなければな・・」
印を探し始めてからだいぶ進行が遅れてしまっている。
何よりも今の時間が分からないことが二人を不安にさせる。

「だいぶすずしくなってきましたね〜」
ふと、玲が廃坑の天井の穴を見上げてつぶやいたのだった。
------------------------------------------------------------------
「・・なぁ、いいことおもいついたんだが。」
「なんだ?」
「まっすぐに新しい穴を掘っていけば外に出れるんじゃね?」
「おお!それはいいな!」

廃坑の珍獣食べ歩きも飽きてきた二人はそこらでみつけた古びたつるはしで
壁を掘りだしたのだった・・・
-------------------------------------------------------------

45mark@蛇:2010/01/29(金) 13:45:33




かつての探検家達と思われる屍を通り過ぎてからと言うもの、怪物を見る回数が増えた気がする。
どうやら怪物の巣が点在する場所に入ったらしい。―厄介な事だ。
「―ほら!また来たぞ……!」
そうアイリが考える間にも仲間の剣が指を指した。その先―遠くから地面を引き摺るような音が近づいてくる。
「カーイブツッカイブツ!」
無邪気にはしゃぐエゴ。しかし怪物相手にこれ以上体力を使うのはまずい。
更に奇妙な足音だけでも相当巨大な〝何か〟である事は伺える。
ひとまずアイリ、剣はエゴを落ち着かせ、手ごろな岩陰に隠れた。


シ  ュ ウ ゥ ゥ オ オ ォ オ ォ  ォ  ォ  ォ  ォ  


地を這う音が次第に増し、最大になった所で剣が見たのは巨大な―洞窟の天井に届くほどの蛇の〝頭〟だった。
頭と同じ幅の胴が後に続き、しばらく剣の視界は一面に敷かれた鱗の列だけになる。
「――すげぇ」
洞窟で会った怪物の中では間違いなく最大。
しかしこの怪物たちを見ている内、本当に金脈があるのか疑わしくなってきた。
そう剣が思いを巡らせる間アイリはと言うと、エゴを抱きながら蛇が過ぎるのを待っていた。
「静かに…、………っ!?」
浮いていたエゴのクロスがアイリの額に当る。
その拍子で緊張が弾け、額を押さえながらクロスを見るアイリだが、
「……?」
札。古びた木製のクロスに目立たず巻きついたそれは、土で汚れてはいる物の妙に新しい。
書かれた文字は呪文だろうが、今は暗がりでよく読み取れなかった。
アイリの頭に疑問が生まれる間にも、蛇の胴は終わりがないかのように続く。

46mark@蛇:2010/01/29(金) 13:46:09

グレイとレイド。穴を掘り進めていた二人だが、途中硬い岩に突き当たり作業を中断する。
しかし岩盤のスキマからは風が吹き、
「別の道に――繋がっているッ!!」
レイドは嬉しさのあまりスキマに顔を入れ、向こう側の様子を確かめて見る。
思いの外厚い岩。それでも、穴の向こうには確かに雑草の生えた道があった。
「やったぞグレイ!」
「おいおい。出口まではまだ遠いぞ?」
呼び出されたグレイは手に入れた地図を片手に笑う。
―その時、

シ  ュ ウ ゥ ゥ オ オ ォ オ ォ  ォ  ォ  ォ  ォ  

向こうから地を這う音が小さく聞こえる。
「……ヘビ?」
「そうみたいだな」
音から察するに距離は遠い。しかし、相当な大型と言う事は読み取れた。
やがて、ヘビの足音が消えてからしばらく経った後、また遠くから足音が2つ聞こえてきた。
「グレイ!近づいてくるぞ!!」
「仲間かも知れねェな……でもよォ」
「どうした?」

「……お前、そろそろ顔抜いたらどうだ?」
「抜けないんだ!」

47mark@蛇:2010/01/29(金) 13:46:42


剣、アイリ、エゴの三人はなんとか蛇をやり過ごし、引き続き洞窟の道を進んでいた。
「はぁ……いい加減「×」にも着く頃かしら……」
地面の雑草を踏みながらアイリがため息を付いた頃、ふいに聞き覚えのある声が横から聞こえた。
「まさか―!?」
洞窟の壁を見る。――と、剣が岩のスキマに顔を入れていた。

「なぁ、仲間……見つけたンだけど、さ……抜けない。なんとかしてくれ」
「……アンタ何考えてんのォォ!!」

48mark@善人の証明:2010/02/01(月) 17:53:59
■■■8/21

ふいに、遠くから地を這うような音が聞こえた。

シ  ュ ウ ゥ ゥ オ オ ォ オ ォ  ォ  ォ  ォ  ォ  

「……お?」
切れ間なく響く音が時折鉱山の道を曲がり、少しずつ近づいてくる。
やがて、曲がり角のない通路の向こう側からその〝正体〟が現れる。
巨大な蛇の頭。セイスイ、ナインの顔に焦りが浮かんだ。
「バカな……ありえない」
「何だお前、今になってビビったのかよ」
「宿主の話だとこの鉱山のモンスターは一体だけのはずだ……何故こんな、」
こんな巨大な蛇がいる。
ナインが言い終える間も待たず、音の正体である蛇がこちらに向かって来る。

49KINO:2010/02/06(土) 01:31:00
・・・なんということだ。
我が冬眠を寝過したばかりに住処は穴だらけとなり、
互いに弱肉強食でありながらもともに共存してきた仲間は乱獲され・・
この『侵入者』は一刻も早く除外せねばならない・・・
だが、慎重にいかねばならない。
この身を震わせ侵入者を大地に埋めるはたやすいが
それは同時にここの住人をも死に追いやる・・・
一匹ずつ確実に・・・だ。
----------------------------------------------------------------------
「何日かぶりの再会だと思えば・・
・・・おい・・そこの尻だけの馬鹿は誰だ?」
ナインが銃を構えたまま震えるアイリに尋ねる
「・・・・こんなバカなやつ・・・一人しかいないじゃない!!」
「・・ところが目の前にもう一人いるわけだ。」

-----------------------------------------------------------------

「・・どうやらこいつのつまらねぇ顔の向こうにお仲間さんは
集まってるみたいだな・・・」
「そいつは早くこっちに助けに来てほしいもんだ・・・」
レイドは睨まれた蛙のように動けない。
そう、目の前にはまさに巨大な蛇が大きい口からチロチロと舌を
鳴らしてこちらをにらんでいるのだった・・・

50腐れ飯:2010/03/21(日) 18:14:04


異様に蒸し暑い

「てめぇなんとかしろよ。ハイエナだろ」
「どういう理由だ。とっくにできたらやっているさ、というか息臭いぞおまえ
なに食ってたんだ」
「ちげぇよ俺が臭いんじゃねぇよおめぇがくせぇんだろ」
「何だと!いい度胸だ、俺を怒らせたのだから覚悟はできてるんだろうな」
「何の覚悟だよ、このまま一緒に二酸化炭素を交換しながら死ぬ覚悟か?」
「…………」
===================
目の前のヘビはピクリとも動かないが、その眼孔は大きくなったり小さくなったり
と不気味に動いていた。洞窟の涼しさが一気に無くなったように感じた。今まさに
自分に迫っている恐怖感は、寒気とは逆に熱を起こしているのだろうかと、レイド
はその目から目線を外さないまま思っていた。
舌がチロチロと動く。その音が洞窟ぜんたいに響く。自分の鼓動が聞こえないので、
すでに死んでいるのではないかという錯覚に陥りながらも、なんとか立っていた。
今自分が、剣を抜いてこいつを切れば助かるかもしれない、しかしその実、そんな
ことが出来る気がしないのだ。この蛇はそこらの蛇とは大きく違う。あっちは
こちらが攻撃してくるのを待っているのだ。
 洞窟の天井から、水滴がポタリポタリと落ちる。その一つ一つがタイムリミット
のようにレイドを焦らせた。どうする?どうしようか。助けをまつのか、戦うのか。
答えは簡単だった。
「逃げる!!」
そのままレイドはうわっはっはっはと笑いながら、剣を振りかざし小さな炎を発生させる。
蛇は反応したが、そのまま動くことが出来なかった。その小さな炎は、燻り、そのまま
大きな煙となった。
「こっちだ巨大ヘビ!」
レイドはヘビの横をすりぬけ洞窟の闇へと逃げていき、その木霊をその場に残したまま消えていった。
しかし、同時に蛇も剣呑な唸りを上げると、そのままレイドを、その図体からは想像も出来ないような速度で追いかけていくのであった。

=======================

「おぉぁ!?な!逃げるだと!おいレイド!!レイドォォォ!」
「どうやら巨大なヘビさんがそちらにいたみたいだな」
グレイはその狭い空間に目一杯の声を響かせる。
「な!やばいぞ!このままでは俺の半身がもってかれる!ごっそり!ごっそりとぉ!」
「落ち着けよ!どうやらヘビはあのレイドってやつを追っかけたみたいだ。どうやら
お前を助けるつもりで逃げたんだろ」
「…な…それは…く!このままではあいつが危ない。はやくなんとかしなければ」
「同意だ。こっちも、レディーを待たせちゃってるもんでね」


=====================
「な!なんだこれは!」
セイスイが素っ頓狂な声をあげる。ナインとアイリはその指差す方向を見る。
巨大なヘビの胴体がバシンバシンと跳ねている。その振動は洞窟ぜんたいを揺らし、
いまにもあの鋭い岩が張り巡らされた天井が落ちてくるのではないかと思うほどミシミシ
と音を鳴らしていた。
「っく!どうした?なにか悪いものでもたべたのか!?」
「こ…こわいよぉぉ!これ、どうするのぉ?」
「そんなの私に言われたって困るわよ!ちょっと早く出てきなさいよあんた!」
アイリは新之の尻をビンタならまだしもグーで殴りつけ続ける。新之はその度に
なにか怒号を放っていたが、今はそれよりも崩れそうなこの洞窟のほうが気に掛かる。
「っく!こうなったら胴体だけのうちに殺してしまうか!」
「おい!いいのかよ!なんか仲間とかよばねぇだろうな!」
「その時はそのときだ!…っん?」
−−−−っはっは
 トリガーを引こうとおもったその瞬間。なにやら声が聞こえた。耳が壊れるような
騒音の中、なにやら、聞き覚えのある声。
「おい、なんか、やばくねぇか?異様に跳ねてるぞ、魚かこいつ!」
「こわいよぉぉぉぉ!」
 怒りや焦り、焦燥や苛立ち…どう表現すればいいのかナインにはわからなかった。
叫ぶべきなのだが、その言葉が見当たらない。しかも振動に足をやられ動けない。…このままでは…!!

「うわっはっはっはっはっは!お!仲間だ仲間だ!グレイ!仲間がいたぞぉぉお!!」

レイドが手を振りながら、こちらに走ってくる。
大口を開き、今にも食い殺さんとする巨大なヘビの頭を引き連れながら。

「いぃぃぃやあああぁっぁぁあああああ!!」
アイリの声が振動音に負けじと響いた。


=====================
「おい」
「なんだ」
グレイが苛立ちをこめて新之に返事をする。新之は下手糞に笑いながら。

「俺、半身もってかれるかも」

51ヨモギ茶:2010/07/21(水) 20:59:31
「いぃぃぃやあああぁっぁぁあああああ!!」

物凄い振動音と悲鳴が響く。
レイドを加えて必死で走る一行の後ろすぐ近くを、
物凄い勢いで蛇が追う。

「わっはっはっはっはっはっは!これはまずいぞ!どうしようっ!」
「しるかぁ!というか笑っている場合じゃないだろうあんたー!」

最後尾でダッシュしつつ。相変わらず大声で笑っているレイドにセイスイがツッコム
どうしようと聞かれても。今はとにかく走るしかないのが全員の答えだ。
すぐ後ろには巨大蛇の大口。少しでもスピードを緩めたりしたら食われてしまう
それに、この間々走り続けるにしても、何時か疲れてしまうかもしれない

「ほ・・ほんとうに、一体どうしたら・・!  ―――――!!?」

エゴを抱きかかえ。戦闘を走っていたアイリは前方にあるものに気づいた。
壁だ――――――――――!!!

「みんな―――――横よーーーーっ!!!!」

前方に、わき道がある事に気づき、そちらへとんだアイリを先頭にして
メンバーは一揆にそこへ飛び込む。

すぐ後で猛進していた蛇は壁へとツッコミ――――――

酷い音と共に壁が壊れ。その先には穴があった。
蛇は壁を突き抜けて真っ黒な竪穴へと落下していった。

「たっ・・・助かったぁ」

蛇が落ちていくのをみおくり。玲がほっと胸をなでおろす。
ナインはアイリに抱かれているエゴに見覚えを感じるも。
それよりもと考えを変えてアイリ達をみた。

「さて・・・。とっとと、あのバカどもを掘り出しにいくか。」

52Mark@未来より今、他人より自分:2010/09/12(日) 21:07:42
■■■8/2

周囲の景色が急速に上がってゆく。
それすら確認できぬ闇の中、ナインは自身が落ちている事をようやく認識した。
先程まで持っていたランタンがない。穴のヘリに捕まっていた時落としたらしい。
下を見ても炎の光はなく、ただ深い闇が延々と続く。
「………」
両手は激痛で銃すら持てない。
策がないと悟ったナインは目を閉じ、眠った。




■■■8/21

眠りかけていた目を開く。
視界に飛び込むのは鉱山の通路。そこに立ち、一点を見つめるセイスイの姿。
セイスイの視線の先を見る。岩の隙間に入り込んだ剣の下半身と、彼を抜こうと力むアイリ、エゴの姿が目に入った。

ナイン・シュガーは考える。
蛇を避け、この場に戻ってから10分近く経つ。
あれから隙間に埋まった仲間―剣とグレイヴッチを穴から出そうとしたが、一向に抜ける様子がなかった。
仲間総出で引っ張っても抜けず、向こうが「痛い」とわめく始末。
「…………」
このまま置いてゆこうか。アイリ達が力む中、そんな思いが頭をよぎる。
早く目的地へ着きたかった。二十日間も迷い続けた事もあるが、彼には他の理由もあった。


「ちょッ待いだだだだだだ!!引っ張るなこのォ!!」
「自業自得なんだから・・・ッしょうが…ないでしょッ!ああッキツッ…い!」
「おい…ちょッ変な声出……あだだだだァ!!」
アイリはと言うとエゴと一緒に剣の両足を勢いよく引っ張っていた。
穴の反対側で埋まっているグレイはレイドと玲が担当している。。
だが、向こう側から聞こえる会話から察するに、グレイの方もまだ抜けていないようだ。
救出に加わらない仲間に少しずつ苛立ちを募らせるアイリだったが、
「おい」
ふと、その仲間の一人であるセイスイがアイリに声を掛ける。
「ちょっと貸せ」

53mark@未来より今、他人より自分:2010/09/12(日) 21:08:37
■■■8/2

鉱山の底。
乾いた土が広がる中、一部分だけ濡れた箇所があり、その中心に黒スーツの人間があおむけに倒れていた。
セイスイは荒い息を繰り返しながら、傍らに落ちたランタンの残骸を見る。 彼女……いや、彼は生きていた。
落ちる最中、水を下に噴射し続け、落ちる際の衝撃を和らげたのだ。
お陰でこうして生き延びた――それはいいが、噴射の際に体内の水を少々使いすぎた。
腰にぶら下げた水筒の水も、飲み過ぎたせいかもはや残り少ない。
「――ッちぇ」
いっそ落ちて死んだ方がよかった。
そんな考えがセイスイの頭をよぎるも、刹那、何処からか聞こえた水音によりそれも掻き消えた。
「水!?」
セイスイは飛び起き、音の発生源を必死に目で追う。
暗闇の中、唯一灯りを放つのは頼りないランタンの残り火のみ。
そうしている間に二回目の雫の音が響く。
「水だ……!」
その音で探していた物が近くにある事を悟ったセイスイは、地面に手を付きゆっくり立ち上がる。
改めて周囲を見渡す。 消えかけた火に照らされた空間は広く、切り立った岩壁の天井は暗闇に包まれ見えない。
3回目の音。セイスイがそちらに目を戻そうとした時、天を隠す暗闇の奥から、小さな何かが少しずつ迫るのに気付いた。
目を凝らしてそれを見ると、その正体は見覚えのある者だった。
「――!!」
赤毛のガンマン。 自分を見殺しにした男だ。
落ち行くナインの体を舌打ちしながらセイスイは見上げる。このまま放っておけば命はないだろう。
―しかし、今のセイスイに襲うのは激しい疲労と喉の渇き。
ナインを助けるために能力を使っても、落ち行く彼を救える保証はない。
「―たくッ」
面倒臭い。ナインに対しての感情だが、同時に自分にも向いていた。
セイスイは水筒の蓋を開けると、少ない中身を一気に飲み干す。
そうして、巨大な水球を練るとナインの落ちる地点めがけ放つ。

飛沫の音と共にナインが水球の中へ落ちる。
途端に速度が緩み、底に着く直前に止まり―しばらく経ち、水球の中心に体を浮かせる。
ナインの無事を確認し、ひとまず安堵するセイスイだったが、それと同時に喉の渇きが復活し、視界が揺らいだ。
「……やば、水使いすぎt」
セイスイが倒れると同時に、ナインを閉じ込めていた水球が壊れた。

54mark@未来より今、他人より自分:2010/09/12(日) 21:09:07
■■■8/21
セイスイはアイリ、エゴに代わって剣の足を掴む。
「ようやくやる気になったの?言っておくけど多分抜けな……」
「簡単だよ。ほら、よく言うだろあれって、あれ」
「何て?」
アイリと会話を交わしながら、セイスイはそのまま剣を掴む足に力を込める。
そしてそのまま後ろ―ではなく、勢いよく前へ押した。
「……え?」
呆然とするアイリだったが剣も同じだった。いくら引いても動かずにいた剣の体が前に少しずつ進んでゆくのだ。
「え……ちょッ」
抵抗する剣だったが、
「あ、押せる押せる」
それも構わず、インストールした新しいソフトを試すようなノリで少しずつ前に押してゆくセイスイ。
「……ちょっと待ってよ、押しちゃあ意味ないでしょ押しちゃあ。
 それにこのまま行ったら……」
「何だって?」
振り向いたセイスイは晴れやかな笑み。その表情にアイリはこれ以上言葉が出ない。
だが一番きついのは剣である。
セイスイが笑みを浮かべる間にも剣は少しずつ前進し、グレイヴッチの顔に近づいてゆくのだった。
「ちょッ……嫌だ、これ以上行ったら」
嫌なのはグレイも同じだ。
「おい……ちょっと止めようか、これは距離的に、ちょっと、」
セイスイは押すのをやめない。
二人が懇願する間にも減ってゆく距離。
10cmまでに近づく唇。
「ちょ……冗談だろ冗談だろ俺には未来があるッいくら何でもこんな毛深い奴と――」
5cm。
「嫌だ嫌だ凄く嫌だこんな事コルガルドでもなかっtうわやめろそんな馬鹿な」
2cm。もう止まらない

「NOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!」  
断末魔に近い叫びが響いた。

55mark@未来より今、他人より自分:2010/09/12(日) 21:11:54
■■■8/2

目覚めたナインが最初に見たものは、水浸しになった洞窟と、近くで倒れている仲間だった。
彼に駆け寄り、状態を見ていた最中だった。ナインの耳に雫の音が聞こえる。
繰り返し聞こえるその音で泉が近いと知ったナインは、セイスイを背負いそちらに向かった。





■■■8/21


眠りかけていた目を開く。
視界に飛び込むのは鉱山の通路。そこに立ち、一点を見つめるアイリとエゴの姿。
二人の視線の先を見る。岩の隙間に入り込み、足先から膝まで埋まった剣の姿と、
彼の足を掴み、一息つくセイスイの姿だった。

全員無言。ナインの視界に入った仲間達の姿は、まるで時が止まったかのようだった。
この緊張が永遠に続くと思われたが、ふいに反対側から荒い吐息が聞こえ、少し遅れ、同じ場所から歓声が響いた。
「……抜けた!凄いぞ……抜けた!!」
「やったぁ♪やりましたね、グレイさん!」
しばらく凍り付いていたアイリがその声で動き出し、向こう側で喜ぶ仲間に問いかける。
「……ぬ、抜けたって?本当?」
「ああ抜けた……何が起こったのか分からなかった、頭がおかしくなりそうだった……
 催眠術や超スピードじゃ断じてねぇ、もっと恐ろしい物の片鱗を味わ」
「グレイさんは喋れる状態じゃないですね」
とりあえず反対側にいる玲から何が起こったか説明してもらった。
セイスイが剣を押してる間、グレイが叫びと共に物凄い勢いで穴の隙間から顔を〝抜いた〟らしい。
結局は気の持ちようか……。アイリはため息を吐くと、
「分かったわ。……じゃあ、そっちから剣を抜いてくれる?」

56mark@未来より今、他人より自分:2010/09/12(日) 21:17:04
正気に戻ったグレイも加わり、剣の救出活動は続く。
剣の体は少しずつ抜けてきているようだ。
その様子を見るナインの傍に、先程一騒動を起こしたセイスイがやって来た。
「これも俺の活躍のお陰だな」
セイスイは隣の岩盤に寄りかかりながら満足げに呟いた。
それから返事を待つようにこちらを見たので、ナインはそれに応えた。
「たまたまああなっただけだろう?失敗したらどうする気だった」
「いいだろ?成功したんだし」
悪びれずそう答えるセイスイの姿に、ナインは呆れ気味に言った。
「お前って奴は……この二十日間もそうだったが、もう少し先の事を考えろ。
 その場のノリで動く事は命取りになる。一歩間違えたらとうに死んでいるぞ」
「何、心配?お前もいい所あるじゃん」
「違う、忠告だ」
ナインはこの相手が気に食わなかった。
まずその探検向きでない服装。読めない行動、突飛な考え。
そして彼に対し冷静でいられぬ自分に。
「……ったく」
糖分が欲しいと心底思う。やる事をさっさと済ませ、この相手から逃げ出したい。
そんなナインの思いも露知らず、セイスイは喋る。
「ま…お前の言う事はちゃんと聞いておいてやるよ。実際にやるかどうかは知らねーけど。多分やらない」
「どんな教育を受けてきたんだ?」
「教育?他人にどう言われるかより自分がどう捉えるかだろ。
 他人より身内。身内より自分。そうだろう?」
「……勝手にしろ」


ナインはセイスイを無視し、アイリ達が集まっていた岩の隙間に目をやる。
先程のような歓声が聞こえた。恐らくあの男が抜けたのだろう。

57腐れ飯:2010/09/22(水) 23:43:16

「あーひどいめにあったなぁ。…いって、股間がめっちゃいたい。
やばいなこれ血でてるかも、ちょっとみてくんない?」
「ふざけんなバカ!!」
アイリはスパァンと新之の頭を引っ叩く。
「いってぇ!…悪かったって、助かった」
「これでカリは返したからね」
「また俺に作らせんなよな」
「あんたにいわれたかない!」
「わぁったわぁった…あー…」
明後日の方向をしばらく見つめていたが、そのまま視線を下ろす。すると知ら
ない間にメンバーが増えていたことに新之は気付く。
「…なんだなんだ、こんなにメンツが増えて」
「まだ反対側にいるがな。お前があの無様な姿から生還するのを待ってたんだよ」
「なんだとてめぇ」
ナインは食って掛かってくる新之からすぐに顔をそらすと、そのまま後ろを向いて
歩き出した。コツンコツンと足音が、静かな洞窟のひんやりした空気に響き渡る。
「おいおい、そっちは崖だぜ」
ニヤニヤしながらセイスイはナインに言う。ナインはちらりとセイスイを見るが、
フンと鼻息をもらすと屈む。
「なぁ!てめぇこの甘党ガンマン!」
「静かにしろ…ふむ」
ナインはじっと崖の奥底を見つめる。服の襟の部分がパタパタと揺れていた。
なにか深く考えたような顔をすると、そのままスッと立ち上がった。
「下にずいぶん強い吹いている。ここまでくると微量だが、この深さでもこの
風が届くということは、そういうことだ」
下というと、先ほどヘビが落ちたガケの下だ。エゴは首をかしげながらケタケタと
言う。
「ソウイエバ、へびサンガオチタノモ、キコエナイホドダッタモンネ」
「この洞窟いったいどうなってんのかしら」
「そうだな…しかしどうやって行くか…」
「ホント…どうやって…は?」
アイリは少し止まる。『行く?』。静かな空間がやけに静かに感じられた。
咄嗟に口火を切る。
「ちょちょ!まってよ!行くって!?下にぃ!?」
「あたりまえだ。地獄にでも行くとでもおもったか?」
「同じようなもんじゃない!そんなことよりはやく外に…」
「外?…どうやらそのバカを引っこ抜いてる間にバカが移ったみたいだな」
「おいぃぃ!いちいち俺をバカにするなバカ!」
ナインは再びガケに視線を落とす。どこまでも暗く、どこまでも不気味だ。本当
に地獄に続いているようにも見える。
「自分たちの目的はなんだ?「宝」だろう?それ自身に目的があるものも、その
周辺観察の奴も含めて、目的の軸はそこだ。このままオメオメ帰って『手がかり
も何にも見つかりませんでした』とでもいうのか?」
言葉が続かない。アイリは反論しようとしたが、口を開け閉めするだけだった。
セイスイがニヤリと笑う。
「まぁ、そりゃぁそうだなぁ。このままじゃ帰れないよなぁ」
「たりめーだ」
新之もおもむろに立ち上がると、自分の周りについた岩のカスを払い落とし、
うんと背伸びをしながらそういった。
「それに…帰ろうとしても帰れるとも思えん。」
「えっ…」
アイリはナインの呟きを聞き逃さなかった。

58腐れ飯(グレイを喋らせるの忘れてた!!):2010/09/22(水) 23:45:28
「…俺はここに落ちるときに…よく見えなかったが、知らない男に蹴落とされている。
…そしてこの二十日間。よくよく考えてみろ、この罠はいったいなんのためにあるのか
……わかるか?」
アイリは首を振る
「いや…」
ナインは続ける。
「罠ならば、あの宝箱をあけた瞬間に天井を落とすなりなんなりですぐ俺たちを
殺せばよかったんだ。それが、今こうやって奥に誘われて数日間生き延びている。
だが、よくよく、あの男のことも考えると…この罠は…」
「『おびき寄せられた』ってことか」
新之は眉を吊り上げながらそういう。ナインはコクリとうなづいた。
「どう行動を起こそうとも『誰かが俺らを殺しにくる』。…だったら待つのも
逃げるのも、俺はしたくない。」
「……賛成!」
セイスイは興奮したように目をギラギラさせる。ナインはビクリを肩を跳ね上がらせる。
「いやぁ!いったろ!お前の言う事聞いてやるって!いやぁー俺って従順!良い子良い子!」
「いや、そういうニュアンスでいったわけじゃないんだが」
新之もパンと手をたたく。
「ま!あんたの言うとおりこのまま生きて帰るなら、宝もらって生きて帰ったほうが
いいよなぁ!なぁ!」
新之はアイリのほうを見る。アイリは顔をしかめ、喉をぐぅと鳴らす。
「エゴモサンセーイ!」
「おほぉ!良い子だ良い子だ!…ん?どーした?」
アイリはまだ返答せずに、顔をさらにしかめる一方だ。何かを言おうとするが
全部が体の中でめぐってしまっている状況だ。
「だーいじょうぶだって。なんかあったら守ってやるから」
ッキ!とアイリはその一言を聞くと新之を睨み付け、腹を思いっきり殴る。
「なんでアンタにそんなこといわれにゃいけないのよ!」
「グアアァア!」
そのまま腕を組みフンとそっぽを向く。
「私は平気よ、自分の身を守れる自信もある。ただ、皆が…」
「なんだぁ?なんでぇい。こっちこそなんでそんなこといわれにゃなんねぇんだよ」
少し青ざめた顔で新之は立ち上がると、そのままひとつため息をつく。
「そんなんで死ぬようなやつらだったら、とっくに全員死んでるさ」
ッケっと新之が笑う。ナインはゆっくり瞬きをし、セイスイは当たり前だといわん
ばかりだ。

「とりあえず、単体で動くよりも集団で動いたほうがよさそうだというのは自明だろう。」
ナインは落ち着いてそういう。ひんやりした空気、そしてその奥にどんなもの
があるのかは、未だだれも知らない。

59木野:2010/09/27(月) 17:25:23
「確かに俺は単体で動くよりも集団で動いたほうがいいといったが・・・」
ナインは周りを見渡す。セイスイや剣、グレイやアイリまでもがぎっちりと
身を寄せ合っている。ものすごく動きづらい。
「だって、この寒さやばすぎるだろ?水だって凍っちまうよ!」
ガチガチと身を震わせながらエゴをぬいぐるみのように抱きしめるセイスイ。

「おそらく今は夜なんでしょうね〜。寝るときは気をつけないとー」
そういいながら激しくステップを踏む玲。上着のようなものは羽織っているが
それでも体を動かしていないと風邪をひいてしまいそうだ。

水滴だらけだった洞窟の通路がいつしかつららだらけになっている。
だいぶ深くまで来たのか、それともこの奥に宝以外の「何か」があるのか・・

「・・・おかしいわね。蛇の姿が見えないわ。」
いつのまにかナインの帽子とマフラーを奪い、寒そうに手に息を吹きかけるアイリが言う。
確かにこの寒さだ。変温動物は冬眠とまではいかなくてもそこらで凍えていそうだが
あの巨体は見当たらなかった。
代わりに恒温動物のグレイがいつの間にかその場で丸まって眠ってしまっている・・
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60Mark@ブルーアイドモンスター:2011/02/06(日) 17:48:55
「……何やってるんですか?」
玲が訝しげに見つめる先には、丸まって眠るグレイにじわじわと水滴を落すセイスイの姿があった。
「……何も言わないでくれ。今大事な所」
そう小声で返すセイスイ。
「水浸しにしたらグレイさんの体冷えちゃいますよ」
「大丈夫だろ、こいつ毛皮だし」
「そう言う問題じゃなくってー」

「まぁ、なんだ。耐久力調査って奴だ。こいつが起きるまでこうやってちょっかい出す、
 起きなきゃこいつは知らない奴にずっと体を弄ばれ続けるのさ」
だから静かにしろよ、とドヤ顔で返すセイスイに、玲は「それはないでしょう」とツッコミで更に返す。
しばらく二人の掛け合いが続いたが、やがてナインが叩き起こしに入ったことでグレイは起き、セイスイは怒られた。

剣はその一部始終をぼんやりと眺めていた。
今、彼は誰かと話したい気分だった。
だが、まともに会話ができそうなナインはセイスイに説教をしている。
となると、
「……なぁ、話があるんだが」
「しょうもない話だったら怒るわよ」
隣のアイリに声をかける。
少し頼りないが、物の見方がまともな奴だ。

61Mark@ブルーアイドモンスター:2011/02/06(日) 17:50:40
「ナインを蹴落とした男?」
「そう。そいつが誰なのか気になってな」
二人が話を始める間に、剣の足が水溜りを踏む。
冷たい水滴が音を立てて跳ねる。
「少なくとも、あの罠を仕掛けたのは間違いなく奴だ。
 そうでなきゃ思わせぶりに出て来てナインを落したりなんてしない。
 問題は、今まで俺たちの周りで起こった事が、どこまで奴の仕業かって事だ」
「どこまでって……少なくとも、モンスターは前からここにいたと思うけど」
「俺もそう思う。でもな、宝箱の所に行くまでは、俺たち以外の生物なんて一度も見なかった。
 それが地下に降りた途端うじゃうじゃと湧き出した。見計らったようにな」
「……じゃあ」
「多分、奴はモンスターも操ってる」
アイリが視線を玲たちに向けると、ナインを凝視するエゴの姿が見えた。いつのまにかグレイの姿がない。
再び視線を剣に戻す。
「……でも、一人であれ程の量のモンスターをちまちま操るなんて不可能だと思うし、全部が全部操られてるわけじゃないと思う。
 例え方法があるとしても、操ってる、と言うより――」
「刷り込み、か?」
「そう。モンスターたちにまとめて同じ暗示をかける、とか。この前見た死体――あの人達だって、暗示をかけられたモンスター達に襲われて――」
「それはないな、お嬢ちゃん」
唐突に入ってきた声にアイリが振り向くと、そこに目を覚ましたグレイが立っていた。
「お、起きたのか。おはよう」
「まだ少し眠いけどな」
「ちょ、驚かさないでよ……それで、何で違うって?」
グレイも会話に加わる。
「俺は洞窟のモンスターには一通り会ってきたが、〝血を吸う〟種類の奴は見なかった。
 死体はひからびてただろ?。あいつらの仕業なら骨までかぶりつくさ。血だけ吸うなんて品のいい方法はしない」
「……あの野郎の正体が少し見えてきたな」
「けど、あの、死んだ人達、一応武器も持ってたし――応戦する間もなくやられたの?」
「それで強さがわかったろう?あるいは他にも仲間がいるのかもな」
「……おい。何を話してる」
「お」
再び声が入る。3人がそちらに向くとナインがいた。
「おかえり。あの男女の説教は終わったか?」
「あいつには何かを言う代わりに鉄拳の方が効くさ」
剣はナインの返事を聞くと、納得したようにうなずく。
「……お前たち、あの男の事を話してたろ」
「お前が入ってくるのを一番待ってたんだよ、ガンマン」
「あなた、例の男を見たんでしょう?何か見たとか――」

数秒の間。ナインは少し考えると、

「……ちょっと待て、 今思い出した」

62Mark@ブルーアイドモンスター:2011/02/06(日) 17:51:18
ナインが己の体験を話し終えるまで、3人は無言だった。
「………で」
初めに口を開いたのは剣。
「何の話してるか聞いたのか?」
「……聞こえなかった」
「だったら、もう一人の声は?」
「……それも知らない女だった」
剣が盛大なため息を吐いた。
「!? ……す、すまん」
「いいんだよ別に。別にほとんど判んねぇよとか思ってないよ。ただちょっと情報が足りないかなーって」
「って、折角話してくれたのに失礼でしょ!?」
「だが、一人目の声は確実にあの男のものだろ?そいつが大方仕切ってるって事はハッキリしたな」
腕を組みながら言うグレイに、剣が返す。
「となると、ここに俺たちをおびき寄せたのはあいつ。金脈の手がかりも確実に握ってるって事だ」
「……でも、もし金脈がなかったら?」
「このマイナス思考め。あってもなくても、俺たちはあいつを倒さなければ帰れない。そうだろうが」
「…………」
アイリがうつむく間に、ナインがホルスターの銃身に触れる。
「……けど、…流石にちょっと大掛かりじゃない?あんな罠まで設置して、モンスターまで操って」
「そこまでしないと捕れない獲物だって気付いたんじゃないか?」
「地図だって道の通りに進んだだけなのにああなって。……うぅ、こうして考えるとあの子(エゴ)もあいつの差し金に思えてくる」
「……案外、村にもあいつの仲間がいたりしてな」
「まさか」

洞窟に笑い声が響き渡った。

63Mark@ブルーアイドモンスター:2011/02/06(日) 17:52:02
***


思えば集団行動を始めてから、かなりの距離を歩いた気がする。
天井には無数のツララ。踏みしめる地面は所々氷に覆われている。
アイリは仲間達と共に冷え切った洞窟の中を歩いていた。

見ると、いつのまにかレイドの周りに剣やセイスイたちなど仲間の殆どが固まっている。
炎の剣は暖も取れるのだろう。ちょっと羨ましいが取り巻きの剣たちはバカバカしい。
そうして一人で歩いていたが、ふいに肩を叩かれ、そちらの方を見た。
「……ナイン?」
先程一緒に話していた赤毛のガンマンだ。
思えばこうして二人で話すことはなかった気がする――と、思い口を開こうとするが、
直前でナインに制され、その代わりにある場所を指で指される。
見ると、ナインの左手―にメモ帳が握られていて、こう書かれていた。
<先程は言わなかったが、仲間の注意が反れている今話す。何も言わず聞いて欲しい>
アイリから無言の了解を得たナインは、ページをめくる。
<俺たちは今、この瞬間奴に監視されている可能性が高い。
 仲間の一人に――奴と手を組んだ者がいる>

目を見開いたアイリ。彼女と目を合わせるナインの顔は真剣だった。
何も言わず、更にページがめくられる。
<そいつは二十日前、あの男と一緒に話していた奴だった。
 仲間の殆どが罠に落ちたが、奴だけは罠にかからず平然と話していた。
アイリとナインの間には二人の世界が出来ていた。
ナインは気取られぬよう淡々とメモ帳を見せ、アイリはその文字を一心に眺める。
そのため、二人は気付かなかった。
レイドが、欠けた仲間を目で探している事に。

<裏切り者は―――>

アイリがメモを読み終わることは無かった。
メモはナインの手から落ち、水溜りに落ちたのだ。

ナインは血を吐いて痙攣していた。




背後からの、エゴのナイフによって。






***

洞窟のある場所に、男は座っていた。
視線の先には魔術式モニター。そこにはアイリ達が写っている。
「―――さて」
男はモンスターの内臓と思われる物体を口に入れ、頬張る。
別のモニターを見ると、十数名のゾンビ達が早足で移動していた。

そろそろ俺の出番かな。
男はマントを羽織ると、腰を上げる。

64Mark:2011/02/11(金) 03:38:51
■■■8/21

全員合流した冒険者達は、自分達をここへ落とした男に報いるべく、更に地下へと潜る事を選んだ。


外ではもう日が暮れた頃だろう。
地下へ向かう道中、歩き疲れた一同は今、モンスターの骨を囲んで食事を取っていた。
モンスターの肉を頬張る彼ら。 その表情は、離れ離れでいた時よりも晴れやかに見える。
「……もふ、」
それは、モンスターの肉に馴染めずにいたアイリも例外ではなく。
「やっぱりこれ焼いた方がおいしいじゃない〜。こんなん生で食べるとか無理無理、絶対無理」
「お前酔ってる?心なしか顔赤いぞ」
「うるさい」
アイリの隣にいるエゴは、そんな二人の様子にも構わず一心に肉を頬張っている。
「たまにはこの子を見習いなさいよ。あんたみたいに口も悪くないし。 ……エゴ、おいしい?」
「ウン!」
エゴの笑顔に、つられてアイリもにこやかな表情になる。
剣はそんなアイリの姿をこれが本性かと思うが、何も言わない。
ともかく、アイリとエゴ。二人の出会いは最悪だったが、この二十日で随分仲良くなった物だ。
エゴを蹴った犯人は分からないが、このままの方がいいんじゃないか。と剣は思う。
アイリはそんな剣の思惑も知らず、エゴを妹のように可愛がっている。
だが、ふいにアイリの目に入ってきた疑問がエゴとの会話を中断させた。

「……?」
「オネエチャン?ドウシタノ?」


エゴの上で浮かぶクロス。
アイリの目に入ってきたのは、そのクロスにリボンのように巻かれた札だった。
「……………」
洞窟で初めて札を見たときは、暗がりの為何が書かれているのか分からなかった。
今はレイドの焚き火によってはっきりと分かる。――が、奇妙な発音の組み合わせばかりで、意味は読み取れなかった。
「オネエチャン?」
奇妙な札だった。今ははっきりと目立って見えるのに、近くでよく見るまでは札の存在に気付かなかった。
「あなたのそのお札――それであなたが動いてるの?」
「エ?」
エゴは不思議そうな顔でクロスを見上げる。だが、エゴは更に深い疑問を浮かべたようだ。
「……ナニコレ?コンナオフダ、シラナイヨ?」
「え?あなた、付いてるって気付かなかったの?」
「ウン。 エゴガ タイフェンタチノトコロニイタトキ コンナノ ツイテナカッタモン。」
札の謎は更に深まる。だが、アイリは新しく聞いた単語〝タイフェン〟が気になった。
「……ねぇ。タイフェンってエゴのなか――」
「おい、札がなんだって?」
アイリが喋り終わらぬ内に乱入者がやって来た。剣だ。彼はアイリが拗ねるのをよそにエゴのクロスを覗き込む。
「お、本当だ、札がある。全然気付かなかった」
剣はエゴの札に触ろうとする―――と、アイリがその手を勢いよく叩く。
「ッちょ!今の痛かったぞ!!」
「大事な物だったらどうするの!やめなさい!!」
時間が経たぬ内に二人は口論を始める。いつもの光景だったのでエゴはそっとしておいたら、
「あ!お札だ」
いつのまにかエゴの近くに玲がいた。お札に気付いたのか、じっと見つめている。
「さっきまで気付かなかったけど……これ、よく見るとかわいいじゃないv」
「……カワイイ?」
玲は頬を染めたエゴに笑いかける。
「うん、かわいいよ。女の子らしいんじゃないかなー♪」
そう言われ気分が上がったのか、エゴは玲の元を離れると、口喧嘩を続ける剣とアイリの間に割り込む。
「ネェ!!エゴノオフダ カワイイッテ!!ネェ!カワイイ?カワイイ!?」
二人は黙る。嬉しそうなエゴの姿を見て、ストレスの熱が急に冷める。
「……うん!リボンみたいでかわいいよ」
「いいんじゃないか、似合ってるぜ?後はオッサン好みのフリフリのドレス着てさぁ」
「ちょっと何言ってんの」
剣とアイリは再び口喧嘩を始める。
だが、今のエゴには見えていなかった。心に花畑が生まれた気分だったのだ。

65Mark@gone the past(前編):2011/02/11(金) 03:40:29
冒険者達は食事を終えた後、モンスターや金脈についての意見を交わし、最後に明日の打ち合わせをすると、眠りについた。
だが、エゴだけはどうしても寝付けなかった。むしろ気持ちの高ぶりを抑え切れなかった。
夕飯の最中、かわいいと言われたこと。そして夕飯の後にアイリとした約束。
「みんなで無事に帰れたら、もっとおしゃれにしてあげる」。
それが待ちきれなかった。まだ暗い洞窟の中なのに、気分はすっかり外に行っていた。
ずっと一緒にいた、二人の仲間を忘れそうになるほどに。
「………♪」
クロスに付いたお札を見る。かわいいと言われたのもこれのお陰。
縁がフリルのようにギザギザになっており、色合いも柔らかいお札。
土で汚れていてもエゴには凄く輝いて見えた。どうして気付かなかったんだろう!
もっとよくお札を見たくて、気が付けばエゴの手はお札に触れていた。
アイリは札を外したがらなかったが、エゴはお札がない頃でもちゃんと動けていたのだ。
むしろ、取れても何もなかったら、アイリおねえちゃんもほっとしてくれる。
少し力を入れると、お札はするりと取れた。
エゴは取れたお札を伸ばして満足げに見つめる――と、お札が光り出した。
「ワッ……!?」
皆を起こさないように光を抑えようとする。だが、光はさして強いものではなかった。
代わりにお札がひとりでにエゴの手を抜け出し、長く伸び、エゴの周りを囲むように浮き出した。
エゴがどうすればいいか分からず慌てる中、彼女の周囲の景色が真っ黒になる。

66Mark@gone the past(前編):2011/02/11(金) 03:43:56
突然、布を外したように明るくなった。
紅い絨毯に白い壁の室内。2階と地下に続く階段。自分がいたホテルの室内――だったが、すぐに場面が変わり、別の景色になる。
岩陰からの視点で、すぐそばには剣とアイリがいた。道を見ると、斑模様の壁が動いている――エゴはそれが、昨日見た巨大な蛇だと思い出した。
蛇の動く轟音に仲間が起きるんじゃないかとエゴは不安がっていたが、轟音が大きすぎて周りの音がよく聞こえなかった。
場面は変わる。今度はアイリと剣の仲間と会って、剣が穴から抜けたところだ。
抜けた剣、一緒に手伝ったアイリが喜んでいる。そこから離れ、壁によりかかってセイスイと話しているナインの姿を見た。
この時エゴはセイスイとナインの方は見なかった。ナインおじさんはちょっと怖い人だ。近寄りにくくて、あまり好きじゃない。
場面は更に変わる。今度は8日前、剣と一緒にモンスターをやっつけて食料にした所だった。
その後も場面は変わり続けた。どれもエゴが居合わせた時の過去の映像。エゴはそれを操作する術も知らぬまま、じっと映像に見入っていた。

彼女は操作する術を知らなかった。そのため、頭の中で操作ボタンを押した事に気付かなかったのだ。

先程と同じように映像が変わる。そこには最初に見た宿屋の内装が写っていた。
だが、場所が違っていた。最初の映像は1階だったが、今流れている場面は二階の廊下だった。
エゴの眠気もここで吹き飛ぶ。過去の負の記憶が急激に蘇る。
しばらく経つと階段の足音が聞こえ、それと共にナインが登ってきた。
ナインの距離は遠い。だが、少しずつこちらに向かってくる。
やがて、ナインは自分の近くで止まる。こちらを見下ろす。銃を下ろす。すると、片足を勢いよくこちらに飛ばし、

画面が急に勢いよくぶれる。
映像はしばらく宙を漂っていたが、やがて我に返ったように回転し、――振動を立てて床にぶつかり、止まった。

遅れてドアの開閉音が聞こえる。
だが、エゴの耳にその音は入らなかった。
彼女の頭は、ナインでいっぱいになっていた。

67Mark@gone the past(前編):2011/02/11(金) 03:45:42
■■■8/22



今、エゴのクロスに札はない。


その札は今、アイリのポケットに入っていた。
朝早く目覚めた時、眠っているエゴのクロスから札が取れている事に気づいた。
何もなかったようで安心した――だがその後、慌しい朝の時間に押され、クロスに札を巻き直す事ができずにいたのだ。
一応洞窟を歩く最中にエゴに札の事を言ったが、何故か機嫌を悪くしてしまい結局そのままだった。

――そうして、今に至る。
今のアイリは、目の前で何が起こったのか一瞬理解するのが遅れた。
だから、ナインが血を吐き倒れてる間は頭が多すぎる情報を処理する最中だったし、
それが終わったころ、エゴが今度は自分に向けてナイフを振りかざしても、反応が遅れ、立ち尽くすことしかできなかった。
3本のナイフが空を切り、アイリに飛ぶ。

突如、発砲音が二つ聞こえた。
気がつけばアイリはナインから離れた場所におり、ナイフは洞窟の壁に刺さっている。
ナイフを放った当のエゴは吹き飛ばされ、地面に倒れていた。
遠くからセイスイが水弾を、グレイが銃弾を撃ったのだ――!
「―――ッ!?」
アイリは我に返ると今の状況を確認し、そして後ろを向く。そこには自分の体を抱える剣がいた。
「け――剣っ!?あんた……何やって……!?」
「説明は後だ。それより、お前あのままだと死んでたぞ」
そうだ。今はそんな場合じゃない。
前を見ると、倒れたエゴを捕まえようとグレイとレイドが近づいている。
アイリは何故エゴが突然暴走したのか理解できなかった。
予兆は確かにあった。最初にナインを襲ったのは、何かの拍子で彼が犯人だと思ったからかもしれない。
だが、何故打ち解けたはずの自分まで襲うのか――疑問は浮かぶが、ただ一つ。
今のエゴが危険だと言う証明は、それが答えになっていた。
アイリの顔が一気に青ざめ、自然に声が出る―――エゴがいつのまにかマシンガンを持っている!
「今はダメッ!この子に近づいたら―――!!」
エゴの銃口がグレイに向く。――咄嗟に気づいたレイドがグレイを押し飛ばす。
瞬間、


轟音。
それと共に放たれた無数の弾丸が天井を、壁を、洞窟に穴を空けて行く。
弾丸がつららを砕き、破片が冒険者たちに降り注ぐ―――

弾幕が止み、辺りは静かになる。
気づけば洞窟の一部に巨大な穴が生まれ、新たな岩陰ができていた。
つららの雨は彼らに刺さることはなく、仲間のほとんどに怪我はなかった。だが、ただ一人、
「ぐゥッ……!!」
傷口を押さえ、レイドがうめく。彼はグレイをかばった時、わき腹の一部をやられたのだ。
その間にもエゴはレイドにとどめを刺そうとマシンガンの銃口を彼に向けている。
アイリはエゴの兵器の破壊力を知っていた。だが、彼女に今の状況を打破できる力はない。
だから、叫ぶしかなかった!
「――逃げて!!このままだと全員殺されるッ!!!」
そう言い終わる瞬間、アイリのいた場所を強い光が走った。

68Mark@gone the past(前編):2011/02/11(金) 03:50:52

やがて、光が止む。
エゴは眩しさにしばらく目をつぶっていたが、再び目を開くと、視界にいるのは自分ひとりだけだった。
辺りを見回すも、誰もいない。
「……………」
エゴの目に、黄色い波紋が浮かぶ。


***


エゴから遠く離れた場所。
冒険者達は息を荒げ、冷え切った洞窟の岩陰に隠れていた。
「ゼェッ……索敵、だと?」
一番疲れていたのは剣だ。彼は、光の術者の力で閃光を生み出し、その間に光の速さで仲間全員を回収したのだ。
怪我をしたナインとレイドは、グレイと玲が応急処置の最中。
剣は隣にいるアイリの「索敵ができる」と言うワードに反応し、問う。
「あの子、隠れた生物がどこにいるか分かるって言ってた。遠くに行けば行くほど精度は落ちるらしいけど」
「……範囲は?」
「聞いただけだから分からない。だから安心はできないわ……」
そう返すアイリの頭は、先ほど生まれた疑問で巡っていた。
ナインを撃ったのは勘違いかもしれない。だが、何故他の仲間まで狙ったのか。
そこで、先ほど剣たちと語り合っていた話題を思い出す。
「あの男……」
奴がエゴに何かを吹き込んだのか。アイリはまだ見ぬ敵に恨みを覚える。
そんなアイリに「おい」と声がかかった。振り向くと、汗で顔を濡らしたナインだった。
「ナイン!お前まだ起きちゃ――」
そんなグレイが制するのも聞かず、ナインは話す。
「……いい。俺はエゴに見覚えがある――宿にいたとき、道を塞いでいて邪魔で蹴った……――あいつは俺を恨んでたんだろう」
その場の空気が変わり、ナインを軽蔑するものへと変わる。
だが、ナインは続ける。
「エゴの目的は俺のはずだ――だが、あいつは、俺だけじゃなく、……ゲホッ、俺達全員を狙っていた。
 このまま隠れていても、いずれ奴に見つかるなら……俺を囮に奇襲をやれ」
言い終えたナインは強く咳き込み、血を吐いた。
しばらく無言だった。ナインがこうなったのも無責任な行いが原因だ、彼に反論する者は――
「……ばーか。何悲劇のヒーロー気取ってんだよ」

69Mark@gone the past(前編):2011/02/11(金) 03:57:16
「……!?」
全員が一斉に振り向く。声の主はセイスイだった。
ナインは傷口を押さえながらセイスイを睨む。
「……馬鹿はそっちだろう。あの破壊力を見たか?まともに奴とやりあうよりも、不意打ちの方がより……」
「だからバカなんだよバカ。奴にまともが通用しないって?ザサーラでの俺の勇姿を忘れたか」
「……お前敵に捕まってただろ」
アイリとグレイには、ナインとセイスイの会話が何の事かわからなかった。
だが、以前聞いた頃がある。
独裁国ザサーラ……その大統領が世界の朝を奪った異変を解決して見せたのは、ラドリオ王国に集まった数人の流れ者だと。
「……って、あなたエゴと戦うの!?」
我に返ったアイリが問うと、セイスイはニヤリと笑い
「暴れ足りなかったからな。いいストレス発散にはなるだろ」
腕の関節を鳴らしながら言う。すでに臨戦態勢のようだ。
そこに、新たな割り込みがかかった。
「じゃ、私も行くよー♪」
「!?」
一同が見たのは玲。
「こう言う派手なのがやりたかったのよね〜。セイスイさんだけじゃ頼りないし。ねv」
「なんだとコラ」
玲は乗り気なのか一回転しステップする。ナインが睨んでいるのに気づくが、逆にウインクして返してやった。
「……女の子ばっかじゃ黙ってられねーなぁ」
セイスイと玲の様子を見た剣は、疲労の中で立ち上がる。「俺も行く」と付け加え、
「……駄目よ。あんたの代わりに私が行く」
「は?」
そう言ったのはアイリだった。
「疲れてるのに何無理してんの。剣には便利な能力があるから、もしもの時のためにナインのそばにいて」
「ご立派だな……で、何ができるんだ?」
剣の問いにアイリは返す。片手を胸に当て。
「私がエゴを説得してみる。エゴがああなったのはアイツも絡んでるかもしれない、それで混乱してると思うの。
 うまく行けば戦わずに済むだろうし、もし戦いになっても――」
アイリの目に迷いはない。冒険初日にエゴの影に怯えていた少女の面影はなかった。
「エゴの武器や攻撃パターンはこの二十日間で大体分かった。私の力は頼りないけど、感覚を研ぎ澄ませる力もある。それが武器よ」
全員無言だった。ただ一人セイスイが不適に笑い、
「面白ェ。足手まといになるなよ」
アイリは笑みを浮かべ、
「勿論。頑張りましょう、一緒に」
セイスイとアイリ。二人の腕が交わされた。

70Mark@gone the past(前編):2011/02/11(金) 04:00:06
***


「でもな」
3人が去る間際、座っていた剣がアイリに口を開いた。
「何かあったら俺達の下に戻って来い。お前、女の子なんだし」
アイリの顔に笑みはない。だが、その目には強い意志があった。
「たまには私のことも頼りなさいよ。女の子だってやるときゃやるの」
「……だからだよ」
剣の呟きを彼女が聞いたかは定かでない。



***



遠いところの索敵は、漠然とした方向しかわからない。
だが、その方向に――対象の元へ近づくにつれ、次第にハッキリと見えてくる。
そして今足を止めたエゴの前には、赤い熱源が三つ。
「数分ぶりだな、お嬢ちゃん」
セイスイと
「ちょっと痛いけど我慢してね?ちょっとだけだから〜」
玲と、
「ちょ、まだ戦う気じゃないんだから、……とにかく」
アイリがいた。


「来たわよ、エゴ」
エゴの目から波紋が消える。
そうして見えたのは、さっきまで仲間だった三人だった。





→後編へ

71Mark@gone the past!(後編):2011/03/04(金) 18:22:42
■■■5分前

「お前、顔怖いぞ」
エゴに会う直前だった。アイリによる作戦会議の途中に、セイスイが割り込んできた。
「え!?……ああ、えっと」
ビクンと跳ね、慌てる様子のアイリ。
「おう、凄い顔だった。戦う前にあいつ逃げるぞ」
セイスイにそう言われ、アイリは無理矢理明るい笑顔を取り繕うとする。
「……いいんじゃないかな?さっきの顔で」
それを制したのは玲だった。
「アイリさんがエゴちゃんを大事に思ってるのが伝わってくるもの。
 無理して笑ってもわかっちゃうし、だったらその方がいいよ」
「玲さん……」
玲はにぃーっと笑うと、
「頑張りましょうね!前に起きたことは変えられないけど、これから先は私達にだって変えられるんだから!」



■■■2分前

傷ついたナインは考える。
大分鉱山の奥まで来たが、金脈のある気配は全くなく、当てもない。
地図によるとまだ道が続いていて、更に枝分かれしているらしい。
……正直今のメンバーに、それぞれの道を探す気力は残ってはいない。
ナイン自身も負傷している。応急処置は済んだが、激しい運動はできないと聞いた。

ナインはこの先どうするかを考える。今、彼が何を言おうと回りは無言だった。
誰も自分の方を見ないのを、ナインは冷静に受け止めていた。
命の軽い環境で生きてきたナインは、自分も含め、仲間を消耗品だと思っている。
今回は邪魔でどかせた人形が生きていて、それがたまたま仲間になっていただけの事だ。
今、仲間がエゴを止めに行っている。それが失敗して二人失うのは痛いが、
エゴが壊れても、ナインにとっては危険分子が減って好都合だった。

ナインは女三人の事を考える――と、そこで金属音が聞こえ、振り向く。
音の主はレイドだった。彼は己のマントの金具を外している所だった。

72Mark@gone the past!(後編):2011/03/04(金) 18:24:13
「おい、何やってる」
「ちょっと待ってろ!」
レイドはいきなりマントを脱ぐと、横になるナインの上に被せる。睨むナイン。
「……何のつもりだ」
「あったかいだろ!」
しれっと返すレイド。その表情に陰がない事をナインは鬱陶しく思った。
「ここ、大分冷えるからな〜。ナインはケガしてるからきついだろ。皆が帰ってくるまであったまってな!はっはっは!!」
「……いつ何が起こるか分からんだろ。今はそんな時じゃ――」
「いいから」
そう言い掛け、マントをどけようとしたナインの手をレイドが押さえる。
ナインはレイドを見る。その顔は切羽詰っているわけでもなく、かと言って緩んでいるわけでもない。
ただ確かなのは、能天気な顔はもうなかった。
「寝て休んでろ」
ナインは返事ができなかった。

毛布代わりのマントは魔法による物なのか暖かい。
だが、今のナインにとって、そのぬくもりが逆に寒かった。
ナインは考えるのをやめ、眠りに落ちてゆく。




■現在

ナインに傷を負わせた張本人のエゴ。
彼女の視界には女が二人、男が一人。アイリに玲、そしてセイスイだ。

733/12@gone the past!(後編):2011/03/04(金) 18:24:56
「エゴ。……落ち着いて話を聞いて」
先に口を開いたのはアイリだ。彼女は慎重に言葉を選びながら話す。
「ナインは確かにあなたを傷つけた犯人だったわ。
 多分、あなたは私達の敵にナインの事を教わった。だから、今……
 あなたは混乱してるのよ。いきなりだったから」
空気が異様に張り詰めているのをアイリは感じていた。
セイスイ、玲、エゴも、表には出さないが臨戦態勢だ。
「――でも、今は争ってる場合じゃないの。この洞窟の中に潜んでるあの男は、私達を殺すために色々な罠を仕掛けてきた。
 私達が金脈を見つけて、生きて帰るためには――そんな奴に負けちゃ、いけないの……!!」
アイリは喋っている間もエゴから目を離さなかった。エゴの表情に僅かに変化が生まれるのを見て、更に言葉を続ける。
「……あなたと私が仲直りしてから、エゴの事ずっと見てた。
 本当のあなたは元気で、人懐っこくてかわいい子だと思ってる。今ならまだ間に合――」
「どうしてそんな事いえるの?」
「―――!?」
ここに来てエゴが言葉を発する。
アイリはその表情を見て戦慄した。エゴの表情――あの夜であった時と全く同じ。
「どうして?〝たった二十日〟いっしょにいただけで……どうしてあなたはわたしの事全部知ったように話すの?」
「どうしてって……!一緒に鉱山をさまよって……!!」
「イッショ!?あんたナインの仲間でしょ!ナインの奴に言われてずっとカンシしてたんでしょッ!!」
エゴの態度が豹変する――と思えば、今度は暗い表情に変わり、
「エゴね……もうけられた事なんかどうでもいいの。ただ……こわいの。
 エゴを蹴ったやつも、エゴを撃ったやつも、おねえちゃんたちの仲間なんでしょう……?
 アイリおねえちゃんも、剣おにいちゃんも、みんな……そいつと仲良くいられることがこわいの。
 そうしたら気づいた。アイリおねえちゃんも、そいつと同じだって」
「……エゴ?気持ちはわかるけど言ってる意味がよく……」
「だから、そんなやつらはみんな静かになればいいって思った」
その目に迷いはない。清々しいほどに澄んだ緑。逆に彼女を止めに来た3人の目には――焦り。
言葉を紡ぐ間に、エゴの腕がマシンガンに変形する。
「剣おにいちゃんがエゴをしかったように、今度はわたしが皆をしかる番。そうすれば、皆反省していい子になる」
「エゴ……!!」
「よせ!こいつもう何言っても無駄だ!」
マシンガンの照準が3人に向けられ、引き金が唸る。
「タイフェンやニーハオがやった事を――」
轟音と共に銃弾の吹雪がアイリたちを襲う――!!
「わたしがやるのッ!!!」

744/12@gone the past!(後編):2011/03/04(金) 18:25:58


最初の銃弾が三人に当たる事はなかった。
「玲っ!?」
アイリはステップする玲に抱えられていた。
「やっほ〜♪振り落としちゃったらゴメンね」
玲は銃弾が放たれる直前にアイリを抱え、発射と同時に驚異的な速さで〝避けた〟のだ。
彼女に下ろされたアイリはセイスイの行方を探す。セイスイは先程の場所に立っていた――彼が一歩も動いた様子はない。
その代わりに、セイスイの前には彼を守るように巨大な水球が中で渦を巻いている。
渦の中をよく見ると、先程エゴの放った弾が勢いを失い回っていた。
「せっかくもらったチョコレートだ」
セイスイがニヤリと笑うと、水球はプレートのように薄く広がる。
中でバラバラに散らばっていた銃弾が等間隔に静止し、止まったまま水球による回転が加えられ――
「お返ししねーとなッ!!」
銃弾がプレートを飛び出し、撃ったエゴめがけて一斉に放たれる!
エゴは予想できなかった攻撃に対処できず、水を動力とした銃弾の餌食と――なることも構わず、
体に穴を空けながら逆にセイスイの元に突っ込んできた!
「痛いじゃないの――」
突進しながらナイフを両手にそれぞれ五本構え、放つ――!
「痛イジャナイノオォオォォォォォォォォォォッッ!!!」
すると地面から水柱が噴きだし、エゴに直撃し彼女を押し上げる。
彼女が吹き飛ぶ天井にはつらら――彼女の体を貫き、口から血を吐き出させた。
「ガッ……!!」

腹や胸に刺さったつららは抜けない。エゴはもがく。
その間にセイスイは距離を取り、アイリが自分の名を呼ぶのを聞きそちらを見た。
「あなたと玲に任せるわ。やり方はさっき話したとおり」
セイスイは生返事を返すと玲の方を向く。
「おい、ブラジャー女」
「こっ……こんな時に何言ってんですかぁ〜!!」
暴れるエゴの姿をアイリが悲しげに見ている。
「お前、確か魔法が使えたろ。さっき炎と風が強いって言ってた。
 炎魔法でこの辺の氷やつららを溶かして〝水〟にしろ。あの人形にノーブラに剥かれたくなきゃな」
エゴが動きを止める。見ると関節を無視し足のターボを天井に向けている。
「はいっ!!」
直後、爆音が聞こえた。エゴがターボで強引につららから身を離したのだ。

「……お前、ほんとは蹴られてもなんともないだろ」
「オニイチャンハ コナゴナニシテアゲル」
苦笑いするセイスイとは対照的に、エゴの表情は張り詰めている。
ジェットで浮く体。先程の銃創は消えていた。

エゴの腕が小さなショットガンに変形してゆく。

755/12@gone the past!(後編):2011/03/04(金) 18:27:11


■■■8/3

今朝は泉の近くで朝食を摂った。
わたしは食事中恐る恐るエゴを見る。打ち解けたとは言え、まだこの子が怖かった。
エゴは腫れた目をぬぐいながら携帯食を口に入れていた。だが携帯食は大きく、エゴの小さな口には入らないようだ。
私はナイフを片手に「切ろうか?」とエゴに聞く。
エゴは私をきょとんと見ると、携帯食をこちらに渡し――突然、地震のような揺れが襲い私は大きくバランスを崩した。
後で知ったが、あれは巨大な蛇が動いていたのだ。

しばらく経って私は身を起こし――エゴが体をぐったりとさせ泣いていた。
私は驚いた。持っていたナイフでエゴの胴体に繋がる糸を切ってしまったようだ。
エゴがまた動けるようになったのは、夕方を過ぎた頃だった。



■現在

しばらく滞空していたエゴのターボが真横に方向を変える。
そのまま火を吹き一直線に加速、滑空―――!!
「死ネッ!!」
空中を滑りながらエゴはショットガンを放つ。
威力と弾の量はマシンガンに劣るが、こちらも連射性能を持っているようだ。
前方と後方を塞ぐように銃弾の雨が三人を狙う――!
「甘ーなッ!!」
そこをセイスイはエゴの軌道から横に飛び退き銃弾をかわす。
それと同時に、エゴが停止する瞬間を狙い彼女に何発もの水弾を浴びせた!
エゴは直撃しバランスを崩す物の、すぐ体勢を立て直しセイスイに再び銃弾を放つ。
セイスイは自分に当る銃弾を己の水弾で相殺しながら地を蹴り、エゴから離れるように走り始める。
エゴもセイスイを追うようにターボを加速させ走る――!!

走る二人。その間を銃弾と水弾が交差する。
エゴは水弾が当ろうと構わずセイスイを狙い続け、対するセイスイはエゴの銃弾を相殺させるので精一杯に思えた。
二人は走る。その間にもアイリと玲はそれぞれの方法でセイスイを支援しようと動く。
二人は走る。セイスイの体に銃創が刻まれ、表情が歪んでゆく。
二人は走る。エゴは笑う――その間に行動を起こしたのはセイスイ!
セイスイは突然足を止める。勢い余って滑空を続けるエゴの背中めがけ空を切り――
「おんどれぁあッ!!」
指の軌道と共に空気中に刻まれる水の刃。セイスイが生み出したのは水の斬撃〝ウォーターカッター〟。
エゴが静止して振り向いた頃にはもう遅い。水で生み出された斬撃の飛ぶ先は、エゴとクロスを繋ぐ――糸!
斬撃が糸の間近に迫る――


プツンッ、とピアノ線が切れる音がした。

766/12@gone the past!(後編):2011/03/04(金) 18:28:18
■■■10分前

暗い廃坑の片隅で、消えたカンテラを囲み3人の少女が話していた。
唯一の灯りはアイリの帽子のライト。
「……まず聞くけど、あなた達の戦い方を簡潔に言って」
「おいおい、人に聞くときはまず自分から言えよ」
「いいわよ、……私は短剣と格闘をメインに戦うわ。
 格闘技はシステマとかを混ぜてアレンジした独自の物。あと、存在感を薄くする術も心得てる」
「システマって何だ」
「詳しい説明は後。次はセイスイさん言って」
セイスイはごほん、と息を吐くと
「俺は基本的に水中心だな。水を使って色々出来る。
 格闘技も結構使うぜ。空手と柔道と合気道」
「合気道……システマとちょっと似てるわ」
「マジ?」
二人の掛け合いを玲がじっと見てる。
「……玲さんは?」
「え、私?(少し考えるように)……主に魔法ね。ダンスの踊り方が呪文代わりになってるんです。
 天候とか元素とか……幅広い種類の魔法が使えるけど、メインは炎と風かな」
「ありがとう」
アイリは先程二人から教わった事を反芻しながら考え込む。
しばらく経つと口を開いた。
「セイスイさん、水を使える力って攻撃中心?」
「まぁ、そうだな」
「……じゃああなたは今回の主力。エゴが暴れた時率先して戦って。
 玲さんは離れた位置から魔法を使ってセイスイさんを援護。
 私はあなた達が暴れてる間に、短剣でエゴのクロスの糸を切るわ」
「あの子、糸が弱点だったの?」
「そう。エゴは胴体の糸を切ると動けなくなるみたい。
 多分あの子の中枢はクロスにあって、体に信号を送っているんだと思う」
「案外脆いじゃねーか」
だが、セイスイの言葉にアイリは首を振る。
「けどあの子、凄い力を持ってるわ。……私一人じゃ太刀打ちできないような」
アイリはエゴの持つ力を説明し始める。
そんな彼女の顔を見てセイスイが呟いた。

「……お前、顔怖いぞ」

777/12@gone the past!(後編):2011/03/04(金) 18:29:27
■現在

セイスイは今、アイリの言葉の意味を理解していた。
威力は軽いが銃弾をちょっと受けすぎた。
対するエゴは弾丸やつららで貫かれようが未だ健在。
だが、セイスイの視線は――塞がっているつららの傷よりもある一点に向いていた。
彼の表情には笑み。
「ウ……」
ターボに変えたままのエゴの両足は宙にだらりと垂れていた。両足とクロスを繋いでいた糸は切れている。
咄嗟にターボを放ったらしく、射程の短い斬撃は胴体に届かず終わった――だが、加速のできるターボを断った事は大きい。
「どうした?おとなしく降参する気になったか?」
挑発するセイスイだったが、彼の内心は余裕とは逆の心境。
アイリの話によればエゴはまだ他の兵器を隠している。
中にはマシンガンより高い威力を誇る物もあるらしい――だが、セイスイの中で答えは出ていた。
『そいつを出される前に、糸を全部切ってやるだけだ』。

突然、エゴの頭上に雲が生まれ、閃光を上げるとエゴめがけ雷の一撃を繰り出す。
――だが、それより早くエゴは雷を回避し、雷雲を生み出した玲めがけマシンガンを放つ。
「きゃんっ!!」
玲は離れていた為容易く避けられたが、その一撃が次の戦いのゴングとなった。
「お前がエゴをねらった悪いヤツか……!!」
エゴは標的を玲に定め、彼女めがけマシンガンの雨を浴びせて行く。
玲は踊りの舞いを踏む暇もなくエゴのマシンガンを必死に避ける。
怒りの表情を浮かべるエゴ。セイスイはその間に何発分も凝縮させた斬撃を止まっている彼女の糸に向かって放つ。
だが、同じタイミングでエゴはマシンガンをしまい、斬撃を軽く避けた。
「くそっ……!?」
回避と同時に放たれたナイフを水球で相殺しながら、セイスイはアイリの言葉を思い出す。
索敵が動作予測に使える可能性――ここに来てそれを使うとは。
マシンガンの弾量も先程に比べ増えている気がする。使えなくなった足の代わりだろうか。
思考を巡らせる間にも、エゴは両手に何本ものナイフを構えセイスイの元に走ってきた。

セイスイは頭を切り替える。ええい考えるのは自分の仕事じゃない。
「死ネッ!死ネッ!!死ニなさイッッ!!!」
セイスイめがけエゴはナイフで何度も斬りかかる。
エゴの攻撃は何も考えていないようで、セイスイの避ける先を的確に狙う厄介な物だった――軌道が荒削りである程度避けやすいのが救いだった。
「こんにゃろ……っと!?」
途中、ナイフを投げられセイスイは咄嗟に腕でガードする。
肉に食い込む痛みを噛み締めるセイスイ――エゴはその隙を狙い、更に追撃を仕掛けようと接近する!
――だがそれがセイスイの狙い!空いた片手でエゴの伸びた腕を掴むと、勢いよく地面に叩き付けた!
地面に体を打ちつけ、うめき声を上げるエゴの腹にセイスイの足が振り下とされる。
エゴは転がって回避し、その最中に片手を変形させてゆく。
マシンガンが来る事を読んだセイスイは先程のように巨大な水球を組んだ――が、
彼の予想は外れた。エゴの次の兵器はマシンガンではなく――

「……マジかよ」

貫かれ、破裂する水球。
巨大ミサイルはセイスイの体を押し上げ、洞窟の天井で彼もろとも爆発した。

788/12@gone the past!(後編):2011/03/04(金) 18:30:01
■■■8/5
私は自分の目を疑った――剣も似たような心境だったに違いない。
炭鉱の中にこんな巨大なモンスターがいたなんて。
そして――まさかこの人形がモンスターを倒したなんて!
私達の目の前に突然現れた怪物。私達が逃げるより先にエゴの腕が巨大な拳となり、怪物に大打撃を与えたのだ。
怪物の死体は電気を帯び、所々電流が走る。
だが、私の視線は怪物の致命傷となった大きなミサイルの傷穴に向いていた――。



■■30秒後

どこまでも響いた爆音のエコーが止み、廃坑は再び無音となった。
聞こえるのはすぐそばで眠るナインの寝息。
「…………」
今彼の周りに座る者で、声を発する者はいなかった。

全員、無言だった。
だが、しばらく続くと思われた緊張もぷつりと切れた。
ナインの様子を見ていたグレイが、ゆっくりと腰を上げ、立ち上がったのだ。
グレイの装備は拳銃と手榴弾のみ。だが、彼を止める者はいなかった。

「………」
グレイは剣とレイドと目を合わせる。
目だけでナインの事を任せるよう伝えると、彼らに背を向け、アイリ達が行った方向へ歩き出した。



■現在

セイスイを仕留めたエゴは安堵のため息をついた。
これで一人。そう思い振り向く。

――背後に、ナイフを振り下ろすアイリおねえちゃんがいた。



■■■8/1x
エゴの兵器について、アイリは前々から謎に思っていた。
小さい体で何故あれ程の威力の銃を反動なしで撃てるのか、
ほとんど無尽蔵に銃弾が出るのは何故か。
考えてふと思った――〝魔力〟。
エゴの動力が機械でなく魔力だとしたら納得が行く。
魔力が弾丸や刃物を生み出し、反動に対する支えとなっているのなら――
そんな思考を巡らせているとアイリはある事に気付く。
エゴは威力の高い重火器を使う最中、必ず地面に立ち動かない事を。

799/12@gone the past!(後編):2011/03/04(金) 18:30:36

■現在
ミサイルが放たれ、セイスイが吹き飛ばされる。
流石のエゴも反動を感じたらしく、痺れたように動きを止めている。
アイリはその隙を狙ってエゴの背後に接近する――手には短剣。
間近まで迫っても、エゴは兵器を出す事無く立ったままだった。
アイリは心の中で謝罪しながらクロスの糸を切ろうとして――振り向いたエゴと目が合った。

悲しげに澄んだ瞳を。



■■■8/5

夜、私達はあの泉の近くで眠る事になった。
夕食前、私は最低限の救急セットでエゴの手当てをしようとしたが、彼女は遠慮して譲らなかった。
「痛いけどすぐ治る」
それが強がりのためじゃなく、実際彼女のケガの治りは早かった。
だが、私はエゴの手当てをした。

手当ての間、私はエゴとお互いの事について話した。
思えばおとといからまともに話せてなかった。

エゴはこの街に来る前の記憶がないと言った。
仲間二人といたことは覚えているらしいが、それ以外は思い出せないらしい。
そして、エゴは言った。「友だちになりたい」。
寂しかったのだ。今日モンスターを倒したのも、私や剣に認めて欲しかったと言う。
私は返す。
「そんな事しなくても、もう友だちだよ」と。



■現在


時が止まったようだった。

「………!」
アイリの刃先が鈍る。――その一瞬が勝負を大きく変える。
エゴは途端に恐ろしい形相へと変わり――彼女自身は動かない――その代わりにクロスから伸びたおびただしい〝糸〟がアイリを包む。
「や……!?」
短剣で切ろうとするがもう遅い。
鋭く尖った細い糸はアイリの服を、皮膚を貫き、体内の神経に入り込む。
全身を襲う鋭い痛みはアイリを苦しめたが、問題はむしろ――
短剣を持つ手が、体が――1ミリも動かせない――!
「やだ、なに……これ……!?」
「……―――〝ナイトメア〝、〝カルーセル〟」
いつのまにか体勢を立て直したエゴが嘲笑を浮かべ答える。
その直後、アイリの両手が動いた――だがそれは本人の意思ではない。
右手は短剣を持ったまま前に突き出され、空いた左手が短剣の柄を握る。
ひとりでに動く両腕。アイリはこの体勢――そして、短剣の切っ先の向きで全てを察した。
切っ先が狙う先は――アイリの首。
「………!!エゴ!やめて、エゴ……!!」
アイリは動かぬ体で拒絶の意思を示すが、エゴの目はアイリではなく別の方向に向いていた。
その方向に何があるのかアイリは嫌でも分かった。最後の仲間――玲!
エゴが片腕をマシンガンに変形させる間、アイリは力の限り叫ぶ。
「玲さん!玲ッ!!逃げて……!!」


短剣が、ゆっくりと動く。

8010/12@gone the past!(後編):2011/03/04(金) 18:32:15
■■■8/19

夢から目を覚ましたエゴは、全てを思い出していた。
夢で、かつての仲間の姿を見たのだ。
マンジュシャゲで出会い、一緒に過ごしてきた二人の仲間。タイフェンとニーハオ。
つらい事もあったけど、三人でいるといつも幸せだった。

旅の途中だった。
ユニバース王国で二人とはぐれてしまった時、迷っていたら後ろからいきなり黒い布を被せられた。

その後、何日も黒い布の中だった。

おなかがすいた。退屈だった。それ以上に二人に会えなくてさみしかった。
いくら銃を撃っても袋はびくともしなかった。怖かった。
ある時、誰かに運ばれた。朝になると黒い布を取られて、そこが宿屋だった。



■現在

大事にしてくれたアイリおねえちゃんはナインの仲間だった。
今頼れるのは自分しかいない。
タイフェンとニーハオがいないからこそ、自分でなんとかしなきゃいけない。

セイスイおにいちゃんはまだ生きてるみたいだけど黒こげになって倒れてる。
アイリおねえちゃんはわたしの操り人形。おねえちゃんの怯えた顔、やっぱりかわいいなぁ。

まだだ。まだ一息。
タイフェンは何をされても生き返った。普通の人間も生まれ変わる事ができるって聞いた。
生まれ変われば、アイリおねえちゃんも本当の優しい人になれるに違いない。
これが終わったら今度はナインも――何回*せばいい子になるかな。

玲はアイリの方を向かず悠長にその場でタップを踏んでいた。
彼女の素早さは厄介だったが、3人の中で目立った行動もなく、エゴの重要度は低かった。
エゴは踊る玲に小型の追尾ミサイルを放つ。マシンガンに比べて威力は劣るが、いくら速く動けようが関係なく当たる。
――さて。これで玲は片付いた。そう思い、エゴはアイリの処刑をしようとして――やめた。
逃げると思っていた玲が、ミサイルを背に逆にこっちに走ってきたのだ。
自分は逃げてばかりいたくせに、今更仲間が惜しくなったか。偽善者ぶりやがって、大嫌いだ。
エゴは小さく舌打ちし、こちらに向かってくる玲めがけマシンガンを撃つ。
だが、玲はスピードを緩めぬままわずかに体をそらし銃弾を避けた。
エゴはまた撃つ。撃つ。またも避けられる。
逃げる最中玲が足を止める事はなかった。距離が縮まってゆく――エゴの顔に焦りが生まれる。
来るな。来るな。来ないで!!
エゴはアイリを操る糸に、彼女の首を短剣で刺すよう指令を送った。アイリの悲痛な声。
「嫌ぁぁッ!」
短剣が走る。アイリの首を捉える――直前、玲がその手から短剣をひったくり、

「お仕置きよ、困ったちゃん」

風魔法を纏った短剣が一直線に飛び、エゴとクロスとの接点を全て断つ。
少し遅れ、追尾ミサイルが玲の身に直撃した。






軽く吹き飛び、倒れこむ玲。
風魔法で微妙に軌道をずらしたため、急所は免れた――だが、無視できぬダメージを胴体や腕に負う。
「う゛ー……いたいよー………」
痛む体を押さえながら、玲は立ち上がり、短剣を拾う。
すぐそばで倒れるアイリに近寄り容態を見るが、気を失っているだけで目立った外傷はなかった。
玲の口から思わずほっ、と安堵のため息が出る。

8111/12@gone the past!(後編):2011/03/04(金) 18:33:46


「…………」
玲は改めて周囲を見渡した。
暗い道――カンテラは壊れ、唯一の明かりは自分が魔法で灯したかがり火。
セイスイは黒焦げになって倒れ、自分のそばには倒れたアイリ。
ここに立つのは玲一人だけに思えた。

「………」
玲は髪を耳にかけると、四つんばいになる姿勢でアイリの上に覆いかぶさる。
彼女のまっすぐ伸びた金髪の束が垂れ、炎に照らされオレンジに輝く。
群青の上着から細く豊かな腰のくびれを覗かせながら、
白く柔らかな指が、アイリの細い身体と小さなふくらみの上をなぞるように移動し――襟にたどり着くと軽く下ろし、彼女の白い首筋を露にさせた。
「………」
玲の青い瞳は熱を帯びたようにアイリを見つめる。
アイリの銀髪、閉じたまぶた、うっすらと開いた唇―――
玲の唇が少しずつアイリに近づく――行き先は彼女の首筋。
白い首筋に玲の鋭い牙が近づき――
「まさかそんな趣味があったとはな」
触れるところだった。玲は視線だけを向ける。

「――もっとも、宿にいた時は割とノーマルに見えたがな」
見ると仲間だったハイエナの獣人が立ち、玲に銃口を向けていた。
グレイヴッチはニヤリと笑う。
「アンタを操ってる男の趣味か、ソイツは」
アイリもいつのまにか目を覚まし、服に隠したナイフに手をかけながらまっすぐに玲を睨んでいた。
「…………」
玲は何も言わない。代わりに、暗がりから拍手の音が聞こえた。
「お疲れ、そして始めまして。 ――君達は僕の出番を期待していたようだが、念願叶い、よかったじゃないか」


「ニーハオ。これからがお楽しみだ――」

82Mark@gone the past!(後編):2011/03/04(金) 18:36:00


■■2分後

「……寒い」
「だったらマント着ろよ」
ここに来て二人は言葉を発する。
見つめる先は、アイリ達とグレイが去った方向とは反対。

足音が聞こえる。
数は十数。地を踏む速さはそれぞれ違うが、こちらに近づいている事は確かだった。

すぐそばでは自分達の参謀が寝息を立てている。
「………」
どちらかが己の剣の柄を握った。


***


一匹目の足がカンテラの明かりの中に入る――体を所々腐敗させた大柄のアナグマだ。
彼を筆頭に何匹ものモンスター達が二人の視界に入った――

83木野:2011/03/06(日) 20:34:01
――――腐臭と共にモンスター達が雪崩込む。
カンテラの明りが蹴り飛ばされ、瞬時に暗闇と憎悪が周りを包み込む。

「くそっ!ナインだ!ナインを探せ!!」
剣は夢中でソードを振りまわし流れ込むモンスター達をなぎ払う。
当たる感覚はあるが、切れる感覚はない。
腐退した肉体は切れ味を悪くし、痛みを感じない。
まるで闇を切っているかのような錯覚にさえ陥る。

「探せたって、どうし」
片手でブレードを振りまわしながら叫びかけ、レイドは口を紡ぐ。
吐き気を抑えるためと、これ以上飲み込まないため――――
脚元をビチャビチャとしたゲル状のモンスターが走り抜ける。

盲目的なこの状態の中、二人はある違和感に気付いたのだった。
確かに自分は武器をふるっているだが…

「これ、俺の武器と違う!!」

84Mark@狼疾走:2011/03/10(木) 19:33:29
「僕の術は」

男は語りだす。
「直接血を吸った者の心を支配する。
 その傷口に己の血を落せば永久に服従するグールとなる。
 ――尤も僕は美しい物が好きだ。
 醜く腐った死にぞこないよりも柔らかく白い肌を望む」
返事はなかった。
グレイは男に銃口を向けている。
「つまらない話だったか?なら話題を変えてやろう。
 今君達の数は二人、こちらも二人。
 正確には、歌藤が傷を負ったから僕の側は一人半だ。
 数では君達が有利だが――」

「――攻撃する勇気もないか」
紅い瞳の視線がグレイからアイリに向く。
アイリの上では玲が馬乗りになり、首筋に彼女の短剣を突きつけていた。
男はグレイに向き直ると笑う。
「どちらも傷つかぬ選択肢もあるが――それはあの女を僕に渡す事だ」


***

頼りになるのはヘアバンドの灯り。
剣はおぞましいモンスター達を斬り進みながら必死にナインを探す。

レイドのソードは軽い大剣に慣れていた剣にとっては異様に重く思えた。
死に物狂いで周囲を見回す――そして遂にレイドの足元で倒れるナインを見つける。
「レイド!そのままそこにいろッ!!」
「おうッ!!」
剣は己の能力である高速移動を使いレイドに接近する。
だがレイドとナインに達する直前だった。道中をモンスターの体が塞ぎ、剣は盛大に地面に転ぶ。それと同時にレイドのソードが宙に放り出される――!
「くそ……うおッ!?」
身を起こそうとした剣の上にモグラ型のモンスターが覆いかぶさる。
顔面めがけ噛み付こうとした所を剣は咄嗟に左腕でガードする。布越しに腕に牙が食い込む。滲み出る血――剣の顔が歪む。
剣はモグラの体の隙間から目で武器を探すが、視界に入ってくるのはこちらに迫り来る大量のモンスターばかりだった。ちくしょう、ここで終わってたまるか。
「どッ―――」
だが、剣のその行動は絶望をもたらす物だけだはなかった。こちらに迫る人間の足が見えた――!!
「らぁッッ!!!」
剣の上に立つモンスターが炎を纏った斬りで両断される。
斬撃の主はナインを背負うレイド。彼の手には持ち主の下に戻ったソード!
「待たせたな!」
「……レイ―――!」
剣は相手の名前を呼ぶ間もなく手を引かれ、刺さった大剣の元へ連れてゆかれる。
レイドはそこで大剣と味方の周囲に小規模な炎のバリアを展開する。
剣、ナイン、レイドだけのスペースが生まれた所で、レイドは剣にようやく振り向き、言う。
「ナインを連れて皆の所に行け。――全力で!」

85腐れ飯:2011/03/10(木) 23:43:47
「逃げて」
短い沈黙を最初に破ったのはアイリだった。玲の色を失った瞳から目線をはずす
ことなく、強い語調でそういった。
「それは、俺にいっているのか?」
グレイは銃を男に構え、鋭い目つきで睨んでいた。静かで、静かな興奮を孕んだ
声だった。
アイリはゆっくりと目を瞑る。心拍数を整え、もっともっと冷静になろうと深呼吸をした。
「…そうよ。いいからもういって。いいのよ、私は。宝の情報も得られそうだし、
元々の目的を考えれば、願ったり叶ったりだわ。」
「………だそうだが?」
男は鼻につく含み笑いを浮かべながらグレイに顎で返答をうながした。最初
からどうなるかわかっているような表情からグレイは決して目線をはずさない。
「…本気でいっているのか?」
「…もちろんよ」
「あの茶髪のガキが聞いたら怒り狂うだろうな」
「………」
男は眉をピクリと動かし、上がった口角の隙間から牙が見えた。何も言わず、
ただ黙ったままでやりとりを見ている。
「戦場では仲間を捨てることはざらにある。死ぬも生きるも一つの選択で大きく変わる。軍人は
そういう奴らばかりだ。大きなリスクを背負って死ぬわけにはいかない。」
だがな… グレイはそうつぶやくとすこし息を吸い、カッっと鋭い眼光を男に
飛ばした。
「目の前に敵がいるまえでおめおめ逃げるような無力な奴は軍人失格だ!!わか
ったかネクラ野郎!!」
小さく、小切れた笑い声をあげながら、男は手を叩く。
「おもしろいことを言うね…
   まるで自分が無力じゃないみたいだ」


===============================

ナインは小刻みな振動で目をさます。
「…ここは…」
「起きたかよスカシガンマン」
ナインを背負って、光速とまではいわないがそれでも常人以上の速さで、剣
はナインを背負い、道を引き返していた。
「あの熱血男は…」
「レイドか、置いていきたくはなかったんだが、あんな真剣な眼されちゃぁ、
引き返すしかないわな」
「…あの女たちのところに戻るつもりか…」
「そーだよ。」
少しの間、剣のハッハと息を吐く音が洞窟内で響く。
「馬鹿かおまえらは…」
「あぁ?んだよだまっとけよ怪我人!」
「自分のことを考えなさすぎだ。俺は人形を足蹴にして刺された。あの女達
ももっと大きな敵が出てくるかもしれないのにたった三人で行くような自殺
行為をしにいった…そんななか、わざわざ誰かを救うために走ったり血を流し
たりするなんて理解できん。」
「…いいたいことはそれだけかよ」
おそらくこの洞窟に入ってから初めてであろう冷静な口調だった。ナインは
眼をつむる。
「何故俺を置いていかない?」
「………」
「それだけじゃない。何故お前は…お前らは…」
「うるせー。黙ってろ。マジで捨てるぞ」
「……だから…」
「いーか」
スピードを落とすことなく、決して後ろを振り向くことなく、淡々と剣は瞼をゆっくり
と開いたナインに語りかける。
「おめーは確かに馬鹿だよ。自業自得だ。んでもって俺らも馬鹿かもしれねー
よ。誰かのために怪我するなんてなんのタメにもなりゃしねーよ。バカでアホ。・

  けど馬鹿でも、平気で人見捨てるようなクソヤローにだけはなりたくないんだ
  それだけだよ」

ナインは、少し間をあけ、「なんだそれは」とつぶやいてから、また瞼を閉じた。

86ヨモギ茶/It came back!:2011/03/19(土) 12:44:24
・・・・・あれ?・・・・・此処は何処?
エゴは寝ぼけ眼をこすり、体を起した。周りに広がっているのは、見慣れた光景
・・・・・あれ、これはどういうことか、
エゴは、何者かによって誘拐され、あの宿屋へつれてこられた。
そして、宝物が眠っているという炭鉱の中で『お友達だった人達』と戦って、
その中の一人、踊り子みたいなおねえちゃんにクロスの糸を切られたのだ―――
エゴは状況を思い出してから、周りにあるものを見回してみた。
草であまれたような床。その上にしきつめられた色とりどりのクッションの山。
そして。壁などにずらっとならんでいたり、あちこちにねそべっているぬいぐるみだったりお人形だったり・・・
もしかして、もしかして、そんな事をエゴはおもっていた。・・・彼女の期待にこたえるかのように、望んでいた人の声が飛び込んできた。

「―――おう、めえさめたんかいな。エゴ。」

エゴの顔がぱっと明るくなった。
彼女の目の前に現れたのは、若葉のような緑色の髪。のほほんとしているような顔。
朱色のオーバーオ―ルの下に黒っぽいチャイナ服をきた12歳くらいの女の子だった。
さらに、「アヒャ―!」とかいう悲鳴と一緒に、誰かが階段をころげおちる音が聞こえた。
女の子は、顔の半分をおおいかくしたお面をおさえうつむいて音の聞こえた方へ向かう

「階段くらいおちついて上り下りせーやっ!!」

女の子がのほほんとした表情のままだが、あきれかえったように叫ぶ。
土の中を防空壕のようにほりかえしてつくったような階段。
丁度その一番下にあたるエゴと女の子の目の前には、
あきらかに首とか腕とか足とかへんてこな方向にまがっているにもかかわらず、あひゃひゃと笑っている青年がいた。

「ニーハオ!タイフェン!」

エゴは嬉しさのあまり、思いっきり二人に抱きついた。そして、急ぎ足で階段をかけあがってみる。
茶色だらけで、時折骨の魚が泳いでんのがみえる空間をかけぬけると―――
見えたのは、辺り一面のまっかっか。まっかっかの正体は。たくさんのお花。まっかっかの上に広がるのは、綺麗な夕焼け。
――――そうだ、此処は、まんじゅしゃげ、エゴがニーハオとタイフェンに出会った世界。そしてここは、三人のお家。
突然何年もあえなかったんだよとばかりに抱きついてきたと思えば、まるで何年も帰ってこなかったとばかりに確認をする為に走り出す。
なんやなんやと後を追いかけてきた迩好と台風に、エゴは再びだきついていった。泣きながら

87Mark@狼疾走  ◆lnkYxlAbaw:2011/03/20(日) 11:17:32

「ナインを連れて皆の所へ行け。――全力で!」

レイドのその一言に剣は一瞬戸惑う。
「一人でこの量を相手する気か。死ぬぞお前」
「ナインはもっと死にそうだぞ」
だから、と言う剣の言葉を制しレイドはニッと笑う。
「安心しろ!ほとぼりが冷めたら俺の所に来ればいいさ!!」
二人を護る炎のドームは薄くなり、壁の向こうではゾンビたちが待ち構えている。
だがそれ以上に、剣はレイドのその笑顔に大きな安心と強い意思を感じた。
「……わかった。やばかったら逃げて来いよ」
剣は笑い返すとナインを受け取り、炎の壁を走って抜けた。

味方は自分ひとりになった空間で、レイドは微笑み混じりにつぶやいた。
「……俺も、カッコいい事したいんだよな」
レイドの脳裏に映るのは、皆を仕切るリーダーのナイン、作戦会議の中心となる剣とアイリ、
そしてエゴを止めに走ったセイスイたちの姿だった。
汚物の弾丸が何度も飛び、炎の壁に穴を空けてゆく。
……まぁいいや。
最初は巻き込まれていつのまにか参加していただけだが、
この探検、仲間は、今のレイドにとって深い意味を持っていた。
大きくなった壁の穴にゾンビたちが押し寄せる。
レイドは剣を構える。
炎のドームが破れ、前方から何体ものゾンビがレイドを襲う。
「誰であろうが――」


========================================

「おもしろいことを言うね…
   まるで自分が無力じゃないみたいだ」

グレイは返事の変わりに息を大きく吸い込む。

男は薄い笑みを浮かべアイリに一歩ずつ近づいていく。
その時だった。グレイは男に向けた銃の引鉄を――引く事はなく、天めがけ銃身を放り投げる。
男と玲は予想外の行動に動きを止める。その間、グレイは吸い込んだ息を――
「グオオオオオ オ  オ オオ オ オ オオ オオ オ オオオ オオオオオオ オ オ オオオオオ オオオオオ  オ オ オオッッッ !!!!!!!!!!! 」
廃坑全体を震わせるほどの雄叫びに変え吐いた!!

轟音。
「―――ッ!!?」
獣人の咆哮がその場にいた者の鼓膜を刺激し、一瞬でも行動を麻痺させる。
グレイは手元に落ちてきた拳銃を素早く持ち替え、男の急所、玲の両肩めがけ銃弾を放つ。
その軌道は狙った場所を性格に射抜き、玲はナイフを落とし悶える――だが、その頃にはグレイはもう男の間近まで迫っていた。
グレイは拳を巨大な弾丸のようにしならせ、男に!力をこめたアッパーを打ちつけようと――!!

――チャ、
だが、男もほぼ同じタイミングで鞘から深紅の剣を抜き――


========================================


「誰であろうが――」


**

88Mark@狼疾走  ◆lnkYxlAbaw:2011/03/20(日) 11:18:22

「敵は!俺がぶっ潰すだけだッ!!」

レイドは剣を真横に構えながらゾンビの突進を避け、炎を纏った斬撃で彼らを一斉に切り裂く。
両断された獣の体。地に落ちる直前、剣から数発の炎弾を放ち彼らの体を大きく燃やす。
燃え上がる炎を背にレイドは迫りくる蛇のゾンビに突っ込み、一閃で頭部を吹き飛ばし、
モンスターが横から触手を伸ばしてくれば、その体に炎弾を飛ばし、怯んだ隙に近づき剣で一突きする。
列を成して迫る何体ものゾンビに何発も炎弾を放ち弾をすり抜けて来たゾンビを斬る、斬る、斬る!
足元をすくおうとしたゲル状のモンスターを避け、それと同時に炎弾を放ち蒸発させる。
そして高速で突進してくる巨大コウモリめがけ先ほど突き刺した触手型のゾンビを放り投げると、
ゾンビの中に溜まった炎が吹き上がり、大爆発が起こした。


**


レイドがこの場所に残り、ゾンビの相手をしたのは他にも理由があった。
彼は廃鉱に入ってから、奇妙な魔力の〝波動〟を感じていた。
この波動には覚えがあった――祖国ソノラトの険しい山々で採れた宝石から出る波動。
それらの宝石は多かれ少なかれ中に魔力を秘め、冒険者たちの間でお守りとして使われていた。
だが、レイドが今感じる波動は遠い距離からでもはっきりと読み取れるほど強いものだった。
知人から聞いたことがある。鉱石の中には長い年月を経ることで魔力が変質し、自我を持たぬ魔物のように人を狂わせ、呪うと。
自分自身の魔力量はわずかで、そのため波動の狂気と連動することはなかったが、
もし暴走したエゴの動力が魔法だとしたら……

波動の発生源は廃鉱の奥。ゾンビ達がやって来た方向であり、ナイン達と目指していた方向だ。
ゾンビの数は更に多くいるかもしれない。だが、レイドは全て倒す心構えでいた。
傷ついて戻ってくるだろう仲間のために道を開くことが最優先だった。
仲間たちがそれぞれの役目を果たす中で、レイドもまた己の成すべき事をしようとしている。


**


傍らには燃えカス。足元で蠢く蛇の頭部を剣で突き刺し爆発させると、レイドは剣を抜き身構えた。
十数体のゾンビに対し、レイドが取った方法は単純だった。
『斬っても動くなら、燃やして灰にしてしまえばいい』。
炭にまで意思があればどうしようもないが、燃えカスを見る限り動いている気配はないのでこれで大丈夫のようだ。
周りのゾンビたちは身構えながら、レイドの動向をじっくり伺うようにして動かずにいる。
レイドは剣を握り締め、間合いを調整する。
「やるぞ……!!」
仲間は遠くに――そしてすぐそばにいる。己と一心同体の炎の剣!
レイドは心の中で雄たけびをあげ、真上に巨大な炎弾を生み出した――

89羅刻:2011/03/20(日) 23:06:30
舌打ちをし、ナインは大丈夫かと尋ねる剣の背中から降り辺りの分かれ道を見渡す。
しかしどの道も同じように封鎖されているようで二人は立ち止まった。
剣は行き止まりの壁を殴りつけて叫ぶ。
「クソッ・・!こんなんじゃあアイツに合わせる顔が・・」
しかしその言葉を轟音が遮った。

グオオオオオ オ  オ オオ オ オ オオ オオ オ オオオ オオオオオオ オ オ オオオオ

オ オオオオオ  オ オ オオッッッ !!!!!!!!!!! 

「!!!」
廃坑全体に響き渡るかののような獣の咆哮、その振動で頭上から土砂がパラパラと降り注ぐ。
二人はこれをグレイヴッチの咆哮と理解し、そして戦闘が始まったのだと直感した。
耳を塞いだ手を離し、ナインが口を開く。
「・・行くぞ」
剣は無言で頷いた―――
これだけの枝分かれした道と音量が響くなら敵も知らない抜け道があるかもしれない―――
・・二人は辺りの捜索を始めた。


========================================

灼熱。―――辺り一帯にに蒸気が立ち込める。
そこには剣を地面に突き立て、体を支えている一人の男が居た。
岩石は溶解し、足下には体が沸騰し破裂したゾンビ達が横たわっていた―――。
「流石に・・これは熱いな・・」
炎の能力者と言えども気温の高さ、喉を焦がすかのような空気は堪えるようだ。
いつものマントがあれば幾らかマシであっただろうか・・レイドは確かな魔力の波動を頼り、"ソレ"に

近づいていた。
道を抜け、広い空間に足を踏み入れる―――ふとレイドは歩みを止めた。
「・・・今度こそ仕留めてやるぞ・・ッ!!」
辺りに立ち込める熱で冬眠から目覚めたのだろうか・・
そこには以前対峙した大蛇が、魔力の波動を遮る様に存在し・・レイドを見つめていた。

90羅刻:2011/03/20(日) 23:10:50
↑(冒頭に追加)
=====================================
「なんだ・・こりゃあッ・・!」
辿って来た道を引き返す剣達を待ち構えていたのは・・道を塞ぐ大量の土砂だった。
土砂を目の前に呆然と立ち尽くす剣、背負われたナインは口を開く。
「相手のほうが上手だったか・・まんまと分断されたな」
===========================================-

91羅刻:2011/03/20(日) 23:11:20
========================================

アイリは倒れた自分の上に乗った歌藤玲を見つめこの状況を脱する手段・・そして今までの玲の事を思

い出していた。

「僕の術は」

「直接血を吸った者の心を支配する。
 その傷口に己の血を落せば永久に服従するグールとなる。」

いつから洗脳されていたのだろうか・・出会う前・・最初から?
今までの行動が演技だとは信じたくはない・・少なくとも今のような露骨な敵意を見せはしなかったは

ずだ。
永久に?・・いや、それが嘘という可能性も―――
「――攻撃する勇気もないか」
様々な思考を巡らせつつ・・まだ自分が姿を確認できない男の意識がこちらに向いたことでそれは途切

れた。
男との会話が続く、そこでグレイが大きく息を吸うのが眼に入った。
その瞬間アイリの頭にズキッと痛みが走る、攻撃が・・来るッ!
玲が自分から意識を外したと同時に手に持ったナイフを離し、両耳を塞ぐ。
―――辺りに轟音が響き渡った。


目の前で両肩を撃たれ、怯んだ玲を見て驚くもののアイリは手から落ちた短剣を素早く拾い、すぐさま

相手の背中に回り腕を固める!
玲は痛みで悶えつつも地面に叩きつけられる形となった。
そこでアイリは初めて敵である男と顔を合わす―――否、初めて?
グレイがすぐさま相手の懐に潜り込みアッパーを放とうとしている、同時に男は剣を抜こうとしたが接

近した体に阻まれる。
グレイのアッパーが男に直撃!顎を破壊ッ・・宙に飛ぶ・・?
「ッ!?」
グレイは驚いた、確かにその拳は男の顎に直撃した・・しかし顎を粉砕する音はせず、ぐにゃりとした

拳に妙な感触を覚える。
男はそのまま着地し後ろに下がり再度剣の柄を握る。

―――アイリは知っていた。その男の顔を。
この任務に赴く前に眼を通した行方不明者をまとめたファイル。
そしてその名をすぐさま叫ぶ。

「―――イスミ・グァン!!」

そのままグレイを斬ろうとしたその男はなんとも形容しがたい表情を浮かべ、一瞬だけ動きを止めた。

92ヨモギ茶/It came back!:2011/03/24(木) 21:52:21
エゴがようやく落ち着いた時、外はもうお星様がきらめく夜になっていた。
エゴは、おちついてから迩好と台風にこれまでの事を話した。
知らない人に遠い所の宿屋につれていかれたこと。そこで、たくさんのお友達ができたこと。
だけど、そのお友達が実は皆悪い人で、エゴは彼らにおしおきをしようとしたんだけど、かえりうちにされてしまって――
そこまでいいおわってから、エゴは再びぐずりはじめた。夢のことだったのだろうに、
台風は真に受けて今にも飛び出していきそう。迩好は、何処か寂しそうな表情で、やさしくエゴを抱きしめた。

「・・・・・お友達。・・・・・皆悪い人だったんやな?」
「・・・・・え?」

93ヨモギ茶/It came back!:2011/03/24(木) 21:53:42
エゴは、びっくりして迩好の顔をみあげた。

「・・・そーだよ。だって、お友達の中のだれかさん、宿屋で歩いてたエゴの事を蹴っ飛ばしたんだもん!」

エゴは、宿屋の中を歩いている時、とある部屋の前でたちどまっていたのだ。そこへやってきたガンマンが、
エゴをみつけた途端、邪魔だ!とばかりにエゴを思い切り蹴っ飛ばした。
それからというものの、アイリお姉ちゃんを蹴った人と勘違いして襲い掛かっちゃったりして大変だった

「・・・そうか、・・・けれど、・・・それ以外の人達は、お前にやさしくしてくれたんよな?」
「・・・・・そうだよ。・・・・・だけど」

エゴは口先をとがらせ。ムくれた顔をしてうつむいた

「・・・だって、ダッテ!ケッキョクアイリオネーチャンタチハナイントカイウヒトノナカマダッタモン!
ミンナエゴノコトヲダマシテタ!ナンカアッタトキトカ、キットスキヲツイテエゴヲコロスツモリニチガイナカッタ!ダカラ!」
「・・・・だから、お前はそいつらに襲いかかってしもうたんやな・・・?」
「・・・にーはお?」

迩好の声が何処か震えている。なんでだろうと迩好はおもった。
世の中には一杯悪い人がいる。誰かを傷つけて、ふんずけて、その上で楽しく笑ってる。
そんな人は、しかって(殺して)あげて、いいこにしてあげるのが一番。迩好がそれを教えてくれた。
・・・・だけど、迩好はどうして悲しそうなんだろ。おめめからおみずがでているよ。

「・・・・ごめんな。エゴ。」

え?・・・ニーハオ?なんであやまるの?どうしてかニーハオにたずねた。

「・・・・あてが悪いんやな。・・・・すっかり、おまえを疑心暗鬼にさせてもうた。・・・あての悪い所。うつしてしもうた・・・」
「え・・・ニーハオ?なんで?ニーハオ。なんもわるくないよ?」
「・・・・いいや、あてが悪いんや・・・。・・・・確かにな、世界には悪い奴が一杯おるんや・・・。
だけど。・・・・ええやつだっておるんやで?現にお前のお友達かて、お前は悪い奴やゆうたけど、お前の事をいじめたりはせんかったやん?」
「・・・いじめたもん。セイスイおにいちゃんも・・・・。・・・玲おねえちゃんも。・・・・」

94ヨモギ茶/It came back!:2011/03/24(木) 21:54:15
・・・・・そうだった。・・・・・・確かに、お姉ちゃんたちはエゴを蹴った人達の仲間だった。
だけど、エゴにやさしくしてくれた、一杯お話してくれた。
・・・・エゴは、あの宿屋につれていかれてから、ずっと、ずっと、寂しかった。
迩好も台風もいない。しかも全然知らない所。ずっとずっと心細かった。
エゴは、せめてそこで関わった人達と仲良くなりたかった。お友達になりたかった。
だから、敵じゃないっていうことをみとめてほしくって、アイリお姉ちゃんたちをおっきな怪物からまもった。
・・・・・アイリお姉ちゃんたちはいってくれたのだ。


「そんな事をしなくても、もう友達だよ」


うれしかった。とってもとってもうれしくてしかたがなかった。
・・・・だけど、結局、エゴとアイリ達は戦う事になってしまった。なぜか?

――――エ ゴ ガ 、 ワ ル モ ノ ト キ メ ツ ケ テ オ ソ イ カ カ ッ タ カ ラ ダ

「う・・・?・・ぅう・・・っうわああああああああああああああああァああああああアァっ!!!」

エゴは、再び声をはりあげて泣きはじめた。アイリお姉ちゃんたちは悪者じゃなかった。
アイリお姉ちゃんはエゴを蹴っ飛ばした人じゃなかった。それに、一番、エゴにやさしくしてくれたのにっ!!
エゴは、もうどうすればいいのかわかんなかった。後から後から、緑色の瞳から涙がこぼれる。
台風もまた、そんなエゴをみてどうすればいいか全然わからず、おろおろとながめることしかできない。
だけど、迩好は違った。エゴをほんのすこし体から離すと。手加減をしてだが、思い切り迩好のほっぺをひっぱたいた!

「っ・・・!!?イタイッ・・・」
「迩好!!ナニヲヤッテルノッ!!?」

エゴも台風もびっくりして迩好を凝視していた。迩好は、自分のひざのうえにのっからせたエゴの両肩をつかみ、目をみつめてこういった。

「・・・・あかん事をしてしもうた。・・・・それはもうお前、とっくにわかっていることやろう?」
「・・・?・・・・うん・・・・」

同じように涙にうるみ、色とその奥にあるものが違う瞳がみつめあう。

「せやったらな・・・。お前はその後、どうすればええとおもうんや?勝手に誤解したあげくに、怖い思いをさせた相手に、お前は何をしたらええとおもう・・・?」
「・・・・・・・ゴメンナサイ。・・・・・・・スル?」
「・・・・そうや、・・・・おもいっきり反省して、もういっかいお友達になりなおせ。・・・・・お前には、・・・・「今はあいつらしかおらんのやろう?」」

・・・・イマ、エゴニハアイリオネエチャンタチシカイナイ?
―――――そうだった。・・・・エゴは、今までずっとずっと、知らない場所の廃墟にいたのだ。
怖い夢をみていたと思っていた。・・・・なんだろう、体がほんのすこしだけれど痛いよ。
みおろしてみると。・・・・もう、殆ど見えなくなっているけれど、傷だったものがある場所からして、
・・・・セイスイおにいちゃんと、戦っていた時に、氷柱につきさされた怪我なんだ。
ほんのちょっと痛いけれど、もう、全然気になんない。

なんだろう、お外から声がきこえるよ。・・・この声はアイリおねえちゃん?・・・んで、グレイブッチのおにいちゃん?
・・・・・なんだろう・・・・。・・・・なんだか知らない人の声。お姉ちゃん、怖がってる?
・・・・お姉ちゃん達。・・・・・あぶないっ・・・・?エゴが本格的に状況を理解したのを確認した迩好は、そんな彼女の肩をもう一度強くにぎった

「おら。とっとといってごめんなさいしてこいっ!さもないと、ほんとーにそれすらもできんよーになるでっ!!」
「うんっ・・・わかったよニーハオ・・・エゴ。いってくる!」

そういってエゴは迩好のひざの上からかけだすと、外に続く階段をのぼりはじめた。
台風はおいてけぼりのような状況になっていた・・・・・・きっと、彼にはエゴがおでかけにいくとしかわかっていないかもしれない

「アヒャー・・・  エゴーッ!チャントオウチニカエッテキテヨーッ!!!」

台風の叫び声が聞こえ。エゴは嬉しそうな笑顔になった。
ニーハオとタイフェンがまっているほんとーのお家。絶対にまたかえってくるんだ
はっきりとした決意を胸にひめ。エゴは。本来は彼岸花畑につぐく入り口を飛び出した――――

95ヨモギ茶/It came back!:2011/03/27(日) 22:36:40
イスミ・グァン――――その名を呼ばれた吸血鬼は、なんとも形容しがたい表情をうかべ一瞬動きを止めた。
グレイブッチはその一瞬の隙を狙い。吸血鬼の拳を殴る事で剣の動きをさえぎり、
切られる事を避けバックステップで間合いを開けた。

「嬢ちゃん。こいつの事を知っているのかい!?」
「ええ・・・50年前行方不明になった人物よ。」

アイリは語り始めた。
イスミ・グァン。100年前。ラドリオ王国が生まれる前に戦争に参加していた兵士の一人。
国が生まれると共に他の兵士と共にラドリオ王国のカリュー山脈へとうつりすんだが。
ウエストランド行きの馬車を護衛する任務中に依頼主もろとも失踪した。
彼が、戦友としていたシモンという女性のミイラを残して―――

96ヨモギ茶/It came back!:2011/03/27(日) 22:37:27
「で・・・・その、行方不明になっていた男が、化け物になり下がって、
宝物があるっていうデマを広め、やってくる冒険者達を食い続けていたっていう事か?」
「なり下がったとは失礼だな・・・・。・・・・僕だって、好きで吸血鬼になったわけじゃあない。」

グレイブッチの発言に抗議をした吸血鬼、――イスミ・グァンと呼ばれた男は語る。
―――何処か、悲しそうな表情を浮かべながら

「この炭鉱の奥に財宝が眠っている・・・。その伝説は本当だよ。人間の血と同じ色をした赤の宝石達さ。
君たち以外にも、たくさんの冒険者達がそれを求めてやってきた・・・。だけど、彼らは誰しも、
その宝石達を手にする事はできない。何故なら、それをさせない為にこの僕がこの炭鉱を守っている。そして――」

言葉をつむぐ吸血鬼は、剣をもっていない片腕を天井へとかかげる。

「宝石を狙う冒険者達は皆――――宝石達が成長し、生きながらえる為の糧となるのさ!!」

ぐあっ。と、天井へむいていた手は地面へとおしつけられる次の瞬間。
天井に大きなひびが入り、瓦礫の山がふりそそいできた!

97ヨモギ茶/It came back!:2011/03/27(日) 22:38:30
「うわああああああああああっ!!!?」

グレイブッチはその脚力をいかし瓦礫を回避するも、アイリは自分が抱え込んでいる玲を一瞬でも気遣った為。
瓦礫の落下地点からはなれきれなかった。しまった!とグレイが彼女達を救いに走ろうと。
アイリが咄嗟に玲をかばおうとする瞬間。巨大な棍棒のような腕が伸び。アイリと玲の体をつかみ上げた。

「っ・・・・・・!!!?」

グレイは目を疑った。アイリ達二人をつかみ上げたのは。おそらくは炭鉱に住むモンスターの一部だろうか。
姿かたちは、単純にいってしまうとゾンビと化した巨人だ。彼は。左手にはアイリと玲をがっしりとにぎりしめ。
右肩には。いつのまに飛び上がったのだろう。ユエが仁王立ちしてグレイブッチを見下ろしていた

「さあ。どうするんだ?この間々、逃げおおせれば君だけは生きて帰れるかもしれない・・・
それとも、死んでしまうのを覚悟して、この巨人を倒すのか?」

腐肉巨人は、大きく身をかがめると、アイリ達を握っていない腕をふりあげ。
グレイブッチに巨大な拳をたたきつけようと―――

その巨大な拳に向かって、その拳にまけずおとらずの、一つのミサイルが吹っ飛んできた。

「――――――――――っ!!?」

アイリ達のいる場所が。轟音と巨人の悲鳴に揺さぶられ。ミサイルの爆風に包まれる。
爆風による粉塵から瞳をかばっていたグレイブッチがみた物は。今にも自分を押しつぶさんとしていた
ばかでかい拳があった所を抑える事もできずにもだえる巨人と。どうにか振り落とされるのをこらえ、
目を見開いているグァン。―――――そして。

ミサイルが飛んできたと思われる場所。動くなとばかりにマシンガンやら。ガトリング砲やらを体から出して構えている。
――――先ほどまで、アイリ達と戦っていたお人形の少女であった・・・・。

「―――――オネエチャンタチニナニヲスルッ!!」

エゴは、怒りをあらわにして言葉を吐きだした。

98腐れ飯 team-1:2011/03/29(火) 20:29:23
「ったく…どっちだ!?」
新之は再び行き止まりにぶつかり足をとめる。先ほどの分かれ道は右に行くべき
だったのかもしれない。
「焦るな、道はまちがっていない。ただここもふさがっているだけだ。聞いただろう
今さっきの音を」
「ああ…っち!」
天井が崩れるような大きな音がつい二分ほど前に聞こえた。何か自分の想像を
はるかに超える惨事が起きているのではないかと不安になる。
苛立ちや焦り、少しばかりの恐怖を身に感じ、新之は歯をくいしばる。
すると、ナインが急に拳銃を懐からとりだした。
「おい、おま…」
「風だ」
そう放つと引き金を引く。バキュンと鋭く大きな音をたて弾丸は行き止まりの端
へ飛び出し、そのまま当たったかと思うとゴォンと爆発した。
「ぅおわっ!?」
新之は思わず目を瞑る。煙をあげ砂煙も舞っていて、視界はしばらくぼやけていたが、
そっと目をあけると、先ほど爆発した端に屈んで通れるほどの穴が出来ており、風が
そこから強く吹いていた。
「この先に、広い空間がある」
新之はそのまま屈んで穴をのぞくと、広い道が奥へと続いていた。
「サンキューイヤミガンマン。助かった」
「………ふん」
ナインはふたたび顔を服にうずめた。

===============================================

大きな轟音とともに響き渡ったエゴの大声、アイリはただ呆然と眺めていた。
「オネエチャン!!」
エゴがくるっと振り向く、アイリは一歩引いたが、エゴの顔を見ると、もう
大丈夫だということが少しだが確信して見れた。
「アノ…ゴメンナサイ…エゴ…マタオネエチャンコワガラセテ…」
「……いいのよ、エゴ。もういいの。大丈夫」
「デモ…」
巨人が、体制を整え始める。
「エゴは悪くないわ。エゴは怖かっただけよ。でも大丈夫、皆エゴのこと許してる。
皆エゴの友達なの。だから謝らないで?ね?」
エゴはふたたび顔をくしゃっとゆがめたが、ペコリとおじぎをすると再び巨人に向き直った
「そう、今は協力してあいつを倒すの。皆で、一緒に!」
「ウン!!」

そういうとエゴは機関銃から弾丸を巨人の足めがけて連射する。巨人は腕がないため、それを
さえぎること出来ずにただくらうばかりで、意外にもたやすくその足は崩れはじめた。

「オネエチャンタチヲイジメタ罰ダ!消エロ!!」

そのまま巨人は音をたてて地面へとくずれはじめる。肩にユエがのっかたまま巨人は砂煙をあげながら
消えていった。

「やったわ!エゴ!」
「喜ぶのはまだはやいぜ嬢ちゃん!さっさとあの男しとめねぇと…」
グレイとエゴ、アイリの三人はそのまま砂煙のなかへと突っ込んでいく。さきほどの巨人が、瓦礫の山
とともに地面に転がっていた。
足場の悪い中、グレイは声を荒げる。
「っち!なんだこれ、すごい煙だ・・・!!」
「あれほどの巨人だもの、そりゃこうなるわよ…気をつけて!どこにいるk・・・」

一瞬、今まで経験したこともないほどの嫌な風が吹いたきがした。
ふりむこうとした瞬間、細い手首が目にうつった。首を掴もうとしている。

ガアン!!と大きな音がした。すると褐色の体毛に覆われた太い腕がアイリのすぐ横を通った。グレイだ。
「っく!!」
ユエとグレイはそのまま砂煙の外へと飛び出す。グレイはその拳でユエを殴る。ユエは油断していたのか
それをもろに食らって後ろへとよろめく。
グレイはすかさず拳銃を出し、すかさず引き金を引く!!

ガアアアアアアアアアアアアアン!!

その弾丸は、ユエの脳天をうちぬい



た?

99腐れ飯 /team-2:2011/03/29(火) 20:31:00


「まず…」




ユエはゆっくりと口を開く、グレイは驚いて目を丸くするばかりだ。
「謝ろう。僕は少し君を…すごく過小評価していた。すまなかった」
ユエは仰け反らせていた首を元にもどし正面を向く。額からは、ドロリと先ほどの弾丸とおぼしきものが
垂れていた。弾丸を極度に軟化させたのだろう。
「『すごく』は、とってあげても良いかもしれない…」
ニヤリと鋭い牙を見せてユエは笑みを浮かべる。そのまま、ゆっくりとグレイのほうへと歩み寄る。
「なんだよ…それで俺をびびらせてるつもりか?だったらまだまだ…」
グレイは違和感を感じる。
足が動かない?


「ちょっと!何が起きてるの!?グレイ!?」
返事はない。いや、聞こえないだけかもしれない。銃声が響いてから彼らの声はピタリと止まってしまった。
「っく…まだ見えない……そうだ、エゴ!?エゴ、何処にいるの!?」
未だ視界は悪く、右も左もわからない状況だ。アイリは慎重に歩みながらエゴを探す。
すると、何かに躓いた。よろめくが、転びはしない。何かと思ってふりむくと、見覚えのある人形が転がっていた。
「エゴ!大丈夫!?」
「オネエチャ…」
意識は大丈夫のようだ。しかし、何故倒れているのだろうか?ユエは既にエゴを攻撃してから自分に手を
かけたのか?だがそんな音はいっさいしなかった…・
耳をすますと、なにやら呟いている。
「………ない…」
「え?」
「ウゴ…ケナイ」
「…どういう…」
足元をみる。すると先ほどの瓦礫の山がグニャグニャになり、そこにエゴが埋もれている。
すると、アイリも足に違和感を感じ始めた。先ほどまで岩だったところがエゴと同じくスライムのように
やわらかくなっている。
「…………何…」


「……だこれは…!!」
「僕の能力さ、対象を変形させる。なんてことない術だよ」
そういうとユエはグレイの前に立ち、屈む。
「今は、地面を軟化させているんだ。君達が巨人を崩してくれたおかげで、源は増えた。そして…」
途端にドロドロの地面は元の地面にもどった。グレイの足を地面に埋もれさせたまま…
「これが硬化。……ニーハオハイエナ君。そして…」
グレイはただ、歯をくいしばることしか出来なかった。
「さよならだ」

100腐れ飯 /team-3:2011/03/29(火) 20:33:35


少ししたら視界が晴れた。アイリは足を地面に埋められ、エゴは体の半分が埋まっている。
早くこの状況をなんとかしなければ…グレイが勝ったか負けたか、まだわからない。
足がとられているので、立てない。はやくしないと…はやく…。

ふと右を向くと、足が見えた。

上を見上げると、ユエが無表情でアイリを見下ろしている。

「嘘…でしょ…」
「おかしいな。信じられないという顔をしている。」
「グレイは…?」
「ぐれい?…あぁ、あのハイエナ男のことか…それなら…」
腕をゆっくりとあげ、後ろのほうを指差す。すると仁王立ちで立ち尽くすグレイの背中が見えた。

血が、足元で水溜りを作っている。

「…いや…グレイ!!グレイ!!!!!」
「大丈夫だ。彼はまだ生きている。殺すつもりで斬ったんだけど、彼結構頑強でね。獣人だけど、男に
時間を割くのは好きじゃないんだ…だから君を先にすることにしたよ。」
「オネエ…チャンニ…サワルナ…」
ユエは、エゴの声を無視する。というか本当に聞こえてないのかもしれない。今はアイリのことしか見ていなかった。
「ここの洞窟は素晴らしいんだ。胎内にいるような感覚だよ。宝石の温もりが、僕に僕であることの全てを
教えてくれた。全てを与えてくれた。妻のいる暖かさ、生きる意味…。」
「馬鹿いわないでよ…あなたはただ人を殺しているだけじゃない…」
「そうかもね…だけど、それも仕方ない…」
ユエはそっと屈み、アイリの顎を、そっと指で掴む。
「君の眼は…妻ににてる。強い眼だ。洞窟に君が入ってきたときから、君には注目していた」
アイリは、何も出来ない。ユエの瞳は冷たくて、この洞窟のように暗く深い。色もない。
「君の血がここの宝石に宿れば…さぞ宝石も喜ぶだろう…」
アイリは覚悟を決めて、目を瞑る………





「おい」





ユエは振り向く。その瞬間顔を思い切り横から蹴られ、吹き飛ぶ。


アイリは目を開ける。


「ったく。無茶すんなって言ったら案の定無茶しまくりじゃねぇか。」

茶髪に、ダイヤのだっさいバンド。肩のだっさい防具。背中に大きな剣。
ふとグレイのほうを見ると、ナインが血だらけのグレイを肩に抱え、服がボロボロに燃えくずれ、
気絶しているセイスイの腕を右手で掴んでかろうじて立っている。
「…こっちも怪我人なんだが…」
グレイの足は、埋もれていない。拳銃で地面を削ったのだろう。
そのままナインは二人をゆっくりと、剣とナインの二人が入ってきたと思しき穴の近くまで引きずっていった。
新之も、剣を地面へ突き刺し、地面を崩してアイリの足とエゴを掘り出した。

「……何よ…アンタ…」
「あ?」
「……戻ってきたってことは…私を信用してなかったってこと?」
「はぁ?馬鹿かお前は」
「ば…」
「仲間だから、一緒に戦いに来たんだろうが。…っま、結果お前を助けに来たことになるのか」
アイリは、顔を見せず俯いている。たぶん、見せられない顔をしていると思うから。
「…ありがとう……」
「どーいたしまして」
新之は、ゆっくりと背中から自分の剣を抜く。
飛ばされたユエはというと、しばらく動かなかったがゆっくりと新之のほうを見た。

足蹴にされ、見下された怒りが少し見えた。

「…君は…確かずっと彼女と一緒にいた男か…」
ユエはゆっくりと立ち上がる。冷静さをすぐに取り戻したようだ。体についた砂を掃っている。
「そうだよ。ついでにナンパの追い払い役。」
「ナンパ…ふふ………??」
ユエは、既視感を覚えた。
どこかで見たことがあるような…いや、正確には、とても『似た』何かを見たことがあるような?
「君は…」
ユエは目を丸くしていた。アイリはそれがとても新鮮にみえた。彼がこのような顔をするとは思えなかった。
「どこかで…僕とあったことがないか?」
新之はそう言われ、少し目線を上へずらすとすぐさま戻し

「ない」

剣を振りかざし、猛スピードでユエへ突っ込んだ。

101木野:2011/03/30(水) 21:36:43
ナインは、洞窟内の小さな穴に傷だらけのセイスイとグレイを放り込んだ。
そして、身を屈めたままユエの方を覗く。

ユエの方に向かって剣が凄まじい勢いで攻撃をしかけている、
が、さっきのグレイとの戦いのように切ったそばからまるでそれは
幻影かのようにユエは再生していく
「…眠いな。コーヒーが欲しいところだ。」
額から流れる血で視界はよどみ、暗がりの中で激しく動くユエの姿は
幻のようにぼやけていた。
が、その中でナインは光り輝く目印を狙う。
そう、ユエの武器や防具に装飾されたルビー…
激しい動きの中で赤い跡を描くそれにゆっくりと照準を合わせる。
9発もある弾丸の口径は小さい。そのため、ユエ自身に当てたとしても
その殺傷力はしれているが…それでも・・・

ナインは引き金を引いた―――


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